したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

リョナな長文リレー小説 第2話-2

1名無しさん:2018/05/11(金) 03:08:10 ID:???
前スレ:リョナな長文リレー小説 第2話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1483192943/l30

前々スレ:リョナな一行リレー小説 第二話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1406302492/l30

感想・要望スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1517672698/l30

まとめWiki
ttp://ryonarelayss.wiki.fc2.com/

ルール
・ここは前スレの続きから始まるリレー小説スレです。
・文字数制限なしで物語を進める。
・キャラはオリジナル限定。
・書き手をキャラとして登場させない。
 例:>>2はおもむろに立ち上がり…
・コメントがあればメ欄で。
・物語でないことを本文に書かない。
・連投可。でも間隔は開けないように。
・投稿しようとして書いたものの投稿されてしまっていた…という場合もその旨を書いて投稿可。次を描く人はどちらかを選んで繋げる。
・ルールを守っているレスは無視せず必ず繋げる。
 守っていないレスは無視。

では前スレの最後の続きを>>2からスタート。

916>>913から:2021/08/15(日) 23:06:56 ID:???
「…………。」
「…………………。」

黙々と歩き続けるリザの後に、黙ってついていくスズ。
その表情は、いつになく暗く沈んでいた。
(どうして、いつもこうなっちゃうんだろ……私はただ、リザちゃんを死なせたくないだけなのに……)

これまでのリザの道のりは、常に死と隣り合わせだったと言っても過言ではない。
実はスズはこれまでにも、リザが死の運命から逃れられるよう、運命を選択し続けていた……

「いつから………見てたの」
「………え?」
リザが立ち止まり、ぽつりと呟く。
それは、リザの心の中に渦巻いた、スズへの疑念だった。

「あの日の、私の運命を見ていたって言うなら………あなたは、見殺しにしたって言うの?お姉ちゃんを……!!」
「そ………それは………!!」

「ずっとずっと、黙って見てたって言うの……!?
お父さんや、お母さん、ミストやレオ、ドロシーや、アイナが、みんなみんな死んでいって!!
私だけが生き残って、苦しんでるのを、ただ………!!」

「そ……そうじゃないよ……!!私はリザちゃんを、死なせないために、必死で……」
「そんな事……誰も頼んでないっ!!」
「………!!」

リザは道端の木に拳を叩きつけ、叫ぶ。
そしてビクリと身をすくませるスズに目もくれず、一目散に駆け出した。

「ま………待って、リザちゃん……!!」

リザが己の運命を呪った事は、一度や二度ではなかった。
普段どんなに考えないようにしていても、死んでいった家族や、ドロシーやアイナの事は忘れる事など出来るはずがない。

そして、こうも考える。
彼女たちが死んだのは、自分の呪われた運命のせいではないのか……
自分のせいで、みんな死んでしまったのではないだろうか。私さえいなければ……

「ぜーっ……ぜーっ……ま、まって………リザ、ちゃん……そっちの方向、は……!」
リザの後ろ姿が、あっという間に森の奥へと消えていく。
元引きこもりで人並程度の身体能力しかないスズは、あっという間に置いて行かれた。
そして………


「はぁっ………はぁっ………はぁっ………!」
(最低だ…………私は……)

走りながらリザは、深い自己嫌悪に陥っていた。

自分を取り巻く「運命」そのものに対する、激しい憎悪。
リザの心の中の、最も暗く醜い部分を……あろうことか、仲間であるスズに向けてしまった事で。

だが。
恨んで当然なくらいには、運命から嫌われているのもまた事実。

スズを置いて全力で走り、息を切らしたリザの前に現れたのは………


「やっと会えたわね。探したわ………リザ」
「……お姉……ちゃん……」

リザの姉、ミスト。
トーメントの手先として凶行を続けるリザを止めるため、ミツルギの戦線を離脱して各地を遊撃していた。

ミツルギ討魔忍五人衆でもある彼女にとって、
リザが特殊部隊に配属され、ここナルビアの戦線に投入された、という情報を掴むのは……
そう簡単ではなかったが、執念でやってのけた。

「今度こそ、私があんたを止める。……たとえ殺してでも」
ミストは胸の前で手の平を合わせる。左手を下、右手を上に向ける。
反射的にリザも、同じ挨拶を返す……アウィナイト式の、出会いと、「別れ」の礼である。

「………私、は……」
固い決意と覚悟を胸に、リザの前に現れたミスト。
だがリザは……

<私にお姉ちゃんは……ミストは殺せません>
<……どんな条件を出されても……やっぱり私には……できません>

残影のシン、ミストを殺せ、という王からの命令を、この戦いに赴く前に取り下げてもらったばかりだ。
いざ出会った時にどうするべきか……考える暇もないままに、今こうして再び出会ってしまった。

「こんなのって、ないよ……どうして、いつも……」

………運命はいつだって、考えたり悩んだりする時間を、与えてくれない。
魔剣シャドウブレードが、血に飢えた獣のごとく震え……流れるように鞘から抜き放たれた。

917名無しさん:2021/08/16(月) 02:30:16 ID:???
 「……いくよ、お姉ちゃん」
 (……前に戦った時と目が違う……戦う覚悟はできているみたいね)

 前回の戦いにはなかった闇の魔力を注がれたナイフを見て、ミストは確信した。
 いざとなれば姉を殺すために、リザは新たな武装を準備してきたことを。

 「「「たあああああっ!!」」
 「えっ……!」

 刹那、背後と左右から、3人のリザが襲いかかる。
 ミツルギに伝わる分身の術の類かと思ったが、リザに印を結んだ様子はない。

(これは……私の体得していないシフトの力!)

 リザがマルチシフトと名付けた複数箇所へのテレポートに対し、ミストは長刀を薙ぎ払いつつ、最小限の動きで3人のリザを仕留めた。

(斬った瞬間に消えた……手応えもない。こんな能力を会得していたとはね)
「こっちだよ」
「ッ!?」

 息がかかるほどに背後へ肉薄されたことに気づき、背後を斬り払いながら後退するミスト。
 だがそこにリザの姿はなく、シフトの残滓である僅かな時空の揺れが残されていた。

「…………」

 訪れた静寂に、ミストは全神経を張り巡らせる。
 リザが前回とは比べものにならないほどの実力を身につけていることは、肌で感じられた。

(……気配が全くない。一体どこにいるの……ッ!?)

 現在地の森の奥から一転、なぜかミストの視界が瞬時に切り替わり、足元には断崖絶壁があった。



「こ、ここは……ナルビアの終末の断崖!?」

 先ほどまでいた森の奥からそう遠くない場所にある、終末の断崖と呼ばれる、ゼルタ山地の断崖絶壁。
どういうわけか、ミストは今その断崖絶壁のそばに立っていた。

 シフトチェンジ……自身と対象者の位置を入れ替える異能の力だが、これもミストは習得していないシフトの異能力である。
突然の場所変えに戸惑っていると、反対側の断崖にシフトでリザが現れた。

「薄暗い森の中より、こっちの方が戦いやすい」
「……シフトから派生する力をいくつか使っているようね」
「……無策でお姉ちゃんに勝てるわけないからね」



 崖の下から強い風が吹き、リザとミストの服を揺らす。
 リザは潜入用の黒い戦闘服。漆黒の黒と鮮やかな金髪のコントラストが印象的だ。
ちなみに今回は教授にしっかり希望を出して露出を抑えてある。
 
ミストは前回とは違い、軽装である討魔忍の忍び装束を纏い、ボイスチェンジャーや兜はつけていない。
奇しくもミストは白装束を纏っており、姉妹で黒と白の対比が生まれていた。



 「……この崖に落ちれば、死体の処理は必要ない。戦いの後はすぐに立ち去ることができる」
 「…………」
 
 冷たい声でリザはそう言い放つ。
真っ暗な谷底は、川に繋がっているらしい。そしてその先は、アウィナイトの民が崇める、母なる海である。

 「……リザ。前にも言ったけど、トーメント王に操られているのなら、私が王を殺してみせる。だからもうあの男に従うのはやめて」
 「それこそ前にも言ったでしょ?私は自分の意思でトーメントの暗殺者になったの。お姉ちゃんになんと言われようと、アウィナイトのみんなを守るために十輝星をやめるつもりはない……同じことを言わせないで」
 「そう……操られてるわけでもない、か。それなら、ミツルギの兵士としても姉としても、アンタを斬るしかないわ」

 改めて長刀を抜いたミストに対し、リザも仕込みナイフを構える。
 張り詰めた空気の中、風の音も自分の息遣いすらもリザはうるさく感じた。

 (……この戦いの中で、答えを見つけるしかない。私が、お姉ちゃんを、どうするのかを……!)

918名無しさん:2021/08/22(日) 18:34:31 ID:???
束の間の休息を終え、任務を再開したエミリアとカイト。
メサイアと呼ばれる秘密兵器を探して、ナルビア軍の本部を目指していたが……

「おうおうテメェ!いっちょ前にマブいスケ連れてんじゃねーか!」
「ようようねーちゃん!そんなイケてない野郎より俺らと遊ぼうぜえ!」

……魔物に絡まれていた。

「くっ……またか!?………水流斬!!」
「なんなのさっきから!魔物兵って、一応味方のはずじゃ……ファイアボルト!」
「「ッグアアアアア!!」」

味方のはずのトーメントの魔物兵に、昭和の漫画に出てくる不良みたいなノリで頻繫に襲われる。
どうやら魔物達は、敵味方の区別なく人々(主に女の子)を襲っているようだ。


「それにしても、魔物の量が多すぎますね。それに空の様子も……」
「うん……何か、とんでもないことが起きてるみたい。リザちゃん達、大丈夫かなぁ……」

空は真っ黒な雲に覆われ、ところどころ漏れ出てくる陽の光も血のように真っ赤だ。
邪悪な魔力……いわゆる瘴気のようなものが周囲に漂っているのも感じる。

不安を抱えつつも、二人は魔物達をやり過ごしながら、細い崖道を進んでいく。
すると………
白衣を着た科学者らしき女性と、白い髪、白を基調とした軍服の少女が歩いてくるのが見えた。

「待った、エミリアさん。……誰か来ます。どうやら……女性の二人連れ……」
「あの服装……ナルビアの科学者さんかな?」
「もう一人は軍人ですが……無駄な戦闘は極力避けたいですね」

まずいことに、道の横は岩壁と切り立った崖。身を隠す場所がない。
そこで……

「!!……前方に生体反応……識別コードなし」

「……そこの二人、止まってください。
この先は戦闘区域で、トーメントの魔物が異常発生しています。
至急引き返すか、別の道へ迂回してください」

……仕方ないので、堂々と姿をさらす事にした。
こちらの方が戦力が上である事、かつ戦う意志がない事をアピールしつつ。

「あらあら。ご親切にどうも〜。でもあなた達って、トーメントの軍人さんよね?」
「ええまあ、そうなんですけど……お互い、無駄な争いは避けたいと思いまして。
このあたりは魔物兵が多くて、特に女性だけだと危険です。迂回するか、引き返した方が良いですよ」
(………あれ?あの科学者の人、どこかで見たような……)

「ふーん。トーメントは糞みたいな奴ばっかりだと思ってたけど、案外いい人もいるのねぇ。
でも心配いらないわ。この子、それはもうメチャメチャ強いのよぉ?
聞いたことあるでしょ?ナルビアの秘密兵器、メサイアって……」

「え?………メサイア……って」
「まさか………こんな子供が!?」
科学者の口から出た思わぬ言葉に、カイトとエミリアは絶句した。

「ふふふ……あなた達、メサイアをどうにかするためにここまで来たんじゃないのぉ?
攻撃対象がどういうものかも知らされてなかったなんて、間抜けな話ねえ」
「!!………」

返す言葉もなかった。
『破壊プログラム』が入っているというダーツ型デバイスの形状から、
相手は機械ではなく生体兵器の類か、と予想してはいたのだが……

「まさか、こんな可愛い女の子だったなんて……どうしよう、カイト君」
「………やるしか、なさそうですね。僕が相手の動きを止めます。エミリアさんは援護を」

にわかに両者の間に緊張が走り、エミリアは魔法詠唱の準備に入る。
カイトも長刀を抜き放ち前に出た。

「どうしますか、マスター」
「ふふふ………調水の継承者に、爆炎のスカーレット……予定にはなかったけど、初戦の相手としては悪くないんじゃない?
割と親切な子たちだったし……お礼に少しだけ、遊んであげなさい」

「了解……雷魔剣ブラストブレード、出力25%……」

919名無しさん:2021/08/22(日) 18:39:19 ID:???
「水練一刀流、カイト・オーフィング……参るっ!!」
「行くよカイト君!!『グレーターストレングス』!!」

……ガキィィンッ!!

エミリアの魔法で筋力強化されたカイトの一撃を、雷の魔剣で受け止めるメサイア。
凄まじいパワーのぶつかり合いに、周囲の大気がビリビリと振動する。

「なっ………互角……!?」
「………大したものね。本気じゃないとはいえ、メサイアちゃんの剣を受け止めるなんて」

体格ではカイトが明らかに有利。しかもエミリアの魔力で筋力強化で大幅に強化されていたにも関わらず、
全力の一撃はメサイアに易々と受け止められてしまった。

「雷魔剣ブラストブレード出力調整、30%……40%……50%」
メサイアはバックステップで距離を取ると、更にパワーを上げ、刀身に雷の魔力を発生させる。

「……カタストロフィ・ブロンテ」
………バチバチバチッ!!
少女の華奢な身体からは想像もつかない、豪快な横薙ぎの斬撃。
そこから繰り出される、雷を纏った衝撃波が、カイトとエミリアを襲った。

「あぶないっ!!……プロテクトシールド!!」
ミシッ……ミシッ……バキンッ!!
「!!……まずいっ!」

咄嗟に前に出て、魔力障壁を張るエミリア。
だが、エミリアの防御魔法も見る見るうちにひび割れ、ものの数秒で障壁は破壊されてしまい……

……ズドォォォオンッ!!

「う……!!………」
「………………。」

「あ………あれ、何ともない……?……!!……カイト君っ……!?」
激しい爆炎が収まり、エミリアが目を開けると……
自分に覆いかぶさるようにして倒れている、カイトの姿があった。
背中を大きく切り裂かれ、倒れたまま動かない。

「あらあら……魔法使いちゃんをかばったってわけ?
流石イケメン君はやる事がいちいちカッコいいわねぇ」
「そ……そんな……カイト君、目を開けて、お願いっ……!!」

急いで回復魔法を詠唱するエミリアだが、どうやら傷はかなり深いようだ。
カイトは目を覚ます気配はない……

「目標Aのバイタル低下……戦闘不能を確認」

「ふふふ……ありがとう。ちょうどいい遊び相手だったわ。
もう一人は例のアレで、手っ取り早く片付けちゃいましょう」
「了解……ゼロエネルギー照射」

エミリアに向け、メサイアが手をかざし、指先から光線を放つ。
するとエミリアの回復魔法が、ぴたりと途絶えた。

「……え、あれ?……なんで、魔法が使えないの…………それに……動けないっ……!……」

魔法を封じられ、動揺するエミリア。
その身体がふわふわと浮き上がり、白い魔法陣のようなフィールドに大の字の体勢で磔にされてしまった。

あらゆる力が無効化される「ゼロエネルギー」。
ひとたびこの力で拘束されれば、魔法や特殊能力の類を封じられ、身動き一つできなくなる恐るべき能力であった。

「ふふふ……個々の実力も優秀だし、連携もなかなかイイ線行ってたけど……相手が悪すぎたわねぇ。
じゃ、そろそろ行きましょうか、メサイアちゃん」

「!!………ま、待って……!!」
「………おっと、脚が滑っちゃったわ……よいしょっと♪」
「……っっ!!」
空中で身動きできないエミリアの目の前で、
ミシェルは傷つき動けないカイトを崖の下に蹴り落とす。

「かっ……カイト君っ!!……そん、なっ……どうして……!!」
「ふふふふ……あらあらごめんなさぁい。
アナタ達みたいな素直なイイ子ちゃんを見ると、ついつい虐めたくなっちゃうのよね♪」

エミリアは必死に手足に力を込め、ミシェルを睨みつけるが、ゼロエネルギーの拘束はビクともしなかった。

「そうそう……あなたには、さっきの忠告そのままお返ししてあげる。
このあたりは魔物兵がウジャウジャいるから、女の子ひとり……
しかも魔法も使えなくて身動きできないんじゃ、と〜〜ってもアブナいわよ。
せいぜい気をつけてね♪あはははははは!!」

「い、いやっ……カイト君っ……カイトくーーーんっ!!」
悠然と立ち去っていく二人を、磔にされたまま黙って見送るしかできず。
エミリアは崖下に落ちたカイトの身を案じ、悲痛な叫び声をあげた。

920名無しさん:2021/08/22(日) 18:43:12 ID:???
「おい。しっかりしろ、若造……まだ生きてるかぁ……?」
「!!………ここ、は……って、うわああ!!」

……崖下に落ちたカイトが、目を覚ますと……目の前に、骸骨の顔があった。

「……ボ、ボーンドさん!?……あーびっくりした……って、痛っ!!」
「せっかく骨身を惜しまず助けてやったってのに、随分な言い草だなぁオイ。
……っと、まだ動くなよ。
俺はアンデッドだから回復魔法とかムリなんで、雑に応急手当てしただけだからな。
まあ、ダメージの半分は俺の使い魔に肩代わりさせてるから、死にはしないだろ」

ボーンドの後ろに、もう一体のスケルトンが控えていた。
その背中には、大きなキズがついている……あれがどうやらボーンドの言う「使い魔」らしい。

「肩代わり?……よくわからないですが……おかげで、だいぶ楽になりました。ありがとうございます」
「……ま、あくまで痛みを和らげてるだけで、重傷には違いない。
あの魔法使いの嬢ちゃんにでも、治療してもらうんだな」

「魔法使い……そうだ、エミリアさんが、崖の上に!!」
「なに?……一体何があったんだ?」
「それが……かくかくしかじかで、崖の上でメサイアと戦闘になって……!」
「そいつはマズいな……そんな化け物相手に、嬢ちゃん一人じゃ……」

「……きゃああああああああぁっ!!」
「エミリアさんっ!!早く行かないと……っぐ……!!」
「仕方ねえなぁ……お前さんは大人しくしてろ。俺の使い魔に、助けに行かせる」

………………

一方その頃、崖の上では。

「いっ……いやぁっ……来ないでっ……!!」

メサイアのゼロエネルギーによって動けないエミリアを、
早くも魔物が嗅ぎつけて襲い掛かっていた。

「ヌメヒヒヒヒ……こんな所で、かわい子ちゃん無防備に磔されてるなんて、ラッキーだナメ……!!」

【ワースラッグ】
全身がぬめぬめの粘液に包まれた、ナメクジ型の亜人。
体表を接触させることで獲物の魔力や生気を吸収する。

じゅぶじゅぶにちゃぁ……………にゅるっ!……
「い、や……気持ち悪いっ……触らないで……ひゃうぅんっ!!」

ナメクジの獣人ワースラッグは、ヌメヌメの身体をエミリアの身体に絡みつかせ、
極上の魔力を体全体で吸い上げていく。

ぐちゅっ……じゅるるるるぅっ!!
じゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼ!!
「フヒョヒヒヒヒ……どこもかしこも肌がスベスベ柔らかくて、最高の感触ナメ……
こいつは吸い付きがいがあるナメ!!」
「ぎゃ……ぁう………んふあああああああぁぁぁっ……!!」
急激に魔力を吸われる事による喪失感、脱力感。
さらには粘液の毒がもたらす、性的に快楽にも似た多幸感。
身動きできないながらも必死に抵抗しようとしていたエミリアの瞳が、徐々に光を失っていく……


「次はいよいよ、ここから吸ってやるナメ……人間のメスは、この柔らかい所から吸う魔力が一番ウマいナメ……!!」
更にナメクジ獣人の手足が、エミリアの服の隙間、下着の中にまでじゅるじゅると潜り込んでいく。
そして、むっちりしたほどよいボリュームの胸、そしてパンツの下の秘所の中にまで潜り込もうとしている。

「や……ぁっ……これいじょう、ひゅわれたら……おかしくなっちゃ……ひゃあああああああんんっっ!?」
じゅぶじゅぶじゅぶっ!……ちゅるるるる!!……じゅぽっ!!
「ヌメヒャハハハッ……美味い旨いウマい……こんなにウマい魔力、初めてだナメェ!
それに、吸っても吸っても魔力の蜜が体中から溢れてくるナメ……こいつは極上の餌だナメッ!!」

意識が朦朧として呂律が回らず、それでも本能的な危機を感じたエミリアの哀願は、あっさりと無視された。

じゅぶぶぶぶ!!じゅるるっ!!
ぬちゅっ!ぬちゅっ!にゅるるるるっ!!
ぎゅぽぎゅぽぎゅぽぎゅぽっ!!
「や、ひぁぁあああぁぁぁんっ……!!……い……やぁ……もう、やめてぇっ………!」
「ヌヒャハハハハ!!最高だナメェッ!!空になるまで吸い尽くしてやるナメェェ!!」

視界がちかちかと明滅し、エミリアの意識が闇の底に堕ちようとしていた、その時……

「ケッ……ザマァねえぜ。俺様を殺しやがった『爆炎のスカーレット』が、こんなザコに良いようにやられてるなんてな……」
「え…………あなたは……」
「な、何者だヌメェっ!?」

黒い骸骨が地面から這い出し、禍々しいナイフを手に呟いた。

921名無しさん:2021/08/22(日) 20:08:50 ID:???
びちびちびちっ!!じゅぶぶうっ!!
「ッギアアアアァッ!? や、やめろ!やめてくれナメェェッ!!」
「ったくよぉ。なーんで俺様が、こんなキメえ奴を解体さなきゃなんねえんだか……」
「っ……ん、くあぁぁっ……!!」

黒い骸骨はブツブツと文句を吐きながらも、ナメクジ獣人にナイフを突き立ててあっさりと仕留める。
ナメクジの死体をエミリアから引きはがすと、固まりかけの糊のような粘液がエミリアの肌の上で糸を引く。
魔力を大量に失って、感覚が鋭敏になったエミリアは、その異様な感触に、こらえ切れず甘い声を漏らした。

「ケッ……暢気なもんだぜ。
俺はボーンドの旦那から、テメェを死なせず連れ帰るよう、命令されてる。
これがどういう事かわかるか……?」

「え………ボーンドさん、の……?」
「テメェ……俺様の、このナイフを見ろ……忘れたとは言わさねえぜ!?」
「きゃっ!?」
スケルトンはナイフを振りかぶり、エミリアの首の横に思い切り突き立てた。
白い魔法陣が砕け散り、拘束を解かれたエミリアはお尻から地面に着地する。

「!!………ま、まさかあなたは……ヴァイス……!?」
「そういう事だ。テメェのせいで、俺様は哀れなアンデッドの身ってわけよ……
こんな身体じゃ、女を犯すのも満足にできねえ。
マスターの命令に逆らえねえから、好き勝手に嬲り殺す事も出来ねえ。まったくムカつくぜ!!」
「そ、そんな勝手な事……!」

「だから、こういう機会は大事にしねえとなぁ?俺に下された命令は、テメェを死なせねえこと……
つまり、殺しさえしなけりゃ何やったっていい、って事だよなぁ!?」
「!?……そ、そんな……やっ………やめてっ……いやあああああぁっ!!」

グサッ!!ザシュッ!!ドスッ!!
「っひぎ!!うあああぁっ!!いやあああああああっっ!!」

ヴァイスはエミリアに馬乗りになり、脇腹や手足、肩口など、エミリアの全身いたる所に黒い刃を突き立てる。
急所を巧みに避け、殺さないよう、生かさないよう、ギリギリの所で苦痛を与え続けるように。

「さぁーて……俺様の繁殖肉ナイフは無くなっちまったし、
代わりに地獄から持ち帰った『真・斬魔朧刀』で、てめえのマンコグチャグチャに切り刻んでやろうかぁ!?」
「っ……ファイアボル……」
「へへっ!やらせるかよぉっ!!」
……ザシュッ!!
「っうあああああっ!?」

魔法少女殺しの刃を手の平に突き立てられ、エミリアの反撃の魔法は打ち消された。
もうエミリアに、抵抗、反撃する気力は残っていない。
かつてヴァイスと戦い、殺されかけた時の恐怖が蘇り、ただ苦痛と凌辱の嵐が立ち去るのを待つしかできなかった………

「………その辺にしておけ、ヴァイス」
「ああん?……なんだ、シラベの野郎か。今良い所なんだから、邪魔すんなっての」
「それ以上やれば、娘は死ぬ……主の命令に背けばどうなるか……わかっているだろう」

しばらく後。エミリアを好き勝手に切り刻むヴァイスの元に、もう一体のスケルトンが現れる。

「ちっ!……しゃーねえなぁ、エミリアちゃん。優しい優しい俺様が、今回だけは特別に命を助けてやる。
いずれお前もリザの奴も、まとめて俺様のナイフで切り刻んでやるよ………ヒヒヒヒ」
(………そん、な………どうしてヴァイスが、ボーンドさんの……)

シラベ、と呼ばれたスケルトンがエミリアの身体に手をかざすと、エミリアの全身の痛みが引いていき、代わりにスケルトンの身体のあちこちが傷つき、ひび割れていく。
まるでスケルトンが傷の痛みを引き受けているかのような不思議な術だが、
当のエミリアにそれを気にする余裕はなく、スケルトンに抱きかかえられたまま意識を手放した。

922名無しさん:2021/08/22(日) 23:43:28 ID:???
「エミリアさんっ!!しっかりしてくださいっ!!」
「………あ、カイト君……無事だったんだね……よかった」

カイトの必死の呼び声で、エミリアは再び目を覚ました。
その後ろにはボーンドと、2体の使い魔……スケルトンが居る。

「ヴァイス……お前やりやがったな?」
「へっへっへ……何のことだ旦那ぁ?俺が行った時にはもう、魔物に滅茶苦茶にヤられてたぜ」
「ふん………まあいい。一応二人とも生きてる事だしな。
……嬢ちゃん、その若造と自分の分、回復魔法で治療できるか?」

「は、はい。ありがとうございました、ボーンドさん……!
じゃあカイト君。ケガを見せて……」
「僕は後でいいです。エミリアさんの方が重傷じゃないですか……くそ、メサイアめ……許せないっ……!!」
「わ、私は大丈夫だよ……見た目ほどは傷が深くないみたいで、あんまり痛くないし……」

お互い遠慮しあっていたが、とにかくカイトの背中に手をかざし、治療を始めるエミリア。
その様子を見たボーンドは……

「しかし……若造。お前、大丈夫なのか?」
「え……ですから、僕の傷は大丈夫です。そちらの使い魔さんにも痛みを和らげて頂きましたし」
「いや、そういう事じゃなくてだな……まあいいか」

パラシュートで降下する前は、女嫌いで触れられるのも嫌だと言っていたはずだが……
あの荒療治が、思った以上に功を奏したのだろうか。

「しかし……これからどうしたもんかねえ。
若造の話じゃ、メサイア達はアレイ前線基地に向かったみたいだが……」
「僕たちだけでは、破壊プログラムを打ち込むのは難しいと思います……まずは、スピカ隊長と合流しましょう」
「そうだね……リザちゃんとスズちゃん、無事だといいけど……」

………………

そして、エミリアとカイトを退けたメサイアと共に、山道を進んでいくミシェルは……

「……これが、破壊プログラムねぇ。
メサイアちゃんが素直に言う事聞いてくれてる分には、必要ない代物だけど……」

カイトが落としたダーツを密かに回収し、その内容を確認していた。
注文通り、このプログラムを打ち込めばメサイアの「人格を」完全に破壊できるだろう。

「………マスター。これで、良かったのでしょうか……先ほどの方たちは、本当に倒すべき『悪』だったのでしょうか」
前を歩いていたメサイアがふと立ち止まり、ぽつりと呟く。
敵対する立場とは言え、彼らは自分たちが魔物に襲われないか心配してくれていた。
……悪人だったとは、どうしても思えない。

「あらあら……メサイアちゃんたら。倒しちゃってから言わなくても良くない?
だいたい、さっきの子たちは向こうから襲ってきたのよぉ?」
「それは確かに、そうですが……」

「メサイアちゃんは、とっても素直でイイ子だけど……悩めるお年頃みたいねぇ。
あなたは何も心配せず、私の命令に従っていればいいの」
「…………。」

不気味な笑みを浮かべるミシェル。その様子を見て、メサイアは不安に駆られた。
(マスターの命令は絶対……リンネの負担を軽減するため。ナルビア王国を守るため……ですが……)

(ふふふ………もうしばらく、私の手の平の上でコロコロ転がっててもらうわよ。世界最強の破壊兵器ちゃん……♪)

923名無しさん:2021/08/25(水) 13:13:11 ID:???
「はあああああああっ!」

沈黙を破り、長刀を構えたミストが勢いよくリザに斬りかかる。
できるだけ引きつけてからシフトで回避したリザは、ミストの上方に移動し素早く体を捻った。

「転移崩襲脚!」
「はっ!」

上空からのリザの踵落としを構え直した刀でガードするミスト。
と同時にリザの姿が消え、元いた場所には闇の魔力が残された。

「これは……ぐっ!!」

リザの残した斥力を発生させる闇魔法、ダークショックで吹き飛ばされるミスト。
すぐさま空中で受け身を取ると、目の前にはリザの白刃が迫っていた。

キィン!!
「ぐ、くぅッ!!」

振るわれたリザのナイフを、辛くもガードするミスト。
一瞬間近で見えた妹の顔は、目を伏せ、思い詰めたような顔だった。
そして、またもその姿は一瞬で消え……

ヒュンッ!
(なっ!?また場所が変わって……!)

リザの攻撃をガードした時よりも、さらに高高度の空中に投げ出されたミスト。

「くっ……ああっ!!」

その上空でまたも先ほどの闇魔法、ダークショックが発動し、ミストの体はさらに吹き飛ばされた。

「これで……とどめっ!!」
「がはあ゛あ゛ぁ゛ッ!!!」

吹き飛ばされた先に先回りしたリザの三回転スピンからの強烈な回し蹴りが、ミストの体に叩きつけられる。
たまらず濁った悲鳴を上げたミストは、悲鳴を上げながら地面に叩きつけられた。



「痛っ!あ゛っ!がはっ!ぐっッ!」
「…………」

地面をバウンドしながら吹き飛ばされた後、地面に倒れ伏すミスト。
一連のリザの猛攻に、ミストは成す術がなかった。
シフトチェンジで空間認識をしている間に来る攻撃を回避することは困難。
そしてリザのシフトの正確性とタイミングの妙技。
転移座標に寸分の狂いもない追撃と、攻撃をガードしても2手3手先を読まれたかの様な追撃が入ってくる。

(これが……リザではなく、スピカの力……!)
「…………」

だが、ミストがよろよろと立ち上がる隙だらけのチャンスにも関わらず、リザは離れた場所で目を伏せていた。

「ぐっ……リザ、あんたこの後に及んでまだ迷ってるっていうの……?」
「……迷うも何もないよ。お姉ちゃんと戦いたくなんかないのに……どうして、こんなこと……ッ!」

イラついているのか、悲しんでいるのか、それともその両方か……
青い目に少しの赤が差された瞳をゆらゆらと揺らしながら、リザはわなわなと両手を振るわせた。

「さっきの連携も、蹴りじゃなくてナイフで刺せば、私は終わっていたかもしれないのに……」
「そんなこと、できるわけない……でもお姉ちゃんが私を殺そうとするなら、私は……ここで死ぬわけにはいかないっ……!」

片手で頭を抱えながらも、毅然と言い放つリザ。
前回のように泣いたり喚いたりはしないながらも、まだ彼女の中には迷いがある。
その迷いが命取りになることを知りながらも。

「いいわ……私も、この技を使いたくはなかったけど、本気を出す」
「えっ……?」

ミストが前に手をかざすと、構えると、魔力が人の姿を形作り始め、もう1人のミストを作り出した。

「お、お姉ちゃんが2人……?」
「幻覚じゃないわよ。どっちも本当の私。ミツルギの分身の術を、私の魔力でより強化した術……シフトコピー」
「シフト、コピー……」

リザのマルチシフトも分身を作り出す技だが、もう1人のミストは作り出された魔力で存在が固定されている。
肉体改造の結果、シフトに魔力を使わなくなったミストだからこそできる離れ業だ。

(持続時間は5分くらい……この技で一気に勝負をかける!)
「リザ、覚悟ッ!!」
鏡合わせのミスト2人がシフトを使い、リザに襲い掛かる!

924>>906から:2021/09/19(日) 15:49:13 ID:???
ガキィィンッ!!
「はああぁぁぁっ!!」
「うおおおおぉっ!!」
「ククク………そぉれっ!!」
エリスの槍、アリスの針とゾンビキメラの大剣が激しくぶつかり合う。

「止められたっ……!?」
「ふふふ……威勢だけはイイけど、その程度の力じゃあたしを倒すことは出来ないわよっ!」
二人の突進はあっさりと止められ、弾き飛ばされてしまう。
様々な魔物を取り込んだゾンビキメラの力は強大。
強化スーツの力を持ってしても、純粋なパワーでは圧倒的に分が悪かった。

「うぐああっ!」
「きゃああああぁっ!!」
「くっ……強化スーツのパワーすら通用しないとは……どうする、アリス……!?」
「攻撃し続けてください、エリス……私に作戦があります」

「作戦、か……わかった。ならば、私が時間を稼ぐ」

アリスと短く言葉をかわすと、再びゾンビキメラに飛び掛かる。

ガキンッ!! ドガッ!! 

強化スーツすら通用しない圧倒的パワー差、体格から来るリーチの差。
それを補うために高速の突進を繰り返す事で、エリス自身の体力も急激に消耗していく。

「きゃははははは!!何度やっても同じよぉ!
『ナルビアの神風』って、もしかして学習能力ゼロの脳筋ちゃんなのかしらぁ!?」

「っぐあっ!……くっ……何とでも言うがいい……!」
(確かに……こんな怪物をどうやって倒せばいいのか、私には見当もつかない。
だが『作戦』がある、とアリスが言うのなら……私はそれを信じるだけだ!!)

長年共に戦ってきたエリスは、どんなに不利な状況でも常に最善手を導き出してきたアリスの『作戦』に、絶対的信頼を寄せていた。

そして、アリスは……

ドスッ! ……ガキンッ!! ゴスッ!

「んっ……ぐ、ああっ!!」
「ふ……アリスちゃんの方はもっと話にならないわねぇ。
あの変態女に全身弄られまくって、普通の人間より弱くなっちゃったんじゃないのぉ?」

「……大きな、お世話です……
もともと私の力など、エリス達に比べればたかが知れたもの……」
(そんな私に、できる戦い方と言ったら……)

エリスの攻撃もあっさり叩き落とされる。
だが、魔力で生成した針がゾンビキメラの足に突き刺さっていた。

(……あの針の毒で、人質の痛覚も遮断されるはず。
あとは、針が体内を通って脳内に達すれば……)

アリスの奥の手の一つ、暗殺用の魔法針である。
通常なら刺した針が体内を通る過程で激痛が走り、必ず相手に気付かれる事になるが、
毒で痛覚を麻痺させれば、気付かれないうちに暗殺できる。

(奴に気付かれて、針を人質の体内に送られでもしたらまずい……攻撃し続けて、奴の注意を引かないと)

二人で絶え間なく攻撃を仕掛けるエリスとアリス……だがここで、計算外の事態が起こる。

「グェッ!? しまった、その女を止めろっ!!」
「はぁっ……スバルっ!!今、助けるっ……!!」

「!?……あれは」
「春川桜子………!」

「デストラクション・ねじ回し」で全身をバラバラにされ、ゴブリンに犯されていた春川桜子だった。

925名無しさん:2021/09/19(日) 15:51:49 ID:???
「グゲゲッ!畜生、俺のチンポに噛みつきやがった!!そいつを捕まえろっ!!」
「ケケケ……おいおい。おっぱいを逃がしちまったのかよ。でもとっ捕まえる前にもう一発」
「ん、ぐうっ!?………こ、この位、でぇっ……!」

頭と上半身、左手だけでゾンビキメラに向かって這っていく。
どうやらゴブリン達から体の一部を元に戻したものの、下半身はまだゴブリン達に捕らわれているようだ。

「あらあら……スネグアちゃんのペットだったゴミムシ…じゃなくて、桜子ちゃん。
だめよぉ?そんな所で這いずり回ってたら………うっかり踏みつぶしちゃうじゃない♪」

巨大な足が、桜子の頭めがけて振り下ろされる。
その瞬間……

「調子に乗るな………今度はお前が、地べたを虫のように這う番だ!!」
ドスッ!!……ガラガラガラッ!!
「なっ!!これはっ……!?」

桜子はゾンビキメラの脚に、デストラクション・ねじ回しを突き刺した!

「おま、えっ……いつの間に、ねじ回しをっ………!!」
手足、胴体、左右の翼……ゾンビキメラの異形の巨体が分解していく。

「桜子お姉ちゃんっ!!」
両肩に取り込まれていた、スバルとメルも自由を取り戻す。

「予想外の事態ですが……好都合ですね」

アリスの打ち込んだ針は、バラバラの身体のどこに行ったのだろうか。
このままではキメラの頭を貫くことは出来ない。が……もはやその必要もなくなった。

「作戦変更です、エリス。バラバラになったパーツを叩いてください!私は、人質を……!」
「了解だ!」
「なっ……やめっ………グアァァァァぁぁぁっ!!」

ゾンビキメラの身体は、様々な魔物をつなぎ合わせたの集合体。
故に、パーツ一つ一つが独立した魔物として活動可能だが……変身したエリスにとって見れば、物の数ではない。
手足、尻尾、翼を、テンペストカルネージで一つ一つ刺し貫いていった。

そして……

「春川桜子……あの状況から復活するとは、大した物ですね。おかげで、手間が省けました……」
スバルとメルを連れ、後方に下がったアリスと桜子。
ついでにゴブリンを蹴散らし、桜子の『下半身』も回収している。

「お、のれっ……こうなったら、アンタ達の身体も取り込んであげるわっ!!」
「!……アリス、危ないっ!!」
首だけになったゾンビキメラが、そんなアリス達に襲い掛かる。
その動きは素早く、離れた位置にいたエリスにもカバーできない。

「……これで直接、奴の『頭』を狙えます」
ドスッ!!
「ッグェアッ!?」
背後から迫るキメラに振り向く事もせず、隠し持っていた針の最後の一本を、ゾンビキメラの眉間に突き立てた。


「……やったな、アリスっ!! ……よし、キメラの身体も、これで最後だ!」

エリスも、バラバラになったパーツの最後の一つ、キメラの右腕に止めを刺そうと、槍を振り下ろした。

だが……

「……クククク。
邪魔な身体が無くなって……無能な頭が潰れて………ようやく身軽になった。
礼を言うぞ、人間よ」

右腕と一体化した、巨大な刃……桜子の右腕から奪い取り込んだ異形の魔剣が、
ビクリと大きく脈打ち、刀身の半ばほどにある不気味な単眼をぎょろりと見開いた。

926名無しさん:2021/09/19(日) 19:27:29 ID:???
「な、なんだこいつはっ……槍が、抜けないっ……!?」

「ククク……あのキメラどもに吸収されたことで、他者を取り込む術を会得したのだよ。
我の場合は、生物でなく、同類である『武具』を吸収し、自分のものとする」

異形の魔剣が、エリスの「テンペスト・カルネージ」を吸収していく。
そして、まるで昆虫のような脚を生やして、大きく跳躍した。

「馬鹿な……テンペスト・カルネージが、奪われた……!?」
「エリスっ!?……これは一体……ゾンビキメラとは、別の魔物……!?」
「そもそもキメラとは、複数の魔物の集合体。融合した者の中で、最も強き魔物がその主人格を司る。
我もそのうち主人格を乗っ取るつもりだったが……お前たちのお陰で『手間が省けた』というわけだ」

異形の魔剣がエリスとアリスの周囲を飛び跳ねる。
その速度は驚異的で、消耗してろくに武器もない今の二人には、とても捉えられるものではない。

「そして、確かこの鞭は……魔物や魔獣を統べる力が備わるのだったな」
「!!それは、リベリオンシャッター……まさか!」

続いて異形の魔剣は、スネグアやゾンビキメラの使っていた、魔獣使いの鞭を吸収する。
魔剣が、この武器の能力までも取り込むことが出来るのだとしたら……

「グオォォォォ………」
「!?……この唸り声は……」
「クックック……お前達にはもう、用はない。シモンズ一族に伝わる、最強の守護魔獣とやらの餌になるがいい」

鞭を取り込んだことによって、魔獣を操り、最強の守護獣を呼びだす能力をも身に着けた。
アリス達の足元に巨大な魔方陣が現れ、怪しい光を放ち始める。

「グギエエエエッ!? な、なんだこれはぁっ!?」
「スバル、メル、逃げろっ……っぐあ!?」

バリバリッ!! ぐちゃ!!
「……ぎゃぁぁああああああぁっっ!!」

ゴブリンやゾンビキメラの破片など、魔法陣の上に居たものは、魔物も人間も関係なく次々に取り込まれていく。
足元からは巨大な何かの唸り声、何かを食いちぎる音、断末魔の悲鳴が止むことなく響き続けた。

そして………

「アリスっ……!!」
「これが………魔獣……!?」

巨大な手、巨大な顔、巨大な身体。基地の壁や天井を軽々と破壊しながら、
シモンズ家に伝わる最強の守護獣「ベヒーモス」が魔法陣の中から姿を現した。

927名無しさん:2021/09/19(日) 19:30:36 ID:???
「ななななな、何あれ!!なんか、ヤバいの出てきちゃったよエルマちゃん!!」
「エミルさん落ち着いてください!とにかく今は、サクラを落ち着かせないと……」

少し離れた所にいたエルマ達は、魔法陣から現れた巨大な魔獣の姿に、ただただ圧倒されていた。
もはや一刻の猶予もない。すぐにでも脱出したいが、魔法のホウキを操れるのはサクラだけ。

そのサクラは、ゾンビキメラに惨殺されたイヴの死体を目の当たりにして、放心状態に陥っている……

「なに、これ……イヴちゃん……どうしてこんな事に……」
とっくに動かなくなったイヴの前でひざを折り、俯くサクラ。

イヴの死体は巨大な剣で上半身だけ斬り飛ばされ、壁に叩きつけられ、無残な有様だった。
下半身は……見つからない。ゴブリンの群れがそれらしき物を抱えていたのを見た、ような気がするが、……もう見つける術はない。

「サクラっ!!……しっかりしなさい!すぐに脱出するわよ!!唯と、ルーアちゃんと一緒に!」
エルマが駆け寄り両肩を掴み、サクラを無理矢理立たせる。

「で………でも………まだ、メルちゃんが……それに、オトさんは」
「時間がないの。2度は言わせないで………とにかく、今は何としてでも生きて脱出しましょう……私たちだけでも」
「!!………エルマ、さん……」

エルマはサクラの頬を張り、肩をゆすり、有無を言わせず立ち直らせる。
ルーアは、気絶した唯をホウキに乗せている。
……そして、その後ろでは。

「あーーーもう!もう待てないわ! わるいけど私、先に行くから!!
そのホウキ、私が乗ったら定員オーバーっぽいし!じゃあね!!」
「えっ……エミルさん、ちょっと待つです。今は……」

エミルはどこから持ってきたのか、個人用のジェットパックを背負っていた。
そしてルーアが止める間もなく、壁の穴から外に飛び出していき……

「グギッ!!親方!基地から女の子(20代・白衣・眼鏡)が!」
「グヒヒヒ……ちょっと地味だが、けっこういい感じじゃねえか……一斉に行くぜお前ら!!」
「「「ヒャッハーーー!!」」」

「え?……あ、あれ!? ちょっと待って、っぎゃあああああああぁぁっっ!!!」
ガーゴイル、ハーピーなど、基地の周りを大量に飛んでいた飛行型魔物の餌食となった。

「えええ!?エルマさん、エミルさんが……助けないと!!」
「ジェットパックはあくまで非常脱出用。あんなのでフラフラ飛び出したら、そりゃああなるでしょ……」

エルマは気付いていた。
エミルが密かに、指令室に一つだけ残っていたジェットパックを隠していたことを。
基地の周りに、飛行型の魔物が大量に飛び交っていた事も。

指令室の壁に穴を開けた事で、魔物が大量に集まって来ていたが、基地内の様子がわからないため、様子見していた。
そんな中に、最低限の飛行能力しかないジェットパックで飛びだそうものなら、どうなるかは火を見るよりも明らか。

「……でもエミルさんが犠牲になっている今のうちなら、私たちは安全に離脱できる」
「エルマさん。まさか、初めからエミルさんを………」
「行きましょう………恨むなら後でいくらでも、私を恨んで」

眉一つ動かさず、あまりにも冷静なエミルの様子に、サクラはそれ以上何も言えなかった。
サクラ、エルマ、ルーア、唯の4人を乗せた改造ホウキ「フライングボート・ダブルジェット」は、
エミルの断末魔を背に受けながら、前線基地を全速力で飛び出した……

928>>923から:2021/10/17(日) 17:35:22 ID:???
「「たぁぁぁぁぁっ!!」」
「っ………やああああぁっ!!」

同時に襲い来る2人のミスト。
確かに1対1では互角以上に戦えていたが、
相手はミツルギ討魔忍衆でも最強と言われる剣士。
戦力差は完全に逆転されたと考えるべきだろう。

(受けに回ったら押し切られる!!一人ずつ仕留めないと……!)
(一人ずつ……仕留める……?)

キンッ!! ガキンッ!! ……ザシュッ!!
「っぐあぁっ!」
「まだまだっ……一気に決めさせてもらうわ!」

一人を相手にしている隙に、もう一人が死角から斬りつけてくる。
同一人物であるがゆえに、二人の連携は完璧だった。
連続シフトで敵の攻勢から逃れようとするリザだが、ミストも同じくシフトの使い手。
背後、足元、頭上など、対応できない角度から次々と斬撃が飛んできて、リザは瞬く間に劣勢に立たされてしまう。

ザクッ!! ズバッ!! ブシュッ……
「っぐぅ……あ、ううっ!!……こ、のおっ!!」

急所や利き腕など、致命的な部位への斬撃を避けるだけで精いっぱいのリザ。
背中や太もも、胸元などに次々と傷跡が刻まれ、鮮血が飛び散っていく。

体勢を立て直そうとしたとき、足元がわずかにふらついた。
度重なる失血で、貧血の症状が出はじめている。
意識が朦朧とする中、リザはいちかばちかの反撃に出るが……

「そう来ると思った……これで終わりよ」
「っ………!!」

リザが斬りかかると同時に、待ち構えていたミストがカウンターの突きを繰り出す。
両者の剣が目にも止まらぬ速さで飛ぶ、その刹那……

リザの刃が動きが、わずかに鈍った。

(だ、め……!!)

シャドウブレードは敵の血を吸い、使い手の生命力とする魔剣。
その刃は常に血を求め、使い手自身の血を少しずつ奪い取る。

(今、斬ったら……)
戦場に降り立つ前、リザはアリスと激しい空中戦を繰り広げたが、仕留めるには至らず。
既にリザの身体は大量の血を失い、剣は血に飢えていた。
斬れば間違いなく……ミストが死に至るまで、血を吸いつくす事になる。


連戦と失血による疲労、そして……いまだ残っている僅かな心の迷い。
それらがほんの少しだけ、リザの剣を鈍らせた。

超常の力を持つ達人同士の、ギリギリの戦いの明暗を分けるのには十分すぎる程の、ほんの少し。

「あ………」

リザよりも一瞬早く、ミストの剣がリザを刺し貫こうとした……だが、その、次の瞬間。

「え………!?」
「………どうして……?……まさか……」
リザの予想していた痛みは訪れず。
代わりに、ミストのもう一人の分身が、リザの前に立ちふさがり刃に貫かれていた。

929名無しさん:2021/10/17(日) 17:37:27 ID:???
「………。」
「まさか、あなたは………」

白い忍び装束が、赤黒い血で染まっていく。
ミストの刃を受けて倒れたのは、リザではなくミストの分身だった。

その姿が、リザとミストの目の前で変わっていく。
ミストよりもやや大柄な、アウィナイトの男性。……二人のよく知る人物だった。
彼はミストと同じ体に宿っていた人格、ミストの弟で、リザの兄……

「レオ……!!……そんな、私のせいで……」
「……お兄……ちゃん……!?……一体、どうして……!!」

「いいんだ……初めから、こうするつもりだった。
お前達のどちらかが、どちらかを斬る事になったら……
小さい頃から、二人がケンカしたときは、間に入って収めるのが俺の……げほっ!……がはっ……」
「レオ、それ以上しゃべったら……!!」

剣を収め、レオの元に駆け寄るリザとミスト。
だが二人の斬撃をまともに浴びたレオの傷は深く、もう長くはもたないだろう事は明らかだった。
レオは大量の吐血にも構わず、二人に語り掛ける……

「リザ。お前は真面目過ぎるから……
自分の手を汚す事も構わず、なるべく多くの物を守ろうとしてきたんだろう。
だけど……いつも肝心の、自分自身を守る事を後回しにしちまう……
おまえが守りたいものの中に、お前自身も入れてやってくれ。
俺もミストも、それが一番…心、配……」

「そんなっ……お兄ちゃんっ……」

「ミスト、姉ちゃんは……リザが、悪事に手を染めていくのに、耐えられなかったんだろ…?
だから強引な手を使ってでも……それこそ殺してでも、止めようとした。
だけど、リザの、根っこの所はまだ変わってないはずだ。
だから……取り返しがつかないからって諦めて、殺し合う前に……
もう一度リザのことを信じ、て……分かり合う道を探してほしい……それができるのは、姉ちゃん…だけ………」

「待ってよ、レオ……!……そんな事……!!」
「今さら言われたって、無理だよ……!!」
「………………。」

リザの両目から大粒の涙がこぼれる。
目の前で大切な人が死んでいくのを観るのは、もう何度目になるだろうか…………

だがリザにとってそれ以上に悲しいのは、レオの最後の想いに応えられそうにない事だった。

「父さんや母さんが死んで、一人ぼっちになって……
私……頑張ったんだよ。必死に戦って、やりたくない事も沢山した。
そのうちなんとか食べ物や寝床には困らなくなって……友達も、できた。
でも……やっとの思いで手に入れた物も……すぐに、なくなっちゃう……だから、必死で……

お兄ちゃんだって、私やミストの事、かばってくれたじゃない……
どうして……私が同じことをしたら、いけないの……?

私は、ただ……私の大事なものを守りたかっただけなのに……
う、ううっ………うぁぁあああああああああぁぁっっ!!」

事切れたレオの亡骸を前に、リザは泣き崩れる。
そして、それを見つめるミストも……
胸中に複雑な思いが渦巻き、これ以上リザと戦う気にはなれなかった。

930名無しさん:2021/10/17(日) 17:48:01 ID:???
「リザちゃぁーーーん!!ぜえ……ぜえ……やっと、追いついた………って、あ………」

スズがリザに追いついたときには、既に戦いは終わり、レオの命もまた尽きていた。
声を上げて泣き叫ぶリザに、スズがなかなか声を掛けられずにいると、
近くにいた、ミツルギの装束を着た剣士……ミストが話しかけてきた。

「リザのお仲間ね。……ああ、身構えなくていいわ。もうお互い、戦う気はないから。
落ち着いたら………これだけ伝えておいて。
あなたたちがこのまま、トーメント王国に従い続けるなら……いずれまた逢う時があるでしょう。
私も、その時までに……どうするべきか、答えを探しておく、と」
ミストはスズに言伝ると、いずこへともなく去って行った。

(もう私たちは、元には戻れない。
あの王の下でリザが戦えば戦う程、多くの人々が不幸になり、リザ自身も傷ついていく。
私も討魔忍衆として、多くの人を傷つけ、殺めてきた……。
だから私の手で、リザの運命を終わらせて、その後は私も……それで、終わりにしようと思っていた。
だけど………レオ。私は……私たちは、どうしたらいい……?)
………………

後に残されたは、レオの死体と、すすり泣くリザ。
スズは無言でリザに寄り添い、ひたすら泣き止むのを待ち続けた。

「…………スズ………あなた、言ってたよね。運命を選んで、変えられる力があるって……」
「え………う、うん。でも………」

………しばらく後。
いつの間にか泣き止んでいたリザが、顔を伏せたまま、ふいにスズに問いかける。

「レオを………死んでしまったこの人を、生き返らせることは出来る?
死ななかった運命を、見つける事は………」

「………それは……」

スズの能力は、運命を予知し、その無数の可能性の中からいずれかを選ぶことができる。
場所や時間を、ある程度超越する事も可能だ。
既にリザが泣き止むのを待つ間に、スズは時間を遡って運命を覗き、この場で起きた事もおおよそは察することが出来ていた。

だが………

「…………出来ないよ。私が着いた時には、その人の運命は、もう………」

ミストとリザが出会えば、戦いは避けられなかった。
リザはミストを殺すまいとしていたが、ミストはリザを殺そうとしていた。
二人が戦えば、ほぼ必ず今回のようにレオが身を挺して犠牲となる。数少ない例外は……

レオがリザをかばいきれず、リザが死ぬ事になった場合、である。

リザはそれでも、レオを助けてほしいと言うに違いない。
スズとしては、絶対にその運命を選ぶわけにはいかない。
だから、出来ないと嘘をついた。

「…………そう。なら、いい……任務に戻りましょう」
「あ、ちょっと待って。傷を………きゃっ!?」
「…………」

ぼそりと一言だけ呟くと、立ち上がろうとするリザ。だが失血でふらついて、スズにもたれかかるようにして倒れる。

「…………あ、れ………」
「ああもう、言わんこっちゃない。早く治療しないと………!」

「リザ隊長ーー!!スズさーん!!ご無事ですかーー!?」
「……って、リザちゃんまたまた大ケガしてるー!!だだだ、大丈夫!?」
「……安心しな嬢ちゃん。どうやら急所には入ってねえ……さっさと治療してやんな」

遅れて他のメンバーも二人の元に駆け付け、特殊部隊のメンバーが再び揃った。

傷が得たら、任務が再開される。
攻撃目標はナルビアの秘密兵器『メサイア』、向かった先はアレイ前線基地。

リザがその歩みを止めない限り、戦いは続く。どこまでも果てしなく……

931>>908から:2021/10/24(日) 18:01:52 ID:???
「サキ様を守るため……そして、私自身の因果を断ち切るため。
レイナ……ここで貴女を倒すっっ!!」

「ふふふふ………この時をずっと待ってたよ……
ぶち壊してあげる、舞ちゃんっ!!」

黒い風と黄金の雷が、正面から激突する………

「連牙百烈蹴……黒翼!!たあああああぁっ!!」
……ドガガガガガッ!!
「うぐっ!?」

すれ違いざまの一瞬、舞が十数発の蹴りを見舞った。
スピードは舞が上手。……だがその差は紙一重。

「ちょっと見ないうちに、すばしっこくなったねぇ……一発貰っちゃったよ」
「………!」

魔物をも蹴り倒す舞の連続蹴りは、そのほとんどがレイナに防御された。
唯一まともに急所を捉えた一撃も、痛がるそぶりすらない。

(だったら……倒れるまで、百発でも千発でも打ち込む!)
二度、三度と交錯する両者。
その度に、舞はレイナの攻撃をギリギリでかわし、可能な限り攻撃を打ち込む。
しかしそれでも、レイナに有効なダメージを与えることは出来なかった。

「っつー……今のはちょっと痛かったかなぁ?お腹エグれちゃってるよ……あ、ちょっと待ってね」
「……傷が塞がっていく……!?」

レイナの反射神経と、身に纏っている黄金のスーツの防御力……だけではない。
レイナ自身の身体が、人間を超えた異常なタフネスと回復力を有しているのだ。

「ふっふっふ……結構やるねぇ舞ちゃん。じゃあアタシもそろそろコレ、解禁しちゃうよんっ♪
ブーメランイーグルっ!!」
「くっ!!」
……ブオォンッ!!

レイナの得意武器のブーメランが、雷光を纏って飛ぶ。
常人なら目で追うのも難しいほどの超高速の刃を、舞は何とか回避するが……

……バチバチッ!!
「あぐっ!!」

電撃の余波で、セーラー服の袖口が弾け飛んだ。
背後にあった大岩が、溶けたバターのように両断される。
……まともに喰らったら一巻の終わりだ。
2本のブーメランが鋭く弧を描いて飛び、今度は背後から舞を狙う。

ブオンッ!!バシュッ!!
(まずいっ……!!)
「はっはー!!隙ありぃっ!!」

更に、レイナ本人の同時攻撃……雷を纏った両脚でのドロップキックが襲い掛かった。

ベキィッ!!
「っぐ!?……」

両腕でガードするが、ほとんど役には立たず。
喰らった瞬間、全身を雷に打たれたかのような衝撃が走って意識が飛び……

……ドゴォッ!!
「……っうああああああっ!!」
そのまま体ごと吹っ飛ばされ、受け身も取れずに岩に叩きつけられた。

「ふっふっふ……ま〜いちゃん、まさかこれで終わりじゃないよねぇ?」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………当り前でしょ……!」

折れた利き腕を押さえながら立ち上がる舞。
息が上がり、心臓が喰らったように暴れ、膝がガクガクと震えていた。

黒いブーツの力をフルに開放し続けているせいで、急激に体力を消耗しているのだ。
それでも全力で走り続けなければ、たちまちレイナに追いつかれてしまう。

セーラー服の右肩周辺が焼け落ち、黒いブラジャーが半分見えているが、気にしている余裕は当然なかった。

(速さが、足りない………もっと、あいつが追いつけないくらい、速く……!!)

舞の想いに応えるかのように、ブーツから立ち昇る漆黒のオーラがより一層強くなる。
再び走り出そうと、舞が一歩を踏み出した、その瞬間。

ぽつり。
 ぽつり。

それまで晴れ渡って空ににわかに雲が集い、にわかに雨が降り始め………

(!?………これ、は………)
舞の身体から、急速に力が抜けていった。

932名無しさん:2021/11/01(月) 22:22:59 ID:???
(右足が、動かな………!!)
「ほらほら、何ぼーっとしてんのぉ?っうらあっ!!」
ブオンッ!!
「くっ……!!」

突然降りだした雨に触れた瞬間、舞の身体、特に右足から力が抜けていくのを感じた。
その隙を見逃さず急襲してきたレイナを、舞は左足一本で辛うじて迎撃する。

レイナの突きを弾き、連続蹴りを繰り出し、反動を利用して後方に跳ぶ。
だが、レイナもしつこく追いすがり、なかなか振り切れない。

「はい、つっかまえた♪」
……ドボッ……!!
「っう、ぐぁっ………!!」
強烈なボディブローが脇腹に突き刺さり、胃液を吐き出す舞。
特殊金属製の強化アーマーで覆われたレイナの拳は、舞に膝を屈させるのに十分すぎる威力を秘めていた。

「今までオアズケ喰らってた分、きっつーいの入れてあげるね……『ヒステリックスパーク』っ!!」
バリバリバリバリバリ!!
「っぎあああああああああっっっ!!!」

更に、追撃の電撃攻撃。舞の黒いセーラー服が瞬く間に焼け焦げていく。
辛うじて保たれていた両者の均衡が、ここに来て一気に崩れ始めた。

その原因は、降り出した雨によって、舞の魔法のブーツの力が半減した事にある。
レイナの仲間で、特殊な水の使い手……舞にも心当たりがあった。

「はぁっ……はぁっ……ブーツの力が封じられてる………この雨、まさか……」

「はは〜ん……さてはDさんだな?
まったく、余計なお世話だっつーの……
ま、べつにいっか。
考えてみたらアタシ、舞ちゃんと『勝負』したかったわけじゃないもんねぇ」

レイナは倒れた舞の髪を片手で掴み、無理矢理立たせる。
ナルビアの科学力で体を改造し、強化スーツまで身に纏ったレイナに対し、ブーツの力を失った今の舞は生身同然。
ひとたび捕まれば逃れる術はない。

「あの一緒にいた蝶の髪留めの女やガキは、Dさんが始末してくれるだろうし……」
(!!……そう、だ……奴が近くにいるとしたら、サキ様が……!!)

「とっ捕まえて、徹底的にナブってイジめてイタぶって………」
ぶっ壊れるまで、とことん遊んであげる♪」

「………っいぎあああああああぁぁっっ!!」
舞の頭と股間を両手で鷲掴みにし、再び容赦なく電撃を放つレイナ。
大音量で奏でられる舞の悲鳴に聞き入りながら、恍惚とした表情を浮かべた。

933名無しさん:2021/11/06(土) 18:50:50 ID:???
一方、突然襲ってきたレイナを舞に任せ、漁港へと急ぐサキ、ユキ、サユミの3人。

……今はユキとサユミを安全な所に逃がす方が先決だ。
今の自分では、足手まといになるだけ……
何度も自分に言い聞かせるサキだが、胸のざわつきがどうしても収まらない。
それに……

「心配しないで、お姉ちゃん……舞さんなら、きっと大丈夫……ちゃーんと、私たちが逃げ切るまで時間稼ぎしてくれるよ……ふふふふ」
………ユキの様子も、再びおかしくなりはじめていた。

やはり引き返して、舞を助けに行くべきか……
そう思い始めた矢先。……空が急速に曇りだし、ぽつぽつとにわか雨が降り始めた。

「!………雨………」

サキの表情が一層こわばる。
雨には、良い思い出がない……などという生温い表現では到底言い表せない、強烈なトラウマがあった。
無意識に体が竦んでしまうのをこらえ、来た道をふと振り返ると……
人影がこちらに近づいてくるのが見えた。フードをかぶっていて顔は見えないが、背の高さから、おそらく男性のようだ。

「……っかしーな。レイナの奴、この辺りに居るはずなんだが……
………お前なら知ってるんだろう?……いつぞやの、スパイのお嬢ちゃん」
「!?………ま、さか………なんで、こんな所に、アイツが……!」


男が近づくにつれ、雨脚はだんだんと強くなっていく。
男が更に目の前まで近づき、フードの中の顔を覗かせた時………
サキの緊張が頂点に達し、抱いていて不安が確信に変わった。
その男はダイ・ブヤヴェーナ。
ナルビア王国幹部、シックスデイの一人……サキがかつてナルビアに囚われた時、苛烈な水責め拷問を行った張本人だった。

あの時の苦痛、恐怖、絶望が、サキの脳裏に鮮明に蘇り、言葉を失ったまま数歩後ずさる。
(どうしよう……なんとかして逃げないと。でも、母さんやユキを連れたままで、逃げ切れるの……?)

「はぁっ………はぁっ………こっ………来な、いでっ……」
息が荒くなり、声がかすれる。
体中の震えを押さえて、ダイに向けて手をかざしたが、どういうわけか魔力が発動しない。

「……無駄だよ。俺が今降らせている、この雨……アンチ・スキルマジック・レインの範囲内にいる限り、
お前らは魔法も特殊能力も使えない。
効果範囲も見ての通り、この辺一帯はカバー可能だから、逃げても無駄だぜ……
この間みたいに俺の水でたっぷり溺れて、洗いざらい吐いてもらう」

「……そ、んなっ……!!」

……実際の所、雨雲は空一面を覆ってはいるが、ASMRを降らせることが出来る範囲は限られている。
まず自分の身を守るため、周囲数十メートルに降らせ、あとは周辺をランダムに、降ったり止んだりさせているだけだ。
そういう意味でも、レイナの今いる場所を早く突き止める必要がある。

(今日のアイツは明らかに様子がおかしかった……さっさと回収して帰還しねえとな。
基地の方は、先にエリスとアリスが戻ってるはずだから大丈夫だとは思うが………)

年こそやや幼いが、サキは拷問対象として抜群に好みのタイプ。
状況が許せばじっくり時間をかけたい所、だが。

「ふふふふ………そうはさせないよ。お姉ちゃんは、アタシが守るんだから!」
「!………だ、だめっ、ユキ………あなた一人じゃ………!!」

サキの妹ユキが、体に仕込まれた機械兵器を起動させて、ダイに飛びかかった。

「ガトリングいっせーそーしゃ!くらえーーーっ!!」
………ガガガガガガガガッ!!
「!?……このガキ、体をサイボーグ化してるのか!!
だが……」

ユキの仕込んだ武器は機械兵器。ダイのASMRの対象にはならない。
だがダイの水を操る能力も、ASMRだけではない………

「……その程度で、俺に勝てると思うなよ…」
目の前に水の障壁を作り、ユキの弾丸をいとも簡単に受け止めるダイ。
直接戦闘ではエリス達やレイナといった女性陣に注目が集まりがちだが、彼もまたシックスデイの一員。
並の兵士やサイボーグ等とは、比較にならない戦闘力を有していた。
果たしてサキ、ユキ、そしてサユミは、この窮地を切り抜けることが出来るのか……

934名無しさん:2021/12/05(日) 11:00:45 ID:???
「おじさんをブッ倒して、アタシがお姉ちゃんを守るっ!!」
「おじさん呼ばわりひでぇなぁ。こーんな渋くてイケメンなお兄さんに向かって……キツめにオシオキしてやるぜ、お嬢ちゃん」
ユキは右腕をドリルに変形させ、ダイに飛び掛かる。
一方のダイは、再び周囲の水で障壁を作ってドリルを防ぐ。

ギュルルルル……ジュブッ!
「ここら辺は海が近いからな。水の壁は無限に作れる。そんなドリルじゃ貫けねえぜ」
「ふっふーん……まだまだぁっ!!スパイラルヒートぉぉ!!」
水の壁に粘性を持たせて、ドリルの回転を止めようとするダイ。
だがその時、ユキのドリルが赤く発光し始めた。ドリルそのものが発熱しているのだ!

ジュウウウウウウウゥッッ!!
温度は急上昇し、水の壁が瞬く間に蒸発し始め……

「なっ……やべえっ!!」
「もう遅いよっ!くらえぇぇーーーー!!」
……ブシュオォォォッ!!
「きゃああぁっ!?」
突然の高温で水が大量に気化し、大量の水蒸気が発生。小規模な水蒸気爆発が発生した。
ダイは咄嗟に身を伏せ爆発を免れたが、
至近距離にいたユキは直撃を喰らい吹き飛ばされる。

「……ムチャクチャしやがるぜ。そんな方法で水の壁を破ったらどうなるかぐらい、中学生でも……って、まだ学校じゃ教わってねえか」
「ぐっ………う、うるさいっ……このくらい、なんてことないもん……!!」
ユキは大きく後方に吹き飛ばされ、右腕のドリルが半壊していた。
周囲一帯は水蒸気の霧で包まれ、互いの位置は視認できない。

「ど、どこに隠れたのっ……エネミーサーチャー、作動!」
今度はユキの右目が赤く発光し、霧に紛れて身を隠すダイを探し始めた。
「おいおい……全身ほとんど機械なのか?ナルビアの連中でも、そこまでえげつない改造はそうそうやらんぜ」

「アタシ……が……サキお姉ちゃんを守る……ユキなんかじゃない、『アタシ』が………」
「なるほど……ガキの脳ミソで、それだけの種類の兵器なんて扱えるはずねえと思ってたが……
戦闘用AIまで搭載とは恐れ入ったぜ。脳みその中まで機械化済みってわけだ」

「……こ、子供だからって、馬鹿にして……今に、みてな、さい……!!
(音響から位置を解析して……今度こそ、ぶっ潰してやる……!)」
左腕からガトリングガンを出して構え、周囲を油断なく見回す。

「へっ……そっちこそ考えが甘いな。俺がいつまでも反撃もしねーで、お嬢ちゃんに好き勝手させてやると思ったか?」
「え………!?」
ダイの声がする方に、ガトリングガンの狙いをつけようとしたその時。
声は突然、その反対の方向……ユキの真後ろから聞こえてきた。
水の壁を使って、自在に声の反響を変えていた……気付いた時には、細く鋭い水流がユキの死角から飛んできていた。

シュバッ!!
「………っ!?」
水流が一閃し、ガトリングガンの砲身をユキの左腕ごと斬り飛ばす。

「そんなっ………アタシの特殊金属製の腕が、水鉄砲なんかで……!!」
「ウォーターカッターって言ってな。
ダイヤモンドや金属の微粒子を混ぜた水を勢いよく飛ばして、岩だろうが金属だろうがキレイに切断する。
兵器としては、国際条約で対人間への使用は禁じられてるほど危険な代物だが……
お嬢ちゃんみたいな『モノ』に対して使う分には問題ない」

シュバッ………ザンッ!!
「きゃぅう!?」

……別の方向から水流が飛んできて、今度はユキの右脚を斬り落とした。

「さぁて。それじゃそろそろ、オシオキの時間だ……せいぜい泣き喚いてくれよ。
そうすりゃ本命の『サキお姉ちゃん』も、逃げずに向かってきてくれるだろうからな」

「や、やだっ……くるなっ…………!!」
倒れた水たまりの中から、水の蛇が無数に現れ、ユキの身体に絡みついていく。
降りしきる雨の雫が、蜘蛛やミミズのような姿に代わり、ユキの体内に潜り込んでくる。
片足と両腕を破壊され、抵抗する術を失った少女に、容赦なく牙を剥いた。

「ひっ………っぎああああああああああ!!!」

935名無しさん:2021/12/05(日) 13:26:58 ID:???
ベキベキベキベキッ!!バチュンッ!!ガギンッ!!

「っぐああああああ!!いぎあああああぁぁぁぁぁああああぁっっ!!」
(左脚ユニット大破……右肩関節部破損、左肩……右足……腹部装甲版、破損………!!)
「いぎ、やはぁ……アタシ、が、こわされ………」
(メインCPUユニットに浸水……機能停止テイ、s……)

体の外から、中から、邪悪に蠢く水が次々とユキの身体に入り込み、破壊していく。
バチンッ!!バシュッ!!
特に、コンピュータ内部への浸水が深刻で、ユキの頭部に激しい火花がスパークした。

「ユキッ!?………ユキィィィイイイイッッ!!」
霧の中から泣き叫ぶユキの声が聞こえる。
斬り落とされた腕や、メカの破片サキの足元に跳んできて転がる。
中で何が起きているのか、ユキが今どうなっているのか、想像するだけで恐ろしくなり、サキもまた悲痛の叫びをあげた。

(この、ままじゃ……アタシが、きえちゃ、う……アタシじゃ、なきゃ………)
(ミキ……ミキ、しっかりして……私じゃ、お姉ちゃんを……)
『ユキ』じゃなくて、『ミキ』じゃなきゃ、お姉ちゃんを……守れないのに……)

ミキ。……それは、サユミが、三人目の娘が生まれたらつけようと思っていた名。
死産して生れることができなかった、ユキの双子の妹の……

「武器も手足も、何もかもぶっ壊した。戦闘用AIもこうなっちゃ形無しだな」

「いっぎあああああああああ!!!」
バチバチバチッ………ボンッ!!
飛び散る小さな火花と爆煙を残して、ユキの中に眠っていた戦闘用AI……「ミキ」は、永遠に沈黙した。

「ミキ………ミキっ………う、あぐっ………!!」
おなじ体を共有していた、双子の姉ユキ以外に、その存在を認識する者さえ無いままに。

「………残るは、元の人間の人格か。それにしても、肺が片方だけでも残っててよかったぜ。
ほんのわずかでも生身の身体が残ってりゃあ、それを維持するのに呼吸が必要だからな。
これで……………水責めが出来る」
「い、や……待って……ごぼっ!!」

水蒸気の霧が徐々に晴れていく。水蛇と蟲の群れが一か所に集まっていく。
それらは一つな巨大な球体に変化し、ユキの身体をゆっくりと呑み込んでいった。
戦う事も逃げる事も出来ず、ただ座り込んでいるだけのサキに、見せつけるように。

「がぼっ!!ごぼごぼごぼ!!がはっ!!いやあああ!!お姉ちゃん、たすけっ………ごぼ!!」
「ユキ………ユキッ……!!」
サキは、動けなかった。かつて受けた水滴拷問の影響で、心に刻みつけられた、水への強い恐怖心に縛られ続けていた。

「サキ……逃げなさい。貴女だけでも……!」
「母さん……!?」
だがその時。サキの横に居たサユミが、サキの護身用小型拳銃を手に、ダイに向かって走り出す。

「ほう……?……一般人にしちゃ大した度胸だが………状況を正しく理解できているとは、言えねえなぁ」
だが多少なり戦闘訓練を受けたサキと違い、サユミは普通の女性でしかない。
……ナルビアの軍人、しかもシックスデイの一員であるダイに、敵うはずもなかった。

……シュバッ!!
「あ、あれ、引き金が…あ、ぐっ!!」
発砲しようとするが、構えは素人。しかも、セーフティが解除されておらず、引き金が引けない。
戸惑っている隙に水の触手が飛び、サユミは銃を弾き飛ばされてしまう。

「お母さんも妹ちゃんも確保……もうお前を守る手駒は誰もいないぜ、サキお姉ちゃん。
……そもそも、この俺に見つかった時点で詰んでたんだよ。
船に乗って、海に逃げる……俺相手にそんなことが出来ると思うか?」
(ま、見つけたのは全くの偶然だが……)

「いや………い、やぁぁぁ………」
サキは腰が抜けて立ち上がれず、目に涙を浮かべて後ずさる。
いつもの勝気で小生意気な姿も、今や見る影もなかった。

じゅるり……
「ひっ!?……ま、待って……だ、だめっ……!」
水たまりから水の触手が伸び、サキの脚に絡みついて、ダイの元へと引きずり寄せる。

降りしきる雨に打たれてサキの白ブラウスが透け、Dカップのバストを包む紫色のブラジャーや、体のラインがくっきりと浮かび上がっていた…が、それを気にしている余裕なども当然無い。

「さあ、とことん溺れさせてやるぜ。お前らが土左衛門になる頃には……多分レイナの方も、片が付いてるだろ」

どぷんっ!!
「い、や………ごぼごぼっ!!」
サキは悲鳴を上げる暇もなく、ユキが囚われているのと同じ巨大な水の玉に呑み込まれてしまった。

936名無しさん:2025/03/27(木) 01:43:55 ID:???
「アハハハッ!もっと無様に喘いでよ、アタシのお人形の舞ちゃん!」
「ぐ、ああぁああっあぁ゛あぁ゛ああッ゙!!!」

レイナに頭と下半身を捕まれたまま、電気ショックを浴びる舞。
セーラー服は電圧に耐えられずビリビリという音とともに引き裂かれ、黒のブラジャーがレイナの前に露わになった。

「は、はぁっ、はぁっ……」
「へぇ、舞ちゃん意外と大人な下着つけてるんだぁ……じゃあこっちのかわいい膨らみも、たっぷりいじめてあげなきゃね♪」
「ひあっ!?」

所々が電気で焼ききれてはいるが、かろうじて下着としての機能は果たしている舞のブラジャー。
主張の控えめな両膨らみを、レイナは優しい手つきで掴み込み……

「やぁっ、そ、そこはぁっ……!」
「いくよ?舞ちゃん♡ヒステリックスパーク♪」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!
「お゛ぉ゛ッ゙゛!?ふぅん゛ん゛ん゛ん゛ん゛うううううつう゛う゛う゛う゛ッッッ!!!」

決して致命傷にはならないが、それでも体への衝撃は大きい電撃が舞の胸から流し込まれる。
胸から脳天まで一気に上り詰める電撃の余波に、舞は目を白黒させながら絶叫した。

「アハハハハハハッ!!情けない声出しちゃってホント惨め!!!舞ちゃん程度の女の子が、アタシに勝とうとするからこうなるんだよー?お人形さんはお人形さんらしく、大人しくしてなきゃあねぇ……♡」

「ふぐぅうううぅ゛う゛ぅうう゛ぅッ゙!!!も、あ゛!!!!があああぁあぁあ゛あ゛あ゛」

端正な顔を醜く歪ませながら、止めどない衝撃波に舞は叫び続ける。
何度か意識を手放しかけるも、次の瞬間には電撃と自分が焼ける匂いで覚醒させられ、途切れることなく苦痛を味あわされる。

「あっは♪イキ癖ついてる舞ちゃんにこの電撃は堪えるでしょ?なんかおっぱいの主張が激しくなってきてるよー?」

「ぐっゔああぁはあ゛あ゛ぁ゛あぁああぁ゛っ……!」

バリィ!!!!!!

(あ……う、嘘……)

舞の理性の最後の砦ともいうべき黒のブラジャーは、レイナの電撃の直接攻撃に繊維が持たず、派手な音を立てて引きちぎれていった。

「わぁ、キレイな桜色のおっぱいがこんにちはしてきたよー?こんなに乳首勃たせちゃって……♡そんなにアタシに見せつけたかったの〜?」

「う、あ゛っ……!ち、ちが……ぅ……!」

「舞ちゃんって露出狂なんだ〜?真剣そうに見えて意外と変態?ま、そういうところも含めてアタシはスキだけどね〜、ウフフ♡」

電撃攻めでピンと立った舞の乳首に、レイナはぐいっと顔を近づける。
性器を人前に無遠慮にさらけ出している状況に、舞の顔がさらに熱くなる。
それと同時に、嫌な予感がした。

「はぁっ、はあっ、……なに、を……?」
「え?いやぁ舞ちゃんの可愛いおっぱい見てたら、なんかアタシもちょっと興奮してきちゃったからさ……ちょっと、お味見♪」

レイナはトロンとした顔でそう言うと、強烈な電撃を浴びてピクピクと震えていた舞の先端に、ゆっくりと唇を近づけていき……

ちゅっ♡
「ああああんッ!!」

先程までの痛みを更に上回るような快感が、乳首から脳天とつま先まで舞の体を駆け巡る。
媚びるような喘ぎ声と同時に、舞の下半身を守る布がじわりと濡れそぼったのを、レイナは見逃さなかった。

(う、嘘……わたし、いまので、濡れて……?)

「やん♡私の唇にもバチってきたよー?舞ちゃんったら、ピ◯チュウみたいに全身帯電チュウ?そんなやらしい声出して軽イキしちゃってぇ……♡もーほんとにドMな舞ちゃんはかわいいんだか……らぁっ!!!」

バチバチバチバチバチバチバチ!!!!!
「ぎひいいいい゛い゛い゛い゛い゛い゛ン゛ッ゛!!!!ああはあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」

レイナの右手が舞の顔をむんずと掴み、今までのものよりも強烈な電撃を浴びせる。
全身のセーラー服が悲鳴を上げ、肩も、腰も、わずかに残ったスカートも、すべてが引き裂かれていく。

ビリイィッ!!!
「……お゛ッ゛……!」

自分の下半身を守る最後の布が弾け飛ぶ音を聞いたと同時に、舞は意識を手放した。

937名無しさん:2025/03/27(木) 01:56:17 ID:???
アレイ前線基地の空に浮かぶ改造ホウキ、フライングボート・ダブルジェットには、4人の少女がいた。
気絶している唯、その唯を治療するルーア、現在地と航路を確認するエルマ。
そして、親友だったイヴが自身の目の前で無残な姿になり、放心しているサクラ……

(エミルさん、オト……アリスさんたちも……本当にごめんなさい……隊長たちを助けるには、これしかななかった……)

自分の決断に歯を食いしばるエルマ。
エミルを身代わりにし、オトを見捨てたその決断は非情なものだったが、迫りくる魔物たちから皆を守り逃げるためには、必要な犠牲だった。
そのことは他の隊員にも伝わっているのかはわからないが、ルーアもサクラも口を開くことはなく、船内には重苦しい雰囲気が漂う。

(……とにかく、ここから離れないと。現在地の確認を……)

船から身を乗り出し、辺りの地形から現在地を割り出そうとする。
その視界の中に、エルマは見つけてしまった。


「……!……う、うそ……そんなっ……いや……!」
「……?エルマさん、どうかしたです?」
「ッ!?だめ!!!絶対に下を見ないでルーア!!!」

エルマの視線の先に何があるのかと地上を見下ろそうとするルーアを、エルマは強い言葉で止めた。



「グハハハハハハハッ!!!この琵琶女のマンコの締まり、最高だァ!!!俺様の極太チンポにぴったりジャストフィットだぜぇ!!」
「ゲヒヒヒヒヒ……ミノタウロスのダンナ、おっぱいの張りもなかなかのもんでやんすでぇ……!このメスガキ、なかなかどうして身体は極上……!黙っていればこんなにもイイ女だったとは、驚きでやんす……!」
「オラ、しっかり咥えろ!!!マンコの締まりに負けないぐらいの勢いでしゃぶりやがれ!!てめぇは今日から俺たちの性奴隷だぞ?ご主人様にしっかり奉仕しろや!!!」

「むぐっ……!おぇっ……!がはぁっ……!」

ミノタウロス、ゴブリン、リザードマンのトーメント魔物兵に犯され続けるオトの身体。
すでに身体は抵抗の意志も無くなるほど痛めつけられている。
口、胸、秘部にそれぞれの性器を押し付けられ、絶望の中にいるオトが見たのは、空に浮かぶホウキに乗るエルマの驚愕の表情だった。



(……みんな脱出……できたみたいだな……よかった……)



すぐにエルマは船に引っ込んだが、おそらく仲間たちにこんな姿を見せないよう、何か伝えているんだろう。
そうしてくれたほうがいい。
仲間たち全員にこんな姿を見られて、一生モノのトラウマを植え付けるのはゴメンだ。



(エルマ、ごめんな……嫌な役回りさせて……でもあたし、結構頑張ったんだぜ……こんな別れになったのは残念だけどさ……お前らを魔物から守れたんなら、上出来、だよな……)



「んおぉぁ゛あ゛ぁっ……!で、出る……!出すぞ!!!ミツルギのくノ一JKマンコに、ミノタウロス特濃精子、妊娠確実の大量中出しイくぞォ!!!」
「あ、アッシも……ふわふわおっぱいにゴブリンの粘性たっぷりぐちょぐちょザーメン、出すでやんすゥ!!!」
「お、俺も゛ぉっ……!リザードマンの激熱火傷精子で、その可愛いお口を火傷させてやるぜええぇ!!!」




(みんな……元気で……な……)



皆の乗る箒にオトは手を伸ばす。
その手が掴まれることはないことはわかっているが、それでも……
手を伸ばしている間は、仲間たちの励ましてくれる声が聞こえるような気がした。




「「「うおおおおおああああああッ!!!!」」」
ミノタウロス、ゴブリン、リザードマンたちが同時に射精に至り、満身創痍のオトの体を無常にも犯し尽くしていく。
口内の焼けるような熱さ、胸にかかったひどい匂い、そして下半身に注がれ続ける大量の液体……


仲間たちの乗る箒に手を伸ばしていたオトの手が、ゆっくりと地面に落ちた。

938名無しさん:2025/03/27(木) 02:06:26 ID:???
スズの治療によって傷が癒えたリザは、レオの言葉を胸に秘めつつもメサイア無力化のため行動を開始した。
タラタラ歩くのは骨が折れる、と言いながらボーンドが召喚したのは、骨で組み立てられた世紀末のようなボーンバギー。
オフロード走行可能な骨に5人は乗り込み、陸路でメサイアに追いつくことを目指していた。


「メサイア……カイトとエミリアの2人でも制圧できないなんてね」
「……外見は少女ですが、想像以上の人造兵器でした。それでも全力ではなかったと思われます」
「一緒にいたっていう赤髪の科学者……おそらくミシェル・モントゥブランかな。……彼女が何を考えているのかはわからないけど、トーメントの脅威になるメサイアを連れているなら、野放しにはできない」
「私の力不足です、スピカ隊長。敵を侮り、エミリアさんを危険に晒してしまうなんて……不甲斐ないッ!」
「ううん、カイトくんは私を守って怪我をしたの……私の魔力が足りなくて敵の攻撃を防ぎきれなかった。私の力不足だよ」
「はいはい、とりあえずふたりとも骨々(コツコツ)修行に励んでもらうとしてだ……勝算はあるのかい?隊長さんよ」
「え?いくらメサイアが強力だとしても、リザちゃんがテレポートして破壊プログラムを打ち込めば終わりでしょ?」
「いえ、実は破壊プログラムは……」

リザもスズと同じように考えていたが、破壊プログラムは戦いの中で敵の手に落ちてしまったという。
予備もないため、無力化するとなればメサイア自身を再起不能にするしか方法はない。

「……敵の能力が未知数だけど……その、ゼロエネルギーとかいうものを浴びたら私でも太刀打ちできないかもしれない。……囮役を立てて、不意打ちが勝算高いのかな」
「でもあのミシェルとかいう科学者も能力者だよね?たしか2つの玉をブラブラさせて気持ちよくなったりする能力だっけ?」
「な、なんですかその汚らしい能力は……!絶対に食らいたくないですね……」
「若造、お前真面目系ツッコミキャラで行かねえのか?こんなネタ丸出しのセリフにテンション高く突っ込めないようじゃ、キャラ立ち薄いまま雑に扱われてそのうちフェードアウトするぞ?」
「だ、誰がキャラ立ち薄いんですか!!魔物兵ごときが僕の発言に口を出さないでください!!」

(……たしかミシェルはノワールに能力を奪われて、今はなんの力もなかったはず。……ミシェル単体はそこまで警戒する必要はないのかも)

騒ぎ始めた隊員は相手にせず、リザは敵を分析する。
メサイアだけが脅威なのであれば、それをコントロールしていると思われるミシェルを捕まえれば、容易に捕獲できる可能性もあるのではないだろうか。

「エミリアたちと会ったときのミシェルの口ぶりからして、おそらくメサイアの制御はミシェルが行ってるはず。……それならメサイアの攻撃をかいくぐって、ミシェルを捕獲すればいい」
「操ってるやつを捕まえて無力化する作戦ってコトだね。強力なメサイアとまともにやりあうよりも、そっちのほうがいいのかもね」
「……っと。尺の都合かはわからんが、前方にお目当ての奴らが見えてきたぜ」

アレイ草原を歩く赤髪の少女と白髪の少女。
目標を目視発見したトラディメント小隊はバギーから降り、作戦を開始した。

939>>935から!:2025/03/27(木) 15:14:14 ID:???
冷たい水が全身を包み込み、一瞬で肩までの黒髪も白いブラウスも重く沈み込む。

最初の衝撃で思わず口を開いてしまい、肺に水が流れ込んだ。喉が痙攣し、急いで口を閉じようとするが、既に遅い。初めの一口が、まるで冷たい刃物のように気管を通り、肺の奥まで突き刺さる。

(水、水が……呼吸が……できない……!)

パニックに陥ったサキは必死に水中で腕をばたつかせ、玉の外へ出ようと藻掻くが、どこもかしこも水の壁。強烈な拒絶反応と恐怖が全身を支配していく。

「お姉…ちゃん…!?」

水玉の中で、半壊した身体でわずかに浮かぶユキとサキが目を合わせる。サキは必死に泳ぎ、ユキの元へと近づこうとするが、水の抵抗と恐怖で体が思うように動かない。

「ははっ、これがホントの姉妹水いらず…いや水は必要だからちょっと違うか!」

(出してっ……お願い、出してっ……!)

頭の中で叫ぶが、もちろんダイにそれが伝わるはずもない。サキは必死に水玉の壁を叩き、押し、爪を立てるが、それは堅固な水の分子結合を通り抜けることなく、むなしく力を吸収されていく。

「ははは!そんなことしても無駄だ。今回はちょっと荒っぽいやり方で行くぞ」

ダイが右手を軽く動かすと、水玉の中で突然、強い流れが発生した。サキとユキの体は意思とは無関係に回転し始め、まるで洗濯機の中の洗濯物のように、ぐるぐると回されていく。

「ぐっ!……がはっ!!」「きゃっ…!」

遠心力で体が振り回され、わずかに残っていた肺の中の空気も吐き出してしまう。代わりに水が口と鼻から入り込み、顔中の穴という穴から侵入してくる。顔全体が水に侵食されていくような感覚に、サキの恐怖は頂点に達する。

一方のユキは、もはや半分以上が機械化された身体ゆえ、呼吸の必要はサキほどではなかった。だが、彼女の心はまったく別の苦しみに満ちていた——自分のせいで姉が危険な目に遭わされている、という自責の念だ。今だけではない。自分がスネグアに狙われてからずっとずっと、サキはユキの為に危険な目に遭ってきた。

「足掻けば足掻くほど、早く溺れるぞ。じっとしていれば、少しは長く持つかもな」

水玉の回転が徐々に遅くなり、やがて止まる。サキとユキの体は水中に宙吊りとなり、もはや上下の感覚も失われ、どちらが水面なのかさえ分からなくなっていた。

サキの肩までの黒髪が水中でゆらめき、まるで生き物のように泳ぐ。その繊細な動きは、彼女の恐怖と苦しみを象徴するかのようだ。

(酸素が……酸素が欲しい……)

サキの視界が徐々に暗くなっていく。身体が酸素を求めて必死にもがき、肺が水を吐き出そうと痙攣する。だが水に囲まれた環境では、それは逆効果でしかない。水は一方通行で体内へと流れ込み、出ることを許さない。

「うぅ……ぐぶっ……!」

サキの苦しそうな顔を見て、ダイは満足げに笑みを浮かべる。

「まだまだこれからだぞ?せっかくだから、いろいろと試してみるか」

ダイの指先が繊細に動き、水玉の中で水流の向きが変わる。今度は上から下へとサキの体を押し潰すような圧力が加わる。水圧が全身にかかり、まるで深海に沈められたかのように、胸郭が押しつぶされていく。

「ぐっ!……」

肋骨が軋むような音を立て、内臓が押し上げられる感覚。自分の体が潰れていくような恐怖に、サキの瞳孔が開ききる。もはや酸素の欠乏で視界は暗くなり始めていたが、恐怖だけは鮮明に脳を支配していた。

「お姉ちゃん…!やめて…!お姉ちゃんっ!」

ユキは残された片腕を必死に動かし、サキの元へと近づこうとする。彼女の小さな体は水流にもまれながらも、懸命に姉を守ろうとしていた。

ダイは今度は逆の操作をする。水圧を急に緩め、サキの体内に溜まっていた圧力が一気に解放される。その落差に、サキの体は内部から膨張するように痛みを感じる。

「はっはっは!水圧の力ってすげー!人は月にはいけても海の底には辿り着けないんだもんな!」

サキの白いブラウスは完全に透け、身体のラインがくっきりと浮かび上がっている。黒いブラは水を吸って重くなり、Dカップの豊かな胸を包みながらもサキの肩に食い込んでいた。上気した顔と、苦しげに開かれた唇。それは拷問者にとって、この上ない悦びの光景だった。

「憎らしいくせにかわいい顔してるじゃないか。もっとじっくり見せてもらおうか」

今度はダイの両手が大きく広がり、水玉の形が変わり始める。まるで透明な砂時計のように、中央部分が細くくびれて、上下に広がる形になる。サキの体はそのくびれた部分に挟まれ、上半身と下半身が別々の空間に分断されていく。

「あぐぁああああああああぁぁぁッ!!」

水中なのに聞こえるような悲鳴。それはサキの心の中から絞り出された叫びだった。体が引き伸ばされていく感覚に、彼女の意識が再び明瞭になる。死の恐怖が、一瞬だけ彼女を酸素不足の暗闇から引き戻したのだ。

940名無しさん:2025/03/27(木) 15:16:30 ID:???

「ほら、もっともっと伸びろ!」

ダイの手が大きく離れていく。それに合わせて水玉の上下も広がり、サキとユキの体はゴムのように引き伸ばされていく。腰から下と腰から上が、それぞれ別方向に引っ張られる恐ろしい感覚。

(壊れる……私の体が……バラバラに……!)

脊椎が伸びきり、関節が限界まで引き伸ばされる。皮膚は限界まで伸び、内臓も引き延ばされていく。

サキの肩までの髪が水中で広がり、もはや彼女の顔を覆い隠すほどに拡散する。その乱れた黒髪の間から覗く彼女の表情は、苦痛と恐怖に歪んでいた。

一方のユキは、もはや半ば機械化された体ゆえ、その拷問にさえ耐えうる強度を持っていた。だが、機械と肉体の境目は確実に引き裂かれ、電気系統がショートし始めている。

「……っと、まだ殺しちゃいけないんだったな」

ダイはふと我に返り、手を元に戻す。水玉も元の球体に戻り、サキとユキの体の引き延ばしも止まる。だが、彼女たちの肉体はすでに限界を超えていた。全身の筋肉が拒絶反応を起こし、痙攣が止まらない。

サキの顔色は青紫に変わり、もはや抵抗する動きも止まっていた。

「ほら、少しだけ息をさせてやる。まだまだこれからだからな」

するとサキの周りの水が急に分離し、顔の周りだけ薄い空気の層ができた。

サキは本能的に大きく息を吸い込む。酸素が脳に行き渡り、一瞬だけ意識が戻る。

「は、はぁっ……はぁっ……ユキ……どこ?」

荒い呼吸と共に、サキの目に涙が溢れる。水の中なのに、はっきりと彼女の涙だと分かるほど熱い粒が頬を伝う。彼女は必死に周りを見回し、妹の姿を探す。

ユキは水玉の向こう側で、こちらを見つめていた。彼女の片腕はまだ動き、サキの方向に必死に手を伸ばそうとしている。

「お姉ちゃん……大丈夫?」

水中でユキの言葉は歪むが、その口の動きからサキには何を言っているか理解できた。サキは小さく頷き、微笑もうとするが、その顔はあまりに苦しげで、笑顔には程遠かった。

「よかったな、少しは呼吸できて。でも、これは休憩時間じゃないぞ?」

ダイの左手が水中に沈めたかのように動く。するとサキとユキの間の水が急に濁り始め、まるでインクのように黒くなっていく。

「お互いの顔、もう見えないだろう?次はちょっと別々に遊んでやるよ」

水玉の中に黒い霧が広がり、サキとユキは互いの姿を見失う。

「ユキ……!ユキィ……!」

サキは必死に叫ぶが、その声さえも水に吸い込まれていくようだった。黒い霧の向こうからユキの反応はない。

「ほらほら、妹のことよりも自分の身を心配しろよ」

ダイの右手が再び動き、サキの顔を包んでいた空気の層が消え、再び水に満たされる。

「ぐっ!?……ぶくっ!」

再び水中に戻されたサキは、慌てて息を止めようとするが、叫んだ直後で既に肺の空気は少なく、すぐに息が切れそうになる。彼女の体は再び酸素不足に陥り始める。

「さて、今度はもっと楽しいことをしてやろう」

ダイの両手が複雑に動き、水玉の中に複数の水流が生まれる。それらは蛇のように蠢き、サキの体に絡みついていく。腕、脚、腰、そして首——あらゆる場所に水の拘束具が形成される。

「ひぅっ……!」

水中でサキは小さく悲鳴を上げるが、それは泡となって消えていく。水の蛇は次第に彼女の体を強く締め付け始め、まるで全身を絞め殺そうとするかのように圧力を増していく。

同時に、黒い霧の向こうでは、ユキにも別の拷問が行われていた。半ば機械化された彼女の体に、水が侵入し、電気系統を次々とショートさせていく。

「きゃあっ!」

ユキの体から小さな火花が散り、水中でも目に見える電気の放電が起こる。残された生身の部分にも、その電流の一部が流れ、激しい痛みを与える。

「おお……面白い反応だな。サイボーグを水拷問するのは初めてだが、なかなか楽しいじゃないか」

ダイは黒い霧の向こうのユキの様子を観察し、満足げに笑う。

「さて、お姉ちゃんの方もそろそろかな」

再びサキに注目すると、彼女はもはや抵抗する力も失い、ただ水中に浮かんでいるだけだった。Dカップの胸は呼吸ができず上下に動くこともなく、ただ水の中に沈んでいる。白いブラウスの下の紫のブラは完全に透け、肩までの黒髪は水草のように広がり、彼女の美しい顔を部分的に覆っていた。

「おい、まだ死ぬなよ。もっと長く楽しませろよ」

ダイは指を動かし、再びサキの顔の周りだけに空気の層を作る。だが今回は、その空気の量はわずか。サキの口と鼻だけを覆う程度の小さな泡だけだ。

「は……ッ!」

サキは必死に息を吸うが、その量はあまりに少なく、すぐに使い果たしてしまう。再び息が切れ、意識が遠のいていく。

941名無しさん:2025/03/27(木) 15:34:54 ID:???
「ユキ……ユキ……」

最後の力を振り絞って、サキは妹の名を呼ぶ。その声は水中で歪み、ほとんど聞こえないはずだったが——

「お姉ちゃん……ッ!」

黒い霧の向こうから、ユキの声が届く。それは弱々しく、かすれていたが、確かにユキの声だった。

「おいおい、まだそんなに元気か?」

ダイは少し驚いた様子で、黒い霧を薄めていく。すると、霧の向こう側に、ボロボロになったユキの姿が見えてきた。彼女の体はほとんど機能を失い、片腕だけがかろうじて動いている状態だった。

「お姉ちゃん……アタシが……守るから……」

ユキの声は弱いが、その目には強い決意が宿っていた。胸元の装甲に手を入れている。

サキは最後の力を振り絞って、彼女は水中で体を動かし、妹の元へと泳ぎ始める。その動きは緩慢で、まるで夢の中を歩くようだったが、確かに少しずつユキに近づいていく。

ユキもまた、残された片腕をサキへと伸ばす。姉妹の指先がついに触れ合う。その瞬間、二人の間に不思議な絆が生まれたかのように、水中でも伝わる温かさが広がる。

「お姉ちゃん……」
「ユキ……」

言葉を交わすことはできなくても、二人の目が全てを語る。サキの瞳には「守りたい」という思いが、ユキの瞳には「あなたを救いたい」という決意が輝いていた。

そして——ユキの胸元から取り出されたのは、小さな赤い結晶体。結晶体が、太陽のように明るく照り輝き始める。その激しい光を見て、サキは妹が何をしようとしているか察してしまった。


「ユキ、やめて……!」
サキは水中にもかかわらず、声を振り絞った。泡と共に言葉が漏れ、それでもサキは続ける。
「そんなものを使っちゃダメ……!お願い……!」
ユキの片腕にすがりつくように、サキは必死に訴える。


「でも……お姉ちゃんを守りたい……アタシのせいで、お姉ちゃんはずっと……」
ユキの目には、強い決意と、どこか諦めにも似た優しさが宿っていた。手の中の結晶は、刻一刻と輝きを増していく。

「違う!あなたのせいじゃない……!あたしは、ただ……!」

サキの心の中で、過去の記憶が走馬灯のように駆け巡る。
これまでの日々、家族を守るため、自分を守るため、彼女がどれだけ多くの人を傷つけてきたか。
少女らしからぬ冷酷さで、敵対勢力を撃ち続けた日々。地球に潜入して、罪もない少女を陥れてリョナ世界へ誘拐した過去。

それらは全て、自分と自分の大切な人を守るためだった。


「でも……最後くらい……お姉ちゃんを守りたかった……」

「やめて…ユキ…」

結晶からの光はますます強くなる。

「……いつも、ごめんね……サキお姉ちゃん」

『緊急パージ、ファイナルエクスプロージョン、作動。衝撃に備えてください』

ユキの機械化したパーツ、これまでの戦闘で鉄の塊と化したものがユキの体を離れ、サキを守るように纏わりつく。そしてパージの勢いを利用して、ユキの小さな体はサキから離れ、一気にダイに近づいていく。



ダイは慌てて指を動かそうとするが……


「させないっ!」

「なっ、この未亡人!?」

サユミがダイに飛びかかり、一瞬だけ動きを止める。


「私は、弱い母親だったけど……せめて、今だけは……っ!私ごとやりなさいっ、ユキ!」

「お母さん……ありがとう」


「やめて、2人ともっ……やめてぇえええええええええ!!!!」


水中とは思えないサキの絶叫の直後。光が周囲を包み込んだ。

942名無しさん:2025/03/27(木) 21:45:30 ID:???
仲間のために身代わりとなったオト。その悲惨としかいいようのない末路に、エルマは舌を噛んだ。

(……これが戦場……強者に弱者が蹂躙される、単純で残酷な現実……)

敗北の先にあるのは陵辱、強姦、拷問、性奴隷……
ドラマや映画とは違い、仲間を守った人間の尊厳が守られることはない。
数年ぶりに稼働したこの混沌とした物語の中で、エルマはこの世界の現実をむざむざとわからせられるのであった。

「うっ、うぅっ……!オ、ト……オトぉっ……!」
「エルマさん……」

仲間の名前を呼び、泣き崩れるエルマの様子から、彼女が見たものをルーアが想像するのは難くなかった。

「……オトさん……うちが代わってあげられればよかったのです……」
「ぐすっ……え?ルーア……?」
「オトさんは、ちょっとズレているところもあるけどいい人だったと思う……です。うちが代わってあげるべきだったと思うです」

「る……ルーア……ちゃん……?」

労るのではなくあまりにも唐突な自己犠牲発言に、サクラもルーアに声をかける。

「さっきの魔法少女の子も、上半身と下半身が分かたれて死んだ……です。科学者のエミルさんも魔物に弄ばれながら、四肢を引きちぎられて死んでた……です」

「え……?な、なに言って……!」
「る、ルーアちゃん……そんなの、見てたの……?」

「騎兵の皆さんも……うちを庇って、全身バラバラになった……です」

虚ろな顔で恐ろしいことを呟くルーアに、サクラとエルマは戦慄する。
そんな2人を尻目に、ルーアはぶつぶつとつぶやきながら、フライングボートの縁に手をかけた。

「……うち……うちも……向こうへ……」
「……!?馬鹿、ルーア!?なにやってんの!?」

あまりにも死に触れすぎたのか。
両親を失ったトラウマにより、自死願望のあるルーアにとって、連続で押し寄せる死の連続はとても危険でありながらも甘美な誘いに映っていた。

「…………」

その甘美なものの正体はよくわからないが、光に誘われる虫のように、ルーアはボートの縁へと登りだす。

「い、いや、まって、ルーアちゃ……!」
「ルーア!ルーアやめて!!そんなこと誰も望んでない!!!お願いだから早く降りてえっ!!!」

「……誰も望んでない……それはわかってる、です。これはうちの……独りよがりな……」

青信号になった道路を渡るかのような、とても自然な動作で、ルーアは船から身を投げた……

943名無しさん:2025/03/28(金) 20:17:41 ID:???
「……後方に生体反応。こちらに接近中」
「んー?また性懲りもなく挑んでくるのかしら?不意打ちなんてメサイアちゃんにはできないっていうのにねぇ……」

メサイアを懐柔し、リンネの体液(白く粘つくやつ)から不老不死への手がかりをつかむべく暗躍するミシェル。
元フォーマルハウト候補の最後の生存者となったミシェルの前に、トラディメント小隊の面々が現れた。

「おー?これがメサイアか。こりゃえらい別嬪さんだ」

「あらあら、さっきメサイアちゃんにボコボコにされたのに、また勝負を挑んでくるなんてね?リーダーがいないのは不意打ちを狙ってるんでしょ?もうバレてるから」

「くっ……やはり人造兵器には不意打ちは通じませんか」

リザ以外の4人がかりで足止めしてからリザがとどめを刺そうとしていたが、見破られているなら意味がないとリザは姿を現した。

「ミシェル……ナルビアに亡命したあなたがどうしてメサイアを?何が目的なの?」
「私の狙い?もちろん不老不死の研究もあるけど……このメサイアちゃんがいれば、私をコケにしてくれたあのクソ王にも一矢報いることができるかもしれないわよねぇ?」

以前よりも一回り大きくなった胸に手を当て、マッドサイエンティストよろしくニヤリと笑うミシェル。

「お、王様に……?いくらその、メサイア?が強くても、それだけで私たちトーメントに勝とうとしてるの?」
「それは確かに厳しそうねぇ。それこそ内乱でも起こらない限り、この戦争もトーメントが勝つんでしょうしねぇ?」
「……内乱……?」

不穏なセリフにリザの顔が曇る。
その顔が見たかったとばかりにミシェルはクスクスと笑うと、映像端子を取り出した。


<ニュース速報 イータブリックス城の地下より大量のモンスターやゾンビが大量発生 市民への被害甚大>


「おお?なんじゃこりゃ……イータブリックスで魔物が大暴れしてやがるぜ?」
「クスクス……元々あの城の地下は私の実験場だったのよ。私の研究の副産物や、元々住み着いてた邪悪な魔物が巣食うこの世界で最も最悪で最も危険な場所……そんな場所を解放したら、市街地はどうなるかしらねー?」

「……!あの場所……!」
リザが修行で度々訪れていた城の地下。
スズと出会ったあの場所で、自身の死のイメージが何重にも見えたことを思い出す。
どれほど続いているのかもわからない、いわばこのゲームの最難関エンドコンテンツともいうべきダンジョンから、魔物たちが解き放たれたら……

944名無しさん:2025/03/28(金) 22:55:15 ID:???
(ああ、これで、やっと、楽になれる、です……)

身を投げ出しながら、ルーアは思う。盗賊に父親と母親が殺されてから、ルーアはずっとずっと死にたかった。死ねば両親に会えると思うほどメルヘンではないが、生きる気力も湧かなかったのだ。

心臓にナイフを突き刺そうとした。手首をリストカットしようとした。だけどその度に、盗賊に群がられて犯されていた母親の姿が浮かんで手が止まってしまった。

母は事切れる寸前、何かを言っていた気がする。だけどそれが何かどうしても思い出せなかった。

 
死ねば全てが無になって楽になれる。だけど母親の最期の言葉だけが心残りで、いつも最後の一線で踏み止まってしまった。
だけどもうそれも終わりだ。このまま落ちれば、全て、終わる。


ルーアの心はすでに諦めていた。あの日から、彼女の魂は半分だけあの世に行ってしまったようなものだった。肉体だけがこの世に未練がましく残っていた。そして今、その最後の部分も手放す時が来たのだ。

風が頬を撫で、長い髪が空中で舞う。不思議と恐怖はなかった。むしろ解放感があった。

(みんな、ごめんなさい、です……でもやっぱり、うちは……)

しかし、その時——

「え……?」

落下の途中、ルーアの視界に入ったのは、彼女が絶対に見てはならないものだった。仲間のために身代わりとなったオトの姿。エルマが必死に見るなと言った、あの光景。

地上の一角で、ミノタウロス、ゴブリン、リザードマンなどのトーメント魔物兵に群がられ、犯されるオトの身体。先ほどまで伸ばしていた手も、今は力なく地面に落ちていて、生きているのか死んでいるのかも分からない。

その光景が、七年前、盗賊たちに襲われた母親の姿と完全に重なった。

「や……やめてください、です……!ママ……ママっ……!」

声にならない叫びがルーアの喉から漏れる。落下しながら、彼女の脳裏に七年前の記憶が鮮明に蘇ってきた。

父と母と三人で暮らしていた、優秀な科学者の割には小さな家。ある日突然襲ってきた盗賊団。父は家族を守ろうとしたが、あっさりと殺された。母はルーアを物置に隠し、自分は盗賊たちの前に立ちはだかった。

「娘だけは……お願いだから……」

母の懇願も虚しく、母は目の前で凌辱された。ルーアは物置の隙間から、すべてを見ていた。見たくなかったのに、目が勝手に開いていた。耳を塞ぎたかったのに、手が動かなかった。

母は事切れる寸前、何かを言った。小さな声で、かすれた声で。

「生きて……」

それが何だったのか、ルーアはずっと思い出せなかった。思い出したくなかったのかもしれない。

「ああ……!」

落下するルーアの前に、母の最期の言葉が明確に浮かび上がった。

「生きて……幸せに……なって……」

それが母の残した言葉だった。すべてを奪われ、命さえも奪われる瞬間に、母が願ったたった一つのこと。娘の幸せだけを願って逝った。

「ママ……うち……うち……」

涙が頬を伝い、空中に飛び散る。自分が今やろうとしていることが、母の願いを踏みにじることだと気づいた。でも、もう遅い。

945名無しさん:2025/03/29(土) 01:45:52 ID:???
「リ、リザちゃん……!イータブリックスが危ないんじゃ……?」
「‥…シアナ、聞こえる?」

エミリアに促され、リザはすぐさま無線をつなぎ、作戦本部にいるシアナへ連絡を取る。
すぐに応答があったが、シアナの声の後ろで、騒然としている様子が聞こえてきた。

「……リザか?こっちは急に地下の封印が解かれて、人間に卵を植え付けるゾンビやらローラーで轢き潰してくる粘体巨人やら、みんなのトラウマになりそうなモンスターが市街に溢れててんてこまいだ。まぁ作戦には支障はないと思うが、後方支援にはあまり期待しないでほしい」
「そ、そんなことよりシアナたちは無事?怪我してない?」
「え?あ、あぁ、大丈夫……それに、これはチャンスかも知れない」
「……チャンス?」

そう言うと、シアナは誰もいないな、とつぶやき声のトーンを落とした。

「魔物たちがあふれた王都の地下……あそこは危険なのが多すぎて禁足地になってた。入れるのは王様だけ……ということは、ミツルギから奪った神器を隠しているのも、あそこの奥なんじゃないかと睨んでる」

神器を使い、命を落とした仲間のアイナを蘇らせる。
十輝星を蘇らせないという王の意向に逆らうことになるが、それでもシアナは本気だった。
たとえそれで自分の十輝星としての地位がなくなったとしても……

「……王城の地下については私も王様から少し聞いた。誰も入れさせないために、罠や魔物を大量に置いてるからお前らも入るなって……」
「まぁ闇落ちしたお前は勝手に修業の場にしてたけど……幸か不幸か、今はどこかの誰かが魔物たちを解き放ってくれたおかげで手薄になってるも同然だ。隙を見て僕は行く。帰らなかったらまあそういうことだと思ってくれ……あ、まずい、それじゃ」
「え、し、シアナ!?」

通信はそこでブツッ!と切れた。



「クスクス……なんか関係ない話してたみたいだけど、ここでメサイアちゃんと戦うの?やる気なら容赦しないわよ?」
「……雷魔剣ブラストブレード、出力準備開始……」

メサイアが大剣に手をかけると、バチバチと周りの空間に稲妻が走り出す。

「くっ……!」
「……リザちゃん、ここは私たちに任せて、リザちゃんは王都に戻って!」
「え、エミリア、なに言って……!」
「……王都が大変なんでしょ?それなら十輝星のリザちゃんは、王都に戻ってシアナくんたちを助けてあげなきゃ、ね?」
(え、スズにはさっきの会話、聞こえて……?)

本当に聞こえていたのかは不明だが、戸惑うリザにスズはウィンクをして見せる。

「……そうですね。このメサイアの戦闘能力は計り知れない。不意打ち作戦も失敗したことですし、万が一を考え……スピカ様はこの場を離れてください」
「共倒れになるよりかは、一番強いやつは逃がすってか……泣けるねぇ。まぁ乗ってやるさ」

隊長であるリザを守るように、前に出る4人。
自分たちのみでこの怪物に叶うかは不明だが、それでも隊長を守れるのならばと各々武器を取る。

「み、みんな……」
「リザちゃん、シアナくんを守ってあげて。きっとシアナくんの目的のためには……リザちゃんの力が必要なはず」
「……エミリア……でも、でも……!」
「ファイアウォール!!!」

「きゃあっ!」
轟音とともに、リザを隔てて炎の壁に包まれるトラディメント小隊。
炎の壁の中では仲間たちが、行けと促した。

「あらあら、なんかスピカの子だけ逃がしてどういうむもり?アンタたちだけでメサイアちゃんに勝てるとでも?」
「そんなこと……やってみなきゃわからない!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「……マナ濃度、危険領域閾値突破……対象の脅威判定を更新……」
「ちっ、なんてバカ魔力……純粋な魔力だけで言えばこの子、ルミナスの奴ら超えて最強かもしれないわね……」
魔力を練り上げるエミリアの髪が青から赤に染まる。
それと同時に戦場を囲う炎も、さらに天高く燃え上がった。

「くっ……みんな、絶対に生きて……!」
大きな不安を抱えつつも、リザは1人王都へ向かうのであった……

946名無しさん:2025/03/30(日) 19:53:14 ID:???

リザの後ろ姿が見えなくなるまで、エミリアは炎の壁を維持し続けた。

「エミリアちゃん……戦場だと、リザちゃんが戦いづらい相手がいるかもしれないから……魔物相手なら辛い気持ちにならなくて済むから、行かせたんでしょ?」

「……すごいねスズちゃん、なんでもお見通しなんだ」

エミリアの声は意外なほど落ち着いていた。彼女の瞳の中には、ただ燃え盛る炎が宿っている。

「でも、負ける気はないよ。私はこれからもリザちゃんを支えないといけないんだから」

「くくく……ドラマチックじゃない?自己犠牲っていうのは美学があるわよね」

ミシェルの軽薄な声が空間に響く。彼女はメサイアの背後、安全な場所から状況を楽しむように笑みを浮かべていた。

「ミシェル・モントゥブラン……トーメント王国の元天才科学者にして、ナルビアへの亡命者」

「結果的に、ミシェルを追放したのは敵に骨を送っちまったみたいだな」


「敵対勢力、四名。脅威レベル評価……」
メサイアの瞳が青く光り、四人を上から下まで舐めるようにスキャンする。

「……スピカ部隊トラディメント小隊所属、魔法使いエミリア、脅威レベルS+。刀術士カイト、脅威レベルB+。アンデッド・ソーサラー・ボーンド、脅威レベルA-。運命操作者スズ、脅威レベル不明……計測不能」



「みんな、後ろに下がって。この子、只者じゃないわ」

「……ま、私たちだと大火力決戦には参加できないしね」

「了解しました。ボーンド殿、スズ嬢、下がりましょう」

カイトは冷静にエミリアの指示に従い、二人を促した。スズは何も言わず小さく頷き、ボーンドはガラガラと骨を鳴らして後方へ移動する。


「バーンストーム!」

エミリアの叫びとともに、彼女の周囲から炎の渦が巻き起こった。その渦は徐々に拡大し、メサイアを取り囲んでいく。炎は空気を震わせ、周囲の温度を一気に上昇させた。エミリアの髪が熱風で揺れ動き、魔力の波動が目に見えて彼女の周りを漂っていた。

「……対魔法防壁、展開」

メサイアの周囲に青白い光の膜が形成され、炎の渦を受け止める。しかし、エミリアの炎はその防壁をじりじりと焦がしていった。

「おやおや、メサイアちゃんの防壁を溶かすなんて、やるじゃない」

ミシェルの声には、少しだけ驚きが混じっていた。

「まだまだよ!アイシクルレイン!」

エミリアの掛け声と同時に、炎の渦の中から無数の氷の槍が降り注いだ。

「……回避行動、実行」

メサイアは超人的な身のこなしで、狭い防壁の中で氷の槍をかわしていく。しかしその動きを予測していたかのように、エミリアは次々と魔法を繰り出していく。

「サンダーブラスト!」

今度は雷が走り、メサイアの動きを束縛しようとする。しかし——

「……無駄。同属性干渉、吸収」

メサイアの体が雷を吸い込み、むしろエネルギーを補充してしまう。

「えっ!?そんな……」

エミリアは一瞬ひるんだが、すぐに気持ちを切り替える。

「なら、これはどう?グラビトン・プレス!」
重力魔法がメサイアを押しつぶす。少しだけ動きが鈍くなったそのわずかな隙を狙って——

「オーバーヒートブラスト!」

炎と熱波がメサイアを包み込んだ。爆発音とともに煙が立ち上る。エミリアの髪が炎と共に揺れ、顔に浮かべた自信に満ちた笑みが見える。

「や、やったの……?」
「……いいえ、まだです!」

カイトの警告に、エミリアは咄嗟に身を翻す。煙の中から青白い光が走り、次の瞬間——メサイアの姿が彼女の目の前に現れていた。

「……ミュートロギアヴォルト」

「きゃああああっ!」

メサイアの指先から放たれた漆黒の稲妻がエミリアの肩を貫いた。電撃の衝撃と痛みで彼女の身体が宙に浮き、数メートル後方へ吹き飛ばされる。

「ぐぅっ!……い、痛いっ!」

エミリアは床に倒れ込みながら自分の肩をつかんだ。指の隙間から鮮血が滴り落ち、彼女の白い肌を赤く染めていく。貫通した場所は焦げ付き、煙を上げていた。

「エミリア殿!」

カイトが駆け寄ろうとするが——

「……ゼロエネルギー」

メサイアがカイトに向かって手をかざすと、青白い光が彼の体を包み込んだ。途端にカイトの動きが止まる。彼は声すら出せず、ただ目だけが動くだけの状態に陥っていた。
「カイトくん!」
エミリアは片腕を押さえながら必死に立ち上がる。肩の痛みで顔がゆがみ、足はふらついていた。彼女の呼吸は荒く、汗が額から流れ落ちる。
「くっ……まだ、まだ!私はこんなところで……」

947名無しさん:2025/03/30(日) 20:08:03 ID:???

「……魔素粉砕ブレード」
メサイアがブラストブレードを抜き放つ。巨大な魔剣が空気を震わせ、青白い雷光を纏いながら唸りを上げる。

「くっ……プロテクトシールド!」

「……エネルギーの20%を充填。これにて十分」

メサイアはそう言うと、剣を一閃した。

「え、そんな……ひ、ひあああああっ!」

青白い雷光がエミリアの視界を埋め尽くす。剣撃は音速を超え、空気を切り裂きながらプロテクトシールドに激突した。

バキィィィン!!

轟音と共に、エミリアの誇りであった幾重もの防御障壁が、ガラスが砕けるように木っ端微塵に粉砕される。破壊された結界の破片が魔力の粒子となって空中に散り、一瞬だけ美しい光の雨を作り出した。

「うそっ……あぎゃああああっ!!」

結界が破られた衝撃波がエミリアを直撃し、彼女の身体が人形のように宙を舞う。白いロングコートが風にはためき、その下の彼女の細い体が衝撃波に揺さぶられていた。

「きゃあっ……がはっ!」

彼女の身体は高速で地面に激突し、口から鮮血が弧を描いて飛び散る。肺から空気が強制的に押し出され、一瞬呼吸が停止する。

「ごぶっ!…あぐぅっ…!」

転がる勢いでエミリアの体は何度も地面に叩きつけられ、ようやく木にぶつかって停止した。衝撃で彼女の意識が一瞬途切れかける。

「おやおや、まだ立ち上がるつもり?諦めたほうが痛くないわよ」

ミシェルが嘲るように笑う。

「は、はぁ……はぁ……まだ、終わってない……!」

エミリアは震える手で地面を押し、何とか膝立ちの姿勢まで体を起こす。彼女の髪は汗と血で絡まり、顔には擦り傷がいくつもついていた。それでも、その瞳からは闘志が消えていない。

「バーンストライク!」

彼女は残された力を振り絞り、指先から炎弾を放った。しかしその動きは鈍く、メサイアは軽々とかわす。
「……攻撃効果、ゼロ」

メサイアは冷淡に告げると、一瞬で距離を詰め、エミリアの前に立ちはだかった。
「ひっ……!」

エミリアは咄嗟に後ずさりしようとするが、脚が言うことを聞かない。


「……ターミナルショック」

メサイアの手のひらがエミリアの腹部に直接触れる。白いロングコートの破れた隙間から肌に触れた冷たい感触に、エミリアは身震いした。

「え……?」

一瞬の静寂の後——

「あぐぅううううッ!!」

凄まじい電流がエミリアの全身を駆け巡り、彼女の体が痙攣する。メサイアの手から放たれた雷エネルギーが彼女の体内を焼き、神経を痛めつける。彼女の背中が大きく反り、全身が硬直する。

「ぎゃああああっ!いやぁぁぁっ!」

エミリアの悲鳴が建物中に響き渡る。その声には純粋な苦痛と恐怖が込められていた。

「やめ、うあああっ!やめてぇぇっ!」

体を流れる電流は、血管を通して隅々まで痛みを届ける。まるで内側から焼かれるような感覚に、エミリアの意識が飛びそうになる。

「ぐあっ……!…はぁ……うぅっ……痛い、痛いよぉ……!」

ようやく電流が止まったとき、エミリアの全身から水蒸気が立ち上っていた。肌には電気による火傷の痕がいくつも浮かび上がり、ロングコートの下の肌が赤く焼けていた。髪の毛先まで電気が走り、一部が焦げ付き、焦げ臭い匂いが漂う。

「ごぶっ……!」

口からは血と唾液が混じった液体が溢れ出る。全身の筋肉が痙攣し、制御不能な状態になっていた。

「う…ぐ…あ…」

もはや言葉にならない呻き声しか出せず、エミリアは膝から崩れ落ちる。その姿は先ほどまでの気高い少女の面影はなく、ただの傷ついた少女でしかなかった。

948名無しさん:2025/03/31(月) 03:13:17 ID:???

「……ん、ぁっ……」

電撃責めから意識を取り戻した舞は、レイナに電磁網で拘束され、身動き一つ取れない状況であった。

「意識戻った?じゃあ今度は、もーっと、電圧アップ!!」

バチバチバチバチッ!!!
「いやあああああ!あ、あーーっ!!」

シャドウ◯ーツの拷問イベントのような謎ポーズをしたレイナがボタンを押すと、舞の体に電流が走る。
すでに衣服は衣服の役目を果たしておらず、下着の一部分がかろうじて残っている程度。
そのわずかに残った布も、チリチリと音を立てて舞の体から離れようとしていた。

「アハハハハハハっ!!本当に舞ちゃんってかわいい〜♡あたしね、前に舞ちゃんにキスされて洗脳されたせいか、舞ちゃんのこと考えると胸が苦しくなって仕方ないのぉ♡」

「ひ、ぁ……ぐっ……!」

「あ、でも勘違いしないでね?レズとかバイとかそういうんじゃなくて、可愛すぎていじめたくなっちゃう的なやつだからねぇ?ウフフフ……」

ほぼ意識のない舞の体に指を這わせて、舞の顔に顔を近づけるレイナ。
口ではやばいことを言い続けているが、レイナはシックスデイのお色気担当(自称)なだけあって、美女しか似合わないと言われる前髪パッツンの端正な顔立ちだ。
カスタード色の大きな瞳が舞の眼前に迫ると、自分の体から発せられる焦げ臭い匂いに混じって、香水の甘い香りが舞の鼻腔をくすぐる。

「……舞ちゃん可愛そう……あのリゲルに使い潰されて、最後は私に殺されちゃうんだよ?今どんな気持ち?」
「ぐ……サキ様は、この世界で洗脳された私を助けてくれた恩人……使い潰されてなんか、ないっ……!」
「ふぅん……そんなに好きなんだ。まぁそのリゲルも今頃Dさんにびしょびしょにされてヌレヌレだろうけどね」
「ふ……私と違って、サキ様は強い……お前の仲間になんて負けな、あんっ!!!」

口応えしようとした舞の胸を強引に掴むと、レイナはそのまま両手で胸を揉みしだく。

「ひにゅっ!?あ、あぁっん!!」
「感電で感じやすくなってるね?舞ちゃんのおっぱい、形と弾力がすっごい……量より質って感じだね。ずっと触っていたくなっちゃう♡」

どこかの分身する筋肉男と同じ感想を呟くレイナ。
しばらくむにゅむにゅと揉みながら舞の喘ぎ声を堪能していると同時に、レイナの呼吸も荒くなっていく。

「あっ!や、ひゃぁんっ!!」
「うああっ……!舞ちゃんがエッチすぎて、も、もう我慢できなくなってきちゃう……♡」

舞の目の前ではぁはぁと艶めかしい声とともに呼吸が荒くなるレイナ。そのまま美少女同士、しばらく喘ぎ声を聞かせあってから、レイナはもう我慢できないと言った様子で立ち上がった。

「あ、んんっ!!ひゃ……はあぁん!」
「あっ♡ら……らめぇっ♡こんなの始めてぇ♡舞ちゃんのせい、なんらからね……♡そんな顔してそんなエッチな声出されたら、も、もう我慢できなぁい♡♡♡」

自分の興奮を抑えるかのように胸に右手を当て、恍惚の表情を浮かべるレイナ。
そして空いた左手で、レイナの額をむんずと掴んだ。

「あ、ぁ……?」
「ひ♡ひ♡ヒ♡ヒステリックスパークウゥウゥゥウゥ!!!」



バチバチバチバチバチバチバチイイィィィィ!!!!
「あ゛ぎぎぎゃ゛あ゛あ゛あ゛お゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーッッッ!!!!」



舞に対する嗜虐的な欲求が振り切ってしまったレイナは、電圧の調整も忘れたまま、舞に最高火力の電気を流し込む。
すぐさま舞の下着は消し飛び、秘唇やクリトリスが顔を出すが、その頃には舞の体は人の体をしていなかった。

「あ、舞ちゃん……死んだ?さすがに死んだよね……?」

パチパチ……ブスッ……ブスッ……
苦悶の表情は辛うじて見て取れるが、舞の全身は電撃に焼かれて真っ黒になり、ブスブスと不快な音を立て続ける物体と化していた。

「やっばぁ、ついやりすぎちゃった……♡舞ちゃんがあまりにも可愛すぎて、真っ黒焦げにしちゃったぁ……♡」

自分の顔に両手を当て、陶然とした表情で舞だったモノを見下ろすレイナ。
運命の戦士ではない異世界人の舞には、リョナ欲を持つものの狂気に抗う事は出来なかった……

949名無しさん:2025/04/03(木) 03:12:44 ID:???
「い、やっ……うち、は……ごめんなさい、ママっ……!」

母親が最期に残した、生きてという言葉。そんなことも忘れて、ただ楽になりたくて飛び降りたルーア。いくら後悔しても、もう遅い。ルーアの小さな体は、勢いよく地面に激突して……



「あ、れ……?そんなに、痛く……?」


痛いことは痛い。背中から地面に叩きつけられた衝撃で息が詰まり、肺から空気が絞り出される感覚。けれど——あんな高い所から落ちたとは思えない程度だ。骨は砕けず、内臓も破裂していない。激痛ではなく鈍痛。死ぬどころか、翌日には治りそうな痣ができる程度の痛みだこの不思議な現象に、ルーアは心当たりがあった。

「オトさん……!」

叫びながら周囲を見回す。そして彼女は再び、あの光景を目にした。絶対に見てはいけないと言われていた光景を。
魔物たちに囲まれたオトの姿。彼女の身体は見るも無残で、ミノタウロス、ゴブリン、リザードマンのトーメント魔物兵が群がり、彼女を弄んでいた。

「うわっ、こいつ急に血ぃ吐きやがった!!」
「げへ、まぁこれだけ責められたら無理もないでヤンスがね!」
「フェラ中に吐血すんなよメスガキが!あ、でもこのヌルヌル感は悪くないかも…」


「オトさん、そんなになってまで……まだ、うちのことを……」

イタミワケ。仲間のダメージの大半を肩代わりする、オトの能力。
死んで楽になりたかったルーアにとって、痛みを肩代わりするイタミワケは呪いと同じだ。


ルーアはその場に崩れ落ちる。これが彼女の望んだ「楽になる」ということだったのか。自分が背負うべき痛みを、すべて他人に押し付けて「楽」になること。そんなことを望んでいたのか。

「うち……死のうとした、です……オトさんに、皆に迷惑かけるだけなのに……うち、なんで……」

涙が頬を伝い落ちる。その一滴一滴が、大地に染みこんでいく。
彼女の悲しみに呼応するかのように、オトの周りに淡い光が現れ始めた。「イタミワケ」の発動の証だ。この能力、通常はオトの意思で発動する能力なのに、今は無意識にルーアの痛みを引き受けている。
けれど、その光も徐々に弱まっている。今のが最後の力だったのだろう。オトの意識が、命が、尽きかけているのだ。

魔物たちはオトを犯すのに夢中になっていて、遠くで落下したルーアのことなど視界にも入っていない。

「ママもオトさんも、うちに、生きろと、言うですか…こんなに辛くて苦しいのに…楽になんか、なるなって…」

愛ほど歪んだ呪いはない。自らを投げ打った献身を受けた側は、その献身に応えなければいけなくなる。
どれだけ苦しくても辛くても。その呪いは一生付き纏う。

950名無しさん:2025/04/06(日) 13:54:15 ID:???
「……うっ……」

「ゲヘヘへ……トーメントにも可愛い女がたくさんいるじゃねえか」
「トーメントの女は初めてだ……殺さない程度に痛めつけて、犯してやろうぜぇ……」

倒れた女兵士の肢体をニヤニヤと視線でなめ回す忍びたち。
トーメント正規軍は今回の大戦でも様々な箇所に派遣されてはいるが、魔物軍とはどうしても戦力の差で劣る。
そうなると、役回り的には魔物群の進行のための斥候や陽動、後方支援と言った立ち回りがメインになることが多い。
倒れた女兵士、グレース・ブランシャールも魔物軍の陽動として最前線で果敢に立ち回ったが、後方から思わぬ攻撃を食らい、地面に倒れていた。

(い……一体何が起きたの……敵はいなかったはずなのに、どうして背後から攻撃が……)

その正体は味方の魔物軍たちの、【なんかおっぱいおっきいかわいい女がいたから、味方か敵かわかんないけど、とりあえず悲鳴聞きたいから攻撃しちゃった!!】であることを、彼女は知らない。

「トーメントには散々仲間をやられてんだ。お前1人くらい犯ったって構わねえよなあ?」
「ひ!い、いやあっ!!」

グレースを無理やり立たせると、男の1人が背後からグレースの脇に腕を差し込んで羽交い締めにする。
辛うじて残った体力でジタバタと抵抗するも、高速から抜け出せる様子もなく、自分の上半身を揺らしているだけだった。
その揺れる上半身の一部分に、男たちの視線は釘付けになる。

「おーおー……ぶるんぶるんだな。いいモノもってんじゃねえか。この体勢なら触り放題だ!」
「やあっ!?だ、だめ、そんな、触っちゃ……あッ!」
「かわいい反応しちゃって……天下のトーメントの女兵士が、そんな情けない声あげていいのか?そんなだから魔物軍の使い走りみたいな扱いなんだよお前らは!」

ビリビリビリビリッ!
「やあああんっ!!」

クナイで比較的軽装な服を引き裂かれ、グレースの純白の下着が露わになる。
推定Gカップ、胸元のホクロ、そして嗜虐心を煽るグレースの涙目に、男たちの鼻息はさらに荒くなった。

「うぅ……!み、見ないでっ……!」
「そんなの無理に決まってんだろ!へへへ……こ、この女どうする?このままヤっちまうか?」
「いや、騒がれて敵に見つかったら面倒だ……いったん落として、ここから移動しようぜ」

もう我慢出来ないとばかりの様子で、男の腕がグレースの首にあてがわれる。
感触を触感で楽しんだあと、忍びはその細首に躊躇なく力を込めた。

ギチギチギチギチギチギチ‥…!
「ぐぅっ!?……あ゛ッ……がっ……!」
(し、絞め落と、されるっ……!なんとか……しない、と……)

「おーかわぅいぃー♪首絞めも最高だぜ!」
「可愛い女が絶望して苦しむのってなんでこんなに興奮するんだろうな……俺、トーメントに移住しよっかな」
「それもいいな!こういうのをリョナっていうんだっけか?こいつみたいな可愛い女とか、クール気取ってる生意気な女とかに、所詮自分は肉便器にすぎないバカマンコなんだっていうことをたっぷりわからせたいぜぇ!!」

ギチギチギチギチ……
「ん゛お゛ッ……!お゛ぉ゛ふッ……!」
必死に抵抗を続けても、脳内に送られる酸素が不足しては思考も遮られてしまう。
段々と青ざめていくグレースの口から、だらしない声が漏れた。

「ヒャヒャ!おいおいオホ声みたいになってんぞ。首絞めで感じるなんてド変態女だなぁ!!」
「実際セックスしてるときに首絞めされたい女っているからな。ドMのバカマンコが喜ぶ変態プレイなんだろうな!」
「ククク……そんじゃ、さっさと落として気持ちよくしてやるぜ!」

ギチギチギチギチ!!
「お゛お゛お゛ふぅ゛ぅ゛……ッ!お゛っ、お゛ごッ……!」
(ぁ……これ以上は……もう……)

更に力を込められ、グレースはついに意識を失う……
間際、ミツルギの兵士たちの叫び声がグレースの耳で木霊した。

951名無しさん:2025/04/06(日) 13:55:46 ID:???
「……無事?」

「げほっ、ゲホッ……!あ、あなたは……」

倒れたグレースを除き込む、金髪碧眼の少女。
深い青を湛える美しい双眸と、鈴を転がすような声に息を呑むグレースだが、その金髪の一部には先ほどの男たちの赤い液体がべっとりと着いていて、その陶然とした感覚は少々打ち消される。
と同時に、ゆらゆらと輝く少女の瞳を見た瞬間、グレースの中で一つの感情が一気に湧き上がった。

「……無事ならいい。正規軍でしょ?私は遊撃隊。ここは危険だから移動する。動けないなら連れて……」
「さ、触るなッ!!!」

リザが差し出した手を、グレースは荒々しく払いのけると同時に、すぐさま立ち上がって距離を取る。

「……え?ど、どうしたの……?」
「汚らしいアウィナイトが私に取り入ろうとするな!!この性奴隷が!!殺されたくなかったらさっさとどこかへ行け!!」

目の前の少女は、自分が十輝星のスピカだと知らないらしい。
前に十輝星の情報を公開するという話もあったようだが、まだされていないようだった。
尤もアウィナイトである自分はすぐに変な噂が立つ身分なので、あまり公表されたくない立ち位置ではあるのだが……こういう事態は防げる。

「……どうしてそんな事言うの。私はあなたを助けたのに」

「わ、私を助けるためなんかじゃない……!金が目当てで兵士を籠絡して殺したんでしょ!!この意地汚い不届き者め!さっさとどこかへ消えろ!!」

「…………」

むき出しの差別感情にリザは顔を伏せる。
そうだった。自分は差別される側。
十輝星という立場があるからこそ、こうして表舞台に出られているが、その立場を理解していないものからすれば、爪弾き者にすぎない。
アウィナイトの中には差別者への復讐や、貧困が原因で犯罪に走るものもいる。
彼女を助けてあげたとは言え、昔の自分もそうであったからこそ、リザは何も言い返せずにいた。

「……わかった。ごめんね……もう行くから」
「お前らアウィナイトのせいで私のお父さんはおかしくなった。毎晩毎晩あいつのもとに通って、貢いで……!
2度と私の前に姿を見せるな!!この弱小民族の性奴隷が!!!」

私怨も多く入っているようだが、納得できない理由でもない。
リザは背後に罵詈雑言を浴びながらも、イータ・ブリックスへの道を急いだ。

952名無しさん:2025/04/07(月) 03:50:17 ID:???
「ぐ……ぁ……っ」
魔物たちに侵され続けるオト。ルーアの肩代わりをしたことで意識を失った彼女に、もはや抵抗の意思はなかった。
その瞳からは光が抜け、歌詞を奏でていた口からは喘ぎ声も出なくなり、全身の筋肉が弛緩していく。

「ぐったり動かなくなっちまったなぁ……流石に死んだか?精子はまだまだ尽きねえが、他の女も味わいたいし、こいつともおさらばするかぁ……」
「ゲヘゲヘ……いい女だったでやんす。王様のところに送られたら、毎晩毎夜犯してやりたいでやんすねぇ」
「そうか!王様の力でいい女は死んだら王都に送られるって話だったな!もしコイツが送られたら、また3人で回して慰み者にしてろうぜ!グヒャヒャヒャ!」

「……まつ、です」
「「「あ?」」」

暴虐の限りを尽くした魔物たちが振り返る。
純白のローブ、腰まで届く長い髪、そして眠そうな目つき……平時の彼女であればそうだった。
戦友の尊厳を完全に破壊し、死に追いやった魔物たちを目の前に、ルーアの表情には怒りが発現している。

「んだロリかよ……こんな胸もケツもねぇチビ犯す趣味はねぇなぁ」
「このメスガキ、怒ってるみたいでやんすが……俺たちに殺されたいんでやんすかぁ?」
「クククク……さっきの女の敵討ちってとこか?ガキのくせにその度胸だけは褒めてやるが……相手を見て挑んだほうがいいぜぇ?」

「……うぅ」
ルーアは自分の意志ではなく、気づいたら声をかけてしまっていた。
戦友を殺した相手への憎しみか、それとも自身を助けた戦友への罪滅ぼしか。
ルーアの胸の中で渦巻く感情の正体。それを確かめる時間もなく、本当に無意識のまま恐ろしい魔物に声をかけてしまっていたのだ。

「グハハハハハ!ビビってんのか??自分から挑んできて怖気づいたってか!」
「震えてるでやんすねぇ……まぁ無理もないでやんすが」
「おらかかってこいよメスガキ!お兄さんたちがゆっくり遊び殺してやるからよぉ!」

(……怖い……けど、ここで逃げたら……ウチはウチを許せないです。たとえ……たとえ死んだって!)

杖を構え直し、敵へと向ける。
それを戦闘の開始と認めた魔物兵たちは、一斉にルーアへと襲いかかる!

953名無しさん:2025/04/07(月) 03:51:19 ID:???
「……はっ!」

ルーアの戦闘スキルは魔法杖術。杖ということで後方支援のみと思われがちだが、ルーアは前衛もある程度こなせるハイブリッドメイジである。

「おごっ!?な、このガキどっからそんな力が……?」
「ランディ様直伝の魔法杖術……!その身で味わう、です!!」
「お、ごわああっ!!」

自身を遥かに上回る体躯を誇るミノタウロスを、数メートル吹き飛ばす渾身の一撃。
「み、ミノタウロスのダンナ!?」
予期しなかった反撃に、完全に舐めてかかっていた他の魔物兵たちの動きが止まる。

「本気でいくです……グランドゥケイン!!」
ルーアの魔力を流し込んだ杖が、更に巨大、硬質化。
殺傷力の高い棍棒と化した巨大杖を、訓練で鍛えた身体の柔軟性で巧みに操り、思い切り敵へと振り下ろす!!

ドゴオオォン!!!
「ぶべらっ!!」
「ち、このクソガキ!!絶対泣かす!!!喰らいやがれぇ!!!」

最後に残ったリザードマンが、巨大な火の玉を放出する。
ゴオと勢いよく迫る炎弾を前に、ルーアはもう用はないとばかりに武器の杖を放り捨て前へと走り出し、その足にありったけの魔力を込め……!

「んなっ!?ま、まさか……」
「……オトさんが負傷してなければ、お前らなんか絶対倒せてた……ですッ!!」

ドゴオオォッ!!
「「「ぐぎゃあああああ!!!」」」

魔力を集めた足で放つ炎弾シュート。
その容姿からは想像できない大胆な反撃に、炎に包まれたリザードマンたちはまとめて吹き飛んでいった。



「……はぁ、はぁ……オトさん……!」
怨敵に引導を渡したルーアは、一目散にオトへの下へと駆け寄る。
もう風前の灯のようなオトだが、戦闘の音が聞こえていたのか、ルーアが駆け寄るとゆっくりと顔を向けた。

「……ル……ァ……」
「オトさん……!うちが……うちのせいで、こんな……!ごめんなさい……!ごめんなさぃッ……!」
「……きに……すんな……あたし……みんな……守れ……よか、っ……た……」
「神火を纏いし聖光よ……!彼の者に玉響の煌めきを!ホーリーエクスタシィ!!」

癒しの上級魔法が、オトの身体を優しく包む。
だがその光はオトの目を覚ますことはなく、名残惜しそうにゆっくりと霧散していく。

「……そんな……そんな……オトさん……?」
「……………………」
「だめ……だめです……死んじゃ……死ぬなんて……!そんなのだめ……だめですッ……!ぐすっ、うぅっ……!」

魔物たちの体液とオトの血が混ざり合い、むせ返るような臭気を放っている。
そんなこともまったく気にせず、純白のローブを血で汚しながら、ルーアは回復魔法をひたすら唱え続けた。

自分の魔力が空になって、ようやく見つけたエルマたちが船で迎えに来るまで……

954名無しさん:2025/04/11(金) 18:16:22 ID:???

ベヒーモスが粘つく舌をするりと伸ばした。その舌は肥大化した巨大蛇のようで、薄紅色の表面からは常に粘液が滴り落ちている。それは意思を持っているかのように自在に動き、最初に桜子の周りを完全に取り囲んだ。

「や、やめっ…!あっ…ああぁっ!」

桜子は這いずる舌から逃れようと、右腕の肘を床について身体を引きずろうとするが、ほとんど動かない。顔を歪め、痛みに耐えながら必死に後ずさろうとするが、その努力はむなしく終わった。

「ひぐっ…!ぐぁあぁぁっ!」

ベヒーモスの舌が彼女の上半身だけの体に絡みつく。その感触は生暖かく、ぬめりとした粘液が肌に広がる。

舌は彼女の体をさらに強く締め付け、ゆっくりと引き寄せていく。

「きゅあぁぁっ!はな、せ…うぁぁっ!」

締め付けられる痛みに、桜子の叫び声が高く上がる。彼女の手は必死に何かにしがみつこうとするが、鋼鉄の床には掴めるものが何もなかった。デストラクション・ねじ回しも、先ほどの衝撃で何処かへ飛んでいってしまった。

「あっ、ご、がぁぁあっ!!」

「助ける義理はないが…成り行きとはいえ共闘した身。なにより…戦力が惜しい!」

「エリス!武器もないのに無茶ですっ!ここは私が…」



エリスが助けようと駆け出す。しかし、ベヒーモスの別の肢—巨大な鉤爪を持つ前脚が突如として彼女の行く手を阻む。

「くっ…邪魔をするな!」

エリスは素早く身をかわそうとした。軍人としての訓練された身体能力で、通常の攻撃なら容易に避けられたはずだ。しかし、ベヒーモスの動きは彼女の予測を遥かに超えていた。

「なっ…速い…!」

エリスは避けきれずに、左肩に鋭い衝撃が走る。

「ぐうっ!?」

巨獣の爪が彼女の肩を深く貫いた。軍服がびりびりと音を立てて引き裂かれ、その下の柔らかな肌も同時に裂けていく。布地が引き裂かれる音と、肉が引き千切られる感覚が、エリスの意識を一瞬だけ遠ざけた。

「はぁっ…!ぐぅあ…っ!」

爪が肩から抜かれる際、エリスの口から苦しそうな呻き声が漏れる。傷口からは血が噴き出し、軍服の袖を一気に真っ赤に染め上げた。

955名無しさん:2025/04/12(土) 14:20:47 ID:???
「……ん……ぅ……?わたし……あれ……?」
「唯ちゃん!みんな、唯ちゃん起きたよ!!」

魔物たちとの激しい戦闘で気絶していた唯は、空を航行するフライングボート・ダブルジェットの甲板で目を覚ました。

「みんな、無事?怪我してない?ごめんね、私気を失って……」
「……ごめん。オトは……」
「え?オトちゃんが……どうしたの?」

壮絶な状況下の中で、なんとかオトたちを犠牲に逃げ延びたことを、エルマは唯に伝える。
ルーアもサクラも神妙な面持ちでそれを聞いていた。

ルーアの自殺未遂については、あえて伝えなかった。

「そんな……私のせいだ……!私が隊長なのに、みんなの邪魔になって……オトちゃん、ごめん……!」
「……ううん。唯ちゃんもみんなを守るために戦い抜いた。みんなを切り捨てる判断をしたのは私……」
「や、やめてください!オトさんもそんな責任の押しつけ合いなんて、望んでいません!」
「……うち、オトさんから聞いた……です。みんなを守れてよかったと……だから、これはオトさんが望んだ結果……責任があるとするなら、オトさんを守れなかった、うちら全員にある……です」

「うっ……ぐすっ、ぐす……オトちゃん……オトちゃあぁんっ……!」
座り込んだまま、誰に感情をぶつけることもなく唯は顔を押さえて泣いた。
いままで運命の戦士としてたくさんの敵と戦ってきたが、自分たちは死んでも蘇ることができる。
何度も死を経験するうちに、自分たちの死にはある程度耐性ができていたが……
仲間の死にはやはり耐えられない。
もう2度と、彼女の調子外れな歌を聴くことはないのだ。

「……でも……魔物が言ってたです。いい女は死んだら王都に送られる……と」
「い、いい女……?それって、どういうことですか……?」
「……トーメントの王様は女の子に酷いことをして楽しむのが大好きだから、そういうことだと……思う」
オトが転生して生きているのは希望のように見えるが、おそらく狂王のお膝元では逃げることも叶わず、目を覆いたくなるようなことをされることは見えている。

「ぐすっ……それでも……それでも私は、オトちゃんを助けるよ。作戦の最終段階……私たち運命の戦士が王都に集まれば、きっと……きっとオトちゃんたちを助けることもできるはず……!」
「……いい女、の基準がわからない以上、過度な期待はしないほうがいいです……が、うちも同じ気持ち、です。オトさんのためにも、前を向いて戦いましょう」

泣きじゃくる唯の前でしゃがみ、優しく抱きしめるルーア。
他人への感情も希薄だったルーアだが、この戦いで他人の痛みや自分の弱さを知り、精神的にも頼もしく成長していた。

「……そうだね、ルーアちゃん。隊長がいつまでも泣いてたら……オトちゃんに怒られちゃうよね……ぐすっ」
「……唯さんの優しさは、うちらの支えです。オトさんもそれを守るために戦った……その意志を引き継いで、うちらもこの戦いで勝つために、唯さんを守り抜く‥…です。」

「なんか……ルーアちゃん。雰囲気が変わったね。前よりも声が優しくて……なんだかすごく頼もしいよ」
「……もし本当にそうだとしたら、オトさんのおかげ、です。」
「……あ、イグジス部隊長から通信!唯ちゃん、出られる?」
「……うんっ……!もう、大丈夫……!」

体の痛みはまだ残るものの、心の痛みに比べたら大したことはない。
大切な仲間を1人失った唯たちは、次の作戦に臨む。

956名無しさん:2025/04/14(月) 01:09:07 ID:???
「こんな程度で…私が…!」

エリスは痛みに歯を食いしばりながらも、素早く体勢を立て直す。左腕からは血が滴り落ち、床に小さな血だまりを作っていた。彼女の顔は痛みで引きつり、額には大粒の汗が浮かんでいる。

「エリスっ!」

「アリスっ!お前は逃げろっ!コイツは厄介過ぎるっ!気に食わんが、メサイアを呼べっ!」

この状況でメサイアが使い物になるのか、リンネのやつはどこにいるのか…

混沌とした状況だが、メサイアがベヒーモスを倒せば、とりあえずこの闘いは一応はナルビアの勝ちだ。

「しかしっ!!」

「お前の方が改造が進んでるっ!武器もない私が捨て駒になった方が合理的だ!行けっ!!軍人として、情に流されず、理で動くんだっ!」

「くっ…死なないでくださいよ、エリス!」

アリスは唇を噛みしめながらも、背を向けて走り出す。


「ほう、妹を逃がしたか…だが、それも結局無意味だ!」

魔剣の冷たい笑いが響く中、次の攻撃が繰り出された。

次の瞬間、ゾクッとした殺気がエリスの背に走る。危険を察知し、彼女は反射的に振り向いた。

振り向いた彼女の目に映ったのは、巨獣の別の腕が振り上げられている姿。咄嗟に横に避けるエリスだが…

そこにもまた、別の腕が迫っていた。

「ぐわぁっ…!?」

エリスの腹部に巨獣の鋭い爪が突き刺さる。肉を引き裂く感覚と、内臓が押しつぶされる感覚が同時に走った。彼女の目が大きく見開かれ、口が開いたまま声にならない悲鳴を上げる。

「はぐっ…!」

爪は完全には貫通しなかったが、その傷は浅いものではなかった。軍服の腹部が完全に裂け、中から赤黒い血が溢れ出す。エリスは自分の血の匂いと鉄の味に、一瞬だけ吐き気を覚えた。

衝撃で彼女の身体は宙に浮き、数メートル吹き飛ばされる。背中から壁に激突し、

「がはっ…!」

強烈な衝撃が背骨を通して頭蓋骨まで響き渡る。口から血沫が飛び散り、首の後ろを打った衝撃で一瞬視界が真っ暗になった。

「っくぁぁぁっ!」

二度目の衝撃で、また口から血が噴き出す。エリスの脳裏には、無数の光の点が踊った。体の各所から激痛が走り、まともに呼吸することすら難しくなっていた。

「はぁ…はぁ…こんな…ところで…」

エリスは壁に背中をつけたまま、ゆっくりと崩れ落ちていく。腹部の傷からは血が滴り落ち、床に小さな水たまりを作る。軍服の前面は既に血で濡れネズミ色になり、顔は青白く、瞳からは次第に力が失われていった。それでも彼女は諦めず、震える手で傷口を押さえながら立ち上がろうとするが、力が入らない。


「やめ…あぁっ…!」

巨獣の腕はエリスの細い腰を強く掴んだ。その衝撃だけで彼女の口から息が抜け、鋭い痛みが脊椎を駆け上がる。

「くっ…!」

突如として宙に浮かされたエリスの身体が、空中でぶらぶらと揺れる。彼女の軍服の裾がはためき、金髪が風に舞う。


「うっ…くぅっ…!息が…!」

締め付ける力が強まるにつれ、エリスの肋骨がきしむ音が聞こえてくる。彼女の肺からは酸素が絞り出され、呼吸が浅く苦しげになっていく。

「はぁっ…はぁっ…ぐが、ああっ……」

締め付けられるたびに、彼女の細い体からは骨がきしむ音がかすかに漏れる。やがて顔が青ざめ、唇が紫色に変わっていく。

「ぎっ…あぁっ…!」

瞳から涙があふれ、頬を伝って滴り落ちた。エリスは痛みと苦しさに耐えながらも、妹が去っていった方を見つめる。

「アリ…ス…お前は…ぶじ、に…」

声にならない呻き声が漏れる中、巨獣の掌が突然さらに強く締め付けた。

「あぁぁあああぁぁぁっ!」



ベヒーモスはエリスの体をさらに締め付け、彼女からさらに悲鳴を引き出した。

957名無しさん:2025/04/15(火) 01:09:07 ID:???
「……魔法使いエミリアの沈黙を確認」
「クスクス……情けない顔しちゃって、カッコ悪ぅー!弱いってホント無様よねー!あっはははは!」

「ぐっ……うぅ……」

メサイアに炎と電撃で焼かれたエミリアを嘲るミシェル。エミリアはなんとか上半身を持ち上げ立ち上がろうとするものの、起き上がることは叶わず地面に倒れた。
同時に、彼女の烈火のごとく煌めいていた髪色も、元の水色へと戻っていく。

「おー、魔法少女みたいに戦闘不能描写がわかりやすくていいわねー。ま、メサイアちゃんの敵じゃなかったわね」
「オブリテレートタスク続行。その他の脅威の排除を続行します」

後方で待機していた3人へと無機質に向き直るメサイア。
エミリアがやられたことで動揺を見せるスズとカイトだが、ボーンドは特に気にする様子もなくカタカタと骨を鳴らしていた。

「エミリアちゃんがこうも骨抜きにされちまうとはなぁ。こりゃ参った。降参するから見逃してくれねぇか?」
「な、何を言っている!?仲間を見捨てて敵前逃亡など、認められるわけがないだろう!」
「で、でも、私たちじゃこんなのどうしようもなくない……?エミリアちゃんもこのままだとまずいし、これ以上戦っても消耗するだけだよ……」
「な、す、スズさんまでそんな弱気な……!」

確かに、エミリアの火力で倒せなかったメサイアに対し自分たちの戦力は心もとない。
(このスケルトンの戦力には到底期待できない……スズさんも正直その実力は未知数……というか今更だけどこの人、武器とか何も持ってなさそうだけど、魔法使いなのか……?)

ビービービー!
カイトが行動を決めかねていると、メサイアの身体から発信音が響いた。
「ん?なんの音?」
「シックスデイ専用通信に反応あり。シックスデイの隊員がメサイアへの出動要請を発信しています」
「あー。エリスちゃんとかアリスちゃんが追い詰められてピーンチって感じかしらね。クスクス……せっかく改造してあげたのに、手のかかる女の子なんだから……」

力を求めるレイナ、エリス、アリスに対し、実験も兼ねて応えたミシェル。
特にアリスには体組織から改造を行い、常人離れした肉体への改造を施してある。
とはいえ、ミシェルに彼女たちへの愛情や未練があるかと言われたらそれはない。

(あたしの目的はあくまで不老不死の研究。このメサイアちゃん経由でナルビアのマザーコンピューターをクラッキングすれば、ナルビアの高官たちがどこに隠れているかがわかるわ。そいつら全員まとめて、不老不死に近づくための実験材料にしてやるんだから……!)

誰かに説明でもしているのか、妙に具体的な将来設計を思い浮かべるミシェル。その表情は年相応のかわいらしい笑顔だが、内に秘めた狂気は計り知れない。

「まぁあたしもそれなりに忙しいのよ。雑魚に構ってるヒマないわけ。戦わないならエミリアちゃんを抱えてさっさと消えなさいよねー」

「グッ……!これは戦略的撤退です!スピカ隊長が戻り次第、メサイアは必ず停止させます!」
「はいはい、でも別にあたしの邪魔しないならトーメントの不利益になることはしないつもりだから、そこんとこよろしくー。じゃ、そういうことで」

軽くそう言い放つと、ミシェルはメサイアと共にワープゲートの中へと消えていった。

958名無しさん:2025/04/15(火) 01:50:54 ID:???
ミシェルたちが去り、後に残された隊長不在のトラディメント小隊。
そのうちの1人、スズは緊張の糸が切れたかのようにぺたりとその場に座り込んだ。
 
「……ふぅ、なんとかみんな無事の運命になれたね」
「みんな無事の運命……?一体どういうことですか?」
「運命を選択したの。あのまま何もしないと、私たち全員あのメサイアに焼かれて死んでた。何回もやり直して変数を調整しながら、なんとかこの展開にできたってことだよ」
「は、はぁ……スズさんが能力者なのはわかりましたが、いまいちその効果は実感できませんね……」
「柑橘系美少女のスズちゃんが頑張ったって言ってるんだ。ちゃんと褒めてやれ。若造」
「べ、別に感謝してないわけじゃ……そ、そんなことよりエミリアさんを早く治療しないと!」

一目散にエミリアへと駆け寄るカイトとスズ。
身体、服、髪の毛の一部に至るまで焼かれたエミリアは完全に気を失っており、辺りには焦げた匂いが充満していた。
「……早く治療しないとだけど、ここで敵が来るとまずいね。カイトくん、エミリアちゃんを抱えてもらえる?あっちまで移動しよう」
「は、はい!わかりました!」

今は非常時。だからこそスズの提案に即返事し、エミリアを背負ったカイトだが……

むにゅっ
「あっ……!」

エミリアは言わずと知れた隠れ巨乳。
かつ、服や下着が破れてしまっているせいで、その感触どころか2つの先端のコリっとした硬さまでが、カイトの背中に伝わり……

バタッ……!
「え!?あ、そっか!カイトくん女の子だめなんだった!!カイトくん、カイトくん戻ってきてー!!!」
「おーおー、これは一体なんだ?アンラッキースケベとでも言えばいいのか?新しいジャンルだなぁ……」

乳房と乳首という、女性の感触をダブルで食らったカイトはその場で卒倒したのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「……体組織活動細胞減少……リヴァイタライズの摂取が必要……」
ワープゲートから抜け出したミシェルとメサイア。
その直後、武装を解除したメサイアはお腹が減った子供のようにぺたりと座り込んだ。
「やっぱり、メサイアちゃん調子悪くなったのね。エミリアちゃんを倒した後くらいから、顔色悪くなってたわよ」
そう、ミシェルとしてはあそこで戦闘してもよかったのだが、他ならぬメサイアの調子が悪くなったため、慈悲を与えるふりをして退却を選んだ。
(スズの運命選択がなくそのまま戦闘していても、3人には勝てていたのだが)

「……あの人のためにも、戦争を早く、終わらせなければ……ミシェルさん、リヴァイタライズの点滴をお願いします……」
「おっけーおっけー。リンネくんから取れた鮮度抜群ののおくすりよ。これで元気だしてねっ、と!」

リンネの精◯から抽出した成分を元に、ミシェルによって改良を加えられたリヴァイタライズ。
注射することにて体内への到達を図るその薬を手に取ったミシェルは、それをメサイアの首元に勢いよく突き刺す。

ブスッ!
「……?記憶……記憶領域に……原因不明のエラー発生」
「ん?どういうこと?メサイアちゃん大丈夫?」

リヴァイタライズを摂取した際、ほんの一瞬だけ……
ハンバーグを作る小さな自分の手元を映した映像が、メサイアの記憶域に浮かんだのであった。

959名無しさん:2025/04/23(水) 14:01:36 ID:???
リンネはゆっくりと体を起こした。
体液を摂取されてから随分長い間…なんか3年半くらい倒れていたような気がするが、いつまでもこうしているわけにはいかない。

『どこか国外の、安全な場所に退避する事を推奨します。
……ナルビア国内全域が、今後しばらく危険な状態になると予測されます』

「意味がないんだよ、僕だけじゃ…ヒルダも、サキさんもいないで…ささやかな幸せもなく、ただ生きていくだけなんて…!」

去り際にヒルダ…メサイアが言ったことを思い出す。

戦争のゴタゴタに紛れてメサイアが弱ったところをヒルダに戻した上で、大事な人と共に脱出したサキと合流すると言うのが、一番良い終わり方だったが、ここまで混迷を極めた戦場では、おそらくサキも無事ではないだろう。

「まだ、メサイアの中に、ヒルダがいるはず…僕は、諦めない…!」

こんな国に尽くす義理はない。それでも大切な妹だ。ただ連番で作られただけの命でも、兄妹だ。

「とはいえ…あの調子なら、メサイアはそう簡単にはやられないだろう…まず心配なのは、サキさん…っ!」

性格は悪いけど、どこまでも強かで眩しい存在。同じように、国に囚われながらも逃げようともがいている仲間。なりゆきとはいえ恋人。



リンネはゆっくりと歩き出した。




「う、うう、ユキィ……!!母さん……っ!!」

「がはっ…!自爆なんてしやがるとは…!ガキとシングルマザー如きに、こんなザマをっ!」


サキを救うために自爆したユキと、避けようとしたDを体を張って止めたサユミ。肉体改造を受けた女性陣と違って素の肉体で戦っているDは、咄嗟に守ったとはいえダメージが大きかった。

だが、自爆したユキは全身が吹っ飛んでいたし、一般人のサユミは衝撃に耐えきれずに死亡していた。


「う、うううぅ…なんで…私たちは、ただ、どこか遠くへ、逃げたかっただけ、なのに…」

「うちの国も大分ガタガタになっちまったようだが…ま、俺は水のように大いなる流れに従うだけだ」

「ひっ、や、こない、で……!」

普段は気の強いサキもすっかり心が折れ、這いつくばってDから逃げようとする。

必死に這っていったサキの目に入ったのは……見覚えのあるブーツ。

「舞っ!?」


地面に這いつくばっていた顔をあげたサキの先には…



「舞ちゃんかと思った?残念!レイナちゃんでしたー!」


「……ぇ…?な、なん……?」


「いやぁ私としたことがうっかり黒焦げにしちゃってサー、今は舞ちゃんの最後の温もりがあるブーツ履いてお楽しみってわけ♪あ、ヤバみがすごいみたいだからブーツの力は発動してないよ。ただ履いてるだけね!」

まるで子供が、親に買ってもらった大きなぬいぐるみを見せびらかすようにレイナが掲げたのは…変わり果てた姿の舞。


「い、いやああああああぁあっ!!」

「あはっ、舞ちゃんをNTRした悪女の絶望に満ちた悲鳴、サイッコー♪このまま舞ちゃんの温もりが残ったブーツで、顔面踏み潰して殺してあげるね♪」

「おいレイナ、そいつは貴重な情報源だし交渉材料にもなるんだから殺すなよ。それにどちらかといえばお前が横恋慕してるだけ…」

「えーいいじゃん。どーせもうこの国はおしまいだしさー。今を精一杯楽しもうよ!」

そう言いながら、レイナはもはや身動きの取れないサキの頭の上に、舞のブーツを履いた足を乗せた。

960名無しさん:2025/04/25(金) 23:27:55 ID:5UG6J5zE
「舞ちゃんの匂いが染み付いたこのブーツでぇ……サキちゃんに絶望をプレゼントしてあげるっ!!」

「ごはっ!!!」

水責めのダメージが抜け切らないサキ。それ以上に精神的ダメージを負った彼女の頭を、ブーツの上から踏み抜くレイナ。

「サキちゃんってぇ、あたしたちにいっぱいやられてるけど弱いよねー?本当に王下十輝星?ちょっと信じられないんだ、けどっ!!」

「あ゛っ……!がっ……!」

レイナの体重を乗せた踏みつけに抵抗できず、苦しむサキ。
頭の上で衝撃に耐えていた蝶の髪留めが圧迫の衝撃に耐えられず、パキンッ!と音を立てて壊れた。

(あ……!母さんにもらった、髪留めが……)

「あ!そのちょうちょの髪留めもらっとけばよかった〜!初めてサキちゃん見たときから可愛いなって思ってたのに〜」

「ぐっ……ゆ、るさないッ……!ヴァニッシュ・ミスト!」

自身を霧状に変える邪術、ヴァニッシュ・ミストを唱え、拘束から抜け出すサキ。
だが霧状の身体をうまく保つことができず、レイナとDの前ですぐに実体化してしまう。

「便利な魔法だねー。アタシもそういうのが使えたら、もっと色々楽しめそうなのになぁ……」
「レイナ、お前なんか初登場した時はもうちょっと普通の女の子っぽくなかったっけか?最近どんどんリョナラーとして覚醒してる気が……」
「んーそうだったっけ?まぁ、いいじゃん!アタシはサキちゃんや舞ちゃんみたいにヤラレタガールじゃないし、可愛い女の子をいじめるの、元々すきだもん♡」

ギャルらしい風貌でわかりやすくあざといピースを決め、一回転するレイナ。

「ぐっ、レイナかわちぃ……!性的な目で上がる頻度が増えてしまうぜ」
「ロリコンDさん、変な目で見てもいいけど水かけるのはやめてね?メイク落ちちゃうから!」

そんな会話をしながらも、懐からブーメランを取り出し構えるレイナ。
Dは明らかにユキの自爆でダメージを受けており、戦闘続行は厳しいように見えた。

「ねぇねぇ、サキちゃん1人であたしに勝てると思ってる〜?アリスちゃんほどじゃないけど、あたしもいろいろ改造されて、ストーリー終盤のインフレに負けてないんだからね?」

「……舞を殺したアンタも、ユキと母さんの敵のそこの男も殺す。吠え面かくまえにせいぜい今のうちに吠えておくことね」

「へぇ……言うじゃん」

髪留めが外れて垂れてきた長い黒髪をゆっくりと後ろにかき上げるサキ。
その長い黒髪が闇の力を纏って光り、サキの身体を包んでゆく。

「ほよ?これがサキちゃんの本気ってやつ?拍子抜けしないといいなぁ」

「フン……そうね。この術はあたしも始めて使うから、どうなるか楽しみッ……!?ぐ、があああぁあッ!!!」

サキの影が、本体と離れるように引き剥がされる。
それと同時に倒れるサキ。
質量を持ったサキの影は、サキの体から完全に離れると、ゆらゆらと体を揺らしながらレイナの前に躍り出た。

「な、なんだこの術は……?あの娘、完全に倒れたぞ」
「諦めちゃったのかなー?変な影生んでスヤスヤ眠り始めて何がしたかったのかよくわから、な゛ぁ゛ッ!?」



レイナは、何が起こったのか分からなかった。
側面から弾き飛ばされるように突き飛ばされ、気づけば壁に激突していた。

邪術:シャドウディスペアー
発動者は即座に眠りに入るが、その発動者を守るように影が実体化して戦う。
防御力は文字通り0になるが、自身の全魔力でコントロール不能の影を作り出すリスクの高い術。
出現した影は、ただ発動者が入眠前に敵とみなしていた者だけを攻撃し続ける。

戦闘タイプではないサキが格上とまともに戦うためには、自身の身体では到底不可能。
ならば役に立たない自身の身体を捨て、異形の影にすべてを託す。
後に残るのは敵の残骸か、発動者の永遠の眠りか……

961名無しさん:2025/04/26(土) 00:14:47 ID:???
「いっ……たぁ……!いきなり何すん、ぐぇ!!」

素早くレイナに肉薄したサキの影は、腕をレイナの首に当てて呼吸を止める。
すかさずレイナがギブアップと言わんばかりにサキ影の腕をポンポン叩くも、その力が弱まることはない。

「がっ、はっ……!Dさん、へるぷ……!」
「おい見ろよレイナ、この娘すげぇ天使みたいな寝顔してるぜ。このまま犯しちゃえばよくね?……ってそれどころじゃなさそうだなっ、と!」

サキ影の足元から水流が吹き出される。
すかさず水を躱したサキ影は、ズルズルと膝をつくレイナを尻目にDへと襲いかかる。

「チッ、こっちは怪我人だったのに……!」

素早い動きからの打撃をいなしながら、Dはレイナに回復の水を振りまくが……

「ぐっ……こいつ、強……!グハッ!?」

サキ影のあまりの猛攻に傷口に一撃をもらい、ついに倒れてしまう。

「Dさん!?ぐうぅ、コイツ許さない!!」

背後から素早くブーメランを投げるレイナ。その軌道は無駄なく的確にサキ影の身体を深々と貫き、影の動きが一瞬止まる。

「ぐはぁッ!!」

それと同時に、眠りについていたサキの口から苦しそうな悲鳴が漏れた。

「え、そっちが悲鳴上げるだけ?うそっ、こいつ、止まらなっ……!ぐっ!!いたっ!!キャアッ!!」

サキ影はすぐさまレイナに肉薄し、裏拳、頭突き、足払いの強烈コンボを食らったレイナはその場で派手に倒れた。

「ち、ちょ、まっ、ぐふぅっ!?」

そのまま容赦なくサキ影はレイナの腹にパンチを決め込み、関節技を極めようとでもしているのか、レイナの頸動脈に手をかける。

「ぐっ……!やられっぱなしじゃ……!雷装!!」

バチバチバチバチ!!!
「ひぎゅうううううッ!?」

レイナの電撃にサキ影が痺れて動きが止まり、本物のサキの体から悲鳴が上がる。
電撃が止むと、サキ影は一度距離を取り体勢を立て直した。

「へぇ……なるほどね。影のダメージは、そっちの本物のサキちゃんが肩代わりしてるんだ」

「はぁっ……!はぁっ……!」

この術はダメージのフィードバックもあるが、影が激しく動けば動くほど、本人の体力が消耗していく。
悪夢を見ているかのように苦しそうな声を上げながら、眠り続けるサキ。
そんなサキを守るかのように、サキ影はレイナの前に立ち塞がり向かってくる。

「面白いじゃない……!影のサキちゃんもボコボコにして、本体と一緒に痺れさせてダメージ2倍にしてあげる!!」

962名無しさん:2025/04/26(土) 02:52:19 ID:???
サキ影の猛攻は止まらない。レイナの挑発的な言葉に反応するかのように、速度を上げて襲いかかる。

「ふん、来るなら来なさいってカンジ!」

レイナは両腕から電気を纏い、サキ影に向かって突進する。しかし影の動きは俊敏で、レイナの攻撃をかわすと同時に横腹に強烈な一撃を見舞った。

「ぐはっ!?」

衝撃で吹き飛ばされるレイナ。壁に叩きつけられる寸前、彼女は器用に体勢を立て直し着地する。

「ふーん、本体より動けるみたいじゃん…!」

一方、眠り続けるサキの表情が苦しげに歪む。額には冷や汗が浮かび、呼吸は荒く不規則になっていた。

「ありゃ?本体のサキちゃん、もうそんなに限界?まだ始まったばかりなのにぃ〜?」

レイナは挑発的に笑いながら、ブーメランを再び構える。今度は電気を纏わせた特殊な投げ方で、サキ影に向かって放った。

「エレクトロ・ブーメラン!」

ブーメランは予測不能な軌道を描き、青白い電光を引きながらサキ影の動きを制限していく。サキ影はそれを避けようとするが、ブーメランが急に方向を変え、背中に直撃した。

「ぐっ……!がはぁっ……!」

サキの口から漏れる呻き声は次第に大きくなる。影は懸命にブーメランを避けようとするが、その動きは明らかに鈍くなっていた。サキ本体の胸が大きく上下し、呼吸が乱れていく。

「くらっ...!ぐぅっ...!やめ...て...!」

本体のサキがうわごとのように苦しげに言葉を漏らす。その顔は苦痛で歪み、冷や汗が顔全体を覆っていた。

「やっぱりね〜。時間が経つほど弱くなるんだ。こういう術って、使い手の体力と比例するものなのよね〜」

レイナは余裕の表情で言い放つと、帰ってきたブーメランをキャッチし、今度は直接サキ影に突進する。

「どう?痛い?もっと痛くしてあげるから、ねっ!」

サキ影がブーメランの衝撃から回復する間もなく、レイナは電撃を纏った拳をサキ影の胸部に叩き込んだ。

「ぐあっ!ごほぉっ!」

サキ影から絞り出されるような悲鳴と共に、衝撃は本体のサキにも伝わり、彼女の体が跳ね上がる。

「ひぎっ……!がはぁっ...!」

サキの口から血が滲み出る。内臓にダメージを受けたようだ。彼女の身体が弓なりに反り、痙攣するように震える。

「ほら、もっと苦しんでよ!舞ちゃんがどれだけ苦しんだと思ってるの!?彼女はこんな簡単には死ななかったんだからね!」

レイナの攻撃は容赦なく続く。電撃を纏った拳がサキ影の顔面を強打し、「ばきっ!」という音とともに影の形が一瞬歪んだ。続けざまに腹部への蹴りが炸裂する。

「がはっ……!ごぼっ……!うぇっ...!」

本体のサキが口から血を吐き出す。血だまりが彼女の口元に広がり、床に滴り落ちていく。

963名無しさん:2025/04/30(水) 15:56:02 ID:???
しかし、サキ影は諦めない。レイナの攻撃を受けながらも、その腕を掴み投げ飛ばした。

「きゃあっ!?」

予想外の反撃に驚くレイナ。彼女が体勢を立て直す前に、サキ影は素早く接近し、喉元に手を伸ばす。レイナの首に食い込むサキ影の指。

「ぐっ……!ぐぇっ……!やるじゃない……!くるっ...しっ...!でも、これでどう!?ヒステリック・スパーク!」

首を締め付けられ、顔を青ざめさせながらも、レイナの全身から強烈な電流が放出される。

「うあああああっ!!ぎゃあああっ!!」

サキ影が痙攣し、同時に本体のサキも激しく痙攣する。サキの背中が大きく反り、悲鳴と共に全身から汗が噴き出す。しかし、サキ影はレイナの首を握ったまま離さない。

「はぁっ...はぁっ...!くっ...首が...!息が...できないっ...!」

レイナの顔色が変わり始め、彼女は必死にサキ影の腕をたたくが効果はない。レイナの目に少しずつ恐怖の色が浮かび始める。

サキ影はレイナを締め上げたまま、なおも圧倒的な力で戦場を支配していた。レイナは苦しげに喘ぎながらも、なおも諦めずにサキ影の腕を引き剥がそうと必死にもがく。

「くっ……はぁ、はぁ……サキちゃん、マジでやばいって……!」

レイナの声がかすれ、顔色がどんどん青ざめていく。サキ影の力はまったく衰えず、まるで機械のような冷徹さでレイナを締め続けていた。

「ASMR、微量版ッ!」

負傷しながらもDがアンチ・スキルマジック・レインを発動させる。Dが弱まっているのとサキの奥の手なのも相まってサキ影は消滅こそしないが、一瞬拘束が緩み。

「マジで、モームリっ!」

どこぞの退職代行みたいなセリフと共に、レイナが無理矢理サキ影を振り払って距離を取る。

「ゲホッ、ゲホッ……思ったよりやるじゃん。まぁこっちは連戦で疲れてるのもあるけど」

首を抑えて咳き込みながらレイナが言う。サキへの負担さえ考えなければ、サキ影の戦闘力はかなり高いのに比べ、Dは自爆に巻き込まれて負傷、レイナは舞との連戦(あと勝った後のハッスルしすぎ)で消耗している。

一瞬睨み合った後、再び互いに接近してのインファイト。

「はぁっ、はぁっ……しぶといな、サキちゃんの影……!」

レイナは電撃を纏った拳を何度もサキ影に叩き込む。バチバチッと火花が散り、拳が影の体を貫くたび、離れたところで倒れているサキ本体が苦しげに呻き声を漏らす。

「うっ……あぐっ……!」

眠ったままのサキの顔には、汗が滲み、歯を食いしばった苦痛の表情が浮かぶ。

「そーれ、これでもくらえっ!」

レイナは蹴りをサキ影の脇腹に叩き込む。ドスッという鈍い音とともに、サキ本体の体がびくんと跳ね上がり、喉の奥から嗚咽が漏れる。

「がっ……ごほっ、ごほっ……!」

サキの唇から血が滲み、呼吸が荒くなる。
だが、サキ影はあくまでも影。レイナの攻撃を受けても、その動きはまったく鈍らない。むしろ、淡々とレイナに向き直り、無言のまま反撃の構えを取る。

「チッ、反則でしょ、それっ!」

レイナは焦りと苛立ちを滲ませながら、さらに連撃を浴びせる。拳、膝、肘――容赦なくサキ影を打ち据えるたび、サキ本体の体が苦しげに震え、悲鳴が漏れる。

「ッ、がはっ……!ごぼっ……!ひぃぃっ…!」


二人の攻防はまさに紙一重。拳が交差し、蹴りが空を裂き、時折どちらかの悲鳴や呻き声が響く。
だが、転機は突然訪れた。


レイナがサキ虐めの為に履いていたブーツ。力を発動させていないのでただの舞の足の汗の残り香がレイナの汗と混じって、くさそうになっているだけのブーツが。まるで死してなおも舞がサキを守ろうとするかのように、ズルっとレイナの足元で滑る。

「しまッ…!?」

ここに来ての決定的な隙。当然それを見過ごすサキではない。サキ影がトドメを刺すべく、闇の力を纏った腕を大きく振り被る。

――その瞬間だった。

「……はぁ、はぁ……まだ、終わっちゃいねぇ……」

傷だらけで膝をついていたDが、震える手で何かを引きずるように持ち上げていた。彼の腕には、サユミとユキの亡骸が抱えられていた。そして…2人の遺体をサキ影とレイナの間に力任せに投げつけた。


「おい、サキ!お前の大事な家族だろ?守ってみせろよ、オラッ!」

ドサッ、ゴトッ――重い肉のぶつかる音が響き、サキ影の動きがピタリと止まる。

「……っ!」

サキ影の黒い手が、サユミの遺体に触れそうになり、動きが明らかに鈍る。その瞬間、レイナの目がギラリと光った。

「しゃーーっ!!チャーーンスッ!!」

レイナは素早く体勢を立て直して地面を蹴る。

「やめろ……やめて……!」

サキ本体が苦しそうに呻くが、サキ影は動けない。レイナはサユミの遺体を盾にし、その背後から鋭い蹴りを繰り出す。

964名無しさん:2025/04/30(水) 15:57:33 ID:???

「どっせぇえええい!!」

バシュッ――鈍い音とともに、レイナの足がサユミの体を貫き、そのままサキ影の腹部を突き刺した。

「ぐっ……あ、ああっ……!」

サキ影の体が大きく仰け反り、同時に本体のサキも激しく痙攣した。

「が、ああああああっ!母さん……ごめん、ごめんなさい……!」

サキの苦悶の叫びが響く。サキ影は、サユミの遺体ごと貫かれたレイナの足によってガックリと膝をつく。

「どうしたの、サキちゃん?もう動けないの?大好きなお母さんを盾にされて、何もできないの? あはっ、影なんて融通効かない技使うからだよっ、バーカっ!!」

レイナは勝ち誇ったように笑いながら、空いた方の手でユキの死体を持ち上げて、お人形遊びのように雑な手つきで遺体の目を無理矢理開かせる。

「妹ちゃんも、ほら、見てるよ?お姉ちゃんが無様に負けていくのを!」

「やめて……やめて……!」

サキ本体は涙を流しながら、苦しげに叫ぶ。しかし、サキ影はサキの大切な相手は傷つけられないようにプログラムされている。迂闊にレイナの足を引き抜けば、サユミの遺体を損壊させてしまう。


レイナはサキ影の動きを封じたまま、恍惚とした浮かべ、そのブーツのつま先から、再び青白い電撃がほとばしる。

「ヒステリック・スパーク――フルパワーッ!!」

バチバチバチッ!!ズガガガガッ!!

轟音とともに、レイナの足から放たれた電撃がサユミの遺体を貫き、瞬く間に全身を焼き尽くしていく。肉が焦げる匂い、骨がパチパチと弾ける音、そして何より、かつて母だったものが黒い灰へと変わっていく残酷な光景。

「やめてえええええっ!!母さんを、壊さないでぇぇぇ!!」

サキ本体の絶叫が響く。サキ影の動きが止まり、闇の腕が震える。

「うわっ、すっご……ホントに跡形もなくなっちゃった!」

レイナはサキ影とサユミだった黒焦げから足を引き抜き、満足げに息を吐く。だが、彼女のブーツ――舞の形見となったそれも、強烈な電流の熱で焦げていた。

「ちょっ……嘘でしょ、これ舞ちゃんの……あー、もう!くっさ!煙出てるし!あっ♡でも、これが舞ちゃんの最期の残り香って考えると、悪くないかも♡」

ブーツの表面がじゅうじゅうと音を立て、黒く焦げていく。舞との思い出が焼け焦げる焦げ臭さが、戦場に広がる。レイナはブーツを脱いで満面の笑みで近づける。くさそうの人と同じナルビア人だけあって、彼女もくさそうなのは嫌いではなかった。

965名無しさん:2025/04/30(水) 15:59:01 ID:???

「がはっ……!ごぼっ……!」

サキ本体の口から血が溢れ、苦しげに咳き込む。サキ影もまた、電撃の余波で体を大きく仰け反らせる。

「ひぎっ……!ああああっ……!」

「さーて、まだ終わらないよー?」

レイナは裸足になった足で、さらにサキ影の胸を踏みつけると、またも電撃を放つ。

バチバチッ!ジジジジッ!

影の体がビリビリと震え、黒い靄が空中に散る。サキ本体の体も、まるで感電したかのように痙攣し続ける。

「ぐっ……ああっあああああああ……!」

サキ影の体が徐々に霞んでいき、サキ本体の苦悶の声が戦場に響き渡る。
とうとう邪術を維持できなくなり、影が消えてサキは目を覚ます。


「母さん……ごめん、ごめんなさい……ううっ……!」

サキの涙と悲鳴、そして焦げたブーツから立ちのぼる煙が、絶望の空気をさらに濃くしていく。

レイナは戦闘の興奮で完全にハイになっていた。顔は紅潮し、目はギラギラと輝いている。彼女は手に持っていたユキの遺体を、まるでパペットマペットの人形劇のようにガクガクと揺らし始めた。

「サキちゃ〜ん、見てる〜?ほらほら、妹ちゃんだよ〜!お姉ちゃん、だっさ〜い!負けそうになってるよ〜!」

レイナはユキの腕を雑に掴んで上下に振り、口元を無理やり引き上げて笑顔を作る。ユキの遺体の腕が、ガクンと不自然な角度に折れ曲がり、首もゴキリと音を立てて傾く。

「おねーちゃーん、がんばってぇ〜!……なんて言うと思った?バーカバーカ!」

パクパクとユキの顎を動かしながら、レイナは嘲笑を繰り返す。そのたびに、ユキの遺体は自爆のダメージで既に損壊が激しかった首や腕が、ギシギシと不自然な音を立てて揺れる。

「やめて……やめてぇ……!」

サキが泣きながら叫ぶが、レイナは止まらない。さらに力を込めてユキの遺体を振り回す。

「ほらほら、サキちゃん、妹ちゃんこんなになっちゃったよ〜!あははははっ!」

バキッ――! ミシッ――!

ついに、ユキの遺体の関節が逆方向に曲がり、首がありえない角度で折れ曲がった。皮膚も裂け、骨が露出し、すでに人形とも呼べないほどに原形を失っていく。

「わっ、サキちゃんの妹だけあって流石にザコだね〜♡お人形にもならないや!」

レイナは高笑いしながら、ユキの遺体を床に叩きつける。ドサッという鈍い音とともに、頭部が胴体から外れて床に転がった。ユキの体は完全に崩れ、もう元の姿をとどめていなかった。

「あーあ、壊れちゃった〜!あはははっ、サキちゃんの大事な妹もの、もう全部バラバラだよ〜!」

床に転がったユキの頭部を、舞はつま先でコロコロと転がしながら、残酷な笑みを浮かべる。

「やめてぇぇぇぇぇっ!!ユキを、返してぇぇぇ!!」

サキの絶叫が戦場に響き渡る中、ユキの遺体は完全に壊れ、かつて妹だったものは跡形もなくなってしまった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板