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リョナな長文リレー小説 第2話-2

389名無しさん:2019/01/05(土) 13:20:31 ID:???
「いやー間一髪ってカンジ?やばたにえんだったしょーエリスちゃん?アタシがきてよかったネコ?」

「く……!その声は……!」

背後から響いたのはいつも通りの能天気な声。
背中を切り裂かれた痛みに耐えきれず、アリスはうつ伏せに倒れた。

「まじ卍〜。エリスちゃん遅いなーって思って探しにきてみたらこれだもん。やっぱアリスちゃんは油断ならないね〜。」

「レイナさんっ……あなたまで操られているなんて……っ!」

「も〜心配しないでも、アリスちゃんもちゃんと仲間にしてあげるって!1人だけ仲間外れになんかしなーいよ?」

(仲間……?わたしもエリスの言っていたあの方とやらに操られろと……?)

もし自分が操られてしまえば、シックスデイの半数が堕ちることになる。
それどころか、すでにダイやマーティンも操られている可能性もある。
最悪のパターンを想定して動くためにも、アリスはここで捕まるわけにはいかなかった。

「だーめ!そうやって逃げようとしても絶対逃がさないよっ……と!」
「あっ、やめっ……あああぁんっ!」
「ふふふ……!私さー、エリスちゃんやアリスちゃんのこと、一回いじめてみたかったんだよね〜」

這いずって距離を取ろうとするアリスに覆い被さり拘束するレイナ。ざっくりと開いた痛々しい傷口を無視して、アリスの顔を掴み自分の方へと向けた。

「アリスちゃんはいっつもみんなにツンツンして、自分はさらーっとおすまし顔しててさ〜?焦ってるとことかほとんど見たことないし……最近やっとリンネくんのこと好きっぽい隙を見せたくらいかなぁ?」

「な、なな、何を言って……!目を覚ましてくださいレイナさん!あなたもエリスも操られているんですっ!」

「ふふふ……そんなに必死になっちゃって、アリスちゃん可愛い……!もっといじめたくなっちゃうよ……」

「レイナ、もうその辺にしてやれ……さっさと終わらせろ。」

「はいはーい。……なんか背徳感でドキドキするなぁ。エリスちゃんとアリスちゃん、1日に2回も美少女とキスなんて……」

「や……やめてくださいっ……!レイナさん……エリス……正気に、戻って……!」

出血と先ほどのエリスに送られた快楽成分で、アリスの言葉はたよりなくふらついていた。
そんな様子のアリスを気にすることなく、レイナはリップクリームを取り出し自分の唇に塗っている。

「んーまっ……と。よし!アリスちゃん観念しろぉー!シックスデイのお色気担当が、いやらしいキスをしちゃうよー!」

「だめっ!レイナさん、だめええっ!いやああああああああああっ!!!」

最後の抵抗として甲高い悲鳴をあげるアリス。
それはレイナの唇でしっかりと蓋をされ、辺りは再び激しい雨の音に支配された。

390>>381から:2019/01/05(土) 16:09:56 ID:???
「うぇええ……何これ。白くてべとべとだよぉ……!」
「ま、まずいですわっ……狂戦士化したエミリアちゃんが、まるで通用しないなんて……!」
「え?狂戦士って……私に何したのアイナちゃん!?」

カルピス味ねるねるねるねをぶっかけられ、思わず正気に戻ったエミリア。

「爆炎のスカーレット。それに、なんか見覚えがあるピンク色。
お前ら、トーメントの刺客だな……さっきの変な穴もお前らの仕業か?」
「んげっ!?なぜアイナ達の正体を!?」
名うての傭兵でもあったエミリアの出自、そして現在の状況から逆算して、アイナ達の正体を言い当てるダン。
歴戦の戦士としての洞察力の賜物である。
だがこの妙に緊張感のない『ピンク色』が、トーメント最強「王下十輝星」の一角だとは流石に気付かなかった。

「だとしたら、容赦はしねえ……(と言いたい所だが……ここで下手に暴れると、洞窟丸ごと崩れかねんな)」
分断された唯達の様子も気がかりだ。さっさと二人を大人しくさせ、助けに行きたい所だが……

「ぐぬぬ……勝負はこれからですわ!さあエミリアちゃん!
この何の害もなくて持続時間や高価が更にパワーアップした
『スーパーバーサーカーキャラメルXX(激辛カレー味)』をお食べなさい!」
「やだよ!こんな事、もうやめようよ!」
再びやべーのを食べさせようとするアイナ。もちろん抵抗するエミリア。
両者はやがて揉み合いになり、その拍子にキャラメルは放り投げられ……

(ひゅっ………)
「おいお前ら。何揉めてるんだ。いい加減に……(ぱく ごくん)」
「あっ……(察し」
「アイナちゃん、これ……まずいんじゃ」
「いや……味は美味しいらしいですわよ?ちょっと辛いけど」

「GRRRRRR...」

「「っぎゃああああああああ!!」」

『竜殺し』の真の力が今、解放されようとしていた。

391>>376から:2019/01/05(土) 17:12:40 ID:???
「おや?そんなに力入れて蹴ったつもりないんだけど、だいぶ効いてるようだな!さすが俺様のキック力だぜ!」
「んうっ……くっ……女の子のこんな所蹴っといて、よくもそんな事……頭イかれてんじゃないの……!」
股間を蹴り上げられて悶絶し、立ち上がれない瑠奈。
しかしアイベルトは童貞(しかもアホ)であるがゆえに、自分が蹴った箇所の危険さをわかっていなかった。

「ま、ここまでの戦いでも、実力差は歴然って所だな……
じゃあお年玉代わりに、ルナティックちゃんにハンデをくれてやるよ。
どんな武器も魔法も超一流な俺様だが、ここから先は素手……それも拳だけで戦ってやる」

「何よそれ。バカにして……!……後悔させてあげるわ!!」
だが、相手はサラをギリギリまで追い詰めたほどの難敵。
今みたいに魔法や武器まで使って来られたら、確かに苦戦は免れないだろう。
相手が慢心しているなら願ってもない、その油断を突こう…と頭を切り替え、瑠奈は再びアイベルトに立ち向かう。

「ふ……武器や魔法が制限されようと関係ねえ!ウェ○ー対○心みたいにしてやるぜ!
……おや?」
迎え撃とうとしたアイベルトは、ポケットの中に何かが入ってるのを見つけた。
ちなみにこの例えだと、色々制限されてたのは負けた天○側なのだが、そんな事を気にするアイベルトではない。

「手紙か……なになに。」
『いとしのアイベルト様へ♥♥

アイナですわー!!
じつはアイナ、ずっと前からアイベルト様の事……
きゃっ♥♥ これ以上はいえないー♥♥
この続きは、任務♥が終わってから♥♥♥

そうそう、今回の任務は五人の戦士のSATSUGAIが目的だってこと、忘れちゃだめですわよ?
アイベルト様はとーーっても強いけど、ちょっちお優しすぎるから、アイナ心配…♥♥
これを食べて頑張ってくださいですわ♥♥

あなたのアイナより、愛を込めて♥♥♥』

「そうか……まさかリザやサキやロゼッタやエミリアちゃんや(中略)だけでなく、
アイナも俺にぞっこんだったなんてな!
この『クレイジーサディスティックキャンディ(天丼風)』は
ありがたく頂くとするぜ!!」

ちなみにこの手紙を書いたのはシアナであるが、そんな事に気付くアイベルトではない。

「何をごちゃごちゃやってんのよ……喰らいなさいっ!バーニング瑠奈ちゃんキィィーック!!」
(……ゴォオオッ!!)
なんやかんやで蹴りにも属性が付与できるようになった瑠奈が、必殺の飛び蹴りをアイベルトに繰り出す!
だがその時……

「……俺を恐れろ、俺に恐怖しろ……!」
「えっ……」
(ドゴッ!!)
アイベルトは紙一重で蹴りをかわし、カウンターの一撃を繰り出す。

(…どぷっ……)
打ち下ろし気味の一撃は、高速で飛来した瑠奈の下腹を、狙い過たず撃ち抜いている。
しかも、その拳には………金属製のスパイクナックル。

(……ドガッ!!)
「んっ……あ……っ……く、は……!!」
地面に叩きつけられた瑠奈は、さっきとは比べ物にならない急所への苦痛にのたうち回る。

「クックック……今の見たか?見たよなぁ?
高速で飛び蹴りかましてきたルナティックの股間、一撃目とおんなじ場所にブチ当ててやった……
俺様の超一流の神テクニックをよぉ……!」

そう。先ほどアイベルトが1ミリも疑わずに食べた、長ったらしいお菓子は、
多少調子に乗りやすい雰囲気もあるが、確実に敵を追い詰めるような残虐性を持ち合わせた性格に……
いわば初登場時(回想)のような、今とはほとんど別人格に変えてしまう効果を持つのだ!
つまりアイナがエミリアにやろうとしていた作戦と丸かぶりである。故に天丼。
「さぁーて。パンチと言えば、やっぱり腹かみぞおちか。股間をこのまま集中攻撃か。
マウント取ってボコボコってのもアリだなぁ……俺様の華麗な拳で、死ぬまで踊ってもらうぜぇ……!」

「瑠奈ぁーっ!大丈夫か!今、アシストウェポンを送るぞー!」
「う、ぐっ……あいつがアホそうだからって……油断してたのは、こっちの方だったってわけね……!」

392>>386から:2019/01/05(土) 19:56:58 ID:byp1Fv5s
「それに……トーメントに、協力すれば……!いつか、いつか王様の復活の術で……家族と、また会えるかもって……!」

「リザ……そんなことは夢物語よ。有り得ないわ……」

「だからって!!家族をみんな殺されて!!一族のみんなも殺され続けて!何かに……『可能性』にすがらないと、私は……!生きていけなかった!!」

生きてさえいれば、無限にある可能性……かつて命を絶とうとしたリザに、ドロシーが放った言葉。
だがそれはミストには、ただ痛々しいだけに見えた。

「リザ……アンタは辛い現実を受け入れられずに、駄々を捏ねてるだけよ……アウィナイトの保護だって、あの王がずっとするわけないじゃない」

「そんなことない!ようは私が負けなければ、ずっと……!」

「今の状況で、よくそんなことが言えるわね」

自分が負けない限りアウィナイトは保護される……正に今、ミストに敗北して地に這いつくばっているリザが言っても説得力はない。

「リザ……せめて安らかに眠らせてあげる」

血を大量に失いながらも必死に意識を保っているリザ。見ていられなくなったミストは、ゆっくりとリザに歩み寄る。

「お姉ちゃん……私たちはもっと、ワガママに生きていいんだよ……ううん、ワガママじゃないと、こんな世界で生きていけない……駄々を捏ねてるのは私かもしれないけど……現実が見えてないのはお姉ちゃんだよ……!」

「……運命って、皮肉ね」

同じ親から産まれ、同じように育ち……同じように家族を失った姉妹。なのに2人の道は、致命的なまでに別たれてしまった。

ミストの刀が煌めき、リザの首目掛けて振り下ろされた。

「ぐっ!!お、ねぇ……ちゃん……せめて、お母さん……だけ、でも……!」

最後に母の事を言い残した後……ドサリと地面に倒れるリザ。その胸は小さくだが、確かに上下している。峰打ちだ。

「……私も甘いわね、戦って殺す覚悟はあっても……無力になったあの娘を一方的に殺す覚悟がなかった」

チン、と刀を鞘に収めたミスト。そのまま、意識を失ってもなおナイフを握りしめているリザの手を優しく包み込んだ。

「私はこれからトーメント王を殺す……その後はリザ、穏やかに……」

「え、あのトーメント王を!?止めとけ止めとけ、あいつは滅茶苦茶強いんだ」

「っ!!」

バッ、と振り返り、すぐさま刀を構え直すミスト。そう、結界が崩壊した以上……近くに王が潜んでいる可能性は、幾らでもあった。

「キキキ!あの変チクリンな仮面の下がこんなリョナりがいのある美少女だったとは……流石の俺様も予想外だったぜ」

「トーメント王……!」

「で、どうするんだ?ソイツと戦って疲れてんだろ?そんなザマで俺を殺せるとでも?」

「黙れ……!リザを、あんな殺人鬼に仕立て上げて……!私の家族も奪って……!貴様だけは絶対に許さない!」

「リザは自分から志願してきたんだし、十輝星になる前から大なり小なり殺してたと思うぞ?
里の襲撃も俺は金の工面をしただけで、ほとんど盗賊と目付きの悪い男の仕業だし……」

「だとしても!貴様は邪悪の化身だ!生かしてはおけない!!」

妹との激しい戦いで疲弊しながらも、殺意に満ちた瞳で王を見据えるミスト。




「ひ、久しぶりに『こうなる』とやっぱり辛いな……って、あれは王様に……リ、リザちゃんが2人!?ひょっとしてお姉さん!?」

そこから幾らか離れた所では、敢えていち早くアトラとシアナに『殺された』唯が復活していた。

幸い、王にもミストにも気づかれていないようだ。

(ど、どうしよう……リザちゃんは血だらけで倒れてるし、瑠奈たちはいないし、王様はリザちゃんに似た人と戦ってるし……!)

王を止める為にデスルーラ的なあれで現れたはいいものの、状況は混沌としていた。

果たして、これから我らが主人公、篠原唯が取る行動とは……!

393名無しさん:2019/01/08(火) 01:41:31 ID:W0o7PAvI
「まったく人の話を聞かない奴だなぁ。リザも頑固なところがあったが、お姉ちゃんはもっと頭が固いようだ」

「……貴様は……!貴様だけは、絶対に許さないっ!!!」

手にした長刀を強く握りしめ、ミストはシフトを使い王の元に一瞬で移動する!

「滅殺斬魔!」

長刀に闇のオーラを纏わせ、獲物を魔力と剣で両断する技。
剣の火力に魔力が上乗せされ、一瞬にして強力な一撃を放つことができる。
シフトの力と合わせれば、瞬間的に最大火力で攻撃ができる、まさに鬼に金棒の技だが……

「……なにっ!?」

王の元にワープしたミストだったが、その場に王はいない。
素早く辺りを見回すと、倒れたリザの元に立っている王がいた。

(そんな……いつのまに移動したの?まさか、奴も瞬間移動の能力を……?)



「ぐ……王……様……!」
「リザ、大好きなお姉ちゃんにこんな目にあわされて辛かったろ?俺様が今治してやるからな……」

王がそう言うと、回復の術式が血まみれのリザを中心に展開される。
すぐに癒しの魔法が展開され、清らかな魔力がリザの体を包み込んだ。

「……ふぁっ……」

「さあリザ。俺様の癒しの魔法でゆっくり休むといい……っていうのは嘘だけどな?」

「……え?」

王はそう言うと、展開していた癒しの魔法をすぐに中断し、自分の足を振り上げて……

「あ、やっ……!あ゛ぐううぅぅっ!!!」

自分の体重を全て乗せて、右足でリザの体を踏みつけた。



「ったく、姉妹ゲンカくらい自分でなんとかしろよ……俺様にこんなめんどくさいやつの処理を擦りつけたうえに、自分は1人で王子様を待つおねんねプリンセスってか……?あぁ!?おらっ!オラァ!!」

「んぐっ!!ぐああうぅっ!!」

「貴様あぁッ!汚い足でリザに触るなぁっ!!」

瀕死のリザの体に踏みつけで追い打ちをかける王。
彼が十輝星を蘇生させることはない。十輝星とはそもそも敵に負けた時点で十輝星失格となってしまうのだ。

「おっと、俺はリザにきつめのオイタをしている最中だ。お姉ちゃんはこいつらと遊んでな!」

王がマントを翻すと、ゴブリンやオークら人型の魔物たちが異空間から現れ、ミストの前に立ちふさがる。

「「「げっげっげっげっ……!」」」

(くっ……なんて数!でも……あいつにリザをこれ以上弄ばせるわけにはいかない!)

恐ろしい数の魔物の群れに、臆することなく立ち向かうミスト。
妹のために必死で戦う姉の姿を、王は妹を踏みつけながらニヤニヤと見ていた。



「くっくっく……それにしてもいい格好になったもんだなぁリザ……お前、もう死ぬよ?」

「はぁ、はぁっ……」

「お前が死んだらどうしよっかなー?お前が必死こいて守ってたアウィナイトたちなんて守る価値なくなるし、保護区にいるやつら全員殺しちゃおっかなー?」

「……ぐぅ……それだけ、は……!」

「お前だってわかってたんだろ?自分が死んだらそうなるってことをさ。……なぁリザ、お前は細い綱を踏み外したんだよ。もう諦めろ。」

王の言葉を聞いたリザの目が暗い青に変わる。それはアウィナイトをリョナる者にとって1番見たい、絶望の目。
通常時の明るく清らかな青とは対比をなす、暗く悲しげな青に染まる。
この目を抉って作られる魔石こそ、ノワールが魔法少女たちを操ったダークアウィナイトである。

「ククク……いい顔だ、リザ。そんな顔されたら流石の俺様も、心が揺らいでしまうな……」

「……王……様……!」

「仕方ないなぁ。どうしても助かりたいなら……その可愛い声で俺様に命乞いでもしてみな?」

「……うぅ……!」

王は踏みつけるのをやめ、座り込んでリザの顔を見た。
美少女の悲しみに潤んだ目と恐怖に震える唇は、王にとって大好物の光景だ。
後は必死に命乞いをする姿があれば完璧だったが……

「ほら、言ってみろ。お願いします殺さないでください、なんでもしますからっ……てな!ケケケ!」

394名無しさん:2019/01/08(火) 01:44:06 ID:???
「……お願い、します……!お姉ちゃんは……殺さない……で……っ」

「……おいリザ。俺様は命乞いをしろと言ったんだぞ。保護区にいる奴らを助けたいだろ?お前が今までやってきたことを無駄にしないためにも、……ほら、ポーカーフェイスを捨てて馬鹿なガキみたいに必死に泣き喚いて命乞いしてみやがれ!!!」

「……………………」

王の言葉が聞こえていないのか、リザが目を閉じた瞬間首の力が抜けた。

(……チッ!気を失いやがった。まったくもって面白くないやつだ……!)

王としては最後にリザが命乞いをする姿を存分に楽しんでから、お得意の触手で締め殺して絶望させたかったのだが、それは叶わなかった。
興を削がれた王は、茂みの中へとリザの体を蹴り飛ばす。

(何を言うかと思えば……自分をボロ雑巾にしたこいつを殺すなだと?何を考えてやがる……ま、あいつの人殺しのくせにお人好しなとこも好きなんだがな。ケケケ……おっと!)

王が心の中で笑っていると、オークの首が目の前に飛んできた。

「はぁ、はぁっ……!トーメント王!貴様はここで殺す!」

「なんだ、もう片付け終わったのか。ならご褒美に、俺様が直々にリョナってやんよ!」


★★★★★★★★★★★★★★★


「……んっ……ぅ……」

「動かないで!今癒しの術を……!」

「……篠原……唯……?」

リザが目を覚ますと、両手で癒しの術を自分にかけている唯がいた。

「私の癒しの術じゃ、治療に時間がかかっちゃうけど……!」

「……だ、め……!お姉ちゃんを、助けなきゃ……ぐぅっ!!」

「動いちゃだめだよっ!リザちゃん、すっごい怪我してるんだから……!絶対安静だよ!」

鏡花がいればもう少しまともな治療ができるのだが、唯1人ではせいぜい止血するくらいが精一杯だ。
動いた途端に押し寄せた身体中の痛みと、気を抜くとすぐに失神してしまいそうな目眩がリザを倒れさせた。



王を追ってデスルーラで飛んできたという唯に話を聞くと、自分のところに偶然飛んできたリザを唯がキャッチして、王に見つかってはならないと50メートルほど離れたここまで運んできたらしい。

「……リザちゃん……さっき王様が言ってたこと、聞こえちゃったんだ。前にも聞いたけど、本当にリザちゃんはアウィナイトの人たちを守ってるんだね。」

「……だから何?同情なんか……つっ……!いらないっ……!」

「……リザちゃん……私ね、正直に言うと……やっぱりリザちゃんのやってることは、間違いだと思う……お姉さんが正しいと思う。」

「……誰もあなたにそんなこと、聞いてない……気安く口を挟まないで。」

「……ごめん。私なんかが関わっていいことじゃなかったね。でも私……やっぱりリザちゃんにはあの王様と一緒にいてほしくないよ……」

王都脱出の際や、カイコガに襲われた時に感じたリザの優しさで、唯は十輝星のリザを敵とは思えないでいた。
連絡先は交換したが、挨拶をしても世間話をしてもリザから返事が返ってきたことはない。
ルミナスでの友達……ヒカリの足を切り落としたのもスピカのリザだと鏡花は言っていた。

だがそれでも唯は、リザをこのまま放置することなどできなかった。」

395名無しさん:2019/01/11(金) 22:41:56 ID:???
(……ザシュッ!!)
「くっ……!!」
洞窟中に張り巡らされた不可視の糸に、少しずつ斬り刻まれていくアリサ。
薄暗く、遮蔽物が多く、糸を張る場所にも事欠かない洞窟内は、『糸』を使うロゼッタにとって圧倒的有利なフィールドだった。

「貴女には……緩慢な死を与えてあげる。手足を一本ずつ、斬り落として……仲間を一人ずつ、八つ裂きにして……
私の気が済むまで嬲りつくすまで……殺してあげない」
ロゼッタの冷たい声が洞窟内に反響する。どこか物陰に潜んでいるのか、アリサからはロゼッタの姿は視認できない。

「随分と嫌われたものですわね。ですが……」
(ガキン!!……ズバッ!!……)
「!!……う、ぐ……わたくしはまだ、倒されるわけには行きませんわ……!」
(……宣言通り、手足を斬り落としに来ていますわね。ですが……来るとわかっていれば、何とか対応できる)
見えない敵の見えない攻撃に、一方的に斬り刻まれる。
しかしアリサは、風を切る音や風圧、そして身を刺すような殺気を感じ取り、致命的な一撃だけは辛うじてかわし続ける。

「…………無駄な足掻きを。ならば、これで……」
「それに……たとえ貴女がわたくし達を殺しても、どうせ何度でも『生き返る』。
……どう転んでも、貴女の気が収まるとは思えませんわ。
本当にわたくしを殺したいなら……まず『あの男』を倒して、能力を封じる必要があるのではなくて?」
「……!!」
(ブオンッ!!………ザシュッ!!)
「……う、ぐっ!!」
足元からの一撃で、左太ももを裂かれる。白いドレスが血に染まり、アリサの身体が少しふらつく。

「黙りなさい。……殺しても生き返るならば、貴女達が絶望するまで、何度でも殺し続けるまで!」
「……いいえ。例え何度殺されようと……それ以上のひどい目に遭わされようと、わたくし達はもう諦めない。
貴女達を……いいえ。あの男……トーメント王を、必ず止めて見せる!」
(ビュッッ!!………スパッ!)
前方から飛来する糸を斬り払い、攻撃を防ぐ。
仲間との出会い、そしてこれまでの戦いの旅は、アリサの心に確かな信念を植え付けていた。

そして、力のみを信奉していたミツルギの皇帝、テンジョウの心の変化を見て……確信を得た。
この世界の人々は、ただ殺し合うだけの鬼畜リョナラーなどではない。
少しずつの歩みでも、諦めずに歩み続ければこの世界を変えていく事ができるはずだと。

「黙れぇえええッッッ!!」
(ビュオオオッ!!………!!)
「殺気が……丸見えですわ!リヒトクーゲル!!」
「なっ……ん、あぅぅっ!?」
飛んで来る糸を斬り裂きながら、アリサが放った光弾は、身を隠していたロゼッタの姿を、確実に捉えていた。

396名無しさん:2019/01/12(土) 00:00:07 ID:X.ALiKRc
「……はぁっ……はぁっ……ここに、いましたのね……」
全身傷だらけになりながらも、ついにロゼッタの居場所を探し当てたアリサ。
彩芽や瑠奈たちといた場所からは、かなり遠くまで移動していた。

「……王を止める事など……出来るはずがない。お前は……あの人の真の恐ろしさを、まだ知らない」
一方のロゼッタは、光弾を受けて大きく破れたドレスの胸元を、片手で押さえている。
アリサに比べれば遥かに軽傷ではあるが、流石にこの距離での接近戦では分が悪い。

「……貴女は、それを知っているかのような口ぶりですわね。
私達や、アルフレッドや……それに他の国の人達が手を組んだとしても……それすら凌駕する力を、あの男は持っていると?」
「……………。」

「……例えそうだとしても、わたくし達の考えは変わりませんわ。貴女だって、わかっているでしょう。
そもそも、貴女のお姉さまを殺した実行犯である、母様……ソフィア・アングレームも、トーメント王の配下だった。
彼こそが元凶、と言って良い。復讐を肯定するわけではありませんが……貴女は、戦う相手を間違えているのではなくて?」
「黙れっ………黙れ黙れ黙れ!!」
(スパッ!!……ザンッ!!)
「無駄ですっ……貴女の糸は、既に見切りましたわ」
力任せに無数の糸を繰り出すロゼッタ。その斬撃を最小限の動きでかわし、糸を斬り落とすアリサ。

「……関係、ない……私の世界は、姉様だけだった……だから、姉様を殺したソフィア・アングレームを……
奴を横取りした、アルフレッドを……アングレーム家の人間すべてを……!!」
(確実に急所を狙う、精密な攻撃。強力で、純粋な力。でもその本性は……まるで、子供のように純真。
……まるで、最近会った誰かさんのようですわね)
何度も攻撃を受けている内に、アリサはロゼッタの攻め手を把握しつつあった。

「……わたくしを恨んで気が済むのなら、いくらでもそうするといい。
でも……心に迷いを抱いている貴女に、わたくしを斬る事など……!!」

アリサの感覚は研ぎ澄まされ、ロゼッタの指の動き、糸の動き、息遣いまでもが手に取るように分かった。
だが、そのせいで………

(ギュルルルルッ……!!)
「えっ……!?」
死角から飛んできた『糸』に、アリサは気付く事が出来なかった。
それは剣を持つ右腕に巻き付き、アリサの動きを封じ………

(……ザシュッ!!)
「う、ぐああああああぁっ!!」
無防備になった所へ、ロゼッタの糸の斬撃が直撃する。
鮮血を噴き上げながら、アリサの右腕は斬り落とされ……

(!?……今のは……私の、『運命の糸』じゃ、ない。一体……)
攻撃が命中したにもかかわらず、ロゼッタは呆然とした。
……想定外の、第三者の介入。だが、一体誰が……?

「ふふふふ……あたしってば、ツイてるわぁ。おいしそうなかわいい餌が2人も、仲良くケンカしてるなんて……」

【ブラッディ・ウィドー】
戦闘力:雄:C〜B、雌:A
ミツルギ原産の蜘蛛の魔物。
雄は2mほどの巨大な蜘蛛。雌は蜘蛛の下半身と人間の女性のような上半身を持つ。
洞窟などに棲み、強靭な意図で獲物を捕らえる。
獲物を生きたまま捕らえて体液を啜るため、殺さずに動きを止める強力な麻痺毒を持っており、
その毒は暗殺者などに好んで利用されている。
なお、繁殖期には、雌が人間の胎内に産卵管を挿入して大量の卵を産んだ後、雄が集団でその卵に精子を放出するという。


「あれは……魔物………?」
誰であれ、横やりを入れられた事は許せない。新たな敵に、糸を繰り出そうとしたロゼッタだが……

(どくん………!)
「………薬切れ……」
はるか昔、魔物によって調教された身体が疼き出し始めた。その症状を抑える薬も、手元には無い。

(からだ……あつい………まも、の……っ……今は……考えるなっ……!)
ロゼッタの脳裏を、過去の記憶がよぎった。
姉ヴィオラを殺された後、糸の力を手に入れる前。
リョナ対象として王に蘇生され、地下闘技場で魔物達と戦わされた日々の記憶が……

397名無しさん:2019/01/12(土) 20:57:29 ID:???
「新年の挨拶を兼ねた集会……?デジタル化が進んで年賀状すらない、このナルビア王国で?そもそも時期がずれてないですか?」

「そう……なーんか匂うよな……つーかリンネ、お前大丈夫か?なまじ元の顔が良いだけに、やつれると余計に怖いぞ」

「ふん……せめて服くらいちゃんとしろ。ボクチンの見立てでは、今回の集会はヒルダの『完成』についてと見るね」

シックス・デイの男3人は、リンネの部屋で集まって話し込んでいた。議題はもちろん、突然のシックス・デイ召集についてである。

女性陣はここの所彼女らだけで集まって何やら話し込んでいるので、ダイとマーティンが引きこもっているリンネを集会に呼びに来たのである。

「り、リンネの服ってこの黒色のドレスだよな……最近男の娘というよりは女の子と見紛う美少年って感じのキャラになってたけど、こう見るとガチで女子部屋にしか見えないな……」

「マーティン……『完成』なんて、ヒルダを物みたいに言うな」

「チッ……途中から引きこもって、薬物投与すらサボってたリンネ君は、流石に言うことが違うな」

「リンネ、着替えさせるぞ?ビジュアル的に犯罪にしか見えないけど、男同士だから問題ないよな?な?」

「……ボクがいない間、ヒルダをどうした?」

「さぁ、フェーズ3以降の1000号強化計画は総帥とその補佐官が自らやってるからな……情報漏洩を恐れたんだろうさ、どこにこないだのリゲルみたいなスパイが潜んでるか分かりやしない」

「……どちらにせよボクは、ヒルダの近くにはいてやれなかったってことか」

「ほらリンネ、腕上げろ……あれ、ドレスってどうやって着せればいいんだ?童貞を殺す服(服の構造が分からなくて恥をかく方の意味)状態なんだけど」

「「ちょっと黙っててくれないかなぁ!?」」

せっかくシリアスな雰囲気を醸し出しても、水バカ日誌ことダイがアホなこと言ってるせいでイマイチ締まらない。険悪な空気になりきれなかったマーティンとダイは、ため息をついて矛を納める。どちらにせよ、今は喧嘩してもしょうがないのだ。

リンネを着替えさせることを諦めたダイはドレスをその辺に放ると、急に真面目くさった顔をしてリンネに話しかけてきた。

「それはそうとリンネ、お前最近アリスとエリスに会ったか?何か変わったこととかあったか?」

「……?どうでもいいでしょう、そんなこと……」

「……まぁ今一番様子がおかしいのはリンネだし、多分大丈夫か……総帥も考えがあるみたいだし」

ブツブツと何かを呟いた後、ダイは一転してあっけらかんとした態度でリンネの肩を叩く。

「とにかくリンネ、流石に招集には応じろ。思う所があるのは分かるが……」

「ふん、その情けない姿をレイナに見られて幻滅されればいいさ」

「……そうだね……本当にヒルダのことに関する召集だとしたら、出席してヒルダに愛想を尽かされるのがボクにはお似合いだね」

「あちゃー、こりゃ重症だな……とにかく、ちゃんと来いよ!」

バタバタと慌ただしく去っていくダイとマーティン。それを見届けたリンネは、モゾモゾと着替え始める。

(こんな姿……サキさんに見られたら、相当酷いこと言われそうだな……)

398名無しさん:2019/01/12(土) 20:59:02 ID:???
「……揃ったようだな、シックス・デイの諸君よ……少々遅れたが、新年の挨拶を兼ねた会議を開こうと思う」

オメガ・ネットの会議室では、シックス・デイの6人と総帥レオナルドが勢揃いしていた。

リンネは一応服を着替えて見た目は多少マシになったが、それでも憔悴しきった様子を隠し切れていない。彼はあんなことがあったにもかかわらず、あまり気にした様子を見せていないアリスに多少の違和感を覚えたが……自棄になっていることもあり、深く考えずに席についている。

またダイは会議室に入ってきたレイナの方をずっとガン見しており、マーティンが「まさかDもレイナを狙ってるんじゃ……」と爪を噛むという、中々混沌とした様相ではあった。

だがそれを気にかけた様子もない総帥は、粛々と会議を進める。

「どこにスパイが潜んでいるか分からぬ故伏せていたが……1000号、ヒルダの調整が完了した」

その言葉を聞いてリンネがピクンと反応したが、それ以外の面々は予め予想していたこともあり、大きな反応を見せていない。

「思ってたより早かったな……ボクチンが主導してたのはフェーズ3までだけど、もう少しかかると思ってたよ」

「なに、創意工夫を凝らしたまでのことだ……我らがナルビアが世界の覇権を握る為に、多少の犠牲はやむを得ない」

「……多少の犠牲……?」

ヒルダを『犠牲』呼ばわりされたと感じたリンネは唇を強く噛む。だが、この時総帥の言った『犠牲』とは……ヒルダのことではなかった。

「フフフ……我らがナルビア?」
「ちょーウケるね!今からナルビアは、あの方のものになるのに!」
「……アリス!レイナ!行くぞ!!狙うはレオナルドの首級のみ!!」


今正に会議が始まろうとした瞬間……レイナ、エリス、アリスの3人が突然各々の武器を取り出し、総帥へ向けて駆け出した!

「ひ、ひぃいいい!?ちょ、お前ら正気か!?どうしたんだよぉ!!」

「レイナさん、エリス……それに、アリス……」

マーティンは完全に腰を抜かして怯えており、リンネは事態を飲み込んだが、どうすることもできずにいた。

「おいおい……3人ともかよ?思ってたよりマズイぜ」

ある程度は事態を想定していたダイも、流石にこれには驚く。マーティンとリンネは戦闘向きではない為、この状況でまともに戦えるのはダイだけだ。

周囲に魔法で水を展開し、一応ながら総帥を守ろうとするダイ。しかし……


「ダイ、下がれ……『実戦テスト』の邪魔だ」


総帥がパチンと指を鳴らした瞬間……会議室の扉が勢いよく開き、白い影が飛び込んできた。

399名無しさん:2019/01/13(日) 02:14:30 ID:jNdl4yvg
「岩砕鉄断波アアアァ!!!」

「「キャーーーーーーーーー!!!」

洞窟内に響き渡る地割れでも起きたかのような凄まじい轟音と、2人の少女の高い悲鳴。
アイナとエミリアは自分たちが覚醒させてしまった竜殺しから、息を切らして逃げ回っていた。

「やばいですわやばいですわやばいねすわーっ!アレの持続時間は約10分!その間はなんとしても逃げ続けないと……!」

「ふぅっ、はぁっ、はぁっ……あ、あんなのを私に食べさせようとするなんて、酷いよアイナちゃん……!」

「あ!ていうかこんな馬鹿正直に頑張って逃げなくてもいいんですわ!アイナは消えればいいのですからぁ〜。それっ!」

「えーっ!?1人だけずるいよアイナちゃああん!!!」

強化ステルスを起動させ、ダンの記憶からも消えるアイナ。エミリアは例の装置でアイナを忘れることはないが、1人でこの状況をなんとかできる妙案があるわけでもない。

「安心してほしいですわエミリアちゃん!少しあいつの気を引いてくだされば、今度こそカルピス味のねるねるねるねをドンの奴にぶちまけてやりますわ!」

「えぇ……!もう、頼んだよ!なんとか魔法で引きつけてみる!」



竜殺し相手に1人で相対するのはもちろん怖いが、アイナのためにやむなく陽動を引き受けるエミリア。
すぐ後ろの轟音に振り返ると、どこから調達したのか、片手に岩の塊を棒状にした武器を持つダンが立っていた。

(も、もう正面には逃げ場がない……!やるしかない!)

「バーンストライク!!!」

とっさに中級魔法を発動させるエミリア。ダンの元に燃え盛る高熱の炎が雨となって降り注ぐ。

「……ヴ、ガア゛っ!」

「え!?打ち返し、て……?きゃああああああああ!!!」

自身にに放たれた炎弾を、バッターのごとく魔力を帯びた岩の棒でかっとばすダン。
辛くもエミリアは走って回避するが、そんな彼女に息もつかせず二度、三度目が襲いかかる!

ドカン!ドカン!ドカーン!
「うわわわわわ!待って待っていやぁっ!う、ウォーターシールドッ!!」

バシュン!ブクブクブクブク……

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

なんとか水の壁で最後の炎を防ぐことができたエミリア。だが彼女に休む間は与えられない。

「ガアアアアアァ!!!天地破壊拳ンンンン!!!」

「うわあああああぁっ!!!ぷぷ、プロテクトシールドオオオオォっ!!!」

つい相手の勢いに任せて自分も語気が強くなってしまうエミリア。
とはいえ防御魔法は発動し、嵐をも防ぐ魔力の壁が岩をも砕く右ストレートを受け止める。

(つ、強い……!でも、これくらいならなんとか耐えられるっ……!)

「グ、グ……ヴオオオオ!!!」

そう彼女が思ったのもつかの間、ダンがより一層勢いをつけると、拳に宿る魔力が巨大な猛獣になっていく!

(う、嘘……!今でさえかなりキツイのに、こんなの打ち込まれたら……!



「グ……ガアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!」

ピシィ!パリパリパリパリ……!
ダンのフルパワーパンチにエミリアのバリアが嫌な音を立て始める。

「うぐっ……!あ、アイナちゃん……早くぅ……!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

狂戦士となってしまった以上、ダンに手加減という理性的なことはできない。
魔力の壁を突破できないのなら、自分の体を省みず出力を上げて砕くのみ。
たとえその中にいるのが、16歳の美少女であったとしても。

バキッ!バキバキッ!!ピキピキイィ!!!

「あ、だ……だめっ……!も、もうだめぇーーーーーッ!!!アイナちゃん!!わたしもう限界いぃ!!!早く助けてえええええええーーー!!!」

あと数秒で砕け散る魔法壁の中で、涙声で助けを乞うエミリア。
ダンの動きを止めるのなら、こちらに集中している今しかない。このタイミングであの白いネバネバで拘束してくれればと、エミリアは思っていたが……



「うぅん……洞窟が崩れて進めなくなってしまいましたわ。エミリアちゃん、無事だといいのだけれど……」



いつのまにか状況は、勝手に絶望的になっていた。

400名無しさん:2019/01/13(日) 03:45:37 ID:???
「きゃっ!?」
「あぐっ!」
「ぐあっ!」

レオナルドに襲いかかった3人は、突如凄まじいスピードで現れた白い影に吹き飛ばされた。

「こ、今度はなんだぁ!?」

慌ててダイの水魔法の中に入ってはいるが、事態をさっぱり飲み込めないマーティンの声が上ずっている。
そんな中、リンネは自席で立ち上がったまま動けずにいた。

「ヒルダ……?ヒルダなのか……?」

「…………………………」

現れた少女に問いかけるリンネ。だが明らかにヒルダとは身長が違っている。
リンネと同じくらいの身長で、白髪に白を基調とした軍服の小女は、レオナルドを守るように立っていた。

「もうその名で呼ぶのも終わりだ、リンネ。これは私たちが作り上げた最高傑作の化学兵器と、ナルビアの英雄たちの細胞を組み合わせて作り出されたクローン兵士……その真の名前は、メサイア。」

「……メサイア……?」

「ふん、救世主ってか……そんなら、うちのかわい娘ちゃんたちも助けてやれんのかな?」

「それをこれからテストするのだ。メサイア、3人を無力化しろ。」

「……了解。敵対反応を無力化します。」



ヒルダだった少女……メサイアがそう言いスッと手を伸ばすと、指先から魔力が放たれる。
目にも留まらぬスピードで放たれたその魔力の光線は、3人を捉えると瞬時に体を覆いつくした。

「な、なんだ、これはっ!?ぐ、……ぁ……!」

「エ、エリス!?う、ぐぁ……!?」

「え?ふ、2人とも固まって……!あ……ぐ……!」

意識はあるが全く動けないという未知の感覚で拘束され、3人は苦悶の表情を浮かべたまま固まった。

「ククク……拘束した対象の電気信号を麻痺させるゼロエネルギー。この力で拘束された者は体を動かすことはおろか、声を発することもできん。いかなる強者もこれの前では無力……」

「ば、馬鹿な……!構想はあっても机上の空論だとされた戦闘用技術が、じ、実装されたっていうのか……!」

信じられないといった様子でマーティンが呟いた。シリアスっぽくしゃべってはいるが、目線はエロい顔のまま拘束されて動けないレイナに釘付けである。

「ひゅー……美少女3人がぎゅっと目を瞑って拘束されてるのを、こうしてじっくりと眺めてられるのは最高だねえ。」

「驚くのはまだ早いぞ。この状態で拘束したまま、対象を自由自在に動かすこともできる。……メサイア、叩きつけろ。」

「了解。」

メサイアは3人を拘束したまま宙に浮かせた後、指をぐっと左に動かしてみせる。
すると、拘束された3人も左に勢いよく動かされ……

ブチン!
「ぐあっ!!!」
「ぎうっ!?」
「あぐっ!?いっ……たぁ……!」

壁に叩きつけられる寸前で拘束を切られ、悲鳴を上げた。

ビシュン!!!
「ぐうっ!?またっ……!」
「あっ……いやっ……!」
「ちょ、これ……!むり……」

間髪入れず、メサイアはビームを照射し再度3人を拘束する。

「痛覚も遮断されるので、攻撃が当たる直前に切れば痛みを与えることができる。その後、こうしてすぐ繋ぎ直せばいいだけだ。」

「おお……じゃあス◯ブラのポーズ機能のごとく、壁に叩きつけられた瞬間で繋げば、そのままのポーズで堪能できるってわけか……」

感嘆した様子のダイ。だが何を堪能するのかは、誰も聞かなかった。

「ククク……これがナルビアの科学が生み出した、最高傑作の化学兵器。ではこれから、シックスデイの英雄を相手にメサイアの純粋な力をご覧に入れよう……!」

401名無しさん:2019/01/13(日) 13:29:06 ID:???
「メサイア、ゼロエネルギーのテストは終わりだ。この部屋は今、ナルビア中央高官のお歴々もモニターしている。さぁ……お前の力を見せてやれ。」

「……了解。ゼロエネルギー解除。ブラストブレードを使用します。」

バチッ、バチバチッ……!

「これは……雷……?」

メサイアが手をかざすと、激しい雷の魔力が周囲に溢れ出す。
その稲妻が収束するメサイアの手元には、巨大な大剣が握られていた。

「おお!ヒルダは大剣使いなのか!」

「雷魔剣ブラストブレード……メサイアの魔力が作り出した、この世に2つとない魔大剣だ。」

華奢な少女には似つかわしくない巨大な大剣を、メサイアは流麗な動作で構える。
ゼロエネルギーを解除されたことにより、動けずにいたエリス、アリス、レイナの3人は立ち上がることができた。



「くそっ……負けるわけにはいかない!来い!テンペストカルネージ!」

エリスが暴風を呼ぶ槍を召喚した瞬間、メサイアは雷を纏いながら目にも留まらぬスピードで走り出す。
会議室はいつのまにか、嵐と雷が吹き荒れる地獄のような光景と化した。

「ぐっ!」

稲光の如く神速で距離を詰めたメサイアの一閃を、辛くも槍でガードするエリス。

「なんてスピードっ……!蒼式・奪歌氷殺!!」

「エリスちゃん、すぐ助けるよ!ブーメランイーグルー!」

ガードしているため動けないエリスに代わり、反撃を試みるアリスとレイナ。
2人が放った攻撃は確実にメサイアへと向けられていたが──

ゴロゴロ……ピシャン!!!

「な……!?」

「嘘でしょっ……!雷で、無効化された……?」

「ククク……メサイアの雷は自由自在。予備動作なくどこへでも瞬時に落とすことができる。攻撃も防御も自由自在だ。」

「ぐ……ぐあああああああああっ!!!」

レオナルドが解説を終える頃には、エリスのガードは崩されていた。
魔大剣の圧倒的な一撃と追撃の雷でエリスは吹き飛ばされ、壁に激突し……そのまま動かなくなった。

「……うそ……エリスちゃんが、こんな簡単に……」

「エリス!?エリスッ!!……いや……そんな……」

この3人の中では恐らく1番の実力者であり、ナルビアの神風と謳われたエリスがいとも容易くやられてしまった。
倒れたエリスの体から流れる血だまりを見たアリスは膝をつき、レイナは呆然と立ち尽くしている。
その2人の様子を見て、レオナルドは不敵な笑みを浮かべた。



「メサイア、残りはアレで片付けろ。」

「……了解。魔導出力を50パーセントに上昇。ミュートロギアヴォルト、レディ。」

メサイアが眉ひとつ動かさずに両腕を前に掲げると、それまでとは違う黒い稲妻が収束を始めてゆく。

「……あ……ぁ……」

「あ、アリスちゃん……いつもみたいに、的確な指示出してよ……やばいって、これ……」

その圧倒的な魔力の前に、アリスもレイナも反撃を試みる気力が起こらなかった。

「ゼロエネルギーはメサイアの圧倒的な力を補佐する役割に過ぎない。雷魔剣ブラストブレードと全てを制する圧倒的な神の雷……これこそがメサイアの真の力だ。」

「……発射。」

バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁっ!!!」
「やあああああああああああああん!!!」


メサイアの言葉とともに黒い稲妻が少女たちの体を容赦なく貫き、アリスとレイナの絶叫が会議室に響き渡った。

402名無しさん:2019/01/14(月) 02:06:14 ID:???
「う、ぐっ……!!」

司教アイリスは突然走った痛みに、胸を抑えて呻いた。一瞬で奴隷たちがやられたことにより、術者にもダメージが行ったのである。

「……まさか、ヒルダちょんがあんなに強いなんて……誤算だったわぁ……!」

シックス・デイのアリス、エリス、レイナを洗脳してレズ奴隷にし、総帥を暗殺して自分がナルビアのトップに成り代わろうとしていたアイリス。だが、部外者故にナルビアの最終兵器であるヒルダのことは詳しく知らなかった。

いや、話自体は洗脳していた者たちから聞いていたのだが、シーヴァリアでのヒルダを知っているアイリスは、あの臆病なヒルダがまさかそこまで強くはならないだろう……という油断をしてしまったのだ。

「……ここに機械兵が押し寄せてくるのも時間の問題かしら?」

アイリスの術を解析し、ヒルダの投薬に自分の癒しの術を合わせて急ピッチで仕上げるという狙い……アイリスはそれ自体は知らないが、何らかの意図で自分が泳がされていたということは流石に勘付いている。


「おらぁアイリス・リコルティア!!」
「私たち、地獄の絶壁Zが貴女を!」
「……捕縛する」


丁度その時、アイリスの軟禁されていた家に、地獄の絶壁Zが踏み込んできた。


「あら、可愛いお人形さんたち……残念だけど、今は貴女たちの相手をしている暇はないのよね」

「何ふざけたこと言ってやがる!」
「いくよ、みんな!私たちの必殺コンビネーション!」
「……滅殺!」

(無印時代にワルトゥに呆気なく敗れた)コンビネーション技をアイリスに放つ地獄の絶壁Z。
それを見たアイリスは、武器もないというのに不敵に笑った。

「もしもの時の為に、保険をかけておいて良かったわ……スレーブトラベル!」

突然、アイリスの体を眩い光が包んだと思えば……彼女は跡形もなく消え去っていた。

「き、消えた……!?エミルさんに連絡を!」

★ ★ ★


「ふぅ……ありがとう舞ちゃん、助かったわ」

「……う……ぁ……」

アイリスの使ったスレーブトラベル……それは自らの奴隷に仕込んだ刻印を指標に、長距離テレポートを行う、莫大な魔力を必要とする邪術である。

しかもテレポート先の奴隷が、自らの血で魔方陣を描かなければ術は発動しない。はっきり言って燃費の悪すぎる術だ。

舞はナイフで自らの腕から大量の血を流して作った魔方陣の上で、ぐったりと倒れていた。貧血のせいか、その顔色は蒼白だ。

「うーん、中々上手くいかないわねぇ……またしばらくは潜伏生活かしら。それともこのまま舞ちゃんを邪術師ちゃんの所に送ってトーメントで一旗上げるか……悩み所ねぇ」

「……サ……キ……さ……ま……」

「んふふ♥️とりあえずは、貴女を治してあげるわね、舞ちゃん♥️」



★ ★ ★

「なるほど、そんなことが……」

『そろそろナルビアにいた異世界人のフリするのもムリポなんで、一旦帰っていい?つーかここしばらく真面目に働き過ぎてワークショップだわ』

「……ひょっとして、ワーカホリックですか?」


今までちょくちょく示唆されてた、ナルビアに潜伏しているリリスの部下……それは実は異世界人、名栗間 胡桃であることで有名な、ぐーたら三姉妹のノーチェ・カスターニャであった。

『なんかダルいことになりそうな予感だな』

「……戦争は近いです。ノーチェさんもシーヴァリアに帰還してください」

『りょ』

ノーチェとの通話を切ったリリスは、わいわいとスマブラで遊ぶ面々(リリス自身は最初に残機がなくなった)を見ながら、両親の仇のことを思い出す。

「……近いうちに、貴女とは改めて決着をつけることになりそうですね……司教アイリス」

403名無しさん:2019/01/14(月) 02:19:54 ID:???
「素晴らしい!これが覚醒したメサイアの真の力か!」
「いやぁ見させてもらったよ!あのシックスデイをこうも圧倒とは……!」
「これだけの力があれば、トーメントやその他の国を圧倒できるな……!早速量産体制に取り掛かろう。」

風と雷が止んだ会議室に、身なりのいい男たちがずかすかと入ってきた。
彼らは先程レオナルドが言っていた、ナルビア中央高官のお歴々の面々である。

「正直、拍子抜けでしたがね。今のシックスデイが弛んでいるのか、メサイアが圧倒的すぎたのか……後者であってほしいものです。ゼロエネルギーについては現時点では量産は難しいのですが、ゆくゆくは……」

倒したシックスデイを尻目に集まった男たちにレオナルドが説明を始める。
誰も彼女たちの安否を気遣うものはなく、皆レオナルドの話に目を輝かせていた。



「……れ、レイナっ……!」

思い出したかのようにマーティンがレイナに走り寄り、脈を確かめる。

「……まだ、生きてる……!ダイ、リンネ、手を貸してくれ。裏切り者であろうと……死なせたくはない。」

「あいあい。悪いことした子達にはお仕置きが必要とはいえ、ちょっとこれはやりすぎだよなァ……」

(それに、操られてる状態だとコンビネーションもなにもなかったしな。でも、今のこいつらからは嫌な気配を感じない。……あの雷で正気に戻ってくれてればいいんだが……)

本来ならばこの3人のチームワークでもう少し善戦できたのであろうが、正気でない状態では難しいのだろう。
双子2人をダイが持ち、レイナをマーティンが背に抱えた。

「……あり……がと……マーティン、くん……」
「……ふ、ふん。暴れるなよ……!それと、後でちゃんと話聞かせろよっ……」

耳元で囁かれて本当は心臓が破裂しそうだったが、マーティンは自分の脛をつねって正気を取り戻した。



「……ヒルダ……僕だよ。わかるかな?」

本当ならダイは双子のどちらかをリンネに持って欲しかったのだが、なんとなく雰囲気を察して2人担いでそのまま部屋を出ていった。

「……なんか、ちょっと見ない間にすごく大きくなったね……僕と同じくらいみたいだ。」

「……ヒルダ……それは前の人格のことですか?今の私はメサイア。軍事のために作られたクローンです。」

「……メサイア……か……」

無機質なトーンで語るメサイア。
その声もその顔もヒルダが成長したかのような姿で、リンネは少し胸が苦しくなった。

(……そうだよな……覚えてないよな……君に薬を打ち込むのが嫌になって、引きこもってた最悪の男のことなんか……)

404名無しさん:2019/01/14(月) 02:21:43 ID:???
「どうだリンネ。お前が育てたクローン1000号の力は。」

「……総帥……」

いつのまにか高官たちとの話を終えたレオナルドが、リンネに声をかけた。

「お前に任せて正解だった。ヒルダの人格は実に扱いやすかったぞ。薬物投与に耐える精神を育み、ここまで育てあげたのは間違いなく、お前の力だ。」

「……お褒めに預かり、光栄です……」

口ではそう言うが、全く嬉しいことなど1つもない。
この結果が変えられない運命だと知りつつも、リンネはヒルダを失ったという事実に打ちのめされていた。

「実験中、ヒルダにはいつも研究員から言って聞かせたんだ……この実験が終われば、元気になった体でリンネに会える、とな。」

「…………え?」

「リヴァイタライズの副作用は生半可なものではない。本人の体とは別にメンタルケアも必要なのだが……お前のおかげで全く苦労しなかった。」

「…………それっ……て……」

「お前に会いたいと暴れるヒルダにこう言ったんだよ……リンネが会いに来ないのは、あえてお前を突き放しているんだとな……実験が終わるまで甘えることができないように、ヒルダが痛みに負けず、自分の意思で体を治してもらうために来ないのだと。……会いたければこの実験が終わるまで耐えろとな。」

ガバッ!!!

気がつくと、リンネはレオナルドの胸ぐらを掴んでいた。

「フフ……どうした?言いたいことがあるなら言ってみろ。」

「……じゃあ、ヒルダは……!僕に会いたい一心で薬物投与を1人で受け続けて……あんな身を削るような痛みに毎日毎日耐えていたっていうのか……?」

「リンネ……私に当たるのはお門違いだ。お前がヒルダに会いに来なかったのは事実だろう?……まあ、そのおかげでヒルダも前向きになっていた。……早く実験を終わらせて、リンネと月花庭園に行きたいとな。」

「……ッ!!!」

月花庭園の名を聞いた途端、リンネの頭にヒルダの姿が浮かんだ。



「……うん。わたし、がまんする。いっぱいいたいのいやだけど……びょうきがなおるなら、もっといっぱいいっぱいがんばるっ!」

「トーメントにある、げっかていえん!おはながいっぱいで、よるになるとすっごくきれいなばしょなの。」

「……だからね、わたしのびょうきがなおったら……リンネ、つれていってくれる?」



「……ぅああぁッ!!!」

フラッシュバックと同時に、リンネは思わず振りかぶった拳を……

「……く……そ……がぁ……!」

辛うじて残った理性で、ゆっくりと引っ込めた。



「……フン。お前の功績は認めている……だが今の反応を見る限り、やはり精神的には未熟のようだ。」

軍服を整えながら、レオナルドは何事もなかったかのように吐き捨てた。

「…………僕のメンタルを試したというのなら……今のは全て嘘なのですか。」

「いいや。全て事実だ。気になるなら研究室に映像があるから見るといい……心が壊れないなら、な。」

「…………………………」

「……いいか、第零師団師団長リンネ。お前はナルビアの軍人となるために生まれてきたクローンだ。クローンがクローンに特別な情を抱くな。……それがお前とヒルダのためでもあるのだ。……今回のことは不問とする。私たちに作られた頭で良く考えろ。」

「…………ぐすっ……うぅっ……」

部屋を出て行くレオナルド。この会議室にはリンネとメサイアの2人だけとなった。



「……うぅ……ああぁ゛っ……!ごめん……!ごめんよ、ヒルダ……!……僕が君の側に……僕が君の側にいてやらなきゃ……ダメだったのに……!」

「…………………………」

少女のような顔立ちに合わない男泣きをするリンネを、メサイアは無機質な目で見つめていた。

405>>391から:2019/01/14(月) 14:39:30 ID:???
「行け!アヤメカNo.32!回復ミツバチ!」

体力が回復しそうな緑色の蜜を溜め込んだ虫型ロボット……モン○ンワールドに出てきた回復ミツムシのパクリが瑠奈の元へ飛んでいく。

「ちょっ!?なんでよりによって虫型なのよ!?」
「久しぶりにモンハン起動したらつい……大丈夫だ、そいつはあくまでも虫っぽいだけのロボットだ!」
「ああもう……!回復効果はガチだから文句言いにくいわね!」

瑠奈の元へ到着した回復ミツバチが緑色の蜜を破裂させると、瑠奈の体力は一気に回復した。これで再びアイベルトと戦える。

「さらにNo.36!わらわらソルジャーズ!」

自動で敵と戦ってくれる玩具の兵隊を送り出す彩芽。

「ちっ、あいつのメカには前に一度痛い目に遭わされたからな……っと!」
「ちょ、その体勢から避けれるの!?」

スパイクナックルの代わりに取り出した剣の腹の部分で兵隊を凪ぎ払うアイベルト。瑠奈はアイベルトが剣を振り切った一瞬の隙を突いて素早い拳を打ち込むが、紙一重で回避される。
渾身の一撃を回避された瑠奈は無理してやりあわずにバックステップで距離を取り、再びアイベルトが玩具の兵隊との戦いで隙を晒すのを待つ。

「ふん!まともにやりあうのも馬鹿らしいし、こうやってじわじわと追い詰めてやるわ!」
「いやだから台詞が悪役っぽい……いや、でもあいつクソ強いし、チクチク戦法が正解か……」

アヤメカによる回復と戦闘補助を受けた瑠奈の長期戦の構え。それに対しアイベルトは……



「俺様ほどの男になると……先に狙うべき相手が自然と分かるんだよな!シャドウサーヴァント!!」


玩具の兵隊を薙ぎ払いながら、隠れて思念詠唱をしていたアイベルト。数には数と言わんばかりに、分身を生み出す魔法を使う。

「くっ!?しま……!彩芽、逃げて!」
「無駄だっつーの!泣き喚いて俺様の姿をその目に刻め!そして未来永劫、俺様の勇名を語り継げぇえ!!」

瑠奈と玩具の兵隊の相手を分身に任せ、一気に彩芽の元へ向かうアイベルト。
瑠奈も追おうとするが、分身2体に阻まれて救援に行けない。

「ちょ、マジでか!?こんな時は、アヤメカNo.64!たるたるジェットパックで逃げる!ウホホーウ!」

「逃がすかぁ!ダークストレージ・オープン!」

空を飛んで逃げようとする彩芽に対し、アイベルトがダークストレージから取り出したのは……巨大な手斧であった。

「くたばれぇえ!!」

「うおわぁ!?」

必死に身を捩って手斧の投擲を避ける彩芽だが、ジェットパックに斧が当たって故障してしまう。

「し、しまっ……うわあああぁあああ!?あぐぅう!!」

故障して暴走したジェットパックが、彩芽の体を岩壁に強かに打ち付ける。その後、重力に従って落下してくる彩芽の体をキャッチしたアイベルト。
アイベルトはそのまま……彩芽の顔面を思いっきり岩壁に叩きつけた!!

「は、俺様ほどの男になると、自然すら武器にできるんだよ!オラオラオラァ!!」
「ぐぅうう゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!ぶ、ぎ……!ご、ぉお……!」

眼鏡をかけている相手……いや、それ以前に女の子の顔を傷つけるような行為を平然と行うアイベルト。恐るべし『クレイジーサディスティックキャンディ(天丼風)』!

406名無しさん:2019/01/15(火) 02:16:22 ID:???
「滅殺斬魔!」

「当たらねえよっと!」

瞬時にトーメント王の元へシフトして大技を繰り出すミスト。
だが王はバトルスーツに備わっていふ職種で、見事に剣を掴んだ。

「く、くそっ……うあっ!?」

「ほほーん、DよりのCってとこか……なかなかいいおっぱいしてるじゃないか。でもたまに男の顔とか男の声になるのはマジでキモいなぁ。」

「やめろっ!離せっ……くっ!」

戦闘で鎧が壊された胸部を鷲掴みにされ、ミストはすかさずシフトで後退した。

「なんだよなんだよ、もう少し触らせてくれてもいいじゃんか。リザなんか触るとすぐはたいてくるし……姉妹揃ってケチだなぁ。」

「貴様……!」

「いやいや、そんな強がってるけどさぁミストちゃん……俺様の触手でもう鎧がいい感じにボッロボロだよ?鏡で見てごらん?俺様の鎧破壊アートに酔いな……」

「……ふざけるなっ!お前は……!お前だけは、たとえ刺し違えてでも絶対に殺す!!!」

トーメントが雇った盗賊たちに家族を奪われ、妹を間接的に暗殺者へと変えた目の前の男を、許すわけにはいかない。
体の中のレオが、ボロボロになっても立ち上がる力をくれている気がした。

「はぁーあ。まったく逆恨みもいいところだ。別に俺様が直接なんかしたってわけじゃないのに。アウィナイトなんて虐げられてナンボのもんだし、リザはああ見えて人殺しになるサイコパス要素があったってことだろ?……もっと現実を見ろよ。駄々っ子ミストちゃん?」

「ぐ……!お前はああああああぁっ!」

シュン!シュン!シュン!
シフトを連続発動させ、予測のつかない動きで王への攻撃を仕掛けるミスト。

(怒りに身を任せての猪突猛進では負ける……!このまま私のペースにして、斬る!)



「だからさ……無駄なんだよ。」

ガシッ!
「あぅぅ!?」

出現場所を分散させていたにもかかわらず、現れる場所がわかっていたかのように王の触手の一本がミストを捉えた。

「そら、地面に激しくキスさせてやる!」

「ぶッ!!!ごっふぁぁッッ!!!」

シフトも間に合わない勢いで触手に投げられ、ミストは顔から地面に激突した。

「ケケケケ……おら、土でも食って頭を冷やせ。俺様が踏んでやるからよ……」

グリグリグリ……ガッ!

「ぁんぐぅッ……!げぼっ!?」

頭を打った衝撃でふらついているミストに、容赦なく踏みつけで制裁を加えるトーメント王。
痛みに耐える少女の悲鳴に、王の下半身が熱くなってきていた。



「なぁ……リザはお前と違って利口だぜ?トーメントの十輝星として仕事をする見返りに、アウィナイトをちゃーんと守ってる。お前はあいつを止めようとしているが……保護地区にいるやつらはどう思うだろうな?」

「……か、関係……ない……!ぐっ……罪もない人を殺し続けるなら……私がリザを殺さないと……!」

「そんならあいつを殺してどうなる?アウィナイト人間牧場計画なんて出てる時勢だ。お前らみたいな美少女は孫の代……いや、ひ孫、玄孫、来孫、昆孫……未来永劫、男の性欲を満たすための肉便器一族だ。それでもいいのか?」



「……お前を……お前を殺せば……この世界は、すべて変わるっ……!」



取り戻した意識で、ミストはシフトを発動させ距離を取る。
顔を上げ敵を見据えると、トーメント王は今まで見た表情の中でも一番恐ろしい笑みを浮かべていた。

「俺様を殺す……?ぷっははははははハァ!運命の戦士でもないくせになにいってんだか!妹の爪の垢でも煎じて飲んどけ!この死に損ないが!」

ミストの目の前に、視界を埋め尽くすほどの触手が現れた。

407名無しさん:2019/01/17(木) 01:01:27 ID:???
じゅぶぶぶっ!!ずばっ!びちっ!!ばちゅん!!ぐちゅっ!!
「んぐっ!!……くっ……うぐ、あああああっ!!」

……触手。触手。触手。斬っても斬っても触手。逃げても逃げても逃げた先にまた触手。
無数の触手が、一斉にミストに群がった。

じゅぶぶぶっ!!ずばっ!びちっ!!ばちゅん!!ぐちゅっ!!
「んぐっ!!……くっ……うぐあっ!!」

斬って斬って斬り捨てて。それでも足りず、振り払って蹴り飛ばして千切り捨て、それでも足りず。

ベキ!ドス!!ズバッ!!ミチミチミチ……ぎりりりり!!
「あぐっ!!……んぅっ!………うっ………っが、ああああぁぁ!!」
叩きつけられる。鞭打たれる。絡みつかれ、捕らわれ、散々に嬲られ……
それでもなお飽き足りないのか、触手は濁流のごとく押し寄せる。

十や二十なら、斬り落とす事も出来たろう。
百や二百なら、なんとか躱せたかも知れない。

だが、その万を超える触手の海に、前後左右頭上足元と、全方位から呑み込まれては……
さしもの討魔忍五人衆最強の剣士「残影のシン」と言えど、長くはもたなかった。

ぬるっ………じゅぶぶぶぶぶぶぶ!!
「んっ……う、ぁ……おまえ、を……ころっ……ひぅっ……!!」
ミストの鎧の背面の亀裂から、ブラシ状の触手がぬるり入り込む。
首筋、背中、股下を潜り抜け、股間をブラッシングしながら、お臍と胸の谷間をこすり上げていく。

ぶぢゅるるるるるるるるるるっ!!
「……ひゃふ、ああああぁああああああぁぁぁんっ!!」
喉元まで達すると触手が一気に引き抜かれ、全身の敏感な箇所を一度に擦り嬲られる。
引き抜いては押し上げ、擦り抜いて、舐り上げる。何度も何度も……

「ケッケッケ……俺様を殺す?バ〜〜〜カ。お前みたいな美少女が、触手に勝てるわけねーだろ。
にしても、アウィナイト離れしたその力といい、時々混ざる男声と言い……どこのどいつだ?そんな悪趣味な改造したのは」
「はぁっ……はぁっ……ふざ、けるなぁっ……わたしと……レオの、からだ……めちゃくちゃにした、あの女科学者も……
トーメントの……てさき……おまえの、仲間……ひふっ!?きゃうううぅぅうぅうぅんっ!!」
「はぁ?女科学者?俺様の仲間…………あー、はいはい!アイツかぁ!なるほどねー!!」
ブラシ触手の全身責めに、ミストの言葉は遮られたが……トーメント王は、質問の答えに見当がついたようだ。

「……たく、困るんだよなー。アウィナイトってのは、未来永劫よわっちくて嬲られるだけの存在でなきゃいけないってのに。
ミシェルのやつ……調子に乗りすぎだ。お仕置きが必要だな………ヒッヒッヒ」
「?………どういう、意味だ……」
小声でつぶやくトーメント王。その声のトーンは、何故かいつになくガチだった。

「お前のような脇役には関係ない話だ……さて、そろそろ止めと行こうじゃないか……」
ぐちゅっ……どちゃ!
「ん、ぐっ……!」
地面に投げ出されたミストに、先端が槍のように鋭い触手が伸びた。
だがミストには既に、剣で応戦したりテレポートで逃げる余力は残っていない……
(やられる……!!)
正に絶体絶命、万事休す。無念さに歯噛みしながら目を閉じようとしたミストの視界を……

「はあああっ!!」
……何者かの影が遮った。
見ると、自分より少し年下、リザと同年代位の一人の少女が、槍触手を素手で受け止めている。

「逃げてくださいっ!リザちゃんと一緒に……早くっ!!」
栗色の髪、ブラウスにスカートと、とても戦士とは思えない普通の少女。
だが、その鬼気迫る声に弾かれるように、ミストは立ち上がり……言われるがまま、気が付いたら逃げていた。

「お姉ちゃん!?……待って……無茶よ、篠原唯っ……!」
言われるがまま……倒れたままのリザの身体を抱き上げ、無我夢中で走った。

408名無しさん:2019/01/17(木) 02:32:57 ID:???
「……おやぁ?誰かと思ったら、篠原唯ちゃんじゃァないか……クックック。ちょっと登場が早いんじゃないか?」
「いつ登場しようが、私の勝手だよ!これ以上、リザちゃんに……ううん。誰にも、ひどい事させない!」
ミスト達が逃げ去るのを横目で見送りつつ、唯は槍状の触手を押し返そうとする。

「ちっ。君ら『運命の戦士』は、『セーブ・ザ・クイーン』がある場所に着いてから『呼ぶ』つもりだったのに……全く困ったもんだ」

ぐちゅっ……ぬちゅっ……ずぶり!
「うっ………きゃっ……っぐ、あっ!!………」
だが。触手は唯の抵抗を意にも介さず、そのまま唯の胸に突き刺さる!

ぐちっ……ぶちぶちぶち……ぶしゅっ!!
「ひ、あ……ごぼっ……げぶ……お、っご……!!」
「ヒッヒッヒ……俺様は今、忙しいんだ。さっさとリザ達を追いかけて、始末しないとな」
魔法少女はスライムに弱く、女騎士はオークに犯され、変身ヒロインはサキュバスに負ける。そして美少女は、触手に勝てない。
そんな世界の法則を体現するかのように、唯は触手にあっさりと身体を貫かれ、息絶えた。

「ケッ!…アウィナイトの強化改造だと?……そんな事、やってもらっちゃ困るんだよ。
150年前の『俺様』に盾突いた『勇者の一族』なんざ、未来永劫、最弱最底辺でいるべきなんだ……」


……だが。

「はぁっ……はぁっ……行かせ、ないっ……!」
唯の死体が光と共に消え……トーメント王のすぐ目の前に、生き返った唯が再び現れる。

「はー!?……ったく。しつこいな、唯ちゃんは……」
王は全身の筋肉をパンプアップさせ、突進する唯を迎え撃つ。

「まぁ美少女にしつこく迫られるってのも、悪い気はしないが、な!!」
(……ドガアァッ!!)
「ぐっ……うあああああっ!!」
大地をも割り砕く拳が、唯の身体を豪快に押しつぶした。
まるでハエ叩きで潰された蝿のごとく、無様に地面に這いつくばる唯。
しかし、それでも……

「リザちゃん達は……いいえ。他の誰も……殺させ、ない……っぐ、……げぼっ……私が……止めてみせる……!」
背骨を砕き折られ、内臓をすり潰され……それでも唯は、トーメント王の脚に縋りついた。

「……ったく。今回の『運命の戦士』は、戦闘力こそ並だが本当に面倒くさいな……だが」
(ぎゅるるるるるる!!)
「……きゃっ………!?」
……殺しても殺しても立ち塞がる唯。その手足に、触手が十重二十重と巻き付いていく。

「ふん……何度殺されようと、身体を張って俺様を止めようってわけか。だが、殺される覚悟はできていても……」

ぎちっ……ぎゅるるる………ぎちぃぃぃっ!!
「きゃぅ………!?」
「……犯される覚悟はどうだ?……乳首も下着も全部を晒して、ネットで生中継されて……
どこまで耐えられるかなぁ?けっけっけ!!」

409名無しさん:2019/01/17(木) 18:54:25 ID:???
拘束されて身動きの取れない唯に、テカテカと妖しげに光る触手が迫る。

「ひっ……!?い、やぁ……!」

「ケケケ!すっかり責められ慣れした唯ちゃんも、こっち方面はまだまだ弱いねぇ!さぁさぁ、また生配信して、現実世界でもその様子を投稿してあげるよ!お母さんやお父さんに、犯されてる姿を見てもらおうねーー!!」

王は捕まえた現実世界の美少女がリョナられる映像を、現実世界のネットに流している。そして、ひょんなことからその動画を見てしまった美少女をまた攫ってリョナる……というサイクルを組んでいた。ちなみに教授に捕まった場合は、やたらとエロ推しの映像になる。

そんなこんなでしばらくリョナれていなかった唯の心を徹底的に折る為に、王の触手がエリョナをしようと唯の胸と股間に伸びていく……!


「ブリザードグラウス!」

その寸前、突如飛来した氷属性の上級魔法によって、唯の周囲の触手は一斉に凍りつく。

「ひゃ……!?」


触手の拘束を逃れた唯が、そのまま地面に倒れ伏しそうになった瞬間……唯の身体は、一人の女性によって支えられた。

「……大丈夫か?今癒しの秘孔を突いてやろう」

「あ、あなたは確か……お医者さんの……!」

「コトネ様の命令でスパイを追っていたら、大本の王に行き着くとはな……半妖!触手は私の技と相性が悪い!癪だが頼りにさせてもらうぞ!」

「頼りにするなら、その呼び方は止めてください!私は……氷刃のササメです!」

ピンチの唯を救った2人の討魔忍……それは、穿孔のアゲハ、そして氷刃のササメであった。
>>283>>289で意味深に消えたササメとアゲハは、コトネの命令でトーメントのスパイであるリザを追っていたのだ。
雪人とのハーフであるササメと、暗部故にグレーゾーンの任務に慣れているアゲハ。本来は魔族か皇帝一族以外入れない魔の山まで入る可能性のある任務なので、コトネはこの2人を追撃に寄越したのである。

「え、と……どうして、私のことを……?」

一応リザのお見舞いに行った時に顔は合わせていたが、ほとんど面識のないアゲハ。ササメに至っては完全な初対面だ。そんな2人が、何故自分を助けたのか分からなかった唯は、思わず疑問を口に出す。

「圧倒的な力量差のある王を相手に立ち向かうその姿に、感銘を受けました!見捨てるわけにはいかn」

「気にするな、任務のついでだ」

やや興奮した様子で語るササメとは対照的に、アゲハはクールな調子を崩さない。

「とは言え君が目の前でピンチになっていなければ、我々2人がまともに連携を取れたかは怪しかったがな」

しかしながら、アゲハも唯が必死に王を止める様子に心打たれたのは事実なようだ。

「唯ちゃん、君は本当に厄介だ……そうやってろくに接点のない人間すら味方に引き入れてしまう」

王はその光景を見て、唯に対する警戒をより一層強固にした。
唯は単純な戦闘能力で言えば、五人の戦士の中ではアリサや鏡花に劣るし、逆境に於ける根性も瑠奈の方がある。たまにチートめいた発明をする彩芽と違い、いざという時の爆発力も小さい。

だというのに、多くの人間が唯の味方をする……王がこの世界を創ってから見てきた強さとは全く別種の『力』。

「女の子が増えたのは嬉しいけど、遊びは終わりだ……久しぶりにガチで行くぞ!!パンプキンビースト・スクウォッシュ!!」

王は叫びながら両腕を大きく広げる。また触手が来るのかと身構える3人。しかし……襲いかかってきたのは、全く別のものだった。

「い、いやぁああああ!!!姉様!!族長!!みんなぁああぁああ!!!いやぁああああ!!!」

絶望の叫びをあげながら現れたのは、ヴィラの一族の戦士、ミゼル。
いや、これをミゼルと呼んでいいのだろうか……彼女の体はパンプキンビーストに寄生されており、人間としての意識を保っているだけで、体には一切の自由が残されていない。

そして、寄生されたミゼルから伸びた植物の蔦は、姉ゼリカの生やした巨木や周囲の森林を呑み込んでおり……最早、ミゼル自身が森となっているに等しい有様だった。

「ケケケケ!リザがケンカしてる間に、俺様は特等席で見せて貰ったぜぇ……!妹ちゃんが完全に体を乗っ取られて、その手で姉を殺す瞬間をなぁ!あの時の絶望に満ちた姉妹の顔……!最高だったぜ!!」

ミゼルを乗っ取ったパンプキンビーストは、妹に手を出せなかったゼリカを一方的に殺害した後、ヴィラの一族の里へ向かい、一族の者をその自在に伸びる蔦や幹で串刺しにしていった。

自分の体から伸びる枝が仲間を刺し殺す度に、絶望の悲鳴をあげるミゼル。
このまま一族を皆殺しにして、ヴィラの一族が信仰して止まない魔の山の魔族すら殺害し、神器へのルートを完全に開こうというタイミングで……王によって唯たちの前に呼ばれたのである。

「ケケケ!さぁ、相手をしてやれ!パンプキンビースト・スクウォッシュ!!」

410名無しさん:2019/01/19(土) 15:16:42 ID:kRuxVl.M
「きゃああああああああっ!!」

ダンの拳に耐えきれなかった魔法障壁が粉々に破壊され、エミリアは魔力の余波で後方に勢いよく吹き飛んだ。

「あうんっ!」

決して安全とは言えない洞窟の岩肌に頭と背中を強打し、エミリアの意識が一瞬だけぐらりと大きく揺れる。
その視界の中に収めていたはずの敵の姿は、エミリアが瞬きをした瞬間、信じられないスピードで彼女の目の前に移動していた。

「あ、ぁ……!いやっ!アイナちゃん、もうたすけてっ……!」

「フー……フー……!」

知的生命体としての理性のかけらも感じられない大男の息遣いに、エミリアの恐怖は最高潮に達していた。

無理もないことである。
ダンはクマと見まごうほどの、人間とは思えない巨体なのだ。
人語を話せば人だとわかるが、今のように獣のような息遣いと言語レベルでは、最早それは獣である。

無駄とはわかっていながら自らの体を手で覆い、目を伏せ、せめてもの抵抗と命欲しさに降伏の意思を見せるエミリア。
そんな悲痛な姿の儚い少女を見た目の前の狂戦士は……



「ンガアアアアアアアッ!!!」

「きゃあああぁっ!!」

狂戦士はエミリアの手を片手で乱暴に払いのけると、彼女のコートの胸元を勢いよく掴み、凄まじい力で手前に引っ張り洋服を引き剥がした!

「グフー……グフー……!」

コートと共にお気に入りのインナーも容赦なく剥かれてしまい、エミリアのぷるんとした部分の柔肌が予定外の外気に晒される。
実は隠れ巨乳であるエミリアの女性らしい部分を見た狂戦士は、俄かに目の色を変えた。

「い、ゃっ……ッ!アイナちゃんどこぉッ!?アイナちゃんどこにいるのぉっ!?」

理性をなくした男の凶行と、これから始まる展開にとてつもない恐怖を感じ出すエミリア。
だがそんな中でもレジスタンスとしてやリザの相方として活躍していた経験を活かし、冷静に仲間のアイナの名前を呼ぶ。

……だが、命としても女としても絶体絶命だというのに、アイナが現れることはなかった。



「……やだ……アイナちゃんどこにいったの……?こわいよ……!だれか、たすけてっ……!」

「クンクン!グルルルル……!」

狂戦士は引き剥がしたコートの匂いを嗅ぎ漁っている。その行動はさながら犬のようであり、目の前の存在の異様さをエミリアが思い知るには十分だった。
10秒ほど経つともう匂いを覚えたのか、狂戦士は乱暴にエミリアの服を投げ捨てた。

「……グルルルル、ガアァ!」

「きゃっ!いやあああぁーっ!!」

コートを捨てた瞬間、狂戦士はまるで野犬のごとく異様なスピードでエミリアの体にずしりとのしかかった。

「ぐ……あぁ……っ!」

そのまま体重をかけられているだけでも、そこまで筋肉のない魔法使いの少女の体には充分なダメージだ。
それを理解しているのかしていないのかは不明だが、狂戦士はエミリアに遠慮なく腰を落とし、全体重でエミリアの体に負荷をかけていく。

「ぐぁ……!お゛、も゛ぃ゛……!や゛め゛……ぇ゛……!」

「グルルルルルルルル……!ジュルッ!ジュルッ!」

先程服を引き剥がされて露出したエミリアの胸元を、狂戦士は音を立てながら舐め上げる。
それは雄と雌の交わりとしての種としての本能なのだろうか。
それともこれから食らう餌の味見をしているのだろうか。


答えは、誰にもわからない。

411名無しさん:2019/01/20(日) 19:42:42 ID:???
「ぐぁふッ!ぎッ!ぶぐうッ!」

「オラオラオラ!登場初期の頃はこれくらいのリョナは平気でやってた様を恐れろ!俺に恐怖しろ!」

彩芽の髪をむんずと鷲掴みにし、硬い岩肌にこれでもかと彩芽の顔を叩きつけるアイベルト。
ソフトリョナ好きだったはずの彼だが、今となっては初登場時の恐ろしい性格を見事に取り戻していた。

「彩芽えぇーッ!!……くッ!あいつ、あんな性格だったっけ……?もっとバカでアホでスケベで隙だらけだったはずなのに……!」

「フン……今の俺様は無慈悲な破壊者!相手が男だろうが女だろうが、立ち塞がるものはすべて破壊するだけだ!お前も覚悟しろルナティック!」

メガネが割れ、抵抗の見込みもなくなったボロボロの彩芽を瑠奈の元に投げるアイベルト。
勢いよく飛んできた彩芽の軽い体を、瑠奈は抱え込むように抱きしめた。

「あ゛うぅ……瑠奈、ごめん……しくっちゃったよ……」

「彩芽……私に任せて。あんたは私が死んでも守るわ。」

「……へっ……足震えてるくせに、ボロボロのボクのためにそんなこと言ってくれる瑠奈のそういうとこ……嫌いじゃないよ。」

「彩芽……もう、そんなこと言ってる余裕があるなら、早く回復して援護しなさい!……私が1人で倒しちゃう前に、ね!」

精一杯強がってから、瑠奈は彩芽を自分の後ろに横たえる。
相手は強大な武器と魔力の使い手……自分一人でかなう敵ではないことはわかっているが、引き下がるわけにはいかない。

(アリサは1人であの女を止めてくれてる……鏡花も、唯も、きっとどこかで必死に戦ってる。どんなに相手が強くたって……引き下がってやるもんか!)

幼い頃に唯にもらった勇気が、瑠奈の原動力になっている。
頭脳明晰、スポーツ万能少女が自分の才能に溺れることなく強い精神を育むことができたのは、唯という親友がいたからだ。

「1人で俺様を倒すだと……生意気胸でか小娘だと思っていたが、とんだビッグマウスでもあるようだな!」

「ふん!あたしを洗脳してお兄ちゃん呼びさせて、ずーーーっとヘラヘラしてたドスケベ男のくせに!一体どっちがビッグマウスなのか、しっかり思い知らせてやるわ!」

412名無しさん:2019/01/23(水) 01:09:32 ID:???
シュルルル!!シュバババ!!

ロゼッタの『運命の糸』とブラッディ・ウィドーの蜘蛛の糸が、音を立ててぶつかりあう。

「どうしたのぉ?なんだかさっきまでよりも精彩に欠けるんじゃない?」

「…………ちぃ……!」

本来、ロゼッタは薬の切れた状態でもある程度の戦闘はこなせるが……相手が魔物でトラウマを刺激されているのもあり、ブラッディ・ウィドーの言うように精彩を欠いていた。


「そっちの金髪ちゃんは腕が切れちゃっててもう問題外だしぃ……紫ちゃんを徹底的に狙ってあげる!」

「ぐ、つぅ……!」

切り落とされた腕を押さえながら呻くアリサ。悔しいが、この有様では自分は戦力にはなりそうにない。

「はぁ……!はぁ……!これでは、どうしようもない……何とか隙を見つけて……自分で処理するしか、ないか……!」

いつものポエムを言う余裕もないロゼッタ。

「処理……何だかデジャヴを感じる展開ですわね……」

「……?あぁ、あの時……お前の仲間を屈服させようとした時の……」

「いえ、それよりも前に同じようなことが……」

「ふふふ!仲良くお喋りしている暇があるのかしらぁ!?」

ブラッディ・ウィドーは糸を吐きながらその8本の足をカサカサと動かして岩壁を登り、立体的な軌道でロゼッタに迫る。

「く……!」

咄嗟に糸を振るって迎撃するが、互いの糸同士が絡まってしまって上手く動かない。

「隙ありよぉ!!」
「しまっ……!ぐっ!?」

ロゼッタが晒してしまった決定的な隙を逃さず、岩壁から一気に跳躍して来るブラッディ・ウィドー。淫熱に侵された体では避けることができず、ロゼッタは八本の足でしっかりと拘束されてしまった。



「く、このままでは……!私もあの方も、共倒れになってしまいますわ……!」

切り落とされた腕を押さえながら何とか立ち上がり、先ほど片腕と共に落としたリコルヌの方へフラフラと近づいていくアリサ。

(……先ほどの一瞬……魔物を前にした時の彼女とは、比較的話が通じた……つまり共通の敵がいれば、和解の切っ掛けに成りえるということ……やはり、共に王と戦うように説得するのは、決して不可能ではないはず……その為にも今は……!)

アリサは残る左腕でリコルヌを拾い、逆手に持って構える。

「はぁ……!はぁ……!加勢しますわ……!ロゼッタさん……!」

413名無しさん:2019/01/24(木) 02:19:29 ID:q5/GYrbY
「あぁ唯ちゃん唯ちゃん唯ちゃん……恐怖に怯える表情も、羞恥に染まるその頬も、地獄の炎に突き落とされたような断末魔も……あぁ、全てが究極の甘美だよ……」

「げ、シアナが壊れてやがる……」

王のもとへ転生させるために唯を溶かし尽くしたアトラとシアナ。
久しぶりに唯へのリョナ欲を満たしたシアナは、これ以上ないほどの恍惚の表情を浮かべていた。

(唯ちゃん……この2人に殺されるのは怖いけど……わたしもすぐに追いかけなきゃ……!)

王を止めるため、命まで差し出し痛みに耐えた唯の覚悟を見て、鏡花も後に続くことを決める。

「あれ、王様からラインだ……げ、おいシアナ、唯ちゃん殺すのちょっと早かったってよ。」

「はぁ、はぁ……唯ちゃん……!君の姿はこの最新式録画カメラでばっちり隠し撮りさせてもらったよ……!帰ってからのホームシアター鑑賞が楽しみだ……!」

「……おい!シアナ!正気に戻れ!一緒にいるのも嫌になるくらいめっちゃキモいぞ!」

アトラが手をかざすと、シアナの頭上にビー◯た◯しの持っていそうなピコピコハンマーが現れ、そのまま頭を直撃した。

「いて!…………そんなこと言われても、特に時間指定はされてなかったからな。別に僕らの落ち度ではないだろ。……ま、鏡花ちゃんは合図を待ってから殺すとするか。」

「うわ!いきなり元に戻った……てかキモい間もちゃんと俺の話聞いてんじゃんかよ!」



「……アトラくん、シアナくん。私ほことも殺して。唯ちゃんを一人にさせるわけにはいかないの!」

合図を待ってから殺すとシアナは言ったが、鏡花はすぐに唯を追いたい身。
この2人と話している余裕はない。

「えー!そんな焦ってもいいことないぜ?俺らともうすぐ発売のキン◯ーについてでも語ろうや!」

「……アトラくん、シアナくん。ここで私を殺してくれないなら……暴れちゃうよ。」

「ふん。お前1人暴れたところで僕らは怖くな……」

「……?どうしたシアナ?」

言いかけて、シアナは止まった。
この状況、洞窟の中では鏡花の強力な魔法1つで倒壊の危険性がある。
もちろん、シアナの穴に緊急避難という手もあるが、そうすれば逃がしてしまう恐れもあるし、何度も逃げられるとは限らない。

極め付けに、自分たちは死んだら蘇らないが、鏡花は王のもとで蘇る。
こちらが殺そうと洞窟の倒壊で死のうと、とりあえず死ねればいい今の鏡花にとってはメリットでしかないのだ。



(……どうする?王様の合図なしに今死なれても困る。かといってほっとくと逃げられるか僕たちの身が危ない……)

「……マジックケージ、来いや!」

「え、なにっ……?きゃああああああっ!」

アトラが突然鏡花の頭上に召喚したのは、魔力を遮断する特殊な檻。
かわいい魔法少女を拘束して好きなだけエッチなことをしたいと思ったアトラが、同じ志を持つ教授協力監修のもと、性欲と根性で作り出した素敵なトラップである。

「うっ……!これ、魔法が使えない……!」

「……アトラ、僕の考えてることがわかったのか?」

「さぁ?俺は鏡花ちゃんを閉じこめておっぱいでも鑑賞したいなーって思っただけだぜ!シアナがなに考えてるかなんてしらねーよー。」

「……まあ、流石僕の相棒だと言っておくよ。」

414名無しさん:2019/01/24(木) 02:20:32 ID:???
「そうだ鏡花ちゃん、チョコ食う?王様の合図まで時間あるんだし、俺らとまったりティータイムしようぜ!」

「……い、いらないよ……!」

呑気な口調でお菓子を食べているアトラにうんざりする鏡花。
とはいえ、魔法少女は魔法が使えなければただの少女である。
脱出しようと何回か魔力を練り上げてみた鏡花だが、並みの魔力では突破できそうになかった。

「鏡花ちゃんさー……俺がまたリザに鞍替えしたから怒ってんのかな?そうだとしたらほんとに申し訳ねえわ……」

「……なんだ、結局お前は鏡花ちゃんからリザ推しに戻ってたのか。」

「レズ疑惑はデマだったからな!許される恋とわかりゃあ俺はずっとリザ推しよ。あのクールでプリティーな顔を初めて見たときの衝撃が忘れられねえ……!」

アトラはおもむろに隠し撮りしたリザの写真を取り出すと、写真の中のリザにフレンチキスをした。

「……闘技場でもクールな眼差しキュートなフェイスとかキャッチコピーつけられてたしな。イマイチなに考えてるかよくわかんないやつだが……まあ確かに顔はいいよな。」

「顔は、ってなんだよ!リザは声も可愛いし近づくとめっちゃいい匂いするし、あの金髪はサラッサラだし、タンスの中の下着もめっちゃ整理されててすげえ几帳面だぞ!」

「……最後のやつでお前がなにをしたのかわかった。」

ベラベラとコイバナを始めた少年2人。完全に気が抜けたような会話であり、鏡花のことなど忘れているかのようである。

(……くっ……!もっと、もっと魔力を上げてなんとかこの牢屋を壊さないと……!)

415名無しさん:2019/01/27(日) 19:16:28 ID:???
「うう……どうしても魔法が使えない……変身も出来ないなんて……!」
「へっへっへー。無駄無駄!この牢は魔法少女を生かさず殺さず閉じ込めるための罠だからな!」
「……ま、王様の合図が来るまで、大人しくしてる事だね」
「イヤよ!私はどうしても、唯ちゃんを助けに行かないといけないの!」
「ひひひ……どうしても大人しくしてられないのなら……」

マジックケージに囚われ、脱出できない鏡花。
そこへ、アトラが更なる追い打ちを仕掛けようと取り出した物は……

「じゃーーん!超強力水鉄砲だ!」
水鉄砲。
それも、15m超の飛距離を持つ強力加圧式ポンプにバックパック式大容量タンク等を備えた最新機種であった。

(ジュバッ!!)
「きゃああっ!?」
……その水圧は強烈で、当たるとかなり痛い。

「こ……今度は、何のつもりなの……?」
「アトラの事だから、また都合よく服だけ溶かす水かと思ったら……ただの水だな」
「そう……ただの水だ。でも、よく見てみろよシアナ……」

鏡花の着ていたブラウスがぐしょぐしょに濡れ、下に着けていたブラジャーが透けていた。

「きゃっ!?や、やだっ……!」
「うーん……やっぱ鏡花ちゃんも捨てがたいなー!このおっぱいには、流石のリザも敵わないぜ!」
慌てて胸を隠す鏡花。だがその豊満な乳房は、両腕をフルに使ったところで隠しきれるものではない。

「ほらほら!シアナの分の水鉄砲もあるから、二人であそぼーぜ!」
「うーーん。こういうエロ寄りな事して、アイナが知ったらなんて言うか。
でもこの位ならギリギリセーフか?……いや、やっぱアウトかな……」
「つーかさっきの状態の方がよっぽどキモかっただろ……
わかった。アイナには言わないでおくから、イロイロ手伝ってくれよ!例えば、ごにょごにょ……な!」
「……しょうがないな。お前がそこまで言うなら!今回だけ!特別だぞ!」
アトラに促され、強力水鉄砲を受け取るシアナ。
口ではアイナの事を気にしてはいたが……わりとまんざらでもなさそうであった。

「ていっ!」
「それそれっ!!」
(ビシュッ! ズバババッ!!)
「くっ!……あんっ……!!」
二方向から責め立てるシアナとアトラ。胸と顔を防御する鏡花。
水鉄砲とはいえその水圧はかなり強く、両足を踏ん張ってないと倒されてしまいそうな程だった。

「へっへっへ……今だシアナ!必殺、バーチカルショット!」
「OK!……くらえっ!!」
(ブゥゥゥン……ズムッ!!)
アトラたちには、鏡花の防御を崩す秘策があった。
シアナが空間に穴をあけ、そこへアトラが水鉄砲を打ち込む。空間の出口は、鏡花の……

(シュバババババ!!)
「……ひゃひいいいぃぃっ!?」

「おー、いいリアクション」
「いやー、アイベルトじゃないけど、こういうライトなのもたまには悪くないな!」

……スカートの内側。それも完全に無防備だった秘所とお尻へのダイレクトアタック。
上半身に意識を集中していた鏡花は、たまらず甲高い悲鳴を上げさせられてしまった。

416名無しさん:2019/01/27(日) 20:16:47 ID:???
(ズバババッ!!)
「きゃっ………!」
(ビシュシュシュシュッ!!)
「……ひあっ!!」

「へっへっへ……ほらほら、今度はおっぱいががら空きだぜ!」
「ま、腕2本じゃどう頑張っても防ぎきれないからね……ほら、今度は背中だ」
「と見せかけてパンツ!」
(ジュバババッ!!……ジュブッ!)
「あぐっ……ひううんっ!?」

シアナの能力で空間に穴をあけながら、四方八方上下から予測のつかない水攻撃を繰り出す二人。
鏡花は逃げ場のない魔法封じの檻の中でひたすらに弄ばれ、
胸も背中も、顔も髪も、パンツの中までずぶ濡れにされてしまった。

「はぁっ……はぁっ………ど、どういう神経してるのよあなた達…!
友達とか好きな女の子の話は、普通にするくせに……女の子を捕まえて酷い事するのは、何とも思わないの!?」

単なる水鉄砲とはいえ、強烈な水圧を何度も叩きつけられて、かなり疲労も蓄積している。
しかも下からも攻撃が来るため、座って休む事すら出来ない。
そんな鏡花の必死の抗議に、二人は……

「……まあね。アトラやアイナや王下十輝星のみんなは友達だし、何より死んだら終わりだし、大切だけど……」
「唯ちゃんや鏡花ちゃんに対しては、な〜んかそういう感情は沸かないんだよな。
もちろんリョナったりエロい事するのは楽しいけど!」
……ただ、冷めた反応を返すだけだった。

「まあ言ってみれば、俺らはSSレアな『特殊能力』を持った『廃課金プレーヤー』。
鏡花ちゃん達は、無課金……いや。異世界人だから……NPCかな?」
「ああ。その例えは割と近いかもな。何せ、鏡花ちゃん達は……」
「な、何よそれっ……!…住む世界が違ってたって、私達だって人間なんだよ!?そんなの酷すぎるっ……!」
……そんな二人の態度に、鏡花も我慢の限界が近付いていた。

王の配下である少年達は、もちろん敵ではあるのだが……
友情や恋愛感情など、人としての感情を持っているなら、話し合って分かり合えるかもしれない。
そう思って、執拗なおっぱい責めや多少のセクハラも、ある程度は大目に見ていた?というのに……!

「大目に見てたっけ?」
「まあ確かに土下座したらおっぱいぐらい揉ませてくれそうな雰囲気あるけど」
「ない!から!そんな雰囲気!とにかく私……もう怒ったんだからねっ!」
鏡花は濡れた胸やパンツから手を離すと、全身の魔力を高め始める。
大気の振動と共にマジックケージがギシギシと音を立て、鏡花の身体からは魔力のオーラが少しずつあふれ始めた。

「あ、これ……」「……ヤバくない?」

417名無しさん:2019/01/28(月) 19:22:30 ID:???
(こんなところでこの子達にエッチなことされてる場合じゃない……!唯ちゃん、瑠奈ちゃん、アリサちゃん、彩芽ちゃん……そして、水鳥のためにも!)

「うおっ、鏡花ちゃんの周りのマナが……!」

「凝縮していく……?」

その時、不思議なことが起こった!
とでもナレーションを挟みたくなるような量の魔力が、鏡花の体に集まっていく。
突然のマナ量に耐えられなくなったのか、アトラのマジックケージはガタガタ、ギシギシと不穏な音を立てながら軋み始めた。

「チッ……運命の戦士、やっぱり侮れないな!立てアトラ!多分壊れるぞ!」

「まじかよ!これから服溶かす水で特盛デカ乳お楽しみタイムといきたかったのに!」

「はあああああぁっ!!!」

シアナの宣言通り、マジックケージは鏡花の魔力に耐えられず、バリーン!と大きな音を響かせて崩壊した。

(みんなのためにも……もう負けない!)



「変身!!!」

少女らしい高らかな声でそう叫ぶと、鏡花は光に包まれ……
爪先から頭の上まで可愛らしい装飾に包まれた、金色の盾を持つ魔法少女、リフレクトブルームへと変身した。

「おおー!やっぱいいねー魔法少女の変身って!光に包まれて大事なところを隠しながら、可愛いコスプレ姿に変身とかさぁ……もう私をリョナってくれと言わんばかりだよな!」

「アトラくん……私をあの時と同じただのか弱い女の子だと思ってるなら、後悔するよ!」

「お、結構言うじゃねえの……!どうせならそういう風に反抗的じゃないと面白くねーからな!やる気マックスになってきたぜ!」

「アトラ、油断するな……おっぱいばっか見てると、この前の唯ちゃんたちにやられかけた時みたいに、足元を掬われるぞ!」

「へっ!鏡花ちゃんは土下座すればなんでもしてくれそうな優しい女の子なんだ!俺たちになんて勝てるわけ……」

「シャイニングバースト!」

「え?……うわああああああ!!!」

なんだかんだいってる間に詠唱を終えた鏡花の上級光魔法が、アトラを吹き飛ばしていた。



「私は土下座されてもなんにもさせないし、その前に……ルミナスの戦隊長なんだってこと、忘れないでよね!」

418名無しさん:2019/01/28(月) 19:54:02 ID:???
「はぁっ、はぁっ……!」

リザを抱えて走るミスト。突如現れた栗色の髪の少女に言われるがまま、リザを抱えてその場を離れていた。

「……お姉ちゃん、降ろして。私は戻って王様を助けないと。」

「なっ……!?アンタ、まだそんなこと言って……!助けてくれたあの子のことはよくわからないけど……まさか、あの子も手にかけるっていうの!?」

「……あれは運命の戦士……一時的に手を組むこともあったけど、結局は私たちの敵。王様に近づけるわけにはいかない。」

そう言うと、リザはシフトでミストの腕の中から脱出した。



「………それにわかったでしょ、お姉ちゃん。王様には勝てないって……私たちが生き残るためには、あの人を敵に回しちゃ駄目なんだよ。」

「リザ。その考えでいくなら……ぐっ……!あの凶悪な男を殺してしまえば、他の道もあるってことじゃない。……どうして私たちの家族を奪ったあの男に尻尾を振るのよ!!!」

「……だから、王様を殺すなんてそんなのは無理なんだよ。あの人はこの世界の神みたいなもの。……私はそれを知っている。」

「はぁ、はぁっ……リザ、一体何を言って……?」

何か含んだようなリザの言い方に、ミストは困惑する。
だがリザはその問いには答えず、そのまま背を向けた。

「お姉ちゃん……もうすぐ4カ国を巻き込んだ大きな戦争が始まる。王様や私のことを止めたいなら、その戦争で私たちを殺しにくればいいよ。……お姉ちゃんに何を言われても私は、十輝星をやめるつもりはないから。」

「リザ、待って!私の知らないことがあるなら教えて!1人で抱え込まないで!」

「……もう、話すことはない。」



ミストの必死な声に振り向くこともなく、リザはシフトで消えてしまった。

「く……追わ……ないとっ……!」

そう言っては見たものの、いつのまにか体が癒えていたリザとは違い、自分の体はボロボロだ。
無我夢中で走ったことで体力も使い果たしたミストは、その場で力なく倒れた。

(……リザが抱えている闇……もしそれがあの王の存在だとするなら……私は……!)

419名無しさん:2019/01/29(火) 00:29:50 ID:???
「フリジットレイン!」

「ククク、無駄無駄ぁ!そんなチャチな氷魔法じゃ、このデカブツは止められないぞぉ!ケッケッケ!」

「誰か……誰でもいいっ!私を止めてええええええぇ!!」

ミゼルやヴィラの一族を取り込んだパンピキンビースト・スクウォッシュ。その巨体ゆえ、攻撃魔法が使えない唯やアゲハではどうしようもない相手である。
なんとか止めようとササメが氷魔法を連発するが、足を凍らせてもすぐに触手が打ち砕いてしまう。

「チッ……!なんて醜悪な。こんな怪物、一体どうすれば……」

「氷魔法も効きません!こ、このままじゃ……!」

「……!ササメさん!足元を狙ってください!転ばせれば動きを止められるかも!」

「わ、わかりました!」

唯の提案に従い、足元へ氷を放出するササメ。すると……

「グオオオオ……!」

その巨体ゆえ、足元のバランスを少しでも崩されると立て直しは難しい。
唯の思惑通り、パンプキンビーストは地鳴りのよつな声を上げながら横に倒れた。



「やったぁー!ササメさんすごい!」

「ありゃりゃ!?でかくなりすぎたか……?おーいミゼルちゃん、なんとかして立て!あいつらをぶっ殺せ!」

「だ、誰があなたの言うことなど……!わ、私の理性でこいつの動きを抑えますっ!今のうちに……こんな姿の私に構わず、逃げて……ください……っっ!」

「……すまない、ヴィラの戦士!半妖!一度撤退するぞ!」

「わかりました!唯さん、こちらへ!私の氷を使って高速離脱します!」

「……いいえ、私は逃げません!」

「「えっ!?」」

王を倒し、元の世界に戻るという神器の存在を確かめるのが唯の目的である。
そして、鏡花や他の運命の戦士はまだ来ていない。王が自分を生かしておくのなら、ここで他のみんなを待つのが最善と考えた。

「馬鹿を言うな!なんのために助けたと思っている!」

「ここに1人で残るのは危険です!早く逃げましょう!」

「アゲハさん、ササメさん……私には、異世界人の運命の戦士として、やらなければならないことがあります!それに、私の友達もみんなここに向かってる。……私だけ1人で逃げるわけにはいきません!」

「ククク……さすがリョナられ慣れてる唯ちゃんだ。その度胸だけは認めてやるよ……!」

「くっ……ならば撤退は撤回だ!半妖!私たちも戦うぞ!」

「ええっ!?」

「唯さんが残るなら、私たちも戦います!怖いけど……!討魔忍として、トーメント王の暴虐を許すわけにもいきません!」

「アゲハさん、ササメさん……!ありがとうございますっ!」

思いがけず味方を得た唯。正直1人ではまた触手責めになるところだったので、2人の存在が唯にはとても頼もしかった。



「ケケケケ!なんか感動の共闘シーンで俺様に勝てる雰囲気を必死に醸し出しているようだが、唯ちゃん以外の奴らなんて……この俺様が手を下すまでもないね。」

「……え?」

「……ククク、戻ってくるのが遅いぞ。リザ。」

意味深な王のセリフに戸惑う唯。その後、すぐに視界の端に金髪の少女が現れ……!

ヒュンッ、ザシュシュ!!
「うああああぁっ!!」
「ぐはあぁっ!!!」

すぐに2つの悲鳴が上がり、ササメとアゲハの倒れる音がした。

420名無しさん:2019/01/29(火) 01:39:39 ID:???
「え……?」

一瞬すぎて、理解が遅れてしまう。ササメもアゲハも蹲って唸っているが、その理由に気づいたのは……

「……血……っ!ササメさん!アゲハさんっ!」

2人の下に広がる、血だまりを見てからだった。

「リザ、お前は本当に利口なやつだ。あのままお姉ちゃんとどっかに行ってしまうのかとも考えたが……こうしていつもちゃーんと俺様のところに戻ってきてくれるんだからな。」

「……私はトーメントの王下十輝星、スピカです。職務を放り出して逃げることなどしません。」

「ククク……そうだよなァそうだよなァ。偉いぞリザ。今日はお前の好きなものをたらふく食わせてやる……!ケケケ!」

「…………………………」

さらりと言い放つリザの後ろ姿を見て、王はニヤリと笑う。
リザの言葉が心からの発言ではないことは、王もわかっている。

それがわかった上で、必死に気持ちを押し殺して自分に仕える少女の健気さに、王は嗜虐心をくすぐられるのだ。



「リザちゃん、酷いよ……!どうしてこんなことをするのっ!!」

「……勝手に私に何を期待してるの?私は王下十輝星……あなたたちの敵。それはずっと変わらない。」

「でも……!あの地下の電車のときは、リザちゃんが私とヤヨイちゃんを助けてくれた!だから今度は私がリザちゃんを……助けたくて……!」

「……あの時私は非番だったし、ただの気まぐれで助けただけ。……見返りなんて求めていない……」

「うぅ……あ!」

連絡先なども交換して、仲良くなったと思っていたのは自分だけだったのか。
他の十輝星とは違い、リザの中には優しさを感じたのは気のせいだったのか。
そんな思いが唯の胸に去来したが、すぐに別の疑問が浮かんだ。

「お姉さんは……?リザちゃん!さっきリザちゃんを抱えていったお姉さんは!?」

「……さあ?」

「……!」

その一言で、唯の目が変わった。



「お姉さんと何があったかはわからないけど……リザちゃんが家族を大切にしていないなら、それは良くないことだよ。」

「……っ!」

リザの顔が一瞬、驚愕の顔に変わる。だがその後、すぐに不快感を露わにし、両手をプルプルと震えさせた。

「……うるさいっ……!気安く口を挟まないでって言ったでしょ……!そうやって人の心に気安く踏み込むことこそ、良くないことなんじゃないの……!」

「……リザちゃん……」

明らかに今のリザは、前に唯が会ったリザとは違っていた。
何かに裏切られて深い悲しみを背負っているかのような、リザの目の暗い青。
その目の色だけで、心を乱されている状態なのが唯にはわかる。

「おーいリザ!俺様はミゼルちゃんを連れて山に行く!合図を出したら唯ちゃんを殺してくれ!」

「……了解。」

両手に2つのナイフを構えるリザ。その動きには迷いはなかった。



「リザちゃん……!私の治療術じゃ完全には治せていないの!そんな状態で戦ったら、また傷口が開いちゃう……!」

「……それがどうしたの?私はいくら傷口が開こうと……合図があれば貴方を殺す。それを邪魔するこの2人は……今ここで殺す。」

「……!そんなこと、絶対にさせないっ!」


唯自身は殺されてもいいが、この2人を殺すというリザは止めなくてはならない。
すぐさまリザに接近し、掌底を打ち込む唯。

パシッ!
「……遅い。」
「そんなっ……!」

だがその拳は、瞬間移動を駆使する暗殺者にしてみれば遅すぎた。

「くっ……!ぐうううっ……!」

「……ねぇ、王様に勝とうなんて……本気で思ってるの?」

「思ってるよ……!私たちはあの人を倒して、元の世界に帰らないといけないんだから!」

「……………………」

真っ直ぐ唯の目を見るリザ。
その目はどこか、先ほどの自分を止めようとしていた姉と似ている気がした。

421名無しさん:2019/02/02(土) 16:09:34 ID:???
「……そんな目で、私を見ないで……!私は……!間違ってない……!この世界で、王様に逆らうなんて……馬鹿げてる!」

「あぅ!?」

リザは唯の腕を後ろ手に回して捻り上げ、拘束と同時に目を合わさないようにした。

「合図が来たら……後ろからナイフで殺す。あとは魔の山の遺産を手に入れて……戦争で、勝つ」

「そんな……!」

「……ルミナスもシーヴァリアも、このミツルギも……あとナルビアもか……とにかく、世界の全てを、王様が手中に収める日も遠くない」


どこか自分に言い聞かせるような口調で淡々と語るリザ。リザの脳裏には、かつて成り行きで共闘した水鳥や友人であるミライ、予選で知り合ったヤヨイたちの顔が浮かんでいたが……リザは、考えないようにした。


「そんなこと……させない!たぁあぁああ!!」

「無駄……っ!」

体のバネを利用して捻り上げから逃れようとする唯。リザは当然防ごうとするが、体に力を入れた瞬間に癒えきってない傷が痛み、唯を逃がしてしまう。


「はぁ、はぁ……!リザちゃん、やっぱり、怪我が……!」

「……関係ないって……言ってるでしょ!」

リザは体の痛みを無理矢理無視して唯に再び接近する。

「リザちゃん……!うぅ!?」

唯は迎撃に拳を振るうが、リザの素早い動きを捉えることができず、後ろに回り込まれてしまう。

「これで……!」

「う、ぅぐっ!?が、はぁ……!」


唯の後ろに回り込んだリザは、唯の首に右腕を回し、左腕でしっかりと右腕と首をホールドする……所謂チョークスリーパーの体勢に入る。


「篠原唯、しばらく眠っていて貰うわ……!」

422名無しさん:2019/02/03(日) 03:17:08 ID:ldWLvWTc
「あぐうぅ……!い゛ぎぃっ……!」

「……わかったでしょ……中途半端な情けは自分の身を滅ぼすの……!」

「が……!あ゛ぉ゛っ……!」

耳元で囁くリザの声がだんだん遠くなっていく。暗殺者の完璧な絞め技によって、唯の目からゆっくりと生気が抜けていき……

「う゛う゛ぅ゛っ……ぁ゛……っ」

最後に小さく呻きながら、唯はリザの腕の中で完璧に落ちてしまった。

「ぐ……くそっ!やはり貴様……トーメントのスパイだったか!」

「くぅっ……!よくも、唯さんを……!」

突如現れた闘技場優勝者の少女の姿に、アゲハもササメも激しく動揺する。
自分たちが倒せなかったカゲロウやトウロウを倒したアウィナイトの少女。
その類稀な能力と戦略で見事優勝を果たした少女が、敵だという事実に。

唯を落としたリザはゆっくりと腕を外し、落ち着いた動きで唯を横たえた。

「そこの2人……私は今すごく機嫌が悪いけど……邪魔をしないなら見逃してあげる。私の気が変わらないうちに、早くこの森から離れなさい。」

「こんな……なにも、できないなんて……」

「ぐ……くそっ……!」

リザは2人に背を向け、抑揚のない声で忠告する。
少女らしい声ではあるが、下手に挑発や抵抗でもしようものなら、一瞬で殺されてしまつような威圧感のある声だった。

「……半妖、撤退するぞ。こいつは私たちが敵う相手ではない。それはお前もよくわかっているだろう……?」

「うぅっ……!でも……!」

「悔しいが、ここでの私たちの出番は終わりだ……あとはコトネ様たちに任せよう。」

「……わかり……ました……っ!」

よろよろと立ち上がった2人は、苦渋の思いで離脱を決意し、その場を離れた。



「……あぁああもうっ!はぁっ……!はぁっ……!」

気絶した唯の前で、1人になったリザは苛立ちを露わにし地面を強く蹴った。
その理由は、再開できた姉に対する怒りでもあり、自分を利用する王への怒りでもあり、自分を治療してくれた唯に危害を加えてしまった罪悪感でもある。

(……でも……これでいいんだ。これがアウィナイトのみんなを守るための最善の手段。篠原唯やミライたちや……たとえお姉ちゃんとお兄ちゃんを敵に回したとしても……!今の私が守るべきものはもう決まっている……!)

そう頭ではわかっているのに、リザはミストに致命傷を与える攻撃ができなかった。
自分を生かしてくれた負い目もあるが、戦いとは無縁の生活をしていた頃の家族との記憶が、どうしても攻撃の手を阻んでしまう。
心を殺して暗殺を繰り返してきたが、それでも、どうしても……
家族を切ることだけはできない。

それになにより、王に家族を蘇生してもらい、また平和な日々を送ることを夢見ていた少女にとって……
それだけはどうしてもできないことだった。

(もう無理にトーメントに居なくても……人を、殺さなくていいんだよ。)

(なぁリザ……この世界は俺様が作ったって言ったら……信じるか?キヒヒヒヒ!)

「うぅっ……私は……私は……!」

平和を求めるがために暗殺者(スピカ)となった自分の自我に生じた矛盾。
その相反する葛藤を制御するには、15歳の少女の心は幼すぎたのであった。

423名無しさん:2019/02/04(月) 00:25:34 ID:???
「ルルカリリカルラルラリララ〜♪嫌いにな〜らないで〜♪」

自分に似ている容姿のキャラが一枚絵になっているノリのいいボ◯ロ曲を口ずさみながら、アイナは洞窟の中を進んでいた。
洞窟の中は自分の声が響くため、エコーがかかって気持ちがいいのである。

「うーん今日の喉の調子はサイコーですわね!色々片付いたらみんなでカラオケでもいきたいですわ!……早くこんな辛気臭い場所から出たいですわね……アイナにはこんな場所似合いませんわー!エミリアちゃーん!どこですのー!?」

相手がいなくても1人で喋っていられるアイナは、自分で自分を励ましながらエミリアを探す。
もう逸れて30分も経っているので、流石に心配になってくる。

(あの竜殺しに万が一エミリアちゃんが捕まったらやばいですわ……おっさんがアレを食べると性欲という本能も爆発してしまいますから、エミリアちゃんみたいな清楚系の女の子は格好の穴ですから……)

友達の女の子を穴呼ばわりしながらも、こう見えてアイナは結構本気で心配しているのである。
早く発見してあげないと、エミリアはリョナゲーにありがちな犯されループから抜け出させてもらえないだろう。



「や……!……ぁ……ぁん!」

「ん?……この声は……エミリアちゃん!嫌な予感しかしませんわー!」

想像していた通りのR18な雰囲気を感じ取りつつも、アイナは声の響いた方へと走った。
しばらく進むと吹き抜けに出て、天井と階下に空間が広がっている場所に出た。

ぶちゅっ!ぐちゅっ!べちゅうっ!んばちゅ!
「だめっ……!や、そんなとこぉ……ああぁーっ……!」

エミリアの声は下から響いている。すぐにアイナが下を見下ろすと、吹き抜けの真ん中で大男に舌で犯されているエミリアの姿があった。

ぢゅんっ!ばちゅ!べちゅちゅちゅ……!ぶちゅ!
「ひゃはあぁっ!やああん!だめだめだめだめ……っ!あああっ!」

(ひゃー!エミリアちゃん……可愛い顔してなんてセクシーな……!是非とも勉強させてもらいたいけれど、すぐに助けてあげますわー!)



「キャンディガン!スナイパーモード!」

アイナが何処からともなく取り出したピンク色のステッキが、ポヨン!ポヨヨン!と可愛らしい音を出しながら、先端にリボンの付いた狙撃銃になった。

「ぁ……アイナちゃん……?」

「乙女の純情を踏みにじる悪漢は、月に変わってお仕置きですわー!マーブルショット!」

ズドン!
「ガヴ!?」

吹き抜けへ跳躍したアイナはキャンディガンから某お菓子のような弾を発射。そして見事狂戦士の頭を直撃!
真下に撃った反動で、アイナは上に吹っ飛んだ。

「来ませ!まんじゅうクッション!」

自分の直下に饅頭を投げ、魔力で巨大化させてクッションを召喚する。
見るものを楽しませるようなお菓子魔法の連続で、アイナは攻撃と移動を見事にこなしてみせた。



「アイナちゃん……もう、遅いよぉ……!」

「待たせたな!ですわ!主人公は遅れて登場するのが常ですからね!」

見た目に反して威力抜群のマーブルショットを喰らい、気絶したダンをアイナは強引に引っ張った。

「うんしょ!うんしょ!……エミリアちゃん、服は無事ですの?」

「ううん……お洋服、破かれちゃった。アイナちゃん、魔法で出せる?」

「うーん、アイナも洋服を作る魔法は覚えてませんわ……アトラやアイベルトに見つかる前に出た方が良さそうですわね。」

「この人、ここに置いていってもいいのかな……?」

「異世界人に味方する強キャラのおっさんなんていらないですわ!この洞窟で彷徨う亡霊と化すがいいですわ!エミリアちゃん、行きますわよ!」

完全に伸びているダンを放置して、アイナとエミリアは出口を求めて歩き出した。

424名無しさん:2019/02/04(月) 02:05:25 ID:???
「あらあら、片腕無くした金髪ちゃん……そんな状態でこの私に勝てると思っているのかしら?」

「……片腕でも……!剣を振ることができれば上出来ですわっ!リヒトクーゲル!」

左手で振るったリコルヌから光弾を飛ばし、ブラッディ・ウィドーへの攻撃をしかけるアリサ。

「そんなのろい攻撃、無駄よ!シャアアアアアア!」

バシュゥン!
蜘蛛魔物は糸の網を放ち、自らの盾にして光弾を防いでしまった。



「くっ……やはりこんなものでは全然ダメですわね……」

「……アリサ・アングレーム……今……私に加勢すると言ったの……?」

「えぇ、言いましたわよ……こんなところで貴女と2人、一緒に蜘蛛に食べられるなんてまっぴら御免ですわ!」

「…………………………」

左腕で剣を握り直し、蜘蛛が放った糸を斬りつつ躱すアリサ。
その目からは、まだ闘志の炎が消えていなかった。

「ウフフ……紫ちゃんはもう私の糸でギチギチになってて動けないのよ?いつまでそうして躱し続けられるのかしら?フフフフ……」

(……このままでは防戦一方ですわ。なんとかしてあの蜘蛛の巣に近づいて、本体を叩かないと……!)



「はぁっ、はぁっ……!やああぁっ!」

「な……なんですって!?」

攻撃に転じる暇などないと思われたアリサが、一瞬の隙をついて高く跳躍した。
狙うはもちろん、高所にいる魔物の頭。リコルヌの切れ味を信じて、左手でしっかりと握りしめたまま……

「レーヴェシュヴェルトォッ!」

獅子のように豪快に、蜘蛛女の頭へと振り下ろす!

「きゃあああああっ!……なんてね!」

「なっ……!?」

「えっ!?」

狡猾な魔物がアリサの目の前に盾として出したのは、縛られているロゼッタだった。



「だめ……!止めるしか……!」

「まったくあんたも甘いわねえええぇ!!!そらそらソォラァ!」

「くっ……!ああぁっ!」

件の一振りを中断したアリサに、蜘蛛の糸がここぞとばかりに巻きついた。

「ウフフ♪さっきまで喧嘩してたくせに、日和ってやめちゃうなんてねぇ〜。紫の子ごと私の頭を切っちゃえば勝ってたのに。フフ……これだから人間って愚かだわぁ〜!」

(アリサ・アングレームが私を……庇った……?)

目の前で自分と同じ蜘蛛の糸の塊になり、地面に落ちたアリサ。
状況は絶望的ながらも、ロゼッタはアリサの行動が理解できなかった。

425名無しさん:2019/02/04(月) 02:10:05 ID:???
「フフフフ……金髪と紫髪美少女2人の白糸ぐるぐる巻き完成よぉ♪さあて……どうやって遊ぼうかしら♡」

「うぅぅ……!」

片腕からの出血で、アリサはもう意識を失いつつあった。
だが、死ねば王の元で蘇る。
ここで殺されても生き返るのならば、アリサにとっては問題ない。


「まずは金髪ちゃん……怪我を治してあげましょうか。私の糸でしっかり腕をくっつけてあげるわ♪」

「な、なんですって……!んうぅ!」

片腕を巻いた腕がシュルシュルと自分の右腕にあてがわれ、ブラッディウィドーの魔法糸によってアリサの腕が復活した。

「ほら、これで元どおり!あとは……」
「ふあああああああんっ!!!」

突然、艶かしい喘ぎ声が洞窟内に響き渡る。
アリサと魔物蜘蛛が声のした方を見ると、そこには……



「はぁっ、はぁっ……はあぁぅ……!うぁ……っ!」

「あら、紫の子……私の糸に染み込ませてある麻痺毒で勝手に気持ちよくなっちゃったみたいねぇ。とっっても感じやすい身体なのね♪」

(ロ、ロゼッタさん……後遺症が……!)

ロゼッタを包む糸がビクンビクンと揺れていること、真っ赤に火照った小さな顔、なんともいえないトロンとした目を見て……アリサは察した。

「んっ……!!」

それと同時に、自分を拘束している糸にも麻痺毒が塗られていることに気付く。
それをむやみに動かそうとすると……

ビクビクッ!
「ああんっ!」

「ウフフ……その麻痺の状態で体を無理に動かそうとしても、体全体に気持ちいい振動が走るだけ。女の子の場合、それがすっごく気持ちよくなっちゃうのよね……あなたもクセになっちゃダメよ♪今の声とってもヤバイけど♪」

「んぐっ……!ひゃひいぃっ!」

アリサが強引に体を動かすと、まるで自分の全ての性感帯をベロリといやらしく舐められた様な感触が体を襲う。
ロゼッタのような体質では、一度でも抵抗しただけでイキ地獄になってしまうような状態だった。

「はぁ、はぁ、はああぁっ……!」

「ロ、ロゼッタさん……!気をしっかり……!」

「だ、黙れ……!お前に心配なんてされたくない……!んやっ!ふぁひいぃんッ!」

「ウフフ、変な声!感じすぎて滑舌も頭も回らなくなってきたようね。……ちょっと面白いから、紫ちゃん。あなたの体、開発してみようかしら♪」

「や、やめろっ……!こ、これ以上……!これ以上はぁっ……!」

「イっちゃう?トんじゃう?喘ぎ疲れて声枯れちゃう?気持ちよすぎて腰抜けちゃう?……なんでもいいわよ。あなたたちは最後には……私の卵入れになってもらうんだからぁ♡」

不自然に言葉を切ると、蜘蛛魔物はよだれを垂らしながら目を光らせてニヤリと笑った。

426名無しさん:2019/02/05(火) 02:33:48 ID:???
(地力で負けてる以上、長期戦は不利ね……!あいつがこっちをナメてる間に、速攻で叩き潰す!)

「行くわよ!火蜥蜴爪(サラマンダー・クロウ)!!」

大胆にして合理的な思考の元、瑠奈は自らの放てる最大の技を選択する。その威力は上級魔剣にも匹敵する、炎を纏った斬撃性の拳でアイベルトに迫る瑠奈。

「へ……そっちの土俵に立ってやるぜ!サンダーレイヴ!」

それに対しアイベルトは雷魔法を右腕に纏わせ、瑠奈の心を折る為に敢えて彼女の得意分野の拳で真っ向から迎え撃つ。

「「はぁあああああああああ!!!」」

炎の爪と雷の腕がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
だが、拮抗は長くは続かなかった。徐々に徐々に、瑠奈の拳はアイベルトの拳に押し込まれていく。

「ガキが!この俺様に力比べたぁ、随分バカな真似をしたな!体格の違いが分かんねぇかチビ!」

「ぐっ……きゃあああああぁああああ!!?」

拳が押し込まれるにつれ、アイベルトの雷が瑠奈の炎を突き抜けて、瑠奈の体に襲い掛かる。
思わず甲高い悲鳴をあげてしまう瑠奈。それに伴い、右腕の火蜥蜴爪(サラマンダー・クロウ)に込めていた力が抜けていく。

だがそれでも、瑠奈の瞳は死んでいない。

「チビで悪かったわね……!けど、体格の違いが分かってないのは……アンタの方よ!」


次の瞬間、瑠奈は大地を足で蹴った。そしてアイベルトの右腕に両腕をかけて、そこを起点にクルリと回転して腕の上に乗ると、彼の腕を踏み台にして強烈な飛び膝蹴りをアイベルトの顔面にお見舞いする!

そう、これは瑠奈が自分の小柄な体型を最大限活かす為に産み出した、曲芸めいた動きである。

ただ飛び膝蹴りを打つだけでは迎撃されて終わりであるが、一度相手の利き腕に乗ってから放てば、そう簡単には防げないという瑠奈の読みは、見事に的中したのである。

「ぐぁばっ!!」

グラリ、とアイベルトの体が僅かに揺れる。流石の彼も、顔面に膝蹴りがクリーンヒットしては無傷とはいかない。

「ぐ、うう……!!まだまだぁ!!これ、で……!決めるわ!!」

先ほどの一連の動きの結果、アイベルトの腕に纏われていた雷がモロにその身に流れてきた瑠奈。だが歯を喰いしばってそれを耐え、アイベルトに一撃を喰らわせたのだ。
ここで決めなければ、もう敗北は逃れられないだろう。

「魔拳…………『亀甲羅割り』!!」

427名無しさん:2019/02/08(金) 00:28:00 ID:izxTOTkc
「ぐわぁあぁあぁあ!!」

亀甲羅割りを食らったアイベルトは吹き飛び、先ほど散々彩芽の顔面を叩き付けていた岩壁に、今度は自分が叩きつけられることになった。

「はぁ……!はぁ……!どうよ!これがライカさん直伝の極光体術よ!!」

かなりの手応えを感じた瑠奈はグッと腕を捲り上げてから、ビッ!とアイベルトの方に拳を突き出す。

しかし……

「クククク……ハーッハハハハ!!」

なんとアイベルトは、叩きつけられた衝撃で体にかかった岩の欠片を払いながら立ち上がった。

「ルナティック……やっぱりまだケツの青いガキだな、ここ一番で打つのが亀甲羅割りなんて初歩技とは……逆に驚いたぜ」

決してダメージを受けていないわけではない。だが、倒れたわけでもない。亀甲羅割りが完全に入ったにしては、あまりにも薄いダメージだった。

「な……!?く、それなら……!倒れるまで打ち込んでやるわよ!」

「無駄だ。あー、これ一度言ってみたかったんだよな……お前はもう、死んでいる」

再びファイティングポーズを取り、アイベルトに向かう瑠奈。そしてアイベルトが、漫画の影響で一度言ってみたかった言葉を放った直後……

「っ………う……!ああああああぁぁぁっ!!!」

瑠奈の右手から、激しい血飛沫が飛び散った。

「全ての武器と魔法を駆使する俺様は、当然体術も完璧……そして俺様の覚えた体術は、精神柔拳法……極光体術と対をなす、カウンターの流派だ」

アイベルトが使った精神柔拳法……これは長文リレー小説になった直後、 前スレ>>36で名前だけ出ていた謎の流派である。


ガン攻めの極光と対をなす、ガン待ちの柔拳。アイベルトは先ほどの瑠奈の亀甲羅割りに対し、精神柔拳法……『犬も歩けば棒に当たる』でカウンターを放っていたのである。


「流石に竜殺しだったらカウンターを合わせるのも楽じゃなかったろうが……お前が打ったのが初歩技で助かったぜ、ルナティックちゃんよぉ」

「ぐ、くぅうう……!」

利き腕を封じられ、瑠奈はガックリと地に膝をつく。完敗だ。ここぞという時で必殺のフィニッシュブロー竜殺しが打てなかったのは、ひとえに自らの未熟のせい。

(これじゃ、同じだ……!あの時と……!)

瑠奈の脳裏に過るのは、かつて運命の戦士5人が、抵抗らしい抵抗もできずに王とその配下にいたぶられた時の記憶。

あの時も瑠奈は、ヨハンに渾身の亀甲羅割りを放ち……そしてその威力を逆に利用されて敗北した。

(ダメだ……!唯も鏡花もアリサも頑張ってるのに……!彩芽を守らなきゃいけないのに……!こんな所でブルブル震えてるわけにはいかない!)

例え利き腕が使えなくとも、戦うことができなくなったわけではない。左手だろうと足だろうと、最悪歯でだって戦ってみせる。
そのような強い意志の籠った瞳で顔を上げる瑠奈。

だが、瑠奈が一瞬かつての惨敗の記憶を思い出している僅かな間に、慢心を捨てたアイベルトは瑠奈に接近しており……

「さて、思っていたより手間取ったが……合図が来るまで遊ばせてもらう、ぜ!!」

「んぶぅおぉあぁあっ!?」

渾身の膝蹴りを、瑠奈の腹部に放った。瑠奈は思わず、お腹を抑えて蹲ってしまう。

428名無しさん:2019/02/08(金) 00:29:34 ID:izxTOTkc
「ルナティックも大概だが、そっちのメガネのせいで女刑事に煮え湯を飲まされたからなぁ……ククク、いいこと思い付いた……ぜ!!オラオラァ!」

「あぐぅあぁっ!!ごふっ!!ぎ、がはぁあっ!!」

蹲っている瑠奈の腹部を、爪先で執拗に蹴り上げるアイベルト。しばらく蹴り続けていたアイベルトだが、おおもむろに瑠奈の短髪を乱暴に掴むと、近くで倒れている彩芽の方へと引きずっていき、瑠奈を彩芽の上に思いっきり放った。

「瑠奈!大丈夫か!?く、体が、動かな……!あぐ!」

「げほっ!げほっ!あ、彩芽……おごぉぉおぉっ!?」

ダメージ過多で動けずに、覆い被さる体勢になっている彩芽と瑠奈。何とか瑠奈が彩芽の上からどこうとした瞬間……またも腹部に激しい衝撃がきた。

「ククク……ダークゲートっていうんだぜ、これ……俺様の剛腕をどこにでも届けられる、悪くない魔法だぜ!」


ローレンハインがアリサに使用したのと同じ、空間系の闇魔法を発動したアイベルトが、やや離れた位置から瑠奈に腹パンしたのである。

なぜアイベルトがここまで執拗に瑠奈に腹パンするのか……瑠奈は自らの体の奥からこみ上げてくるものを感じ取った瞬間、アイベルトの狙いが分かってしまった。

「ぅ、げ、えぇえええ……!」

「クハハハハ!!おいおいマジかよこいつ!自分のダチに向かってきったねぇゲロ吐いてやがるぜ!」

そう、アイベルトの狙いは、瑠奈に腹パンして吐瀉をさせて、その吐瀉物を彩芽の体にかけさせることだったのである。
途中まで必死に耐えていた瑠奈だが、絶え間なく続く腹部への衝撃に、とうとう堪えきれなくなってしまった瑠奈ビチャビチャと音を立てながら、瑠奈は彩芽の体に吐瀉物を撒き散らした。

429名無しさん:2019/02/10(日) 00:00:29 ID:???
「魔の山の頂上に通じる扉、ガーディアンゲート……ケケケ、ようやく着いたぜ。」

「あ……う、ぁ……」

険しい山道を登り終え、トーメント王はついに神器「セーブ・ザ・クイーン」へと通じるガーディアンゲートの前へとたどり着いた。
横にいるのは、たくさんの同胞や雪人を虐殺した怪物……目の前で繰り広げられたあまりの惨劇に自我を失いかけている、ヴィラの一族のミゼルである。

「いやーミゼルちゃんを宿主にしてよかったよ!こんなに全部片付けてくれるなんて思わなんだ!ミゼルちゃん様様だ!」

「う……ぅ……もう……ころして……!ころして……ぇ……!」

「ああん?なーに楽になろうとしてんだ?ヴィラの一族は天然ケモミミ娘だぞ?俺様がそんな希少ジャンルの美少女をあっさりと殺すとでも?」

王は懐からヒューマンボールを出し、ミゼルへとそれを放り投げる。

「お前はあとで俺様の肉便器にしてやる……ありがたく思えよ?ケケケケ!」

「ぅ……あああぁ……!」

枯れた声で涙まじりの嗚咽を漏らしながら、ミゼルはヒューマンボールへと封印された。



「さぁて、十輝星のグループに連絡するか……準備オッケーだから、サクッと殺してくれやっ……と!」

ラインのグループラインにチャットを送り、その場に座りこむ王。
頂上付近は吹雪になっているため鞄から防寒具を取り出し羽織った。

「さて、あいつらはちゃんと役に立つのかねぇ……」



★★★★★★★★★★★★★★★★



「……来た。」

真新しいリザのスマホに映し出されたのは、王の送ったグループチャット。
自分の顔をアイコンにしている王から送られてきたのは、唯を殺せという命令だった。

(……やらないと。)

ナイフを取り出し、気絶させた唯の心臓に刃先を向ける。
微かに漏れる吐息と、静かに上下している胸に、リザは違和感を感じた。

「篠原唯……起きてるの?」

「……………………っ」

「……やっぱり。」

返事はないが、微かに顔色が変わった。
起きないのは、自分に殺されてもいいということなのだろう。王の元へいけるのならばと、恐怖を押し殺している、というところか。
それならば好都合と、リザはナイフを振り上げた。

そう、好都合と思ったはずなのだが……



「……くっ……」

自分がこのまま殺してしまえば、目の前の心優しい少女はそのまま王の元へ送られる。
そこで待っているのは、王による暴虐。
想像を絶するような暴力と、この世界への絶望を植えつけられるだろう。
自分の目を覆いたくなるようなことも……

そうなったとき、今も自分を気遣い気絶しているフリをしている目の前の優しい少女は、どうなってしまうのだろうか。
家族を殺された日の自分のように、全てに絶望してしまうのではないか……

「……くぅっ……!」

ナイフを持っている右手の震えを、左手で抑える。
そう、やるしかない。
やるしかないのだ。
大切だったはずの家族に背を向け、アウィナイトを守る道を選んだ自分に、王への反逆の道はありえない。

少女の青い目に宿る光が、自身の心を表すかのようにゆらゆらと揺れる。
その迷いを断ち切るかのように……

「……うあああああああああああああああああああああああああ!!!」

リザは、吶喊の声をあげた。

430名無しさん:2019/02/11(月) 01:14:44 ID:B7zYbEME

「くひぁああぁっ♥!!や、だっ♥!!また、あの時、みたい、にっ♥ん、や、あぁぁっっ♥!!」

「こんなに開発しがいのある娘初めてだわ……!ここまでお膳立てしておいて、放っておいてくれた調教師には感謝しないと」

ロゼッタの体を包む糸をほんの少しだけ開いたブラッディ・ウィドーは、その八本の足をカサカサと器用に動かして、開いた場所からロゼッタの体に直接毒を流し込んでいく。

当然ロゼッタは抵抗するのだが、もがけばもがくほど体に毒が回り、余計に淫熱に狂わされていく。すると……

「あハ……アハははハハはハハハ!!!クフふふ♪あーッはぁ♪」


突然狂ったように笑い出すロゼッタ。彼女はトロンとした瞳のまま、感情の籠らない声でブツブツと喋り出した。

「あの時もこうだった……私は捕まって、何もできずに姉さまの足を引っ張り……その後闘技場で魔物共に……アは♪ああでも姉さま、ロゼは強くなりました……だからもう心配することはないんですよ……もしものことがあったとしても……私たちはずっと一緒ですよ、姉さまぁ……冥府の扉の先で、また姉さまと……フフ、うフフフうふ……」

12年前の時点でほとんど壊れていたロゼッタの心。不思議ちゃんめいた言動で、現実を見ないようにして抑えてはいたが……トラウマを刺激されたことで、彼女の心には再びヒビが入った。

「ナニよ急に……気味悪いこと言って私を萎えさせて助かろうって算段かしら?まったくもう……萎えちゃったから、さっさと卵入れにしてあげるわ」

ゴソゴソと体を動かして、いよいよロゼッタに産卵をしようとするブラッディ・ウィドー。

その時……!


「トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」


アリサの糸を突き破って……否、『アリサの体を突き破って』現れた光の大剣が、ブラッディ・ウィドーを貫いた。


「うぎゃああぁあ!?な、なぜ……!」
「が、は……!」

ブラッディ・ウィドーのミス……それはアリサをリコルヌごと拘束したことだ。
とはいえ拘束で腕を動かせなかった関係上、アリサが剣を伸ばして攻撃するなら、自分の体も貫くことは避けられなかったので、それを警戒しろというのも酷な話しだろう。

アリサを包む糸による物理的な死角と、まさか自分ごと敵を攻撃はしないだろうという精神的な死角。

それらを突くためにアリサは、ずっと機を伺っていたのである。

「アリサ……アン、グレーム……?」

「ロゼッタさん……しばしお別れですわ……けどいつか……貴女の、心を……」

ブラッディ・ウィドーを撃破するのと引き換えに致命傷を負ったアリサの意識は、ゆっくりと落ちていった……。


★ ★ ★ ★ ★


「う、ぅぅう……!ごめん、ごめん彩芽ぇ……!」

「き、気にするな瑠奈!ボクを守ろうとしてくれた結果だろ!ボクは気にしてない!」

「ハハハハハ!ゲロで結ばれた友情ってか!笑えるぜ……ん?」

瑠奈を執拗に腹パンすることでゲロを吐かせ、そのゲロを無理矢理彩芽にかけさせたアイベルトはゲラゲラと笑っていたが、王からラインが来たことに気付く。


「あー、もう時間か……そんじゃあそろそろ……2人仲良く死ね!!」


アイベルトはダークストレージから双剣を取り出すと……彩芽と瑠奈に一本ずつ突き刺した。


★ ★ ★

「ルミナスの戦隊長、ね……なら当然、仲間は大切だろう?」

「……?なにを……」

「クク、鈍いな……いいか市松鏡花、これ以上抵抗するなら、この間僕らの仲間が捕まえたルミナスの子たちの安全は保証できないぞ」

「っ!?くっ……!そんなの、卑怯よ……!」

変身して一転攻勢に出た鏡花だが、追い詰めたはずのシアナの一言に動けなくなってしまう。

(おいシアナ、それって……)
(ハッタリだ、今ここであの連中をどうこうはできないし、どうせノワールやフースーヤが滅茶苦茶リョナってるだろうから安全の保証なんて最初からない)
(でも鏡花ちゃんには効果テキメンの脅しだな……さっすが俺の相棒、機転が効くぜ!さっき王様からライン来たし、サクっと殺しちゃおうぜ!)

「……なら、抵抗しないから早く私を殺して。王が何を企んでいるか知らないけど……唯ちゃんを助けに行かないと」

「もちろん、そのつもりさ……て言うか最初から下手にイタズラしないでこうしてればよかったな」

「まぁまぁ、水鉄砲でイジメられてる鏡花ちゃんエロかったしいいじゃん……っと!」

「っ……!」

こうして、男キャラが追い詰められるあんまり需要のないシーンはカットされ……アトラの様々なトラップが、鏡花に牙を剥いた。

431名無しさん:2019/02/11(月) 22:23:36 ID:???
(ドゴッ!!ザシュッ!!)
「きゃあああああっ!!」
棘付きの巨大ハンマーが、棒立ちになった鏡花の身体を吹き飛ばす。

(バシュン!!バシュン!!バシュン!!)
「ぎゃうっ!!あぐっ………うああっ!!」
続いて、金属製のネットが鏡花の身体を空中で捕まえ、激しい電流で鏡花の全身を焼き焦がした。

(ブオンッ!!………ドカッ!!)
「…あぐっ………!!」
電流を放ち終えると、ネットはぐるぐると鏡花の身体を振り回した後、地面に叩きつける。

「はぁっ……はぁっ………唯ちゃん、待ってて………
今、そっちに………っっぁあああああっ!!」
(…………ガシャン!…ガシャン!…ガシャン!…ガシャン!)
ネットから抜け出した鏡花を襲ったのは、小型だが、殺傷力の低さを数で補うタイプの連続ベアトラップ。
いずれも獲物を捕らえるためのものであって、すぐに止めを刺す類の罠ではない。

「おいおい、だめじゃないかアトラ……王様から合図があったんだから、早く止めを刺さないと」
「いやー。そうしたいのは山々だけど、罠パワーが残り少なくて、殺傷力のある罠が使えなくてさー」
「そうか……僕も穴フォースがあまり残ってないからなぁ。今開けられる穴だと……」

(パン!………パン!!パン!!)
「っぐあ!!……あぎ!……ぐうぅっ……!!」
「……この小型拳銃の弾が、ギリギリ通るくらいかなぁ……くっくっく」
シアナとアトラは、苦悶する鏡花の姿をニヤニヤと笑いながら見下ろしていた。
二人が特殊能力用の魔力的なやつを消耗しているのは嘘ではなかったが、
自分達を追い詰めた鏡花に少々意趣返しをしたい、というのが主のようだ。

「にしても鏡花ちゃんもひでーよな。
洞窟の中だってのに、派手に攻撃魔法ぶちかましちゃって……洞窟が崩れたらどうするんd」
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………)
「なっ!?………やばい、本当に崩れるぞっ!!」

だが、その時。
先程の鏡花の攻撃魔法の影響かは不明だが、
洞窟全体が大きく振動し、シアナとアトラの頭上から大きな岩が崩れ落ちてきた!

「「うわあああああああっ!!」」
「っぐ……あぶ、ないっ………!!」

力を失った二人の少年に、為す術はない。だが、二人が固い大岩に圧し潰されることは無かった。
何故なら………

「きょ……鏡花……ちゃん……」
「なんで……なんで僕達を助けたんだ……!?」
「ふ、ふふ……だって……私、魔法少女、だから………」
………傷だらけの鏡花が、二人の頭上に魔法のシールドを展開していたからだ。

「バカげてる……そんな事をしたって、僕らは改心なんてしない。絶対に……!」
「そうだそうだ!俺らを生かしたりなんかしら、またどっかで別の女の子を捕まえてリョナってやるんだからな!」

「バカ……そうかもしれないけど、でも……やっぱり、放っておけない……
それより、長くはもたない……早く、逃げ……て……」
ビシッ………ベキッ!ドゴッ!!

「鏡花ちゃんっ……俺……」
「………アトラ、来いっ!!」
鏡花のシールドに亀裂が走ったのを見たシアナは、アトラの手を引いて無我夢中で駆け出した。

432名無しさん:2019/02/11(月) 22:46:13 ID:???
(バキバキバキ!!ドガ!!………グシャッ!!)
「っぐ、……うあああああああっ……あが!!」
鏡花の断末魔が背後でこだまする。

後ろにいるアトラは、そして自分は、今どんな表情をしているのだろう。
そんな事を考えながら、シアナは闇の中を走り抜けていき……
……やがて二人は、洞窟の奥の広い空洞に出た。

「はぁっ………はぁっ………無事か、アトラ………」
「なんとか………ていうか、ここどこだ?地上がどっちだか、もうわかんねーな……」
「しばらくすれば、僕の空間に穴を空ける力も戻るはずだ……少し休もう」
「はぁ。……とにかくあれで、任務完了だよな……早くこんな洞窟オサラバしたいぜ」
岩に潰され力尽きた鏡花は、王の元に送られたはずだ。
神器を手に入れて用済みになった五人の戦士は、そのまま王に嬲られ続ける事になるだろう。
今度こそ、心が跡形もなくへし折れるまで……

最期の瞬間、二人を助けた鏡花の心境を知る機会は、きっともう巡って来ることは無い。
(なんでだろう………なぜだか今、無性に……アイナに会いたい……アイナの声が聞きたい)
シアナは、願った。今までで、一番強く。
だが、その願いは………

「おい、シアナ。静かに……何か、聞こえないか……?」
「いやあああっ!!アイナちゃん!!お願い、目を開けてぇっ!」
「あれは………エミリアの声?」
「……………アイナは…?」

……届く事は、二度となかった。

どこからか落ちてきたと思われる、大きな岩。
その下に見える、人の手のようなもの。
それに向かって、半狂乱になって叫んでいるエミリアの姿。

「こんなの、嫌だよ……返事してよ、アイナちゃん……」
「………………いや。え?………嘘、だよな……?」
「シアナ。落ち着け……俺がちょっと様子見てくるから……お前はここで待ってろ」

アトラに言われるまでもなく、シアナは、動かない……
目の前で何が起こっているのか、受け止める事を頭が拒絶し、身体が動かせなかった。

433名無しさん:2019/02/13(水) 02:35:41 ID:???
時は少し遡る。
ダンを退けたアイナとエミリアは、他の十輝星との合流を目指していた。

「はあ〜……全然道がわかりませんわ。たぶんこれは〜……あの肉ダルマが暴れまわったせいですわね。もうかなり地形が変わってしまっているような……」

「……ねえ、アイナちゃん。」

「うーん……来た道もさっぱりわかりませんし……これはもうダメかもわからんね、というやつかもしれないですわ!」

「……アイナちゃん!!!」

背後で響くエミリアの声に、アイナはツインテールをはためかせて振り向いた。

「なななな一体なんですの!そんなにおっきな声出して!もうエミリアちゃんのエッチすぎる抜きどころは終わったのですから、静かにしてて欲しいですわ!」

「……ごめん、でもみんながいない間に、アイナちゃんに話したいことがあって。」

「………?」

エミリアは破れた服を抑えながら、神妙な面持ちでいる。
彼女の表情がなんとなく放っておけないように感じて、アイナは足を止めた。

「……はぁ、まあウロウロ歩き回って疲れてしまいましたし、ちょっと話すくらいならいいですわよ?」

「ありがとう……じゃあ、そこに座ろう?」



少し大きな岩にアイナは浅く、エミリアは深く座って背を伸ばした。

「それで、なんですの?いくら可愛いエミリアちゃんでも、この状況で今日の天気の話とかしたらマスタードを眼球に塗りつけてやりますわ!」

「そ、そんな話じゃないよ……あのね、アイナちゃん。さっきは助けてくれてありがとう。正直、あの時はもう色々とダメだぁ〜って思ったから……」

「ん〜?そんなことですの?……エミリアちゃんを探して助けるのは当たり前ですわ。エミリアちゃんは十輝星ではないけれど、リザちゃんの友達!ということはそれはもちろん!アイナの友達ということになるのですから!キャハ☆」

薄暗い洞窟がぱあっと明るくなるような声で喋りながら、アイナはキラッ☆とウインクをしてみせた。

「ふふ……アイナちゃん可愛いなぁ。……私ね、こんな薄暗い危険な洞窟でアイナちゃんか私をずっと探しててくれたことが、すごく嬉しいの。」

「……まさかエミリアちゃん、あの状況でアイナが1人で逃げるような薄情者だと思ったんですの!?アイナが現在進行形で襲われているエミリアちゃんを無視して、1人でお菓子をむしゃむしゃ食べるような最低女だと思ってたんですの!?」

「お、思ってないよ思ってない!助けに来てくれるって信じてた……だからこそ、言いたいことがあるの。」

エミリアの口調がいつもよりはっきりとしたものに変わる。
なんとなく雰囲気が変わったことを察して、アイナもふぅ、と息をついた。

「なんでもどんとこいですわ。エミリアちゃんはアイナのお菓子友達なのですから、ね。」

アイナの声は、先ほどまで早口でまくしたてていた勢いが嘘のような、穏やかで優しい口調だった。

434名無しさん:2019/02/13(水) 02:37:21 ID:???
「アイナちゃん。その……私とリザちゃんと一緒に、どこか平和な場所でのんびり仲良く暮らすのとか……どうかな?」

「……え?」

「アトラくんやシアナくんたちと別れることになるけど、……やっぱりアイナちゃんとリザちゃんには十輝星でいてほしくない。私……2人のこと、本当に友達として大切なの!」

「……………………」

「人を殺したり、魔物に襲われて酷い目にあったり……それこそさっきの私みたいな目にあってほしくない。……いつもニコニコ笑顔で可愛くて、見てるとこっちも元気になっちゃうアイナちゃんに、怖い目にあってほしくないの!……だから……!」

「エ、エミリアちゃん……」

エミリアは冗談ではなく、本気で自分たちのことを変えようとしている。
暗殺や魔物退治など危険な任務の多い十輝星をやめて、3人で平和に暮らす……

そんな未来を思い浮かべたアイナの答えは、即決だった。



「……申し訳ないけれど、却下ですわ!!!」

「……うううぅぅ。そんなぁ!なんでよ!」

「だって、当たり前ですわ!十輝星はブラックカードが持てるほど金が稼げるんですもの!高級お菓子や高級ブランド!優雅なランチに豪華なディナー!欲しいものはなんでも手に入るまさに覇者のような生活ですからね!コンビニまで歩いて30分かかるような古代都市での生活なんて、このアイナには似合いませんわ!」

「……ううぅ。」

アイナは自分の趣味に際限なく金をつぎ込むタイプである。
十輝星になる前にスラム暮らしで苦労していたアイナにとって、今のセレブ生活を手放せるわけがなかった。

「もう調味料で味をごまかす必要もない、素晴らしい生活ですもの!ボロ布を纏って隙間風を浴びることもないですわ!それに、十輝星の生活はいい意味でも悪い意味でも毎日が超刺激的!ゴキブリよりも退屈が嫌いなアイナにとって、この仕事は天職なのですわー!」

「……ううぅ……でも……でも……!」

もうこの話はおわり、とばかりにアイナはぴょこんと岩から降りた。
ここで下がってはいけないと、エミリアはなんとか説得材料を探す。

「……まあそんなわけで、この話は終わり……と言いたいですけれど、エミリアちゃんの誘いに乗る方法が1つだけありますわね!」

「え!?なになに!?」

思いがけず示された可能性に、エミリアはぐっと身を乗り出す。
興味津々なエミリアに、アイナは一枚の写真を見せた。



「あれ?これ……リザちゃん?」

「そうですわ。高級なお菓子よりも、オシャレなブランドよりも、美味しい料理よりも、何よりも大切なものがアイナにはありますわ。」

「……そっか!リザちゃんが来てくれるって言ってくれたらってことだね!」

「……ま、リザちゃんにはとても立派な志がありますし、無理だとは思いますけれど……もしエミリアちゃんがリザちゃんを説得できたのなら、アイナはついていきますわよ。……リザちゃんのいない生活なんて、大根のないおでんのようなものですからね!」

「アイナちゃん……!ありがとう!私、リザちゃんのことも頑張って説得してみる!」

3人での平和な暮らしに光明が見えたことが嬉しくて、エミリアはすでに3人で暮らすことが決まったかのように喜んだ。



「……でもリザちゃんの説得は、カニを喋りながら食べるよりも難しいですわよ?……知っているでしょう?リザちゃんが十輝星を続ける理由……」

「うん……でも、リザちゃんは真面目すぎて、1人で背負いすぎているんだと思う。……リザちゃんだけに、アウィナイトのみんなの命を背負わせたくないの。」

「なるほど、十輝星としてではなく別のアプローチを探すということですわね。立場が変わってもアウィナイトを守り続けられるというエビデンス……うーむ……」

(……アイナちゃん、なんか妙な横文字まで使って真剣に考えてくれてる……!やっぱりアイナちゃんも、大好きなリザちゃんには危険な目にあってほしくないのかな……)



「……ま!なんにせよここを出なければ何も始まりませんわ!アイナとリザちゃんとエミリアちゃんの未来は、こんな辛気臭い場所では語れませんわ!場所を変えるなら、煌びやかな夜景の見えるオシャレなホテルがいいですわね!」

「あはは!そうだね!こんなところ早く出て、リザちゃんを誘って遊びに行こう!」

まだなにも決まったわけではないにしても、友情が深まったことを感じた2人は出口を探そうと立ち上がる。

そして──死は突然訪れた。



……ピシィ!

「……んん?」

「え?アイナちゃんどうしたの?」



……ピシピシピシピシビシイイイイィッ!!!



2人の天井の大きな岩に突然、大きな亀裂が走った。

435名無しさん:2019/02/16(土) 21:07:14 ID:6sJYUNRE
「……っ!!エミリアちゃん!!危ないですわ!!」

「え!?アイナちゃん!?」

ほんの一瞬、エミリアが呆然としている間に、全ては決していた。
ドン!という音と衝撃と共に、エミリアの体は突き飛ばされ、次の瞬間……

ガラガラガラガラガラガラァ!!


「アイナちゃん!?アイナちゃぁああああああああん!!」


★ ★ ★

「あ、あ、アトラくん……アイナちゃんが……アイナちゃんが……!」

必死にアイナに呼びかけ、回復魔法をかけ続けているエミリア。だが、岩の下敷きになったアイナは、ピクリとも動かない。

いつの間にか近づいてきていたアトラに、エミリアはすがるようにか細い声をかける。

「……馬鹿が……リザにもシアナにも、何て言えばいいんだよ……」

「アトラくん……!な、治るよね!?王様の力で、きっと、治るよね!?」

「……王様は、十輝星を生き返らせることはない……ドロシーの時も、そうだった……」

「そんな……!う、嘘だよね、アイナちゃん……!い、今岩の下から出してあげるね!グレーターストレングス!」

魔法で自らの身体能力を上げたエミリアは、慎重に慎重を重ねて岩を退かす。だが、血塗れの全身と押し潰された背中が露になったことで、余計にアイナの『死』を強く感じさせた。

「……ねぇ、起きてよ……!嫌だよ、こんなの……!ヒール!キュアライト!!」

「……シアナに伝えてくる……エミリアちゃんは、アイナのそばにいてやってくれ」

必死に回復魔法をかけ続けるエミリアを横目に、アトラはシアナの元へ戻る。

「シアナ……えっと……落ち着いて聞いてくれ、アイナは……えっと……」

「……アイナは……殺しても死なないような奴だと思ってた。いつもヘラヘラしてて……だけど、その笑顔が可愛くて……僕はさ、ああいう滅茶苦茶な奴と一緒にいるのが……好き、だったんだ」

「シアナ……おい、大丈夫かよ」

言葉を探すアトラを遮って、シアナはボソッと呟く。そのまま
フラフラとアイナの元へ近づいていくシアナを、アトラは慌てて追いかける。

「……市松鏡花の、言う通り……僕、バカみたいだよな……女の子が酷い目に遇うのは好きなのに……アイナが、死ぬと……こんなに、悲しいなんて……ドロシーの時だって、こんな気持ちにはならなかったのに……」

「ぅ、ぐ、ひぐ……!ごめん、シアナくん……アイナちゃんは……岩から、私を、庇って……!」

エミリアがアイナを抱きしめながら泣いている。シアナはエミリアに言葉を返さずに、ゆっくり、アイナの顔を覗きこんだ。
エミリアの回復魔法により外傷はほとんど治ってきている。まるで今にも『テレレレーン!!ドッキリ大成功〜〜!!ですわ!』とでも言ってきそうだ。

「……僕ら……このままで、いいのかな……女の子をリョナって、彼女らの言葉に気づかないフリをして……こんな風に、友達を亡くしながら……王様の下で……」

「おい、気をしっかり持てよ……そりゃ鏡花ちゃんの事もあったし、気持ちは分かるけど……」

「……まぁ、どうでもいいか……アイナは……もう、いないんだから……」

少し前にエミリアが聞いたら大喜びしそうな、シアナの僅かな心変わり。だが、シアナの心は、もう大きく変わることはない。

彼の純粋な心を大きく占めていた、天真爛漫な少女の笑顔は……もう二度と、見れないのだから。

いつの間にか頬に流れていた涙を、洞窟内だと言うのに突然吹いたそよ風が払い……




『……1つだけ、方法があるわ……今王が狙ってる、神器セーブ・ザ・クイーンなら……』


懐かしい声を、風が運んできた。

436名無しさん:2019/02/20(水) 02:16:25 ID:Kl2l.GyE
「え、この声って、ライラの時の……!?」

「まさか、ドロシー……なのか!?」

「おいおい、マジかよ……」

『久しぶりね、アトラにシアナ……あと、エミリア……だったかしら?』

突然三人の周囲に響いた、懐かしい声。だが声は聞こえるのに、姿は見えない。


『いつの間にアイナとシアナが良いカンジになってたのとか、色々話したいことはあるけど……今、王の暴虐によって、魔の山の神聖なマナがどんどん穢されているわ……私の声もいつまで届くか分からないから、要件定義だけ話すわね』

「そうだ、王様が狙ってる神器を使えば……王様に頼らなくても、アイナが生き返るのか!?」


アイナの死と、突然のドロシーとの再会に混乱していたシアナだが、正気に帰った彼はすぐに質問をした。

『正確には、死んだのを無かったことにする、かしらね……セーブ・ザ・クイーンは世界に起きた事象を書き換える力を持っている……』

「すげぇ!まるでシュタゲみたいだ!」

希望が見えたことで緊張感を無くしたアトラは、元来の性格通り楽観的なことを言い出す。それを窘めるように、ドロシーは重い口調で懸念を口にする。

『……だけど……神器がどうなるかは、今の段階では分からないわ……』



★ ★ ★


「……うあああああああああああああああああああああああああ!!!」

リザちゃんの苦しそうで、悲しそうな叫びの後……私の胸に、鋭い痛みと熱が走った。

「っ……!」


ここで私が苦しんだら、リザちゃんを苦しめてしまう……だから私は、痛いのを我慢して、黙って死のうとした。


「私は……間違ってない……だって……だって……!こうしなきゃ、みんなが……!」

とても辛そうなリザちゃんの呟き。思わず声をかけてあげたくなったけど、そうしたら気絶したフリがバレちゃう。
ううん、鋭いリザちゃんのことだから、ホントもう寝たフリにも気づいたかも……それならいっそ……


「リザちゃん……決めたよ……私は、元の世界には、逃げない……その前に、王様と戦って、この世界を……」


だけど、最後まで言い切る前に……私の視界は闇に落ちた。そして……



「……クヒヒヒヒ!ようやく揃ったなぁ……運命の戦士たち!」


次に目が覚めた時には、すぐ近くに王様がいた。

437名無しさん:2019/02/22(金) 02:07:49 ID:???
「はぁ………はぁ………」

(最後の技は、アングレーム流剣術の奥義……それを、左腕一本で放つなんて。
もし彼女が、二刀を……ラウリート流双剣術を扱ったら、きっと姉さまのような……)

ブラッディウィドーの糸から抜け出したロゼッタは、疼く身体を引きずりアリサの死体に近付く。
アリサの左手には、アングレーム家に伝わる宝剣が握られていた。
姉ヴィオラの命を奪った刃。いつかこの手で叩き壊してやろう、とさえ思っていたが……
今は不思議とそんな気持ちにはなれず、死体と共に王の元に送られていくのを黙って見送る。

(カサカサカサ……ぎちぎちぎちぎち)
「………!?………」
アリサの死体が光に包まれ、音もなく消え去った、その直後。
周囲に無数の異音と、新たな魔物の気配が沸き出した。
闇の奥で赤い目が無数に輝き、ギチギチと牙を噛み合わせる音がさざ波のように押し寄せる。

「……こい、つら……『ブラッディ・ウィドー』の、雄……!」
繁殖期のブラッディ・ウィドーは、雌が人間の胎内に産卵管を挿入して大量の卵を産んだ後、雄が集団でその卵に精子を放出するという。

「ギチギチチギ………!!」「「ギチギチギチッッ!!」」
「っぐ……まだ、身体がっ………う、あああぁぁぁぁああっ!!」
ロゼッタの身体には、麻痺毒と共に雌のフェロモンが大量に刷り込まれている。
実際に体内に卵を産みつけられていようがいまいが、関係ない。

無数の雄蜘蛛達が一斉にロゼッタに襲い掛かり、麻痺毒に侵食されたその肢体を洞窟の奥へと引きずり込んだ。

………………
(ズルズルズルッ……ガリガリガリガリ!!)
「ひっぎ!!……あぐっ!……ふ、ぁあああぁっ!!」
手足を糸で絡め取られ、固くごつごつした岩肌を引きずられる。
着ていたドレスはあっという間にボロボロにされ、固く鋭く尖った岩で柔肌を直接斬り刻まれる。

(ゴス!!……ドガッ!!ザクッ!!……ずぶっ……)
「んっ……!!……ぐ、うっ………は、んっ………ううぅ………!!……」
過去の凌辱によって全身が異常なまでに鋭敏になったロゼッタにとって、その苦痛、そして……否応なく叩き込まれる快楽は、想像を絶する拷問であった。
岩に叩きつけられ、地面を引きずられ、ロゼッタの全身が傷ついていくにつれ、
苦痛に満ちた鋭い悲鳴は、だんだんと、小さく、甘く、快楽の色が混じり始めていく。

「シャアァァァァァッッ………」「ギチギチギチギチギチ!!」
「や………やだっ………まもの………こない、で………嫌あぁあああああ!!」

気付けばロゼッタは、無数の毒牙とかぎ爪、そして欲望と悪意にぎらつく赤い瞳の群れの真っ只中に居た。
恐怖に駆られながら、襲い掛かる蜘蛛の一匹に手をかざすロゼッタ。
いつもの悠然とした雰囲気や、不思議ちゃん系無敵強キャラオーラなどは、もはや微塵も残っていなかった。

(ザシュ!ぶしゅっ!!…ザクザクザクッ!!………じゅわぁっ!!)
「う、ぐっ!!……い、や…………た…たすけて、姉……さ、ま……!」

不可視の糸が、蜘蛛達を斬り刻んでいく。
だが一匹を斬る度に、毒液で糸の切れ味は急速に鈍っていく。
飛び散った猛毒の体液は、ロゼッタの身体に降り注いで傷口を焼く。
ロゼッタは指一本さえ動けば、糸を自由に操れる……だが、その指一本さえ動かせなくなるまでに、そう長い時間はかからなかった。
(ズブッ!!ドスッ!!ザクザクッ!!)
「ん、あぐっ!!……う、っぐ、あぁああああああ!!」
雄蜘蛛の生殖器は固く長く、簡単に抜けないよう鋭い棘がびっしりと生えている。
獲物を深く傷つけ、奥の奥まで突き刺すための刃には、その進化の過程において、一切の容赦や配慮は存在しない。
……突き刺す相手は、同族の雌ではないからだ。

「あ、っぎ……ん、いやああああああ!!」
蜘蛛の卵の苗床は、子蜘蛛の「生餌」にされる……卵が孵化するまでは、殺されることは無い。

「あ……は………ふ、ひはははは………ねえ、さま……ロゼは、もうすぐ……そちらに、参ります……もう、すぐ……」
それまでは、死なない。どんなに願っても、死ぬ事が出来ない。

…………………

そして、数時間後。

「はぁっ……はぁっ……申し訳、ありません……ロゼッタお嬢様……」
「……………姉さま…………ロゼ…は……もう、すぐ……」
「……お嬢様………………」

アルフレッドがロゼッタの元にようやく駆け付け、蜘蛛達を一匹残らず斬り伏せた時には……
……ロゼッタの心と体は、見るも無残な程にボロボロにされていた。

438名無しさん:2019/02/24(日) 02:36:33 ID:96y.5dKk
「げほ、げほっ……!う、ぐぅ……!」

「っ、はぁ……!みんな……!?」

「おいおい……最悪のパターンじゃないか、これ……!」

運命の戦士全員が、王の、そして魔の山の頂上に通じる扉、ガーディアンゲートのすぐ近くにデスルーラで飛ばされてしまった。

「いやぁ、全員揃って予定通りとは、アイツらも中々やるな……特にロゼッタはアルフレッドの奴を誘導する為に、上手いこと魔物をけしかけたり、都合よく薬切れするように調整したりしちゃったから不安だったが……」

「……!トーメント王……貴方は、どこまで……!」

突然現れたブラッディ・ウィドーやロゼッタの薬切れは、王の差し金であった。部下を平気で死地に追いやるような振る舞いをする王に、アリサは復活した直後から怒りを燃やす。

「まずい……!みんな、動いて!私たちが揃ってしまったら、封印が……!」

「もう遅いんだよなぁ!ケケケ!」

王がいつの間にか取り出していた紫色のペンダントが輝いた。

「あれは、アルフレッドが持っていたのと同じ……!?」

色は違うが、王が取り出したペンダントは、魔法少女の軍勢がトーメントに攻め込んだ時、地下で唯たちと出会ったアルフレッドが使っていたものと瓜二つであった。見た目だけでなく、ペンダントから光が放たれ、運命の戦士に向かっていく様子まで同じである。

「元々アングレームとラウリートは蜜月の関係にあった……一族秘伝の神器に繋がるペンダントを二つに分け与えるほどのな。まぁ後から不安になって『回収』に動いたが……な」

「っ!つまりそれは本来、ロゼッタさんの……ラウリート家の家宝だったということですの!?」

「流石に察しが良いな、アリサちゃん……ロゼッタの奴が復讐にしか興味がなくて助かったぜ、押収された家宝の事すら聞いてこなかったからな」

「どこまで……どこまで彼女を愚弄すれば気が済むんですの、貴方は!!」

「ケケ、怒った顔もそそるな……思い出すなぁ、家族を皆殺しにされたアリサちゃんを牢獄に閉じ込めてリョナりまくった事を」

王の言葉に、アリサの体が反射的に震える。唯と瑠奈に助け出されるまでに受けた、ナメクジ責めを始めとする数々のリョナが、アリサの脳裏をよぎる。

「アリサちゃんだけじゃない……瑠奈ちゃんは虫責めで心を壊したし、鏡花ちゃんはマジックアームでぐちゃぐちゃにしたし、彩芽ちゃんはカウボーイごっこで壁に叩きつけた……そして、特に唯ちゃん……君は特にたくさんリョナってきた気がするよ」

まるで美しい思い出でも語るかのような口調で、これまでの行いを振り返る王。

「『今回』のゲームもそろそろ大詰めとなると寂しいが……また別の女の子を浚ってやり直せばいい……何度でもなぁ!」

そう王が叫んだ瞬間……運命の戦士たちに伸びた紫の光が、一際大きく輝き出した。

439名無しさん:2019/02/24(日) 03:28:03 ID:???
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

運命の戦士たちとラウリートのペンダントによって、ガーディアンゲートが開かれてゆく。
その先にあるのは、魔の山の頂上へ続く一本道のみであった。

「ククククククク……!この先に眠る神器を手に入れれば、もう俺様の敵はいなあぁい!今回のゲームも、俺様の完全なる圧倒的勝利だァ!」

勝ち誇ったように両手を広げ、王はくるりと唯たちの方を向いた。



「さてさて……俺様がこのタイミングでわざわざここに来た理由を教えてやろう。」

「……私たちを、完膚なきまでに叩きのめすためなんでしょ……!」

苦虫を噛み潰したような声で瑠奈が口を開く。
自分たちをわざわざここに呼び、封印を解けば……
自分たちが用済みなのはわかっていた。

「全然違うなぁ……俺様はみんなのこと大好きだよ?ただね……もう見飽きたんだよね、君たちのことは。」

「あ……飽きただって……?自分で勝手に僕たちを攫っておいて……!ふざけたこと言うな!」

「……そうやって飽きたら、次の運命の戦士になる女の子を攫って、また痛めつけるんですわね……!なんて外道……!」

「トーメント王……!あなたはルミナスの敵どころか、この世界と私たちの世界の敵!絶対に許さないっ!」

最大の敵を前に、素早く武器を構える3人。
それを見た瑠奈もすぐに体制を整え、いつでも動ける状態を取った。



「ククク……唯ちゃん以外は戦闘体制かぁ。俺様に何回もやられてるくせに、懲りない奴らだ……どうせお前らも今までの奴らのように、神器を取ってこの世界から出ようとしてるんだろう?そうはさせないぞ……」

「……いいえ、違います。」

「やっぱりな!みんな考えることは同じ……アヒョ?……違うゥ!?」



唯一、戦闘の構えを取っていない唯は、王の元へと歩き出した。

「え?唯、何言って……こんな酷い世界に居続ける意味なんてないでしょ!?」

「……だめだよ、瑠奈。この世界にはこの王様のせいで苦しんでる人たちがたくさんいる……それを変えられるのが私たちだけなら、何もしないで元の世界になんか……帰れない。」

唯の脳裏に、意識を失う寸前の光景が浮かぶ。
ここに来るときに見た、金髪の少女の怯えきった青い目。
あの金髪の少女は、とても優しい心を持った人間だ。

そんな純粋な人間の心を利用し、自分の駒にして飼い殺そうとするトーメント王を、唯は許せなかった。



「みんなは記憶を失って元の世界に戻りたいかもしれないけど……私はリザちゃんやこの世界の人たちを見捨てたくない。……この人を止められるのが私たち運命の戦士だけなら……神器を使って、この世界を救いたいっ!」

「……唯……!」

「……そうですわね。私もこの世界では酷い目にあってばかりだったけれど……あなたたちに出会えたことは、忘れたくないですわ。」

「……そう、だよね……!ルミナスを守るために、トーメント王は絶対に倒さないと!死んでいったみんなのためにも……妹の水鳥だって、それを望むはず!」

「……そっか……やっと自分のやるべきことが見つかったって感じだよ。こいつは……サラさんや桜子さんや、スバル……みんなの仇だもんね!」

瑠奈以外の少女たちも、決意を固めて王を見据える。
迷いのない少女たちの目に見つめられ、王はふん、と鼻を鳴らした。

440名無しさん:2019/02/25(月) 03:09:27 ID:???
「はぁ……はぁ……!」

振り下ろした腕も、勝手に漏れる自分の吐息も、すべてが熱い。
命を奪う感触にも慣れたと思っていたリザだったが、今回はそうもいかなかった。

「……私は間違ってない……間違ってない間違ってない間違ってない間違ってない間違ってないっ……わたし……は
っ……」

この短期間に色々なことがありすぎた。
母を助けるために熾烈極まる闘技大会で優勝したこと。
好意を抱いていたヤコという青年に、裏切られてしまったこと。
死んだと思っていた大好きな姉に、殺意を向けられたこと。
心優しい少女……篠原唯を、ついに殺めてしまったこと。

自分が大きな矛盾を抱えていることをまざまざと認識させられる事件が続き、リザの心は自己肯定と自己否定のせめぎ合いが激しくなっていた。

「……!」

スマホの通知音で我に帰り、グループチャットを確認する。
そこには王からのチャットで、十輝星は全員トーメント城へ戻れと書いてあった。
運命の戦士たちは、自分1人ですべて処理するということなのだろう。



(……今……お母さんに会いに行く気分にもなれない……)

リザの手には、コトネから受け取った奴隷手形が握られている。
母が生きているかもこの手形が有効かどうかも不明だが、コトネの話によれば、これで奴隷1人を解放できるらしい。



だが……
姉のミストの一件で、リザは母に会うことが怖くなってしまっていた。

(……お母さんも、お姉ちゃんのように私を責めたてて……殺人鬼のあなたなんか娘じゃないなんて……そんなこと言われたら……私……わたし……っ!)

心のどこかではわかっていた。
よしんば家族が生き返ったとして、昔とは違う自分が家族に受け入れられるかの是非など、どちらに転ぶかは……なんとなく察しがついていた。

でもそれでも……トーメント王が持つ他に類を見ない蘇生の力に縋りついて、自分の家族を取り戻したかった。
理不尽に奪われた家族を取り戻すためならば、理不尽な殺しも厭わない覚悟で戦ってきた。
その反動が、姉が自分へ向ける殺意だとするなら……自分は今まで何をやってきたのだろう。



(……もうだめだ……頭が、おもい……からだも……だるぃ……)

疲労とストレスによって、リザの小さな体は小さくない悲鳴をあげていた。
篠原唯を殺し、ひと段落ついた今、自分の体の限界をようやく自覚したリザは、鉛のようにのしかかる倦怠感を払いのけるように立ちあがる。
二本の足でしっかりと大地を踏みしめたというのに、まったく平衡感覚に自信がなかった。

(あぁ……これ、ひどいな……はやく、やすまないと……たおれる……)

ムラサメの方角へ、フラフラとした足取りで歩き出すリザ。
そんな状態で歩いているのでは、その背後に潜む気配に気付くことができるはずもなかった。

441名無しさん:2019/02/26(火) 02:01:46 ID:???
「リザ!!!」

「……あ。」

背後から響いた声に振り向くと、そこには喧嘩別れしたはずのヤコがいた。
闘技大会が終わった後、リザはあえて冷たい言葉を浴びせてヤコを遠ざけた。
それなのに、彼がなぜこんなところにいるのか……その答えはすぐにわかった。

「……欲しいのは……これでしょう?」

奴隷手形とは別に、コトネからもらった金色のキャッシュカードを懐から取り出すリザ。
ヤコがこんなところまで自分を追いかけに来る理由なんて、これしかないと分かっている。
わかっているはずなのに、リザの心はまた傷ついた。

「色々あって手に入らないと思ったけど、すんなりもらえたから……お金が欲しいならあげるよ。」

「……お前……大怪我してるのか?腹に血が……!」

「……それ、あなたに関係あるの……?ほら、これをあげるから……早く、わたしの前から……消えてよっ……」

ふらつきながらリザはキャッシュカードをヤコの元に投げたが、目眩のせいでカードを明後日の方向へと投げてしまった。

「……勘違いされるような嘘をついたのは俺のせいだ。ごめん、リザ……でも俺は、今でもお前を助けたい気持ちは変わってない。」

「……え……?」

真っ直ぐな目をしたヤコが、ゆっくりと自分に近付いてくる。
今までの経験上、このように男にいきなり詰められた時は逃げるべきだと認識してはいるのだが……
目眩と頭痛で思うように体を動かすことができない。
このままでは捕まってしまう──と思った時には、リザはヤコの腕に支えられていた。



「あっ……!いやぁっ、離してっ……!」

「か、勘違いしないでくれリザ……!俺はそんな金なんていらない。トーメントの奴らに捕まりそうになったけど、どうしてもお前に謝りたくて逃げてきた。」

「……え……?」

「何があったかは知らないけど……お前は絶対死なせない。俺がお前を安全なところに連れていってやるから……安心してくれ。」

「…………………………」

ヤコの口から思ってもいないセリフが出てきたことに、リザは目を丸くする。

「な、何びっくりした顔してんだよ……お前はやっぱり多少疑り深い性格なのかもしれないけど、もう少し人を信じた方がいいぞ!……って、俺が言えたセリフじゃないか……」

自分を優しく包む手と、ヤコの優しい笑顔に混乱するうちに……
リザの意識は、闇に落ちた。




◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎



「……ん……」

「よっ、お目覚めかよお姫様。」

真っ白い光に当てられて目を覚ます。自分の下には暖かいベッドがあり、横にはヤコが座っている。

「ムラサメ近くの教会だ。さすがに市内はお前を探し回ってるからな……教会のヒーラーさんのおかげで、傷も治してもらったぜ。」

「……じゃあヤコが……ここまで私を……?私に近づいたのはお金目当てじゃなかったの……?」

「だ、だからちげーって……!」

ミツルギに追われている自分をこんなところまで追いかけてきてまで探し、ここまで運んで来たというのだ。
それが嘘だというのは本当なのだろうが……リザはやはり理解できなかった。

「……じゃあ、どうして嘘をついたの?正直……お金目当てだったなら嘘をついていたのもわかる。でもそうでもないのに、どうして……」

「……リザ、お前って結構察しが悪いのな……」

「……なんで私がわからないのが悪いみたいな感じにするの。」

「いや、わかったわかった。悪かった……言うよ。もう隠すつもりもないしな……」

ここまで来たら、言うしかない。
ヤコは思い切って、リザの前で深呼吸をした。



「リザ……俺は……お前のことが……!」

442名無しさん:2019/02/27(水) 02:13:02 ID:YnmvdFws
「ククク……君たちは俺様が作ったこの世界をそんなに気に入ってくれたのかぁ。いやぁクリエイターとしては冥利につきるねぇ。」

「この世界を……作った……?」

ここは王が作ったゲーム世界……
それを知っているのはこの中では唯だけなので、他の4人は事態が飲み込めない。

「この先にある神器……それはこのゲーム世界の核となるアイテム。正攻法のプレイでは到底入手し得ない、バグアイテムのようなものなのさ。この世界の奴らには事象の書き換えができるとかなんとか言われているがな。」

「じ、じゃあ、ウェイゲートは!?今は閉じられているけど、ヒカリが私たちの世界に来るために使っていたあのゲートは……?」

「ククククク……あれはそのまま、別の世界に繋がるゲートさ。現実世界の電子機器にオンラインで繋がることができれば、出入りは自由。俺様もそうして君たちをこの世界に引きずり込んだんだからな……」

「じゃあ今は閉じられているのは……私たちを逃さないためってことね。」

「ま、待って……じゃあこのゲームのプレイヤーは……トーメント王自身っていうことなの……?」

ゲーム脳の彩芽が思いついた疑問を口にする。それを聞いた王は、その通り!と言わんばかりに手を打った。

「まあこんな話はどうでもいい。そんなことより……俺様はもっと君たちを試してみたくなったぞ。この世界に抗う不可抗力……異世界人の可能性ってやつをな。」

何度潰しても潰しても、立ち上がって自分へと向かってくる様……
さながらそれは、RPGの主人公のようなものだ。
魔王が何度倒しても、勇者は何度でも蘇る。レベルを上げて、弱点を補って、新しい技を覚えて……諦めることなく、何度でも立ち上がる。
勇者はそんな純粋で強い存在だからこそ、かの竜王は世界の半分を勇者に渡そうとしたのかもしれないと、王は思った。
まあ、あれは罠であるが。



「異世界人の諸君!この世界を救って元の世界に帰りたければ、我が王下十輝星を全員倒して俺様の首を取ってみろ!タイムリミットはこれから起こる五ヶ国戦争の終わりまでだ!それまでにこの俺様を倒せなければ……その時点で君たちをリョナり尽くして、今度こそ廃人にしてやろう……!」

「……な、なんですって……!か、勝手にそんなこと決めてんじゃないわよ!このサイコパス男が!」

「ククク……今俺様に向かってくる勇気もないくせに、口だけは達者だねえルナちゃん?……他の子達はさっき唯ちゃんに同調したけど、君だけは納得いってないのかなー?」

「えっ……?そ、それ……は……!」

「……………………」

答えに詰まった瑠奈の視線を背後に感じても、唯は振り返らない。

(今、瑠奈の中に迷いがあるなら……ここで王様と戦っても、私たちは負けちゃう。……それなら……)

唯はスッと顔を上げると、トーメント王の目をまっすぐに見据えた。



「王様……その提案に乗ります。これから起こる戦争で、私たちが王様を倒します……必ず倒します。」

王を倒すことと、元の世界に帰ることの両方が叶うのならば、自分たちに取ってこれ以上の選択肢はない。
唯はそう判断した。

「ほぉ……君たちみたいなちょっと格闘やら魔法やら機械やらが使えるだけの女の子が、テレポートする暗殺者や攻撃を無効化する魔法使いに勝てるっていうんだな?」

「……たとえ勝てなくても、諦めたくない。何度でも、何度だって……!たとえ戦争に勝てずに廃人にされたって、私たちは絶対に諦めません!」

「クククククククク!!!いい!いいねぇ唯ちゃん!今までぽけーっとしてたのが嘘みたいに凛とした表情だ……!今すぐボコボコにして泣かせてあげたいくらいだよ……!」

「………………………………」





この場での決着を諦め、王の提案に乗った唯。
恐らく、次の戦争で起こる王との戦いが、最後の決戦になる。

この戦いで負ければ、またあの時のように、5人全員が嬲られ、犯され、壊され、殺され、……反撃の心を失い、今度こそ絶望してしまうだろう。

(絶対に負けない……!私たち5人の力じゃ駄目なら、みんなの力を借りて……この世界を救ってみせる!!!)

唯がそう決意した直後、5人の視界は光に包まれた。

443名無しさん:2019/02/28(木) 02:16:03 ID:???
「な、なに……!?」
「光が、広がっていく……!?」

「これも『セーブ・ザ・クイーン』の力だ。色々準備とかあるし、俺様はさっさと退散させて貰うとするよ」

いつの間にか王の周囲には、靄のようなものが広がっていた。

「それが、セーブ・ザ・クイーン……!?」

「そ。大層なもんに聞こえるけど、実際はただのデータの集まりだから、見た目は地味だろ?でも効果は絶大だ。とりあえず戦争の準備の為に、俺様は十輝星たちとトーメントに帰るとするよ。次に会うときを楽しみにしてるよ、運命の戦士たち」

周囲に広がる光がより一層強く輝き、唯たちは思わず目を逸らしてしまう。唯たちが視線を戻した先には……既に、王の姿はなかった。


★ ★ ★


「きっと、王様はそう簡単に神器を使わせてはくれない……でも、アイナを……このまま諦めるなんてできない」

「そうだよ!それにドロシーさんのことだって、生き返らせれるかもしれないし!」

『……とっくの昔に死んだ私が生き返ったら、それだけ世界に大きな影響を与えてしまうわ……今の生活も気に入ってるし、私はこのままでいいわよ』

シアナたちが今後について話していた時……彼らの体が光り輝いた。

「わわ!?な、なになに!?」

『……王が、神器を手に入れたみたいね……みんな、トーメントに帰ったらリザに伝えてくれる?どんなことがあっても……たとえ死に別れたって、私たち3人はずっと……親友だって』

「……ああ、任せろ。リザも辛いだろうけど……まぁなんとか俺が誤魔化しておくから、さ」

★ ★ ★


「俺は……俺は……!お前のことが、好きなんだよ!リザ!!」

「え……え、と……」

ヤコの一世一代の告白を受けて、思わず目をパチクリさせるリザ。ヤコはヤコで言い切った後に猛烈に恥ずかしくなったようで、落ち着きがない。だがそれでも、彼は言葉を続ける。

「ウソついてまで無理について行ったのも……好き、だったからだ……金なんて、どうでもいい……!」

「……ヤコ……でも、私……私は……気づいてるかもしれないけど、私もウソをついてた。普通の旅人なんかじゃ……ない」

「……王下十輝星、っていうのは……本当なのか、リザ」


ひょんなことから知ってしまった事実だが、改めて本人の口から語られると、否が応でもそれが真実なのだと認識させられる。


「……知ってたんだ……なら、十輝星の悪名も知ってるでしょ?ヤコ……ヤコには私みたいな殺人鬼じゃなくて、もっといい人が見つかるだろうから……」

「でもリザ……!十輝星の要望で作られたっていう俺たちの保護区は、リザが作ったんだろ!?俺たちの為に、すげぇ頑張ってくれたお前を……!殺人鬼なんて、言わないでくれ……」

「……ヤコは優しいね。私のやってることを優しいだなんて言われたの、いつぶりかな」

「……リザ……」

「……私は、もう……戦いの中でしか生きられない。私のことは、忘れた方がいい」

「リザ!」

自らの業を姉に叩き付けられたリザは、ヤコやアイナ、エミリアとどこか静かな所で暮らすという、以前一度は夢見た幻想を捨て去っていた。

そして次の瞬間、リザの体が光り輝く。

「り、リザ!?」

「……王様が神器を手に入れたみたい。ヤコ、虫のいい話だけど……最後に一つだけお願い」

そう言ってリザが取り出したのは、奴隷手形。

「これで、私のお母さんを……ステラ母さんを、奴隷施設から助けてあげて」

「リザ……俺は……俺は……!忘れるなんて、できない……!」

ヤコの絞り出すような声に、胸が締め付けられる感情を覚えながらも、リザはキャッシュカードと奴隷手形を無理矢理ヤコの手に握らせる。

「……さよなら」

リザが美しい金髪を翻して振り返った瞬間……彼女の姿は、掻き消えていた。

444名無しさん:2019/02/28(木) 02:24:01 ID:???
「お前の事が好きだったんだ……保護区で初めて会ったあの日から、ずっと……!」
「え……そ、それって……」

ヤコはただ真っすぐに、自分の想いをリザに伝えた。

海を見つめていた時の寂しそうな瞳や、儚げで危うい雰囲気が気になり、放っておけなかった事。
初めて会った時は生意気な態度を取られて苛ついたりもしたが、
時折見せるいたずらっぽい瞳や眩しい笑顔に、気付けばどうしようもなく惹かれていた事……

「……………。」

……リザは、どう答えていいかわからなかった。

誤解は解けたし、ヤコの気持ちは単純にうれしくもある。
だが、自分はヤコの事をどう思っているのか、すぐには整理がつかなかった。

ただ、一つだけ言えるのは………

「ヤコ……これ以上、私に、関わっちゃいけない」

「そんなっ………リザ…!」
「もう薄々わかっているでしょう?私が、何者なのか……
……貴方はこのまま、保護区へ帰るべきよ」

ヤコは何も言えなかった。
トーメント王に仕え、ヤコ達が住む保護区域を作ったアウィナイトの噂は知っていた。
それがきっとリザの事だろうという事も、薄々気づいていた。
彼女がその小さな背に負った、あまりにも過酷な運命は……自分には到底手に負えないだろう事も……
旅を続けている間、何度も何度も思い知らされた。

そして……

「オラオラ見つけたぜ!脱走アウィナイトが!」
「ったく、トーメントに帰還できるってのに、余計な仕事増やしてんじゃねーよクソガキ!」

「げっ!!……お、お前らはトーメント兵!!」
「………あれ?リザ様じゃないですか……なんでここに」
「貴方たちこそ……一体何の騒ぎ?」
「かくかくしかじか」

立ち尽くす二人の前に現れたのは、投げやりなシアナの命令で、ヤコをトーメント王国に連れ帰ろうとしていたトーメント兵達であった。

「何を勘違いしたのか知らないけど……彼は捕虜じゃないわ。シアナには私から言っておくから、ここで解放してあげて」
「はっ!了解であります」
「かしこまりー」

「まっ……待てよ、リザ!お前……」
「………ここでお別れね。………さよなら」

リザは、ヤコに背を向け歩き出した。
海の底のような、深い深い青……悲しみの色を、瞳に浮かべながら。

445名無しさん:2019/02/28(木) 23:14:16 ID:L7UY9tk2
時間は少々巻き戻り、サキが母と共にナルビアを脱出し、ミツルギではまだトーナメントが行われていた頃。

トーメント王国では、魔力供給が断たれて身動きの取れなくなったユキが、スネグアに車椅子に乗せられ、彼女の邸宅の地下に連れて来られていた。
そこには怪しげな拷問器具や檻、はたまた女児用の可愛らしいワンピース等がところ狭しと並べられ、正にスネグアの趣味を体現したかのような空間だった。親友であるスバルもおらず、ユキは必死に不安と恐怖を押し殺している。

「ご、ご主人様……ク、クスリを……気持ちよくなるお薬をください!あれがないと、頭が痛くて……!」
「ひっ!?」

そこに突然、瞳孔が開いていて明らかに正気ではない様子の少女が、ズイズイとスネグアに近寄ってきた。少女は黒髪をボブカットにしていて、年齢はユキより1つか2つ年下に見えるほどだが……その狂気に気圧されたユキは、思わず引き攣った声をあげる。

「メルちゃん、ダメじゃないか、勝手に抜け出してきては……以前のように、勝手にお姉さんに会いに行こうとしてるのかと勘違いされてしまうよ」

「お姉さん……?あれ、私の、おねぇ、ちゃ……あ、が……!頭、痛いぃ……!」

少女……ルミナス侵攻の際トーメントの捕虜にされたメル・ステリーアは、頭を抑えて蹲ると、痛みに呻いてしまう。

「お、お願い、します……!お薬を……オクスリ、くださいぃ……!頭が、痛いんです……!オクスリがないと、頭が……!ご主人様ぁ……!」

這いつくばったままスネグアに近づいたメルは、スネグアの靴を舐めて懇願しだした。

「やれやれ、従順なのはいいが、少しやり過ぎたかな……次は気をつけなくては」

そう言いながらスネグアは、懐から葉巻を取り出してメルに渡した。

「ひ、ひひ、オクスリ……オクスリオクスリィ!!」

ミシェルによって心を壊されたメルは、スネグアが気付け薬代わりに吸わせたやべー麻薬によって、今やすっかり依存性に成り果てていた。

メルは下級の魔法で葉巻に火を灯すと、恍惚とした表情で煙を吸っている。今やルミナスや姉のことすら、記憶には残っていない。

「こ、こんな……酷い……!私やスバルちゃんも、こんな風に、するつもりですか……!」

恐怖に染まりながらも、必死に気丈に振る舞うユキ。それを見たスネグアは微笑みを浮かべながら、ユキの頬に手を這わせる。

「ククク……リゲル殿の妹である君に、そんなことはしない……むしろ私は、君の体を治そうとしているのだよ」

「えっ?」

「こんな高度な魔道義肢を魔力だけで運用するなど、最初から無茶な話だったのさ……さぁ、着いたよ」

そう言ってスネグアが入っていった部屋では、科学者ミシェルが、冷蔵庫ほどの大きさの妙な機械をセッティングしていた。

「こっちは準備万端よ。早く始めましょう」

「おや?今日はジェシカはいないのかい?珍しいね」

「なんか『教授の作った格ゲーが神ゲーらしいから遊んでくるっす!』とか言ってたわよ」

「そうか、まぁ今回はその機械さえあれば事足りるからね……そう、『超高性能全自動くすぐり機』さえあればね」

ミシェルのセッティングしていた機械はその名の通り、機械の中に入れた相手を延々と自動でくすぐり続ける恐ろしい機械であった。

「魔道義肢と君の体の神経を繋げた上で、この機械で強い刺激を与え続ければ……やがて義肢と君の体はほぼ一体化し、魔力なしでも動けるだろう」

「そ、そんなことが……?」

「ふん、この私をそこらのヤブ医者と一緒にしないでよね。最先端中の最先端を行く私の科学力は、人体改造……じゃなかった、医療技術で言えば教授以上よ」

「……まぁミシェルを見て進んで彼女の実験台になりたいと思うほど君は命知らずではないだろうが……」

スネグアはユキの耳元に口を寄せて囁く。

「君がミシェルの治療を受ければ、君のお姉さんが苦しい任務を続けなくていいんだよ?」

「っ……!」

自分がサキの負担になり続けていることは、ユキも重々承知していた。だからこそ、スネグアの言葉を受けてユキの瞳が揺らぐ。

「重用していた部下がナルビアに捕らえられて、彼女は大変だろうね……そんな状態でセイクリッド・ダークネスの為に、王様から無茶な任務を押し付けられ続けたら……いくらリゲル殿とは言え、命がいくらあっても足りない」

「……私が、治れば……姉さんは……無茶をしないで、すむ……」

「ククク、そうだとも。鞭打ちではなく擽りなのも、私なりの気遣いなのだよ?大丈夫、痛くはない……痛くは、ね……クク」

「分かり、ました……ミシェルさんの、治療を……受けます……」

「いい子だ……まぁどちらにせよ、この状況で君に拒否権はなかったがね」

こうしてユキは、スネグア主導・ミシェル作成のくすぐり機械による拷問を受けることになった。

446名無しさん:2019/03/02(土) 19:50:02 ID:???
「うげー……頭がガンガンする……出口はどっちだよ…」
アイベルトは一人、洞窟の中を彷徨っていた。
瑠奈たちと戦い始めたあたりから、記憶が全くない。

「『拳だけで戦ってやるぜー』って言った所までは覚えてるんだが、いつの間にか二刀流になってるし。
ルナティックちゃん達もロゼッタもいねえし……」

記憶を失っている間に何が起こったのか、まるでわからなかった。
手にした双剣は、血に塗れていた。
トーメント王から届いたメッセージを読むと、どうやら任務は無事果たせたらしいのだが……

「ああーーー!!!ていうか、ルナティックちゃん達をリョナった記憶が全然ねえ!どういうことだよクソっ!!」
怒るポイントがズレているが、とにかくそんな感じで彷徨っていた。
すると………

「お嬢様……私が安全な所までお連れします……貴女はもう、戦わなくていい。私がずっと、お守りします」
「……姉さま………ふ、ひひひひひ………」

そこにいたのは……傷だらけで、放心状態のロゼッタ。
そして彼女を抱きかかえた、一人の男。
………見覚えのある顔だった。

「お前は…………アルフレッドか…!?」
「…………。」
12年前、アイベルトが任務で潜入したラウリート家……ロゼッタの生家で、使用人をしていた男だ。
ロゼッタと浅からぬ因縁を持っているこの男の目的もまた、「神器」に違いないだろう。

「何があったかわからんが……そいつを放してもらおうかイケメン君。
超絶不思議インドア派ボディの極上おっぱいを二つともお持ち帰りとか、このアイベルト様が絶対に許さねえ!」
(昔はどうあれ、今のそいつは俺達の仲間だ……てめえに好き勝手はさせねえ!)
アホゆえに、本音と建前が逆になっていた。

「王下十輝星……『ベテルギウス』のアイベルト。
お嬢様がこんな姿になってもまだ、戦いを続けさせるつもりか……今日こそ、お嬢様を解放してもらうっ!!」
(ガキィィィン!!)
二刀を構え、アルフレッドはアイベルトに斬りかかる。
対するアイベルトの得物も、同じく二刀。

「「うぉぉぉおおおおお!!」」

(ガキン!ジャキッ!!キン!!キン!!ザシュッ!!)
無数の剣戟が暗闇の中を飛び交う。
途中の攻防は諸事情によりバッサリとカットするが、両者の技量は全くの互角……否。

「ハッハッハー!!どうしたどうしたイケメン君!ずいぶんと御疲れみたいじゃねーか!」
「くっ……負けるわけにはっ……!」
さっきまで蜘蛛の魔物の大群を相手にしていたアルフレッドは、体力を消耗して動きが鈍って来ていた。
一方、アイベルトは………

「よっしゃ、そろそろ止めだぜ!『ファイナル・アイベルト・ツインスラーッシュ』!!……っぐ!?」
アルフレッドに限界が近付いて来たのを見て取り、オリジナル必殺技を繰り出そうとする。
だが、その時………

(なんだ……左肩が……いつの、間に……!?)
突然、左肩に激痛。アイベルトは覚えていなかったが……そこは瑠奈の『亀甲羅割り』を受けた個所だった。
元々のダメージはそう大きくなかったが、アルフレッドとの戦いで双剣を全力で振るって戦ったため、その負荷に耐えられなくなったのだ。

「勝機っ!………『グランドゥレ・タルパトゥーラ』!!」
「し、まっ………!!……っぐああああああぁぁっ!!」
そうと知っていれば、片手剣や魔法など、左肩に負担がかからない戦術も取れただろう。
だが気付くのがあまりにも遅すぎた。
一瞬の隙を突き、アルフレッドが繰り出した技は……ラウリート流双剣術の奥義。
相手の脇を駆け抜けながら両腕、両脚、頸動脈を一瞬にして断ち切る大技をまともに受け、
アイベルトは派手に血しぶきを噴き上げながら倒れた。

447名無しさん:2019/03/04(月) 01:41:18 ID:???
「はぁ、はぁ……!消耗していたのは、私だけではないようですね……!」

「ご、ふ……!まさか、この俺様が、逆リョナされよう、とは……!」

アルフレッドの技を受けて、地面に倒れ伏すアイベルト。将来の強敵を減らす為に、トドメを刺そうとするアルフレッドだが……


「……アル?アイベルトとけんかでもしたの?あんまりいじめちゃ、ダメだよ」

倒れたアイベルトに剣を振りかぶった瞬間、フラフラと歩いてきたロゼッタが、両者の間に立った。今の彼女の精神は、全てが壊れたあの日より前にまで退化していた。状況を正しく認識できておらず、アルフレッドもアイベルトも、自分の家の使用人だと思っている。

「……っ!お嬢様……お労しい……」

その余りに痛々しい姿に、アルフレッドは思わず、言われた通りに剣を止めてしまう。そして、その一瞬の間に……アイベルトとロゼッタの体が、光り出した。


「っ!?これは、まさか……!王が『セーブ・ザ・クイーン』を……!?」

「わぁ……!キレイ……!」

「お嬢様!いけません!早くこちらへ!その光に呑まれては……!」

咄嗟に手を伸ばすアルフレッドだが、自らを包む光に夢中になっているロゼッタは、クルクルと回りながら笑ってアルフレッドから逃げる。

「うふふふふ……!あはははは!光、キレイ……!」

やがて、ロゼッタとアイベルトは、光の中に消えていった。

「くっ……!私は、何をしているんだ……!お嬢様も救えず……!王も止められず……!」

色々と動き回っていたアルフレッドだが、結果は最悪としか言いようがない。

「……二兎を追う者は一兎をも得ず……いくら魔剣使いアルフレッドといえど、一人で全てのことをこなせるわけではありません」

「っ!何奴!」

「ご安心ください、私はローレンハイン……山の麓までアリサ様方をお送りした者です」

無力感に打ちひしがれていたアルフレッドに声をかけたのは、先刻唯たちと別れたはずのローレンハイン。

「本来ならば私の任務は送迎のみでしたが、魔の山の様子が尋常ではなかったので、様子を見に来た次第でございます」

「……知っていますよ、ローレンハイン殿……あのシュナイダーとは、共に剣を学んだ身であるとか……友の仇である私に、どのようなご用件で?」

「そう警戒しなくてもよろしい。私は貴方をスカウトしに来たのです、魔剣使いアルフレッド」

「……なにを仰っているので?」

予想だにしなかった言葉に、訝しげに眉をひそめるアルフレッド。

「神器をトーメント王に盗まれたのは一大事ですが、これはこの国を変える良いきっかけです……実力主義はそのままに、行き過ぎた個人主義を改善するには、我々は痛い目に遭わなければならなかった。
実際に、今回の我々の不手際は行きすぎた個人主義による、意識の統一化の稚拙さが原因としては大きい」

「……そう上手くいくでしょうか?皇帝殿はどんな考えなのです?」

「テンジョウ様自身、誰かとの絆の力を、アリサ嬢との触れあいにて身をもって知りました。今度ミツルギという国は変わっていくでしょう」

「……そう、ですか……アリサお嬢様が」

「単独では流石に限界が見えて来ているはずです。この際私もシュナイダー殿の事は水に流しましょう。共にトーメントに立ち向かう為、手を組みませんか?」

単独での暗躍に限界があるのも事実。そして、セーブをザ・クイーンを王が手に入れた以上、なりふり構ってはいられない。

アルフレッドは顎に手を添えてしばらく考えると、ゆっくりと口を開いた……

448名無しさん:2019/03/07(木) 00:50:40 ID:DpGRIy9I
「……うぅん……あれ?ここどこだ……?確か俺は……リザと熱い夜を過ごして、それから……」

「うぅ……おいアトラ、ごく自然に記憶を改竄するな……僕たちは戻ってきたみたいだぞ……」

朦朧とする意識の中でも突っ込みを忘れないシアナに感心しつつアトラが起き上がると、そこはトーメント城のエントランスだった。
入り口入ってすぐ正面にある、トーメント王の巨大金ピカ像が目に眩しい。
その下に倒れている金髪の少女の体がゆっくりと動いた。

「……ん、ぅ……」

「チッ、リザが起きちまった……せっかく寝てる間に人工呼吸してやろうと思ったのに……」

「馬鹿、そんなことしたらすぐにアイナのやつが……」

つい口から出した名前に言葉を切るシアナ。
アイナの死をリザには、どう伝えるべきなのか……
それを考えて頭がずしりと重くなったのと同時に、まだ彼女の死を受け入れられていない自分に戸惑う。

「……あれ……アトラ、シアナ……ここは、トーメント城……?」

「……ああ。お前も色々大変だったろ。ここに戻されたってことは、うまくいったみたいだ。」

「…………………………」

「……?アトラ……どうしたの?」

「え……ぉ、あ、ええエミリアちゃんどこかなぁ……お、お、俺らと一緒にいいいいたんだけどぉおぉ……」

「……エミリア……じゃあ、私みたいに倒れてるかもしれないから、探そうか……」

「お、おう……!」

(……こいつ、本当にリザのことが好きなんだな……)

アトラの緊張感がビリビリと分かりやすく強烈に伝わってくる。
好きな女の子がもうすぐ絶望に打ちひしがれてしまうかもしれない……
そう思うと気が気でないのであろう。
そんなアトラの様子を気の毒に感じたと同時に、少しだけ恨めしいと感じた。



「あ、エミリア……起きて。」

「うぉ!?アイベルト!?なんか血まみれだぞ!!!メディーック!!!衛生兵ーーー!!!」

「おいロゼッタ、起きろ……うわ!?な、なんだよ!なんで抱きついて……ちょ、やめ……!」

ムニャムニャと起き出してから元気がないエミリア、なぜか血まみれのアイベルト、いきなり「シアナ〜!」とロリボイスで抱きついてくるロゼッタ。
とりあえずアイベルトは衛生兵に押し付けたところで、奥の扉が開かれた。



「やぁみんな、ミツルギまで遠征お疲れ様……色々と大変だったみたいだね。」

「みなさん、お疲れ様でした!あ、すぐお茶でも用意しますね……」

「ふん……見たくない顔もいるけどね……」

現れたのはヨハン、フースーヤ、サキ。
これでアイナとスネグアを除くメンバーが揃ったことになる。
フースーヤが飲み物を持ってきて全員が人心地ついたタイミングを計ったかのように、扉の奥から声が響いた。



「やぁやぁ十輝星諸君!実によくやった!なりゆきで行った旅先で君たちが運命の戦士たちを集めてくれたおかげで、ついに神器も手に入った!これがあれば……全てを掌握することも夢ではなぁい!」

「おお、なんか王様テンション高いな……」

「クックック……当たり前だろう?神器は全てを掌握する力。正しい使い方がわかるのは俺様だけ……強力すぎるが故に今まで興味がなかったが、普通に遊ぶのも飽きたからな。」

「……遊ぶ……?」

「俺様にとって全ては遊びだ……だがちまちま侵略していくチャチな遊びは終わりだ。神器を使ってすべての国を侵略し尽くし、トーメント王国を最強国家にしてやる……それでこの世界は終わりだ……ククククククク!!!」

何か含んだような言い方で戦争の始まりを告げるトーメント王。
その様子を見た王下十輝星たちは、様々な感情を抱いていた……

449名無しさん:2019/03/07(木) 00:54:00 ID:???
「止められ、なかったのか……」

「……唯、ごめん……私……私は……」

「瑠奈……ううん、今は何も言わないで……とりあえず、テンジョウさんたちに報告しに行こう?」

王を止めることができず、決戦は戦争編まで持ち越しとなった唯たち。
王が去り際に放った言葉……瑠奈だけは、自分たちが帰ることよりも王を倒すことを優先するのに納得がいっていない、ということ。
そのことについて話し合いたい気持ちはあるが、何はともあれ報告を急ごうとする唯たち。そこに……

「おっと、その必要はないで。一足も二足も遅くなって堪忍な、運命の戦士たち」

「え、あれ?大会取り仕切ってた人?」

「あー、言っとらんかった?実はウチな、討魔忍五人衆やねん」

「えーー!そうなんですか!?」

「先ほどは力になれず、すまなかったな篠原唯」

「……この、惨状を……トーメント王が……母様……!」

突撃現れたのは金尽のコトネ。その後ろには沈痛な面持ちのササメと、無表情のアゲハがいた。リザに殺されかけた2人がコトネに状況を報告した所、彼女は自ら魔の山に登ることを選択したのである。

「本来魔の山は皇帝以外立ち入り禁止……ハーフのササメや暗部のアゲハを送るのも限りなくグレーに近い黒やったが……こうなってまうと、もう関係あらへんからな」

コトネが周囲を見回す。王に暴虐非道によって、ヴィラの戦士ミゼルが体を魔物に乗っ取られ、他の一族や雪人を虐殺して回った惨状の跡は、あちこちに残っていた。

「コトネ様、我々は生存者を探して参ります」
「ひょっとしたら、母様もどこかに……!」

「おう、行ってきてええで。ウチは5人と話があるさかい」

あくまでも任務然とするアゲハと、母のことを心配しているのを隠しきれないアゲハが、周囲に散っていった。

「これを見るに……セーブ・ザ・クイーンは持ち逃げされてもうたみたいやな!かー、金も払わずにパクるとは許せへんな!」

「えっと、ごめんなさい……私たち、トーメント王を止められなくて……」

「ゆうて神器なんてテンちゃん以外は御伽噺の中でしか知らんから構へん……とまでは言えんけどな、テンちゃんは体制を変える良い機会と思ってるみたいやで」

「テンジョウが?」

「まぁウチらも今まで、各々で好き勝手し過ぎやったからな……テンちゃんの下で組織を一本化する、って話や」

神器を王に奪われたのは大きな痛手だが、ミツルギはこれを機に大きな変換点を迎えようとしていた。或いは負った痛手以上の物を手に入れたのかもしれない……


「ちゅーわけで、運命の戦士の5人には、ちょっくらテンちゃんやヒカリ王女、リリス女王の所まで来て貰って、今後の話をしてもらいたい……っと失礼」

話しの途中で着信があったようで、懐からスマホを取り出してポチポチと操作するコトネ。


「特にメイドちゃん……いや、アリサ嬢ちゃん。アンタにとっては、ちっと重要なお話になるかもしれへんで」

450名無しさん:2019/03/08(金) 01:28:12 ID:???
ユキはミシェルに魔導義肢をカチャカチャと弄られた後、スネグアに目隠しをされた上で薄手のノースリーブワンピースを着せられて、ベッドに大の字に拘束されていた。そしてそのベッドに、ミシェルのくすぐり拷問機械がセッティングされる。

(だ、大丈夫……ただの、治療、なんだから……)

くすぐり拷問機械……と言えど、ブラシやら羽やらのくすぐったそうなものと、いくつかのロボットアームが付いているだけの、雑然とした機械だ。それはユキも目隠しされる前に見ていた。
恐怖心はあるが、ユキは心のどこかで『くすぐり』という行為を甘く見ていた。甘く、見てしまっていた。

「くすぐりというのは馬鹿にならない。古代には足の裏をくすぐる拷問があったくらいだからね」

ユキの内心を見透かしたようにそう言いながら、スネグアが手元のスイッチで機械を作動させる。次の瞬間、ロボットアームが羽ペンを持って、ユキの脇のくぼみをツゥーと撫ぜる。


「ひゃっ!?」

ビクッ!と体を震わせるユキだが、拘束のせいで逃げることは叶わない。いくつかのロボットアームが、ユキの脇から脇腹に這うように手を動かし、何度も何度も、無機質に、ユキの脇腹をくすぐる。

「くふっ!あははは!ひっははは!!」

徐々に激しくなってくるくすぐりだが、まだ余裕がある。この程度なら、母や姉と戯れにやりあったことものある。そう思っていたユキだが、くすぐりが長くなるに連れて、その苦しみは増していく。


「なん、で、慣れ、ない、のぉ……!あ、ははははははっは!!!や゛め、!!! やめ゛、で、あははっははははっははっははは!!!!」

体を反らして浮かび上がるあばら骨をアームにツーとなぞられ、コリコリとくすぐられる。

「普通はくすぐりというのは、刺激に慣れてしまうが……その辺りはミシェルのお手柄だね」

「上手いこと魔導義肢を調整したからね。まぁ魔導義肢込みでの人体改造なんて、私にかかれば楽勝よ」

魔導義肢が刺激を何倍にも増幅して、ユキの神経にダイレクトにくすぐったさを伝える。これを長時間繰り返すことで、徐々に神経が魔導義肢に繋がり……膨大な魔力に頼らなくても、魔導義肢を動かせるようになるのだ。あくまでも医療行為だと言うスネグアの言葉に、嘘はない。

ユキもそれを分かった上で受け入れたが……想像以上の苦痛に、思わず許しを乞ってしまう。勿論、スネグアがそれを聞いてくすぐり拷問機械を止めることはない。
そして遂に、一番くすぐりに弱いとされる、足裏に対し……大量の木製の棒が、迫っていく。


カリッ……カリッ……カリカリカリカリカリカリカリカリ――――――――ッ!

「ひひゃははははははははははは!!!ッはははは!!!げほっ?!ごふッ……ひゅっ……あはははははははッ!?!」

足裏の窪みを棒でカリカリとくすぐられた瞬間、ユキは今までで一番の擽感に襲われる。

笑いすぎて心拍数はドンドン上がり、心臓がバクバクと痛い。面白くて笑っているなら自分で加減もできるだろうが、くすぐられて無理矢理笑わせられているユキに、そんな加減などできようはずもない。


くすぐられていることで体が勝手にビクビクと震える。両足が攣って、腹筋が痙攣し、肩も外れそうだ。それでもなお、無理矢理笑わせられる。長年の病院生活で肺の機能も弱まっていたのもあり、呼吸困難に陥る。

「か、ひゅ……!んひゅぅうう゛!あはははははははっはははっはははははははははははははっ゛!!! 」

「たまには趣向を変えるのも良いものだな……ではミシェル、後は頼んだよ。私は王様たちに挨拶をしてくる。ついでに、リゲル殿も呼ぶとしよう」

451名無しさん:2019/03/10(日) 01:11:15 ID:???
「ひゃひひひひひひひひひひひひひひ゛!!! ひぃい゛ッ!! ひぃいいいいいいいい゛!!!!あ゛ははははははははははははははは!!!!」

スネグアが部屋を出ていった後も絶えまなく続く機械による強制くすぐりに、絶叫をあげるユキ。だが、こうやって無理矢理にでも治療されなければ、自分はずっと姉のお荷物になってしまう……その想いによって、何とかユキは耐えていた。

だが、それを見たミシェルは、更なる追い打ちをかける。

「ふふふ……今はスネグアも見てないし……絶好のチャンスね」

ミシェルはヘッドマウントディスプレイ……かつてユキが教授に洗脳された時に付けていたのと似た種類のものを取り出した。

「不死の研究に於いて、脳の劣化をいかに抑えるかは超重要……アルタイルの奴が記憶を弄ってあるアンタの脳みそは、貴重なサンプルなのよね」

そう言いながら、ヘッドマウントディスプレイを強引にユキに装着する。

「ひゃああはははははははははははははは!!!! っっひぃ!!! ッっひぃいィいい゛!!!なに、これ、ぇええ……!?」

「ふんふん。脳波の流れに微妙な異常があるわね。じゃあこれをこーして、あれをあーすれば……はい、ポチっとな」

ユキの質問には答えずに、手元のコンソールを操作してヘッドマウントディスプレイを作動させるミシェル。


その直後……ユキの頭の中に、凄まじい爆音が響く。

「っつうううう゛!!?? ひぅっ!!? ……っ……ッっ!!!」

明らかにくすぐったさとは別の要因で体を跳ねさせるユキ。ヘッドマウントディスプレイから流れる電波が、無理矢理彼女の頭の中を掻き回しているのだ。

「というわけで、色々電波を流したりするわね。リレーの都合上説明しとくけど、ひょっとしたら消されたはずの記憶が蘇る……かもね。ふふふ……」

452>>449から:2019/03/10(日) 17:25:41 ID:???
「下忍から報告があった。『竜殺しのダン』殿の生存が確認されたそうだ。少々負傷したが、命に別状はないらしい」
「そうなんだ!よかったー……あとでお見舞いに行かなきゃ!」

テンジョウ、リリス、ヒカリの待つミツルギ上に戻って来た唯達。
デスルーラやら何やらではぐれてしまっていた仲間の無事を知らされ、5人はひとまず安堵する。

「んで、本題に入るが……今回の事件で、やはりトーメントの奴らは危険だとハッキリと分かった。
ミツルギの諜報力、ルミナスの魔法力、シーヴァリアの剣術、そして……ナルビアの科学技術。
全てを合わせて、対抗しなけりゃならん」
「……トーメントが『セーブ・ザ・クイーン』の力を手にした今、一刻の猶予もありません。
私達は急ぎナルビア王国に赴き、会談を行う予定です」

テンジョウ、そしてリリスの口から、今後の展開が語られる。
……世界の命運をかけた戦いに向け、各国が動き出そうとしていた。

「まあ、偉い人同士の話し合いはこっちでなんとか進めるとして……
いざトーメントとの決戦となったら、やはり運命の戦士である君たちがカギになるのは間違いない。
それに向けて、君たちの実力を更に磨くには……まあぶっちゃけ特訓回をやっとくべきだ」

「その事なんだけど……ヒカリ。私、一度ルミナスに戻ろうと思うの。
魔法の修行には、その方が都合がいいし……水鳥も、心配してるだろうから」

あまりにもぶっちゃけたヒカリの提案に対し、最初に口を開いたのは鏡花だった。

「あの……リリスさん。ボクもナルビアに着いて行っても良いかな。
この間アルガスに行ったときはひどい目に遭ったけど、もしナルビアの技術をアヤメカに取り入れる事が出来たら………」

続いて彩芽が、珍しく能動的に言葉を発した。
これまでの戦いで常に誰かに守られっぱなしだった自分の現状を、少なからず気にしての事かも知れない。

「私も……もっと強くならないと……」
十輝星上位の実力者であるヨハン、そしてアイベルトにも、一対一で全く歯が立たなかった。
その事実が、瑠奈の心に深い影を落としている。
言葉とは裏腹に、瑠奈の心は闘志の火が消え、今にも重圧に圧し潰されそうだった。

「ところで……テンジョウ。コトネさんから窺ったのですが、何か『重要なお話』があるんですって……?」

453名無しさん:2019/03/10(日) 23:42:42 ID:2V.rVDc.
トーメント王は戦争の準備を皆に告げ、自室へと帰っていった。
残された王下十輝星たちは、来たる世界征服の戦いに想いを馳せ心を躍らせる──
わけもなく、沈黙していた。

「……あれ?皆さん、どうして元気がないんですか?王様がすごい力を手に入れて、世界征服にも手が届くっていうのに……」

「え、あ、あぁ……そうだな。諸外国全員が攻めてくるんだ。これからは特に忙しくなる。……全員の力をあわせて、やっていかないと……」

疑問に思ったフースーヤが声をかけるが、答えたシアナの歯切れは悪い。
いつも的確な指示出しで信頼を集めている彼の様子に、フースーヤは首を傾げた。

「まあまあフースーヤ。いきなり諸外国のすべてと戦争なんてスケールの大きい話、王様以外はびっくりして当然だよ。僕たちもさっき聞かされたときは、呆気にとられてしまったじゃないか。」

「え、そうですか?ヨハン様はいつも通り、落ち着いていたように見えてましたけどぉ……?」

「あはは……いきなり全面戦争なんて聞かされたんだ。あれでもかなり驚いてたよ、サキ。」

「そ、そうですか……?まぁ、ヨハン様はいつも冷静沈着ですもんね!」

ヨハンLOVEのサキがいつもより1オクターブ高い声で媚びた。
その様子を無視して辺りを見回していたリザが口を開く。



「ねぇ……アイナはどこ?ここにはいないみたいだけど……」

「……あれ?そういえばアンタのうるさい相方がいないわね。アホベルトはさっき医務室に行ったけど……」

「ほんとだー!アイナちゃんがいないよー?……ねぇ、どこにいったのシアナー?」

「あ、あれ?ロゼッタさんってそんなキャラでしたっけ……?」

「彼女の心はいつも不安定だ。ミツルギでなにかあったのかもしれないね……」

ロゼッタの様子がおかしくなったのを知っているのは、この場にいない。
アイベルトも気絶していた以上、仕方のないことではある。

「………えっと、リザ。アイナは……」

「………リザちゃんっ……アイナちゃんは……アイナちゃんはぁっ……!」

「……え、なに……?アイナがどうしたの?2人とも……おかしいよ……?」

苦虫を噛み潰したような顔のアトラと、すでに涙声のエミリアの様子に……リザの瞳がゆらゆらと揺れた。
心が落ち着かない様子が、彼女の目にはっきりと現れている。

2人からは言い出せないだろう。
だからシアナは、息を吸い込んだ。



「……アイナは死んだ。任務中の不慮の事故による殉職だ。……僕の立てた作戦ミスだ。すまない。」

感情を含まない機械的な声で、シアナが言葉を放った。
さすがにリザの方を見て言えなかったが、その必要もないだろう。
自分の言葉を聞いたリザの顔も、見たくない。
見れるはずもなかった。



「……アイナが……アイナが……」

消え入るような切ない声で、リザがそう言った。
エミリアはすでに泣き出していて、アトラは顔を伏せたまま。
フースーヤも神妙な顔で俯いている。

「アイナちゃん、死んじゃったの……?ねぇシアナ、どうしてアイナちゃんは死んじゃったの?ねぇねぇー?なんでぇ?」

「……ロゼッタ、ちょっとこっちに来ようか。僕が説明してあげるよ。」

事態を飲み込めない様子のロゼッタを、ヨハンが別室に連れて行った。

454名無しさん:2019/03/11(月) 01:10:52 ID:???
(……クソリザのやつ……全然取り乱さないのね。ウルウル涙目になってるだけ……さすがにちょっと拍子抜けだわ。)

皆が沈黙する中、遠巻きに様子を見ていたサキは唯一顔を上げて様子を見ていた。
他人の感情の観察は、諜報員である彼女にとって興味深いものである。
自分に関係ない他人の不幸ならば、それを観察するいい機会だ。

「……シアナ……私に言い辛かったこと、ちゃんと言ってくれてありがとう。……わたし、部屋に戻るね……」

そう言って踵を返したリザ。
皆がその小さな背中を見たが、誰も、なにも言えなかった。



「……そうなんですか……アイナさんは、エミリアさんを庇って……」

「う、うぅう……私が……私がぼんやりしてたせいだよぉ……!リザちゃん、すごく辛いはずなのに、あんなに冷静で……うぅ……」

「……アイナが死んだのは誰のせいでもない。アイナが自分で選んだ結果だ。……エミリアは自分を責めないでくれ。アイツもそんなこと望んでない。」

「うぅ……シアナくんっ……」

エミリアはあの時、アトラやシアナたちと離れて暮らそうとアイナに言った。
それは十輝星というポジションからアイナとリザを遠ざけるつもりだったが、やはり彼らもアイナにとって、かけがえのない存在だったのだろう。

そんな存在を置いていくような提案をした自分を、エミリアは後悔した。
断れても、当然の提案だった。

「……リザのやつ……かなり無理してたっぽいけど……だ、大丈夫だよな?ドロシーの時もすげえ思いつめてたし……親友2人を失くして、早まるとかないよな……?」

「お前、縁起でもないことを……そんなことアイナが望むわけないのは、あいつが一番よくわかってるだろ。今は……1人にしてやったほうがいい。」

ドロシーが死んだ時は、リザは一週間も部屋から出てこなかった。
その間はアイナがご飯を持って行って会話をしたが、それでも部屋から出て完全に立ち直ったのは、かなり最近のように思える。

(……リザは最近ようやく感情を表に出すようになったのに……また能面みたいな風になるのは勘弁だな。これから大きな戦争になるんだし……)

そこまで考えて、シアナは違和感に気付いた。

(……おかしいな。なんで僕がこんなに他人に気を使う必要があるんだ。ドロシーが死んだ時だって、無鉄砲が祟ったんだとそんなに気にもしなかったのに……なんでこんなに今、いろんなことを考えて……)

今の自分は、アトラやエミリアに冷静さを説き、リザの心を案じている。
自分は彼らの親でもないのに、なぜか他人の心配ばかりしてしまう理由は、すぐに見つかった。



(そっか……今本当に考えなきゃいかないことは、大好きな女の子が死んだこと。……でもそんな悲しいこと考えたくないから、他のことに気移りしてるだけ……だな……)

ドロシーの話によれば、神器を使えば死者を蘇らせることもできるという。
だがそれは、十輝星を蘇生しないという王の意向に背く行為。
勝手に神器の力をそのようなことに使うことも、王は許さないだろう。

(僕……いや、僕たちも、闘いとは別のことを、色々と考えるべきなのかもしれないな……)

エミリアを守るために命を落としたアイナと、自分たちを守るために魔法を展開した鏡花が重なる。
起こった事実たちが自分をどう動かそうとしているのか……
シアナは、ゆっくりと考えることにした。

455>>452から:2019/03/12(火) 22:46:54 ID:???
「その辺は、本人に話して貰った方が早いな……おい、出てきていいぞ」

アリサの質問に対してテンジョウは、部屋の奥の襖に声をかけることで答えた。ゆっくりと開いた襖から出てきたのは……


「……お久しぶりですね、アリサお嬢様」

「あ、あなたは……アルフレッド!?」

「アルフレッドさんも無事だったんですね!良かったです!」

突然現れた因縁の相手に、驚きを隠せないアリサ。その横で唯は平常運転だった。


「驚いたか?実はな、こいつをスカウトすることにしたんだ。当然、公の立場には置けないがな」

「……今まで、一人でコソコソ動いてたあんたが……どういうつもりよ?」

瑠奈は自分たちをミツルギに連れてきた元凶に思うところがあり、トゲのある口調で問い詰める。

「単独での活動に限界を感じた……といったところですかね」

「なんか今度は方向性の違いを感じた……とかで離脱しそうな言い方だな」

「彩芽ちゃん、ちょっと黙ってて」

シリアスな空気になるとついふざけたくなる彩芽だが、鏡花にバッサリと斬り捨てられてしまう。

「でもまぁ、今は仮採用って感じだな。こいつをどうするかは……アリサ姉ちゃん次第だ」

「私、次第?」

「ソフィア・アングレームとその一味は、私にとっては怨敵でしたが、貴女にとっては良き母であり、良き師匠であったことでしょう……ここで積年の恨みを果たすというなら、それもいいでしょう」

やや投げやりにも感じられるアルフレッドの言葉。彼は以前から影のある男だったが、今は以前にも増して憂いを帯びている様子だ。


「最早私では、ロゼッタお嬢様を救うことはできませんから……」

「……どういうことですの?まさか、彼女に何か!?」

アリサは、嫌な予感がした。ブラッディ・ウィドーは自分が相討ちで仕留めたが、発作が起きた状態であんな洞窟に放置されていては、何かが起こってもおかしくはない。

「……貴女が王の元で生き返った後……ロゼッタお嬢様は、ブラッディ・ウィドーの雄の大群に襲われ……心が……」

「そ、そんな……!」

自分が王と対峙している間に起きた悲劇に、悲痛な声を出すアリサ。

「……お優しいのですね、アリサお嬢様……ロゼッタお嬢様とは、敵同士でしょうに」

「敵同士など……関係ありませんわ。私は……彼女の、子供のように純真な心を、救いたかった……私も以前、同じように、復讐に囚われていたからこそ……」

そう言った後、アリサは自らの胸に手を置くと、決意を込めた目でアルフレッドを見つめる。

「アルフレッド、私は……私は、貴方を許すことはできませんわ。けれど……もう、憎むこともしません」

「許さないけれど、憎まない……ですか」

「人の心というのは、複雑なもの……ロゼッタさんを見て、そして改めて貴方と会って……ようやく分かりましたの。この、愛憎入り乱れたグチャグチャな心は……グチャグチャなままが一番綺麗な形なんですわ」

「おお……今日の亜理沙は、なんかいいこと言ってるっぽいけど冷静に考えたら矛盾してる言い回しを多用するなぁ……」

「ちょっと彩芽、空気読みなさいよ」

「だって亜理沙ばっかりイケメンとか権力者ショタと絡んでてズルいじゃん」

「まぁそれは確かに……」

「私は!!」

余計な事を言っている彩芽と瑠奈を黙らせるため……ではなく決意表明として、アリサは声をあげる。

「私の考えは変わりませんわ……!ロゼッタさんの心を救います!どれだけ壊れているように見えても……心の光は、決して消え去ることはないのだから!」

「……ならばアリサお嬢様には、私の元でラウリート流の剣術を学んで頂きたい。ロゼッタお嬢様の正気を取り戻すには……貴女の輝きと、ヴィオラ様の剣術が必要不可欠です」

「……望むところですわ!」

456>>451あたりから:2019/03/16(土) 13:34:02 ID:???
トーメント王が王都に帰還する、少し前の事。
闘技場にて、試合開始を間近に控えた一人の少女闘士が身支度を整えていた。

「……何よ、この剣。ロクに手入れされてないじゃない……大丈夫かしら」

年の頃は17歳くらいか。髪は茶髪で、側頭部をリボンで結んだ女の子らしいサイドテール。
幼い容姿と少し舌ったらずな声も相まって、まさに美少女然とした印象を与える。

彼女の名はイヴ・ステリーア………元はルミナスの魔法少女学校に通っていた見習い魔法少女だったが、妹のメルともどもトーメント王国に囚われてしまっていた。

「でも、やるしかない……絶対に勝って、メルを助け出さなきゃ」

そう……イヴがこの闘技場で戦う事になったのは、妹のメルを解放するため。
その交換条件として提示されたのは、
トーメント王国の技術者が開発したという、ある「装備品」の実践テストに協力する事だった。

だが、その「装備品」がどういう物なのかは、聞かされていない。
武器として持たされた剣は、手入れこそ杜撰だがいたって普通の品のようだ。
となると、怪しいのは……

「……試合ではこれを着ろ、って言われたけど……この服に何か仕掛けがあるのかしら」

全身を覆うインナースーツにスパッツ、薄紅色と白のジャケットに、無駄にヒラヒラなフリルのついたスカート。
露出度は控えめだが、どことなく変身した魔法少女を思わせる(フェチい)コスチュームである。

「考えてても仕方ない……とにかく今は、やるしかないんだ……!」
心の奥から止めどなくあふれ出す恐怖と不安を押し殺して、イヴは闘技場へと向かう。
その先に待つ運命は、果たして………

…………………

同じ頃。

「んで、教授〜。噂の『神ゲー』って、コレ?」
「クックック…その通り。今後間違いなく一大ムーブメントを巻き起こすだろう、VR格闘シミュレータ。
操作デバイスは段ボール製だ!」

トーメント城の研究室にて、ジェシカは教授から何やら怪しげなマシン(段ボール製)を手渡されていた。

「いや、ねーだろ……まあとりあえずやってみるけどさ………おおっ!?これは!?」
半信半疑ながらVRゴーグル(段ボール製)を被り、グローブ型の操作デバイス(段ボール製)を身に着けるジェシカ。
彼女の目に飛び込んできた物は……

…………………

「「「ワアアアアアアア!!」」」

(どっかで見た事あると思ったら、ウチの闘技場じゃん。CG……じゃなくてリアルタイム映像?)
(その通り。プレイヤーは個性豊かな闘士たちを操り、闘技場の覇者を目指して戦う的なやつだ!)

「さあ久々にトーメント闘技場での試合開催であります!
時系列的には今まさにミツルギのトーナメントも行われている頃ですが、気にせず行きましょうカイセツさん!」

「よろしくお願いします!さて、本日の闘士は魔法少女見習いのイヴ・ステーリア選手。
捕まっている妹を助けるために闘技場に参加したという、グッとくるエピソードの持ち主です。」
「チョイ役にも関わらずなにげに登場時から美少女扱いされてますね。
どんなリョナられっぷりを見せてくれるのか、非常に楽しみです」

「ウォォォ--!!いいぞー!ブッ殺せーー!」
「イヴちゃん俺だー!!結婚してくれーー!!」
「スパッツ!スパッツ!」
「コスが割とかわいい系だな…俺はもっと露出度高い方がいいぜ!!」
「いやいや!ああいう子には、清純な雰囲気の方が似合うんだって」
「まあどうせ全身ひん剥かれるんだけどな……デュフフフフフ」

「うう……何なのよ、あの解説は……会場の雰囲気も何か怪しいし」

早くも会場の雰囲気にのまれ始めたイヴ。対戦相手の詳細は聞かされていない。
どんな相手なのか、自分の実力でどこまで立ち向かえるのか……不安を掻き立てられつつも剣を構えた、その時。

(ぞわり………)
「ひんっ!?……な、何今の。誰かに……いや、何かに、触られたような………!?」
お尻を誰かに撫でられた。いや、粘着質な舌のようなものが、お尻の辺りを這い回るような感触を、イヴは覚えた。

(おおー。本物そっくりの手触りっすね!段ボールのはずなのに)
(そうだろうそうだろう!……君は闘士の着ている特殊スーツと一体化して、
彼女を手取り足取り腰取り操作し、勝利を目指すのだ!)
(うわ!回りくどっ!めんどくせー!……でも面白そうっすねぇ……ヒッヒッヒ)

457名無しさん:2019/03/16(土) 19:22:24 ID:???
「対するはぁああ!!多分もう誰も覚えてなかった『敗北雌犬(マケイヌ)』の異名を見事に返上中!現在6連勝中のぉおお!!は〜〜る〜〜か〜〜わ〜〜!!さぁくぅらぁこぉおおお!!」

反対側のコーナーから現れたのは、艶やかな黒髪を頭の後ろでひとつに纏めている女性……春川桜子であった。

彼女の鎧は露出も少なく、決して性を強調するわけではなくしかしそれでいて所々体のラインをなぞっており、女性らしいシルエットを描き出している。
そして右手には質素だが確かな威力を誇るであろう剣……ようするに初登場まんまの出で立ちである。

「くっ、今度は魔物ではなく、女の子だと……!?君!悪いことは言わない!棄権するんだ!今の私では君を傷つけてしまう!」

「なっ……!馬鹿にしないでください!その心遣いは嬉しいですけど……!私だって、譲れないものの為にここに立っているんです!」

イヴとて、てっきりもっと凶悪な魔物と戦わされると思っていたら、優しげな女性が相手だったことに驚いている。
だが、だからといってメルを諦めることなどできるはずもない。相手の女性も訳ありなのだろう。それ以上は何も言わず、既定の立ち位置まで歩んできた。

「おーーーっと!両者いきなりのバチバチモードだぁあああ!!」
「厳密にはバチバチとはちょっと違う気もしますが、細かいことはいいでしょう!さて実況サン!ゴングをお願いします!」
「では久々にあのゴングを行きますよー!第一試合、イヴ・ステリーアバーサス春川桜子!LETSROCK!!!」」


「とにかく、まずは魔法で……きゃっ!?」

ゴングの直後。戦い慣れていないイヴは、とりあえず距離を取りつつ牽制しようとしたのだが……先ほどと同じく、何かに勝手に触られたかのような感触の後に、その体は勝手に桜子の元へ向かっていく。


(うぉおおおおお!!先手必勝!突撃あるのみっすーー!!)


「く、やはりダメか……!すまない!」

桜子は唇を噛みしめてそう言った後……スマ〇ラのFE勢がよくやるカウンターのポーズを取る。そして、イヴの余りに弱々しいパンチに合わせ……

「瞬覇一閃!」

「え……きゃあああああぁあ!!?」

一気にイヴの懐に踏み込み、剣を振りぬいた。勝手に動いた体が咄嗟に身を翻したが、横腹の辺りをバッサリと斬り割かれた。

(ちょ、あぶな!?)
(キャラの性能を考えて動け!あっちのプレイヤーは、ランカーだぞ!)
(ランカー!?マジっすか!?)
(ネット友達の✞甲賀✞にもニン〇ンドーラボを装って送ったら、即ランカー入りしてな……)
(こっちは初心者っすよ!?マッチングのバランスが崩壊してるっすー!)

「くっ、すまない……!だが、体が、勝手に……!」

「が、ふ……!い、やぁああぁ!」

熟練ゲーマーらしい、大技ではなく細かいコンボでダメージを稼ぐ戦法。避けようとするイヴの動きを的確に先読みし、桜子の剣は少しずつだが着実に、イヴの柔肌を切り裂いていく。

(ククク……小技の連続でもうフラフラだね……ここらで大技を行くよ!)

「っ……!君!私の右腕に注意してくれ!」

「はぁ、はぁ……右、腕……?」

「ダメだ、止められない……!GUGAAAAAA!!」

突如、獣染みた叫び声をあげる桜子。その直後、彼女の右腕が突然大きく膨張し……

「え……おっごおおおおおぉおお!!?」

魔物の力を解放した桜子の右腕が、イヴの腹部を深々と抉った。

458名無しさん:2019/03/20(水) 00:32:15 ID:???
「はぁ……めんどくさいわね……」

艶やかな黒髪を揺らしながらトーメント城の廊下を歩く少女。
その端正な顔にははっきりと不快感が現れていた。

(周辺諸国全てを敵に回して戦争するから、情報収集、諜報活動、軍備の制限……その他諸々全部私やヨハン様に全部押し付けるなんてっ!あのクソ露出狂……!)

戦闘向きではないサキは、その諜報能力を活かして情報を集める任務が多い。与えられた任務は適切と言える。
だが、それにしても話が急すぎるし、個人に与えられる仕事量ではなかった。

(……とはいえ、諜報活動が片付いた後はヨハン様と2人っきりになれる時間が多くなるのはいいわね……朝から晩までずーっと私と一緒にいてくれれば、ほんのちょっとでも女として見てくれるかもしれないし……ふ、フフ……!)

サキの顔に小悪魔のような笑顔が浮かぶ。性格は曲がっていても、恋愛への興味は年相応にあるサキであった。



(さて……まず、舞のことは助けてあげないといけないわ。任務と偽ってでもナルビアへの潜入を優先させて、あの子を連れ戻さないと……)

ヨハンとの恋愛のためか、舞のためなのか、その両方か──サキは早速自分のこれからの行動を決めようとしている。
そんな彼女の前に、ふらりと現れたのは……


「……あ……サキ……」

「……げ、クソリザ……!」

昨晩、親友の死を告げられ、目の下を真っ赤にしているリザだった。



「…………………………」

「……な、何よ気持ち悪いわね……アンタと話すことなんかなにもないわ。空腹なら食堂でも行ってなんか適当に食べれば?……それじゃ。」

なにか言いたそうなリザを言葉で突っぱねると、サキはすぐにその場を後にしようとする。

「……サキ……待って……」

か細い声が聞こえたかと思うと、サキの左腕に小さな手が添えられた。

「な、ななっ!何気安く触ってんのよっ!あたしはアンタの友達じゃないんだから、許可なく触ってん、じゃ……!」

いつものように悪態をつきながら、リザの顔を見たサキは言葉を失った。
彼女の双眸に宿る儚いような光を、なぜか──美しいと錯覚してしまったから。



「……サキ。私……サキと少し話したいことがあるの……私の部屋に来てくれる……?」

「……はぁ、全くなんなのよ……!本当に少しだけなんだからねっ!」

お前は一昔前のツンデレか!と脳内で自分にツッコミを入れつつ、サキはリザの部屋へと案内された。

459名無しさん:2019/03/20(水) 00:40:56 ID:3P90T4YE
「……ごめんね。急に……」

「全くよ。ていうかアンタの部屋、なんていうか、生活感なさすぎ……」

リザの部屋には、机とベッドと本棚と収納のための箪笥やクローゼットがあるのみ。
机の上には仕事の資料が並び、本棚には娯楽本はなく、暗殺術や各国に纏わる資料ばかり。
趣味や遊びなどの人間としての余裕ご全く感じられない、無機質で無個性な印象を与える部屋である。

(つくづく面白みのない奴だと思ってたけど、まさかここまだったとはね……趣味っていうものは全くないのかしら)

「……あ、椅子に座っていいよ。わたしはベッドに座るから……」

リザに勧められる前に、サキは椅子を引いて腰を下ろした。

「で?なによ。さっさと終わらせたいから手短にね。アンタの部屋なんて居心地悪いわ。」

「……うん。話したいことだけ……本当に話したいことだけ話すね……」

顔を伏せたままのリザが、落ち着いた声を出す。
その声になぜか只ならぬ気配を感じ、サキは歪顔した。

「……本当に話したいこと……?」

「……ミツルギでいろいろなことが起きて……今のわたし、落ち着いてるように見えるかもしれないけど、結構不安定で……昨日の夜も、ずっと泣いてて……何度も叫んで……何度も吐いてて……」

本人の言う通り、落ち着いているような声だが、脆さを隠しきれていない、抑制しきれていない感情があるのは、サキの耳にはわかる。
感情の機微に敏感なサキには、リザのできるだけ隠そうとしている感情が透けていた。

「……自分のこんな弱くて脆くて情けない姿、誰にも見せたくない……1人になりたい……だけどっ……1人でいると私、自分が何をするかわからなくて……怖くてっ……!」

(……こいつに何があったか知らないけど、自己否定が強くなってるみたいね。もともとそういう性格なのが、何かをきっかけにさらに強くなっている……自己憐憫するタイプじゃないし、ちょっと危険な状態かしら……)

自己否定をするタイプの人間は、他者から褒められることが苦手で、ちょっとした贅沢でも自分には不相応と思いこむ。
悪い方へ悪い方へと思い込みが過ぎると、自己を破滅させる行動に出ることも珍しくない。

(ま、エミリアとか自分の友達にこんな姿見せるよりは、自分に対して何の感情もない私の方がいいって魂胆か……こいつも結構図太いとこあるわね。)

「だ、だからぁっ……!誰でもいいから……私のことが嫌いなサキでもいいから、全部聞いてほしっ……くてぇっ……!」

リザの声が涙声になる。どうやらまだ泣き足りないらしい。
無慈悲な暗殺者となっても、まだ泣くような感情が残っているものなのか……とサキは思ってしまった。

「ホントに弱いのねぇ……はいはい。聞いてあげるから話しなさい。あんたが今思ってること、全部よ。」

「……っううぅ……!ひっぐ……!サキいぃ……!」

顔を上げたリザの目から、大粒の涙が溢れ出した。

460名無しさん:2019/03/20(水) 02:21:01 ID:???
「……つまり、死んだと思ってた姉と再会したと思ったら、トーメント王国で活動してるのを滅茶苦茶にディスられて、いい感じになった男にも自分の十輝星ってバレて別れた……と」

「ひぐ、ぐすっ……うん……」

リザが涙ながらに語った、ミツルギでの出来事……それを聞いて、流石のサキも少々同情した。

「お姉ちゃんは……お姉ちゃんだけは……私のことを、分かってくれると思ってた……!ひぐっ……!私だってぇ……!好きで、こんなこと……してるわけじゃ、ないのに……!」


「あっそう……まぁ私は家族とは良い関係を築けてるから興味ないけど、ちょっとは同情してあげるわ」


ナルビアの諜報員に襲われたことで、なし崩し的に出所した母と……スネグアの元で『治療』を受けているユキのことを思い出し、サキの顔が曇る。

(あの変態男装女は信用できないけど……ユキが、決めたことだからね……)

ナルビアから帰還してすぐ、サキはユキを助けにスネグアの元に行った。けれど、スネグアはただユキをナルビアから保護しただけだと嘯き……あまつさえ、ユキの体を魔導義肢の無しでも動けるように治療するなどと宣った。

当然サキは抗議したが、車椅子に乗って現れたユキが、涙ながらに自分自身が治療を望んでいること、これ以上サキの負担になりたくないことを語った結果、サキの方が折れた。


「……サキ?どうしたの?」

「なんでもないわ。それで?結局アンタはどうしたいの?私だったら同じ種族ってだけのその他大勢より、身内を選ぶけど、ね……」

一瞬物思いに耽っていたのを目敏く感じ取ったリザが質問するが、リザ相手に身の上話をする気はないサキは軽く流した。

「そんなの……分かんないよ……!お姉ちゃんが言ってることも分かるよ……!でも、私は……私はぁ……!」

再び感極まったリザが涙を流すのを、サキは不思議な気持ちで眺める。グチグチと悩む姿にイラつくと同時に……どこかその姿を儚いと思う。

「……どっちかしか手に入らない、なんて……想像力が足りないわよ」

「え……?」

どこぞのポケ○ンのリメイク版の新キャラみたいなことを言い出したサキに、リザは不思議そうに涙が輝く瞳を瞬かせる。

「アンタが十輝星になったのはなんで?」

「それは……アウィナイトのみんなを、守る為に……」

「違うでしょ。いい子ぶってんじゃないわよ。アンタが十輝星になったのは、トーメント王国の権力で好き勝手する為でしょ」

「サキ……それじゃ、手段と目的が、逆だよ……」

「あーもう一々口答えしてウザイわね!アンタがしたいことがたくさんあるなら、全部手に入れてみせなさいよ!どっちかしか選べないなんて、硬派気取ってるノベルゲームじゃあるまいし!」

次第に口調に熱が入り、声が大きくなっていくサキ。

「無理だよ……お姉ちゃんは……この国で、酷いことをたくさんして来た私を、恨んでる……!またお姉ちゃんと仲良くなんて……私がトーメントを裏切りでもしない限り……!」

「今さらいい子ぶるのは無しよ。姉を無理矢理、力尽くで納得させて屈服させるくらいの気概でいきなさいよ!」

リザが戦いでボコボコにされてたらむしろ笑うサキだが……なぜだか、彼女が力なく泣いているのが、許せなかった。

「欲しいものは、力尽くで手に入れる……!それが私たちのやり方でしょうが!!そうやって、どうしようもないって泣いて悩むのは、奪われる側の弱者よ!でもアンタは……悔しいけど、ライライを倒すくらい強いんでしょ!!」

「サキ……」

「私はアンタなんて大っ嫌いよ。だからこそ、アンタがそうやってウジウジして、まともぶってるのが許せない。力尽くで納得させてみなさいよ、姉を……露出狂が前言撤回するくらい働いて、アイナを生き返らせてみなさいよ!男なんて、そいつが好きなら囲い込みなさいよ!」

サキは椅子から立ち上がってリザの胸ぐらを掴むと、その青色の瞳をまっすぐに見据える。

「悪党なら悪党らしく、全部自分に都合よく生きなさい!被害者ぶって、悲劇のヒロイン気取って泣いてんじゃないわよ!!」

言いたいことを言い切ったサキはリザの胸ぐらを離すと、踵を返す。


「……お生憎。本当に私がアンタの話なんて黙って聞いてあげると思った?アンタにボロクソ言ってスッキリしたから、私は帰るわね」

そう言って部屋を出ていこうとするサキ。リザは、青い瞳をキョトンとさせたあと後……

「サキ……ありがとう……励ましてくれて……」

「……ふん」

リザの礼を背中に受けながら……サキは、部屋を出ていった。

461>>457から:2019/03/21(木) 18:54:27 ID:???
「クソ……!こんな……!」

「お、ご……!ぐ、がぁぁあ……!」


桜子に力の限り腹部を殴打され、のたうち回って苦しむイヴ。それを見て顔を歪ませる桜子だが、今はこの体はプレイヤーによって操られている。目の前の少女への攻撃を止めることは叶わない……かと思われたが。


(やっぱり必殺技は爽快だね……さて、次は……)

(カイ殿!何遊んでるでござるか!今闘技大会は大盛り上がりですぞ!早くしないとスライムに憑依してアイセ選手のエロエロボディを堪能できなくなるでござる!)

(おわ!?おいモブ下忍!それはものすごくそそられるけど、今忙しいんだ!デバイスを取り上げるな!)

リアルの方で✞甲賀✞……カイ=コガにアクシデントが発生し、桜子の動きが不自然に止まる。


(勝機!魔法を喰らうっすーー!)

「ぐ、ごほっ!が……!エレキ……スパーク……!」

これまで学校の模擬戦以外でまともな戦いなどしてこなかったイヴは、本当ならばもっとお腹を押さえてうずくまっていたかった。

けれど、メルを助けなければならないという決意……そしてそれ以上に、体を操作されていることで、体は勝手に起き上がり苦痛に顔を歪めながらも、雷属性の攻撃魔法を放つ。


「くっ……ぐぁあああああああ!!!」

いくら初級魔法とは言え、直撃すればそれなり以上のダメージになる。ましてや金属製の鎧は雷に弱い。
体をピンと伸ばした状態で苦悶の声をあげる桜子。

「ごめん、なさい……!でも、私は……!メルを、助けないと、いけないの……!」

「ぐ、は……!それは、お互い様、さ……私にも……勝たなければならない、理由がある……!」

雷魔法を喰らって、がくりと片膝をつく桜子だが、その闘志は消えていない。彼女とて、いくら相手が美少女とはいえ、わざと負けるわけにはいかないのだ。


(まったく、あのアホ下忍が……無駄なダメージを食らってしまったじゃないか。さっさと片付けて、試合を見に行くとしよう!)

(ふっふっふ……このままジャイアンツキリングをかましてやるっすよ!)


奇しくも、プレイヤーと闘士の思惑が一致したところで……



「「はあぁあっぁああああああ!!!」」




互いにろくに手入れされていない剣で、切りかかりあう桜子とイヴ。その結果……


―――カラン


「あ……」


激しい剣戟で、イヴの剣が彼女の手からすっぽ抜けて、地面に転がる。


「ぃ、やぁ……!」

武器を失った途端、それまでイヴを支えていた闘志が、空気の抜けた風船のように萎んでいく。
無理もない。元々平和に暮らしていたところを、悪逆非道なトーメント軍に連れ去られ、妹とも離れ離れになり、スネグアの鞭で何日も調教され、戯れに闘技場に連れてこられ……武器を持つことで無理矢理アドレナリンを活性化させて戦っていたにすぎないのだ。

「やめ、てぇ……!いやあぁああああああ!!!」

「……すまない……!」

ただのか弱い少女へと戻り、命乞いをするイヴ。そんな儚い存在に対しても、桜子の体は勝手に動き……イヴの左胸から右脇腹にかけてを、バッサリと切り裂いた。

「……ぁ……」

イヴは斬られたことが信じられないかのように、呆けた表情をした後……


「メ、ル……ごめん、ね……」

ドシャリと、その場にうつ伏せに倒れた。

「試合終了ーーー!勝者は、桜子選手だぁああああ!!」
「イヴちゃーーん!最後の弱々表情よかったぞーー!」
「あーくそ桜子がまた勝ちやがった!さっさと殺戮妖精辺りにでもやられちまえー!」
「やっぱ女同士だと剝いたりしないから物足りないな」
「まぁまぁ、そういうのはまた今度にしようぜ。初戦で負けたってことは、あの子……借金持ちの闘奴確定だろ?ぐふふ……」


(あーーくそ!負けたっすー!)
(まぁ初心者ならこんなもんだろう。しかし、マッチングのバランスは確かにおかしかった……スネグアは何を考えてるんだ?)


「ククク……無垢な少女を手にかけた桜子は、最早以前のような戦意を保てないだろうな……そして、イヴちゃんの蘇生費用は私持ちになることで、好きな相手と闘わせられる……そう、例えば君とか……ね、メルちゃん」

「ご主人様ぁ……!あんな女どうでもいいから、お薬、いっぱい、くださぁい……!」

……こうして、悪の王国に囚われた者たちの受難は続く……

462名無しさん:2019/03/21(木) 20:53:19 ID:???
「……あぁああ!もう!なんで私が、クソリザのことなんかでこんなにモヤモヤしなきゃなんないのよ!」

リザの部屋を出ていったサキは、なぜ自分があんな風に、リザを焚き付けるかのような事を言ったのかが分からず、モヤモヤしながら歩いていた。と、そこに……

「おや、サキ……奇遇ですね」

「あ……よ、ヨハン様……」

ヨハンと偶然出会った瞬間、髪の毛をクルクルと弄って乙女モード全開になるサキ。

「サキ、ちょうどよかった。君は確かナルビアへの諜報を希望していましたね?ならば、これを差し上げます」

「……これは?」

ヨハンがサキに手渡したのは、ある観光地へのチケットだった。

「ナルビアに行きがてら、ご家族と観光地にでも行ってきてはどうです?ここのところ働き詰めですから、僕からの気持ちですよ」

「え、でも……妹は今、治療を……」

「先ほどスネグアの元へ行く用事がありましてね。妹さんの治療は一区切りついたとのことです。車椅子でなら、外出も可能とのことですよ」

「本当ですか!?良かった……!」

ヨハンから嬉しい報告を聞き、笑顔になるサキ。それを見てヨハンは言葉を続ける。


「これから休む暇もなくなるでしょうからね。仕事に行きがてら、というのは申し訳ないですが、少しでも羽を伸ばして来てください」

「え、そんな……本当にいいんですか?」

「もちろん。ただその分働いてもらいますから、そこまで感謝して貰わなくても結構ですよ」

「ヨハン様……ありがとうございます!」
(やっぱり包容力のある年上で大人のイケメンが一番よね!ほんっとカッコイイわ……ヨハン様……)

滅茶苦茶キュンキュンしながら笑顔で礼を言うサキ。彼女の貰ったチケットに書いてある、観光地の名前は……月花庭園。
トーメント国とナルビアの国境近くにある、月明かりに照らされるたくさんの花が観光地になっている隠れスポットである。

463名無しさん:2019/03/21(木) 22:04:35 ID:???
そんなこんなでミツルギの闘技大会が終了し、魔の山でなんやかんやあり、王と配下の十輝星が帰還してしばらく経ち、
イヴパートとミツルギ編の時系列がいい感じに統合された頃。

「例のVR装置(段ボール製)の開発は順調なようですね……教授」
「これはヨハン殿……ええ。テストプレイヤーも文句言いつつ頑張ってくれてますし、最終調整ももうすぐ完了ですよ」

◆◆◆◆◆

「うふふふ………みえる、みえるわ。あなたのうんめい……」
「ひっ!!あぐっ!!……こ、攻撃が見えないっ……近づけないっ……!!」

「ああーっと!『敗北の魔法少女』イヴ、仮面の糸使い『マスク・ド・デスティニー』の前に手も足も出ない!
為す術もなく斬り刻まれております!今日も連敗記録を伸ばしてしまうのかー!?」

(うりゃうりゃうりゃっ!! まーったく、初心者向けキャラいるんなら最初から言ってほしかったっす!これで連戦連勝っすよー!!)
「……ここでおしまい、いきどまり。ずっとぐるぐる、まわってる」

(あははははー……なにコレぇ?だんぼーるで、このお姉ちゃんいじくれるのぉ?面白ぉい……ふふふ、ふひ……)
「メルの為にも、これ以上負けられないのに……あうっ……ま、また誰か、私の身体を触ってっ……ひぃんっ!!」

地下闘技場で、来る日も来る日も魔物、あるいは圧倒的格上の敵に弄ばれるイヴ。
そのイヴを実験台に、ジェシカはあれこれとキャラを使いながら日に日に操作を習得していった。

◆◆◆◆◆

「……それは何より。王もたいそうお喜びでしたよ」
「ふ……天才に不可能はない、という事です」

そう。このVR装置は王の依頼によって作られた物だった。
『主要キャラ一通り洗脳しちゃったし、なんかこー、捕虜の子達の新しい遊び方考えてよ!
本人の意志を保ったままで、体が勝手にー!みたいな感じで頼むは!』
……と言う無茶振りを、

『あ、それいいっすね!さっそくやってみますわー。素材は段ボールでいいっすか?』
……とばかりに実現させてしまった、正に狂気のシステムである。


「本日伺ったのは、他でもない……いよいよそのシステムを『実戦投入』したいと思いまして」
「ほう……捕虜の少女たちを『戦力』とするわけですか。しかし、戦う相手は……?」

「王都に潜伏している、他国からのスパイ達……かねてから問題視されていましたが、来たる大戦を前に、彼らを一掃する必要がある」
「なるほど。スパイの中には、高い戦闘力を持つ者も多い。しかも、リョナラーな男キャラもいるので魔物兵では対処しきれない、と……」

「かと言って、十輝星のメンバーも多忙でして。その点、いくらでも『補充』が効く彼女たちは、この仕事に打ってつけというわけです」
「了解しました。さっそく闘技場の奴隷闘士どもから、選りすぐりのメンバーを集めるとしましょう。クックック……!」

464名無しさん:2019/03/24(日) 13:14:05 ID:???
テンジョウたちとの話を終えた唯たちは、これからの身の振り方を考えていた。

「とりあえず、鏡花ちゃんはルミナスに戻るんだよね?」

「うん。水鳥にも会いたいし、特訓っていうならルミナスの魔法練習場でみっちりやりたいからね。」

「お?それってもしかして精◯と◯の部屋みたいに、1日特訓すれば1年特訓したみたいになるやつ?」

「え!?そんな素晴らしい部屋があるんですの!?」

「彩芽、冗談通じないお嬢様が本気にしてるわよ……」

魔法少女として戦ってきた市松鏡花。この5人の中では優しいお姉さん的ポジションであり、頼り甲斐のある存在だった。

「しばらくみんなに会えなくなるのは寂しいけど……次に会うときにはもっともっとすごい魔法を覚えてることを約束するね。」

「うわぁ〜!鏡花ちゃんがもっとすごい魔法を覚えてくれたら、すっごく心強いね!」

「まあ、亜理紗も少しは使えてるけど、この5人で純粋な魔法タイプって鏡花だけだもんね。優秀なDPSとして期待大だよ。」

「うーん……鏡花ちゃんの言ってることはやっぱりよくわからないな……」



「それで、彩芽ちゃんはナルビアに行くんだったよね?」

「あーうん。この世界の機械とか役立つ道具とか、あらかた調べたつもりだったけど……最先端のナルビアなら、もっと知識が得られそうなんだよね。」

「彩芽はずっと、珍妙なものを作るのが趣味なんですわ。この世界に来てからもそれは全く変わっていませんわね。」

「珍妙っていうなよ!せめて独創的とかにしてくれよ!」

類稀なる頭脳による天才的な発明で、皆を助けてきた古垣彩芽。
彼女はムードメーカー的な存在であり、逆境にあっても冗談を飛ばすような明るさは、いつも皆を支えてきた。

「それにしても……彩芽ちゃんのひみつ道具にはたくさん助けられてきたなぁ。」

「何気に私たちの中でもかなり戦える方だと思ってるのは、私だけかしら。」

「いやいや、瑠奈みたいな猪突猛……勇敢に前で戦ってくれる味方があってのボクだからね。ボク1人じゃ何にもできないよ。」

「んん……?嬉しいこと言ってくれたような気がしたけど、なんか一瞬バカにされたような!」

「あはは!……まあ頑張るから期待して待っててよ。ボクも唯と同じで、なんだかんだでこの世界好きだし……あの王の好き勝手にはさせたくないからさ。」

「彩芽ちゃん……!ありがとう!」

「………………………………」

彩芽の言葉に、瑠奈の表情が重くなった。

465名無しさん:2019/03/24(日) 13:21:28 ID:l0dK4TNo
「で、アリサちゃんはアルフレッドさんに修行をつけてもらうんだよね?」

「ええ……またそんな日が来るとは思わなかったけれど、今なら受け入れることができますわ。」

「はー、亜理紗はイケメンと2人っきりでみっちりなんの修行をするんだ?手取り足取り腰取り、何を教えてもらうつもりなんだよー?」

「そうですわね……わたくしの動きはまだ粗がありますから、剣の振り方や敵との間合い、カウンターを狙う際の見切り……そのあたりですわね。わたくしは一発逆転の技よりも、基礎を固めるつもりでいますの。」

「はいでたマジレスぅ!亜理紗にも少しはそういう冗談が通じるようになってほちいよ……」

「???」

踊るような剣技と光属性の魔法で戦ってきた、山形亜理紗……またの名をアリサ・アングレーム。
この世界に来たときからずっと剣の修行をしていたこともあり、その実力は5人の中でもおそらく1番上であろう。
だがそれに慢心することなく、日々修行を積む彼女の実直さは誰もが認めるところである。

「唯、瑠奈……2人に迷惑をかけたこともあったけれど、わたくしはもう迷いません。復讐に取り憑かれることもなくなった今のわたくしならば、さらに強くなれる気がしていますの。」

「アリサ、まだそのこと気にしてたの?あの時はあたしも結構暴れたし、お互い様ってことで、気にしなくていいのに。」

「アリサちゃん、無理はしちゃだめだよ。アリサちゃんは真面目すぎて周りが見えなくなる時があるから、気をつけてね。」

「……鏡花のいう通りですわね。肝に命じておきます。……みんなが成長した姿も、今から楽しみですわ。」

「亜理紗は別の意味でも成長しそうだよね……男女2人、密室、8時間。何も起きないはずがなく……」

「彩芽。少し黙ろうか。」

466名無しさん:2019/03/24(日) 13:23:27 ID:l0dK4TNo
こうして、鏡花はルミナス、彩芽はナルビア、アリサはミツルギでの修行がが決まったのだった。
残るは、唯と瑠奈である。

「私たちは、どうしようね?瑠奈。やっぱりダンさんが戻ってくるのを待とうかなぁ……それか、またライカさんの修行かなぁ……怖いけど……」

「……そのことなんだけど……私、その前にみんなに話しておかないといけないことがあるの。多分、みんなの中でも今のあたしって、ちょっとひっかかってるところあるだろうし。」

「……瑠奈。」

瑠奈の言葉に、唯たちの表情が少し強張る。
魔の山の頂上で唯が王への意思表示をした時……1人だけ迷っていた瑠奈。
それはこの世界を助けるよりも、記憶を失ってでも元の世界に帰ることを考えたということである。

もちろん、それを責めることはここにいる誰にもできない。
行方不明になっている自分の帰りを待つ家族がいる……
その事実だけで、元の世界に帰りたいのは当然だろう。
だが当の瑠奈はここで、皆の意識を合わせないと気が済まなかった。
せっかくそれぞれが一緒の目的に向かって戦おうとしている中、自分の存在をノイズにしたくないからだ。



「……私ね。もちろんみんなのことも大好きだけど……お母さんとお父さんのことも大好きなの。……ついでに兄貴のことも。」

兄をついで扱いしてはいるが、母や父と同じくらい瑠奈は兄のことが好きなことを、唯は知っていた。

「みんなの中には、あんまり家族にいい思い出がない人がいるのは知ってる。でも私はそれとは真逆でさ。優しく育ててもらったお礼に、もっともっと恩返ししないと、私の気が済まないって思ってて……ま、まぁ私のわがままなんだけど……」

「……瑠奈、それは我儘なんかではありません。両親へ恩返ししたいという瑠奈の気持ちは、優しさ以外の何者でもありませんわ。」

「そっか、ありがとアリサ……」

瑠奈の言葉を聞いて、それぞれが家族の顔を思い出す。
瑠奈と同様、たくさんの思い出がある唯や鏡花。
喧嘩した思い出ばかりの彩芽。
追い詰められた記憶の強い亜理紗。
大小あれど、家族への感情はなにかしらあるものだ。

「……正直言うと、今も迷ってるんだ。……ほんとなんで悩むんだろ……みんながこの世界を救おうって頑張ろうとしてるのに、私だけ何もせず帰ることを考えてるなんてね……これって、最低だよね……わがままだよね。」

「瑠奈……そんなことないよ……私だって突然あんなこと言って、みんなを巻き込んじゃってる。本当にわがままなのは、私の方だよ……」

「ううん。唯は正しいよ。あの王をなんとかできるのは私たちだけなんだし、たくさんの命を救うために戦うのは正しい。……唯は間違ってない。」

はっきりと言い切る瑠奈に、唯は言葉を詰まらせる。
少しの沈黙が流れた後、口を開いたのは鏡花だった。



「……ねぇ、瑠奈。正しいか正しくないかだけじゃ、瑠奈がどうしたいかは決められないと思うよ。」

「……え?」

「正しいことか正しくないことかは、常識が決めること。でもその常識だって、結局は誰かが決めたこと。……そこに瑠奈の意思はないよね?」

「……わたしの……意思……」

「瑠奈が帰りたいって言うのを、私たちは責めたり咎めたりしない。この世界を救いたいけど、瑠奈がそう思うのなら、ちゃんと元の世界に返してあげたい。……選択肢を1つにすることないよ。」

「……つまり、わたくしたちはあの王も倒すし、瑠奈を元の世界に帰す方法も探す……二つに一つではなく、二兎追い上等ということですわね。」

「そういうことかぁ……それなら、瑠奈はちゃんとはっきり言えばいいんじゃない?自分の意思をさ。」

「……みんなぁ……ぐすっ……!」

自分勝手だと責められることも覚悟していた瑠奈だったが……
ここまで旅を共にしてきた仲間たちは、想像以上に強かだった。

「瑠奈、言って。瑠奈が言ってくれれば私たち、頑張って方法を探すよ。……きっと大丈夫。だって私たち、運命を変える戦士なんだもん!」

「うん……もちろんあのバカ王はみんなと一緒に倒すっ!……それとわたしは、自分の家に帰ってお父さんとお母さんと、お兄ちゃんを安心させたいっ……!だからみんな……力を貸してっ!」

少し涙声の瑠奈のお願いに、唯たちは笑顔で頷いた。

467名無しさん:2019/03/24(日) 17:52:36 ID:???
「くさそう」
(くそっ、数が多すぎる!捕虜を戦闘員にするのは、我らがナルビアの専売特許ではなかった、ということか……!)

「くさそう」
(以前の作戦で派手に動いたのが、ここに来て響くとはな……な)

「くさそう」
(一人でもいい!国境付近に待機している仲間の元まで辿り着き、敵新兵器の情報を提供するのだ!)

「くさそう」
(ナルビアのために!散!)

ナルビアのスパイであるくさそうの人こと諜報員931号……そしていつの間にか増えていた別の諜報員たち。彼らはトーメント王国のスパイ断滅作戦により、苦戦を強いられていた。

妨害電波によって本国に連絡もできない彼らは、四方に散開して一人でも国境までたどり着く仲間が増える確率を増やす。

「はぁ、はぁ……!しぇり……!私、もう、限界……!」

「めでゅ、私も……!でも、体が、勝手に……!動いてぇ……!」

散開して単独で撤退途中のくさそうの人の前に現れたのは、2人組の女騎士。通常時ならば、蒸れた鎧の中のくさそうな匂いを想像して楽しむところだが、今はそのような余裕はない。

既に相当数の戦闘をこなしているのであろう、返り血に塗れた鎧の2人。だが、VR装置は休息なしでも全力で戦闘を続けることができる。
……もちろん、装者の疲労は度外視されるが。


「くさそう」
(ちぃ、新手か……!)


くさそうの人は素早くレーザー銃を取り出すと、鎧に包まれていない足を狙って撃った。


「ぐうあああ!!」
「ああぁあああ!!」

2人は足の腱を撃ち抜かれたことで膝をつく……寸前、VR装置により体が勝手に動き、本来ならば動かない足を使ってくさそうの人に肉薄する。

「いっ、ああぁああ!!!」
「ぐっ、ぎぃいいい!!!」

足を無理矢理動かされる痛みに喘ぎながら、メデューサの蛇剣ウロボロス、そしてシェリーの曲刀がくさそうの人に迫る。

「くさそう」
(おのれ、せめてDがいれば……!ナルビア王国に栄光あれええええええええ!!!)

468名無しさん:2019/03/24(日) 20:30:24 ID:???
「あーあ!なんか色々悩んでたのがバカみたい!どっちにしろ、あのクソ王は一発でも百発でもぶちのめさないと私の気がすまないんだし、迷うことなんかなかったわ!」

吹っ切れた様子で語る瑠奈。調子を取り戻した親友に、唯は安堵する。

「決めたわ!私はライカさんの所でみっちり修行をつけてもらう!今度こそ、あいつらに負けないために……!」

「うん!私もちょっと怖いけど、瑠奈と一緒に……」

「いいえ、篠原唯!それは止めておいた方がいいわ!」

その時、突然運命の戦士5人以外の声がする。突然乱入してきた声の正体は……

「あ、あなたは!……えーっと、だいぶ前に、どこかで会ったような……」

「……え、誰?私は全然覚えがないんだけど……」

「貴女は確か、ルミナスのスパイとしてトーメント王国に潜入していた!無事だったんですのね!名前は存じ上げませんが……」

上から唯、瑠奈、アリサの台詞である。鏡花たちがトーメント王国に攻め込んだ時にスパイとして公開処刑にされたのを見た……のだが、瑠奈はその時気を失っていて、唯もその前後が色々濃すぎてよく覚えておらず、アリサは辛うじて覚えていた。


「ちょっと!最近はスズ・ユウヒに押され気味とはいえ、このスーパーアイドル有坂真凛を知らないとはどういうことよ!」

「有坂真凛?ああー!ネット配信でエロエロな触手プレイしてるのを見たことあ……へぶゅ!?」

「あ・た・し・は・清・楚!」

余計なことを言い出した彩芽をスーパーアイドル的清楚ボディブローで黙らせる真凛。

「真凛!無事でよかった、本当に……!あの時、貴女を助けられなくて、ずっと心配してたの……!」

「へいへいへい、久しぶりね鏡花!でもなんか急にシリアスに接しられるとそれはそれでこそばゆいわね」

「えーと、それで、私がライカさんのところで修行しない方がいいって、どういうこと?」


これではいつまでも話が進まないと思った唯が、強引に話を進める。

「それh」

「それは、お前さんが既に独自の戦い方を成立させているからだ」

「ダンさん!」

真凛の台詞を遮って現れたのは、頭に包帯を巻いた竜殺しのダン。

「多少の我流はあれど極光体術を中心に習った月瀬の嬢ちゃんとは違い、お前さんはほとんど我流だ。そういうタイプは下手に誰かに師事するより、実戦を積んだ方がいい」

「えーと、ということは……」

「とは言え、修行が無駄ってわけでもねぇ。お前さんの強みはその人柄……それは戦いにおいても変わらねぇ。誰とでも合わせられるお前は、シーヴァリアで模擬戦をして経験を積みながら、連携を学べ」

仲の良い3人組などに於ける連携はどこの国も甲乙付けがたいが、即席チームでも連携を重視するのは、聖騎士の国であるシーヴァリアだ。

「シーヴァリア……ミライちゃんとは友達だけど、よく知らないなぁ」

「不安か?」

「いいえ!新しい友達ができたらいいな、って、ワクワクします!」

「そいつぁ結構だ。お前にだけ一人旅させるわけにもいかねぇし、女王サマは忙しそうだから、俺がシーヴァリアまでは護衛してやるよ」

笑顔で答える唯。それを見て、ダンは満足げに頷く。


「それじゃあ決まりね!私と鏡花はルミナスに」

「ボクはリリスさんたちの会談について行ってナルビアに」

「私はアルフレッドと共に、このミツルギで」

「私はダンさんとシーヴァリアに!」

「みんなでそれぞれの修行をして……そして、トーメント王を打倒しましょう!」

「「「「「おおーーーー!!!!」」」」」

469名無しさん:2019/03/29(金) 15:39:45 ID:V7Zm38WA
「なにぃ?ナルビアに行くサキのサポートがしたいぃ?」

「……はい」

トーメント王国の謁見室では、椅子に踏ん反り返った王が、膝を立てて座るリザを見下ろしていた。

サキに焚き付けられたリザだが、完全に迷いが消えたわけではない。サキのように、自分の本当に大切なもの以外を全て割り切るには……リザの心は、優しすぎたのである。

今も、最後まで自分を気遣ってくれた篠原唯を再び殺し、今度こそ王の手で暴虐の限りを尽くされることになると思うと、リザの胸に暗雲が立ち込める。

それに、これから戦うことになる4つの国の中には、リザにとって無視しがたい存在が多すぎる。ルミナスには十輝星として共に過ごしたエスカことヒカリや、ライラの時に共闘した市松水鳥がいる。シーヴァリアには何度も治療して貰っている友人のミライ。ミツルギには闘技大会の予選で知り合ったヤヨイ……そして、道の分かたれた最愛の姉、ミストがいる。


その点で言えば、ナルビアには利害の一致で共闘……というより一方的に利用されたリンネくらいしか知り合いがいないので、比較的気楽に戦えそうとリザは考えたのだ。

それに、アイナが死んだ今、リザはもうこれ以上仲間を失いたくない。

「ふーむ、なるほどなるほど……そうか、分かった!お前はサキのサポートな!」

一瞬考えた後、やけに爽やかな口調で了承する王。リザは経験則として、王が何か企んでいるのではないかと疑ったが……追求してもどうしようもないことも分かっていたので黙っておいた。

「でもな、サキは国境くらいまでは家族と旅行がてら行くみたいだから、合流は途中からな!」

「……はい、了解しました」

ニヤニヤと笑いながら命令してくる王を訝しみながらも、リザは了承した。家族の時間は邪魔せずに、サキがナルビアに入ってから合流すればいい、というのはもっともに思えたのである。

……王の企み……そして、最近教授ガチャで大当たりを引いた、『ある男』……それらに気づかないまま、リザはナルビアの国境付近に向かっているサキを追いかけた。

470名無しさん:2019/03/29(金) 15:42:12 ID:???
「くさそう」

「……その報告、確かに聞き届けました。お疲れでしょうから、貴方は本国でゆっくりお休みください」

トーメントとナルビアの国境付近。そこには、息も絶え絶えで何とかトーメント王国から脱出し、かの国の新兵器の情報を待機していた仲間に伝えるくさそうの人がいた。

くさそうの人は、何とか自分が任務を果たせたことに安堵すると、長年の潜伏の疲れを癒すために、ナルビアへと帰還していった。

「……僕は、こんなところで、何をしてるんだろうな……」

待機していた、くさそうの人の仲間……リンネは、国境付近……月下庭園の花を見渡しながら、物憂げに呟く。

……あの後、メサイアとなったヒルダは、泣き崩れるリンネに事務的な挨拶だけをして去っていった。その後リンネは休暇を取って何もせずに過ごしていたが……トーメントに潜伏している仲間とのパイプ役としての、国境付近での待機任務……ヒルダが行きたがっていた月下庭園へも行ける任務の話を聞き、それに志願したのだ。

「僕一人でここに来たって……ヒルダがいなきゃ、意味がないのにな……」


どれだけ美しい花々を見ても、リンネの心を埋める虚無感はなくならない。むしろ見れば見るほど、ここに来たがっていたヒルダのことを思い出して、やりきれなくなる。

ぼんやりと庭園を眺めていたリンネは……向かい側から、家族連れが歩いてくるのに気づいた。

「……あれは……?」

471名無しさん:2019/03/31(日) 16:28:05 ID:Q.LPVL5M
「姉さん、ごめんね。ずっと車椅子押してもらっちゃって……いつも任務で疲れてるのはお姉ちゃんなのに。」

「もう、そんなの気にしないの。こうして家族で旅行に来てるんだから、もっと明るい話をしないと。……お母さんも、ずっとそんな暗い顔しないで。」

「……そうよね。久しぶりの家族旅行だもの。みんなで楽しまないとね。」

ヨハンにもらったチケットで、妹と母を連れ月花庭園へやってきたサキ。
観光を楽しんだ後はナルビアで舞を助けなければならないが、久しぶりの家族旅行に彼女の心も弾んでいた。

もっとも、サキ以外の2人は心から楽しむほどの心の余裕はないが、それはサキもわかっている。
明るい言葉をかけたり、話題を作ったり……サキは自分が潤滑油となって家族の溝を埋めようとしていた。

「実はね、私……月花庭園には2人を産む前に来たことがあるの。お父さんと一緒にね。」

「え、すごい……!ねぇお母さん、それってデートで来たの?」

「ふふ……デートも何も、プロポーズされたのよ。月明かりに照らされているたくさんの綺麗な花を見ながら、ロマンチックにね。」

「ふわぁ……!すごいロマンチック!いいなぁ……」

サユミの夫……ルキはユキが産まれてすぐ、病死してしまった。
そのため、サキもユキもルキの顔は全く覚えていない。
サユミの話によれば、サキのように真面目だがユキのように天然なところもあり、その性格は2人の遺伝子にしっかり受け継がれているらしい。

「ねぇねぇお姉ちゃん!月花庭園でプロポーズなんて、ロマンチックだよね!もしそんな風に告白されたら……私、どんな人でもオッケーしちゃいそうだなぁ。」

「ううぅーん……私はロマンチックなのには興味ないかな。なんか断りづらいし。……自分が好きな人にそうされるんなら、全然いいけど。」

「あ!じゃああのヨハンさんっていう人に告白されたら、すぐオッケーってことだね!」

「うぇ!?な、なんでユキがそのことを知って……!」

「……あ。」

ミシェルの実験によってある程度記憶を取り戻したユキは、ヨハンの前でデレデレしていたサキを思い出していたので、ついつい口が滑ってしまった。

「あら……サキ。好きな人がいるの?どんな人?多分年上の人じゃない?」

「……あ!さすがお母さん!お姉ちゃんが年上の人が好きなの、わかってるんだね!」

「あぁ、もうお母さんまでっ……!なんで私のコイバナになった途端2人とも元気になるのよー!」

家族の恋愛話に、それまでなんとなくギクシャクしていた会話がまとまり始める。
ユキはいつのまにかサキのことを昔のようにお姉ちゃんと呼び、サユミも娘たちの前で何年かぶりに笑顔を見せた。



(……あのアホリザも、家族とこんな風に話せる日を望んでいたのかしらね。)



妹と母に弄られながら、サキはそんなことを思った時……視界の端に、少女のような少年を見つけた。

「ねぇねぇお姉ちゃん、ヨハンさんのどこが好きなのー?優しいところ?かっこいいところ?ミステリアスなところ?」

「ふふ……サキは優しくて影があって容姿端麗な人が好きなのね。」

「ちょ、2人とももうやめてよぉっ……!あ、私ちょっとお手洗い行ってくるから、2人は先に受付行ってて!」

サキはそう言い残すと、先ほど視界に入った少年の元へと走っていった。



「あらあら……調子に乗っていたずらしすぎちゃったかしら。」

「お姉ちゃん、顔真っ赤になってたねー。私もヨハンさんはかっこいいと思ってたけど……ゔ!?」

それまで普通に喋っていたユキが、突然頭を抑えた。

「……ん?ユキ、どうしたの!?どこか痛む!?」

「ん……い、いや。大丈夫だよ。ちょっと頭が……痛くなっただけ。」

過剰に心配するサユミをなんとか落ち着かせたが、ユキにも頭痛の原因はわからなかった。

(……なんだろう。今ヨハンさんのことを深く考えた瞬間……急に頭痛が……!)

472名無しさん:2019/03/31(日) 18:52:49 ID:???
「ちょっと!オカマ!」

「……サキさんですか……つくづく縁がありますね」

サキは月下庭園で見かけたリンネに追いついた。だが、彼を見たサキは僅かに眉をひそめる。リンネは元々影のある男だったが、久しぶりに会った彼は以前に増して雰囲気が暗い。

「久しぶりね……えっと、なんていうか、オメガ・ネットでは助かったわ。あの時はすぐ逃げちゃったけど、一応お礼くらいは言っとこうかな、って」

「……そうですか、珍しく殊勝ですね……ナルビアの足を引っ張れたなら、僕にとっても幸いですよ」

「……ねぇ、あんたどうしたの?なんか陰キャっぷりに磨きがかかってるじゃない。それに、真っ白幼女もいないし」

一応お礼言っとく、と言った直後に相変わらずの毒舌を吐くサキ。相変わらずのサキを気にした様子もなく、リンネはサキに近づいていく。

「……サキさん、僕は……利用されるだけの人生で……その中で見つけた守りたいものも守れませんでした」


「は?何言ってんの?って、ちょ、リンネ!?」

「……やっと名前で呼んでくれましたね」

要領を得ないことを喋りながら近づいたリンネは、すっとサキに顔を近づけ、耳元で囁く。シックス・デイの女性陣を無自覚に虜にする繊細な顔立ち、そしてリンネの顔立ちの中でも唯一男性的な瞳に至近距離で見つめられ、さすがのサキも少々焦る。


「サキさん、僕は……ホントはもう、ナルビアのことなんてどうでもいいんです。けど、ナルビアの薬がないと、僕らは……だからサキさん、もしよかったら……げぼぁ!?」

「キモイっつーの!耳元で意味わかんないこと喋んないでよ!このエロオカマ!」

滅茶苦茶シリアスな空気を醸し出していたリンネだが、めんどくさくなったサキのビンタを思いっきり食らって強引に止めた。

「ちょ、違いますよ!?最近アリスが僕をコソコソと付けてるから、念の為小声で話そうと……!」

「何を話そうとしてるかしらないけど、さっきから説明もなしに色々言われたって知らないっつーの!新入社員じゃあるまいし、結論ファーストで話しなさいよ!」

傷心の美少年に対してあまりな対応のサキ。だが、ヒルダに起きたことを知らないサキに何も説明せずに色々言っても何も分からないのは、言われてみれば当たり前のことだ。

「はぁ、分かりました。じゃあ結論から言いますね」

結論……リンネの言いたいことは単純だ。もはやナルビアに利用されるだけの人生はごめんのリンネは、サキと手を組もうと考えたのだ。

931号の報告により、サキがヨハンに利用されていることは知っている。そのことを指摘してサキにトーメントを見限らせ、互いに所属国の情報をリークし合い、サキは家族と共に平和に暮らせるように、リンネはヒルダを元に戻す方法を見つける為に、情報を共有する。

互いに諜報員という立場を活かし、互いを利用し合う関係になろうというのだ。それを一口で説明するために、リンネは口を開き……




「……サキさん、好きです」

473名無しさん:2019/03/31(日) 18:55:00 ID:???
そして、リザとリンネからある程度離れたところでは……


「あれは、リンネ……!?まずい!」

サキが家族で過ごしているのを邪魔するのも悪いと思い、別れてから合流しようと彼女たちを遠くで見ていたリザ。だが、リンネが近くにいて、サキが彼の方に行ったのを見て焦る。リザは2人がそう悪くない関係を築いていることを知らないのだ。

そして……


「あれは、リゲル……!?拙いです、また家族を人質にとらなければ……ってあれ?」


そのすぐ近くで、同じように遠くからリンネの様子を伺っていた少女……アリス・オルコットとリザの目があった。

……アイリスの術から解放された後、アリスは総帥からの命令で、ヒルダの件で憔悴しているリンネが、何か妙な気を起こさないように彼を監視……というより見守っていたのだ。


そんなこんなで結構無理のある強引な展開により、サキとリンネからは上手いこと気づかれないくらいの位置で、リザとアリスは鉢合わせした。

「お前は……!?」

「アウィナイト……まさか931号さんの報告にあった、スピカ……!?」

金髪青目から、一瞬同じアウィナイトかと思ったリザだが、サキからの報告でシックス・デイのメンバーのことは聞いていたこと……そして、以前暗殺したナルビアの政務官と顔立ちが似ていたことから、瞬時にアリスがナルビアの人間であると判断する。

そしてアリスもくさそうの人から聞いていた情報により、目の前のアウィナイトがトーメント王下十輝星の暗殺担当……つまりは母の仇であることを理解した。


「あまりに予想外な遭遇戦ですが……リンネさんを守るため、そして母の仇を討つため!覚悟してください!」

「……一瞬で終わらせ……!?」

針を取り出したアリスに対し、リザもナイフを取り出すのだが……その瞬間、全身に凄まじい激痛が走る。


「ぐっっうう!?一体、なにが……!?」



(見える、見えるぜ……目はガチャの代償に失っちまったが、ミツルギで買った人形を触媒に黒魔術をかけたら、あのクソ女の苦しみ姿が見える……!)


前述の目つきの悪いアウィナイトは、リザへの復讐を志して、目と引き換えに教授ガチャを引いた。その結果彼は、触媒によって対象にダメージを与える能力……言ってしまえばフィギュアを弄って相手に悪夢を見せるクロカタの上位互換の能力に目覚めたのである。
普通に戦っては勝てないと踏んだ彼は、こうして安全なところからチクチクと嫌がらせを続ける、陰湿な手段を取ったのだ。


「隙ありぃ!」

「しまっ……ああぁああああああ!!!」

474名無しさん:2019/03/31(日) 23:25:27 ID:???
目つきの悪い男の呪いによって体を動かせないリザの胸に刺さったのは、アリスの魔法針。
属性魔法を流し込むことで、刺さった相手の体をバッドステータスにかける技である。

(どうして、体が動かなかったの……?ぐぅ!……こ、これっ……!)

胸に刺さった針から魔力が流し込まれ、体に違和感を感じるリザ。
ただでさえ体が動かせないのに、リザの体には雷の術式が流し込まれていた。

「随分とトロいんですね……わたしの攻撃には気づいていたのに、反応できなかったんですか?」

「ぐ、ぅ……!ああぁんっ!!」

なんとか体を動かそうとしたリザだが、その途端、傷口から強い電流が走り悲鳴を上げてしまう。

「貴女はお母様の仇。絶対に容赦しません……!」

「ッ!?」

体が痺れているリザに急接近するアリス。おそらく今が好機と見て、一気に畳み掛けるつもりだろう。

(……くそっ……体はうまく動かないけど、なんとか捌ききるしか……!)



「はっ!せいっ!……やああぁっ!」

「くっ……!はっ!たああぁっ!」

アリスの掴み技と針での攻撃を、なんとか素手でいなすリザ。
通常時ならば捌くだけでなくカウンターも狙いたいが、体が痺れている今はそれも辛い。
金髪碧眼の2人の少女の攻防は、しばらく続いた。

「ぐっ……!い゛ぎっ!げふぁっ!あぐぅっ!」

単純な身体能力なら、リザの方が上。
だが、呪いと魔法で動きを制限されているこの状況では、さすがにアリスの攻撃を全て捌くことは叶わない。
何回か捌き漏れたアリスの攻撃を食らうたび、リザは苦悶の声をあげた。

「さて、いつまで捌ききれますか……ねっ!」

「く……あぁんっ!しまっ……げぼぉっ!!!」

今まで手で攻撃していたアリスの、不意打ちの足での攻撃。
リザの目はそれを見切ってシフト移動しようとしたのだが、その瞬間を狙ったかのように体がビクン!と痺れてしまい、リザはまたも手痛い攻撃をもらってしまった。



「あ゛っ!ぐぁふうぅっ!」

蹴りの衝撃で吹っ飛ばされ、地面に2度叩き上げられる。
アリスの打撃打撃には魔力が上乗せされているようで、とても細足から繰り出された威力ではなかった。

「これは好都合……!どうやら本調子ではないようですね。なんのリスクもなく貴方を拘束できそうですっ!」

「ぐ、うぅ……!ひあ゛ああぁっ!」

うつ伏せでダウンしていたリザの背中に、追い討ちの魔法針が2本突き刺さる。
そこから流れ出た魔力は、普通の魔力ではない。

「黒式・断罪……母の仇である貴女を仕留めるために作った、とっておきです。」

「ぅ……なに、こ、れぇっ……!んっ、ああああああああぁぁっ……!」

リザの口から、喘ぎ声とも悶え声とも取れるだらしない声が漏れた。
アリスの放った黒い針は、様々な魔法が込められている特殊針である。

「貴女の体に流れる魔力……その全てを吸い上げて体の動きを封じる針です。これでお得意の瞬間移動はできませんよ。」

「……く……くそっ……」

ストーカーに狙われるタイミングと、敵に襲われるタイミングが見事に重なり、早速窮地に陥ってしまったリザ。
この不運な状況を乗り切ることはできるのか──

475名無しさん:2019/04/03(水) 01:28:48 ID:???
「あの王下十輝星のスピカが、まさかこの程とは……はっきり言って拍子抜けです。」

「うぅ……わ、わたしは……まだッ……!く……ぁぅっ……」

リザの体は三重苦だった。
呪い、痺れ、魔力吸収の副作用による身体中を襲う倦怠感。
とても立ち上がれるような状態ではない。
こういう状況になったときのためのシフトの力も、魔力がなければ無意味。
「15歳の少女が動けなくなっている」
今のリザの状況は、この一言で説明できてしまうといっても過言ではないのだ。

「……ふんっ!」

「きゃあああぁぁッ!!」

身体を小刻みに震わせながらなんとか立ち上がろうとするリザの腹を、アリスは軍靴で思い切り蹴り上げた。
リザは甲高い悲鳴を出しながら宙を舞い……目を開けるとそこには地面。

「……なんですかその情けない声は。とても暗殺者とは思えませんね。」

「あああんッ!ぐぅっ……いっ……たあぁいっ……!」

受け身も取れずに叩きつけられたリザは、アリスから五メートルほど離れた場所で痛みに身悶えた。



「あなたは私のお母様を殺した……できればエリスと一緒に仇を討ちたかったですが、この前のリゲルのように逃げられるわけにはいきません……あなただけには、絶対に。」

再びリザの前に立ったアリスが懐から出したのは、ナルビア軍の将校に支給される大口径拳銃。
反動も強いが、その分威力も抜群。動けない相手の命を手早く確実に奪うには、申し分ない武器だ。

カチャ、チャッ!
弾込めを確認したアリスは、ためらうことなくリザの脳天に銃を向けた。

「……命乞いでもしてみたらどうですか?こんなところで若い命を散らしたくはないでしょう。……私も鬼ではありません。あなたが必死に嘆願するのならば、考え直すかもしれませんよ。」

「ぐっ……!殺すなら……殺せっ……!」

「精一杯の虚勢ですか……まぁ、命乞いをするようには見えませんしね。あなたにはできる限り絶望してから死んでほしかったのですがっ……!」

バキュゥンッ!!!
瞳孔を開いたアリスは、迷うことなく撃鉄を起こし、引き金を引いた。



「…ぐうぅあああああああぁぁっ!!」」

突然足に強烈な痛みを感じ、リザは動かなかったはずの体を身じろぎして足を抱えた。

「フフフ……私たちの母を殺し、結果的にたくさんのナルビアの同士を殺したあなたを、あっさり殺すと思いましたか?」

「は、はっ、はぁっ……!うぐうぅぅっ……!」

「命乞いもしないなら……この鉛玉と私の針で、今生最大の痛みを与えてやりましょう。あなたはこの後……満身創痍の状態で地獄に行くことになるんですよ。」

「……ぐっ……!は、早く……殺……してぇっ……!」

「おや……もう死に場所をここと決めたのですか?なんだかそう言われてしまうと……もっと苦しめてやりたくなりますねッ!」

「ふぐぅっ!?いやああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

銃弾を食らった箇所に追い打ちのアリスの蹴りが炸裂し、リザはけたたましい悲鳴を上げた。



「た、大変……このままじゃ、リザさんがっ……!」

悲鳴を聞いてやってきたユキとサユミは、庭園の裏で行われている惨劇を見てしまった。

「サキに伝えてあげましょう、ユキ!このままじゃ、あの子が危ないわ……!」

476名無しさん:2019/04/04(木) 22:22:18 ID:???
「…………は、はぁあああ!?ちょ、い、いきなりわけわかんないこと言ってんじゃないわよ!」

「……貴女みたいに、強かに生きていけたら、って……シーヴァリアの時から、ずっと思ってました」

自分で結論から話せと言ったサキだが、突然の告白に明らかに狼狽した様子になる。それに対し開き直ったリンネは、そのまま言葉を続ける。

「な、ななな……!?い、言っとくけど!あの時針で私のこと滅茶苦茶にしたのはまだ忘れてないから!」

「……悪ぶっていて、実際結構悪い人なのに、一度認めてしまった相手はどうしても捨てることができない……家族のことも、親友のことも、慕ってくれる部下のことも……それでもなお強く生きようとする、貴女の姿が……なぜだかとても眩しかった」

顔を赤くしながら以前のことを持ち出すサキ。リンネはその話を無視し、サキに近寄って彼女の顎に手を添える。

「僕にはそれができなかった……ヒルダのことを、諦めてしまった。だから余計に、貴女のことが……」

「り、リンネ……言っとくけど、私の好みはこう、イケメンで優しくて影があって、あとできれば年上の……あれ?」

年下なのを除けば、割とリンネが当てはまることに気づくサキ。だがぶんぶんと首を振ってその考えとリンネの手を振り払うと、一歩後ずさる。

「とにかく!私はヨハン様みたいなのが好みなの!前に私の心覗いたあんたなら知ってるでしょ!?」

「ヨハン、ですか……サキさん、僕のように利用されるだけの人生が嫌なら……彼には気をつけた方がいい」

「はぁ?なに、あんた私のことが好きだからって、ヨハン様に嫉妬してるわけぇ?男の嫉妬は見苦しいわよ」
(危ない危ない、こいつは甘言で私を取り込もうとしてるだけ……騙されないんだから)

やや調子を取り戻したサキが、煽るような口調で言う。

「アルタイルのヨハン……その強大な能力もさることながら、影で暗躍する諜報力もかなりのもの……貴女の妹が大怪我をした理由……彼が手を引いていたと知っていましたか?」

「はぁ?あれはキモオタのクソ教授が……」

「……本当に知らないのか、或いは気づかないフリをしているのか……柳原舞の時もそうでしたが、貴女は一度心を許した相手を疑うのがよほど苦手なようだ」


本来なら洗脳されていることも考慮しなければならなかったのに、あの時そのことを全く考えなかったのは……ただ、彼女が自分と敵対する姿を、考えたくなかっただけだったのだ。


と、その時……

「お姉ちゃん!大変!リザさんが金髪の人に……っ!?」

「こっちにもナルビアの兵士が……!?」

リザの危機を伝えに、ユキとサユミが現れた。

「母さん!ユキ!えっと、まぁこいつはそんなに悪い奴じゃないってゆーか……それよりもクソリザのやつがまたなんかピンチになってんの!?」

「……アリスか……どうせ僕が裏切らないか監視してるんだろう。サキさん、僕はしばらく国境待機の任務でこの辺りにいます。僕は貴女と情報をリークし合いたいと思っているので、良かったらリザを助けた後にでも顔を見せて下さい」

「はぁ!?なんで私があいつを助ける前提なのよ!それに私はアンタと組むつもりなんて……」

「……僕と組んでもらえれば、柳原舞のことも教えますよ。あと……」

そう言って、リンネはサキの耳元に口を寄せる。


「一応、告白の返事も期待してますね」

477名無しさん:2019/04/06(土) 14:09:52 ID:snZh6zbg
ガッ!ドゴッ!バキッ!

「んんぅっ!ぐぁっ!あぐっ……!」

「アウィナイトの分際で……!よくも……!よくもお母様をっ……!」

無抵抗のリザに対し、一切の容赦もなく軍靴で蹴りを入れるアリス。
親の仇と思えば、目の前にいるのが自分と同年代の少女であっても慈悲の心はなかった。

「ぐ……がはっ!ひぐう゛ッ!」

「どうせその容姿を使って今の立場になっただけなのでしょう……でもなければ、ここまで弱いわけがありません。……汚らわしいっ!」

頭に血が上ったアリスは、丸まっているリザの腹に足をねじ込み……

「立場を弁えなさい……弱小民族がっ!」

「ぃやっ……!あああああああああああっ!!!」」

中の臓物を叩き壊す勢いで、またもリザの腹を思い切り蹴りあげた!



「お゛ぐぇっ……げぼっ!」

リザの口から血が吐き出される。
魔力を乗せたアリスの蹴りで、リザの体の内部ももうボロボロだ。
おそらく、骨も何本か折れている。

「ぐうううぅぅ……!い゛たいっ……痛いいぃっ……!」

「心の声が出ていますよ。暗殺者のくせに……情けないですね。」

筆舌に尽くしがたい痛みに、リザの口から感情と嗚咽が漏れる。
あまりの苦痛に、流したくもない涙まで出てきていた。


「ひぐっ……ぐ……うぅっ……」

(……もうだめ、か……でもわたしには……ふさわしい……末路なのかな……)

いろいろ追い詰められているし、もうここで死んでもいい。
そんなことを思ってしまうほど、リザの意識、そして生存欲すらもなくなり始めていた。

「さめざめと泣いても許しません。スピカ……あなたのことは死ぬまで嬲ってあげますよ。簡単に壊れないよう、せいぜい頑張ることです。」

「はぁ……はぁっ……ぅぁ……」

(……アイナ……)

死を悟ったリザの頭に浮かんだのは、死んでしまった親友の顔だった。
他の誰でもない、自分のためだけに生きるというスタンスだったアイナが、最期は他人を守って死んだ。

それは多分、あのアイナも誰かのために生きたかった証拠なのだろう。



「もう意識もなくなりそうですね……こんなに弱いなら、やはり本国に持ち帰って拷問漬けにするのもいいかもしれませんね。」

(……やっぱりだめ……諦めちゃだめ……アイナが今の私を見たら……絶対にそう言うはず……!)

アイナのことを思った瞬間、リザの意識が覚醒し始める。
自分としては、もうここで死んでもいいと思っているのだが……
心の中で生き続けている親友が、まだその時ではないと言っている気がした。

(……ナイフはまだ……手の中にある……)

478名無しさん:2019/04/06(土) 14:21:01 ID:???
「……まだ抵抗するつもりですか」
(ドスッ!!)
「ひっ、ぎあぁぁああああっ!!」
ナイフを持つリザの手の甲に、アリスの魔法針が深々と突き刺さった。
更にブーツでぐりぐりと踏みにじられ、リザはあまりの苦痛に悶絶してしまう。
アリスはその悲痛な絶叫にも眉一つ動かさず、あくまで淡々と獲物を追い詰めていく。

(……バチバチバチッ!!)
「…あっ、ぐうっ……!!」
「針を抜こうとしても無駄です……下手に触れ、更に深く突き刺さって苦痛が増すのみ」
なおもリザは諦めず、残る左手で突き刺さった雷魔法の針を抜こうとする。
だが……アリスの言葉通り、更に威力を増した電撃がリザの全身を貫いた。

「ケッケッケ……しかしこのフィギュア、細かい所まで作り込んでやがるなぁ。パンツまで着脱可能とは恐れ入ったぜ」
(じゅるり………)
「ひっ…!?…こ、今度は何……!?」
更に、影から様子を伺っていたアウィナイトの男が、呪術の触媒であるリザのフィギュアを好き勝手に弄り回す。
魔物化した男の指や舌の感触がリザ本人にも伝わり、魔法針や銃弾とは別種の不快感でリザを苦しめる。

「いっ……や、あぁっ……!!……な、中に……入ってっ……!!」

(やはり……スピカの様子はどこかおかしい)
「……ここでは人目に付いてしまいます。本国に連れ帰ってから、じっくりと尋問してあげましょう」
リザの異変に気付いたアリスは、余計な邪魔が入る前にこの場を離れようとする。
だが、その時……

「ヒヒヒヒッ……逃がさねえぜ……『殺影結界』発動!!」
「くっ……!?」
(ゴゴゴゴゴゴゴ………!!)

アリスとリザの周囲の地面に、巨大な魔法陣が現れた。
そこからどす黒い魔力があふれ出し、周囲の空間を闇の色に染め上げていく。

「これは、一体……!?」
「はぁっ……はぁっ……邪術の結界……一体、誰が……」

美しかった花園は、暗闇の荒野へと瞬く間に変わっていく。
結界に取り込まれた経験がないアリスは、事態をすぐには把握できなかった。
(スピカが何かを仕掛けた……のではなさそうですね。だとしたら……)

「……貴方の仕業ですね。一体どういうつもりですか」
「ケケケ……そっちのアウィナイトにはちぃとばかし恨みがあってな」
……アリスに促され、男が姿を現した。
……顔や全身に包帯を巻いた異形の姿。大きく裂けた口からは鋭い牙が生え、長い舌が伸びている。
男は、いわゆる『マミー』……呪術を得意とする、ミイラ男型の魔物兵であった。

「どうした?……そのクソ女を片付けるのを手伝ってやったんじゃねえか。そうカリカリすんなよお嬢ちゃん。」
手に持っているスピカそっくりの人形は、裸に剥かれていて全身が唾液に塗れている。
……あの人形を使って、スピカに何らかの遠隔攻撃を仕掛けていたらしい。
そうと理解したアリスは、敵とはいえ同性に対するあまりに下衆な遣り口に、思わず眉を顰めた。

「……貴方のような人に助太刀を頼んだ覚えはありません。
それに……さっきから影でコソコソ見ていた貴方が、今更になって姿を現した理由は何です?」
「………そりゃぁもちろん。
お嬢ちゃん一人だったら、楽勝で始末できると思ったからさ……ヒッヒッヒ!」
「薄汚い魔物ごときが、誇り高きナルビアの軍人である、この私を……?」

両者の間に、殺気が飛び交う。
嫌悪感と敵愾心を露わにするアリスに対し、光を失ったはずの男の眼が、包帯の奥から欲望にギラついた邪悪な視線を放つ。
ミイラ男の態度と発言に激昂したアリスは、目の前の不快な存在を早々に葬るべく、初手から最大火力の魔法針を繰り出した。

「その軽口、地獄で後悔なさいっ!!……『朱式 煌爆塵火葬』!!」

爆炎の魔力が込められた針が、ミイラ男の肩口に突き刺さる。
勝利を確信したアリスが、指を鳴らして魔法を発動すると……

「ヒッヒッヒ……この程度の挑発に乗るなんざ、まだまだ甘ちゃんだぜ、お嬢ちゃんよぉ……『呪詛返し』!!」
(ズドォオオンッ!!)
……針が激しい爆発を起こした。だが、直撃を喰らったミイラ男は平然としている。
その代わり……

(………ズバシュッ!!)
「……っきゃあああああっ!?」
針を投げたアリス自身の右肩から激痛が走り、夥しい量の血が噴き出した。

479名無しさん:2019/04/06(土) 15:55:55 ID:???
「ぐ、ぅ…!!…針の魔力を、跳ね返したというのですか……!」
「ヒッヒッヒ……御名答。
俺様の『呪詛返し』は、魔法や呪術のダメージを、術者にそのまま跳ね返す……
つまり、お前の針は俺様には通用しねえってこった」
腕が吹き飛ぶグロ展開は免れたものの、アリスの右腕からは激しく血が噴き出し、激痛が走る……しばらくはまともに動かせそうにない。

「舐めないで下さい……針が使えなくても、貴方のような下衆な魔物に、後れを取ったりなど……!」
それでも、アリスは軍人……それもナルビア最強と言われる「シックスデイ」の一角。
本来この程度の魔物なら、素手で十分に制圧できるだけの戦闘力を有している。

「おっと。そうはいかねえ……『殺影結界』の真の恐ろしさはこれからだ!」
「きゃっ!?………こ、これは……!!」
だが、アリスが接近戦を仕掛ける前に、ミイラ男は更なる呪術を発動した。
アリスの身体が眩いばかりの光に包まれ、気が付くと……

「な、何ですか。この格好は……!」
アリスが着ていたはずの軍服は跡形もなく消え失せていた。
代りに、ミニスカートに薄手のキャミソールと、露出度高めの衣装へと変わっている。

「クックック……この『殺影結界』は、捕らえた相手の衣装を自由自在に変更できる。
そして結界内のあらゆる事象は、あらゆる角度と方向から好きなだけ映像や写真に残せる……エロい写真や映像も、撮り放題ってわけだ」
「なっ……なんて、破廉恥な……!」

キャミソールの肩ひもはやや緩く、さほど豊かでない胸の頂上が見え隠れしてしまう。
ふわふわとした短いスカートはいかにも頼りなく、そよ風一つで乙女の大切な薄衣を容易く曝け出してしまうだろう。

「こ、これしきの事で、ナルビア軍人はうろたえません……すぐに片を付けてあげます!!」
普段キッチリとした軍服に身を包んでいるアリスからすれば、今の格好は下着姿も同然。
どこもかしこも隠してしまいたいが、左腕一本しか使えない現状ではそれすらもままならない。
これ以上の辱めを受ける前に決着を付けようと、アリスは積極果敢に接近戦を仕掛けるが……

「たっ!やっ!!……はぁぁぁっ!!」
裂帛の気合と共に繰り出される連続攻撃は、先ほどまでより明らかに精彩を欠いていた。
利き腕が使えない影響もあるが、露出度の高すぎる服を着せられているせいで、
いかに平静を装っても『見られたくない』という心理が働いてしまうのだ。

「クックック……つくづく甘ぇなぁ。テメェはもう、俺様の術中に嵌ってるんだよ。
撮影した写真や映像から、既にお前の3Dモデルデータは作成済みだ」

対するミイラ男は防御と回避に徹し、冷静にアリスの攻撃を捌く。
そして、結界の魔力によって作り出された、アリスの精巧なフィギュアを手にすると……

(べろりっ………ぞわわわわわ!!)
「ひんっ……!?」
人形の股間、臍、そしてなだらかな胸までを、唾液塗れの長い舌で一気に舐め上げた!

480名無しさん:2019/04/07(日) 05:24:41 ID:???
「ヒヒヒィ!エロい声出しやがって……なら、これはどうだぁ!」
ミイラ男はアリス人形の太腿に長い舌を這わせつつ、短いスカートの中にするすると滑り込ませた。

(じゅるじゅるれろれろり……!)
「あっ……!くうぅ!い、一体なんなのですか、この感覚はっ……!」

太腿にざらついた感触とぬめりを感じたアリス。そのなんとも形容しがたい不快感に、全身の鳥肌が立ち上がってしまう。

「そんなに知りたいなら教えてやる……こういうことだよッ!」

ミイラ男はもう待ちきれないと言わんばかりに、自分の舌をアリスの最深部へと押し付けた!

(ちゅっ……!んぶちゅっ!べろり!ビチャチャ!)
「んっ……?んやぁっ!?ひゃっ、きゃうぅんっ!!」
(んーん、処女だなこれは……ぶっちゅ!べろべろべろ……!)
「や、やめなさぃ……!ひゃっあっ!ひ、あ、あぁっ……」

突然の下半身を舐められているかのよつな感触に、アリスは股を押さえて座り込んでしまう。

(ぶちゅ!ぢゅんっ!じゅるじゅるじゅるじゅる……!ぽん!)
「あっはぁっ!だっ、やめぇっ……!ひゃああああああっ!……あんっ!」

股を押さえた状態のまま、アリスは天を仰いで絶叫した。
まだ誰にも触ることを許したことがない自分の秘所を無遠慮に舐めまわされている恐ろしい感覚に、アリスは混乱する。

「俺様の舌技は絶技といってもいい技よ……淫魔のサキュバス共相手にこの舌技だけで金を取っていたレベルだからなぁ!ガキが耐えられるわけがねえ!ヒヒヒヒヒヒ!」

(くっ……スピカは、この妙な感覚のせいで体が動かせなかったということですかっ……!)

敵ながら同情してしまうくらいに、ミイラ男の遠隔攻撃は激しいものであった。
痛みではないが、下着の上から襲いかかる不快感は無視できるレベルではない。

(それでも……こんな男に負けるわけにはいきません……!我慢、しないと……)

顔を真っ赤にさせながらも、よろよろと立ち上がるアリス。
そんな彼女の羞恥に染まった顔を見て、ミイラ男はニタリと笑った。

「ヒッヒヒ……!まだ耐えられるとでも思ってんのか?こっからもっと気持ちよくなるってのによ……」
「は……?い、一体何を言って……」
「ヒヒヒヒヒヒ!真面目系軍人美少女アリスちゃんの水色ショーツ、このままひん剥いてダイレクトアタックしてやるぜ!」

(じゅるじゅるじゅる……べろぉんっ!)
「んううううぅっ……!ふぁっ!?」
ミイラ男はアリス人形のスカートの1番奥にあるショーツに舌を貼り付け、そのまま思い切り引き剥がした。
実際には脱がされていないが、下着を剥がされたような感覚を感じたアリスは、スカートの中に手を入れて下着の有無を確認する。

(だ……大丈夫……なら、今のは……)

「ヒヒヒヒヒ……条件は整った。これからアリスちゃんの連続絶頂が始まるぜぇ。喘ぎ声の準備はいいかぁ!?」
「な……何を馬鹿なっ、ひゃあぁんっ!?」

先ほどまでとは一線を画す強烈な感覚に、アリスはまたも強く股を押さえてしまう。
顔をミイラ男の方に向けると、やはりというべきか……
人形の自分の股が、男の舌でベロベロと舐められていた。
「このぉっ……変態が……!」

(ぞわぞわっ……!ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ!べろりっ!)
「あっくぅっ……!そ、そんなっ……な、中に……!?んっ!ああああっ!!」

先ほどまでと感覚が違う理由に気づいた瞬間、アリスは耳まで赤くなってしまう。
下着は着用しているのにもかかわらず直接的な秘所への感覚は、流石のアリスも全身の身の毛がよだつ思いに駆られた。

(うぅっ……こんなふざけたことで……変態男の好きなようにされるわけにはいきませんっ……!)
だがそれでも、軍人であるアリスにとって、戦い以外の敗北はこれ以上ない屈辱である。
ましてや、性的な口淫のみで屈するなど許されない。
他人が許しても、アリス自信がそれを許すわけにはいかないのであった。

「これしきの、ことでっ………わたしは……!」
「おーおーその顔……撮影させてもらったぜぇ?抵抗できるもんならしてみやがれ……じゅるっじゅるっ!」
「ぅぐ……くうぅ……!」

481名無しさん:2019/04/07(日) 20:34:14 ID:???
「っ、ああぁっ……♥ はあっ……はあぁっ……!!」
(うう、最近こんなことばかりな気がします……!ですが、なんとか、反撃しないと……!)

「くくく、頑張るねぇ……だが、その態度がいつまで持つかねぇ?」

性的なことに全く慣れていないアリスは、自らの体を走る快楽に必死に耐えていた。ミイラ男は包帯だらけの顔で唯一露出している口元で舌なめずりをすると、さらに責めを激しくする。

「こ、の────っっっっ♥♥!? なっ!?な、な、あひあぁぁっっ♥!!」

快楽を前に、アリスは耐えるだけで精一杯。思考を反撃に割こうとするだけで、あられもない嬌声をあげてしまう。

「クケケケケ!反撃する気力はあるが、体がついていかない……そろそろいい塩梅だなぁ」


そう言ってアリスに近寄ったミイラ男は、自らの包帯をゆっくりと解いていく。

「な、にを……ひっ!?」

「……いい男が台無しだろ?あの小娘に復讐するためにこうなっちまったが……これはこれでやりたい放題できて楽しいぜ?力ずくで女を喰えるからなぁ」


包帯の下から現れた顔は、まるでゾンビのように腐れ果てていた。目の部分は空洞になっており、髪は辛うじて金髪だと分かるが、ほとんど抜け落ちている。

「なんてったって金で女を食いまくってたら、金がいくらあっても足りねぇからな。ちょっと隠れ里の情報を売っちまったが、それも気づいたらなくなってたし、な……キヒヒ!」

「はぁ、はぁ、ん……!げ、下衆が……!」

アリスの罵倒を意にも介さず、ミイラ男は解いた包帯を地面に落とす。すると、包帯はひとりでに動き……アリスににじり寄って来た!


「な、にを……!?ぁああああああん!!」

身の危険を感じたアリスは逃げようとするが、その瞬間に人形を舐められて脱力してしまう。そして、その隙に包帯はアリスの体に絡みつくと、アリスの体はどんどん包帯で包まれていく。

「こ、れは……!?」

「ケッケッケ……これでお前も、もうすぐ俺たちの仲間入りだ……それに全身が覆われた時、お前は裸に包帯を巻いただけのミイラ女になる!ケケ!そうなったらお前は俺様の性奴隷だぁ!女がミイラになった時は都合よくグロくなんねぇからなぁ!」

「なっ……!?この、ひきゅぁぁああぁぁっ!?」

ミイラ男の説明を聞いて血の気が引いたアリスは必死に抵抗するが、人形を舐められるだけで虚しくも力が入らなくなる。

「ああ、いやぁ……!」

そうしているうちに、シュルシュルと包帯に巻かれていき、もはや顔以外は全身包帯に巻かれてしまった。
そして、最後に残った端正な顔にも、包帯は巻かれていき……





「いやぁあああああああああああああ!!!!」

482名無しさん:2019/04/09(火) 22:24:08 ID:???
「ちょ、ちょっとリンネ!」

サキの呼びかけにも応じず……リンネは人生そのものに投げやりになっているかのような、暗く儚い表情のまま、背を向けて庭園の奥へ歩いていった。

「あーもう何なのよリンネの奴!初めて会った時はクソみたいなオカマだったくせに、ナルビアで助けたり急に好きとか言ってきたり!」

「え、お姉ちゃんそれって色々どういうこと!?あの人男の人だったの!?それにお姉ちゃんが好きって!?気になる気になる!」

「ユキ、私もそれは気になるけど、今はそれどころかじゃないわ!」

「……それに、ヨハン様が操られてたユキを傷つけたなんて……そんなわけないじゃない!ねぇユキ?」


色々信じられないことを聞いたサキは、一端リザのことを脇に置いた。そして気持ちの整理をつけるために、ユキにあの日……大怪我を負った日のことを訪ねる。

だが、その結果は……


「え……ヨハンさんが、私を……?う、ぐ、うぁ……!?」

「ゆ、ユキ!?どうしたの!?大丈夫!?」

「あ、頭、割れちゃ……!あ、あああぁああぁあああ!!」


★ ★ ★

「フハハハハハ!邪術師でもない限り、この結界には入れない!助けなんて来ねぇのさ!ゲハハハハ!!」

「はいはい、フラグ立てご苦労様……シャドウボルト!」

「なに……?ぐわぁあぁああ!!!」

突然、結界内の空間が歪み……ミイラ男の後ろから、黒髪の少女……サキが現れる。
完全に不意討ちで現れた少女にミイラ男が対応できていないうちに、サキは攻撃魔法でミイラ男を攻撃した。

「げ、げはっ……!バカな、なぜこんなところに、邪術師が……!?あのクソ王、話が違うじゃ……ない……か……」

サキの攻撃を受けたミイラ男は倒れ……周囲に展開していた結界が崩壊し、元の美しい庭園が辺りに広がった。

「……やっぱり露出狂が噛んでんのね。ほんと、あの変態の下で働くのが嫌になるわ」

「はぁ、は、ぁ……!リゲ、ル……!?」

ミイラ男の攻撃から解放されたアリスは地面に倒れ、息も絶え絶えにかつて取り逃がした相手を見上げる。

「なぜ、私を助けたのです……?この私が、恩に着るとでも、思い……ぅぐっ!!」

地面にうつ伏せに倒れながら気丈に振る舞うアリスの背中を、サキは踏みつけて黙らせた。

「別に、ああいう手合いはそのうちこっちにまで手を伸ばしそうだったから倒しただけよ。それに、あんたには聞かなきゃなんないことがあるからね。本当はクソリザがやられてるうちに、あんたを後ろから襲うつもりだったけど……まぁ結果オーライだわ」

そう言ってサキはアリスの背中を踏む力を強くしながら、詰問する。

「……舞は無事なんでしょうね」

「ぐ、ぅ……教えて、さしあげると……お思いですか?」

「あっそう、まぁぶっちゃけ正直に答えるとは最初から思ってないし。口車に乗ったみたいで癪だけど、リンネの奴にでも聞くとするわ」

「っ!リンネさんには手を出させまん!今度こそ私が……!ぐぅあぁあ!!」

歯を食いしばって立ち上がろうとしたアリスだが、サキに腹部を蹴り上げられて、今度は仰向けを転がってしまう。

「ったく……大人しく寝てなさい!」

「ごぶっ!」

仰向けに転がったアリスの腹部を思いっきり踏みしめるサキ。ミイラ男との戦いで消耗していたのもあり……アリスは気を失った。

「サキ……ありがとう、助かったよ」

ミイラ男のセクハラ攻撃で倒れていたリザも何とか立ち上がり、サキに歩み寄る。

「クソリザ、あんたはほんとピー◯姫かってくらい毎度毎度やられて……あんたは私の小間使いくらいがちょうどいいわ。母さんとユキをトーメントまで送ってってちょうだい」

「でも、私はサキがナルビアで危ない目にあわないように、護衛を……」

「そのザマでよく護衛とか言えるわね。別にわざわざナルビアまで行かなくても、リンネの奴と話をする算段はついてるわ」

それを聞いて得心したような表情をするリザ。アリスを人質にでもとって情報を脅し取るつもりとリザは判断したのだ。

「……私は庭園の奥でリンネと話をして来る。母さんとユキは向こうにいるから、ちゃんと送りなさいよ」

483名無しさん:2019/04/13(土) 13:55:24 ID:V11pQM7U
「……また会いましたね、サキさん」

「……一応、こいつは殺してないわ。あんたの仲間でしょ?」

美しい花々が並ぶ、月下庭園の奥。家族のことをリザに任せたサキは、リンネと再び邂逅していた。
気絶しているアリスを除けば、今度は2人きりだ。

「仲間、ですか……ただ同じ国に属しているだけですよ」

サキが適当にその辺りにアリスを放り捨てても、リンネは特に気にした様子はない。

「……そうね。同じ国にいるからって、仲間とは限らない……あんたの言ってることは本当だったわ。ヨハン様が、ユキをあんな、自分じゃ立てないような体にした……」

サキがヨハンのことを言った瞬間、突然頭を押さえて苦しみ出したユキは、あの日のことを思い出していた。
そして、涙ながらに、彼が自分を徹底的に痛めつけることで、サキがトーメントから抜け出せなくなるように楔を打ったことを伝えたのだ。ユキは、もうサキに危険な任務を続けて欲しくないと頼んだが……

「……もう、ムカつく連中ばっかのあの国で働く義理はない……けど、ユキや母さん……それに、舞を守るには……トーメントの、力がいるの」

「……僕も同じですよ。僕が生きていくには、ナルビアにいるしかない……けれどもう、あんな連中のために働くのは御免です」


そう言ってリンネは、自分のことを語った。
自分が過去の英雄の細胞から作られたクローン人間であること、ナルビアの薬がないと生きていけないこと、戦闘兵器として生まれてきたヒルダを本当の妹のように思い、守りたかったこと。
……けれど守りきれず、ヒルダはもうメサイアという殺戮兵器になってしまったこと。

「僕たちは協力し合えると思います。互いに情報をリークしあい、貴女は家族と、僕はヒルダと……穏やかに暮らす方法を探すために、情報を共有しましょう。そうすれば、わざわざ命を賭して敵国へ潜入することもない」

「……利用し合う、共犯者ってわけね……悪くない話だけど、その前に舞を返してもらうのが先よ」

「彼女はもうナルビアにはいません。協力者として招かれていた司教アイリスに操られ……今はアイリスも彼女も、居場所すら掴めていません」

「っ……!あのオバサン……!」

それを聞いて、サキは唇を噛む。以前のサキであればリンネの言ったことを信じなかっただろうが……何故か今は、彼が嘘をついていないと思えた。

「その辺りも情報を掴み次第、お伝えしますよ。まずはナルビアの主な主力兵器やシックス・デイたちのことをお教えします……サキさんはトーメントの新兵器や十輝星について教えてください」

「そうね……そうやって楽に仕事しながら、真っ白幼女を元に戻したり、ユキの治療をしたり、舞を探したりする方法を探すってのは、悪くないわ。じゃあ早速、ナルビアのことを聞かせてもらおうかしら」

「そうですね……けれど、その前に一つだけ……」


そう言ってサキに近づくリンネ。

「何の用……ん、む……!?」


リンネは突然サキの顎を掴むと、顎クイしながら……その唇に、キスをした。振り払おうと思えば、簡単に振り払えそうな、唇を触れ合わせるだけのフレンチキス。

だが、サキは……振り払わなかった。

484名無しさん:2019/04/13(土) 13:57:06 ID:V11pQM7U
「……いつも、やられっぱなしでは……悔しいですからね」

「り、リンネ……言っとくけど、ヨハン様に失恋して傷心してるから許したとかじゃないわよ。あんた女っぽいけど顔立ちはいいから5年後くらいまで考えたら有望だし、それに、ナルビアで助けてもらってからは結構嫌いじゃなかったっていうか……」

あわあわとしながら、言い訳のようなことを早口で言うサキ。リンネは、サキの底意地悪く強かに生きる姿に、自分と似た境遇なのに、自分にはないものを見出して惹かれたが……いざ可愛らしい反応をされると、ギャップにクラクラした。


「……もう一回……もうちょっと激しく、キスしても……いいですか」


「……好きにしなさい。初心なあんたと違って、私はキスくらいなんでもないんだから」

大きな力に利用されるだけの人生など御免な二人。家族を大切にしている二人。出会った当初は険悪であったが、いつの間にか認めあい……惹かれあっていた二人。

(ああ、そういえば……)

サキはふと思う。邪術師として生きていると、必然的に誰かにキスをして魔力や体力を吸うことが多くなる。
けれど世界の意思とでも言うべきか、相手は基本的に全て美女美少女だった。

(……同性ノーカンにしたら、私の初めてのキスも、リンネってことになるわね……)

そんなことを考えながら……サキは目を閉じて、リンネを受け入れた。






(う、そ…………リン、ネ……さん?)

辛うじて意識を取り戻したアリスは、目の前の光景を愕然と見ていた。

度重なるダメージで頭は靄がかかったようになっているし、意識はあっても体が動かない。

そんな、ただ意識があるだけの状態で、意中の相手が怨敵と熱い口付けを交わしている姿は……俄には信じられなかった。


(邪術師は、口付けで相手の体力を吸収すると聞きます。操られたエリスやレイナさんもそうでした。きっとリンネさんだって、無理矢理キスされてるだけ……)

頭では目の前の現実を否定しようとするも、リンネの方からキスしたという事実。そして何より、相手のことを本当に思いやっている、あの優しい仕草。

以前強姦未遂されかけた時の自分に対する乱暴な行動とは、あまりにも違う行為。

恋する乙女の本能とでも言うべきか……二人が想い合うようになっているのを、アリスは理屈ではなく心で理解してしまった。


(な、ぜ……なぜなんですか、リンネさん……!なぜよりによって、そんな、女…………に……)

元々負っていたダメージと、今受けた精神的ショックにより……アリスは再び、気を失った。

485名無しさん:2019/04/13(土) 23:13:22 ID:???
「んっ……!ん、んんうっ……」

「ふっ……!……ん、はっ……!」

優しく啄ばむようなキスをした後、宣言通り、唇を吸い上げ口内をかき回すような激しいキスをするリンネ。
慣れていないながらも異性であることを強く感じるような激しいキスに、サキも追いつけるよう必死にテンポを合わせる。

(い……意外と積極的っていうか……!は、激しっ……!キスだけでテンション上がりすぎなんじゃないのっ……!)

強気に受け入れてはみたが、思った以上に強引なリンネのリードについていくのがやっとだった。

「はぁっ、はぁっ……サキさん……!」

「んんぅっ……っ……!あんっ!」

リンネはサキの腰に手を回し、体を密着させるように無言で促す。
一瞬それに身を任せて体を寄せたサキだが、ふっと我に帰りリンネの顔を手で制した。



「ちょ……ま、待って……!」

「……あ、すみません……」

サキが手を出した瞬間、すぐに体を離し身を引くリンネ。
口元に着いたどちらのものかもわからない唾液をハンカチで拭き取りながら、サキは軽く息をついた。

「もう……激しすぎっ!初心のくせにあんまりがっつくんじゃないわよっ……」

「そ、そうですよね……つい調子に乗っちゃって……すみません。」

「……ほんと、やけに素直ね。やっぱりあの真っ白がいなくなって傷心気味なんじゃないの?」

「……それはさすがに否定できません。ヒルダは僕の全てでしたから。」

先ほどまでの激しい動きが嘘のように憂いを帯びた目で遠い目をするリンネは、サキの目から見ても少し異常だった。

(やたらとキスを求めてきたのは、恐らく自制心が効いてない証拠。……精神的に追い詰められていることは間違いなさそうね。)



「……ま、まぁ……わたしも向こうに母さんと妹がいるし、とりあえず連絡先でも交換しましょ。何か掴んだらすぐに伝えるわ。」

「そうですね……アリスは僕が適当に処理します。今のを見られていたらまずいかもしれませんが……ファントムレイピアがあれば記憶を壊すことも不可能ではありません。」

「あんたのそれ、ほんと酷い武器ね……もう2度と食らうのはごめんだわ。」

「サキさんにはもうやりませんよ……では、また連絡します。」

リンネは気絶したアリスを抱えた後、ぎこちないながらもサキに笑みを返す。
その笑顔を見たサキもまた、慣れてない笑顔を作った。

486名無しさん:2019/04/17(水) 01:23:54 ID:???
「………あ、れ………ここは、どこ………?」
見知らぬ部屋のベッドの上で、私は目覚めた。
………頭が、割れるように痛い。確かあの時私は、敵にやられて……その後どうなったのか、記憶がはっきりしない。

「うふふふふ……おはよ。……やぁっと目が覚めたのねぇ〜。ずいぶん長い間眠ってたのよ、あなた……」

見知らぬ部屋の中には窓一つなく、古びたテーブルの上の燭台が唯一の照明。
その横の椅子に、怪しい雰囲気の女性が腰かけていた。
自身の枝毛やネイルの艶などをぼんやりと気に掛けながら、気だるそうに脚を組んでいる。
ピンク色のふわふわした巻き毛、黒地に紫や赤の奇怪な装飾が施されたレザードレス。特に目を引くのは……

「貴女………誰?」
「あたし〜?あたしは、あなたのぉ〜。
祖母の〜、友達の〜、妹の〜、婚約者の〜、兄の〜、行きつけの店の〜、常連客の〜……天使でぇーす!」
「………絶対嘘だわ」
……背中から生えている、コウモリ羽。ついでにお尻からは尻尾が生えていて、その先端は矢じり型。
人間でないのは間違いない。どう見ても悪魔系である。

「うふふふ……まだ記憶がはっきりしない感じかしら?大丈夫?自分のお名前、ちゃんと言える?」
「……サラ・クルーエル・アモット」

「職業は?」
「国際警察庁の、時空犯罪対策室に所属……通称『時空刑事』……の、見習い」

「見習い、ね………年齢は?3サイズは?彼氏いる?ていうか処女?」
「……いい加減にして。何なのよ、さっきから」

「これは大事な話よ。貴方の記憶が、どこまではっきりしているか、確かめる必要があるの。
ここに来る前、何をしてたか……覚えてる限りの事、話してもらえる?」

「………わかったわよ。……あの時、私は………」

──────

……時空犯罪組織のアジトの情報を掴んだ私は……先輩の応援を待たず、単独で踏み込んだ。

だけど……それは、敵の罠だった。

待ち伏せされ捕らえられた私は、仲間の居場所を聞き出すため、激しい拷問を受けた……

(バリバリバリ………ズドドドドッ!!)
「っ………っぐああああああああぁぁぁあぁっ……!!」

「ヒッヒッヒッヒィ………どうじゃね、お嬢ちゃん。お友達のこと、話してくれる気になったかねェ?」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………だ、れがっ……言う、もんですか……っく、ぅあああああああんっ!!」

下着姿で電気椅子に拘束され、全身至る所に……胸や股間にまで電極を取り付けられた。
何時間も何日も、眠る事さえ許されず、苛烈極まる電流責めが続く。

「うふふふふ……だめだめー?もーちょい緩めてあげなきゃ……オタノシミの前に、壊れちゃうじゃなぁい?」
「ケケケ!そりゃぁもったいねえなぁ……あと4〜5年もすりゃ、超絶最高な極上ボディに育つだろうによぉ!」
「わかっとるわかっとる……こいつはほんのお遊びじゃ。
お嬢ちゃんは『本命』を呼び寄せるための、大事な『エサ』じゃからなぁ……ヒッヒッヒッヒィ………!!」

時空に名だたる凶悪犯罪者達が一堂に会し、鎖に繋がれた私をとり囲んで嘲笑う。
……私は、無力だった。
両親を犯罪者に殺され、悪を滅するため時空刑事を志し、これまで死に物狂いで鍛錬を続けてきたというのに……

「クスクスクス……次はあちしのばーん。イき狂っちゃう前に、早く来るといいねぇ。『白銀の騎士』様が……」
「ケケッ!…なぁにが『時空刑事』だ。俺様が5秒でスクラップにしてやるよ……ヒャーーッヒャッヒャッヒャ!!」

「はぁっ……はぁっ……………さん……来ちゃ、だめです……これは、罠……っぎひああああぁぁあああああああ!!」

──────

「私は……どのくらい眠っていたの……あれから、何日くらい経った……?」
……頭がふらふらして、全身が気だるかった。

「……だいぶ記憶が飛んでるみたいね。ま、そのうち元に戻ると思うけど………ふふふふ」
ピンク色の巻き毛の女が、意味ありげな笑みを浮かべる。

……ゆらゆらと揺らめく蝋燭の光に照らされながら、私は少しずつ、記憶の糸を手繰っていく……

487名無しさん:2019/04/18(木) 23:51:45 ID:q2ji6Urg
「あ、お姉ちゃん!」

ナルビアの人間と話をしてくると行って庭園の奥に行ったサキを待っていたユキとサユミ。ユキはサキが戻って来たのを見て、明るい声をあげる。

「2人とも、ただいま……リザの奴は?」

「……魔物化した男性に、トドメを刺してくる、と言っていたわ」

「そう……まぁあいつのことなんてどうでもいいんだけ」

相変わらずリザに対しては素っ気ないサキ。だが、サユミは母の勘とでも言うべきか……娘の様子がおかしいことに気づいた。

「あら、サキ、何か顔が赤いようだけど、大丈夫?何かあった?」

「うぇっ!?」

意中の人とまではいかずとも、そこそこ気になってた相手と結果的に結ばれたサキ。図星を突かれたサキは明らかに狼狽する。

それを見て、ユキはピンと来たようだ。

「分かった!さっきの男の人と何かあったんだ!だってあの人、お姉ちゃんのことが好きなんでしょ?」

「ええ!?サキ、それは本当!?ヨハンさんのことはもういいの?」

「えっと、なんていうか、ヨハン様がユキに酷いことしてショックだったっていうか、でも危ない雰囲気はそれはそれでアリっつーか、そもそもトーメント人の時点で多少の外道さは織り込み済っつーか、そもそも脈なしっぽかったっつーか……
まぁその辺諸々考えると、危なっかしくて放っておけない年下も悪くないっていうか……」

ヒルダを失ったリンネは、かなり危うい雰囲気を身に纏っていた。
放っておけないというか、そのうち世を儚んで自殺でもしそうな、自分がそばにいてあげなくちゃいけないとつい思ってしまいそうな……

そういった想いを要領を得ないながらも語る娘を見て、サユミは穏やかな表情を浮かべる。

「あら、そうなの?サキはしっかり者だから、そういう子が好きなのも不可思議じゃないわね」

「ナルビアの人みたいだけど、それでも恋人なんて素敵!ロミオとジュリエットみたい!
それにこんなに綺麗な花畑の中で告白されるなんて、やっぱりお姉ちゃんもロマンチックなの好きなんだ!」

興奮した様子で早口で語るユキ。少し前までヨハンに受けた暴虐を思い出して震えていたとは思えないが、それだけ姉の恋路が気になるのだ。

「いやまぁ、クソ生意気なオカマが滅茶苦茶落ち込んでて、つい……っていうか、私もヨハン様のことでショックだったっていうか、雰囲気に流されたっていうか……」

髪の毛をクルクル弄りながら、照れくさそうに、罰が悪そうに言い訳めいたことを言うサキ。
だが、ふと真剣な表情に戻る。

「……ねぇ、大事な話があるの」

真剣な口調になったサキに、2人も恋バナモードから表情を引き締める。

「私は、こんな国に尽くす義理はないと思ってる。でも、この世界で生きていくには、長いものに巻かれるのも必要よ。
だから私は、リンネと協力して情報を共有しあって、上手く生きていこうと思うの。
ただ国に利用されるだけじゃない、私たちも国を利用してやるの」

大いなる力に翻弄されながら生きてきた家族にとって、サキの言葉は重いものだった。


「サキ……どこか、静かな所に逃げるわけにはいかないの?」

「ここから逃げても、どこかで違う誰かに虐げられるだけ……それならいっそ、トーメントで好き勝手に生きる……私の目的は、変わらないわ」

思わず逃げ腰なことを言ってしまうサユミ。サキはそんな母に対し、諭すように語る。それを聞いて、今まで自分たちがサキの負担になり続けていることに暗い顔をするサユミとユキ。

「ほら、とりあえずはナルビアに潜入しなくても情報は手に入ったんだから!そんなに暗い顔しないで!こうやって賢く生きれば、今までよりも危険な目にも合わないわ!」

そんな2人を元気付けようと、努めて明るく振る舞うサキ。それを見て、ユキは益々得も言われぬ不安を覚えてしまう。何か、姉がとても危険な道に進もうとしている気がして……

「お姉ちゃん……これから、どうするの?」


そんな妹の質問に、サキは庭園の向こう……ナルビアの方を向く。

「そうね、まずは……女の子の強化状態を解除する方法でも探すとするわ」

488>>486から:2019/04/20(土) 12:49:49 ID:???
(ぐちゅっ………ずぶっ……!!)
「んっ……っぅああああああぁぁっ!!……っぎあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
「クスクスクス……女の子に犯されるのは初めて?
あちしの最凶最悪トゲトゲ猛毒イモムシちんぽ、すっごいでしょ。
身体の中、ぜ〜んぶ溶かされちゃうみたいで……ひひひ」

………あの時私を捕らえた悪党達は、どいつもこいつも最低の下衆ばかりだったけど……この女は、特にタチが悪かった。
裏の通り名は「蟲使い」。名前は、何て言ったか……

「でも、大丈夫……もうちょいして全身に毒が回ったら、痛いのがぜ〜んぶ気持ちよくなるから……んっ……ちゅっ」
「はぁっ………はぁっ………こ、の……クソおんっ………あ、っぐ、んむっ………!……」

(……がりっ!!)
「んぎゃっ!!………こ、いつっ……あっしの舌、噛みやがっへ……!!」
「ぺっ……ぜぇっ……はぁっ………いい加減離れろっての……虫臭い」

(じゅぷっ!!……ぐちゅっ………どぷっ)
股間に突き立てられた女の毒虫ペニスが、勢いよく引き抜かれる。
「それ」はどうやら女とは別個の意志を持つらしく、毒々しい紫、黄緑、黒、白、そして赤……様々な色の液体を垂れ流しながら、不気味に蠢いていた。

「キキィッ……!」
甲高い金切り声と粘着質な音が、耳の奥にまでへばりついて来る。
異界の技術で、こういったおぞましい生体改造を施す輩は何人かいたが……ここまで醜悪なセンスの持ち主は初めてだ。

「てんめぇ……まだ自分の立場がわかってねーなぁ?」
表情に怒りをにじませながら、女が再び近付いて来る。
右手の爪には、様々な種類の蟲から調合されたという猛毒が仕込まれているという。
左腕は、生体改造によって甲虫のような異形の装甲を纏った剛腕へと変わる。
軽く一薙ぎするだけで、後方のコンクリート壁に巨大な傷痕が刻まれた……

「………!……」
「なに?今更ビビってんの?……ダッサ」
(……ずぶっ!!)
「ぎゃっ!!……っう……!!」

私は改めて思い知らされる。
どんなに鍛えても、普通の人間の力では奴らには敵わない。奴らに立ち向かうには……

「人質なんてめんどくせーのはやめだ……この場でブッ殺してやr」
「来たぞーー!!奴だ!!『時空刑事』だ!!」

……力が、必要だ。圧倒的で、絶対的な……正義の……

「うちの期待の新人を、随分可愛がってくれたそうじゃない……この借り、百万倍にして返してやんよっ!!」

「ちっ!!生体改造兵どもを、あっという間に伸しちまうとはな……」
「黒髪ショートに丸メガネの日系女、パーカーの上に白衣、男みてえに平べったい胸……
間違いねえ。奴が『マリア・マーシレス・オールドフェンス』……又の名を」

「最後のは余計だボケーーっ!!」
「「「グワーーーッ!!」」」

「…マリア先輩……!」
「ふん……思ったより早かったねぇ。
んじゃ、まずはあの先輩ちゃんからブチ殺してやるよ。アンタの目の前でねぇ……ヒヒヒッ」

489名無しさん:2019/04/21(日) 12:00:13 ID:???
「マリア先輩!来ちゃダメです!逃げてください!これは、罠で……んむぐううぅうぅぅッ!?」

「はーい、いい子だからちょーーっと黙ってようねー」

必死に何かを伝えようとしたサラの口を、蟲女の毒虫ペニスが塞ぐ。
サラは先ほどと同じように必死に噛んで抵抗するが、毒虫ペニスは舌よりもかなり頑強なようで、まるで動じていない。
むしろ、必死の抵抗をちょっと激しいフェラくらいにしか感じなかった毒虫ペニスは、一気にサラの口の中に精を吐き出す。


どびゅるッ!! びゅるびゅるぼびゅびびゅ!! ビュルルルッ!!

「んぐむうぅうぅぅぅッ!? んぐおぉ、おぐぅぅ!!」

毒虫ペニスから出てきた精液は、異様に粘ついていて……それが口中に広がることで、毒虫ペニスが引き抜かれた後も、サラの口を塞ぐ猿ぐつわの役割を果たしていた。

「サラ!!!てめぇ、この私を目の前にしても新人イビリを続けるたぁ……いい度胸じゃない!」

「おっと、テメェの相手は俺たちだー!」
「相手は女一人だー!やっちまえーー!」
「変身する隙を与えるなー!」


「ふん、隙を与えるな、ね……甘いっつーの!」


「「「またしてもグワーーーッ!!」」」

怒りのままに蟲女へと向かうマリアに立ち塞がる凶悪犯たち。だがマリアは生身のまま、拳と蹴りで彼らをあっさりと一蹴した。
大立ち回りを演じたというのに、その息は全く乱れていない。


「あー気持ち良かった……って、もう男衆倒したの?せっかちさんだなー」

「タイム・イズ・マネー……日本の諺よ。アンタら如きに時間かけてらんないの。早く新人を医務室に連れてかなきゃならないからね」

「キシシ……言っとくけど、あちしをその辺に転がってるのと一緒と思わない方がいいよー?」

「……その悪趣味な姿……確かに雑魚じゃなさそうね……それじゃあ、本気でいくわよ……『閃甲』!!」

マリアがブレスレットを握りしめて、変身ワードを叫ぶと、彼女の体が光に包まれる。そして……


「白銀の騎士、クレラッパー……見!参!」

パーカーと白衣のさらに上に、銀のプロテクター。そして、バイザー型のヘルメットを装着した……白銀の騎士が現れた。

女時空刑事マリア・マーシレス・オールドフェンスが<閃甲>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!時空間に存在する未知の物質シャイニング・シルバー・エネルギーが超時空バイク「アージェント・グランス」によって増幅され、コンバットアーマーへ変換。
わずか1ミリ秒で<閃甲>を完了するのだ!


「白銀の騎士……キシシシ!!『ここで』変身しちゃったねーー!これでやっと、シャイニング・シルバー・エネルギーの源への道が……」

「何を企んでるか知らないけど……くだらない罠ごと、ぶっ飛ばしてやんよ!」

490名無しさん:2019/04/25(木) 23:58:32 ID:???
「シルバー・プラズマソード!うおおぉおおりゃあああ!!」

「キヒヒ……!男みたいな叫び声だねぇ、いっさましい!」

マリアと蟲女の戦いが始まった。マリアの繰り出す剣を異形の剛腕で防ぎながら、蟲女はケタケタと挑発する。

「だーれが男みてーなまな板無乳女ですってぇええ!?プラズマパニッシュメント!!」

「えー……誰もそこまで言ってないのに……ぶげ!」


大きく跳躍しながらシルバー・プラズマソードを斬り上げる技で、蟲女の固い防御を強引に崩すマリア。


「大口叩いてた割には大したことなかったわね……!さっさとサラを助けさせてもらうわ!ライトニングシューター!!」

跳躍で空中に上がったマリアは銃を素早く取り出し、防御の崩れた蟲女に連続でビームを放つ。

「キシシ……甘いよ!」

蟲女の背中から突然生えた毒々しい色の翼が、マリアの撃ったビームを防ぐ。

「ならフルパワーよ!!シルバー・プラズマソード・純粋起動!」

しかし、マリアは空中から落下する勢いを利用して、蟲女の翼の盾をこれまた力押しで破りにかかる。

「技名は特に考えてない斬りぃ!!」

「んああぁああああん!」

頭身が大きく伸びた剣で翼の防御を打ち破ったマリア。その勢いのまま、シルバー・プラズマソードは蟲女の体を大きく吹き飛ばした。

「ま、ざっとこんなもんよ。それじゃあ、さっさと逮捕してやるわ」

余裕綽々で蟲女へと近づいて行くマリア。だが、蟲女は追い詰められているというのに、口元から血を流しながらも不敵な笑みを浮かべる。

「……白銀の騎士様がめっちゃくちゃ異次元のエネルギーを使ってくれたし……そろそろ、『開く』かな?」

蟲女が意味深にそう呟いた瞬間……周りの景色が……否、時空が歪んだ。

491名無しさん:2019/04/26(金) 23:28:28 ID:???
「くっ……なんだ、これ……の空間が、丸ごと歪んでる……!?」
「くひひひひ……見たまんまだよん。空間の壁を壊して、この場を一時的に異次元と繋げたの」

周囲が禍々しい気配に満ち、空が血のように赤く染まっていく。
異様な雰囲気に戸惑うマリアを心底可笑しそうに嘲笑いながら、蟲女は平然と立ち上がる。

「なんだってっ!?そんな事が……」
「出来るんだなぁ、それが……半分は、アンタのせいだよ?『白銀の騎士』様……キヒヒヒヒッ!」

説明しよう!
時空刑事クレラッパーの持つ『シャイニング・シルバーエネルギー』に
闇の力『ダークネス・プラチナ・エネルギー』が激しくぶつかり合うと、
次元を隔てる壁が破壊されて異次元世界への扉『ウェイ・ゲート』が開かれるのだ!

「行先は『魔蟲空間』……あっしのホームグラウンド」
蟲女の両腕の異形が変形・拡大し、全身を覆っていく。
「ここではあっしの蟲力が、3倍にパワーアップすんのよん♥」
(ガキィンッ!!)
「ぐっ……!!」
目にも止まらぬ速度で繰り出されたアッパーカット気味の一撃を、両腕を交差させて防ぐマリア。
だが重い打撃はマリアの身体を十数センチも浮かび上がらせ、無敵のはずの白銀のプロテクターに亀裂を走らせる。
この場所そのものが、時空刑事を葬り去るための大掛かりな罠であった事に、マリアは初めて気づかされた。

「んじゃ、さっそく第2ラウンドと行きますか……ねっ!!」
全身に黒い装甲を纏った蟲女が、さながら重戦車のごとく突進してくる。

「上等っ……こっちももう容赦しないわ!ぶった斬ってやる!!」
対するマリアも、シルバープラズマソードを構えて応戦するが………

(………ドガッ!!…バキィィィンッ!!)
「が、はっ……!!」
周囲に衝撃波を巻き起こす程の驚異的な加速度で、禍々しいスパイクの付いた蟲女の肩アーマーが叩きつけられる。
白銀の騎士クレラッパーの胸部装甲は、硝子細工のように粉々に砕け散り……

「……っぐぁぁぁぁああああああっ!!」
「むぐーっ!!(マリアさーーんっ!!)」
(……ドガァッ!!)
大きく吹き飛ばされたマリアの身体は、闇色に変色した地面の上を二度三度とバウンドして転がる。
ざっくりと抉られた薄い胸板からは、鮮血がどくどくと流れ落ちていた。

492名無しさん:2019/04/27(土) 11:37:37 ID:???
「むぐっ!!んんんー!」(マリアさん!マリアさーーんっ!!)
蟲の粘液を口に注ぎ込まれて声を出せないサラが、声にならない声を上げる。

「まさか、コンバットアーマーを破壊するなんて……なんなんだ、そのアーマーは…!」
出血と傷の痛みに耐えながら、よろよろと立ち上がるマリア。
その様を見下ろす蟲女の全身は、漆黒のアーマーに覆われていた。その姿はまるで『白銀の騎士』クレラッパーを、姿も、心までも、黒く染め上げたかのようであった。

「ふっひっひ……コイツはねぇ。あちしの飼ってる蟲『ミミック・バグ』……
目に見えないくらいちっちゃな蟲の集合体。どんな物でもマネする性質があるのよん」

(……ビキビキビキッ……!)
その様を見下ろしている間にも、蟲女の体を覆う鎧は更に禍々しく変形していく。
「ほ〜ら、この通り。虫っぽい事はだいたいできるぞ!って感じ?」
カブトの角、カマキリのカマ、サソリの毒針、巨大な蝶の翅、etc……その姿はさながら、様々な虫を合成させたキメラであった。

「しかもこの子たちは『ジェット・ブラック・エネルギー』をたっぷり喰わせて育てた特別製で、本物以上のチカラを発揮する。
ざっとパワーは2倍、スピードとキック力は6倍ってところかしらん?
魔蟲空間の効果で、更に倍率ドン!」
「え、ダークプラチナなんとかじゃなくて?」
「ふっひっひ……そんな細かいこと、気にしてる余裕はあるのかなぁ?」
「っ!!」

再びマリアを急襲する謎の蟲女。そのスピードは、先程の言葉通り、白銀の騎士クレラッパーを遥かに凌駕していた。

「ライトニングシューター……」
「ふひひひっ!トロいトロい!あくびが出ちゃうぜ騎士子ちゃんよぉ!!」
マリアがビームガンを抜き放った時には、既に敵の黒い仮面が目の前にあった。

「食べるところ少なそうだけど……いっただっきまーす!リオックバイト!」
(ビキッ………ガシュッ!!…ぶしゅっ!!)
「し、まっ………うああぁぁぁぁぁああっ!!」
元々装甲の薄かったマリアの首元に、黒い牙が突き立てられる。
激しい痛みに思わず絶叫するマリア。血こそ派手に噴き出したが……致命傷、ではない。
悲鳴をじっくりと聞くために、蟲女はあえて急所を外して噛み付いたのだ。

「ふぁらのー……ふぃらふぁふぃふぁーふ!(ギラファシザーズ)」
(ぎちっ………ミシミシミシミシ!!ベキン!!)
「あ、ぐ………げほっ………は、なせ………んぐあぁあぁんっ!!」
両者の体格差から、そのまま抱え上げるようにして拘束されたマリア。
良く鍛えられていながらもほっそりとしたスレンダーなウェストを、巨大な鋏が左右から締め上げる。
その圧倒的な力の前に、白銀のプロテクターはもはや防具としての意味をなしていなかった。
持ち主と同じく、ただ悲鳴のような音を立てながら壊れていくのみ。

「ふぁんふぃすふぁっはー!(マンティスカッター)」
(ザシュッ!!ザクッ!! ドスッ!!)
「んう、ぐっ……あ、んっ!!……う、くっ………!」
逃げ場のない状況で、マリアは凶悪な攻撃に一方的にさらされてしまう。
プロテクターに覆われていた箇所も、そうでない所も、二対の鎌に余すところなく斬り裂かれ、
それでも悲鳴を堪えながら反撃のチャンスをうかがうが……

「へほっへー、ふほーひほん(スコーピオン)……テイルッ!……っと♪」
(……ずぶっ!!………ずちゅっ ずちゅっ ずちゅっ……ぶちっ!)
「い、いかげんに…………んぐ、あがあっ!?………ぅ……」

サソリの毒針に背中を突き刺され、大量の毒液を注ぎ込まれ……ついに、マリアの両腕はだらりと垂れ下がり、蟲女に完全に体を預けてしまった。

「っ………ぉ………」
首元の肉を喰い千切られ、牙地獄からようやく解放されても、マリアはぐったりと弛緩したまま動けない。


「さーて、新人ちゃん……宣言通り目の前で、憧れのセンパイをぶち殺された感想はどうかな?ひっひっひ……」
「っ……!!ぶはっ…!…う……嘘ッ……嘘よっ……マリアさぁぁーんっ!!」
蟲女は再びサラに近付くと、猿轡代わりの毒粘液を取り除いた。
悪夢のような光景に、思わず悲痛な叫び声を上げるサラ。

「ん〜〜……いいわ。極上の悲鳴、最高の絶望……そそるわぁ♥」
その様子を恍惚とした表情で見下ろしながら、サラの頬を伝う涙を、蟲女の長い舌が舐め上げた。

493名無しさん:2019/04/28(日) 02:11:59 ID:???
「それじゃあ、絶望の黒い気持ちで覆われたところで……もう一度犯してあげるよ、新人ちゃん?」

「ひっ……!?いやぁ……!」

「いっしっし……やっぱりレイプする時は、生意気に抵抗されるより泣き叫ばれた方が興奮するねぇ」

再びサラを犯そうとする蟲女。その時……

「サラ……!悪魔と相乗りする勇気……お前にあるか!?」

「え……?マリア、さん……?」

床につっぷしたままのマリアが、全身からドクドクと血を流しながらも、強い意思を感じる語気で叫ぶ。

「強すぎる力に……悪魔の誘惑に溺れずに、正義を貫き、悪を挫く覚悟が……お前にあるか!?答えろ!!」

真剣な表情で叫ぶマリアに気圧されたサラは……気がつけば、大声でマリアの問いかけに答えていた。

「……あります!凶悪犯に両親を殺された私の……悪を憎む気持ちは、決してなくなりません!!」

「サラ……本当は、悪を憎むだけじゃなくて、守るものを見つけて欲しかった……ちょっと早いけど……お前が、次のクレラッパーだ……!」

「次の、クレラッパー……?」

マリアの言っていることが理解できない様子のサラ。
それに対し、マリアは……意を決した顔で、虚空へ向けて叫ぶ。


「はぁ、はぁ……!悪魔女……いや、アージェント・グランス!
契約成立だ!私の魂を持っていけ……!けど、その代わり……力を貸せ!あの女をぶち殺す力を!!」

「マリアさん……さっきから、何を……?」

「キシシ……おかしくなっちゃったのかな?」

不明瞭なマリアの行動に、訝しげな顔を見せるサラと、愉快そうな表情をする蟲女。

だが、次の瞬間……


『も〜、や〜〜〜〜っと決心してくれたのねぇ。長かったわぁ』


どこからか、謎めいた女の声がした。

494名無しさん:2019/04/29(月) 18:50:24 ID:4AHMU6b.
『それじゃあ契約通り……貴女の命と引き換えに、無限の力を与えるわね♪』

「う、ぐ……があぁああああああ!!!」

謎の声が響いた直後、マリアが絶叫し、その体から炎が迸る。だが、それと同時に……蟲女から受けたダメージによって動かなかったはずのマリアが、ゆっくりと立ち上がった。

「ま、マリアさん……!?」

「はぁ、はぁ……!なによ、こんなもんなの……!思ってたより、痛くない、わ……!」

全身を炎に包まれながらも、マリアは真っ直ぐに蟲女に視線を合わせる。

「なんかよく分からないけど……そんな雑なパワーアップ展開で、魔蟲空間内のあちしに勝てるわけが――――っ!?」

何が起こったのか、サラにも蟲女にも分からなかった。
ただ、気が付いた時には……蟲女の右肩から先が、力尽くで『引きちぎられて』いた。


「……あ、ぎぃいやあぁあああああああ!!?あ、あちしの、腕が……!」


一泊遅れて痛みに叫ぶ蟲女。それと同時に、マリアの右腕も炎に焼き尽くされる。

「っらああああぁぁぁぁっっ!!」

「ぶ、ぎゅ、がぁああああ!?」


右腕の次は左腕。腕の次は両足……蟲女の四肢は、あっという間に全て引きちぎられた。

「は……芋虫みたいね、アンタにお似合いだわ……!」


だが、それと同時に……否、それ以上のスピードで、マリアの全身は炎に巻かれ、徐々に灰になっていく。

「こ、の……!舐めんじゃねぇ!!あっしの生命力なら、この程度すぐ治……ぶっげええぇええええ!!!」

蜘蛛の能力で腕を増やそうとした蟲女だが、それを遥かに凌ぐスピードで、マリアはまだ辛うじて灰になっていない左腕で構えて突進し……蟲女の腹部を、一気にぶち抜いた。

そしてマリアはその勢いのまま、サラの近くに倒れ込む。

「マ、マリアさん!?マリアさぁあん!!」

「ぐ、ぅ……!いいか、サラ……アージェント・グランスは、ただの、ちょっと便利なバイクじゃない……あれは、悪魔の仮の姿だ……気をつけろ……もうどうしようもない、って時以外……安易に、頼るなよ……!」


「分からないです……何言ってるのか、全然分かんないですよ!死なないでください、マリアさん!私、まだまだマリアさんに、教えてもらわないといけないことが……!」

「……私が後継者と定めたお前に、そのうち悪魔が会いに来る……詳しいことは、そいつに聞け……今までたくさんの人が、あの悪魔と持ちつ持たれつ、クレラッパーとして戦い……最期は他の誰かに、力を受け継いできた……
忘れるな、サラ……大いなる力には、大いなる責任が、伴う……強さに、溺れるなよ……」

その言葉を最後に、マリアの体は炎に包まれ……後には、灰しか残らなかった。

「い、や……いやああぁあああああ!!!」

憧れの先輩の死。その際に言われた意味の分からないこと。混乱の境地に達したサラは、今までの拷問によるダメージも合わさって……絶叫した後、気を失った。


「う、ぷ……!」

一方、致命傷を負った蟲女は、死際に口から卵を吐き出した。その卵は、蟲女……ジェニファーの虫っぽい能力の切り札。

命が潰える瞬間に、子供を産み……自らを殺害した相手への復讐を、次の世代へと託す技。言ってしまえばピッ◯ロ大魔王のパクリである。
マリアは既に死んだようだが、クレラッパーの力がサラに引き継がれるというのを何となく理解したジェニファーは、サラを……時空刑事という組織を潰す為に、子孫を残すことにしたのだ。

「マムシは口から卵を産むっていうけど……あれ迷信なんだよね……まぁ『虫っぽい』から、あちしはできるんだけ……ど!」

そう言ってジェニファーの吐き出した卵は……ウェイ・ゲートの中に消えていった。

495名無しさん:2019/04/30(火) 18:21:28 ID:???
「へえ……気絶した後の事は、本当になんにも覚えてないの?
あれから何年も過ぎて、貴方が一人前の時空刑事になった事も?
悪い人達をいっぱい捕まえて、たくさん恨みを買って、リョナ世界に堕とされた事も……その後の事も」

あの時と同じ悪魔の声が、サラの耳元で囁く。
「アージェント・グランス」…マリアさんが最期に言っていた、白銀の騎士に力を与える、悪魔の化身……
「……『アージェ』でいいわよ♥」
……そいつが、後ろから無遠慮に抱きついて来た。振りほどこうとするが、身体に上手く力が入らない。
そのまま為す術なく、ベッドに押し倒されてしまう。

「ちょっと待ってよ……何年も、ってどういう事……リョナ世界?……一体、何を言って……」
蝋燭の光に照らし出された自分の身体は、いつのまにか……おおよそ5年か6年分くらい、成長している。
身に覚えのない傷痕も、そこかしこに刻まれている……サラは少しずつ、己の置かれている状況の異様さに気付き始めていた。

(くちゅっ……つぷ………さわさわ)
「ん、ぅっ………!?……な、にを………は、ぅんっ……!!」
「記憶を失っていようが、私との契約が無かったことにならないわよ。
既に貴女は、私の力の一部……『蘇生』を何回か使っている……んっ…」
アージェはサラの耳を軽く啄んで甘噛みし、下着越しに秘所を指でなぞる。
たったそれだけの軽い愛撫で、サラの全身は火が付いたように火照り、全身からどっと汗が噴き出した。
アージェの吐息、舌、指、唇……全てがサラの快楽をダイレクトに刺激し、一直線に絶頂へと導いていく。
振りほどけない。逆らえない。快楽に、抗えない。まるで魂の一部を掌握されているかのように。

「ん、むっっ………〜〜〜〜っ!!……はぁっ…………はぁっ…………あ…」
「次に貴女が命を落としたら……又は、誰かを蘇生したいと願ったら……
貴女の魂は、永遠にあたしの物になる。それだけは覚えておいて」

「そん、なの……知らないっ……放して、よっ……マリアさんを、返して……この、悪魔……!!」
「それは出来ないわ……彼女はあたしの物。そして、もうすぐ貴女も、ね……うふふ♥」
理性を総動員してどうにかベッドから抜け出したサラは、壁にもたれかかりながら、アージェに呪詛の言葉を投げつける。
その下腹には、ピンク色に光る紋様が浮かび上がっていた。少し欠けた、あともう少しで完成しそうな、ハートを模った刻印が……

「あら、どこかにお出かけ?……やめたほうがいいわ。今出歩くのは危険よ」
「放っといて……あんたと二人っきりでいる方がよっぽど危ないわ」

アージェの忠告を無視して、いつも着ていたライダースーツ……ではなく、ブラウスとミニスカート、ジャケットを手早く羽織る。
見習い時代に着ていた服に似ていた……というのが選んだ理由であるが、用意したアージェの趣味なのか、やけに露出度が高い。
(動きやすいけど、ハイキックでも打ったらスカートの中が丸見えね……ま、『背に腹は代えられない』……か)
かつてマリアに教わった日本のコトワザをふと思い出し、サラはほんの少し表情を曇らせた。

「典型的なスラム街って感じね……それに、なんだか獣臭い……ここ、一体どこの国かしら」
部屋の扉を開けて外の景色を見ると、そこには見た事もない街並みが広がっている。
未だ火照りと疼きの収まらない体を引きずりながら、サラは夜の街を歩き出した。

なぜ自分がここにいるのか。これからどこに行って、何をすればいいのか。
どんな危険が潜み、何が待ち受けているのか……何一つわからないままに。

(あらら、行っちゃった……
今の貴女は変身デバイスがなくて、クレラッパーに変身できないって言うのに……
ま、記憶を失ってるから、自分が変身できる事もわからないかも知れないけど)

(それに、貴女は、この『トーメント王国』では指名手配されていて、
貴女の事を恨みに恨んでる奴らが、『処刑獣』にその身を変えて貴女を狙ってる……)

(中でも一番質の悪い「アイツ」も。……貴方を見つけたらきっと、目の色変えるでしょうね
貴女と『本契約』できるのも、そう遠い先の話じゃなさそう……楽しみだわ……ふふふふふ……♥)

496名無しさん:2019/05/01(水) 15:32:12 ID:???
「……ぐ……クソが……あの時見逃しておいて今、俺を殺すのか……?どこまでいっても人殺しのスピカさんよぉ……」

「………あなたは、牢屋にいたんじゃなかったの……?どうしてこんなところに……」

ミツルギで会った時、王に処罰の如何を問われたリザは、保留にしたつもりだった。
この男の狡猾な目が、自分と同じ目に見えたのだ。保身のために他人を陥れる、嘘をついている目に。
結局、この男をどうするかの答えは出ないままになっていたのだが……

「ククク……冥土の土産に教えてやる。俺は王に進言され、教授に改造されたのさ。あの時俺を見捨てたお前に、こうして復讐するためにな……!」

「……復讐……」

「その機会をくれたのは他でもないトーメント王……ククク、わかるか?俺たちアウィナイトを本気で守ろうとする奴なんかいない。お前が死に物狂いで作ってるあの保護区域も、お前が死にさえすれば、すべて吹き飛ぶのさ。ククク……」

「……………………………」

男はリザを絶望させようとしたが、リザの目の色はまったく変わらなかった。

「……王様がわたしを殺そうとしてるのは知ってる。アウィナイトを守る気がないことも知ってる……でも、あの人には絶対的な力がある。わたしはそれを利用しているだけなの。」

「……けっ、聖人ぶりやがって……集会を密告しただけで俺は巨万の富を手に入れた。まあ関係ねえが……お前の家族のことはよーく知ってるぜ。母ちゃんも姉ちゃんも綺麗だったよなあ?ククククク!」

「……!わたしたち家族のことを、知ってたの……?」

「へっ、ステラは俺らのマドンナだった。……ミゲルにはもったいねえ女だったんだよ。子どもを3人もホイホイ作りやがって……中出しが捗る理由はよくわかるがな。ケケケ!」

「…………………………」

男の話に強烈な嫌悪感を示し、リザは眉を潜めた。
要するに、男は嫉妬していたのだ。愛する女を奪われたという嫉妬……
金を手に入れるついでに、その嫉妬という憎しみを晴らしたかったのだ。

「ステラとミゲルの子どもなんてこの世にいらねえ……ステラは俺のもんだったんだ。生き残ったお前を殺すためにこの力を手に入れた……だが、上手くいかねえもんだな。」

「……お金と嫉妬……そんな下らない自己中心的な理由で、私たちのことを売ったんだね。」

ナイフを取り出し、刃先を男の顔に向ける。姿が魔物とはいえ、同じアウィナイトに刃を向けるのは初めてだった。

「お前も自己中で人殺してるくせに、人のこと言えんのか?……だが、お前が苦しみ喘ぐ姿はクッソエロ可愛くて最高だったぜ。殺せないのが本当に残念だがな!ケケケケケ!」

(……この人は許せない……絶対に許せるわけがない……!みんなのためにも絶対に殺すべき……それなのに……)

今まで何人も殺してきたリザの手が、プルプルと震える。

「アンタがやってるのは……矛先を向ける先すら間違えている、感情任せの哀れな復讐よっ!」

姉に言われた言葉が頭を巡る。
それを吹っ切るように、リザはナイフを持つ手を振り上げた。

497名無しさん:2019/05/01(水) 15:44:51 ID:???
「……というわけで、あっしはオカンのお腹の中、卵にいた頃の記憶があるんすよ!だから年は大体10代半ばなんす!決して5、6歳児ではないっす!」

「……セミの寿命は、土の中で暮らしてた分も含めると実は結構長い、みたいな感じね……参考にはならなかったけど、面白い話ではあったわ」

ジェシカはミシェルの研究室で、自らの生い立ちを話していた。

ジェニファーが卵を口から産む何年か前から、体内の卵……ジェシカは意識だけはあったのだ。
故に、親の悲願……サラを始めとする時空刑事という組織を壊滅させ、リョナ世界、現実世界問わず、暴虐非道の限りを尽くすという野望を、産まれた時から……否、孵化した時から知っていたのだ。

「まぁトーメントで好き勝手やってれば、オカンの願いは自動的に叶いそうっすからね。あっしはあっしの好きなようにさせてもらうっす」

「……やはり人外のメカニズムを駆使しても、不老不死は不可能……ある程度の延命措置が限界……ふんふん、結局は既存の技術の応用じゃダメってことね」

「あ、聞いてないっすね……ミシェルさん完全に周りの状況が入ってこないマッドサイエンティストモードっすね……じゃ、あっしはおいとまー」

ブツブツと呟きながら資料をペラペラと捲るミシェルを尻目に、ジェシカはミシェルの研究室を出ていった。最近ハマっている教授作神ゲーでもしに行こうとした時……

「おろ?王様じゃないっすか!久しぶりっすー!」

「おう、久しぶりだなぁジェシカ」

廊下でばったり、トーメント王とすれ違った。

「こっちはミシェルさんの部屋しかないっすけど、ミシェルさんに何か用っすか?今ミシェルさん、研究に夢中になってますけど」

「ククク、なに、ちょっと野暮用でな……それよりもジェシカ、お前スラム街にでも行ったらどうだ?きっといいことがあるぞ?」

「え、どういうことっすか?」

「時空刑事のサラちゃんが面白いことになっててな……お前浅からぬ因縁あっただろ?急がないと、処刑獣共に先を越されちまうぞ?」

「マジっすか!?それは困るっす!オカンの仇……ゆーて間接的っすけど……とにかく仇を取るのはあっしっすーー!」


バタバタと騒ぎながら、スラム街に向けて走っていくジェシカ。それを見て王様は、ちょっと和んだ様な表情をする。

「あいつはおバカで単純で、扱いやすくて助かるなー……どこぞの女科学者とは大違いだ」


そう言って王は、ミシェルの研究室へ向けて再び歩き出す。

「……ミシェルには、ミストちゃんのことでお仕置きしてやんなきゃなぁ……ケケケ!」

498>>496から:2019/05/01(水) 20:21:59 ID:???
「く……ぅううあああああ!!!」

「ぐげ……!」

リザは、迷いを振り切る為に叫びながら……男の首に、ナイフを滑り込ませた。

「……私には、貴方を裁く権利なんてない……けど貴方を生かしておくと……ヤコやお母さんも、危ない目に遭うかもしれない……だから……!これは、間違ってない……!」

「ぐ、ぶ……ククク、極悪非道の王下十輝星が……俺みたいな裏切り者一人殺すのに、言い訳が必要か……お前、相当歪んでやがるな?」

今まで罪もない人を大勢殺しておきながら、同族であるというだけで、目の前の最低人間を殺すことに戸惑ってしまう。
リザの歪み……同族意識や仲間意識は人一倍強く、他人にも優しい心の持ち主であるのに……最後に行き着くのはいつも、戦いと殺戮だった。それしか、選べなかった。

「そんなんじゃ、これから起こる戦争を生き残れねぇぞ……ククク、お前が惨めに死んで、地獄に墜ちるのを……楽しみに、待ってる……ぜ……」

最期までニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら……ミイラ男の首は、胴体から完全に切り離された。

「っ……!っはぁ、はぁ……っ!」

同族とは言え、あの男は危険だった。アウィナイトの為にも殺しておくべきだった。
けれど……たとえアウィナイトでも危険人物なら殺すということは……危険人物の極みとも言える十輝星の自分そのものを、否定していることと同じ……


「違う……!私は、私は……!みんなを、守る為に……」

『……自分が哀れだと思わないの?偶然にも助かった命で、罪もない人を殺しまくるなんて……あなたはもう、あたしたち家族が知ってるリザじゃない。』
『リザ、アンタがやっていることは……アウィナイトを虐げていた者と同じこと』

「違う……違う違う違う……!」

ブツブツと呟き、頭を抱え込むリザ。辛い時にいつも支えてくれた親友2人は、もういない。
サキはサキなりに励ましてくれたが……リザはサキのように、割り切って生きられない。


「……早く、戦争に、なって……!」

戦いだけがリザの癒し。戦っている時だけは、嫌なことを全て忘れられる。自分を悩ませる他国の友人や家族のことを、考えずにすむ。
戦争になれば、自分は……何も考えず、何にも悩まずに殺戮を繰り返す……王下十輝星『スピカ』になれる。



自分の歪みが……心のヒビが大きくなっているのを感じながら……リザは、幽鬼のようにフラフラと立ち上がり……サキとその家族のところに、フラフラと歩いて行った。

499名無しさん:2019/05/03(金) 17:38:10 ID:???
「ふぅ……やっぱり、不老不死っていうのは、一筋縄ではいかないわね……」

ジェシカがいなくなった後も一人黙々と研究を続けていたミシェルだが、ひと段落ついた所でため息を吐きながら赤い髪を搔き上げた。

「バカ姉は完全なクローンを……常に『自分自身』を生み出すことによる、実質的な不死の研究をしてたはずだけど……あのアホは本来の目的を忘れて、お人形遊びに夢中だし……やっぱり私がやるしかないわね」

スネグアに用意させたコーヒーメーカーでブラックコーヒーを飲みながら、ミシェルは壁に立てかけてある写真入れの中の、古いボロボロの写真を見る。

そこには、幼い頃のエミルとミシェルが写っており、エミルは笑顔を、ミシェルは気難しそうな表情を浮かべていた。
だが、二人に寄り添うように立っている両親の顔の部分は……不自然に破かれていた。

両親は科学者と哲学者のカップルで、世界の真理を研究していたのだが……ある日突然、蒸発した。
そして、癇癪を起こしたミシェルが写真の2人の顔の部分をビリビリに破いたのだ。

「……この世界の真理を解き明かすには、時間も命も、どれだけあっても足りない……まずは不老不死にならないと話にならない」

その辺にコーヒーカップを放り投げて、後始末はお掃除ロボに任せるミシェル。もうひと頑張り研究を続けようとした時……


「おーい、ミシェル、いるかー?俺俺ー、王様だよーん」

「ちっ……めんどくさいのが来たわね。パトロンだから無碍にもできないし……」

「おーい、聞こえてんぞ(笑)
まぁとにかく、ちょっと大事な話があるから開けてくれよ」


ドアの外から、なんだかんだ結構長いこと世話になってるトーメント王の声が聞こえてきた。
滅茶苦茶めんどくさそうにゆっくり立ち上がったミシェルは、また人体実験の被検体でも強請ってやろうと思いながら扉を開けた。


次の瞬間……!

500名無しさん:2019/05/05(日) 16:19:20 ID:0f67HdA.
「なっ!?」

扉を開けた瞬間、大量の触手がミシェルの眼前に広がった。
すぐに危険を察したミシェルは、遅い来る触手を最小限の動きで躱しながら後退し、懐から銃を取り出す。
その前にはトーメント王が、ニヤニヤと汚い笑みを浮かべていた。

「クックック……研究者タイプだから簡単に捕まえられると思いきや、意外とすばしっこいんだねえ。ミシェルちゃ〜ん。」

「……一体なんのつもりよ。欲求不満なのはいいけど、まさか私で解消しようっての?言っとくけど、手を出すなら容赦なくアンタでも殺すから。」

「おーこわ!顔は可愛いのにほんと物騒だねえ……でもねぇ、さすがにお仕置きせずにはいられないからねえ。」

「……お仕置き?何言ってんの?」

「……アウィナイトの改造手術。やったのはお前だろ?」

「……!」



かつて海で拾ったアウィナイトの少女の強化改造実験。目覚しい成果を記録したが被検体は脱走。その後の複製には失敗し、凍結した実験のことである。

「……なに?なんで今更その話が出てくるわけ?あのミストとかいうアウィナイトの行方ならさっぱり知らないわよ。実験の副作用でのたれ死んでても、全然おかしくないんだから。」

「それがなあ、ピンピンしてるんだよ。ミツルギの兵士になってトーメントを潰そうとしてやがる。お前のことも恨んでいたよ。弟の体をめちゃくちゃにしたってな。」

「へえ……生きてたんだ。」

「そ。というわけで……俺様になんの報告もせず面倒な実験をして余計な敵を増やしたミシェルちゃんには、オシオキをしないとなぁ……クククク!」

シュルシュルシュルシュル!
王が笑った途端、またも触手がミシェルの体目がけて襲いかかってきた!

「……ッ!シュメルツッ!」



大量に向かってくる触手のエネルギーをシュメルツで奪いつつ、動きが鈍くなったところを銃で撃ち抜くミシェル。
部屋が狭いのでジリ貧の状況だが、小さな体と運動神経を活かして触手をする。
研究者とは思えない軽々とした動きに、トーメント王も舌を巻いた。

「はっ!せぃっ!たあぁっ!」

「ミシェルちゃん、全然運動もできるんじゃないか!そこまでひょいひょい動けるなんて聞いてないぞ!」

「くっ……!黙れこの変態!死ね!」

横っ跳び宙返りをしながら、ミシェルは銃口を王に向け迷うことなく引き金を引く。
だがやはりと言うべきか、王の前に直ぐに触手が現れ銃弾の動きを止めた。

「くそっ……あっ!?」

「アッハハハハ!胸のおっきな黒リボンが触手に絡まってやんのー!白衣の上にそんなのつけてるからいけないんだよおバカミシェルちゃーん!」

「くっ!……きゃああぁっ!」

交わしたはずの触手が胸元の黒リボンに絡まり、すぐに上へと持ち上げられるミシェル。
そのまま触手はミシェルの体にしっかりと複数で絡みつき、腕を動かすことを封じた。

「んんんんんん!離せぇ!やめろ!ちょ、私にこんなことするなんて何考えてんのよ!!!もうあんたに協力なんかしてやらないわよ!?」

「手を出したのがあのアウィナイトなのがだめなんだなぁ……あいつらを目覚めさせると色々厄介……おっと、これはネタバレ厳禁だった。」

「何言って……あ゛っ!ちょ、ほんとに痛い!強く締めないでえっ!!」

「もーぴーぴーうるさいなー。めちゃ可愛いけど。というか……俺様の協力がなくなって困るのは、どちらかといえばミシェルちゃんだろ?クククク……」

「……くっ……!」

不老不死の研究のためには、人間のサンブルがどうしても必要になる。
トーメントへ研究成果を報告する代わりに、ミシェルの実験費用や必要な被検体は、ほぼすべてトーメント王が工面しているのだ。
共存関係にあるとはいえ、トーメント王の協力がなくなれば実験が続けられないのは、ミシェルの方だった。

「……じ、じゃあさ。ねえ取引しない?私はほんと痛いのもエロいのも勘弁なのよ。アンタが女の子虐めるの大好きなのは知ってる。だから、女奴隷がシュメルツでじわじわ苦しむ様を見せてあげる。す、すごいのよ?変な声あげて無様に失禁しながら、堕ちていくの。ね、ね?見たいでしょ?だから、この汚いのを外してぇ!」

最後は少女らしく甲高い声で赦しを乞うミシェル。ドSマッドサイエンティストらしいミシェルの取引相談に、王の答えは……

501名無しさん:2019/05/10(金) 02:42:10 ID:???
\ピコーン!/
「……ん?今、何でもするって言ったよね?」
何ごとかを思いついたのか。トーメント王は、不気味な笑みを浮かべてミシェルを触手から解放する。

「げほ、げほっ……いや、言ってない言ってない……私の代わりに、他の女をリョナってやるって言っただけよ」
(この、変態男……今、本気で私の事殺そうとしてなかった……?)
ミシェルは、全身粘液まみれで床にべちゃりと投げ出された。
げほげほと咳き込みながらも、触手の絞め痕が手足や首にくっきり残っているのを見て青ざめる。

「ヒッヒッヒ……まあいいや。ミシェルちゃんは確か、魔法少女系がめっちゃ大好物だったよな?
子供の頃はオ○ャ魔女とかに憧れちゃってたタイプ?」
「憧れてないわよ!つか私が子供の頃は既にプリ○ュア全盛だったっつーの!それもアラモードで卒業したわ!」

「(わりと最近じゃねーか……)わかったわかった。
……とにかく、魔法少女とは能力の相性が良かったよな?なので、それ系のやつと戦ってもらう。
勝った方は負けた方をお持ち帰りして好きにしていい、って事でいいか?」

「ええ、望むところよ。丁度私も実験材料が欲しかったしね……ふふふ」
お仕置きがうやむやになった上、体よく実験材料も手に入れられると、ミシェルは内心ほくそ笑んだ。

だが。

「クックック……そなたか?
わらわにお持ち帰りされて、好き放題されたいという物好きは」
……長い黒髪に透き通るような白い肌、血のように赤い唇。黒いローブに、腕ほどの長さの大きなキセル。
ミシェルの前に現れたのは、邪悪なる『黒衣の魔女』ノワールであった。

(ちょっとーー!!あんな見るからにヤバそうなガチレズが出てくるなんて、聞いてないわよ!!)
「現れたわね邪悪な魔女ノワール!
狂える科学のプリンセス『サイエンス★みしぇるん』……アナタのハートに、ダウンロード完了!」
(しかも何なのよ!!このアホなセリフとフリフリ衣装は!!つーか身体が勝手に動くし!)

「……ちょっと無理が出始めとるお年頃じゃな」
「うううううるさいわね!好きでやってんじゃないのよこんな事!!」
教授のダンボールVRがバージョンアップし、好きなセリフを喋らせる事が出来るようになったらしい。
御着替えだって自由自在、アラモードの1個手前、マジカルミラクルな感じの衣装で参戦だ!

「くっくっく……少々ボリュームが足りんが、久々の獲物じゃ。存分に嬲ってくれようぞ」
「ううっ……こ、こうなったらヤケだわ……やってやるわよ!」
ミシェルは果たして、この絶体絶命の窮地を逃れることは出来るのだろうか?

502名無しさん:2019/05/18(土) 07:57:46 ID:vqqrRHMQ
「せいっ!はっ!てやぁっ!」

「ふっ!……とっ!やあぁっ!」

ジーヴァリアの兵士訓練所で組手をしているのは、2人の少女。
1人はおなじみ、篠原唯。実に1ヶ月半近く登場がなかったが一応主人公である。
もう1人の少女は、くっころ卿ことエール。
剣を扱う騎士かつ格闘戦もお手の者な彼女は、唯の修行相手として連日稽古をつけていた。



「よし、今日はここまで。……さすが運命の戦士。飲み込みが早いね。」

「いえいえ!エールさんや円卓の騎士の皆さんが、稽古をつけてくれるおかかげですっ!」

「それにしてもすごいよ唯ちゃん〜!新しい技も覚えて、どんどん強くなってるんだもん〜!」

気が抜ける声で回復魔法をかけているのはミライ・セイクリッド。
騎士として修行中とはいえやはり剣の腕はからっきしな彼女は、結の修行に付き合っていた。

「てへへ……!みんなにそういってもらえると、嬉しいな〜」

「しかし……本当に運命の戦士しかトーメント王を倒せないのか?今度の戦いはトーメントを除く4カ国同盟になると聞く。さすがのトーメントでも今回ばかりはきついと思うが……」

「ううん、あの王様の余裕は何かあるはず……運命の戦士のわたしたちが強くならないと、きっと勝てないんだと思う。」

「そうだよね……でもわたしは、リザちゃんのことが気がかりだよぉ……」

「あ、そうか。ミライちゃんもリザちゃんと友達なんだよね……」

もちろんミライもトーメント王国自体は嫌いだが、命の恩人であるリザは別だ。
寡黙だが心優しく、窮地から何度も自分を助けてくれたリザの存在は、ミライにとっては幼なじみのジンと同じくらい大切だった。

「リザちゃんにはわたしも助けられたことがあるの……だから、できれば戦いたくないよね。」

「とはいえ彼女は王下十輝星。戦争となれば矢面に立って戦うことになるでしょう。あれほどの逸材は脅威でしかないな。」

「うん。まともに戦ったらわたしたちじゃ勝てないかもしれない……けど、リザちゃんにはリザちゃんの、私たちには私たちの戦いがあるから……もしリザちゃんが向かってくるなら……戦うしかないよ。」

声を震わせつつも、きっぱりと唯はそう言いきった。  
少し前までの彼女なら、こんな決意はできなかっただろう。
彼女を成長させたのは、この世界に来てからの戦いの日々と、仲間たちとの絆だ。

(本当は、お姉さんのことで苦しんでるリザちゃんのことも助けてあげたい。でも……王様と一緒に瑠奈たちやみんなを傷つけようとしてくるなら……戦うしかないよ……!)

503名無しさん:2019/05/18(土) 13:44:31 ID:???
「……『篠原唯』です!この国に滞在している期間中、
この聖騎士養成学校で一緒に武術や魔法を学ばせていただく事になりました!
短い間ですが、よろしくお願いします!」

……と本人が言っている通り、唯はシーヴァリアの聖騎士養成学校に留学生として通う事になった。

グレーのブレザーにチェックのスカート、赤いネクタイ。
胸元には盾を模ったエンブレム。制服っていいよね。

「「「おおおーー!!」」」
「めっちゃ可愛いじゃん!!ジン、お前の知り合いなんだろ!?」
「ああ、まあな……」
「いいよなー!つかお前、ミライちゃんもいるし、両手に花じゃん!世の中不公平だー!」
「い、いや。別にそんなんじゃねえって……」
「えへへー、よろしく唯ちゃん!制服お揃いだねー!」
「いや、制服なんだからそりゃそうでしょ」
「ミライってば、相変わらずだねえ…」

もちろん、ジンやミライともクラスメートである。
ミライが通ってたのは白騎士養成学校だった気がするけど、なんやかんやで共学になったのだ!

「はいはい、お前ら席に着けー。ちなみに私が担任のノーチェ・カスターニャだ。
ダルいからさっさと授業はじめんぞー。
転校生はそこの、『何でこんなど真ん中の場所が空いてたんだ?』って感じに空いてる席に着けー」

そして担任教師は円卓の騎士の一席、ぐーたら三姉妹の一人。
実は異世界人であり、本名は名栗間 胡桃(なぐりま くるみ)…
…と、属性は色々持ってるのにどーにもパッとしなかったノーチェ・カスターニャが、ここで満を持して登場である。
「うっさいな、いいんだよ! つーかこの世界で目立ったら間違いなくやべー事になるじゃねーか」
「先生ー、早く授業始めてください」

「ふん……気に喰わねえな」
「転校生のくせに、チヤホヤされやがって……」
「どうやらミライの知り合いみたいだし、いっちょ痛い目見せてやろうじゃん!」
三姉妹と言えば、こういうのもいる。
全身はちきれんばかりに脂肪を纏った彼女たちは、人呼んで「余分三姉妹」。
事あるごとにミライを目の敵にしている、見ての通りの三下である。
確か名前はデブ1、デブ2、デブ3…だったと思うが、今回はファット、ソルト、シュガーというコードネームで呼ぶ事にしよう。

「それじゃ、剣術の授業のときに……ヒソヒソヒソ」
「……例の物も用意して……コソコソコソ」
脂肪を突き合わせ、何やらよからぬ相談をしているデブ3人。
唯の学園生活に、早くも波乱の気配が立ち込めていた。

504名無しさん:2019/05/27(月) 02:10:11 ID:m0V928bc
「ククク……どうした?もう限界か?魔法少女ソイソースみしぇるんとやら。」

「ぐっ……!ま、まだまだっ……!」

王の計略にはめられノワールと対決しているミシェルは、早くも窮地に立たされていた。
それもそのはず、扱いに慣れているクラシオンやシュメルツはなぜかこの空間では使えず、なんと初期魔法しか使えないという無理ゲー状態だからである。
自分で手を下さなかったとはいえ、王は方法を選ばずなんとしてもミシェルを痛ぶる腹積もりであった。



「見掛け倒しじゃのう……まだルミナスの魔法少女共の方が楽しめるレベルじゃぞ。この程度ではな……」

「あ、あたしだってこんな場所で好きであんたと戦ってるわけじゃないわよ……!ファイアーボール!」

「……ふん、稚拙な。」

「……なっ!?」

ノワールは指を鳴らして空間をねじ曲げ、ファイアーボールの軌道をミシェルへと変えた。

「欠伸が出るぞ……これならまだルミナスの奴らの方がマシじゃ。」

ギュウウウンッ!

「は、速っ……!ぐう!うあああああああああああぁっ!!」

「ククク……いい声で鳴くではないか。スピードだけではなく炎の勢いも増やしてやったのは、わらわのサービスじゃ……」

ノワールによって強化された炎がミシェルを焼き尽くす。
魔法少女マスティマレイヴンと呼ばれた大魔術師に、ミシェルの扱う初期魔法魔法程度では歯が立たない。
一応本来の力が出せるのならばミシェルも上級魔法くらいはいくつか使えるのだが、この空間ではどうやっても使用することは叶わない。



「あ、あっ熱っうっ!ぐ、ぁ!ウォーターレインッ!」

シュウウウウウ……!

咄嗟に水魔法で消化したが、痛々しい焼け跡はミシェルの全身に残っている。
着ていた服も所々焼けて、美少女ゲーによくあるダメージを食らい服が破けたような姿になってしまった。

「ククク……焼き加減はまだレアといったところか……わらわはウェルダンが好きじゃ。もっと火力を高めてやろう……!」

「はぁ、はぁっ……!やめろ……っ!ぐ、クラシオンッ……!なんで……出ないのッ……!」

ミシェルが何度試しても、癒しのオーブは現れない。
軽い怪我や実験体の修復と日常的にいつも使っていた力が出せないことに、ミシェルは苛立ちが止まらなかった。

「さっきから何を言うておる?クラシアンだのシューベルトだの……不思議なやつじゃのう。ソイソースみしぇるん。」

「……あんた、耳鼻科行った方がいいわよ……!ぐぅ……!」

「ククク……軽口を叩く余裕がまだあるか。それにわらわも大方検討はついておる。お主……本来なら使える異能力があるんじゃろう?」

ノワールほどの魔術師になれば、魔術師が使おうとしたマナの流れで大体の魔法の質が分かる。
先程からミシェルが使おうとしているマナの流れは、魔法を知り尽くしたノワールでも知らないマナレシピだった。

(つまり、わらわの知らない魔法……あるいは、魔法ではない異能力……あの金髪小娘のテレポートもそうじゃが、この赤髪小娘も何か持っているようじゃな……)

「……クラシオンとシュメルツが使えれば、あんたなんか……!」

「ほう……それがあればわらわを倒せるとまで言うか……非常に興味深い……是非とも見てみたいものじゃなぁ……」

何か物欲しそうな目でミシェルを見つめながら、じゅるり……とノワールは舌なめずりをした。

「……な、なによ……なんなのよっ。気持ち悪い……!」

「ククク……お主には制限がかかっておるが、わらわにはそれがない。その異能力が扱うマナさえ分かれば、再現ができる可能性があってな……」

「……あ、あんたがあたしの能力を使おうっての?……そんなの無理よ。クラシオンとシュメルツの魔力はあたしの魔力がないと起動しないんだから……論理的に無理。」

「ククククク……!つまり、お主の魔力があればいいんじゃろう……?お主の魔力はどんな味じゃろうなぁ……じゅるりっ。」

「え……あっ!?」

瞬間移動したノワールはミシェルの顎をグイッと掴み、そのまま自分の顔へとミシェルの顔を運び……

「ほう……近くで見ると中々可愛い顔じゃなぁ。唇の形もいい。さっそく楽しませてもらおう……あんむっ!」

「む゛っ!?!?!?ん゛!!!むぐう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ!!」

混乱するミシェルの口へ、自らの唇をぎゅむうっと押し付けた。

505名無しさん:2019/05/27(月) 02:16:02 ID:m0V928bc
「んむうううううっ!!!ぐ……ぷはっ!!この変態クソ女!やめなさ、んあ゛!む ぐぅ……!」

(そんなに抵抗するな……まずは快楽を注ぎ込んで骨抜きにしてやろう……)

ミシェルの頭の中にノワールの声が響く。念話というらしいがそんなことよりも望まないキスにミシェルはパニックを起こしていた。

「んんんんっ!!!ぷはっ!このっ……!」

もはや魔法少女の設定も関係なく、ミシェルは握り拳でノワールの眉間を狙う。
だが……

「バインドアイ……!」

「ぐ……!く、クソっ……!」

「大人しくしないなら動けなくするしかなかろう。動かないようお主の目を見ながらじっくり楽しませてもらうぞ……ん、あむっ……!」

「むぐっ……!く、くそがあ……!」



視線を合わせられている間動けなくなる魔法をかけられ、ミシェルは抵抗の術を失った。
できることといえば、ノワールの口から流れてくる快楽に顔を顰めるだけ。

「んんっ、あぁんむっ……ちゅぶ、ぶちゅぅ……!んれろれろれろれろれる……」

「ぐ……んんんんっ!うあぁ……!ん、はぁっ……」

(ククク……だんだん気持ちよくなってきたじゃろう?力を入れるな。わらわに身を委ねるがいい……)

(……だ、まれ……こんなの、絶対許さない……!お前は……いつかあたしの実験材料にして……やる……!)

(ククク……なかなか意思の強いやつじゃ。ルミナスの腰抜け共にも見習わせたいものじゃのう。……では褒美として強めのやつをやろうではないか……!はぁんむ!)

「んっ……?ん゛ん゛ん゛!?んぅうううううああっ、あんっ……!」



ミシェルの口から熱い息混じりに嬌声が漏れる。
その反応を好機と見たノワールは、一気に快楽魔力を流し込む。

(ククク……まだ準備運動じゃからな。果てないように気をつけておけ。ソイソースみしぇるん。)

(ぐ……なに……言って……!んんっ!は、はぁ……っ……)

(ククククッ……反抗する余裕もなくなってきたか?お主……だんだんとメスの顔になってきておるぞ?)

(んんんっ……!くぅ……!はぁ……はあぁっ……だ……まれ…………)

ノワールの責めに屈しまいと抵抗の意志を続けるミシェルだが、反駁の言葉にもとろけるような甘い声が混じってしまう。
自分で聞いても脳を溶かされるようなあまあまボイスに、ノワールの容赦ない快楽責めが合わさって、ミシェルの理性を破壊しようとする。

(くそ……理性を……保たないと……!堕ちたら……終わりっ……!)



(大したものじゃ……体に身を任せてしまえば楽になれるものを、まだ抵抗しているとはな……もっと強くしてやるか。)

(はああぁっ……!こ、これ以上は……これ以上は……むり……!)

ノワールに抱かれたミシェルの体は、ビクビクと小刻みに震えじっとりと汗が滲んでいる。

(ふむ……これか。)

ノワールがミシェルの足に付着している汗ではない液体を掬いとると、触れられたくなかったとばかりにビクンと引っ込められた。

(あ、あぁっ……!)

(何じゃ?わかりやすい反応を確かめるだけじゃぞ。……では、いただくか。)

ノワールは1度唇から口を離し、ミシェルの足から掬いとった液体をこれ見よがしに自分の舌へと乗せてみせた。

(れろっ……んん、美味じゃなぁ……やはり若い女の液はたまらん。もっと垂れ流してわらわを楽しませろ……)

(…………ああああああぁ……!!)

恥ずかしさと憎らしさと認めたくない気持ちよさのせめぎ合いで、ミシェルは絶望の声を上げた。

506名無しさん:2019/05/27(月) 23:50:41 ID:???
「ふむふむ、これは中々珍味な魔力じゃな……」

舐め取ったミシェルの体液を舌の上で転がしながら、ノワールは魔力の味を評価する。

「邪術師や闇属性の濃厚な味のようでありながら、水や風のような風味も感じる……うむ、誠に美味じゃ。
これからは特殊能力者の魔力を踊り食いするのも悪くないやもしれぬ」

「は、ぁ……はぁ、んっ……!この……!人の、魔力に……偉そうに講釈垂れてんじゃ、ないわよ……!」

内股をムズムズと擦り合わせながらも、必死に反抗の言葉を吐き出すミシェル。恥ずかしさと気持ち良さでぐちゃぐちゃになりかけながらも、まだその心は折れていない。

「ククク、いいぞ、やはりそのくらい生意気でなくては面白くない……どれ、そろそろ本番といくかのう」

「ほ、本番……?ま、まさかこれ以上ドエロイことするつもりじゃ……!?」

「それも悪くはないが……言ったであろう?お主の異能を再現できる、とな」

そう言いながらノワールは、妖艶に自らの指をしゃぶって、残っていたミシェルの体液を全て舐め取る。

「ん、む……これでお主の魔力は我が内に……ククク、自らの技で、絶望の淵に墜ちるがいい……!」


ゆっくりとミシェルに向けて手をかざすノワール。


「は、ハッタリよ……魔力を吸収したくらいで、私のクラシオンとシュメルツを使えるわけが……」

口ではノワールの行動を否定するが、嫌な予感が拭えないミシェル。
ミシェルの脳裏には、今まで自分がシュメルツを撃って滅茶苦茶にリョナってきた美少女たちの姿。

もし自分もあんな風に、変な声あげて無様に失禁しながら、堕ちていくとしたら……

「や、やめ……!」

「ゆくぞ……シュメルツァー!!」

シュメルツよ、というツッコミを言う間もなく……ノワールの掌から、黒い球体が現れた。

507名無しさん:2019/05/29(水) 00:30:46 ID:???
「ま、まさか……本当に、シュメルツを出すなんて……!」
ノワールの掌の上に生成されたのは、紛れもなくミシェルの能力、黒の宝珠「シュメルツ」。
ミシェルが使っていたものと同じ……いや。心なしか、より禍々しさを増しているようにも見える。

「なるほど、特殊な力場で、人間の神経や魔力の流れを自在に操るのか……面白い」
吟味するように、宝珠を指先で弄んでいたノワールだが……にやり、と邪悪な笑みを浮かべ、ミシェルの目の前にシュメルツを掲げた。

「どれ……ひとつお主自身にも、体験させてやろう。黒のオーブ『シュメルツ』の力……『苦痛』の味をな!」
「や、やめっ………」
オーブから黒い電撃がバチバチと弾け、その火花がほんの少し、ミシェルの肌に触れた。その瞬間……

「ひぎゅああああああああああんっっ!!?」
ミシェルは全身を反りかえらせ、獣のような絶叫を上げた。
まるで全身の神経を焼き切られたかのような異常な感覚に、悲鳴と身体の痙攣を押さえる事が出来ない。

「クックック……火花のかけらがほんの少し触れただけじゃというのに。
自分自身が苦痛を受ける事に、まるで慣れていないようじゃな……
お主の半分の歳のひよっこ魔法少女でも、もう少しこらえ性があるのではないか?」
オーブの火花が収まっても起き上がれず、ぐったりと横たわるミシェル。

「あっ………が、………っ……!」
挑発じみた言葉を浴びせられるが、言い返す余裕もない。
過去、今まで何人もの「実験台」にシュメルツの能力を使ってきたミシェルだが、自分自身で体験するのは、これが初めてだ。
あまりの苦痛に、意識を失う事もできない。……これほどまでとは、想像していなかった。

「ククク……寝ている暇は無いぞ。『実験』はこれからが本番じゃ。……何、心配はいらん。例え全身の神経が焼き切られたとしても……」
ノワールが右手を上にかざすと、掌の上に、白いオーブが生成される。

「この『クラシアン』で、修理してやるからの。安心して壊れてよいぞ……くっくっく」

「や、やめっ……あぐっ!!っぎあ"あ"あ"ぁぁあ"あ"あ"あ"あッッ!!……いっ……いやっ……いやああああああああああ!!」
……ミシェルは、予感がした。
このまま自分は、この魔女に弄ばれ続けて……心身ともにボロボロに壊され、二度とオーブの力を使えなくなるのだ、と。

508名無しさん:2019/06/01(土) 02:40:45 ID:???
「やっ……もう、やめ……ひぐんっ!!あああああぁっ!!」
黒い稲妻に何度も何度も貫かれ、ミシェルは絶叫しながら地面をのたうち回る。
白とピンクのフリフリな魔法少女の衣装は、泥と汗、涙鼻水汗涎腋汗その他諸々でぐちょぐちょに穢されていった。

「クックック……良い悶えっぷりじゃの。
生かさず殺さず、傷一つすら付けず、極上の苦痛を効率よく与える事が出来る……
良い。この能力、実に良いぞ、ソイソースみしぇるん」

「ん、おっ……ぐ……」
(……アンタに褒められたって、全然嬉しくないわよ!)
……そう言い返したいミシェルだが、既に言葉を発する気力もない。

「クックック……だいぶ参っているようじゃな。どれ、癒してしんぜようぞ……この『クラシアン』の力でな」
「はふっ…!?…ひ、ふぁぁあっ………や、それ、らめぇっ……!!」
『クラシアンじゃなくてクラシオンだっつーの!』と突っ込む暇もなく。
ボロボロにされたミシェルの身体に、今度は濃密すぎる癒しの力が注ぎ込まれた。
人の身には到底耐えられない、圧倒的な密度の快楽と共に。
「ひっ、あんんんんんっ……!!」
(じゅわっ!!ぷしっ!!)
シュメルツと、クラシオン。その苦痛と快楽の永久コンボに耐えられた者は……ミシェルの知る限り、存在しない。

「ふむ……盛大に潮を吹いたのう。癒しの力を過剰に注ぎ込むと、ヒトの体はこうも脆くなるのか。
まっ白だったパンツが、小便と愛液でぐちょぐちょのドロドロじゃぞ……ほれほれ」
「あっ、や、そこはぁっ……だ、え……また、イっちゃ……ゃぅうううううんんっ!!」
軽く指でつつかれだけで、ミシェルは股間をヒクヒクと蠢かせ、甘く媚びたような声を漏らしてしまう。
嗜虐心を呷られたノワールが、股間を強めにしごくと、ミシェルはそれだけで再び絶頂に追いやられ、降りてこられなくなってしまった。

「クックック……この白き珠の力も、中々気に入ったぞ……そなたには何か、礼をせねばならんなぁ?」
「はぁ、……ひ、うぅぅっ……」
(な、なんでも、いいからぁっ……さっさと、はなしてよぉっ……!)

ぐったりと横たわるミシェルを見下ろしながら、ノワールは何やら怪しげな呪文を詠唱し始める。


「はぁっ……はぁっ……あ、んっ………う、ぅぁあ……」
ミシェルの周囲に怪しげな魔法陣が描き出され、周囲に何か怪しげな気配が漂い始めた。
このままではろくでもない事になるのは間違いない。
なんとか逃げ出したいが、白と黒の宝珠の力で三半規管をガタガタに狂わされたミシェルは、
地面がぐるぐると回っているように感じて立ち上がる事ができなかった。

(ぞわり……ぬちゅっ)
「ひゃうぅっ!?……な、なにこれっ……!」
魔法陣の中から這い出してきたのは、ヒルのような魔法生物。
身体はやけに薄っぺらく、背中側はつるりとした光沢を持ち、ぬめぬめとした粘液に覆われている。
そして腹側には、薄いピンク色の繊毛がびっしりと生えている。

(ぺちょんっ)
「ひんっ!?」
大きさはミシェルの掌よりやや大きい程度。
そんな不気味な生物が何匹も群がり、ミシェルの胸や股間、お臍や背中を覆っていった。そして……

「な、なに……私の、服が……!?」
なんと、蛭たちは色や形を変え、ミシェルが着ていた服そっくりに擬態した。
ヒラヒラやフリルまで、器用に再現している。だが近くでよく見ると、表面がヌメヌメしているのが判別できた。

「そいつらは、魔界の蛭『ウェアリーチ』……狂王がいつも好んで使っておるナメクジの亜種じゃ。
標的の肌に張り付き、服などに姿を変えて……」
(ぬちゅっ………じゅるるるうっ……)
「ひゃんっ!?な、なにこれっ……胸、が、ぁっ……!!……」
「……そうやって、全身から魔力を吸い上げる。……一種の寄生生物じゃな。クックック……」

(ちゅるるるるるっ……)
「じょ、冗談じゃ、な……ぁん、ひっ……!!」

すぐに「服」を脱ごうとしたミシェル。
だが、ウェアリーチは敏感にその気配を察知し……

(……こりりっ!!)
「んひゅあああああああっ!?」
そうはさせまいとばかりに、ミシェルの両乳首にかぶりついた……!

509名無しさん:2019/06/01(土) 09:53:11 ID:???
(ぬるぬるぬるっ……ぎちちちっ……がりりりっ!!)
「あっ……♥……あ、♥♥♥…だ、めっ……!!」
(何これ、無理っ……絶対無理……!!……身体ぜんぶ、繊毛触手で全身ぬるぬるにされてっ……
乳首コリコリに硬くなってるのにっ……そんな、強く…両方、一度になんてっ……♥♥♥)

(ぬちっ……ぷちゅっ!!……ぎりぎりぎりっ!!)
「きゃおおおぉおぉぉぉおおおおおっ!?」
(♥♥♥あ、っ♥♥♥♥ クリ、剥かれ、……♥♥♥♥♥♥♥♥)

「クックック……無理に引き剥がそうとするからそうなる。大人しく身を委ねるが良い」
力づくで脱ごうとして、開けたミシェルの胸が、再び触手服に覆われていく。

「ふ、ぁあああっ…♥♥♥…ふにゃ、けるにゃぁ……こぇ、とりなひゃい、よ……っ♥♥」
ノワールの魔力吸引、シュメルツとクラシオンの神経攻撃に加え、
触手服の全身愛撫と両乳首とクリトリスへのお仕置き三点責めで、既にミシェルは足腰が立たたなくなっていた。

「……はぅんっ!?」
にも関わらず、触手服がひとりでに動き出し、操り人形のように無理矢理立たされてしまう。

「そう邪険にする事はないぞ。そやつらは見た目によらず知能が高い。
より効率的に魔力を吸収するために、そなたの身体の良い所、弱い所、感じる所を学習していく。
今までも、何人かの魔法少女どもにその服を着せてやったが……
丸一日も経てば皆触手服の虜になって、脱ぎたがる者など一人もおらなんだわ」

「なんれすって……♥♥……そんにゃ、の……は、ぁんっ……♥♥♥」
服から伸びるリボン状の触腕が、骨抜きになったミシェルの身体を支える。
四肢をすっぽり覆うロンググローブとサイハイブーツが、宿主に代わって全身のバランスを保つ。

「あ♥♥♥ひんっ♥♥♥…そこ、じゅぽじゅぽ、らめぇっ……♥♥♥」
もちろん余計な動きをすれば、即座に全身に『制裁』が加えられる。
自らの意思では指一本動かせない、脱出不能の生体牢獄。
今のミシェルは、立っているというより……触手服によって磔にされている、と言うべきかもしれない。

「来るべき大戦に向けて、ただ今こやつらの召喚トラップを王都の至る所に設置中じゃ。
憎き魔法少女どもの蕩け面が目に浮かぶようじゃわい……くっくっく」

510名無しさん:2019/06/13(木) 08:34:34 ID:???
「さて、王からは生意気な女科学者にお灸を据えろと言われているが……まぁ、戻ってこれないくらいグチョグチョにしても構わんじゃろ」

「お゛っ♥ ひいぃぃっ♥」


「その辺にしてやってくれないか……これでミシェルも、少しは懲りただろうし……ね」

「く、ぅあ……す、ねぐ、あ……」


触手服に囚われ、凌辱の限りを尽くされていたミシェル。そこに現れたのは、フォーマルハウトのスネグアであった。

「お主は確か、ルミナスの時の……わらわの楽しみの邪魔をするか?
ヌチョヌチョ粘液の服を無理矢理脱ごうとするも叶わず、却って触手の怒りに触れてしまい、より一層凌辱され、戦いが終わった後もいつ動き出すか分からぬ服に怯えて暮らしていく姿……お主かて興味があろう?」

「受けがミシェルだと、別にそこまで見たくはないかな……それに私としても、ミシェルには有益な研究を続けて貰わないと困る」

スネグアがそう言いながらリベリオンシャッターを地面に振るうと、退魔の鞭の音に怯えたウェアリーチは、擬態を止めて元の姿に戻ると、どこかへ逃げていった。

「埋め合わせはするさ……私の子猫ちゃんたちのうち、成長してきた子を差し上げよう」

「ふむ、お主はそこまで友情に厚いようには見えなんだが……さてはお主、ツンデレ風に見せかけて、本当にみしぇるんの研究目当てで助けるつもりじゃな?」

「その辺りはご想像にお任せするよ」

ノワールは鼻を鳴らすと、クルリと背を向けた。

「まぁよい、みしぇるんリョナの峠は越えた……女刑事視点や学園編も控える今、いつまでも拘っているわけにはいかんからな」

そう言いながら指を鳴らすと、ノワールの姿は闇の中に溶け消えていった。

「やれやれ、世話の焼ける……これに懲りたら、勝手な研究は控えるんだよ、ミシェル」

「う、るしゃい……わた、しは、すきに、けんきゅ……」

触手服が離れたことでほぼ裸になっているミシェルを担いだスネグアは、そのまま闘技場を去っていった。

(まだ君に壊れてもらっては困る、ミシェル……少なくとも戦争が終わるまでは、ナルビアとのパイプは手元に残しておきたいからね……ククク)

触手服のウェアリーチの養殖、敵国とパイプを持つ人間の確保……
寄り道が多いように見えて、戦争の足跡は、少しずつ、確実に近寄ってきていた。

511名無しさん:2019/06/15(土) 00:21:52 ID:bdghJCd2
「クックック……では全員そろったところで、円卓会議を始めようか。約2名いないが……な。」

白い空間に設置された11の椅子のうち、1番高い位置に座るトーメント王がそう切り出した。
始まろうとしているのは十輝星を交えた円卓会議。不在の2名というのはアイナとロゼッタである。
前者は殉職。後者は幼児退行により会議は難しいと判断され、自室待機中。

ちなみに、教授がロゼッタの幼児退行を治すため体を調べたいと言っているが、セクハラしかしなさそうなので却下されている。

(うぅ、なんか少し緊張するな……確かこの部屋では星位で呼びあわないといけないんだよな。……この会議は初めてとはいえ、もう僕の座席は下から2番目だし、先輩らしいところをスネグアさんに見せないと……)

座席位置の下から2番目のフースーヤは少し緊張していた。十輝星として任務もこなしてきたが、こうして全員集合するような場所は初めてだからだ。

「フフ……こうして十輝星の先輩方と正式な会議をするのは初めてだ。お手柔らかに頼むよ。」

先程、ミシェルをノワールから救ったばかりのスネグアが殊勝なセリフを吐いた。
彼女の座席位置は最低位置。
入った順に座席の高さが決まるシステムなので、1番新入りのスネグアは皆に見下ろされる位置だ。


「フォーマルハウト、緊張しなくていいぞ!俺は王様以外を見下ろしてるほぼ部長ポジだけど、いつもあんま参加しないしな!」

「自信満々に言わないでくれベテルギウス……いつもプロキオンやリゲルに任せてぐうぐう寝てるのはそろそろ情けないよ。」

「ふっ、俺様がマジ本気で考えると最強の作戦が一瞬で出来上がっちまうからな……戦いの時以外くらいは、お前らの出番を作ってやるよ。ありがたく思いな」

「はぁ?IQが3しかない奴が何言ってんのよ。黙るか早く出ていきなさい。」

ヨハンより一つ下の高さにいるサキが、呆れた目でアイベルトを一瞥した。

「あ、あぁ……!リゲル、今の顔ちょー興奮する!もっと罵倒してほちい……!なぁなぁ、いっつもあんたは何の役にも立たないわね!この変態木偶の坊!……って言ってくれない?」

「はぁ?……マジキモ。」

「あぁあ……!それ、すげえいいっ……!その腐った生ゴミを見る目最高かよ!俺やっぱ下の席に座ってサキに見下ろされたいわ!スネグア席代わってくれ!!!」

「はいはい、話が進まないからベテルギウスはいつも通り静かにしてような?あと興奮したからって本名呼びやめてな?ここは真面目な場なんだからね?」

荒ぶるアイベルトを放って話を始めるためにトーメント王が手を叩き、モニターに資料画面を出した。

512名無しさん:2019/06/15(土) 00:22:59 ID:bdghJCd2
「最近クソ暑い中、俺様がパワ○でわざわざ資料を作ってやったぞ。……まあわかってると思うが議題は5カ国戦争だ。ルミナス、ナルビア、シーヴァリア、ミツルギの4カ国……トーメントに喧嘩を売る無謀な猿どもをけちょんけちょんにしてやるために、どう国力を増強するか……それをみんなでじっくりねっとり手取り足取り腰取りで話し合おうじゃないか。」

「……いいですか?」

「おうプロキオン。俺様のボケに突っ込むでもなくさっそく提案か。素晴らしいな。さっそく話してくれ。」

シアナの提案は、トーメント王国主力部隊の魔物軍の戦力増強だった。
人間を魔物化させる教授の技術……最近は教授ガチャなどと呼ばれ兵士たちの間で運ゲーと言われているが、過去に類を見ない巨大な戦争が迫ってきた以上、ふざけてはいられない。

「なるほど。強力な魔物兵で主力部隊を固め、魔法少女も聖騎士もくノ一も女科学者も全員なぎ倒す。まあそれが安定策ではあるかな。」

「はい。腕の立つ兵士や傭兵もわが国にはたくさんいますが、4カ国揃って小細工をされると機能しない可能性があります。多少コストをかけてでも、力押しが効く魔物兵を増やすのが定石かと。」

「ふむ……だが、魔物兵たちは戦場での扱いに少々手を焼く。好戦的な性格になるやつが多いし、可愛い魔法少女なんか見るとみんな目の色を変えてしまう。戦闘を放棄して遊びだすような連中だからね……」

ヨハンが指摘したとおり、トーメント魔物軍は多種多様なリョナラーだらけであり、その統制を取ることは極めて難しい。
全員やれ魔法少女を脱がしたいだのくノ一を犯したいだの聖騎士を拷問したいだの女科学者にエッチな実験をしたいだの、その欲望は非常に多岐にわたる。
そして彼らはいついかなる時も、その欲望を抑えることはない。
戦いをほっぽり出して美少女の取り合いが起こってしまっては、4カ国の兵力の数に押し負けてしまう可能性もあるだろう。

「確かに僕も、トーメント王国はこれまでも力任せの戦争が主だったと思います。そしてそれが間違っていたとも思っていません。ただ、アルタイルの指摘通り、今回ばかりはある程度の統制が必要です。兵士の士気向上に向け、何か手を打つ必要はあるでしょう。」

「ふーむ。兵士の士気向上か……うちの暴れん坊どもへのアメはどんなのがいいか。全員案を出してもらおうか。」

「……ふ。ならば私からひとつ、提案させて頂きたいことが。」

「ん?なんだ、フォーメルハウト」

王に案を促され、それぞれに話が振られていく。
スネグアは、今まで暗部だった王下十輝星を公開することで士気を上げることを提案した。
フースーヤは、武勲を上げたものに空位となっているベガの星位を当てることを提案した。

513名無しさん:2019/06/15(土) 00:25:02 ID:bdghJCd2
「ふむ……2つともなかなかいい案なんじゃないか?なあプロキオン。」

「……はい。他に思いつく案が皆の中でないのなら、まずはこの2つに絞って話を進めたいですね。」

「……ん?シリウス、なにかあるのかい?」

ヨハンの声に皆がアトラへと目を向ける。いつもは開始早々寝ているアトラが、今は真面目な顔をして虚空を見つめていた。

「……シリウス?どうした?」

「……ん?あ、いや、ちょっと考え事してて……話は進めていいぜ。ちゃんと考えてるからな!」

「……そうか。珍しいこともあるもんだ。……王様はどう思いますか?」

「ふーむ……いっそその2つ、同時にやっちゃうのもありかもな!スピカ、お前はどう思う?」

「……………………………………」

「……おーい、スピカ?まさか今日はお前が寝てるのか?」

「………え?」

2度呼ばれたリザは、まるで鳩が豆鉄砲を食らったようにきょとんとした表情を浮かべていた。

「……スピカ。今のフォーマルハウトとデネブの話、君はどう思うかと王様が聞いているんだよ。」

「あ……!……えぇっ、と……い、いいと思います。」

ヨハンに促され、慌てた様子でリザはそう言った。
頼りない様子を見たヨハンはもう1つ踏み込むことにする。

「……どこがだい?君はベテルギウスと違って置物じゃないんだ。肯定するなら、その理由もしっかり思考開示してほしいよ。」

「あ……ご、ごめんなさい……ぼうっとしてました……」

「……もう、最初からそう言ってくれないか。君らしくもない……フォーマルハウト、デネブ、済まないがもう一度、説明を頼むよ。」

「おーい!俺様もぼーっとしてたから見逃したけど、さっきさりげなく俺様をディスっただろヨハ……アルタイル!」


明らかに話を聞いていなかったリザの様子に、謎の緊張感が高まる。
その後も会議は続いたが結局話はまとまらず、必要であれば再度会議をするということで判断は王に委ねられ会議は終わった。

「はーおわったおわった!シアナ、フースーヤ、外に飯食いにいこうぜー!」

「うぅ、すごい緊張したぁ……でも、みんなが僕の意見について話し合ってくれて、なんかすごい嬉しかったなぁ……」

「フースーヤ、緊張しすぎてたぞwwめっちゃ噛み噛みで可愛かったわ!」

「……それにしても……リザのやつ、やばかったよな。今日明らかに話を聞いてなかったぞ。」

「え?あぁ、リザね……やばかったな。マジで本当にやばかった……」

「リザさん、ずっと心ここに在らずって感じでした。……心なしか、アイナさんの席を見ていたような気もします……」

フースーヤの言葉に、シアナの心が傷んだ。
リザの様子がおかしいのはそのこともあるのはわかっているが、会議という場では表に出さないで欲しいというのがシアナの本音だ。
いないことを思い出して、悲しい気持ちになるだけだから。

「……そういえばアトラ、発言がないにしても今日は珍しく真面目に話聞いてたよな。一体どうしたんだ?いつも寝てるのに。」

「え?そりゃ真剣にもなるだろ……ノースリーブミニスカートだぞ?そりゃ真剣にもなるって……」

「……は?」

「リザのやつ、サキみたいに足を組んでくれたら見えたはずなのに……!もう今日ずっとリザの生足しか見てなかったわ。暑いからってエロい格好しすぎなんだよ……あぁあの太ももに挟まれたい……二の腕ぷにぷにしたい……」

「……アトラ。お前はブレないやつだな。」

「いやむしろな!?見あげればあんな格好してる女の子がいるのに真面目に話してるお前とかフースーヤの方がすごいぜ。」

「……はぁ。まぁ割とお前の言うことは正しいのかもな……」

結局はいつもこんなオチか、とシアナがため息をついたとき、巡回の兵士がやってきた。

「シアナ様。諜報チームにより運命の戦士たちの動向が掴めました。作戦会議にご出席お願い致します。」

「……あぁ。わかった。」

「なんだよ一緒に飯行こうと思ったのに!仕方ねえなぁー俺とフースーヤで行くか……」

「ほかの皆さんも忙しそうですしね。シアナさん、作戦会議頑張ってください!」

「……あぁ。ありがとう。」

(運命の戦士たち……唯ちゃん。君がどこまで僕達に抗うことが出来るのか、楽しみだね……)

514名無しさん:2019/06/16(日) 11:10:49 ID:???
「はー……あのガチレズ魔女のせいで、ひどい目に遭ったわ。
あのクソ王も、最悪なんてもんじゃないわ……私が一体何したっつーのよ」

スネグアの助けにより、何とかノワールの触手服責めから解放されたミシェル。
一人自室に戻った彼女は、ぐちゃぐちゃボロボロになったコスプレ魔法少女服をゴミ箱に叩き込むと、
穢れた身体を清めるべくシャワールームへと向かう。


「それに、スネグアのやつ……別れ際の態度がなんか変だったわね……」
ノワールへの怒り、ノワールを差し向けた王への不信も当然あるが……引っかかる事がもう一つあった。


『いやぁ、君もついに『あっち側』になってしまったか……友人として同情を禁じ得ないよ、ククク……』


「スネグアのやつ……あの時、なーんか変な態度だったわね。一体どういう……ん、くぅっ……!?」

シャワーを浴び始めた、その時……ミシェルは、己の身体に起こっていた異変に気付く。

「……な、何これ……私の胸、前より大きくなって……それ、に……あ、んっ!?……す、ごく……感じやすく、なってる……♥♥♥……」

見慣れた筈の自分のバストが、明かに1〜2サイズ大きくなっている。
しかも、ぬるま湯のシャワーを浴びただけで、ゾクゾクと被虐的な快楽が背筋を駆け抜け、甘い声を漏らしてしまう。

改めて思い返すと、胸に憑りついていた触手服が、たまにチクチクと小さな針のようなものを刺していたような気もする。

(あの時、薬か何か、注射されてた……!?……いや、もしかしたらそれよりタチの悪い物かも……
身体そのものを造り替えられたんだとしたら、クラシオンでも治るかどうか……)

「あ、れ……?クラシオン……どうして、出てこないのよっ……!?」
ノワールの結界からは解放されたにも関わらず、白の宝珠の特殊能力が発動できない。
……単なる魔力切れだろうか。それとも……

(もしかして、これ………思った以上にヤバい状態?だとしたら………ええい。もうなりふり構ってられないわ!)
トーメント王国に留まっている事自体が危険と判断したミシェル。
人付き合いが少ない彼女が、こういう時に連絡できる人物は少ない。

「ええ………ええ。そういう事になるわね、不本意だけど……
タダでとは言わないわ。今までの私の研究成果のシェア、あとは、トーメント王都と城内のセキュリティ情報と……
え?何?」

「も〜〜。そんな条件つけなくたって、ミーちゃんならお姉ちゃんいつでも大歓迎よ♥
あ、でも今着てるお客さんが、トーメントの情報なら貰っときたいって!
うん、そう。アヤネちゃんとかアヤメちゃんとかいう、運命の何とかの……
それで、いつこっちに来るの?今日?今からでも全然オッケーよ!」

ミシェル本人の意見を無視してとんとん拍子に話が進んでいくのも、今の状況ではありがたかった。

戦争が本格的に始まれば、トーメント王国への出入りも不可能。
スネグアやジェシカも今となっては信用できない。国外脱出するなら、二人が居ない今しかない。

「はぁ。ついこないだはエミル姉が処刑だの亡命するだの言ってたのに、今度は私の方が亡命する事になるなんてね……」
ブラウスに着替えて白衣を羽織り、最低限の荷物をまとめて自室を後にするミシェル。

己の身を守りたい一心による彼女のこの行動は、後の大戦にいかなる影響を与える事になるのだろうか……

515名無しさん:2019/06/16(日) 19:17:46 ID:???
「うーい、今日は剣術の実技な。適当にチャンバラしとけ。篠原は対剣士の訓練な」

「「はい!」」

その頃、唯はシーヴァリアの聖騎士養成学校で鍛錬を続けていた。
明るく利発な唯は既にクラスの人気者になっており、ミライやジンを始めとするクラスメイト達と充実した学生生活を送っていたが……そんな唯をよく思わないデブ共もいた。

「待ちに待った実技の日……シュガー、あたしらの模擬刀は例のモノにすり替えといた?」

「うん、見た目は普通の模擬刀と変わらないから、絶対バレないはずよ」

「ソルト、組み分け表の細工は済んだ?」

「もちろん、これで篠原やミライの奴をボコボコのボコにしてやれるわ」

「よーし……作戦開始だ!」


そんなこんなでデブ共の策略により……

「本当は3対3のチームで模擬戦するんだが、人数の関係でこの班は2対3になった……まぁ適当にやりあってくれ」

「よろしくね、ミライちゃん!」

「同じ班になれて嬉しいな、唯ちゃん!」

「「「ヒッヒッヒ……よろしく」」」


唯ミライの2人と、余分三姉妹が剣術の実技で組むことになった。


「唯ちゃんは拳法家だから、しゅしゅーん!って動きに期待してるね!」

「任せて!ミライちゃんもサポートお願いね!」

「おい!あたしらが挨拶してんだろうが!」
「挨拶くらい返しなさいよ!」
「いない者として扱ってんじゃねぇ!」

「わ、ご、ごめんね。悪気はなかったんだけど……」
「えーと、ファットさん、ソルトさん、シュガーさんだよね?今日はよろしくね!」

「けけ、まぁそう気負うなよ」
「模擬刀はシーヴァリアの技術部が作成した、当たっても少し痛いで済む練習用の剣なんだし……」
「気楽に行こうぜ、気楽に……な」


ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、規定の位置に立つ余分三姉妹。


「よーし……では、模擬戦開始!」

教官であるノーチェの掛け声と同時に……余分三姉妹はその巨体による圧を遺憾なく発揮し、唯とミライに飛びかかってきた!

516名無しさん:2019/06/17(月) 02:34:05 ID:???
「はぁ、はぁっ……はぁっ……!」

「……お嬢様。2連をするタイミングは相手の体制を崩してから。カウンターへの意識も足りません。常に冷静であることを忘れないように……」

「わ、わかりましたわ……体制を崩してから攻勢に、カウンターへの意識を持つ……常に冷静……ぶつぶつ……」

「……では、少し休憩しましょうか。お茶を入れて参りますので、少々お待ちを。」

「あっ、え、ええ……よろしく。アルフレッド。」

運命の戦士の1人、アリサはミツルギに残り、かつての宿敵アルフレッドに剣の修行を受けている。
初めの頃こそギクシャクしていたが、もともと仲が良かったこととお互いの隠していたことを知り合ったことで、二人の関係は少しづつだが以前のものに戻りつつあった。



「……お嬢様。私は……お嬢様がここまで芯の強い方だとは考えておりませんでした。」

「え?な、なんですの急に……」

「……私が復讐を果たしたあの晩、アリサお嬢様が運命の戦士などという特別な存在だとは思っておりませんでした。剣の腕も未熟。精神も取り繕っているだけで本質は自己否定的。取り立ててなんの価値もない、普通の少女だと。……憎むべきソフィアアングレームの所有物だと。」

「……随分サラッと酷いことを言ってくれますのね。まぁ、その方がこちらとしてもよいのだけれど。」

アルフレッドはかつてのアリサの想い人であった。
彼が復讐を果たした日は、アリサが秘めた思いを告白をしようとしていた日でもある。
紆余曲折あって、そんな感情はさすがになくなってしまったが……

「ですがお嬢様は、あの王に囚われの身となっても脱出し、アングレーム剣術を自力で身につけ、今や1人前の立派な剣士になられた。……ここまで伸びしろがあるお方であったのかと、心から感心しております。」

「……えーっと?それは褒めていると解釈してよろしくって?」

アルフレッドの言葉を額面通りに受け取ってよいものかと、アリサは念の為確認を取った。
その瞬間、今まで目を合わせなかった彼が、アリサの目をじっと見つめる。



「……もちろんですよ。お嬢様。」

「……!」

アルフレッドが見せた久々の笑顔に、アリサの鼓動がどくん、どくんと音も鼓動も早まっていく。
その笑顔が昔好きだった。
いつも傍で微笑むその笑顔が大好きで、毎日その顔が見られるだけで幸せだった。
もう一度その笑顔を見る準備が全く出来ていなかったアリサは、顔にこそ出さないものの激しく動揺してしまう。



「色々ありましたが、こうして同じ目標へ進めることは頼もしいです。やはり私一人では、あの王を倒すことは叶わないようですから……」

「……そ、そうです、わね……!わたくしだけではありませんわ。唯、瑠奈、彩芽、鏡花……皆の力を出し切って、あの王を倒さなければ……」

「……ん?お嬢様……?どうしてお顔が赤く……?」

「ふぇ!?あ、赤くなんてなっていませんわ!絶対になっておりませんわ!ととと、突然変なことを言わないでくださいまし!早く修行の続きをやりますわよ!」

「……は、はぁ……」

自分の感情に戸惑うアリサ。
かつての恋心を思い出しただけなのか、それとも彼のことを今なお深く知りたいと思っているのか。

(……アルフレッド……)

今のアリサには、まだわからない。

517名無しさん:2019/06/22(土) 11:46:40 ID:???
「オラオラオラァッ!!」「ぶっ潰してやんよぉぉ!!」
「よろしくお願いします…って、いきなりっ!?」
試合開始が告げられ、一礼した唯が顔を上げた時には、既にファットの剣が頭上めがけて振り下ろされようとしていた。

(ガキィィィンッ!!)
「くっ……すごいパワー…!」
間一髪受け止めたが、剣を持つ手がビリビリと痺れる。

「ふーん…あたしの(違法強化された)剣を受け止めるなんて、なかなかやるじゃない。でも……」
「ぐひひっ!!まだ終わりじゃないぜっ!」

動きの止まった唯目掛けて、シュガーが横から突進突きを繰り出す!

「唯ちゃん危ないっ!!『プロテクトシールド』!!」
(バチバチッ……!!)
ミライが素早く間に入って、防御魔法でシュガーの突きを防ぐ。
あのミライが、素早く?……そう。彼女もまた、日々成長しているのだ。

「ありがとうミライちゃん!」
(うーん。剣を使うのってお爺ちゃんの稽古の時以来だから、うまくいかないや。
さすが聖騎士の国、みんなすごく強い…!)

「どういたしまして!……よーし、ここから反撃だよ!」
(模擬剣を防いだだけなのに、もうシールド壊れそう!……慌てて作ったからからかな……私もまだまだだな)

余分三姉妹の武器が違法改造強化されている事に、二人はまだ気が付いていない。
自分達がそれに負けないくらい成長している事にも。

「けっ!!弱虫女と生意気転校生が、調子乗ってんじゃねえ!!」
「あたしら二人はオトリ……本命は」
「こっちだあああ!!喰らいやがれぇぇ!」
二人の背後から、今度はソルトが突っ込んでくる!

「唯ちゃん!」
「うんっ……伏せて、ミライちゃん!」

回避できない二人が取った行動は……反撃だった。

「グレーターストレングス!」
「地槍千年大蛇・薙!!」
「「「っぐあああああああ!?」」」
唯がソルトの向う脛、いわゆる弁慶の泣き所を思い切り薙ぎ払う。
ソルトは勢い余って派手に転び、唯達を跳び越えてファットとシュガーに突っ込んだ。

「う、ぐぐぐ……てんめええええ!!ぜってえブチリョナる!!」
「ごめんなさいソルトちゃんシュガーちゃんファットちゃん!当てるつもりは無かったの!!」
「筋力強化掛けてる時点で説得力ゼロなんだよオラァァァン!!」
「え、あたし!?……ご、ごめん!それはつい、勢いで……!」
「「「ふざけんなぁぁぁああああ!!」」」

唯とミライは余分三姉妹の攻撃を紙一重で躱し、あるいは防御する。模擬戦なので、二人の反撃は寸止め。
それに対して、三姉妹は改造模擬武器で殺意満々に猛攻を仕掛けるのだが……

「くっそ……あたしらの違法改造魔剣『当たると超衝撃でふっとぶ!ソニックブームブラスター』が…!」
「『かすっただけで電撃ビリビリ!サンダーボルトスタナー』が……」
「『触れた瞬間破壊振動!アースクエイククラッシャー』が……」

「「「かすりもしねえええ!!」」」

(ふん……あの三人も何か企んでたっぽいけど、やっぱこうなったか。
ま、あの程度あしらえないようじゃ、トーメントを倒すどころじゃねーしな。
しゃーねぇ。だるいけど、あたしが相手するしかねーか…………いやでも、やっぱめんどい……つーか眠い)

そんな5人の戦いを眺めつつあくびをかみ殺すのは、
『ぐーたら三姉妹』の一角にして円卓の騎士『鉄拳卿』の名を関する女拳士……ノーチェ・カスターニャ。
登場以来ピンで目立った出番のない彼女の鉄拳が、いよいよ振るわれる事になるのだろうか……?

518名無しさん:2019/06/22(土) 17:26:12 ID:???
「うぐぐ……ミライのアホと生意気な転校生をリョナってやろうと思ったのに!」
「くっそぉ……あの転校生、ミライ並にトロそうな見た目のくせに、あんな強いなんて聞いてねーぞ!」
「他の書き手が『速さが足りないぜー』とか言いつつ投下してくれるのを期待するしかないのか……!」

「はー。めんどくせーけど、仕方ねえか……おい、メタ発言はその位にしとけ」
「誰がメタボだこらぁ!!って、げ。殴り魔……!?」
「あ?誰が殴り魔だって?……まあいいや。ちょっとその剣借りるぞ」
ノーチェは余分三姉妹から改造剣を奪い取ると、唯の前に立つ。

「そこまでだ、篠原唯。こいつらじゃ荷が重いみたいだから、こっからはあたしが相手してやんよ」
「え……先生が、ですか」
「ええー……こっちが人数足りないんだから、むしろ加勢してくれても……」
「わかりました」
「え!?ちょっと、唯ちゃん!?」

素人目には3対2で一方的に攻撃されていたようにも見えただろう。
だがノーチェから見れば、唯が巧みに戦いの場を支配し、余分三姉妹を手玉に取っていたことは明らかだった。

「ま、ハンデつけてやるよ……あたしは拳は使わず、剣で戦ってやる。そっちは素手になっていいぜ」
「え……普通逆なんじゃ…」
「いいんですか?じゃあ、それでお願いします」
「ええええ!?唯ちゃーーん!?」

素人考えならもちろん剣を使った方が有利だろう。だがノーチェは、唯の戦い方を一目しただけで、剣術より素手の格闘の方が得意である事を見抜いていたのだ。

「よーし。話も付いたし、めんどくせーからさっさとやるか……余ったお前らはあと、適当にやっとけ」
「はい、よろしくお願いします!……ミライちゃんも、頑張って!」
「え。それって……」
「へへへ……そういうことか……ミライちゃーん。センセーの邪魔になっちゃ悪いから、あたしらは別の所で模擬戦しようぜー」
「けっけっけ……そうだな。人気のない校舎裏なんていいなぁ……」
「ひひひ……おら、ドンくさ弱虫のミライちゃーん、こっち来いよ」
「ひぐっ!?」

ミライはファットに首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられてしまう。

「ぐ……せせせせ、先生〜!これはちょっと、いくらなんでも……」
「あーもう、めんどくせーな……おい、ミライ。お前も聖騎士になってリリスを守りたいんなら、そんな奴らくらい一人でなんとかしろ」
「え……」
「……あと今やってんの模擬戦だから、魔法使うの禁止な」
「そ、それはちょっと、ぐえ!」
「はいはーい、こっちに来ようね」
「ノーチェ先生様の許可も出た事だし、魔法封じの首輪とか使っちゃおうぜ」
……余分三姉妹はミライをどこかに連れ去ってしまった。


「ま、あっちはたぶん大丈夫だろ。アイツ、あたしとも戦ったことあるんだぜ。……しかもあん時ゃ、あたしらの根負けだった」
「え、そうなんですか……じゃ、私も……負けないように、頑張ります!」

そんなわけで突如始まった、唯vsノーチェの一戦。
果たして鉄拳卿ノーチェ(武器持ち)の実力は?
そして、いずこかへと連れ去られてしまったミライは、このまま余分三姉妹に一方的にリョナられてしまうのか……

519名無しさん:2019/06/22(土) 22:13:08 ID:6T8UDTSo
唯がシーヴァリアでピンチ(?)を迎え、アリサもアルフレッドと厳しい修行を行っている中、運命の戦士である彩芽は……

「この□ボ子ってVtuber可愛いなぁ……衣装は色々あるけど、メガネにパーカーにヘッドホン装備の時はちょっとボクに似てるかも……実はボクって厳密には髪型定まってないし」

科学王国ナルビアの客室で、高性能マッサージチェアに座りながら、スマホで動画サイトを見ていた。

「ナルビアはすごいなぁ……お掃除ロボが部屋の掃除してくれるし、ちょっと顔を動かすだけで壁からストローが出てきて飲み物飲めるし……ボクもう、トイレとお風呂以外でマッサージチェアから動けないよ」

珍しく自分からやる気を出してナルビア行きを表明した彩芽だが、久しぶりに引きこもりっぷりを発揮していた。

「でもいいの彩芽ちゃん?一応は修行の為にナルビアに来たって言ってたよね?」

その近くでは、女科学者のエミルが椅子に座ってネットフリックスを見ていた。

「ナルビアの技術に囲まれて生活して、インスピレーションを刺激するのも立派な修行だよ……ふぁーあ、なんか眠くなってきちゃった……二度寝しようかな」

(うーん、総帥からはあまり貴重な発明は見せないように言われてるし、これで満足してるなら、それもいいのかな……?)

運命の戦士である彩芽に、ナルビアの技術を教える付き添い人としての任務を与えられたエミル。

シーヴァリアへの義理は果たしつつ、なるべく情報を与えすぎないように努める、ストレスの多い仕事になると思っていたが……別にそんなことはなかった。

「難しい話はリリスさんに任せて、ボクはサボ……インスピレーションを刺激することに専念するよ」

「うーん、それじゃあ私は、この映画だけ見終わったらミーちゃんのお出迎えの準備しようかな」

マイペースな発明家たちは、どこまでもまったりしていた。

520>>518から:2019/06/30(日) 13:32:29 ID:???
(最初から、全開で行かなきゃ……先手必勝!!)
試合開始と同時に、唯は素早い踏み込みでノーチェとの間合いを詰める。
シーヴァリア最強と言われる、円卓の騎士の一人。遠慮や手加減など出来る相手ではない。

対するノーチェは……。

「ん?…ばっさりカットされねーのか。さすが主人公……でも肝心の攻撃はまあ、普通だな」
何やらよくわからない事を呟きながら、手にした剣を無造作に振るう。

「!?……キャアアアアアアアッッ!!」
(…ドゴォォンッ!!)
ノーチェの剣をまともに喰らい、唯は武道場の端まで吹き飛ばされる。

「おー。けっこう飛んだな。さすが『衝撃ソニックなんとか』
……つかこんなん、一発でバレるだろ。あのデブ達アホなのか?」
「う、ぐっ……(今の攻撃……ぜんぜん読めなかった…!)」
なんとか立ち上がった唯に、ゆっくりと歩み寄って来るノーチェ。

(構えはなし。視線も自由。隙だらけに見えるのに……全然隙がない…!)
「遠くに飛びすぎるとめんどくせーから」
相手の技量の高さを感じ取った唯は、闇雲に攻撃するのを避けて自分の得意とする合気道の構えを取る。

(だったら、相手が攻撃に転じる一瞬を狙って、カウンターを……)
「壁に飛ばすか」
「えっ」
……だが、無駄だった。

(ズドッ!!……ドガァァッ!!)
「っ………ぎゃう!!」
カウンター狙いで相手の攻撃を見ようとしたはずなのに、死角から攻撃が飛んできた。
まともな防御も出来ず、初撃と同等の強さで吹き飛ばされ……今度は手近な壁に叩きつけられてしまう。

「……これで2回死んだな。もういいだろ」
「はぁっ……はぁっ……まだ、です……!」

フラフラになりながらも、唯は再び立ち上がり、構えを取る。
どうにかして相手の攻撃を見極めようと、反撃の糸口を掴もうと。
だが………

「めんどくせ」
(ドゴン!!……ズドンッ!!………ベキッ!!)
「あうっぐ!!………んぐあ!!………えぶっ…!!」

唯がこれまで鍛え上げた技も力も、全く通用しなかった。

並外れた瞬発力や反射神経により、てきとーに武器を振るっているだけのノーチェに、
為す術もなく、何度も何度も叩きのめされていく。

「げほっ………うぐ、おえ………っ……ま、だ……まだっ……!!」
ボロボロになり、胃液を戻しかけながら、それでも立ち上がる唯に……

「………あっそ。じゃあ……あたしの負けでいいや。そろそろ授業終わるし」
……ノーチェは気だるげに息を吐くと、そっけなく背を向けた。

521名無しさん:2019/06/30(日) 15:12:17 ID:???
「まっ、て……待ってください!勝負は、まだ……!」

相手は円卓の騎士の一角。唯が負けたとしても、それは何も恥ずべきことではないし、むしろ当たり前のことだ。
けれど、トーメント王国の打倒を目指している唯からすれば……こんな所で躓いている時間など、どこにもなかった。

「もう一度……もう一回だけ、組手してください……!」

「はー、ダルい……私の負けでいいって言ってんじゃん……さっさと次の授業の授業でもしてろ」

「でも……!」

尚も食い下がる唯を、ノーチェは背を向けたままダルそうに片手を上げて制する。

「お前のその根気は買う……けどな、一回負けた奴に無策で何度も挑むのは、ガバナンスぜ」

「……えっと、ナンセンス、ってことですか?」

「なんで負けたか、明日までに考えてこい。そしたら何かが見えてくるはずだ」

そう言いながらノーチェは、片付けを生徒たちに丸投げして出て行った。


「ノーチェさん……負けた理由なんて、私が、弱いって、だけじゃ……」

重い表情で、ノーチェが言った言葉の意味を考える唯。
それを遠巻きに眺めていた他の生徒たちは……



「ねぇ……篠原さんはなんか真面目に考えてるっぽいけど、ノーチェ先生は単に本田K佑の真似したかっただけじゃ……」

「いやいや、流石にそれは……きっと先生には何か考えがあるんだよ」

「こういう時にツッコミ係のキリコさんがいたらネタかどうか分かりやすいのに……」

522名無しさん:2019/07/01(月) 01:59:12 ID:fMA4s7oM
「ご報告いたします。篠原唯はシーヴァリア、月瀬瑠奈と市松鏡花はルミナス、古垣彩芽はナルビア、山形亜理紗はミツルギにて所在の確認が取れました。」

「なるほどな……大方、戦争に備えて各々修行中ってとこだろう。今のあの子たちにできることなんて、それくらいしかなさそうだ。」

「シアナ様、いかがいたしますか?脅威として確保してしまえば、大戦において懸念事項が1つ消えるかと愚考いたしますが……」

「いや……泳がせておけ。王様もそれを望んでいる。運命の戦士がどれほどこの戦いに抵抗できるのか……それを図るいい機会だとな。」

兵士の報告を聞いたシアナは表情を変えずにそう言った。
シアナ自身も、ここで唯たちを捕まえるのは本意ではないし、運命の戦士である彼女たちをそう簡単に捕まえられるとは思っていない。
お気に入りの唯や、自分とアトラを捨て身で助けた鏡花……
彼女たちの存在に興味は尽きないし、それを試す機会としてこの戦争は丁度いいのだ。



「物資の確保は問題ないか?王都防衛のための魔力供給に使用するマナストーン、兵士たちの武器、戦場用食糧……いくら魔物兵が優秀とはいえ、インフラを破壊されるわけにはいかないからな。」

「ご安心を。マナストーンも武器も重要軍事拠点にはすでに搬入済みです。食糧は、教授がついに完成させたクッキングスライム……望んだ料理に変態し、形状、栄養素、食感、匂い、そして味をもコピー可能なスーパーフードを、大量生産ラインに乗せるところです。」

「あぁ……あまり期待していなかったが、運用できることになったのか。大量生産に成功すれば、それだけで食糧問題は解決だな。」

「我が軍の魔物兵たちは、食糧と敵軍の女兵士さえいれば、理論上無限に戦えますからね。正直武器よりも、食糧の生産の方が重要で……」

「それがわかっているなら、生産拠点の防衛は厳重に頼む。国民へのストレス緩和として、軍に回す食糧コストは最小限に抑えたい。この情報が他国に漏れ、大量生産に失敗することは許されない。……頼むぞ。」

「は、承知いたしました。……では、戦闘の拠点についてですが……」



大戦についての会議もまとまりシアナが部屋を出ると、ドアの側にリザが立っていた。

「えっ、リザ?……会議が終わるのを待ってたのか?」

「……うん。シアナ……2人で話がしたい。今からちょっと時間もらってもいい?」

「え、お前が僕に……?別にいいけど……」

突然の女子の呼び出しに面食らいつつ、アトラに見つかったらマジで面倒だな、と思いつつ、シアナは了承した。

523名無しさん:2019/07/01(月) 02:03:51 ID:fMA4s7oM
「……他の人に話聞かれたくないから、私の部屋でもいい?」

「えええぇ!?い、いいけど……一体なんなんだよ……!」

まさか、まさか告白ではないだろうと思いつつもドキドキが止まらないシアナだが、どちらにしろアトラに見つかったら本当に面倒くさい事由である。
より一層シアナは周囲への警戒を強めた。

(……はぁ、僕にもこんな俗物的な感情があったんだな。これが男の性ってやつか……)

部屋のドアを開けるリザを見ながら、シアナはため息をついた。



「……それで、なんだよ。……アイナのことか?」

「……流石だねシアナ。……エミリアから聞いたんだ。ドロシーが言ってたこと。」

事象を書き換えることができる神器を使えばアイナを蘇らせることができる。エミリアはアイナを蘇らせるために、今夜王へ直談判しに行くという。

「王様に直接言ったところで九分九厘無理な話だ。王下十輝星は死んだら次はない……それを承知で僕たちはこの立場にいるんだからね。」

「私も無理だとは思う……でも今夜のエミリアの直談判には一緒に行くつもり。気まぐれな王様なら……私のことを好きなだけ痛めつけてもいいって条件を出せば、うまくいくかもしれない。」

「おまッ……!馬鹿、絶対にやめろよそんなこと。王様は決して純粋に優しいわけじゃないんだ。運が悪ければ死ぬぞ?それに……一緒にいるエミリアも巻き込むかもしれないのに。」

「エミリアには言わないよ。その話をするのは……私が1人のときにするつもりだから。」

「はぁ……お前さ、本当にやめろって……」

リザの策は王がリョナラーであることをわかっているからこそのものなので、本当に効果がないとは言いきれない。
だがいくら仲間のためとはいえ、同じ仲間が痛めつけられるのはナンセンスだとシアナは思う。

「……シアナ。神器を王様から奪うことなんて無理だよ。使い方もわからない私たちが扱える代物じゃないし、もしバレたら容赦無く殺される……王様に使わせてもらう以外、道はないんだよ。」

「はぁ……お前はいつも確実的、現実的な思考回路で物事を考えるよな。どうすれば確実にターゲットの息の根を止められるか……フン、暗殺者なんて血生臭いことをずっとやってると、自然とそういう考え方になるんだろうな。」

「………………………………」

バカにしたような口調でシアナはそう言ったが、リザは表情を変えるどころか、少し目を伏せて儚げな表情を見せた。

「……シアナ。私、間違ってるの……?」

「チッ……サキがお前を毛嫌いする理由がようやくわかった気がするよ。」

「……え?」

「そもそも僕にこんなこと話した理由はなんだ?自分が王様にボコられてでも神器を使えるよう取り計らうから、僕に余計なことは何もするなって言いたいのか?それとも自分が無茶をしようとしてるのを力づくでも止めてほしいのか?」

「……もちろん前者に決まってるよ。アトラにもシアナにもエミリアにも、王様に歯向かって欲しくない……その役目は私だけでいい。」

その言葉を聞いた瞬間、シアナは目の前の机を思い切り蹴り飛ばしてリザへと詰め寄った。

524名無しさん:2019/07/01(月) 02:07:17 ID:fMA4s7oM
ドガッ!!!
「きゃああぁっ!」

「お前ェ……!アイナが死んだのを憂いてるのは自分だけだと思ってんのか!!僕たちが結局口だけでなにもしないと判断して、自分だけでアイナを生き返らせようとしてんのかッ!?」

「ちょ、何するの……!あぁっ!!」

相手が女だということも忘れ、シアナはリザの肩を掴み、壁に強く叩きつける。
わけがわからないと言った様子のリザは、まるで宇宙人を見るかのような目でシアナを見ていた。

「なんだよその顔ッ……!そうやって全く悪意がないのが腹が立って仕方ないんだよッ……さっきの質問、後者の方がまだマシさ……止めてくれって言ってほしいなら、僕のことを仲間だと思ってるってことだからな……」

「何を言ってるの、シアナ……?私は今も仲間だと思ってるよ?シアナのこ」
「嘘つけよ!!!だったらさっきみたいなこと言ってくるわけないんだよッ!!お前は他人のことを考えてるようで、全く考えてない勘違い自己犠牲野郎なんだよッ!!!」

「えっ、え?わけわからない、何言ってッ……!あうッ!!」

パチィンッ!と部屋中にビンタの音が響く。
シアナの感情に任せて放ったビンタが、リザの左頬に炸裂していたのだった。



「はーっ……!はーっ……!」

「………………………………」

肩で息をするシアナに対し、リザははたかれた衝撃で右を向いたまま微動だにしていない。
碧眼は少し濁り、表情に影を落としていた。

「……お前だけじゃない……!アイナは僕にとっても大切な存在なんだッ……!チャンスがあるならたとえ王様に歯向かってでも掴んでみせる……!僕はそういう覚悟なんだッ……」

「…………そう…………そうなんだ…………」

呟くようにそう言いつつ、シアナがアイナのことをどれだけ思っているのか……
そのことを図り違えていたことをリザは認識した。
だがその上で、確認しなければならないことがある。

「……じゃあ……王様からどうやって神器を奪うの?一歩間違えば世界の事象が変わる神器をどうやって安全に使うの?そもそもアイナが生き返った時点で、王様だけは神器が使われたことに気付くんじゃないの?あの人は……この世界の全てを管理してるんだから。」

「クソ……!どこまでいっても理屈ばっかりだなお前は。叩いても口が減らないとはびっくりだよ。」

「……何も考えてないって素直に言いなよ。アイナを生き返らせる具体的な手段は今のところ特にないって、正直に言いなよ。シアナ。」

「は……?いい加減にしろよお前……!前はそんな奴じゃなかっただろ……!」

殊勝な態度に出れば手を出したことを謝ろうと思っていたシアナだが、リザは挑発するような目と言葉でシアナに相対していた。

525名無しさん:2019/07/01(月) 02:08:20 ID:fMA4s7oM
「……勝手に昔の私の方が良かったみたいに言わないでよ。私は今も昔も変わってない。」

「いいや変わったさ。昔はもっと仲間思いで他人を信じることもできてた。ミツルギで何があったかは知らないが……今のお前は他人のことを考える余裕がなくなってる。自分のことしか考えられてないぞ。」

「そんなわけない、何言ってるの……!自分のことしか考えてないなら、アイナを助けたいなんて言うわけないじゃない……!アウィナイトのみんなを助けるために人殺しなんかするわけ……ないじゃないっ……!」

リザの目に怒りが溜まり始めたのをシアナは察した。
どうやら自分のしていることを否定されるのは、彼女にとって耐えられないらしい。

だがここを抉らないと、彼女と本気で話はできない。

「あのな……それだって誰かにお願いされたことか?アウィナイトのみんなをお前一人で助けてくれって、誰かにお願いされたのか?……そうじゃないよな?お前一人で勝手にやってることだよな。」

「……回りくどい……!何が言いたいの……!」

「お前がやってることは、結局誰かに望まれたことじゃなく……自分がやりたいからやってるだけなんだよ。それをお前が勝手に他人が望んでいると勘違いしているだけだ。今回のアイナのことだってそうさ……違うか?」

「……ッ!」

シアナに問われ、リザは答えに窮してしまう。
図星だった。
自分のような存在を増やしたくない、虐げられ続けるアウィナイトを守りたい。そう思ってやってきたことだが、誰に強制されたわけでもない。
自分のポリシーと使命感のみでやっていることだ。



(……無理……認めたくない……!それを認めたら私は……!)

それを認めたら自分は、姉の言う通り、独りよがりな殺し屋になってしまう。
それだけは認めたくなかった。




「……どうでもいいけど……叩いたことは謝ってよ。それだけしたらもう出て行って。シアナとはこれ以上話したくない。」

「論点変えるなよ……図星なんだろ?で自分でもわかってるんだろ?今の自分がまともじゃないってことぐらい、さ。」

「……2回同じこと言わせるの?もうやめて。早く謝って出て行って。しばらくシアナの顔は見たくない。はぁ……なんでシアナなんかに相談したんだろ……」

「おいそうやって逃げるなよ。認めろよ。それだけしたら出て行ってやるよ……自分は他人のことなんて考えない、ただの独りよがりな殺し屋なんだって、そう言うだけでいいさ。」

「…………!」

リザがこちらを向いた瞬間、金髪が数本はらりと舞って姿が消えた。



「ぐがっ!!!あ゛っ……!ごぼぉっ……!」

シアナが首を掴まれたと気づいた瞬間、リザの修羅のような顔が目の前に現れていた。
とても細腕から出されているとは思えない握力。
首元に突きつけられた何人をも殺してきたであろう、鈍く光る鋭利なナイフ。
そして、本当にこのまま殺されてもおかしくない目。
その双眸は先程までの15歳の少女の愛らしいものではなく、血に飢えた殺人鬼の目だった。

「や゛……!や゛め゛ろおぉっ……!やめで……ぐれ゛っ……!」

恐怖心が一気に振り切ってしまったシアナは、失禁しながら首を絞めている手をばんばんと叩いた。

「……暗殺者を本気で怒らせないでよ……シアナ。言われた通り、今の私はまともじゃないんだからさ。」

「んごォっ……!かッ!があっ……!ぶほぇっ!」

「……反省してね。」

リザは短くそういうと、シアナを足元に軽く放って地面に叩きつけた。

「ぐごほぉっ!がっ……!ひゅうッ……!はあっ……はぁっ……!」

「……やりすぎたわたしも悪いけど、先に手を出したのはシアナだし、やめてって言ったのにやめないのも悪いんだからね。……これで両成敗だから。」

「ぐふっ……り、両成敗の差が……ありすぎるだろぉ゛っ……!ごふおげえっ!」

逆流した体液を口から吐き出すシアナ。失禁した液体と嘔吐した液体で殺風景なリザの部屋に異質なものが出来上がった。

「……掃除はロボットにやらせるからそのままでいいよ。落ち着いたら出て行ってね。私は気分転換に外に行くから。」

普段の鈴のような落ち着いた声でそう言うと、リザは鞄を持ってドアへと歩き出した。

「………お、おい……王様にリョナられるのだけはやめろ……!まともに蘇らせてくれるはずないし、そんなことして後遺症が残ったりしたら、たとえ蘇ったとしてもアイナは喜ばない……!それだけは、分かれ……!」

「………………………………」

シアナの問いに答えず、リザは部屋を出て行った。

526名無しさん:2019/07/05(金) 00:10:37 ID:???
「……今の私はシュメルツもクラシオンも使えないし、誰にも見つからないように逃げないと……」

隠れてトーメンと王国から亡命しようとしているミシェル。
慎重に城から脱出した後、そのまま国境まで行こうと、人気のない道を選んでアレイ草原へ向かう彼女だが……

「ちょっとアンタ」

「ひ、ひぃいい!」

突然横合いから放たれた声に、素っ頓狂な悲鳴をあげてしまう。


「なっさけない声……アンタの姉貴にそっくりね」

「あ、あんたは、リゲル!?なんでここに……!?」

「まぁ、ちょっと野暮用よ」


丁度周りに誰もいない、アレイ草原へと続く名もない脇道でミシェルに声をかけたのは……リゲルのサキであった。

「な、ななな、何の用よ!?私は別に、最近運動不足だったからちょっと散歩してただけで、何もやましいことなんて……」

「……スネグアの奴の腰巾着だったアンタは気に食わないけど、さっさとこの国を捨てる判断力は、まぁ認めてあげるわ」

「は、はぁああ!?な、何をわけの分からないことを……あれよ、あんまり舐めてるとシュメルツでぶっ飛ばすわよ!?」

(完全にバレてんじゃない……!いくらリゲルがそこまで強くないとはいえ、今の私じゃ太刀打ちできないし……何とか、何とか見逃してもらうしか……!)

プライドの高かった以前からは想像もできないほど、狼狽しながらも必死に生き残ろうとする姿に、サキは少々呆れたような表情をした後……突然ポケットから取り出した何かを、ミシェルに投げ渡した。

「っとと、これは……?」

サキの投げ渡したもの……それは、スティック型のデータメモリだった。

「見逃してあげるから、それをリンネに渡しといてちょうだい。最悪、渡すのはリンネじゃなくてもいいわ。アイツなら情報さえあっちにあれば自力で見つけるだろうし」

「は、はぁ?どういうことよ?」

突然のサキの不可解な行動に、思わず眉をひそめるミシェルだが……彼女の明晰な頭脳は、すぐにおおよその見当をつけた。

「ははぁ……アンタもトーメントを見限ろうとしてるけど、今は準備中ってわけ……ナルビアに恩を売っといて、いざって時に亡命しようってわけね」

「……まぁ、当たらずも遠からずって感じかしら」

流石のミシェルも、サキの本当の目的……ヒルダを元に戻す方法を探しているリンネの為に、トーメントにある強化状態を解除するデータを彼に渡すつもりだということまでは見抜けなかった。

サキがナルビア側の人間といい感じになっているとは、思ってもいない。

「どちらにせよ亡命の手土産はあった方がいいし、引き受けてあげるわ」

「あっそ。じゃ、頼んだわよ」

ミシェルの了解を聞いたサキは、用は済んだと言わんばかりにさっさと振り替えってトーメントへ帰る。
だが、その途中で……ポツリと呟いた。

「……敵の男とのロマンス……そんなありがちな話に、ここまでハマっちゃうとは、ね……我ながら危ない橋を渡ってるわ」

527名無しさん:2019/07/06(土) 15:42:30 ID:???
(ズズズズズズ………ドシャッ!!)
「や、止めてシュガーちゃん、放し……んぐっ!!」
ファット達に髪を掴まれ、校舎裏に引きずられてきたミライ。
お気に入りだった純白のワンピースは、早くも泥まみれになってしまっている。

「ケッケッケ……ここなら邪魔は入らねえだろ」
「んじゃ早速、『模擬戦』をおっ始めるとするか!オラァッ!!」
「え、え!?…よろしくお願いしま……きゃあっ!!」
余分三姉妹の思惑はわかっているものの、ミライは『模擬戦』と聞いて反射的に礼をしてしまう。

(……ドゴッ!!……ズシャァァッ!!)
「ごはっ!!……」
そして、お構いなしに繰り出されたファットの体当たりをまともに喰らい、大きく吹き飛ばされた。

「ひひひ!オラオラっ!寝てる暇なんてねーぜ!!」
「……っ!!」
開幕から大ダメージを喰らいながらも、なんとか立ち上がろうとするミライ。
その頭上めがけて、シュガーが力任せに剣を振り下ろす!!

(ガキィィィンッ!!)
「………う、うっ……!!」
「ん?……あたしの剣を受けた、だと……?……ミライのくせに生意気な」
シュガーの人並外れて重い体重を乗せた一撃を、間一髪受け止めたミライ。
だが………

「……だが、飛んだマヌケだな!!喰らえ!!『かすっただけで電撃ビリビリ!サンダーボルトスタナー』!!」
(ズバババババッ!!)
「っきゃぁあああああああっっっ!!」

シュガーの剣から激しい電撃が放たれ、ミライの全身を貫いた!

「くくくっ……あたしらのサンドバッグのくせに、防御なんかするから悪いんだ、よっ!!」
(ブンッ!!)
「い、痛……け、ど……」
白いワンピースが焼け焦げ、膝を屈するミライに、シュガーが再度の攻撃を仕掛ける。
その時……

「だけど、このくらいの痛み……リリスちゃんや、リザちゃん達が今まで受けてきた傷に比べたら……」
弾かれたように、ミライが立ち上がり……そして前に出た。

「ぜんぜん、大した事、ないっ!」
「……なっ!?」
(ビシッ!!)
そして流れるような横一閃で、シュガーの横腹に剣の一撃。

「あ、あれ……今、私……?」
今までにない光景に、その場にいる全員が呆気に取られた。当のミライ本人でさえも。

「てんめぇ……今度はいっちょ前に反撃だぁ?ふざけた事してんじゃねえぇぇ!!」
(ドガッ!!)
「ぎゃぅ!!」
……先に我に返ったのは、攻撃されたシュガーの方だった。
『サンドバッグ』の今までにない反抗に激怒したシュガーは、ヤクザキックでミライを思い切り蹴り飛ばした。

528名無しさん:2019/07/06(土) 15:43:35 ID:???
「弱虫ミライの剣なんて、痛くもかゆくもねーんだよ!」
「マグレで一発当たったからって、調子乗るんじゃねえ!!オラアアッ!!」
背中を蹴られて地面を転がるミライ。
その眼前に、間髪入れずソルトのゴルフスイング気味の一撃が迫る。

「そ、そう、だ……私……!」
当たれば顔面骨折どころでは済まない危険な一撃を、ミライは紙一重で回避。

騎士を目指して長年、リリスが女王になるずっと以前から続けてきた訓練は、
ほんの少しずつだが確実にミライの中で血肉になっていた。

「ふんっ……無駄だっ!!『触れた瞬間破壊振動!アースクエイククラッシャー』!!」
(ズドゴゴゴゴッ!!)
「ん、がああああっ!?」
……ソルトの武器が普通の剣であれば、今の一撃も躱せていたのだろう。

だが、ソルトの改造模造剣の一撃は激しい振動で地面を抉り、周囲に石礫をまき散らす範囲破壊武器。
無数の小石弾が至近距離から直撃し、ミライの全身には、無数の傷痣が一瞬にして刻みつけられていく。

「ざまあねえなあ!クソ虫が!このままぶっ潰して……」
「私……こんな所で、立ち止まれない…!……強く、ならなきゃ……」
今までのミライなら、吹き飛ばされ、倒れて、立ち上がれなかったかもしれない。

『聖騎士になってリリスを守りたいんなら……』

『そんな奴らくらい、一人でなんとかしろ』

全身が痛くて、今にも意識が飛びそうで。もう倒れてしまいたかった。
だが、ミライの頭の中に、別れ際のノーチェの言葉が、何度も何度もリフレインする。
(本人はめんどくせーから適当に言っただけかも知れないが)

「強くなる……聖騎士になって…………ジン君やリリスちゃん、リザちゃん、唯ちゃん……
みんなと一緒に戦えるように……みんなを守れるくらい、強く!」
(ズブッ!!)
「なにっ……!?……『やったか!?』って言わないようにガマンしてたのに……」
裂帛の気合と共に放たれたミライの踏み込み突きが、見事ソルトのお腹に突き刺さった。

「はぁっ……はぁっ……や、やった、の……!?」
「……なわけねーだろボケがぁっ!!」
「っぐぅっ!!」
模擬剣での突きは、当たると多少は痛いが、それだけだ。
ミライの必死の一撃は分厚い脂肪に弾かれ、ソルトに殆どダメージはなかった。

529名無しさん:2019/07/06(土) 15:44:49 ID:???
「どうやら、自分の立場ってもんがわかってねーみてえだな、ウジムシちゃんよぉ……」
ボロボロになったミライに、ファットが再び迫る。その手に握られているのは……剣ではなく、鎖付きの首輪。

(ジャララララッ!!)
「きゃっ!?」
「ヒッヒッヒ……特別製の『魔封じ+呪いイロイロてんこ盛り首輪』だ!
せっかくボロクソにしたのに回復なんかされたらめんどくせーからな。
でもって、あたしは殴り魔に剣取られちゃったから……お前を武器にしてやるぜ!」

ファットはミライに無理矢理首輪をはめると、鎖の端を持ち上げて、振り回した!!
(ブオンブオンブオンブオンブオン!!)
「ほらほらほらほら!!思いっきりブン回してぇぇ……ハンマー投げだぁああっ!!」
「う、ぐっ……ああああああぁぁっ!!」
(…………ドゴォォォッ!!!)
「っぐああああああああんっ!!」
校舎の壁に思い切り叩き付けられ、ミライの甲高い悲鳴が周囲に響き渡る。

「きっきっき……その首輪は、呪文とかクソ生意気な覚醒反撃セリフとかは出せなくなるけど、
悲鳴はきっちりクリア音質で上げられる優れものなんだぜ!
それだけじゃねえ……呪いも色々てんこ盛りだ。攻撃力防御力素早さ魔力が大幅ダウン、
バステてんこ盛りに各属性ダメージ200%マシマシ、その他諸々……そろそろ効いて来たんじゃね?」

「はぁっ………はぁっ……これ……外れ、なっ……あぐうぅ!?」
(力が、入らない……体中の痛みが、何十倍にもなったみたい……
それ、に……見えない何かが、体中にまとわりついてるような……!!)

「ヒッヒッヒ……これでもう、抵抗なんかできねーだろ。ほれほれ、あたしにも打ち込んでみろよ」
「っ……たあっ…!!」
(剣が……重いっ……!!)
フラフラになりながら放ったミライの攻撃は、やはりファットの分厚い脂肪の壁に弾かれる。

それを見た余分三姉妹は、ニタリと不気味な笑みを浮かべながらミライを取り囲み……

「けっ!ミライのくせに手間取らせやがって」
(ジャラララララッ!!)
「きゃあああああっ!!」

「こっから先は、あたし達のターンだぜ……」
(バチバチバチバチッッ!!)
「ひぐぅぅぅううううううううっ!!!」

「…………永遠に、な!!」
「ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!」
「んぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!」

……一斉に、武器を振り下ろした。

530名無しさん:2019/07/07(日) 00:29:08 ID:???
「グッ……!ゲッホ!!ゲェッホ!……クッソ……あいつからここまでの暴力が出てくるとは思ってなかった……!ナメてたな……」

部屋主のリザが去り、身体的、精神的両面で特大ダメージを受けたシアナは立ち上がれずにいた。

「あークソッ……なんで僕があいつの部屋でションベン流しながら悲しみの嗚咽を漏らしてるんだよ……!」

普段おとなしい人ほど怒らせると怖いというのは本当なのだろうか。
それとも自分で言っていた通り、今のリザは精神が不安定なせいなのだろうか。
いずれにしても、シアナは1つの結論にたどり着いた。

(……女って怖いわ。)



「リザさんの申請で参上!お掃除ロボットでス!吐瀉物とおしっこのお掃除に参りましター!」

「ばかやめろ声がでかいポンコツ!ここはリザの部屋だぞ……!」

リザに完全敗北し傷心のシアナの元に、テンションの高いお掃除ロボットが部屋を訪れた。
ご丁寧にシアナの着替えまで持ってきている。

「……おいなんだこの服?……やたら上等みたいだけど。」

「リザ様がこれをシアナ様へ渡せト。せめて着替えないと、そんな無様な状態じゃこの部屋から出られないでしょウ?」

「……だからって、僕にこの部屋で着替えろっていうのかよ……!クソ、最悪の日だ……!」

「では私ハ、ドMのシアナ様が美少女に睨まれて嬉しさのあまり発射した謎の液体をお掃除しまース!」

「やめろおおおおおおおおおおぉぉぉお!!!!」

圧倒的な敗北感に加え、女の子の部屋で1人着替えるという未だかつて感じたことのない背徳感にゾクゾクしつつ、シアナは部屋を出て行った。




(……ああぁイライラするっ……!なんでいつも私ばっかりこうなるの……!)

お掃除ロボを呼んだ後、リザは苛立ちを隠しきれないまま大股で城の庭園に向かっていた。

(……もちろん私も悪かったけどっ……!私の性格分かってるくせにあんな言い方するなんて……シアナ……酷い。)

とはいえシアナが怒った理由はわかっているし、それに対して自分がやりすぎたとも思う。
だがリザは心の底から謝ることができない。
理不尽とは思わないが、最近は自分の行動があまりにも裏目裏目になりすぎていて荒んでいるのだ。



(……ん?兵士たちがいる……)

庭園前通路で、上級兵士たち3人が集まっている。
この距離では声は聞こえないが、なにやら話しているようだ。

「さて、かわゆいスピカちゃんを探すとするか。暇な時はいつも大体部屋で本読んでるらしいから、私室に向かおう。」

「どんな本読んでんだろーなあの生意気小娘は。絶対よくわかんねー何が書きたいのかもわかんねー謎小説を、難しい本読める私かっこいーってオナニー欲求満たしながらありがたがって読んでそうだ

「おい今の、本人の前で言うなよ……殺されるぞ。すぐに後ろに回られて気がついたら首チョンパだ。」

「へっ。あの女はそんなにホイホイ人を殺せるタマじゃねえよ。俺ら兵士の前では冷徹ぶってるけど、ほかの十輝星といるときは普通のガキだからな。」

「らしいな。ガキのくせに俺らのこと下に見やがって……絶対いつか泣かせてやりてえよな。」

「え?そうなのか?って、待て、本人来たぞ……」

兵士が足音のした方を見ると、リザがどこか落ち着かない様子で歩いてくるところだった。



「あー、リザ様!ちょうどいいところに。またレジスタンスたちの拠点を掴んだのです。ヨハン様から伺ったのですが、空いている十輝星はリザ様しかいらっしゃらないとのことで、許可も得ました。お手数ですが、ご同行願います。」

「……………………」

話しかけてきた兵士の方は、柔和な声と表情でリザに語りかける。
どうやらレジスタンス掃討作戦に、十輝星である自分への出動要請が入ったらしい。
ヨハンの名が出てきたということは、正式な任務命令なのだろう。
だが……



(今……そんな気分になれないな。)



「……あのー、リザ様?」

「……無理。私は行かない。」

「え?どこか体調でも悪いのですか?」

「……うん。ちょっとお腹が痛い……かも。」

「いやいや……嘘が下手すぎますよ。さっきシアナ様と廊下で仲良くおしゃべりしてたじゃないですか。いくらあなたでも任務放棄するのは許されませんよ?」

「……うるさい。下っ端のくせに……とにかく嫌。そもそも私は暗殺担当。掃討任務なら頭の悪いあなたたちだけでもできるでしょ。じゃあね。」

「え?あ、ちょ、リザ様!?」

突き放すようにそう言って、リザはスタスタと歩いていった。

531名無しさん:2019/07/07(日) 16:51:12 ID:???
「はぁ、はぁ……!なんだっていうのよ、一体……!」

サラ・クルーエル・アモットは追われていた。記憶を失って彷徨っていた所を、如何にもチンピラそうな下級兵士に絡まれ、咄嗟に撃退したのだが……

「あっちに行ったぞ!追えー!」
「正統派アメリカン美女を逃がすなー!」

その後、雨後の筍のようにゾロゾロと現れた兵士たちを前に、逃走を余儀なくされた。


「でも、不思議ね……ずっと走ってるのに、まだまだ余裕があるわ……いつの間にか体力も上がってるみたい」

……本来ならば下級兵士程度、いくら束になろうと変身せずにあしらえる実力はあるのだが……記憶喪失のせいで自身の力を知らないサラは、ひたすら逃げの一手のだった。

と、そこに……

「ったく、あのクソガキ……!十輝星だからって舐めやがって……!」
「まったくだ!戦争の時にアイツがボロボロで孤立してたら、一斉に襲いかかってやろうぜ」
「まぁ何にせよ、今はレジスタンスだ……情報によれば、白銀の騎士が性懲りもなく現れたらしい」
「あれ?アジトを発見したって話じゃ……ゲフンゲフン」

リザにすげなく追い返された上級兵士たちが、サラの捕獲に現れた。

「くっ、挟まれた……!?」

ぶっちゃけ普通のモブ兵士とそんなに違いがあるのか分からない上級兵士に前を塞がれ、後ろからはチンピラ兵士たちが追ってきている。

絶対絶命のピンチに、サラは周囲を見回して必死に逃げ道を探す。

「奴に変身の隙を与えるな!」
「うし!このまま……ドロップキックだ!」

「くっ……!ぐぅ!!」

走り込んできた勢いのまま、兵士がドロップキックをサラに放つ。
咄嗟に腕を十字に組んで防御したが、改造された兵士の身体能力は地味に高く、そのまま後ろに吹っ飛んでいく。

着地して、体制を整えようとするサラだが……

「おっしゃラッキー!捕まえたぜパツキンデカ!」
「しま……っ!?」

背後にいた兵士にガッシリと体をキャッチされてしまう。

「おっひょーー!柔らけーー!おい!俺はこのまま胸触って拘束してるから、さっさと殴れ!」
「く、こ、のっ……!ちょ、あんっ」」

サラの豊かな胸の双丘を両手で鷲掴みにして、力任せに揉みしだく兵士。
サラは必死に逃れようともがくが、拘束を解く前に、他の兵士の魔の手が迫る。


「げほっ、ぐえぇぇぇっ!えほっ、やぁ、いぁぁ……!ん゛はぁぁあぁぁっ!」

腹パン、顔面横殴り、膝蹴り、横腹に回し蹴り……と、兵士たちは思い思いにサラをリンチする。

普段の凛とした、苦境に於いても心は屈さないサラと違い、今のサラはただただ悲痛な悲鳴を絞り出していた。

532名無しさん:2019/07/07(日) 17:34:04 ID:???
「なんだ、白銀の騎士とか言ってたけど、全然ザコじゃねーか!」
「警戒して損したな」
「よし、じゃあ兵士A、そろそろそこ代われ。俺もオッパイ揉みてぇ」

「あぁ?やだよ、ここは俺のポジなの!」
「てめぇ、独り占めする気か!この野郎!」

実力を発揮できずにいるサラを拘束してリョナるモブ兵士たち。だが、サラの胸を揉みたい兵士たちが、急に別の意味で揉めだした。

(……今!!)

喧嘩しだして拘束が緩んだ一瞬の隙をつき、サラは身を捩って兵士の拘束から抜け出した。

「あ、テメェ!?」

(このまま、逃げない、と……!)
とは言え、前後は未だに兵士たちに挟まれている。脇を抜けようとしても、捕まるのがオチだろう。ならば……

「と、跳んだぁ!?」

サラはジャンプして近くの家屋に跳び、その家屋の壁を蹴って二段、三段とジャンプして、一気に屋根まで上った。

「おいおい、そんなんアリかよ!?」
「誰か梯子持って来い!絶対に逃がすな!」


「はぁ、はぁ……私に、こんな動きが、できるなんて……」

そのまま屋根から屋根を伝って何とか兵士たちから逃げ切ったサラは、地面に飛び降りた後、肩で息をしながらも、咄嗟に行った自分の動きに戸惑う。
こうなるといよいよ、あの悪魔の言うことを信じるしかなくなってくる。


「ひょっとして、本当に私に、クレラッパーの力が……?」

「うーん、困ったっスねぇ……こんなん倒してもしょーがないっす……」

「っ!誰!?」

突然上から聞こえた声に、つい先ほど飛び降りたばかりの屋根を見上げるサラ。そこには、月光を背にしながら、蛾の羽を広げて空中に浮かぶジェシカがいた。

「貴女は……?」

「オカンを倒した謎の力のあるクレラッパーを倒さないと、あっしの使命的なの果たせないんスけど……」

「し、使命……?」

「自分を倒した敵を、死に際に産んだ卵に倒させる……子供も誰かに倒されたら、卵を産んで敵討ちをさせる。
それを繰り返して、徐々に徐々に最強の生物を目指す……まぁ、冷静に考えるとガバガバな、虫の本能みたいなもんっすね」

「さっきから何を言って……虫……蟲、女……?くっ、あ、頭が……!」

頭を押さえて苦しみだすサラ。ジェニファーの面影を残すジェシカを見て、喪失された記憶が刺激されたのだ。

「……まぁ、記憶が戻って元の強さになるまでは死んで貰っちゃ困るんで……しばらくは匿ってやるっす」

533名無しさん:2019/07/07(日) 23:01:38 ID:???
「なーにが聖騎士になる、だ!弱虫ミライが騎士になんてなれるわけねーだろ!」
(ドガッ!!ガゴンッ!!)
「えぶっ!!…あぐ!!んぅっ…!っごぼぁ!!」
ソルトの振動剣アース以下略が、ミライのお腹に何度も叩きつけられる。
激しい衝撃で白いワンピースは破れ、その下の柔らかそうなお腹は、いくつもの青黒いアザが痛々しく浮かび上がっていた。

「そうだそうだ!騎士適正ゼロ未満のカスが!てめーは大人しくあたしらのサンドバッグになってりゃいーんだよ!」
(ビリビリビリ!ぐりぐりぐり!!バチバチバチバチッ!!)
「そ、んなの……い、ひぎゃあああああああんっ!!」
シュガーはミライのワンピースのスカート部を引きちぎり、電撃剣サンダー以下略を股間にぐりぐりと押し付けた。
可愛らしい装飾の施された純白の下着が激しい電流で焼け焦げ、ミライの身体は壊れた人形のようにガクガクと激しく痙攣する。

「そ……そんな事、ない……唯ちゃんやリザちゃんだって、あんなに優しくて、戦いなんて全然似合わない子達だけど…
それでも、頑張って頑張って、あんなに強くなったんだから……!!」

(ジャラララララッ!!)
「だから、私も……あぐうっ!!」
「けっ……そーやって、現実も見ねーでヘラヘラ騎士ごっこしてんの見るとムカつくんだよ!」
それでも挫けず猛攻に耐えるミライ。だがその首には呪い首輪以下略が巻かれていて、反撃の術はもはや残っていない。

「く、びが……、はっ………」
ファットに首輪の鎖を引っ張られ、首つり状態のミライ。
呼吸が苦しくなって必死にもがくが、徐々にその抵抗も弱まっていく。

「そうだ!今日は7月7日だし、りょなばたやろうぜ!お前短冊な!」
「『ミライはみんなのせい奴隷になりたいです♥1回10ナーブルでヤり放題♥♥」』って願い事書いて、
学校中から見えるように屋上から吊るしてやんよ!」
「ギャーハハハハハ!!それ最高!!」
「っぐ………あ、んっ……!」
苦し気に首を押さえて口をパクパクと開閉するミライ。それを取り囲んで嘲笑う余分三姉妹。
だが、その時……

「……まつ、です」

「あ?……誰かなんか言った?」
「いやー?うちら何もいってねーよ」
「ミライのアホは……死にかけの金魚みてーになってるし」

突然何者かの声が聞こえ、周囲を見回す余分三姉妹。だが、声の主は見当たらない。

「ここです」
「ん?………なんだおめーは?」
二度目の呼びかけに、三人は声がする方向……足元を一斉に見る。その先に居た声の主は……
身長140cmにも満たない、小柄な少女であった。

534名無しさん:2019/07/07(日) 23:05:06 ID:???
「その制服……ヒーラー見習いのガキかよ」
「すっこんでろどチビが。お前も同じ目に遭わせてやろうか?」
着ている服は、騎士養成学校の初等科の制服。ヒーラー志望なのか、その上に白いローブを羽織り、手には杖を持っている。
杖は異常に長く、ローブは裾を踏んづけてしまいそうなほど長い……
…ように見えるが、これは彼女の背が小さすぎるためで、実際にはどちらも標準サイズ。
表情は乏しく、常に睨んでるような眠気と戦っているような、なんだかぼんやりとした雰囲気の眼をしている。
俗にいうジト目である。

「それ以上やると死んじゃうです……模擬試合に負けたからって、腹いせは良くないです」
「あー?誰が何に負けたって?」
「……剣術の試合は、先に剣で有効打を決めた方の勝ち、です。そっちのお姉さんのほうが、先に三人に攻撃を当てた、です」

「ほーん………なんかムカつくガキだな」
「つーか、だから何?あんなん、剣術の試合でもなんでもねえ」
「そーそー。あたしら、ただサンドバック虐めて遊んでただけだっつーの!」
「そう、ですか。試合なら、邪魔しちゃいけないと思って見てましたが……
……そうじゃないなら、うちがまざっても、文句ないです、ね」

「んだとぉ?……面白ぇ冗談だねぇ、お嬢ちゃん……ひっひっひ」
「そんなに言うなら、お前もりょなばたしてやんよ……名を名乗りな。短冊に書いてやっからよ」
「…うちは………」


【ルーア・マリンスノー】
聖騎士学校の初等科に通う11歳の少女。
同年代の少女と比べても背は低く、いつも眠そうな眼、腰まで届く長い髪…などが特徴。
争いは好まない性格だが、いざという時は祖父から仕込まれた攻撃魔法と棍棒(杖)を使った戦闘術で戦う。
一人称は『うち』で、どんな相手にも丁寧な口調。語尾にはだいたい「〜〜です」がつく。


(ビシュッ!!)
小さな少女が杖を構え、近くに居たソルト目掛けて、目にも止まらぬ速さで突きを繰り出した。
その速さは、先程のミライと同等位か。
鋭くきれいな一撃。とは言えそれだけでは、ソルトの脂肪にはダメージが与えられないが……。

「てめえ、何しやが……」
「……ヌルインパクト」
(バシュッ!!)
「っんぶおおおおおおっ!?」
少女は攻撃の瞬間、至近距離の対象を吹き飛ばす、無属性の攻撃魔法を発動した。
打撃と合わせる事で威力を増大させた攻撃魔法が、ソルトの巨体を大きく吹き飛ばす。

「なっ!?ソルトォォォ!!」
「てめえ!!ぶっ潰してやるぁ!!」
吹っ飛ばされ、一撃で気絶したソルトを見て、怒り狂ったシュガーが電撃剣を振り下ろす。
先程ミライが体験した通り、受けるだけでも戦闘不能になりかねない危険な一撃である。

「実戦なら……攻撃魔法もアリ、です。ウォーターインパクト」
(ドバッ!!)
「おぶあああああっ!?」
だがシュガーの剣が振り下ろされる前に、少女は杖から水属性の攻撃魔法を発動。
杖から激しい水流が飛び、シュガーの身体を吹っ飛ばした。

535名無しさん:2019/07/09(火) 00:10:44 ID:???
「シュガアアアアアア!!くっそ、なんだこのクソチビはあぁ!?気持ちよくリョナってたとこを邪魔してくれやがってえええ!」

突如現れた初等科生徒に仲間を吹き飛ばされ、ファットの醜い顔がさらに醜く歪む。

「……あなたは見逃す、です。そこに転がった2人のお掃除をお願いします……です。」

「クッソ……覚えてろよクソガキ。ミライと一緒にお前もいつかギタギタにしてやるからなぁ!」

悪態をついてから、ファットは2人を抱えて……は体重的に無理だったので、引きずりながら去っていった。



「……100点満点の捨て台詞、です。」

「うぅ……き、君っ……!だ、だいじょうぶ?怪我して、ない……?」

「……お姉さんは自分の心配をしてください、です。ウチは無傷……です。」

表情を変えないまま、ルーアは杖を横に構え癒しの術を唱え始めた。

「……神火を纏いし聖光よ。彼の者に玉響の煌めきを……ホーリーエクスタシィ。」

「え、そんな上級魔法っ……!んっ!ふぁ……!あ、ぁ……」

ルーアの生み出した癒しの光がミライを包み、傷をゆっくりと修復していく。
回復魔法は攻撃魔法よりも使い手が少ないのだが、彼女はどちらも高いレベルで習得しているようだった。



「ありがとう〜ルーアちゃん。いじめられてる私を助けてくれて、本当に嬉しいよ〜。」

「……卑怯な人たちにちょっとお仕置きをしてみただけ、です。ではウチはこれで失礼、です。」

慎重に合わない杖を背に抱え、ルーアはその場を去ろうとするが……

「え、え!ちょっと待ってよぉルーアちゃん〜!助けてもらったお礼に、何かお菓子でも買ってあげるよぉ!」

「……きゃぶっ!」
「あ。」

走り寄ったミライがルーアの引きずっているローブを踏んづけ、ルーアは派手に転んだ。




「むむ……恩を仇で返された、です……」

「ご、ごめんねぇ……学食のパフェをご馳走するから、許してほしいなぁ……本当にごめんね……」

頭にたんこぶを拵えたルーアだが、全く表情が変わらないので怒っているのかはわからない。
自分より小さい子供に、ミライは何度も頭をペコペコと下げた。

「……そーいえば、どうして初等科のルーアちゃんが高等科の校舎に来てるのかなぁ?」

「ウチは高等科に来ているランディ様に呼ばれているです。お礼がしたいなら……ランディ様がいる職員室まで道案内をお願いしたい、です。高等科には初めて来たので、よくわからないのです。」

「うわあぁ〜!いいよぉ!もちろん引き受けるよぉ〜!私に任せて!ルーアちゃんが迷わないように、びゅびゅーんって連れていってあげるね〜!」

「……よろしくお願いします、です。」

水を得た魚のように喜び出したミライを見ても、ルーアの表情は変わらなかった。

536名無しさん:2019/07/09(火) 01:24:07 ID:???
「来ましたか、ルーア。……おや、ミライお嬢様もお揃いで。2人はお知り合いですかな。」

「あ、えっと、私は……」

ミライが事情を説明している間も、ルーアの表情は変わらない。
円卓の騎士という目上相手との対面でも、ルーアはミライがあった時と同じ、眠そうな顔のままだった。

「フフ、困っている人を助けるとは、なかなか優しいところもあるじゃないかルーア。」

「……どうも、です。」

「ランディ様とルーアちゃんは、どういう関係なんですか?」

「あぁ、ルーアは私の教え子でね。秀でた才能を持つ生徒は年齢関係なく特別授業を受けてもらっているのだが、私も講師として参加する時があるのだよ。」

「わあぁ〜!ルーアちゃん、すごいんだね!」

「……どうも、です。」

表情も声色も変わらないが、ランディはルーアの心の声に気づいていた。
早く本題に入ってくれ、と。

「さて、ルーアを呼んだ理由だが……ミライお嬢様は席を外していただけますかな。」

「あ、わかりました!じゃあまたね、ルーアちゃん。頑張ってね〜!」

「はい。道案内ありがとうございました、です。」

いじめられた後にもかかわらず、ミライはニコニコと手を振りながら去っていった。



「……ルーア。君を呼んだのは大事な話をするためだ。……四カ国戦争の噂は聞いているかね?」

ランディの声色が好々爺のそれと変わり、深刻さを帯びた低音へと変わる。
その様子から、ルーアは事の大きさを肌で感じた。

「……はい。存じております、です。」

「来るべきトーメント王国との一戦……ルミナス、ミツルギ、ナルビア……そして我が国シーヴァリアも、あの国の暴虐を許していた。先日のルミナス襲撃が記憶に新しいだろう。リリス様がルミナス救出を指導しなければ、あの国は滅んでいたやもしれん。」

「……はい。」

「その他さまざまな要因もあるが、トーメント王国はこの世界の繁栄に害をなす存在だと協議で決まった。同盟に参加していなかったミツルギも含めて、近隣諸国すべての国の戦力を結集し、トーメント王国を攻撃するのだ。」

「…………………………」

ルーアの表情は変わらない。ランディの話を目を落としてじっと聞いている。

「……そこで、戦場へ向かわせる一部の小隊の中に特別部隊を作ることとなった。四ヶ国それぞれの精鋭を1人ずつ集めて4人体制を組み、戦火の激しい場所に赴き敵を叩く。いわば遊撃隊だ。部隊名は……ヴェンデッタ。」

精鋭ではないと務まらない、激化している戦場への派遣……戦闘能力だけではなく、統率力、チームワーク、判断能力、戦闘に必要な全てが揃っていないと務まらない、死と隣り合わせの場所だろう。

そのあとの言葉を言う前に、ランディは目を落とした。


「……ルーア……そのヴェンデッタに、お前も入ってもらいたい。」

「……ウチ、が?」

「……年齢は関係ない。能力だけを見て組む部隊だ。お前の戦闘能力をトーメント侵攻に役立ててもらいたい。」

口ではそう言っているが、ランディの表情は暗い。
いくら負けられない戦いとはいえ、11歳の子どもを戦場へ向かわせることへの罪悪感である。

「……もちろん任意だ。君が行きたくないのならそれで良い。断ったからといってこれからの人生に支障を来すこともない。君はまだ……」

だが、ルーアの答えは決まっていた。

「やります、です。……ウチの力が役に立つのであれば……ウチは戦う、です。」

ここにあっても表情は変わらず、ルーアはいつもと同じ声色で意思表示した。
11歳にして、戦場で戦う道を選んだことを。



「……そう言ってしまうと思っていた……だが考え直さないか。君はまだ子どもだ……それに君がいなくなって、悲しむ人もいるだろう。」

「……ウチが死んで悲しむ人は、全員トーメントに殺されている……です。」

537名無しさん:2019/07/09(火) 20:25:11 ID:2jooaOxw
「……では明日の夜、君が所属することになるヴェンデッタ第7小隊の顔合わせを行う。ルネの王城前広場に6時に集合したまえ。」

本人が決めたことに口を出しても仕方がない。上が判断したことでもある。
ランディは表情の変わらないルーアをそれ以上止めることはしなかった。

「明日……結構話が、急なのです。」

「今はまだ平和なものだが、水面下で着々と大戦の準備は行われている。トーメント側も気づいているだろう……あまり向こうに準備の時間を与えるわけにはいかないのでな。」

「なるほどです。それでは明日……です。」

「……待ちたまえ。」

言葉少なに立ち去ろうとするルーアをランディは引き止めた。



「なんでしょうか……です。」

「これは……本来君に言うべきではないのだが、伝えないとあまりに不条理だ。だから私の独り言として受け流してくれればいい。」

「はい。」

「……ヴェンデッタ小隊に集められる者たちはみな、君のように人並み外れた戦闘能力を持つ者たちだ。だが……些かカテゴライズに苦慮する者たちが多い。言い方は悪いが、明らかな異常者もいる。要するに、集団で活動することが難しい者たちだ。」

「そこまで言ってもらえればわかる、です。ウチもそういう自覚はある……です。」

「ルーア……君のことはあの事件の前、入学した時からずっと見てきた。個人的な意見にしかならないが、単刀直入に言えば、私は君が異常だと思ったことは一度もない。……あの事件の後も……君の心はずっと穏やかなままだ。」

「………………………」

「私は不安だ……君が他の者たちのような爪弾き者たちに飲まれてしまわないか。君には弱きを助け強きをくじく常識的な良心もある。戦闘能力だけが取り柄の部隊よりも、せめて普通の騎士隊に入れてやりたかったのだが……すまない。」

「……ウチは意見できる立場でもない、です。……それに……あ。」

ルーアがなにか言いかけて、始業のチャイムが鳴った。授業再開の合図である。

「……今日の担任には電話で話を通しておく。もう行きなさい。また明日話そう。」

「……はい、です。」

始業のチャイムに焦ることも、戦場への召喚に怯えることもなく、ルーアは無表情で頭を下げ、裾を引きずりながら出て行った。



「……ルーア・マリンスノー……裏を返せば、あの事件以降もまともでいられることが、そもそも異常と言えるのかもしれんな。」

ランディが開けた引き出しには、ルーアの生徒記録が入っていた。

「毒をもって毒を制す。ヴェンデッタ小隊、か……」




氏名:ルーア・マリンスノー
年齢:11
所属:特別初等科
能力判定:SS
特記:特別監視対象生徒

備考:彼女の母親は女優のリチア・マリンスノー。故人。8月花庭園での撮影に家族で訪れた帰路で、トーメントの盗賊に襲われる。
母のリチア、父とともに拘束され、父親はその場で殺害。彼女は母親と共にアジトへと連行された。

アジト内で行われたのは、母親のリチアへの陵辱であった。
それは拘束された彼女の目の前で、行われていたという。
壮絶な状況の中、彼女は隙を見て自力で脱出。その後、近くに置かれていたナイフでその場にいた盗賊5人を全て殺害。
救助が来た時、彼女は父と母の遺体の真ん中で自刃していた。

その後、奇跡的に後遺症もなく一命はとりとめたものの、メンタルケアのため精神病院へと強制入院。
だが精神の乱れは全く見られず、異常行動も見られなかったため、本人の希望で孤児院へと送られた。

自刃していた以上、内に秘めた強い自殺願望がある可能性あり。当該生徒は礼儀正しく成績優秀だが、その行動には十分に注意されたし。

538名無しさん:2019/07/10(水) 00:19:27 ID:???
そんなこんなで次の日……

「ノーチェさん!組手お願いします!」

「だぁぁあ今日だけで何度目だ!?毎回結構ボコッてるのに、よくそんなにメンタルが持つな!?」

唯は1日で何度も何度も、ノーチェに組手を挑んでいた。
ダルいから適当な事を言って煙に巻いたのに、唯はむしろ積極的にノーチェに挑む。

「ノーチェさん、私、なんで負けたか、ずっと考えていました……でも結局、実力が違うってことしか分かりませんでした」

「お、おう、まぁそうだな」

そりゃあ実力の差でボコボコにしただけだし……と思うノーチェ。めんどいから心の中でツッコムだけに留めていたが……

「私とノーチェさんには、100回に1回しか勝てないくらいの差がある……なら、100回挑めばいい!」

「うん、その理屈はおかしい」

ゴリ押しもいいところな唯の発言に、思わず声に出してツッコミを入れてしまう。

「ええ、普通ならおかしいかもしれません……でも私には……私たちには、それができる」

「なに?……そうか、運命の戦士の能力……隻狼のアレ的な奴の力があれば、無茶なゴリ押しも立派な戦略か……」

「今までもそうでした……例えどんなにやられても、立ち上がる……私たち5人はいつも、そうやってこの世界を生き抜いてきました!」

何度死に掛け、実際に死んでも、その度に立ち上がり、戦い続けてきた……その諦めの悪さこそ、実力的には中の下くらいである自分の最大の武器だと、ノーチェに負けることで唯は改めて気づいたのだ。

「途中でどれだけ負けても、最後に勝利を掴み取る……私たちには、そうできる力があります……ちょっとズルいですけどね」

「……諦めないのが俺の魔法だ、ってか……」

「そういうことでノーチェさん!組み手お願いします!」

「ダルいけど、しょうがない、か……どうせ短期入学の間だけなんだ、とことん……は嫌だけどちょくちょく付き合ってやるよ」

「はい!ありがとうございます!」


ーーこうして、唯は時にヒーラーに混じって回復魔法を習い、時に騎士に混じって特訓を行い……何度もノーチェと実戦式の組手を行っていった。

539名無しさん:2019/07/15(月) 12:18:09 ID:???
「また貴女ですか……ちょっとしつこい、です」
「そんな事言わず……お願いルーアちゃん!私に、戦い方を教えてほしいの!」

ミライは朝から何度もルーアの元を訪れ、『弟子入り志願』していた。
高等科のおっきなおねえさんが初等科の教室までわざわざやって来て、
自分より5つも6つも年下の少女に対して頭を地面にこすりつけんばかりに何度も頼み込む様は、
傍から見てもなかなかシュールな光景である。

「ダメといったらダメです。うちは……今日、大切な用事があるです。杖術や魔法を習うなら、ランディ様に頼めば良い、です」
……杖術に攻撃魔法を合わせたルーアの戦闘技術は、亡き祖父から教わったものだ。
そして海雪卿ランディは、かつてその祖父と同じ師の元で修行した同門。つまり兄弟弟子の関係であった。

「それが〜……そのランディ先生に頼みに行ったら、『ルーアから教われ』って言われたんだよぉ〜。だからお願い!」
「ランディ様が?……そんなはずは……」

ルーアの『大切な用事』とは、今回の大戦でルーアが所属する事になる『ヴェンデッタ小隊』のメンバーとの顔合わせ。
元々人付き合いの得意でないルーアとしては、今から憂鬱であったが……
その『ヴェンデッタ小隊』の話を持ち掛けてきたのも、他ならぬランディ自身である。

(……嘘を言っているようにも見えない、です)
ランディの真意を読み取れず、困惑するが……そうとも知らず、どこまでもまっすぐ、ひたすらグイグイ来るミライに、ついにルーアは折れた。

「……仕方ありませんです。今日の放課後……夜までの間なら」
「いいの?やったー!ありがとうルーアちゃん!!」

先の事を考えると不安は尽きないが……今はひとまず棚上げするしかない。
無邪気に喜ぶミライの顔を見て、ルーアは心の中でため息をついた。


……その一方で。

「ちっ、ミライのやつ……昨日は変なガキの邪魔が入ったが、このままじゃ済まさねえ」
「あの篠原唯って奴も……殴り魔に散々ボコられまくったらしいのに、全然こりてねえらしいぜ」
「今日は海の日だし、今度の臨海学校(初等部も同行)で、あのガキともども水着回……と見せかけて、
海系魔物の巣に放り込んで海鮮丼にされるBadEndIFしてやるか!」

昨日ルーアにこっぴどくやられた余分三姉妹は、こりずに何やら悪巧みをしていた。

「うーす。お前ら席つけ席ー。日直は適当に出欠取れー。そして全員勝手に自習してろー」
そこへやって来たのは、殴り魔……もとい、いちおう担任教師のノーチェ。

「相変わらずやる気ねーなあいつ」
「そのくせ、ちょっと陰口しただけですぐ殴ってくるしな」
「あのアホ教師も、そのうちギャフンと言わせてやりてーな」

「おー。デブ三人組じゃねーか。
お前ら昨日ミライに試合で負けて、逆ギレして襲い掛かった所を通りすがりの小学生にボコボコにされたんだって?」
「「「なっ……!?」」」

「ヒソヒソ」「ナニソレー」

「……ま、その様子じゃ大丈夫そうだな。脂肪はほどほどにしとけよー」
「クスクス」「プゲラ」

「ぐっ……クラスの連中、全員笑い堪えてやがる」
「くっそぉ……あんの殴り魔……絶対許さねえ」
「こうなったら……あいつも海鮮丼IFに追加だ!」

怒りと屈辱で巨大な身体をぷるぷる揺らし、顔面を真っ赤に染め上げる余分三姉妹。
はたして彼女たちプロデュースによる究極の海鮮丼は完成するのだろうか?

540名無しさん:2019/07/15(月) 17:07:51 ID:???
兵士たちを突っぱねて城を出たリザは、ふらふらと城下町を歩いていた。
特に目的がある訳でもない。
だがアイナの件をエミリアと共に王様に嘆願するまでの暇つぶしと気分転換には、窮屈な部屋にいるよりも外にいる方が開放的でいい。
そうして何も考えずぼんやりと歩いていると、制服を着た女子高生の姿が目に入った。

「ねーねーカラオケいこ!スズちゃんの新曲もう入ったらしいよー!」
「ホント!?それは行くっきゃないね!フリータイムでいいよね?明日休みだし!」
「うんっ!あ、2人とも、中で食べるお菓子買っていこうよ!ネットで見つけた美味しそうなコンビニスイーツがあるんだ〜!」
「「えっえっ、どんなやつどんなやつー!?」」

年頃の女の子らしく、キャピキャピとスイーツや好きな歌手について話している女子高生たちを見ていると、まったく自分とは違うと感じる。

(制服……高校生……羨ましいな……)

彼女たちのような自分と同い年くらいの女の子を見ると、リザはそう思わずにはいられなかった。

(私の髪が金髪なせいで、私の目が青いせいで……あの子たちみたいに普通に暮らせない。……目や髪の色が違うだけで、こんなにも違う生き方になるなんて……)

だからこそ、ミライやヤコのような「普通の」友達ができたのが嬉しかった。
ブルートを倒した後にミライとは少しだけ、ルネを回ってスイーツを食べて、ウィンドウショッピングをして、流行りの小物ショップに行って……
そのときだけは、どこにでもいる普通の少女らしく買い物を楽しむことができた。

(ミライは本当に優しくて朗らかでいい子。……私が普通の女の子だったら、まともな友達になって、たくさん一緒に遊べるのに……)

同じアウィナイトのヤコとは、最初こそギクシャクしていたものの、彼のぶっきらぼうな優しさや、自分に見せる笑顔に心を動かされた。
それが恋という感情だというのに気づいたのは、かなり後になってからだったが……

(ヤコ……収容所からお母さんを出してくれたかな。……保護区でお母さんと仲良くしてくれてるといいな。)

母が保護区にいる可能性がある以上、もうあそこには行けない。
姉のように突き放されるなら会わない方がいい。
トーメントに期待していたのは家族ともう一度暮らすという望みもあったのに、その道はすでに断たれてしまったようだ。

(……やっぱり、私は……)



「……リザちゃん?こんなところでどうしたの?お散歩?」

「あ……エミリア。」

ベンチに座っているリザに声をかけたのは、竜車に乗ったエミリアだった。
大量の武器や食料を乗せているのを見ると、恐らく白の雑用をしている最中だろう。

「散歩……うん、そんなとこかな。」

「そっかぁ。私はお城に帰るところなんだ。戻るなら乗せてくよ?」

「……いや、いい。後で1人で戻るよ。エミリアは先に行ってて。」

人と話す気分ではないリザはそう言ったが、エミリアは竜車を降りてリザの隣にちょこんと座った。

541名無しさん:2019/07/15(月) 17:09:24 ID:???
「えへへ……リザちゃんと最近あんまり話せてないから、話したくなっちゃった。」

「……そんなに話してなかったっけ。」

「アイナちゃんのことがあって、元気がないのはわかるけど……リザちゃん、最近私を避けてるもん。」

「……それは……」

精神が不安定な自分をエミリアには見られたくなかったことが原因だ。エミリアが笑顔で話しかけてきても、今の自分ではそれに応えることができない。

「……あのね、リザちゃん。アイナちゃんが死んじゃった時、ドロシーちゃんが私たちのところに来たの。ライラとのあの戦いの後、精霊になったドロシーちゃんがね。」

「……ドロシーが?」

「うん。王様が手に入れた神器を使えば、アイナちゃんを助けられるって。……死んでしまったっていう出来事をなかったことにできるみたい。」

この世界で起きた事象を書き換えることが出来る。神器とはそういう力を秘めていることはリザも知っている。
シアナがそれを使って、アイナを蘇らせようとしていることも。

「だからね、もし王様に断られても……神器があればアイナちゃんを復活できるかもしれないの。もちろん、王様がそう簡単に使わせてくれないと思うけど、シアナくんも協力してくれるって言ってくれたんだよ!きっとこれって……愛の力だよね!」

「……シアナと私、今喧嘩してきたばっかりだけどね。」

「ええ!?そんな……一体なにがあったの?リザちゃん……?」

「………………………………」



せっかく明るい話になりそうだったのに、沈黙が訪れてしまった。
リザは話したくなさそうに目を伏せている。恐らくこれ以上踏み込んでほしくないのだろう。

「……ねぇリザちゃん。ドロシーちゃんからのリザちゃんへの伝言、シアナくんから聞いたかな?」

「……聞いてないと思う。」

「ドロシーちゃんね、どんなことがあっても……たとえ死に別れたって、私たち3人はずっと……親友だって。……そうリザちゃんに伝えてって、言ってたの。」

「……ドロシー……」

「ドロシーちゃん、アイナちゃん……素敵なお友達がリザちゃんにはいたんだよね。そんなかけがえのない存在がいなくなっちゃったんだもん……リザちゃんがいつも通りでいられないのは、しょうがないよ。」

「……エミリア……?」

「リザちゃんは最近、兵士さん達への風当たりが強かったり、部屋に閉じこもりがちだったり……ああ見えてアトラくんやフースーヤくんもすごい心配してるよ。もちろん、私も……」

エミリアには心配かけまいと何も相談していなかったが、普段の態度から見破られてしまっていたようだった。

「ミツルギでなにがあったのかも、王様から聞いちゃったんだ……辛いこと続きのリザちゃんがすごく心配なんだけど……ぐすっ……私からそんなこと……あんまり……ひぐっ……!い、言えないからぁっ……」

「……泣かないでよ……エミリア……」

自分のための涙を流すエミリアを、リザはそっと抱きしめた。

「うっうぅっ……!1番辛いのはリザちゃんなのに……ごめんね……!」

「わたしは……どんなことも覚悟してたよ。十輝星になるってことはそういうことだから。お姉ちゃんに認めてもらえなくても、大切な友達がいなくなっても……わたしは、平気……平気だから……」

感受性が強くてすぐに泣いてしまうエミリアの前では、自然と冷静になれる。
夜中に叫んで、泣いて、部屋を荒らして、自殺まで考えた。
それでも死んでいないのは、保護区にいるアウィナイトたちと、エミリアやミライやヤコという友達がまだいるから。
……その友達とこの先どうなるかは、まだ分からないけれど。

「……リザちゃんっ……!私が洞窟でアイナちゃんをちゃんと守れていたら、こんなことにはならなかったのにっ……!ごめんなさい……うっ……ごめんなさいっ……!」

「……そんなに自分を責めちゃだめだよ。今は王様にちゃんとお願いすることだけ考えよう。エミリアが一緒に来てくれるだけで、わたしはすごく嬉しいよ。」

リザの優しく柔らかい声に、エミリアはまたも感極まり、リザに強く抱きついた。

「うわあああぁんっ……!どうして……どうしてリザちゃんはそんなに強いのぉ……ぐすんっ!私なんか、リザちゃんより年上のくせにこんなにすぐ泣いちゃうのに……!」

「……それはエミリアが、優しい人ってことだよ。私のために泣いてくれて……ありがとう、エミリア。」

そうしてしばらく人気のない公園で抱き合ってから、リザとエミリアは城へ戻っていった。

542名無しさん:2019/07/15(月) 19:55:59 ID:???
……一方。魔法王国ルミナスの、首都ムーンライト近郊にて。

「キキキキ……!」「グキィッ!!」
「はぁっ……はぁっ……スプラッシュアロー!」
「バーンストライクッ!!」「エアスラッシュ!」
(バシュッ!!ズバッ!!)

市松水鳥率いる魔法少女達、通称『ブルーバード小隊』が、魔物の集団と激しい戦いを繰り広げていた。

「水鳥ちゃん!9時の方角から新手が接近!数およそ50、距離120!」
「水鳥!敵の数が多すぎるよ!このままじゃ……!」
「……」(魔物をこれ以上街に近付けたくない……けど、連戦続きで皆の魔力も限界が近い……!)

……先だってのトーメント王国との戦いで、フウヤが使おうとした禁呪『ワールド・コラプション』。
完全に発動はしなかったものの、その魔法陣から発された膨大な瘴気は、ルミナスの国土に多大な被害を与えていた。
瘴気に汚染された土地は、魔物の出現率、およびその強度や凶暴性が極端に跳ねあがる。

瘴気を浄化するには、それら魔物を殲滅した上で、高度な浄化の術を封じた魔石を発動すること……
この非常に危険な任務をこなすため、水鳥だけでなくルミナス国内の魔法少女達が総出で、連日連夜戦い続けていた。

「仕方ない……みんな、ポイントAまで撤退!」
「クキキキ……逃がさないキッ!!」
「えっ……きゃあああっ!!」

冷静に状況を分析し、撤退の判断を下した水鳥。
だがその時、コウモリ羽を持つ小型の魔物が、頭上から襲い掛かってきた。

【インプ】
戦闘力:E〜D
コウモリの羽根を持ち、瘴気に満ちた空を自在に飛ぶ小悪魔。
戦闘力は低いが総じてずる賢く、残忍かつ変態紳士な性格。
短剣や槍などで武装している他、初級レベルの魔法程度も行使する。

「水鳥ちゃん危ないっ!ライトニングボルト!!」
「グエッ!!」

水鳥の危機を救ったのは、「魔法少女ファミリアレイヤー」ことルーフェ・エレメンティア。
カナリアやウサギなどの使い魔と融合・一体化することで、様々な能力を行使出来る。

「あ、ありがとうルーフェちゃん!」
「でも……どうしよう。完全に囲まれちゃった……これじゃ地上に降りられないよ」

今は、「カナリアフォーム」と呼ばれる姿で、背中の白い翼によって空を自在に飛ぶ事が出来る。
とは言え、同じく水の翼『アクア・ウィング』で飛行可能な水鳥と二人でも……多勢に無勢。


「キキキ……水色とピンクか」
「良い眺めだなー……ケッケッケ」
「●REC(高画質)」
「なっ!?…こ、こいつらやけに下の方に溜まってると思ったら……」
少女達のスカートの中をローアングルから覗き込むインプ達の意図に気付き、水鳥は動揺する。

「ヒヒヒッ!『エア・ブローアップ』!!」
「きゃあっ!?し、下から風が…!」
その隙をついて、インプ達の一体が、『エア・ブローアップ』……殺傷力は無いが、強風を起こす風属性の初級魔法を使った。
ルーフェと水鳥のスカートが豪快に捲れ上がり、思わずスカートを押さえてしまう。

「ケッケッケ!今だ、一斉に掛かれっ!!」
「きゃっ!?ちょっとまっ……ひあぁんっ!?」
「ルーフェちゃんっ!!くっ……このぉぉぉっ!!」
戦闘力は低くとも圧倒的な物量と連携で攻めてくるインプの群れに、二人は徐々に制空権を掌握されつつあった。

「水鳥、ルーフェっ!!……」
「二人を助けなきゃ……カリンちゃん、アレでいこう!『疾風!』」
「『灼熱!』」
「「合成魔法、『フレアトルネー……」」

(ぼこりっ……)
「……グゴゴゴゴゴゴ!!」
「「きゃああああっ!?」」

カリンとフウコは、地上から水鳥達を援護するため合成魔法を詠唱する。
だがその時。地面から突然、巨大な真っ黒い手が現れ、二人の身体を鷲掴みにした!!

543名無しさん:2019/07/15(月) 19:58:34 ID:???
(ギリギリギリギリ………ギチィッ!)
「な、なに、こいつ………あぐっ!!」

(ミチミチミチ……………グリッ!!)
「う、放し、て……………んっあぅ!」
左右一対の巨大な手は、それぞれカリンとフウコの上半身をすっぽり手の平に納め、見た目通りの圧倒的パワーで締め付ける。

「う……ウィンドブレイド!!」「ファイアボルト!!」
「グキキキ……無駄だ無駄ダ……そんな魔法デ、この俺様は倒せヌ……」

【ダークゴーレム】
戦闘力:B〜A
瘴気が物質化し、巨大な人型となったゴーレムの一種。
見た目通りの恐るべきパワーと耐久性に加え、邪悪かつ変態紳士な意志を持つ。
暗黒物質で出来た体は魔法を無効化してしまうため、魔法少女が一度捕らえられれば脱出は極めて困難。
強力な物理攻撃で破壊する以外、倒す方法はない。

「ふざ、けんなっ……!……水鳥達を、助けないと……リンギング・リング!!」
「はぁっ……はぁっ……こんな所で、倒れるわけには……トワリング・エア!!」

「グキキキキ……活きの良い獲物ダ。たっぷり搾り取ってやろウ」
(ぎちぎちぎちぎちぎち!!)
「「……んぐ、っっああああああああ!!」」


「っく……カリンちゃんと、フウコちゃんが……!」
「は、はやく助けないと…!」
「クスクスクス……お友達もいいけど、自分たちの心配したらぁ?」
「「!?」」

地上のカリン達の危機に気付いた水鳥達。早く包囲を突破しなければと焦るが……
互いをかばい合うよう背中合わせで滞空する二人の背後に、氷のように冷たい気配が突然現れた。
「なっ!?」「だっ……誰ですか……!?」

慌てて振り向く二人。そこにいたのは、漆黒の翼を持つ鳥型の亜人であった。

【ダークシュライク】
戦闘力:B〜A
漆黒の翼を持った、ハーピーの突然変異種。
強い瘴気を帯びた猛毒の爪を武器とし、風属性の攻撃魔法、そして強力な邪術を操る。
冷酷かつ変態淑女な性格を持ち、邪術使いの例に漏れず魔法少女の魔力を『吸い取る』のが好き。
またモズ科の性質を併せ持ち、無力化した獲物に対して『早贄』と呼ばれる行為を行う。
光属性の魔法に弱い。

「インプちゃん達も、頑張ってるみたいだけどぉ……この瘴気に染まった黒い空は、あたしの縄張なのよねぇ。
 アナタ達みたいなカワイイ小鳥ちゃんが、フラフラ迷い込んだらぁ……」

(ザシュッ!! ドシュッ!! ズブッ!!)
「あぐっ!?……はや、………っぐ、ああっ!!」
「ルーフェちゃんっ!?そんな、なんて速さな……っぐあ!!」
「こうやって、嬲られて、嬲られて、全身ボロボロにされちゃってぇ……」

(ズバッ!! ザクッ!!  ドスッ!!)
「ぐあぅっ! そんな、っがぁっ!!……うああああああっ!!」
「一枚残らず羽根をむしり取られて、一滴残らず魔力を絞り尽くされて……クスクス」

「邪術『イーヴィルストーム』……」
(ギュオオオオオオオッ……ザシュザシュザシュザシュ!!)
「「きゃああああああああっ!!」」

「最期は、そうねぇ……ルミナスで一番高い塔のてっぺんに、串刺しにしてあげましょうか。
インプちゃん達のエサになるのは、その後かしらね……ふふふふふ」


空に、地上に、魔法少女達の悲鳴が響き渡る。絶体絶命の窮地に陥った、ブルーバード小隊の運命やいかに…?

544名無しさん:2019/07/15(月) 21:54:08 ID:???
「グヒヒヒ……そんなオモチャで抵抗した所デ、痛くも痒くもなイ……」
(ギリギリギリッ………ギリギリギリ……ごき!!)
「あっ………っぐ……フウ、コ…………っがあ!!」

「このまま。踊り食イしてやろう……ヒヒヒヒ」
(ミシミシミシミシ………ミシミシッ……ばきっ!!)
「おごっ………カリン……ちゃ………んあああっ!!」

ダークゴーレムの手に捕らえられ、圧倒的な力で締め付けられていたカリンとフウコの身体に、ついに限界が訪れた。
ゴーレムが大きく口を開けると、そこから長大な舌が伸びて二人の脚にまとわりついて唾液を塗りたくる。

「っぐ……や、やめろぉっ……そんなとこ、舌入れちゃ……ふあぅっ…!!」
「い、いやっ……いやぁっ……そこ、舐めないで……ひ、あんっ!!」
生理的嫌悪感に、カリンとフウコは弱々しく足をばたつかせる。
だがダークゴーレムはそんな儚い抵抗など意にも介さず、獲物を掴んだ手を放す。
カリンとフウコの身体は重力に任せて落下していく。真下には大きく開かれたゴーレムの口……

(も、もう……)(だめっ……!)

だが、その時。
ゴーレムの頭上よりさらに上、遥か上空から凄まじいスピードで回転きり揉み急降下してくる一つの影があった。
「極光+私流、緊急発動奥義!!……瑠奈ちゃんメテオドリルキィィィィック!!」
(………ドゴオッ!!)
「ゴガアアッ!!?」

はるか上空の箒から回転しながら落下する事によって、空気抵抗を極限まで減らして落下速度を上げたり、命中時の威力貫通力を爆上げしたりする、とてもすごい飛び蹴りがダークゴーレムの顔面に炸裂する!!

(ギュルルルルルッ!!……ミシッ!!バキバキバキバキ!!)
既に名前言っちゃってるけど謎の人影の放ったドリルキックは、そのままダークゴーレムの身体を真っ二つに縦断。
カリンとフウコの魔法を全く受け付けなかった漆黒の巨体は、圧倒的破壊力を持つ物理攻撃によって一瞬にして半壊した。

「はぁっ……はぁっ……あ、あなたは……」
「る……瑠奈…さ、ん……!」
「カリンにフウコ、久しぶり!……なんとか間に合ってみたいで良かったわ」

545名無しさん:2019/07/15(月) 21:55:28 ID:???
(さわさわ……ずぞぞぞっ……)
「い、いやあっ……やめてくださ……ひっ!!」
「クヒヒヒ……いいねぇ〜。さすがJS、初々しい反応しやがるぜ」
「すーはーすーはーくんかくんかぺろぺろ」

「や、めろっ……ルーフェちゃんを、放せっ……ぐ、ううっ!!」
「クスクス……だめよぉ青い子ちゃん。先約はわ・た・し♥」
「痛、っ……!!……ルーフェちゃん、カリンちゃん、フウコちゃん……」
ルーフェの幼い肢体にインプ達が群がる様を、目の前で見せつけられる水鳥。
二人は全身をダークシュライクの毒爪によって斬り刻まれ、既に抵抗する力は残されていなかった。


「ふふふふ……とってもきれいで、美味しそうな魔力の匂い……もう我慢できないわ♥」
(だ……め……わた、し……約束したのに……………の代わりに……ルミナスを…守る、って……)
黒い翼に抱き留められ、水鳥の意識が次第に薄れていく。このまま気を喪えば、魔力を残らず吸いつくされ……二度と目覚めることは無いだろう。
最期は『早贄』、おまけに死体はインプ達の玩具にされる。そしてルーフェや、他の仲間達も、同じ末路を辿る事に……

(ごめん……ごめん、みんな……ごめんなさい……お姉…ちゃ……)

「……スターライト!!」
(……ズドドドドドドドッ!!)
「「グギイイイッ!!」「ッギアアアアアアッ!!」」

……その時。無数の光弾が黒い空を走り、ルーフェに群がる小悪魔たちを一瞬にして殲滅した。

「なっ!?何よこの光……っぐああ!!」
どこからか飛んできた無数の光弾は、水鳥を捕らえていたダークシュライクにも光弾が直撃。

(…この、光……もしかして……ううん、間違いない…)

魔物から解放された水鳥の体は、淡い青色の光ともに変身が解けていく。だが、地面に落下するその前に……
懐かしい、柔らかい感触に、抱き留められた。

「遅くなってごめんね、水鳥………ルーフェちゃんも、大丈夫?」
「は……はいっ!私は平気です……水鳥ちゃんっ、しっかりして…!」
「ギ、ィィィッ!!……な……何よ、アンタ……私のエモノを、よくもっ!!」

「ゆ……めじゃ……ないよね………」

水鳥を助けたのは、金色の光を纏った魔法少女。長い黒髪、鏡の盾、光の剣。
あの悪夢のようなトーメント侵攻戦の後、ずっとずっと会えずにいた……水鳥にとって、世界で一番大切な、たった一人の姉。

「……お姉ちゃん……!!」
「ふふふ………水鳥は、相変わらず泣き虫ねえ。
……もうちょっとだけ待ってて。あいつをパパっと片付けて来ちゃうから」

「パパっと片付けるだぁ?…ふざけるな……殺してやるっ……コロスコロスコロスッ!!」
「お、お姉ちゃん……」「気を付けてください、鏡花さん…あの魔物、とんでもなく強くて……」

「そうみたいね。でも大丈夫……お姉ちゃんに、どーんと任せなさい!」

546>>539から:2019/07/15(月) 22:56:25 ID:???
「ねぇねぇルーアちゃん、ルーアちゃんも臨海学校のプリント貰った?」

「当たり前です……臨海学校は毎年、高等部と初等科の合同です……」

「楽しみだね〜!今度一緒に水着買いに行こうよ〜!」

「……気を引き締める、です……戦況によっては、臨海学校が中止になっても、おかしくない、です」

すっかり浮かれ気分のミライに対し、釘を刺すルーア。そう、海の日IFはあるかもしれないし、ないかもしれないのだ。

「そんなことより、特訓です……時間はあんまりないです、ビシビシ行くです……ウチは人に教えたことはないですから、ひたすら実戦式になると思うです」

「う、うん、よろしくお願いします!」

ルーアの言葉で本来の目的を思い出したミライは、慌てて練習用の杖を構える。
同じく杖を構えたルーアが、ミライと打ち合おうとした瞬間……


ギュウゥウウイイイイイイン!!ベベベンベベン!!!

「わ、わわ!?な、何の音〜!?」

突然、周囲に爆音が響いた。今まさに打ち合おうとしていたミライとルーアも、思わず動きを止めてしまう。

「……うるさいです……」

「ちょ、ちょっと見てくるね〜!」

ミライとルーアが爆音の元に近づいていくと……和服を崩して着込んで右肩を露出させている少女が、琵琶を激しく掻き鳴らしていた。

少女が音に合わせて頭を激しく振る度に、少女の白髪とピアスも激しく揺れている。

「ヘイヘイヘイフゥウウウウ!!スズ・ユウヒなんてぶっ飛ばせ〜!イェエエエエエエ!!」

「あ、あのー、ちょっとうるさいんですけど〜」

「あたしゃミツルギのビワリスト〜!!!兄の形見の琵琶背負い〜!!今日も今日とて仇探す〜!!」

「……ダメです、完全に自分の世界に入っちゃってるです」

「あの〜!!すいませ〜ん!!」

「……ん?誰だあんたら!!!?」


ミライが限界まで声を張って呼びかけると、少女はようやくミライとルーアの存在に気づいたようで、琵琶を鳴らすのを止めた。

「えーと、ちょっとうるさいんですけど〜」

「え、アタシが誰かって!?アタシの名前はオト・タチバナ!!!ミツルギの音の忍び一族!!!!タチバナ家の当主!!!」

「…………うるさい、です……全然、忍んでないです……ていうか名前なんて聞いてないです……」

「用事があってルネまで来たんだが!!!まだ時間に余裕があったから!!!暇を潰してたんだ!!!」

「……もしかしなくても、ヴェンデッタ小隊の関係者です……?」

「オトって名前嫌いだから、あくまであだ名っぽくオトちゃんって呼んでくれ!!!」

「やっぱり話が全然通じてないです……ていうかその拘りは意味があるです……?」

「えっと、オトちゃん!ちょっとその楽器の音が気になっちゃうから、もう少し静かに……」

「オーケーオーケー!!!こんなに掻き鳴らしたら琵琶が傷つくっていうんだろ!?アタシのは特別製だから心配すんな!!」

「……ど、どうしようルーアちゃん、何だか同じことしか言わないゲームのキャラにずっと話しかけてる気分だよぉ……!」

暖簾に腕押しどころではないオトの反応に完全に困ったミライは、結局ルーアに判断を任せた。

「……彼女は放っておいて、場所を変えるです……多分私たちがいなくなっても、あの人は気にしないと思うです……」

「そ、それもそうだね……えっと、失礼しまーす……」

「そもそもアタシはメジャーデビューしてないから、スズ・ユウヒをライバル視してもしょうがないんだけどな!!ハハハハハ!!」

「……もし彼女が本当にヴェンデッタの関係者なら、今から気が重いです……」

547名無しさん:2019/07/17(水) 00:15:24 ID:???
ナルビア首都、オメガ・ネットの真ん中に聳えるオメガタワーの最上階会議室。
窓はなく、外を見下ろすことも出来ない外界から遮断されたかのような物々しい円卓会議場に、4大国の主要人物たちが一同に会していた。

「まずはこのオメガタワーまで、よくお越しいただいた。私がナルビア軍最高司令官、レオナルド・フォン・ド・ナルビアだ。此度の4大国同盟について、この会議をもって本格的に始まるといってもいい。私を含め各国とも自国のことはさておき、トーメント王国打倒という主目的を達成するための議論に終始するよう、気をつけようじゃないか。」

会議の始まりを告げたのはナルビア軍総帥のレオナルド。その傍らには大きな演算機とフィルターのかかったモニターが鎮座している。

「ふん、だったら堅苦しいのはなしにしようぜ。腹割って話し合いたいなら気楽にやんなきゃダメだ。……てかこうして見るとレオナルドのおっさんだけ、年の差すごいんだな。」

口を挟んだのはテンジョウ・ミツルギ。14歳にして忍大国ミツルギの皇帝であり、型にはまった会議などは嫌いなざっくばらんとした性格である。
傍らには燕尾服を着たローレンハインが立っており、テンジョウを優しく見守っている。

「テンジョウの態度は気に食わぬが、意見自体にはわらわも賛成じゃな。この際もう顔色を伺いあう必要もないじゃろ。どうやってトーメントを落とすか……話し合う内容は結局それだけじゃからな。」

黒いワンピースに赤の長髪のリムリット・シュメッターリング・ルナ・ルミナス。若干8歳にして魔法少女ルミナスの名を冠する魔法少女である。
傍らには政務にいつも付き添っているウィチル・シグナスが目を光らせていた。
8歳の少女が長というだけで、他国に舐められるわけにはいかないのだ。

「そうですね。今までこんなことはありませんでしたし、団結を深める意味でも、形式ばったものは極力控えて進めましょう。ここにいる全員、これからは仲間なのですから。」

落ち着いた声で場を制したのはリリス・ジークリット・フォン・シーヴァリア。この中では一番国の主としての歴は短いが、クーデター以降の彼女が指導するシーヴァリアの発展力は目を見張るものがある。
連れているのは白銀の鎧をまとった白騎士。シーヴァリアでは黒の鎧が男性、白の鎧が女性なので、女性であることがわかる。
白騎士は一言も発することもなく、静かに立っていた。



「では各々、忌憚のない意見を頼む。まずは戦いの舞台となる場所だ。トーメント王国を強襲したいのは山々だが、敵もそう馬鹿ではない。大規模な戦いに控えて着々と準備を進めていることだろう。故に、いくら頭数が揃ってはいても正面突破は難しいと考えるべきだ。」

「かったるいなー……じゃあゲリラ戦でもしようってのか?俺たちは全然いいけど、女の子だらけの魔法少女やそっちの鉄くずどもは、長期戦だと整備不良だのホームシックだの起こすんじゃねえの?」

「女だからといって我がルミナスの魔法少女たちを馬鹿にするな。みな国を守るために今この時も必死で戦っておる。ルミナスは今穏やかとはいえぬ状況じゃからなぁ……」

フースーヤの起こした禁呪の影響が続いている中、連日戦っている魔法少女たち。
日に日に魔物たちの勢いは落ちているが、それでも被害は小さくはない。
そんな状況の中でも、この4大国の中で1番トーメントに搾取されてきたルミナスは、この千載一遇の戦いに参加しないわけにはいかなかった。

「……それぞれの国で大隊を編成し、敵の主力戦力を分散させるべきです。トーメント王国軍の脅威は何と言っても、凶暴極まりない魔物兵たち……まともにぶつかっても勝てないなら、それぞれの大隊が地の利や連携を駆使して争う他ありません。」

「うむ。アレイ草原、ゼルタ山地、ヴァーグ湿地帯、リケット渓谷……トーメントを囲むこれらを落とせば、王都を責めることも夢ではないだろう。」

「ちょうど4つじゃな。ならばそれぞれの国で1つ請負えばよかろう。ルミナスは渓谷を責めさせてもらう。空中戦は魔法少女の十八番じゃからな。」

「ならミツルギはアレイ草原かな。ちょうど雨季に入る時期だし、雨の中なら闇討ちも容易だ。あそこは雨季だと地形もかなり変わるし、トーメント側も地の利を把握しきれねえだろ。それに……たとえ正面衝突になっても上等だ。思いっきり喧嘩してやる。」

「ではシーヴァリアは、ヴァーグ湿地帯から進軍します。周辺地域の中で一番危険を伴うと思われますが、聖光騎士団の名にかけて、陣形を乱さず突破してみせます……!」

「ならばナルビアはゼルタ山地だな。あの程度の山岳であれば我が国の装輪車両も航空ヘリも問題なく走破、制空可能だ。……うむ、これでひとまずまとまったな。」

雨季の草原、山岳地帯、湿地帯、渓谷……各国の大隊の主戦場が、ついに決まったのだった。

548名無しさん:2019/07/17(水) 00:16:31 ID:???
「そして、遊撃隊となるヴェンデッタ小隊だが……私から1つ提案させていただきたい。」

レオナルドが傍らのコンピュータになにやら文字を打ち込みつつ、会議室前方の巨大モニターに画面を映した。
画面には大勢の男女の顔写真、プロフィールなどの個人情報と、所属予定部隊が色分けされている。

「……この人たちが、例の……」

「今映している者たちが、各国混成部隊であるヴェンデッタ小隊の戦闘員だ。類稀なる実力者ではあるが、戦闘技能、性格、経歴etc……様々な要因で団体行動には向かない。そんな者たちの寄せ集め部隊だ。」

「ミツルギにはそういうの多いからなー。結構割り当てさせてもらったぜ。ルミナスの女の子たちにセクハラしたらホント申し訳ないけどな。」

「ぬうぅ……ルミナスからはその才能故に優秀すぎる者たちを配属させておいた。邪魔をしたりセクハラするなら痛い目を見るのはそっちじゃからなぁ!」

「……それで、レオナルドさんの提案とは?」

自国から割り当てた者たちに視線を向けながら、リリスが尋ねた。



「皆知っての通り、ヴェンデッタ小隊に配属される者は一癖も二癖もある実力者たちだ。さながらそれは凶暴な猟犬とも言える……チームワークに難が出ることや、監視を逃れて逃げ出したり命令に背いたりするような輩も出てくるだろう。そこで、小隊に1人隊長ともいうべき存在……管理官、或いは監視官といったほうが正しいかもしれないが……それを割り当てることで、作戦行動中の4人の監視、連携をサポートさせる役割を与えたい。」

「なるほど……言い方は悪いですが、手綱を握る者がいるのといないのでは戦場での連携に大きな差が出ますからね。」

「……とはいえ、リーダーシップがないとだめじゃろ。そういう人員はなんといっても貴重じゃからなぁ……どう動くかも予想できない遊撃隊の方に回したくないというのが本音じゃが。」

「俺んとこもなぁ。いるにはいるかもしんないけど……そういうのはシーヴァリアの聖騎士様たちの方が性に合ってるんじゃね?」

「……リリス姫、頼めるかな?」

「も、もちろんです!シーヴァリア騎士の根底にあるのは仲間を重んじる心です!任せてください!」

「ヒュー♪頼もしいねえシーヴァリアのお姫様は。お子様ランチ食べてそうなどっかのおチビちゃんとは大違いだな。」

「んあああああ!!!わらわの今日のランチはがっつりカツ丼じゃぞ!お子様ランチなぞとっくの一年前に卒業してるんじゃあぁ!」

統率力には秀でているシーヴァリアの騎士たちなら適任だろう。
リリスは騒ぎ始めたテンジョウとリムリットを制して、可能な限りの協力を快く承諾した。

(それに……異世界人の篠原唯ちゃん。なんらかの形でこの戦いにはどうしても出たいって言ってたし、あの子なら……どんな人とも肩を並べて戦えるはず……!)

549>>545から:2019/07/20(土) 13:41:01 ID:???
「誰だか知らないけど……この空中で、アタシに勝てると思うなっ!!」
ダークシュライクは目を血走らせながら、恐るべき速度で鏡花に飛び掛かる。

「二人とも、目を閉じてて……『シャイニングフラッシュ』!!」
「ぐおっ!?」
対する鏡花は、真正面から突っ込んできた敵にカウンターで魔法を浴びせた。

直接的な攻撃力は無いが、全方位に強力な閃光を浴びせる、初級魔法……
だが、怒りに任せて一直線に向かって来たダークシュライクには、効果覿面。

「空中戦で張り合うつもりは無いわ。私も、速さにそんなに自信ある方じゃないし」
「目がっ……あ、アタシの目がァァァ!!」

「それに……怒りで冷静さを失うと、大抵ロクな事にならないわ。やるなら、こうやらなきゃ」
「うるさい、黙れ、金ピカ野郎が……どこ、だっ……えっ……!?」

目の見えないダークシュライクは、頭上で強大な魔力を感じた。
それは、言うまでもなく鏡花の、最大最強の必殺魔法……

「シャイニング・バーストッ!!」
(………ズドオオオオンッ!!)
「っぐああああああああッッ!!」

「……妹と、妹のお友達を痛めつけてくれたお礼よ。お釣りはいらないわ」
(お、お姉さん……強い……それに、ちょっと……こわい)
凄まじい威力の攻撃魔法を放ち、にっこりと微笑む鏡花。
その横顔に、なんだかルーフェは背筋が寒くなるのを感じたのであった。

………

かくして、瑠奈と鏡花は、水鳥達ブルーバード小隊と共にムーンライトの王城に帰還した。
「瘴気に汚染された土地を浄化し」
「一日女王代理ってわけか……リムリットと違って、女王っぽさがまるでないわね」

「……鏡花。そして瑠奈……よくぞ戻った!……って言いたい所だけど……
ちょうど今、リムとウィチルは出かけてるんだ」
「ふふふ……良い機会だから、少しは女王らしくする練習したら?」
「ぐぬぬ」
……それを出迎えたのは、女王留守中の代理を務めるヒカリ。
居心地悪そうに玉座に座っている様子に、鏡花は思わず吹き出しそうになる。

「それにしても、城の中がずいぶんガランとしてるわね……悪い時にお邪魔したかしら」
横に居た瑠奈が、さっきから感じていた違和感を口にした。
リムリットとウィチルだけでなく、ココアやライカ、他の魔法少女もほとんどいない。
……事情は既に水鳥達から聞いていたが、ルミナス国内の瘴気汚染は思った以上に深刻なようだ。

「まあ……今はこれでもだいぶ落ち着いた方だよ。
シーヴァリアの騎士に協力してもらって、初期対応が迅速だったしね」
「それがなかったら、今よりヤバかったって事か……まったく、トーメントの奴ら許せないわ!」

「西側の海岸地帯なんかは今度シーヴァリアの聖騎士養成学校が臨海学校に来るらしいから、特に念入りに浄化したよ!
うっかりその辺の洞窟に迷い込んだら瘴気汚染されてました触手どばー、とか絶対に絶対にないからね!」
「……誰に何の念押ししてるの?」
海鮮丼の仕込みも忘れない。

「それより、瑠奈……君宛に、ライカから手紙を預かってる。……たぶん修行の件だと思うけど」
「!……ライカさんから!?」
ヒカリから手紙を受け取る瑠奈。そこに書かれた内容とは、果たして……?

550名無しさん:2019/07/27(土) 14:49:15 ID:???
「瑠奈へ。

おかえり。
まずは無事にルミナスに帰って来てくれて何よりだ。
唯や鏡花も元気だと聞いて安心している。

既に聞いてると思うが、ルミナスは今いろいろとバタついていて、あたし自身も「掃除」で国内を跳び回っている状態だ。
すまんが修行をつけてやる時間は取れそうにない……

だが水着回(※前スレ>>472)での戦いを見る限り、あたしが直接教えるよりも実戦で鍛えた方が身になりやすいだろう。
というわけで、国内の魔物の掃討を手伝ってくれるとありがたい。」

「ふむふむ………ちょっと待って。魔物退治は、私も手伝うつもりでいたから良いんだけど……
あの水着回の戦いって、ライカさんも観てたの!?」
「まあ、全国放映されてたからな」
「ええええ!?じゃあ……私の、あの……水着姿も……?」
「そりゃもうバッチリ。……鏡花はすげえセンスしてるなと思ったよ」
「違うから!!私のセンスじゃないから!!」

あの後もう一回ぷち水着回シーズンがあって、今もまた水着回をやってたりするが……経過した年月について考えたら負けである。

「そ、それはともかく……まだ続きがあるわね」

「とは言え、師匠っぽい事も少しはしとかないとな。てことで修行のヒントをいくつか。

・お前がルミナスで修行する目的は、たぶん最終奥義である「竜殺し」の習得にあると思うが……
 こればっかりは口で教えられるもんじゃない。
 というのも、そもそもこの技には決まった型というのが無い。

・己の鍛え上げた技と力を瞬時に解放して敵にぶつける。
 最も効率的なやり方を、自分なりに考えて編み出せ。
 それが出来たら、免許皆伝。お前に教えられることは何もない、ってやつだ。

・ちなみに、『火蜥蜴の爪』は様々な属性魔法を拳脚に乗せる技。
 炎だけじゃなく、色々な属性を覚えておけば、戦術の幅も広がるから覚えておくといい。
 行く先々で魔法少女に各種属性のコツを教わるといいだろう。

・あと、いーかげん虫嫌いは克服しとけw」

「うーん。自分なりのやり方か……よーし、早速魔物退治に行ってくるわ!」
「最後の行から露骨に目を反らしてるな」

……こうして、ブルーバード小隊の面々と共に魔物退治に参加する事になった瑠奈。
実戦の中で、瑠奈は更なる強さを手に入れることは出来るのか。
それとも、IF展開の餌食となってしまうのか。


「それなら、私も一緒に行っていいかしら。水鳥がどのくらい強くなったのか見たいし……」
「いや……悪いけど、鏡花は私と一緒に来てほしい。……セイクリッド・ストーンの所へ」

そして鏡花も、ヒカリに連れられて修行の場へと向かう。
ルミナスの王城地下に安置された魔石、セイクリッド・ストーン。
そこには、待ち受けているものは、一体……

551名無しさん:2019/07/27(土) 23:12:12 ID:lwvhK.zM
「セイクリッド・ストーンの力を受信するためのセイクリッド・ダークネスは、奪われたままだ……以前の侵攻では使われなかったが、きっと次の戦争では、聖石の力が私たちに牙を剥いてくる」

ルミナスの地下……セイクリッド・ストーンの安置されている秘密の部屋で、ヒカリは聖石を眺めながら、鏡花に語りかける。

「そんな……」

「ノワール辺りが聖石の力を使ったら脅威だ……或いは、フウヤの奴もか……」

「え、フウヤ君……?ヒカリ、どういうこと!?」

「そうか、鏡花は知らないのか……鏡花、あいつは……」

ヒカリは鏡花に、フウヤがトーメントに寝返り、王下十輝星デネブとなってしまったことを話した。

「そんな、フウヤ君が……!」

「フウコはあいつを説得するつもりだが……正直、望みはかなり薄い……アイツはガチだ……シアナ君やアトラ君にあった可愛げっつーか、根は良い奴感が全然なかった」

「……フウコが、戦争でフウヤ君と出会わないことを祈るしかないわね」

以前王城で自分を痛めつけてきた仮面の少年の正体が、友人の弟だったことを知った鏡花は、複雑そうな表情で呟く。

「……問題は山積みだ。だから私も、もっと強くならなきゃならない……鏡花、私はこれから、セイクリッド・ストーンの魔力を直に浴びる」

「なっ……!?ヒカリ、それは無謀よ!!中和しないと、その強力過ぎる魔力は人の身には……!」

「……聖石の魔力を直接浴びたら危ないっていうのは、嫌というほど身に染みてるよ」

ヒカリはかつて、トーメント・クリスタルの力をその身に受け、記憶を失い、エスカとして生きていたことがある。
故に、強力過ぎる魔力を直接浴びる危険を身をもって知っている。
ヒカリがルミナスに戻ってきた直後に聖石の魔力で記憶の治療を試みた際も、ウィチルがかなり慎重に行っていた。聖石の魔力はいわば劇薬だ。伝説の帽子を通すか、厳重な設備で中和しないと、危険過ぎるのだ。

「だったら……!」

「だからこそ、私はやらなきゃいけない……エスカとしての過去と決着をつける為にも……ノワールやフウヤに負けない為にも……」

『記憶が戻らないのは、エスカさん自身がそれを望んでいないからじゃありませんか……?もしも記憶が戻ったら、また立派な4代目女王を演じなければならなくなるから……』


(……あの時、フウヤに言い返せなかった……記憶だって、まだ完全に戻ったわけじゃない……鏡花との思い出も、なんとなくぼんやりとしか思い出せない……)

ヒカリはポケットからペンダントを取り出すと、自らの首にかける。それは、かつて人間界にいた頃に鏡花がプレゼントした、手作りの3割ペンダント。
だが、それは鏡花から聞いたから知っているだけで、その時のことを思い出しているわけではない。

「……鏡花、見守っていてくれ……私は……私は、決着を付けないといけない……戻らないままノリで生きてる記憶にも……エスカとして王に協力してた過去にも……!」


そう言いながら、ヒカリはゆっくりとセイクリッド・ストーンの表面に手を置く。すると、聖石が光輝き……ヒカリの手が、徐々に聖石の中に取り込まれていく。

聖石の中に入った箇所は、強力過ぎる魔力にあてられて激しい痛みを訴えてくる。だがヒカリはそのまま、手ををどんどん聖石の中に押し入れ……体全体をセイクリッド・ストーンの中に入れようとする。

「ぐ、ぅうあああ……!このまま謎空間の中に入って、全身に、魔力を浴びる……!記憶が戻るなりパワーアップなり……!そういう展開を期待してるよ、聖石サマ……!う、っぐうぅう!?」

552名無しさん:2019/07/28(日) 03:14:17 ID:umANCxcY
「はぁ……き、緊張するね……!」

「……そうだね。相手が相手だし……」

今は夜の9時。私はリザちゃんと一緒に、謁見室へと向かっている。
目的はもちろん、神器を使ってアイナちゃんを蘇生してもらうこと。王様の蘇生能力ではもう蘇生は叶わないみたいだから、またアイナちゃんの笑顔を見るためにはどうしても神器を使わせてもらう必要がある。
王様には晩御飯の後に、私から話したいことがあると言って呼び出してある。去り際にお尻を触られたけど、もうそんなセクハラは慣れちゃった。
ここでの暮らしにもかなり慣れてきちゃったんだなぁ……

「……王様が私たちに手を出してくることはたぶんないと思うけど……話の雲行きが怪しくなったら、エミリアは部屋を出てね。」

「リザちゃん!私はリザちゃんを置いて行ったりしないよ!もう……そんなこと言わないでよ……」

「………………………………」

私も含め大抵の人は、友達っていうのは気の置けない関係のことを言うと思う。
けど、リザちゃんはそうじゃないみたい。
相手のことを考えるあまり、こうして自分を傷つけてしまうのだ。多分だけど、シアナくんとの喧嘩もリザちゃんのこういう性格が原因なんだと思う。
でもアイナちゃんには、あんまり気を使ってるようには見えなかった。
……まあ2人は付き合いも長いし、多少雑に扱っても良さそうなタイプだったから、やっぱりリザちゃんとアイナちゃんはそれだけ相性がよかったっていうことなのかな……
あ、そんなことより。

「ねぇリザちゃん……肉つきの面ってお話、知ってる?」

「え?知らないけど……」

「ガラドにある古いお話なんだけどね。軽く話すと……昔々あるところに、小さな集落の中でお付き合いしている男女がいました。その2人は仲睦まじく愛し合っていて、毎日が幸せでした。」

「エ、エミリア……怖い話じゃないよね……?」

リザちゃんが不安そうな目になって私の腕をぎゅっと掴んだ。
あれ?ライラの森の時は私や水鳥ちゃんと違って薄暗い森の中でも凛としてたのに……
もしかして、お化けとかそういう系が苦手だったりするのかな?それとも怪談が苦手なだけかなぁ。
いつもクールで影のあるリザちゃんの女の子らしい反応に、私はきゅんきゅんしてしまった。

「ふふ、怖い話じゃないから大丈夫だよ、リザちゃん。続きを言うね……2人仲良く幸せな日々を送る夫婦。そろそろ結婚も考えはじめて、共に暮らす未来を語り合う2人はとても幸せそう。……でも、そんな2人を恨めしい目で見つめる老婆がいました。それは……男の人の母親です。」

「……?なんで母親が……」

「母親はね……息子のことが大好きだったの。だから息子が他人の女の人とイチャイチャするのが恨めしかった。親バカが行き過ぎてるっていうのかなぁ。……そしていつしか母親は2人の中を引き裂こうと思い、ある作戦を敢行することにしました。」

553名無しさん:2019/07/28(日) 03:18:09 ID:umANCxcY
「その作戦とは、彼女に会いに行く息子の前に、恐ろしい形相の般若の面を付けて現れ驚かすことでした。」

「……遊ぶ前にそういう変なこと起こるの、地味に嫌かもね。」

「私だったらデートなんかする気分じゃなくなるかもね……で、母親は彼女に会いに行く途中の林道で、息子をびっくりさせることに大成功しました。突然般若の面で驚かされた息子は、鬼が出たー!と叫んで、急いで自分の家へと帰りました。」

「……つまり、母親は自宅で息子と過ごす時間が欲しくて、マッチポンプを仕掛けたと。」

「まっちぽんぷ……?」

「あ……ごめん。続けていいよ。」

リザちゃんか横文字を使って考察した。私の話をちゃんと聞いてくれてるんだね。
最近ちゃんと話せてなかったから、そういう反応が地味に嬉しい。
私は頭が悪いから言葉の意味は分からなかったけど……

「でね、ドッキリ大成功した老婆は早速面を外して息子を慰めに行こうとしたの。だけど……お面が外れないの。さっき顔に自分ではめたお面が、まるで顔にくっついたように外れない。力尽くで外そうとしても、自分の顔の皮膚が引っ張られてすごく痛いの。木に叩きつけても、いくら叩いても、面を割ることすらできない。外すことも割ることもできない面の中で、老婆は焦ったの。自分は呪われてしまったのか、一生このまま外れないのか……って。」

「………………………………」

「燃えるような怒りの形相の中で、老婆はぐぢゅぐぢゅに泣き腫らしていました。面が取れないから、鼻もかめない涙も拭けない。こんな顔を大好きな息子に見せたくないし、村のみんなが見たらなんて言うか。その面は呪われてると言われて、有無を言わさず殺されてしまうかもしれない。……老婆は家にも帰れず、森を彷徨いました。」

「……ちょっと可愛そう、だね……」

「その夜、家に帰ってこない母親を心配した息子は、森の中を仲間たちと探し回ったの。しばらく森の奥に進むと、悲しそうなくぐもった嗚咽が聞こえてきて……声の主の元に行くと、面をつけた母親が座り込んで泣いていた。息子の顔を見た母親はわぁっと泣き出して、これはお前にひどいことをした罰だ、許してくれって、自分がしたことを息子に懺悔したの。」

「……幸せそうな息子を呪う気持ちがこんな呪いを起こしたってこと……かなぁ。」

「……そして息子は、そんな状態の母をお寺の人に見てもらったの。たいそう反省した様子の老婆を見たお寺の人は熱心にお経を唱えました。そのお経を聞きながら老婆は自分の嫉妬に塗れた心を反省しました。そうしていると……あれだけ手を尽くしてもとれなかったお面が、するんっと顔から外れたのです。息子も老婆も、大喜びしました。」

「……息子は別にお母さんのこと嫌いになってたわけじゃないもんね。」

「うん……その後、反省した老婆は息子の彼女さんとも仲良くなることができ、3人は幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし……」



もうすぐ謁見室に着く。リザちゃんは私の話を聞いてくれたけど、腑に落ちないようだ。

「……これって、どういう話なの?」

「私がこの話を通して聞かされたのは、息子や娘の恋愛を親が勝手に邪魔をするな、とか、嫉妬は醜い感情とか、そんな感じのことなんだけど……私は違う解釈もできると思ってる。」

「……違う解釈……?」

「なんていうのかなぁ……老婆は感情を優先するあまり、視野が狭くなっちゃったんだよね。これは面をつけるっていう動作からも分かる通り、物事に対する視野を狭めてしまうと、よくないことが降りかかるっていうか……うーん……」

なんとなくこの感じは、今のリザちゃんに当てはまる気がする。
だからこそ今この話をしたんだけど……私は頭が良くないから上手く説明できないや。

「……エミリアの言いたいこと、なんとなくだけどわかったよ。なんとなくだけど……」
「さすがリザちゃん!なんとなくでもわかってくれたら嬉しいよ。……いつでも頼ってね、リザちゃん。」

リザちゃんは頭がいいから、察してくれたみたい。
そんなことを話してる間に、謁見室の前に着いた。

554名無しさん:2019/07/28(日) 19:47:41 ID:umANCxcY
エミリアにしてはなんだか難しい話をするなぁと思ったけれど、エミリアなりに私のことを心配しているのだろう。
肉付きの面……自分の感情を優先し、視野が狭まった老婆に訪れた奇妙な呪い。
エミリアの言う通りいろいろな解釈ができる話だとは思う。
今の私が勝手に自己解釈するなら、今の私もこの老婆と同じ……自分の感情を抑えられないあまりに、呪われているとでもエミリアは言いたいのだろうか。
確かに、自分の状況を思い返すとわからない話ではないけど……
いつでも頼ってね、と言ってくれたエミリアの顔は、先程の泣き顔とは対象的な笑顔だった。



コンコン。
「王様、失礼します。」
「おー。入っていいぞお。」

エミリアとともに謁見室の前についた私は、モンスターの触手を模した刺々しい取っ手に手をかけ扉を開く。
謁見室の中ではテーブルの前の豪奢な椅子に座った王様が、食後のスイーツを食べていた。

「お前らも食っていいぞ。どーせエミリアちゃんはガッチガチに緊張してるんだろ?甘いものでも食べて落ち着くといいさ。」
「あ、じゃあいただいちゃおうかな……ちょっとお腹すいてて。」

正直なエミリアは長テーブルに乗せられたお菓子をひょいっと取ってぱくりと食べた。
緊張するって言ってた割に結構呑気……天然なエミリアらしいけど。

「リザ、お前も少しは食えよ。まさかダイエットとかじゃないだろ?少しは食って太れ。エミリアちゃんくらいの肉付きの方が全然男にモテるんだからな。」
「ちょ、王様!それって暗に私が太ってるって言いたいんですか!ひどい!」
「え、俺様はそんなこと言ってないだろ!?エミリアちゃんくらい食べないと育つべきところが育たないって言ってるだけだ!」
「育つべきところ?それってどこですか?」
「それはもちろんおっp」
「王様。話をしてもいいですか。」

ふざけ始めた二人を強引に制して、王様の体をこちらに向けさせた。

555名無しさん:2019/07/28(日) 19:48:56 ID:umANCxcY
「……単刀直入に言います。ミツルギの神器を使って、アイナを復活させてください。」
「あーん?口酸っぱく言ってあるだルルォ?お前ら十輝星を蘇生させることはないってな。お前らに常に緊張感持ってもらうために、そういうことはしないんだよ。」
「で、でも王様……!アイナちゃんは任務に失敗したわけではありません!落盤から私を守って死んでしまったんです!アイナちゃんは狂戦士になった竜殺しのダンを無力化できるくらい、強い子なんです!」
「どうせ理性をなくしたおっさんがエミリアちゃんを犯してるところを不意打ちしただけだろ?あいつは十輝星の中でも最弱。リザとドロシーを入れてやるついでによしみで入れてやっただけだ。あいつがいなくなって困ることなんて、賑やかしが一人減っただけだろ。戦力的には問題ない。」

思ったよりも王様からのアイナの評価は低かった。
確かにアイナは戦闘能力では最弱かもしれないが、作戦立案は積極的にできるし意外に頭も回る。
そういうのは私達の中ではシアナが担当してると思われがちだけど、シアナはアイナと二人で作戦を煮詰めることも多かった。
王様の言うとおり会議とかでは賑やかしで何も考えてなさそうに見えるけど、本当にその一部分しか王様には見えていなかったのか……

「……王様。確かにアイナの戦闘力は他の十輝星に比べて低いかもしれません。ですが十輝星にはそれぞれ役割というものがあります。アイナはどちらかといえば戦闘よりも潜入や作戦立案を担当していました。アイベルトやロゼッタのような戦闘要員が活躍するためには、彼女のような存在も必要であると思います。これから五カ国を巻き込む戦争も始まります。今まで活躍していた人員が一人欠けた状態では、作戦行動に不安が残ります。十輝星のチームワークを万全にするためにも……どうか、考え直していただけませんか。」
「リ、リザちゃん……!はっ!そうです!リザちゃんの言うとおりですっ!アイナちゃんはトーメントの繁栄に必要な人なんですっ!」

エミリアも意見を後押ししてくれる。トーメントの繁栄なんてエミリアにとってはどうでもいいことのはずなのに、私とアイナのためにそう言ってくれることが嬉しい。
王様は頬杖をついてうーんと唸ってから、ふうと息をついた。



「ほーん…そこまで言うなら仕方ないなぁ。アイナを生き返らせてやるか。」

え……?

「リザも色々あって大変だもんな。友達までいなくなったら可愛そうだもんな。うんうん。わかったよ!アイナを生き返らせてやる!」
「や……や……やったあぁぁー!あっあっありがとうございます王様ぁ……うう、ぐすっ……!」
「はっはっは!エミリアちゃんがもう泣き始めたな。お前も嬉しいなら泣いていいぞ、リザ。俺様の前だからって遠慮するな遠慮するな!」
「……………………………」

……違う。
王様がこんな簡単に私の言うことを聞いてくれるわけがない。
また泣き出したエミリアの声を聞きながら、私は後に続くであろう王様の二の句を待った。



「その代わり……リザ。お前俺様に奉仕しろ。手始めにフェラな。ほらこっちこい。」

「………………………………………」

王様は、こういう人だ。

556名無しさん:2019/07/28(日) 19:50:20 ID:???
「えっ……フェラ……って……?」
「んん?そういう知識に疎いエミリアちゃんは知らないか?こりゃいい機会だ!エミリアちゃんの知識を深めるためにも、リザに実演してもらおうじゃないか!」

王様はそんなことを言いながら、自分の座っている椅子を動かしてエミリアの前に座り直した。

「さ!エミリアちゃんもこれならよく見えるだろ。リザ、全部お前がやるんだぞ。俺様のところに来てやるべきことをやれ。……まさかお前まで知らないわけはないよなぁ?」
「……………………………」

言葉が出てこない。
さっきまで説得のための言葉をべらべらと吐いていた口が、重りを乗せられたかのように開かなくなってしまった。
足も……口と同じ重りが乗っかっているみたいに重くて動かせない。

「どうした?また会議のときみたくリザちゃん人形になっちゃったのか?さっさと来い。またアイナに会いたいんだろ?」
「……………………………」
「ち、ちょっと待ってください!リザちゃんに酷いことをするつもりですか!?」
「嫌だなぁエミリアちゃん。そんなことするわけないだろ。リザは恥ずかしがってるだけさ。初めてやるときは誰でもそうなんだ。慣れれば何回でもできることだからな。」

……何回でも?
そういう知識はそんなにないけど、私が強いられている行為は恋人同士なら何回でもできることなのだろうか。
いや……そんなわけない。王様はエミリアをからかっているだけだ。
私を……試しているだけだ。

「お……やっと足が動いたな。ほうらいい子だ。こっちへおいで〜リザちゃん〜♪」
まるで猫を呼ぶかのようにカッカッカッと舌を鳴らしながら、王様は私を手招きする。
これは……本当にやらなくちゃいけないのかな。
たとえやるにしても……エミリアには見られたくない。

「王様……え、えっえっ、エミリアには」
「だめだよ。エミリアちゃんのお勉強会だぞ?俺様は堪能するから、お前がしっかり解説しながらやるんだよ。ほらあくしろよ。」
「……はぁ、はぁっ……」
「ここにきて体調が悪くなったとか言い出すなよ?お前の仮病はバレてんだ。昼間もそうやってヨハンからの命令を無視したもんなぁ?」

まずいな……これはそれの罰なのかな。
そもそもシアナにあんなこと言われなかったら、命令違反なんてしなかったのに。
座っている王様の前に立つと、いよいよ心音がうるさくなるくらいどくんどくんと胸の中で響き始めた。



……わたし、アイナのためにここまでするの?

557名無しさん:2019/07/28(日) 19:59:00 ID:???
「ほらさっさとしゃがめ。制限時間は5分な。歯があたったりアイナの蘇生はなし。一回きりの一発勝負だ。」
王様はタイマーを取り出し、5分のタイマーをセットして私に見せつけた。
……制限時間って何。
歯が当たるって何。
そもそも私がやろうとしてることって、大好きな男の人にやることじゃないの。
なんでこんな変態で、気持ち悪くて、暴力的で、最低な男にこんなことしなくちゃいけないの。
なんで私は……ずっとこんな奴の言うとおりになってるの。

「う、ぐっ……」
思考とは裏腹に、私の体はしゃがみこんで王様の腰に手をかける。
アイナのため……アイナのあの笑顔がまた見れるなら、これくらいできる。
とてつもない嫌悪感とアイナへの思いなら、どちらが勝つかは明白のはず……
頭の中のアイナへの思いが、ガチガチに固まった私の体を動かしている。

「リザちゃん…?無理してるよね?ねえ、何かはわからないけどやめようよ!王様!リザちゃんにこれ以上無理をさせないでっ!」
「いやで〜すやめませ〜ん。ほいタイマースタート!」



……アイナのためなら痛めつけられてもどんなことをされてもいい。この部屋に来るまでそう思ってた……はずだった。





「……おーいリザ?もう始まってるぞお。さっさと出すもん出させてくれよ。もう俺様はパンパンだぞ。」
「……………せん………」
「あー?なんだってー?声がちっちゃいよー!?」

「………でき……ませんっ……!」

リザは悔しさと悲しさを滲ませたか細い声を絞り出した。
やっぱりこいつにはそういうことはできないんだなあ!思ったとおりだ!

「あーはっはっ!!!そりゃあできないだろうなぁ!プライドは高いくせに臆病でチキンなお前なんかにはよぉ!」
「うあぁっ!」
「リ、リザちゃんっ!」

俺様は悪態をついてやってから、リザの体を蹴り飛ばした。

クッッッソ笑える。
そもそも俺様は女が主導権を握るフェラなんか大大大嫌いだ。そんなんでイけるわけがない。
だからもしこいつが躊躇なくしゃぶりだして5分でイかせるほどのテクニックをもっていたら、本当にアイナを蘇生させてもよかった。
ま……この子はその土俵にも立てないチキンだったけどね。
あ、可愛い子への容赦ないイラマなら大好物です。こいつにもイラマしてピーピー泣かせてやりたい。

558名無しさん:2019/07/28(日) 20:00:20 ID:???
「あーあ。せっかくアイナを蘇生するついでに、エミリアちゃんに大人の遊びを教えてやろうと思ったのに……一体何しにきたんだろうねチミは〜?俺様は真剣にアイナを蘇生させるための条件を出してやったんだよ?慈悲を与えてやったのに土壇場でできないなんて……お前はアイナのことなんか本当はどうでもいいんだよなぁ?」
「うううううううっ……!ち、違う……絶対に違うっ……!」
「リザちゃんっ……!王様、酷すぎるよ!酷いことはしないって言ったのに!!」
「はぁ?せっかくこの国で一番偉い王である俺様が時間と慈悲を与えてやったのに無下にしたのはそこで泣きそうになってる金髪碧眼美少女だルルォ!?こっちだってせっかく金髪碧眼美少女にしゃぶってもらえると思ったのにショックでかいんじゃバーカ!」

泣きそうになってるだけで泣いてはいないようだが、どうやらかなりの精神的ショックを植え付けることに成功したようだ。
そりゃあ自己嫌悪にもなるわなぁ。千載一遇のチャンスを自分の保身のために逃したんだもんなぁ。
まあこいつが上目使いしながら裏スジガン攻めバキュームでしゃぶられても耐えきる自信あるけどね。ケケケケケケケ!!

「言ったとおり、一回きりの一発勝負。まさかの!言い出しっぺの!お前が!無効にしたからこの話はなしだ。さっさと部屋に帰って寝ろ。」
「……王様……やっぱりやります。やらせてください……!」
「リザちゃん……もうやめて……」
「嫌だねぇ!!!もう王様の王様は萎え萎えなんじゃ。こういうのは気分ってもんがいちばん大事なんだ。わかったら早く寝ろ。」
「寝ません!さっきはどうかしてました。お願いです……もう一度だけ……!」
「……リザちゃん……」

こいつも相当な負けず嫌いだ。俺様に罵倒されて余計に火がついたと見える。
横にいるエミリアちゃんが若干呆れ顔になっているのは、俺様の気のせいかもしれない。
食い下がるリザは俺様の進行方向に瞬間移動して、土下座の姿勢で現れた。

「お願い……します……!」
「はぁ……本当にそう思うんなら有無を言わさず俺様のパンツを脱がしてしゃぶりつくべきだぞ?口だけでなんもしないお前にはがっかりだ。」
「……………………」
「だけどな……俺様はお前みたいな美少女相手に鬼にはなれない。別の条件を出してやる。お前の姉貴を即刻始末しろ。それができたら今度こそアイナを蘇生させてやる。……まさかできないとか言わないよな?」
「……もちろん……です。ミスト…いえ、残影のシンは……私が始末します。」
「よく言った!今度こそ頼むぞ。リザ。」

リザの言葉を聞いて安心した俺様は、土下座したままのリザとそばで寄り添うエミリアちゃんを尻目に部屋を出た。
これでいい。力を持ったアウィナイトほど厄介なものはない。俺様の手先にならないなら、さっさと死んでもらわないといけない。
勇者の一族の血を引く姉妹で結託なんかされたらなおのこと厄介だ。150年前のようなことは二度と御免だからな。
そうなるくらいなら姉妹共々、一緒に死んでくれ……ケケケケケケケケ!!!



「リザちゃん……お面……取れないね……」

559名無しさん:2019/07/31(水) 00:42:50 ID:???
扉の閉まる音がした後も、顔を上げることが出来なかった。
エミリアへの羞恥心ではない。
ついに命令されてしまったのだ。

残影のシン……たった一人のお姉ちゃんの殺害を。

命令された以上は……もうやるしかない。
やらなければ積み上げてきた私の立場も、全てを捨てて必死に守ってきたものも、なすすべなく瓦解するだけ。


それに……お姉ちゃんと私は、もう分かり合うことなんて……



「……リザちゃん……」
ゆっくりと頭を上げた私を、隣に座ったエミリアが心配そうな顔で見上げる。
「ん……ごめん、エミリア。私……」
「気にしないで。王様がさせようとしてたこと、なんとなくわかるから……いくらアイナちゃんのためとはいえ、リザちゃんにそんなことしてほしくないよ。」
「……でも……アイナに会えるチャンスだったかもしれないのに……私、なんなんだろう。なにもかも中途半端で……王様の言う通り、アイナのことなんかどうでもいいって思ってるのかな……」
「……リザちゃん。やっぱり少し休んだ方がいいよ。頑張りすぎはよくないから……ね?しばらくゆっくりしようよ。お姉さんのことも、アイナちゃんのことも、自分の重荷も忘れて……温泉とかでゆっくり過ごして、嫌なことを忘れる時間も必要だよ。私も付き合うから……ね?リザちゃん……」

エミリアがゆっくりと私を抱きしめ、耳元で優しく囁いてくれる。
昼間とは逆に、私を慰めようとしてくれてるのかな。
私には優しくされる価値なんかないのに。
私には人並みの幸せなんて得る資格ないのに。

私には……もうなんにもないのに。

「……ごめん。当分はなにをしても楽しめなさそうだから、気持ちだけ受け取るよ。もう、寝るね。」
「そんなの……そんなのだめだよっ!リザちゃん、もう壊れそうになってるもん……!お願いだから……お願いだから1人で抱え込まないで……!」
エミリアが私の体を強く抱きしめる。
エミリアの優しい香りと温かい感触が直に伝わってくる。
でも今の私は……人肌なんて求めてない。

「……離して、エミリア。もう……いいよ。」
「やだやだやだやだ!!アイナちゃんもいなくなって、リザちゃんまでおかしくなっちゃうなんてやだ!リザちゃん……だめだよぉ……!」
「…………………………………………」

……不快感を催し始めてきた。
優しさってなんだろう。思いやりの気持ちさえあれば感情の押しつけは許されるのだろうか。
そもそもこの程度で不快になる私の心が狭量なのだろうか。
今は……もう早く寝たい。寝て今日のことなんて全部忘れてしまいたい。
誰とも話したくない。誰とも関わりたくない。

「うううぅっ……あっ……!」
シフトで扉の前まで移動し、エミリアから抜け出した。
「……エミリア……エミリアには酷い言葉を言いたくない。だから……もうほっといて。」
「リザちゃん……そうやって我慢するから、辛いんだよ……?私に言いたいことははっきり言って欲しいよ……気を使い合うなんて、友達じゃないもん……」
「…………………………………………」

最近はなんとなく上手くなったように思ってた。でも……やっぱり人付き合いは苦手だ。
失いたくないなら、最初から持たなければいい。
もうドロシーもアイナもいない。
お姉ちゃんもお母さんも、きっと私のことなんか家族とすら思っていない。
エミリアも、ミライも、ヤコも、篠原唯も……なんでこんな最低な私なんかに構うんだろう。
保身のために友達を見捨てた、最低の奴に。
自己満足のために人を殺し続ける、血に塗れた暗殺者に。



「……くっ、はは……あははははははは……!」

薄暗い廊下で、自暴自棄になったノイズが響く。
私の心が、またひとつ壊れてしまった。

560名無しさん:2019/08/01(木) 01:31:14 ID:???
「はぁ……すっかり遅くなってしまいましたわ……」

修行で流した汗を拭きながら、大浴場への道を歩く。
アルフレッドとの剣の修行も最初は戸惑っていたけれど……人間は適応力が高い生き物。
割り切れたとはまだ言い難いけれど、今は同じ目標を持つ仲間になり、連日わたくしの修行に付き合ってくれている。
彼もまだわたくしに対して思うところが多いみたいだけれど、それもお互い様。
小康状態という言葉が正しいのだろうか。わたくしとアルフレッドは奇妙な距離感を保ちつつ、毎日を過ごしている。

(もうこんな時間……さすがに浴場にはもう誰もいないかしら。一人占めできるといいけれど……)
時計はもう1時を少し回っている。このテンジョウの屋敷の浴場はとても広くさまざまな効能の湯があって、1人で入れるならいつまでも入っていたい最高の場所。
夜遅くになるとほとんど人がいないので、至福のときを1人でゆっくりと過ごすことができる。
そんな淡い期待をして入ったのだが……

(……あら残念。先客がいるようですわね。)
着替えを入れる箱に1人分の衣服が入っていた。おそらく使用人の誰かだろう。
1人で周りを気にせずとはいかなかったがそれも仕方なし。服を脱ぎバスタオルを巻いて、浴場への扉をガラリと開けた……その時だった。



「お……!」

「え!?いやっ……きゃあああああああっ!!!」

扉を開けて目の前にいたのは、金髪に碧眼のどう見ても男性と思われる顔立ちの人間だった。
突然のことに驚いたわたくしはタオルを抑えて悲鳴をあげることしかできず、すぐに背を向けて見られまいとする。

なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでどうしてここに殿方が……!?
わたくしがもしかして間違えた……?
修行で疲れているからといって、わたくしは男湯と女湯を間違えるほどのポンコツだったのかしら。
もしそうならば、早く謝罪しないと……!!

「……ごめん、君……!驚かせちゃったね。こんな時間に人がいるなんて思わなくって……」

「……え?」

後ろから響いた声は、どう聞いても女性の声。
その姿を確かめるべく、顔だけ後ろに向けて確認すると……
そこにいたのは、金髪碧眼の美しい女性だった。

561名無しさん:2019/08/01(木) 01:32:26 ID:???
「……弟様の人格と容姿や体型が混ざる……そんなことが……」
「驚いちゃうよね。だからあたしは普段人が入らない時間に入ってるんだけど……まさかこんな時間に誰か来るなんて思わなくって。」

ミストと名乗った少女(少女といってもわたくしより年上と思われる)は、弟のレオと体を一部共有しており、時々混ざって表面化してしまうらしい。
今は女のわたくしがいることもあって、意識的に弟の発現を抑えているという。
ただこの状態は少し感覚的に窮屈らしいが……どういう状態なのだろう。
ミストさんの世にも奇妙な体質に、わたくしはただただ驚いていた。

だが……わたくしにはどうしても思い当たってしまう人物がいる。
討魔忍五人衆の1人に、顔も体も明かさない忍びがいることを。

「……もしかして……残影の……シン様でございますか……?」
「……ご明察。貴女は異世界人のアリサだっけ?」
「……あ、は、はい!わたくしはアリサ・アングレームと申します。最近はこのお屋敷に住まわせていただいていて、ラガール様やアルフレッドという男と一緒に、剣の修行をしておりますわ。」
「知ってるよ、打倒トーメントよね。……あたしはこんな体だからさ……人付き合いとか難しいんだ。大抵の人には気味悪がられるだけだし。」
「いえ、そんな……まあ初対面でびっくりしてしまったのは事実ですけれど、シンさんは話しやすい方だと思いますわ。」
「はは……ありがと。ミストでいいよ。よろしくね。」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いいたします……!」

残影のシン……討魔忍最強の剣士がわたくしとそう年の変わらない少女だったとは、さすがに驚きを隠せない。
アウィナイトという種族は体が弱いと聞いていたが、それも俗説にすぎないのだろうか。
十輝星のリザという少女も相当な実力者だし、このミストさんも言わずもがな……

というかこの方、スタイルが良すぎますわ……
身長が高い。顔も小さい。腰の位置も高く、すらりと伸びた長い足にはふくらはぎにしっかり筋肉がついていて、足首も細い。
脂肪がつきやすいかつ目立たないから手を抜きがちな場所である背中もびっくりするほどすっきりしていて、後ろから見るだけでその身体のしなやかな美しさがわかる。
そして殿方であれば絶対に目線を向けてしまうであろう、真っ白で豊かな胸。
……ここに関してはわたくしの完全に負けですわ……悔しいという感情すら湧かないほどに……!

なによりも目を引くのは、透き通るような水を湛えたような双眸と煌びやかな金髪。
まるで西洋のお人形を具現化したような美しさ。
女性としての魅力が詰まりに詰まった体を目の当たりにしたわたくしは、途端に自分の体が幼児体型に見えてきてしまった。
……ん?そう言えばなんとなく目元や顔立ちがあの人に似ているような……

「……なに?人の体じろじろ見て……弟は出てこないから安心していいよ。」
「い、いえ……ミストさんによく似た人を見たことがあって、ちょっとびっくりしてしてしまって……」
「……それって、リザのこと?リザはわたしの妹だから……似てるのも……無理ないかもね。」
「……え……ええ!?あの王下十輝星のリザと……し、し、姉妹なのですか!?」

先ほどに続き、またも衝撃の事実。
あまりにも驚いたわたくしの声は、大浴場に響き渡っていた。

562名無しさん:2019/08/04(日) 19:37:18 ID:???
「妹を知ってるってことは、会ったことがあるの?」
「ええ。何度かは…ミツルギの闘技大会でも優勝していましたし、このムラサメでも未だに時の人として扱われていますから。闘技場関係者も彼女を探し回っているみたいだけれど、行方はわかっていないみたいですね。」

トーメント幹部の王下十輝星と、ミツルギの討魔忍五人衆に血の繋がりがある姉妹がいるなんて……!
これが周知の事実となれば、国内外に多少なりとも影響が出ると思われる。
テンジョウはこのことを知っているのだろうか。
まあ…彼なら知っていても気にしなさそう。もしかして、金髪の女の子が無条件に好きなのかしら……。

「行方ね……まあトーメントに戻ったってところでしょ。戦争が始まるのに優勝賞金を使ってのんびりもしてられないだろうし。」
「……ミストさんは、戦争に参加するのですか?王下十輝星は討魔忍五人衆と肩を並べるほどの実力者揃いですし、もしかすると……その……肉親と戦うことに……」
「……トーメントのやってること、妹のやってることは知ってるでしょ?妹は自分の思想や身勝手な使命感のために、無意味な殺戮を繰り返してる。私にはあの子の姉として……それを止める責任があるの。」
「……でも、友人から聞きました。妹様は見境のない暗殺者ではなく、アウィナイトの方たちに自分と同じ思いをさせないように、十輝星になったのだと。」
「……だからって、他人を殺していい理由にはならないわ。異世界人のアリサの世界では倫理観とかどうなのか知らないけど、どんな理由があろうと、身勝手な人殺しを許していいわけがない。」
「……それは…そうですけれど……」

ミストさんの言葉は至極当然だ。この世界よりも司法が明確な私の世界でも、殺人は最も重い罪。
それを身内がしているとなれば、自分だって気が気でないだろう。

でも……やはりというべきか、ミストさんの顔には迷いがあるように見える。
アウィナイトは感情が顔に出るというのは、本当らしい。
発言からは読み取れない、様々に屈折した感情が碧眼の奥で蠕動している。

「……リザさんと戦うことになったら……どうするのですか?」
「……一度戦って言葉を交えたけど、やっぱり妹はもう私の知ってる妹じゃなかった。次に会ったときこそ……息の根を止める。」
「……そんな……本当にそうするしかないのですか……?」
「どんな理由があれ身内を手にかけるのは酷いと思う?……でもさ、身内だからこそ姉の私がけじめを付けたいの。他の誰にも任せたくない……私の手で、終わらせたい。」

……なんと悲壮な決意だろう。
私には兄弟はいないけれど、ミストさんの言葉にどれだけの悲しみが詰め込まれているかはわかる。
同じ時を過ごしたのならば、きっと仲が良かったときだってあったはず。
たった一人の妹という存在は、その存在自体が、かけがえのないものだったはずなのだ。

そんな平穏がある日、想像を絶する暴力によって無残に踏み躙られ、彼女たちの運命は大きく変わってしまった。
実の姉に殺意を持たれていることを、あの無口な少女はどう感じているのだろうか……

「あー……異世界人のあなたが相手だからって、ちょっと喋りすぎちゃった。そろそろ弟も否応なく出てきちゃうかもしれないから、先に出るね。」
「ミストさん……わたくしは、リザさんとミストさんはもっと話し合うべきだと思います。刃を持ちながらではなく、フラットな心から発せられる生きた言葉で。判断するのはそれからでも遅くないはずですわ。」
「はは……アリサは優しいね。弟にも相談しとくよ。……ありがとね。」
「いえ……あ!あの……!弟さんに、大声を出して申し訳なかったとお伝えくださいっ!」
「あははっ!気にしないでいいよ!エロガッパに刺激をくれてありがとねー。」

あ、笑ってくれた……
抱え込んだものは大きいはずなのに、本質は明るく朗らかな人なのかもしれない。
ミストさんはけらけらと笑うと、浴場から出ていった。

563名無しさん:2019/08/04(日) 23:36:38 ID:j0z4XWGg
「四天連脚!」

蹴り上げてっ!もう一回蹴り上げて!体を捻ってもう一回蹴って!蹴り落とす!!!
組手用の魔法人形になら手加減する必要もない。
私は思いっきり体を使って、渾身の技を繰り出した!

「三発目!ちゃんと芯から入ってないぞー!勢い付けるならもっと腰を回せ!」
「はい!!!」

そばで私を見ているノーチェさんの大きな声。確かに、ちょっと手応えが薄かったかな。
ノーチェさんはシーヴァリアで聖騎士になったくらい剣の腕前があるにも関わらず、格闘家としての才能もある。というか本人曰く剣なんかいらなくて、素手で戦うほうが戦いやすいし強いらしい。
すごいなぁノーチェさんは。ライカさんとどっちが強いのかな。
……よーし!私も二人みたいに、もっともっと強くならなくちゃ!
きっと瑠奈もアリサも彩芽も鏡花も、今必死に修行してるはずだから!



「よーし今日はここまで!お疲れさん。」
「はぁっ、はぁっ……!の、ノーチェさん!今日もありがとうございました!」
「うんうん。まだまだだけど着実によくはなってきてる。明日も付き合ってやるよ。……だるいけど。」
「わぁ……!ありがとうございます!2日連続なんて嬉しいです!」
「ありがたく思いなよ?授業料は出世払いだからなぁ。あ、それとくっころが唯に話があるってさ。王城前広場で待ってるって言ってたから、この後行ってやってくれ。」
「わかりました!明日もよろしくおねがいします!」

くっころというのはエールさんのこと。意味はわからないけど、なぜかノーチェさんはエールさんのことをくっころと呼んでいる。
私に話ってなんだろう?さっぱり思いつかない。
シャワールームでしっかりと汗を流しさっぱりしてから、私はエールさんに会いに王城前広場へと移動した。

564名無しさん:2019/08/04(日) 23:37:44 ID:???
「唯、お疲れ様。修行で疲れているのに突然呼び出してすまないな。」
「いえいえ!エールさんにもいつもお世話になってますから、気にしないでください!」
「ありがとう。……お腹も空いているだろうし、適当な店に入ろうか。何が食べたい?」
「あ……ならお肉が食べたいです!明日もノーチェさんと修行なので、しっかり食べておきたくて!」
「そうか。鉄拳卿の修行もなかなかハードなようだな……わかった。ルネの剣士たち行きつけの店に行こうか。」
「やったあ!ありがとうございます!」
(ルネの剣士たちが集う店……なんかお上品な店だったら緊張しちゃうなぁ……)

「ここだよ。入ろうか。」
エールさんに連れられてやってきたのは、ちょっとだけ危惧していたお上品な店ではなく、普通の大衆食堂のような店だった。
いつも真面目なエールさんでもこんな店に来るんだなぁ……ちょっと親近感。

「あらエールちゃん!いつも来てくれてありがとうね!ん?後ろの可愛いお嬢さんは?新しい騎士様かしら?」
「あぁ……彼女は短期で騎士学校に通っている、異世界人の篠原唯。」
「はじめまして!篠原唯です!よろしくおねがいします!」
「まあまあまあまあ!可愛くて元気ないい子ねぇ!エールちゃんはちょっとシャイなんだけど、ホントはとっても優しくていい子だから、怖がらないでね?唯ちゃん!」
「や、やめてよおばさん……もうっ……!」

エールさんが普通の女の子みたいに恥ずかしがってる……!すごく貴重な光景だ。
この店は家族で経営しているらしく、おばさんの家族が切り盛りしているらしい。
私の地元にもこんな感じのアットホームな店があったなぁ。みんな元気にしているだろうか。
おばさんに席に通されてすぐ、私はこの食堂の人気メニュー、「ボア肉の盛り合わせ(ご飯大盛り無料!)」を注文した!



「それで、話ってなんでしょうか?」
「あぁ。今リリス様がナルビアで四カ国会議を行っているんだが……その中で唯にリーダーとして所属してほしい部隊があってな。」
「え?私に?」
「そうだ。その部隊の名はヴェンデッタ小隊……四カ国それぞれの兵士の混成部隊で、主に遊撃隊として戦場を駆け回る役割。……唯には、この部隊の一つを指揮してもらいたいんだ。」
「……えええええ!?私が……指揮官ですか!?」
「ああ。リーダーに必要なのは実力じゃない。部隊員への的確な指示やそれを可能にするリーダーシップ。いわゆるカリスマ性と呼ばれるものだが……リリス様が君にはそれがあると判断した。もちろん強制はしないが……どうだろう?」

私に、リーダーとしての適正……
確かに小学校の時は代表委員に推薦されたし、中学校のときも生徒会役員に推薦された。
みんなが言ってたのは、唯ちゃんならみんな信頼できるっていう言葉。
逆に私以外だとみんな信用できないのかな……とか思ってしまったけれど、なんとなく流されてそういうみんなのまとめ役になることは多かったし、みんなが喜んでくれるから、嫌でもなんでもなかった。
でも学校と戦場じゃ全然違いそう。私なんかにできるのかなぁ……
でも、私のことをリリスさんが信頼してるってことだよね。
できるかどうかは正直さっぱりわからないけれど……リリスさんの気持ちを無駄にはしたくない!

「や、やります!わたしでよければやらせてください!精一杯がんばります!」
「お……おお。さすがだな。少しは迷うと思ったが、決断してくれて嬉しいよ。それで……急な話で悪いんだが、これから1時間後にヴェンデッタ小隊の打ち合わせがある。参加できるか?」
「はい!もちろんです!」
「よし……唯。君に管理してもらうのは第7小隊。その第7小隊の面々との顔合わせになる。先に行っておくが……皆一筋縄ではいかない者たちらしい。対応に苦慮する場合はすぐに私に報告するんだ。」
「わかりました!」

ううー、さっそくなんて緊張する……!
でも、一筋縄ではいかない人たちって……どういう意味なのだろうか?

565名無しさん:2019/08/09(金) 00:07:40 ID:Kfe1iJ2k
「ということで、不束者ですが、この隊の隊長をやることになった篠原唯です!トーメントとの戦いの時は、よろしくお願いします!」

「心配すんな!!この琵琶は特別製だ!!そしてミツルギは琵琶の名産地だ!!」

「うん……うん?」

「はぁ……隊長さん、この人はちょっとアレな人だから、まともに話を聞かなくていいです。話を続けて欲しいです」

唯が隊長として配属された第七小隊……そこは各国から1人ずつ派遣された4人に唯を加えた、計5人の小隊であった。
その中には、丁寧な口調で喋るローテンションのルーア……そして、やたらハイテンションかつ話の噛み合わない、琵琶を背負ったはだけた着物の少女……音の忍オト・タチバナがいた。

「えーっと、ルーアちゃんにオトちゃんだったよね……そっちの二人は……」

「隊長さん、こっちの二人も無視していいです。そのうち、どんな人か分かる時も来るです」

「新キャララッシュはすぐリョナれる状況の時にした方がいいってな!!」

ルミナスとナルビアからも一人ずつ第七ヴェンデッタ小隊に派遣されているのだが……その二人は例のCOMP(クローク・オブ・ミステリアス・パートナー)を着ていて、なんかどんな人なのかよく分からない。

「アタシもちゃんと自己紹介しとかないとな!!あ、でも今さら【】で説明すんのハズイし、歌に乗せて設定を……あ、でも自分語りもそれはそれでハズイ……」

「なんでもいいから、自己紹介するならするで、さっさと済ませるです」




【オト・タチバナ】
右肩を露出させて着物を着ている、兄の形見の琵琶を背負った少女。14歳。頭にバンダナっぽく包帯を巻いて、風にたなびかせている。
自称している音の忍……というのは仮の姿で、実際には他人の受けたダメージを自分が変わりに引き受ける自己犠牲忍法の家系。兄の直接的な死因はトーメントから流れてきたはぐれ魔物との戦いだが、間接的な死因は仲間の怪我を自分で全て肩代わりしたため。
オト本人も何度かこの術を使った結果耳にダメージを受けており、やたら声が大きいのも常に話が噛み合わないのも、琵琶でまともな演奏をせずに無茶苦茶に掻き鳴らしているのも耳が悪いからである。
戦闘スタイルは琵琶を掻き鳴らすことで衝撃波を発生させる、琵琶で直接ぶん殴るなど。
自分の名前に複雑な想いを抱いているようで、あだ名っぽく『オトちゃん』と呼ばれる事を望んでいる。


「まぁそんなわけで、やってやろうぜ!!!」

「はぁ……前途多難、です」

「えっと……とにかくみんな、頑張ろうね!絶対に、あの王様を倒そう!!」

566>>551から:2019/08/10(土) 16:42:13 ID:???
(バチバチバチッ………バシバシバシバシ!!)
「っぐ………ぅ………!!……こっのぉ……大人しく、パワーアップさせろっての……!!」

ヒカリの腕が少しずつ、セイクリッド・ストーンに取り込まれていく。
だが、強力すぎる魔石の力の反動で、全身に電撃に灼かれるような激痛が走る。
握りしめた「3割ペンダント」も、魔力に耐えきれず粉々に砕けてしまった。

「ヒカリっ! これ以上は危険すぎるわ!」
(バチッ!!)
「……!!」
慌てて駆け寄った鏡花だが、足元に青白い閃光が爆ぜて行く手を遮られてしまう。

「もうやめて!……こんな危ない事、リムリットちゃんやウィチルさんは知ってるの!?」
「はぁっ……はぁっ……知ってたら、全力で止めただろうね。だから、二人が居ない今がチャンス、って思……っぐあああっ!!」
魔石が淡く発光し、ヒカリの二の腕までずぶりと魔石に沈んだ。
全身を襲う苦痛は段違いに激しくなり、上げまいとしていた苦痛の叫び声を上げてしまう。

「ヒカリっ!!」
「し……んぱい、するなって……聞いた話じゃ私、前にも一回やった事あるみたいだし……ん、っ……!!」
(……つーか腕一本だけで、こんなに痛いのかよ……これ、全身入ったら死ぬんじゃ……)
「そ……それってまさか、昔私達の世界で戦った時の…!?…とにかくこんな事、もう止めてっ!!」

苦悶するヒカリの声に居ても立ってもいられず、鏡花は再びヒカリに駆け寄る。

「わっ……ちょ、こっち来るな、危ないって!」
「ほら、やっぱ危ないんじゃない!とにかく、一回コレ抜いてよっ………っぐ、うああああああっ!!」
「むしろそのフレーズの方が危b……鏡花っ!?」
ヒカリの腕を無理矢理引き抜こうとするが、鏡花もまた魔石のエネルギーに包まれる。

魔石が放つ光はさらに強くなっていき……二人は魔石の中に取り込まれていった。

………。

「うう……あれ、ここは……?」
「………おお……どうやら入れたっぽいな、謎空間……でも、ここからどうすりゃいいんだ?
なんかこう魔石の妖精的なやつが、力をゲットするための試練とか出してくると思ったんだけど」
「わ、私に聞かれても…」

気が付くと、二人は巨大魔石の「中」をふわふわと漂っていた。
透明な魔石の外側は、元の洞窟。まさに「いしのなかにいる」状態である。

ふと魔石の外側を見ると、羽を広げたコウモリが、空中に浮かんだまま静止していた。
どうやら魔石の中と外では、時間の流れ方が違うらしい。


「……しかしまさか、鏡花まで謎空間に入っちゃうとはね。……なんでこんな無茶したんだよ」
「そ、それは……こっちのセリフ。ヒカリこそ、今回だけじゃなくて、昔っから無茶ばっかりだったよ?」

待てど暮らせど何も起こる気配がないので、そのうち二人は考えるのをやめた……
……とまではいかないが、ぽつぽつと言葉を交わし始めた。
(こうやってゆっくり話すのって、なんだか……すごく久しぶりだな)
気まずそうにしているヒカリの横顔を眺めながら、鏡花はゆっくりと記憶の糸を手繰る。

引き寄せたのは、ヒカリが鏡花達の世界にやって来た頃の……
『魔法少女』プリンセス・ルミナスの戦いと、それを見守っていた『普通の少女』市松鏡花の思い出。

567名無しさん:2019/08/10(土) 16:43:33 ID:???
(ぐにっ………むにむにむに……)
「くっくっく……小娘。仕込みの具合はどうじゃ?………ん?」
「いっ……いや……そこ今、さわっちゃ………ふあ、ぁっ……!!」

あの時……私は、『黒衣の魔女』ノワールにさらわれて、何十時間にもわたるおぞましい拷問調教を受け続けていた。

「全く、まだJCの小娘のくせにけしからんおっぱいじゃのう。
媚薬乳首ねぶりスライムに焦らされたくらいで、胸だけで達してしまうとは……」

「い、いやっ……もう、やめてっ……助けて、ヒカリッ……!!」
「クックックック。愚かな……あんな平民の小娘ごとき、わらわの敵ではないわ。
お主の目の前で散々に嬲り者にしてやったのを、よもや忘れたか?
それに……この城には、わらわの忠実なる下僕『混沌七邪将』が控えておる。
一人一人が、ルミナスの魔法少女どもを遥かに凌ぐ実力の持ち主……
奴『一人』では、わらわ達の元に辿り着く事すらできまい」
「………!!……」

…………

「喰らうが良い……ダークバレットストーム!!」
(ズドドドドドッ!! ビシッ………ズドオオオオオン!!)
「う…シールドがっ……っく!!……きゃああああああぁっ!!」

そう……ノワールは私を捕まえ、助けに来たヒカリを圧倒的な闇のパワーで打ちのめした。

「クックック……もう終わりか?たわいもない……さて。
 この巨乳の小娘は、わらわの贄として頂いていくとするか……」
「……やめ、なさいっ……ノワール……鏡花に、手を……」

「……気安くわらわに手を触れるな、下郎めが」
(ボキッ!!)
変身に必要な魔法石の腕輪を、手首の骨もろとも踏み砕いて……

「っぐああああああああ!!」
変身を解除されたヒカリの叫び、絶望に染まった顔が、私の脳裏にこびりついて離れなかった。

「このまま殺すのも良いが……この際じゃ、もう少しド派手な演出を用意するか……
このおっぱい娘を返して欲しければ、わらわの居城に来るがよい。
ただし、一人で来なければ……人質がどうなるか、わかっておろうな?クックック……」

…………

「そんな……ヒカリにあんなに酷いことしたのに、まだ……足りないって言うの…」
「わらわに逆らった愚か者には、これでも生温い位じゃ……
どれ。絶望と苦痛にのたうち回りながら嬲り殺しにされる様を、池袋グランドシネマ並の巨大スクリーンで鑑賞といこうかの」

とても悲しくて……同時に、悔しかった。魔法の力がないせいで、私はいつもヒカリに迷惑ばっかりかけていた。
私のせいで、恐ろしい魔物達を相手に、たった一人で……そんな事に、絶対なってほしくない。

「負けない……あなたみたいな卑怯な奴に………ヒカリは、絶対負けたりなんか……」
「クックック……口ではどんなに威勢が良くとも……わらわの目はごまかせぬ。
既に絶望で心が折れかけ、身体も。ほれ……」
(ぞわり………)
「ひんっ!?」
「こんなにも淫らに屈しておる……くっくっく」

だけど、あの時の私は無力で……どうしようもなく怖かった。虚勢を張る事さえ一人ではできず、
ヒカリに……魔法少女プリンセス・ルミナスに、助けを求めずにはいられなかった。

「奴の死に顔を見せつけられて、そなたが完全なる絶望に染まった時……
贄の儀式は成り、そなたはわらわの巨乳肉欲性玩具となるのじゃ。ふっふっふ……」
「そっ……そんな、の……」

568名無しさん:2019/08/10(土) 17:04:23 ID:???
「くぉらぁー!!ノワール!!約束通り来てやったぞ!鏡花は無事なんでしょうね!!」
「クックック………わざわざ殺されに来るとはご苦労な事じゃな。
貴様ごときゴミクズに、わらわが直接出るまでもない。
そなたが苦しみ抜いて死んでいく様を、人質のおっぱいJCと一緒に
最上階の王の間の巨大スクリーンで鑑賞してやるわ」

(なんというか……この辺の事は、『何があったか』『何をしたか』は断片的に思い出したんだ。
でも、『何を感じたか』『何を考えてたのか』は思い出せない……だから、なんか他人事みたいに感じるんだよね)
(そうなんだ……私はこの時の事、覚えてるよ。私の為に来てくれて、申し訳ない気持ちもあったけど……やっぱり嬉しかった)


「え!?これってカメラ撮ってるの!?んでもって、鏡花にも…!?……こほん。
『奏でよOPアレンジバージョン!我が背に集え集中線!
 星の光は希望を照らす。 何度でも……諦めない限り、正義の心は何度だって蘇る!』
黒衣の魔女ノワール……約束通り、私は来たわ!鏡花を……鏡花を、今すぐ解放しなさい!!」
「何こいつうぜえ」

(何こいつ本当うぜえ)
(いやいや。自分の事でしょ、ヒカリ……でも正直、ヒカリが私の前では演技してたのバレバレだったし、
その演技も見ての通り、最後の方はだいぶグダグダだったよ?)
(いや知ってたんなら止めろよ……つか私も何考えてたんだよ)
(遅めの中二病みたいなもんかなって思って……突っ込むのもかわいそうだったし)
(うわあああ心遣いが痛すぎる!! もう忘れてぇ……)


「まあ良い……貴様の平たい胸もいい加減見飽きた所じゃ。出でよ!『混沌七邪将』!!」

「邪海将ダゴン推参……ヒッヒッヒ」
「邪龍将ファーヴニル……これに」
「邪骸将デュラハン(筆談)」
「邪剣将ダインスレイフ様が、変身できなくなった魔法少女を集団でボコれると聞いてやってきましたよっと」
「邪蝕将マイコニドだどぉ……ぐひ ぐひ」
「邪艶将(姉)アルケニー インしたお!」
「【朗報】邪艶将(妹)アルラウネちゃん 可愛くて草」

「うわ中ボスいんのかよめんどくs……じゃない。やはり現れましたね七邪将っ!ですが、私は負けませ……」
「ちょおおおおおっと待ったぁああああああ!!」

(うわっびっくりした)

「(BGM:有坂真凛メガヒットメドレー〜君の笑顔を虐めてFENIX〜)
スーパーグレートワンダフルプリティアイドル有坂真凛!『魔法少女ピュア・アクアマリン』ここに参上!
おらおらポッと出の糞雑魚ども!このアタシがまとめてかわいがってあげるから声出してイケヤコラ--!」

「やれやれ、相変わらずやかましい事……ですが、あの邪将とやらを早々に排除すべきなのは事実。
『魔法少女エンペラーワルキューレ』シュリヤ・ミルフィールド、お相手仕ります」
「『魔法少女カイザーヴァルキュリア』リッテ・ミルフィールド……全く同感ですわ、姉さま」

「お前らちゃんと自分の魔法少女名覚えてんのな……えーと、アタシはなんだっけ?
まあいいや。このライカ・リンクス様が全員ボッコボコにしてやるぜ!」
「ライカさんは『魔法少女ワイルドストライカー』、そして私は……
『魔法少女アイゼンリッター』、フェラム・エクエス。邪悪なる輩に、鉄槌と斬撃を!」

「あ、あ、あの。私、サクラ・リートっていいます……『魔法少女スプリング・メロディ』って
「ていうかねぇ、ヒカリ!あんた、私に腕輪の修理頼んだくせに、
なんで受け取るの忘れてこっちに直行してんのよ!記憶力ミジンコ以下かっての!
……あ、私は『魔法少女クリムゾンヒート』カレラ・ガーネット。みんなからは『魔石師』って言われてるわ」

(なんか、いっぱい出てきたな……)
(……みんな、最初はライバルだったんだよ。ルミナス王国の次期女王の座を巡ってかくかくしかじか色々あって……)
(うん。それは有難いし燃える展開なんだけどさ、なんか一人新キャラいない?)

569名無しさん:2019/08/11(日) 14:52:33 ID:???
「あはははっ!なんだかみんな面白いね!あたしももうこんなの脱いじゃおーっと!」

残った2人のうち1人。COMPを着て正体不明の内の1人から明るい声が飛び出してきた。
そのCOMPの腕には、ナルビアから来たことを示すエンブレムが刺繍されている。
勢いよくフードを取り去って出てきたのは、ライトグリーンの目に金色の目をした少女。
少女はフードの中に収まってきた頭をプルプルと震わせてから、にっこりと笑った。

「あたし、エルマ!エルちゃんって呼んでいいよ!敬語もいらないよ!みんなよろしくね!」

「わあぁ……!じゃあエルちゃんだね!よろしく!がんばろうね!」

「結局脱ぐのですか……でも、オトさんとは違ってまともそうな人でよかったです。」

「まともじゃねえのは全員お互い様だろ!ヴェンデッタは素行不良の集まりって聞いてるからな!」

「え〜そうだったの?あたしこれでも天才少女なんだけどなー。ねえ知らない?最近ナルビアで作られた装着型人体強化マナ装甲!あれって、あたしが作ったんだよー!あ、でも機密事項だからみんなが知ってるわけないかぁ。あははっ!」

「え?あ、あはは……それは知らないけど、なんか名前からしてすごそう!エルちゃんは頭がいいんだね!」

「うん!2歳の時にはもうニフタルさんの空想哲学論の本とか読んでたし、3歳の時にはプログラミングも全部理解したし、6歳の時には強化学習AIを搭載した自立駆動型アンドロイドを作って、最年少でオメガタワーの特例正規科学者になったよ!」

「……頭がいいなんてレベルじゃないです。やっぱりまともじゃないです……」

にこにこと話すエルマだが、嫌味っぽいところは全くないあたりに唯とルーアは妙な感覚を覚えた。
凡人には天才の思考が理解できない。そして天才と狂人は紙一重だというが、目の前の少女はどちらなのだろうか。



「でさ!えっと……隊長の名前はまいちゃんだっけ?」

「あ、唯だよ!篠原唯!」

「あぁごめんごめん!あたし名前覚えるの苦手でさ!えっと……唯ちゃんはこういう小隊長とかそういうリーダーポジの仕事ってやったことあるの?なんかあんまり唯ちゃんはリーダーっぽい感じしないなーって思ってるんだよね〜正直!」

「う!や、やっぱり……?実はわたし異世界人で、戦闘経験をずっと積んでたわけじゃなくて……」

「えええ!?珍しい名前だと思ったら異世界人だったの!?すっごーい!あたし異世界人初めて見たよー!」

「アタシも初めて見たぜ!ルネの町並みはミツルギとは全然違うよな!インスピレーションを刺激されて良い歌が書けそうだぜ!」

「ねぇねぇ!異世界ってどんなところなの!?そもそも文明とかあるの?あったとしたらこの世界よりも進んでるの?なかったとしたら生活様式はどうなってるの?言語は?人種は?食生活は?通貨単位は?大気成分は?太陽と月はある?人間以外の動物は?そもそも唯ちゃんって人間?とりあえず脱がしてもいい?」

「わ、わわ!きゃあっ!?」
「や、やめるですっ………!」

異世界人という単語が天才の頭脳に引っかかったらしく、知的欲求のみで唯に詰め寄るエルマ。
最後には自ら唯の服を脱がして調べようとしたが、ルーアに杖で手を叩かれた。

「あたっ!あ……ごめーん!あたしって気になっちゃうといっつもこうなっちゃうんだー!驚かせちゃったよね?」

「あ……だ、大丈夫だよ!わたしの世界のことなら、あとでエルマちゃんにたくさん教えてあげるよ!」

「わあぁ〜!唯ちゃんありがとー!優しい隊長さんでよかったよー!隊員が無能だったりキモいおっさんの隊長にセクハラとかされたりしたらすぐにやめようと思ってたけど、唯ちゃんみたいな異世界人と一緒ならなんだか面白そう!がんばろうねー!」

「……この天才、さらっといろいろ毒を吐いてるです……」



【エルマ・ミュラー】
18歳。髪色は白みがかったライトグリーンで目の色は金。
オメガ・ネット育ちの自他共に認める天才美少女。天才的な頭脳と類稀なる運動神経で、大抵のことは難なくできてしまうため、頭を使うことも体を使うことも得意。
興味を持ったことはすぐにやってみる性格のため、研究、戦闘技術、料理、演劇、音楽作り、ゲーム、絵描きとほとんどのことができる。
天才すぎる故、ナチュラルに他人を見下すような嫌味や毒舌を向けることがあるが、本人に悪気はないし、言われる側もエルマに言われるのは仕方ないと思ってしまうため、あまり気にされない。

戦闘の際は自身で開発した装着型人体強化マナ装甲を纏う。空を飛んだり増幅したマナで魔法を放ったり、装甲に着いたブレードで白兵戦もこなす万能戦闘スタイル。
戦闘経験が少ないのとコミュニーケーション能力に難があることから、ヴェンデッタ小隊に配属となった。

570名無しさん:2019/08/11(日) 16:17:29 ID:???
「ええい、何じゃ貴様ら!ワラワラと現れおって鬱陶しい!!一人で来なければ、人質はただじゃおかんと言ったじゃろうが!」
「うっさいわねー。そっちも人の事言えないでしょうが!つーか、一人で来たわよ私は?
でもなんかー、たまたまー、こっち着いたらー、バッタリ知り合いに会っちゃったー、って感じ?みたいな!」
「……私はさっきも言った通り、あのバカに届け物しに来ただけ。……ま、残念ながらタダでは帰してくれなさそうだけど」

「ヒカリのアホになんて、頼まれたって同行なんてするもんですか!私は…たまたまここを通りがかっただけですわ!」
「熱くならないの、シュリヤ……私はこの子が『ちょっとノワ城行ってくる』って言う物ですから、
一人じゃ道に迷うかと思って付き添ってあげたまでですわ」

「お前ら、ちゃんと言い訳も考えて来てんだな……えーと、アタシは……修行しようと思って通りがかって、うーんうーん」
「あの、あの。私……」
「私達はヒカリさんに頼まれたわけではありませんし、彼女に同行したわけでもありません。
ヒカリさんと鏡花さんは私達にとっても大切な友人。
彼女たちを助けるため、皆一人一人、自らの意思でここにやって来た……それだけです」
「あの、あの、私もヒカリさんと鏡花さんを…」
「良くわかんないけどアタシもそれで!」
「いや待ちなさいよ、鏡花さんはともかくバカヒカリと友達になった覚えはありませんわ!」
「みんな私のためにありがとう!ズッ友だよ!」
「こいつ本当うぜえ」

(ちょぉぉぉい 頼むから新キャラに喋らせてあげてー
解説の鏡花さん、あのピンク髪のちっこい子について解説してオナシャス!【】つきで!)
(解説って……はいはい)

【サクラ・リート】
鏡花達と同い年で、植物を育てるのが好きな心優しい女の子。
ちょっと巻き毛気味のピンク髪を、ポニーテールでまとめている。
ルミナスの魔法少女の一人で、変身後の名前は『魔法少女スプリング・メロディ』。
補助、回復に長ける花属性の使い手で、イバラの鞭や種爆弾などの草ポケモンっぽい攻撃手段も備える。
影が薄くてあまり目立たないが、トーメント王国との二度にわたる戦いにも参戦し生き残っている。
ちなみに歌もかなり上手で、天気がいい日は花壇で花の世話をしながら歌ったりしている……
が、引っ込み思案なため人前では歌おうとしない。


「ふざけおって……この世界に、愛と正義など……わらわ以外の魔法少女など、不要。
ルミナスを始末するついでに、貴様らも皆殺しにしてくれるわ!!行けい!七邪将!」

「よーしこっちも、行けい!七魔少!」
「お前いい加減にしないと14人掛かりでボコるぞ」
「ほら、変身リング改。修理代はツケとくから後で払いなさいよ」
「ていうか勝算あるんでしょうね!なんでしたら私が代わりに行ってやってもよろしくてよ?」
「話がややこしくなるからリッテは黙ってなさい」
「ところで敵の処理は一人一体でよろしいでしょうか。今のうちに担当の割り振りを」
「あの、その……私菌類とかキノコとか、本当にダメで……」

「ま、後はこっちでテキトーにやっとくから……アンタはさっさと鏡花ちゃん連れ戻してきなさい」
「サンキュ……んじゃ一丁、ヤったりますか!!
変身!魔法少女プリンセス・ルミナス……セイクリッドフォーム!!」

(……というわけで、この後なんやかんやあって私を助けてくれたんだよね……)
(ええええ!?こっからリョナシーン多発地帯っぽいのに端折っちゃうの!?)

571名無しさん:2019/08/11(日) 16:20:47 ID:???
〜回想いったん終了〜

「まあ、ズッ友軍団vs敵幹部スピンオフは、本編進める合間に余裕があったら進めるとして。
 そもそもなんで私、鏡花の前で謎の中二病患者になってたんだ?」

「……もしかしたら、私のせいかもしれない。
初めてヒカリと会った時、本物の魔法少女を見るの初めてだったから興奮しちゃって……
テレビとかで見た『魔法少女』の理想像!みたいなのを期待しちゃってた、のかも」

「んで、鏡花の夢を壊さないようにキャラを作ってたわけか。
……超大昔に放置しっぱなしだった謎が、一つ解けたような……」

「でも真凛達と話してる時の方が、素のヒカリに近い感じがして、みんなが少し羨ましかったかな。
だから、今みたいに素のままのヒカリと話せるようになって……ちょっと嬉しい」

「……その、超大昔にさ。私がまだエスカだった頃。
『お前みたいなタイプ大っ嫌い』って、言った事が……」
「あったねえ」

「あの時言った事、取り消すよ……わざわざお前のためにキャラ作ってやったり、お前が攫われたら助けに行ったり……
こうして回想シーンとか一通り見てると……やっぱり昔の私は、お前の事…好きっていうかその、大切に思ってたんだなって……」
「………。」

「……なんだよ」
「…………じゃあ、今は?……今のヒカリは、私の事どう思ってる?」

「……い、今の私、って…………お前そういうクリティカルな事、スッと聞いてくんなよ……」
「答えてくれないと、さっきの取り消させてあげない」
「う……そんな事言われても……今はまだ、よく、わかんないっていうか……なんか鏡花も、昔とキャラ変わってない?」

「ふふふふ……私も、魔法少女になって色々と変わったのかも。やっぱり、見てるだけと、実際やるとじゃ大違いだもんね。
……戦うのは怖いし、痛いし、みんな胸ばっかり狙ってくるし……」
「だ ろ う ね」

「他にも色々、大変な事だらけで……私なんて、まだまだ。やっぱり、ヒカリはすごかったんだなって……」
「いや……鏡花も水鳥も、私が記憶を失くしてる間に、本当に強くなったよ。
でも本音を言うと、鏡花達を戦いに巻き込みたくはなかったかな……
今度の敵はこれまでにも増してヤベー奴ばっかりだし、世界中のみんなで力を合わせたって……勝てる保証なんてどこにもない」

「それでも……今の私ならきっと……少しぐらいなら、力になれると思う。だから……一緒にがんばろう」
「少しなんてもんじゃない。……頼りにしてる」

ヒカリと鏡花は互いに向き合い、手を重ね合わせる。
魔法少女と一般人、守る側と守られる側から、互いに対等な戦友へと二人の関係は変わった。

<……遅れてすみません。セイクリッドストーンの中の人ですが、そろそろ本題に移ってもよろしいでしょうか……>

「うん。ぶっちゃけ後は消化試合みたいなもんだし、ちゃっちゃと行こう。
とりあえず、最強パワーアップコース、オプションマシマシフルセットで!」
「それ、2人前お願いします!」

この変化が、吉と出るか凶と出るかは……今後の戦いで、明らかになっていくだろう。

572名無しさん:2019/08/11(日) 17:26:06 ID:???
「うぅぅ……結局、自己紹介すらできなかった……」

ヴェンデッタ小隊に配属された『魔法少女スプリング・メロディ』ことサクラ・リートは、
他メンバーのキャラの濃さに圧倒され、気付くとCOMPを着たままトイレに避難していた。

「はぁ。やっぱり、私には無理だったのかなぁ……今からでもルミナスに帰って、お花さん達のお世話したいよ……」

ため息を一つ吐き、折角トイレに来たのだからと用を足そうとした、その時……

(ぞわり………)
「……!?……」
チューリップ柄の可愛らしいパンツの下に、何かとてつもなくおぞましい気配を感じた。

「な、に………これ………」
「ぐひ、ぐひ、ぐひぃ……ごぎげんよぉ、おでのお人形ちゃん」
個室の鍵を閉め、「中」を確認すると……なんと、全長10センチほどの巨大なキノコが、サクラの股間に聳え立っている。

キノコやカビなどの菌類は植物の天敵、という事もあり、食用の物も含めてキノコ類が苦手なサクラ。
ましてや人体に直接生えるキノコなんて、不気味すぎて触れるのも恐ろしいが……この状況で調べないわけにもいかない。

(……ぼふっ!!)
「なんで、私の……に、キノコなんか……きゃあっ!?」

柄に人面のような凹凸のある不気味なキノコに、恐る恐る顔を近づけると、
キノコは突然傘を開き、不気味な色合いの胞子をまき散らした。
それを思い切り吸い込んでしまい、咳き込んでいると……
…キノコのような恐るべき「魔物」に封印されていた忌まわしい記憶が、徐々に蘇って来た。

(あ………おもい、だした……こいつは……わたし、の………)
「ぐっひっひぃ……お人形ちゃぁん、ご主人様の事、思い出したがぁ?」
(ち、がう……こいつは私に憑りついた魔物……早くなんとか、しないと……!!)

【マイコニド】
人体に寄生する、巨大なキノコ型の魔物。黒衣の魔女ノワールの配下、七邪将の一人だった。
サクラとの激闘によって一度は倒されたかに見えたが、実はサクラの体内に人知れず寄生しており……

「どうせおでも、このままノワール様の所にノコノコ戻ったって怒られるだけだしなぁ……
お人形ちゃんの身体で一生暮らした方が幸せってもんだァ。末長ぁく仲良くしようぜ、ぐっひっひ……」

573名無しさん:2019/08/12(月) 10:06:29 ID:???
「いっ……いやぁっ……気持ち悪いっ……私から離れてっ…!」
「ぐひひひっ……ムダムダぁ……おでの菌糸は、お人形ちゃんの全身の神経につながってんだどぉ……無理に抜こうとすれば」

(ビリビリビリッ……!!)
「ふあああああああんっっ!?」
……キノコに指で触れた瞬間。全身に電気が走るような感覚に襲われ、サクラは甘い嬌声を上げてしまった。
触っただけでこの有様では、引き抜いたりしたらどうなるか……

「ぐひ……だめだど、お人形ちゃァん。ご主人様を、乱暴に扱っちゃぁ……
もっと、優ぁぁしく包み込むように、シゴいてくでよぉ……」
「や、やだぁっ……あなたなんて、ご主人様なんかじゃ……あああぁっ………!!」
キノコなんて見るのも触るのも嫌なのに、マイコニドの呪いの胞子を浴びると命令に逆らえなくなってしまう。
サクラはさっきの1.5倍ほどに大きくなったキノコを優しく握ると、愛おしむように丁寧に、熱くて硬いキノコの柄を撫で上げた。
(ぬちゅっ………じゅるりっ……)
「ひ……ぬるぬるして、ぐちゃぐちゃする……(なのに………なのに、死んじゃいそうなくらい気持ちいい……!!)」
「ぐひひ……その調子だどぉ…今度は激しく、ヒダが捲れるくらいコスり上げるだぁ……」
「や、やだっ……これ以上したら私、おかしく……なっちゃう、のにぃっ……!!」
更に、キノコの要望に従って、サクラの手の動きは徐々に激しくエスカレートしていく。

やがてキノコが極限まで肥大化し、サクラの心身が限界に、快感が最高潮に達した時……
「い、いやあああああああああああぁっ!!」
(ぶばばばばばばばばっ!!)
キノコは捲れかえった傘から、白い霧状の胞子を大量に吐き出した。

…………。

(ガチャリ……)
「はぁっ……♥……はぁっ……♥♥♥」
「ぐひひひ……今日も可愛かったど、お人形ちゃぁん……」
フラフラになりながらトイレの個室から出てきたサクラ。
だがその時。

(ガチャッ!!)
「っかーー!!今日も絶・好・腸!!便秘とか都市伝説だなマジで!!」

全く同じタイミングで、隣の個室からオト・タチバナ……同じヴェンデッタ第7小隊に所属する「音の忍」が姿を現した。
「あ、あなたは……オトさん…」
(グヒッ!?……マズいどぉ……隣での音、聞かれたんじゃ……)
「ん?お前、さっき顔合わせの時に居たやつじゃん!お前もウ●コかー? つーか名前なんだっけ?あ、アタシの事はオトちゃんって呼んでくれよな!」

「あ、あのっ……オト、ちゃん、さん」
「あーそうそう。キャラ紹介の時にも言ったけどアタシ耳悪いからさー!
出すとき爆音してても自分じゃわかんねーんだ!うるさかったらごめんなー!」
「な……待ってください、そうじゃなくて……あ、れ……?……なん、だっけ……」
(……そうか、聞こえてなかったか。一安心だぁ……グヒヒ)
白濁胞子によって記憶操作され、自分の身に起きた危機を知らせる事が出来ない。
サクラはこのようにして、恐るべき茸の魔物に身も心も支配され続けていたのだった。

「んじゃ、お互いスッキリしたし、タイチョー達の所戻るか!ほれ、一緒に行こうぜ!」
(何か……とても大切なこと、言わなきゃいけなかったような……)
(グヒィ……このオトってガキ、頭ぁ悪そうだけど中々エロい体つきだなぁ……他の奴らも、住み心地が良さそうだぁ。
隙を見て一人ずつ、順番に……グヒヒヒッ……おでの胞子を植え付けて、人形にしてやるどぉ……!)

「あの、オトさ……ちゃん、私」
「手ぇ繋ぐのイヤなん?なんだよ一緒にウ●コした仲じゃねーか!……って、そっか。まずは手ぇ洗わねえとなー!」
「違うん、です……何でだか、わからないけど……私といたら、危険な……気が……して……」

隊長の唯以下5名のメンバーが揃い、活動を始めたばかりのヴェンデッタ第7小隊に、
早くも最初の危機が襲い掛かろうとしていた……

574名無しさん:2019/08/12(月) 15:22:05 ID:???
「うーん、完全に昼夜逆転生活しちゃってるな……でもおかげで、アヤメカの改良型……アヤメカイができたぞ。これでボクも、もっと戦える」

ナルビアで引きこもり生活を送っていた彩芽は、ある日ビビッと閃いたメカを発明するため、エミルを部屋から追い出して深夜まで作業をしていた。



「こんな時間なら誰もいないだろうし、ちょっと久しぶりに散歩でもするか……最近出不精過ぎてお腹周り気になるし」

ナルビアの高性能チェアとは言え、ずっと座りっぱなしで体がバキバキになってしまった彩芽。体をほぐすのと運動を兼ねて、深夜の徘徊というヤンキーか引きこもりしかしなさそうなことをすることにした。

「…………え………すね………」

「ん?何の声だ……?」

ある程度歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。小さな声だったが、深夜の静寂の中ではその声も少々目立つ。

(No.18「着れば透明になれるよ!キエールマント」……改良を重ねた結果、隠密性はさらに上がった……テストがてら、ちょっと覗いてみよう)

自分しかいないと思っていたのに他人がいたという状況にビビりつつも、深夜テンションだった彩芽は出歯亀精神を発揮してコッソリ声のした方を覗いてみた。



「総帥の目的は、ヒルダ……いえ、メサイアの圧倒的な戦力を諸国に見せつけること……おそらく、王都への攻城戦まではメサイアは温存するつもりでしょう。付け入るならばそこですね」

(あいつは確か、リンネとかいう……)

物陰で電話をかけていたのは、シックス・デイの一人、リンネであった。

「ミツルギはアレイ草原、シーヴァリアはヴァーグ湿地帯、ルミナスはリケット渓谷……そしてナルビアはゼルタ山地。各国は4方面から同時侵攻し、トーメントの戦力を分散させる作戦です」

(作戦?トーメントとの戦いのことで電話してるのか?でも、それにしては様子が……)

「……こんな情報は遅かれ早かれトーメントに漏れます。心配はいりませんよ。そちらもミシェルにメモリを渡したことがバレないように気を付けてください」

何やら不穏な空気を感じ取った彩芽は、リンネが誰に何の目的で話しているのか見極めようと、息を潜めてリンネの電話を盗み聞きする。

「ボクらの目的は戦争のドサクサに紛れて、自由に生きる道を探すこと……こんな戦いに命を賭ける義理はない……ええ、こんな時間に電話してすいませんでした……では失礼します……『サキ』さん」

(んなっ!?あいつ今サキって……あの早紀か!?どういうことだ!?)


「……ヒルダ……君は必ず、僕が助ける……」

通話を切った後、ポツリと呟いたリンネは、そのまま彩芽に気付く様子はなく去って行った。


知らず知らずのうちに止めていた息を大きく吐いた彩芽は、キエールマントを羽織ったまますぐに自分の部屋に戻る。


「あいつ一体……エミルに言うべきか?ミシェルがどうこう言ってたし、エミルの妹にも話を聞かないと……」

もう深夜だが、エミルも夜型人間だし多分起きてるだろうと考えた彩芽は、すぐにエミルとミシェルの部屋に向かった。



「ねーミーちゃーーん、昔みたいに一緒に寝ようよー、ていうかベッド一つしかないし、一緒に寝るしか方法ないよー?」

「だから私の個室の用意ができるまではソファーで寝るっつってるでしょ……!最悪何日かは寝なくてもいいし……」

「おい二人とも、大変だ!ちょっと時間いいか?」

「あれ?彩芽ちゃん?」

「アンタは確か、運命の戦士の……こんな時間に非常識な女ね」


「大変なんだよ、実は……」


かくかくしかじかの使えない彩芽は、普通に説明した。


「ああ、なら心配いらないわ。リゲルもトーメントを見限ってるみたいでね、リンネと繋がって色々情報流してるみたいよ」

「ミーちゃんの亡命を黙っててくれたんだよね!ならきっといい人だよ!」

「あの早紀が……?でもそれにしては、リンネも色々話していたような……それにやけに親しげだった気も……」

「まぁ、その辺は諜報員の駆け引きでしょ。下手にその辺つつくと藪蛇になるわよ。エミル姉はともかく、私とアンタは外様で微妙な立場だし、首突っ込まない方がいいわ。
……あとさ、ちょっとアンタの部屋に泊めてくれない?馬鹿姉と同じ部屋にいると、なんか色々触られそうだし……」

「え、よく知らない人と同じ部屋で寝るのはちょっと……」

「……そりゃそうよね……」


そんなこんなで、エミルとミシェルの科学者姉妹と別れて自分の部屋に戻った彩芽は、眠りについた。

……サキとリンネのことについて、微かなしこりを残しながら……

575名無しさん:2019/08/12(月) 15:56:48 ID:???
【サクラ視点】

「それにしてもシーヴァリアってなにもかもキレイだよなー!全トイレにウォシュレット完備とは恐れ入ったぜ!ミツルギではウォシュレットどころか時代遅れの和式だらけだったから余計に感動だぜ!」

「そ、そうなんですかぁ……ルミナスは女性が多いので、ウォシュレットは完備されてました……」

「ん?なんて?ルミナスは女性が多いから、ウォシュレットは完備されてるって?」

「あ、はい、そのとおりです……」
(ぜ、全部あってるのに確認された……)

オトさん、ほんとに耳がよくないんだなぁ。わたしは声が小さいから気をつけないといけないかもしれない。
でもなんとなく優しそうな人でよかった。隊長の篠原さんも、あのちっちゃい女の子もいい人そう。
あとはエルマさん……ああいう人は私、ちょっと苦手かもしれない……私、お花のこと意外は知らないし……

「あ、サクラちゃん!戻ってきたんだね!」

メンバー構成表を見て私の名前を確認した篠原さんが、明るく声をかけてくれた。

「突然いなくなってごめんなさい……ちょっとお手洗いに行ってました……」

「なんとあたしが入った個室の隣にいたぜ!さっそく一緒にウ●コして親睦を深めてしまったぜ!」

「あ、あはは……あ、そうそう!いまみんなで自己紹介してたんだ!サクラちゃんにもお願いしていい?」

「ん?……くんくん。」

「あ、はい……えっと、ルミナスから参りました、サクラ・リートです。好きなものはお花と……あの……?」

自己紹介をする私に向かって、エルマさんが鼻をくんくんしながらこっちに向かってきた。

「エ、エルマさん……?今度はなにをやってるです……?」

「いや……くんくん。くんくんくんくん……!」

「あ、あのぉ……きゃ!」

私に密着したエルマさんは、私の腰のあたりに鼻を押し付けて匂いを嗅いでいる。
そ、そんなに変な匂いがするのかな……お風呂は今日の朝も入ったけど……!
ひとしきり匂いを嗅いでから、エルマさんは顔を上げて……



「うーん……なんかサクラちゃん臭くない?トイレでなにしてたの?」

「え……?」

「みんなも嗅いでみてよー。サクラちゃんの腰の辺りね、なんか生臭い匂いがするの。もしかして気づいたのあたしだけ?」

「え、エルマさん……」

「え、エルちゃん!!みんなの前でそんな酷いこと言うのはだめだよ!」

「えーだってー。トイレでなにもしてないなら、なんか変な病気かもしれないよ?サクラちゃん、一回病院行きなよー。あたしも嗅いだことない変な匂いしてるもん。」

「う、うぅ……!私……臭くて……ごめんなさいぃ……!」

「ん?泣くほど嬉しいこと言われたのか?エルは優しいやつだなー!」

「あれれー?サクラちゃんどうして泣いてるのー?せっかく教えてあげたのにー。」

「エルマさん……悪気がないのはわかっていますが、少し黙ってほしいです……」

「わ、わわ……!サクラちゃん、泣かないでぇ……!変な匂いなんてしないから……サクラちゃんはいい匂いだから……!うう、ぐすっ……」

泣き出した私の背中を擦りながら、唯さんが優しい声をかけてくれる。
今会ったばかりの私に同情して一緒に泣いてくれるなんて……なんていい人なんだろう。
私が泣き虫で……ごめんなさい……!



【サクラ視点】→【エルマ視点】


「あーあ。唯ちゃんまで泣いて二人でどっか行っちゃたねー。」

「また便所か?てかエルはあの二人になんて言ったんだ?」

「……とりあえずエルさんは、あとでサクラさんに謝るべき……です。臭いという発言は人を傷つける発言……です。」

「あちゃー。そっかぁ……サクラちゃん、傷ついちゃったのかぁ……」

またやっちゃったなー。こうやってナチュラルに人を傷つけちゃうの。。。もう何回目なんだろ。
でもほんとにいい匂いとは言えないような匂いだったし、逆にもう臭いってはっきり言ってあげたほうがいいと思ったのに。
ルーアちゃんは小さいのにそういうのよくわかっててすごいなぁ。まぁこれは反省だね。あとでちゃんと謝ろうっと。

「……でもほんとに変な匂いだったんだよねぇ。ちょっと気になるなぁ……」

「そうです?うちは何もわからなかった……です。」

「アタシは耳ほどじゃねえけど鼻も悪いからなぁ。さっぱりわかんねえ!」

「うーんなんて言うのかなぁ……生臭いキノコみたいな匂いしたんだよねぇ。サクラちゃんが戻ってきたらじっくり調べてみたいんだけど」
「それはやめたほうがいい……です。」

ありゃ。ルーアちゃんに食い気味に制されちゃった。
でも気になる……だってもしかしたらサクラちゃん、変な魔物に寄生されてるかもしれないんだもん……

576名無しさん:2019/08/14(水) 03:05:17 ID:???
「うっうっ……隊長、ごめんなさい……!私たちまだ会ったばっかりなのに……」

「ううん……会ったばっかりだけどわかるよ。サクラちゃんは思いやりのあるいい子だって。多分エルマちゃんも、悪気があったわけじゃないと思うよ。だから落ち着いたら、またみんなに会いに行こう?」

「ずず……うぅ……はい……」

落ち着いた唯が抱きしめながら優しい声でサクラを慰め、ようやく落ち着いたサクラは顔を上げた。

(ぐへっへっへへ……この唯ちゃんっていうセミロングの子、クリクリしたぱっちりお目々に柔らかそうなほっぺが最高に可愛いど……この子にもおでの胞子で種付けして、従順な性奴隷にしてやるど……ぐへへへへへ……)

マイコニドが胞子で操るためには、一度サクラの体から出た上で実体化し、強力な胞子を鼻や口などに付着させる必要がある。
このとき、姿を晒すことにより見つかるリスクもあるため、寝静まった夜に実体化して獲物となる少女に胞子を植え付けて感染させる。

(一度植え付けてしまえばあとはおでの監視下……いつでもおでが意識を宿主に飛ばせば、その子の感覚を瞬時にジャック!トイレとか人気のないところにいったタイミングでさっきのサクラちゃんみたいにおでのキノコをしごいてもらったり、実体化したおでにご奉仕させたり……!!宿主の女の子とヤりたい放題なんだど!!!ぐへへへへへ……!)

こうしてマイコニドは主にサクラの体を菌床にして、すでにルミナスの魔法少女たちを何人か洗脳することに成功しているのだった。



「サクラちゃん、ごめんなさい!あたし悪気はなかったんだよー!だから許してくれる?」

「は、はい……わたしの方こそ突然泣いて驚かせてしまって、すみませんでした……」

「別にサクラさんが謝る必要はない……とうちは思うです。」

「まぁまぁ!これにて一件落着だろ!とりあえずみんなで飯食ってからカラオケでも行こうぜ!アタシの琵琶テクを披露してやんよ!!!」

「いいねぇオトちゃん!お互いのことを知るためにも、みんなで遊びにいこー!」

「「おー!!」」

(……こういう雰囲気は苦手……です。)

エルマとオトはノリノリだが、対象的にルーアとサクラはあまり乗り気ではない様子。
唯もそれをわかっていて、ノリの良い二人だけで盛り上がらないよう、会話を二人に振ったり場を持たせていた。

そしてご飯を食べた後のカラオケにて……

577名無しさん:2019/08/14(水) 03:07:50 ID:???
ギュウゥウウイイイイイイン!!ベベベンベベン!!!

「あたしゃミツルギのビワリスト〜!!!兄の形見の琵琶背負い〜!!今日も今日とて仇探す〜!!」

「イェーイ!OTOオト!OTOオト!仇敵探して琵琶かき鳴らせフォー!」

「……自分の曲がカラオケに入ってないからって、自分で演奏するとは……です。」

「オトちゃんもエルちゃんもすっごく歌上手いね!あ、次はサクラちゃんの番だよ!」

「あ……わ、私は遠慮します……歌は苦手ですし、皆さんの歌を聞くだけで楽しいので……」

「そっかぁ……あ、みんなのジュース取ってくるね!」

「あ、うちも手伝う……です。」

唯とルーアがグラスを持って部屋を退出し、中には歌うのに夢中なオトとエルマとサクラだけになった。




「サクラちゃん歌わないの?サクラちゃんの声すっごく綺麗なのにー!歌ってよー!ねぇ歌って歌ってー!サクラちゃんの歌声聞きたいー!おねがーい!」

「だ、だめですよ……!私、ほんとに音痴なので……!」

「ねぇサクラちゃーん!歌ってくれないならあたしサクラちゃんにキスしちゃうよー?ふへへ……それでもいーのぉ?」

「え、ええっ!?な、何言ってるんですかぁっ……!わ、エルさんお酒臭いっ……!オトさんも飲んでるっ……」

「だってぇ……ひっく。サクラちゃんって、そういうシャイな性格とか驚いた時の仕草とか、すっごく女の子らしくって可愛いんだもん……♥ふへへ、ついからかいたくなっちゃうんだよねぇ……えーい!」

怯えるサクラに接近したエルマは、妙にエロい顔をしながらサクラの体に指を這わせる。

「ひゃぁんっ!ちょ、エルマさんっ……!」

「ほらね?やっぱりサクラちゃんって可愛い……♥ねぇねぇ、サクラちゃんって男の人とキスとかしたことある?」

「そ、そんなこと……ない、ですっ……!」

顔から胸へ、胸からお腹へと指を這わせるエルマに、抵抗できないサクラはぎゅっと股を閉じて下を向いている。

「怖がらなくていいよ……サクラちゃん、お顔見せて?」

「え……んむっ!?」

優しい声に誘われ無防備に顔を上げたサクラの唇に、エルマはそっと唇を重ねた。



「戻ったよ〜!あれ、サクラちゃんとエルマちゃん、そんなに顔赤くなってどうしたの?」

「うぅう〜……ひっく。ごめん……あたし飲みすぎた……!ちょっとお手洗い行ってくるね……」

「……いつのまにお酒を……うちも一緒に行くです。」

「いいよぉルーアちゃん……あ、サクラちゃん、酔った勢いで変なことしてたらごめんね……」

「は、はいぃっ……!」

上ずった声で返事をしたサクラに唯とルーアは妙な違和感を感じたが、詮索はしないことにした。




部屋を出たときにはふらつく様子だったエルマは、トイレに入った途端正気に戻ったように俊敏な動作で、口の中の唾液を手のひらに出した。

(これがサクラちゃんの唾液……あの臭いの原因があたしの予想通りなら、これを調べればわかるはずっ!)

578名無しさん:2019/08/14(水) 11:53:07 ID:???
一方……ナルビア王国とトーメント王国の国境付近にて。

「やーれやれ。こんなすげー大雨は150年ぶりだなぁ……
最近クソ暑い日が続いて、全身臭くなってきてたから丁度いいぜ!がっはっは!!」

一人の男が、雨宿りのためにとある廃墟にやって来ていた。
時折空から落ちる稲光が、びしょ濡れになった筋骨隆々の巨体を照らし出している。

男の名はワルトゥ。150年前、王下十輝星の一人としてトーメントに仕え、『拳聖』と呼ばれていた。
とある邪術師の手によってこの世に復活した彼は、ミツルギ王国の武術大会に参加した後、
再び強者と美女を求めて流浪の旅を続けていたのだが……

「貴様、何者だ……ナルビアの追手、ではないな」
「ていうか臭!何あれ、オーガかサイクロプスのゾンビかしら?」
「んん?そりゃ、こっちのセリフだぜ……まさかこんな山奥の廃墟に、こーんなイイ女が二人もいるなんてな」

ワルトゥが訪れた廃墟には、既に先客がいた。

「タダの野盗……にしては、邪術の匂いがプンプンするわねぇ。……舞ちゃん、とりあえずブチのめしちゃいなさい」
……司教アイリス。強力な回復魔法と邪術の使い手であり、可愛い女の子を篭絡するのが大好物。
ナルビア王国に身を寄せ、国の乗っ取りを企んでいたが、計画を看破され逃亡していた。

「は……かしこまりした、アイリス様……『葬黒』……!!」
そして……柳原舞。サキの配下だったが、今は邪術によってアイリスに隷属し、手駒として働かされている。

漆黒のバトルスーツ『ジェットブラックアーマー』を身に纏い、舞は謎の大男に挑む。

激しい雷雨の中、どことも知れぬ廃墟の片隅で。
出会ってしまった強者と強者の戦いが、人知れず幕を開けた。

………………

(舞視点)

「喰らえっ……『ダーク・チェインサイズ』!!」
(ブオンッ!!)
突如現れた、汚らしい大男。奴からは、ただならぬ闘気を感じる……最初から全力で叩かなければ。
私は高く跳躍し、必殺の巨大鎖鎌『ダーク・チェインサイズ』を放つ。
だが……


「甘いぜ、お嬢ちゃん……玄武鋼身化!」
(ガキイイインッ!!)
「……くっ!?」
鋼鉄すら切り裂くダークメタルの刃を、素手で受け止めた。……有りえない。奴は化け物か!?


「朱雀飛翔脚ッ!!」
「きゃああああっ!!」
(ドガッ!!………ビキイッ!!)
次の瞬間、背中に強い衝撃。
地上にいた筈の男の声が、頭上から聞こえた。何が起きたのかわからないまま、私の身体は地面に叩きつけられて……

「うっぐ……何だ、今のは……だが、この程度の攻撃で私を倒せると思…う、な……!?」
『ジェットブラックアーマー』のおかげでダメージはそれほどでもない。
すぐさま体勢を立て直した私は……その時、信じられない物を見た。

「まずは、その無粋な鎧を……蒼龍練気掌!!」
(ドゴッ!!…ビキビキビキッ………)
「な、奴が二人、いや三……っぐっ!?」
鎌を受け止めた男、空中から攻撃してきた男。更にもう一人が、私のすぐ真横から、気弾を放ち……

「ボロクソに引っ剥がしてやるぜ!白虎斬爪拳!!」
(ザクッ!! バキッ!!……メキィッ!!)
「うあああああああっ!!」
激しいダメージで亀裂だらけになった私のアーマーを、4人目の男が、木の実でも剥くように易々と解体していった……

579名無しさん:2019/08/14(水) 11:54:10 ID:???
(ワルトゥ視点)

「ん、っく……貴様……一体、何者だ……」
さぁて、邪魔なアーマーをあらかたひん剥いた所で……黒セーラーのお姉ちゃんの身体をじっくり堪能するとしますかね。
まずは王道のベアハッグから行くか……

(ギチッ………ギチギチギチギチ……ぎゅむっ……)
「なっ……は、放、せ………っぐ、う、があああああああっ!!」

クックック……久しぶりの、極上の感触だ。
服に染み込んだ汗と泥の匂い。はちきれんばかりに撓む肉の感触、傷口から染み出す血の香り。
そして………

(ミシッ………ミシミシミシ……グキッ!!)
「ん、がぁっ!!…や、め、……っごおおおおおおお!!!」
力を入れるごとにゆっくりと壊れていく、関節と、骨の響き……。
こんなに壊しがいのある体は、久しぶりだろう。

「今度は、その美味しそうなあんよを痛めつけてやるぜ……クックック」
早くもグロッキー状態の黒セーラーちゃんをうつ伏せに寝かせ、
すらりと伸びた両脚を、自分の脚に絡めませて反りかえらせる。
スコーピオンデスロック……いわゆるサソリ固めの体勢だ。

(ぐっ………ぎりぎり、ギリギリギリギリ……)
「うぐっ……や、やめろ……っぐ、ううっ……!!」
背中、腰、両脚……獲物の下半身が壊れていく感触……クックック。こたえられねえな。
そしてお次はいよいよ……

(むにっ……ぐにゅっ……)
「……形と弾力が最高級、量より質のおっぱい、って所か……こういうのも悪くねえ」
「あっ……ん、くぅ……げ、下衆……がぁっ……!」
分身体を使ってのキャメルクラッチ……おっぱいを鷲掴みにする変則型だ。
黒セーラーちゃんの上半身が、ギリギリと悲鳴のような軋み音を響かせながら反り返っていく。
もちろん、分身の感覚は本体である俺にもダイレクトに伝わってくる。

「いいねえ。久しぶりに、極上の獲物だ………滾って来たぜ」
(ぎちっ! ぎちっ! ぐぎっ!! みしっ!!)
「あぐっ!!や、め……んぎ!!……っ、がは!!」
一箇所にダメージが集中すれば、あっという間に壊れてしまう。
なるべく均等にダメージを与えつつ、ゆっくりとダメージを蓄積させ……

「………ふぅぅぅんっ!!」
(ベキッ!!メキメキメキッ!!ゴキゴキィィィッ!!)
「んごあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッ!!!!!」
最後に、全てを、全力で………一気に壊す。……この瞬間こそが、この技の醍醐味ってやつだ……クックック。


「……ぁ…………ぉ………」
黒セーラーの姉ちゃんはヒクヒクと痙攣しながら小便を漏らし、無様に気絶した。
次はいよいよメインディッシュ………
あの神官っぽい方の姉ちゃんの、大ボリュームのおっぱいを楽しませてもらうか。

「……そこまでよぉ、腐れ下品男。舞ちゃんに時間を稼いでもらってる間に、術式を完成させたわ……これでチェックメイトよ」
「ふん……おもしれえ。何するつもりか知らんが、返り討ちにしてやるぜ……」
いつの間にか、足元には怪しげな魔法陣が広がっていた。
術者であるおっぱい姉ちゃんの方に向き直った、その時……。

(ぼとり)
音を立てて、何かが落ちた……と同時に、俺の視界は真っ暗になった……

580名無しさん:2019/08/14(水) 11:57:37 ID:???
(アイリス視点)

「ウヴォァアアアアア!!」
腐りきって異臭を放つ身体、ところどころ肉が剥がれ落ちた手足。
あ、目玉が飛び出た……やれやれ。あんな筋肉ムキムキのゾンビ、初めて見たわ。

「………おっぱい姉ちゃぁぁ……何、しやがったぁぁぁ……」
「まだ何にもしてないっての……鬱陶しいから、さっさと片付けてあげる」
どっかの邪術師が造ったのが、脱走して野生化したのかしら。
あんなの直接相手するのなんて、私なら死んでも御免だわ。舞ちゃん、本当にご苦労様……。

「ウヴォォォォ!!!」
「ディスペル・アンデッ……あぐっ!!」
なっ!?速っ……
巨体のゾンビが、あり得ないスピードで私にタックルしてくるっ!!

「あっぶな……ゾンビのくせに、なんて速さなの……!!」
……不死返しの詠唱が、妨害された。
5秒先まで未来を見通す『赤い目』がなかったら、捕まってたわ……!

「ォ……ヴァアアアアイ……」
(みちっ……ぐににっ……ぞわっ)
「っぐ……ふざけん、な……ライトシュー……っうあ!?」
巨体ゾンビは瞬く間に何体にも分身して、私の身体に群がる。
自慢じゃないけど質・量共に超極上な私の胸を、奴は特別に執着しているらしい。

接近戦、しかもあのスピードじゃ、大掛かりな魔法は使えない。
しかも……
(ぐちゃっ!!ぶしゅっ!!どろぉっ……)
「うっぐ………来るなっ………来るなぁっ!!ダークバレット!!」
生前持っていた能力が暴走しているのか。ゾンビは次々と、無数の分身を創り出して襲い掛かって来る。
最早どれが本体なのか、本人にもわかっていないのかも知れない。

(ぐちゃっ!!ぶしゅっ!!どろぉっ……)
「っぐ、あっ……もむな……しゃぶるなっ……くっそがぁ…………冗談…じゃ、ないわ……」
叩き潰しても振り払っても、ゾンビは無限に分裂して私に襲い掛かり、美しい私の肢体がおぞましい腐臭と汚汁に穢されていく……

「やめろっ……」「来るなっ……」「い……いやあああぁあっ!!」
前後左右、どっちにかわしても、どのゾンビに反撃しても……5秒後の私は、奴に囚われる運命から逃れられなかった。

(ぐきっ ぐきぐきっ! ミシミシミシミシミシ……)
「っぐぁ!! は、放………っく!!んああああああああっ!!」
二体の上半身が私の手足を掴んで、ブリッジの体勢で身体を反らせていく。
プロレスで言う所の、ロメロスペシャルの形。巨大ゾンビのバカ力で、その角度はどんどん鋭くなっていく……

(この、ままじゃっ……私の身体が……)
赤い目の能力を使わずとも、破滅的な結末が間近に迫っているのが肌でわかる。
残された手段は……ただ一つ。
(霊魂封じ……騎士の血印……!!)
強き者の魂を印に封じ、自らの下僕として自在に操る。
シーヴァリアに居た頃の私が、「重鋼卿ブルート・エーゲル」を創り出した術。

「汝の魂、今ここに封じん……ソウルシーリング…!!」
「グギッ……!?………ッガアアアアアアアアアアア!!!」
苦し気な呻き声を上げながら、腐った肉塊に宿った魂が、エンブレムに吸い込まれていく。


「…………はぁっ……はぁっ……封印完了……騎士って言うより、文字通り狂戦士ね……」
媒介である聖騎士のエンブレムは最後の1個だったから、こんな奴に使いたくなかったけど……
……皮肉なことに、実力だけなら申し分ない。この下品な巨人ゾンビ、生前は一体何者だったのかしら。

何にしても……思わぬ所で、強力な魂が手に入ったわ。後は、こいつにぴったりの、最強の身体……

ナルビアの連中に、亡命の手土産として渡した『ドスの鎧』。
奴らとの関係も切れた事だし、返していただくとしますか……

581名無しさん:2019/08/15(木) 12:49:59 ID:???
「ニロンの木の皮にマーリン水を垂らして……これにサクラちゃんの唾液を……」

研究素材用圧縮鞄から目的の素材を取り出したエルマはさっそく検証を始めた。

(腐ったキノコ……あの臭気は恐らく胞子の残留成分。きっと直前にばらまいたものがまだサクラちゃんの体に残ってたんだ……)

「うん……やっぱりビンゴだね。」

エルマが垂らした唾液の箇所の木が、とてつもない速さで腐食していく。

(マーリン水は菌の働きを助ける成分を含む魔物から抽出した水……こんなに腐食が早いっていうことは、やっぱりサクラちゃんを菌床にしてる魔物がいる!)

魔物の名はマイコニド……人に寄生して繁殖活動を繰り返すという恐ろしい魔物だ。
それに、まず宿主から魔物本体を引きずり出さなければ対処のしようがない。

(サクラちゃんは記憶操作されて気づいてないみたいだし、なんとかしてキノコをサクラちゃんから出してあげなきゃいけないんだけど……うーん、どうしようかな……)

マイコニドが寄生するタイミングは就寝時など、人間が無防備になるときが多く、一度狙われれば回避は困難である。

(引きずり出しちゃえば薬剤で簡単に駆除できるんだけどなー……ん?)

「あ……エルマさん……」

エルマが振り返ると、トイレに入ってきたサクラが気まずそうに立っていた。

「あぁごめんごめん!あたしもう出るから!」

素早く道具を片付けてそそくさと出て行くエルマ。彼女が出て行ってからサクラは個室に入り、鍵をかけた。



「あぁっ!だ、だめぇっ……!んっ……うぅっ……!」

「ハァハァハァハァ……エルマちゃんかわいすぎるどぉ!あんなに舌を絡めて唾液まで舐めとるようなねっとりキスぅ!あんなキスを女の子からされたの、オラはじめでだぁ……ぐひ、ぐひひ……!」

興奮したマイコニドの性的欲求によって、またもサクラは怒張したキノコを自らの手で触らせられていた。
キノコからとめどなく溢れ出るぬちゃぬちゃとした卑猥な粘液の音と抑えきれないサクラの小さな喘ぎ声が、トイレの中に淫らに響く。

(ぐちゅぐちゅぐちゅねちゅっっ……!くちゅくちゅ、ねちゅぅっ……)

「おおぅ……!!その竿を激しく擦ったあとにカリを優しくぐりぐりされるの……気が狂うくらい気持ちよすぎだどっ……!」

サクラの手は勝手に動いているだけなのだが、その動きはマイコニド自身が動かしているわけではなく胞子によるものなので、新鮮な刺激を楽しむことができる。
このようなことを繰り返しているせいで、サクラの体が早く終わるように魔物の弱点を知り尽くしているのだ。

(こ、こんなこと……いやなのにっ……!手で擦るたびに気持ち良くてっ……とまらないよぉっ……!)

「ぐひひひ……おでの気持ちいいとこをしっかり擦ってくれるお人形ちゃんの可愛いおてても最高だどぉ……新しい刺激を求めて、早速今夜あのエルマちゃんをおでの新しいお人形ちゃんにするど……!」

「え……?そ、そんなっ……だめですっ!わたしのせいで……みんなが……!」

(ぎゅうっ……)
サクラに強い反抗の意思が見られたせいか、キノコを握る手に強い圧力が加わる。
だがそれも魔物にとってはちょうどいい刺激。むしろ興奮を高めるだけだった。

「おぅふ、いきなり強く握るなんて……!し、心配しなくてもいいどぉ……!みんな寄生させれば仲良く乱行パーティできるどおおお!あああぁ、も、もうイくど!」

「えっ!?ふぁっ!あああああああああああんっ!!」

絶頂を迎えたキノコの傘から、白い霧状の胞子が勢いよくばら撒かれた。
そしてその個室の隣には……

(うひゃー……もうサクラちゃんえっちすぎだよぉ!あたしも寄生されたらこんなにエッチな女の子になっちゃうのかぁ……絶対いやだなぁ。)

こっそり戻って様子を伺っていたエルマが、全てを聞いていた。

582名無しさん:2019/08/17(土) 02:12:25 ID:cFwaYLWs
「よっ!シアナ!」
「お邪魔しまーす。」

「……アトラとフースーヤか、何の用だ?僕は忙しいから手短にな。」

大戦に向けて資料を作成しているシアナの元に現れたのは、普段と調子の変わらなさそうなアトラとフースーヤだった。

「なんだよ〜最近付き合い悪いな〜!てかそんなことより聞いたぞ!俺の大事な大事なリザを叩いてくれたそうだな!」

「おい……なんでそれをお前らが知ってるんだよ……」

「お掃除ロボが言いふらしてましたよ。シアナさんがリザさんを本気で怒らせた結果泣いて失禁したって……まあさすがに泣いて失禁は誇張されてるのはわかってますけどね。」

「……あいつ、今度あったら絶対スクラップにしてやる……!」

「てか原因教えろよ!なんでリザと喧嘩したんだよ?」

「……僕の口からは言いたくない。知りたいならリザのやつに聞けよ。まあ8:2で僕のほうが悪いとは言っておくが。」

「えぇ……」

自分が先に手を出したし、アイナのこととはいえ相手は仲間の女の子だったのだ。
ついカッとなって叩いたりひどい言葉を浴びせたりしたことを、シアナは心から悪いと思っている。
あれからリザとは会っていないが、もう嫌われただろうし、自分から話しかけることができていない。
向こうから話しかけられたら、普段通りに話せるとは思っているシアナだが……



「んーリザなぁ……アイナいなくなってからほんと元気ないんだよな。せっかく最近よく話すようになってたのに。やっぱアイナってすげぇ奴だったんだよな。」

「食堂にも来ませんもんね。部屋で食べてるのかな……正直ほんとに心配ですよ。最近兵士たちからもリザさんの態度に、結構不満が出てますから……」

もともとトーメントの兵士たちには愛想を振りまかないリザだったが、最近は挨拶もスルーされることがあるらしい。
一部の兵士にはむしろ冷たくされるとそそられると好評らしいが……
ちなみにトーメントの兵士たちにいつもリザが冷たいのは、隙あらばお尻や胸を触ろうとする下衆い連中が多すぎるからである。

「……わかったぞ喧嘩の原因!どうせ夏着のエロエロなリザにムラムラしてシアナが手出したんだろ?俺もノースリーブミニスカート姿見たときはこれもう大量殺戮兵器だろって思ったしな。そのお気持ちは弊方もよくおわかりになるしお察しするぜ。」

「妙な言葉使いで勝手に低俗な妄想すんなよ……まあほんとに僕が悪いんだ。そのうちいつか教えてやるから。」

「はぁ!?今教えろよ!俺とシアナの仲だし!俺とシアナの中出し!」

「変換ミスってるぞ、気持ち悪い……!」

「……というかアトラさん、リザさんと付き合いたいなら今がチャンスなのでは?弱ってるところに優しい言葉をかけると、女の子って意外とコロってなっちゃう……と昔姉が言ってましたよ。」

「うええままままままままじかフースーヤ!?そんならぱぱっと声かけてみるしかねえな!この夏が終わる前に海デートからのお祭りデートで水着姿と浴衣姿の期間限定最高レアリティリザを拝んでやるぜ!じゃあなシアナ!!」

リザと付き合えるチャンスと聞いて早速ヤる気満々になったアトラは、足元をぐるぐるにしながら光の速さで部屋を後にした。



「……ありがとなフースーヤ。話変えてくれて……」

「いえ……シアナさんがリザさんとの喧嘩については話したくなさそうだったので。そんなに険悪じゃないならいいんですけど……」

「僕はもう気にしてないけどリザはどうだろうな……まあ改めてちゃんと謝っておくことにするよ。」

「……シアナさんやヨハンさん、サキさんは色々忙しそうですよね……僕たちは戦いに出るだけでいいから、楽させてもらってます。アイベルトさんなんか最近幼児退行したロゼッタさんのお父さんみたいになってますし。」

「まじかよ、それはなんか色々不安だな……あ、多分お前の姉も戦争に出るんだろうけど、あんまり暴走するなよ。お前はまともそうなのにリミッター外れるとやばいみたいだからな。」

「ははは……ルミナスではかなり暴れちゃいましたからね。ノワールさんにそそのかされて、変な趣味にも目覚めちゃいましたし。」

姉であるフウコを女として愛していたフースーヤ。その姉を死姦したときの言いようのない多幸感を感じたことは、生々しい記憶のままずっと彼の中に残っている。

(姉さん……またあのときのような快感を味あわせてくれるなら、また会える日が楽しみで仕方ないよ……)

583名無しさん:2019/08/17(土) 23:01:10 ID:???
「ちょっと体調悪いんで先に戻ってるわ。サクラちゃんによろしく……」
「わかったよエルちゃん!私たちももう少ししたら帰るね。……もうお酒はダメだよ?私たち未成年なんだし!」

ヴェンデッタ小隊結成記念カラオケ会!を一足先に抜け出した私は、
早速サクラちゃんに憑りついた魔物の対策に取り掛かった。

ドラッグストアがまだ開いててよかったわ。
風邪薬に殺虫剤、解熱剤、etc…
最低限の材料しかないけど、なんとかこれで駆除剤を作るしかないわね。

(ちゅぱっ………くちゅくちゅ)

本当ならキノコの駆除には『タケノ・コヴィレッジ草』の花が一番効くんだけど、
普通のお店じゃ手に入らないし、そもそもこの季節じゃどこにも咲いてないし……
ない物ねだりしてる場合じゃないわね。みんなが戻ってくる前に、さっさと作っちゃいましょ。

(……ぬるり ぐちょっ じゅぶぶぶっ)

……それにしても。なんだか身体が熱っぽい、ような……
お酒……飲むフリだけのつもりだったけど、ちょっと飲んじゃってたのかな……?

…………

「えええ!?サクラちゃんに、魔物が憑りついている……!?」
「大声出さないで、唯ちゃん。……十中八九、間違いないわ。
できれば大事にはしたくないから、これから唯ちゃんと私で、サクラちゃんの所に行きましょう。」

エルちゃんの言った事は、にわかには信じられなかったけど……嘘を言っているようには見えなかった。
サクラちゃんは、ヴェンデッタ小隊の為に用意された、宿舎の部屋にいるはず……
隊長として、隊員のピンチは……いやそれ以前に。折角できた新しいお友達のピンチ、放っておけないよね。

「ここがサクラちゃんの部屋……だけど、鍵掛かってるよ」
「任せて……」
(ガチャ)
エルちゃんがスマホっぽい機械を取り出すと……瞬く間に電子ロックを解除してしまった。
……エルちゃんって、彩芽ちゃんと気が合いそうだなぁ。

「そうそう。入る前に、コレ飲んどいて……キノコ用のお薬よ。効果は正直怪しいけど、念の為の保険ってとこね」
「うん、ありがとう!」
「ふふ……どういたしまして」

エルちゃんのくれた薬……白くて、ドロッとしてて、何だかカビみたいな匂いがするけど……
鼻をつまんで、一気に飲み干す。
(うぇ……に、苦い……で、でも、サクラちゃんの為ならこの位……!)

(くちゅっ………ぬりゅっ……)
「………っ………ん、くううっ……」
「ぐひっ………ぐひひひっ……」

サクラちゃんの寝室の扉を慎重に開き、中の様子を伺うと……声が聞こえる。

サクラちゃんの……苦しそうな、何かを我慢しているような、甘い吐息。そして……それを嘲笑う声。
この瞬間、私は確信した。誰かが……サクラちゃんを苦しめている何者かが、確実に、いる!

「サクラちゃんっ!!」
私は部屋の明かりをつけると同時に、飛び込んだ。そこにいたのは……

(ぬちゃっ………ぐちょぉ)
「ゆ、唯さんっ…エルマさん……!」
「ぐっひっひぃ……待ってたどぉ、唯ちゃぁん……」
下着姿で、全身白いぬめぬめの粘液に塗れているサクラちゃん。
キノコが巨大化して人型になったような、不気味な魔物。

「あなたが、サクラちゃんを苦しめていたのね……絶対許さないっ!! 行くよ、エルちゃん!」
サクラちゃんを抱きかかえたキノコの魔物に、私は躊躇なく飛び込んだ……!

584名無しさん:2019/08/18(日) 15:14:48 ID:???
「ええ、いくわよ、唯ちゃん……ヌルインパクト!!」

勇ましく飛び出していった唯の背後から、エルマの援護魔法が飛んでくる。

無属性の、付近の敵を吹き飛ばす純粋な衝撃波は……後ろから唯を強かに打ち付けて、キノコの魔物の方へと吹き飛ばした。

「が、はっ……!?」

味方からの、全く予期しない攻撃に反応できなかった唯は、受け身も取れずに、サクラの寝室の床にうつ伏せに倒れこむ。

「あ、れ……あたし……?」

だが、唯を攻撃したエルマ自身も、自分の行動に疑問を持っているようだ。

「ご、ごめん唯ちゃん!すぐ回復を……」

(ぐちょっ じゅぶぶぶっ!!)

「あ……フォトンバレット!!」

回復魔法を唯にかけようとした瞬間、エルマの腰の辺りから湿り気を帯びた音が響き……気づけばエルマは、再び唯に攻撃していた。

「きゃあぁああ!?」

再び吹き飛ばされた唯は、キノコの魔物……マイコニドの目の前にまで飛ばされてしまう。

「なんで、あたし……!」

「うひひひひ!!バカめ!オラの胞子をあんなに近くで嗅いだら、影響があるに決まってるど!お前が横でコソコソしてたのなんて、お見通しだったんだど!」

「そ、そんな……!」

>>581でエルマがサクラの様子を伺っていた時に、無意識に吸い込んでしまった胞子……それによって、今、エルマの体はマイコニドによって操られていた。

「ぐひひひ!馬鹿ば奴だど!深入りし過ぎる奴は無能って、ノワール様も言ってたど!」

「う、うるだい!!こうなったら、薬をがぶ飲みして……!」

今まで挫折知らずだった天才少女である自分が、敵のいいようにされている……そのことで冷静さを欠いたエルマは、懐から白くて、ドロッとしてて、何だかカビみたいな匂いがする薬を取り出すと、一気に呷って飲み込んだ。


「つくづくアホだど……がり勉ちゃんは一度追い込まれると弱いから楽だんな」

「……くうぅうん!?」

容量用法など知るかと言わんばかりに『薬』を飲み込んだ瞬間……エルマの全身に、凄まじい熱が襲いかかった。

585名無しさん:2019/08/21(水) 01:05:49 ID:???
「あっ、あぁ……!く、苦しっ……ぃ……!」

「うぅ……エ、エルちゃん……?」

薬を飲み干したエルマの体に起こったのは、体内での大量の化学反応である。
マイコニドの胞子を駆除する薬で操り状態は溶けたものの、過剰に摂取した薬の成分が体内の細胞を破壊してしまい、エルマの体は熱を帯びていた。

「うひひひひひひ……!その薬をその量飲んだら、ぶっ倒れてもおかしくないど。とっても可愛くてめちゃくちゃ頭がいいエルマちゃんでも、焦るとやっぱり馬鹿なことしちゃうんだど!うひっうひひ!」
「え、エルマさん……!」

「へ、へーき……!こんなの全然、へーき……だよっ……!」

「うひひひ、強がるエルマちゃんも可愛いんだなぁ……!」

魔法のダメージで立ち上がれない唯に変わって、自分がこの魔物を倒すしかない。
苦しそうに胸を押さえて大量の発汗を見せるエルマ。そんな中でも持ってきていた戦闘用マナ装甲を起動させようと、ポケットの中に手を入れる。

「無駄なんだなぁ……げっひっひっひ!」
「きゃっ……!手が勝手にっ……!」

シュルシュルシュルシュルシュル!!バチン!!!

「うわわっ……?あああん!」

絶対にエルマに反撃の機会を与えまいと、マイコニドは素早くサクラの体を操り魔法を使い、大量の蔦でエルマの体にからみついた。
両腕、両足をピンと閉じた状態で、思い切りバチン!と拘束されたエルマの口から悲鳴があがった。

「エルちゃん!」
「エルマさん……唯さん……早く逃げて下さいっ……!」

「うひひひひ、蔦に叩きつけれられておっぱいがぷるるんっ♥って揺れたどぉ……!さすが、完璧少女のエルマちゃんはスタイルも抜群にいいみたいだど……!」

「くぅ……!な……なんでこのあたしが、こんなキモい魔物なんかにぃっ……!」

「策士は策に溺れるんだど……さっきおでにエッチなキスをしてくれたエルマちゃんに、おでの本体でキスしてやるど!げひ、げひ!げひげひゲヒヒィ!」

「うぇ……ほ、ほんとにキモすぎだよ……!やだ!こっち来ないでよっ!」

サクラを雑に床に放り投げ、エルマに接近するマイコニド。
見た目や言動と違い、この魔物は遥かに狡猾だ。エルマと唯は万全の装備をしてきたにもかかわらず、このような状況になってしまった。
このままエルマも操られてしまえば、もう唯に勝ち目はないだろう。

「はぁ、はぁ……エルマちゃんにまで酷いことはさせないよっ!」

「ゆ、唯ちゃん!」

「ぐひひひ……おとなしくそこをどかないと後悔するどぉ、隊長の唯ちゃぁん……!」

「どかない!サクラちゃんとエルマちゃんがピンチなのに……隊長の私が逃げるわけにはいかないっ!柔来拳ッ!!」

自らの精神を高め、魔法力を拳撃に乗せる技で気合を高めて戦闘態勢を取った唯。
ヴェンデッタ第7小隊隊長になった彼女の新たな戦いが、今幕を開ける!

586>>580から:2019/08/24(土) 21:36:45 ID:???
「というわけで〜。ナルビアの誇るこの『魔導兵器研究所』では、いろんな国から諜報活動で……ゲフンゲフン。
なんというかその、色々あって入手した様々な兵器の研究が行われているのよぉ。」
ボク……古垣彩芽は今、エミルさんの案内でナルビアの兵器研究所を見学させてもらっている。

……部外者のボクに見学の許可が下りたのは、
ナルビアの軍部が、メサなんとかいう生体兵器の研究開発にかなりのリソースを注力しているのが遠因だという。
それ以外の研究は後回し、というかぶっちゃけ割とどうでもいい、と思われてる……とエミルさんがこっそり教えてくれた。

「私も、アルガス関係のゴタゴタでマーティン総括のチームから外されちゃったし〜。あ、彩芽ちゃん達のせいじゃないわよ?
何にしても世知辛い世の中よねぇ。ミーちゃんも左遷されちゃったんでしょ?」

「うるっさい。私の事はどうでもいいの……
ところで、彩芽。アンタがここに来たがった理由、ただの見学じゃないわよね……
ま、アタシには関係ないし、余計な面倒は御免だから、何かあっても見ないフリしとくけど」
「………そうしてくれると助かるよ」
そう。ボクがここに来たのには……大きな理由がある。

「では見学者の皆様、次はこちらをご覧くださ〜い。
このケースに展示してあるのは、異世界のテクノロジーの産物……
なんと、一時期あのトーメント界隈を騒がせた『白銀の騎士』こと
時空刑事クレラッパーの変身ブレスレットと、なんとかかんとかっていうバイクで〜す!」
「へー。ネットの紹介画像にチラッと出てたやつね。クレラッパーのだったんだ」
これだ……やっぱり、見間違いじゃなかった。

トーメントに囚われた、サラさんの行方は未だにわからない。
ブレスレットとバイクがここにあるという事は……トーメントで、サラさんの身に一体何が…?

(とにかく……エミルさん達には悪いけど、これだけは何とかして回収しないと……)
「あら彩芽ちゃん。変身スーツとか興味あったりする?
実はこのアーマーや、舞ちゃんて子が使ってたトーメント王国の改造品『ジェットなんとかアーマー』とか、
その辺の装備を色々アレコレしたやつが、量産化に成功してるのよ!」

ちなみに、エミルさんの後輩の『エルちゃん』なる人物が開発していた『装着型人体強化マナ装甲』という装備がベースになっているらしい。
その『エルちゃん』本人はというと、何やら偉い人にサラッと暴言はいちゃったせいで、ヴェンなんとかっていう特殊部隊に飛ばされたとか……げに世の中は世知辛い。

「え、ええ〜。それはすごいなぁー!! もしかして、それもここで見学できちゃったりとか……」
「見学どころか、試着もオッケーよ!ちょっとサンプル取ってくるから待っててもらえる?」

そう言って、エミルさんはどこかに走っていた。
機密事項の最新兵器らしいのに……着れちゃうのか。なんというか、思った以上にガバガバだなぁ。
まあとにかく今のうちだ。アヤメカイNo.41「開け!ゴマふりかけ」と、
No.42「多分バレない!ダミーアイテムくん」と、
No.43「取った物をしまっとく四次元ナントカみたいなやつ」を用意して、と……

「見ないフリするとは言ったけど、もう少しこっそりやりなさいよ……」

(ジリリリリリリリリリ!!!)
「緊急警報!!緊急警報!!!研究所内に侵入者あり!!警備隊は直ちに対応せよ!」
「うわあああああ!!速攻でバレた!!ごめんなさいごめんなさい!!」
「……待って。『侵入者』って……たぶん、アンタの事じゃないわよ」

587名無しさん:2019/08/24(土) 21:44:03 ID:???
少し時は遡り……

「アイリス様……聞こえますか?舞です……『ドスの鎧』を発見しました」
柳原舞も、女司教アイリスの命令で魔導兵器研究所に潜入していた。

「おっけー……それじゃ手筈通り、例の『騎士印』を取り付けて。10分後に、鎧の周囲に自動転送魔法が発動するわ。
発動の瞬間に鎧から離れてたら、そっちに置き去りにされちゃうから気を付けてね♥」
「…わかっています」

「じゃあ、魔力通信を切るわね。逆探知でもされたら面倒だし……んじゃ、後はよろしく♥」
「はい……お任せください」
『ドスの鎧』に、先日のゾンビ男……ワルトゥの魂が封印された血印を取り付ける。

「グルルルルルッ……」
しばらく待てば、封じた魂が鎧に宿り、動き出すはずだ……司教アイリスの、忠実なる僕として。

だが……それらを悠長に待つ時間は、舞には与えられなかった。

「緊急警報!!緊急警報!!!研究所内に侵入者あり!!警備隊は直ちに対応せよ!」
「っ……気付かれたか」
「ふふふ……当然よ。と言うより……この鎧を取りに来るだろうと思って待ち伏せしてた……ってのが正確かな?」
「!!その声は……」
鳴り響く警報。そして、警備隊に先駆け、真っ先に舞の目の前に姿を現したのは……
鋭い刃の付いたブーメランを手にした、一人の少女だった。
年齢は舞よりやや下だが、かなりのプロポーションを持っている事が軍服の上からでもわかる。
プリン頭の前髪ぱっつんで、瞳はカスタード色……

「第1機甲部隊師団長 レイナ・フレグ……なぜこんな所に……!!」
「言ったでしょ?待ってたのよ、舞ちゃん。貴女のことを、ずっとね……『ブーメランイーグル』!!」
(ブオンッ!)
レイナのブーメランが、唸りを上げて舞を急襲する。

「……っ…!!…やるしか、ないみたいね………『黒葬』!!」
回避しつつ、強化スーツを身に纏う舞。だが……

<警告:スーツのダメージが深刻です。直ちに使用を中止してください!>
<『ダークチェインサイズ』使用不可>
<防御性能71%低下>
<速度性能37%低下>
……

(くっ……あのゾンビ男にやられたダメージが、予想以上に大きい……

舞の『ジェットブラックスーツ』はワルトゥとの戦いで至る所が破損、大破し、万全には程遠い状態。
それでも、圧倒的戦闘力を持つ『シックス・デイ』の一角が相手となると、スーツの力に頼らざるを得なかった。

「あれー?最初っからずいぶんボロボロだねぇ。私のお気に入りのお人形さんに、どこの誰がこんな事したんだか……
こんなんじゃ『奥の手』を使うまでもないかな?」
(ブオンッ!!……ドゴッ!!ザク!!ザシュッ!!)
「……10分の間、これでなんとか持たせるしか……っぐ、うぁあっ!!」
二本のブーメランを手に持ち、近接攻撃を仕掛けてくるレイナ。
斬撃に蹴りを絡めた変幻自在の連携攻撃で、舞の手足やお腹など、アーマーに覆われていない部分に着実にダメージを与えていく。

「だ、め……受けに回ったら、やられる……てやああああ!!」
(ビシュッ!!ドゴッ!!ガキィィンッ!!)
「いっつー……ふふふ、舞ちゃんもやるなぁ……」
舞も負けじと、長い脚を生かした華麗な足技で応戦する。
スーツのパワーが落ちているとはいえ、その威力は侮りがたく、ガードした両腕の痺れにレイナは眉をしかめた。

「よーし。ちょっと早いけど、見せちゃおっかなー。新生レイナちゃんの新しい姿を!
……『雷っ……装』!」
間合いを離したレイナが、金色のブレスレットを掲げてコマンドワード叫ぶと……

「なっ!?……それは、まさか……」
電光が走り、雷鳴が轟く。
レイナの身体に、瞬きする程の一瞬……わずか1ミリ秒で、黒地のインナースーツと金色のプロテクターが装着された。

588名無しさん:2019/08/24(土) 21:54:25 ID:???
「私の『ジェットブラックスーツ』と同じ、戦闘服を……」
「ふふーん。同じじゃないよー?
『泣く子も複製する』オメガタワー研究開発部門が、技術の粋を集めて造った装着型人体強化マナ装甲……
私専用にカスタマイズされた『ライトニングメタルスーツ』は、舞ちゃんのより全然高性能!
例えば、そうだなー……」

(ブンッ……)
「!?…消え……」
不敵な笑みをと残像を残して、レイナの姿が消え……

「スピードは、1.5倍……」
「くっ……」
一瞬にして、舞の背後に現れる。

(……ドゴッ!!)
「っうああああああああっ!!」
「パワーと防御力は5倍、って所かしら?」
そして、軽く放ったジャブ一発で、舞を壁まで吹っ飛ばした。

「がはっ……げほ、うぐ………」
「いきなりコレ出したら5秒で終わっちゃうから、後のお楽しみにとっときたかったんだけどね〜。
舞ちゃんのビックリする顔が、早く見たくって……」
(ブオンッ!!)
「!!」
「そうそう、その顔♥」
またしてもレイナの姿が消え、次の瞬間目の前に現れる。

半壊した舞のバイザーゴーグルには、性能低下と機能停止を示すメッセージ表示と共に……
<戦力分析…… 勝率0% 危険!可能な限り早急な離脱を推奨します>
という警告が大きく表示されていた。

だがそんな事は、当の舞自身が一番わかっている。問題は……どうやっても、それが不可能であることだ。
「んじゃ、お人形遊びの続きしよっか……手加減してあげるから、1分ぐらいは耐えて見せてね?」
(ドスッ!!)
「ごぼ……!!」
装甲の剥がれた舞の腹に、レイナの膝蹴りがまともに突き刺さる。
血の混じった胃液がこみあげ、黒いアーマーの残骸とセーラー服を穢した。

「はぁっ……はぁっ……大した力ね……
情報によれば、ナルビアは今『メサイア』とかいう秘密兵器の事以外はおざなりになってるらしいのに」
「ふふん。ま、そこはちょーっと、コネとか使ってさ……マーティン君に本気出してもらったの。
私らもその『メサイア』に立場取られちゃたまんないから、なりふり構ってられないってわけ」
「……だから、私みたいな小物でも、取りこぼしたくないわけね。でも、そう簡単には……!!」
(シュッ!!………ガシッ)
舞も必死に気力を振り絞って反撃するが……全力で放ったミドルキックは、あっさり片手で受け止められてしまう。

「それにしても……舞ちゃんの脚って、本当にキレイだよね。スラっと長くて、フォルムも完璧。
私も『シックス・デイのお色気担当』なーんて自称してるけど、ここだけは敵わないなぁ……ねえ、もっとよく見せて?」
(メキメキッ………ビシバキッ!!)
レイナは、掴んだ舞の脚をうっとりと眺めると……両脚の装甲板を素手で引き剥がし始める。
「やっ……や、めっ………いやあああああっ!!」
<防御性能95%低下>
<速度性能99%低下>
<危険:スーツの破損が極めて深刻です。ただちに使用を中止してください。制御システム強制シャットダウン開始……>

アイリスの転移魔法が発動するまで、あと6分30秒。……今の舞にとって、それは永遠にも等しい長さだった。

589名無しさん:2019/08/30(金) 00:27:41 ID:???
戦闘スーツをボロボロに破壊された舞。身体能力を圧倒的に向上させるアーマーも、機能停止してしまえば、最早重いだけの鉄の塊でしかない。

黒タイツもボロボロになり、所々素肌が覗いている舞のスラリとした足に、レイナは手を這わせ……

「あ、そうそう、忘れてた……」

パッと手を離すと、足に伸びていた手を舞の顎に添える。
弱々しく首を振って抵抗する舞の顔をバイザーごと掴むと……力の限り握り締める。

「あ、ぁ、っがあぁ……!!」

ミシミシと舞のバイザーゴーグルが軋み、頭蓋骨が強く圧迫される。
無意味に手をばたつかせるだけしかできない舞の口から、苦悶の声が血と共に吐き出される。

「よし、そろそろいいかな、っと!」

「がっ!!」

ダラダラと頭から血を流し、滑りが良くなった舞のバイザーを、レイナは思いっきり引き剥がす。

「ふふ……私ね、お人形のお裁縫も得意なんだよ」

隠すものがなくなった舞の端正な顔を掴み直すレイナ。その手にはいつの間にか、針と糸が握られていた。

「またチューで洗脳されたらヤだし……お口ミッフィーちゃんにしてあげるね!」

そう言うや否や、以前熱い口付けを交わした舞の瑞々しい唇に……レイナは針を通した。


「ん、んぐ!?んぐぐん゛ん゛ん゛!!?」

針が上唇と下唇を通る度に、耐え難い激痛が走る。
しかもレイナはわざとのか素なのか、時々「あれ、あれぇ?」と言いながら、同じ所に何度も針を通したり、目や鼻の近くに針を刺して来たりする。

「もう、舞ちゃんが暴れるから上手く縫えないじゃん!ほーら、いい子だから大人しくしまちょうねー」

「ん、むが、ご、んぐぅうう!!!」

猫なで声を出して舞をバカにしながら、針を通し終わるレイナ。
舞の口は針と糸によって、完全に塞がれてしまった。


「さて、と……キスされる心配もなくなった所で……この前の仕返しをたっぷりさせてもらおうかな」

590名無しさん:2019/09/01(日) 16:15:41 ID:???
(ギリギリギリッ………ミシッ……メリッ)
「ふふふふ……舞ちゃんの股関節やわらかぁ〜い。それに、太股もすべすべ……」
「んっ!!…っぐ!!……い、ぎ、ううううぅうぅぅっ……!!」

レイナは右足を上げた体勢の舞に抱きつき、脚ごと胴を締め上げる変則ベアハッグで、舞の体力を根こそぎ奪っていく。
自分の脚に身体を圧迫され、呼吸も通常のベアハッグ以上に制限される。
更に、舞の左脚にレイナの両脚が蛇のごとく絡みつき、全身を使って舞の股関節を痛めつけた。

「ん、ぐむっ!!………ぐ、っふぅっ…!!」
特殊繊維で口が物理的に縫い合わされているため、悲鳴を上げる事ができない舞。
圧迫された肋骨や可動限界を超えた股関節が、ミシミシと悲鳴を上げ始める。
なんとか脱出しようと身を捩るが、レイナは両脚で巧みに重心をコントロールして決して逃がさない。

「私のスーツ、他にも新兵器や特殊機能がい〜っぱいあるんだけどぉ……
糞雑魚ゴミムシの舞ちゃんをこれ以上虐めたらカワイソーだから〜、使わないであげるね」
「んっ………ん………〜〜〜〜〜っっ!!……」
(こ、んのっ……どこまで私を、コケに……)
屈辱に悶えながらも、本気で殺しに来ない相手に、心のどこかで安堵した舞は……

「……と思わせてからのー、『ヒステリック・スパーク』!!」
(バリバリバリバリバリッ!!!)
「……っぐむぅぅぅううううおおおおおおおおお!!?」

次の瞬間、激しい電撃と共に、全身に恐怖と苦痛を叩き込まれた。
両脚を覆う漆黒のストッキングが焼け焦げ、『完璧』と評された美しい両脚の9割方が露わになる。

「んっ………お…………ぁ………」
「くっくっくっく……舞ちゃって、ホント可愛いなぁ……
もし私にチンコ生えてたら、問答無用でブチ込んで足腰立たなくなるまで犯してあげるのに。
もうクソ司教やリゲルなんて捨てて、正式にナルビアの……ううん、私の『人形』になっちゃいなよ♥」
「……………」
(……ふざけるな……私が、主と決めた人はたった一人……サキ様しか、いない…!!)
レイナの腕の中でぐったりと身体を弛緩する舞。
だが、レイナの『勧誘』に対しては、無言で睨みつけ反抗の意を示した。

「睨んだってムダムダ。舞ちゃんが抵抗できなくなるまでボッコボコにして、
パワーアップした洗脳装置で脳ミソじゃぶじゃぶ洗って、素直で可愛いお人形さんに……」
瀕死の舞を更に嬲ろうと、レイナが拳を振り上げた……その時。

「グロロロロッ………」
(……どこだ、ここは……気が付いたら、なんか身体のカタチが変わってやがる……)
舞が血印を埋め込んだ『ドスの鎧』が、ズシンズシンと足音を響かせながら近づいて来る。

「むぐっ……!?……」
(こいつ……『ドスの鎧』……騎士の血印が発動してる……!?)

「ガルルルッ………!!」
(腹…減ったぁ……喉も…カラカラだ………)
「エモ……ノ………ウ、マソウ………クワセロォォォォオオ!!」

覚醒とともに暴走し、誰彼構わず襲い掛かるワルトゥ。

「なんだお前。今、いい所なのに………ジャマすんなぁっ!!」
電撃を纏ったブーメランで、ドスの鎧を迎え撃つレイナ。


(い、今のうちに……逃げなきゃ………)
……超常の力を持つ両者の、危険な戦いが始まった。
どちらが勝ったとしても、次に狙われるのは間違いなく自分。
股関節の激痛に耐えながら、這う這うの体で逃げ出そうとする舞だが……

(ボワァ……)
「ん、ぐぅ……!?」
太股に刻まれた「恭順の刻印」が不気味な光を放ち、脚が思うように動かせなくなってしまう。

(そう、か……司教の術で……ドスの鎧から離れられないように、なってるんだ……私が逃げ出さないように…!)
必死の抵抗もむなしく、蟻地獄にはまった蟻のように、戦いの場に引きずり込まれていく舞。
二重三重に絡みつく悪意の呪縛から、果たして逃れる事は出来るのか……

591名無しさん:2019/09/01(日) 20:32:01 ID:???
「グロロロオッ……!!……ガキの割に、美味そうな身体ダ……!」
「舞ちゃ〜ん。すぐ終わらせてあげるから待っててね〜!……逃げたら殺すよー?
…つーか何このヘンな鎧!!斬っても斬ってもワラワラ分身するし!」

「うう、ぐっ……」
(も…もう、嫌っ……レイナの人形にされるのも、鎧の化け物に喰われるのも、司教に無理やり従わされるのも……
……だけど……こんな身体じゃ、サキ様の所に戻っても……お守りするどころか、かえって足手まといに……)

ボロボロの体と心を引きずり、刻印の呪縛に悪戦苦闘しながら、必死に逃げ出そうとする舞に………

「ん?おい警備兵B!黒髪ロングの美味そうなJKが落ちてるぜ?コイツが例の侵入者か?」
「そうみてえだな、警備兵A。あっちでレイナ隊長が戦ってるぜ……邪魔しちゃ悪いから、このJKは俺らで尋問だ!」
「っ……!!」
(しまっ……こいつら、ここの警備兵……!)

「おいおいA!B!そういう事なら」「当然俺らも」「混ぜてくれるよなぁ!?」「俺も」「俺も」「俺も俺も」
「ヒッヒッヒ……当然だろぉ?俺らザコ兵士軍団は…」「ズッ友だからな!」
「「「「ひゃっはーーーー!!」」」」

……更なる苦難が、牙を剥く。


「ボロボロのストッキングに、汗まみれの制服……ん〜〜、たまんえねぇな」
「おいおい、お口チャック(物理)されてるじゃねーか……」
「どーせレイナ隊長だろ。切っちまおうぜ。これじゃ悲鳴聞けねえし、この人数だとお口もフル活用で奉仕しないとなぁ?」
「んっ……ぶはぁっ!!……げほっ……な、何するの……放しなさいよ……!!」
「ぐへへへ……イヤだね」
「こんな極上美脚のJK、チンコ生えてる生き物だったら誰でも」
「問答無用で足腰立たなくなるまで犯したくなるのが当然ってもんだ!」
「い…や……来ないでっ……」

長い黒髪を乱暴に引っ張られ、手近な物置部屋に連れ込まれた舞。
縫い合わされた口は解放されたものの、装備を失い戦う体力も気力も尽きた今の舞は……

「く、来るなっ……!!」
(パシッ パスッ  ポフッ)
「ケッケッケ……それで抵抗してるつもりかァ?」
「そんなひ弱な蹴り、痛くもかゆくもねえぜ」
「しかもパンツもろ見え…誘ってるとしか思えねえなァ!」
警備兵達にとって普通の少女と何ら変わりない、ただの「獲物」でしかなかった。

「ひひひ…いいかぁお嬢ちゃん。蹴りってのは……こうやって打つんだよッ!!」
(ドゴッ!!)
「……うごああああああっ!!」
技術も何もない力任せのヤクザキックで、弱り切ったお腹を蹴り飛ばされた舞。
雑多なガラクタが押し込められたスチール棚に、頭から突っ込んでしまう……

(ガラガラガラ!!ズドドドッ……!!)
(私………ここで、死ぬのかな………申し訳ありません、サキ様……)
棚に積まれたガラクタが、次々と落ちてくる。
死を前にして、頭の感覚が異常な働きをしているためか、
舞にはその光景がスローモーションのようにゆっくりに見えた。

(………あ……あれ、は……?)

そして……見つける。
それは以前、舞がナルビアに捕らえられた際に一度は没収されたものの、
誰一人として扱えるものがないため、死蔵されていた品。

(……まさか、こんな所に……あったなんて……)
それは、究極の美脚を持つ者だけが履く事を許されたという。
ただの女子高生でしかなかった柳原舞に魔物をも蹴り倒す力を与えた、伝説級のマジックアイテム。

(思えば、初めて見つけた時も、そうだった……
この呪われたブーツは……いつだって最悪中の最悪のタイミングで、私の前に現れる)

まるで吸い込まれるように、漆黒の編み上げブーツに舞の脚が収められた。
「まだ……足りないって言うのね。……私に、もっと『舞』え、と……」

身体が軽い。大事な何かが、ごっそりと失われてしまったかのように。
跳ねるように立ち上がる。そんな力なんて、どこにも残っていなかったはずなのに……

「おんやぁ?瀕死のJKちゃんが、急に元気になったぜ」
「ヒッヒッヒ!若いっていいねぇ。そんじゃ、さっそくおじさん達にご奉仕……」
「……連牙……百烈蹴」
(ズドドドドドドッ!!)
「「「「っぐあああああああ!!」」」」
……その時。一陣の黒い風が走り、群がる警備兵たちを一瞬にして蹴り飛ばした。

「いいわ……とことん付き合ってあげる。その代わり……私に力を貸しなさい。あの方を守れるだけの、力を」
舞の言葉に呼応するかのように、黒いブーツが真の力を解放し、闇色の魔力を放つ。

「今の私達を縛り付けられる者などいない」とばかりに、太股に刻まれた「恭順の刻印」が跡形もなく消え去った。

592名無しさん:2019/09/01(日) 21:28:54 ID:???
「ああーーーーーー!!最悪っ!!
あのでっかい鎧はどっかに消えちゃうし、舞ちゃんもどっか行っちゃうし……」

ドスの鎧が暴れ出し、レイナがそれに応戦し……気付けば研究所は破壊の限りを尽くされていた。
警備部隊はいつの間にか物置部屋の中で全滅していて、レイナは怒り心頭だった。
とはいえ……舞の行方は、司教アイリスの元か、あるいはリゲルか。
どちらにせよ、来る『大戦』で相まみえる事になるだろう。

その時こそ、決着を付ける……そう心に誓うレイナだった。

………………

一方。研究所を見学中だった彩芽たちは……

「いやー。大変だったわね彩芽ちゃん。どさくさに紛れて、研究所に保管してあった品がいくつか盗まれたらしいわよ?」
「う、うん。いやー、そりゃ大変だったなー。あはははは……」
「……いい性格してるわね、あんた」

(ナルビアの滞在期間は、残り僅か。それまでに、サラさんのスーツをパワーアップさせなきゃ……
2倍、3倍……いやこの際、景気よく10倍の性能を持つスーパースーツに!
だから、サラさん……どうか無事でいてくれよ……!)

………………

そして、転移魔法によってアイリスの元に呼び戻されたワルトゥ=ドスの鎧は………

「クックック……だんだん、この新しい身体にも馴染んで来たぜ……ありがとよ、おっぱい姉ちゃん。
お礼に、そのでっけえおっぱい喰いつくしながらブチ犯してやる」

「げ、ほっ……う、嘘……騎士の血印でも、支配できないなんて……一体何者……
っぉ!?ぎ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

……以前にも増して凶悪になったその力で、真なる「自由」を手に入れる。

「クックック……まだまだ、喰い足りねえ。だが……
感じるぜ、血と戦いの気配……あの方角は、懐かしの我が故郷…………トーメントか」


生まれた世界も、立場も、時代も違う者達。
皆それぞれが、間もなく始まる「最大の戦い」の気配を感じ取っていた。

593名無しさん:2019/09/02(月) 01:43:53 ID:qn/H.54c
「やああああっ!!」

「ぐひひひひひっ!これでも食らうといいど!サンダーパラセクト!」

正面から向かってきた唯に対し、マイコニドは黄色い胞子を辺りに撒き散らした。
咄嗟に危険を感じた唯は、右手で口と鼻を覆い隠す。
明らかに吸い込んではならない類のものだろう。

「んっ……!?」

「ちょっとでも吸い込めば体が麻痺して動けなくなる毒ガス胞子だど!動けなくなった唯ちゃんを触手でがんじがらめにして、エルマちゃんと交互にオマンコの味比べをしてやるど……!むひひひひいぃ!!!」

(……じゃあ……吸い込まなければいいんだ……!)

少しでも吸えば動けなくなる胞子に臆することなく、唯は息を止めたままマイコニドへ接近する。
その様子に鼻白んだマイコニドの目の前に走り寄ると、勢いをつけて空中へ飛んだ!

「なにぃ!?胞子の外まで飛んだど!?」

「襲空崩脚!!」

「ひぃっ……!?ぎぶええ!!!」

空中で体をスピンさせて瞬時に勢いをつけ、一気に脚を振り下ろす唯の足技がマイコニドの顔面に炸裂。
その衝撃でサクラを繋ぎ止めていた触手とエルマを拘束していた触手が剥がれ、二人の拘束が解除された。



「はぁ、はぁっ……!サクラちゃん、エルちゃん!しっかりして!」

「う。うぅ……ありがとうございます……唯さん……!」

「ふへへ……さっすが隊長!かっこよかったよー!」

すぐに二人の体を胞子の外まで運び出し、無事を確かめる唯。
少し離れた場所でマイコニドが体を起こすと、美少女三人が戦闘態勢でこちらを向いていた。

「ぐっひひ……三人ともほんとに可愛いど……!でもサクラちゃんを奪われちゃあ流石に分が悪いど。逃げるは恥だが役に立つ!アディオスだどー!」

「「きゃあっ!?」」
「わ!待ちなさーいこの変態キノコッ!」

一瞬でボールほどの大きさになったマイコニドは、唯たちの胸に体当たりしながら部屋の外へと出ていった。



「唯ちゃんB!サクラちゃんC!エルマちゃんD!最高だどおおおおおおおおおおおおんっぶぇええ!?」

高速で浮遊する自分の体がなにかにぶつかった瞬間、ダン!という音と共にマイコニドの体は地面に叩きつけられた。

グリグリグリグリ……!
「ぐおおおおおぉ!?い、いだい゛!いだい゛どおおおおお!!!これはなんだどおおお!?」

グリグリと床に体を押し付けられてくる硬い棒状のもの……その棍棒の柄を握っている白髪の少女の顔は、なんの感情も移してはいない。
隣の着物を着た少女が、興味深そうにつんつんとマイコニドの体をつついた。

「ああん♥そ、そこきもちいどぉ……!」
「……果てしなく気持ち悪いです……これなんです……?」
「さあ?アタシでもこんな出来の悪い大人のおもちゃみたいなのは買わないぜ!使い方もさっぱりわからないぜ!」

「二人ともナイスー!そいつは絶対駆除するから、そのまま離さないでー!」
装着型人体強化マナ装甲を纏い、マスクをつけたエルマが飛行しながら追いかけて来たのを見て、ルーアは杖に無属性の魔力を込める。

「……魔導伝達…無の型…!」
「ほげえええええええええええええぇぇぇl!!!」

594名無しさん:2019/09/02(月) 23:51:54 ID:???
「……黒衣の魔女と4代目ルミナスの戦いから……何年も寄生していた、ですか……気持ち悪い、です」

「う、ううぅ……わ、私、この魔物に、ずっとエッチなことさせられてて……!誰かに言おうとしても、すぐに忘れちゃって……!」

「よしよし、もう大丈夫よサクラちゃん……仕留め損なったミスの結果とは言え、大変だったわね」

「え!?今なんて!?もう一回言ってくれ!!」

「だーかーらー!この事態の原因は、サクラちゃんがこの魔物を仕留められなかったのが原因なの!」

「う、ううぅうう……」

「ちょ、ちょっとエルマちゃん!サクラちゃんが泣いてるから!」

「ああ、ごめんなさい!悪気はないの!ていうか、いいようにやられたのは私も同じだし!」


色々ありながらも、何とかサクラに寄生していたマイコニドを撃破した唯たち。
マイコニドはエルマの『魔導伝達:無の型』とルーアの無属性魔法を同時に受けて完全に伸びており、目を星にして倒れている。

「で、こいつどうする?焼きキノコにして食うか?こういうゲテモノはネタで食う分には大好きだぜ!!」

「うう、オトさん、冗談でも止めてください……そんなもの、もう二度と体の中に入れたくないです……」

「黒衣の魔女ノワールの元部下……情報源としての価値は、あるです」

「確かにねぇ……ナルビアのデータベースにも、元の姿で完全復活したノワールの情報は少なかったし」

「そうだね……殺すのは、なんだか可哀想だし……」

「隊長、ナチュラルにムシケラを殺すのを躊躇うくらいのノリでこいつを扱ったわね……いやまぁ、こんな魔物はムシケラ以下の扱いでも十分だけど」

そんなこんなで、マイコニドは便利な無力化魔法であるリストリクションで縛られて、シーヴァリアの牢屋(昔リザが捕まってた所)に放り込まれた。

美少女に捕まるという紳士が喜びそうなシチュエーションも、今まで寄生して良い思いをし過ぎた反動か、あっさり流されてしまったマイコニド。

このままフェードアウトするか、折を見て復活してもう一暴れするか、スピンオフで誰かに寄生するかは、神の意志(作者たちの気分)次第である。

595名無しさん:2019/09/09(月) 00:43:59 ID:x4VTE1OU
キノコ騒動から一ヶ月が経ち、チームとしての戦いの中で結束を深めるヴェンデッタ第7小隊。
一癖も二癖もあるメンバーばかりだが、そんなメンバーをまとめあげる唯の柔軟性とリーダーシップは、騎士たちの中でも一目置かれつつあった。

そんな彼女に、大戦に向けた重要任務が、ヴェンデッタ部隊長から任命されることになる──




「第7小隊小隊長、篠原唯!参上いたしました!」

「あぁ、君が…噂はかねがね聞いているよ。変わり者美少女部隊の潤滑油になってくれているそうだね。篠原唯くん。」

作戦本部に入った唯を椅子に座って待ち受けていたのは、濃い茶髪、黒メガネの中で鋭い目元が光る30代半ばと思われる痩身の男性だった。
その眉目秀麗な容姿を見て、唯はすぐさま背筋を伸ばし姿勢を整える。

「え…ええ!?あなたは…イグジス部隊長!?」

唯の前にいるのは、ヴェンデッタ遊撃部隊部隊長のポストを与えられているニック・イグジスであった。



彼は騎士学校所属時から並外れた剣技と豊富な知識で頭角を表し、精鋭ぞろいの黒騎士の中でも注目を集めていた。
実力だけではなく、揺るぎのない騎士道精神とその人当たりの良さが、彼の出世を早めた一因でもある。
それ故に円卓の騎士に入ることを何度も打診されているが、できるだけ前線で戦いたいとその申請を拒み続けている。
来たるべき大戦においてその手腕を買われ、ヴェンデッタ部隊の指揮官に着任。
唯のようにヴェンデッタ部隊の小隊長を務めるシーヴァリア騎士たちの、直属の上司である。
つまり、唯にとっても最も敬意を払う存在だ。



(部隊長はみんながいけてるおじさまって言ってたけど……部隊長、ほんとにかっこいいなぁ……!)

「……ん?どうした。可愛らしいお口がぽっかり開いているが……」

「……あ!な、なんでもないです!ご、ごめんなさいぃ!」

「ふふ……俺相手にあんまり気を使わないでくれ。シーヴァリア騎士団は非常に上下関係に厳しい組織だが……俺は気にしないタイプだ。コーヒーでも飲むか?あ、君はまだそんな年じゃないか……ジュースでも用意しよう。待っていてくれ。」

「そんな、だ、大丈夫です!と、というか、部隊長が私に気を使わないで下さい!」

「ん?そ、そうか……?」

席を立ちかけたニックを制する唯。
ヴェンデッタ部隊の構成員は曲者揃いだと言うが、それをまとめ上げる人物の器の大きさに、唯は安心感を覚えた。




「それで、部隊長。私たちへの任務というのは……」

「あぁ……最近活躍している君たち第7小隊を見込んでの潜入任務だ。場所はトーメント王国近海のデキシー海域に居を構える、シェイム海上プラント。目下トーメントの重要軍事拠点とされる施設……」

「え?海上……海の上ですか?」

「その通り。ナルビアの密偵は本当に優秀でな……トーメントが軍備を生産、貯蔵している場所が大きな水たまりの上だったと突き止めた。色々手間取ったそうだが……」

ニックの話によると、シェイム海上プラントでは兵器の他、食料なども大戦に向けて生産されているという。
その秘匿性故にナルビアの密偵が調べを進めたところ、「クッキングスライム」と呼ばれる食料生物の大量生産ラインがあると突き止めた。

「もちろん四カ国兵力でトーメントへの勝算がないとは思っていない。だが奴らのインフラを破壊することができれば勝利に大きく近づくのは事実だ。トーメント兵士たちは欲求に非常に忠実……食料が賄えないとなれば大幅な士気の低下が見込める。……いわゆる兵糧攻めだな。」

「な……なるほど!私たちがその施設に潜入して、その生産施設を……なんとかすればいいんですね!?」

「その通り。爆弾を基地内の各所に仕掛け、一気に爆発させて基地ごと海の藻屑にさせてやればいい。君たち以外の小隊にも出動命令を出してある。各部隊間で情報共有しながら作戦の遂行を頼みたい。……できるかな?篠原小隊長。」

「も、もちろんです!必ず成功させてみせます!!!」

「ふふ……頼もしいね……」

右手で慣れていない敬礼をしてみせる唯。少女の一生懸命な了解のポーズに、ニックの頬が緩んだ。
ヴェンデッタ小隊初の重要任務は、どのような結末を迎えるのか……

596名無しさん:2019/09/17(火) 00:44:58 ID:VKQOPX2Y
というわけで、ニック部隊長直々の重要任務を遂行するため、私たちはナルビアから借りた船でデキシー海域へとやってきたのであった。
シェイム海上プラントへは海中の基地脚部から潜入するので、スーツとかボンベとかの専用装備が必要。
不慣れな私はエルちゃんに手伝ってもらいながらら、水中スーツを着させてもらっている。

「はい!できたよ!唯ちゃん!」

「おお〜、ウェットスーツなんてはじめて着たけど……ちょっと恥ずかしいなぁ……」

「何言ってんの唯ちゃん!全然スタイル悪くないよー?ちょっとボリューム足りないかもしれないけど、それもまた一部の人達に突き刺さる魅力だよー!」

「うぅ、エルちゃんにバカにされたような……それにしても、瑠奈とか鏡花ちゃんがこれきたらすっごい主張するんだろうなぁ……」

私にボリュームが足りないとはっきり言い放ったエルちゃんは、そう言うだけあってわたしよりも全然すごかった。
前にキノコの人がDって言ってたのは見事に当たってるっぽい。
ほんと、なんでそんなにみんな大きくなれるんだろう……

「あ、唯さん!」
「こっちも準備はできた……です。」
「いつでもいけるぜ海上基地!あたしら全員服ピチピチ!イェー!」
「あはは!ウェットスーツにビワケース抱えてるオトちゃんおもしろーいー!」

サクラちゃん、ルーアちゃん、オトちゃんもお着替え完了した状態で登場。
このウェットスーツはエルちゃんが作ったもので、泳ぎが下手な人でも簡単に推進力が出せるスグレモノ。
加えてレーダーに映らないように、バマジク障壁?みたいなものが張られてるらしく、探知されることもないみたい。

「うんうんみんな似合ってる!みんなのやつはこのエルちゃんのオーダーメイドだからね!カナヅチでも心配ないよ!ちょっと手をかくだけでビュビューンって泳げちゃうから!」

いつも元気で子供っぽい言葉遣いをするエルちゃんは、彩芽ちゃんと同じかそれ以上に天才すぎて、わたしも他のみんなもいつも驚かされてばっかり。
たしかに言動には癖があるけど、私たちの隊の中でも、一番頼りになるお姉さんだ。

「……しかし、脚部のどこから潜入すればよいのか……都合よく搬入口やら排水口が開いてるです……?中に入らないと何も始まらないです。」

一番最年少なのに、一番冷静なルーアちゃん。
任務中も常に的確な指示をくれるし、私たちへの敬語は絶対崩さない、とっても真面目な子。
私的にはもっと砕けてほしいなーって思うけど、難しいのかなぁ。
それに、たまにすごく遠い目をする時があるのは何故だろう。
……もっとルーアちゃんに頼ってもらえる隊長になりたいな。

「中に入る方法なんていくらでもあると思うぜ!下の穴が開かないなら上の穴に入ればいい!登って上から堂々と潜入しちまおうぜ!」

いや、それ潜入じゃないよ……
オトちゃんはいつも元気。とにかく元気。
空回りしてるっぽいときもあるけど、本人は自覚がないみたい。
テンションに任せた発言が多いけど、その分裏表がないから、オトちゃんとはどんなことも話しやすい。(耳が悪いからおばあちゃんと話してるみたいになることがあるけど)
でもこの前なんとなく恋愛の話になったときは、全力ではぐらかされた。
オトちゃんにもなにか隠したいことがあるのかな……

「……うぅ……潜入任務……怖い……もし男の人に捕まったら……ああぁ……!」

たぶん小隊の中で一番優しい女の子のサクラちゃん。でも優しさと同じくらい臆病というか控えめで、あんまり自分のことを話してくれないんだよね。
でも魔法少女としての実力はすごく高くて、たぶん鏡花ちゃんにも負けないくらい強い。
いつも頼りない感じに見えちゃってるけど、私やルーアちゃんの指示にも的確に対応してサポートしてくれるから、戦闘の場数はたぶん私たちの中で一番踏んできてると思う。
もう少し自分に自信持ってもいいと思うんだけどね……性格的に難しいのかなぁ……

597名無しさん:2019/09/17(火) 00:46:32 ID:???
「作戦地点到達!目標までは500メートル!ヴェンデッタ第7小隊、まもなく作戦を開始するぞ!最終確認だ!」

「「「「「はい!!」」」」」

いよいよ、ヴェンデッタ第7小隊初の重要潜入任務が始まる。
先行部隊のうちの1つである私たち第7小隊は、作戦開始の合図ですぐに着水、潜行できるよう、専用のポッドに入ってその時を待つ。

目的地であるシェイム海上プラントは、情報によればトーメントの超重要軍事施設という。
そんな場所であるなら、きっと王下十輝星の子たちが妨害してくるのだろう。

アトラくんやシアナくん、アイナちゃんにリザちゃん。
あの子達は本当はいい子だと思う。だからやっぱり、私はできれば戦いたくない。
たとえ戦うことになったとしても、命は奪いたくない。みんなに甘いって言われるかもしれないけど……無理だよ。私には。

あの子たちには、暴力以外の解決方法を教えてあげたい。特に……とっても優しいはずなのに、お姉さんとのことで葛藤してる、リザちゃんには。
この世界で育ってきた価値観を変えることは大変かもしれないけど……私は、絶対に諦めないよ。

「先行3隊、スタンバイ完了!第7小隊、行ってこい!」

ポッドが開かれ、海に落とされる私たち。
すぐに全員無事に揃っていることを確認した私は、作戦開始の無線を送る。

「ヴェンデッタ第7小隊、作戦を開始しますっ!」

598名無しさん:2019/09/19(木) 00:02:08 ID:???
唯たちが作戦行動に入る前日のこと。
重要拠点であるシェイム海上プラントへ物資と人員派遣のため、トーメントの巨大船がデキシー海域を航行していた。

「おい、アウィナイトの十輝星、お前はちゃんと見たか?」
「リザちゃんだろ?さっき初めて見た……ありゃあ言葉では言い表せない美少女だぜ。すれ違うとき思わず止まってガン見しちゃったし。てかなんであんないい匂い纏ってんだ……」
「俺も見たけど、あれだけ綺麗な金髪碧眼って、なんか犯し難くて手が届かない存在だわ……やっぱ黒髪美少女のサキちゃんが一番だな!あんな顔してかなり腹黒らしいけど。」
「お、お前はサキちゃん派なのね……まぁ確かにあの子も女の子らしくて可愛いけど、せっかく男に生まれて、泣く子も黙るトーメント兵士として稼げるようになった以上、リザちゃんみたいな現実離れした美女を抱きてえって思うだろ、普通は。」
「だよなぁ。アウィナイトの女はやっぱ異次元の美しさだわ。今のあどけない感じもサイコーに可愛いけど、成熟したらマジでいい女だぜありゃあ。おっ○いもこれから……!」
「俺はどうでもいいんだよ。サキちゃんの、主張しすぎない女の子っぽさがたまんねえのさ。お前らは夢見すぎなんだよ……」
「ファッ!?夢見すぎ!?お、お、お前、も、も、もしかして……お前みたいな名前のないモブがサキちゃんと付き合えるとか思っちゃってるわけ!?」
「さすがにそれは頭ハッピーセット。ていうか俺らもリザちゃんと付き合えるなんて思ってないけどな。ただヤらせてほしいだけだし。」
「だ、誰も付き合えるとか言ってねえだろ!!俺だってボコボコに殴って泣かせてからヤりてえだけだわ!」
「というか今思ったけど、黒髪と金髪の女の子ってエ○ゲの姉妹モノでよく揃う組み合わせだよね。」
「「あーあるある。」」

トーメントの兵士たちが性欲、もといリョナ欲を向ける矛先は、金髪のリザ派か黒髪のサキ派で半々くらいに分かれている。
とはいえ、ロリ枠のアイナは死んだし、スネグアはその辺の男よりイケメンだし、ロゼッタはスタイル抜群だが不思議ちゃんすぎる&現在は幼女化しており、まともな女子が2人しかいないこともあるが。
西洋人形のように美しく、側にいるだけで現実離れしてしまいそうな金髪美少女リザと、どこにでも普通にいそうな正統派黒髪美少女のサキ。
本人たち同士はそこまで仲は良くないが、兵士たちの間ではどっちを彼女にしたいとか、こっちはこんな風にリョナりたいとか、そもそも決められないから3Pがしたいとか、話のネタにされることが多いのだ。

「……………あれか。」

兵士たちのゲスい会話の俎上に上げられているとも知らず、リザは甲板で目的地を眺める。
残暑の日差しが強いため、被っている麦わら帽子を手で押さえる。
着ている服は家族を失ったあの日、姉に可愛いと褒めちぎられた白のトップスに白スカートだ。
もちろん買い直したものではあるが、何の気なしに暑い日にはよく着てしまうリザのお気に入りだった。

(……今の私にできることは、なるべく他の任務に当たってお姉ちゃんとの遭遇を減らすこと……)

姉の始末──トーメント王に命令されたものの、肉親を殺すなんてことがおいそれと実行できるわけもなく。
ヨハンに頼み込んで半ば逃げるようにこちらの防衛任務に着任し、王の了承は得ずに船に乗り込んだ。
後のことは彼がなんとかしてくれるというが……借りを作ってしまったことは確かだろう。

(ただの結論の先送り……こんなことしてても、戦争になったらお姉ちゃんとの戦いは避けられないのに……)

すべてのアウィナイトの心の拠り所である海は、風もなく落ち着いている。
何か嫌なことがあった時は、こうして海を眺めていれば気持ちを落ち着けることができていた。

だが、今はいくら眺めていても心が収まることはない。
その胸に去来する漠然とした不安は、おそらくあの日、全てを失った日からずっとリザの中で抱えていたものなのだろう。
アイナやミストのことがあってそれはついに、心を縛る鎖へと変容し、リザの心を縛り付けるのだった。

(早く戦争になれば……何も考えなくて済むのに……)

戦っていれば、殺していれば、殺されそうになれば、苛まれることもない。
またもリザがそんな破滅的な思考を抱いた時、背後に気配を感じた。

599名無しさん:2019/09/19(木) 00:07:58 ID:???
「……誰?」

「よく俺の気配に気付けたな……さすがは王下十輝星。つくづく人は見た目で判断なんかできねえもんだ……」

背後から響いた声は、内に秘めた凶暴性を隠そうともしない低い男の声だった。
振り返って声の主を確認すると同時に、リザは驚愕する。
なぜならその男は、今もイータブリックスの独居房で死ぬのを待つ身のはずの男だからだ。

「ヴァイス……!どうして……お前が……!」

「ククク……こんな美少女に覚えられてるとは光栄だ。さすがに10年も経てば忘れられてるかと思ったが……俺を超える狂人はこの10年、現れなかったか?」

長い白髪に潰れたような目。顔、腕、脚すべてが傷だらけの痩身の男。
ヴァイスと呼ばれたこの男は、狂人だらけかつある程度リョナが認められているこのトーメントの歴史の中でなお、その名を国中に轟かせた無差別大量殺人鬼である。

「なぜお前がここにいる……殺人衝動に身を任せて妊婦や子供も手にかけた外道のお前が……」

「俺はもともと兵士だ。重要拠点の防衛に決まってんだろ?あと、殺しは俺にとって生理現象だ。飯を食ったりナニをしごいたりするのと変わらねえ。正直、誰も殺さず10年この体が持ってるのが不思議で仕方ねえぜ……」

その実力を飼われて拠点の防衛に、というにはこの男はあまりにも凶暴すぎる。
味方からも信用されるはずがない人格破綻者の男をこの地に派遣させるなど、王様は何を考えているのか。
そこまで考えてリザは、すぐに答えが思いついた。

王の狙いはヴェロスの時のように、あわよくば自分を始末することだと。



「……お前は私の命令なしに動くことを禁止する。常に私の目の届くところにいて。変なことをしたら殺す。」

「ん……?それは私の側にいてってことか?なぁ、オイ、お前ェ……それはよ、俺を誘ってるってことでいいんだよなああああああぁ!?」

突如発狂したヴァイスは、狂気に染まった顔を作りながら懐のナイフを構えてリザに突進する。
自分よりも一回り大きい男の凶行に臆することなく、リザは素早くナイフを取り出しヴァイスの攻撃を受け止めた。

「くっ……!この、狂人……!」

「俺はなぁ……女を見たのも、女の声を聞いたのも、女の匂いを嗅いだのも実に10年ぶりだ……!これは殺人衝動じゃねえ、10年溜まりに溜まった爆発寸前の性欲なんだよォ!さっさと俺に股を開けやこのメスガキィ!!!」

「ぐ……あぁっ!がはっ!」

「ヒャハハハハアァ!10年ぶりの女の悲鳴だあああああああああ!」

恐るべき人間の本能、めざめる(性欲)パワーでリザは力任せに吹き飛ばされ、甲板の壁に強く叩きつけられた。

「やっぱいいねぇ、女が苦しむ姿は……際限なく興奮させられちまうぜ。さて、お次は……」

「はぁっ、はぁっ……」

全身の痛みに耐えながらもよろよろと立ち上がる。骨までは達していない。頭も打っていない。リザにしては珍しく運が良かった。
そんな彼女を交尾対象と定めた野獣の如く、目の前の男は涎をダラダラと流しながらハァハァと息をしている。
もはやこの獣相手に容赦する必要はないと判断したリザは、実力行使に出ることにした。

「まずは裸にひん剥いてそのやわからそうな身体を爪先から頭までベロベロ舐めてやる!!!それから俺のを上にも下にもぶち込んで……のわっ!んごおっ!?」

鍔迫り合いの状態からシフトで体制を崩させ、頭に足を乗せてそのまま踏みつける。
情けない声を出した男の体に麻酔毒を塗ったナイフを突き刺す。
体に入ればすぐに動けなくなる、即効性だ。

「げぼぁっ!て、て、テメエェェ……!能力者かよおおおぉっ……!」

「……狂人、いや、狂犬ね……このまま海に落ちて死んでもらおうかな。お前なんか殺しても誰も悲しまない……」

「ばっ、や、やめろぉ!!可愛い顔してなんてひでえことをしようとする奴だ!!!ち、ちょっと触ろうとしただけじゃねえか!なぁ、やめてくれぇっ!」

命乞いが嫌いなリザにそれは逆効果。
欲求に全てを任せた猛烈な勢いが嘘のように及び腰のヴァイスに、リザは踏みつける力を強める。

「ぐああぁあぁ……!あ、パンツ白。」

「……この、変態!」

「ぎええええええぇっ!!」

天誅としてもう一本麻酔ナイフを刺してやる。
このまま本当に海に蹴り飛ばして変態駆除をするべきかと思ったリザだが……流石に思いとどまり兵士を呼んだ。
まあおそらくこれで上下関係は叩き込んだだろう。馬鹿と鋏は使いようである。

(……こんな奴を呼んだ理由は私への嫌がらせでしかない……王様はなぜ最近になって私のことをこんなに殺したがる……?)

兵士に運び出されるヴァイスになど目もくれず、リザはそんなことを考えていた。

600名無しさん:2019/09/21(土) 16:14:41 ID:???
時は更にさかのぼり、所も変わって、ミツルギの首都ムラサメ、奴隷市場にて。

「えええぇぇっ!?じゃあ、リザの母ちゃんはもう、奴隷として売られちゃったのかよ!?」
「いや、誰の母ちゃんかは知らねえけどよ……30代後半から40代の、アウィナイトの女なら、
少し前に一人いたけど……もう売却済みになっとるよ」

ヤコはリザから託された願いを叶えるため、リザの母親ステラを探していた。

「そ、その人で本当に間違いないのか!?名前はステラさんって言うんだけど……」
「奴隷になる前の名前なんて、データに登録しねえからなあ。
何にしても、一度売れちまったらウチじゃもうどうにもできねーよ。後は買い手さんと直接交渉するこったな」
「マジかよ……俺のせいだ……俺が、リザに2回分振られたショックで長いこと活動停止してたから……」

奴隷商人は、面倒くさそうに端末を操作しながら、アウィナイトの青年をあしらう。
……内心さっさと追い返したかったが、コトネの認印付き『奴隷手形』があるため、無碍にするわけにもいかない。

「…んで、どうすんだい兄ちゃん。代わりに別の奴隷でも買ってくかい?」
「い、いや……そんな事言われても俺、奴隷なんて……」

周囲の檻には、数多くの少女達が閉じ込められていた。
その少女達が、一斉にこちらを見た……ような気がして、ヤコは思わず後ずさってしまう。
その時。

「だったら……あたしに寄越せ。その手形」
「…えっ!?」
……突然、背後から声を掛けられた。脇腹に、固い感触……銃を突きつけられている。
腕で首を絞めつけられ、息がつまる。
振り向けないので顔はわからないが、声色と、そして背中に感じる柔らかい感触から察するに……
(お、女……!?……それにこの声、どっかで聞き覚えがあるような……)

「っぐ……な、何するんだよ……!お前、一体何者……」
「……『お前』じゃねえ!!」
「ひえっ!?」
突然の大声に驚き、ヤコは思わず振り返る。
彼を襲った謎の襲撃者の正体は……

「はぁっ……はぁっ……アイセは、アイセだ……『お前』なんて、気安く呼ぶな。
……痛い目見たくなかったら、さっさとその手形をこっちへ渡せ」

魔弾のアイセ。
彼女は闘技大会準決勝で虐爪(ぎゃくそう)のカゲロウに敗北を喫した後、それでも諦める事なく、亡き恩人の孫娘…カゲロウに攫われたミナの行方を捜していた。

「なっ……闘技大会に出てた、あの『魔弾のアイセ』かよ…!なんでこんな所に!?」
(ていうか背中に当たってる感触が超やわらけー…それに、太股も密着してるし、
なんか顔が近くて吐息が当たるし、髪とかめっちゃいい香りするし……ほのかに混じる汗の臭いがまた)

「っ……はぁっ……はぁっ……何、グズグズしてんのよ……早くしなさいっ……!!」
(…って、待て待てそんな場合じゃねえ! 言う事聞かないと殺される! 
ど、奴隷手形……これを、渡さないと……渡…す……?…)

一瞬にして様々な思考がヤコの脳裏を駆け巡る。
だが、相手は闘技大会に出場した実力者。しかも背後から銃を突きつけられている状況では、従うより他はない。
そう考えたヤコは、大人しく手形をアイセに差し出そうとする。だが……

「や……やっぱりダメだっ………こ、この手形は……あいつが命懸けで手に入れた、大切な物なんだ……
これだけは………死んでも渡せねええぇ!!」
(ドカッ!!)
「ぐっ!?」
リザの姿が頭をよぎったヤコは、土壇場で激しく暴れ出した!
予想外の抵抗に意表を突かれ、ヤコの苦し紛れの頭突きを、アイセはモロに喰らってしまう。

「うおおおおおおおおおっ!!」
「な、抵抗してんじゃな……あぁっ!?」
(ガシャアアアアアンッ!!)
「ぅああああああぁっ!!」
……更に、やけくそになったヤコは、アイセの腰にタックル。
アイセは、奴隷の檻に思い切り後頭部を打ち付け、そのまま気を失ってしまった……

601名無しさん:2019/09/21(土) 16:24:10 ID:???
「ヒュー!……兄ちゃん、やるじゃねえか」
「はぁっ………はぁっ………あ、あれ……俺、勝った…のか…?……し、信じられねえ…」
無我夢中になっていたヤコが我に返ると、目の前に無防備に横たわっているアイセの姿があった。

「………ぅ………」
改めて見ると、アイセの身体は全身傷だらけで、かなり衰弱していたようだ。
しかも服装もいつものアメリカンスタイルではなく、胸と腰に簡素なボロキレを巻いているのみ。下着すら身に着けていない。

「ヒッヒッヒ……その女は『虐爪のカゲロウ』の雌奴隷にされて、年中発情しっぱなしの身体にされちまったらしいからな。
そのカゲロウも死んで、脱走したって噂だが、こんな所で見つかるなんてなぁ……お手柄だぜ、兄ちゃん。
ま、後はウチで引き取って、『処理』しといてやるからよ……ヒッヒッヒ」

『紅蓮』で活動していた頃のアイセは、奴隷商人というものをよく思っておらず、敵対する事が度々あった。
そのため、彼女は奴隷商人からも多くの恨みを買っており……彼らにとって、今の状況は積年の恨みを晴らす千載一遇のチャンスであった。

「い、いや……俺、そんなつもりじゃ……」
「譲ってくれるんなら、その代りと言っちゃなんだが……いいこと教えてやるぜ。
さっき言ってた、アウィナイトの女の居場所と、奴隷の買い手についての情報だ」
「なっ!……ほ、本当か!?……そ、それなら…………いいかな……」
「へっへっへ……取引成立だな」

カゲロウが死んだ今、アイセは『誰のものでもない奴隷』……最初に捕まえた者に、所有権が与えられる。
つまりアイセの身柄、生殺与奪は今、ヤコが握っていると言っていい。
だが、そういった奴隷商人の暗黙のルールを、ヤコが知るはずもなかった。

そもそも赤の他人……しかも自分の事を襲って来た相手を、わざわざ助ける義理はない。
更に、リザの母親の情報と引き換えとあっては……
商人の口車に乗って、アイセの権利を譲り渡してしまったとしても、仕方のない事だと言えよう。

(………これで、良かったのか……?……でも、今は……迷ってる暇はない)
情報によれば、リザの母親の居場所は『サクヅキ奴隷収容所』。そして買い手は……

「………なっ!?………ま……まじかよ……」

討魔忍五人衆の一人。……『残影のシン』であった。

なぜ残影のシンが、リザの母親を買ったのか。
その理由を、ヤコは知らない。
「脱出不能の地獄」と噂されるサクヅキ奴隷収容所に、待ち受けている物は一体何か……

602名無しさん:2019/09/21(土) 16:31:18 ID:???
(ガチャン!!ガチャン!!………ジャララララッ!!)
「うぐっ!!………く、そぉ………はな、せっ……」
こうしてアイセは奴隷商人の手に堕ち、手足を枷で繋がれ、鎖付きの首輪を嵌められ……

……全てを失った。

「ヒッヒッヒッヒ………今日はツイてるぜ。こんな極上の奴隷が、タダ同然で手に入るなんてなァ」
「……だ、まれ……アイセの事……『お前』って……」
「うるせえ」
(バチバチバチバチッッ!!)
「ひぎゃあああああんッッッ!?」

奴隷となったアイセは、商人に逆らう事は許されない。
少しでも口答え、反抗的な目つき、態度を取れば。又は何もしなくても、主人の機嫌が悪ければ……
首輪から高圧電流が流され、強烈すぎる『お仕置き』をされる。
この『躾け』を数日から数週間受け続ければ、どんな屈強な戦士も従順な奴隷へと調教されてしまうという。

(バチバチバチ………ビチッ)
「ふん。奴隷に名前なんて、贅沢なんだよ。『お前』が駄目なら、『奴隷番号M20179番』とでも呼んでやろうかぁ?」
「ひ、ぎ……はぁっ、あぐ………!!……く、そぉっ……」
アイセは、立ち上がれなかった。電撃の余韻が身体の芯にまで残り、全身、特に下半身に、まるで力が入らない。

「さぁ〜て。お前ら『紅蓮』には、昔っからウチの商売を散々邪魔されたからな……
長年の恨み、たっぷり晴らさせてもらうぜぇっ!!」
(ビシッ!! ビシッ!!  バチィィンッ!!)
「きゃ!!っあああんっ!!や、やめっ…ふあああああ!!」
乗馬鞭で叩かれ、纏っていたボロ布の下着はあっという間に千切り飛ばされる。
露わになった乳首や股間を、商人の鞭が鋭く打ち抜いていった。

「本当、ムカつく女だったぜテメエは!!自分は手下の事奴隷同然に扱ってるくせに、
俺らが奴隷で商売するのは気に喰わねえってんだからなぁ!!」
(ビシュンッ!! バシンッ!! ビチッ!! ズバアアンッ!!)
「……えぐ!!……んぐ、あんっ!! だ、めっ……ひあああああぁっ!!」

奴隷商人の鞭は、その卓越した技量によって、決して商品を傷つけず、商品価値を下げる事なく……
深く鋭い痛みで、アイセの…奴隷となった『元』アイセの心を、粉々に打ち砕く。

「だが……そんなお前が、こうして雌奴隷になっちまうなんてな……
サイッッコーに笑える話だぜ!ギャッハハハハハハハハハ!!!」
(バシュンッ!! ドカッ!! ベキ!!………ぐりっ ぐりっ……)
「ひゃぅ♥……っああああっ♥…んくっ……♥…お、おねがいぃ……もう、や、めへぇぇ……♥♥」
(な……なんで……こんな奴に好き放題やられて、痛くて、悔しくて、ムカつくのに………)
電撃に打たれ、鎖で地面を引きずり回され、無防備に曝け出された股間を、泥だらけの靴で踏みにじられる。
だが、その度に……

(カラダ、疼いて……痛いのが、気持ちよくなって…♥…えっちな事しか、かんがえられなくなっちゃう…♥…♥
わたしの、からだ……いったい、どうしちゃったのぉぉ……♥♥♥)

今までのアイセは、どんなに追い詰められ、苦痛、屈辱をその身に受けたとしても……それらを怒りと闘志に変え、決して折れる事なく戦って来た。
だが今は。下腹に刻まれたハート形の刻印が、ピンク色の光を放つ度……
全身の力が抜け、身体がヒクヒクとわななき、苦痛と同じくらい強い快楽と欲求が、全身を駆け巡る。

スライムによる全身調教や常識改変、カゲロウに埋め込まれた『淫魔の卵』など……
これまでの戦いによって、アイセの身体は本人が思っている以上に、深刻に蝕まれていた。

603名無しさん:2019/09/21(土) 16:35:15 ID:cDpRi93.
「ぅ………ん、ふあぁあああ…♥♥♥…」
(しょわ………じょろろろろろろろろ)
「うわ!キタねえなあ。小便まで漏らしやがったぜ……」

太股を薄黄色の液体が、頬を透明な涙が伝う。
…商人の最初の『躾け』が始まってから、ものの数分。
逆らう気力も体力も根こそぎ奪われたアイセは、ただ地面に這いつくばり、媚びるような喘ぎ声と、甲高い悲鳴を上げ続けるのみ。
……レジスタンス組織の女リーダーとして名を馳せた『魔弾のアイセ』の面影は、既にどこにもなかった。

「い、いやあああぁっ!……もうやめてぇっ!!…………そんなっ……アイセさん…貴女まで、こんな事になるなんて……」
「その、声………ミ、ナ………?」

「ん?どうした…M20037番……お前、こいつと知り合いだったのかぁ?……ヒヒヒ。
……だが、奴隷どもの関係なんて知ったこっちゃねえ。お前の売却先は、もう決まってるんだ。
トーメントの食用スライム製造プラント……そこでスライムの苗床になって、魔物兵どものエサを生み続けるだけの簡単なお仕事だぜぇ……」

「な……トーメント、だって……?…」
「へっ…ミツルギも、近頃は奴隷制度の規制が厳しくなってきやがったからなぁ。
そろそろこっちでの商売は畳んで、トーメント一本に絞った方が良さそうだぜ……だが」

「てめえは俺様専用の雌奴隷兼肉便器として、死ぬまで徹底的に嬲って嬲って嬲り抜いてやる……
言っとくが、今までのはほんの挨拶代わりだ。俺様の肉棒なしじゃ生きてけねえくらい、
頭のてっぺんからつま先まで、徹底的に調教し尽してやるから覚悟しとけ。クックック………!!」

「……ミ、ナ………く、……っ、………うっ……♥♥」
「アイセさんっ!! アイセさぁーーーんっ!!」

奴隷番号M20037番、『元』銃職人の孫娘、ミナ。彼女は苗床奴隷として、明日にもトーメントのスライム製造工場に売られる事になる。
奴隷番号M20179番、『元』魔弾のアイセ。名もなき奴隷商人のお気に入りとなった彼女は、永遠に市場に出回ることは無く、調教と言う名の拷問に死ぬまで晒される運命。

地獄の底で束の間の再会を果たした二人の距離は、鉄格子を挟んで数メートル。
それは奴隷に堕ちた二人にとって、どんなに手を伸ばしても永遠に届かぬ距離だった。

604名無しさん:2019/09/22(日) 00:39:29 ID:???
「それで、どこから侵入するです?」

「ちょっと待って、そろそろうちの密偵が掴んだ掃除の時間だから、上手いこと排水口が開くはず……」

「ほ、ほんとに凄いですね、ナルビアの密偵さんって……そこまで掴んでるなんて……」

「まぁ私は科学者だから、諜報員のことはよく知らないんだけどね……絡みなかったし。でも最近、やけに正確な情報を掴んでる気が……」

「ごぼぼぼぼぼぼ!!」

「ってオトちゃん!!ボンベマスクがちゃんと口に入ってないじゃない!ほら、貸して!」

「ぶへぇ!!死ぬかと思った!!」

ボンベマスクに内蔵されているマイクで通信を取り合いながら、排水口まで泳いでいく唯たち。

エルマの情報通り、排水口が開いて、人1人入れる程度の穴が空いた。
唯たちヴェンデッタ小隊は、順次排水口から基地内に潜入する。


「ふぅ、何とか入れたね……えーっと、爆弾の設置予定箇所は……」

濡れた髪とウェットスーツをタオルで拭いて、水滴の痕跡が残らないようにしながら、これまたナルビアの密偵が入手した地図を確認する唯たち。

「今回の作戦は、いかに敵と遭遇せずに爆弾を設置できるかにかかってる……です」

最年少ながら参謀役のルーアが、地図上に×印で書かれている爆弾設置箇所を指さしながら、作戦の肝を話す。

「流石の私たちも、基地内全部の敵と戦ったら分が悪いからねー」

「あの、オトさん、ということですので、絶対に、絶対に騒がないでくださいね!?」

「安心しろ、流石のあたしも、作戦中は弁えてる……戦いだしたら音を出さざるを得ないけどな」

「ほんとだ、オトちゃんったらなんかいつもより静かだしクレバーに見えるわ!」

「……とにかく、私たち潜入班を支援するために、もうしばらくしたら外の陽動班が攻撃を始めるはずです……」

「あー、最近ルミナスの魔物退治で活躍してる部隊も応援に来てるんだっけ?魔法少女の戦いは派手だから、陽動には最適ね」

今回の作戦はシーヴァリア主導だが、他の同盟国も少数ながら参加している。


「よーし、みんな!外の仲間が引きつけてくれてる間に、急ごう!」


隊員たちが意見を出し終えたタイミングで、唯が話をまとめる。
戦いに関する話はルーアやエルマに任せがちな唯だが、全員をまとめるという意味では、唯のリーダーシップは遺憾なく発揮されていた。

605名無しさん:2019/09/22(日) 23:37:50 ID:???
海上プラント内の指令室に、ルミナス魔法少女部隊の襲来の報が届いていた。

「敵襲ーー!!ルミナスの魔法少女隊が、上空から仕掛けてきました!現在、警備部隊が応戦中!!」

「来たか……空中戦に付き合ってたら勝ち目がないわ。私が出る」
指令室に居たのは、リザ。

「ヒッヒッヒ……小便臭ぇメスガキの団体さんか。俺様が片っ端から犯してやるぜぇぇ……」
「……私の命令なしに動くなと言ったはずよ。ここで大人しくしてなさい」
そして、ヴァイス。今はリザの指示により、手錠で拘束されている。

「ふむ……しかし、よろしいので?」
そして、スライム生産プラントの所長、クェール。
眼鏡をかけたやせ型の男で、鋭い眼光はただ者ではない雰囲気を醸し出している。

「……問題ない。私一人で事足りる」
「いえ……そうですか。ではよろしくお願いします」
……王下十輝星の一人であると知らされているはいえ、リザは一見ただの美少女でしかない。
故に、ルミナスの軍勢に一人で対抗できるのか、不安に思ったのだろう。……いつもの事だ。

そう解釈したリザは、所長の問いに特に疑問を持つことなく、早々に現場へと向かう。
……だが、所長の真意は別の所にあった。

「おかしいですね……事前の情報によれば、あれは陽動の可能性が高い、との事だったのですが……
あの方は、何も聞かされていないのでしょうか」
「ほー?……クックック。面白そうじゃねえか。表の襲撃が陽動って事は、本命が他にいるって事か?」
……残されたヴァイスが、ニヤニヤ笑いながらクェールに近付く。

「ええ。既に、予想される侵入ルートや、攻撃予測地点も割り出されています。
……同じ十輝星である、リゲル様の情報によって。なので、余計に解せないのですが……」
「至れり尽くせりって所か……随分と有能なこったな。あのマヌケな嬢ちゃんと大違いだぜ。クックック」

「ともかく、ここは我々だけで対処するしかありますまい。
侵入者は5名……監視カメラが映像を捉えました。……ほう。これはこれは」

指令室のモニターに、唯達ヴェンデッタ小隊のメンバーの映像が映し出された。
年長者らしい一人の少女が、監視カメラを停止させるまでのほんの一瞬。
だがそれだけで、侵入者の人数の特定と……

「ヒヒヒヒッ……イイねイイねイイねぇぇぇぇぇ。めっちゃレベル高ぇじゃねえか……!!
おい所長さん。さっさとこの手錠外せ……俺が全員ヤってやっからよぉおおお!!!!」
恐るべき殺戮者の狩猟本能に火をつけるには十分すぎた。

「ほうぴっちりスーツですか……大したものですね。
ぴっちりスーツは体のラインがくっきり出るらしく第二の皮膚と称するマニアもいるくらいです。
おっぱいも大中小揃っていてバランスが良い」
メガネにも変なスイッチが入った。

「彼女たちは、侵入バレした事に気付いていないようです……さっそく繁殖スライムプールに誘導しましょう」
「ヒッヒッヒ……面白ぇ事になりそうだなぁ。当然、最後のトドメは俺様に刺させてくれよ?」
「ええ、もちろん。頼りにしていますよ、ヴァイスさん。クックック……!!」

知らず知らずのうちに、罠にはまっていくヴェンデッタ小隊の少女達。
果たして、待ち受けるトラップと恐るべき狩猟者を退け、任務を果たすことはできるのだろうか……

606名無しさん:2019/09/23(月) 15:54:47 ID:???
「あ、ここにもシャッターがある……遠回りになるみたいだけど、こっちから行くしかないのかな?」

「うーん、それはいいんだけどぉ……なんかさっきからおかしくない?なんで重要拠点のくせにこんなにいろんな道が塞がれてるの?絶対変だよー!」

「全然人の気配もしません……トーメントの重要拠点のはずですよね?ここ……」

「考えられる可能性は1つあるです……が、他に道もないです。今は進むしかない……です。」

「……静寂が……騒々しいパターンだな。」

「あれ、オトさんすっかりキャラ変わってませんか……?」

爆弾の設置場所へ向かう最短ルートはことごとく塞がれており、遠回りを余儀なくされる唯たち。
巡回中の兵士もおらず静かすぎる基地内部、進路を誘導されているかのような大量のシャッター。
それが敵の策略にはまりつつあることを一部の者は感じつつも、少女たちは機械的な冷たい通路の上を歩いていく。



やがて、大きな貯水槽のある開けた場所に出た。

「第1スライムプール沈殿池……どうやらここは軍事用スライムの生産施設のようです。」

「スライム、かぁ……」

唯の脳裏に浮かぶのは、以前トーメントの地下道で瑠奈と共に蹂躙された記憶。
瑠奈はスライムに体中を犯され、開発され尽くした結果、射乳というありえない行為をさせられた。
唯自信も一番弱い部分を徹底的にこねくり回され、最後には身体中を溶かされて死亡。
今までの経験の中でも上位に入るほど絶望したことを、今でも鮮明に覚えている。

「なんかやたらカラフルなスライムだらけだな……ミツルギにはこんな極彩色のスライムいねえぞ。」

「……付近の説明書きを見る限り、用途によって色分けしているようですよ。赤は魔物用、青は食料用、黄色は除染作業用、緑は油処理用、紫は生物実験用……ピンクはー……うーん、なんだろう……」

「いーよ気持ち悪いスライムの解説なんて!こんなとこはやく抜けちゃおーよ!この部屋抜ければきっと目的地の爆弾設置場所、んぶっ!?むぐああああああああッ!」

「え、えっ!?エルちゃん!?」

「そんなっ、エルさんがスライムプールの中に……!」

それは誰も予期し得なかった、突然の出来事だった。
先行して歩いていたエルマに側のプールからピンク色のスライムが大量に飛び出してきて、彼女の体を覆い尽くしたのだ。
当の本人のエルマからすれば、何が起こったのかすらさっぱり分からなかっただろう。突然ピンク色に染まった視界の中、半狂乱に陥った状態でそのままプールの中へと引きずり込まれてしまったのだった。

607名無しさん:2019/09/23(月) 15:58:47 ID:???
「そんなっ……早くエルちゃんを助けないと!」

「待つです。プールの中はスライムだらけで底が見えないです……ここに飛び込んで探すのは不可能です。エルマさんは……諦めるしかないです。」

「え……?ルーアちゃん……?」

「おい!そんな簡単にあきらめるんかよちびっこぉ!」

「諦めるとかそういう問題じゃないです……中に入ったところでスライムにまとわりつかれて身動きが取れなくなるだけ。エルマさんを助けることなんてできるはずがないです。」

「ん……わかってるけどさ……なんか淡白すぎるだろ。仲間が一人やられたってのに。」

「え?わ、わかってるって……?」

「オ、オトさん……!まだエルさんがやられたと決まったわけでは……」

「このプールが構造上どうなっているかはわからないですし、ピンクのスライムについては説明書きがない……だから、エルマさんはどこかへ運ばれただけの可能性もあるです。悲観せず、気をつけて進む……です。」

「……え?エルちゃんは……どうするの?ルーアちゃん……」

「……唯さん、今の話聞いてなかったんです……?エルマさんのことはひとまず置いて、うちたちも同じ目にあわないように気をつけて進むしかないと言った……です。」

「えっ……?そ、そんなの……絶対嫌だよ。早く助けないとエルちゃんが死んじゃうかもしれないのに!」

「唯さん……でも、私たちにはどうすることも……」

「まぁ、断腸の思いってやつだな……うん。」

スライムの驚異については、唯もトラウマになるくらいなのでよく知っている。
取り込まれてしまったら命を落とすこともある危険な魔法生物だ。
そんな危険生物に仲間が襲われているのに、なぜ仲間たちは助けに行こうとしないのだろう。
そう考えて唯は、すぐに結論にたどり着いた。



(……あ、そうか。みんなは私や瑠奈たちと違って死に戻りできないんだった。それなら……)



「近くを通ると襲われてなすすべもなく引きずり込まれるです。注意を払いつつなるべく離れて……えっ。」

「うわっ隊長!?なにをするつもりっ……」

「みんな!私がエルマちゃんを助けてくるから、先に行ってて!!」

「何を考えてるです!!!それはただの自殺……!少しは頭を使うですッ!」

「そ、そうです!やってること無茶苦茶ですよ唯さんっ!唯さああぁんっ!!!」

ルーアが武器を振って唯を止めようとしたが、それすらも飛び越えて唯はスライムの中に飛び込んでいった。
仲間を薄情だと思ったからではない。自分にはたとえ死んでもやり直せるという特性がある。

そしてなんといっても、唯の辞書に【仲間を見捨てる】という文字はない。

(みんなごめん……隊長としては最悪だよね。でも私は、助けられる可能性があるエルマちゃんを、放ることはできないよ……!)

608名無しさん:2019/09/24(火) 00:46:24 ID:???
唯がスライムの海に飛び込んだころ、プラントの上では魔法少女たちの魔法とトーメント兵の対空砲火が入り乱れていた。

「魔法少女の数は何人だー!?」

「現在、オルト1上空に1名!オルト2上空に3名!魔法攻撃によりオルト1B脚、オルト3J脚破損!オルト1オルト3連絡橋は崩壊!落下した作業員たちの救出作業中です!」

「追加情報!撃墜した魔法少女は海魔兵により、オルト2C脚にて拘束!!!ウホッ!男だらけのスライム研究所で溜まりに溜まった鬱憤を晴らすためのリョナ準備は、滞りなく万全です!!!」

「よーし!さっさと終わらせて魔法少女を犯してやるぞ!残りもどーんといこu」

「灼熱!」「疾風!」「「合成魔法・フレアトルネード!!」」

「「「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」」」

突如発生した熱風により、男たちは対空砲ごと吹き飛ばされ海面に落ちていった。



「ナイスフウコ!また前より魔力おっきくなった?」

「え、そうかな……カリンの方がおっきいと思うけど……」

「いやいや、私のほうがおっきいのは知ってるけど、フウコもまたおっきくなったねって言ってるの!」

「カリンちゃん、さりげなく私よりおっきいこと自慢しないでよぉ!私たちは同じくらいでしょ!?」

「ふ、二人とも!今は戦闘に集中して!ルーフェちゃんが敵をひきつけてくれてるうちに、どんどん叩くよ!」

陽動役として攻撃を仕掛けているのは、水鳥率いるブルーバード小隊の面々。
ルーフェがカナリアフォームに変身し、各プラントを飛び回って多方面からヘイトを稼いでいる間に水鳥たちの魔法で基地を叩く。
この作戦で主要な配電施設や連絡橋を破壊したことで、水鳥たちの陽動は目的を上回る結果を残していた。



「水鳥ちゃん!今度はこっちに敵が集まってる!なんかおっきい武器があるよ!放置したらまずいかも!」

「了解!ルーフェちゃん、もう無理はしないで!陽動としてはもう十分だと思うし、あとはつかず離れずの攻撃で大丈夫!」

「そうだぞルーフェ!ちっちゃいんだからあんま無茶すんな!もうヘトヘトだろー?」

「ヘトヘトなのはカリンの方でしょ?もうすっごい汗かいてるし。」

「わ、私は火を使うから暑いのは当たり前だろー!フウコは風使いだから涼しい顔してられんだ!」

「もう、二人とも無駄話も禁止!そろそろ捕まった子たちも助けに行くよー!ルーフェちゃんも一旦こっちに来てー!」

「り、了解!」

トーメントへの急襲作戦、フースーヤとノワールによる奇襲、そして連日連夜の魔物退治。
戦いの場数を踏んできたこともあって、すっかり戦場慣れしている彼女たち。そのチームワークも完璧で、いまやルミナスでもかなり注目されている4人だ。
後から入隊したルーフェにとっても、今はこのブルーバード小隊が自分の居場所だと強く感じる。

(十輝星に捕まってた、泣き虫で弱い私のことをここにいるみんなが助けてくれた。こうして仲間に入れてくれて、こんな私に魔法少女として素晴らしい活躍の場所をくれた。水鳥ちゃん、カリンちゃん、フウコちゃん……わたしはみんなのことが、とってもだいすき。)

カリンとフウコは年上だが、敬称もいらないと言ってくれた心優しい先輩。
そして小隊になる前から友達だった水鳥。
水鳥も昔は自分と同じ泣き虫だったはずなのに、あのカナン・サンセットとの邂逅で強くなったという彼女は今や、ルミナスの誰もが認める立派な小隊長だ。
ルーフェにとって水鳥は友達であり、永遠に追い続けるであろう憧れなのである。

(私ももっと強くならなきゃ……!もっともっと強くなって、水鳥ちゃんみたいに誰かを引っ張っていけるような、そんな魔法少女にならないと!こうしてみんなと一緒に戦っていれば、いつかは……ん……あれ?)

609名無しさん:2019/09/24(火) 00:50:30 ID:???
不意に、腹部にねっとりとした暑さを感じる。
なんの躊躇もなくルーフェが目をやると、自分の服からなのかはわからないが……大量の真紅の液体が漏れ出していた。

(あれ?おかしいなぁ……なんだろうこれ。別に女の子の日じゃないのに。……あれ、まっ……て……こんなところから出るわけ……な……)

「ふぐっぶっ!?」

「え?……ルーフェちゃん?……ルーフェちゃん!?」

突然喉に押し寄せてきた嘔吐感と、吐き出されたものの正体にルーフェは青ざめる。
腹部の熱伝導の原因である、今しがた見た真紅の液体が、自分の口から大量に吐き出されたからだ。




「……う、ぐっ……!」

(い、一体……どうして……!)

泣き出したくなるような痛みに耐えながら箒を握りしめ、見たくないと思いつつもう一度自分の腹部を見る。

(あぁ……なに、これ……!わたし……死ん……じゃうの……?)

そこには太陽の光を受けてキラキラと輝く、宝石のような銀色の刀身が……見えなくなるほど深く突き刺さっていた。

「ど、どうしたの水鳥ちゃん!?」

「ル、ルーフェちゃんが!ルーフェちゃんから血が!は、早く回復魔法を!」

作戦中は凛とした表情で指揮をしていた水鳥が、その顔にぼろぼろと涙を流して接近する水鳥。
その表情を見て、ルーフェは不思議な安堵感に包まれた。



(……そうだよ、ね……水鳥ちゃんも……やっぱり怖い……よね……死ぬの……は……)



「み、水鳥……ちゃ……」

必死に右手で箒を握りしめ、左手を水鳥へと伸ばす。
だがその手は繋がれることはないことを、ルーフェは知っている。
自分のすぐ後ろに凶刃の持ち主の気配を……ひしひしと感じるから。

「……あっ。」

勇気づけるための最後のひと押しの如く、背中を優しく押された感触。
出血による脳内感覚と、バランスによる平衡感覚を失ったルーフェは、重力の奴隷となって海へと落ちていく。

(あぁ……みんな……ごめん……)

わたしを助けようと向かってきてくれるカリンちゃん、それじゃ間に合わないよ。
必死に風魔法を詠唱してくれてるフウコちゃん、間に合うかもしれないけど、たぶん出血が多いから無理かな。
水鳥ちゃんは……あれ、私の箒の上に乗ってる人になにか叫んでる。
そっか……あの人が、私を殺した……人……





「スピカアアアアアアアアアァァァァ!!!!!」

「……魔法少女……」

立場は違えど不思議な戦友だと水鳥が思っていた相手は、明確な敵意を持って目の前に現れたのだった。

610名無しさん:2019/09/28(土) 21:13:52 ID:???
水鳥は心のどこかで不安だった。またスピカのリザと会った時、躊躇わずに戦えるのか……共闘の記憶が邪魔をしてしまわないか。
だが、そんな不安は綺麗さっぱりと取り除かれた……水鳥にとっては、最悪な展開によって。

「どうして……どうしてルーフェちゃんを!」

「……次会った時は敵同士……そう言ったのは魔法少女、貴女よ」

「く……ぁあああああああああああ!!!!」

水鳥は大粒の涙をこぼしながら怒りと悲しみがごちゃまぜになった叫び声をあげると、空中に向けて矢を放った。
すると一拍置いた後、空から無数の矢が雨のように降り注ぐ。

(……一見闇雲に見えて、私のシフトを封じてる……)

水鳥が使ったのは、レインアロー……広範囲を攻撃する雑魚殲滅向けの魔法であり、本来リザのような強者との一騎打ちで使うような魔法ではない。
だが、シフトで縦横無尽に跳び回るリザにとっては、一つ一つは低威力とは言え、周囲に魔法の矢が降り注いでいるのはやりにくい状況であった。


「……なら!!」

リザはルーフェから奪った箒を駆って、敢えて直線的な動きで水鳥へ向かう。ただ動かすぐらいなら、天才肌のリザにとっては苦ではない。

「スピカ……貴女が……お前がそれを使うなぁああ!!」

水鳥も同じく箒を操って、迫りくるリザに向けて立ち向かっていく。
暗殺者を相手に接近するのは危険だが……今はそれ以上に、リザが戦友の箒を使っているのが許せなかった。

「少しは成長したかと思ったけど……相変わらず、肝心な所で感情的ね」

リザはナイフを構え、インパクトの瞬間に一気に水鳥に突き立てようとするが……

「……今!!」

リザのナイフの距離に入るより一瞬早く、水鳥は箒を蹴り捨てながらアクア・ウィングを展開して急加速し、一気にリザの背後に回り込む。

「……っ!!」

「アクアエッジ!!」

近距離ならば弓よりも通常の水魔法の方が強いと判断した水鳥は、リザの背後から水の刃を放つ。

「くっ……!」

予想以上に戦い慣れている水鳥の攻撃を背中から喰らい、リザは箒から落下する。

「これで……っ!スプラッシュアロー!!」

空中で身動きが取れないリザに向けて、魔法の矢を放つ水鳥。仲間を殺された怒りを込めた矢が、今まさに魔法の矢がリザに到達しようとした瞬間……

「……やるわね、魔法少女……でも、詰めが甘いわ」

水鳥の視界から怨敵は消え、仲間の姿が現れた。

「フウコちゃん!?」

「え……きゃっ!?」

リザは水鳥に翻弄されて箒から落ちたように見えて、まだ海に落下したルーフェを探しているフウコとカリンをシフトチェンジの射程に入れていたのだ。

「ご、ごめんフウコちゃん!」

「わ、私は大丈夫……!でもルーフェちゃんが……それに、何で私がここに……?」

幸いにも、微妙に体勢が変わっていたおかげで、リザの頭を狙った矢はフウコの頬を掠めるだけで済んだが……リザの能力に見当がついた水鳥は、顔を青ざめさせながら叫ぶ。

「っ……カリンちゃんっ!!」

611名無しさん:2019/09/29(日) 15:08:23 ID:y3jVb242
「くそっ……!ルーフェ!ルーフェっ!」

海に落ちたルーフェの元へ降下するカリン。
怪我の具合はよく見えなかったが、落下していくときの真っ青な表情から想像することは難くない。
一刻も早く助けなければ、取り返しのつかないことになることをカリンは感じていた。

「ルーフェ!ルーフェッ!……やだぁ……返事してよルーフェ……!」

声をかけながら、腹部から大量出血しているルーフェの体を確かめる。返事はないが、小さな胸はゆっくりと上下している。

(ま、まだ生きてる!早く治療魔法をかけて応急処置しないと!)

深い刺傷だが、応急処置をすれば助かる可能性はある。
すぐにルーフェの体を抱き抱え、回復魔法の使える水鳥の元へと向かおうとするカリン。
その彼女の背後に、暗殺者が現れたことも知らずに。

「カリンちゃんっ!!」

「カリン!!逃げてえええぇっ!!」

「……え?」

上空から水鳥とフウコの慟哭のような声が響く。
その声に気付いた時には、もう遅かった。

「ごふうぅっ!?……う、嘘……?なに、これ……」

「いやぁぁっ!!カリン!カリンーー!!!」

ルーフェと同じ右腹部にナイフを押し込まれたカリンは、海の上で焼けるような痛みを感じながら
ルーフェに重なった。

「…………」

その様子を冷めた目で見つめていたリザは、カリンの使っていた箒に素早く飛び乗り上を見上げる。
青い目の奥に潜む殺意に射抜かれた2人は、その迫力に止まってしまった。



「くっ……!」

「ここから離れなさい。魔法少女。今すぐ撤退するなら私は追わない。」

「スピカ……あなたは……それで私たちに情けをかけているつもりなんですかッ!」

「……そんなこと言っていられる状況なの?あなたたちでは私には勝てない。このプラントの攻略は諦めて、さっさと帰って。」

「……水鳥ちゃん……早く助けてあげないと、カリンちゃんたちが……!」

「わ、分かってるよ……でも、うぅ……!」

「……仲間の命か、私への攻撃か……今どちらが最適解か、よく考えることね。魔法少女。」

カリンの箒に乗ったまま、ルーフェたちへの道を開けるリザ。
それは水鳥の選択をすでに先読みしているかのような行動だった。
この状況で仲間を見捨てて自分に襲いかかる選択肢を選ぶはずがないと。

(……私は……ルーフェちゃんとカリンちゃんがこんな酷い目にあわされたのに、この人に一矢報いずに逃げるしかないの……?)

おそらくだが……スピカは2人の急所は外しているのだろう。今から助ければまだ間に合う程度に。
冷静に考えれば、2人を助ける以外の選択肢はない。

だが、それは【ブルーバード小隊隊長】としての正しい選択なのだろうか?
陽動としてここに来た以上、ヴェンデッタ小隊が潜入活動中はこの場所を離れるわけにはいかない。
任務を放棄し、仲間を助ける……正しくないとは言わないが、潜入活動中の仲間たちはどうなる?
自分が陽動を放棄したせいで、失われる命があるとしたら……

「水鳥ちゃん……!」

フウコも、この事態にどのような判断をするべきか、指示を仰ぐように水鳥を見やる。
だがどんな選択をしても、フウコは付いてきてくれるだろう。
苦楽を共にしてきた仲間であるが、彼女もルミナスの魔法少女なのだ。
隊長の命令に背くことは許されない。
そして、仲間がやられたからといってすべてを放棄することもまた許されないことを知っている。
だからこそ、葛藤する。

任務放棄は許されない。
他の仲間を置いて逃げるわけにはいかない。
そもそも見逃してくれる保証もない。
2人が助かる保証も、ない。

(でも……)

ここで見捨てた2人に恨まれないか。
そもそもフウコと2人で挑んで、勝てる相手ではないのではないか。
2人やられた時点で、陽動としては失敗なのではないか。
ならばもう、退却した方が良いのではないか。

「早くしないと、2人とも死ぬ。……急所は外してある。応急処置をして、連れて帰れば助かるはずよ。」

(……この人は……!)

ここにきて甘言。やはりスピカは他の兵士たちとは違うのは明らかである。
だがそれも、水鳥にとっては自分たちを舐めているとしか思えなかった。

(お姉ちゃん……私は一体……どうすれば……!)

612名無しさん:2019/09/29(日) 17:20:02 ID:???
「……やっぱり、ダメだな、私……ここまで来ても、決断力がちっともない……」

「水鳥ちゃん?」

何やら諦観したような口調で語りだした水鳥に、フウコが怪訝そうな顔をする。

「フウコちゃん、2人を連れて退却して……スピカは……私が残って足止めする!」

そう言うや否や、アクアウィングの出力をあげた水鳥は、一気にリザに肉薄する。

「水鳥ちゃん!?無茶だよ、そんな……!」

「無茶かもしれないけど……仲間を見捨てるのも、任務を放棄するのも無理だから……こうするしかない!決断をしないのが……私の決断!」

「……愚かね、魔法少女……」

単身リザに向かってくる水鳥を、リザは余裕を持って待ち構える。

悲痛な表情を浮かべながらも、素早くカリンとルーフェの元へ飛んでいくフウコを横目に見て、せめて彼女ら3人だけは逃がしてやろうと考えていたリザ。

愚かと言いつつも、心のどこかでその決断に敬意を持って水鳥を殺そうとした瞬間……水鳥のオレンジ色のイヤリングが、青く輝いた。


『……同族の暴走を止めるのも、私の勤め……デネブに捨てられた方とカリンに渡した方のイヤリングを水鳥が回収した時に、親友権限で私の魔石とカナンのイヤリングを自由に行き来できるようにしておいたこの私が!!基本はシュリヤの持ってる魔石に住んでるこの私が!!貴女に力を貸すわ!!』


なんかやたらと長い自分語りが聞こえた気がした瞬間……水鳥の体は、リザの真後ろにテレポートしていた。

「なっ!?」
(シャドウリープ!?いや違う、これは……まさか、シフト……!?)

「うああああぁああああ!!!」

「がふっ!」

一瞬反応が遅れたリザに後ろからタックルで掴みかかる水鳥。そして水鳥は、その勢いのまま……リザを道連れに、海の中へと突っ込んで行った。


「み、水鳥ちゃーーん!!」

フウコの叫びが木霊するが、海中の2人には届かない。


(くっ、どうして!?シフトが使えない……!でもこんな子供の拘束、力づくで……!)

リザの体に抱きついて離さないまま、海の深く深くへと潜っていく水鳥。オレンジ色だが青く光るイヤリングの力で、リザのシフトの力は封じ込められている。

こうなれば勝負は単なる力比べであり、リザは無理矢理水鳥の腕を離そうとする。


(……私は、トーメントの酷さを知っている……)

徐々に抱きついた腕を振り解かれながら、水鳥はこれまでの戦いを夢想する。
たとえ仲間でも、利用できるものは利用し、自らの欲望を叶えようとする……トーメント兵とは、そういう者たちだ。

そして、結構生き汚い。

やられたように見えてもなんだかんだ生き残っていて、次の機会にこちらをいたぶることを虎視眈々と狙っている。

つまり、何が言いたいかというと……ブルーバード小隊の攻撃を受けて海中深くに逃げて戦いが終わるのを待っていたであろう、海魔兵の生き残りが、きっといる。

そして……そういった輩は、突如降ってきた餌に必ず飛びつく……たとえその餌が、味方だったとしても。


「……!?魔法少女、貴女まさか……!」

「……一緒に戦った仲じゃないですか……ちょっとだけ、付き合ってくださいよ……スピカさん」

水鳥の思惑にリザが気づいた瞬間……2人の背後に、大量の影が現れた。

「親方!!空から女の子が!」

「ばか、ここは海の中だぞ、女の子なんて降ってくるわけが……ってええーー!?魔法少女ちゃんにスピカのリザ!?」

「リョナりましょう!こんな機会二度とないですよ!前からスピカは気に入りませんでしたし!!」

「そうだな、そうと決まれば、テレポートで逃げられないうちに……!いくぜぇええ!!」

「ううぉおおおおお!!」

613名無しさん:2019/09/29(日) 19:18:17 ID:???
「ぐひひ、まずは空気が吸えるように……アクアプロテクション!」

「んっ!」「ひゃっ!」

リザと水鳥の周りを泡沫が包み込むと、2人の鼻から空気が入り込み始めた。

「溺死しちまったら面白くねえし、かわゆい悲鳴もたっぷり聞かせて欲しいからな!感謝しろよ!」

「くっ……!いい加減離せ、魔法少女……!」

「嫌ですっ!!絶対に、逃がしません……!」

「おおー?なんだかわかんねえけど魔法少女のお嬢ちゃん!そいつを離すんじゃねえぞ!」

「はい!」

「ちょっと、魔法少女!?あなたまで巻き添いになるのに、こんなこと……!」

「スピカ……私の仲間を傷つけた罰を受けなさい!貴女も少しは痛い目に会うべきです!!!」

(それに……この人を抑えていれば、潜入班たちもかなりやりやすいはず……!私ができるのはもう、これくらいの足止めだけ……!)

「は……?な、何を言ってるの?え、馬鹿なの……?ひゃんっ!?」

「くひひ!2人ともおでが縛り上げてやるだで!」

「あっ……ぐぅ!」
「きゃぁ!」

水鳥の発言に戸惑うリザのお尻を擦りながら現れたタコ型の海魔兵は、触手を使い2人がお互いの体を向き合う形にして拘束した。

「お互いの顔が見えた方が安心だで!?そら、お前らのおっぱいが潰れるくらい縛ってやるから、いい声上げるんだでぇ!!」



「ぐああああああぁ!!」
「やああぁああああっ!!」

タコの強烈な締め付けにより、お互いの体をゼロ距離で密着させながら、2人は悲鳴をあげた。

「いいぞいいぞー!美少女が2人おっぱいと貝合わせながらくっそエロい悲鳴!これこそ最&高だぜー!」

「ん、スピカはまあおっぱいあるけど、あっちの子はまだ膨らんでるか怪しいレベルじゃないか?ちょっと教授の開発した計測器持ってくる!」

「タコすけ!お前はそのまま縛り上げて、美少女のダメージボイス二重奏だ!俺はクライマックスで使ういい感じに服が溶ける液を準備しておく!」

「おっけーだで!ならおでは、2人に電流を流して動けなくするだで!」

「撮影用水中カメラ、準備完了!4K画質でバッチリ取れます!VR出力機能にも対応!鑑賞の際はゴーグルを装着し、自由に全方向からリョナ鑑賞が可能です!」

「へいへい、指向性マイクによる音声記録レコーダーも準備完了だ!2人の悲鳴を別々にでも、同時にでも聞けるもんだぜえ!ウォーキング中でも作業中でも、MP3でいつでもエロい悲鳴を聞けるぜえぇ!」

「照明準備よし!2人を中心に光源を調整します!加えて、特別警戒班を要請!2人の救助活動を確実に阻害、遅延できるよう、海魔兵の精鋭部隊が海面を警戒します!」

「各自、ベストを尽くせ!二度とないチャンスだ!このスピカリョナ作戦だけは絶対にやり遂げるぞ!トーメント王国、万歳!!!」

「「「「「トーメント王国、万歳!!!」」」」」

(こ、こいつら……!)


通常の作戦行動よりも明らかに手際のいいチームワークを見せつける海魔兵たち。
個々の能力は高いものの、普段はダラダラしてやる気がない彼ら。だが前々から気に入らない存在だった上司の美少女を思いっきりリョナれるとなれば、シーヴァリアの騎士たちを上回る連携を取ることが出来るのだ!

「そら、電流だでえええええっ!」

「ぐああああああああぁ!!」
「きゃあああああああああぁ!!」

シフトで抜け出すことが封じられ、海魔兵の触手に縛られてしまった今のリザに、抜け出す手段はない。
電流が止まると、恨めしそうにリザは水鳥を見つめた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

「スピカさん……いい電気風呂ですよね……?気持ちよくなっちゃいそうですよね……?」

「……市松水鳥……!」

同じ状況に陥っているはずなのに、水鳥は電流を食らってもなお、笑っていた。

614名無しさん:2019/10/01(火) 02:14:21 ID:???
リザと水鳥が捕まった頃、司令室ではトーメントの兵士たちが戦況を分析……しているように見せかけて、雑談ばかりしていた。

「ヴァイスじゃねえけどさぁ、ここでの生活長い俺もスピカ見た時はやばかったぜ。もう見た瞬間ムラムラ止まんなくて理性飛びそうだったわ。絶対殺されるからやんなかったけど……」

「ここ男しかいねえもんなぁ。今は魔法少女やら異世界人やらで賑やかになってきたし、あいつら全員捕虜にしちまえば仕事終わりにまとめてヤり放題よ。」

「うーん……潜入者の中にスピカみたいなアウィナイトの女はいねえのかなぁ。」

「そりゃお前、戦闘できるアウィナイトなんてそれだけで珍しいんだからそうはいねえよ。そんなにアウィナイトが好きなのか?」

「いや、噂だけどよ……アウィナイトの女って若い奴でも夜の知識がめちゃくちゃ豊富で、かつ相当なテクニシャンらしいぜ。」

「え?なんで?」

「生き残るためだよ。性奴隷にされた時、フェラでもして歯が当たりまくったら使えねえ奴だって殺されちまうだろ?そうならないように、男がどうすれば喜ぶかを若いうちから母親とか知悉豊富な奴に教わって、万一気の短い野郎に捕まったとしても気に入ってもらえるようにしてんのさ。床上手な奴隷になれば殺されることはないってね。」

「はえ〜生存能力のひとつって訳かよ。奴隷根性が板につきすぎだろ!そりゃあ大富豪たちがこぞって買うわけだ……俺も死ぬまでに1回くらいはアウィナイトの高級ソープでじっくり味わいたいもんだぜ。」

「へっ、1晩遊んだだけでお前の半年分の給料とボーナスは確実に飛ぶけどな!」

「ぐへ!?そんなにすんのかよー!!!」



そこまでゲスい話をしてから、件のアウィナイトである上司が帰ってこないことに兵士たちは気づいた。

「……なぁ、あの生意気美少女遅くないか?魔法少女の陽動を叩くって出てったけど、時間かかりすぎのような。」

「確かにな……ていうかさっきのお前の噂が本当なら、あいつと寝ると精子枯れるくらい搾り取られちまうのかな。」

「おいばかそういうこと気軽に言うのやめろ!発散するあてもないのに余計にムラムラしちまうだろが!」

「なんだよ怒んなよ、お前が言い始めたくせに……まぁ魔法少女に手を焼いてるんだろうな。無線持ってるだろ?繋いでみろよ。」

「あ、そうだった。ポチッと……あーあー、スピカさーん、聞こえますかー?」

「あーあ、いい感じにボロボロになってて、えっろい声とか出してくんねえかな……」

無線のスイッチを入れ、生意気美少女へと通信をかける兵士と、小さな声で願望を呟く兵士。
そして返事の代わりに返って来たのは、彼らの大好きな……

『うああぁぁあああぁあぁっ!……っ……!はぁっ、はぁっ……!』

電流と締めつけによって絞り出された、リザの悲鳴だった。(悲痛5:エロ5のブレンド)

「うぉ!?お、おい……!まさか、これは……!」
「おおおおいまじか!?おい俺にもその声イヤホンで聞かせろ!!」

思いがけず発せられた美少女によるリアルタイムの悲鳴に、兵士たちは一気に期待と股間を膨らませる。
もちろん、これから救援要請など出すはずかない。
生意気クール系美少女のリアルタイムの喘ぎ声を生で聞ける機会だ。さっきの話で順当にムラムラしてしまっているとはいえ、仕事を優先してこの美味しいシチュを台無しにしてなるものか。

トーメントの兵士たちはどこまでいっても、欲望に忠実なのだった。

615名無しさん:2019/10/02(水) 01:58:49 ID:???
ミツルギの中心都市、ムラサメの南東に広がる洋上にサクヅキ島はある。
その島のほぼ全土を占めるのが、脱出不能の地獄と呼ばれるサクヅキ奴隷収容所。
構成の見込みのない大罪人や多くの奴隷を収容、管理しているこの場所は、このリョナ世界の中でもトップクラスに危険な場所と言えるだろう。

そんな奴隷収容所施設だが、全ての奴隷が等しく扱われている訳ではない。
毎日の過酷な業務にストレスの溜まった看守たちの夜の相手をするのは、見目麗しいアウィナイトの女たちだ。
彼女たちはほかの奴隷たちとは違い、離れた別棟にて不自由のない生活を送っている。
そしてその中で唯一、看守たちへの日々の奉仕すら免除されている女性がいる。

「ミスト……久しぶりね。またちょっと大きくなったかしら。若い頃の私にそっくりね……」

目や頬がやつれているが、若い頃は相当な美人であったことが窺える壮年の女性。
彼女だけはこの施設の中で自由に過ごすことが許されているが、それを知っているのは本人と、ごく限られた看守と……

「お母さん、ごめん……身の危険がなくて何不自由ないとはいえ、こんなところに暮らしてもらって……」

「ううん……お母さんがこうして安心して暮らせる場所を用意してくれたこと、本当に感謝してるわ。ありがとう、ミスト……」

「……お母さん……」

あの事件のせいで、ステラは変わってしまった。
おしとやかと言うよりは肝の座った豪胆な性格で、子供たち共々夫のミゲルのこともぐいぐい引っ張る、家族のリーダーだった。
曲がったことが嫌いで、優しかったけれど同じくらい厳しくて、小さい頃は父親よりも断然母親の方が怖かった。
やがてその厳しさは、子を思う優しさの裏返しであると気付く。
母親としても、女性としても、ステラはミストの憧れだった。

(でもお母さんは……あの事件で変わってしまった。私がこんな身体になっても……リザが同族のためのはいえ人殺しをしていると教えても……)



「いいのよ……貴女たちが生きていてくれれば。それだけでいいの。元気に生きていてくれれば、私はそれだけで幸せだから……」



そう言いながら抱擁を迫るステラを、ミストは拒まず受け入れる。
以前とは違う違和感を受け入れられないまま。
元の家族にはもう戻れない現実を受け入れつつ。
生きていながら死んでいるかのような母親を哀れだと思う自分に嫌悪感を感じてしまう。



事件の後のステラの日々は、筆舌に尽くしがたいものだったという。
夫と息子を目の前で無惨に殺され絶望したステラの心を、盗賊たちはその体ごと、毎夜毎夜犯して愉しんでいた。
やがて性奴隷として富豪に売られたが、自由などあるはずもなく、毎晩のように求められる自分の身体。
心はボロボロでも、身体が使えれば性奴隷としては問題ないようだった。

(そんな生活だったお母さんを助けて、安全なこの施設に収容させてた。でも……ここじゃお母さんは死んだように毎日暮らしながら、ただただ腐っていくだけだ。)

616名無しさん:2019/10/02(水) 02:00:19 ID:???
「……ねぇお母さん、リザに会ったよ。」

「え?リザに……?あの子は今トーメントの兵士なんでしょう?あなたたち、戦ったりなんかしてないわよね?」

「……してないよ。ただ……アウィナイトのためとはいえ、罪のない人を殺すのはやめてって言った。……それは意味の無い哀れな復讐だって。」

「……そうよね……やっぱりあの子にも、端女の修行をさせておけばよかったのかしら。アウィナイトがこの世界でどう生きてきたかを理解していれば、そんなことは……」

「なに言ってるのお母さん……!全然意味ないよ。あんなわけわかんない修行……!」

端女(はしため)の修行——アウィナイトの女が8を数えた頃に行うものであり、性奴隷となってから役立つ殺されないための修行だ。
ミストも例に漏れず受けているし、リザも受ける予定だったのだが、大切な妹にそんなものを絶対に受けさせたくないと、ミストが強く反対した。

リザにこんなくだらない修行をさせるのなら、こんな家出ていってやると脅して。



「ミスト……意味の無いことは無いわ。現に私は修行で得た知識や経験のおかげで、男たちに殺されることなく、あなたに助けてもらえたのよ……」

「っ……!そんなの!そんな……の……」

「ミストはもう強くなったから必要ないかもしれないけれど……アウィナイトの女はずっとそうして数を減らさず生きてきたの。理不尽に耐えるための修行……リザは今、理不尽に耐えられなくなって、自暴自棄になってるのでしょう。」

「……はぁ、もういいよ。その話は。とにかく、明日にでもここを出るよ。お母さん。」

「……ミスト……わたしはあなたの重荷になりたくないわ。ここであなたにこうしてたまに会えるだけでいいの……わたしのことはもう、放っておいてほしい……」

「だめだよお母さん……!そんな風になにも感じず何も考えず生きてるなんて、死んでるのと同じだよ。こんな場所よりも普通の世界で暮らしたいとか思わないの……?」

「……私からあの人を奪って……私に似て明るくて元気なミストと、生意気だけど勇敢だったレオの体をぐちゃぐちゃにして……誰よりも優しくて可愛いリザを血生臭い殺人鬼にしたこの世界なんて……私にはもうどうでもいいのよ……」

「……おかあさん……」

全てを受け止め、理解した結果、諦めてしまったステラの言葉。
それを否定することもできず、ミストは立ち尽くすことしかできなかった。

617名無しさん:2019/10/02(水) 02:51:27 ID:???
(ビシュッ!!バシ!!ズバッ!!)
「グハハハハハ!!この『ウィップ・オクトパス様』のムチ打ち百連コンボと!!」
「きゃう!」「んぐぁ!!」「っく…!!」「あんっ!」

(バチバチバチ!! バリバリバリバリッッ!!)
「ぐひっ!このオデ、『デンキ・オオダコ』の電撃無限地獄で……」
「んぅ、っぎ……あああああっ!!」「ま、そんな所……んにぁあああああああ!!」

「エロかわいい悲鳴を」「思う存分上げさせてやるだでぇっ!!」
「「っうあああああぁぁあああっ!!」」

タコ型海魔兵達の猛攻に、リザと水鳥は徹底的に痛めつけられていた。

「いやー、JS魔法少女とアウィナイトのS級美少女をいたぶるのは最高だでな!!生きててよかったべ!」
「なんだかわからねーけど無抵抗でリョナり放題だしな!今を逃したらこんなチャンス一生ねえぜ!」

悲鳴をあげれば魔物兵達を悦ばせるだけ。…そうと分かっていても、
スピンオフでネームドキャラを堕とした高レベル魔物兵の攻撃はすさまじく、二人はエロスと苦痛が絶妙にブレンドされた悲鳴を上げさせられてしまうのであった。

しかし、それでも……。

「はぁっ……はぁっ……いい加減に、放しなさいっ……!!」
「いい、え……絶対に、放しませんっ……!!」

水鳥はリザの身体を強く抱きしめたまま、離れようとしない。

「くっ……バカげてる……こんな、自爆まがいの特攻なんて……異世界人って、どうして皆こうなの…?」
無理にでも引き剥がしたいが、リザにも電撃のダメージが残っていて上手く身体に力が入らない。

水鳥の目的が、時間稼ぎにあるのは最早明らか……と言う事は、彼女の仲間…あるいは別動隊か何かが、
既にプラントに潜入しているとみて間違いないだろう。

仲間の為、あるいは他の誰かのために、己の身を危険にさらす事すら厭わない水鳥の姿を見て、
リザは、以前出会ったとある異世界人の少女をふと思い出した。

「……はぁっ……はぁっ……何とでも……言ってください。悔しいけど、まともに正面から戦えば私は貴女に勝てない。
だけど、我慢比べなら……魔力で防御と回復が出来る分、私に分がある……こんな苦痛、いくらでも耐えて見せます…!」

「魔法少女の力を、過小評価するつもりはないわ。だけど……水鳥。貴女は肝心な事を忘れてる。
………奴らが与えるのは、苦痛だけじゃない」

「はーい♥ そこ、どいてくださーい♥
あーーーんもぅ、こんな可愛い女の子が、真昼間から2人して抱き合ってイチャイチャなんて。
ふ♥し♥だ♥ら♥さん♥ですねぇ……私も混ざっちゃっていいですよねー?」

……無駄に黄色い声と共に、どす黒い気配が急速に近づいてくる。
現れたのは、半透明なボディを持つクリオネ型の魔物兵。
その名も……

【乳首ねぶりまくりおねぇさん】
半透明のボディにピンクの内臓、どす黒く燃え盛るガチレズ魂を持つクリオネ人間のお姉さん。
おっぱい控えめな女の子を見かけると、乳首をいぢめていぢめていぢめ倒してイかせまくらずにはいられない厄介な。
お姉さんに気に入られちゃったら最後、衣擦れだけで絶頂しちゃう程に右も左も開発されてしまうという。
ちなみに興奮すると頭がパカっとなっちゃうため、味方からリョナ対象に見られることは少ない。

618名無しさん:2019/10/05(土) 03:14:31 ID:BRifkeMw
「ちょ、クリオ姉さん!この子たちは俺らのおもちゃだぞ!勝手に横取りするんじゃねえ!」

「なに言ってるのよぉ♡こんな極上美少女を男にヤらせるなんて勿体ないわぁ♡それに私はずっと前から……本当は気が強くないくせにあんたたち男に舐められないように、必至に強がってクールを装って私強い子アピしてる健気で賢いリザちゃんを、虎視眈々と狙ってたのよぉ♡そう、ずっと前からね♡」

「馬鹿っ、やめろ……!ああぁっ!!」

タコの電撃と触手乱れ打ちでボロボロのリザに近づいたクリオ姉さんは、露出の少ないリザの暗殺服の隙間に頭部の二本の触手を入り込ませる。
この触手こそがクリオ姉さんの乳首開発に特化した触手……その名も、【乳首開発用触手】である。
肌に吸着した瞬間、まるで柔らかい唇が素肌に吸い付いたような感触に襲われ、リザは甲高い悲鳴をあげた。

「げひひ……いつものスピカとは思えない声だでぇ。男を悦ばせるいやらし〜い喘ぎ声出して、もうおでたちに犯される気満々だでか?」

「う、うるさいっだまれっ……!後でお前ら全員八つ裂きにして殺してやるっ……!」

「あぁら怖ぁい♡そんなことになる前に、リザちゃんの膨らみかけの蕾おっぱいをたくさんいじめて、骨抜きのとろとろアヘアヘにしちゃうわぁ♡」

(う、うわぁ……トーメントの兵士は本当に味方にも容赦ない……!それに……今のスピカさんの声ぇ……!)

目の前で行われそうになっている少女の性感帯開発に、トーメントの兵士たちの下衆さを改めて認識する水鳥。
それとは別に、目の前で甘い声をあげた金髪美少女の姿に、不覚にもちょっとドキドキしてしまっていた。



「さーぁ、このまま服の中からいじめちゃうわよぉ♡リザちゃんのちっぱいの先端に……合♡身♡」

「あくぅっ……!や、あんっっうぅっっ!!」

自分の身体の敏感な二箇所に、小刻みに蠕動する柔らかい何かが何重にも巻きつく感覚。
クリオ姉さんの乳首開発用触手は、素肌に当たっただけで先ほどのような声が出てしまうほどの職種である。
そんなものが敏感な突起を何度も擦り上げ、さらに追い討ちをかけるように小さくぴんっぴんっと弾かれながら包み込まれる感覚は、それだけで達してしまう可能性もあるほどの強烈な快感をもたらす。

「いい声いい声♡ほら、もっといやらしく乳首を弾いてあげるわぁ……ちょん♡ちょん♡」

「ふぅ!?あぁあああぁあぁぁああぁあぁぁーーーっっ!」

クリオ姉さんの声に合わせて二度、吸い付かれたような強烈な快感に襲われる。
それと同時に感じたのは、先ほど浴びていた電流を大きく上回る、まるで全身麻酔を全身の穴から注ぎ込まれたかのように尋常ではない痺れるような感覚。
そしてそれが快楽だと脳で認識してしまった瞬間一瞬にしてオーガズムに達したリザは、自分でも身体のどこから出ているのかわからないほどの高音で絶叫した。

「す、すげぇ……!まるで好きな男に種づけプレスでびゅるびゅる注ぎ込まれたときみたいな声出してんじゃねえかっ!」

「お前、好きな男に種づけプレスでびゅるびゅる注ぎ込まれたことあんのかよ……引くわ。」

「く、この王下十輝星っ……!スケベすぎるっ……!」

「く、クリオ姉さんんっ!見せないまま俺たちを生殺しにする気かよ!もう我慢できねぇぞ!」

「そうだ!!これ以上、我々はがまんできない!!」

「くそっ……じれってーな。俺かなりやらしい雰囲気にして来ます!!」

「うるさいわよぉ汚い男どもぉ。あんたらはこの子のやらしい顔と声をオカズにシコシコ処理しなさい。」

「あぁ、そ、そんな無体な……!」

「汁男優扱い……まぁ、生殺し感覚も悪くはねえんだが……」

クリオ姉さんに逆らうと大事なモノに触手を刺されEDにされてしまうという恐ろしすぎる噂のせいで、誰一人手が出せず指をくわえて見ているしかないのであった。

(あうぅ、すっごい声……!もしかしてこれ、私も……され……るの……?)

『……奴らが与えるのは、苦痛だけじゃない。』

先ほどのリザの言葉を思い出す水鳥。
おそらくこの展開も、彼女は容易に想像していたことなのだろう。
そして大勢の男の視線に晒されながら行われているこの公開レイプ行為は、決して他人事ではないことを思い知り、水鳥の表情は強張り始めた……

619名無しさん:2019/10/06(日) 15:04:48 ID:???
(さ、さすがに助けた方がいいかな……だ、だけど、スピカがルーフェちゃんやカリンちゃんにした事は許せないし……いやでも、なんかソレとコレとは違う気も……)
「ふふふふ……そっちの水色ちゃんも美味しそうね♥♥ 行きなさい、かわいい私の分身たち!」
「えっ……きゃっ!?」
手を出すべきかどうか迷っていた水鳥に、クリオ姉さんが容赦なく魔の手を伸ばす!

「「キュルルルルル……!」」
(にゅるっ)(しゅるるっ)(するっ)
「な、何これっ!?……し、しまっ………!」
小指の先ほどのサイズのクリオネ型使い魔が、群れを成して高速で迫る。
クリオネ達は水鳥の攻撃を小さな体で易々とかわし、水魔法の防壁を突破し……あっという間に服の中に潜り込む。
そして……

(かぽ)(かぷ)(ぱくり)(ちゅぷん)
「……きゃ、あふんっ!?くああぁぁああああっ!!」
そして大きく口を開け、一斉に水鳥の胸の頂に喰らいついた。
未体験の感覚に絶叫し、水鳥は一瞬にして膝から崩れ落ちてしまう。

「うふふふふ……思った通り。二人とも敏感で、とってもカワイイわぁ♥
でも、お楽しみはまだまだこれからよ♥♥」
「はぁっ………はぁっ………調子に乗る、な……ん、っく…!!」
「うぅっ……放してっ…ん、ああぁっ……!!」

糸のように細い触手、小指の先ほどの小さな使い魔。
たったそれだけの責めで、甘く切ない痺れに全身を支配され、身体全体の主導権を握られてしまう。
あっという間に戦闘不能に追い込まれてしまったリザと水鳥は、
クリオ姉さんの両腕から伸びる捕縛用触手に絡みつかれ、互いに向かい合わせに拘束される。

「ち、近すぎ……もう少し、離れて…」
「そ、そんな事言われても……!」

(市松水鳥……市松鏡花と、目鼻立ちが似てるわね……姉と、妹……、か……)
(…こうして改めて見ると、やっぱりスピカさんって奇麗な顔してるなぁ……)

互いの吐息の熱さ、触れあう太股の体温、とくんとくんと脈打つ鼓動の早さで、
お互いの身体がどうしようもない程に発情してしまっているのが、わかってしまう。
視線が交錯し、紅潮した相手の顔、羞恥に染まった表情が視界に入る度、否応なく意識してしまう……

(今の私も……水鳥と同じように)(スピカさんと同じように……)
((こんなに……いやらしい表情に、なっちゃってるの……?))

一番見せたくない姿を、見られたくない相手に見られてしまっている、屈辱感。
相手の見てはいけない姿を、目の当たりにしてしまっている、背徳感。
それらが心に重くのしかかってくるのを感じながらも、二人は互いから目をそらせず、しばし息を飲んで見つめ合う。

「ま〜た二人でイチャイチャしてる……ずいぶん仲がいいのね♥」
「そ、そんな事、ないっ……!」
「そうよ……私達は、敵同士……馴れ合いなんて」

「くすくす……二人とも強情なのねぇ。似た者同士って所かしら……
だったら、お互い素直になれるように、お姉さんがたぁっぷり可愛がってあげるわ。はい、まずは御開帳〜〜♥♥♥」
(がばっ!!!)
「ひっ!?」「なっ……!!」
「「「「おおおおおおっ……!!」」」」

リザは、戦闘服の胸の下に開いたスリットから。
水鳥は、魔法少女の衣装の胸元のリボンを解かれて……
今はまだ控えめだが、きっと将来おっきく育つであろう、二人の両乳房の頂が、下衆な魔物達の衆目の下に曝け出された。

620名無しさん:2019/10/06(日) 15:11:33 ID:???
「なっ……何をっ……!」
「い、いやぁっ……見ないでぇ……!!」
「あらあら。かわいいピンクの乳首ちゃん、4つともビンビンにシコり勃っちゃってるわね♥
私の乳首開発触手で、ぜぇんぶまとめてイジクリまくってあげるっ♥」
「や……やめっ……」
「ひぁうんっっ……!!」

(……ちゅるるるるうぅっ!!)
「素直になぁれ♥くりくりくりくり♥♥」
「あっ……うっ」「…ひ、あんっ……!!」」

「可愛くなぁれ♥しこしこしこしこ♥♥♥♥」
「だ、だめ……」「そこは……」
「「ああああんっ!!」」

同時にリズミカルに乳首を可愛がられ、二人の甲高い嬌声がシンクロする。
びくんびくんと全身が痙攣し、互いの快感をさらに増幅させていく。

二人は無意識のうちに互いに脚を絡め、強く抱き締め合う。
顔を上げれば、淫らな快楽に蕩け切った相手の顔が、合わせ鏡のようにそこにあった。

「二人とも、だいぶ素直になってきたわね♥今度は二人の乳首を一緒にぐるぐる巻き♥
スピカちゃんと水色ちゃん、乳首同士のディープキスよ♥」

(くにっ………ぐりりりっ)
「やっ……」「「ひんっ!?」」

(つぷっ……くちゅ……ずぷっ!!)
「これ、はぁ……」「「ふああああああぁっ!!!」」

触手によって固くそそり立った乳首同士が縛り付けられ、押され合う。
爆発的な快感が二人の中でスパークし、乳首の硬直がより強固なものになっていく。
それによって、互いに与え合う刺激の強さも増していき……
荒れ狂う快感のスパイラルが、二人の少女を強烈なオーガズムへと一気に引き上げた。

「あらあら、お二人さんは身体の相性も抜群なのね♥…もういっそレズセフレになっちゃえば?」

「な、何を馬鹿な……」「ふ、ふざけないで……」
「「……あああああああんっっ!!」」

(こ、これ、だめぇっ……乳首同士で、押されるの……♡♡♡)
(なんでだか、わかんないけど……きもちよさが、今までの攻撃と全然ちがう……♡♡♡)

「くすくすくす……二人とも、乳首がだぁいぶおバカさんになってきたわね♥
でもでもぉ……周りの汚らしい触手野郎どもが、そろそろ我慢の限界みたい」

「俺達にもヤらせろー!!」「もう辛抱堪らんだでー!!」「そうだそうだー!」「透明年増--!!」

「愛し合う二人の美少女ちゃん達は、ぬちょぬちょ触手とドロドロ白濁液に引き裂かれちゃうのかしら?
いやーん♥ お姉さん続きが気になって、もうどうにかなっちゃいそう♥」
(……今「年増」って言ったやつ、あとで制裁ね…)

果たしてリザと水鳥、そして「年増」って言ったやつの運命やいかに…!

621名無しさん:2019/10/06(日) 20:11:07 ID:???
一方その頃、海上プラント内では……

「んぐううぅぅぅううぅっ!? ごおっ、ぐうっ!! んぶうううぅぅ!!」

攫われたエルマの口の中に、大量のピンク色のスライムが入ってくる。
スライムはなんだか甘酸っぱい味をしており、不快感以上に、謎の多幸感がエルマを襲う。

(なに、これぇ……ネバネバしてて、気持ち悪いのに……おい、し……)

口に入れてはいけないものと頭では理解しながら、いつしかエルマは自分からスライムを飲み込んでいた。

んくっ、んくっ、と音を立てて、粘着性の強いスライムを飲み込んでいくエルマ。頭はフワフワとした多幸感に支配され、徐々に抵抗の意思が弱くなっていき……


「エルマちゃん!」


エルマの手がガシ!と掴まれ、体がぐい、と引っ張られる。

「エルマちゃん!しっかりして!」

突然現れた唯は、エルマを引っ張って、何とかスライムのプールの中から抜け出そうと手でスライムを掻き分ける。

唯の体の至る所にもスライムが張り付いて、ぴっちりスーツの上からその体を蝕んでいるが……

(だい、じょうぶ……あの時のスライムに比べたら、大したことない!)

責められ慣れしているからか、動けなくなるほどではない。懸命に体を動かしているうちに、徐々に光が見えてきた。

「……ぷはぁ!!」

「ぅ……げほっ、げほっ……」

そうこうしているうちに、スライムプールから抜け出せた二人。唯の方は比較的余裕があるが、エルマは荒い息を吐いて、ぶるぶると震えながら体を抱きしめている。

「エルマちゃん、大丈夫……?」

(おかしいな……そりゃちょっとは慣れてるけど、どうして私とエルマちゃんで、こんなにダメージが違うの……?)

「キヒヒヒ!!来やがったなぁ、嬢ちゃん方よぉ!」

「っ、誰!?」

スライムプールの出口で唯たちを待ち構えていた人物……それは、所長の一存でリザに嵌められた手錠を外した、ヴァイスであった。

「あん?そっちの胸の小さい方はやけに元気だな……まぁいい、それはそれでいたぶりがいがあるってもんだしな!」

「させない……なんでか分かんないけど、元気な私が……エルマちゃんを守る!」


★ ★ ★


「ぐっ……はぁ、はぁ……うぉえっぷ……」

「……あ、あの、オトさん、気分でも悪いんですか?さっきから様子が……」

「……2人を置いてきたことを気にしてるです?」

「……そんなんじゃねぇよ……うぉぉおぇええっぷす!!」

唯がエルマを追ってスライムプールに飛び込んだ後、残された3人は爆破予定地点を目指して進んでいたが……
なぜかオトはやたらフラフラしていた。

「……オトさん、体調不良ならここで待機してるです。ここはスライムもいないし、多分安全です」

「え、えっと、なんかどんどん減ってて不安なんですが……そ、それでも、無理はしない方がいいですよ!」

「……あぁ、そうさせてもらうぜ」

近くの壁に背を預けて、ビワケースを抱えたまま座り込むオト。

「……はぁ……まったく、前途多難です……」

「ば、爆破地点はもう少しですし、私たちだけでも頑張りましょう!」

オトに背を向けて去っていくルーアとサクラ。
そんな二人を見ながら、オトは自分の右手を見つめる。


「……結局、使っちまった……呪われた、タチバナの力を……」

タチバナの力……他の誰かが受けたダメージを、自分に肩代わりさせる、自己犠牲魔法。
オトの一族は表向きは音の忍びとして生きながら、その実は要人の身代わりを主とする暗部の一族であった。

「……兄貴も、こんな気持ちだったのかな……可哀想な若白髪の新入りを守るために、この力を使って……結局、ぽっくり逝っちまったらしいが……」

自分の独り言も、ちゃんと聞こえない。また少し耳が悪くなったようだ。

「ったく……これじゃ兄貴を笑えねぇな……いくらテンジョウ様が、もう力を使わなくていいと言ってくれても……アタシらの一族は、根っからの奉仕好きってわけ、か……」

622名無しさん:2019/10/12(土) 13:30:34 ID:Dpptb/lI
「はぁい♡とろとろえっちな女の子出来上がり〜♡さぁ、ここにいるお兄さんたちにエッチなご奉仕の時間よぉ♡ふ・た・り・と・も♡」

「くぅうぅっ……」「んぁ……ぁっ……」

乳房の先端から何度も送り込まれる痺れるような快感に、リザも水鳥もお互いの汗に塗れた体でぐったりしている。
クリオ姉さんの拘束は解かれたが、反撃はおろか身体を動かす力もない暗殺者と魔法少女は、小さな胸を露出したまま泡の中で無防備に漂っている。
最早抵抗する力など2人に残っていないのは誰の目にも明らかであった。

「わたしの快感をこれだけ浴びたら、指一本も動かせないでしょ〜?もうこの2人は全身性感帯♡好きなだけ犯し放題よぉん♡」

「くひひ……生意気スピカもこうなっちまえばただのメスだな。十輝星だからって調子に乗って俺たちに舐めた口きいてた罰だ。ざまあねえぜ。」

「おい、どっちからヤるよ?クソ生意気なスピカか、それとも入るかわかんねえぐらいのロリまんこを犯すかだが……」

「各々好きな方ヤればいいだろ!俺はもう我慢できねえっ!ちゅぱっ!ちゅうううううううっ!」

「んんんんんんんぅっ!」

先走ったウツボ型の海魔がリザの太ももに絡みつき、そのまま吸い付いて舐め上げた。

「あっ、ずりいぞ抜け駆けしやがって!俺だって太ももに絡みつきたかったのに!」

「もう早いもん勝ちだ!殺す前に好きなだけヤっちまえーーー!!」

それを皮切りに、我慢の限界を迎えていた海魔たちは2人の身体に飛びついて犯し始めた。



「んむっ!ぷはっあ、ぁ、ああぁんっ!!」

「まさに夢のようだぜ……!あのスピカにベロチューしながらやわらかおっぱい触り放題なんてよ……!」

「どけどけ!次は俺だ!ズボンを突き破るほどの大きなイチモツをフェラさせてやる!」

「何言ってやがる!お前の汚いモノが入る前にもっとこの可愛いお口を楽しませろや!」

「肌が白くてすべすべで柔らかくてもっちもち……これが女の身体……!たまんねぇ!!も、もう服なんか全部剥がしちまおうぜっ!」

「はしゃぐな童貞。同士教授が作ったこの暗殺服も十分エロいし……ゆったりたっぷりのーんびり楽しんでいこうぜ……!」

やはりというべきか、ほとんどの海魔兵たちはリザの身体を愉しみはじめた。
前々から犯したかった身近な美少女ということや、性技を極めているという噂があるアウィナイトの体ということもある。(リザは極めていないが)
水鳥に集まっているのは極度のロリコン海魔たち5人で、リザは小さな体を数十人の海魔たちに犯されていた。

(だ、だめ……!こいつらに何かされるたびに頭の中が真っ白になって変な声が出て……思考が……できないっ……!)

いままでどんな逆境でも天才的な戦闘センスで切り開いてきたリザだが、その思考すらも封じられつつある。
なぜかシフトが封じられている今、ここで諦めるわけにはいかないのに、自分の身体が望まない快感に打ち震えて思考を乱される。
髪、口、胸、腕、足から絶え間なく送られる感覚は、まだ性行の経験もない15歳の少女にはあまりにも刺激が強すぎるのであった。



「おいみんな、これ飲めこれ。教授が作った体内精子生産薬だ。しばらく射精(だ)し放題になる魔法の薬だぜ!」

「いいねぇ……こんなことしてから生かして返すわけにはいかねえし、この泡の中を俺たちの精子まみれにして、最後は精子の海に溺死する様を見せてもらおうか……!クククク……!」

「ぐ……や……めろっ……!」

訪れるかもしれない恐ろしい未来に絶望するリザ。果たして彼女の結末は……

623名無しさん:2019/10/13(日) 10:09:17 ID:???
「グヘヘヘ……さっきはお預け喰らったからなぁ。もう我慢できねえぜええ!!」
「うう。スライムが身体にまとわりついてきもちわるい……でも、この位だったら何とか戦える…!」

ナイフを手にし、唯に襲い掛かるヴァイス。彼はかつて、リョナラー世界においても特に恐れられた大量殺人鬼だった。そして今も。
湾曲した刀身、ノコギリのように波打つ刃、先端に、矢尻のような鋭い反し…その残虐さを具現化したかのような禍々しい刃が、ギラリと凶悪な輝きを放つ。
だがナイフを持った相手の対処法なら、合気道の使い手である唯の得意分野でもある。

「流れに逆らわず、受け流す……はっ!!」
「ぐおっ!?」
(…ズダンッ!!)
斬撃をかわすと同時に手首を掴んで、背負い投げ!
相手の力を利用した合気道の投げで、ヴァイスの巨体が数メートル後方の床まで投げ飛ばされた。

だが、投げる瞬間……唯の脇腹に、チクリと鋭い痛みが走る。
(?……今、のは………!?)

「ぎ、ヒヒヒヒ……痛ってぇ……あのスピカの小娘と言い、最近のメスガキってのは侮れねえなあ。
……だが。」

……投げ飛ばされたヴァイスの手に、ナイフは無かった。

「……おんやぁ?俺のナイフは……っと。『そんな所』に置いてきちまったか。ヒッヒッヒ」
「うそ……いつ…の、間に……!?」

唯の脇腹に、赤黒い染みが出来ていて、その中心に、ナイフの刃が深々と突き刺さっていた。
唯はヴァイスの殺気を察知し、その攻撃をかわしたつもりだったが……
息をするようにさりげなく、自慰をするように日常的に、ヴァイスは唯に死の刃を突き立てていたのだ。

「そのナイフは、俺の大事なコレクションの一つだ……返してもらうぜぇ」
「えっ………い、いやっ、ちょっとま……っぐ、うあぁっ…!!」
ナイフの柄には極細のワイヤーが取り付けられており、ヴァイスの人差し指のリングと繋がっている。
そして、スイッチ一つで、ワイヤーを巻き取ってナイフを回収する事ができる。

「俺様のナイフコレクションその1『ザ・フィッシャーマン』……
内臓釣りの殺人カランビット、じっくり味わいな。ヒヒヒヒッ!!」

(グチュッ……ブシュ じゅぶっ!!)
「ひあっ!!……っんぅ……あ、ひっ……引っ張っちゃ、だめっ……あ、ぐぁああああぁあっ!!」
複雑怪奇に湾曲した刃は、無理やり引き抜けば大量出血は必至。
だが、抜かれまいと抵抗すればする程、内臓がズタズタに切り裂かれていく。

「そーらそーら。左……右……踊れ踊れ……疲れ切って、動けなくなった所を釣り上げてやるよ…ヒヒヒヒヒヒヒ!!」
(ぶちゅっ………ザシュッ!!……ブシュッ!!)
「だ、めっ……っあうぅ!!……もう、引っ張らな……っくああああああああぁぁあんっ!!」
ヴァイスが糸を左右に振ると、唯の身体もそれに合わせて左右にふらふらと揺れ動く。
何度も血だまりに足を取られ、壊れかけた人形が必死に踊り続けるように……

「ずいぶんしぶといメスガキだなぁ。そいつを喰らっちまったら、フツーは泣き叫んで言葉なんて話せやしねえのによぉ。
……だが、ちょうどいい実験台だ。俺様のナイフコレクション、端から端まで順番に試してやるぜ………ヒッヒッヒッヒ!」

624名無しさん:2019/10/13(日) 14:54:57 ID:???
「あいつらわかってねえな……15歳とかもう女の体になっちまってんだよ。この10歳の二次性徴真っ只中の体こそ至高。15歳なんかもうおばさんなんだよ。」

「こっちは人数も少ないしなぁ。魔法少女こそトーメント兵士たちの性奴隷よ。これからみっちり大人の遊びを教えてやるからなぁ、水鳥ちゃん……」

「う、ぁっ……」

拘束から解放されたのもつかの間、すぐに水鳥は5人の海魔兵たちの下卑た視線に舐めまわされた。

「さてさて、あっちは好きなようにヤってるようだがこっちはどうする?」

「クククク……エロはさっきのスピカで十分だ。乳首合わせのときの顔と声がクッソエロくて触ってねえのに出しちまったぜ。」

「15歳はおばさんとか言ってたくせに、たっぷり楽しんでるじゃねえか!」

「ククク……ならこっちは、おもいっきりリョナってやる、かっ!」

「おぐうううっ!!」

突然大きな魚の姿をした海魔兵は水鳥の腹に自身の尾びれを叩きつける。
その勢いで水鳥の身体は一回転し、たまらず口から泡を吹き出した。

「まだだ!」

「ぐ……きゃんんっ!?」

そのまますぐに尾びれを水鳥の体に巻きつけると、ギチギチと締め上げる。叩きつけからの締め上げコンボだ。

「いやっ!あ゛ぐうううううう……っ!」

「おらどうした?いつもみたいにキラキラな服着てしょーもない魔法唱えてみろやメスガキ!」

「ノコノコこんなところまで来やがってこの性奴隷が!!トーメントに逆らうってことが何を意味するか思い知りやがれ!」

「あがっ!痛いいいぃ!!!ぐぅ!!っああぁああぁんっ!!!」

縛られている水鳥の上半身にヒレで殴打しているのは、魚人型の海魔兵。人間時と姿はあまり変わらないが、尾びれやヒレが発達したオーソドックスな海魔兵だ。
水中でも自由自在に動き回ることができる海魔兵の往復ヒレビンタに、水鳥は絶叫で応えた。

「10歳とは思えない声だな。スピカに負けず劣らずいい被弾声だぜ。」

「やっぱ喘ぎ声よりもリョナ声の方が聴いてて気持ちいいぜ。あとで聴き直すのが楽しみだなあ!」

「聴き直すまでもなく、こいつは今日から俺たちの奴隷だ!毎日こうして……リョナり放題だぜ!」

「げぼっ!ぐえええっ!い゛ん゛っ!?は、はっ、ふあああああああああああっっ!!!!」

デンキウナギの海魔兵が水鳥のショーツに尻尾をねじ込み、そのまま秘裂を探り当て電撃を放出した。
捩れるような快感と耐え難い苦痛に水鳥は目を見開いて絶叫する。
それと同時に露出している小さな乳首がキュッと硬くなるのを、海魔兵は見逃さなかった。

「なんだぁ?こっちも虐めて欲しいってか?おいウナギ!魔法少女がこっちにも欲しいってよ!」

「ったく、俺は電マじゃねえんだぞっ!細かい調整できねえのは勘弁しろよ……なっ!」

「ひうっ!?そ、そこだめぇ!!そこはいやあ!そこはいやだああぁっ!」

「おっほー!だめって言われると犯りたくなっちゃう。いやって言われると殺りたくなっちゃう。これはどっちも味わいてえなぁ……」

「来るぞ来るぞお!デンキウナギの快楽電撃!痺れと痛みで叫んでたはずなのに終わってみればおまんこぐっしょりになってるという、どエロい奥義だあああ!」

「技の解説サンクス!さて……いい音奏でろや魔法少女おらあああっ!!

「やだやだやだやだやだああぁっ!!ひぐっ!あぅううんんんんっぐああああああああぁっっっ!!」

送り込まれた電撃(なぜかピンク色)に、水鳥は背中を大きくのけぞらせて甲高く絶叫する。
その勢いで小さな胸がぷるんっと揺れ、乳首はさらに硬度を増していった。

625名無しさん:2019/10/20(日) 12:50:19 ID:TKl/ZLT2
「ゔぁあああああああ!!!!いやああぁあああああああ!!!」

急所に海魔兵の電撃を喰らい、激しい悲鳴をあげる水鳥。骨が軋むのではないかと思うほど背を反らし、必死に痛みから逃れようとするも、抵抗は無意味であった。
それと同時に、何故かどんどん水鳥の体は昂っていった。

「おおい、ロリコン共!!せっかくだから、リザとそのガキを四つん這いにさせて、向かい合わせにした上で犯そうぜ!」

「ケケケ、それも悪くないが、その前に……もっともっと、電流で頭ピンク色にしてやるぜ!!」

ロリコン海魔兵とノーマル海魔兵は、再びリザと水鳥を再び向かい合わせの状態にして拘束する。
最早両名とも、先ほどのように抵抗する気力はない。

「ほーら♡2人とも、チューしちゃいなさい♡チュー♡」

クリオ姉さんが2人の頭を掴んで、無理矢理口と口をくっ付けさせる。

「「んんぅ……!」」

唇と唇が当たるだけの、子供の戯れのようなキスをさせられるリザと水鳥。
しかし、電流責めによって頭が真っ白になっている2人にとっては、それだけでもかなりの刺激が走る。

(ふわぁ、なに、これぇ……)
(こんなの、ダメなの、に……)

「散々嬲られた後にする優しい口付けはまた別格でしょう♡ほーら、素直になっちゃいなさいな、2人とも♡」

(甘、い……)
(さっきの、魔物たちのと、全然違う……)

甘く柔らかな唇の感触に、溺れかける2人。だが残った理性が、必死に正気を繋ぎ止め、それ以上の行為に及ばない。
しかし……

「クリオ姐さん、離れときな!感電するぜ!」
「クックック、脳に電気流して、無理矢理ベロチューさせてやるぜ!」


 パチ……バチバチバチバチッ――!!

「あっおおぁあぁぁっ――!?」
「いっあっおっおおぉぉっ!!」

頭に……脳に電流を流され、普段絶対出さないような間の抜けた呻き声を上げてしまう2人。
それと同時に、電気で無理矢理神経と筋組織を操られたことで……リザと水鳥の舌が、勝手に伸びていく。

「はんぅっんっ、れろれおぉ、はちゅぷ……!や、ぁああん!」
「はみゅ、んちゅっ……!んふゅ〜〜〜〜〜っっ!!??」

電流を流されながら無理矢理させられるディープキス。嫌なのに、気持ちいい。その倒錯した感情が、2人の少女の脳内をぐちゃぐちゃに溶かしていく。

「っしゃあ!後は俺がバックからリザを犯せば、夢のシチュエーションが完成する!」
「あっ、ずりぃぞ!一番槍は俺だ!」
「ロリの方は人数少ないし、ローテで輪姦すぞ」
「お、おでは、ベロチューしてる所だけ見れればいいかな……フヒ」

魔物たちがいよいよ本番行為に及ぼうとしている会話すら耳に入らず、リザと水鳥は脳に電流を流されながら、舌と舌を激しく絡ませあう。


「んんっ……は、ちゅぷぅっ……んっ、れえぇっ……ふうぅっ♡ ちゅっ、ちゅくるっ……!」
「あ、え、んぶっ!! んぐっ、や、っ♡!! ふぅっ……!!」

リザの方は辛うじて正気を保っているが、水鳥はいつしか、無理矢理させられているのか、自分から舌を絡ませているのかも分からなくなっていた。
頭がぼんやりとし、目の前にあるリザの整った顔すら霞んでいく中……水鳥の脳内に、見慣れない景色が映る。

(ぅ、あ……?これ、は……?)

いよいよ走馬灯でも見えたのかと思ったが……それにしてはおかしい。走馬灯なら知っている光景が見えるはずだ。だけどこれは……

(こ、れは……リザさんの、記憶……? ドロシーさんが、いる……)

ライラの時に出会ったドロシーの姿。だが知っている姿とは少し違う。それ以外にも、アウィナイトと思しき金髪碧眼の人tの姿も浮かんでは消えていく。
そう、2人が密着した状態で脳に電流を流されている影響で、リザの脳に記憶された情報が、水鳥の中に入り込んできたのだ。

(リザさんの、過去……)

626名無しさん:2019/10/20(日) 14:48:36 ID:???
(そう、か……こんなに、大変な、過去が……)

幼い頃の平和な時間はほんの僅か。
盗賊に家族を皆殺しにされ、たった一人で逃げ惑いながら生きるリザ。
ようやくできた仲間と共に、一縷の望みに縋ってトーメント王下十輝星となるリザ。
闘いの日々。死んでしまった親友たち。生きていた姉から否定された自分……

リザの壮絶な日々が、水鳥の頭に浮かんでは消えていく。

(……だからこの人は、こんなに強くて、残酷になれるんだ……でも……こんなの……)

ギュ、と拳を握る水鳥。相変わらず舌は電気で無理矢理動かされているが、意識は覚醒した。
あとは……情けないが、偉人の力に頼るしかない。

(……エリーゼ、さん……)

(な、なんか少し目を離した間に大変なことになってる……水鳥!貴女にまた力を貸すわ!あと流石に十輝星の力を抑えるのは止めるわね!力を与えすぎると貴女の人格を図らずも乗っ取ってしまうかもしれないし、とりあえず何回かシフトできるくらいの力を……)

(大丈夫、です……貴女の力も……カナンさんの力だって……制御して、みせます……)

(水鳥?)

(お願いします……今は……力が、必要なんです……リザさんを……貴女の同族を、止めるためにも……救うためにも……)

(水鳥……最初期は悪堕ち予定的な感じの設定とかあった貴女が……そうやって力を求めるのは、不安だわ……
実は悪堕ちするのは鏡花の方だった的な感じの話があったし、貴女が力に溺れるとは思わないけれど……過去の英雄の力は、時に危険性すらある……
ワルトゥの糞野郎なんか今制御不能バーサーカー状態だし、いかに私が善の魔法少女とはいえ、力を与えすぎるのは……)

(大丈夫……私には、仲間がいるから……お姉ちゃんや、フウコちゃんにカリンちゃん、ルーフェちゃんがいるから……私は、リザさんみたいには、ならない……道を間違えたりしない……)

(水鳥……)

(そこに、いるんですよね?カナンさんも……お願いします……私に、力を……)

(エリーゼ……水鳥なら大丈夫……だから、貴女の力……思いっきり分けてあげなさい!)

直後、水鳥の体を眩い光が包み込み……いつの間にか、リザや海魔兵から離れていた。

「……はぁ、はぁ……!この、力で……!」

水鳥の衣装は光と共に変化していた。水色のツインテールは、金色に……黒い瞳は、青色に。そう、まるで……アウィナイトのような姿へと。

「な、なんだぁ!?スーパーサ○ヤ人か!?」
「強化形態なんて、リョナのスパイス同然!もう一度捕まえて……」

「……ファインブリンガー……シフト!!!」

「「ぎゃああああああ!!!」」

シフトで縦横無尽に飛び回りながら、弓で海魔兵たちを次々と仕留めていく水鳥。
完全に油断していた兵士たちは、一瞬で壊滅させられる。

627名無しさん:2019/10/20(日) 14:50:28 ID:???
「……市松、水鳥……その、姿は……」

「スピカ……いえ、リザさん……貴女が貴女なりに、守りたいものの為に戦っているのは、分かっているつもりです……」

水色から、黄金……姉の魔法少女姿と同じ色になった水鳥。だが、その金色は姉ではなく……アウィナイトの力であることは、先ほどのシフトを見れば明白だ。

ゆっくりと弓を降ろした水鳥は、未だに顔を赤らめて荒い息を吐いているリザを悠然と見下ろす。

「私は、英雄になる……たとえお姉ちゃんみたいな運命の戦士じゃなくても、この力でトーメント王を倒して、世界を平和にする!そしてアウィナイトを……ううん、この世界の不幸な人、全てを救う!」

「……そんなこと、できるわけが……」

「リザさん……貴女がその手を血で汚さなければできなかったことを、私はやり遂げる……貴女の決意も、努力も、苦痛も……全部、私が否定する!」

美しい黄金の光を放ちながら、はっきりと宣言する水鳥。

「私は、異世界人であると同時に……伝説のアウィナイトの力を受け継ぐ魔法少女!」

仲間と共に正義のために戦い、伝説のアウィナイトの力までも貸してもらう水鳥……
その気高い姿に……リザは激しく劣等感を刺激された。

自分には最早仲間すらいない。アウィナイトを守るという使命も、家族と暮らしたいという願いも姉によって否定された。

なのに水鳥は、あんなにも恵まれている。仲間も家族もいて……伝説のアウィナイトが、同族である自分なんかには目もくれず、水鳥に力を分け与えている。

過去の英雄にすら、自分の行いを否定されたのだ。

「貴女の全てを否定する……そうでもしないと貴女は、自分の間違いを認められない……リザさんは、弱い人ですから」

「分かったような口を……!水鳥……貴女のような恵まれた生を歩んできた人間に……私の何が分かる!」

「貴女が間違っているということは分かります……もうすぐ起きる戦争で、その生き方の答えが分かる」

水鳥の体に漲る力と全能感。今なら何だってできる気がした。王を倒すことだって、きっとできる。

「今はもう、互いに力も残っていないし、戦う気持ちにもならないけれど……仲間がもうすぐ基地を破壊してくれる……そうしたら、いよいよ戦争が本格化します」

バサァ!と翼を広げる水鳥。まるで天使のような、神々しい姿。そんな水鳥の姿を見れば見るほど……血にまみれ、無様にもがいている自分が……惨めになる。

「……また会いましょう、リザさん」

そう言い残した水鳥は、シフトで海の中から消えて行った。
一人残されたリザも、いつの間にかシフトが使えるようになっていたが……

ただただ自分が卑しく思えて、しばらくの間、水中で呆然としていた。

628名無しさん:2019/10/20(日) 16:52:20 ID:???
「がはっ……!…う、あっ……っぎ、あああああぁぁっ!!」
「そぉらそら……もっと頑張って耐えねえと、内臓が飛び出しちまうぜぇ?……クックック……」

(ぐちゅっ……ずりゅっ!!  ズブッ……)
ヴァイスの持つ小型ウィンチによって、ワイヤーが巻き上げられていく。
そのワイヤーの先には、唯の脇腹に深々と突き刺さった、鉤爪状の大型ナイフの刃があった。
(あの、トゲトゲだらけのナイフの刃でっ……、お腹の中、掻きまわされてるぅっ……このままじゃ、本当に……)

このまま力任せに刃が引き抜いたら、唯の内臓の大半が引きずり出される事になり……間違いなく致命傷。
血だまりの中、唯は少し抜けかかった刃を押さえながら耐える。
内臓が激しく切り裂かれ、気絶しそうな程の激痛に加え、喉の奥から大量の血がこみ上げた。

(このままやられちゃう位なら、いっそ……前に出る…!)
「神、速……っ……掌底破ぁっ!」
「なっ!?まだ動けr……おごっ!!」
このまま耐えていても勝機はない。唯は意を決して反撃に転じた。
ワイヤーの巻き上げを上回る速度で間合いを詰め、ヴァイスの鳩尾に掌底を叩き込む。

(どぼっ……)
「げ、は……まだ、まだあっっ!!四天連脚!!」
脇腹と喉奥から鮮血が溢れ出すのも構わず、目にも止まらない連続蹴りを繰り出す。

(ドカッ!!ドスッ!!バキッ!!)
「ぐおっ! ごあっ! ぬううっ!!」

(よしっ……三発目もキレイに入った…これで止めっ!)
「やああっ!!」
「……クックック。正直驚いたぜ。
あれだけ腹の中グチャグチャにしてやったのに、まだこれだけ抵抗できるなんてなぁ。
……だが」

止めの一撃を繰り出そうとする唯。
その刹那。背筋に氷柱を突きこまれたような、凄まじい悪寒に襲われる。

(何、今の感じ……ううん、迷ってちゃだめ!……私は、隊長として、みんなを……)

(ザクリ。)
「えっ………」

「……そんな美味そうな脚が目の前にあったんじゃ、手ぇ出すなって方が無理だぜェ……クックック」

気が付いたら……唯の右脚の太股には、フォークが突き立てられていた。

「……っうああああああああぁぁっっ!!熱っ……あ、づっあああああああ!!!」
フォークが凄まじい高熱を発し、唯の太股から肉の焦げる香りが漂い始める。

「クックック……『ハンニバル』で刺した肉は、最高に美味いステーキになる。
そのヘンテコなスーツをひん剥いて、じっくり味わわせてもらうぜェ」


「い、ぎぃっ……ま、まだ、終わって、な、っううううっ……!!」
生きながらにして肉を焼かれる、正に地獄の苦しみ。
唯自身は気付いていないが、これでもまだ音の能力によって苦痛は半減されていた。
それでも、最早戦える状態ではない事は誰の目にも明らかだった。

(攻撃が通じてないわけじゃない……後一撃、入れられれば……これで倒れてっ……!!)
「柔来拳、風の型……疾風、の……」

(……ドスッ!!)
「……あー、遅ぇ遅ぇ…アクビが出るぜ。お嬢ちゃん」
(あ、れ……肩が上がらない……どう、して……なら、次は左……)

錆びついた鉈が、唯の肩に食い込む。掌に込められた魔力が霧散し、バランスを崩した唯はふらふらと身体を泳がせて……
無防備な背中を、ヴァイスの……殺人鬼の前に、晒してしまう。

「あーあ。その鉈けっこう気に入ってたんだが、10年手入れしてなかったから錆びちまったなぁ……」
(私……隊長…………エルマちゃんを……みんなを、守……)

「ま、いいか。俺のお気に入りパート4、『悪夢の爪』……こいつで心臓をエグり取ってやるぜ」
ぎらぎらと黒光りする巨大な死の爪が、唯の背後から忍び寄ろうとしていた。

629名無しさん:2019/10/20(日) 18:02:21 ID:???
「うっぐ!!……っご、あ……っ……!!……腹がっ…………っぐあああああぁっ!!」
同じ頃。唯のダメージを特殊能力で半分引き受けていたオトは、
全身をナイフで斬り刻まれる感覚に苛まれ、一人苦痛に悶えていた。

「っぐ……ぁ……ヤバ、すぎるだろこれ……一体、何がどうなってんだ……
……と、にかく……サクラたちに連絡……っぐうう…!!」

全身から脂汗が噴き出す。だが、オトが術を解除したり、あるいは気を失ってしまったら、
今の倍の苦痛を唯が受ける事になる。そうなれば……間違いなく、唯は死ぬことになる。

「……おやー?海警備の連中がスピカや魔法少女とエロエロな事してるんで、羨ましくて廊下でムラムラしてたら……」
「親方!廊下に女の子が!上玉!いい身体!更に原因不明の瀕死状態と来たもんだ!」

「くっそ……こんな、時にっ……!!」
……更に間の悪い事に、オトは通りすがりの魔物兵に見つかってしまう。
やむなくケースからビワを取り出し、戦闘態勢を取った。

「ぐへへへッ!! 血ー吸ってやるぜー!」
コウモリ型獣人へと姿を変えた魔物兵を……

「うるっせぇええええ!アタシの歌を聴けぇぇ!!」
(ドカガシャゴオオオオオオオオン!!)
「グワアアアアアアッ!!」

…ビワのフルスイングで叩き落した。

「おいなんだ今の音! 親方!あんなところに女の子が!」
「はぁっ……はぁっ……さっきからなんだよ親方親方って…! あんな大勢相手にしてられっか。さっさと逃げ……」

(ザクリ。)
「っぎあっ!?」
逃げようとしたオトの右脚に、激痛が走った。

「っがああああああああぁぅ!? 熱ぃやああああああ熱熱熱!!」
そして……右脚全体が焼かれるような、凄まじい熱。

「なあ、コイツ侵入者じゃね?」「そういやそんな話あったな。忘れてたぜ」
「乱れ和服……14歳のCカップか……全くけしからんぜ」
「ウヒヒヒヒ……情報によれば妹キャラらしいじゃねえか。さっそくみんなでお兄ちゃんプレイだ!」
どうやら敵も自分たちの侵入に気付いていたらしい……薄々そんな気はしていたが。

「こうなりゃ……まとめて片付けてやる……『焔歌』!!」
(……ゴオオオオオッ!!)
「「「ぐあああああああっ!!」」」

オトが魔力を込めてビワをかき鳴らすと、大音量の歌と共に魔力の炎が嵐のごとく吹き荒れる。
近くに居た魔物達がまとめて炎の餌食となり、オトを取り囲んでいた魔物達は、警戒して少しだけ包囲を緩めた。

「はーっ……はーっ……ざまみろ……丸焼きにされたくなけりゃ、大人しく帰ってママのおっぱいでもしゃぶってr……」

(……ドスッ!!)
「ぐ……ぁ……!?」
(ガシャァアアアアアンッ……!!)

だが……その時。
ナタで鎖骨ごと肩を割られるような、更なる激痛がオトを襲う。
持っていたビワが地面に落ちて床に転がり、弦が数本切れて断末魔のような音を立てた。

「あっぐ……腕がっ……肩……っ……ああああああああ!!」

「クキキキ……何だか知らねえが、随分苦しそうじゃねえか」
「ママのおっぱいしゃぶってろだって?わかってねえな……お前がママになるんだよ!!」
「ママ、お腹がいたいんでちゅかぁ〜?ボクちんが、腹パンしてあげまちょうかぁ?」
「ぐひひひ……俺はベアハッグが良いな。あのガキ巨乳にうずもれてぇ……」
「俺は鎖骨をがぶがぶしたい」

「う、ぐ……来る、な……くそ野郎、どもがっ……う、っ……」

戦う手段を失ったオトに、一度は警戒した魔物達が、再びじわじわと包囲を狭めていく……

630名無しさん:2019/10/20(日) 19:28:31 ID:???
さらにさらに同じ頃。

「あの音……オトさんの歌です。敵と戦ってる……!?」
予定ポイントに爆弾を仕掛けていたサクラとルーアは、後方からかすかに聞こえるオトの歌に気付いた。

「おそらく警備兵と交戦しているのでしょう……好都合です。今のうちに設置を済ませるです……」

「で、でも……いくらオトさんでも、一人だけじゃ……それに、さっき随分苦しそうにしてたし……!」

「私達は、私達のやるべきことをやる、です。……オトさんが……敵を引き付けている間に」

「で、でも……」

「私達は……チーム、です……任務を達成するため、各人それそれが、必要な役割をこなすです
……たとえどんな犠牲を払おうとも、です」
「…………。」

……サクラは、反論できなかった。
ルーアは自分よりずっと年下だが、その判断は極めて的確。
今回も彼女の言い分が正しい事は、サクラ自身よくわかっていた。

それに、これ以上食い下がったとしても、ルーアを悪者にしてしまうだけだ。
ルーアだって辛くないはずはなく、断腸の思いで決断を下しているに違いないのに……

「………これ以上は時間の無駄です。爆破は設置から3分後……
時間を長くすれば、敵に見つかるリスクが上昇する、です。
3分は、脱出ポイントに移動するためのぎりぎりの時間…です」

「……うん………そう、だよね……」
黙々と作業を進めるルーア。悲し気目を伏せるサクラ。両者の間に、重苦しい沈黙が流れる……

「設置作業は……あと15分ほどかかります、です…………あとは私がやっておくです…」
淡々と作業しながら、ルーアはサクラにそう言った。

「!………わかった……わがまま言ってごめん。ここはお願い」

<設定完了! OKを押したら、爆破カウントダウンを開始します 03:00>

起爆装置の画面にはそう表示されていたが……サクラは見ないふりをして、部屋を出て行った。


「……変身っ!!」
光に包まれて、サクラの姿が変わっていく。
輝くようなライトブラウンの髪に、花をあしらった髪飾り。
淡い緑と桜色を基調としたワンピース、春の蝶を思わせるリボンの装飾……
花属性の魔法使い、『魔法少女スプリングメロディ』へと。

「私は……私の、やるべき事をやる。
ヒカリちゃん、鏡花ちゃん……私にだってきっと、できるよね」

631名無しさん:2019/10/22(火) 01:41:26 ID:igdIpa3o
「悪魔の爪……血河爪葬!」

「ぐ……あああああああああああああああああッ!!」

「ゆ……唯ちゃああああああん!!」

無防備な唯の背中に突き刺さるヴァイスの一閃。ざっくりと切り裂かれた場所からは勢いよく血が噴き出す。
唯の体はゆっくりと横に傾き、重力に従って力なく床に倒れた。

「俺を相手にしてよく頑張ったほうだぜ?お嬢ちゃん。まあちょっとばかし傷つけすぎちまったなぁ。大人しくしてから犯してやろうと思ったんだが……まぁそれは後ろの奴でいいか。ククク……」

ニヤつきながら動かなくなった唯を踏みつけ、ヴァイスはスライムの影響で動けないエルマへと歩いていく。
まだ体は動かせないが、戦闘の間にエルマの意識は回復していた。

「そ……そんな……嫌だよ、嫌だよぉっ……!唯ちゃん、あたしを見捨てないでここに来てくれたんでしょ?あたしのせいで……こんな……!あぅ!」

「ククククク!!!」

動くことができないエルマの腹を足で踏みつけるヴァイス。抵抗もできないエルマはされるがまま仰向けになってヴァイスを睨みつけた。

「ゆ……許さない……!よくも唯ちゃんをッ!お前は絶対に許さない!」

「ハッ!無抵抗のメスガキが何言ってやがる!お前らみたいな戦える女っていうのはな、俺みたいな強い男に屈服して股を開くって決まってんだよ!」

「うぅぐっ!」

腹を踏まれる足に体重がかけられたようで、エルマは苦しそうに呻いた。

「まぁ中にはスピカみたいな規格外もいるが……特に能力もねえお前らみたいなメスはただの性処理玩具だ。黙ってあんあん鳴いてればいいんだ、よ!」

「うぐっはっ!!」

ヴァイスの容赦ない蹴り上げで宙を舞うエルマの体。そのまま器用に彼女の胸を掴むと、ヴァイスは自分の方にぐいと引き寄せた。

「思ったとおり、生意気な小娘のくせになかなかいい胸(モノ)もってんじゃねえか……俺の10年ぶりの相手にしてやるよ。嬉しがれや。」

「だ、誰が嬉しくなんか……!あたしだってそう簡単には、あみゅぅ!?」

諦めるまいと手を動かそうとしたエルマの顔を、ヴァイスは舌でべろりと舐め上げる。
鼻の中に舌が入るのではないかというほどの無遠慮な行為に驚いた途端、エルマの体は引き倒されてマウントポジションを取られていた。

「んんぅっ!いや!離してよ!嫌だああぁ!」

「その顔と体だ……お前もまさか処女じゃねえだろ?変な抵抗はやめて俺と一緒に愉しもうや……」

「やだやだやだそういうのいやだぁ!!むりむり気持ち悪いむりぃ!!いやああああああああ!!」

632名無しさん:2019/10/22(火) 01:51:47 ID:???
「ヴァイス……何してるの。」

「げっ、この声はまさか……!」

涼やかな少女の声だというのに、それを聞いた途端ヴァイスの顔は恐怖に歪んでエルマの体から離れた。
視界が確保できたエルマは声が発せられた方を見る。そこにいたのは、金髪碧眼の小柄な少女だった。

(……え?なんでこんな大人しそうな可愛い女の子に、こいつびびってるんだろ?)



「お前は私の指示があるまでなにもするなと言った……どうして手錠が外れているの。」

「え、え、ええっと……こいつらが潜入してるから止めろって言われたんだよ!まっとうに仕事してただけじゃねえか!」

「……篠原唯……お前がやったの?」

「おう。こいつが潜入してきたやつのリーダーらしいぜ。切り刻んで動けなくしてやった。少しは戦えたが俺の敵じゃなかったな。ククク!」

「うううううぅ……」

「…………」

血まみれで痙攣している唯。馬乗りにされていたライトグリーンの髪の少女。
ここで唯がヴァイスに倒され、スライムに塗れて動けなくなっている少女をヴァイスが犯そうとしていたところか……
そこまで思考が行き着いてからリザは、唯に近づいた。

「……ヴァイス。この場は私が預かる。お前は司令室に戻っておとなしくしてなさい。」

「はぁ?おいおいそりゃねえだろ……せっかく性欲解消できると思ったのにまたお預けかよぉッ!?じゃあテメェとヤらせろやこの糞ガキイイイイイィ!!!」

興を削がれて苛立ったヴァイスは瞬時に距離を詰めリザに接近し、唯の血がべっとり付着した爪を振るう。
だがその攻撃はシフトで簡単に回避され、代わりに悲鳴を上げたのは……

「ぐあああああああああああああああ!」

腕を切られて転がり回るヴァイスだった。

「狂犬……飼い主が誰かまだわかってないようね。これ以上命令に背くなら本当に殺す……」

「ぐ……クソが……!」

(……え?今何が起こったの……?全然見えなかった……)

シフトの力を知らないものから見れば、リザの動きは瞬間移動なのか高速移動なのか判断ができない。
ヴァイスの戦闘能力をもってしても、常人には到底追うことができないのがシフトの力だ。

そして悪態をつくヴァイスだが、リザは自分よりも強いことは先程のやり取りでもうわかっている。
それでも頭に血が上ると反抗してしまうのは、彼が衝動に逆らうことのできない人格破綻者であることに他ならない。
それを見据えて待機命令を下していたのに、手錠を外したのは誰なのか……リザはあとで確かめなければならないだろう。

(それはともかく……篠原唯とその仲間。この二人をどうするか……)

633名無しさん:2019/10/22(火) 14:40:52 ID:???
「篠原唯は……まともに話せる状態じゃなさそうだし、貴女に訊くことにするわ。
どこから侵入したのか、他に仲間は何人いるのか……」

「そ、そんな事、信用できるわけないじゃない………
……くっ………他に仲間なんていないわよ。侵入経路は、使い捨てのハンググライダーで……
とにかく、何でも話すから、先に彼女を治療させなさい!」

(な……何なのコイツ……あの変態殺人鬼の仲間……にしては、容赦なさすぎだし!
それに今の動き……私の強化装甲のカメラアイでも追いきれないなんて、ありえない…!)

見た目は可愛らしい少女でも、ヴァイスより遥かに厄介な敵なのは明らか。
最悪に最悪が重なった状況をどうにか切り抜けようと、エルマは必死に思考を巡らせる。

「仲間想いの部下で、羨ましい限りだけど……嘘は下手みたいね」
(また消えっ……!?)
「ひとまず貴女達を拘束するわ。……何もかも話してもらう。本当の事をね」
「うぐっ!!」
複雑な思いを抱きつつも、リザはエルマの背後にテレポートし……エルマの腕を捩じり上げる。

「お断りよ……この程度の事で口を割ってたら、私……本当にただの役立たずじゃない。
天才が聞いてあきれるっての……『キャストオフ』!!」

「なっ……!?」
(バシュンッ!! …べちゃっ!!)

エルマは身に纏った強化装甲を緊急解除した。……全身にまとわりついたスライムごと。
「くっ…!!……ふざけた、真似をっ……んあうっ!?」
リザに命中したスライムの量はそう多くはない。
だが、ついさっき魔物兵達に責め嬲られたばかりのリザには、単なる目くらまし以上の効果があった。

「私は……足手まといになるために、小隊にいるんじゃない……!
唯っ!!……二度も私を助けてくれた、貴方を……絶対に死なせはしないっ!!」
スーツを解除し、ほぼ丸裸になったエルマは、唯を抱き上げて走り去る。

「ま、待ちなさっ………ひうんっ!!」
(くちゅくちゅくちゅっ……!!)
リザは二人を追いかけようとしたが……出来なかった。
服の中に侵入したスライムに乳首を執拗に舐り上げられ、テレポートの発動を妨げられる。

「んっ……ひ、あう………く、離れろっ……!!」
(篠原、唯……市松水鳥……貴女達は、どうしてっ…)
ぶり返してきた身体の疼きに耐えながら、リザは人知れず涙を流す。

(私にない物を、そんなに持っているの……私は、……私には、もう……)
……その瞳は、深海のように深く暗い、藍色へと染まっていた。

634名無しさん:2019/10/22(火) 17:08:08 ID:???
(そろそろ15分……やっぱり…こうなりましたか、です)
サクラに告げた、起爆開始までの猶予時間が過ぎ去ろうとしていた。

カウントダウン開始のスイッチを押してしまったら、爆破は解除できない。
仮に、押した後に4人がここに戻って来たとしても、時間的に脱出は不可能。
つまりスイッチを押した時点で、4人は死ぬ……ルーアが手に掛けたも同然となる。

(だいたい、みんな勝手な行動が多すぎるです……やってる事がバラバラで、チームとして機能していない。
うちは、任務を果たすために行動しただけ……何も、間違ってない、…です)

こういう状況で、『普通』なら、押せない。
『もう少し待とう』、『もう少しすれば、きっとみんな戻って来る』……
そう自分に言い聞かせ、少しでも時間を引き延ばそうとする方が、きっと『普通』だろう。

……にも関わらず。ルーアの心は、不気味な程に穏やかだった。
ふと脳裏をよぎるのは、ヴェンデッタ小隊の4人の顔。そして殺された父親と母親、そして母親を凌辱した盗賊達……
(きっと……うちに関わった時点で、こうなる運命だった、です……)

ルーアはため息を一つだけ付くと、約束の時間ぴったりに、淡々とスイッチに手を伸ばした。
だが……

「おやおや。こんな所に小さな女の子が……迷子でしょうか?
それにしては……クックック。少々危険なイタズラがお好きなようだ」
「……っ!?……」

ルーアの背後には、いつの間にか、メガネをかけた痩身の男……スライム生産プラントの所長、クェールが立っていた。

(どばぁっ!!…じゅぶぶぶぶ!!)
「しまっ……!!……っ!!」
ヘドロのようなどす黒いスライムが、ルーアの身体に一斉にまとわりついた。
スライムは四本の巨大な手へと変化し、ルーアの両手両足を掴んで大の字に拘束する。

(ギリギリギリッ………ぎちっ……)
「たった一人でお使いですか?感心な事ですねぇ……
ご褒美に、新開発の『万能武装スライム』の餌食にして差し上げましょう」
(迂闊だった、です……時間を引き延ばしたせいで、発見されるリスクが上昇……)

更に、所長クェールが、黒いスライムを自らの右腕にまとわりつかせる。
すると、スライムはみるみる形状を変えていき………

(……ズドンッ!!)
「っがうっ!?」
『大砲』から放たれたエネルギー弾が、ルーアのお腹に直撃した。

「っが、はぅ……あ……」
「うん……なかなかの威力です。その潜水スーツも、随分と頑丈なようですが、この調子なら……」

(……ドゴォッ!!)
「っうあああああぁっ!!」
「……こうして、あと3〜4回ほど負荷を加えれば、耐久限界に達する事でしょう。クックックック」
続いて、鎖鉄球。
……両手両足を拘束されたルーアには、かわす事は不可能だった。
エルマの開発した強化装甲も、打撃の衝撃をある程度抑えてくれているが、完全に無効化することはできない。
所長の言う通り『耐久限界』に達すれば、それさえも出来なくなるだろう……

635名無しさん:2019/10/22(火) 19:28:11 ID:???
「そろそろ、他の侵入者たちも片が付いた頃ですか、ねっ!!」
(ズゴンッ!!)
「ぐぼぁっ……!!」
パイルバンカー……杭打ち機。
鈍重な兵器だが、その凶悪な破壊力は、対人間に使うにはあまりにも残虐。
身動きの取れない少女を『破壊する』には、オーバースペック気味だが…クェールの嗜好には最も適っていた。
万能武装スライムは、このように状況や持ち主の趣向に応じて最適な武器へとその姿を次々変化させる。
トーメントの魔物兵達がこれを使いだしたら、苦戦は免れないだろう。

「どうも反応が薄いですねぇ。最近の子にしては我慢強い。
痛かったら泣いていいんですよ?……その方が、より楽しめる」
「ん、ぐ……はぁっ………はぁっ………だ、れが……」
(ドゴンッ!!)
「あぐっ…ああああああああっ!!」
強化装甲が限界を超え、スーツの所々が破れ始める。
そこから覗くルーアのお腹には、既に青黒い痣が幾つも出来ていた。

「ごぷっ……え、ぶぉ………」
「クックック……おやおや。いけませんね、舌を噛もうなんて。
自殺願望でもあるのですか?…スライムでも詰めておきましょうかねぇ」
「っぐ、ぶっ……!」

「これでよし、と。お次は、狼牙棒なんていかがでしょう……それっ!」
(ドスッ!!)
「っぐもっ!!」
スーツが防御力を失っても、クェールは次々変化するスライムの武装で、執拗にルーアのお腹をいたぶり続ける。
殺すでもなく、尋問するでもなく、恐らくはただ、個人的な楽しみのために。

「ああ………未成熟な少女の肢体が、赤く、青く、黒く染まっていく………堪えられませんねぇ……」
「……………。」
故に、ルーアがどんなに足掻こうと、耐えようと、諦めようとも……苦しみから解放される事は、決してない。

(ゴスッ!!)
「っごはぁっ!!」
(ランディ様、ごめんなさい……うち…任務、果たせそうにない、です……)

(ドカッ!!)
「あ……っが……!!」
(もう……痛みも…………何にも、感じない……何も……)

(ずぶぅっ……!!)
「ぐ、ぼ………」
(………。)

孤独と空虚に包まれながら、ルーアの目が、ゆっくりと、閉じられていく……

「ルーアちゃんを放しなさいっ!!神速掌底破っっ!!」
「……このロリコン外道野郎がぁああ!!アタシの歌を聴けぇええええ!!」
(ドゴッ!!)(ズガラゴシャゴシャグォオオオオオオン!!)
「ぐぶおぅッ!?」

「……ぁ………」

「ちょっと二人とも!!さっきまで死にかけてたのに無茶すんなっての!」
「ルーアちゃんっ!しっかりして、すぐに治療するから!」

消えかけていたルーアの意識を無理矢理引き戻したのは、ようやく到着したヴェンデッタ小隊……
『仲間達』の、けたたましい叫び声だった。

636名無しさん:2019/10/22(火) 22:17:24 ID:???
「み、なさん……ぶじ、だったんで、すか……」

「もうっ!それはこっちのセリフだよ!」

「いやぁ、サクラが助けに来てくれて助かったぜ!ちょっと訳あって調子悪くてな!」

「あの、オトさん……そのことで、ちょっとお話が……」

「今はとにかく、早く脱出しましょう!あの金髪が追って来たら、流石にまずいわ!えーっと、爆破スイッチオン……ついでに外の陽動部隊に合図を……」

慌ただしく動き出す仲間たちを、ルーアはどこか不思議そうに見つめていた。

「どうして、です……?うちは……皆さんを……見捨てようと……」

「おいおい、辛気臭ぇし水臭ぇし青臭ぇこと言うなよ、クサすぎてブルーチーズみたいだぜ?」

「そうですよ、ルーアさんがわざと爆破を遅らせているくれたから、私はオトさんを助けに行けたんですよ?」

「ていうか、捕まったのは私のミスだし……それで見捨てられそうになったとか逆ギレするほど心狭くないわ」

「私たちはもう仲間なんだから……みんなで一緒に、シーヴァリアに帰ろう?」

「…………どうせみんな、そのうち……いえ、今は止めておくです……皆さん……ありがとうございます」

どうせそのうち、戦いの中でみんな消えていく……そう思って気持ちを許さないようにして、心を守っていたルーア。
だが、今だけは……慣れていない感謝の言葉を、隊の仲間たちに向けた。



「……く……」

リザは基地の爆発からテレポートで抜け出して、地に膝をついた。
失敗だ。食料プラントを守りきれなかった。兵士たちに与える食料が確保できないとなれば、悠長な戦いはできない。
戦いはより激化し、戦争はより過酷なものになるだろう。

……心のどこかで、リザが望んでいる通りに。

「……水鳥……私を否定すると言ったわね……なら私は、貴女たちを殺して……世界を王様に支配してもらって……私が正しいことを、証明する」

瞳に暗い色を宿したリザは、未だに燃え盛る基地から背を向けて……イータ・ブリックスへと帰還して行った。

「そのためなら……どれだけ王様に利用されても……どれだけいたぶられても……構わない」

637名無しさん:2019/10/23(水) 00:22:38 ID:???
「作戦成功だね、水鳥ちゃん!カリンちゃんもルーフェちゃんも、命に別状はなくてよかったね!」

「う、うん……」

(やっぱり……スピカさんは手加減を……)

帰還したルミナスにて、作戦の成功を喜ぶフウコ。だが水鳥は複雑な心境だった。
ルーフェの方はその出血量から助からないと最初思ったが、やはり暗殺者は人体のどこにナイフを刺せばいいのか、よくわかっているらしい。

(わたしの仲間だから殺さないでくれた……のかな。それなら私は……結構ひどいことをしてしまったかもしれないなぁ。まさか私がリザさんとあんなことをさせられるとは思ってなかったけど……)

「あの王下十輝星……スピカのリザだっけ。ルーフェちゃんたちを助ける選択肢を与えてくれたから、他の十輝星とは違うような気がしたけど……やっぱり敵であることに変わりはないよね。」

「……うん。ヒカリちゃんも言ってた。スピカは一番話がわかるし優しくていい人だけど、王様への忠誠心は十輝星の中でも1番かもしれないって……」

(……そう、そうだよ。リザさんは間違っている。記憶共有で見えちゃった過去の境遇は確かに同情できるところもあるけど、あんな王様に従い続けるなんて……)

リザが頑なに王に従う理由も、水鳥はわかってしまった。
本質は家族愛の強い、心優しい少女なのだとわかってしまった。
だからこそ、受け入れたくない現実から目を背け続けている、弱い存在なのだとわかった。

(……リザさん……私は……あなたを救ってあげたい。ライラの森でドロシーさんのために戦って涙を流した貴女は……私なんかよりもすごく優しい人だから……)



「それにしても水鳥ちゃん、一人でよくあのスピカを足止めできたね!どうやって戦ったの?」

「えぇ!?えと、えぇとその……!う、うまく魔法で牽制しつつ、時間稼ぎをしただけだよっ……!べ、別に何も特別なことは……」

「そうなの?……あれ?なんで顔が赤くなってるの水鳥ちゃん?」

「えぇえ!?あ、赤くなってなんかななな、ないよ?きっ、気のせいだよ、フウコちゃんっ……!あは、あははは……」

「……?」

あの海の中で起こったことは衝撃的すぎて、誰にも話すことはないだろう。
水中だというのに妙に生々しい肌の感触。直に感じた吐息の暖かさと、触れ合う唇の柔らかい感覚。
そして、聞いただけで耳がとろけてしまいそうな喘ぎ声と赤く火照った表情……
彼女の顔を思い出しただけでも今の水鳥は、お腹の奥が疼いてしまった。
水鳥の人生初めての性交渉は、年が5つも上の同性とのものになってしまったのだ。

(……あぁ、顔が熱くなっちゃう……!思い出しちゃダメ、思い出しちゃダメ……!思い出しちゃダメだよぉ……)



「……くしゅんっ!」

「……何可愛いくしゃみしてんだよ、飼い主様。」

ヘリの中でくしゃみをしたリザを、ヴァイスは横目で見ながらばつが悪そうに指摘した。

「……ただくしゃみしただけでしょ。それだけで気安く話しかけないで。」

「けっ、飼い主さんよぉ……この場は私が預かる、とか言って逃げられてこのザマじゃねえか。責任問題とかあるんじゃねえの?あの王様にこっぴどくリョナられたりしてな……クククク!」

「……お前には関係ない。」

確かにヴァイスの言う通り、失態ではある。
あの場でヴァイスを止めなければ唯は死んで、エルマも捕らえることができたかもしれない。
だが陵辱を見逃すほど非道ではないし、唯にはミツルギで助けてもらったこともあるリザにとって、あの場をヴァイスに任せるわけにはいかなかった。

「しかもお前、潜入されてる間何してたかって……水中で魔法少女とイチャイチャしてたらしいじゃねえか!!作戦中に盛って捕虜とレズセックスとは、さすがスピカともあろうお人は普通の人とは感覚が違いますねぇ〜?なぁ?オイ。」

「……だっ、黙れ。あれは馬鹿な兵士たちに捕まって……やらされただけっ……」

「ふーん。まぁそいつらが撮った映像も残ってるらしいし、後で見てみるかぁ〜っと。」

「……映像も音声ももう廃棄した。」

「ちっ、仕事は失敗したくせに証拠隠滅ははええなオイ!」

「うるさい……ねぇ、私は疲れてるの。しばらく話しかけないで……トーメントに着くまで少し寝る……」

「チッ……俺の隣で寝るとか無防備にもほどなあんぞ、この……うぅん……顔に欠点がねえ……」

何か悪態を吐こうとしたヴァイスを無視してリザは窓に体をもたげ、ゆっくりと目を閉じた。

638名無しさん:2019/10/26(土) 12:53:01 ID:???
トーメント王の居城、王の間にて。
毎度おなじみトーメント王の下には、王下十輝星の半数…
ヨハン、アイベルト、ロゼッタ、フースーヤ、スネグアの5人が集結していた。

「お前らに集まってもらったのは他でもない。
知っての通り、先程シェイム海上プラントが連合国の特殊部隊によって落とされた……
これによって、奴らも本腰入れて王都に攻め込んでくる事だろう。」

シェイム海上プラントは、あえて目立つ場所に設置した、わかりやすい拠点……
言うなれば、向こうから戦争を仕掛けさせるための『撒き餌』である。
連合国が勢いづいた事で、全面戦争を望む王の思惑通りに事は進んでいた。

「……!!」
ついにその時が来た、というべきか……全員から張り詰めた空気が漂っていた。

「ミツルギはアレイ草原、シーヴァリアはヴァーグ湿地帯、ルミナスはリケット渓谷、ナルビアはゼルタ山地……
各国は四方からの同時侵攻を仕掛けてくる。戦力を分散させれば勝てる、と踏んでるようだが……
お前らに、各方面の守備についてもらう。目にものを見せてやれ」

「アレイ草原の砦にはロゼッタ。ヴァーグ湿地帯にはアイベルト。」
「へっ!俺ほどの男なら、全員まとめてちょちょいのちょいだぜ!」
いつも通りの調子を装うアイベルトだが……
シーヴァリアの騎士たちと戦う事になれば、以前の任務で知り合った者達と剣を交える事もあるかも知れないのだ。

(まあ………これも宿命って奴か。今度こそエールちゃんに『くっ!殺せ!!』って言わせてやるぜ!)

まあいつも通りであった。

「うふふふふ………なんだか楽しそう……姉さまも、いっしょに行けたらよかったのに」
「つーか………ロゼッタ。お前本当に大丈夫か?」
だが今のロゼッタを一人で戦いに向かわせるのには、流石に不安があった。

「リケット渓谷……ルミナスの連中に対抗するのは、フースーヤ……まあ、お前以外にいないだろうな」
「ええ。当然です……一人残らず皆殺しにしてあげますよ。クックックック……」
「お前ならガチでやりかねんな……ちゃんと他の奴らが楽しめるようになるべく捕獲してくれよ?マジで」
魔法少女達への憎しみを、フースーヤは端正な顔いっぱいに滲ませる。
単に中二病っぽい中世的な美少年だった彼の面影は、今や中二病要素以外残っていなかった。

「ゼルタ山地……ナルビアの連中は、スネグアに任せる」
「ふ……噂の新兵器に、シックス・デイの子猫ちゃんか……期待に沿うよう、全力を尽くしましょう」
不敵な笑みを浮かべるスネグア。
行方不明になったミシェルの事が、ふと脳裏をよぎる……
(再会は、意外と早くなるかもしれないな、ミシェル………まあ、これもまた運命か。クックック……)


「そして、ヨハン。………守ってばかりいるのは俺の性に合わん。
お前には、『攻撃』を担当してもらいたい。本当は、リザの奴に頼むつもりだったんだがなぁ……」
「はい。という事は………『暗殺』ですか」
「その通り。ターゲットは、各国の首脳……特に連合国軍の総大将、リリス女王を早々に始末できりゃ、この戦争は勝ち確だ」

「ええ。私の力をもってすればたやすい事……ですが、本当にそれでよろしいのですか?」
「……クックック。お前は、本当に俺の性格をよくわかってるなぁ……リリスちゃんは掻っ攫って来てくれ。
俺様直々にリョナってリョナって拷問しまくって、絶望しきった所を公開処刑、でどうだ?」
「それでこそ我が王……不肖ヨハン、必ずやご期待に応えて御覧に入れましょう」

「いよいよクライマックス……諸君、存分に楽しもうじゃないか。ガーーッハッハッハッハ!!」

触手マントをバサッと翻し、高笑いを上げるトーメント王。
その時……

「報告いたします!スピカ様がお戻りになりました!」
「………あ、忘れてた。あのアホはどうしてやろうかな、ったく……」

……シェイム海上プラントから、リザが帰還した。
重要拠点?陥落の原因となった彼女に、王が下す処罰とは……

639名無しさん:2019/10/27(日) 12:26:24 ID:???
その頃、ナルビア王国では、アリスとエリスが連れ立って歩いていた。

「レイナが侵入者を取り逃がすとはな……やれやれ、ますます我々の立つ瀬がなくなる」

「ナルビアの繁栄と栄光に繋がるのならば、メサイアに功績が集中することも致し方なしですよ」

最近は嵐の前の静けさとでも言うべきか、魔物討伐などの任務も入っていない。
すっかり暇を持て余した姉妹が話していると……前方から、黒いドレスの女装少年が歩いて来るのを見つけた。

「む、リンネか……アリス、私は忘れ物を思い出したからお暇する……少し2人で立ち話でもするといい」

「え、あ、あの、エリス?」

「最近、奴も少しは覇気を取り戻したようだ……お前が世話を焼いたおかげだろう?私は……私のことはいいから、奴の力になってやれ」

どこか悲しそうな顔でそう言ったエリスは、用もないのに自室へと戻って行く。
そんなエリスの行動に少々面食らったアリスだが……意を決して、リンネに声をかける。

「……こ、こんにちは、リンネさん……」

「ああ、アリスか」

「リンネさん、最近は調子が良さそうですね」

「……まぁ、おかげさまでね」

エリスの言う通り、リンネは以前……ヒルダに無理矢理投薬をしていた頃よりは大分顔色が良くなっていた。

「あの、お時間があるんでしたら、少し出かけませんか?実はこの近くに、新しくオープンしたというお店が……」

「いや、僕は忙しいから遠慮しておくよ。君たち実働部隊は戦争まで暇かもしれないけど、諜報活動の本番は今だからね」

「そ、そうですか……ですが、今日くらいは休んでもいいのでは?まだ近辺に、柳原舞が潜伏している可能性も……あ、それか、私が護衛につきましょうか?それなら危険もないですし……」

「やけに突っかかるな……戦争が本格化する直前の今は休むつもりはないし、アリスがいると邪魔になるんだ」

何かと理由をつけて一緒にいようとするアリスの誘いををにべもなく断るリンネ。
これ以上無理に誘っても余計に疎まれるだけと察したアリスは、気落ちしているのをなるべく表情に出さない気を付けながら引き下がる。

「そう、ですよね……引き留めてすいませんでした」

「それじゃあ、急ぐから」

リンネはそんなアリスを気に留めた様子もなく、早足に立ち去って行く。
エリスは、リンネが元気になったのは、アリスがいじらしく世話をしたからだと思っているようだが……アリスにはとても、そうは思えなかった。

情報収集や諜報と言ってリンネはよく外出しているが……その様子が、とても生き生きとしている。まるで、外にこそ安らぎがあるかのように……

「……そんなわけ、ありませんよね」

最近のリンネの働きは目覚ましい。先の海上プラント攻略戦に於いても、彼の情報が大いに役立ったと聞いている。これは本気で働いている証拠だ。

軽くかぶりを振って雑念を払うアリスだが……ズキン、と頭の片隅が傷んだ。
まるで、何か大事なことを忘れているような……。

640名無しさん:2019/10/27(日) 15:57:49 ID:w6jGBvOU
「失礼します。……シェイム会場プラントより、ただ今帰投いたしました。」

謁見室の扉が開かれ、右手で敬礼をしたリザに皆の視線が集まる。
重要拠点防衛の任務に失敗し疲れているせいか、彼女の顔は少し元気がないように見えた。

「リザ……ま、まぁとりあえずお前無事でよかったな!ドロシーエスカアイナといなくなってるから、これ以上可愛い女の子がいなくなるのは勘弁だしな!がははははは!」

「わたし知ってるの!ヨハンに教えてもらったの!アイナちゃんはお星様になって、わたしたちのことをお空から見守ってくれてるの!だからね、いなくなってもさみしくないの!」

「フッ、私もそう思っているよ。死は終焉ではなく、それこそが永遠の美……散り際の絶望に満ちた表情の少女たちは、すべてが私の宝物さ。」

「スネグアさんの解釈、ちょっと違うような気が……まぁとにかく、リザさんが無事でよかったです。」

「……………………」

「みんな、そろそろ行こうか。」

王の醸し出す空気を察したヨハンが退室を促すと、皆うやうやしく謁見室を後にしていった。

ロゼッタ以外はわかっている。拠点防衛任務を失敗したのだから、リザに対してなにかしらの制裁はあることを。

「リザちゃん。辛くなったら私の部屋においで。元気が出るおまじないをかけてあげよう。」

「………………」

去り際にスネグアが発したセリフは無視して、リザは玉座に近づいた。



「……さて、俺様に何か言うことがあるんじゃないのかね?リザ。」

「……シェイム海上プラントを落とされたのは、私の責任です。始末書は後ほど提出いたします。」

「始末書?そんなものいらん。そもそもお前には姉貴を殺せって命令してたんだぞ。ヨハンがお前に任せれば安心って言ってたから行かせてやったんだ……わかってるか?あいつの顔にも泥を塗ったんだからな?お前は。」

「……返す言葉も……ございません。」

顔を伏せ、項垂れているリザから絞り出すような声が発せられる。
トーメント兵士たちに邪魔をされたなどと、言い訳にしかならないだろう。すべて退けられなかった自分の責任だと言われるのが関の山。
今のリザには、ただただ謝罪することしかできなかった。

「まあ顔を上げろよ。お前もやることはやったんだろ?それで失敗したんなら仕方ない。そうやって下向いていつまでもウジウジすんな。みっともないぞ。」

「………………………………」

「これから諸外国全部潰して、トーメント一強になろうとしてるんだ。そうすればミツルギで奴隷にされてるアウィナイトも助けられるんだぞ?お前にとっても正念場ってわけだ。」

「……はい……」

「失敗は誰でもするもんだ。だがな、失敗した分取り返せばいい。お前ならそれができると俺様は踏んでいる。だからあんま気にすんな。」

「……はい。」

ここまで言われては仕方ないと、ゆっくりと顔を上げるリザ。
王にしては至極真っ当な理想の上司とも取れるセリフだが、もちろんこのまま終わるわけがないことをリザは知っている。

「……それで、処罰の方は……」

「はー……お前ホント面白くないなぁ。少しは嬉しそうに今回は処罰なしかも?みたいな希望を抱けよ。俺様は上げて落とすのが好きだってのに……まぁ、付き合いも長くなってきたしそれは無理か。」

リザに搦め手は通じないと諦めた王は、椅子の下から小さな檻を取り出した。

641名無しさん:2019/10/27(日) 16:00:14 ID:???
「ニャア〜」

「……あれ、その子は……」

檻の中に入っていたのは、リザも知っている白猫だった。
トーメント城周辺をよく散歩しているシロと呼ばれている人懐っこい猫で、兵士たち皆に可愛がられている。
リザも撫でたりご飯をあげたりしたこともある。指をぺろぺろ舐められてくすぐったかった記憶が蘇った。

「さっき可愛いから捕まえたんだよ。俺様の飼い猫にしてやろうと思ってなぁ。」

「……王様、猫好きなんですか。」

「いや、俺様はベティちゃん一筋だ。だからこいつはイライラした時に蹴り飛ばしてやろうと思ってな。」

「……やめてください。そんな酷いことをするなら、代わりに私を蹴り飛ばしてください。」

「お!?こりゃあ思いがけずいい代替案を出されたなぁ……だがお前を蹴り飛ばすだけじゃ処罰にはならないんだよ。」

そう言いながら王は檻を開けた。
白猫はご飯をくれた人のことを覚えているのか、リザの方へとてとてと歩いてくる。

「ヴァイスから聞いたぞ。せっかく唯ちゃんとその仲間を捕まえたのに、お前に邪魔されて撮り逃したってなぁ。」

「…………………………」

「姉貴も殺せない、唯ちゃんも殺せないじゃ非常に困るんだよ。そこでだ。お前に足りないのは非情さだと思うんだよ。前から思ってたが……お前は暗殺者としては優しすぎるのさ。」

「……それで、私になにをしろと……?」

「ニャア〜」

リザの足にスリスリと顔を擦り付ける白猫。
この時点で、察しのいいリザの顔は青ざめていた。

「お前にはその優しい心ってやつを捨ててもらって、トーメントの暗殺者らしく非常になってもらう。……その猫をここで殺して、人の心を捨てろ。リザ。」

「……ッ……!」

トーメント王は、どうすればリザを追い詰めることができるのか、非常によくわかっているのであった。

642名無しさん:2019/10/27(日) 19:12:19 ID:???
「何を……散々人を殺してきた私が……今さら、猫一匹くらいで……」

「だってお前、例外が多いだけで基本的には人嫌いだし?全く害意のないペットを殺した方が効きそうじゃん」

人嫌いというより、基本的にリョナ世界はクズかリョナラーばっかなせいで、必然的に嫌いな人が多いだけだが……今はそんなことは関係ない。

「そんなの、不快なだけです……!何の、意味もない……!」

「効かないってんならやれよ。言っとくけど、懲罰を拒否するなら保護政策も止めだ。保護区の連中は殺すなり奴隷にするなりするからな」

「っ……!」

リザの最後のアイデンティティ。保護区のアウィナイトを守っているという自負。
姉に否定された今となっては、最早アウィナイトを守るためなのか、自分の存在価値を守るためなのか分からないが……とにかく、それだけは守らなければならない一線。

「ほらほら、お前最近ヤンデレ気味だし、動物虐待なんて楽勝だろ?Youやっちゃいなよ!あ、武器は使っちゃダメだからな!手で殺せよ、手で!」

リザは言われた通り、震える手で猫の首に手をかける。撫でられると思ったのか、猫はゴロゴロと喉を鳴らしてリザの手に自らの首を委ねた。

「……どうやっても……やらせるつもりですか……!」

「しつこいなー、自分が任務失敗したんだから、その罰は受けろよ。大丈夫大丈夫、食用にしてた国もあるらしいし!あっ、せっかくだから殺した後食べてみるか?」

「……結構……です……!」

「にゃ?」

ゆっくりとリザの手に力が入って来るのを感じて、猫は小首を傾げる。自分が今から殺されるなど、夢にも思っていないのだろう。

「……く……っ!」

「に゛ゃ!?フシャーーー!!」

「つ……!」

リザに首を絞められた猫は、リザの手に爪を立てて抵抗してくる。バタバタと体を動かしてリザの手から逃れようとするが……リザは、力を緩めない。

「……ごめんね……ごめん……」

「にゃ゛……」

ゆっくりと動かなくなるシロ。リザは震えたまま、シロの首から手を離す。

「ひゃー、本当にやっちゃったよ……エロイことはできないのに、猫は殺せるとか本当にクズだな。あっ、その猫を一番世話してたのはエミリアちゃんだけど、お前が殺したってことはちゃーんと伝えておくから安心しろよ!」

「……ぅ、うう……」

「泣いちゃったよ(笑)いやー、自分で殺しといて泣くとかサイコパスだなー、憧れちゃうなー」

「……もう、いいですよね……帰らせて頂き頂きます……」

「まぁ待てよ、リザ……そもそもどうしてお前がこんな目にあってるか分かるか?

「……任務に、失敗したからです」

元凶そのものである王がわざわざそんなことを聞いてくることに眉をひそめながらも、リザは暗い声で答える。

「そう、だがそれは、ある情報……唯ちゃんたちの突入経路が、お前にだけ伝わってなかったのが大きい」

「……兵士たちから妨害されたことは、言い訳にはなりません」

「違う違う、情報を伝えてなかったのは兵士共じゃなくて……サキだよ」
(まぁ、俺もそれを知っててリザには黙ってたけど)

「っ……!私は……サキには、嫌われてますから……」

「ところが、理由はそれだけではないかもしれない」

意味深なことを言う王を、リザは涙の残る瞳で見つめる。
益々暗く濁っていくその瞳を心底嬉しそうに見ながら……王は次なる指令を、リザに下す。

「サキは敵国と内通している可能性がある……リザ、次の任務はサキの監視と……場合によっては、暗殺だ」

643名無しさん:2019/10/28(月) 01:56:58 ID:daYu8f9Y
「……うっ、ううぅ……!シロ、ごめん……!ごめんね……!」

動かなくなったシロを抱いて、リザは部屋の隅で泣いていた。
身内や親しい人間を殺せない自分に動物を殺させてもなんの意味もない。それは王様もわかっているはずだ。
ただただ、こうして自分に精神的ダメージを与えて苦しむ様を愉しんでいるだけ。
本当に無意味なことだったとわかっているからこそ、自分に甘えてきた無垢な命を奪ってしまったことに、リザは耐えられなかった。

「……ああああぁああああぁっ……!私は……どうしてこんな酷いことをっ……!」

動かなくなってしまった白猫を見ていると、強い後悔の念が絶え間なく押し寄せてくる。
譲れないものを守るためとはいえ、自分に甘えてきた無垢な命を奪ってしまった。
アイナやドロシーが生きていたら、今の最低な自分を見てどう思うのだろうか。

「うぅうぅ……!なんで……なんで2人ともいなくなっちゃったの……?もうこんなの嫌だよ辛いよ寂しいよ苦しいよ……!どうして……私だけがこんな……」

守りたいものを守っているだけなのに、大切な人たちが自分から離れていく。
精神的に追い詰められて、自分が自分でなくなっていく。
恐ろしい負のスパイラルに巻き込まれていると知りながら、これまでの自分を否定することができないリザには、もう後戻りの道はないのであった。

(……思い……出した……シロはドロシーやアイナにも可愛がられてたっけ……)

644名無しさん:2019/10/28(月) 01:59:20 ID:???
「シロッ!わたあめっ!」

「ニャン!」

アイナが指示を出すと、シロはくるんと丸くなってボールのようになった。

「よくやったですわー!ご褒美にアイナの特製!鯖味噌入りタピオカミルクティーを飲ませてあげますわー!」

「ニャアァアアアァア゛ア゛ア゛ア゛ァア゛!」

アイナが懐からどす黒い液体の入ったカップを取り出した途端、シロは全速力で近くにいたリザの足元に隠れた。

「コラアイナ!シロに変なものあげるのはやめなさい!もうあの子あんたのあげる飲食物ぜんぶトラウマになってるんだから!」

「むー……人間には理解されないから動物なら理解してくれると思ったのに……一体誰なら理解してくれるんですの……」

「あんた重めの味覚障害だし、全人類誰にも理解されないわよ。ねー?リザ。」

「……う、うん……」

話を振られたリザは、椅子に座って俯いたまま力無い返事を返した。

「ん?どしたの?なんかいつもに増して元気ないわね。」

「リザちゃん!アイナのジュースが飲みたくなったんですの!?それともアイナのジュースが飲みたくなったんですの!?」

「そんなわけないでしょ。あと選択肢見せかけてなんでおんなじこと2回言うのよ、鈴木○々か!うるさい!」

アイナとドロシーの漫才に少し笑ってから、リザは顔を上げた。

「……わたし、十輝星になってアウィナイトのみんなを王様の政策で守ってもらってるんだけど……本当にこれが正しいのか不安なの。敵とはいえ、人を殺してるんだし……」

「リザちゃん、前にも言いましたわ!この世界は弱肉強食!アイナたちは喰われる側から喰う側になったんですの!それに暗殺はリザちゃんの十輝星としてのオシゴト!殺らなきゃ犯られるだけなのですから、ばちこり殺してオッケーですわ!」

「……ううん……そうかな……」

「アイナ、私やあんたと違ってリザは平和な場所で生きてた時間も長いから、そういう価値観はすぐには理解できないわよ……それに、ホントにホントに優しい性格だしね。リザは。」

「……ドロシーやアイナは……躊躇いとかないの?敵とはいえ人を殺すことに……」

「ないですわ。」
「ないわね。」

2人とも即答だった。
親に捨てられ、家族の愛というものを知らない彼女たちにはそんな感覚はないという。

「でもさ、別にリザまで私たちみたいになる必要はないと思うのよ。多分私たちの方がバグってるんだろうし、リザの感覚が普通なんじゃない?」

「でも……私もドロシーやアイナみたいに割り切れたら、こんなことで悩まないってことだよね。やっぱり、向いてないのかな……」

「うぅーん……そうやって考えても答えが出る問題ではないと思いますわよ?」

「……じゃあ、どうすればいいの?」

足元をぺろぺろしているシロを抱き上げながら、リザはアイナの顔を見た。

「どうもしなくていいですわ。リザちゃんはリザちゃんらしくあればいいだけ!葛藤するならたくさん葛藤して、殺したければたくさん殺して、殺したくないなら十輝星をやめればいいだけですわ!」

「ぶっ!なによそれ。悩むだけ無駄ってこと?」

「そうですわ!こんな【自主規制】な世界でそんなこと悩むだけ時間の無駄ですわ!アイナはアイナに従ってやりたいことやりますわ。気持ちイイことばっかりやりますわ。だからリザちゃんも、リザちゃんがやりたいことだけやればいいんですわ!」

「……ふーん。なんか途中変にエロい感じの混じってたけど、アイナにしてはまともなこと言ってるんじゃない?」

「ドロシー!アイナにしてはとかいう枕詞は不要ですわよ!そういう上から目線の話し方ばかりしてるから一向にモテる気配がないんですわ!」

「う、うっさいわね!あんただって別にモテないくせに!この淫乱ピンク!おしゃべり怪獣!」

「言いましたわねー!このパワハラスズムシ!リポストシャークテイル!」

「何ですってぇ!この豆つぶチビ!自己チューツインテ!」

「アメージング厚生大臣!せっかち深夜クラブ〜!」

「悪口独特だなっ!!!なんにもピンとこないわっ!」

いつもどおりパンクブー○ーの漫才のような喧嘩をしている2人を見ながら、リザは口を開いた。



「……私がやりたいことは……アウィナイトのみんなを守りたい。私みたいに理不尽な目にあって家族を失う人を、これ以上増やしたくない!」

「なら、そのためにできることを全力で頑張ればよいですわね!もちろん、アイナも全力でサポートしますわ!」

「うんうん!もちろん私もよ!なんか困ったことあったらいつでも私に相談しなさい!」

「ニャン!」

「あ、シロもサポートするって言ってますわ!これだけ仲間がいればモーマンタイですわー!みんなでワンピースを見つけて火影になって七つの球を集め巨人を駆逐しますわよー!」

「ニャー!」

「アイナ、あんたジャンプ好きすぎ!!!」

「あははっ、みんなありがとう……」

645名無しさん:2019/10/28(月) 02:00:28 ID:???
(……うぅ……みんな……)

平和だった日々を回想して少し落ち着くことができたが、腕の中のシロはもう硬直してしまっていた。

(シロ……私をサポートするって言ってくれたのに……私が殺しちゃったんだ……)

そう考えると胸が苦しくて仕方ないと同時に、このまま泣いていても仕方ないことに思い知らされる。

(……このままじゃだめ……霊園に連れて行こう。ちゃんと供養してあげなきゃ……)

この後はあのサキと戦闘になる可能性もある。
落ち着いたリザができることは、なんとかして気持ちを切り替えることだけだった。

646名無しさん:2019/11/04(月) 05:34:24 ID:???
「……サキさん」

「リンネ……大分顔色が良くなったわね」

サキとリンネは、トーメントとナルビアの国境付近にある廃砦で密会をしていた。

「で、リンネ、舞はどこよ?あんたが舞を見つけたっていうからわざわざ来たんだけど?」

「久しぶりに直接会ったのにつれないですね、サキさん……いえ、そんな貴女だからこそ……」

「ちょ、ちょっと、顔を近づけんじゃないっつーの!メンタルがヘラってるのは相変わらずね……いいからさっさと舞について話しなさい!」

以前は色々疲れていたのもあって流れでリンネに唇を許してしまったが、サキはそう頻繁にキスしたがる性格ではない。
どちらかと言えば普通にデートして、たまに気分が乗った時にしかそういうことをしたがらないタイプだ。

「はぁ、分かりましたよ……柳原舞は発見しましたが、確保するのは少々骨が折れそうでしたので、この砦に貴女がいるとだけ伝えておびき寄せました。ダシに使ったのは申し訳ありませんが……どうせ僕と貴女の関係を言っても信じないでしょうから」

「まぁ、それもそうね……それじゃあ今後のことでも話しながら、舞を待ちましょうか」

荒れ果てた砦の中でも比較的整った所に腰掛け、サキとリンネは戦争について語りだす。

「なるほど、十輝星のうち、4人は既にどこの対応につくか決まったと……」

「ヨハン様がリリーを暗殺しようとしてるのも無視はできないわ……あぁ、危険な匂いのするイケメンも素敵……」

「え、ちょ、ちょっとサキさん!?」

「ユキのことは許せないけど、でもそれはそれで……」

「あの、本気で言ってます!?冗談ですよね?僕のことからかって言ってるんですよね!?」

「……ふふっ、冗談よ……最近はアンタのおかげで危険な潜入も減ったし、舞も見つかって嬉しかったから……ついふざけちゃっただけ」

「そ、そうですか……」

珍しく自然な年相応の笑顔を見せたサキに、不覚にもちょっとドキドキしてしまうリンネ。以前は色々疲れていたのもあって勢いで告ってキスしてしまったが……正直今でも信じられない。
あの時の感触を思い出して顔を赤くしたリンネは、わざとらしく咳き込んでから話を進める。

「と、とにかく……なるべく激戦になって貰って、僕たちが行方を眩ましやすいように……かつヒルダが消耗するようにしないといけません」

「ええ、そのためにクソリザにだけ情報を与えずに、海上プラントを破壊させてもらったわ……これでいよいよ、戦争が始まる」

「諜報員である僕らは、本格的な戦争では前線には立ちません……ヒルダさえ確保すれば、隙を見つけて逃げるのは決して難しくは……サキさん!」

突然リンネがサキに覆い被さり、地面に押し倒した。

「ひゃっ!?ちょ、ばか、もうちょっとこうムードとかあるで……」

文句を言いかけたサキの真上を……見覚えのあるナイフが通り過ぎた。

「サキ……やっぱり……リンネと……」

「あ、アンタ……クソリザ!?尾けてたの!?私が気づかないなんて……」

「いえ、彼女は『今』現れた……おそらく予め僕とサキさんがここで密会すると読んでいて、シフトで急接近したのでしょう……それもおそらく、王かアルタイルの差し金でしょうね」

「サキ……敵国内通の容疑で……貴女を……貴女を……斬る!」

サキとリンネの密会に急襲したのは、国境付近にある廃村や廃砦にシフトを続けてサキを捜索していたリザ。

サキとリザ……嫌われながらもどこかで情にも似た何かが芽生えていた二人は、ここで再び対峙する。

647名無しさん:2019/11/04(月) 06:44:46 ID:???
「ふん……やっぱりアンタとはこうなる運命だったみたいね。その綺麗でムカつく顔、遠慮なく叩き潰してやるわ。」

「……………………」

「サキさん、僕も援護を……!」

援護を申し出たリンネをサキは手で制す。その顔には「手を出すな」というニュアンスが込められている。
それに、瞬間移動を使いこなすリザに対してリンネができることは少ない。
援護したとて、まともな戦力にはなれないだろう。

「……わかりました。僕はバックアップに徹します。」

「ええ。あいつは……私がやる。」

リザはナイフを構えてこちらの出方を伺っている。
相手になるのは自分だと意思表示するように、サキは前に出た。



「サキ……どうしてトーメントを裏切ったの?四カ国同盟がトーメントに……王様に勝てるとおもってるの?」

「裏切り者と話す必要なんかあんの?私を殺せって言われてんでしょ?だったら黙って殺しに来なさい……よっ!」

「……!!」

シャドウリープによって背後から放たれたサキの闇魔法は、魔力を込めたナイフによって斬られ無効化された。

「……戦闘タイプじゃないサキは私には勝てないよ。あっちにいるリンネも……戦闘向きじゃないのは知ってる。サキに勝ち目は……万に一つもない。」

「だったら何よ……大人しく武器を捨てて投降しろっての?随分舐めてくれるわね!アンタの戦闘パターンなんか全部知ってんのよ!ダークスネークッ!」

闇を纏った複数の蛇に変身したサキは、一斉にリザの喉元をかっ切らんと急接近してゆく。
本来この術は、逃走や撹乱に使う術。この複数の蛇に紛れるようにして、サキ本人が隠れている。

(……ホンモノは1つだけ。見極める方法は……ない。ならば……)

「「「キシャアアアアアアァッ!!!」」」

蛇の一匹がリザに襲いかかるのと、リザが左手からナイフを取り出したのは同時だった。



(……これが、王下十輝星同士の戦い……)

凄まじい数の蛇の飛びかかりを、細腕に握られたナイフ2本のみで応戦するリザ。
全方位に目が付いていなければできない芸当に見えるが、対応しきれないときはシフトで死角をカバしー状況を変えながらナイフを振るっている。
敵の動きの把握、シフトをした後の全く違う視界を理解する状況判断能力、それらを可能とする戦いのセンスと経験。
実力者だとはわかっていたが、リザの戦闘能力はリンネの想像をはるかに上回っていた。

「……そこだっ!」
「うぐっ!?」

戦いの中で投げられたナイフが、一匹の蛇を捕らえた。
それと同時に変身が解け、足を負傷したサキの姿が現れる。
すぐに他の蛇の姿は消えたのを確認すると、リザは素早くサキの元へ移動し体を拘束した。

「い゛っ……あああああああぁっ!」

接近を許してしまえば、リザの関節技の餌食だ。
完全に技を極められ動きを封じられたサキの悲鳴は、少なくないダメージ量であることを物語る。

「サキさん!ぐっあ!?」

一瞬にして視界を失い、なにか柔らかいものに顔を包まれたリンネ。
それがリザの太腿に挟まれていたからだと理解した頃には……リンネの体に激痛が走っていた。

「ぐっ!ああああぁ!」

「ぐっ……!く、そリザぁ……!」

関節技によってサキにダメージを与えた直後、リンネにフランケンシュタイナーと追い討ちの斬撃を素早く決め、サキへのマウントポジションを取る。
このようにほんの数秒で、リザは2対1の状況を制圧したのだった。

648名無しさん:2019/11/04(月) 08:17:30 ID:???
(リザとサキの戦いが始まる、少し前)

良く晴れた、ある日の昼下がり。洗い物と掃除を済ませ、そろそろ夕飯の支度を始めようか、という頃……
「彼女」は、私の部屋を訪れた。

「……あ、いらっしゃいサキちゃん!」
「お邪魔するわ、エミリア……リザの奴は留守みたいね」

サキちゃんが来るのは、いつもこの位の時間。
リザちゃんがいないタイミングを見計らってやって来る。

「ゴーヤのパイ焼いて来たの。
リザの奴にこっそり食べさせてやろうと思ったんだけど、
腐らすのももったいないし……あなた好きでしょ?こういうの」
「うん。ありがとう!今お茶を入れるね」

私の好みも、よくわかってらっしゃる。
こんな事もあろうかと準備していたティーセットで、私用とサキちゃん用にとっておきの一杯を入れた。

本来の部屋の主であるリザちゃんのカップが、なぜか一番真新しくて…食器棚の奥の方から、動こうとしない。
その横の、アイナちゃん用のは……もう二度と、使われることは無いだろう。
せっかく4人分揃えたティーセット……一緒に使ってみたかったな。

「一度聞いてみたかったんだけど……その『エミリア用特製ティースパイス』って、何が入ってるの?」
「ふふふ。よくぞ聞いてくれました!最近はエスニック系にハマっててね。ガラムマサラと、ターメリックと……」
「……そっち系にハマったんなら、カレーでも作ってなさいよ」

サキちゃんも、今日はほんの少しだけ、沈んでいるような雰囲気だった。
彼女が今日ここに来た理由は、なんとなく想像がついたけど……
出来るだけ『それ』を引き延ばしたかったから、私達は他愛無いおしゃべりをしばらく続けた。


「あの時の事、ちゃんと謝ってなかったと思って。……貴女にも、色々と迷惑かけたわね」
「え、あの時って……ううん、いいんだよ!私達の方こそ、ライラさんには、……その…」

あの時、というのは……リザちゃんが邪術師ライラを討伐した時の事。
サキちゃんは親友同士だった彼女と密かに結託し、リザちゃんを抹殺しようとして……
私も散々な目に遭ったけど、それもなんだか遠い昔の事のように思えた。

あの時は色々あったから、サキちゃんが初めてここにやって来た時は、ちょっと警戒したけど……
家族想い、友達想いの、本当はとっても優しい子なんだって、今ではよくわかる。


「……近いうち、この国を離れようと思うの。そろそろ潮時みたいだしね」
「そっか……寂しくなるけど……それがいいだろうね。ユキちゃんやおばさんにも、よろしく。
 ……それと、彼氏さんにも!」
「!!……あ、あなたねぇ……まさかと思うけど、この事は……」
「ふふふ。大丈夫、リザちゃんにも言ってないから!こう見えて私、ヒミツは守る女だからね!」
真っ赤になって慌てふためくサキちゃん。こういう所を、もっと出していけばいいのに。


「エミリア……今ならまだ、あなたの分も脱出ルートも手配できる。
どこか平和な場所でのんびり暮らす方が、あなたには向いてると思うわ」

「気持ちはうれしいけど……私は、もう少しだけ残るよ。
ここを出る時は、リザちゃんと一緒に。それが……アイナちゃんとの、約束だから」

「………そう。残念ね」

………………

「じゃあ、そろそろ行くわ……さよなら、エミリア」
「うん………さよなら、サキちゃん」

……こうして二人きりの、最後のお茶会は幕を閉じた。

空はどんよりと曇っていて、雨が今にも降りだしそう。
いつもなら、次はシロが餌をもらいにやってくる頃だけど……

「…なんだろう………胸騒ぎが、する…」

649名無しさん:2019/11/04(月) 12:51:45 ID:5QWxqxVk
「ぐ、こ、のぉ……!」

「サキ……貴女を殺したくない……理由と、どこまで情報を流したかだけ教えて……そうすれば、家族も悪いようにはしない」

「は、あんたが悪いようにしなくても……他の連中、特にスネグア辺りが黙ってないでしょ……それは裏切ろうと従順だろうと、同じことだけどね」

「やっぱり……家族を、守るために……気持ちは分かるけど、それで逃げても自分たちの首を絞めるだけだよ……」

「それは……どうかしらっ!ヴァニッシュ・ミスト!」

「っ!」

少し話している間に思念詠唱をしていたサキは、黒い霧になってマウントポジションから抜け出す。

「はぁ、はぁ……!詰めが、甘いわね……!」

「サキ……何度やっても結果は同じだよ」

「うるっさい!ダークバレット・ミストシャワー!」

モヤモヤとした霧の状態のまま、闇魔法の弾丸を放つサキ。並の相手ならば居場所を特定されないままじわじわと嬲り殺しにできるのだが……リザは全ての攻撃を難なく防ぐと、投げナイフで反撃をする。

「……く……」

だが、サキを、攻撃する躊躇いを捨てきれなかったリザは、投げる直前にナイフの軌道を近くで倒れているリンネに変えた。

ただの利害の一致による協力関係、サキなら見捨てる……そう思って投げたナイフは……

「リンネ!!」

霧の状態から戻ったサキがリンネを抱きしめて庇い……彼女の背中に、深々と突き刺さった。


「……え?」

「がはっ……!」

「サキ、さん……?」


ゆっくりと、リンネにもたれかかるサキ。その口からは大量の血が吐き出され、一目で重症だと分かる。

「サキさん!なんで……!」

「どうして、って……私……自分で言うのもなんだけど……う、ごほっ!ごほっ!」

「無理して喋らないでください!貴女は……一度認めた者には、どこまでも優しい人だ……知ってましたよ」

サキを抱きしめながら、絞り出すように言うリンネ。リザはそれを見てようやく……2人が強い絆で結ばれていることを理解した。
そして……敵だからという理由で水鳥や唯を遠ざけ続けている自分が、惨めに思えた。

「サキ……貴女まで……なんでそんなに、綺麗なの……」

「サキ様ぁああああああ!!!!」

リザの瞳が暗く濁ると同時に……廃砦の中に、絶叫が響き渡る。直後、横合いから飛んできた蹴りに、リザは吹き飛ばされた。

「柳原舞……!?」

「そこの男!ここは私が引き受ける!早くサキ様を!」

「なんで……僕らのことはまだ話してないのに……」

「サキ様が庇ったからだ!サキ様が信用しているならば、私も信じるしかない!早く逃げて、一刻も早く治療を!」

「……分かりました!」

「……ま……い……」

リンネはサキを横抱きにすると、すぐにその場を離れた。それを見届けると、舞は目つきを険しくしてリザに向き直る。

「よくもサキ様を……スピカのリザ……許さない!」

「……羨ましいよ、サキ……私にはもう、何もないのに……貴女は、私にはない全てを持っている……」

650名無しさん:2019/11/04(月) 13:19:12 ID:???
同じ頃……トーメント王国の一室。ここでも男女二人による密会が開かれていた。


「……どこまで貴方の計算のうちなんだい?」

「サキがナルビアの少年と内通し、脱走を図ること……僕が狙ったのはそれだけだよ」

「つまり、全てということか……恐ろしい人だ」

「実際サキはよくやってくれたよ。彼女のおかげで、互いの陣営が最大限の情報を入手し……戦局は当初の予定よりも大きく、混沌としたものになった……王様の望み通りにね」

男性の名は、アルタイルのヨハン……女性の名は、フォーマルハウトのスネグアだ。
しかし、サキとリンネの密会のような柔らかな雰囲気はなく……策謀を巡らせる者特有の、怪しげな雰囲気が支配していた。

「スネグア、首尾はどうだい?」

「魔物には彼女の嫌いな水属性の魔物……アーマードフロッグを用意した。『あの子』は……今頃泣きながら教授に改造されているんじゃないかな?ククク、いじらしい子だ……」

「サキにはもう少し頑張ってもらわないとね……戦場で対峙する恋人同士というのも、中々ロマンチックだろう?」

「……本当に、恐ろしい人だ」

こうして、謎の密会は終わり……それに巻き込まれた者たちの物語へと、視点は戻る。

651名無しさん:2019/11/10(日) 20:42:12 ID:???
「あなたに構っている暇はない。私は、裏切者を…… サキを……殺さなきゃ」

まるで深海のような冷たく暗い藍色の瞳で、舞を睨みつけていたリザ……その姿がふいに、消える。
……そして次の瞬間には、舞の後方、約50メートルに現れた。

更に数十メートル先、瞬間移動の射程圏内には、サキを抱えたリンネの後ろ姿。
次の一手で、確実に二人を殺す事が出来るだろう。
これまでにもリザは、逃げ惑う、無抵抗な相手をこうして何人も屠って来た。

(……ブオンッ!!)
「そんな事…………させないっ!」
「なっ!?瞬間移動に……っぐあっ!!」
…だが舞は、予想をはるかに上回る『速さ』でリザに追いつき、リザの背後から横蹴りを叩き込む。

「一気に、決める…………はあっ!!」
(ドスッ!!……)
「んぐぅっ!?」

重い蹴りがレバーに直撃して動きが止まったリザ。
正面からの鋭い前蹴りが、間髪入れずお腹に突き刺さる。
胃液がこみあげ、膝から力が抜け、視界が霞む。
舞の蹴りは、教授の改造アーマーを身に着けていた頃よりも、更に格段に威力を増していた。

「が、は………!!」
(なん、て速さっ……まずい……次は、右、左……それとも、後ろ)

三撃目がくる。反撃も、テレポートの回避も間に合わない。
左右のガードを固めつつ、後方からの攻撃を警戒したリザは………

「……八咫返し!!」
…ドゴンッ!!
「……おぐッ!?……あああああああああっ!!」

真下からのサマーソルトキックで、真上へ吹っ飛ばされた。
(……ズガシャアアアンッ!!)
廃砦の天井に勢いよく叩きつけられたリザ。バウンドしながら床を転がり、埃と泥と血に塗れる。

「スピカのリザ……雰囲気から何から、以前とはまるで別人ね。
一体何があったのかは、わからないけど……今のあなたじゃ、私には勝てない」
「っぐ……はぁっ……はぁっ………どう、やら………サキを、殺すには……貴女も……殺さなきゃならない、みたいね……」
「それは不可能ね……『八咫返し』の三連を、全て急所に叩き込んだ。……もう、立てないはずよ」

壁にもたれかかりながら、よろよろと立ち上がろうとするが……少し動いただけで、身体の奥に激痛が走った。
(折れた骨が……内臓に、刺さって……でも…)
何度か血を吐き出しながらも、リザは……再び、ナイフを構える。

「……問題ない。これ位、いつもの事……ぐ、うぅ…!!」
「ちょっと……無茶したら、本当に死ぬわよ?……どうせまた、あのフザけた王様の命令なんでしょ?なんで、そこまでして……」
「黙……り、なさい……邪魔をするなら、貴女も……殺、…ぐふっ………っずぁあああああ!!」

リザの尋常ではない様子に、思わず構えを解いた舞。
だが、その一瞬の隙を突いて………どこにそんな気力が残っていたのか。リザは、再びテレポートを発動させた。

「……なっ!?……しまっ…」
リザの刃が、舞の背後から迫る。反応が遅れた舞は、ギリギリかわせない……だが、その刹那。

「『タイム・ストップ』!!」

…………。

652名無しさん:2019/11/10(日) 20:43:26 ID:???
「!?……はぁっ………はぁっ…………な、何が起こったの……!?」

気付いたとき、舞はさっきまでと同じ場所に立っていて……リザは少し離れた所で、気を失っていた。

タイム・ストップ……周囲の時間を数秒間だけ停止させる、上級魔法。
発動させたのはリザでも、もちろん舞でもない。
気絶したリザを抱きかかえる、一人の少女……

「お前は、エミリア……『爆炎のスカーレット』……」
「今のうちに行ってください……サキちゃんの所へ。リザちゃんの事は、私が……」
「……そうさせてもらう」

……お互いに、これ以上戦う理由は無い。
舞が音もなく飛び去った後、エミリアもまた、リザを抱きかかえて廃砦を立ち去った。

………………

部屋に戻った私は、リザちゃんをベッドに寝かせる。
……応急処置は一通り済ませたけど、今のリザちゃんにはまだまだ本格的な治療が必要だ。

「どこもかしこも、ボロボロ……こんな事続けてたら、本当に壊れちゃうよ……」

アイナちゃんが死んで以来、リザちゃんは王様の無茶な命令を立て続けに受け続けていた。
ロクに休みも取っておらず、こうして自分の部屋に戻って来ることさえ、最近は滅多にない。

シロが死んだ事を、ついさっき王様から聞かされた。
……殺したのはリザちゃんだという事も。何があったのかは……想像に難くない。

今までは、あの王様に無茶振りされても、アイナちゃんが上手く間に入ってくれてたんだろう……
「あーーもう!いくらリザちゃんがかわいいからって、酷使しすぎですわ!
アイナ達はキュートでデリケートな乙女なんですから、定期的に日常回という名の休みを入れないとストを起こしますわ!
ロードーキジュンキョクのカンサが入りますわよーー!!」
……こんな感じで。

(……もしかして私の、せいなのかな……アイナちゃんは、私が殺したようなものだから……
私の顔なんて見たくなくて、それで……)
もちろん、リザちゃんが私を責めた事なんてない。
だけど……あの日以来、リザちゃんともなんとなく距離を置かれているような……

「はぁっ……はぁっ……へび……毒が……や、やめろ……あぁっ……!!」
「……夢を、見てるの……?……夢の中でも、戦ってるなんて……そんなの、あんまりだよ……」

眠っている間も、リザちゃんは何かにうなされているみたいだった。
まるで巨大な蛇に絡みつかれているかのように、苦しそうに体をくねらせている。

「………うぅ……いや……いやぁ…………」
「………『グッドスリープ』……!」

『安眠』の魔法が効き始めると、リザちゃんはようやく落ち着きを取り戻したのか、すやすやと寝息を立て始めた。
強めに掛けたから、半日はこのまま眠り続けるはずだ。

大丈夫だよ……今は、今だけは、ゆっくり休んで………


─── メッセージが1件入っています ───

<ガラド解放戦線より>

スカーレット同志へ

単身敵陣深くへ入り込み、日々諜報活動を続けている同志の活躍を聴き、我々も誇らしげに思う。
先日、事故に見せかけて『ヴェガ』を葬った手腕は実に見事な戦果であった。

かねてから潜入させていたスパイ犬0035号が『スピカ』により犠牲になったと聞くが、
スカーレット同志に疑いの目が掛けられる事態は避けられたようで幸いである。

引き続き敵の目を欺いて、ガラドを壊滅させた憎き『スピカ』の首を……

──────────────────────

「……いい加減にしてよ」

定期的に届く「上層部」からのメッセージを、最後まで読まずにゴミ箱に放り込む。
安全な場所で胡坐をかきながら、私達を殺し合わせて、嘲笑っている人達……この人達も、王様と、何も変わらない。


安心して……こんな人たちに、負けたりしないから。

……この部屋が、私の戦場。
アイナちゃん、サキちゃん、シロ……『戦友』たちはみんないなくなってしまったけど……
私は、最後までリザちゃんの傍で、戦い続ける。
リザちゃんの笑顔を、私達の日常を、守るために……

653名無しさん:2019/11/16(土) 02:48:01 ID:jTwGK5sk
「それでは!第7小隊初の大規模作戦成功を祝って〜!」

「カンパーイ!!!」
「乾杯……です。」

ここはシーヴァリアのルネの酒場!
前にエールさんにご馳走になったこのお店で、ヴェンデッタ小隊の作戦成功を祝って打ち上げをすることになった。
私たち以外の小隊の人たちも、会場にはたくさん来てる。
スライムにまとわりつかれたり、ナイフの男に追われたりで大変だったけど……隊員のみんなのおかげで作戦は大成功!
正直、隊長として正しい行動ができたかどうかはあんまり自信がないけど……
とにかく、みんなが無事でよかった!

「唯ちゃーん!我らがたいちょー!この調子でガンドコ悪い奴を倒しちゃおうねー!」

「エルちゃん!!うん、みんなと一緒なら大丈夫!これからも頑張っていこう!」

「えへへ……あたしさ、やらかしてスライムに落ちたじゃん?あのときどうせ見捨てられるだろうなーってちょと思ったの。別に見捨てられても仕方ないかなーとかも思った。でも……唯ちゃんは助けに来てくれた。」

「そうだよなぁ。アタシたちもびっくりしたよ。いきなり助けてくるから先行っててとか……しかもそれをやりだしたのが隊長っていうな。」

「あ、あはは……やっぱりみんなのこと不安にさせたよね。ごめん……」

「いや、もうそれがアタシたちの隊長なんだなーって理解したし、気にしなくていいよ。……結果的にもエルマは助かって万々歳だしな。」

何故か肩を抑えながら、オトちゃんは笑顔でそう言ってくれた。

「次の任務……っていってももうすぐ戦争開始っぽいけど、あたしの活躍に期待してね!今度こそはみんなの役に立つんだから!」

「え、エルマさんは潜入するためのスーツとか作ってくれたし、十分みなさんの役に立ってますよ……むしろ私の方が……」

「……うちも、みなさんに助けてもらったです。だからサクラさん1人が気落ちすることはない……です。」

「そうそう、あそこにいる魔法少女の子達とか、他のヴェンデッタ小隊の子達の活躍とか、みんなで頑張った結果だよ!サクラちゃんもルーアちゃんも、ありがとう!」

「唯さん……!はいっ!次もよろしくお願いいたします!」

「あははっ!サクラちゃん固すぎー!いつまで敬語使ってんのさー!」

654名無しさん:2019/11/16(土) 02:55:43 ID:???
その後は、いつのまにか度数の高いお酒を飲んでへべれけになったエルちゃんを介抱しながら、みんなで宿場に戻った。
ニックさんやエールさんにもたくさん褒めてもらえてすごく嬉しいけど、本番はこれから。
王様を倒して、この世界を救って、瑠奈と一緒に現実世界に帰る。
たとえこの世界の記憶を失ったとしても……私たちには帰る場所が、あるんだもんね。

「……お母さんもお父さんもおじいちゃんも……今頃どうしてるのかな……」

ベッドに横になってふと現実世界のことを思い出していると、スマホのバイブレーションが鳴った。
こんな時間に誰だろう?
……非通知だけど、私は通話ボタンを押した。

「……もしもし?」

「お、俺様の深夜のラブコールに出てくれたか。可愛い唯ちゃん♡」

「……え、まさか……その声、王様!?」

あまりにも意外な人物からの電話に、私の声は思いっきり上ずってしまった。




「い、一体何の用ですか!?というか、どうしてわたしの番号……」

「ククク、俺様はこの世界の神だぞ?唯ちゃんの今着てる服も昨日の晩御飯も一昨日のパンツの色も全部お見通しさ。今付けてるフリフリのついたナイトブラも可愛いねぇ。唯ちゃんもあの瑠奈たゃんや鏡花ちゃんみたいなメロンになりたいのかな?」

「うぅ……だって、瑠奈に比べたら私……子供みたいで……そもそも、2人ともどうしてあんなに大きいのか……」

「さあなぁ……やっぱ食生活と運動じゃないか?早寝早起きは毎日欠かさずしてそうだしなぁあの2人。唯ちゃんもこんな時間までスマホいじってちゃダメだぞ。」

「あ〜……そうかもしれないですね。気をつけます。ご忠告ありがとうございました。……じゃあ、おやすみなさい。」

「いや待て待て待て!そんな話をしに電話したんじゃないぞ!……というかよくいつもひどい目にあわされといてこの俺様と普通に話せるな……」

「うぅん……じゃあ何の用ですか……?」

「もうすぐ君達との全面対決だ。だから俺様からささやかなプレゼントをあげようと思ってね……」

「え……嫌な予感しかしませんけど……」

どうせ王様のプレゼントなんて、すっごく痛いかとってもエッチなことされるかしかないですし……
というセリフを言いかけて、喉に留めた。

「おい、痛くもエロくもないぞ。実はもう唯ちゃんのステータスには組み込んである。まぁ……この先明らかに異常なことが起きた時にわかるさ。俺様のプレゼントの中身がね。」

「え……教えて欲しいけどなぁ……」

「唯ちゃん。長く続いてきた君の物語もいよいよ佳境に差し掛かった。そしてこれから起こる戦いは……君の想像もつかないような、今までの比にならない過酷なものになっていくのさ。プラントを落としたからっていい気になっていたようだが……相手にしてるのはトーメント王国の絶対王者King & Prince、この俺様だっていうことを、ゆめゆめ忘れるなよ。」

「……わかりました。」

あんまり深刻じゃない口調で王様はそんなことを言った。
言われなくても王様たち相手に絶対油断はしないつもりだけど、一応普通の返事をしておこう。

「あ、そういえば……王様の名前ってなんていうんですか?誰も名前で呼んでるところを見たことがないような……」

「俺様の名前?ンハハハハハハッ!やっぱり唯ちゃんは面白い子だな……そんなどーでもいいことは気にしなくていい。じゃ、戦場で会おう。アデュー!」

「……あ、切れちゃった。リザちゃんが元気にしてるか聞こうと思ったのに……」

結局王様が言ってきたことは、なにか私に変な力を与えたことと、これからも油断するなってだけ。
なんだか腑に落ちないモヤモヤした思いを抱えながら、私はベッドに潜り込んだ。

(言われなくても……もう負けない。みんなと一緒なら……絶対に勝てるはずだから!)

655名無しさん:2019/11/24(日) 16:03:57 ID:owJHT4FY
「はぁ、はぁ……!柳原舞……リザを追い払ったのか……?サキさん、失礼しますね!」

リザの脅威がなくなったのを確認したリンネは、サキを横たわらせると服を脱がせて、背中の傷を診察する。
そこに、舞が猛スピードで追いついてくる。

「サキ様!!」

「大丈夫です、命にかかわるような傷じゃありません……けれど、放置していいような傷でもない」

「……あなた……サキ様とどういう関係なの?」

訝しんだ様子でリンネを問い詰める舞。
舞からしてみれば、リンネは以前Dという男と共に自分をヤク漬け拷問してきたナルビアの尖兵……敬愛するサキと行動を共にする理由が分からない。

「その話は後です、今は治療を……それに、脱走計画が漏れていたということは、サキさんの家族が危ないかもしれません……潜入慣れしている僕が助けに行きますから、貴女はサキさんを安全なところに……」

「っ……!いえ、そんな悠長なことは言っていられないみたいよ」

舞がそう言った瞬間……3人の前に、巨大な蛙の魔物……の『死体』が降ってきた。死体には、ドリルで開けたような巨大な穴が開いていた。

「こ、これは……!?」

「遅かったか……既に手が及んでいたとは……」

魔物の死体から僅かに遅れて、空中から少女が一人、降りてくる……

「……お姉ちゃん……」

「ユ……キ……?」

かつてと同じように、ヘッドマウントディスプレイを被らされ、機械化された体になっている……ユキの姿であった。

「ククク……手違いがあってすまないねぇ、リゲル殿……裏切ったふりをして敵の少年を籠絡する作戦を、本当に裏切ったと勘違いしてしまったよ」

「すね……ぐあ……!」

ユキの後ろから姿を現したのは、以前からユキを狙っていたスネグアだった。

「誤解と知っていれば、妹さんを無理矢理改造することもなかったというのに……とはいえ、戦力を遊ばせておく余裕がないのも事実……悪く思わないでくれよ」

スゥ、と後ろからユキの頬に手を這わせながら、白々しくスネグアは言う。

「あ、んた……げほっ、げほっ!」

「サキさん!喋っちゃダメです!!」

スネグアに対峙しようとするサキだが、リザにやられた傷のせいで、上手く喋れない。

「さて、君の作戦がバレた以上、その少年を生かしておくわけにはいかないね」

ユキの頬から手を離すと、ゆっくりとユキの背中を押してリンネに向かわせるスネグア。

「ま、い……リン、ネを……逃が……」

「おっと、まさか庇いはしないだろうね?フリではなく、本当に裏切っていたとしたら……ユキちゃんも君の母君も、無事ではすまないよ?」

「く、そ、がぁ……!」

リンネを見殺しにして再びトーメントに戻り、改造されたユキを戻すか……家族を見捨てて、舞にリンネを助けてもらうか……サキは究極の選択を迫られていた。

「くっ……!」
(私がちゃんとスネグアに目を光らせていれば……!ずっと留守にしていた、私の責任だ……!)

悔しさのあまり、血が滲む手を握りしめる舞。サキを守るために帰ってきたというのに、今の自分は無力だ。スネグアはともかく、ユキに攻撃することは、舞にはできない。

「……ここまで、か……サキさん、僕のことはもういいです……妹さんを助けてあげてください」

リンネはそっとサキに耳打ちする。

「そんな……こと……」

「奴らのやり口は僕も知っています。あなたの家族を人質に、戦争でも酷い無茶をさせるつもりでしょう……でも、ここで裏切り者として殺されるよりはずっとマシです」

体を動かそうとするサキをそっと抑えながら、リンネは儚げに、柔らかく微笑む。

「もし、もしも大戦中に余裕があったら……ヒルダも、助けてください……僕が望むのは、それだけです」

「リンネ……」

ギュ、とサキの手を握りしめるリンネと、その手を握り返すサキ。それを見た舞は、二人の関係性を察した

656名無しさん:2019/11/24(日) 16:05:26 ID:owJHT4FY
「決まりだね……さぁユキちゃん、君のお姉さんを誑かした少年に、お灸を据えてやるといい!」

「お、姉ちゃん……う、ぅう……お姉ちゃんお姉ちゃん……!!ううあああぁあああ!!!」

ヘッドマウントディスプレイに大量の文字が羅列されると同時に……叫び声をあげたユキが、リンネに飛びかかっていく。


「「エンジェル・ハイロゥ!!」」

その直後、周囲を凄まじい衝撃波が襲い……リンネに向かっていたユキと、彼の近くにいた舞は吹き飛ばされた。
そして、サキとリンネの固く繋がれていた手も……衝撃に引っ張られて、するりと抜けた。

「っ!サキさ……」

「リンネ!!何をしている、撤退するぞ!!」

「様子がおかしかったから、エリスを連れて後を追いかけてみましたが……ビンゴだったようですね!」

咄嗟に手を伸ばそうとしたリンネの体は、後ろから引っ張られて、どんどんサキから離れていく。

「おっと、逃げられてしまったか……まぁいい、リゲル殿の脱走計画を潰し、もう一度従順な手駒にするのには成功したからな……ククク……」

ただ一人無傷で様子を伺っていたスネグアは、クツクツと愉快そうに笑う。

妹の治療の為に働かせるのは前と同じだが……これからは脱走未遂を『見逃してやっている』という脅迫材料も手に入った。

戦争では自分の下に組み込んで、ナルビアと戦ってもらうとしよう。

「敵の少年とのラブロマンスに惹かれるとは、リゲル殿も中々可愛い所があるじゃないか……ならば望み通り、ドラマチックな展開にしてあげよう……」

657名無しさん:2019/11/25(月) 01:48:05 ID:???
「……じゃあ、行くね。お母さん。」

「ええ。気をつけてね……ミスト、レオ。」

収容所にいる母を外の世界へと連れ出そうとしていたミストだが、母の様子を見る限りではまだその時ではなかったようだ。
生活するための金銭面は自分が肩代わりできるとはいえ、こんな様子では外の世界で全うに生きていくことなどできない。
ならば安全なこの場所にいさせたほうがいいとミストは判断した。

「あ、いたいた。ミストさん、ちょっとよろしいですか?」

「ん?なに?」

「ステラさんを訪ねてきた男性の方が入り口に見えておりまして……名前はヤコというそうなのですが、一体誰なのでしょうか?」

「……?ヤコ?……知らないわね。お母さんは?」

「……わたしも知らないわ。誰かしら……」

「……じゃあ、ちょっと行って会ってくる。」

係員の案内で、ミストは収容所の入口へと移動した。



「……あ、ミストさん。ご足労おかけしてすみません。闘技場で優勝したかなんか知らないけど、奴隷交換手形を持ってきたんですよ……」

入り口には困惑した様子の事務員と、自分と同じ金髪碧眼の少年が必死な顔つきで立っていた。

「あなたが……ヤコ?ステラを訪ねて来たっていう……」

「あ、ああ!ステラさんはここにいるんだろ?残影のシンがステラさんを買ったってのも知ってる……でも、どうしても俺がステラさんの奴隷主になりたいんだよ!」

「いやあんた、別に身内でもなんでもないんだろ?それに……ステラさんは特別な奴隷なんだ。悪いけど取り合えないよ。ねえ……ミストさん?」

全てを知っている受付が困った様子で水を向けて来たが、ミストにとってもこの少年の意図がわからない。
まずは話し合う必要があった。

「……私はミスト。この収容所の管理をしているの。貴方がここにきた理由を聞きたいから、ちょっと2人ではなしましョウカ。」

「……え?今、声が男に……?」

「……そういう体質だから、気にしないで。」

いつもは仮面を被りボイスチェンジャーを使っているが、目の前の少年に正体を明かすメリットもない。
受付に空き部屋の場所を確認し、2人は向かった。




「……なるほど。君はステラの娘のリザの友達で、奴隷になっているであろう母親の解放を頼まれたと。」

「……そう、です。……だから、別に奴隷としてステラさんが欲しいってわけじゃなくて、あいつが……リザが大変な思いをして手に入れたものだから……」

まだ自分がリザの姉だとは明かしていないミスト。
そしてこのヤコという少年は、リザの正体も知っている。
それでもなお彼女の役に立ちたいと、託された手形を持ってここへやってきたらしい。
だが家族でもない少女にそこまでするメリットはなにか……そこまで考えてミストは一つの結論に至った。

「……とと、ということは……君はそっそのリリザの……えええーっと、友達なの?そ、そそそ、それとも……」

「な、なんでミストさん、いきなりそんなに噛み始めてるんですか……?」

「あ、いや……」

妹の彼氏と考えてしまうと、リザが目の前の男と色々なことをしたと邪推してしまい言葉に詰まるミスト。
目の前にいるのが好きな女の子の姉だと知らないヤコは首を傾げた。

「……別にあいつの彼氏とかじゃないっす。俺が一方的にあいつを好きなだけで……これ恥ずかしいんすけど、家族を助けたいとか嘘ついてまであいつについていったんすよ。はは……俺の家族なんてもうみんな死んでるのに。」

「……どうしてそこまであの子、あぁーじゃなくて……そのーリザのことが好きなの?」

「え、なんでそんなこと聞いてくるんすか……?」

「う!?え、まぁ、興味本位というか……あ、君の想いによっては、残影のシンにわたしから掛け合ってもいいと思っているというか……」

「ほんとっすか!?なら全部伝えます!!」

658名無しさん:2019/11/25(月) 21:02:00 ID:???
一方、ミツルギ王国では……

討魔忍衆の一人『氷刃のササメ』が皇帝テンジョウに謁見し、
行き別れた母親を探し出すため魔の山へ向かう許可を求めていた。

「こんな時に、勝手なお願いをして申し訳ないのですが……」

魔の山への禁足の令は既に解かれているとはいえ、今は大戦を控えた大事な時期。
上忍という立場上、ササメとしては筋を通さないわけにはいかない。

「……まあ事情も事情だし、しょーがないだろ。
ラスボス戦前に、サブイベントは全部片づけておかないとな!」
「あ……ありがとうございます!(ラスボスとかサブイベントとかの意味はよくわかりませんが……)」

テンジョウからの許しを得て、ササメの緊張気味だった表情が和らぐ。
だが、その時……

「お待ちください、テンジョウ様………ササメさん。今、貴女を行かせるわけには行きません」

横に控えていた神楽木七華が、待ったをかけた。

「えっ!?………ど、どうしてですか!」
「おいおい、七華……お前の後輩だし、心配なのはわかるけどな。
今のササメの実力なら、雪人達にだって引けは取らないはずだぞ(闘技大会の成績はアレだったけど)」

「い、いえ……そういう意味ではなくて……今は時期が悪い、というか……」
「確かに、冬は雪人の力が特に強まる時期ですが……それは私も同じことです!」

「そ、そういう意味でもなくて……できれば来年になってから、ではダメでしょうか。12月は、その……モゴモゴ」
「うーん……そんなに待ってたら、さすがに大戦始まっちゃうんじゃね?」
「いえいえ、まだ全然大丈夫ですよ!」
「いやそれ大丈夫すぎるのもどうかと思うぞ」

……どうも12月は危ないらしい。
だが、七華が肝心なところでモゴモゴと口ごもってしまうせいで、異議申し立てはテンジョウに却下されてしまった。

「とにかく……今までこっちの都合でお前を引き留めていたんだ。今さら止める事はできんだろ。
……ササメ、生きて帰って来いよ!お袋さんと一緒にな!」

「は……はい。討魔忍衆の名にかけて、必ず!」

659名無しさん:2019/11/25(月) 21:18:58 ID:???
そんなこんなで、七華の様子に引っかかる物を感じつつも魔の山へ行く準備を整えたササメ。
だが、ムラサメの城門を出ようとしたところで……

「ササメ先ぱーい!!待ってくださいよー!!」
今度は後輩の、見習い討魔忍ヤヨイに呼び止められた。

「あ……ヤヨイちゃん。どうしたんですか?そんな大荷物抱えて……」
「どうしたって、そりゃササメ先輩と一緒に魔の山に行くために決まってるじゃないですか!」

……よく見ると、おなじみのセーラー服の下には忍び装束まで着こんでいて、すっかりばっちり戦闘態勢だ。
ササメが今日出立する事は、限られた人間にしか伝えていなかったはずなのに……

「どうしてヤヨイちゃんがその事を!?……そ、そんなのダメですよ。遊びに行くわけじゃないんですよ!?」
「そんな事わかってますよ!実は私、かくかくしかじか、こういうわけで、テンジョウ様から直々に頼まれたんです!!」

……かくかくしかじかの内容を要約すると。

七華がなぜか不安がっているのを見たテンジョウは、ササメに護衛をつける事にした。
五人衆の面々は大戦の準備で手が離せないため、テンジョウは『千斬のキリコ』に
ササメと同行するよう命を下したのだが……

「……寒いしだるい 代わりにお前行って来い」
「え!?私がですか!?……でも、この時期に雪山って、流石にキツイんじゃ……」
「こう見えてあたしは色々忙しいんだよ。バンデットなんとかって部隊にも召集されたし……
ほれ。テンジョウ様から貰ったレア武器やるから頼むよ!」

【精霊刀ミカズチ】
精霊の力を操る、特殊な魔力を持った忍者刀。
鞘に結びつけられた宝珠に風、海、大地などの精霊を封じ込め、その力を解放して斬撃に精霊の力を付与する事が出来る。

「え。マジですか!?………そ、それなら……」

………………。

「……直々に頼まれてないじゃないですか」
「テンジョウ様から、直々に頼まれたキリコ先輩から、直々に頼まれたんだから一緒ですよ!
それに……今日の私は一味違いますよ!
なんせ、テンジョウ様から直々に賜ったレア武器『精霊刀ミカズチ』があるんですから!
精霊の力を得た私は、ケモナーならぬ精霊ラー……つまりセーラー(ry」

「だから直々に賜ってないじゃ……
はあ、もう……わかりました……危なくなったら、すぐに下がってくださいよ。
冬の山は、雪人達にとってホームグラウンドですから、何が起きるかわかりません」

「はーーい!!」

………………

「それにだな、ヤヨイ。この任務は、お前の方が適任だ。
ササメの性格から言って、一人だと危険を顧みず突っ走りがちだ。
お前みたいな足手まといが居た方が、冷静に判断して安全に物事を進めるようになる」

「ぐぬぬぬ」

………………

(…なんて、キリコ先輩は失礼な事言ってたけど…私だって、ちゃーんとササメ先輩の役に立ってみせるんだから!)

思いがけない道連れが出来たササメ。果たして、彼女を待ち受ける運命とは。
七華が言う、12月に待つ危険の正体とは、一体……!

660名無しさん:2019/11/28(木) 01:40:24 ID:???
「初めて会った時はムスッとしてて冷たくて無愛想で、絶対仲良くなれないと思ったんすけど……話してくうちに打ち解けたら、すごくいい笑顔で笑ってくれたんだ。……嘘なんかついてた俺のためにもって、あのムラサメの闘技場を戦ってくれたり……リザはいつも強がってるけど、本当はすごく優しくて芯の強い女の子なん……です!」

「……そう……」

妹のせいで迫害が加速し、住む場所を追われ挙げ句の果てに殺されたり性奴隷にされたアウィナイトを何人も見てきた。

妹は身勝手な殺戮者。殺すべき対象としか考える必要はない。

そう思っていたはずなのに、目の前の少年にこんなことを聞いている自分には、迷いが芽生えたのだろうか。
あの戦場で姉の自分は「殺す」と明言したのに、一度も自分のことを「殺す」と言い返さなかった妹に、まだ未練があるのだろうか。

「あ!あとあいつカレー作るのめっちゃ上手っす!一回しか食べてないけど、今まで食べたカレーの中で一番美味しかったっす!……て、これはエピソードとしては弱いか……」

「……え……カレーって……」

カレーという単語を聞いた途端、ミストの脳裏に過去の記憶がフラッシュバックする。



「ねえ、お姉ちゃん。……私にお姉ちゃんのカレーの作り方を教えて欲しい。」

「ん?なんで私のカレー?あんなの目分量でテキトーにやってるだけだし、全然レシピとかないわよ?隠し味のチョコとかもほんとにテキトーな量よ?」

「うん。でもお姉ちゃんの作るカレー、すごく美味しいから……私も真似して作れるようになりたいんだ。」

「へぇなによ〜リザ、好きな男子でも出来たぁ?その子の胃袋をカレーでがっちり掴んじゃう作戦なのぉ?」

「そ、そんなんじゃないよ、違うよっ……!ただ自分の料理のレベルを上げたいだけだから……」

「なーんだ。まぁ別に私なんかで良ければいいわよ!リザにはいつもお世話になりっぱなしだしね!たまには姉らしく、しっかりと教えてしんぜよう!」

「ふふっ……ありがと、お姉ちゃん大好き!」



(ふん……なによ。本当に男の子の胃袋掴んでんじゃない……)

「……?ミスト、さん……?」

「……ぅ……?あ、ごめん。えっと、なんか……ナミダガ……」

ミストの意思に反して出る涙は、もう1人の人格……レオの流しているものである。
普段は表面化しない弟だが、意思は持っているのでこうしてミストの体で感情表現をしてしまうことがあるのだ。

「……ご、ゴメンナサイ。チョット、セキヲハズス……」

「え、あ、はぁ……」

いままでの軽やかな女声とは打って変わって低く男らしい男声を発しながら、ミストは席を立って部屋を出て行った。

(……今の反応、なんだ?なんでリザの話で何も知らないミストさんが泣くことになるんだ……?それとも、まさか……)

661名無しさん:2019/11/30(土) 12:41:50 ID:/SfZFAjk
「……到着しました。ここが魔の山の入り口です。」

「うわあぁ……最近まで禁足地だっただけあって、なんか雰囲気ありますねぇ。……てかめちゃ寒……!」

少し前から降り出した雪とそびえ立つ大山から吹き下ろす凍える風によって、魔の山の温度は氷点下。
防寒用の忍び装束を着込んできたヤヨイでも、震えが止まらないほどの寒さである。

「うひいいぃ寒寒寒寒っ……!な、なんでササメ先輩はそんな薄着っぽい装束で全然へーきなんですかぁ……?」

「私は雪人と人間の間に生まれたハーフです。寒さに対しては雪人と同等……この程度で動きに支障が出ることはありません。」

ササメの忍び装束は戦闘用のものなのだが……
大きな胸は半分露出していて足にはこれまた大胆に切り込まれたスリットが入っていて、太ももしっかりと見えている。
なんでも大切な場面での儀式、儀礼用の女性用忍び装束らしいが、ヤヨイに言わせれば……

(このくノ一……スケベすぎるっ!)

ということである。まぁ寒くないならなんでもよいが。



「……魔の山に生息しているのは雪人だけではありません。数は少ないといえどこの極限環境で凶暴化した魔物もおります。ヤヨイさん、ここからはより一層の注意を。」

「りょーかいでっす!なんか見つけたらすぐササメ先輩に報告します!」

「はい。よろしくお願いいたします……」

入山と同時にササメの目つきが変わる。
今もこの山のどこかで、母は雪人たちに犯され続けているかもしれないのだ。
本来のササメの引っ込み思案な性格は心の奥深くに閉じ込め、修行で培ったくノ一としての精神と心構えで挑まなければならない。

(わわ……雰囲気がいつもの優しいササメ先輩じゃない。こっからは絶対零度本気モードのササメ先輩だ!あたしもしっかり気合い入れ直さなきゃ……!)



「ガルルルルルッ!」

「ササメ先輩!前から来ますっ!」

「承知……氷雨!雪雲!」

2人の前に現れたのはこの環境で凶暴化したホワイトウルフ。肉に飢えた彼らの牙に囚われたが最後、骨以外はすべて喰らわれてしまうという。
肉に飢えたこの恐ろしい魔物に臆することなく、ササメは氷で生成した日本の刃を構えた。

「氷舞雪華刃!!」

「ガルルル……ゲオオオオオンッ!?」

氷の風を纏い魔物の視界を奪いつつ、舞うように懐に入っての一閃。
獣は耳障りな叫び声をあげながら絶命した。

「……終わりました。」

「か、かっこいい……!これが氷刃、ササメ先輩の剣技!すっごい圧倒されますっ!」

「いえ、私は修行中の身です……技としてもまだまだ未熟。そこまで讃えられるほどのものではございません……」

「わーもうササメ先輩いっつも謙遜しすぎですよぉ。闘技大会では運が悪かっただけで、あたしの周りみんなササメ先輩が優勝するって思ってましたもん。あたしもササメ先輩だけには勝てないだろうなぁって思ってたし!」

「あ、ありがとうございます。闘技大会での結果は散々でしたが……」

「相手なんか規格外の魔物っぽかったですもん!あんなのルール違反ぽいしノーカンですよ!ノーカン!」

「いえ、どんな敵であろうと敗北したことは事実……私の討魔忍としての実力が足りていない結果でした。」

「おぉう……ササメ先輩、めっちゃストイック……」

あの試合の後、自分の実力不足を感じたササメの生活は毎日修行に明け暮れる特訓の日々だった。
それでも唯を助けに行った際はスピカの圧力に敵前逃亡した。
戦っても無駄だというアゲハの冷静な判断だったとはいえ、討魔忍としての屈辱からは逃れられない。
より一層特訓に力を入れ、研鑽を重ねるうちに、周囲からも次期の五人衆に入るのではないかと言われるほどの実力者となった。

(私のこの力は卑劣な雪人の父に与えられた忌むべき力……この力でお母様を助けない限り、私の力は呪われたまま……絶対に助けてみせます。お母様!)

662名無しさん:2019/12/01(日) 20:29:23 ID:???
「ササメ先輩はすごいなぁ!この分なら、お母さんもパパっと助けられちゃいそう……あれ?」
「ヤヨイちゃん。どうかしました?」
「……見てください。あそこ……」
あっさりとホワイトウルフを撃退し、先に進もうとするササメ。
だが、ヤヨイが何かを見つけたようだ。

「ガクガクブルブルですわー」

……ヤヨイの指さす先に居たのは、ピンクのツインテール髪の小人だった。
身長はおよそ7〜8センチほどで、キャンディのようにつぶらな瞳、大福のようにぷにぷにのほっぺ。
木の根の間に入り込み、うずくまって震えている。

「妖精、でしょうか。こんな所で、一人でどうしたんでしょう……ヤヨイちゃん、よく見つけましたね」
「たしか妖精って、大人になると見えなくなるんですよね?
私も小さい頃に見て以来ですけど……この『精霊刀』のおかげかな?
……おーい。大丈夫だよー、もう怖いオオカミはいなくなったよー」

ヤヨイが優しく声をかけると、妖精は恐る恐る顔を上げる……

「……ほんとうですわ! あなたたちがやっつけてくれたんですの? ありがとうですわー!」
「ふっふーん。そうだよ!あのお姉ちゃんは、すっごーく強いんだから!(ドヤア)」
オオカミがいなくなって喜ぶ妖精に、ヤヨイはなぜか自分の手柄のようにドヤ顔するのであった。

「もう。ヤヨイちゃんったら……ところで、あなたは……?」
「おかしのようせいですわ!おかしをくれたら、イタズラしますわよー!」

「イタズラはされたくないですけど……お腹が空いてるみたいですね。ヤヨイちゃん、何か持ってます?」
「ハロウィンはだいぶ前に終わったんだけどなあ。お菓子、お菓子……うーん。今、こんなのしかないです」

大荷物の中からヤヨイが取り出したのは、チョコスナック菓子「ダーク・ライトニング・ニラ玉風味」。
新発売!と聞いて勢いで買ってはみたものの、食べてみたらあまりにもあんまりだったので、一口でギブアップしてしまったのだ。

「……うおおおおう!!これ、めっちゃマイウーですわ!!おれいにおともしますわマイマスター!」
「え?気に入ったの!?……これが?」
「なんだか、懐かれちゃいましたね……」

こうして、お菓子の妖精?を旅のお供に加えたササメとヤヨイは、
改めて、魔の山の奥にいるという雪人の住処を目指す。

「ササメ先輩!この子、モンスターボー…じゃなくて、精霊刀の宝珠に封印して持ち歩けるみたいです!めっちゃ便利!」
(なんだか、どんどん緊張感が無くなっていくような気が……)

663名無しさん:2019/12/09(月) 02:05:01 ID:iPn0cwSg
「……この涙はなんなのよ……なに泣いてるのよエロがっぱ……あんたはやっぱり反対してるっての?リザを殺すことに……」

レオの人格が出てくることはほとんどないミストにレオの感情などは伝わらない。
ごくまれに体と心が表面化することもあるがそのような場合はミストの人格が消えてしまうので、姉と弟でそれぞれの意思疎通は不可能となっている。

「この前会ってもうわかったでしょ……人殺しなんかしてる時点でリザは話して和解できるレベルじゃないのよ。もう立派なトーメント王の操り人形……だからこそ、私たちが終わらせないといけないの……」

意思に反して溢れ出てきた涙を拭い、ミストはヤコの元へと戻った。



「あ、ミストさん……大丈夫っすか?」

「ええ。ごめんなさい。私の体はちょっと不安定だから……そんなことよりなんだけど……ステラをあなたに預けるのはやっぱり難しい。」

「え……そんな……」

おそらくリザはステラが奴隷収容所で酷い目にあっていると思い、闘技大会で優勝しヤコに解放を託したのだろう。
実際は自分が保護しているので問題ないのだが、これもリザが家族を大切に思っているからこその行動で、その意思は痛いほど伝わってくる。

だが、ステラをヤコに預けるのはやはり許可できない。
自分も外に連れて行こうとしたがステラは心に大きな傷を負っており、生活も難しい状態だ。
見ず知らずの人間に預けるわけにはいかなかった。

「……ほんとになんとかなりませんか!?リザはステラさんが奴隷として酷い目に合っているのを助けたくて、この手形を俺に託したんです!闘技場でたくさん痛い思いをしながら……必死で手に入れたものなんですっ!」

「……悪いけどできないわ。もう帰って。」

「いいえ、その提案を無下にはしないで。ミスト。」

「……!?」

ミストが振り返ると、そこには収容所にいるはずのステラの姿があった。

「あなたのお話はすべて聞かせていただきました。私がリザの母親のステラです。こっちはミストとレオ。2人の精神がミストの体に入っていて……リザの姉と兄です。」

「……え?……ええっ!?ミストさんがリザのお姉さん……?目元とかすげえリザに似てると思ったけど、本当に……?」

「ち、ちょ、お母さん……なに言って……!」

「こんなにリザのことをたくさん教えてくれたのよ。私たちも正体を明かして、もっとたくさん教えてもらいたいじゃない。……今のリザのことを。」

「え……じゃあ、残影のシンって……まさか……」

「……はぁ……もういいか。わたしがその……残影のシンよ。」

驚き尽くしのヤコにすべてを告げたステラ。
ミストはリザを殺すために直接対決をしたことは母親にも言っていない。
もちろん、リザを好いているヤコにも言うつもりはない。

(……このヤコっていうのがリザのことをお母さんに吹き込んでいったら……余計戦いづらくなる。やりづらくなるだけじゃない……!)

664名無しさん:2019/12/15(日) 13:19:57 ID:???
「雪山って素敵ですよねー、どっかにア〇雪みたいな氷のお城でもないですかねー」

「〇ナ雪といえば、まさか2でエルサとアナが最後に【ネタバレ】するとは思いませんでしたわね!最近のデズニーはああいうオチが多すぎますわ!」

「えっ、アナとエルサって【ネタバレ】するの!?えー、私まだ見てないのにー!!」

「ふっふっふ……実は江戸川コナンは工藤新一ですわ!!あとナルトの父親は火影ですわ!!あとあと、鬼滅の刃でこれから死ぬキャラは……」

「わーー!!これ以上ネタバレしないでーー!」

「モガモガ」

「ふふ……」

緊張感のないやり取りをするヤヨイと精霊を微笑ましそうに眺めるササメ。思えば、物心ついた頃から、母を救うために修行漬けで、あまり人と関わって来なかった自分にとって……ヤヨイのような天真爛漫な後輩が慕ってくれるのは、ありがたいことだ。

「ヤヨイちゃん、お城ならありますよ」

「え?」

「ヤヨイちゃんが気に入るようなロマンチックなものではないかもしれませんが……ほら」

そう言ってササメが指差した先には……雪のせいで見えにくいが、確かに氷でできた城があった。
少々武骨な作りで、ヤヨイの憧れるようなおとぎ話に出てくるような城ではなかったが、氷の反射で美しく光る城に、ヤヨイは釘付けになった。

「ふわぁ!!?本当に氷のお城だ!綺麗ーー!」

「まるでナル〇ア国物語ですわ!」

「見た目だけなら綺麗ですが……あれが雪人の住処です。ここからはより一層、気を引き締めてください」

「了解しました!不肖ヤヨイ!お仕事モードに入ります!」

「ではゆっくり、安全に……見つからないように潜入しましょう」

(……私一人ならば、多少無理をしてでも正面から押し通りますが……ヤヨイちゃんにそんな無茶をさせるわけにはいきません)

キリコの予想通り、足手纏い……もとい仲間がいるササメは、無理して最短の道を正面突破せずに、面倒でも安全な方法を選んだ。


「雪に紛れて潜入します。ヤヨイちゃん、しっかり付いてきてくださいね」

「任せてください!なんかお菓子の妖精が仲間になってから、ステルス任務ができそうな気がしてきました!」

こうして一行は、雪人の闊歩する氷の城の中へと潜入していった。

665名無しさん:2019/12/15(日) 15:26:58 ID:PxEKczk2
「もう……勝手についてきて盗み聞きなんて……」

「ヤコくんは私を訪ねてきたのよ。どんな要件なのか気になるのは当たり前じゃない。……あ、くん付けで呼んじゃったけど、いいかしら?」

「も、もちろんっしゅ!」
(うおお……リザのお母さん、めっちゃキレイ……)

好きな女子の姉と母親の前で、緊張して思い切り噛むヤコであった。



「それで、リザは私を収容所から助けるためにミツルギの闘技大会を?」

「あ、はい。あいつ今メチャクチャすごい強い女の子になってて、闘技場に出てた強い奴らを全員倒して優勝したんですよ。その後いろいろあって離れ離れになって、あいつにこれを託されて……」

「そう……各国の歴戦の猛者たちが集うミツルギの闘技場で優勝するくらい、リザは強くなったのね。」

「……………」

リザが優勝したことは、ミストはステラに伝えていなかった。
というより、トーメントの兵士として悪逆非道を続けるリザのことは母にはほとんど伝えていない。
リザに会ったと報告したときも、罪のない人を手にかけるなと注意しただけ。と言っただけだ。

「リザのこと、やっぱり私になにか隠していることがあるようね。ミスト。」

「え……?」

「あなたはミツルギの兵士でしょう。そんなことがあったのなら絶対に知っているはずよね。どうして私に教えてくれなかったの。」

「そ……それは……わ、私は遠征中でムラサメにいなかったから、わからなかっただけで……」

「いいのよ。私に隠した理由は今聞かない。それはまた二人でじっくり話しましょう。」

(あ、あれ……?やべ、俺なんか雰囲気悪くしたのかな……なんか話を変えないと!)

俯いてしまったミストに困惑するヤコ。
リザのことをできる限り隠しておきたいミストと、リザのことをもっと知りたいステラの距離感が、ヤコを挟んですれ違いを起こしているのだった。



「そ、それで……!俺はリザに頼まれて、ステラさんをここから出すために来たんです。サクヅキ奴隷収容所はアウィナイトに酷いことをする収容所だって話だから……」

「そうなのね。ヤコくん……リザと私のためにこんなところまでありがとう。でも……私をここから出してどこに連れて行くの?」

「とりあえず、アウィナイト保護地区でいいかなと思ってます。リザが作ったアウィナイトのための安全な場所なんで。」

「あ、その話は……!」

「アウィナイト保護地区?リザが作った場所?……トーメントの兵士になったリザは、そんな場所を作っているの?」

「……あ、あれ。ミストさんもステラさんも知らなかったんですか?リザはトーメントの兵士になって、俺みたいな行き場のないアウィナイトを保護するための場所を作ってるんすよ。衣食住も全部トーメントが負担してくれるし、一日中トーメントの兵士が盗賊たちが来ないか監視してくれてるんです。」

「……ミスト。ヤコくんが言っていることは本当なの?」

「……………………」

「どうして黙っているの?リザがやっていることが私に伝わると、なにか不都合があるの?」

「そ、それは……」

殺すべき妹のことなど、母に伝える必要はない。
そう考え情報を与えていなかったが、ステラはこの状況で昔のように行動的な性格を覗かせ始めていた。

666名無しさん:2019/12/15(日) 17:26:18 ID:???
「……んっ……」

久しぶりに随分と長く眠った気がする。
覚醒し始めた意識で目を開けると、自分の部屋の天井だった。

「あ、リザちゃんおはよう。体は大丈夫?」

優しい声がした方に目を向けると、本を閉じ膝の上に置いたエミリアがベッドの脇に座っている。
自分の体の状態と魔力の残滓を感じたことで、エミリアが私を治療してくれたことが分かった。

「エミリアが私を助けてくれたんだね。……ありがとう。」

「うん……舞ちゃんが私達のことを見逃してくれたおかげで、助けることができたよ。」

柳原舞……サキの手下くらいにしか考えていなかったけれど、あそこまで強いなんて。
サキのことで混乱していたこともあるけれど、あのスピードとパワーの前には正直、手も足も出なかった……と思う。
これから戦争になるのに、私はまだまだ弱いままみたいだ。



「エミリア……この前はごめんね。」

「え?なんのこと?」

「王様にアイナのことでお願いしに行ったとき……私がエミリアを突き放すようなこと言ったでしょ。私のことはほっといてって。……だからもうエミリアには嫌われたと思ってた。」

「あぁ……そんなこと気にしてたの?あいにくだけど、私はリザちゃんに何を言われたって嫌いになんかならないし、ほっとくなんてもってのほかだよ?ずっとリザちゃんの側にいて、助けてあげるって決めてるんだから。」

いつもと変わらない笑顔で、そんなことを言うエミリア。
あのときは正直ちょっと鬱陶しいと思ったけど、今はその優しさがすごく安心するし、嬉しいと感じる。
自分のことを好きでいてくれる人って……やっぱり大切にするべきなのかな。

「……ねぇエミリア。教えてほしいことがあるの。」

「ん?なあに?」

「……エミリアをガラドから誘拐してトーメントの捕虜にした私のことを、どうしてここまでして支えてくれるの?もう拘束はしてないし、帰ろうと思えばガラドの家族にも会いに行けるのに。」

「……そんなの、簡単なことだよ。アウィナイトのためにたった一人で戦ってるリザちゃんの助けになりたいの。」

「………………」

「私ね、ずっと自分の生きる目的とか考えずにだらだらだらだら生きてたんだ。ガラドのレジスタンスに入ったのも、たくさんお金がもらえるって言われたからよく知らずに入ってただけだし……トーメントを倒したいとか全然考えてなかった。だからトーメントに対しても特になんとも思ってないの。二人にさらわれるときはちょっぴり怖かったけど、結局リザちゃんに酷いことはされてないもんね。」

「………………」

「その後ライラのことがあった後に、リザちゃんは私をガラドに返そうとしてくれたけど……自分の正義のために一人で戦ってるリザちゃんを放ってまたもとの生活に戻るのは、やっぱり嫌だった。……私がリザちゃんを助けてあげたいって初めてちゃんと思ったときに、あの言葉が出てきたの。」



『私は、リザちゃんの力になりたい。その苦しみと悲しみを…せめて、一緒に背負ってあげたい。
だから…お願い。私をこのまま、王都へ連れて帰って』



「だ、だからね……!ちょっと鬱陶しいと思われるかもしれないけど、私はいつでもリザちゃんの力になるよ。……ううん。リザちゃんの力にならせてほしい、が正しいかな。」

「……私なんかにそこまで言ってくれるのはすごく嬉しいけど……本当にそれだけなの?私の側にいても見返りもないし、エミリアが楽しいこともないんだよ?」

普通の女の子なら、この前見た女子高生たちのように友達と遊んだり恋をしたりしたほうが楽しいはずだ。
自分のように血生臭い人間の側にいるよりは、そっちのほうがエミリアにとって幸せなのではと思える。

「もう……リザちゃんってほんっとーーーーに現実的だよね!自分のことを助けてくれてるんだから、素直にそのまま甘えればいいのにぃ!……なんですぐに理由を求めちゃうのかなぁ。」

「……ごめん。私がそういう性格だからかな……」



「……じゃあ、鈍感なリザちゃんのために、もっとずっとわかりやすくしてあげるね。」

「え?な、なにっ……?んゆぅっ!?」



立ち上がったエミリアの唇が、私の頬にそっと触れて。
今までの人生で発したことのない声が、自分の口から漏れた。

667名無しさん:2019/12/15(日) 19:10:44 ID:???
「えっ、えっ……ええぇっ!?」

私の思い切った行動を受けて、リザちゃんは耳まで真っ赤になって私のことを見ている。
よかった……冷めた目で見られたり後ずさりされたりしたら、ちょっとだけ心が痛いから。

「えへへ……驚かせてごめんね。」

「い、いや、いやいやいやいや……!そんな……ええ!?」

「あはははっ!流石のリザちゃんでもびっくりするとそういうリアクションするんだね!これは貴重だなぁ。」

「だ、だ、だってだってだって……!」

あーあ。
本当は明かすつもりなんか全然なかったのに、リザちゃんが鈍感すぎてついやっちゃった。
こんなことしたって、リザちゃんを困らせるだけなのに。
私の思いなんかリザちゃんにとっても……



私にとっても、どうでもいいのに。



「……ごめんね!あの、えっとー冗談!リザちゃんの驚く顔が見たくてついやっちゃったの!ごめんね……?」

「……エミリア……あの……私……」

「い、いいよリザちゃん深く考えなくてもー!ただのいたずらだからさ!ね?全然気にしないで!」

「……………」

リザちゃんは言葉を選びかねて、複雑な表情のまま沈黙してしまった。
私の演技なんか見破ってるんだろうなぁ。もうほんと私バカすぎる。なんでリザちゃんを困らせちゃうのよ。
バカバカバカバカバカバカバカ。
バカバカバカバカバカバカバカ!!!
もう一刻も早くリザちゃんの前から消えるしかないや。

「あ!そ、そろそろご飯の準備をしなきゃ!リザちゃんも食欲があったら食堂に来てね!じ、じゃあね!」

「……エミリア……」

その言葉の続きを聞くのが怖くて、私は急いで部屋を飛び出したのだった。





「すみません!遅れましたぁ!」

「エミリアちゃん一体どこ言ってたの!?20分も遅刻よ!」

「ご、ごめんなさいサーリャさん!すぐ食堂清掃行ってきます!」

「そっちは他の子に行かせたからいいわ!すぐ野菜を切って!メニューは机の上にあるから、それにあわせて手順通り!30分で終わらせなさい!」

「はい!」

こんな気持ちでも、しっかり仕事はやらないと。
さっきのリザちゃんの表情が頭にこびりついたまま、私は料理の仕込みを始めた。

668名無しさん:2019/12/21(土) 10:41:18 ID:???
一方。雪人の城の最奥部にて。

「『銀帝』陛下……恐らくはミツルギの討魔忍。見張りのホワイトウルフを倒したのと同じ奴らかと」

……ササメ達の侵入は早くも察知され、雪人達の長『銀帝』に伝えられていた。

玉座に座る男は、『銀帝』と呼ばれていた……
青白い肌に、冷たい印象ながらも端正な顔立ち。若く見えるが、
雪人の寿命は人間よりはるかに長いため、外見から年齢を推し量ることは難しい。

「あのテンジョウとかいう人間の新しい皇帝が、禁足の令を解いたそうだな。
さっそく我らを討伐しにきたか。……下らん。お前達で始末しておけ…私は忙しい」
「ははっ!仰せのままに…!」


「……戻ったぞ、『フブキ』」
「………………………………」

部下たちを下がらせた銀帝は、自身もまた自室と籠る。
広い部屋の中央に、巨大な氷柱が飾られている。その中にはなんと、一人の女性が氷漬けにされて封じ込められていた。

雪人の魔力で作られた氷の檻に囚われた者は仮死状態にされるため、閉じ込められた時から歳を取ることは無い。
故に実年齢は定かではないが…見た目は、20より少し上くらいか。身に着けているのはミツルギの、白い儀礼用忍び装束……

「何者かが、城に侵入したようだが……案ずるな。
手下どもには、丁度いい退屈しのぎになる……じきに始末されるだろう」

(………いけ、ません……)

実際に声を発したわけではない。
『銀帝』は精神感応の力を持ち、氷漬けの女性と意思を疎通する事が出来る。
……だが、女性の心はどういうわけか頑なで、問いかけても答えてくれることは珍しい。

まして、こうして向こうから話しかけてくるのは何年ぶりの事だったか……

(その、人から……貴方と、同質の……雪人の、力を感じます…………間違いない。……あの子は、私達の……)

「……何?……そうか。20年前、お前が産み落とし、密かに逃がした娘だな。
生き延びて忍びになり、母を奪ったこの私を殺しに来たというわけか。
あるいは、裏切者であるお前を殺しに来たか…………クックック」

(ち……ちが、う……私には、わかります。きっとあの子は……)

「なんとなんと好戦的な生き物か。半分雪人の血が混じっていても、これだ……
やはり人間というのは、救いがたい。

いずれミツルギも……いや。人間たちの国など全て滅ぼし、お前以外の人間など根絶やしにしてくれよう。

雪人だけの、完璧で美しい世界が完成した、その時こそ……私は理解し、お前に与える事が出来るだろう。
かつてお前の言っていた『愛』というものを……フフフフ。はははははははは!!」

(………やめ、て……戦っては、いけない……貴方とあの子が、実の親子同士が、殺し合うなんて……!!)

669名無しさん:2019/12/24(火) 02:35:25 ID:???
『銀帝』が自室でフブキと思念をかわしていた、ちょうどその頃。
城の警備兵たちが詰め所にたむろし、勤務中にもかかわらず、酒を飲んでクダを巻いていた。

「銀帝様は、まーた部屋に引き籠って人間の女とイチャイチャしてんのか…」
「あーあ。お偉いさんはイイよなー。こんな山奥じゃ、俺ら低級雪人は出会いなんてねーもんなー!」
「だなー。日付変わって、もうクリスマスイヴだぜ。今年も俺達、彼女ナシのままなのかな……」

「あーあ。俺、一度でいいからJKの太股やらあんな所やらこんな所やらさわりまくって、氷漬け痴漢プレイしてぇ!」
「俺は、美人でかわいくておっぱいでかくて真面目で健気なお姉さんをボロクソにいたぶって、ベアハッグしながら全身嗅ぎまくりてぇ!」
「みんな溜まってんなぁ。じゃ、俺は……この位のサイズのちっちゃい妖精ちゃんを、舌でペロペロして口の中でくちゅくちゅして最後にゴックンしたいかなー」
「なんかお前が一番ヤバそうなんだが」
「なんで俺らに彼女出来ないのかよく分かった気がする」

「………。」「………。」「………。」

「……サンタさんにお願いしようか」

例によって、誰からともなく、そんな言葉が出た。


だが……

「こらーっ!せっかくの聖なる夜にえっちな事を考えてる悪い人達は、このサンタクロースが許しませんよーっ!」
儀式を終えた雪人達の前に現れたのは、髭の生えたおっさんではなく、小学校高学年くらいの幼い少女であった。

「うわっ びっくりした」
「なんだこの女の子……どっから入って来た?」

サンタと名乗るだけあって赤い服を着ているが、白いファーがそこかしこにあしらわれた赤いワンピース。
胸元やおへそがガッツリ開いてたりすることもなく、太股もきっちりタイツで守っていて、可愛らしくも上品さを保っている。
とってもあったかそうで可愛らしい出で立ちだが、やっぱりサンタとしては間違いなく間違っていた。

トナカイのぬいぐるみ型リュックサックを背負い、腰に提げているのは白いポーチ型のプレゼント袋。
伝統的なサンタコスを踏襲しながらも、いろいろと現代風にアレンジされていて……

(あ、やべえ……)
(シコリティたけぇ……)
(この子供子供産めるわ)

おっさん率の高い雪人達に、ものすごく刺さった。……ロリコンと思われるのは嫌なので、みんな表には出さないが。

「え?もしかしてこの子がサンタ?……いやいや。まさか」
「もっと邪悪な感じのおっさんが出てくると思ったのに」

「………えっと、つまりですね。
本来、善のサンタと悪のサンタが一年交代で現れる決まりになってるんです。
だけど一昨年、私のパパ…善のサンタクロースが、事故で亡くなってしまって……ぐすん……
だ、だから、私が代わりにサンタクロースとしてやってきたんです!」

「へー。話はだいたいわかった」「後付け感が半端ないけど」
「そのリュックとかポーチに、プレゼントが入ってるの?」

「あ。リュックはお菓子とかゲームとかの私物入れで、プレゼントはこっちのポートです!
でもダメですよ!これは良い子のためのプレゼントですから!」
(ドスッ!!)
「えっちな事考えてる悪いおじさんにはごぶっ!?」

雪人の一人が無言でサンタガールの髪を掴むと、細くくびれたお腹に思いっきり拳を叩き込んだ。

670名無しさん:2019/12/24(火) 02:42:35 ID:???
「っげ……ぁ……な、に…を……!」
何の前置きもなく腹パンを喰らったサンタガールは、悶絶しながら地面に這いつくばる。

「……つまり、このポーチさえ奪っちまえば」
「おめーは単なるメスガキ、って事だな。ヒッヒッヒ……!」

別の雪人が、サンタガールの頭をぐりぐりと踏みにじりつつ、ポーチを奪い取った。

「だ、ダメッ……それはパパが私にくれた、大切な…」
「ヒッヒッヒ……ちょーっと大人しくしてようなぁ?」
(ドスッ!!ザク!!)
「ぎゃぃっ!!」

サンタガールの伸ばした手の甲に、鋭い氷柱が突き刺さる。
下級と言えども、雪人達はみな強力な氷の術の使い手。プレゼント袋を奪われたサンタガールに対抗する術はない。

「ケツの穴に氷柱突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしてやろうか?……ヒッヒッヒ!一回やってみたかったんだよなー!」
「いやいや、それよりもこのポーチで……お、生意気に年齢フィルター掛かってやがる。解除解除、と……」

少女の大切なポーチを好き勝手に弄り回し、何やら設定を変更する雪人。その結果……

(ゴウン ゴウン ゴウン……)
(うねうねうねうね ぐちょっ)
(バチバチバチッ!! ブイーーーン)

……少女の可愛らしいポーチから、見るからに禍々しい様々な道具が次々と姿を現す、悪夢のような光景が繰り広げられた。

「ひっ……な、なんですか、それ……一体、どうする気ですか……」
「けっけっけ……1個ずつ説明してやろうか?まずこれは、パンツの下にこうやって装着して……スイッチオン!」
(グォォォォォォオオン!!)
(ドゴドゴドゴドゴドゴ!!)
「ひぁあ"あ"ああ"ああ"ああ"ああああっ!!!」

こうして善良なる『聖なる夜』の使者サンタガールは、『邪悪な夜』の最初の生贄となってしまったのであった。

「ピコーン 侵入者あり 女3人  雪人(ハーフ)1 人間1 妖精1  容姿レベル 特A 〜 A-」
「おや?サンタレーダーの様子が……」
「ヒッヒッヒ……サンタちゃんを一通り楽しんだら」
「エモノ狩りと行くか……ヒッヒッヒ!」

……そして今年も、惨劇の幕が開く。

671名無しさん:2019/12/29(日) 14:40:14 ID:???
通風孔、屋根裏など、人目に付かない場所を選んで城内部を探索するササメとヤヨイ、そしてお菓子の妖精。

狭い通風孔を這い進むヤヨイの目の前には、前を行くササメの姿があった。

(うーーん。こうして見ると……ササメ先輩の尻、もんのすごいな。
というか上忍クラスの人達って、みんないい身体すぎじゃない?
考えてみればキリコ先輩もけっこうな物をお持ちだし……)

「?……ヤヨイちゃん、妖精さん、どうかしました?」
「い、いえ。何でもないです……」

あと5〜6年でこんなんなれる気がしない。
軽い絶望感を覚えつつ、ヤヨイはひきつった笑みを浮かべるのであった。

「でっかいケツですわー」
「…………。」
「ちょ…妖精ちゃん、言い方ー!!」
一方で妖精は容赦なかった。

それはさておき。


「……ここは……何の部屋なんでしょう。氷の塊がたくさん置いてありますが……」
「!?……これって……まさか……!」

二人&妖精は、城の地下に広間らしき部屋を見つけた。
だだっ広い部屋の中に、氷でできた柱が乱雑に置かれている。
なんと、その一つ一つにが氷漬けにされた人間が閉じ込められていた。

『氷柱の間』と呼ばれるその部屋は、雪人達が、攫ってきた人々を閉じ込めておく部屋……すなわち牢獄だった。

雪人達は、人里から攫ってきた人間を仮死状態にし、氷に閉じ込め永遠の悪夢を見せる。
悪夢に苦しむ人々の嘆き、悲しみといった負の感情が、雪人達の糧となるのだ。

「…か、糧って……食事とかじゃなくて、人間を苦しめることで養分を得るんですか?」
「結構ヤバい魔物だったんですのね、雪人って」
「ちょ、言い方ー!!」

「……ええ。人間から養分を得るタイプの魔物……バンパイアやサキュバスに近い種です。
ちなみに私はハーフなので、普通に食事をとりますが……」
「……ぜ、ぜひ今後ともそうしていただきたく……あ。そうだ。ササメ先輩。攫われた人がここにいるって事は……」

「もしかして……お母様も、この中に……!?」

ササメの母親がここに囚われている可能性に思い当たり、改めて周囲を見渡す。
氷柱は無数。この中から、ササメの母親を見つけ出すのはかなり難しそうだ。
ササメは母親の顔を知らないし、何より……

「ぎっひっひ!見ぃーつけた……ミツルギの雌ネズミちゃん達!」
「来年の干支がもう出てくるなんてなぁ……ぐひひ」
「クリスマスは終わったけどメリークリスマスだぜぇ!!」

こうして雪人に見つかってしまったら、じっくり探している時間はない…!

672名無しさん:2019/12/29(日) 14:44:16 ID:???
【イエティ】
身長2〜3m程の、白い毛むくじゃらの巨猿。
知能は低いが、人間を遥かに超えるパワーを持つ。
主に極寒の山奥で生息しているが、雪人達が捕獲して使い魔、下僕として飼育する事もある。


「ゴガァァァァッ!!」
ササメとヤヨイに、白い魔猿の群れが猛然と襲い掛かる。

「来ますっ先輩!」
「ヤヨイちゃん達は下がって!」
「がんばってですわー!」

氷の刀『氷雨』『雪雲』を生成し、迎え撃つササメだが……。

「グゴォォォォッ!!」
イエティ達の様子が、何かおかしい。
皆怒り、あるいは興奮で凶暴化しているようだ。
雪人に着せられたと思われる赤いサンタ服からは、何か怪しい魔力を感じる。

(正面から受けるのは危険そうですね……ならば)
「氷雪刀……凍波閃!!」
ササメは刀から強力な冷気を放出し。イエティ達を凍らせようとする。
だが。

(パキイイイインッ!!)
「「ゴアアアアアアァッ!!」」
「なっ……弾かれた!?」
……冷気は、赤いサンタ服によって無効化されてしまう。

「先輩っ!?……それなら、これでっ!!」
後衛のヤヨイが、敵の進路にマキビシをばらまく。
対魔獣用の大型のもので、人間が踏めば足を貫通してしまう危険な代物だ。まさに非人道兵器!
しかし……

「「「グゴォォォォォオオンッ!!」」」
「うそっ!?全然効いてな……きゃあっ!!」

マキビシが脚に刺さっても、イエティ達は物ともせず襲い掛かって来る!
たまらず横っ飛びで回避したヤヨイは、その雪崩のような勢いに戦慄する。

「クックック……イエティどもには、サンタ特製『酒と料理』を振る舞ってやった。
ただでさえ脳筋バカだったのが、更に狂戦士化してパワーアップだ……フルボッコにされちまいな!!」


(ドゴッ!!)
「く、っ……!!」

そんな中……イエティの一撃を、正面から受け止めたササメ。
防御してもなお身体が弾き飛ばされ、刀を持つ手がビリビリと痺れる。

イエティ達の持っている武器は…七面鳥の丸焼き、ベル、クリスマスツリー、ブッシュドノエル……のような形の、巨大ハンマー。
ソシャゲのクリスマス限定武器のようなふざけた見た目だが、いずれも超高性能かつ『氷属性特効』持ち。
特にササメにとっては、一撃でもまともに喰らえば戦闘不能必至の凶悪兵器である。

「グロオオオオッ!!」
ガキィィィィンッッ!!……ミシッ!!
「うぐっ……!!」
傘に掛かって攻めてくるイエティ達。その二撃目を受けて、氷の刀に亀裂が走る。

「ゴアアアアアッ!!」「ウゴオオオオオオ!!」
ベキイッ!! ガキンッ!!
三撃目、四撃目で氷雨と雪雲が粉々に砕け散った。

「ササメ先輩っ!?……避けてっ……!!」

……ササメは、避ける事が出来なかった。なぜならば。

ササメの背後には、大きな氷の柱がある。
その中に閉じ込められているのは、ササメ達と同じ討魔忍の女性……
もしかしたらササメの母親かも知れないし、そうでないかも知れない。
だがいずれにしても……イエティ達に壊させるわけにはいかなかった。

673名無しさん:2019/12/29(日) 14:54:27 ID:???
「砕氷星鎖っ!!」
(バキイッ!!)
なおも襲い掛かるイエティに、ササメは必殺の鎖分銅を繰り出す。
雪人の魔氷をも砕く、ササメの切り札ともいえる武器。
こんなに早く、雪人どころかただの魔物相手に使う事になろうとは、全く想定していなかった。

「グロロロッ………!!」
……確かな手ごたえはあった。
死なない程度に加減したとはいえ、いかに屈強なイエティと言えども、鉄の塊で足と分の急所を叩かれれば、気絶は免れないはず。
だが、次の瞬間……

「えっ………」
分銅を受けたイエティがギョロリと目を見開き、ササメの鎖を勢い良く引っ張る。
鎖ごと身体を引っ張られて、体勢を崩したササメは……………

「グオオオオンッ!!」「バルルルルルッ!!」

……前後から迫る敵の攻撃に対し、完全に無防備になった。


「ヒヒヒッ!!ようやく捉えたぜ……こいつで決まりだ」
イエティ達を操る雪人が、物陰で下卑た笑みを浮かべる。

「「バオオオオオオッ!!」」
「……く……氷壁召喚…!!」
(バキィィィィィィインッ!!)
ササメも氷術で防御を試みる。
だが氷属性特効のクリスマス武器と、狂戦士化したイエティ達のパワーの前には、ほとんど意味をなさなかった。

(ドッ!!……ゴォォォォォン……ッ!!)
「うぐ!!……ごはあぁっ!!」
後方からの巨大ベルと前方からのブッシュドノエル型ハンマーが、ササメの背と腹に直撃。
視界がグラグラと揺れ、胃液が逆流し、手足の感覚が喪われ……崩れ落ちるように、その場に膝をつく。

「お、げっ…………しまっ……!!」
「クックック……そういや、もう年越しの時期だっただなぁ……そっちも後でやらねえと、なっ…!」

「グロロロッ……」
立ち上がれないササメの頭上を、赤い影が覆う。
(ドカッ!!)
「うっ……!!」
巨大なブーツでの踏み付けを、辛うじてかわすササメだが……。

立ち上がろうとするが、身体に力入らない。
折れた肋骨から激痛が走り、内臓にも深刻なダメージを負っていて、少し身じろぐだけで血混じりの胃液が込み上げた。

……氷の力は通じず、刀は二本とも失い、切り札の鎖も手放してしまった。
残る武器は補助用のクナイ数本、後は手裏剣くらい。
目の前の凶悪な魔物達、後に控える雪人達を相手にするにはあまりにも心許なかった。
それでも、ササメは……ここで倒れるわけにはいかない。

「はあっ……はあっ……まだ…です……この、程度でっ………ううっ!!」
「グロロロロロ……!!」
「クックック。その通り……この程度じゃ、まだ終わらないぜぇ……クリスマスは、ここからが本番だ」

イエティ達の中でもひときわ巨大な一頭が、ササメの身体を軽々と持ち上げる。
じたばたともがくササメの身体を、両腕で抱え込み……ベアハッグの体勢に入った。


「はぁっ………はぁっ………放してっ………っぐ、う!!」
「この女、どうやら雪人の血が混じってるらしいなぁ……
だったらきっと、コイツのサンタ服ベアハッグは、よーーく効くだろうぜ……!!」
「バルルルルルッ!!」

赤いサンタ服が輝き、強烈な熱を発し始める。
「な……これはっ…!?いっ……嫌ぁっ……っぐあああああああああぁっ!!」
これはただのベアハッグではない。全身に密着されての高熱責め。
ササメの中に、闘技大会での……炎の魔神の力を操る『簒奪のトウロウ』に完全敗北を喫した、苦い記憶が蘇っていく……!

674名無しさん:2019/12/29(日) 15:12:59 ID:???
「………グロロロロロロッ!!!」
(ミシミシミシッ!! ジュゥゥウッ……メキメキメキ!!)
「っぐ、あぅっ……駄、目……うああああああああっ!!……い、やあああああぁっ!!」


「いやー…この『サンタのラジコン』コントローラー、マジ最高だわ。
イエティどもを何体も同時に操れる上に、討魔忍ちゃんを殴ったり、
ベアハッグするときの感触がモロに伝わってくるんだもんなぁ。……やべ、勃ってきた」

ササメの悲鳴、肌の感触、血と汗の匂い、ひんやりとした体温を感じ、雪人は恍惚の笑みを浮かべる。
ダンボール製なので耐久性に難はあるが……サンタクロースのアイテムは、
このように下級の雪人ですら上級討魔忍を手玉に取る事が出来てしまう、恐ろしい力を秘めていた。


「いいなー!俺も、あっちのJKちゃんで楽しませてもらおっと!何を使おっかなー……」
「おれ……あの妖精ちゃん丸呑みしたい」

「ひぐっ……おね、がい……もう、止めてください……。
パパから受け継いだ私の……サンタクロースの力を、こんなひどい事に使うなんて……」

鎖と首輪で縛り上げられたサンタガールが、涙ながらに抗議の声を上げる。
だが………

「んーー?なんかこっちの方からカワイイ声が聞こえたなぁ。
そう言えば君、何て名前だったっけ?サン………サン……そう、サンドバッグちゃんだ」
(ドゴッ!!)
「ぐぇっ!!」
「サンドバッグが、言葉を喋っちゃ駄目だよねぇ?サンドバッグは俺らに殴られるのが仕事なんだから。
まーーた俺らにお仕置きされたいのかなー?」

「おごっ!!……うああああんっ!!……ひぎっ!!……あぐんっ!!
ご、ごめんなさいごめんなさいっ!!……もう、二度と逆らいませんからぁっ!……っぐあああああ!!!」
その声を、雪人達が聞き届ける事は決してない。



「ど、どうしよう……このままじゃ、ササメ先輩がっ……!」
「うう…………クリスマス……調子乗ったザコが、アホみたいな強さで襲ってくる……
なんか前にもどっかでこんな事があったような……だ、だとしたら、あの猿を操ってる奴がいるはずですわ!」

なんだか、前世の忌まわしい記憶がよみがえってくるお菓子の妖精であった。

「じゃあ、そいつを探してコテンパンにすればいいってこと? よーし!じゃあ、急いで見つけてボッコボコにしよう!」

(フヒヒヒ……JKちゃんは普通の人間みたいだなぁ。じゃあ、俺の雪人の力(低レベル)と、サンタの道具があれば楽勝かな?)
(妖精ちゃん……おいしそうだよ妖精ちゃん……)

絶体絶命の危機に陥ったササメ。そして、それを助けようとするヤヨイたちにも魔の手が迫る。
果たして戦いの行方は。無事に母親を助け出す事は出来るのか!

675名無しさん:2019/12/30(月) 14:08:13 ID:???
「で、どーするんですの?まずはこの場をなんとかしないと、操ってる奴を探すどころじゃありませんわよ?」

「逆だよ妖精ちゃん……この場をなんとかするには、操ってる奴を先に倒すしかない!私じゃササメ先輩を助けに割って入っても、返り討ちにされるのがオチだし……」

自分で言ってて悲しくなるが、気を取り直して忍び道具を取り出すヤヨイ。

「裏で操ってる奴自体は弱いってのが、こういうのの定石でしょ!」

そう叫ぶと同時に、ドロン!というお約束の効果音を響かせながら、地面に煙玉を叩きつけるヤヨイ。

「ササメ先輩、待ってて!今、そいつらを強くしてる元凶を倒しに行くから!」

「グヘヘ、バカめ!自分から喋って居場所を教えるとは……先輩の武器であの世に行きな!」

雪人に操られたイエティの1人が、ササメの鎖分堂を投げる。
ハーフのササメでも血の滲む修練をしなければ使いこなせい代物だが……そこはサンタの力と純正な雪人の操作によって、ササメと同等以上の精度を発揮した。

「……なにっ!?」

だが、煙が晴れた先には、「あほ」と書かれた紙と紙コップの糸電話が貼り付けられた丸太が、バラバラになっているだけであった。

「おーっほっほっほですわ!!声は私の糸電話で丸太から発したように見せかけるダミーですわ!中の下くらいのニンポーも私のサポート込みなら、にんじゃりばんばんですわーー!!」

「誰の忍法が中の下よ!……とにかく、今のうちに!」

イエティたちの注意を逸らした一瞬のうちに、ヤヨイは広間を出て、城の奥へ向かう。

「逃がすか!追えぃイエティども!」

「グロロロロォ!!」

ヤヨイを追おうとするイエティたち。だが……ヤヨイが出ていった扉が、突然凍りつく。

「はぁ、はぁ……!!ヤヨイちゃんには……手出し、させません……!」

ベアハッグを受けながらも力を振り絞ったササメが、時間稼ぎに扉を凍らせたのだ。

「テメェ、人間混じりの薄汚いハーフが……!」

「……ひゃぐううぅああぁッッ!!」

ヤヨイを追うのを邪魔されて癇癪を起こした雪人に、さらに激しいベアハッグをされるササメ。
強制的に体を弓なりに反らされ、ミシミシと嫌な音が響く。

(ヤヨイちゃん、お願い……無茶はしないで……無理だと思ったら、私を置いて逃げて……!)

676名無しさん:2019/12/30(月) 15:54:40 ID:???
1「気がついたらもう2019年も終了!こっからはいきなり始まる今年の総集編や!今年はこの金尽のコトネと!」
「私……神楽木七華が担当いたします。」

去年はなかったような気もするが、今年はやります総集編。
なぜこの2人なのかというと、コトネと七華は口調が対照的で喋らせやすいからであって、それ以上でもそれ以下でもない。

「地の文でしょーもない説明言うのもそれまでや!ウチらで今年一年全部まるっと振り返っていくでー!」
「コトネさん……私、なにも聞かされていないのですが、大丈夫でしょうか……クロヒメ様も年越しそばを買いに行ってしまいましたし。」
「もうななっちはクロちゃんいなくても平気やろ?それにこれはあくまでも番外編や。ウチらが知らないことも勝手に頭に入ってきて解説できるようになる、不思議空間が展開されてるんや!」
「そ、そうなんですか。それなら、なんとかなるかもしれませんね。……あとクロちゃんじゃなくて、クロヒメ様です。」
「ほな他にも書かなあかんスピンオフもあるからさっさといくでー!2019年のリョナリレー小説、まるっとおさらいやー!!!」
「お……おー!」



「んじゃまず新年明けて始まったとこからサラッと見てみよか!ななっち、教えてや!」
「ええっと……今年初めての投稿は>>380です。ナルビアのエリスさんとアリスさんが雨の中で……え!?そ、そそそんな……!」
「わわ、今年は美人姉妹の接吻から始まっとるんやな……まあこれはエリスが司教アイリスに操られていただけで、ほんとに姉妹好き合ってるわけじゃないやで。」
「そ、そうなんですか……いきなりそんなシーンから始まっていたなんて……」
「そのあとの>>381はミツルギの洞窟内での戦闘シーンやな。運命の戦士たちと竜殺しのダンvs王下十輝星のガチンコバトルや。」
「リザさんとミストさんの、姉妹同士の戦闘>>382もありますね。お互い仲の良かった姉妹だったはずなのに、道を違えてしまったのは……悲しいです。」
「ほんまやなー。ナルビアではキスしあってた美人姉妹もいるのにこっちは殺し合いなんて、まったくどうなっとるねんって話やな!」
「……こうしてみると、新年とはいってもそれぞれの展開が続いていたように見えますね。」
「まあ年変わるからってそれまでの展開全部終わらせて第2部第3部とはいかへんよ。いつどこでどのように収束するのかわからへんのが、リレーのいいところやからな。」



「で、その他は……わわ!これはだめですっ!紹介しなくていいですうぅ!」
「ナハハハハハ!クリスマス恒例行事の続きとして、ななっちのサービスシーン>>383が展開されとるなぁ!サンタ服でボコボコにされとるで!」
「うぅ……あれ以来、サンタさんを見ると思い出してしまうのです……」
「まあでも>>385で終わって、人間になったクロちゃんとはその後も仲良くなっとるんやろ?ハッピーエンドならええやないか!」
「まぁ、あの一件がなければクロヒメ様が顕現されることもなかったとは思いますが……あとクロちゃんじゃなくてクロヒメ様です。最近アイドルをプロデュースして解任された人みたいな呼称でクロヒメ様を呼ばないでくれますか……?」
「げげ!?ななっちがマジでブチギレしそうや!次行くで次!!!」

677名無しさん:2019/12/30(月) 15:57:56 ID:???
「洞窟での戦闘が続き、ナルビアへと場面展開されています。>>400でついに、ナルビアの最終兵器と言われるヒルダさんが覚醒しました。」
「クローン兵士メサイア……この子は大戦の目玉になってきそうやで?拘束ビームのゼロエネルギーに雷大剣ブラストブレード……ナルビアのシックスデイも太刀打ちできんほどの強さや。」
「トーメントへの切り札になるのでしょうか。制御しきれず暴走してしまったら……考えたくありませんね。個人的にはリンネさんのために、元の優しい人格に戻って欲しいですが……」
「そのリンネもなぁ……最近はトーメントに女作って遊んでるみたいやから、あんまり期待できんかもしれへんな(笑)よし、次や!」



>>435でトーメント十輝星、アイナさんが不慮の事故で死亡しましたね……最初期の方から登場していた方だけに、衝撃は大きかったです。」
「特になんのドラマもなくパッと死んでもうたなー。ウチらもこんな感じであっさり死なないようにせんと、頑張って行かなあかんで!」
「そ、そうですね……でもなんか最近、妖精になって再登場してきたような気もしますが……」
「死んだら妖精なるのはお約束になりつつあるなあ(笑)まあ人死にの辛気臭い話は嫌や!次行くで!」



>>438でついに、魔の山頂上にてトーメント王と運命の戦士が集合しました。」
「ここは物語の大きな節目やで。ガーディアンゲートが開いて、神器セーブザクイーンが王の手に渡ってしもうた。アレについてはようわからんが、事象を書き換える力を持つかなりやばい力のようやな。」
「……そんなものを奪われて勝てるのでしょうか。」
「正直わからん。でも>>442で主人公の唯ちゃんが言い放ったんや。私たちが王様を倒します……必ず倒しますってな。まるで究極召喚を控えた召喚士みたいやで。」
「トーメント王……その力は未だ未知数……これから始まる大戦でついにその力の全容が明らかになるわけですね……」



「ほんで、>>455ではずっとどっちつかずな感じだった魔剣使いアルフレッドがついに味方になったわけやな。」
「アングレームとラウリートのいざこざを乗り超えて、アリサさんと修行している姿を最近よく見ます。仲良くといった様子ではないまでも、お互いのことを認め合っているのはわかります。」
「ずっと2人っきりで修行してるみたいやもんな。しかも元々アリサの方はアルフレッドを好いとったんやろ?大戦前に間違いが起こらへんといいんやが……」
「え?間違いってどんなことですか……?」
「そりゃもちろん〇〇とか〇〇や」
「きゃああああああぁ!!!次行ってくださいいいいいぃ!!!」



>>472からは月花庭園での話やな。リザっちがアリスと戦ったり憎むべき敵を倒したりと、まぁここでもリョナられて大活躍や。アリスの方もかなりエロいことやられてるから、金髪美少女好きは要チェック回やで。」
「あと、リンネさんとサキさんのお話もありますよね。2人が再開して>>485で……え?え!?」
「優しく啄むようなキスをした後、宣言通り、唇を吸い上げ口内をかき回すような激しいキスをする」
「いやあああああああああぁ!!!地の文を読まないでくださいいいいいいぃ!!!」
「異性を強く感じるような激しいキスに、サキも追いつけるよう必死にテンポを」
「クロヒメ様アアァ!!!コトネさんを殺しますううぅ!!」
「ひぇっ!?わかったウチが悪かった!やめてぇやななっちー!!!」

678名無しさん:2019/12/30(月) 16:02:26 ID:???
「はぁ、はぁっ……つ、次は……>>486あたりからサラの話やな。虫責めにあってるのはサラの先輩的ポジションのマリアや。」
「クレラッパーでしたっけ……人から人へ受け継がれていく力だったとは、ちょっと驚きました。」
「記憶喪失になったサラのその後は……>>532でジェシカに捕まったみたいやな。今頃何してるんやろうなぁ。」



「えっと……その後は運命の戦士たちの展開が多いですね。唯さんはシーヴァリア、瑠奈さんと鏡花さんはルミナス、アリサさんはミツルギ、彩芽さんはナルビアで修行をしています。」
「途中、ミシェルのリョナシーン>>499やリザっちとシアナの喧嘩>>523もあったな。ミシェルは姉のいるナルビアに亡命をしたから、もはや味方になったかもしれんな。」
「リザさんとシアナさんの喧嘩は……子供っぽいといえば子供っぽいような気がします。お互い感情を抑えられなくなっていたような気がしますから……」
「まあまだ2人ともガキやからな。ウチも18やが、賭場で汚い大人たち見てるからもう精神年齢はななっちと変わらんと思うで。」
「……コトネさんは、お金に対しての感情を全然抑えられていないような……」



「その後はついに、ヴェンデッタ小隊の面々の登場やな!主人公の新たな仲間枠や。ルーア、オト、エルマ、サクラ。どれも癖強いさかい、まとめるリーダーの唯ちゃんは大変そうやな。」
「実力は認められてはいるものの、ちょっと協調性が足りない人たちみたいですね。個性が強いのはそのせいみたいです。」
「でもマイコニド襲撃>>572やプラント攻略作戦
>>595でもチームワークで乗り切ってるしなあ。さすが主人公、リーダーシップは完璧みたいやな!」
「このあとの大戦でもみなさんの大活躍が期待されますね。裏切る人とか出てこないといいのですが……」
「えぇっ!?ななっち、いきなり不穏なフラグ立てんといてや……?」



「プラント編では新キャラも登場してますね。殺人鬼ヴァイス……殺人鬼として各国にその名を轟かせている、恐ろしい人です。」
「ま、ああいうんはどうせ噛ませやろ。リザっちには頭が上がらないようやしな。それよりもや!プラント編のリザっちと水鳥のリョナ>>613は必見やでえ。敵同士なのに拘束されて同時にリョナられる様はエロすぎや。この時のビデオが残ってれば荒稼ぎ間違いなしやったんやが……」
「コトネさん……なんでもお金で考えるのやめてください……」
「何言うてんねん!金こそこの世の全てなんや!金さえあればごっつ美味いもんもめっちゃ綺麗な服もだだっ広い家もとんでもないイケメンも全部手に入るんや!人生成功するためのもの、それが金や!!!」
「……私にとってのクロヒメ様のように、コトネさんにも譲れないものがあるということですね……」



「さて、もう現行に追いついてきたな!>>615からのヤコの動きや>>658からのまた年跨ぎそうなクリスマス編!そして来年からはラストスパートや!」
「ここで上げていない細かいお話もいっぱいありますが……大筋はこんなところでしょうか。」
「全部やってたらキリないからなぁ。まぁ大体こんなもんやろ。」
「このお話……しっかり始まったのは2016年の10月なんですよね。もう3年以上大きな停滞もなく続いているなんて……すごいです。」
「ほんとなんでこんなに続いてるのかわからへんな(笑)まぁリョナれればなんでもいいのスタンスで自由にやってるからとちゃうか?」
「そうですね……来年もよろしくお願いします。コトネさん。」
「こちらこそやで、ななっち!トーメント王ぶっ倒して大団円といこうや!」
「はい!ザギさんやラガールさんやシンさんとも力を合わせて、私たち討魔忍もがんばっていきましょう!」
「せやな!じゃ、今年の総集編はここまで!来年もよろしく頼むでーーー!!!次レスから本編再開やー!」

679名無しさん:2019/12/31(火) 16:57:08 ID:???
「ピカッと閃きましたわ!!忌まわしい気配を向こうから感じますわよーー!」

「今は妖精ちゃんレーダーだけが頼り……お願いね、妖精ちゃん!」

「合点承知の助、当たり前田のクラッカーですわ!!思い出すのも忌まわしい空気の元は……この部屋ですわ!!」

お菓子の妖精の案内でヤヨイがたどり着いたのは……下級雪人たちの詰所であった。

「ひぃい!!なんでここにくノ一が!?」

「イエティも出払っていてとても敵わん!に、逃げろー!」

突然現れたヤヨイを見て驚いた様子の雪人たちが、慌てた様子で部屋の奥へ逃げていく。

「逃がさない……!見た感じ怪しいのは……コントローラー持ってる、そこのオジサンでしょ!」

ヤヨイは普段使いの量産品ではなく、精霊刀ミカズチを逆手に持つと、軽やかに飛び上がって、一気にコントローラーを持つ雪人に斬りかかる!!

「その首、貰ったぁあああ!!」

お菓子の妖精の力がエンチャントされた精霊刀は、寸分違わず雪人の首に吸い込まれるように入っていき……



「……いってぇえええええ!!!??」

「え……?」


完全に首を刎ねると思われた刀は、ガキ、という音と共に弾かれた。

「テメェ……いてぇじゃねぇかクソ人間があぁあああ!!!」

「ごふぁっ!?」

コントローラーを持った雪人が、力任せに腹パンをする。空中で身動きの取れないヤヨイは、その攻撃をもろに受けて、地面に仰向けで倒れてしまう。

「おいおい、なにしてんだよバカww見習いの剣なんて痛くも痒くもないんじゃなかったのか(笑)」

「わざわざ逃げ惑う演技までしてやったってのに、ガチで痛がってんじゃんwwちょっと危なかったんじゃないかお前?」

「ちげーよ、こいつ……精霊刀なんて持ってやがった!!あーくそ、滅茶苦茶いてぇ!!」

イエティを操っている者自身は弱いと思っているヤヨイを嵌めようと、雪人たちはヤヨイが来たらわざと逃げて彼女の攻撃を受け、希望を持たせてから全く効いていない姿を見せて絶望させようとしていた。

だが、ヤヨイがキリコから貰った精霊刀の力は、ヤヨイをただの見習いと高を括っていた雪人には少々想定外だったのだ……
それでも、痛いで済む程度のダメージしか与えられなかったが。


「ぐっ……」
(こいつら、強い……!でも何とか、コントローラだけは破壊しないと……!)

手の中に隠し持った手裏剣で、ササメを苦しめるイエティを操っていると思われるコントローラを壊そうとするヤヨイ。仰向けのまま手先だけで素早く取り出した手裏剣を、真っ直ぐに投げようとして……

「はいざんねーん!!」

「っ!?」

雪人が手に持っていた鎖を手繰り寄せ、サンタコスをした少女を盾にした。思わずヤヨイの動きが止まった瞬間……

「ひゃっ!?冷たっ!」

手足を床ごと凍らされて、仰向けの大の字状態で床に磔にされる。

680名無しさん:2019/12/31(火) 16:58:54 ID:???


「う、うぅう……ごめん、なさい……私の、せいで……」

「ケケ、クソ人間……セクハラレベルの痴漢プレイで済ませてやろうと思ったが、もうやめだ……俺をキレさせると何するか分かんねぇぞ?」

サンタ効果により、ネットでよく見るイキリ発言がガチで危ない意味になっている雪人と、さめざめと涙を流すサンタ少女。
危険を感じたヤヨイは身を捩って拘束から逃れようとするが、手足はガッチリと氷で床とくっつけられており、腰を振ったセクシーダンスにしかならない。

「ククク、サンタのポーチに、イイ感じの肉切り包丁がありやがった……これなら肉もバターみてぇに切れそうだな」

「……?アンタたちは、お肉なんて食べないんじゃ……」

「ああそうだよ、俺たちは肉なんて食わねぇ……だけど斬りはするんだよ……こうやってなぁ!!」


雪人の叫びと共に、ザン!!という音が響く。その直後……ヤヨイの左足首に、凄まじい激痛が走る。

「っ、が、っっ〜〜〜!?あ、足、が……!?」

肉切り包丁は、ヤヨイの左足首……氷で拘束されている箇所の少し上に振り下ろされたのだ。

「ギャハハハ!!どうした?まだ足首の先がちょっと落とされただけだぜ?こんなのシンデレラの姉だってやってるぞ?」

「あ、あ、いやぁああぁあ゛あ゛あ゛!!!!」


その結果……ヤヨイの左足首は完全に切り落とされていた。

痛みの余り無意識に激しく暴れるヤヨイ。拘束されていた足が切り落とされたことで、一部体の自由が戻ったかに見えたが……

「はい氷結〜!!これで逃げられませーーん!!」

切り落とされた所を再び氷漬けにされ、再び動きを封じられる。

「良かったなー、すぐに冷やしたから多分くっつくぞ?治療さえできれば……だけどなぁ!!」

「っぎ、やぁああぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

普通の食事を行わない雪人が人の絶望を食う為に行う『料理』……それは、氷で動きを封じながら、獲物の体を少しずつ少しずつ切り刻むことを言う。
まな板の上の鯛を捌くように、人間の体を切り刻み、切った部分を氷漬けにしていく……

獲物が死んでしまうため、普段は滅多にやらない『料理』だが……クリスマスに凝った料理はお約束である。

681名無しさん:2019/12/31(火) 19:35:08 ID:ajCO3ff.
「「「グルァァァァッ!!」」」
氷に閉ざされたドアを、イエティ達が集団で壊しに掛かるが……ドアを覆う氷はびくともしない。

「はぁっ……はぁっ……無駄、です……あれは、私の魔力のほとんどを込めた封印の氷……そう簡単に壊れはしないっ……!」

(けっけっけっ……そうやって必死こいて逃がした所で、無駄な事だぜ。
ただの人間が、冬の雪人に……ついでにサンタの力でパワーアップした俺達に、勝てるわけがねえ。
だが……)
「その眼、気に喰わねえな………半分人間のクセに、生意気な真似してくれやがって。
氷が壊れねえなら、お前を徹底的に痛めつけてやるぜぇ!!オラァアアア!!」

ギリギリギリギリッ!!
みしみしみしみし……!!……ブチブチッ!!

「んっぐ………う、っあああああああああああっ!!!」
丸太のようなイエティの剛腕が、ササメの腰を力いっぱい締め上げた。
筋繊維や背骨が破壊されていく音が、広間に響きわたる。


ササメの視界は明滅し、意識が飛びそうになるが……それでも必死にもがき続けた。
「諦め……ないっ……お母様を助け出すまでは……絶対に……!!」

(ザクッ!!)
クナイを取り出し、イエティの腕に突き立てる。
だが、小さなクナイで貫けるのは、せいぜいイエティの毛皮の表面程度。
凶暴化したイエティ、そして遠隔操作で操る雪人にダメージが通るはずもなかった。

「無駄無駄無駄ァアアアア!!背骨へし折ってやるぜェェ!!」
「くっ……!!」
(ゴキイイインッ!!)

凶暴化したイエティが、渾身の力を腕に込めると……
大音量と共に、太い、固い、何かが折れた。


「グオオオオオオオッ!?」
「はぁっ………はぁっ………」

『それ』は、ごろりと床を転がり、数秒経ってから鮮血を吹き出し始める。……凍り付いた、イエティの左腕だった。

「なん、だと……どういう事だテメェェェ!!」
イエティ達が着ているサンタの服に、ササメの冷気は通用しない。

だが、クナイを通して体内に直接冷気を送り込めば……短時間なら、凍らせることが可能だ。

イエティが止めに入る一瞬を見極め、腕を瞬間冷凍する。こうしてイエティの力を逆に利用する事で、
ササメはベアハッグ地獄から逃れる事に成功した。

「言った……はず、です……私は決して、諦めない……!」

だが、右腕だけのベアハッグでも、ササメの腰と背骨は甚大なダメージを受けている。
しかも、扉を守る氷壁と今の一撃で、魔力を完全に使い切った。

「クソ女が……だがなあ。イエティ一匹の腕を落とされた所で、俺様は痛くもかゆくもねえ。
状況は変わらねえ……いや。俺様を怒らせた分、前よりもっと悪くなってるかもなぁ?」

「グルルルルッ!!」
「うぐっ……!?」

怒り狂った隻腕のイエティが、右腕一本でササメの首を掴み、持ち上げる。
……ワンハンド・ネックハングツリー。
3m近い巨体に吊り下げられ、ササメの身体はちょっとした一軒家程の高さまで持ち上げられている。

「そのツラ、絶望のどん底に沈んで泣き叫ぶまで、年をまたいでトコトンいたぶってやる……
まずはツリーでクリスマスをシメて、その後は年越し名物、例のヤツだ……」

「ぐっ……あ……が、はっ……!!」
(まずい……意識、が……!!)

なんとか脱出を試みようとするササメ。
だが呼吸を妨げられ、視界が急速に暗くなり、手足の力が抜け……

カラン……
手にしたクナイが滑り落ちて、床に転がった。

682名無しさん:2019/12/31(火) 21:23:38 ID:???
「確かコイツ、母親がどうとか言ってやがったなぁ。こいつも捕まった人間を助けに来たクチか…」

雪人はイエティ達を操作し、気絶したササメの両手を砕氷星鎖で縛りつけた。
そして……

「ま、どれだかわかんねえけど適当に似てる奴に……よし、こいつだァッ!!」

(ドガアッ!!)
「んぐあああっ!?」

チョークスラムの要領で、ササメの身体を思い切り氷柱に叩きつける。
無理矢理意識を覚醒させられたササメだが、後頭部と背中をもろに打ち付けられたため依然として意識が朦朧としている。

「っ……あ………な、何……?」
「ヒッヒッヒ……まずは目覚めの一発だな。やれ、イエティども!!」

「「「グルォォォォォォォ!!」」」
数頭のイエティ達が、太い丸太を抱えながらササメ目掛けて突進する。

(……ドゴンッ!!)
(ごぶちゅぅぅっ!!)
「っごぇっ!!?」
狙いは、さっきベアハッグで散々痛めつけた、ササメの下腹。
巨大な丸太と、背後の氷柱に挟まれて、ササメは踏みつぶされたカエルのような情けない悲鳴を上げる。

「ひとぉーーつ。……ヒッヒッヒ。なかなかいい音させるじゃねえか。
こいつは、『リョナの鐘』と呼ばれる年越しの儀式……確か人間の流儀じゃ、108回ほど撞くらしいな?」

「げ、ほっ……ふ、ざけた、真似、を……っぐぷ!!」
反論しようにも、胃液がこみあげてまともに言葉を紡げない……ただの一突きでこれだ。
あんな丸太をそんなに喰らったら、間違いなく死んでしまうだろう。

「ヒッヒッヒ……避けたり逃げたりしようとは思わねえほうがいいぜ。後ろを見てみな」
「はぁっ……はぁっ……う……これ、は……!!」

氷の中には、仮死状態で閉じ込められた女性の姿があった。
ササメと同じ、忍び装束。……どことなく顔立ちも似ている気がするが、母親かどうかはササメにはわからない。
そして……氷柱には、恐らく今の丸太の衝撃だろう。僅かに亀裂が走っている。

「丸太の一撃をしっかりお前が受け止めねえと、そいつの氷は粉々に砕けちまう。
乱暴に砕けば中の奴も無事じゃ済まねえし……仮に身体が無事だとしても、すぐに治療しなけりゃそのままオダブツ。
つまり。そいつが助かるかどうかは、お前次第って事だ。ヒッヒッヒ……」

「……っぐ………卑劣、な………!!」

「……いいねぇ〜。絶望に染まった、いいツラになってきた。
俺達雪人は、人間どものそういう感情が何よりの活力なんだ……。
同族の女も対象だから、もちろんハーフも全然アリだぜぇ!!」

イエティ達が、再び助走を始めた。
ドス黒くはれ上がったお腹は、早くも限界を超えている。
両手は後ろ手に縛られていて、僅かな抵抗も試みられない。
両脚は縛られていない。だが……今のササメには逃げる事も、倒れる事も許されない。

「そのやわらかーーいハラワタが、ぶっとい棒であと107回ぶち抜かれて!!
その可愛いツラが、こっから更に!どんだけグッチャグチャに歪んでいくのか、今から楽しみだぜぇ!!」

「「「グルァァァァァアアアアアア!!!」」」
(ズドドドドドドドッ……!!)
「はぁっ………はぁっ……」
(こんな所で、終わるなんて……きっと七華様は、私の力不足を見抜いていたのですね)

(ズドオオオンッ!!)
「んぶぉああああああぁぁっ!!!」
(後ろに、いる方……私の母様なのか、もう確かめる術はありませんが……
私の命に代えても、守り抜いて見せます……)

「クックックック………どんどん行くぜぇ。次、3発目だ」
「「「グルルルルルッ………!!」」」
(そして、ごめんなさい。ヤヨイちゃん……せめて、貴女だけでも無事に、逃げ延びて……)

悲壮な決意を胸に、振るえる脚で必死に立ち続けるササメ。
しかし、その時………

「っぎ、やぁああぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

「おいおい何だよー。お前もリョナの鐘やってんの?俺らもこの後、とっつかまえたJKちゃんでやろうと思ったのによ!!」

(えっ…………ヤヨイ、ちゃん……?)

何らかの魔法、アイテムによるものだろうか。雪人達の詰所の様子が、広間の中に映し出された。
恐らくはイエティ達を操っている者と、その仲間の姿。そして……
……手足を拘束され、斬り刻まれ、絶望に満ちた悲鳴を上げる、ヤヨイの姿。

「そうなのか?考える事はみんな同じだなぁ。ケケケケケ!!
ま、同じことやっちゃダメって事はねえんだし、今夜はダブルで楽しもうぜぇ!!」
「「「さんせーーーい!!」」」

「「「グルォォォオオオオ!!」」」」
(ドゴッ!!)
「っぐおぁああああっ!!!」
(ビシ………)

3発目の丸太がササメの腹部を直撃する。
ふらついた足、折られた心ではその衝撃に耐えきれるはずもなかった。
背後の氷柱の亀裂が、また少し大きくなった。

683名無しさん:2020/01/01(水) 16:41:41 ID:???
「グルオオオオオオオォ!!」
(ドゴオオオォッ!!!)
「ぐああああああああっ!!!」

広間に響き渡るのはササメの悲鳴と、無抵抗な彼女の腹に容赦なく打ち付けられる丸太の音。
20回目の叩きつけでササメは意識を失いかけるが、激しい痛みがそれを許さなかった。

「グルアアアアオオオオォ!!!」
(ドゴッ!ベキッ!グシャアアア!)
「っんぐおおッ!があああ!ごえええッ!!!……っ……」



(……おかあ……さま……)



痣だらけのササメの腹に、短い感覚で一気に三連突。
三発目の突きでこみ上げてきた血を吐き出したササメは、ついに完全に気を失ってしまった。

「おいおい、あのハーフ落ちちまったぞ?流石に三連突はキツすぎたんじゃねえの?」
「だってよー、108までやんのだるくなってきたし。ちょっとペース早めていこうかなーと思ったらすーぐ落ちたわwww」
「じゃあイエティに持たせてるスタンガンを……こうだ!」



(バチバチバチバチッ!!!)
「ぎううううああああああんッッ!!!」
(ビリビリビリッ!)



全身に走る痺れと強烈な痛みで、ササメの意識は無理やり覚醒される。
ただのスタンガンではなく電圧強化型であることは、装束のスリットが破れたことで理解した。



(くうぅ……氷雪装束がっ……!)



「あのハーフ、いい顔だなー……根性もあるみたいだし、雪人だったら好きになってたかもしれねえなぁ。」
「なにいきなり恋愛対象にしてんだよwwwお前女ならなんでもよくなってきてんだろ?」
「とはいええっちな装束姿も最高だし、ボンキュッボンだよな。こっちの嬢ちゃんより断然イイ女なのは認めるが。」
「んーというか、あれ誰の娘なんだ?俺たち雪人の誰かの娘なんだろ?」
「「……あ。」」

広間に現れた男の姿に、硬直する雪人たち。
その男は凶暴化しているイエティたちを一瞬で凍らせると、ゆっくりササメへと近づいていった。



「目元も、声も……母親によく似ているな。名はササメといったか?」

「はぁ、はぁ……誰……?」

「私か……?数十年前に雪人討伐の任を受けた美しい人間の女を、拷問し、陵辱の末に子種を注ぎ込んで孕ませ……生まれた忌み子をこの山から突き落としただけの男よ。」

「……ッ!」

雪人たちの長、銀帝の言葉を聞いた瞬間、ササメの目が見開かれた。

684名無しさん:2020/01/03(金) 20:29:17 ID:???
「つまらん……母を助けに来たのか、或いは始末しに来たのかと期待してみれば……強化されているとはいえ、雪下級の者共やイエティ風情にやられるとはな」

「あなたが……お母さまを……!」

絶体絶命の状況ながら、仇敵の登場に目に生気が戻る。

「お前の母は私の部下を掻い潜って、私に刃を向けるまでは行ったぞ……その母と私の血を引いていながら、ここまでの弱さとは……よほど鍛錬を怠ったと見える」

「く、うぅうう……!」

物心ついた時から、母を助ける為に血の滲むような鍛錬を繰り返してきたササメにとって、その侮辱は許しがたい。
だが、事実として下級雪人やイエティにこうして追い詰められている以上、ササメはただ悔しげに歯を食いしばるしかできない。

「歯応えのある忍ならば、母共々子種を注いでやろうと思ったが……余りの弱さに、流石の私も少々親心が出たぞ」

「えっ、銀帝様、親子丼しないんすか!?」

部屋にいた方の下級雪人は、皆でササメを犯すのを期待していたのもあり、思わずツッコミを入れてしまう。

「そう急くな……もっと面白いものを見せてやる」

そう言うと銀帝は、ササメのお腹にある痛々しい傷の中に、指を突き入れた。

「ぐっ……!」

鋭い痛みにうめき声をあげるササメだが、銀帝の意図が読めずに怪訝な顔をする。

「な、なにを……」

「哀れな娘に、私の力を分けてやろう……お前の中に混ざる人間の血を凍らせ、雪人の血を活性化させる……」

そう言った直後、傷口に入った銀帝の指から、凄まじい冷気がササメの体の中に入り込んで来る。

「が、はっ……!?」

「普通の人間ならば、血を凍らせると息絶えるが……混血のお前ならば、雪人として覚醒できる」

体の底から凍りつくのではないかと思うほどの冷気がササメを襲うが、どうしてか体の奥が疼く。
必死に拘束された体を動かして逃れようとするが、無駄な足掻きであった。

「い゛あ゛あぁぁぁっっ!! あっ、あ゛ぅ゛っ! あ゛────っ!! 熱いっ、のにっ、冷た、い、あ゛ああぁぁああぁっ!!」

「娘よ……脆弱な人の身を捨て、雪人として生きるがいい……」

「あ゛ぐああぁああああぁぁぁっっ!!」

血が凍りつく度、自分の体が雪人に近づいていくのを感じる。あくまでも人として、討魔忍として生きてきた高潔な精神が、雪のように溶けていく。

「ずっと孤独だったのだろう?だがもう大丈夫だ……これからは母と父と共に暮らせるぞ?」

「ち、がうぅっ!! わたしは、わだじはぁっ!!」

「何を躊躇うことがある……その血の衝動を受け入れるのだ……それがお前の、定められし宿命……」

「い゛や゛ああぁあああぁぁッッ!!」

助けを求めるような、縋るような絶叫が響いた後……静寂が訪れた。

685名無しさん:2020/01/03(金) 20:30:23 ID:IGS.DvAA

「はぁ、はぁ……キリコ先輩直伝の……含み針……!」

ヤヨイは一瞬の隙をついて、拘束された状態から、イエティを操っている雪人のコントローラーを破壊していた。

「あっ、テメェこのメスガキ!?」

「へへん……アンタたちも、これで終わりよ……その装置さえ壊しちゃえば、ササメ先輩が……」

「くっ、この野郎!!」

肉切り包丁を振りかざす雪人。再び襲う痛みを予期して、ヤヨイがギュッと目を瞑った瞬間……


「よせ」

「あぁ、なんだようるせぇな……って、ぎ、銀帝様!?し、失礼いたしました!!」

突然割り込んできた声に、雪人の凶行は止められた。

「銀帝様、なぜこのような、下級雪人の詰所に……?」

「なに、娘に人間の絶望の味を覚えさせてやろうという親心だ」

(銀帝……?ってことはこいつが、雪人のボス……!?)

突然現れた銀帝と呼ばれる男に、ヤヨイは混乱する。

(こいつさえ倒せば、全部終わる……でも、さっきの含み針で暗器も使い果たしちゃったし……やっぱり、ササメ先輩を待つしか……)

「はぁ、娘……ですか?」

「ククク、お前たちにも紹介しよう……入ってこい」

その言葉を受けて、詰所の扉が、ゆっくりと開かれる。

「……え?」

扉の先にいる人物を見て、ヤヨイは思わずきょとんとした声を出してしまう。


薄い青だった瞳は深いダークブルーに染まり、銀色の髪は若干白みがかり、白銀と呼ぶべき色になっている。透き通っていた肌は病的なまでに白くなり、美しさを際立たせると同時に、不気味ささえ感じさせる。
そして何より、数々の戦いを潜り抜けてきた歴戦の氷雪装束ではなく、雪のように白いドレスを身に纏っている。

知っている姿とは余りにも違う。けれど扉の先にいたのは、間違いなく……


「……お待たせしました、お父様」

「ササメ……先輩?」

686名無しさん:2020/01/04(土) 15:04:47 ID:???
「紹介しよう。彼女が私とフブキのたった1人の愛娘……名はササメだ。」

「……ササメと申します。皆様、よろしくお願いいたします。」

(((……お……おっぱい、でっか……)))

礼儀正しく頭を下げるササメ。姿勢が下がって露わになった胸の谷間を、雪人たちは一気にガン見した。

「この人間の始末はササメにやらせる。お前たちは黙って見ていろ。」

「「「か、かしこまりました!」」」

雪人たちが下がったのを確認すると、ササメは仰向けで拘束されているヤヨイの側に立った。

「ササメ先輩、ですよね……?ど、どうしちゃったんですかその格好!?まさか、洗脳されてるんですか……?」

「洗脳ではありません。お父様から頂いた雪人の血によって、本来の姿を取り戻したのです。」

「そ、それ絶対洗脳ですよぉ!ミツルギで育ったことを思い出してください先輩!このままじゃ、ササメ先輩が今までやってきたことが全部無駄になっちゃう……!」

「……そんなこと、もう思い出す価値もありません。」

「そ、そんな……きゃああぁ!?」

必死に訴えるヤヨイの身体は、ササメの生み出した氷によって完全に凍らされてしまった。



「雪人になったボスの娘……美しすぎる。さっきまで可愛い女の子だったのに、ここまで変わるもんなのか……」

「大人っぽくなったよな……スタイルも抜群だし、誰も放っておかないだろこんな女……」

「リョナってた子が一気に高嶺の花になって、頭混乱してきたわぁ……」

突然のササメの変貌に戸惑う雪人たち。
敵から味方へと認識が変わったことよりも、雪人となったササメの圧倒的な美しさに、見惚れることしかできなかった。



「人間の娘よ。貴様にも私の子種を注ぎ込んでやろう。ササメ、下半身の凍りを砕け。」

「はい。お父様。」

ササメが手をかざすと、ヤヨイの下半身の氷が欠片も残さず綺麗に砕かれた。

「こ、子種って、嘘でしょ……?やだ、やだぁ!」

「雪人に刃を向けた罰だ、愚かな人間よ。だが安心するがいい。子種を注ぎ込んだ後は貴様も冷凍してやる。悪夢を見ながら我らの養分となって、永遠に生き続けるのだ……!」

(ビリビリビリッ!!)

「いや、いやぁ……!ひやあああああああッ!!」

セーラー服のスカートは脱がさず、中の忍び装束とショーツのみを強引に引き裂いた銀帝は、露わになったヤヨイの入り口に自らの剛直を容赦なく突き入れた。

(グチュチュッ!)
「ひうううんっ!?」
「んっ……!やはり人間の膣はほどよく暖かくやわらかで……クク、最高の玩具だ……!」
「つ、冷ッたあああぁっ!!うぅ、やめて、お願い……抜いてぇ……!」

雪人のそれは氷のような冷たさであり、人間の中で暖められても冷たさがなくなることはない。
実際ヤヨイは凍るような冷たさしか感じられず、性の快感などはそこになかった。

(ズチュ!グチュ!びちゅ!ばちゅ!)
「やぁっ!ひぅっ!ひゃあんっ!あああぁ!」
「ククク……このまま身体の中からじっくり冷やして……子種を注ぎ込むと同時に凍らせてやろうッ!」
(グチュゥウウゥっ!!)
「うぎああああああああああああああああ!!!」


銀帝は肥大しきった剛直を、勢いをつけて一気にヤヨイの奥に突き入れる。
子宮の奥まで一気に冷凍されたような感覚に、ヤヨイは絶叫した。

687名無しさん:2020/01/12(日) 15:55:24 ID:???
「クックック……まだ若いが、中々に鍛えられているな。人間の中でもかなりの名器だ」
「ひっぐ……痛、い……さむ、い……………」
(ビキ……ビキビキ!!)
一度は氷を砕かれ解放されたヤヨイの下半身が、

雪人達に好き勝手に斬り刻まれた四肢、銀帝の凍てつく剛直に刺し貫かれた下半身が、再び魔性の氷に覆われていく。

(うご、けない……身体中の力が、抜けてく……)
極寒から来る激痛、恐怖がもたらす絶望に、ヤヨイの瞳からは生気が失われていた。

「いい表情ですね。貴女の恐怖と絶望こそが、私達雪人にとって力の源……」
「ササ…メ…せん、ぱ……たす、け………ひっ……!!」
ササメはヤヨイのセーラー服の裾から手を差し込むと、まだまだぜんぜん膨らみ切っていない胸の先端を、冷たい指で弄ぶ。

「ふふふふ……どんな気持ちですか?……『心臓が凍り付く』恐怖というのは……
下の方から、ゆっくり、ゆっくりと凍らせて差し上げますから、じっくりと聞かせてください……ね?」

「いっ……や、ぁ………こんなの、だ、めっ……ひ、ぅぁぁぁああっ………!!」
ササメが指を転がすたびに、魔性の氷がゆっくりと這い上がってヤヨイの胸元から全身を呑み込んでいった。

(やべえよやべえよ……ササメちゃん……いや、ササメ様……)
(ドM雪女討魔忍からドSレズリョナ氷の女王へ、完全に覚醒しちゃってるよ……)
(まさにレズリョナキマシタワーだぜ……)
じっくりねっちりヤヨイをいたぶり続けるササメ。雪人達も皆、前傾姿勢でその様子をガン見していた。

その一方で。

「やべえよやべえよですわ……この展開を打開するには……アレしかないですわね……!」
お菓子の妖精、動く。

「ああ……私が、しっかりしなかったせいで、こんな事に……クリスマスもとっくに終わっちゃったし、
やっぱり私なんかじゃ、世界中の夢と幸せを送り届ける『サンタクロース』になるのは無理だったんだ……」
「ベタな凹み方してる場合じゃありませんわ!早くここから脱出しますわよ!」
「えっ!?……だ、誰ですか!?」
「しーーっ!! 特殊能力でステルス状態になったお菓子の妖精ですわ!
生前は話し声も聞こえない能力だった気がするけど細けーことは置いといて!
とにかく見つかりたくなきゃ静かになさい!今縄を解いてあげますわ!!」

まずは、すっかり忘れられているサンタガールを救出し……

「えっ……で、でも。あの人達を置いて逃げるなんて……!」
「うるっさいですわね!貴方みたいなポンコツサンタも助ける気なんてないですけど、
妖精は精霊刀に封じ込められてるから、刀から遠くに離れられないのですわ!
ほらさっさとダッシュで取って来いですわーーー!!」
「ちょ、妖精さんけっこう辛辣……てか声が大きい……!!」

言われるままにダッシュし、『精霊刀ミカヅチ』を手に取ったサンタガール。
だがその時……

「おやぁ?……こんな所に、うんんまそうな妖精さんがいたぁ……」
(…ぐいっ!)
「ひえっ?! ちょ、何ですのこいつ!……」

…ちょっとイエティの血も混じっててガタイの大きい雪人に、お菓子の妖精が捕まってしまった。

(べろおぉぉぉぉっ!!)
「ふひひ………あんまぁぁぁぁぁい……さっそく、いだだぎま"ぁず!」
「ちょっ!!それ、雪人じゃなくて腐った外道なやつですわーー!?」

巨大な舌でべろりと味見した後。大きく口を開けて……お菓子の妖精を放り込んだ!

688名無しさん:2020/01/12(日) 17:04:08 ID:???
「なっ!?妖精さんっ……!?」
「ちゅぶっ……ちゅぶ、んまぁぁぁあ……ぐちゅつちゅぅ……ちゅぶぶぶぶぶ………ぐぶびびびびひひひ……」
「ギャ――ス!!ポンコツサンタヘルプミーですわーー!! そ、そうだ!風を、風を呼b……うひぎいいっ!?」
「えっ……か、風……!?」

口の中で全身舐めまくられ&しゃぶりまくられる妖精。
助けを求められたサンタガールだが、刀が手に入ったからと言って何かできるはずもない。
そしてこれだけ騒ぎまくれば、さすがに周囲に気付かれないはずもなく……

「……おやぁ?おいおいみんな。サンドバッグちゃんが逃げ出そうとしてるぜ!!」
「やっべー。ササメ様のどエロレズリョナプレイに気を取られて見逃す所だった……」
「さっき、もう逆らわないって言ってたよね?……何でもするって言ったよね?……俺らに嘘をつくなんて、悪い子だなぁ…」
「そんなオモチャの刀で何しようってんだぁ?おイタする子はオシオキしねえとなぁ…ヒッヒッヒ」

「いっ………い、やぁっ……来ないで、下さ……」
サンタガールもあっという間に追い詰められてしまう。
部屋の出入口は雪人達に塞がれ、背後は大きな窓、その外は断崖。
プレゼントの無い今のサンタが飛び降りれば無事では済まない。

「ふん、騒がしくなってきたな。……ササメよ。人間を絶望させ、苛める愉悦。十分に理解できたな?」
「ええ、お父様……あまりに甘美すぎて、まだまだ物足りない位ですわ」
「ひぁっ………おね、がい……ささ、めせんぱい……正気にもど……っうあああああああっ……!!」

「ふむ……よかろう。私は玉座の間に戻る……気が済むまで人間どもを嬲ったら、私の所に来るがいい」
「かしこまりました。では後ほど……」

銀帝はササメにその場を任せ、雪人達の詰所から去っていった。
ヤヨイは魔の氷に首まで包まれ、間もなく完全に氷漬けにされようとしている。

「ぐちゅっ。………にゅる………ごっ……くん!!」
「きゃふううんっ!!? の、呑み込まれる……もう近くまで来てるはずですわ!早く風を……アイエエエエエ!!」
「よっ、妖精さんっ!!」
頼みの綱?のお菓子の妖精も、雪人に呑み込まれてしまった。
一人残されたサンタガールを守る物は、もう誰もいない………

「【クリスマス終了のお知らせ】」
「ウヒヒヒ……泣き虫サンドバッグちゃんの怯え顔もソソるなぁ……」
「俺らの巨大氷柱がもう辛抱堪らんですたい!!」


「ひっ……ち、ちがうん、です……ゆるして……」
(ビュオオオオオオオ!! ガタガタガタ!!)
「!?……今、何か………」


……その時。『いるさっ!ここに一人な!』と言わんばかりに、激しい風が窓を叩いた。

(……そろそろ……の……出番かしら…?………)
バリイイインッ!!
「え………!?」
「「なっ、何だ!?」」
(あらあら。まるで誰かさんみたいにボロボロになっちゃって。……ヒールウィンド!)

癒しの魔力が風に乗り、サンタガールを包み込む。
雪人達に嬲り者にされた傷が急速に癒えていく……

(あ、あなたは一体……!?)
(お菓子の妖精の、友達……むしろ姉貴分、ってところかしら?……少しの間、その身体を借りるわね)
ボロボロにされたサンタガールの赤い服が、『風の精霊』の力によって草原の風を思わせる爽やかな緑色に変わっていく。
色だけではなく、その形状も……露出度マシマシ、ミニスカがヒラヒラのフワフワな、妖精風の姿へと。

「ふー。これでだいぶ動きやすくなったわ。」
(えええ!?ちょっと、スカート短すぎませんか…!?)

「おおっ!?清楚系健気キャラだったサンドバ…サンタガールちゃんが」
「スカスカスケスケで活発系ながらもエロス漂う妖精ドレスに……!!」
「確かに、あの顔色悪くて下衆そうな連中っぽい連中に見られるのは嫌だけど……
まあ、何も問題ないわ。……速攻で、片付ける!!」

689名無しさん:2020/01/13(月) 19:34:34 ID:???
「す、すごい……!体の奥から、風の魔力がどんどん溢れてくるっ……!」

「聞き覚えのある声がしてきてみれば……アンタは子どもたちに夢を与えるサンタクロースなんでしょ?こんな雑魚いおっさん共に負けてどうすんのよっ。」

「は……はいっ!クリスマスは終わってしまったけれど……こんな人たちに私は負けるわけにはいかないんです!」

演説中のヤジに向かって内閣総理大臣が飛ばしたセリフを発しつつ、サンタガールは緑色の妖精の服と精霊刀ミカヅチを構えた。

「へん!緑色のサンタなんて見たことねえぜ!サンタといえば赤だろうが!」

「いいえ!私たちの服が赤いのは某有名炭酸飲料会社のキャンペーンの際にサンタが着ていた服が赤だったから、そう世間に刷り込まれてしまっただけです!実際、緑色の服を着ているサンタも地域によってはいるんです!」

「ふん!クッソどうでもいいトリビアだぜ!さっさと捕まえてやる!」

「その成長

露出マシマシのサンタガールの胸元や太ももに興奮しきった雪人たちは、一斉にサンタガールへと襲いかかる。

「サンタちゃん!風魔法なんでもいいから唱えてみなさい!」

「ええっ!?お父さんに教えてもらった一つしか知らないんですけど……」

「いいから早く!」

「わ、わかりました!!エア・カットアウト!!」

「えぇ!?よりによってそれ!?あーまあいいわ!あたしの魔力で!」

エア・カットアウトはサンタ服を作る際やプレゼント箱に巻く帯を切る際にサンタたちが使う魔法である。
この世界では女の子の服をいい感じに切り刻むときに使われる威力が抑えめの魔法であるが、ドロシーの精霊力によってその威力は中級魔法程度に倍増された。

「ぐおおおおおおおお!?」
「ぎゃああああああっ!ふっとばされたああぁ!?」
「俺たちのこの体を、あんな初級魔法でぇぇぇ!?」

「上出来上出来!ほら、風にのって追撃するわよ!ウィンドブロー!」

「きゃっ!ちょっ、見えちゃう……!」

ドロシーの作り出した風で宙に浮かび上がると同時に、素早くスカートを手で抑えるサンタガール。

「こ、この服!どうしてこんなにスカート短いんですかぁ!」

「こんなときに文句言ってんじゃないわよ!あたしの魔力をその精霊刃に込めるから、アンタはそれ当てることだけ考えて!行くわよー!」

「う、うわあああああああああ!!」

ドロシーの風によってジェットコースターの如く吹き飛ばれるサンタガール。
この風に乗って敵に急接近し、強化された精霊刃で敵を斬るというのはなんとなく理解したのだが……

「きゃあああああああああ!!!」

「何やってんのよぉ!さっきからチャンスいっぱいあるのに、全然斬れてないじゃない!」

「むむむむ無理ですよぉ!わたし戦うことなんかしたことないのに、こんなのできませんんんん!!」

「それならそうと早く言いなさいよ!ちょっとアンタの体借りるわ!」

「ええ!?うぐっ……?」

精霊のドロシーは加護を与えた者の体を操ることもできる。
以前リザがワルトゥに追い詰められた際も、リザの体を操って風魔法を放ち窮地を脱した。
今回のように戦闘未経験者のサンタガールでも、体さえ操ることができれば……

「ほっ!」

(ズブシュッ!!!)
「ぎええええええええおおおおおあああ!!」

「せいやぁ!」

(グブリュゥ!)
「あびょおおおおおおおおお!!」

「もいっちょ!」

(ギュブリュ!)
「びぎいいいいいいいいいいいいぃ!!」


3人の雪人ごとき、朝飯前どころか寝てても楽勝であった。

690名無しさん:2020/01/15(水) 02:30:21 ID:RCHBUVgA
「本当にいいんだな?ここの魔物たちは処刑用に作られた凶暴な獣たちだ。新兵器を強い相手で試したいのはわかるが……本当にどうなっても知らんぞ。」

「……いいから早く魔物を出して。」

「むむむぅ……」

トーメント城の地下には人が訪れない廃棄施設がある。
劣化した拷問部屋、強すぎる魔物を何年も閉じ込めている部屋、ヴァイスのような大罪人の隔離部屋など、トーメントという闇のまたさらに深部だ。

その中の一つ、獣たちの唸り声が止まないホールのような大部屋にいるのは、金髪碧眼の少女。
そして少し離れた窓付きの安全場所には、相変わらずやせ細っている教授がいた。

「怪我をしても助け出せるレベルの魔物じゃないんだぞ?毒を持ったものもいれば炎を吐くものもいる。ただの獣ではない。当時のマッドサイエンティストたちに魔改造された裏ボスダンジョンに徘徊してるレベルの【バ獣】たちだ。……本当にそれでもやるのか?」

「……やる。」

小さくそう言いながら、リザは伸びた金髪を後ろできゅっと縛った。


(おおっ、髪を縛ってくっきり見えたうなじがめちゃめちゃセクスィー……!いいなぁ、嗅ぎたい……)

一仕事する前にぎゅっと髪を縛る女の子ってなんかいいよね。と思う人はきっと多いはず。
そんな教授のいやらしい視線など気付けるわけもなく、リザは自分の武器の最終確認をしていた。

(篠原唯……市松水鳥……お前たちに私の目的を邪魔されるわけにはいかない。戦争までにもっともっと……強くなってみせる。)

プラントで戦った市松水鳥は、伝説の魔法少女とアウィナイトの魔法少女の加護を受け、自分とは違うやり方で世界を変えてみせると言った。
その目には誰も殺さないという、リザとは違う正義の心が宿っていた。

(違う……!この世界は力こそ全て、力こそが正義。だから私はトーメントの兵士になった。……自分の目的のために大切なものを失う覚悟もなく、周りと仲良しこよししてるだけのあいつなんかに……私は絶対負けない。)

市松水鳥も、あのサキも、自分とは違う恵まれた境遇にいる。
友人、兄弟、恋人、家族……そういった繋がりのために戦っていては、本当の意味で強くなれないとリザは思う。


(つながりなんていつ跡形もなく消えるかわからない。現に私には……そばにいてくれる友達も信じ合える家族も、もう……いないんだ。)

691名無しさん:2020/01/15(水) 02:35:51 ID:RCHBUVgA
武器の最終確認を終えたリザは、ピョンピョンと跳ねたり手首足首を回したりして、さながら運動前の準備体操のごとく体を動かし始めた。

「美少女の準備体操……なかなか健康的に見えてマニアックなエロさがあるな。」

入念に体を動かすリザを見て、そんなことを小さく呟く教授。
彼もこう見えてまだ10代の若い男子ゆえ、仕方のないことである。

「それにしてもまったく、美少女のくせにいつもいつも命知らずだな……なあリザ!もしかしたら最後になるかもしれないし、もったいないから私と○ックスしないか!?死ぬ前に四十八手全部試してからでもいいだろ!特にお前とやってみたいのは松葉崩s」

「いいから早くやらないと……殺すよ。」

「ひいいいいぃっ!もう、ほんと最近のアンタホントに怖ぁい!やだぁもう!どうなっても知らないわよぉ!?」

なぜかオネエ口調になった教授がボタンを押すと、リザの周りの扉が一斉に開かれる。


(……ほんとに気持ち悪いな……)

中から出て来たのは、身体中に目がつけられている不気味な空飛ぶ怪鳥、10本足の猫と蛸を混ぜ合わせたような獣、球体に目と口と足がついただけの獣なのかすらわからない魔物……と、見た目が気持ち悪すぎる魔物しかいない。

(昔の十輝星には教授よりも頭の切れる研究者や、どんな魔物も操る魔獣使いがいたらしいけど……その人たちが作ったのかも。)

「グルルルルル……!」
「シュルルルルルルル!」
「キーーーーー!!」

リザを見た魔物たちは、久しぶりに見た人間の体に興奮を隠そうともせず襲いかかる。
脆弱なアウィナイトの人間、しかも子どもの女だ。苦戦するわけもない。さっさと噛み付いて引き裂いて泣き喚く姿を堪能してから食べてしまおう。
と、当たり前のように思っていた魔物たちは……



「シャドウブレード……!はあああぁっ!」

「ギイイイイイイィ!!」
「グルルアアアァ!?」

刀身をさらに倍増させ、もはや剣といっても差し支えないレベルに進化した刃によって、簡単に斬り伏せられた。



(す、すごい……!これなら魔物も倒せる……!)

「シャドウブレード……闇の魔力によって増幅させた刀身での一閃は、炎を断ち風を裂き水を割る。魔を切ることも容易い。だがその代償に失うのは……持ち主の血。まさに諸刃の剣でもある。」

誰も聞いてくれないから1人語りするしかない教授。
魔物を倒せないというリザの弱点を克服するために作り出した改造兵器だが、その代償は少なくない。
持ち主の血を強化に使う以上、シフトを使うリザが少しでも使い方を間違えてしまえば、あっという間に体力も魔力もボロボロになってしまうのだ。


「連斬断空刃・闇華!!!」

「グオオオオオオオオオオオオオオォ!!!」

シフトを交えたブレードでの連続攻撃に加え、ワープしたすべての箇所から闇魔法が連続で放たれる斬撃と魔法弾を組み合わせた奥義。
自分の身の丈をはるかに超えるドラゴンでさえも、圧倒的な斬撃と強力な闇魔法の前では子犬同然である。

自分の命と引き換えに力を得る刃。
それがリザの新しい武器となった。

692名無しさん:2020/01/18(土) 11:58:51 ID:???
「へっへーん!ざっとこんなもんよ!」
(ううっ……怖かったよぉ……)

「がはっ!!トナカイ柄に、クリスマスリースのワンポイント……」
「げほっ……慣れない戦いで動き回ったせいで、喰い込んでるのも高ポイント……」
「うぐ………時おり人格が入れ替わって、パンモロ状態に赤面しちゃうのすき」

(ひっ!?ま、まだ生きてる!?)
「はいはい、キッチリとどめ刺しときましょうねー」
「たらば!」「あわび!」「けばぶ!」

一人ずつ顔面を踏みつけでトドメを刺すドロシーinサンタガール。
雪人達はありがとうございます的な断末魔を上げつつ戦闘不能になった。

「で、あなたのプレゼント袋ってこれ?」
「は、はい!ありがとうございます!……なんか、見た事ないアイテムがいっぱい追加されてるんですけど……」
「うわぁ。大人用というか……変態用のやつだ。あのスケベ雪人たちが勝手に追加したのね」
「な、なんだかわからないけど処分しなきゃ……」

そして、サンタガールは奪われたプレゼント袋を回収し……

「さーて。これでひとまず、一件落着かしら」
「色々ありがとうございました。……で、でも……」

「うぉぉぉいい!ちょっと待つですわー!!」

丸呑みにされたお菓子の妖精は、忘れ去られて消化され……
なかった。

「HAHAHAHA ごめんごめん!でも無事でよかったわー」
「大事な友人を忘れて放置なんてサイテーですわ!
さあ!闇堕ち雪女に気付かれる前にさっさと脱出しますわよ!!」
「え?このままラスボスぶっ倒しに行く流れじゃないの?」
「あ、あの。あっちで氷漬けにされてるお姉さんは……?」

そう。一件落着までには、まだまだやる事が山積みなのだ!


「ふ……妖精やら精霊やら、騒がしいですね……貴女達にも、血の凍る絶望を与えてあげましょう」


「OH...実の父親に完全に悪エロ堕ちしてますわね。JK忍者YAYOIも完全に氷漬けですわ」
「わ、私のサンタ道具で戻せるかも……?…この『お目覚め!ハピハピ★クラッカー』を、目の前で鳴らせば……」

「『目の前』って……言うのは簡単だけど。相手は雪女で、しかもニンジャなんでしょ?
素のサンタちゃんや、アi……お菓子ちゃんが行ったところで氷漬けにされるのがオチだろうし……」
「ですわよねー」
「………です、よねぇ……てことは……」


「ふふふふ……冬と風の精霊……どんな甘美な絶望を見せてくれるのか、楽しみですね……」

「ううう……あの人すっごく、怖そうです……」
(ビュオオオオオオ!!)
「ひっ!?ま、またスカートがぁ……!!」
「……私達が隙作ってどうするのよ。
ま、ここは私がメインで動くしかないわね。手加減できる相手じゃなさそうだし……ひっさびさに全開で行くわよ!!」

……ドロシーinサンタガール、続投決定。

悪堕ちしたササメに、どう立ち向かうのだろうか……!

693名無しさん:2020/01/19(日) 15:41:47 ID:???
「はぁ……はぁ……」

戦闘が始まってから魔物たちが全滅するまで、そう長い時間はかからなかった。
リザの手に握られた愛用のナイフは、普段通りの銀光ではなく禍々しい黒に染まっている。

「驚いた……まさか本当に全滅させてしまうとは。やはり天才か……あんな武器を作りあげた私の頭脳は。」

ナイフの刀身を切り替えて扱う改造武器シャドウブレード。
もちろん教授は妥協なく作り上げたが、普通の人間に扱いきれるシロモノかは測りかねていた武器だ。
成果としては素直に納得しているが、リザ以外にここまで使いこなせる者はいないだろう。


「……教授、これ……血を代償にするんだよね。」

「ん?あぁ、そうだが?」

「結構力を使ったけど……体力はそこまで落ちなかった。むしろ斬れば斬るほど力が湧いてきた……」

「ククク……流石に気づいたか。シャドウブレードは諸刃の剣であると言ったが、お前が戦う意思を持って敵を斬り続けている間は大丈夫だ。」

「えっと……つまり、敵を斬ることで敵の血を吸収して強くなるってこと……?」

「Exactly!たくさん殺したいならばひたすら斬れ!敵を斬りまくれ!そうすればまだまだ殺せる。斬れば斬るほどたくさん殺せる。フヒヒヒヒヒ!ついに私は完成させたのだよ。戦闘兵器の永久機関を!!!フゥーハハハハハハハハハ!!!」

「……………………」

大笑いする教授には目もくれず、リザはブレードの刀身をまじまじと見つめる。
シャドウブレードには邪神アドラメレクの魔力が込められているという、黒い炎が揺らめく魔石がはめ込まれている。
今の戦いは自分で思い返しても、まるで精密機械のように最適解を繰り返す動きであり、立ち回り全てに隙がなかった。

敵の動きを察知し、シフトで安全圏に移り攻撃態勢を整えている間に闇魔法で牽制し、その魔法によってダメージを負った相手を素早く一刀の元に斬り伏せる。
自分の得意とする戦い方に闇魔法のアシストが入ることで、攻守ともに隙のない戦闘ができる。


(この力があれば……もう誰にも負けない。市松水鳥にも、柳原舞にも、篠原唯にも。……お姉ちゃんにも。)

694名無しさん:2020/01/19(日) 15:43:15 ID:???
「おうリザ、こんなところで教授とイチャイチャしてるのか。お前の男の趣味は読めんなあ。」

「んなななっ!?王様!?」

立ち尽くすリザの前に突然音もなく現れた王は、いつものようにヘラヘラしながらリザの方へと歩いてきた。

「若い男女がこんな暗い部屋で何しようとしてたんだぁ?おじさん怒らないから言ってごらん?んん?」

「えっと……松葉崩s」

「王様、どうしてここへ?」

「んー?決まってんだろ。俺様のかわいいかわゆいリザちゃん人形が元気にしてるか見にきたんだよ。」

「…………」

発言でも行動でも変態ぶりを隠すことなく、王はねっとりした手つきでリザの背に手を回す。
それに対してリザが無抵抗でいると、王はそのままリザの細い体を強引に抱きしめた。

「んっ……!」

「クックック……お前もいい顔つきになってきたじゃないの。力を求めるその貪欲さ、ストイックさ、俺様の大好物だぜ。こうやってついついセクハラしちゃうくらいにはな。」

「……王様、質問があります。」

「ん?なんだ?なんでも言ってみろ。今の俺様は美少女にハグしながら耳元で囁かれて気分がいいからなぁ。ククク!」

「……王様は、戦争に負けないですよね。私が生きてる限りはアウィナイトのみんなを、守ってくれますよね。」

「当たり前だろ?俺様が負けるとこなんて見たことあるか?他の国がいくら小細工しようと、常勝不敗のトーメントが負ける道理はないさ。お前が生きてる限りは、ちゃんと保護区も続けてやる。」

「……………………」

「なんだよ、不安か?お前も今やこんなに強い暗殺者になったんだ。なにも心配することいいだろ。俺様にすべて任せておけ。」

王は自信たっぷりにそう言って、リザの顔を自分の顔の前に寄せた。

「……………………」

「お前も変わったねえ……前はセクハラしたら顔真っ赤にしてビンタしてきたのに、今となっては全然抵抗もしないで無表情とはな。別の意味で興奮するぜ……このままキスされてもいいのか?」

「……戦争に勝ってくれるなら、私のことなんて好きにしてもいいですよ。」

「ぶっ!?」
「ぶほおぉっ!!!」

リザがさらりと言ったとんでもないセリフに、王も教授も吹き出した。
教授の方は鼻血つきである。

「あ、ごめん。流石に抵抗すると思ってたからそんなこと言われると思ってなかったわ……」

「でも……その代わりお願いがあります。私にお姉ちゃんは……ミストは殺せません。ミストを殺す任務だけは……取り下げてください。」

「お前……アイナを生き返らせてやるなら殺すって言ってたのに、やっぱ無理ってかい。」

「……どんな条件を出されても……やっぱり私には……できません。」

少し目を伏せながらの切ない声。
友を失い家族に否定されたリザの表情を見て、王はわかりやすくため息をついた。

「まあいいさ。それがお前の出した結論なんだろ?その可愛さに免じてとりあえず取り下げてやるよ。」

「……ありがとうございます。」

「でも戦争では容赦するなよ。アイツが俺様に向かってきたら、その時はお前が殺せ。それは絶対だ。いいな?」

「……………………」

「はいって言わないとそのキュートな唇に思いっきりキスするぞ。ちなみにもう気づいてるかもしれないが、俺様の昼食はニンニクラーメンだ。」

「……………………」

沈黙を貫くリザ。
その目は静まり返った夜の海に移る月光のように、静かに光を放っていた。

695名無しさん:2020/01/19(日) 16:22:12 ID:???
「参ります……!氷遁・氷縛暴風雪!」

ササメがすばやく印を結び前に突き出した右手から、猛烈な吹雪が吹き荒れ始める。

「これが雪人の力です……全員まとめて凍りなさいっ!」

「す、すごい吹雪っ……!このままじゃ……!」

回避しようにも部屋を埋め尽くすほどの吹雪では、空中すらも安全場所ではない。
このまま吹雪に囚われてしまえば、なすすべもなく一瞬で凍らされてしまうだろう。

「ド、ドロシー!あなたの風で吹き飛ばせばいいじゃありませんの!」

「ふ、普通に名前呼ぶな!あたしの風でも吹き飛ばせる威力じゃないのよあんなの!」

「こ、ここはわたしに任せてください!風の精霊さん、体を私に!」

「え、あぁ、はい!」

すばやく体を交換したサンタガールはプレゼント袋の中から、筒状の先端が丸くなっている紫色の道具を取り出した!

「じゃじゃーん!これは、ブリザードバリアーです!暴風地域でも安全に配達ができるように開発された、サンタ道具なのです!」

「さ、サンタちゃん……それ、バ○ブ……」

「ああああ!?似てるから間違えちゃいましたあぁ!こ、こっちですっ!」

光の速さでバ○ブを袋にしまったサンタガールは、色しか違わない白い筒状の装置を取り出して起動した。

「ほんとに似てますわね……なんでバ○ブみたいになってるんですの(笑)」

「あのまま起動してたらめちゃくちゃシュールな光景になってたわね(笑)」

「ちょっと、2人とも笑わないでくださーい!!」

サンタ道具のセンスはともあれ、サンタガールが装置を起動させると、ドロシーたちの周りに吹雪が届かなくなった。

「そんな……私の術が……!」

「やった!雪崩防止用の道具がこんな形で戦闘に役立つなんて、思ってもみませんでした!」

「ナイスよサンタちゃん!さぁ次はこっちの番!吹き飛べゲイルインパクトーーー!!!」

「くっ……!きゃああああああああ!!!」

装置によって風魔法の軌道を確保したドロシーの術が、吹雪の間を縫ってササメに直撃する。

「ああぁんっ!!」

悲鳴をあげて吹き飛ばされたササメは、そのまま氷の壁に叩きつけられてぐったりと項垂れた。

「無駄にエッチな声ですわ……!リザちゃんもそうでしたけれど、どうして悲鳴がこんなに女の子要素全開のエッチな声になっちゃうんですの……」

「アイ……お菓子の精霊!あんまり前世の話をあけっぴろげにするんじゃないわよ!もうわたし達は精霊なんだから!」

「ふ、2人とも喧嘩してる場合じゃないです!早くあの氷漬けの子を助けてあげましょう!」

696名無しさん:2020/01/26(日) 14:26:59 ID:???
私は……………夢を見ていた。


「っきゃああああああぁぁぁ!!!体がっ……私の体が、凍り付いて……!!」

(うう、ん……あれ?……私、たしか、あの雪人のボスっぽい奴に、無理やり……
それから、ええと……どうなったんだっけ………?)

「まずいっ……!!…下がって、サツキ!この男は、私が相手をします!!」
「そ、それでも……あなた達を、討魔忍の使命を捨てて、私一人逃げるわけにはいきません……!!」

(サツキって、わたしのこと……?あの人、誰かに似てるような……
なんだか記憶が、ぼんやりしてる……私、夢見てるのかな……?)

「はぁっ………はぁっ………お逃げ、ください……そいつは、強すぎます!…フブキ様おひとりでは……!!」

(そうだ………思い、出してきた………
私は、討魔忍衆中忍サツキ………
皇帝ゲンジョウ様の命を受け、上忍フブキ様の下、部隊の仲間とともに雪人を討伐に来た。)

(だけど…私とフブキ様を残し、味方は全滅。
たった一人の雪人、『銀帝』と名乗る、その男によって……)


「ふん。その程度の実力で、雪人の城まで乗り込んでくるとはな……貴様らも我らの『餌』になりたいのか」
「ふ、ふざけないで……私たちは、雪人にさらわれたミツルギの人々を助けに来たのです!!
あの人たちを、どこにやったのですか……!」

(あ、あれ……?…ちが、う……私の名前はヤヨイ……ササメ先輩と一緒に来た、はずなのに……
じゃあ今見ているのは、誰かの……サツキっていう人の、過去の記憶……?)


「……さらった人間どもなら、『氷柱の間』で兵士どもに好きに嬲らせている。
奴らの嘆きと絶望が生み出す負のエネルギーが、我ら雪人の糧となるからな……」

「なんて酷い……許せません!!……火遁・カグツチ!!」
「ふん………ぬるいわ」
(ビキビキビキッッ!!)
「ぐ……うああっ!!」

(そんな……火炎の術が全然効いてない……雪人は炎が弱点のはずなのに……!
それどころか、ものすごい冷気で、巻物ごと腕が凍り付いていく……!!)

「く、ううっ……ならば、これでどうですっ!!白雁の太刀!!」
「無駄だ……出でよ、妖なる刃…『凍月(イテツキ)』!!」

(ガキィィンッ!ザシュッ!!!)
「んあうっ!!っくあああああぁっ!!」
(な、なんなのあの剣!?斬られた所が、氷におおわれていく……!!)

(キンッ!!ドスッ!ザクッ!!!)
「ぐっ!!……うああああんんっ!!」

(左手が、氷漬けになっちゃった!……これじゃ、戦ってるだけで動きが封じられちゃう!
あいつ、ヤバすぎるよ……!!)

697名無しさん:2020/01/26(日) 14:28:23 ID:???
「ふん……さっきまでの威勢はどうした?……やはり、人間には堪えるか……体中を凍らされながら切り刻まれるのは」
「う、ぐう……なん、の……この程度の攻撃で、私は……っぐ!…つあああああ!!!」
「だ、だめっ……逃げてください、フブキ様ぁあぁっ!!」
(そ、そんな……一方的すぎる……あの人、ササメ先輩と同じくらい強いっぽいのに……!)


「……退屈しのぎにはなったな。そろそろ、幕引きとしよう……魔凍・無限陣!!」

(……ピキピキ……バキバキバキバキッ!!)
(や…やばいっ!!ものすごい冷気で、フブキさんの周りに無数の氷の刀が!!
……って、さっきから誰に解説してんのよ私は…)


「いい、え……まだ、ですっ……砕氷星鎖……流星の舞!!」
(ブオォォォォォンッ!! バキバキバキバキバキッ!!)

(すごい…鎖で氷の刀を弾き返してる…!だけど……)

「ほう。まさか、雪人の氷を弾き返すとはな……だが、無駄だ。
片腕が凍っている今のお前に、我が無限の氷刀は受けきれぬ」

(ガキン!ガキンッ!……ザシュッ!!)
「…はぁっ……はぁっ……こんな所で、負けるわけには……んあううっ!!」

「脚が凍ったか……いい的だな」
(ビキッ!! ビキビキ!……カキンッ! ザクッ!!)
「くっ………!………私、には……ミツルギの人々を、守る使命が………っぐあ!!」

「両腕とも凍り付いたか…これでもう、その鎖は使えまい。我ら雪人に刃を向けた報い。その身に刻んでやる」

(ドスッ!! ドスドスドスッ!!)

「んぐっ!!あうっ!!く、ああああんっ!!」

(………ザシュ!!スブッ!!)
「ひぐっ!!……っう、ああああぁあっっ!!」

「嫌ぁああああ!!フブキ様ぁあああああああ!!」

(それにしても……こんな時に思うのもアレだけど、
フブキさんって、めちゃめちゃ美人なうえにスタイルもササメ先輩並みに良いなあ。
衣装もえちえち着物アレンジ風忍者装束って感じでフェチいし、おまけに悲鳴がもんのすごくエロイし……
というかあの声、誰かに似てるような………あ。もしかしてあの人って、ササメ先輩の……??)

698名無しさん:2020/01/26(日) 14:30:08 ID:???
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………
まだ、です……人々を苦しめる魔の者達などに…私は決して、屈しない……!」

「人間にしては、よく持った方だな。
それに……こんな状況にあっても、強い意志を失わない、その目……雪人の女たちとは、全く違う。
奴らは皆、我を……雪人の男を、恐れる。怯える、許しを請う、媚びる」

「?……どういう、ことですか……!?」

「嘆きと絶望のエネルギーが、我ら雪人の糧となる……例え雪人同士でも。
故に、弱い者、特に女は、真っ先に標的になるのだ。」

「人里に降りてくる雪人に女性が多いのは、そのせいだったのですね……なんて酷い事を」

「だが……絶望にも、鮮度というものがある。
心が壊れ切ってしまえば、その者から新鮮なエネルギーを取り出すことは出来ん。
我ら雪人は今、食糧難でな……雪人の女たちからは、あらかた絞りつくしてしまった」

「だから、人間をさらい始めたのですか…………雪人達が、生きるために……」

「そういう事だ……だが、貴様は妙な人間だな。
これほど痛めつけたというのに、絶望のエネルギーを全く感じぬとは……」

「私には……ミツルギの人々を守り、討魔忍衆の仲間を守る、使命があります……
忍びが心を失えば、そこに残るのは誰かを傷つける刃だけ。
だから……忍びたるもの、心だけは失ってはならない。
それが討魔忍衆を代々務めてきた、私の家の……祖父、曾祖父から何度も聞かされた教えです」

「なるほど……興味深いな。貴様から、何としてでも絶望を引き出したくなってきたぞ。
私が直々に、じっくりと嬲り、犯し、苛み……どこまで耐えられるか、確かめてやる」


(フブキさん……あいつに、連れてかれちゃう……。あれ?ていうか私、放置?)

「兵士ども……そっちの女はくれてやる。好きにしろ」
「「「さっすがーー!!銀帝様は話が分かる!」」」
「ひっ……!?」
(ですよねーーーー!)
「さわらないで……おねがい、やめて……!」
(ちょ、待ってこれ、私にも感覚が伝わってきちゃう……
あ。おっぱい大きいと、揉まれる時こういう感じなんだ……とか言ってる場合じゃないって!!)

「「イヤあああぁああああああ!!!」」

「あれ?なんか、二人分の絶望エネルギーが感じるぞ?」
「一粒で二度おいしいって事だな!よーし、さっそく『氷柱の間』に連れてって、みんなで林間してやろうぜ!」
「「「さんせーーーい!!」」」

(その後、私は……氷漬けにされたサツキさんが、雪人達に好き放題に犯される感覚を共有し続けた。
何時間も、何日も……何年にも渡って。
終わりのない悪夢に時間の感覚さえも失い、心が壊れようとしていた時……
誰かの鳴らす『目覚めのクラッカー』が、鳴り響いた。)

699名無しさん:2020/01/26(日) 17:06:33 ID:???
私の名は……討魔忍衆上忍、ササメ。

私は………夢を見ていた。


「おぎゃぁ…!!…おぎゃぁ…!!…」
「産まれたか……無理矢理だろうが何だろうが、子というのは出来るものなのだな」

「この子が……私の、私たちの……子供………なのですね。
……抱かせてもらっても、よろしいですか」
「?………好きにしろ」

雪人の城内と思われる、見知らぬ一室。
雪人の男と、出産を終えたばかりの人間の女性。そして、一人の赤ん坊……
……どこか、見覚えがあるような気がする。

「!?………なんだ、この感覚………全身から活力がみなぎるような……
絶望のエネルギーとは、真逆の……
貴様。……いや。フブキ……なんだ、お前のその感情は?……何故その赤子を抱こうと思った」

「これは……『愛情』というものです。……親が子に抱く、人が大切な誰かに抱く、深い慈しみの気持ち。
経緯や過程はどうあれ……この子は大切な、私たちの子供ですから。
母親として、我が子を抱きたいと思うのは、当たり前のことです」

(そうだ………抱きしめた時の感覚。いや。お母様に、抱きしめられた時の感覚……今でも鮮明に思い出せる。
……間違いない。この人は、私の………!!)

「言葉で説明するのは難しいですが……一つ、言えるとすれば。
きっと貴方自身も、この『愛情』を、持つことができるはずです。
雪人が皆、愛の持つ力を理解することができれば、雪人が人間を襲う必要もなくなる……」

「…………一つだけ、言っておく。その赤子は、女だ。
雪人どもが『愛』とやらを理解する前に、他の雪人の女と同じように……
絶望のエネルギーを限界まで搾り取られ、いずれ使い潰されるであろうな」

「!!………」

「だが、問題ない……我から受け継いだ雪人の血を覚醒させれば、
周りの者どもをねじ伏せるだけの力を得る事ができよう。
奪われるのではなく、奪う側に回るのだ。この私と、同じようにな」

「そん、な……」

「そうして、いずれは私の跡を継ぎ、この城の長として雪人達を率いる……
雪人は何千年もの間、そうしてこの『魔の山』で生きながらえてきたのだ。
どちらの道を選ぶのか……母親である貴様に、選ばせてやる。明日までに決めるがいい」


(その夜……お母様は、決断を下した。
私をこのまま『奪われる側』として生かすのでも、雪人に目覚めさせ『奪う側』になるのでもない。
それは……あまりにも無謀な、第三の選択肢。)

「……クックック。まさか、せっかく生まれた赤子を谷底に捨てろ、とはな……
人間の持つ『愛情』とやらは、まったく意味不明なものだ」
「ううっ……ササメ………許して、なんてとても言えない………」

「谷の底は絶えず流れ続けて消して凍らぬ激流。川下は、魔物の徘徊する樹海………
こんな赤子が、生き延びられる環境ではないぞ」
「わかって、います……だけど今の私には、こうするしか……」

「森には、山と森を守護する『ヴィラの一族』の集落がある。
仮に、その者らに運よく拾われたとしても……」

「その子はきっと、恨むでしょう。我が子を捨てた私を……
それでも……構いません」

(お母様の深い悲しみが、痛いほど伝わってくる………
私は……お母様を、憎いなどと思ってはいない。
お母様の決断が、私の進む道を与えてくれたのだから……
早く戻らなくては。そのことを、伝えに行かなければ……そう思ったとき。

誰かの鳴らす『目覚めのクラッカー』が、鳴り響いた。)

700名無しさん:2020/02/01(土) 01:57:24 ID:LFPL1yzg
「う……あ、あれ……?」

「おー! ほんとにクラッカーでお目覚めですわね!J K忍者復活ですわ!」

「うぅん……あっ……」

「お、こっちも起きたわね。あのクラッカーで正気に戻ったみたいよ」

「お目覚めクラッカーはクリスマスに絶対寝坊しないように使われるサンタ道具です! 当日2日酔いになってグロッキーだったときのために、正気に戻る効果もついてます!」

「もはやドラ○もんのひみつ道具ね……」

サンタガールのクラッカーによって目を覚ましたヤヨイとササメ。これで戦力は妖精も合わせて5人分。
銀帝との戦いにフル戦力で挑むことができる。

「ヤヨイちゃん……本当にごめんなさい。私の雪人の血が、あなたを傷つけてしまいました……」

「き……気にしないで、ください……ササメ先輩は、なんにも悪くないです……」

「ヤヨイちゃん……!」

いつもの様子でにっこり笑ってみせるヤヨイ。だがその笑顔はどこかぎこちないものだった。
だが、夢の中で何年間も犯され続ければ普通の少女であれば心が壊れてしまうだろう。
そうならなかったのは、ヤヨイには心を乱されないという忍びの才があるということなのかもしれない。

「それより……ササメ先輩のお母さんが……」

「……ヤヨイちゃんも、過去を見たのですね。私の母はやはり、まだこの城のどこかにいるようです」

「えっえっ、なんの話なのよ……いきなりついていけないわ。説明しなさいよお菓子の妖精!」

「ど、どうでもいいですけどさっきからお菓子の精霊だの妖精だの表記のぶれが起こっていますわ! 妖精に統一してほしいですわ!」

「……えっと、この方たちは……?」

「あ、説明しないとですよね……ていうか私も、こっちのサンタみたいな二重人格の女の子のことはよくわからないし」

「あ……みたいじゃなくて、わたしサンタガールなんです。こんなんでも一応、サンタさんなんですよ」

「二重人格のもう一つはうるさくてガサツでバカで気が強くて演技が下手くそで男の筋肉が好きで友達の買った下着を恥ずかしさから穿けないって言いつつちゃっかり穿いてる風の精霊の人格ですわ! サンタガールちゃんとは無関係ですわ!」

「アイナ……今のあんた程度の小ささなら地球の裏側まで吹っ飛ばせるんだから、そのつもりでいなさいよね」

「ひいいいぃっ!」




「……みなさんが敵ではないのは理解いたしました。私は母を……探しに行きます」

「せ、先輩……本当に行くんですか?雪人はかなり強いし、多分あの銀帝ってやつはそれとは比べられものに……!う、ぁ……!」

「……?ヤヨイさん……?」

銀帝のことを話し始めた途端、ヤヨイは恐怖感に襲われてしまう。
それは銀帝に犯された記憶が原因だ。氷漬けにされ、氷を体に突き入れられたあの痛みと恐怖は、ヤヨイの中で溶けることはない。

「……ササメ先輩……やっぱり帰りませんか……?わたし、こうして現実に戻ってきただけでもすごく嬉しいんです……!早く帰って、お母さんとお父さんに会いたい……それに、ササメ先輩にも危険な目にあって欲しくない!」

「……もちろん無理強いはいたしません。ヤヨイちゃん、貴女はもう十分戦いました……ここからは、私の……銀帝の娘として、けじめをつけるための戦いです」

「……ササメ先輩……!」

使命感に駆られるササメ。それを止めようとするヤヨイ。
両者の想いが通じ合うことはできるのか。

701名無しさん:2020/02/08(土) 14:36:02 ID:iH0lu9bg
「話し合う必要などない。お前もそこの娘も、ここで再び凍てつくのだからな」

その時、雪人が全滅したはずの部屋に男の声が響く。その声の主は言わずもがな……

「ぎっ、銀帝!?ヤバいですよ、ササメ先輩!!」

雪人の王、銀帝である。その傍らには、氷漬けにされた一人の女性がいる。

「あの銀帝って奴、親玉のくせに無駄にフットワーク軽いわね」

「まぁ、いい加減いつまでサンタ編やってんだって感じですし、テンポよく行かないといけませんわね」

「お父様……っ!?その氷漬けの女性は、もしや……!」

「察しがいいな。私とお前の戦いを、特等席で見せてやろうと思ってな……自分の娘の戦いをな」

「お母様!!」

初めて見る、ずっと追い求めていた母の姿……思わず駆け出したササメだが、その直後、床からせり出した氷の檻が、フブキの周りをぐるりと囲む。

「親子の感動の再会は、戦いが終わった後にしろ。お前が再び雪人として覚醒した後でな」

「いいえ、今度は負けません。お父様にも、私の中の雪人の血にも!皆さん、下がっててください!」

「なに言ってんの!どうせ奴を倒さなきゃ、逃げることすらできないでしょ!私らも行くわよ!」

「ええ!?あんな強そうな人と戦うんですか!?うぅ、サンタは思っていたより肉体労働ですぅ……」

「お菓子!アンタはサンタに憑依して潜伏しつつ道具で援護!私はくノ一に憑いて戦闘力マシマシで行くわ!多分これが一番相性いいでしょ!」

「相変わらず戦闘になると急にイキイキしますわね」

風の精霊の指揮により、サンタガールとヤヨイにそれぞれ憑依するお菓子と風の妖精。

「なんだ、無駄なギャラリーがぞろぞろと……邪魔だ、少し眠っていろ」

銀帝が手をかざすと、怪しい冷気が周囲を包みだす。雪人の持つ精神感応の力……その力が一際強い銀帝によって、お菓子の精霊とサンタガールの精神が、風の妖精とヤヨイの精神が感応する。

「ええ!?氷属性のくせにまたメンタル系攻撃ですの!?ワンパターンですわ!」

「え、なんですかそれ!?私どうなっちゃうんですかー!!?」

「大丈夫ですわ、アイナの記憶はそこまでエグいのないですから……って問題は、B級スプラッター映画みたいな過去のドロシーですわーー!」

「だから名前呼ぶな!でも確かにヤバい、ただでさえ精神的にキテるくノ一に、あの記憶を見せたら……」

「え……?あぐぅ!!」

風の精霊と精神感応したことにより、彼女の……ドロシーの生前の記憶がフラッシュバックするヤヨイ。
それは先ほどの討魔忍の記憶と同等……いや、それ以上に残酷な記憶だった。

詳しくは下記参照。
http://ryonarelayss.wiki.fc2.com/wiki/09.ドロシー

702名無しさん:2020/02/08(土) 14:37:04 ID:???
「なに……これ……!?いや……いやあぁああああ!!!!」

「落ち着いて!それは私の過去!アンタは関係ない!追体験してるだけ!!」

「ええぃ、こうなったらアイナたちだけでも援護に行きますわよ!」

「は、はい!」

崩れ落ちるヤヨイと、お菓子の精霊の力で姿を消すサンタガール。

「半分仕留め損ねたか……まぁいい、どうせ大した影響はない」

「ヤヨイちゃんに……手を出さないでください!『氷雨』!『雪雲』!」

ササメは氷の刃を生成して、銀帝に切りかかるが……

「ふん、人の身に戻った途端、また貧弱になったな」

「な……!?」

ササメの氷の刃は、銀帝の体に到達した瞬間に、呆気なく折れた。

「半分の雪人の力で、完全な雪人に……ましてや王に勝てるわけがないだろう」

ササメが驚いている間に、素早く伸びた銀帝の腕が、ササメの首を掴んで持ち上げる。

「ぐっ、が!!かはッ!」

「さぁ、再び覚醒するがいい」

冷気が銀帝の腕に溜まり、ササメの首を伝って、彼女の口に入りそうになる。

「させませんわーー!」

「ホカホカ加湿器!!」

だが、サンタガールのアイテムから出た暖かい湯気が、銀帝の冷気を食い止める。

「ちっ、猪口才な……もういい、このまま絞め殺すか」

「ぐぅ!!ぎ、があぁ、がはっ!!」

メリメリ、とササメの首を締める銀帝。雪人の力で強くなったササメには、力比べで銀帝を下すのは難しい。
サンタとお菓子コンビは道具によるサポートはできるが、戦闘力自体は低い。

つまり、この状況を何とかできるとすれば……




「うああああぁああああ!!!!!」


精神感応を振り払うように叫びながら、精霊刀を持って突進している、彼女しかいない。

703名無しさん:2020/02/08(土) 15:45:22 ID:bfITBHT.
「話し合う必要などない。お前もそこの娘も、ここで再び凍てつくのだからな」

その時、雪人が全滅したはずの部屋に男の声が響く。その声の主は言わずもがな……

「ぎっ、銀帝!?ヤバいですよ、ササメ先輩!!」

雪人の王、銀帝である。その傍らには、氷漬けにされた一人の女性がいる。

「あの銀帝って奴、親玉のくせに無駄にフットワーク軽いわね」

「まぁ、いい加減いつまでサンタ編やってんだって感じですし、テンポよく行かないといけませんわね」

「お父様……っ!?その氷漬けの女性は、もしや……!」

「察しがいいな。私とお前の戦いを、特等席で見せてやろうと思ってな……自分の娘の戦いをな」

「お母様!!」

初めて見る、ずっと追い求めていた母の姿……思わず駆け出したササメだが、その直後、床からせり出した氷の檻が、フブキの周りをぐるりと囲む。

「親子の感動の再会は、戦いが終わった後にしろ。お前が再び雪人として覚醒した後でな」

「いいえ、今度は負けません。お父様にも、私の中の雪人の血にも!皆さん、下がっててください!」

「なに言ってんの!どうせ奴を倒さなきゃ、逃げることすらできないでしょ!私らも行くわよ!」

704名無しさん:2020/02/08(土) 17:02:22 ID:???
「受けてみなさいっ……忍影斬!!」
「ぬうっ……それは、精霊刀………!?」

精神攻撃を耐え抜き、銀帝に斬りかかるヤヨイ。
とっさにかわした銀帝だが、腕にわずかな裂傷が刻まれる。

精霊刀は従える精霊の数と強さによってその威力を増す。
手下がお菓子の精霊だけだった時は雑魚雪人にさえ通用しなかったが、今は格段に威力が増していた。

「そっちの雑魚と風の精霊……だけではない。『もう一人』いるな。だが何匹群れたところで結果は変わらぬ!」
「う………げほっ、げほっ!!」
「ササメさん!大丈夫ですか!?」
(さらっと雑魚扱いされましたわ…)

(ギンッ!!ガキン!!ザシュッ!!)

「うわ、すごい……!」
(な、なんかあのJK忍者、思ったより剣技レベル高いですわね)
「あれは……ヤヨイちゃん、じゃない。一体……?」
(え?あの動き、多分ドr…風の精霊とも違いますわよ?……じゃあ誰が…)

(ヤヨイ、よく動けたわね!さすがに精神的に限界かと思ったわ……ヤヨイ?)
(う……うん。なんとか、大丈夫……)
(あれ?ヤヨイも「」じゃなくて()で喋ってるってことは……今、表に出てるのって……)

「フブキ様を長年苦しめた報い……今こそ受けてもらうぞ、銀帝!!」
「なるほど……そういう事か」
(なんか敵は納得してるっぽい!?どういう事、ヤヨイ!?)

(私が、最初に氷漬けにされたとき……
サンタちゃんのクラッカーがならされても、悪夢から抜け出す力が残っていなかったの。
その時、あの人が助けてくれた。)

………………………………

「グッヒッヒッヒッヒ!!夢の中だと何しても死なねーから、色々やっちゃうもんねー!
いっけーイエティ!!サツキちゃんの足と両腕持って〜……地獄のゾウキン絞り!!」

「っぐ……は、放しなさいっ……!」
(うう……手足を掴んで、一体何を……ゾウキン絞りってまさか……)

「グロロロロロゥッ!!」
メキメキメキメキッ!!!
「「っひぎあああああああああああぁっ!!」」

「いやー!いつ見ても骨折音と血のエフェクトがド派手だなー!コマンド複雑すぎて実戦じゃなかなか出せねーけど!」
「イエティって、技がどれもこれも大振りでコンボがつながりづらいんだよな! よーし今日もいっぱい練習しちゃうぞー!」

私が追体験した、ユキメ先輩のお母さんの部下、サツキさんの過去。
夢の中……真っ暗な部屋の中で、格ゲーのトレーニングモードみたいに、自分の意志じゃ身動き一つできなくて……
イエティとかホワイトウルフとか、いろんな魔物に一方的にやられ続けるの。

絶対死んじゃう、っていうような大ダメージも、次の瞬間には元通りになって……
すぐまた、何度も何度も痛めつけられる。でもあの時……

(パアアアアアンッ!!)

「うおっ!?なんだ今の音!?」
「おい見ろ!空中に亀裂が……!!」

<異常発生……異常発生……悪夢空間に亀裂が発生。再構築します>
「うっぐ……何、あの亀裂…………これは…夢……?」
(あれは……………あくむの、でぐち……でも、もうだめ……私……もう、うごけな……)
「……だ……誰かいるの……!?」
「何だかわからねーが、嫌な予感がするぜ……イエティ!サツキちゃんを押さえつけとけ!」

「はぁっ……はぁっ………そうは……行かないっ…忍影斬!!たああああぁっ!!」
「グオォッ!?」
「何っ!?悪夢の中じゃ動けないはずなのに……!!」
「う、動けたっ……!…そうか、あの亀裂のおかげで、悪夢の力が弱まって……」

「くそっ!だが、無駄だ!イエティ超必ゲージ最大!!
ジャンプ強キック!下強パンチ!からのビッグフットスタンプ!」
(ドゴ!! ゴスッ!! ゴシャッ!!)
「んうっ!! うあっ! げううっ!!」
「そして超必投げ!アルティメットイエティバスターコンボ!」
「グオッ!!」
「うっぐ!……これ、は……普通の打撃…?」
「しまっ…!コマンドミスった……!!」

「い、今だっ……奥義・影刃蒼月閃!!」
「グアオォォォォォォゥッ!!」

「クッソがぁぁぁ!!逃がすな、イエティ!!」
「はぁっ……はぁっ……しっかりして……誰だか知らないけど……いるんでしょう、私の中に…」
(………う………ぁ………)

「グロロロロォ!!」
「やってくれたなぁ……だが、悪夢の中ならイエティだって何度でも復活するんだぜ……!」
「もうちょっとで結界も復旧するみたいだしな!コンボ表の上から下まで順番に試してやる!」

(そ、そんな……!!)
「……くっ……せめて、貴女だけでも……!!」

705名無しさん:2020/02/08(土) 17:05:10 ID:???
(その後なんやかんやあって、私たちは奇跡的に脱出した……サツキさんがいなかったら、私は目覚めることができなかったかもしれない)
(ええ……かなり良いところで終わったわね。kwskしたら長くなりそうだから突っ込まないでおくけど)

「私の実体は、未だに氷の牢獄に閉じ込められている。
だから、今の私は影の精霊となって、精霊刀の持ち主に憑依しているのよ!!」

「……雑魚どもが、次から次へと群がりおって……消え失せろっ!!『凍月』!!」
「くっ……!!」

巨大な凍気と共に、氷の刃が振り下ろされる。
回避は不可能。受ければ刀ごと全身が凍り付くだろう。
かつてのサツキが銀帝に挑んだ時も、同じようにこの剣の前に敗れ去った……

(ガシッ!!)
「……ササメ………!!」
「はぁっ……はぁっ……『銀帝』……いいえ。お父様……もう、おやめください」

サツキの前に立ち、真剣白刃取りで銀帝の死の刃を受け止めたのは……ササメだった。

「そもそも……貴様はなぜ、その姿のままでいる。雪人の血に覚醒したのではなかったのか」

「……あなたの言うように、雪人からすれば人間など『雑魚』にすぎないのかもしれません。
ですが、彼らがいなければ、私は……あなたの前に立つことなど到底できなかった。」

「私は……今日、すべてを終わりにするつもりでした。
雪人は、人を襲って、苦しめる魔物……私の体にもその血が半分流れている。
何かのはずみで、さっきのように『雪人』として覚醒し、罪もない人々を……自分の大切な人を、襲い始めるかもしれない。
そうなる前にあなたを殺し、雪人達をすべて殺し、そして自分自身も……そう考えていた」

「なっ……」
(ササメ先輩……!?)

「だけど、お母様の過去を覗いた事で……私は自分の考えの浅はかさを知ったのです。
……私は、疎まれ捨てられた忌み子ではなかった。
私を拾い育ててくれたヴィラの集落、ミツルギの人々、様々な人たち。

雪人の血を引く私を、今日まで受け入れ支えてくれた皆さんのおかげで……
他人を苦しめねば生きていけない雪人の宿命に、私は打ち克つことができた。
お母様が示してくれた私の道は、間違っていなかった……
それを今、お見せします。
雪人の力、忍の技、そして……人の心。その全てを一つに束ねた、私の、この奥義で……!!」

「そんなものは……幻想にすぎぬ。 雪人の『宿命』は、そんなに軽くはない……
受けるがいい!!奥義『永久氷晶』!!」
「『雪月花』!!」

ササメと銀帝、二人の刀が交錯する。
雪人の悲しい運命に翻弄された親と子の、勝負の行方ははたして……

706名無しさん:2020/02/16(日) 19:24:07 ID:WsW31b7A
「くうぅ……!はああああっ!」

「ぬおおおおおおおおお!!!」

ビュオオオオオオオオオオオ!!!

氷の氷華と父の氷晶が炸裂し、部屋中に吹き荒れる吹雪。
その勢いは凄まじく、サンタガールたちは吹き飛ばされないように耐えるのみで精一杯だった。

「ぐ……これじゃ、援護も何も……!」

「むむむ無理ですわ……!あっあっ!吹き飛ばされますわああああぁ!」

「お菓子の精霊さん!危ない!」

吹き飛ばされそうになったお菓子の妖精の小さな手をサンタガールが掴み、なんとか踏みとどまった。



「存外にやるな……腐っても私の血を引いているだけはある」

「負け……ません……!お母様のためにも……お母様と共に戦い命を散らした、サツキ様のためにも……!」

「くだらん。親子の絆だろうと、部下との繋がりだろうと……ここですべて砕いてくれるッ!!!」

ビュウウウウウゥ!!!!ゴオオオオオオオオッ!!!

「な、まだそんな力が……?あああああぁっ!!!」

その身に宿した雪人の力を全開放する銀帝。
先程までは互角に渡りあっていたものの、勢いを増した暴風雪の前に、ササメの足が後退する。



ビュウウウウウウウウゥオオオオオオオオオオオッ!!!

もはや銀帝の吹雪は、吹雪なのかもわからなかった。
目の前が白一色に染められたと同時に、初めて感じる体の感覚にササメは困惑する。

「くっはぁ……!この……感、覚は……?」

「ククク……それが人間どもが感じる、寒さという感覚よ。お前が感じることは今までなかっただろうがな……」

「う、はぁ、はぁ……こ、こ……これが……寒、さ……?」

「私の氷の前には絶対零度すら生ぬるい……お前はまた雪人の血を覚醒させてやろうと思っていたが、気が変わった。貴様も永久に凍結させて、雪人の糧となってもらおう。その美しい肢体でな……」

「……はぁ……ぅ……くぅ……!ま……け……ません……!」

言葉とは裏腹に、ササメの氷の花びらが、一つ、また一つと散っていく。
雪人のハーフとして生まれたササメは、今まで寒さを感じたことがなかった。
銀帝の圧倒的なまでの吹雪を浴び、初めて感じる身体の感覚に意識が遠ざかってゆく。



パリィン!

ササメの氷の花びらが、最後の一つとなった。

「は、は、はぁぁぁ……ぁ……」

「……フフ、怖いか?この氷の花弁が散ったとき、貴様も母親と同じように、永久に凍り続けるのだ……」

「はあああぁっ……ふううううぅ‥…!」

歯がガチガチと音を鳴らす。体の震えが止まらない、
目の前の氷柱は自分の髪だと気づいたとき、ササメの足は完全に凍りついていた。



(……寒さ、とは……こんな、にも……絶望的な……感覚……なのですね……)



銀帝の吹雪の前に、ゆっくりと目を閉じるササメ。
だがその時、豪雪の音に混じって声が聞こえてきた。

「……輩……!……けないで……負け……で!」

(……この声は……ヤヨイ……ちゃん……?)



「……諦め……で……!ササメ先輩!!!負けないでッ!!!」



必死に吹雪の中で声を上げるヤヨイの声に気づいたとき、閉じかけたササメの目が開いた。

707名無しさん:2020/02/23(日) 15:28:13 ID:???
「……ヤヨイ…ちゃんっ……!?………」
必死に叫ぶヤヨイの声に、朦朧としていたササメの意識がほんの少し覚醒した。


「ちょっと、ヤヨイ…!?……無茶よ、戻りなさいっ……!!」
「冷気無効のサンタ服すら貫通する寒さですわよ!?……生身の人間じゃ、持ちませんわ……!!」
「って、つめたっ!!わ、私の服の中に入らないで下さいっ……!」

精霊やサンタガールですら耐えられない、荒れ狂う猛吹雪の中。
ヤヨイは体半分氷漬けになりながらも、ササメの元に必死に這い寄り、しがみつく。

「っぐ……こんな、所で……諦めちゃ、ダメです……先輩のお母さん……フブキさん、やっと目の前に……」
(………ビキビキビキビキッ!!)
「「うっぐ……あああああああぁぁ!!!」」

「先輩……これを………受け取っ、て……」
「……ヤヨイ…ちゃん……!!」
(パキンッ…!)

「……無駄だ。二人まとめて、氷漬けになるがいい」

咄嗟にヤヨイを抱き寄せるササメ。だが、銀帝の吹雪は、更にその威力を増していった。
やがて最後の花びらが散り、二人の体は氷に包まれて……

「フン。所詮は、人間の血が混じった半端者……この私に勝つ事など、不可能だったな」

……ササメとヤヨイは、互いに身を寄せ合ったまま、氷の柱に閉じ込められてしまった。


「さてと。妖精ども……ついでに、貴様らも凍らせてやる。我ら雪人の糧となるがいい」
「ぎょえぇぇぇ、こここ、こっちに来ますわっ……!!」
「うっ……動けない……風が、凍って……っぐ、あああぁっ……!!」

後衛にいたサンタガール+妖精ズにも、少しずつ冷気が迫っていく。
もはや、銀帝の暴虐を止めるものは誰もいないかに見えた。


(……寒い……ヤヨイちゃん、貴女は……今まで、こんな感覚に耐えていたのですね。
これほどの危険も承知で、私のために……ここまで着いて来てくれた。)
(…………。)
(ヤヨイちゃんの、体……とても、温かい……)

(……そうだ。確かに、私は……今まで本当の『寒さ』を知らなかった。
だけど、その代わり……お母様や、今まで出会った大勢の人たちから大切なもの……
『温かさ』を、私は知っている)


「だから……ここで、終わるわけにはいかない……『砕氷星鎖』っ!!」
(バキバキバキッ……!!)
「何っ……!!」


その時。

氷塊に大きく亀裂が走り、中からササメが現れた。
左腕に気絶したヤヨイを抱きかかえ、右手には、ヤヨイから受け取った『砕氷星鎖』を携えている。

そして、全身に纏っている凍気は……今までと、何かが違った。
雪人の長として長年君臨する銀帝も、感じたことのない種類の感覚。


「馬鹿な。下等な人間、中途半端なハーフごときが……銀帝の氷棺から脱出しただと……!?」
「はぁっ………はぁっ………
下等で半端……そんな脆く儚い存在だからこそ……人は、互いを想い、助けあう。
時にそれが……どんな寒さも、絶望さえも、乗り越えるほどの力を生み出すのです」

「ほざくな……そんな不安定なものに、この私が……
雪人の長たるこの銀帝が…惑わされるわけにはっ……!!」

「やはり……一度力で打ち倒さなければ、貴方に認めさせることは出来ないようですね。」

「…………」
「……決着を、付けましょう。
貴方に教えて差し上げます。お母様が……命がけであなたに伝えようとしていたことを」

両者の剣がぶつかり合う。激しい光と凍気が周囲を包み込み……

「「はああああぁっ!!」」

無数の氷の結晶が、咲き乱れる花のごとく舞った。

708名無しさん:2020/02/23(日) 18:32:43 ID:???
(………ここは、一体……?……私は…………)
銀帝は……夢を、見ていた。

「お目通りが叶い光栄です、ゲンジョウ様……
この度、見習いとして新たに討魔忍衆に加わらせていただくことになりました、ササメと申します」

「うむ……事情はヴィラの民から聞いておる。……選抜試験でも、優秀な成績を収めたそうじゃな。
だが、討魔忍とは読んで字のごとく魔を討つ忍び。
事と次第によっては、おぬしの同族である雪人とも戦うことになるやもしれぬ。……その覚悟はあるか」

「ええ、もちろん。……むしろ、私はそのために討魔忍を志したのです。
攫われたお母様を取り戻し、邪悪な雪人達を殲滅するために……」

「うへー。アブネーねーちゃんだな!
でもメチャクチャ可愛いし、まだ1x歳になのにイイカラダしてるぜ!将来が楽しみだ!」

(あれは……ササメか。だが、雰囲気が今と別人……それに、なんだあの失礼なガキは…?)


「これ、お前は黙ってれ!……と。紹介が遅れたな。こやつはテンジョウ。
見ての通りの鼻たれ小僧じゃが……いずれは儂の跡を継ぐことになる。
そして、見習いとなったお主の教育係を務めるのは……」

「神楽木七華と申します。よろしくお願いしますね、ササメさん」

「七華はまだ上忍になったばかりじゃが、実に優秀な忍びじゃ。
彼女の下でよく学び、早く一人前の忍びとなるよう精進するがよい」

「この方が……?
こう言っては何ですが、とても強い忍びには見えませんが。
見たところ、歳も私とそう違わないようですし……」

「ええっ!?………そ、それはその。見た目が強くなさそうなのは、確かにその通りかも、しれませんが……」
「ちょwwwこのねーちゃん、けっこう言う事キツいなwww」

「……ふむ。七華の下には付きたくないか?
ならば……我がミツルギは、知っての通り完全実力主義。
七華と勝負して実力で示す事ができれば、配置については考え直すとしよう」

(そうか。これは過去の記憶……ササメが討魔忍になったばかりの頃、というわけか。しかし……)


「ええ、それで構いませんわ」
「え?い、いきなり勝負するのですか……?」
「安心してください。痛みを感じる暇もないよう、すぐに終わらせて差し上げます。
そんなおかしな人形を持ち歩いてるおかしな人に、長々と付き合うつもりはありません」
(……ピキッ)
「あ。ねーちゃんそれは……」「マズい、のう………」

「……ササメさん、と言いましたか。良いでしょう……
ですが、私は貴女ほど気が短くないので……ゆっくりじっくり、教えて差し上げます」

(なっ……さっきまでと雰囲気が……)

ギギギギギギ……
「っ!?…に、人形が動い………」
「まずは……言葉遣いと態度から、ですかね」

「いやあああああああああああぁぁぁぁっ!!!」

709名無しさん:2020/02/23(日) 18:46:32 ID:???
「ぶはぁぁっ!!………こここここ、殺されるっっ!!!………って、あれ……??」

身の危険を感じ、銀帝は意識を無理矢理覚醒した。

「あ、気が付かれましたか……お父……いや。その……ええと」

気が付くと、すぐ横にササメがいた。
お互い、氷の力を使い果たしていて、しばらく戦闘は出来そうにない。

「……なんか随分うなされてたけど、大丈夫なの?このおっさん」
「ええと……雪人の『他人に回想シーンを見せる能力』で、討魔忍になりたての頃、お世話になった人の夢を見せて、人間の想いのすばらしさをわかっていただきたいこうと思ったんですが……」
「そ……それにしてはシーンのチョイスがかなり間違っていたような気が」
「こ、この手の能力には不慣れなもので、間違えたみたいです……
 では他に、そうですね……
 あの方の経営する和菓子屋さんでアルバイトをして、季節ものの特殊な服装で売り子をした時の事とか」
「あ。そっちの方がよかった」
「おいコラおっさん」
「というかうなされてるときのリアクションが、ボスキャラの威厳ゼロでしたわ?」

妖精ズもいた。そして……

「ふふふふ……この人、結構気が小さいですから。
いつも雪人の長としての重圧に苦しめられて……私に愚痴を吐き出すしかない、可哀そうな人」

「…………フブキ…………。
そうか………私は………敗れたのか」

「ええ。ササメに……私たちの娘に。
雪人としての力だけではない。あの子が自分で手にした、忍びの技と……人間の、絆の力に。
もう意地を張るのはやめて、話くらい聞いて差し上げたら?」
「ぐぬぬぬぬ………」
「あ、尻に敷かれてる系ですわねコイツ」

すっかり毒気を抜かれた父親、銀帝。
見た目はササメそっくりだが性格は意外とあっけらかんとした性格だった母親、フブキ。
……ササメは、互いの年月の隙間を埋めるかのように、互いに色々なことを話し合った。

………………

「おおおお、親子水入らずはいいですけど、待ってる間に寒すぎるぜーですわ!!」
「運動でもして体あっためないとマジで死ぬわこれ!!
ついでだから、例の鎖借りて氷柱に閉じ込められた人を助けてきましょ!」

「あ、でもあの鎖、訓練しないと使えないとかなんとか、そういう設定があったんじゃ…」
「うがあああああ!!そんなこまけーこと気にしてる場合じゃねーですわ!!」

「あ、私その鎖使えます!!生前に特訓したんで!!」
「ナーーイス影の精霊!!」
「自分で自分を助けるのもちょっとどうかと思いますけど!!」

そして……

710名無しさん:2020/02/23(日) 19:01:54 ID:???
「部下たちも含め、雪人の生き方をすぐに変えるのは難しいが……少しずつ、考えてみようとは思う。
どの道、今のままでは雪人と討魔忍の衝突は避けられぬからな……
………それは、どうにかして避けたい」

雪人の長・銀帝は、人間との和解の道を歩むことを決意した。
あるいは、人間と敵対している現在よりも、イバラの道になるかもしれないが……決して、不可能ではないはずだ。

「おおう……まさかの『決まり手:人形女こわい』ですわ?」
「い、いや…別に、そういうわけではないぞ。人間の持つ力も侮れぬ、という事だ…うん」

(あの人形女は今ちょっと状況変わってるらしいけど…言わない方がよさそうですわね。面白いし)

「……私は一度、ミツルギに戻るわ。テンジョウ新陛下にも、挨拶しないとだし……」
「そうだな……それが良い。私からも、近いうちに使いを送ると伝えてくれ」
「すぐ戻ってくるから、浮気しちゃダメよ?」
「な………わ、わかっている…!」

「それに下界に戻るのは20年ぶりくらいだしー、せっかくだから色々見て回りたいわ!
てことで、おススメのお店とか案内してね、ササメちゃん!」
「は……はい、お母様」
「もーぉ。ササメちゃんたら、お母様なんて……フブキちゃんでいいわよ!!」

「……20年間仮死状態だったから、肉体年齢変わってないみたいね。あと精神年齢も」
「若作りの母親属性……通常攻撃が全体攻撃で2回攻撃しそうですわ」


こうしてササメ達は、母親フブキ、その部下サツキ、他囚われていた人々と共に雪人の城を後にし………


「いろいろと助けていただいて、ありがとうございました。
……お父様のような、素敵なサンタクロースになれるといいですね」
「は、はい!こちらこそ…!
ササメさんも、お父さんとお母さんと、仲良くしてください」

空に消えていくサンタガールを皆で見送った。
クリスマスどころかすっかり年が明けて、暦の上では春が近づきつつあったが、考えたら負けである。

「いやー……思った以上に色々あったけど、丸く収まってよかったです!
正直、私あんまり役に立ってなかった気がするけど……」
「ふふふふ……そんな事ないですよ。
私の力だけじゃ、きっと……こうして、ここに帰ってくることは出来なかった。
最後まで戦い抜く事ができたのは、ヤヨイちゃんや、サンタさんや、精霊さんや……皆のおかげです。
本当に、どうもありがとうございました」

ばつが悪そうなヤヨイに、ササメは優しく微笑みかける。
精霊たちの方にも向き直って、改めて頭を下げた。

「お礼なんていーって。その代わり……
あんたたち、これからトーメントと戦うんでしょ?
その時になったら……私らの方から、頼みたいことがある。止めてほしい奴がいるんだ」
風の精霊、お菓子の精霊は、いつになく神妙な面持ちで応える。

次なる戦い……最後の、負けられない戦いが、間近に迫っていた。
ササメとヤヨイ、そして討魔忍衆を待ち受けている運命とは……

711名無しさん:2020/03/08(日) 14:17:03 ID:Fx3fdoF2
(今日も、ユキに会えなかった……)

サキはトーメント城の廊下を暗い表情で歩いていた。
リンネと繋がって脱走を図っていたことがバレ、リザによって重症を負わされ、舞の助けでリザを退けたが、留守にしている間にスネグアにユキを改造され……今は姉妹揃ってトーメントの駒に逆戻りだ。

いや、むしろ悪化しているかもしれない。

スネグアによって「サキは裏切ったふりをしてナルビアから情報を盗もうとしていたが、スネグアが本当に裏切ったと勘違いして、早まってユキを改造してしまった」ということにされているが……そんな建前を信じている人間はいない。

城の人間は全員、サキが本当に脱走しようとしたことを知っている。
そしてスネグアに弱みを握られていることも知っている。
つまり……以前とは周りからの扱われ方が違う。

ユキに会おうとスネグアの部屋や教授の実験室に行っても、雑に門前払いされるのが当たり前。さらに……


「んむぅ!?」


疲れ果てて歩いていたサキは、背後から音を消して迫る男の存在に気付かなかった。
突然後ろから伸びてきた手に口を塞がれたと思うと、体を乱暴に掴まれて近くの部屋に無理矢理連れ込まれる。

「よっしゃ、よくやった!」

「誰にも見られてねぇな?」

「まぁ別に見られてても問題ないけどな……そっちこそ邪魔な小娘、略してJKの舞ちゃんがいないのは確認済だな?」

「ああ、なんか王様に呼ばれてたっぽい。しばらくは出てこないだろうよ」

連れ込まれた部屋には別の男が2人いた。サキは知る由もないが、>>598とかでちょくちょくいた、サキ派のトーメント兵士である。

「んっ……んんぅ!!ぷはっ!!こ、のぉ……!急に何すんのよ!」

サキは他の十輝星に比べれば身体能力は低いが一般兵よりは十分強いし、邪術を使えば他の十輝星にも引けを取らない戦闘力を誇る。
こんなモブ共に襲われた程度、本来何ともないのだが……


「おーっと、抵抗するなよ……抵抗してもし俺らが傷を負ったら、暴れたサキちゃんのせいで怪我しましたって王様やスネグア様に伝えちゃうからな?ちなみに殺しても無駄な。俺らが戻らなかったらチクるように、別の仲間に伝えてある」

「そうなったら大変だなー、サキちゃんは処罰されるし、ユキちゃんはスネグア様の正式な奴隷。舞ちゃんも誰の下につけられるか分かったもんじゃない」

「お母さんも後追い自殺とかしちゃうかもね。他殺っぽいけど自殺処理される、ドラマでよくある感じの自殺の仕方を、さ」

「っ!」

一連の件以降、サキの弱みにつけこんで好き勝手してくる人間もいる。

家族と舞を人質にされてしまえば、サキはもう何も抵抗できない。

射殺す様な視線をクズ兵士たちに向けながらも……サキは体の力を抜いて、自分を掴んでいる男に身を預ける。

「おほっ!!ホントに抵抗止めたよ!!」

「スネグア様の話は本当だったんだな!」

「ヒヒヒ……これで、憧れのサキちゃんで滅茶苦茶できるのか……嬉しいなぁ!」

サキを掴んでいる兵士は、少し前までサキの口を塞いでいて、微かに彼女の唾が付着している手をベロリと舐めると……そのままその手で、サキの右胸を乱暴に握りしめる。

「ひゃっ!?ぐ、つぅ……!」

童貞らしい乱暴な掴み方。ただ痛いだけで、快楽など微塵もない。

「あー、やーらけー……なんかサキちゃんの胸って、現実離れしてないレベルの程よい巨乳さでいいんだよな……ベロォ!」

「ひっ!」

恍惚としながらサキの胸を揉みしだき、汗の浮かんだ彼女の首筋に舌を這わせる兵士A。ゾワゾワとした気色の悪い感覚に、サキの肌が粟立つ。

「あっ、おいお前だけずるいぞ!いくら直接捕まえた功労者とはいえ!」

「まぁまぁ、俺らも楽しめばいいじゃん……こうやって、さ!」

「っ!」

兵士Bがサキのお腹に向けて拳を振りかぶる。襲い掛かるであろう痛みを予期して、目をギュッと瞑るサキだが……

「おい、お腹はちょっと待ってくれ」

兵士CがBの拳を止めた。

「あぁ?なんで邪魔すんだよ?」

「いやさ、俺、実はガチ恋勢だったんだ」

「お、おう、そうか。唐突なカミングアウトありがとう……で?ガチ恋だから止めてあげてってことか?」

「バカ、そんなんじゃじゃなくてだな……お腹殴ったらえずいちゃうだろ?」

そう言いながらCは、Aに押さえつけられたままのサキに近づいていき……

「はぁ、やっぱりいい……無造作にしてるスピカと違って、髪もお肌もちゃんと手入れされてる……多分毎日ちゃんとそれなりの時間かけてヘアアイロンとかしてるんだろうなぁ……ねぇ、使ってるシャンプーとリンス教えてよ、グルシャンするから。あ、グルシャンっていうのはね、シャンプー飲むことでね……」

めっちゃ早口で気持ち悪いことを喋り始めた。心なしか口調も急にキモオタ化したように見える。

712名無しさん:2020/03/08(日) 14:20:08 ID:Fx3fdoF2
「……キモ」

アイベルト辺りの無害なアホに言う感じの呆れ混じりの『キモ』ではなく、心の底から気持ち悪いと思っている、渾身の『キモ』であった。

「おい、シャンプーは飲み物じゃないぞ。腹壊しても知らないからな」

余談だが、兵士Bは割とガチめにCを心配していた。

「こんな顔して腹黒なのも、腹黒のくせに身内には甘いのも、強いけど戦闘キャラには勝てないくらいの程よい強さなのも、髪飾りとかニーソとかローファーとか、細かい所に光る女の子らしさも……なんていうか、ほんとに好きになっちゃったっていうか……」

サキからキモがられても同僚から心配されても構わずに、ガチ恋っぷりを披露する兵士C。サキの胸を揉んでいた兵士Aも思わずドン引きしていた。

「……好きとかいうなら、このクズ2人から助けるくらいしてみたら?ワンチャンに賭けることもしないで、好き勝手に甚振るだけなんて……そんなんだから彼女の1人もできないのよ」

「何にベットするかは、自分で決める……サキちゃんと付き合えるというメインキャラですら難しいワンチャンに賭けるよりも、モブキャラが好き勝手できる状況が来るのを待つことを選び、そして勝った!」

突然映画のカ○ジみたいなことを言った兵士は、顔をさらに近づけて、サキの頬を両手でガッチリと掴む。

「……だからダメなのよ……最初はアイツの好感度だって最低だったけど……なんやかんや、助けてくれて……」

サキが遠い目をして、リンネのことを想った瞬間……兵士Cは嫉妬の炎に狂った。

「んな!?まま、まさか、敵国に彼氏がいたって話も本当!?」

「へー、そうだったんだ……なぁ、部屋からカメラ持ってくるからさ、ビデオレター作ろうぜ。俺一回『うぇーい!カレシ君見てるー!?』って言ってみたかったんだよな」

「諦めろ……こいつ、聞いてないぜ」

「ちゃっかり彼氏まで作っちゃう性格も含めて、本当に最高だよサキちゃん!なんだかんだ普通の女の子らしさ全開じゃないか……!も、もう辛抱たまらん!!」

Cは早口でまくしたてると……サキの顔をホールドしたまま、口を近づける。

「っ……!何すんのよ!!」

「ぶげ!」

サキは咄嗟に、Aに抑えられていない足でCを蹴り飛ばしてしまう。

「あ……」

「ふ、ふふふ……!手ェ出しちゃったねぇ!!これをあることないこと捏造して報告したら、君の大切な人たちがどうなっちゃうかな!?あ、でもツバ付ければ治るかもね……ということでさぁ!サキちゃんの方からキスしてよ!!」

そして、それもCの計画通りであった。ガチ恋故に、無理矢理犯すみたいなキスをするのではなく、無理矢理サキの方からキスをさせるシチュエーションを作ったのである。

「お前すげぇな……」

「おいA!サキちゃんがキスできないだろ!その手を離せ!」

「はいはい、っと」

Aは言われるままに、サキの体を離す。解放されたサキだが、結局言うことを聞かなければならない状況には変わりない。

ぐっ、と唇を噛むサキ。言われるままにするしかない状況。しかし決断できずにいると……


「あのー、お楽しみのところ申し訳ないんすけどー、モブにヤられちゃうエロパートはスピンオフでやってもらっていーすか?」

いつから見ていたのか、天井から突然声と共に少女が降ってくる。

「ああ?ジェシカじゃねぇか。ガキは帰った帰った」

親切なおじさんと化したBがジェシカを連れ出そうとするが、ジェシカは動く様子はない。

「おっちゃん、あっしもリゲルに用があるんすよ。スネグアさん関係で」

「う……」

スネグア関係と言われると、この状況を作れたのもスネグアのおかげである兵士たちは何も言えなくなってしまう……ガチ恋以外は。

「ふざけんな!ここまでお膳立てしといてそりゃないだろ!!」

「バカ、こいつガキだけど結構強いんだから喧嘩売るな!しかもスネグア様関係だろ?」

「別の機会(スピンオフ)を待てばいいじゃないか。ほら、さっさと行くぞ」

AとBにズルズルと引きずられていくC。それを黙って見送ったサキは……ゆっくりと口を開いた。

「一応、礼は言っといた方がいいかしら?」

「いやいや、礼なんていらないっすよ。あっしはあっしで用があるのは事実っすから」

「用?」

「オカンの仇に記憶を取り戻してもらう為に、記憶喪失になった時と逆のことをして貰おうかな、と」

意味の分からないジェシカの言葉に眉をひそめるサキ。

「とりあえず会うだけ会って欲しいんすよ……サラ・クルーエル・アモットに」

713名無しさん:2020/03/14(土) 22:28:05 ID:???
「コルティナさん!この間はありがとうございました!」
「おー、ルーフェにフウコ。お前ら、あれから元気だったなりかー?」
「はい、おかげさまで! あの。コルティナさんは『次の作戦』に参加されると聞いたんですが……!」
「そうナリよー。なんか、ヴェン何とかの第何小隊って所に呼ばれる事になったなり。
 数字は忘れたけど7じゃないことだけは確かなりよ!」

コルティナ・オプスキュリテ……
「ミッドナイトヴェール」の異名を持つ、ルミナスの魔法少女であり、シーヴァリアの円卓の騎士の一人『暗幕卿』と呼ばれていた。
『ぐーたら三姉妹』の三女、と言った方がわかりやすいかもしれない。

実際には姉妹じゃないので、誰が姉とか妹とか厳密に決まっているわけではないのだが、なんとなく三女っぽい位置づけである。

以前、ブルーバード小隊がトーメントの海上プラントの襲撃作戦に参加した際、
重傷を負ったルーフェやフウコを治療したのは、実はコルティナのオリジナル安眠魔法「スリーピー睡眠」だったりしたのであった。

「それで、コルティナさんが出発される前に、あの時のお礼をしたくて!」
「いやー、そんな本編に出てきてないような事でわざわざお礼だなんて…お前らイイ奴なりね。
アイツらに爪のアカでも煎じて飲ませてやりたいナリよ」
「え、アイツらって…?」

「それがさー。こないだの襲撃で国中に瘴気バラまかれて、みんなで国中を浄化作業してるじゃん?
で、帰ってくるとみんな『疲れたからそのマントで休ませて!』って言ってくるなり!
自分が安眠するために編み出した魔法なのに、なんでみんなを休ませて自分がずーっと働かなきゃいけないナリか!!」
(そ、そんな本編に出てきてないような事でキレられても……)

「え、ええと……わかりました!今日はそんなゆっくり休みたいコルティナさんのために、
私の使い魔のしーぷーちゃんを、フレンド登録しちゃいます!」
「めーー!!」
「おおーー。すっげぇ!もこもこなりー!」

ルーフェの呼び声に応え、羊型使い魔がぽん!と召喚された。
本来の持ち主はルーフェのままだが、フレンド登録する事によって
コルティナも自由にシープーを呼び出すことができるようになる!

……という事で、コルティナは早速しーぷーにガバっと抱きつき、そのもこもこ具合を堪能するのだった。

「……あー…………良いわこれ…………すっげー良い………」
「私もお気に入りなんですよー。気に入っていただけてよかったです!」

「…………。」
「…………。」

「……マジ最高だわー……ありがとうマジで……………ていうかこれ良いわ……すっげー良い……」
「あ………は、はい……どういたしまして……」

「…………。」
「…………。」

「めええええええ」

「…………。」
「…………。」

「…………。」
「……あ、あの。どうしていいのかわからなくなっちゃうので、一旦起きてもらっていいですか……」

「…マジ良いわ………これ…………『マジ良いわ』しか言えなくなっちゃうくらい、ホントにガチのマジで良いわコレ……」
「わ、わかりましたから……一旦起きましょう。ね? 話が空中停止しちゃってるので……」

「いやでもこれ、マジでほんと良いわ……最高にマジで良いわ……ルーフェっちには、ほんと感謝しかないわ……」
「…………。」

(………もしかして私……やっちゃいけないことをやっちゃったのでは……?)

714名無しさん:2020/03/14(土) 22:44:13 ID:???
「よー!キリコにコルティナ、久しぶりだな!」
「ノーチェも元気そうなりねー!」
「やっぱこうなったかー。この人選、絶対リリスっちの差し金だろ」

……そんなわけで、ヴェンデッタ第12小隊に召集されたコルティナは、案の定というかなんというか、
同じく『ぐーたら三姉妹』と呼ばれていた『鉄拳卿』ノーチェ・カスターニャ、『裁断卿』キリコ・サウザンツと再会。
再び同じチームを組むことになったのであった。

「奴は円卓の騎士の中でも最弱……な姫騎士系リョナられ役だったのに、今じゃメインストーリーの中核を担う主要キャラ。
昔はうちらにパシりにされてたっつーのに、随分遠い存在になったもんナリ」

「それはともかく……確かヴェンデッタ小隊って、主要4か国から最低一人はメンバー出すんだろ?
てことは、ナルビアから来るのってまさか」

「いや……リンネきゅんもなんやかんやで物語の本筋にガッツリ食い込んでるし、
こういうはぐれもん部隊には回ってこないんじゃね?」
「……まあ言い方はメタいけど、実際そんな感じかもな。あいつナルビアじゃ最高幹部の一人らしいし。
だとしたら、一体誰が……」

「あのー、すいません。ボク、ここに来るように言われたんですけど……」
「ん?お前は……」

ヴェンデッタ第12小隊のブリーフィングルームに姿を見せたのは……
古垣彩芽。
言わずと知れた「運命の戦士」の一人、ボクっ子メガネっ子もやしっ子の発明ガール。
ナルビアで科学技術を学び、今回のトーメント王国への侵攻に合わせて他の仲間と合流したいと思っているが……

「主要キャラじゃねーか!帰れ帰れ!」
「ええええ!?何その理不尽な理由!?」

めっちゃ邪険に扱われた。

「あたしら、ただでさえ師匠キャラになったり先輩キャラになったり宿屋キャラになったり余計な個性がついちゃってるんだぞ!」
「これ以上キャラが濃くなったらリョナられ役にされちゃうだろ!」
「そうだそうだ!キャストオフが描かれたりしたらどう責任取ってくれるんだ!」
「スピンオフの事かな」

「とにかく!ナルビアじゃどんだけダラけてたか知らねえが、
その程度のキャラの濃さであたしたち『チームGTR』に入れると思ったら大間違いだかんな!」

「……ところで、今回の作戦内容ってどんなんなんだ?」
「それが、えーー……トーメント王国に潜入して、捕虜になってる連中に接触せよ、だと」
「ルミナスの魔法少女とか、ミツルギ最強女剣士と大陸最強拳法使いとか、しぇりめでゅとか、色々捕まってるなりからなぁ…」
「いやいや。そういうのは男キャラにやらせろよ。
あたしらみたいな美少女、捕まったら何されるかわからないぞ!エロ同人みたいに!」

「もちろん全員を国外脱出させるのは無理だから、
一旦敵の目に届かないところに身を潜めさせつつ、
連合軍の侵攻に合わせて、内側から攻撃を仕掛けて暴動を起こさせる……みたいな」
「なるほど絶対無理」
「なり」

「それなら……ボクの発明品が役に立つんじゃないかな。
『アヤメカNo.18「着れば透明になれるよ!キエールマント」』とか使えば、大抵の所には潜入できるよ」
「お前ド○えもんかよ」
「異世界人の科学力やべえ」

トーメント王国に仲間が捕らえられてる、という意味では、お互いの利害は一致している。
こうして彩芽はぐーたら三姉妹と協力し、トーメント王国に潜入することになった。
はたして、サラ、桜子、スバルの三人や、しぇりめでゅコンビなど、捕らえられた仲間を救い出すことは出来るのだろうか。

715名無しさん:2020/03/15(日) 04:26:40 ID:???
「……はぁ、はぁ……!お、王様……き、きき、キスしちゃうんですか?そこにいるリザと……!ほ、ほひっ、ほひっ」

「なんだ教授……なんでお前が1番興奮してるんだ?」

「いやぁ……!最近VR兵器を開発したんですよぉ。それの応用でリザとキスしてる王様の体を遠隔スキャンしてデータ保存すれば、いつでもリザといやらしいキスがVRで鑑賞できる素敵データが出来上がっちゃうんですよぉ〜〜〜!!」

「…………」

「これを使って僕はいつでも金髪美少女JKとベロチューチュパチュパできるVRデータを作りたいんですよ〜〜〜!ぜったいにぃ〜〜〜!」

蚊帳の外の教授がト〇ブラウンの漫才のように好き勝手に騒いでも、リザの表情は変わらなかった。

「なるほど。儚げで危うげな金髪美少女のキス顔が、いつでもどこでもVRで楽しめるようになるわけだ。しかもかなり嫌がってる感じの、なぁ……」

「……………」

リザの顔が嫌悪感に歪む。
そのような対象として見られることばかりの自分の容姿にすら、最近は嫌悪感しか感じられない。
よく知らない自分に対してすぐにそのような感情を持つ男という生き物の感覚が、リザにはどうしてもわからないのだ。

「お!いま明らかにしかめっ面して嫌悪感出したな!今のお前の蔑んだような呆れたような表情、最高にキュートだったぞぉ。辛気臭いツラばっかじゃなくて、たまにはそういう顔もしろよリザぁ」

「……もういいです。するなら、早くすればいいじゃないですか」

「はぁ……そうやってすぐ拗ねんなって。安心しろ。俺様はなにもしないさ」

「……え?」

「えぇ〜〜〜!王様ああぁ!後生ですからリザにこれでもかといやらしいキスをしてくださいいい!お願いですからああぁ!」

教授の懇願も虚しく、王は踵を返してリザに背を向け出口へと歩き出した。

「リザ。今姉を殺すか答えが出せないのなら然るべき時にもう一度聞いてやる。その時にお前が俺様の言うことを聞かないようだったら……姉とお前の姉妹丼リョナをたっっっぷり楽しんでから、仲良く一緒に殺してやるからな」

「……………………」

「沈黙は肯定と取るぞ。まったく……闇堕ちするならちゃんと闇落ちして家族も全部殺すとか言ってみろよ。中途半端に愛情が残ってるからそうやって余計に悩むことになるんだ。なにが大切か判断したらそれ以外はきっぱり割り切ることだな」

「……………………」

何も言い返せなかった。
自分の中で大切なものが家族なのか、アウィナイトを守ることなのか、割り切ったつもりでなにも解決していない。
がむしゃらに力を求めるのも、自分の弱さを隠したいだけ。その事を考えたくないだけ。
考えれば考えるほど沼に嵌って頭痛がする。



「……教授、ありがとう。……私はこれで」

「くっ……キス顔堪能したかったのに……なぁリザ、お金なら好きなだけやるから俺とキスしてくれない?もう最近病んでるお前の姿が性癖に突き刺さってやばいから顔見るだけで勃起しちゃうんだよ。ほんとどーしてくれるん?責任取って?」

「……………………」

教授の戯言は無視して、リザは部屋を出ていった。

716名無しさん:2020/03/15(日) 11:45:01 ID:???
「お前は……!」

「柳原、舞」

教授の部屋を出たリザは、柳原舞とバッタリ行き当たる。
舞はキッと射殺すような視線をリザに送った後に、唇を噛みしめながら横を通り過ぎようとするが……

「待って」

気づけばリザは、舞を止めていた。

「……なに?急いでいるのだけれど。ただでさえ王の部屋に呼ばれたと思ったら教授の部屋にいるとかでたらい回しにされて、サキ様のお側を離れてから時間が経ってるのに」

棘のある口調を隠そうともせず、鬱陶しそうにリザに振り返る舞。
自分がサキにした事を考えれば当然のことだが……リザにはその『当然』が分からなかった。

「異世界人である貴女がなぜ、サキにそこまで肩入れするの?」

「っ……!サキ様を傷つけたお前に、教える義理はない」

「お願い、教えて……私、異世界人と……篠原唯や市松水鳥と、このままじゃ、戦えないかもしれない……」

気づけば口から出ていたのは不安。リザにとってどこまでも眩しい存在であるあの2人。
自分と同じだったはずのサキは、家族も、信頼できる人も、恋人もいて……いつの間にか遠く眩しい存在になった。

なぜ異世界人とサキが信頼関係を結べたのか……自分にできないことをできたのか……暗い色を宿したリザの瞳に思うところがあったのか、舞はポツリポツリと語りだした。

「サキ様は私を救ってくれた……それにあの方は……私と同じだけど、同じじゃないんだ」

「え?」

「私も向こうではサキ様と同じ母子家庭だった。けれど、母が再婚してから……家に居場所がなかった」

故郷のことを思い出すように瞳を閉じた舞はかぶりを振ると、リザに背を向けて教授の部屋に入ろうとする。

「これ以上答えるつもりはない。こうしている間にも、サキ様を不埒な輩が狙っているかも……」

「おう、その通りだよ舞ちゃん」

その時突然、王の軽薄な声が響く。

「王様?まだいたんですか」

「神出鬼没が俺のいいところだろ。決して書き手が上のレスで俺様が教授の部屋から出ていってたのを投稿直前に気づいたわけじゃないからな!」

「はぁ……」

相変わらず意味の分からない事を言う王に、リザは生返事をする。

「それでだ舞ちゃん、君を呼んだのは、ちょっとサキのそばを離れてもらいたかっただけさ。今頃ジェシカかスネグア辺りに捕まってんじゃね?」

「なっ!?」

「ほらほら、早く行った方がいいぞぉ?」

「っ、この……!」

舞は一層強く唇を噛み締めた後、足早に去っていった。

「おーおー、色んなしがらみがあって国にしがみつく姿……お前なら共感できるんじゃないか?」

「王様……あまりサキに、酷いことは……」

しないでください、と続けようとして、リザは口を噤む。
自分がサキを追って深手を負わせたにも関わらず、そんなことが口を出る自分の2枚舌っぷりに、リザは自己嫌悪に陥った。

そんなリザのより一層暗くなる瞳を楽しみながら、王は愉快そうに語る。

「まぁ安心しろ、もうちょい虐めたら、サキへの当たりは緩くするつもりだ……戦争で活躍してくれなきゃ困るからな」

717名無しさん:2020/03/15(日) 11:50:38 ID:uBnACP7I
「サラ……?誰かしらそいつ?助けてもらって悪いけど、協力する義理はないわ」

あれから色々あったのと、気に入らないリザと同じ金髪碧眼としか認識せずに水責めをしていたのもあり、サキはサラのことをすっかり忘れていた。

「まぁまぁそう言わずに。あっしを手伝ってくれたらもうちょっとマシな立場にするって、スネグアさんも言ってたっすよ。ずっとこの立場のままってのも嫌っすよね?」

にべもなく断ろうとするサキに対し、人懐っこそうな笑顔で少しずつ近づいていくジェシカ。

「どうせ騙そうってんでしょ……その手には乗らな……!?」

乗らない、と続けようとしたサキの言葉は、突然サキの首を掴んで来たジェシカによって遮られる。

「あ、があぁああああ……!」

「あっしさー、ずっと気になってたんすけど……ミシェルさんが逃げるの、アンタが手伝ったっすよね?」

ジェシカはサキの首を絞める手に力を入れると、そのまま体を持ち上げた。

「手伝いはしないまでも、見逃しはしたっすよねぇ。ぶっちゃけあの時のヘロヘロのミシェルさんが、誰にも見つからずに脱走できるわけないっすから。
……まぁ、あっしもミシェルさんは嫌いじゃなかったっすから、それは別にいいんす。急に敵国に亡命しちゃったフクザツな気持ちを、あんたにぶつけてるだけっす。」

「か、かひゅ……」

サキはメリメリと音を立てる首に手をかけて、必死にジェシカの腕を外そうとするが、万力の如く……いや、クワガタの如く締め付ける腕は、疲労困憊の少女の細腕では引き剥がせない。

「無駄っすよ。面倒な手下は王様に頼んで足止めしてるし、もうアイツ以外にあんたの味方はいない……まぁ、さっさと気絶した方が楽じゃないすか?」

「うぐううっ………!っが…あぁ………!」

しばらく手足をバタバタと動かしていたが……やがてサキは気を失った。




「ん……ん!?」

目を覚ました時、サキは全裸で寝台に拘束され、目と口も粘着性のある糸で塞がれていた。

(な、なに、どういう……!?)

困惑するサキの唯一塞がれていない耳に、どこかで聞いた覚えのある声が聞こえてきた。

「こんな事をして、意味があるの?記憶を失った時と、逆のことなんて……」

「試せるモンは何でも試すもんっすよ!それにこいつも十輝星だし、アンタが気に病むことはないっす!悪人への正義の鉄槌ってやつっす!」

「……そう」

(この声、あの金髪刑事!?そういえば奴の名前って……!)

ジェシカの言っていたサラという名前の人物を思い出したサキ。
同時に、サラが記憶を失った時と逆の事をするという断片的な発言の意味も分かってしまう。
事実、サキの拘束されている寝台のすぐ横には……12〜3万くらいしそうな、水滴拷問の機械があった。

「ん、んんーー!!んむぅうう!!」

何をされるか分かったサキは必死に体を捩り、塞がれた口からくぐもった声をあげる。

「なんスか急に暴れて……あ、耳も塞がないとダメだったっすね」

ジェシカが指から蜘蛛の糸を出すと、乱暴にサキの耳に突っ込む。

「んぶぅ!?」

完全に五感を遮断されたサキ。否が応でも以前アルガスで受けた水責め拷問を思い出してしまう。
それを再現して気に入らない人間に使っていた機械が、まさか自分に牙を剥くとは思いもしなかった。

「……貴女の言うようにこの子も悪人かもしれないけど、こんなに怖がってる子を痛めつけるなんて……」

「あーもーじれったいっすね!早くアンタの記憶を戻してあっしがアンタをブチ殺すんすから、レッツゴーっす!」

強引にサラの手を取ったジェシカは、そのまま水責めマシーンのスイッチを一緒に押す。


「ん、んんむうぅうう!!?」

718名無しさん:2020/03/27(金) 05:10:35 ID:UsCBJaJU
「……!」
小鳥と鶏の鳴き声が聞こえる。階下からは朝御飯のいい匂いがする。
「怖い夢だった……」
まだ震える足でなんとか立ち上がり、日常に舞い戻っていくのだった。

おわり

719名無しさん:2020/03/27(金) 22:00:30 ID:???
ぽたり。……ぽたり。…………ぼたっ

「…んむっ!!………っぐむ………ん〜〜〜〜〜っっっ!!」

「な、なにこれ……?……ただの、水………?」

「っそ。水滴拷問……これが結構効くらしいっすよ?
あっしもWikiで調べただけっすけど。
そもそも脳はすべての感覚をつかさどる超重要器官。
そこに微弱な、しかも無視できない程度の刺激を、ランダムに与え続ける……
……つーか、ついこの間アンタもされたはずっす。思い出さないっすか?」

………ぽたり。ぼたぼたぼたっ!!………
「……ひぐむっ!!…っぐむぉおおおおおぅっっ!?」

(効いてる…なんてレベルじゃないわ。始まる前の怯え方も異常だったけど、始まった直後から狂ったように暴れだして…)
「…………!!……お……思い出すわけないじゃない。……こんなふざけた事、終わりにしましょう」

拘束具を付けられた手足に血がにじんでいる。鬼気迫るサキの様子に戸惑いつつ、サラは停止ボタンに手を伸ばすが。

「ふざけた、事………?」
……ジェシカの声が、一段低くなる。

……ガシッ!!……ドカ!!
「っぐぁ……!?」
瞬時にサラに詰め寄り、片手で首を掴んで持ち上げ、力任せに壁に叩きつけた。

「あんねぇ……あっしはこれでも、大マジなんすよ。
別に、あっしのママが殺された事は、恨んではねーっすよ?
でも、あっしが復讐のため……アンタを徹底的に破壊して、ぶち殺すために生み出されたのは確かっす」

「っぐ…あ………は、なし………げほっ……」
ギチッ………ギリギリギリギリッ!!

……サラは両手でジェシカの手を引きはがそうとするが、ジェシカの手はビクともしない。
むしろジェシカは、サラの首の骨をへし折ってしまわないよう、懸命に力を抑えている様子だ。
人間と、人知を超えた魔蟲の力の差は、それほどまでに歴然としていた。

「アンタを見るたびに……あっしの身体が疼くんすよ。……あっしの中の蟲が、騒ぎ出すんす……
完全復活したアンタを、完全敗北させたい。破壊して、屈服させて、蹂躙して、絶望させたいってね……!!
あっしの牙も、爪も…あっしの体は全部、そのためにこの世に生み出された道具なんスよォッ!!」
「っぐ………あぁっ……!!」

ジェシカの瞳が妖しく輝くと、全身が甲虫の装甲で覆われていく。
両腕はカマキリの鎌とクワガタの鋏へと変化し、お尻からは蜂を思わせる鋭い針。
獲物を目の前にしながらお預けを食わされ、力を、本能を、抑えきれなくなっているのだ。


……ぐちゅっ!!
「………っ!?」
「この産卵管はぁ……クレラッパーの装甲をブチ破って、アンタの膣をぴっちりみっちり埋め尽くすように出来てるっす……
 こーんなゼロサム8Pカラーみたいなショートパンツなんて、濡れたトイレットペーパー同然っすわ!!」
「う、そ……そんなの、入るわけ……うぐあっ!!………が………あ、ぅ……っぐ!!
 いやぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

720名無しさん:2020/03/27(金) 22:03:05 ID:???
ずぶずぶずぶずぶっ!!

「うぁああああああああああああぁぁぁっっっ!!!」

人間の腕、いや脚ほどもある極太産卵管が、サラの秘唇を容赦なく貫く。
ジェシカの言う通り、産卵管は圧倒的な密着感でサラの膣道が埋め尽くし、内側の性感帯を全部一度にこすり上げていく。

「い……やあ………♥♥…こ、れ…だ…めっ……!!………ぬい……て………んにゃああああああ♥♥!!」
しかも、特に弱い部分を狙い撃ちにするかのように、産卵管表面に微細なイボイボが絶妙に配置されている。
…ほんの少し動かしただけでも……全身を激しい悦楽が電流のごとく駆け巡り、サラの理性をあっという間に焼き尽くしてしまう。

(な、に…これぇっ……こんな、感覚…♥…しら、にゃいぃぃ……♥♥♥)
「ぃ……♥♥………ぅ……♥♥♥♥」
「痛いっすかぁ!? 抜いてほしいっすかぁあ!? そんなワケないっすよねぇ!!!
あっしの身体から出るフェロモンで、アンタの身体ギュンギュンに発情しまくってておまんこもぐっちょぐっちょで、
根元まであっしの産卵管ずっぷし吞みこんじゃってんじゃないっすかぁあああ!!」

ぐちゅっぐちゅっぐちゅっグリグリグリグリグリ!!

「あ♥あ♥あ♥あ♥ああああああッッッ!!!……も、やめてぇえええ♥♥!!ゆるひへぇえええええ!!!♥♥♥」
(だ♥♥♥だ、めぇ……♥♥♥……これ、ほんとに、だめなやつ……♥♥♥♥)

(やっぱり、むり、だったのぉ…♥♥…あたしなんかが、マリアさん、みたいにたたかう、なんてぇ…♥♥♥)

(いまの、あたしのすがた……もし……アヤメたち……みられ……たら………っぉおおおお……♥♥♥♥)

いつしかサラは、敵であるジェシカにしがみついて、許しを乞いながら獣のような咆哮を上げていた。

マリアに助けられ、クレラッパーとして戦った日々の記憶。
彩芽たちと出会い、旅をした記憶。
それらがサラの脳裏に次々と浮かび上がっては……砂のように崩れ落ちていく。

「はぁっ…♥♥♥…はぁっ…♥♥♥…はぁっ…♥♥♥」

身体が動かない。特に下半身は、溶けてなくなってしまったかのように感覚そのものがまるでなかった。
サラは自らが撒き散らしたねばつく液体だまりの真ん中で、お尻を突き上げたまま突っ伏して荒い息を吐き続ける。

「…ふん。ただの軽〜い挨拶程度で、そこまで気持ちよくなれるなんて……いい気なもんっす。
今の腑抜けたアンタなんて、ゴキブリの餌にもなりゃしない。
早く、記憶を取り戻したアンタにあっしの卵を全〜〜部ブチまけて、内臓全部食い破ってあげたいっすわぁ……」

ジェシカは産卵管をゆっくりと引き抜くと、この上なく惨めな姿で突っ伏すサラの姿を一瞥する事もなく部屋を出ていった。

後に残されたのは、骨の髄までの恐怖と絶望、そして快楽を叩き込まれ、気を失ったサラと……

「…あう………っぐ…!!……っ………!!!」
………サラ達が争っている間中、ずっと水滴拷問に晒され続けていた、サキ。
異変に気付いた舞がこの部屋に駆け付けるまで、サキは延々と地獄の苦しみを味わい続ける事となった……

721名無しさん:2020/03/27(金) 22:57:56 ID:2Y..UVLs
「こんなんじゃ全然、喰い足りねっすわ……
誰か……誰でもいいから、ブチ喰らえるエサは………」

……地下闘技場。
そこでは、トーメント王国に捕らえられた捕虜たちが闘士となり、日々過酷な戦いを強いられる。
観客達がそれを賭けの対象にし、ゆがんだリョナ性欲のはけ口にするという、まさに悪魔の娯楽施設である。

ジェシカの向かった先は、その選手控室……つまりは捕虜たちが捕らえられた牢獄だ。

「てなわけでぇ……お二人さんに相手してほしいっす。
もちろん二人まとめて、フル装備オプションマシマシの特殊能力アリアリでいいっすよ?
そのくらいじゃないと、楽しめないっすからねぇ」

「随分と、舐められたものですね………」
「良いでしょう。受けて立ちます……せいぜい後悔なさい」

勝てば捕虜から開放……という条件をちらつかせるまでもなく、『二人』はジェシカの誘いに乗った。


「赤コーナー!!
虫っぽいことは大体できる という大雑把にして最強最悪な特殊スキル持ち!
虫嫌いな人は観戦注意だ!『恐怖の気まぐれ虫娘』ジェシカー!!」

「「「ウォオオオオオ!!!!」」」
「やっちまえーー!!」
「虫子今日も世界一キモかわいいよー!!」

「青コーナー!!
シーヴァリア円卓の騎士は伊達じゃない!固い絆と完璧なコンビネーションを武器に、
無茶ぶり無理ゲー当たり前な地下闘技場を勝ち抜いてきた実力は本物!
『隼翼卿シェリー』&『睥睨卿メデューサ』……しぇりめでゅコンビの登場だー!!!」

「「「ヴァァァアアアアア!!!」」」
「なんだよ今日は普通の鎧かよー!!………アリだと思います!!」
「めでゅ様こっち向いてーーー!!!」

「実況は例によって私ジッキョー、解説はいつものカイセツさんでお送りします!!
さぁー! というわけで急遽始まりましたこのエキシビジョンマッチ!!
正体不明のインセクトガールvsどこか百合を超えたガチさを感じる危険なハードコアタッグ!
この勝負どうみますかカイセツさん!!」

「そうですねー。
しぇりめでゅコンビはシーヴァリア編後半の時点でやられ役になってたし、流れ的にも所詮かませ犬って感じですから…
たぶん次の書き手さんが1レスであっさり終わらせて終了なんじゃないですか?
それより私、聖剣3体験版と熱森をですね」

「ひひひひ……行くっすよぉぉぉ!!」
「シーヴァリア円卓の騎士の剣……」「とくとご覧なさい!!」
「「はぁぁああああああああぁぁっ!!!」」

「「「ウォォォオォォォオオオ!!!」」」
「ちょ、待ってください!そんな事言ってる間に試合が……って、これは…!?」

722名無しさん:2020/04/02(木) 20:26:34 ID:4vmvxjBI
「ウ、ヴ、ギシャーーーー!!!」

実況が驚きの声をあげるのも無理はない。
突如叫び声をあげたジェシカの下半身がブクブクと膨れ、あちこちから虫の鎌や角、牙、さらには先ほどサラを犯し尽くした産卵管が大量に生えてくる。ジェシカの下半身はそのまま大量の虫の武器を生やしながら膨張を続け……最終的には、ワームやドラゴンのような大型モンスター程の大きさにまで到達した。
元の少女の姿のままの上半身が、ポツンと残されているのが余計に不気味さを増している。

「な、何ですかあの奈落の最終形態みたいな姿は!?」

「えー、ここで、解説助手として依頼を出したフォーマルハウト様と、通話が繋がっております。現場のフォーマルハウトさーん」

「解説さん、現場にいるのは私たちです!」

『ククク、やはりこうなったか』

声を加工して正体を隠しているため、観客たちには分からないが……スネグアの声が、実況席に置いてあるパソコンから響く。

「フォーマルハウトさん、一体どういうことですか!?」

『親の仇を殺す本能を無理矢理抑えた結果、破壊衝動が爆発したのさ。今まではミシェルから貰っていた薬で本能を抑えていたようだが、彼女が消え、さらには世界を越えてようやく見つけた仇の前でお預けを食らい……簡単に言えば欲求不満なのさ。ひとしきり暴れたら姿も戻るだろう』

「なるほど、だから最近のジェシカは荒れてたんですね!」

「解説さん、フォーマルハウト様、ありがとうございました!さぁ、一気にグロい形態に進化したジェシカを前に、騎士コンビはどうするのでしょうか!?」



「はっ!!」

剣を鞘から抜きながらの居合切りを交えた、高速剣術。シェリーの得意とする戦法で、襲い来る尻尾や舌を的確に切り落とす。

「今よめでゅ!」
「喰らいなさい!」

シェリーが時間を稼いでいる間に、メデューサの蛇剣ウロボロスがジェシカの巨大な下半身を這うように進んでおり、元の少女の姿である上半身を狙う。

「ガアア!!」

だが、一見弱点に見えた部位も、薄いが硬い透明な殻に覆われていて、攻撃を阻む。

「くっ、攻撃が通らない……!」

「こういう時にベルガやデイヴがいれば、助かるのだけれどね……」

「ないものねだりをしても仕方ないわ。何とか私が攻撃を通すから、しぇりはその間私を守って!」

「ええ!」

異形と化した少女と、二人の女騎士の戦いは続く。



そして、それと同じ頃……



「ふぅ、何とか忍び込めたな……みんな、このまま観光客になりすましつつ、捕まった仲間たちを……」

「あ、トーメント名物のクッコロポックル人形とかハーラーブレッドとか買ってこうぜ!アゲハ用に、ヤヨイ用に……テンジョウ様にはスケベーカリーでいいか」

「女の子の肌の柔らかさを再現したサンドバッグから転じて、滅茶苦茶人肌の暖かさに近い布団があるらしいなり!これで旅先でも安眠間違いなしなり!」

「この無骨なメリケンサック、あたしの趣味ピッタリだ……中々どうして、悪くないじゃないか、イータ・ブリックス」

「いやガチで観光を楽しまなくていいんだよ!?」

喧しい4人組も、王都に到着した。

723名無しさん:2020/04/05(日) 16:03:06 ID:???
「………あれ………ここ、は………?」
サラが目覚めると、そこは見知らぬ部屋のソファの上だった。
体を起こして周りを見渡すと、近くのベッドには、サキがすやすやと寝息を立てている。
その横に控えているのは、柳原舞………ジェシカが去った後、二人を救出したのは、言うまでもなく彼女である。

「目が覚めたわね。ここは、私たちの隠れ家の一つよ。
……サキ様のついでに助けてあげたんだから、感謝しなさい」

「そう……ありがとう。………あの虫女は?」
「地下闘技場で、捕虜相手に暴れてるわ。ちょうどTVで中継されてる」

─────

ガキンッ!!ザシュッ!!ズバッ!!
「キャーーハハハハハハ!!
ムダムダムダムダムだっすよぉおお!!二人とも、あっしの蟲に喰われるっすァァアアアアア!!」

「くっ……まだ、まだ……このくらいでぇぇぇっ!!」
「しぇり、あぶないっ!!戻れ『ウロボロス』っ……!!」

「さあー大変なことになってきた!!
ムシムシ大行進状態のジェシカの猛攻を、しぇりめでゅコンビが鉄壁のコンビネーションで防ぐ!かわす!捌き切るぅぅ!!」

「ジェシカの発狂モードは、ますますヒートアップしています!
対するしぇりめでゅコンビは、今のところほぼ防戦一方!!
スタミナが尽きる前になんとか有効打を与えたい所ですが、あの怪物相手にはそれも難しいでしょう。
当然その後は、お約束コースへ一直線……」

「いわゆる時間の問題ってやつですね!その時を今か今かと待ちわびて、会場のボルテージもうなぎ上りであります!」

─────

「もう、いいわ………消して」

圧倒的物量の蟲の海に、徐々に飲み込まれていく二人の女騎士。
その光景を見たサラの表情からは、完全に血の気が引いていた。

「厄介なやつに目を付けられたみたいね……それで、どうするの?
本来、アイツの狙いは貴女なんでしょ?」

「私に、どうしろって言うの………今の私じゃ、あんな奴に敵うわけない。
……この世界に来て、つくづく思い知らされたわ。
マリアさんから『クレラッパー』の力を受け継いで、強くなったつもりでいたけど……
結局あの頃から、私は何一つ変わっていなかった。
彩芽や唯達…この世界に連れ去られた子を助け出すつもりだったのに、逆に助けられたり、足手まといになったり。
……私一人じゃ、結局何にもできない……」

「『どうしろ』、なんて言うつもりはないわ。『どうする』のか、聞いてみたかっただけ。
そもそも最初に出会った時点で私より弱かったあなたが、一人で出来る事なんてたかが知れてる」
「……言ってくれるわね」

サラは、舞と初めて遭遇した時のことを思い出した。
ほとんど何もできずに一方的に叩きのめされ、彩芽やアリサの助けで難を逃れた……サラにとって、苦い過去の一つである。

「でも正直あの時、あなたが羨ましかったわ。私はあの時『一人』だった。……だから、敗れた」
「…………。」

「……悪いけど、私たちはこの後、フォーマルハウト隊の指揮下として従軍する事になってる。
この隠れ家は引き払わなきゃいけないし、サキ様が目覚める前に出て行ってもらうわ」

今のサキと舞の立場では、脱走捕虜であるサラを匿うだけでもかなりの危険を伴う。
味方のはずのトーメント兵たちは信用できないし、この隠れ家も、いつ危険にさらされるかわからない。
まして、サキが気絶しており、サラを助けたのは完全に舞の独断……一時的に匿うだけでも御の字と言うべきだろう。

「……私にだって……今やるべき事くらい、わかってる。でも……」
ゆっくりと立ち上がり、体の調子を確かめ……部屋を立ち去ろうとするサラ。
だがその時……

(良いじゃなぁい……あの蟲娘ちゃんなら貴女を確実に、グッチャグチャに嬲り殺してくれそう♥
そして、貴女の魂は晴れて私の所有物になるってわけね♥……フフフフフ……)

……サラの頭の中で、忌まわしい悪魔『アージェント・グランス』の声が囁いた。

724名無しさん:2020/04/05(日) 20:07:38 ID:???
「う、ぅ……!」

頭を抑えてふらつくサラ。だが耳を塞いでも、悪魔の声は変わらずに聞こえて来る。

(多分蟲娘ちゃんはお留守番だろうから、貴女を助け出そうとしてる『あの子』たちと戦いになるでしょうね。
そしてそれを見てられなかった貴女はぐちゃぐちゃに殺されるか、私と本契約する……どちらにしても魂は私のものね♪)

「あの子……?まさか、アヤメが……?」

「ちょっと、大丈夫?」

突然ふらついてブツブツと独り言を言うサラに、訝しげな目線を送る舞。


「え、ええ、大丈夫よ。ごめんなさい……それと、助けてくれてありがとう」

頭を抑えながらふらつく足取りで今度こそ部屋を出るサラ。そのまま、内なる声と会話を試みる。

「なぜ、そんなことを知っているの……?」

(ふふん、悪魔の力を舐めないことね。戦争の予兆であちこちに邪悪なマナが漂っている今、私に分からないことなんてないの)

「じゃあやっぱり、アヤメやアリサたちが、私やサクラコを助けに?」

(アヤメちゃんはいるみたいだけど、他は知らない子だわ)

「そう……今アヤメはどこにいるの?」

(そこまで教える義理はないわ。自分で探すのね……でも特別に、『足』を用意してあげたわ♪)

その声の直後、どこからか聞き慣れたエンジン音と共に、サラの目の前にバイクが無人で走ってきた。

「これは……」

アージェント・グランス。悪魔の化身。
サラがトーメントに捕まった時にナルビアのスパイがどさくさ紛れに盗み……それをまた彩芽が盗んだもの。
彩芽が持っていたはずだが、独りでに走り出し、今こうしてサラの前に戻ってきたのだ。

ブレスレットがないので変身はできないが……それでも移動手段があるのとないのとでは、大違いだ。

「ジェシカと戦うかは今は置いておいても……何もしないわけにはいかないわよね」

戦争の時は近い。彩芽たちが行動を起こすとしたら、その時だろう。それまでに覚悟を決めることができるか……今回も運命の戦士たちに任せきりになってしまうのか……


一抹の不安を覚えながらも、サラはバイクに跨って、当てもなく走り出した。

725名無しさん:2020/04/11(土) 21:42:51 ID:???
「「たあああああぁぁっ!!」」

爪、鎌、産卵管、その他さまざまな蟲触手の大群を、次々に切り伏せていくシェリーとメデューサ。
虫たちの圧倒的物量に圧され、このままでは埒が明かないと、ここに来て二人は攻勢に転じていた。

「クックック……そう来なくっちゃっす……GGRRRRRRRAAAAAA!!!」

「「「ジュルルルルルルッッッ!!」」」
臆することなく向かってくる二人に、蟲触手の大群が襲い掛かる。

「甘いわっ!!」
シェリーは必要最小限の動きで行く手を塞ぐ触手を切り捨て、血路を切り開く。

「「ブオォォォォォォンッ!!」」
更に空中からは、毒蜂、甲虫、吸血羽虫などが群れを成す。

「こんな物で……私たちは止められないっ!!」
メデューサが鞭剣を振るい、迫りくる虫たちを次々と撃ち落としていく。

……足元に無数の蟲の死骸が散らばる。
飛び散る毒液が白銀の鎧を汚し、体力を削っていく……だが、二人は速度を緩めることなく走り、
一気にジェシカの本体へと迫った。

「奴の防御壁を破るには……」
「……私たちの、最大火力をぶつけるしかない。行くわよ、しぇり!!」

「サーペンツ・ペネトレイション!!」
「ヴァンダーファルケ・クライゼン!!」
……バキィィンッ!!

メデューサが鎖剣をドリル回転させながらの鋭い刺突。それに合わせて、シェリーが目にも止まらぬ連続切りを繰り出す。

「ヒヒヒヒ……あっしの『シェルターウォール』は、クロカタゾウムシ級の硬度を持つっす。
アンタら程度の力じゃ、貫けないっすよ」

「それは……どうかしらっ!!」「出でよ、翼ある蛇……」
「「ケツァル・コアトル!!」」

……ビキィィンッ…………!!
「おぉっ!?」

シェルターウォールに突きたてられた二本の剣の切っ先から、竜を象った雷撃が発生する。
雷の竜はシェルターの外殻にぐるぐると巻き付き、激しい熱を放った。

「あっちゃぁ……こりゃちょっと、ヤベー感じっすねぇ」

シェルター内部の温度が急上昇し、ジェシカの笑みが引きつり始める……

「ふ……確か、虫は炎に弱いんだったかしら?」
「このまま丸焼きにしてあげるわっ!!」

ドガアァァァァッ!!!

「………っ!!」
シェルター内で激しい爆炎が巻き起こり、その衝撃で外殻が粉々に砕け散った。


「おおおおっ!!なんと、大番狂わせ!!かませ犬かと思われたしぇりめでゅコンビ、強烈な一撃!!
ジェシカの上半身を……いや。ここでやったか!?とか言っちゃうと、大概フラグなんですが……」

煙が徐々に晴れ、シェルター内部の様子が徐々に明らかになる。
そして……シェリーとメデューサが目にしたのは、本体から切り離され、黒焦げになったジェシカの上半身の残骸だった。

「……どうやら、死んだみたいね」
「厄介な化物だったわ……倒せたのは貴女のおかげよ、しぇり」
「ふふ……めでゅの方こそ。貴方が背中を守ってくれるから、私はまっすぐ前を向いて戦える」
シェリーとメデューサは、手を取り合って、イチャイチャと互いの健闘を称え合う。
だが……

(どくん………どくん………)
巨大な昆虫の下半身は、未だ不気味に脈動していた。

726名無しさん:2020/04/11(土) 22:17:43 ID:???
「決着ーー!! 巨大昆虫触手怪物と化したジェシカ選手でしたが、
シェリー&メデューサの合体技によって焼却されてしまいました!!」

「ジェシカ選手の蟲触手攻撃も圧倒的な物量でした、が……
それを掻い潜って本体に接近できたのは、二人の絶妙なチームワークあってこそ。
そして、最後のあの大技。実に見事と言わざるを得ませんねこれは」

「おおーい!まじかよぉお!大穴じゃねーか!!」
「くっそあああ!!俺の全財産がぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁ!!今日こそめでゅ様の泣き叫ぶお顔が見られると思ったのにいぃぃ!!」

悲鳴と怒号に包まれる大観衆。……どうやらその大半は、シェリーとメデューサが負ける方に賭けていたらしい。

「まぁ、ここの連中らしい、というか……ほっといてさっさと帰りましょう」
「そうね、めでゅ……蟲の体液で下着までぐちゃぐちゃ。早く帰って……」
「ええ。久々に、ゆっくりシャワーでも浴びたいわね。しぇり……」

「クックック……そうは問屋が卸さないっすよぉ」
「「きゃぁあっ!?」」

手を取り合いながら、巨大虫の下半身から降りようとする、メデューサとシェリー。
だがその時。
新たな『手』が二人の足元から突然生え、がっしりと足首を掴んだ!!

「うっ……嘘……こんな事って……!!」
「何よこれ……一体、どうなってるの……!?」

「言ったはずっすよぉ?あっしは、虫っぽい事なら大体できるって………」

巨大虫の身体を突き破って現れたのは、二人のジェシカ。
シェリーとメデューサの身体にムカデのごとく巻き付きながら、カギ爪や触手で手足を絡め捕っていく。

……それだけでは、ない。

「キヒヒヒヒ……あっし『達』を倒したと思いました?甘いっすねぇ……」
…3匹目、4匹目。

「駆除したと思ったらわらわら大量に出てくるのって、虫っぽくないっすか?」
…次々に、巨大虫の残骸を食い破って新たなジェシカが二人の前に姿を現す。

「昔からよく言うっすよねぇ…」「…一匹見たら、30匹はいると思えって」
「しぇ…しぇりっ……」
「めでゅっ…!!」
つないだ二人の手が、力任せに引きはがされる。
分断されたシェリーとメデューサを、それぞれ十数匹ずつの殺戮昆虫が取り囲んだ。

「さぁ、第2ラウンドの、始まり…」
「いや……終わり、っすかねぇ?」
「「「ギヒヒヒヒヒヒヒッ!!」」」

727名無しさん:2020/04/12(日) 20:44:13 ID:???
「久しぶり、マスター……『オリジナルカレー ハチミツ抜き ガラムマサラマシマシ』で」
「ほう、『白銀の騎士』様か、久しぶりだな。……生きていて何よりだ」

「え……ええ。あれから、色々あって……この店も、まだ営業してるとは思わなかったわ」

……サラが訪れたのは、イータ・ブリックス城下にある宿屋兼酒場、『邪悪にして強大なるワイバーン亭』。
その裏では『情報屋』としての側面も併せ持ち、サラがこの世界に来て間もない頃にはよく利用していた。

「ふん……俺もしばらく留守にしていたからな。……で、何が必要だ?武器か、それとも情報か」

一方、店主の男……『竜殺しのダン』も、唯たちと別れた後、つい最近戻ってきたばかり。
今は連合国陣営からの要請を受け、来るべき『戦争』に備えてトーメント王国内の情報を収集している。

「アヤメ・フルガキ…彼女がこの町に潜入していると聞いたわ。詳しい情報があったら教えて」
「ああ、あいつか。実は、この店で落ち合う事になっていたんだが……想定外の事態になってな」

そう言って、ダンがTVを付けると……映し出されたのは、闘技場の試合中継。
そこには先ほどサラが観た時よりも遥かに凄惨な、地獄絵図が繰り広げられていた。

─────

バキッ!メキッ!!
「やっ……やめてっ……ひっ!!」
シェリーは蜂型に変化したジェシカの一群に捕らえられ、空中で磔にされていた。
元々騎士の中では軽装だったシェリーの鎧は簡単に引きはがされる。

「さっきは、アンタらに」「あっし達の分身が、お世話になったっすからねぇ……」
「お礼に、じっくり時間をかけて」「たっぷりと、いたぶってあげるっすよ」

そこに他のジェシカ達が何匹も群がり、太くて長い毒針を次々と突き立てた。
ドスッ!!ザクッ!!ブスッ!!
「いやああっ!!ふぐうっ…!!……め、めでゅっ……助け……うごぉあああぁ!!!」
薄手のハイレグレオタードはあっという間にボロボロにされ、鮮血で真っ赤に染め上げられていく……

「しぇりっ!!くっ……あなた達……絶対に許さないっ!!『邪眼発動』……」
「おっと……ヤらせないっすよぉ?」
ビュッ!!

「きゃぅっ…!?」
石化能力を発動しようとしたメデューサだが、髪に隠れた『邪眼』が見開かれた瞬間……
横からジェシカの毒液が浴びせかけられた。

ジュゥゥゥゥゥッ……!!
「っいやぁあああぁぁぁっ!!…目……私の、目が……!!」
「別に一体や二体、石にされたところで、痛くも痒くもないっすけど…」
「……やっぱ多少はムカつくっすからね」
「アンタらのターンは……もう永久に回ってこないっすよ。ククク」

毒液に焼かれ、目が見えなくなったメデューサも、ジェシカたちに捕らえられてしまう。

「こっちは、相方ちゃんの目の前で公開産卵ショーといくっすかね……ひひひひ!」
「『本命』の前に、あんまり無駄打ちするのもイヤっすけど……」
「減った分は増やさせてもらうっすよぉ?」
「産卵、って……そんな……いっ、嫌ぁぁああああああああ!!!」

シェリーに比べて重装備なメデューサの鎧も、ジェシカ達の手に掛かればさしたる違いはない。
ロングスカートを引き裂かれ、腰部装甲は粉々に噛み砕かれ、サラを犯した時と同じ、極太の産卵管が鼻先に突きつけられる。

「がはっ………う、ぐ……やめ、なさい……め、でゅを……放せ…!」
「しぇ、りっ………うぅ……お願い、見ないで……!!」

「見えなくても大きさがよくわかるように、体中にスリスリしてあげるっすよ……けっけっけ」
「ほれほれ。抱き着いて、感触を確かめてみるとイイっす……!」
「ひ………!!」
(やっ……すっごい、太い……熱くて、脈打ってる……こんなの、無理よ……入るわけ、ないぃ……)

「ウォォオオオ!!いいぞ虫女ー!!」
「いけいけー!!ヤっちまえーーー!!」
「キャァァァァめでゅ様素敵ィィぃ!!私も犯したーい!!」

百合NTR+虫産卵の危機を迎えたしぇりめでゅコンビに、会場の熱狂は天井知らずに高まっていく。

─────

「…………。」
一方、中継を見てしまったサラは、今まで以上に顔色を失っていた。
あの偏執的な破壊衝動が、もしまた、自分に向けられたら……そう思うと、体の震えを抑えることができない。

「あの二人は、シーヴァリア所属の聖騎士だ。いずれ隙を見て、救出してこっちの戦力に加えるつもりだったんだが……」
「仕方ないわ……あのジェシカってやつは、正真正銘の化物よ。……勝てるわけない」

「おかげで………予定が早まっちまった。アヤメ達は、既に二人の救出に向かってる」
「なん…ですって……!?」

…ダンの予想外の言葉に、サラは思わず目を見開いた。

728名無しさん:2020/04/18(土) 15:56:05 ID:???
「ぐっへっへっへー。男好きするいいボディっすねぇ〜。鎧で隠すなんて勿体ないっすよぉ」
「んっぐ…!!……う、っむ……ん、ぁぁんっ……っぐぅっ…!!…」

ローブと鎧を引きちぎりながら、下卑た笑い声をあげるジェシカ。
口を塞がれ、苦し気にうめく事しかできないメデューサ。
割れんばかりの大歓声と衆人環視の元、女騎士の身体を苗床とした悪夢の産卵ショーが繰り広げられていた。

目に毒液を浴びせられ、両手を蜘蛛糸で拘束された状態で、
咥内膣内菊穴耳穴……全身至る所に、太ささまざまな産卵管が差し込まれ、大量の虫の卵が注ぎ込まれる。
…文字通り、細身な身体がはちきれんばかりに。

「いいぞもっとやれーー!!」
「たまんねぇなぁ……あの女騎士、鎧の下はとんだドスケベボディだぜ!!」
「ああ、私のめでゅ様が……あんな無様で惨めな格好で、誰とも知らない虫の卵を孕ませられて、……最、高……」

「やめ…て………やるなら、私をやりなさいっ……彼女は……めでゅは……うぅ……!!」

その様子を、特等席で見せつけられているのは、パートナーとして共に戦っていたシェリー。
だが、ジェシカ達の針や鎌に全身を刺し貫かれて身動き一つできず、目の前で犯されていく親友を観ている事しかできない。

「ひっひっひ……彼女は…何だっつーんすかぁ?…大体予想はつくっすよぉ〜?
こんなエロい体と顔してるくせに、ガッチガチに鎧でガードしてるようなタイプって…
よほどのムッツリドMか、男嫌いか……」

「……見ない、で……おねがい……見ないで……」
「おんやぁ?………これは、隷属の刻印……なるほど、そういう事っすか……ひっひっひ」

メデューサの背中に刻まれた刻印を目ざとく見つけ、ジェシカが口元をゆがめた。
その時……


……ブツンッ!!

会場内の照明が、一斉に消える。

「おおーっと!?これは一体どうした事でしょう。真っ暗になってしまいましたよカイセツさん!?
 ただいま入った情報によりますと……どうやら、会場内のシステムがハッキング攻撃を受けているようです!」

「これは、まさか……近頃世界各地で暗躍しているという、スーパーハッカーAYMの仕業でしょうか!
だとすると、犯人が更に何かを仕掛けて来るかもしれません!!」

「おいおいマジかよぉぉーー!」
「騎士のねーちゃんが見えねーぞーー!!」
「くっそぉ…スーパーハッカーAYMめ!!お前が美少女だったらレイプしてやる!!」
「ふっふっふ……こんなこともあろうかと、望遠カメラの暗視機能でめでゅ様の艶姿をばっちり(ry」


「ん〜?誰だか知らないけど、乱入なら大歓迎っすよぉ?
……ちなみにあっしは虫っぽいこと大体できるんで、暗闇なんて何の目くらましにもならないっす」

辺りが闇に包まれ、観衆がざわめき始めた。

「ずいぶん有名だなスーパーハッカーさん」
「通称が糞ダサくて草なり」
「ボクが名付けたわけじゃないんだけど……そんなことより、第1作戦ゴーだ!!」

「おっけー!……でやっ!!」

物陰に潜んでいたノーチェが、ボールのようなものを、思いっきり投げる。
「『アヤメカイNo.089 バーニング照明弾』……発火!(ハッカーだけに)」

(ドーーーーン)
放り投げられたボールは、ちょうど試合場の真上あたりで突如爆発し、太陽のごとく燃え盛った。

「っお!?びっくりしたっす……何なんすか、あれ……は……?…」


闇の中で赤々と燃える光源。
ジェシカは、それを見ているだけで……魂が、光の中に吸い込まれていくような感覚を覚える。

ぶぉぉぉおおおおおおん………

「「ギエェェェェェ!!!!」」
「………は!?……っうおっ!!あぶねっす!!」

気が付いたら、ジェシカ達は一斉に羽を広げて、燃え盛る謎の火球に向かって一直線に飛んでいた。
飛び込んでしまった数匹の悲鳴で、残りのジェシカ達は何とか我に返る。
走光性……光に集まる虫の性質を利用した罠である。

「よし、今のうちだ!二人を回収して……」
「秘密通路で地下道に逃げるなり!」

キリコが格闘場の壁を叩くと、まるで忍者屋敷のように壁が回転して通路が現れた。
昔々は、唯やアリサ達も蟲から逃げるために利用した事があるという、由緒ただしい通路である。
塞いどけよって言いたくなるけど、それは置いといて……

「やってくれたっすね……絶対、逃がさないっす……!!」

729名無しさん:2020/04/18(土) 19:52:50 ID:wOstanUQ
「あーくそ!メデューサの奴重いんだよ!!主に胸が!チクショウめ!!」

「お前が一番パワータイプなんだから我慢しろ!ちなみにシェリーは割と軽いぞ!」

「一番大荷物なのは撃退アイテム持たされてる私なり!あ、でも毛布で包んで浮かせてるから重くはないなり」

「えーと、次の別れ道を左に曲がって、2つ目の牢屋を壊してショートカットして……」

ノーチェがメデューサを、キリコがシェリーを抱え、コルティナはアヤメカイNo.64「殺虫カンシャク玉」をばら撒き、彩芽は眼鏡にインプットされた地下道の地図を見ながら最短経路を指示する。

役割分担しつつ順調に逃走していた一行。このまま首尾よくダンの店まで行けるかと思ったが……そう、上手くはいかない。

「ひっひっひ……地下は虫の巣窟と、相場が決まってるっすよー!」

「くっ……みんな!こっちだ!」

熱感知で正確に一行の位置を把握したジェシカが、カンシャク玉をものともせずに後ろから凄まじいスピードで追走してくる。
さらには、地下の虫たちが密集して彩芽たちの前に文字通り壁になって立ち塞がり、カンシャク玉で撃退する暇もなく、彩芽はやむを得ず逃走ルートを変える。

「ヤバいなりヤバいなりヤバいなりーー!このままじゃとうとう私たちもリョナられちゃうなりー!」

「キリコとコルティナはミツルギ編とルミナス編でそれなりにリョナられてたから手遅れだろ!」

「ノーチェてめぇ!一人だけ後方師匠キャラとかいう美味しい上に安全な位置につきやがって!」

「ふん!何とでも言え!多分今回も追い詰められたところでメインキャラが颯爽と助けに来てそいつがリョナられるパターンだし、私だけはリョナとは無縁に逃げ……おわぁ!?」

自分だけは助かる!という映画とかだったら死亡フラグな台詞を言った直後……ノーチェが突然転ぶ。
別に足を滑らせたわけではない。ノーチェに抱えられたメデューサが、いきなり後ろに体重をかけて転ばしたのだ。

「いってぇ……おいゴルァ!なにしやが……る……」

「ハァ……ハァ……!」

押し倒された格好のノーチェが文句を言うが、それは徐々に尻すぼみになっていく。
どう見てもメデューサの様子がおかしい。さっきまで犯されていた事を鑑みても、息が荒すぎるし頬も上気している。

そして何より……毒液で焼かれたはずの目が、まるで昆虫類かのような複眼になって復活していた。

730名無しさん:2020/04/24(金) 03:23:39 ID:tsrYPuAA
「ヴヴヴ……ヴヴヴ……!」

ノーチェの背から転がり落ちたメデューサは、焦点が合っているのかもわからない複眼をギョロリと回しながら手を擦り始める。
それは明らかに人間の動きとは思えない、異質で、奇妙で、不気味なものだった。

「うえぇなんだこれ……!キッショ!円卓の騎士の中で1番のセクシー度を誇るメデューサが 、こんなになっちまうなんて……」

「ずっと某ロボットアニメの略称みたいにヴヴヴ言ってるなりよぉ……!これ、一体どうするなりか……?」

「どうするもこうするもこうなったら無理だろ!相手してたらあの親玉が来るし、シェリーだけでも連れて行くぞ!」

判断の早いキリコの言葉にうなずくノーチェとコルティナ。なんだかんだで1番人間のできているキリコの意見に従うことが多い2人であった。



だが──



「ダメだ。メデューサさんも助けないと……ちょっと気が引けるけど、ここで大人しくさせよう」

「ななな!?この状況で時間使うつもりか!?もうあいつはすぐそこまで来てるんだぞ!」

「そもそもの目的は、シェリーさんとメデューサさんの救出がメインクエストだよ。それを達成できないまま帰るわけにはいかない….この選択で今後の展開が変わるかもしれないし」

「………?ええっと……何て?ドラゴンクエスト?今後の展開?」

「……いったい何言ってんだこいつは……まあでも、最初の方に言ってた2人を助けるために来たのはそうだけど……」

「そ、そ、それに……なんか妙〜に説得力あるなり!これがメインキャラの発言力、スピーチスキルの力なりか……!」

異形と化したメデューサを諦める選択肢を捨て、アヤメカの入った鞄に手をかける彩芽。
以前の自分ならこんな危ない橋を渡ることはなかった。
迷わず逃げていた。
自己保身第一、いのちだいじにが1番大事な作戦だ。
そんな彼女を変えたのは、これまでの経験と、最近ヴェンデッタ小隊内で話題になっている第7部隊の活躍だった。



(唯……君は仲間を見捨てなかった。だからみんな君を信じて戦って、プラント作戦が成功したんだろ?……なら、君と同じ運命の戦士とやらのボクも、ここで頑張ってみるさ……!)



「ヴヴヴ……ヴヴヴヴヴ!!!」

「来るよ!3人とも気をつけて!」

初めてリーダーシップを取った彩芽の声が、地下水道に響き渡る!

731名無しさん:2020/04/25(土) 17:27:32 ID:???
「ギシャァァァァァ!!」

メデューサの腕がサソリの尻尾のような異形に変化。
伸縮させながら、毒針攻撃を連続で繰り出してくる。
その太刀筋は、彼女がかつて得意としていた『蛇剣ウロボロス』を彷彿とさせた。
しかもあの頃以上に速く、重く、そして毒!

ビシッ!! バチン!! ガキン!!

ノーチェは渋々ながらも覚悟を決め、手甲『ストレングス・イズ・ザ・パワー』で攻撃を捌いていく。

「ったく、マジでやるのかよ!唯と言いコイツといい……異世界人ってのは、どいつもこいつもバカばっかりか!」
「それをお前が言うか……『くるみ』ちゃん」
「うっさいなーもう!!」

そこへキリコが横からツッコミを入れる。
そう。ノーチェの本名は「名栗間 胡桃(なぐりま くるみ)」……彼女もまた、異世界人なのであった。

「いっくぞおらぁぁああぁ!!」

(だいたい仲間っつってっも……私コイツの事あんまり好きじゃなかったんだよな。
新人とか後輩とか、平気でリョナって喜ぶようなヤツだったし………)

─────

(……ガキンッ!! ギュルルルルッ!! ザシュッ!!!)
「っきゃあああああああぁぁっ!!!」

「こんなものですか、リリス………
防御力だけは大したものですが、その亀のような鈍足では、私の『ウロボロス』の格好の餌食ですよ。
こうして全身を絡め捕って、隙間から刃を入り込ませて………」

(ギチギチッ……ギシッ………ずぶり!!)
「んっ………く………うっ、っぐあああああっ!?」

「ふふふ……このまま内臓を引きずり出してあげましょうか?
そもそも、この程度の実力で、円卓の騎士の末席に加えられるなんて……おかしいと思わなかったんですか?」

「はぁっ……はぁっ……ど、どういう、ことですか…!?」

「リリス・シヴリス。経歴書によれば没落貴族シヴリス家の子女。
騎士養成学校を優秀な成績で卒業したそうですが……シヴリスなんて貴族は聞いたことありませんわ。
あなたは一体、何者ですの?………と言っても、司祭様もおおよその見当はついているようですけどね」

「あの……おっしゃっている意味が、よく…っぐ!!……っう、あああぁ!!」

「これは、模擬戦の名を借りた尋問……いや、拷問。
貴方が心底から屈服するまで……徹底的に嬲って差し上げますわ、お姫様?」

「姫…?……い、一体、何の話…あんっ!!…きゃあああああ!!」

「………あーもう。うるせえな、おちおち昼寝もできねーじゃんか」
「貴方は…『鉄拳卿』ノーチェ…誰も来ないはずの、円卓の騎士専用地下訓練場に、なぜ貴女が!?」

「いやサボってたんだけど…………おい、そっちの新入り!」
「え?わ、私ですか!?」
「お前たしか、さっきコーラ買って来いって頼んだよな。覚えてねーけど頼んだ気がする!
グズグズしてねーで、さっさとキリコ達からも注文取って来い!」

「で、ですが私は……」
「何を勝手なことを。まだ拷問 …もとい、模擬試合は終わって」
「グダグダ言ってねーでさっさと買って来い!モタモタすんな!駆け足!!」
「は、はいっ!!」

─────

「いやー、懐かしいなぁ。……とか言ってる間にメデューサの懐まで潜り込んだぜ!」
「シャゲァァァァァッ!!!」
「こいつ……リョナシーンを回想内の他人に押し付けやがった」
「その発想はなかったなり」

「まあでもアレだ。そんな感じに、一番こっぴどくヤられてたはずのリリスの奴が…
コイツらの行方をマジで心配して、必死に探して、あたしらに『絶対連れて帰ってくれ』って頼んだわけで。」

「器がでかいのか、お人よしなのか……
世界を救ってやろうってな連中の考えは、あたしら庶民にはおよびもつかねー、ってな!」
(…ザシュ!!ザクッ!! ズバッ!!)
新たに伸ばされた触腕が、キリコの『千斬』で瞬く間に斬り落とされていく。

「……ギィィィッ!!」
追い詰められたメデューサは、目を大きく見開いた。
もともと持っていた邪眼の能力……それを、昆虫の複眼で増幅させた、全方位石化光線が発射されようとしている!!

「かくして我々『グータラ三姉妹』は、頭お花畑な女王様の元、平和なよの中で平和にグータラするために……
しょーがないから、たまにはちょっとくらいお仕事するなりよ。『ダークスモーク』!」

……短い詠唱から放たれた、コルティナの魔法。黒い煙が、ピンポイントにメデューサの視界を覆い隠す。

(すごい……この三人、ふだんはグダグダ言ってるけど、息がピッタリじゃないか…!)
メデューサの攻め手を次々塞いでいく完璧な連携に、
後ろで見ていた彩芽も思わず舌を巻く。

「ってことで、さっさと目ぇ覚ませ!!峰打ちアッパー!!」
「ギァァァァァアァァッ!!!」

732名無しさん:2020/04/26(日) 12:16:36 ID:???
(ドゴッ!! ズドン!!)
「ギァァァァァアァァッ!!!」

ひとたび近づけば、『鉄拳卿』ノーチェの必殺の拳に砕けぬものはない。
何がどう峰打ちだったのか全くわからないが、とにかくメデューサは昆虫っぽい外甲を粉々に砕かれて戦闘不能に陥った。

「ギ、ギギギ……」
「…目ぇ覚まさないじゃん。しゃーない、今のうちにふんじばっとこうぜ」
「まあ単に殴っただけだしな。元祖虫女が来る前に、とりあえず移動しよう」
「まだ虫要素が抜けきってないし、安全なところで治療しなきゃなり」
「そうだね……でも、ボクが言いだしといてなんだけど、ここまで虫化しちゃって、ちゃんと治るのかな」

「つーか、無理だろ治すの。いっそ一回死なせちゃえば『王様のところで復活』するんじゃね?」
「いやー……ボクも殺されて復活した事はあるけど、あれはお勧めできないよ?
痛いし怖いし、血がいっぱい出るし、所持金半分になるし、何よりトーメント王にどんな事されるか」
なお我らが主人公は移動手段に使っていた模様。

「………アイツなら、何とかできるかもな」
しばらく考えた後、ノーチェがぼそりとつぶやいた。

「アイツって……もしかして、あのヒーラータンク女なり?」
「いたなー。そういやミツルギでちょっと会ったわ…でもあいつ、今どうしてるんだ?」
続いてコルティナとキリコも、彼女の存在を思い出す。

騎士志望の天才ヒーラー少女、ミライ・セイクリッド……
グータラ三姉妹も以前戦った事があったが、その反則じみた回復魔法には心底ウンザリさせられたものだった。

ただ一つ、問題があるとすれば……

「……聞いた話じゃ、ミライはトーメント攻略軍の一員に加わってるから……
今シーヴァリアから進軍中で、間もなくヴァーグ湿地帯へ辿り着く。戦闘が始まる前に合流できりゃいいんだが……」
「……あんまり時間はないって事か。……今はひとまず、安全を確保しよう」

ふたたびメデューサとシェリーを担ぎ上げ、地下水道をひた走る4人。
目指すダンの店は、あと少しのはずだ。

─────

「……ってなわけで、一応救出には成功したらしい。
アヤメ達は、もうすぐここにやってくる……下手すりゃ、例の虫女も一緒かもな」
「そう……今度出くわしたら…間違いなくバレるでしょうね。私の記憶が、戻ってる事」

ダンとサラは、酒場の地下室…下水道への秘密の出入り口の前で、彩芽たちの到着を待っていた。
その時……

「うわあああああああっ!!」
「出たなりーーーっ!!」
「くっそ、たまにゃーやる気出すかと思ったら…やっぱフラグかよぉぉおお!!」

通路の奥から、叫び声が聞こえてきた!
……どうやら「最悪の事態」が起きてしまったらしい。

「避けられない運命ってのは……どんなに逃げた所で、しつっこく追ってくるもんだ」
「ええ、わかってる………立ち向かうしかない、って事ね」

「…………。」
耳元で、また悪魔が何事か囁いていたが……サラはもう耳を貸さない事にした。

733名無しさん:2020/04/26(日) 13:05:14 ID:???
時は僅かに巻き戻り、彩芽たちが逃走している間……

「っ!おいコルティナ!ちょっと持つの変われ!」

「え?ちょ、へぶっ!」

抱えていたメデューサをコルティナに投げ渡したノーチェは、近くの地下牢に駆け寄ると、馬鹿力で扉を開いて中に入っていった。

「おいノーチェ、何してる!早く逃げないと……!」

「うるせぇ!!」

止めるキリコを大声で一喝すると、ノーチェは地下牢の中に横たわれていた『死体』に駆け寄り、かき抱いた。

「ああ、くそ、どっかでおっ死んでるとは思ってたが……こんな所にいたのかよ、華霧……!」

「……ノーチェさん、ひょっとして、知り合い……?」

いつになく悲しげな声を出して死体を抱きしめるノーチェに、彩芽が恐る恐る声をかける。

「ああ、私の……友達だ。この世界に来てすぐ、はぐれたんだ……クソッ!モブ顔だから王も蘇生しなかったのかよ!」

ノーチェの腕の中にいるのは園場 華霧(そのば かぎり)……かつてルミナスとの戦争の前に、魔喰虫たちの餌にされて死んだモブである。

「なぁ、こいつも連れてっていいか?どっかで眠らせてやりたいんだ」

「いい話っすねー、不可能ということに目を瞑れば……なんつって!」

その時、突然ジェシカの声が響いたかと思うと……華霧の死体から伸びてきた鎌が、ノーチェの体を貫いた。

「が、はっ……!?」

「きっひっひ……『死体から沸いてくる』っていうのも……中々に虫っぽいっしょ? こいつの死体、ちょうど虫にやられてたっすし」

鎌に続いて全身を現したジェシカが、思いっきり鎌を振りぬいて、ノーチェを彩芽たちの方へ吹き飛ばす。

「うわあああああああっ!!」
「出たなりーーーっ!!」
「くっそ、たまにゃーやる気出すかと思ったら…やっぱフラグかよぉぉおお!!」

「ひーひっひっひ!!逃さないっすよぉ、このまま虫の苗床にして、あっしの分身を産むだけの存在にしてやるっす〜!」

慌てて逃げようとするが、負傷者が3人もいては逃げるのも叶わない。
ジワジワと迫るジェシカに、最早ここまでかと思われた時……



「待ちなさい、ジェシカ……貴女の相手は、私よ」

「……おんやぁ?」

「アヤメたちには……手を、出させないわ」

「サ……サラさん!!」

734名無しさん:2020/04/29(水) 17:34:53 ID:???
「…サラ…さん………良かった…無事だったんだね…!」
「久しぶりね、アヤメ……色々話したいことはあったけど、あまり時間はないみたい。
みんなと一緒に下がってて」
サラは彩芽達をかばうようにジェシカの前に立ち、ハンドガンを構える。
かつて一緒に旅をしていた時と全く同じ、頼もしい後ろ姿がそこにあった。

「おい、お前らこっちだ!早く下がれ!!」
後から追い付いてきたダンが、重傷者を素早く担ぎ上げて退路を確保する。
……幸いジェシカが深追いしてくる様子はなさそうだ。
『本命』さえいれば、それでいい……そういう事なのだろう。

「その目、その雰囲気……もしかして記憶、戻ったんすかぁ?
ていうか実は、とーーっくに戻ってたとか?……ま、どっちでもいいっすけどねぇ……ククククク」
ジェシカの瞳が赤く輝き、全身が禍々しい装甲におおわれていく。
そして、目の前の一体だけではなく、通路の奥から同質の邪悪な気配が無数に近づいてくるのが、肌で感じられた。

「フフフフ……いよいよねぇ、サラちゃん…♥
ここでじっくり、貴女がぶち殺される所を見物させてもらうわ。
あ、本契約したかったらいつでも言ってね?
もし口が使えなくっても、心で私を呼ぶだけでいいわよ?それだけで、貴女の魂は……」
「…………。」

『悪魔』が耳元でささやく。サラは、振り返らない。ただ目の前の敵だけを見据えていた。


「……なんすかその目はぁ……ッヒヒヒヒヒ。そんなキラッキラした目ぇ見せられたら……
滾ってきちゃうじゃないっすかぁ……光に吸い寄せられちゃうのって……虫っぽくないすかぁぁ!?」

ジェシカが飛び掛かってくる。
サラは冷静にひきつけ、ハンドガンを撃ちながら紙一重で回避。
銃弾は、甲虫の装甲に弾き返される。

(……私は、ずっと、怖かった。
死ぬ事が、じゃない。
何もできないまま、この狂った世界を何一つ変えられないまま、消えてしまう事が……)


「ヘンシンできないのはちょーーっと残念っすけど、モー我慢できねっす!!
グッチャんグッチャンにしてやrっぼべ!!」
(ズドン!ズドン!ズドンッ!!)
「やってみなさい……やれるもんならね」

すれ違いざまに回し蹴りを叩き込み、脳天に残弾を叩き込む。
2匹目、3匹目のジェシカがすぐ背後に迫っていた。
カマキリの鎌と蜂の針を横っ飛びでかわし、マガジンを詰め替える。

(私がいなくなった後も、悪党どもはどこかで高笑いして、罪のない誰かが悲しみの声を上げる。
その声は誰にも届かなくなって…世界は、何も変わらない。)

(私のやってきたことも、マリアさんから受け継いだ正義も、私が死んだら全部無意味になってしまう。
そう思うと……怖くてたまらなかった。…どんなに悪党どもを逮捕しても、心が休まる日はなかった。
でも……)

「……さっきから、ブツブツうるさいっすねえぇ?」
「あっしが聴きたいのは、アンタの悲鳴っすよぉ」「っすよぉぉ?」
ブオンッ!! ガキンッ!!
「っく………!!」

横薙ぎに振るわれたかぎ爪を、拳銃でガードする……が、銃身が半ばから斬り飛ばされてしまう。
サラはやむなく銃を捨て、腰に差した小型ナイフを取り出すが……

「……ま、こんなオモチャでどうにかなる相手じゃないわよねぇ……♥
ところで、『次』は誰がいいと思う?
アナタのお気に入りのアヤメちゃんは、正直ちょっと貧弱すぎなのよねぇ。
どうせなら、前に一緒にいたサクラコって子か、いつだったかの黒セーラーの子とか…
さっき死にかけてたノーチェとかいう子も、なかなかオイシそうだったわねぇ…ふふふ」

(アヤメや、他のみんなに会って、少しずつ分かってきた。時空刑事の力なんてなくても……
正義の心を持っている人はたくさんいて、みんなそれぞれ、自分なりに戦っている。
闘技場に捕まっていた私を、アヤメが助けてくれたように。だから……)

「……あんたみたいなクソ悪魔、誰もおよびじゃないわ。アヤメも、サクラコも、他のみんなも。
諦めて、私と一緒に地獄に帰りなさい。あの子たちは……私が必ず守ってみせる。
それが私の……マリアさんから受け継いだ正義に、繋がっていくはずだから……!!」

「ふぅん……そこまで言うなら、貴女の魂だけで我慢してあ、げ、る♥
その代わり、地獄でたぁっぷり満足させてもらうわよ?」

全力で戦えば、あと10秒……いや、5秒は時間が稼げる。
それから口が動く限りジェシカを挑発して、徹底的にこの身体を嬲らせる。
うまくすれば、自分を殺した事で満足して、立ち去ってくれるかもしれない。

あとは…逃げ延びたアヤメ達が、きっとこの世界も、現実世界のことも……

「サラさんっ!!」

突然、誰かが耳元で叫んだ。
悪魔でも、虫女でもない。それは……

「あ、貴女…とっくに逃げたんじゃ……」
………彩芽が、サラのすぐ隣に立っていた。

735名無しさん:2020/04/29(水) 18:06:22 ID:???
「ったくもー。すぐそうやって、一人で突っ込もうとするんだから……
ほらこれ!
ボクこういうの、バシッ!!とかっこよく投げ渡したりできないから、ちゃんと手渡さないとね」

……彩芽から手渡されたのは、以前敵に奪われたはずの変身ブレスレット。
クレラッパーに変身する……つまりはアージェント・グランスの力の一端を、一時的・限定的に借りるためのアイテム。
だが、以前とはどこか雰囲気が違うような……

「アヤメ……どうしてこれを?とっくになくしたと思ってたわ」
「いやー、(ナルビアの研究所に)偶然落ちてたのを拾ったっていうか……
でも、ただ拾っただけじゃないよ。
色々と中身を弄らせてもらって……なんかリミッターみたいなのがあったから、外してみたんだ。
たぶん以前とは比べ物にならないパワーアップしてるよ!」

「え?………そうすると、じゃあ……どうなるのかしら、この場合」
(はぁぁ!?ちょっとぉ!?このチビ、私の魔界アイテムに何してくれるわけぇぇ!?)

さすがの悪魔も、魔界のテクノロジーで作られたブレスレットを魔改造されるとは想定外だったようだ。
ブレスレットを改造して悪魔の力を無尽蔵に使うなど、
言うなれば「体験版のコードちょっといじったら本編丸々遊べちゃいました!」みたいなものである。
(あ、…ありえない。まさに……悪魔的所業だわ…!!)
「……ちょっと意味がよくわからないけど、とにかく使わせてもらおうかしら」

「サラさん、前にボクに言ったよね……パートナーにならないかって。
知っての通り、ボクは運動音痴だし、逆立ちしたってサラさんみたいに戦うことは出来ないけど……
その代わり、こういうボクにできる事でなら、全力でサポートする。……それじゃダメかな?」

「いいえ……十分よ。アヤメはアヤメのやり方で、あなたらしく。
そして、私は……やっぱり、こうじゃないとね!!………『閃光』!!」

女時空刑事サラ・クルーエル・アモットが<閃甲>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!
時空間に存在する未知の物質シャイニング・シルバー・エネルギーが超時空バイク「アージェント・グランス」によって増幅され、コンバットアーマーへ変換。
わずか1ミリ秒で<閃甲>を完了するのだ!

(い、いやぁぁぁっ……!?…なにこれ、私の力、全部吸い取られて……!!)
「何回聞いても何言ってるのかよくわからないっていうか、未知の物質とか言ってる時点で原理の説明になってないよね」

「そんな事より……すごいわね、これ。力がどんどん溢れてくる。
これなら5秒と言わず……10分くらいは持ちそうかしら」
「……5分で片づけられるさ。ボクとサラさんならね」
白銀のスーツに身を包んだサラ。
その横で、彩芽も対昆虫用のアヤメカイを取り出し、戦闘態勢を整える。

「ヒッヒヒヒ。……ついに出たっすねぇ、白銀の騎士ィィィ……」
「空気読んで、大人しくしてた甲斐があったっすわぁぁぁ……ギギギギギ!!」
「「ギシャァァアアアアア!!!」」
……ジェシカの大群が、一斉に飛び掛かってきた。
さながら、光に群がる羽虫のように。

「こういうの……何て言うんだったかしら?」
「『飛んで火にいる夏の虫』かな」

「オッケー……それじゃ、ガンガン行くから、サポートよろしく!」
「がってん承知!!」

736名無しさん:2020/05/03(日) 21:41:31 ID:???
「アヤメカイNo.29『リフレクタービットまんまなやつ!』
…サラさん、ポイントA1、10時方向だ!」
「了解!ライトニングシューター・フルバースト!!」
バシュッ!!…ズドドドッ!!
「「んぎゃおおおおっ!?」」

彩芽が小型浮遊マシンを大量に放ち、指示に従ってサラがビームを放つ。
ビームがマシンに搭載されたミラーに乱反射し、何匹ものジェシカの群れを一度に焼き払った。
「ナイス彩芽!だいぶ敵を減らせたわ!」
「ピンボールシューターの計算アルゴリズムを効率化・応用したんだ。
端末の性能もナルビアで大幅バージョンアップしたし、計算も一瞬だよ!」

「くっそー。ちょぉぉっち劣勢っすねぇ……!!」
「奴のなんとかプラズマパワー、もしかして無尽蔵っすかぁ…!?」
「でもあっしもゲーマーの端くれ。ここで退くとかありえねーっす……狙うは」
「「「一発逆転っすよォォォ!」」」

即効性の毒針を手に、残った十数匹のジェシカが一斉に飛び掛かる。

「そろそろフィニッシュね……シルバープラズマソード・モードX…純粋起動!!」
対するサラは、必殺のシルバー・プラズマソードの二刀流、しかもフルパワー。
以前は限られた時間しか使えなかったが、クレラッパーの全機能がアンロックされた今は使い放題だ。

「ジャッジメント・サイクロン!!」
舞うような動きで二刀を振るい、迫りくる敵を次々に切り伏せる。

残り三体、その一体目。毒針の生えた腕を斬り飛ばし、胸板を串刺しにするが……

「ひっひっひ……げほっ…ようやく、取ったっすよぉぉ!!」
「!?…まだ生きて…」
「サラさん!!……」
(ドォォンッ!!)

……ジバクアリ、と呼ばれるアリの一種が存在する。
その名の通り、敵に襲われるとその身を破裂させ、粘性の毒液を撒き散らす。
……つまり、『自爆』もまた虫っぽい攻撃という事だ。

至近距離で、直撃を喰らったサラは……

(まずい、目が……!!)
アーマーこそ無事だったが、飛び散った毒粘液にバイザーの全面が塞がれ、片腕を封じられた。

「今度こそ」「もらったっすぁああああ!!!」
それらを脱する前に、二体目、三体目のジェシカが同時に襲い掛かる。

「正面!!」
(……ズドンっ!!)
彩芽が叫ぶ。同時に、サラがライトニングシューターのトリガーを引いた。

「ん、ぐぉぁ……マジ、すか……」
「あの、クソガキ……」
「先、倒しとくべきだったっす、ね………」
放たれた光条は、正面の二体目と……リフレクターに反射され、頭上の三体目、そして足元に潜んでいた四体目のジェシカを貫く。

……かくして、サラは宿敵ジェシカを倒し、悪魔に魂を奪われる「運命」を乗り越えた。
ジェシカは完全に死んだのだろうか?
だが、そう思わせておいて、実は密かに……というのもまた「虫っぽい」話ではある。

「ふぅ………どうやら、全部倒したわね」
「おかげで助かったよ……サラさんはやっぱり…ボクにとっての、ヒーローだな。
いちばん助けてほしい時に、ズバッと現れてズバッと助けてくれるんだから」

「アヤメ………それは、あなたも同じよ」
「…え?なんか言った?」

「なんでもない……ダンの所に戻りましょう。お腹すいたし、シャワーも浴びたいわ」
(……これで2度目。私がいちばん助けてほしい時に…貴女は現れて、助けてくれた)

「そうだね。下水とか虫とかですっかり汚れちゃったし。一休みしたら…桜子さんとスバルも探し出そう」
「ふふふ……目指すはチームアヤメ、リブートってわけね。」
「え。。そのチーム名はちょっと……」

緊張が解け、和やかに言葉を交わしながら仲間の元へ向かう二人。
だが……『チームアヤメ』の全員集合は、もう少し先の話になりそうだ。

なぜなら。

…………

「クックックック……噂の秘密兵器『メサイア』を前線に引きずり出せるかどうかは、
ひとえに君たちの働きにかかっている……期待しているよ、桜子、イヴ……他の諸君にも」

……春川桜子は今、王下十輝星「フォーマルハウト」のスネグアに従軍し、ゼルタ山地に向けて移動していたからだ。

「……そんな事より、あの約束……忘れるなよ」
「成功したら、今度こそ……開放していただけるんですか。あの子たちと、私たちを」

「もちろんだとも。奴を倒せとまではいわないが、首尾よく奴の弱点でも見つけ出してくれれば上等だ。
その時は、スバルちゃんやメルちゃん達と一緒に、君たちを自由にしてやろうじゃないか。クックック……」

737名無しさん:2020/05/10(日) 09:48:20 ID:???
トーメント王城地下、廃棄施設。
劣化した拷問部屋、危険な魔物や大罪人を隔離した部屋など、トーメントの闇の更に深部が凝縮された場所。

リザは最近、そこへ毎日のように足を運び、凶悪な魔物や罪人たちとの戦いに明け暮れていた。
それは、来るべき戦いの備えて魔剣『シャドウブレード』の扱いに習熟するため……
というより、むしろ戦うことそのものが目的化しつつあった。

戦っている間だけは、余計な事を考えなくて済む……
戦っていないと精神を保っていられない。
そんな、極めて危うい状態に陥っていたのである。

「シャァァァァァッ!!」
「ッグルァァアアアアアアア!!!」
「メスァアアアアア!!」
三人の男が、巨大な鎖鎌を振り回し襲い掛かる。彼らはみな理性を失い、身体も半ば魔物化していた。

ジャキン!! ガキンッ!!  ジャラララッ!!
「はあっ!!……たあ!!………っぐ!」
錆びついた鎖は一見簡単に斬り落とせそうだったが、この地下施設に住み着いているだけあって一筋縄ではいかない。
鎖は強い邪術の力で蛇のように不規則に動き、リザの腕や首に絡みついていく。

ギリギリギリッ……ジャリッ……!!
「くっ………この、位で……」
呪われた鎖が、リザの首に食い込む。ざらついた感触と共に、白い細首から血が滲みだす。

「ヒヒヒヒ……」
「ツカマエタゾ」
「シネヤァァァアアアアア!!」
動きを封じられたリザに、三人…否、三体の異形が一斉に飛び掛かる。

「この程度で、やられるかっ……!!」
「「「ッグアアアアアアア!!」」」
だがリザは、シフトの力…テレポートを発動して拘束から逃れ、三体の魔物を「同時に」斬り伏せた。


「……はぁっ………はぁっ………今……の、感じだ…」
戦いを終え、一息つくリザ。……彼女が今発動したのは、普通のテレポートではない。
普通のテレポートなら、攻撃後に僅かな隙が生じ、一体を倒せたとしても他の二体に反撃されていただろう。

だから……「同時に」三か所にテレポートし、全ての敵を「同時に」倒した。
複数の可能性を選択する事で、一つだけを選択した時にはあり得なかった結果を導く。

新たな能力…「マルチシフト」とでも呼ぶべきか……に、リザは今、目覚めつつあった。

量子的ゆらぎを操作しているのか、あるいは篠原唯達のような『運命を変える力』の一種なのか……
詳しい理屈はリザ本人にもわからないし、また興味もない。

(この力を使いこなせれば、誰にも負けない。『戦争』にも…………勝てる)
………リザにとって重要なのは、ただその一点のみだった。

738名無しさん:2020/05/10(日) 09:49:58 ID:???
「もしもーし。……電波わりーな。また潜ってんのか?
おーいリザ。きこえるかー?」

その時、リザのスマホにトーメント王から着信が入った。
現在地は、城の地下十階。
……こんな地下深くでも辛うじて通信可能なのは、教授の技術力によるものだろう。

「……はい」
「前に言ったかどうか忘れたが、お前は今回の戦争では『遊撃部隊』の隊長をやってもらう。
これからメンバーの顔見せするから、さっさと上がってこい」

「…………」
「返事ぐらいしろっつーの。
そっちにメンバーの一人を迎えに行かせるから、それ以上奥に行くなよ?行くなよ?絶対行くなよぉー?」

「……………………。」
リザがしばらく黙っていると、ブツリ、と音がして電話が切れた。

(……さっきの感覚…忘れないようにしないと)

新たな能力「マルチシフト」はまだ未完成。これまでは数日に一度発動できるかどうか……という程度だった。
しかし今日は、能力を発動するのは今ので2度目。
もう少し続ければ、完全に体得できるような気がする。

(……もう少しだけなら、いいよね…)
リザは迎えを待たず、さらに地下深くへ進もうとした。

その時………。

「ダメだよ、リザちゃん。そこから先は………地獄だよ」
「!?」

いきなり背後に、人の気配が現れる。
…誰かがリザに抱き着いてきた。

「トーメント城地下10階……ここは別名『黄泉比良坂』。この世とあの世の境界線」

背はリザよりやや低いようだ。
ふわりと揺れるオレンジ色の髪。
柑橘系のコロンの香り。
鈴の音のように甲高い、少女の声。
……どこかで、聞いたことがあるような気もする。

「この先に住んでる奴らは、今までとは比べ物にならないくらい、ずーっとずーっと強くて恐ろしい。
 今のリザちゃんじゃ、あっという間に殺されちゃうよ?」
「……放して。誰なの、あなた」

「私は、スズ。 
………スズ・ユウヒ」

リザは振りほどこうとしたが、体にうまく力が入らず、テレポートも発動できない。
柑橘系の香りに包まれているうちに、頭の中に霞がかかったように意識がおぼろげになっていく……。

◇◇◇◇◇◇

「『初めまして』だね、リザちゃん。
……私のことは『スズ』でいいよ」

「スズ・ユウヒ…?……あなたが……王様の、迎え…なの……?
 …王様の所へは、もう少ししたら自分で行くから…とにかく、離れて………」

激しい戦闘を何度もこなした後のような、疲労と倦怠感が全身を包んでいた。
いや、実際ここに来るまで戦いっぱなしではあったが……魔剣の力で倒した敵の力を吸い取り、体力魔力とも万全だったはずだ。

「ふふふふ……そんなにこの先に行きたいの?
……だったら、見せてあげるよ。この先に行けばどうなるか」

739名無しさん:2020/05/10(日) 09:51:09 ID:???
<1>

「それって、どういう………
…!?…あれ、いない…?」

……気が付いたら、スズは消えていた。姿も、気配も、柑橘系の香りも、跡形もなく。

(いない……って、誰、が?………今、私……誰かと、話してたんだっけ…?)
…何も、残っていない。

(ええと、そうだ…。王様に、呼ばれてたけど……もう少しだけなら、いいよね)

体力、魔力とも問題ない。地上に戻る前にもう少し戦って、新しい能力の感覚を掴んでおきたかった。


…ここはトーメント城地下10階。
王国の創始者が建造したとされる巨大地下迷宮の『浅層』の終端で、別名を『黄泉比良坂』と言うらしい。
ここから下、地下11階から先は『中層』と呼ばれている。
どのくらい地下深くまで続いているのかは、誰も知らない。

下階へ続く扉が、目の前にあった。
リザは……ゆっくりと、その扉に手を伸ばす。すると……

(バタン!!シュルルルルッ!!!)
「なっ……!?」

いきなり扉が開き、
黒い影のような手が無数に伸び出してリザの全身を捕らえた。

「放、せっ……!!」

一瞬で、扉の中に引きずり込まれた。
扉の先はろうそく一つの明かりもない真っ暗闇。
影の手に捕らわれたリザは、成すすべなく引っ張られ、そして落ちていく。
はるか後方で、バタンと扉が閉まる音がした。
リザがその扉を開くことは、二度とない。

740名無しさん:2020/05/10(日) 09:52:35 ID:???
<2>

「う………ここ、は……?」
…光さえ届かない、混沌と魔の領域にリザは堕ちた。

周囲は完全な暗闇。近くに壁らしきものはないが、広間の中だろうか。
立ち上がってみるが、視界が全くないため、平衡感覚が掴めない。
数歩歩くだけで、なんだか身体がふらつくような、妙な感覚に襲われる。

「シャァーーーッ……」
「グルルルルル……」
「グキキキキ……!!」
(!!……何か、いる!!)

いつの間にか、周囲を無数の魔物の気配に取り囲まれていた。
赤く光る無数の瞳が、獲物であるリザを、じっと見つめている……

「シャァァ!!」

ザシュッ!!
「痛ぅっ!!」

敵の声や気配を頼りに防御を試みるが、周囲が敵だらけの状況ではどうしようもなかった。
背中に激痛、熱、そして……背中がぐっしょりと濡れていた。鉄の…血の臭い。
敵の鋭い爪…あるいは牙で切り裂かれたのだと、数秒遅れで理解する。

「こ、のっ……!!」
文字通り闇雲に剣を振り回すが、当然ながらまともに当たるはずもない。
ほどなくして、激しい疲労感がリザにのしかかってくる。
シャドーブレードは、持ち主の血を代償とする魔剣。
誰かを切り続けていなければ、リザの身体はあっという間に衰弱してしまうのだ。

(まずい……このままじゃ…!!)
人間は、自分で考えている以上に、何をするにも視覚に頼っているものだ。
いきなり完全に視覚を奪われれば、リザのような歴戦の戦士といえども……

「ケケケケケッ!!」
ビシュッ!!
「んぐあっ!!」

「ガオォゥゥンッ!」
ザクッ!!
「いっ……!!」

ドゴッ!!
「あぐうっ!!」

ザクッ!!
「きゃああああああああぁつ!!!」

……成すすべなく、蹂躙されるしかなかった。

体中が痛い。痛い場所が、次々と増えていく。
全身が濡れているのは、汗か、血か、それとも別の何かだろうか。

腕が動かせない。
呼吸も苦しい。
首が、全身が、締め付けられている。
魔獣の腕に、それとも植物の蔦、悪魔の鞭?

周囲に無数にいると思われる敵がどんなやつらで、誰に何をされているのかすら、全くわからなかった。

「ガルルルルッ……」
「キキキキキ……オワリダ」
「ガサガサガサガサガサガサ」
「んっ………ぐ、うぅ……!!」
何かが、太股に噛みついている。
鋭いカギ爪を突き立て、体を這い登って来る。

逃げなければ。…どこでもいい、どこか安全なところへ……
「マルチ……シフト……!」

741名無しさん:2020/05/10(日) 09:54:16 ID:???
<3>

「グォォォォォォッ!!」
「えっ……しまっ」

ぐちゅん!!!
「きゃあああぁっ!!!」

テレポートした先で、リザは生温かい空気が吹き付けるのを感じた。
巨大な口を持つ巨大な魔物が、大きな口を開けてリザを飲み込んだ。


<4>

「ギギギギギッ……マヌケメ」
どすっ!!!
「っぐおぁ、は……!!」
下腹に、激しい衝撃。

……リザはどうやら、敵の目の前にテレポートしてしまったようだ。
みぞおちの辺りに激痛。手で触れてみると、何か硬い棒状の物が突き立てられていた。

太く鋭い、角…あるいは槍に、串刺しにされた…
そう認識するより前に、リザの意識は深い闇へと消えていった。

<14>

「きゃああああああ!!」
何が起きたのかさえ分からず、
リザは死んだ。

<57>

「なに、これ……糸……!?」
「キチキチキチキチキチ………」

ねばつく糸が、リザの絡みつく。切っても切れず、もがいても解けない。
魔蟲の巣網の中に、リザは迂闊にも飛び込んでしまったのだ。

硬い、大量の、何か小さなものが、足元から次々と這い上がって来る。
頭上からもばらばらと振ってきて、耳や鼻、口など、小さな穴を見つけて侵入してくる。

針のような無数のトゲのついた脚が、リザの全身を這いまわる。
トゲからは麻痺性の神経毒が分泌されており、
リザは生きながらにして虫達に体を食い尽くされることになった。


<1086>

「……………」
メキッ!!……ゴキゴキゴキ!!
「あがっ!!……な、あっ………っごああああああ!!!」

硬い岩のような感触の巨大な手に、リザは捕らえられた。
その手に凄まじい力が込められ、有無も言わさずリザの身体を握りつぶした。


<????>

「はぁ………はぁ……………どこ………出口は、一体……」
何度もテレポートを繰り返し、リザは敵の追撃をようやく振り切った。
全身は傷だらけ、出血・失血で意識が朦朧とする。体力と魔力は既に底をついていた。
だが上階へと続く出口はどこにも見つからない。

(あらあら。こんな可愛らしくて美味しそうな女の子が、一体どうして迷い込んできたのかしら……)
(さあ、こっちにいらっしゃい……私たちと、もっとたくさん楽しみましょう………ふふふふふふ)

目の前には、更なる下層へと続く真っ暗な穴が、大きな口を開けて待ち構えている。
リザは、吸い寄せられるように、ふらふらと歩みを進めていく……

742名無しさん:2020/05/10(日) 09:55:47 ID:???
◆◆◆◆◆◆

「!?……あ、あれ……私、今…………
あ、あなたは………………」

「ふふふふ……『初めまして』だね、リザちゃん。
……私のことは『スズ』でいいよ」

唐突に、視界に光が戻ってきた。
汗と血と汚泥の臭いは消え、懐かしい、柑橘系の香りが鼻孔をくすぐる。

目と鼻の先に、『中層』へと続く扉があった。その先で見た、何百、何千という死のイメージ。
それは、まるで実際に体験したかのようにリアルだった。

(私……夢を見てた?………いや……違う。全く別の、何かが…起きていた……?)

「リザちゃんは、ほんとにかわいいなぁ。
ねえ……王様の所に戻る前に、もう少しだけこうしてていい…?」

コロンの香りに包まれているうちに、リザの思考に霞がかかっていく。
スズはリザの腰に手を回しながら、耳元に顔を近づけてくる。
温かい吐息はリザの首筋が優しくくすぐると、リザの身体から力が抜けていく。
何かがおかしい。この少女から離れないと……

「だ、め………はな、して………」

リザは全身に力を込め、スズの手を強引に振りほどく。そこで初めてスズ・ユウヒの顔を見た。

(!………ドロシー…!?………いや、違う………)

今はもういない親友の顔と、スズの顔が一瞬重なって見えた。
…もちろん、彼女がドロシーであるはずがない。
髪の色も瞳の色も違うし、雰囲気だってまるで違う。

「もう。どうしてそんな意地悪言うの?
私、リザちゃんのこと助けに来てあげたのに。
今までもずっと、リザちゃんのこと助けてあげてたのに…」

「一体何を言って……やめ、て……触ら、ない…で………!!」

「リザちゃんにとっての『黄泉比良坂』……地獄の入り口は、ここだけじゃない。
この世界中、あらゆる場所に、たくさんあるんだよ。
でも安心して。
リザちゃん『だけ』は『どんなことがあっても』生き延びられるように、
私が運命を選んであげる。これからもずっと……」

【スズ・ユウヒ】
人気急上昇中のアイドル歌手。……だがどうやらそれは仮の姿。
トーメント王国軍に結成される予定の『遊撃部隊』のメンバーのようだ。

外見:髪と瞳はオレンジ色。
アイドル歌手というだけあってかなりの美少女だが、
細部の特徴・印象は、なぜか人によってかなり異なる。
服装はかなりオシャレで、ブランドものを効果的にコーディネートしている。
柑橘系の香水を愛用しているようで、近くにいるとほのかに香りがする。

特殊能力?:「黄泉比良坂坂で抱きしめて」
誰かの運命を予知し、いずれかを選ぶ。
または選んだ場合の運命を相手に体験させる事ができる。

裏設定:
様々な世界線を行き来することができる、謎の存在。
もともとは別世界で暮らしていた引きこもりの少女だったが、
ふとしたきっかけで特殊能力に目覚め、自分が人気アイドルになっている世界、すなわちこのリョナ世界にやってきた。

ちなみに、リョナ世界でアイドルだった方のスズは普通の人間。
アイドルとしての多忙な日々に嫌気がさしていたので、
能力者スズとは合意の下で入れ替わり、現在は異世界で引きこもりを満喫中。

743名無しさん:2020/05/13(水) 03:59:02 ID:l0q/Von2
「トーメントの魔物兵発見! まもなく戦闘に入る! みな準備はいいか! ミツルギ皇国の名にかけて、アレイ草原を突破するぞおおぉ!」

「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」

草原で両手を広げて 駆け抜けていくのは忍びの大群。
迎え撃つはトーメントの教授ガチャにより魔物 改造された兵士たち。
アレイ草原攻略を担当するミツルギの忍びたちと、トーメントの防衛部隊の戦闘が開始されようとしていた。



「はぁーあぁ……なんでウチまで駆り出されるんや……闘技場の興行収入が盛り上がってきて、今が絶好の稼ぎ時やっちゅうのにぃ!」

「仕方ないです……討魔忍五人衆は最前線で戦うための実働部隊ですし」

「久しぶりに血が滾る戦闘になりそうだな……酒も大量に持ってきた。皆、今日は派手に宴会を楽むとしようじゃないか!わっはっはっは!」

「やれやれ……あなたたちと一緒に戦うと、巻き込まれないように気をつけないといけませんからほんとにめんどくさいんですよねぇ……」

「……手筈通リ私トラガールガ最前線ニ出ル。ザギ、ナナカ、コトネ、オ前タチハ他ノ忍ノ援護ニ回レ……兵ヲ無駄死ニサセルナ」

「「「「了解!!!!」」」」

討魔忍五人衆全員が参加する戦闘自体、かなり珍しいことである。
シンの指示に従い、3人が散開したと同時に敵の魔物兵たちの進軍が始まった!



「ササメせんぱーーい!!」

「……え、ヤヨイちゃん!? 貴女もこの戦闘に参加していたんですか?」

「当たり前ですよー! 討議大会とかこの前の雪人との戦いで経験を積んだあたしは、今やもうその辺の中忍よりも強いんですから! 自称だけど!」

「自称なんですね……やはり総力戦。戦える忍はほぼすべて投入されているようです。ここまでの規模の戦争……いったいどうなるのでしょうか……」

たくさんの血が流れることは必死のこの戦いに、大した反対意見も出ずこうしてたくさんの忍が戦いに参加しているということは、少なからずトーメントに恨みを持つものが多いことに他ならない。
そもそもミツルギとトーメントは古来より犬猿の中であった。最近は小康状態であったが、戦う口実ができればご覧の有り様である。



「どうなるもこうなるも、勝つに決まってます! 討魔忍五人衆が全員揃って戦ってるんですから、負けなんかありえないですよっ!」

「……そう簡単にはいきません。トーメント兵たちの中には十輝星ではなくとも、各国の幹部クラスの者が大勢いるのです。それがこの世界で一強を誇る何よりの証拠……油断は一切できません」

「まじですか……!七華さんやシンさんと同レベルのモブ敵がいるなんて信じられないですけど……」

「….…前線が見えてきました。私が先行します!ヤヨイちゃんは後ろを!」

「お、おっけーです!」

草原に似つかわしくないドラゴンや狼、魔法生物らしき甲冑や揺らめく人魂、巨大スライム……
驚くべきはこれらはすべて人で、高い知能を持って襲いかかってくるということだ。

「来て、氷雨!雪雲!」
「雑魚どもは全員、この斑鳩の錆にしてやるんだからぁ!」

このアレイ草原でついに、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

744>>742から:2020/05/17(日) 10:06:08 ID:???
「………というわけで。
スズちゃんをはじめ4名のメンバーが、これからお前の部下になるわけだが…」

王様の横にいる2人は、COMPと呼ばれる未登場のキャラの正体を隠しておくマントを着ている。

「なに、一人足りないって?…ま、この手の顔合わせに1人2人遅刻するのはよくある事だろ?
残る1名は、お前がよーく知ってる人物……とだけ言っておこうか。ヒッヒッヒ!!」

「ふふふ…♪…いったい誰かしら。気になるねぇ、リザちゃん」
「……別に。……それより、くっつかないで。……」
(この『顔合わせ』が終われば………やっと戦場に行ける)

だがリザは…他のメンバーが誰であろうと、関心はなかった。



…その頃。

「………おっと。もう召集の時間か。
その前に……行きがけに『ちょっと一刺し』していくかな。クックック……」

イータブリックスの路地裏。
鈍く光るナイフを手に、一人呟くのは、悪名高い無差別大量殺人鬼ヴァイス。

『遊撃部隊』のメンバー候補に選ばれた彼は、
「隙があればいつでも『隊長』を殺して良い」「『隊長』を殺したら、その瞬間自由の身」
…という条件で召集に応じていた。

「……さーてと。どうしてやろうかな、っと……」
この国に住む女性、特に今この状況でなお平然と街を闊歩している彼女たちは、
いずれも見た目によらぬ猛者だったり、魔物化していたり、しかも重度なリョナラーだったり……と、
一筋縄ではいかない者たちなのだが、ヴァイスからすればさしたる問題ではない。

道行く女子高生や、水商売風の女性に視線を泳がせ、獲物を物色する。
そして、酔っ払いのようなふらついた足取りで、細い路地に入っていく。

(……一体、どこへ行くつもり…?)
……その後方数メートルには、マントをかぶった小柄な追跡者があった。
だが、迷路のように入り組んだ路地を、くねくねと曲がっていくうちに……

(?……い、いない…!?)
「どういうつもりだぁ?……さっきから、ずーーっと俺様をつけてきやがって……ククククク」
「なっ……!!」

……あっさりと背後を取り返す。
生粋の捕食者であり、狩人、追跡者であるヴァイスからすれば、尾行者のそれは素人同然だった。

(ブオン……!!ガキィィィンッ!!!)
ヴァイスはすかさず相手の脇腹あたりにナイフを突き立てようとしたが、硬質な感触に弾き返される。

「ほほー、コイツは……『爆炎のスカーレット』……エミリアちゃんじゃねえか。
俺に一体何の用だぁ?……なんて、聞くまでもねえか」

「あなたを、リザちゃんの所へは……行かせません!!」
(姿を消してたのに、こんなあっさりバレるなんて……あらかじめ防御魔法を張っといてよかった……)

エミリアは数歩下がって、ヴァイスの方に向き直る。

場内で食堂や雑用の仕事をしていると、情報は嫌でも入って来る。
ヴァイスが「遊撃部隊」にスカウトされたこと、リザの寝首を掻こうと狙っていること。
そして今日、部隊メンバーとしてリザと顔を合わせる予定であることも。

「ふん。それってつまり……力づくで止める、って事かぁ?……おもしれえ」
(ギンッ!! バキン!! ビシッ……!!)
「んっ!!……く………うぅっ!!……」

ヴァイスはへらへらと笑いながら、エミリアに無造作に歩み寄り、ナイフをぶんぶんと振り回す。
すさまじい速度の連続切りに、エミリアの魔法防壁は瞬く間に劣化していく。

…近接戦は、相手の方が間違いなく格上。
奇襲を仕掛けられなかったのは痛いが、エミリアは退くつもりは毛頭なかった。

「……ファイアボルト!!」
「な……!!」
(…ズドォォォォオンッ!!)
至近距離からの攻撃魔法。
エミリアの規格外の魔力で繰り出されるそれは、並の魔導士の中〜上級魔法にも匹敵する。
さすがのヴァイスも避けきれるものではない。

「ゲホッ!ゲホッ!!……てん、めぇぇ……
…イカれてんのか?この距離でそんなものぶっ放したら、テメェだって無事じゃ済まねえぜ……」
直撃は辛うじて避けたヴァイスだが、上着が吹き飛び、右半身に火傷を負う。

一方のエミリアも、着ていたマントが弾け飛び、防御魔法も失われた。
魔法障壁のおかげで外傷はほとんどないが、もうヴァイスの攻撃を防ぐことは出来ない。
新たに障壁を張りなおす時間も、そのつもりも、エミリアにはなかった。

「……この身に代えても……リザちゃんは、私が守る…!」

リザを殺そうと狙うヴァイスを倒し、代わりに「遊撃部隊」メンバーに加わる。
かなり強引なエミリアの目論見は、果たして成功するのか。
それとも………

「ヒッヒヒヒヒ……いいぜぇ。こうなりゃ、とことんヤってやるよ。
火傷の礼に、俺のナイフコレクションで、全身グチャグチャに切り刻みながら犯してやる……いくぜぇぇぇ!!」

745>>743から:2020/05/17(日) 21:28:26 ID:???
「くらいなさいっ!桜花手裏剣!」
「氷刃乱舞!!」
「ギャアッッ!!!」「グアーーッ!!」

後衛から敵の軍勢に手裏剣を投げ込むヤヨイ。
その隙に乗じ、氷の剣で縦横無尽に斬りかかるササメ。
二人の連携に、トーメントの魔物兵たちはバタバタとなぎ倒されていく。

「こ、こいつら、強いぞ!」
「闘技大会で一回戦負けしてたくせに!」
「もー、昔のことをいつまでも!…っていうかコイツらも見てたの!?」
「……あの時の私達と同じだと思ってるなら……後悔させてあげます!」

二人の活躍で勢いづいたミツルギ軍。さらに後続の忍び達が攻勢を仕掛ける!

「あっはははー!甘いねヤヨイ!
飛び道具の破壊力なら、このアタシの爆裂☆スターマイン攻撃がマジ最強だから!」

(ドカーーンッ!!)
「「「ッグアアアアアアア!!」」」

【シノブキ・ナデシコ】
ヤヨイの同級生。忍びなれども忍ばない、おバk…元気いっぱいなギャル系見習い忍者。
髪は金に近い茶髪のポニーテール、なんか瞳の中に星型の光がある謎の体質。おっぱい。
実家は花火師で、お爺ちゃん直伝の火薬攻撃が得意技。
ナシ子ってよんでね!

「ちょっ……ナシ子!爆弾多すぎじゃない!?」
「今日に備えてめっちゃいっぱい作ってきたからね!まだまだ行っくよー!!」

もうもうと上がる爆煙に視界を閉ざされ、前を行くササメ達と分断されてしまった二人。
そこへ……

「くっくっく……自分から孤立してくれるとは馬鹿なやつらね。あんま強くなさそうだし、先に潰してやるわ!!」
「誰がバカよ!!って、誰…!?」「上っ!?」
「「きゃああああああぁ!!!」」

謎の黒い影が、上空からヤヨイ達に襲い掛かってきた!


【ドラコ・ケンタウロス】
人間の身体に、竜の角と翼。怪力やブレス能力など竜の特徴を併せ持つ上級魔物兵。
好戦的な性格の者が多く、武器や素手での近接格闘が得意。
ぷよぷよした同色のものを4つ以上集めるのが趣味だとかなんとか。

(ドガッ!!)
「あぐっ!?」
敵は深紅のチャイナドレスを着た竜人型魔物兵。
炎をまとった回し蹴りで、ヤヨイとナデシコの身体を豪快に蹴り飛ばす!


「っぐ……竜人…!? こんな上級魔物が、雑魚兵士に混じってるなんて…!」
「ふふーん。このドラコ・ケンタウロス『炎脚のニィズ』が、
蹴って燃やして踏んづけて……ボロっクソに痛めつけてあげるわ!!」

「なっ……なめんじゃないわよ!あんたなんか、この『斑鳩』の……」
「この安物刀の錆にしてくれるって?……ムリムリ」
「えっ……!」
(ズドンッ!!)

ヤヨイはなんとか起き上がり、愛刀「斑鳩」を構えなおす。
だが、ニィズはその斬撃を軽くかわしながら、カウンターの膝蹴りをヤヨイの腹に叩きこんだ。

「あ、ぐっ……!!」
ヤヨイの身体がくの字に折れ曲がり、足先が浮く。
忍び装束の蹴られた個所には、竜人ニィズの「炎脚」によってで黒い焦げができていた。
「そんなナマクラが私の鱗に通じるわけないけど……そもそも当たんなきゃ話にならないわね、お嬢ちゃん♥」

(ドスッ!ベキッ!!ゴウンッ!!)
「うぁっ!!ぎゃんっ!!っぐああああああ!!!」
連撃、追撃、ダメ押しの連続蹴りが、ヤヨイの脚、胸、側頭部を撃ちぬく。
たまらず前のめりに崩れ落ちたヤヨイの背中を、ニィズは宣言通り思い切り踏みつけた。

746名無しさん:2020/05/17(日) 21:30:28 ID:???

「こらぁっ!ヤヨイっちを放せ!!『スターマイン☆ナックル!!』」
ナデシコが繰り出すのは、火薬を仕込んだ耐火手甲による一撃。
当たれば手甲に内蔵された火薬が炸裂し、ド派手な爆発とともに敵を倒す驚異のカラクリナッコーである。

「へっへーん。こんなヌルい花火、アタシに効くわけないでしょ!」
バシュン!!
「ふぎっ!!」
…だがその一撃が届く前に、ニィズの長い尻尾が鞭のように飛び、ナデシコを力任せに叩き落す。

「はい、さっそく二人ゲット〜。かわいい女の子は生死問わず、捕獲したら報奨金が出るのよん。
この戦いでいくら稼げるか、今から楽しみだわ」

「な、ん、ですって……」
「そんな事、させるかっ……」
(ギリギリッ………グキッ!!)
「ぅ、っぐあああああ!!!」

立ち上がろうとしたナデシコに尻尾が巻き付き、全身を締め付ける。
圧倒的な力を持つ魔物兵に、下忍コンビは早くも窮地に追い込まれた。


「まったく、だらしないわねー……『今やその辺の中忍より強い』んじゃなかったの?」
そこへ助けに入ったのは……

「なっ……何者だ!」
「あ………あなたは、ええと………どなたでしたっけ」
「す、すいません。私マジ初対面なもんで」

【血華のスイビ】
『ガチレズ吸血鬼』の異名を取る女忍び。前回の闘技大会の準決勝でアゲハと対戦した。
他にも彩芽を襲ったり、唯と瑠奈を苦戦させたりしている。

「……アンタたち、先輩に対する敬意がなさすぎじゃない?
つーか解説まで入れてくれなくていいわよ!新キャラじゃないんだから!」

「す、すいませんスイビ先輩!」
「で、でも……大丈夫かな。こいつメチャクチャ強いですよ?」

「助けに来てやったのに、失礼な子たちね。
 だいたい私は吸血鬼なのよ?強キャラに決まってるでしょ!」
「すぐ死ぬフラグみたいにも聞こえるんですが」

「ふん……まあ、こっちの雑魚どもよりは骨があるのかしら。楽しませてくれそうね」
「そういうアンタこそ、なかなか良い体してるじゃない。……いっぱい楽しませて、骨抜きにしてあげる」

ドラゴンVS吸血鬼。魔物界の頂上決戦ともいえる戦いの行方は………

「や、やめろぉ!!は、放せっ……んにゃあああああ!!!」
「ふふふふ……だぁ〜め♥竜人の血なんてめったに吸えないレアものなんだから」
「や、やめぇぇ……しっぽ、そんな風に触られたら………ん、ああああんぁっ♥♥♥」

((うわぁ……))

………こんな感じになった。

747名無しさん:2020/05/17(日) 21:31:46 ID:???
「くっそ……なんなんだ、おまえぇ……なんでそんな、私の弱いところばっかりぃ……」
「ドラゴンだろうとなんだろうと、どんな魔物にも弱点は必ずあるものよ。
私の友達にマジメで研究熱心な子がいてね。一時は暗殺チームにいたんだけど、
そこを抜けてからは魔物対策の戦法もいろいろ研究してて……」
「…たぶん、アゲハさんが研究してるのはそういう戦法じゃないと思うんですが」

……接近戦では無類の強さを誇ったニィズを、完全に押さえ込んで無力化している。
やり方はどうあれ、血花のスイビもまた、決して侮れない実力者だったようだ。

傷の手当てを済ませたヤヨイとナデシコは無言でうなずき合い、
スイビにこの場を任せてササメを追う事にした。というかここから離れたい。

「ふふふ……大分身体が出来上がってきたかしら?……でもここからが本番よ」
「ひ……!!……や、やめろ……そこだけは、ぁ………!!」
ニィズの首のチョーカーを、手慣れた手つきで外すスイビ。
その下には、小さな鱗が隠されていた。

手足を覆う深紅の鱗とは明らかに違った、まるで宝石のように淡い光を放つ鱗が白日に晒されると、
ニィズの表情に明らかな動揺と、羞恥の色が浮かび上がる。

「竜の喉に一枚だけあるっていう、『逆鱗』……きれいなピンク色してるのね。
確か伝説では、竜はここを触れられると激怒するんだったかしら?
そして竜人の女の子は、ここを人目に晒す事さえ極端に嫌う……」

スイビはニィズの逆鱗を犬歯で軽くついばみながら、耳元でささやく。
「やっ……め、ろぉ………おまえ……ぜったい、ころして、や………んっ、ふぁあああああ♥♥♥」

「ちゅぷっ……れろ……思った通り、可愛い反応。やっぱりココって、そーいうトコだったのね。
やっぱり実際試さなきゃわからないものだわ……後でアゲハちゃんにも教えてあげなきゃ」

「やぁぁ………だ、めぇ………そこ、ぺろぺろしないれぇ……♥♥」

「ふふふ……ちょっと舌で転がしただけなのに、もうすっかりメロメロね。
……ここから直接吸血したら、一体どうなっちゃうのかしら」
「ひ………だ、めぇ………もう許してぇ……」

「ふふふ…楽にしていいのよ。お姉さまに、身も心も任せちゃいなさい…かぷっ♥」
「お、おねえさまぁぁぁぁぁ……んあぁぁぁっ♥♥♥」

……竜人にとって、逆鱗は乳首やクリトリス以上に敏感な性感帯。
後に編纂された魔物辞典には、そう記されるようになったとかならなかったとか。

748名無しさん:2020/05/22(金) 11:34:02 ID:???
「さあいくぜぇエミリアちゃあぁん!これが俺様のナイフコレクションの中でもお気に入りの、斬魔朧刀だ!ククククク!」

ヴァイスが懐から取り出したのは、漆黒に染まった禍々しいナイフ。
何らかの魔法が掛かっているかのようにバチバチと黒の稲妻を放つ刀身は、その様子からしても一太刀の威力を誇示していた。

(アレで切られたら危ない……!ナイフの届かない遠距離から、魔法で攻める!)

「ウィンドブロー!」

(チッ、風魔法か……)

風の力で後方に素早く移動し距離を取ったエミリアは、すぐさま次の魔法を放つ。

「……サンダーブレード!!」

「おおっとぉ!聞かねーよォ!」

バチバチバチバチっ!
エミリアの打ち出した雷の刃は、ヴァイスのナイフで簡単に切り払われてしまった。

「嘘……!魔法を無効化するナイフなの……?」

「ご名答!!魔法少女どもはみんなこのナイフでバラバラにしてきたってもんよ!知ってるか……?お得意の魔法がこんなちゃっちいナイフ一本に無力化されたあいつらは、小便ちびりながら助けてください!助けてくださいっ!って命乞いするんだぜええぇ!勿論結果はバラバラだけどなぁ!!ククククククク!ヒーッヒッヒッヒッヒ!!!」

「……やっぱり……絶対に、貴方をリザちゃんの元には行かせませんッ!!」



殺人鬼の狂気をまざまざと見せつけられたエミリアは、魔法詠唱を始める。
生半可な魔法が無力化されるならば、ナイフでも切り払えない威力の魔法……上級魔法が必要だ。

(ここで普通に発動したら他の人たちも危ない……!威力を抑えずあの男に一点集中……難しいけど、それしかない!)

「はあああああああああああぁっ!!」

ボワアアアアアアアァッ!
エミリアが魔法を唱え始めた瞬間、彼女の周囲を激しい炎が取り囲んだ。

「なんだぁ?詠唱中に邪魔されないための足止めのつもりか?ククク……斬魔朧刀にかかりゃこんなもん、さけるチーズと同じだぜぇ!!」

ナイフを振り上げ、エミリアを囲む炎を一閃するヴァイス。
だが、その結果は彼の思い通りにはならなかった。



「ちくしょう!んだこの炎は!?全然消えねえぞっクソがああああぁ!」

ヴァイスが何度斬っても斬っても、エミリアの炎の威力は弱まるどころか、さらに勢いを増していく。

(私の得意魔法は火……!爆炎のスカーレットの炎は、たとえ水でもそう簡単には鎮火できない!)

「霊冥へと導く爆炎の魔神よ。我が声に耳を傾け賜え。浄化の炎、その聖火をいま召喚す….!」

「このクソアマァ!炎の中に閉じこもってないで出てこい!ぶっ殺してやるよおおおおお!!」

接近戦に持ち込めないヴァイスが喚いている間にも、エミリアの詠唱は続いていく。
それと同時にエミリアの長い青髪が、燃えるような赤へと変わっていく。
まるで燃え盛る炎のように髪が逆立っていくエミリアの様子を見て、ヴァイスはようやく事の重大さを理解した。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

(なんだ!?化物かコイツ!?自分の髪色まで炎のマナに染めたり地鳴りまで起こしたりする馬鹿魔力、魔法少女の連中の中にすら1人もいなかったぞ!?)

あまりにも強い魔力は、術者にもなんらかの影響を与えることがある。
エミリアのように頭髪の色が変わったり、身体からマナのオーラを発したり、体型まで変わってしまったりと様々だ。
だがエミリアの長髪の全てが赤に変わったのは、その魔力の強大さを証明するには十分だった。

「炎獄顕現せよっ……!我に仇なす物に裁きを与えんっ!!」」

エミリアが詠唱を終えた瞬間、すべての炎が激しく燃え上がり、エミリアを中心に回転を始めた。

「わ、わかった……悪かった……!だから頼むからやめてくれ!こんなのやべえだろぉ!」

命乞いをするヴァイスの声も、もうエミリアに入っていない。
あまりにも強い魔力を持つエミリアにとっては、敵がいる場所に魔法を一点集中させることはかなりの集中力を要する。

今回のように上級魔法でそれが成功したことは、1度もない。
だがこの殺人鬼は確実にリザの命を狙っている。ここで除かねば必ずリザの脅威になり、いつか殺されてしまうかもしれない。
もし失敗すれば周囲の建物をも巻き込み、とてつもない規模の爆発になってしまうが、エミリアに迷いはなかった。



(私が上級魔法を使うのは……大切な人を守るとき!この一撃に全てをかける!!!)



「インフェルノ・ディストラクション!!!」

749名無しさん:2020/05/22(金) 11:41:06 ID:???
ドゴオオオオオオオオオオン!!!

「くっ……!きゃああああああっ!!」

自信の起こした爆発による熱風で、エミリアは吹き飛ばされた。
視界はゼロに近い。爆発の規模はわからないが、目の前には天まで届く炎の柱が見えている。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

(……成功……! 建物が倒れてない……あいつの位置にピンポイントで超爆発を起こせた……炎の勢いは全部上に……)

炎の柱はメラメラと立ち上っているが、火の粉を撒き散らすことはなく、ほどなくして消失した。

(……勝った……! やったよ、リザちゃん……! 私、リザちゃんを守れたよ……!)

周りを巻き込まなかったことに安堵しながら、エミリアはへたりと座り込む。
彼女が本気を出した炎に焼かれた者は骨も残らず消えてしまうので、死体の確認はできない。
それでも魔法は発動の瞬間、確実に敵を巻き込んだ。あの一瞬で逃げ延びる術はない。
あの殺人鬼を確実に葬ることができたはずだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……えへへ….…私だって、やるときはやるんだか……ら……」

魔力を使いすぎた上に、それをコントロールするための精神力も使い果たしてしまったエミリアは、ゆっくりと気を失った。



「ん……あれっ……?」

エミリアがゆっくりと目を開けると、見慣れない光景だった。
広い空間にたくさんのコンテナに工事用の立て看板、天井にはクレーンが吊り下がっている。

(なにかの倉庫……? わたし、気を失って……ッ!?)

ジャリ、という音でエミリアは完全に覚醒する。
寝台のようなコンテナの上に寝かされたまま、四肢が完全に鎖で拘束されているのだ。

「なにこれ!? 動けないッ……! いやっ……! ど、どうして……?」

「ようやくお目覚めか? EMT……エミリアたんよぉ」

倉庫の奥の暗闇から現れたのは、葬ったはずのヴァイスだった。



「嘘!貴方は私の魔法で……!」

「おおそうさ! だが地獄の閻魔様をぶっ殺して甦ったのよ!クククク!」

「……その、ナイフは……!」

「チッ、もうバレたか……斬魔朧刀はもうダメになっちまったよ。誰かさんの馬鹿魔力をちょっと反らしただけでなぁ」

エミリアの魔法は確かにヴァイスを狙っていたが、炎弾の着弾範囲で爆発を起こすものだった。
その炎弾を少しずらされて、爆発から逃れられてしまったらしい。

「まああれだけの炎魔法、回避できるか微妙だったが……さすが俺様のお気に入りナイフだ。しっかり守ってくれたぜええぇ!」

「そんな……そんなぁっ……!」

「お前、周りの奴らを巻き込まないためにあんな魔法の使い方したんだろ? 遠慮なく全部吹っ飛ばしちまえば俺様を消しとばせたのになぁ? なんて優しいエミリアたんなんだあぁ! そのせいで俺にブチ犯されて殺されてしまうたぁ……涙が出るぜ……!」

「ううぅ……!」

「クククク……その鎖は魔装具の一種。そのでっけえおっぱいに詰まった残りわずかな魔力も全部、吸い上げさせてもらったぜぇ?」

残りわずかな魔力すら、エミリアの中にはない。むしろ体内の魔力がなさすぎて、軽い目眩がするほどだった。

「はぁっ、はぁっ……」

(……ごめんね、リザちゃん……私じゃ、無理だったみたい……)

「さて、俺様はせっかく牢から出たってのにいろいろお預け食らってたんだ……ここなら何の邪魔も入らねえ。全部発散させてもらうぜ? エミリアちゃんよぉ!」

「ひっ、い、いやっ……! 来ないで……! いやああああああああああああああ!!!」

「あの金髪のガキとは違っていい反応するじゃねぇかあああああぁ!! ククククク! 思いっきりブチ犯してやるぜええぇ!」



エミリアの絶叫は、ヴァイスの口で強引に塞がれた。

750名無しさん:2020/05/22(金) 21:02:02 ID:nbNP2NFE
「あははははは!!お祭り!お祭り!ララララ!ラララララ!!」

アレイ草原、トーメント側本陣。そこではクルクルと回って紫色のドレスをはためかせたロゼッタが、特に指揮とかする様子もなくケタケタと笑っていた。

「おい、大丈夫かよあの人……俺、生存率高そうなルミナス側が良かったなぁ。あいつらには勝ち癖ついてるし」

「まぁなぁ……あっちは魔法少女特攻とか、デネブ様の毒に耐性があって巻き込まれても大丈夫な奴がメインらしいぞ」

そんなロゼッタの周りでは、やる気のなさそうな兵士たちが雑談をする。戦えば滅茶苦茶強いのは知っているが、幼児退行した指揮官に不安を覚えるなというのは無理な話だ。

「まぁ、多分後詰のシリウス様かプロキオン様辺りがそのうちサポートに来るだろ」

「だといいけど……まぁ前線がようやくぶつかったくらいだし、本陣の俺らにまで危険が及ぶのはまだ先……ふんぬ!」

「お、おい兵士A!どうし……ぐわし!」

雑談していた兵士2人が、突然北斗のモヒカン的悲鳴をあげて爆散する。

「……本陣の警備がこの程度とは、逆に罠を疑ってしまうな」

「て、敵襲ー!であえであえーー!」

まさかの本陣への奇襲に大慌ての魔物兵たち。それを冷静に俯瞰する白髪の女性……アゲハは、奥にいる総大将……ロゼッタに狙いを定める。

「テンジョウ様への恩義……貴様の命で返させてもらう!」

大戦へ向けた人事異動として、テンジョウはアゲハを暗殺部隊から対魔物部隊へと異動させていた。
否、アゲハだけではない。望まぬ意思で暗部に入れられた者のほとんどを、戦争の為と称して通常の部隊に組み込んでいた。

それ故、アゲハを始めとする元暗部の指揮は高い。

しかし、偵察だけして帰るつもりだった彼女がロゼッタを狙ったのは、テンジョウへの恩義で功を焦っただけではない。


(力を持った気狂いは、ただでさえ危険だが……こいつは輪をかけて危険!キリコやテンジョウ様に危機が及ぶ前に、私が仕留める!)

人体のマナの流れに敏いアゲハには、ロゼッタのマナの異常な流れを感知できた。彼女は『今』倒さねばどんどん危険になるという直感……それがアゲハに無理攻めを選ばせた。

邪魔する兵士たちの秘孔を突いて最小限の動きで撃破しつつ、一気にロゼッタまで迫るアゲハ。

「命、消える!天使、迎えに来る!天使!ラララ!ラララララ!ララ天使!」

目の前に死が迫っているというのに避ける様子もないロゼッタに、アゲハの手が迫った時……見えない何かの気配を感じた。

「ふん、お前が不可視の糸使いということは知っている!」

前述のように人体のマナの流れに敏いアゲハは、ロゼッタの糸の攻撃も大まかにだが把握できる。
暗器使いとの戦いも多い暗殺部隊にいたのと、予め情報があったのもあり、アゲハは初見ながら運命の糸に抵抗してみせた。

「当たりさえすれば……取った!!」

糸を完全に回避したアゲハは一息にロゼッタに肉薄し、すれ違いざまに秘孔を突こうとした。
だが……

「が、は……!?」

あと一歩でロゼッタに手が届くというところで、なぜかアゲハは口から吐血し、膝をついてしまう。

(な、んだ……?攻撃を受けた感覚もないのに、血が……?)

血の流れを逆流させる秘孔ならばアゲハも使える。だが、自分は全く攻撃を受けていないはず……

「赤い糸!血の糸!!運命の赤い糸!!」

膝をついたアゲハの目の前で変わらずクルクルと踊るロゼッタ。その左手薬指に……アゲハの吐いた血が細長い糸状になって絡みつく。

「な、に……!?」
(馬鹿な、触ってもいないのに、相手の血を操るだと……!?)

「運命の赤い糸は、全部私のもの!アハハハハ!」

「ぐ、ぶ……!ごぽ……!」

信じられない光景に驚いている間にも、アゲハの口からはとめどなく血が吐き出され、ロゼッタの左手薬指に巻きつく「運命の赤い糸」は増える一方。

751名無しさん:2020/05/22(金) 21:03:59 ID:???
(悔しいが、どうしようもない……!何とか離脱しなければ……!)

止血の秘孔を突いて無理矢理吐血を止めようとするが、一向に効果は現れない。

「う、ぷ……!ご、ぶぅ……!がはっ……!」

「なんか分からんがチャンス!ノコノコやってきた白女にお灸を据えてやるぜ!」

苦しげに呻くアゲハを見て、これ幸いと逃げ惑っていた魔物兵が、アゲハの顔を蹴り上げる。

「ぐはぁ!!」

貧血と血の逆流で動けないアゲハは、一瞬宙に浮いた後、受け身も取れずに硬い地面に倒れこむ。

「アハハハ!踊ろう?歌おう?天使!愛の歌!ラララ!」

ロゼッタ本人は追撃する様子もなく歌って踊っているが、相手の血を操る能力を解除する様子もない。
身動きも取れず、最早これまでかと思われたが……



「ニューベアランス・ベルトコンベアー!!」

突然、アゲハの倒れている地面が高速でベルトコンベヤーのように動き、彼女をトーメント本陣からミツルギ軍側へと引き戻す。

「な、なんだぁ!?あの女、動いてないのに急に遠くへ!?」

「ロゼッタ様!止めてください!」

「タラリラ〜♪ルラララ〜♪」

「ロゼッタ様ぁあ!?」

踊るばかりのロゼッタに兵士たちのツッコミが入るのを聞きながら、アゲハはある程度離れた草陰にまで運び込まれた。

「この忍法、まさか……」

「ぜ、前々回の大会ぶりだでな」

「グリズ、貴様に助けられるとはな……どういう風の吹き回しだ?」

【熊腕のグリズ】
前回の闘技大会の一回戦でアゲハと対戦した。その名の通りベアハッグを得意とする。
怪力と高い再生能力を持つ魔物「トロール」の血を引いており、少々の傷ならあっという間に回復してしまう。
鏡花をあと一歩の所まで追い詰めるが、魔法少女特有の友情パワーに逆転されたりもした。


「お、おでは今回はサポートに徹するんだな。負傷者を後方まで運ぶのがおでの仕事なんだな」

「ふ、随分牙の抜けた熊だ……まるでプーさんだな」

「な、なんとでも言うんだな。もう負けて痛いのはこりごりなんだな」

以前しのぎを削った相手に助けられるという奇妙な体験に何とも言えないこそばゆさを覚えながら、アゲハは口元の血を拭う。

「私が言うのも何だが、変わったな……とにかく、テンジョウ様の所へ私を送ってくれ。至急報告したいことがある」

752>>749から:2020/05/24(日) 15:27:29 ID:???
「あっぎあああああ!!! い、痛いぃっっ!!
 太くて、固くて……奥まで、刺さって………いやああああああ!!!!」
「ギャーーッハッハッハッハ!!痛くて当然。
俺様の特別製改造繁殖肉ナイフは、刺した奴に快楽なんてヌルいもんは一切与えねえ。
純度120パーセントの苦痛。その悲鳴が、俺様をより滾らせるのよォォ!!」

ヴァイスの改造ペニスは、鋭いスパイクが無数に生えた特別製。
彼の性格を反映し、対象に苦痛を与えるためだけに特化した恐るべき代物だった。
伝え聞いていたような『快楽』なるものは一切なく、
代わりにエミリアを襲うのは、覚悟していたより何十倍、何百倍もの純粋な苦痛の渦。
そしてそれは、ヴァイスが腰を一突きするたびに、更に勢いを増していく。

「げほっ!!がは!!!う、ぐ……っつああああああ!!!」
(こ、んなに……太くて、固くて、痛いなんて……!……この、ままじゃ……殺される…!)
前の穴だけでなく後ろも、穴以外の場所も、ヴァイスの肉棒は無差別に暴れまわる。
まるで、ノコギリで股間とその周辺を無差別に切り刻まれているかのような激痛。
エミリアの下半身は既に血の海だった。

「んぐぁああああぁぁぁぁぁぁっ!!いやあああ!!や、やめてっ……」
(私の命は……アイナちゃんが、守ってくれた命……こんな所で、無駄には……)
エミリアは、消えそうな自らの生命を燃やし、最後の魔力を振り絞ろうとする。だが……

「ヒッヒッヒ………ムダムダぁ!!」
(……バチバチバチバチバチッ!!)
「ひっ、が、っぐああああああ!!!」
(私の命は……リザちゃんを守るため。そのためだけに、使わ………な、きゃ……)
四肢を拘束する鎖に、必死に紡ぎだした魔力も根こそぎ吸い取られてしまう。

「ギッヒヒヒヒ……そろそろ出すぜぇ。その死にぞこないの身体で、たっぷり味わいなぁぁぁ!!」
……エミリアに、もはや打つ手は残されていなかった。
全てをあきらめ、瞳から意志の光が消えようとした、その時………

……さわやかな柑橘系の香りが、エミリアの鼻腔をくすぐった。

753名無しさん:2020/05/24(日) 15:29:15 ID:???
◇◇◇◇◇◇

「……ねえねえリザちゃん。王様が言ってた、リザちゃんが知ってる人って誰のことだと思う?」
「別に、誰でもいい……誰が来ようと、私のやることに変わりはない」

……トーメント王は勿体つけていたが、リザにも察しはついていた。
そもそもリザが知っている人物自体そう多くないし、その中で『遊撃部隊』に選ばれるだけの実力者。
更に、王が選んだメンバーとなると……心当たりは一人、あの狂った殺人鬼しかいない。

「ふふふ。王様はそのつもりかもしれないけど……別の可能性も考えられない?
運命って、意外とちょっとした事で変わるものなんだよ。
例えば………」

「っていうか、遅ぇなぁ。ヴァイスはいつになったら来るんだよ、ったく……」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「あれ?……おいおいエミリアちゃん。なんで君がここに?」
「エミリア!?……傷だらけじゃない。一体何があったの!?」
「ヴァイスは……あの人は、ここには来ません。私が倒しましたから……
…王様、そしてリザちゃん。……代わりに私を、『遊撃部隊』のメンバーに加えてください!」

「……確率で言ったら、10%にも満たないけど……こういう事だって起こりうるの。
私としても、きったないオジサンよりは女の子の方がいいし……」

ヴァイスを倒したというエミリアは、下半身が血まみれ。
そして肩には、大ぶりなナイフが深々と突き刺さっていた。
一体何があったというのか。想像はつくが、想像したくない。

「……あの殺人鬼じゃなくて、エミリアがメンバーに?………?」
「そう……あくまで、これは可能性。だけど今なら、私の能力で、好きな方を選ぶ事ができる。
リザちゃんは……どっちがいいかな?」

「………そんな………エミリア、ボロボロじゃない。この後すぐ戦場に行くのに、こんな状態で、なんて……」
「…平気、だよ。リザちゃんのためなら。…それに、しばらくすれば魔力も回復して、治療できるし……」
「ふふふ。けなげねえ……戦力的には足手まといでも、イザってとき盾くらいには使えそうじゃない?」

「……待って。……やっぱり、ダメだよ。こんなの」
「……リザ…ちゃん……?」
「あら。この可能性は要らない?」

「…こんな状態のエミリアを、戦場に連れていけるわけないでしょ。
それに………もうこれ以上、エミリアを戦いに巻き込みたくない。
ガラドの……エミリアの故郷の人たちも、敵になるかもしれないのに」
「……そんなの、とっくに覚悟してるよ。
私はそれでも、リザちゃんの力になりたい。だから。お願い………!!」

(何より………戦場で、これから私は、たくさん殺す。人も魔物も、手当たり次第に…
そんな姿を……エミリアにだけは、見せたくない)

「リザちゃん!!」
「さあリザちゃん。貴女なら、どっちを選ぶ?
その仲良しの子を戦場に連れていくか。……それとも、汚らしい殺人鬼の方がお好み?
……ふふふふ……」

◆◆◆◆◆◆

754名無しさん:2020/06/08(月) 03:06:37 ID:TcsuKX4Q
「……あの殺人鬼とエミリアなら……エミリアの方が大事に決まってる……」

「あははっ! そうだよね、リザちゃん。だっていまエミリアちゃんを選ばないと、彼女は死んじゃうんだもん」

「……えっ?今なんて……」

「なんでもないよ。じゃあこれで運命を確定させちゃうね!」

リザの感じる柑橘系の香りが強くなる。
その香りに一瞬まどろんだリザが目を開けると、王の前でエミリアが倒れていた。



「はぁ……仕方無いな。ヴァイスがいないんなら代わりにエミリアたんにするか。リザもそれでいいんだよな?」

「……え? あ……」

「? なに惚けてるんだよ。俺様は同じ話をするのは嫌いだぞ。お前可愛いから許すけど、エミリアたんをお前の遊撃部隊に組み込むけどいいよな?」

「……は、はい」

「はいじゃあエミリアたんの治療は適当に済まして後から向かわせるから、お前らさっさと出てけ。もう戦争は始まってるんだ。テキパキ仕事しろよ」

「はい、王様。イータブリックスのために、リザ隊長と戦果を上げてまいります」

「……お前……」

スズの顔を見た王は、一瞬だけ露骨にいやそうな顔をしたが、すぐに元のニタついた顔に戻った。

「……まあいいさ。リザをよろしく頼むな?だが勝手な真似をしすぎるようならお前も俺様の玩具にしてやるからな」

「……? ……なんのことかわかりませんが、肝に銘じておきます」

「ケッ、ほらさっさといけ! お前らみたいな美少女見てると忙しいのにリョナ欲がムラムラして敵わんわ!」

半ば追い出されるように、2人は王の間から出て行った。



「……ねえ、さっきの……エミリアが死んじゃうっていうのは、どういうこと?」

「気にしなくていいよ。エミリアちゃんは今はまだひとまず、死なないことになったからね。リザちゃんが選んだ運命が、そうさせたんだよ」

「……全然答えになってない」

「言ったでしょ? リザちゃん『だけ』は『どんなことがあっても』生き延びられるようにしてあげる。たとえリザちゃんがどんなに過酷な目に遭っても、もう死にたいと思った時でも、私が生きているうちは、リザちゃんを守ってあげるよ」

「……話が通じないんだね。もういいよ」

「フフフ……釣れないなあ。けどそういうところも好きだなぁ……」

言いながらスズはリザの腕を掴み、自分の胸にくっつけて恋人のようなスキンシップをしてきた。

「……ねえ、そういうのやめて……」

「残りのメンバーあと2人、どんな人たちだろうね?楽しみだね」

「…………」

どうやらスズはあまりこちらの話を聞かないタイプらしい。
そう判断して閉口したリザの前に、COMPを纏った人物が1人で現れた。

755名無しさん:2020/06/08(月) 03:09:55 ID:TcsuKX4Q
「失礼。王下十輝星のスピカ様でいらっしゃいますか?」

「……そうだけど」

「では、ご挨拶させていただきます」

低音だが凛とした声の主は、ゆっくりとCOMPを脱ぎ去った。



「トーメント王国正規軍、階級は少佐。カイトと申します。遊撃部隊員の任を受け、十輝星のスピカ様と共に戦うべく馳せ参じました。若輩者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」

175くらいの身長に聞きやすい低音の声。
整った黒髪に真面目そうな顔立ち。
このトーメント軍の兵士には珍しく、まさに好青年という印象をリザは受けた。

「カイトくんかぁ。年は幾つなの?」

「……17でありますが……貴女は?」

「私はスズ。スズ・ユウヒ。貴方と一緒の遊撃部隊だよ」

「……失礼ですが、所属部隊は?」

「私は表立った部隊には所属してないよ。トーメントの暗部……って言えばわかるかな?」

「……詮索はしないでおきますが、その言葉遣いはなんとかなりませんか? 軍人である以上、上官の前でそのような振る舞いは失礼ですよ」

「上官って、リザちゃんのこと?」

「なっ!? す、スピカ様を名前で、しかもちゃん付け!? 一体なに考えてるんですか!! 立派な軍法会議ものですよ!!」

「…………」



どうやら目の前の青年は、あまり融通がきかないらしい。
魔物軍とは別の正規軍はガチガチの軍人社会であるそうなので仕方無いのかもしれないが、リザとしてはコミュニケーションの弊害となる言葉遣いはどうでもよかった。

「……ねえ。貴方が正規軍でどういう風に扱われてきたか知らないけど……私のことはリザで呼び捨てにしてくれていい。敬語を使うかも任せる」

「ええ!? そんな……! 上官を呼び捨てなんて……」

「カイトくん硬い硬いよー。せっかく一緒の舞台に配属されたんだから、もっと仲良くしよう?」

そう言ってスズがカイトの手を握ろうと接近したその時……

756名無しさん:2020/06/08(月) 03:10:55 ID:TcsuKX4Q
「うわあああああぁ!!! ち、近づかないでくださいっ!!!」

「え、ええっ!?」

「む、無理なんです! お、おんなの人、おんなのひと、僕、無理なんです!!!

「……はぁ?」

「あ、すすすすみません!! 今のは決してスピカ様を侮辱したわけではなく、そ、その……私の体質といいますか……!」

スズが近づいた瞬間に距離を取り、慌てふためくカイト。その動作の俊敏さから只者ではなさそうだが、体質に難があるらしい。



「……女性恐怖症だね。過去に何かあった?」

「……いえ、あの、ここで話すほどのことではないです……ただ、距離を詰められたり、触られたりするのは、ちょっと……」

「……どうでもいいけど、作戦行動に支障を来すなら降りてもらう。この部隊は私とスズともう1人も女だから、半数以上貴方に近づけない」

「もしかしたら最後の1人も、女の子かも知らないよね? そしたらカイトくん、どうするの?」

「そ、そそ、ソーシャルディスタンスで距離を離していただければ……」

「ねえ、この世界にはコ○ナは蔓延ってないよ?」

「う、うううぅ……」



遊撃部隊としての任務は、なにが起こるかわからない。小隊として活動する以上、潜伏する際や戦闘の際は隊員同士触れ合うことも容易に考えられる。
そんな中触っただけで騒がれては、不要な戦闘を招射てしまう可能性は高いだろう。



「……あの、僕……だめでしょうか」

「……無理かな。私たちが男だったらよかったかもしれないけど」

「……じゃあさ。私たちでカイトくんを女の子大丈夫な体にしてあげようよ。それならいいでしょ? リザちゃん」

「……なにそれ」

「だから、スキンシップとかして、カイトくんの女の子嫌いを克服させてあげよう大作戦! 楽しそうでしょ?」

「あ、女性が嫌いなわけではないですよ?むしろ好きなんですけど……その、触られるのとかは……と、特に美人の人は無理で……」

「……楽しくもないし、そんなくだらない作戦してる場合じゃない。もう1人も合流したらすぐに戦闘に入るんだから」

「でも遊撃部隊は、戦闘が激化したら派遣される予定なんだよ。だから指示があるまでは待機なの。その間にやってみようよ」

「……………」

「ね? リザちゃん。私たちならきっとカイトくんを治せるよ。やってみよう?」

「……はぁ……仕方ないな」

「え、あの、なんか勝手に変なことされそうになってる気が……」



カイト
年齢:17

黒髪黒目の青年。10の時に正規軍に入りその卓越した刀捌きで17にして士官に昇り詰めた。
武器は一子相伝の『名刀 調水』
水の力を纏った刀で、斬撃と共に水流を発生させることができる。
戦闘力、判断力、共に軍人としての平均を大きく超えてはいるが、女性が大の苦手で接近されるのはもちろん触られるのはもってのほか。
それには過去のトラウマが関係しているようだ。

758名無しさん:2020/06/15(月) 05:10:50 ID:TYGwGQpQ
「おーおー。みんな楽しそうで何よりだ。年齢層低そうだから、俺の居場所はなさそうだな」

「ん?誰……?」

突然の男の声に一同が視線を送った先にいたのは……
理科室によくある人体模型をそのまま太らせたような、人間の骨だった。

「って、うわわぁ! 骨!? きもちわるっ!!」

「うわあああっ! 女の人の次はスケルトンッ!? スピカ様お下がりくださいっ!」

「……2人とも落ち着いて。ただの魔物兵。敵じゃない」

リザが前に出て2人を制すると、骨男はカラカラと笑った。

「そうそう。金髪ちゃんの言う通り。人を見た目で判断するのはよくないぜ?俺は骨だが心はある。今のオレンジちゃんと真面目くんのリアクションは悲しさが骨身に染みたぜ……ホネだけにな!」



「…………….」

「おいおい、3人して黙っちまって、誰か死んだのか? あ、死んでるのは俺だった。なにしろもう焼かれて骨になっちまってるもんなぁ」

「……どうでもいいお喋りはやめて。ここになにしに来たの」

面食らってしまったスズとカイトの代わりに、リザが話を進める。
どこでCOMPを脱いだのかわからないが、骨男はダボついたコートに手を突っ込みながらニヤリと笑みを浮かべた。



「俺はボーンド。見た目通りのわっかりやすい名前だろ?遊撃部隊とやらに配属されることになったんでこの辺歩いてたら、それっぽい会話が聞こえたんでね」

そういうとボーンドはウインクして見せた。
落ち着いてよく観察すると骨の目の奥には黄色の瞳があり、空洞ではないようだ。

「……あ、じゃあ私たちの仲間なんだね。私はスズ・ユウヒ。よろしくね」

「ぼ、僕はカイトです。あの、あなたの所属は……?」

「俺の所属? 俺はちゃんとした部隊には所属してねえよ。トーメントの暗部……って言えばわかるか?」

「ま、またそれですか……正規軍以外の管理体制はどうなってるんですかね……」

「真面目くん。管理体制なんてどこの企業も団体もガバガバなんだよ。そもそも人間が管理してるもんなんて、すべてガバガバさ……で、誰がスピカだい?」

「……は?」

「金髪ちゃんはどう見ても細すぎだしちっちゃいしなぁ。オレンジちゃんは強そうだがスピカってほどじゃないだろ。真面目くんはモブっぽいし……まさかこの中にはいないのか?」

どうやらこの男は、管理体制どころか自分の上官の姿さえ知らないらしい。
まあ十輝星は正体を明かしていないので、その反応は当たり前ではある。



「……さっき人を見た目で判断するのは良くないって言ったのは、誰だったっけ」

「……え、まさか金髪ちゃん……?ウソだろ……?」

「十輝星であるスピカ様になんと失礼な……! 気軽に金髪ちゃんなどと呼んでいいと思っているのか!」

「まあまあカイトくん。仲間なんだし仲良くしようよ。リザちゃんもそんなに怒らないで。ね?」

「……別に私は怒ってない」

「いやあ、申し訳ねえ。穴があったら入りたい気分だ……俺の場合はそこがそのまま墓穴になっちまうけどな」

「……この人さっきからくだらないことしか言ってないですけど、ほんとに強いんですかね?」

「え? 俺は弱いよ。人員不足でわけわかんないとこにアテンドされただけの窓際族さ。だからわざわざ作戦に参加する価値もないし、俺のことは透明人間として扱ってくれな。これがほんとの透けルトン……なんつって」

「……ぷっ、あはははは! ボーンドさんおもしろい! さっきから笑い堪えてたから……もう……!」

「おっ! オレンジちゃんは話がわかるな! 柑橘系女子の側にいるとみかん食いまくった後の手みたいに俺の骨が黄ばんじまいそうだが、気に入ったぜ!」

「あははっ!わたしのこと柑橘系女子だって……!じゃあリザちゃんは何系女子?」

「金髪ちゃんはツンデレだろ? 古来から金髪美少女はツンデレって相場が決まってるのさ」

「おお! 結構あってるかも! リザちゃんってツンツンしてるけど意外と優しいもんねー」

「……ま、まだ金髪ちゃんだのツンデレだのと呼んでる……!どうなってるんだ、魔物軍の上官への対応は……!」



ボーンドを加えた場は和んだように見せかけて混沌としていた。
スケルトンは魔物兵の中でも下層に位置しており、その見た目から表舞台に出てくることは極めて少ない。
地下で魔物の世話をさせられているか、重要拠点の夜間防衛などが主な任務となっている。
本人の言う通り、ボーンド自身は本当に弱いのかもしれないが、リザはそうは思えなかった。



(この人……侮れない気がする……)



死戦をくぐり抜けてきた者にしか発することのない雰囲気が、彼の周りにはあった。

759名無しさん:2020/06/20(土) 20:30:23 ID:???
「それじゃさっそく街に出て、カイトくんの女の子嫌いを(略)作戦、いってみよー!ボーンドさんも一緒に行こ!!」
「…悪いが、俺はこの後ちょいと野暮用があるんでね。…ま、三人で楽しんでくるといい」

「えー?残念だなぁ。それじゃ、リザちゃん!」
「カイトって言ったっけ……確かに、今のままじゃまともに使えそうにないし…仕方ないか」
「ふっふっふ…そうこなくちゃ!カイトくんの(略)作戦、開始ー!!」
「えっ……ちょっとまさか、本気なんですか!?か、勘弁してくださいよ…!」
「何言ってんの!こ〜んな超絶美少女2人と一度にデートできるチャンスなんて滅多にないんだから、
もっと喜ばなきゃだよー?」

「ボーンドさん、た、助けてくださいよぉ……」
「クックック……そっちのお嬢ちゃんの言うとおりだな。
どうせこれから糞みてえな戦場に送られるんだ。今のうちに骨休めでもしてきな、若造」
「そ、そんなぁ……!」

「……それじゃ、後で連絡する」
「おう……またな」


スズはカイトを引きずるようにして強引に連れていき、その後をリザが追いかけていった。
三人を見送った後、ボーンドが向かったのは………

「あれが俺らの隊長さんねぇ。……ま、どうなることやら、っと……いたいた。」

人気のない廃倉庫。そこには、瀕死の男が一人、倒れていた。

「初めまして……お前さんが、ヴァイスだな」
「う……げ、ほ………誰だ、テメェは………」
「………クックック。そうだなぁ。ま……死神みたいなもん、とでも言っておこうか。
 見た感じそれっぽいだろ?骨だし」

「クッソがぁ……俺は、死ぬのか……畜生……あのエミリアって女……
まさか、あんな方法で手錠から抜け出すなんて……許さねえぇ……
エミリアも、リザも……ブチ犯して殺しまくるまで、俺はぁ……」

「クックック……まさに恨み骨髄、ってやつか。お前さん、思った通りなかなか骨があるねぇ。
そのすさまじい恨みのパワー……この俺が、骨の髄まで使いつくしてやるよ」
「な……何をしやがる……っぐ、うごぁああアアアアアアァァァァア"ア"ア"ア"……!!!」

「ヴァイス・ザ・リッパー。今からお前さんはこの俺の使い魔……『不死の兵団』の一員だ。
骨身を惜しまず働いてくれよ。
なあに…この俺の下にいりゃ、恨みを晴らすチャンスはきっとめぐって来るさ」

760>>751から:2020/06/21(日) 14:51:59 ID:???
敵陣の奥で見聞きしたことを、テンジョウに報告するアゲハ。
傍に控えていたローレンハインとアルフレッドは、それを聞いて確信を抱いた。

「敵軍の大将……糸使いの女性。紫の髪と瞳……アルフレッド殿、これはやはり」
「ええ。間違いありません………ロゼッタお嬢様です」

ロゼッタ……
不倶戴天の敵、トーメント王下十輝星「カペラ」の星位を持つ者。
そして、かつてアルフレッドが仕えていたラウリート家の、最後の生き残りでもある。

「運命の、赤い糸……確かにそう言ったのか。
そのロゼッタってねーちゃんの能力が、言葉通り、相手の運命を操れるんなら」
「ええ……それに対抗できるのは、この世界の運命の外にいる者……すなわち、異世界の戦士のみ」
「…こんなに早く、切り札を切る事になるとはな」
「………行けますか、お嬢様」
ため息を吐くテンジョウ。
アルフレッドは、柱の陰にそっと目配せを送る。それに応えるのは……

「ええ。……遅かれ早かれ、避けて通れない相手ですわ」
戦闘用ドレスを身に纏い、二刀を腰に差した金髪の少女……アリサ・アングレーム。

「うちの兵士たちもがんばっちゃいるが、そもそもドラゴンなんかの魔物どもと
真っ向からやり合うのは専門じゃないからな。長引けばそれだけ消耗も大きくなる。
……作戦はシンプル、かつ忍びらしく。少数で敵陣深くまで潜入して、大将を直接…倒す」

「ええ、心得ていますわ。この白ドレスでは目立ちすぎますから……はっ!!」
アリスは『早着替えの術』により、一瞬にして深紫色のドレスに着替える。
アルフレッドは、その姿を目にした時、……遠い過去の記憶を、ふと思い出した。

「さあ。行きましょう、アルフレッド………どうしたの?」
「……え、……は、はい。…お嬢様の事は、私が命に代えてもお守り致します」
「もう…そういうのは無し、って約束したでしょう?
 守ってくれるのは背中だけで結構ですわ」

「!……申し訳ありません。あの方に、本当に生き写しだったものですから……」
「ふふふ……アルフレッドが、そこまで上の空になるなんて。
わたくしは話に聞いただけですが……本当に、よく似ていたのですね」

「ええ……ヴィオラ様。そして、ロゼッタ様……今度こそ、決着をつける。
トーメント王を打倒し、お二人を残酷な『運命』の輪から解放してやらねば。
……アリサ様。私に、力を貸してください」
「ええ、もちろん。そのために、わたくしはここにいるのですから」

出陣の準備を整えた、アリサとアルフレッド。
淡い慕情、殺意、憎悪、そして和解……紆余曲折の果てに、今二人は共に戦場に肩を並べる事になった。

「ところでアルフレッド………」
「?」
「……もしかしてヴィオラ様は、貴方の初恋の相手……なのかしら?」
「なっ!?……え、ええと……それは、その……」
「ふふふふ……貴方のそんな顔、初めて見ましたわ。
いつか……すべてが終わったら、ゆっくりとお話を聞かせてほしい所ですわね」

二人の長い長い旅の終着点……最後の戦いが今、幕を開けようとしている。

761名無しさん:2020/06/25(木) 23:58:58 ID:???
「いよいよ作戦間近ね……燃えてきたわ!」

ルミナスの首都、ムーンライトにて。
各地を転戦する魔法少女たちに随員し、実戦で各属性の魔法拳を覚えた瑠奈は、来る決戦に向けて意気込んでいた。

(思えば、この世界に来て戸惑ってばかりいた私たちに希望をくれたのは、ルミナスの攻撃作戦だった……今度は私が!)

手を握りしめて気合を入れる瑠奈。

「あの、瑠奈さん……少しお時間よろしいですか?」

そこに、何やら思いつめた様子のフウコが近づいてきた。水鳥やカリン、ルーフェは一緒ではない。

「フウコ?どうしたの?」

「ここじゃちょっと……場所を変えてもいいですか?」

フウコの真剣な表情を見て、どうやら大声で話すようなことではないと察した瑠奈は、コクリと頷く。

「分かったわ、私の部屋に行きましょう」

瑠奈は以前ルミナスに身を寄せていた時に使っていたのと同じ部屋にフウコを通す。
思い返せば、フウコと初めて会ったのもこの部屋だったが……今は唯もカリンもおらず、自分とフウコしかいない。

「それで、話っていうのは一体なにかしら?」

フウコは出されたお茶にも手を付けずに、少し俯きながらポツポツと喋り始める。

「瑠奈さん、私……実は、フウヤと戦う覚悟が、まだできてないんです」

泣きそうになりながら言うフウコ。フウヤと聞いて、瑠奈はヒカリから聞いた情報……デネブのフースーヤの正体は、フウコの弟であるフウヤだった事を思い出す。

「え、っと……まぁそりゃ、弟が敵になってたなんて納得できないわよね……」

瑠奈としても、もしも兄がなんやかんやあってトーメントの手先になっていたとしたら……など、想像すると悪寒がする。

「でも、前にソイツが攻めてきた時に覚悟を決めて戦ったって聞いたけど……」

「実は、フウヤが攻めてきた時の記憶がないんです」

一度死んでから復活したせいで、フウコはルミナス侵攻編の記憶を丸ごと失っていたのだ。後から何があったかは聞いたが……それだけで納得できるわけもない。

「私は、どうしても納得できないんです、フウヤが裏切ったなんて……だから、だから……!」

鏡花を含め、ルミナスにはフウヤの裏切りによって大打撃を受けた者が大勢いる。そんなフウヤをそれでも信じるという話など、部外者の瑠菜にしか話せないだろう。

「それで、その……カリンちゃんたちに言ったら止められると思って、言ってないんですけど……実は今朝、こんなものが届いてたんです」

そう言いながらフウコは、懐から風魔法のかかった矢文を取り出して瑠奈に見せる。

『今宵、あの場所で待つ。親愛なる姉へ、愚弟より』

シンプルながら中二感溢れるその手紙は、フウヤからフウコへの手紙で間違いない。

「あの場所……心当たりがあるのね?」

「はい。だから、その……このことで、行くべきか少し相談したくて」

「なるほど……話は分かったわ」

瑠奈はデネブとはほとんど接点はないが、以前8対5でひたすら甚振られた時にいた人間だというのは分かる。
正直、説得に応じるような相手だとは思えないが……

(こんな時、きっと唯なら、フウコの背中を押す……なら、私も!)

「フウコは行きたいって思ってるんでしょう?なら行くべきよ!こういう時は自分に素直になるべきだわ!」

「瑠奈さん……」

「そんなに不安そうにしなくても大丈夫!私も一緒に行ってあげるわ!」

「え、ええ!?その、確かに一人は不安でしたけど……」

「姉弟水入らずの邪魔はせずに様子を伺ってるから、納得いくまで話し合って来なさい!」

決戦を控えた中で行われる、姉弟とそれを見守る運命の戦士の密会。
罠の可能性を考慮しながらも、血を分けた家族への情がフウコを動かした。

この小さなうねりがやがて、ルミナス方面の戦局を大きく動かすことになる……

762名無しさん:2020/06/28(日) 15:16:04 ID:???
アリサたちがロゼッタとの決着をつけるべく出陣した、ちょうどその頃。
テンジョウらは前線で戦う五人衆たちに本陣から狼煙で合図を送っていた。
その内容は……

「……お、テンちゃんからの合図や。それじゃ、手はず通り……ウチらは派手に暴れるで!
 陽動作戦開始や!!」
「「「ハイヨロコンデー!!」」」

(ズドーーンッ!! ビシュビシュビシュ!!)

「「っぐわーーー!?」」
「なっ、なんだコイツら!いきなり攻撃が激しく……」

「張り倒して差し上げます……椿張扇(ツバキハリセン)!!」
「貴方のお命、ご破算します……榎算盤(エノキソロバン)!!」
「汚物は清掃ですわ…………………柊埃叩(ヒイラギハタキ)!!」

「こっからは遠慮ナシや。ガンガン行くでぇ!…
『風遁・カマイタチ』!『水遁・ミズチ』!!…からのー!『雷遁・タケミカヅチ』!」

(ズドドドドドドドッ!!……バリバリバリバリッ!!)

「「「グワーーーーッ!?」」」

テンジョウの居る本陣から狼煙があがり、前線で戦う『金尽のコトネ』達の部隊が大きく動く。
『巻物などの消耗品は公費で落として良い』という言質(煙質)を得たので、強力なアイテムも解禁。
並みいる魔物兵たちを次々となぎ倒していった。

「よーし、このあたりの敵はあらかた片付いたな!……んん?…あれは……」
「コトネ様、どうしました?」
一息ついたコトネは、敵軍がいた場所に、見慣れない箱が置かれているのに気が付いた。
金属製の頑丈そうなチェストで、人一人すっぽり入れそうなほど大きい。
どちらかというと、こういう物はダンジョンの奥深くやお城の宝物庫などに置かれているのが普通なのだが……

「宝箱やん!!いやー、これもウチの日ごろの行いが良いからやな!」
「……やめときましょうよコトネ様。あからさまに怪しいじゃないですか」
「大体こんなフィールドに宝箱が落ちてるのはおかしいですよ」
「いやいや。フィールドの宝箱落ちてたりモンスターが落としたりするのはJRPGじゃ普通やん?」
「そりゃ、JRPGなら普通ですけど……」


お供のアキナイ三姉妹が止めようとするが、もちろんテンションの上がったコトネは止まらない。
「大丈夫大丈夫!罠探知機が反応してへんから、何も仕掛けられて……」

(ばくん。)
「え?……」

………そう。箱には何も仕掛けられておらず、罠探知機にも反応はなかった。
しかし、箱そのものが、宝箱に擬態した魔物だったのだ。

(ブワワワワワワワッ!!)
「なっ!?なんやこr……むっぐ!!」
「「「コトネ様ぁーーーー!!」」」

コトネが箱の前に立った瞬間、箱の蓋が開き、黒い触手が無数に飛び出して………
コトネを箱の中に閉じ込めてしまった。

763名無しさん:2020/06/28(日) 15:17:52 ID:???
【ダークミミック】
不定形などす黒いタール状の身体を持つ魔物兵。
身体を自在に変化、硬質化させ、宝箱など、あらゆる物体に擬態する事ができる。
硬質化させた時の身体は驚異的な防御力を持ち、武器や魔法による攻撃で破壊することは非常に困難。

(ぐちょ………ぬちゅ………)
「フヒヒヒヒ……まさか、五人衆の一人をこうもあっさり捕らえる事ができるとはなぁ」
宝箱に擬態したミミックに飲み込まれたコトネ。
箱の中は狭く、黒い鎖で手足を絡め捕られ身動きが取れない。

「くっ………甘く見られたもんやな。今のウチは能力使いたい放題なんや。こんな拘束、一瞬で抜け出して………」
(あれ、待てよ?テンちゃんは『消耗品は公費』て言っとったけど、
ウチの能力で使った分のお金って、経費で落ちるんやろか……)
力づくで抜けようとするコトネ。だが、彼女の能力『成金術』は、所持金や宝石などを消費する事で力を発揮する。
フルパワーを使ってしまうと、後で経済的・精神的ダメージが自分自身に跳ね返ってくるのだ。

「クックック……その余裕ヅラ、どのくらい持つかな?……喰らえ!硬質化ドリルアーム!!」
「!!…しゃーない……『金剛体・部分課金モード』!」
(………ギュイィィィィィィンン!! ガリガリガリガリガリ!!)

ドリル型に変化したミミックの触手が、コトネの胸を貫こうとする。
コトネは成金術で胸の部分だけを硬質化させ、攻撃を防いだ。

「うっ………ぐ……!!」
(……ウチの『金剛体』でも、防ぐのがやっとや……こいつ、ザコかと思ったら意外と……!)

「ほほーぉ。さすがは討魔忍五人衆の一人……だがドリルはまだまだあるぜぇ?
つぎは……クリトリスだぁっ!!」

(グオンッ!!……ガキィィンッ!!ギュルルルルルルルッ!!)

コトネは課金を最小限に抑えるため、攻撃される個所をピンポイントで硬質化させて防ぐ。
火花が飛び散り、激しい衝撃が生身の部分にビリビリと伝わってきた。

「んぐ……あ、ぅっ……!!………こん、のド変態が…!!
つーかこーいう奴は、ふつう七華かササメっちの所に行くはずやろ……」

「ヒヒヒ…俺はむしろ、自分だけは安全、自分がヤられる事なんて考えもしてないってタイプの奴を
じっくりねっとりいたぶって、『あれ?これもしかしてウチやばいんと違う?』って
気づいたときにはもう手遅れ、みたいなシチュが大好物なんだ。」

「……ガチのドクズやな……こんなんとダラダラ付き合ってたら時間と金の無駄や。さっさと反撃……」
「オラオラ!今度は全身串刺しだぁぁぁ!!」
「!!……『金剛体・全身モード』!!」
反撃に転じようとした瞬間。
ミミックは周囲の触手を無数のドリルに変え、攻撃してきた。
コトネは反撃を中止し、全身を硬質化させて防御せざるを得ない。

まともに戦えば遅れをとる相手ではないはずなのに、コトネはことごとく後手に回らされている。

敵を無名の格下と侮り、課金を渋ったせいか。
五人衆の座について実戦から遠ざかり、戦いの勘が鈍っていたからか。

何にせよ。
「正体不明の敵に捕らえられ、閉じ込められ、全身を拘束されている」
という圧倒的不利な状況を、コトネは甘く見すぎていた。

「クックック……全身を金属化……そう来ると思ったぜ。だが無駄だぁ!!。高圧電流放出!!」
(バリバリバリバリッッ!!)

(んっぐ、ぁあああああぁぁああああああああぁぁっ!!!)
敵はコトネの能力を見抜き、すぐさま攻め手を変えてきた。
コトネの全身に巻き付いた触手から、強力な電流が流される。
金属化した体に、電撃は効果が抜群だ!
しかも、全身を金属化している間、課金はどんどん累積していく。
金属化を解除しても、今度はドリルで全身を刺し貫かれることになる。

(あ、れ………?これ、もしかして…………ウチ、やばいんと違う………?)

764名無しさん:2020/07/04(土) 17:30:43 ID:???
(バリバリバリバリバリ……!!)
「………………。」
(ひっ!!んうぁっ…!!…っくぁああああああああっっ………!!)

「ヒッヒッヒ………金属化してるから悲鳴も上げられねえか?
だが、俺にはわかる……あれだけ余裕ぶっこいていた貴様は今、追い詰められ、焦っている。
俺のような名無しの雑魚なんざ、軽く蹴散らせると思っていただろ?
そういう愚かなネームドキャラが、自分の思い上がりを知り、苦悶し、泣き叫ぶ……それこそが俺様の生きがいだ。
さあ。五人衆とやらのプライドも……何もかも砕かれ、絶望の底に沈むがいい。クックックック……」

「っぐ……ミツルギ討魔忍衆を……舐めるんやないで……!!」
金属化を解除し、元の姿に戻ったコトネ。
だが電撃によるダメージはかなり深刻で、体中が痺れてうまく動かせない。

「クックック……金属化を解除したか。俺様の電撃が相当こたえたようだな。
では今度こそ、ドリル触手で全身串刺しにしてやるぜぇ…」
「勘違いすな……ウチが『金剛体』を解いたのは、電撃がキツいからやない。反撃するためや!!
……成金術『剛力腕』!」

(…ドカッ!!)

「おごっ!?……テメェ……俺の電撃をあれだけ喰らって、まだ動けるのか……!!」
「はぁっ……はぁっ……あったり前や…五人衆の・・…討魔忍の恐ろしさ、思い知らせたる!」
(く、仕留められんかった……体が痺れて、『剛力腕』の威力が出てへん……!!)

「だったら…お望み通り、串刺しにしてやるぜぇぇ!!」

………………

一方。箱の外側では……

「このっ!!コトネ様を出しなさい!!風遁・練空暴風弾!!」
「召喚!破砕超重鉄球!!」
「忍法・蔓落とし!!」
(ブオオオオンッッ!! ガキンガキンッ!! ガコンッッ!!)

アキナイ三姉妹が、コトネを閉じ込めた黒い箱を一斉に攻撃していた。
だが箱の外殻はとんでもなく頑丈で、三人が全力で叩いてもビクともしない。

「ヒッヒヒヒヒ。無駄無駄……鬼さんコチラ、ここまでおいで〜っと!」
(くっそ。中で五人衆のチビが暴れてるのに、外側からも攻撃されたらさすがにやべぇぜ。いったん退却だ…!!)
(…カサカサカサカサ!!)
しかも、箱からなんだか不気味な脚が生えて、すばしっこく逃げ回る。

「まずいですね……あまり深追いすると、敵陣に誘い込まれるかも」
「このままコトネ様が連れ去られたら、もうこき使われなくなr……じゃなくて、私たち揃って無職ですね。何とかしなきゃ!」
「いや、その理由もどうかと思うけど。…とにかく逃がすわけにはいきませんわ!待てー!!」
三人は和メイド衣装の裾を翻しつつ、黒い六本脚の魔物を必死に追い掛け回す。

「和メイドちゃんカワイイヤッター!!」
「グッヒッヒッヒ……俺たち絶倫三兄弟(陸戦型)と」
「3対3でしっぽりイイコトするでヤンス!!」
「待て待てー!お前ら三兄弟にばっかりイイ事…イイ格好はさせないぜ!」
「俺たち魔物兵軍団は一蓮托生!イく時は一緒だぜ!」
「俺も!」「俺も俺も!」「俺はガンダムでイく!」

だがそこに、馬、サソリ、オットセイ、ニンニク、マムシ……様々な魔物たちが行く手を塞いだ!

「くっ!?…案の定なんかキモい奴らが……!」
「そこをどいてください!早くしないとコトネ様が……」
「……なんて、聞き入れてくれるはずありませんね……速攻で倒しましょう」

「ヒッヒッヒ……そんなつれねー事言うなよ」
「じっくり、ねっとり、時間をかけて楽しませてもらうぜぇ……」
「「「ヒャッハァァァァーーア!!」」」

765名無しさん:2020/07/04(土) 17:32:53 ID:a3kvcF06
前線に突出しすぎたアキナイ三姉妹はあっという間に取り囲まれ、乱戦が始まってしまった。
その間に、ミミックは敵陣へと逃げさってしまう。

「やれやれ。仕方ないのう……行くぞい、お前たち」
(じゅるじゅるじゅる……)

その時。

「クックック……和メイド三つ子ちゃんも地味にけっこうソソルるなぁ。
このチビを本陣に預けたら、戻ってあいつらと集団レイp………ん、あれ?」

(ぐちゃっ ねばっ)
「な、なんだこのネバネバは!!」

逃げるミミックの足が止まった。
周囲がいつの間にかネバネバした大量のスライムで覆われている。

「ひょっひょっひょ……やらせはせぬよ。
ネームドキャラをワンチャンジャイキリしてビッグになろうという心意気はよし、じゃが……」
コトネ様には、ワシも健康食品やら回春サプリやら世話になっとるでな」
「ジジイ……てめえも討魔忍か!!ほとんど本陣近くなのに、どうやってここまで来た!」

現れたのは、上忍「粘導(ねんどう)のウズ」。
使い魔のスライムを自在に操る渦壺忍術の使い手だ。

「いかにも。……しっかし、お主んとこの兵隊どもはわかりやすいのう。
 ワシみたいなジジイがこんな敵陣の奥まで入り込んどるのに総スルーで、
 雪女ちゃんやら巫女ちゃんやらはどこだー!って駆けずり回っとるんじゃから」
「あー…………納得」

「まあ、ワシも男を相手にするのは好かんから人の事言えんが……今回は仕方ないの。行け、スライムたち」
「へっ!!なめるなよジジイ!超硬化した俺様の箱型ボディは、ベヒーモスが踏んでも壊れねえぜ!」

「……確かに、随分頑丈そうな箱じゃ。しかし……開けるのはそう難しくはない」
(……にゅるるるるるっ!!)
「あ?……て、てめっ、そこはっ……ぎゃがはははははは!!!」

ミミックの頑丈なボディに、生半可な攻撃は通用しない。
だがそんなミミックに対して、ウズのスライムはただ一点を狙う。
厳重に閉ざされた宝箱の、唯一の進入路……鍵穴へ入り込んだ。

…………………

「うっぐぉああああ!!入ってきた……俺の中に、スライムがぁああああ!!」

「ひょっひょっひょ……ちなみにお主、噂で聞いたアレじゃろ。
例のスライム工場で作ってたっていう『万能武装スライム』とかいう魔物の……」

「お、おう!!状況に応じていろんな武器とかリョナ道具に姿を変えられる、新開発のスーパースライムだ!
宝箱だけじゃなくて色んな物に化けられるし、電撃やら毒ガスやら、いろんな特殊攻撃もできるんだぜ!
そんな万能武装スライムをベースにして先行量産されたのがこの俺ってわけだ!
あーあ、プラントさえ破壊されてなけりゃ、俺たちをたくさん量産して、連合国の連中を数で圧倒してやれるはずだったのになー!
まあでも先行量産でそこそこの数は作られてるみたいだから、他の書き手の方も俺らの仲間をガシガシ使っていいぜ!
それがどうかしたか!?」

「いやなんとなく裏設定的なのを語ってもらいかっただけじゃ。
ていうかその能力ふつうに便利じゃから、ワシのスライムに吸収させてもらおうかの」
「ウグワーーーーッ!!中でスライムが暴れて……溶かされるぅぅぅぅぅ!!」

「はぁっ………はぁっ………な、なんや……?」

箱を内側から破壊しようと暴れていたコトネ。
謎のスライムが内部に侵入してきて、ミミックを溶かし始めたのを見て、何となく状況を察した。

(………このスライム……ウズの爺さんやな…!)

(どろっ………じゅわっ……ぐちゃぁ)
「はぁっ………はぁっ………く、そ、じじい……。
余計なマネ、しよって。こんな相手、ウチ一人でも……」

全身をドリル触手に貫かれ、ギリギリの状態だったコトネ。
だが……五人衆たるもの、この位で弱音を吐いたりはしない。

「ひょっひょっひょ……相変わらずの跳ねっかえりじゃのう、コトネ様。
せっかく『元師匠』が助けてやったんじゃから、少しは感謝したらどうじゃ」

「…………。」

「ま、ええわい。しかしひどくやられたのう。スライムよ、『コトネ様』を治療してやれ」
「っぐ……おおきに、爺さん。この借りは……」
「ひょひょひょ………んじゃ、肩たたき券でもサービスしてもらおうかの」

766名無しさん:2020/07/23(木) 21:09:22 ID:???
「陽動作戦開始、敵兵をポイントAに誘導……か」
討魔忍五人衆の一人、時見(ときみ)のザギが本陣からの狼煙を見上げる。

敵を攪乱して一か所に誘導した後、術による広域殲滅で一気に片づける作戦であった。

『巫女さん発見!めっちゃ可愛い!!』
『マジか!!場所教えろください!!』
『写真の後ろの杉の木、見覚えあるような…』
『特定した 西側のポイントAだな!』
『あれ、隅っこに写ってんの雪女ちゃんじゃね?』
『桃源郷じゃねーか 全力で行く』

「……カイ=コガのやつも上手くやってるようだな」

後方部隊がSNSなどを通じて偽情報を発信。
一方で、真実の情報はミツルギ伝統の「狼煙」によって伝達される。

もちろん指定のポイントに七華やササメはいない。
あるのは一度入れば容易に脱出できない結界空間、そして大量に仕掛けられたブービートラップである。

だが、『情報戦』の首尾を確認していたザギは、気になる投稿を目にする。

『くっそーー!そっちにも行きてーが、今は和メイド三姉妹ちゃんの方も大詰めだ!
手っ取り早くブチ犯したら、肉盾にして持ってくぜ!』
『追加燃料投入か 期待RT』

「コトネの所の三人か……なんではぐれてんだコイツら?」
写真も投稿されている。魔物兵に取り囲まれた三人……どうやらガチ情報らしい。
幸いにも、というか…場所はここからそう遠くなさそうだ。

「チッ……仕方ねえ」
危機を告げる狼煙が見えた方角に魔物兵の一群が集まっているのを見つけると、
ザギは一陣の風のごとく駆けた。

767名無しさん:2020/07/23(木) 21:12:38 ID:???
「ふんっ!! おりゃっ!! ドラァァァァァ!!」
「「「ッグワァァァーーー!!!」」」

「けっ、雑魚が。こっちは急いでんだ、死にたくなかったら道を……ん?」
「…………。」
(…………シャキン)

魔物の軍勢を蹴散らすザギ。だがその行く手に……浮遊する金属片??のようなものが立ちふさがった。

【リビング・ビキニアーマー】
ビキニアーマーが意思を宿し、魔物となった存在。
軽量なため通常のリビングアーマーよりも素早く、表面積が少ないため攻撃が当てづらい。
魔法防御などの特殊な処理が施されている場合も多く、その戦闘力は決して侮れない。


「…なんだ、コイツ……ビキニアーマーだと?」

……ミツルギ闘技大会エキシビジョンマッチでの、苦い経験が一瞬脳裏をよぎる。
奇しくもあの時と同じ、敵の武装はショートソードとシールドだ。
だがあの時とは決定的に違うのは……

「たっ!! オラっ!! くそっ…!!……攻撃が、当たらねえ!!」
着ている人間が存在しないため、攻撃は鎧の部分に当てなければならない。
その点、通常のリビングアーマーとは段違いにやりづらい。

「…………!!」
(ブォンッ!! シャキンッ!!)
加えて敵の攻撃は鋭く、盾を使っての防御も的確。
早く味方を助けに行かなければ、と焦る中、ザギは一進一退の攻防を余儀なくされる。

リビングアーマーは、死んだ戦士の魂を、鎧に宿させたものだ。
多くの場合、その鎧の元々の持ち主。恐らく『彼女』も、優れた戦士だったのだろう。

「確かに厄介だが、あの『お姫様』に比べりゃ……『怖さ』は全くねえな。 はぁっ!!」
ショートソードが振り下ろされる、その刹那。ザギは思い切り前方に飛ぶ。

「………!?」
必殺の一撃をかわされたリビング・ビキニアーマーは、一瞬敵の姿を見失い困惑した。
そして、次の瞬間………

「オラァッ!!」
(メキッ!)
「………!!!」

攻撃をかわしざまビキニアーマーのお腹の空間を跳び越え、背後を取ったザギ。
相手の動きが止まった隙を逃さず、渾身のサマーソルトキックでビキニアーマーの股間を蹴り上げる。

「……!!…………、…………っ…!!!」

鎧だけの魔物となっても、痛みは感じるのだろうか?
ショートソードとシールドが、音を立てて地面に落ちた。

だが、リビングアーマーはこの程度では倒せない。
ザギはすかさずビキニアーマーのブーツを両脇に抱え込み、鎧の股間部分を踏みつけた。

「これ以上時間を潰されたらかなわねぇ。二度と動きださねえように、徹底的に痛めつけてやるぜぇ!!」

衝撃波と振動の呪符が仕込まれた特殊ブーツが唸りを上げる。
ショートソードがふらふらと浮かび上がる、が……

「うぉらぁああああああああ!!!!往生せいやァァァァァァ!!」
(グオォォォォォォオンッ!!ズドドドドドドド!!!)
「っっっ!!!!」

ザギのブーツが激しく振動し、高速ピストンキックがビキニアーマーの股間を抉る。
ビキニアーマーの胸パーツが反り返りながらビクンビクンと震え。
ショートソードが再び地面に転がり落ち……再び動くことはなかった。

768名無しさん:2020/07/25(土) 05:15:05 ID:???
「ん〜絶頂スプラッシュマウンテン楽しかった〜!次は何に乗ろうかなー?私的には悶絶サンダーマウンテンもっかい乗りたいところだけど、2人はどうー?」

「も、もう勘弁してください……ってうわぁ!スズさん、いきなり触ろうとするのやめてくださいッ!」

「ぴえん……そんな本気で嫌がられると女として自信なくなっちゃうなぁ……カイトくんイケメンだし尚更……」

「ううっ……!す、すいません……スズさんを傷つけるつもりなんて微塵もないのですが……」

「……はぁ……何やってるんだか……」

スズの提案でトーメント王国の人気遊園地、リョナニーランドにやってきた3人。
スズは楽しそうにはしゃいで遊園地を満喫しているが、目的のカイトの治療は全く進んでおらず、リザの口からため息が漏れた。

「もう強硬手段に出ちゃおうかな。カイトくん真ん中でさ、私とリザちゃんを両手に花で手を繋ご!嫌悪感を優越感で塗り替えちゃおう作戦だよ!」

「いや何言ってるんですか、無理に決まってるでしょう!お2人ともその……すごく美人で、魅力的な女性なので……尚更無理なんです……」

「む〜!魅力的で美人なのに手を繋ぐのが無理とはまったく意味が通ってないよ〜!」

「……そもそもなんで無理なの?女が苦手な原因がわからないと、克服のしようがない」

「……確かに、スピカ様の言う通りですね……こんなに時間を使わせてしまっているし、お話しいたします」

「お、リザちゃんもようやく乗り気になってきたね!あ、あっちで電磁棒チュロス売ってるから買ってくるねー!」

なにやら拷問に使われそうな棒形の甘いお菓子を買いに行ったスズ。
ちょうどよく3人座れそうなベンチを見つけたので、リザはちょこんと腰掛けた。



「……座らないの?」

「いや、ちょっと間隔狭いですし……スズさんも座ったらくっついてしまいますので……」

「……そう」

「……スピカ様にもスズさんにも、申し訳ないです。作戦前でピリピリしていてもおかしくないのに、こんな私のために……」

「……気にしなくていい。私にとってはただの暇つぶしだから」

「……でもスピカ様はスズさんと違って、こういう場所は苦手そうですし……」

「……別に、遊園地は……そんなに嫌いじゃない」

「え……そ、そうなんですか……?」

「…………」

リザの脳裏に、家族を殺された日の前日がフラッシュバックする。
遊園地の乗り物をすべて制覇すると意気込んでいた兄。
チュロスという食べ物を食べるのを楽しみにしていた母。
遊園地の後に人気のステーキ店を予約してくれていた父。
自分も姉も、とても楽しみにしていた。
前日の夜は2人でどんな服を着て行こうかで盛り上がって、なかなか寝付けなかったくらいだ。



(……お母さん、お父さん、お兄ちゃん……あとお姉ちゃんも……みんなで来れたら、きっと楽しかったんだろうな……)



「お待たせお待たせー!店員のおじさんがね、可愛い女の子には電圧3倍!とかいってシロップいっぱいつけてくれたー!」

やけに大量のシロップがかかったチュロスを受け取って、リザは母の顔を思い浮かべながらひと齧りした。

「……はむ……もぐもぐ……」

「ひいぃーちっちゃいお口でチュロス食べるリザちゃんかわいぃ……!ねえねえ、どうどう?お味の方は?」

「むぐっ……!ふぁんふぁいは……(3倍は)はまふみっ……!(甘すぎ)」

769名無しさん:2020/07/26(日) 00:14:46 ID:Ur0ouuDw
「ふぅ……なんとか食べれましたけど、あんな砂糖の暴力をよく2本も食べれますね……」

「なに言ってるの?女子ならあれくらい余裕余裕!さあーて、カイトくんのお話を聴かせてもらうぞ〜?」

(……わたしは女子じゃないのか)

電圧10倍かけられてもいけると豪語したスズは、甘すぎて食べられないリザの分もペロリと食べてしまった。



「えっと……昔、好きな人がいたんです。幼なじみの女の子で、家も隣でずっと仲がよかったんです」

目を伏せて語りだすカイトの顔を見たスズの表情が真剣な表情に変わる。
リザはいつもどおりの無表情で話を聞き始めた。

「その子は目立つタイプじゃないけど、女の子らしい白の長髪がすごく綺麗な子でした。性格も明るくて、その娘とだけは何時間一緒にいても、楽しかったんです」

「幼なじみかあ……いいなぁ。私はずっと引きこもりだったからそういうの、憧れちゃうよね」

「え、スズさんは引きこもってた時期があるんですか?」

「あぁ、ごめんごめん。私の話はいいから続けて?」

「…………」

今の明るい性格とは対照的なスズの過去に、リザも少し驚いたが、今はカイトの話を聞いているので掘り下げることはしない。



「それで……僕が14歳の時、思い切ってその子に思いの丈を打ち明けたんです。その……ずっと君の傍にいたい……って」

「わあぁ……!カイトくんみたいなイケメンにそんなこと言われたら溶けちゃうね〜融解しちゃうね〜!」

「……それで、成功したの?」

「はい。相手の少女……シュナも僕を受け入れてくれて、付き合うことになったんです」

「ひゃ〜すご〜……いいなぁ、私もイケメンに告白されたいなあ!リザちゃんは告白されたことあるの?」

「……私に話を振らないで。今はカイトの話を聞いてあげるべき」

「あ、そうだね。ごめんごめん」

「……それで、最初の頃はとても楽しかったんですが……だんだん幼なじみの彼女の裏の顔が見えてきてしまったんです」



「待突然デートのドタキャンとか、お金を貸して欲しいとか、は全然許せたんですが……シュナは他の男とも遊んでいたようで」

「あー……そういう系か……可愛い子にはありがちかもね」

「話をしてもはぐらかすばかりで、その時は信じてあげようと思ったのですが……仕事が早く終わった日に帰ると、僕の部屋からその……いつもより高いシュナの声が……」

「う……」

「…………」

「……裏切られたという感覚よりも、ただただ悲しくなりました。小さい頃仲良しグループのマドンナだったシュナが、そんな人間に変わってしまったことに」

「……てかスルーしたけど、お金貸してとかデートドタキャンとかもかなりまずいけどね」

「……それらしい理由を言っていましたけど……今となってはすべて嘘だったんだろうな……」

「……要するに、浮気をされて女が信用できなくなって、怖くなったのね」

「……そうです、隊長……自分でも情けないと思います。ただの浮気くらいでこんな……全ての女性が怖くなってしまうなんて……」

「……起こった事象をどう受け止めるかは人それぞれでしょ。でもその理由だと……私たちにはどうすることもできないわね」

「うーん……まあそうかもね……幼なじみに裏切られたってのは普通の浮気と違うところかもね……」

「…………」

思い出して辛くなったのか、カイトは俯いてしまった。
リザもスズも、それ以上の言葉が出ない。
生半可な優しさでは、彼を癒すことはできないと理解しているからだ。



3人の間に訪れた沈黙を破ったのは、リザのスマホだった。

ジャジャジャジャーン!ジャジャジャジャーン!
「あ……エミリアから連絡」

「……なんでリザちゃんの着信音、ベートーベンの運命なのぉ……!あ、やばい笑いそ……!」

「……目が覚めたのですか?」

「……そうみたい。出撃の準備もしないと。……息抜きは終わりだね」

「……お2人にお付き合いいただいたのに結局克服はできませんでしたが、必ず戦場では活躍してみせます」

「ねぇねぇカイトくん、私でよかったらなんでも相談してね!恐怖症克服のためなら手繋いだりハグしたりとか、いつでもしてあげるよ♪」

「……け……検討させていただきます……」

770名無しさん:2020/08/02(日) 15:02:27 ID:???
コトネ配下のアキナイ三姉妹は魔物兵の軍団に囲まれ、窮地に陥っていた。

「はぁっ……はぁっ……キリがないですね。
叩いても叩いても、まだこんなに汚れが……きゃあっ!?」

必殺の殴打武器『柊埃叩(ヒイラギハタキ)』を使う、三女ヒイラギ。
三人の中では前衛担当の彼女だが、オーガやゴーレムなど怪力自慢の魔物を立て続けに相手にし、
疲弊した所を大型豚獣人に捕まってしまう。

「ぐっへっへ……やぁっと捕まえたでゴワス。はたしてわしのサバ折りに耐えられるでゴワスかな」

【オーク・スモウレスラー】
脂肪と筋肉に覆われた巨体を持つ、豚型の獣人。
スモウと呼ばれる東洋の武術を使い、女の子に対しては「サバ折り」と呼ばれる技を好んで仕掛ける。

(ぎりぎりぎりぎりっ!!)
「ん…ぐっ………う、ぁああああああああぁっ!!!」

オークの太い腕で腰を強く締め付けられ、ヒイラギの背骨が大きく反り返る。
さらに並のオークの2〜3倍はあろうかという巨体でのしかかられ、ヒイラギはたまらず膝をつく。
これがスモウの取組なら、この時点で勝負ありだが……ここはルール無用の戦場。
地獄の拷問技は、むしろここからが本番である。

(ぎちぎちぎちぎちぎち………ぐぎっ………)
「はっ………はなし、なさ……っう、あっ……!!」
「ひひひ……わしらの仲間をさんざん叩いてくれた礼。たっぷりさせてもらうでゴワスよ」
腰、膝に凄まじい体重がかかり、反撃どころか身動き一つとれないヒイラギ。
オークは獲物を簡単に壊してしまわないよう、締め上げる力をじわじわと強めていく……

………………

「くっ………ヒイラギ、今助け……あう!?」
(じゅるるるるる!!)
「ぐひひひひ……そうはいかないタコ。伝統のタコ触手の餌食にしてやるタコ」

算術により魔法を強化する魔導具『榎算盤(エノキソロバン)』を使う、次女エノキ。
魔法を得意とする彼女だが、次々と押し寄せる大量の魔物を前に、魔力が底をつきつつあった。
呪文詠唱の隙を突いてエノキに襲い掛かったのは、大ダコ型の魔物兵である。

【ドレイン・オクトパス】
獲物を触手でからめ捕って魔力を吸収するオオダコ型の魔物。
ミツルギ近辺にも古くから生息しているが、魔物兵に改造され更に吸引力がアップしている。

(じゅるるるる……ぴたっ くちゅ ちゅぶっ……)
「き、気持ち悪い……やめてくださっ……ひあぅ!?」
必死に振りほどこうとするエノキ。だが触手は素早く服の隙間から入り込み、吸盤で吸い付いて離れない。
魔法で攻撃しようとすると、タコの吸盤が淡く発光して、集中した魔力が霧散してしまう…

「く、うぅ…魔力が吸い取られてる……!?……これは一体……」
「乳首、クリトリス、おへそ、腋……お前の一番弱いところはどこタコ…?
…そこからお前の魔力、根こそぎ吸い取ってやるタコ……ヒッヒッヒ」
「そん、なこと、させなっ……『サンダーブラス……」
(じゅろろろろろろっ!!)
「っあああああっ!!!」
「抵抗は無駄タコ……空になるまで魔力を吸い取ってから、踊り食いにしてやるタコ。ヒッヒッヒ……」

771名無しさん:2020/08/02(日) 15:08:28 ID:???
「エノキ!ヒイラギっ!!…そんなっ……!!」
(私のせいだ…!…私がもっと早く、撤退の決断を下していれば……)
「ゲッヘヘヘ…人間の小娘の割には中々の使い手じゃが、これだけの数の魔物兵には敵うまいて」

風を起こす魔導具『椿張扇(ツバキハリセン)』の使い手、長女ツバキ。
中衛として他の二人をサポートし、司令塔の役割を担う彼女だが、
怒涛のごとく押し寄せる魔物たちにより孤立させられてしまっていた。

「………たかが女三人相手に、よくまあこんなにゾロゾロと……あきれて、物が言えませんね」
「ここは戦場だ!殺し合いをするところだぜ!」
「男も女も関係ねえ…むしろ女の子いっぱい出てきてほしいです!」
「オレらは戦うのが好きじゃねぇんだ…リョナるのが好きなんだよォォッ!!!」

「こんな奴らに、コトネ様やエノキ達を好き勝手させるわけには……そこをどきなさい!!風遁・練空暴風弾!」
「ゲヘヘヘ!!そうはさせんゲェェ!!」
(ドゴッ!!)
「きゃあぁっ!?」

いきなり背後から突進してきた魔物に、ツバキは吹っ飛ばされた。
うつぶせに押し倒され、起き上がる前に背中にまたがられてしまう。
もがくツバキの視界の端に映ったのは、緑色の、大きな亀のような甲羅を持つ魔物だった。

【カッパ】
ミツルギ近辺に生息する魔物。頭に皿があり、体表は緑色で、背中には甲羅を背負っている。
川、沼などに住み、近くを通った人間に襲い掛かる。

「ゲヘヘヘヘヘ……安産型の、なかなかいい尻じゃ。極上の尻子玉が取れそうじゃゲ!」
(じゅぷっ)
「し……尻…?……一体何の、きゃぅ!?」
(ぐっちゅ……にちゅっ……じゅぷっ)
「あ、ひんっ!!なん、です、これ……!?……ふあぁっ、ぁぁああぁぁあぁっ!!」
(う、うそ………お尻に、魔物の手が……こんなの、ありえない……!!)

カッパはツバキの菊門に腕を突っ込み、その中を乱暴にかき混ぜ始めた。
なんと肘の辺りまでがお尻の穴に突き入れられている……もちろん、こんな事が物理的に可能であるはずがない。
魔物の能力によって無理矢理ねじ込まれているのだ。

そして、ツバキの……実際には人体に存在しないはずの『尻子玉』を、
ヌメヌメする粘液で覆われた手でがっちりとつかみ取った。

(ぎゅむっ………ぞわぞわぞわ……むぎゅっ!!)
「ゲヒヒヒヒヒ……柔らかくてスベスベしとるのう。弾力も………極上!」
「えひ!? 、あ、ひょん、な…!
…それ、だめ、ニギ、ら、ないれぇ………あんっ!!」
「思った通り、えぇ尻子玉じゃ。どれ……引っこ抜いて喰う前に、堪能させてもらうとするか」

全身を、魂ごと、文字通り掌握されたかのような恐ろしさ、そしておぞましさ……
ツバキが今までに感じたことのない感覚だった。

(ぬるり………くちゅっ)
「あぅぅ………!!……ひあぁっ……や、めて……それ、らめぇ………」
『尻子玉』を軽くなでられているだけで、身も心も蕩けそうなほどに気持ち良い。
全身が疼き、火照り、甘い声が抑えきれなくなってしまう。

「ゲッヘッヘッヘ……まぁだそんな口答えするか。それなら、こうじゃ」
(ギリっ!!!)
「んぎあぁあああああああ!!?……いやぁああああああ!!!もう、ゆるひて、くださ……っぎぅ!?」
強く握られると、今度は全身を粉々に砕かれているかのような激痛が走る。
反撃の意志も、一瞬にしてへし折られてしまった。
『尻子玉』をカッパに握られたら最後……もはや抵抗する事は不可能なのだ。

「こらーエロガッパー!独り占めすんなー!」
「さっさと俺らにも和メイドちゃんをヤらせろー!!」
「「そうだそうだー!!」」
「ゲヘヘヘ……慌てるでないわ。玉を引っこ抜いて、このお嬢ちゃんをフヌケにしたら交代してやるわい。
その後はお前さんたちヤりたい放題。なんでも言いなり、どんな事でもしてもらえるから、
和メイドちゃんにどんなハードなご奉仕も思いのままじゃぞ」
(ぬ、ヌく…?……そんな……触られただけで、こんなに、ダメになっちゃってるのに…
身体から、抜かれたら……私、死んじゃい……いや……もっともっと、大変なことに……?)

「うぉぉぉおおお!!マジか!?さっさとしろジジイ―!!」
「俺的には多少抵抗してくれた方がそそるんだけどなぁ」
「でもメイドちゃんのご奉仕ってのもいいな……ぐへへへ。俺の鬼チンポもしゃぶってもらえるかなぁ」
「オイオイそれこそ物理的に無理だっつーの」
「「ガハハハハハハハハ!!」」

「ゲッヒッヒッヒ……仕方ない奴らじゃ。では十分熟成できた頃合いじゃし、そろそろいただくとするかの。
カッパの大好物と言えばキュウリじゃが、人間の尻子玉も、これまた美味でなぁ……」
「い、いやぁ……もう、だめ……助けて……コトネ様ぁ……誰か……!」

772名無しさん:2020/08/02(日) 15:13:00 ID:???
カッパに押し倒され、尻子玉を弄り回されて息も絶え絶えのツバキ。
いよいよ最期かと思われた、その時。

「ほぉ、尻子玉ねぇ……そういや、もう一つ。カッパの特徴と言ったら……」
(ガコンッ!!)
「ゲヒッ!?」
「確か、頭の皿を割られると死ぬんだったよな?」
「!……あ、貴方は………」

(バキッ!!!)
「グ、ゲ……なに、もの……ゲ……!」
「それとも甲羅だったか……まあいいや。無事か?」
「…ザギ様……!……は…はい………!」

音もなく現れた『討魔忍五人衆』ザギの鉄拳が、一撃(二撃)の元にカッパを葬り去る。
カッパが息絶えると同時に、カッパの腕はするりとツバキの身体から抜け落ちた。

「うわぁぁぁあああ!!なんか野郎が出てきたぁぁー!!」
「くっそがぁあああ!!なんだよこの胸糞展開!!」
「カッパなんか無視してさっさと全員でやっとくんだったぁぁぁぁあ!!」

(発狂ポイントがわかりみ深いすぎるんだが……まあいいや、どうせ敵だし)

「くっそぉお!!おい!ヘビメタ野郎!!
この人質の命が惜しかったら、大人しく退場しやがれ!!」
「うぐ……あ……ザギ様っ……」
「私達の事より……早く、コトネ様を……!」
魔物たちが、捕らえたヒイラギとエノキを盾に取って迫る。

「ふん。誰がお前ら雑魚の言う事なんざ聞くかよ……討魔忍五人衆を舐めんなっ!!」
ブオンッ!!ドスドスッ!!

「「グゲェェェェッ!?」」
目にも止まらぬ速さで手裏剣を投げ放ち、ヒイラギとエノキを捕らえていた魔物を仕留めるザギ。
ちなみに………

「さ、流石ですザギ様……あの距離で、正確に人質を避けて敵を射抜くなんて」

(……俺、あんま手裏剣投げ得意じゃねーんだよな。こんな所で『能力』使っちまったぜ)

ザギは『忍法タイムエスケープ』という時間を巻き戻す術を使えるので、
うっかり手が滑って手裏剣が人質に直撃してしまった場合でも、やり直すことが可能なのだ!

「コトネのアホは、ザギの爺さんと合流したから安心しろ。
あとは……あの雑魚どもを片付けるだけだな」

「ぐっ……なんて奴だ……」
「これ、数で勝ってるからってイキって戦ったら全滅するパターンじゃねーか…?」
「こうなったら……巫女さんのいるポイントAに全てを託すしかねえ!!」
「そういやそうだな!先に他のやつらも行ってるみたいだし、こうしちゃいられねえ!」
「「「ちくしょーーー!!覚えてろよぉおおお!!」」」

やる気満々のザギに恐れをなし、というか本命の事を思い出し、
魔物たちは一斉に逃げ出していった。

「やれやれ……ま、指定のポイントには誘い込めたみてーだし、追っかける必要もねえか。
俺らは一旦引き上げだ。えーと………(…こいつら三つ子だから、誰が誰だかわかんねーな)」
「エノキとヒイラギです。そちらはツバキ」
「おお、悪ぃな覚えてなくて。立てるか?ツバキ」
「えっと…………その。申し訳ありません。まだ体に力が……」
「ま、カッパに相当やられたみてえだし仕方ねえか。よっこいしょっと」
「…………!…」

ザギに抱きかかえられるツバキ。
尻子玉を抜かれかけた後遺症か、それとも別の要因か……
心臓が早鐘のごとく高鳴り、ザギの顔をまともに見られなかった。

773名無しさん:2020/08/10(月) 11:24:25 ID:???
トーメントとミツルギの戦いの最前線。そこでは作戦通り、五人衆の中でも武闘派のシンとラガールが暴れまわっていた。

「秘奥義、鳳凰美田!」

ラガールがなんかカッコいいポーズを取ったら酒で形成された鳳凰っぽいエフェクトが出てきて、低空飛行していたワイバーンやドラゴンナイトをなぎ倒していく。いぶし銀っぽい技が多かったのに急に鬼滅っぽくなったとか言ってはいけない。

「滅殺斬魔!」

シンは敵陣の中でも一際巨大な多頭龍に肉薄すると、シフトを交えて一瞬でその8つの頭を全て斬り落とす。

「ひいぃいい!!最強のドラゴン軍団がぁああ!!」

「誰だよ圧で押せば勝てるとかポーカー素人みたいなこと言い出したのは!」

「とにかく一旦退け、退けえええ!!」

貴重なドラゴンタイプの魔物を雑草のように刈られた指揮官は、これ以上の損害にビビッて撤退する。
シンとラガールは深追いせずに、刀にべっとりと付いた血を拭いながら休息に入る。

「ふぅ、先方が根負けしてくれて正直助かったぞ……こちらの体力も無尽蔵ではないからな」

「アア」

ラガールは酒を飲み、シンは腕を組んで体力回復に努めているうちに……本陣から合図の狼煙が上がる。

「陽動作戦へ移行か……道理だな、消耗戦はあちらに分がある」

「……ソウダナ」

「ナルビアからの情報や他の忍の目撃では、こちらの方面の指揮官はカペラとのこと。アルフレッド殿やアリサ嬢に任せておけば間違いなかろう」

「十輝星……」

ラガールの言葉を聞いたシンは、顎に手をあてて考え込む。

「ラガール、頼ミガアル」

「ほう?お主の方から頼みとは、珍しいな」

意外そうな顔をするラガールに対し、シンは敵陣の方へスッ、と指を指し示す。

「私単独デ敵陣ヲ掠メルヨウニ突破シ、陽動スル……ソノママ追撃部隊ヲ引キ付ケ、戦線ヲ離脱シタイ」

「一騎駆けとはまた酔狂な……しかも、離脱すると?」

「私ニハ、決着ヲ着ケナケレバナラナイ相手ガイル。ダガ、陛下ヘノ忠義モ果タス。ソノ最善策ダ」

ナルビアからの情報提供で、ある程度十輝星の配置は把握できているが、その中にスピカ……リザの名前は載っていなかった。
リザだけは自分の手で止めたいと思っているシンは、リザを探す為に別の戦場を見に行くことにした。

「……止めるのも無粋、か……あい分かった、陛下には拙者の方から上手く伝えておこう」

「助カル」

そう言って颯爽と馬に飛び乗ったシンは、一刻も惜しいと言わんばかりに、敵陣へ馬で駆けていく。

「なんだぁ!?変な仮面が馬に乗ってやって来るぞ!」

「まるでゴーストオブツシマだ!」

「とにかく迎撃ぃ!」

シンにトーメント兵が魔法や弓矢で攻撃して来る。

「待ッテイロ、リザ……」

周囲から飛んできた魔物兵の攻撃が仮面を掠り、留め具が外れて地面に落ちていく。


「たとえ殺してでも……アンタを止める!」



「仮面の下から美少女が!?」

「まるで2BMODだ!」

「とにかく追撃ぃ!本陣の守りは他の奴に任せとけ!」


どこにいるかも分からない、道を違えた妹。彼女を探すため、シン……ミストもまた、各地を遊撃することになった。

774名無しさん:2020/08/16(日) 06:27:50 ID:73YF2Dn6
「失礼します!ヴェンデッタ第7小隊、ただいま参りました!」

「ああ、来たか。入ってくれたまえ」

シーヴァリア首都、ルネでは来たる進軍に向けて物々しい雰囲気が街を覆っていた。
ヴァーグ湿地帯へとつながる街道は軍の施設が続々と設営されており、一般人の通行も規制されている状態。
大規模作戦の前の大準備も、騎士たちの持ち前の連携力と統率力によってそれほど時間はかからなかった。

その設営の中でもひときわ大きい作戦本部室に現れたのは、唯たちヴェンデッタ第7小隊の面々だった。

「へーここがイグジス部隊長の部屋かー。突貫で作られたからあんまり部隊長っぽい威厳は感じられないねー」

「ルーアさん……この部屋に入ったら口を開くなと言ったはずなのです……」

「あれ、そうだったっけ?忘れちゃってた!てへぺろり☆」

「出た!エルマの屈託のない最&高のハジケル笑顔!新曲のインスピレーションになりそうだぜ!」

「わわわ、み、皆さんちょっと……部隊長の前ですから、お静かに……!」

「ふふふ……みんな仲が良いみたいで何よりだ。ヴェンデッタ小隊のメンバーでここまで明るいのは、君たちくらいかもしれないな」

「えへへ……それほどでもないですよぉニックさあん……」

「唯さん、今のはウチたちへの皮肉だと思うのです……」

この隊に配属される前は暗い性格だったルーアも、段々とツッコミ役が板についてきてしまったのだった。



「さあ、いよいよヴァーグ湿地帯から騎士たちの進軍が始まる。先行している部隊とナルビアの密偵からの情報によると敵はやはり魔物軍。その規模は掴めていないが、逆に言えば掴みきれないということだ。激戦は避けられないだろう。円卓の騎士にも欠員が出ている以上、文字通り総力戦だ」

「確か、ノーチェさんたちは私達と同じヴェンデッタ小隊に配属されているんですよね?」

「ああ。リリス様の勅命によって12小隊の面々は隼翼卿と睥睨卿の救出に向かってもらっている。首尾は上々と伝令もあった。なんでも変な虫に改造されたからセイクリッドのお嬢さんを用意してくれとか……」

「ミライちゃんならなんでも治せちゃいますもんね!」

(……ウチに弟子入りしてきた変な人のことですね)

最近はもはやソウルオブ・レイズデット要因のような扱いのミライだが、彼女もまた余分三姉妹との戦いでは根性を見せた。
その甲斐あってかは不明だが、騎士団の一員として今回の戦いでは前線の後方支援を任されている。



「そして君たちへの司令だが……急ぎ、ゼルタ山地に向かってほしいんだ」

「……え?」

ニックが目をやったホワイトボードに貼られた進軍図には、ゼルタ山地からはナルビアの軍隊と機甲部隊が進軍すると記されている。
唯の視線を確かめたのか、ニックは少し声を潜めた。

「ナルビア……あの国の動きは少し気にかかる。正直なところ、意思を持たない鉄の塊が何台あったところで、トーメントの魔物軍に適うはずがない。シックスデイという幹部たちもいるがその半数は戦闘要員ではない。些か戦力に不安を残しているんだ」

「なるほど……私達がそこに行って、ナルビアの人たちのお手伝いをすればいいんですね!」

「……とまあ、これは表向きの理由だ」

「……え?」

ニックの声がより密やかになる。



「ナルビア……あの国はこの戦争に乗じて何かを企んでいる節がある。君たちには同盟国として戦いに参加しつつ、メサイアと呼ばれる謎の兵器について探りを入れてもらいたい。入手した情報はこのメサイアという通称のみだ。極秘事項のようでそう簡単には聞き出せないだろうが……正規軍ができることでもないからな」

「メサイア……わかりました!ナルビア軍を援護しつつ、情報を集めてみます!」

「……よろしく頼む」



ナルビアの抱える隠し玉兵器メサイア。
その正体がすべてを破壊する最強人造人間であることを知るものは、まだ少ない。

775名無しさん:2020/08/16(日) 06:37:07 ID:73YF2Dn6
所変わってトーメント城、作戦本部室と立て札の置かれた部屋の中では、シアナが戦況情報の対応に追われていた。
机の上には魔法盤が敷かれ、各国の進軍状況と魔物軍の状況が映し出されている。
各戦闘場所に派遣されている伝令役の魔法使いたちが、同じ魔法版に魔力を注いで状況を更新し続けているのだ。

「討魔忍五人衆が全員前線に来て暴れているとは、やはり脳筋集団のようだ。背後からの奇襲にそれだけ対応できるか楽しみだな……」

シアナが魔力を送り、アレイ草原にドラゴンの姿が浮かび上がる。
このように指示を出すことによって、すべての戦況を管理、指示出しをするのが現時点でのシアナの仕事だ。
ミツルギ以外の各国の進軍状況を確認しようとしたとき、部屋のドアがノックされた。

──コンコンコン。

「入れ……って、げっ!」

「…………」

入ってきたのはリザである。彼女の部屋で喧嘩をし恐怖のあまり失禁までしてからというもの、なんだが目が合わせづらい相手であった。
主に男としてのプライド的な面で。

「……な、何の用だよ。お前の部隊への指示は王様から出されるはずで、僕から言うことは何もないぞ」

「王様が、シアナから指示を受けろって。指示内容はシアナに伝えてあるからって言ってた」

「……なんだよ……こんなときにラインなんか見られるわけ無いだろ……」

リザの言う通り、シアナの端末には王からのメッセージが送られている。
これをそっくりそのままリザに送らずシアナから伝えさせるように仕向けるあたり、険悪な状況にあることを知っての確信犯だろう。



「……じゃあお前の携帯に作戦内容を送るから、それで確認しろ。もう行っていいぞ」

「……シアナ」

鈴を転がすようなリザの声に名前を呼ばれ、シアナはゾクッとしてしまう。
その声のトーンが、思っていたより優しいからだ。

「……何だよ」

「この前のことは……私から謝る。シアナの気持ちも知らないで勝手なことを言った私が悪かった……ごめんなさい」

「えっ……!?」

できるだけ見ないようにしていたシアナがリザを見ると、リザは顔が見えなくなるほど深々と頭を下げて謝っていた。

「や、や、やめろよっ!別にもう怒ってもないし、お前の言う通り両成敗で終わったことだろ……何で今更謝ってるんだよ……」

「……私、この戦いで死ぬかもしれないから……少しでも未練はなくしたくて」

「はぁ……なんか前よりメンヘラ度が上がってないか?心配になるからやめてくれないか」

「でも……謝りたい気持ちは本当だから……素直に受け取って欲しい」

「っ……わかったよ……ぼ、僕も悪かった。女の子をリョナるのは好きだけど、仲間のお前に手を出したのは謝る……ごめん」

「……シアナって、根は優しいよね」

「もう、そういうのやめろよ……照れるだろ」

「……ふふっ」

「……ふん……お前もそうやって笑ってるほうが、何倍もマシだ」

自然に笑みが溢れた様子のリザに、アイナの笑顔を重ねるシアナだった。

776名無しさん:2020/08/16(日) 06:39:27 ID:73YF2Dn6
「笑顔見せるなんて、思ったより落ち着いてるみたいだな。何かあったのか?」

「……別に……落ち着いてなんかないよ。最近はもう普通にしてるのが嫌だから、城の地下で魔物と戦ってばかりだし」

「お前どういう属性を目指してるんだよ……」

最近は城の地下に籠り、ひたすら醜い魔物相手に技を磨いていたリザ。その噂はシアナも耳にしている。
なんでも城の地下に行くとリザの悲鳴が響いて漏れ聞こえるとかで、生の悲鳴を聞こうと一部の兵士が連日通い詰めているらしい。
なんとか映像も撮りたいと一部の有志が隠しカメラを仕掛けようとしたらしいが、地下の魔物たちが危険すぎて泣く泣く断念された経緯もあった。

「私……こんな状態でお姉ちゃんと……ちゃんと戦えるのかな」

「さあな……まあ自分語りは女友達にでもやってくれ。お前の遊撃部隊が向かう場所は……ここだよ」

シアナが指を指したのは、机上の魔法盤に大量の機械兵器が浮かび上がっている場所だった。



「……ゼルタ山地……」

「ナルビアはなにか隠し玉を持っているみたいだ。メサイアという謎のキーワードを諜報員が確認している。実態は不明だが、おそらく機械兵器の一種だろう。同盟国にも秘密にしているほどの……な」

「……そんな情報を漏らしてるなんて、ナルビアらしくないような気がする」

「ああ……もしかしたら外部に漏らすことで、外から探りを入れてほしい誰かがいるのかもしれないけどな」

「……ナルビアも一枚岩ではないかもしれないってことか」

「とにかく。このメサイアについて探ってくれ。別に戦う必要もない。どの程度の規模の平気なのか把握しておきたいだけだからな」

「……了解。エミリアも回復したし、準備でき次第トーメントを発つよ」

「ああ……」

指示を把握したリザが部屋を出ようと踵を返すと、それと同時にシアナは席を立った。



「……リザ!」

「……ん?」

「何があっても……死ぬんじゃないぞ。アトラはお前のことが大好きだし、僕だって……ずっと仲良くやってきたお前がいなくなるのは嫌だ。アイナのことだって神器を使って僕がなんとかしてみせる。だから……」

「……やっぱり、シアナは優しいね」

そう言い残し、リザは部屋を後にした。

777名無しさん:2020/08/16(日) 21:04:13 ID:???
「はぁっ……はぁっ……すっかりはぐれてしまいましたね。
…ヤヨイちゃん達は、大丈夫でしょうか」

一方アレイ草原では、ササメが一人、魔物の大群を相手に奮闘を繰り広げていた。

「ヒャッハーー!!見つけたぜ雪女ちゃん!」
「もうすっかり夏になっちまったし、その雪見大福おっぱいで涼しくしてほしいぜ!!」
「むしろ暖めてやるぜ!中からドバっと!!」

「た、確かに近ごろ暑いですが……みすみすあなた方に倒されるほど、私は甘くありません!」

「グワーッ!」「ギャーーー!!」

迫りくる魔物を、忍術と冷気で次々倒していくササメ。
だが、いくら倒しても敵は次々に集まってくる。

それもそのはず。
雪人の城でのササメの活躍(リョナられぶり)、特にリョナの鐘の一部始終は雪人達の手で
動画サイトにも投稿されていたため、トーメント勢の間でも噂になっているのだ。

今やササメは討魔忍の中では七華に次ぐ人気があり、前線に出ようものなら真っ先に狙われるのである。

「くっ……怯むな!雪人がこの暑さで弱ってないはずはねえ!」
「人海戦術おしくらまんじゅう作戦だー!!」
「野郎同士で密なんて嫌だが仕方ねえ!」
「おしくらまんじゅう!押されてなけわめけー!」

無数の魔物が今のご時世など気にするかとばかりに密集し、一斉にササメに襲い掛かった。
みんなで集まって暖め合えば寒さだって怖くない!

「こ、これは……!」
ものすごい数の魔物に迫られ、さすがのササメも一瞬怯んだが……

「お、ササメ先輩いたいたー!大丈夫ですか!?」
「なんか敵が集まってるし、派手に吹っ飛ばしちゃうよー!!『爆裂☆スターマイン』!!
ズドオオオオオンッ!!

「「「グワーーッ!!」」」

「ヤヨイちゃん、ナデシコちゃん!…助かりました!」

……ヤヨイとナデシコが駆け付け、密集した魔物を花火爆弾で一網打尽に片づけた。

「そろそろ、例の魔物一か所に集めて一網打尽作戦が始まる頃でしたね……詳細な情報は狼煙で伝えるそうですが」
「うーん。ここからじゃ、狼煙が見えないですね。ちょっと敵陣深くに入りすぎたかな」
「だねー。じゃ、一回本陣に戻ろうか? 地図によるとー、こっちの方角に突っ切っていけば早いよ!」

「……この『ポイントA』という所を通っていくわけですね。
ちょうど私もかなりの冷気を使いましたし、休憩したかったんです」
「実は私らも、ササメ先輩を探して走り回ってたんで、そろそろ戻ろうかなーって」
「アタシも、でっかい花火爆弾あらかた使い切っちゃったし!丁度よかったね!」

……というわけで。

三人はフラグ的な発言をしていることに気づかないまま、
味方の作戦によって大量の罠が仕掛けられ、敵が集中して集められている「ポイントA」に
足を踏み入れる事になるのだった。

778名無しさん:2020/08/23(日) 13:32:23 ID:???
トーメント王国との決戦を間近に控えた、ナルビア王国。
その中枢部、オメガタワーにある、とある研究室で……

「ねぇ〜……お願い。……いいでしょぉ?」

甘い猫なで声を上げているのは、ナルビア王国軍第1機甲部隊師団長、レイナ・フレグ。
キャミソールの肩紐をずらし、「シックスデイのお色気担当」の自称に恥じない健康的な肢体を極限までさらけ出している。

「……だだだだだ、ダメだ!!……いくらレイナの頼みでも、これ以上は……」

誘惑している相手は、椅子に座った白衣の青年……
オメガタワー研究開発部門総括にして、レイナと同じシックス・デイの一人、マーティン。

レイナに少なからず行為を抱いていて、しかも女性にほとんど免疫を持たない彼だが、
今回ばかりは理性を総動員し、必死に誘惑に耐えていた。

「『ライトニングメタルスーツ』のこれ以上の強化改良は無理だ。
体への負担が大きすぎる……下手すりゃ死ぬぞ!」
「だ〜からぁ。上手くやる、って言ってんじゃん。こんなに頼んでもダメなのぉ?」
レイナはマーティンの腕にしがみつき、胸を押し付けた。
上目遣いで見つめられ、マーティンの気持ちも一瞬ぐらつきかけるが……

「…何べんも言わせるな…!…ダメなもんは、ダメだ……!!」
レイナの身を案じ、首を横に振る。
マーティンのレイナへの想いは、……少なくとも、一瞬の肉欲に流されないだけの強さはあった。
しかし。

「へー………ヒルダちゃんの事は、ふつーに改造したくせに」
「え?あ、あ、いや、ボクチンとしてもそこは、立場上仕方なくだな……」
「……それで、メサイアさえいれば、アタシらはもうお払い箱ってわけね。よーくわかった」
(ドカッ!!)
「いや、べ、べ別にそういうつもりは……うおご!?」
レイナはマーティンから離れると、座っていた椅子ごと思い切り蹴り倒す。

「もういい!アンタには頼まない! 一生一人でセンズリこいてろ、このフニャチン野郎が!!」
「……………ん、ぶっ………あ、っが、……おい、待て……!」
悪態を吐き、部屋を飛び出すレイナ。
鼻血を白衣の袖でぬぐいながら、マーティンはその後姿を見送るしかできなかった。

………………

「ふっふっふっふ……どうやら、フラれちゃったみたいねぇ」
「………。」

研究室を出て、自室へ続く薄暗い廊下を歩くレイナに、声をかけたのは……

ミシェル・モントゥブラン。
ナルビアの研究者エミル・モントゥブランの妹であり、
元はトーメント王国の支援を受けて活動していた、マッドサイエンティスト。

「ま、こうなることは想定内だけど……大丈夫よ。
私が言った通り、例の『ブツ』は仕掛けて来てくれた?」
「ええ………アイツを蹴り倒したついでにね」
「OK。これで、そのナントカ君の研究データを手に入れることができる。
そのホニャララスーツとかいうヤツ、私がいくらでも強化してあげる」

エミルがどさくさに紛れて亡命を手引きしたおかげで、
ミシェルの存在は、ナルビアでは限られた人間しか知られていなかった。
だがミシェルはその立場を逆手に取り、こうして『使えそうな人間』に接触を図っていたのだった。

「アンタみたいな胡散臭い奴に、頼りたくはなかったけど……
マーティン君が使えない以上、アンタにやってもらうしかなさそうね」

研究を危険視され、トーメントを追われたミシェル。
メサイアの出現により、ナルビア国内立場を脅かされつつあるレイナ。

二人が密かに手を組んだ事によって、トーメントとの戦い、そしてナルビアの勢力図は、どのように変わっていくのか……

779名無しさん:2020/08/23(日) 18:38:57 ID:???
「久しぶりね、アリスちゃん、エリスちゃん。
アーメルンで会った時は、色々世話になったわね?
まあココは一つ、お互い様って事で水に流しましょ。フフフフ…」

オメガタワー内、訓練施設にて。
ミシェルは開発中の強化スーツの『装着者候補』を密かに呼び集めていた。
レイナと………そして、アリスとエリス。
レイナと同じシックスデイのメンバーである。
二人は以前、任務中にミシェル達と遭遇し、戦ったこともあった。

「レイナ。一体どういうことだ……こんな胡散臭い奴が作った物を、着て戦えと?」
「そういう事。今のままじゃ、メサイアの下っ端に甘んじたまま……
それどころか、トーメントの連中にもヤられちゃいかねないからね」

「!!私たちが、トーメントごときにだと!?……レイナ!私達をバカにしてるのか!?」
レイナの無遠慮な言い草に、エリスはかっとなった。
……それは、心中で密かに抱いていた不安をずばりと言い当てられたから、かもしれない。

「本当のことを言っただけよ。納得いかないなら、試してみる?
今のエリスちゃんの実力が、どの程度のレベルなのか」
「貴様ぁっ!!」
「いけませんエリス!!落ち着いてください!」
挑発され、一触即発状態のエリスを、アリスが必死に止めに入る。

「まあまあ……いいんじゃない?
私としても、ちゃんと納得してから判断してもらいたいし……
それに。思いっきりぶつかり合わないと、見えてこないものもあるものよ。フフフフ」
(くっくっく………笑っちゃうくらい予想通りの反応。
ほんと、レイナちゃんから聞いてた通りの子ね。……転がしやすそうだわ)

……ここまでは計画通り。わざわざ訓練場に呼び寄せたのもこのためだ。
図星をついてエリスを怒らせ、しかる後に………己の立場を叩き込む。

「レイナ。私がお前の目を覚まさせてやる……アリス。手を出すなよ!!」
「やめてくださいアリス!まさか、本気で戦うつもりですか!?」
「べっつに、二人一緒でも構わないんだけどなぁ……
ま、アリスちゃんもじっくり見ておくといいよ。
あなたたちが今、どれだけインフレに置いてかれてるのかをね。
………『雷装!』」

レイナが金色のブレスレットを掲げて叫ぶと、稲光と共に黒地のインナースーツと金色のプロテクター姿に変身した。

780名無しさん:2020/08/23(日) 18:40:54 ID:???
「出でよ!テンペストカルネージ!!…たあああああっっ!!」
2本の長槍を手に、レイナに飛び掛かるエリス。
嵐をまとった攻撃を、レイナは金色に輝く二本のブーメランで受け止める。

(グオオオオオンッ!! ガキン!!ビシッ!!)

過去の訓練データによれば、二人の総合的な戦力はほぼ互角。
レイナの従来の戦闘スタイルは、機動力を生かして距離を取りながらの遠距離戦タイプ。
近距離での戦闘はエリスに分があった。

だが今は………

「ふーん。やっぱ、こんなもんかぁ……
こうしてみるとエリスちゃんって、案外動きが荒いっていうか……」

(バチィッ!!)
「なっ!?消え……」
レイナのアーマーが煌めくと、一瞬にしてその姿がエリスの眼前から消えて…

「……けっこう隙が多いよね。
ちょっと速く動かれただけで、まるで対応できなくなる」
(ドカッ!!)
「うぐっ!?」
次の瞬間、レイナが背後からのミドルキックをエリスに叩き込んでいた。

「が、は………黙れっ!!
アーマーだか何だか知らないが、そんな奴に頼って強くなろうなんて……」

(ブオンッ!! ガキンッ!! キンッ! ドカッ!!)

力任せに槍を振り回すエリスを、軽くいなしていくレイナ。
傍から見ていても、二人の実力差は歴然だった。パワー、スピード、反応速度……すべてが別次元。
横で見ていたアリスも、レイナのスーツの性能を認めざるを得なかった。

「武器と身体能力に頼りすぎてるのはエリスちゃんの方じゃん?
はい、また隙あり」

(ズドッ!!)
「あ、っぐ……がは!!」
エリスの脇腹に、ボディブローが突き刺さる。
更に………

「エリスちゃんの方こそ、早いとこ目ぇ覚ましなよ……『スパーキングフィスト』!!」
(バリバリバリバリッ!!!)
「っぐおあああああああぁぁぁぁっ!!」
強烈な電撃が、エリスの体内に打ち込まれる。
激しいショックと、少し遅れて内臓を焼かれるかのような痛みが全身を駆け巡り、
日々苦痛に耐える訓練を積んできているはずのエリスの口から絶叫が漏れた。

「エリスっ!! レイナさん、もう止めてください!!」
「く、るな……アリ、ス……私はまだ、たたか、え……」

(ドスッ!!)
……立ち上がろうとするエリスに近寄り、レイナはその背中を踏みつけた。

「まったく、何を意地になってるんだか……
言っとくけどあたしだって、ミシェルちゃんが何か企んでんのは百も承知よ?
それでも、あたし達は……生き残るためなら、なんだって利用しなきゃならない。
それがわからないんなら……別に無理にこっちにこいとは言わない。
蹴落とされるその瞬間まで、シックス・デイの座にボケっと座ってなさい」

「ぐっ……!!……わかった。レイナが、そこまで言うなら……」
「決まりだね。アリスちゃんはどうするの?」
「………私も、やります。
私達は……もっと、強くならなければならない。例えどんな手を使っても」

781名無しさん:2020/08/23(日) 20:29:48 ID:???
その数日後。

レイナ、エリス、アリスの三人は、今度はミシェルの研究室に集まっていた。
ミシェルは、エミルからあてがわれた自室の一角を改造し、密かに実験設備を整えていたのである。

「……というわけで、これがあなた達用に作った
『レッドクリスタル・スーツ』と『ブルークリスタル・スーツ』。
急ごしらえだけど、レイナちゃんのスーツと同程度の性能はあるはずよ」

インナースーツの上に赤と青に輝く特殊金属製のプロテクターを装着する構造。
自分たちが最終決戦時に身にまとう事になる、新たな戦闘服を目にしたエリス達は……

「ぐっ……それは、いい。だが……レイナのスーツを見た時から思っていたが、
デザインはもう少しどうにかならなかったのか!? 特にこのインナー……
これじゃほとんど水着じゃないか!!」
……不満たらたらだった。

「は?……いやいやエリスちゃん。今時の水着なんてこんなもんじゃないわよ?
それに結構カワイイじゃない?我ながらいい出来だと思うんだけどなー」
「……エンジニアのセンスは測りかねますが……まあ、仕方ないでしょう。それより」

「ええ……3人がこのスーツを着たとしても『メサイア』には遠く及ばない。
レイナちゃんのスーツも含めて、ここから更なる強化が必要になる。

問題は、装着者が強化したスーツに耐えられるかどうか……でも、それについては安心して」


「……ミシェル・モントゥブラン。……私の方でも、貴女の事は調べさせてもらいました」
ミシェルのテンションが上がって、だんだん早口になり始めた所で、
アリスが口をはさんだ。

トーメントの支援を受けていた頃の、研究内容。
……そして、なぜトーメントを追われたのかも」

「へえ……だったら話は早いわ。人体強化改造なら、私の得意中の得意分野よ」

「!?……レイナ、どういうことだ!聞いてないぞ!!」
「……言ったよ?『生き残るためには何だって利用しなきゃならない』って。
エリスちゃんこそ言ったはずだよね?『わかった』って。」
「っ……!!」

「今後のスケジュールを説明するわね。
まず、私が開発した『人体自動改造システム』で、
三人が改造強化スーツに耐えられるよう段階的に肉体強化していく。
その間に、私は三人分のスーツの改造。
これは、元々の設計者であるマートン君?が理論上は考えててくれたみたいだから、
そのデータをもとに私がチョイっと手を加えれば……まあ、『本番』までには間に合うと思うわ」

「人体自動改造…?…また、とんでもない物を開発してるな……」
「うっわ〜……やっぱそれって、痛かったりする?」
エリスだけでなく、レイナも流石に少し引いていた。
具体的に何をどう改造するのか、知らずに改造されるのは嫌だが、知るのも怖いような。

「……わかりました。お二人が気が進まないようなら、まず私から」
その時。アリスが横から進み出て、改造手術の生贄…実験体、もとい、対象者として名乗りを上げた。

「あら、アリスちゃんだっけ?この中じゃ一番大人しそうに見えたのに、けっこう大胆ね」
「アリス!?…一体何を考えてるんだ!? コイツに何をされるのか、わかったもんじゃないんだぞ!!」
「……エリスちゃん、さっきからズイブンな事言ってくれるわね」
唐突なアリスの提案に、驚きを隠せないエリス。
マッド扱いは慣れているとは言え、流石にムッと来るミシェル。

「……別に、何も考えていませんよ。ただ……

今のヒルダさんは……人の形を保っているのさえ奇跡的な程で、常に大量に薬を服用していなければ危険な状態。
彼女一人にこの国の命運を背負わせるのは……それを『あの人』だけに支えさせるのは……余りにも酷です。

彼女の……『あの人』たちの負担を少しでも減らすにも、私はもっと強くならなければならない。
そのためなら………どんな事だって、してあげたい。

……ただ、それだけです」

「アリス………お前、そこまで………」
アリスがリンネにされた仕打ちを、エリスも知らないわけではなかった。
それでもなお、献身的にヒルダやリンネの役に立とうとするエリスに、
アリスはそれ以上何も言えなくなってしまった。

(ふ〜〜ん。メサイアのお付きの男にホの字(死後)ってのは調べがついてたけど……
なかなか面白い子ねぇ。 っていうか……いぢめがいがありそう)
「……いい覚悟ね。戦争が始まるまで日がないし、さっそく強化改造を始めましょう。
エリスちゃんとレイナちゃんはその間、スーツを着て実戦訓練でもしてるといいわ」

782名無しさん:2020/08/23(日) 21:44:06 ID:???
エリスとレイナが訓練場に行き、実験室にはミシェルとアリスの二人きりになった。

「じゃ、始めましょうか。まずは服を脱いで。あ、脱いだ物はこの籠にどうぞ」
「……はい………」

薄暗い部屋の中、アリスは言われるがままに、軍服の上下と、ブラウス、
そして飾り気のないブルーの縞模様の下着を脱いでいく。

きめ細かく手入れされた肌、控えめなサイズのバスト、きれいなヴァージンピンクの秘処。
同性相手とは言え、間近で誰かに観られていると思うと、
流石に羞恥心が沸き上がってくるが……なるべく表に出さないようにしながら、
アリスは脱いだ服を綺麗に畳んで籠に入れた。

「…………。」
「じゃ、そっちの台に寝て。『人体自動改造システム』起動!……」
産まれたままの姿で、小さなベッドの上に寝かされたアリス。

(ガシャンッ!! ガシャン!ガシャン!!)
ミシェルが端末を操作すると、アリスの手首、足首に金属製の枷がはめられた。
先端にハケのついた無数の機械腕が、アリスの身体にゆっくりと近づいてくる。

「なっ……!…これは…!?」
「あら、ごめんなさい。手術中に動いたりしないように、そうやって固定する仕組みになってるの。
それと……全身に、薬を塗ってあげるわね。心配しないで、ただの筋弛緩剤よ」

淡々と説明するミシェル。顔はアリスの方に向けないが、
その表情は嗜虐心に満ちたニヤニヤ笑いを隠そうともしていなかった。

(ウィーン………)
(ねとっ………)
(にゅるるるるっ)

「え……は……はい、………ひっ!!…」
薬が必要だとしても、なぜわざわざ筆で、皮膚から塗り込めるのか。
若干の違和感を覚えないではなかったが、アリスは素直にミシェルの言う事を聞き、
無数の機械腕に、己の身を晒す。

(ぬちゅっ……)
(つるっ)
(さわさわさわさわ)
「んっ……あ、ん…!………く、うぅ……ひんっ……!!」
……全身にくまなく、乳首の先端やおへそ、クリトリスなど、敏感なところは特に念入りに。
何十本もの細い筆で体中を弄ばれていくうちに、ミシェルが言っていた通り、
アリスは次第に四肢に力が入らなくなっていくのを感じた。

「はぁっ……はぁっ……」
「ふっふっふ……まだまだ行くわよぉ……」
「ふ、ひ……ちょっと、待ってくだ……ふああああああぁっ!!」
ミシェルは明かさなかったが、筆で塗られた薬は、ただの筋弛緩剤だけではない。

全身の感覚を鋭敏にする成分や、肉体を昂らせる媚薬成分、強力な利尿剤など、
これから始まる手術を盛り上げるため、様々な……
世間一般では『劇薬』『違法薬物』『毒』に分類されるようなものも含めて、多種多様な薬品をアリスの全身に塗りこめていた。

783名無しさん:2020/08/23(日) 21:49:43 ID:???
(ウィーン………)
(ガチャリ………ガチャリ………)
「っ…ぅ……ぁ………」
『準備』だけで息も絶え絶えなアリスに、再び機械腕がまとわりつく。
アリスの全身にコードのついた金属板……電極を取り付けていく。

「さ〜て、大丈夫かしら?アリスちゃん。手術はこれからが本番……
全身の筋力を強化するため、その電極から強力な電流を発生させて、
まずはアリスちゃんの全身の筋肉をズタズタに破壊するわ。
続いて、これまた全身に、栄養剤と治癒促進剤、筋肉と骨組織の強化剤を注射。超回復を促して、筋力を劇的に強化させる。
これを繰り返すことで、最終的にアリスちゃんの筋肉密度は今の20倍くらいにはなるはず……
あ、別に見た目がムッキムキになったりはしないから、そこは安心してね!それじゃ、行くわよぉ〜」

「え……そ、れって……」
……興奮気味に早口でまくし立てるミシェル。
意識朦朧としていたアリスは危うく聞き流してしまう所だったが、
頭から終わりまで、素人にもわかるレベルで尋常じゃない事ばっかり言っている。

「なーに、何か問題でも?……
アリスちゃんさっき言ってたわよね?『どんな事だってする』って。
んじゃ、スイッチオン!!」

(バリバリバリバリィッ!!!)
「…っぐああああああああああーーーーーーぁぁっっ!!!」
電極から一斉に、強烈な電流が放出される。
手足の筋肉を焼き切られていく激痛で、アリスの身体はガクガクと、丈夫な金属製の枷が壊しそうなほど激しく痙攣した。


(……ヒ…ルダ…さんが受けた、苦痛に比べれば………この、くら…い………)
普通ならとっくに気絶、下手すればショック死しているほどの激痛。
だが、機械腕に塗られた数々の薬品のせいで、アリスは無理矢理意識を覚醒させられている。

しばらく後。
筋肉を焼き切られたアリスの全身からは、ブスブスと黒い煙が小さく上がっていた。
そのアリスに、今度は……太く鋭い針のついた、無数の注射器が迫る。

「ぅ……ぁ………い、や………ま、って、くださ………おねが……」

「あ、そうそう。いきなり話は変わるけど……
前にアーメルンで戦った時、アリスちゃんには特に色々とお世話になったわよねぇ。
水に流すって言ったけど、やっぱりここでノシつけて倍返しさせてもらう事にするわ。
ま、優秀な軍人さんなら死んだりはしないと思うけど……もし精神壊れちゃったらごめんなさいね。
ウフフフフフ………」

「っああああぁぁああああ!!……っひぎ、いああああああああっっっ!!!」
心底楽しげな表情と声を向けるミシェル。
だが、苦痛の濁流に吞みこまれたアリスの耳に、その言葉はもはや届いていなかった。

784名無しさん:2020/09/11(金) 23:36:41 ID:???
バチバチバチバチ………ジュウゥゥウウ………
「ひっ……っぐ……ぁ………ううっ……!」
「ごめんなさいね〜、今丁度、麻酔薬を切らしちゃってたの。ふふふふ……」

……狭い実験室内は、肉の焼け焦げる異臭と煙が充満していた。
『人体自動改造システム』に拘束されたアリスは、無数の電磁メスによって切り刻まれ、
様々な薬品をこれでもかとばかりに投与されていく。

「はぁっ……はぁっ……う、っぐぅっ………!!」
「もっと思いっきり出してもいいのよ?…この部屋、ボロっちく見えるけど防音設備はしっかりしてるから」
苦し気に呻くアリスを見下ろしながら、鼻歌交じりに端末を操作するミシェル。
その目的は、実験・研究が5割、個人的な楽しみが4割、本来の趣旨である人体強化はそのついでと言った所だろうか。

「……………。」
「ふふ……我慢は、体に毒よ?」
「……っく、ああああああぁっ!?」
ミシェルは、アリスの股間に指を突き立て、尿道の辺りをそっと撫でる。
薬品によって極限まで感覚を鋭敏にされていたアリスは、異様な感覚に思わず悲鳴を漏らした。
そして……

じょろ………じょぼぼぼぼぼ…………
「っ………!!…」

アリスに投与された大量の薬液、それに含まれていた水分が、尿として排出される。
部屋中に響き渡るような、大音量と共に。
尿道の筋肉も疲労の限界に達しており、一度決壊した流れをせき止めることは出来なかった。

人前ではしたなく放尿してしまった屈辱に、アリスは顔を紅潮させ、身を震わせる。

いや、それだけではない……放尿するときに感じてしまった、全身が電撃に打たれたかのような得も言われぬ快感。
その瞬間、全身が骨抜きになり、自分自身に何が起きたのかわからず、思考が真っ白になっていた。
一体目の前にいる女科学者は、自分の身体をどのように変えてしまったというのか。

一方のミシェルは、排水溝に流れ落ちていくアリスの小水を指先で本の一滴すくい上げ、舌の上に転がす。
「ふむふむ……さすがのアリスちゃんも、だいぶ参ってきたみたいね。今日はこの位にしておきましょうか」
……尿はその者の体調を明確に表すバロメーター。
アリスの体調を一瞬にして読み取り、手術……いや実験の終わりを告げた。

「…く………大、丈夫……私は……まだ……耐えられ、ます……!」
「黙りなさい。貴女の身体の事は、私が一番よく理解っている……貴女自身よりもね」
(つぷっ)
「いぎあっ!?」
「貴方のカラダの中……今、どれだけグチャグチャになってるか。自分じゃわからないでしょ?ふふふふ」
股間に突き立てた指を軽く滑らせ、クリトリス、臍、みぞおち、胸の真ん中までなぞり上げる。
刃物で縦に両断されたかのような激痛に、アリスの喉から甲高い悲鳴が上がった。

「本当は、私の『クラシオン』で治してあげたいけど、今は調子が悪いから……こっちで我慢してね。」
(どろっ………ぐちゅ)
「っ………そ、れは………あぅんっ!?」
(じゅぶぶぶっ………にゅるっ!!)
「はぁっ……はぁっ……そ、そこは、待っ……ひっ!」
……自らの意志で動く、白い粘液……『ヒーリングスライム』が、アリスの身体を覆っていく。
アリスの傷ついた体を、外側だけでなく内側も、隅々まで。

「2、3時間その子たちに身を任せてれば、負傷が癒えて、貴女の身体も前より『多少は』強くなってるはずよ。
治るまで、ここでじっくり見ててあげたいところだけど……こっちもそろそろ『本業』にかからなきゃね」

巨大な白いスライムに呑み込まれていくアリスを尻目に、ミシェルは端末のキーを素早くタイプする。

レイナに仕込ませたバックドアによって入手したマーティンのアクセス権限を使い、
オメガタワーの中枢へとアクセスするミシェル。
アリス達の新スーツ開発用AIプログラムを起動する。
CPUをフル稼働させれば、どんな鉄壁のセキュリティを誇るコンピュータでも、必ず綻びが生じるはずだ。

「ナルビアの切り札、『メサイア』の研究データ。
それを手に入れて、私の意のままに動かせるようになれば……この国の全てを掌握したも同然。
私を切り捨てたクソ王や、私のシュメルツとクラシオンを奪ったレズ女に、目にもの見せてやるわ………」

薄暗い研究室の中で、野望に目を輝かせ鍵を叩く女狂科学者。
その傍らで、白濁した粘液の塊の蠢く音と、弄ばれる少女の押し殺すような声だけがいつまでも鳴り響いていた。

785>>761から:2020/09/21(月) 15:45:28 ID:???
「あ……あの場って……こんな所なの…!?」
「ええ……あの子は、辛いことがあった時、いつも……あの塔の上から、街の景色を眺めていました」

フウコと瑠奈がやってきたのは、ムーンライト城で最も高い尖塔の頂上。
今は夜という事もあり、人気は全くない。

『今宵、あの場所で待つ』
手紙によれば、もうすぐこの場所にフウコの弟、フウヤが……王下十輝星の一人、フースーヤが現れるはずだ。
以前の戦いでも、フウコとフウヤはここで再会し……
やはりフウヤを説得することができず、大きな悲劇が起きてしまった。

「とりあえず、尖塔の中に隠れていてください。
私一人じゃないと、フウヤが警戒するでしょうから……」
「わかったわ。私が知る限りじゃ相当ヤバい相手だし…気を付けてね。」
瑠奈は尖塔の中に隠れ、フウコはホウキで尖塔の上空に浮かんで待つ。

不気味な黒い雲が空を覆い、星も月も見えない闇夜。
湿り気を帯びた温い風が肌の上をゆっくりと流れていく。

(光さんも、みんなも言っていた。もうフウヤを改心させるのは無理だって……
でも私は、その時のことを覚えていない。
危険かもしれないけど、やっぱり自分の目で確かめなきゃ……)

弟と戦うべきなのか、止めるべきなのか。
もし今のまま戦場で相まみえてしまったら、自分は一体どうするべきなのか。
フウコの心の中には、再び迷いが生まれていた。

だが………

「……久しぶりだね、姉さん……また逢えて嬉しいよ」
「……フウヤ……!?」

目を見た瞬間、フウコは本能的に悟った。
あの目は……今までフウコが出会ってきた、トーメントの兵士たちや、瘴気から生まれた邪悪な魔物と同じ。

女性をいたぶり、体を傷つけ、尊厳を穢すことに悦楽を見出す……リョナラーの目だ。

「あの手紙を見て、来てくれたという事は……
今度こそ、永遠に僕の物になってくれる決心がついたのかい?
それとも……まさか、僕と戦って勝てるつもりなのかな」

「そ、そんなっ!?……そんなんじゃない。
私は、フウヤとは戦いたくないだけなの……
貴方は本当は、誰よりも優しい子だったはずよ!
お願い、優しかった昔のあなたに、もどっ……」

あの目を見ているだけで、体が恐怖に竦んでいく。
必死で紡ぎ出す言葉の全てが空回りして、あの瞳に全てを弾き返されていくのを肌で感じた。

「……何を言っているんだい姉さん?その話なら、前にもしただろう。
君はそんな僕を受け入れ、全てを赦し……僕の物になってくれたはずだ。
まさか……何も覚えていないのかい? その尖塔の十字架で、串刺しにされたことも?」

「!?……そ、そんな……」

……『優しかった昔のフウヤ』は、もうどこにも居ない。
いや、そんな物はフウコ自身が作りだした幻想だったのかもしれない。

「クックックック………なるほど。姉さん、君はやっぱり最高だよ。
君の選択は、二つに一つだと思っていた。
前と同じく僕に屈服し、永遠に僕の物になるか。
あくまで僕らトーメントに抗って、この国と運命を共にするか。
……まさか何の勝算も覚悟もなく、ただリョナられるために僕の前に現れるなんて……」

分厚く黒い雲の間から、血のように真っ赤な月が覗く。
邪悪な気配が、フウコとフウヤの周りの空間と、尖塔を飲み込む。

「今日は、事を荒立てるつもりはなかったんだけど……予定変更だ
姉さんがあまりにも愚かしくて可愛すぎるせいだよ。……クックック」

結界術によって、時の流れが外界と切り離され、結界の外の時間は停止する。
術が解かれるか、内側から結界が破壊されるまで、外からの干渉は事実上不可能になった。

「少しの間だけ、遊んであげるよ。
前にも一度クリアしたゲームだけど……面白いゲームは、何度遊んでもいいものだよね」

尖塔の超常で鋭く尖る鉄製の十字架が、さながら獲物を待つ処刑槍のように、赤い月の光を反射してギラリと輝いた。

786名無しさん:2020/09/21(月) 18:08:12 ID:tx7ft7JM
「………やるしか、ないの…!?………変身!!」
淡い緑色の光をまとい、風の妖精をイメージさせる『魔法少女エヴァーウィンド』へと姿を変えるフウコ。

その戦闘服は、胸の下側やお臍が大きく露出したインナースーツ、
風魔法を使うにはちょっと短すぎるスカートなど、
大人しく生真面目なフウコには少し大胆過ぎるデザイン。
魔力によって視界は良好になり、メガネの代わりに敵の能力を分析するバイザー『エメラルド・アイ』を装備している。

「毒風・鎌鼬!」
「くっ……ウィンドブレイド!」
二人の魔法がぶつかり合い、相殺した。

「やめて……もう、やめてよ……!!
ルミナスのみんなが、フウヤにした事も……私が、フウヤを守れなかったことも……
ぜんぶ謝るから……償うためなら、どんな事でもするから…!!」

「やれやれ。何を言い出すかと思えば……
僕がこの国の魔法少女たちから疎まれてきた事実は無くならないし、恨みが消えたわけではない。
けど今はもう、そんなのどうでもいいんだ。
そんな事より僕は、愚かな魔法少女たちをリョナってリョナってリョナりまくって、
一人残らず毒と汚泥の底に沈めて、その絶望の悲鳴で最高のオーケストラを奏でたいのさ」

「フウヤ……わからない……あなたの言っていることは、メチャクチャよ……う、あぐっ!?」

「そして、姉さん……君も、このオーケストラの一員……いや、誰よりも愛しい君こそが、メイン奏者となるに相応しい」

最初の攻防は互角に見えた。
だがフウヤの放つ毒風の刃は、打ち消したとしても不可視の毒の風となって対象を蝕む。

「がはっ……げほ、ごほっ!!……こ、れは……毒………!?」
「おやおや……まさか僕に会うってわかってたのに、なんの毒対策もして来なかったのかい?
どうやら本当に、この間の事は忘れてしまったみたいだね。だったら……」

(……ガキィィンッ!!)
「う、ぐっ…!!」

フウヤはフウコに急接近し、魔導指揮棒『エアロ・メジャー』で斬りかかる。
対するフウコも、魔導バトン『トワリング・エア』で辛うじて受け止めたが、
その鍔迫り合いで発生した新たな毒が、フウコの身体をゆっくりと侵食していった。

「次の毒は……姉さんは初めてだったかな?全身の骨を弱くする、『ペインシック・フロスト』だ」
「うっ………く、うああああぁっ……!」

フウヤに押されまいと体に力を込めると、それだけで全身の骨がミシミシと悲鳴を上げる。
まるで全身がガラス細工になってしまったかのようだった。

「もう少しして毒が全身にいきわたれば、防御力はゼロになる。
 衣装を速攻で切り刻むタイムアタックじゃなく、バフ・デバフを限界まで掛けてから……
最強コンボのオーバーキルで、最大ダメージ狙いと行こう」

フウヤは黒いオーラに包まれた右腕を振り上げ、左胸に叩きつける。
黒いオーラが体内に送り込まれ、毒々しいワインレッドに変色したブレザーコート姿へと変身…再結合(リユニオン)した。


「ま、まずいわ……何とかしてフウコを助けないと……!」
一方。尖塔に隠れていた瑠奈も、フウヤの作った結界の中に入っていた。
結界内にいる瑠奈なら、二人の戦いに介入できる。
だがフウヤ……フースーヤは、その存在も先刻承知だったようだ。

(ぞわっ………)
「なに…この気配……まさ、か………」

既に尖塔の中は、無味無臭の毒で充満していた。
『アンチバグ・ザ・ソロー』
……それは五感に作用し、大量の蟲に体内を這い回られているような感覚を与える、
瑠奈にとっては最も恐ろしい毒であった。

787名無しさん:2020/10/10(土) 18:04:30 ID:???
尖塔の頂上の小部屋に隠れ、フウコたちの様子を窺っていた瑠奈。
フウヤ……フースーヤが何か怪しげな魔法を使いはじめ、戦いが避けられそうにないとわかった時、
瑠奈もホウキに乗ってフウコの援護に向かおうとしたのだが……

がさがさがさ………ギチギチギチギチギチ……… じゅるっ……ぞわぞわぞわ……
(なっ!?……何、これ……)

……全身を、何かがはい回っている。
小さく、無数の、たくさんの脚が生えた、鋭い爪と牙の生えた、毒のトゲを持つ、ぬめぬめの、ざらざらの、何かが。

「おやおや……姉さんのことだ。誰か連れて来るかも、とは思ったけど……まさか運命の戦士とはね」
フースーヤは塔の中に誰かが潜んでいる可能性を考え、結界の発動と同時に、毒ガスが発生するよう仕掛けていたのだ。

五感に作用し、大量の蟲に体内を這い回られているような強烈な不快感を与える『アンチバグ・ザ・ソロー』。
フースーヤの魔力によって、その幻覚作用はさらに強化され、本当に大量の蟲に襲われているかのように錯覚させられてしまう。

「ひっ……や、やだっ……登ってこないでぇ……あ、脚……こんなにいっぱい……い、いやあああぁっ……!!」

……瑠奈は今、太ももに巻き付いた幻覚のムカデを追い払おうと必死だった。
太さは瑠奈の指2本分くらい。部屋の奥の暗がりや物影から何匹も何匹も這い寄ってきて、
尻尾がどこにあるのかわからないくらい長い。

更に、こぶし大の蜘蛛が何匹も頭上から降ってきて、耳元や胸の上にしがみつく。
芋虫やアリ、ハエや蚊など、他にも無数の虫たちが、足元、あるいは空中から、一斉に瑠奈に群がった。

ぎちぎちぎちっ………ぶぅぅぅぅん………うぞうぞうぞうぞ………
「ひぎ、うぁぁぁぁぁっ……やだ、やだっ………やめ、てっ……い、やああああああっ……!!」

…一匹一匹は小さく、力も弱い。振り払うのはそう難しくはないだろう。

だが、ダメだった。
羽音や鳴き声を聞くだけで全身に鳥肌が立ち、手足が震え、小さな体を更にぎゅっと丸めて縮こまるしかできない。

瑠奈は昔から、虫だけは大の苦手だった。
幼いころは、面白がったいじめっ子たちに虫をけしかけられたし、
唯と出会い、兄たちの勧めで格闘技を習い、性格も明るく活発になって多くの友達ができた今でも、
その恐怖心だけは、どうしても克服できなかった。

どんなに心を鍛えても、技を磨いても、
おぞましい感触に触れ、音を聞いたその瞬間。
瑠奈の心は無力で幼かったあの頃に引きずり戻されてしまう。

「に、げなきゃ……あ、あれ…?…」
心、だけではない。

これもまた、幻覚の作用だろうか。
瑠奈の身体が見る見るうちに小さくなっていく。手足は細く、疎ましかったバストも平たく。
更に、髪は長く伸び、服は、いつの間にか白いワンピースに変わっている。
……瑠奈がまだ幼かったころ、よく着ていたものだ。

(どうなってるの……まるで……こどものころに、もどったみたい……)
わけがわからないまま、瑠奈はホウキを手にして窓に近づいた。だがその時。

…バサバサバサバサバサッ!!
「ひきゃあああぁっ!?」
窓全体を覆うほどの巨大な蛾飛んできて、窓の外側に張り付いた。

瑠奈は思わず後ろに飛びのく。
巨大な目の模様がついた蛾の翅に、睨みつけられたような気がした。

788名無しさん:2020/10/10(土) 18:05:30 ID:???
「や、やだっ……だれか、たすけて……」
尻もちをついたまま、じりじりと後ずさる瑠奈。
その背中に、蜘蛛の糸が飛んできてべちゃりと絡みついた。

──────
「ひっひっひ……おい、ルナのなきむし!コドク、ってしってるか?」
「ドクのあるムシをつぼにいっぱいいれて、さいごのいっぴきまでたたかわせるんだ!」
──────
「え………?」

蜘蛛糸は、階下に続く梯子穴から伸びていた。
もがけばもがく程、糸は絡まる。
その先にいる何かに、ずるり、ずるり、と、体を引っ張られていく。

ぞわぞわぞわぞわぞわぞわ………
カサカサカサカサ………
ブオォォォォン……
……キチキチキチキチキチキチキチキチ

──────
「なきむしルナも、コドクにいれてやる!」
「ぎゃっはっはっは!ドクムシどもに、くわれちゃえー!」
──────

「い、いやああああぁぁぁっ!!やめて、ひっぱらないでぇぇえええ!!!」
暴れても、もがいても、どうにもならなかった。
今の瑠奈は、幼いころの…唯と出会う前の、無力だった頃の姿に戻っているのだ。

瑠奈はそのまま為す術なく、梯子穴に引きずり落とされ……
暗闇の中、赤い眼を爛々と輝かせた無数の蟲達が、一斉に襲い掛かった。


ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!!
ざわざわざわざわっ……
ガサガサガサガサガサガサ!!
グキキキキキ……ギチギチギチギチッ

「ひ、ぎあああああああぁぁぁっっ!! い、いやっ……こないでぇっ!!……やめてぇぇえええ!!」
無数の蟲、無数の脚、無数の毒針が、子供の姿に戻った瑠奈を一瞬にして呑み込んでいく。

まだ空手を習い始める前の細い腕や足、腰まで伸びていた髪、白いワンピースが、
爪と毒牙に蹂躙され、噛み千切られ、毒液に穢されていく。

ピギィィィイィッ!!
「ぐふあっ!?……ん、むぐっ、…!!!」
極太の芋虫が、瑠奈の口の中に強引に潜り込む。
粘つく毒液が大量に吐き出され、苦い味が口いっぱいに広がった。

「う、え…………あ……!!」
じゅぷっ じゅぷっ……じゅぷっ!!
吐き出そうにも吐き出せない。それどころか、芋虫は咥内でぶよぶよの身体をくねらせ、
喉の奥にまで侵入しようとしていた。

ぬるり……べちゃ ぐちゅっ………
更に、胸の上に手のひら大のヒルが這い上り、まだ膨らんでいない乳房の先端に吸い付く。
「えぐっ……ん、ぐっ……!?」
(そ、そんなっ……!!……だ、め…そんなとこ、すったら…)

……じゅるるるるるるっ!!
「………ん、〜〜〜〜っっっ!!!」
両胸に張り付いた2匹のヒルは、瑠奈の二つの蕾から勢いよく血を…あるいは別の何かを、容赦なく吸い上げる!
その異常な感覚に、瑠奈の全身は雷に打たれたようにビクンビクンと震え、
ヒル達を引きはがすどころか、気を失わないようにするだけでも精いっぱいだった。

じゅぷっ……ぐちゅっ……じゅるるるる……じゅぶっ!!
「ぐむっ……ん、げほっ……あ、ぐ…!!」
(お、おねがいっ……もう、やめて……だれか、たすけてぇ……!!)
巨大芋虫に口を塞がれているせいで、悲鳴も上げられない。
瑠奈は今起こっている異常が幻覚であることさえわからないまま、
……ルミナスの地で必死に修行して得た新たな力を、振るう事さえできずに、
無数に群がる蟲達に成すがままに蹂躙され続けた。

かさかさかさかさ……
「っぐ……あ、あれ、は……っ……!!」
そんな瑠奈に、新たな…最大の脅威が、忍び寄る。
群れの中のどの蟲よりも大きい、黒光りする、長い触覚を持った大きな虫が、ワンピースのスカートの中に潜り込んできた。

(ひっ………ま、まさ、か………)
台所などで見かけたりしたら、瑠奈でなくても卒倒することは間違いない、巨大で不気味な黒い蟲。
しかも、瑠奈の脚よりも太い巨大な卵鞘を生やし、下着越しにぐいぐいと押し付けてくる。

(い、いやぁっ……ゆるして……それ、だけは……!!)
瑠奈の無言の懇願を意にも介さず、巨大な黒い蟲は、瑠奈の下着をやすやすと食いちぎる。
物理的に到底入るはずのない巨大卵鞘が、幼い秘唇にぴたりと張り付いた。

……どくん……どくん……どくん……
蟲の卵から、不気味な脈動と生温かさが伝わってくる。
そして、恐怖に震える瑠奈の中に、少しずつ、少しずつ、侵入してくる。

ずぶっ……ぬちゅっ………ずぶり!!
「……………っっ…っぐむぅぅぅううっっっ!!!!」
黒い蟲が腰を大きく突き動かし、瑠奈の胎内に卵鞘を半分ほど突き入れた、その瞬間…
瑠奈は目を大きく見開き、大粒の涙をこぼしながら、声にならない悲鳴を上げた。

789名無しさん:2020/10/10(土) 18:07:38 ID:???
「っひぎああああああああぁぁぁっ!!」
幻覚に苦しみ、のたうち回る瑠奈の姿が、フウコとフウヤの前に映し出される。
両胸から母乳を、口から吐瀉物を吐き出し、絶叫しながら虚空に手を伸ばし、大きく背中をのけぞらせ……
やがてぱたりと倒れ込んだ。

「クックック……無様だねぇ。運命の戦士ともあろう者が」
「そんな……瑠奈さんっ!!……フウヤ……どうしてこんな、酷い事を…」

「人の心配をしている余裕があるのかい?……
苦しみ悶える少女の姿は美しい。そして、僕にとっての一番は………あくまで君だよ。姉さん」

ババババババッ!!
「う、ぐっ……!!」

フウヤの手から黒いイバラが伸び、フウコの身体に絡みついていく。
毒で動けない今のフウコに逃れるすべはない。
強い力で締め付けられ、弱体化した骨が今にもへし折れそうなほど軋むのを感じた。

「そのイバラも、トーメントの技術を参考に、僕が新たに開発したものだよ。
全身に食い込んだトゲから獲物の血を吸い、毒の花を咲かせる。」
ズブッ……ずちゅっ……じゅるるるっ…!!
「ぐうっ……!!……なん、ですって………う、あぁぁんっ……!!」

イバラに生えた無数のトゲが、まるで意志を持っているかのようにフウコの肌に食い込み、血を吸い上げていく。
やがてフウコの顔のすぐ横で、小さな黒いバラの花を咲かせた。
そして……

「げほっ……げほっ!!……っぐっ!?……あ、っぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
「その黒い花の花粉は、人間の神経に直接作用して純粋な『苦痛』を与える。
……その神経毒は魔力の循環をも狂わせ、やがて変身さえ維持できなくなる。まさに魔法少女殺しの毒さ。
名付けるなら、そう……『シュメルツ・ブルーメ』とでも言った所か」

全身を貫くような激痛で、狂ったような絶叫を上げるフウコ。
この異様な感覚は……初めてではなかった。
かつて、ミシェルと名乗る怪しげな女研究者が使っていた特殊能力を喰らった時の痛みに近い。
だがそれについて深く考える余裕などなく、フウコは自身の風の魔力の暴走によって、全身をずたずたに切り裂かれていく。

「っぐぅ!!ああああぁぁっ!!!……い、っぐああああああ!!!」
黒い花が二つ、三つ、次々と咲いていく。
そのたびにフウコの全身の苦痛は二倍、三倍に跳ね上がり、
悲鳴のトーンがさらに大きくなっていく。

「変身が解けても、この苦痛は終わらない。魔法少女はひとたびこのイバラに囚われたが最後、
絶え間ない苦痛に悶えながら、全身の血を吸いつくされる事になる。
もちろん今度の戦場となるリケット渓谷にも、至る所にこの花の根が張り巡らされている…今から楽しみだよ」

「でも、姉さんにはこんな物じゃなくて、もっと素晴らしいフィナーレが用意してある。
……見えるだろう?あの鋭い尖塔の十字架が。
僕はいつも思っていたんだ。あの鋭い槍のような先端で姉さんの心臓を串刺しにしたらどんなに素敵かって……」

「あっぐっ……そん、な……こと……うぐ、ぁあああああぁっ!!」

「姉さんは覚えてないようだけど……前回のルミナス侵攻の時、その夢は叶った。
……でも、僕は思ったんだ。
十字架に姉さんを真っ逆さまに堕として、脳みそと心臓と子宮をいっぺんに串刺しにしたら。
……きっともっと、美しいんじゃないかって」

「っぐ、……フウ…ヤ……あなたは……どこ、までっ……!!」
「姉さんのことは、後で王様に復活させてもらうよ。
そして今度こそ……姉さんの存在を永遠のものにして、僕の愛[ドク]を注ぎ続けてあげよう」

黒い花がまた一つ咲き、断末魔のような叫びと共にフウコの変身が解けた。
フウコの身体が、フウヤに抱きかかえられたまま自由落下を始める。
その先には、赤い月の光を受けて輝く十字架の先端があった。

790名無しさん:2020/10/10(土) 18:09:25 ID:???
(もう……だ…め………わたし、このまま……むしに、たべられちゃう……)
消えゆく意識の中、瑠奈が思い浮かべたのは……親友の、唯の事。

(だい、じょうぶ……だよ……)
(こわいむしは……わたしが、みんな……)
(……?……この、こえは……)
ふと、懐かしい声が聞こえた気がした。
おそるおそる顔を上げると、オレンジ色の淡い光が、瑠奈の顔を優しく照らしている。
……まるで夕日のようにきれいで、暖かい光だった。
まるで、唯に初めて会った日に見た夕焼けのように……

瑠奈はふらふらと起き上がり、光に手を伸ばす。
いつの間にか、体は元に戻っていた。あれだけ大量にいた蟲も、一匹もいない。
どうやらあれは、すべて幻覚だったらしい。

「これは……さっき、フウコから借りたイヤリング……」
……ここに来る直前で、『もしもの時のため』とフウコから預かったものだ。
強い守りの力を秘めているのだ、という。

そんなすごい物なら、フースーヤと直接対峙するフウコが持っているべきだ、と瑠奈は主張したのだが……

『いいえ……私は、あの子と戦いに来たわけじゃありませんから。
甘いかもしれませんが、私は……私だけは、あの子とちゃんと話して、
今あの子が思っている事を、受け止めて上げなきゃいけないと思うんです。
例え裏切られたとしても……結局は戦うしかないんだとしても。
……だから、これは瑠奈さんが持っていてください。
もし私に、万一のことがあったら、その時は……』

「………私は、結局また……助けられちゃったのね。
唯を、他の誰かを助けてあげられるように、修行したっていうのに……」

「っぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
イヤリングを握りしめ、己のふがいなさを噛み締める瑠奈。
だがその時、塔の外から、今までに聞いたことのないような、凄まじい悲鳴が飛び込んできた。

「フウコっ!?」
ホウキを手に窓を飛び出し、尖塔の屋根に上がる。
頂上の十字架目掛けて、フウコが真っ逆さまに落下してくる。

「やばっ!!……斬鋼・蜥蜴の尻尾切り!!」
ザシュッッッ!!
ドサ!!

瑠奈は、鋼属性の魔力を乗せた手刀で十字架を根元から斬り落とし、
落ちてきたフウコの身体をしっかりと受け止めた。

「はぁ………はぁ………る、な…さん……すみ、ませ……」
「喋らない方が良いわ、フウコ!…にしても何なのよこのイバラ!さっさと解かないと……」
「ふん……無事だったんですか。お邪魔虫の、運命の戦士さん」

フウコに巻き付いたイバラを手刀で切り裂いていく瑠奈。
その目の前に降り立ったフウヤは、苛立ちをあらわにする。

「言ってくれるわね。この私をよりによって『虫』呼ばわりなんて……」

「愛する姉さんとの一時に割って入ってくるなんて『お邪魔虫』以外の何物でもないでしょう。
……僕をあまり怒らせないでください。
どうやらそのオレンジ色のイヤリングで毒を無効化したようですが、そんな物いくらでも対処のしようはある」

「はらわた煮えくりかえってるのはこっちの方よ!よくもフウコに……自分の姉さんに、こんな酷い事をっ!!
って、『愛する』姉さん……??……え、何それ……どういう事……」

「言葉通りの意味ですよ。…僕は前回のルミナス侵攻の時に、自分自身の本当の気持ちに目覚めたんです。
僕は姉さんの事を、世界中の誰よりも愛している。
魔法少女たちに抱いていた憎しみなんて、最早どうでも良いと思えてしまうほどに」

「あ……あなた達って、実の姉弟なのよね!?
いやそれはこの際置いとくとしても、だったらどうしてこんな……!」

「そして、苦痛に歪む姉さんの姿は、誰よりも美しい……
あの時のように、姉さんに不老不滅の屍術を施し、
今度こそ僕の毒で、姉さんの魂に永遠の苦痛……永遠の美しさを与えてあげたい。
それこそが、僕の……姉さんへの、愛なのだから!!」

「なっ…………」

爛々と目を輝かせて語るフースーヤの姿に、瑠奈は眩暈を起こしそうになった。

791名無しさん:2020/10/10(土) 18:12:31 ID:???
「……け……な……」
狂気に吞まれたわけでも、恐れを抱いたのでもない。
むしろその逆……
瑠奈は己の中の怒りを押さえこみながら、気絶したフウコの身体を尖塔の屋根にそっと横たえると。

「ふざっ!!
けんなぁああああああああ!!」

「っ!?速……」
……ドゴォッ!!
「ぐあああああああああっっ!!」

……フウヤに、まっすぐ殴り掛かった。

あまりの速度にフースーヤは反応できず、瑠奈の攻撃…
風の魔力をまとった『鉄拳制裁』をまともに喰らって吹き飛ばされる。

「フウコが、どんな気持ちであんたに会いに来たと思ってんのよ………
何が『本当の気持ちに目覚めた』よ。
相手の気持ちを考えようともしないで、勝手な都合を押し付けるだけ……
そんな物……『愛』なんかじゃない。
アンタはただ自分の欲望を満たしたいだけの異常者だわ!!
私がアンタの姉さんの代わりに……その甘ったれた根性、叩き直してやるっ!!」

「っぐ、がは………さすがは、運命の、戦士。
ですがあなたには……いえ、他の誰にも、姉さんの代わりなんて、務まりません……
残念だけど……今夜はここまでです」

結界が崩れ落ち、月の光が本来の青さを取り戻す。
警備に当たっていた魔法少女たちが異常を察知し、城内に警報が鳴り響いた。

「決着は、明日……リケット渓谷で、付ける事にしましょう。
姉さんに伝えてください。僕の所にたどり着く前に、他の魔物に殺られないよう、くれぐれも気を付けて、と……」

「ま、待ちなさいっ!!このままアンタを逃がすわけには……」
逃げ去るフウヤを追いかけようとする瑠奈。
その時、一匹の蛾がふらふらと飛んできて瑠奈の肩に止まる。

「なによ、また幻覚?そうとわかってればこんな物、怖くもなんとも………」
パタパタと払いのけると、蛾はふらふらと飛び去って行った。
ふと手を観ると、蛾の鱗粉がべったりと付着している……

「あれ?……もしかして今のって………」
瑠奈の顔から、一瞬にして血の気が引く。

「フウコ!瑠奈さん!!」
「一体何があったんですか!!瑠奈さ……ああっ!?」
駆け寄ってくるカリン達の目の前で、瑠奈は再びぱたりと倒れ、そのまま意識を失った。

792名無しさん:2020/10/24(土) 14:16:57 ID:???
「!!……………私、は………」
「フウコ!!」「よかった、気が付いたんだね!」
しばらく後。フウコは医務室のベッドで目を覚ました。
瑠奈、そして同じブルーバード小隊の仲間である水鳥、カリン、ルーフェが安堵の表情を浮かべる。

「…そう、ですか……やっぱり、フウヤは……」
弟フウヤの姿はなかった。彼が改心する事はなく、戦いはもはや避けられない。
自分の考えが甘すぎたことを、フウコは改めて悟った。

「…正直、フウヤに会う前は、迷っていたんです。あの子とは戦えない……戦いたくない。
あの子の心を歪ませたのは、私のせいでもあるのだから。
どうすればいいのか、考えました。
魔法少女と十輝星、互いの立場を捨ててどこか遠い所に逃げる、とか…
またはいっそ、私も……ルミナスを離れて、フウヤの味方になる。
世界中が敵に回ることになっても、家族である私だけは、最後まであの子の味方になってあげる…
そういう選択肢も、ありかもしれないって。」

「え!?…フウコ、それって……」
カリンが動揺し、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
…かつてトーメントがルミナスに侵攻してきたとき、実際に一度フウコはフウヤの軍門に下っているのだ。

「だけど、実際にフウヤに会って……やっぱり、無理だと思いました。
私はあの子の姉であると同時に、一人の魔法少女だから……あの子のやってることを、見過ごすことは出来ない。
だから、私は今度こそ…ちゃんとあの子と向き合って、戦う。
そして……『お姉ちゃんの鉄拳制裁』で、あの子の性根を叩きなおしてあげます!」

フウコは力強くそう言うと、しゅっ!と口で言いながら、拳を突き出す。
その目の光には、揺るぎない強い意志が感じられた。

だが……

…ズキッ!!

「あ……いたたた」
「ちょっ…無茶しちゃダメよフウコ!まだ体の毒も抜けきってないんだから!」
今のフウコは『ペインシック・フロスト』で骨を弱らされた上、
『シュメルツ・ブルーメ』で大量に血を失い、神経もボロボロに傷つけられている。
当分は絶対安静。明日フウヤと戦うなんて、そもそも無茶な話だった。

「貴女の気持ちはよーく分かったわ。
でも今は、ゆっくり休みなさい。あの生意気小僧への『鉄拳制裁』は、私たちに任せといて!」
瑠奈はウィンクしながら、フウコの前に軽く拳を突き出す。

「あ、ありがとうございます。
私が覚悟を決められたのも、あの時の瑠奈さんの言葉のおかげ……って、あれ?
瑠奈さん、その手甲は……?」
「あ……これ?……実は……」
……瑠奈の右拳には、オレンジ色の光を放つ、不思議な手甲が装着されていた。

793名無しさん:2020/10/24(土) 14:18:11 ID:???
「私にもよくわからないんだけど、フウヤに一撃入れる瞬間……
フウコから借りたお守りが光って、手甲に変わったの」

(えええ……カナンさん、どういう事なんですか??)
(一言でいうと『その時、不思議なことが起こった!』って感じかしら。
というか正直、あの時は私も無我夢中だったから……)
オレンジの魔石の中の人…カナン・サンセットに、水鳥はテレパシー的なやつで語り掛ける。
……が、肝心なところはやっぱりよくわからなかった。

(魔石が瑠奈さんの……運命の戦士の、強い気持ちに呼応した。って事でしょうか?)
(とりま、そーいう事でいーんじゃない?変身くらいするでしょ、私は魔法少女なんだし。)

「うーーん。まさかこのイヤリングに変形機能がついてたとは…作った私ですら知らなかったわ」
「ご、ごめん……元はと言えば私が、水鳥ちゃん達に黙って持ち出したせいで」
「え。これカリンが作ったの?ご…ごめんね、こんなんなっちゃって。
なんだったら、この埋まってる石だけでも……」

(きゃ!?痛い痛い痛い!!ちょ、やめてー!!!)
「ちょ、瑠奈さん!無理矢理外さなくていいですから!!」
手甲は瑠奈の右手にしっかりと装着されている。
色々と試行錯誤したが物理的に取り外すことはできず、
魔力切れで元のイヤリングに戻るまでに、しばらく時間を要した。

「と…とりあえずその手甲は、瑠奈さんが持ってるのがいいんじゃないかな…」
「な、なんか……本当にごめんなさい。大事な物なんでしょ?」
「い、いえ。今なら多分、瑠奈さんの方が有効に使えると思いますし……」
こうして瑠奈は、伝説の魔法少女の力を宿した魔法の手甲『サンセット・フィスト』を手に入れた。
なんだか申し訳ない気がしたが。

「その代わり〜〜……
じゃーーん!! こんな事もあろうかと!
というか今更だけどルーフェちゃんの入隊祝いも兼ねて!
ブルーバード小隊のおそろいアクセ作ってきましたーー!!」

「わぁ!ありがとうございますカリンさん!」
「いや『こんな事もあろうかと』は絶対ウソでしょ…」
「あはははは。ルーフェちゃんの分を作った後、どうせだからみんなの分も作ろうかなって思って。
で、どうせなら全部そろってからババーンと発表しようと思ってたんだけど、最近は色々あったから遅くなっちゃって……」
「でも時間かけただけあって、すごくキレイで良い出来だよ!ありがとうカリンちゃん!」
水色、緑色、ピンク色。3色のクリスタルのペンダントが、水鳥、フウコ、ルーフェに手渡された。
それぞれ、鳥の頭、左右の翼を象ったかのようなデザインである。

「ふっふっふ〜。しかも、それだけじゃないんだ。これをこうして、こうすると……」
そしてそれらを、カリンが持つオレンジ色のペンダントと合わせると……

「あっ……すごい!鳥の形に……!」
「カリンのは、尾羽になってるのか。なるほどね〜」
4つのペンダントが、ブルーバード……部隊名の由来である幸運を呼ぶ伝説の青い鳥を形作った。
「ありがとうカリンちゃん!」
「私……大切にするね!」
「私も!」

「ふふふ……私もそっちの方がよかったなあ。……あなた達って本当、いいチームね」
(あの子は立派に独り立ちして、もう私の手助けも必要ない……って事なのかもね)
そんなブルーバード小隊の様子を、瑠奈とカナンは微笑ましく見守る。

トーメント王国…フウヤ達との最終決戦を明日に控え、最後の夜はこうして更けていった。

794名無しさん:2020/10/24(土) 14:19:35 ID:???
「クックック……油断したようじゃのう、小僧」
「くっ………この程度の傷、明日の決戦に支障はありませんよ」

一方その頃……リケット渓谷の奥深くにある、トーメント軍の前線基地にて。
フウヤ……フースーヤは、瑠奈たちとの戦いで受けた傷を治療していた。

瑠奈の拳……オレンジ色の光と共に放たれた一撃は、フースーヤの想定以上に強烈な威力だった。
リユニオンによって強化された戦闘服の防御の上から、肋骨数本をへし折るほどに。
(月瀬瑠奈……この世界に召喚されるまでは、ただの人間だったはずなのに。さすがは運命の戦士、と言った所か……)

「そんなザマでは、明日も足元をすくわれかねんのう。わらわが手を貸してやろうか?んん?」
「『黒衣の魔女』様の手を煩わせるまでもありませんよ。それに……貴女に貸しを作ると高くつきそうですし」

そんなフースーヤにニヤニヤしながら絡んでいるのは、
長い黒髪に、透き通るような色白な肌、真っ黒なナイトローブを羽織った妖艶な美女……
『黒衣の魔女』ことノワールである。

フースーヤと同じくルミナスの魔法少女とは深い因縁を持っている。
ルミナス侵攻で共闘して以来、なぜかノワールはフースーヤを気に入ったらしかった。

「クックック……そう遠慮するな。
……わらわの配下『混沌七邪将』を、何人か貸してやろう。こやつらを使って、本命以外の邪魔な脇役を排除するがよい」

「ヒッヒッヒ……邪海将ダゴン、およびとあらば即参上」
「わが名は邪龍将ファーヴニル。ノワール様の命により、うぬに力を貸そう」
「ワタシハ邪骸将デュラハン コンゴトモヨロシク(筆談)」
「邪剣将ダインスレイフ様がめんどくせーけど来てやったぜぇ」
「でもって、邪艶将(姉)アルケニーと……」
「邪艶将(妹)アルラウネちゃんですよ〜」

闇の中からノワールの配下の魔物達が現れた。
タコのような姿の魔物、龍人、首のない騎士、ひとりでに宙に浮かぶ巨大な剣、
そして少女の上半身に蜘蛛の下半身を持つ魔物、植物の魔物。
いずれも並々ならぬ邪気を放ち、ただの魔物とは一線を画す実力を感じさせる。

「まあ、そういう事なら………って、一人足りなくないですか?」
フースーヤの言う通り、現れた魔物は六体。『七邪将』には一体足りない。

「ふむ。こやつらは、以前魔法少女どもに敗れて死んだ連中を、蘇らせてパワーアップしたもの。
その中の一匹は、どうやら死んでなかったようじゃな」
「いわゆる再生怪人みたいなやつですか。まあ6人でも十分…むしろ多すぎるくらいですし、構いませんが」
「マイコニドの奴、一体どこで道草を食っているのやら……」

ともあれ、手下を何人か借りる位なら問題ないだろう。
自分の配下の魔物達、ノワールの部下の六邪将達、戦場となるリネット渓谷の地形、敵の意外な実力、自分自身のダメージ……
様々な要素を再構築し、フースーヤは明日の作戦を練り直すのだった。

795名無しさん:2020/10/24(土) 20:34:16 ID:???
「ふう……これで術式は完了しました。あとは1時間ほどで、広域攻撃術が発動するはずです」
「お疲れ様です、七華様。」
「お疲れ!あとは俺らでやっとくから、七華はちょっと休んでな!」

ミツルギ軍本陣にて。
皇帝テンジョウ・ミツルギと討魔忍五人衆の一人である神楽木七華をはじめ、術を得意とする忍び達の手によって、
一か所に集めた魔物達をまとめて倒す、広域攻撃術「オロチ」の発動儀式がほぼ完成していた。
あとは予め用意してあった護符から自動的に魔力が注ぎ込まれ、放っておいても術は発動するはずだ。

「いえ、他の五人衆の皆様が戦場に出ているのに、私だけ休むわけには……」
「いいんだって!何せ今回、術の発動だけじゃなくて敵を集めるための偽情報にも大活躍してもら……
…いや、ゲフンゲフン。そ、その……と、とにかく今回は、前線に出なくていいから。
ここを突破したらトーメントでの決戦もあるんだし、休めるときに休んどけ!」

今回の作戦のもう一つの要…それは情報戦。
トーメントの魔物たちからリョナりたい人気になっている七華のニセの出現情報を
SNSなどに意図的に流すことで、敵を一か所に集中させていたのだ。
これによって敵をまとめて殲滅し、さらに同時進行で、攻撃部隊が敵大将を討ち取る手はずである。
だが七華本人には、敵を集めるニセ情報のネタにされていることは知らされていない。
どうせスマホを持っていないし、バレないだろう的思考である。

「は、はあ……そこまで仰るなら」
「………なーんか怪しいのう。小僧、わらわ達に何か隠してないか?」
「ちょ!…クロヒメ様、陛下に向かってそのような言葉遣いは……」
横に控えていたクロヒメが、テンジョウの不自然な様子をみて口をはさむ。
ともあれ戦況は今のところ順調、敵戦力のほとんどを「指定のポイント」に誘導できていた。
だが………ここで一つ、問題が生じる。

「報告します!第三十三小隊……ササメ様以下三名からの定時連絡がありません」
「何?どういう事だ。戦闘にでも巻き込まれたか、もしかして……
ササメ、ヤヨイ、ナデシコの小隊の行方が途絶えた。
最後の連絡以降、彼女たちがいた付近で大規模な戦闘が起きた様子はないにも関わらず、である。
「……最後の連絡があったのは……『例のポイント』の近くだな。まさか………」

指定ポイントには特殊な結界が張ってあり、不用意に侵入しようものなら、
脱出も、外部との連絡も不可能になってしまう。
『例のポイント』についての情報が外部に漏れることがないよう、
ミツルギ伝統の情報伝達法…狼煙で全軍に伝えてあったはずだ。

実はナデシコの煙幕花火でササメ達が一時的にはぐれていたり、狼煙を見逃していたり、
と現場では色々とあったのだが、その事をテンジョウたちが知る由はもちろんない。

テンジョウは最悪の状況を想定し、行方不明になったポイント周辺に援軍を向かわせようとする。
だがその時……

「敵襲!敵襲ーー!!」
「報告します!後方に敵軍勢が出現!!トーメントの魔物兵、およそ200体!!」
敵軍が後方から突然突然現れ、ミツルギ軍本陣がにわかに慌ただしくなった。

「何だと?…数は多くないが……っかしーな。奴らがそう簡単にここまで来れるはずないんだがな……
とりあえず全員静まれ!隊列を固め、防御陣形を展開!!五人衆の状況は!?」

浮足立つ味方を落ち着かせ、敵襲に冷静に対応するテンジョウ。
だが、この本陣にたどり着くまでには鳴子の結界やブービートラップ等が無数に張り巡らされていたはず。
誰にも気付かれずそれらを突破することは不可能なはずだ。

五人衆のうち、ラガールは前線で戦闘中。シンは故あって戦列を離れている。
コトネは本陣に戻っているが、部下のアキナイ三姉妹ともども負傷の治療中。
他にすぐに呼び戻せそうなのはザギくらいか。

「しゃーない。ここは俺が行くしかねーか」
「テンジョウ様、私も出ます!」
本陣を守っていた兵たちと共に、テンジョウ、七華、クロヒメが迎撃に出る事となった。

これに対し、トーメント軍を率いるのは……

796名無しさん:2020/10/24(土) 20:35:26 ID:???
「おっと。…意外と対応が早いな。完全に裏をかいたつもりだったんだけど」

王下十輝星「プロキオン」のシアナ。
以前ミツルギに潜入した際、コトネやアキナイ三姉妹と戦ったり、ササメをリョナったり、
ラガールに追い掛け回されたりした事もあったので、シアナ達についての情報はミツルギ側もある程度掴んでいる。

「十輝星……話に聞いてはいましたが、本当にあんな子供が?」
「ま、14歳のガキンチョが皇帝やってる国もあるしのう」
「そーいうこった。情報によれば、奴の能力は……穴を開けること。」
「穴、ですか…?」
……そう。
生命体以外のあらゆる空間や物質に、自在に穴を開ける能力。空間に開けた穴を抜けて、瞬間移動する事も可能だ。
今回のように、遠く離れた敵陣に魔物の軍勢を送り込む事だってできる。

「確かに怖ろしい能力ですが……ここで退くわけにはいきません。行きますよ、クロヒメ様!!」
「七華、お前は「オロチ」の発動儀式で魔力を使いすぎてる…無理はするなよ!」
「心配するな。七華にはわらわがついておる。総大将は後ろでドンと構えとれ!!」

神罰刀『桜花』を抜き放ち、戦場へと駆ける七華。
その横には、同じく両手の仕込み刀を煌めかせながら走る、クロヒメの姿があった。
元々クロヒメは七華が作り出した傀儡であったが、とあるアイテムにより人間の身体へと変化したことで
七華が操らずとも以心伝心で完璧な連携を繰り出すことが可能となった。

「うぉおおお!!まさかこんな所で七華たんと会えるなんてーー!!」
「じゃああの出現情報ガセだったって事か!?」
「奇襲部隊に回されたときはクソガキ死ねって思ったけど超ラッキーだぜー!!」
「結婚してくださーーい!!」
「「はぁぁぁあぁぁああああっ!!」」
(ザクッ!!ザシュッ!!ズバッ!!ザンッ!!)
「「「「っギャワーーーーーーー!!」」」」
討魔五人衆となっても自らの立場に驕ることなく日々精進を続け、剣の腕も達人級。
欲望で動くだけの魔物兵など、物の数ではない。
七華とクロヒメは並みいる魔物兵をバッサバッサと切り伏せ、敵の隊長であるシアナの元へ辿り着いた。

「はぁっ……はぁっ……ここまでです。貴方たちの奇襲は失敗しました……!!」
「そういう事じゃ。ガキはうちに帰って寝ておれ!」
「神楽木七華……さすがは、討魔五人衆の一人、って所かな。
それにあれだけの可愛い系お姉さん、ときたら魔物兵たちに人気なのも頷ける。
……でも、どうして貴女が今ここに?
確か、もっと前線の方で、目撃情報が多数寄せられてたと思うんですが」

「?……何の話ですか?」

「………なるほどね。いや、わからないなら良いんです。
ウチの部下どもときたら、僕の命令もロクに聞かず、その場所にみんな集まっちゃってるものだから……
それに貴女たち二人を同時に相手するのは大変そうだし」
七華の反応を見て、だいたいの状況を察したシアナ。

つまり七華の目撃情報はガセで、あの場所に敵を集める必要があった、と言う事だろう。
と言う事は、あそこには罠……または、自軍を一網打尽にしてしまうような、
とんでもない仕掛けがしてある可能性が高い。

「そういうわけで……手っ取り早く、分断させてもらいますよ」
「だから、一体何を……」
「!!……七華、下じゃ!!」
「えっ!?」

シアナが手をかざすと、七華の足元にぽっかりと大きな穴が開いた。
クロヒメが助けに入る隙もなく、七華は空間に突然開いた穴に、一瞬にして落とされた。

797名無しさん:2020/10/24(土) 20:38:50 ID:???
「貴様っ!!七華をどこへやったっ!!」
「どこって……SNSに出ていた情報通りの場所、ですよ。
あそこに何を仕掛けていたかは知りませんが……
今あそこには、トーメントの軍勢がひしめいている。
仲間の命が惜しかったら、その仕掛けを解除する事を勧めます」

落とし穴は瞬時に閉じたが、七華の行方はわかった。
あの場所に仕掛けてあるのは無数の罠、脱出不可能の結界。
そして……1時間後に発動する、広域攻撃術「オロチ」。
伝説の邪竜の名を冠するだけあって、広範囲に凄まじい爆炎を巻き起こす、禁呪並みに危険な術だ。
これが発動すれば、いくら討魔五人衆と言えどもひとたまりもないだろう。
だがもし今、あの場所に封じ込められた魔物達を解き放ったら、
ミツルギ軍は数で圧倒的不利となり、戦況を一気にひっくり返されてしまいかねない。

「そ、それは………!!」
「ふん。悪いがそれは出来んな。そしてシアナとか言ったか。
お前も色々厄介そうだからな。タダでここからは帰さん」
「!!小僧……総大将は控えておれと言ったはずじゃ!!こやつは、わらわが………」
逡巡するクロヒメ。その横に現れたのは……ミツルギ軍総大将である、皇帝テンジョウだった。

「オロチの発動まで1時間。……お前はこんな奴の相手してる時間はないだろう?
こいつは俺が相手しといてやるよ」
「!!………すまん」
クロヒメはテンジョウの意図を察すると、シアナの前から離脱し、一目散に七華の元へと向かう。

「さーて。久々の運動だからな……うまく手加減できるかわかんねーぜ!」
「大将首を直接取れるなんて、願ってもない。
それにしてもお前……僕の知ってる奴に雰囲気がそっくりだな」

ミツルギの皇帝と、王下十輝星。果たして両者の対決の行方は。
そして………危険区域に送り込まれた七華と、救出に向かったクロヒメの運命や、如何に。

798名無しさん:2020/10/25(日) 21:46:11 ID:???
「……きゃああああああっ!!」
シアナの空間転送落とし穴に落とされた七華は、見知らぬ場所の空中に放り出され、そのままお尻で着地した。
幸い、日ごろ和菓子作り&試食で鍛えたお尻回りのむっちりした脂肪のおかげで、大したケガはしていない。

「……何か、誰かにすごく失礼な事を言われたような……
それにしても、一体ここは……アレイ草原のどこかでしょうか」

一見普通の草原の風景が広がっているが、周囲に味方の姿はなく、魔物兵の気配が無数にひしめいている。
更に、よくよく見るとそこかしこに、ミツルギ伝統のブービートラップ。強力な結界も張られている。
今回の作戦で敵を一網打尽にすべく用意された、危険領域の中である事はすぐにわかった。

「だとしたら……この一帯はもうすぐ『オロチ』の術が発動するはず。
早く脱出しなければ……自分で仕掛けた術に自分でかかるなんて、冗談にもなりません」
……岩陰に身を潜め、周囲の様子をうかがう。
術の発動までおよそ1時間。その前に、魔物に見つからないよう、
トラップに引っ掛からないようにしながら、結界の外に出なければならないのだが。

「いたぞーーー!!あっちだ!!」
「なに!?巫女さんいたのか!?」
「いや違う!雪女ちゃんとJK忍者ちゃんだ!!」
「ウオオオオオそれでも全然アリだ!!取り囲めぇえええええ!!」

……突然、周囲の魔物達がざわつき始め、七華の潜んでいた岩陰とは別の方向に、一斉に走り出した。

「!?………て、てっきり見つかったのかと思いましたが……
雪女と、じぇーけー……?まさか、ササメさん達もここに……!?」

他の仲間がここに居るのなら、放っておくわけにはいかない。
七華は岩陰から飛び出し、魔物達の後を追おうとするが……

(………シュッ!!)
「!?」
突然、背後から手裏剣が飛んできた。
すんでの所で回避した七華だが、長い黒髪が数本斬り落とされ、はらはらと地面に落ちる。
相手はかなりの手練れらしく、全く殺気を感じなかった。
……もう少し気付くのが遅れていたら、危なかったかもしれない。

「ふふふふふ……初めまして、神楽木七華ちゃん。
アナタとは一度、会って話してみたかったの……アタシと同じ『人形使い』として、ね」

…手裏剣が飛んできた方角の樹上に、人影があった。
ギラついた光を放つ黄金色の目、ぼさぼさの黒髪。
やせた体に真っ白い装束を身にまとった、まるで幽霊か何かを思わせる、異様な風体の女忍び。

「あ……貴女は、何者ですか!?」
……だが、ミツルギ討魔忍衆の中に、あのような者がいるとは聞いたこともない。
思い当たるとすれば……

「まさか……抜け忍…?」
「ふふふ……そういう事。ミツルギじゃ『呪詛のサシガネ』って呼ばれてたけど…
元暗部だから、五人衆のアナタでも、知らないかもねえ」

【呪詛のサシガネ】
元ミツルギ討魔忍衆暗殺部隊所属の女忍び。人形を使った呪殺術を得意とする。
人を呪い、苦しめて殺す事を無上の喜びとしており、ミツルギの組織改編の折に討魔忍衆を抜け、トーメント王国へと身を投じた。

799名無しさん:2020/10/25(日) 21:47:24 ID:???
「呪詛のサシガネ……名前は知りませんでしたが、噂を聞いたことがありました。
……暗殺部隊に、呪術を得意とする、恐ろしい忍びがいると……」

………大戦の前に、皇帝テンジョウはアゲハをはじめ望まぬ意思で暗部に入れられた者達を対魔物部隊へと異動させた。
だが「呪詛」の二つ名が示す通り、彼女の呪術は人を呪い殺す事に特化しており、
また本人もそれを無上の喜びとしていた。
暗殺部隊の存続が危うくなったことを感じ取った彼女が「抜け忍」となり、
トーメント王国へと身を投じたのは、ある意味自然な成り行きと言える。

「アナタがアタシを知らなくても……アタシはアナタに、ずっと興味があったの。
だって、アナタも……『人形使い』なんでしょう?」
「貴女も…そんな事を言うのですね。
……クロヒメ様は、人形などではありません!!」

クロヒメは七華が自身が作った傀儡であるが、七華は自身の手を介して神の意志が込められた御神体であると信じていた。
そのため、クロヒメを『人形』呼ばわりされることを、七華は激しく嫌っていた。
そして……紆余曲折を経た後、クロヒメが人間の身体を手に入れた今は……
まるで実の姉妹のように心を通わせ合っている今は、なおのこと許せるはずがない。

「ふん……ま、いいわ。そのクロヒメちゃんとかいう『人形』も、今はいないようだし。
アナタを呪いで徹底的に苦しめて、アタシが最強の人形使いだってことを証明してあげる」

「呪い……どんな術か知りませんが、使わせなければいいだけの事。
討魔忍五人衆が一人、神通の七華の力…見せて差し上げます!!」
「……使わせなければ、ねぇ。でも七華ちゃん、アナタは既にアタシの術中にハマってるのよぉ……?」

七華は神罰刀・桜花を構えなおし、樹上の敵を見据える。
対するサシガネは、余裕の笑みを浮かべ……七華のすぐ脇の地面へと視線を向けた。

「?……それはどういう意味……って、ええっ!?」
「……もぐ……もぐ……もぐ」
「あ、あなたは……一体いつの間に!?」
そこにいたのは……サシガネと同じ白い装束を着た、小柄な少女。年齢は七華の半分くらいだろうか。
その少女は……先の手裏剣によって斬り落とされた七華の髪を拾い集め、むしゃむしゃと咀嚼していた。

「ごっ………くん」
「そ、それは私の髪……そ、そんなもの食べたらお腹壊しますよ!?」
(全く気配を感じなかった……一体この子は……!!)

「クックック……アタシの人形に、間抜けなご心配どうも。……でも壊れるのは、アナタの方よ?」
「………いたいの……すき、ですか……?」
「え……?……な、何を……」

七華の呼びかけに反応を示さず、虚ろな瞳の少女は、懐から大きな釘を取り出す。
襟元から一瞬覗いた少女の身体は極めて華奢で、あばら骨が浮き出るほどにやせ細っていた。

………ドスッ!!!
「!?……っぐ、っ……!!?」

少女は五寸釘……ちょっとした短刀程の長さの大釘を、そのまま自分のお腹に突き刺す。
すると、七華のお腹、刺されたのと同じ場所に、激痛が走った!

「っく……こ、れは……一体、何が………!?」
「クックック……その子はアタシの可愛い藁人形、ワラビちゃん。
敵の体の一部……髪の毛なんかを体内に取り込むと、自分が受けた痛みを相手に送り込むことができるの」

「………いたい、ですか?」
ずぶっ……ぐりっ!
「い、っぎ……っああぁぁぁぁぁぁあーーーっっっ!!?」
ワラビが、自分の腹に刺した釘を掴み、力を込めて捩じる。七華のお腹にも、更なる激痛が走る。
……鉄串で内臓を滅茶苦茶にかき回されるような異常な痛みに襲われ、七華たまらず膝をついた。

800名無しさん:2020/10/25(日) 21:49:41 ID:???
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「もっと……いたく、します?」
…ザクッ!!
ワラビは新たな釘を取り出し、自分の左足に突き刺す。

「…あうっ!!」
立ち上がろうとしていた七華の太股に鋭い痛みが走り、再び崩れ落ちてしまう。
刀を杖代わりにしながら、それでもよろよろと立ち上がる七華だが……

ドスッ!!
「うっぐ!!」
ワラビは三本目の肩を右肩に突き刺す。
七華は激痛に刀を手放しそうになるが、体ごと刀に縋りつき、辛うじて己の身体を支えた。

「くっくっく……アタシの呪殺術『ウシノコク』の味はいかがかしら?七華ちゃん」
「はぁっ……はぁっ……確かに、恐ろしい術……ですが、これしきの事で、私は……!!」
(まずい……防御も回避もできないなんて………このままじゃ、やられる……!!)

「本当なら、このままどっかに行方をくらませて、安全な場所からジックリタップリ
嬲り殺しにするのがアタシ必勝パターン、なんだけど……」

……そう。ここでサシガネとワラビに逃げに徹されたら、七華にもはや打つ手はない。
にも関わらず、サシガネは樹の上から飛び降り、ワラビと七華の前まで余裕綽々に歩み寄ってきた。

「っ……一体、どういうつもり……?」
「でもその前に…七華ちゃん、さっき言ってたじゃない。
見せてくれるんでしょ?討魔忍五人衆のチカラ、ってやつ」

サシガネは右手に柄の長い木槌、左手に長剣サイズの大きな釘を持ち、薄笑いを浮かべながら七華を見下ろす。

「!………」
「クスクスクス………それでぇ?いつ、どこで見せてくれるの?
ヒィヒィ言いながらお尻突き出しちゃって、立ってるのがやっとのブザマなカッコで、どうやってぇ?
それとも……七華ちゃんは、お気に入りの『お人形さん』がいないと、なんにもできないのかしらぁ?」

「!………馬鹿に、しないで……たとえクロヒメ様がいなくとも、貴女のような方に、負けはしません!」
「くっくっく……そう来なくちゃ♪」
気力を振り絞って剣を構え、サシガネに斬りかかる七華。対するサシガネは……
七華の方を見る事もせず、傍らにいたワラビに向けて木槌を振り下ろし………

「………これも、いたい、ですか……?」
ドゴッ!!ブシュッ!!
「…っぐあっ!?」

右足の甲に、4本目の釘を打ち付ける。
七華の右足が、地面に縫い付けられたかのように動かなくなり、
振るった刀の切っ先は、サシガネに届くことなく空を切った。

「5本目は、空いてる左腕にしようかしらねぇ……それにしても、拍子抜けだわ。
あの最強の忍、討魔忍五人衆を名乗ってる位だから、どれほどのものかと思ったら
こんな子供のお遊び程度の呪術に手も足も出ないようなクソ雑魚だなんて。
……これは、ミツルギを見限って正解だったかしら」

「うっぐ…………ううっ……!」
強力な呪術の前に手も足も出ず、一方的に嬲り者にされる七華。
クロヒメを人形呼ばわりされ、その人形が居なければ何もできないと揶揄され、討魔忍五人衆の名さえ貶められる。
そうまでされても何もできない自分のふがいなさに、自然と涙がこみ上げた。

ガコン!!ドスッ!!
「んっ………ぐ!!」
(ここで、倒れるわけにはいかない……こんな所で……負けたく、ない…!!)
ワラビの左腕に、五寸釘が撃ち込まれていく。
それと同等の、骨まで達する地獄の痛みが、七華の左腕を貫く。

ゴスッ!! ドスッ!!
「……っ………!!」
(この両手では、手裏剣は投げられない…刀で、それも…身体ごとぶつかっていくしかない)

「クスクス……せっかくだから、他の所にもダメ押ししましょ」
「……ぜんぶ、いたくします……」
「……………………!!」
(もう一歩……せめてもう一歩だけでも、踏み込めれば……!)

それでも愛刀を手放さないよう、戦意を、意識を失わないよう、必死に気を張り、
あるかどうかもわからない反撃の糸口を求め、七華はただ必死に思考を巡らせた。

801名無しさん:2020/10/28(水) 23:08:06 ID:???
「ここをこうして、こうやって、っと……じゃ、いくわよワラビちゃん。せーの………」

サシガネは「藁人形」ワラビを木の前に立たせ、あれこれと指示を出す。
ワラビが言われるがままにポーズを取ると、サシガネは木槌を大きく振りかぶって………叩きつけた。

ガンッ!!……ガンッ!!……
「……………………。」
「…っぐ…………うっ………!」

…ガンッ!!…ガンッ!!…ガンッ!!…
「ふぅ、疲れた………でも頑張っただけあって、なかなか上手くできたわねぇ。クスクスクス………」
左足を高く掲げ、それを両腕で抱え込む、いわゆる「I字バランス」を取るワラビ。
その左足と両手を、背後の木に大きな釘で打ち付けて固定している。

そして一方、七華はというと……

「ふぅっ………ふぅっ………」
「クックックック……黒巫女七華ちゃんのくそエロ無防備なI字バランス、一丁上がり〜♪」
藁人形の呪いによって、ワラビと同じ体勢を取らされていた。
しかも、釘で打ち付けられた激痛も、そのまま七華の体に送り込まれてくる。
せめてもの抵抗か、歯を食いしばって羞恥と悲鳴を必死にこらえる七華の姿に、女呪術師サシガネは満足げな笑みを浮かべた。

「クックック……無様な格好ね、な・な・か・ちゃん♥」
「………っ………!」
身動きの取れない七華にサシガネが迫り、吐息がかかるほどの距離にまで密着する。
胸や股間を骨ばった指が無遠慮に撫でまわし、七華の背筋にゾクゾクと悪寒が走った。

「私を……辱めるつもりですか」
両手足は固定されて動かせず、かろうじて指が動かせる程度。
頼みの神罰刀も、あっさり取り上げられ、遠くに投げ捨てられてしまった。

「それも素敵よねえ……こんなに可愛い七華ちゃんを、好き放題に出来るなんて、
トーメントの魔物どもが聞いたらヨダレ物でしょうね。でも、その前に……」

サシガネは手にした木槌を、七華の脇腹めがけて思い切り振りぬく。
ブオンッ!……ドスッ!!
「っあぐ!!」
「藁人形だけじゃなくて、直接この手で……徹底的にいたぶってあげるわ」

ゴスッ!! ドガッ!! ……ズボッ!!
「ぐごっ………っぐ!………っがっ!!」
生けるサンドバッグと化した七華の全身を、サシガネが木槌で乱打する。
呪術で釘を打たれた所もそうでない所も、思い切り、何度も何度も。
そして、トドメとばかりに………

ドゴンッ!!
「…っぐああああぁぁぁぁああああ!!!」
I字に上げていた脚のど真ん中……股間に、思い切り木槌を撃ち込まれ、七華はとうとう抑えていた悲鳴を上げた。

「クックック……大きな声出したら、魔物どもに気づかれちゃうわよ?
ったく、五人衆とかいってチヤホヤされてたクセにだらしないわねぇ……ウチのワラビちゃんを見習ったらどう?」
「………………。」
七華の視線の先には、I字バランスの体勢で、木にくぎを打ち付けられて固定されているワラビの姿がある。

「……一体何者ですか、あの子は……明らかに『藁人形』ではなく……人間ではないですか。
痛みを感じないって、一体どうして……」
そう…最初に彼女を見た時から、ずっと疑問だった。
サシガネから「藁人形」と呼ばれてはいたが、ワラビの身体は藁ではなく、どうみても人間そのもの。
釘を刺された個所からは、血だって出ている。
なのにワラビは、全身に釘を刺されても悲鳴どころか痛がる素振り一つない。
痛みに耐える訓練を積んだとしても、手足を釘で貫かれて何の反応も示さないのは、どう考えても異常だ。

「ああ、あれ?……そう難しい話じゃないわ。
特殊なお薬で脳をジャブジャブ洗ってあげれば、『痛み』なんて認識できなくなるわ。
記憶も人格もぶっ壊れちゃうから、自分じゃゼッタイやりたくないけどね」

「なっ…………あんな幼い子供に、どうしてそんな酷い事を……!」
「酷い事?……あの子は人間といっても、貧民街で拾った奴隷。
何の役にも立たないゴミを、アタシが人形として使って役立たせてあげるのよ?
これってすっごくエコじゃない?」

「……許せません……貴女だけは、絶対に……!!」
「ふふふふ……そんな大股開きでニラんだって、ちっとも怖くないわよ。
まだまだタ〜ップリいたぶってあげるから、せいぜい可愛い鳴き声利かせてちょうだい♥」

奴隷の価値は人間未満、ゴミ同然…ひと昔前のミツルギなら、比較的ありふれた価値観だったのかも知れない。
……だが七華には、到底受け入れられるものではなかった。
瞳の奥に、怒りの炎が静かに灯る。だが、絶体絶命の窮地に立たされた七華に、反撃の機会は巡ってくるか……

802名無しさん:2020/11/08(日) 14:30:31 ID:???
「ふひひひ……巫女さんは見つからないけど、雪女ちゃんにJK忍者ちゃんがいるとはラッキーだぜ!」
「雪女ちゃんのおっぱい、ひんやりして気持ちよさそう……まさにリアル雪見大福だな!」
「討魔忍の装束って、露出度高いか、全身ぴっちり覆ってるけど体のライン出てるか、どっちにしろエロくて最高だよな!」
「フィーヒヒヒヒ…JKの太もも……直接かぶりついて吸血しまくりてぇ…!!」

「あーーーもう!!なんでこんなに敵がいるのよ!!最悪ーー!!」

ヤヨイ、ナデシコ、ササメの三人は、無数の魔物たちに囲まれていた。

ここは『ポイントA』…本来は敵軍をおびき寄せるためのエリアであった。
討魔忍五人衆の中でも最かわと名高い神楽木七華がこのあたりにいる、という偽情報もネット上がばらまかれており、
その上で無数の罠が仕掛けられ、脱出不能の結界が張られている。

何の間違いか運命のいたずらか、三人はそんな敵軍の真っただ中に迷い込んでしまっていた。

「落ち着いて、二人とも!ここは…一気に突破しましょう!」
「はい!」「よーし、ヤヨイ!あれで行くよ!!」
年長のササメがヤヨイ達を先導し、敵の一匹に狙いを定める。
駆けだす三人の行く手には、角を生やした巨人、アカオニの姿があった。

「グヒヒヒヒッ……メスガキどもが。たかが三匹、この俺様がヒィヒィ言わせてやるぜぇ!!」

3m近い巨体に赤銅色の肌の赤鬼が、筋骨隆々の全身をふるわせ、襲い掛かる。
そして、巨大な金砕棒を振り上げた瞬間……

「…はっ!!」
「ぐぬっ!?」
ササメが冷気を放ち、鬼の足元に冷気を凍らせた。
そして鬼がバランスを崩したところへ……

「連携技・打ち上げヤヨイ!」
「からのー!!秘伝忍技・落鳳破!!」
「ぐおおおおおおおっ!!!」

ナデシコがバレーのレシーブの体勢で、ヤヨイの踏み台となる。
ヤヨイはナデシコの力を借りて赤鬼の頭の高さまで跳躍し、そのまま鬼の頭を脚で挟み込み、地面に叩きつけた。
秘伝忍技・落鳳破…ミツルギ流体術の高等技とされる、プロレスでいうフランケンシュタイナーに近い投げ技である。
赤鬼は近くにいた魔物数体を巻き添えに倒れ、後頭部を打って昏倒した。

「今のうちです!!」
「なっ!鬼が倒されただと!?」
「追うぞ、逃がすな!!」

魔物の包囲網に綻びが生まれ、三人は脱兎のごとく走り包囲網を突破する。

「でもってこれは、オマケだよ!!」
追ってくる魔物兵達に、ナデシコが煙玉を投げつける。

「ケッ!!そんな煙に惑わされるか!俺たちから逃げられると……」
煙幕の量はさほど多くなく、魔物達の足元が見えなくなる程度。
しかし……

ぷち カチッ ガコン!
「ん?……」「今何か」「踏んだよう、なっ!?」

ドゴォォオオオオンッ!!
ガラガラガラガラ!!
ドスドスドスドスドス!!
「「「グワーーーーーーッッ!!!」」」

……付近一帯に無数に仕掛けられた、トラップを見えなくさせるには十分だった。
地雷、落石、弓矢などの罠が次々に発動し、追ってくる魔物達を蹴散らしていく。
全滅させるには至らないが、これで時間は十分に稼げるはずだ。

「なんとか逃げられましたね……でも確か、この辺のエリアは出られないように結界が張ってあるんですよね?」
「追手が来る前に、結界から抜け出す方法を考えないと!」
「とりあえず、あそこの林に身を隠しましょう!」
草原を抜け、三人は高い木の茂る林に身を隠す。
三人は、はたして無事に魔の領域から抜け出すことができるのか…

803名無しさん:2020/11/08(日) 14:32:13 ID:???
「はぁ……はぁ……ここなら、少しは安全ですね」
「と、とりあえず……休憩しましょう。朝から戦いっぱなしで、もうクタクタ…」
「アタシも……それにさっきの煙幕で、火薬使いきっちゃった」
「そうですね……私ももう、魔力が……」

林の中に身を隠し、束の間の休憩を取る三人。
だがそこに、音もなく忍び寄る影があった。

「それにしてもトーメントの奴ら、どいつもこいつもスケベ過ぎだわ…
アタシやササメ先輩の胸ばっかガン見してくるし。…その点、ヤヨイっちはうらやましいわ」
「うぐぐ……確かに大きいと色々大変そうだけど、なんか負けた気がする……」
「いやほんとマジで。煽りぬきで」
「ま、まあまあ…ヤヨイちゃんは成長期なんだし、まだまだこれからですよ!
それに、アゲハさんやコトネさんみたいに(身長が)小さくても強い忍びはたくさん……」
(…………?……この気配は………!)

「ササメさん?……どうしたんですか?」
「…………。」
「……!?」「……!!」
ササメは不意に怪しい気配を感じ、唇の前で人差し指を立ててヤヨイとナデシコに沈黙を促す。
二人もすぐに状況を察し、茂みに隠れて周囲の気配を探り始めた。
すると……

ぞわわわわっ…!!
ギュルルルルルルルッ!!

「きゃぁっ!?」
「なっ……何これ、植物が!?」

周囲の草花、そして地中から、無数の蔦が伸びてヤヨイとナデシコの体に巻き付いていく!

「これは…魔物!?……いや、この術は……まさか……!!」
ササメは四方八方から襲い掛かる蔦をかわし、氷刀で切り払う。

「…………。」
「………しゅるるるる…」

そして、林の奥から現れた襲撃者の姿に、ササメは我が目を疑った。

白い髪に赤い瞳、うさぎのような長い耳。
一人はすらりと伸びた長い足の、長身の美女。もう一人は、10代前半くらいの幼い少女。
二人の事を、ササメは知っていた。…見間違うはずもない。

「ゼリカさん、ミゲルちゃん……そんな、一体どうして……!?」

サリカの樹海に住み、魔の山に眠る神器を守護する「ヴィラの一族」。
生まれて間もなく雪人の城から捨てられたササメは、彼女たちの一族に拾われた。
幼少の頃、ササメはヴィラの隠れ里で彼女たちと一緒に、実の姉妹同然に育てられたのだ。

「………じゅるっ……」
「しゅるる……」
「なっ……なんとか、言ってください…!
テンジョウ様から、ヴィラの里がトーメントに滅ぼされたと聞いて、私……」

そう。死んだはずの親友たちとの、感動の再会……であるとは思えない。
現に奇襲を仕掛けてきた二人は、ササメに何の反応も示さない。
そして何より異様なのは……二人の肩に乗っている、オレンジ色のカボチャ。

「クキキキキ……何かと思ったら……」
「俺たちの『ノリモノ』の、『元』知り合い、かぁ?……キキキッ!」

【パンプキン・ビースト+】
人や獣、魔物にカボチャの実に似た植物が帰省した魔物。
宿主自体の能力に加え、イバラのような棘蔓を武器として使う。
実は背中に寄生した植物が本体であり、これを破壊しない限り倒すことは出来ない。
規制する対象は人や獣、魔物と幅広く、死体も操ることができる。
多くの生命に寄生したことで知恵を付け、残忍さや狡猾さがさらに増した。

804名無しさん:2020/11/13(金) 01:43:35 ID:???
「あっ………あなたたちは…!?」

「クキキキ……我々は、偉大な王にたてついたこのメスどもを殺し、ヴィラの里を滅ぼした功績によって」
「我らが王から、更なる知恵と魔力を授かり……そしてこのメスどもを『乗り物』として賜ったのだ」

ゼリカとミゼルの肩の上の不気味なカボチャが、言葉を話し出した。

「しゅる、るるる……」
「うじゅ……るるる……」
ゼリカとミゼルは何も言わず、虚ろな表情のまま……
カボチャ達が言うように、彼女たちは、既に死体になっていた。

「!!……殺して……乗り物、ですって…!?」
「その通り……メスの人間や亜人は、我々にとって様々な使い方がある。
生きていれば食料にも苗床になり、死体もこうして、乗り物や……」

「……武器にもなる」
ゼリカとミゼルの死体を操り、パンプキン・ビーストたちが襲いかかった。

「……許せないっ…!!」
魔物達への怒りに身を震わせ、両手に氷の魔力を込めるササメ。
だがこれまでの戦いで魔力が底をつきかけていて、氷の刀を生成するのが、ほんのわずかに遅れる。

「たああああぁっ!!」
ガキンッ!! ビシッ!! ガキィィンッ!!

刀の強度、切れ味も、普段よりわずかに鈍っている。
何より、冷静さを失っていた事で、剣技が普段より、ほんのわずかに……直線的に、単純になっていた。
いずれも、本人も気が付かないほどの、ほんのわずか。
だが……えてして極限の戦いにおいては、そのほんのわずかの差が勝敗を大きく左右する。

「カボチャさえ壊せば……なっ…!?」
「そして、こうして盾にもなるわけだ……ククククッ」

ミゼルに取りついたパンプキンを叩き切ろうとした瞬間、ゼリカが横から割って入った。
例え死体だとわかっていても、長年姉のように慕ってきたミゼルと目が合った瞬間、ササメの動きは止まってしまい……

(違う……惑わされちゃ駄目……だって二人は、もう…)
メキッ!!
「あぐっ!!」
代わりにゼリカからの一撃、彼女が生前愛用していた『神樹棍』の突きをみぞおちに喰らってしまう。

「ヒヒヒヒヒッ……オタノシミは、これからだ」
(し、まっ……)
体勢を整える間もなく、ゼリカの……パンプキン・ビーストの追撃がササメを襲う。

ビシッ!!バシッ!!
「あ、う……!?」
下段に構えた棍を左右に振るい、ササメの左右の踝の内側を打つ。
脚を開かされ、バランスを崩したササメが、その場に崩れ落ちそうになった所へ……

……ドスッッ!!
「…っんぐあああああっ!!」

……そのまま真上に、ゼリカは棍を振り上げる!!


「クックックック……討魔忍だろうと雪人だろうと、同じことだ。
ここに一発ブち込めば、ノリモノは皆大人しくなる」
「っぐ、あ……が………はっ……!」
必殺の一撃を急所に打ち込まれ、ササメはビクンビクンと全身を痙攣させながら崩れ落ちた。

805名無しさん:2020/11/13(金) 01:44:39 ID:???
…ぐりっ!!
「んあぅっ…!!」

悶絶寸前のササメの股間を、パンプキンビーストは追い打ちとばかりにグリグリと踏みにじる。
みぞおちに喰らった一撃のダメージが深く、手足に力が入らないササメ。
ゼリカの脚を払いのけることができず、回復するまでいいように嬲られ続けてしまう。

「クックック……これほどの上物だ。使う前に傷をつけたくはないが……
まずはノリモノとしての態度を、わからせてやらんとな」

パンプキン・ゴーストの本体から、鋭いイバラのような枝が何本も伸びる。
それらが鞭のようにしなり、ひゅんひゅんと風を切り、そして………

ビュッ!!ビシビシビシッ!!ズバッ!!
「それって…まさか、っきゃああああっ!!」
一斉に振り下ろされた。

「クックック……お察しの通り。
このノリモノも、死体にしてはなかなか気に入ってたが……
そろそろ乗り換え時だからなぁ!!」

ベキッ!!パキィィンッ!!ビシッ!!ザシュッ!!ドガッ!!
「っぐ!うああああっ!!んっぐ、あああああああ!!」
氷の刀は砕かれ、白い忍び装束は引き裂かれ、血の赤で染め上げられていく……

パンプキンが乗り移ったゼリカ達の力は、ササメの予想を遥かに超えていた。
…普通の人間は、全力で運動している時でも、無意識のうちに力をセーブしていると言われている。
そうしなければ、体そのものが、自分自身の力に耐えきれず破壊されてしまうからだ。
だがパンプキン達にとって、人間は単なるノリモノ。死体とあらばなおさらの事
ゼリカ達が壊れようとお構いなしに、乱雑に扱い……結果、常人を遥かに上回る力を発揮していた。

「クックック……これでわかっただろう、我々に逆らっても無駄だと。
さあ、お前を新たなノリモノにしてやろう」

パンプキン・ビーストの蔦がササメに巻き付き、全身を拘束する。
そして、目の前に触手が突きつけられる…その先端には、パンプキン・ビーストの種子が不気味に脈打っていた。

「いいえ……私は、貴方たちの思い通りにはならない…!」

悪魔の子種があわやササメの口にねじ込まれようかという、その時……
ササメの目が見開かれ、右手の指先が素早く動き……何かが飛んだ。

ギュルルルルルッ!!
「馬鹿め。全身を蔦に縛られ、手も足も出ないくせに今更何……っが!?」

それは、分銅のついた鎖鉄球。死角からパンプキン・ビーストの本体に巻き付いて、捉える!

「はぁっ……はぁっ……右手の感覚が回復するまでに、時間がかかりましたが……
私は指一本でも動かせれば、鎖を自在に操る事ができる。油断しきった貴方を捉えるぐらい、造作もない」

「バ、カナ……信じ、られん……そん、な、事が……ッギアアアアアッッッ!!」
ササメが指を軽く弾くと、巻き付いた鎖が万力のような力で締め付けられ……
パンプキン・ビーストの本体は、粉々に砕け散った。

「やったーー!さすが、ササメ先輩!」
「指だけで、鎖をあんな風に操るなんて…すっごいです!」

「いいえ……私の技なんて、まだまだあの人には…七華さんには、遠く及びません」

岩をも砕き、鋼をも撃ちぬく威力を秘めた、ササメの『砕氷星鎖』。
それを指先一つで精密に操る術は……師匠である神楽木七華の下で身につけたものである。

「そ、それよりヤヨイちゃん、ナデシコちゃん。もう一人の敵は……」
「んーっ……!!」
「えっ…んぐむっ!?」

ミゼルと、それに取りついたもう一体のパンプキンビーストはどうなったのか。
状況を確かめる前に、ヤヨイとナデシコが駆け寄ってきて……
有無を言わさず、唇を奪われた。

「んっ。…ちゅぷっ………ふふっ。だけど、こうして……」
「口移しで種を植え付けられたら、どうしようもないよねぇ…‥?」
「ん、むぐ……ぷはっ!!…まさ、か……二人とも…!?」

806名無しさん:2020/11/13(金) 23:11:55 ID:???
前後からナデシコとヤヨイに挟まれ、身動きが取れないササメ。
三人のすぐ脇には、動かなくなったミゼルの死体が転がっていた。
パンプキン・ビーストの姿は、既にそこになく……

「ヒヒヒヒ……久々に、新鮮なノリモノが手に入ったよ」
ヤヨイの肩の上に乗り、トゲだらけの蔦を絡まみつかせている。

「乗り心地も実にイイ……同胞が一体潰されたようだけど
新しいノリモノが三体手に入ったから結果オーライだねぇ……ククク」
そして、もう一体……新たに増殖した、小ぶりなパンプキンビーストがナデシコの胸の上に鎮座していた。

(……そんなっ!!二人とも、体を乗っ取られて……!?)
「ん、ぐむ……う、えっ……!」
ナデシコの口からササメの咥内に、苦くてエグくてカビ臭い、謎の粘液を注ぎ込まれた。。
恐らくこれは、パンプキンビーストの種……
もし呑み込んで、体内で発芽してしまったら、自分まで魔物の支配下に堕ちてしまう。
(そうなる前に、何とかして二人を助けないと……!!)

「う、げ……はぁっ…はぁっ…」
ササメは口に含んでいるだけでも軽い吐き気を催してしまい、思わず白く濁った液体を吐き出した。
唾液混じりの粘液が胸の谷間の窪みに溜まり、小さな三角の池を作る。

「ふふふ……ダメだよ?ちゃんと呑み込まないと。逆らったらこのノリモノがどうなるか…………」
「うっ……っぐ、ササメ、先輩……にげ、て…」
「…私の、か…た……を…っ、ああっ……!!」
(ナデシコちゃん、ヤヨイちゃん……!)

ほんの一瞬、ナデシコとヤヨイの意識が解放され、苦悶の表情を浮かべる。
逃げろ、とササメに訴えかけるが……

「どうすればいいか…わかるよね?…セ・ン・パ・イ♪」
「…っ……………!!」

……二人を見捨てる選択など、出来るはずもない。
一度は吐き出され、胸元に溜まっていた白濁汁を、ササメは舌で舐めとり、意を決して呑み込んだ。

「んっ……く………はぁっ………はぁっ………」
(なんとか、隙を見つけないと……)

「ふふふ……ちゃんと飲んだね、えらいえらい。
じゃあ、僕らの種が芽吹くまで、そのまま大人しくしていてもらおうか。
またあの鎖で反撃されないように、ちゃ〜んと押さえとかないと」

パンプキンビーストに支配された二人が、ササメの手を取り、指の一本一本をしっかりと絡み合わせる。

二人とも年下の後輩とは言え、正面にいるナデシコの体格は、ササメとそう変わらない。
お互いに吐息がかかり、押され合った胸が撓むほどの至近距離。
背後のヤヨイは、空いている方の手をさりげなくササメの胸や太ももに這わせて、微妙な感覚を送り込んでくる。
武器を隠し持っていないか調べるためか、それとも単に、魔物の邪悪な欲望に従っているのか……

操られた二人の表情は、どこか妖艶な雰囲気をまとっていて、
同性ながらもドキドキしてしまいそうな体勢である。……こんな状況でなければ、だが。

こうしてササメはしばらくの間、後輩の少女二人に手を握られながら、
じっくりとじらすように全身を撫で廻され、敏感な場所を舌で転がされたり、甘噛みされたり……

「………ん、っ………!!……」
「……ヒヒヒ……」
「クックック……雪人のノリモノは、今までにも何回か乗り潰した事があるけど、
メスはみんな脆弱で、長持ちしなかったんだよね……」
「…!!………」
「こんな見事な身体と美貌を好き勝手にできるなんて、
これから生まれてくる同胞が羨ましいよ。クックック……」

浴びせられる心無い賛美の言葉に、こみ上げる怒りを抑えながら、ササメはひたすら耐え忍ぶしかなかった。

807名無しさん:2020/11/13(金) 23:13:40 ID:???
「さ〜て……そろそろ、種が完全に根付いた頃合か……気分はどうだい、同胞よ」
「…は……は、い……、……とても、すがすがしい気分です…」

(……大丈夫……まだ、意識を保てている。仲間になったふりをして、チャンスを……)
ササメは「ある方法」で、呑み込んだ種が発芽するのを遅らせていた。

人質を取られ、武器を奪われ、複数の敵に至近距離で監視されている今は、
何としてでも敵を欺き、隙を見つけなければならない。
「魔物に乗っ取られた演技」が当の魔物相手にどこまで通じるかわからないが、とにかくやってみるしかない。

「クックック……それは良かった。
ノリモノの乗り心地はさぞ快適だろうけど……よかったら、『顔』を見せてもらえるかな?」
「……はい、わかりました…。」
(よし……安心してるみたい。あとは、片手だけでも自由になれば……)

ササメは全身をだらりと弛緩させ、虚ろな表情を浮かべた。
敵が乗り移ったナデシコとヤヨイに身を預け、あえて無防備な格好を晒す。
『砕氷星鎖』は敵に奪われていたが、代わりの武器なら、灯台下暗し……
ほんの少し手を伸ばせば、ヤヨイの腰に差した刀に届く。

「………なんて、ね。
なかなかの熱演だったけど、その程度じゃ僕たちを騙すことは出来ないねぇ」
「……っ!!」
「雪人の力で呑み込んだ種を凍らせて、発芽を遅らせていたのか……
いくら演技しようと、胸のあたりの体温がこんなに冷たいんじゃ、丸わかりだよ。クククク」
「く、……!!」
パンプキンビースト達がササメの身体を弄っていたのは、ただの趣味だけではなかったらしい。
ササメは拘束から逃れようと抵抗するが、二人がかりで押さえつけられてしまう。

「ノリモノのくせに小賢しい真似を」
……ドゴッ!!
「っぐほっ!!」
ナデシコの拳が、下腹に突き刺さる。
呑み込んだ種を思わず吐き出してしまうほどの、強烈な一撃。

「おっと、やりすぎたかな……まあいいか。種は後でまた飲ませるとして」
「その前に。このノリモノに新たな同胞を発芽させるには…」
「雪人の力が使えなくなるまで、徹底的に嬲って弱らせるか」
「勿体ないけど、殺した方が手っ取り早くいかもねぇ。
死体になっても、ノリモノとしては使えるんだし……」

「げほっ……が、は………」
(もう、ダメ……ごめんなさい、ヤヨイちゃん、ナデシコちゃん…あなた達を、助けられなくて……)

お腹を抑えてうずくまるササメ。
ヤヨイが腰の刀を抜き、大きく振り上げる。

そして……

「やーれやれ。やっと抜いてくれたわね。一時はどうなるかと思ったけど」
ヤヨイの着ていた忍者装束が、草原の風を思わせる爽やかな緑色に変わっていく。
色だけではなく、その形状も……露出度マシマシ、ミニスカがヒラヒラのフワフワな、妖精風の姿へと。

「なっ!?俺の制御が効かな……貴様、一体何者、っごぁっ!!」
「簡単な話よ。あんたがヤヨイの意識を乗っ取った所に、更に上書きしてアタシが乗っ取った」
その身に纏った風の魔力は刃となり、ヤヨイの肩に乗っていたカボチャの魔物を一瞬にして細切れにした。

「あ、貴女は……あの時の、風の精霊さん」
「お久しぶり、ササメ先輩。
ヤヨイがまたまたお世話になってるみたいね……あとは私に、」

「き、貴様ぁああああっ!!」
「『エアカットアウト』!
 任せといて!!……っていうか、もう終わったけど!」
「ウギ、アアアアアア!!」
ナデシコの胸に乗っていたカボチャも、瞬く間に切り刻まれた。

ヤヨイの持つ精霊刀・ミカズチに宿った「風の精霊」は、
その名の通り疾風のように現れ、絶体絶命の状況を一瞬にして覆したのだった。

808名無しさん:2020/11/21(土) 19:34:48 ID:???
「す、すみませんでしたササメ先輩!!」
「私たちのせいで、大変な目に……!!」
「い、いえ。気にしないで……それより二人とも無事でよかったです」

意識を取り戻したヤヨイとナデシコが、地に頭を擦り付けんばかりに平謝りする。
そんな二人をなだめるササメだったが……

(それにしても、危なかったです……
ナデシコさんなんて、私より4〜5歳は年下のはずなのに、グイグイ来られて危うく流されてしまう所で…
って、いやいやいや!!あれはあくまで、魔物のせいだから!!
二人とも普段はとってもいい子ですし …いやでも、最近の女子高生は進んでるって聞きますが……)
先ほど唇を奪われたナデシコとは、ちょっと二人と目を合わせづらくなっていた。

(さ、ササメ先輩とべろちゅーしてしまった……唇とかおっぱいとかめっちゃ柔らかかった……お、おかわりしてえ……
っていやいやいや!!私何考えてんの!?……っていうか、魔物に乗っ取られてたんだし、これはノーカン!ノーカンで良いよね!?)
ナデシコも割と気にしていた。
二人とも、カボチャの体液の成分が残っているためか、思考がいけない方向に傾いているようだ。

(ヤヨイの身体は、私が乗り移った時に解毒魔法かけといたけど…二人にも掛けといた方が良いかも)
「そうなの?でも、そのためにもう一回変身するのも疲れるし……そうだ。解毒剤、持ってきてたかな?」

「ササメ先輩、さっき腹パンしちゃったところ痛くないですか?本当にごめんなさい…私、肩貸しますね」
「い、いえ一人で歩けますから……あ、痛っ………」
「あ、ほら。気を付けてください……もっと、こっちに来て…」
「ちょっ……そんな、顔、近……」

そんなわけで、ナデシコとササメは危うく流されそうになっていた。

「あのー。お二人さん? ええと……」
(……やっぱまとめて解毒魔法しとく?)

この後二人とも、めちゃめちゃのたうち回った。


「うあああああああ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「わわわわわ私も申し訳ありませんでしたすいませんすいませんすいません!!」

「いや、二人とも一旦落ち着いて……敵に見つかっちゃうし」
「いやマジで、何やっとるんじゃお主らは。そんな事より七華を見なかったか?」
「うわあビックリした!?…って、あなたは確か……七華さんの、ええと。お付きの人の、クロマメさん?」

いつの間にか、ヤヨイの隣に人が増えていた。
結界内に強制転移された七華を探しに来た、クロヒメである。

「まさか、七華様までこのエリアに飛ばされてたなんて……」
「まずいですよ!もし魔物達に見つかったら、あれだけの数、いくら七華様でも……!!」
「っていうか、さっき私達を追ってきてた奴ら、ぜんぜん近づいてくる気配ないけど……まさか……」

「既に『本命』を見つけた可能性がある、か……。それなら、魔物の群れを探せば、見つかる可能性は高いな。
…よし。お主らは本陣に戻っておれ。『オロチ』の発動まで時間がない。それに、その様子じゃ戦う余力はあるまい。
この護符を持っておれば、結界から出られるはずじゃ」

「え!?……クロヒメさんは、どうするんですか?」
「七華の事は、任せておけ。
わらわが…付喪神・血贄ノ黒姫が、この身に代えても必ず助け出す」

クロヒメは仕込み刀を抜き放つと、魔物の気配の集まっている方角に一目散に駆け出した。

809名無しさん:2020/12/05(土) 17:18:38 ID:???
…ドスッ!!
「うっ、ぐ………!」
ゴキンッ!!
「いぎ、っぅ…!!!」

I字バランスを保ったまま、巨大な木槌で滅多打ちにされる七華。
全身いたるところが赤黒くはれ上がり、骨も何本か折れている。

「くっくっくっく……なかなか頑張るわねぇ。もっとキャンキャン泣きわめくかと思ったのに」
呪術によって、ワラビと同じ体勢を保つことを強いられているため、
どんなに打たれても、折れた片足で立ち続けなければならない。

「ね〜ぇ、七華ちゃん……アタシ、あなたのことが欲しくなっちゃった。
『サシガネ様は私なんかより万倍強くて美しい、ミツルギ最強の人形使いです。
クソ雑魚ダメ巫女の神楽木七華は、今後一生サシガネ様に忠誠を誓います』
って宣言してくれたら〜、アタシの『お人形』にして、可愛がってあげる。どう?」

「はぁっ………はぁっ……げほっ……何を、言い出すかと思えば……くだらない。
貴方のような人に、人形を扱う資格も、討魔忍を名乗る資格もありません。
従うなんて、絶対にありえな」
……ズドッ!!
「ひぎあうっ!?」

無防備な七華の股間に、木槌の一撃を叩きこむサシガネ。
二発目の痛撃に、断末魔にも似た悲鳴を上げる七華。

「……言ってくれてもいーじゃない?本当の事なんだからぁ〜。
ほらほら、りぴーとあふたーみー?
『私はサシガネ様に完全敗北した、おっぱいだけが取り柄のクソ雑魚です』」

「私は………貴方なんかに、絶対負けな」(ごちゅっ!!)
「っぐあぅ!!」

『五人衆どころか、なんで忍びになれたかわからない、ミジンコ以下の虫けらです』

「私は『神通の七華』……今日まで厳しい鍛錬を重ね、皇帝陛下に認められた討魔忍五人衆の一人。
その矜持だけは、絶対に曲げな」(どぼっ!!)
「んああああんっ!!」

「ったく、口だけは一人前ねぇ。アタシの『ウシノコク』呪術で指一本動かせないくせに」

「はぁっ……はぁっ…………あいにくですが、指一本くらいなら、動かせます」

「プっw だから何?
……ていうか七華ちゃんて、もしかしてドM?あそこボコボコに叩かれて、感じちゃうタイプ?
もうめんどくさいから、トドメにまんこに釘ぶっこんで、終わりにしてあげる。
トーメントに帰ったら蘇生して、お薬ジャブジャブ洗脳コース直行よん♪」

鋭い釘が、七華の股間にあてがわれる。
そこをめがけて、サシガネが木槌を思い切り振りかぶった、その時……

「指一本さえ動かせれば……こういう事も、出来るんです」
ドカッ!!
「んがっ!?」

高々と上がった七華の脚が弧を描いて動き、油断していたサシガネを蹴り飛ばした!

「そんなっ!?どうして……!!」
「……!?……サシガネ様………」

サシガネは何が起こったかわからず、周囲を見回し……七華の動きを封じていた『人形』の異変にようやく気づいた。
ワラビの手足を拘束していたはずの釘が、いつの間にか抜き取られている!

「極細の糸で小型の人形を操り、ワラビさんの釘を抜かせて頂きました……
時間はかかりましたが、貴方がまんまと挑発に乗ってくれたおかげで上手くいきました。
そしてワラビさんの、痛みを感じない体質…これは少々賭けでしたが、釘を抜かれた事に気付かなかったようですね」

「なななな、なによそれ!?指一本で、そんな常識はずれな事が……」
「これでも討魔忍五人衆の端くれ。少々私を侮りすぎましたね…
…これで終わりです!!」

五寸釘を拾い上げ、とどめを刺しに行く七華。
予想外の状況に動転し、立ち上がれないサシガネ。
勝負は決したかと思われた、その時………

「………させない」
「……!!……あなたは」
「ワラビ……!」

藁人形の少女ワラビが、二人の間に立ちふさがった。

810名無しさん:2020/12/05(土) 18:31:41 ID:???
「ワラビさん……退いてください。貴女を傷つけるつもりは……」
短刀代わりの釘を構える七華だが、ワラビに立ちふさがれて動けずにいた。

「だめ……サシガネ様、いなくなる……わたし……帰る所、ない」
「な………!!」

ワラビは元々、ミツルギのスラム街で拾われた、何の力もない奴隷の少女。
術を使うサシガネがいなくなれば……たった一人で生きていく術はない。

「っ………ぎゃーーっはっはっはははは!!
そうよねー!七華ちゃんは、ワラビを斬れないわよねえ?
コイツを攻撃したら、同じダメージが七華ちゃんにも返ってくるんだもんねえ!?」
「あ、貴方はっ…!!」

動きを止めた七華を見て、サシガネが狂ったように笑いだす。
そして、たまたま近くに落ちていた、七華の刀を拾い上げ……

「やっぱり…このアタシこそが最強だったって事ね♪」
(ずぶり………)

ワラビを背中から刺し貫いた。

「あ………え……?」
「っぐ……!?」
状況が呑み込めず、戸惑うワラビ。
そして、七華の背中からお腹にも……刃が通り抜ける感触とともに、耐えがたい激痛が走る。

「大体アンタが釘抜かれたときに気づいてれば、アタシが蹴られずに済んだのよ……
こんな役立たず、もういらないわ。……ふんっ!!」

ずぶっ!!
ブシュッ!!
「そん、な……サシガネ、さま……まっ、て……」
「あ、貴方は一体、どこまで……っぐぅ!!」

サシガネが、刀を勢いよく引き抜く。
血しぶきが吹き上がり、ワラビがばったりと倒れた。
痛みを感じないとはいえ、さすがに致命傷は免れないだろう。

「つーか、いい加減コイツにも飽きてきたし、そろそろ捨てるつもりだったのよね。
代わりに、新しい人形……七華ちゃんが手に入るってわけ」
「……ふざけ、ないで……そん、な、こと…させない…!!」

「イキっても無駄無駄。どーせその傷じゃ、助かりっこないわ。
つまり七華ちゃんも死亡確定ってこと。
七華ちゃんだけは、トーメント王に蘇生してもらうけど♪」

「その後はお楽しみの、脳みそジャブジャブ洗脳コース。
でもって壊れるまでアタシの人形になってもらうから……
七華ちゃんが理性保ってられるのも、残りせいぜい1分くらいかしらね。
それに……」

「えっ………」

「次のお客さんが、もうそこまで来てるわ♪」


「おい見ろ!!あんなところに巫女さんが!!」
「やっときたー!!ほんとにいたんだナマナナカ様!!」
「オイオイ既に虫の息でヤられる準備万端じゃねえか!流石のサービス精神だぜー!」
「ふひひひ……横に転がってる幼女も幸薄そうで良い感じだぜ……合間合間につまみてえ……」
「なんかヤバそうな雰囲気のお姉さんもいるけど……」

七華を探していた魔物の軍勢が、ぞくぞくと集まってきていた。

「あらあら、大人気ねぇ。巻き添えにされる前に、アタシはとっとと退散させてもらうわ。
……あ、結界から出る『護符』だけ頂いていくわね」
「ぜぇっ………ぜぇっ………ま、まちなさ……ぐはっ!!」

全身にまとわりつく激痛に抗いながら、サシガネの足に縋りつこうとする七華。
だがワラビがビクリと大きく痙攣すると同時に、七華は大量の血を吐き出しその場に崩れ落ちた。

「最期の自由時間……魔物ちゃんたちに、たっぷり遊んでもらいなさい。じゃあね〜♪」

魔物達の咆哮が、地響きのような足音が、討ち捨てられた巫女と人形の残骸を今まさに呑み込もうとしていた。

811名無しさん:2020/12/19(土) 14:09:46 ID:???
体中から、血が、抜けていく………
頭がぼーっとして、眠くなってきた。
目の前がゆっくり、暗くなっていく……。

サシガネ様に「いらない」って言われた時から……体中が、熱くて、冷たくて、うまく動かせない……
これが、痛い、っていう感覚なのかな……?

「しっかりして……ワラビさん……」「まずい、このままじゃ本当に……」「今、回復魔法を………」
ななか、さん………サシガネ様の、敵……
私も、この人の、敵………の、はずなのに………

どうして、私を助けようとするの…?
私が死んだら、自分も死んじゃうから…?

どうして………
どうしてそんなに、悲しそうな顔を、しているの………?

……。

(どんどん生気が失われていく……私の回復魔法だけじゃとても……でも、どうすれば……!)

ワラビの受けた傷、特に最後の刀傷は内臓にまで達していた。
必死に治療を試みる七華だが、それでも僅かな延命措置にしかならない。
そして……今二人は、それすらもままならない状況に陥っていた。

「ヒャッハハハハハハハァーー!!まずはそっちの死にかけのガキからいただきだぜぇー!!」
「あ……危ないっ!!」

【カマイタチ】
両腕に鋭い刃のような爪を持つ、獣人型の魔物。
その動きは風のように素早く、肉眼で捉える事すら困難。

……ザシュッ!!

「んぐぅ!!」
カマイタチの斬撃からワラビをかばった七華は、背中をざっくりと切り裂かれた。

「おっとー?
せっかく邪魔なゴミを先に片づけてやろうってのによ!オラアッ!!」

ズバッ!! 

「っく!!……いいえ……この子は、ゴミなんかじゃない。
あなた達なんかに、やらせはしません!…たあっ!」

ガキインンッ!!
「グエッ!?」

気合い一閃、手にした刀でカマイタチの胴を両断する七華。
その手は呪術による激痛がいまだ残っていて、本来ならまともに剣を握れる状態ではない。
さらにサシガネに木槌で滅多打ちにされ、物理的にも満身創痍。

「し、心配しないで……貴女の事は、この身に代えても……キュアライト!!」

それでも七華は身を挺してワラビをかばい、回復魔法をかけ続ける…

「……どう、して……?私は、敵……
それに、私のきず、なおしても、じぶんが、きずついたら……」

「敵だとか、私への呪いだとか……そんな事関係ありません。
……放っておけるはずが、ないじゃないですか………
好き放題に利用されて、飽きたらゴミの様に捨てられるなんて。
いくらなんでもあんまりじゃないですか……!!」
「ななか、さん………」

「ゲヒヒヒヒ!いいねソソルね嬲りがいがあるねえぇ!」
「さーっっすが、神に仕える巫女さんは心がお優しいタコ!」
「かわいそうなのはぬけるでゴワス」
「極上の尻子玉が取れそうだケ!」
「「「イックゼェェェ!!!」」」

「………!!……」

そんな二人を魔物の群れが取り囲み、我先にと襲い掛かる!!

……だが。

「………また、厄介なことになっておるの。少し目を離すとすぐこれじゃ」

長い黒髪、神々しくも妖艶な雰囲気をまとった巫女姿の美女が現れ、魔物達の前に立ちふさがった。

812名無しさん:2020/12/19(土) 16:23:49 ID:???
「あ…あなたは……?」
「……クロヒメ様……!!」
「まったく…何があった、七華。普段のお主なら、こんな連中どうとでもなるじゃろうに」

「ああー!?クソがぁ!またこのタイミングで乱入かよぉぉお!!」
「いやまて、今度の乱入は……美人のお姉様でゴワス!!」
「と言う事は、あのお姉さんも倒してワンチャン三人まとめて年越し祭りの可能性タコ!」
「いや絶対そういう流れじゃないと思うケど」

「……まあ時間もないし、詳しい話はあとじゃ。久々に『アレ』で蹴散らすぞ!」
「は、はいっ!……ワラビさん、もう少しだけ、我慢してくださいね……」

「「…『神火の天照』!!」」

「「「グアアアアアアァァアッッッ!!」」」

人形を人間に、人間を人形に変える魔法の『クリスマスリボン』で、クロヒメは本来の人形の姿へと変わった。
さらに最大奥義『神火の天照』で巨大な龍へと変形し、群がる敵を次々と焼き払っていく!


「間もなく『オロチ』とかいう攻撃術も発動する頃じゃ…このまま結界から脱出するぞ!」

火龍の姿に変わったクロヒメが、七華とワラビを背に乗せて結界の外壁目指して飛ぶ。
一旦は敵を振り切った一行だが、ここで更なる問題が発生した。

「…ところで七華。結界を出る護符は持っておるか?
実はかくかくしかじかで、わらわの分はササメ達に渡してしまってな……」

「そ、それなんですが……実はかくかくしかじかで、サシガネと言う女忍びに奪われてしまって」
「なっ!?なんじゃとぉ!?」

……このままでは、結界から出られない。
そして『オロチ』が発動してしまったら…周辺一帯焦土と化すほどの強力な術。
魔物だろうが討魔忍だろうが、助かる術はないだろう。

「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「!……ちょっと待ってください。ワラビさんが…」
「…その娘……もう、長くはもたなそうじゃな」

一方。七華の治療もむなしく、ワラビの生命力も限界を迎えようとしていた。

「この子は……敵に利用されていたんです。そして、用済みと判断されて…」
「なるほど。わらわのような人形ならともかく、人のみではこの傷は致命傷じゃろうな。
かわいそうじゃが、こうなっては最早……
…いや、待てよ。人形なら………もしかしたら」

クロヒメはクリスマスリボンを取り出し、ワラビの体に巻き付ける。

「荒療治になるが、許せよ」
「え………あ、………っ……!!……」

すると……ワラビの身体が淡い光に包まれ、人形の姿へと変わっていく。
細身の体、ガラス玉のような瞳、球体関節。
刀傷を受けた個所には大きな亀裂が入っていたが、修復不可能な傷ではなさそうだ。

「よし……あとは修復してから人間に戻せばよいじゃろう」
「あ……ありがとうございます。
……私一人では、この子を助けられなかった。敵の忍…サシガネにも、いいようにやられてしまって……
やっぱり、私……クロヒメ様がいないと駄目ですね」

「……七華、『不還の入滅』の準備じゃ。異空間に入って、治療しながら『オロチ』をやり過ごす」
「え………は、はい。『厨子』がないので、上手くいくかはわかりませんが……」
七華はワラビを抱きかかえると、『不還の入滅』……異空間に身を潜め、自身と人形のダメージを修復する秘術を発動する。
普段は、クロヒメが収めてある巨大な厨子を術の媒介に使用するが、それがない今は……

「そうじゃな。今の状態では、3人分が収まるだけの空間を作り出すのは難しい。
それに厨子がなければ、外部からの干渉に極めて弱くなる。
魔物が入り込みでもしたら、空間自体が維持できぬじゃろう。従って……」

七華の術で、異空間の入り口が出現する。そしてクロヒメは、その術の調整を行う。

「異空間は、七華とそっちの娘、2人分で良い。
魔物どもから空間を守るため、『外』にも一人は必要じゃ」

「!…待ってください、クロヒメ様。それでは……!!」
発動した術を取り消すことは出来ず、異空間の入り口はあっという間に七華とワラビを呑み込んだ。

バチバチバチバチッ……!!

「クロヒメ様がいないと駄目、か……そんな事は無いぞ。
わらわはお主が居なくとも……いや。わらわは、ずっとお主の中に居る。
だから大丈夫じゃ、七華。お主は討魔忍として立派に戦っていける……」

「ヒャッハーー!!見つけたぜ、エロ黒着物お姉さん!!」
「あれ、巫女さんとロリはどこでゴワス?臭いはするでゴワスがなぁ……」
「いい加減辛抱溜まらんケ!尻子玉引っこ抜いてやるケ!!」
「上と下の口がトッロトロになるまでえちえちしてやるタコ!」


「懲りぬ奴らじゃ………よかろう。
付喪神・血贄ノ黒姫末期の舞。
主ら下衆に振る舞うにはもったいない馳走じゃ……存分に味わえ!!

813>>784から:2020/12/25(金) 00:41:05 ID:???
「まったく、エリスちゃんもレイナちゃんも薄情よね、アリスちゃんがこんなに頑張ってるのに」

ナルビアのオメガ・ネットにて。アリスの改造を続けているミシェルがそう呟いた。
既に目当てのメサイアのデータは獲得済だ。あとは戦争のゴタゴタに紛れてメサイアを操れるようになれば、目的は完済だ。
一区切りついたのもあって、改造に集中していたのだが……エリスとレイナはやはり踏ん切りが付いていないようだ。

「むしろ私の本性を知ってて飛びついた貴女に考えが無さすぎるのかもね?」

「ぁ、うあ……」

アリスの顔に触れながらそう聞くも、流石に数多の改造+ヒーリングスライム姦は堪えたのか、アリスの反応は薄い。

「まぁいいわ、実験体……じゃない、被験者データと、盗んだメサイアのデータがあれば後の改造は比較的すぐ済むし、そっちも緒戦が終わってからで……あら?」

アリスの体のあちこちに繋げられた管に繋がっているコンピューターが、脳波の異常を検知した。
記憶を司る部分に僅かな曇りがある。
放置しても問題ない異常だが、攻撃材料を見つけたミシェルは嬉々としてアリスに語りかける。

「まぁ大変!アリスちゃんの脳に異常があるわ!!これは緊急手術が必要ね」

「ぅ、うぅ……?」

「ねぇ、身に覚えがない?記憶の混濁や喪失があるはずなんだけど」

記憶の喪失と聞いて、アリスの目が見開かれる。そう、あの時……リンネを追って赴いた先の月華庭園での記憶が一部ない。スピカやミイラ男と戦って負傷し、リンネと接触していたリゲルが自分を気絶させた所までは覚えている。その後、一瞬目を覚まして何かを見た覚えはあるのだが、肝心の内容が思い出せない。

「あるみたいね。それじゃあ早速手術開始よ!被検体の異常は取り除いておかないと本番で困るからね!」

嬉々として機械を操作し、頭部に電極を貼り付けるミシェル。

「あ、唯一弄ってない脳もグチャグチャになっちゃうけど、構わないわやね?」

「……ぅ、え?や、やめ……」

聞き捨てならない言葉が聞こえ、反応の鈍くなった頭でも必死に否定の意思を紡ごうとするが……もう遅い。

「脳ミソじゃぶじゃぶ洗うのはアンタらの得意分野だし、大丈夫よね?じゃ、スイッチ・オン!!」

アリスを覆う管の2つが、シュルリと彼女の体を離れ、耳元に近寄っていく。
そして、何の前置きもなしに、拘束され息も絶え絶えの少女の耳孔に潜り込んで行った。


……直後にアリスを襲う、脳を直接犯されているかのような激しい苦痛。

「あ゛ぐああぁああああぁぁぁっっ!! ぎっ、ぎぁぁああぁぁぁあぁぁっっ!!」

今まで声を出さないようにしていたアリスも、脳を掻き回されては悲鳴を抑えることができない。

「あた、ま、わ゛れっ……!ぁあぁああああ!!」

ビクンビクンとストレッチャーの上で激しく跳ね、骨が軋むほど背を反らせるアリス。
脳の異常と記憶の混濁は気になるが、明らかに強化手術とは関係のない痛みに、気丈な心も折れていく。

さらには、アリスの痛みを感知したヒーリングスライムが異常を治そうと体に入ってきた。

「ふきゅうううん!??」

脳を揺さぶられ、体内をスライムに蹂躪され、もはやどこを犯されているのかも分からないアリスは、ただただ声をあげてその波を受け入れるしかなかった。

(こ、れ、も……ヒルダ、さんとリンネさん、の、ため……リン、ネさん……リンネさん……!)

苦しむ想い人の姿を思い浮かべ、必死に正気を失わないように耐えるアリス。この科学者の遊びにさえ耐えれば、強くなれる。リンネを守れる。そう健気に信じるアリス。
だが……不幸にもというべきか、この脳リョナの本来の目的が果たされてしまう。

余りの刺激に、脳が忘れていた光景を思い出してしまう。

(あ……)

それは、リンネがナルビアを見限り……敵の女であるリゲルのサキと、キスしている光景……

「あ、あああ、ああぁあ……!」

痛みではなく絶望に慄く。
リンネはとっくにこの国を見限っていた。自分の痛みは無駄だった。彼が助けを望んだのは自国のアリスではなく、敵国の少女だった。

「あああああああああぁあああ!!!!」

最後の一線が千切れた。軍人としての高潔な魂が溶けていく。残ったのは男を取られた少女としての感情と、最早なんの為に受けているのかも分からない強化手術の痛みだけ。


「リ、ゲ、ルゥウウウウ!!!」


理不尽と分かっていても抑えられない八つ当たり染みた激情……憎しみ。
アリスが憎しみに支配された瞬間……彼女の強化手術は終了し、刹羅が産まれた。

814名無しさん:2020/12/28(月) 00:37:12 ID:???
「嘆くな七華……わらわは本来、現世に生を受けるはずではない身。何の因果か生身の体を手に入れ、お前たちと過ごした日々……短い間だったが、楽しかったぞ」

オロチから七華とワラビを守るため、自らが外に残ったクロヒメ。舞うような美しい動きで魔物兵を蹴散らしつつ、聞こえていないと知りながら七華に語りかける。

「しかし、願わくば……平和な世を手に入れたら、もう一度わらわの依代を作ってくれ。今以上に立派になったお主の姿を、わらわに見せてくれ」

そうして、オロチが発動し……全てを飲み込んでいった。

◇ ◇ ◇

テンジョウとシアナの戦いは膠着していた。シアナは黒い穴を大量に開けてテンジョウの視界を遮って魔眼を避けつつ攻撃し、テンジョウは忍者としての身体能力でシアナの攻撃を避けつつ魔眼に収めようとする。

互いに殺傷力の高い武器、しかも相手が野郎同士だから楽しむ為の手加減がなかった結果、逆に互いが決め手の欠ける状況だった。

そこに、広域攻撃術オロチの激しい閃光が2人の所にも届く。

「おーおー、ようやく発動したな、うちの切り札が」

「ちっ、あんな隠し玉があったのか……!」

前線の魔物兵は壊滅状態。すぐに大将首を取れれば相手にも打撃を与えられるが、それも難しい。
トーメント側本陣にいる大将……ロゼッタへの道が開かれてしまった。
こんな所で一騎打ちしている場合ではない。軍を再編しなければならない。

「仕方ない、ここは退く……だが、前線の雑魚を倒したからって、お前らじゃこっちの軍団長を倒せない」

ロゼッタは十輝星の中でもヨハン、アイベルトと並ぶ強者。メンタル面の不調も逆に容赦のなさに拍車をかけている。討魔忍程度、束になっても敵わないだろう。

「ああ、そうかもな……そもそもうちの『お姉ちゃん』は、倒そうなんて思ってない。救おうとしてるんだ」

「救う?」

その言葉を聞いて、唯の顔が浮かび……何故か一瞬、アイナの笑顔もチラついた。

「ふん、どいつもこいつも……甘いことばかり言う」

「いいじゃねーの、人生甘口で行こうぜ」

「興味ないな。精々ロゼッタに嬲られてろ。軍団を再編したら、すぐにお前らを蹂躪する」

そう言ってシアナは、現れた時と同じように、空間に開けた穴に入ってどこかへ消えていった。

「さて……露払いは済ませた。あとは頼むぜ、アリサお姉ちゃん」

815名無しさん:2021/01/02(土) 01:53:53 ID:???
「やぁサキくん、久しぶりだね」

サキと舞はナルビアへの行軍の途中、スネグアの呼び出しを受けた。呼び方がいつの間にか『リゲル殿』から『サキくん』とより舐め腐ったものになっていることに気づき、サキは眉をひそめる。

「……何の用よ?」

「やれやれ、嫌われたものだ」

ぶっきらぼうに返すサキにわざとらしく肩をすくめるスネグア。

「アンタがユキを言いくるめて、教授に改造させたんでしょ……!」

「君を守りたいという健気なユキちゃんの願いを叶えてやったというのに、その言い草はないんじゃないか?」

「このっ……!」

「サキ様」

激昂しかけたサキを、横から舞が控えめに制する。それで幾分落ち着いたのか、サキはぶっきらぼうにもう一度聞いた。

「で?何の用よ?」

「なに、私は十輝星人しては新米だからね」

わざとはぐらかすような言い回しをしてサキをイライラさせた後、ようやく本題に移るスネグア。

「運命の戦士や異世界人というものに興味があってね。君の副官を貸してくれないかな?」

「っ……!そんなこと、させるわけがないでしょ……!」

舞はナルビアに囚われ、司教アイリスに囚われ、何度も洗脳されてきた。そんな彼女をスネグアのような信用できない人間の元に預けるなど、できるはずがない。
異世界人に興味があるとは言っているが、それも本当か分かったものではない。

「無論タダでとは言わない。君が彼女を貸している間、君にユキちゃんを預けよう」

「なっ!?」

「感動の再会でも脱走の相談でもするといい。戦争のどさくさ紛れに逃げるつもりだったろうが、今のままでそれが不可能なのは分かっているだろう?」

「そ、れは……!」

逡巡するサキ。天秤に掛けるとなるとやはり舞より妹の方が重い。とはいえ、みすみす罠にかかりに行けと言えるほど舞を大事にしていないわけがなかった。

「サキ様、私は構いません」

迷っているサキを見た舞は、自分から進んで前に出た。

「舞っ!ダメよ、そんな……!」

「私はどうなっても構いません。貴女がユキちゃんと逃げることができれば、それでいいんです」

「舞……どうして、そこまで……私に……」

今までは、踏み込む勇気が足りなくて聞けなかった(断じて書き手が考えてなかったわけではない)事を、絞り出すように聞くサキ。
舞は「失礼」と前置いてサキの耳元に口を寄せると、スネグアに聞こえないように囁いた。

「向こうの世界では私も、貴女と同じ母子家庭でした。母と私、2人だけで生きてきました」

異世界人でありながら舞が帰ろうとしない理由。それは恩人であるサキを思ってのことであるが……それだけではない。

「ある日、母が再婚して……義父も悪い人間ではないのですが、どうしても打ち解けられなくて……やがて、家に居場所がなくなりました」

遠くを想いを馳せるような切なげな声。

「私には何もない。母と義父も、私がいない方がいいでしょう。無事の便りくらいはそのうち送りたいですが……」

そこで言葉を区切ると耳元から顔を離して、サキの顔を正面から見つめる。

「私には貴女しかいないんです。貴女を守るためなら何だってできます。だから、やらせてください」

「舞……」

そうしてしばらく見つめ合っていた2人だが、白々しい拍手の音が邪魔をする。

「いやはや、全く素晴らしい主従愛じゃないか、泣かせてくれる」

「スネグア……!」

パチ、パチ、パチと拍手をするスネグアを、射殺すような視線で射抜くサキ。そんな視線を気にした様子もなく、スネグアは続ける。

「悪いが時間がないのでね、話が決まったのなら、サキくんはさっさと出ていってくれないか?」

「サキ様、私は大丈夫です。私はスネグアの好みからは外れているでしょうから」

そう微笑みかける舞。心配は止まないが、ここまで尽くしてくれる彼女の為にも、今は脱走計画を少しでも練らなければならないと、サキも腹を決めた。

「舞……くれぐれも気を付けて」

「はい、もう二度と敵に洗脳され、貴女の足を引っ張ることはしません。私は……貴女だけの騎士です」

昔見た演劇の記憶を頼りに、舞はサキの前に跪くと、その手の甲にキスをした。それは、アイリスに無理矢理されたキスや、彼女に洗脳されてレイナとしたキスと比べて、とても無機質だったが……今までで一番、舞の心を熱くさせた。

816名無しさん:2021/01/02(土) 16:32:08 ID:???
巨大な火柱が天高く立ち上り、東の空が赤く染まる。
その光を背に受けながら、アリサとアルフレッドは早馬を走らせ、敵軍の懐深くにまで至っていた。

「見えてきましたわ。あれがトーメントの築いた国境の砦……」
「ええ。あそこから先はトーメント王国領。
そしてあの中にいるのは、トーメント王国軍の総大将」

「王下十輝星『カペラ』……ロゼッタ、さん。
アルフレッドがかつて仕えていたラウリート家の、最後の生き残り。…ですわね」

トーメント王国に仕える王下十輝星『カペラ』……
その名の元となる星は、2つの恒星から成る連星が2組ある4重連星であった。

二つの血統、アングレーム家とラウリート家。
代々、その両家のうちいずれかの、最も優れた剣士が十輝星の名を冠する伝統がある。
十輝星の剣士が倒れても、すぐさま代わりとなる剣士が両家から選出される。
そのようにして、長きにわたって常にトーメントを守護し続けてきた。

だが………

「アリサ様もご存じの通り…
『試合中の事故』で世継ぎを失ったことでラウリート家は権威を失い、
間もなく「何者か」の手によって皆殺しにされた」
「ええ……その12年後、アングレーム家の者達もまた、「何者か」の手にかかって殺されてしまった」

ラウリート家を断絶させたのは、当時『カペラ』として君臨していた
ソフィア・アングレーム……アリサの義理の母親。
その復讐のため、アングレーム家の者達を殺害したのは、今アリサの横にいるアルフレッドその人であった。

「いよいよ、決着の時……ですわね」
「ええ、アリサ様………何も知らなかった貴女を巻き込む事になってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
それと……ありがとうございます。そのドレスを身に着けてくれて」
「いえ………出来ればロゼッタさんと戦いたくないのは、わたくしも同じですから」

今アリサが着ている服は、いつもの白いドレスではない。ラウリート家に伝わる、深紫のドレス。
白では目立ちすぎるから、という理由ももちろんだが、それ以上に……

深紫のドレスを身にまとったアリサは、ロゼッタの姉ヴィオラ・ラウリートの生前の姿に生き写し。
正気を失ったロゼッタにその姿を見せる事で、
あるいは警戒心を解いて戦いを回避する事ができるかもしれない、と思ってのことである。

そう……ロゼッタもアリサと同じ、何も知らずこの残酷な因縁に巻き込まれてしまった者の一人。
いくら因縁とは言え、アルフレッドとしても、これ以上無駄な血を流すことは避けたい。

……そんな想いにアリサが応えてくれた事に、アルフレッドは素直に感謝の言葉を口にした。

「……それに。これを着てるとアルフレッドの態度もいつもより優しくなりますし。
やっぱり、どうしてもヴィオラさんの事を意識してしまうのかしら?」
「え!そ………そんな、ことは、その………」

確信を突かれ、動揺するアルフレッド。
アリサの指摘は直球であり図星であり火の玉ストレートにして正鵠をがっちりゲットしており、
当時のアルフレッドが彼女に憧れに近い想いを抱いていた事は、否定しようがなかった。

「ふふふ。あの堅物のアルフレッドを、そこまで慌てさせるなんて……
素敵な方だったんでしょうね。出来るなら、一度お会いしてみたかった」

「ええ。ロゼッタ様も、幼いころから難しい方でしたが……あの方には心から懐いておられました。
自然と周りの人たちを明るくさせる、素晴らしい人柄をお持ちでした……そう、まるで太陽のような」

「ふふふ……聞けば聞く程、すごい方でしたのね。
……わたくしでは、とても敵いそうにありませんわ」

いつになく饒舌なアルフレッドは、アリサの小さな呟きに気が付いていないようだった。
心の奥にしまい込んでいたかつての想いが、チクリとかすかな痛みを呼び起こす。

(ロゼッタさんは、そんなヴィオラさんのたった一人の妹……やはり何とかして、戦いは避けなければ)

魔物兵が出払い、閑散とした砦内をひた走る。
その先で二人を待ち受けるものは、果たしていかなる運命か………

817名無しさん:2021/01/02(土) 16:33:52 ID:???
……砦の最奥に、ロゼッタは居た。

「……そこにいるのは……誰……??………」

「では、手はず通り……よろしいですか、アリサ様」
「ええ……アリサ・アングレーム、一世一代の芝居……しかと見届けてください…こほん。」

「ロゼぇぇぇ! そこにいるのは、ロゼなんだねぇ〜!? 
わたしだよ、ヴィオラ姉さまだよぉ、会いたかったよぉおぉぉぉ……!」
「!!……姉さま……!?」

アリサはアルフレッドからの演技指導を忠実に再現し、
『久しぶりにロゼッタと再会した時のヴィオラ』を完璧に演じてみせた。

かつてのアリサなら、こんな己とかけ離れすぎたキャラを演じるなど到底できなかっただろう。
だがこの世界に来てからの様々な経験、戦い、仲間との出会いは、彼女を大きく変えていたのだ!

(全てはロゼッタさんを戦いから解放するため……そのためなら、わたくしは敢えて汚れに徹する事も厭わない!!)
その一方。ロゼッタの姉にして、アルフレッドのかつての憧れの女性で
ついさっき『太陽のよう』と評されていたヴィオラは、なんか汚れ扱いされていた。

「こんな暗い所で一人で寂しかったでしょぉ〜?さささ、お姉ちゃんと一緒に帰ろうねぇ〜。
うーー、もう我慢できないからナデナデしちゃうよもう!ういやつういやつ。ヨイデハナイカ!」

(すごい!…正に『2日ぶりくらいにロゼッタ様と再会した時のヴィオラ様』そのままだ!!
これならロゼッタ様も………!!)

アリサの怪演にアルフレッドも舌を巻き、作戦の成功を確信した。だが………

「………違う。あなたは……姉さまじゃ、ない」
「え?………な、何言ってるの、ロゼ。だって、私、どこからどう見ても……」
「あなたの……運命の糸が、見えない。………異世界人?」
近づき、ロゼッタを抱きしめ、ひとしきり頭をなでくりなでくりした所で、
ロゼッタはアリサの正体を看破してしまう。

ロゼッタの持つ特殊能力……運命を司る糸を見て、それを操る力によって。

「え、え?な、何なに?私に運がないって?いやーおかしいなーどうしてかなー、
そうだ、今日の占いでみずがめ座は運勢最悪って言ってたから、そのせいかなー!?」
(忘れてましたわ……この人には、この能力があった。……運命の糸で、そんな事までわかるなんて!!)

さすがに動揺を隠しきれないアリサ。だがここまで来て後には引けない。
強引に押し通そうと、演技を続けるが………

「それに………私の、本当の姉さまは」
「……え…?」
「そこにいる」

「たっだいまー!!ヴィオラお姉ちゃんが帰ってきましたよ〜〜!!
あーーん、半日もロゼと会えなくて、ロゼ成分枯渇で死にそうだよもぉ〜!!
さっそくちゅっちゅさせて……あ、コタツとテレビとPS5とその他色々、
kononozamaから発送されて今日届くって!
これでこの冬はこの砦でバッチリ快適に過ごせるね!!
って、あれ?」

………突然現れたその少女は、ラウリート家に伝わる紫のドレスを纏い、腰には二本の剣を差していた。
買い出しに行った帰りなのか、食べ物、お菓子、ジュースなどが大量に入った買い物袋を両手に抱えている。

「あ………あなたは、まさか」
「バカな。そんな………そんな、事が……」

「おかえりなさい………
姉さま」

818名無しさん:2021/01/02(土) 16:35:00 ID:???
年の頃は、アリサと同じくらい。……容姿も、着ている服も含めて、アリサと瓜二つだ。
アルフレッドもアリサも、彼女のことを知っている。特にアルフレッドは……忘れようはずなど、絶対にない。

「…あれ?その子は………もしかして王様が言ってた、私のニセモノかな〜?
私のロゼに何勝手に密着してるのかねキミは。随分いい趣味してるじゃないの。
てことは、そっちのイケメンはもしや……アル君!?っかー!!懐かしい!!」

「ヴィオラ様………まさか生きていたなんて。
いや、落ち着いて考えてみれば………それも当然か」

「そういう事。あのトーメント王の事は、アル君も知ってるでしょ?
私ほどの超絶ウルトラ美少女剣士が、一回死んだだけでサヨナラできるはずがないじゃない?
無理矢理生き返らされて、何やかんやあって……改めて、トーメント王に忠誠を誓ったってわけ」

ヴィオラは笑顔のまま、腰の双剣を引き抜く。
アルフレッドは………動けなかった。

「あなた達二人を殺したら、今度こそ私は王下十輝星『カペラ』になれる。
その代わり、ロゼッタを十輝星から解放する……それが王との約束。
私がこの手で、ロゼッタを救いだしてみせる。戦いの運命から解放する……」

ヴィオラは姿かたちこそ昔のままだが、
その瞳からは、狂気を感じさせるほどの静かで不気味な光が宿っている。

「こんなイケメンになったアル君を斬っちゃうのは、もったいないけど、ね」

その目に見据えられながら、アルフレッドは己の迂闊さを呪った。
アリサやロゼッタが王によって生き返らされたことを知っていながら、
なぜヴィオラが同様に蘇生される可能性に、思い至らなかったのか。

『無理矢理生き返らされて、何やかんや』の間に、いかなる地獄を味わってきたのか。
なぜ自分が気付いて、探して、助ける事ができなかったのか……

答えの無い問いが頭の中を何度も巡る中、ヴィオラの刃がゆっくりと振り下ろされる……

ガキィィィンッ!!

すんでの所でアリサが割って入り、ヴィオラの刃を受け止めた。

「アルフレッド………立ちなさい。私たちは誓ったはずです。もう過去を悔やむのは終わりにすると。
今私たちが動かなければ、この人たちを救う事は出来ませんわ!!」

「……アリサ様…!」

「ふふふ。邪魔が入っちゃったねぇ。まずはニセモノちゃんから相手してあげる」
「姉さま………私も、お手伝いする」
「ヴィオラ様、ロゼッタ様……やはり…やるしか、ないか」
「今は……私たちのこの剣だけが、彼女たちと対話する術……ですが、最後には必ず……救って見せますわ!!」

カペラの星の下、数奇な運命に導かれた四人の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

819>>815から:2021/01/03(日) 02:21:20 ID:???
「さて、では靴を脱いで上がってきてくれるかな?」

サキが天幕を離れてユキに会いに行き、舞とスネグアが残された場所。スネグアの命令に、舞がピクリと眉をひそめる。

「どうした?まさか上司の天幕に土足で上がり込むつもりか?」

「いえ……脱ぐわ」

舞は屈んでシュルシュルとブーツの靴紐を解き、綺麗に揃えて並べる。
そして天幕の中に入ると、その場でタイツに包まれた美脚を畳むようにして正座し、ピンと背筋を伸ばして毅然とした態度でスネグアを見据える。そんな舞を面白そうに見ながら、スネグアが言う。

「気づいてると思うが、異世界人云々は建前だ。私の目的はユキちゃんとサキくんを引き合わせ、脱走の準備をさせること……ナルビアとは浅からぬ因縁があるようだから、シックス・デイを誘い出す良い囮になってくれるだろう」

囮にする、と言われて顔をしかめる舞。だが、囮だろうと逃げさせてくれるならば好都合、と黙り込む。

「シックス・デイを君たちに向かわせている間に、桜子やイヴをメサイアにぶつけて弱点を探る。加えてスピカ殿の援軍部隊もぶつけて、私は後で安全に戦わせて貰おう」

強かというより卑怯。後方支援型というより卑劣。そんなスネグアに思わず歯軋りしかけるが……『今の舞は別のことで歯を食いしばっていた』。

「敵にもヴェンデッタ小隊という増援がいるようだが、まぁ大した問題にはならないだろうね」

「つまり、サキ様を囮にするのには、命令するよりも自由に動かした方がいいと判断して、私を残したのは……真の目的を一時的にせよ隠すため」

「ご名答。逃げていいと普通に言っても彼女は信用しないだろうからね。君を犠牲にして時間を稼いでと思っているサキくんは今頃珠玉の脱走計画を練っているだろう。後はもう私の目的を知っても、掌で踊るしかない」

「……あまり私たちを、サキ様を舐めないで欲しいわね」

「ククク、『その体』で勇ましいことだ」

敵の牙城でも気丈に振る舞っていた舞。だが、スネグアの意味深な言葉を聞いた瞬間、ゾワリと嫌な予感が走る。
嫌味など無視して早く魔法のブーツを吐こうと腰を浮かせた瞬間……天幕の端に隠れていた影が飛び出して来た。

「──ッ、はぁあんっ♥!?」

謎の影が、煩雑に舞の胸を揉む。普通ならばこそばゆさと嫌悪感を感じるだけのはずのその行為で……舞の体は大きく跳ね、ストッキングに染みが広がっていく。

「ほう、やはりか……」

>>137の拷問以降、舞の体は全身クスリ漬けで、イキ癖がついて、もうまともに足腰も立たない状態になっている。その後はナルビアの機械による調整で手先として無理矢理こき使われていた。そんな所に>>208のアイリスの洗脳だ。恭順の刻印は既に消えているが、邪術的後遺症は今でも体内に色濃く残っている。

ボロボロの体内を時間をかけて治療したわけでもない舞が普通に生活し、あまつさえ戦闘までできるのは……ひとえに魔法のブーツのおかげ。故に今、ブーツを履いていない舞は、全身快楽漬けだ。
そんな状態でも、強靭な精神力で必死に気丈に振る舞っていたが……今胸を揉まれたことで、それも決壊した。

「はひゃぁぁああぁっ!?ひきゅぁぁああぁぁっ!!」

「君を置いて行かせたのにはもう一つ目的があってね。最近使い魔にしたゾンビキメラが、君をご所望なのさ」

「んぐぅっ、ゾンビ、キメラ……?」

少し落ち着いた舞が、ゆっくりと、自分に絡みつく影の正体を見据える。

「シャアァア……久しぶりね、小娘ちゃん」

「お前、は……!?」

ラミア……舞初登場の時に死んだはずの魔物が、舞の体に絡みついていた。いや、違う。あのラミアはもっと大きかったはずだ。こんな天幕に隠れていることなど不可能だし、自分に絡みついたらもっと圧迫感があるはずだ。

「魔物の死体を再利用して作ったのだが……どうやらラミアが一番格が高かったようで、人格は彼女のものとなった」

スネグアの言うとおり、ラミア……ゾンビキメラはほとんどラミアの原型を残していなかった。首以外はインプやジャイアントラットにブラッドバットといった低級魔物を継ぎ接ぎして無理矢理人型を形作っているに過ぎない。

「ウフフフ……この日をどれだけ待ったかしら……」

「殺すなよ。彼女は戦争で使い道がある」

「分かってるわ、スネグア様……ただこうして、抵抗できない状態で徹底的にイキ狂わせでもしないと、私の気が済まないのよ」

ダークシュライクといったレズ魔物も混ざっている故か、人間っぽいプレイができるようになったからか、ゾンビキメラはレズプレイに目覚めていた。

820名無しさん:2021/01/03(日) 02:22:34 ID:???
「さて、舞くん……君がギブアップしたくなったら、すぐにでもギブアップするといい。ただしその瞬間、サキくんとユキちゃんは引き離す」

「な、ぁ……?」

「精々耐えて、感動の再会を邪魔しないようにするんだね」

そう言い残すとスネグアは舞に興味を失ったように、天幕の奥へ引っ込んだ。

「さーて、これで心置きなく、アンタを犯せるわね……」

ゾンビキメラは普通の人型であるインプの左腕で、舞の胸を揉むのを再開する。

「んひぃいいいん!?」

たったそれだけの動作で、舞は再び絶頂してしまう。まるで失禁でもしたかのように、タイツの染みがどんどん広がっていく。

「うっわ、くっさ……犬も入って鼻が良くなったから、雌豚の臭いがプンプンするわね」

「だ、だま、りぇ……!これは、ちが……ふくぅうっ!?」

「アンタみたいな淫乱娘に殺されて、この前まであの世にいたと思うと。本当に腸が煮えくり返るわ……!」

ベトベトで粘着質な、スライム状の腕を舞の股関……既にグショグショになっているタイツに這わせる。
ただ触れられただけで、舞の体は再び狂ったようにビクビクと震えた。

「アンタのせいで、こんな醜いキメラにさせられて、男装女の手下にされて……!」

グチュ、ヌチュ、グッチュグッチュグッチュグッチュチュチュグチュ……!!
怒りのままに、猛スピードでタイツ越しに股間を擦り上げるゾンビキメラ。

「あ"っ♥!? あ、ああ、あっ♥あっ──はぁぁぁァァァああん♥♥!」

プシュッ、プシュッと、タイツで抑えきれない愛液が外に飛び出してくる。

「あっははは!苦しいかしら?あの時殺された私は、もっと苦しかったのよ、もっと喘ぎなさい……!ほら、ほらほらぁ!!」

「あっ、や、あんっ、きゃはああぁっああぁっあぁっ!?」

絶頂。絶頂。絶頂。止まらない。何度も何度もイッて、口からは涎を垂らし、目の焦点も合わず、常にイキっぱなしになる舞。
だが、それでも彼女は、ギブアップしなかった。

「へぇ、頑張るわねぇ……もうとっくに限界でしょうに」

「ス、ネグアは、ミスをしたわ……貴女の、暴挙に耐えれば、サキ様の役に立てると、私に、伝えてしまった……これで私は、いつまででも、耐えられる……!」

「は、イキながら凄んだって滑稽なだけよ」

毅然とした態度で言い返す舞に腹が立ったのか、ゾンビキメラは口を開けて舌を出した。キメラ故に本来なら一つしかない器官も複数ある。
口からラミア本来の蛇舌を、両肩の辺りからジャンピングフロッグの伸縮自在の舌をいくつも出す。

「んうっ!? むぐぅっ、うぅっ、んむっ――ふあぁっ」

舌が歯列を押しのけて口膣内に入ってくる。先ほどサキの手の甲にキスし、神聖な誓いを果たした舌が蹂躙される。その事実に、舞は今までで一番の抵抗をするが……

「んんうぅっ!? みゅひゅぅっ! ちゅむっ……んっ、れろれろっ……んあっ……んひゅうぅ……っ……んむぅっおむぅう!!?」

耳穴を舐める舌、首筋を舐める舌、股間を舐める舌……その全てが、発狂しそうな程の悦感をもたらす。
さらには胸と股間を弄る手の速度もどんどん上がり、舞の抵抗は虚しく無駄に終わる。

「ん、む、〜〜〜〜〜〜っっっ!!!??」





「いやはや、こんな時間まで耐えるとは、恐れ入ったよ」

それから数時間は経っただろうか。スネグアが様子を見に来た時には、舞はピクピクと痙攣しながら、時折プシュッ、プシュッと愛液を吹いている。それでも決して気を失わず、ゾンビキメラの復讐レズレイプを受け続けていた。
スネグアはゾンビキメラを下がらせると舞のブーツを掴み、彼女の足に履かせてやった。次の瞬間、舞が息を吹き返したように咳き込んだ。

「――っぷは!!ごほ、げほごほっ!」

「ほう、もう回復したのか」

「んっ!」

試しにぎゅむぅ、と舞の胸を揉むスネグアだが、舞は先ほどまでのように絶頂はしなかった。

「そんな体を無理に治し、動かすマジックアイテム……ハッキリ言って体への負担は計り知れないぞ」

「そんな、の……分かって、る……それで、も……」

「は、羨ましい忠義者だ」

「ぶっ!」

スネグアは舞の顔を踏みつけて、床に作られた愛液の池に押し付ける。

「それじゃあ君が汚したここを、舌で掃除するんだ。それが済んだら帰してやろう。流石にサキくんも話は終わっているだろう」

「く、うぅう……!」

屈辱に顔を歪ませながらも、サキの為にも言うことに逆らえない舞は……舌を伸ばして、自らの愛液を掃除する。
そのさらに数十分後、舞はサキと合流したが……自分がされたことも、ブーツがなければ快楽漬けの体の事も、ブーツの危険性も、決して話そうとはしなかった。

821>>818から:2021/01/17(日) 14:32:48 ID:???
キンッ!キンッ!!
「「たあぁぁぁぁあああっ!!」」

激しく剣を打ち合うアリサとヴィオラ。

「ヴィオラさん……貴方は間違っています!
あんな王の下で働いては、多くの人々に不幸をもたらすことになる……
貴女の剣をそんな悪事に使わせるわけにはいきませんわ!!」

「ふふふ……まっすぐで、素直な剣。まるで、昔の自分を見てるみたいね……
世の中が、キレイに正義と悪に別れていると思ってる……」

アリサが振るうのは、金と銀に輝く双剣ガルディアーノ。
ラウリート家に伝わる宝刀であり、アングレーム家に伝わる宝剣リコルヌと対をなすと言われている。
二刀での連続攻撃を繰り出すアリサに対し、ヴィオラもまた、二刀を縦横に振るって連撃を受け流していく。

初手から全力で攻勢を仕掛けているアリサに対し、ヴィオラは冷静に受けに徹して手の内を晒そうとしない。
自分よりはるかに上回る技量の持ち主であることが、直接剣を交えているアリサには、はっきり感じ取れた。

「さすがは、ラウリート家歴代最強と言われた天才剣士……
ですが、これなら!!シュヴェールト・ラオフェン!」
「!これは………」

キンッ!………

間合いに大きく踏み込んだアリサの縦斬りを、ヴィオラが刀の峰で受け止めた。
その刹那、アリサの剣は刀の峰の上を滑るように動き、ヴィオラの喉元へと迫る!

直剣を得意とするアングレーム流剣術に、双剣を扱うラウリート流剣技を取り入れた、アリサのオリジナル技である。

だが、次の瞬間。アリサの視界に、二筋の銀色の光が走り……

「ふふふふふ……知らなかったわ」
「え………?」

「……現実を知らないバカな小鳥ちゃんのさえずりが、こんなに聞いててムカつくモノだったなんて」

背後から、ヴィオラの声が聞こえた。

ザンッ……!ズブッ!ブシュッ…!!

アリサの全身を、光が切り裂く。
少し経ってから音もなく赤いしぶきが舞い上がり……

「あっ……!?………っぐ、うあああああっ!?」
さらに数秒遅れで、体中を激痛が駆け抜けた。

「わざわざ『ガルディアーノ』を持ち出してくるぐらいだから、もう少しやるのかと思ったけど……期待外れも良い所ね」
「くっ……まだまだ、これからですわ……!」
派手に血は吹き出たが、見た目に反して傷は浅い。剣を握るのに支障はなさそうだ。

……もちろんそれは、ヴィオラが手加減したからに他ならない。
相手がその気ならアリサは今の攻撃で止めを刺されていただろう。

(これほどの実力を持ちながら、ヴィオラさんも……トーメント王に屈服し、恐怖に縛られて忠誠を誓っている。
……なんとかして、奴らに立ち向かう勇気を取り戻してもらわないと……!)

「そうね。まだまだ、これから……貴女には、苦痛と絶望の泥沼でたっぷりともがき苦しんでもらうわ……ふふふ」
「な……何を、言って……んっく……!?」

双剣ガルディアーノを再び構えなおしたアリサ。
だが突然、全身に痺れが走って動けなくなった。
無理に動かそうとすると全身が震え、それと共に全身の性感帯を一度に愛撫されたかのような刺激が走る。
この感覚……アリサには、覚えがあった。

「こ、れは……まさか、毒……!?」
「そう。ミツルギ原産ブラッディ・ウィドー……獲物を生きたまま捕らえて体液を啜る蜘蛛の毒液。
生かさず殺さず動けなくする、強力な麻痺毒よ。

しかも体中がすっごくビンカンになるから、無理に動かそうとする度に、痛めつけられる度に、
ビリビリ痺れて気持ちよくなっちゃうのよね……
ふふふ。気を付けないとクセになっちゃうわよぉ?」

822名無しさん:2021/01/17(日) 14:35:51 ID:???
「ど、毒、なんて………貴女には、剣士の誇りというものが……んっ、あんっっ!?」

「ああ、その無様な姿。その悲鳴……私もクセになっちゃいそうだわ。
もっと、もっと、魅せて、聴かせて……」

ヴィオラは這いつくばるアリサの後頭部を踏みにじりながら、剣から滴る血を拭い取り、ハンカチを投げ捨てる。
アルフレッドから「太陽のよう」と評された少女の顔に、恍惚とした不気味な笑みが浮かんでいた。

………………

「…やぁやぁヴィオラちゃん。
地獄から舞い戻った気分はどうだい?ヒーーッヒッヒッヒ!!」

「最悪……まだ地獄に居る気分だわ。目の前に悪魔が見える」

トーメント王の力で十年以上の時を経て蘇生されたヴィオラは、
その間に起こった出来事をつぶさに聞かされた。

ソフィア・アングレームがアルフレッドに殺害された事、
アングレーム家もラウリート家も滅亡した事……
そして、妹ロゼッタが王下十輝星『カペラ』になっている事。

復讐すべき相手は、既にいなくなっていた……しかし、最早そんな事はどうでもいい。
ロゼッタがこんな王の下で使われ、戦いに巻き込まれている事だけは我慢ならなかった。

「……あの子が、戦いに向いてるとは思えないわ。十輝星なんて今すぐやめさせて。
……手駒が欲しいのなら、私をいくらでも使えばいい!」

「クックック……戦いに向かない?とんでもない。

アングレーム流剣術、その直剣は『運命を紡ぐ針』。
ラウリート流双剣術、その双刀は『運命を断ち切る鋏』。

両家の剣士たちは、代々伝わる魔剣『リコルヌ』『ガルディアーノ』の力を使って
王に逆らう者たちの運命を刈り取ってきた……

だがロゼッタは違う。『運命の糸』を直接操る、これまでにない能力を持っている……

アングレームとラウリートの血統は、むしろあの能力を産み出すために受け継がれてきたと言っても良い。

事実、その実力は現十輝星の中でも最強クラス。しかもその力は日に日に増して言っている。
そのうちヨハンをも超えるかも知れん……そう簡単に、手放したくはないねえ。」

「私が、それ以上の働きをして見せる!だから……っ……お願い!!」

「ん?今何でもするって言ったよね?……そうかそうか。だったらテストをしてやろう。
君が本当に、俺様の意のままに働いてくれるかどうか……クックック」

こうしてヴィオラは王の部下となる決意を固めた。
だが、そのテストの内容は……

「トーメント王国正規軍、カイト准士官
10歳の時に正規軍に入隊、以来その卓越した刀捌きでめきめきと頭角を現す。
士官に昇り詰めるのもそう遠くはないと噂されている。
戦闘力、判断力、共に軍人としての平均を大きく超えてはいるが、最近恋人ができて浮かれモード……

……普通のイケメンリア充じゃないですか。いいなあ、でも彼女いるのか……この人を、どうしろと?」

「いや何。書いてある通り、最近浮かれて仕事に身が入ってないようなのでなぁ。
その元凶である彼女……シュナちゃんって言って、カイトの幼馴染らしいんだが、これがまたいい子でなぁ。
デートのときなんか、毎回必ず早起きして手作りのお弁当とか持って来てくれるらしくて」

「だから……それがどうしたって言うんですか」

「クックック……イラつかせて済まんなぁ。
つまりだ、そんな出来た彼女がいたんじゃ、幸せ過ぎて気が緩んじゃうのも無理はない。
だが……もしそんな彼女が、付き合い始めた途端、実はどうしようもない悪ビッチだったと発覚したら?
デートのドタキャンはしょっちゅう、恋人に小遣いをせびったり、挙句他の男とも遊んでいたり……」

「だから何が言いた……ま、まさか……!」
「その通り。君が裏で動いて、そういうふうに仕向けるんだよ。具体的なプランはこちらで用意してある。
優秀な軍人が道を踏み外さないよう導くためだ。
シュナちゃんみたいな健気で甲斐甲斐しいタイプの子は、むしろ男をダメにする魔性の女。
悪い奴ってのは、天使の顔をしているもんさ……よくある話だ。君にも経験があるだろう?
これは正義の行いだよ。ヒーッヒッヒッヒ!!」

823名無しさん:2021/01/17(日) 14:41:03 ID:???
……簡単なテストだった。
まずはカイトの恋人、シュナを人気のない裏通りに誘い込み、剣を突き付けて脅す。

「くっ……馬鹿にしないでください!
私だってこれでも剣術道場の娘。あなたの様な強盗に、そう簡単に……」

ザシュッ!!ザクッ!!ズバ!!

「きゃあぁっ!! っぐあ!! っひうんっ…!!」

「ふーん。こんな棒っきれ振り回して遊んでるだけでいいなんて、
道場のお嬢さんってのは人生イージーモードで羨ましいねぇ。
彼氏とデートも結構だけど、今からちょーっとお話させてもらっていいかな?
今後の彼氏の出世にも関わる事だし、さ……」

「どういう事……あ、あなたは何者……んっ、ぐ……!? あ……っふ、ぁ…」

……ブラッディ・ウィドーの毒も、この時初めて使った。
毒に悶え苦しむシュナの姿を見下ろしていると、
私の中にドロドロと煮えたぎっていた正体不明の黒い感情が、少しずつ満たされていく気がした。


「こ……こんな格好で、街を歩けって言うんですか……こんな短いスカート、下着だってこんなスケスケで……」
「ええ、もちろん。街で知らない男に声を掛けられたら、ちゃーんとついて行くのよ?」

……それから私は、穢れを知らない無垢な少女を、自らの手で
薬、男、借金漬け……地獄の泥沼へと引きずり下ろしていった。

逆らったり、誰かに告げ口したら『カレシ』の人生に差しさわりが出る。
そう言い含めるだけで、どんな事でも、シュナはやってのけた。
こっちがドン引きするぐらいの事でも。

「地下闘技場……魔物と…戦うんですか」
「そう。負けたら当然、その場でレイプ。
剣貸してあげるから、全力で抵抗してもいいわよ?その方が盛り上がるし」
「わかりました……その代わり、これで最後にしてください。
魔物達との戦いに勝ち残ったら、もうカイト君には手を出さないって……」

結局シュナが壊れるよりも先に、『カレシ』の心が折れて、離れていった。
自分の部屋でカノジョが別の男…しかも魔物兵の集団とやりまくってたんだから、無理もない。

王の命令?妹を助けるため?そんな事は関係ない。
彼女の『運命』を、ズタズタに引き裂いて、汚して、壊して、ボロクソにしてやったのは紛れもないこの私。

こうして、私はテストに合格した……そう、気づいてしまえば簡単な事だった。
弱者を嬲り、喰らい、踏みにじる快楽。この世のどんな綺麗事よりも美しく、甘美な真実……

………………

「……その後も私は王の下で、何人もの少女を地獄に落とした。
今までも、そしてこれからも」

ヴィオラは血と毒にまみれた剣を投げ捨て、アリサから宝剣ガルディアーノを奪い取る。
金と銀の輝きを放つ双剣は、『真なる主』を得た事で今までにない輝きを放つ……妖しく、脈打つような不気味な光を。

「アリサちゃんって言ったかしら?もちろん貴女も、その一人……
真の絶望は、まだまだこれからよ。ふふふふ……」

824名無しさん:2021/01/31(日) 11:31:10 ID:???
宝剣ガルディアーノがヴィオラの手の中で不気味な光を放ち始めた。
危機に瀕したアリサを助けようと、アルフレッドが割って入る。

「……アリサお嬢様を、やらせはしません!…『ダークゲート・スティング』!!」
ガキインッ!!
「!!」

闇魔法ダークゲートを使って空間に穴を開け、遠距離の相手を剣で攻撃する技。
魔法のコントロールが極めて難しい技だが、アルフレッドは決戦に備えこの技を見事に会得していた。

「へえ……アル君、随分器用なマネするんだね。
でも、私とガルディアーノの前では……笑っちゃうくらい無力」

…だがヴィオラは亜空間からの攻撃に瞬時に反応し、双剣で受け止める。

金銀の刃が輝きを放ち、絡み合うように融合していく。
それはまるで、獣の牙のような波打つ刃の、巨大な鋏。

「運命に定められた者を斬る「運命の螺旋」と、望む運命を引き寄せる「絶対の因果」。
魔剣と恐れられたそれらの力も、実は……封印されていたガルディアーノの、力の一端にすぎない。
ほんのちょっとだけ、見せてあげるよ」

アリサに鋏を向け、じょきん、と刃を閉じて見せた。
「これで、アリサちゃんは斬られた。ヒントは、時間。回数は秒、00は60扱い。
死なない程度の数だといいね。ふふふ……」
「そ……それは、一体どういう……」

何をされたのかわからず、困惑するアリサだったが……

「まずい……アリサ様!!逃げてください!!」
「……無駄よ。アル君ならわかるでしょ?『運命』からは、絶対逃れられない……」


…ギュルルルルッ!!
「っぐ!」
「姉さま……こんな男に構っていても仕方ないわ。こいつには運命を変える力も、資格もない」
「ロゼッタ様っ…!?」

ロゼッタが不可視の糸を操り、アルフレッドを拘束する。
アルフレッドは必死にもがくが、ロゼッタの操る強靭な糸は鋼すら切り裂く。
力づくで外そうとしても、身体に深く食い込むばかりだった。

「でしょうね……貴方はこの場にいる誰も殺したくないと思っている。
昔からアル君って、そういう所が甘いんだよね。
そんな半端な覚悟で、私は止められないよ」

アリサの背中を踏みにじりながら、ヴィオラは冷ややかな笑みを浮かべる。

「うぐっ…!!……ア、アルフレッド…!」
アルフレッドが覚悟を決めてこの戦いに臨んでいる事は、アリサも良く知っている。
だがそれでも、死んだはずの想い人が突然目の前に現れた事が大きなショックを与えているのだろう。

「さーて、この刃が閉じた瞬間、能力は発動する。
果たしてアリサちゃんは何回斬られちゃうのかなー?」

825名無しさん:2021/01/31(日) 12:05:16 ID:???
ザシュッ!!
「ぐっ!?」
…突如、アリサの右脇腹に痛みが走る。

「始まったね……思ったより回数控えめかな?まあ、最初はこんなもんか」

ズバッ!! ザクッ!! ドスッ!!
「っぐ!あっ!?きゃああああっ!!」
続いて、左肩、胸、背中。激痛が次々とアリサを襲い、鮮血があたりに飛び散る。

「い、一体、何が……まさか、その鋏が……!?」
ヴィオラの言葉の通り、アリサは斬られていた。
鋭い刃……というより、鋸の刃で無理矢理斬られ、抉られるような…そんな痛みだった。
例えばそう、ヴィオラが持っている鋏の刃のような。

「あと6回、だね。ふふふ……」
(な、なんだかわかりませんけど……このままじゃ、まずいですわ!)

アリサは毒の残る体でなんとか立ち上がり、リコルヌを抜く。
ヴィオラが動く様子は全くないし、攻撃の気配もまるでしなかった。
なんとか追撃を防ごうと神経を集中させるが……アリサの『斬られた運命』は、既に確定していたのだ。

ザシュッ!! ズブッ! ザンッ!!
……右脚の太もも、ふくらはぎ、左足首。
「い、ぎっ!?ぎゃうっ!!」

立ち上がって早々、アリサは再び膝をついてしまう。
そして、8回目と、9回目の斬撃………

ズバッ!!

「…うああああああっ!!」
「両目……ふふふ。痛そう……」

ドバッ!!
「あらあら……ツいてないね。利き腕を落とされちゃったら、剣士としては致命傷じゃない?」

「アリサ様ァーー!!もうやめろ!!止めてくれっ……!!」
「ふふふ……私も昔は、何回も止めろって思って、叫んだわ。『運命』に。でも無駄だった……」
「……そこで、あの娘が嬲り殺しにされるところを見ていなさい。
所詮、貴方には何もできない。それが運命……」


「…運命………また、その言葉ですか……

思えば、あの時もこうして縛られて………
私はロゼッタ様が弄ばれ、殺されていくのをただ見ているだけだった………」

ロゼッタの糸で縛られ、俯いていたアルフレッドだったが……
不意に、呟いた。

「……………あああああああああ!!!
どいつもこいつも運命運命運命!!

もううんざりなんだよっ!!」

そして、吠えた。

「!?……き、急にキレたって、無駄……」
「今さら足搔いたって、どうせ運命には……」

ロゼッタとヴィオラが困惑する中、
10回目、最後の斬撃がアリサの首を捉える……!

826名無しさん:2021/01/31(日) 12:56:19 ID:???
………ガキィンッ……!!

「え………う、嘘……何よ、それは……」
アリサの首を刈りとろうとした最後の斬撃は、一振りの剣によって受け止められた。
確定したはずの『運命』を変えたのは
……アリサの左手に握られた、一本の「木刀」だった。

「これは……ただの木刀ですわ。……だけど私にとって、大切なもの。
この世界で出来た、大切な親友の一人が、お守りとして持たせてくれたものですわ」

…その木刀の持ち主は、アリサがミツルギに滞在している間に友達になった、一人の少女。
アリサにとって、かわいい妹分であり、修行相手、あるいは油断ならないライバルでもあり……。
特別な力があるわけでもない、一人の少女。

「どういうことなの…?…ただの木刀で、私の刃が……運命が、変えられるわけない」
「わからないかしら?この木刀は……異世界人のわたくしが、この世界に住む、ある人から託され、この場に持ち込まれた品。
つまり。
わたくしが…今までの戦いの中で、運命を変え、あの子との出会いを果たしていなければ…
本来なら、絶対ここにあるはずのない一本。いわば、わたくしが運命を乗り越えた証……!
だから、その鋏の言う「運命」によって折られる事は……決してない!!」

「は!?…えええ!? でも、木刀……いや、ええ!?」

「ヴィオラさん……貴女、よく似ていますわ。昔の私に。……厄介事を一人で抱え込もうとするところとか!」

アリサは、再び立ち上がった。拙いながらも回復魔法を使い、一時的に痛みを抑える。
目は見えないし、リコルヌは右腕もろとも斬り飛ばされたが、問題ない。
この場に置いて運命よりも強い剣が、この手の中にある。

「おおおおおおっっ!!」
「ふざけないで……納得できるか、こんなの!!」

木刀を手に、飛び掛かるアリサ。迎え撃つヴィオラ。そして……

(その傷で、まだ動けるなんて……運命を、乗り越えた…!?
そんなの、認められない。認めたら、今までの私は一体……!!)

心の中に生まれた、僅かな迷いを振り払うヴィオラ。
鋏を振り下ろそうとした刹那……

アリサの右足が、地面の土塊に引っ掛かった。

「!その手には……」
遥か昔、ソフィアと戦った時の記憶がよみがえったヴィオラは、反射的に「目潰し」を警戒して地面から目を反らす。

「っ、と、あぶなっ……ったああああ!!」

だが。
アリサは前につんのめりながら鋏の刃をかわし、木刀を地面に突き立てて……
「今ですわ!アングレーム流剣術奥義!アリサちゃんキィーーーック!!」
「ぐあうっっ!!?」

全身のばねと木刀のしなりを利用して棒高跳びのようにジャンプし、捨て身の飛び蹴りを叩き込んだ!

827名無しさん:2021/01/31(日) 13:53:24 ID:???
「どこのどいつだ………
アリサ様を私に殺させ、ヴィオラ様の笑顔を奪い、
今なおロゼッタ様を縛りつけているのは……」

アルフレッドは双剣を手にし、怒りをあらわにしながらロゼッタに歩み寄る。

「な……なにを、いまさら……アルのくせに……わたしに、ねえさまに……うんめいに……
さからっちゃだめぇっ!!」

鬼気迫るアルフレッドに気おされ、不可視の糸で攻撃するロゼッタ。
無数の斬撃が、全方位からアルフレッドに襲い掛かるが……その全てが、目にも止まらぬ斬撃によって斬り落とされてしまう。

「誰だ……トーメント王か、それとも……あいつ、なのか………」
……アルフレッドの目にも、いつの間にか見えるようになっていた。
ロゼッタが操る、そしてロゼッタを何重にも縛り付けている、不可視の糸が。
この糸一本一本が、「運命」というやつなのだろうか。

「こないで……アルは……どうして、いつも……わたしの、じゃまするの……?」
「こんな……こんな物に………貴女はずっと縛られて、今も苦しめられて」

アルフレッドは、自分に向けて語り掛けている……はずなのだが、
虚ろな目をして、こちらを見ていない。そして会話が通じていない。
剣を持つ手が、わなわなと震えていて……ここに居ない誰かに対して、怒っているような感じだった。

得体のしれない恐怖を感じ、じりじりと後ずさるロゼッタ。
だが……どうやらアルフレッドにも「糸」が見えているらしいことは、理解できた。

子供のころから、ずっと見えていた糸。
手を伸ばしても届かない所にあった、糸。

<姉さま…もう、ロゼと遊んでくれない?>
<え、えーと、その……遊んであげたいのは山々なんだけど>
<……やっぱり、きらい。ソフィア様も、姉さまも>

わたしは、あのとき……姉さまにひどい事を言ってしまった。
悪い子だから、悪いやつにさらわれて、じごくに落とされて……

<グヒヒッ!!……ロゼッタちゃんの中、相変わらずキツキツだなぁ。
蘇生すると処女膜も再生するし、ホント最高だよ…グヒッ!また出るっ…!!>

じごくの魔物に、いっぱいいっぱい、いじめられた。
大きくなって、「糸」に手が届くようになって……魔物を、他の人たちを、殺せるようになった。

でも。

糸は、触れた瞬間から、私を縛り始めた。
殺すたびに、糸はどんどん増えていった。

……解けなくなった。糸が私を、操り始めた……

「……やめ、て………その、糸は………!…」
「はあっ……はあっ……ダメだ……普通の剣じゃ、切れないのか……?」

「そうだ………ガルディアーノ……ラウリートに伝わる双刀………『運命を断ち切る鋏』なら…!」

糸………糸を、切られたら……
わたしまた、じごくに落とされちゃう………?

828名無しさん:2021/02/11(木) 17:05:00 ID:???
「くっ……ただのお嬢さんかと思ってたら、意外と根性あるじゃない」

(左手で剣の特訓、した甲斐がありましたわね……)
「はぁっ……はぁっ……まだ……ここからですわっ!!……「四天連斬」!」

「なっ…!?」

ドガガガガッ!!
……ビシッ!!
「っぐあ!」

アリサの意表を突いた豪快な飛び蹴りで体勢を崩したヴィオラに、更なる追撃。
全身を駒のように回転させながら、木刀を連続で繰り出した。
一撃目は紙一重で交わされ、二撃目はヴィオラの鋏に弾き返されたが、
三撃目で逆に弾き飛ばし、最後の一撃がヴィオラの脇腹を打ち抜いた。

「こ、のっ……何なのよっ!!もうボロボロのくせに、どうしてそこまでして……!」

「言った、でしょ……あなたは昔の私に似てるって。
ロゼッタさんを守るために、他の全てを犠牲に……他人を、自分さえ傷つけてしまう。
でもそれじゃ、駄目なの……ボロボロになってるのは、あなたの方なのよ!!」

「………うるさいっ…!あんたなんかに何がわかるの!?
私には何も残ってない。もう、引き返せない……
ロゼさえ………ロゼッタさえ守れれば、私はどうなっても………!」

お互い素手の取っ組み合いになる二人。
だが負傷度の差はやはり大きく、何度かの攻防の後ヴィオラはアリサに馬乗りになる。

「悪あがきは終わりよ。アンタを殺して、私は……私は、ロゼを守る…守り続ける…!」
「このままずっと……トーメント王の言いなりになるつもり?
他人を傷つけ……自分を偽って。
今の、私を見て……『弱者を踏みにじる快楽』ってやつを、感じる?」
「…………!」

満身創痍になってもアリサは動じることなく、その言葉はヴィオラを鋭く射抜く。
自分とそっくりな顔立ちの少女と目を合わせられず、ヴィオラがアリサの上で動けずにいると……。

「勝負はつきました……もう十分でしょう。ヴィオラ様」

いつの間にか、アルフレッドが二人の側に立っていた。

「……奴らのやり口は、わかっているはずです。
貴女がどれだけあの男の言いなりになろうと、ロゼッタ様を救う事にはならない。
……あれを、ご覧なさい」

アルフレッドの指さす方には、宙に浮かぶロゼッタの姿があった。

「もう、じごくはいや……やっと……姉さまと、あえたのに……
いと…糸……きらないで、糸………」

魔法や能力で浮いている…のとは、少し様子が違う。
ロゼッタは意識が朦朧としているのか、がっくりとうなだれ、何かをうわごとの様につぶやいているようだ。
そしてロゼッタ以外にも、かすかに何者かの気配がする。

「………ロゼッタ…!?……あ、あれは……一体……!?」

……ヴィオラにも一瞬、見えた気がした。
ロゼッタの四肢に絡みついた、無数の糸が。
その無数の糸の先にいる、ロゼッタを傀儡の様に操る、何者かの巨大な手が……


【運命の見えざる手】
具現化した運命そのものか、あるいは何者かの悪意の塊か。
巨大な人の手のような姿をした、正体不明の存在。
その指の先からは不可視の「運命の糸」が無数に伸びている。

普通の人間にはその姿を認識する事も、攻撃する事も不可能……?

829名無しさん:2021/02/11(木) 17:06:29 ID:???
「見えますか………ロゼッタ様を縛り付けている、あの糸が。
……あれこそが、我々の本当の敵」
「何よ、あれ……ロゼは、今までずっと、あんな化物に捕らえられてたっていうの……?」

ガルディアーノを手にし、意識を集中すると、おぼろげだが「見えざる手」が見える。


糸でロゼッタの四肢を雁字搦めにし、分身体らしき通常サイズの手が、ロゼッタの全身に無数に群がっていた。

(ぞわっ……すりすりすり……くちゅくちゅくちゅ)
「ん、っはぁ……っ…!?……か、らだ……うず、く……ま、また、薬切れ……!?」

「……ガルディアーノを貸してください。ロゼッタ様は私が…」
「くっ……ロゼから離れろぉっ!!」
「ヴィオラ様っ!いけません、今の貴女では……!!」

アルフレッドの制止を振り切り、ロゼッタの元へと駆けるヴィオラ。
だが、「運命の手」にガルディアーノを突き立てる寸前。
「運命の手」の先に居る存在…得体のしれない何かと、「目」が合ってしまった。

「許さないっ……よくもロゼをっ!!………っぐ…!?」
そして、気付いた。
自分もまた、運命の糸に縛られていて、既に身動きすら取れなくなっていたことに。

ぎちっ………ぎちぎちぎちっ……
「い、いつの間にこんな……い、いや……もしかして、最初から……ずっと昔から、私は……」
<私に逆らっても無駄な事……大人しく、従っていればよいのです……>

ぎりぎりぎりっ!!
「っいぎああああああぁあぁぁっ!!」

運命の手が、わずかに指先を動かした。
それだけで、ヴィオラの全身が締めつけられ、手足があらぬ方向に捩じり上げられてしまう。
「運命」に弄ばれ続けるロゼッタを目の前にしながら、ヴィオラはどうする事もできなかった。

<……ラウリートの剣姫……所詮貴女は運命の駒にすぎない……>

巨大な手が、ヴィオラの身体を掴む。ゆっくりと、手に力が込められていく。

ぎゅっ………ぎち、ぎち…ぎちっ!
「や、めろっ………っぐ……あああああああっ!!」
<貴女はただ、踊っていればいい……私の掌の上で>

運命の巨大な手の中で好き放題に嬲られるヴィオラ。
一方ロゼッタも、無数の小さな手によって全身を隅々まで弄り回され、性感を無理矢理に昂らされていく…

(むにっ……ぐにぐにっ……ぎゅむっ……)
<それにしてもロゼッタちゃん、ほんとーーに大きくなったねえ。昔はあんなにつるぺったんだったのに>
「んっ……あ………だ、め……くす、り……効か、ない……!…」

(ざわざわざわっ……むちっ……じゅぷん)
<こっちも、こーんなに大きく実ってすっかり食べごろじゃぁ……
これもワシら分身体が長年ねちっこくマッサージしてやったおかげじゃのう…ウヒョヒョヒョ>
「からだ、じゅう………疼きが、とまらなくて……!!」

(くにくにくに……くりっ!)
<うふふふ♪こっちはアタシの指一本でいつでもイけるように調教済みよん♪>
「い、や………たすけっ……ねえ、さま……ん、むぐっ!?」
<はいはーい、ロゼちゃんの大好きなお姉さまがレズレズおしゃぶりフィンガーしてあげますよ〜♪>

「やっ……やめ、ろ……ロゼを、放っ……!!」
ぎりぎりぎりぎりっ!!
「っぐああああああんっ!!」
<貴女は人形……その体は、血の一滴、髪の毛一本まで運命の奴隷>

ぎゅむっ……ぐぎっ………
「うっぐ………が、は……!!」
<トーメントに仕え、トーメントのために振るわれる一振りの剣……>
「そん、な………嫌………私、もう………戦いたく………」

<逆らう事は不可能。運命からは決して逃れられない……>
ぎちぎちぎちぎちっ………ぶち……ぶしゅっ……
「お願い………せめ、て………ロ、ゼ……だけは…」

……文字通り、運命の見えざる手に弄ばれ続けるヴィオラとロゼッタ。
運命の糸は二人の全身にびっしりと絡みついて、もはや自分の意志では指一本動かせなくなっていた。

830名無しさん:2021/02/11(木) 17:09:14 ID:???
<ぐひひひひ……これでわかったかぁ?>
<ロゼッタちゃんは、こうしてワシらに弄ばれ続けて……>
<オイシくいただかれちゃう『運命』って事♪>

「んっ……う、ああっ……!!」

<そして貴女たちは……トーメントの手駒として、
永遠に殺戮と絶望を振りまき続ける『運命』という事を……>

「そ、……そん、な……の………」

ヴィオラとロゼッタは運命に、縛られ、苛まれ、弄ばれ、……屈服しようとしていた。


「……嫌なら、抗い続けるしかないのですわ。」
「そう……このふざけた運命に!」

……そこへ、アリサとアルフレッドが斬り込む。
二人の手にはリコルヌとガルディアーノがそれぞれ握られていた。

ザシュッ!!
<ぐっ!?…貴様らはっ……やは、り…>

二人の剣が運命の手を貫き、糸を次々と切り裂いていく。
不可視にして絶対、攻撃など不可能なはずの運命を。

「……運命に打ち克つには、リコルヌだけでも、ガルディアーノだけでも足りなかった。」
「運命に反する、ありえない存在。
本来互いに対立しあい、交わらないはずの両家の剣……
それらを合わせる事こそが、奴を倒す唯一の手段だったのですわ」

ズバッ!!ドスッ!!ザンッ!!

<ぐわあああああぁぁ!!>
<きゃあああああぁぁ!!>
<ひいいい!!と、年寄りに何を、っぎゃああ!!>

二人を縛っていた糸が半ば以上切り裂かれ、分身体も霧散していく。
ヴィオラとロゼッタも、もう少しで体の自由を取り戻せそうだった。

だが……

「しまっ……」「きゃあああっ!?」

<そこまでです………そう簡単に『運命』を乗り越えられるとでも、お思いですか>
……二人は、運命の巨大な手に捕らえられてしまう。

グリッ………ゴギッ………ギチッ!!
「はぁっ………はぁっ……まずい……アリサ様…!」
「っぐ……この、くらいで………っぐ、う、ああああああぁっっ!!」

運命の手は、万力のごとく二人の身体を締め上げる。
特に、既に重傷を負っていたアリサは、全身の傷から大量の血を絞り出されてしまう。


<思い知りなさい。私に………運命に逆らうなど、無駄な事だと……>
「いい、え……諦め…ません、わ……
腕を落とされようと……光を失おうと………何が、あっても……!」

力を振り絞り、運命の手から逃れようとするアリサ。
だが、アリサの身体はとうに限界を超えていた。
上半身を抜けだしたところで意識が途絶え、あふれ出た血で手が滑り、リコルヌが零れ落ちる。

「!?…し………まっ……」
「アリサ様っ!!」

<……アングレームの剣士が堕ち、リコルヌの使い手は居なくなった。
やはり、『運命』を斬る事など不可能ということです……くっくっく……>

831名無しさん:2021/02/11(木) 19:23:24 ID:???
<さあ……残りの者達も一人ずつ、片づけてあげましょう。
『運命』を受け入れ、ひれ伏すのです……>

不可視の糸と分身体が再び生み出され、残る三人に迫ってくる。
『運命』を倒すには、リコルヌとガルディアーノ、二組の剣が必要。
しかしアリサは戦闘不能へと追い込まれ、勝ち目が完全に潰えてしまった……

その時。

「まだ、とどく………私には、とどく。いいえ…‥届いて。うんめいの、いと……!」
ギュルルルルッ!!

<!……まだ糸を………運命を操る力が……!?>

ロゼッタはわずかに残った力で運命の糸を操り、床に落ちたリコルヌを絡め取る。

「姉さまっ!!」
「……ロゼ……!!」
そして、回収したリコルヌをヴィオラに投げ渡した。

<ふん……無駄な事です。
ラウリートの剣姫である貴女に、リコルヌが……アングレームの剣術が、使えるはずは……>

「だいじょうぶ……姉さまなら………」
「………貴女次第です、ヴィオラ様。運命に従うか、抗うか」
「そういう………事、なのね……」


………ジャキンッ!!
<何、だと………>

ヴィオラは……アングレームの剣術を、知っている。
かつてアングレーム家でも歴代最強と言われた剣士の技を、いつも間近で見て、憧れ、目標にしていた。
……その奥義に至っては、この身で受けて命を奪われた事もある。

「なんか……笑うしかないわね。これが運命の皮肉、ってやつかしら」

幼いころから何度も何度も見て、真似して、体に染みついた技だ。
捨てたい、忘れたい、そう思ったこともあったが……

「………アリサって子の言ってたこと、ちょっとわかったかも。
本当はすごく怖い、けど……ロゼッタのために、そして私自身のために……アイツを倒したい。
アルフレッド………手を貸してくれる?」

「もちろん。私の気持ちは………あの時と、少しも変わっていません。
微力ながら私たちも、ロゼッタお嬢様と共にヴィオラお嬢様をお支え致します。
だから……」
「……うん。きっと……大丈夫、だよね」


「アングレーム流奥義、トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」
「ラウリート流奥義、グランドゥレ・タルパトゥーラ!」

<やっ……止めろっ……っぐあああああっ……!!>

とても初めて共闘するとは思えない、完璧な連携で舞うように敵を斬る二人。
二つの奥義が、「運命の手」を縦横に切り裂いた………


一方。トーメント城の、とある一室。
ローブをかぶった一人の男が、テーブルの上の水晶玉に何やら一心に念を込めていたが……

「……っぐあああああっ!!」
中空に現れた光の刃が、男に襲い掛かる。
厚手のローブ、目深にかぶったフード、そして両腕を、刃が切り裂いていき……

「やはり………こうなりましたか。
アングレームとラウリートは手を結び、私に立ち向かってくる」

男の素顔が、ランタンに照らされる。
彼の正体は………王下十輝星の一人「アルタイル」のヨハン。

「ラウリート、アングレーム、そして運命の糸を操る力……
……良いでしょう。
果たしてあなた方が、私を………『運命』を越えられるか。
決着をつける時が来たようです」

832名無しさん:2021/02/12(金) 00:00:42 ID:???
「アリサ様!大丈夫ですか!?」
「失血がひどいわね……今まで動けてたのが不思議なくらい」
「止血……しないと」

「運命の手」をなんとか退けたアルフレッドたち三人は、倒れたアリサの元へと駆けよる。
特に右腕が重傷で、すぐにでも治療しなければ危険な状態だ。

「ど……やら……決着がついた、ようですわね………」
アリサがわずかに意識を取り戻した。
深い傷を負ったその目は、見えているのか定かではないが、
アルフレッドとヴィオラたちの雰囲気を感じ、全てが解決したことを察したようだ。

「丸く収まって、何よりですわ。ヴィオラさん、ミツルギの方々に宜しく……
後ほど、トーメントで…合流しましょう………」
「トーメントって、まさか………ちょっと、待ちなさいよっ!?」
「アリサ様っ!?いけません、アリサ様っ……!!」

……そう。もしアリサが絶命すれば、トーメント王の能力によって蘇生される事になる。
復活する場所は当然、王の居るトーメント城。
今の状況で、アリサがトーメント城に送られたら……最悪の事態だ。

「大丈夫よ、アルフレッド……知っているでしょう?
……わたくしなら、たとえ、死んだとしても……」
「くっ……アリサ様、気をしっかり持ってください!今、本陣に応援を……アリサ様!!」
「アリサっ!?ちょっと、さっきまでの根性はどーしたのよっ!?」

……アルフレッドたちの必死の手当ても空しく、
アリサの呼吸はだんだんと弱弱しくなり。そして………息絶えた。

「………………。」
「なんて事だ………アリサ様が、トーメントの手に……!!」
「………ど、どうしよう。アルフレッド………」

アリサの死体が淡い光を放ち、転送される。
更に悪い事に、彼女の愛剣リコルヌはヴィオラが持っていたため置き去りとなった。
身を守る武器もなく、王の喉元トーメント王国に送り込まれる事となったアリサ。
このままではアリサがトーメントに囚われ、どんな目に遭わされるかわからない。
それだけではなく、これから本格的に始まるトーメントとの戦いにも、大きく影響するだろう。

「……我々だけでは、どうしようもありません。
ひとまずミツルギ本陣に戻り、協力を仰がねば。
ですが……」
ロゼッタとヴィオラを見やり、アルフレッドは躊躇する。
言うまでもなく二人は、ミツルギにとって敵であるトーメントの人間。
アリサが居ればともかく、外様のアルフレッドが事情を話したとしても、果たして納得してもらえるか。

「わたしは糸……使えなくなったみたい。つまり……運命に、見放された。
だから、ミツルギがわたしに何かする、場合は……にるなりやくなり」
「いやいやいや……そのテンジョウ皇帝とかいう奴、大丈夫なんだよね?
最悪の場合、私とロゼは別行動するけど…」
「大丈夫です……ヴィオラ様、ロゼッタ様。お二人の事は、決して悪いようには致しません。
それに、アリサ様の事も……このアルフレッド、身命を賭して必ず無事に助け出します」

最終決戦の舞台、トーメントを見据え、想いを新たにする三人であった。


「ウィーー、ヒック。アルフレッド殿、それにアリサ殿ー!どうやら無事なようだな!」
……そこへ、アルフレッドの救援要請を受けて、五人衆の一人、酔剣のラガールが現れる。

「え、アリサ様?……そうか。私をアリサと間違えてるんだ」
「ラガール様!実は大変な事が起きてしまいまして………かくかくしかじか」

「ウィー……いや、カクカクシカジカじゃわかんねーでござるっつーの!
あれ、そっちの人はトーメントのロゼなんとかでござるじゃないか!
つまり、説得して和解したって事でござるな?いや流石アルフレッド殿!これにて一件落着ござるじゃないか!」

今回ラガールは、戦場の至る所を駆け回り、数多くの魔物を蹴散らし、窮地の味方を助け、
戦闘描写こそバッサリカットされたが、まさに獅子奮迅、八面六臂の大活躍。
かつてないほど酔剣を使いに使った結果、今の彼はぐでんぐでんのヘロヘロ状態であった。

「と、とりあえず……テンジョウ様の所に戻りましょう。詳しい事情はその時に……」
「アルフレッド……本当に大丈夫なの?こいつら……」
「………もうどうにでもなーれ」

833名無しさん:2021/02/13(土) 21:32:59 ID:???
「……なん…だとっ……アリサ姉ちゃんが………!?」
「申し訳ありません、テンジョウ様。……全てはこの私の責任です」
ミツルギ軍は、アレイ草原の戦いにおいて見事トーメント軍を打ち破った。
その矢先のアリサの「戦死」報告に、テンジョウたちは衝撃を受ける。

「……陛下…この事が兵たちに知れたら、全軍の士気に影響します。今は我々だけの秘密に留めておくべきかと」
この重大な報告はごく限られた者にのみ伝えられた。
今ミツルギでこの事実を知る者は、皇帝テンジョウ、執事ローレンハイン、
そして当事者であるアルフレッド達のみである。

「ちっ………わかってるよ!
……アルフレッド。今すぐお前をボッコボコに殴ってやりたい所だが……
今はアリサ姉ちゃんを助けるのが先だ。トーメントに着いたら、速攻で城に潜入して救出するぞ!」

かくしてテンジョウ率いるミツルギ軍は、改めてトーメントの首都へ向け進軍を開始するのであった。

………………

「ふん……アレイ草原を突破され、ミツルギに差し向けた魔物兵どももほとんどやられたか。
ロゼッタ達も、「向こう側」に落ちたと考えるべきだろうな。
……まあ、こうしてアリサお嬢様が手に入ったのは良かったが。ヒヒヒヒヒ………」

一方、トーメント城内の中庭にて。
巨大な十字架に磔にされたアリサが目を覚ます。

「……んん、っ………ここ、は……?……」
(!……迂闊でしたわ。アルフレッドとヴィオラが仲直りしたのを見て、気が緩んでしまったのかしら……)
目の前には、ニタニタと笑うトーメント王の姿。
自分が一度死に、蘇生されたのだとすぐにわかった。

「お目覚めのようだな、アリサお嬢様。
ようこそ……いや、おかえりというべきか。ヒッヒッヒ!
運命の戦士の一人である君が、早々に『処刑場』に送られてくるとはね……」

「トーメント王………処刑場、ですって…‥!?」
アリサが周囲を見回すと、広大な庭の中に無数の十字架が立てられているのが見えた。

「開戦後は、女の子たちが戦死したら自動でここに送られてくるようにしておいた。
ここに来た子はスイッチ一つで拷問部屋や地下闘技場に送り込めるし、
もちろんこの場で痛めつけても良し……以後いろんなシチュでリョナり放題というわけだ。
いずれはここに設置されている十字架を全部埋めてやる……
目指せネームドキャラフルコンプ!ってところだな!」

「ネームド…?……またわけのわからないことを……そう上手く事が運ぶと思わない事ですわ。
今にアルフレッド達や、唯達が……必ず、助けに来てくれる…!」
「ヒッヒッヒ!アルフレッドのアホはどうでもいいが、
ミツルギの女の子や唯ちゃん達には、もちろん全員ここに来てもらうとも。
今まで君たちは散々俺様に盾突いてきたが、今度こそ、二度と逆らう気にならないよう徹底的にいたぶってやろう」

「くっ………見損なわないで。
どんな卑劣な事をされようと、わたくし達は貴方たちに決して屈しませんわ!」
身動きが取れないながらも、アリサはトーメント王を毅然と睨み返す。
王は「その言葉が聞きたかった!」と笑みを浮かべ、満足げにうなずいた。

「さてさて……アリサちゃんはこの手で直々に嬲ってやりたいところだが、俺様も色々忙しい身でな。
ひとまず地下闘技場で、魔物どもの相手をしていてもらおうか。
あそこの奴隷闘士たちはスネグアの奴に傭兵として連れて行かれたから、観客も魔物どももみんな血に飢えている……
格ゲーのサバイバルモード回復なし版か、無双できない無双ゲーみたいな事になるだろうな……ヒッヒッヒ!」

「ふん……わたくしだって、大人しくやられる気はありませんわ。
地下闘技場の貴方の手下どもを、一匹残らず切り捨てて差し上げます!」
「ヒッヒッヒ……その木刀で、かね?」
「!?……これは……!」

王に指摘されて、初めて気づいた。
アリサが腰に差していたのは宝剣リコルヌではなく、エリから貰ったお守りの木刀。
トーメントに送り込まれる際、手放してしまったのだ。

「君の戦いは、録画して後でじっくり見させてもらうよ。では健闘を祈る。ヒヒヒヒヒッ……!!」
「くっ……負けるものですか。みんなが来るまで、絶対に持ちこたえてみせる………!」

834名無しさん:2021/02/13(土) 23:05:15 ID:???
「さ〜てと。今回の『戦利品』で、目ぼしいのはもう一人……傀儡人形のクロヒメちゃんか。
たしか主人の身代わりになって爆死したんだっけか?泣かせるねえ」
「………ぜんぜん違う。過去ログを見直してこい、愚か者が」

トーメント王は闘技場に送られたアリサを見送った後、
少し離れた場所で同じく磔にされた、もう一人の戦死者……クロヒメに話しかけた。

「がははははメタい!きみ巫女さんより現世に馴染んでない?!
まあそんな事より……君の処遇については、実はある人物に一任してある。
ミツルギに派遣した軍勢の、数少な〜い生き残りだ。ヒッヒッヒ………」
「生き残りじゃと?………まさか…」

王が合図をすると、黒い人影が風の様に現れる。

「ハーイ♪私は人呼んで『呪詛のサシガネ』よん。初めまして、クロヒメちゃん♪
思った通り、素敵な人形ねぇ。あのクソ巫女には勿体ない逸品だわ。フフフフ………」

……元ミツルギの暗殺部隊所属、今はトーメントに仕える女忍び。
先の戦いでは七華を一方的にいたぶり、クロヒメの死の間接的な原因にもなった。

「ふん。誰だか知らんが……わらわはどうせ一度死んだ身。
何をされようと、今更どうという事もないわ。こんな戒めなど、そのうち抜け出してくれる」
トーメント王は、死者蘇生の力がある……噂には聞いていたが真実だったとは、
しかも人形である自分にも適用されるとは思っていなかった。
だがこうして生き返った以上、なんとか脱出してもう一度七華に……
クロヒメが、そう考えていると。

「あらそう……じゃあ、遠慮なく。
クロヒメちゃんにはこれから、アタシの呪詛人形になってもらうわ。
呪う相手はもちろん、あの忌々しいクソザコ巫女ちゃんよ。
ここに送られてくると思ってたのに、まーだゴキブリみたいにしぶとく生き残ってるなんて……絶対許せないわぁ」

「なっ………なんじゃと!?……そうか、貴様が七華を……!」
「………だからアイツがここに送られて来るまで、呪いで徹底的にいたぶりまくってあげるの。
まずは釘で両目を潰してあげましょうか?それとも独蟲攻めがいいかしら?楽しみねぇ………」

………………

ところ変わって、戦いを終えたミツルギ軍本陣。
危ない所で撤退に成功した七華は、先の戦いでの負傷を癒していたのだが……。

……ズキンッ!!
「っぐ、あぁっ……!?」
巨大な釘で全身を刺し貫かれるような、鋭い痛みに襲われた。

ザクッ………ブシュッ………ドロッ
「これは………まさ、か………奴の、呪術……っきゃあっ!?……」
傷口を覆う包帯から、血が滲みだす。両目にも同様に痛みが走り、目を開けていられなくなった。

「七華様…!?……これ、まさか……サシガネ様が…」
「え、ええ………間違い、ないでしょう……ん、あああんっ!!」

七華は苦しみにのたうち、時折甲高い悲鳴を上げ、全身に玉のような汗が浮かべる。
横に居たワラビ……サシガネの『人形』だった少女が、思わず心配そうに声をかけた。

<安全な場所からジックリタップリ嬲り殺しにするのが本来の必勝パターン……>
サシガネが言っていた通り、これほど理に適った暗殺手段はない。
術者が遠く離れた場所にいる上、呪術に対する知識がない以上……対処は不可能。

「七華様……ミツルギに戻りましょう。そんな身体じゃ、戦うどころじゃ……!」
「……だ、め…です……私は……五人衆の一人。
クロヒメ様がいなくても、私は……戦い抜かなければなりません……!」

「ですが、このままでは……トーメントに……サシガネ様に近づくにつれて、
呪いの力は、もっともっと強くなっていくんですよ…!」
「それに、私に呪術を使っているという事は、サシガネはまた誰かを『人形』にして使っている。
そんな事、許しておけない……だから、ワラビさん。
この事は……絶対誰にも、言わないでください。お願い、します………!」

満身創痍になりながら、最後の戦いへの決意を新たにする七華。
果たして、仇敵サシガネの元へとたどり着き、呪いを打ち破ることは出来るのだろうか……

835名無しさん:2021/02/27(土) 20:32:58 ID:???
深夜。
トーメント軍の小型ステルス機が、ナルビアとの国境、ゼルタ山地付近を飛行していた。

「間もなく目標地点へ到達する。作戦を説明するから、降下準備しながら聞いて」
「はいはーい、全員けいちゅー!リザ隊長のお言葉ですよー」
「……スズ。黙って」
「…………はーい」

乗り込んでいるのは、リザ率いる小隊のメンバー、エミリア、スズ、カイト、ボーンド。
降下用のパラシュートを装着しながら、リザの話に耳を傾ける。

「目的は、ナルビアの最終兵器『メサイア』の破壊、無力化。
この高速ステルス機で目標地点近くまで一気に接近し、この『破壊プログラム』を対象に打ち込む」

リザは懐からダーツ型デバイスを取り出し、メンバーに1本ずつ配った。
これをメサイアに打ち込めば、プログラムが作動してメサイアを無力化する仕組みらしい。

「『破壊プログラム』……そんな物、よくこの短時間で準備できましたね」
「詳しくは聞かされてないけど………情報提供者が居た、みたい」
「ま、知る必要はない、って奴だな。俺らの仕事は、メサイアちゃんに一発ぶち込むだけ、と」
「そういう事……簡単だけど、説明は以上。何か質問ある?」

「うーん……あ、そうだ!私たちのチーム名、まだ決めてなかったよね!
『トーメント小隊』はダサいから、なんかオシャレでかっこいい感じにしたい!」
「……なんでもいいよ。任せる」
スズに適当に受け答えしつつ、リザもパラシュートを付けて降下準備を整えた。

「チーム名、ねえ。…それじゃ………」
ボーンドはどこからか古びた辞書を取り出し、ぱらぱらとめくり始めた。

「…………『トラディメント小隊』、ってのはどうだ」

「その決め方、なんかおしゃれでイイ!さっすがボーンドさん!」
「な、なんかあんまり変わってないような気がしますけど……どういう意味なんですか?」
「ああ。これはだな………」

………ドガーーーンッ!!

その時。激しい衝撃が走り、機体が大きく傾いた。
リザたちの居る降下口も、一瞬にして半壊する。

「これは…敵襲!?」
「レーダーに反応なし!これは……戦闘機じゃない。正体不明の何かが、攻撃を仕掛けてきました!」
「ま、まさかメサイアってやつが向こうから仕掛けてきたの!?」

「いや、これは……魔法針………!」
リザは、足元に金属製の小さな針が転がっているのに気付いた。
これが無数に飛んできて、機体を破壊したのだ。

「正体不明の敵、再接近してきます!」
「この機は持たない!全員、すぐ降下して!私が時間を稼ぐ!」

リザは叫ぶと、ナイフを抜き放って敵に備える。
青い光が、急速に接近してくるのが見えた。あれは………


「第3機動部隊師団長………シックスデイの一人、アリス・オルコット……!」

836名無しさん:2021/02/27(土) 20:36:42 ID:???
…その少し前。


「失礼します!ヴェンデッタ第7小隊、隊長篠原唯以下5名、現着しました!」
唯達ヴェンデッタ小隊のメンバーは、ゼルタ山地の中腹に建てられたナルビア軍の前線基地へ到着した。

「はーい、ごくろうさまです。
第3機動部隊、副師団長臨時補佐代理のエミル・モントゥブランよ。よろしくね♥
これからあなた方は、我々の指揮下の元行動していただきます。
それで、こちらが隊長の………」

「アリス・オルコットです。あなた方が連合軍からの援軍ですね」
唯より少し年下に見える、軍服を着た少女がほんの少しだけ顔を見せ……

「……せいぜい足を引っ張らないように。後の説明は任せます、エミル副団長」
5人を一瞥すると、またどこへともなく歩き去ってしまった。

「……なんだ今の!感じ悪っ!」
「あー……ごめんなさいね。彼女、最近とくにピリピリしてるみたいで……」
(最近ずっとあの調子なもんだから、副団長がコロコロ変えられて、とうとう私にお鉢が回っちゃった……のよね)

「うーん……確かに元々あんな感じだったけど、昔はあそこまでではなかったわよね」
憤慨するオトをなだめるエミル。
そして、エルマもアリスの様子にただならぬ不自然さを感じていた。

「そういやエルマは地元だっけ。知ってんの?今のやつ」
「うーん……まあ知り合いって程じゃないけど、有名人だからね。かくかくしかじかWiki参照で」
「へー。双子の姉妹がいるのか。てことは、片方が毒舌でもう片方が常識人なパターン?」
「残念だったな……さっきのが、比較的常識人な方だ」
「なん………だと………」
「ちょっとエルマちゃんオトちゃん!ストップストップ!」

悪口大会に発展しそうだったので、唯が慌てて止めに入る。

「……ごめんなさいね。ああ見えて本当は、優しくて繊細な子なの。
ああなった原因は……心当たりがあるから、私の方でなんとかしてみる。
とにかく今は、なるべく彼女をフォローしてあげてほしいの」
「りょ、了解であります!」
「ふふふ……貴女が唯ちゃんね。彩芽ちゃんから聞いてた通りの子だわ……アリスちゃんの事、よろしくね」
「!…彩芽ちゃんを知ってるんですか!」
「ええ、そうよー。あの子、一見ぐうたらしてるように見えてなかなかどうして、
ウチに滞在してる間に、研究データを利用してあんな事やこんな事……」

妙なところから思い出話に花が咲き、
ブリーフィングルームは、間もなく戦いが始まるとは思えない和気あいあいな雰囲気に包まれた。


一方………

「アリスちゃん。調子はどう?」
「………問題ありません。何か用ですか?……ミシェル博士」
首都オメガネットからの通信を受けたアリス。

「トーメントの特殊部隊が乗り込んだステルス機が、間もなくそっちにやって来る。
おそらく陸上部隊も、それに合わせて奇襲してくるはずよ」

管制からは何も報告はない。レーダーにかからない高性能ステルス機、だとしたらその出撃をなぜミシェルが知っているのか。

「……それも、『信頼できる情報筋』からですか」
「ふふふ、どうかしらねえ……とにかく。『あれ』の実践初運用の相手には、丁度いいじゃないかしら?」

恐らくミシェルは、トーメントと内通しているのだろう。
アリスはそれを知りつつも、ミシェルを利用している……
というより、そんな事は、何もかも、今のアリスにとってはどうでもよかった。

「いいでしょう……『ブルークリスタル・スーツ』で、出ます」

……目の前に現れる敵を、ただせん滅するのみ。

837名無しさん:2021/02/27(土) 20:41:27 ID:???
「滑走路開けなさい。私が出ます……『蒼填』!!」

アリス・オルコットが<蒼填>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!
オメガネットのマザーコンピュータによって増幅された未知の物質、
ブルー・エネルギースパークが衛星を通じて転送され、ブルークリスタル・スーツへ変換。
わずか1ミリ秒で<蒼填>を完了するのだ!

アリスがブレスレットを掲げ、コマンドワードを叫ぶと、よくわからない謎の原理によって
一瞬にしてコンバットアーマー……
レオタード型のインナースーツに、青く輝く金属装甲を装着した姿へと変わった。

サラ・クルーエル・アモットの装着していたアーマーに似ているが、
こちらはより機動力を重視……そして防御を捨てて一撃に特化しているのか、装甲は少なく、肌が露出している部分も多い。
そして何より特徴的なのは、背面のバックパックに付いている、巨大な羽とスラスター。

そう……アリスのために特別に作られた「ブルークリスタル・スーツ」は、
エリスやレイナのそれにはない、飛行能力を持っていた。


「え、ステルス機が奇襲!?
アリス隊長が単独で突っ込んでったですって!?
どどど、どうしましょう……!」

遅れて敵の襲来を察知したエミルたちは、隊長不在で混乱に陥ってた。

「わ、私、追いかけます!ホウキで飛べるんで!」
「ええ!?ゆ、唯ちゃん!じゃあ私も……!」
唯とサクラはホウキにまたがってアリスの後を追う。
……とは言え、圧倒的なスピードで飛んで行ったアリスに、追いつくのは難しいだろう。

「あ、うちらはムリ」
「あたしの強化装甲も、飛べる事は飛べるけどさすがに戦闘機レベルの高度は……」
「ここは唯さんたちに任せましょう。それに……」

「えええ!?地上からも敵の魔物兵ですって!?」
エミルが再び叫び声をあげる。
前線基地のあるゼルタ山に、トーメントの軍勢が押し寄せていた。

「やはり……地上からも来ましたね。ウチらは地上の守りを固めましょう」
「そ、そうね。じゃあ、紹介するわ。わが第3機甲師団が誇る、頼もしき究極機兵部隊たち!」

「我ら機兵部隊『地獄の絶壁Ω』!!」
「格闘機兵最終決戦仕様『ルビエラ・リアライジングホッパー』!」
「殺戮機兵最終決戦仕様『アルティメット・エミリー』!」
「砲撃機兵最終決戦仕様『フルアーマー・サフィーネ』!」
「であります!」

「赤がルビ、緑がエミ、青がサフィか!よろしくな!」
「一瞬で略された!?」

もちろん機甲師団というくらいだから他にもいっぱい色々いるのだが、ここでは省略。
残ったルーア達は、ナルビアにおけるセロル枠『地獄の絶壁Ω』と共に戦う事になった。

「みんな頑張ってね!他の機甲師団とも連携して、前線基地を守るのよ!」
「「「おーーー!!!」」」

かくして戦いは、トーメント王国軍の奇襲により慌ただしく幕を開けた。
前線基地の防衛に当たるルーア達。そして、アリスの後を追う唯達の運命やいかに……

838名無しさん:2021/02/28(日) 01:02:19 ID:???
「よし、このまま身を潜めて逃げるわよ。連中が潰し合ってるうちに、リンネと合流できたらいいけど……真っ白幼女の件もあるし難しいかしら」

戦闘のどさくさに紛れて逃げているのは、サキ、ユキ、舞の三人。サキが先導してトーメントにもナルビアにも見つからないルートを探し、ユキを背負った舞が後ろに続いている。

舞がスネグアの天幕で時間を稼いでいる間、サキはユキと再会し、脱出計画を話した。舞から自分たちはシックス・デイを誘い出すデコイにされていると聞かされても、脱出しなければ遅かれ早かれ破滅しかない。作戦を強行するしかなかった。
ユキは機械化はしているが、素直に話を聞いてくれた。そもそも今回はサキを守る為に自分からされた改造であり、サキを傷つける気持ちは全くないと、ユキはサキの胸に顔を埋めながら言った。

ユキは機械化された影響で立って行動することもできるが、エネルギー補給の目途がない今、舞に背負われている。

「んっ!」

「……舞?大丈夫?やっぱりスネグアにやられたのがまだ……」

「い、いえ、大丈夫です。ユキ様は私が背負うので、サキ様は探索にご専念ください」

「……分かったわ。でも辛くなったら、すぐに言ってね」

心配そうな顔をしたサキ。だが、だからこそ早く安全圏まで逃げなければならないと、再び前を向いて先導した。



「んふふ♡お姉ちゃんにバレないで良かったね、舞さん?」

サキが前に行ったタイミングで、ユキは舞の耳元で囁き……その耳穴に、舌を捻じ込んだ。

「んっ……!ふ、わぁ……!」

「ふふ♡頑張るなぁ♡でも、お姉ちゃんがピンチの特に舞さんが助けたらヤだからね?」




時は、前日の夜に巻き戻る。

ゆっくり休息できるのは今日が最後だからと、ユキは三人で寝ることを提案した。不埒な輩がサキを狙わないかと警戒した舞も、スネグアの作戦に自分たちが逃げることも組み込まれている以上、開戦前の今何かしてくることはないと思い直した。

サキの天幕で、三人川の字になって眠っていたが……舞に問題があった。ブーツがなければ体に刻まれた快楽が抑えられないことをサキにも伝えていないが故に、寝る時にブーツを脱がなければならないことだ。

今まではブーツを履いたまま寝るか、一人で喘ぎながら何とか眠りについていた舞。
サキに心配をかけたくない彼女は、自分の体のことを伝える気はない。ブーツがないからと言って喘いではいけない。

キメラに責められてから、ブーツがない時はより一層体が疼くようになった舞。それでもサキにもユキにも心配をかけない為、喘ぎ声を我慢して眠りについたのだが……

それは、突然訪れた。


「うぅん……ユキ様……?」

サキに抱きついて眠っていたはずのユキが、もぞもぞと身じろぎしてこちらに来た。何か伝えることでもあるのだろうかと、寝ぼけまなこを擦ったその時……ユキの唇が、舞の口を塞いでいた。

「んむぅ!?」

「んちゅ、はむぅ……んっ、は、はぁ、はぁんむ……」

熱い吐息を吐きながら、一心不乱に舞の口の中に舌を入れてディープキスを繰り返すユキ。
思わず相手がユキだというのも忘れて力を入れて抵抗しようとしたが……

839名無しさん:2021/02/28(日) 01:03:28 ID:???



「ん……大きい音、出さないで……お姉ちゃんが、起きちゃうよ……?」

一旦キスを止めてそっと耳元に口を近づけたユキに囁かれて、抵抗が止まる。

「やはり、改造の洗脳が……」

「んふ、そんなのどうでもいいじゃない……重要なのは、私がお姉ちゃんを守るのに、貴女が邪魔ってことだけ」

妖艶に微笑んだユキが、スルスルと舞の寝間着の隙間に手を差し込む。

「お世話になったから着いて来るなとは言わないけど、お姉ちゃんを守れないくらいにはなってもらわないと、ね?」

「ユキ様、いけ、ませ……」

「声を出さないで」

ゾッとするほど冷たい声で囁かれた瞬間……ユキは片手で舞の左胸の乳首をギュゥウウ!と摘まみ、片手で陰口に指を突き入れて掻き回す。さらに舌は舞の左耳をじっとりと舐める。


「んっ、〜〜〜〜!?」

キスをされていないのも、声を抑えなければいけない今となってはデメリットでしかない。ただでさえ疼いていた体に、13歳とは思えぬ手管で三点責めされる。

声を押し殺す為に、サキを起こさない為に、守る為に、必死に歯を食いしばる。

「んっ、ふっ、ふぅう……お姉ちゃんは、誰にも渡さない……!んちゅっ、れろ……お姉ちゃんは、ユキだけのもの……!はむっ、むぅ……お姉ちゃんを守れるのは、ユキだけ……!」

熱い吐息を耳に吹き掛け、じっとりと耳穴をねぶりながら、ユキは興奮気味に言う。やはり、前に機械化した時と同じ。洗脳され、それを隠している。サキを守りたいという想い自体は本物なのだからたちが悪い。

「あああンッッ!」

「もう、そんなに大声出したら、お姉ちゃんが起きちゃうよ?どうやって誤魔化すつもり?」

「は、あぁ……んっ!!や、やぁあ……!」

「私、別に逃げるのは止めないよ?舞さんが邪魔なだけで。でも私がこうだって知ったら、お姉ちゃんは逃げるの諦めちゃうかな。そうしたら、スネグアさんに使い潰されて、姉妹揃って玩具になっちゃうかも♡」

「だ、めぇええ……!」

「そーう?私は別にそれでも構わないけど……嫌なら、我慢しなきゃね?」

「やぁん、やはぁぅっ、あん、あんぅぅ!!」

大声を出さないように必死に我慢する舞。限界が来そうになっても、隣で安らかに眠るサキの顔を見て、決意を新たに耐える。だがそれを見てユキが嫉妬し、舞への責めをさらに激しくする。
最早何回イッたか分からない程、舞は下着どころか寝間着までぐしょ濡れにしていた。



結局、舞はそれ以降、一睡もできなかった。そして今も、おぶったユキが隙あらば耳を舐めて来る。
ブーツを履いていても走る電流に、とうとう抑えるのも限界が来たと悟る舞。

サキさえ無事なら、ユキが守ってくれるので問題ないが……もしもユキでも勝てないような相手と当たってしまった時は……その時は、命を捨ててでも盾になる、悲壮な覚悟を決めた。

840名無しさん:2021/03/06(土) 18:41:41 ID:???
リザたちを乗せた輸送機は半壊し、墜落は確実だった。
だが、攻撃を仕掛けてきた青い飛行体………アリスは、なおも輸送機に襲い掛かる。

「あの青いの、まだ追ってくるみたいだな。ここは隊長のお言葉に甘えるとしますか……お先に失礼」
「わわわわわ!待ってボーンドさん!パラシュートのつけ方、これで合ってるかな!?」
「やれやれ……面倒見てやれ、小僧」
「ええ、僕ですか!?……エミリアさん、ちょっと見せて下さい……」

ドガァァァンッ!!

「「わああああっ!?」」

「また来たっ……みんな、急いで降りて!私も後から行く!」
(接近してきたところを、テレポートで……迎え撃つ…!)

炎上する輸送機から、「トラディメント小隊」のメンバーが次々飛び出していく。

「………逃がしません」
飛行能力を持つ特殊スーツを身に着け、高速で迫りくるアリス。その周囲には、小さな光が無数に追随している。

……ズドドドドドッ!!

光の正体は、アリスの得意とする魔法針。
改造手術で魔力が大幅に強化された事で、以前とは比較にならないほどの数を同時に、自由自在に動かす事が可能。
そして超鋭敏になったアリスの感覚は、周囲の空間すべてを支配する。
羽虫一つでさえ見逃さず、戦闘機や巨龍すら撃墜する、恐るべき兵器へと進化を遂げていた。

「はーい、アリスちゃん。こちらミシェルよ。調子はどうかしら?」

「問題ありません……既に交戦状態です。無駄話は止めて、オペレートに専念して下さい」

「ふふふふ……これでも心配してるのよ?
ついさっき『改造手術』を終えたばかりなのに、いきなりの実戦ですもの。
本当はこのシステム、レイナちゃんかエリスちゃんに使ってもらう予定だったのよ?
アリスちゃんたら、元の体力や筋力は三人の中じゃ一番低かったのに、
あんまり可愛くおねだりしてくるもんだから、ついついサービスしすぎちゃったのよね……」

「頼んだ覚えは……ありません……再び接敵します。もう、切りますよ……!」

改造される前後のアリスの記憶は曖昧だ。
この状況を自ら望んだのか、強要されて拒めなかったのか、今のアリスにはもうわからない。

ただ一つ覚えているのは……リンネがナルビアを見限り、敵であるリゲルと愛を交わしていた、あの日の光景。
自分にはもう何も残っていない、という、絶望的な現実。

それを束の間でも忘れるためには、目の前の敵を殺して殺して殺して殺しまくるしか……

「はいは〜い。それじゃ頑張ってね〜♪
あ、最後に一つ忠告(ブツッ!!」

「……アリス・オルコットぉぉぉっ!!!」
「…………スピカ……!!」

ミシェルからの通信が突然途切れ、アリスの思考が中断される。

敵が、目の前に居た。
自分と同じ目をした少女が。

841名無しさん:2021/03/06(土) 18:45:14 ID:???
「たああああぁっっ!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
キンッ!!キンッ!!ガキンッ!!

テレポートで一瞬にして斬りかかってきたリザを、
アリスはスーツに内臓された接近戦用の電磁ブレードで迎え撃つ。

((強い………!!))
過酷な修行の経て、戦闘力に更なる磨きをかけたリザ。
強化手術を受け、近接戦闘力も格段に向上したアリス。
両者とも、まるで殺気をむき出しにした獣……否、眼前の敵を殺すだけの、殺人機械のような戦いぶりだった。

(仲間を守るため、時間稼ぎのため……?…違う。私はただ、戦いたかっただけ……一秒でも、一瞬でも早く…)

リザとアリスは、目が合った瞬間、少しだけ互いの事が分かった気がした。
過酷な運命の濁流に飲み込まれ、戦い、抗いながら、ここまで押し流されてきた事を。
……そして、お互い引き返す術は既にない事も。

(アリス……貴女を殺して、私は生き延びる。お姉ちゃんも、篠原唯も、私の敵は……トーメントの敵は、全員……)
(スピカ……貴女も何か……背負いきれないものを背負っている。しかし、今の私には関係ない事)

アリスは高速飛行で間合いを離し、魔法針の弾幕を張る。
対するリザは、針の弾幕をナイフで弾き返しながら、連続テレポートで再び間合いを詰めていく。

(ここで……)
(………決める!!)

激しい空中戦が繰り広げられ、目まぐるしく攻防が入れ替わった後。

リザはナイフから魔剣『シャドウブレード』に持ち替え、アリスもまた魔法針に魔力を込め、必殺の構えを取った。

その時。

「そこまでよ、リザちゃん……みんな無事に降下したわ。」
「スズ…!?」
いつの間にか、スズ・ユウヒが二人の近くに飛んできていた。
背中には個人用の飛行ユニットを背負っている。

「非常用ジェットパック?…ありえない。そんなもので、私たちに追いつけるはずが…」
「ふふふ……リザちゃんと私は、運命の赤い糸で結ばれてるからね♪」
「……誰だか知りませんが、邪魔をするなら、貴女も一緒に始末するまで」

「今のリザちゃんの、深海みたいな碧い眼はとっても素敵だけど……
ここで散るには、まだまだ早すぎる。わかるでしょ?」
「スズ……わかった。先走ってごめん」
「いいのよ、これくらい♪……だってリザちゃんを守るのが、私の生きがいだもの」

ズドンッ!!
……スズは不敵に笑い、ハンドガンを頭上に向けて放った。

「っぎあ!?」

閃光弾。周囲に激しい光と衝撃が走る。
常人より遥かに鋭敏な感覚を持つアリスには、格段に効いた。

「さ、リザちゃん。今のうちに、降下しましょ」
「う、うん。でも………」
リザは飛び出すとき、パラシュートを持って来なかった。
スズの飛行ユニットも、二人で飛べるほどのパワーはないし、何より燃料がもう切れかかっている。

「大丈夫、そこも計算済みよ。……この下は、ちょうど湖があるの」
「え……でも、下が湖だとしても、この高さじゃ……!?」

慌てるリザの身体を、スズはゆっくりと優しく抱きしめる。
リザの中で、かすかな記憶がよぎった。
前にもこうして、誰かに守られた事があった……遠い遠い、昔の事のような気がする。

「大丈夫。きっと……母なる海が守ってくれるわ。湖だけど」
「スズ……!?」

………ザバンッ!!

微笑むスズの顔が一瞬、姉ミストと重なって見えた。
リザが何か言葉を紡ごうとしたその時。大きな水音と共に、視界は暗転した。

842名無しさん:2021/03/06(土) 18:47:58 ID:???
「あらら……通信切れちゃったわ。忠告してあげようと思ったのに。
改造手術したばかりで体がまだ慣れてないだろうから、体力や魔力の使い過ぎには注意しなさい、って……」

リザとアリスの空中戦が始まった頃。
ミシェルはアリスからの通信が一方的に切断されて困惑?していた。

「今のあの子じゃ、全力全開で戦えるのは、せいぜい10分か15分くらい。
困ったわねぇ、あんまり無理せず、早く帰ってきてくれるといいんだけどぉ〜♪」

「おやおや……いけないなぁ。
そんな大事な情報を本人に教えず、あろうことか『敵』に漏らしてしまうなんて」
「あらやだ、すっかり忘れてたわぁ。『昔の友達』との通信、入れっぱなしだったなんて♪」

しかもしかも、敵軍の司令官であるスネグアに、うっかり独り言を聴かれてしまっていたのである。

「フフフフ……ま、君の独り言という事にしておいてあげようか。
しかし、良いのかい?彼女は君の、お気に入りだったのでは?」

「ふふふふ……確かに。いっぱい弄ってデータも沢山とれて、もう十分満足したからね。
最後に、手土産として役に立ってもらうわ……私がトーメントに舞い戻るための、ね。
ああいう子、貴女も好きでしょ?スネグア司令官様」

「なるほど……『古い友人』だけあって、私の好みを心得てるね。
それじゃ、私も遠慮なく君の玩具で遊ばせてもらおうか。
継戦能力に乏しい相手には、飽和攻撃……ひたすら数で押すのが有効そうだ。

それにしても、分断されたウチの特殊部隊のメンバーも心配だなぁ。
ナルビアの軍勢に待ち伏せされて、各個撃破されていなければいいんだが……?」

「そうねえ。あの5人の降下ポイントは大体わかってるし、
私の『切り札』ちゃんに近づかれないうちに、始末しておかないと……」

適度に情報を分け合い、互いに貸し借りなし。
二人はサキとリンネがやっていた「協力者」に近い関係を保っていた。
だが、二人は本心から互いを信頼しているわけではない。
隙あらば相手を葬り去り、最終的に自分だけが利益を得ようと、水面下で互いに爪を研いでいるのである。

(切り札……ナルビア最強の生物兵器『メサイア』か。そいつも近いうちに、私の手中に収めてやる)
(スネグア……気の毒だけど、あんたの天下もそろそろ終わり。一度どん底を味わった私にはわかる。
……そろそろ貴女も、これまでのツケが回ってくる頃よ……フフフフ)


「シックスデイのアリス・オルコットが現れ、特殊部隊の乗った輸送機が撃墜されたとの報告が入った!
空戦部隊、総員出動!グズグズするな!!」

私室から戻ったスネグアは、鞭を振るって飛行型魔物兵の舞台に指令を送る。
その様子を、物陰から見つめる一匹のインプが居た。

(……王下十輝星「フォーマルハウト」、スネグア・『ミストレス』・シモンズ様か……
普段は男装してるけど、俺の目はごまかせねえ……あの尻は、間違いなく極上モノ……)

「………何をしている?貴様も空戦隊所属だろう、グズグズするな!」
「は、はい!かしこまりました!!」

(あー、なんとかしてあの雌犬を調教でもなんでもして、俺のものにしてぇ……
男装しようが所詮は女だってわからせてやりてぇ……
無理かなぁ、俺みてえな底辺魔物じゃ……なんかチャンスはねえかなぁ……)

高みから鞭を振るい、邪悪な魔物達を従えるスネグア。
下賤なモノたちからの視線など、意にも介さない。

ミシェル、ナルビア軍、魔物兵、王下十輝星、運命の戦士……
全ては、自分が成り上がるための単なる道具にすぎない。

そんな連中に自分が足元を掬われるなんて、夢にも考えていなかった。
……この時は、まだ。

843名無しさん:2021/03/06(土) 20:58:52 ID:???
「エミリアさん!足から着地してください!最後に気を抜いた時が一番怪我しやすいんですから!」

「あわわわわわ〜!!!」

四苦八苦しながらパラシュートを付けて飛ぶエミリアと、その近くでアドバイスを続けるカイト。

何とか無事に着地したエミリアは、弾けるような笑顔を続けて着地したカイトに向ける。

「ふぅ……ありがとうカイトくん!助かったよ!」

「ひぇっ、ち、近寄らないでくださいー!まだ業務上以外で近寄られると……」

「あ、そっか、女の子苦手なんだっけ……」

「と、とにかくこうなっては仕方ありません。各々メサイアを急襲し、破壊プログラムを打ち込むとしましょう」

エミリアのパラシュートが絡まったのを声だけのアドバイスで解いたり、無駄に離れて地図を確認したエミリアとカイト。

目的地へと向けて歩き出してしばらくすると……ポツポツと、雨が降り始めた。

「……雨?妙だな、この辺りだけ……」

「よぉ、はじめましてだな」

雨霧の中から声がし、エミリアとカイトは身構える。

「二人か、貧乏クジだな……まぁいい、まだまだインフレに置いてかれちゃいないって事を見せてやるぜ」

「何者だ……!」

「シックス・デイのダイ・ブヤヴェーナ。思う所はあるが、とりあえず今はうちの最終兵器を守ってる」

「シックス・デイか……早速一人釣れるとはありがたい!」

カイトは名刀『調水』を構える。雨水ではない水が剣を包み、戦闘態勢に入る。

「水の剣士か……アクアリウム好き?」

「戯言を……なに?」

だが、カイトの水の力を秘めた魔法剣は、ある程度の時間雨に触れると纏っていた水を霧散させてしまう。

「同僚がデバフの研究ばっかしてて、ちょっと俺も覚えてみたんだよ。アンチ・スキルマジック・レイン……略してASMRってんだ」

決してちょっとエッチな同人音声を聞いてる時に思い出したわけではない。

「ならば純粋な剣技で押し通るまで!」

「勇ましい真面目クンだな、でも隣……というには離れ過ぎてるな……とにかくそこの女の子は辛そうだぜ?」

「なに?」

先ほどから黙っているエミリアの方を見ると……滝のような汗を流しながら自分の体を抱きしめて、苦痛に呻いていた。

「く、っ、んぅ……!は、ぐぅう……!」

「ははん、つい最近回復魔法で無理矢理傷を治したな……俺のASMRで傷が開いたってわけだ」

ヴァイスとの戦いで付けられた傷を、回復魔法で回復させて無理矢理リザに付いてきたエミリア。
その強行軍のツケが、ここに来て巡ってきたのである。

「貝殻イメージの女の子を水責めってのもいいな……舞い踊れ水たち!」

三下なのか実は黒幕なのか分からないあの人みたいな掛け声を出すD。すると、シックス・デイの仲間を模した水の分身たちが現れる。

「初戦闘は無双したいだろ?しばらくソイツらと遊んでてくれ」

「しまっ……!」

離れていたのが仇となり、カイトとエミリアの間に素早く水の分身たちが立ち塞がる。その間にDは、とうとう蹲ってしまったエミリアに歩み寄る。

「楽しまなきゃ戦争なんてやってらんねぇし、悪く思うなよ」

844名無しさん:2021/03/13(土) 11:44:05 ID:???
「ぷるぷる……」」
「じゅるっ……」
「ざばざば……」
「ていっ!! はあっ!! ……くっ……し、しがみつくなっ……!!」

アリス、エリス、レイナ、そしてリンネの姿をした水人形が、カイトに襲い掛かる。
というより、一斉に抱き着いてくる。

「うっ……な、なんか適度にあったかくて、柔らかくて………こ、これは……!……や、止めてくれっ…!!」
必死に刀を振って抵抗するが、水の塊相手では斬っても突いてもまるで効果がない。

水流を操る『名刀 調水』の力を封じられた今のカイトが、
水人形達のぬるま湯おっぱい抱擁地獄から抜け出すことは難しかった。


「あの感じじゃ、真面目君は当分足止めだな。さてと……」

ブシュッ………じわっ……
「っく……う、うぅ……!!」

「雨の中しゃがみ込んで苦しんでる女の子ってのも、また乙なもんだ」
それに、白いワンピースの背中にブラ紐が濡れ透けて見えるのがたまらなく良い。
またロリコン扱いされてしまうから、レイナ達の前でこんな事言えないが……

エミリアの両脚にはヴァイスの凶刃によって刻まれた無数の傷が再び表れ、
その時の痛みと恐怖までもが心に蘇っていた。

「や、ば……立たな、きゃ………っく、あうっ……!」

逃げられないよう、抵抗できないよう、筋肉や腱を念入りに切り刻まれている。
立ち上がろうとしようものなら、激痛と共に大量の血が傷口から噴き出してしまう。
動けずにいるエミリアに、ダイがすぐそばまで迫っていた。

「……回復魔法は、言わば生命力の前借り。
借りる相手が神か悪魔か精霊かによって、細かい所はイロイロ違うが……
基本、借りた分は利子つけて返さなきゃならないもんだ。
だから、治ってすぐの時は、魔力そのものを封じられると、こういう事になっちまう」

エミリアたちの能力はASMRによって封じられているが、
もちろん仕掛けた側であるダイは、水を操る能力を自由に使える。

「しゅるるるる………」
「い、やっ………っ、こ、れはっ……!?」

周囲の水たまりが集まり、巨大な蛇へと姿を変え、エミリアの足に絡みついた!
「そんな身体で戦場にノコノコ出てきた、自分の迂闊さを呪うんだな……そらっ!」
「……ぎちぎちぎちぎちぎち!!」
「っぎ、いやあ"あ"あ"あ"あああぁぁっっ!!!」

845名無しさん:2021/03/13(土) 11:46:24 ID:???
水蛇は、その丸太のように太い身体で、エミリアの脚を力いっぱい締めあげる。
傷口からは新たな鮮血が絞り出され、更なる激痛、骨までも砕かれそうな程の圧力。
だが、水蛇の責めはこれだけでは終わらない。

巨大な鎌首が、エミリアの頭上でその顎を開いた。
そしてエミリアを頭から丸吞みにしようと、鎌首がゆっくりと降りてくる。

「っぐ、うぅ……や、めて……!!」
水蛇の口をおさえ、抵抗するエミリア。だが、腕力だけでは長く持ちこたえられそうにない。
「……こ、のっ………!!」
残った魔力を総動員して、爆炎魔法を発動しようとする。

「霊冥へと導く爆炎の魔神よ。我が声に耳を傾け賜え。浄化の炎、その聖火をいま召喚す…」
エミリアの青色の髪が、燃えるような赤へと変わった。

圧倒的な魔力によって、ASMRによる封印ごと、力づくで吹き飛ばす……
およそ作戦とも呼べない作戦だが、その力づくこそが最善、最適解だった。

ただし………

それもエミリアの魔力や体力が万全の状態だったら、の話である。

………ぽたり。
「ひゃんっ!?」
水蛇の舌先から、粘つく唾液が一滴、エミリアの額に垂れ落ちた。

「無駄だ……」

唾液の正体は、濃縮された高純度のASMR。
触れた途端、エミリアの魔力は霧散し、髪色は再び元の青色に戻ってしまう。

「ん、ぐっ……!!…だ、だったら……もう、一度……」
「『爆炎のスカーレット』……いくらアンタでも、そんなズタボロの状態じゃ、俺のASMRは破れん」

蛇に半分吞まれかけながら、再び魔法を詠唱しようとするが、
ダイが言う通り、今のエミリアにASMRの呪縛を跳ね返す事は不可能だった。

蛇の唾液が再びエミリアの髪を穢すと、
熾火のようだった暗赤色の髪が、凪いだ海のような青色へと戻ってしまい……

……どぷんっ!!
「……っが……ごぼっ…!!」

エミリアの頭は、そのまま水蛇に飲み込まれてしまった。
水蛇の口の中は、すなわち水中。呼吸ができないことに気付き、咄嗟に息を止めたエミリアだが。

「こっちも久しぶりの得物だからな。……ゆっくり、じっくり、溺れさせてやぜ」
ダイが、エミリアの肩を掴む。
そこにあるのは……ヴァイスによってつけられた、深い刃傷。

ギリギリギリッ……!
「……〜〜〜〜っ…!!!………ごぼごぼごぼごぼっ!!……!!」
激しい痛みに襲われ、エミリアはたまらず肺の空気を吐き出されてしまう。

「苦しんで苦しんで、苦しみ抜いて………底の底まで、沈んでいきな。
お友達も、後からそっちに送ってやるぜ」

水蛇に巻き付かれた手脚を、必死にばたつかせるエミリアだが、
抵抗は次第に弱まっていき、やがてその全身が水蛇に吞み込まれていった。

846名無しさん:2021/03/14(日) 20:50:14 ID:???
一方。エルマ、ルーア、オトは、
ナルビア軍の部隊と協力して前線基地の防衛に当たっていた。

「グワーーッ!!く、なんだこいつら、つえええ……!!」
「オラオラー!ルビ!そっちに行ったぞ!」
「おっけーオト!全員ボコボコにしてやんよぉー!!」

先陣を切ったのは、短めなポニーテールに体操服っぽい戦闘服、赤く輝く装甲が印象的な格闘機兵ルビエラ。
そしてヴェンデッタ小隊所属、琵琶を背負った音使いの討魔忍オト・タチバナである。

「地の文にも略された!くっそー、こうなったら……バーニング・エイトビート・キック!!」
「「「グワーーッ八つ当たり!!」」」

オトは琵琶をブンブン振り回し、楽器が壊れるとか全くお構いなしにゴブリン、オークなどの一般魔物兵を蹴散らしていく。
そしてルビエラは、討ち漏らした魔物達を炎をまとった跳び蹴りで次々となぎ倒す。
二人は初共闘とは思えない抜群の連携を見せ、同型の格闘機兵たちと共に敵陣深くへ攻め込んでいく。

「うおーー!待て待てこのやろー!!」
「くっ……おい、一旦引け!こいつらに後を追いかけさせて、他の連中と一緒に待ち伏せるぞ!!」
「ちょっと、オトちゃん!ちょっと奥まで突っ込みすぎじゃね!?
自重せい自重……って、聞こえてないのか、おーーい!!」

……だが、オトは耳が悪かった。過去に耳に大きなダメージを受けているためだ。
このため特に戦場のような喧しい環境では、相手の声を聞き取れないことが多々あった。


「仕方ない……救援に行ってくるわ。
エミリー、一緒に来て。ルーア達は援護射撃をお願い」
「了解」「です」
ヴェンデッタ小隊最年長、装着型人体強化マナ装甲によってどんな局面でも万能に戦う天才少女、エルマ・ミュラー。
そして、ツインテールに緑色の装甲、白スク水っぽい戦闘服が特徴で、
高い機動力とブレード型兵装による一撃離脱を得意とする、殺戮機兵エミリー。
この二人が、オト達の救助に向かった。

「どーせ、オトさんが一人で突っ込んだのでしょう。仕方ないですね……フレイムバースト!!」
「支援砲撃開始ー!です!」
ズドォォォォンッ!!
敵の包囲に魔法と砲弾の雨を降らせるのは、
ヴェンデッタ小隊最年少にして、攻撃・回復とも高レベルな魔法の使い手、ルーア・マリンスノー。
長距離砲を搭載したランドセル、青い装甲、戦闘状況をリアルタイムに映し出すメガネ型デバイス、セーラー服っぽい戦闘服など、
地獄の絶壁でも最も重装備かつ高火力な、砲撃機兵サフィーネ。

前線基地を守る第3機動部隊は、隊長であるシックス・デイのアリス・オルコットは不在ながらも、
この6人を始めとする多数の機兵部隊が協力して、敵の侵攻を食い止めていたが……

847名無しさん:2021/03/14(日) 20:51:46 ID:???
「ヒッヒッヒ……こんな所までノコノコ責めて来るとは馬鹿なやつ……琵琶女にロボ娘なんざ、スクラップにしてやるぜぇ!!」

「んっ?……なーんか、気が付いたら周りに味方がやけに少ないような。
ていうかここ、けっこう敵陣の奥深くなような……」

……オトとルビエラ、そして付いてきた機械兵部隊、総勢10体ほどは、敵陣の中で孤立してしまった。

「だから、さっきからそう言ってただろーが!」
「おいお〜いルビ子ー。気付いてたんならもっと早く言えよ!
おかしいと思ったら、まずは隊長に『ほーれんそう』だろーが!」
「だーれが隊長だ!オトのアホ!!」
「なにー!?アホとは何だアホとはー!」
「ていうかちゃんと聞こえてんじゃねーかボケ!」

周囲は敵魔物兵の大群。どうにか包囲を突破して、自陣に戻りたいところだが……

「グッヒッヒ……イキの良さそうな元気系ロリっ子ロボに」
「アホそうなガサツ女か」
「オレたちの歌で、徹底的にメス堕ちさせてやる…」
「「…ゲロ!!」」

【ワーフロッグ】
カエル型の獣人。高い跳躍力を生み出す強靭な脚、自在にのびる長い舌が特徴。
その鳴き声は強力な催眠&催淫音波で、今回の戦闘にあたりナルビアの機械兵にも効果を発揮するよう調整されている。


「あーー?なんだお前ら!見せもんじゃねーぞ、引っ込んでろ!」
「「「げろ♪げろ♪げろ♪げろ♪」」」

「バーニング・トルネード・キーッk………あ………あ、れ………?」

カエルたちが一斉に鳴きだすと、ルビエラを始め、戦闘機兵たちの動きが鈍くなっていく。


「おいっ!?どうした、ルビ子!」
(戦闘モード、強制終了………た、体内温度、急激に上昇中……い、いったいどうなってんだ……?)

「「「げろ♪げろ♪げろ♪げろ♪」」」
「さあ、ロリ機兵ちゃん達、こっちに来るゲロ……」
「ご主人様に、その幼い身体を使って、ご奉仕するゲロよ……!」

「はあー?何キメー事言ってんだロリコンクソガエルが!
そんなんするわけ……ってルビ子、どこ行くんだ!?」
「はい………ごほうし、します……
娼婦モード用プログラム、ダウンロード開始………」

「おい、ちょっと待てルビ子!どうしちまったんだよ!!」
「邪魔、するな……」
(!?……な、なんなんだ、これ……オト、たすけ………)

「おやぁ?一匹、聞き分けのない子がいるゲロね……」
「悪い子には、お仕置きが必要ゲロ……どうやらこいつ、人間のようゲロね」
「それなら、媚薬唾液入りの舌鞭連打でイチコロゲロ!!」

怪しい声に誘われるまま、ふらふらと歩いていく機兵たち。
果たしてオトは、カエル男達から仲間の危機を救うことは出来るのだろうか…

848名無しさん:2021/03/27(土) 21:35:36 ID:???
ガシャン! ガシャン!!

右腕武装解除……
左腕武装解除……
「ゲロゲロゲロ………そうだ、余計なものは全部脱ぎ去ってしまえ……ゲゲゲ」

背部バックパックパージ……
胸部メイン装甲パージ……
ガシャン! ガシャン!!

脚部装甲パージ……
腰部メイン装甲パージ……
ガシャン! ガシャン!!

全身を覆っていた大量の鉄塊を脱ぎ捨てながら、ルビエラはカエル男たちの方にふらふら歩み寄っていく。
残るは、体操着っぽい見た目のインナースーツと、その下は最低限の防護面積しかないサブ装甲のみとなった。

「ゲロゲロゲロ……その体操着も、さっさと脱いじまうゲロ」
「だ……、め………これ以上、は………!」

胸部インナースーツ、手動パージ……
「なんで、手が、勝手に………や、だぁっ………!!」
涙声になりながら必死に抵抗するルビエラだが、カエル男の声にどうしても逆らえない。

「やだ、やだ、止まってぇっ!!……どう、して……こんな事、したくないのにっ……」
「ゲロロロロッ!!ほれほれ、手伝ってやるゲロォッ!」
バリバリバリッ!!

……カエルの舌が、体操服の上着を、その下のブラ型サブ装甲ごと強引に剥ぎ取る。
「ゲヒヒヒヒ!!これでスッキリしたゲロ……どれさっそく味見を、べろべろべろぉっ……」
「ひ、や、あぁあぁあんっ!!」

「グヒヒヒヒヒ!!ほのかに染み出た冷却水の甘みが、また格別だゲロ!
それじゃ、お次は……下の装甲も頂くゲロよっ!!」
じゅるるる………じゅぽんっ!!
「ひ、待って、そこ、だけは………ふぁぁぁぁぁっ!?」

じゅぷっ!じゅぷっ!じゅぷっ!!
「待って、だめ、いやぁぁぁぁっ!」
じゅるじゅる……ぐちゅっ!!
「もうやめてぇぇぇっ!!」


「ルビ子っ!みんな!!……クソっ、どうなってんだ!」
他の機兵たちもカエル達の声に操られており、
カエルの舌に全身を舐めしゃぶられる者、醜い身体に抱き留められて甘い嬌声を上げさせられものなど、
周囲は惨憺たる有様になっていた。

カエル達は、機兵たちの管理者権限情報を自身の声紋に紛れ込ませていた。
もちろん、管理者情報はナルビア王国の最高機密。
スパイに情報を盗まれていたのか、あるいは内通者が流出させたのか……
いずれにせよこのままでは、機兵たちは皆、トーメント軍の思うままに蹂躙されてしまうだろう!

「ゲロゲロ、お前には効いてないゲロか?……っかしいゲロなぁ……俺らの歌は、人間にも効果あるはずゲロ?」
「くっ……なんだかよくわかんねーけど、よーするにお前らの仕業だな!さっさとルビ子たちを元に戻せ!!」
「まあいいや!残りの一人くらい、俺らでヤっちまおうぜ!!、全員で掛かれーー!!」
「くそっ……こっちの言う事なんて、聞く耳もたねーってか!!」

残ったオトにも、他の魔物達が一斉に襲い掛かった。
無数の攻撃を掻い潜り、なんとか元凶のカエル男に近づこうとするが……

「音の忍びを舐めんな!だりゃああああ!!」
「おーーっと!俺様を攻撃しようったって無駄ゲロ!
こっちには……人質が、いるゲロ!」
「きゃぁっ!!お、オトっ……!!」

(ギュルルルル!!)
「!?……ルビ子っ……しまっ……!!」

素早くルビエラを盾にしたカエル男。
攻撃の手を止めてしまったオトを、長い舌で瞬時に捕える。

「ゲロロ!一丁上がり……お前一人が何をしたところで、所詮は無駄な足搔きゲロ!
機兵どもに『ご主人様刷り込みプログラム』をインストールして、俺らのラブドールにしてやるゲロ!」

849名無しさん:2021/03/27(土) 21:40:50 ID:???
「こんのカエル野郎ぉぉ!ルビ子たちを放せっ!!」
「ゲロゲロ……そこは『ご主人様刷り込みプログラム』って何だ!って聞いてほしかったゲロ。
これをインストールすると、機兵の機能が停止して、再起動する……
そして、再起動後に初めて見たものをご主人様と認識して、永遠の忠誠を誓うんだゲロ!!」

カエル男の舌に捕らえられたオト。
必死に暴れるが、ゴムのように伸縮する舌を引きちぎる事はできず、逆に粘着質の唾液を全身に塗りこめられてしまう。

「てめえ!一体ルビ子たちに何する気だ!ていうかアタシも放せ!」
「な、なんか会話が微妙にかみ合ってないゲロ……まあいいか」
「それよりも、おい。ロボ子ちゃ〜ん?にプログラムを入れてやるから、データスロットの場所を教えるゲロ……!」

「だ、だめ……そんな、プログラムなんか……
 み、耳の後ろの、隠しスロット、に……い、入れられちゃったら、あたいは……」
「ゲロゲロ、なるほど耳の後ろかぁ……それじゃ教授から貰った、このクラゲ型マシンで、っと」

ぷすっ……ちくちくちく! チキチキチキチキチキ………
「や、なにこれ……ひゃうっ?!………んぅ、やぁ、ん………!!」

手のひらサイズの小さなクラゲが、発光する糸のような触手を無数に伸ばし、ルビエラの耳の隠しスロットを探し当てる。
教授が開発した『ご主人様刷り込みプログラム』はデータ量が大きいため、こうして「有線」でインストールを行うのだ!

<データアップロード中……25%>
チキチキチキチキチキ………
「や、ら……あたひ、の中に、………ふぁ♥、あああ♥♥、ぁぁぁぁ♥♥♥」
「なにか、はいって………や、ああんぅっ♥」
「ら、らめっ、うわがき、されて…………ひいぃぃぃんっ♥♥♥♥」

<データアップロード中……60%>
チキチキチキチキチキ………
「やっ♥♥あ♥♥♥♥あああっ♥♥♥」
「ひゃ、ふぅんっ♥♥♥」
「ルビ子ぉっっ!!くそぉ!!なんだかよくわかんねーけど、やめろぉぉ!!」
「グヒヒヒヒ……お仲間の機兵ちゃん達も、俺らの仲間にプログラムをインストールされてるゲロ。」
「インストールが終わったら、一斉再起動して……全員、俺らの下僕にしてやるゲロ!!」

<データアップロード中……99%>
チキチキチ………
「おいこらルビ子ぉ!!そんなクラゲみてーのに負けるんじゃねー!変態ガエルなんかぶっとばしちまえ!!」
「ん、ふぁ……オ…ト…♥♥…も、だ、め……」
「あたま、なか……かきかえられてぇぇ……♥♥♥」
「……ヘンに、なっちゃ……ぁぁぁぁっっ♥♥……」
「「「い、くぁぁぁぁぁあああああんんんっ♥♥♥♥」」」

「ルビ子ぉーーー!!」

<データアップロード完了……再起動を開始します>

「「「………………。」」」
「み、みんな…!?………死んだ……いや、気絶したのか……?」
「グヒヒッヒッヒ……これで、ロボ子ちゃん達が目を覚ましたら」
「俺らの虜ってわけだゲロ!」
がっくりと項垂れ、動かなくなったルビエラ達。
お姫様抱っこやら駅弁やら騎乗位やら、魔物達に好き勝手な体勢で拘束されていく。
中には、装甲剝き出しの股間に、早くもイボだらけの生殖器をねじ込まれている者もいる。
いずれも、目を覚ませば真っ先に魔物達の顔が目に入る体勢だ。


「畜生……お前ら、しっかりしろぉぉぉ!……」
「忍びちゃんもさっさと諦めて、そのおっぱいで俺らに奉仕するゲロ!」
「くっそぉ……こうなったら、アタシの歌で……目を覚まさせてやるぜえええ!!」
「あ、相変わらず話が嚙み合わないケロ!こいつ人の話聞いてないケロか!?」
カエルの舌に拘束され四苦八苦ながらも、オトは背負っていた琵琶をなんとか構え直し……

ジャカジャジャジャジャジャーーーーンッッ!!
「っしゃおらお前らぁあぁあああ!! アタシの歌を聴けぇぇぇえええ!!」
「ッゲロ!?な、なんだこの喧しい声はッッ!?」
周囲一帯に響き渡る大音量で歌い始めた!

850名無しさん:2021/03/27(土) 22:03:55 ID:???
「……!!!♪♪♪……♪♪!!!!!」
「……ましいゲロ!!………黙れゲロ!!」

(あ………)
(あの声、は………?)

再起動したルビエラ達が目を開けるより前に、真っ先に飛び込んできたのは……
激しく情熱的でひたすら喧しい、オトの歌声と琵琶の音だった。

ギュウゥウウイイイイイイン!!ベベベンベベン!!!
「カエルだろうが何だろうが♪♪!アタシの歌はとめられねーぜ!!♪♪
アタシゃミツルギのビワリスト〜!!!兄の形見の琵琶背負い〜!!♪♪仇探して西から東、っとくらぁあ♪♪」

「オト…ちゃん………?」
「そうさアタシはオト・タチバナ!!!ミツルギの音の忍び一族!!!未来の究極スーパーアイドル!!!
スズ・ユウヒなんて目じゃねーぜッ!!………って、おお、ルビ子、それに他のみんなも、目ぇ覚めたか!!」

………あまりの大音量に、魔物達もオトを止めるどころか近づく事さえできず。
いつしか、周囲の魔物達……そして再起動から目覚めた機兵達、全員の視線がオトに向けられていた。

「う………うん。目、覚めた」
「っしゃー!んじゃ、こっから反撃だぜ!みんな、遠慮はいらねえ!魔物どもに一発ブチかましてやれ!」
「げ、ゲロロロッ!?」
「ま、まさか、あの忍び女を見たせいで、制御権が……!!」
「了解……ファイナルバーニングモード発動承認」
「敵を殲滅する」
「殲滅する」
「する」

「「「ゲロロロロロォォォォォ!!!」」」

………こうして、最強モードを発動したルビエラ他十数体の機兵の活躍により
カエル男たちは徹底的にオーバーキルされ、オト達は辛くも敵陣から離脱したのであった。

851名無しさん:2021/03/28(日) 13:27:28 ID:???
……オトとルビエラ他機兵部隊はなんとか敵陣から後退し、救援に来たエルマ&エミリーと合流した。

「……ったくアンタは、余計な手間かけさせんじゃないの。ルーアちゃんも心配してたわよ」
「わりーわりー!なんか、カエルみてーなやつにルビエラ達が操られたみたいでさー!」

元はと言えばオトがルビエラの話を聞かず前線に突っ込み過ぎたせいなのだが、
本人はきれいさっぱり忘れているようだ。

「やっぱり……どうやら、機兵ちゃん達の情報が敵に洩れてるみたいね。
ワクチンプログラムを作ってあるから、ルビエラ達にインストールするわね」
「あー?よくわかんねーけど、ルビ子たちの事が敵にスパイされてたのかもな。
エルマ、メカに詳しいんだろ?どうにかできねーかな?」
「………はいはい。んじゃ機兵ちゃん達、こっち集まってー」

エルマは会話の噛み合わないオトをスルーしつつ、小型のメモリスティックを取り出す。
すると、ルビエラ達がワラワラと集まってきて……

「じゃ、このワクチンプログラムを一人ずつ入れてくから、私の所に並んで……」
「………やだー。オトママ、やってー」
「え?アタシが?」
「あたしもー」「あたしが先―」
「え?なんか幼児化してる?……しかも、オトに懐いちゃってる……?

ルビエラを始め、前線にいた機兵達は、オトの周りに集まってきゃいきゃい騒ぎ始めた。
前線で一体、何があったのか……
とにかく、また敵と遭遇する前に、さっさと機兵たちにワクチンを接種させなければならない。

「って言われてもなー。これ、どこに入れりゃいいんだ?」
「耳のうしろ……隠しスロット」
「え?何?この辺か?どれどれ」
「あんっ……♥♥……そこじゃなくてぇ、もっと、下ぁ……♥♥」

「ルビエラがおかしくなった…」
「……つーか、一体何したのよアンタ……」
オトにぎゅっとしがみ着いて、甘えた声を上げるルビエラ。

普段のルビエラを知るだけに、唖然とするエミリー。
エルマにも何か異常な事態が起きていることは一目瞭然だった。
ワクチンプログラムで、すっきりさっぱり元の状態に戻ればいいのだが。

……

「っしゃ、全員終わったー!」
「はー……見てるだけで疲れたわ。あたしが手伝おうとすると全力で拒否ってくるし……」
「ってことで、さっさと基地に引き上げよーぜ!腹も減ったし!」
「はいはい。もしもしルーアちゃん?これから帰還するわね……もしもし?」

ザザザザザ………ガー……
「エルマさ……早く、帰還……敵襲………剣士と、魔法少女が……きゃあっ!!」
ドガンッ!!ザァァァァァァ………

帰還報告のため、ルーア達の待つ前線基地に連絡するエルマ。
だが何かが爆発したような異音を最後に、通信は途切れてしまった……!

「こ、これ………ヤバいんじゃない!?早く戻らないと……!」

852名無しさん:2021/04/06(火) 00:45:40 ID:???
アリスの後を追う唯とサクラは、戦闘機の離発着所にやって来ていた。
なんでも、アリスはここの滑走路から出撃したらしい。

「兵士さん!アリス隊長は、どちらへ行かれましたか!?」
「えー?なんか、北東の方角からステルス機が奇襲してくるとかなんとか言って、飛んでったぜ?」
「レーダーにゃ何も映ってなかったのになー。なんで知ってたんだ?隊長は」
「え、じゃあ……隊長一人で出撃したんですか?」
「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「さーねー。あのへんの空域は、トーメント領だしな。魔物兵がウジャウジャ飛んでるみてーだぜ?」
「……そ、それって……大変じゃないですか!皆さんは救援に行かないんですか!?」

「まー大丈夫なんじゃね?なんたってあの『シックス・デイ』のアリス・オルコット様だし(棒」
「『私一人で十分。足手まといは付いてこないでください』なーんて自信満々に言ってたしな〜」
「ったく、馬鹿にしてるよなー!お嬢ちゃん達も、クソ隊長なんかほっといて、俺らと遊ぼうぜぇ〜?」
「け、けっこうです!(うっ……酒臭い……)」

格納庫内には待機中の戦闘機が何機も並んでいるが、兵士たちの士気はかなり低い。
……そのは、アリスの態度にも原因があるらしかった。

「ヒヒヒ!いいじゃねえかよ。どーせシックスデイなんて、もうオワコンだし」
「いざとなりゃ、メサイアとかいう秘密兵器でトーメントなんてイチコロらしいからな」
「もう俺らが真面目に戦う必要なくね?それより俺らとイイことしようぜぇ〜?」
「そんな……ちょっと、放してください!いい加減に……きゃっ!?」

兵士たちはかなり泥酔しているようで、態度がかなりおかしくっていた。
慣れなれしく唯の肩を抱き、酒焼けした顔を近づけ、空いた方の手は、唯の太ももをいやらしく撫でまわす。
(こ……この人…!)

一応は味方同士。唯が強く反抗できないのをいいことに、兵士の手はスカートの中まで侵入し始め……
「やめて………それ以上やったら、容赦しませんよ…!」
「クックック……篠原唯ちゃんって言ったっけ?噂で聞いたことあるぜぇ。
アンタら『運命の戦士』には、それぞれ『致命的な弱点』があるってな。
唯ちゃんは確か……ここだろ?」

ぞわ、ぞわり………しゅるっ!
「な、何を言って……ひゃぅん!?」
兵士は慣れた手つきでするりと唯のショーツに指を滑りこませ、ピンポイントでクリトリスを探り当てた。

「や、あっ…!……そ……こ、は……っ!…」
いざとなったら兵士を投げ飛ばしてやろうと身構えていた唯だが、
その瞬間、頭の中が真っ白になり、全身の力が抜けてしまう。

くに、くに、くに……むにむにむにっ!
「や、めて……くださっ……あんっ…!!」
「ヒヒヒヒヒ……イイじゃねえかよ、唯ちゃぁ〜ん?」
「おいおい、お前らだけお楽しみってかぁ?」
「俺らも混ぜろや…けっけっけ」

そのまま身を預けるような恰好で兵士に抱きつかれ、さらに他の兵士たちも群がってきた。
乱暴にブラウスを引きちぎられ、胸を無遠慮に揉みしだかれる。
押し当てられた兵士の股間の、熱くて硬い感触が伝わってくる。

(ど……どうして……?クリトリス、弄られてるだけなのに……)
「ほらほら唯ちゃん、アーンしな〜www」
「おいしいおちんぽミルクだよ〜www」
(逆らえない……体が、言う事聞かないっ……!!……私、このままじゃ……!)

数人の兵士が我先にとズボンのチャックを下ろし、いきり立った剛直を眼前に突きつけてきた。
鼻を突くような青臭さに、嫌悪感しかないはずなのに、目を逸らす事が出来ない。
促されるまま、唯の口がゆっくりと開かれていく。黒々と反り返った兵士たちのペニスへと、舌が伸びていく……

だが、その時。

「……?………こ、れは……?」
唯は、足元に大量のつる草が生え、小さな花が無数に咲いているのに気付いた。

(ぼわんっ!)
「な、なんだこr………ふごっ」
「ぐごぉぉ……ぐごぉぉ……」
「ZZZ……ZZZ……」
そこから白い花粉が大量に舞い上がると、兵士たちはバタバタと倒れ、一斉に寝息を立て始める。

「ごめんなさい、助けるのが遅れちゃって。大丈夫、唯ちゃん?」
スリープフラワー……眠りの花の魔法を発動したサクラが、眠りこけた兵士たちをどかして唯を助け起こす。

「う、うん。ありがとうサクラちゃん……」
サクラに魔法で服を直してもらう唯。よく見ると、サクラにもわずかに着衣に乱れがあった。
恐らく同じように兵士たちに襲われたのだろう。

「だめだな、私。隊長なのに……もっとしっかりしなきゃ」
「気にしないで、唯ちゃん。
とにかくアリス隊長が向かった場所はわかったんだし、いそいで追いかけよう!」

思わぬトラブルに見舞われた唯達だったが、
アリスの援護に向かうため、北の空域を目指して飛び立つのだった。

853名無しさん:2021/04/11(日) 17:01:43 ID:???
ズドォォォンッ!!…ドガガガガガッ!!

「グワァァーーーァッ!!」
「ギヒアァァァ!!」
「こんな物ですか……他愛もない」

リザたちの乗っていたステルス機を撃墜したアリスは、
その後間髪入れず襲い掛かってきた飛行型魔物の大群を相手に、単独で交戦を続けていた。

大量の魔法針でインプ、ハーピー、ガーゴイルなど幾千もの魔物を瞬く間に屠りながら、
青い光の翼で風のように大空を舞う。
その姿は、さながら天使……いや。敵対する魔物達からすれば死神のように見えた事だろう。

「グキィッ!!スネグア様ァ!!あの青い奴、とんでもねえ強さです!!どうか撤退を!
このままじゃ、俺たち全滅しちまいますぜェェ!!」

「ふん……問題ないさ。お前達の代わりなどまだまだ無数に居る。
あの子を堕とすまで、退く事は許さん……わかったら、安心して逝くがいい」
(ビシッ!!)
「グキィッ!?そ、そんなぁ……!!」
撤退を進言する手下のガーゴイルを、にべなく一蹴するスネグア。

彼女からすれば、下級の魔物などいくら失おうと痛くも痒くもない。
そして、彼女の支配下にある魔物達は、その命令に背くことは出来ず、死力を尽くしてアリスを襲い続けた。

「たあああぁぁっっ!!」
ドスッ!! ザシュンッ!!
「「「「ギュギィィィイイイッ!!」」」」
アリスは一斉に飛び掛かってきたガーゴイル4〜5匹をかわしざま、電磁ブレードで斬って捨てていく。

「キシャァァァァッッ!!」
「!……こ、のっ……!!」
ズドオオオンッ!!

更に、真上から迫るハーピーの群れに、魔法針が射出された。
アリスの周囲を常に浮遊し、意のままに操り攻撃できる。いわばファンネル的な超兵器だが、その残弾も底を突きかけていた。

「はぁっ……はぁっ……」
(おか、しい……こいつら、倒しても倒しても、ぜんぜん怯まない……それに……)

死を恐れず襲ってくる魔物達。しかも戦っているうちに、アリスは少しずつ、敵陣深くへと誘導されていた。
恐らく偶然ではない。何者かが魔物達を操って、アリスを孤立させているのだ。
これだけの魔物を支配し、戦略的に操る狡知を持つ敵……心当たりが、一人いる。

(魔物を操る……魔獣使い、フォーマルハウト……)
<警告……残エネルギーが20%を下回っています。セーブモードに移行、スーツ出力低下……>

「!?……まずい、想定より早い……すぐに、離脱しないと……」
それだけではない。
当初ミシェルが懸念していた通り、アリスの「ブルークリスタル・スーツ」のエネルギーも残り少なくなっていた。
スーツの能力、特に飛行性能の低下は、そのままアリスの機動力、戦闘力の低下に直結する。

だが、そんなアリスの異変を察したのか、
周囲の魔物の数は、ますます数と勢いを増していき、じわじわとその包囲を狭めていった。

「……グロロオオオオオッ!!」
ドガッ!!
「っうあぁっ!?」

突如、死角から襲ってきたのは、大鷲の首と翼、ライオンの身体を持つ魔獣グリフォン。
巨体から繰り出された突進をまともに喰らい、アリスはゴムまりのごとく吹き飛ばされてしまう。

(し、まっ……今ので、片翼が……!!)
<警告!!……飛行ユニット破損 右メインスラスター出力45%低下……>

改造されて鋭敏になった全身が、衝撃と風圧と、凄まじいGによってかき混ぜられる。
アリスは軍人として鍛え抜いてきた精神力でなんとか意識をつなぎ留めながら、きりもみ回転で吹っ飛ぶ体を必死に制御する。

「ま、だ……私は……誇り高き、ナルビア軍人……この位でっ……!」
「グルァァアアアア!!」
「くっ……!!」
ザシュッ!!
追撃を仕掛けてきたグリフォンの喉笛を、アリスは自身の回転を利用して電磁ブレードで搔き切る。
計算や、軍人としての戦闘勘、ではない。……ほとんど偶然といってよかった。

854名無しさん:2021/04/11(日) 17:04:12 ID:???
「グエァァァァァァ!!!」
「ぜぇっ……ぜぇっ……たお、した……?」
(目が回って………頭、くらくらする……)
(一、体……これ、は………体に……力が、入らない……?)

<危険……残エネルギーが5%を下回っています。直ちに着陸し、エネルギーを……>

「キキキキッ……!」
「なっ……!?」
意識が朦朧とする中、危険を告げるアラームに一瞬気を取られたアリス。
だがその隙を突いて、いつの間にかインプが接近し、アリスの胸にしがみついていた。

「このっ……放し、なさいっ……!」
倒したグリフォンの背中に乗っていたのだろう。
すぐさま引きはがそうとするアリスだが、インプの様子は明らかに異常だった。
見た目からは信じられないような力でアリスの身体にしがみつき、しかしそれ以上は攻撃を仕掛けようとはしてこない。
そして身体の内側から、時計の秒針のような音が聞こえてくる……

カチ、カチ、カチ、カチ………
「まさか、これって………」
「キキッ!!」
ズドォォォンッ!!!
「っきゃああああああーーーっ!?」

………自爆。
スーツの胸部装甲が破壊され、アリスは悲鳴と共にまたも大きく吹き飛ばされた。

(だ……め………わたし、もう………)

今までシックス・デイの一員として戦いの中で生きてきたアリスにとって、
窮地に追い込まれた経験も数限りなくあった。しかし今回は……これまでとは決定的に違っていることがあった。

過酷な状況に追い込まれた時、アリスの心を支えてきたのは、
ナルビア軍人としての誇りと、姉妹であるエリス、そして仲間の存在。

だが、あの時。
自分の目の前で愛を確かめ合う、リンネとサキの姿を思い出してしまってから、アリスの中で何かが壊れてしまっていた。

(たたかえ、ない……何のために、頑張ればいいのか………もう、わからない……)

心の奥底にある、戦う理由、生への執着、大切なものが、ごっそりと抜け落ちて……
何のために、あの狂った女科学者にこの身を改造されたのか。
どうして、こんなに辛く苦しい思いをしてまで、戦い続けなければならないのか。
もうアリスには、わからなくなっていた。

<危険……危険……危険……メインスラスター、機能停止……>
「………。」


「ふふふふ……さあ、捕まえた♥」
「だいぶお疲れみたいねえ、かわいい子ウサギちゃん?」
「!……また、新手………」

スーツからエネルギーが失われ、落下するアリスの身体を受け止めたのは、
ダークシュライヒ……黒い翼を持つハーピーの変異種の群れだった。

「もうあと一押し、って所かしら……♥♥」
「ここからは、私達ダークシュライヒが」
「たぁっぷり、可愛がってあげるわ♥♥♥♥」

「だ、黙りなさいっ………お前たちごときに、シックス・デイの一員であるこの私が、やられるわけには………」

「ふふふふ……無理しちゃって。体が震えてるわよぉ?」
「クスクス……もう、まともに飛ぶ事すらできないんでしょう?」
「ほらほら、どうしたの〜?お姉さん達が、身体を支えてあげましょうか?フフフフ………」

ここは戦場。
戦えなくなった戦士、絶望に染まった少女の運命は……一つしかない。

855名無しさん:2021/04/11(日) 18:51:17 ID:???
「アリスが単独で緊急出撃しただと!?クソッ!」

エリス・オルコットはトーメント軍の遊撃に出ていたが、突然入ってきた連絡に顔を歪める。
エリスは結局、ミシェルの改造手術を受けなかった。決して怖気づいたわけではない。どんどん様子がおかしくなっていく妹を見て、自分だけはまともなまま支えなければならないと思っただけだ。

『……とにかく、アリスが敵ステルス機を破壊し、乗組員は散会した。降下ポイントはこっちで観測したから、エリスはそちらの撃破を頼む』

通信機からは落ち着き払った指示……リンネの声が響いている。直接的な戦闘力を持たないリンネはメサイアの近くに控えながら、観測員として戦場を見渡していた。

「リンネ……」

『急いだ方がいい。くれぐれも指示された以外のルートを通らないでくれよ。変な敵と遭遇されたら予定が崩れる』

妹がその身を犠牲にして尽くしているというのに、全く意に介した様子のないリンネ。彼に思うところはあるが、今は彼の言う通りそれどころではない。
『ほとんどのシックス・デイが遊撃に出ている間に奇襲があった』ことは気になるが……結果として各個撃破の機会ができたのだ。それにリンネや例のミシェルは独自の情報入手ルートがあるようだった。そういうツテは深入りしない方がいい。
違和感を無理矢理拭いながら、エリスはリンネに指定されたルート……『サキと遭遇する可能性の低いルート』を通って、降下した敵部隊の元へ向かっていく。
すると……

「やれやれ、パラシュートはホネが折れるぜ」

骨をカラカラと鳴らして伸びなのかよく分からない行動をしている、ボーンドがいた。

「おっ?もう来たのか、ナルビア人は仕事が早いねぇ」

「貴様がトーメントの特殊部隊か……スピカでないのは残念だが、スケルトン如き手早く片付けてやろう」

相手がいかにも弱そうなスケルトンだったのを見て、にわかに残念そうな顔をするエリス。明らかにシックス・デイが出張るような魔物ではない。

「怖い怖い、ナルビアの神風はスケールがトンでもないねぇ」

「ほう、私の異名を知っているのか」

「ああ、骨身に染みて知ってるよ……俺の知り合いがな」

ボーンドが取り出したのは、骨の棒。棍棒とも言えないような、ただの棒だった。

「ならば今日、貴様自身の身で味わうのだな!!」

勝負は一瞬だった。風を纏って急加速したエリスの槍が、一撃でボーンドを真っ二つにする。

「この程度か……特殊部隊といえど、全員が戦闘員というわけではなかったのか?とにかく、アリスの援護へ……」

「おいおい、連れないこと言うなよ。これっぽちじゃ足りねぇ。もっと骨抜きにしてくれよ」

だがさすがはスケルトンというべきか、上半身だけになったボーンドから下半身が生え、再び立ち上がる。

「ちっ、雑魚のくせにしぶとい……ならば今度は木端微塵にしてやろう」

そう言って再びボーンドに向けて槍を構えた瞬間……後ろから斬撃が飛んできた。

「ぐっ!?」

「あぁ?なんだ、あのクソガキ共じゃねぇじゃねぇか!」

咄嗟に回避して後ろを振り返ったエリスの目には……先ほどボーンドが復活した上半身ではなく、下半身から生えてきた別のボーンド……否、スケルトンがいた。

「分身……いや、別人か?まさか……!」

「そ。骨さえあればいくらでも復活できるけど……復活に使わない骨が勿体無いじゃん?だからそっちには別の人格を宿すってわけ」

それこそがボーンドの『不死の軍勢』。集めた魂さえあれば、自分一人を元手に無限の手下……それも戦闘経験に溢れた手下をスケルトンにして呼び出せる。

「おいボーンドォ!本当にクソリザとエミリアがここにいるんだろうなぁ!?」

「おう、さっきまで一緒にいたから間違いない」

「ケケッ……ならこんなガキさっさとぶっ殺して……俺はあの二人を犯しに行かせてもらうぜ!!」

「……少しばかり、厄介そうだな……!」

856名無しさん:2021/04/18(日) 12:37:48 ID:???
ガキンッ!! ザシュッ!! ギインッ!!

「くっ………きゃうっ!!………っああっ!!」
「ほらほら、どうしたの?もっと反撃していいのよぉ?」
「逃げ回ってばっかりじゃ、面白くないわ♥♥」

ハーピーの変異種『ダークシュライク』の毒爪が、四方八方から襲い掛かる。
既に魔法針は打ち尽くし、近接用の電磁ブレードで必死に応戦するアリスだが、
スーツのエネルギーも既に使い果たし、空中に浮かんでいるだけで精いっぱいだった。

ギンッ!!……ベキンッ!!

「!!ブレードが……‥!」
「フフフ……これで武器もなくなっちゃったわねえ」
「クスクス……そんなオモチャを気にしてる場合かしらぁ?ほら、隙ありぃ♥」
ザシュッ!!
「あうっ!!」
「背中もガラ空きよぉ♥」
ズバッ!!ザクッ!!ドスッ!!
「きゃ、あぐっ!んあああああっ!!」

……空中戦においてもっとも重要な「スピード」を失ったアリスは、もはや敵の的になるしかなかった。
敵の攻撃を辛うじて防御できても、他の敵に死角から襲われ、嵐のような連撃に晒される。
そして反撃に移る前に、はるか遠くへ飛び去ってしまう。
圧倒的なスピードとパワー、数の暴力の前に、
アリスは防戦一方、とすら呼べない程、ただひたすら一方的に弄ばれた。

「うっ………ぐ………あ、ぁっ…………!!」
全身に痛々しく刻まれた無数の爪痕が、どす黒く変色している。
ダークシュライクの爪は猛毒を持っており、普通の裂傷とは比較にならない激痛をもたらす。
しかも今のアリスは改造手術で全身の感覚を強化されており、痛覚も常人以上、必要以上に、敏感になってしまっていた。

「クスクスクス……あんまり虐めちゃ可哀そうよ。アリスちゃんてば、泣いちゃってるじゃない、ほらぁ♥」
べろお……
「ん、ぐっ!?」

黒翼の魔鳥がまた一羽、後ろからアリスにまとわりつき、激痛に思わず零れた涙の雫を長い舌で舐め取る。
ナメクジの這うような不快な感触に、思わずアリスは眉をひそめた。

「だ、め……放しなさっ……んぅ、あっ…!」
「ウェスト細くて羨ましいわぁ。でもちょこっと力入れたら折れちゃいそうねぇ。
バストもヒップも、小ぶりで可愛い……ふふふふ………」

ハーピーの変異種ダークシュライクは、高い知性と冷酷かつ変態淑女な性格を持つ。
獲物を生かさず殺さずしつこく嬲るねちっこさは全魔物中でも上位に属し、
同性のどこを弄ればどう気持ちよくなるか…といった性知識も、淫魔並に熟知している。

「やっ………あ、ん……♡」
「あ、アリスちゃんの弱いとこみーっけ♪ここ、気持ちよくて力抜けちゃうでしょぉ〜♥」
「アタシにも触らせて〜…ふふふ、ココなんて、手触りすべすべ〜♥」
「いっ……痛…あ、ん……♡」
「ほらほら、もっと可愛い鳴き声聞かせてちょうだい♥」

傷だらけの肢体を好き勝手に弄られるアリス。
時に敏感な性感帯を優しく愛撫され、時には傷口を爪で更に抉られ……
痛みと快感がないまぜの不思議な感覚に翻弄されていくうち、いつしか魔物に身を任せてしまっていた。

「も……やめ、て………は、な…して……あ、あぁっ……ま、た……♡」
「クスクスクス……アリスちゃんたら、すっかり大人しくなったわねぇ」
「これだけボロクソにいたぶられた相手に好き放題弄られて、えっちに感じちゃうなんて……」
「アリスちゃんって、ひょっとしなくてもドMなのかしら?フフフ……」

「もう。アンタたちばっかり独り占めなんてズルいわよ?私にもよこしなさい」
「んもう、まだ壊しちゃダメよ?……アリスちゃんはアタシたちみんなのオモチャなんだから」

すっかり脱力したアリスを、別のダークシュライクが無理矢理奪い取る。

「わかってるわ。それにこの後は、『ミストレス』様も……」
「そういう事。アタシ達の役目は、あくまで『味見』……まだまだ、お楽しみはこれからよん♥」
「はぁっ………はぁっ………(や、はり………こいつらの、主は……)」

857名無しさん:2021/04/18(日) 13:21:29 ID:???
「お次は私と、二人っきりで空中デートなんてどう?………こんなふうにっ!!」
「!?………っぐ、うああああああああ!!!」

アリスの脚をがっしりと掴んだまま、ダークシュライクは翼を畳んで一気に急降下した。


……ゴオオオオオオ!!

「っぐ……!!……う、………うああああああっ…………!!」

ダークシュライクに足を掴まれたアリスは、そのまま一緒に急降下させられ、
目の前が急速に暗くなっていく感覚に襲われる。

大きな下向きのGによって脳に血液が回らなくなり、視界が失われる、
いわゆる「ブラックアウト」と呼ばれる症状を起こしていた。

このまま続けば失神してしまう事もある、極めて危険な状態。
だが今のアリスには、反撃する力も、逃げる術も、残されていなかった。

「う……あ………殺……して………お願い、もう……終わらせて……」
「キャハハハハハ!!何言ってんのアリスちゃん♥♥お楽しみは、まだまだこれからよぉ〜?」
「……っ……ひ、いやああああああああああぁぁぁっっ!!!」

身体能力を強化され、常人よりはるかに死ににくくはなったが、
同時に感覚も超鋭敏に強化されたため、痛みや快感に極端に弱くなってしまっている。
そんなアリスは、魔物達にとってこれ以上ない格好の玩具であった。

「いっくわよぉ〜〜、アリスちゃんっ!」
「………ひぐっ!?………っあ………!!」
ダークシュライクは数秒掛けて急降下した後、地表スレスレの超低空飛行で飛ぶ。

ドガッ!!……ザリザリザリザリッ!! ガゴンッ!!
「んぎっ!! も、やめ………っぐぁぁあああああ!!………ひ……んぎゃうっ……!!」

荒れ果てた山肌の上を高速で引きずられていくうち、スーツの装甲や飛行ユニットなどは次々と砕かれ、削ぎ落とされていく。
その下に着ているのは、ハイレグレオタードと薄いタイツで形成されたインナースーツのみ。
それらも角ばった岩や砂利であっという間にボロボロにされ、アリスの全身に切り傷と擦り傷が刻みつけられていった。

ガリガリガリガリガリ…………ザシュッ!!
「っ………んぐあああああぁっ!!」

インナーに覆われていない背中が、尖った岩の先端に斬りつけられる。
白とブルーを基調としたインナースーツは、あっという間にボロボロに引き裂かれて赤い血と黒い泥に汚れていった。


「この辺りの岩山は、瘴気のおかげでイイ感じの岩とか枯れ木が沢山あって最高の眺めなのよね〜♥
………そぉ〜〜、れっっ!!」
「…ぅあ……ぐ……………ろ…し、て………」

そこから更に急上昇に転じ、今度はアリスの身体をはるか高空まで一気に引きずり上げる。
高低差はざっと、2000m以上はあるだろうか。
激痛と失血に加え、急激な気圧変化と激しすぎるGを受け、アリスの脳裏に明確な死のイメージが浮かび始める。

だがそれでも、ダークシュライク達の言うように、お楽しみは……
アリスにとっての地獄は、「まだまだこれから」だった。

858>>855から:2021/04/24(土) 12:01:31 ID:???
「くっ、テンペストカルネージ!」

エリスの一閃が走る度にスケルトンは真っ二つになる。しかしすぐに分裂したかのように復活し、また動くようになる。
ただ復活するだけのスケルトンならばエリスの相手にならないが、スケルトンに宿る魂は皆ボーンドが見繕ったそれなり以上の使い手。最初はボーンド一人だったのが、いつの間にか10人以上のスケルトンに囲まれていた。

「俺まで駆り出されるとは久しぶりだなあ!!」

「しかもガキだがいい女だ!骨じゃなかったらお楽しみもできたんだがなぁ!!」

死を恐れないスケルトンが左右から素早い動きで挟み込む。

「でぇえりゃぁぁ!!」

二本の槍を振るって左右のスケルトンを両断する。直後、斬り飛ばされた上半身に宿った新たな魂が、再生する前に上半身だけでエリスの顔に飛びかかる。

「しまっ……!?ぐぅうう!!」

咄嗟に長物の槍を捨てて手で素早く防御するが、大口を開けるスケルトンが目の前にいるのは気色が悪い。

「隙ありぃ!!」

「ごぼっ!?」

顔面を守っているうちに、他のスケルトンに腹部を思い切り蹴られて吹き飛ばされる。

「か、はっ……!」

衝撃で顔に張り付いていたスケルトンは外れたが、受け身も取れずに地面に転がり、蹲ってしまう。

「あ、おい!せっかく顔をグチャグチャに噛み千切ろうとしてたのに!」

「ばーか、防がれてたくせにナマ言うな」

「ま、この調子だとあと何体か仲間を増やせば倒せるだろ、その後で楽しむとしようぜ」

「さっき槍も捨てちまってたしな。素手じゃあ俺らには勝てんぜ?」

「……ちっ、悔しいが、私もアレに頼るしかないらしい」

武器を失ったエリスはゆっくりと立ち上がると、赤いブレスレットを掲げる。

『紅衣!!』

原理……はいい加減聞き飽きたと思うのでかっ飛ばし、水着のような露出のレオタード風のインナースーツと、アリスと色違いの赤い金属装甲がエリスの身を包む。
エリスのものと違い、背面にスラスターは付いていないが、その代わりに……

「テンペストカルネージ、キャストオン!」

近くに落ちていた二本の槍がひとりでに動き出し、エリスの背中にクロス状に収まったかと思えば、カシャンカシャンと変形して装甲に組み込まれていく。

「これが『レッドクリスタル・スーツ』……矜持を捨てて手に入れた、新たな力だ!」

腕部装甲からブレードを出現させ、迫ってきているスケルトンを切り刻む。これだけなら先ほどまでと同じだが……

「はぁああああああ!!!」

復活するより早く斬る。斬る。斬る。石ころ程度の大きさに分割され、放っておいたら大量のスケルトンが生まれるそれを……

「粉微塵にして、吹き飛ばす!!風雲紊乱!!!」

背面の排熱機構から凄まじい暴風が吹き荒び、復活する前の骨を戦場の遠くへ吹き飛ばした。

「げっ!?」

「多少手間だが、復活するスケルトン程度、こうすれば何の問題もない」

「お、おい、どうすんだよボーンドの大将?」

「まぁ落ち着け、変身時間は3分ってのがお約束だ。実際はそこまで短くないだろうが、長期戦にすりゃ勝てるのには変わらないさ」

「それは……どうかな!」

エネルギー効率は確かにまだ最適化されていないが、アリスのように飛行ユニットにエネルギーを割いていないエリスのスーツは、比較的長期戦にも耐えられる。

次から次に襲い来るスケルトンを粉微塵にし、風で吹き飛ばす。スーツの補助があれば、時間は少しかかるが造作もない。
気づけばあれだけいたスケルトンはボーンドと最初に呼び出したヴァイスだけになっていた。

「あーあー、やってくれちゃって……回収には骨が折れそうだぜ」

「ふん、その心配はない。確かに私ではお前を完全に消滅させるのは難しいが、粉微塵の状態で戦場に放り込めば流れ弾でいつかは死ねるだろう」

「粉微塵、ね……」

ボーンドは含みのある笑みを浮かべる。

「俺らの対策として粉微塵にするってのは正解だよ。でもさ、粉塵って勝手に体に入るよな。地下労働してたら肺がやられるもの粉塵のせいだし……お前みたいなお嬢さんには分からないか」

「……何が言いたい?」

苛立たしげに吐き捨てるエリスに対し、ボーンドは表情のない骨でも分かるくらいに口を広げて笑い……




「お前さ……吸い込んだな?」

直後……エリスの体内で、何かが急激に膨れ上がった。

859名無しさん:2021/04/25(日) 15:57:10 ID:???
「……そろそろ頃合のようだね。ご苦労様、シュライク達」

「ふふふ……ようこそおいで下さいました、ミストレス」
「下ごしらえは、万事整えて御座いますわ。あとは煮るなり焼くなり、存分に……」

「やれやれ……。私の分を残してくれないのかと、こっちはヒヤヒヤしたよ」

その後、ダークシュライク達に何度も何度も「空中散歩」に付き合わされ、息も絶え絶えのアリス。

岩山の頂上に立つ枯れ木に拘束され、隠し持っていた武器も残らず取り上げられていた。
そして、目の前に姿を現したのは………

「………やはり……現れ、ましたか…………スネグア・『ミストレス』・シモンズ……!」

「久しぶりだね、アリス・オルコット……愛らしい私の仔ウサギちゃん。
そんな状態でも、まだ元気に喋れるとは驚いたよ。さすがミシェルが改造しただけの事はある」

ナルビア方面に展開するトーメント軍の総司令にして、魔獣を操る一族ミストレス家の現当主。
性格・趣向はいささか偏り気味で、幼い少女を愛玩用の奴隷として飼うのが趣味と噂されている。
思えば初めて遭遇した時から、スネグアはアリスやエリスを「別の意味で」狙っている気配があった。

「相変わらず、気色の悪い……!
おおかた私が戦闘不能になったと見て、姿を現したのでしょうけど、
甘く見たら、痛い目に遭いますよ……!!」

ニヤニヤと笑うスネグアに、嫌悪感をあらわにするアリス。
武器を失い、戦うどころか自力で立っている事すらままならない状態だが、
それでも弱みだけは見せまいと、スネグアを睨みつけた。

「ふふふ……怖い怖い。では、手っ取り早く要件を済ませるとしようか。
君の身体が、とあるマッドな女科学者に色々と改造されてしまった事は私も聞き及んでいる。
その影響で、君の遺伝子は今、非常に不安定な状態にある事もね。
自分でも、薄々わかっているだろう?」
「…………。」

スネグアの言う通り、アリスの身体はミシェルによって好き放題に弄りまくられた。
結果、たしかに筋力や耐久力は大幅に増大し、飛行ユニットでの高速戦闘も可能になった。
だが、その代償……というより、ミシェルが他にも色々と改造を施したことで、
アリスの身体に様々な「異変」が生じ、戦闘どころか日常生活にも重大な悪影響が及んでいる。

「そこで……この『薬』だ」
……ズブッ!!
「ひぐぁっ!?」

スネグアは笑みを浮かべながら、アリスの左肩に注射器を突き立て、毒々しい色の薬を打ちこむ。
「重大な悪影響」のせいで、今のアリスは痛覚も常人の何倍も敏感。
注射器の小さな針がアリスの肩に刺さった瞬間、鉈で肩の骨ごと叩き割られたかのような激痛が走った。

「その薬は、君の不安定な遺伝子を安定させる作用がある。
きっと今の君にぴったりの姿に変わる事だろう……フフフフ」

「遺伝子改造薬……そんなものまで用意していたなんて……!」

スネグアの言う「とあるルート」が、改造を施した「マッドな女科学者」と同一である事はもはや明らか。

「遺伝子を安定」と言っても、まともな人間に戻るとは思えない。
恐らくこれは、「最後の仕上げ」。
かろうじて戦闘可能だった身体を、完全な愛玩用へと造り変えるための……

「初めから……計画通りだったという事ですか。私を捕らえて、その薬を打ちこむ所まで」
「そういう事さ。君の肉体を改造し、単独で出撃させる所から、ね」

「やはり……あの女科学者と、裏で通じていたんですね……!」
「まあ、そういう事だ。
つまりミシェルの奴は、君の身体を弄るだけ弄った挙句、敵であるこの私に売り渡した……
我が旧友ながら、まったくあれはワルい女だよ……くっくっく」

ミシェルの技術を利用して力を得るつもりでいたアリス。
だが実際は、手のひらで良いように転がされていただけだった事を思い知らされる。

「もっとも、二重スパイや裏切りなんて、良くある話だ。
君の知り合いにも居るんじゃないかな?そういう手合いが……」

………ドクンッ!!
「……許しません……あなた達は、絶対に……っ、ぐあっ!?」

体中が熱い。
全身の細胞が悲鳴を上げながら溶け落ち、全く別の存在に造り変えられていくのを感じた。
傷口が、淡く発光し始め、そして……

アリスの頭の上に、ウサギのような長い耳が生える。
お尻の上には、白くて短いふさふさの尻尾も。

「……君のような純真な子供が、大人の世界の醜い騙し合いに関わってくるのが、そもそも間違いだったのさ。
安心したまえ。これからはこの私が、たっぷりと君を可愛がってあげよう……ククク」

860名無しさん:2021/04/25(日) 16:02:06 ID:???
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「なるほど。戦闘服自体、この変化ありきのデザインだったわけか……
実に最低の発想だ。私の好みを心得ている」

アリスの頭上にウサギのような長い耳、お尻には尻尾が生えた。
身に着けているレオタードスーツと相まって、まるでバニーガールのような姿になっている。

「ふ、ざけないで………んっ、ああっ…!!」

自然界において、ウサギは天敵が多いため、生き残るために常に生殖行為が可能……つまり、一年中が発情期。
故に古来よりウサギは「性」のシンボルとして捉えられてきた。
獣人化した事で、そんなウサギの特徴が、より色濃くアリスの身体に現れる。

全身に受けた傷の痛み、目の前に現れた恐るべき「天敵」。
己の生命に危険が迫るその感覚が、体中の性感を昂らせてしまう。

「気持ちよくてたまらないだろう?
ウサギ型の獣人、特に愛玩用に調整された品種は、激しい苦痛を脳内で快楽に変換する。
もともと『ドM』の素質十分な君には、まさにぴったりだ」

「ふ……ふざけた、事を……私はぜったい、あなたの様な人には屈しません……!」

「フフフ……まだそんな反抗的な口を利けるなんて、さすがは『元』ナルビア王国軍シックスデイ。
まずは、その身体で存分に、ご主人様のムチの味を味わうがいい……!」

体中に湧き上がる疼きを抑え、それでもなおスネグアへの反抗心をむき出しにするアリス。
スネグアは配下の魔物達を下がらせると、愛用の鞭をピシリと地面に打ち付ける。

「はぁっ………はぁっ………」
(ほんの少しだけど、魔力が回復してる……これなら、魔法針一本くらいは……)

改造されたアリスの身体は、耐久力と回復力にだけは特化しているらしかった。
少し休んだおかげで、体力と魔力がわずかに戻っている。
針一本に至るまで奪われたが、こうした事態に備えて、針そのものを魔法で生成する術も扱える。

「たああああああぁっ!!」
瞬時に拘束を解き、スネグアの喉笛を狙い、一直線に飛び掛かるアリス。

「フフフ………そらっ!!」
その動きに合わせて、スネグアの鞭「リベリオンシャッター」が飛ぶ。

(スネグア……こいつは私を捕らえた後、間違いなくエリスも狙う……そうなる前に私が……!!)

一発受ける事は想定の内。例え刺し違えてでも、アリスはスネグアを倒す覚悟だった。
だが……

バシュッ!!ドガンッ!!ズガッ!!
「きゃあぐっ!?っぐあああああああ!!!」

魔獣使いの鞭「リベリオンシャッター」は、その名の通り魔獣の「反抗心をへし折る」。
一撃を受けた瞬間、頭が真っ白に、視界が真っ暗になり……アリスは体勢を崩して顔から地面に叩きつけられた。

「っぐあぅっ…!?………あ、っっぎ…いっ……!!」
まともな言葉を紡げなかった。激痛、というのも生温い。体中が痺れて、吐き気と眩暈すら催して、
自分が今立っているのか倒れているのか、敵がどの方向に居るのか、どちらが上か下かすらわからない。

「いっ……っぎ、あ……!!」
(な、っ……今、何が………!?)
左手の感覚が、全くない。右手で恐る恐る触れてみると、
左肩から背中にかけて、肉を抉られ、焼かれたような壮絶な傷跡が刻まれていた。

「おやおや、たったの一発で終わりかい?
案外だらしないな……もう一鞭くれてやるから、お腹もだしたまえ」
「ひぅ……や、っ……そん、…なっ………」
戦う事も立ち上がる事もできず、無様に地面を転げまわるアリス。
スネグアの声に従うかのように、気づけばお腹を上に向け、脚を無防備に広げた、服従のポーズを取らされてしまう。

「クックック……素直で良い子だ。思った通り、君には…愛玩奴隷の素質があったようだね!」
ビシュッ!!バシッ!!ドシュンッ!!ギュバッ!!

「あぎっ!! っぐあぅっ!! ふぎああああああああぁぁぁっっ!!」
右胸、左胸、お腹………打ち据えられるたびに、アリスの腰がビクンビクンと跳ね上がる。

「ひっ………が………は…………」
「クックック………上々の仕上がりだな。それっ!!」
「ひぎゅううううううんんんっっ!!?」

最後のトドメに、股間へ一撃。
アリスは白目を剝き、口から泡を吹き、そして股間からは薄いレモン色の小水を垂れ流しながら意識を失った。

861名無しさん:2021/05/04(火) 11:48:45 ID:???
「ふふふ……できればこのままずっと楽しんでいたいのだが……私には、まだやることがある」

スネグアはアリスの顎を持ち上げ、耳元でささやいた。
気絶したアリスがその声に反応できるはずもなく、その身はダークシュライクに預けられる。

「続きはトーメントに帰った後、じっくりと楽しむとしよう……
シュライク達、彼女をトーメントに『送って』さしあげなさい」
「かしこまりました、ミストレス……フフフフ」

二羽のシュライクに両脇を抱きかかえられ、アリスの身体は再び宙を舞った。

………………

(ふふふふ……イイのは見つかった?)
(ええ、あの山の頂上……高くてブッとくて、あれならバッチリだわ♥)

「…ぅ……ぁ……?…わた、し……きぜつ、して………」
「ふふふ……お目覚めね、アリスちゃん♥」
「これからアナタを、トーメントに送ってあげる所よん♥」

ダークシュライク達の囁き声で、意識を取り戻したアリス。
2羽のダークシュライクに手足を押さえつけられ、空中で逆さづりの体勢にされている。
眼下にはゼルタ山地の山々が広がっているのが見えた。飛行スーツを破壊された今のアリスでは、落ちたらひとたまりもない。

「トーメント?……このままイータブリックスまで飛んでいく気ですか……?」
「クスクス……そんな面倒なことしないわ」
「アリスちゃんは知ってる?この戦争で死んだ女の子は、王様の能力で蘇生されることになってるの」

王の蘇生能力「ロード・オブ・ロード(おお しんでしまうとはなさけない)」は、この世界全体に効果を及ぼすことが可能らしい。
今行われている世界大戦で命を落とした場合、王が選択した者……要するにかわいい女の子は……
王のいる場所、すなわちトーメント城に送られ、復活する事になる。

「!……それって、まさか……」
「察しがついたみたいね、アリスちゃん。」
「名残惜しいけど、そろそろフィナーレの時間、ってわけ♥…そ〜れっ!!」
「っぐえ!?」

首と手足を掴まれ、再びの急降下。
今度は下を向いたまま落とされているので、前髪が風圧であおられ、まともに目を開けていられない。
遊園地の絶叫マシーンなど、これと比べれば可愛いものだろう。
(くっ……このまま地面に叩きつけて……とどめを刺すつもり……?)

「ふふふ……もう少し右、かしら」
「オーケー。この位?ふふふ……さあアリスちゃん、見えてきたわよぉ♥」
「え…………、あ………あれ、まさか……」

眼下に見えるのは、荒れ果てた岩山。その頂上に立つ、一本の枯れ木。
どす黒く変色したその幹は、瘴気の影響で硬質化し、枝の先端は槍のように鋭く尖っていた。

「ふふふ……ぶっとくて鋭くて、ロケーションも最高ねぇ」
「でしょぉ〜?これならサイコーのオブジェになるわ♥」

ハーピーの変異種である、ダークシュライク。
彼女たちはモズと呼ばれる鳥の性質を持ち、無力化した獲物を木の枝等の鋭い物に突き刺す、『早贄』と呼ばれる行為を行う。

「ひっ……い、いやっ……やめて…それ、だけは……!!」
「だぁ〜め♥あの一番てっぺんの枝にぶっさして……」
「アリスちゃんをサイコーに芸術的な早贄にしてあげる♥」

アリスは半狂乱でじたばたともがくが、二人掛かりでがっちり押さえつけられて逃げられない。

「いやっ……はなして、おねがい、誰か、助けてっ……
エリス……レイナ……り…………い、やあああああああああぁぁっっ!!」

少女のが岩山にこだまする。だがその悲痛な声に、救いの手は間に合わず……

………ザシュッ!!
「ぐぶっ…!!………」

黒く鋭い枝槍がアリスのみぞおちへ突き刺さり、脊椎をかすめて背中まで貫通。
口から血の泡を吐き出し、全身をビクンビクンと痙攣させる。

「ぁ………っが………は………!!」

常人なら間違いなく致命傷だろう。
だが邪悪な改造が施されたアリスの身体は、ここまでされてもなお、彼女の魂に安らぎと解放を与えようとしなかった。

862名無しさん:2021/05/04(火) 12:34:10 ID:???
「げぼっ……が、あぁっ………!!」
鋭い木の枝に串刺しにされ、アリスは小さな体をビクビクと震わせる。

「あはははは!ぴくぴくしちゃって、可愛い〜♥」
「こんなになってもまだ生きてるなんて、アリスちゃんてば本格的に人間やめちゃってるわね♥
でも、周りをごらんなさい……」

「グゲゲゲッ!」「ハヤク、クワセロォォ!!」

「インプやガーゴイルちゃん達も、もう我慢の限界」
「生きながら肉を食いちぎられて、上も下も後ろも犯されて……」
「最高に気持ちよくなりながら、確実に逝けるわね♥」

「そ………んな、の………」

「もちろん、これで終わりじゃないわよ。
なにしろトーメントに帰ったら、ミストレス様に毎日たっぷり可愛がってもらえるんだから……」
「ドMなメスウサギのアリスちゃんには、きっと最高の環境よねぇ……フフフ」

「い………い、や………!」

「さあ、みんないらっしゃい………食事の時間よ!!」
「「グゲェァアアアアアアア!!!」」
絶望に沈む少女の悲鳴は、魔物達の嵐のような咆哮にかき消された。
無数の魔物が爪と牙を剥き、早贄にされたアリスに一斉に群がる………

(ぼふん!!)
「「!?」」

……だが、その時。

アリスが串刺しにされている木に突然、無数の花が咲き、大量の花粉を撒き散らす。
そして、魔物達の只中に、二人の人影が、風のように飛び込んできた。

「っぷ、何これ……!?」
「一体何者っ……!?」

「神速・薙手刀!!たあああぁっ!」
アリスが突き刺さった枝を、唯が手刀の一閃で斬り落とす。
落ちてきたアリスの身体を、サクラが受け止める。

「……あ……なた、たちは……」
「アリスさん、しっかりしてください!!」
「サクラちゃん、全速離脱っ!!」

救援に駆け付けた唯とサクラの二人は、一瞬の早業でアリスを助け出すと、あっという間にその場を離脱した。

「はぁぁ!?……何よあいつら、アリスちゃんを攫ってくなんて…!」
「アリスちゃんを確実に殺さないと、ミストレス様がお怒りになるわ。追うわよ!!」

グォォォォォォォ……

「あ、あの黒いハーピー、追ってくる!?」
「アタシ達の得物を横取りするなんて、生意気な泥棒猫ちゃんね!!」
「こうなったらまとめて片付けて、ミストレス様に献上してあげるわ!!」

ダークシュライクの飛行能力は極めて高く、その速度は通常のハーピーとは比較にならない。
アリスを抱えながらホウキで逃げる唯達が、追いつかれるのは時間の問題……かと思われた。

「……大丈夫だよ、唯ちゃん。」
しかしサクラは慌てることなく、呪文を唱え始める。
すると、サクラのホウキの柄から枝が伸び、唯のホウキと合体していき……

「……私、逃げるのだけは得意中の得意だから」
「!?……サクラちゃん、これは……」

小型の飛空艇へと変わった。

サクラが最も得意とするのは、植物を操る花属性の魔法。
木と藁でできたホウキは、魔法の媒体としても最適であった。

「全力で逃げ切るよっ……フライングボート・ダブルジェット!!」
正しくはツインターボだ!

863>>858から:2021/05/06(木) 01:38:23 ID:???
「げほっ!?……ごほっ!!げほっ!!」

急に喉の奥に不快感を催し、エリスは咳き込む。
口を覆った手に、唾液に混じって黒い粉のような物が付着していた。
(これは………先ほど砕いた、骨の粉か…!?)

「砕いた骨の粉塵は、肺の中にちょっとでも入ったら、あっという間に増殖していく。
若いのに残念だったなあ、お嬢ちゃん……あんたもう終わりだよ」
「げほっ!!……げほっ……なん、だと……!?」

咳き込んでも咳き込んでも、不快感はどんどん増していく。
エリスが吐き出す咳は、黒い煙となってエリスの周りを漂った。

「つってもまあ、体の中でスケルトンになって内側から……なんて事にはならねえ。
骨の形に固まる前に、咳で体外に出されて、風で飛び散っちまうからな。
そ、こ、で………」

ボーンドは荷物の中から黒い小瓶を取り出し、エリスの足元に投げた。
(ガシャン! びちゃっ!!)
小瓶が割れて、黒いヘドロのような粘液が飛び散る。

「そいつは『万能武装スライム』。
使用者の思い通りの武器に変化する便利なモノなんだが、ちょっとしたイワク付きでな。
そいつを作ってた生産プラントが破壊されて、所長やってた男は、責任を問われて処分されちまった」

「っ……一体、何の、話を……げほっ!!げほっ!!げほっ!!」
激しく咳き込むエリス。吐き出した黒い煙がひとりでに動き、足元のヘドロに吸着されていく。

「なに。あんまりかわいそうなんで、俺ん所で引き取ることにした、ってだけだ。
スケルトンは粉微塵じゃあ大したことは出来ねえが、そのスライムに溶かしてやれば……」

「じゅぶっ……じゅぶぶぶぶ……こうして、スライムと融合して自在に動けるようになる、というわけです。
感謝していますよ、ボーンドさん。おかげでまた、いたいけな少女を痛めつけることが出来る……ククククッ!!」
黒いヘドロが寄り集まって、人の形に変わっていく。
骨の粉塵を吸収したことで、万能武装スライムに邪悪な意思が宿ったのだ!

「くっ……新手か!……テンペスト……っぐ、げほげほっ!?………こ、のっ……!」

眼前に現れた敵を、槍で薙ぎ払おうとするエリス。
だが、体内を蝕む骨の粉に、魔槍の力を阻害されてしまった。

ぐちゅっ……じゅぶぶぶっ!!
「クックック……無駄ですよ、そんな攻撃では……」
「なっ…は、放せっ!」
魔力の宿っていない物理攻撃では、スライムの身体を滅することは出来ない。
テンペスト・カルネージの穂先は、黒いスライムにずぶずぶと呑み込まれていくのみ。
槍を引き抜こうと力を込めるが、柄の半分ほどまでスライムが巻き付いてしまっている!

「おいおい……俺も残ってる事、忘れてんじゃねえか?お嬢ちゃんよお……」
ガキンッ!!
「っぐ!?」

……スライムから槍を取り戻そうと手間取っている間に、背後から近づいたヴァイスがエリスの脇腹をナイフで狙った。
だがレッドクリスタルスーツの装甲に阻まれ、逆にヴァイスのナイフが折れてしまう。

「はぁっ………はぁっ………うぐ…!……げほっ…ごほっ……うぐ、おえっ…!!」
なんとか槍を取り戻し、ヴァイスたちから距離を取ったエリス。
だが肺の不快感は更にひどくなり、咳はますます激しくなっていた。
まともに呼吸を整える事も出来ず、疲労が急速に蓄積していく。

「チッ……厄介な鎧だ。まるでカニの甲羅だぜ。引っぺがさねーと中身が食えねーってなぁ!」
「私の武装スライムなら破壊は可能かもしれません。
……しかし私自身は、武器の扱いは素人。骨の粉に肺を蝕まれているとはいえ、彼女に攻撃を当てるのは難しいでしょう。
そこで……」
「クックック……なるほど。どうやらお前と俺は、とことん相性がいいようだな、元所長さんよぉ?」

刻々と悪化していく状況に、焦りを感じるエリス。
その目の前で、ヴァイスのスケルトンと、クェールのスライムが、一つに合わさっていった。


「……さーてと。この場はあの二人に任して、俺は早い所、お仲間と合流するかね……」
エリスとヴァイスたちが戦っている一方、ボーンドは余裕綽々で離脱していた。

「まぁ、仲間っつっても……仮初の、だがな」

ボーンドは懐から辞書を取り出し、用済みとなったそれを投げ捨てる。
風でぱらぱらとページがめくられ、しおり代わりに折り目が付けられたページで止まる。
そこには、仲間達の……小隊の名前の元となった単語が記されていた。
tradimento… 裏切り 叛逆、と。

864名無しさん:2021/05/09(日) 22:12:56 ID:???
スケルトンの骨に黒いスライムの肉体の怪人へと合体したヴァイスとクェールは、
右手を鉈、左手をチェーンソーに変化させて猛然と襲い掛かる。

「クックック……貴女のその赤い鎧、どれほどの強度なのか確かめてあげましょう」
ガキンッ!! ガキン!!

「はぁっ……はぁっ……ゲホッ…ゲホッ……こ、のぉっ……!」

すぐにでも撃退して逃げたボーンドを追いかけたいエリスだが、次第に防戦一方に追い込まれていく。
瘴気を纏った骨の粉がエリスの体内に大量に入り込んで、肺腑を冒され、呼吸を阻害され、体力を削り取られ、
その槍さばきは先ほどまでよりも明らかに鈍っていた。

ヴァイスの戦闘スタイルは攻撃一辺倒、防御をまったく考えない。
しかしそれが無限に再生可能なスケルトンの身体と見事なまでに嚙み合っている。

更にクェールの万能武装スライムによって、装備の差は縮まり、
エリスのアーマーでも攻撃を防ぎきれるか怪しくなってきた。

「クックック……そろそろ限界みてえだなぁ?『ナルビアの神風』ちゃんよぉ…!」
「それに、その鎧も。ナルビアの技術で作られただけあって、さすがに大した強度でしたが……」
ガキッ!!………ベキンッ!!
「し、まっ……!」

エリスの防御を掻い潜り、脇腹に鉈が直撃する。
鉈の刀身はへし折れたが、レッドクリスタルスーツにもわずかな亀裂が走った。

「装甲の弱い部分に集中攻撃すれば、この通りってわけだ……
ま、こっちの武器は折れようがいくらでも再生できるがな!」
「それに、スライムの身体は変幻自在。ほんの僅かな亀裂からでも………自由に中に入り込める」

……じゅるるるっ!!
「っ………!!」
スライムの一部がエリスに飛びついて、アーマーの中に侵入してきた。
スライムが直接肌に触れる不快感に、エリスはバイザーの奥で端正な顔を歪ませる。

「ヒヒッ!今度は肺だけじゃ済まねえぜ……前も後ろも上から下まで、ぐっちょぐちょに犯してやる!!」
「フフフフ……私としては、鎧を剝がして、無防備なお腹をボコボコに変色させてあげたいですねえ」

スケルトンに両腕を掴まれ、両脚はスライムに絡め取られ、動きを完全に封じられてしまった。
絶体絶命の危機に陥ったエリスに、反撃の手段は………

「……あれしか、ないか。……バーストモード、起動っ……!」
……残っている。たった一つだけ。

…………

<残念ねぇ〜、私の改造を受けてくれないなんて。
これじゃ、せっかくのスーツの性能を半分も引き出せないじゃない>

<まぁ今更オミットもできないから、機能だけは残しておくけど……
このモードだけは絶対に、使わないでね>

<……今のあなたが使ったら、命の保証はないわよ?フフフ……>

…………

ゴゴゴゴゴゴッ……

「ぐっ!?なんだ……!?」
「一体これは……アーマーが‥…!?」

スーツが赤く輝き、高熱の炎を発生させる。
二本の長槍テンペストカルネージがアーマーと合体して、炎を纏った一本の巨大な槍へと変形した。

……ジュウウウウウゥウゥゥッ……

「う、っぐ……熱………だがっ……アリスの受けただろう苦しみに比べれば、この程度……!」
激しい熱気が、肺の中の骨粉塵を焼き尽くす。
だがあまりに膨大な熱量は、使い手であるエリス自身をも呑み込みかねない勢いで燃え盛っていた。

「構う…ものかっ………全てを、焼き尽くせっ!!
……『クリムゾン・カルネージ』!!」

「「ぐわあああああぁっ!?」」

超高熱の炎を帯びた竜巻で、スライムとスケルトンが一瞬にして蒸発する。
活動限界を超えたレッドクリスタルスーツが、赤い光の粒子となって消えていく。
後に残ったのは、二本の槍を天高く掲げて立つ、エリスただ一人。

「はぁっ……はぁっ……こんな所で……倒れていられるか…!
早く、逃げたスケルトンを……いや、その前に……アリ、ス……」

一歩踏み出した瞬間、膝から崩れ落ちるエリス。
長槍を杖代わりになんとか立ち上がると、妹の名をうわごとの様に呟きながらその場を立ち去った。

865名無しさん:2021/05/13(木) 01:21:00 ID:???
「ふふっ、ようやく、ようやくアリスくんが我が手中に収まった……、従順になるまで躾けるのにどれだけかかるか……想像するだけでも楽しみだ……。さて次は…」

アリスを捕らえ、スネグアは更なる暗躍の前に一度拠点に戻ってきていた。

拠点は配下の魔物兵の中でも、選りすぐりの強個体数匹に守らせている。
各国の動きはスパイからの情報でほとんどを網羅しているが、万が一想定外の奇襲に遭う可能性も、ゼロではない。
そんな時のため、自分のいる拠点には自分の意のままに操れるキメラ兵や最上級の魔物兵を配備し、自分が逃げる時間を十分に確保するための対策を施していた。

「おかえりなさいませ。スネグア様。……お怪我はございませんでしたか?」
天幕に戻ると、中での世話を任せている魔物兵ーー先日のラミア人格のゾンビキメラが、珍しく話しかけてきた。

「?。ああ、当然だろう?私が行く時には、すでに戦いは終わっているのだからね。もっとも、戦闘が終わっていないところには行かない、というのが正しいわけだが……ククク。」
「そうでしたねぇ。貴方はいつも、配下や立場の弱いものに戦わせて、安全なところにいらっしゃる。自分で戦われることはありませんものね」

「……何が言いたい?」
「いえ、なんでもありませんわ。失礼いたしました」
急に話しかけてきたと思ったら、嫌味のようなことを言ってきた。
少し気を悪くしつつも、羽織っていたコートを脱がせながら自分の天幕の入り口をくぐる。
(何だ?今、背中を触られたような……?)

首筋や肩、太ももの付け根に感じた、かすかな違和感。
これ以上不快な言動をするようなら配置を変えようかなどと考えつつ、椅子に腰かけようとした次の瞬間。
視界がぐらついた。身体のバランスがうまく保てない。

急激に地面が近づいてくる。

「…………は?」

地面にぶつかる衝撃とともに視野が回り、周囲に転がったモノが視界に入ってくる。

……バラバラになった、自分の身体だった。
高貴な装いに包まれた胴と、すらりと細い手足。間違いなくスネグア自身の身体だが、手足と首が根本から分離され、まるで解体されたマネキンのように散乱している。

「は!?何が起きている……!?」

頭、胴、両手、両足。6つのパーツに分離されたようだった。
あまりに不可思議な事態。
血は出ていない。手足や身体を動かそうとするとその部位が動くが、パーツ同士の接続を失っているためその場でバタバタと無意味に跳ねるばかり。

「うふふ、上手くいったようねぇ。」

声がした方を見ると、ラミア人格のゾンビキメラが見下ろしていた。
「!!、貴様の仕業か……!!ふざけるな!!早く元に戻せ!許さんぞ貴様……」

咄嗟に腰にある魔獣殺しの鞭に手を回そうとして…

「…っ!!」
手を回した先には、腰がなかった。

「おお怖い怖い。今、鞭を取ろうとしたわね?これは危ないからもらっておくわ」
手が届かなかった腰から、鞭が抜き取られるのを感じた。
「なっ!?待て!返せ!返せぇっ!!」

自分が強大な魔物兵たちに対して一方的に強く出られる理由。それが全てというわけではなかったが、その理由の大半は今取り上げられてしまった鞭、リベリオンシャッターによる痛みと恐怖による支配であった。

魔物兵に対する絶対的な地位が、揺らぎはじめる。

「くっ……!」
悔しそうに歯をギリリと噛み締めて睨みつけてくるスネグアの頭の様子に、満足気に笑みを浮かべるラミア。

「んふふ、大人しくなっちゃって。これがないと強く出られないのかしら?」
「っ!!……貴様の目的はなんだ?……これは立派な反逆行為だ、タダでは済まされないぞ……!」

「あらあら今度は脅迫?心配いらないわ。この後行く当てはあるし。」
「なに……!?」
「目的はそうね、ちょっとした手土産と、貴女への復讐ってとこかしら。今まで散々コキ使ってくれたじゃない?だからその復讐よ。ただそれだけ。ちょうどいいところに手を貸してくれる人がいたっていうのが大きいけど……、っとまあこれは貴女に話すことではないわね」

「ちぃっ…!!」
(どこの差金だ?こんな情報は入っていない……。ナルビアか?ミシェルが何かしたのか?ミツルギか…あるいは他の勢力…?)

「ちなみに外に助けを求めても無駄よ?今ここに残ってる魔物兵は皆仲間に引き入れてあるし、人間の戦力はみんな出払っているもの。あ、そうだ……もう入ってきていいわよ。」
「ンモォォォ……!待ち侘びたぞォォォォ。早速始めようぜェェェ。」
「グギギギ、あのスネグアが無様に地面に這いつくばってらぁ。これはもうブチ犯すしかねぇぜぇ……」
「いつかこんな日が来るんじゃねえかと思ってたぜぇ……。身体の隅まで堪能してやるぜぇ……ギヒヒヒ……」

ラミアが声をかけると、テントの中に図体の大きなオークと2匹のゴブリンがドカドカ入ってきた。

866名無しさん:2021/05/13(木) 01:22:07 ID:???
自分で選んだ選りすぐりの強個体とはいえ、ゴブリンとオーク。見た目は相変わらず醜悪で、異臭を放っているのも一般のものと変わらない。

「お前たち……いい加減にしろ……!貴様らの好きにはさせん!魔獣昇華……!」

汚らしい魔物3匹無遠慮にテントに侵入されたことにより不快感の限界値を越えたスネグアは、近くにいたモグラを魔獣化して魔物兵に立ち向かう。

ドォ゛ォ゛リュゥ゛ゥ゛ゥ゛……!!!!

両手に巨大なドリルを備え、強大なモンスターとなった大土竜が、4体の魔物兵に襲いかかる。が、

「……うふふ。リベリオンシャッター。」
バヂヂヂィィィィーーンッッ!!!

ドォ゛ォッッ!?!?ビクビクッ……キュゥゥゥゥンッ……

「なぁっ……!?そんなバカ…な……」
強力無比な鞭の一打によって動きが止まり、萎縮して全く攻撃する素振りを見せなくなった。

「じゃあなァァァ……!!!」
ドッゴォォォォン……!!

巨体オークが頭上から振り下ろした棍棒が大土竜の頭に直撃し、戦闘不能となった大土竜の魔獣化は解除された。

「グギギギ、やっぱりお前の鞭は強いなァ…!!おいおい、そんな泣きそうな顔すんなって」

「そんな……私の魔獣が……あ…あぁ……!ま、待て!くるな……!!……やめろ、触るなっ…!離せぇっ!!」

逃げることも戦うこともできず、床に転がされて叫ぶことしかできないみじめな男装の麗人に、薄ら笑いを浮かべた魔物兵たちの魔の手が伸びる。

「まあ、こんなにふるふる震えちゃって可愛い……。んふふ、まずはお洋服を脱ぎ脱ぎしましょうね」
スネグアの胴体の部分を持ち上げ、ぎゅっと抱きしめたラミアは、スネグアが纏うベストのボタンに指をかけていく。

「なぁ、あぁ…!?やめ……!!」

手際よくシャツのボタンもベルトもチャックも外されて、しゅるしゅると剥かれていくスネグア。手足のない身体には引っかかるものもなく、あっという間に下着姿にされてしまう。

「あら、見た目は男性的な服装をしてたけど、中はちゃんと女性らしいもの着てるじゃない。」
「〜〜〜ッ!!////」

ところどころレースがあしらわれた、花柄刺繍入りの濃紺のショーツとブラジャー。
それらがスレンダーなボディを、より引き締めて見せている。

「まだまだ若くて健康的な身体だわ……ラミアの時だったら食べちゃいたいくらい……。じゃ、これも脱ぎましょうね」
背中のラインをなぞられながら、滑らかにブラのホックが外され、それほど主張の大きくない胸があらわになった。ショーツにも手がかけられ、ついに一糸纏わぬ姿にされてしまう。
「っ、ううぅぅぅ……!」
ゴブリンたちの好色な目線に晒され、顔が熱くなるのを感じずにはいられなかった。

手足に残っていたシャツの袖やスラックスも、抵抗虚しくゴブリンとオークによって抜き取られ、生まれたままの姿にされてしまう。

「ギヒヒ、こういうのは初めてって顔してるなぁ?そりゃあお高く止まった貴族様には、こんな経験あるはずないってかぁ?今どんな気分でさぁ?」

カアァァッと赤く染まった顔は、ゴブリンの1人に髪を掴みあげられていた。
顔の前まで持ち上げられ、ゴブリンの吐息が頬を撫でる不快な感触に顔が歪む。

「ぐっ……ッ……黙れッ!!こんなことをして、許さん……断じて許さん!!あとで絶対に殺してやる……!!覚悟しておけよ……!!」

泣きそうに顔を歪ませながらも睨みつけ、精一杯の怒声を浴びせるスネグア。
そんな怒るスネグアに怯む様子もなく、ゴブリンはスネグアの顔を持ち変え、目を見開かせるように指で瞼を押し上げ、露出した眼球を舌でベロベロと舐め上げた。

べろり…ぬちゃぁ……

「ひぃっ!?やっ……!ッッぎゃああああああああぁ゛ぁ゛!!や“め“、や“め“ぇぇッ……!!」

「あぁーうまいなぁスネグアさんの目、ほどよいしょっぱさでニュルっとしてて舐め心地もいいし、ほんのりあったかい……。」

ぶちゅり…じゅるじゅる……

そのままゴブリンは目にディープキスをするように唇を沿わせ、まぶたを唇でどかしながら眼球を隅々まで舐め回す。
目の上をザラザラしたものが這い回る感触に、スネグアは鳥肌が止まらない。

「ひッ!?あ゛ッ!舐めるのっ、や゛ぁぁ……!!」

「これが今まで俺たちを見下してきた目だと思うとまたたまらなくウマい……!はぁ……身体が繋がってたらここまで濃密には舐められないよな……分解マジ最高だぜぇ……!」

ぶじゅるるうううううう……

「〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

ゴブリンが眼球にしゃぶりついたまま口をすぼませて吸い上げると、スネグアは言葉にならない悲鳴をあげた。

867名無しさん:2021/05/13(木) 01:23:09 ID:???
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、……グギギギ、あいつも早速楽しんでやがるなァ。あ、やべ出る。う゛……!!」

もう1匹のゴブリンはスネグアの足でペニスを扱き、早速射精しながら様子を伺っていた。
もがく両足を膝立ちの形に揃えて自分の両足で抱えこみ、ふくらはぎの部分に腰を下ろして動きを封じ、ふとももに自分のペニスを挟んで腰を前後に揺する。

「ッいい加減、脚に挟むのやめ……!?ッくぅぅ……!!…や、やめろ……!!脚に…か、かけるな……!!」

ドロっとした生温かい精液がふとももにべったりと付着するたび、嫌悪感を示すように脚を大きく動かして抵抗しようとするのがおかしくて、ゴブリンは何度も精液を塗りたくっていった。

「……ふふ。あなた、乳首もクリも感度良好じゃない。これはこのあとが楽しみねえ」

ラミアはずっとスネグアの胴体を抱き抱えたまま、乳首とクリトリスをカリカリといじっている。

「ひぅ……んんっ……んあぁっ!」
「ブモモ……早くしろラミアゾンビィィィ……!」

スネグアの指を上から握りしめて自分の竿を無理やり触らせているオーク兵。
元上司に自分のチンポを素手で握らせるという直接的なセクハラがもたらす背徳感は並大抵のものではなかった。自分の竿のサイズと形を、スネグアに無理やり覚えさせていく。

「んもぅ、急かさないでよ、あとその呼び方やめて。……んん、ここをこういじって、と……これでよし。」

「はぁい、スネグアちゃんお待たせ、とっておきのプレゼントよ。あなた、いつも男装をしてるじゃない?だから、その装いにふさわしいような、立派な男性のシンボルをあげるわ」

「ぐぅぅ……何を言って……ッ!?なぁぁぁっ!?」
不穏なセリフを吐くラミアに陰核をギュッと握られた直後、クリトリスからじんわりと染み込むような違和感が下腹部へ抜けていく。
「これ、はぁッ……!?」
嫌な予感がして視線を向けると、そこにはスネグアの身体には似つかわしくない、たくましい男根がそそり立っていた。
「ふ、ふざけるなぁぁ……!!もどせ!!…もどひぐぐぅぅぅぅッ!?」

ラミアに軽く擦られただけの刺激で、抵抗の言葉を遮られてしまう。

「ふふ、感度抜群ね。クリをもとにして、さらに刺激に敏感になるように作ってあげたから、ちょっと触られただけでもたまらないでしょう?」
しゅりしゅりしゅりしゅり……
「あっ!ああっ!!ああああぁっ!!」
ラミアによって優しくしごかれ、ふたなりペニスがむくむくと大きくなっていく。
ひと擦りされるたびにビリビリとした刺激が襲い、スネグアは悶えることしかできない。

(あぁだめだ刺激が強すぎる……!!何かが込み上げてきているようなっ……!!これはぁぁぁッ……!!)

何かがペニスの奥で蓄積され、ドクドクと脈打っているのを感じる。

低俗な魔物どもに反逆され、あろうことか射精までさせられるなど、スネグアのプライドは絶対に許せなかった。
しゅこしゅこしこしこ……
「ん、ぎぎぎぃ……」
限界まで怒張したペニスを尻目に、なんとか歯を食いしばって堪える。
後ろの穴に何かが触れたのは、そんな時だった。
「はっ……!やめ、何して、い゛ぎい゛い゛っ!?」
「ブモモぉォォ……!これがスネグアのケツ……!!犯すぜェェ!!」
オークのデカマラが、スネグアの尻穴を貫く。カウパーでぬらぬらだった肉棒はすんなりと入り、オークはそのまま重量級の身体をスネグアの胴体に打ちつけるようにして、ストロークを開始した。

ずっちゅん、ずっちゅん、ずっちゅん、ずっちゅん……!!

「ひゃぎいいいぃぃ!!ひゃめ、ケツはひゃめろおおお…!お、奥を刺激するなっ!!……っぎぁぁぁあああああああああああああぁぁぁっ!!」

お尻の穴からの突き込みによってペニスの奥のドクドクしている部分を後ろから刺激され、ところてん射精に追い込まれていく。

「ちなみにねそのペニス、絶頂するたびにスネグアちゃんの人格とかをねぇ、精液にして吐き出しちゃうのよ。」

「は……?」

「つまりスネグアちゃんは、このおちんちんでイクたびに少しずつスネグアちゃんじゃなくなっちゃうの。何回もイっちゃったら、ただのお肉になっちゃう。一回出しちゃった精液はもう2度と元には戻らないから、肉人形になりたくなかったら頑張って我慢するのね」

ビクビク震える限界ペニスをしゅこしゅことしごき続けながら、淡々と重大な事実を告げる。

ごりゅ…!!
「あ゛がっ!?」

ビュルルルーーーーッ!

オークの突きにペニスの弱点を裏から擦りあげられた刺激がトドメとなった。
放出された精液が、放物線を描いて勢いよく飛んでいき、床や壁にこびりつく。
ドクン…!という虚脱感が全身を包む。
自身の不可逆な喪失を感じ、スネグアの顔が青ざめていく。

「あ……あ……嘘だ……私が……消えっ……!!そんなことがあってたまるか……!」

868名無しさん:2021/05/13(木) 01:24:57 ID:???
「ブモモ、元気なペニスだなぁぁぁ。射精するとき、ケツ穴も収縮して気持ちよかったぜぇ。」

オークがスネグアのペニスの裏を丁寧にしごくように自身のブツでスネグアの腸壁をこすりあげ、スネグアの射精を残りカスまで搾り取る。
残渣がどろりとこぼれ出るだけでも、自分の人格がこぼれ落ちていくのを感じてしまい必死に身体を捩るが、手足のない体では逃れられず、結局全部搾り取られてしまった。

「ブモ。収まったようだな、じゃあ再開だモォォォ……!」

射精が収まったのをみるや、再びペースをあげるオーク。
スネグアの身体を後ろから抱えあげて密着度を高め、ひと突きごとにスネグアの腸壁をゴリゴリと削っていく。

「や、ちょッ!?ま、まってくれ……!まだイッたばかりで!……ひぎぎぃぃぃぃッ!!」

これ以上はマズイと踏ん張るスネグアだが、オークに無防備なペニスの裏側を容赦なくしごきあげられ、たちまちフル勃起にさせられてしまう。
「あ゛ッ!あ゛ッ!あ゛ッ!や゛ッ!!あ゛ぁぁぁぁッ!!!」

「ブモ?ここを突くとケツの締め付けが強くなるなぁ。さてはお前、ここ弱いなぁ?」

「あ゛がっ!?やっ……!!そこゴリゴリッ……!やめッ!!そこダメだめらぁーーーーーッ!!!」

腰の当たり方を変えて、スネグアの腸の前側にある、無防備な弱点をピンポイントでえぐりぬく。
ごり、ごり、ごり、ごり……

「やだやだやだやだッ……!!イギたくな゛いッ……いやあああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

ドビュルルルルーーーーッ!!
アナル責めだけで、スネグアは再び達してしまった。
ドクン……!!
さっきよりも大きな虚脱感がスネグアを襲う。何がなくなったか認識はできないが、大切なものを失ってしまっているという確信だけは確かにあり、スネグアの心を恐怖で震え上がらせる。

「あらあらスネグアちゃん、もう2回目出しちゃったの?しかも1回目よりもたくさん。このペースだと、たぶん次でもうスネグアちゃん、終わっちゃうわねぇ」

「なぁ゛……!?いやだ!!もういやだぁッ!!あがぁ!?い、1回休ませてくれ……!!そこ……!そこもうやめっ!!腰を一回止めてくれえぇぇぇ!!!」

イったばかりだというのに、オークは今度は動きを止めず、変わらずスネグアの弱いところを責め続ける。股間に勝手に生やされたペニスは絶倫で、またすぐにビキビキと硬くなってしまう。

「ギヒヒヒ……頑張って耐えてるなぁスネグアさんよぉ。次で終わりってんなら、とびっきりみじめな最期がいいよなぁ」

頭を弄んでいたゴブリンが、あと一歩というところで必死に踏ん張っているスネグアの顔をみて二チャリと笑うと、スネグアの頭を胴体の前まで持っていく。
そして怒張したふたなりペニスに、スネグアの唇をぶちゅりと押し当てた。

「ぐぅぅ……!き、きはまぁッ……!!ふ、ふざけうなぁっ……!!」

ペニスを頬張らせようとぐいぐい押してくるゴブリン。
スネグアは懸命に歯を食いしばりながらギュッと目をつぶり、屈辱に耐える。

869名無しさん:2021/05/13(木) 01:26:59 ID:???
そこへ、両足を持ったゴブリンも近づいてきた。

「グギギギ、口に咥えるのが嫌だからって、足まで動かして暴れるなよぉ。危ないだろぉ?」

両足首を持って、暴れる足先を左右からペニスに近づけていく。
目を固く閉じたスネグアは、目の前で起きようとしている悲劇に気づくことができなかった。

「はぎゅぅぅぅぅああああぁっ!?」

気づかずに足をばたつかせ続けたスネグアは、ついに自分の足先で、思い切りペニスを踏み潰してしまった。
自らの身体で自分の性感を刺激され、思わず口を開けて嬌声をあげてしまう。

ずぼぼぉ!

「んぶうううぅぅぅ…!!」

そのの隙に、口の奥深くまでペニスを咥えこまされてしまった。

「グギギギ、自分で自分のを咥えてらぁ。」
「ギヒヒヒ、無様だなぁスネグアさんよぉ。」

息苦しさと臭さを感じるが、それ以上に自分の舌と唇の感触に、腰が砕けそうになる。


「ブモ、今、腰を後ろに逃がそうとしたなぁぁ?楽なんてさせねぇ。逃がさんぞォォォォ」

ゴブリンたちの動向に注目し、一時的に尻穴へのストロークを緩めていたオーク兵。

スネグアの腰の動きの余裕のなさを感知し、すかさず抽挿を再開する。

「んゔぅぅぅ...!ゔっ!ゔゔぅっ!ゔああああぁぁぁ!!」


(このままではマズイのに、ダメなの、に…!舌が表面を這い回る感覚が、気持ち、いいっ…!舌の動きが制御できない…!マズい...!耐えろ、耐えろおぉぉ…お゛ほぉぉぉぉ!)

頭ではダメだと理解しているのに、気持ちよさのあまり自分の舌でふたなりペニスを舐めまわしてしまう。

後ろからはオークの突き上げが、前からは自分自身の口が。もう後がないスネグアをこれでもかと追い詰めていく。

「スネグアちゃん、そんなにビクビクしちゃって。もう我慢できないんでしょう?手伝ってあげるから、気持ちよくなりましょうねぇ」

ラミアがペニスにしゃぶりついたままの頭を前後に動かして、スネグアのペニスを優しく口でしごかせてあげる。

「ん゛ぅ“ぅ“!??う゛っう゛っうぅぅぅーーっ!!」

ビクビクビクビクッ!ビクッ!ビククッ!!

引かれる時は柔らかい唇や舌がペニスに吸い付き、押される時は口の中の凹凸がペニスを擦りつける。
喉奥まで達するほどに深く押し込まれると息ができなくなり、苦しくなった喉がギュムゥとカリ首を締め付け、たまらない刺激をペニスに与えていく。

セルフフェラの刺激が強すぎて、腰の震えが最高潮に達する。
限界が近い。

「こんなのはどうかしら?」

悪戯な笑みを浮かべたラミアが、スネグアの顔をペニスの根本まで押し込む。
気道が完全に詰まり、スネグアは目を見開いて呻く。
喉がスネグアのペニスを、最大限に締め付けていく。

そしてラミアは喉奥まで飲み込ませた状態のまま強く押し付け、ぎゅるりと90度ほど、スネグアの頭をゆっくりと回転させた。レモンを搾る時のように優しく、力強く、ひねる。

喉奥に締め付けられたままのペニスは、不意に与えられた回転運動に成す術もなく、全てを搾り取られた。


「う゛う゛!!ア゛、ヴアアアーーッッ!!!ッ!ッッ!イヤアアア゛ーーーーッ!!!」


ドビュルルルルルルルル!!!


「んふふ、よくできました……!スネグアちゃん、自分の人格の味はどう?」

「ごぼぼ……ごぽッ……ぉ」

スネグアの喉奥に吐き出された精液が、スネグアの首の断面から地面にボトボトと垂れ落ちる。
ペニスを咥えたままの口元からも溢れ、ダラダラとこぼれ落ちていく。

「もしかして。もうただのお肉になっちゃったのかしら。」

90度ほど傾いて己のペニスにしゃぶりつき、自分で自分の人格を根こそぎ搾り取ってしまった、“元”麗人の瞳は裏返り、もはや人としての風格は微塵も残っていなかった。

870名無しさん:2021/05/16(日) 15:27:53 ID:???
前線基地に敵が攻めてきたと知り、急ぎ帰還するオト&エルマ達。そこへ……

「たく、ツイてねーな。ちび子しかいない時に攻め込まれるなんて……早いとこ戻ろうぜ!」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ……
あ、ちょっと待って!?空の向こうから、何か飛んでくる……!?」

唯とサクラが、ホウキを合体変形させた「フライングボート・ダブルジェット」に乗って猛スピードで向かってくるのが見えた。

「くそっ…距離が縮まらない!……まさかアタシ達と互角のスピードなんて!」
「何としても捕まえるのよ!ミストレス様のお怒りに触れたらタダじゃ済まないわ!!」

「うううう、なかなか振り切れない……!!」
「サクラちゃん、前、前みて! 避けないとぶつかr……ってあれ、オトちゃん、エルマちゃん!?」
「うっわあぶね!!」

地面スレスレの低空飛行で突っ込んできた唯達を、慌てて避けるオト達。
そして、それを追ってきた2羽のダークシュライクは……

「……なんか魔物に追っかけられてるみてーだな」
「データベース検索……『ダークシュライク』ハーピー亜種の上級魔物。弱点は光属性……」
「ったく、次から次へと……。まあ要するに」

「……後ろの奴らは、倒しちゃっていいのよね?…ストロボフラッシュ!!」
「「ぐぁっ!?」」
「殺戮する……エメラルドブレード!!」
「「ギャアアアアアアアァッ!!」」

エルマの秘密兵器と、殺戮機兵エミリーのブレードで一刀両断された。


こうして偶然にも合流を果たした唯たちは、重傷のアリスを連れて前線基地へと帰還する。
しかし基地は既に攻撃を受けた後で、周囲は破壊された兵器や機械兵の残骸が散乱していた。

「うわ……荒らされ放題じゃない。ルーアちゃん達、無事かしら…!?」

基地の最奥、司令部へと急ぎ戻る唯達。そこで見たものは……

「うっ……」
「……降参してください。例え機械兵とは言え、できれば破壊したくはありません……」
「………で、できませんっ……私の任務は、この基地と、エミル様を防衛する事…!」
気絶したエミル、中破状態の砲撃機兵サフィーネと、トーメント軍と思われる魔法少女。
そして……

「ゆ……唯、さんっ……!」
敵の猛攻を受け、満身創痍のルーアと……

「何っ……唯……だと…!?」
漆黒の仮面を付け、右腕を魔物のように異形化させた、女剣士の姿だった。

871名無しさん:2021/05/29(土) 21:27:32 ID:???
今から十と五年と、少し前。
その赤ん坊は、トーメントから北方に位置する極寒の町ガラドで、この世に生を受けた。
燃えるような赤い瞳と、赤い髪が特徴的な、可愛らしい女の子だったという。

白い雪と氷に閉ざされたこの地方において、赤い色は暖かさ、幸福の象徴とされている。
エミリアと名付けられたその赤ん坊も、暖かい幸福に包まれ、健やかに育てられる……はずであった。
だが……


ゴォォォォ……パチパチッ!

「火事だぁぁあああああっ!!」
「エミリアが!まだ、中に子供がっ!!」

………エミリアが2歳の時、不幸な事故により母親はこの世を去った。
そして、エミリアが極めて強い、強すぎる魔力をその身に宿していることも明らかになる。

以来。父親は酒に溺れろくに働かなくなり、生き残った娘の事を露骨に避け始める。
ほどなくして、エミリアは近くの山村で暮らしていた祖父に引き取られ、育てられる事になった。

祖父は優しく、時に厳しく、深い愛情をもってエミリアに接した。
エミリアも、祖父の事が大好きだった。

彼はエミリアに、多くの事を教えた。
家事や生活にまつわる様々な事、言葉や文字の読み書き、山や自然にまつわる知識。
そして、強すぎる力の扱い方も。

「エミリア……お前の『力』は、お前の大切な人を守るための物。
だから、決して力を無暗にひけらかしたり、自分のために誰かを傷つけるような事をしてはいけないよ」
「うん、お爺ちゃん。……私、約束する」

「私の大切な人は、お爺ちゃんと、天国のお母さんと……今もガラドにいるはずの、お父さん」
そう嬉しそうに語るエミリアの笑顔を、祖父は優しい眼差しで見つめながらも、少し心を曇らせる。

エミリアの父親、祖父にとっては娘の婿であるその男は、
自分の所にエミリアを預けて以来、娘に顔を見せに来たことは一度も無い。
噂では以前にもまして酒や博打に溺れるようになり、借金まで抱えているという。

祖父もまた、最愛の娘を失った身。気持ちは判らなくもない……
だがこのままではエミリアの為にならないと、男の住居を訪ねては説得した。怒鳴りつけた事も一度や二度ではない。
だが男の態度が改まる事はなく、ついには住居を引き払い、行方をくらませてしまった。

(優しい子じゃの……あんな男でも、エミリアにはかけがえない父親、ということか)

神話や伝説に語られるレベルの超魔力など、平和な村で静かに暮らすには、無用の長物に過ぎない。
エミリアは祖父の言いつけを守り、魔力を制御する術を身に着け、普通の少女として幼少期を過ごした。
生まれつき真っ赤だった髪の色は、いつしか海を思わせる青い色へと変わっていた。

872名無しさん:2021/05/29(土) 21:29:41 ID:???
(お爺ちゃん……あのお姉さんたちは、悪いひとなの?)

……月日が流れ、8歳になったエミリアの家に、ある人物が訪ねてきた。
一人はきっちりとスーツを着こなした大人の女性、もう一人は、ブレザーを着た15〜6歳くらいの少女。

祖父はスーツの女性と大切な話をするから、とエミリアに外で遊んでくるよう言いつけ、
エミリアは、もう一人の少女に遊び相手になってもらった。

小さな村を一回りしたり、まだ夏になる前の川に入って冷たい水を掛け合ったり、
とっておきの場所にある秘密のお花畑に案内したり……
エミリアは初めて会った名前も知らないその少女と、無邪気に笑いあって楽しいひと時を過ごした。

夕方、家路につくと、祖父たちの話も一区切りついたようで、スーツの女性は「また来ます」と言い残し帰って行った。

「お姉ちゃん、またね」
「うん。……またね、エミリアちゃん」

ブレザーを泥だらけにした少女も、スーツの女性と一緒に、ホウキにまたがって飛び去って行った。

……だが家に入り、祖父は暗く沈んだ表情をしているのを見て、楽しかった気持ちは一瞬で吹き飛んでしまう。

「お爺ちゃん……あのお姉さんたちは、悪いひとなの?」
「そんな事はないよ……あの人たちはとても良い人たちだ。何も心配することはない……」

……後になってから、彼女たちは魔法王国ルミナスの魔法少女だった事を知る。
エミリアをスカウトするためにやってきた事も、容易に想像がついた。

(あの子は……とてつもなく強い力を持って生まれてきた。
出来るなら、このままあの子には普通の生活を送らせてあげたかった。

だが強い力は、強い運命…過酷な運命をも呼びよせる。それが避けられない事なのだとしたら……
せめて貴女の言うように、運命に呑まれぬよう、正しい使い方を身に着けるべきなのでしょう。
ですが………せめてもう少しだけ、この老人のわがままを……許していただけませんか)

(お気持ちは、よくわかります……最大限、貴方のお気持ちは尊重しましょう)
(感謝します……私に残された時間は、もう長くない。その時はエミリアの事、くれぐれもお願いします)

「……さあ、そろそろ夕ご飯の時間だ。急いで準備をせんとな……エミリア、手伝ってくれるか」
「うん、お爺ちゃん!」
そう言ってエミリアの頭を撫でた祖父は、いつもの優しい笑顔に戻っていた。

「また来る」と言っていたスーツの女性、一緒に遊んだライトグリーンの髪の少女……
だがエミリアが、後に彼女たちと再会する事はなかった。

873名無しさん:2021/05/29(土) 21:32:13 ID:???
更に2年後。

「お爺ちゃん、死んじゃいやだよ……!!お爺ちゃんがいなくなったら、私……!!」

「エミリアや……よくお聞き。
お前の力は、正しい使い方をすれば、きっとたくさんの人を幸せにすることが出来る。
これからは、たくさんの人と出会って、大切なものをたくさん見つけて、
いざというとき、それらを守れるように……」

「お爺ちゃん……いやああああああぁぁぁ!!」

……エミリアの祖父は、息を引き取った。
村の人たちによってささやかな葬儀が行われた後、エミリアは祖父の家に、一人ぼっちになった。

(最期にお爺ちゃんは言ってた……たくさんの人と出会って、大切な物を見つけて………
でも、どうすれば……)

あまり多くない祖父の遺品の整理を終え、途方に暮れるエミリア。
だがそんな彼女の前に現れたのは、祖父が期待していたのとは異なる人物だった。

「エミリア………ひっひ………大きくなったなぁ」
「!……お父、さん……?」

長い間行方をくらませていた父親。
共に過ごした記憶もほとんどなかった。にも関わらず、エミリアにはすぐにその男が実の父だと確信できた。
父親は、ローブを着た数人の男達と一緒だった。

「どうして……その人たちは、一体……?」
「お前を、迎えに来たんだ……この人たちは……お前の新しい仲間、家族だ」
「その通り。我々は、ガラド解放同盟……歓迎しますよ、同志エミリア」
「どうし……?」

「我々は、ガラドの街をトーメントの支配から解放するため」
「悪の王国トーメントから、我々の大切な故郷を守るために戦っています」
「ガラドの地に生れた貴女も、我々と志を同じくする『同志』」
「貴女の『力』が必要なのです。協力してもらえますね?」

「え………えっと、その………」
「怖がらなくていいんだよ、エミリア……一緒にガラドに帰ろう。これからはお父さんとずっと一緒だ。
それとも……こんな山奥の村で、ずっと一人ぼっちで暮らすつもりかい?……ひひっ」

祖父を失ったばかりの幼いエミリアが、父親と知らない大人に取り囲まれて、毅然とした判断を下せるはずもない。
これからずっと「一人ぼっち」で過ごすことになったら、と想像すると怖くて仕方がなかった。

こうしてエミリアは、言われるがままに「ガラド解放同盟」なる武装組織の戦闘員となる。
トーメント王国を震え上がらせた最凶の魔術師「爆炎のスカーレット」の誕生であった。

だがそれでも、エミリアの孤独は癒される事はなかった。

「ずっと一緒だ」と約束してくれた父親は、ガラド解放同盟から「用済み」と判断され、
その後まもなく「借金の形に娘を売り渡したクズ」に相応しい末路を辿ったという。

874名無しさん:2021/05/29(土) 21:35:53 ID:???
それから更に5年が経ち……

「爆炎のスカーレット」ことエミリアの名はトーメント王国、いや大陸中に轟き、
ガラドの街はエミリアが生まれた頃とは比べ物にならない程、急速な発達を遂げた。

エミリアは「トーメント王国の軍勢を魔法で焼き尽くすだけの簡単なお仕事」に従事し、
大切な生まれ故郷の街を守ることで、日々の生活を賄うには十分すぎるほどの「報酬」を得ていた。

その間、魔法王国ルミナスからの使者が街を訪れ、子供を攫い不当に労働させている事について抗議を申し入れていたが、
ガラドの外交官に冷たくあしらわれ、エミリアに直接会う事さえ叶わずにいた事を、エミリア本人は知らない。

「また『点数』がふえてる……この分だと、今年中には9桁突破しそうだね〜」
敵の軍勢を消し炭に変え、その合間に街の食堂で食事をとり、買い物をして、ついでに振り込まれた報酬の額を確認する。

いつもいつも変わらないルーチンワークの中で数少ない「変化」は、
天井知らずに増え続ける通帳に書かれた数字と……

「このワサビチョコ、なかなか強烈……ハバネロチョコも最高だし、最近のグロルチョコはアタリが多いなぁ」
過激化の一途をたどる、コンビニお菓子の新製品。

(これが……お爺ちゃんが言ってた、大切なものを守る、って事なのかな……)
「……あ、れ?………ワサビで……目が……」

「いったあぁあーーーーい!!!あー!血が出てるうう!アイナの小さく整った美しい手に…汚い血が…醜い血が…!」

その時。
虚空を見つめ、立ち尽くしているエミリアの耳に、甲高い悲鳴が飛び込んできた。

「あ……あれは」
見慣れない二人連れの少女、そのうちの一人が派手にすっ転んで大声で泣き叫んでいた。
転んだ一人は派手なピンク色の髪にピンク色の服の少女、もう一人は金髪と美しい碧眼の、黒い服を着た少女。
年はエミリアと同じか、やや下くらいだろうか………

「たいへん……!」
反射的に、エミリアは二人の元へと駆けだしていた。

「キミ大丈夫!?派手に転んでたけど…うわ!こんなに血が出てる!」

二人組の少女、アイナとリザとの出会いは、エミリアを更なる混沌の運命へと巻き込んでいった。
それと同時に、エミリアは少しずつ、自身の持つ力と過酷な運命に抗い、己の意志で道を選ぶ術を学んでいく事になる。

彼女の祖父が最期に望んだ形とは、やや違っていたのかも知れないが……

875名無しさん:2021/05/31(月) 00:59:21 ID:???
────そして、現在。

「げほっ!! ごぼっ!! がは……!!」
エミリアは水で作られた巨大な蛇に呑み込まれ、重傷を負った傷口から血を絞り出され、半ば意識を失っていた。
いわゆる走馬灯というやつか、幼い日の思い出やガラドでの暮らしなどが唐突に脳裏をよぎる。

(くる、しい……わたし、このまま溺れて……死んじゃう、の……?)
魔法で脱出しようにも、周囲はASMR…魔法や特殊能力を封じる特殊な雨水の塊。
エミリアの超魔力さえも押さえ込まれてしまっている。

「が、はっ……」
(だ、め……まだ、終われ……な……………)
チアノーゼ……長時間呼吸が阻害されたことで血中の二酸化炭素濃度が上昇し、身体が痙攣し始めた。
人が溺れて死に至るまでにはいくつかの段階が存在するが、意識を失う前のこの状態が最も苦しいとされている。

「おっと……まだ楽になるのは早いぜ。もう少し楽しませてくれよ」
そしてDの水責めは、この苦しい状態が最も長く続くよう調整されているのだ。

エミリアが意識を失いかけると、水蛇は体内の獲物を少しだけ呼吸させるため、小さな空気の泡が生み出す。
泡はゆっくりと水中を漂い、エミリアの口元へ向かう。

「…っ……!!」
だが、その時。エミリアの右手がわずかに動き、小さな気泡を指先で捕まえると……

……ズドォォォンッ!!
「うっぐぁっ!?」
凄まじい爆音と共に、水蛇が一瞬にして弾け飛んだ!!

「…………。」
「う、ぐっ……今…一体何が起きた……!?」

ほんの一瞬だけ、エミリアの指先が気泡に触れたことで、水の呪縛から解き放たれた。
その瞬間、無詠唱で攻撃魔法、ファイアボルトを発動。
初歩の火属性魔法だが、エミリアの魔力を以てすれば、触れていた水蛇を水蒸気爆発で一瞬にして吹き飛ばすほどの威力となる。

「これが、『爆炎のスカーレット』……噂通り、飛んでもねえバケモンだぜ。
だが残念だったな……水蛇を吹き飛ばしたところで、俺のASMRは………」

無傷とはいかないが、運良く直撃を避けたD。
再び水蛇を作り出し、エミリアを呑み込もうとする、が。

「そうは行かないっ!!」
「く!……真面目君、思ったより早かったじゃねえか……!」
水人形達を振り切ったカイトが、Dに接近し斬りかかる。
特殊能力抜きでも剣の腕前は確からしく、エミリアの爆発で負傷した今は分が悪い相手だった。

「こりゃそろそろ、潮時みてーだな……あばよ!」
「待てっ!逃げるか!」
「待てと言われて待つ馬鹿いるか、ってね。せいぜいエミリアちゃんと仲良くやんな、真面目君!」
「………くそっ」

Dは水を操って霧を発生させ、一目散に逃げていく。
追いかけたくてもエミリアを置いては行けず、カイトは逃げるDを黙って見送った。

(敵を逃がしたのはまずかったな。増援を呼ばれる前にここを離れないと……)
「エミリアさん……大丈夫ですか、しっかり……!」

あれだけ激しく降っていた雨はあっという間に止んだ。
いつの間にか空は茜色に染まり、夕闇が迫ろうとしている。

「エミリアさん!エミリアさんっ!?………これは……まずいな……」
「…………。」

呼びかけても、エミリアの意識が戻らない。顔色は青白く、呼吸も止まっている……
カイトも軍人のはしくれ、当然こういう時の処置方法は心得ている、のだが……

876名無しさん:2021/05/31(月) 01:06:27 ID:???
……それから、しばらく後。

「……あ、あれ……………わたし……………?」
エミリアは、かろうじて意識を取り戻した。

「エミリアさん。気が付いたんですね。よかった」
「……カイト君……」
体がぽかぽかと暖かい。いつの間にか掛けられていた毛布と、すぐ傍で赤々と燃えている焚火のお陰だろう。

徐々に意識がはっきりしてくると、気を失う前の状況が思い出されてきて、
溺れた自分をカイトが介抱し、敵が来ないよう見張っていてくれていた事を理解する。

「カイト君が、助けてくれたんだね……ありがとう」
「い、い、いいい、いえ、いいんです、この位。むしろ、その……申し訳ない、と言いますか……」
「……え?申し訳ないって?」
感謝の言葉を伝えるエミリアだったが、どういうわけかカイトはしどろもどろになる。

「実は、その……助けるために、ですね。
なんというかその……人工呼吸と、心肺蘇生……
それにあと、体が濡れて体温が下がっていたので………………着替え、を………」

「……ああ、なるほど。……色々ありがとう。
カイト君女の子苦手なのに、ごめんね……嫌じゃなかった?」
「いいいい、いえ!そんな、嫌だなんて!!
僕の方こそ、やむを得ないとはいえ、色々と。その……嫌じゃなかった、ですか?」

「え?…………あ……」
………少し間をおいて、意識がさらにはっきりしてくるにつれて、
カイトが行ってくれた「処置」のアレコレについて改めて意識してしまう。

毛布の中でごそごそと手を動かし、体の状態や、今着ている服を確認するエミリア。
魔法を封じられて開いていた傷口は、どうやらまた塞がったようだ。
服は、生地の感触からすると、自分が持っていた着替えではなく……
おそらく男物の、カイトのシャツ。下着も……

「いや、で、でもほら、気絶してたし……?
 そ、そんな、ぜんぜん……………嫌じゃ、……なかった、…よ…?」
(人工呼吸……って、アレをアレするやつだよね。心肺蘇生って、いわゆる心臓マッサージ?
そういえばなんか、気絶してるときに、そういう感じがしたような、しなかったような……
……ななな、なんか改めて考えると、すっごいドキドキする……!!)

「そ……そう、ですか……なら、ほんと、いいんですけど……」
(めっちゃめちゃ柔らかかった……やばい、思い出してきた……か、顔に出しちゃダメだ!)

「そ、そうだ、あの、まだ無理せず、休んでた方が良いです、僕見張ってるんで!」
「え?あ、そ、そうだね!じゃ、じゃあ、もう少し、寝ようかな!」

意識しだした途端、カイトの顔をまともに見られなくなったエミリア。
絶対寝られるわけない、と思いつつも、ガバっと毛布をかぶった、その数秒後。

ぐぅぅぅぅぅぅ………

………いびき、ではないく、お腹の鳴く音。

落ち着いて考えてみたら、慌ただしく出発したせいで、エミリアは朝から何も食べていなかった。

「あ…………」
「……はは……」
「………先に、食事にしましょうか。簡易レーションと、スープ位ならすぐできますよ」
「うん……ありがとう、カイト君。何から何まで」

二人とも一気に緊張がほぐれたのか、互いに視線をかわしくすりと笑い合う。

「実は私も……お爺ちゃん以外の男の人って、ちょっと苦手だったんだ。
でもカイト君は……本当に、すごく、いい人だなって思う……だから……これから、よろしくね。
私も、もう足手まといにならないように、がんばるよ」

「こちらこそ……今回は僕がエミリアさんの側にいなかったせいでもありますし。
……もう、あんな事にならないよう……僕も頑張ります」
カイトはエミリアの傍に座って、スープの入ったマグカップを手渡す。
スープを口に運びながら、エミリアは穏やかな気持ちで焚火の火を見つめていた。

(たくさんの人と出会って、大切なものを見つける)
(『力』はいざという時、大切な人を守るために……)
(お爺ちゃんが言ってたのは……きっと、こういう事なんだ)
心の奥でずっと凍り付いていた何かが、ゆっくりと溶けていくのを感じながら。

877>>869から:2021/06/06(日) 18:05:32 ID:???
(あぁぁぁぁ……おぢんぽしゃぶるの、すっごいきもちぃぃいい……
あたし、ずっとこれが、ほしかったのおぉぉぉ……これ、さえ、あれば……)

生きたまま体をバラバラにされ、分割したパーツそれぞれを下衆な魔物に好き放題に犯される。

叛逆の首謀者ラミアに無理矢理はやされたペニスをしごきまくられ、
大量の特濃ザーメンと共に、理性や人格を最後の一滴まで搾り取られる。

もはや誇り高き魔獣使いの末裔「スネグア・『ミストレス』・シモンズ」の面影は、微塵も残っていなかった。

(そう……あたひ、おちんちん、ほしかった………おとこのこに、なりたかった……どうして、だったっけ……)

シモンズ家の紋章が刻まれたクラバット・ピンが落ちて地面に転がった。
ラミアとスネグアが無意識にそこへ視線を向ける。
その時、深紅の宝石はまばゆい光を放ち始めた!

「?………あらぁ?スネグアちゃん、これは一体……」

異変を察知したラミア。だが、宝石はそれ以上の変化を見せず、スネグアも問いかけに答えるだけの人格は残っていない。

「もう答えられない、か……でも、問題ないわ。
この大量のザーメンには、スネグアちゃんの記憶や知識が封じられている………つまり」

ラミアはスネグアの吐き出した精液を指で掬って舐め取った。
たちまち、頭の中に、スネグアのかすかな記憶が入り込んでくる……!!

『一体……どうなっている!妻だけでない。妾や使用人やら合わせて、
50人以上もの赤子を孕ませたというのに………こうも女しか産まれないとは!』

『代々男子によってのみ受け継がれてきた家督……遺憾だが、止むをえまい。』

『だが忘れるな!お前は所詮、真の世継ぎが生まれるまでの代理……
シモンズの守護獣『ベヒーモス』も、女のお前を、決して認めはしない………』

「………ふうん。なるほど……
スネグアちゃんは家を継ぐために、ずっと男の子として育てられてきた。
でも本当の男の子じゃないから、『守護獣』とかいうすっごい魔獣は使えなかった……
そして……アタシがおちんぽを生やしてあげた事で、召喚する資格を得た、って事ね……クスクス」

(!………そう……だ……わた、しは………誇り高き、魔獣使いの……)
「はぁっ………はぁっ……守護獣『ベヒーモス』…わが、呼び声に…答え、よ……」

「本当に……クックックック…皮肉な話だわ。
長い間ずっと、欲しくてたまらなかったモノが、ようやく手に入ったって言うのに……!!」

スネグアの瞳に、消えていたはずの意志の光が再び灯る。
ほんのわずかに残っていた意地とプライドを総動員し、理性を必死にかき集め……守護獣に呼びかける。
ブローチはひときわまばゆい輝きを放ち、そして………

878名無しさん:2021/06/06(日) 18:09:29 ID:???
「!?………ど……う……して……」

………それだけだった。
最強の力を持つと伝えられる守護獣が現れる様子はない。

「キャハハハハハハハ!!! あったり前じゃない!!
言ったでしょ?理性や人格を精液として出しちゃったら、もう2度と元には戻らない、って。
今のアナタはもう、魔獣使いの貴族様なんかじゃない、ただのおチンポ生えた肉人形でしかないのよ!」
「ひゃぐぅんっ!?」
ラミアはスネグアのペニスを奪い取ると、トゲだらけの手で力いっぱい握りつぶす。
スネグアの最後の力、最後の理性、最後の希望が、精液となって弾け飛んでいく。

「スネグアちゃん……その宝石が反応してるのは、貴女にじゃないわ。
魔獣使いの遺伝子を取り込み、一族に伝わる魔獣使いの鞭を手に入れ、
貴女より遥かに立派な『オス』のシンボルを持つものが……ここに一人、いる」

様々な魔物の死体をつなぎ合わせたゾンビキメラであるラミアの股間にも、
凶悪なイボイボのついた異形のペニスがそそり立っていた。

「そ、ん………なぁ……う、そ……」
「さあ、いらっしゃい……アタシのカワイイ下僕……ベヒーモスちゃん」

ラミアの足元に、途方もなく巨大な魔方陣が浮かび上がる。
「グロロロロロロォォォォオ………」

「フフフ……長い間出てこられなくて、お腹がすいてるでしょう。
このブツ切り肉人形ちゃんのカラダを召し上がれ♥」

「……グロォォォォッ!!!」
「い……や……やめ、て……たす……」

地の底から鳴り響くような唸り声とともに、魔法陣から巨大な獣の手が現れる。
人格も理性も完全に失われたはずのスネグアさえも、恐怖と絶望に泣き叫ぶ程の威容。

スネグアにはもう、何も残っていなかった。
襲い掛かる魔獣を従える力も、逃げ出すための足も。

(ゴリュッ)(ブチブチブチ)(グチャッ!!)
「…ああああああああぁぁっ!!!」

為す術なく巨大な手に捕まれ、魔法陣の中へ引きずり込まれる。
断末魔の叫び、骨や肉が砕け千切れる音………やがて、静寂。
少し離れた場所で他の魔物達に弄ばれていた手足も、ビクリビクリと痙攣して完全に動かなくなった。

「グギッ?……動かなくなっちまったぞ」
「ケッ!つまらねえ。もっとエサはねえのかよ!!」

「フフフ……そんな物より、もっと新鮮な獲物を探しに行きましょ♥
まずは、スネグアちゃんが連れて来てたおチビちゃんたち。
それから戦場に出れば、いろんな餌がより取り見取りの早い者勝ち♥♥」

「「「ウォォォォォ!!」」」
「さっすがー!!」
「ラミア様は話が分かるっ!!」

「クックック……ここからは魔物の流儀でいかせてもらうわ。さあ、パーティの始まりよぉ……!!」

魔物達の主人となり、最強の守護獣をも手に入れたラミアが、戦場を混沌に染め上げるべく新たな号令を下した。

879名無しさん:2021/06/06(日) 22:19:50 ID:???
唯達のいるナルビア軍の前線基地より更に後方、
旧研究都市アルガスに設置された、ナルビア軍の総司令部にて。

「くそっ……まだ前線基地と連絡は付かんのか!?」
「シックス・デイは一体何をやっている!!」

シックス・デイが出払っている間に、謎の二人組に前線基地が襲撃された……
という報告を受けたものの、その後の動向が全く掴めず、混乱に陥っていた。

「……こちら総司令部。アレイ前線基地。直ちに状況を報告してください」
「アリス、エリス。レイナ。ダイさん……応答願います!!」

観測員であるリンネも、前線基地、そして出動中のシックスデイ達に応答を呼びかけている。

(……ザザザザ……)
「こちら…アリス・オルコット……アレイ前線基地に帰還。基地を襲撃した敵を発見……」
「了解。アレイ前線基地は今回の戦いの要だ。なんとしても死守してくれ」
「わかっています(ザザ……)この身に代えても(ザザザ)」

しばらくして、アリスから連絡が入る。
やや通信に障害があるが、基地に帰還できたなら問題ないだろう。

「おう、やっとつながった……すまん、侵入者の二人組に逃げられちまった。
それに……魔物どもの動きが、急におかしくなったみたいだ。
敵味方の区別なく、女や金目の物狙いで手あたり次第襲ってやがる……おかげで俺はスルーされてるが」

「了解……今は前線基地の防衛を優先してください。既にアリスが戻っているから大丈夫と思いますが」
「オーケー。急いで戻る」

続いて、Dからも報告が入った。
魔物の動きは確かに気になるが……今は防御を固めるのが優先だ。

エリスやレイナとは一向に連絡がつかない。
周囲のお偉方の苛立ちが募っていく中、リンネは一人別な事を考えていた。

(………あの人は……無事に逃げられただろうか)

リンネは最早、ナルビアの事などどうでもよかった。
自分にとって『かつて』最も大切だった存在を失った…否、自らの手で消し去ってしまった。
今はその罪悪感に苛まれながら、こうして無意味に仕事をこなし、
その合間に、大切だった存在の「残骸」の相手をさせられる日々。

いっそ「残骸」すら綺麗さっぱり捨て去って、どことも知れぬ新天地を目指すか。
今の『大切な存在』と、手を取り合って……

リンネも出来る事ならそうしたかったが、いざ実行するとなると、やはりそれは不可能に近かった。
少しでも誤れば、その『大切な』相手を致命的な危険にさらす事になる。
そうなる位なら……
(サキさんは怒るかもしれないけど……やっぱり僕は……)

慌ただしく動く指令室にあって、淡々と、自らの仕事をこなし続けるリンネ。
その様子を、入口の陰から遠巻きに見つめる人影があった。

「………リンネ……」
白い髪、白を基調とした軍服の少女、メサイア……
ナルビアの科学技術を結集して造られた、最終兵器ともいえる存在。
一見普通の少女にしか見えないが、シックス・デイ全員を遥かに凌ぐ力を秘めている。

(……あの人は……何者だろうか。
私に、いつも優しくしてくれる……それなのに、いつも悲しそうな顔をしていて……
今は何か、別の事を考えてるように見える……)

その正体は、かつてリンネと常に一緒にいた少女、ヒルダだった。
遺伝子配合で産まれた試験管ベビー1000号。
だがメサイアとして覚醒した時ヒルダとしての記憶が失われたため、
メサイアにとって、リンネはほとんど面識のない存在。そのはずだった。

(………どうして、私は……あの人物を、こんなに気にしている……?)
リンネと会う機会はそれほど多くはない。
だが彼は自分の事を恐れず、優しく、自分の拙い言語機能での会話をきちんと聞いてくれる。
それなのに、全くと言っていいほど自分の感情をださず、どこかで一線引いて、距離を置いているように思える……

(私が戦って、敵を殲滅したら……少しでも、あの人の負担を減らすことが出来る……?)
いつしかメサイアは、そんなリンネに興味を持ち、出来る事なら手助けしたい、と思うようになっていた。

だがメサイアが戦場に出るには、軍上層部の承認が必要。
他国に対して機密を保つため、今回の戦いで表舞台に出される事はない。

「ふふふふ………お困りのようね」
……そんなメサイアに、怪しい影が忍び寄る。

「もし望むなら、貴女が出撃できるようにしてあげてもいいわよ……私の指揮下で動いてもらうのが条件だけどね」

ミシェル・モントゥブラン……
とある事情でトーメント王国を追放され、とある人物により非公式に匿われている女科学者。

既にアリス達シックス・デイを利用し、掌の上で転がしている彼女が、
『本命』のターゲットであるメサイアにもその魔手を伸ばし始めた。

880>>870から:2021/06/06(日) 22:34:34 ID:???
「……その右腕は……桜子さん!?」
「…………」

……女性らしいプロポーションの体と明らかに不釣り合いな、大剣と一体化した異形の右腕。
あんな腕をしている者は、唯の知る限り一人しかいない。

「まさか、イヴちゃんっ…!?どうしてこんな所に!?」
「え?……知り合いなの、唯、サクラ!?」

一方、剣士と一緒にいた魔法少女の姿を見て、サクラが声を上げる。
同じルミナスの魔法少女だからか、サクラもイヴの事を知っていたようだ。


「イヴ。これ以上の増援が来る前に、メインシステムを破壊するぞ。基地機能を完全に停止させる」
「……わかりました、桜子さん」
「!………ま、待ってください、桜子さんっ!なんでこんな事を!」

「それ以上近づくな……今の私の右腕は、自分の意志では制御しきれない……」
「一体何があったんですか……!それに、スバルちゃんは……まさか……!」

一方の桜子も、唯に気付いて動揺している様子を見せていた。
少なくとも、洗脳などで意思が奪われている様子はない。


「こちら…アリス・オルコット……アレイ前線基地に帰還。基地を襲撃した敵を発見……」
「わかっています……はぁ……はぁ………この身に代えても………っう、ぐ……」

半壊した通信機で、なんとか総司令部に連絡を取るアリス。
桜子の正体に気付き、手を出せずにいる唯を押しのけ、敵の前に一歩進み出る。

「アリスさん!?……下がってください!貴女は戦える状態じゃ…」
「いいえ……この前線基地は、我が第3機動部隊師団が防衛を任された、この戦いの最重要拠点………
絶対に守り抜かなければなりません」

「その通り。いかに秘密主義のナルビア軍といえど、ここを落とされれば……
温存している『切り札』を使わざるをえまい」

「なるほど。やはり、あなた方の狙いは『メサイア』ですか……
ならばなおの事、あなた方の好き勝手にはさせないっ!!」
「っ……来るな……私の右腕が、抑えきれな……うああああああぁあっ!!」

桜子本人に戦う意思が薄くても、本人が言う通り、右腕は近づくものに容赦なく襲い掛かる。
強化スーツも魔法針も使えない、満身創痍のアリスが挑むのは……誰の目から見ても、無謀でしかない。

「あ、危ないっ……!!」
「GRRRRRR……!!!」
ブオンッ!!

桜子の異形の右腕が更に巨大に膨れ上がり、アリスめがけて横薙ぎに振るわれた……。

881>>839から:2021/06/07(月) 01:50:37 ID:???
「……あっぐ!?」

「ユキ!?どうしたの!?」

「あ、た、まが……!緊急帰還、コードが……!」

戦場を逃げるサキ、ユキ、舞の三人。洗脳が溶けていないユキは、サキがピンチになった時に手を出させずに『楽しむ』為に舞の体に密かに手を這わせていたのだが……突然ユキが苦しみだした。
スネグアはサキたちをナルビア勢をおびき寄せるデコイにするためにユキの身柄を明け渡したが、当然可能ならばユキだけでも帰還するように手を打っていた。
それが緊急帰還コードである。スネグアを制圧した魔物兵たちが適当に押したスイッチにより、機械化されたユキの体内を電気信号が駆け巡り、スネグアのいる天幕へ戻らなければならないという強迫観念に囚われる。


「帰ら、なきゃ……帰って……スネグア様に……体を……捧げ……」

教授がガチで改造していたらすぐにでも戻っていただろうが、スネグアが楽しむ用で自分に得がないということで緊急帰還コードの効力がやや弱めだった。
むしろヤンデレロリって最高じゃね?とサキへの執心が滅茶苦茶強くなっていたので、ユキは頭を抱えてブツブツ呟きながらも無理に戻ろうとする様子はない。

「ユキ!」

ユキを背負っていた舞から妹を預かったサキは、ブルブルと震えているユキを抱きしめて落ち着かせる。

つい先ほどまでユキに弄ばれていて体が火照っていた舞の様子には気づいていないようだが、それでいいと舞は安堵の溜息を吐く。

(スネグアの身に何かあったのか、単に玩具として呼び戻しただけか……ユキ様の状態が落ち着いてくれないと、正直危うい)

ユキが舞を責めていたのは舞の戦闘能力を奪ってサキのピンチを楽しんでから自分の手で救う為という迂遠極まりない目的だ。そして舞の体の疼きを強めて戦闘能力を奪うことには成功している。
そこまでは成功した上でユキに異変が訪れたというのがまずい。

戦うつもりだったユキは戦闘不能となると、サキを守る為には自分が疼きを押して戦うしかない。



そう決意した直後……舞の体が今まで以上にドクンと疼き、先日ラミアゾンビにされた凌辱がフラッシュバックする。

『じ、つ、はー、隠してこーんなものも持ってるのよねぇ』

『なっ、それは……ふむぅっ!?うっ、ぐぅぅっ!!』

『これは今はただの精液だけど、私が上手いこと力を手に入れたら体内で暴れだすわぁ……スネグアが様子を見に来る前に、さっさと飲みなさい!』

『ぐぐぅ、ぷぉっ……んむむぅうううううううう!!!!?』

直後、今まで必死に抑えていた疼きが一気に爆発的に頂点に達すると同時に、舞の体は考えるよりも先に動き……ユキを介抱するのに必死なサキを、後ろから抱きしめていた。

882>>880から:2021/06/18(金) 23:20:49 ID:???
「……危ないっ!!」

桜子の異形の右腕が、アリスに襲い掛かった。
だが唯が素早く割って入り、巨大な剣を手甲で受け止める!

バキッ!!……ガキィィンンッ!!
「くっ……きゃああぁっ!!」
「あぐっ!!」

剣と呼ぶにはあまりにも巨大な「まさに鉄塊」の薙ぎ払いを、唯は合気道の技法を駆使してなんとか逸らした。
だが、シーヴァリア滞在中に買った店売り最強の篭手「ガントレット」が破壊され、唯の体は後方に吹き飛ばされる。
唯は後方にいたアリスを巻き込み、覆いかぶさるように倒れた。

「くっ……やめろ……沈まれ、私の右腕っ!!」
「グロロロロォォォッ!!」
「えっ……!?」

かつての仲間を攻撃してしまい、悲痛な声を上げる桜子。
だが異形の右腕は、極上の獲物を前に歓喜の雄たけびをあげた。
大剣の刃が、唯の頭上に高々と振り上げられ……

「あ……や、ば」

ブオンッ!!

「唯ぃいっ!!」」

手甲を破壊された唯に、二撃目を防ぐ術はない。
無情にも死の刃が振り下ろされた。その時……

……ガキンッ!!

「エルマちゃん……!」
「ったく……みんな揃いも揃って、何も考えずに突っ込み過ぎだっての!!」

絶体絶命の窮地に、今度はエルマが割って入る。
強化装甲とブレードで異形の大剣を受け止めるが、圧倒的質量で押さえつけられ身動きが取れなくなってしまった。

「ご、ごめんっ……」
「ん、っっぐ………いいから、さっさと下がって……!!」

「……グルルルルッ!!」
「え……今度は、何……?」
数百キロはあろうかという巨大な鉄塊つきの塊を、支えるだけで精いっぱいのエルマ。
だが異形の腕は不気味な唸り声をあげ、更なる変異を始める。

大剣の長大な刃は鋸のように波打つ形に変わっていき……

………ギュイィィィィィインンンッ!!

チェーンソーのように動き出す!!

「ちょ、まっ……」

バキンッ!!ガキガキガキッ!!

普通の大剣を防ぐだけなら、電磁ブレードの強度と強化装甲のパワーで数分は耐えられる計算だった。
だが、この変形はエルマにとって完全に想定外。
エルマの頭脳とナルビアの技術によって作られた強化装甲といえど、凶悪な回転刃の前ではひとたまりもない。
電磁ブレードが激しい火花を散らしてへし折れ、右肩の装甲がいとも簡単に砕かれ……

ギュオオオオオオン!!ズババババババブシュッ!!

「きゃあああああああぁぁぁ!!」
「エルマちゃん!!」
「エルマーーーッ!!」

883名無しさん:2021/06/18(金) 23:27:02 ID:???
大量の鮮血が辺りに飛び散り、思わず目を向けたくなるような凄惨な光景が繰り広げられる。
突然の事態に、絶叫する唯とオト。悲鳴を上げるエルマだったが……

(っぐ………あ、あれ……?
お、思ったより痛くない……いやもちろん滅茶苦茶痛いけど、思ったよりは……
これは、一体………?)

回転刃は、エルマの肩口から袈裟斬りに、胴体を一刀両断……する事はなかった。
魔物の腕が手加減している様子はない。
にもかかわらず、まるで何かに守られているかのように、
巨大チェーンソーはエルマの右肩に少し食い込んだだけでそれ以上動く事はなかった。

「うっぐ……エル、マ……!」
「オト……!?……あんた一体何を……」
苦痛にあえぎながらもエルマが周囲を見渡すと、同じように右肩を抑えて苦痛に呻くオトの姿が目に入った。

何が起きたか、オトが何をしたのかはわからないし、今は問い詰める余裕もない。

「グルルルルッ……!?」
ギュイイイイイインッ!!

「っぐああああああああ!?ゆ、いっ……あああああああ!!」
「エルマちゃんっ!!」

……何らかの術で軽減されているのだとして、それでも気を抜けばショック死しかねない程の激痛が絶え間なく襲い来る。
エルマはたまらず膝を屈し、巨大チェーンソーの刃はゆっくりと、エルマの身体に食い込んでいく。

「止めなきゃっ……柔来拳、大地の型……このおっ!!」
ガコンッ!!

異形の腕に攻撃を加える唯。
だが、いかに唯が技を駆使しようとも、異形の右腕を素手で破壊する事は難しい。

ガキッ!!ブシュッ!!みしっ!!
「………!!」
魔力を込めているとはいえ、拳を守る小手が破壊された今の唯では、
素手で殴っても逆に自分の拳を痛めるだけだ。
そして異形の腕には、人間用の関節技も通用しない。

……ギュルルルルルルッ!!
ズブブブブブッ!!
「っぐ、ううううっ……あああああ!!」
(早くなんとかしないと、エルマちゃんが……!!)

有効打が与えられないまま、刻一刻と時間が過ぎていく……
時間にして十数秒に過ぎないが、唯にとっては何十分、何時間にも感じられた。
異形の刃が唸りを上げ、エルマの悲鳴が響きわたり、更なる鮮血が飛び散る。
唯の心に焦りが募りだした、その時………

「くっ……サンダーブレードッ!!」
「……グギャァァアアアアアアアアア!!!」
「…………っ!!」

桜子が左手で剣を抜き放ち、雷魔法を纏わせ、己の右腕に突き立てる。
異形の右腕は激しい電撃に悲鳴を上げ、エルマを切り刻む回転刃の動きはようやく止まった。

884名無しさん:2021/06/19(土) 22:22:15 ID:???
「イヴちゃん……どうしてこんな所に……!?」
「あなたは………サクラ、なの……!?」

イヴとサクラはともに魔法王国ルミナスの出身で、魔法少女学校の同級生だった。

だがルミナスがトーメントから侵攻された際、イヴは妹のメルと共に、トーメント軍に連れ去られてしまった。
紆余曲折を経て、今のイヴはスネグアの配下、トーメント軍としてこの戦いに参加している。

……イヴにとっては、最悪のタイミングでの再会だった。

「なぜトーメントの手先に……メルちゃんはどこに……まさか」
「ごめんなさい。メルを守るためには、こうするしかないの……変身!」

まばゆい光とともに、イヴの姿が変わっていく。

白と黒を基調としたゴシックドレス。黒と白が幾重にも折り重なったフリルは、囚人服の縞模様を想起させる。
両手両足には鎖付きの金属製のリングが嵌められ、鎖の先には大きな鉄球が繋がれている。

「たあああああぁっ!!」

イヴは変身と同時に、見た目に反して凄まじい速度で突進。
四肢に繋がれた鎖鉄球をそのまま武器にした、単純にして豪快な近距離パワー型だ。

……ブォオンッ!!ドゴッ!!
「待ってイヴちゃん、こんな事やめ……きゃああっ!」

説得しようとしたサクラだが、飛んできた鉄球に弾き飛ばされてしまう。

(もしかして、メルちゃんが人質に……!?…)
「とにかく止めなきゃ…変身っ…!」

イヴの言葉から、サクラもおおよその事情を推察する。
変身したイヴに対応するため、サクラも同じく変身しようとするが……

「……させないわ。その前に……」
ジャラッ!!……ギュルルルッ!!
「え……!」

「………潰す」
ズドンッ!!
「っぐ!」
鎖がサクラの脚に巻き付いて、地面に叩き落す。

「魔法少女クリミナルドール……それが今の、私の名前。
消えない罪を永遠に刻み続ける、咎人の人形……」
……ドゴドゴドゴドゴッ!!
「あぐっ!!…っがは!!」

間髪入れず、鎖鉄球が連続で降り注ぐ。
激しい衝撃で土煙が上がる中、サクラの身体が淡く発光し、変身が発動した。だが……

「はぁっ………はぁっ………う、っぐ……」

淡い緑と桜色を基調としたワンピースは泥と血にまみれてボロボロになり、
花をあしらった髪飾りは鉄球によって無残に砕かれ、額からは流血が滴っている。
全身、特にお腹の辺りに青黒いあざがいくつも浮かび上がっていた。

「サクラ……できれば、貴女を殺したくはない。
見逃してあげるから、もう私達の邪魔をしないで」

「………。」
「力の及ばない相手から逃げるのは、恥じゃない……貴女が教えてくれた事よ」

「………でき、ないよ。
私は……魔法少女『スプリング・メロディ』。
そんなに強くはないし、怖い事、辛い事から、逃げてばっかりの落ちこぼれだけど……
それでも、ルミナスの魔法少女だから」

サクラは大の字に倒れたまま、近くに転がっていた鉄球の鎖を掴むと……小さく呪文を唱える。

「友達が困ってて、目の前で泣きそうな顔してるのに……逃げ出すなんて、できっこない」
……咲いて、安らぎにいざなう花たち!『スリープフラワー』!!」

「……っ!!」
サクラの手からつる草が伸び、鎖を伝ってイヴの顔の横で小さな花を咲かせる。
至近距離で眠りの花粉を嗅いだイヴは、意識が急速に遠くなり……

かくん、と膝から崩れ落ちた。

885名無しさん:2021/06/20(日) 22:13:16 ID:???
「だ……め……サク……ラ……」
「メルちゃんの事、必ず何とかするから……今は安心して眠って」
スリ-プフラワーの花粉で眠りに落ちるイヴの身体を、抱き寄せるサクラだが……。

「だめ、なの……私には……許されない」
「え?」

<……意識レベルの低下を確認>
<作戦行動中の睡眠は許可されていません>

ジャララララッ!!

「きゃあっ!?」
「っぐあ!!」

無機質な機械音声とともに、鎖鉄球が一斉に動き出した。
身を寄せ合っていたイヴとサクラに鎖が巻き付き、二人は抱き合ったまま縛り上げられてしまう!

ウィィィン………
ギチギチギチギチ……
<制裁します><制裁する>
<制裁を開始><制裁>
「う、ぐっ……痛っ……!」
「や、やめて……それだけは……」

四つの鉄球が浮遊し、サクラとイヴの周りをゆっくり旋回しながら、不気味な電子音声を発する。
鎖の締め付けが徐々にきつくなっていき、苦悶の声を漏らすサクラ。
その腕の中で、ブルブルと震えだすイヴ。その表情には明らかに怯えの色が浮かんでいた。

ウィィィィン………
「許して……お願い、せめてサクラだけでも……」
「な……一体、何……!?」
鉄球の前面が開き、まるで生物の目のような、赤いランプが現れる。
そして……

<<<制裁>>>
バリバリバリバリバリッ!!

「「きゃああああああああぁぁっ!!」」

鉄球の動きが一斉に停止し、冷酷な電子音声の宣告とともに、
鎖から強烈な電撃が放たれた!


「さっ……サクラさん…!」
「高圧電流……二人のバイタルが低下……危険な状態」
「っ……あの鉄球壊さないとヤバそうだな!!」

既にイヴと戦い倒されていた砲撃機兵サフィーネ。そしてけが人を介抱していた
殺戮機兵エミリー、格闘機兵ルビエラが、サクラの窮地に助けに入る。

「ガトリング掃射!!」
「……エメラルドスラッシュ」
「バーニングフィストぉ!!」

<制裁> <制裁> <制裁> <制裁>

ババババババ!!
「!!…かわされた……!」
バチイイッ!!
「!……攻撃、失敗……」
ガゴオンッ!!
「……いっででででで…!!」

だが鉄球たちはガトリングガンの掃射を易々とかわし、強固な鎖はエミリーの斬撃を弾き返す。
そして、ルビエラの拳の直撃にも、鉄球はびくともしなかった。

<外部からの攻撃を認識>
<反撃><排除><破壊>
……バリバリバリバリバリバリ!!
「きゃああああぁっ!!」
ジャララララッ!!……ドカッ!!
「拘束……しまっ、ぅああああっ!!」
ドスッ!!ドゴッ!!
「や、べ……うごっ!! っぐああああ!!」

逆に電撃と鎖鉄球による反撃を受けてしまう。
機械、あるいは何らかの魔道具か。謎の鎖鉄球は、ナルビア最新鋭の戦闘機兵すら寄せ付けない驚異の力を持っていた。


<制裁> <制裁> <制裁> <制裁>

「ひ、ぎあああああああ!!………っああああああああんっ!!」
「っうああああああああ!!………が、はああああああああ!!」

長時間に及ぶ高圧電流で、強い耐久性を持つはずの魔法少女の衣装さえボロボロに焦がされていく。
電流が流れる間にも鎖の締め付けはますます強くなっていき、少女たちの柔肌に血が滲み始める。
サクラとイヴは互いの身体をぎゅっと抱きしめ合いながら、いつ果てるとも知れない「制裁」に耐え続けた。

886>>881から:2021/06/21(月) 01:07:44 ID:???
「だい、じょうぶ……強制権は、薄めにされてるみたい……」

「ユキ、ごめんね、その体のことを考えずに、焦って逃げ……っ?」

スネグアを制圧した魔物たちが起動した帰還プログラムは、体の一部が機械化されているユキをスネグアの元へ戻らせるもの。苦しむ妹を介抱するサキは……突然後ろから舞に抱きしめられた。

「ど、どうしたの!?」

「ぁ……ぅ……」

舞の体はとうに限界を超えていた。ナルビアの改造とアイリスの調教で開発されきった体を無理矢理魔法のブーツで押さえつけ、その上でゾンビラミアから何時間も陵辱された。逃亡途中には舞の戦闘能力を奪おうと洗脳されたままのユキが何度も体を弄ばれた。

そして、ゾンビラミアに飲まされた精液が、魔物使いの遺伝子とベヒーモスの力を手に入れた本体の魔力に呼応して、舞の体内で暴れ出す。

『私たちが望むのは混沌としたパーティなの。戦場の端っこに敵戦力を集めるなんて無粋な真似はさせないわ』

「ま、い……?」

虚ろな瞳でサキに抱きついた舞は、そのままスルスルとサキの腕を自らの腕で絡め取って拘束する。

「舞、さん……ごめん、私が、私がずっと舞さんを……!」

帰還プログラムによって逆に精神は正気になったユキが何かを姉に伝えようと立ち上がったが……直後、その鳩尾に、舞の爪先が食い込んでいた。

「ご、ぼぉっふ!?」

「ユキっ!」

サキの悲鳴も聞こえていない様子で蹲るユキ。皮肉にもユキの異常は、それ以上に様子のおかしい舞によって鎮められた。

「は、ぁあ……!あ、んあ、んああぁあ……!」

その間にも舞は苦しげな艶めかしい喘ぎを漏らしている。
ここに来てサキは、舞が自分のあずかり知らぬ所で大変な目に遭っていたことを察した。そしてそれが自分の為であることも。

「ぎ、ぐぐぐぅ……!サキ、様……私を、置いて行って……ください……」

「舞!?あんた正気に……」

「もう、抑えているのも、限界、です……ユキ様に乱暴を働き……サキ様を汚すなんて……嫌です……」

体の内側から作り変えられているような疼きに、舞は息も絶え絶えに喘ぎながら言う。今はサキの体を抑えるだけで済んでいるが、いつ襲ってしまうか分からない。
ナルビアの時にサキに暴力を振るってしまったことは舞にとって許されざることだ。今またサキの体を穢すようなことになるなど、耐えられない。

だから早く振り払ってユキと共に逃げてほしい。そう涙ながらに告げる舞に……サキはぼそりと呟いた。

「……もっと早くこうするべきだったわ。舞の人生を縛るのが怖くて、ずっと後回しにしてた……それが結局、舞を無駄に苦しめてしまった」

「……え?」

サキは自らを絡める舞の腕を振り解くと、今度は逆に自分から舞に覆い被さった。

「サキ様、なにを……?」

「今みたいな名目だけじゃない。邪術で舞を私の……私だけの奴隷にする。刻印の上書きで、その体も楽になるはずよ」

「え……サキ、さ、ま……?」

困惑する舞に、顔を赤くしたサキは唇を近づけ……そっと、キスをした。

887>>885から:2021/06/27(日) 15:11:06 ID:???
ガシャンッ ガシャン ジャララララッ………

ピーーーーー
<制裁完了>

「あ………ぐ」
「うっ………ん……」

<戦闘モード再起動>
<戦闘再開>
<破壊><破壊><破壊>

無機質な電子音が響き、サクラとイヴを縛り上げ、締め付けていた鎖が離れていった。
鎖鉄球はゆっくりと浮遊し、基地の中枢を担うメインコンピュータに近づいてくる。

「エミル博士……無事な人を連れて、退避してください。
私が何とか時間を稼ぐ、です」
「バカ言わないで……だいたい、この場に無事な人なんていないでしょ」

部屋の一番奥、壁一面に設置された巨大コンピュータの前に、エミルとルーアはいた。
背後に逃げ場はない。そして目の前に迫る鎖鉄球も、簡単に横を通してくれそうにはない。

(考える、です……なんとかこの場を切り抜けて、
サクラさんも、助け出さないと……)

(基地とかコンピュータとかは最悪壊されてもいいけど……
鉄球ミンチからの電撃ハンバーグなんてごめんだわ!
……そういえばあの鉄球、どこかで見たことあるような………)

その時。エミルの頭の隅に引っ掛かっていた記憶がよみがえった。
研究都市アルガス壊滅の責任を取らされ、投獄されていた時の事……

……そう。あの鎖鉄球は、当時エミルも着けさせられていた、囚人拘束用のものとまったく同じ。
元がナルビアの機械であれば、基地内のコンピュータでも操作できるかもしれない。

(あの時は本当、死ぬかと思ったわ。思い出したらムカついてきた……
でもあの子、トーメントの兵士なのよね?
それが、なんでナルビアの拘束具を?……まさか、これって……)

(つまり、何者かがナルビア製の機械をトーメントに持ち込むか送るかして、
それを身に着けた兵士をナルビアにわざわざ送り込んできた……?
でも、どうして??)

(こんな回りくどい事思いつくのは、ミーちゃんくらいだわ。
また何か、ろくでもない事企んでるのね……)

(それでも今は……迷っている時間はない。乗っかるしかないわ!!)

ここまでの思考時間、わずか2秒。
エミルはメインコンピュータの端末に駆け寄り、
ナルビア製囚人拘束・監視システム「インヴィンシブル・スフィア」の
強制停止プログラムを起動させる。

「ルーアちゃん!あの鉄球、止められるかもしれないわ!!
30秒だけ時間稼いで!」

「博士!?……わかりました。
でも出来れば20……25秒で頼みます、です!!」

かなり強制力の強いプログラムで、ひとたび発動すれば、
ナルビア国内で使われている拘束・監視システムの全てが
最低24時間は解除・無効化されることになる。

もちろん通常なら、前線基地のコンピュータで動かせる代物ではない。
首都オメガネットのマザーコンピュータに接続し、何重にも渡るチェックを潜り抜け、
認可を得なければならない……はず、だが。

<認証OK プログラム発動まで あと 00:28.57>
(やっぱり……認証があっさり通った)

ミシェルはこうなる事を見越していた……というより、恐らくすべては計算の内。
エミルにこのプログラムを発動させるために、イヴに鉄球を持たせて送り込ませたのだろう。
その真の狙いとは、一体何なのか。

そして、果たしてエミルは、ルーアは、この窮地を切り抜けることが出来るのだろうか……

888名無しさん:2021/06/27(日) 15:20:05 ID:???
プログラム発動まで あと
【00:28.43】

<破壊><破壊><破壊>
ジャラララ……ブオンッ!!

「それ以上は行かせない……です!」

エミルが作業しているコンピュータに近づかせないよう、
ルーアは前衛に出ると、最初の鎖鉄球をギリギリまでひきつけて回避し……

【00:27.19】
「……ヌルインパクト!」
ガシィィンッ!! ガコンッ!

2つ目の鉄球を、魔法杖で打ち返す。
無属性の魔力を乗せた一撃が鉄球は大きく弾き飛ばし、3つ目の鉄球を撃ち落とした。

(よし。あと……一つ!)
横から4つ目の鉄球が飛んでくる。
ルーアは鉄球に向けて杖をかざし、防御魔法を展開する……

【00:26.47】
……ジャラララッ!!
「プロテクト……ひ、ぐぇっ!?」

だが、その時。最初にかわしたはずの鎖鉄球が死角から飛んできて、ルーアの首に絡みついた。
魔法を妨害され、障壁を展開できず、飛んできた鉄球は……

……ドゴッ!!
「んあっ!!」
ルーアの右肩に直撃した。ごきん、と骨の折れる嫌な音がして、ルーアは激痛で手に持った杖を落としてしまう。

【00:25.01】
カランカラン……
ギリギリギリギリギリ……

「し、シールド………あ、ぐぁ……!!」
鉄球が続けて左側からも飛んでくる。
ルーアは残る左手でシールドを張ろうとするが、
本来両手で発動する魔法を片手で、しかも詠唱もままならない状況では、強度がまったく足りない。

……バキンッ!!ドゴッ!!
「……ぐふぇっ!!」
鎖鉄球は簡単にシールドを粉砕し、全く勢いを減じることなく、ルーアの細い脇腹に突き刺さる。

……まさに、一瞬の油断が命取り。
ルーアの目論見としては、杖と体術で出来る限り時間を稼いで、
あとは防御魔法でひたすら守りに徹することで30秒を耐え抜くつもりだったが……
実際にはこの通り。5秒ともたず鉄球の餌食となってしまうのだった。

【00:18.34】
<破壊>
<破壊>
<破壊>
<破壊>
……ドゴッ!! ドボッ!
「えぐ!! あうっ…… ぐぼぁ!!」

左手一本では、締め付ける鎖を外すことは出来ない。
首を絞められていては防御魔法も使えない。
防御も回避も反撃も封じられ、暴風のような鎖鉄球の乱打を、
ルーアはその小さな身体で受け続けるしかできなかった。

889名無しさん:2021/06/27(日) 15:22:59 ID:???
【00:15.00】
<抹殺>
ジャラララッ!! ……ブオオオオンッ!!

鎖が大きく唸りを上げ、鉄球が既に青紫色に腫れあがったルーアのお腹に向かって飛んでくる。
鉄球たちは早くもルーアにとどめを差すつもりのようだ。

(こんな、はずじゃ……すみません、エミルさん、皆さん……)
「ルーアさんっ!!」
……ガゴンッ!!

すでに意識朦朧としているルーア。打つ手は全くなく、万事休すかと思われた、その時……
砲撃機兵サフィーネが、体を張って鉄球を防いだ。

バチバチバチッ……ドゴンッ!!
「い、ぐぁあっ!!」
「さ……サフィーネさん…!!」
鉄球はサフィーネの装甲を突き破り、胴体に深々と食い込んでいた。
全身から火花がバチバチ飛び散り、サフィーネはその場に崩れ落ちる。

「あ、れ……おかしい、な……わワワ私、機兵の中でも一番いちばん頑丈……
予測、もう少し、耐えられ、rrrrr……」
バチンバチン!バシュンッ!!

「…………。」
……ひときわ大きな火花と煙を吹き出し、サフィーネは沈黙した。

「……サフィ……さん……そん、な……!」

【00:10.00】

<抹殺><抹殺><抹殺>

……ジャラララッ!!
グオオオオッ!! ガコンッ!! バキッ!! ドゴッ!!

「い、や……お願い、もう、やめてください……!!」

鎖鉄球の勢いは止まらず、なおもルーアを攻撃し続ける。

ドゴッ!! バチバチバチッ!!
「気に、しないでddd くだssss……仲間を、そして……」
「エミル博士を、mmmmもるrr
それがggg、あたしたち戦闘機兵のtttt務め」

……だがサフィーネと同じ戦闘機兵、エミリーとルビエラが
身を挺してルーアを守っていた。
鎖鉄球は、ナルビアの兵器であるエミリーたちの装甲をも易々と破壊していく。

ドガンッ!! バチバチバチ!! バシュンッ!バシュンッ!!

サフィーネ同様、二体が完全に沈黙するまで、それほど長い時間はかからなかった……。


【00:00.10】

<破壊><攻撃><殺戮><抹殺>

(私の……私のせいで、機兵の皆さんが……)

まるで人間のように笑い、泣き、束の間ではあるが仲間として共に戦った三体の機兵。
それが破壊され、物言わぬ鉄塊へと変えられていく様を、目の前で見せつけられたルーア。

そして今度こそ確実に止めを刺すべく、鎖鉄球は大蛇の鎌首のごとくうねり、
ルーアの顔面目掛けて飛んだ。

「ひっ…!!」
鎖で拘束されたルーアに避けられるはずもなく、思わず目を瞑る。
まともに喰らえば、顔面どころか頭そのものがザクロのごとく吹っ飛ぶ威力。
だが……

「……ヴァインキャプチャー!!」
……ギュルルルッ!!
「!………サクラさん……!!」

……間一髪。意識を取り戻したサクラが、
つる草で強靭な網を作り出す花属性の魔法、『ヴァインキャプチャー』で鉄球を抑え込んだ。

890名無しさん:2021/06/29(火) 22:29:40 ID:???
【00:00.00】
強制停止プログラム作動……
<停止><停止><停止><停止>
ピーーーーー

「げほっ……げほ…」
「ルーアちゃんっ!大丈夫!?」
甲高い電子音が鳴り響き、4つの鎖鉄球は完全に機能を停止する。
首に巻き付いた鎖から、ルーアはようやく解放された。
ギリギリの所でルーアを助けたサクラが、プログラムの起動を終えたエミルと共にルーアに駆け寄る。
鎖に繋がれていた魔法少女イヴは気絶したままだ。

「すみません……私のせいで、機兵さんたちが……」
「大丈夫よ。メモリデータを別のボディに移し替えれば、この子たちは何度でも蘇れる。
……とにかく、ルーアちゃん達が無事でよかったわ」


一方、部屋の中央付近で行われていた、仮面の剣士=桜子と唯達との戦いも終息していた。

「桜子さん、どうしてこんな事に……
というか、なんとなく予想ついちゃったんですが。
もしかしてスバルちゃんが……」
「………そういう事だ。イヴも、妹のメルが人質に取られている。
スバルとイヴが、あいつの……スネグアの手にある限り、私たちは奴の命令に逆らえない」

「やっぱり……桜子さん、その二人を助けましょう!私達も手伝います!」
「……ありがとう。だが、ヤツは恐ろしく狡猾だ。
こうして私が君たちと接触する事すら、計算のうちかもしれない。慎重に動かないと……」

桜子達が受けた命令は、この前線基地を破壊する事。
そして、基地を陥落させたらナルビア秘密兵器であるメサイアを使わざるを得なくなる。
というのがスネグアの読みらしいが……
ナルビア軍の現状をよく知っているアリスには、そう上手く事が運ぶとは思えなかった。

「春川桜子、と言ったわね……今はひとまず、私達と来てもらうわ。ここを離れた方が良い。

基地機能の中枢であるメインコンピュータの破壊こそ免れたけど、
配備されていた兵器や兵士たちはほとんど無力化され、この基地はほぼ壊滅状態。

だけど……多分それでも、ナルビア本体はメサイアを出動させる可能性は低い。
おそらくナルビア司令部は、この基地が落とされると判断したら、私達ごと……」

……ズドォォォンッ!!

「きゃあっ!? な、なになに!?」
「くっ……もうナルビア本体からの攻撃が……いや、これは……」

アリスが「最悪のケース」を想定した、その時。

基地全体を揺さぶるような、激しい衝撃が起き……
……多数の魔物兵が、なだれ込んできた。

「ヒッヒッヒ……かわいい女の子の血と汗の臭いを辿って来たら、極上のお宝級がザックザクだぜぇ!!」
「ひーふーみー……ケケケケ!ロリっ子から白衣のお姉さんまでよりどりみどりじゃねえか!」
「しかも全員、いい感じにズタボロになってやがる……こりゃヨダレが止まらねえぜ!」
「なーんか味方だったっぽい奴もいるけど、こうなりゃ関係ねーや!!全員やっちまえーー!!」

「くっ……こんな時に、トーメントの増援……!?」

「あ……アリスちゃん!!ヤバいわ!!もんのすっごい数の敵の魔物兵が接近中!!
あんなのとてもじゃないけど防ぎきれないわよ!?」
「ええっ!?ちょ、ちょっとタンマ!!せめて先にみんなの治療を……」

怒涛のごとく押し寄せる魔物の大群がモニターに映し出され、狼狽するエミル。
サクラ、ルーア、エルマの治療でてんてこ舞いだった唯が、更なるパニックに陥る。

「この数……スネグア率いる本隊ですね。しかも、異常なほど狂暴化している……!!」
「……まずいな。あいつら、敵も味方もお構いなしだ。なんとか血路を開いて脱出しないと……」

ここは共闘するしかない……アリスと桜子は無言で視線をかわし、魔物の群れに武器を構える。
だが圧倒的な数と勢いの魔物相手に、どこまで持ちこたえられるか。

「クスクスクス……ムダムダぁ。一人も逃がさないわよぉ……」
……状況は最悪にさらに最悪を重ねがけした、阿鼻叫喚の地獄絵図へと突入しようとしていた。

891名無しさん:2021/07/03(土) 17:10:00 ID:???
「本部、本部!こちらアレイ前線基地、敵部隊の増援です!至急援軍を!」
ナルビア軍総司令部に、アレイ前線基地のエミル副指令から緊急通信が入る。

この基地はトーメントとナルビアの国境線でもあるアレイ山脈の要所。
にも関わらず総司令官であるレオナルド・フォン・ナルビアの反応は冷たい物だった。

「前線に敵主力部隊が集中しているようだな……なら話は早い。X3弾道弾で一掃しろ」
「……しかし、あの基地にはまだ、第3機動部隊の残存兵力や外人部隊が……」

X3弾道弾……核兵器並の破壊力を持つ強力な長距離ミサイルである。
アレイ前線基地に撃ち込めば、基地は付近一帯の山ごと、跡形もなく吹っ飛ぶ事になる。
当然その場にいる者は、ひとたまりもないだろう。
アリスが前線基地に帰還したことを報告してきたのはついさっきの事だ。
オペレーターを務めていたリンネが、僅かに眉根を上げるが……

「彼女らとて軍人。敵を殲滅し、ナルビア王国の人民を守る礎となるのが、その使命だ。
……まさか、今までともに戦ってきた仲間を自ら手に掛けるのは嫌だ、とでも言うつもりか?諜報員999号」
「……い、いえ……了解しました。X3弾道弾、発射準備……」

リンネの立場から、口を挟む事は許されない。その気力もない。
コンソールパネルを操作し、弾道弾の発射ボタンを押した。

「それに……丁度いい機会ではないか。
私に刃を向けた叛逆者の一人、アリス・オルコット師団長。
研究都市アルガス壊滅事件の最重要被疑者、エミル・モントゥブラン博士。
トーメント王国討伐後には、我々の世界統一を阻む敵となるだろう、連合国属ヴェンデッタ部隊……
みんなまとめて掃除できる。実に効率的だ。くっくっく……」

──────

「燃料充填完了。X3弾道弾、発射カウントダウンを開始します」
「10……9……8……」

「フン、現代戦ってのは気楽なもんだ……ボタン一つで簡単に前線に死をデリバリー出来る」
シックス・デイの一人、研究開発部門の総責任者であるマーティンは、
ミサイル発射施設の監視に当たっていた。

彼の本来の役目は、最終兵器である「メサイア」の管理と調整。
そのメサイアも、少なくともトーメントとの決戦までは温存する事が決定しているため、
言わば今の監視役はほとんど暇つぶし同然。…の、はずだった。

「ん?………おい、待て。何だあれは……X3弾道弾じゃないぞ!?」
「3………2………1………0」
ズドドドドドッ………

打ち上げ台から発射されたのは、ミサイルではなかった。
どうやら人口衛星打ち上げ用のロケットのようだ。

「どういう事だ!発射されるまで誰も気づかなかったのか、この……無能どもが!!」
「あ、ありえません!マザーコンピュータの認証も、全く問題ありませんでした!!」
「一体、何がどうなってる……一体、何が発射されたというんだ……?」
打ち上げロケットは、数十トンほどの荷物を運んで衛星軌道上を周回させる事が出来る。

「なぜ認証を通した!!一体何が起きたんだ!!応答しろ、マザーコンピュータ!!」
応答はなかった。マザーコンピュータを積載したロケットは、既に遥か上空、間もなく大気圏を突破しようとしていた。

892名無しさん:2021/07/03(土) 17:11:32 ID:???
……場面は戻って、再びナルビア指令室本部にて。

「………というわけで〜。今からアンタたちの大事な大事なメサイアちゃんを貰ってくんで、
最後のご挨拶に来ました〜♥」

「一体……何を言っている?……エミル・モントゥブラン博士……
貴様はアレイ前線基地にいるのではなかったのか!!」

一人の女研究者がレオナルドとリンネの目の前に現れ、ヘラヘラと笑みを浮かべていた。
赤色の髪、薄い青の瞳に分厚い丸眼鏡をかけ、白衣の下には胸元に黒いリボンのついたブラウス。
提示されたIDは、たった今アレイ前線基地から通信を送ってきた、エミル・モントゥブランの物だ。

そして彼女の後ろに控えているのは、真っ白い髪に白を基調とした軍服の少女。
……ナルビア王国軍の秘密兵器である、メサイア。

「ヒルダ……いや、メサイア……!?……なぜ君までが……」
「メサイアをたぶらかしたと言うわけか、ふざけた真似を……インヴィンシブル・スフィア!そいつを捕らえろ!!」

レオナルドは顔に怒りの色をにじませ、すぐさま捕縛命令を出す。
だが、基地内のあらゆる場所を周回し、不穏分子や犯罪者を15秒以内に捕縛するはずの
完全警備システム「インヴィンシブル・スフィア」が作動する事はなかった。

「なっ!?……どうして作動しない!?」
「例の変な鉄球なら、使えなくしといたわ。
だって、メサイアちゃんがこの施設を出ようとしたら、捕まえて連れ戻すように設定されてたんでしょ?」

「貴様。一体何者だ……エミル・モントゥブランではないな!?」
「や〜っと気づいたの?部下の顔もロクに覚えてないなんて、聞いてた以上に使えないクズ上司ね。
……ま、こんなクソださいメガネつけてたら無理もないか」

エミルを名乗った人物が、メガネを投げ捨てる。
その下から現れた素顔は……顔の作りこそよく似ているが、釣り目がちで勝気そうな印象。
バストサイズは同じくらいだが、年齢はエミルよりやや下……明らかに別人だった。

「初めまして、お間抜けさん達。私はミシェル・モントゥブラン。エミルの妹よ。
アンタたちが気付いてないだけで実はけっこう前から出入りしてたわ」

「なっ……指令室の周りには警備兵もいたはずだぞ!?そんな事があり得るはずが……」
「言っちゃなんだけど、あいつらザルも良い所だったわよ?」

……そう。ナルビアの施設内を移動する際、ミシェルはエミルの変装をして、エミルのIDカードを使っていた。
それを見た人間の警備兵たちはというと……
「エミルさんて見た目とか服装とか地味だけど、そこが地味にいいよな……彼女の魅力は俺だけが知っている!(キリッ」
と、全員が思っていた。
そして、メガネの下の細かい顔の違いなどは見ておらず、基本おっぱいしかみてなかった。

(……ガチレズ魔女に無駄に巨乳にされたのが思わぬ所で役に立ったわ)
「ま、そういうわけで……アンタの天下はもうおしまい、ってわけ」
「貴様、黙って聞いていれば……レオナルド様には指一本……!!」

リンネは席から立ちあがり、忠誠心など微塵も残ってはいないものの、一応はレオナルドを守るべくファントムレイピアを構えた。
だが、一方のレオナルドはというと着席したまま、まるで石膏像のように微動だにしない。

「そうね。私はその、レオなんとかいうおっさんに指一本触れられないわ。
なぜなら……そいつは今、この場にいない。そこに座っているのは、本人によく似たロボットですもの」
「な……なんだって!?」
リンネはレオナルドの席に駆け寄り、近くでまじまじとその顔を見る。
……確かに姿かたちは人間そっくり。だが、よく見ればその顔も、身体も……
ミシェルの言う通り、作り物であることが分かった。

893名無しさん:2021/07/03(土) 17:17:45 ID:???
「そいつだけじゃないわ。
ナルビア王国の実権を握る中央高官達は、この戦いが始まる前から全員、
一族郎党引き連れて地下深くのシェルターにこもってる。
そして本人そっくりのロボットを通して、地上に指示を出してたってわけ。
あんたらシックス・デイのメンバーや、それ以下の平民には内緒でね」

「………そんな、馬鹿な。レオナルド総帥!!本当なのか、彼女の言ってる事は!!」
「無駄よ。地下からの通信を管理してたマザーコンピュータは、私が掌握済み。
おっさん達のアクセスは永久的に遮断したし、地上へ通じる入口の電子ロックも封鎖済。
本物のおっさん達は二度と、地上に出る事は出来ないでしょうね」

「そん、な………」
<ヒルダ……僕らの余計なしがらみとか、全部消えてなくなっちゃうような、嵐が起きればいいのにね……>

遥か遠い昔につぶやいた、妄想じみた夢が、突然に、まったく予想もしない形で、現実になった気がした。
だがいちばん大切な存在、ヒルダがヒルダでなくなってしまった今、そんな物に何の意味があるだろう。

(ふざ、けるな……遅すぎるんだよ……)
「何が………目的だ。マザーコンピュータを掌握したって言うのが本当なら……僕なんかに、もう用はないだろ」
「言ったでしょ?メサイアちゃんを貰っていく、って」
「……例えヒルダを……メサイアを連れ去ったとしても、
彼女の身体を維持するには、特殊な薬が必要だ。それがなければ数日ももたない」

「ええ、知ってるわ。『リヴァイタライズ』の材料には、あるものが必要……
私が今日ここに来たのも、それを採取するのが目的よ」
「採取?………どういうことだ」
「フフフ……やってみればわかるわ。さあ、教えたとおりにやるのよ、メサイアちゃん」
「了解………リンネ。すぐ終わりますから、大人しくしていてください」

「な……!?…………メサイア、何をするつもりだ!!」

ミシェルの言葉の意味を測りかねているリンネに、メサイアがゆっくりと歩み寄っていく。
歩きながら、軍服の上着を脱ぎ棄て、ブラウスのボタンを一つ一つ、外していき……
リンネの目の前に来た時には、メサイアは真っ白い下着姿になっていた。

「よ……止せ!!それ以上は……」
「……ゼロエネルギー、放射」
「うあっ……!………」

メサイアの手から放たれた光線はリンネの体を拘束し、空中に浮かび上がらせて磔の体勢で固定する。
光線の正体は、長年の間、机上の空論とされていた幻の技術、すべての力を無効化するゼロエネルギー。
対象の電気信号を麻痺させる力を持ち、これを浴びた者は体を動かすことはおろか、声を発することもできなくなる。

「これから行う行為に、痛みは伴わないと聞いています。
むしろ快感を伴う行為だと」
「そうそう。まずは軽〜く、手コキから行ってみる?」
「………!!」

たどたどしい手つきで、メサイアはリンネのズボンと下着を脱がしていく。
すると年頃の男子としては平均的なサイズの、早くも半勃起状態のペニスが顔を出すが。

「これに刺激を与えればいいのですね……では行為を開始します」
メサイアはそれを間近に見ても、顔色どころか眉根一つ動かす事はなかった。

894名無しさん:2021/07/04(日) 12:13:52 ID:???
「ふーん、女みたいな顔の割にはそれなりのモン持ってるじゃない」

メサイアにまじまじとペニスを見られ、ミシェルには好き勝手に批評され、リンネの顔にカァッと朱が差す。

「まぁ、アンタがわざわざ途中で男性型人造人間に変更された経緯を考えたら普通か」

(こいつ……さっきから、なにを言って……)

「……んっ!?」

ゼロエネルギーによって声も出せない中でも気丈にミシェルを睨み付けるリンネだが、メサイアのたおやかな白い右手が優しくリンネの陰茎を包んだ瞬間、全身をビリビリと電流のような快感が走り抜ける。

「そうそう、教えた通りにね。気持ちいいとはいえあんまり強くやりすぎると痛いし壊れちゃうわよ」

「はい……壊さないように……優しく、ゆっくり……」

無理矢理だというのに慈愛に満ちた手つきで、たどたどしくも熱心に竿をにぎにぎと触って刺激を送る。

「んっ……あ、ひゃっ……いひゅう……っ!!」

(ダメ、だ……こんなこと、お前がしちゃいけない……メサイ……ヒルダ!!)

必死に止めろと伝えようとするも、動かぬ体は言うことを聞かず、ただただ送り込まれる淫猥な刺激に身も心も剛直も震わせるしかない。

「キュウリで予行演習はしましたが、実物はこうなるのですね……プルプルと震えながら大きくなって……リンネへ抱いている感情と似たものを感じます」

最初は形状を確かめるようにさわさわと握っていたメサイアの右手が、徐々にシコシコと上下へ擦る動きに代わっていく。

「ふんふん、やっぱりセット運用目的だったから体の相性も遺伝子レベルで抜群なのかもね」

「んっ……ふっ、くふぅ……!くひぃっ……あぁ、んおぉぉっ……!!」

気づけばリンネのペニスは最初の半勃起状態から二倍程の大きさになっていた。

「さ、私はビーカー準備して……どう?出そう?」

「先ほどから継続的に震えてはいますが……それ以上の変化は見受けられません」

「ふーん、手コキだけでイキそうと思ってたけど……意外に経験豊富なのか、操を立ててる相手でもいるのか……」

ミシェルがリンネの顔を覗き込むと、顔を真っ赤にしながらも必死に歯を食いしばって耐えていた。それは元は妹のように思っていたヒルダであるメサイアへ精を出すことへの忌避と……サキへの想いによる。

(とにかく、こいつの言う通りになっちゃダメだ……ヒルダの為にも……それに戦場が混乱すればするほど、サキさんが逃げられる可能性が下がる……!)

ミシェルがメサイアを連れて何を企んでいるかは分からないが、それがこの戦場に混沌をもたらすのは明らか。せめて時間を稼ぐくらいはしなければと耐えるリンネだが……

「じゃあ次はお口でやってみましょうか」

「はい……は、む……」

手コキから一瞬解放された直後……リンネのペニス全体を、生暖かい感触が包んだ。

895名無しさん:2021/07/04(日) 12:41:31 ID:???
(ヒルダ、やめろっ……ああっ!)

メサイアはリンネのペニスをゆっくりと奥まで咥え込み、そのまま舌でれるれると扱き始めた。

「ふんふん……ナルビアのクローンは本当に人間と変わらないのね。こんなとこの反応までしっかり人間と同じなんて……」

(く、ああああっ……!)

じっと見つめながらモノを扱き続けるメサイアのことも、距離を詰めてまじまじと自分のモノを見つめてくるミシェルの姿もどちらも直視できず、リンネはぎゅっと目を瞑った。

「ぷはっ……リンネ。これで射精可能ですか?」

(ばっ……!何言ってるんだヒルダ!君にこんなっ……!こんなこと、すぐにやめ……んぅッ!)

「あははっ!メサイアちゃん、リンネくんはいまゼロエネルギーを浴びて喋れないんだから、問いかけても無駄よ無駄」

「そうでした……ではこれはどうでしょうか……」

陰茎の下……玉袋に手を当てたメサイアは、そのまま竿を咥え込み手と口で扱き始めた。



「ん……ちゅぅ……れるれる……ちゅぱっ……」

(あ、あ!ぁ……ああああ……!ううう……!)

「うわぁ〜すごいすごい!一気にガッチガチ♡初めてなのにメサイアちゃんすっごく上手ねぇ。可愛い女の子にこんないやらし〜いことされて、リンネくんは幸せ者ねっ、と!」

(ひゃああぅ!)

ミシェルに竿をフェザータッチされ、リンネは女の子のような甲高い喘ぎ声を(脳内で)上げてしまう。

「クスクス……もうそろそろイっちゃいそうなのかしら?メサイアちゃん、拘束したまま喋れるようにしてあげて」

「じゅるる……りょうふぁい」

ビシュン!
「ぁあああっ!」

ゼロエネルギーの出力量を調整し、口だけを動かせる状態にされたリンネの声からすぐさま甘い声が漏れた。



「あらあら、文字通り女の子みたいな声出しちゃって。メサイアちゃんの玉コキ生フェラがそんなに気持ちいいのね?」

「くっ……あ……!どうして、僕にこんなことを……!」

「そんなの当たり前じゃない。メサイアちゃんを完全に私のものにするにはクローンに必要な薬物の成分を手に入れないと。そしてそれが抽出できるのは他でもない、薬物を摂取したクローンの体液でしょ?」

「ぐっ……!だからって、血液や唾液でいいんじゃないのか……?何もこんな……!ああっ!?」

「はむっ!じゅるるるるるるる……!」

「あひあああああぁ……ひ、ひるだあぁ……!」

メサイアの小さな口に、再度リンネの陰茎がぬっぽりと包み込まれる。
腰が溶けるような初めての感覚に、力の抜けたリンネはだらしない声を上げた。

896名無しさん:2021/07/04(日) 12:44:09 ID:???
「クスクス……男のくせにだらしない声出しちゃって。まあ確かに血液とかからでも抽出はできるけど、ナルビアのクローンがココから出す液体がどんな成分で構成されてるのか……不老不死の研究のためにも興味あるのよねぇ」

「はぶっ……んっ……!んぽっ、んちゅるるるる……んぶっ、んぷぷっ……!」

「くっ……僕たちに、生殖能力はない……!体は人間と変わりないけど、精子だけは取り除かれていて、そこから出るのはただの精子を模しただけのモノッ……ああぅ!」

「れるれる……ちゅぶ!ちゅううううっ!……くちゅくちゅっ……ちゅくるっ!!」

「それはアンタらがそう聞かされてるだけでしょ?どうせ実際に自分の精子を調べたことなんてないくせに。いい機会だからこのあたしが、あんたのおちんちんミルク、全部じっくり調べてあげる……」

「う……!くっ……!」

「ちゅうちゅう、れりゅっ、くちゅるっ!……れちゅう!ちゅくっ、ちゅーっ、れちゅれちゅっ、ちゅっ!」

「ひ、うあああああっ!」

美少女にフェラチオされながら美少女に精子を調べると言われ、段々とリンネもこの状況に耐えられなくなって来ていた。



「そろそろ限界みたいね?メサイアちゃん、ラストスパートよ。教えた通り思いっきりバキュームフェラして、リンネくんから全部搾り取っちゃえ♡」

「りょうふぁい……!ん、ちゅじゅるるるるるうぅぅっ!!!んじゅっ、じゅるるっ!ちゅうっ!」

「あ、あ、あああああああっ!!」

舌を大きく動かし、ペニスを唾液でどろどろに濡らされた状態で、吸い上げられる。
先ほどからのぐちゅぐちゅと音が鳴るフェラチオのおかげで、リンネは限界を迎えようとしていた。

「あはははっ!顔も声も女の子みたいなのに、おちん◯んはおっきすぎ♡メサイアちゃん、苦しいと思うけど、トドメにもっかいバキュームすれば今度こそ射精してくれるはずよ♡」

「ふぁい……ちゅるるるるるるっ、ぶちゅうううぅっ……!れるれるっ、じゅちゅううううううっっ!!」

根元まで飲み込まれ、亀頭を引っ張られて精液が先端まで吸い上げられたリンネは……

「ううっくっ!!も、もうっ……!ヒルダ、ヒルダああぁっ!!」

どぴゅるっ!!びゅるるるるるっ!!どくどくっ!!!ぶびゅるる!!!

メサイアの喉に向かって、大量の精液を放出した。

897名無しさん:2021/07/10(土) 14:12:16 ID:???
「………う、ううっ………」
「んっ……うぇ………体液の放出を、確認しました。採取してください、ドクター」

「はぁい二人ともご苦労様ぁ。ふふふふ……随分いっぱい出たわねぇ。溜まっちゃってたのかしら?」

メサイアの咥内や身体についた精子を、スポイトで採取して容器いっぱいに詰める。
「これだけあれば、当面は問題なさそうね……
残った分は、アナタが舐めちゃっていいわよ。
ソレには安定剤の成分が入ってるし、少しは効き目あるんじゃない?」

「了解しました……んっ……ちゅむっ………じゅる」
「やっ……やめろ、そいつの言う事は……うああああぁっ!!」
メサイアはリンネの股間に吸い付き、残った精液を啜り始める。
射精直後の罪悪感や倦怠感、賢者タイムと呼ばれるやつが根こそぎ吹っ飛び、
リンネの一物は再び力を取り戻した。

「フフフ………マザーコンピュータに残っていた開発記録によれば、
メサイアは素体が脆弱すぎて、いくら強化を試みても細胞が耐えきれず死滅してしまっていた。
一時は研究中止の寸前までいったらしいけど……
あなたの体液を成分に加える事で、細胞が安定化する事が発見されて、『リヴァイタライズ』が完成したそうよ。
素敵な話だと思わない?眠れるお姫様を目覚めさせたのは、王子様のキス……ならぬ、体液ってことね」

「な………じゃあ、僕が……僕自身が、ヒルダを怪物に変えてしまったって事じゃないか……
そん、なの………ん、う、あっ………!!」

「再度体温と脈拍の上昇を確認……ドクター。再び体液射出の兆候が見られます……どうしますか」
「ふふふ……薬に必要な分は確保したし、もういいんだけど……
協力してくれたお礼よ。一滴残らず絞り出して、全身キレイになるまで続けてあげなさい」
「わかりました……行為を続行します」
「や……やめてくれぇっ!!………ん、う……っあああああああ!!!」

こうして、リンネはメサイアの奉仕で徹底的に絞りぬかれた。
ゼロエネルギーから解放されても、疲れ切って足腰が立たない。

「ま……て……いくら薬を作ったって……メサイアの身体は、いずれ……」
「そうなる前に……私が戦いを終わらせます」
「なっ………!!……」

「フフフフ……それじゃあね、リンネくん。後はお好きにどうぞ。
オワコンになったこの国にしがみつくもよし、どこか遠くに逃げ出すもよし……」
「どこか国外の、安全な場所に退避する事を推奨します。
……ナルビア国内全域が、今後しばらく危険な状態になると予測されます」
「まって、くれ………ヒルダ……!」

高笑いと共に去っていくミシェルと、名残惜しそうに去っていくメサイアを、
リンネはただ見送るしかできなかった。

898名無しさん:2021/07/10(土) 14:14:57 ID:c8fdNnkA
……ナルビア司令部を出発し、アレイ前線基地へと向かうミシェル達。
その主な目的は、メサイアのお披露目と、試運転である。
だが、そんな二人を追いかけてくる者があった。

バババババ……
「こここ、こらそこの二人ー!!どこへ行くつもりだ!誰の命令でこんな真似してる!」

メサイア陸軍の最新鋭戦闘ヘリ「ドラゴンフライ」。
通常のヘリコプターとは比較にならない機動性、重武装を持つ。
乗っているのは、ナルビア・シックスデイの一人マーティンである。

「……堕としますか」
「フフフ……あんな蚊トンボ、メサイアちゃんの戦闘記録第一号にはもったいないわ。
下がってなさい」

ミシェルは端末を操作しながら、戦闘ヘリの前に悠々と進み出る。

「ふん……投降するつもりか?だったら、さっさとその端末も捨てるんだ!早くしろ無能が!!」
「ギャーギャーうるっさいわねぇ〜……あ、来た来た」

ヘリからの呼びかけを無視し、ミシェルは空を見上げる。
遥か上空、雲の向こうで、何かがキラリときらめき……

「ん?上空からエネルギー反応……っおがああああああ!?」
ヴィンッ……ズドオオオオオオッ!!

「……周辺敵目標の全消滅を確認。第二射を中断、レーザーシステム休止状態に移行します……」
「……サンキューマザー。こっちの試運転も上々ね」

先ほど発射されたロケットに載せられていた物の正体は、ナルビア国内で密かに研究されていた人工衛星。
そこにマザーコンピュータを搭載して威力と精度を飛躍的に上昇させた
通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のサテライトレーザーシステム『マザーズアイ』によって、
マーティンの乗っていたヘリは文字通り消滅した。

「じゃ、行きましょうかメサイアちゃん。
……アナタの試運転の相手は、もう決めてあるの。王下十輝星、フォーマルハウト……」

<お掛けになった番号は、現在使用されていないか、使用者が惨殺されて
怪物に丸呑みされ電波の届かない所にいるため、繋がりません。
番号をお確かめの上……>
「と、思ったら……ちょっと面白い事になってるみたいね。」

「ま、ノンビリ行きましょうか。私たちの新しい『国名』も考えないと」
「了解しました……ランダム名称生成プログラム作成、起動」

「新・ナルビア王国……いや、律儀に古い国の名前使ってあげる意味もないか。
かといって自分の名前つけるのもダサい気がするし」

……かくしてナルビア王国は、
統治者であるレオナルド・フォン・ド・ナルビア総帥が存在を抹消されたことにより、事実上消滅。

衛星軌道上を周回する巨大サーバーを中心に構築されたクラウドネットワークで形成される、
物理的な領土を一切持たない新国家「マザーズ・ドミネーション」が誕生した。

899名無しさん:2021/07/10(土) 15:28:39 ID:???
「感想スレも新しくなったし、主人公ちゃんを思いっきりボコってやるぜ!」
「ついでに、倒れてるお仲間ちゃんも全員いただいちゃうぜ!!」

「な……何言ってるかよくわからないけど、そんな事させないっ!!」

突如乱入してきた多数の魔物の群れに、唯達はあっという間に取り囲まれてしまった。
仲間のエルマ、ルーア、サクラはここまでの戦いで満身創痍、ほぼ戦闘不能。
残った唯も、武器の手甲が破壊され、体力魔力とも限界に近い。

「こ、のおっ……!!」
びしっ!……ぶおんっ!
……拳の威力も蹴りの速度も、普段の状態とは程遠かった。

「ヒッヒッヒ!!いいねぇ〜。そういう可愛い抵抗は大歓迎だぜ……オラァッ!!」
…メキッ!!
「っぐあ……!!」

初撃の回し蹴りを、辛うじて受け止める唯。だが……受けた腕に、嫌な音が響いた。
少し遅れて、ずきずきと痛みが走る。

敵は、強化型のトカゲ型獣人、「リザードウォリアー」。
武器と体力が万全なら、互角以上には戦える相手だ。
だが……

(………まずい。今ので、骨が……)
「ゲヒヒヒヒヒ!!どんどん行くぜえ?」
ビシュンッ!!……ズババババッ!!ブオン!!
「んっ!!く…………きゃああっ!!」
(速い……体が、ついて、こな……)

連続ジャブで瞬く間にガードを崩され、丸太のように太い尻尾の一撃を、まともに喰らってしまう。

……ドスンッ!!
そして、壁……のような何かに、叩きつけられた。

「う、ぐ………あ……?」
「ケケケ……痛いなぁ〜唯ちゃん。
いきなり飛び込んでくるなんて、最近の若い子ってのは積極的だ、ねっと!!」

飛び込んだ先は、もう一体のリザードウォリアー。
体に力が入らず、ずるずると崩れ落ちそうになった唯の、両手を掴んで無理矢理立たせる。

「い……いや、放して……!!」
「クックック……可愛いおててだねぇ〜。恋人つなぎしちゃっていい?」
唯の両手を捕まえ、押し倒して覆いかぶさる。トカゲ獣人の鱗は鎧のようにゴツゴツして硬く、
鋭い爪の生えた手は、唯の手より二回り以上大きい。
身長も横幅も、唯がすっぽり覆いかぶされてしまう程に大きく、
数百キロはあるだろうその巨体は、押しても退いてもビクともしない。

………ミシッ………メキメキメキッ!!
「だ、だめっ……い、ひ、ぎあああああああぁぁぁああ!!!」
「あんまり可愛いから……握りつぶしたくなっちゃったよ。ゲヒヒヒ!!」

そして、圧倒的な「力」で、武術家の命ともいえる拳を破壊され……完全に心を折られてしまった。

「おいおーい。まだオレが遊んでたんだぜぇ?
そのサンドバッグ、ちゃんと支えててくれよ……」
「おう、わりーわりー。ゲヒヒヒ!!」
「い……い、…やっ……」

一体のリザードが唯の身体を軽々持ち上げ、羽交い絞めにする。
足先が地面につかず、バタバタと振り回しても、相手は痛がる素振りすらない。

「ヒヒヒ……んじゃ、順番待ちの連中もつっかえてる事だし……遊びは終わりだ。
コイツで、思いっきり行くぜぇ」
「はぁっ……はぁっ……ひっ……そんなの、しんじゃ、う……!!」

リザードウォリアーは本来の得物、大型ハンマーを手に取った。
それを唯の目の前で、見せつけるように軽々と振り回して見せるが、
サイズから見ても、人間の筋力ならまともに扱えないような重量なのは間違いないだろう。

「……ッラアアアア!!」
「……っ……!!」

攻撃の瞬間、目を閉じ、全身を強張らせ、腹筋にあらん限りの力を込めた……

だが、無駄だった。

ドボォッ……!!

「……!!……げ、ばぅっ……!!」
血混じりの胃液が飛び出て、瞳は裏返り…唯の身体はだらり、と弛緩した。

900名無しさん:2021/07/16(金) 23:01:35 ID:???
「……が……は、ぁ……。」
「ヘヘヘ……たまんねえなぁ……今の感触だと、内臓2〜3個は潰れたかぁ?」
「痛ってー…つーか俺まで痛かったじゃねえか!ざけんなよ!?」

「おー、ワリィワリィ。
まあ運命のナントカだかなんか知らねえが、所詮は人間のメス。
俺らエリート魔獣にかかりゃぁこんなもんよ!」

「ケッ!ワリィと思ってんなら、次は俺に先ヤらせろよ!
唯ちゃんの潰れかけの子宮、俺がパンパンに膨らませてやるぜェ!!」
「………ぅ……げほ…」
……リザードウォリアーが唯を向かい合わせにして、お尻を持ち上げて両脚を抱える。
裏四十八手櫓立ち……いわゆる駅弁ファックの体勢だ。

「唯ッ!!」
「っく……早く助けないと……!!」
「おっとぉ、行かせねえぜェ?お嬢ちゃん達」
「グヒヒヒ……俺らとも遊んでくれよぉ……!!」
……オトとエルマが助けに入ろうとするが、他の魔物に遮られてしまう。

むにっ!…ぐに、むにむにむに……
「んうっ………ぁ……」
「ふひょぉぉぉおお!!唯ちゃんの尻やわらけぇえええ!!
もう一生揉んでられるわコレ……!!グヒヒヒ……あーもう、我慢できねえ」

リザードウォリアーは気絶した唯のお尻を好き放題に弄り、剛直ペニスをはちきれんばかりに屹立させる。
絶体絶命と思われた、その時……

「………唯ぃいいい!…まだ終わってねえぞ、目え覚ませぇぇ!!!」
オトが周囲一面に鳴り響く大音量で唯に呼びかけた。

(……今の声………オト…ちゃん……?……あ……あれ、私……まだ、死んでない………)
その大声に、朦朧としていた唯の意識が覚醒する。
同時に、つい先ほど強烈な一撃を喰らったお腹や、握りつぶされた拳の痛みが、嘘のように引いていき……

(そう、だ……私は、仲間と……みんなと一緒に戦ってる……だから絶対に、弱音なんて吐いちゃいけない……)
(……まだ、動ける………まだ、戦えるっ……!!)
「篠原流柔術・四天連脚!!」
「……グゲェッ!?」
……ドカドカドカッ!!
次の瞬間。唯は目を見開き、素早く体を跳ね上げ、リザードウォリアーの顔面に連続蹴りを叩き込んだ。

「唯っ……!?……まさか、あのダメージで……」
「っしゃ!やっちまえー!!」

「からの……奥義・天地落としっ!!」
そのままリザードウォリアーの首を太股で挟み込み、フランケンシュタイナーの要領で投げ飛ばそうとする、が……

「グギッ……!!……させるかぁァアッ!!」
……ガブッ!!
「っぎゃうっ!?」
リザードウォリアーも黙ってはいない。
頭を挟まれたままの体勢から、口を大きく開き……その鋭い牙で、唯の股間に思い切りかぶりついた!

「フゴォォォオオオオッ!!」
「痛、っ……!?…は、放して……あ、ああああんっ!!」
股間から臍の上までをがっぷりと咥えられてしまった唯。
鋭い牙が柔肌に深々と食い込み、鮮血があたりに飛び散る。
更にリザードウォリアーは、唯の股間を咥えたまま首を振り回し……

………ズドオオンッ!!
「………っやゃぁぁああっ!!」
勢いをつけて、地面に叩きつけた!

901名無しさん:2021/07/16(金) 23:10:40 ID:???
ぬちょっ……ずぶ、ずぶ、じゅるるるるっ……
「ゲヒヒ……太股の感触も、齧り心地も最高だったぜ……だが、足癖の悪い子にはお仕置きが必要だよなぁ…?」
「……っ………ぐ、あ……」
動かなくなった唯の股間から、ゆっくりと牙を引き抜く。
唾液まみれの長い舌で、唯の下着をぐちょぐちょに嘗め回しながら。

「唯ーーーー!!!」
「クックック……ありゃ、今度こそ死んだなぁ?……なーに、てめえらもすぐに後を追わせてやるさ。
その前にタップリ楽しませてもらうけどなぁ!!」
「あ……アンタたち……絶対、許さない……!!」
再び強烈な一撃を喰らってしまった唯。もはや立ち上がることは不可能だろう。
嘲り笑いをあげる魔物達に、エルマは激しく怒りを燃やす。
……だが。

「へっ……そうは行かねえよ……唯、聞こえるか……まだ、やれるよなぁ……!?」
オトの目が静かな光を放つと、どこからか湧き出した霧のようなオーラが、唯の身体を包み込んでいき……

「はぁっ……!!…はぁっ……!!……大丈夫……行けるよ……!!」
(……動ける……自分でも不思議だけど……噛まれた所も、叩きつけられた頭も、痛みがほとんどない……!!)
「なっ?!て、テメェ、まだ動けるのか!?」
「ゆ、唯……!?……オト……今、何を……?」
(回復魔法?……いや、でも……何か、違和感が……)

唯を再び犯そうとしていたトカゲの目の前で、唯はゆっくりと立ち上がった。
完全にトドメを刺したつもりでいたトカゲは、突然蘇った唯に一瞬怯む。

その瞬間。オトが、行く手を遮る敵の脇を疾風のようにすり抜け……

「っしゃ!……合わせろ唯っ!!」
「うん!いくよオトちゃんっ!」

「鳳凰旋風脚!!」「タチバナ流奏法・壱越粉砕!」
ベキッ!! 
ドゴッ!!
「グギアアアアァァァ!!!」

唯の回し蹴りがリザードウォリアーの顔面を捉える。
同時に、オトの琵琶が後頭部に直撃。トカゲはその場で膝を折り、ズシン!と地響きを立てて倒れた。

メキッ……!!
(うっげ……兄貴の形見なのに………)
……だが。オトの琵琶も本体が割れ、柱の部分が半ばから折れてしまう。

「あ、ありがとうオトちゃん…!!」
「おう、唯……大丈夫か?」
「うん。だけど、その琵琶……」
「………こんなもん、別にいいって。お前を助けられたんだから、これ位安いもんだ」

オトは唯から目を逸らし、照れくさそうにお腹を押さえる。
エルマからは、その表情が……痛みをこらえているかのように見えた。

「テメエらよくも……やりやがったなァァァ!!」
なんとか一体は倒したものの、戦いはまだ終わっていない。
もう一匹のリザードウォリアーが、激昂して二人に襲い掛かる!

「オト!!唯!!」
ザシュッ!!
「…うぐっ………!!」

エルマが素早く割って入り、トカゲの爪を背中で受けた。
強化装甲の一部が切り裂かれ、左肩から背中にかけて、ざっくりと爪痕が刻まれる。

(……つぅ……けど、これくらいなら、まだ………!)
……何とか痛みに耐え、エルマが反撃に移ろうとした、その時。

「っぐああああああ!!!」
「オトちゃん!?どうしたの!?」

庇ったはずのオトが、悲鳴を上げた。

902名無しさん:2021/07/16(金) 23:22:20 ID:???
「やっぱり……あなた、術か何かで、私達の痛みを……!」
「えー?……な、なんか言ったかエルマ……ホラあたし、ちょっと耳悪いからさ」
「とぼけないでよ!私たちの受けてる痛みを、あなたが一人で引き受けてるんだとしたら……このままじゃ命に係わるわ!!」

桜子の腕に切られた肩の傷も、今受けた背中の傷も、予想していた半分も痛みを感じない。
今の戦いで重傷を負ったはずの唯も、痛がっている様子がない。
一方でオトは、見た目はほとんど無傷なのに、肩やお腹を苦しそうに押さえ、全身から異常なほどの脂汗をかいている。

オトの身に異変が起きているのは明白だった。そしてそれをオト自身が隠そうとしている、ということは……
この現象を起こしているのは、オト自身。
何らかの術、あるいは能力で自分たちの痛みを一部…いや大部分、引き受けている、とエルマは結論付けた。
……だが、今はそれをゆっくりと問い詰めていられる状況ではない。

「ケッ!何ゴチャゴチャ言ってやがる!!今度こそブチ殺してやるぜ!!」
「……天葬・心破掌底!!」
「ゴハッ!?」
「うぐっ……!!」

再び襲ってきたリザードウォリアーを、唯が掌底で迎撃。強烈な一撃に、巨体の突進が一瞬止まる。
と同時に、オトが両手を押さえて苦し気に呻いた。
確か唯の両手は、さっき別のトカゲに骨を砕かれていたはず……!

「くっ………このおおおお!!」
エルマは素早くトカゲの身体に飛びつき、喉笛に電磁ブレードを突き立てる。

……ベキンッ!!
既に桜子との戦いで半分に折られていた電磁ブレードが、今度は根元からへし折れた。

「…唯っ…!!」
「柔来拳、雷の型…雷震掌!!」
「……ギアァアアアアアアアアァッ!!」
更に唯が飛び込み、折れたブレードに電撃を叩き込む。
リザードウォリアーは断末魔の叫び声を上げた後、ぶすぶすと黒煙を吐き出し、動かなくなった。

「はぁっ……はぁっ……さす、がに……限界……」
「もう、魔力が………」
「っは……あたし、は……まだまだ、やれる……ぜ…」
「バカ言わないで……あんたが一番無理してるはずよ。今すぐ、私達に掛けた術を解いて」
「さー、て……何の、事だか……」

武器を失い、体力も魔力も使い果たし、体は傷だらけ。三人ともいつ倒れてもおかしくなかった。
だがエルマと唯は、傷の痛みをほとんど感じていない。

「いい加減、隠し事はやめにしてよ!……お願い。私達の事、仲間だと思ってくれてるなら……」
「………………。」

「ヒヒヒ!!そんな死にかけの女の子相手に、なーんでやられちゃうかなぁ?」
「所詮トカゲは、我らの中では最弱……なんつって。ヒヒヒ!!」
「さっさとブチのめして、全員マワしちまおうぜぇ……!」
「グフフフ……やっぱ女は、抵抗できなくなるまでボッコボコに潰してから犯すのが最高だよなぁ」
「オレはやる直前まで抵抗してくれる方が好きだな……ブヒ」

だが新手の魔物達が続々と現れ、エルマ達の周りを取り囲む。
ざっと数えただけでも、二十体以上はいるだろうか。

絶望的な状況の中、オトは一歩、前に進み出て……
足元に転がっている機械兵の残骸から、何かを拾い上げた。

……ナルビアの技術で作られた特殊合金製の手甲。格闘機兵ルビエラの愛用していた武器だ。

「……あたしが突っ込んで、道を作る。お前は唯を連れて、ここを脱出しろ」
「オト!?……ちょっと、待ちなさい!!戦うなら私も……」
「いーからいーから。……ケガ人は無理すんな」

「!?……っぐ……!!」
「う、ごは………!!」

再びオトの瞳が光を放つと、エルマと唯の身体に、「本来の痛み」が戻ってきた。
唯はたちまち気を失い、エルマも腕が上がらず、思わずその場に膝をつく。
(……想像、以上だわ……アイツ今まで、こんな痛みの中で戦ってたって言うの……!?)
これでは戦うどころではない。オトの言う通り、気を失った唯を背負って動くのがやっと、といった所か。

「ありがとな、エルマ……唯のことを頼む。死なせないでくれよ。あたしたちの隊長を、さ……」
「ま……待ちなさ……っぐ……!!」

敵に向かって一人突っ込んでいくオトを、エルマは追いかけることが出来なかった。

「オラオラオラああ!!こっからはアタシの、一世一代のワンマンショーだ!!
全員耳かっぽじって、アタシの歌を聴けぇぇぇ!!」

903名無しさん:2021/07/26(月) 00:36:42 ID:???
「っしゃ、行くぜ!まずは、ファーストナンバー…真紅の★芸者!!」
オトは大声で歌いながら、オーガ、トロル、ミノタウロス、etc……の屈強な魔物達の群れに飛び込んだ。

「♪…急に歌うよーー♪オラオラオラー!!」
……ドガッ!!ベキッ!! ばこんっ!!

「ッグオアアアアッ!!」
「グギッ!?なんだ、コイツ……!」
「クソガぁぁ!!構うこたねえ、相手は一人だ、全員でつぶせぇぇ!!」

自分の倍以上の体格を持つ魔物たち相手に、拳や蹴りだけで互角以上に渡り合うオト。
ひたすらテンションを上げながら魔力のこもった歌を歌うことで、
自らのパワー、身体能力を爆発的に向上させるのだ!

だが当然の事ながら、歌いながら戦う行為は激しく体力を消耗する!
良い子は絶対真似しちゃいけない、無謀な玉砕戦法なのである……!!

「ぁぁあーー♪2番のサビの後ぐらいにあるちょっとメロディ変わるやつーー!
覚えるの面倒だからこの世からなくなって欲しいぜー♪っとくらぁ!!」

………………

「サクラ、唯の治療をお願い!」
「は、はいエルマさん!でも、エルマさんの傷も治さないと!」
「平気よ、唯やオトの痛みに比べれば、この位……!」

オトが魔物の軍勢を相手にしている間に、エルマはなんとかサクラ、ルーア達と合流した。
周りを囲まれないよう壁際に固まっているが、魔物に囲まれているため逃げ場がない。

そこへオトが討ち漏らした魔物、ゴブリンの一団が一斉に襲い掛かる!
「ゲキキキッ!!コイツラ全員ボロボロだぜ!」
「これなら俺達でも勝てるキッ!!」
「オラオラ!全員マワしてやるぜー!!」

(どうする……応戦するにしても、何か武器は……!!…)
足元に転がっていた、機械兵の残骸を拾い上げると……

「借りるわよ、エミリーっ…だああぁっ!」
「「ギァアアァァァ!!」」
電磁ブレードを両足に装着し、飛び掛かってきたゴブリン達を斬り飛ばす!

「サクラ、ルーアちゃん、エミルさん!私がここを食い止めるから、その間に考えて!
……全員で、脱出する方法を!!」

「ギギギッ……あの女、生意気だゲッ!!」
「全員で一気にかかって、やっちまえ!」
「グヒッ……ゴブリンぐれえでヒーヒ―言ってるようなら、楽勝だベ…!!」
オークやガーゴイル、トロルなど、中・大型のモンスターがぞろぞろとやって来る。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……いくらでも、来なさいよ……
唯やサクラたちには、指一本触れさせないから……!!」

疲労と失血、早くも息が上がり始めたエルマ。
肩や背中の傷が今さらになってずきずきと痛み始めた。

(オト……あんたの事も絶対、死なせない……
あたしらが行くまで、倒れるんじゃないわよ……!!)

904名無しさん:2021/07/26(月) 00:39:34 ID:???
一方。指令室の入り口付近では、アリスと桜子、そしてイヴが雪崩れ込んでくる魔物達を必死に食い止めていた。

「くっ……私の右腕……こんな時に限って、動かないなんて……!」
「はあっ……はぁっ………魔力が、もう……!!」
「数が多すぎる……せめて、魔法針があれば……」
元々の戦闘力は高かった3人だが、こちらも武器や体力、魔力が底を突きつつある。

「くそっ……スネグアめ。なぜこんななりふり構わない総攻撃を……
私たちもろとも、この基地を潰すつもりなのか…!?」

そんな窮状に追い打ちをかけるかのように、敵の軍勢を率いる『総大将』が姿を現した。

「ふふふふ……はぁ〜い。お久しぶり、桜子ちゃん♪」
「!?……お前は確か、ゾンビキメラ………なのか……!?」

スネグアの使い魔の一匹、ゾンビキメラ……桜子たイヴも、何度か顔を見た事があった。
全身に様々な魔物の部位をつなぎ合わせたような、醜悪な姿の魔物……だったはずなのだが。

「ふっふーん。正解〜♪よくわかったわねぇ。
色〜んな魔物とかを取り込んで、昔よりビューティ&セクシーになったつもりなんだけどぉ♪」

今の姿は、人間に似た手足と胴体を持ち、角や尻尾、翼などが生えていて、
ベースとなったラミア…蛇女より、どちらかというと魔族に近い。
眼光の鋭さや邪悪そうな表情など、顔に僅かな面影が残るのみであった。

「色んな魔物……他のスネグアの配下の魔物を、か?
そんな勝手な振る舞いを、お前のご主人様が許すとは到底思えないが……」

そして何より異様なのが……ゾンビキメラの服装。
あれは間違いなく、王下十輝星であるスネグア専用の軍服。
更に、スネグアの家系に代々伝わるという魔獣使いの鞭『リベリオンシャッター』を腰に着けている。

「……あぁ〜。桜子ちゃん達はまだ、知らなかったのねぇ〜♪
あたしの『元』ご主人様のスネグアとかいうクソ女なら、
全身バラバラにされて、魔物の餌になって死んだわよぉ?」

「なっ……!?」
桜子もイヴも、衝撃的な事実が告げられて動揺を隠せなかった。
にわかには信じられないが、本当だとしたら、魔物たちが今暴走状態になっているのも納得がいく。
何しろ制御するものが居なくなったのだから、当然とも言えるだろう。

しかし、まだ気になる事がもう一つ……
スネグアが死んだのだとしたら、捕らえられたスバル、そしてイヴの妹メルは、今どうしているのか……

「そういうわけでぇ〜、ワタシが桜子ちゃん達の新しいご主人様になりました♪
いつまでもゾンビキメラ何て名前じゃダサいし、支配者に相応しい新しい名前、考えないとね♪」

「黙って聞いていれば、勝手な事を……そもそもスネグアの下に付く事さえ不本意だったのだ」
「そうです……あなたの手下になんて、なるつもりはありません!」
桜子とイヴは、当然ながらゾンビキメラに反旗を翻す。

「いいのかなぁ〜?そんな事言って……断言してもいいけど、あなた達はアタシにゼッタイ逆らえない。
……嘘だと思うなら、掛かってきてみれば?」
「……いいだろう。その余裕ヅラ……後悔させてやるっ!!」

姿が変わったゾンビキメラ。人型に近い、すなわち上級クラスの魔物を何体も取り込んでいるという事は、
恐らく戦闘能力も格段に上がっているだろう。
だがあの理由は、本当にそれだけだろうか……?
……挑発を仕掛けて来るゾンビキメラに、桜子たちは敢えて乗ることにした。

「……でやああああぁぁぁっ!!」
「行きますっ……ファイアボルト!!」
異形の右腕を大剣へと変え、ゾンビキメラに斬りかかる桜子。そして、炎の魔法を放つイヴ。
だが、攻撃が届く、その寸前……

「ふふふ……斬ってごらんなさい。斬れるものなら、ね」
……ゾンビキメラの両肩が膨れ上がり、人の顔を形作る。

「!?……こ……これ、は……」
「まさか……」
「桜…子……おねえ、ちゃ……」
「イブ……姉……」
それは……見間違えるはずもない、スバルとメルの顔だった。

905名無しさん:2021/07/27(火) 22:01:35 ID:???
「ふふふふ……どうしたの桜子ちゃぁん?余裕ヅラを後悔させてくれるんじゃなかったの〜?」
「………スバルっ……!!……」
「そんな……メル……!?」
ゾンビキメラの両肩が不気味に蠢き、スバルとイヴの頭が現れる。

ゴオォッ!!
「っぐ……!!」
「桜子さんっ…!!」
斬りかかろうとしていた桜子は咄嗟に攻撃を中止し、イヴの火炎魔法を背中で受け止める。

「……貴、様っ………二人に何をしたっ!!」
「ふふふ……見ればわかるでしょ?体ごと取り込んだのよ。この子たちは今、私と一心同体ってわけ」

「しかも、痛覚はぜぇんぶこの子たちに引き受けてもらってるから、少しでも私を傷つけたりしたら……」
ゾンビキメラは、ニヤニヤと笑いながら、鋭い爪を自分の胸に突き刺す。

……ズブッ!
「ひゃっ!?うっぐぁあ!?」「いぎっ!?痛だあああああ!!!」
すると、スバルとイヴの顔が苦痛に泣き叫ぶ。一方、ゾンビキメラ本人は涼しい顔のままだ。

「………この通り。この子たちが痛がることになっちゃうの。
ま、私は全然痛くないし、多少の傷口はすぐ再生するから、気にせず攻撃していいわよ〜?」

「そん、な……なんてこと……!」
「この……外道めっ……!!」
桜子、イヴ、そして横にいたアリスも、ゾンビキメラの所業に憤りを隠せなかった。
だが人質を取られていては手も足も出ず、ゾンビキメラを睨みつけながらじりじりと後退するしかない。

「ふふふふ……いい表情♪……パワーアップのついでにレズい魔物もいっぱい同化したから、そー言う顔みるとゾクゾク来ちゃうわぁ♪
んじゃ、立場の差が理解できたところで……桜子ちゃん達には改めて、あたしの手足として働いて貰おうかしら」

「…………結局、そうなるのか……済まない、スバル……」
「メル……ごめんなさい、私に力がないばっかりに……」
「だ、め……こんなやつの、言う事なんか……」
「……わたしたち、の事は、いいから……!……」
無念そうに顔を伏せる桜子とイヴ。そして、同じく悲痛な表情を浮かべるスバルとメル。
不幸な少女たちの運命は、またもふりだしへ戻るのか。………それとも、更なる絶望の底へと墜ちていくのか。

「う〜〜〜ん………でもでもぉ。
使えそうなパーツは、せいぜい桜子ちゃんの右腕くらいかしらねぇ?」

ゾンビキメラは桜子達を吟味するように眺めた後、ドライバーのような道具を取り出して桜子に軽く触れる。

「何?……それは、どういう………」

次の瞬間。桜子は、首、肩、脚の付け根の関節に、違和感を覚える。
身体を動かそうとしたとき、視界が激しく揺れ、身体のバランスが保てなくなり……衝撃と共に、頭から地面に転げ落ちた。

「意味、だ、っぐあっ!?」
「桜子さんっ!?」
「なっ……一体、これは……!?」
……バラバラバラッ!!

驚愕するイヴとアリス。何が起きたかわからず、手足をばたつかせる桜子。
両手、胴体、両足と、桜子の全身はバラバラに分解し、地面に散乱していた。

「うふふふ………いつ使っても面白いわぁコレ。何が起きたのかわからない、っていう間抜けな表情がサイコー♪」
スネグアを葬り去った時にも使用した、「とある協力者」から借り受けたナルビア製の秘密アイテム。
その名も「デストラクション・ねじ回し」である。

「じゃ、アナタの右腕もらっとくわ……ナリはちょっとダサいけど、そこそこ使えそうな剣ね♪」
「っ………貴、様っ………!」
ゾンビキメラは桜子の右腕を拾い上げる。
禍々しい刃を持つ異形の右腕は、さらに姿を変異して大型の剣へとなり、ゾンビキメラに取り込まれていく。

「ふんふんふ〜ん……それじゃ、早速………試し斬りっと♪」
ゾンビキメラは、山道で拾った枯れ枝でも振り回すように、異形の大剣を軽く横に振るった。

……ブオンッ!!
「っ………!」
動けない桜子の頭上を、巨大な異形の刃が唸りを上げて通過する。

「くっ……!!」
アリスは、ギリギリの所で身を伏せてかわした。

……バシュンッ!!
「!……ぁ…………?」
イヴは、反応できず、吹き飛ばされて……十数メートル先の壁まで叩きつけられた。

906名無しさん:2021/07/27(火) 22:50:47 ID:???
(え……?……わ、た………し……今、どうなったの………?)
ほんの一瞬、気を失っていたようだ。イヴはぼんやりと、周りの状況を確認し始める。
頭を打ったせいか、なんだか視界がぐらつく。
メルや桜子の声が遠くの方で聞こえる。

お腹の下あたりが妙に温かかった。

猛烈に眠くて、このまま眠ってしまいそうだ………

「……ぁ………ぇ……」

「イヴーーーーッ!!!」
「いやあああ!!お姉ちゃぁああああん!!」

泣き叫ぶメルとスバル。絶叫する桜子。

「ん〜……切れ味はイマイチだけど、こんな物かしらねぇ」
ゾンビキメラは邪悪な笑みを浮かべながら、ぶん、と剣を一振りして返り血を払う。

「許せません……スネグアも最低の敵でしたが、あなたはそれ以上に邪悪です……!!」
魔物に取り込まれ、弄ばれ、無残に殺された、姉妹の姿を見せつけられ……
アリスは、自分の中の怒りの感情を抑えきれなかった。

「なーんか、さっきから無駄にウロチョロしてるウサギちゃんがいる、と思ってたけど……
スネグアのお気に入りだった、エリスだか、アリスだか言う子だっけ?
……あなたもなかなか、嬲りがいのありそうな顔してるわねぇ」

アリスの反抗的な視線に、嗜虐心をそそられたゾンビキメラ。
右手に異形の大剣、左手にはスネグアの鞭「リベリオン・シャッター」を持ち、べろりと唇を舐めた。

(……私一人の力じゃ、勝ち目はないかもしれない……だけど……)
「お前のような奴を……許しておくわけにはいきませんっ………!!」

アリスの腕のブレスレットが青い光を放つ。
修復・スタンバイ中だった「ブルークリスタル・スーツ」が使用可能になったサインだ。

そして………

「アリスーーーっ!!……一体、何が起きているっ!どうして、基地にこんなに魔物が……!!」

……アリスの双子の姉妹、エリス。
自陣地に潜入した敵特殊部隊の妙な骸骨に思わぬ苦戦を強いられ、
さらに期間中に魔物兵の大群に遭遇し、ボロボロに疲弊しながらも……たった今、前線基地に帰還した。

「アリスっ………力を貸して下さい……!」
「……エリス………ああ、もちろんだ……!!」

それ以上の言葉は不要だった。
エリスのブレスレットにも、赤い光が灯り……

「……蒼填!!」「……紅衣!!」

蒼と紅のまばゆい光と共に、二人は輝く装甲を身に纏った。

907名無しさん:2021/08/03(火) 21:53:52 ID:???
一方。前線基地に帰還予定だった、他のシックスデイのメンバーは……

「うぉおおおお!いたぞー!!」
「ナルビア兵の……シックスデイのお色気担当の子だーー!!」
「っしゃー!!とっ捕まえて軍服プレイだぜーー!!」

「ったく、しつこいなぁ……あんたらの相手なんて、してられっかっつーの」

レイナ・フレグは、大量の魔物に追われて一目散に逃げていた。
彼女のスピードなら、まず追いつかれる事はない……が、このままの状態、というわけにもいかない。
現在走っているのは、基地とは反対の方角だった。

「およ、あそこにいるのは……Dさん!ちょーどよかった!」
「ん?あれは……レイナじゃねーか。追われてるのか……!?」

同じくシックス・デイのダイ・ブヤヴェーナが、追われるレイナを見つける。
彼は急に魔物が大発生したため、様子を見ながら基地に帰還中だった。

「しゃーねぇなぁ……スリップレイン!」
ツルッ!ズルッ!!ベシャッ!!
「ブモっ!?」「ゲヒッ!?」「「「グワアーーーー!」」」

レイナが追われているのを見て、すぐさま特殊能力を発動する。
滑りやすい性質の水を雨のように降らせて、魔物達を派手に転倒させた。

「やれやれ……こいつらから見りゃ、お前も女扱いって事か。怪我はねえか?」
「さんきゅーDさん!それじゃ……後はよろしくぅ!」

「そういや、さっきエリスにも会ったぜ。
ヒールレインで治療してやったら、礼も言わずに速攻で基地に戻っていきやがった。
俺らもさっさと……って、おいぃ!?」

レイナは雑に礼を言ったと思ったら、速攻で基地とは反対方向に全力で走って行った。

「なんなんだよ、アイツ……どこ行くつもりだ?
本部にもさっきから連絡付かねーし、何がどうなってやがる……!」

「ガルルル……おい、俺らをコケさせたのはテメエだな…」
「おかげで軍服少女ちゃんを逃がしちまったじゃねーか!」
「野郎、ぶっ殺してやる!!」
「っええ!?ちょちょちょ、待て待て!落ち着け……アッーー!!」

今度はDが全力で逃げ回る羽目になった。

そして……レイナは追跡を再開した。目指すは前線基地とは反対方向、戦場の端の端……
海沿いで、近くに小さな漁港があり、逃亡者が隠れるには、うってつけの場所。

「この臭い……感じる。感じるよぉ………そっちにいるんだね……舞ちゃん……」

……レイナが狙っている獲物は、そこに間違いなくいる。
野生の勘。狩猟者、捕食者、殺戮者としての勘が、そう告げていた。

908名無しさん:2021/08/03(火) 21:58:21 ID:???
「んむっ…!…ん……サキ…様……」

サキは舞の唇を奪い、舌を深く差し込み、そこから闇の魔力を流し込んでいく。
刻まれた者の魂を奪い尽くし、術者の思うがままとする「隷属の刻印」を刻むために。

(……!……魔力を介して、サキ様の心が……)
(舞の心が、流れ込んでくる……)

二人の魂が繋がり合い、言葉を交わさずとも互いの想いが通じ合った。
そして……

ずぶっ……ぞわわっ………
(!……)(これは……)

舞の身体から、黒い影のようなものが無数に現れ始める。
これまでに舞が受けてきた呪いや邪念が、可視化したものだ。

全身、特に、誰しもが見とれるすらりとした美脚に、数多くの思念がまとわりついているのが見える。

(どっかのガチレズ司教、ツギハギの化物。通りすがりの雑魚兵士やスケベなおっさんまで……
よくまあこれだけ集まったものね。でも……もう誰にも、渡さない…!)
これらの邪念を取り除く……手段はモノによって様々だが、もっとも単純なのは、物理的な除去。

「んっ……!………ぅ……はぁ……はぁ……」
「………ほら。化け物の精液とか、良くない物も、全部い吐いちゃいなさい」
サキは舞の口の中に指を突っ込んで、ゾンビキメラの精液を無理矢理吐かせる。

「!………げほっ!!……っぐ、ぉぇ……はぁっ……はぁっ……
そんな、サキ様自ら、そんな、こと……!」
「構わないでしょ。……あんたはあたしの物なんだから、何やったって……ね」
「ふいっ!?……ふ、ぁぅん………!!」
舞の体内に残る邪念の元を一つ一つ探り当て、丁寧に除去していった。

「……これで、少しは楽になったでしょ。……少し休んでから、ユキたちの所に戻りましょう」
司教によって刻まれた呪術の刻印は、より強固な印によって上書きする。
右足の太もも、かつて火傷を負った場所に、黒い紋様が浮かび上がっていく……

呪術的な処置は、ひと段落着いた。
調教などを受けて、敏感になった体は徐々に慣らしていくしかないだろう。
ブーツの力で無理矢理押さえ込むこともできるが、それは……舞の寿命を縮める行為に他ならない。
このブーツは、すぐにでも破棄した方が良い。

「近くの漁港に、脱出用の船を手配してある……
それに乗って、こんな糞みたいな国、みんなでおさらばしちゃいましょ。後の事はどうとでもなるわよ。だから……」
「あ……ありがとうございます、サキ様……ですが……」

ジャララララッ!!
「……うっ!?」
「……舞!?」
その時。
金色に輝く鎖が、舞の身体に絡みついた。
……これは本物の鎖ではない。誰かの思念が視覚化した物……

「舞ちゃん、み〜つけた。
こんな所で、他のやつとイチャイチャしてるなんて……マジ許せないわ」
今度こそ、ゼッタイ逃がさないからね……『雷装』!!」

二人の前に現れたのは、シックスデイの一人、レイナ。
以前から舞に並々ならぬ執着を示していた彼女の眼は、飢えた獣のごとくギラギラと光を放つ。
金色のブレスレットを掲げて叫ぶと、稲光と共に黒地のインナースーツと金色のプロテクター姿に変身した。

「舞………!」
「ユキ様と、船で待っていてください……後から追いつきます。必ず」
黒いブーツが、舞の脚に収まり、ふわりと浮かぶように立ち上がる。
全身から何か……取り返しのつかない何かが失われ、羽のように軽くなった。

「……これが私の、最後の舞。
私がサキ様の物になる前に………最後の呪いは自らの手で、断ち切ってあげる……!!」

「ふふふ………しばらく見ないうちに、いい眼するようになったじゃない。
今度こそ、とことん遊べそうだね。あたしの舞ちゃん……♪」

909>>903から:2021/08/09(月) 17:55:40 ID:???
「燃えろバーニン♪心のハートー♪くらえ鉄拳アイアンパンチー♪
 うらうらうらぁぁぁっ!!」
大声で歌い、敵の大群をひきつけながら戦い続けるオト。

「ぐうっ!?……なんつー声だ……!!」
「くっそうるせぇぇ!!誰かそいつを黙らせろぉぉぉ!!」
そのバカでかい歌声は、自身の戦闘力を高めるだけでなく敵をも魅了…
…というか、うっすらヘイトを買ってる感もあった。

……ドゴッ!!ベキッ!!
「このガキがぁ!!さっさと倒れて、俺らにヤられろやぁぁ!!」
「♪熱くヒートだ力の…っぐは!!……っく……パワー…っだぁああ!!」

ごきんっ!!
「っぐべっ!?」
「ぜぇっ……はぁっ……まだ、まだ……次のナンバーいくぜおらああああ!!」

「おいどうなってんだ。こいつ全然倒れねえぞ……」
「どう見てもボロボロで、ワンパンどころかデコピンでも倒せそうなのによぉ!」
「へっ……俺らがトドメ刺してやるぜぇぇ!!」

大型の上級モンスターも含め、既に十体近くの敵を倒していた。
反撃も数多く喰らい、今にも倒れそうな程ボロボロの傷だらけ。
肩で息をしていて、体力も明らかに限界のはずだった。

だがそれでも……

「すーーーー……
止まるんじゃーねぇぞー♪ アタシは止まんねぇからよー♪
っであぁあっしゃ!!」
どかっっ!!べき!!
「っぐお!?……このアマ、ふざけやがって……!!」

オトはひたすら歌い、戦い続ける。
唯やエルマ、ヴェンデッタ小隊のメンバー達を……仲間を守るために。

バキッ!ドガッ!!……ドボッ!!
「あぐっ!!っうあ!!………げほっ!!」
「グヒッ……メスガキの腹ってのはいつ殴ってもサイコーだなぁぁ!!」
「もうフラフラじゃねえか。いい加減ラクになっちまえよ……!」

「っぐ、えほっ……ぜんぜん……効か、ねえな……今度はこっちから行くぜぇ!!
お前が止まらねえ限りー♪…その先にアタシはいんぞー♪っと……おらぁっ!!」

………………

オトの一族に伝わる秘術「イタミワケ」は、他人の受けたダメージを自分が代わりに引き受ける、自己犠牲の術。

オトの兄、シラベ・タチバナもまた、この術の使い手で、また優秀な討魔忍でもあった。
だがある時、彼の部隊は敵の罠に陥り、全員が重傷を負ってしまい……
その傷を一人で引き受けた事で、彼は命を落とす事になった。

………………

……ドゴッ!!
「っぐは……なん、だと……!」
「はぁっ……はぁっ……どう、した……げほっ!!……あたしは、まだまだ……歌えんぞ……!!」

「チィ……この死にぞこないが!……いい加減そのへたくそな歌を止めやがれぇ!」
「あーーー?聞こえねえなぁ……!……もう一曲行くぜ、おらぁっ!!」

バキッ!!……ドカッ!!

910名無しさん:2021/08/09(月) 18:00:42 ID:???
オトは幼い頃から歌が好きな少女で、亡き祖母から習った琵琶を片手に、暇さえあればいつも歌っていた。
将来はアイドル歌手になりたい!と淡い夢を抱いていたのだが……
当時親友だった少女を守るため、「イタミワケ」の術を使い、それが元で耳に深刻なダメージを負ってしまった。

それ以来、アイドル歌手になる夢をあきらめ……たりはせず。
調律も出鱈目な琵琶をかき鳴らし、やたら大きい声でひたすら歌いまくった。
おまけに人の話も聞こえづらいため会話がズレて、いつしか周囲から浮くようになっていった。


そして……今。

「……はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ……」
「ガルルッ!しぶといメスガキだぜ。大人しく犯されてりゃぁ天国見せてやんのによぉ!」
「俺らはまだまだ大勢いるんだ。抵抗したって、その分あとで痛い目見るだけだぜ!」

魔物の大群に囲まれ、今にも倒れそうになりながらも……未だオトの目は、死んでいなかった。

(唯……お前がエルマを助けるために、スライムプールに飛び込んだ時……バカだなって思ったよ。
あたしと同じくらい……あたしより、バカな奴がいたんだ、って……すっげえ嬉しかった)

「がはっ!………へっ……雑魚がピーチク、囀ってんじゃねえ。黙ってアタシの歌を聞きやがれ……!
よ、み、が、え、る よみがえる 甦る―♪」

「チッ!またあの下手糞な歌か!鬱陶しいぜ!」
「あのガキ、何度ボコっても、あの変な歌を歌い出すたびに復活しやがる!」

(エルマ、サクラ、ルーアも……みんな、同じように良い奴ばっかでよかった。
仲間を……誰かを助けるために、自分を犠牲にして突っ込んでいける、そんな奴らで。
兄貴やアタシが、間違ってなかったって……一人じゃないって、そう思えたから……)

バキッ!! ドガッ!!
「ぐはっ!!……うっぐ、ぁ……痛く、ねえ……!!
アイツらのためなら……あたしは、いくらだって歌えるんだっ……!!」
「ゲヒッ!……だったら、これならどうだギィ!!」
「次の曲は……うっ!?……む、ぐっ……!!」

血の塊を吐き出しながら、気炎を上げるオト。
だがその時。背後から一匹のゴブリンが飛び掛かり、オトの口を塞いだ。

「んぐ……むぅぅっ!……」
(ちくしょう、放せっ……!!)
「ゲヒヒヒ!!思った通りだギ!歌が止まったら、力も弱くなったギ!!」

ゴブリンは両脚でオトの胴体にしがみつき、両手で羽交い絞めしながら口を塞ぐ。
……単純ながら、効果覿面だった。
歌を封じられた今のオトには、本来非力な小鬼の拘束すら振りほどけない。

「ゲヘヘ!雑魚のくせにナイスだぜぇ!……オラ、喰らいやがれぇぇ!!」

………ドガァッ!!
「むぐ…!……んう、っぐ…………っぐあああああぁっ!!」
「ギッ!?ちょ、ちょっと待……ぶべらっ!!」

ミノタウロスの豪快なヤクザキックが直撃し、オトの身体はゴブリンもろとも吹っ飛ばされた。

911名無しさん:2021/08/09(月) 18:07:25 ID:???
ガコンッ! ズシャ! ドガガガッ!!
「………っ、あぐ!……っうぎ!…………!!」

オトの身体は硬い石床をバウンドし、何かの塊にぶつかって止まった。

「…はぁっ……はぁっ…………!」
頭が痛い。胸と腹が痛い。背中も腰も、両手両足全身全てが死ぬほど痛い。

………ズキンッ………
「ち……まだ、まだぁっ……っぐ……!?」
もう一度歌おうと、息を吸い込もうとして……激痛で体がビクンと震えた。
どうやら肋骨が折れているらしかった。歌おうにも、これでは大きい声が出せない。

「ゲッヘッヘッヘー! トドメを刺してやんぜぇぇ!!」
「……はぁっ……げほっ……ま、まだだ…………あたしは、まだ……!」
巻き添えでのびているゴブリンを振り払い、何かの塊に捕まって立ち上がるが……

ぐちゃっ………
(……?……何だ、これ……………?)
何かの塊の正体は、さっき倒したリザードウォリアーの死体……ではなく、抜け殻だった。

「ゲッゲッゲ………テメエは琵琶で俺を思いっきり殴ってくれた、クソ女じゃねえか……」
「ヒヒヒ……丁度いいぜ。脱皮したてで腹が減ってたんだ」

抜け殻……そう。
一度倒されたはずのこのトカゲ達は、仮死状態になった後、脱皮して新たに生まれ変わったのだ。
前よりも格段に力を増して。

………ズドンッ!!
「……っがは!」

長大な尻尾が振り下ろされ、オトは一撃で叩き伏せられる。

「ヒヒヒ!あっけねえなぁ……じゃ、さっそく踊り食いと行くか」
「待て待て。さっきの礼に、たっぷり甚振ってからだ」
「おいおいトカゲのダンナよお……そいつは俺らが先に遊んでたんだぜぇ?」

「……ま、だ……あたし、は……」

魔物達が集まり、動けないオトの首を掴んで、ひょいと持ち上げる。
はたして獲物を手に入れるのは誰なのか。はたまた仲良く山分けか………

912名無しさん:2021/08/13(金) 16:41:41 ID:???
「スズ……!スズッ!!」

アリスの強襲によって湖に落ちたリザとスズ。
意識のあったリザがスズを担いで湖畔に移動したが、彼女は目を覚まさなかった。

「……死なせないッ……!もう、死なせたくない……!」

心臓マッサージと人工呼吸を繰り返すが、スズは目を覚まさない。
静かに胸が上下しているので、生きてはいるのだが、意識が戻らない状態であった。



<敵性反応検知>
<敵性反応検知>
<敵性反応検知>

「ナルビアの偵察機……?こんなときに……!」

自分一人ならば戦えるが、動けないスズを庇いながら戦うのは流石に厳しい。
そう判断したリザは、急いでスズの体を草陰に隠した。

<敵発見><敵発見><敵発見>
<<<攻撃を開始します>>>

バチバチバチバチバチッ!!
「くっ……!」

放たれた電撃をシフトで回避する。
リザの目の前に現れたのは、鉄球のような浮遊マシーン。
イヴを捉えていたものと同様の機械だが、この時はまだ稼働が停止していないため、トーメントの兵士であるリザに襲いかかってきた。

<敵反応消失>
<座標変更>
<座標再設定>
<<<攻撃を開始します>>>

「嘘、そんなっ……!きゃああああああぁっ!!」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!

シフトで離れた後にすぐに攻撃される可能性を、リザは考えていなかった。
人間相手ならば一度見失うが、この鉄の塊は熱源探知と音で攻撃対象を瞬時に捕縛し、電撃を放出する。
一度視界から消えたとて、攻撃範囲であればすぐに再攻撃が可能な高性能マシーンの電撃が、リザの身体を貫いた。

(ぐ……甘、かった……湖に、落ちる……)

空中で電撃を喰らったリザは、真っ逆様に湖へと落ちた。



<対象の敵を殲滅>
<警戒モードへ移行>
<警戒モードへ移行>

「ごぼ、がぼっ……!」

地上の敵は追撃を諦めたようだが、体が痺れているリザは泳ぐことができなかった。

(このままじゃ溺れる……!早く戻らないと、スズが……!)

シフトの力は指定座標を強く念じることで発動する。それは水中でも可能だ。



ビュンッ!
「ぷはっ!」

<<<敵性反応検知。攻撃を開始します>>>

「ッ!雷禍斬滅!!」

地上に出た途端に放たれた電撃を、予測した通り斬り払う。
その後はすぐにシフトで急接近し、自身の血液を犠牲に発動する破壊力重視のシャドウブレードを起動させた。

「闇烈斬!!」

バゴン!!
<ビービービー!>
<修復、不可kkkkkkkk>
<キ、ノウ、テイ、シssssss>

鉄球マシーン3体をまとめて斬り払い、リザはぺたんと座り込んだ。



「はぁっ、はぁっ……!」
(血が吸えないと、これだけの技でも……少しふらつく……)

シャドウブレードは火力重視の武装のため、魔物にも効果的だが、使用者の血液を吸い取る。
ただし、斬った人や魔物の血液を吸収すれば、自身の血液ではなくそちらを還元させることができるため、高火力を維持できる。

だが、このような無機物相手では吸い取る血液がないため、技を出そうものならかなり体力を吸い取られてしまうのであった。

913名無しさん:2021/08/13(金) 16:42:57 ID:???
「おお〜!リザちゃんかっこいい!」

「……スズ、起きたんだ。よかった……」

いつのまにか起き上がったスズが、草陰から出てきてリザの下に駆け寄った。

「リザちゃんが献身的に助けてくれたおかげだよ!ありがとう〜!」

「それはいいんだけど……どうして、あのセリフを知っているの?」

「え?なんの話?」

「……湖に落ちる瞬間に言った、母なる海が守ってくれる……って」

「……….」

「あれは、私のお姉ちゃんが私を庇って海に落ちるときに言ったセリフで……私以外、誰も知らないはず」

「……私の異能力は、運命の予知。だからリザちゃんの運命はたくさん見たの。多分その中で印象的だったセリフを、ポロッと言っちゃったんだろうね!てへへ!」

「……他人に知られたくない過去もあるから、無闇に人の運命を見ない方がいいと思う。……少なくとも私は、あまりいい気がしない」

吐き捨てるようにそう言うとリザは立ち上がり、濡れた髪を手櫛で整え始めた。

「……あ、あれ?怒ってる?リザちゃん怒っちゃった?ご、ごめんね!もう見ないから許して!」

「……別に怒ってないよ……エミリアたちとも連絡を取りつつ、メサイアを探そう。動ける?」

「う、うん!この破壊プログラムをメサイアちゃんに打ち込めばいいんだよね!早速探そうー!」

「…………」

スズの掛け声にも返事をせず、リザは地図で道を確認しつつ歩き始めた。

「や、やっぱり怒ってる……?」

「……怒ってない。任務に集中して」

「うう、リザちゃんが怖いよぉ……」

914名無しさん:2021/08/14(土) 23:27:11 ID:???
 前線で戦い続けていたが、ついに捕まってしまったオト。
 激しい戦闘で消耗しきった彼女は、もはや声も出せなくなっていた。

 「ゲヘヘヘヘへ……ようやく捕まえたぜぇ。このご時世にマスクもせず歌って飛沫をばら撒きまくるたぁ、いい度胸だなあ!」
 「ぐ……ぅ……!」
 「こうしてよく見りゃ、かなりの上玉……!歌は下手くそだったが、身体は極上じゃねえか、キヒヒヒヒ!!!」

 ミノタウロスとトカゲの魔物に下卑た視線を浴びせられても、抵抗はおろか声も出せない。
 オトのイタミワケは出血こそしないが、その痛みは確実に術者の体力を奪う異能。
 戦闘中に自分の痛みに加えて他人の痛みまで肩代わりするのは、並大抵のことでは不可能。
それでもオトがここまで戦えたのは、ヴェンデッタ小隊としてではなく、大切な仲間を守るためであった。

 (もう声も、出ない……結局兄貴と同じ末路か……でも、後悔は、してないけどな……)

 「さあ身包み剥がすぜ!戦場の1番の楽しみは、敵国の女を犯すことって相場が決まってらぁ!」
 「キヒヒヒヒ!脱皮したてのツルツルチンポを上と下の穴に突っ込んでやるぜェ!」

 ようやく捕まえた美少女に舌鼓をうつ魔物たち。
 ボロボロの戦闘服を強引に引き剥がすと、オトのむっちりとした柔肌が魔物たちの前に姿を表した。
 
 「ゲヘヘヘ……引き締まった体してるじゃねえか。さすがミツルギのくノ一……だが、どこまで耐えられるかなッ!」
 ミノタウロスはそう言いながら、オトの体を引き倒して仰向けの上にマウントポジションを取った。

 「ぐあっ!」
 「俺たちを散々コケにした罰を受けやがれ!オラッ!オラッ!オラァッ!」
 「ひっ……!あがっ!ごぶっ!ぐええっ!!」
 ミノタウロスの大岩のような拳が、1発、2発、3発とオトの腹に容赦なく突き刺さる。
 肋骨がさらに砕かれた激痛に、オトは目を見開いて絶叫した。
 
 ミノタウロスは教授ガチャの中では中位に存在している。
人間と同じ二足歩行かつ凄まじいパワーと高い知性を持つ彼らは、魔物軍の中でも白兵戦に優れる上級戦闘兵だ。
その拳の威力は、本気を出せば人間の骨など易々と砕くという。

 「とはいえ、いきなり殺しちゃ面白くねえ……嬲って嬲って絶望させて、壊してやるよ」
 「キヒヒヒヒ!それなら俺の舌でこうして、がんじがらめにしてやろう……!」
 「おお!トカゲのダンナ、気がきくじゃねえか!」
 
 「うぐっ……!あッ!」
 トカゲ兵の粘つく長い舌が、オトの腰と足に何十にも巻きつき拘束される。
 彼女が助かる道は、あるのだろうか……

915名無しさん:2021/08/15(日) 18:21:23 ID:???
「よーし、行くわよ!!せーのっ……」
……ドゴォオオオオンッ!!

敵に包囲された基地からの脱出を図るエルマ達。
その方法はいたってシンプルで、砲撃機兵サフィーネの使っていた大砲を使って基地の外壁を破る、というものだった。

「穴が開いた!……魔物が飛んで入ってくるかもしれないわ。急いで脱出よ!!」
「サクラ、あなたのホウキ…ホウキ?は、何人くらい乗れる?」
「ええと、4人……5〜6人くらいなら何とか……!!」

2本のホウキを合体させて作った「フライングボート・ツインターボ」は、
スピード、安定性、居住性、その他において普通のホウキを遥かに凌ぐが……これほどの大人数を乗せた事はない。
加えてサクラの魔力も枯渇寸前。非常に危うい賭けだが、他に助かる道はなかった。

「……ギリギリ全員、行けるかしら……と、とにかく後は、オトを……」

エルマがオトの姿を探そうとした、その時。

………ドガンッ!!……べちゃっ!!

「………!!」
敵のボスと戦っていたイヴ……の上半身が飛んできて、壁に激突した。

「……………。」
「え………ちょ、これ……」
「いっ………イヴ……ちゃん……?………い、やぁぁあああっっ!!」

巨大な剣で横薙ぎに斬られ、吹き飛ばされ……下半身は、離れた所に転がっていた。
即死……いや、かすかにまだ息があるが、時間の問題だろう。
余りの無残な状態に、エルマは絶句。サクラは……耐えきれず、泣き叫んだ。


「落ち着いて、サクラ!……今は、全員で……」
(そうか……さっき私は「全員で脱出する」って言った。
だけど、サクラにとっての「全員」は……)

エルマは泣き崩れるサクラに声を掛けようとして、気づいてしまった。

エルマにとって「全員」は、小隊のメンバー、あとはエミルくらい。
だがサクラはイヴと旧知の仲であり、更に言うなら唯も、桜子達と知り合いだった……


「っうぁああああああぁっ!!放せ、はなせぇええええ!!」
「グヒヒヒッ!!めちゃカワお姉さんのバラバラ死体みーっけ!!いや生きてるからバラバラ生体か?」
「ツーカこれどういう仕組みなんだろな!科学の力ってスゲー!」

「デストラクション・ねじ回し」でバラバラにされた桜子の身体に、ゴブリンやインプたちが群がっている。

じゅぽっ!じゅぷ!! ばちゅん!ばんばんばんばん! むぎゅっ!
「や、やめ…!!…っぐ、むぅうっ!!」
がりっ!ごり!!ブチッ!!
「あっぐ……うぐ、あああぁぁっ!!」

口や前後の穴、胸の谷間にペニスをねじ込む者もいれば、
太股を齧る者、脇腹に噛みついて血を啜る者、
腋の下や臍など敏感な箇所を舐め回す者など。
バラバラ状態ではろくに抵抗もできず、あらゆる場所を多数の魔物に好き放題されていた。

 「俺たちを散々コケにした罰を受けやがれ!オラッ!オラッ!オラァッ!」
 「ひっ……!あがっ!ごぶっ!ぐええっ!!」

巨大なミノタウロスに嬲られる、オトの絶叫が耳に突き刺さる。

「エルマさんっ………オトさんが………!」
「…………。」
(どうする……どうすれば、いいの……時間がない、すぐに決めないと……!)

エルマは思い知らされた。
この場の全員で助かる、というのがそもそも無理な話だったと。
隊長である唯は気絶、そして他のメンバーもまともに動ける状態ではない。
自分が決断しなければならないのだ。誰を切り捨てるのかを……!

916>>913から:2021/08/15(日) 23:06:56 ID:???
「…………。」
「…………………。」

黙々と歩き続けるリザの後に、黙ってついていくスズ。
その表情は、いつになく暗く沈んでいた。
(どうして、いつもこうなっちゃうんだろ……私はただ、リザちゃんを死なせたくないだけなのに……)

これまでのリザの道のりは、常に死と隣り合わせだったと言っても過言ではない。
実はスズはこれまでにも、リザが死の運命から逃れられるよう、運命を選択し続けていた……

「いつから………見てたの」
「………え?」
リザが立ち止まり、ぽつりと呟く。
それは、リザの心の中に渦巻いた、スズへの疑念だった。

「あの日の、私の運命を見ていたって言うなら………あなたは、見殺しにしたって言うの?お姉ちゃんを……!!」
「そ………それは………!!」

「ずっとずっと、黙って見てたって言うの……!?
お父さんや、お母さん、ミストやレオ、ドロシーや、アイナが、みんなみんな死んでいって!!
私だけが生き残って、苦しんでるのを、ただ………!!」

「そ……そうじゃないよ……!!私はリザちゃんを、死なせないために、必死で……」
「そんな事……誰も頼んでないっ!!」
「………!!」

リザは道端の木に拳を叩きつけ、叫ぶ。
そしてビクリと身をすくませるスズに目もくれず、一目散に駆け出した。

「ま………待って、リザちゃん……!!」

リザが己の運命を呪った事は、一度や二度ではなかった。
普段どんなに考えないようにしていても、死んでいった家族や、ドロシーやアイナの事は忘れる事など出来るはずがない。

そして、こうも考える。
彼女たちが死んだのは、自分の呪われた運命のせいではないのか……
自分のせいで、みんな死んでしまったのではないだろうか。私さえいなければ……

「ぜーっ……ぜーっ……ま、まって………リザ、ちゃん……そっちの方向、は……!」
リザの後ろ姿が、あっという間に森の奥へと消えていく。
元引きこもりで人並程度の身体能力しかないスズは、あっという間に置いて行かれた。
そして………


「はぁっ………はぁっ………はぁっ………!」
(最低だ…………私は……)

走りながらリザは、深い自己嫌悪に陥っていた。

自分を取り巻く「運命」そのものに対する、激しい憎悪。
リザの心の中の、最も暗く醜い部分を……あろうことか、仲間であるスズに向けてしまった事で。

だが。
恨んで当然なくらいには、運命から嫌われているのもまた事実。

スズを置いて全力で走り、息を切らしたリザの前に現れたのは………


「やっと会えたわね。探したわ………リザ」
「……お姉……ちゃん……」

リザの姉、ミスト。
トーメントの手先として凶行を続けるリザを止めるため、ミツルギの戦線を離脱して各地を遊撃していた。

ミツルギ討魔忍五人衆でもある彼女にとって、
リザが特殊部隊に配属され、ここナルビアの戦線に投入された、という情報を掴むのは……
そう簡単ではなかったが、執念でやってのけた。

「今度こそ、私があんたを止める。……たとえ殺してでも」
ミストは胸の前で手の平を合わせる。左手を下、右手を上に向ける。
反射的にリザも、同じ挨拶を返す……アウィナイト式の、出会いと、「別れ」の礼である。

「………私、は……」
固い決意と覚悟を胸に、リザの前に現れたミスト。
だがリザは……

<私にお姉ちゃんは……ミストは殺せません>
<……どんな条件を出されても……やっぱり私には……できません>

残影のシン、ミストを殺せ、という王からの命令を、この戦いに赴く前に取り下げてもらったばかりだ。
いざ出会った時にどうするべきか……考える暇もないままに、今こうして再び出会ってしまった。

「こんなのって、ないよ……どうして、いつも……」

………運命はいつだって、考えたり悩んだりする時間を、与えてくれない。
魔剣シャドウブレードが、血に飢えた獣のごとく震え……流れるように鞘から抜き放たれた。

917名無しさん:2021/08/16(月) 02:30:16 ID:???
 「……いくよ、お姉ちゃん」
 (……前に戦った時と目が違う……戦う覚悟はできているみたいね)

 前回の戦いにはなかった闇の魔力を注がれたナイフを見て、ミストは確信した。
 いざとなれば姉を殺すために、リザは新たな武装を準備してきたことを。

 「「「たあああああっ!!」」
 「えっ……!」

 刹那、背後と左右から、3人のリザが襲いかかる。
 ミツルギに伝わる分身の術の類かと思ったが、リザに印を結んだ様子はない。

(これは……私の体得していないシフトの力!)

 リザがマルチシフトと名付けた複数箇所へのテレポートに対し、ミストは長刀を薙ぎ払いつつ、最小限の動きで3人のリザを仕留めた。

(斬った瞬間に消えた……手応えもない。こんな能力を会得していたとはね)
「こっちだよ」
「ッ!?」

 息がかかるほどに背後へ肉薄されたことに気づき、背後を斬り払いながら後退するミスト。
 だがそこにリザの姿はなく、シフトの残滓である僅かな時空の揺れが残されていた。

「…………」

 訪れた静寂に、ミストは全神経を張り巡らせる。
 リザが前回とは比べものにならないほどの実力を身につけていることは、肌で感じられた。

(……気配が全くない。一体どこにいるの……ッ!?)

 現在地の森の奥から一転、なぜかミストの視界が瞬時に切り替わり、足元には断崖絶壁があった。



「こ、ここは……ナルビアの終末の断崖!?」

 先ほどまでいた森の奥からそう遠くない場所にある、終末の断崖と呼ばれる、ゼルタ山地の断崖絶壁。
どういうわけか、ミストは今その断崖絶壁のそばに立っていた。

 シフトチェンジ……自身と対象者の位置を入れ替える異能の力だが、これもミストは習得していないシフトの異能力である。
突然の場所変えに戸惑っていると、反対側の断崖にシフトでリザが現れた。

「薄暗い森の中より、こっちの方が戦いやすい」
「……シフトから派生する力をいくつか使っているようね」
「……無策でお姉ちゃんに勝てるわけないからね」



 崖の下から強い風が吹き、リザとミストの服を揺らす。
 リザは潜入用の黒い戦闘服。漆黒の黒と鮮やかな金髪のコントラストが印象的だ。
ちなみに今回は教授にしっかり希望を出して露出を抑えてある。
 
ミストは前回とは違い、軽装である討魔忍の忍び装束を纏い、ボイスチェンジャーや兜はつけていない。
奇しくもミストは白装束を纏っており、姉妹で黒と白の対比が生まれていた。



 「……この崖に落ちれば、死体の処理は必要ない。戦いの後はすぐに立ち去ることができる」
 「…………」
 
 冷たい声でリザはそう言い放つ。
真っ暗な谷底は、川に繋がっているらしい。そしてその先は、アウィナイトの民が崇める、母なる海である。

 「……リザ。前にも言ったけど、トーメント王に操られているのなら、私が王を殺してみせる。だからもうあの男に従うのはやめて」
 「それこそ前にも言ったでしょ?私は自分の意思でトーメントの暗殺者になったの。お姉ちゃんになんと言われようと、アウィナイトのみんなを守るために十輝星をやめるつもりはない……同じことを言わせないで」
 「そう……操られてるわけでもない、か。それなら、ミツルギの兵士としても姉としても、アンタを斬るしかないわ」

 改めて長刀を抜いたミストに対し、リザも仕込みナイフを構える。
 張り詰めた空気の中、風の音も自分の息遣いすらもリザはうるさく感じた。

 (……この戦いの中で、答えを見つけるしかない。私が、お姉ちゃんを、どうするのかを……!)

918名無しさん:2021/08/22(日) 18:34:31 ID:???
束の間の休息を終え、任務を再開したエミリアとカイト。
メサイアと呼ばれる秘密兵器を探して、ナルビア軍の本部を目指していたが……

「おうおうテメェ!いっちょ前にマブいスケ連れてんじゃねーか!」
「ようようねーちゃん!そんなイケてない野郎より俺らと遊ぼうぜえ!」

……魔物に絡まれていた。

「くっ……またか!?………水流斬!!」
「なんなのさっきから!魔物兵って、一応味方のはずじゃ……ファイアボルト!」
「「ッグアアアアア!!」」

味方のはずのトーメントの魔物兵に、昭和の漫画に出てくる不良みたいなノリで頻繫に襲われる。
どうやら魔物達は、敵味方の区別なく人々(主に女の子)を襲っているようだ。


「それにしても、魔物の量が多すぎますね。それに空の様子も……」
「うん……何か、とんでもないことが起きてるみたい。リザちゃん達、大丈夫かなぁ……」

空は真っ黒な雲に覆われ、ところどころ漏れ出てくる陽の光も血のように真っ赤だ。
邪悪な魔力……いわゆる瘴気のようなものが周囲に漂っているのも感じる。

不安を抱えつつも、二人は魔物達をやり過ごしながら、細い崖道を進んでいく。
すると………
白衣を着た科学者らしき女性と、白い髪、白を基調とした軍服の少女が歩いてくるのが見えた。

「待った、エミリアさん。……誰か来ます。どうやら……女性の二人連れ……」
「あの服装……ナルビアの科学者さんかな?」
「もう一人は軍人ですが……無駄な戦闘は極力避けたいですね」

まずいことに、道の横は岩壁と切り立った崖。身を隠す場所がない。
そこで……

「!!……前方に生体反応……識別コードなし」

「……そこの二人、止まってください。
この先は戦闘区域で、トーメントの魔物が異常発生しています。
至急引き返すか、別の道へ迂回してください」

……仕方ないので、堂々と姿をさらす事にした。
こちらの方が戦力が上である事、かつ戦う意志がない事をアピールしつつ。

「あらあら。ご親切にどうも〜。でもあなた達って、トーメントの軍人さんよね?」
「ええまあ、そうなんですけど……お互い、無駄な争いは避けたいと思いまして。
このあたりは魔物兵が多くて、特に女性だけだと危険です。迂回するか、引き返した方が良いですよ」
(………あれ?あの科学者の人、どこかで見たような……)

「ふーん。トーメントは糞みたいな奴ばっかりだと思ってたけど、案外いい人もいるのねぇ。
でも心配いらないわ。この子、それはもうメチャメチャ強いのよぉ?
聞いたことあるでしょ?ナルビアの秘密兵器、メサイアって……」

「え?………メサイア……って」
「まさか………こんな子供が!?」
科学者の口から出た思わぬ言葉に、カイトとエミリアは絶句した。

「ふふふ……あなた達、メサイアをどうにかするためにここまで来たんじゃないのぉ?
攻撃対象がどういうものかも知らされてなかったなんて、間抜けな話ねえ」
「!!………」

返す言葉もなかった。
『破壊プログラム』が入っているというダーツ型デバイスの形状から、
相手は機械ではなく生体兵器の類か、と予想してはいたのだが……

「まさか、こんな可愛い女の子だったなんて……どうしよう、カイト君」
「………やるしか、なさそうですね。僕が相手の動きを止めます。エミリアさんは援護を」

にわかに両者の間に緊張が走り、エミリアは魔法詠唱の準備に入る。
カイトも長刀を抜き放ち前に出た。

「どうしますか、マスター」
「ふふふ………調水の継承者に、爆炎のスカーレット……予定にはなかったけど、初戦の相手としては悪くないんじゃない?
割と親切な子たちだったし……お礼に少しだけ、遊んであげなさい」

「了解……雷魔剣ブラストブレード、出力25%……」

919名無しさん:2021/08/22(日) 18:39:19 ID:???
「水練一刀流、カイト・オーフィング……参るっ!!」
「行くよカイト君!!『グレーターストレングス』!!」

……ガキィィンッ!!

エミリアの魔法で筋力強化されたカイトの一撃を、雷の魔剣で受け止めるメサイア。
凄まじいパワーのぶつかり合いに、周囲の大気がビリビリと振動する。

「なっ………互角……!?」
「………大したものね。本気じゃないとはいえ、メサイアちゃんの剣を受け止めるなんて」

体格ではカイトが明らかに有利。しかもエミリアの魔力で筋力強化で大幅に強化されていたにも関わらず、
全力の一撃はメサイアに易々と受け止められてしまった。

「雷魔剣ブラストブレード出力調整、30%……40%……50%」
メサイアはバックステップで距離を取ると、更にパワーを上げ、刀身に雷の魔力を発生させる。

「……カタストロフィ・ブロンテ」
………バチバチバチッ!!
少女の華奢な身体からは想像もつかない、豪快な横薙ぎの斬撃。
そこから繰り出される、雷を纏った衝撃波が、カイトとエミリアを襲った。

「あぶないっ!!……プロテクトシールド!!」
ミシッ……ミシッ……バキンッ!!
「!!……まずいっ!」

咄嗟に前に出て、魔力障壁を張るエミリア。
だが、エミリアの防御魔法も見る見るうちにひび割れ、ものの数秒で障壁は破壊されてしまい……

……ズドォォォオンッ!!

「う……!!………」
「………………。」

「あ………あれ、何ともない……?……!!……カイト君っ……!?」
激しい爆炎が収まり、エミリアが目を開けると……
自分に覆いかぶさるようにして倒れている、カイトの姿があった。
背中を大きく切り裂かれ、倒れたまま動かない。

「あらあら……魔法使いちゃんをかばったってわけ?
流石イケメン君はやる事がいちいちカッコいいわねぇ」
「そ……そんな……カイト君、目を開けて、お願いっ……!!」

急いで回復魔法を詠唱するエミリアだが、どうやら傷はかなり深いようだ。
カイトは目を覚ます気配はない……

「目標Aのバイタル低下……戦闘不能を確認」

「ふふふ……ありがとう。ちょうどいい遊び相手だったわ。
もう一人は例のアレで、手っ取り早く片付けちゃいましょう」
「了解……ゼロエネルギー照射」

エミリアに向け、メサイアが手をかざし、指先から光線を放つ。
するとエミリアの回復魔法が、ぴたりと途絶えた。

「……え、あれ?……なんで、魔法が使えないの…………それに……動けないっ……!……」

魔法を封じられ、動揺するエミリア。
その身体がふわふわと浮き上がり、白い魔法陣のようなフィールドに大の字の体勢で磔にされてしまった。

あらゆる力が無効化される「ゼロエネルギー」。
ひとたびこの力で拘束されれば、魔法や特殊能力の類を封じられ、身動き一つできなくなる恐るべき能力であった。

「ふふふ……個々の実力も優秀だし、連携もなかなかイイ線行ってたけど……相手が悪すぎたわねぇ。
じゃ、そろそろ行きましょうか、メサイアちゃん」

「!!………ま、待って……!!」
「………おっと、脚が滑っちゃったわ……よいしょっと♪」
「……っっ!!」
空中で身動きできないエミリアの目の前で、
ミシェルは傷つき動けないカイトを崖の下に蹴り落とす。

「かっ……カイト君っ!!……そん、なっ……どうして……!!」
「ふふふふ……あらあらごめんなさぁい。
アナタ達みたいな素直なイイ子ちゃんを見ると、ついつい虐めたくなっちゃうのよね♪」

エミリアは必死に手足に力を込め、ミシェルを睨みつけるが、ゼロエネルギーの拘束はビクともしなかった。

「そうそう……あなたには、さっきの忠告そのままお返ししてあげる。
このあたりは魔物兵がウジャウジャいるから、女の子ひとり……
しかも魔法も使えなくて身動きできないんじゃ、と〜〜ってもアブナいわよ。
せいぜい気をつけてね♪あはははははは!!」

「い、いやっ……カイト君っ……カイトくーーーんっ!!」
悠然と立ち去っていく二人を、磔にされたまま黙って見送るしかできず。
エミリアは崖下に落ちたカイトの身を案じ、悲痛な叫び声をあげた。

920名無しさん:2021/08/22(日) 18:43:12 ID:???
「おい。しっかりしろ、若造……まだ生きてるかぁ……?」
「!!………ここ、は……って、うわああ!!」

……崖下に落ちたカイトが、目を覚ますと……目の前に、骸骨の顔があった。

「……ボ、ボーンドさん!?……あーびっくりした……って、痛っ!!」
「せっかく骨身を惜しまず助けてやったってのに、随分な言い草だなぁオイ。
……っと、まだ動くなよ。
俺はアンデッドだから回復魔法とかムリなんで、雑に応急手当てしただけだからな。
まあ、ダメージの半分は俺の使い魔に肩代わりさせてるから、死にはしないだろ」

ボーンドの後ろに、もう一体のスケルトンが控えていた。
その背中には、大きなキズがついている……あれがどうやらボーンドの言う「使い魔」らしい。

「肩代わり?……よくわからないですが……おかげで、だいぶ楽になりました。ありがとうございます」
「……ま、あくまで痛みを和らげてるだけで、重傷には違いない。
あの魔法使いの嬢ちゃんにでも、治療してもらうんだな」

「魔法使い……そうだ、エミリアさんが、崖の上に!!」
「なに?……一体何があったんだ?」
「それが……かくかくしかじかで、崖の上でメサイアと戦闘になって……!」
「そいつはマズいな……そんな化け物相手に、嬢ちゃん一人じゃ……」

「……きゃああああああああぁっ!!」
「エミリアさんっ!!早く行かないと……っぐ……!!」
「仕方ねえなぁ……お前さんは大人しくしてろ。俺の使い魔に、助けに行かせる」

………………

一方その頃、崖の上では。

「いっ……いやぁっ……来ないでっ……!!」

メサイアのゼロエネルギーによって動けないエミリアを、
早くも魔物が嗅ぎつけて襲い掛かっていた。

「ヌメヒヒヒヒ……こんな所で、かわい子ちゃん無防備に磔されてるなんて、ラッキーだナメ……!!」

【ワースラッグ】
全身がぬめぬめの粘液に包まれた、ナメクジ型の亜人。
体表を接触させることで獲物の魔力や生気を吸収する。

じゅぶじゅぶにちゃぁ……………にゅるっ!……
「い、や……気持ち悪いっ……触らないで……ひゃうぅんっ!!」

ナメクジの獣人ワースラッグは、ヌメヌメの身体をエミリアの身体に絡みつかせ、
極上の魔力を体全体で吸い上げていく。

ぐちゅっ……じゅるるるるぅっ!!
じゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼ!!
「フヒョヒヒヒヒ……どこもかしこも肌がスベスベ柔らかくて、最高の感触ナメ……
こいつは吸い付きがいがあるナメ!!」
「ぎゃ……ぁう………んふあああああああぁぁぁっ……!!」
急激に魔力を吸われる事による喪失感、脱力感。
さらには粘液の毒がもたらす、性的に快楽にも似た多幸感。
身動きできないながらも必死に抵抗しようとしていたエミリアの瞳が、徐々に光を失っていく……


「次はいよいよ、ここから吸ってやるナメ……人間のメスは、この柔らかい所から吸う魔力が一番ウマいナメ……!!」
更にナメクジ獣人の手足が、エミリアの服の隙間、下着の中にまでじゅるじゅると潜り込んでいく。
そして、むっちりしたほどよいボリュームの胸、そしてパンツの下の秘所の中にまで潜り込もうとしている。

「や……ぁっ……これいじょう、ひゅわれたら……おかしくなっちゃ……ひゃあああああああんんっっ!?」
じゅぶじゅぶじゅぶっ!……ちゅるるるる!!……じゅぽっ!!
「ヌメヒャハハハッ……美味い旨いウマい……こんなにウマい魔力、初めてだナメェ!
それに、吸っても吸っても魔力の蜜が体中から溢れてくるナメ……こいつは極上の餌だナメッ!!」

意識が朦朧として呂律が回らず、それでも本能的な危機を感じたエミリアの哀願は、あっさりと無視された。

じゅぶぶぶぶ!!じゅるるっ!!
ぬちゅっ!ぬちゅっ!にゅるるるるっ!!
ぎゅぽぎゅぽぎゅぽぎゅぽっ!!
「や、ひぁぁあああぁぁぁんっ……!!……い……やぁ……もう、やめてぇっ………!」
「ヌヒャハハハハ!!最高だナメェッ!!空になるまで吸い尽くしてやるナメェェ!!」

視界がちかちかと明滅し、エミリアの意識が闇の底に堕ちようとしていた、その時……

「ケッ……ザマァねえぜ。俺様を殺しやがった『爆炎のスカーレット』が、こんなザコに良いようにやられてるなんてな……」
「え…………あなたは……」
「な、何者だヌメェっ!?」

黒い骸骨が地面から這い出し、禍々しいナイフを手に呟いた。

921名無しさん:2021/08/22(日) 20:08:50 ID:???
びちびちびちっ!!じゅぶぶうっ!!
「ッギアアアアァッ!? や、やめろ!やめてくれナメェェッ!!」
「ったくよぉ。なーんで俺様が、こんなキメえ奴を解体さなきゃなんねえんだか……」
「っ……ん、くあぁぁっ……!!」

黒い骸骨はブツブツと文句を吐きながらも、ナメクジ獣人にナイフを突き立ててあっさりと仕留める。
ナメクジの死体をエミリアから引きはがすと、固まりかけの糊のような粘液がエミリアの肌の上で糸を引く。
魔力を大量に失って、感覚が鋭敏になったエミリアは、その異様な感触に、こらえ切れず甘い声を漏らした。

「ケッ……暢気なもんだぜ。
俺はボーンドの旦那から、テメェを死なせず連れ帰るよう、命令されてる。
これがどういう事かわかるか……?」

「え………ボーンドさん、の……?」
「テメェ……俺様の、このナイフを見ろ……忘れたとは言わさねえぜ!?」
「きゃっ!?」
スケルトンはナイフを振りかぶり、エミリアの首の横に思い切り突き立てた。
白い魔法陣が砕け散り、拘束を解かれたエミリアはお尻から地面に着地する。

「!!………ま、まさかあなたは……ヴァイス……!?」
「そういう事だ。テメェのせいで、俺様は哀れなアンデッドの身ってわけよ……
こんな身体じゃ、女を犯すのも満足にできねえ。
マスターの命令に逆らえねえから、好き勝手に嬲り殺す事も出来ねえ。まったくムカつくぜ!!」
「そ、そんな勝手な事……!」

「だから、こういう機会は大事にしねえとなぁ?俺に下された命令は、テメェを死なせねえこと……
つまり、殺しさえしなけりゃ何やったっていい、って事だよなぁ!?」
「!?……そ、そんな……やっ………やめてっ……いやあああああぁっ!!」

グサッ!!ザシュッ!!ドスッ!!
「っひぎ!!うあああぁっ!!いやあああああああっっ!!」

ヴァイスはエミリアに馬乗りになり、脇腹や手足、肩口など、エミリアの全身いたる所に黒い刃を突き立てる。
急所を巧みに避け、殺さないよう、生かさないよう、ギリギリの所で苦痛を与え続けるように。

「さぁーて……俺様の繁殖肉ナイフは無くなっちまったし、
代わりに地獄から持ち帰った『真・斬魔朧刀』で、てめえのマンコグチャグチャに切り刻んでやろうかぁ!?」
「っ……ファイアボル……」
「へへっ!やらせるかよぉっ!!」
……ザシュッ!!
「っうあああああっ!?」

魔法少女殺しの刃を手の平に突き立てられ、エミリアの反撃の魔法は打ち消された。
もうエミリアに、抵抗、反撃する気力は残っていない。
かつてヴァイスと戦い、殺されかけた時の恐怖が蘇り、ただ苦痛と凌辱の嵐が立ち去るのを待つしかできなかった………

「………その辺にしておけ、ヴァイス」
「ああん?……なんだ、シラベの野郎か。今良い所なんだから、邪魔すんなっての」
「それ以上やれば、娘は死ぬ……主の命令に背けばどうなるか……わかっているだろう」

しばらく後。エミリアを好き勝手に切り刻むヴァイスの元に、もう一体のスケルトンが現れる。

「ちっ!……しゃーねえなぁ、エミリアちゃん。優しい優しい俺様が、今回だけは特別に命を助けてやる。
いずれお前もリザの奴も、まとめて俺様のナイフで切り刻んでやるよ………ヒヒヒヒ」
(………そん、な………どうしてヴァイスが、ボーンドさんの……)

シラベ、と呼ばれたスケルトンがエミリアの身体に手をかざすと、エミリアの全身の痛みが引いていき、代わりにスケルトンの身体のあちこちが傷つき、ひび割れていく。
まるでスケルトンが傷の痛みを引き受けているかのような不思議な術だが、
当のエミリアにそれを気にする余裕はなく、スケルトンに抱きかかえられたまま意識を手放した。

922名無しさん:2021/08/22(日) 23:43:28 ID:???
「エミリアさんっ!!しっかりしてくださいっ!!」
「………あ、カイト君……無事だったんだね……よかった」

カイトの必死の呼び声で、エミリアは再び目を覚ました。
その後ろにはボーンドと、2体の使い魔……スケルトンが居る。

「ヴァイス……お前やりやがったな?」
「へっへっへ……何のことだ旦那ぁ?俺が行った時にはもう、魔物に滅茶苦茶にヤられてたぜ」
「ふん………まあいい。一応二人とも生きてる事だしな。
……嬢ちゃん、その若造と自分の分、回復魔法で治療できるか?」

「は、はい。ありがとうございました、ボーンドさん……!
じゃあカイト君。ケガを見せて……」
「僕は後でいいです。エミリアさんの方が重傷じゃないですか……くそ、メサイアめ……許せないっ……!!」
「わ、私は大丈夫だよ……見た目ほどは傷が深くないみたいで、あんまり痛くないし……」

お互い遠慮しあっていたが、とにかくカイトの背中に手をかざし、治療を始めるエミリア。
その様子を見たボーンドは……

「しかし……若造。お前、大丈夫なのか?」
「え……ですから、僕の傷は大丈夫です。そちらの使い魔さんにも痛みを和らげて頂きましたし」
「いや、そういう事じゃなくてだな……まあいいか」

パラシュートで降下する前は、女嫌いで触れられるのも嫌だと言っていたはずだが……
あの荒療治が、思った以上に功を奏したのだろうか。

「しかし……これからどうしたもんかねえ。
若造の話じゃ、メサイア達はアレイ前線基地に向かったみたいだが……」
「僕たちだけでは、破壊プログラムを打ち込むのは難しいと思います……まずは、スピカ隊長と合流しましょう」
「そうだね……リザちゃんとスズちゃん、無事だといいけど……」

………………

そして、エミリアとカイトを退けたメサイアと共に、山道を進んでいくミシェルは……

「……これが、破壊プログラムねぇ。
メサイアちゃんが素直に言う事聞いてくれてる分には、必要ない代物だけど……」

カイトが落としたダーツを密かに回収し、その内容を確認していた。
注文通り、このプログラムを打ち込めばメサイアの「人格を」完全に破壊できるだろう。

「………マスター。これで、良かったのでしょうか……先ほどの方たちは、本当に倒すべき『悪』だったのでしょうか」
前を歩いていたメサイアがふと立ち止まり、ぽつりと呟く。
敵対する立場とは言え、彼らは自分たちが魔物に襲われないか心配してくれていた。
……悪人だったとは、どうしても思えない。

「あらあら……メサイアちゃんたら。倒しちゃってから言わなくても良くない?
だいたい、さっきの子たちは向こうから襲ってきたのよぉ?」
「それは確かに、そうですが……」

「メサイアちゃんは、とっても素直でイイ子だけど……悩めるお年頃みたいねぇ。
あなたは何も心配せず、私の命令に従っていればいいの」
「…………。」

不気味な笑みを浮かべるミシェル。その様子を見て、メサイアは不安に駆られた。
(マスターの命令は絶対……リンネの負担を軽減するため。ナルビア王国を守るため……ですが……)

(ふふふ………もうしばらく、私の手の平の上でコロコロ転がっててもらうわよ。世界最強の破壊兵器ちゃん……♪)

923名無しさん:2021/08/25(水) 13:13:11 ID:???
「はあああああああっ!」

沈黙を破り、長刀を構えたミストが勢いよくリザに斬りかかる。
できるだけ引きつけてからシフトで回避したリザは、ミストの上方に移動し素早く体を捻った。

「転移崩襲脚!」
「はっ!」

上空からのリザの踵落としを構え直した刀でガードするミスト。
と同時にリザの姿が消え、元いた場所には闇の魔力が残された。

「これは……ぐっ!!」

リザの残した斥力を発生させる闇魔法、ダークショックで吹き飛ばされるミスト。
すぐさま空中で受け身を取ると、目の前にはリザの白刃が迫っていた。

キィン!!
「ぐ、くぅッ!!」

振るわれたリザのナイフを、辛くもガードするミスト。
一瞬間近で見えた妹の顔は、目を伏せ、思い詰めたような顔だった。
そして、またもその姿は一瞬で消え……

ヒュンッ!
(なっ!?また場所が変わって……!)

リザの攻撃をガードした時よりも、さらに高高度の空中に投げ出されたミスト。

「くっ……ああっ!!」

その上空でまたも先ほどの闇魔法、ダークショックが発動し、ミストの体はさらに吹き飛ばされた。

「これで……とどめっ!!」
「がはあ゛あ゛ぁ゛ッ!!!」

吹き飛ばされた先に先回りしたリザの三回転スピンからの強烈な回し蹴りが、ミストの体に叩きつけられる。
たまらず濁った悲鳴を上げたミストは、悲鳴を上げながら地面に叩きつけられた。



「痛っ!あ゛っ!がはっ!ぐっッ!」
「…………」

地面をバウンドしながら吹き飛ばされた後、地面に倒れ伏すミスト。
一連のリザの猛攻に、ミストは成す術がなかった。
シフトチェンジで空間認識をしている間に来る攻撃を回避することは困難。
そしてリザのシフトの正確性とタイミングの妙技。
転移座標に寸分の狂いもない追撃と、攻撃をガードしても2手3手先を読まれたかの様な追撃が入ってくる。

(これが……リザではなく、スピカの力……!)
「…………」

だが、ミストがよろよろと立ち上がる隙だらけのチャンスにも関わらず、リザは離れた場所で目を伏せていた。

「ぐっ……リザ、あんたこの後に及んでまだ迷ってるっていうの……?」
「……迷うも何もないよ。お姉ちゃんと戦いたくなんかないのに……どうして、こんなこと……ッ!」

イラついているのか、悲しんでいるのか、それともその両方か……
青い目に少しの赤が差された瞳をゆらゆらと揺らしながら、リザはわなわなと両手を振るわせた。

「さっきの連携も、蹴りじゃなくてナイフで刺せば、私は終わっていたかもしれないのに……」
「そんなこと、できるわけない……でもお姉ちゃんが私を殺そうとするなら、私は……ここで死ぬわけにはいかないっ……!」

片手で頭を抱えながらも、毅然と言い放つリザ。
前回のように泣いたり喚いたりはしないながらも、まだ彼女の中には迷いがある。
その迷いが命取りになることを知りながらも。

「いいわ……私も、この技を使いたくはなかったけど、本気を出す」
「えっ……?」

ミストが前に手をかざすと、構えると、魔力が人の姿を形作り始め、もう1人のミストを作り出した。

「お、お姉ちゃんが2人……?」
「幻覚じゃないわよ。どっちも本当の私。ミツルギの分身の術を、私の魔力でより強化した術……シフトコピー」
「シフト、コピー……」

リザのマルチシフトも分身を作り出す技だが、もう1人のミストは作り出された魔力で存在が固定されている。
肉体改造の結果、シフトに魔力を使わなくなったミストだからこそできる離れ業だ。

(持続時間は5分くらい……この技で一気に勝負をかける!)
「リザ、覚悟ッ!!」
鏡合わせのミスト2人がシフトを使い、リザに襲い掛かる!

924>>906から:2021/09/19(日) 15:49:13 ID:???
ガキィィンッ!!
「はああぁぁぁっ!!」
「うおおおおぉっ!!」
「ククク………そぉれっ!!」
エリスの槍、アリスの針とゾンビキメラの大剣が激しくぶつかり合う。

「止められたっ……!?」
「ふふふ……威勢だけはイイけど、その程度の力じゃあたしを倒すことは出来ないわよっ!」
二人の突進はあっさりと止められ、弾き飛ばされてしまう。
様々な魔物を取り込んだゾンビキメラの力は強大。
強化スーツの力を持ってしても、純粋なパワーでは圧倒的に分が悪かった。

「うぐああっ!」
「きゃああああぁっ!!」
「くっ……強化スーツのパワーすら通用しないとは……どうする、アリス……!?」
「攻撃し続けてください、エリス……私に作戦があります」

「作戦、か……わかった。ならば、私が時間を稼ぐ」

アリスと短く言葉をかわすと、再びゾンビキメラに飛び掛かる。

ガキンッ!! ドガッ!! 

強化スーツすら通用しない圧倒的パワー差、体格から来るリーチの差。
それを補うために高速の突進を繰り返す事で、エリス自身の体力も急激に消耗していく。

「きゃははははは!!何度やっても同じよぉ!
『ナルビアの神風』って、もしかして学習能力ゼロの脳筋ちゃんなのかしらぁ!?」

「っぐあっ!……くっ……何とでも言うがいい……!」
(確かに……こんな怪物をどうやって倒せばいいのか、私には見当もつかない。
だが『作戦』がある、とアリスが言うのなら……私はそれを信じるだけだ!!)

長年共に戦ってきたエリスは、どんなに不利な状況でも常に最善手を導き出してきたアリスの『作戦』に、絶対的信頼を寄せていた。

そして、アリスは……

ドスッ! ……ガキンッ!! ゴスッ!

「んっ……ぐ、ああっ!!」
「ふ……アリスちゃんの方はもっと話にならないわねぇ。
あの変態女に全身弄られまくって、普通の人間より弱くなっちゃったんじゃないのぉ?」

「……大きな、お世話です……
もともと私の力など、エリス達に比べればたかが知れたもの……」
(そんな私に、できる戦い方と言ったら……)

エリスの攻撃もあっさり叩き落とされる。
だが、魔力で生成した針がゾンビキメラの足に突き刺さっていた。

(……あの針の毒で、人質の痛覚も遮断されるはず。
あとは、針が体内を通って脳内に達すれば……)

アリスの奥の手の一つ、暗殺用の魔法針である。
通常なら刺した針が体内を通る過程で激痛が走り、必ず相手に気付かれる事になるが、
毒で痛覚を麻痺させれば、気付かれないうちに暗殺できる。

(奴に気付かれて、針を人質の体内に送られでもしたらまずい……攻撃し続けて、奴の注意を引かないと)

二人で絶え間なく攻撃を仕掛けるエリスとアリス……だがここで、計算外の事態が起こる。

「グェッ!? しまった、その女を止めろっ!!」
「はぁっ……スバルっ!!今、助けるっ……!!」

「!?……あれは」
「春川桜子………!」

「デストラクション・ねじ回し」で全身をバラバラにされ、ゴブリンに犯されていた春川桜子だった。

925名無しさん:2021/09/19(日) 15:51:49 ID:???
「グゲゲッ!畜生、俺のチンポに噛みつきやがった!!そいつを捕まえろっ!!」
「ケケケ……おいおい。おっぱいを逃がしちまったのかよ。でもとっ捕まえる前にもう一発」
「ん、ぐうっ!?………こ、この位、でぇっ……!」

頭と上半身、左手だけでゾンビキメラに向かって這っていく。
どうやらゴブリン達から体の一部を元に戻したものの、下半身はまだゴブリン達に捕らわれているようだ。

「あらあら……スネグアちゃんのペットだったゴミムシ…じゃなくて、桜子ちゃん。
だめよぉ?そんな所で這いずり回ってたら………うっかり踏みつぶしちゃうじゃない♪」

巨大な足が、桜子の頭めがけて振り下ろされる。
その瞬間……

「調子に乗るな………今度はお前が、地べたを虫のように這う番だ!!」
ドスッ!!……ガラガラガラッ!!
「なっ!!これはっ……!?」

桜子はゾンビキメラの脚に、デストラクション・ねじ回しを突き刺した!

「おま、えっ……いつの間に、ねじ回しをっ………!!」
手足、胴体、左右の翼……ゾンビキメラの異形の巨体が分解していく。

「桜子お姉ちゃんっ!!」
両肩に取り込まれていた、スバルとメルも自由を取り戻す。

「予想外の事態ですが……好都合ですね」

アリスの打ち込んだ針は、バラバラの身体のどこに行ったのだろうか。
このままではキメラの頭を貫くことは出来ない。が……もはやその必要もなくなった。

「作戦変更です、エリス。バラバラになったパーツを叩いてください!私は、人質を……!」
「了解だ!」
「なっ……やめっ………グアァァァァぁぁぁっ!!」

ゾンビキメラの身体は、様々な魔物をつなぎ合わせたの集合体。
故に、パーツ一つ一つが独立した魔物として活動可能だが……変身したエリスにとって見れば、物の数ではない。
手足、尻尾、翼を、テンペストカルネージで一つ一つ刺し貫いていった。

そして……

「春川桜子……あの状況から復活するとは、大した物ですね。おかげで、手間が省けました……」
スバルとメルを連れ、後方に下がったアリスと桜子。
ついでにゴブリンを蹴散らし、桜子の『下半身』も回収している。

「お、のれっ……こうなったら、アンタ達の身体も取り込んであげるわっ!!」
「!……アリス、危ないっ!!」
首だけになったゾンビキメラが、そんなアリス達に襲い掛かる。
その動きは素早く、離れた位置にいたエリスにもカバーできない。

「……これで直接、奴の『頭』を狙えます」
ドスッ!!
「ッグェアッ!?」
背後から迫るキメラに振り向く事もせず、隠し持っていた針の最後の一本を、ゾンビキメラの眉間に突き立てた。


「……やったな、アリスっ!! ……よし、キメラの身体も、これで最後だ!」

エリスも、バラバラになったパーツの最後の一つ、キメラの右腕に止めを刺そうと、槍を振り下ろした。

だが……

「……クククク。
邪魔な身体が無くなって……無能な頭が潰れて………ようやく身軽になった。
礼を言うぞ、人間よ」

右腕と一体化した、巨大な刃……桜子の右腕から奪い取り込んだ異形の魔剣が、
ビクリと大きく脈打ち、刀身の半ばほどにある不気味な単眼をぎょろりと見開いた。

926名無しさん:2021/09/19(日) 19:27:29 ID:???
「な、なんだこいつはっ……槍が、抜けないっ……!?」

「ククク……あのキメラどもに吸収されたことで、他者を取り込む術を会得したのだよ。
我の場合は、生物でなく、同類である『武具』を吸収し、自分のものとする」

異形の魔剣が、エリスの「テンペスト・カルネージ」を吸収していく。
そして、まるで昆虫のような脚を生やして、大きく跳躍した。

「馬鹿な……テンペスト・カルネージが、奪われた……!?」
「エリスっ!?……これは一体……ゾンビキメラとは、別の魔物……!?」
「そもそもキメラとは、複数の魔物の集合体。融合した者の中で、最も強き魔物がその主人格を司る。
我もそのうち主人格を乗っ取るつもりだったが……お前たちのお陰で『手間が省けた』というわけだ」

異形の魔剣がエリスとアリスの周囲を飛び跳ねる。
その速度は驚異的で、消耗してろくに武器もない今の二人には、とても捉えられるものではない。

「そして、確かこの鞭は……魔物や魔獣を統べる力が備わるのだったな」
「!!それは、リベリオンシャッター……まさか!」

続いて異形の魔剣は、スネグアやゾンビキメラの使っていた、魔獣使いの鞭を吸収する。
魔剣が、この武器の能力までも取り込むことが出来るのだとしたら……

「グオォォォォ………」
「!?……この唸り声は……」
「クックック……お前達にはもう、用はない。シモンズ一族に伝わる、最強の守護魔獣とやらの餌になるがいい」

鞭を取り込んだことによって、魔獣を操り、最強の守護獣を呼びだす能力をも身に着けた。
アリス達の足元に巨大な魔方陣が現れ、怪しい光を放ち始める。

「グギエエエエッ!? な、なんだこれはぁっ!?」
「スバル、メル、逃げろっ……っぐあ!?」

バリバリッ!! ぐちゃ!!
「……ぎゃぁぁああああああぁっっ!!」

ゴブリンやゾンビキメラの破片など、魔法陣の上に居たものは、魔物も人間も関係なく次々に取り込まれていく。
足元からは巨大な何かの唸り声、何かを食いちぎる音、断末魔の悲鳴が止むことなく響き続けた。

そして………

「アリスっ……!!」
「これが………魔獣……!?」

巨大な手、巨大な顔、巨大な身体。基地の壁や天井を軽々と破壊しながら、
シモンズ家に伝わる最強の守護獣「ベヒーモス」が魔法陣の中から姿を現した。

927名無しさん:2021/09/19(日) 19:30:36 ID:???
「ななななな、何あれ!!なんか、ヤバいの出てきちゃったよエルマちゃん!!」
「エミルさん落ち着いてください!とにかく今は、サクラを落ち着かせないと……」

少し離れた所にいたエルマ達は、魔法陣から現れた巨大な魔獣の姿に、ただただ圧倒されていた。
もはや一刻の猶予もない。すぐにでも脱出したいが、魔法のホウキを操れるのはサクラだけ。

そのサクラは、ゾンビキメラに惨殺されたイヴの死体を目の当たりにして、放心状態に陥っている……

「なに、これ……イヴちゃん……どうしてこんな事に……」
とっくに動かなくなったイヴの前でひざを折り、俯くサクラ。

イヴの死体は巨大な剣で上半身だけ斬り飛ばされ、壁に叩きつけられ、無残な有様だった。
下半身は……見つからない。ゴブリンの群れがそれらしき物を抱えていたのを見た、ような気がするが、……もう見つける術はない。

「サクラっ!!……しっかりしなさい!すぐに脱出するわよ!!唯と、ルーアちゃんと一緒に!」
エルマが駆け寄り両肩を掴み、サクラを無理矢理立たせる。

「で………でも………まだ、メルちゃんが……それに、オトさんは」
「時間がないの。2度は言わせないで………とにかく、今は何としてでも生きて脱出しましょう……私たちだけでも」
「!!………エルマ、さん……」

エルマはサクラの頬を張り、肩をゆすり、有無を言わせず立ち直らせる。
ルーアは、気絶した唯をホウキに乗せている。
……そして、その後ろでは。

「あーーーもう!もう待てないわ! わるいけど私、先に行くから!!
そのホウキ、私が乗ったら定員オーバーっぽいし!じゃあね!!」
「えっ……エミルさん、ちょっと待つです。今は……」

エミルはどこから持ってきたのか、個人用のジェットパックを背負っていた。
そしてルーアが止める間もなく、壁の穴から外に飛び出していき……

「グギッ!!親方!基地から女の子(20代・白衣・眼鏡)が!」
「グヒヒヒ……ちょっと地味だが、けっこういい感じじゃねえか……一斉に行くぜお前ら!!」
「「「ヒャッハーーー!!」」」

「え?……あ、あれ!? ちょっと待って、っぎゃあああああああぁぁっっ!!!」
ガーゴイル、ハーピーなど、基地の周りを大量に飛んでいた飛行型魔物の餌食となった。

「えええ!?エルマさん、エミルさんが……助けないと!!」
「ジェットパックはあくまで非常脱出用。あんなのでフラフラ飛び出したら、そりゃああなるでしょ……」

エルマは気付いていた。
エミルが密かに、指令室に一つだけ残っていたジェットパックを隠していたことを。
基地の周りに、飛行型の魔物が大量に飛び交っていた事も。

指令室の壁に穴を開けた事で、魔物が大量に集まって来ていたが、基地内の様子がわからないため、様子見していた。
そんな中に、最低限の飛行能力しかないジェットパックで飛びだそうものなら、どうなるかは火を見るよりも明らか。

「……でもエミルさんが犠牲になっている今のうちなら、私たちは安全に離脱できる」
「エルマさん。まさか、初めからエミルさんを………」
「行きましょう………恨むなら後でいくらでも、私を恨んで」

眉一つ動かさず、あまりにも冷静なエミルの様子に、サクラはそれ以上何も言えなかった。
サクラ、エルマ、ルーア、唯の4人を乗せた改造ホウキ「フライングボート・ダブルジェット」は、
エミルの断末魔を背に受けながら、前線基地を全速力で飛び出した……

928>>923から:2021/10/17(日) 17:35:22 ID:???
「「たぁぁぁぁぁっ!!」」
「っ………やああああぁっ!!」

同時に襲い来る2人のミスト。
確かに1対1では互角以上に戦えていたが、
相手はミツルギ討魔忍衆でも最強と言われる剣士。
戦力差は完全に逆転されたと考えるべきだろう。

(受けに回ったら押し切られる!!一人ずつ仕留めないと……!)
(一人ずつ……仕留める……?)

キンッ!! ガキンッ!! ……ザシュッ!!
「っぐあぁっ!」
「まだまだっ……一気に決めさせてもらうわ!」

一人を相手にしている隙に、もう一人が死角から斬りつけてくる。
同一人物であるがゆえに、二人の連携は完璧だった。
連続シフトで敵の攻勢から逃れようとするリザだが、ミストも同じくシフトの使い手。
背後、足元、頭上など、対応できない角度から次々と斬撃が飛んできて、リザは瞬く間に劣勢に立たされてしまう。

ザクッ!! ズバッ!! ブシュッ……
「っぐぅ……あ、ううっ!!……こ、のおっ!!」

急所や利き腕など、致命的な部位への斬撃を避けるだけで精いっぱいのリザ。
背中や太もも、胸元などに次々と傷跡が刻まれ、鮮血が飛び散っていく。

体勢を立て直そうとしたとき、足元がわずかにふらついた。
度重なる失血で、貧血の症状が出はじめている。
意識が朦朧とする中、リザはいちかばちかの反撃に出るが……

「そう来ると思った……これで終わりよ」
「っ………!!」

リザが斬りかかると同時に、待ち構えていたミストがカウンターの突きを繰り出す。
両者の剣が目にも止まらぬ速さで飛ぶ、その刹那……

リザの刃が動きが、わずかに鈍った。

(だ、め……!!)

シャドウブレードは敵の血を吸い、使い手の生命力とする魔剣。
その刃は常に血を求め、使い手自身の血を少しずつ奪い取る。

(今、斬ったら……)
戦場に降り立つ前、リザはアリスと激しい空中戦を繰り広げたが、仕留めるには至らず。
既にリザの身体は大量の血を失い、剣は血に飢えていた。
斬れば間違いなく……ミストが死に至るまで、血を吸いつくす事になる。


連戦と失血による疲労、そして……いまだ残っている僅かな心の迷い。
それらがほんの少しだけ、リザの剣を鈍らせた。

超常の力を持つ達人同士の、ギリギリの戦いの明暗を分けるのには十分すぎる程の、ほんの少し。

「あ………」

リザよりも一瞬早く、ミストの剣がリザを刺し貫こうとした……だが、その、次の瞬間。

「え………!?」
「………どうして……?……まさか……」
リザの予想していた痛みは訪れず。
代わりに、ミストのもう一人の分身が、リザの前に立ちふさがり刃に貫かれていた。

929名無しさん:2021/10/17(日) 17:37:27 ID:???
「………。」
「まさか、あなたは………」

白い忍び装束が、赤黒い血で染まっていく。
ミストの刃を受けて倒れたのは、リザではなくミストの分身だった。

その姿が、リザとミストの目の前で変わっていく。
ミストよりもやや大柄な、アウィナイトの男性。……二人のよく知る人物だった。
彼はミストと同じ体に宿っていた人格、ミストの弟で、リザの兄……

「レオ……!!……そんな、私のせいで……」
「……お兄……ちゃん……!?……一体、どうして……!!」

「いいんだ……初めから、こうするつもりだった。
お前達のどちらかが、どちらかを斬る事になったら……
小さい頃から、二人がケンカしたときは、間に入って収めるのが俺の……げほっ!……がはっ……」
「レオ、それ以上しゃべったら……!!」

剣を収め、レオの元に駆け寄るリザとミスト。
だが二人の斬撃をまともに浴びたレオの傷は深く、もう長くはもたないだろう事は明らかだった。
レオは大量の吐血にも構わず、二人に語り掛ける……

「リザ。お前は真面目過ぎるから……
自分の手を汚す事も構わず、なるべく多くの物を守ろうとしてきたんだろう。
だけど……いつも肝心の、自分自身を守る事を後回しにしちまう……
おまえが守りたいものの中に、お前自身も入れてやってくれ。
俺もミストも、それが一番…心、配……」

「そんなっ……お兄ちゃんっ……」

「ミスト、姉ちゃんは……リザが、悪事に手を染めていくのに、耐えられなかったんだろ…?
だから強引な手を使ってでも……それこそ殺してでも、止めようとした。
だけど、リザの、根っこの所はまだ変わってないはずだ。
だから……取り返しがつかないからって諦めて、殺し合う前に……
もう一度リザのことを信じ、て……分かり合う道を探してほしい……それができるのは、姉ちゃん…だけ………」

「待ってよ、レオ……!……そんな事……!!」
「今さら言われたって、無理だよ……!!」
「………………。」

リザの両目から大粒の涙がこぼれる。
目の前で大切な人が死んでいくのを観るのは、もう何度目になるだろうか…………

だがリザにとってそれ以上に悲しいのは、レオの最後の想いに応えられそうにない事だった。

「父さんや母さんが死んで、一人ぼっちになって……
私……頑張ったんだよ。必死に戦って、やりたくない事も沢山した。
そのうちなんとか食べ物や寝床には困らなくなって……友達も、できた。
でも……やっとの思いで手に入れた物も……すぐに、なくなっちゃう……だから、必死で……

お兄ちゃんだって、私やミストの事、かばってくれたじゃない……
どうして……私が同じことをしたら、いけないの……?

私は、ただ……私の大事なものを守りたかっただけなのに……
う、ううっ………うぁぁあああああああああぁぁっっ!!」

事切れたレオの亡骸を前に、リザは泣き崩れる。
そして、それを見つめるミストも……
胸中に複雑な思いが渦巻き、これ以上リザと戦う気にはなれなかった。

930名無しさん:2021/10/17(日) 17:48:01 ID:???
「リザちゃぁーーーん!!ぜえ……ぜえ……やっと、追いついた………って、あ………」

スズがリザに追いついたときには、既に戦いは終わり、レオの命もまた尽きていた。
声を上げて泣き叫ぶリザに、スズがなかなか声を掛けられずにいると、
近くにいた、ミツルギの装束を着た剣士……ミストが話しかけてきた。

「リザのお仲間ね。……ああ、身構えなくていいわ。もうお互い、戦う気はないから。
落ち着いたら………これだけ伝えておいて。
あなたたちがこのまま、トーメント王国に従い続けるなら……いずれまた逢う時があるでしょう。
私も、その時までに……どうするべきか、答えを探しておく、と」
ミストはスズに言伝ると、いずこへともなく去って行った。

(もう私たちは、元には戻れない。
あの王の下でリザが戦えば戦う程、多くの人々が不幸になり、リザ自身も傷ついていく。
私も討魔忍衆として、多くの人を傷つけ、殺めてきた……。
だから私の手で、リザの運命を終わらせて、その後は私も……それで、終わりにしようと思っていた。
だけど………レオ。私は……私たちは、どうしたらいい……?)
………………

後に残されたは、レオの死体と、すすり泣くリザ。
スズは無言でリザに寄り添い、ひたすら泣き止むのを待ち続けた。

「…………スズ………あなた、言ってたよね。運命を選んで、変えられる力があるって……」
「え………う、うん。でも………」

………しばらく後。
いつの間にか泣き止んでいたリザが、顔を伏せたまま、ふいにスズに問いかける。

「レオを………死んでしまったこの人を、生き返らせることは出来る?
死ななかった運命を、見つける事は………」

「………それは……」

スズの能力は、運命を予知し、その無数の可能性の中からいずれかを選ぶことができる。
場所や時間を、ある程度超越する事も可能だ。
既にリザが泣き止むのを待つ間に、スズは時間を遡って運命を覗き、この場で起きた事もおおよそは察することが出来ていた。

だが………

「…………出来ないよ。私が着いた時には、その人の運命は、もう………」

ミストとリザが出会えば、戦いは避けられなかった。
リザはミストを殺すまいとしていたが、ミストはリザを殺そうとしていた。
二人が戦えば、ほぼ必ず今回のようにレオが身を挺して犠牲となる。数少ない例外は……

レオがリザをかばいきれず、リザが死ぬ事になった場合、である。

リザはそれでも、レオを助けてほしいと言うに違いない。
スズとしては、絶対にその運命を選ぶわけにはいかない。
だから、出来ないと嘘をついた。

「…………そう。なら、いい……任務に戻りましょう」
「あ、ちょっと待って。傷を………きゃっ!?」
「…………」

ぼそりと一言だけ呟くと、立ち上がろうとするリザ。だが失血でふらついて、スズにもたれかかるようにして倒れる。

「…………あ、れ………」
「ああもう、言わんこっちゃない。早く治療しないと………!」

「リザ隊長ーー!!スズさーん!!ご無事ですかーー!?」
「……って、リザちゃんまたまた大ケガしてるー!!だだだ、大丈夫!?」
「……安心しな嬢ちゃん。どうやら急所には入ってねえ……さっさと治療してやんな」

遅れて他のメンバーも二人の元に駆け付け、特殊部隊のメンバーが再び揃った。

傷が得たら、任務が再開される。
攻撃目標はナルビアの秘密兵器『メサイア』、向かった先はアレイ前線基地。

リザがその歩みを止めない限り、戦いは続く。どこまでも果てしなく……

931>>908から:2021/10/24(日) 18:01:52 ID:???
「サキ様を守るため……そして、私自身の因果を断ち切るため。
レイナ……ここで貴女を倒すっっ!!」

「ふふふふ………この時をずっと待ってたよ……
ぶち壊してあげる、舞ちゃんっ!!」

黒い風と黄金の雷が、正面から激突する………

「連牙百烈蹴……黒翼!!たあああああぁっ!!」
……ドガガガガガッ!!
「うぐっ!?」

すれ違いざまの一瞬、舞が十数発の蹴りを見舞った。
スピードは舞が上手。……だがその差は紙一重。

「ちょっと見ないうちに、すばしっこくなったねぇ……一発貰っちゃったよ」
「………!」

魔物をも蹴り倒す舞の連続蹴りは、そのほとんどがレイナに防御された。
唯一まともに急所を捉えた一撃も、痛がるそぶりすらない。

(だったら……倒れるまで、百発でも千発でも打ち込む!)
二度、三度と交錯する両者。
その度に、舞はレイナの攻撃をギリギリでかわし、可能な限り攻撃を打ち込む。
しかしそれでも、レイナに有効なダメージを与えることは出来なかった。

「っつー……今のはちょっと痛かったかなぁ?お腹エグれちゃってるよ……あ、ちょっと待ってね」
「……傷が塞がっていく……!?」

レイナの反射神経と、身に纏っている黄金のスーツの防御力……だけではない。
レイナ自身の身体が、人間を超えた異常なタフネスと回復力を有しているのだ。

「ふっふっふ……結構やるねぇ舞ちゃん。じゃあアタシもそろそろコレ、解禁しちゃうよんっ♪
ブーメランイーグルっ!!」
「くっ!!」
……ブオォンッ!!

レイナの得意武器のブーメランが、雷光を纏って飛ぶ。
常人なら目で追うのも難しいほどの超高速の刃を、舞は何とか回避するが……

……バチバチッ!!
「あぐっ!!」

電撃の余波で、セーラー服の袖口が弾け飛んだ。
背後にあった大岩が、溶けたバターのように両断される。
……まともに喰らったら一巻の終わりだ。
2本のブーメランが鋭く弧を描いて飛び、今度は背後から舞を狙う。

ブオンッ!!バシュッ!!
(まずいっ……!!)
「はっはー!!隙ありぃっ!!」

更に、レイナ本人の同時攻撃……雷を纏った両脚でのドロップキックが襲い掛かった。

ベキィッ!!
「っぐ!?……」

両腕でガードするが、ほとんど役には立たず。
喰らった瞬間、全身を雷に打たれたかのような衝撃が走って意識が飛び……

……ドゴォッ!!
「……っうああああああっ!!」
そのまま体ごと吹っ飛ばされ、受け身も取れずに岩に叩きつけられた。

「ふっふっふ……ま〜いちゃん、まさかこれで終わりじゃないよねぇ?」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………当り前でしょ……!」

折れた利き腕を押さえながら立ち上がる舞。
息が上がり、心臓が喰らったように暴れ、膝がガクガクと震えていた。

黒いブーツの力をフルに開放し続けているせいで、急激に体力を消耗しているのだ。
それでも全力で走り続けなければ、たちまちレイナに追いつかれてしまう。

セーラー服の右肩周辺が焼け落ち、黒いブラジャーが半分見えているが、気にしている余裕は当然なかった。

(速さが、足りない………もっと、あいつが追いつけないくらい、速く……!!)

舞の想いに応えるかのように、ブーツから立ち昇る漆黒のオーラがより一層強くなる。
再び走り出そうと、舞が一歩を踏み出した、その瞬間。

ぽつり。
 ぽつり。

それまで晴れ渡って空ににわかに雲が集い、にわかに雨が降り始め………

(!?………これ、は………)
舞の身体から、急速に力が抜けていった。

932名無しさん:2021/11/01(月) 22:22:59 ID:???
(右足が、動かな………!!)
「ほらほら、何ぼーっとしてんのぉ?っうらあっ!!」
ブオンッ!!
「くっ……!!」

突然降りだした雨に触れた瞬間、舞の身体、特に右足から力が抜けていくのを感じた。
その隙を見逃さず急襲してきたレイナを、舞は左足一本で辛うじて迎撃する。

レイナの突きを弾き、連続蹴りを繰り出し、反動を利用して後方に跳ぶ。
だが、レイナもしつこく追いすがり、なかなか振り切れない。

「はい、つっかまえた♪」
……ドボッ……!!
「っう、ぐぁっ………!!」
強烈なボディブローが脇腹に突き刺さり、胃液を吐き出す舞。
特殊金属製の強化アーマーで覆われたレイナの拳は、舞に膝を屈させるのに十分すぎる威力を秘めていた。

「今までオアズケ喰らってた分、きっつーいの入れてあげるね……『ヒステリックスパーク』っ!!」
バリバリバリバリバリ!!
「っぎあああああああああっっっ!!!」

更に、追撃の電撃攻撃。舞の黒いセーラー服が瞬く間に焼け焦げていく。
辛うじて保たれていた両者の均衡が、ここに来て一気に崩れ始めた。

その原因は、降り出した雨によって、舞の魔法のブーツの力が半減した事にある。
レイナの仲間で、特殊な水の使い手……舞にも心当たりがあった。

「はぁっ……はぁっ……ブーツの力が封じられてる………この雨、まさか……」

「はは〜ん……さてはDさんだな?
まったく、余計なお世話だっつーの……
ま、べつにいっか。
考えてみたらアタシ、舞ちゃんと『勝負』したかったわけじゃないもんねぇ」

レイナは倒れた舞の髪を片手で掴み、無理矢理立たせる。
ナルビアの科学力で体を改造し、強化スーツまで身に纏ったレイナに対し、ブーツの力を失った今の舞は生身同然。
ひとたび捕まれば逃れる術はない。

「あの一緒にいた蝶の髪留めの女やガキは、Dさんが始末してくれるだろうし……」
(!!……そう、だ……奴が近くにいるとしたら、サキ様が……!!)

「とっ捕まえて、徹底的にナブってイジめてイタぶって………」
ぶっ壊れるまで、とことん遊んであげる♪」

「………っいぎあああああああぁぁっっ!!」
舞の頭と股間を両手で鷲掴みにし、再び容赦なく電撃を放つレイナ。
大音量で奏でられる舞の悲鳴に聞き入りながら、恍惚とした表情を浮かべた。

933名無しさん:2021/11/06(土) 18:50:50 ID:???
一方、突然襲ってきたレイナを舞に任せ、漁港へと急ぐサキ、ユキ、サユミの3人。

……今はユキとサユミを安全な所に逃がす方が先決だ。
今の自分では、足手まといになるだけ……
何度も自分に言い聞かせるサキだが、胸のざわつきがどうしても収まらない。
それに……

「心配しないで、お姉ちゃん……舞さんなら、きっと大丈夫……ちゃーんと、私たちが逃げ切るまで時間稼ぎしてくれるよ……ふふふふ」
………ユキの様子も、再びおかしくなりはじめていた。

やはり引き返して、舞を助けに行くべきか……
そう思い始めた矢先。……空が急速に曇りだし、ぽつぽつとにわか雨が降り始めた。

「!………雨………」

サキの表情が一層こわばる。
雨には、良い思い出がない……などという生温い表現では到底言い表せない、強烈なトラウマがあった。
無意識に体が竦んでしまうのをこらえ、来た道をふと振り返ると……
人影がこちらに近づいてくるのが見えた。フードをかぶっていて顔は見えないが、背の高さから、おそらく男性のようだ。

「……っかしーな。レイナの奴、この辺りに居るはずなんだが……
………お前なら知ってるんだろう?……いつぞやの、スパイのお嬢ちゃん」
「!?………ま、さか………なんで、こんな所に、アイツが……!」


男が近づくにつれ、雨脚はだんだんと強くなっていく。
男が更に目の前まで近づき、フードの中の顔を覗かせた時………
サキの緊張が頂点に達し、抱いていて不安が確信に変わった。
その男はダイ・ブヤヴェーナ。
ナルビア王国幹部、シックスデイの一人……サキがかつてナルビアに囚われた時、苛烈な水責め拷問を行った張本人だった。

あの時の苦痛、恐怖、絶望が、サキの脳裏に鮮明に蘇り、言葉を失ったまま数歩後ずさる。
(どうしよう……なんとかして逃げないと。でも、母さんやユキを連れたままで、逃げ切れるの……?)

「はぁっ………はぁっ………こっ………来な、いでっ……」
息が荒くなり、声がかすれる。
体中の震えを押さえて、ダイに向けて手をかざしたが、どういうわけか魔力が発動しない。

「……無駄だよ。俺が今降らせている、この雨……アンチ・スキルマジック・レインの範囲内にいる限り、
お前らは魔法も特殊能力も使えない。
効果範囲も見ての通り、この辺一帯はカバー可能だから、逃げても無駄だぜ……
この間みたいに俺の水でたっぷり溺れて、洗いざらい吐いてもらう」

「……そ、んなっ……!!」

……実際の所、雨雲は空一面を覆ってはいるが、ASMRを降らせることが出来る範囲は限られている。
まず自分の身を守るため、周囲数十メートルに降らせ、あとは周辺をランダムに、降ったり止んだりさせているだけだ。
そういう意味でも、レイナの今いる場所を早く突き止める必要がある。

(今日のアイツは明らかに様子がおかしかった……さっさと回収して帰還しねえとな。
基地の方は、先にエリスとアリスが戻ってるはずだから大丈夫だとは思うが………)

年こそやや幼いが、サキは拷問対象として抜群に好みのタイプ。
状況が許せばじっくり時間をかけたい所、だが。

「ふふふふ………そうはさせないよ。お姉ちゃんは、アタシが守るんだから!」
「!………だ、だめっ、ユキ………あなた一人じゃ………!!」

サキの妹ユキが、体に仕込まれた機械兵器を起動させて、ダイに飛びかかった。

「ガトリングいっせーそーしゃ!くらえーーーっ!!」
………ガガガガガガガガッ!!
「!?……このガキ、体をサイボーグ化してるのか!!
だが……」

ユキの仕込んだ武器は機械兵器。ダイのASMRの対象にはならない。
だがダイの水を操る能力も、ASMRだけではない………

「……その程度で、俺に勝てると思うなよ…」
目の前に水の障壁を作り、ユキの弾丸をいとも簡単に受け止めるダイ。
直接戦闘ではエリス達やレイナといった女性陣に注目が集まりがちだが、彼もまたシックスデイの一員。
並の兵士やサイボーグ等とは、比較にならない戦闘力を有していた。
果たしてサキ、ユキ、そしてサユミは、この窮地を切り抜けることが出来るのか……

934名無しさん:2021/12/05(日) 11:00:45 ID:???
「おじさんをブッ倒して、アタシがお姉ちゃんを守るっ!!」
「おじさん呼ばわりひでぇなぁ。こーんな渋くてイケメンなお兄さんに向かって……キツめにオシオキしてやるぜ、お嬢ちゃん」
ユキは右腕をドリルに変形させ、ダイに飛び掛かる。
一方のダイは、再び周囲の水で障壁を作ってドリルを防ぐ。

ギュルルルル……ジュブッ!
「ここら辺は海が近いからな。水の壁は無限に作れる。そんなドリルじゃ貫けねえぜ」
「ふっふーん……まだまだぁっ!!スパイラルヒートぉぉ!!」
水の壁に粘性を持たせて、ドリルの回転を止めようとするダイ。
だがその時、ユキのドリルが赤く発光し始めた。ドリルそのものが発熱しているのだ!

ジュウウウウウウウゥッッ!!
温度は急上昇し、水の壁が瞬く間に蒸発し始め……

「なっ……やべえっ!!」
「もう遅いよっ!くらえぇぇーーーー!!」
……ブシュオォォォッ!!
「きゃああぁっ!?」
突然の高温で水が大量に気化し、大量の水蒸気が発生。小規模な水蒸気爆発が発生した。
ダイは咄嗟に身を伏せ爆発を免れたが、
至近距離にいたユキは直撃を喰らい吹き飛ばされる。

「……ムチャクチャしやがるぜ。そんな方法で水の壁を破ったらどうなるかぐらい、中学生でも……って、まだ学校じゃ教わってねえか」
「ぐっ………う、うるさいっ……このくらい、なんてことないもん……!!」
ユキは大きく後方に吹き飛ばされ、右腕のドリルが半壊していた。
周囲一帯は水蒸気の霧で包まれ、互いの位置は視認できない。

「ど、どこに隠れたのっ……エネミーサーチャー、作動!」
今度はユキの右目が赤く発光し、霧に紛れて身を隠すダイを探し始めた。
「おいおい……全身ほとんど機械なのか?ナルビアの連中でも、そこまでえげつない改造はそうそうやらんぜ」

「アタシ……が……サキお姉ちゃんを守る……ユキなんかじゃない、『アタシ』が………」
「なるほど……ガキの脳ミソで、それだけの種類の兵器なんて扱えるはずねえと思ってたが……
戦闘用AIまで搭載とは恐れ入ったぜ。脳みその中まで機械化済みってわけだ」

「……こ、子供だからって、馬鹿にして……今に、みてな、さい……!!
(音響から位置を解析して……今度こそ、ぶっ潰してやる……!)」
左腕からガトリングガンを出して構え、周囲を油断なく見回す。

「へっ……そっちこそ考えが甘いな。俺がいつまでも反撃もしねーで、お嬢ちゃんに好き勝手させてやると思ったか?」
「え………!?」
ダイの声がする方に、ガトリングガンの狙いをつけようとしたその時。
声は突然、その反対の方向……ユキの真後ろから聞こえてきた。
水の壁を使って、自在に声の反響を変えていた……気付いた時には、細く鋭い水流がユキの死角から飛んできていた。

シュバッ!!
「………っ!?」
水流が一閃し、ガトリングガンの砲身をユキの左腕ごと斬り飛ばす。

「そんなっ………アタシの特殊金属製の腕が、水鉄砲なんかで……!!」
「ウォーターカッターって言ってな。
ダイヤモンドや金属の微粒子を混ぜた水を勢いよく飛ばして、岩だろうが金属だろうがキレイに切断する。
兵器としては、国際条約で対人間への使用は禁じられてるほど危険な代物だが……
お嬢ちゃんみたいな『モノ』に対して使う分には問題ない」

シュバッ………ザンッ!!
「きゃぅう!?」

……別の方向から水流が飛んできて、今度はユキの右脚を斬り落とした。

「さぁて。それじゃそろそろ、オシオキの時間だ……せいぜい泣き喚いてくれよ。
そうすりゃ本命の『サキお姉ちゃん』も、逃げずに向かってきてくれるだろうからな」

「や、やだっ……くるなっ…………!!」
倒れた水たまりの中から、水の蛇が無数に現れ、ユキの身体に絡みついていく。
降りしきる雨の雫が、蜘蛛やミミズのような姿に代わり、ユキの体内に潜り込んでくる。
片足と両腕を破壊され、抵抗する術を失った少女に、容赦なく牙を剥いた。

「ひっ………っぎああああああああああ!!!」

935名無しさん:2021/12/05(日) 13:26:58 ID:???
ベキベキベキベキッ!!バチュンッ!!ガギンッ!!

「っぐああああああ!!いぎあああああぁぁぁぁぁああああぁっっ!!」
(左脚ユニット大破……右肩関節部破損、左肩……右足……腹部装甲版、破損………!!)
「いぎ、やはぁ……アタシ、が、こわされ………」
(メインCPUユニットに浸水……機能停止テイ、s……)

体の外から、中から、邪悪に蠢く水が次々とユキの身体に入り込み、破壊していく。
バチンッ!!バシュッ!!
特に、コンピュータ内部への浸水が深刻で、ユキの頭部に激しい火花がスパークした。

「ユキッ!?………ユキィィィイイイイッッ!!」
霧の中から泣き叫ぶユキの声が聞こえる。
斬り落とされた腕や、メカの破片サキの足元に跳んできて転がる。
中で何が起きているのか、ユキが今どうなっているのか、想像するだけで恐ろしくなり、サキもまた悲痛の叫びをあげた。

(この、ままじゃ……アタシが、きえちゃ、う……アタシじゃ、なきゃ………)
(ミキ……ミキ、しっかりして……私じゃ、お姉ちゃんを……)
『ユキ』じゃなくて、『ミキ』じゃなきゃ、お姉ちゃんを……守れないのに……)

ミキ。……それは、サユミが、三人目の娘が生まれたらつけようと思っていた名。
死産して生れることができなかった、ユキの双子の妹の……

「武器も手足も、何もかもぶっ壊した。戦闘用AIもこうなっちゃ形無しだな」

「いっぎあああああああああ!!!」
バチバチバチッ………ボンッ!!
飛び散る小さな火花と爆煙を残して、ユキの中に眠っていた戦闘用AI……「ミキ」は、永遠に沈黙した。

「ミキ………ミキっ………う、あぐっ………!!」
おなじ体を共有していた、双子の姉ユキ以外に、その存在を認識する者さえ無いままに。

「………残るは、元の人間の人格か。それにしても、肺が片方だけでも残っててよかったぜ。
ほんのわずかでも生身の身体が残ってりゃあ、それを維持するのに呼吸が必要だからな。
これで……………水責めが出来る」
「い、や……待って……ごぼっ!!」

水蒸気の霧が徐々に晴れていく。水蛇と蟲の群れが一か所に集まっていく。
それらは一つな巨大な球体に変化し、ユキの身体をゆっくりと呑み込んでいった。
戦う事も逃げる事も出来ず、ただ座り込んでいるだけのサキに、見せつけるように。

「がぼっ!!ごぼごぼごぼ!!がはっ!!いやあああ!!お姉ちゃん、たすけっ………ごぼ!!」
「ユキ………ユキッ……!!」
サキは、動けなかった。かつて受けた水滴拷問の影響で、心に刻みつけられた、水への強い恐怖心に縛られ続けていた。

「サキ……逃げなさい。貴女だけでも……!」
「母さん……!?」
だがその時。サキの横に居たサユミが、サキの護身用小型拳銃を手に、ダイに向かって走り出す。

「ほう……?……一般人にしちゃ大した度胸だが………状況を正しく理解できているとは、言えねえなぁ」
だが多少なり戦闘訓練を受けたサキと違い、サユミは普通の女性でしかない。
……ナルビアの軍人、しかもシックスデイの一員であるダイに、敵うはずもなかった。

……シュバッ!!
「あ、あれ、引き金が…あ、ぐっ!!」
発砲しようとするが、構えは素人。しかも、セーフティが解除されておらず、引き金が引けない。
戸惑っている隙に水の触手が飛び、サユミは銃を弾き飛ばされてしまう。

「お母さんも妹ちゃんも確保……もうお前を守る手駒は誰もいないぜ、サキお姉ちゃん。
……そもそも、この俺に見つかった時点で詰んでたんだよ。
船に乗って、海に逃げる……俺相手にそんなことが出来ると思うか?」
(ま、見つけたのは全くの偶然だが……)

「いや………い、やぁぁぁ………」
サキは腰が抜けて立ち上がれず、目に涙を浮かべて後ずさる。
いつもの勝気で小生意気な姿も、今や見る影もなかった。

じゅるり……
「ひっ!?……ま、待って……だ、だめっ……!」
水たまりから水の触手が伸び、サキの脚に絡みついて、ダイの元へと引きずり寄せる。

降りしきる雨に打たれてサキの白ブラウスが透け、Dカップのバストを包む紫色のブラジャーや、体のラインがくっきりと浮かび上がっていた…が、それを気にしている余裕なども当然無い。

「さあ、とことん溺れさせてやるぜ。お前らが土左衛門になる頃には……多分レイナの方も、片が付いてるだろ」

どぷんっ!!
「い、や………ごぼごぼっ!!」
サキは悲鳴を上げる暇もなく、ユキが囚われているのと同じ巨大な水の玉に呑み込まれてしまった。


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