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異界大戦記のようです
1
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。
魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。
きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。
ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。
233
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:25:44 ID:kXBs2RV20
从# ゚∀从「被害はどうなってる!!」
『こちらに被害なし!!ただし、一撃でかなりの魔力を持っていかれました!魔方陣にも影響が出ております!!』
( ´ー`)「......被害は軽微か。対策が効いたか?」
从 ゚∀从「あぁ、みたいだな。魔壁を厚くしとけば耐えられるってことだ」
( ´ー`)「......正確じゃないな。分かってるんだろ?」
从 ゚∀从「......あぁ、くそったれ」
そうハインは舌打ちをしながら顔をしかめる。
嫌にベタつく汗を拭い、どうにか動揺する心を抑え、話す。
从; ゚∀从「さっきの攻撃......ギコ様からの報告の通りのものだった。見えない敵からの攻撃、魔壁が通じない程の大火力......」
(; ´ー`)「と、なれば残りの迎撃不能、というのも本当のことだろうな。事実、発見から直撃までの時間が短すぎる」
从; ゚∀从「......そんなの、どうすればいいんだよ!」
(; ´ー`)「ソーサクと俺達に大きな技術力の差はないと聞いてたが......くそったれ、真っ赤な嘘じゃねーか!!」
ガンと壁を殴り、頭を抱える。
多少の勘違いはあるものの、二人は現実をよく捉えていた。
234
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:26:07 ID:kXBs2RV20
何とか一撃は耐えたもののこの攻撃が続けば長くは持たないであろう、と。
特に旧式の艦や属国の艦などは魔壁が脆い。
それらは一撃すら耐えられるか、分からないのである。
たったの一撃で艦が沈み、数千が死ぬ。
ギコからの情報から最悪のパターンを想定して、準備はしていた。
だが、現実はそれを上回る。
だが、今さら考える時間もない。
『報告!先ほどと同じものが複数こちらに向かってきています!!』
再度、敵の攻撃。
从; ゚∀从「ぐっ......魔壁強化!!衝撃に備えろぉおおお!」
当たらないことを、沈まないことを願い、身を屈め衝撃に備える。
そしてその瞬間、艦隊は再度、爆発に包まれる。
先ほどとは異なり、複数の攻撃が一気に艦隊へと降り注ぎ、凄まじい衝撃が生じる。
235
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:26:50 ID:kXBs2RV20
そして。
まるでガラスが割れるかのような音と共に、いくつの艦が爆発に呑まれ、沈む。
まだ第二波だというのに、もう魔壁を突破された艦が現れたのである。
从; ゚∀从「バカな......そんな......」
呆然とするハイン。
だが、それとはシラネーヨはその様子を眺め、なんとか冷静に戦況を整理しようとしていた。
(; ´ー`)「あれは属国軍か......他が沈んでない事を見ると、やはり艦種によっては数発なら耐えられるかもしれんな。ギコ様レベルの魔術師はいなくても艦数でカバーは可能だ」
从; ゚∀从「そうだな。くそっ、これが敵の秘密兵器で、数がないなら......」
(; ´ー`)「......ん?数?......そうか、それならありうるな」
从; ゚∀从「あん?」
(; ´ー`)「お前の言う通り、数だ。あの攻撃、あれほどの威力だ。そうそう多くは揃えられないだろうし、使える魔術師なんて多くても数人。長く続くはずがない」
从; ゚∀从「......確かに言う通りだとは思うが」
(; ´ー`)「合わせてここは南方の僻地で占領されてから時間もそれほど経っていない。ソーサクから魔道具を持ち込むにも遠い。つまり量もある程度、なはずだ。現に攻撃密度が低い」
从; ゚∀从「......おい待て、まさかお前」
そこてなにかに気が付いたのか、ハインが顔色を変える。
もし彼女の考えが正しいのであればこれから行われるのは、あまりにも無謀な作戦である。
236
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:27:22 ID:kXBs2RV20
だがそれと同時に、他に出来ることもないということもわかっていた。
(; ´ー`)「陣形を完全に魔壁特化に切り替えよう。あれだけ早いとなるとどうせ対空は当たらん。魔石の無駄だ......というより、耐えるためには捨てるしかない」
从; ゚∀从「......」
(; ´ー`)「そして......」
意を決したように海を睨むと同時に、敵の攻撃と思わしき光が艦隊に迫る。
見たことのない速度で近づくそれに、恐怖を覚える。
だが、それでも怯まず前へ。
(; ´ー`)「こっちには数はいるんだ!!敵の攻撃を耐えきり、突撃するぞ!!」
敵の攻撃資源の枯渇したところへの攻撃。
もしくは迎撃漏れによる敵地への上陸。
どちらを狙うにせよ、やることは変わらない。
物量に任せた突撃。
それが、彼らに出来る唯一の作戦であった。
237
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:27:45 ID:kXBs2RV20
続く
238
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 19:24:17 ID:eIEvw8Eo0
乙
確かに兵糧攻めはかなり効果がありそうだ。
現場組は死んで欲しくないなぁ
239
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 20:22:43 ID:8A2cyMiU0
乙です
240
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:48:08 ID:YJk7.jqU0
ルナイファ帝国 帝都
1463 年11月20日
('、`*川「最近変ねぇ」
この日、ペニサスは買い物をしていた。
たまには良いものを買おうと、帝都の中心地まで来ていたのだがその品揃えに首をかしげる。
('、`*川「これも売り切れ?......そんなに人気なのかしら?」
いつもであれば沢山のもの陳列がされているであろう棚にはスペースが見られ、お気に入りの南方の果物を使った菓子を売る出店は閉じていた。
とはいえ、全く何もないわけではない。
むしろ多くのものが並んでおり、見るものの目を楽しませる。
('、`*川「うーん......」
だがその分、いつもならあるはずのものがないのが目立っている。
特になくて困るものではないのだが、何となく気になるのだ。
そしてなにより、ここにない理由。
ペニサスもそれとなく店員に聞いてはみたものの、何ともはっきりしない答えであり、分かったのは原材料がなぜか手に入らないということだけであった。
241
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:49:04 ID:YJk7.jqU0
('、`*川「まあいいか。今日はこっちのものを試してみようかしら」
しかし、無いものは仕方ない。
気持ちを入れ替え、折角だからといつもと違うものを買ってみる。
近くにあったベンチに座り、早速一口、食べてみる。
初めて食べる味わいだが、流石は帝都、良いものを使っているのだろう。
これもまた良いものであり、思わず笑みが溢れた。
そんな風に休日を満喫しながら、ふと生徒たちのことを思い浮かべる。
思えば今、この国は戦争、と呼べるかは敵が弱すぎて怪しいが、それでも争い事に出向いている子がいる。
彼らは、今頃何をしているのだろうか。
そろそろ終わりそうなものだが、いつ帰ってくるのだろうか。
そして、帰ってきたらどんな授業をしてあげようか。
そんな思考に耽りながら、少しだけ違和感はあるものの、楽しい帝都の1日を過ごしていた。
242
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:49:50 ID:YJk7.jqU0
南方海域 ムー近海
青い海に、爆発の花が咲き乱れる。
そんな中を、艦隊は進んでいた。
シラネーヨが具申した作戦が採用され、数に頼った突撃が始まっていた。
素早く隊列を組み換え、厚く張られた魔壁はその爆発を遮り、艦は進軍を続ける。
時折、衝撃に耐えきれず、艦が多くの命と共に散っていくが、それを気に留める余裕もない。
余りの爆発音に耳がおかしくなりそうになりながらも必死に檄を飛ばし、恐怖をひた隠し、進んでいく。
もう、どれだけの被害が出ているかは把握できていない。
情報が混乱しすぎ、まともに把握できない状態になっていた。
だがそれも仕方ないだろう。
次々に飛んでくる攻撃は確かに防げている。
だが、次は防げるかは分からないのだ。
魔力はどんどんと消費されており、また術者の体力の消耗も激しい。
決して万全とはいえない状態で、あとどれだけ耐えれば良いか分からないという恐怖。
そんな状況で攻撃に向かって進むなど、一体どれだけの者が正気でいられるのか。
243
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:51:17 ID:YJk7.jqU0
从; ゚∀从「......」
ハインもまた、どうにかそんな恐怖を押さえ込み、必死に敵がいるであろう方角を睨んでいた。
それで現況をどうにか出来るはずもなかったが、一分一秒でも敵を早く見つけ出したい一心であった。
だが、一向にそれらしき影は見当たらない。
ある程度、進んできたと言うのになぜまだ敵が見えないのか。
偽装魔法も考えたが、あれは動かない、停止している状態のものしか隠すことができない。
であれば攻撃など出来ないはずであるため、可能性はないはず。
そうなるとなぜここまで見当たらないのか。
从; ゚∀从「......どうなってやがる」
いくら考えても答は出ない。
可能性は思い付くが、そんなことを可能な魔法があるとは思えないのだ。
244
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:51:46 ID:YJk7.jqU0
(; ´ー`)「......」
ハインが頭を悩ます一方、シラネーヨも苦悩していた。
突撃をするとは言ったものの、やはりこれほどまでの攻撃を目の当たりにすると無謀だったのではないかと感じてしまう。
しかし確かに攻撃は全てではないものの防げており、またここで引けばそれこそ沈んでいった仲間たちの命が無駄になる。
そんな考えがぐるぐると巡り、一種の混乱状態に陥ってしまっていた。
(; ´ー`)「なぜだ......」
そう彼が呟くと同時にまた、複数の光が艦隊に突き刺さる。
その攻撃はもう何回目か分からない。
しかし、数えきれないほどの艦が沈められたのは事実である。
その現実に彼はますます混乱する。
これほどまでに強力な魔法を、こうも大規模に連発できるなど信じがたいのだ。
そもそもの話、一発ですらルナイファの常識からしたら異常とも言えるのである。
245
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:53:22 ID:YJk7.jqU0
それが、何発も飛んでくる。
元々、この攻撃が少数であることを前提にして作戦を立案したというのに、その前提が根底から覆されているのだ。
こんな現実など、あり得るはずがない、魔法でもこんなことが出来る筈がない。
だがそんな彼女らなど知ったことではないと、もう何度目か分からない攻撃がやってくる。
周期的に飛んでくるそれは、まるで突然現れたかのように飛んできては、艦の前でポップアップし、天より突き刺さる。
凄まじい破壊の力を、何とか魔壁で抑え込んではいるが、もしこれが直撃したら助かる道理はないだろう。
魔壁を貼る魔術師たちは乱れる心を落ち着かせ、魔法を唱え続ける。
そうしなければ、死んでしまう。
だが唱え続ければ、死なない。
そう信じ、進むことしかできない。
246
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:55:08 ID:YJk7.jqU0
だが確かに、進むことはできているのだ。
このまま進めば、そうすれば、敵さえ見つけることができれば反撃ができる。
そう信じて進み続けるしかない―
ドゥン......
不意に、今までにない音が艦隊に響く。
これまでの魔壁を叩く爆音とは異なる音であった。
从; ゚∀从「な......に?」
音に釣られ、その方角を見ると巨大な水柱が立っていた。
そして、その水柱の中には一隻の艦。
強力な魔壁を貼るその艦は、通常であれば攻撃を防げているはずである。
(; ´ー`)「......割れ、てる......」
だが船はまるで下から、船の底から突き上げられたかのように中央から真っ二つに割れ、沈んでいく。
何が、起きたのか。
あの空飛ぶ攻撃は防げる、だからこその作戦であったはず。
247
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:56:24 ID:YJk7.jqU0
では、今のは一体何なのか。
从; ゚∀从「っ!また!!」
再び、同じ音が響く。
今度は、複数である。
遠くで複数の柱が上がり、その数だけ艦が沈んでいく。
そしてそれらの艦も、万全な魔壁を用意していたはずである。
なのに、沈む。
(; ´ー`)「なぜ......なぜだ......」
あまりの衝撃にそんな言葉をうわ言のように呟く。
まだ十分に艦数はいるものの、魔壁すら通用しない攻撃を持っているのならば、甚大な被害は免れない。
ただでさえ、少数しかないと推測していた攻撃は何度もこちらに降り注いでいるのだ。
それだけですら恐ろしい被害が出ているというのに、他にも敵はこちらを沈める手段を持っている。
それも、防ぐことが出来ないという恐ろしい攻撃を、である。
そんな状態で果たして上陸することが可能なのか。
自分の立てた作戦の愚かさを、今更になって嘆く。
248
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:58:36 ID:YJk7.jqU0
だがもう、遅い。
失われたものを、取り戻すことは出来ない。
(; ´ー`)「......撤退を」
从; ゚∀从「え?」
(; ´ー`)「撤退を、本隊に具申しよう」
从; ゚∀从「......そう、だな」
だが、まだ生きている命を救うことは出来る。
そんな思いから、彼が唯一出来ることを口に出す。
その言葉を、誰も止めることはなかった。
誰もが死にたくないし、どうしようもないことを理解していた。
『......許可は出来ない。作戦は続行する』
だが、その願いは通らなかった。
魔信から絶望の言葉が響き渡る。
何度、説得しようとしてもその答が変わることはなかった。
(; ´ー`)「何故ですか!?このままでは全員、無駄死にをするだけです!!ですから、ここは一時的でも撤退をすべきです!!」
『敵の攻撃は確かに強力だが、空からのものは防げる!防げない攻撃もあるがそれは少数!作戦通り、数で押しきれる!ここで引けば艦数を減らした今、再度ここまで近づくことなど不可能だ!!』
249
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:59:41 ID:YJk7.jqU0
(; ´ー`)「ですが......」
『ここで撤退などすれば、それこそこれまで沈んでいった仲間たちが、報われない......無駄死にではないか!!』
从; ゚∀从「......」
『それに......それにだ......いや』
より一層、忌々しそうな声。
だが、その言葉は最後まで紡がれることはなく。
『とにかく、撤退は許可できない。以上だ』
一方的に魔信は切られ、望みが絶たれる。
もう残る出来るのは、ただひたすら攻撃を耐えきり、また防御不可の謎の攻撃が来ないことを祈るのみ。
(; ´ー`)「......俺の、せいだ」
またどこかで爆発音がなり響く。
その音と共にまた、いくつもの命が散っているのだろう。
もし自分がこんな無茶な作戦を言わなければ―
そんな考えが頭から離れず、ただ艦隊を包む炎を眺めることしか、出来なかった。
250
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:00:47 ID:YJk7.jqU0
シラネーヨがそのような苦悩をしている一方、先ほどの魔信の相手、本艦隊の指揮官であるマタンキもまた、苦悩していた。
(#・∀ ・)「撤退......いや、敗北など、認められるわけがない!!」
怒りに染まり、もはや正気を失いつつある状態であるが、それにも理由がある。
彼は、知っているのだ。
(#・∀ ・)(人間に......劣等種に、なにも出来ずに負けたなど!!)
自分達の敵が、何であるのかを。
艦隊の兵士のほとんどは、その事を知らない。
ソーサクが相手であると勘違いをしている中、彼だけは正確に自分達の敵が何であるかを知っており、だからこそ敗北を認めることが出来ない状態となっていた。
だがその一方でこの被害である。
いくら彼が敗北を否定しようにも、これほどの被害は決して無視できるようなものではない。
しかしその無視できない被害が相まってさらに彼は引くという選択肢を選べなくなってしまっていた。
251
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:02:08 ID:YJk7.jqU0
敵が強大であることは理解できている。
そのせいで尋常ではない被害が出ていることも把握している。
だが相手が人間であるから、負けるはずがない、そんな相手に尻尾を巻いて逃げることは許されるはずがない。
そんな考えが頭の中をぐるぐると巡る。
完全な、錯乱状態である。
(#・∀ ・)(......落ち着け、落ち着くんだ。まだ艦数は十分、敵の攻撃は防げる......行ける、大丈夫なんだ)
自分に言い聞かせるように、大丈夫だと何度も繰り返す。
周りから見れば完全な狂人である。
もう、既に多くの艦が帰らぬものとなっているのだ。
だが彼の現状把握についてはある程度は正しい。
確かに、敵の攻撃は続いているものの、空からのものは多数は無理でも少数であれば魔石の魔力が尽きない限り、防げている。
謎の防げない攻撃は続いているが、それは数が少なくまた間隔も長い、攻撃の密度がそこまで高くないのだ。
252
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:02:46 ID:YJk7.jqU0
防御不可の攻撃を放つ敵は明らかに少数であり、このままのペースであればムーへの上陸は可能であるはず。
なおそれが出来たところで、敵の戦力分析がまともに出来ない現在、ムーを取り返すどころか海岸線を維持できるほどの戦力が残るか、不明な状況なのだが。
(#・∀ ・)「怯むなぁ!進めぇ!!」
それが分かっていない訳ではないが、彼にはそれを、受け入れられるほどの余裕はない。
例えそれが自身の命をかける必要があろうとも。
彼のプライド、いやエルフの種としてのプライドが許すことが出来ない。
『報告!!』
そのとき、魔信が震える。
響く声にマタンキはまたなにかおかしな報告が来るのかと身構える。
(#・∀ ・)「くそっ、今度はなんだ!!」
『ぜ、前方に敵艦隊を発見しました!!』
(・∀ ・)「っ!!」
だが、聞こえてきたものは全くの別のものであった。
その無謀な挑戦が奇跡を生んだ。
ついに、ついに待ち焦がれた報告がやってきたのだ。
(・∀ ・)「よ、よし!!では総員、攻撃準備だ!!急げ!」
『はっ!!』
(#・∀ ・)「これまでやられた分......きっちりやり返してやれ!!」
253
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:03:16 ID:YJk7.jqU0
ムー国 海岸
無数の艦の影が、近づいていた。
その艦隊をもし他国が見れば、その数、また掲げる国旗の威光の前に屈するであろう。
だが、現在。
この国、ムーに近づいているそれは満身創痍と言っても過言ではない状態である。
何度も繰り出された攻撃により、未だ海の上に浮かぶ艦も魔石を消耗仕切っており、また魔石が残っていても魔方陣が不具合を起こし、本来の力を発揮できないような状態になっている。
これにより、初めのうちは防げていた攻撃も、時間の経過と共に防げなくなり、沈む艦がどんどんと増えていく。
川 ゚ -゚)「なんと......これだけの攻撃になるのか」
その様子を遠くから魔法で眺めていたクーは、改めて人間たちが持つ力の強大さに感服していた。
254
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:03:37 ID:YJk7.jqU0
ムーの基地に振るわれたあの爆発攻撃、てっきり動くものには当たらないと思っていたが実際はどうか。
いくら的が多いとはいえ、あそこまで正確に艦に遠距離から当てられるとは。
魔法を越えて、奇跡ともいえる所業に感じられる。
魔法による攻撃も、操作が出来るため個人の技量によっては確実に当てることが可能であろう。
だが、あれほど大規模な攻撃をするためには―
川 ゚ -゚)「無理だな」
可能性は0ではないが、現実的に不可能であろう。
少なくとも現時点でそんなことが出来る国は存在しない。
255
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:04:00 ID:YJk7.jqU0
川 ゚ -゚)「しかし......ルナイファも流石だな」
その一方でルナイファの持つ、圧倒的な物量には感心を通り越して呆れてしまう。
ここまで近づいてくるために、一体どれほどの艦を沈め、資源を消費したのか。
これほどの攻撃を耐えきり、近づくことの出来る底力はとんでもないことである。
明らかに力量の異なる相手に、数という単純な力だけで押しきろうとしているのだ。
そして一方的な展開に見えるが、人間達には余裕はない。
聞く話ではようやくこの国の整備が整いつつあり、それによりムーからの資源供給が始まり、唯一の生命線となったばかりだと言う。
もしこの軍勢に対処しきれなければ、そのか細い生命線は簡単に途絶え、下手すればこれだけ圧倒的だと言うのに滅びるのは彼らになるかもしれないのだ。
とはいえ、それが分かるのは彼らに深く接触している彼女だけであり、ルナイファからすればそんなことは分からないはずである。
にもかかわらず、多数の犠牲を出してでも進軍する彼らは一体どのような覚悟をしてきているのか、クーには分からなかった。
256
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:04:45 ID:YJk7.jqU0
川 ゚ -゚)「まぁ、それしか出来ないのだろうが......いやそれが実行できるのがおかしいか。む?」
艦隊から目を移すと、多くの人間が上陸に備えてだろう、準備を進めていた。
中には『くるま』に似た、平たい箱に筒を付けたような奇妙なものが動いていた。
更には艦までまだまだ距離があるというのに、陸上からあの光る爆発物を飛ばし艦隊へ攻撃を加えている。
大規模攻撃の前に、流石のルナイファ艦隊も大きく数を減らしていく。
川 ゚ -゚)「......ほう?」
だが、そこであることに気がつく。
艦隊が2つに割れている。
一つは人間の艦隊に、もう一つは陸に。
すぐにその考えは理解できる。
川 ゚ -゚)「上陸狙いか」
恐らくは人間の艦隊に囮を張り付かせ、その間に上陸すると言ったところか。
多数の光を翔ばす、圧倒的な射程を持つ人間の艦を相手にするより上陸を狙うのは正しいことだろう。
そして彼らには分からないだろうがそれが成功し、一時的でもムーの一部を制圧すれば、人間達に多大な影響を与えうる。
今後の運命を左右する、戦いが始まろうとしているのだ。
川 ゚ -゚)「さて、海での戦い方は分かったが陸上はどうなるかな?」
ここまで追い詰められれば人間達もさらに必死になるであろう。
そうなればまた新たな力を見せてくれるかもしれない―
そんな期待に彼女は目を爛々と輝かせ。
ルナイファ艦隊の上陸を今か今かと待ちわびていた。
257
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:06:28 ID:YJk7.jqU0
ムー国 沿岸部
(#・∀ ・)「......」
ついに、敵の艦隊と相対する。
これまで、いや今現在も自分達には不可能な攻撃を一方的に繰り出し、彼らはただ耐えることしかできなかった。
だがこれでようやくやり返すことが出来る。
揚陸部隊は陸地に向かわせ、敵艦の攻撃を引き付けつつ決着をつけるために艦隊を進めていく。
その間にも沈み行く仲間が現れるがそれを気にすることはない。
敵が、目の前にいるのだから。
ただひたすらに前進するのみ。
そしてついに、射程距離に入る。
(#・∀ ・)「目標、敵艦隊!魔炎準備!」
『炎魔法、発動準備完了!操作魔法、リンク完了!!』
指令の声に呼応するように、魔方陣が激しく光輝く。
強力な炎が圧縮された、一つの球体が産み出される。
258
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:07:15 ID:YJk7.jqU0
(#・∀ ・)「発動しろぉおお!!」
今の艦に残る魔力の大部分が詰め込まれたそれは、敵を殲滅するべく天高く舞い上がる。
美しい炎の軌跡、それが敵に向かって行く。
だが、敵もそれが届くまで待ってくれるはずもない。
再び、大破壊の鉄槌が空より襲い掛かる。
これまでであれば、被害は出ても魔壁により軽減できていた。
しかし攻撃のために陣形を組み換え、また魔力を消耗してしまった今、あれほどの威力をまともに耐える方法などありはしなかった。
(;・∀ ・)「ぐぅ!?......ひ、被害報告!!」
『ひ、被害が多すぎて把握できません!!』
『操作魔法陣をやられました!本艦の攻撃に影響が出ております!!』
(;・∀ ・)「ぐっ!ぬ、ぅ......だが」
だが全滅していない。
ならば問題ない。
攻撃は既に、済んでいる。
あとは奴らが沈むまで、耐えきれば良いのだ。
(;・∀ ・)「......む?」
あと少しで攻撃が届くか、というところで敵艦が光り、煙に包まれる。
攻撃が直撃したと、一瞬艦内が沸き上がりそうになるが実際はまだ攻撃は届いていない。
では事故か、とも思えばそれも違っていた。
259
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:08:31 ID:YJk7.jqU0
(;・∀ ・)「っ!!あの光!!」
それは、自分達を苦しめた光であった。
あの艦から放っていたのかと敵の凶悪すぎる艦の性能に驚愕すると共に、また攻撃がくるという恐怖―
既に攻撃を何発も耐えられるほどの余力は残っていない。
差し違いか―
(;・∀ ・)「......え?」
死を覚悟し、道連れに奴らもと考えていたそのときである。
空中で大きな爆発が巻き起こる。
一体何が、とその光景を眺め、理解すると一気に背筋が冷たくなる。
(;・∀ ・)「こ、こちらの攻撃に当てて......防いで、いるのか?」
敵艦から放たれた光がこちらの攻撃に飛び込んでいっては、爆発する。
その衝撃に魔力をとどめておけなくなった攻撃はどんどんと霧散していく。
260
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:10:29 ID:YJk7.jqU0
(#・∀ ・)「ぐっ......攻撃を操作し、回避行動を!!」
攻撃に回避行動を取らせるというおかしな指令だが、操作魔法であれば不可能ではない。
あの迎撃から逃れることが出来ればまだ、希望はあるのだ。
『ダメです!操作魔法、魔方陣の不具合により精密な動きが出来ません!回避不能!!』
(;・∀ ・)「あ、ぁ......あぁぁあ!!!」
だが先の攻撃の影響により、複雑な操作が出来なくなっていた。
また無事であった艦の攻撃も、不規則に動かし迎撃から逃れようとしてもその光はまるでそれを感知したかのように追ってくる。
そもそも、速度が違いすぎる。
いくら逃れようとしても、逃れることができず、ようやく回避したとしてもさらに追撃が加わり、全てが希望と共に空に消えた。
『攻撃......す、全て迎撃されました......』
(;・∀ ・)「......」
沈黙。
艦全体の空気が凍ったかと錯覚するような静けさで包まれる。
ようやく、誰もが敵の恐ろしさを完全に理解したのだ。
差し違える覚悟をしてもなお、届かないという絶望。
まだ全艦が万全であれば敵も迎撃しきれなかったかもしれない。
だがもう、そんなことを言っても遅い。
それらの可能性は全て、海の底に沈んでいってしまった。
261
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:11:14 ID:YJk7.jqU0
今さらになって、撤退を考え始めたその時であった。
(;・∀ ・)「......む?」
敵の追撃が無いことに気がつく。
先ほどの大規模攻撃を最後に、追撃が無い。
さらに艦隊がこちらの進路を塞ぐようにしてはいるものの、明らかにこちらから逃げるような動きである。
(・∀ ・)「......まさか」
その事実に、彼は一つの可能性が思い当たる。
敵の、攻撃資源が無くなったのではないか、という可能性。
もしそうならば、千載一遇のチャンスである。
上陸も上手くいくであろうし、あの凶悪な敵艦を沈めるまたとない機会である。
262
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:12:54 ID:YJk7.jqU0
だが。
(・∀ ・)「こちらの攻撃は、防がれる......」
確かに、攻撃はない。
だが、敵はこちらの攻撃を防ぐことが可能なのだ。
無闇に攻撃したところで敵に届くことはなく、こちらの魔力が尽きるだろう。
それならば敵艦隊を無視し、上陸した部隊の支援攻撃を行うという選択もある。
それならば確実に一定の成果が見込めるはずである。
しかし、会談に向けた準備をすると引き延ばしている間に敵に接近するという不意討ちに近いことをして、かつ敵の攻撃を耐えきれるほどの大艦隊がいたからこそここまで近づけたのだ。
ここで敵艦を逃せばもうそのような条件が揃うことはなく、つまり二度とこちらの攻撃は届かないだろう。
(・∀ ・)「どうすればいい......」
彼は熟考する。
人間たちに思い知らせなくてはならない。
エルフの偉大さ。
そして、強さを。
そのためには、敵に攻撃を与えるにはあの光の迎撃を突破しなければならない。
あの光は、こちらの攻撃に反応して爆発し、攻撃を打ち消していると思われる。
つまり、敵が対処しきれないような大量の攻撃か、迎撃不能な高速の一撃、爆発に耐えきる固さを持つ攻撃が必要―
263
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:14:31 ID:YJk7.jqU0
思考を巡らせ、数瞬の沈黙の後。
マタンキはハッと顔を上げる。
(・∀ ・)「そうか......雷槍だ」
一つだけ、敵に通用しうる魔法が思い当たったのだ。
『は、は?』
(#・∀ ・)「雷槍を使う。準備をしろ!!」
『っ、しかしっ!あれは近距離にて魔壁貫通に使用する魔法です!!』
(#・∀ ・)「そんなことは知っている!だが、あの攻撃なら、撃墜されない可能性がある!あの攻撃であれば奴らに届くのだ!!」
『ですが、この距離......そして操作も出来ないため、当たる確率は......』
(#・∀ ・)「では、どうするというんだ!通常の攻撃であれば奴らは防げる!つまり、当たる確率は0だ!ならば、例え低くても当たる可能性のある攻撃に賭けず、どうするというのだ!!」
『っ......了解しました!雷槍準備!雷魔法、構築始め!』
『発動確認!続いて土魔法、発動!槍を形成!』
数少ない生き残りたちが最後の希望を懸けて、正真正銘最後の魔法を発動する。
バチバチと音を立て、雷を纏った槍状の物体が艦上に形成される。
まるで空中に流れるように走る電流は一筋の線となり、道となる。
魔力で出来たそれには、勿論摩擦などない。
理想的なレールである。
264
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:15:55 ID:YJk7.jqU0
『発動準備、完了!!』
その魔法は、土の魔法で形成した物体を、雷魔法で包み込み、魔力で形成した道で加速させて打ち出すというもの。
土は雷の力を得て金属に錬成され、魔力が持つ間は金剛不壊となる。
本来この世に存在し得ない、最硬の魔法金属である。
(#・∀ ・)「全魔力を攻撃に集中!!放てぇえええ!!!」
魔法で作られた雷の道を通る、摩訶不思議な金属は凄まじい勢いで加速する。
彼らが持つ中で、最速最硬の攻撃。
その姿に似た兵器は、ある世界ではこう呼ばれる。
レールガン。
未来の兵器とも呼ばれるその兵器。
その攻撃に不完全ながらも近い一撃が、異界の艦隊に向けて打ち込まれた。
265
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:16:17 ID:YJk7.jqU0
続く
266
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 17:23:24 ID:lr6u.Z3A0
乙
偶然とはいえレールガンを作り出すとはあなどれないねぇ
ここからは陸上での戦いがメインになりそうだ
267
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 17:52:08 ID:h0etebTQ0
乙です
268
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:44:48 ID:e2rDsERI0
ムー国 沿岸部
1463 年11月20日
从; ゚∀从「いいかっ!上陸したら土魔法で防壁を作り、陣地を構築!陣形は密集陣、魔壁を強化して安全を確保しろ!」
『了解!!』
ハイン達は遂に、上陸を成し遂げようとしていた。
不可能と思われたこの挑戦。
だが無謀とも言えるごり押しと、数の暴力、そして魔壁の効果により艦数を残したまま、陸まであとわずかのところまで来ていた。
艦隊が2つに別れた後、ハイン達に対する攻撃の密度は少ない。
というよりも、ほとんど無いと言ってもいい状態である。
理由は分からないが、推測するに敵の攻撃資源の枯渇か、もしくは何らかのトラブル等だろうか。
(; ´ー`)「あっちはどれだけ持つか......」
とにかく上陸出来る艦数は最早、囮と化したもう一つの艦隊がどの程度生き延びれるかにかかっていた。
269
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:45:58 ID:e2rDsERI0
そして肝心のその戦いについては膠着状態に近い。
こちらからの攻撃は防がれ、敵の攻撃も魔壁で防げなくはないものの既にガス欠気味の艦隊ではそれも多くは望めない。
とはいえ、敵もガス欠気味なのか攻撃の手が緩んでいる。
若干の敵の有利だろうが、数はまだこちらが勝っており、お互いに打つ手が無くなるのも時間の問題か―
そして、そんなときであった。
バチィッ!!
電撃の音が、戦場に響きわたる。
从; ゚∀从「あ?」
その音に、聞き覚えはある。
雷槍。
魔力により産み出された強靭な魔法金属を、高速に打ち出し、その貫通力で魔壁を突破するというものだ。
だが跳ばすために魔力で道を作るが打ち出される際の衝撃が強く、狙った場所に飛ばせない。
そもそも形成される槍の形状が安定せず、その影響で発射後もブレるため、狙った方角に発射できても真っ直ぐ飛ばすことはほぼ不可能である。
270
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:46:37 ID:e2rDsERI0
理論上、長距離を飛ばすことはできる。
だがほんの少しの角度が違うだけで遠距離の敵には当たらないため、近距離での使用が普通である。
つまり、明らかに異常な判断により、攻撃が実施されたということであった。
从; ゚∀从「......」
だがなぜ、とは考えない。
マタンキがなぜ、その判断をしたのかを瞬時に理解できたのだ。
通常の攻撃では届かない。
ならばもう祈るしかない。
当たり前ではダメなのだ。
あり得ない、奇跡の一撃を。
271
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:47:45 ID:e2rDsERI0
放たれたそれは、多くがあらぬ方角へ飛んでいく。
しかし、一発。
たったの一発だけだが、敵艦隊へと真っ直ぐに向かい、飛ぶ。
从; ゚∀从「あっ」
そしてそれに敵も気が付いたのか、煙に包まれ、光が現れる。
不可避の、光。
そして、あっさりと。
希望の槍は爆発に包まれる。
(; ´ー`)「......」
从; ゚∀从「......」
彼らは、その様子を唖然として見ていることしかできなかった。
敵はこちらの最速の攻撃ですら、当てることが出来る。
つまり、どんな相手であっても攻撃を当てることが出来るのだろう。
とてつもない、敵である。
272
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:49:04 ID:e2rDsERI0
从; ゚∀从「......あ」
(; ´ー`)「うそ......だろ」
だが、無敵ではない。
無敵では、なかったのだ。
从; ゚∀从「お、おおおおぉぉおおお!!!」
爆風を、何事もなかったかのように突っ切る希望の槍。
慌てたように敵艦は再度、迎撃を試みた時には既に遅く。
最早何者にも止められず、奇跡、神の加護としか言い様のない幸運によりそれは。
―敵の艦をあっさりと貫いた。
煙を吹き出し、燃える敵艦。
その光景に、ハイン、いや艦隊全員が沸き上がる。
希望を、思い出す。
そうまだ、負けていない。
敵は目の前。
手に届く距離にいるのだ。
四肢をもがれ、傷だらけになり、満身創痍になりながらもルナイファという怪物はまだ、死んでいない。
もがき、足掻き続けた結果、その牙がようやく敵に届いたのであった。
273
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:49:31 ID:e2rDsERI0
ムー国 海岸
死に物狂いで進軍してきた艦艇が、次々に海岸へとたどり着く。
艦から現れた魔方陣が光輝き、そこから多くの兵達やゴーレムが瞬時に現れる。
凄まじい雄叫びが、彼らの出現と共に響きわたった。
それは死の恐怖を打ち消すためと同時に、これまでやられるしかなかった彼らがようやく敵に攻撃をやり返すことが出来るという歓喜から来るものでもあった。
海岸に現れた兵達は素早く、魔方陣を起動し、砂を盛り上げ、壁を構築する。
さらにその後ろに隊列を組むことで魔壁を形成し、磐石の守りを固める。
これにより、上陸時の隙を潰し、被害を減らせるはずであった。
274
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:50:24 ID:e2rDsERI0
だが。
从; ゚∀从「はぁ......はぁ......はぁ......ぐっ!?」
凄まじい爆発音。
後方を見れば、自分達が乗ってきた艦やこれから上陸を行おうとしていた艦が次々に沈んでいく。
そして、それだけではない。
从; ゚∀从「なっ!!」
陣地を構築している、仲間も吹き飛ばされる。
散々海で見た、あの強烈な爆発ような攻撃がこの地上においても吹き荒れる。
その様子を見て、ハインは自分の作戦の愚かさを今更になって後悔する。
从; ゚∀从(敵の攻撃は動く攻撃魔法にも当てられるんだ。地上の俺達に当てられねぇわけがないじゃないか!!)
艦ならまだしも、少数の兵が作る魔壁であのような攻撃が耐えられる訳がない。
詰まるところ、陣を構築するために密集している今、それは敵にとってはただの的であり楽な処分対象でしかない―
275
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:51:15 ID:e2rDsERI0
从# ゚∀从「散開だ......散開しろ!!猶予がない!散開して突撃するんだっ!!」
(; ´ー`)「なっ!正気か?そんなことすれば攻撃を耐えら―」
从# ゚∀从「魔壁があっても変わらない!なら!少しでも密度を低くして、敵の攻撃を分散するんだ!そうすれば奴らも対処しきれない!!」
(# ´ー`)「......くそっ!ここまで来てもまた、犠牲覚悟の突撃かよ!!」
ギリッと、歯が砕けそうなほどに食いしばりながらも、シラネーヨも納得するしかなかった。
現にまた、味方の陣地が吹き飛ばされているのだ。
通常であれば土の防壁に魔壁があればある程度の時間は稼げるというのにまるでそこになにもないかのようにやられていく。
(# ´ー`)「だがもう、後には退けない!!俺達が生き残るには、進むしかない!!進め、進めぇぇぇええ!!」
シラネーヨの号令と共に、生き残り達は走り出す。
そしてその号令を合図にしたかのように。
進行方向より、何かが無数に飛んでくる。
276
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:52:34 ID:e2rDsERI0
ヒュンヒュンと音を立て、飛んでいくそれは個人が作る魔壁では数発も持たない。
次々と兵達の身体に穴が開いては倒れていく。
脳髄を撒き散らし、死んでいくのだ。
从;# ゚∀从「地獄か......ここはっ!」
ようやく、敵地にたどり着いたと思えば何ということか。
一方的に味方がやられ、見るも無惨な姿に変わり果てていく。
地獄。
これまでの戦場でも見たことのないほど悲惨な光景に、思わずそう言わずにはいられない。
切り札とも言えるゴーレムは、謎の礫を耐えてはいるものの、優先的に爆発する攻撃に狙われ、破壊されていく。
壁としての役割も果たせたかわからぬまま、土へと還る。
こんなことが、あっていいのか。
そんな考えが頭を埋め尽くす。
先ほど、敵艦に一撃を加えたあの歓喜はどこへ行ったのか。
雄叫びはいつしか悲痛な叫びに変わり、死の恐怖を必死に忘れようと前へ走る。
その先に待つものが何なのかを理解しながらも、前へ、前へ。
飛び交う礫と血飛沫。
部隊が散会し、どうにか敵の攻撃を散らすことに成功しているがそれでも敵の攻撃は苛烈を極める。
爆発は少なくなったものの、やはり連続する礫の嵐は簡単に防ぎきれるものではない。
277
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:53:46 ID:e2rDsERI0
だが、やられっぱなしという訳ではなかった。
数の暴力と土魔法による簡易的な壁の形成でじりじりと前線を押し上げる。
(# ´ー`)「こちらからも攻撃しろぉ!!敵を減らすんだっ!!」
敵の礫とは異なる、色鮮やかな光が敵陣地へと襲いかかる。
どうやら敵は穴を掘り、身を隠しているようであるが、頭上がお粗末にも空いているのだ。
敵は強力ではあるが、間抜けのようである。
こちらの攻撃が当たらないと舐めているのか魔壁を使っていないのだ。
从# ゚∀从「頭上がお留守だ!!身体に教え込んでやれ!!」
操作し、曲げられる魔法であれば穴の中に隠れていることなど問題にもならない。
爆発、雷撃、氷結。
様々な魔法が炸裂する。
その様子に敵も何やら慌てたように動き出す。
それは、後退するような動きにも見えた。
278
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:54:50 ID:e2rDsERI0
確かに、敵は強力。
だがやはり、無敵ではない。
多くはないが少なくない被害を、与えている。
行ける。
そう、ハインは確信する。
部隊を散開させているのが効いていた。
攻撃の密度が低く、明らかにこちらの数に対処しきれていない。
特に高火力な攻撃はゴーレムに集中しているため、その間に兵はどんどんと進むことができていた。
ゴーレムが時間稼ぎにしかならないのは想定外という他ないが、このまま押し込めれば、この敵陣までたどり着けるであろう。
しかも敵はたったこれだけで退く、なんとも軟弱な輩。
兵士の差で、勝てる。
力では負けていても、精神ならば、負けていない。
―実際はそう考えていなければ、精神が持ちそうにもない、というのが正解なのだが。
心を強く持ち、進み続ける。
それさえ、それさえ出来れば良いのだ。
気が付けば敵陣地目前までに到達していた。
被害の数はこちらの方が圧倒的多いものの、確実に前へと進み、前線を押し上げていた。
このままいけば、海岸線を奪還できるはずである。
279
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:55:46 ID:e2rDsERI0
从; ゚∀从「よし......よし......」
そうして気がつけば完全に敵は後退を開始しており、内陸へと追い込んでいた。
ここまでに多くの命を消耗しているが、敵を後退させ沿岸部を抑えつつある現状を見れば確かに作戦は成功していると言える。
ただでさえ困難である上陸作戦を、あの強力な敵を相手に成し遂げているのだ。
まだ戦いは続いており、あの強力な攻撃も時折飛んで来てはいるものの、皆の士気が上がっていくのを感じる。
(; ´ー`)「......」
だがそんな中、シラネーヨの顔は浮かないものであった。
強烈な違和感。
それを、どうしても拭うことが出来ないのである。
なぜこれほどまでにあっさりと敵は退いたのか。
こちらが散開し、数で攻めたことにより敵が対処しきれなくなったというのは確かにあるだろう。
280
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:56:47 ID:e2rDsERI0
しかしだからといってこれほどまでに簡単に後退するものなのか。
(; ´ー`)(考えろ......敵は、何を狙っている?)
簡易的に作られた土壁に隠れ、思考する。
敵の立場になり、もし自分ならばどうするか。
それを考えていく。
(; ´ー`)(いくら前線を押し上げていたとはいえ、こちらの被害は馬鹿にならない状態......何故体勢を整えられる時間を与える?)
(; ´ー`)「いや......そもそも、だ。なぜ、俺は生きている?」
そして、行き着いたのは自分が生きていることへの疑問であった。
敵はこちらからすれば信じられないような攻撃を連発できる化物である。
あの威力、それが満遍なく戦場に降り注げばこちらは間違いなく全滅する。
だが敵はそれをしない。
それは何故か。
( ´ー`)「前提は......合っていたんだ」
そもそもの作戦の前提。
敵の攻撃物資には限りがあり、多くはないという予想。
思い返せば敵艦の攻撃も、あの大規模な攻撃は途中から無くなっていたのだ。
予測を遥かに上回る物量ではあったが、作戦通り敵の攻撃用の物資が尽きた、ようにシラネーヨには見えた。
281
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:57:58 ID:e2rDsERI0
そうなればひとつ、可能性が浮かんでくる。
敵の陸上部隊も物資が不足しているのではないか、ということ。
( ´ー`)「そうなると......狙うなら」
もし、自分が敵の立場ならばどうするか。
シラネーヨは再び考える。
なるべく少ない攻撃回数で、こちらを迎撃するにはどうするか。
その答えは簡単に思い付くものであった。
(; ´ー`)「こちらが体勢を立て直す間に補給を済ませ、高火力のあの攻撃を、再度密集したところに撃ち込む......」
そうしてハッと気がつく。
ここから先を進軍するとなると、辺りが崖に囲まれた道となっており、どうしても密集しなくてはならない箇所があるのである。
もし敵がそこに新たな陣を構築した場合、一体どのような結末になるか―
(; ´ー`)(......敵は一時的に退き体勢を整え、こちらがまとまって進軍してきたところをあの大火力で一網打尽にしようとしているっ!そんなことになれば制海権もない以上、前進も後退も出来なくなって全滅しかない!)
从; ゚∀从「よし、一旦ここで体制を整え......」
(; ´ー`)「ダメだ!ここで止まるなっ!敵から離れるわけにはいかない!!混戦に持ち込むぞ!!」
从; ゚∀从「はぁ!?」
282
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:59:25 ID:e2rDsERI0
(; ´ー`)「敵に猶予を与えれば、こちらが不利になるぞ!敵の補給能力が不明な以上、少しでも猶予を与えれば再度、大規模攻撃が行われる可能性がある!そうなったら勝ち目がない!!」
从; ゚∀从「っ!だ、だがこちらに、もう既に余裕が......」
(; ´ー`)「それにだ!敵と接近し混戦になればあんな攻撃は出来ない!となれば、一番安全なのがどこなのか、分かるだろ!?」
从; ゚∀从「......あぁ、なるほど。確かにその通りだな。くそったれ」
混戦となれば、一方的にやられることはないがどれだけ酷い被害が出るか、分からないわけではない。
それでも結局のところ、他に手がない以上、命を懸けて敵に突撃を繰り返すことしかできないのだ。
それを理解した上でハインは仲間たちに死ねと命じなければならないことに顔を歪ませながらも、先陣を走り、叫ぶ。
283
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:00:28 ID:e2rDsERI0
从# ゚∀从「総員!突撃!突撃ぃ!!」
その言葉に誰もが顔をひきつらせる
だが、その足は次なる戦場に向けて駆け出す。
皆が言葉にならない叫び声を上げ、撤退する敵に追撃へと走る。
その動きはあまりに無謀なものである。
ただでさえ、上陸作戦という無理な作戦を実行し、多大な犠牲を出しているところに休む間も、陣形を整える間もなく再度突撃を行うのだ。
通常であれば、自殺行為としか言い様がない。
だが、その無謀な作戦が功を奏した。
(; ´ー`)(......敵の迎撃が鈍い!)
敵もこちらの被害の多さ、また海岸線の奪還に成功していたことから進軍を止めると考えていたのだろう。
その攻撃は敵の意表を突き、前線を一気に押し上げる。
284
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:01:22 ID:e2rDsERI0
そもそも敵の攻撃物資が不足している事もシラネーヨ達にとって幸運であった。
広く展開した彼らを相手に出来るほどの余裕が敵には無いのか、あれほど強力な攻撃を持ちながらもこちらに対処しきれていない。
気がつけば最前線は敵味方が入り乱れる地獄絵図になりつつある。
完全な混戦状態。
もうこうなれば火力の差など役には立たない。
ただひたすらに先に相手を殺したものが勝ちである。
从# ゚∀从「はははっ!」
戦場特有の高揚感のせいか、はたまたこれまで一方的にやられてきた怨みを晴らせる時が来たからなのか。
ハインは笑いながら、返り血で赤く染まっていた。
次々に打ち込まれる魔法の数々に敵が伏していく。
味方も多数死んでいくが、精神を麻痺させただ目の前の敵のみを見ていた。
いつ自分が死ぬか分からない恐怖から目を反らすように。
ただひたすらに、攻撃を繰り返していく。
285
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:02:17 ID:e2rDsERI0
从 ゚∀从「はは、は......あん?」
そうしてまた、倒れる敵にハインは違和感を覚える。
その敵は、見たことのない格好をしていた。
改めて見てみると、魔術的な効果を一切感じられない妙な装備である。
从; ゚∀从(......これだけの魔法を使えるのに?)
密集していた彼女達を襲った強烈な爆発。
そして今なお飛び交うこの礫の攻撃。
魔法としか考えられない現象だというのに、そんな魔法に欠かせないはずの魔方陣らしきものが一切見られないのだ。
从; ゚∀从「一体......」
自分達は何と、戦っているのか。
そんな疑問が再度沸き上がる。
相手はソーサクであり、技術力は違えど同じ魔法使いを相手にしているはずであった。
少なくとも彼女の中ではそうなっていた。
それが、これは一体何なのか。
全く自分の常識が通用しない存在。
今になって、自分達が全くの未知と対峙していることに気が付いたのである。
286
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:03:08 ID:e2rDsERI0
―化け物。
もう何度目か分からないその感想が、敵に対して思い浮かぶ。
だが今回は比喩でも何でもなく、本当に同じ生き物なのか、という恐怖からくるものであった。
先ほどまでの高揚感が嘘のように、冷たいものが背筋に走る。
从; ゚∀从「くっ......あぁっ!!」
その恐怖から、化物から自分を遠ざけるように目の前の敵に攻撃を叩きつけ、吹き飛ばす。
近距離から叩き込まれる爆炎に、耐えられるはずもない。
その身体を焼き尽くすように炎が包み、また衝撃に吹き飛ばされる。
その衝撃に、頭を覆うように被られていた装備も吹き飛んでいく。
そして、彼女は見た。
从; ゚∀从「あ?」
その倒れゆくものが、何なのか。
从; ゚∀从「にんげ、ん?」
287
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:03:55 ID:e2rDsERI0
何故、ここに人間がいるのか。
そんな疑問が頭に浮かんだその瞬間であった。
从; ゚∀从「......あ?」
刹那、反転。
世界がぐるりと、廻る。
地を着いていたはずの足は宙を舞う。
どちらが上で、どちらが下か。
どちらが天で、どちらが地か。
グニャリと歪んだ世界。
一瞬、すっと血の気が引いたように寒気がし、意識が遠くなったかと思えば、ドン、と強い衝撃に引き戻される。
ぼやける意識の中、必死に状況を整理しようとぐちゃぐちゃになる頭を回し、考える。
土の味。
血の匂い。
顔面を流れる、何か。
身体が地面を感じていることで、ようやく自分が地に伏しているのだと、ハインは気がつく。
288
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:05:14 ID:e2rDsERI0
だから、立ち上がろうとするもおかしい。
立ち上がれない。
立たなければ、死んでしまう。
早く、立たなければ。
足を動かさなくては。
だが、おかしい。
足の感覚がない。
ちゃんと足はある。
ちゃんと目の前に。
千切れた彼女の、血塗れの足が。
从; ∀从「......」
一体、敵はどんな魔法を使っているのか。
あれだけの広範囲にいたはずの兵士達全てを覆うような爆発。
多くの命が土と混ざりあう。
先ほどまでの光景を地獄というのなら、今シラネーヨの目前に広がる光景は何と呼べばよいのか。
あれほど勢いのあった味方は一瞬で、虫の息である。
もう何度目か分からない、受け入れがたい現実が、そこにある。
289
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:06:56 ID:e2rDsERI0
上空を見れば、先ほどの攻撃の主であろう、異常な速さで飛ぶ何かがあった。
恐らくは、敵の援軍。
尽きていたと思われる爆発攻撃が再開され、地上、そして海上の生き残り達に攻撃が加えられていく。
(; ´ー`)「......まさか、こんなことが」
逃げていたのではなく、援軍を待つための時間稼ぎ。
さらにこちらを陣地内に誘いこんで、殺到したところを一網打尽にする作戦。
確かにシラネーヨが想定していた敵の作戦、と言えるものである。
とはいえ、まさか自分の陣地ごと、数は多くはないとはいえ味方諸共吹き飛ばすとは想像出来るはずもなかった。
明らかに捨て身の作戦。
だが、その効果は絶大である。
敵は火力だけではない、戦い慣れている、兵士であった。
それも、自分の命を掛けることのできる勇敢なものであった。
敵が圧倒的な火力を持つことは分かっていたはずである。
その上で突撃という作戦を考え、それが最善であるはずであった。
290
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:09:03 ID:e2rDsERI0
だが自身の経験と知識、そして常識からこのような攻撃を想定していなかった。
出来るはずがなかった。
あれほどまでに強力な敵が、ここまでするほどに追い込まれていたとは考えられるはずもなく、そしてここまで命をかけてくるなど。
まるで国家の危機に追い込まれたかのように敵が捨て身になるなど、このような僻地の戦場で起こるなど誰が予想できようか。
( ´ー`)「その報いが、これか......」
まさか敵を知らないことが、こんなことになるとは。
そんな悔しさに血が出るほど手を握りしめ、悔やむ。
だがもう遅い。
既に終わってしまったのだ。
最早進むことも、戻ることもできない。
数少ない生き残りも、さらに無事と呼べるレベルのものがあとどれだけいるのかといった状態。
自身がまだ、自分の足で立つことの出来ることはまさに奇跡的とも言えるが、それが幸運とは言い難い。
むしろ、この惨状を見せつけられ自身のせいで多くの命が無為に散ったのだとまざまざと見せつけられたかのような気分である。
これならば、あっさりとなにも知ることなく土に混ざって消えていった彼らのように死ねた方が何と幸福であったか。
291
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:11:02 ID:e2rDsERI0
( ´ー`)「ハイン......」
血にまみれた友の名を呼び、彼女を抱き寄せる。
微かに聞こえる呼吸音。
絶望し、歩みを止めそうになる彼であっだが、その音に最後の決心を固める。
( ´ー`)「......せめて」
せめてもの、罪滅ぼしをしなくては。
彼は、死んでも死にきれない。
死んだ仲間達の血を、手で掬う。
そうして、赤に染まった手で顔を、身体を汚し、模様を描く。
禍々しいそれは、怪しく輝くと彼の周りに黒い靄が生まれる。
(# ´ー`)「おおおおおっ!!」
彼は叫んだ。
自分はここにいるぞと。
まだ生きていると証明するかのように。
(# ´ー`)「俺を殺せぇ!!さぁ!!逃げも隠れもせんぞぉぉおおお!!」
その魔法は、死の呪い。
自らが持つ魔法の才を代償に発動するそれは、自分を殺したものを呪う、禁断の魔術の一つである。
292
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:11:31 ID:e2rDsERI0
どうあがいても勝てない。
ならば、これほどの攻撃を生む、大魔術師の一人でも良いから道連れにする。
この魔法を使えばもう二度と、魔法を使うことができなくなるがどうせ死ぬのならば変わらない。
それが、彼に出来る最期のことであった。
(# ´ー`)「さぁ来い!化物共!!」
辺りに散らばる死体の山の中、彼は吠え、駆け出す。
たった一人の突撃。
これがムーにおける、ルナイファ最期の攻撃となった。
293
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:12:00 ID:e2rDsERI0
続く
294
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 22:25:09 ID:gdcH8vsU0
乙
295
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 22:59:50 ID:oh2rS/dQ0
乙
296
:
名無しさん
:2023/06/18(日) 19:13:40 ID:GW7g0PUQ0
乙
ああ…二人とも…
297
:
名無しさん
:2023/06/19(月) 13:17:53 ID:7EjT/o6s0
おつおつ
前線の兵はかわいそうだけど正直人間側応援してしまう
298
:
名無しさん
:2023/06/20(火) 01:46:25 ID:jlOMxIag0
シラネーヨ、熱い漢だ
299
:
名無しさん
:2023/06/23(金) 13:31:32 ID:6CLW389s0
乙乙
ルナイファでも現場は応援したいんだが、上がね……
300
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:03:44 ID:BT2yeVcI0
ルナイファ帝国 会議室
1463 年11月29日
(;´・_ゝ・`)「それでは、現時点で判明していることを説明いたします」
重苦しい空気の中、デミタスはそう切り出した。
会議に参加しているのは軍務省や軍人のトップクラス、また有力な魔術師ばかりである。
錚々たる顔ぶれであり普段であればその力の大きさから誰もが自信に満ちた顔をしていたものだが、現在その顔のほとんどが青を通り越して死人のように真っ白である。
(;´・_ゝ・`)「なお、本会議に関する情報は外部に決して漏らさぬよう、お願い致します。また、お配りした記録魔石に関しても会議終了と共に全て記録が破棄されます」
震える手でデミタスはこれまでに集められた情報の詰まっている記録用魔石を弄る。
すると空中に文字と地図が浮かび上がった。
301
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:04:47 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「では説明を始めさせていただきます。まず去る11月19日、この日に我が国はムーを占拠する敵勢力に対し、正式な宣戦布告をし、同日近海まで近づいていた部隊にムー奪還を指示しました」
デミタスは浮かび上がった地図を指差し、艦隊の動きを説明する。
ここまでに関しては現在、この会議室に誰もが知っていることである。
そう、ここまでは問題ではないのだ。
(;´・_ゝ・`)「そして、20日。ムー間近まで近づいた艦隊に対し、敵の攻撃が放たれます」
( ФωФ)「......攻撃の規模は?」
(;´・_ゝ・`)「密度は薄いものの......威力、速力ともに凄まじいものであり......属国軍程度の魔壁では一撃すら耐えられないものとのことです」
(*゚ー゚)「あの、すみません。魔壁で耐えられない攻撃となるとそれは雷槍、ということですか?」
(;´・_ゝ・`)「いえ......異なるもののようです。操作魔法がかかったかのように追尾してくるのに雷槍のごとく早い光、による攻撃であったとのことです」
その言葉に、会議室が一気に騒がしくなる。
魔壁を突破するとなると、通常は命中率を高めて複数の攻撃により魔力を地道に削るか、雷槍のように命中率を捨てて一点特化した兵器を用いて貫通するかの二択である。
302
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:05:47 ID:BT2yeVcI0
だが敵は、それとは違う第三の選択肢を取ってきたのだ。
そしてそれは、攻撃力、そして命中率共に高いという反則レベルの代物。
聞いた情報が正しければ自分達の知るどの攻撃魔法よりも優れている。
それも、遥かにである。
自国を最強と信じるもの達にとって、これほどの力の差があるということを受け入れるのは、非常に難しいことであった。
(;´・_ゝ・`)「報告を続けさせていただきます。敵の攻撃の前にこちらは成す術がなかったとのこと......そもそも敵を見つけることが出来なかった、との報告があり、常識を超えた射程を持っている可能性が高いです」
(; ФωФ)「......うーむ。報告を読むと本隊の魔壁でも防げない攻撃があったとあるがこれは?」
(;´・_ゝ・`)「はい......多くの攻撃は爆発前に光が見えた、と証言があったのですが、その光すら見えない攻撃であり、予測すらも出来ない、との、ことです......」
(; ФωФ)「なんという......」
303
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:06:43 ID:BT2yeVcI0
さらには常識を遥かに超える超兵器まで、敵は実用化している。
重苦しい空気であった会議室内の空気はさらに、重く冷たいものとなる。
もしこれが本当なのだとしたら。
防ぐ手段がないどころか、攻撃方法も不明のため、対策を考えることすら出来ないのだ。
すなわち、今後海で行動するにあたってとてつもないリスクと恐怖を負わなくてはならなくなる。
安全な航路をどうやっても確保できず、実質的に制海権を確保することが不可能ということになる。
広大な土地を持ち、それに伴い広範囲に広がる領海を支配する、また海を挟んでの植民地を持つルナイファにとってそれは、致命的と言えた。
304
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:07:39 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「そして......最終的には派遣した艦隊はとてつもない被害が出ており、現時点で無事が確認できているものは撤退した38隻のみ、となっております」
(; ´_ゝ`)「失礼。その......その他は?」
一人の軍人、アニジャが手を挙げ質問した。
その質問にデミタスはさらに汗を流し、答える。
(;´・_ゝ・`)「敵の攻撃の前に沈むか......もしくは航行不能となったと見られます。また撤退してきた艦も完全に無事というわけでなく、多くがもう戦線に戻すことはできないような状態です」
(; ´_ゝ`)「......」
(;*゚ー゚)「......」
(; ФωФ)「......」
唖然。
あまりの被害の大きさに声を出すことが出来ない。
そんな中、アニジャの弟であるオトジャが続けて質問をする。
(´<_` ;)「......それで、敵の損害は?」
(;´・_ゝ・`)「まず海戦については、正確な数は不明です。情報が混乱しており現在精査中ですので......ただ、報告では全く被害を与えていない、というものから数隻に被害を与えた、というものまでありますが......」
(; ФωФ)「?」
305
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:08:33 ID:BT2yeVcI0
(;´・_ゝ・`)「......多くの情報を纏めると恐らく全く被害を与えられていない、と思われます。多くても数隻、最悪一隻も沈めることが出来なかった、と......大敗したと見て、間違いないでしょう」
(;*゚ー゚)「そんな......」
(;´・_ゝ・`)「ただし、陸ではある程度の損害を与えたと思われます。ですがこちらも、敵の捨て身覚悟の攻撃により、上陸部隊は全滅。ムーの奪還どころか、上陸地点の維持も出来なかったことから、戦略的に敗北と言えるでしょう」
既にルナイファは国家の1/3以上の艦を動かしている。
それが、敵を撃滅するどころかこの世から消え去ったというのだ。
さらに送り込んだ陸上部隊も叩き潰され、反撃の糸口も失われた。
そして何より、個人の才が重要な魔法において多くの人材を失うことの被害の大きさは計り知れない。
お伽噺に出てくる、悪魔が可愛く見えるほどの大惨事である。
これほどの被害を一度に受けるなど、国家の危機と言い換えても良いほどの被害であった。
306
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:09:43 ID:BT2yeVcI0
( ^Д^)「......それで?」
(;´・_ゝ・`)「は?」
だが、そんな現実を理解できない者も、少なからず存在していた。
信じられないことに、という注釈が付くが。
(# ^Д^)「は、ではない!それで、どうするというのだ!!奴ら、人間にやられ、雁首揃えて項垂れて......それでも貴様ら、ルナイファのエルフか!!敵は人間!!すぐにでも再攻撃を行い、敵を叩き潰す!ただそれだけであろう!!簡単なことではないか!!」
(;´・_ゝ・`)「それは......」
開いた口が塞がらないとはまさにことことか。
あまりの現実の見えて無さに、デミタスは頭痛を覚えるほどである。
そしてなにより、こんなバカげた発言に同調し、頷くものが何人もいるのだ。
人間に負ける、それが信じられずまた受け入れることが簡単に出来ないことはデミタスも理解は出来る。
だが、だからといってここまでバカげた妄想を続けることが出来るとは―
307
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:10:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「プギャー閣下。はっきりと、申し上げます」
( ^Д^)「......なんだ?」
(´・_ゝ・`)「我が国は、既にムーを奪い返す力はありません。もうその段階にはないのです。今出来るのは、いかに被害を抑え、負けないか、ということです」
(# ^Д^)「なっ......そ、そんなことあり得るわけないだろう!!まだ、艦隊は多数残っているではないか!!それを使えば良いだろう!!」
(´・_ゝ・`)「確かに......残ってはいます。しかし、我が国の本土の防衛を考えるとそう多くは出せません。敵は強大であり、かなりの数の艦がなければ妨害にすらならないと思われます。さらに東方海域については、今回の件に関わっている可能性があり、またそうでなくても敵対関係にあるソーサクが存在しています。こちらからの戦力抽出はほぼ不可能です」
(# ^Д^)「......」
308
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:11:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「そしてその他、西からの戦力を抽出したとしても......今回派遣した戦力以下のものしか用意できません。今回ですら被害を与えられなかったというのにそれ以下の戦力では、同じ結末になる可能性が高く、敵の資源を消費させることしかできません」
( ´_ゝ`)「そもそも再度大規模攻撃を行うには部隊の再編のため最低でも数ヶ月、準備が必要でしょうから......そうなると敵も準備をするでしょうし、敵が資源が豊富なムーで補給が可能となった今、資源の枯渇も望めないかもしれません」
(´<_` )「付け加えるなら、魔術師についても問題ですね。艦を動かせる優秀な魔術師が多く失われた今、簡単に補充出来ません。どう足掻いても戦力は低下してしまいます。そんな状況ではどうやっても勝てますまい」
(# ^Д^)「......ぐ」
ここぞとばかりにアニジャ達が追撃をする。
彼等、軍人にとって今後戦うかもしれない敵は、強大すぎるのだ。
そんなものに誤った知識のまま無駄に突撃させられては堪らないと言葉をぶつける。
そんな突然の口撃に、流石のプギャーも言葉を詰まらせる。
309
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:12:37 ID:BT2yeVcI0
その様子をデミタスは見て、内心助かったと感じながら話を続ける。
(´・_ゝ・`)「さらに言うなら、今回の派遣で属国軍が持つ戦力を削られたのが痛すぎました。既に南方の属国で派遣できる戦力は残っておらず......また敗戦により他の国でも我が国への不信感が高まっており、今後の要請に影響が出る恐れがあります。未確認ですが既に離反するような動きが見られる国家もある、と」
( ФωФ)「そうか......周辺国から数を揃えて敵にぶつけ、時間を稼ぐことも難しい、というわけか」
あまりに厳しい現状にロマネスクは顔を歪める。
元々、力により多くの国を支配してきたルナイファにとって、敗北の影響はあまりに大きい。
力が大きすぎたが故の適当な外交、という名の暴力に頼ってきたツケが回ってきてしまったのだ。
(´・_ゝ・`)「そうなります。とはいえ、なにもしない訳にはいかないでしょう」
( ´_ゝ`)「......策があるということですか?」
310
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:13:23 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「はい。まず、前提として敵はムーを占拠し、食料などの物資を運び出し、また逆に武器と思われるものなどが運び込まれているとの情報があります」
( ФωФ)「ふむ......」
(´・_ゝ・`)「この際、大型の船舶が用いられているとのこと。技術体系が異なるため確定ではありませんが、やはり海を挟んでの土地のため物資の輸送が必要なようです。そこでこれを狙います」
( ФωФ)「通商破壊を仕掛けるのか」
(´・_ゝ・`)「はい、敵の輸送を止めることができればまだ巻き返すことが可能かと」
(;*゚ー゚)「......本当に、可能なのでしょうか?あの、海戦で勝てるとは......その」
恐る恐る、といった雰囲気でシイは質問をする。
先ほどの話で、ルナイファが敵に対して海にて優位性は全くといっていいほどないのだ。
海上で戦いを仕掛け、勝てる見込みがあるとは思えなかったのである。
311
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:14:06 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「えぇ、私も同感です。まず、勝てないでしょう」
そして、それをあっさりとデミタスも同意した。
その言葉に皆、ぽかんとした顔となる。
(; ФωФ)「......ど、どういうことであるか?」
(´・_ゝ・`)「あくまでも、敵船舶に攻撃が出来れば御の字、ということです」
(´<_` )「......撃沈が目的ではない、ということでしょうか?」
(´・_ゝ・`)「その通りです」
デミタスは大きく頷き、話を続ける。
(´・_ゝ・`)「こちらから攻撃を仕掛ければ、敵は輸送船舶の安全ために護送船団......つまり、護衛をつけるようになるはずです」
( ФωФ)「それは分かるが......それが?」
312
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:15:03 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「つまり、輸送コストが増える、ということです。召喚という災害を受けた今、資源問題は奴らにとって痛い問題であるはず。敵の保有艦数によっては輸送量に制限が掛けられるかもしれません」
( ФωФ)「なるほど、な......だが、つまり......敵の資源の消費を増やすために、艦と命をかける、と」
(´・_ゝ・`)「......はい。ただし少数でも定期的に仕掛ければ、再度の攻撃を警戒をするはずです。そうなれば、攻撃を仕掛けなくても輸送に護衛を付けざるをえなくなります」
(; ФωФ)「......やらないよりかは、マシ、と言ったところか」
( ´_ゝ`)「ですが、敵をフリーハンドにするわけにもいかないと考えると......」
(´<_` )「やらないといけない、といった方がいいかもしれませんね」
命を賭けてもその程度しか得ることが出来ない。
コストに対してリターンが少なすぎる。
だが、現在この案以上にリターンが得られる画期的な作戦も思い付かない。
313
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:16:01 ID:BT2yeVcI0
(´・_ゝ・`)「えぇ。幸い、こちらには艦はまだあります。それも、旧式の退役予定のもが。これを使い、少しでも時間を稼ぎつつ、守りを固め、敵の情報を集める......この方針で進めるのが良いかと」
(# ^Д^)「......ふざけるな!!やり返すどころか、守りを固める!?さらにはそのような屈辱的な作戦を......」
(´・_ゝ・`)「お気持ちは分かります。ですが、他にすぐ出来ることもないのです」
(# ^Д^)「......」
(´・_ゝ・`)「攻めるよりは守る方が、簡単です。数さえ揃えれば、本土を守りきれるはずです」
(; ФωФ)「......本土が、危ないというのか」
(´・_ゝ・`)「宣戦布告をし、こちらから攻撃をした以上......反撃がない方がおかしいかと思われます。可能性としては非常に高いかと。とはいえ少なからず、敵にもダメージは与えられています。若干の猶予はあるのではないか、と思いますが」
本土という言葉に、また会議室が騒がしくなる。
これまで敵に侵略を受けることのなかった自国の土地に、危機が迫っている。
それも人間の土足により、踏み荒らされそうとなっているというのだ。
現実が見れていない者たちも、その言葉にようやく顔を青くし始める。
314
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:16:39 ID:BT2yeVcI0
(# ^Д^)「......ふん」
ただ、それでも納得をしていなかった男もいた。
デミタスを睨み付けてもなにも変わらないというのに、怒りのままに視線を向ける。
そんな視線をまるで気づかないかのように、無視しデミタスは話を続ける。
(´・_ゝ・`)「また、この守りを固めるに当たってですがトウキュにいる学徒を本土まで引き上げさせる予定です。彼らへ被害が出た場合、国全体の士気に関わります」
( ФωФ)「確かに学徒は引き上げた方が良いとは思うが......人員を減らして大丈夫なのであるか?トウキュの防衛はどうなる?」
(´・_ゝ・`)「防衛に関して言えば学徒がいなくなっても影響はないでしょう。またトウキュ防衛は援軍を送ろうにも、国を守りきれるほどの大部隊は間に合いませんし、そもそもそんなものを送り込む余裕はありません。そして、今いる部隊では守りきることは不可能と思われます。敵の攻撃はムーに行われたものから考えて、広範囲を吹き飛ばすことが可能なようです。ムーと同じくトウキュの基地は1箇所に集中した大規模基地のみですから、ここに同様の攻撃が加わるだけで防衛は崩壊します」
( ФωФ)「とはいえ、今から配置を変えることは......」
(´・_ゝ・`)「えぇ、時間が足りません。基地は動かせませんから。出来ることとしたら、人員を各地に散らしてのゲリラ戦くらいでしょうか」
時間稼ぎにしかならないでしょうが、とデミタスは続ける。
打つ手がないと同じ意味の言葉を話す彼に、多くの者がうつむき、頭を抱える。
だがそれでも、何とか現状が打破できないかと考える。
315
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:17:34 ID:BT2yeVcI0
(*゚ー゚)「......あの、基地の防衛なのですが魔壁でどうにか、ならないでしょうか。その、基地を覆うようにできる、はずですよね?」
(´・_ゝ・`)「確かに対ワイバーン用にその様な魔法陣は存在します。ですが、ワイバーンを想定しているため、あの規模の攻撃はかなり厳しいです。発動できれば多少は耐えることが可能でしょうが、不意打ちで初撃を加えられた場合はどうしようもないですね。常に魔壁を使用することも資源の都合上、できませんから」
(*゚ー゚)「なるほど......確かに、そうですね。失礼しました」
(´・_ゝ・`)「いえ、このような状況です。これまでの戦い方では勝てません。様々な意見を検討する必要があります。このため、他の方も何か思い付いた場合はご意見をお願いいたします」
( ФωФ)「では、我輩から。先日より行っていることであるが、敵に対抗すべく新魔法の開発を......」
( ^Д^)「......」
その後も、夜遅くまで会議は続いたが現状を打破できるような案は出てこない。
ただただ会議は躍り、無為に時間だけが進んでいく。
そうして結局、何人かの不満を残したままデミタスの案が採用されることとなったのだった。
316
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:18:57 ID:BT2yeVcI0
ルナイファ帝国 帝城 寝室
会議室で多くのものが話し合う中、アラマキは一人寝室でベッドに腰掛け、頭を抱えていた。
普段であれば最強の国に相応しい堂々たる雰囲気を纏わせている彼であるが、今はどこにでもいるような老人のような弱々しさであった。
/ ,' 3「......」
なぜ、こんなことに。
そんな思いに体を震わせる。
全て上手くいくはずであった。
異界から国を呼び出し、それを制圧することでより強固な国を作り上げる。
そうしてこの世界の覇者として、これまで通り進んでいく。
そう、なるはずであった。
当然、成功するはずだったのだ。
317
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:19:38 ID:BT2yeVcI0
だが、蓋を開けてみれば敗北に次ぐ敗北。
何もかもが上手くいっていない。
間違いなく最強であった自国がこのようなことになるなど、いったい誰が想像できようか。
そしてもし、そんなことが分かっていたら異界から国など呼び出さなかったというのに―
そんな今更どうしようもないような後悔が、拭っても拭っても沸き上がる。
/ ,' 3「......いや」
だがしかしと、冷静に考えてみればそもそも初めに軍が負けたとき、あのときにしっかりと考えていればこんなことにならなかったのではないか、とこれまた今更な考えが浮かぶ。
考えてみれば当たり前のことのように感じられるが、あの当時のアラマキに言ったところで聞くことはなかったであろう。
318
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:20:12 ID:BT2yeVcI0
アラマキは自国に油断も隙もあったことは知っていた。
王として国を纏めあげるため、多くのもの達を見てきている。
だからこそ、この国に腐りつつある者達がいることも分かっていた。
しかし、その者達は貴族などの有力なコネであったりなにかしらの影響力があるため、無闇に突っぱねることもできなかった。
いい例がプギャーである。
彼自身は無能ではあるものの、非常に多くのコネクションを持っており、そしてそれを動かせる影響力を持っている。
ゆえに、彼が離反などすればそれこそ悪影響なためにどうすることもできなくなっていた。
とはいえ、そんな無能がいても国は回るほどに力があったため、そこまで問題視はしていなかった。
慢心。
まさにその通りであろう。
319
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:21:08 ID:BT2yeVcI0
だからこそ、初めの敗北はその慢心をつかれたものと考えていた。
そのしっぺ返しが遂に来てしまったのだと自分の愚かさに嘆きながらも、まだこちらは本気ではなかったために、何とかなるだろうと確信していた。
何故ならルナイファはこの世界で最強なのだから、最強の国が負けるはずなどないのだから、人間相手に本気になれば絶対に勝てるのだから、と。
考えなくてはいけないことから、逃げる理由が見つかってしまったがゆえに、可能性を見落とした。
とんでもない、見落としである。
敵が自分達よりも強いかもしれないという、至極単純な可能性を、見落としてしまったのだから。
/ ,' 3「とはいえ、どうすればよいのだ......」
単純に考えるならば、講和が望ましいだろう。
力で負けている以上、このまま戦えば多くの被害が出てしまう。
更に軍人という、ある程度若くそして魔法の才あるものが多く失われれば、近い将来に暗いものを残すことになる。
320
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:21:51 ID:BT2yeVcI0
とはいえ、こちらは一度敵の提案を断るどころか、宣戦布告までしてしまっている。
更に敵から見ればこちらは国家を召喚した憎むべき相手。
そして圧倒的ともいえるこの戦況から考えるならば、講和しようにもとんでもない条件をつけられるか、そもそも鼻で笑い飛ばされ、国を滅ぼしにくるかのどちらかだろう。
そんな話を纏められるほどの人材が、果たして自国にいるのだろうか。
外交を蔑ろにしてきたことによる圧倒的な外交官のスキル不足。
それが、ここで大きくのしかかってくる。
またもし、講和が出来たとしても召喚された人間達をよく知らない周辺国からすれば、人間に頭を下げる国として心証を悪くすることは目に見えている。
あれほど強くても、未だ当事者であるルナイファの中にも現実を見れていないものが多くいるのだ。
遠くの無関係の他国であれば、尚更であろう。
321
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:22:56 ID:BT2yeVcI0
ただでさえ敵を作りすぎているのに、そのようなことになれば疲弊した国へ新たな敵が雪崩れ込んできてもおかしくない。
そんなことになっても負けはしないだろうが、多くのものを失いすぎた今だと国家として崩壊しかねない。
/ ,' 3「......」
そうなると、やはり考えるのは勝利。
とはいえ、高望みはしない。
局地戦だけでもいいのだ。
どこかで敵を退け、戦線が膠着したところで話し合いになれば、まだ良い条件を引き出すことが出来る可能性が高い。
―退けられる可能性が高いかは、また別の話なのだが。
そんなことはアラマキにも分かっているし、だからこそ頭を抱えることしか出来ない。
/ ,' 3「......どうすれば」
もうどうすれば良いか分からないと、頭を掻きむしり、ベッドにうずくまる。
こんな姿、決して誰かに見せることはできない。
そしてこの悩みも、打ち明けることなどできない。
弱々しい姿を見せるわけにはいかないのだ。
彼はこの国、最強の国ルナイファの、帝王なのだから。
322
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:23:50 ID:BT2yeVcI0
トウキュ王国
1463年12月1日
ξ゚⊿゚)ξ「......」
この日、トウキュから離れるいくつかの船があった。
その船には多くの子供が載せられていた。
ξ゚⊿゚)ξ「......はぁ」
そのうちの一人であるツンは、小さくため息をつく。
思い出すのはつい先ほどのこと。
学徒動員にて集められた子供達が、広場に集められたかと思うと、一人の兵がこう述べたのだ。
『君たちは本国の部隊に配置転換となった。急だがこれより、移動を開始してもらう』
いきなりの発表に、集められた皆がざわついていた。
それもそのはずである。
元々本国に人が足りるからとこちらに来ていたはずなのだ。
これから制圧する地域の安全が確保できたら向かう、それが当初の予定であったはずなのだ。
323
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:24:37 ID:BT2yeVcI0
それが、急に国へ帰る?
突然の方向転換に皆、戸惑いを隠せない。
そもそも最近の軍の動きがおかしいと、何人かの学徒は感じていた。
通常ではあり得ない規模の艦隊が動き、またそれに伴い、多くの兵が走り回っていた。
何かがあったのではないか、とまことしやかに囁かれ、若干の不安が生まれ初めていたところに、今回のこの発表。
多くの学徒は本国に帰れると喜んでいたが、ツンはそうではなかった。
何かおかしい。
それが何かは、彼女にはわからなかったが決して消せない小さな不安が生まれていたのだ。
324
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:25:09 ID:BT2yeVcI0
ξ゚⊿゚)ξ「......まあ、いいか」
とはいえ、自分が何を悩んでも変わらない。
だから気分を入れ替え、帰れることを喜ぼう。
そう彼女は考え、離れていくトウキュを眺める。
小さくぼやけていくその島国は、いい場所であった。
港の活気もただそこにいるだけで楽しかったし、海も綺麗であり、夕日の沈む景色はまさに絶景。
次に訪れるとしたら、このような仕事ではなく、皆との旅行で来たい―
本国にいる、友人達の顔を思い浮かべ、小さく笑う。
折角帰れるのだから時間を見つけて、皆と会いたい、そして今の話をしようか。
そんな小さな楽しみで胸を膨らませ、気がつけば不安は消えていたのだった。
325
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 14:25:32 ID:BT2yeVcI0
続く
326
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 16:07:34 ID:pLAY8uzA0
乙
327
:
名無しさん
:2023/06/24(土) 17:12:13 ID:.pjEkWbM0
乙乙
いつまでも戦争してないで落とし所を探したいってのはわかる
328
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:03:16 ID:0AQH8Zu20
ルナイファ帝国 軍務省
1463 年12月12日
この日もプギャーは一人、苛立ちを隠せずにいた。
思い出すのは数日前に行われた会議。
この国の行く末を決めるそれは、終始無能な輩の弱気どころか売国とも言える行為で幕を閉じた―
少なくとも彼の中ではそうなっている。
(# ^Д^)「奴らめ......人間ごときに!!エルフの、ルナイファの誇りは何処へ行ったんだ!!」
世界を征服し、一つにまとめ、全てを統率するためにルナイファは存在しているのだ。
それが、どういうことか。
奴らは弱小とも言える人間に怯え、不遜にも我々に反逆をしたと言うのにやり返すどころか、亀のように引きこもると言い始めたのだ!!
もうこの国にまともなのは、自分だけなのではないか。
そんな不安が、プギャーの脳裏によぎる。
329
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:04:21 ID:0AQH8Zu20
( ^Д^)「......しかし、まだ良かった方か」
そう呟き、机の上に置かれた魔信を手に取る。
会議の前日、この魔信に一つの連絡が入った。
その送り元は、ムー。
以前にもあった、講和に関する連絡が再度届けられたのだ。
そして、何たる幸運か。
それを聞いたのは自分だけだった。
もし奴らが、あの無能で臆病で態度だけがでかく、ろくな作戦も建てられない奴らがこれを聞いていたら。
考えただけでもプギャーは恐ろしくなる。
下手をすれば、我が国は世界の頂点に立つどころか、人間に頭を垂れ平伏することになっていたかもしれないのだ。
それを防いだ自分は、この国の救世主と言えるだろう。
330
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:05:20 ID:0AQH8Zu20
( ^Д^)「とりあえずこれは握り潰すとして......こちらでも動かなくてはな」
この連絡については、国のために握り潰す。
誰にも聞かせてはならないと心に決め、彼は行動を開始する。
周りの無能には任せられない。
自分が国を救うのだと。
愛するこの国、ルナイファのために。
幸い、彼は優秀な人脈を持っている。
その人脈のお陰でこの立場にあるといっても過言ではない。
だから、動くことすら出来ない無能とは彼は違う。
彼は、動くことが出来るのだ。
( ^Д^)「まずは......こいつらか」
そうして彼は連絡をする。
彼の信頼する、国を愛する仲間達に。
彼は彼の考える、彼の愛する国のために、動き始めたのだった。
331
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:05:49 ID:0AQH8Zu20
アリベシ法書国 旧国境付近
1463 年12月16日
どうして、こんなことに。
一人の男がそんな思いを抱きつつ、森の中を走る。
自分が何処にいるかも分かっていない。
だが、今止まれば死んでしまうのではないか―
そんな強迫観念にかられ、もう息があがり、足がボロボロになっても止まることができなかった。
少し前まで、無敵であったはずの我が軍。
それが敵国ヴィップへ侵攻し、順調に領土を広げていたはずであった。
それが、何時からか。
敗北に次ぐ敗北。
まるで、ルナイファの支援が始まる前の自国に戻ったかのようであった。
332
:
名無しさん
:2023/07/01(土) 14:06:10 ID:0AQH8Zu20
いや、実際はそれよりも酷いだろう。
あれだけあった大量の物資や兵器は気がつけば送られてこなくなり、広範囲に進軍していたアリベシの軍勢は補給が追い付かなくなっていた。
そうして、ただそこにいるだけの案山子と化したモララー達は当然のことのように敵軍にやられ、逃げることしかできなくなったのだ。
快進撃の仕返しと言わんばかりの敵の攻撃に、進軍したとき以上の速度で領土が奪い返されていく。
気付けばまた、モララーの故郷であったこの土地まで押し返されている。
そしてここにももう、敵と戦う力は残されていない。
(; ・∀・)「なんで......なんで......」
その疑問に答える者は誰もいない。
否、正確にはモララーの周りにもう誰もいないのだ。
皆、死ぬかはぐれてしまい、軍としての体面すら保てていない状態である。
(; ・∀・)「......助けて......」
そう、ポツリと彼は祈るように呟いた。
それが神に対してか、もしくはルナイファに対してかは彼にも分からなかった。
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