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異界大戦記のようです
1
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。
魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。
きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。
ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。
196
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:01:26 ID:VpsdaqYg0
さらに頭痛が増してきたのか、シラヒーゲは頭を抱える。
このままいけば、自国の民を不幸にする。
それこそ、戦えるものを全て戦地に送らねばならない事態になりかねない。
そのような総力戦、もし侵攻を耐えきったとしても国はボロボロになり、立ち行かなくなる。
もはや、詰んでいるのではないかとすら思えるほど、未来は暗い。
( ´W`)「奴らを倒せるなら悪魔にだって頼りたいところだ......いっそのこと、こちらから下るべきなのかもしれんな」
(;‘_L’)「へ、陛下それは!!」
( ´W`)「この首一つで民を守れるならば、だがな......」
自分の首にそこまでの価値があるのだろうか。
そもそも、ルナイファはお世辞にも外交が上手い国ではない。
ただひたすらに脅迫し、その力で押し潰すことが常である。
まともに交渉になるとは思えない。
そんな不安に遂には心身ともに限界を迎え、シラヒーゲは数日間、部屋に籠ることとなるのであった。
197
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:02:26 ID:VpsdaqYg0
ムー国 市街地
1463年8月24 日
圧倒的な力により、一日にして敗れたムー。
だが、攻撃がよほど正確だったのであろう市街地の建物はあのような地獄があったとは信じられないほどに無事であった。
そんな街を眺めながらクーは歩いていた。
といっても堂々と歩いているわけではなく、変装魔法を駆使し、人間に化けて周りに溶け込むようにである。
川 ゚ -゚)「......ふーむ」
街の中は数は少ないが何人かの人間が歩いていた。
ムーの人間たちもいるが目立つのはやはり、妙な斑模様の服を着た奇妙な集団であろう。
川 ゚ -゚)「召喚地の兵士、か。見れば見るほど我々の兵士と違うな」
それは召喚地から来た人間の兵士であった。
魔術的な要素は微塵も見られないその格好。
まさに異界の兵士と呼ぶにふさわしい、彼女の常識からしたら異常としか言い様のない格好である。
198
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:03:39 ID:VpsdaqYg0
だが。
川 ゚ -゚)「『じゅう』......あれがあれば我々も」
その力が本物であり、そして圧倒的であることを知っている。
力の根元は集団が持つ、黒いなにか。
杖とも違う、異界の武器。
それが使われた瞬間を見たときは、『くるま』や『ひこうき』程ではないが驚愕した。
なにせ、たった一人の兵から光弾が連続で放たれるのである。
威力は彼らが持つ力の中では程ほどではあるが、貫通力が高く、また全ての兵が同じものを持っているのを見ると、どの兵でも同じようなことができるのだろう。
才能が大きく関わる魔法との、大きな違いである。
199
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:04:13 ID:VpsdaqYg0
川 ゚ -゚)「......とはいえ、無敵ではない」
だが、それと同時に兵士毎に大きく力の差がないと言うことである。
魔法であれば、才能あるものならばあの攻撃より、強い魔法を放つことが可能である。
精鋭部隊であれば相手ができ、勝てるかも知れない。
そしてなによりの弱点。
『〜〜!!??』
なにやら騒がしい声が聞こえたかと思うと、唐突に兵士の集団めがけて、建物から火の玉が襲いかかる。
直撃した兵士は一瞬で燃え上がり、地に伏せる。
『〜〜!!』
その炎の出所に向かって兵士達が『じゅう』を向け、叫ぶ。
翻訳魔法を使っていないため、何を言っているかは分からないが恐らくは攻撃のための合図かなにかなのであろう。
200
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:04:40 ID:VpsdaqYg0
ババババッ!!
リズミカルな音と共に、光の弾が建物へと吸い込まれていく。
(;-@∀@)「はぁ......はぁ......くそっ!!ガッ!!」
そこには統治軍の生き残りかその関係者だろう男がいた。
必死に魔壁を貼るが、貫通力のある複数の光弾を防ぎきることは出来ず、幾つかが貫通し、体を赤く染める。
何度見ても恐ろしい攻撃である。
さて、唐突に始まったこの戦闘であるが、最早この国において追われる立場となったルナイファの生き残りは、今のように建物に籠り、不意討ちを行うことが続いており、今回も恐らくはそれであろう。
そして、人間の兵士達はこれを潰すために周回をしているようである。
201
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:05:31 ID:VpsdaqYg0
そんな様子を数日前から彼女、クーは見ていたのだが、そこから魔術師の兵と決定的に違う点が見つかった。
それは、魔壁の存在。
言ってしまえば人間達の兵は防御力が極端に低いのである。
あれほどの火力を誇る彼らなのに、なぜこのような武力の進化を遂げたかは分からない。
だがもし、実現してほしくはないが今後、敵対することがあれば役に立つ情報であろう。
もしくは。
川 ゚ -゚)「我々があの力を身に付けることが出来れば......」
出来るかどうかは不明であるがもしあの武器を自分達の力にすることが出来れば。
守りは魔壁、そして攻撃はあの武器を使う。
攻守において、完璧と言えるであろう。
ソーサクは間違いなく、成長できる。
それも、この世界の強者として。
202
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:06:01 ID:VpsdaqYg0
(;-@∀@)「ご......ばっ」
気付けば魔法を放っていた男は、体に複数の穴を開け、血を吐き地に伏せていた。
あの様子を見るに、もう手遅れであろう。
川 ゚ -゚)「......ん?」
そこでようやく、クーはどこかで見たような顔だと気がついた。
遠くであったため、よく分からなかったがあの特徴的な眼鏡。
それが目に入り、思い出す。
川 ゚ -゚)(あぁ、統治局の......)
正直、まだ生きていたのかという感想と、よくもまあ軍人でもないのに襲いかかったものだと感心半分、あきれ半分といったところである。
だが、思い返してみればアサピーの性格からして人間に支配されるなど耐えきれなかったのだろう。
それゆえにあのような無謀な行動に出たのだと。
勝てるはずもないのに馬鹿なことだと彼女は笑う。
203
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:06:42 ID:VpsdaqYg0
川 ゚ -゚)「まあ、どっちにしろ変わらないか」
だが思い返せばあの男が命じて人間の国の使者を殺したとのことであったはず。
かなり温情な対応をする人間達とはいえ、あの男が許される未来はなかったであろう。
そう考えれば一人を道連れにして、死んだあの男はある意味正しかったのではないかとすら思えた。
川 ゚ -゚)「......馬鹿馬鹿しいな」
そんな馬鹿げた考えに自分で笑い、クーは来た道を引き返す。
彼女は自分のできることをやろうと、集めた情報を送るため、そしてどうすれば信じてもらえるかを考えながら彼女は誰にも気付かれないよう人の中に紛れ、街に消えた。
204
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:07:24 ID:VpsdaqYg0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年8月29日
クーからの驚くべき、いや気が狂ったとしか思えない情報が届いてから約一ヶ月。
あれからもクーからは似たような情報が次々と届けられていた。
誰もがもう、彼女は狂ってしまったのだと信じていなかったが新たに撮られた念写と、他の諜報員からも似た情報が届けられたことにより、事態は急変した。
未だに多くの者があり得ないと信じてはいないが、ドクオは違った。
次々と入る情報を整理し、ついに現実を見ることとなったのだ。
('A`)「......ということで、どうやらルナイファは召喚地の外交官を一方的に処刑したことで相当の怨みを買い、今回の事態となったようです」
(; ´∀`)「なんだそれは。本当にあの国は外交が下手すぎるな。やつら圧力と暴力しか知らないんじゃないか?」
('A`)「とはいえ、相手は人間、それも自分たちが呼び出した奴隷、という認識だったからと思われますから」
( ´∀`)「まあ確かにな。だがあの国は小国相手なら同じことをしてるし、下手なのは事実......っと、これは関係無いな。すまない、続きを頼む」
205
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:08:32 ID:VpsdaqYg0
('A`)「あ、はい。えー、今回の被害は完全にルナイファ側の不手際としか言いようがありませんね。どうやら会談の際に脅しのためにいろいろと情報を出したようで......折角の情報アドバンテージをわざわざ相手に伝えたせいで、派遣した部隊を潰され、そして逆に攻撃を受けた、という流れのようです」
( ´∀`)「ふむ......」
クーなどから届けられた情報を聞き、モナーは深く考える。
とはいえ、ドクオとは違い完全に信じているわけではなく、人間への偏見はそのままに、である。
人間達が強力である可能性については、以前の念写により把握している。
だがどうしても先入観が優り、信じきれない。
さらに優秀な魔術師であるというプライドもあり、人一倍魔法に対してプライドが高いのだ。
そんな彼が、魔法よりも優れたものがあるかもしれず、それを人間が生み出し所有するなどということは簡単に受け入れられることではない。
206
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:09:12 ID:VpsdaqYg0
だが、伝えられた情報を無闇に否定せずに考える。
彼もこの仕事を続けてきて情報の重要性は分かっているからである。
ただし、信じがたいことについてはあくまで可能性の一つとして考える程度、という注釈が付くのだが。
そうしてしばらく考えていたかと思うと、彼は何かに納得したのか小さく頷いた。
( ´∀`)「なるほど、人間どもが妙に対応が早かった理由はそれか。召喚という大災害と言ってもいい事態にこれほどまで早く対応できることになにかおかしいとは思っていたが......ルナイファの自爆だったと」
('A`)「そのようです」
( ´∀`)「ふーむ、そして外交官を殺されて報復にムー強襲......流れとしては自然だな。とはいえ、それがルナイファ相手に成功するとは信じられんが、余程慢心してたのか......それで?これからの動きについてはなにか分かっているのか?」
('A`)「はい。人間側ですが、早期の講和を望んでいるようです。なおルナイファは全く応じる様子はなく、むしろ再攻撃に向けて準備が進められていると、ルナイファに潜伏中のイヨウさんからの報告があります」
( ´∀`)「ほぅ?それはまた......あれほど一方的であったのだからこのまま攻め込むものだと思ったが......そんな理性があるとはな」
('A`)「恐らくですが召喚の影響で国内が混乱しているのでしょう。ですので他国のことより自国に専念したい......この様なところではないかと」
( ´∀`)「まぁ......当然と言えば当然か。しかし、片や外交下手、もう片方は人間では、互いにまともな交渉など出来るとは思えんな」
207
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:10:01 ID:VpsdaqYg0
召喚などされれば、他国との繋がりが絶たれるのだ。
国際的に完全に孤立した国家でなければ、どんな国でも他国との繋がりはあるものだ。
物資はもちろんのこと、技術などに関しても他国を頼ることは珍しいことではない。
そんな繋がりがいきなり、無くなる。
それにより生まれる混乱がどれだけ大きいかは想像を絶するだろう。
そんな国が内部の事を放置して、様々なものを消耗する戦争を行うことに本来無理があるのだ。
恐らくはそのような理由で彼らは戦争を辞めたいのだろうとドクオは予測する。
('A`)「また召喚地の動きとして、ムーに関しては完全に自国に引き入れる動きが見られます」
( ´∀`)「食料と資源が狙いか?」
('A`)「ええ、間違いなくそうでしょう。が、ここで気になることがありまして......」
( ´∀`)「ん?なんだ?」
208
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:12:27 ID:VpsdaqYg0
('A`)「運び出されている物資に、黒い燃える水があるとのことです」
( ´∀`)「なに?それは......」
('A`)「はい、我が国でも見られるあれです」
( ´∀`)「そんなものを一体なにに?あんなものがあっても害しかないだろう?」
('A`)「不明ですが......その、クーからの情報では人間達にとって最も重要なものだとかで」
( ´∀`)「あんなものが?おかしなやつらだな......しかし魔法を使えんとそんなものに頼らなくてはならないとは、多少力はあるようだが哀れなものだ」
(;'A`)「......えっと、その」
( ´∀`)「ん?なにかあったのか?」
(;'A`)「......いえ、何でもありません」
( ´∀`)「......まぁ、いいが」
急にドクオの報告が口ごもる。
先ほどまではあれほどまでにスムーズだったのに、この変わり様である。
明らかに何かを隠しているかの反応である。
だが、モナーはあえて追求はしなかった。
( ´∀`)「ただ、今後に必要なことなら、時期を見て話してくれ。そうでないならいい。それでいいかな?」
('A`)「......はい」
209
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:12:54 ID:VpsdaqYg0
ドクオは信頼する部下である。
言えないのも、何かしらの理由があり、必要になれば言ってくれるだろう。
そんな信頼のもと、彼らの会話は終わった。
('A`)「......はぁ」
そして、一人部屋に残されたドクオは深くため息をついて、纏められた報告書を手に取る。
理由は先ほど、言えなかった報告に関係している。
(;'A`)「やっぱり、無理だよクー......あんな提案」
その報告書には、クーからの報告を纏めたものであった。
人間達の兵器の恐ろしさや事の経緯などの情報の数々。
そんな報告書には、彼女からの提案が書かれていた。
『召喚地との同盟』
初め見たときはやはり頭がおかしくなったのかと思った。
だが、そのあとに続く内容を読み、理解する。
これは、彼女が本気で考えたことなのだ、と。
210
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:14:19 ID:VpsdaqYg0
報告書の内容はこのように続いていた。
『彼の国の資源となるのは燃える水である。我が国で湧き出るものと同一のものと思われる。つまり、もし我が国が同技術を手に入れることが出来ればこれまで資源がなく苦しんできたのが一変し、資源産出国となることができる。』
『彼の国は魔法を知らない。そして魔法を使う相手と戦争をしている今、魔法の情報を最も欲している状態である。さらに彼の国は仲間がいないため、仲間も必要としているはずである。だからこそ技術情報を交渉材料に彼の国との同盟に関して交渉を行えば、大きなアドバンテージを得られる。交渉にて彼らを御することも可能かもしれない。』
『彼の国と敵対するべきではない。こと戦争においては勝ち目はほぼなく、敵対すれば無駄に命を散らすだけである。また仮に敵の多さに彼の国が対応しきれなくなった場合、ルナイファに彼の国の兵器が鹵獲され、技術を手にしてしまえばそれこそ手に負えなくなる。これだけは防がなくてはならない』
『彼の国の技術は才能に頼ることがない。この違いは国力の違いに直結するであろう。そして、これからの世界を変えることになる。従って我々も魔法のみの依存をやめ、彼の国の技術との共存を目指すべきである。』
そう、結論付けられ報告書は終わっていた。
211
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:16:03 ID:VpsdaqYg0
('A`)「......」
話は理解できる。
だが、だからといっておいそれと受け入れられるものではない。
彼ら、ドクオ達の価値観は魔法が主軸であり、それが当たり前のことなのだ。
つまりは才能による格差が当たり前である。
魔法を使えるからこそエルフは神に選ばれた存在であり、その他の存在を支配し管理するに至ったと信じている。
魔法こそが、彼らエルフの存在を支える精神の柱なのだ。
だが、これは。
魔法を才能に依らない技術は。
それを根底から覆す。
これまで自分たちがトップであった、決して崩れることのない足場の上で安心をしていたのに、それが格下と思っていた存在に崩される。
そんなことを、当たり前のように、簡単に受け入れられるわけがない。
212
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:17:21 ID:VpsdaqYg0
(;'A`)「......」
しかし、この報告書は理解できる。
数多くの情報を処理し、現実を受け止めようとしてきた彼には理解できるのだ。
だからこそ、彼の心の中は決して受け入れることのできない考えと彼の中の常識がぶつかり合い、脳内をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
認めてしまえば彼のアイデンティティーを否定し、世界の中で至高の存在であったはずのエルフを否定することになる。
だが、いくら目をつむっていても現実は変わることはない。
むしろ、これから人間達によってエルフの聖域が壊されていくのだろう。
そのときになっても、目を瞑っていることはできるのだろうか。
この戦争は世界を狂わせる。
世界が彼の国の狂気、異界の常識に染まるのは、恐らくは遠くない。
いつまで自分は正気でいられるか、いや、そもそも正気でいるべきなのか。
こうして彼は眠れない夜を過ごすこととなるのであった。
213
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:17:56 ID:VpsdaqYg0
続く
214
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 18:11:44 ID:DvMnVAgU0
乙!石油か!そして銃は強いね!
215
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 20:19:41 ID:G99Jd3U60
乙です
216
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:14:49 ID:kXBs2RV20
ヴィップ共和国 最前線
1463年9月1日
おかしい。
そうモララーが感じたのはついこの間のことである。
あれだけ進んでいた前線が気がつけば膠着していた。
いや、それどころか押し返され始めている。
なぜこんなことに、といえばすぐに答えは分かる。
ルナイファからの物資が全くと言っていいほど届かなくなったのだ。
ただその理由は分からない。
だが、それが致命的なことは誰もが分かることであった。
元々、ヴィップと比べれば格下のアリベシ。
それがここまで前線を押し上げることが出来たのはルナイファからの支援があったからである。
217
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:15:15 ID:kXBs2RV20
兵器の供与もそうだが、それを動かすための魔石自体足りず、また補修もできないため次々と瓦礫と化していく。
そして食料もあれだけ美味であったルナイファの保存食はもうなく、ただただしょっぱいだけの自国で作られた干し肉くらいしかない。
それも、満足に食べることができないほど、枯渇している。
(; ・∀・)「......どうなってるんだ」
ただでさえ、勢いに任せて前進してしまい、その結果、突出してしまったため部隊は孤立しつつある。
後方が絶たれれば、このわずかな補給すら絶望的になるであろう。
218
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:15:39 ID:kXBs2RV20
絶対に勝てると確信したはずにのに、いつの間にか死と隣り合わせになっている。
これが、戦場なのかとモララーは身体を震わせる。
怖い。
見知らぬ土地で、もし今攻められればこれまで自分が殺してきた敵兵の如く、自分も死ぬことになるだろう。
一体どうすればよいのか、分からない。
(; ・∀・)「......」
この先になにがあるのか、彼には分からない。
そもそも前に進むべきなのか、戻るべきなのか。
それすらも分からない。
ただただ、国の流れ、命令に乗ることしかできなかった。
219
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:16:19 ID:kXBs2RV20
南方海域 トウキュ沖
1463 年10月28日
トウキュから少し離れた海域。
そこに大艦隊が進んでいた。
それらの艦はルナイファの国旗を意気揚々と掲げ、進んでいく。
彼らはムーに攻め込んできた『侵略者』を叩きのめすため、ムーを目指していた。
从 ゚∀从「っあー......くそ」
( ´ー`)「どうかしたのか?」
そんな艦隊の揚陸部隊として、トウキュに停泊していたハイン達がルナイファから出撃してきた艦隊と合流していた。
そのハインが、浮かない顔をしているのを見て、シラネーヨがそれを気にかけ話しかけてくる。
从 ゚∀从「どうもこうもねぇ、本国から来たやつらにムーの敵について何か知らないか聞かれたんだけどよ」
( ´ー`)「ふむ」
从 ゚∀从「ギコ様から聞いた話を馬鹿正直に全部話したらキチガイ扱いされたわ。マタンキとかいうあの糞野郎、ぜってぇ許さねぇ......プギャーお気に入りのエリートだか知らんがいつか絶対ぶん殴ってやる」
(; ´ー`)「あー、なるほど......まあ、落ち着けや」
从 ゚∀从「まぁ、俺もおかしいとは思うんだけどよ」
220
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:16:42 ID:kXBs2RV20
ギコから聞いた話、見えないほど遠方からの攻撃、そして魔壁でも耐えきれないというもの。
魔法の常識から考えて、あり得ないと言い切れるその報告に、本国の兵士達も全く信じるつもりはないようであった。
从 ゚∀从「でもよ、本当に聞いたことなんだがなぁ。はぁ、嫌になる」
( ´ー`)「仕方ないっちゃないんだが......ん?いや、待てよ?そもそもだ」
从 ゚∀从「うん?」
( ´ー`)「何で本国の連中も敵のことを知らないんだ?」
从 ゚∀从「......あ」
( ´ー`)「こんだけ準備期間があったっていうのに......どういうことだ?」
シラネーヨの疑問は最もなことであった。
これほどの大艦隊を動かしているにもかかわらず、敵のことがまともに伝えられていないのである。
221
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:17:51 ID:kXBs2RV20
从 ゚∀从「一応、ソーサクが関与してるから注意しろとは言われたが......規模なんかの話はなかったな」
(; ´ー`)「いやそれ、もうほとんど情報無いようなもんじゃねーか?せめて敵の規模とか使われてる兵器の情報はないのか?」
从 ゚∀从「......ねぇな」
事実、ルナイファでは情報の規制が行われていた。
まさか、敵が人間だなんて言えるはずがない。
そんなことを伝えれば敵をなめてかかり、ムーの二の舞になる恐れがあったからである。
また人間に負けただなんて伝われば軍全体の士気にも関わる。
そのため、ソーサクが関与している可能性があるということのみを伝え、敵はソーサクであるとしていたのだ。
(; ´ー`)「全く......鬼が出るか蛇が出るか、どうなるかね」
从; ゚∀从「......」
何かがおかしい。
そう分かっていてももう、引き返すこともできない。
そんな権力を彼女等は持ち合わせていないのだ。
222
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:18:23 ID:kXBs2RV20
出来ることは、進み、生き残ること。
从 ゚∀从「......俺達だけでも警戒しておくか」
( ´ー`)「それがいい。まだ死にたくないしな。ソーサク本隊を相手にすることを想定して戦術を練るとしよう」
从 ゚∀从「そう、だな」
( ´ー`)「とはいえ、やはり南方の僻地だ。敵の数は多くないはずだし、この規模の艦隊だ。数の優位は取れている」
从 ゚∀从「だが敵がソーサクとなると、向こうの方が技術力に優れているって話だろ?あまり差はないと聞くが、実際は分からん。下手すると遠隔操作の精度の差と魔壁の差で被害が大きくなりかねないぞ」
( ´ー`)「ふむ、ならば数の利点を生かし、艦同士の距離を大きく開けて複数艦にて敵に接近、だな」
从 ゚∀从「......なるほど。数を生かし、確実に相手に攻撃を与える布陣を組むわけか」
( ´ー`)「あぁ。それで魔壁については......あれだな。魔炎でどうにもならなかったら雷槍を使おう」
从 ゚∀从「雷槍、ねぇ......まぁ、あれなら当たれば絶対沈められるか。当たればだが......」
( ´ー`)「まあこれは敵に攻撃が効かなかった場合の最悪の場合だ。何にせよ、敵に近づくことを想定して魔壁に多く魔力を回すようにしよう」
从 ゚∀从「だな。それで他には......」
二人は出来る限りのことはしようとその会議は夜遅くまで続くこととなる。
戦いの時は、一刻一刻と迫っていた。
223
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:18:56 ID:kXBs2RV20
ルナイファ帝国 軍務省
1463年11月19日
この日、ルナイファの軍務省に一つの通信が入っていた。
(*゚ー゚)「......ということで、引き延ばしも限界と思われます」
( ^Д^)「ふん、そうか」
召喚地からの連絡、講和に向けた話し合いについて、返事を求める連絡であった。
これまでも何度か連絡は入っていたが、今回はその中でも特に相手が強い言葉でこちらに話をしてきており、恐らくは相手も引き延ばしに気がついているのだろう。
( ^Д^)「艦隊はどうなっている?」
(*゚ー゚)「はい、大部分がすでにムーの近くまで到達していますので、すぐにでも行動に移れます。あれほどの艦隊がここまで近づければ、敵がこれから対策をしようとしても、最早手遅れと思われます」
( ^Д^)「ソーサクはどうなっている?以前、関係があるかもしれないと言う話だったが」
(*゚ー゚)「そちらについてはほとんど動きがありませんでした。こちらの艦隊の規模を見て、見捨てたのかもしれません。なんにせよ、チャンスです。これで敵はほぼ人間のみになったと言えるでしょう」
( ^Д^)「よし。ならば、返答してやれ。宣戦布告だ。貴様らを殲滅してやるとな」
224
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:19:35 ID:kXBs2RV20
(;*゚ー゚)「え?わ、わざわざこちらから言う必要は......」
( ^Д^)「くくっ、奴らがどんな風に慌てるか見物だな。ん?おい、どうした?準備をしろ」
(;*゚ー゚)「わ、わかり、ました」
(# ^Д^)「しかし、こちらの作戦とはいえ......奴らのこのような暴言を見過ごさなくてはならないのは非常に腹立たしかったが、ようやく終わるのか」
(;*゚ー゚)「......」
この一月以上、どうにか交渉という名の引き延ばしにより、人間に対して見かけ上だけでも対等な交渉をするという非常に耐え難い心労が貯まっていた。
そもそも話をすることすら本来あり得ない相手に、それも自分たちをまぐれとはいえ負かした相手にである。
感情が入り乱れ、罵声を浴びせ、殺してやりたい気持ちを抑え、どうにか今日までたどり着くことが出来たのだ。
これで、ようやく自分の悩みが解消されるのだと考え、プギャーはフッと息をつく。
225
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:19:57 ID:kXBs2RV20
なお、彼がまるでなにかをやりきったかのように振る舞っているが実際に交渉したのは彼の部下であるし、艦隊の調整も別の部下である。
詰まるところなにもしていない、むしろ入ってくる人間達の情報をあり得ない、もし信じるものがいて本当に講話などすることになったらやり返すことが出来なくなると規制を掛けて握り潰し、周りの判断をおかしくしていた。
そんな勝手な仕事をして、勝手にストレスを溜めていただけなのだが、それに触れる者はここにはいない。
ここでは彼の機嫌を取ることも、仕事の一つなのだ。
( ^Д^)「さて、散々おかしな事を宣った奴らからいつ、許しを乞う連絡がくるか......くく、楽しみだな」
久しぶりに上機嫌な彼を見て、部下達は胸をなで下ろす。
あぁ、ようやく、仕事が一段落するのだと。
そうしてこの日、一本の連絡がムーへと送り返された。
『宣戦布告』
これにより、止まっていた時は再び動きだし、世界はまた変化の時を迎えるのであった。
226
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:20:43 ID:kXBs2RV20
ムー国 召喚地軍基地付近
ムー国の元々基地があった跡地。
多くの瓦礫があったそこには、今では幾つかの簡易的な建物のようなものがあり、人間達が基地として利用していた。
その近くには平らに整備された土地があり、『ひこうき』なるものが見えている。
そんな異界のもの達を一目見ようと、ムーの住人が遠巻きに眺めていた。
それもそうであろう。
自分たちと同じ人間。
それもエルフを一方的に葬る力を持つ、強力な人間である。
彼らにとって、久しく忘れていた希望と言っても過言ではない存在であろう。
そんな人間達に紛れ、今日も今日とて異界の存在の情報を探るべく、クーが人間に変装しながら様子を伺っていた。
この基地らしいものが出来てからは何度もここを見に来ているが、改めて彼らの力強さを認識されられる。
そもそも、魔法を使わずにこれほどまで短期間に土地を整備し、基地として利用できる能力は信じがたいものである。
227
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:21:22 ID:kXBs2RV20
川 ゚ -゚)「やはり、何としてでもこの力を......」
もう彼女は、とり憑かれたとといってもいいかもしれない。
それほどまでに、魅了されていた。
あの圧倒的な力に。
川 ゚ -゚)「取り入るためにはやはり......女であることを使うのがいいか?」
そのためには自分の身体を使うことすら躊躇いがなくなっていた。
本来であればエルフが人間となどあり得ないどころか、禁忌とすら言える。
だが、それすらも些細なことに思えるほどになってしまっていた。
川 ゚ -゚)「......ん?」
そして、そんな彼女だからこそ、気がつく。
いつもと基地の様子が異なると。
何人もの兵が慌ただしく走り回り、そして『ひこうき』が飛びたっていく。
228
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:21:45 ID:kXBs2RV20
川* ゚ -゚)「おぉ......」
その美しい姿に彼女は思わず見惚れてしまった。
過去にはワイバーンが飛びたつところを見て、似たような事を感じたこともあったが、今見た光景に比べれば何とみすぼらしいことか。
あの一つの『ひこうき』だけで、一体いくつの命を燃やし尽くすのか。
想像をするだけで、恐ろしくなると同時に高揚する。
そしてなぜいつもと違うのか、それが分かった。
また、あの力が振るわれる時が来たのだ。
その力を使う必要が来たのだ。
川* ゚ -゚)「また......見せてくれよ」
そうして彼女は、まるで人間達を応援するかのごとく、遠くの空に消える『ひこうき』に、何度も何度も手を振っていた。
229
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:22:54 ID:kXBs2RV20
南方海域 ムー近海
从 ゚∀从「......そろそろ、ムーか」
穏やかな海を順調に進んできた艦隊は、もうムーの間近までに迫っていた。
ここまで敵に出会っていなかったのは幸運なのか、それとも何かの作戦なのか。
そろそろムー間近だというのになぜ敵が出てこないのか。
全く読めない敵の行動、分からないということはこれほどまでに恐怖を生むのかとハインは身震いする。
( ´ー`)「......」
そしてそれはシラネーヨも同じ思いであった。
軍に入ったときから死ぬ覚悟は出来ていた。
だが、自国はルナイファであり、負けることなどあり得ないとも思っていた。
だというのに、ムーから聞こえる話は一方的な敗北。
これから敵対するのは明らかに強力であり、かつ未知の敵ときた。
死ぬかもしれない、という恐怖に加えて全く分からない敵に向かうというのは、覚悟があるとはいえ恐怖を覚える。
230
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:23:42 ID:kXBs2RV20
勿論、彼らが戦争を知らずに恐怖しているわけではない。
むしろ多くの国を侵略してきたルナイファの戦争経験は豊富であるといえる。
だが、彼らの知る戦争とは自国より劣る、弱小な敵を一方的に葬ることなのだ。
詰まるところ、彼ら、いやルナイファは真の意味で戦争を知らない、だからこその恐怖であった。
ぶるりとひとつ、シラネーヨは身震いをする。
从 ゚∀从「はは、震えてるな......武者震いか?」
( ´ー`)「お前こそ海風で冷えたか?」
从 ゚∀从「かもな」
ぎこちなく笑いあい、どうにか恐怖を誤魔化そうと普段通りの会話をしようとする。
だが、心のどこかで違和感が生まれ、ぎこちない。
そのまま心は全く落ち着くことはなく、だが、艦隊は順調に進んでしまう。
231
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:24:16 ID:kXBs2RV20
从 ゚∀从「......なぁ」
( ´ー`)「うん?」
从 ゚∀从「敵は......どこからくると思う?」
( ´ー`)「......定石通り、まずは偵察のワイバーンがくるだろうな。そして攻撃用のワイバーンで魔壁を削り、艦隊決戦、ってところだろ」
从 ゚∀从「教科書通りだな」
( ´ー`)「この他にどうしろと?」
从 ゚∀从「......切り込み?」
( ´ー`)「はっ。お前も気に入ったか?」
从 ゚∀从「まぁな」
未だ、敵は見えず。
何もないのではないかと錯覚するほど。
このまま、何もなければいい。
これほどの大艦隊である。
敵が見れば、戦わずに引くかもしれない―
232
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:24:38 ID:kXBs2RV20
そんな、僅かな望みともいえないようなあり得ない願望が生まれた時であった。
『......報告!何かが海中から何かが飛んでっ......!?』
外縁を進む艦から、魔信が届く。
その声が艦を響きわたると同時に。
魔壁を叩きつける、業火が艦隊に降り注いだ。
从; ゚∀从「なっ!?」
(; ´ー`)「っ!!」
遠くの艦のことであるのにビリビリとした衝撃が、ここまで伝わってくるかのような威力であった。
その衝撃に、先ほどまでの甘い考えが全て吹き飛ぶ。
そう、ここは戦場であり、自分たちは生き死にを賭けてここにいるのだ。
233
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:25:44 ID:kXBs2RV20
从# ゚∀从「被害はどうなってる!!」
『こちらに被害なし!!ただし、一撃でかなりの魔力を持っていかれました!魔方陣にも影響が出ております!!』
( ´ー`)「......被害は軽微か。対策が効いたか?」
从 ゚∀从「あぁ、みたいだな。魔壁を厚くしとけば耐えられるってことだ」
( ´ー`)「......正確じゃないな。分かってるんだろ?」
从 ゚∀从「......あぁ、くそったれ」
そうハインは舌打ちをしながら顔をしかめる。
嫌にベタつく汗を拭い、どうにか動揺する心を抑え、話す。
从; ゚∀从「さっきの攻撃......ギコ様からの報告の通りのものだった。見えない敵からの攻撃、魔壁が通じない程の大火力......」
(; ´ー`)「と、なれば残りの迎撃不能、というのも本当のことだろうな。事実、発見から直撃までの時間が短すぎる」
从; ゚∀从「......そんなの、どうすればいいんだよ!」
(; ´ー`)「ソーサクと俺達に大きな技術力の差はないと聞いてたが......くそったれ、真っ赤な嘘じゃねーか!!」
ガンと壁を殴り、頭を抱える。
多少の勘違いはあるものの、二人は現実をよく捉えていた。
234
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:26:07 ID:kXBs2RV20
何とか一撃は耐えたもののこの攻撃が続けば長くは持たないであろう、と。
特に旧式の艦や属国の艦などは魔壁が脆い。
それらは一撃すら耐えられるか、分からないのである。
たったの一撃で艦が沈み、数千が死ぬ。
ギコからの情報から最悪のパターンを想定して、準備はしていた。
だが、現実はそれを上回る。
だが、今さら考える時間もない。
『報告!先ほどと同じものが複数こちらに向かってきています!!』
再度、敵の攻撃。
从; ゚∀从「ぐっ......魔壁強化!!衝撃に備えろぉおおお!」
当たらないことを、沈まないことを願い、身を屈め衝撃に備える。
そしてその瞬間、艦隊は再度、爆発に包まれる。
先ほどとは異なり、複数の攻撃が一気に艦隊へと降り注ぎ、凄まじい衝撃が生じる。
235
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:26:50 ID:kXBs2RV20
そして。
まるでガラスが割れるかのような音と共に、いくつの艦が爆発に呑まれ、沈む。
まだ第二波だというのに、もう魔壁を突破された艦が現れたのである。
从; ゚∀从「バカな......そんな......」
呆然とするハイン。
だが、それとはシラネーヨはその様子を眺め、なんとか冷静に戦況を整理しようとしていた。
(; ´ー`)「あれは属国軍か......他が沈んでない事を見ると、やはり艦種によっては数発なら耐えられるかもしれんな。ギコ様レベルの魔術師はいなくても艦数でカバーは可能だ」
从; ゚∀从「そうだな。くそっ、これが敵の秘密兵器で、数がないなら......」
(; ´ー`)「......ん?数?......そうか、それならありうるな」
从; ゚∀从「あん?」
(; ´ー`)「お前の言う通り、数だ。あの攻撃、あれほどの威力だ。そうそう多くは揃えられないだろうし、使える魔術師なんて多くても数人。長く続くはずがない」
从; ゚∀从「......確かに言う通りだとは思うが」
(; ´ー`)「合わせてここは南方の僻地で占領されてから時間もそれほど経っていない。ソーサクから魔道具を持ち込むにも遠い。つまり量もある程度、なはずだ。現に攻撃密度が低い」
从; ゚∀从「......おい待て、まさかお前」
そこてなにかに気が付いたのか、ハインが顔色を変える。
もし彼女の考えが正しいのであればこれから行われるのは、あまりにも無謀な作戦である。
236
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:27:22 ID:kXBs2RV20
だがそれと同時に、他に出来ることもないということもわかっていた。
(; ´ー`)「陣形を完全に魔壁特化に切り替えよう。あれだけ早いとなるとどうせ対空は当たらん。魔石の無駄だ......というより、耐えるためには捨てるしかない」
从; ゚∀从「......」
(; ´ー`)「そして......」
意を決したように海を睨むと同時に、敵の攻撃と思わしき光が艦隊に迫る。
見たことのない速度で近づくそれに、恐怖を覚える。
だが、それでも怯まず前へ。
(; ´ー`)「こっちには数はいるんだ!!敵の攻撃を耐えきり、突撃するぞ!!」
敵の攻撃資源の枯渇したところへの攻撃。
もしくは迎撃漏れによる敵地への上陸。
どちらを狙うにせよ、やることは変わらない。
物量に任せた突撃。
それが、彼らに出来る唯一の作戦であった。
237
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:27:45 ID:kXBs2RV20
続く
238
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 19:24:17 ID:eIEvw8Eo0
乙
確かに兵糧攻めはかなり効果がありそうだ。
現場組は死んで欲しくないなぁ
239
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 20:22:43 ID:8A2cyMiU0
乙です
240
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:48:08 ID:YJk7.jqU0
ルナイファ帝国 帝都
1463 年11月20日
('、`*川「最近変ねぇ」
この日、ペニサスは買い物をしていた。
たまには良いものを買おうと、帝都の中心地まで来ていたのだがその品揃えに首をかしげる。
('、`*川「これも売り切れ?......そんなに人気なのかしら?」
いつもであれば沢山のもの陳列がされているであろう棚にはスペースが見られ、お気に入りの南方の果物を使った菓子を売る出店は閉じていた。
とはいえ、全く何もないわけではない。
むしろ多くのものが並んでおり、見るものの目を楽しませる。
('、`*川「うーん......」
だがその分、いつもならあるはずのものがないのが目立っている。
特になくて困るものではないのだが、何となく気になるのだ。
そしてなにより、ここにない理由。
ペニサスもそれとなく店員に聞いてはみたものの、何ともはっきりしない答えであり、分かったのは原材料がなぜか手に入らないということだけであった。
241
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:49:04 ID:YJk7.jqU0
('、`*川「まあいいか。今日はこっちのものを試してみようかしら」
しかし、無いものは仕方ない。
気持ちを入れ替え、折角だからといつもと違うものを買ってみる。
近くにあったベンチに座り、早速一口、食べてみる。
初めて食べる味わいだが、流石は帝都、良いものを使っているのだろう。
これもまた良いものであり、思わず笑みが溢れた。
そんな風に休日を満喫しながら、ふと生徒たちのことを思い浮かべる。
思えば今、この国は戦争、と呼べるかは敵が弱すぎて怪しいが、それでも争い事に出向いている子がいる。
彼らは、今頃何をしているのだろうか。
そろそろ終わりそうなものだが、いつ帰ってくるのだろうか。
そして、帰ってきたらどんな授業をしてあげようか。
そんな思考に耽りながら、少しだけ違和感はあるものの、楽しい帝都の1日を過ごしていた。
242
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:49:50 ID:YJk7.jqU0
南方海域 ムー近海
青い海に、爆発の花が咲き乱れる。
そんな中を、艦隊は進んでいた。
シラネーヨが具申した作戦が採用され、数に頼った突撃が始まっていた。
素早く隊列を組み換え、厚く張られた魔壁はその爆発を遮り、艦は進軍を続ける。
時折、衝撃に耐えきれず、艦が多くの命と共に散っていくが、それを気に留める余裕もない。
余りの爆発音に耳がおかしくなりそうになりながらも必死に檄を飛ばし、恐怖をひた隠し、進んでいく。
もう、どれだけの被害が出ているかは把握できていない。
情報が混乱しすぎ、まともに把握できない状態になっていた。
だがそれも仕方ないだろう。
次々に飛んでくる攻撃は確かに防げている。
だが、次は防げるかは分からないのだ。
魔力はどんどんと消費されており、また術者の体力の消耗も激しい。
決して万全とはいえない状態で、あとどれだけ耐えれば良いか分からないという恐怖。
そんな状況で攻撃に向かって進むなど、一体どれだけの者が正気でいられるのか。
243
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:51:17 ID:YJk7.jqU0
从; ゚∀从「......」
ハインもまた、どうにかそんな恐怖を押さえ込み、必死に敵がいるであろう方角を睨んでいた。
それで現況をどうにか出来るはずもなかったが、一分一秒でも敵を早く見つけ出したい一心であった。
だが、一向にそれらしき影は見当たらない。
ある程度、進んできたと言うのになぜまだ敵が見えないのか。
偽装魔法も考えたが、あれは動かない、停止している状態のものしか隠すことができない。
であれば攻撃など出来ないはずであるため、可能性はないはず。
そうなるとなぜここまで見当たらないのか。
从; ゚∀从「......どうなってやがる」
いくら考えても答は出ない。
可能性は思い付くが、そんなことを可能な魔法があるとは思えないのだ。
244
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:51:46 ID:YJk7.jqU0
(; ´ー`)「......」
ハインが頭を悩ます一方、シラネーヨも苦悩していた。
突撃をするとは言ったものの、やはりこれほどまでの攻撃を目の当たりにすると無謀だったのではないかと感じてしまう。
しかし確かに攻撃は全てではないものの防げており、またここで引けばそれこそ沈んでいった仲間たちの命が無駄になる。
そんな考えがぐるぐると巡り、一種の混乱状態に陥ってしまっていた。
(; ´ー`)「なぜだ......」
そう彼が呟くと同時にまた、複数の光が艦隊に突き刺さる。
その攻撃はもう何回目か分からない。
しかし、数えきれないほどの艦が沈められたのは事実である。
その現実に彼はますます混乱する。
これほどまでに強力な魔法を、こうも大規模に連発できるなど信じがたいのだ。
そもそもの話、一発ですらルナイファの常識からしたら異常とも言えるのである。
245
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:53:22 ID:YJk7.jqU0
それが、何発も飛んでくる。
元々、この攻撃が少数であることを前提にして作戦を立案したというのに、その前提が根底から覆されているのだ。
こんな現実など、あり得るはずがない、魔法でもこんなことが出来る筈がない。
だがそんな彼女らなど知ったことではないと、もう何度目か分からない攻撃がやってくる。
周期的に飛んでくるそれは、まるで突然現れたかのように飛んできては、艦の前でポップアップし、天より突き刺さる。
凄まじい破壊の力を、何とか魔壁で抑え込んではいるが、もしこれが直撃したら助かる道理はないだろう。
魔壁を貼る魔術師たちは乱れる心を落ち着かせ、魔法を唱え続ける。
そうしなければ、死んでしまう。
だが唱え続ければ、死なない。
そう信じ、進むことしかできない。
246
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:55:08 ID:YJk7.jqU0
だが確かに、進むことはできているのだ。
このまま進めば、そうすれば、敵さえ見つけることができれば反撃ができる。
そう信じて進み続けるしかない―
ドゥン......
不意に、今までにない音が艦隊に響く。
これまでの魔壁を叩く爆音とは異なる音であった。
从; ゚∀从「な......に?」
音に釣られ、その方角を見ると巨大な水柱が立っていた。
そして、その水柱の中には一隻の艦。
強力な魔壁を貼るその艦は、通常であれば攻撃を防げているはずである。
(; ´ー`)「......割れ、てる......」
だが船はまるで下から、船の底から突き上げられたかのように中央から真っ二つに割れ、沈んでいく。
何が、起きたのか。
あの空飛ぶ攻撃は防げる、だからこその作戦であったはず。
247
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:56:24 ID:YJk7.jqU0
では、今のは一体何なのか。
从; ゚∀从「っ!また!!」
再び、同じ音が響く。
今度は、複数である。
遠くで複数の柱が上がり、その数だけ艦が沈んでいく。
そしてそれらの艦も、万全な魔壁を用意していたはずである。
なのに、沈む。
(; ´ー`)「なぜ......なぜだ......」
あまりの衝撃にそんな言葉をうわ言のように呟く。
まだ十分に艦数はいるものの、魔壁すら通用しない攻撃を持っているのならば、甚大な被害は免れない。
ただでさえ、少数しかないと推測していた攻撃は何度もこちらに降り注いでいるのだ。
それだけですら恐ろしい被害が出ているというのに、他にも敵はこちらを沈める手段を持っている。
それも、防ぐことが出来ないという恐ろしい攻撃を、である。
そんな状態で果たして上陸することが可能なのか。
自分の立てた作戦の愚かさを、今更になって嘆く。
248
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:58:36 ID:YJk7.jqU0
だがもう、遅い。
失われたものを、取り戻すことは出来ない。
(; ´ー`)「......撤退を」
从; ゚∀从「え?」
(; ´ー`)「撤退を、本隊に具申しよう」
从; ゚∀从「......そう、だな」
だが、まだ生きている命を救うことは出来る。
そんな思いから、彼が唯一出来ることを口に出す。
その言葉を、誰も止めることはなかった。
誰もが死にたくないし、どうしようもないことを理解していた。
『......許可は出来ない。作戦は続行する』
だが、その願いは通らなかった。
魔信から絶望の言葉が響き渡る。
何度、説得しようとしてもその答が変わることはなかった。
(; ´ー`)「何故ですか!?このままでは全員、無駄死にをするだけです!!ですから、ここは一時的でも撤退をすべきです!!」
『敵の攻撃は確かに強力だが、空からのものは防げる!防げない攻撃もあるがそれは少数!作戦通り、数で押しきれる!ここで引けば艦数を減らした今、再度ここまで近づくことなど不可能だ!!』
249
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 12:59:41 ID:YJk7.jqU0
(; ´ー`)「ですが......」
『ここで撤退などすれば、それこそこれまで沈んでいった仲間たちが、報われない......無駄死にではないか!!』
从; ゚∀从「......」
『それに......それにだ......いや』
より一層、忌々しそうな声。
だが、その言葉は最後まで紡がれることはなく。
『とにかく、撤退は許可できない。以上だ』
一方的に魔信は切られ、望みが絶たれる。
もう残る出来るのは、ただひたすら攻撃を耐えきり、また防御不可の謎の攻撃が来ないことを祈るのみ。
(; ´ー`)「......俺の、せいだ」
またどこかで爆発音がなり響く。
その音と共にまた、いくつもの命が散っているのだろう。
もし自分がこんな無茶な作戦を言わなければ―
そんな考えが頭から離れず、ただ艦隊を包む炎を眺めることしか、出来なかった。
250
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:00:47 ID:YJk7.jqU0
シラネーヨがそのような苦悩をしている一方、先ほどの魔信の相手、本艦隊の指揮官であるマタンキもまた、苦悩していた。
(#・∀ ・)「撤退......いや、敗北など、認められるわけがない!!」
怒りに染まり、もはや正気を失いつつある状態であるが、それにも理由がある。
彼は、知っているのだ。
(#・∀ ・)(人間に......劣等種に、なにも出来ずに負けたなど!!)
自分達の敵が、何であるのかを。
艦隊の兵士のほとんどは、その事を知らない。
ソーサクが相手であると勘違いをしている中、彼だけは正確に自分達の敵が何であるかを知っており、だからこそ敗北を認めることが出来ない状態となっていた。
だがその一方でこの被害である。
いくら彼が敗北を否定しようにも、これほどの被害は決して無視できるようなものではない。
しかしその無視できない被害が相まってさらに彼は引くという選択肢を選べなくなってしまっていた。
251
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:02:08 ID:YJk7.jqU0
敵が強大であることは理解できている。
そのせいで尋常ではない被害が出ていることも把握している。
だが相手が人間であるから、負けるはずがない、そんな相手に尻尾を巻いて逃げることは許されるはずがない。
そんな考えが頭の中をぐるぐると巡る。
完全な、錯乱状態である。
(#・∀ ・)(......落ち着け、落ち着くんだ。まだ艦数は十分、敵の攻撃は防げる......行ける、大丈夫なんだ)
自分に言い聞かせるように、大丈夫だと何度も繰り返す。
周りから見れば完全な狂人である。
もう、既に多くの艦が帰らぬものとなっているのだ。
だが彼の現状把握についてはある程度は正しい。
確かに、敵の攻撃は続いているものの、空からのものは多数は無理でも少数であれば魔石の魔力が尽きない限り、防げている。
謎の防げない攻撃は続いているが、それは数が少なくまた間隔も長い、攻撃の密度がそこまで高くないのだ。
252
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:02:46 ID:YJk7.jqU0
防御不可の攻撃を放つ敵は明らかに少数であり、このままのペースであればムーへの上陸は可能であるはず。
なおそれが出来たところで、敵の戦力分析がまともに出来ない現在、ムーを取り返すどころか海岸線を維持できるほどの戦力が残るか、不明な状況なのだが。
(#・∀ ・)「怯むなぁ!進めぇ!!」
それが分かっていない訳ではないが、彼にはそれを、受け入れられるほどの余裕はない。
例えそれが自身の命をかける必要があろうとも。
彼のプライド、いやエルフの種としてのプライドが許すことが出来ない。
『報告!!』
そのとき、魔信が震える。
響く声にマタンキはまたなにかおかしな報告が来るのかと身構える。
(#・∀ ・)「くそっ、今度はなんだ!!」
『ぜ、前方に敵艦隊を発見しました!!』
(・∀ ・)「っ!!」
だが、聞こえてきたものは全くの別のものであった。
その無謀な挑戦が奇跡を生んだ。
ついに、ついに待ち焦がれた報告がやってきたのだ。
(・∀ ・)「よ、よし!!では総員、攻撃準備だ!!急げ!」
『はっ!!』
(#・∀ ・)「これまでやられた分......きっちりやり返してやれ!!」
253
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:03:16 ID:YJk7.jqU0
ムー国 海岸
無数の艦の影が、近づいていた。
その艦隊をもし他国が見れば、その数、また掲げる国旗の威光の前に屈するであろう。
だが、現在。
この国、ムーに近づいているそれは満身創痍と言っても過言ではない状態である。
何度も繰り出された攻撃により、未だ海の上に浮かぶ艦も魔石を消耗仕切っており、また魔石が残っていても魔方陣が不具合を起こし、本来の力を発揮できないような状態になっている。
これにより、初めのうちは防げていた攻撃も、時間の経過と共に防げなくなり、沈む艦がどんどんと増えていく。
川 ゚ -゚)「なんと......これだけの攻撃になるのか」
その様子を遠くから魔法で眺めていたクーは、改めて人間たちが持つ力の強大さに感服していた。
254
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:03:37 ID:YJk7.jqU0
ムーの基地に振るわれたあの爆発攻撃、てっきり動くものには当たらないと思っていたが実際はどうか。
いくら的が多いとはいえ、あそこまで正確に艦に遠距離から当てられるとは。
魔法を越えて、奇跡ともいえる所業に感じられる。
魔法による攻撃も、操作が出来るため個人の技量によっては確実に当てることが可能であろう。
だが、あれほど大規模な攻撃をするためには―
川 ゚ -゚)「無理だな」
可能性は0ではないが、現実的に不可能であろう。
少なくとも現時点でそんなことが出来る国は存在しない。
255
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:04:00 ID:YJk7.jqU0
川 ゚ -゚)「しかし......ルナイファも流石だな」
その一方でルナイファの持つ、圧倒的な物量には感心を通り越して呆れてしまう。
ここまで近づいてくるために、一体どれほどの艦を沈め、資源を消費したのか。
これほどの攻撃を耐えきり、近づくことの出来る底力はとんでもないことである。
明らかに力量の異なる相手に、数という単純な力だけで押しきろうとしているのだ。
そして一方的な展開に見えるが、人間達には余裕はない。
聞く話ではようやくこの国の整備が整いつつあり、それによりムーからの資源供給が始まり、唯一の生命線となったばかりだと言う。
もしこの軍勢に対処しきれなければ、そのか細い生命線は簡単に途絶え、下手すればこれだけ圧倒的だと言うのに滅びるのは彼らになるかもしれないのだ。
とはいえ、それが分かるのは彼らに深く接触している彼女だけであり、ルナイファからすればそんなことは分からないはずである。
にもかかわらず、多数の犠牲を出してでも進軍する彼らは一体どのような覚悟をしてきているのか、クーには分からなかった。
256
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:04:45 ID:YJk7.jqU0
川 ゚ -゚)「まぁ、それしか出来ないのだろうが......いやそれが実行できるのがおかしいか。む?」
艦隊から目を移すと、多くの人間が上陸に備えてだろう、準備を進めていた。
中には『くるま』に似た、平たい箱に筒を付けたような奇妙なものが動いていた。
更には艦までまだまだ距離があるというのに、陸上からあの光る爆発物を飛ばし艦隊へ攻撃を加えている。
大規模攻撃の前に、流石のルナイファ艦隊も大きく数を減らしていく。
川 ゚ -゚)「......ほう?」
だが、そこであることに気がつく。
艦隊が2つに割れている。
一つは人間の艦隊に、もう一つは陸に。
すぐにその考えは理解できる。
川 ゚ -゚)「上陸狙いか」
恐らくは人間の艦隊に囮を張り付かせ、その間に上陸すると言ったところか。
多数の光を翔ばす、圧倒的な射程を持つ人間の艦を相手にするより上陸を狙うのは正しいことだろう。
そして彼らには分からないだろうがそれが成功し、一時的でもムーの一部を制圧すれば、人間達に多大な影響を与えうる。
今後の運命を左右する、戦いが始まろうとしているのだ。
川 ゚ -゚)「さて、海での戦い方は分かったが陸上はどうなるかな?」
ここまで追い詰められれば人間達もさらに必死になるであろう。
そうなればまた新たな力を見せてくれるかもしれない―
そんな期待に彼女は目を爛々と輝かせ。
ルナイファ艦隊の上陸を今か今かと待ちわびていた。
257
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:06:28 ID:YJk7.jqU0
ムー国 沿岸部
(#・∀ ・)「......」
ついに、敵の艦隊と相対する。
これまで、いや今現在も自分達には不可能な攻撃を一方的に繰り出し、彼らはただ耐えることしかできなかった。
だがこれでようやくやり返すことが出来る。
揚陸部隊は陸地に向かわせ、敵艦の攻撃を引き付けつつ決着をつけるために艦隊を進めていく。
その間にも沈み行く仲間が現れるがそれを気にすることはない。
敵が、目の前にいるのだから。
ただひたすらに前進するのみ。
そしてついに、射程距離に入る。
(#・∀ ・)「目標、敵艦隊!魔炎準備!」
『炎魔法、発動準備完了!操作魔法、リンク完了!!』
指令の声に呼応するように、魔方陣が激しく光輝く。
強力な炎が圧縮された、一つの球体が産み出される。
258
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:07:15 ID:YJk7.jqU0
(#・∀ ・)「発動しろぉおお!!」
今の艦に残る魔力の大部分が詰め込まれたそれは、敵を殲滅するべく天高く舞い上がる。
美しい炎の軌跡、それが敵に向かって行く。
だが、敵もそれが届くまで待ってくれるはずもない。
再び、大破壊の鉄槌が空より襲い掛かる。
これまでであれば、被害は出ても魔壁により軽減できていた。
しかし攻撃のために陣形を組み換え、また魔力を消耗してしまった今、あれほどの威力をまともに耐える方法などありはしなかった。
(;・∀ ・)「ぐぅ!?......ひ、被害報告!!」
『ひ、被害が多すぎて把握できません!!』
『操作魔法陣をやられました!本艦の攻撃に影響が出ております!!』
(;・∀ ・)「ぐっ!ぬ、ぅ......だが」
だが全滅していない。
ならば問題ない。
攻撃は既に、済んでいる。
あとは奴らが沈むまで、耐えきれば良いのだ。
(;・∀ ・)「......む?」
あと少しで攻撃が届くか、というところで敵艦が光り、煙に包まれる。
攻撃が直撃したと、一瞬艦内が沸き上がりそうになるが実際はまだ攻撃は届いていない。
では事故か、とも思えばそれも違っていた。
259
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:08:31 ID:YJk7.jqU0
(;・∀ ・)「っ!!あの光!!」
それは、自分達を苦しめた光であった。
あの艦から放っていたのかと敵の凶悪すぎる艦の性能に驚愕すると共に、また攻撃がくるという恐怖―
既に攻撃を何発も耐えられるほどの余力は残っていない。
差し違いか―
(;・∀ ・)「......え?」
死を覚悟し、道連れに奴らもと考えていたそのときである。
空中で大きな爆発が巻き起こる。
一体何が、とその光景を眺め、理解すると一気に背筋が冷たくなる。
(;・∀ ・)「こ、こちらの攻撃に当てて......防いで、いるのか?」
敵艦から放たれた光がこちらの攻撃に飛び込んでいっては、爆発する。
その衝撃に魔力をとどめておけなくなった攻撃はどんどんと霧散していく。
260
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:10:29 ID:YJk7.jqU0
(#・∀ ・)「ぐっ......攻撃を操作し、回避行動を!!」
攻撃に回避行動を取らせるというおかしな指令だが、操作魔法であれば不可能ではない。
あの迎撃から逃れることが出来ればまだ、希望はあるのだ。
『ダメです!操作魔法、魔方陣の不具合により精密な動きが出来ません!回避不能!!』
(;・∀ ・)「あ、ぁ......あぁぁあ!!!」
だが先の攻撃の影響により、複雑な操作が出来なくなっていた。
また無事であった艦の攻撃も、不規則に動かし迎撃から逃れようとしてもその光はまるでそれを感知したかのように追ってくる。
そもそも、速度が違いすぎる。
いくら逃れようとしても、逃れることができず、ようやく回避したとしてもさらに追撃が加わり、全てが希望と共に空に消えた。
『攻撃......す、全て迎撃されました......』
(;・∀ ・)「......」
沈黙。
艦全体の空気が凍ったかと錯覚するような静けさで包まれる。
ようやく、誰もが敵の恐ろしさを完全に理解したのだ。
差し違える覚悟をしてもなお、届かないという絶望。
まだ全艦が万全であれば敵も迎撃しきれなかったかもしれない。
だがもう、そんなことを言っても遅い。
それらの可能性は全て、海の底に沈んでいってしまった。
261
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:11:14 ID:YJk7.jqU0
今さらになって、撤退を考え始めたその時であった。
(;・∀ ・)「......む?」
敵の追撃が無いことに気がつく。
先ほどの大規模攻撃を最後に、追撃が無い。
さらに艦隊がこちらの進路を塞ぐようにしてはいるものの、明らかにこちらから逃げるような動きである。
(・∀ ・)「......まさか」
その事実に、彼は一つの可能性が思い当たる。
敵の、攻撃資源が無くなったのではないか、という可能性。
もしそうならば、千載一遇のチャンスである。
上陸も上手くいくであろうし、あの凶悪な敵艦を沈めるまたとない機会である。
262
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:12:54 ID:YJk7.jqU0
だが。
(・∀ ・)「こちらの攻撃は、防がれる......」
確かに、攻撃はない。
だが、敵はこちらの攻撃を防ぐことが可能なのだ。
無闇に攻撃したところで敵に届くことはなく、こちらの魔力が尽きるだろう。
それならば敵艦隊を無視し、上陸した部隊の支援攻撃を行うという選択もある。
それならば確実に一定の成果が見込めるはずである。
しかし、会談に向けた準備をすると引き延ばしている間に敵に接近するという不意討ちに近いことをして、かつ敵の攻撃を耐えきれるほどの大艦隊がいたからこそここまで近づけたのだ。
ここで敵艦を逃せばもうそのような条件が揃うことはなく、つまり二度とこちらの攻撃は届かないだろう。
(・∀ ・)「どうすればいい......」
彼は熟考する。
人間たちに思い知らせなくてはならない。
エルフの偉大さ。
そして、強さを。
そのためには、敵に攻撃を与えるにはあの光の迎撃を突破しなければならない。
あの光は、こちらの攻撃に反応して爆発し、攻撃を打ち消していると思われる。
つまり、敵が対処しきれないような大量の攻撃か、迎撃不能な高速の一撃、爆発に耐えきる固さを持つ攻撃が必要―
263
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:14:31 ID:YJk7.jqU0
思考を巡らせ、数瞬の沈黙の後。
マタンキはハッと顔を上げる。
(・∀ ・)「そうか......雷槍だ」
一つだけ、敵に通用しうる魔法が思い当たったのだ。
『は、は?』
(#・∀ ・)「雷槍を使う。準備をしろ!!」
『っ、しかしっ!あれは近距離にて魔壁貫通に使用する魔法です!!』
(#・∀ ・)「そんなことは知っている!だが、あの攻撃なら、撃墜されない可能性がある!あの攻撃であれば奴らに届くのだ!!」
『ですが、この距離......そして操作も出来ないため、当たる確率は......』
(#・∀ ・)「では、どうするというんだ!通常の攻撃であれば奴らは防げる!つまり、当たる確率は0だ!ならば、例え低くても当たる可能性のある攻撃に賭けず、どうするというのだ!!」
『っ......了解しました!雷槍準備!雷魔法、構築始め!』
『発動確認!続いて土魔法、発動!槍を形成!』
数少ない生き残りたちが最後の希望を懸けて、正真正銘最後の魔法を発動する。
バチバチと音を立て、雷を纏った槍状の物体が艦上に形成される。
まるで空中に流れるように走る電流は一筋の線となり、道となる。
魔力で出来たそれには、勿論摩擦などない。
理想的なレールである。
264
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:15:55 ID:YJk7.jqU0
『発動準備、完了!!』
その魔法は、土の魔法で形成した物体を、雷魔法で包み込み、魔力で形成した道で加速させて打ち出すというもの。
土は雷の力を得て金属に錬成され、魔力が持つ間は金剛不壊となる。
本来この世に存在し得ない、最硬の魔法金属である。
(#・∀ ・)「全魔力を攻撃に集中!!放てぇえええ!!!」
魔法で作られた雷の道を通る、摩訶不思議な金属は凄まじい勢いで加速する。
彼らが持つ中で、最速最硬の攻撃。
その姿に似た兵器は、ある世界ではこう呼ばれる。
レールガン。
未来の兵器とも呼ばれるその兵器。
その攻撃に不完全ながらも近い一撃が、異界の艦隊に向けて打ち込まれた。
265
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 13:16:17 ID:YJk7.jqU0
続く
266
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 17:23:24 ID:lr6u.Z3A0
乙
偶然とはいえレールガンを作り出すとはあなどれないねぇ
ここからは陸上での戦いがメインになりそうだ
267
:
名無しさん
:2023/06/10(土) 17:52:08 ID:h0etebTQ0
乙です
268
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:44:48 ID:e2rDsERI0
ムー国 沿岸部
1463 年11月20日
从; ゚∀从「いいかっ!上陸したら土魔法で防壁を作り、陣地を構築!陣形は密集陣、魔壁を強化して安全を確保しろ!」
『了解!!』
ハイン達は遂に、上陸を成し遂げようとしていた。
不可能と思われたこの挑戦。
だが無謀とも言えるごり押しと、数の暴力、そして魔壁の効果により艦数を残したまま、陸まであとわずかのところまで来ていた。
艦隊が2つに別れた後、ハイン達に対する攻撃の密度は少ない。
というよりも、ほとんど無いと言ってもいい状態である。
理由は分からないが、推測するに敵の攻撃資源の枯渇か、もしくは何らかのトラブル等だろうか。
(; ´ー`)「あっちはどれだけ持つか......」
とにかく上陸出来る艦数は最早、囮と化したもう一つの艦隊がどの程度生き延びれるかにかかっていた。
269
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:45:58 ID:e2rDsERI0
そして肝心のその戦いについては膠着状態に近い。
こちらからの攻撃は防がれ、敵の攻撃も魔壁で防げなくはないものの既にガス欠気味の艦隊ではそれも多くは望めない。
とはいえ、敵もガス欠気味なのか攻撃の手が緩んでいる。
若干の敵の有利だろうが、数はまだこちらが勝っており、お互いに打つ手が無くなるのも時間の問題か―
そして、そんなときであった。
バチィッ!!
電撃の音が、戦場に響きわたる。
从; ゚∀从「あ?」
その音に、聞き覚えはある。
雷槍。
魔力により産み出された強靭な魔法金属を、高速に打ち出し、その貫通力で魔壁を突破するというものだ。
だが跳ばすために魔力で道を作るが打ち出される際の衝撃が強く、狙った場所に飛ばせない。
そもそも形成される槍の形状が安定せず、その影響で発射後もブレるため、狙った方角に発射できても真っ直ぐ飛ばすことはほぼ不可能である。
270
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:46:37 ID:e2rDsERI0
理論上、長距離を飛ばすことはできる。
だがほんの少しの角度が違うだけで遠距離の敵には当たらないため、近距離での使用が普通である。
つまり、明らかに異常な判断により、攻撃が実施されたということであった。
从; ゚∀从「......」
だがなぜ、とは考えない。
マタンキがなぜ、その判断をしたのかを瞬時に理解できたのだ。
通常の攻撃では届かない。
ならばもう祈るしかない。
当たり前ではダメなのだ。
あり得ない、奇跡の一撃を。
271
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:47:45 ID:e2rDsERI0
放たれたそれは、多くがあらぬ方角へ飛んでいく。
しかし、一発。
たったの一発だけだが、敵艦隊へと真っ直ぐに向かい、飛ぶ。
从; ゚∀从「あっ」
そしてそれに敵も気が付いたのか、煙に包まれ、光が現れる。
不可避の、光。
そして、あっさりと。
希望の槍は爆発に包まれる。
(; ´ー`)「......」
从; ゚∀从「......」
彼らは、その様子を唖然として見ていることしかできなかった。
敵はこちらの最速の攻撃ですら、当てることが出来る。
つまり、どんな相手であっても攻撃を当てることが出来るのだろう。
とてつもない、敵である。
272
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:49:04 ID:e2rDsERI0
从; ゚∀从「......あ」
(; ´ー`)「うそ......だろ」
だが、無敵ではない。
無敵では、なかったのだ。
从; ゚∀从「お、おおおおぉぉおおお!!!」
爆風を、何事もなかったかのように突っ切る希望の槍。
慌てたように敵艦は再度、迎撃を試みた時には既に遅く。
最早何者にも止められず、奇跡、神の加護としか言い様のない幸運によりそれは。
―敵の艦をあっさりと貫いた。
煙を吹き出し、燃える敵艦。
その光景に、ハイン、いや艦隊全員が沸き上がる。
希望を、思い出す。
そうまだ、負けていない。
敵は目の前。
手に届く距離にいるのだ。
四肢をもがれ、傷だらけになり、満身創痍になりながらもルナイファという怪物はまだ、死んでいない。
もがき、足掻き続けた結果、その牙がようやく敵に届いたのであった。
273
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:49:31 ID:e2rDsERI0
ムー国 海岸
死に物狂いで進軍してきた艦艇が、次々に海岸へとたどり着く。
艦から現れた魔方陣が光輝き、そこから多くの兵達やゴーレムが瞬時に現れる。
凄まじい雄叫びが、彼らの出現と共に響きわたった。
それは死の恐怖を打ち消すためと同時に、これまでやられるしかなかった彼らがようやく敵に攻撃をやり返すことが出来るという歓喜から来るものでもあった。
海岸に現れた兵達は素早く、魔方陣を起動し、砂を盛り上げ、壁を構築する。
さらにその後ろに隊列を組むことで魔壁を形成し、磐石の守りを固める。
これにより、上陸時の隙を潰し、被害を減らせるはずであった。
274
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:50:24 ID:e2rDsERI0
だが。
从; ゚∀从「はぁ......はぁ......はぁ......ぐっ!?」
凄まじい爆発音。
後方を見れば、自分達が乗ってきた艦やこれから上陸を行おうとしていた艦が次々に沈んでいく。
そして、それだけではない。
从; ゚∀从「なっ!!」
陣地を構築している、仲間も吹き飛ばされる。
散々海で見た、あの強烈な爆発ような攻撃がこの地上においても吹き荒れる。
その様子を見て、ハインは自分の作戦の愚かさを今更になって後悔する。
从; ゚∀从(敵の攻撃は動く攻撃魔法にも当てられるんだ。地上の俺達に当てられねぇわけがないじゃないか!!)
艦ならまだしも、少数の兵が作る魔壁であのような攻撃が耐えられる訳がない。
詰まるところ、陣を構築するために密集している今、それは敵にとってはただの的であり楽な処分対象でしかない―
275
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:51:15 ID:e2rDsERI0
从# ゚∀从「散開だ......散開しろ!!猶予がない!散開して突撃するんだっ!!」
(; ´ー`)「なっ!正気か?そんなことすれば攻撃を耐えら―」
从# ゚∀从「魔壁があっても変わらない!なら!少しでも密度を低くして、敵の攻撃を分散するんだ!そうすれば奴らも対処しきれない!!」
(# ´ー`)「......くそっ!ここまで来てもまた、犠牲覚悟の突撃かよ!!」
ギリッと、歯が砕けそうなほどに食いしばりながらも、シラネーヨも納得するしかなかった。
現にまた、味方の陣地が吹き飛ばされているのだ。
通常であれば土の防壁に魔壁があればある程度の時間は稼げるというのにまるでそこになにもないかのようにやられていく。
(# ´ー`)「だがもう、後には退けない!!俺達が生き残るには、進むしかない!!進め、進めぇぇぇええ!!」
シラネーヨの号令と共に、生き残り達は走り出す。
そしてその号令を合図にしたかのように。
進行方向より、何かが無数に飛んでくる。
276
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:52:34 ID:e2rDsERI0
ヒュンヒュンと音を立て、飛んでいくそれは個人が作る魔壁では数発も持たない。
次々と兵達の身体に穴が開いては倒れていく。
脳髄を撒き散らし、死んでいくのだ。
从;# ゚∀从「地獄か......ここはっ!」
ようやく、敵地にたどり着いたと思えば何ということか。
一方的に味方がやられ、見るも無惨な姿に変わり果てていく。
地獄。
これまでの戦場でも見たことのないほど悲惨な光景に、思わずそう言わずにはいられない。
切り札とも言えるゴーレムは、謎の礫を耐えてはいるものの、優先的に爆発する攻撃に狙われ、破壊されていく。
壁としての役割も果たせたかわからぬまま、土へと還る。
こんなことが、あっていいのか。
そんな考えが頭を埋め尽くす。
先ほど、敵艦に一撃を加えたあの歓喜はどこへ行ったのか。
雄叫びはいつしか悲痛な叫びに変わり、死の恐怖を必死に忘れようと前へ走る。
その先に待つものが何なのかを理解しながらも、前へ、前へ。
飛び交う礫と血飛沫。
部隊が散会し、どうにか敵の攻撃を散らすことに成功しているがそれでも敵の攻撃は苛烈を極める。
爆発は少なくなったものの、やはり連続する礫の嵐は簡単に防ぎきれるものではない。
277
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:53:46 ID:e2rDsERI0
だが、やられっぱなしという訳ではなかった。
数の暴力と土魔法による簡易的な壁の形成でじりじりと前線を押し上げる。
(# ´ー`)「こちらからも攻撃しろぉ!!敵を減らすんだっ!!」
敵の礫とは異なる、色鮮やかな光が敵陣地へと襲いかかる。
どうやら敵は穴を掘り、身を隠しているようであるが、頭上がお粗末にも空いているのだ。
敵は強力ではあるが、間抜けのようである。
こちらの攻撃が当たらないと舐めているのか魔壁を使っていないのだ。
从# ゚∀从「頭上がお留守だ!!身体に教え込んでやれ!!」
操作し、曲げられる魔法であれば穴の中に隠れていることなど問題にもならない。
爆発、雷撃、氷結。
様々な魔法が炸裂する。
その様子に敵も何やら慌てたように動き出す。
それは、後退するような動きにも見えた。
278
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:54:50 ID:e2rDsERI0
確かに、敵は強力。
だがやはり、無敵ではない。
多くはないが少なくない被害を、与えている。
行ける。
そう、ハインは確信する。
部隊を散開させているのが効いていた。
攻撃の密度が低く、明らかにこちらの数に対処しきれていない。
特に高火力な攻撃はゴーレムに集中しているため、その間に兵はどんどんと進むことができていた。
ゴーレムが時間稼ぎにしかならないのは想定外という他ないが、このまま押し込めれば、この敵陣までたどり着けるであろう。
しかも敵はたったこれだけで退く、なんとも軟弱な輩。
兵士の差で、勝てる。
力では負けていても、精神ならば、負けていない。
―実際はそう考えていなければ、精神が持ちそうにもない、というのが正解なのだが。
心を強く持ち、進み続ける。
それさえ、それさえ出来れば良いのだ。
気が付けば敵陣地目前までに到達していた。
被害の数はこちらの方が圧倒的多いものの、確実に前へと進み、前線を押し上げていた。
このままいけば、海岸線を奪還できるはずである。
279
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:55:46 ID:e2rDsERI0
从; ゚∀从「よし......よし......」
そうして気がつけば完全に敵は後退を開始しており、内陸へと追い込んでいた。
ここまでに多くの命を消耗しているが、敵を後退させ沿岸部を抑えつつある現状を見れば確かに作戦は成功していると言える。
ただでさえ困難である上陸作戦を、あの強力な敵を相手に成し遂げているのだ。
まだ戦いは続いており、あの強力な攻撃も時折飛んで来てはいるものの、皆の士気が上がっていくのを感じる。
(; ´ー`)「......」
だがそんな中、シラネーヨの顔は浮かないものであった。
強烈な違和感。
それを、どうしても拭うことが出来ないのである。
なぜこれほどまでにあっさりと敵は退いたのか。
こちらが散開し、数で攻めたことにより敵が対処しきれなくなったというのは確かにあるだろう。
280
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:56:47 ID:e2rDsERI0
しかしだからといってこれほどまでに簡単に後退するものなのか。
(; ´ー`)(考えろ......敵は、何を狙っている?)
簡易的に作られた土壁に隠れ、思考する。
敵の立場になり、もし自分ならばどうするか。
それを考えていく。
(; ´ー`)(いくら前線を押し上げていたとはいえ、こちらの被害は馬鹿にならない状態......何故体勢を整えられる時間を与える?)
(; ´ー`)「いや......そもそも、だ。なぜ、俺は生きている?」
そして、行き着いたのは自分が生きていることへの疑問であった。
敵はこちらからすれば信じられないような攻撃を連発できる化物である。
あの威力、それが満遍なく戦場に降り注げばこちらは間違いなく全滅する。
だが敵はそれをしない。
それは何故か。
( ´ー`)「前提は......合っていたんだ」
そもそもの作戦の前提。
敵の攻撃物資には限りがあり、多くはないという予想。
思い返せば敵艦の攻撃も、あの大規模な攻撃は途中から無くなっていたのだ。
予測を遥かに上回る物量ではあったが、作戦通り敵の攻撃用の物資が尽きた、ようにシラネーヨには見えた。
281
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:57:58 ID:e2rDsERI0
そうなればひとつ、可能性が浮かんでくる。
敵の陸上部隊も物資が不足しているのではないか、ということ。
( ´ー`)「そうなると......狙うなら」
もし、自分が敵の立場ならばどうするか。
シラネーヨは再び考える。
なるべく少ない攻撃回数で、こちらを迎撃するにはどうするか。
その答えは簡単に思い付くものであった。
(; ´ー`)「こちらが体勢を立て直す間に補給を済ませ、高火力のあの攻撃を、再度密集したところに撃ち込む......」
そうしてハッと気がつく。
ここから先を進軍するとなると、辺りが崖に囲まれた道となっており、どうしても密集しなくてはならない箇所があるのである。
もし敵がそこに新たな陣を構築した場合、一体どのような結末になるか―
(; ´ー`)(......敵は一時的に退き体勢を整え、こちらがまとまって進軍してきたところをあの大火力で一網打尽にしようとしているっ!そんなことになれば制海権もない以上、前進も後退も出来なくなって全滅しかない!)
从; ゚∀从「よし、一旦ここで体制を整え......」
(; ´ー`)「ダメだ!ここで止まるなっ!敵から離れるわけにはいかない!!混戦に持ち込むぞ!!」
从; ゚∀从「はぁ!?」
282
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 20:59:25 ID:e2rDsERI0
(; ´ー`)「敵に猶予を与えれば、こちらが不利になるぞ!敵の補給能力が不明な以上、少しでも猶予を与えれば再度、大規模攻撃が行われる可能性がある!そうなったら勝ち目がない!!」
从; ゚∀从「っ!だ、だがこちらに、もう既に余裕が......」
(; ´ー`)「それにだ!敵と接近し混戦になればあんな攻撃は出来ない!となれば、一番安全なのがどこなのか、分かるだろ!?」
从; ゚∀从「......あぁ、なるほど。確かにその通りだな。くそったれ」
混戦となれば、一方的にやられることはないがどれだけ酷い被害が出るか、分からないわけではない。
それでも結局のところ、他に手がない以上、命を懸けて敵に突撃を繰り返すことしかできないのだ。
それを理解した上でハインは仲間たちに死ねと命じなければならないことに顔を歪ませながらも、先陣を走り、叫ぶ。
283
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:00:28 ID:e2rDsERI0
从# ゚∀从「総員!突撃!突撃ぃ!!」
その言葉に誰もが顔をひきつらせる
だが、その足は次なる戦場に向けて駆け出す。
皆が言葉にならない叫び声を上げ、撤退する敵に追撃へと走る。
その動きはあまりに無謀なものである。
ただでさえ、上陸作戦という無理な作戦を実行し、多大な犠牲を出しているところに休む間も、陣形を整える間もなく再度突撃を行うのだ。
通常であれば、自殺行為としか言い様がない。
だが、その無謀な作戦が功を奏した。
(; ´ー`)(......敵の迎撃が鈍い!)
敵もこちらの被害の多さ、また海岸線の奪還に成功していたことから進軍を止めると考えていたのだろう。
その攻撃は敵の意表を突き、前線を一気に押し上げる。
284
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:01:22 ID:e2rDsERI0
そもそも敵の攻撃物資が不足している事もシラネーヨ達にとって幸運であった。
広く展開した彼らを相手に出来るほどの余裕が敵には無いのか、あれほど強力な攻撃を持ちながらもこちらに対処しきれていない。
気がつけば最前線は敵味方が入り乱れる地獄絵図になりつつある。
完全な混戦状態。
もうこうなれば火力の差など役には立たない。
ただひたすらに先に相手を殺したものが勝ちである。
从# ゚∀从「はははっ!」
戦場特有の高揚感のせいか、はたまたこれまで一方的にやられてきた怨みを晴らせる時が来たからなのか。
ハインは笑いながら、返り血で赤く染まっていた。
次々に打ち込まれる魔法の数々に敵が伏していく。
味方も多数死んでいくが、精神を麻痺させただ目の前の敵のみを見ていた。
いつ自分が死ぬか分からない恐怖から目を反らすように。
ただひたすらに、攻撃を繰り返していく。
285
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:02:17 ID:e2rDsERI0
从 ゚∀从「はは、は......あん?」
そうしてまた、倒れる敵にハインは違和感を覚える。
その敵は、見たことのない格好をしていた。
改めて見てみると、魔術的な効果を一切感じられない妙な装備である。
从; ゚∀从(......これだけの魔法を使えるのに?)
密集していた彼女達を襲った強烈な爆発。
そして今なお飛び交うこの礫の攻撃。
魔法としか考えられない現象だというのに、そんな魔法に欠かせないはずの魔方陣らしきものが一切見られないのだ。
从; ゚∀从「一体......」
自分達は何と、戦っているのか。
そんな疑問が再度沸き上がる。
相手はソーサクであり、技術力は違えど同じ魔法使いを相手にしているはずであった。
少なくとも彼女の中ではそうなっていた。
それが、これは一体何なのか。
全く自分の常識が通用しない存在。
今になって、自分達が全くの未知と対峙していることに気が付いたのである。
286
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:03:08 ID:e2rDsERI0
―化け物。
もう何度目か分からないその感想が、敵に対して思い浮かぶ。
だが今回は比喩でも何でもなく、本当に同じ生き物なのか、という恐怖からくるものであった。
先ほどまでの高揚感が嘘のように、冷たいものが背筋に走る。
从; ゚∀从「くっ......あぁっ!!」
その恐怖から、化物から自分を遠ざけるように目の前の敵に攻撃を叩きつけ、吹き飛ばす。
近距離から叩き込まれる爆炎に、耐えられるはずもない。
その身体を焼き尽くすように炎が包み、また衝撃に吹き飛ばされる。
その衝撃に、頭を覆うように被られていた装備も吹き飛んでいく。
そして、彼女は見た。
从; ゚∀从「あ?」
その倒れゆくものが、何なのか。
从; ゚∀从「にんげ、ん?」
287
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:03:55 ID:e2rDsERI0
何故、ここに人間がいるのか。
そんな疑問が頭に浮かんだその瞬間であった。
从; ゚∀从「......あ?」
刹那、反転。
世界がぐるりと、廻る。
地を着いていたはずの足は宙を舞う。
どちらが上で、どちらが下か。
どちらが天で、どちらが地か。
グニャリと歪んだ世界。
一瞬、すっと血の気が引いたように寒気がし、意識が遠くなったかと思えば、ドン、と強い衝撃に引き戻される。
ぼやける意識の中、必死に状況を整理しようとぐちゃぐちゃになる頭を回し、考える。
土の味。
血の匂い。
顔面を流れる、何か。
身体が地面を感じていることで、ようやく自分が地に伏しているのだと、ハインは気がつく。
288
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:05:14 ID:e2rDsERI0
だから、立ち上がろうとするもおかしい。
立ち上がれない。
立たなければ、死んでしまう。
早く、立たなければ。
足を動かさなくては。
だが、おかしい。
足の感覚がない。
ちゃんと足はある。
ちゃんと目の前に。
千切れた彼女の、血塗れの足が。
从; ∀从「......」
一体、敵はどんな魔法を使っているのか。
あれだけの広範囲にいたはずの兵士達全てを覆うような爆発。
多くの命が土と混ざりあう。
先ほどまでの光景を地獄というのなら、今シラネーヨの目前に広がる光景は何と呼べばよいのか。
あれほど勢いのあった味方は一瞬で、虫の息である。
もう何度目か分からない、受け入れがたい現実が、そこにある。
289
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:06:56 ID:e2rDsERI0
上空を見れば、先ほどの攻撃の主であろう、異常な速さで飛ぶ何かがあった。
恐らくは、敵の援軍。
尽きていたと思われる爆発攻撃が再開され、地上、そして海上の生き残り達に攻撃が加えられていく。
(; ´ー`)「......まさか、こんなことが」
逃げていたのではなく、援軍を待つための時間稼ぎ。
さらにこちらを陣地内に誘いこんで、殺到したところを一網打尽にする作戦。
確かにシラネーヨが想定していた敵の作戦、と言えるものである。
とはいえ、まさか自分の陣地ごと、数は多くはないとはいえ味方諸共吹き飛ばすとは想像出来るはずもなかった。
明らかに捨て身の作戦。
だが、その効果は絶大である。
敵は火力だけではない、戦い慣れている、兵士であった。
それも、自分の命を掛けることのできる勇敢なものであった。
敵が圧倒的な火力を持つことは分かっていたはずである。
その上で突撃という作戦を考え、それが最善であるはずであった。
290
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:09:03 ID:e2rDsERI0
だが自身の経験と知識、そして常識からこのような攻撃を想定していなかった。
出来るはずがなかった。
あれほどまでに強力な敵が、ここまでするほどに追い込まれていたとは考えられるはずもなく、そしてここまで命をかけてくるなど。
まるで国家の危機に追い込まれたかのように敵が捨て身になるなど、このような僻地の戦場で起こるなど誰が予想できようか。
( ´ー`)「その報いが、これか......」
まさか敵を知らないことが、こんなことになるとは。
そんな悔しさに血が出るほど手を握りしめ、悔やむ。
だがもう遅い。
既に終わってしまったのだ。
最早進むことも、戻ることもできない。
数少ない生き残りも、さらに無事と呼べるレベルのものがあとどれだけいるのかといった状態。
自身がまだ、自分の足で立つことの出来ることはまさに奇跡的とも言えるが、それが幸運とは言い難い。
むしろ、この惨状を見せつけられ自身のせいで多くの命が無為に散ったのだとまざまざと見せつけられたかのような気分である。
これならば、あっさりとなにも知ることなく土に混ざって消えていった彼らのように死ねた方が何と幸福であったか。
291
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:11:02 ID:e2rDsERI0
( ´ー`)「ハイン......」
血にまみれた友の名を呼び、彼女を抱き寄せる。
微かに聞こえる呼吸音。
絶望し、歩みを止めそうになる彼であっだが、その音に最後の決心を固める。
( ´ー`)「......せめて」
せめてもの、罪滅ぼしをしなくては。
彼は、死んでも死にきれない。
死んだ仲間達の血を、手で掬う。
そうして、赤に染まった手で顔を、身体を汚し、模様を描く。
禍々しいそれは、怪しく輝くと彼の周りに黒い靄が生まれる。
(# ´ー`)「おおおおおっ!!」
彼は叫んだ。
自分はここにいるぞと。
まだ生きていると証明するかのように。
(# ´ー`)「俺を殺せぇ!!さぁ!!逃げも隠れもせんぞぉぉおおお!!」
その魔法は、死の呪い。
自らが持つ魔法の才を代償に発動するそれは、自分を殺したものを呪う、禁断の魔術の一つである。
292
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:11:31 ID:e2rDsERI0
どうあがいても勝てない。
ならば、これほどの攻撃を生む、大魔術師の一人でも良いから道連れにする。
この魔法を使えばもう二度と、魔法を使うことができなくなるがどうせ死ぬのならば変わらない。
それが、彼に出来る最期のことであった。
(# ´ー`)「さぁ来い!化物共!!」
辺りに散らばる死体の山の中、彼は吠え、駆け出す。
たった一人の突撃。
これがムーにおける、ルナイファ最期の攻撃となった。
293
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 21:12:00 ID:e2rDsERI0
続く
294
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 22:25:09 ID:gdcH8vsU0
乙
295
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 22:59:50 ID:oh2rS/dQ0
乙
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