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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双

1 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/12(木) 22:37:04 ID:w.OycBSI0
お久しぶりです。2年ほど放置してしまいました。すみません。
VIPはすぐ落ちるとのことなので、こちらをお借りさせていただきます。

今回は最終話一つ前の第7話です。遅かったくせにすみません。

ご存じない方は、下記URLを参考ください。

ブーン文丸新聞 様
第一部      ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire/retire.htm
第二部完結編 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire2/retire2.htm

では、開始します。

124名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:07:59 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「三日月の涙……って、聞いたことはあるけど」

(´・ω・`)「黄金の光を放つ、美しい宝石のことですよね?」

ξ゚⊿゚)ξ「見た人は、永遠に幸せになれるとか言われてるわね」

(*゚∀゚)「ほー。でも、宝石ならなんで明日じゃないとダメなんだ?
     今からでもいいんじゃね?」

( ・∀・)「まあ、それは楽しみにしておいてよ。せっかくのバカンスなんだから。
      特にそれ以外予定もないし、とにかく遊んでおいで」


( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ(´・ω・`)(*゚∀゚)「「「「はーーい!」」」


無邪気に駆け出す子どもたちの背中を、目を細めながらモララーは見送った。








――さて。そんな彼らが居る場所は一体どこなのか、という話であるが。


VIP大陸ともラウンジ大陸とも言えない、南に位置する小さな島。
名もなきその場所を、誰かが「レハコーナ島」と呼んだらしく。いつの間にか定着していた。

125名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:09:06 ID:aUR6lmzc0
そこは何もない、ただの無人島。
領土の権利をどちらの大陸も持たないが、不可侵の条約が結ばれているので
住人は存在しない。

船で向かうには遠く、魔法を使うにしてもレハコーナ島の一帯は魔力を消す石が
海底に細かくちりばめられており、無効化されてしまう。


そもそも、たどり着くことすら困難な場所。


人の手が行き届いていないこともあり、自生している植物は活き活きとし
風は魔力もなく澄んでおり、海水も数メートル先の底まで目視できるほど美しい。

秘境と呼ぶにふさわしい名所なわけだ。

(゚、゚トソン「しかし、名前だけなら私も聞いたことありますが。
     まさか本当に存在していたとは……。」

( ・∀・)「冬の間は農作業しないから時間が余ることが多くてね。噂は実在するのかどうか
      確かめたくなってさ。数年前に偶然見つけた時は、僕も信じられなかったよ」

木陰のハンモックに腰を下ろしながら、モララーはさらりと言う。

(゚、゚トソン「そういえば、魔法が使えないって聞きましたけど。
     モララーさんは大丈夫なんですか?」

( ・∀・)「ああ。使えないっていうのは正しい表現じゃなくてね。
      結局、ここはスペルキャンセラーを自発的に出す鉱石が影響しているだけだから。
      僕は問題ないよ」

(゚、゚トソン「……まあ、そうなんでしょうね」

トソンは後ろを振り向く。

126名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:10:29 ID:aUR6lmzc0

そこには、無人島には似つかわしくない、見覚えのある木製の扉があった。
後ろ側には何もない。ただのドア。

しかし、一度ノブを捻り開けると

目の前に見えるのは、知っている場所。

小さなキッチン、四つの椅子と一つのテーブル。二階へ上がるための曲がった階段。
窓から差し込む光は弱く、今日も固くなるほど積もりそうな雪が降っている。

(゚、゚トソン(家の戸を、魔法で空間ごと繋げるなんて……)

スペルキャンセラーが効かないという、モララーの魔力の強大さを改めて実感する。
と、同時にトソンの脳裏には違うことが思い浮かんでいた。

(-、-トソン(過保護というか、なんというか……)

( 、 *トソン(……そういうところが『らしい』……けど)

遠くの子供たちを見つめるモララーの優しい視線。
トソンも同じくらい、その横顔を優しく、熱っぽく見つめていた。





――――。


(;^ω^)「獲れたおーー!!」

海水から勢いよくブーンが浮かび上がる。
右手に持った銛の先には、3匹もの魚が突き刺さっていた。

127名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:11:41 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「これはロックスナッパー、食べると死ぬ。
      そっちは、ベルツリー。高級魚だね。
      先っぽの奴は、ゴブリントゲカサゴ。ヒレに毒があるから注意して」

(:^ω^)「ほえー。ショボン君、よくわかるおね」

頭を振りながら水しぶきを払うブーン。
ショボンは感心する彼に、半ば呆れたように返す。

(´・ω・`)「敵地の情報を、先に仕入れておくのは常識だろう」

右手のひらを差し出し、空中に映像を浮かび上がらせた。

魔法アイテムの類は、起動用に微弱でも感知できれば、効果の出るものも存在する。
彼が身に着けていたブレスレットは、辞書の役割を果たすものだ。

内地に住む彼らにとって、海は未知な物が多い。
それを見越して、海洋生物をすぐさま検索できるよう辞典を仕込んでおいたわけだ。

( ^ω^)「それじゃ、いったん戻ろうかおね!」

(´・ω・`)「あっちも終わってるといいけど」


二人は、人数分よりやや多いくらいの収穫物を背に、島の内部へと歩き出した。

レハコーナ島は、周囲をぐるりと遠浅の海岸で包まれた孤島。
中心へ向かうほど、なだらかに勾配が増していく森林が生い茂っている。

ツンとツーは、森林地帯で山菜類を採取しているらしい。


せっかくの旅行だが、拠点がいつもの隠居小屋では少々手狭。
しかし、歓楽地でもないので設備も乏しい。

128名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:12:52 ID:aUR6lmzc0
場所はあるのに、都合が悪いこの立地。
一体どうするのか、と皆が思ったことだろう。

そこで、モララーは彼らにこう告げた。


( ・∀・)「家は用意しておくから、食料をとっておいで。鍛錬にもなるだろうし」


と、軽い笑顔で見送ったのだ。




( ^ω^)「しかし、用意するって……家って言ってたおね?」

(´・ω・`)「うん、言ってた」

( ^ω^)「あまりにサラッと言うから、普通に聞き流してたけど……」

(´・ω・`)「……まあ、モララーさんのことだし」


そして二人は、あらかじめ言われていた場所へ到着する。



さっきまで、自然一杯だった地帯に、立派な木製のコテージが聳え立っていた。


( ^ω^)(´・ω・`)「「ほーらね」」


それなりに長い時間と、事前知識があれば、いい加減理解する。

モララーのすることは、規格外なのだと。

ありえない現実が目の前にあろうと、二人が口を揃えて出した言葉で全て解決するのだ。

129名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:14:24 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン「ああ、おかえりなさい。二人とも、もう帰ってきてるよ」

( ^ω^)「はーいですお」


一歩、コテージの中へ入ると体中を風が突き抜けた。
乾いた肌は、涼やかな匂いを発している、

( ^ω^)「お?」

(゚、゚トソン「入る際に、体を洗ってくれる魔法みたいだよ」

(´・ω・`)「……凄い。風だけのように思えるけど、これは多重魔法だ。
      体表についた水分に、石鹸類を混ぜ込んだ風を噴出。
      泡立てることなく殺菌を済ませた後、更に人肌程度の温風で乾燥させている。
      単純なようだけど、自動発動型にここまで仕込むなんて……」

( ^ω^)「……。」

ブツブツと冷静に状況を推理するショボンを置いて、ブーンは部屋の中へ入っていく。

ξ゚⊿゚)ξ「おかえりなさい、どうだった?」

広々とした居間の奥に、大きなキッチンが設置されている。

コックを捻れば自動で清流が出てくる流し台。
ボタンを一つ押すだけで、絶妙な火加減が扱える調理場。

何の金属かもわからない光沢を放つ、包丁の切れ味も抜群で
それらを受ける鍋は、本来ならば二時間かかる煮込み料理すら
十数分で終える機能を持っているらしい。

ちょうどブーン達が帰ってくる頃合いを見計らっていたのか
ツンとツーは冷たい飲み物を準備していた。

キッチンにある、石の箱の中は常に冷気を放っており
物は腐らず飲料は夏にはうってつけの温度に下げてくれる代物。

どれでもモララーの魔法による、利器達だ。

130名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:15:18 ID:aUR6lmzc0
( ^ω^)「大漁だったお! ツン達は?」

(*゚∀゚)「おー、こっちもいい感じだぜー」

冷気保管庫には、既に山菜やキノコが調理できるように並べられていた。
見たこともない彩色、大きさ、形の野菜類は子供たちの心を躍らせる。

( ^ω^)「ほえー。これ全部食べられるのかお?」

(´・ω・`)「調べてみよう」

と言いながら、ショボンが端末に魔力を込める。

(*゚∀゚)「そっちが、デューマッシュルーム。砂糖みてぇに甘いキノコだ。
    このギザギザした葉っぱがソードリーフ。魚の臭み抜きに使えるんだぜ。
     んで、こっちがレッドスカル。猛毒のドラケンピルツと見た目はそっくりだがちゃんと食えるんだ。」

ペラペラと何も見ずにツーは食材の名前と特徴をあげていく。
その数は十数種類もあるが、一度も痞えず言いのけたのだった。

ξ゚⊿゚)ξ「採る前に、全部ツーちゃんが教えてくれたのよ。
      毒があったり、調理に時間が掛かりすぎる物は採ってないわ」

(;´・ω・`)「……お見事」

ツーが言っていた内容は、すべて図鑑内の説明と相違ない。
彼女の、八百屋としての経験と知識が如実に表れていた。

( ・∀・)「やあ、おかえりみんな。食材は揃ったかな?」

モララーが、帰宅する影を見て降りてきた。二階のベランダで日向ぼっこをしていたらしい。

131名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:15:59 ID:aUR6lmzc0
彼の顔を見るや否や、満足げに採った南国素材を自慢する子供たち。
成果物に対し、視線を動かしていきながらモララーは口元に指をあてて、何かを考えこむ。

数秒程度の沈黙のあと、手をポンと叩いてニッコリ笑った。

( ・∀・)「よし。今日は僕が作るよ」

( ^ω^)「ええー!? みんなでやりましょうお!」

ξ゚⊿゚)ξ「そうですよ。いくら随伴者でも、モララーさんに任せっきりっていうのは……」

( ・∀・)「まあまあ。じゃあ明日はそうしようか。今日ぐらいは任せてよ。
      ……とはいえ、待ってるだけというのも退屈だよね」

手を一度、南国素材のフルーツに差し伸べる。
指を折ると、それは重力に反するように浮いた。

それからモララーは、手を横に一度振る。
呼応するように、果物は一瞬にしてみじん切りになった、

サマーバレルという、硬いトゲトゲした皮に覆われた果実は
その外皮を器にしたまま、黄色く芳醇な果肉のみが綺麗に盛り付けられた。


( ・∀・)「せっかくだから、余興でもしながら作ろうと思うんだ。どうだい?」

(* ^ω^)ξ*゚⊿゚)ξ(*´・ω・`)(*>∀<)「「「「ぜひーー!!」」」」

前のめりになりながら、キッチンの前へ押し寄せる子供たち。

空中で火をおこしながら、そのまま風の魔法で混ぜ合わさる野菜。

その下では、気が付けば刺身になっているベルツリー。尾頭付きだ。

一挙手一投足が、一つのショーみたいで各々が歓声をあげながら楽しむ。

132名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:16:41 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン(…………)

その後ろで、微笑みながらもトソンは一つだけ違和感を覚えていた。

いつものような優しい笑顔、子供たちを大事にする気持ち。
何も変わらない。普段の彼。

(゚、゚トソン(……あぁ、そっか)

その正体に気付くのは一瞬であった。


モララーが魔法を惜しげもなく使っているのだ。


共に暮らして数年になるが、トソンの記憶の中では彼が魔法を使っている姿は
数えるほどしかない。

その気になれば、天を左右する力を持つ彼が魔法を抑え込むのは何故なのだろう。

一度、聞いたことがあった。




――

――――

――――――



( ・∀・)「んー……。僕も全く使わないわけではないよ。
      人里に降りてる時は、変化の魔法を使ってるし」

133名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:17:59 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン「でも、農業はさておき。お洗濯とか、料理とかぐらいには使ってもいいのでは?
     その方が楽で便利だと思うんですけど……」

( ・∀・)「……トソンさんは、この生活に不満が?」

(゚、゚;トソン「あ、いえ。そういうわけでは。単純に気になってしまって。
      普通は、そうするものなんじゃないかなぁ、と」

( ・∀・)「…………」


( -∀-)「トソンさんは魔術師じゃないから、あまり実感がないかもしれないけれど」

言いながら、モララーは手のひらに小さな火炎の球を作り出す。

( ・∀・)「魔法を使うときは、当然魔力を使うんだ。
      体の中にあるエネルギーを錬成して、魔法として使用する」

拳を握りしめると、火球は瞬時に消えた。

( ・∀・)「……その感覚が、昔の戦いを思い出しちゃってね。
     色々と……過去のことを考えてしまいそうになるんだ」

(゚、゚トソン「……そうだったんですか」

( ・∀・)「とはいえ、嫌いなわけではないから。
      いざって時は使うし。生活においても、何か不満とかがあれば
     いくらでも善処するから、言ってね」

(゚、゚トソン「ええ、わかりました」

(゚、゚トソン「けれど、便利すぎるのも問題ですからね。
     日頃の苦労があるから、便利なことに気が付けますから。
     私も、できる限りは自力で生活していきたいです」

134名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:19:17 ID:aUR6lmzc0
( ・∀・)「はは。トソンさんならそう言うと思ってた」

嬉しそうに笑いあう二人。
それからモララーは少し間を置いて、窓から遠くの空を見上げながら告げた。


( ・∀・)「……そうだなぁ。もし僕が、不要不急で魔法を使うのであれば」

( -∀-)「それはきっと……」



――――――

――――

――


(゚、゚トソン(そんなこと、忘れるぐらい楽しい時……なんですね)


眼前で料理ショーは続いていく。
トソンは一つ息を吐いてから、子供たちと同じように輪に入る。

世界最高峰の魔術師は、あっという間に豪勢なフルコースを
観客を飽きさせることなく作り終えたのだった。

135名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:20:39 ID:aUR6lmzc0
――――次の日。

約束通り、子供達だけで朝食の準備をしている時だった。

ブーンがショボンを誘って、朝のランニングを海岸で済ませた後の時間帯である。

(*゚∀゚)「しかし悪ぃな。オレの都合で、短い旅行になっちまってよ」

ξ゚⊿゚)ξ「まあまあ。お店を長く開けるわけにもいかないんでしょ?」

(*゚∀゚)「今年はちょっと不作の年でさ。結構頻繁に入荷しないと
     中々商品が集まらなくってよー。いつもは二、三日ぐらいは余裕なんだがなー」

( ^ω^)「商売も大変だおね。僕らと同じ歳なのに、ツーちゃんは凄いお」

(*゚∀゚)「おいおいなんだー? 急に。照れるだろぉ」

(´・ω・`)「実際、病床に伏せてるお父さんを支えながら切り盛りしてるのは
      僕たちには到底できないことだよ」

(*-∀゚)「へへ。ありがとな」



(*゚∀゚)「……? お?」

ξ゚⊿゚)ξ「あら?」

二階から、神妙な顔をして降りてくるモララーを、キッチンにいるツンとツーが心配した。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたんですか?」

( ・∀・)「……うん。ちょっと、トソンさんの体調が良くないみたいで」

136名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:22:04 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)「えー!? マジかよ。そりゃヤベェな! オレ、診てみようか?」

支度を即座に切り上げ、ツーが階段の方へ走っていく。
それを防ぐように、モララーは手を彼女の前に出して止めた。

( ・∀・)「いや、大丈夫。僕が付いてるから。けど念のため、病院に行こうと思うんだ。
      悪いけど、今日はみんなだけで遊んでて貰って良いかな?」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな。トソンさんが具合悪いのに、私たちだけ遊ぶなんて……」

(゚、゚;トソン「ごめんね、みんな」

気をもむ子供達に、寝間着姿のトソンがゆっくりと姿を現して声をかけた。
顔色が悪く、見るからに元気がない。

(-、-;トソン「昨日、はしゃぎ過ぎただけだと思うから。すぐ収まるよ。心配しないで」

( ・∀・)「トソンさん、座ってるよう言ったじゃないか」

せっかくの旅行に水を差したくないのか、健気にトソンはふるまったつもりだった。
しかし、モララーに諭されて部屋に戻る背中は、とても気を揉むなと言うには小さすぎる。

( ・∀・)「とにかく、安静にさせておくから。
     予定に変更がないように、善処するよ」

戸を閉める前にモララーはそう言うと、少しの間を置いて青い光が部屋から漏れた。
すっかり静かになってしまったコテージで、子供たちは顔を突き合わせる。

( ^ω^)「晩って……そんなすぐ治るのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「具合は悪そうだったけど……咳とかは別にしてなかったわね。
       何か他の病気かしら?」

137名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:23:36 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)「うーん。どうだろうなぁ。オレの父ちゃんも、よくあんな感じで
     元気だけ出ない、って時あるしなぁ」

( ^ω^)「そもそも、トソンさん記憶がないわけだし。
      もしかしたら、自分も知らない持病があったかもしれないお?」

(´・ω・`)「…………」

三人が憶測で議論をする中、ショボンは一人ブレスレットをいじっていた。
そんな上の空の態度が気に食わないのか、ツンが咎める。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとショボン君、さっきから何知らぬ顔してるのよ」

(´・ω・`)「…………あった」

ツンの静止も聞かず、辞典を開いていたショボンが手を前に出す。

そこには、不思議な光を放つ小さな草が映し出されていた。

(´・ω・`)「レハコーナ島の伝説の一つ『メディクシル』。
      万能薬とも言われてて、煎じて飲めばどんな病も傷も、たちまち治るらしいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ〜? そんなものホントにあると思ってるの?」

( ^ω^)「でもこれ、転写魔術で映された本物だお!」

(*゚∀゚)「それじゃ実際に見たことある奴がいる、ってわけだよな」

ξ゚⊿゚)ξ「精巧な作り物の可能性も否めないわよ?」

(´・ω・`)「真偽はわからないけど。どうせなら、探してみない?
       きっとこのまま遊んでも、気がかりで集中できないよ」

138名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:24:29 ID:aUR6lmzc0
( ^ω^)「おー。ショボン君にしては、良い提案だお!」

(;´・ω・`)「なんだよ僕にしては、って」

(*゚∀゚)「オレは賛成! 島の探索もしてーし、一石二鳥じゃねえか!」

ξ-⊿-)ξ=3「…………わかったわよ。私も付き合うわ」

三人の前向きな視線を感じ取ったツンも、同意して冒険の支度をする。

とはいえ、元々遠出をする準備はしてきていない。
簡素な衣服と、現地で作れる道具をありあわせ、安全な範囲での探検をすることに決めた。


持っている情報は、ショボンの持つ辞典による写真のみ。

四人はそれぞれ、それを元にあれこれ推測する。

水場の近くな気がする。

誰かがそういえば、確認できる限りの川や湖を探した。

途中で喉が渇けば、木に成っている果物をブーンが採って、ツーが調理する。

草木に隠れた危険な昆虫を、いち早く察するツンが前に立って進んでいく。
ショボンはその後ろから、辞典を見比べつつマッピングを行い、島の情報を集めていく。

皆が皆、使える知識を経験を元に散策していた。

139名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:25:41 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「……思ったんだけど」

太陽が真上に君臨する頃合い。
ショボンが、サマーバレルの果肉を嚥下してから一つの思考を口にした。

彼らは今、木陰のもとで簡単なキャンプを作り、昼食を取っている。
魚や果物、野草のサバイバルメニューはどれも垂涎もの。

調味料はツーが腰につけたポーチの中に入っていたので、味付けもばっちり。

舌鼓を打って、次の行き先を決めようとしている時のことだった。

(´・ω・`)「メディクシルって、洞窟の中にあるんじゃないかな」

( ^ω^)「どうしてそう思うんだお?」

セブンストラウトという、淡水魚の塩焼きを咀嚼しながらブーンは尋ね返す。

(´・ω・`)「能動的に発光しているなら、暗いところだろう。
      この映像も、背景はゴツゴツした岩場だ」

ξ゚⊿゚)ξ「光の届きにくい岩陰って可能性もあるんじゃ?」

(´・ω・`)「高温多湿な島なのに、メディクシルの生存可能温度はそこまで高くないそうだよ。
      つまり、恒常的に低温の個所を好んで生息しているはずなんだ」

(*゚∀゚)「……おー、そういやココ。よく見ると、ディーマッシュルームが小っちゃく映ってるな」

ツーは辞典の映像の端を指さしながら言う。

140名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:26:48 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「……? でも、これ昨日見たものとは色が違うような……?」

(*゚∀゚)「光が届いてねえ場所で育つと色抜けするんだよなー。
     岩陰とかなら、なんだかんだで光源があるから、こんな風にはならねえよ」

( ^ω^)「ってことは、ホントに洞窟の線が高いのかお?」

(´・ω・`)「うーん、そうなると……」

お手製の地図をショボンは広げる。


本格的に探索できているわけでないが、大体の全体像は見えてきた。

周囲は浅瀬の海岸、島の中心に向かって少しずつ傾斜が形成されており
そこを数本の川が流れている。開けた土地はなく、ただひたすらに樹木が生えている密林地帯。

その中で唯一、川の上流を見つけられた。
他の河川に比べると、中腹ぐらいの位置なのだが。

何故そこが上流と理解できたのかというと、ぽっかりと空いた大穴から水が流れ出していたから。

他の場所かもしれないし、先に進める保証もない。

しかし、戻る時間を含めるなら、選択肢としてはそこしか無さそうだ。

(´・ω・`)「この洞窟に入ってみようか」

ショボンの提案に、三人は力強く頷いた。

141名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:27:40 ID:aUR6lmzc0

――――。


なだらかな岩場の道なき道を進んでいくと、目的地が眼前に広がった。

激しく音を立てながら、虹を作り出しつつあふれ出る水流。
少しでも足を踏み入れれば、抗う間もなく下流まで一気に運ばれてしまうことだろう。

そんな危険地域の脇道を、彼らは見つけた。

(´・ω・`)「……入れるね」

まるで誰かが作ったかのように、人ひとりが歩ける幅。

その先は、ただただ漆黒で塗り固められている。
進めるのか進めないのかすらわからない。

試しに、とブーンが小石を力いっぱい放り投げてみた。


水しぶきの音の中、耳を澄ませると反響が不規則ながらも続く。

何かに止まったというより、フェードアウトするようにそれは消えた。

( ^ω^)「……結構深そうだおね」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

用心深く周囲を見渡した後、ツンが手持ちの鞄から松明を取り出した。
着火用の石を使い、それに火を灯す。

ξ゚⊿゚)ξ「物怖じしてても仕方ないでしょ。こういう時は、入ってみるのが一番」

(*゚∀゚)「おー、賛成さんせー!」

(´・ω・`)「……それもそうだね。あまり遅くなって、約束の時間を逃したら大変だ」

142名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:28:54 ID:aUR6lmzc0
賛同する皆の前を、ブーンがツンから松明を無造作に受け取りながら進む。

( ^ω^)「前は任せるお。みんな、気を付けて行くお!」

訓練ではない、何が起こるかわからない実戦。
戦いがあるのか、ないのか。それすらもわからない。

そもそも、目的の物が存在するかも不明。


それでも、彼らは歩みを進めることに躊躇いはなかった。
自分たちのできることを、できる範囲でやりきりたい。

決意と思いやり。彼らはもう、すっかり一人前になろうとしていた。



――――。


(*゚∀゚)「お? ショボン、何を撒いてんだ?」

薄暗い洞窟内を進んでいるうちに、最後尾のショボンが何かをしていることに
ツーが気付いた。

手に持った、小さな欠片を一定間隔でしっかりと地面に置いている。
置く、というより『埋めている』という表現の方が近いだろうか。

それは赤黒い色をした、如何にも致死性のありそうなキノコの断片だった。

143名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:29:58 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「ドラケンピルツだよ。来た道がわかるように、目印にしてるんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「なんでキノコを?」

(´・ω・`)「猛毒種のものなら、生き物が誤って食べることも少ないだろうからね。
      石や文字の場合、この暗がりじゃ視認も難しいだろうから」

洞窟内の壁や床は、基本的に青銅色をしている。
生物の気配はないが、それでも念のため。

明らかに、彼らが外から持ち込んだ異物とわかる色と代物でショボンは帰り道を作っていたのだ。

( ^ω^)「さすがだお、ショボン君。僕、正直もうどっちが入り口かさっぱりだったお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「あんたはもう少し危機意識を持ちなさいよ」

( ^ω^)「時と場合によるお。入る前に、ショボン君が『後ろは任せて』って言ってたお。
      だから僕は、目の前のことだけに集中するようにした。それだけの話だお」

ξ゚⊿゚)ξ「…………ふーん」

虐げられていたのが、遠い過去のことのようだ。
ブーンはすっかりショボンを、一人の相棒として認めていた。

そして、そんな彼を後ろから支えているショボン自身も、同じ気持ちである。


何度か分岐路を選択し、下ったり上ったり。
まっすぐ進んでいるのかどうかもわからないほど奥深くに、既にいるはずだろう。

それでも、先頭を行くブーンに迷いはなかった。

144名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:30:59 ID:aUR6lmzc0
稀に見かける植生をツーが。
鉱物の種類をツンが。
『後ろ』の状況をショボンが。


的確に判断し、歩みを進めていく。
得意分野の話が出るたびに、伝説はもしかして本当なのかもしれない。

そんな気配が、どんどんとはっきりしてくる。


緊張感と、期待が洞窟の深さと比例するように大きくなっていく。

手持ちの松明が消えかかり、帰りを考え始めたその時だった。


(*゚∀゚)「……お?」

歩みを止めたツーが、道の端の方へ歩き出ししゃがみ込む。

何事だろうと、他の三人も後を追った。

背後から視線の先を、灯りで照らす。



そこには、真っ白なデューマッシュルームが生えていた。


ξ゚⊿゚)ξ「……今まで、こんなの無かったのに……」

( ^ω^)「と、いうことは……!」

145名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:32:16 ID:aUR6lmzc0
胸が躍る。
足が速くなる。

慎重さを損なわないように、けれど一秒でも早く。

それが本物でであることを切望するように。

四人は道を進んでいく。


(* ^ω^)「あーーーーーーーーーーっっ!!!!???」

(;´・ω・`)「ど、どうしたんだい?」

残り少ない毒キノコを埋め込んでいる最中だった。
角を曲がり、背中が消えたと同時にブーンが大声で叫んだ。

落盤の心配すらありそうな、その声量を危惧しつつもショボンが駆けつける。

(* ^ω^)「み、み、見てお、ショボン君! あれ!!」

(;´・ω・`)「あ、あれは……!!」


岩壁の色とも違う、浅葱色の淡い光。
細く薄い葉のみで形成された、繊細な草。

図鑑で見たものと少しも違わない。


彼らの目の前に『伝説』が現れた。

146名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:33:55 ID:aUR6lmzc0








――――――――が。



ξ;゚⊿゚)ξ「流石。一筋縄にはいかなそうね」

今すぐにでも手に取りたい所だが、そうはいかない。
彼らが視覚でとらえたメディクシルは、手の届く場所にはなかったのだ。


石を投げてみる。

反響する音は、ずっと遠くで聞こえた。
入り口でやった時同じように、先の見えない反音の仕方だ、

周りを見渡してみる。

ただただ、冷たい岩肌が広がっているだけ。



そう、伝説の薬草は大きな切り立った壁の中腹に、ぽつんと存在していたのだ。

147名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:35:18 ID:aUR6lmzc0

(´・ω・`)「図鑑では、道端に生えているように見えたけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「地盤沈下とかあったのかも。結構、このあたりは脆そうよ」

地面に触れたり、断面を見てからツンが言う。
彼女の弱い力でも、押し込めば大地は軽くひび割れた。

(´・ω・`)「魔法が使えるなら、訳もないんだけどなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「どこか下る道がないか探してみましょう」

ツンがそう提案する前だった。


( ^ω^)「ツーちゃん、どうだお?」

(*゚∀゚)「おー、この辺ぐらいまでじゃねーか?」

振り返ると、二人が足踏みを挟みながら何か調べているようだった。
一歩進んで、床を蹴る。また一歩進んで、地面を叩く。

その行為をツンが尋ねると、同時に理解できたことをブーンが答えた。

( ^ω^)「この辺りは結構硬そうだお。踏ん張っても問題ないと思うお」

ξ゚⊿゚)ξ「どういうこと?」

(*゚∀゚)「こういうこと」

ツーは探検用鞄に潜めていたロープを取り出す。
その先をブーンに渡すと、ブーンはしっかりと足をかけられる隆起を探した。

何度か試し、そして結果を告げる。

( ^ω^)「ここからロープで僕が支えるお。それなら、降りられるおね?」

148名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:36:16 ID:aUR6lmzc0
ξ;゚⊿゚)ξ「あんたなら人ぐらい支えられるかもだけど……誰が行くのよ」

(´・ω・`)「僕が行こう」

ロープの先を、腰に巻き込みながらショボンが言う。

(´・ω・`)「ツンやツーちゃんが行くよりは安全だろう?」

ξ;゚⊿゚)ξ「それはそうだけど」

(´-ω-`)「ブーンほどではないけど、これでも鍛えているほうなんだ。
      少しは安心してくれていいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………わかったわ」

止める間もなく、ショボンは歩き出していた。

(*゚∀゚)「岩場の様子はこっちでも見ておくからよー。
     ショボンはメディクシルに集中してくれー!」

這いつくばる姿勢でツーが声をかける。
それに対し、不安定さしかない岩場に足を踏み出した少年は、親指を立てて答えた。


(´・ω・`)(想定より、かなり脆いな……)

踏み込みながら、塵が舞う地面を蹴っていく。
少し距離のある場所で、落盤の気配がした。

ここから先、集中的に重心がかかっても問題ないのだろうか。

不安になる。

149名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:37:33 ID:aUR6lmzc0
一歩進むごとに、何かしらの音が鳴る。

大丈夫。

言い聞かせなければ、緊張感に負けそうになる。

腰に巻かれた命綱を、ショボンは強く握ってみた。

近くはないが、遠くもない場所。

そこで、同じぐらい……いや、彼自身全てを守るかのように
どっしりした重圧感を、その紐の先で感じる。

(´-ω-`)(大丈夫)


綱の強度は問題ない。

確信したショボンは、遂に重力で体を保てない空間に身を投じた。


それまでの雰囲気とは全く違う。

下から聞こえていた、うるさいひび割れの音。

舞い上がっていた塵が、目の前の岩壁から噴き出る。


ミシミシと鳴っているのは、手綱なのか、周囲の地盤なのか。


心配する暇はない。

長時間の行動は危険だと、本能でわかっている。

だったら自分は、この友人に預けている細くも力強い糸を信じて。

眼下に見える、淡々しい光へ進むだけ。

150名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:38:47 ID:aUR6lmzc0

ξ;゚⊿゚)ξ「……」



伸びたロープが、地面と擦れるのを何度見ただろう。

反響するその先で行われている『状況』は、もはや耳だけでは理解できなかった。

それは、彼女にただただ不安をもたらす。



……一方で。

(*゚∀゚)


(;^ω^)


二人は集中していた。

一つの音もこぼさず、一つのヒビも見逃さず。

手に握る、友人の命の状態に神経全てを預けている。

継続するその没入状態に、額から汗はこぼれはするものの。
情報を取り逃がすことは、余さずしなかった。

151名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:39:45 ID:aUR6lmzc0
どれぐらい経っただろう。

自分自身を知覚できている、ツンだけがふと思った。


ξ;゚⊿゚)ξ(喉渇いた……)

飲み物を持ってきていないわけではなく
一人を除き、身動きが取れないとも言えるわけで。

洞窟のひんやりした空気と裏腹に、切迫した状況が続くと
どうしても、体が水分を求める。

荷物は、手の届く場所にはない。

取りに行きたいが、みんなの邪魔はできない。

結果として、ツンは我慢をせざるを得なかった。


あとどれだけ?

いったいいつまで?

限界はいつになるだろうか。

乾燥で咳が一つ出たのと、それは同時だった。


(;^ω^)「!」

152名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:40:38 ID:aUR6lmzc0
ブーンの握る手の力が強くなった。

さっきまでの、ギリギリ均衡を保つ加減ではない。

重力に反発するような、全力の牽引だ。

地面を割らぬよう、慎重に。

だけど、一秒でも早く。

汗で濡れてしまった手のひらが、摩擦を起こさぬよう
幾重に撒いた手綱を、懸命に引っ張っていく。


待つこと、数分。


飲む固唾すら切らしていたと思ったツンが、ゴクリと嚥下運動をした時だ。


暗闇の向こうから、柔らかな光を放つ薬草を手に持ったショボンが
ひょっこりと土埃にまみれた顔を出した。


ξ;゚⊿゚)ξ「やった!」

抑えてても出てしまった感嘆の言葉を、慌ててツンは両手で塞いだ。

153名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:42:13 ID:aUR6lmzc0
一歩ずつ、自分たちのいる硬い岩盤地帯に戻ってくるショボンを
最後まで見届ける三人。

(*゚∀゚)「……もう大丈夫だな!」

(;^ω^)「ふー! あー、疲れたお!」

ブーンが手に握る力を緩めたと同時に
張りつめていた空気も、一気に和らいだ。


(´・ω・`)「お疲れ様」

ξ゚⊿゚)ξ「ショボンくんこそ、お疲れ様よ。ケガとかない?」

(´-ω・`)「おかげ様でね」

(*゚∀゚)「おぉー! これがあのメディクシルかー!」

ショボンの手にあるのは、根こそぎ持ちとられた
伝説の万能薬メディクシル。

まっすぐ伸びた細い茎、その先に広がる細い卵型の葉先。

特別な見た目ではないが、自発的に光を放っているのは
他の薬草でも見ない、特異さであった。

ξ゚⊿゚)ξ「……これでトソンさんの具合も良くなるかしら?」

(´・ω・`)「わからないけど……。試してみる価値はあるんじゃないかな?」

( ^ω^)「ここまで苦労したんだお。きっと大丈夫だお!」

それぞれが意見を言い合う。
不安を、安堵を、苦労を口々にし合った。




(*゚∀゚)「にしてもよー。こーいうのって、大体、どっかでやべー状況が起こるもんだよなー」

154名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:42:58 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「? どういうこと?」

荷物を手に取り、さあその場を去ろうとした時だ。

(*゚∀゚)「いや、だってよー。子供たちだけでやる、小さな冒険とかって
     ハプニングが付き物じゃね? そーいうのが、全然なかったなー、って思ってよ」

(´・ω・`)「そんなの、作り話だけの出来事でしょ。
      僕らはしっかり準備をして、それに打ち勝った、それだけさ」



( ^ω^)「………………?」



ξ゚⊿゚)ξ「ブーン? どうしたの?」

ロープを手に巻き取った時、ブーンの動きがピタリと止まった。

ツーとショボンが、他愛ない雑談をしているよそで
何かに、じっと耳を傾けている。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ブーンったら!」

ツンの声にも反応しない。



ただただ、何かを……。

155名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:43:49 ID:aUR6lmzc0
(;^ω^)「みんな、急いで走るお!!!」

(´・ω・`)「え?」

(*゚∀゚)「ん?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、いきなり何……」


状況を理解できていない三人の手を、慌ててブーンが引いて駆け出す。


それは、小さな音だった。

近くの反響にばかり集中していて気付かなかった。

自分たちの帰る方向の、地面が硬いと思われた一帯。



安全地帯と思っていた場所が、一気に崩落を始めたのだった。


(;゚∀゚)「ヤベッ!?」

(;´・ω・`)「うっ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「そでしょ!?」

(;^ω^)「……!!」

156名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:44:36 ID:aUR6lmzc0
ああ、もしここで魔法が使えていれば。


もう少し、注意深くしていれば。


安堵する間もなく、すぐにその場を離れていれば。


こんなことにはならなかったのに……。


(;゚∀゚)(;´・ω・`)ξ;゚⊿゚)ξ「「「うわぁーーーー!!!」」」



どこにつくともわからない、闇の底へ。


落下しながら、少年少女は深い後悔をしていた……。






後編へ続く。

157名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:45:20 ID:aUR6lmzc0
というわけで前編でした。

ホントは前後編には分けずにやるつもりでしたが
思ったより長くなったので分割しました。

後編も今年中目標で投下します。

158名も無きAAのようです:2020/11/15(日) 00:21:12 ID:qlGfaFec0

久々でうれしい、続き楽しみにしてる

159名も無きAAのようです:2020/11/27(金) 21:24:23 ID:UTbZonSQ0
楽しいに待ってます!

160名も無きAAのようです:2020/11/27(金) 23:11:48 ID:shq1V7tQ0
こんばんは。作者です。

久しぶりに筆がノリノリだったので、後編を書き終えました。
三分割しようかと思うレベルに長くなっちゃったのですが、あえて一気投下します。


予定では、明日のお昼ごろに出現しますので。
どうか、よろしくお願いします。

161名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:32:58 ID:HcbLbdA20
こんにちは。予定通り始めます

162名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:33:51 ID:HcbLbdA20
こんにちは
予定通り、今から投下します

163なんか二重で投稿しちゃった。てへ:2020/11/28(土) 12:34:40 ID:HcbLbdA20
ξ;-⊿゚)ξ「……んん……」

ツンが目を覚ます。


視界がはっきりすると同時に、彼女には実感があった。


――意識が少し飛んでいた、と。


つまり、状況がどうなったのか全く理解できていない。
落盤により、一帯が崩壊。
身体が宙に浮く感覚までは記憶にあるのだが、そのあとの出来事がわからない。


ξ;゚⊿゚)ξ「みんなは!?」

噴き出る冷や汗と同時に、体を持ち上げた。
仰向けに寝転がっていたようで、視界がぐるりと反対に回る。


ξ;>⊿゚)ξ「いっ!?」

血の流れが変わったからだろうか。
全身に鋭い痛みが走る。

身体を検めてみると、あちこち衣服が破れて擦り傷が見えていた。


ξ;゚⊿゚)ξ(…………そんなわけない)

164名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:36:19 ID:HcbLbdA20
その自身の状態に、ツンは違和感を覚える。

反動でクッションになる爆破魔術も、飛翔の為の風魔術も使えなかった。


生身で、崩落に巻き込まれたわけだ。


高さはわからないが、視認はできない程度。
つまり、何も対策せずに軽傷で済むわけがないのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

誰かが、何かをしてくれたに違いない。

衝撃もあったのか、ふらつく頭を抱えながらツンが歩く。

今、どこにいるかはわからないが
先ほどまでの地面よりも、状態は安定しているらしい。

携えていた道具袋から、松明を取り出そうとした。

しかし、その手は虚空をつかむ。
どうやら、落下時にどこかへ行ってしまったみたいだ。

歯ぎしりをしながら、ツンは歩いていく。

立っているはずなのに、斜めに位置しているかのような平衡感覚。

それでも、彼女はまっすぐ歩いた。

おぼつかない足元を確認しながら、それでも確かに、一歩ずつ。



何度も繰り返した後、ツンは止まる。

165名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:37:00 ID:HcbLbdA20
その先には、漆黒の空間で唯一。


淡い浅葱色の光を放つ薬草。


(; メω^)「おー……。ツン、良かった。無事だったかお」


それを手に持つ、血だらけの幼馴染の姿だった。









三日月の涙  後編

166名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:38:02 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「おーい、みんな大丈夫かー?」

遅れて、遠くから元気な声がやってきた。
ツンと同様に、メディクシルの光を辿ってやってきたらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん、ケガは?」

(*゚∀゚)「おう。あちこち痛ぇけど、問題ないぜ」

(;´-ω-`)「ということは、重傷者は一人だけか」

壁を背に凭れて座っているブーンの傍、ショボンが安堵と共に
焦燥感を含めて、現状を表す一言を放った。
彼も女性陣と同様の傷を負っている。

ξ゚⊿゚)ξ「……なにしたのよ、あんた」

(; メω^)「……あの高さじゃ、きっと助からないと思ってお……」

(; メω^)「落ちる前に、持ってた綱でみんなを引き寄せたんだお……」

(; メω^)「それで……少しでも衝撃を和らげようと……」

落下の直前に、ロープを大岩に引っ掛けて速度を。

そして……彼が下敷きになることで、ダメージを分散させた、ということらしい。

ブーンがメディクシルを持っているのは、ショボンの手から落ちそうだったから。

167名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:38:51 ID:HcbLbdA20
ξ; ⊿ )ξ「あんたって、ホント……!」

ツンが唇をかみしめる。
自分ひとりだけならば、回避や防御行動をすることで
無傷ですらあっただろう。

けれど、ブーンはしなかった。


いつもいつも、自分じゃなく誰かの為に。


今この時ほど、自分が腹立たしいと思ったことはない。
強く握った拳を解き、それでも出来ることを。

伏せた視線を戻し、ツンはブーンの体を調べた。


ξ;゚⊿゚)ξ「……腕や体は問題ないわね。額や目元も切ってるだけみたい。傷は浅いわ」

(´・ω・`)「頭部には見えないダメージがあるかもしれない。あまり動かしちゃダメだよ」

(*゚∀゚)「となると、パッと見で一番やべーのは……やっぱココか」

ツーの目の前には、ひどく腫れあがったブーンの片足があった。
打撲では、ここまで黒ずんだりしないだろう。
間違いなく、折れている。

(; メω^)「……ごめんお」

ξ;゚⊿゚)ξ「なんでアンタが謝るのよ! いいから、じっとして!」

168名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:39:52 ID:HcbLbdA20
自分のものはないが、他の三人の道具入れは無事だった。
入っているものを駆使し、消毒や止血を行う。

だが、それはあくまで応急手当。

いくら闘技学校の知識や、看病経験があっても
治癒まではできていない。

皮膚の下の傷は、炎症を起こしたりしているだろう。
合併症など、心配事は枚挙にいとまがない。


(*゚∀゚)「……どーするよ」

焦りの気持ちをツーが代弁する。

帰り道もわからない。
食料や水だって、そう多くはない。

灯りだけは、かろうじでツーが確保した。
洞窟に入る前に釣った、セブンストラウトの油を持っていたからだ。

ブーンが持っていた綱を短く切り、石で着火させて簡素なオイルランプを作ったのである。

(´・ω・`)「ブーンを抱えて歩くにしても……。体力が持ってくれるかどうか」

ξ ⊿ )ξ「……ああ、もう。なんでこんな時に魔法が使えないのよ……」


自分たちの培ったものが、すべて無為に帰している。
そのことが、酷く気分を落ち込ませた。
同様に、怒りすら覚える。

自分はこうまで無力なのか、と。

169名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:41:03 ID:HcbLbdA20
(; メω^)「……僕を置いて、みんなは先に行ってくれお」

膠着する空気の中、ブーンが一つの意見を出した。

(;´・ω・`)「……ばξ#゚⊿゚)ξ「バカ言ってんじゃないわよ!!」

ショボンが否定するより早く、ツンが強い口調で割って入った。

ξ#゚⊿゚)ξ「どうせアンタのことなんだから!
      『僕を置いていけば、みんなは動ける。
       そうすればモララーさんに助けを呼んでもらえる』
      そんなところでしょ!?」

(; メω^)「……さすがだお、ツン。その通りだお」

ξ#゚⊿゚)ξ「そんなの許さないわ!」

(; メω^)「でも……僕を支えて歩くのは、現実的じゃないお」

ξ#゚⊿゚)ξ「わかってるわよ! だから、別の方法を考えてるの!」

(; メω^)「……ここはさっきまでより冷えるお。長居は出来ないと思うお」

ξ#゚⊿゚)ξ「だったら尚のこと、あんたを置いていけないじゃない!」

(; メω-)「おー……。でも、それじゃ脱出が難しいって、言ってるじゃないかおー……」

ξ# ⊿ )ξ「わかってるってば!」

(;´・ω・`)「……。」

(;-∀-)「……」

170名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:42:13 ID:HcbLbdA20
二人の言い合いが続く。

お互いがお互いを助けたい。

尊いはずの気持ちは、最悪な現状によってすれ違う。

意見がまとまる気配もない。

割って入るにも、代替案が思い浮かばない。

ショボンとツーは、やりとりをただ見ているしかなかった。




(; メω-)「………ふー……」

沈黙が流れる。

ブーンが重い息を吐いて、その空間を埋める。

手には強く握りしめられた、伝説の薬草。



ξ゚⊿゚)ξ「――――!」

その優しい光を見て、ツンに一考が浮かんだ。



しかし、自分の中にある理性が意見を一度取り下げる。

171名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:43:57 ID:HcbLbdA20



ξ ⊿ )ξ「…………」


そして、彼女は自分自身の思考に絶望した。


どうして、否定したのだろう。

最も現実的な方法が目の前にあって。

天秤に計るなら、躊躇しなくても良い問題。


それでも、どこか。


子どもらしい、達成感を求めてしまったのだろうか。


ξ゚⊿゚)ξ=3「はぁ……」

真っ黒な宙を仰ぎ、深くため息をついた。
悩むのは後だ。
結果もわからないのに、立ち止まる時間はない。

決意をした少女は、ある提案を仲間に告げた。




ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、メディクシルを使いましょう」

172名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:44:55 ID:HcbLbdA20
(; メω^)「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「その薬草は、病気もケガも治るんでしょ?
      なら、使っちゃえば良いのよ」

(; メω^)「で、でもこれは、トソンさんの……」

続きを言う口が止められる。
ツンが指でブーンの唇を押さえたから。


(; メω^)「!」


……指先から思いが伝わってくる。


しっとりと濡れているし、小刻みに震えていた。



ブーンが言おうとしたことなど、承知の上だと。




ξ゚⊿゚)ξ「命には代えられないと思うけど?」

(; メω^)「…………」

返答に困っていると、ショボンが動き出した。
薬草を強引に取り返し、ツーへと渡す。

(´・ω・`)「協力しあったとはいえ、これは僕が手に取ってきた物だからね。
       使用権はあってもいいんじゃない?」

(; メω^)「ショボンくん……」

ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん、お願いできる? こういうの得意でしょ?」

(*゚∀゚)「おうよ、任せておけ!」

173名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:46:10 ID:HcbLbdA20
それぞれが動き出す。

ショボンは手元の辞典を使い、わずかな情報でメディクシルの使用方法を。

(´・ω・`)「……!」

(*゚∀゚)「どした?」

(´・ω・`)「…………いや、大丈夫。急ごうか」

(*゚∀゚)「おう!」


実行役をツーが。慣れた手つきで、薬草の葉をむしり取り、器を用意していく。




(; メω^)「みんな……ごめんお……」

繰り広げられる光景に対して、再びブーンが呟いた。

ξ゚⊿゚)ξ「こぉら、さっきも言ったでしょ」

応急手当を続けるツンがそれに答える。

ξ-⊿゚)ξ「謝らなくて良いんだってば」



(; メω-)「……うん。ありがとうだお」


ブーンの体が少しだけ、硬い壁からずり落ちた。

174名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:47:17 ID:HcbLbdA20
――――。


(*゚∀゚)「こんなところか?」

(´・ω・`)「うん。多分ね」

額の汗を拭ったツーが満足げな表情で、ショボンに出来を伝えた。

葉をちぎり、煎じる。
しばらくすると、発光が薬草からお湯へと移りこむ。
とある温度帯になると、浅葱色から紅色へと変化するらしい。

出涸らしになった葉は、茎と共にすり潰して粉砕する。

そうしているうちに、温度が下がり紅色から今度は紫色に変色する。
頃合いの合図だ。

一気に粉を液に投入し、かき混ぜる。

もったりした感覚が次第に、サラサラとした清水のように変わっていく。


すると、一点の色も無い無色透明で発光する液体が出来上がるのだ。


それこそがメディクシルの効果を、十全に引き出す状態らしい。


わずかな知識だけで、二人は薬液を見事に作り上げたのだった。



(; メω^)「おぉ……。それがメディクシルかお……」

ξ;゚⊿゚)ξ「クレスト草みたいな香りがするわね」

(´・ω・`)「根底にある成分が同じなんじゃないかな」

(*゚∀゚)「ほれほれ。ブーン、グイっといけ。熱いうちじゃないと効果が薄れるらしいぞ」

175名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:48:43 ID:HcbLbdA20
(; メω^)「……じゃあ、お言葉に甘えて」


口に含むまで、彼は拒絶しようとしていた。

でもそれは、他の三人の決意を無碍にすることにもなる。

使ってしまった以上、選択肢は他にないのだ。
遠慮をすることなく、ブーンはゆっくりと伝説の薬草液を嚥下した。


(; メω-)「…………」

ξ;゚⊿゚)ξ「ど、どう……?」


(; メω-)


(;´・ω・`)「……見た感じ、特に変化はないけど……」


(; メω^)


(*゚∀゚)「でも、効いてくれねーと困るぜ?」


(; メω゚)


ξ;-⊿-)ξ「……そもそも、本当にコレがメディクシルだったのか
      わからないわよね」

(  ゚ω゚)


(;´-ω-`)「確かに。もし似たような毒草とかだったら……」


(*゚∀゚)「おいおい縁起でもねーこと言うなよ」


ξ゚⊿゚)ξ「……あら? ブーン、いつの間に目が( * ゚ω゚)「ふふぉおおおおおおお!!!???」

176名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:50:14 ID:HcbLbdA20

さっきまで脱力していた少年は、いきなり起き上がった。
傷で塞いでいた片目も開き、しっかりと自分の足で大地に立つ。


( * ゚ω゚)「こ、こここれ凄いおぉおおお!!??」

ぴょんぴょん飛び跳ねたり、暗がりだというのに付近を走り回ったり。
まるで、大好きなものを目の前にした子どものように興奮している。

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっとブーン! 大丈夫なの!?」

(;´・ω・`)「いや、見ればわかるでしょ」

(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ! 効果てきめんじゃねーか!
     良かったなぁ、ブーン!」

( * ゚ω゚)「ふひょーーー!!」


安堵の息が二つ、様子が面白くて笑う声が一つ。
その周囲を忙しなく動き続ける、激しい吐息が一つ。

緊張が少しだけ解けたひと時であった。








( ^ω^)「さて、現状についてだけどお」

(´・ω・`)「急に落ち着かないで」

177名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:51:40 ID:HcbLbdA20
数刻し、落ち着いたブーンが会議に加わった。
目下の問題は解決したが、根本的な状況が変わったわけではない。

( ^ω^)「周囲を少し調べた感じ、空いている道は一つだけだおね」

暗闇をブーンが指さす。
その先には空洞があり、道らしき空間が広がっていた。

しかし、数歩進んでみただけでわかる。

向かう先は、下方向。

つまり、洞窟のさらに深くへ伸びているのだ。

(´・ω・`)「まだ入り口しか見ていないから、判断が難しいね」

ξ゚⊿゚)ξ「もしかしたら、ぐるっと回りこんで出口に繋がってるかも?」

( ^ω^)「うーん……。ここは素直に助けを待つのはどうかお?」

(´・ω・`)「そうしたいところでもあるけど……」

ショボンが手首の魔法辞典を見せつけた。

この魔法制御下においても、わずかな魔力だけで起動する
優れた魔術アイテム。

試しに魔力を込めてみるが、全く反応がない。

どうやら、洞窟の深度が増すにつれて制御力が強まっているらしい。


先ほど、メディクシルの使用方法について調べることができたのは
辞典内に発動した際の状況が残っていたから。
つまり、一度開いたページのみだけなら再現できる状態だったわけだ。

178名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:52:43 ID:HcbLbdA20
更に最悪なことに、緊急脱出時に時折使っていた瑠璃のペンダント。

ブーンの首元にぶら下がってはいるが、もちろんそれも使えない。
これは洞窟内だけでなく、島のどこであっても同じ。

モララーが近くにいるから、特にそれを不便に思ってもいなかったが……。
今となっては、ここまで大きく影響するなんて予想だにしていなかった。


(´・ω・`)「モララーさんが、見つけてくれる確証もないよ」

(*゚∀゚)「兄ちゃんなら大丈夫な気もするけどなぁ」

( ^ω^)「確証がないなら、僕らが動くしかないお」

ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん、今の時間は?」

純金製の懐中時計をツーが取り出す。
針は夕刻前であることを示していた。

モララーは夜になったら、と約束していた。
それまで戻るのか戻らないのか。それもわからない。

後どれだけ待てば? 待ったとして、本当に来れるのか?


ξ゚⊿゚)ξ「こんな冷える所に、薄着なうえに裂傷者多数。
      待ってる間に、もしまた崩落があったら……今度こそ、お終いね」

(´-ω-`)=3「……ダメ元で、行動した方が賢明か」

会議の結果をそれぞれが納得し、頷きあう。

進むべきは暗闇の中。

そこは奈落への道なのか、希望への光明なのか。

誰もわからない。

それでも、少年少女は足を進めようと決意を固めた。

179名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:53:51 ID:HcbLbdA20







――――時のことだ。


ξ゚⊿゚)ξ「……」

( ^ω^)「お? ツン、どうしたんだお?」

勇み足で進むブーン。
最後の足音が尾いてこないことに気づき、振り返る。

暗闇の中を、ツンがじぃっと眺めていた。
その先にあるのは、崩落した地盤だ。何も変わった様子はないが。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ちょっとだけ様子見にいってもいい?」

( ^ω^)「あっちをかお? 瓦礫しかないと思うけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。でも、少し気になるの」

( ^ω^)「??」

不用意に近づけば、また崩壊する恐れもある。
あえて近寄らない判断を下していたが、ここにきて何が気になるのか。

ブーンが訳も分からず、ツンの手にひかれるのでショボン達も同様に連れ立つしかなかった。

180名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:55:12 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……」

( ^ω^)「ツーン。あんま触ったりすると危ないおー」

小さな灯りで照らしてもらいながら、ツンが岩の亡骸を調べる。
触り、動かし、登り、蹴って。

光が届かなくなると、足元も安定したのか
簡易ランプを受け取り、ずんずん奥へと進んでいく。

時折、外した髪留めを鏡のように反射させて闇を覗く。

心配するブーン達をよそに、気が済んだツンが少ししたら戻ってきた。
高さのある岩片から、軽く跳躍して降り立つと、意気揚々に言葉を述べる。

ξ゚⊿゚)ξ「ここから戻りましょう」

(; ^ω^)「えぇ……。何言ってるんだお、ツン。頭ぶつけたのかお?
       どう考えても危険だお」

ξ゚⊿゚)ξ「一番重傷だったアンタに言われたくないわ」

(´・ω・`)「ブーンに同感だ。見たところ、奥への道は足元に不安はない。
      こんな危ない橋を、わざわざ渡ろうとする理由を聞かせてほしいな」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなの簡単なことじゃない。
      少なくとも、この先には出口がある。絶対に帰れる道を戻る方が賢明でしょ?」

(*゚∀゚)「けどよ、そもそもどうやって元の場所まで戻るんだよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「進んでみたらわかったわ。瓦礫が上手く勾配になってるのよ。
      思ったより簡単に帰れるかもしれないわ」

(´・ω・`)「かもしれない、って……」

ξ-⊿゚)ξ「……さっき、ダメ元で行動してみるって言ったの誰だった?」

(´・ω・`)「……」

181名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:57:03 ID:HcbLbdA20

(*゚∀゚)「なるほどな。それならオレはツンに賛成だぜ!
     知らねー場所より、よっぽど安心だ!」

( ^ω^)「……それもそうだおね。いけそうなら、試してみてもいいかもしれないお」

(´-ω・`)=3

やれやれ、という仕草をショボンは大げさにする。
その足先は、三人と同じ岩場に向かっていた。





それぞれ、手に灯りを携え自分の足で進んでいく。

少し先すら見えないうえ、足元はおぼつかない。
今踏み込んだ岩は安定しているのか。
急に柔らかな部分が見えてこないか。また地面が急降下しないか。




不安をよそに、歩みが止まることはなかった。


今どれぐらいの位置にいるのだろうか。

誰もわからないが、前進している実感だけはある。

遠くで鳴る、ガラガラという音に怯えながら
鋭利な石片を注意深く避けながら
持ってきた水分が、残り少ないことに焦りながら

皆が緊張し、けれども一歩一歩着実に前へ。

182名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:58:25 ID:HcbLbdA20

……そして。



(;´・ω・`)「! みんな!」

ショボンが声を上げた。
それに伴い、三人が彼の傍に寄って行く。

興奮するような様子で、原因先をショボンは照らした。

赤い色をした、キノコの断片。

間違いなく、彼が持ち込んだドラケンピルツの欠片だった。

( ^ω^)「おー。ということは、結構戻ってこれたんだおね」

(´・ω・`)「逆に言えば、それぐらいの範囲が崩落したってことでもあるけど」

(*゚∀゚)「ともあれ、あと少しなんじゃねえの?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね。あと一息、ってところなんでしょうけど……」


四人は唸った。

目標が近いこと。
確実に帰れていること。それらに相違はない。

だが、先ほどの進撃とは打って変わり
今、彼らはしり込みしてしまっている。



ふと、ツンが上を見た。

183名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:59:24 ID:HcbLbdA20
目の前を見ない理由は一つ。


そこに道はないから。



彼らの前には、切り立った崖が聳えてしまっているのである。


元々は、それを迂回するルートを探していたのだ。
だが、残念なことに行き止まりしか見当たらない。

どう進んだものかと、決めあぐねている時の出来事だったわけだ。



ξ゚⊿゚)ξ「どれぐらいありそう?」

( ^ω^)「うーん……思ったよりは低いみたいだけど……
      少なくとも、みんながピョンと飛んでいけそうにはないおね」

小石のソナーや、火種を投げて登頂までの距離を測る。
ギリギリ、端が覗いているのが確認できるが……
少なくとも、常人では届く高さにそれは見えない。

(´・ω・`)「じゃ、どうするの?」

( ^ω^)「……まあ、やってみるしかないお」

ブーンが数歩下がった。
手にした荷物をしっかり紐で縛り、これから来る衝撃で落とさないように。

しっかり固定できたことを見定めると、皆に先を開けて
崖から離れるよう、伝えた。

184名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:00:48 ID:HcbLbdA20








そして。

( ^ω^)「…………ほっ!!」

少ない歩数で、完璧な助走を作り。
完璧なタイミングで、高らかに跳躍をした。

壁を一度蹴り飛ばし、思い切り手を伸ばす。

だが、それだけでは足りない。
まだ壁は続いている。


(; ^ω^)「ふっ!」

状況を瞬時に理解し判断……いや、予想の範囲での次の行動。
上昇のスピードを乗せたまま、壁面にナイフを突き刺す。

それを取っ手に、もう一度腕力だけで跳躍。

これ以上はもう自分ではどうにもならない。


祈るように、ブーンは大きく全開で手を掲げた。

185名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:02:04 ID:HcbLbdA20









(; ^ω^)「届いたお!」


暗闇の奥で、ブーンが高らかに声を上げる。

残された三人は小さく感嘆した。



その後、しばらくするとロープが降りてきた。

魔法の使えない魔術師では、決して登ることは出来ない高さ。
それを生身で到達出来てしまう、ブーンの身体能力の高さが伺える。


ツンが最初におずおずと登り、ツーが鼻歌交じりに合流する。



最後、ショボンが綱を手を伸ばした。



(;´・ω・`)「!!」

(; ^ω^)「ショボンくん!」

186名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:03:06 ID:HcbLbdA20

もしかすると、を考えてはいた。


しかし、実際に起こるとこうまで動揺するのか。


ショボンの足元が、突然瓦解したのだ。

認識範囲外の浮遊感と、激しい衝突音。
数舜遅れて巻き起こる土煙に、激しくむせる。










(;´・ω・`)「……危なかった」

(; -ω-)=3「ああ、良かったお」

あと少しでも、ロープを掴むのが遅れていたら巻き込まれていただろう。

幸い、彼の体は宙に浮いてこそいるが、命綱に体重が乗っている。
声と重みの安心感、自身の責務をすべて背負い込みブーンが手綱を引っ張る。


(´・ω・`)「ん?」

187名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:04:24 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「何やってるお、ショボンくん。ほら!」

薄暗い中で、ブーンの顔が見えてきた頃。

差し伸べられる、細くもしっかりと筋肉のついた手があった。

(´・ω・`)「……なんでわざわざ」

( ^ω^)「いーから、いーから」

(´・ω・`)「……」

そんなことをしなくても、これぐらいなら登りきれる自信はある。
何やら過小評価された気もするが、助けられた恩もある。

( ^ω^)「よいしょっと!」

渋々ながらショボンが応えると、想像よりも強く速く身体が引き上げられた。
勢いでそのままブーンは尻餅をつき、ショボンも地に転がる。

ξ゚⊿゚)ξ「ヒヤっとしたけど、これで全員ね」

(*゚∩゚)「いやー、良かった良かった。オレてっきり……ん?」

ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん。もうフラグ立てないで」

(*゚∩゚)「んー!」

ツンに口を塞がれ、ツーはじたばたしながら頷き続けるのであった。

188名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:05:45 ID:HcbLbdA20




( ^ω^)「……へへ」

(;´・ω・`)「え、面白い? 今の」

やり取りを見てなのか、ブーンが小さく笑った。
だが彼は首を横に振り、嬉しそうにショボンを見る。

( ^ω^)「以前と逆だおね」

(´・ω・`)「以前?」

( ^ω^)「僕がモララーさん家の樹に登った時だお」

(´・ω・`)「……ああ、そんなことあったね」

( ^ω^)「あの時、魔法でスイっと助けられて。
      嬉しかった半面、ちょっと絶望したんだお」

( ^ω^)「魔術師のきみを、こんな風に助けてあげられることなんて
      きっと、ないのかなぁ、って」

(´・ω・`)「別に、そんなこと求めてないけど……」

( ^ω^)「わかってるお。でも、こんな状況下だったけど……
      僕の手で、君を助けられた。それが嬉しかったんだお」

(´・ω・`)「……そっか」

ショボンは土埃を払い、立ち上がる。
ブーンが、どれだけ真っすぐで、純粋で。
お人好しで、底なしのバカなのか。

189名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:07:08 ID:HcbLbdA20

最初はただの弱虫で愚鈍な奴だと思っていたけれど……
彼は彼なりの強さを持っていた。力だけでなく、心の中に。

(´・ω・`)「ま、今後はこういうことあるかもね。お互い」

( ^ω^)「うん。その時はよろしくだお!」


ブーンは、差し出された手を取り立ち上がった。





――――。


ショボンが予め作っておいた『帰り道』。
洞窟で生物に会うこともなかったが、それも相まって効果は覿面だった。

彼らは迷うことなく進んでいく。

似たような風景の連続で、今どれほどの位置にいるのかはわからない。

だが、確実に帰路につけている安心感がそこにはあった。


(;゚∀゚)「……」

小走りで進む集団。一歩遅れてツーが怪訝な顔をした。
その異変に気付き、ツンが近寄って何事かを尋ねる。

(*゚∀゚)「あー、いや。ちょっと嫌な予感がしてよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、もうフラグ立ては止めてって言ったでしょ!」

(*゚∀゚)「まーまー。言おうが言わまいが、すぐにわかることなんだけどな」

ξ゚⊿゚)ξ「?」

190名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:08:25 ID:HcbLbdA20
言うと同時に、ツーは懐中時計をしまった。
その動作に、なんの意味があったのだろう。

(´・ω・`)「出口だ!」

川の音が近づいてきたからだろう。
一番最初のドラケンピルツだけは、特徴的な形にしておいたおかげでもある。

ショボンは高らかに、小さな冒険のゴールを告げた。



(;^ω^)「……」

(;´・ω・`)「……」

ξ;゚⊿゚)ξ「……そういうことね」

(*゚∀゚)「時間的に、そうかなーって思ったんだよな」


ゴールはゴールで相違ない。
彼らは自力で、魔法も使えない状況の中
一度は遭難しかけたが、なんとか元の入り口……今では出口に帰ってこれた。


だが、手に持ったランプを消すことは出来なかった。


眼前に広がるのは、ただただ深い闇。


魔法生物、植物が自発的に光を放つものが散り散り見れるが。


それ以外、何もない漆黒の世界。


空に浮かぶ美しい三日月は、彼らを讃えてくれているのだろうか。

191名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:09:31 ID:HcbLbdA20

( ^ω^)「すっかり夜になってたおね……」

やけに大きく聞こえる虫の音が、日没という現実をたたきつけてきた。

緩みかけた緊張を解けず、どっと疲れが押し寄せる。

まだ終わりではなかった。

事実に心が折れかけてしまう。

だが、彼らももうただの子供ではない。
困難に立ち向かう勇気、知恵、力を携えた立派な戦士達なのだ。


(´・ω・`)「マッピングはしてあるけど……安全なだけの道じゃあなかったからね」

ξ゚⊿゚)ξ「つまり、もうひと踏ん張り……ってことね」

(*゚∀゚)「やるしかねーか!」

再度、気を引き締めなおす。
安泰の息を飲みこみ、開きかけた口を閉じ。






――もう一度、最後の冒険へ。

全員がそろって、一歩大きく踏み出した。

192名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:10:57 ID:HcbLbdA20

ξ゚⊿゚)ξ「!」




いち早く気付いたツンが、歩みを止める。



(´・ω・`)「え?」

(*゚∀゚)「お?」

( ^ω^)「これは……!」



緑色の魔法陣が、突如発現した。


遅れてやってくるのは、同じ色の光る球体。
陣の中に描かれている六芒星の中に止まると、それは人の形を成していった。







(;・∀・)「ああ、良かった。こんな所に居たんだ」

193名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:12:41 ID:HcbLbdA20
少し焦った様子のモララー=レンデセイバーが、皆の前に現れた。
物質認識転移魔法で、彼らの居場所を特定し慌てて飛んできたのだろう。

(;-∀-)「遅くなってゴメン。ちょっと病院が混んでてさ。
       トソンさんは全然大丈夫だったんだけど……」

(;-∀・)「戻ってきてみれば、近くにみんなの姿も気配も、魔力すら感じないから。
       どこか、迷子になっちゃったのかもと思ったんだけど……」

(;・∀・)「…………みんな?」


( ´ω`)(*-∀-)ξ;-⊿-)ξ(;´-ω-`) =3


子どもたちは、焦るモララーを他所に。


今日、ようやくつけた安堵の息を心の底から吐き出す。


足の力が抜け、みんなほぼ同時に


地面へ腰を下ろして、夜空を仰いだ。

194名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:14:35 ID:HcbLbdA20







――――――――。



(;-∀-)「面目ない。同伴者失格だ。
       みんなの親御さんに合わせる顔がないよ」


珍しく失態を口にし、深々と謝るモララー。

今は、島で最も安全なコテージの中。
談話室に集まり、何故あんな場所にいたのかの理由を聞かせてもらった。

冒険譚を聞くと、みんなの前で青年は保護責任の落ち度を詫びたわけである。

それに対し、汚れは綺麗さっぱり、傷も魔法ですっかり。
更に、モララー特製の疲労回復効果のある薬液を口にしながら
子どもたちはそれぞれの意見を、彼と真逆の表情で言う。


( ^ω^)「謝る必要はないですお。僕らが勝手にやったことですし」

ξ゚⊿゚)ξ「そうですよ。せめて出る前に一言伝えておくべきでした」

(´・ω・`)「終わってみればの話ですけど。冒険っぽくて楽しかったですよ」

(*゚∀゚)「そーそー。トラブルとかもあったけど、なんだかんだでな!」

あっけらかんと笑い、感想を述べることにモララーは甘えない。
自分が付いていれば、怖い思いなどさせることはなかったのに。

195名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:15:51 ID:HcbLbdA20
(;^ω^)「……あ、モララーさん。トソンさんは、どうなんですお?」

いつまで経っても頭を上げない青年に、ブーンが声をかける。

すると、その心配先の女性が物陰から現れた。


(゚、゚トソン「とりあえず、今のところは大丈夫だよ」


朝のぐったりした様子はどこへやら。
灯りに照らされるトソンの表情は、血色も良く健康そのものに見えた。

隣で青くなっている伴侶の背に手を当てながら、トソンは続ける。


(-、-;トソン「むしろ、私こそ謝らないと。本当に、心配かけてごめんね」


状況が変わるかと思いきや、結局は謝罪祭り。
どうしたものかと、子どもたちはそれぞれ顔を見合わせる。


本当に、もう良いことなのだ。



怖かった。痛かった。寒かった。不安だった。


―――けど。


統括して、彼らは口を揃えて言うのだ。


楽しかった、と。

196名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:16:55 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……そういえば、モララーさん。
      今晩、『三日月の涙』を見せてくれるって約束しましたよね?」

膠着した空気に、今度はツンが一石を投じる。
この島に、わざわざやってきた本来の目的の話だ。

(*゚∀゚)「おー、そうだそうだったな。見せてくれよ、その宝石!」

(´・ω・`)「メディクシルみたいに、本当に存在する伝説……
      そんなものが拝めるなら、これ以上の謝罪はないと思いますよ」

( ^ω^)「同感だお!」

(;-∀-)「…………そうだね。わかった。ありがとう、みんな」


まだ本当は思っていることもあるが。
様々な感情を押し殺し、モララーはようやく面を上げた。

複雑な表情を隠し、息を一度深く吐き。

また、普段通りの優しい笑顔へと戻す。


( ・∀・)「それじゃ、行こうか」


普段の様子で、青年はみなを案内する。

そこは薄暗いコテージの外。
室内に灯された光源と、月明かり以外何もない真っ暗な世界。

そこに何があるのだろうか。

疑問を浮かべながら待っていると、モララーは何かを念じ始めた。

197名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:18:06 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「……これと……あとはこれかな」

術式が決まり、魔法陣が足元に展開された。
ちょうど、六人全員が入る範囲で地面に浮かび上がる。

最初は白、次に黄色、青や緑など様々な変化をすると
それらは消失した。

( ^ω^)「お? 何がどうなったんだお?」

(´・ω・`)「耐水、耐衝に、防音と水中活動……かな?」

ξ゚⊿゚)ξ「暗視もあったわね」

( -∀・)「ふふ。流石だね、二人とも」

(*゚∀゚)「??」

ξ゚⊿゚)ξ「今、モララーさんが私たちに使った防護系魔法よ」

(´・ω・`)「ちなみに普通はこんなたくさん重ねがけ出来ないからね」

( ^ω^)「ほほー……。お? ということは……」

( ・∀・)「せっかくだし、みんな目を瞑ってくれないかな」

いたずらを仕掛ける少年のような顔でモララーは提案した。
それぞれが期待を胸に、目を瞑る。

( ・∀・)「トソンさん」

(-、-*トソン「!」


そして、移動のための空間転移魔法陣が発動する。

直前、モララーはトソンを抱き寄せ
少しでも不安がないよう、優しく、力強く肩を握った。

198名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:20:45 ID:HcbLbdA20




――――。



( ・∀・)「……よし。さあ、みんな。目を開けて良いよ」



身体の感覚が消え、また戻って。

次に感じたのは、やけにくぐもった周りの音。
足の裏はしっかり地面に着いているはずなのに、やけに浮遊感がある。

事前の対抗魔法で、なんとなくの察しはついていた。
今いる場所も、予想はつく。


しかし、一体何のため……?


モララーが合図をするまで、疑問は止まらなかった。



そして、その『答え』が少年少女の目の中に入ってきたとき。



(* ^ω^)ξ*゚⊿゚)ξ(*´・ω・`)(*゚∀゚)「「「「うわあーーー!!」」」」


全く同じタイミングで、同じ感嘆の声をあげた。

199名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:22:35 ID:HcbLbdA20
光。


黄金の光。



それは、玻璃色の石に降り注ぐ
月の光で輝いている、美しい景色。



今いる場所は、レハコーナ島からやや遠くの海の中。



条件は、晴れていること。
夏の夜、月が最も大地に近づく日であること。
降り注ぐ月の光が水中を反射し、一点に集められる場所であること。
集められた光を受け取り、さらに吐き出せる物質が、『そこ』にあること。

以上を満たした時にだけ見れる、幻想風景。


海中の鉱石が長い年月をかけて集まり、月光を吸収。

そして、その光は再び天へ還る。



海面から映る三日月が、まるで涙を流しているような景色。





それを作っている希少石を『三日月の涙』と呼ぶのである。

200名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:24:04 ID:HcbLbdA20

(* ^ω^)「凄いお凄いお! なんだおこれ!」

ξ*゚⊿゚)ξ「こんなの初めて見た……」

(*´・ω・`)「……僕も」

(*゚∀゚)「はえー……なんかもう、言葉がでてこねーな」


(゚、゚*トソン「ホント……。綺麗……」


うっとりと、ぼんやりと。

暗視の魔法で見れるようになった、海中の風景をただ眺める。

海流の加減で、その光は揺らいだり、鱗粉のように煌めいたり。

見ているだけで、飽きることのない絶景を広げ続けていた。



( ・∀・)「この辺りに、危険な生き物が近づかないよう結界も張ったよ。
      普通なら来れない、夜の海だ。自由に動いていいからね」

みなが感嘆している間に、モララーは術式を完遂させていた。

(* ^ω^)「うひょー! マジですかお! やったあ!」

許可を皮切りに、ブーンは地を蹴り水中へと踊りだす。

魔法の使えない彼だが、かけられている魔法のおかげで
思ったように動けるのだ。楽しくないわけがない。

201名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:25:40 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「オレもちょっと泳いでくるー!」

ξ゚⊿゚)ξ=3「もー。もうちょっと見てから行けばいいのに」

(´・ω・`)「本当だよ」

それは他の子どもたちにとっても、同じことだったようで。

最初はただただ、『三日月の涙』を見ていたが
次第に周囲の、もの珍しい海中風景へ興味が移っていった。



( ・∀・)「……さて、と」


まるで、それを待っていたかのように。

モララーはみんなが離れ離れになったのを確認すると
さっきまで抱いていたトソンの肩を放した。



( ・∀・)「ちょっと、みんなとお話をしてくるね」

(゚、゚トソン「! ……はい。いってらっしゃい」

意図を理解したトソンは、その場から動かず。
黙って、海の中へ遠ざかっていく背中を見届けた。

202名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:26:47 ID:HcbLbdA20



――――。

(*゚∀゚)「うっほー! 楽しいなコレ!」

波に乗るように、海の中の流れにツーは身を任せていた。
体の力を抜いて、ゆらゆらと液体と同化するように泳いでいく。

( ・∀・)「やあ、ツーちゃん」

そこへ、踊るように流れてきたモララーが声をかけた。

(*゚∀゚)「おー、兄ちゃん」

( ・∀・)「楽しんでる?」

(*゚∀゚)「おう! そりゃあ、もう!」

満点の笑顔でツーが応える。
その表情が嬉しくて、モララーも顔をほころばせる。

並列して海中を漂っている最中、モララーが手を差し出した。

ツーが、その農作業で硬くなった手のひらを感じ取るとクスリと笑った。

( ・∀・)「?」

(*゚∀゚)「ごめんごめん。兄ちゃん、魔術師の癖に手がゴツイからさ」

( ・∀・)「昔はそうでもなかったんだけどね」

(*゚∀゚)「畑やってりゃ、そうもなるよな」

月明かりのシャンデリアの下、二人は踊るように流れていく。
そうして無心に体を動かすのが楽しくて。
目に映る全てが、新しくて。

ツーは思ったことを、いつも通り素直に述べた。

203名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:28:25 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「兄ちゃん、今回連れてきてくれてありがとな」

(*゚∀゚)「うちは父ちゃんのことがあるからさ。
     旅行なんて行った経験なかったし。
     学校行事のも断ってたぐらいなんだ。家空ける時間長げーからさ」

(*゚∀゚)「だから、人生初めての旅行がここで……更にみんなと来れてさ」


(*^∀^)「オレ、めっちゃ幸せだ!」


屈託のない表情を受け取って、モララーも相応の返事をする。


( ・∀・)「僕も、ツーちゃんに会えて良かった」


( ・∀・)「初めて作った野菜。
      売れる保証もないのに、君は二つ返事で店に出すことを了承してくれた」

( -∀-)「戦い以外で、自分にできることが……その成果が一つ達成できて」

( ・∀・)「あの時、本当に嬉しかったんだ」



(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ。当然だろー?」

(*゚∀゚)「だって、兄ちゃんの野菜めちゃくちゃ美味ぇんだもん。
     これを売らないのは、八百屋として恥だと思ったんだ」

( ・∀・)「それは光栄だ」

(*゚∀゚)「だからよ、兄ちゃん」

204名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:29:32 ID:HcbLbdA20
(*^∀゚)「これからも、どうかよろしくな!」



いつの間にか二人は、地に足をつけていた。

手はつないだまま。真っすぐ向かい合って、思い思い話していたのだ。


自然と握手する姿勢になったツーは、しっかりと手を握る。


( ・∀・)「うん。こちらこそ」


モララーも、未来への期待とこれからの不安。

せめて、良く知る彼女だけでも生涯守り抜こう。

強い気持ちを込めて、手を握り返した。

205名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:31:35 ID:HcbLbdA20




――――。



(´・ω・`)「…………」

ショボンは海面にまであがり、体を浮かせてぼんやり夜空を眺めていた。

波で何度も視界が揺らぐ。
それによって、星の瞬きが不規則になり
まるで万華鏡を覗いているかのような気分になった。


( ・∀・)「ここ、星が良く見えるでしょ」

(´・ω・`)「モララーさん」

姿勢を変えず、目だけで確認した。
声が届く範囲に来たモララーも、同じようにあお向けになり空を仰いでいる。

( ・∀・)「山奥と違って、水が反射してるから
      また景色が違って見えて良いよね」

(´・ω・`)「そうですね」

淡々とショボンは返す。
興味がないわけではない。

ただ、非常にリラックスした気持ちになっているため
自然とそうなるのだ。


( -∀-)「…………ねえ、ショボン君」

(´・ω・`)「はい」

206名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:33:07 ID:HcbLbdA20
しばらく漂っていると、モララーが声をかけた。
彼も気持ちと体を弛緩させて、楽なまま問う。

( ・∀・)「ショボン君は、何か夢とかある?」

(´・ω・`)「夢……ですか?」

( ・∀・)「うん。将来どういう風になりたいとか、やりたいこととか」

(´・ω・`)「そうですね……ありますよ」

( ・∀・)「おっ、何かな?」

(´・ω・`)「近衛魔術師になることです」

( ・∀・)「へー。どうして?」

(´・ω・`)「学校に入る前も、入ってからも。
       僕はシャキン=ノーファルの息子でした」

(´・ω・`)「……その驕りが、僕をゆがんだ形にしていた」

( ・∀・)「……」

(´・ω・`)「ブーンに助けられ、モララーさんと出会って。
     色々見ているうちに、僕思ったんです」



(´・ω・`)「負けたくないなあ、って」

207名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:37:49 ID:HcbLbdA20
(´・ω・`)「世の中にはもっともっと凄い人が居て。
       たくさん苦労して、悩んで。それでも頑張っている人がいる」

(´・ω・`)「そんな人達に劣らない、強い人になりたい」


(´・ω・`)「だから、僕は父さんも超えて……近衛の称号を持つ魔術師を目指そう」


(´・ω・`)「そう、思ったんです」


( ・∀・)「そっか……」



初めて会った頃。
まだブーンを一方的に弄んでいた頃。


彼は、まさに自分が言うように自己欲の塊だった。
権力を笠に着て、やりたい放題やって。
人を傷つけるのも平気で行う。


なんて醜く、哀れな少年なのだ。


当時の率直な感想だ。


だが、今はどうだろう。

自分の力をちゃんと見定め、その上で更に先を目指そうとしている。
あの頃の尖った様子は完全になりを潜め、いつの間にか立派な大人へ
足を踏み込んでいる。

208名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:39:34 ID:HcbLbdA20
ブーンやツンの成長も目覚ましいものはあったが。

見てきた中で、一番変化のあったのはこの子かもしれない。

嬉しい感情を堪えつつ、モララーはあえて発破をかけてみた。


( ・∀・)「ショボン君、もし君が偉くなることを望んでいるなら。
       もっと先が、実はあるんだけど」

(´・ω・`)「え?」

( -∀・)「……『大魔術師』を目指してみては?」

(;´・ω・`)「ちょっ……!?」

ショボンは、水しぶきを大きく立てながら慌てて体を起こした。

(;´・ω・`)「そ、それは……その……流石に……」

( ・∀・)「ふふ。考えたこともなかった?」



(;´・ω・`)「…………」

209名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:40:45 ID:HcbLbdA20


(;´ ω `)「…………」





( ´ ω `)





(´・ω・`)






(´・ω・`)「……モララーさん。
      大魔術師って、人をたくさん殺さないとなれないんですか?」

210名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:41:57 ID:HcbLbdA20
余りにも愚直な質問に、一瞬だけ表情が強張る。
しかし、冗談で尋ねた様子ではない。
不躾を覚悟で問うたという、強い意志が瞳から見て取れる。

……だから、モララーも逃げずに答えた。


( ・∀・)「一応、前代未聞の称号だから何とも言えないけど」

( ・∀・)「誰にも出来ないような偉業を成し遂げたから、頂いた証だと思ってる」

( -∀-)「……形は違えど、きっと成る方法はあるはずだよ。
      おじい様なら、そう言うさ」

( ・∀・)「なにせ、大魔術師は『英雄』の証でもあるらしいからね」


多くの命を奪い、人生を閉じさせた元凶。
ラウンジ大陸の人間にとっては、間違いなく『黒風』は災厄そのものだろう。

だが、VIP大陸の人間たちにとっては、彼はまぎれもない英雄だ。



かつては、そんなの偽善だと吐き捨てたこともある。

しかし、心境に変化があったのはショボンだけではない。

今は、少しだけ。
夢への道標でもあるのだと、胸を張れるようになった。

211名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:43:47 ID:HcbLbdA20
(´・ω・`)「…………そうですか」

言葉を聞き、ショボンは深く息を吸い、吐き出す。
そして決意を込めて、思いを告げた。

(*´・ω・`)「なら、なって見せますよ。いつか、必ず!」

( -∀・)「うん。その意気だ。頑張れ!」


モララーは手を高く伸ばした。

(*´・ω・`)「!」

その意味に気付くと、ショボンは嬉しそうに近づき。


力強く、水しぶきと共に



向けられた手のひらを叩いた。

212名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:45:52 ID:HcbLbdA20





――――。


ξ゚⊿゚)ξ「……アンバーかな。それともサンダイヤ……?」


海底に輝く石を眺める背中が一つ。
首を傾げながら、じっと凝らして見定める。

この美しい光を放つ物体は、一体何で出来ているのか。
周りを見ることに飽いたツンは、三日月の涙の下へ戻ってきていた。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、これ……まさか!」

注意力を高めて見ていると、答えの一つが浮かび上がる。

( ・∀・)「ツンちゃん、何してるの?」

同時に、海面から降りてきたモララーがやってきた。

ξ゚⊿゚)ξ「モララーさん。この光ってる石
       もしかして、主な構成はアブスライトですか?」

自分の疑問の解が合っているのか、期待半分不安半分聞いてみる。

その発言にモララーは驚きながら返答した。

( ・∀・)「正解。よくわかったね」

アブスライトは光や魔力を集めて反射する、特殊な性質を持つ透明な鉱石。

だがツンの前に光るそれは、他の鉱石も混じっているので
普通の感覚なら看破するのは容易ではない。

彼女の持つ観察力に、モララーはいつも感嘆していた。

213名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:48:13 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり。じゃあ、これは別に特殊な宝石ってわけじゃないんですね」

( ・∀・)「そうだね。アブスライト自体は希少だけど……ダイヤやルビーほどではないかも」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、どうして三日月の涙は『宝石』って呼ばれてるんですか?」

( ・∀・)「昔の人の伝承だからかな。
       口から口へ言い伝えられたものは、いつしか事実とねじ曲がって流布される。
       そんなことは世の中に、いくらでもあると思うよ」

ξ゚⊿゚)ξ「確かに……。これはこれで綺麗ですけど。
       実際は、ちょっと珍しいだけの石ころなんですね」

( ・∀・)「伝説ってのは、大体そんなもんさ」

ξ゚⊿゚)ξ「……私は、モララーさんは違うと思いましたけど」

( ・∀・)「うん?」

ξ*-⊿-)ξ「聞いていた伝説より、もっと素敵で。優しくて。
        本で読むより、ずっと輝いて見えます」

( -∀・)「あはは。それはどうも」


前ほど、自分の感情を隠さなくなったなぁ。

モララーは成長を喜ぶ。
あの大げさに照れ隠しをする癖は、微笑ましくて好きだったのだが。

今の、この成熟しつつある様相もまた素敵だ。

長い睫毛の横顔を見ながら、そう思った。

214名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:50:08 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……あのね、モララーさん」

( ・∀・)「なんだい」

ξ゚⊿゚)ξ「あの……洞窟での出来事なんですけど……」

( ・∀・)「うん」


声のトーンが変わったのに気付き、モララーはとある場所を指さした。
腰を下ろすのにちょうどいい高さの岩場だ。

ツンは頷き、モララーと共に移動する。

硬い岩に座ると、ツンは話を再開した。
接触部が痛くならないように、反発の魔術をモララーはかけてくれていた。


ξ゚⊿゚)ξ「私、迷っちゃったことがあって」

( ・∀・)「迷った?」

ξ゚⊿゚)ξ「はい。メディクシルを使おうとした時。
       少し考えちゃったんです」


ξ ⊿ )ξ「私たちは苦労して伝説の薬草を取りに来たのに
       その成果を持ち帰ることしない、なんて選択をしていいのかな、って」


ξ ⊿ )ξ「ブーンが大変なことなんて、わかってました。
       あのまま放置することなんて出来ない。
       でも、共に行くのは不可能。」


ξ゚⊿゚)ξ「だったら、メディクシルで回復させて、帰ればいい」


ξ ⊿ )ξ「それだけの……話だったのに……」

215名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:52:07 ID:HcbLbdA20

( ・∀・)「……」



ξ ⊿ )ξ「私……あの時、ブーンのことを……」


ツンの肩は震えていた。
海水の中だから、涙もどのように流れるのかすらわからない。
顔を伏せ、声を殺し。
ただただツンは、小さく鼻をすすっている。


彼女なりに、とても悩んだのだろう。
成果は欲しい。ブーンの命も大切。


そんな葛藤そのものが、許せなかった。

メディクシルが人の命より大切なものではない。
トソンが心配ではあるが、今のブーンほどではないはず。


考えるまでもなく、取るべき選択を……ツンは即断できなかった。

そのことが、彼女自身に重い枷となり心を押しつぶしている。


( -∀-)(ちょっと前までは、自分の責任を人に擦り付けてたりしたのになぁ……)

無魔法栽培の畑に、風魔法を使って横着した時のことだ。
教えられなかったから。とブーンの不手際を非難した。

子どもっぽい癇癪で、少し教育が必要だな。と彼らの親に委ねてみたりもした。

216名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:54:22 ID:HcbLbdA20
そんな彼女が、今。


自分の行動に責務を感じ、そして結果として過ちを犯したのでは、と嘆いている。


波音で聞こえないほどの嗚咽を、モララーは止めてあげようと
ゆっくりと、少女の金髪に手のひらを乗せた。


( ・∀・)「ツンちゃん。何かを決断する、ってのはとても難しいことなんだ」


( ・∀・)「あの時、多分ショボン君もツーちゃんも、同じように悩んでたんじゃないかな」


( ・∀・)「その中で、ツンちゃんが声をあげて決断を促したのは。
       とっても素晴らしいことだと思うよ」

( ・∀・)「それに、帰り道のことだってそうだ。
       ツンちゃんが気付いてくれたから自力で、出口まで帰れた。
       それは立派な功績だ」


ξ,⊿,)ξ「……でも……私……確証もないのに……」



ξ,⊿,)ξ「みんなを……危険な目に……合わせちゃってたかも……」


( ・∀・)「でも結果として、全員帰ってこれた。
       だったら、それでいいんだよ」


ξ,⊿,)ξ「……」

217名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:55:37 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「大丈夫だよ。
       どんな人だって、常に最善の決断なんて出来るもんじゃない」


( ・∀・)「僕もかつて、たくさんのことを選んできた」



( ・∀・)「自分の力の使い方。世界の為に戦うこと。
       そのあとの生き方、出来ることの決断」



( -∀-)「…………本当に、たくさんあった」


( ・∀・)「今でも、悔んだりする。本当にそれが正しかったのか」


ξ ⊿;)ξ「モララーさんも……?」


( -∀・)「当然! 僕も、君たちと同じ人間なんだから」


( ・∀・)「いくら僕でも、時間を巻き戻したり、死んだ人を蘇らせたりはできない。
      失ったものを、もう選びなおすなんて出来ないんだよ」


( ・∀・)「……だからね、誓ったんだ。誰でもない、自分自身に」


( ・∀・)「その選択が正しかったって、信じて。
       間違ってなかった、と証明するために」


( ・∀・)「一生懸命、生きていこうって」

218名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:57:24 ID:HcbLbdA20
ξ;⊿;)ξ「……モララーさん」


( ・∀・)「ツンちゃん。
       君はこれから色々な事を経験していくと思う。
       今日みたいな決断をしなくちゃならないことも、たくさんあるだろう」

( ・∀・)「時には、間違えたと後悔してしまうこともあるはずだ」


( -∀-)「……そうなった時は、後ろを見るんじゃなくて」


( ・∀・)「涙を拭いて、前を見よう」


( ・∀・)「そしたらきっと、新しい道が見えてくるかもしれないよ」


( -∀-)「だから、もう泣かないで」



ξ;⊿;)ξ「うぅ……モララーさぁん……!」


慰めるつもりだったのに、逆に泣かせてしまった。
詫びの気持ちをこめながら、モララーは素直に思ったことを口にする。



( ・∀・)「立派になったね、ツンちゃん」



様々な経験を重ね、一人の人間としての悩みを抱えているツンが嬉しくて
モララーはただ、微笑みながら彼女の頭を撫で続けた。

219名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 13:58:50 ID:HcbLbdA20
――。


( ^ω^)「おー、居たいた。モララーさーん! ツーン!」


未だ泣き止まぬツンを、優しく視ているとブーンがひょっこりと現れた。
状況がわかってなかったのか、不用意に近づいてくる。

そして、ツンの表情を確認した途端に冷や汗を流した。


(; ^ω^)「お? ツン? どうしたんだお?」


ξ,⊿ )ξ「なんでもないわよ」

顔を隠し、しゃがれた声でツンが返事をした。
ブーンは一度モララーを見てから、すぐにツンへ向き直る。

( ^ω^)「何でもない人が泣いたりしないお」

ξ,⊿ )ξ「うっさい! ちょっと一人にして!」

(;^ω^)「えぇー。せっかく良いもの見せてあげようとしたのにー」


肩をがっくり落とし、つま先で地面をぐりぐりといじるブーン。
さっきまでは一人の普通の少女だった、ツンの変わり具合に
モララーは思わず笑みがこぼれる。

流石に言い過ぎたことを後悔したのか
しゃっくりを数回挟んでから、絞り出した声でツンは言う。


ξ,⊿ )ξ「……あとで」

220名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 14:00:11 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「お?」

ξ,⊿ )ξ「あとで行くから。今は放っておいて」


( ^ω^)「……」


ブーンがその言葉を理解すると、モララーに目配せをした。
ツンも、置かれていた手をそっと頭から離す



言われた通りにしてあげよう。

お互いそう思い、モララーはブーンの案内する先へついていくことにした。



( ・∀・)「何があったの?」

泳ぎながらモララーは尋ねる。
それに対し、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて少年は答えた。


(* ^ω^)「でぇーっかいクジラが居たんですお!
      図鑑では知ってたけど、この目で見たのは初めてですお!」

( ・∀・)「あぁ。そういえば、ホワイトマッコールの生息地だったね」


それは平均して、全長70mは超える巨躯を持つ哺乳類。
寿命も相当に長く、個体によっては数百年は生きるそうな。

221名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 14:01:58 ID:HcbLbdA20
丸い頭に、鋭利な角度の鰭。
尾は三又に分かれており、分厚い水掻きが隙間を埋めている。

一たび体を波打てば、推進力と共に海流すら操ってしまいそうな
余りにも規格外で大きな生物。


それが今まさに、二人の目の前を轟音を立てて横切って行った。


(* ^ω^)「おほー! このド迫力だおー!」


幾重にもかけられた防護魔術のおかげで、水の勢いも邪魔にならない。
地鳴りのような鳴き声も、耳をふさげば問題ない程度に抑えられている。


( -∀・)「いやぁ、凄いねこれは」

思わずモララーも手で耳を押さえながら感想を呟く。
一体の生き物が、ただ通りすがっただけだというのに。

まるで夜空に弾ける花火でも見たかのように
目から肌から受け取る感触や臨場感は、他では味わえない興奮度合いだった。


( ^ω^)「まったねーー!」


鳴き声に負けないぐらいの声で、去っていくその背へ
ブーンは手を振りながら見送る。

見えなくなるまでそうしていると、彼はゆっくり手を下ろし。



一息溜めてから、言葉を発した。

222名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 14:03:12 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「モララーさん」

( ・∀・)「なんだい」

( ^ω^)「ありがとうございましたお」

( ・∀・)「どういたしまして」

今回の旅行のお礼だろう。
返事をするモララーに、意図が伝わってなかったと
ブーンは、しっかりと向き合う。


( ^ω^)「今までのことですお」

( ・∀・)「……」

謙遜をして、モララーが口を開こうとする。
だが、それすら理解していたブーンは捲し立てるように続けた。


( ^ω^)「僕は、本当にダメな奴でしたお」


( ^ω^)「周りのことも見えてない。何をすればいいのかもわからない」


( ^ω^)「ただただ、耐え忍べばきっといつか終わるだろう。
      そう思って生きてましたお」

それは、モララーに出会うまでのブーンの生き方。
ショボンや周囲からの攻撃に対し、彼は抵抗をしなかった。
家督に傷がつくから。貴族同士の争いを恐れて。

223名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 14:04:40 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「でも、モララーさんが助けてくれたから」


( ^ω^)「だから僕は、今こうして楽しく生きていけてるんですお」



( ^ω^)「だから、そのことも含めて。お礼をちゃんと言いたかったんですお」



( ^ω^)「ありがとう、って」



( ・∀・)



( -∀-)



モララーが。


彼が、伝えたかったことが。


伝えるべき相手に、先に言われてしまった。


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