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霧が晴れた時―BAD KIDS―

1理科。:2002/08/19(月) 17:16
管理人さんのお言葉に甘えて
銀板から越してきますた。
よろしくお願いします。

2理科。:2002/08/19(月) 17:18
「…大谷、そんな沈まないの。反省してんだから…」

「…圭ちゃん、石川…来なかったら」

ったく!大谷って結構、弱いのね…。
見た目がつっぱってても、心まではまだつっぱってないから
きっと石川もこのクラスに解け込むことに、そうは時間はかからないと思うの。
それにしても吉澤…大丈夫かしら…。

「よっすぃ〜!」

「……」

噂をすれば何とやら…。

3理科。:2002/08/19(月) 17:20
「吉澤、石川は?」

「…梨華は…具合が悪くなっちゃって…帰るそうです。」

死人ね…まるで。
生気がないわ。ナッシングだわ。
それにしても吉澤って嘘がヘタね…。
まぁ、そんな早くに石川の心の傷が塞がるなんて
思っちゃいないけどさ。
焦ってムリにでも石川の心を溶かそうなんて考えちゃいないしさ。

でも…修学旅行には連れていくわよ!
首に縄、巻きつけてでも連れて行くわ!

吉澤がいない間に、部屋割りが決まったことを告げ
アタシは教室を出た。

――――――…

4理科。:2002/08/19(月) 17:21
「…よっすぃ〜、石川…怒ってた?」

「…おーやん、怒ってなかったよ。気にしないで?大丈夫だから。」

「…そっか。みんなで…行こうな?旅行…。」

「…うん。絶対行きたいね。」

あれからダラダラと時間は流れ、あっと言うまに放課後。
帰り際、おーやんが嬉しいことを言ってくれて…
少しは気が楽になった。
そうだね…みんなで行きたいよ…。
黙々とあたしは体操着に袖を通し
バレーの練習に出ようとしたけど、
何だか今日は気が乗らないでいた。
でも、キャプテンのあたしがサボってしまえば
示しがつかないし…。
本当はHRが終わったら速攻、梨華の元へ向かいたかった。
何処にいるかなんてわかんないけどさ…。
…素直にそれが実行出来ない…情けないヤツだ。

5理科。:2002/08/19(月) 17:22
足に鉛がついてるんだろうか?
と思うくらい足取りは重くて、
一歩進むのに凄く時間がかかった。
やっと体育館の手前に来て、あたしの足はピタリと
とうとう止まってしまった。

ハー...っと小さく溜め息をつく。

「よっすぃ〜!何、沈んでんの?早く練習行こうよ!」

「…しばっちゃん。」

後ろから元気に微笑むしばっちゃんが立っていた。
あまりにも優しく笑うもんだから…あたしには凄く眩しすぎる。
直視出来ずに視線をずらした。

6理科。:2002/08/19(月) 17:22
「あ―――!よっすぃ〜無視しないでよ!ほら!
 …もー!キャプテン!今日も元気に青春しましょー!」

「..痛いよ、しばっちゃん。分かったから…。」

引きずられたまま、あたしは結局最後の掃除が
終わるまで、学校にいたんだ…。


――――…

7想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:23
「もぉ!今日のよっすぃ〜のプレーは何?ミスばっかじゃん!
 心ここにあらずだったよ!」

「…ごめん。何だか今日は疲れちゃって…さ。ってか、頭にボール
 投げつけなくても…よくない?結構、痛かったんだけど…」

「よっすぃ〜だったら避けると思ったの!」

モップを持ったしばっちゃんとあたし。
黙々と床磨き。
プンスカ怒りながら磨くしばっちゃんのモップはキュキュ。
あたしのモップはベタベタと…重苦しい。

「あ!水つけすぎ!!」

8想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:24
掃除は毎回2人で交代制でやることになっていた。
今日があたしと、しばっちゃんの番で。
本当に何だか今日は疲れた…。
梨華がどうしてあんな事を言ったのか…
鈍いあたしには理解できなくて。
今頃、梨華は矢口さん達と…何をやって

「…うわぁ!…し、しばっちゃん!!」

「……」

いきなり背後からしばっちゃんが
あたしを強く強く抱きしめた。

9想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:25
     ―ガラン!―

モップが床を叩く音が…
あたし達しかいない体育館に響き渡る。

「…よっすぃ〜…知ってた?私…よっすぃ〜が好きってこと。
 好きな人がそんな顔してるの…見たくないよ…。」

「…え。」

いきなりの告白。
思ってもみなかった人からの告白。

全身が熱い。
燃えるように熱かった。
きっとこの体の熱は…しばっちゃんの想いなんだろうか。

何だかドキドキする。
今までも何回か告白されることはあったけど
こんな身近にいる人からの告白は…
初めてだったから。
それも仲の良い人からの。
中学もずっと一緒で梨華と三人で
いつもバカやってて、くだらない話に花を咲かせていた。

10想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:26
…正直、あたしは梨華を追うのに疲れていた。
何しても梨華があたしには、もう心を開いてはくれないんじゃないか。
だったら…しばっちゃんと…
でも…あたしは。

「…しばっちゃん。気持ち…嬉しいよ。ありがとう…でも…あた」
「知ってる。よっすぃ〜の心の中には梨華ちゃんがいるって…。
 知ってるけど…今、どーしても告白したかったの…!」

「…しばっちゃん。」

静かに回された手が解かれた。
あたしは後ろを振り向けない。
しばっちゃんの顔を…今、まともに見れるのだろうか?

11想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:27
「あー!スッキリした。想いを伝えれただけで、私は良かった!
 さ♪よっすぃ〜。もう帰ろうよ。」

「…うん。..あの、ゴメンね…。」

「いいの!そんな重たく感じないでよ!行くよ!」

放心状態のあたしは黙って片付けるしばっちゃんの姿を
見つめていた。
二つのモップを持って、しばっちゃんはソソクサと
体育館を後にし、そんで入り口の前に立って
『早く!』って叫んだ。
『うん』と、あたしはとにかく大きく頷きながら
しばっちゃんの元へ走り寄る。

今ここで何があったのか…これから何が待っているのか…
あたしは頭の中を整理するのに…
凄く時間がかかることを今のあたしには解らないでいたんだ。

――――

12想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:28
「石川ぁ〜暗いぞ?っていつもか!キャハハハハ!!」

「矢口っつあ〜ん、その言い方酷いよ?あは!」

お酒の匂いが充満する矢口さんのお部屋は
相変わらずだった。目の前で、どんどんビールの缶がつまさってゆく。
矢口さんと、ごっちんは恋人同士で一緒に住んでいる。
小さなバーを開いてる矢口さん。
そして従業員のごっちん。
ごっちんは私と同じ歳だけど、学校には行っていない。
私が二人に関して知っていることはこれぐらいだった。

そして二人とは、お店の路地裏で初めて会った。
あの忌々しい出来事があった翌日、
強く雨が降りしきる中、行く宛もなくただ子猫のように
フラフラしていた私は、小さな暗く、湿っぽい場所に迷い込んで。
そして気を失った―。

13想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:29
『おい…お前さぁ、なんちゅーカッコしてんの?バカじゃん!風邪ひきたいの?
 うわ!やっぱ矢口の服じゃピチピチだな!キャハハ!
 …ほら、これ飲めるか?』

『だから言ったじゃん!ごとーの服の方がいいって!お互い胸、おっきいしね♪』

気がつくと、そこは温かいお部屋の中―。
シュンシュンとお湯が沸く音と、消毒薬の匂い。
体中がズキズキと痛い。
あちこちに湿布薬が張りつけてあって。

口は悪いけど優しく私を介護してくれた矢口さんとごっちん。
何があったかなんて一切、聞いてこない。
きっと…何か環境が繋がってるからとか…

14想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:30
『…なぁ。そんな寂しい顔なんかすんじゃねーよ!余計、幸薄くなっちまうぞ?』

その日から、私達の関係は今日の日まで続いていて―。

「お〜い、石川さん?何、そんな思いつめた顔してんすか?」

「え?し、してないですよ?」

「あは!してるよ!梨華ちゃん!!」

ビール片手にケラケラと笑う二人。
以上なまでのハイテンション。
これから仕事なのに、そんなに酔っ払った状態で
働けるのかと、私は思った。

15想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:31
「…つーかおふざけはここまでざんす。キャハハ!」

「ざんすって何さ!ふざけすぎ!あは!」

いまだに笑いが止まらない矢口さんだったが
いきなり私に詰め寄ってきた。

…どーしよ。
何か恐いよぉ…。

「…石川ぁ。今日、呼んだのは真面目な話があったからであって…
 ヒック!…あいや。失礼!…オイラ達と違って、石川は高校行ってんだろ?
 いつまでもこんなダラシのないオイラ達とつるんでていいのか?ゲフ!
 またまた失礼!キャハハハハハ!!」

「どーぉした!矢口っつあん!急に真面目な…ヒック!あは!ごとーも
 ゲップしちゃった!」

「ゲップじゃなくて、それはしゃっくり♪」

16想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:32
「…いいんです。私のことは…。どうでもいいんです!それとも何ですか?
 私がここに来ちゃ…迷惑ですか?」

矢口さんと、ごっちんはキョトンとした顔で私を
見上げていた。
ハっとした顔をして矢口さんはジョッキを持ち上げ
残り少なくなったビールを一気に流し込むと
物凄い剣幕で私を睨みつけた。

「はぁ?そんな事、言ってんじゃねーよ。オイラ、石川がここ来んのに
 一度も迷惑だなんて言ったことなんてねーぞ!オイラもごっちんも本当に
 お前が心配なんだよ!…何てオイラがそんな風に言っても、
 説得力は0だもんな。」

「…すみません。何かテンぱっちゃってて…。」

「…梨華ちゃん、矢口っつあんが言ってることは本当なの。
 ごとーも、梨華ちゃんが来てくれて楽しいしさ。
 でも…たまに見せる寂しそうな顔…?何かムリしてんのかなーって
 感じがすんだよねぇ。…話くらいなら聞くよ?
 あ!でも、ごとー頭悪いからあんま難しい相談事はムリかも!あは!」

17想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:33
ごっちんが照れ隠しで、隣に座っていた矢口さんの肩をバシバシ叩く。
すると勢いよく口からビールを噴水のように吐き出し、私とごっちんにそれは
容赦なくダイレクトでかかってしまった。

「きゃー!」

「き、汚い!矢口っつあん!汚れだ!!」

ゴホゴホ顔を真っ赤にしながら咽返る矢口さんは本当に苦しそうで…
涙を浮かべらながら

『グェ――――――!』

と…大きく叫んだのだった。

「ゴホゴホ…!お、おまい等…ウグ!…っつーか、ごっつぁん!
 いってぇーんだよ!力強すぎだよ!…ゲホ!…死にそうだぁ…っうぅ..。」

さっきまでの険悪な空気は、霧が晴れたかのように消えていた。
矢口さんやごっちんが、私の事を本気で心配していてくれたってことが
凄く嬉しかった。本気になって私を叱ってくれ、
いつでも来てもいいと言ってくれた。

18想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:34
その後も、お店が始まるまでの時間を、私達は他愛のない話をしながら
ビールを飲みつづけ、盛りあがっていた。

楽しい時間は、あっとゆーまに過ぎ去ってしまう。
フラフラになりながらも、しっかりと化粧を施す二人。

「あ―――!今夜も始まるなぁ。なぁーんかおっくうだなぁ。キャハハ!」

「いつも同じ事言うね?矢口っつあんは。」

いそいそとお部屋を出る二人のあとを、私も急いで靴を履き
外へ出る。

「じゃあ、また今度な。石川…オイラの話、よく考えとけよ?いいな?」

「…はい。今日は楽しかったです。そしてありがとうございました。」

「あれ?梨華ちゃん。今日はって…『は』って何さ?
 いつもは楽しくないの?とか言ってみたり!」

『んだよ!マジかぁ?石川!』

19想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:34
後ろで大きく叫ぶ矢口さん。
私は必死でそんな事はないって懸命に弁解したけど…
しっかりと頭に怒りをぶつけられてしまった。

矢口さんのアパートから、お店までの距離は結構ある。
狭い路地裏を抜け、大きな道路に出る。
ちょっと右に歩いて、そしてまた違う路地裏へ。

『MARI』―。

そこが矢口さんと、ごっちんがやってるお店。
外はすでに真っ暗で、行き交うサラリーマンの叔父さん達は
すでに出来あがっている人もいれば、急々と帰宅途中の
お父さん達の姿も観うけられた。
どうせ私はマンションに帰っても、何もやることもないし
…誰も私の帰りを待っててくれる人もいないんだから。

「じゃあな。石川。また今度。」

「そーだね、梨華ちゃん。また今度。」

「はい…。また今」
「梨華!!」

20想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:35
ピクっと体が動く。
私を呼ぶ声がする。
私は知らないフリをしていたけど、矢口さん達は
後ろにいる…ひとみちゃんの顔を不思議そうにただ…ジっと見ていた。

「…石川。誰…?お前のこと呼んでんぞ?」

「…梨華ちゃん?あは!ごとー、結構好みかも!」

私の前にいた矢口さんは ごっちんの言葉に多少、嫉妬していた
みたいで、顔をムっとさせていた。
どうして…何で…。
ひとみちゃんがこんな所にいるの?
矢口さん達の存在は知っているけど、お家の場所までは
知らないはずじゃないの?

「…梨華ちゃん。」
「しばっちゃん!!…しばっちゃんまで…何…でいるの!?」

21想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:36
ひとみちゃんしかここにはいないと思っていたら…
どうして…しばっちゃんまでが…
私は振り帰ってしばっちゃんと…ひとみちゃんの顔を
やっと見ることが出来た。

「…梨華。帰ろう…。」

「や…!離してよ!よっすぃ〜に関係ないじゃん!」

「関係あるよ!何でそんなこと言うの?梨華!!
 しかも…お酒くさい!いったい、どーしちゃったんだよ!」

眉間にシワを寄せ、ひとみちゃんは私の腕をガシリと掴んで
離さない。少し紅潮気味のひとみちゃんの目は微かに潤んでた。
振りほどこうにも…私の力ではどうする事も出来なかった。

「…おい。よっすぃ〜…?だっけ?止めろよ。石川イヤがってんじゃん。」

22想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:37
見兼ねた矢口さんが私とひとみちゃんの腕を掴み
割って入ってくれたのだった。
すると、ひとみちゃんはキっと矢口さんを睨みつけ

「…矢口さんですよね?梨華を…梨華をこんな風にしたのは!」

「よっすぃー!!何で矢口さんにそんな言い方するのよ!矢口さんは」

「石川!黙ってろ!…そうだよ、オイラが石川をこんな風にしたんだ。
 悪かったな…。もー...ここには来させないようにすっから。
 …石川。オイラ安心したよ。しっかりいるじゃん…。」

「…ちが、矢口さん…。」

ニッコリと優しく微笑む矢口さんの顔が歪んで見える。
ごっちんは後ろで声を出して泣いていた。
周りには人だかりが出来ていて…
視線は私達を突き刺す。

「よっすぃ〜もしばっちゃんも…私の事なんてほっといてよ!!」

「梨華ちゃん!何でそんなこと言うの!よっすぃーは本当に
 梨華ちゃんのことが心配で…私だって心配してんだから!」

しばっちゃんも泣いていた。
まるでくだらない青春ドラマのように私にはそう映った。
…くだらない!いったい何なのよ!見世物じゃないんだから!

23想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:38
「嘘!みんな…私のことなんか心配なんてしてない!
 ほっといてって言ってるでしょ!!」

どうしていいのか解らず、
ヒステリー気味に私はその場で頭を抱え叫んでいた。
ガシリと腕を掴んでいた手は何時の間にか離されていて、

「…わかった。わかったよ…。梨華…。もう、ほっとくよ。
 何だか…疲れた。…矢口さん。すみません。失礼な事…言っちゃって。」

「よっすぃ〜!本気で言ってるの?!」

「いいんだよ。しばっちゃん…。行こう。」

…ひとみちゃんはそう言うと、矢口さんと私にニッコリと笑いかける。
その顔は今まで見た笑顔の中で凄くキレイで。
屈託のない眩しい笑顔―。
そして凄く寂しそうだった。
全身に力が入らず、背筋にツー...っと汗が滑り落ち
私は放心状態になっていた。

24想いは裏腹に。:2002/08/19(月) 17:39
「石川!お前ってヤツは…見損なったよ!マジ、そこまでバカだとは
 思ってなかったよ!さっきの矢口の言葉は…撤回だ!
 もう2度と顔見せんな!」

「…や、矢口っつあん!何もそこま」「ごっちんは黙ってろ!」

矢口さんの言葉なんて…私の耳には何も入ってはこなかった。
…それから私はどうやってあの後、自分の
マンションに戻ったかが朝になっても解らなかった。

ただ…。
帰り際に見せたひとみちゃんのあの顔が
頭にこびり付いて離れないでいたのは確かだった。


――――――――……

25理科。:2002/08/19(月) 17:39
こーしんしますた。
何とか毎日、更新目指して
がんがりたいと思ってます。

26ごまべーぐる:2002/08/19(月) 17:54
作者が理科。さんだと知って驚いてる次第であります。
(逝ってヨシ?)
いしかーさんはどうなるのか。続き楽しみにしてます。

27名無しゴール:2002/08/19(月) 20:31
スイマセン、勝手に貼らせて貰います。

移転元「霧が晴れた時―BAD KIDS―」
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/read.cgi/silver/1023791821/

28変わらない日常で:2002/08/20(火) 19:17
あんな出来事があった日から5日がたとうとしていて。
あと2日寝れば楽しい修学旅行の始まりだって言うのに
あたしは全然楽しみでもないし、むしろ行きたくなかった。
みんなは『お酒持ってく?』とか…
『やだ!生理とぶつかっちゃう!』とか…
あちこちから、そんな声が聞こえてきた。
とにかく楽しみで楽しみで仕方ないらしい。

梨華はあれ以来、学校に来てはいない。
保田先生もあたしに何も聞いてこないし、
おーやんもいつもと変わらず、クラスのひょうきん者を
演じきっている。
しばっちゃんも相変わらずで。

…と言いたいとこだけど、二人供
どこかふと寂しげな顔を出す時があった。

29変わらない日常で:2002/08/20(火) 19:18
つまらなく、ぼんやりと過ごす毎日―。
ダラダラと無駄に過ぎ行く時間は…止まることを知らない。
何時の間にか授業が終わっていて、
あたしは机に突っ伏しって誰もいなくなった教室で
外の景色を眺めていた。
真っ赤に染まった空に響き渡る生徒の声が
何故だかあたしの気持ちを苛立たせる。

「…梨華。」

微かにしゃがれている自分の声が情けない。
スっと立ちあがり、あたしは梨華の机に触れる。
ひんやりと冷たい感覚にとても悲しくなる。
ゆっくりと流れ出る涙が頬を伝う。
やけに頬が痒くて、あたしは乱暴に拭き取った。

30変わらない日常で:2002/08/20(火) 19:19
(…泣くな。…泣くな…。)

何度も何度も、心の中で唱えられる呪文―。
何の意味もない呪文―。


「おっこらせっと!…フー。…あれ?吉澤。まだいたの?」

「先生…。」

振り返ると、そこには手にたくさんの資料を抱えた
保田先生が立っていて、教壇にそれを乱暴に置くと
ゆっくりとあたしに近づいてきた。

「…なによ。目にゴミでも入ったの?それともアタシがあまりにも
  痛すぎだからですとか言わないわよね?」

「…何でわかったんですか?」

「返すようになったじゃない。……ほら。」

31変わらない日常で:2002/08/20(火) 19:19
ニっと笑うと、先生は懐から青いハンカチをあたしに
差し出してくれた。
ふわりと先生の香りがした。
キツイ香水の匂いとかじゃなくて…
何て言うんだろう…。

あ…
お日様の…
よく小さい頃に日向ぼっことかしてて…
太陽の匂い…?
って…説明の仕様がないけど…

う〜ん...

懐かしい匂い。
優しい匂い。
…お母さんの匂いかな。

32変わらない日常で:2002/08/20(火) 19:20
「吉澤?なぁ〜にボーっとしてんの?」

「え…あ、はい。すみません…。」

『座ろっか』って…
先生はあたしの前の席に腰を降ろすと
大きく背伸びした。

「あー...気持ちいい。最近、肩がこっちゃってさ。」

「…歳ですか?」

「吉澤…。ふふ。」

ペチリと軽く先生はあたしの頭を叩き、ニッコリと笑った。
つられてあたしもニッコリと。

「も〜いくつ寝〜るとぉ〜修学旅行〜♪」

「先生も楽しみなんですか?」

33変わらない日常で:2002/08/20(火) 19:21
ヘヘ…っと声を漏らし、先生は懐から
『カモンナ!沖縄』と書いた一冊の雑誌を取り出し、
パラパラとページをめぐる手が凄く嬉しそうだった。

「楽しみよ。だって沖縄よ?そう滅多やたらと行けないじゃない。」

「…そーですね。」

その通りなんだけど。
あたしは、どうしても楽しみという感覚にはなれない。
いっそのこと休もうかと考えているほどなのだから。
それから先生とは、その雑誌を見ながらここに行きたいとか
水牛にのるわよとか…他愛のない話を進ませたけど
全然、頭の片隅にも話の内容なんて入ってはいなかった。

「あ…もぉ、こんな時間ね。帰ろっか。」

「あ、はい…。」

34変わらない日常で:2002/08/20(火) 19:22
二人同時に席を立つ―。
と、先生が呟いた。

「…吉澤。アンタ、行くわよね?旅行。」

「……。」

「行かないの?ってか行きたくなさそうね?石川が残念がるわよ?」

……え?
今なんて...。
あたしは口を開けたまま、先生の後姿を眺めていた。

「だらしないわね!…大丈夫。絶対、石川も連れていくから!」

「本当ですか!」

「何よ!この保田に二言はないわよ!…三言くらいならあるかしら?」

「…そんなことわざはありません。」

ふふ…っと優しく笑うと、先生は後ろを振り向いた。

35変わらない日常で:2002/08/20(火) 19:24
風が吹く―。
先生の髪がなびいて―。

真っ赤な色をした耳が顔を出す。

大きな氷は簡単には割れも溶けもしないけど。
でも真夏の太陽なら、いとも簡単に溶かしてしまう。

言うならば、あたしと梨華はでっかな大きな氷で。
保田先生は灼熱の太陽だ。
…なんてクサい事を言ってみる。(照

さっきまで凹んでたあたしの冷たくなった心を
優しく溶かしてくれる熱い太陽。

きっとこの先生となら、あたしは梨華の心も
優しく優しく溶かせるのかもしれない。

あんなに嫌だったはずの旅行が
何だか楽しみになっていて仕方がなかった。

――――――――――…

36理科。:2002/08/20(火) 19:25
更新しました。

>ごまべーぐるさん。
驚かないでください。
なるべくこれからは『いしよし』
増やすようにがんがります(w

37ごーまるいち:2002/08/20(火) 22:52
更新お疲れ様です♪
ワタシも(0^〜^)と同じく楽しみで仕方ないです♪
マターリ頑張ってくださいね♪

38名無しゴール:2002/08/21(水) 09:08
ちょっと間違えてるけどヤッスーカッコいい!
増えてくる「いしよし」にも期待!

39準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:36
「…カモンナ!沖縄でしょ?あとは…カメラに。一応、住民票も。
 よし!バッチこぉーいじゃないの!完璧だわ!」

沖縄の旅行雑誌…アタシ15冊買ったんだけど、
厳選した結果、やはりこの

『カモンナ!沖縄』

が一番だったわ。
でもこの雑誌作ってる出版社…
聞いたことないわね。
大丈夫なのかしら?

3泊4日の旅が今、まさに始まろうとしている。
え?何よ。何で住民票持ってくかって?
もしかしたら…真っ黒に日焼けした青年とドス恋に落ちる
かもしれないじゃないの!!
しかも何でドス恋なのって?
…あー。やだやだ。
これだから頭の硬いヤシラは。。。

40準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:36
塩をまいて相手を睨みつける。
(まずは品定めね。)

そして相撲バリのぶちかまし!
(いわゆるひとつの愛の告白ってトコかしら?)

なんとなんとキタよほ!!熱い張り手!
(クラっとキタ――――!とこで最後の決めては!!)





    ベット際の…うっちゃり(ボソーリ
    (…言わせないでよ。キャ!!)

…やだ。アタシったら。(ポ
何て考えてたら、集合時間じゃないのよ!!
置いてかれたらアンタ達のせいよ!
…そのときは解ってるでしょうね?

41準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:37
「…さてと。石川のマンションに行ってみっか。」

吉澤にあんな大きなこと言っちゃったけど、石川は
『行きません!』の一点張りだったわ。
あれから毎日のように通ったんだけど…
会ってはくれない。
初めて会ったときの石川の姿はなかった。

大きな鞄を両手で持ちあげる。
が…、
予想以上の重さにアタシはペタンと尻餅をついた。

「…以外と、か弱いわね。アタシ…。」

何て誰もいないトコでこんなさぁ、バカやってたって
虚しいだけじゃない…。
まぁいいわ。マジで時間ないし…。

「…ん?ギャア―――――!!だ、誰よ!こんな人ん家の前に犬の
 ク○なんか…。せっかくの一張羅が…うぅう…。」


―――――――――…

42準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:37
…最強のこのアタシもマジで凹んだわよ…。
沖縄なんてどうでも良くなっちゃったわよ…。
水牛に乗るのもどーでもいいわ。

嘘だけど…。

フラフラと石川のマンションの前で立ちすくむアタシ…。
来てはみたけど、打つ手段なしなんだけど…
最後の手段として無理矢理マイウェイ&強行突破しかないでしょ…。
えーえー。どうせ教師失格ですもん。
犬のク○なんかお尻につけたアタシは人間失格ですよぉ〜だ!

…とにかく!いつまでもイジけても仕方ないわよ!
こ〜なりゃイジでも石川連れて行くしかないわね!!

           ―ドンドン!―

43準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:38
「石川〜!居るんでしょ!!開けなさい!保田よ!あんたの担任
 保田圭24歳!趣味は一人相撲!決めては寄りきり!
 特技は民謡!え〜っとあとはぁ…
 あだ名がキューティ!みんながそう呼んでるわ!そして」

「止めてください!ご近所迷惑です!キューティー先生!!って…え??
 先生…どうしたんですか?な、何で泣いてるの??」

石川…アンタだけよ…。
アタシを初めてキューティーって呼んでくれたの…。
嬉しいわ!素直に嬉しいわよ!!
あまりの嬉しさにアタシ、蹲って泣いちゃってる…。

「…アンタを迎えにきたの。アタシ…。ね..?沖縄…一緒いこ?」

「…先生。でも…私、何も準備して、ない。」

44準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:38
何よ…石川。
そんな悲しい顔でアタシのこと見ないでよ。
同情してる??
やだ!しなくてもいいわ!
惨めじゃないの!!
アタシもアタシで何泣いちゃってんのよ!!
しっかりおし!お圭!!!
とにかく石川も道づれ(?)に…

「…一緒に思いで作ろ?ってか来なさい!(クワ!!)」

「は、はいぃ〜…い、行きます!!!」

漫画に出てくるキャラみたいに、石川はその場で
体を真っ直ぐにし、ピョン!と飛びはね
自分の部屋に戻って行った。
しかもしっかり制服着てんじゃないのよ。
…とにかく吉澤との約束、守れて良かった。
ってか完璧、飛行機逝ってるでしょ。
この時間って。
いんや!間に合わせてみせるわよ!!

―――――――――…..

45準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:39
リーダー!圭ちゃん来ないの?」

「こら!柴田!リーダーって言わないの!カオも…圭ちゃんから
 何も連絡貰ってないし…。」

「じゃ♪放置決定ってコトで!」

「…呪われるよ?圭ちゃんに。」

しばっちゃんは一瞬、『ゲ!』っと単語を発し、
あたしの後ろに身を隠す。
そんなしばっちゃんと飯田先生のやり取りを苦笑い
しながらあたしはただ眺めていた。

どこを見渡しても保田先生と梨華の姿はない。
ここは飛行場で、すでに全員が集合していた。
梨華はともかく…あんなに今日のこの日を楽しみにしていた
あの先生が来ないなんてないし。

…でも、本当にどうしたんだろう。
そんなコトを考えてるうちに
保田先生が来ないので、飯田先生があたし達のクラスを
臨時に引率してくれるコトが決まっていた。

「圭織、ちょっと。」

「なぁに?なっち。」

46準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:39
呼ばれたまま、飯田先生はなっち先生の元へと駆け寄る。
何やらボソボソ、長いこと話をしていた。
そしてクルリと降り返り、

「え〜。圭ちゃ、ゴホン!保田先生はあとから来るそうで、
 まぁ、時間もないし先に行きましょう。」

『あとから来る』

良かった…来るんだ。
もしかしたら来ないんじゃ…って考えてたから
とにかくホっとし、胸を撫で下ろす。

あとは…梨華が来てくれればなぁ。。。

「ま、またんかぃ――――――――!ハァハァ…」

「「圭ちゃん!!」」

あたしは目を疑った。
あたしだけじゃなく、飯田先生も、なっち先生も、みんなも。
もの凄く必死の形相で、でっかい鞄を2つ背負い
息を切らし、ボタボタと汗が滴る
保田先生の後ろにいたのは…

47準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:40
「梨華!」

あたしは梨華の元へ駆け寄る。
彼女もまた、ハァハァと苦しそうに大きく息継ぎしながら
ゆっくりと顔を上げた。

「…っすぃ〜。..ハァハァ…。」

「大丈夫?はい…ハンカチ。」

「…あ…がとぉ…」

ハンカチを受け取り、額の汗を拭き取る。
あたしは何だか嬉しくなった。
まさか素直に受け取るとは思ってもいなかったから。
必死で走ってきて、思考回路が回ってなかったんじゃないかな?
ハ!っとした顔をして梨華はキ!っと睨みつけた。

48準備万端!…その後は:2002/08/21(水) 16:40
「…無理矢理、連れてこられたんだからね…よっすぃ〜の為じゃないから。」

「わかってるよ。」

何も聞いていないのに、梨華は頬を赤らめてそう答えた。
危うくあたしは頬の筋肉が緩みそうになったけど我慢した。
人目も憚らずその場に大の字で寝っ転がってる
保田先生に目を移す。

するとあたしの視線に気づいたようで、汗を拭いながら
先生は『どうよ?』と言わんばかりに
大きく握りこぶしをあげ、ニッコリと笑った。



――――――――――…

49生音:2002/08/21(水) 16:47
「あっつ――…」

いきなりの洗礼―。
頭の上から光と熱がぶちまけられる。
あたし達は那覇でプロペラ機に乗り換え、
石垣島から船で西表島向かった。
こんな大人数で来て、しかも何往復もさせられる
運転手さんに何だか申し訳なかったけど、
初めてこんなキレイで透き通った海を間近で見ることができ、
あたしは最高に感動していた。

しかも…なんでこうもお金持ちの学校だろうだとか
普通、修学旅行でここまで来るかという考えが頭を過るけど
そんなコトはどうでもよかった。

「よっすぃ〜見てよ!」

「ん?どーしたの?しばっちゃん。…うわぁ!」

50生音:2002/08/21(水) 16:47
海が底抜けの青さで―。
サファイアブルーとエメラルドグリーン。
ベタベタないい方だけど、本当にそうとしか言いようがないんだ。
水底の小石が見てとれるほど透き通っていて
引きこまれそうな感じがした。

「吉澤!柴田!ハシャギすぎ!早く集合しる!」

声に引かれ、あたし達は先生のトコに飛んで行った。
…すでに裸足だった先生にあたしはしばっちゃんの顔を見て
苦笑いした。先生こそはしゃぎすぎだと、あたしは思うんですけど…。

「はーい!1年A組!揃ったわね。しかも全員参加で…嬉しいわね。
 まずは泊り先のホテルに行くわよ!それから少し休憩して…
  

 水牛に乗ります!」

51生音:2002/08/21(水) 16:49
「ちょっと!圭ちゃん!なぁ〜に言ってんだべ!水牛に乗る前に
 乾杯だべさ!!しかもためすぎ!!」

「…カオ、それも違うと思うけど…。あのね?みんな、話が進まないようなので
 カオが説明するね?ホテルに行って、少し休憩したら、晩御飯です。
 ではカオの後をついて来てください。」

…あーだこーだ言ってる先生二人には悪いけど。
目くそ鼻くそです…。


――――――――…

52葛藤:2002/08/21(水) 16:50
あたし達の班は…4人グループ。
あたしと、おーやん、しばっちゃん、
そして…梨華。

まずは部屋に案内され…たのはいいけど
どうして一緒の部屋にベットが4つないんだろう。
…って。
普通ないか。はは…。

「おりょ?二部屋になってるんだぁ。で、どーするよ?
 どうやって組作る?じゃんけん?」

キャキャと、はしゃぎながら
手を組み握り拳を今まさに突き出そうとしていた。
そんなおどけるおーやんを見て、
あたしとしばっちゃんは笑った。
あたし達は一箇所にひとまず荷物を置き、
あーだこーだ言いながら、部屋割りをどうするか話している。

53葛藤:2002/08/21(水) 16:51
…が。
その輪に梨華は入ろうともしないで
窓から見える広大な真っ青な海をジ...っと眺めているだけだった。
潮の匂いが混じる優しい風は、優しく彼女の髪を撫で付ける。
目を細め、何に対して微笑みを溢しているのだろう。
そして梨華は目を静かに瞑るのだった。
あたしはそんな彼女に見惚れていた。

…旅行に来てくれたことは嬉しいけど、この先
何かが起こりそうな予感がして、あたしの胸は密かに
ドキドキしていた。

……すぃ〜。おーい…!吉澤くん!おいってば!!」

「ええ??何、呼んだ??」

「呼んだって…。はぁ〜...。部屋割り、今言った組でいいだろ?」

54葛藤:2002/08/21(水) 16:51
「え?あ…ごめん。聞いてなかった。」

しばっちゃんと、おーやんは大きな溜め息をつくと、
アメリカ人がやるような困ったポーズをした。
少し大袈裟なような感じがしたけど、そんなコト言ったら
また怒らせてしまうような勢いだったので、あたしは何も言わず
ただ『ごめん。』と素直に頭を下げたのだった。

「だぁ〜かぁ〜ら!私と、おーやん!そして梨華ちゃんとよっすぃ〜ね!」

「え!あたしと梨華…一緒でいいの?」

「「決まったって言ってんじゃん!」」

ずいっと顔を近づけ、あたしをニヤニヤした顔で
見つめる二人。

「早く教えてあげなよ。」

「うん…。」

55葛藤:2002/08/21(水) 16:52
あたしは二人に微笑んだあと、後ろで外の景色を見ている
梨華に近づく。

「…あれ?」

スースー...と、静かな寝息が聞こえる。
あたしはゆっくりと梨華の顔を覗き込んだ。
とても気持ち良さそうに寝ている梨華。

「…寝てる。…ねぇ、しばっちゃ…」

後ろを振り向くと、おーやんの姿も
しばっちゃんの姿もなかった。
あたしはその場で呆然とした。

「…は、早いよ…行動が…。」

56葛藤:2002/08/21(水) 16:52
そうは言ったものの、こんなキレイに海が見える部屋で
梨華と二人っきり。
あたしの頬は緩みっぱなしだった。
自分でもしまりのない顔でニヤけてると思うと
我ながら情けない感じがしたけど
それよりも嬉しさでいっぱいだった。
気持ち良さそうに寝ている梨華の頬に
あたしはそっと...指でつっついてみた。

『…ん。』

と小さな声を漏らし、梨華の口元が微かに綻んだのだった。
そんな顔されたら意気地のないあたしだって我慢できないよ…。
もぉ一度でいい。
この柔らかい唇に…無償にキスがしたくなった。

57葛藤:2002/08/21(水) 16:53
あたしはしゃがみこんで、梨華の目線と同じ高さで
顔を覗きこむ。
凄い早さで心臓は動き出し、全身がヒヤっとした汗で
包まれた。フルフルと震えるあたしの唇―。
今からとても悪いコトをするみたいだな…なんて思ったりも
したけど…どうしてもあたしの行動は止まらない。
もしかしたら梨華は起きてるんじゃないのか?
いやいや…起きてたらあたしを回避するだろうし…。


大丈夫。
梨華は眠ってる。
そっと...口づけるくらい…いいよね?
梨華だって...いきなりあの日...あたしにキスしたんだから…。

58葛藤:2002/08/21(水) 16:53
自分にとって都合のいい事を頭に浮かべながら
あたしはゆっくりと唇に触れた。

グロスで濡れたその唇は柔らかかった。
キスをしたあと、あたしは無償に恥かしくなり
勢いよく立ちあがり、自分の唇をそっと指でなぞり上げ
いまだに瞳を閉じていた彼女の顔を見つめる。
あんなにドキドキしていた心臓は…嘘のように鳴り止んでいた。

ヘナヘナとその場で腰を抜かしてしまうあたしって…
本当に意気地なしだ。
ヘタレだ。

でもこのヘタレも…
自分から彼女に向かってキスをするなんてたいした
事じゃないか。…少し触れただけだったけど。

59葛藤:2002/08/21(水) 16:53
あたしはやっと立ちあがることが出来た。
その頃に、あたしの心臓はゆっくりと動き出し
段々と早くなっていて。
嬉しさと自分のした行動に、顔を赤らめていた。
そしてベットに備え付けられていた薄地のタオルケットを
梨華にかけてやり、ちょっと離れた場所に再度座り込む。
体育座りをしながら、風に吹かれるまま
あたしは梨華を飽きることなく見ていた。

外はあんなに暑いのに、この部屋はいい温度を保っているせいもあって
あたしも知らず知らずのまま、眠りについていくのだった―。


―――――――――

60理科。:2002/08/21(水) 16:58
更新しました。

>ごーまるいちさん。
ありがとうです。
マターリがんがります。

>名無しゴールさん。
間違いだらけですが何とぞヨロ〜で。
期待に答えれる「いしよし」書きたいですけど…
結構、難しいものですね(w

進行をマターリ進めていきたいので
一場面がこれから長くなってしまいますが
何とぞよろしくです。

61名無し( `.∀´):2002/08/21(水) 23:44
最初に笑い、最後に激萌え!
寝てる間も妙に似合う2人ですね。
マターリ頑張ってください!

62理科。:2002/08/26(月) 13:04
>名無し( `.∀´)さん。
ありがとうございます。
はい。マターリ頑張りますね。

63長い夜:2002/08/26(月) 13:05
「やっぱゴーヤって苦ぇよなぁ。っつーか圭ちゃんとなっち、
 食いすぎだよ、アレは。
 そーいゃあよ?柴田。よっすぃ〜達来なかったなぁ。」

「うん…。やっぱムリにでも梨華ちゃん起こして連れてくればよかったね。
 でも…おにぎり作ってきたからいいじゃん。」

私と、おーやんは食事も済ませ、自分達の部屋に戻るところだった。
いい感じ(?)の二人はほっといても、あとで来るだろうと
思ってたんだけど…。結局、来なかったんだよね。

…は!

もしかして…部屋で大喧嘩なんかしてないでしょうね…?(汗

「…柴田?今さぁ…最悪のパターン考えてなかった?」

「…おーやんも?」

数秒、見つめ合っていた私達。
おーやんのホンノリ赤く染まった頬がみるみるうちに
マリンブルーの色に染まってゆく。
さすが沖縄…。
とか言ってみる。。。

64長い夜:2002/08/26(月) 13:05
「「…走れ!」」

必死に私達は走った。
…食後に走ったせいか、さっき食べた物が
でてきそうな感じがしたけど。
隣のおーやんに目をやると、彼女も同じように感じているのだろう。
口に手をあてがっていた。

(…何か可笑しい。)

「…おい。…笑ったな…?今…笑っただろ?」

「笑ってない!笑ってない!」

「…そっか。あ!ここだ!ここ!ストップ!柴田!!」

ハァハァ肩で激しく息をしながら、私とおーやんは
部屋の前で汗を拭い、ゴクリと唾を飲み込む。

そしておーやんは目で私に『いい?』と合図を送ったんで
私はコクリと頷いた。

「…よっすぃ〜!石川!」
「…寝てる…。」

65長い夜:2002/08/26(月) 13:06
梨華ちゃんはあのままの姿勢で眠ったままだった。
そしてよっすぃ〜はと言うと。。。

ちょっと離れた場所に座り込んで眠っていた。
窓から入ってくる優しい潮風が二人の髪を撫で付け
サラサラとなびいていて…
それが凄くキレイに私の目に映る。

何か…懐かしかった。
前にもこんな場面、見たことがあったなって。
まだ仲の良かった頃―。
何の蟠りもなく、ただ純粋に走っていたあの頃に―。

「…んだよ。人の気も知らないで。なぁ、柴田…って!何泣いてんだよ!」

「…へ?」

あ。

ホントだ。
私、泣いてるよ。

「…ほら。ハンカチ。」

「…まさお。ハンカチ持ってるなんて、女のコだね…やっぱ。」

66長い夜:2002/08/26(月) 13:06
「れっきとした女だよ!しかもまさおって…。一言多いんだよなぁ、柴田って。」

プイっと顔を背けるおーやん。

「ありがとう。」

素直に受け取り、私は涙を拭いた。
いまだに歪む視界に映る二人の寝姿。
どちらも凄く嬉しそうな…
とても良い表情で眠っていて―。

「…おーやん、私達も少し昼寝しよっか?」

「ん〜。そーだな。でも食ってすぐ寝ると牛になるって…」

「じゃあ、牛になったらここで一緒に畑でも耕そっか?」

「…冗談だろ。まぁ、いっか。そしたら圭ちゃんでも乗せてやって…
  っつーのは嘘であって….。じゃあ…おやすみ〜。」

ベットがあるというのに、おーやんはよっすぃ〜の近くで
寝転んだ。いい勝負だね、のび太君と。
…寝息が聞こえてきた。

67長い夜:2002/08/26(月) 13:07
「…私は」

私は梨華ちゃんの隣にお邪魔するかな。
ゴロリと寝転んだ。
心の中に風が吹く。

「…梨華ちゃん、頑張ろうね…」

…偶然だろう。
私は梨華ちゃんにそう告げたあと
彼女はクスリと微笑んだ。
窓から見える空の色は、すでに真っ赤に染まっていて。
静かに砂浜を撫でる波音がとても心地良い。
そして何と言ってもお腹が満腹だったせいもあるだろう、
私もすぐに眠りにつくのだった―。


――――――――――

68長い夜:2002/08/26(月) 13:07

「…ケホ。」

ふと自分の咳の音で目が覚めた。
目を開けるとそこは広大な海が広がってる。
いまだに起ききれない私の脳。
いつもの自分のお部屋じゃないことに、多少戸惑いを感じながらも
ジー...っと外の景色を眺める。

あぁ、そうか。
私は今、沖縄にきているんだっけ。
いつの間にか私は眠っていた。
保田先生と必死で空港中を走りまわったのと
長旅の疲れがどっと出て…
何気に窓を開け、私はあまりの気持ちよさと開放感に
身も心も奪われ眠りについたんだ。
波風のせいか、髪がごわごわしていた。
私は手ぐしで乱雑になった髪を軽く撫で付ける。
その時、ふわりと何かが落ちた感じがし、
私は何だろうと思い床を見た。

69長い夜:2002/08/26(月) 13:08
(タオルケット…)

きっとひとみちゃんがかけてくれたんだ…。
いくら沖縄で暑いと言っても、ずーっと波風にあたってたら
風をひいてしまうかもしれない。
それに温度差もあるしね…。
キュンと胸が痛む。
ひとみちゃんはひとみちゃんだ…。
あの頃と何も変わらないね…。
優しいひとみちゃん…。

「…あれ?」

背後から聞こえるバラバラな寝息達。
ふと後ろを振り返るとそこにはみんな眠っていた。
おーやんは大の字になって。
しばっちゃんは私の隣で亀のコみたいに
まん丸くなって。
…そしてひとみちゃんは体育座りしながら眠っていた。

70長い夜:2002/08/26(月) 13:08
(…何かヘン、かも。)

私は必死で笑いがこみ上げて来るのを我慢した。
あまりにもみんな気持ち良さそうに眠ってるんで
ここで起こすのはどうかと考えた私は
一人、お部屋を出る。

すると同時に『キュ〜ン』と、お腹が鳴って…。

「や、やだ!」

ムリもない。
今日の私は朝から何も口にしていなかったのだから。
しかも夕食の時間帯に眠っていたし…。

「…どっかコンビニあるよね。」

ポッケにはわずかな小銭と千円札。
ポンと叩くとチャリって音がした。
私は嬉しくなり、ホテルをあとにした。


――――――――――――

71理科。:2002/08/26(月) 13:09
更新しました。

72名無しプッチ:2002/08/29(木) 22:22
続き楽しみにしてます!

73胡麻べいぐる:2002/08/30(金) 13:40
マサオと柴っちゃんも何だかいい感じですね。
ヒソカにメロソもスキ、と逝ってみるテスト。

74名無しプッチ:2002/08/30(金) 19:00
私も、メロソスキ!!とかいってみた!(^〜^0)
続き楽しみです。ガンガッテください。

75理科。:2002/08/30(金) 19:32
(;O^〜^)<ヤバ…!マターリしすぎたかなぁ…。

>名無しプッチさん。
どうもです。嬉しいお言葉ですなぁ…(テレ
がんがります。

>胡麻べいぐるさん。
メロソ。。。今回初めて(?)出したのかな?
自分で書いててわからなくなります(w

>名無しプッチさん。
メロソ、結構、評判良くて嬉しいです。
ありあとーです。ガンガリますね。

76長い夜:2002/08/30(金) 19:33
「…んー...」

ボーっとしたまま辺りを見渡した。

……。

額に、薄っすらと汗が張りついていて
あたしは前髪をかきあげながら大きな欠伸をする。
目の前にはなぜかしばっちゃんが亀みたいに
ねっ転がっていて、凄く可愛かったけど
思わず噴出してしまう。
だって可笑しいんだもん。

ふと隣を見るとそこには、おーやんが…
寝ていて。
あたしは気持ち良く寝ている二人を起こさないように
ゆっくりと立ちあがり、窓辺から外を見た。
都会で見る景色とは全然違う世界に
ただただ呆然としてしまう。
本当にここは同じ日本なのだろうかって思うくらいに
空や海はきれいで。
何だか吸い込まれそうな感じがして、あたしはその場で
踏ん張って見る。

(……何やってんのかなぁ、あたし…。)

77長い夜:2002/08/30(金) 19:33

…………。
…ん?

「あ〜〜〜!梨華が…梨華がいない!!!」

「「ど、どした!よっすぃ〜!!???」」

あたしがいきなり叫んだもんだから、二人は
ビックリしたみたいで、体をガバっと起きあがらせ
あたしを見つめる。
あたふたしてるあたしに、何でか知らないけど
おーやんが覆い被さってきた。

「お、落ちつけ!よっすぃ〜!な、何をそんなに興奮してんだい?!」

「ちょっと!ビックリしたわよ!大きな声あげないでよ!」

「梨華がいないんだ!何処にも!さっきまで寝てたよね?」

あたしはかなりてんぱっていた。
柴っちゃんの肩をワシ!っと掴み、ブンブン振ってたら
後ろから、おーやんのゲンコツが。。。
いってぇ〜…。

78長い夜:2002/08/30(金) 19:34
「お、落ちつけ!よっすぃ〜!な、何をそんなに興奮してんだい?!」

「ちょっと!ビックリしたわよ!大きな声あげないでよ!」

「梨華がいないんだ!何処にも!さっきまで寝てたよね?」

あたしはかなりてんぱっていた。
柴っちゃんの肩をワシ!っと掴み、ブンブン振ってたら
後ろから、おーやんのゲンコツが。。。

「よっすぃ〜!落ちつけ!な?」

「お、落ちつけって…落ちついてますが何か?って…ぐわー!!」

「よ、よっすぃ〜が…!」

こ、こんな知らない土地を一人で出歩くなんて…
万が一、何かあったら困る!
…あぁ。どうしたらいいんだろう。

―ガチャ―

「…3人で何やってんの?」

片手に缶ジュースを持った梨華が
不審そうな顔であたし達を見ていた。

79長い夜:2002/08/30(金) 19:35
「「「…り、梨華…!!」」」

まぎれもなく、目の前には梨華が立っていた。
何事もなかったように、彼女はスタスタとあたし達の横を
通り過ぎ、そして一人ベットに座りながら
フタを開ける。カシュっと静まり返った部屋の中で、その音だけが
響いていた。そしてコクコクと喉を鳴らし、美味しそうに
ジュースを飲んでいる。

「梨華ちゃん!心配してたのよ!私達!何処行ってたのよ!!」

柴っちゃんの目に涙が滲んでいた。

「…お腹がすいたから…ちょっとコンビニ行こうかと思って…っそれに」
「梨華は、あたし達が爆睡してたから…起こすのためらったんだよね?」

乱れた髪を直しながら…ひとみちゃんがそう答えた。
…やっぱり、ひとみちゃんにはかなわないなぁ。
危うく私は笑ってしまいそうになったけど、
必死で今の表情を崩さないようにと我慢する。

80長い夜:2002/08/30(金) 19:35
「…勝手に解釈しないでほしいなぁ。」

「…違った、かぁ…。はは。ごめん、梨華」

柴っちゃんと、おーやんは少し切なさそうな瞳で、私とひとみちゃんを
見据えていた。ちょっとバツが悪くなった私は、そんな二人を真っ直ぐに
見ることが出来ない。一気に残り少なくなった缶ジュースを飲み干し
鞄を掴み、『おやすみ。』と伝え、そそくさとその場から逃げるように
隣のお部屋と向かった。

「…あのさぁ。二人供…許してあげてよ。あれでも梨」
「あ―――!わかってる!大丈夫!怒ってないから。」

「…ぜってー嘘だね。柴田は怒ってる。」

81長い夜:2002/08/30(金) 19:36
「...それ以上言ったら、おーやんは廊下で眠ってもらうからね!
 はい!コレ、おにぎり!二人で仲良く食べなさい!」

あー...あたし、お邪魔かも。
どーも、ごちそうさまです。はいはい。
二人に気づかれないように、自分の荷物を手に取り
隠れながら梨華の居る部屋へ…。

――――――

82長い夜:2002/08/30(金) 19:36
「あ、よっすぃ〜。お風呂入っちゃえば?」

「あ、うん、いや…。え、あ、じゃあ、あたしも入っちゃおう。」

ベットの上に、バスタオル一枚の梨華。
濡れた髪を拭きながら何でもないようにそう言った。
…反対に、あたしの心臓は爆ついていた。
危なく口から出そうな勢いだったけど…。
お風呂場までダッシュ。
バタンとドアを閉める。
情けない…。
ズルズルあたしは足から崩れ落ちて行き
とうとう狭いその場所で気を失ってしまったようだった…。

―――――――――

83長い夜:2002/08/30(金) 19:37
気がつくと、目の前には真っ白い天井が映った。
額には熱冷まシートがペタリ。
ソヨソヨと、クーラーの風があたしに吹いている。
寒くもなく、丁度良い按配で。

「よっすぃ〜。」

「…あ。」

梨華―。

真っ白いノースリーブから出ている細い腕には
何本もの、ジュースが抱えられていた。
半乾きの髪をタオルで一本に結んで、少し困った様な表情をし
あたしの顔を覗いている。
それが何だか可笑しくて。
プっと噴出してしまっていた。

「…何で笑うのよ。」

「え…?あぁ、ゴメンね。」

84長い夜:2002/08/30(金) 19:39
梨華は、ちょっとムっとした顔をして
手にしていたジュースを机に置くと、自分のベットに
寝そべった。
あたしは何も言わないまま、その寝ている彼女を
じっと見ていた。
シーンと静まり返る部屋の中に
微かに聞こえる波の音。

(…え?)

フ...っと梨華が思いつめた表情で
あたしを見つめる。

「ねぇ…そっち行っていい?」

「え!あたしのベット!?」

「…ダメ?」

「だ、ダメじゃないけど…どーしたの?急に?」

85長い夜:2002/08/30(金) 19:41
ダメなワケない!
でも…何で。
ホントに急だった。
あたしはドギマギしていた。
もし、柴っちゃんや、おーやんがいきなりこっちの部屋に
入ってきた事を想定し、あたしは鍵がかかってるかを
さりげなく確認してみる。

上半身を起きあがらせ、八の字眉で真剣な表情で
あたしをずっと見ている梨華。
胸元からキラリと光るペンダントに
あたしの目は釘付けになっていて。

「…よっすぃー...ダメなの?いいの?」

「…来なよ。」

プツリと脳で何かの糸が切れた音がした。
静かに。
静かに―。
そう暑くもないのに、あたしの額からは汗が流れ落ちている。
ブラリと垂れ下がった熱冷まシートを取り、ベットの脇に備え付けている
ゴミ箱へポイと投げ捨てた。
薄いタオルケットをはぎ、あたしは布団をポンポンと
叩いて見せた。

86長い夜:2002/08/30(金) 19:42
少々緊張したような顔を浮かべ、梨華はベットから身を乗り出し、
あたしのベットへと一歩一歩、ゆっくりと歩いて来る。
ゴクリと唾を飲む音が喉で響く。
梨華が近づくに連れて、あたしの心臓は張り裂けんばかりに
大きく鼓動する。
フっと灯りが消え、クーラーの音だけが
部屋中を支配していた。

そして―。

石鹸のいい匂いが、フワリと鼻についた時―。
梨華の細い腕があたしの首に強く回された。
カタカタと震える彼女の華奢な手。
頭がクラクラする。
意識が飛ぶ。
梨華の細い腰に両手を回し、あたしは彼女を引き寄せた。
そして倒れ込むように、あたしと梨華はそのままベットへ
身を委ねる。

87長い夜:2002/08/30(金) 19:42
「…っすぃー、…ひと、みちゃん。…これは夢なの。
 現実じゃなくてね…?全部、夢…。」

「…うん。夢、だよ…。梨華。」

梨華もあたしも泣いていた。
消え去るような声で梨華がそう言った。
梨華がそう言うなら…これは夢なんだ。
…覚めない夢であってほしい。

何でだろう。
凄い切なくて、悲しくて。
あたしの腕にスッポリと収まる梨華がとても愛しい。
あたしは彼女の細い顎を持ち上げ、唇を落とした。
微塵も抵抗しない梨華。
一度離し、あたしは上唇を軽く挟むようにキスした。

「…ん。」

88長い夜:2002/08/30(金) 19:43
脳みそが揺れるような刺激にあたしの頭はショート寸前だ。
これはヤバいと感じたあたしだったが…
すでに思考回路は『梨華』という愛しい人物により破壊されていた。
梨華も梨華であたしの髪の毛を撫でつけ、そしてゆっくりと下に
向け、背中を優しく撫で回す。
何て心地よいんだろう…。

「…梨、華。」

「…とみ、ちゃん…。」

梨華の黒く潤んだ瞳―。
深く深く、それはどこまで続いているんだろう。
吸い込まれたい。
夢中で梨華を抱く。
長い長い夜だった―。


――――――

89理科。:2002/08/30(金) 19:46
更新しますた。
…ちょとマターリしすぎてました。
スミマセンでした(反省。。。

90名無しプッチ:2002/09/01(日) 12:56
マターリでも、楽しみにしています。
がんがってください。

91理科。:2002/09/02(月) 19:09
>名無しプッチさん
ありがとうございます。
がんがりますよほ。

92長い夜:2002/09/02(月) 19:11
胸元の愛の印を数える。
1、2...3、…6コ。
紛れもない、ひとみちゃんが付けてくれた印。
夢だと言い聞かせ、私はひとみちゃんに迫った。
そして彼女は優しく私を抱いてくれた。
交わることは初めてではなかった。
…あの人にされたなんて考えるだけでも吐き気がする。
大好きな…人と、一つになると言うことは
何て素晴らしい事だろう。
隣でスースー寝息を立てているひとみちゃんの顔を見ると…
キュンと胸が痛んだ。

彼女を起こさぬように、私はベットから抜けだし
静かにひとみちゃんの腕をタオルケットの中に仕舞い込む。

今日から自由行動だった。
本当はひとみちゃんとずっといたいけど…
もう一人の私が邪魔するんだ。
溶け出すことのない氷。

私はシャワー室へと足を運んだ。


―――――――――

93はいさい。:2002/09/02(月) 19:11
「ちょっと!アンタ等、人の話聞きなさいよ!」

「ヤッスー、早く自由行動しよーよ。時間なくなっちゃうよ?」

「うっさい!大谷!アンタが一番心配なのよ!!」

あたしはそんな二人のやり取りを目に、
チラっと梨華を見た。
いつもと変わらない彼女がいる。
やっぱり昨日の出来事は夢だったんだ…。
心の何処かで、少しは前より接してくれるんじゃ…
って、淡い思いを抱いていた自分は甘かった。
少し離れた場所に、梨華は座って携帯をいじっている。
じっと見ていたあたしの視線に気づいたのか、梨華は顔を
あげ、あたしを見た。でもすぐに視線をずらされる始末。
心なしか頬が赤かったのは気のせいだろう。

「あ――!もーいいわ!おまん等、自由に羽ばたきなさい!
 でも悪いことや、知らない人に飴買ってあげるからって
 着いていっちゃ…」

「わーったよ!ヤッスー!!水牛乗れなくなるぞ!」

「そ、そそそそそれは困るわ!!じゃ、いい自由行動を!
 なっち&カオリ!行くわよ」

94はいさい。:2002/09/02(月) 19:12
そう言い残し、あたし達生徒はただただ呆然と
保田先生にいいように引きずられてく安倍先生と飯田先生は
すでに諦めきった顔をしている。そんな姿を見つめ
みな、あんぐりと口を開けたまま、その場で固まっていた。
…そんなに乗りたかったんだね、先生。

しかし、他の組の生徒の一人が仲間と供に活動を始めるのを
キッカケに、次々と出かけて行く。
そしてそこに残された組は、いつしか
あたし達、4人だけとなっていた。

「どーっすっか?」

「あら、私とおーやんはこれから買い物でしょ?じゃ、お二人さん♪
 私達はこれから出かけますね。では夕方会いましょー!」

いつになく、強引な柴っちゃん。
って…こっちに来てからちょっと性格が変わったね。
嬉しいのか、悲しいのか…。
少し複雑な気分だ。
あたしは手を振り、二人の姿が見えなくなったのを
確認してから梨華の方へと足を運ぶ。
ホテルの従業員達が忙しそうにアクセク動いていた。

「…ど−しよっか。」

「私は疲れたから…少しお部屋で休むことにする。
 よっすぃーは好きなトコ行っておいでよ。」

95はいさい。:2002/09/02(月) 19:12
いまだに梨華は顔を上げずにカチカチ
携帯をいじっている。
『疲れたから』と言う言葉に、あたしは昨日の出来事が
頭に浮かび、少し恥かしさを覚え
横にあった見た事もないトゲトゲの木に目を配る。

「あ…うん。じゃ…行ってくるね。」

返事はなかったけど、何だか嬉しかった。
心なしか梨華の言い方が優しく感じられたから。
それだけで十分過ぎた。
まだ8時を回ったばかりだというのに
外はカンカン照りで、あたしはその中を
元気よく駆け出した。

――――――――

96はいさい。:2002/09/02(月) 19:12
初めて来た街。
見た事のない木々。
何もかもが新鮮で、どれもこれも興味深い物だった。
照りつける太陽なんて何のその。
あたしは歩く。
ドンドン歩く。
さすが沖縄。
行き交う人々は…やはり黒かった。
梨華も黒いけど…っと。
この先は言わないでおこう。
焼けつく太陽の光をいっぱいに浴び、
この南国で、強靭に育ってきた人々。
何処かパワフルだった。

「…カッケー。」

ポツリと漏らした言葉が何故か寂しい。
吹き出る汗を拭いながら、あたしはさとうきび畑を
突き進み、とにかく歩いた。
自分より背の高いさとうきび達は
風に吹かれ、ザワザワと揺れている。
何処まで歩いてもそれは終りなく続いている。

「…ホントに甘いのかな。」

97はいさい。:2002/09/02(月) 19:13
テレビでさとうきびをかじるシーンを観たことがあった。

『あまぁ〜い』

と口にするレポーター。
甘さと美味さに平伏す。
極上の味を示す、至福な顔。
ムクムクと大きくなっていく好奇心は止められない。
懸命に汗水流して育てた会った事のないおじいさんの顔を思う。
ここの主はきっとおじいさん。
自分の孫のように心底可愛がっいることだろう。
真っ黒く日に焼けたおじいさんが、せっせと毎日
育てたに違いない。
勝手なあたしの妄想は広がる。

ドンドン膨らむ好奇心。
あたしは勝てなかった。
一本拝借しようと、あたしはそれをポキっと折ってみた。
けど…結構、固いんだね、コレって。
中々折れないや…。

98はいさい。:2002/09/02(月) 19:13
「たーやが?」

「え…。誰?」

「誰って…こっちが聞いてるんですけど。私はここの畑を
 管理してるものです…。」

白い帽子に黄色いTシャツを着た女のコが
ガサガサとさときび畑から出てきた。
背中には大きな篭。
手には鋭く光るカマ。
あたしはその姿に愕然として、
手に持っていたさとうきびを離し、
途中でやめてしまっていた。
おじいさんはどこへ。
あたしの想像していたおじいさんは
どこへ行ってしまったのか。

「泥棒…?」

「いや…ちが…本当に甘いのかなぁって…思って。つい…」

女のコは首にかけたタオルを外し
おもむろに帽子を取り、汗を拭いた。
小さく息をつき、ニコっと笑みを溢す。
さほど自分とは歳がかわらないはずだ、などと、
思っていたあたしに、彼女は背中の大きな篭から
一本、さとうきびを取り、かまで固い皮を剥ぎ
あたしに差し出したのだった。

99はいさい。:2002/09/02(月) 19:13
「…え。」

「どうぞ。」

「あ、ありがと…」

ツーっと汗が滴る。
あたしは乱暴に手の甲でそれを拭き取ったあと
彼女の手から、それを受け取りかじってみる。
甘かった。
ジュンと口いっぱいに広がる味を、あたしは堪能した。
砂糖のように裏甘くなくて、初めて体験した味に
体が震える。
レポーターのあの顔が浮かんだ。

「うわぁ…」

「おいしいでしょ?」

「うん!何か…初めての味」

100はいさい。:2002/09/02(月) 19:14
そう告げたら、彼女は『どうだ』と言わんばかりの
笑顔であたしを見ていた。
太陽のように眩しい笑顔に、あたしは恥かしくなり
あたしはそれをかじりながら、ごまかすように
畑一面を見渡していた。

「私は亜弥。松浦亜弥って言います。あなたは?」

「あたしは吉澤ひとみ。修学旅行中で来てるんだけど、
 今は自由行動中なんだ。…何かヘンだね、今の言い方。」

「ヘンじゃないですよ。そっか…。めんそーれ、沖縄。」

「え?めんそーれ…?」

「ようこそ、沖縄って意味。丁度、休憩しようと思ってたんです。
 あそこの木陰で少し話しませんか?…久しぶりにあっちの話しも
 聞きたいし。」

101はいさい。:2002/09/02(月) 19:14
松浦さんは確かに『ひさしぶりに』と言った。
あたしはそこだけ何故か妙に引っかかって。
黙って彼女の後ろをついて歩く。
引越してきたのかな、ここへ。
それとも遊びにいったとか?
松浦さんはさほど方言が強いわけでもなかった。
ホテルの従業員さん達が普通に会話をしていたのを
聞いたことがあったっけ。
何を話していて、何に対して笑ってるのかがわからなかった。

5分程歩いた場所に、大きな木がデンと聳え立っていた。
あたし達はその下へと座り込んだ。

「はー…疲れたぁ。吉澤さん、喉乾きませんか?」

「あ、はい。少し。」

そう言うと松浦さんは、腰に巻いていたバックから
水筒を取り出す。キュっとフタを捻り
コポコポとコップにお茶を汲んで、あたしに渡した。

「ありがとう。」

102はいさい。:2002/09/02(月) 19:14
あたしはそれを受け取り、乾ききった口に
持ってゆき、一滴も残さず飲み乾した。
少しどころではなかった。
本当は唇も喉もカラカラに乾いていた。
枯れ木に水を与えてくれた松浦さん。
ありがとう。
キレイに花を咲かせます。

「もぉ、一杯いかがですか?」

「あ、いいんですか?いただきます。
 ちょっと変わった味がしますね。美味しいけど。」

「シーグヮー茶って言うんです。良かったぁ、気にいってもらえて。」

変わったイントネーション。
サワサワと風が吹く中、あたしはまたお茶を飲み干した。
喉がカラカラだったせいもあってか
今まで生きてきた中で最高の味がした。
暑かった体の熱が、みるみるスーっと引いて、
何とも言えないような感覚に陥る。
それが妙に気持ち良くて、あたしはコップを持ったまま
目を閉じた。
隣に座っていた松浦さんは何も言わずにいる。
風に揺らされ、さとうきびや葉っぱの触れる音。
鳥達の楽しげな唄―。
ここには自然と人とを守る大きな神様がいるんだ。

静かにあたしの耳に優しく入っていくのだった。

――――――――――

103理科。:2002/09/02(月) 19:15
(O^〜^)ノ<しゅ〜りょお〜♪ウージーカッケー!

104胡麻べいぐる:2002/09/04(水) 11:58
何だか読んでて、物凄い勢いで『島唄』が聴きたくなりますた。

(O^〜^)<♪島唄よ 風に乗り〜

あやや、かわいいなぁ。

105総長@さわやか。:2002/09/08(日) 21:00
溶けるはずのない氷、ひどく切ないですね。
素直になって、腕の中に飛び込んでしまえばいいのに。。。と何度思ったことか。
上手すぎますぞ!作者様。がんがって下さい。

106代理:2002/09/13(金) 06:40
作者が体調不良の為、入院しまして…
少しの間、更新できません。
読んでくださってる読者の方々、
大変申し訳ございません。

107胡麻べいぐる:2002/09/13(金) 17:18
ゆっくり休んでください。
どうぞお大事に。。。

108管理人:2002/09/14(土) 21:01
理科たんの、一日でも早い回復を管理人も
遠くから、祈っていますです。

早く元気になってください。ヽ(^▽^)人(0^〜^0 )ノ

109ごーまるいち:2002/09/16(月) 00:17
お大事になさってくださいね。
理科。たんのお帰りをゆっくりとお待ちしております。

110オイラ:2002/09/16(月) 01:20
早く元気になるように北のお空に向かって祈りを捧げます。。。
無理せずお大事に!!(*^▽^)σ)^〜^o)

111理科。:2002/10/04(金) 05:07
>胡麻べいぐるさん。
(O^〜^)<島唄、オイラ大好きだYO!
 ご心配おかけしました。それにしても更新早いですね(w
 素晴らすぃ。。。

>総長@さわやかさん。
 人間、素直が一番です!…が。ここのいしかーさんは
 どうでしょうか。((((O:^〜^)ノ<梨華ちゃ〜ん!
 がんがります。何とか完結で…(汗

>管理人さん。
 祈りが… 届 き ま し た !
 まだ完全には退院してませんが、体調はイイ!ですので(w

>ごーまるいちたん。
 ( T▽T)<ありあと〜。早くお家に帰りたい。。。。
 ゆっくり待っててください。なるべく早く帰ってきたいです。
 結構、書いてる作品があるんで、それを次はうp…。

>オイラたん。
 (O:`〜´)<…ムムムムム。 ←(祈り)
 完全フカーツしたらどんどんエ(r
 …いや。静かにひっそりと(モゴモゴ

112島唄:2002/10/04(金) 05:12
ひとみちゃんに、ああは言ったものの
お部屋で一人携帯片手に
ベットに寝そべっていることが
これほどまでにヒマだとは思わなかった。
左へゴロゴロ。
右へゴロゴロ。
モスラのようにモソモソ。

「あ―――!つまんない!!」

せっかく沖縄にまで来たとゆうのに
てんでいつもと変わらない日常生活をしているのか。

「バカだなぁ…。」

今頃、彼女は何処に行って何をしているのだろう。
ふと昔の事を思い浮かべる。

小さい頃、近所の夏祭りがあった。
私とひとみちゃんはちょっとしたケンカをして。
本当は一緒に行くはずだったのに。
凄く凄く、楽しみにしていはずなのに。

113島唄:2002/10/04(金) 05:13
祭りの前の日、ひとみちゃんが私に謝りにきてくれたんだけど、
素直になれない私は頑なにそれを許さなかった。
一人布団の中でモヤモヤと
リンゴ飴を食べるはずだったとか…
金魚すくいもしたかったのに、とか…
『あーん、鼻緒が切れちゃったよ!』
『仕方ないな、梨華は。おぶさりなよ』
『うん♪』
なんて…最大の計画も水の泡。

『ひとみちゃんとマタっと過ごす楽しいお祭りプラン』

はしっかり私の頭で作り上げられ、
分厚い企画書は完成を向かえていた。
…何と言っても一番は、ひとみちゃんが
誰とお祭りに行っているのかが気になってたっけ。
楽しげに響く太鼓の音や、笛の音が聞こえてくるたびに
後悔が風船のように膨らんで行った。
膨らんで膨らんで、破裂しちゃえば素直になれたのかな。

114島唄:2002/10/04(金) 05:13
「…ペンダント…してる、のに…。」

キラリと光る胸元。
私はギュっと握り締める。
…どうしてあのとき、私もゴメンねって言えなかったんだろう。
たった一言、ゴメンと。
こんな思いをするなら、これからは素直になるんだと
自分で決めたはずだった。

「ふー...。ジュースでも買ってこようっと。」

このままゴロゴロお部屋の中にいたならば、モスラは糸を吐き
繭になって、それこそ閉じこもってしまうだろう。
そして立派に作り上げられた繭の中でネガティブな構想が
大きく膨らむ。悪いけど誰にも止められないわ。
『ネガティブな私。』
映画予告のワンシーンでも観ているように
鮮明に駆け登る。
くだらない…。
お財布から小銭を取り出した私は、
下のフロアに向かった。

「あ…これ、昨日飲もうって思ってたっけ。」

ここに来て、私はジュースを買うという些細な楽しみが出来た。
見た事もないジュースばかりが販売機に入っていて。
物珍しさに販売機のジュースを品定め。
腕を組み、ウーンと唸る。
よく子供の頃に集めた、お人形シリーズを思い出す。

115島唄:2002/10/04(金) 05:14
「あ…これ、昨日飲もうって思ってたっけ。」

ここに来て、私はジュースを買うという些細な楽しみが出来た。
見た事もないジュースばかりが販売機に入っていて。
物珍しさに販売機のジュースを品定め。
腕を組み、ウーンと唸る。
よく子供の頃に集めた、お人形シリーズを思い出す。

「グヮバ…美味しいのかなぁ。」

       ―ガコン―

勢いよく出てきたジュースを取りだし、
私はフロアにデーンと構えてるソファに腰かける。
フロントにいた従業員が、不思議そうに私を見ていたけど
そんなのは気にも止めず、フタを開けそれを飲もうとした時だった。

「あっついわぁ!あ!!い、石川!!ちょっとそれちょうだい!」

116島唄:2002/10/04(金) 05:14

編み笠のてっぺんがちょっと尖った帽子…?を
被った保田先生が(かなり似合ってる)
私が今飲もうとしている
ジュースを取り上げると、それを一気に飲み干すのだった。
ちょっとどころではなかった。
私は目を白黒させながら、今、何が起こっているのかを
把握するまでに多少なりとも時間がかかる。
確かに先生は、安倍先生と飯田先生を引き連れて
水牛に乗りにいったはずだった。
それがなぜ、ここにいるのか?

「ウマイ!!風呂上りのビールよりはイケてないけど…うまいわよ!!」

「先生…どうして。」

「あら?水牛にはまたがったわよ?これが証拠。」

笠に指を指し、1枚の写真を鞄から出すと
そこにはニッコリと満足そうな顔で水牛にまたがった
先生が写っていた。
なぜ…一緒に写ってる周りの人達が驚いた顔をしていたのか
凄く疑問に思ったのだけど…。

117島唄:2002/10/04(金) 05:15
「…あのね。水牛にまたがっちゃいけないんですって。
 ちゃんとした座る場所があって…。アタシ、無理矢理
 またがって座っちゃったらさぁ、怒られちゃって。で、これが
 なっちが写してくれたの。こんなの滅多にないことだって。
 意味わかんない!ふふ。」

「…帰されたんですか?」

「ま!失礼ね!!危うくこの白魚のような白い肌が焼けそうになったから
 早めに帰ってきただけのことよ!!」

私はなぜかシラス干しを連想していた。
白いことは白いけど、踊り食いのときのような透明な白さではなく
真っ白なシラス干しを。
大根おろしと一緒にどうぞ。
牛の背中にパラパラ申し訳なさそうに広がるシラス干し。

「…プ!」

118島唄:2002/10/04(金) 05:16
「な、何なの!何よ!失礼しちゃう!!笑った罰よ!
 今からお昼一緒!ケテーイね!!イヤとは言わせない!!」

「えー、石川、ヒマじゃないんですけど。」

グイ!っと先生は私の腕を掴んで離さなかった。
本当にこの先生は行動派だ。
でもそれが先生のいい所なのかもしれない。
口では、ああ言ってみたものの、こうして誘ってくれるのが
嬉しかった。
私は黙って先生に連れられ、つまらないホテルを飛び出した。

――――――――

119島唄:2002/10/04(金) 05:16
近くの食堂でお昼を済ませ、私と先生は…
水牛乗り場までやってきていた。

「…楽しいの。ホント楽しいのよ!乗りましょ!」

「は、はぁ…。」

これ以上ないくらい、先生の顔はご機嫌だ。
マングローブの木々。
遠浅の静かな入り江。
大きな角のはえた牛。
初めてみる光景に、私の心はソワソワと落ち着かない。

「あれ、あんたまた来たのか。」

「来たのよ!おじいさん!水牛もおじいさんもジョーグーよ!」

三味線とはまた違ったものを抱えながら
先生と同じ笠を被った、真っ黒く日焼けしたおじいさんは
苦笑いをしながら私達の方にやってきた。

120島唄:2002/10/04(金) 05:17
「チュラカーギーと、ウンマクーやっさー。」

「ちょっと!それどーゆー意味?」

「あの…何て?」

「…美しい人と…。わんぱくですって。失礼しちゃう!」

同じ日本でも、こうまで言葉が違うとは。
ううん、それより先生は何で沖縄の方言に
詳しいんだろう。
楽しげに会話する二人を、私はただ見つめていた。

「はいさい。お譲さん。」

「はい、さい…?」

「こんにちわだって。」

先生が教えてくれた。
私はハっとして、枯れ木がきしむ音のように
笑ってるおじいさんに向かって

「は、はいさい!です!す、凄い三味線ですね!」

121島唄:2002/10/04(金) 05:17
『さい』の所で、私は声が裏返る。
なぜか私はおじいさんが手にしている三味線に目が釘付けで。
…だって蛇の皮なんだもん。
おじさんは、ビックリした顔で私と先生を交互に
見ていた。そして三味線を奏で、

「これは、蛇皮線やっさー。」

「またの名を、サンシンって言うのよ?とにかく水牛!
 太郎が待ちくたびれてるわよ!おじいさん!!」

がっはっは!と大笑いするおじいさん。
ポンと太郎の頭を叩く。
その顔は本当に楽しそうだった。
私と同じくらいの身長。
失礼だけど、とても年寄りには見えない。
その笑いが凄いパワフルで。
これからお昼を取るところだったらしかったけど
先生の迫力に負けてか、おじいさんは私と先生を
乗せてくれると言った。
お客さんは私と先生、二人だけ。
すでにお昼を済ませた2人の御者さん達は
お客さんを乗せていた。

122島唄:2002/10/04(金) 05:18
今度は頼むから車の方に乗ってくれと言うおじいさんに
残念そうな顔をする先生。
今度は素直に車の方に私と先生が乗る。

「先生はこのおじいさんと知り合いなんですか?」

「知らないわ。さっき初めて会ったばかりだけど?」

先生って凄い…。
沖縄の人達に負けてはいなかった。
思ったより、水牛の歩みは速くて。
私は驚きを隠せない。

「…アタシさぁ。石川と同じ歳の頃…母親が蒸発しちゃったのよね。」

「え…」

思いがけないいきなりの先生の告白に
私は耳を疑った。

123島唄:2002/10/04(金) 05:19
「父親はそれでおかしくなっちゃって…何処かにいっちゃうし。
 あんまり会ったことのない叔父夫婦に引き取られてさ…。
 アタシ、その頃…誰も信じられなくなってたの。」

パシャパシャと水が跳ねる音ー。

「..でも学校には通ってたわ。仕方なくね。でもつまんなかった。
 クラスメート達は悲惨な目でアタシを見て…どこかよそよそしかった。
 いっその事、自殺でもしようかなと思ってた時期…があって。」

遠くで鳥が鳴いた―。

「でもね…一人の先生がさ…助けてくれたの。
 本気で心配してくれて…。本気で怒ってくれて…。
 本気でぶつかってきてくれた。あの先生がいなかったら
 今のアタシは存在しなかった。」

太郎がモーと鳴く―。

「最初は信じられなかったね。この先生は自分を
 よく見せようとしてんだわって。
 くだらない…この偽善者め!…ってね。
 …でもね、それはアタシの大きな間違いだったの。」

目を細めて眩しく光る水面を眺める―。

124島唄:2002/10/04(金) 05:19
「ちょっとした事件に巻き込まれたことがあったの。
 ううん。ちょっとじゃないわね。殺されそうになったわ。
 可笑しくない?自殺考えてた人間がさ、必死で助けを求めてたのよ?」

私は完全に瞳を閉じた―。

「そこに先生が現れた。大ケガしながらアタシを助けてくれた。
 気がつくと病院のベットで。虚ろな目が最初に捉えたのが…
 体中、包帯だらけの先生だった。ああ、この人は本当にアタシの事を
 心配してくれてる、この人には勝てないって思ったわ。
 それからのアタシは変わった。そして目標を見つけたの…。」

「…教師、になるってゆう、目標…ですか?」

私は目を開き、震える声で問いかけた。
先生はニコリと笑い、首を縦にふった。
私は泣きそうになった。
目頭が熱い。
お腹の底からこみあげる熱い感情。
足元も震える。
自分がここにいる事が恥かしくなった。
今すぐ太郎が引っ張る車から、私ははってでも
逃げ出したかった。
笑われてもいい。
とにかく…逃げ出さないと…。

125島唄:2002/10/04(金) 05:20
「な…んで、先生は…そん、な事を…私なんかに…」

「石川とアタシが似てたから。それに…」

「…そ、れに…?」

私の顔はすでにグチャグチャだった。

「アンタが本当に心配だったからよ。」

おじいさんが蛇皮線を奏で、唄い始めた。
話すときと違ってその力強い歌声は、想像をはるかに超えていた。
弱い私を励ますように、その歌声は水面を伝い心に響く。
私は先生にしがみ付き、ワンワン声を上げて泣いていた。

――――――――

126霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:23
松浦さんとたくさん話した。
沖縄の方言について。
あたしのいっこ下だってこと。
本当は神戸に住んでたこと。
事情があって、ここ沖縄に引っ越してきて
おばあちゃんと二人暮しだと言うこと。
大好きな人と無理矢理引き裂かれたということ。
この畑は一人で育ててるということ。
学校には行ってないこと。
さとうきびは、ウージーだってこと。
最後はどうでもよかったことだけど、
松浦さんは…その引っ越してきた事情を
あたしなんかに話してくれた。
あたしはそれを聞いたあと…胸が張り裂けそうになった。
最後に松浦さんはこう言った。

『力強く育ってるウージーになんかに負けてらんないさー!』

それがやけに心に響いていた。
何て強靭な人なんだろう。
少し弱気になっていた自分が情けない。
あたしは梨華のこと…心の何処かで
もう昔のような仲に戻るなんてムリなんじゃないか
と半ば諦め半分だった。追えば離れる梨華に、
正直少し愛想をつき始めていたし、疲れていた。

127霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:25
…この旅行で、何も変化が見られないのなら。
あたしは身を引こうと…考えていた。
しかし、松浦さんに出会った事で、
あたしのそんな考えは吹っ飛んでしまった。
いっそう、梨華が愛しく感じられて。
これからもあたしは梨華の元を離れない。
梨華が離れていっても、あたしはどこまでも
心を開いてくれるまでついていこうと。

あたしは、松浦さんが『梨華ちゃんにも…』と
一本貰ったウージー片手に来た道を引き返す。
あたしは泣いていた。
青と赤のコントラスの中、沈み行く太陽を見ながら―。

―――――――――

128霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:26
私は一人、お部屋のソファに膝を抱えながら座っていた。
水牛に乗ったあと、先生とホテルに戻り
お部屋に戻ろうとしたとき、
安倍先生に出くわした。

『何、泣いてるの?』

やっと泣きやんだのに、私は安倍先生の
優しい問いかけに涙腺が緩む。
スイッチオン。
ただただ私は安倍先生の胸の中で泣きじゃくった。

『…圭ちゃんね。なっち達と水牛に乗りにいったっしょ?
 でもねー…どこかソワソワしてて。乗ってる間中も
 何処かに電話してるみたいだったべ。乗り終えたら
 『アタシ酔ったみたい!』何て嘘つくもんだから
 なっちと圭織怒ったの!
 勝手に連れてきて帰るはないでしょ!って…。そしたら
 『…石川が一人ホテルに残ってるらしいのよ。』って。
 ホテルに電話して聞いてたみたい。あ、このこと、圭ちゃんには
 秘密っしょ!…いい先生だよね。』

129霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:28
「…ヒック。」

やりきれない思いが身を包む。
いったい、どんな顔をしてひとみちゃんと
顔を合わせればいいのだろう。
とにかく狂いそうになっていた。
彼女の優しさを利用し、
私は悲劇のヒロインなのと幅をきかせてきた毎日。

「…梨華…!どーしたの!電気もつけないで!!
 …泣いてるの?いったい、何が」

パチっと灯りがつく。
いきなり灯りをつけられたものだから
私は目を細め顔をあげ、ゆっくりと
ひとみちゃんの顔を見た。

「…私…バカだぁ…ひと、みちゃん…」

少し日に焼けたひとみちゃんはたくましく感じた。
私はそんな彼女に抱き付いた。
抱き付いて泣いた。
あんなに会うのがイヤだったはずなのに
彼女の顔を見たら理性は吹っ飛んでいた。
何も言わずに、ひとみちゃんは私を
力一杯抱きしめる。

130霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:29
「…何かされたの?」

「ちが…違…ちが…」

うまく呼吸が出来ない。
勢いよく水面を蹴って、陸に着地した魚は
こんな風にもがき苦しむのだろうか。
鼻はつまり、涙で視界が歪む。
それは私の心のように。
伝えたいことはたくさんあるはずなのに
一体、何から言うべきなのか
私は戸惑う。

「…梨華。まずは…落ちつこうか。ゆっくりでいいから…息、吐いて…。」

ひとみちゃんの腕が緩んだとき、私はコクリと頷き
スーっと息を吐く。ヒック!と大きなしゃっくりが出た。

「…いいよ。今は何も言わないで…いいから。」

彼女は左手で涙で顔にへばりついた髪を、丁寧に
耳にかけてくれた。そしていつのまにか手には
ハンカチが用意されていて。
優しく優しく、涙を拭ってくれた。
私はそれだけで気を失いそうになった。
ひとみちゃんには勝てない。
いくら私が強がっても、いくら振り回しても
この人には勝てない。

131霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:30
この世に神様がいるのなら―。
どうか私の願いを聞いてください…。
私はもう二度と―。
この人を悲しませたりはしません。

だから―。
わずかな勇気をください―。

「…ひと!ック!…み」

「梨華。ゴメンね…。あたしがもっとしっかり梨華のコト…
 大事に思っていたげたら…こんな…苦しい思いしなくてよかったのにね。」

「…ひ」

「…ごめん。ゴメンね!…梨華…」

132霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:31
相変わらず私は、言いたい事が吐き出せず
一人でヒックヒック言っていた。

(違う…違うの…)

大きな彼女の瞳から
崩れ落ちる涙は、真珠のようにキレイだった。

「…ちがう!…ひと!ック…みちゃんは…わ、るくな、い。」

私はひとみちゃんの顔を見つめ、壊れたロボットのように
ゆっくりゆっくり言葉を発した。
ひとみちゃんも泣いたまま、私の目をジ...っと見ている。

「わた…しが、ぜん、ぶ、あまえちゃ…って」

「梨華…」

突然、ひとみちゃんが私の口元に細い指をあてた。
一瞬、私の体が硬直し、彼女に触れられた個所が
熱をおびはじめる。

133霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:33
「…あたしが言うコトに、答えて。…梨華は、今まで反発してきたのは
 本心からじゃない…よね。」

「…ん、それ、は..違うよ…。でも」

『でもとか、だってはいらない』
と彼女は言った。
私は首を縦に振り、彼女から次出る言葉を待っていた。
まるでそれは、おわずけをくらってる犬のようだった。

「…矢口さん達や、しばっちゃん…おーやん、これまで
 迷惑かけてきた友人達に、自分で謝れる?」

「…うん。謝るよ…。」

「それだけ聞ければ…。あとは何も言わなくていいよ…。
 素直に言ってくれて…ありがとう。これからも…一緒だから。」

134霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:34
ニッコリと彼女が笑う。
どうしてひとみちゃんはこんなに優しいんだろう。
私は彼女に必死で抱き付いた。
細いけど、たくましい腕が、私をしっかりと
抱きしめ返してくれる。
この上ない至福感だ。

でも…私はどうしてもひとみちゃんに謝りたいことがあった。
謝りたいじゃない。謝らなければいけない―だ。
それは昨日の行為。
何であんなこと―。

「ひとみちゃん..!あの、これだけは聞いて…。」

「ん?何…?」

「私…昨日…えっと…あの…。ゴメンなさい!…あんなコトして…」

「梨華。少なくとも、あたしのコト、好きでしょ?こんぐらいとか。」

ひとみちゃんは指でちっちゃな輪っかを作り
私の目の前に突き出した。
ちょっとおどけて見せる彼女の顔が何だか可笑しくて。

135霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:34
「ううん!そのくらいじゃ足りないよ!…大好き!いっぱい大好きだよ!」

「いっぱいかぁ…じゃあ、あたしは梨華の上。もっともっとっぱい!」

「じゃあ…私はひと―」

やんわりと私の言葉を遮るひとみちゃんの唇。
目の前には切れ長の瞳を閉じ、長いキレイな睫毛。

私もそっと瞳を閉じる。
何回かキスを交わした。
でも気持ちが一つにはなっていなかったキス。

初めてのキスは、ちょっとしょっぱくて。
ほろ苦い。
よくレモンのような…って言うけど、
そんな味はしなかった。

136霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:35
―心がポカポカ温かい―

「…梨華が好きなんだ。」

「…ひとみちゃん。私も好きだよぅ…。
 ゴメンね…今まで…本当にゴメンなさ…い」

「…長かったぁ―――!!…これからだよ。
 今までの空いた時間を埋めていこうね。」

「…うん!…今のキスで半分は…埋まったか、な…エヘヘ。」

「そう…?じゃあ…」

ひとみちゃんは私を抱いたまま、少しかがんで
顔を斜めに向ける。私は彼女の唇、目掛けて
自分のを合わせた。ひとみちゃんはそんな私の行動に
少しビックリしたようだったが、少し経つと、
私の上唇を軽く挟んでひと噛み。
そしてそのまま下へ、彼女の唇がゆっくりと移動する。
何かを舐め取るように、それは優しく。
今度は下唇を挟み、キュっと吸いついた。

(…ん。…ひとみちゃん…上手、だよぉ…)

137霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:35
頭の芯が痺れはじめた。
するとひとみちゃんは、不意に唇を離す。

「…へへ。」

「ひとみちゃんって結構…」

「…結構?」

「…Hなんだね。」

「…昨日の梨」

「あ―――――――!!だ、ダメダメ!!それ以上は」

「言わないでおこうか。あ!そうだ、あたしさぁ
 梨華におみやげがあるんだった。今日ね―」

楽しそうにお喋りしてるひとみちゃんの表情は
楽しかった中学時代の頃、そのままだった。
ううん。それ以上かもしれない。

先生。
ありがとう。
私…先生がいなかったら…
大好きな人に気持ち、この先、伝えれなかった。
ありがとう。
そして、さよなら。
長いようで短かった私の反抗期。

―――――――――

138霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:36
「…ったく。世話が焼けるヤシ等だったわ。」

ドアの隙間からバカみたいじゃない!
下から、柴田、大谷、そしてこのアタシ。

「…圭ちゃん、私等さぁ…入れないんだけど…。」

「…だよなぁ。柴田ぁ…どーする?」

「うっさいわね!アンタ等はアタシの部屋に泊まり!
 そして激しく飲むわよ!エンドレスでね!ホホ。」

「っつーか、未成年だしなぁ。」

「誰が飲ませるって言ったのよ?激しく飲むのはアタシだけ!
 アンタ達はお酌よ?ホホ。アタシの飲みっぷり特とご覧アレ♪」

「「見たくねーよ!!」」

139霧が晴れた時ーBAD KIDS−:2002/10/04(金) 05:37
石川。
良かったわね。
正直、もっと時間がかかると思ってたけど。
アンタの心にモヤモヤかかっていた霧が…
今、すっきり晴れ渡ったみたいね。
たった一言、素直に『ゴメン』と
言えるこの日まで、アンタは凄く
卑怯で臆病者だったけど。
そんな石川はもう、いないわ。

こうやって人は成長してくもんなの。
自分の甘さに気づき、それを素直に改心できたとき、
人に優しく接しれると言う事を忘れないで―。

もう、アンタは BAD KIDS じゃないんだから。

アタシは大谷と柴田の首根っこを掴み、
自分の部屋へと連れて行く。

「…あら。さすが沖縄。」

ふと窓から見渡す景色―。
雲一つない夕焼け空。
今までで見てきたどんな空よりも
それはキレイに澄みきっていた―。

   霧が晴れた時ーBAD KIDS−

        ―END―

140理科。:2002/10/04(金) 05:40
いる内に完結。。。
そしてお粗末さまでした。
ペンダントについて、色々ツッコミ所があると
思いますが…。
あとで番外編を書きたいと思っています。
読んでくださっていたみなさん、ありがとうございました。

141管理人:2002/10/04(金) 20:08
理科さん。完結お疲れさまでした。
色々ありましたが。。。。。完結していただけて、感謝しています。(涙)
ありがとうございました。
すごく楽しくよまさせていただきました。
番外編楽しみにしています。ヽ(^▽^)人(0^〜^0)ノ

142名無し○い○ん:2002/10/04(金) 20:26
完結お疲れ様でした。
前の時から、楽しみにROMっていましたが面白かったです。
番外編も楽しみにしています。

143名無しヌード:2002/10/05(土) 19:34
完結お疲れ様でした。
番外編楽しみです!!

144ひとみんこ:2002/10/08(火) 23:44
も〜、あたしゃなんなんでしょうね?

「よしりか」ってなると、幸せでも、痛くても、泣けてくるなんて?

鼻水(ごめん汚くて)ぐずぐずです。

番外編、たのしみで〜す。

145オガマー:2002/10/09(水) 00:25
うーん。ジーンとしました。
最後までヤッスーも健在で!(藁
よかったー。

完結、お疲れ様です。
番外編も待ってますね(w

146理科。:2002/10/10(木) 20:34
>管理人さん。
 色々…ご迷惑おかけしました(汗
 私の方こそ感謝の気持ちでイパーイですが何か?(w
 番外編書かせていただきますね。

>名無し○い○んさん。
 ありがとうございます。ホント、お騒がせいたしました…。
 番外編がんがりますよほ。

>名無しヌードさん。
 ありがとうございます。 
 楽しみですか…。うぅ…ちょっと緊張。

>ひとみんこさん。
 (O;^〜^)ノ□<て、ティッシュどーぞ。
 ホントに好きなんですね、いしよし。
 って、泣かないでください(w

>オガマーさん。
 ヤッスーは私の生甲斐です。(ウソ
 でも本当かも(w
 ありがとうございます。

147番外編:2002/10/10(木) 20:36
「梨華、まだそのペンダントしてくれてるんだね。」

「あたりまえだよ!ひとみちゃん!だって、これは…」

思いで深い修学旅行からから帰ってきて、
あたし達は2日間のお休み。
二人して、丁度良い温度が保っている部屋で
ぐでーっとベットに寝そべって他愛のないお喋りに
花を咲かせていた。
梨華の胸元にペンダント。
浅黒い健康的な肌から、それは存在を示すかのように
銀色に光っている。

148番外編:2002/10/10(木) 20:37
あれは…いつだったかなぁ…。
そうだ。
秋風漂う帰り道。
真っ赤な夕暮れをバックに、川沿いの土手を
マッタリと歩く。
ふかふかのあんまん片手に自転車こいで。
ホクホクしながら笑いあっていた…―

「あー!うまかった!部活帰りの買い食いカッケー!」

「カッケーかは知らないけど…美味しかったね!」

梨華がクスクス笑いながらあたしを見る。
そんな梨華を見てあたしも笑った。
こみ上げる気持ち。
まだ帰りたくはない。

(さて。どーしよー...)

こうして梨華と時間をずっと感じていたい。
家に帰っても ヒマだしさ。
でもそれだけじゃないんだよね…。
チラリと梨華を見ると、頬に両手をあてがって

『あったか〜い』

なんて言っていた。

(ああん♪梨華ったら!ってあたしキショ!)

149番外編:2002/10/10(木) 20:37
さっきまで熱いあんまん持っていたから、その熱を
利用してるんだね。
美味しかったし、温かいしで
一石二鳥。
100円でこんなに幸せになれるなんて。
あんまん考えた人、カッケー!

もぉ!梨華って可愛い!!
何故かあたしが恥かしがっていたのは気のせい。多分ね。
いや、多分じゃな―

「あれ?こんなトコにお店が出来てるよ、ひとみちゃん」

「え?」

あたしの思考は甘い声に切断される。

本当だ。
でもいつのまに??
土手沿いの脇の小さな公園をちょっと行った
トコに、小さなお店がひっそりとあった。
…外見からして梨華が好きそうだね。
だってピンクなんだよ?

やべー。あたしの気持ちが生み出したんじゃない?この店。
なわきゃーない。
そんな事だったらあたしは魔法使いじゃん。
魔法使い(ヒ)トミー?
マジつまんないし、訳わからんちん。
とんちんかんちん 一休さん♪だ。

150番外編:2002/10/10(木) 20:38
いやいやいや。
そんな妄想はいいんだけど…。

「ね!ちょっとだけ寄ってみない?」

「うん!いいね。」
(やった!もうちょっと一緒にいられる♪)

大きな木製の扉を二人で開ける。
何かいいなぁ。

「…うわぁ。」

見渡す限りファンタジー。
やっぱり魔法だよ。
うーん。目がチカチカするね。

しかしあたしの大好きな人はと言うと…
梨華の瞳はキラキラ輝いている。
う〜ん、ベイベェ。
夜の空に瞬く一番星みたいだYO!
…くっせぇ。

151番外編:2002/10/10(木) 20:38
両手を組み、感動中だ。
あぁ。
こうなっちゃえば梨華はあたしの声なんか耳に
てんで入ってないワケで…。

行っておいで―と。
あたしは愛犬をほっぽり出し
ベンチにドカっと腰掛ける少し疲れ顔の主人で…
言うなれば梨華は楽しそうにハシャギ回る犬状態。
犬に例えるのは申し訳ないんだけど…
だって本当にそんな感じなんだ。
あたしの愛犬ラッキーは忙しそうに走りまわる。
ニコニコニコ…。
あんまり遠くに行っちゃダメだよ。
なぁ〜んて声をかけたいぐらいだ。

(…ん?)

ピタっと足が止まっていた。
まるでおわずけ食らってるみたい…。(プ
のそりとあたしは梨華の元へと向かう。
彼女の近くまで行っても、あたしなんか視界に入っては
いなかった。

目をキラキラさせながらジーっと睨めっこ。

152番外編:2002/10/10(木) 20:39
「梨華?どした??」

「…きれい。」

彼女の視線に目を運ぶ。
そこには銀色に光ってる一つのペンダント。
一向に梨華の目はそのペンダントを見つめ続ける。
仕方ない。
可愛い愛犬の為だ。
丁度良く一昨日の日
おこずかいを貰ったばっかだからさ。
ここはご主人様が…

(!た、高ぇ…!!)

値段を見て、あたしは大きな瞳をさらに丸くさせた。
おいおい!落ちるよ あたしの目玉ってぐらいね。
まぁそんなハズはないし…ってか取れねーだろ!

…コホン。

中学生には、到底簡単には買えない品物。
いや!ムリだし!
だって...38000円だよ?
よく分からないけど、あたしはあの時、
結婚指輪は給料3ヶ月分なんてフレーズ(?)を
思い浮かべた。

153番外編:2002/10/10(木) 20:39
「…凄い値段だね。」

「うん。…でも。いいね…コレ。」

ハァーっとペンダントを見つめ、溜め息を吐く梨華。
ハァーっと梨華を見つめ溜め息を吐くあたし。
後ろ髪引かれる思いで梨華とあたしはその店を
後にした。

「・・・。」
「・・・。」

…沈黙が重苦しいのですが。

(…え〜い!決めた!)

あたし頑張ってアレ買う!
買って梨華にプレゼントしよう!
ヤバ!あたしカッケー!
そうと決まれば…膳は急げ!

154番外編:2002/10/10(木) 20:40
「梨華!あたしさぁ…ちょっと学校に忘れ物してきたみたい
 なんだ…あはは。だから先帰っててよ。」

「え?何忘れたの?」

「あ…体育着!ほら!体育館に脱いだまま来ちゃって!」

「…ひとみちゃん、カゴに入ってるのはなぁに?」

「え…?」

おおぅ!まさにコレは…あたしの体育着じゃん!
チラリと梨華を見ると…不思議そうな顔をして
首をかしげていた。

「あ――!そ、そう!トレーナー!あたしの大好きな
 ハリケンジャーの!そうそう!あれがないと眠れないんだよね!」

「…ひとみちゃん、ハリケンジャーのトレーナーなら、私のお家に
 忘れていったじゃない。買ってもらったって、嬉しそうに見せに
 きたの忘れたの?」

155番外編:2002/10/10(木) 20:40
粉砕。玉砕。
しかし梨華もツッコむな。
梨華はその後に付け足した。

『そんな大事なトレーナー、何で持っていかなかったの?』

…さいですね。
いや、しっかりぐっすり眠れてますが。
じゃあ、あたしは学校に何を忘れてきたんだろ?
学校で名高い、忘れ物王のあたしは今日に限って何一つ
忘れてこなかった事に気付く。
勉強道具でしょ?
体育着でしょ?
財布に、タオル。

…仕方ない。
使いたくなかったけど、ここはあの手段で・・・

「あ…イタタタタ。お、お腹が痛い!トイレ!
 …梨華も一緒に」

「しないよ。」

即答ありがとう。
分かってたよ。

156番外編:2002/10/10(木) 20:41
「大丈夫?ひとみちゃん?私…おトイレ探してくる!」

「あ!いいの!さっきのお店で借りるから!」

「え?じゃあ私も行くよ。心配だし…。」

「いい!いいよ!あたし長いしさ!身長の分出さないといけないし!」

「?…うん。わかった。お大事にね?また明日。」

「バイバイ。」

ブンブンと梨華の姿が見えなくなるまで
あたしは手を振った。
サワサワと少し冷たい秋の風が優しく
あたしの頬を撫で付ける。

157番外編:2002/10/10(木) 20:41
「よし!」

勇ましく自転車に飛び乗り、あたしは今来た道を
物凄いスピードで戻っていった。
たまに道行く人達が、ギョ!っとした顔をしてた。
わかってます。ニタニタ笑いながら運転してるってのは。
そりゃ、恐いっしょ?

あたしは立ち乗りして必死でペダルを漕ぐ。
額に薄っすらと汗が滲む。
息苦しかった。
しかし頭に浮かび上がる梨華のビックリして
飛びあがり喜ぶ姿を想像すると
苦しさなんて感じない。

「…あの!」

「ん?さっきの。」

目の前に、金髪、カラコン、咥え煙草の
店員さんが外に置いてあった花を
中に入れる最中だった。
あたしの姿にちょっとだけ驚いたようだったけど
(ってか、あたしもその店員さんを最初見たとき驚いたけどね)
あたしはとにかくさっきのペンダントの事が
気になってどうしようもなかったんだ。

158番外編:2002/10/10(木) 20:42
ハァハァハァ。
自転車を降りると、足がガクガク震えだして。
ピシャリと脹脛を叩く。
スーっと息を吸って…よし!

「すみません…ちょ…ハァ、っと話が…」

「なんや?…凄い汗やけど。」

「あ…大丈夫ですから…。あの…中にある、クロムのペンダント…
 あれ…あたしに売ってください。それで…今、あたしおこずかい
 3000円しかなくて…でも絶対に欲しいんです!お金貯めて
 必ず払いますから…!お願いします!」

一気にまくし立てるあたし。
キョトンとしている店員さん。
さきほどより強い風が、あたし達の間をすり抜けて行く。

159番外編:2002/10/10(木) 20:42

「…ええよ。青年!君のために取っといてやるわ。」

「ほ、ホントですかぁ?ありがとうございます!
 必ず買いに来ます!それと…ですね。」

「まだ何かあるんか?」

「あたし…青年じゃなくて少女ですけど。」

「少女って…ジョークやがな!ジョーク!スカートはいてる
 青年が何処におんねん!おもろいなぁ!」

(ちっともおもろくないんですが。)

…まぁ、予約出来たからよしとするか。


――――――――

160理科。:2002/10/10(木) 20:43
(O^〜^)ノ<更新、終了♪

161名無し垂れ目:2002/10/11(金) 02:03
かわいーなーw
続き期待(w

162理科。:2002/10/11(金) 04:57
>名無し垂れ目さん。
 期待に添えれるようがんがります♪
 (O^〜^)<梨華って可愛いよね♪
 (#^▽^)<…ひとみちゃんも♪
 (O^〜^)<梨華の方が…
 (#^▽^)<ひとみちゃんの方が…
    (エンドレス)

163番外編:2002/10/11(金) 04:57
1月19日―。
来年の梨華の誕生日までに。

あたしはお母さんの手伝いしたり、
寒い中、お父さんの車を洗ったりと
必死で頑張った。
そんなあたしを見て弟達は、
お姉ちゃんがおかしくなったと騒いでいた。
少ないお小遣いをコツコツ貯めた。
部活が終った後の一本、一個のジュースにあんまん。
新しい服に、雑誌、ゲームソフト。
我慢した。
梨華がそんなあたしを見て、おかしいと言った。
弟達と同じようなコト言わないでよ…梨華。
毎日…でもないけど、あたしは部活が終ってからの
あんまんは当たり前となっていたわけだから。

親戚の人達が集まる正月は最高だった。
だって一気に懐に38000円が入ったのだから。
…今までのあたしの苦労は何だったんだろう。
そうだ…。お年玉という手があったんだ。
いや!あたしが苦労して買ってあげたかったからいいの!

164番外編:2002/10/11(金) 04:58
そして―。
あれは1月15日―。

「おはよう!ひとみちゃん!」

ピンクのコートに赤いマフラー姿の梨華が
満面の笑みで玄関に立っていた。

「おはよ。はやいね、梨華ちゃん。」

梨華が前日、買い物に付合ってくれって言うから
あたしはヒョコヒョコ付合った。
何処に行くのと聞いても、ニコニコして内緒と
言うばかり。
わき目も振らず、梨華は真っ直ぐに
自転車を漕ぐ。

「ねぇ、梨華。いったいどこに行くの?いい加減教えてよ。」

「あのお店にあったペンダント…お年玉で買うの!」

どんな宝石よりも輝いていた梨華の瞳。
あたしは心の中で

『ななななななんですと〜!』

165番外編:2002/10/11(金) 04:58
って叫んでた。
危なく自転車から転げ落ちそうになった。
だってあれはあたしが買うんだよ。
凄い焦った。本当に。
予約してたから無くなってはいない。

しかし―。

あたしはとんでもない事に気付く。
あれからあたしは店の店員さん、中澤さんって言うんだけど
凄い仲良くなって。
色んな話をした。
学校の事とかは勿論、部活、
…そして何と言ってもシツコく聞いてきたのは
梨華の事だった。だからペンダントを彼女にプレゼントするって
話もしていたんだ。

とんでもないことってのは…
あの店員さんに口止めしてなかったってコト。
…こう言っちゃぁ悪いけど、中澤さんって…
おしゃべりだからなぁ…。
マジでピンチ。
何であたしってつめが甘いのかなぁ…。
ドンドンあたし達と店の距離が縮み始めた。

166番外編:2002/10/11(金) 04:59
(…しかたない。)

あたしはその途中、
得意とする仮病を使おうと決めた。
素直な梨華は、本当に信じてしまう。
悪いと思ってんだけどさぁ…
だって…。
…。

「い、イタタタタ…。お腹が痛い…」

「だ、大丈夫?ひとみちゃん!」

キ!っと自転車を止める梨華。
急いであたしの方へと駆け寄ってきた。

「顔色悪いよ…?」

「え…マジで?」

「うん。真っ赤な顔してる。」

(…そりゃ、ずーっと自転車こいでたし。風が冷たいから…)

167番外編:2002/10/11(金) 04:59
普通、お腹が痛いとなると、顔なんか真っ赤に
なるハズなんてない。(と思う)
青かったり、紫だったり…。
でも梨華がそう思ってんなら好都合だ。
丁度良く、お店の一歩手前にある公園。

「あ、あたし…トイレ行ってくる!梨華はベンチで
 休んでて…!絶対何処へも行かないでね!!!」

「うん!わかった!ひとみちゃんを一人にしないよ!」

真剣な面持ちの梨華…。
ホント…ゴメンよ…。
あたしは心の中でやっきとなって謝った。
しっかりと梨華がベンチに座るのを確認して
公園のトイレに駆け込み、バタン!と鍵を閉める。
あたしは外で梨華ちゃんを待たせ窓から脱出を試みる。

168番外編:2002/10/11(金) 05:00
「…狭い。」

やっとのことで、あたしは裏に出ることが出来た。
あまり使われてないのだろう…。
あたしの頭に蜘蛛の巣や、埃…最悪な事に虫の死骸が…。
こんな事で凹たれてたまるか!
パンパンとそれらを払いながら
壁に隠れて梨華を盗み見。
しめしめ。大人しく座ってるぞ。
そして店に一人でダッシュ。
【梨華貯金】と書かれた袋をスタジャンのポッケに
入れてあるのを右手で確認。

店の前までやってきて、あたしはその場で感動していた。
今まで頑張ってきた日々が…頭の中をまるで走馬灯のように
かけ走る。全身が震えた。
大好きなハリケンジャーや、アンパンマンのグッズ…
お菓子やアイスにジュース…
あたしマジで頑張った!
ジーンと目頭が熱くなってきた。
あたしはきっと今日という日を忘れないだろう。

169番外編:2002/10/11(金) 05:00
「こ、こんにちわ!予約の品買いにきました!」

とあたしは中澤さんに告げた。
勢いよくドアを開けたんで
最初、ビックリした顔であたしを見ていた中澤さんも
ニッコリと笑って出迎えてくれた。

「こんにちわ。待ってたわ。」

『まぁ、椅子に座り。』って淡い色の椅子を出してくれて
あたしは素直に座って中澤さんを見つめた。
鼻歌混じりで中澤さんは、奥の机から
黒い布に包んだペンダントを、とても大事そうに
持ってきてくれて

「お客さま。こちらの商品で間違いありませんか?」

と言った―。
あたしは初めてここに寄って、梨華と顔を見合わせた
日を思い出していた。
それは間違いなく、あの日のまま、この黒い布の上に
キラキラ輝いていたペンダントだった。

170番外編:2002/10/11(金) 05:01
「は、い。間違いないです…。コレです。」

裏返る声。
喜ぶ梨華の顔。
中澤さんがまた優しく微笑む。
ぐるぐるぐる。
物凄い勢いで、あたし頭の中は
いろんな妄想やら 構想やらでモー大変。

何かいつもの中澤さんじゃない。
冗談混じりの、たまに辛口な中澤さん。
あたしはくすぐったく感じてた。

「今、ラッピング致しますので少々お待ちください。」

そう言って中澤さんはあたしに缶コーヒーをくれた。
静かに流れるBGM。
自然と心が落ち着いてきた。
箱に詰め、キレイなピンク色した紙で包んでくれ、
最後に黒い紙の袋にそれを入れて
あたしに手渡す。

「お待ちどうさまでした。…ようやったやん。」

「はい。」

171番外編:2002/10/11(金) 05:01
あたしは大事に両手で受け取った。
商品そのものは凄い軽かったけど、
あたしにはとても重く感じる。

「本当に、ありがとうございました。」

「こちらこそ、ありがとう。」

中澤さんはくしゃくしゃと、あたしの髪を
撫で付け、優しく微笑んでくれた。
満面の笑みを残し、
あたしは梨華が待つ公園にダッシュした。
そこには、一人ベンチで足をブラブラさせながら
ソワソワしてる梨華がいた。

ダマして悪いと思いながらも、あたしは心底楽しんでいた。
いったいどんな顔をするだろう。
嬉しすぎて泣き出したらどうしようか?
もしかしたら…こんな高いの貰えないよ!
って…受けとって貰えないかもしれない。
とにかくここまで来た。
逸る気持ちを落ち着かせ、
彼女が待つベンチまで足を運ぶ。

172番外編:2002/10/11(金) 05:02
「梨華。」

「ぅわ!ひ、ひとみちゃん!ビックリしたぁ…。
 もー大丈夫なんだね!ね!じゃあ、行こっか。」

ぱぁっと梨華が笑顔に変わる瞬間、あたしは胸が
握りつぶされるかと思ったよ。

「…あのさぁ、ちょっといい?」

「え?うん。どしたの?」

…ヤベぇ…。
緊張してきた。
汗ばむ掌。
タラタラと落ちてくる汗。
あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。

173番外編:2002/10/11(金) 05:03
たかがプレゼント。
されどプレゼント。

(よし!…今だ!)

「コレ…ちょっと早いけど!誕生日おめでとう!」

「え…」

乾いた風が吹いていた。
汗が一瞬にしてひいていくのが分かるほど…。
受けとってくれるのか…。
それとも…

心臓が痛い―。

ああ…。何て長い間なんだ…。
あたしは静かに瞳を開け、目の前にいる
梨華ちゃんの顔を見る。

「…梨華…。」

174番外編:2002/10/11(金) 05:04
梨華ちゃんは…泣いていた。
少し大きめなコートの袖口から見える華奢な
彼女の手は、流れ落ちる涙を拾い上げるように
それを拭っていた。
あたしは困った。
いったいどうしたらいいのか?
何だか罪悪感?みたいな…なんつーのか…。
んっと…。
意味もなくあたしはその場でオロオロしていた。
ふと視線をトイレに向けたら、顔を真っ赤にしたおじさんが
切なさそうに駆け込んで行って。
なぜか心の中で応援してたんだ。
あぁ。あたしもそんな時あるよ…って。
んなこたぁ、どーでもいいんだよ!

「…とみ、ちゃん…」

「え?」

「…とみ、ちゃん…私…嬉し…い。で、も…」

「で、でも…?」

175番外編:2002/10/11(金) 05:04
でも―。
その先は分かってた。
梨華が思って今から口から出そうとしてる言葉。

『高いから―。』

「…こんな、高い…の、貰え」

ほらね。

「いいの!あたしが好きでプレゼントした事だから。
 高いとか…そんなんじゃなくて…。えっと。だから…
 素直に受け取ってください…。」

梨華はそれでも申し訳なさそうな顔をしていたよ。
でも、あたしの顔をチラっと見ると…

「…ありがとぉ。」

176番外編:2002/10/11(金) 05:05
泣き顔から笑顔へ。
ぱぁっと眩しいくらいの、それは凄くキレイで美しかった。
可愛いとか…そんな次元じゃなくって。
本当にキレイだと思った。
梨華はあたしから、ゆっくりとそれを受け取った。
渡すとき、あたしの手と梨華の手が軽く触れたんだ。
何度も手を繋いで。
何度も触れ合った手。
何でもない、日常茶飯事的な些細な事に…
何故かドキっとした。
全身に緊張感が走った。
キューってこの大きい体がスピードをあげて
縮まって行くような…
そんな気がしたんだ。

「…開けていい?」

「…うん。」

近くにあるベンチへと移動し、
梨華はおもむろに袋から箱を取り出し
椅子の上に置いた。
コトリと小さな乾いた音が、あたしの耳に飛び込んでくる。

177番外編:2002/10/11(金) 05:05
「…うわぁ。」

彼女の少し潤んだ瞳が輝く。
あたしは照れた。
背中がムズ痒かったけど、微塵もそれを表さないよう、
必死で我慢した。

「…キレイだねー...。…付けて、いい、かな?」

「どうぞ。」

真っ直ぐに梨華の目を見れないよ…。
どうしてあたしはこんな時でもトイレを見てるんだろう。
あ。
さっきのおじさん。
すげー幸せそうな顔で出てきた。

「…ひとみちゃん?」

「どした?」

「…っと。あのね…?これ…ひとみちゃんが付けてくれないかな。」

「…しょうがないな。貸してみ。」

178番外編:2002/10/11(金) 05:06
何がしょうがないだ。
本当は嬉しいくせに。
ああ、そうさ。
ホントはここで『まかせな!』ってさ。
カッケーとこ、見せてやりたいよ?

「ごめんね。」

「いや。」

大人になりたかった。
カッケーく決めたかった。
心とは裏腹に。
勝手に言葉が出てくるんだ。
汗で手が滑る。
梨華にバレるかも。
あたしが緊張してるって。
うまくハマんないぞ?
落ちつけ…
うん。
落ちつけば…きっと…大丈、夫…っと。

179番外編:2002/10/11(金) 05:08
「はい。」

「…へへ。似合うかな?」

「うん…。似合う。」

あたしはベンチから腰を上げ、
『よいしょ!』って背伸びする。
…まともに今、梨華の顔なんか見れないよ。

(…え?)

「梨華!…どう」

「こっち向かないで。…そのままで聞いて―。」

「…わかった。」

あたしは大きく万歳。
そしてあたしの腰の周りには愛する梨華の手が
回されていた。

180番外編:2002/10/11(金) 05:09
「…ありがとう。一生…大事にするね。」

「マジで?」

「うん。もし…ひとみちゃんとケンカしちゃっても。
 私がお嫁さんにいっても。おばあちゃんになっても。」

「…そんなに大事にしてくれんの?」

「するよ。…だって。」

「だって…?」

ギュっと力が入った。

「…初めて。好きな人から貰った…プレゼントだもん。
 大事にするに決まってるもん。」

「……」

…意識が。
遠のいていくのがわかった…。

――――――――――――

181番外編:2002/10/11(金) 05:10
「…初めて。好きな人から貰った…プレゼントだもん。
 大事にするに決まってるもん。」

「え―――――――!わ、私、そ、そんな事言ってない!」

「言ったよ!言ったとも!めっちゃロマンティック風にさ。
 目なんかキラキラさせちゃってさ!
 ひとみちゃん…私、ひとみちゃんのコト、だぁ〜い好きってね♪」

「いいいいいい言ってないもん!…最初の方は、その…言ったけど。」

「ほらね♪もぉ〜素直じゃないんだから。梨華は。」

「!…もぉいい!ひとみちゃん知らない!」

梨華の耳や顔は真っ赤っか。
猿のケツみたい。
あっはっはぁ〜♪
なんて思ってたら、梨華はあたしに背を向け
薄い布団を頭から被る。

182番外編:2002/10/11(金) 05:10
「ちょ…!梨華」

「知らない、知らない!!」

「ごめん!ちょっと悪フザケしすぎた!」

「…………」

フーっと一息ついてみた。
あたしは静かに布団の脇をまさぐり
進入する事に成功。
頑なに梨華は動こうともしない。
…いつもこうだ。

「梨華。…ごめん。ちょっとフザけすぎた。」

あたしは優しく彼女を包み込む。
…やっと梨華はあたしの方に顔を向けてくれた。

183番外編:2002/10/11(金) 05:11
「…恥かしかったんだから。」

「ごめん。だって梨華、からか―

フワリと
静かに。
梨華があたしに口付けた。
危なくあたしは梨華の唇を噛んでしまいそうになった。
だっていきなりキスされたんだもの。
それにあたし喋ってたし。

布団の中でのキスは―
何だか照れくさかった。
何度か交わしたことはあったけど…
これほどまでに胸漕がれるようなキスは感じたコトがなかった。

「…ズルいよ。梨華…いきなりなんて。」

「…じゃあ、ひとみちゃんからして。」

「…うん。」

スーっと瞳を閉じる。
あたしはゆっくりと愛する人にキスした。

      
        ――――EMD――――

184理科。:2002/10/11(金) 05:12
番外編完結です。
お粗末さまでした。

185名無しナース:2002/10/12(土) 01:46
う〜ん甘くて最高でした!!
ありがとうございました。
次回作も楽しみにしています。

186名無しナース:2002/10/12(土) 23:11
サイコ〜〜〜ですた。
続き!続き!と、言いたい……。

187名無しナース:2002/10/12(土) 23:19
面白くって、感動して、甘くって良かったです。
次回作あるのだったら、楽しみにしています。

188名無しベーグル。:2002/10/14(月) 15:31
お疲れ様でした。
また時間が出来て、書ける時が出来たら書いて下さいね。
ずっと、ずっと待ってます。。。

189ごまべーぐる:2002/10/15(火) 00:11
完結おめでとうございます。
お疲れさまです!
いしよしが心を通わせることができて、ヨカター

また理科。さんのステキなお話に会えるのを楽しみにしています。
名無しベーグル。さんと同じく、待ちます。

190じじ:2002/10/17(木) 09:04
完結おめでとう。
理科。たんの小説ヲタの私としては、完結するたびに
少し寂しさも感じますが(w
また理科。たんの小説に出会えることを楽しみにしています。
ヲレもずーっと待ってるからね。
お疲れ様でした。

191ひとみんこ:2002/10/17(木) 18:36
ご馳走様でした、南無阿弥陀仏、合掌! でございました。

改めて最初から読み通してきました、只々感謝です。

我望新作です。


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