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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双
1
:
◆hCHNY2GnWQ
:2012/07/12(木) 22:37:04 ID:w.OycBSI0
お久しぶりです。2年ほど放置してしまいました。すみません。
VIPはすぐ落ちるとのことなので、こちらをお借りさせていただきます。
今回は最終話一つ前の第7話です。遅かったくせにすみません。
ご存じない方は、下記URLを参考ください。
ブーン文丸新聞 様
第一部 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire/retire.htm
第二部完結編 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire2/retire2.htm
では、開始します。
196
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:16:55 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……そういえば、モララーさん。
今晩、『三日月の涙』を見せてくれるって約束しましたよね?」
膠着した空気に、今度はツンが一石を投じる。
この島に、わざわざやってきた本来の目的の話だ。
(*゚∀゚)「おー、そうだそうだったな。見せてくれよ、その宝石!」
(´・ω・`)「メディクシルみたいに、本当に存在する伝説……
そんなものが拝めるなら、これ以上の謝罪はないと思いますよ」
( ^ω^)「同感だお!」
(;-∀-)「…………そうだね。わかった。ありがとう、みんな」
まだ本当は思っていることもあるが。
様々な感情を押し殺し、モララーはようやく面を上げた。
複雑な表情を隠し、息を一度深く吐き。
また、普段通りの優しい笑顔へと戻す。
( ・∀・)「それじゃ、行こうか」
普段の様子で、青年はみなを案内する。
そこは薄暗いコテージの外。
室内に灯された光源と、月明かり以外何もない真っ暗な世界。
そこに何があるのだろうか。
疑問を浮かべながら待っていると、モララーは何かを念じ始めた。
197
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:18:06 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「……これと……あとはこれかな」
術式が決まり、魔法陣が足元に展開された。
ちょうど、六人全員が入る範囲で地面に浮かび上がる。
最初は白、次に黄色、青や緑など様々な変化をすると
それらは消失した。
( ^ω^)「お? 何がどうなったんだお?」
(´・ω・`)「耐水、耐衝に、防音と水中活動……かな?」
ξ゚⊿゚)ξ「暗視もあったわね」
( -∀・)「ふふ。流石だね、二人とも」
(*゚∀゚)「??」
ξ゚⊿゚)ξ「今、モララーさんが私たちに使った防護系魔法よ」
(´・ω・`)「ちなみに普通はこんなたくさん重ねがけ出来ないからね」
( ^ω^)「ほほー……。お? ということは……」
( ・∀・)「せっかくだし、みんな目を瞑ってくれないかな」
いたずらを仕掛ける少年のような顔でモララーは提案した。
それぞれが期待を胸に、目を瞑る。
( ・∀・)「トソンさん」
(-、-*トソン「!」
そして、移動のための空間転移魔法陣が発動する。
直前、モララーはトソンを抱き寄せ
少しでも不安がないよう、優しく、力強く肩を握った。
198
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:20:45 ID:HcbLbdA20
――――。
( ・∀・)「……よし。さあ、みんな。目を開けて良いよ」
身体の感覚が消え、また戻って。
次に感じたのは、やけにくぐもった周りの音。
足の裏はしっかり地面に着いているはずなのに、やけに浮遊感がある。
事前の対抗魔法で、なんとなくの察しはついていた。
今いる場所も、予想はつく。
しかし、一体何のため……?
モララーが合図をするまで、疑問は止まらなかった。
そして、その『答え』が少年少女の目の中に入ってきたとき。
(* ^ω^)ξ*゚⊿゚)ξ(*´・ω・`)(*゚∀゚)「「「「うわあーーー!!」」」」
全く同じタイミングで、同じ感嘆の声をあげた。
199
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:22:35 ID:HcbLbdA20
光。
黄金の光。
それは、玻璃色の石に降り注ぐ
月の光で輝いている、美しい景色。
今いる場所は、レハコーナ島からやや遠くの海の中。
条件は、晴れていること。
夏の夜、月が最も大地に近づく日であること。
降り注ぐ月の光が水中を反射し、一点に集められる場所であること。
集められた光を受け取り、さらに吐き出せる物質が、『そこ』にあること。
以上を満たした時にだけ見れる、幻想風景。
海中の鉱石が長い年月をかけて集まり、月光を吸収。
そして、その光は再び天へ還る。
海面から映る三日月が、まるで涙を流しているような景色。
それを作っている希少石を『三日月の涙』と呼ぶのである。
200
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:24:04 ID:HcbLbdA20
(* ^ω^)「凄いお凄いお! なんだおこれ!」
ξ*゚⊿゚)ξ「こんなの初めて見た……」
(*´・ω・`)「……僕も」
(*゚∀゚)「はえー……なんかもう、言葉がでてこねーな」
(゚、゚*トソン「ホント……。綺麗……」
うっとりと、ぼんやりと。
暗視の魔法で見れるようになった、海中の風景をただ眺める。
海流の加減で、その光は揺らいだり、鱗粉のように煌めいたり。
見ているだけで、飽きることのない絶景を広げ続けていた。
( ・∀・)「この辺りに、危険な生き物が近づかないよう結界も張ったよ。
普通なら来れない、夜の海だ。自由に動いていいからね」
みなが感嘆している間に、モララーは術式を完遂させていた。
(* ^ω^)「うひょー! マジですかお! やったあ!」
許可を皮切りに、ブーンは地を蹴り水中へと踊りだす。
魔法の使えない彼だが、かけられている魔法のおかげで
思ったように動けるのだ。楽しくないわけがない。
201
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:25:40 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「オレもちょっと泳いでくるー!」
ξ゚⊿゚)ξ=3「もー。もうちょっと見てから行けばいいのに」
(´・ω・`)「本当だよ」
それは他の子どもたちにとっても、同じことだったようで。
最初はただただ、『三日月の涙』を見ていたが
次第に周囲の、もの珍しい海中風景へ興味が移っていった。
( ・∀・)「……さて、と」
まるで、それを待っていたかのように。
モララーはみんなが離れ離れになったのを確認すると
さっきまで抱いていたトソンの肩を放した。
( ・∀・)「ちょっと、みんなとお話をしてくるね」
(゚、゚トソン「! ……はい。いってらっしゃい」
意図を理解したトソンは、その場から動かず。
黙って、海の中へ遠ざかっていく背中を見届けた。
202
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:26:47 ID:HcbLbdA20
――――。
(*゚∀゚)「うっほー! 楽しいなコレ!」
波に乗るように、海の中の流れにツーは身を任せていた。
体の力を抜いて、ゆらゆらと液体と同化するように泳いでいく。
( ・∀・)「やあ、ツーちゃん」
そこへ、踊るように流れてきたモララーが声をかけた。
(*゚∀゚)「おー、兄ちゃん」
( ・∀・)「楽しんでる?」
(*゚∀゚)「おう! そりゃあ、もう!」
満点の笑顔でツーが応える。
その表情が嬉しくて、モララーも顔をほころばせる。
並列して海中を漂っている最中、モララーが手を差し出した。
ツーが、その農作業で硬くなった手のひらを感じ取るとクスリと笑った。
( ・∀・)「?」
(*゚∀゚)「ごめんごめん。兄ちゃん、魔術師の癖に手がゴツイからさ」
( ・∀・)「昔はそうでもなかったんだけどね」
(*゚∀゚)「畑やってりゃ、そうもなるよな」
月明かりのシャンデリアの下、二人は踊るように流れていく。
そうして無心に体を動かすのが楽しくて。
目に映る全てが、新しくて。
ツーは思ったことを、いつも通り素直に述べた。
203
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:28:25 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「兄ちゃん、今回連れてきてくれてありがとな」
(*゚∀゚)「うちは父ちゃんのことがあるからさ。
旅行なんて行った経験なかったし。
学校行事のも断ってたぐらいなんだ。家空ける時間長げーからさ」
(*゚∀゚)「だから、人生初めての旅行がここで……更にみんなと来れてさ」
(*^∀^)「オレ、めっちゃ幸せだ!」
屈託のない表情を受け取って、モララーも相応の返事をする。
( ・∀・)「僕も、ツーちゃんに会えて良かった」
( ・∀・)「初めて作った野菜。
売れる保証もないのに、君は二つ返事で店に出すことを了承してくれた」
( -∀-)「戦い以外で、自分にできることが……その成果が一つ達成できて」
( ・∀・)「あの時、本当に嬉しかったんだ」
(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ。当然だろー?」
(*゚∀゚)「だって、兄ちゃんの野菜めちゃくちゃ美味ぇんだもん。
これを売らないのは、八百屋として恥だと思ったんだ」
( ・∀・)「それは光栄だ」
(*゚∀゚)「だからよ、兄ちゃん」
204
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:29:32 ID:HcbLbdA20
(*^∀゚)「これからも、どうかよろしくな!」
いつの間にか二人は、地に足をつけていた。
手はつないだまま。真っすぐ向かい合って、思い思い話していたのだ。
自然と握手する姿勢になったツーは、しっかりと手を握る。
( ・∀・)「うん。こちらこそ」
モララーも、未来への期待とこれからの不安。
せめて、良く知る彼女だけでも生涯守り抜こう。
強い気持ちを込めて、手を握り返した。
205
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:31:35 ID:HcbLbdA20
――――。
(´・ω・`)「…………」
ショボンは海面にまであがり、体を浮かせてぼんやり夜空を眺めていた。
波で何度も視界が揺らぐ。
それによって、星の瞬きが不規則になり
まるで万華鏡を覗いているかのような気分になった。
( ・∀・)「ここ、星が良く見えるでしょ」
(´・ω・`)「モララーさん」
姿勢を変えず、目だけで確認した。
声が届く範囲に来たモララーも、同じようにあお向けになり空を仰いでいる。
( ・∀・)「山奥と違って、水が反射してるから
また景色が違って見えて良いよね」
(´・ω・`)「そうですね」
淡々とショボンは返す。
興味がないわけではない。
ただ、非常にリラックスした気持ちになっているため
自然とそうなるのだ。
( -∀-)「…………ねえ、ショボン君」
(´・ω・`)「はい」
206
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:33:07 ID:HcbLbdA20
しばらく漂っていると、モララーが声をかけた。
彼も気持ちと体を弛緩させて、楽なまま問う。
( ・∀・)「ショボン君は、何か夢とかある?」
(´・ω・`)「夢……ですか?」
( ・∀・)「うん。将来どういう風になりたいとか、やりたいこととか」
(´・ω・`)「そうですね……ありますよ」
( ・∀・)「おっ、何かな?」
(´・ω・`)「近衛魔術師になることです」
( ・∀・)「へー。どうして?」
(´・ω・`)「学校に入る前も、入ってからも。
僕はシャキン=ノーファルの息子でした」
(´・ω・`)「……その驕りが、僕をゆがんだ形にしていた」
( ・∀・)「……」
(´・ω・`)「ブーンに助けられ、モララーさんと出会って。
色々見ているうちに、僕思ったんです」
(´・ω・`)「負けたくないなあ、って」
207
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:37:49 ID:HcbLbdA20
(´・ω・`)「世の中にはもっともっと凄い人が居て。
たくさん苦労して、悩んで。それでも頑張っている人がいる」
(´・ω・`)「そんな人達に劣らない、強い人になりたい」
(´・ω・`)「だから、僕は父さんも超えて……近衛の称号を持つ魔術師を目指そう」
(´・ω・`)「そう、思ったんです」
( ・∀・)「そっか……」
初めて会った頃。
まだブーンを一方的に弄んでいた頃。
彼は、まさに自分が言うように自己欲の塊だった。
権力を笠に着て、やりたい放題やって。
人を傷つけるのも平気で行う。
なんて醜く、哀れな少年なのだ。
当時の率直な感想だ。
だが、今はどうだろう。
自分の力をちゃんと見定め、その上で更に先を目指そうとしている。
あの頃の尖った様子は完全になりを潜め、いつの間にか立派な大人へ
足を踏み込んでいる。
208
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:39:34 ID:HcbLbdA20
ブーンやツンの成長も目覚ましいものはあったが。
見てきた中で、一番変化のあったのはこの子かもしれない。
嬉しい感情を堪えつつ、モララーはあえて発破をかけてみた。
( ・∀・)「ショボン君、もし君が偉くなることを望んでいるなら。
もっと先が、実はあるんだけど」
(´・ω・`)「え?」
( -∀・)「……『大魔術師』を目指してみては?」
(;´・ω・`)「ちょっ……!?」
ショボンは、水しぶきを大きく立てながら慌てて体を起こした。
(;´・ω・`)「そ、それは……その……流石に……」
( ・∀・)「ふふ。考えたこともなかった?」
(;´・ω・`)「…………」
209
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:40:45 ID:HcbLbdA20
(;´ ω `)「…………」
( ´ ω `)
(´・ω・`)
(´・ω・`)「……モララーさん。
大魔術師って、人をたくさん殺さないとなれないんですか?」
210
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:41:57 ID:HcbLbdA20
余りにも愚直な質問に、一瞬だけ表情が強張る。
しかし、冗談で尋ねた様子ではない。
不躾を覚悟で問うたという、強い意志が瞳から見て取れる。
……だから、モララーも逃げずに答えた。
( ・∀・)「一応、前代未聞の称号だから何とも言えないけど」
( ・∀・)「誰にも出来ないような偉業を成し遂げたから、頂いた証だと思ってる」
( -∀-)「……形は違えど、きっと成る方法はあるはずだよ。
おじい様なら、そう言うさ」
( ・∀・)「なにせ、大魔術師は『英雄』の証でもあるらしいからね」
多くの命を奪い、人生を閉じさせた元凶。
ラウンジ大陸の人間にとっては、間違いなく『黒風』は災厄そのものだろう。
だが、VIP大陸の人間たちにとっては、彼はまぎれもない英雄だ。
かつては、そんなの偽善だと吐き捨てたこともある。
しかし、心境に変化があったのはショボンだけではない。
今は、少しだけ。
夢への道標でもあるのだと、胸を張れるようになった。
211
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:43:47 ID:HcbLbdA20
(´・ω・`)「…………そうですか」
言葉を聞き、ショボンは深く息を吸い、吐き出す。
そして決意を込めて、思いを告げた。
(*´・ω・`)「なら、なって見せますよ。いつか、必ず!」
( -∀・)「うん。その意気だ。頑張れ!」
モララーは手を高く伸ばした。
(*´・ω・`)「!」
その意味に気付くと、ショボンは嬉しそうに近づき。
力強く、水しぶきと共に
向けられた手のひらを叩いた。
212
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:45:52 ID:HcbLbdA20
――――。
ξ゚⊿゚)ξ「……アンバーかな。それともサンダイヤ……?」
海底に輝く石を眺める背中が一つ。
首を傾げながら、じっと凝らして見定める。
この美しい光を放つ物体は、一体何で出来ているのか。
周りを見ることに飽いたツンは、三日月の涙の下へ戻ってきていた。
ξ゚⊿゚)ξ「あ、これ……まさか!」
注意力を高めて見ていると、答えの一つが浮かび上がる。
( ・∀・)「ツンちゃん、何してるの?」
同時に、海面から降りてきたモララーがやってきた。
ξ゚⊿゚)ξ「モララーさん。この光ってる石
もしかして、主な構成はアブスライトですか?」
自分の疑問の解が合っているのか、期待半分不安半分聞いてみる。
その発言にモララーは驚きながら返答した。
( ・∀・)「正解。よくわかったね」
アブスライトは光や魔力を集めて反射する、特殊な性質を持つ透明な鉱石。
だがツンの前に光るそれは、他の鉱石も混じっているので
普通の感覚なら看破するのは容易ではない。
彼女の持つ観察力に、モララーはいつも感嘆していた。
213
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:48:13 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり。じゃあ、これは別に特殊な宝石ってわけじゃないんですね」
( ・∀・)「そうだね。アブスライト自体は希少だけど……ダイヤやルビーほどではないかも」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、どうして三日月の涙は『宝石』って呼ばれてるんですか?」
( ・∀・)「昔の人の伝承だからかな。
口から口へ言い伝えられたものは、いつしか事実とねじ曲がって流布される。
そんなことは世の中に、いくらでもあると思うよ」
ξ゚⊿゚)ξ「確かに……。これはこれで綺麗ですけど。
実際は、ちょっと珍しいだけの石ころなんですね」
( ・∀・)「伝説ってのは、大体そんなもんさ」
ξ゚⊿゚)ξ「……私は、モララーさんは違うと思いましたけど」
( ・∀・)「うん?」
ξ*-⊿-)ξ「聞いていた伝説より、もっと素敵で。優しくて。
本で読むより、ずっと輝いて見えます」
( -∀・)「あはは。それはどうも」
前ほど、自分の感情を隠さなくなったなぁ。
モララーは成長を喜ぶ。
あの大げさに照れ隠しをする癖は、微笑ましくて好きだったのだが。
今の、この成熟しつつある様相もまた素敵だ。
長い睫毛の横顔を見ながら、そう思った。
214
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:50:08 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……あのね、モララーさん」
( ・∀・)「なんだい」
ξ゚⊿゚)ξ「あの……洞窟での出来事なんですけど……」
( ・∀・)「うん」
声のトーンが変わったのに気付き、モララーはとある場所を指さした。
腰を下ろすのにちょうどいい高さの岩場だ。
ツンは頷き、モララーと共に移動する。
硬い岩に座ると、ツンは話を再開した。
接触部が痛くならないように、反発の魔術をモララーはかけてくれていた。
ξ゚⊿゚)ξ「私、迷っちゃったことがあって」
( ・∀・)「迷った?」
ξ゚⊿゚)ξ「はい。メディクシルを使おうとした時。
少し考えちゃったんです」
ξ ⊿ )ξ「私たちは苦労して伝説の薬草を取りに来たのに
その成果を持ち帰ることしない、なんて選択をしていいのかな、って」
ξ ⊿ )ξ「ブーンが大変なことなんて、わかってました。
あのまま放置することなんて出来ない。
でも、共に行くのは不可能。」
ξ゚⊿゚)ξ「だったら、メディクシルで回復させて、帰ればいい」
ξ ⊿ )ξ「それだけの……話だったのに……」
215
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:52:07 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「……」
ξ ⊿ )ξ「私……あの時、ブーンのことを……」
ツンの肩は震えていた。
海水の中だから、涙もどのように流れるのかすらわからない。
顔を伏せ、声を殺し。
ただただツンは、小さく鼻をすすっている。
彼女なりに、とても悩んだのだろう。
成果は欲しい。ブーンの命も大切。
そんな葛藤そのものが、許せなかった。
メディクシルが人の命より大切なものではない。
トソンが心配ではあるが、今のブーンほどではないはず。
考えるまでもなく、取るべき選択を……ツンは即断できなかった。
そのことが、彼女自身に重い枷となり心を押しつぶしている。
( -∀-)(ちょっと前までは、自分の責任を人に擦り付けてたりしたのになぁ……)
無魔法栽培の畑に、風魔法を使って横着した時のことだ。
教えられなかったから。とブーンの不手際を非難した。
子どもっぽい癇癪で、少し教育が必要だな。と彼らの親に委ねてみたりもした。
216
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:54:22 ID:HcbLbdA20
そんな彼女が、今。
自分の行動に責務を感じ、そして結果として過ちを犯したのでは、と嘆いている。
波音で聞こえないほどの嗚咽を、モララーは止めてあげようと
ゆっくりと、少女の金髪に手のひらを乗せた。
( ・∀・)「ツンちゃん。何かを決断する、ってのはとても難しいことなんだ」
( ・∀・)「あの時、多分ショボン君もツーちゃんも、同じように悩んでたんじゃないかな」
( ・∀・)「その中で、ツンちゃんが声をあげて決断を促したのは。
とっても素晴らしいことだと思うよ」
( ・∀・)「それに、帰り道のことだってそうだ。
ツンちゃんが気付いてくれたから自力で、出口まで帰れた。
それは立派な功績だ」
ξ,⊿,)ξ「……でも……私……確証もないのに……」
ξ,⊿,)ξ「みんなを……危険な目に……合わせちゃってたかも……」
( ・∀・)「でも結果として、全員帰ってこれた。
だったら、それでいいんだよ」
ξ,⊿,)ξ「……」
217
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:55:37 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「大丈夫だよ。
どんな人だって、常に最善の決断なんて出来るもんじゃない」
( ・∀・)「僕もかつて、たくさんのことを選んできた」
( ・∀・)「自分の力の使い方。世界の為に戦うこと。
そのあとの生き方、出来ることの決断」
( -∀-)「…………本当に、たくさんあった」
( ・∀・)「今でも、悔んだりする。本当にそれが正しかったのか」
ξ ⊿;)ξ「モララーさんも……?」
( -∀・)「当然! 僕も、君たちと同じ人間なんだから」
( ・∀・)「いくら僕でも、時間を巻き戻したり、死んだ人を蘇らせたりはできない。
失ったものを、もう選びなおすなんて出来ないんだよ」
( ・∀・)「……だからね、誓ったんだ。誰でもない、自分自身に」
( ・∀・)「その選択が正しかったって、信じて。
間違ってなかった、と証明するために」
( ・∀・)「一生懸命、生きていこうって」
218
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:57:24 ID:HcbLbdA20
ξ;⊿;)ξ「……モララーさん」
( ・∀・)「ツンちゃん。
君はこれから色々な事を経験していくと思う。
今日みたいな決断をしなくちゃならないことも、たくさんあるだろう」
( ・∀・)「時には、間違えたと後悔してしまうこともあるはずだ」
( -∀-)「……そうなった時は、後ろを見るんじゃなくて」
( ・∀・)「涙を拭いて、前を見よう」
( ・∀・)「そしたらきっと、新しい道が見えてくるかもしれないよ」
( -∀-)「だから、もう泣かないで」
ξ;⊿;)ξ「うぅ……モララーさぁん……!」
慰めるつもりだったのに、逆に泣かせてしまった。
詫びの気持ちをこめながら、モララーは素直に思ったことを口にする。
( ・∀・)「立派になったね、ツンちゃん」
様々な経験を重ね、一人の人間としての悩みを抱えているツンが嬉しくて
モララーはただ、微笑みながら彼女の頭を撫で続けた。
219
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:58:50 ID:HcbLbdA20
――。
( ^ω^)「おー、居たいた。モララーさーん! ツーン!」
未だ泣き止まぬツンを、優しく視ているとブーンがひょっこりと現れた。
状況がわかってなかったのか、不用意に近づいてくる。
そして、ツンの表情を確認した途端に冷や汗を流した。
(; ^ω^)「お? ツン? どうしたんだお?」
ξ,⊿ )ξ「なんでもないわよ」
顔を隠し、しゃがれた声でツンが返事をした。
ブーンは一度モララーを見てから、すぐにツンへ向き直る。
( ^ω^)「何でもない人が泣いたりしないお」
ξ,⊿ )ξ「うっさい! ちょっと一人にして!」
(;^ω^)「えぇー。せっかく良いもの見せてあげようとしたのにー」
肩をがっくり落とし、つま先で地面をぐりぐりといじるブーン。
さっきまでは一人の普通の少女だった、ツンの変わり具合に
モララーは思わず笑みがこぼれる。
流石に言い過ぎたことを後悔したのか
しゃっくりを数回挟んでから、絞り出した声でツンは言う。
ξ,⊿ )ξ「……あとで」
220
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:00:11 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「お?」
ξ,⊿ )ξ「あとで行くから。今は放っておいて」
( ^ω^)「……」
ブーンがその言葉を理解すると、モララーに目配せをした。
ツンも、置かれていた手をそっと頭から離す
言われた通りにしてあげよう。
お互いそう思い、モララーはブーンの案内する先へついていくことにした。
( ・∀・)「何があったの?」
泳ぎながらモララーは尋ねる。
それに対し、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて少年は答えた。
(* ^ω^)「でぇーっかいクジラが居たんですお!
図鑑では知ってたけど、この目で見たのは初めてですお!」
( ・∀・)「あぁ。そういえば、ホワイトマッコールの生息地だったね」
それは平均して、全長70mは超える巨躯を持つ哺乳類。
寿命も相当に長く、個体によっては数百年は生きるそうな。
221
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:01:58 ID:HcbLbdA20
丸い頭に、鋭利な角度の鰭。
尾は三又に分かれており、分厚い水掻きが隙間を埋めている。
一たび体を波打てば、推進力と共に海流すら操ってしまいそうな
余りにも規格外で大きな生物。
それが今まさに、二人の目の前を轟音を立てて横切って行った。
(* ^ω^)「おほー! このド迫力だおー!」
幾重にもかけられた防護魔術のおかげで、水の勢いも邪魔にならない。
地鳴りのような鳴き声も、耳をふさげば問題ない程度に抑えられている。
( -∀・)「いやぁ、凄いねこれは」
思わずモララーも手で耳を押さえながら感想を呟く。
一体の生き物が、ただ通りすがっただけだというのに。
まるで夜空に弾ける花火でも見たかのように
目から肌から受け取る感触や臨場感は、他では味わえない興奮度合いだった。
( ^ω^)「まったねーー!」
鳴き声に負けないぐらいの声で、去っていくその背へ
ブーンは手を振りながら見送る。
見えなくなるまでそうしていると、彼はゆっくり手を下ろし。
一息溜めてから、言葉を発した。
222
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:03:12 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「モララーさん」
( ・∀・)「なんだい」
( ^ω^)「ありがとうございましたお」
( ・∀・)「どういたしまして」
今回の旅行のお礼だろう。
返事をするモララーに、意図が伝わってなかったと
ブーンは、しっかりと向き合う。
( ^ω^)「今までのことですお」
( ・∀・)「……」
謙遜をして、モララーが口を開こうとする。
だが、それすら理解していたブーンは捲し立てるように続けた。
( ^ω^)「僕は、本当にダメな奴でしたお」
( ^ω^)「周りのことも見えてない。何をすればいいのかもわからない」
( ^ω^)「ただただ、耐え忍べばきっといつか終わるだろう。
そう思って生きてましたお」
それは、モララーに出会うまでのブーンの生き方。
ショボンや周囲からの攻撃に対し、彼は抵抗をしなかった。
家督に傷がつくから。貴族同士の争いを恐れて。
223
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:04:40 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「でも、モララーさんが助けてくれたから」
( ^ω^)「だから僕は、今こうして楽しく生きていけてるんですお」
( ^ω^)「だから、そのことも含めて。お礼をちゃんと言いたかったんですお」
( ^ω^)「ありがとう、って」
( ・∀・)
( -∀-)
モララーが。
彼が、伝えたかったことが。
伝えるべき相手に、先に言われてしまった。
224
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:06:02 ID:HcbLbdA20
言いようのない嬉しさと
寂しさを
モララーはグッと堪える。
そして、彼は少しだけズルをした。
後ろ手に、小さく魔法を唱える。
それは、感情を抑制する弱い魔術。
声の震えを抑え、涙腺の活動を止める。
大人だけが自分に使う、背伸びの魔法だ。
225
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:07:00 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「ブーンくん」
( ^ω^)「はい」
( ・∀・)「反対なんだ」
( ・∀・)「僕が君を助けたんじゃない。
君が僕を助けてくれたんだ。」
( ・∀・)「君と出会わなければ、僕はずっと山奥に一人で。
擦れた心に、野菜を売って生きていくだけの
淡々とした余生を過ごしていたと思う」
( ^ω^)「はい」
( ・∀・)「でも、君が来てくれた。
君だけの話じゃない。色々な世界の話を、人を」
( ・∀・)「他でもない、ブーンくんが連れてきてくれたんだ」
( ω )「はい」
226
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:09:16 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「おかげで、僕は楽しかった」
( ・∀・)「ツンちゃん、ツーちゃん、ショボンくん。
みんな素敵な子たちだ。
そんな子に会えたのは、ブーンくんの力なんだよ」
( ;ω;)「……はい」
( ・∀・)「無味乾燥な世界に、君が僕に色を与えてくれた。
そのことが本当に嬉しいし、感謝している」
( -∀-)「だから……僕の方こそ」
( ・∀・)「ありがとう、ブーンくん」
( ;ω;)「……」
返事もできず、ブーンは涙を流した。
これから、会うことも減るだろう。
学校の時のように、時間を作るのも難しいかもしれない。
自分だけじゃない、たくさんの責任が彼を縛り付ける。
もしかすると、今のように遊んだりすることも最後になるかもしれない。
そう思うと、涙を止めることが出来なかった。
227
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:11:13 ID:HcbLbdA20
嬉しいのに。
尊敬する人から、心からの感謝を述べられて
天にも昇る気分だというのに。
同時に押し寄せる、喪失感がブーンの心を揺さぶってくる。
( -∀-)「そんな泣くなよ。男の子だろう」
抗う姿、感情に葛藤する姿が愛おしく。
モララーは彼の肩を抱く。
( ;ω;)「うわぁあああん!!」
堪らずブーンは声をあげて泣き出した。
いつの間にか、自分の肩よりも低い位置になったモララーの
その大きな背へ、抱きついた。
228
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:12:54 ID:HcbLbdA20
( ;ω;)「モララーさん! 僕寂しいですお!!」
( ・∀・)「うん」
( ;ω;)「怖いですお! これからちゃんとやれるか、不安で仕方ないですお!!」
( -∀-)「大丈夫だよ、君なら」
( ;ω;)「でも……でも……」
( ・∀・)「うん」
( ;ω;)「モララーさんが、言ってくれたように!」
( ;ω;)「父ちゃんの名に恥じないように!!」
( ・∀・)「うん、うん」
( ;ω;)「絶対、絶対に! 立派な騎士になってみせますお!!」
229
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:14:13 ID:HcbLbdA20
( -∀・)「ああ。楽しみにしてるよ」
( ;ω;)「だから……だから……」
( ;ω;)「僕、頑張りますお!! モララーさん!!」
( ;ω;)「本当に本当に!!! ありがとうございましたお!!!!!」
( -∀-)「……こちらこそ、本当にありがとう」
ポンポンと、大きくなった背をモララーが叩く。
ホワイトマッコールの鳴き声に匹敵するような
悲しく、嬉しく、寂しい慟哭。
モララーは黙って、何度も何度も頷きながら
その心の声を受け止め続けた。
230
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:15:19 ID:HcbLbdA20
…………。
皆に、それぞれの言葉を伝え終えたモララー。
満足し、満喫した彼らの旅行はこれで終わりを告げる。
――わけではなかった。
モララーは、とあることを、どうしても。
今回、他でもないみんなに伝えたいことがあった。
それは、彼らへの言葉ではなく
モララー自身の…………。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、あんた目が真っ赤よ」
( ^ω^)「それはツンもだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「こ、これは海水のせいよ!」
(´・ω・`)「耐水魔術あるから、海水は目に沁みないよ」
ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!!」
(*゚∀゚)「なー兄ちゃん、どーしたんだよ。わざわざオレらを集めてさ?」
231
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:16:20 ID:HcbLbdA20
一通りの言葉を交わしたモララーは、時機を見て召集をかけた。
場所は、三日月の涙の前。
子供たちを横一列に並べて、何やら始める気らしい。
彼の一歩引いた位置にはトソンもいる。
( ・∀・)「うん。ちょっと渡したいものがあって」
そう言うと、モララーはゆっくりとブーンの傍に寄った。
( ^ω^)「?」
( ・∀・)「少しジッとしててね」
徐に、手を伸ばす。
その先にあるのは、ブーンが肌身離さずつけていた雫状のペンダント。
空間転移魔法そのものを圧縮している、この世に二つとない瑠璃の首飾りだ。
包み込むように握ると、それは淡く発光を始める。
しばらくし、拳を開くとそこには、翡翠色の装飾が加えられていた。
表面をなぞるように、薄い流線型をしている。
( ^ω^)「お? なんですかお、これ」
( ・∀・)「術式の組み換えを、ドラウシェイドに混ぜて乗算させたんだ。
アブスライトと掛け合わせたら、出来るかなと思って」
(;^ω^)「??」
詳しそうな友人二名に目を配せたが、同じような顔をしている。
困った様子のまま、ブーンはモララーの次の句を待つ。
( ・∀・)「要するに、ブーンくんでも、これを使えるようにしたってこと」
(;^ω^)「ええー!? 魔法が使えない僕でも!? なんでですお?」
232
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:17:22 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「まあまあ。詳しい話すると夜が明けちゃうよ。
グッと握って念じれば、使えるからね。」
(;^ω^)「ほへー。流石はモララーさんですお……」
( ・∀・)「で、これはツーちゃんにもね」
既に同じ装飾のついた瑠璃のペンダントを、ツーへ渡す。
(*゚∀゚)「おおー! オレにもくれるのか! ありがと、兄ちゃん!!」
( ・∀・)「ツンちゃんとショボン君は、今までので大丈夫だね」
(´・ω・`)「ええ。ありがとうございます」
ξ*゚⊿゚)ξ「うわぁ……私のなんだ、これ……。やった」
それぞれの子どもたちに、転移魔法の術式を発動できるペンダントを渡し終えた。
( ・∀・)「僕からの卒業祝い、ってことで」
見た目だけでも、煌びやかな装身具だ。
贈り物としては十分だろう。
素敵なプレゼントを貰って、みなが一様にに喜ぶ。
だが、どうにも解せない疑問があった。
( ^ω^)「でも、モララーさん。なんでコレを?」
233
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:18:23 ID:HcbLbdA20
覚悟をしていた。
この旅行が、みんなで集まれる最後の機会かもしれない。
次はいつになるのか、見当もつかない。
今後は、四人とも違う道を行くのだ。
部隊に編制された場合、同じ組になるとも限らない。
職場で言葉を交わすことすら難しいかもしれないのだ。
それなのに……何故?
どうして、モララーは……。
( ・∀・)
( -∀-)「んんっ」
問いをぶつけられると、モララーは後ろを振り向いた。
軽く咳ばらいをすると、視線をトソンへと向ける。
(゚、゚トソン
“(^、^トソン
彼女が微笑みながら、ゆっくり頷くと。
大きく息を吐いて、意を決するように青年は向き直った。
234
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:19:14 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「…………実はね」
(;-∀-) =3
(* -∀-)
(* ・∀・)
(* ・∀・)「トソンさんに、僕との子どもが出来ました」
235
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:20:37 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)
( ^ω^)
( ω ) ゚ ゚
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ !(あぁ、だからか)
(´・ω・`)
(´・ω・` )彡
(;´゚ω゚`) !?
(*゚∀゚)
(*゚∀゚)「え、マジ!?」
236
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:21:59 ID:HcbLbdA20
(゚、゚トソン「これが一緒に行ける、最後の旅行かもしれないから
心配かけたくなくて隠してたんだけど」
(;-∀-)「かえって、不安にさせちゃったみたいでゴメンね。
もっと早く話しておくべきだった」
(゚、゚トソン「病院に行っている間も、ずっと話してたの。
知ったら、みんなどうするかな、って」
(゚、゚トソン「心配してくれたり、会いに来てくれたりするだろうけど……
忙しい中、揃って山奥まで来るのは大変でしょう?」
( ・∀・)「だから、誰でもペンダントを使って。
いつでも来れるように出来ないかな、って思ったんだ」
つまり、とモララーは続ける。
( ・∀・)「また、あの山小屋に来てほしいんだ」
237
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:22:49 ID:HcbLbdA20
( -∀・)「理由なんてなくていいよ。
気晴らし程度で全然かまわない」
( -∀-)「全員一緒でなくても、ちょっとした空いた時間でも大丈夫だから」
( ・∀・)「これからも……仲良くしてくれたら嬉しいんだ」
(* -∀-)「みんな僕の、僕たちの大事な……」
238
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:24:00 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「大事な、友達だからさ」
.
239
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:24:53 ID:HcbLbdA20
どうだろうか。
と続ける前に、モララーの体には強い衝撃が走った。
( ;ω;)「あ、あた当たり前ですおーーーー!!!
いつでも遊びに行きますおーー!!
おめでとうございますおーーー!! うわぁあああ!!!」
ブーンの感極まった突進を、モララーは踏みとどまって耐える。
そんな幼い行動に、ツンは困ったように笑いながらも
小さく拍手をして祝う。
ξ゚⊿゚)ξ「おめでとうござます、モララーさん、トソンさん」
(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ! 二人の子どもなんて、会いに行かない理由がねぇよな!」
(;´・ω・`)「あー、ビックリした。嬉しさで死にかけることってあるんだね」
それぞれが反応を述べ、小さな輪を作った。
一人は捲し立て、一人は祝辞を、一人は胸の鼓動を必死で押さえながら
一人は、ただただ泣きじゃくりながら。
冷たく深い海の底で、笑顔の花が咲いていく。
240
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:26:00 ID:HcbLbdA20
( -∀-)
大切な友達に囲まれ、モララーは思わず頬を緩ませた。
同じように喜びを分かち合っているトソンにそっと手を伸ばしす。
(-、-*トソン
愛しむように、その手を握る。
どんなことがあっても、自分はもう何も手放さない。
罪も幸せも、全てを抱いて生きていこう。
『黒風』……いや、モララー=レンデセイバーは、心から誓った。
241
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:26:46 ID:HcbLbdA20
涙のような三日月は、漆黒の夜空に浮かび上がり。
揺れ動く水面に照らされて、まるで微笑んでいるかのようだった。
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
番外編 三日月の涙 完
242
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:29:28 ID:HcbLbdA20
以上が番外編です。
モララーのお話は双で終わってましたが、子どもたちの話が完結していないなぁ
と思いだし、構想をぼんやり考えて数年経ってました。
最近、創作らしい創作もしてなかったので筆ならしでもしようかと考えて
今回の番外編を書いてみた所存です。
もしかすると、また筆ならしとかいって、どうでもいい小話くらいは書くかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願いします。特に何か考えているわけではないですが。
本編+番外編は、これにて完結としようとは思っています。
ご愛読ありがとうございました。
243
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 16:05:19 ID:yIT7Yo7w0
乙
楽しかったです、
244
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 22:36:27 ID:hCi4UOe60
乙!!
わくわくするシーンばかりで読んでて楽しかった
番外編はずっと子供たちの卒業の話だったんだなぁ
245
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:41:02 ID:oLCKM6Z.0
激しい雨が降っていた。
横殴りの風と、轟く雷鳴。
地に爆ぜる水滴音は、周囲の空間全てを満たすかのよう。
魔法で焼け焦げた大地が、再び湿り気を帯びるに十分な時間。
( ∀ )
一人の少年が、浅く息をしていた。
口からは赤い血が零れている。
膝から崩れたような姿勢で、彼は力なく項垂れていた。
髪の隙間からも漏れてくる雨水は、まだあどけない顔を通してゆき
ただただ、地面へ流れていく。
虚空のような双眸の見つめる先には、人の形をしたものがあった。
……もの、だ。
既にそれは生命活動を行っていない。
本来ついているはずの首と胴体が、全く違う場所に落ちているのだ。
とめどなく流れている血液は、土砂と入り混じっても尚、赤く広がる。
( ;∀;)
246
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:41:43 ID:oLCKM6Z.0
気付かないうちに、少年の瞳は涙で覆われていた。
雨と錯覚するほど、感情を押し流すように零れていく。
命を絞り出すように、深く重いため息が出た。
震える拳を握り、思い切り地面に叩きつける。
心の内が何もまとまらない。
後悔か、諦念か、達成感か。
混濁する心に任せて、少年はただただ呻き声を上げ続けた。
その日。
大魔術師モララー=レンデセイバーは初めて
人を殺したのだ。
247
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:42:28 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
【零落の黒き風】
.
248
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:44:05 ID:oLCKM6Z.0
――VIP大陸とラウンジ大陸。
お互いの資源を、技術を、我が物にするために始まった戦争。
事の起こりを覚えているものは、もう既に少なく。
いつしか、意地のようなものだけで続いていた争い。
終わりの見えない戦は、歴史的にみればある日突然、というほどあっけなく終わる。
これは、その『終わり』に至る、少し前のお話――――。
嘗九話「大魔術師の称号」
249
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:44:55 ID:oLCKM6Z.0
王都NEET。
絢爛豪華な装飾と上品な石造りの土台や外壁で作られた城があった。
都の名と同じNEETという城である。
大陸間戦争の、情報すべてが集められる間接的な最前線。
今、この大陸で最も多くの演算を行っている会議室の扉を
厳しい眉をした男性が仰々しく開けて入っていった。
(`・ω・´)「スカルチノフ国王陛下。お耳に入れたい話が」
/ ,' 3「ほ? なんじゃね、シャキンよ」
初老の男性スカルチノフ国王は、近衛の位を持つ人間たちの間で指揮を執っていた。
南の戦況を、東の水際の戦いを、北の物資の動きを、西の人の増減を。
余すことなく情報を取り入れ、処理していく。
齢二十七にして、聖魔術師という現場で戦う人間として
最高位の称号を持つ青年、シャキン=ノーファルはやや慌てながら
忙しない王の傍へ跪いた。
/ ,' 3「ワシは今取り込み中でな。ナンジェの戦で圧し負けたせいで
人員が一気に足りなくなっての。急ぎ編成を組み直さねばならんのじゃ」
(`・ω・´)「であれば、ちょうど良き話かと。こちらを御覧いただけますか」
シャキンはそう言うと、立ち上がり
脇に抱えていた封筒から紙を取り出して渡した。
それは魔術の込められた用紙で『投影現像用紙』という。
一枚の中に映像や記録を、分厚い魔導書ほど内包できる優れた情報処理器具なのである。
映し出されているのは、とあるテストの結果。
国王の座す王都から、もっともっと離れた僻地で行われた
傭兵を選定するための試験の様子である。
250
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:46:09 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「なんじゃ、こんなもの。ワシは時間がないと言って……」
国王は言葉を止めた。
流れている映像と、書きだされている文字。
それらを一目見て二の句を失う。
国王がやるべきことは、たくさんある。
現状の戦闘状態、陣地の把握。奪還すべき場所、陸路や海路の想定。
戦いだけでない、戦いを支える民草のための政策。
先祖代々受け継がれる業務は、国王一人で担うには余りにも多い。
傍で支える人間は少なくないが、最終的な判決をするのは王だけ。
酷く真面目な性格もあり、部下からの情報はすべて一度目に通すことを決めていた。
結果的に業務が多くなってしまうのだが……そんな王を、誰もが慕っていたため
最初の方こそ、あれこれ言われていたものの、いつの間にか彼の器に身を委ねていた。
そんな多忙な毎日。
何か、状況を打破できる策の一つでも振ってこないか。
そう神に祈りながら、精神をすり減らしつつも懸命に奮起していた時だった。
/ ,' 3「これは本物かね、シャキンよ」
(`・ω・´)「私も真贋を確かめましたが……。紛うことなく本物です」
/ ,' 3「……すぐにこの子をワシの下へ。今すぐじゃ。一時間以内に連れてくるんじゃ!」
251
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:47:36 ID:oLCKM6Z.0
彼の心労を、神は見ていたのだろうか。
とてつもなく希少な宝石の巨大鉱脈を見つけたような。
まさに天からの恵みと言える存在が、用紙に映し出されていたのだ。
――数刻後。
王の一言で動き出した近衛魔術師たちが、転移魔法で帰ってきた。
その中の一人が、場に相応しくないほど幼い少年をの肩を抱いている。
先ほどの用紙に映し出されていた容貌と一致していた。
少年は、転移前に瞑っていた目を開けるとキョロキョロと辺りを伺った。
後ろで簡単に結ばれた長い髪が靡く。
怯える様子もなく、慌てる様子もなく。
ただ、今いる場所を、自分の予想と照合させているだけのようだ。
/ ,' 3「うむ、よく来てくれたの。みな、すまぬが少しだけ席を外してくれぬか」
側近の騎士や魔術師は、どよめいた。
会ったこともないうえ、話したこともない。
紙の上で見た、『事実』だけを知っているからこそ、誰もが反対した。
/ ,' 3「ええんじゃええんじゃ。何かあればすぐ声をあげよう。
ワシは、この子と話がしたいだけなんじゃ」
ここまで意固地になると、梃子でも動かない。
王をよく知る人物たちは、諦めて会議室から外へ出る。
だが魔術師達はその前に、王へ厳重で強固な防護魔術を幾重にも。
騎士は扉のすぐ裏で、いつでも駆けつけられるよう完全武装をして待機した。
252
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:48:26 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「まったく、過保護な奴らじゃの。
……まあ、だからこそワシも彼らを気に入っておるんじゃがな」
/ ,' 3「さて、茶でも入れるかの。アージンは好きかね?」
少年は黙って頷いた。
/ ,' 3「そうかそうか。銘柄のこともわかるのか。君は聡(よ)い子じゃの」
言いながら王は、華美な装飾のついたポットを手に取る。
茶葉の入ったそれは、彼の手に触れると突然湯気を噴き出した。
魔法で中に水を生成し、瞬時に適温まで上昇させたのだ。
慣れた手つきで、そのままカップにアージンティーを注ぐ。
近くの椅子にスカルチノフは座るように促すと、少年は従った。
互いの前にカップを置く。
リンゴの果実のような、深い甘みのある香りが空間を満たした。
机を挟んで、二人は向かい合う。
王が勧めると、少年は小さく会釈をしてからアージンを口にした。
/ ,' 3「さて、突然呼び出したりしてすまなかったの。
何事かと、驚いたじゃろ?」
尋ねると、少年はゆっくり首を横に振った。
/ ,' 3「ほ? 想定内じゃったと?」
流石にここまで想定外ではあった、と前置きしつつも彼は続ける。
253
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:49:22 ID:oLCKM6Z.0
自分は、闘技学校で恐れられていた。
自身の中にある、とてつもない魔力。
そのことに気付いてから、あえて隠すようにしていた。
それは調和を乱さないため、彼自身が望んでやっていたこと。
だが、とある日の魔術講義の時間。
彼は、つい普段よりも強い魔法を使ってしまった。
気のゆるみだった。
こうすれば、もっと効率が良いはずだ。
安易な考えで行った、何気ない詠唱。
称号を持たない、見習いの『魔術師』が使うにはあまりに強大な魔術。
上級魔法を披露してしまった時からだった。
以来、彼の周りには人が寄り付かなくなったという。
攻撃されるんじゃないのか。
心の中を読まれたりするんじゃないか。
大事なものを取られたりするんじゃないか。
実は恨まれていたりするんじゃないのか。
思ってもいないことを、周囲は勝手に想像で事実のように捉えてしまう。
悲しくて寂しかったけれど。
自分の力には、何か意味があるはずだ。
きっといつか、役に立つ時が来るはず。
254
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:51:01 ID:oLCKM6Z.0
そう思って耐え忍び……来たる傭兵テストの日。
つまり、今日。
王は手元の用紙に移されていた、テストの成績を読み上げていった。
/ ,' 3「魔法力測定試験……EX(計測不可)
魔術操作試験……SS
魔術習得数実演試験……EX(測定不可)」
他にも行われた試験内容は、全て似たようなもの。
つまり、全ての成績を最高得点、またはそれ以上で叩き出していたのだ。
/ ,' 3「これだけやれば、国の偉い人が一人ぐらいは自分の力に気付くはず……。
そういう魂胆だったわけじゃな?」
肯定の仕草を見て、スカルチノフは堪えきれず笑った。
/ ,' 3「ほっほっほっ! 良かったの。
まさか、一番偉い人に見つけられるとは思いもしなかったか」
嬉しそうに皺を作った顔で、ひとしきり王は喜ぶ。
そして、決意をした。
255
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:52:26 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「間違いなく、キミのその才は必要じゃ。
国……いや、世界を変える力になるはずじゃ」
/ ,' 3「これより、キミはワシの傍で仕えるがよい。
そうじゃな……無二の称号『大魔術師』を与えようかの」
/ ,' 3「受け取ってくれるかな? モララー=レンデセイバーくん」
飲み干したカップを皿の上に置き。
大魔術師の称号を授与するために伸ばされた手を、受け取りながら
少年は、嬉しそうに笑って答えた。
( ・∀・)「はい。謹んでお受けいたします。国王陛下」
256
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:53:49 ID:oLCKM6Z.0
――――。
ミ;゚Д゚彡「国王、一体どういうことですか!?」
(;´・_ゝ・`)「『大魔術師』とはなんです!? 我々は何も聞いてませんよ!?」
直後の作戦会議室は、普段の会合よりもっと騒がしかった。
近衛の階級をもつ、長い付き合いの人たちは
国王が取り決めた出来事について、矢継ぎ早に問い詰める。
/ ,' 3「じゃからの、彼はとてつもない魔術師での……」
(;`_L')「実績も何もない、あんな少年をどうして突然接受するのですか!?」
/ ,' 3「成績を見ればわかるじゃろうて」
(:-@∀@)「それは飽くまで試験の結果でしょう?
王が仰ることを鵜呑みにするのであれば、彼は我々の上役になるのですか!?」
/ ,' 3「…………お主ら……ちょっと落ち着け……」
ミ;゚Д゚彡「王が良くとも、軍が認めませんよ!
誰が、あのような子どもに率いられると!?」
/ ,' 3「……はぁ」
大きくため息をつくと、スカルチノフは徐に立ち上がる。
そして、部屋の隅でちょこんと座り、出来事をただ傍観していた少年……モララーへ小さな声で尋ねた。
257
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:54:54 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「レンデセイバーくん。キミの実力を皆に証明して欲しい。やれるかの?」
( ・∀・)「構いませんが……一体、何をすればいいんですか?」
/ ,' 3「そのままの意味じゃ。ここにいるのは、ワシの……いや、VIP大陸の精鋭。
大陸間戦争の主導権を握る我が国で、最も強いとされる戦士達じゃ」
/ ,' 3「最前線には『聖』の位を持つものがおるが……
その上に座す『近衛』はそれらを超えるもの。
故に手元に置き、ワシの身と国民たちを守らせておる」
( ・∀・)「つまり、彼らにぼくの魔術師としての力を見せられれば
王のご決断を納得いただけるはず……と?」
/ ,' 3「うむ。人数、場所はキミが決めてくれて構わぬ。
城や無関係の人を傷つけさえ、しなければな。
ああもちろん、殺しはならんぞ」
( ・∀・)「なるほど」
/ ,' 3「まあ、後はワシも見てみたいの。キミの実力を」
モララーは近衛の戦士達を一瞥した。
それから少し考え、できうる限りの最善を尽くせる状況を練りだす。
( ・∀・)「わかりました。お任せください」
勢いをつけて、椅子から飛び降りるモララー。
その行動を一挙手一投足余さず見ていた大人たちは、固唾を飲んで次の句を待つ。
( ・∀・)「今此処にいる皆さん、全員とお相手しましょう」
258
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:56:13 ID:oLCKM6Z.0
ミ#゚Д゚彡「…………は?」
完全に舐めている。
彼らは、子どもの余りにも軽率な言葉に激昂した。
学校を卒業したばかりということは、まだ15歳になったかならないかの年齢だ。
近衛の騎士魔術師達は、戦歴だけでも彼の年齢を優に超える。
そんなまだ尻の青いガキが、一人で自分たちを相手にする?
冗談でも笑えない。
( ・∀・)「国王陛下。もう、始めても?」
/ ,' 3「うむ。許可しよう」
ニヤリと笑う国王に、モララーも同じように笑い返す。
( ・∀・)「では、ご照覧あれ」
そして二本の指を、床に突き立てた。
黒い魔法陣が発生し、辺り一帯を覆う。
ミ;゚Д゚彡「なに!?」
(;-@∀@)「次元転移魔法!?」
彼らの中でも扱えるものは多くない。
出来たとしても、不安定でまともに立っていられない状態になるだろう。
だがモララーは、その秘術を完璧に完遂させていた。
259
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:57:35 ID:oLCKM6Z.0
そこは、周りの人間以外は誰もいない真っ黒な空間。
液体を垂らしたような風景の、無限に続く闇だけが満たされている場所だった。
( ・∀・)「さて。王が実力を見せろと仰った以上、ぼくも全力を惜しみません」
( ・∀・)「そうですね。まず一人ずつで来るのだけは、おすすめしませんよ」
( ・∀・)「ぼくを屈服させることが出来れば、皆さんの勝ち。
手が地に触れればそれでお終い、で良いでしょう」
( ・∀・)「皆さんが一人残らず地に伏せられれば、ぼくの勝ち。
もちろん、倒れても立ち上がれば、勝負は続きます」
( ・∀・)「そんな簡単なルールですが。どうでしょうか?」
淡々と告げる、戦いの規則。
手のひらを向けて、提案をする彼に対し、既に場は動いていた。
(;`_L')「!?」
腰につけていた剣を抜き、一足飛びで切りかかっていた近衛騎士。
返事も聞かず、先制攻撃を仕掛けていた。
260
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:58:54 ID:oLCKM6Z.0
だが、刃は届かない。
モララーは差し向けていた手を、そのまま白刃に添えている。
ただ、それだけなのに動かない。
押すことも引くこともできず、騎士はただ全力を剣の柄に込める。
( ・∀・)「ふっ!」
モララーはそのまま刃を握りしめて砕くと、空いた手で腹部に手を当てた。
そして魔力を込める。
(;`_L')「ぐあっ!?」
甲高い音と、重い音が同時に空間中に鳴り響いた。
思わず漏れた呻き声は、瞬時に遠ざかる。
纏っていた鎧が砕け、はるか彼方へ体が転がっていった。
その衝撃の余波だけで、傍に居る者は体制を崩しそうなものだ。
( -∀・)「ね、一人はおすすめしないと言ったでしょう?」
余裕を見せた隙だった。
モララーの背後に黄色の魔法陣が発生する。
そこから伸びるのは、おびただしい数の薔薇の蔓。
上級魔法スペルシーラーは、対象の魔力を完全に封鎖する。
その半透明に光る蔓に触れれば、いかなものであろうと魔法が使えなくなるのだ。
261
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:00:10 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)=3
スペルシーラーやスペルキャンセラーなど、所謂『対抗魔法』と呼ばれるものには
打ち破る方法が二つある。
一つは純粋に、それを回避すること。
魔法に触れさえしなければ、効果は発動しない。
もう一つは、術者の魔力より、より大きな魔力をぶつけること。
網で獲物を捕らえようとも、網の強度が負ければ捕獲にはならない。
今回、モララーはどちらの方法でも回避できたのだが……彼はあえて、後者の手段を取った。
(;^^ω)「!?」
理由は、対象に反撃がしやすいから。
スペルシーラーを唱えていた近衛魔術師は、モララーに強く睨まれる。
周囲の薔薇が解けるように散り、見えない力が一直線に飛んでいく。
途端に、術者は泡を吹いて気絶してしまった。
視線を通して、そのまま脳の機能を混濁させる精神汚染魔法の効果だ。
ミ,,゚Д゚彡「シッ!!」
集中で視野が狭くなったと踏んだ、その近衛騎士は槍による刺突をしかけていた。
並の相手であれば、速度と強度に抗う暇もなく、傷を負って床に転げていることだろう。
( ・∀・)「残念でした」
ミ;゚Д゚彡「あギッ!?」
262
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:02:08 ID:oLCKM6Z.0
まるで紙のように、体を旋回させてそれを躱す。
穂先から体まで、回り込むようにして接近し、鎧に触れる。
短い魔術詠唱で、近衛騎士は気絶した。
身体能力を強化させ、動体視力も超化。
今のモララーは、近衛騎士であれどまともに敵う相手ではない。
( ・∀・)「連携でもしてこないと、あっという間に終わっちゃいますよ。
まあ、ぼくはそれでも構いませんが」
余裕そうに、モララーが手をぷらぷらと振る。
彼の周囲には、既に数人の騎士と魔術師が倒れていた。
既に立っている者と伏せている者が、ほぼ同数になっている。
何度も言うが、王の側近でもある『近衛』の称号を持つ騎士と魔術師は
大陸の中においても、最強に位置する強さを持っている。
そんな彼らを相手に、息を切らすこともなく
たった一人で制圧できるモララー=レンデセイバーは、まぎれもなく異常だった。
地面から突如、激しくせり出す巨大な岩柱。
対象を高速で上昇させつつ、体を断面で傷つける土魔法が発動された。
包み込まれているのは、当然モララーだ。
263
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:03:09 ID:oLCKM6Z.0
だが、聳えた岩山は次の瞬間には氷と化す。
氷の結晶をまき散らしながら砕けると、それはそのまま攻撃へと転じられた。
術者は抵抗も空しく、四肢を氷漬けにされ動けなくなっていた。
次はナイフを投擲されたので、モララーはそれを中空でせき止める。
何本も何本も重なったところで、束に電流がぶつけられた。
二重の攻撃で、一気に押し切る算段だったのだろう。
( ・∀・)「スペルカウンター。レベル10」
( ・∀・)「5倍返し!」
刃は爆ぜたように飛び交い、騎士の鎧を破壊していく。
遠くで援護していた魔術師は、反射された雷撃を防護魔法で防いだが
最終的に威力負けをして、感電と失神をしてしまった。
接近戦を騎士が、遠距離から魔術師が。
お手本のような戦いの連携に、モララーは感心する。
高度な技術、魔術を肌身で感じる。
( ・∀・)(ああ、やっぱ近衛のたちは凄いなぁ)
素直に、そう思った。
彼にとってはわからないが、魔術書や戦術書を読む限りでは
この領域に達するには相応の経験と才能が必要のはずだ。
ならば、努力には敬意を払わなくてはならない。
264
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:04:05 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)「国王陛下、少々失礼。」
/ ,' 3「ほ?」
安全な場所で見られるよう、遠くで離れて魔術結界を張られていた国王。
声を直接脳内に届かせる魔法で、そう言うと
モララーは、今いる次元から国王だけを返した。
( -∀-)「さて……」
攻撃の手は止まない。
回避のために空中へモララーは飛び立つが、氷の刃や火球の嵐が彼を襲う。
合間を縫うように鋭い弓矢も飛んできた。
強化された肉体で、それらを防御しつつ
彼は神経を集中させた。
( -∀-)「無音斬り裂く死の胎動。混沌へと還す静謐の刃よ……」
両の手をかぎ爪状にして力を溜める。
脇を締め、そこに魔力を込めると黒い雷がバチバチと音を立てながら発生した。
(;-@∀@)「ば、バカな……!?」
……その詠唱に聞き覚えるのある魔術師は、腰を抜かした。
騎士は、恐れずに立ち向かっていった。
止めなくては、終わってしまう。
誰もが、次の一手が最後のチャンスであることを悟っていた。
265
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:04:55 ID:oLCKM6Z.0
( -∀-)「心切り裂く瘴炎と化せ」
集中のせいで、浮遊魔法を解いたからか
モララーは落下を始めていた。
着地をした、今こそが好機だ。
残り僅かな近衛騎士たちが、その千載一遇の瞬間を狙う。
(;-@∀@)「違う、そこじゃない!!」
( ・∀・)「ネインエスパルダ!」
一人の近衛魔術師が叫んだ時にはすでに遅く。
狙っていたはずのモララーの体が透けた。
攻撃が空を切る感覚は、希望を絶望へ変える。
それは自動発動される、幻影魔法を事前に使っていたため起こった現象。
彼らの目に映るより、はるか遠くにモララーはいる。
そこで、闇魔法の『大魔法』を既に放っていた。
稲光する両手を一気に握る。
黒い空間を、更に覆いつくすように広がる漆黒の波動。
包み込まれた人間は、永遠に闇の奥底へ落ちていく感覚と
全身を縦横無尽に振り回される錯覚で、一瞬にして廃人へと化してしまう。
扱えるものが多くない、最高等に位置するランクの魔法だった。
266
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:05:42 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)「こんなところで、どうですか」
パンと手を叩くモララー。
いくら何でも、今回は完全発動まで出来ない。
気を失ったと同時に魔法解除。
時空転移魔法も消し、既に周囲は会議室へと戻っていた。
周りに横たわる、戦意を完全に失った最強の兵士たち。
その結果を見て、スカルチノフ王は静かに涙を流した。
/ ,' 3(おお……この子が居れば……戦争は終わる。間違いなく!
『今度こそ』、天は我々を見放しはしなかったか……!)
歓喜に打ち震え手を叩く国王を見て、モララーは満足げに笑った。
つづく
267
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:08:57 ID:oLCKM6Z.0
こんばんは。作者です。
本編の後の話は書かないつもりでしたが、前日譚的なのはまだ書けるな
と思って、書き始めました。
既に完結まで書き終えているので、毎週土曜日か日曜日の夜に投下しようと思っています。
よろしくお願いします。
あ、トリップも無いままだとアレなので、一応新しいのつけておきます。
268
:
名も無きAAのようです
:2021/02/21(日) 22:19:22 ID:tztj5/Vg0
え”マジですか
269
:
名も無きAAのようです
:2021/02/22(月) 00:38:42 ID:L3BGNJn.0
やったぜ
全何話とかは書き上がっててもまだ明かせないやつ?
270
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/22(月) 06:53:35 ID:xn4bgDv.0
>>269
話数については、作品の中にヒントがあるので探してみてください。
来週の更新で、まずわかるかと
271
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:12:02 ID:CwhOLy0A0
嘗八話「モララーの役目」
国王が、側近に僅か15歳の少年を置いたという達しが出てから一週間が経った。
王の目的はただ一つ。
長きにわたる戦争を終結させるため。
その切り札として、モララー=レンデセイバーを手中に収めた。
当然、彼のやるべきことは決まっている。
溢れる魔力、強大な魔術。
多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊の為の支援魔法をかけ、進軍速度を急上昇させる。
若さゆえ、魔力の回復は早い。
彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。
血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。
272
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:13:32 ID:CwhOLy0A0
ミ,,゚Д゚彡「こぉら、レンデセイバー。何度言わせる。
スープを掬う時は手前から奥だ」
(`_L')「食べる際に、いちいちフォークを持ち替えるんじゃない」
(;-∀-)「ぐ……。はい」
――――わけではなかった。
何かしらの策があるのか、モララーは戦場へ出ることなくNEET城で生活をしていた。
庶民の出自ゆえ、特に厳しい教育もなく。
自分には余りにも関係のない世界のことだから、知りもしなかった
基本的な会食でのマナーについて、近衛の役職の方々から教授されていたのだ。
_、_
( ,_ノ` )「お、来たね。今日も頼むよ」
(;・∀・)「はい。頑張ります」
食事が終われば、次は厨房で皿洗いの手伝い。
庶民の者ならまだしも、王族貴族の使う食器類だ。
身体に害が出る可能性のある魔法は使えない。
よって、王宮内の食器類は手洗いのみとされていた。
防水魔法も使えないので、手が荒れる。
モララーは傷に良く効くクレスト草の軟膏が手放せなかった。
273
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:15:30 ID:CwhOLy0A0
|゚ノ ^∀^)「それにしても、あなたも大変ね。こんな雑用ばかり任されちゃって。
よく知らないけど、凄い魔術師なんでしょう?」
( ・∀・)「いえいえ。新参者ですから、これぐらいはしないと」
城の傍にある大きな大きな庭。
兵士達の洗濯物を、モララーと雑用係の女性で手分けして干していた。
干す場合は魔法を使っても問題ないので、モララーは素早く手際よく
紐にシャツを通したり、タオルの皺を完璧に伸ばしながらスタンドへ掛けていく。
量が量なので、二人がかりで魔法を使っても、それなりの時間を要する重労働だ。
慣れている女性は、鼻歌交じりで次々に干し紐へ服を通していく。
モララーと遜色ない速度なのは、熟練の業ゆえだろう。
( ・∀・)「しかし、流石は王宮ですね。外で洗濯物を干せるだなんて」
仕事を終え、出来上がった色取り取りの衣類による虹を前に、腕組をしながらモララーは感嘆する。
|゚ノ ^∀^)「確かにね。普通は家の中だし」
( -∀-)「食事に作法……何もかも、ぼくが知らない生活ばかりだ」
|゚ノ ^∀^)「辛い?」
( ・∀・)「いえ、全く」
モララーは嘘偽りなく、笑顔で答えた。
/ ,' 3『おぅい、レンデセイバーくん』
274
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:17:03 ID:CwhOLy0A0
夜も更けた頃合いだった。
モララーが額に流れる汗を拭っていると、頭の中に声が響いた。
対象とのみ、会話が出来る中級ランクの音信魔法。
魔術師といえ、王がそんな魔法を使えることに驚きつつ
モララーは返事をする。
(;・∀・)『はい、なんでしょうか』
/ ,' 3『少しこっちに来てくれんかの』
魔力の発信源を探る。
モララーが居る場所から、はるか遠く。
王都の上方……城の頭頂部からだった。
(;・∀・)『今すぐですか?』
/ ,' 3『出来る限りの』
(;-∀-)『かしこまりました。では、急ぎで』
モララーが、音信魔法を切ったと同時に念じる。
275
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:18:31 ID:CwhOLy0A0
上部から勢いよく滝のような水が降り注いだ。
全身を洗い流すと、頭を揺さぶり水滴を軽く弾く。
そして、風の魔術と火炎魔術を同時に使用。
温風で肌と衣服の湿り気を、瞬時に無くす。
遠くに生えている、香りの良いシルムの葉をちぎって引き寄せ
手の中に取ると、ぎゅっと握りしめた。
液体に変化したそれを霧状にし、モララーは体に振りまいてから
別の魔術詠唱をする。
( ・∀・)「時の間で空成る間へ。我が描きし時空へ飛ばせ」
青い魔法陣を足元に発生させると、光の球に体が変化する。
空間転移魔法。
彼が、この城に連れてこられた時に近衛魔術師が使ってた上級魔法だ。
( ・∀・)「お待たせしました」
/ ,' 3「ほー。本当にキミはなんでも使えるんじゃの」
276
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:19:43 ID:CwhOLy0A0
そこは、国王の部屋。
王位を脱ぎ、肌触りの良いガウン一枚で過ごせる快適な空間。
夜風が気持ちの良いバルコニーで、王は待っていた。
手には中身の減ったワイングラスを握っている。
普段から肌身離さずつけているという、金色のブレスレットが月光に反射し
少しだけモララーは目を細める。
/ ,' 3「どうじゃね、一週間過ごしてみて」
( ・∀・)「ええ、とても楽しいことばかりです」
/ ,' 3「ほっほっほ。そうかそうか。それは良かった」
( ・∀・)「国王陛下こそ。気は休まっていますか?」
/ ,' 3「ほ?」
( ・∀・)「お部屋の外……後は屋上の方も。
見張りの者が居るみたいですが。普段から、そうなんですか?」
/ ,' 3「おお、それか。
いやな、普段はそこまで厳しくしてはないんじゃよ。
ただ、君が近くに来る場合はどうしても、とな」
( ・∀・)「気配探知魔法は気にならないので?」
/ ,' 3「慣れたもんじゃよ。まったく。みな、過保護すぎるんじゃ」
( ・∀・)「そうですか……」
277
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:21:30 ID:CwhOLy0A0
過保護、と王は言うが。
モララーは、きっとその行為が
ただの善意で成り立っているのだろうと気付いていた。
会って、話して。改めてわかる。
自由そうだけれど、いつも民や国の為を思って
ただひたすらに邁進して生きていることを、肌で感じる。
そんな人に仕えられて、幸せ以外のものはない。
だからこそ、損得勘定なしにこの人を守らなくてはならない、と思うのだろう。
きっと、得体のしれない人物が急に傍に現れたから
みんな普段より、強く緊張しているに違いない。
ましてや、認否はさておき……自分たちより実力は上の存在。
忠義があるのであれば、警戒しない方がおかしい。
/ ,' 3「ところで、今日の訓練はどうじゃった?」
( ・∀・)「そうですね。捗ったんじゃないでしょうか。
みなさん、流石ですよ、昨日より、三十分も長く掛かりました」
/ ,' 3「ほっほっほっ。相変わらず、無茶苦茶なことを言うのキミは。
あれでも、我が大陸随一の精鋭なんじゃがのぅ……」
278
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:23:07 ID:CwhOLy0A0
モララーが先ほどまで行っていたのは
最上級の兵士に与えられる称号『近衛』達との模擬戦。
街から遠く遠く離れた、訓練専用の荒野で毎晩執り行われている。
近衛の兵士たちは、訓練こそすれ戦いの最前線には居ない。
故に、実践の感覚が薄れてしまう。
かといって、まともに相手を出来るのは同じ称号帯の人間のみ。
時間や相手を考えると、実戦形式の訓練をする機会は非常に少なくなってしまう。
そこで抜擢されたのがモララーだった。
それなりにプライドを持っていた彼らだが。
あの日、モララーに完膚なきまでに屈服させられてから
反発するように、挑み続けている。
未だ、誰も彼に土をつけることは適わないが
それでも、着実に距離が縮まりつつある実感はあるそうだ。
( ・∀・)「ところで、国王。ぼくから一つお伺いしても?」
/ ,' 3「おお、なんじゃね。なんでも聞くが良いぞ」
( ・∀・)「初陣はいつ頃になるのですか?」
/ ,' 3「ほっほっほっ。それか」
279
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:25:26 ID:CwhOLy0A0
不満があるわけではなく、純粋なる疑問だった。
スカルチノフは、モララーを戦争を終わらせる最強の手札として引き入れた。
だが、一週間経ってもやっていることは雑務や訓練のみ。
早く戦場に出せば、戦況は一変するはずだ。
なのに、どうして……?
ずっと思っていた疑問であった。
/ ,' 3「キミ一人の力で軍を押し進めるには、まだ信頼がなくての」
/ ,' 3「戦場に出て、場を制圧するまでは良い。
その後どうするか、じゃ。戦場は何も、原っぱだけではない。
野営地、市街地。それらも戦場になりうる」
/ ,' 3「敵とはいえ、非戦闘員をむやみに殺生するのは悪でしかない。
それではいけない。戦争が悪だと、怨恨しか生まぬ。
怨恨は終わりのない戦いを増長しかせん。
ゆえに、残された敵の『民』を保護する義務がワシらにもある」
/ ,' 3「たとえ、彼らが望まなくともの」
/ ,' 3「そこまでのケア、キミ一人で出来るかな?」
( ・∀・)「……いいえ」
280
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:26:57 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「となれば、人を頼るしかないの。
じゃが、国を離れればワシの庇護も薄くなる。
ただただ、力ばかり強いキミの後ろを、不平不満無く任せられるようになるには
もう少しだけ時間が必要なんじゃよ」
( ・∀・)「なるほど。それでお城中の世話を……」
/ ,' 3「嫌かもしれんが、キミ自身の為に。
我慢して続けてくれぬかの。
時を見て、ワシはキミを使う予定じゃ」
/ ,' 3「その時は頼むぞ。大魔術師よ」
スカルチノフは、心の底からモララーのことを考えてくれていた。
ただの戦闘兵器では、軍の士気を維持するのは難しい。
特に、内戦と違い大陸間の戦争の場合は海も渡るほど長距離だ。
一日二日で終わる戦ではない。
士気が下がれば、質も下がる。
そこまで考慮して、スカルチノフはVIP大陸の一戦士として
モララーを馴染ませようとしていたのだ。
/ ,' 3(……心配しているのは、それだけじゃないんじゃがな)
今までの戦い方、訓練での動き。
スカルチノフは余さず見ていた。
そして、一つだけ気付いたことがある。
281
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:29:27 ID:CwhOLy0A0
それは、戦争においては致命的な弱点。
一人の戦士として、究極の欠陥。
だから、いつかどこかで克服してもらいたい。
しかし、それは本当にモララー自身が許せるだろうか。
堕ちゆく自分を受け入れられるだろうか。
この長い戦争を終わらせるためとはいえ
たった15の少年へ、重い十字架を背負わせるのに
無責任であってはならない。
スカルチノフ国王も、本当はどこかで迷いがあったのだろう。
そのために、少しでも平穏の場を作ってあげたくて
彼を城中作業員として兼任させていたのだ。
( -∀-)「はい。精一杯頑張ります……!」
モララー自身にも覚えのある『弱点』。
それを押し込めるように、強く拳を胸に当てて返事をした。
つづく
282
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:30:53 ID:CwhOLy0A0
おまけ
/ ,' 3「ところで、レンデセイバーくんよ」
( ・∀・)「?」
/ ,' 3「お主、近しい家族がおらんと言っておったの」
( ・∀・)「ええ。親戚は居ましたが……別段仲良くは。」
/ ,' 3「ワシも、妻に先立たれてからもう長くてな。
子供もおらんうちに、いつの間にか年ばかり食ってしまった」
/ ,' 3「ちょうど、息子や孫が居ればのぅと思っておったのじゃよ」
( ・∀・)(まさか……)
/ ,' 3「と、いうわけで。これからは、ワシの事を『お爺ちゃん』と呼んでも良いぞ」
(;・∀・) て「いやいやいや。仮にも国王様が何を仰っているんですか」
/ ,' 3「国王じゃが、一人の老人でもあるんじゃ。人恋しくなって、何が悪い!」
#
(;-∀-)「それはそうでしょうが……」
283
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:31:47 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「別に、皆の前でそう呼べと言うわけではない。
ただ、少しでもお主にも
王都へ来て、安らかに思える場所があれば、と思ったんじゃが」
/ ,' 3「……ワシのことなんて、そんな風に思いたくないわけかの……」
(;・∀・)(うわあ! わかりやすく落ち込んでるぅ!)
/ ,' 3「寂しいのぅ……寂しいのぅ……」
チラチラ
(;・∀・)
(;-∀-)
(;-∀-)=3
(;・∀・)「わかりましたから。顔をあげてください、おじい様」
284
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:33:00 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「ほ? 今なんと?」
( ・∀・)「おじい様、です。それじゃダメですか?」
/ ,' 3「よい、良いぞ! それじゃ! おじい様!
* 良い響きじゃのう……」
(;-∀-)(全く、本当に道楽好きな御人だなぁ……)
/ ,' 3「また暇な夜には呼ぶからの。
* その時はちゃんと来るんじゃよ、モララーくん」
( -∀-)「……ええ、わかりました」
王の威厳を下ろした時の、無邪気な老人の笑顔。
この人の為なら、頑張っても良いかもしれない。
そう思いながら、モララーは静かに夜風に当たりつつ
楽し気に話す、老人との会話を楽しむこととしたのであった。
285
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:36:02 ID:CwhOLy0A0
今回はちょっと短めでした。
基本的には土曜日のこれぐらいの時間更新になりそうです。
そんなことより、聖剣伝説LOMのリマスター発売が発表されましたね。
この作品を作る際に、発想の元となった作品なので興奮が止まりませんでした。
良かったらみなさんも、ホームタウンドミナを聞いてみてください。
モララー君の山小屋モデルは、「マイホーム」だったりします。
286
:
名も無きAAのようです
:2021/02/28(日) 06:55:35 ID:CdpBQlSs0
乙です
287
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:29:43 ID:xNGrs6b20
嘗七話「初陣」
( ・∀・)(おや……?)
城に来てから、二週間が経った頃。
テーブルマナーに怒られることもなくなり
皿洗いの速度や精度も格段に上昇した頃。
洗濯物を取り込み、城の倉庫へ戻る途中のことだった。
仰々しい鎧を着た軍隊。
破れたローブを纏う集団。
意気揚々としながら、上部の謁見室へ向かおうとする兵士たちが居た。
それ自体は別に珍しいことはない。
どこかで戦いがあって、戦果の報告に来たのだろう。
だが、今日は違っていた。
その集団から、一人だけ。
分厚い金属の鎧をガシャガシャと鳴らしながら
大股でモララーの所へ向かってくる男性が居たのだ。
288
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:31:19 ID:xNGrs6b20
( ゚д゚ )「……」
(;・∀・)「な、何か……?」
普段誰かに話しかける部位より、かなり上。
意識しないと見えないほど高くにある顔へ、頑張って首を向けながら問う。
だが男性は何も言わず、品定めするようにただただ少年を見つめている。
時折、何かを感じ取ったのか大きく息を吸い込むのだが
その動作が、捕食前の獣のようで強く恐怖心を煽る。
敵兵ではないし、何か粗相をした覚えもない。
どうしたものかと、ピタッと合ってから逸れない鋭い眼光に、脂汗を流している時だった。
ζ(゚ー゚*ζ「こら、怖がってるでしょ!」
( ゚д゚ )「おっ!? お、おお。そうか! こいつは失礼した」
気持ちの良い高い音がパシーンと、モララーの上方から鳴り響く。
杖の先から延びた薄い布が、男性の頭部で叩かれたことが原因である。
音の割に痛みのない小道具を魔法でしまうと
男性の後方から、ゆるりと巻いた髪の小柄な女性が出てきた。
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんねぇ。この人、初対面の相手を無言で見つめる癖があって」
( ゚д゚ )「力量を測っているんだ。戦士として必要な行為なんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「だからって、誰も彼もやって言いわけじゃないでしょー?
そんなんだから、ロマネ君に抜かされるんだよ」
(; ゚д゚ )「そ、それは今関係ないだろう!」
289
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:33:19 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「……あの?」
ζ(゚ー゚*ζ「あっと。ごめんごめん。いきなりビックリしたね」
親し気に話す二人の空気と、今の状況がわからず
モララーは中身が山になった洗濯籠を脇に浮かせたまま、動けずにいた。
それを見て、女性は『白魔術師』の証である
戦闘用純白ローブの埃を叩きながら向き合う。
ζ(゚ー゚*ζ「私はレイ=デ=ジェレイド。デレでいいよ。
こっちは私の夫のミラン。みんなからは、ミルナって呼ばれてるんだ。
あなたは、モララー=レンデセイバー君でしょう?」
( ゚д゚ )「君のことが、戦線でも噂になっていてな。
それで気になっていた所、姿を目にしたからつい見入ってしまった。
無礼をしてすまないね」
大男は厳しい顔を緩ませて、握手を求めた。
鎧の胸元に刻まれた白い獅子は、彼が『白騎士』の階級であること示している。
おずおずとモララーも、勢いに飲まれながら大きな手を握り返す。
( ゚д゚ )「しかし、話を聞いた時は何かの間違いかと思ったが……」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、物凄い魔力ね。見たことないわ、こんな膨大な量」
(;・∀・)「ど、どうも……」
近衛の階級の人たちですら、一見ではモララーの強さを看破できなかった。
前情報があったからとはいえ、それを直に見て判断できるとは。
290
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:34:43 ID:xNGrs6b20
( ゚д゚ )「それほどの力量があれば、本当に終わりは遠くないのかもしれんな」
ζ(゚ー゚*ζ「出撃命令とか出ているの?」
( ゚д゚ )「おお、そうだ。戦利品なのだが、綺麗な小刀が手に入ってな。
お近づきの印だ、君にあげよう」
ζ(゚ー゚*ζ「やだ、そんな小汚いもの渡しちゃ失礼でしょ。
モララー君、今度もっとマシなもの持ってくるから。
そんなの受け取らなくていいよ」
(;-∀-)「あー……えーっと……」
似たもの夫婦という言葉があるが、その通りだ。
ペースがわからない。
デレが手綱を握っているように見えるが、デレもデレで
割と相手の様子を伺わずに、話したいことを述べてくるタイプだ。
モララーの周囲で見たことない人種ゆえ、困惑してしまう。
( ФωФ)「二人とも」
そんな二人の背後から、声がかけられた。
ミルナに劣らない、巨大な体躯。
佇まいだけで、モララーも一目でわかった。
かなり強い人だ、と。
291
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:36:49 ID:xNGrs6b20
身の丈ほどもある、大剣を背負った姿。
その階級にのみ着用が許可されている、金細工で魔術加工をされた輝く白銀の鎧。
彼ら、白騎士を従える部隊の総隊長……『聖騎士』だ。
( ゚д゚ )「ロマネスク」
( ФωФ)「寄り道する暇はないのである。
戦果の報告は速やかに行うように、と常に言っているのである」
ζ(゚ー゚*ζ「そうだったね。
ごめんなさい、ロマネく……団長。
じゃあ、レンデセイバー君。またね」
( ゚д゚ )「好きな食べ物とかあれば、教えてくれ。また持っていくよ」
手を振りあい、二人は集団へ戻っていった。
その背を追うように、ロマネスクと呼ばれた軍団長も歩みを進める。
が、歩みを止めて背中越しにモララーへ話しかける。
( ФωФ)「……お主が『大魔術師』であるか」
(;・∀・)「え? あ、はい」
ちらりと、その風貌を見る。
王都での出来事は、ロマネスクの耳にも当然入っていた。
言うように、凄まじい魔力だ。嘘でも誇張でもない。
292
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:38:35 ID:xNGrs6b20
誰かが、その強さを持ってすれば戦争の終結も夢ではないと吹聴していた。
確かに、そうだろう。
……だが。
( ФωФ)(まだ、ほんの子供なのである……)
少しだけ失望のため息をつくと、ロマネスクはそのまま王の下へと歩いて行った。
一人残ったモララーは、無駄に流してしまった汗もそのまま
呆然と立ち尽くす。
(;・∀・)(なんか、嵐みたいだったなぁ……)
同時に思ったこともある。
ここに来て、初対面で。
モララーを恐れなかった人たちに、初めて出会った。
兵士以外の人たちですら、彼を受け入れるのに少しの時間を要した。
にも拘らず、まるで最初から恐怖なんて持たず
純粋にモララー=レンデセイバーという個人を見てきた人は
国王を除いて、居なかった。
( -∀-)(……ああいう人達も居るんだ……)
世の中、知らないこと。まだ出会ったことのない人が、本当にたくさん居るんだ。
改めて、世界の広さを身に染みて感じるモララーなのであった。
293
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:40:37 ID:xNGrs6b20
――――。
/ ,' 3『モララーくん、今からこっちまで来てくれるかの』
またしばらくしてからの事。
普段よりやや緊張気味の声で、王はモララーを呼び出した。
遠隔対話魔法の発信源を辿ると、どうやら『こっち』とは作戦会議室のことらしい。
それだけで、これから告げられるであろう出来事を理解した。
手に汗を握り、短く返事をする。
あてがわれていた自室から遠くないので、その高鳴る気持ちを抑える時間を作るため
モララーは歩いて、現場へ向かった。
/ ,' 3「よく来たの。ま、座りなさい」
( ・∀・)「はい」
既に、王と謁見するのに緊張は無くなっている。
城内の、日常と戦争が入り混じる独特な雰囲気にもとっくに慣れた。
だが、今日だけは違う。
今までにない、新しい出来事がこれから起こる。
その確信で、モララーの額はしっとりと汗ばんでいた。
294
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:42:37 ID:xNGrs6b20
/ ,' 3「この地図を見てくれるかね」
投影魔法で鮮明に映し出された、大陸の地図が部屋の真ん中にある。
スカルチノフが指をさすと、魔力に反応して赤い点が浮かび上がった。
王都から離れた土地。
戦線の激戦区というわけではないが、決して安全ではない地域だ。
/ ,' 3「今さっき入った情報での。
このシャトー方面に、ラウンジ軍の補給地があるそうなんじゃ」
/ ,' 3「隠蔽『呪文』で隠されておったせいで、なかなか見つけられんでな
ようやくしっぽを掴んだのじゃが……」
/ ,' 3「今、近隣で動ける部隊がなくての。
あるにはあるんじゃが……戦闘後で消耗が激しい」
/ ,' 3「じゃが、この機会を逃せば、また拠点を移動してしまうじゃろう。
ゆえに、早く叩く必要がある」
( ・∀・)「そこで、ぼくの出番……というわけですか?」
興奮を押さえながら、静かにモララーが告げる。
スカルチノフ王は、それに対してゆっくり頷いた。
/ ,' 3「聖魔術師シャキンの部隊が、近くで待機しておる。
彼らと合流し、速やかに敵拠点を潰して欲しいんじゃ」
/ ,' 3「出来るかの?」
295
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:44:44 ID:xNGrs6b20
返答は決まっていた。
モララーはゆっくり息を吐くと、覚悟を決めるように力強く答える。
( ・∀・)「はい、出来ます」
少年のやや強張った表情。
その覚悟と……一抹の不安を抱きながら。
スカルチノフは、遠くにいるシャキンへ魔法でやり取りを始めた。
が、その前に何かを思い出した王が、作戦机の傍にあった箱に手をかける。
/ ,' 3「おお、そうじゃ。初陣を飾るキミにプレゼントがあるんじゃった」
( ・∀・)「?」
――――。
(`・ω・´)「……む」
( ・∀・)「お待たせしました。モララー=レンデセイバー、ただいまより作戦に合流致します」
半刻後。
浮遊魔法を使って急行していたモララーが、地へ降り立つ。
長髪と共に、黒い外套がふわりと浮かび上がった。
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