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ガルパン みほルートGOODエンド
1
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 21:51:24 ID:g.8oTIO2
「おかーさん!おとーさん!はやくはやくー!」
「慌てると危ないよー」
日曜日。
休日と澄み渡る晴天が重なった絶好の外出日和ということもあって、家族三人で訪れた遊園地はまだ早い時間にも関わらず大勢の人で賑わっていた。
そんな中、ひとり目当ての乗り物に向かって駆け出す娘に隣のみほが声をかける。といっても、普段からあの子は活発なタイプだ。みほも口で言うほど心配はしていない様子だ。むしろ元気にはしゃぐ姿を嬉しそうに見ている。
「……それにしても、私もあなたももあまり活発な方じゃないのに、いったい誰に似たんだろう?」
ふとそんなことを呟いた彼女に、小さい頃のみほにそっくりじゃないか、と答えた。
「小さい頃?……あぁ、確かに戦車道を本格的に始める前は結構やんちゃなタイプだったかも……あれ?でもそんな昔のこと、あなたに話したことあったっけ?」
納得したような表情を浮かべたかと思ったら、すぐに怪訝そうにこちらを見てきた彼女の視線を受け、思わずしまった、とつぶやいてしまう。
「誰かに聞いたの?お姉ちゃん?もしかしてこの間実家に帰ったとき?」
彼女には珍しいじとっ、という擬音がつきそうな視線と矢継早な質問に早々に白旗を上げ、その推理が正しいことを認める。本人がいると恥ずかしがって止めに入るだろうから、という理由で、まほさんがわざわざみほが席を外している時に教えてくれたのだ。
「自分の知らないところで話される方がもっと恥ずかしいよ」
ごもっとも。しかしせっかくの家族水入らずの外出だ。夫としてすっかりむくれてしまった妻をこのままにしておくわけにはいかないだろう。
「小さい頃のみほも、あの子に負けず劣らず可愛かったよ」
そう言いながら、軽く彼女の頭を撫でる。サラサラとして心地よいその髪の感触を味わいながら、我ながらキザすぎるな、と呆れる。知人がいたらとてもじゃないができなかっただろう。
もしもみほにまで同じ感想を抱かれていたら、と不安になり彼女の顔を覗き込むと、少し頬を赤らめながらも、クスクスと手で口元を隠しながら笑っている。
「もう、格好つけすぎだよ?今恥ずかしいでしょ」
ばっちりとこちらの予想が的中したらしい。自分の顔まで熱くなるのを感じるが、どうやらみほの機嫌が直ったらしいことに安堵する。
「ふたりともー!イチャイチャしてないではやくー!」
「い、イチャイチャなんてしてません!……さ、私たちも行こう?」
そういって差し出された彼女の手を握り、娘のもとへふたりで歩き出す。もうひとりのお姫様にまでへそを曲げられたらたまらない。
「今日は頑張ってね?あの子への家族サービスと、私へのお詫びのために♪」
……どうやらこちらの姫にもまだ奉仕が必要なようだ。世界で一番贅沢なため息をつきつつ、このあとのプランを脳内で練り始める。まったく、夫と父という役割は、幸せすぎて楽じゃない―――。
2
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 21:53:43 ID:rxxQHVdU
バッドエンドは男がうすべに提督並の悲惨なことになってそう
3
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 21:56:28 ID:4Ehf7AaU
いいゾ〜これ
4
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 22:38:18 ID:ISDV.I/g
ああ^〜いいゾ��これ
エリみほグットエンドはどこ…?ここ…?
5
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 22:41:15 ID:kBSTD7UU
スキBADすき
6
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 22:48:21 ID:wjNM9nK.
エリカのスキBADみてみたいなぁ…
7
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 22:52:40 ID:7FoyJGpA
>>1
なんか感動的
8
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 00:50:54 ID:FwICPjhk
【BADエンド】
「ごめんね、痛くない?」
そんな心配をするくらいなら早く自由にしてくれ、と言ってやりたかったが、カラカラに渇いた喉ではまともな言葉を発することもできなかった。
さっきまで意識を失っていたこと、そして今いるこの場所が窓ひとつない薄暗い部屋であることで、もはや時間の感覚は消え失せていた。まったくもって意味のわからない『友人だと思っていた人間による監禁』という状況に、怒りとも不安ともつかないーーーあるいはその両方ーーー感情が湧き上がるが、四肢を椅子に拘束された状態で座らされている今、自分にできることはなかった。
「学校、休ませちゃってごめんね?でも私もズル休みみたいなものだから、おあいこってことで」
照れたような、困ったような曖昧な笑みを浮かべる彼女ーーー西住みほは、普段と何も変わらないように見える。しかし、だからこそこの異常な事態とのミスマッチさが、その不気味さを倍増させる。
「そもそも悪いのは貴方ーーーじゃないね。浮気とはいえ、向こうが誘惑してきたせいだもん。全部あっちが悪いんだよ」
まるで自分に言い聞かせるような口調だったが、それ以上に内容への理解が追いつかなかった。現在、自分には交際している相手などいないはずだ。それが浮気?意味がわかるはずもない。
「貴方は優しいからーーー世界で一番優しいから。あの娘のことがかわいそうになっちゃったんだよね。うん、やっぱり貴方は悪くない。だからーーー」
こちらの困惑など気にもかけず言葉を発しながら、彼女は部屋の反対側へと歩いていく。照明の光が届かないところまで進むと、今度はゴロゴロという車輪の回る音とともに戻ってきた。台車のようなものを押しているようだがーーー。
「だから、『オシオキ』を受けるのは、この娘だけでいいよね」
そこにあったものに、いよいよ背筋が凍った。自分と同じように椅子に拘束されて、さらには目隠しと猿轡まで噛まされたのは、まぎれもなく自分が意識を失う直前まで会話をしていた少女だった。よく見れば体は小刻みに震えている。恐怖のあまり抵抗の意志を見せることすらできないのだろう。
ここにきて奇跡的に喉が機能を回復したようで、現状を問い質す言葉を吐き出すことができた。なぜ彼女と自分を監禁しているのか。ここどこなのか。浮気とはなんのことかーーー。しかし、みほは小首をかしげ、
「?だから、私と付き合ってる貴方が、この娘に誘惑されて私がいないところで仲良く話をしてた。これって浮気でしょう?」
と、まるで1+1の答えを聞かれたくらいに当然のことのように言った。だがこちらからすればそれはひとつとして意味がわからなければ納得もいくはずのないものだ。
まず、自分はみほと交際し覚えはない。好意はあったが、それは友人としての範囲だ。目の前の拘束された少女にしても、話していたのはただの世間話だ。こんな目に合ういわれなど当然ひとかけらもない。
「やだなあ、貴方が私をどう思ってるかなんて関係ないよ」
「私が貴方のことを好きなんだから、それはもう恋人だよ」
ーーー絶句した。同時に、もはや説得が不可能だということも理解してしまった。先の言葉を彼女はこれまで通り、当然のごとく言い放った。普段通りの澄んだ瞳と声、そして少し困ったような笑顔。つまり、彼女は最初から壊れていたのだ。あるいは、そもそも思考の構造が違う。同じ言語を使っていても意思の疎通ができない。彼女はーーー西住みほは、そういう存在なのだ。
「さて、と。それじゃいつまでも話してても仕方ないし、そろそろ『オシオキ』にしようか」
そう言うと、また彼女は部屋の暗がり方へ向かい、またも台車らしきものを押しながら戻ってきた。照明に照らされたそれ、否、それらはーーー。
「とりあえず、金槌とバール、それにノコギリ。これだけあればいいかな」
それらの器具、というよりは凶器と一緒に置いてあった熊のぬいぐるみーーーボコられクマのボコを持ち上げ、いまだ震え続けると見比べながらみほは言った。それが意味するところなんて、馬鹿でも解る。解ってしまう。
「ごめんね?なるべくこのボコみたいに、可愛くするから」
そう少女に言い放ち、みほは金槌を振り上げたーーー。
9
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 00:53:03 ID:/n27M/j.
こーわーいー…
10
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 01:07:11 ID:Kogr7HWI
ハイライトさんが仕事してるヤンデレ!そういうのもあるのか
11
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 01:42:25 ID:FwICPjhk
終わり!閉廷!
西住殿の誕生日を祝おうと思ったのに当日何も思い浮かばなかったので今日思い付いたものを書いてみました
12
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 02:12:16 ID:P.hK/7iM
いいゾ〜これ
13
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 04:18:23 ID:bjUKS64s
てっきり主人公がエリカなんだと思って読んでいたのに違った、訴訟
14
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:04:46 ID:FwICPjhk
(百合は繊細で難しいので書け)ないです。
出来ても上のと似たような感じの武部殿verとかエリカverとかですね...
15
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:05:31 ID:rSfuzuIM
>>14
レズよりもノンケ展開で続編オナシャス!
16
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:06:08 ID:3SdZNwyY
>>14
他のキャラも見てみたいから気が向いたらオナシャス!
17
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:08:40 ID:FwICPjhk
しょうがねぇなぁ(悟空)
後で武部殿ルート頑張ってみます
18
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:08:57 ID:J0uKkXis
あくしろよ
19
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:14:03 ID:FwICPjhk
なるべく音を立てないよう、ゆっくりとドアを開ける。すでに腕時計の針は夜の10時を回っている。娘はもう夢の中だろう。
「おかえり〜」
玄関に入り鍵をかけたところで、リビングの方から押さえ気味の足音とともに声がかかる。一日のたのしみのひt
20
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:15:12 ID:FwICPjhk
あああああああもうやだああああああ
すいませんやっぱりPCから書き込み直します
21
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:30:23 ID:58n9vJW2
ヤンデレみぽりんを見ると、やっぱり(う)の可能性を秘めてるんだなって思います
22
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:33:16 ID:33cNcAZo
家に帰ったら背後から襲われたみたい
23
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:34:27 ID:RXvvN.UM
お前昨日ガルパン総合スレにチラチラ誤爆してただろ
24
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 23:02:58 ID:FwICPjhk
【沙織GOODエンド】
なるべく音を立てないよう、ゆっくりとドアを開ける。腕時計の針はすでに10時を回っている。娘はもう夢の中だろう。
「おかえり〜」
玄関に入り鍵をかけたところで、リビングの方から抑え気味の足音とともに声がかかる。一日の楽しみのひとつが、この瞬間だ。
「お疲れ様。先にお風呂にするでしょ?」
カバンと上着を受け取りつつ問いかけてくる彼女―――妻の沙織に肯定の意を返して、浴室に向かう。いつものように、すでにタオルと下着、寝巻きにしているスェットが用意されていた。
入浴を済ませ、少しだけ寝室の戸を開けて我が愛娘の寝顔を眺めてからリビングに向かうと、すっかり食事の支度が済んでいた。いつもながら見事な手際である。出会ってまだ間もない、友人関係だった頃にはじめて食事をごちそうになった時に言った、これならいい嫁さんになれる、という自分の言葉が間違っていなかったことを改めて感じた。―――そのときは顔を真っ赤にした彼女にポカポカ叩かれたのだが。
「もー、あいかわらずカラスの行水なんだから。あの子にいつもしっかり体洗って湯船にもゆっくりつかって温まりなさい、って言ってる私の立場がないじゃない」
そう言いつつもしっかり食事のできるタイミングを合わせてくれるあたり、頭が上がらない。
彼女はそのままテーブルの向かい側、グラスがひとつ置かれた席に腰掛けると、先ほど冷蔵庫から出したばかりの冷えたビール瓶の栓を開ける。すぐにこちらも自分の手元のグラスをそちらへと向け、注がれる黄金色の液体を受け止める。そしてそのまま瓶を受け取ると、沙織のグラスに同じくらいの量を注ぐ。ふたりそろってそこまで酒に強くないので、グラスの半分ほどでちょうどいいくらいだ。
「はい、じゃあ今日もお互いお疲れ様〜」
カチン、とグラスを合わせ、ビールを喉に流し込む。仕事の付き合いで飲むそれとは、何から何まで別物の幸福感に包まれる。
「あの子も頑張って起きてたんだけどねー。さすがに9時半ごろにはダウンしちゃったよ」
苦笑しながら沙織が言う。反抗期はまだ先のようで一安心だが、なかなか家族サービスができない現状ではそれが早まりかねない。
「そうだよー?構ってくれないと私もあの子も拗ねちゃうんだから」
冗談めかして彼女は言うが、父であり夫である自分にとってもはや生きる理由とも言うべき彼女たちから嫌われるのはまさに死活問題である。となればまずは―――。
「だからもっと家族サービスを―――っんむっ」
一瞬の隙を突き、その唇を奪う。ただ触れ合わせるだけのものだが、そこから伝わってくる熱は体と心を満たすには十分だった。
「っぷはっ。もー!急にするのやめてってば!びっくりするでしょー!」
顔を赤くしながらまったく迫力のない怒りを表す沙織。まあ実際は怒ってないことくらいは、夫である自分にはすぐにわかる。
「まったくもぅ……」
口の中でまだモゴモゴと文句を言う妻に、これでしばらくは拗ねられすにすむか、と聞くと、
「……効果は一日限定だから」
と、そっぽを向きながらの返答をいただいた。ならば明日もしっかり励まねば。
「あ、でもあのこの前ではやめてよね!この前だって―――」
そう言ってこれまでの家族サービス―――否、嫁サービスへの文句を並べ始めた。どうやら娘はそれらを目撃したことを近所の友達に話したようで、沙織はママ友の皆様から温かいからかいの言葉をいただいたらしい。思わず吹き出すと、
「もー!本当に恥ずかしかったんだからね!」
うっかりその可愛らしい怒りへの燃料投下になってしまったらしい。しょうがない、この目の前の手料理とグラスに残ったビールを飲み干すまでは聞き役に徹しよう。それまでにその矛を収めてくれることを願いつつ、妻からの愛に溢れた愚痴を賜るのだった―――。
25
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 23:11:23 ID:58n9vJW2
すばらしいGOODエンド
その分BADが怖いです…
26
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 23:17:01 ID:J0uKkXis
おおーええやん、気に入ったわ
27
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 00:53:47 ID:ayxgt20w
【沙織 BADエンド】
「―――え?」
テーブルの対面に座る恋人―――武部沙織は、今まさに置こうとした紅茶のカップを落とし、笑顔のまま硬直した。幸い低い位置からの落下だったので、カップは割れずにすんだものの、中に僅かに残った紅茶がテーブルクロスに染み込んでいき―――まるで血のように広がった。
「ごっ、ごめん。も、もう一回言って?私、なんか今、えっと」
そのことに気付いているのかいないのか、硬直の解けた彼女は今度は震えるような声で何度も突っかえながら、必死に言葉を紡いだ。ああ、予想はしていたが、またあの言葉を彼女にぶつけなくてはならないのか―――。
「別れてくれ、沙織」
はっきりと、今度は聞き返されぬように告げる。沙織の顔からは今度こそ表情が消え失せ、心臓が止まった言われれば信じられるほどにどんどん血の気を失っていった。
「―――なんで!?ねぇなんで!?」
一転して大声を上げながらテーブルを乗り越え、こちらの両肩を掴み、激しく揺すってくる。やはり場所を彼女の自宅にしたのは正解だった。カフェなどの人前でこんなにも取り乱されたら、一歩間違えば警察を呼ばれかねない。
「私の何がいけないの!?ねぇ!!教えてよ!!言ってくれたら全部直すから!!髪型だって、服だって!全部あなたの好みに合わせたよ!?もしも他の男の子―――ううん、他の人と話すなって言うなら、もうあなた以外とは話さない!!戦車道だって―――」
―――それだ。彼女にこんなにも残酷な仕打ちをするに至った理由は。
「……え?」
沙織との交際について改めて考えれば、そのはじまりはこちらの一目惚れにも近いものだった。誰に対しても明るく、優しく、面倒見のいい彼女。その容姿を含め、すべてが魅力的だった。なんとか少しずつ距離を縮めていき、友人たちの手助けもあって無事恋人となった。それからしばらくは間違いなく夢のような日々だった。
そこに不安を覚えたのは、交際を始めて2ヶ月ほど経った頃だろうか。ふたりでテレビを観ていたとき、ふとそこに映ったショートヘアのアイドルに、この娘可愛いな、と呟いた。本当に何気ない言葉だったはずだが、翌日沙織のふわふわとしたロングヘアーは、首元のあたりでバッサリと切られていた。驚いてどうしたのかと聞けば、
『だって、ショートの方が好みなんでしょ?』
きょとんとした表情でさも当然のように答える彼女に、何か背筋に走るものを感じた。
その後も、眼鏡が似合うといえば、それ以来眼鏡を外した姿を見なくなった。制服姿が可愛いと褒めれば、休日だろうと関係なく制服を着てくるようになった。その他の例も挙げればキリがない。そんな彼女の姿に、恐怖にも近い感情を抱くのに大した時間は必要なかった。
彼女は、自分が言った言葉をすべて実践する。なんの躊躇いもなく、それが当然の義務のように。ならば、最後に残る武部沙織は、本当に自分が惚れた武部沙織なのか―――と。
もしも、友人たちとの関係をすべて絶ってほしい、と言ったら?もし、戦車道を辞めてくれ、と言ったら?それ以外にも、彼女を構成する要素を変えて欲しいと言ったら―――。
図らずとも、この不安の一端は先ほど証明されてしまった。彼女は、迷わず捨てる、変える。どれほどそれまで大切にしていたものであろうと。
「っ、それの何が悪いの!?好きな人のために全部を捧げるなんて当たり前でしょ!?」
その気持ちは嬉しい。これは確かだ。だがそれ以上に、そんな彼女の愛情を受け止め続ける自信がなかった。自分の言葉でひとりの人間を変えていってしまうことが怖かった。人よりなにか突出したものがあるわけでもない凡人の自分には、彼女と一緒にいることがどんどん苦痛になっていったのだ。
「……なにそれ。意味わかんない。全然わかんない」
顔を伏せ、つぶやくように沙織は言った。その通りだ。すべては自分の弱さと身勝手から出た結論だ。この場で何十発殴られようと、共通の友人たちから軽蔑され、絶縁されても文句など言えるはずもない。すべてを受け入れる義務が自分にはあるのだ。
28
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 00:54:09 ID:ayxgt20w
「……ッ!!」
いきなり動き出した彼女は、先ほどケーキを切り分ける際に使い、置いたままになった包丁を掴んだ。
背筋が凍った。その刃が自分の額か、あるいは心臓めがけて突き出されるのを恐れ、思わず後ろの壁に背中が付くまで後ずさってしまった。
しかし沙織は、こちらの予想とは大きく違った行動に出た。
「……」
テーブルを乗り越え、こちらの目の前まで歩みを進めると、そのまま腰を下ろし、こちらに目線を合わせてくる。その手には依然として凶器が握られたままだ。
「わかった。うん、わかったよ」
沙織はそう言いながらにっこりと―――まさに花が咲いたような、という例えがふさわしい満面の笑みを浮かべた。
「つまり、今の私じゃ何をしたってあなたに愛してもらえないんだよね?」
そして、その刃が握られた右手をゆっくりと上げ、
「だったら、いらない。あなたに愛してもらえない私なんて―――いらないよ」
包丁の先端を自身の喉元へと向けた―――。
29
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 01:01:09 ID:ayxgt20w
沙織ルート工事完了です…(満身創痍)
なんか相手がクズになってしまったけどそういうのが似合う武部殿が悪い(暴論)
胸糞な話で申し訳ナイス!
他のルートはぶっちゃけネタ切れなんで思いついたらまた書こうと思います
30
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 01:03:34 ID:dNgRc5rA
悲しいなぁ
31
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 06:17:47 ID:dufE0ZFs
しなないで
32
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 06:19:36 ID:SLV8svRI
確かに似合う
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/20196/1464536785/-100
33
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:12:38 ID:ayxgt20w
【麻子ルート GOODエンド】
「……おはよう」
寝室から出てキッチンへ向かいそこにあった人影に声をかけると、ただでさえ普段からハスキー気味な声をさらに二音階ほど低くしたような、ともすればうめき声のようなあいさつが返ってきた。こちらを振り返った妻―――麻子は、街の不良のごときすさまじい目つきの悪さだった。見ようによってはB級ホラーのゾンビのようなそれは、彼女をよく知らない人間が見ればまず間違いなくギョッとするだろう。しかし、家族である自分からすればそれは朝のいつも通りの光景であり、むしろ安心感すら覚えるほどだ。
「おはよー」
「ああ、おはよう。ふたりとも、もう少しでできるから座って待っててくれ」
ほどなくして起きてきた娘も自分と同じくその姿に驚きもせず、さっさとテーブルの自分の定位置につく。あいかわらずの目つきの悪さで電子レンジとトースターを威嚇するかのような視線を送る妻を見守りつつ、我が子に習い椅子に腰を下ろす。
麻子が朝に弱いということは交際が始まる前からいやというほど味わっている。当然、結婚して同棲することになった際も朝の家事は自分がやる、と言ったのだが、彼女は頑として譲らずに現在に至る。
『仮にも専業主婦が家事をやらないのはおかしいだろう』
というのが彼女の言い分だった。妙なところで義理堅い麻子らしい。最初のうちはその睡魔との激闘ぶりに見ていてハラハラしたものだが、慣れとは恐ろしいもので、彼女のそんな姿をある種楽しみにさえしている現在がある。
「さあ、できたぞ」
どうやら多少は眠気も晴れてきたようで、先程までは麻子の体感でおそらく3トンはあったであろう瞼が今では幾分か上に持ち上がっている。それでも午後以降の彼女に比べれば3分の1程度の速度でしか動けていないのは仕方ないだろう。せっせと運んでくる皿には、人数分のトーストとベーコンにスクランブルエッグ、それにサラダが盛り付けられていた。大半は昨日の夜に用意していたものだ。さすがに早朝の彼女に包丁を持たせるだけの勇気は自分にはない。ちなみに手伝わないのは亭主関白を気取っているからではもちろんなく、麻子がすべて自分でやると言って聞かなかったからだ。このあたりも彼女にとって譲れないラインらしい。
「「「いただきます」」」
三人で声と手をあわせる。なるべく我が家では家族揃っての食事をするよう心がけているが、これは麻子の希望も大きい。人一倍家族というものに思い入れのある彼女らしい方針である。
「今日は遅くなるのか?」
トーストを齧りながら麻子が聞いてきた。どこか不安そうなその表情に、間髪入れずに早く帰る、と答えた。毎朝同じやりとりをしているが、この顔に勝てた試しがない。
「……そうか」
幾分か柔らかくなった彼女の顔を見て、先ほどの宣言を絶対に守ることを内心誓う。これも毎朝のことだ。
「わたしもがっこうおわったらすぐにかえるね!」
最近になって一人称が自分の名前から「わたし」に変わったばかりの娘も力強く宣言する。こういうところは父親である自分に似たらしい、と思わず苦笑する。
「わかった」
言葉こそそっけないものだが、ますます頬を緩めた麻子は、満足げに残りの朝食を早々に平らげた。
それに続いて自分と娘も食事を終えると、それぞれ出勤と登校前の支度に入る。
スーツに着替えている最中に、娘の支度の手伝いを終えた麻子がやってきた。
「だいぶくたびれてきたな。そろそろ新しいスーツを買ってもいいんじゃないか」
ジャケットをこちらに手渡しながら麻子が言う。しかしそれは少々受け入れ難い提案だ。なぜならこのスーツは、現在の職場への就職が決まった際にほかならぬ麻子がプレゼントしてくれたものだからだ。高級ブランドのものではないが、自分にとっては代え難い価値のある一着なのだ。
「……なにも捨てろとは言っていないだろう。他にも何着か持っていた方が便利だって話だ」
わずかに頬を染めつつ彼女は言った。それはわかっているのだが、やはりこのスーツを着ないとどうにもスイッチが入らないようになってしまっている自分が居るのだからいかんともしがたい。
「やれやれ。それならしばらくお前へのプレゼント類は全部スーツだな」
表情を苦笑に変えた麻子の言葉にそれはいい考えだ、と返した。彼女からの贈り物は自分にとって例外なくラッキーアイテムだ。勝負服が増えるのは悪いことではあるまい。
「皮肉で言ったんだ、馬鹿」
呆れたようにしながらも笑顔のままの彼女にこちらも笑顔で答えつつ、その首元に光る結婚前に贈ったネックレスを、いまだに常に身につけているあたりお互い様だ、と思うのだった。
「
34
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:13:17 ID:ayxgt20w
【麻子ルート GOODエンド】
「……おはよう」
寝室から出てキッチンへ向かいそこにあった人影に声をかけると、ただでさえ普段からハスキー気味な声をさらに二音階ほど低くしたような、ともすればうめき声のようなあいさつが返ってきた。こちらを振り返った妻―――麻子は、街の不良のごときすさまじい目つきの悪さだった。見ようによってはB級ホラーのゾンビのようなそれは、彼女をよく知らない人間が見ればまず間違いなくギョッとするだろう。しかし、家族である自分からすればそれは朝のいつも通りの光景であり、むしろ安心感すら覚えるほどだ。
「おはよー」
「ああ、おはよう。ふたりとも、もう少しでできるから座って待っててくれ」
ほどなくして起きてきた娘も自分と同じくその姿に驚きもせず、さっさとテーブルの自分の定位置につく。あいかわらずの目つきの悪さで電子レンジとトースターを威嚇するかのような視線を送る妻を見守りつつ、我が子に習い椅子に腰を下ろす。
麻子が朝に弱いということは交際が始まる前からいやというほど味わっている。当然、結婚して同棲することになった際も朝の家事は自分がやる、と言ったのだが、彼女は頑として譲らずに現在に至る。
『仮にも専業主婦が家事をやらないのはおかしいだろう』
というのが彼女の言い分だった。妙なところで義理堅い麻子らしい。最初のうちはその睡魔との激闘ぶりに見ていてハラハラしたものだが、慣れとは恐ろしいもので、彼女のそんな姿をある種楽しみにさえしている現在がある。
「さあ、できたぞ」
どうやら多少は眠気も晴れてきたようで、先程までは麻子の体感でおそらく3トンはあったであろう瞼が今では幾分か上に持ち上がっている。それでも午後以降の彼女に比べれば3分の1程度の速度でしか動けていないのは仕方ないだろう。せっせと運んでくる皿には、人数分のトーストとベーコンにスクランブルエッグ、それにサラダが盛り付けられていた。大半は昨日の夜に用意していたものだ。さすがに早朝の彼女に包丁を持たせるだけの勇気は自分にはない。ちなみに手伝わないのは亭主関白を気取っているからではもちろんなく、麻子がすべて自分でやると言って聞かなかったからだ。このあたりも彼女にとって譲れないラインらしい。
「「「いただきます」」」
三人で声と手をあわせる。なるべく我が家では家族揃っての食事をするよう心がけているが、これは麻子の希望も大きい。人一倍家族というものに思い入れのある彼女らしい方針である。
「今日は遅くなるのか?」
トーストを齧りながら麻子が聞いてきた。どこか不安そうなその表情に、間髪入れずに早く帰る、と答えた。毎朝同じやりとりをしているが、この顔に勝てた試しがない。
「……そうか」
幾分か柔らかくなった彼女の顔を見て、先ほどの宣言を絶対に守ることを内心誓う。これも毎朝のことだ。
「わたしもがっこうおわったらすぐにかえるね!」
最近になって一人称が自分の名前から「わたし」に変わったばかりの娘も力強く宣言する。こういうところは父親である自分に似たらしい、と思わず苦笑する。
「わかった」
言葉こそそっけないものだが、ますます頬を緩めた麻子は、満足げに残りの朝食を早々に平らげた。
それに続いて自分と娘も食事を終えると、それぞれ出勤と登校前の支度に入る。
スーツに着替えている最中に、娘の支度の手伝いを終えた麻子がやってきた。
「だいぶくたびれてきたな。そろそろ新しいスーツを買ってもいいんじゃないか」
ジャケットをこちらに手渡しながら麻子が言う。しかしそれは少々受け入れ難い提案だ。なぜならこのスーツは、現在の職場への就職が決まった際にほかならぬ麻子がプレゼントしてくれたものだからだ。高級ブランドのものではないが、自分にとっては代え難い価値のある一着なのだ。
「……なにも捨てろとは言っていないだろう。他にも何着か持っていた方が便利だって話だ」
わずかに頬を染めつつ彼女は言った。それはわかっているのだが、やはりこのスーツを着ないとどうにもスイッチが入らないようになってしまっている自分が居るのだからいかんともしがたい。
「やれやれ。それならしばらくお前へのプレゼント類は全部スーツだな」
表情を苦笑に変えた麻子の言葉にそれはいい考えだ、と返した。彼女からの贈り物は自分にとって例外なくラッキーアイテムだ。勝負服が増えるのは悪いことではあるまい。
「皮肉で言ったんだ、馬鹿」
呆れたようにしながらも笑顔のままの彼女にこちらも笑顔で答えつつ、その首元に光る結婚前に贈ったネックレスを、いまだに常に身につけているあたりお互い様だ、と思うのだった。
「
35
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:14:32 ID:ayxgt20w
「ふたりとも、忘れ物はないな?」
そうこうしているうちに家を出なければいけな時刻となってしまった。玄関で娘と一緒に靴を履いているところに麻子から声がかかる。それに揃って大丈夫、と答えるのも毎朝のお約束だ。
「事故には気を付けるんだぞ。なにかあったらすぐに連絡しろ」
―――気付いたのは一緒に暮らしはじめ、こうして朝の見送りをしてもらうようになってひと月ほど経った頃だった。どうして朝に弱い彼女がこうまでその生来の体質に抗い、早起きをして家事をするのか。もちろん、先の通りに専業主婦としての意地や義理もあるのだろう。だが、一番の理由は麻子の過去にある。幼少期に両親を事故で失ったこと。その日偶然にも母親と喧嘩をしてしまったこと。それらは彼女の心にいまだに―――そしてこれからも消えることのないであろう傷を残した。ゆえに、毎朝彼女は奮闘するのだ。二度と同じ後悔をしないように。
「よし。じゃあ―――いってらっしゃい」
その言葉に、我が子と揃ってしっかりと返事をする。
「「いってきます!」」
麻子の両親は帰ってこない。それは当然だ。だが、現在の彼女にとって、自分と娘がもっとも大切な存在であるという確信がある。ならば、これもやはり当然、彼女の想いと願いに答える義務があるだろう。
ドアを出て、こちらの姿が見えなくなるまで見守ってくれている妻を見て、今日も無事に一日を過ごし、彼女のもとに少しでも早く帰るという決意を新たにして職場(せんじょう)へと歩みを進めた。
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:18:31 ID:vndkm5MU
やっぱり麻子のGOODエンドを…最高やな!
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:52:32 ID:03hIsPBg
乙ゥ〜! 麻子いいゾーこれ
BADエンドやだ怖い…(ふとまら君)
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:53:52 ID:dufE0ZFs
やりますねぇ!
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 00:01:42 ID:2Orb81bY
いいゾ〜これ
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 00:48:38 ID:ucU4a1SU
麻子BADはすげえ怖そう
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:00:10 ID:G/4hQAcY
【麻子ルート BADエンド】
―――話し声が聞こえる。
「でも麻子さん、本当に大丈夫?」
「ああ、ありがとう西住さん。でも本当に大丈夫だ」
「ホントひどいよね!急にいなくなるなんて!麻子はもちろんだけど私たちだって友達として仲良くしてたのに!」
「落ち着いてください沙織さん。あの人のことですから、私たちに何も言わなかったのにもきっとなにか理由があったんですよ」
「そうですよ武部殿!おそらくはご家庭の事情とか、そういった止むにやまれぬ事情があったのかと」
「……私も秋山さんと同じ意見だ。自分ではどうにもできない事態だったんだと思う。それを責めるつもりはない」
「麻子……。こうなったらさ、早く新しい彼氏見つけようよ!そうすれば―――「沙織」」
「気持ちはありがたいが、私はあいつ以外を好きになることはない。どんなことがあっても」
「―――ッ。ご、ごめん……」
―――そんなやり取りの後、少ししたら彼女たちは帰っていったようだ。遠ざかっていく足音と声に追いすがりたい、という気持ちを必死で押さえつける。隙を突く、なんて芸当が不可能であることはこの状況に陥ってからすぐに思い知らされたからだ。
「すまない。待たせたな」
謝るくらいだったら、さっさと解放してくれ。そんな言葉をなんとか飲み込みつつ、唯一の出入り口から入ってくる小柄な少女を見据える。彼女―――麻子の手には、コンビニの袋が握られていた。おそらく中身は弁当とペットボトルの水、それにお菓子類だろう。
「なかなかみんな帰らなくてな。よほどお前と私が心配らしい」
そう言いながら彼女は部屋の中心に置かれたちゃぶ台に袋の中身を並べていく。こちらの予想通りのラインナップだ。
「ほら、食べさせてやるからこっちに来い」
素直にその言葉に従い、体を動かす。自分で食える、と言ったところで受け入れられないことはとっくに証明されている。
「美味いだろう?お前の好物の焼肉弁当だからな」
満足そうに微笑む彼女の笑顔を見ても、以前のように心が安らぐことはない。むしろその裏側に潜む狂気を感じるばかりだ。
「お前はずっとここにいればいいんだ。私がお前をこの世のすべてから守る」
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:00:28 ID:G/4hQAcY
―――すべてのきっかけとなったのは、一週間ほど前の事故だ。信号無視の車にはねられる姿を麻子に見られたことからはじまった。
事故自体は大したものではない。相手は軽自動車だったし、比較的細い道だったこともあってスピードもそれほど出ていなかった。こちらの怪我は捻挫と打撲くらいで済んだのがその証拠だ。保険などのことは親に任せてしまったし、一日だけの検査入院が終わればまた恋人である麻子、それに他の友人たちと過ごす日常に戻れる―――はずだった。
退院の日、学校をわざわざ休んで迎えに来た麻子に、彼女の家に寄るよう言われた。恋人からの誘いを断る理由はなく、言われるがままにすでに何度も訪れた彼女の家に入り、出されたお茶を飲み―――気づけばこの状況だった。
ここまでの経緯からして、ここはまず間違いなく麻子の家の中のどこかではあるはずだ。一軒家であるこの家屋の中に、こちらが知らない部屋があり、そこに閉じ込められている……と考えるのが妥当だろう。決して大きい家ではないが、その構造すべてを把握していたわけではない。
『お前は今日からここで暮らすんだ。一生、私といっしょに』
目覚めた直後にそう告げた麻子の顔に、冗談や嘘の類はひとかけらも感じられなかった。こちらの意思の介在を許さない、一方的な宣言。当然納得などいかずに最初は説得を試み、それが無理だとわかれば力尽くで脱出しようとした。同年代の少女に比べても小柄な彼女に腕力で負ける道理はない。しかし、その手段も麻子の小さな手に握られたひとつの携帯電話によって潰されることとなった。
「よく撮れてるだろう?」
そこに映し出されたのは、紛れもなく自分と彼女―――それも、行為の真っ最中の動画だった。
『押入れの中に仕掛けておいた。せかくだから記念に、程度に思っていたが、まかさこんな風に役立つとは』
あっさりと言い放つ麻子。しかし間違いなく、それはこちらの抵抗をすべて封じるには十分すぎるほどのジョーカーだった。
『これが”うっかり”流出でもしたら大変だな。顔もしっかり映ってるからすぐに特定されるだろう。そうなればふたりとも破滅、だな?』
彼女は人質を取った。他ならぬ冷泉麻子を。こちらが絶対的に犠牲にすることができない存在を―――。
『わかったか?わかったな?お前はなにも心配しなくていい。お前が私を見捨てなければすべてうまくいく』
―――そして現在。あれから三日経った。麻子は先ほどのように時折現れる訪問者の対応と買い物、そしてどこかへの連絡以外はずっとこの部屋にいる。どのみち、あの動画の存在を知ってしまった以上、こちらはどうすることもできない。たとえあの携帯を壊してもおそらくデータはとっくにコピー済みだろうからだ。
考えてみれば、この異常な状態が維持できているのはおかしい。いくら彼女が天才的な頭脳を持つとは言え、人ひとりを世間から隠して監禁するなど、単独でできるものだろうか。もしかしたら協力者がいるのかもしれない。麻子の周囲には財力や社会的影響力を持つ家柄の人間が何人かいることを考慮に入れればありえない話ではない。
「さあ、これで最後だ」
気づけば、すでに弁当をあと一口というところまで食べきっていた。考え事をしていたとはいえ、もはや彼女に食事を食べさせてもらうことを自然に受け入れてしまっていた。いや、食事だけでなく―――。
「さて、食事も終わったことだし、食後の運動といくぞ」
そう言いながら麻子はその衣服を脱ぎ始める。それを止めない。
「さあ、お前も」
そう言いながら麻子はこちらの衣服を脱がせ始める。それを止められない。
「ふふ……」
微笑みながら抱きついてくる彼女のぬくもりを感じながら、すでに自分も彼女と同じくらいに堕ちていることを自覚する。ああ、でも、もうどうでもいい。麻子さえいるならもう、それで―――。
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