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孤空の月〜崩れゆく廃坑〜

32mark@ルビーの鉱石:2009/07/31(金) 15:26:43

「だ…駄目だ!吸い込まれる!」
「オイオイ冗談じゃねぇぞ!俺は遺書書いてない!!」
そう言った拍子にセイスイがよろめき、何とか持ち応えていたナインにぶつかる。
ナインはそれでバランスを崩し、セイスイもろとも穴へ引きずられて行く。

「ク…そッ!」
やむ終えず、ナインはセイスイを勢いよく振り払う。
「オイ…!?テメェ、仲間を見殺しに…ッ!!」
落ち行く仲間の悪態に返すほどの余裕は彼になかった。
体が穴に沈む間に床の出っ張りを両手で掴み、風が止むまでしがみ付く事だけをとにかく考えていたのである。
ひときわ強い風がナインを襲う。床から手を剥がすよう働きかけ、穴のはるか下に広がる深淵に迎えようとする。
風の勢いに危うく手を離しそうになるも、それでもナインは懸命に耐えた。
「うォ”ォオォォォォ………!!」
―負けたのは風の方だった。洞窟の明かりが消えると共に、激しく暴れていた風も止み、
ナイン達一行が訪れたのと変わらぬ静寂を取り戻した。
「…………止んだ?」
何秒経とうとも、暗闇の空間はそのままだった。
が、ナインが安全を確かめ、穴からよじ登ろうとした頃、暗闇からの小さな声が彼の耳に入った。
「…………」
片方は知らぬ男の声だったが、もう片方は聞き覚えのある物だった。
どうやらこちらには気付いていないらしい。ナインは音を立てぬよう、穴から身を上げようとする。
だが、両手に踏まれるような痛みを感じたのも同時だった。
「――――――-――!!!」
暴風に耐え切った両手はその衝撃で容易く剥がれ、両手と共にナインの体は深淵に落ちた。
それを穴の上から赤い目が見下ろし、やがて去った。

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グレイヴッチはあおむけのまま、遥か遠くの……自然の力で生まれた天井をぼんやりと見つめていた。
顔だけを動かし、周囲の光景を見渡してみる。
ごつごつした岩壁から目を落せば、壊されたランタンの欠片が光沢を放ち、欠片から少し視線をずらすと、目立つ赤髪の男が横たわっていた。
しかし、それ以上に彼の気を引いたのは、辺りに散らばった6つのリュックと、すぐそばに倒れこんだ無数の「木の枝」だった。
「コイツは……」
ハイエナの鼻が無意識に「木の枝」の臭いを嗅ぎ取り、ぼやけていた意識が急激に冴え渡るのをグレイは感じた。
捌かれてからまだ二日と経たぬ肉の臭い。脇役に油と弾薬の違いはあれど、過去に戦場で散々吸った空気とほぼ変わらぬ物だった。
上体を起こす為に片手を地面に当てると、土ではなく布の感触が手に伝わる。
それが7つ目のリュックだと理解するかしないかの間に、傭兵は無意識に、自らの倒れていた地面を見やった。

7つ目のリュックの持ち主は、物言わず濁った瞳でハイエナを見る。
彼と目を合わせたと同時にバリーに降りかかった、酷い吐き気と後悔もまた、戦場で味わった記憶とそう違わぬ物だった。


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