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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

322ブック:2004/05/11(火) 17:24
     EVER BLUE
     第十一話・PUNISHER 〜裁きの十字架〜


 其処は暗くて冷たい所だったと、彼は思い出す。
 何も見えない、何も聞こえない、ただひたすらに静かな所。
 それが、唯一の記憶だった。
 其処は、酷く寂しい所。

 …そんな事は、覚悟していた筈だったのに、
 彼はそれでも会いたいと思ってしまった。
 帰りたいと思ってしまった。
 彼に初めて出来た、あの仲間達の元へと―――



(…こんな時に、私は一体何を考えているんでしょうね。)
 タカラギコは軽く頭を振った。
 彼の前には、男が構えながらじりじりと間合いを詰めている。
(…そうです。今は、この目の前の男を殺す事に専念しなければ。)
 大刃のナイフを右手に構え、タカラギコは男を見据えた。
 そして、頭の中から余計なものを排除する。
 望郷、哀愁、憧憬、良心、悪意、困惑、思想、信念、殺意、
 全て不要。
 必要なのは、只々頭に描いた殺しの手順を、
 只々正確に実行するだけの明確な意思。
 そして人間である事の全てを削ぎ落とし、ただ一振りの刃と化す。
 これが、タカラギコの闘い方だった。

「SYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 充分に間合いを詰めた所で、男がタカラギコに跳び掛かった。

「ふむ、とてつもない跳躍力です。」
 しかしタカラギコは、一歩も動かないまま男を迎え討つ。
 男の右腕がタカラギコの頭部に伸びる。
 それをタカラギコは最小限の動きでかわし―――

「ですが、戦闘技術は三流。
 すみませんが、一瞬で終了させて貰います。」
 タカラギコのナイフが、男の心臓を正確に貫いた。
 そのままタカラギコは男を一瞥もしないまま振り返り、
 先程女が空けた穴の方を向く。

「…さて、あの女を追います……」
 そこで、タカラギコは背後からの殺気を感知した。
「!!!??」
 すぐさま危険を察し、身をかわそうとするが遅かった。
 男のボディブローが、タカラギコの胸へと突き刺さる。

「!!!!!!!!!!!!」
 その衝撃に吹き飛ばされるタカラギコ。
 地面を転がり、うつ伏せの姿勢で倒れる。

「!!!!!!」
 次の瞬間には、男がタカラギコに止めを刺さんと倒れたタカラギコに襲い掛かる。
 咄嗟に跳ね飛んで、タカラギコはその追撃を何とかかわした。
 かわりに、タカラギコの頭を踏み砕く筈だった男の足が、甲板の床へと足型の穴を作る。

323ブック:2004/05/11(火) 17:25


「…どういう事です?
 確かに、心臓を貫いた筈……」
 胸を押さえながら、タカラギコが尋ねた。
 今ので、恐らく胸骨を四・五本持っていかれてしまっている事を、
 胸を触った感触で実感する。

「もう俺は死んでいるんだ。
 死者を殺す事など、不可能だろう?」
 男が低い声で答える。

「…成る程。ふっ…あはははははははは!これは良い!」
 と、やおらタカラギコが笑い出した。
「何が可笑しい?」
 訝しげに男がタカラギコに聞いた。

「…いや失礼。奇遇ですね。
 実は、私も一回死んでいるんですよ。」
 笑うのを止め、タカラギコが答える。

 何を馬鹿な。
 男はそう言おうとして、止めた。
 タカラギコの目と雰囲気から、その一見狂人の戯言同然の言葉を信じさせるだけの、
 只ならぬ「何か」を感じ取ったからだ。

(何だ、こいつは。)
 男は思った。
 吸血鬼の彼から見ても、タカラギコの纏う気配は異様であった。
 まるで、其処に居る筈の無い者が、其処に存在しているかの様な違和感。
 それは、一種の馬鹿馬鹿しいジョークのようでもあった。

(…考えるな。)
 男はその事を頭の中から弾き出す。
(関係ない。こいつが何者であろうと、殺せばいいだけだ。)
 男は胸に刺さりっぱなしだったナイフを引き抜くと、
 船の外へと投げ捨てた。

「酷いですね。
 それが私の唯一の得物だったのに。
 私に丸腰で闘えと?」
 タカラギコが肩をすくめた。

「何、心配するな。」
 男がタカラギコの前に手をかざした。
「俺も、丸腰だ。」
 次の瞬間、男の爪が刃物の様に伸びる。

「…何かそれ、アンフェアですよ。」
 それを見て、初めてタカラギコが顔色を曇らせた。

「SYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 そんなタカラギコにはお構い無しに、男はタカラギコに躍り掛かる。

「『グラディウス』!!」
 タカラギコの周りに、銀色の小型飛行物体が現れた。
 同時に、タカラギコの姿が見る見る男の視界から消えていく。

「!!!!!」
 先程までタカラギコの居た空間を、男の爪が虚しく通り過ぎる。
「糞っ!何処に…!」
 男が周囲を見回す。
 しかし、タカラギコの姿は何処にも見当たらない。

「!!!!!」
 直後、男の頭を光の線が貫いた。
「があああああああああああああ!!!!!」
 男が叫びながら攻撃を受けた方向に突進する。
 しかし、そこには既にタカラギコは居なかった。

(…困りましたね。
 今は夜で、充分な光量が無い上に、
 元々私の『グラディウス』は攻撃に特化した能力ではない。
 この光のレーザーでは、男を倒しきれません。)
 タカラギコが暴れまわる男を見ながら考えた。

(…仕方無い。あんまりあの恐いおじさんには近づきたくないんですが……)
 タカラギコが、流れるように男に向かって接近する。
 男は、まだタカラギコには気づかない。
 その間にもタカラギコは男との距離を一気に縮めていく。
 そして気配を殺したまま男の背後へと回り―――

324ブック:2004/05/11(火) 17:26

「!!!!!!!!」
 ようやく男がタカラギコのいる場所を発見した。
 いや、発見したと言うよりは、否応無く発見させられたと言った方が正しい。
 男の背後から、タカラギコが男の首に両腕を回して締め付けている。
 ここまでされれば、姿が見えなくともタカラギコがどこに居るのかは誰でも分かる。

「貴っ…様ァ……!!」
 男がタカラギコを振り払おうとする。
 しかし、それよりも早くタカラギコは男の首を捻り上げた。

「……!!!」
 ゴキンと嫌な音を立てて、男の首が明後日の方向へと曲がる。
 そのまま、男は膝から崩れ落ちた。

「…やれやれ、ここまですれば……」
 タカラギコが姿を現し、一息吐こうとする。
 しかし、そんなタカラギコの思惑は脆くも崩れ去った。

「……!!……!!!」
 頭を掴み、首を元の位置に戻しながら男が立ち上がる。
 これには流石に、タカラギコもたじろいだ。

「…あなたはゾンビですか。」
 タカラギコが呆れたように呟いた。

「MMMMUUUUOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!」
 男が鬼の様な形相でタカラギコに突進する。
 タカラギコは男の攻撃をいなすと、再び『グラディウス』で姿を消した。

(さて…どうしましょうか。
 このまま姿を消して逃げ続ける事も可能ですが、
 この恐いおじさんを放っておく訳にもいかない。
 ナイフの一本でもあれば、これしきの相手五秒で解体出来るのですが、
 予備の武器はありませんし…)
 タカラギコが光の中に隠れながら、男を倒す方法を模索する。

(こういう時、近距離パワー型でないのが悔やまれますね。
 ですが、愚痴を言っていても仕方が無い。
 ですが、どうやって…)
 タカラギコは脳細胞を総動員して思考した。

(……!そうか、これならば……!!)
 と、タカラギコが何か閃いた様子で手を叩いた。
 そして、『グラディウス』を解除して男の前に姿を見せる。

「こっちですよ。」
 タカラギコが男に顔を向ける。
「AAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHAAAAAAA!!!」
 牙を剥き出しにして、男がタカラギコ目掛けて駆け出す。

「『グラディウス』!!」
 銀色の飛行物体が光を収束させ、二本の光の光線を打ち出す。
 それは、正確に向かってくる男の両目を射った。
「GYAAAAAAAAAAAAA!!!」
 二つに光線を分けた分、威力は激減するが、
 それでも男の視界を奪うのには充分であった。
 何も見えなくなった男が、それでもなお果敢にタカラギコへと向かっていく。

(そう、それを狙っていました。
 確かにパワーとスピードは凄まじい。
 しかし視界が奪われる事で、ただでさえ煩雑な攻撃が、さらに精細さを欠く。
 これならば、容易く―――)
 タカラギコに向かって突き出される腕。
 それをタカラギコは紙一重で捌く。
 そして、捌くと同時に男の攻撃の力の方向性を変え、そこに自分の力を加え、
 自分+相手の力で…

「!!!!!!!!」
 男の体が物凄い勢いで投げ飛ばされた。
 『合気』。
 古来より伝わる、日本の伝統武術の技である。

「……!!」
 しかし男は余裕であった。
 確かに凄い勢いで投げられはしたが、
 例えこのまま床に激突した所で、吸血鬼の男にしてみれば些細なダメージである。
 相手が自分を殺す術を持たない以上、いずれ勝機が見える。
 それが、男の自信であった。

「……?」
 しかし、男の予想していた床への着地は、いつまで経っても起こらなかった。
 ようやく、男の眼球が再生される。
 光を取り戻した目で、何が起こっているのか男が確かめようとすると―――


「!!!!!!!」
 男は、驚愕した。
 さっきまで自分の乗っていた船が、遥か頭上に遠ざかっている。
 そう、男は船の外に投げ飛ばされていたのだった。

「AOOOOOOOOAAAHHHHHHHHHHWWWWWWW!!!!!」
 絶望の叫び声を上げながら、男が地面目掛けて落下していく。
 いくら吸血鬼といえど、この高さから地面に叩きつけられては只ではすまない。
 それ以前に、雲の下の世界がどうなっているか等、
 この世界の人々は誰も知らないのだ。
 只一つ言えるのは、雲の下に落ちて再び戻って来た者は誰も居ない、という事である。
 万一吸血鬼が地面への激突の衝撃から生き延びれたとしても、
 二度と雲の上には戻っては来れないだろう。
 自分の肉体の過信。
 それが、男の敗因の一つであった。

325ブック:2004/05/11(火) 17:27



「やれやれ…」
 落下していく男を眺めながら、タカラギコは呟いた。
「すみませんね。私も、もうあんな恐い思いをするのはこりごりなので。」
 と、タカラギコががっくりと膝をつく。

「…痛たたたた。思わぬ不覚を取りましたねぇ。
 私らしくも無い…」
 胸の辺りを押さえながら、タカラギコが力なく笑う。
「しかし、痛がっている暇もありません。
 すぐにあの女を追わなければ…」
 タカラギコがそう言いながら女の開けた穴へと近づこうとすると…


「!!!!!!!!」
 タカラギコの前に、新たな吸血鬼が二人、飛行機の上から降り立った。

「…人間が、素手で吸血鬼を倒すだと……?」
「気をつけろ…只者ではないぞ。」
 どうやら先程のタカラギコの闘いを見ていたようである。
 二人組みは慎重な面持ちで、タカラギコに対して構える。

「勘弁して下さいよ…」
 泣きそうな声でタカラギコは呟いた。
 一度闘い方を見られた以上、同じ手が通用するとは思えない。
 しかも、今度は二対一。
 いくらタカラギコと言えど、丸腰では明らかに不利である。

(どうしますかねぇ…
 何か得物でもあれば、楽なのですが。
 …待てよ。
 そうか、『あれ』ならどうだ!?)

「!!!」
 いきなり、タカラギコは二人に対して背を向けて逃げ出した。
「なっ…!逃がすか!!」
 片方の男が後ろからタカラギコの胸部目掛けて爪を突き出す。

「!?」
 しかし、それは『タカラギコ』の作り出した幻影だった。
 突き出した爪が、光で作り出した像をすり抜ける。

「あっちだ!追え!!」
 もう一人の吸血鬼が、タカラギコの足音がする方向を指差す。
 その時にはすでに、タカラギコは船内へと侵入していた。

「逃がすかァ!!」
 吸血鬼達がタカラギコを追って船内へと飛び込む。
 しかし、タカラギコの姿はもうそこには無い。

「お前は向こうを探せ!俺はこっちを調べる!」
 吸血鬼が互いに顔を見合わせ、二手に分かれた。


「何処だああァ!?」
 吸血鬼の一人が、船内を駆け巡る。
 と、吸血鬼の目に、半開きになっているドアが飛び込んできた。

「そこかァ!!!」
 吸血鬼がそのドア目掛けて突進する。
 そのままドアをぶち破る勢いで―――

326ブック:2004/05/11(火) 17:27



「!!!!!!!!!!!!!」
 次の瞬間、吸血鬼の体当たりとは別の理由で、ドアが粉砕された。
 同時に、吸血鬼の体に無数の弾痕が穿たれる。

「AAAAAAAAAHHHHHHHHOOOOOOAAAAAAHHH!!!!!!」
 絶叫しながら転げまわる吸血鬼。
 あまりのダメージに、再生速度が追いつかない。

「…成る程、これはかなりのじゃじゃ馬ですね。」
 人の良さそうな声と共に、部屋の中からタカラギコが姿を現した。
 その腕には、巨大な十字架が担がれている。

「AAAAAAWWWWRRRRRRRRYYYAAAAAAA!!!!!」
 血を撒き散らしながら、タカラギコに飛び掛かる吸血鬼。

「使い手を限定する程の、規格外のサイズ。」
 しかしタカラギコは、冷静に十字架の先端を吸血鬼へと向ける。
 そして髑髏を模したトリガーを引き絞った。
 十字架の先端が開き、そこからごつい重火器の姿が覗く。

「GGYYYAAAAAAAAAA!!!!!!」
 刹那、銃口が激しく火を吹いた。
 ライトマシンガンの圧倒的な弾幕に晒され、
 吸血鬼の体が次々とミンチに変わっていく。

「しかし、それを補って余りある程の火力。」
 体の殆どをボロ雑巾のように変えながらも、吸血鬼がタカラギコに肉薄する。
 一度接近戦に持ち込めば、あの大きな得物では闘えないと予想しての行為である。

「SSYAAAAAAAA!!!!!」
 渾身の力を込めて、吸血鬼はタカラギコの喉元目掛けて飛び込んだ。
 その牙が、吸い込まれるようにタカラギコへと迫る。

「!!!!!!!」
 しかし、その牙はタカラギコには届かなかった。
 タカラギコが、十字架の胴体部分で吸血鬼を殴り飛ばしたからだ。
 十字架自信の重さと、梃子の原理と遠心力、
 そしてタカラギコの膂力が加えられた一撃が、吸血鬼の体を大きく弾き飛ばす。

「何より、十字架を背負って闘うというセンスが心憎い。」
 それを逃さず、タカラギコが十字架を持って倒れた吸血鬼に駆け寄る。
 そして、その頭に十字架の銃口を押し当てた。

「AAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHAAA!!!!!
 GYAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!!」
 頭を十字架と床の間に挟まれ、動きを封じられた吸血鬼が、
 何とか逃れようと必死にもがいた。
 しかし、タカラギコは万力のように頭を押さえつけ、吸血鬼を逃がさない。

「…なんですか、見っとも無い。
 死人が、死を恐がるなんて。」
 そう言うと、タカラギコは髑髏型のトリガーを引いた。
 響き渡る銃声。
 完全に急所である頭部を破壊し尽くされ、吸血鬼は蒸発するように消え去っていく。


「…いや、人の事は言えませんか……」
 塵に還っていく吸血鬼を見下ろしながら、タカラギコが自嘲気味に呟いた。

「さて、それではもう片方を始末しに行くとしますかねぇ…」
 十字架を肩に担ぎ直し、
 タカラギコは足を前に踏み出すのであった。



     TO BE CONTINUED…

327ブック:2004/05/12(水) 18:29
     EVER BLUE
     第十二話・FORCE FIELD 〜固有結界〜


 僕とオオミミは、天に支えられながらも何とか近くの船室に入る事が出来た。
 外から轟音が響くと共に、船体が振動する。
 三月ウサギやニラ茶猫は、まだ船に入って来た吸血鬼と闘っているのだろうか。

「ん…しょっと。」
 と、オオミミがゆっくりと立ち上がった。

(何やってるんだ、オオミミ!
 ニラ茶猫が大人しくしてろって言ってただろ!?)
 僕はすぐにオオミミを止める。
 まだ腕と足も完全には繋がっていないというのに、
 君は何を考えているんだ?

「…大丈夫だよ、『ゼルダ』。もう、大分痛みも引いた。」
 嘘だ。
 オオミミと精神を通わせている僕には分かる。
 痛くない訳なんてない。
 本当は、叫びたい位に痛い癖に。

「ごめん、天。ちょっと出てくるよ。
 ここに隠れてて。」
 オオミミが、無理して笑顔を作りながら、天の方を見やる。

「…!?ちょっと、あなた正気!?」
 天が、驚いた顔をオオミミに向けた。

「大丈夫、静かにしてれば見つからないよ。
 少し恐いかもしれないけど、我慢してて。」
 オオミミがそう口を開く。

「そうじゃなくて!アンタ自身の事を言ってるのよ!
 まだ手も足から血が出てるのに、死にに行くつもり!?」
 驚きと呆れの入り混じった顔で、天が尋ねた。

「…大丈夫。こういうのには、慣れてるからさ。
 それに、三月ウサギやニラ茶猫が皆を守る為に闘ってるのに、
 一人だけ隠れてるなんて出来ないよ。」
 オオミミが当然のように答えた。

「だからそれが無茶だってのよ!
 あれだけコテンパンにやられたのに、まだ闘いに行く気!?
 自殺志願者もいい所だわ!」
 天が信じられないといった風に声を荒げる。
 非常に珍しい事に、今、僕と天の意見は一致していた。

「…ありがとう。優しいんだね。」
 オオミミが、にっこりと微笑んだ。
「ば、馬っ鹿じゃないの!?
 勘違いしないでよね!!
 一人で勝手に出て行かれて、勝手に死なれたら目覚めが悪くなるからよ!!!」
 天が顔を耳まで真っ赤にした。
 この子は、何でそこまで怒っているんだ?

「俺も死ぬ気は無いよ。
 それに、俺は一人じゃない。『ゼルダ』が一緒に居てくれている。
 ね、『ゼルダ』。」
 オオミミが僕に呼びかけた。
(…分かったよ。どうせ止めても行くんだろ?)
 僕は諦めて呟いた。

(だけど、約束してくれ。
 絶対に、無理はしないと。ヤバくなったらすぐに逃げると。
 でなければ、君とは絶交だ。)
 僕はそう苦言した。
 オオミミが死んでは僕の居場所が無くなってしまうし、
 何よりオオミミが死ぬなんて絶対に嫌だ。
 自分の命を最優先にして貰う。
 これが、僕の出来る精一杯の譲歩だ。

「…分かった、約束する。」
 オオミミが一度頷く。
 やれやれ、君は本当に分かっているんだろうな。

「じゃ、行ってくるね。」
 そう言うが早いか、オオミミはドアを開けて外へと駆け出して行った。

「ちょっ、待ちなさいよ!!」
 後ろから天が引きとめようとするが、オオミミは構わず進んでいくのだった。

328ブック:2004/05/12(水) 18:29



 ズキン ズキン ズキン

 オオミミが進む度に、切断されたばかりの足が痛むのが伝わってくる。
 闘わずにじっとしていれば楽なのに、そんな事は分かりきっているのに、
 何故、何故君はそうまでして闘いに赴くんだ?
 自分が痛い事より、他人が痛い方がそんなに嫌なのか?
 分からない。
 僕には分からないよ、オオミミ。

(オオミミ、ペースを緩めるんだ。
 そうすれば、少しは痛みも和らぐ。)
 僕は耐えられなくなりオオミミに告げた。
「駄目だよ。急がなきゃ、皆が吸血鬼に襲われるかもしれない。」
 オオミミが歯を喰いしばって痛みを堪えながら走り続ける。
 こうなっては、もう僕ではオオミミを止められない。
(オオミミ、でも…)
 僕がそう言おうとした時―――

「ひいいいいいいいいぃぃぃ!!」
 廊下の向こうから、悲鳴が聞こえてきた。
 同時に、この船の乗組員のマンドクセさん(三十歳・童貞)が、
 腰を抜かしながらこちらに向かって逃げてくる。
 その後ろから、一人の男が物凄い勢いで追いかけて来た。

「!!!!!!!!」
 オオミミがそこに向かって駆け出す。

「『ゼルダ』!!」
 すぐさまマンドクセさんの傍まで駆け寄ると、
 彼目掛けて振り下ろされた爪を僕の腕で受けた。

「マンドクセさん、ここは俺達に任せて逃げて!!」
 吸血鬼を睨みながら、オオミミが後ろのマンドクセさんに向かって叫ぶ。

「ひっひいいいいいいいい!!!」
 泣き声のような悲鳴を上げながら、マンドクセさんは逃げて行った。
 オオミミが来るのが後少しでも遅れていたら、彼は助からなかっただろう。
 オオミミの無茶にも、多少は意味があったという事か。

「これは…!?」
 吸血鬼の男が、不思議そうな顔をしながらオオミミから離れた。

「…空中で、腕が止められただと?」
 …?
 もしかして、僕が見えないのか?
 良かった。
 どうやら、こいつはスタンド使いじゃないらしい。
 これならば、何とかなりそうだ。

「…あの優男といい、ここの連中は油断出来んな。」
 優男?
 ひょっとして、タカラギコの事か?

「SYAAAAAAAAAAAAA!!!」
 と、そんな事を考えているうちに吸血鬼が僕達に向かって飛び掛かった。

「『ゼルダ』!!」
 オオミミが叫ぶ。
(分かった!!)
 それに答え、僕は実体化する。

「RRRYYYYYYYYYYYYAAAAAA!!!」
 右の爪を抉り込むように凪ぐ吸血鬼。
(無敵ィ!!)
 僕は右腕でそれを受け止めた、が―――

「……!ぐ、あ…!!!」
 オオミミの右腕から鮮血が迸る。

 しまった!
 オオミミは右腕がまだ完全にくっついていなかったんだ。
 吸血鬼の攻撃を受けた時の衝撃野のフィードバックに、
 彼の腕が耐えられなかった…!

「SYAAAAAAAAAAAAA!!!」
 その隙を突いて、吸血鬼がオオミミの心臓に向かって爪を突き出す。
(くっ…!)
 オオミミの右腕に負担を掛ける訳にはいかないので、左腕でそれを受ける。
 しかし本体であるオオミミが弱っている為、パワー不足で完全には威力を殺せない。
 ガードを弾かれ、オオミミ諸共後方に飛ばされる。

「…ぐっ!!」
 オオミミが苦悶の表情を浮かべた。
 見ると、左脚からも出血している。
 糞。
 さっきので、足の傷まで開いてしまったか。
 こんな奴、体調さえ万全なら何て事ないのに…!

「!!!!!!!」
 そこ目掛けて、吸血鬼が止めを刺しに来る。
(オオミミ!!)
 オオミミの体を一時的に乗っ取り、即座に跳躍して何とかかわす。
 オオミミの体に負担をかけてしまうが、背に腹は変えられない。

(オオミミ、ここまでだ。逃げるよ。)
 吸血鬼との間合いを保ちながら、僕はオオミミに言った。
「でも…!」
 食い下がろうとするオオミミ。

(でもも糸瓜も無い。これ以上闘うのは危険だ。
 『力』を使おうにも、条件が悪過ぎる。
 あれは、特定の型にはまって初めて真価を発揮するものなのは、分かっているだろう?)
 オオミミの体を無理矢理後ろに下がらせながら、オオミミを説得する。
 マンドクセさんも、もう遠くまで逃げている筈だ。
 オオミミ、君は充分によくやった。
 後は、三月ウサギやニラ茶猫に任せるんだ。
 だから君はもう…

329ブック:2004/05/12(水) 18:30



「あ〜あ、見てらんないわね。
 だからやめとけって言ったのに。」
 と、後ろから厭味な声がオオミミに掛けられた。
 いや、待て。
 この声は覚えがあるぞ。
 この声は―――

「天!何で来たんだ!?」
 オオミミが絶句した。
 そこには、天が相変わらずの可愛気のないむっつり顔をして佇んでいたのだ。

「何って、わざわざアンタを助けに来てあげたのに、
 その言い草は無いんじゃない?」
 助けに来た!?
 君が!?
 馬鹿な。
 笑えない冗談にも程がある。

「ふっ、思いがけずしてと言ったところか…」
 吸血鬼が、意味ありげに笑った。
 対して表情を固くする天。

 …?
 どういう事だ?

「オオミミ、二分…いえ、一分だけ時間を稼ぎなさい。
 そうすれば、アタシの『レインシャワー』を発動出来るわ。
 勝つ事は無理でも、それ位は出来るでしょう?」
 真剣な顔つきで、天が吸血鬼に聞こえないよう小声でオオミミに告げる。
 そうだ。
 僕が見えるという事は、彼女もスタンド使いだったんだ。
 『レインシャワー』、それが、彼女のスタンドの名前か?
 だけど、どんな能力かも分からないのに、時間稼ぎなんて…

「…分かった、やってみる。」
 そんな僕の懸念とは裏腹、オオミミは覚悟を決めた顔で吸血鬼の前に立ちはだかった。
(馬鹿、オオミミ。逃げるんだ!)
 勝算も定かではないのに、これ以上闘うのは無謀過ぎる。
 ここは一旦退くんだ!

「…今逃げたら、天にまで危険が及んでしまう。
 闘うしか、無いよ。」
 オオミミが吸血鬼を見据えた。

 ああ、もう…!
 分かったよ、やってやる!!

「RUOOOOOOOOOHHHHHHHH!!!」
 吸血鬼がオオミミに向かって飛び掛かった。
「『ゼルダ』!!」
 こうなっては、もう多少の傷は気にしていられない。
 天を信じて、何としても一分だけ持ち堪える事に専念する。

「…始まりはいつも雨。
 終わりはいつも雨。」
 と、天が何やらブツブツ言うのが聞こえてきた。
 まさかあれだけ大口叩いて、困った時の神頼みじゃないだろうな。

 吸血鬼の攻撃を、体に残された力を振り絞りながら防御する。
(無敵ィ!!)
 やられているばかりにもいかない。
 吸血鬼のガードが甘くなった所に、左のフックを叩き込んだ。
 吹き飛ばされ、壁にぶちあたる吸血鬼。

「我同胞(はらから)を失いて、
 道無き道を、独り往く。」
 …?
 天の体から、何かの力が湧きあがって来るのを感じた。
 いや、この感じ、どこかで覚えがある…!

「渡るその身を雨は打ち、
 凍て付く身体は心を亡くす。」
「NNUUUUUUUUUAAAAAAAAAHHHHHH!!!」
 吸血鬼が壁に当たった時の反動を利用して、オオミミに反撃する。
 爪が、オオミミの胸を深く抉った。
 まだか、天。
 君のスタンドはいつ発動するんだ…!

「乾いた大地は時雨を湛え、
 其処に出(いずる)は水鏡。」
 ……!
 何だ、この感じは。
 世界が、何か別のものに変わっていくような。
 これは、これは間違い無い。
 この力は…

「其処には何がと覗きてみれば、
 映るは己の貌だった―――…」





「…―――Identity disappears.(そして総ては自分(イミ)を失う)」

330ブック:2004/05/12(水) 18:30





 ―――響く雨音。

 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。

 何も無い荒れ果てた大地に、ひたすらに雨が降り尽くす。


「な……!?…あ……!!!」
 突然ガラリと切り替わった風景に、吸血鬼が言葉を失った。
 先程までの船内の光景は、何一つ残っていない。

「……!!」
 オオミミも、あまりの出来事に呆然とする。

「どこだ!どこなんだ、ここはァ!!!」
 錯乱する吸血鬼。

「…ここはアタシの『内的宇宙』『心象世界』。
 私の『創造(想像)』(つく)ったちっぽけな飯事部屋。」
 と、どこからか現れた天が吸血鬼に語りかけた。

 矢張り、矢張り思った通りか。
 彼女は……
 天は、
 僕と同じ、『結界展開型』のスタンド能力…!

「行くわよ、『化け物』(フリークス)。
 ここからは、特別にこのアタシが相手してあげるわ。」
 天が、吸血鬼を見据えて言い放った。



     TO BE CONTINUED…

331:2004/05/12(水) 22:19

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その4」



「あ、この階段見たことあるー!!」
 レモナは、赤絨毯が敷かれた大きい階段を指差した。
 組閣の時に並んで記念写真を撮る、例の階段だ。
「アッヒャー!!」
 赤色を見て興奮したのか、つーが階段を駆け上がった。
 階段の中程から、中庭の綺麗な風景が見える。

「立派な庭園ねぇ、池まで作っちゃって」
 レモナは中庭を見て言った。
「全く、誰が払った税金だと思ってるんだか…」
 いつの間にか、階段の中程に来ていたモララーが不平を垂れる。
 ロクに払ってもいないクセに…、とギコは思った。

「モララー、ナニカ イッテヤレ!」
 つーは手摺にもたれて言った。
 モララーが、不敵な笑みを浮かべて池をビシッと指差す。
「飲んでやるッ!!」

「ほら、馬鹿3人、とっとと行くぞ…」
 ギコは呆れて言った。
 彼としぃ、局長、リル子はとっくに階段を上がっている。

「妙ですね…」
 局長は言った。リル子がそれに頷く。
「…何がですか?」
 しぃは2人に訊ねた。
 局長がそれに答える。
「迎撃部隊が全く現れません。上から押し寄せてきてもおかしくないのに、全く気配がない」

 そう。ギコも不審に思っていたのだ。
 外の厳重な警戒に比べ、中の人数はどう考えても少ない。
 会った兵はエントランスホールで倒した連中だけだ。
「…考えられる可能性は?」
 局長は、リル子に視線を送った。
 リル子は静かに口を開く。
「第1に、警備人数そのものが少ない場合」
「それはありえませんね。外には多くの警備を割いています。そんな偏った布陣はない」
 局長は即座に否定した。

 リル子は言葉を続ける。
「第2に、指揮官が無能である場合」
 局長が肩をすくめた。
「フサギコも、ここの重要性は理解しているはず。彼の采配である以上、その可能性はありませんよ」

「第3に、私たちには敵わないと判断し、撤退してしまった場合」
「ありえないとは言いませんが… いささか楽観的な見方でしょうね…」
 局長は否定する。
 リル子は少し間を置いた。まるで、今までは前座だといった風に。
「第4に、防衛拠点に兵力を集め、待ち伏せ策を実行している場合」
「…」
 局長は黙っている。否定材料がないのだ。

「第5に、こちらからは窺い知れない事情がある場合。考えられる可能性は以上です」
 リル子は意見を述べ終える。
「第4か第5… おそらく、第4の待ち伏せ策でしょうね」
 局長は言った。
 リル子も同意したように頷く。

「…待ち伏せか」
 ギコは呟いた。
 自分のスタンドがいかに近距離パワー型とは言え、四方八方から自動小銃の弾丸を浴びせられれば辛い。
「待ち伏せだとすれば、4階の大会議室しかありません」
 リル子は断言した。
 今度は局長が頷く。
「…ええ。要人達が囚われているであろう部屋ですから、こちらは思う存分暴れられないでしょうしね」

「そういう訳だから、お前達も気をつけろよ」
 ギコは、建物ごと破壊する可能性が高いレモナとつーに釘を刺した。
 要人奪還という任務には、とてつもなく不適な2人かもしれない。

332:2004/05/12(水) 22:21

「とにかく、やる事は1つでしょう」
 リル子はアタッシュケースに手を掛ける。
「…そうですね」
 局長が腰を上げようとしたその時、階上から銃声が鳴り響いた。
 タタタタタ…という、タイプを打つような軽い音が。

 階段の前の兵達が顔を見合わせ、無線機を手に取る。
「――――!?」
 何かを告げ、顔を歪ませる米兵。
 そして、5人揃って階段を駆け上がっていった。

 先程の米兵達のように、今度はギコ達が顔を見合わせた。
「何だ、今の銃声は… 何かあったのか?」
 ギコは、階段を見上げて言った。
「警備兵達、随分慌ててたいようだね…」
 モララーが呟く。
「行ってみましょうか…」
 局長が腰を上げる。

「しぃ、大丈夫か?」
 ギコは、しぃに声を掛けた。
 しぃは冷や汗を掻いている。
「あ、うん。大丈夫… でも、やっぱり怖いかも…」
「これだけの人数がいるし、みんな強いんだ。怖がる必要はねぇよ…」
 ギコは、しぃに優しい声をかける。
 しぃは頷いた。

 一同は、警戒しながら4階に上がった。
 ある意味、眼前の光景は予想できたといえるだろう。
 先程の銃声。
 そして自分の守る場所を放ったらかし、慌てて駆け上がっていった警備兵。
 向こうにとって、何かが起きたのは明白なのだ。

 4階は、兵の死体の山だった。
 赤い絨毯は、さらなる朱で染まっている。
「…」
 しぃが、口元を押さえて絶句した。
 よろける体を素早く支えるギコ。

 同士討ち…?
 いや、そんなはずはない。
 他にも侵入者がいるのだ。
 俺達以外の侵入者が…!!

「米兵15人…、相当の手練でしょうね」
 リル子は、冷静な目で死体を観察した。
 頸部が折れている死体が5体。残り10人は、全て頭部を撃ち抜かれている。

「聞こえてきた銃声は極端に少ない…
 先程3階にいた警備兵も、異常があったと認識していたにもかかわらず発砲せずに殺されています。
 侵入者は、ゲリラ戦に長けたスタンド使いの可能性が高いと思われますが…」
 そう言って、局長は顎に手をやった。
「自衛隊と敵対しているASAの刺客という可能性は… 低いですね。
 ASAは、海上自衛隊との激突に戦力を割いているはずですし」
 そう言って、ギコに視線を送る局長。

「テメェ… そこも盗聴してやがったのか」
 ギコは局長を睨みつけた。
 局長は薄い笑みを見せる。
「…ええ。モナー君とリナー君の行き先を、必死で誤魔化すギコ君の姿は傑作でしたね。
 それにしても、『逢引き』って何ですか。貴方、ひょっとして大正時代の生まれですか…?」

「…ここは敵地のど真ん中、まして異常事態の最中です。あまり日和らないようお願いします」
 リル子は厳しい顔で局長に告げた。
「おっと、そうでしたね…」
 そう言って、局長は足元の死体に視線をやった。
 ほとんどの人間は、目を見開いて死んでいる。
 まるで、自分の死を全く予期しなかったような死に顔だ。

「敵の敵だから、味方なんて事はないかな…?」
 暗い顔を無理に明るくして、モララーは言った。
「そんな、美味い話があるわけないだろ…」
 呆れたように言いながら、ギコは死体… いや、死体の手にしている小銃の脇に屈み込んだ。

「レバーがセーフティーに入ったままじゃねぇか… 安全装置を解除する間もなかったんだな…」
 そう言って、ギコはM4カービンを手にする。
 流石に、懐に仕舞うには大きすぎるようだ。そのまま携行するしかないか。
「いや、何どさくさに紛れて銃をくすねてるのさ…」
 モララーはすかさず突っ込んだ。

「…とにかく、これをやった相手と敵対しないとも限りません。覚悟はいいですね?」
 局長の言葉に、全員が頷いた。
「あと、この中に人を殺した事がある者は?」
 そう言って、全員を見回す局長。
 手を上げたのはリル子だけだ。
 それを見て、局長は口を開いた。
「命を奪うことには色々抵抗もあるでしょうが… ここから先、殺すことを躊躇してはいけません。
 まあ、戦場で軍服を着てる者は人じゃないんで、特に気にする必要もありませんがね」

「こっちだって、殺さなきゃ殺されるんだ。今さら躊躇はしねぇよ」
 ギコは、米兵達の死体から弾丸を回収しながら言った。
 その様子を少し呆れた目で見つめるしぃ。
「そういう事。自分だけ手を汚さないなんて、言ってられないしね…」
 モララーは言った。
 しぃの隣には、いつの間にか『アルカディア』が立っている。
「まあ女の子に人殺しを要求するのは酷ってもんだし、その分はオレがカバーするぜ」
 『アルカディア』は腕を組んで言った。

333:2004/05/12(水) 22:22


「ハハハ… まあ、まっとうなレディは人など殺めませんよねぇ」
 局長は笑って言いながら、リル子の方に視線を送った。
「そうですね、フフ…」
 つられたように笑うリル子。
 ギコは、その様子を怯えながら見ていた。
 …怖い。
 絶対何かを心に秘めている。

 ギコはリル子から『アルカディア』に視線を移した。
 そして、『アルカディア』に告げる。
「俺も、おそらく自分の身を守るだけで精一杯だ。だから、お前がしぃを守ってやってくれ。 …頼む」

「…ああ、任せときな。オマエの愛しの彼女には、指一本触れさせねぇぜ」
 『アルカディア』は腕を組んだ。
 そして、ニヤニヤした笑みを浮かべる。
「だから、浮気はそこそこにしてやるんだな…」
 それを聞いて、ギコの表情が強張った。

「へ〜 性懲りも無く浮気してるんだ。前みたいなお仕置きじゃ足りなかったみたいだね…」
 しぃは口の端を吊り上げる。
「…!!」
 ギコは一歩後ずさった。
「また何かあったら知らせてね」
 しぃは、自らのスタンドに語りかける。
「…おおよ!」
 『アルカディア』は胸を張って言った。


「さて、そちらの問題も片付いたようですね…」
 局長は、そう言いながらも壁の一点をじっと見つめている。
「ん…? どうかしたのかい?」
 モララーは局長に訊ねた。
「いえ、別に…」
 局長は、全員に向き直る。
「さて、行きましょうか…」
 廊下に散乱した死体を避けつつ、一向は廊下を進んでいった。


 廊下の突き当たりに、立派な扉が見える。
「あれが、大会議室の扉ですね」
 局長は言った。
 おそらく、あの中に政府要人達が監禁されているのだ。
 一同は扉の前に立った。
 中の様子は分からない。
 罠があるのかもしれないし、兵士達が息を潜めて銃口を向けているのかもしれない。
 何もない、と考えるのは楽観的に過ぎるだろう。

「…さて、ここはレディー・ファーストです。リル子君、お先にどうぞ」
 局長は、リル子に先を促した。
「局長がレディー・ファーストを実践されていたとは初耳ですが… お断りします。
 女性という事で、特別な扱いを受ける気は毛頭ありませんので。
 局長が先に踏み込んで下さい。骨は拾いますので、御安心を」
 リル子は冷たく告げる。

「まったく…」
 局長はため息をついた。
「やれやれ、指揮官を先頭にしてどうするんですか…」
 文句を言いつつも、自分が適任である事は理解しているようだ。
 扉の取っ手に手を掛ける局長。
 そのまま、一気に扉を開いた。

 銃声が響く。
 部屋の中に伏せていた兵達が、一斉に発砲したのだ。
 その数、約40人…!

「『アルケルメス』!!」
 局長のスタンドは、被弾する瞬間の時間を切り取った。
 その刹那、レモナとつーが会議室に飛び込む。
「バルバルバルバルッ!!」
「行くわよ――っ!!」
 2人は銃弾を弾きながら、兵達に襲い掛かった。

「『レイラ』ッ!!」
 ギコはスタンドを発動させ、先程手に入れたM4カービンを構える。
 銃のレバーを、素早く3発バーストモードに切り替えた。
 そして、会議室の中に駆け込むギコ。

「どけや、ゴルァ――ッ!!」
 ギコは、部屋内を駆けながら自動小銃を乱射した。
 自分に向けられた弾丸は、『レイラ』の刀で弾き飛ばす。
 5.56mm弾の直撃を喰らい、次々に倒れていく兵士達。

 要人らしき人達は、部屋の隅に集められていた。
 首相をはじめ、TVで目にした事のある顔がいくつもある。
 手足の拘束はされていないようだ。
 そして、1人の兵が要人達に銃を向けている。
 スタンドを発動していないリル子が、要人達に駆け寄った。

「Freeze!!(止まれ!!)」
 兵がリル子に銃口を向けた。
 しかし、リル子は走る速度を緩めない。

          TeilAnfang
「『Altitude57』、限定起動…!」
 リル子は、そう言いながらアタッシュケースを空中に放り投げた。
 そこから飛び出した黒い影が、瞬時にリル子の足を覆う。

「Set… code21:『RandBeschleunigung(限界加速)』」
 リル子の動きが、瞬間的に加速した。
 素早く銃を構える兵士… その眼前に一瞬で接近する。
 そのまま、リル子は掌底で銃をさばいた。
 そして、姿勢を屈めて相手の右手の下をくぐり、懐に入り込む。
「…!!」
 兵士が反応する間もなく、リル子は無防備な胴に体当たりを決めた。

「鉄山靠か…!」
 ギコは、見事な技の入り方に感嘆して呟いた。
 鉄山靠を決められた兵は吹っ飛んで、壁に激突する。

334:2004/05/12(水) 22:24

「ふう、こんなものですかね…」
 『アルケルメス』が、その腕で吊り下げていた兵の体を床に落とした。
 大会議室の床は一瞬のうちに、倒れた兵で埋まってしまう。

「僕、何もしてないんだけどな…」
 ドアの前に突っ立って、モララーが呟いた。
 その隣にはしぃもいる。

 局長は、部屋の隅に集まっている要人達に歩み寄った。
「どうも、皆さんを救出に来た公安五課です」
 そう言って、スーツ姿で固まっている老人達に名刺を配る局長。
「公安五課をよろしく。再来年度予算には、ぜひ一考の程を…」
「…根回しは後にして下さい」
 リル子は、厳しい口調で言った。

 首相が、局長の顔をまじまじと眺める。
「…今日一日の動向は、TVで見て知っている。公安五課は自衛隊に与しなかったのかな?」
 局長は軽く肩をすくめた。
「私がフサギコ…統幕長と対立していたところは見たでしょう?
 公安五課は、スタンドの犯罪を取り締まる組織。スタンドそのものを犯罪と見なす訳ではありません。
 …ゆっくり話をする余裕もないようですね」

 足音と共に、5人の米兵が会議室に駆け込んできた。
 そして、銃口を部屋内に向ける。

「…『崩れる』」
 『アルカディア』は呟いた。
 兵達の足元の床に幾つもの亀裂が走る。
「…!?」
 兵士達が反応する間もなく床が崩れ、彼等の体は階下に落下していった。

「脱出か… モララー、『アナザー・ワールド・エキストラ』の瞬間移動が使えないか?」
 ギコはモララーに訊ねる。
「…無理だね。座標の調整に時間がかかる上に、これだけの人数が通れる『穴』を開けるのも無理だよ」
 モララーは壁にもたれたまま首を振った。
「全く、使えねぇな…」
 ギコが吐き捨てる。

 局長は、20人近くいる要人達の顔を見回した。
「今から、皆さんを連れてここから脱出します。
 人数が多いので、3×7の列を組んで駆け抜けます。
 列から離れると間違いなく死にますので、そのつもりで」

 要人達の顔に不満と緊張が走った。
 だが、命をかけてまで愚痴る覚悟のある人間などそうはいない。
 彼等は素早く3×7の列を形成した。

 それを見て、局長は頷く。
「国会でも、今のように文句を言わず速やかに協力すれば、審議は十分の一の時間で済みますね。
 さて、行きますよ…!」
 リル子が列の先頭に立ち、早歩きで進み出した。
 先程『アルカディア』が空けた床の穴を大きく迂回する。
「俺達は、列の両脇を固めた方がいいな…?」
 ギコは局長に言った。
「そうですね。最後尾の守りは私が務めましょう」
 局長は頷く。
 ギコ、モララー、しぃ、レモナ、つーは素早く列の周囲に展開した。
 そのまま、一団は会議室を出た。

 そして、素早く廊下を通過する。
 局長は要人達に語りかけた。
「ここから少し行ったところに、多くの死体が転がっています。
 心臓の弱い方は気をつけて下さいね。
 まあ、政治家の皆さんともなれば死体の1つや2つ見慣れているかと思いますが」

 一同は、死体で埋まった廊下に差し掛かった。
 靴が血で濡れるのも厭わず、要人達は列を組んで走り抜ける。
「…おっと、急用を思い出しました」
 急に局長は立ち止まった。
「リル子君、先に行って下さい」

「は?」
 怪訝そうに振り返るリル子。
 その目に、真剣な局長の表情が映る。
「…了解しました。早めに合流して下さい」
 再び、リル子は駆け出す。
「えっ、いいの…!?」
 モララーは、リル子の後姿と局長の顔を見比べた。
「いいんだよ、行くぞ!!」
 ギコが先を促す。
 一団は、局長を残してそのまま3階に降りていった。

335:2004/05/12(水) 22:25



「さて… もう息を潜めるのにも飽きたでしょう?」
 局長は壁の一点を見つめて言った。
 不意に、その空間に人間の輪郭が浮かぶ。

「…よく気付いたな。対スタンド機関の人間か?」
 その男は、一瞬にして実体化したように見えた。
 鍛え抜かれた筋肉質な体。紺を基調とした潜入用と思われるスーツ。
 そして、紺色の長いバンダナ。
 彼は、H&K社の特殊部隊用拳銃、USPを手にしていた。
 米兵15人を瞬殺した事からして、間違いなく強い。

「『BAOH』の嗅覚ですら反応はなかったのに、人間に見つかるとは…」
 男は低い声で言った。
 『BAOH』… こいつ、つーを知っている…!
 しかし、動揺は局長の顔に出ない。
「『BAOH』の嗅覚は敵意を感じ取る嗅覚であって、一般の意味での嗅覚ではありませんからね。
 私は職業柄、硝煙の匂いには敏感なんですよ…」
 局長は、煙草を咥えて言った。
 そのまま、煙草に火をつける。
「敵意が無ければ感知されない、か…」
 男は感心したように呟いた。

「さて、貴方はどこのスタンド使いです? ASAとは思えませんがねぇ…」
 局長の背後に『アルケルメス』のヴィジョンが浮かぶ。
「…俺に国はない」
 男は吐き捨てると、素早く横転した。
 そのまま、USPの引き金を引く。
「『アルケルメス』…!!」
 着弾の瞬間をカットし、同時に接近する。
 しかし、その対象の姿は既に無かった。

 先程撃ったUSPが廊下に転がっている。
 その銃口からは、硝煙が上がっていた。
「…」
 素早く周囲を見回す局長。
 しかし、男の姿は見当たらない。

 …僅かな物音が、背後から響いた。
「『アルケルメス』ッ!!」
 咄嗟にスタンドを発動させる局長。
 ピッタリのタイミングで、真後ろから狙撃された瞬間をカットする。

「…チッ」
 僅かな舌打ちが背後から聞こえた。
 素早く振り向く局長。
 しかし、既に男の姿はない。
「全く…、面倒な相手ですねぇ…」
 『アルケルメス』を背後に待機させたまま、懐から拳銃を取り出して局長は呟いた。

336:2004/05/12(水) 22:26



          @          @          @



 ギコ達と要人一同は、1階への階段を駆け下りていた。
「外に待機させている脱出用ヘリってのは、どのくらいの距離だ?」
 ギコは先頭のリル子に訊ねる。
「合図があり次第、200mほど離れた空き地に着陸する手はずになっています」
 リル子は、歩調を落とさずに答えた。
「でも、局長は…?」
 しぃは呟く。
 ギコは口を開いた。
「あいつは、最後尾を担当すると言っただろう? その最後尾が、あの場に残ったんだ…」
「追撃者がいた、って事か…」
 ギコが言いたい事を理解するモララー。
「じゃあ、たった1人で…!」
 しぃは言った。

「…ヒトノ コトヲ キニシテル バアイ ジャナイゼ…!」
 つーが、敵意の匂いを感じ取ったようだ。
「1カイ ホールニ スゲェ カズダ…」

「…!!」
 しぃが息を呑む。
「何人ほどです…?」
 リル子は訊ねた。
「ホールには3個中隊…約280人ってとこね。外には… とにかくいっぱい」
 つーの代わりに、レモナが口を開く。

 リル子は階段の途中で立ち止まった。
 要人達の列の進行も会談の真ん中で止まる。
 そして、リル子は要人達の方に振り返った。
「聞いての通り、1階のエントランスホールは敵で埋まっています。
 私達で片付けるので、ここで待機していてください」

 首相は緊張した面持ちで頷いた。
 次に、ギコ達の方を向くリル子。
「私とレモナさん、そしてつーさんは、敵に突貫して道を空けます。
 おそらく、相当の数の敵兵がここにも向かってくるでしょう。
 ギコさん、しぃさん、モララーさんは要人の方々を護衛して下さい」

「おうよ!」
 ギコは頷くと、階段の下に視線をやった。
 上がってくる奴を片っ端から撃退すればいい。
 上方に陣取ったこちらが有利だ。

「レモナさん、つーさん、準備はいいですか…?」
 リル子はアタッシュケースを手繰り寄せて言った。
「久々に、気合が入るわね〜」
 レモナが軽く髪を掻き上げる。
「アヒャ! マカセトキナ!」
 つーが両手の爪を剥き出しにした。

 リル子は2人の様子を確認すると、アタッシュケースを開いた。
 ケースから飛び出した『アルティチュード57』が、一瞬にしてリル子の体を覆う。
         Anfang   System All Green
「『Altitude57』、起動…  システム異常無し」

 コードに覆われた漆黒のスタンドを身に纏い、リル子は階下に視線をやった。
 ここからは見えないが、1階には大量の敵兵が待ち伏せている…
 リル子は、次に一同を振り返った。
 敵兵から奪った小銃を構えているギコ。
 少し不安げなしぃ。
 よし、やるぞッ!!と気合を入れているモララー。

 レモナとつーは、リル子と視線を合わせて頷いた。

「――では、行きますよ」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

337ブック:2004/05/13(木) 18:59
     EVER BLUE
     第十三話・BATTLE FORCE 〜力の矛先〜


 雨が降りしきる次元の異なった空間の中、天は傘を差し静かに佇んでいた。
 雨の降り続く無限の荒野。
 これが、天の心の投影か。

「『レインシャワー』。」
 天が呟く。
 すると、雨水がみるみる一つ所に集まり始め、
 それは瞬く間に一匹の大きな狼へと姿を変えた。

「行きなさい。」
 天が吸血鬼を指差した。
 直後、狼が吸血鬼に向かって飛び掛かる。

「……!!」
 吸血鬼は無言で狼を腕で払いのけた。
 爪で体を深々と抉られた狼が、元の雨水へと変わって弾ける。

「まだまだ行くわよ。」
 しかし、次の瞬間には再び天の近くに新たな狼が生み出される。
 同時に突進していく狼。
「何を…!」
 だが、矢張り吸血鬼はそれを苦も無く退けた。
 それと同時にまたしても出現する狼。

「ふん…!!」
 吸血鬼が狼が現れてはそれを次々と屠っていく。
 生まれる。
 消える。
 生まれる。
 消える。
 生まれる。
 消える。
 不毛な繰り返し。

「こんなものでこの俺を倒せると思っているのか!?」
 十体目位の狼を消し去った所で、吸血鬼が苛立たし気に叫んだ。

「…やっぱり、これしきでは駄目ね。
 仕方無いわ。
 もう余り時間も残っていないし、この辺りで決着させて貰うわよ。」
 と、天が傘を閉じ、その先端を地面へと突き刺した。

「『レインシャワー』!!」
 またもや雨水が集まり始め、別の姿を形作っていく。
 どうやら、今度は狼ではないようだ。
 彼女は、一体何を…

338ブック:2004/05/13(木) 19:00


「!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!」
 オオミミと吸血鬼が、同時に目を見開いた。
(!!!!!!!!!)
 僕も思わず息を飲む。
 これは、こいつは…!

「あいつは…!」
 オオミミが身構える。
 そこに生まれたのは、オオミミの腕と足を斬り落としたあの女吸血鬼だった。

「栗田様…!?」
 吸血鬼がポカンと口を開いた。

「!!!!!!!!!!」
 刹那、女吸血鬼は男目掛けて襲い掛かった。

「くっ…なっ……!!」
 男が左腕でその一撃を受ける。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
 直後、男の左腕があらぬ方向に折れ曲がった。
 それを逃さず、女吸血鬼はさらに男の体を切り刻む。

「WWWWWOOOOOOOOOHHHHHHH!!!」
 男の体があっという間に深紅に染まる。
 吸血鬼の再生力でも、傷を修復しきれていない。

 一体、天のこの能力は何なんだ。
 あの女吸血鬼の動きは、まさにオオミミが闘ったそれと遜色無い。
 只一つ、スタンドを使っていないという点を除いては。

「AAAAAHHHHHHHHHH!!!」
 男が絶叫する。
 最早、男の命は風前の灯火だった。

「…『ゼルダ』。」
 と、オオミミが僕に話しかけた。
(オオミミ?)
 どうしたんだ、オオミミ。
 そんな浮かない顔をして。

「ごめん。少しだけ、僕に体を貸してくれ。」
 その言葉と共に、僕の体の支配権がオオミミへと移った。
(オオミミ、何をするつもりなんだ!?)
 僕の言葉に、オオミミは答えない。
 無表情のまま、女吸血鬼と男が闘う所へと歩いていく。

「ちょっと、何考えてるの!?
 巻き添えを喰らうわよ!?」
 天が驚いた顔でオオミミを制止しようとする。
 しかし、オオミミ止まらない。

(やめろ!オオミミ!!)
 だが、僕や天の言葉には耳も貸さず、オオミミはひたすら進み続けた。

「……!!」
 天が制止は無理と判断したのか、女吸血鬼を雨水へと戻す。
 暴力から開放された男が、訳が分からないといった様子で目を丸くしていた。

「……」
 オオミミが、男の前に立つ。

「…!SYAAAAAAAAAAAA!!!」
 呆然としていた男だが、そんなオオミミを前にして、
 これぞ好機とばかりに目を血走らせてオオミミに爪を振るう。

「『ゼルダ』!」
 しかし、遅い。
 先程の女吸血鬼の雨細工との闘いでのダメージで、
 既に男には以前の力は無かった。
 男の爪がオオミミの体に触れる前に、オオミミが僕の体を操って男の頭を叩き潰す。
「……!!!」
 頭を破壊された男は、地面に仰向けに倒れてそのまま蒸発していった。

339ブック:2004/05/13(木) 19:01



 …気がつくと、周りの風景は元の船内へと戻っていた。
 恐らく、天の能力が解除されたのだろう。

「…どういうつもり?」
 天が、なじるような表情でオオミミに尋ねた。
(そうだよ。何で、あんな事をした。)
 僕もオオミミに同じ質問をする。

「手柄を横取りしたかったのかしら?
 だとしたら、とんだ卑怯者ね。」
 天がぶつけるように言葉を投げかける。
 オオミミは、黙って首を振った。

「だとしたら何であんな危ない事したのよ!
 私が止めなかったらどうなってたか分かってるの!?」
 天がカンカンに怒りながら叫ぶ。

「天なら、止めてくれると思ってたから。」
 オオミミが、苦笑しながら答えた。

「そうじゃなくて、何でアタシの邪魔をしたのか聞いているの!」
 僕もオオミミが何故あんな事をしたのか分からなかった。
 オオミミ、答えろ。
 返答によっては、僕も怒るぞ。

「…天は、人を殺した事ある?」
 天の顔を真っ直ぐと覗き込み、オオミミは言った。
「…!?無いけど、それが何よ…」
 オオミミの真剣な眼差しに圧され、天がやや身を引きながら答える。

「…人を殺すとね、凄く、凄く嫌な気分になるんだ。
 俺は、君にそんな思いをして欲しくない。」
 オオミミが俯く。
 まさか、君はたったそれしきの理由でさっきの無茶をしたのか?
 馬鹿げている。
 それに、さっきの男は人間じゃない。
 ただの化け物、吸血鬼じゃないか!

「何言ってるの!?
 それとこれと何の関係があるっていうのよ!
 さっき吸血鬼は、ただの化け物じゃない!!」
 僕が考えた事と全く同じ台詞を、天が喋る。

「…違うよ。
 やっぱり、そんな理由なんかで殺しちゃ駄目だ。
 吸血鬼だから、化け物だから殺してもいいなんて、絶対に間違ってる。
 そんな理由で殺したら、いつか、それを悔やむ日が来る。」
 オオミミが哀しそうな目で言葉を続けた。

「サカーナの親方が言ってた。
 殺す時には、それ相応の理由で殺せ、って。
 信念とか、理想とか、お金とか、怒りとか、憎しみとか、道義とか、
 何かを守る為とか、食べる為とか、生きる為とか、
 それが良いとか悪いとかに関わらず、
 自分なりの確固たる理由をもって殺せ、って。
 そして、相手もまた同じ様に理由を持っている事を忘れるな、って。
 それが、殺す相手への最低限の礼儀だ、って。」
 オオミミが天に語り続ける。
 それは、あたかも自分に対して問うているようでもあった。

「…吸血鬼だってそれは同じだよ。
 彼らは、人を食べなきゃ生きていけないんだ。
 だから、人を殺す。
 勿論、俺達人間だって黙って喰われる訳にはいかない。
 だから、吸血鬼を殺すんだ、って。
 ただそいつが吸血鬼だから、化け物だから殺していいなんてのは、
 畜生にも劣る道理だ、って。
 …そうサカーナの親方は教えてくれた。」
 僕は黙ってオオミミの話を聞いていた。

「…それは、さっきの吸血鬼だって一緒だよ。
 あいつらは何らかの理由で俺達の船を襲って、俺はそれを防ぐ為に殺した。」
 天は何も答えない。
 ただ俯きながら、オオミミの言葉に耳を傾けている。

「…それに、いくらこうやって綺麗事並べたって、
 誰かを殺す、ってのは、いけない事なんだ。
 …だから、巻き込まれただけの君が、
 こんな所で、そんな理由で殺しちゃ駄目だ。」
 オオミミが呟くように天に告げた。
 優しく、しかし、どうしようもない位に寂しそうな声で。

340ブック:2004/05/13(木) 19:01


「…あんたは……」
 と、天が何か言おうと口を開いた。

「…?」
 オオミミがそれを受けて不思議そうな顔をする。

「あんたは、今までに人を殺した事があるの…?」
 真剣な表情で、天がオオミミに尋ねた。

「……」
 オオミミと天の間に沈黙が流れる。
 押し潰されそうな圧迫感。
 オオミミはしばし躊躇った後、やがて観念したように口を開いた。

「…殺したよ。それも、いっぱい。」
 …事実だった。
 僕も、それに協力していた訳ではあるが。

 仕方が無いといえば仕方の無い事だ。
 オオミミの居るサカーナ商会一味は、いわゆる何でも屋と呼ばれる部類の職業で、
 悪く言ってしまえばならず者と大差無い。
 この物騒なご時世、護衛や輸送等の仕事の最中に…
 いや、仕事とは関係の無い時だって、空賊に襲われる事もある。
 そうなったら、反撃だってしないといけない。
 当然、已むを得ず殺さねばならない場合だってある。
 それはしょうがない。
 やらなければ、こっちがやられてしまうのだ。
 殺すぐらいなら殺される方がマシなどと、気の触れたような戯言を言っていては、
 この世界では一日とて生きていけない。

 ただ、誓って何も関係無い人を殺した事や、
 残虐に苦しめながら殺した事は一度だって無い。
 だけどそんな事を言った所で、オオミミは自分を責めるのをやめないだろう。
 僕にはただ、オオミミと一緒に罪を被っていく事しか出来なかった。

「…軽蔑してくれていいよ。俺は、人殺しなんだ。」
 オオミミが顔を背けながら天に告げる。

「…ア、アタシは……」
 天が困ったような顔をしながら、オオミミに何か答えようとした。

 …僕は、彼女がもしオオミミを傷つけるような事を言ったら、
 ひっぱたいてやるつもりだった。
 オオミミを侮辱する奴は、絶対に許せない。

「…アタシは、人を殺した事が無いし…難しい事は分かんないから、
 あんたが正しいのかどうかなんて分かんない。
 だけど……」


「オオミミ君、天君、大丈夫ですか!?」
 と、そこにタカラギコが駆けつけて来た。
 背中には、何やら大きな十字架を担いでいる。
 いや、あれは以前サカーナの親方に見せて貰った事がある。
 確か、『パニッシャー』とかいう銃だった筈だが…
 まさか、あのトンデモ兵器を使えたのか!?

「あ、はい。」
 オオミミが慌ててタカラギコの方を向く。

「いや、こちらの方に恐いおじさんが来たと思ったのですが…
 どうやら、もう片付いていたみたいですね。」
 タカラギコが、足元に転がる吸血鬼の残骸を見ながら口を開いた。

「さて…どうやら、嵐は去って行ったみたいですね。」
 そのタカラギコの言葉で、初めて周りが静かになってきていたのに気がついた。
 どうやら、何とか切り抜けられたようだ。

「…取り敢えず、ブリッジに行ってみよう。」
 オオミミが、天とタカラギコに向かってそう告げた。



     TO BE CONTINUED…

341ブック:2004/05/15(土) 01:41
     EVER BLUE
     第十四話・WHO ARE YOU? 〜タカラギコ〜


「只今戻りました。」
「カウガール、帰還しました〜!」
 高島美和とカウガールがブリッジに戻って来た。
「おう、御苦労さん。」
 サカーナの親方が片手を上げて二人を迎えた。
 ブリッジには既に、僕とオオミミ含む三月ウサギやニラ茶猫等、
 主要メンバーが勢揃いしていた。

「…まさか吸血鬼のおでましとは、な。
 『紅血の悪賊』のボスが吸血鬼で、メンバーの中にも多数の吸血鬼が居るってのは
 有名な噂だったけど、まさかこの目で確認するとは夢にも思わなかったぜ。」
 ニラ茶猫が呆れた様に笑いながら言う。

 だけど、どういう事だ?
 確かにこの前僕達は『紅血の悪賊』の小型戦艦を襲いはした。
 しかし、『紅血の悪賊』ともなればそんな事は日常茶飯事だろう。
 それなのに、吸血鬼まで駆り出して僕達みたいな小物まで仕返しに来るなんて、
 明らかにやり過ぎだ。
 それに、襲い方だって変だ。
 『紅血の悪賊』は、一発も僕達の船に発砲してこなかったらしい。
 つまり、最初から僕達の船の内部に進入し、制圧する事しか眼中に無いという事だ。
 だけど、何でそんな危険の伴うまだるっこしいやり方を…

「…しかし、それにしては思ったより被害は出ませんでしたね。」
 高島美和が全員を見渡しながら言った。
 多少船内が荒らされたり、数名の怪我人が出てはいるものの、
 幸いな事に致命的な船体への損傷や死傷者は出ていない。

「…この程度で済んだのか、この程度で済まされたのかは微妙だがな。」
 三月ウサギが腕を組みながら呟く。

「違ぇねぇ。
 まあいい、取り敢えず目の前の危険は何とか切り抜けられた。
 となると残る問題は―――」
 サカーナの親方が、視線を動かす。
「―――お前だけだな。」
 目線は、タカラギコの前で止められた。
 三月ウサギもニラ茶猫も、一様に身構える。
 唯一タカラギコだけが、いつも通りののほほんとした笑みを浮かべていた。

「ちょっと皆さん、何か恐いですよ?
 私が何をしたっていうんですか…」
 タカラギコが腕を振りながら情け無い声を上げる。
 その様子だけ見れば、どこにでも居る好青年だ。
 だが…

「誤魔化すなよ。
 化かし合いは無しだ。
 偶々オオミミと嬢ちゃんが『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)に
 襲われている所に通りかかって、
 偶々それから二人を守ってやって、
 偶々俺達の船に乗り込んで、
 偶々そいつが飛空挺も知らねぇような変人で、
 偶々そいつを乗せた途端『紅血の悪賊』が襲って来て、
 偶々そいつが生身で吸血鬼と互角以上に渡り合い、
 パニッシャーを使いこなせるような凄腕だった。
 で、俺達はどこまでその偶々を信用すりゃあいいのかな?」
 サカーナがタカラギコを睨む。
 タカラギコも、ようやく表情を少し強張らせた。

「…最初から全部偶々でした、と言って信用して貰えますかね?」
 タカラギコが肩をすくめた。

「悪いが、信用出来ねぇな。
 俺達はそこまで善人じゃない。」
 そこまでも糞も、サカーナの親方の顔はもろ悪人のそれだ。
 よって、この台詞には全く説得力が無い。

「答えろ。お前さん、何者だ?」
 サカーナの親方が、低く、しかし重い声でタカラギコに尋ねた。

342ブック:2004/05/15(土) 01:42


「…『帝國』。」
 と、タカラギコがボソッと呟いた。
 同時に、その言葉に一同の顔が凍りつく。
 僕も、一瞬耳を疑ってしまった。
 あの、武力を背景に勢力を拡大しつつある、忌まわしき集団、『帝國』。
 飛空挺も知らないような彼から、何でその単語が!?

「お前…」
 三月ウサギがマントの中に手を伸ばした。
 いつでも、剣を振るう事を可能にする為だろう。
 ニラ茶猫も、腕から刃を生やしている。

「『帝國』のとある軍事機密に関わる何かを、『紅血の悪賊』が掠め取ったらしいです。
 それも、かなりのものを、ね。」
 タカラギコが、周囲から浴びせられる殺気など気にもしない様子で言葉を続けた。

「しかしそれを運送する途中で、運の悪い事にそれを横から奪われてしまった。
 それも、民間の船団に。」
 …ちょっと待て。
 それって、もしかして―――

「そう、あなた達がこの前襲撃した『紅血の悪賊』の船が、それですよ。」


 ―――!!

 三月ウサギが、ニラ茶猫が、タカラギコに得物の刃先を突きつける。
 一触即発の張り詰めた雰囲気が、その場に流れた。

「貴様…『帝國』の手合いか……!」
 三月ウサギが、タカラギコに剣を向けながら尋ねる。
 返答次第ではこの場で殺すという殺意が、視線には顕著に現れていた。

「…違います。」
 三月ウサギの殺気を受けても気圧される事の無い様子で、タカラギコが答えた。

「じゃあ何で、そこまでの事を知ってるんだ?」
 ニラ茶猫がタカラギコに聞いた。

「…私は、とあるお方からその事について調べて来るようにと仰せ付かりました。
 いわば、エージェントですね。」
 タカラギコが剣先を向けられたまま言葉を続けた。

「で、それについて調べまわっている時、偶然オオミミ君に出会ったという訳です。
 …これを信じる信じないは任せますが。」
 つまり、オオミミに会ったのは仕組んだものでは無いという事か?
 だが、この人は果たしてどこまで本当の事を言っているのだろうか。

「…あるお方ってのは、誰だ?」
 サカーナの親方がタカラギコの目を見た。
「すみませんが、今は言えません。
 色々こちらにも事情がありますので、手札を全ては見せられないのは御容赦下さい。」
 タカラギコが、サカーナの目を見返しながら言った。

「その、『帝國』の軍事機密とやらは何だ?
 奴らは何を企んでる!?」
 ニラ茶猫がいささか興奮した口調でタカラギコに詰め寄った。

「そこまでは、私も分かりません。
 ただ、相当の代物でしょう。
 そう考えれば、先程の『紅血の悪賊』の奇妙な襲撃方法も納得がいくというものです。
 この船を撃墜して、海の…
 いえ、空の藻屑にしては、軍事機密までお釈迦になるかもしれませんからね。
 それ程、重要なものなのでしょう。」
 成る程。
 それならば、あの変な戦法も一応説明がつく。
 だけど、軍事機密って、一体何なんだ?

343ブック:2004/05/15(土) 01:42

「おい!あの船からかっぱらって来たものを全部持って来い!!」
 サカーナの親方が、船員にそう告げた。
 何人かの下っ端船員が、慌てて倉庫目指して走って行く。

「…兄ちゃん。結局、何が目的なんだ。」
 サカーナの親方が一歩タカラギコに近づく。

「先程も申し上げた通り、『帝國』の軍事機密の調査です。
 そして今現在の私の目標は、何か重要な手がかりを握っているであろうあなた達を、
 私を使わしたお方の前へと案内させて頂く事です。」
 タカラギコが表情を崩さないまま答える。

「阿呆か!?
 誰がそんな事言われて、はいそうですか、ってノコノコとついて行くと思ってんだ!
 行ってみたら銃弾のシャワーで歓迎会を開いてくれました、
 ってならない保証がどこにある!?」
 サカーナの親方が大声で言った。
 まあ、普通に考えればその通りだ。
 こんな事言われてついていく奴など居やしない。

「…まあ、それが当然です。
 ですので、その折衷案として私がこの船に滞在し、
 調査+皆様の護衛を務めさせて頂くという事を許可しては貰えませんか?
 で、皆様の気が向かれましたら私の雇い主に会ってもらえたらいいな、と。」
 タカラギコが手を揉みながらサカーナにそう伝えた。

「…断る。
 貴様は、信用出来ん。
 それに、『帝國』の事など俺達の知った事では無い。」
 三月ウサギがタカラギコを見据えた。

「…知った事では無い、ですか。
 果たしてそれが、『帝國』や『紅血の悪賊』に通用しますかねぇ。
 それに、それら二つの勢力だけじゃありません。
 聞いた話によると、『夜の王国』も動いているらしいですよ?」
 『夜の王国』!?
 あの、吸血鬼で構成されていると言われている、
 どこにあるかも分からない国か!?
 だが、何故だ。
 飛空挺の事も知らなかったような男が、何故そこまでの事を知っている!?

「…失礼ですが、腹を括った方がよろしいかと。
 望む望まないに関わらず、あなた方はもう踏み込んでしまった。
 今更、後戻りは出来ません。
 これは既にあなた達だけの問題じゃ無い。
 ひょっとしたら、世界の趨勢すら左右する問題なんです。」
 真剣な表情で告げるタカラギコ。

「どういう事だ…?」
 ニラ茶猫がタカラギコに尋ねた。

「考えても見て下さい。
 詳細は不明ですが、『帝國』の軍事機密の内容によっては、
 他国も放置は出来ないでしょう。
 それは『帝國』も同じ。
 いくら『帝國』が強いとはいえ、周囲の国全てを敵に回してはひとたまりも無い。
 まだこの軍事機密は眉唾物程度の情報でしかありませんが…
 全てが明らかになれば、国同士のパワーバランスを崩しかねない、という事です。」
 おいおい待てよ。
 何か、どんどん話が大きくなってきたぞ。

「…ま、今はまだそこまでの心配はいらないでしょうけどね。
 さっきも言った通り、『帝國』の軍事機密とやらが本当かどうかは、
 法螺話同然の眉唾情報です。
 そんな不明瞭な情報では、他国も余り大きくは動けないでしょう。
 当面の脅威は、国とは関係の無い無法集団、『紅血の悪賊』ですね。」
 タカラギコがそこで一息吐いた。

「…『紅血の悪賊』が、何だってそんなものを盗んだんです?」
 今まで話を聞くだけだった高島美和が、タカラギコに尋ねた。
「流石にそこまでは。
 理由は当人達に聞くのが一番なんですけど、
 どうやら全員死んじゃったみたいですしね。」
 タカラギコが苦笑する。

344ブック:2004/05/15(土) 01:43

「…さっき、言ってたよな。
 情報の中身によっては、他国も『帝國』を放ってはおけない、って。」
 と、いつになく思い詰めたような表情で、ニラ茶猫がタカラギコにそう言った。

「ええ…
 確証はありませんけどね。」
 タカラギコがニラ茶猫の方を向く。

「…お前の雇い主は、『帝國』をどうにかするつもりなのか?」
 ニラ茶猫がさらに尋ねる。
「あのお方が何をするつもりかは、私は聞いてはおりませんが…
 それでも、情報の使い方によっては『帝國』に大打撃を与える事も
 不可能では無いでしょうね。」
 タカラギコがそう答えた。

「…そうかい。分かったよ。」
 ニラ茶猫が蟲を擬態させた刃を納め、皆の方に振り返った。

「俺は、取り敢えずこいつの話に乗るつもりだ。
 …『帝國』には、ちーとばっかし借りがあるんでな。」
 ニラ茶猫が皆に向かって告げる。

「…正気か?」
 三月ウサギがやや驚いた風にニラ茶猫に言葉を向けた。
「…ああ。
 『帝國』だきゃあ、許せねぇ。
 お前らが嫌だってんなら、俺はこいつと一緒に船を降りるぜ。」
 ニラ茶猫の瞳に、どす黒い憎しみの炎が灯っていた。
 前から『帝國』が気に入らないとは言っていたが、まさかこれ程とは。
 一体、彼と『帝國』の間に何があったのだ?

「……!」
 オオミミが、強く拳を握り締めた・
 そういえば、確かオオミミも昔『帝國』に…

345ブック:2004/05/15(土) 01:44

「…兄ちゃん。」
 サカーナの親方が、タカラギコに言葉を投げかける。
「はい。」
 それに返すタカラギコ。

「…悪いが、俺は今の話を全部は信用してねぇ。
 だが、全部が全部嘘とも思えねぇ。
 現に、さっき『紅血の悪賊』は襲って来た訳だしな。」
 サカーナの親方が手をポキポキと鳴らす。

「お前も手札の全てを見せた訳じゃないんだろ?
 拷問にでもかけたい所だが、
 どうやらお前はそんなんが通用するタイプじゃなさそうだしな…」
 さりげなく恐い事を言うサカーナの親方。

「…分かったよ。
 勝手について来い。
 その代わり、今の所お前さんの雇い主に会うつもりはねぇし、
 俺達の進む先にも口出し無用だ。
 それと、この船に乗っている限り俺の命令には従って貰う。」
 サカーナの親方が溜息を吐いた。

「正気か…!?
 こいつがいつ裏切らんとも限らないんだぞ…?」
 三月ウサギがあからさまに不服そうな顔をする。
「私も三月ウサギの意見に賛成ですね。
 不確定要素が多過ぎます。」
 高島美和も同様に苦言を漏らす。

「どっちみち、こいつが何かするつもりならこの船から叩き出した所で
 何かしでかしてくるさ。
 それなら、近くで目を光らせといた方が安心てなもんだ。
 それに、今こいつをぶっ殺した所で状況が変わるとも思えねぇし、
 それなら精々利用させて貰おうぜ。」
 サカーナの親方が二人にそう答える。

「私も船長の意見に賛成です〜。」
 カウガールがのほほんとするような声で言った。
 それにより、場のムードが少し和らぐ。

(オオミミ、どうする?)
 僕はオオミミに尋ねた。
 もっとも、聞かなくても答えは大体想像出来るが。

「…信用しても、構わないと思う。
 タカラギコさんの目、凄く優しそうなんだもの。」
 …やれやれ、思った通りだ。
 だが、オオミミの人間評価は今まで外れた事は無い。
 オオミミが太鼓判を押す位だから、今の所は敵意は無いという事か。

「たまらんな…」
 三月ウサギがやれやれと首を振り、剣をマントにしまった。
 しかし、殺気は未だタカラギコに向けたままである。

「船長〜〜!
 この前の戦利品持って来ました〜〜〜!!」
 と、先程『紅血の悪賊』と交戦したどさくさに紛れて失敬してきた品々を、
 乗組員達が担いで来た。

「…よし、上出来だ。
 細かい事は、そいつらを調べてから考えようぜ。」
 サカーナの親方はそう言って戦利品を眺めるのであった。



 …そう。
 僕達は、既に大きな流れの中に絡め取られていたんだ。
 そしてこれから先どんな苦難が待ち受けているのかなんて、
 この時の僕達には知る由も無かった―――



     TO BE CONTINUED…

346ブック:2004/05/15(土) 16:49
物語がある程度キリのいい所まで進んだので、
需要があるかどうかは分かりませんが人物&世界設定説明をさせて頂きます。


世界観…人々は大地を失い、空を漂う島の上で生活をしています。
    何故大地に住めなくなったか、何故島が空を浮いているのかには
    諸説ありますが、今の所解明はされていません。
    兎にも角にも、人々は今日も空の海を駆けながら生きています。



     ・     ・     ・



サカーナ商会…サカーナを筆頭に、『フリーバード』という名の船に乗って
       何でも屋(トラブルバスター)をしながら空の海を渡り歩く
       半ばならず者同然の集団。
       サカーナ曰く、『訳有り』の連中が多い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オオミミ…この物語の主人公。が、でぃ同様ヤムチャキャラに成り果ててしまう。
   性格は至って温厚+お人好し。
   誰とでも仲良くなるのが得意技で、あらゆるキャラクターと絡む事が出来る。
   しかし、そのせいでぃょぅ同様キャラが弱くなり、影も薄くなってしまった。

スタンド…名称『ゼルダ』。近距離パワー型で、能力は今の所不明。
     厳密に言えばオオミミ自身のスタンドではない。
     独立意思を持つが、ダメージはオオミミにフィードバックする。
     『ゼルダ』自信が言うには、結界展開型の能力を持っているらしい。
     この物語の語り部で、実質第二の主人公。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
天…この物語のヒロイン。
  我侭お姫様ヒロインを試みてみたものの、えらい方向に。
  元になったAAとは全然性格が違いますが、その点はお目こぼしを。
  頭に大きなリボン、外出時にはいつも傘を持ち歩き、
  体に怪しい事この上ない痣を持つ。
  猫耳ではないです。

スタンド…名称『レインシャワー』。ビジョンの無いスタンドで、
     特殊な結界を展開する能力を持つ。
     その結界の中は天が降りしきり、その雨水を集めて別の形に変えて攻撃するが、
     詳細は不明。
     固有結界。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
三月ウサギ…みぃ同様ウサギを平仮名と勘違いしていた可哀想なキャラ。
      今回はこっそり直したがあっさりとばれてしまった。
      冷静というよりは冷徹で、人を寄せ付けないが、オオミミとは何故か気が合う。
      ニラ茶猫を完全に馬鹿にしており、事実弱みを握って体よく扱っている。

スタンド…名称『ストライダー』。三月ウサギのトレードマークであるマントに同化する
     形で発動しているが、詳細は不明。
     簡単に言えば四次元ポケットのようなもので、
     沢山の荷物を一度に持ち運べるなど用途は様々。
     制限として、スタンド・火・電気などの純エネルギー体は収納出来ない。
     本来他人と協力してこそ真価を発揮する能力だが、
     三月ウサギ自身が協調性が余り無い為、充分な活用はされていない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ニラ茶猫…ロリペドバ㌍タラ㍑。
     そのくせカウガールともニャンニャンしている羨ましい奴。
     三月ウサギに何かと突っかかってはいるが、一度も勝てた試しは無い。
     ギコえもんとかなり共通する部分があり、多分ふさしぃの絶好の標的。

スタンド…名称『ネクロマンサー』。リゾットの『メタリカ』のように、
     体内に発動しているタイプのスタンド。
     蛆虫のようなビジョンをしており、あらゆる物体に擬態する事が可能。
     それ故、戦闘能力もあるのに薬箱のような扱いを受けているのが、
     ニラ茶猫にとって大きな悩み。

347ブック:2004/05/15(土) 16:50
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
高島美和…『フリーバード』のメインオペレーター兼、財務管理役兼、
     『トンボ』と呼ばれる小型戦闘機の砲撃手担当。
     変人の多いサカーナ商会の中数少ない良識家で、
     サカーナを初めとする乗組員の非常識な行動にいつも頭を痛めている。

スタンド…名称『シムシティ』。四つの大きな目玉が胴体の蝙蝠と、
     それぞれの視界を映すディスプレイがビジョンの遠隔操作型スタンド。
     ディスプレイには、蝙蝠の視界が記号化、数値化されて映し出される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カウガール…『フリーバード』の操舵士兼、『トンボ』の操縦士担当。
      ニラ茶猫とは恋仲で、ギシアンしている程の関係。
      余談だが、ニラ茶猫の隣の部屋はマンドクセで、
      その所為でマンドクセは毎夜鬱になっている。

スタンド…名称『チャレンジャー』。遠隔操作型で、毛むくじゃらの子鬼のビジョンを持つ。
     能力は取り付いた機械を故障させる事。
     ただし、直接物理攻撃力は全く持たない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
サカーナ…『フリーバード』の船長。
     豪快で一見何も考えていないようには見えるが、頭の回転が悪い訳ではない。
     が、はたから見ればただの馬鹿親父。
     本来船の中で一番偉い筈なのだが、いつも高島美和の尻にしかれている。
     パニッシャーは彼が昔の職場から取って来た。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タカラギコ…男塾パワーで復活した、大反則野朗。
      別の世界に復活しても、相変わらず影でこそこそと何かやっていが、
      その目的は不明。
      主人公を押しのけ、この物語で今の所誰よりも目立っている。
      新たな得物としてパニッシャーを手に入れた。
      彼はこの後、九人掛かりで動かす巨人と闘ったり、
      音を操るサックス使いと闘ったり、
      腕が三本で二重人格の黒パニッシャー三丁使いと闘ったりします。
      嘘です。

スタンド…名称『グラディウス』。銀色の飛行物体がビジョンで、
     光を操作する事が出来る。
     しかし今回の主人公サイドは、直接戦闘型ではない特殊能力型が多いな…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

348ブック:2004/05/15(土) 16:50



     ・     ・     ・


『紅血の悪賊』…この世界で一・二を争う勢力を持つ空賊の集団。
        図らずも『帝國』の軍事機密を奪ったオオミミ達を付け狙う。
        どうやら、メンバーの中に吸血鬼がいるらしく、
        ボスも吸血鬼という噂らしい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
マジレスマン…頭まで筋肉の馬鹿。
       その足りない脳みその所為で不祥事を起こし、
       山崎渉に連行される。

スタンド…名称『メタルスラッグ』。特殊実体化型で、周囲の無機物を取り込む事で、
     巨大化&パワーアップする。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
栗田ゆう子…しゃっきりぽん!が口癖の女吸血鬼。
      オオミミを追い詰めるも、三月ウサギによって撃退される。

スタンド…名称『ベアナックル』。両手に大きな鉈を持つ近距離パワー型。
     特殊能力は持っていない。
     スタンドと本体とのコンビネーションが、主な栗田の戦法だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
山崎渉…謎の男。それ以外に情報無し。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



     ・     ・     ・



『聖十字騎士団』…吸血鬼抹殺の専門機関。
         今の所詳細は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
岡星精一…『聖十字騎士団』の一員。
     一流の板前で、じゅんさいが得意料理。

スタンド…名称『ヘッジホッグ』。
     近距離パワー型で、スタンドの触れた液体を変化させる事が出来る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



     ・     ・     ・



『常夜の王国』…国民の大半が吸血鬼で構成されていると噂の、
        どこにあるかも分からない国。
        女王と呼ばれる女性が統治しているが、詳細は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ジャンヌ…『常夜の王国』の懐刀である、凄腕の吸血鬼。
     ハルバードに機銃を組み合わせた『ガンハルバード』と呼ばれる武器を使い、
     その事から『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』の異名を持つ。
     儂、〜じゃ等の、老人のような言葉使いをする。

スタンド…名称『ブラック・オニキス』。今の所能力は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



     ・     ・     ・



『帝國』…圧倒的な軍事力を持つと言われる独裁国家。
     その軍事機密とやらに偶然にも関わってしまった事により、
     オオミミ達の運命は狂っていく。

349ブック:2004/05/16(日) 16:10
この物語は、救い無き世界の後日談です。
時期はでぃ達がSSSに入って初めての夏という事でお願いします。



     救い無き世界+EVER BLUE
     番外・されどもう戻れない場所 〜その一〜


「…タカラギコを『シムシティ』で調べた結果はどうだった?高島美和。」
 ブリッジで、サカーナは高島美和にそう尋ねた。
「盗聴器、発信機、監視カメラ等の類は所持していないようです。
 また、それらがこの船に仕掛けられた様子もありません。」
 高島美和が答える。

「そうかい、それじゃもう一つ。
 『紅血の悪賊』からかっぱらってきた物の中に、
 何か目ぼしい物はあったか?」
 サカーナが続けて聞いた。
「…今の所、見つかってはいません。
 ただ、一見しただけでは分からないようにカムフラージュされている可能性もあるので、
 結論を出すにはまだ少し時間が掛かりますね。」
 高島美和が頭を振った。

「…あの天の嬢ちゃんが、何か知ってるかもしれねぇな。」
 サカーナが顎に手を当てた。
「かもしれませんが…期待はしない方がいいでしょうね。」
 高島美和が和服の襟元を直す。

「そういやあ、タカラギコの野郎はどうしてる?」
 サカーナが思い出したように言った。
「オオミミとニラ茶猫と一緒に部屋に居る筈ですよ。」
 高島美和がそう返す。

「…よりにもよってあの頼り無ぇ二人が監視役かよ。
 三月ウサギはどうしたんだ?」
 サカーナが呆れ顔で言った。
「『面倒くさい』、だそうです。
 それに、彼だとタカラギコを殺すかもしれませんし、適任ではないでしょう。」
 その高島美和の言葉を聞いて、サカーナは溜息を吐いた。

「…しょうがねぇ。わーったよ。
 で、最寄の島まではあとどの位だ?」
 サカーナが高島美和の顔を見る。
「およそ十時間弱です。」
 高島美和が即答した。

「そうかい。じゃ、俺はちーとばっかし一眠りしてくるわ。
 お前も適当な所で休憩しときな。先は長ぇんだ。」
 サカーナが大きく欠伸をした。
「お気遣いありがたく頂いておきます。
 それではお休みなさいませ。」
 高島美和がサカーナに一礼した。
 サカーナはそれを受けると、ブリッジからゆっくりと出て行くのであった。

350ブック:2004/05/16(日) 16:11



     ・     ・     ・



「……さん。…ふさしぃさん?」
 ……!
 女の子の声で、私ははっと目を覚ました。
 目を開けると、眼前にみぃちゃんの顔が飛び込んでくる。

「…あ……。」
 どうやら、いつのまにか机の上でうたた寝をしてしまっていたらしい。
 この所残業が多かったから、疲れが溜まっているのだろうか?

「ごめんなさい、ついうとうとしちゃって…」
 私は目を擦りながら弁解した。

「いえ…こっちこそ起こしてしまってごめんなさい。
 …それより、大丈夫ですか?」
 みぃっちゃんが心配そうな声で尋ねる。
「え…?」
 私は何の事だか分からず聞き返した。
「いえ、あの、目が赤くなってなすから、
 悪い夢でも見たんじゃないかと思って…」
 みぃちゃんがたどたどしく答えた。

「…ああ、大丈夫よ。
 ちょっと、懐かしい人の夢を見ちゃってね…」
 そう、もうここには居ない筈の『彼』の夢。
 『彼』はこことは違う世界で、相変わらずの人の良さそうな顔で笑っていた。
 その笑顔の中に、どうしようもない位の哀しさを湛えて…

「…そういえばみぃちゃん、あなた何で特務A班(ここ)に?」
 みぃちゃんはまだSSSには入りたての新人であり、
 私達とは働く部署が違う筈だ。
 それなのに、どうしてこの部屋にやって来たのだろう?

「…あ、あの、ふさしぃさんがこの時間にここに来るように言われたから……」
 しまった。
 そういえばそうだった。

「ごめんなさい、すっかり忘れてたわ!」
 私は慌てて謝る。
 自分で呼んでおいて何しに来たとは、酷い言い草だ。

「いえ、別にいいです。
 それより、何のお話なんでしょうか…」
 みぃちゃんが小さな声で私に尋ねた。

「そうそう、忘れるとこだったわ。
 いきなりだけどみぃちゃん、今度の休みに海に行かないかしら?」
 私は藪から棒に言った。
「海、ですか…?」
 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になるみぃちゃん。

「そ、海。
 でぃ君と丸耳ギコ君も一緒に連れてって、ダブルデートでもしてみない?」
 みぃちゃんの顔を覗きこむと、彼女は少し困った顔になった。

「…わ、私、水着持っていないんですけど……」
 みぃちゃんが口ごもる。
「大丈夫、私がぴったりなの見繕ってあげるから。
 それとも、一緒に行くのは嫌?」
 私はみぃちゃんにそう聞いた。
「い、いえ、嬉しい…です。」
 みぃちゃんがもじもじしながら答える。

「決まりね。
 それじゃ、でぃ君にもよろしく伝えておいて。
 細かい集合時間とか行き先は、追って連絡するわ。」
 私はみぃちゃんの肩に手を乗せた。



     ・     ・     ・



 ♪ペーペポ ペーポポペー
     ペーペポ ペーペポ ペペポポペー♪

 みぃとふさしぃが楽しそうに談笑する影で、一人の男が聞き耳を立てていた。
「何やら面白そうな事考えているじゃねぇか、ゴルァ…」
 ギコえもんである。
 その双眸には、邪悪な炎が渦巻いていた。

「彼氏と仲良く海水浴だぁ?
 くくっ、果たしてそううまく物事が進むかな…?」
 ギコえもんがニヤリと笑う。
「SSS死ね死ね団、活動開始だゴルァ。」

351ブック:2004/05/16(日) 16:12



     ・     ・     ・



「君がいる〜 僕がいる〜
 それはヒト ヒト 愛はそこにあ〜るか〜〜い?」
 車のスピーカーから軽快なポップスが流れてくる。
 俺達は、ふさしぃの運転する車に乗って、海へと向かって進んでいた。

「〜〜♪〜〜♪」
 ふさしぃが曲に合わせて鼻歌を口ずさむ。

「…ごめんなさい、でぃさん。
 無理して付き合って貰って…」
 後部座席の俺の隣に座るみぃが、すまなそうに俺に言った。

『別に気にしてないよ。
 俺も、海にも行ってみたかったし。』
 俺はホワイトボードにそう書いた。
 本当は俺はどちらかと言えば出不精の部類に入るのだが、
 他ならぬこいつの頼みとあってはしょうがない。
 それに、みぃの水着姿も一度見てみたいし…

「…ちゃんと前見て運転しろよ。」
 助手席の丸耳ギコとかいう奴が、
 鼻歌に夢中になるふさしぃに釘を刺した。
 こいつが、丸耳ギコか。
 ふさしぃの恋人とかいう話は聞いていたが、実際に会うのは初めてだ。

「ごめんごめん。
 そう固い事言わないでよ。
 私も海に行くのは久し振りなんだし。」
 ふさしぃが笑いながら答えた。

 …はっきり言って、こうして実際に目にしてみても、
 このふさしぃに恋人が居るというのが未だに信じられない。
 でも、そんな事を言ったら間違いなく殺されるので黙っておく。

「…所で、何か変な視線を感じない?」
 と、ふさしぃがやおらそう尋ねた。
「…?いえ、私は別に…」
 みぃが不思議そうな顔で答える。

『俺も別にそんなの感じませんけど。』
 俺もみぃと同じように答える。

「…そう。気のせいかしらね……」
 ふさしぃが少し考え込んだ。

「いちいち気にするなよ。
 せっかくの海水浴なんだから、楽しくいこうぜ。」
 丸耳ギコが話題を打ち切るように言った。

「…そうね。それじゃ、ぱーっといきましょうか!」
 ふさしぃがアクセルを踏み込む。
 車が、どんどん加速していった。

「だから車はちゃんと運転しろ!!!」
 猛スピードで進む車の中、丸耳ギコが叫ぶ。

 …果たして俺達は無事海まで辿り着けるのだろうか。
 不安そうな顔でしがみついてくるみぃを横目に、
 俺は命の危機に肝を冷やすのであった。

352ブック:2004/05/16(日) 16:12



     ・     ・     ・



「サナダムシ サナダムシ サーナダムシ 2メートル…」
 車のスピーカーから鬱病になりそうな重いメロディが聞こえてくる。
 私と小耳モナーは、ギコえもんの運転する車に乗ってふさしぃを追跡していた。

「ギコえもん、やっぱりやめた方がいいんじゃないかょぅ…」
 私は鬼の様な形相でハンドルを握るギコえもんに告げた。

「ふさしぃにバレたら殺されるモナ〜。」
 小耳モナーも同様にギコえもんを止める。

「うるせぇ!だったらここで降りろ!
 お前らだって気になるからついて来たんだろうがゴルァ!!」
 ギコえもんが苛立たしげに答えた。
 煙草の灰皿は既に一杯になっている。

「そりゃあぃょぅもでぃ君やふさしぃ達のダブルデートは気になるけど…
 だからと言って邪魔するのはやり過ぎだょぅ。」
 それに、どうせ失敗してふさしぃに滅殺されるのは目に見えているのに、
 どうしてギコえもんは懲りずに繰り返すのだろうか?

「阿呆か!
 お前、でぃや丸耳ギコを許せるのか!?
 あいつらはなぁ、俺達が毎晩独り寂しく右手をシュインシュイン上下運動させてる時に、
 可愛い彼女とチョメチョメしてるんだぞ!!
 同じ男として、悔しくねぇのか!!!」
 ギコえもんが大声を張り上げる。
 いや、気持ちは分かるが、それは完全な逆恨みでは…

「KISYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!
 許せんモナ!!!!!
 モナでさえまだオニャノコとニャンニャンした事が無いってのにいいいいいいいIIIIII
 IIIIIIIIIYYYYYYYEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!」
 と、小耳モナーがいきなり絶叫した。
 同時に、私とギコえもんが硬直する。

「…こ、小耳モナー。お前、まさか、本当に…?」
 ギコえもんが恐る恐る尋ねた。

「…?ギコえもんもぃょぅも、モナと同じじゃなかったモナ?」
 小耳モナーが素っ頓狂な声で答える。
 おい。
 まさか。
 今まで只の冗談だと思っていたのに。
 嘘だろう!?

「…いや、確かに俺には今彼女はいねぇけど、
 二・三年前までは…」
 ギコえもんがいたたまれない様子で呟く。
「ぃょぅも、学生時代には…」
 私も小声で答える。

「え…?え?それじゃあ…」
 小耳モナーの顔が見る見る蒼白になっていく。

「……!!
 よっしゃ、小耳モナー!
 今日海から帰ったら風俗行くぞ!!
 金なら心配するな、俺が全部奢ってやる!!!」
 ギコえもんが涙を堪えながら小耳モナーを励まそうとした。
 私も、余りのショックに視界がぼやける。

 こうして私達の心に深い傷を残しながら、
 車は海へと進んでいくのであった。



     TO BE CONTINUED…



救い無き世界の最後の方の人物紹介は、この番外編の後に載せますので、
少々お待ち下さい。

353新手のスタンド使い:2004/05/17(月) 07:22
下がってるので、たまにはこっちで乙っ!

354:2004/05/17(月) 21:25

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その5」



「『アルケルメス』ッ!!」
 スタンドで、相手の攻撃の瞬間をカットする局長。
「…!!」
 しかし、攻撃位置に男の姿は見えない。

 ――再び、背後。
 局長は、銃撃の瞬間をカットする。
 同時に、背後にいるはずの男を狙って、カットした銃撃をペーストした。
 しかし、その攻撃も空を切る。

「なるほど… お前の能力、守備一辺倒でもないようだな」
 真横から男の声がした。
 姿は全く見えない。
 銃撃しながら、素早く移動しているようだ。

 能力が悟られた――
 しかし、それは大した問題ではない。
 『アルケルメス』の能力は、遅かれ早かれ相手に悟られる類のものだ。
 バレたところで、戦い方はそう変わらない。

 今度は、正面からの銃撃。
 これもカット。
「…そこか!」
 局長は、懐から取り出した拳銃で正面に発砲した。
 だが、やはり手応えはない。
 向こうは持久戦を狙っているようだ。
 いかに局所的とはいえ、時間をカットするのはエネルギーの消費が激しい。
 このままいけば、倒れるのは自分だろう。

 ――僅かな殺気。
 局長は素早く飛び退いた。
 同時に、局長自身も発砲する。
 しかし、正面の壁に虚しく銃痕を残すのみ。

「弾丸の回避にスタンドを用いなくなってきたな… もう能力は打ち止めか…?」
 男の不敵な声がする。
「さあ、どうでしょうかね…」
 局長は身を翻すと、声の方向に発砲した。

 この男のスタンド能力は、おそらく肉体の透明化。
 殺気や気配も極端に薄いが、それは本体自身の技能と言っていい――
 ――と、普通なら断定するだろう。
 だが、早期の能力断定は危険だ。
 別の能力に見せておいて、油断した相手に止めを刺すという戦法もある。

 透明化など、いくつも方法はあるのだ。
 擬態、光の遮断や屈折、こちらの視覚の撹乱…
 スタンド能力を応用し、透明な状態を作り出す。
 そうしている可能性がある限り、早期の能力断定は視野狭窄に他ならない。

 壁を背にして背後をカバーし、拳銃を乱射する局長。
 だが、男にはかすりもしない。
「…!!」
 その瞬間、局長の肩から血が噴き出した。
 真っ赤な血がスーツを濡らし、ポタポタと床に垂れる。
 咄嗟に身を逸らさなかったら、心臓に直撃していただろう。

「銃撃の瞬間の殺気を感じ取るとは… お前も、相当の修羅場をくぐってきたようだな…」
 突然、目の前の空間が人型に歪んだ。
 男が局長の眼前に姿を現す。
「貴方ほどではありませんよ。伝説の傭兵、ソリッド・モナーク…」
 局長は、肩を押さえて男に言った。

 モナークと呼ばれた男は、僅かに驚きの表情を浮かべた。
「俺を知っているのか…」
 その問いに答えるように、局長は笑みを浮かべる。
 紺の潜入用スーツ、サイレンサー付きのUSP、長いバンダナ…
 その扮装は、闇に生きる者なら誰もが知っている『伝説の傭兵』のものだ。

「これでも、公安機関に就いている身。その名くらいは耳にしたことがありますよ。
 確か、シャドーなんとか事件で死んだと聞きましたがね…」
 そして、スタンド使いであるという記録もない。
 ここまで有名な男がスタンド使いならば、公安五課の局長である自分の耳には入るはずだが…

「そう。俺は確かに一度、命を落とした…」
 モナークは、表情を変えずに言った。
「それで、死んだはずの人間がここで何をしているんです? 要人暗殺ですか?」
 局長は訊ねる。
「…暗殺? …ああ、その通りだ」
 モナークはあっさりと頷いた。
「なるほど…」
 局長はため息をつく。
 やはり、この潜入者の目的は暗殺………か?

「とにかく、再開といきましょうか…!」
 局長は、眼前に立っているモナークに銃口を向けた。
 しかし、モナークに反応はない。
 避けようという動きすらなかった。

「俺が、攻撃手段を残している相手の前に姿をさらすと思ったか…?」
 モナークは局長を見据えて言った。
 そして、手にしているUSPのマガジンを交換する。
「残弾数を正確に数えておくのは、兵としては基礎の基礎だ。自分の銃だけじゃなく、相手のもな…」

「!!」
 局長は何度も引き金を引いた。
 しかし、銃弾は出ない。
 弾切れ…!!

355:2004/05/17(月) 21:28

 局長は身を翻した。
 そのまま、一点を目指して駆け出す。
 あの場所だ。あの場所へ行きさえすれば…!!
「スタンド使いとしては一流かもしれんが、戦場における兵士としては三流だったな」
 モナークは、背を向けた局長に発砲した。 

「くっ、『アルケルメス』――!!」
 スタンドを発動させる局長。
 しかし、タイミングがずれた。
 弾丸が脇腹を貫通する。

「くっ…!!」
 大きくよろけたが、なんとか体勢を立て直す。
「…まだ、私は死ぬ訳にはいかないんですよ。
 私の事を想っているくせに、冷たい態度ばかり取る天邪鬼な部下がいますからね。
 彼女を泣かす気はありませんので…」
 そう言いながら、局長は足を進めた。

「それは羨ましい話だな。俺の周囲の女は、どうも棘が多い…」
 背後からモナークの声。
 彼の姿は既にない。再び姿を消して…

「!!」
 右足を弾丸が貫通した。
 大きく体勢が崩れる。
 だが、何とかあの場所へ…

 右足を引き摺って、局長は廊下を進んだ。
 背後に『アルケルメス』を待機させ、時間をいつでもカットできるようにする。
 これで、向こうも迂闊には近付いてこないだろう。
 …この短期間に、何度も時間をカットした。
 残されたスタンドパワーだと、せいぜいあと1回か2回…!

 ようやく見えてきた。
 モナークに討たれた、米兵15人の死体。
 あそこへ行けば…!!

「やっと着きましたね…」
 局長は、死んだ米兵が持っているM4カービンを手に取った。
 そして、モナークが追ってきているはずの背後に銃口を向ける。
「カービンライフルなら、向かってくる方向さえ分かれば…!!」
 局長は銃のセーフティーを解除すると、そのまま引き金を引いた。

 ――しかし、何も起こらない。
 銃弾は発射されなかった。
 それもそのはず、マガジンが装着されていない…

「忘れたのか? お前の仲間の少年が、銃弾を回収していただろう…」
 背後から声がした。

 ――その通りだ。
 確か、ギコが銃弾を回収して――

 局長の思考は、首に巻きついた衝撃により中断する。
 いつの間にか、背後のモナークは姿を現していた。
 その強靭な腕が、局長の首に食い込む。
 このまま、首の骨をヘシ折る気だ――

「さすが、『伝説の傭兵』…」
 局長は呟いた。
 喉が圧迫されて、しっかりとした声にならない。
「褒めても無駄だ。命乞いは――」
 モナークの言葉を、局長は遮った。
「…そう来ると思ってましたよ」
 局長のスーツから、何かが大量に落ちる。

 30個以上ある『それ』は、床に落ちて乾いた音を立てた。
 他にも、まだ懐に残っているようだ。
 米兵の死体から手に入れる必要があったのは、M4カービンなどではない。
 回収する時間は、『アルケルメス』でカットした――

「手榴弾か…ッ!!」
 モナークは大声を上げた。

「『伝説の傭兵』と称される程の男なら、弾薬は節約するはず。
 銃弾を使わずに倒せる相手なら、当然銃弾は使わないでしょう?」
 局長は少し咳き込みながら言った。
 先程まで自分を追い詰めていた戦い方は、戦場におけるスナイパーの戦法である。
 首を折られていた米兵の死体からも、この男の傭兵としての実力は明らかだ。
 そう、この男はあくまで傭兵の戦法で戦っている。

「――ミステイクですね。戦法のロジック化は、時に判断を甘くする」
 局長は、背後のモナークに告げた。
「馬鹿な、自分もろとも…!!」
 モナークは咄嗟に局長から離れる。
 だが、もう遅い。

「それもミステイク。男と心中する趣味はありませんよ…」
 局長の背後に、『アルケルメス』が浮かぶ。
「…吹き飛ぶのは、貴方1人です」

356:2004/05/17(月) 21:28



 首相官邸4階に、爆音が響いた。
 30個以上の手榴弾の誘爆は、周囲の悉くを吹き飛ばした。
 その瞬間をカットし、爆風を逃れた局長を除いて。


「ふう、やれやれ…」
 局長は、スーツの埃を払った。
「ああ、血止めにしか使われない紳士の嗜み…」
 そう呟きながら、局長はかがみこんで足にネクタイを巻きつける。
 どうやら、歩くのに支障はないようだ。

「これは… 食が進まなくなりますねぇ…」
 局長は、足元に転がるモナークの右腕部をちらりと見た。
 モナークの体は爆砕し、周囲に四散していたのだ。
 廊下の向こうには、生首のようなものまで見える。

 …この男の目的は何だったのだろうか。
 モナーク自身が言っていた、要人暗殺とはとても思えない。
 彼は、いともあっさりと認めたのだ。
 モナークほどの男が、そんなに簡単に口を割るはずがないだろう。
 それに、暗殺ならばいくらでも機会はあったはずである。

「ASAのスタンド使いとも気色が違う… まさか、『教会』!?」
 局長は呟いた。
 もっとも、こうなった以上は聞き出しようもない。
「まあ、手加減できる相手でも無かったですしね…」
 そう言って、ため息をつく局長。

 階下から銃声が聞こえてきた。
 どうやら、脱出に手間取っているようだ。
「さて、急がなければ…」
 局長は腰を上げると、急いで階段を降りていった。





 千切れ飛んだモナークの右手が、ピクピクと蠢いた。
 そのまま、ズルズルと床を這う。
 四散した肉片が、次々と繋がっていった。
 そして、それは人型をなす。
 モナークは、ゆっくりと立ち上がった。

「…これが吸血鬼の肉体。頭さえ無事なら、死ぬ事はない…か」
 モナークは呟きながら両手を動かした。
 特に違和感はない。どうやら、完全に再生したようだ。

「スタンドを用いた戦闘は初めてだが… なかなか勉強させてもらった」
 潜入用のスーツは完全に吹き飛んでしまっている。
 モナークは、荷物から替えのスーツを取り出した。
 それを素早く身に纏う。 
 荷物は再び『隠した』。
 最後に、バンダナを締める。

「さて、そろそろ任務を開始するか…」
 モナークは、無人になった4階会議室のドアを開けた。

357:2004/05/17(月) 21:29



          @          @          @



「うおおおおお!!」
 ギコは、階段を上がってくる兵達にM4カービンを乱射した。
 向こうからの銃弾は、全て『レイラ』で弾き返す。
 兵の1人が、素早く階段を上がってきた。
「…ちッ!!」
 ギコは右手でM4カービンを連射したまま、懐に左手を突っ込んだ。
 そして局長から渡された拳銃、ザウエルP230を取り出す。

「このッ!!」
 ギコは、兵の足に狙いをつけて拳銃の引き金を引いた。
 足を撃ち抜かれた兵士が、バランスを崩して階段を落ちていく。
「この階段を上がってくる奴は、容赦しねぇぜゴルァ!!」
 ギコはそのまま両手に銃を構え、階下目掛けて撃ちまくった。

 それでも、怯まずに押し寄せてくる兵士達。
 階段に足をかけた瞬間、兵士の膝から下が消失した。
「おっと、そこら辺は危ないよ。『空間の亀裂』が仕掛けてあるからね…」
 モララーはそう言って笑みを見せる。
「まあ、次元ごと裂いてもいいんだけど…」
 そう言って、指を鳴らすモララー。
 階段の手摺から横一文字に『次元の亀裂』が走る。
 何人もの兵士が、それに呑み込まれた。

「派手にやってるねぇ…」
 『アルカディア』は階段に座り込んでため息をついた。
 その横では、要人達が姿勢をかがめて震えている。
 流れ弾が、列の先頭目掛けて飛来した。

「…『外れる』」
 『アルカディア』は呟く。
 弾丸は大きく軌道を変え、天井にめり込んだ。
「ねぇ、こんなところでのんびりしてていいの…?」
 しぃは『アルカディア』に訊ねる。
「いいんだよ。流れ弾を処理するってのは重要な役割だし、何より楽だ…」
 『アルカディア』は腕を組んで言った。

「レモナ、つー、リル子、早くしてくれよ…!」
 ギコは階下に銃を乱射する。
 エントランスホールでは、3人が大人数を片付けているはずだ。
 早くしないと、こちらの弾数にも限りが…

 兵の1人が、素早く階段を上がってきた。
 かなり距離が近い…!!
「このッ… 『レイラ』ッ!!」
 スタンドの刃が一閃する。
 兵士の上半身と下半身が分かれ、血を撒き散らしながら階段に転がった。

「…!!」
 思わず、ギコは息を呑んだ。
 銃器では感じなかった、人の命を奪った生身の感覚。
 胴の切断面からどろりと垂れる血。
 咄嗟に視線を逸らすギコ。
 その隙に、多くの兵士が階段を駆け上がって…

「ギコ、何してるのさ!!」
 『次元の亀裂』が、階段上に幾重にも走った。
 兵士達が次々と巻き込まれていく。
「目を逸らしてたら、僕達だって殺られるんだからな!!」

 …そう。
 これは、命のやり取りだ。
 躊躇するのは、相手に対しても侮辱になる。
「これくらいで、負けるかよッ!!」
 ギコは両手の銃を階下に乱射した。
 それをかいくぐって近距離まで近付いてきた敵に、『レイラ』の斬撃を見舞う。

 兵士の1人が、自動小銃の下部に取り付けられた筒状の銃器を向けた。
「グレネードだと!? 味方も密集してるんだぞッ!!」
 ギコが叫んだ。
 黒い榴弾が、空中に向けて放たれる。
「モララー!! 頼むッ!!」
 ギコは振り返って叫んだ。

「…爆発物処理は、僕の仕事だね」
 モララーは指を鳴らした。
 榴弾が、空中に溶け込むように消滅する。
「エントロピーは、常に減少するもんだよ…」
 モララーは笑みを浮かべて呟いた。

358:2004/05/17(月) 21:30

 戦いの流れが変わった。
 押し寄せてくるだけだった敵の動きが、明らかに変化している。
 兵の数は徐々に少なくなり、ついには姿が見えなくなった。
「撤退した…のか?」
 ギコは銃を下ろして呟く。
「これだけやっちゃったからね。敵わないと悟ったのか…」
 モララーが息をついて言った。

 ギコはしぃと要人達を見る。
 どうやら怪我はないようだ。
「オレにも、ちっとは感謝しなよ…」
 『アルカディア』は腕を組んで威張っている。

 階下から足音が近付いてきた。
「敵か…?」
 ギコが再び銃口を向けた。

「…そちらはどうです?」
 階下からリル子の声。
 ギコは安堵のため息をついて銃を下ろした。
 どうやら、下もカタがついたようだ。

「こっちは大丈夫だぜ! 1人の怪我人も出してねぇ!」
 ギコは階下に呼びかけた。
「こちらも片付きました。脱出しましょう」
 階下のリル子は言った。
 ギコは、要人達やモララー、しぃの方に振り向いた。
「よし、下も安全みたいだ。行くぜ!」


 エントランスホールには、多くの兵士が倒れていた。
 明らかに息がないと思われる者も多い。
 そんな中で、2人の女と1人の性別不詳が立っていた。
 その身は、多くの返り血を浴びている。
「さすがリル子さん、頼りになる女性だなぁ…!」
 モララーが瞳を輝かせた。

「後は、局長と合流だな…」
 ギコはモララーを無視して、リル子に言った。
「…あと20秒ほどで、ここに来ると思われます」
 リル子は告げる。
 彼女の言葉通り、局長はすぐに階段を下りてきた。
 そのスーツは破れ、血だらけだ。
 銃で撃たれたと思われる傷も幾つかある。

「そちらは… 特に負傷はなさそうですね」
 局長の姿を見て、リル子は言った。
「…どうやったら、そう見えるんですか」
 そう言って、局長は倒れた米兵で埋まっているホールを見回す。
「それにしても、ますます嫁の貰い手がなくなりますねぇ…」

「私1人でやった訳じゃありませんよ、フフ…」
 リル子は僅かに笑った。
 ギコは直感する。
 リル子が微笑を見せたとき、その心に鬼が棲んでいる…

「…それと局長、天邪鬼で申し訳ないですね。
 誰かにやられて局長が死のうが、私が局長を殺そうが、泣きはしないので安心なさって下さい」
 リル子は百万ドルの笑顔で言った。
「…」
 局長は、無言でスーツのポケットに手を突っ込む。
 そして、偽造した身分証明書を取り出した。
 救急車で移動した時に用いたものだ。
 最近リル子から受け取ったものと言えば、これしかない。

 身分証明書のケースを軽く振る局長。
 黒く小さい機械のようなものが、その中から落ちる。
「…まったく、内部監査でもしてるんですか?」
 局長はリル子に言った。
「フフ… いかなる者にも気を許すな、とおっしゃったのは局長でしょう…?」
 リル子は笑みを見せる。

「なにかわからんが止めろゴルァ!」
 ギコは、ただならぬ雰囲気の2人を静止した。
「おっと、こんな事をしている場合ではありませんでしたね…」
 局長は言った。
「とにかく、脱出しましょうか」

 局長の言葉に頷く一同。
 エントランスホールの中央に転がっている救急車は、完全にスクラップと化している。
 徒歩でヘリの待機地点まで行くしかない。
 こうして、一同と要人達は首相官邸を出た。


 首相官邸玄関から門、その前の車道にかけて、道は倒れた兵士で埋まっていた。
 周囲に人気はない。
「脱出の邪魔になりそうな存在は、全て片付けておきました」
 リル子は平然と告げた。
「うわ… すげぇなぁ…」
 ギコは周囲を見回して、感嘆の声を上げる。
 あれだけの時間で、一体何人倒したんだ?

「…急ぎましょう。応援が来るかもしれません」
 先頭のリル子は、少しスピードを上げた。
 その後ろに、列になった要人達が続く。
 そして、列を守るように左右を固めるギコ達。
 最後尾には局長。
 このフォーメーションで、夜の車道を駆ける。
 周囲の道路を完全に封鎖しているらしく、通りかかる車は1台もない。

 ヘリの合流地点は、そう遠くはない。
 特に問題はないはずだが…
 それでも、不安が局長の脳裏から離れない。

「君なら、いつを狙う…?」
 局長は、先頭のリル子に訊ねた。
「…ヘリに乗り込む瞬間を狙うでしょうね」
 リル子は前を向いたまま答える。
「やはり、そうでしょうね…」
 局長は同意して頷いた。
 ヘリが離陸した瞬間に狙われるのも危ない。

359:2004/05/17(月) 21:31


「やられた…」
 突然、レモナが呟いた。
「ステルス機ね… この私が、ここまで接近を感知できないなんて…」

「どうした?」
 ギコは振り返って、レモナに訊ねる。
 レモナはそれを無視し、局長に呼びかけた。
「今からきっかり4秒後の時間をカットして!!」

「え…!?」
 困惑する局長。
「参りましたねぇ。官邸内で能力を多用したから、余力があるかどうか…」

 ―――3

「いいから! やらなかったら、全員ハチの巣じゃ済まないわよ!!」
 レモナが叫ぶ。
「ナンダ、コノ ニオイ… スゲェ テキイダ…」
 つーが、背後の夜空を見上げた。
 つられてギコも夜空に視線を向ける

 遥か彼方から、空を切る音が聞こえてきた。
 やけに耳に響く。
 何だこれは…?

 ―――2

 局長の背後に、『アルケルメス』が浮かんだ。
 後ろから、何かが来る。
 無機質な殺気。
 空を切る音。
 それは一直線に近付いて――

 ―――1

 耳をつんざくような轟音。
 風を切る音は徐々に大きくなっている。
 そして、周囲に轟くエンジン音。
 間違いない、これは――!!


「『アルケルメス』!!」
 局長はスタンドを発動した。
 先頭のリル子から最後尾の局長までの範囲で、2秒ほど時間をカットする。
 周囲から響く、形容しがたい炸裂音。
 同時に、頭上から強烈な轟音が突き抜けていった。
 そして、凄まじいまでの風圧。
 何かが、超音速で頭上を通過していったのだ。

「これは…!!」
 ギコは周囲を見回した。
 コンクリートの道路はボロボロに砕けている。
 その凄まじい破壊力。
 『アルケルメス』で時間をカットしていなければ、全員まとめて肉塊だった。

「…やってくれる。戦闘機からの機銃掃射か…!!」
 局長は空を見上げた。
「…」
 ギコは唾を呑み込む。
 『レイラ』の視覚は、闇夜に飛来した巨大な鋼鉄の翼を捉えていた。
 あれは間違いなく世界最強の戦闘機、F−22・ラプター。

「なんて奴等だ! あんなものまで持ち出してくるなんて…!!」
 ギコは夜空に向かって叫んだ。
「2機確認しました。旋回して、再び攻撃を仕掛けてくると思われますが…」
 リル子は、戦闘機の飛び去った方向に視線をやる。

「…あれは、私が相手をするわ」
 突然、レモナは言った。
「おい! いくらお前でも、相手は戦闘機だぞ!?」
 ギコは口を挟む。
「忘れたの? 私は兵器なのよ。ああいうのと戦う為に造られたの」
 そう言って、レモナは微笑む。
「…だから、先に行って」

「任せていいですね?」
 局長は、レモナを見据えて言った。
 頷くレモナ。
「ヘリなら追いつけるから、離陸しても構わないわ」

「お前、死ぬ気じゃないだろうな…」
 ギコは、レモナの瞳を真っ直ぐに見る。
「いやねぇ。アメリカの威信をかけた飛行機だかなんだか知らないけど…
 最終兵器の私が、たかだか米軍の戦闘機にやられるとでも思ってるの…?」
 レモナは、いつものように笑みを浮かべて言った。
 ギコもつられて笑う。
 自分が心配した相手は、バラバラになっても平気で生きているようなヤツだ。
「…そうだな。とっとと片付けて、早く合流しろよゴルァ!!」

「じゃあ、そっちも頑張ってね〜」
 レモナはそう言うと、襲来する戦闘機を迎え撃つようにその場に立った。

「…急ぎますよ。のんびりしていては、戦闘に巻き込まれかねません」
 局長が前進を促す。
 リル子は頷くと、再び進み出した。
 それに従い、列が動き出す。
 ギコ達は、列を守るように周囲に散開した。
 ヘリの待機場所までかなり近いようだ。
 …ここからが正念場だ。
 ギコは、大きく息を吸った。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

360ブック:2004/05/17(月) 22:40
     救い無き世界+EVER BLUE
     番外・されどもう戻れない場所 〜その二〜


「海ーーーーーーーーーーー!!」
 車から飛び出し、ふさしぃが大声で叫んだ。
 日差しはカンカンに照りつけ、強い潮の香りが鼻を刺激する。
 嫌になるくらいの爽快感。
 これが、海。
 最後に来たのは、俺がまだ子供の頃、両親と三人でだったけか…

「…でぃさん?」
 独り感慨に耽る俺の顔を、みぃが不思議そうに覗き込む。
『いや、何でもない。』
 ごちゃごちゃ考えるのはやめだ。
 取り敢えず、今は楽しもう。

「それじゃ、私達は海の家の更衣室で着替えてくるから。
 …覗いちゃ駄目よ?」
 ふさしぃが俺と丸耳ギコの方に向く。
 お前の裸なんぞ誰が覗くか、と思ったが、殺されるので口には出さない。
 そのまま、ふさしぃとみぃの二人は着替えに行ってしまった。

「…それじゃあ、俺達も着替えようぜ。」
 丸耳ギコが俺に言った。
 頷いて、答える。
 俺達男集は車の中で着替えだ。
 何たる差別。

『それじゃあ、そっちから先に着替えろよ。』
 流石に軽四では、大の男が二人同時に着替えるのは不可能だ。
 丸耳ギコを先に車の中で着替えさせ、俺は外に立って待つ。

「終わったぞ。」
 丸耳ギコが車から出てきた。
 赤色のトランクスタイプの水着に、
 ゴーグルとシュノーケルを頭に装着している。
 やる気満々といった所か。

「……」
 今度は俺が着替える番だ。
 トランクから荷物袋を引っ張り出し、車の中へ入る。
 さて、さっさと着替えるか…

「!!!!!!!!」
 荷物袋を開け、俺は我が目を疑った。
 馬鹿な。
 これは、どういう事だ!?
 俺は確かに、青色のトランクスタイプの水着を入れていた筈だ。
 なのに、どうして―――

「…?どうしたんだ?早く着替えろよ。」
 中々着替えない俺に、外から丸耳ギコが声をかけてきた。

 どうする?
 どうする?
 どうする?

 自問自答を繰り返すが、解決法は全く浮かばない。

「おい、どうした?」
 丸耳ギコがいぶかしむ。
 うるさい。
 今、絶体絶命のピンチなんだ。
 お前にこの状況が分かるってのか。

「お待たせー。…って、でぃ君は?」
 ふさしぃの声だ。
 やばい。
 いよいよ切羽詰まって来た。

「いや、まだ車の中にいるんだ。
 何回声かけても、出てこないんだよ。」
 余計な事を言うな、丸耳ギコ。

「でぃさん、どうしたんですか?」
 みぃまでが心配そうに声をかけてくる。

 糞。
 ここまでか…!

 …俺は、腹を括って持って来た筈の水着の代わりに入っていた『それ』を、
 ゆっくりと装着し始めた。

361ブック:2004/05/17(月) 22:40



     ・     ・     ・



「…くくくっ。今頃でぃの野郎はダブルリーチが掛かる位にテンパってるだろうぜ。」
 ふさしぃの車を双眼鏡で観察しながら、ギコえもんが邪悪な笑みを浮かべた。

「ギコえもん。一体、でぃ君に何をしたんだょぅ。」
 私はギコえもんに尋ねた。
 着替えに車の中に入ったっきり、でぃ君が出てこない。
 ふさしぃ達が、外から心配そうに呼びかけている。

「なぁに…ちょっと荷物に細工させて貰ったのさ…」
 ギコえもんが彼の荷袋の中から青い男物の水着を取り出した。

「それは?」
 小耳モナーがギコえもんに聞いた。
「ああ、でぃの水着だ。」
 自慢気に答えるギコえもん。

「ギコえもん、まさか…」
 私は顔を強張らせる。
「そう、奴がこの日の為に用意した水着を、『ある物』とすり替えた。」
 ギコえもんが歯を剥き出しにして笑った。

「何とすり替えたんだモナ?」
 小耳モナーが質問する。
「それは見てのお楽しみ…
 お、どうやら出てきたみたいだぜ。」
 ギコえもんのその言葉に、私も小耳モナーも双眼鏡を覗き込む。
 一体、ギコえもんは何とすり替えた…


「!!!!!!!!!!!!」
 私は絶句した。
 でぃ君が身に着けていたのは、俗に言う褌と呼ばれるそれだった。
 彼の表情は変わらないが、激しく恥ずかしがっているのは手に取る様に分かる。

「ぎゃはははははははははははは!!
 どうよ!?
 これでまずはせっかくのムードがぶち壊しってなもんだ!!!」
 爆笑するギコえもん。
 悪だ。
 こいつ、もっともドス黒い『悪』そのものだ…!!

「様ぁ見ろだモナ!!
 毎晩毎晩ギシギシアンアンしてるような奴は、皆地獄に堕ちればいいんだモナ!!」
 小耳モナーがガッツポーズをする。
 どうやら、自分だけが未経験者だったのが余程悔しかったらしい。
 それにしても、私達の周囲だけ妙に景色が歪んでないか?

「まだまだ仕掛けはこんなもんじゃないぜ。
 こうなったら、とことん奴らの邪魔をしてやる…!」
 ギコえもんは、拳を固めて闘志を滾らせるのだった。



     ・     ・     ・



「…ヒソヒソ。ねぇ、あの人って……」
「おいおい、まじかよ…」
 俺の周りの視線が痛い。
 その原因は明白だ。
 俺の腰に巻かれている、純白の褌。
 通り過ぎる人通り過ぎる人が、俺の穿く褌を凝視する。

「……」
 恐らく、ギコえもんの仕業だろう。
 畜生。
 あいつめ、何だってこんな事を。

「あの、でぃさん…」
 みぃが不安気な表情を俺に見せた。
 みぃの水着は俺の褌と同じ色で、白のワンピース。
 昔は白色だと水に浸かると肌が透けていたらしいが、今は改善されている。
 これは環境破壊同様、科学の進歩における重大な弊害と言えるだろう。

『別にいい。こんなのには慣れてる。』
 俺はそっけなくそう答える。
 まあ、この褌に視線が集中するおかげで、
 俺の体中の傷痕への視線が多少は和らいでいるのだろうから、
 あながちデメリットばかりでもないのかもしれない。

「全く、あの青狸…
 後で必ずミンチにしてやるわ…!」
 ふさしぃの顔面に血管が浮き出る。
 ふさしぃの水着は、大人しめのみぃとは対照的な、黒のビキニだった。
 まあふさしぃは美人な方であるし、スタイルも悪くはないのだが、
 体から噴き出す殺気が周囲の男を遠ざけている。

「…取り敢えず海に入ろうぜ。
 そうすりゃ、褌も気にならないだろ。」
 ふさしぃの殺気を感知したのか、丸耳ギコが空気を変えようとそう提案した。
 成る程、それもそうだな。
 海に入れば、下の褌も水の中に隠れる。

「そうね。
 それじゃ、これからは自由行動にしましょう。」
 ふさしぃが笑顔で(目は笑っていないが)答えた。
 かくして、俺達は海で泳ぐ事にするのだった。

362ブック:2004/05/17(月) 22:41



      ・     ・     ・



「…よし。あいつら海に入ったな。」
 ギコえもんが双眼鏡を覗きながら呟いた。

「小耳モナー。」
 ギコえもんが小耳モナーを見る。
「分かってるモナ。
 『ファング・オブ・アルナム』…!」
 彼の横に、黒い大きな狼が姿を現す。
「…お呼びでしょうか、親分。」
 『ファング・オブ・アルナム』が小耳モナーの前に傅く。

「よし、・・・が、・・・・・・たら、・・・するモナ。」
 小耳モナーが何やら『ファング・オブ・アルナム』に耳打ちした。
「…御意。」
 そう言い残し、『ファング・オブ・アルナム』がその場を去る。

「こういう時、遠隔自動操縦型は便利だな。」
 狼が去ったのを見届けると、ギコえもんが小耳モナーの肩の上に手を置いた。

「まあ任せておくモナ。
 モナがあいつらに目に物見せてやるモナ。
 モナの『ファング・オブ・アルナム』で…!」



     ・     ・     ・



 数十分後、
 一人沖に向かって泳いでいる丸耳ギコの背後から、黒い影が忍び寄っていた。
 しかし、丸耳ギコはそれに気づかない。

「……?」
 と、彼が背後に何か感じたのか、止まって後ろを振り返る。
 しかし、そこには何も居なかった。
 …いや、彼には見えなかったと言った方が正しい。

「……」
 彼は再び泳ぎ出した。
 そうしている間にも、影はどんどん丸耳ギコに近づき―――



     ・     ・     ・



「お昼ご飯にするわよーーーーー!!」
 俺とみぃが砂浜間際で泳いでいるところに、ふさしぃの声がかけられた。
 もう、そんな時間か。

「……」
 俺はみぃの手を引き、海から出てふさしぃの待つパラソルへと歩いていった。
 褌も、開き直ってのでもう気にならない。

「はい、そこに座って。」
 ふさしぃがビニールシートの上に弁当箱を置いた。
 蓋を開けると、おにぎり、鮭、ウインナー等が所狭しとぎっしり詰められている。

「私と丸耳ギコさんで一緒に作ったんですよ。」
 …?
 丸耳ギコ?
 ふさしぃと一緒にじゃあないのか?

「…いや、私より、彼の方が料理上手いから。」
 ふさしぃが俺の疑問を汲み取ったのか、恥ずかしそうに頭を掻く。
 まあ誰が作ってようが構わないや。
 それでは、いただきま―――

「!!!」
 おにぎりに手を伸ばそうとした俺の手を、ふさしぃがピシャリと打った。

「まだよ。
 食べるのは丸耳ギコ君が来てから。」
 けちけちしやがって。
 しかし、そういえば丸耳ギコがまだ来ていない。

「……?」
 不思議に思って海の方を見てみると、丸耳ギコが困った風な顔でこちらを見ていた。
「どうしたのー!?早く来なさい!」
 ふさしぃが大声で丸耳ギコを呼ぶ。
 しかし、あいつは頑なに海から出ようとしなかった。

「…何かあったんでしょうか?」
 みぃが呟く。
 全く、早く出て来いよ。
 でないと弁当が食えないだろうが。

「…無い。」
 と、丸耳ギコが何やら口をもごもごと動かした。
「パンツが無いんだよ!!」

363ブック:2004/05/17(月) 22:42



     ・     ・     ・



「神速にして隠密。
 知覚出来ない攻撃を回避する事は不可能モナ。」
 『ファング・オブ・アルナム』の食いちぎった丸耳ギコの水着の切れ端を握りながら、
 小耳モナーが独りごちた。

「よくやった小耳モナー。
 作戦は成功だ、完全に。」
 ギコえもんが愉悦に浸る。

「ギコえもん、小耳モナー、そろそろやめた方が…」
 私はどんどんエスカレートしつつある彼等を止めようとした。
 流石にここまでやっては、一度や二度ふさしぃに殺されるだけでは済まない。

「うるせえ!!
 ここまで来たんだ、今更後に引けるかゴルァ!!」
 ギコえもんが叫んだ。
 いや、君の為に言っているのだぞ?

「そうモナ!
 世のカップルを全て駆逐するまで、モナは止まらないモナ!!」
 小耳モナーの目は最早狂人のそれだった。

「だけど、このままじゃ後で確実にふさしぃに殺されるょぅ。」
 無駄と知りつつも、二人に向かって告げる。

「なあに、心配するな…」
 と、ギコえもんが何やらごそごそと取り出した。
 これは…
 西瓜?

「ふさしぃが西瓜割り用の西瓜を用意していたんでな。
 すり替えさせて貰った。」
 …まさかそんな事まで。

「これは只の西瓜だが…
 今ふさしぃの所にある西瓜には、強い衝撃で爆発する爆弾が仕掛けている。
 つまり西瓜を棒で殴った瞬間に、『ドカン!』という訳よ。
 名づけて、『時計仕掛けの西瓜』作戦!!
 くくっ、これならいくらあのふさしぃでも一コロだぜ…」
 …いや、ギコえもん。
 爆弾殺人は重罪だ。
 下手すれば死刑だぞ?

「…長かった。
 これまで本当に長かった…!
 だがそれも今日までだ。
 今日ここで、確実にふさしぃに引導を渡してくれる!!」
 既に当初から目的が脱線しているが、もう突っ込む気すら起こらない。
 私は黙ってこの作戦の行く末を見守る事に徹するのだった。



     ・     ・     ・



 結局、ふさしぃが車を走らせて俺と丸耳ギコの分の水着を買って来た。
 今や、顔だけにとどまらずふさしぃの体のあちこちに太い血管が浮き出ている。
 もう臨界寸前だ。
 近いうちに、間違いなく爆発してしまうだろう。

「さ、皆!海水浴の定番西瓜割りでもしましょう!」
 恐ろしい笑みを浮かべながらふさしぃが言う。
 黙ってそれに従う俺達。
 逆らう事など、出来ない。

「それじゃ、私からいくわね。」
 西瓜を砂浜に置き、ふさしぃが手拭いで目隠しをした。
 …ふさしぃ。
 西瓜割りはいいが、その右手に持っている釘バットは何だ?
 普通、西瓜を割る時に使うのは木刀とかじゃないのか?

「いくわよ…」
 …!!
 その時、俺はふさしぃから物凄い殺意を感じた。
 間違いない。
 ふさしぃは、ヤル気だ…!

「ふさしぃさん、右ですよ。」
 一人この身の毛もよだつような圧迫感に気づかないみぃが、
 無邪気にふさしぃを西瓜に誘導した。
 みぃ。
 恐らく、ふさしぃには何も聞こえていないぞ。

364ブック:2004/05/17(月) 22:43



     ・     ・     ・



「よーし、もう少しだ。
 もう少しで…」
 ギコえもんが、目隠しをして西瓜に向かうふさしぃを遠めに観察していた。
 ふさしぃが、一歩一歩西瓜へと近づいていく。
 そして、西瓜の真正面で動きを止めた。

「よし、いいぞ。そのままだ。
 今だ!振り下ろせ!!」
 しかしギコえもんの思惑とは裏腹、ふさしぃは再び動き出した。
 そのまま、西瓜から遠ざかっていく。

「……!
 糞っ!!
 後一歩の所で…!」
 ギコえもんが舌打ちをする。

「……?ギコえもん…」
 私はギコえもんに注意を促した。
 ふさしぃの進んでいる方向、もしかして…

「に、逃げた方がいいんじゃないモナか…?」
 小耳モナーも以上に気づいたようだ。
 ふさしぃが、だんだんこちらに近づいてきている。
 まさか、居場所がバレてしまった!?

「ビビルなお前ら!
 ふさしぃと俺達と、どれだけ距離が離れていると思う!?
 ここが分かる訳がねぇんだ!!
 それに、目隠しをしたままでここに辿り着くなんて―――」
 次の瞬間、ギコえもんの表情が凍りついた。
 ふさしぃが、目隠しをしたままこちらに向かって突進してきている。
 馬鹿な。
 何故、どうやって…!?

「……!!」
 ふさしぃはなおもこちらに走り続けた。
 その余りに凄絶さに、浜辺の人だかりがまるでモーゼのようにふさしぃに道を開ける。
 その開かれた道の先は、他ならぬ我々の居る場所だった。

「や、やべぇ!!皆、逃げ…」
 ギコえもんが車に乗り込もうとするが、もはや全ては遅すぎた。
 次の瞬間、私の眼前でギコえもんの頭がまるで西瓜のように爆ぜるのだった。



     ・     ・     ・




「ごめんなさいね、みぃちゃん。
 うちの馬鹿が迷惑かけちゃって。」
 帰りの車の中、ふさしぃさんが苦笑しながら私に言った。
「いえ、別に気にしてません。」
 そういえば、ギコえもんさんは大丈夫なのだろうか。
 ふさしぃさんは放っておいて平気と言ってはいたけれど…

「……」
 私の隣では、でぃさんが静かに寝息を立てている。
 丸耳ギコ君も、助手席で同様に眠っていた。

「…呑気なもんね、男って。」
 車を運転しながら、呆れ顔でふさしぃさんが呟いた。
「そうですね…」
 思わず笑みがこぼれる。
 こんなふうに心の底から笑える日が来るなんて、
 ほんの少しまでは思ってもいなかった。

「また一緒に遊びに行きましょう。
 今度はぃょぅ達も一緒に、ね。」
 ふさしぃさんが目配せをする。
「…はい。」
 夕暮れの太陽が、でぃさんの子供のような寝顔を黄金色に照らした。
 黄昏の時間の中、私はこの時がいつまでも続くように祈るのだった。

365ブック:2004/05/17(月) 22:43



     ・     ・     ・



「……ギコさん。…タカラギコさん。」

 ……!
 オオミミ君の声が、私を目覚めへと導いた。

「…ああ、オオミミ君ですか。
 どうしました?」
 ゆっくりと上体を起こし、オオミミ君に尋ねる。

「ごめん。もうすぐ近くの島に停泊するから、サカーナの親方が起こしとけって。」
 オオミミ君がすまなそうに答える。
 それにしても、起こされるまで彼の接近に気づかないとは。
 …いや、彼自身に殺気が無かったから気付かなかったのか?

「わざわざすみませんね。
 すぐに、ブリッジに向かいますよ。」
 背筋を伸ばしながら大きく欠伸をする。

「…タカラギコさん、いい夢でも見ていたんですか?」
 と、やおらオオミミ君が私に尋ねた。
「え…?」
 思わず、呆けた声が出てしまう。

「あ、ごめんなさい。
 とっても幸せそうな顔で眠ってたから、つい…」
 慌ててオオミミ君が弁解した。
 よく謝る少年だ。
 あの少女に、少し似ているな。

「…前の職場の同僚の夢を、見ていました。」
 少し間を置いた後、私は答えた。
「それで、どうだったんですか?」
 優しそうな声で、オオミミ君が聞き返す。

「相変わらず、でしたよ…」
 そう言った後で、私は自嘲の笑みを浮かべた。
 どうかしている。
 いつもの私なら、こんな質問適当にはぐらかしているのに。
 …さっき見た夢が、私を感傷的にしているのか。

「オオミミ君、先に行っておいて貰えますか?
 私は少し、支度があるので。」
 その言葉に従い、オオミミ君は部屋から出て行った。

「さて、と…」
 ベッドから降り、顔を叩いて気合を入れ直す、
 忘れるんだ。
 夢はどこまでいっても只の夢。
 決して現実には成り得ない。
 もう、私はあそこへは帰れないのだ。
 絶対に、帰れない。
 帰る資格も無い。
 もう決して、戻れない場所。

「…それでも、私は進まねば。
 私は…私は、今度こそ……」
 拳を握り、決意を固める。
 それでも、今見た夢はなおも私の心を切なく焦がし続けるのであった。



     TO BE CONTINUED…

366ブック:2004/05/18(火) 18:02
遅くなりましたが、救い無き世界最後の人物紹介。
主要キャラクターはもう語りつくしましたし、あまり長々とやるのもなんなので、
ここでは矢の男とその従者達その他新登場のスタンドだけ。


『矢の男』…自身のスタンド『サイコカリバー』で、魂を新しい肉体に入れ替えながら、
      神の降臨の為の魂を集めてきた。
      神をその身に宿すも、覚醒した『デビルワールド』によって存在を終了、
      敗北する。

スタンド…名称『アクトレイザー』。
     アカシックレコードへの干渉を行え、それにより事象の閲覧、
     書き換えが出来る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
モナエル…『矢の男』の従者の一人。
     小耳モナーと闘い、追い詰めるもすんでの所で死亡。

スタンド…名称『アーガス』。遠隔操作、群体型。
     無数の羽虫のビジョンで、その針に刺された者は
     人に認識されなくなり、最後には完全にこの世から消え去ってしまう。
     石ころ帽子の強化版と思って頂こうッ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ギコエル…『矢の男』の従者の一人。
     裏設定ではこいつがトラギコと特に仲の悪い従者だった。
     ふさしぃ、ギコえもん、小耳モナーをそのスタンドで一網打尽にするも、
     三人の機転の前に敗れる。

スタンド…名称『プリンス・オブ・ペルシア』。
     罠だらけの迷宮を異次元に作成し、その中に人を取り込む。
     取り込まれた者は、一時間以内にその迷宮のどこかにいる本体を倒さなければ、
     迷宮の崩壊に巻き込まれて死亡する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
しぃエル…『矢の男』の従者の一人。
     従者の中の紅一点だったが、大したサービスシーンも無いまま退場。

スタンド…名称『ウインズノクターン』。
     しぃエルの背中に生えた大きな翼がビジョンで、
     それによって起こされた風に晒されたモノは全て風化する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
モララエル…『矢の男』の従者最後の一人。
      たった一人ででぃ達を襲撃、その殆どを無力化させるも、
      ギコえもんに倒される。
      最後に華々しく散華した。

スタンド…名称『スペースハリアー』。
     近距離パワー型で、このスタンドに触れたモノへの、
     空気、重力、水圧その他一切の外部の自然からの抵抗を増大させる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



     ・     ・     ・



『デビルワールド』…遥か昔『矢の男』が神を生み出そうとして失敗した時に
          生まれたスタンド。
          負の思念を喰らう事でいくらでも大きくなり続ける。
          『矢の男』はすぐさま元となった魂を散らす事で実体化の前に
          消滅させようとしたが、
          辛うじて生き残り別の生命の体を渡り歩く事で生き永らえていた。
          でぃと接触、そして復活を果たすも、
          でぃの新たなスタンド、そして自身の能力により消滅。
          万物は終わりを内包するが、彼もまた例外ではなかった。
          能力は、この世に存在する全てを『終わらせる』事。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『イース』…『矢』によりでぃから生まれたスタンド。
      近距離パワー型で、大きな盾を構えた戦士の姿がビジョン。
      その盾で受け止めたあらゆる攻撃を、攻撃者に向かって跳ね返す。

367:2004/05/19(水) 17:01

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その6」



 レモナは高速で飛翔していた。
 そのスピードは、すでに音速に達している。
 前方に、F−22が2機。
 ようやく追いついたようだ。

「さぁて…」
 レモナは、2機のF−22の動きをチェックした。
 航空機における最小戦術単位は、2機編隊である。
 1機がリーダーで、もう1機がウィングマン(寮機)として後方からの援護を行うのが普通だ。

「…リーダーはあっちね」
 レモナは並走して飛ぶ2機の内、片方に狙いをつけた。
 両機とも、高速接近してくるレモナの存在は感知しているはず。
 一般に、空戦においては背後をとった方が優勢。
 その点で、レモナは多少有利と言える。
 だが、まだ距離が遠い。
 仕留めるには距離が開きすぎている。

 向こうはどう出てくるか。
 得体の知れない追撃者に恐れをなし、この場から離れるか。
 それとも、仕掛けてくるか…

 2機の高度が上昇し始めた。
 高度を稼ぐためには、速度を犠牲にする必要がある。
「最適な上昇率。やる気みたいね…」
 レモナは呟いた。
 どうやら、向こうに逃げる気はないらしい。

 リーダー機が大きく旋回した。
 その速度が大きく落ちる。
「…今ね!」
 レモナは、高速でリーダー機に接近した。
 そして、リーダー機とウィングマン機を結ぶ直線上に占位する。
 これでウィングマン機はレモナに攻撃できない。
 リーダー機を巻き込む可能性が高い為だ。

 レモナに対して、完全に正面を向くリーダー機。
 F−22の固定兵装であるバルカン砲が稼動し始めた。
 通常なら、この距離でバルカン砲を掃射されれば勝負は決まる。

「もらった…!!」
 それにもかかわらず、レモナは呟いた。
 さらに接近速度を上げる。
 F−22リーダー機の間近まで…

 リーダー機のバルカン砲が火を噴いた。
 レモナは、臆する事なく突っ込んでいく。
 バルカン砲は、最大発射速度に達するまでに0.3秒を要する。
 そして、その速度に至るまでは弾道が安定しない。

 ――0.3秒。
 通常の戦闘機相手なら、問題にもならない時間。
 だが『レモナ』という兵器を相手にするのに、その隙は大きすぎた。

「落ちろッ!!」
 レモナはバルカン砲をかわしながら、大腿部から対空ミサイルを発射した。
 リーダー機との距離、僅か50m。
 向こうに抗う術もない。
 避けるどころか、パイロットの脱出する時間すら与えられないだろう。

 対空ミサイルが、F−22リーダー機の胴部に直撃した。
 爆発炎上するF−22。
 主翼が折れ、胴部から離れる。
 その機体は紅蓮の炎に包まれ、そのまま失速していった。
 レモナの視界が火の赤に染まる。

「あと1機…!」
 残るF−22に向き直ろうとするレモナ。
 その瞬間、彼女は異常な電波を感じた。
「これは… アクティブ・レーダー!?」
 レモナはウィングマン機に素早く視線をやった。
 F−22の胴体内兵器倉からは、既にミサイルが突き出ている。

 次世代中距離空対空アクティブレーダー・ホーミングミサイル、AIM−120C。
 通称『AMRAAM(アムラーム)』。
 100%に近い命中率を誇る、脅威の対空ミサイル…!

「こんな近距離でロックオンしてくるなんて…!!」
 レモナは速度を上げた。
 同時に、AMRAAMがレモナ目掛けて発射される。
 超音速で接近してくるAMRAAM。

 F−22は、そのままレモナに並走している。
 AMRAAMは、機体から誘導する必要はないにもかかわらず。
「撃墜を最後まで見届けようってわけ…!?」
 レモナはさらにスピードを上げ、憎々しげに呟いた。
 その背後にAMRAAMが迫っている。
 AMRAAMのマッハ4以上もの速度と脅威の追尾能力は、レモナの運動性を大きく上回っているのだ。
 このミサイルから逃れるには、ミサイル自体を撃墜するより他に方法はない。

368:2004/05/19(水) 17:01

「当たれッ!!」
 大腿部から、対空ミサイルを発射するレモナ。
 その赤外線シーカーが、目標をロックした。
 レモナの放ったミサイルは、AMRAAM目掛けて高速直進する。
 ミサイル同士が激突する寸前、AMRAAMは大きく軌道を変えた。
 レモナが放ったミサイルを避けるように、左方に大きく旋回する。

「…かわした?」
 レモナは呟いた。
 AMRAAMには、迎撃ミサイルを避ける機能が備わっているのだ。
 彼女の放ったミサイルは、そのまま直進していった。
 レモナの間近にAMRAAMが迫る。

「ま、いいか… 相打ちだし」
 レモナは笑みを浮かべて言った。
 先程彼女が放ったミサイルは、AMRAAMの迎撃を目的にしたものではない。
 彼女の放ったミサイル『サイドワインダー』がロックしたのは、並走してくる敵機F−22である。

「最初にサイドワインダーがそっちのAMRAAMに向かったのは、ただの慣性移動。
 本当の狙いは、そっちよ…
 ミサイルにロックされてる私が、それを無視して敵機の方を狙うとは思わなかったでしょ?」
 レモナは、F−22を見据えた。
 その機体に、先程レモナが放ったサイドワインダーが迫る。

 レモナの身体に、AMRAAMが直撃した。
 マッハ4以上の動体の激突は、レモナの左半身を引き裂く。
 それに続く爆発をまともに喰らうレモナ。
 同時に、F−22ウィングマン機はサイドワインダーの直撃を受けた。
 F−22の機体は爆炎に包まれる。

 レモナの身体は失速していった。
 その目に、炎上しながら墜落するF−22の姿が映る。
「撃ってすぐに逃げてれば、自機撃墜なんてのは避けられたのにね…」
 落下しながら、レモナは呟いた。

 そのまま、レモナの体は地表に叩きつけられる。
 いかに頑丈なレモナの体とはいえ、AMRAAMの直撃と地表への激突衝撃には耐え切れない。
 各部が粉々に砕け、全身が四散した。
「…完全回復に、あと30分ってとこかしら…」
 頭部だけで、レモナは呟く。

 かなり離れたところで、大きな爆発が起きた。
「さっきのF−22か…」
 レモナは、爆発の起きた方向を見た。
 噴き出した炎が夜空を赤く染める。
 バラバラになった機体の破片が、周囲に散らばっているようだ。

「相打ちは相打ちだけど、その重みは全然違うわね…」
 レモナは呟く。
 撃墜した2機とも、パイロットが脱出した様子はなかった。

「さてと…」
 ダメージは大きい。しばらく、ここから移動できなさそうだ。
 レモナは周囲を索敵した。
 付近に航空機の類は全く見当たらない。
 脱出用のヘリが戦闘機によって撃墜される可能性は回避されたようだ。
 さすがに、2機のF−22以外の戦闘機は投入していなかったらしい。
「まあ、最強のF−22が2機とも撃墜されるとは思ってもみなかったでしょうけどね…」
 レモナは、そう呟いてため息をついた。

369:2004/05/19(水) 17:02



          @          @          @



 CH−47JA輸送ヘリが、空き地の真ん中に着陸する。
「まったく… どこが200mほど離れた地点なんだよ…」
 モララーは不満を込めて呟いた。
 首相官邸から200mほど離れた地点で、脱出用ヘリが待っている。
 官邸内で、リル子はそう言った筈だ。
 だが、ここは官邸から1kmは離れている。

「当初はそういう予定だったのですが、敵の数はこちらの予想を超えていました。
 用心の為、ヘリの着陸地点を遠ざける必要があったんです」
 リル子は表情を変えずに言った。
「いや、リル子さんに文句を言った訳じゃないからね!!」
 モララーは慌てて発言を撤回する。

「さて、急いで乗って下さい」
 局長は、要人たちに告げた。
 要人の列が、ヘリに向けて進み始める。

 ギコ達は、周囲に展開して目を光らせていた。
 ヘリに乗り込む時が、最も危ないと言われている為だ。
「どうだ、つー?」
 ギコは、敵意を感じ取ることのできるつーに呼びかけた。
「アア、ダイジョウブダ。500mイナイニハ、マッタク テキイヲ カンジネェ…」
 つーは言った。

「対空攻撃部隊には特に注意を払って下さい。離陸した瞬間に撃墜されでもしたら…
 私達は何とかなるにしても、要人は全員死亡ですからね」
 局長はギコ達に注意を促した。
 ヘリのタラップを駆け上がっていた要人の1人が、嫌そうな表情を浮かべる。

「全員、乗りました」
 リル子は局長に告げた。
「それでは…」
 局長が、ギコ達に呼びかけようとする。
 その瞬間、異常は起きた。

 ピシッという軽い音。
 ヘリの操縦席のガラスに、指先サイズの穴が開いた。
「…!?」
 局長は、操縦席の方に視線をやった。
 ガラスに、赤いものが粘りついている。
 それも、内側から…

「うわぁぁぁぁぁッ!!」
 操縦士の悲鳴が上がった。
 このヘリは、2人の操縦士を必要とする。
 操縦席のドアが開き、操縦士の1人が飛び出した。
「あ、相棒が撃たれたぁぁッ!!」
 操縦士は、叫びながらヘリから離れる。

「迂闊に動くんじゃない!!」
 局長は叫んだ。
「!!」
 ギコ達が身構える。
 その瞬間、外に飛び出した操縦士の側頭部に穴が開いた。
 身を反らせ、側頭部の穴から血を撒き散らしながら、操縦士は地面に倒れる。

「狙撃かッ…!!」
 ギコは周囲を見回した。
「コノ チカク ジャネェ!! モット トオクカラダ!!」
 つーは叫ぶ。
 第3撃はない。どうやら、狙撃は終わったようだ。

「…あそこからでしょうね」
 局長は、そびえたつ首相官邸を見上げた。
 一瞬、官邸の屋上に人影が見えたのだ。
 この距離から、ヘリ内部の操縦士を狙撃できるほどの男はただ1人。

「ソリッド・モナーク、先程のお返しという訳ですか…」
 局長は、首相官邸の屋上を凝視して呟いた。
 そこには既に人影はない。

「どうすんだ!? 操縦士が2人とも…」
 ギコは慌てる。
「私が何とかします。全員、ヘリに乗って下さい!」
 リル子は、開いているドアから操縦席に滑り込んだ。

「…?」
 困惑しつつ、ギコはヘリのタラップを駆け上がった。
 モララー、しぃ、つーが後に続く。
 全員がヘリに乗り込んだのを確認してから、局長はタラップを上がった。

「でも、どうするんだ…?」
 ギコは、操縦席に目をやる。
 リル子はシートに座ると、アタッシュケースを膝の上に置いた。
 そして、ケースから取り出したコードをヘリの操縦機器に繋ぐ。

「…管制システムとリンクしました。私のスタンドで動かせます」
 リル子は計器をチェックしながら言った。
「離陸します。多少揺れますので、注意して下さい」

 メインローターが回転し、ヘリの機体がゆっくりと浮かび上がる。
 そのまま、ヘリは北西の方向に移動し始めた。

370:2004/05/19(水) 17:02

「これで一息だね…」
 モララーが安堵のため息をついた。
「本当、緊張した…」
 しぃが呟く。
「まあ、ちょっと前まで女子高生やってた身分からすりゃ、パニック起こさなかっただけでも立派なもんだ…」
 『アルカディア』が、機体の内壁にもたれる。
「いや、今でも現役の女子高生なんだけど…」
 しぃは不服そうに呟いた。
 普段の調子が戻ってきたようだ。

 要人達も、やっと落ち着いたらしい。
 彼等の中の数人が、会話を交わしている。
 もっとも、蒼白のまま固まっている者も何人かいるが。

「…無線が入りました。レモナさんのようです」
 運転席のリル子は言った。
「レモナ? 俺が出る…!」
 ギコが操縦席に駆け寄った。
 そして、リル子の手から無線機をひったくる。

「おい、レモナ! そっちはどうだ!?」
 ギコは無線機に呼びかけた。
『ちゃんと2機とも落としたわよ。でも、こっちもダメージ食らって、しばらく動けないみたい』
 あっけらかんとしたレモナの返事。
「動けない…? 大丈夫なのか!?」
 ギコは大声で訊ねた。
『30分もしたら全快するわ。全然大丈夫』
 当のレモナは、平気そうに告げる。
 どうやら、本当に心配はいらないようだ。

「…そうか。で、合流はできそうか?」
 胸を撫で下ろしてギコは言った。
『そっちの機体を補足してるから、回復次第そっちに向かうわ。そっちの周囲にも、敵機はいないみたい。
 暇つぶしに周囲の電波を妨害しとくから、そっちのヘリが敵に補足される危険もないはずよ』
 レモナは告げる。
「…それは助かりますね。乗り換えの手間が省ける」
 横から聞いていた局長が言った。

『私の活躍、ちゃんとギコくんの口からもモナーくんに伝えといてね。じゃ、また』
 そう言って、通信は途切れた。
 ギコは、無線機をリル子に渡す。
「電波妨害は本当に助かりますね。F−22クラスの戦闘機に補足されれば、輸送ヘリでは流石に手も足も出ませんから」
 リル子は無線機を受け取って言った。

「…そのスタンドがあれば、何でも運転できるのか?」
 ふと気になって、ギコはリル子に訊ねる。
「ある程度の電気的アビオニクス(統制機器)を搭載している機体なら、問題はありません。
 自動車とか、機能の特化したシステムになると無理ですけど」
 リル子は、前方を向いて言った。
「ふーん、便利なスタンドだなぁ…」
 ギコは呟く。
「その代わり、本体が高度な情報処理能力を持っていないと使いこなせませんが。フフ…」
 リル子は、自慢とも取れるような事を口にした。

「それで、このヘリはどこに向かってるの?」
 モララーは、局長に訊ねる。
 ギコは局長の方に視線をやった。
「…秘密基地ですよ」
 局長はニヤリと笑う。
「ひ、秘密基地だって!?」
 その甘美な言葉の響きに、モララーが目を輝かせた。
「ええ。ASAと『教会』が激突した時の拠点として用意していたんですが、こんな時に役に立つとはね…」
 局長は窓の外を見下ろして言った。
「あと20分で到着します。それまで、ゆっくり休んでいて下さい…」

371:2004/05/19(水) 17:03

 ヘリは、あるBARの駐車場に着陸した。
「店の規模の割りに、デカい駐車場だな…」
 ギコが呟く。
「ええ。ヘリが着陸できるようにね」
 そう言って、局長はヘリから降りた。
「さてみなさん、降りますよ…」

 ギコや要人達が、ぞろぞろとヘリから降りる。
「監視衛星とか、大丈夫なのか?」
 ギコは局長に訊ねた。
 駐車場にこれだけ人が集まれば、衛星にキャッチされても不思議ではない。
「問題ありませんよ」
 局長はそう言って、BARに向かって歩き出した。
 全員が後に続く。

 局長は、立派な木製のドアを開けた。
 カランカランと鐘の音が鳴る。
「BARぃょぅにようこそだょぅ… あっ、お帰りだょぅ」
 マスターらしき人物は、局長の姿を見て言った。

「要人奪還は成功しましたが… 米軍まで出張っていましたよ。厄介ですねぇ…」
 そう言いつつ、局長はつかつかとカウンターに歩み寄った。
 そして、カウンターの中に入る。
「米軍と自衛隊が共同で動いているとなると、政治的取引も難しくなるょぅ。
 米国も、スタンド使い排斥に動いているのかょぅ…」
 マスターらしきぃょぅは表情を曇らせる。
 そして、入り口に立つギコ達を見た。
「ギコ君達の事は、局長から話は聞いてるょぅ。そんな所で突っ立ってないで、中に入るょぅ」

「お、お邪魔します…」
 しぃは困惑しながら告げた。
 こういう店に入るのは初めてなのだろう。
「君も、公安五課の人?」
 モララーはぃょぅに訊ねた。
 ぃょぅは頷く。
「君の事は、バーテン仲間から聞いているょぅ。カツカレーは無ぃょぅ」
「ちぇっ…」
 モララーは視線を落とした。

 カウンターの中にいる局長が、大きな業務用の冷蔵庫を開ける。
「じゃあ、この中に入って下さい」
 局長はギコ達の方に振り返って告げた。

「…!?」
 ギコは困惑した。
 これは、どういう嫌がらせだ?
 だが冷蔵庫の中を良く見ると、地下へ続く階段のようなものが見える。

「…なるほど。それが秘密基地の入り口って訳か」
 ギコは言った。
 局長は頷くと、冷蔵庫の中の階段を降りていく。
 ギコ達が後に続いた。
「要人の皆さん方も、中にどうぞだょぅ」
 ぃょぅはカウンターをフルに開けると、要人達に言った。
 自分自身は降りないようだ。

 要人の最後列の人が、冷蔵庫の中に消えていく。
 ぃょぅはそれを確認して、冷蔵庫の扉を閉めた。
 ただ1人残った女が、カウンター席に座る。

「…ウォッカ・マティーニ」
 リル子は、ぃょぅに告げた。
「…大変だったみたいだょぅ」
 ぃょぅはため息をつきながら、背後の棚を開ける。
「でも、飲み過ぎは良くないょぅ。店内で暴れるのは、もう勘弁してほしいょぅ…」

372:2004/05/19(水) 17:04



          @          @          @



 長い長い階段を降りるギコ達。
 階段自体は、しっかりとしたものだった。
 だが照明が薄暗いので、足元がどうも不安である。
 降りるにつれ、空気が薄くなっていく感じ。
 無論、錯覚であることをギコは理解している。

 ようやく、階段の終わりが来たようだ。
 地下5階分は降りたであろう。
「公安五課、秘密基地へようこそ!」
 局長は振り返ると、仰々しく告げた。
「…その恥ずかしいネーミングはどうにかならないのか?」
 ギコは呆れて言った。
 もっとも、モララーは気に入っているようだが。

 ――だだっ広い事務所。
 そういう表現が、一番当て嵌まるだろう。
 部屋内に多くのデスクが並び、電話機やPCが備え付けられている。
 20人程度なら、余裕で収容できる広さはあるようだ。
 天井も高く、床は綺麗である。
 だが、地下特有の息苦しさは消えてはいなかった。

「窓がないってのは、落ちつかねぇな…」
 ギコは呟いた。
 モララーは、少し肩を落としている。
 おそらく、彼の脳内の秘密基地のイメージと違ったのだろう。
「結構、広いんだね…」
 しぃは感心したように呟いた。

 局長は、要人達の方を振り返る。
「皆さんには、しばらくここで暮らして頂きます。
 皆さんは今や完璧なお尋ね者ですから、なるべく外出は控えて下さい。
 地下である為、不便な点はありますが… 命の危険がない分、首相官邸よりはマシでしょう?」

「…仕方ないな。中央を追われた身はこんなものか」
 首相が嘆息する。
 要人達は、部屋中に置かれた椅子に腰を下ろした。

「先行きはどうなると君は考えている?」
 パイプ椅子に腰を下ろした官房長官が、局長に訊ねた。
 局長は僅かに表情を曇らせる。
「私の当初のプランでは…
 皆さんを保護した上でマスコミに働きかけ、自衛隊が独断で動いている事を明らかにするつもりでした。
 その上で国連に働きかけ、自衛隊の暴走を止めさせようとね」

 首相は口を開いた。
「君も見ての通り、米軍が派遣されている。アメリカ本国もスタンド使いの排除に乗り気だ。
 それだけではないね。他の国も、ASA及びスタンド使い打倒に動いていると見ていい。
 各国首脳、よほどスタンド使いの存在に手を焼いてたんだろうな…」
 そう言って、笑みを見せる首相。

「でも、スタンド使いだからって悪いことするとは限らないのに…」
 しぃは言った。
「国家を転覆させるだけの力を持つ者というのは、その存在だけで国家にとって毒なんだよ。
 当人の意思にかかわらずね…」
 要人の1人は、しぃを諭すように告げる。

 局長は口を開いた。
「とにかく、状況が違ってきています。
 常任理事国であるアメリカがスタンド使い排斥に動いている以上、国連決議に頼ったところで結果は見えている。
 やや手詰まりの感がありますね…」
「…」
 要人達は、揃って沈黙した。
「フサギコ…、やってくれますね。暴走しているように見えて、根回しは完璧だったとは…」
 局長は呟く。

373:2004/05/19(水) 17:05

「これもオヤジのせいだ。すまねぇ…」
 ギコは要人達に頭を下げた。
 この状況は、全て彼の父親が引き起こした事なのだ。
 しぃは、ギコの複雑な心中に気付いた。

「君は… フサギコ統幕長の御子息なのかね…?」
 首相はギコに視線をやった。
「…ああ」
 ギコは頷く。
 それを聞いて、首相はため息をついた。
「…頭など下げんでいいよ。こっちが悲しくなる。
 私の孫のような年齢の君が、親の責任まで抱え込む事はない」

「ギコ君…大丈夫だよ」
 しぃは、肩を落としているギコに呼びかけた。
 官房長官が口を開く。
「そこの娘さんの言う通りだ。軍人のクーデターで揺らぐほど、我が国は軟弱じゃない。
 50年に渡って中央政権に君臨し続けた与党の力、奴らに思い知らせてやるさ」
「そうですよ、ギコ君。責任論は事態が収拾してからでいい。今は前を向く時です」
 局長は、珍しく他人を思いやる旨の言葉を口にした。

 思いの他、要人達は協力的であるようだ。
 首相官邸に監禁されている間に、かなりの鬱憤が溜まっていたらしい。
 自衛隊員に銃を突きつけられる中、団結心も芽生えていたのだろう。
 彼等は、先の事について協議し始めた。

「まず外交ルートを駆使して、どれだけの国が自衛隊に賛同しているか調査する必要があるな…」
 外務次官が口を開く。
「相当数の筋は向こうに抑えられているだろう。意向を聞き出すだけで一苦労だな」
 官房長官がため息をついた。
「この年まで官僚をやってきたんだ。信頼できる独自のルートなんていくらでもある」
 そう言って、自身ありげに頷く外務次官。
 局長は、要人達に告げた。
「では、皆さん方は現状把握の方をお願いします。くれぐれも軽率な行動は慎むようにして下さい」

「マア、オレタチニハ カンケイナイ ハナシ ダケドナ…」
 つーは、大きなソファーに座り込んで言った。
 ギコは複雑な思いを抱いているだろうが、彼ら自身はあくまで助っ人なのだ。

「…ところが、そうは行きませんよ」
 局長は笑みを浮かべて言った。
「素顔をさらして首相官邸に乗り込んだんですから、簡単に素性が割れるでしょう。
 君達も、立派なお尋ね者ですよ。 …まあ、一蓮托生で頑張っていきましょう」

「テメェ! ハメたな!!」
 ギコは怒鳴った。
 思えば、それは当然の成り行きなのだ。
 ギコは、そんな事が見抜けなかった自分自身を反省した。

「じゃあ、僕達もしばらくここで暮らせってこと!?」
 モララーは局長に詰め寄った。
「…ええ。そうなりますね」
 局長はあっさりと認める。
「皆さんの家には、今頃は自衛隊員か米兵が詰め掛けているはずです」

「どうしよう…!! 家には、お母さんと妹が!!」
 しぃが悲壮な声を上げた。
「僕も、家にパパとママと妹がいるんだよ!?」
 続けてモララーも叫ぶ。

 局長は無線機を取り出すと、何やら操作した。
「心配は無用ですよ。既に公安五課が身柄を保護して…いない!?」
 局長は珍しく驚きの声を上げた。
 そして、無線機に語りかける。
「どういう事です!? …先に保護? 一体誰が…」

 しぃが、泣きそうな顔で局長を見つめている。
 局長は慌てて言った。
「いや、保護されているのは確かなようです。それが、公安五課の手によるものではないだけで…」

「おいおい、何だそりゃ。とんでもねぇ不手際だな…」
 ギコは怒気をはらんで言った。
 家族を保護するような人員をあらかじめ配置していた以上、全ては局長の予想通りと言ったところだろう。
 この男は、あらかじめ自分達を巻き込むつもりでいたのだ。その結果の不手際である。

「保護したのはASAって事はないの…?」
 モララーは焦りながら言った。
 流石に、彼も家族の事が気に掛かるようだ。

「その可能性は高いでしょうね。張り込んでいた局員も、ASAのスタンド使いの姿を見たと言っています。
 彼らも、自衛隊の動向に目を光らせているはずですし」
 局長は言った。
 しぃとモララーは、とりあえず胸を撫で下ろす。

374:2004/05/19(水) 17:06

 突然、内線電話が鳴った。
「…どうしました?」
 局長は受話器を手に取る。
『レモナさんと言う方が来てるょぅ。地下に案内していいかょぅ?』
 電話の向こうで、ぃょぅは告げた。
「ああ、もう着いたんですか。構いませんよ」
 局長はそう言って、受話器を置く。

「ヤレヤレ。メンドクセェ コトニ ナッチマッタナ…」
 そう言いつつも、つーは少し楽しそうである。
 これから、暴れる機会が増える事を予期しているのだろう。

「皆さんのロッカーも用意してありますよ」
 局長は、部屋の端を示した。
 大きなロッカーに、『ギコ』、『モララー』といったネームプレートが貼られている。
「…そんなもんまで用意してやがったのか。最初から、とことん抱き込む気だったんだな」
 ギコは、もう文句を言う気力もない。
 つかつかとロッカーに歩み寄ると、その中にM4カービンを仕舞った。

「女性の方には、ロッカーの代わりに個室を用意してあります。いろいろ大変でしょうからね…」
 局長は告げる。
 しぃは安心したような表情を浮かべた。
「…オレハ?」
 性別不詳であるつーは訊ねる。
「フレキシブルに対応できるよう、貴方には個室とロッカーの両方を用意していますが…」
 局長はそう言って腕を組んだ。

 しぃは、壁にかけられた時計を見る。
 午前6時。そろそろ明るくなる頃だ。
「モナー君達は大丈夫かなぁ…」
 しぃは呟く。
「心配はいらんだろ。ASAの奴等もついてるんだし」
 ギコは腕を組んで言った。
 彼らにも、この場所を連絡してやる必要があるな…

「まあ今頃、大海でバカンスを楽しんでるんだろうが…」
 ギコはそう言ってため息をつく。
 そんなはずがない事は、誰もが分かっていた。
 彼等は… 大丈夫なのだろうか。

「あんまり遅いようなら、少し様子を見に行ってやるか」
 ギコは言った。
「私も行く〜!!」
 いつの間にか来ていたレモナが口を挟んだ。
「オレモ!オレモ!」
 つーがはしゃぐ。
「おいおい、遊びに行くんじゃないんだ。それに、多人数で行くとここの守りが不安だろ?」
 ギコは2人を諌めた。
「それに、あくまで帰りが遅かった時の話だゴルァ」

 ギコは、広い部屋内を眺めた。
 要人達の多くは、電話機を手にして何かをしゃべっている。
 家族への連絡か、調査等の依頼や命令か…

 ギコはソファーに座り込むと、額に手を当てた。
 ヘリの中で、局長からモナークの話を聞いた。
 要人暗殺が目的だったにしては、腑に落ちない事が多すぎる。
 彼は、何者だ?
 あそこで、何をしていた?
 ギコは自問した。

 ――『教会』の影。
 そう。最も不気味な組織が、未だに表舞台に現れていないのだ。
 …奴等は何を企んでいる?

「…まあ、モナー達も大丈夫だろ」
 ギコは、言い聞かせるように言った。
 まるで、自身に根付いた嫌な予感を払拭するように。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

375:2004/05/21(金) 23:28

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その1」



 ASA第14艦隊、旗艦『フィッツジェラルド』。
 しぃ助教授は、その艦のブリッジから窓の外を眺めていた。
 眼下には真っ暗な海がどこまでも広がっている。
 遥か前方に、ありすが艦長のイージス艦『ヴァンガード』の姿がうっすらと見えた。

「…モナー君の様子は?」
 しぃ助教授は、外に視線をやったまま丸耳に訊ねる。
 後ろに控えていた彼は、素早く口を開いた。
「ねここの報告では、大人しく部屋で眠っているようです。
 どうやら、1日か2日でこの任務が終わると思い込んでいたとか…」

 しぃ助教授は微笑んだ。
「…モナー君らしいですね。で、帰るとか言い出しませんでしたか?」
 丸耳は首を振る。
「いえ。そのような事は無いようです。リナーさんを同乗させた事が功を奏していますね…」

「彼には、働いてもらわないといけませんからねぇ…」
 しぃ助教授は、腕を組んでため息をついた。
 ここから見える海は、無限に広がっている。
 そして、この海のどこかに確実に敵がいるのだ。

 丸耳は時計を見た。
 現在、午前5時。
 もうそろそろ、夜も明ける頃だ。
 彼は地図に視線をやった。
「横須賀から第1護衛隊群、佐世保からは第2護衛隊群の出港が確認されています。
 明日の夜には、危険海域に入るでしょう」
 丸耳は、海を眺めるしぃ助教授の背中に告げた。

「両艦隊共に、イージス艦が配備されていますね…」
 しぃ助教授は、艦長用の椅子に座りながら呟いた。
 丸耳は静かに頷く。
「…はい。そして、敵は海上自衛隊の艦隊のみとは限りません。
 本部ビルに海上からミサイル攻撃を仕掛けてきたのは、ロシアのバルチック艦隊でしたし」

「米海軍の第7艦隊に遭遇するのだけは避けたいですね…」
 しぃ助教授は大きく背伸びをして、そのまま頭上で腕を組む。
 丸耳は、地図をチェックしながら言った。
「そういう事態を避ける為、モナー君に乗ってもらったんでしょう?
 彼の探知能力は、用途によってはイージス艦搭載のフェーズド・アレイ・レーダーをも上回りますから」

「監視衛星が使えないのは、痛いですね…」
 しぃ助教授はため息をつく。
 ASAの所有する監視衛星は、米軍の電子戦部隊によってハッキングされたままなのだ。
「戦略衛星兵器『SOL−Ⅱ』はハッキングを逃れました。それだけでも幸いですよ…」
 丸耳は慰めるような口調で告げる。


 ブリッジに、職員の1人が駆け込んできた。
「各監視班から連絡が入りました。しぃとモララー、レモナ、つーの家を米兵が包囲しているようです!」
 職員は、報告書に目を通しながら告げる。

 しぃ助教授と丸耳は、同時に顔を上げた。
「米兵が…?」
 しぃ助教授は顎に手を当てる。
 丸耳は、しぃ助教授に視線をやった。
「米軍内だけで処理する気なんでしょう。なにせ、官邸に侵入した賊の1人は統幕長の息子ですからね。
 自衛隊の方には、そこらの報告は行かない可能性が高いと思われます」

「統幕長の息子が加担している事が自衛隊側に漏れれば、いろいろと面倒な事態になる…ってとこですか。
 とにかく、彼等がノコノコと家に戻るわけがないでしょうに…」
 しぃ助教授は艦長席から立ち上がると、再び窓の外を眺めた。
 考え事を抱えている時、彼女には遠くを眺めるというクセがあるようだ。

「しぃとモララーは家族と同居しています。その家族は現在も在宅中で、迅速な保護が必要です。
 監視班だけでは、家を包囲している米兵に太刀打ちできないと思われますが…」
 職員は続けて報告した。
 しぃ助教授は、表情を曇らせて顎に手を当てる。
「しかし、そっちに回せる兵員は…」

 丸耳が顔を上げ、無言でしぃ助教授を見た。
 まるで、何かを訴えるように。
 しぃ助教授は微笑んで言った。
「…許可します。貴方1人だけなら、ここからでも行けるでしょう?」

「了解しました。10分ほど席を外します」
 丸耳の背後に、彼のスタンド『メタル・マスター』のヴィジョンが浮かび上がる。
 その直後、丸耳の姿はスタンドと共に虚空に消え去った。
 ブリッジから、丸耳の気配が完全に消える。

「監視班は撤退してもらって結構です。彼が保護しに行きましたから」
 しぃ助教授は、報告に来た職員に告げた。
「はっ!」
 職員は一礼すると、ブリッジから出ていった。

「ギコ君達は、公安五課と結託しましたか。まあ、正面から敵対しないだけマシですかねぇ…」
 しぃ助教授は、誰もいなくなったブリッジで1人ため息をついた。

376:2004/05/21(金) 23:29



          @          @          @



 俺は、机から顔を上げた。
 荒廃した夜の教室。
 いい加減、見慣れた風景だ。

「今度は、何の用モナ?」
 俺は、教卓にもたれている男に訊ねた。
「…今度は、とは心外だな。私が意図して君を呼んだのは、まだ2回目だ」
 『殺人鬼』は、ぬけぬけと口を開く。
 つまり、前回は俺の方から勝手に来たと言いたいのだろう。
「それで、何の用モナ? 手短に頼むモナ」
 俺は、奴を見据えて言った。

「君の体の事で、伝えなければいけない事柄がある」
 『殺人鬼』は、珍しく即座に本題に入ったようだ。
 奴はそのまま言葉を続けた。
「…まず、君は吸血鬼にもかかわらず痛覚を持っている」

「え…?」
 俺は困惑した。
 そういえば、皮膚感覚は人間だった頃と変わりはない。
 『殺人鬼』は、当惑する俺を尻目に言った。
「それは、私がそういう風に君の回路を繋いだからだ。
 君のような緊張感のない人間が痛覚を失えば、戦闘において不利な面が多いからな。
 痛みというのは重要なシグナルだ。その感覚を大切にするがいい」

 緊張感のない、というフレーズに文句を言おうと思ったが、押し留まる。
 日中にカーテンを開け、危うく塵になりかけた事もあったのだ。
 確かに、我ながら緊張感がないとも言える。
 『殺人鬼』はさらに言った。
「それと、もう一つ。食事に関する感覚も、人間時のものに戻した。
 空腹感や満腹感、味覚等、人間だった頃と変わらないはずだ。
 血に関する過剰な欲求も、君の精神回路から排除してある。
 何故そうしたかは… あの娘を見ていれば分かるな?」

「…」
 俺は無言で頷いた。
 ここは、礼を言うところだろうか。
 しかし精神回路を他人にいじくられるのは、これっぽっちもいい気はしない。
「無論、私が手を伸ばせるのは君の感覚だけだ。
 血の摂取が不要になった訳ではないから、その点を誤るな」
 『殺人鬼』はそう補足した。
 昼食や夕食の時の疑問が、これで解けたようだ。

 …ともかく。
 俺は、こいつに謝らなければならない事がある。
 いかに『殺人鬼』がいけ好かない奴とは言え、この体は奴のものなのだ。
 しかし、その事に奴は触れてこない。

「…怒ってないのか?」
 俺は、『殺人鬼』に訊ねた。
「何をだ?」
 『殺人鬼』は聞き返す。
「お前、代行者だったんだろ? なのに、俺がこの肉体を吸血鬼にして…」
 俺は、躊躇しながら言った。

「…そんな事を気にするような感情は、とっくに削ぎ落とした」
 そう言って、『殺人鬼』は口の端を歪ませる。
「自身を存続させる為に、私自身の『殺す』という属性をより強化する必要があった。
 『蒐集者』が、愚鈍にも『最強』を追求し続けたようにな」

 俺は、無言で『殺人鬼』を見据えた。
 その表情は変わらない。
「――故に、今の私はこのザマだ。
 もはや、私はただの『殺人鬼』。殺す事のみを目的とした単一目的生物。
 『破壊者』としての理念や誇りなど、すでに私には無い」

「…」
 奴を真っ直ぐに見据える俺。
 知ってしまったのだ。
 こいつが何者なのか。
 そして、『蒐集者』との関わりを。

 『殺人鬼』は、俺の視線を振り払うように言った。
「それに、『アウト・オブ・エデン』は人間だった頃の君にはオーバースキルだった。
 吸血鬼の強靭な肉体と精神力があれば、以前より使えるようになるだろう」
「使えるようにって… 前からお前は言ってるけど、良く分からない。
 『アウト・オブ・エデン』は、視えるものを破壊できるスタンドじゃないのか?」
 俺は訊ねた。
 このやり取りは、今までに何度なされたのだろう。

 『殺人鬼』は口を開いた。
「私は、『蒐集者』を殺す為に存在する。
 故に『アウト・オブ・エデン』が『アヴェ・マリア』に劣るという事は絶対にない。
 何度も言うが、『アウト・オブ・エデン』は『視たものに干渉できる』スタンドだ」
「だから、それが…!!」
 俺は口を挟む。
 こいつの謎かけには、もう付き合っていられない。

「視たものを『破壊』できる以上、その逆も可能なのだ」
 『殺人鬼』は、俺の文句を封じるように告げた。

 ――その逆?
 『破壊』の反対は…

「『創造』だ」
 奴にしては珍しく、あっさりと答えを口にした。
 『創造』…?
 『アウト・オブ・エデン』で、一体何を造り出すというんだ?

377:2004/05/21(金) 23:30

 『殺人鬼』は、俺の疑問に答えるように言った。
「以前も言ったが、君は無意識にそれをやっている。
 君は『異端者』の戦闘技術を自身の肉体に『創造』し、それを自然に活用している。
 学校の屋上で『蒐集者』と戦った時には、『私』の戦闘技術を『創造』し奴を解体した」

 それも…『アウト・オブ・エデン』の能力?
 それが、視たものを『創造』するという事なのか?

「『異端者』と言えば…」
 『殺人鬼』は話を変えた。
「あの娘が助からないのは、君自身『アウト・オブ・エデン』でもう分かっているだろう?」
「…」
 俺は口篭る。
 そう。
 そんな事は分かってる。
 今さら、こいつに言われるまでも無い。

「だから、もうあの娘には構うな。どうせ抱こうともしない女だろう?
 君があの娘と最後の距離を置くのは… それ以上近寄れば、消えて無くなる予感があるからだ」
 『殺人鬼』は告げた。
 いつもの顔で。
 そのままの無表情で。
 俺は、奴を睨みつける。
 そんな事で、奴の言葉が止まるはずがない事は分かっていた。

「その予感はある意味正しい。思い残す事が無くなった人間など、脆いものだ。
 だが、結局は同じ事だぞ? 君がどう思おうが、結果は変わらない。それなら――」
「それなら、諦めてリナーを放っぽり出せって事か…!?」
 俺は机を叩いて立ち上がる。

 『殺人鬼』は言葉を続けた。
「殺した方がいいと言っている。あの娘自身、それを望んでいるはずだ。
 ならば、君自身の手でそれを――」
「黙れッ!!」
 俺は『殺人鬼』に駆け寄ると、その襟首を掴んだ。
 腕に力が込もる。
 『殺人鬼』の身体が、教卓にぶつかった。
 大きな音を立てて倒れる教卓。
 それでも、奴は涼しい顔を崩さない。
「お前には、殺す事しかないのかッ! リナーの事を知ってるくせに…!
 リナーがどんな生き方を強いられたか知っているくせに、お前はッ…!!」

「殺せないなら、君が守れ。最期の瞬間まで、命を賭けてな――」
 そんな事を、『殺人鬼』は言った。
 憤慨する俺を見、どこか安心したような表情を浮かべて。

 俺は、腕の力を緩めた。
 そして、奴の襟首から手を離す。
 『殺人鬼』は、襟元に手をやりながら言った。
「あの娘を闇に引き込んだのは、他ならない私だ。
 私が、あの娘を『教会』という闇に導いた。
 己の才覚… スタンドという異能ゆえに捨て子となっていた身。
 その忌み嫌われた異能を、少しでも活かせる場所を与えてやりたかったのだが… それも適わなかった。
 与える振りをして、私は彼女から奪ったのだよ。人並みの人生と、幸福な生活をな」

 俺は『殺人鬼』の顔を見た。
 奴も、俺の顔を見据えている。
 俺の目に、先程までの怒りはないだろう。

「あの娘は、自分が君を闇に引きずり込んだと自責しているが―― 最初に引きずり込んだのは私なのだ」
 『殺人鬼』は告げた。

 それは――
 それは違う。
 こいつのやった事は、間違ってはいない。
 こいつは… 人と異なる能力が、持ち主の人生を破壊する事があるという事を知っていた。
 その力が大きければ、大きすぎる程に。
 こいつが捨てられていたリナーを見つけた時、何を重ねたのか。
 『蒐集者』の姿か、それとも自分自身か。

 こいつは、教えたかっただけだ。
 世の中には、暗い事ばかりじゃないという事を。

「私が拾わなければ、あの娘は幸せに生きる事ができたのか――?」
 『殺人鬼』は自問するように言った。

「悪いのはお前じゃなく、『蒐集者』が…」
 俺の言葉は、言い終える間もなく否定される。
「あいつの変調に寸前まで気付かなかったのも、この私だ。
 『教会』の腐敗、『蒐集者』の崩壊、枢機卿の暗躍。それを見過ごした私の罪。
 あいつをあそこまで追い込んだのも、おそらく私だろう」
 そう言って、窓の方に歩み寄る『殺人鬼』。

 そんな救えない話があるか?
 リナーは『蒐集者』の手に落ち、こいつは『殺人鬼』に身を落とした。
 『蒐集者』を殺す為だけに――
 そのように自らを定義したのだ。
 そう、誰も救われない。

378:2004/05/21(金) 23:31

「あいつは、もう死んだ方がいい。無論、私もな…」
 窓枠に手を添え、外を見ながら『殺人鬼』は言った。
 まるで、闇に包まれた夜空に何かが見えているかのように。
 俺は、その背中に何も言えなかった。

 そして、『殺人鬼』は俺の方を向く。
「君とあの娘との出会い。これは『教会』の長、枢機卿に仕組まれたものだ。
 以前の私と関わりのあった娘を送り込む事で、『私』の覚醒を促したのだろう」

 やはり、偶然じゃなかったのか。
 仕組まれた出会い。
 それも、薄々気付いていた事だ。

 『殺人鬼』は言葉を続けた。
「そして、それは『教会』の目論見通りとなった。
 君は『私』の強さを徐々に取り戻し、『私』自身も存在がより明確化した。
 だが… ただ1つだけ、向こうが意図していなかったことが起きた」

「…?」
 『殺人鬼』の顔を見る俺。
 奴は、俺の目をしっかりと見据えて言った。
「それは、君と『異端者』が愛し合ってしまったことだ」

 …!!
 真面目な顔をして、こいつは何を…!!

「そ、それは関係ないモナ!!」
 俺は思わず叫んだ。
「何を照れている? 戦闘において、色恋沙汰は多いに有効だ。
 惚れた女を守る際、男は不相応な力を発揮するものだと相場は決まっている」
 少しだけ、ニヤついているようにも見える。
 明らかに俺をからかっているのだ。
 こいつ、格好つけて何が『感情を削ぎ落とした…』だ!
「モ、モナは、そんなんじゃなくて…!」
 俺はとにかく否定する。

 『殺人鬼』は、一転して真剣な表情を浮かべた。
「私は、周囲を不幸にすることしかできなかった。
 『蒐集者』も、あの娘も、その妹も、誰1人救えなかった。だから――」
 確かな目線で俺の顔を見る『殺人鬼』。
 その目には、確固たる意思が宿っていた。
「――君が救え。せめて、あの娘だけは君が救うんだ」

「…ああ、約束する」
 俺は頷いた。
 確か、しぃ助教授とも同じような約束したはずだ。
 まさか、こいつが同じ事を口にするとは…


 突然、地面が大きく揺れた。
「地震…!?」
 俺は、教室の床に視線を落とす。

『朝だよー!!』

 どこからか素っ頓狂な声が響いてきた。
 女の子の声だ。
 どこかで聞いた事があるような…

「現実世界の君は、ASAの艦内で就寝中だ。賑やかな事だな…」
 『殺人鬼』は、呆れたように言った。

『朝――ッ!!』

 教室が崩壊する。
 天井が、窓が、床が、机が、椅子が、ガラガラと崩れ…

「―――――――−−…」
 そして、『殺人鬼』は俺に何かを訊ねた。
 奴は何と言ったのか――

379:2004/05/21(金) 23:31



          *          *          *



「起きろ――!!」
 腹に衝撃。
 俺は、ベッドで眠っていたはず。
 一体何事だ…!?

「朝――!!」
 この声は… ねここだ。
 ねここが、俺のベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
 大きな声で、朝の到来を訴えながら。
 たまに腹や足を踏んづけるので、かなりのダメージだ。

「お、起きてるモナ…! 止めるモナ…!」
 俺は動転して言った。
 何だこれは。
 ASAでは、これが普通の起こし方なのか…?

「いたた…」
 俺は呻きながら体を起こした。
 保健室に似た、窓のない部屋。
 ここは、ASAが所有するイージス艦『ヴァンガード』。
 ゲストである俺に与えられた部屋だ。

「おはよう! 今日もいい天気だよ」
 ベッドに乗っかったまま、ねここは元気良く言った。
「ああ… おはようモナ」
 俺は、ねここに挨拶を返す。


「…朝から何を騒いでいる?」
 リナーの声。
 同時に、俺の部屋のドアが開く。

 これはヤバイ。
 そう。
 俺のベッドの上には、ねここが乗っかっているのだ。
 宇宙ヤバイ――

 ドアが完全に開いた。
 そこには、リナーが立っている。
「こここ、これは違うモナ!!」
 何が違うのかは分からないが、俺はとにかく叫んだ。
 同時に『アウト・オブ・エデン』を発動して、猛攻に備える。

「…Va te faire foutre」
 リナーは俺とねここを見てそう呟くと、ドアを閉めてしまった。
 その残響音が部屋中に冷たく響く。


「…さすがモナーさん。朝からラブコメ爆発ですね」
 ねここは他人事のように言った。
「…誰のせいだと思ってるモナ」
 俺は嘆息する。
 なんで、朝の早くからこんな目に…

「さっきのリナーさんの言葉の日本語訳、聞きたいですか?」
 ねここは、ようやくベッドから降りて言った。
「頭痛がしそうだからいいモナ…」
 やれやれ。
 何とか誤解を解かなければならない。
 まあ… ギコと違って、こちらにやましい事はないのだ。
 説明すればきっと分かってくれるだろう。

「朝食は、食堂で適当に済ませて下さいね」
 ねここは言った。
 食堂の場所は、昨日の夜に案内されている。
「…で、モナはいつ働けばいいモナ?」
 俺はねここに訊ねた。
 それに対し、少しだけ真剣な表情を浮かべるねここ。
「まだ、この艦隊は安全域にいます。今日の夜には危険域に入るでしょう。
 モナーさんの出番はその時ですね…」

「それまでは、適当に過ごしていいモナか?」
 俺は訊ねた。
 ねここは頷く。
「…じゃあ、私は朝の配達人から副艦長に戻ります。
 リナーさんに塵に還されるのはイヤなので、今朝の誤解は解いといて下さいね」
 そう言い残して、ねここは素早く部屋を出ていった。

 …だったらやるなよ!
 と、ねここの出ていったドアに向かって呟いたのは言うまでもない。
 さて、夜までは自由と言っていたな。
 …と言っても、特にする事はない。
 ねここの仕事の邪魔をするのも悪いし、ありすは怖いし、他に知り合いもいないし…
 やはり、リナーと仲直りするのが先決のようだ。

 ふと、鏡の中の自分と目が合った。
 何も変わらない普段の俺の顔。
 そして、『殺人鬼』として存在を特化させた『私』の顔。
 『殺人鬼』は、さっきの夢の中で最後にこう言ったのだ。

「彼女にとって『死』が救いとなるならば、君は本当にそれが出来るのか――?」と。


 俺は大きく首を振った。
 くすぶっていた眠気が、俺の体から離れていく。
「やれやれ、朝からリナーのご機嫌取りモナか…」
 俺は呟きながら、ベッドから腰を上げた。
「さ〜て、どうするモナ…?」
 どうしたら機嫌を直してくれるのだろう。
 武器庫から銃器を失敬して、プレゼントするとか…

 俺は、欠伸をしながら部屋を出た。
 日光は浴びれないが、今日もいい天気だ。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

380丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:38




  さああああっ―――――…

 SPM財団がスポンサーとなっている、とある高級ホテル。
最上階のスイートで、一人の少年がシャワーを浴びていた。
普通の三倍はありそうな浴槽に、無数のしぶきが小さく踊り散った。

  さあああああっ―――きゅっ。

 シャワーを止めて、ざっと頭をかき上げる。
水音が途切れ、しぶきが波紋へと穏やかに変わっていった。

 頭のてっぺんに付いた丸い耳が、ぴくり、と揺れる。
ふぅ、と溜息を一つ、浴槽のカーテンを開けて―――

「お風呂好きですねぇ。君は」
 ―――開けた先に、一人の少女がタオルと着替えを持って立っていた。
唇の端をつり上げた薄い笑みを浮かべ、全裸の少年を遠慮の欠片もなく眺めている。

「…人の浴室に勝手に入ってきて…何、やってるの?」
 とりあえずタオルを受け取って、丁寧に水滴を拭った。
お互いに、異性に裸を見られて大騒ぎするほど上品な環境で育ってはいない。
「あはは、『人』じゃあないでしょう?」
 着替えを渡しながら、少女が笑った。
「揚げ足を取らない…で、どしたの。僕の裸眺めに来たって訳じゃないでしょ?」
「それも目的でしたけどね。…お客さんが来てますよ」
 薄い笑みを浮かべたまま、少女が続ける。
「変な人でしてねぇ。右腕も顔もなかったとかシャムが言ってました」
「…そう…会ってみようかな」

  ひくくっ。

 あまりに考え無しな少年の声に、少女の笑いが引きつった。
「あ…あのですね…?別に君が直接会う必要は無いのですよ?
 追い返すかどうか判断してくれればいいだけだし、
 そもそもそんな怪しさ大爆発な人に面会して何するんですか。
 自覚ないみたいだけど、君は『ディス』の…私達のリーダーなんですよ?」
「あはは、大丈夫だって。だいたい僕達だって、その手の怪しさなら負けてないでしょ?」
「いえ、ですからそう言う問題ではなく…」
 言葉を遮るようにばさりとジャケットを羽織り、少女の頭を撫でた。
「僕の能力…忘れた?」
 今だ幼さを残した顔が笑みを作り、頭の上で先の丸まった耳がぴこぴこと揺れる。

「生きるか死ぬか…ガチンコの戦いで僕の『エタニティ』に勝てる奴はいないだろ?」
 困ったように笑う少女を後ろに、上着の裾を翻して部屋を出て行った。

381丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:38




 診療所のソファに、茂名が肩を落として座り込んでいた。
軽い焦燥の浮かんだ顔に、ぺとりと冷たい感触。
 見ると、スポーツドリンクの青い缶が視界の右半分を埋めていた。
更に首をめぐらせると、小柄な体に細い腕。

「差し入れです」
「…なんじゃ、ジエンか。…フサも来とるようじゃの」
 差し出されたスポーツドリンクを受け取り、キャップを外す。

「まあ、『ロリガン』なら地球の裏側でもひとっ飛びですからね…ところで、彼女の容態は?」
「峠は越したのぅ。肌がちょびっと白くなって、日焼けをしやすくなる…それだけじゃ。
 銀のでアレルギーが起きるでもなし、波紋で苦しみのたうち回るでも無し…
 日常生活に影響はない。…で…マルミミは、どうなる?」

 心配そうに、ジエンと目を合わせる。
誰も死者は出ていなかったとはいえ、マルミミは人を食いかけた。
いつの日かその時が来るかもと、覚悟は決めている。
それでも、いざとなれば浮かぶのは『人喰い』の姿ではなかった。
父と母が死んで初めて会った日、『鍛えてくれ』と頼まれた時の真っ直ぐな瞳。
虐待された女子供を運び込むときの、哀しみと信念に満ちた瞳。


 そんな茂名の葛藤を余所に、、全く口調を変えないままジエンが答えた。
「心配は無いでしょうね。マルミミ君は対吸血鬼用のワクチン研究に欠かせない存在…
                                      トリックスター
 SPMが彼を抹殺することはあり得ません。彼は唯一無二の『変動因子』ですからね」

 何となく肩すかしを食らった気分で、肘をついていた茂名の頭がずり落ちた。

「つまり…『お咎め無し』じゃと?」
「まぁ、そうなりますね。」
「なんじゃい…せっかく人が葛藤してるのに、あっさり無罪宣告とはのぉ」
 何やら不謹慎な茂名の言葉に苦笑して、ジエンがたしなめた。
「無いならば無いで良いではありませんか」
「ま、そうじゃがのぉ…」
 手慰みに、片手でスチール缶をぐちゃり、と握り潰す。


 『対吸血鬼用ワクチン』の開発は、SPMの課題の一つだ。
彼の息子…茂名 二郎も、嫁の為にプロジェクトに関わっていたらしい。
 だが、まだ現在は吸血鬼や屍食鬼に堕ちた人間を治せるほど開発が進んではいない。
しぃが人間まで戻れたのは、吸われて一分も経っていないうちからの迅速な処置と、
茂名という波紋使いや病院内という好条件のおかげだった。

 遺伝子までを蝕む『石仮面』の呪いに太刀打ちできる薬の開発はまだ遠い。
その為に、『人間』と『吸血鬼』の遺伝子が拮抗しながらも共存するマルミミの肉体は、これ以上ないサンプルだった。
 通常、吸血鬼と人間の間で子を成すことはほぼ不可能と言っていい。
SPMの記録によれば過去にも何人かは生まれたらしいが、殆ど人間同士の交配と言っていいものらしい。

 そんな中でただ一人だけ、人間を超える運動能力、再生力、生命力、吸血能力を持つ変わり種…
彼の希少価値は、これ以上なく高い。                    ヒ ラ
 以前にも何回か体液などを提供したことがあるが、研究局の方では解剖きたいと言うのが本音だったらしい。
もっとも茂名の眼が黒いうちはそんなことをさせる気は毛頭無いし、それ以来はそんな通告も来ていない。
とにもかくにも一安心し、顔を上げてスポーツドリンクを一口あおった。

「で…『チーフ』とフサはどうした?」
「彼等はしぃさんの記憶を消してる最中です」
「そうか…」

382丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:40




「ぎゃあ七時までには帰るといった筈なのに、ぎゃああの人はふさたんとの約束などどこ吹く風とばかりに残業を〜…」
「ええい黙るデチッ!」
 一声叫ぶと、文字通り獲物を掴み取る鷲のごとくフサの尻を鷲掴みにした。
「ひぎゃあっ」
「あんまりガタガタ言ってるとボクの山芋でその口塞いで自然薯汁ブチ込むデチよ」
「ぎゃぁっ、ふぁ、ひんっ」
「判ったら静かにしてるデチ。ボクだってシッポリマッタリしたいのはヤマヤマデチ」

 ぶつぶつとぼやきながらも、『チーフ』が呼吸を整える。
しぃの頭に手を置いて、静かにスタンドを呼び覚ました。

  タブー
「『禁忌』―――――」
                 コード デーモン
  SPM財団危険度評価D、呼称『悪魔』。
持続力も数分程度で、ヴィジョンもないために物理的な破壊力はB・T・B以下…と言うよりも、全くのゼロ。
 それでも彼の能力を知るSPM構成員で、彼を恐れない者はいない。

「失礼するよ…」

 その能力は、ほぼ全てのスタンドが持つ基本的な物の延長線上に過ぎない。
思念を送っての意思疎通、スタンドでの会話…一般的な言葉を使うならば、『テレパシー』。
 だが、その干渉力は桁が違う。
マルミミのB・T・Bも鼓動を読みとる読心術を使うが、それはあくまで『逆算』と『推測』を経た物だ。
 彼の『タブー』は、そんな過程をすっ飛ばして直接心を覗く。
表層心理の下らない妄想も、古くに付いた心の傷も、魂の底に澱む己の本性も―――
全てを、白日の下にさらけ出す。                         タブー
 それは一人の人間が持つにはあまりにも過ぎた能力―――すなわち『禁忌』。


 目を閉じる。
彼女の体が水溜まりに変わり、その中に体ごと沈む自分自身をイメージした。
 ぽたりぽたりと落ちる点滴の音も、鼻につんとする病院の匂いも、全てが遠のいていく。
五感を全て切り離し…ずるん、と自分の精神をしぃの中へ侵入させた。
 『チーフ』の体からくたりと力が抜け、それをフサが慣れた手つきで支える。


 しぃの眉がぴくぴくと顰められ、また通常の寝顔に戻る…記憶の操作が終わった証拠だ。
『タブー』の発動からここまで、僅か数秒足らず。
 抱えられたままの『チーフ』が低く呻き、


―――――うわ
                                 嫌だ
               何                    こんな傷が
                       傷が    消えない        哀しみ
            傷が                 やめ              痛い
                     傷が                 傷が         傷が
                 ぅあ  ああ         ああああああああああああああ―――ッッッッッ !! !!



 ずきん、と激しい頭痛がフサを襲った。
頭の中に、感情の奔流が凄まじい勢いで流れ込んでくる。

383丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:40
 証拠の隠滅だの何だのに非常な便利な能力ではあるものの、『タブー』には一つだけ『副作用』があった。
精神干渉によって自我が緩む―――すなわち、思念の流出。

 何時だったか、その勢いに当てられた一般人が発狂したと聞いた事がある。
「ぎあっ…!?落ち着いて!」
 自分の腕の中で必死に暴れる『チーフ』を、ぎゅっと抱きしめる。
「うわっ…あっ…!」
「落ち着いて…!息を吸って…吐いて…はい、2・3・5・7・11・13・17―――――」
 その甲斐あってか、だんだんと『チーフ』が落ち着きを取り戻してきた。
流れ込む思念が弱まり、潮の引くように頭痛が治まっていく。

「…どうした…?貴方ともあろう者が、そこまで取り乱すとは。彼女の精神に、何か?」
「『何かあった』なんて物じゃないよ…!」
 お互いにふざけた言葉遣いも忘れ、かたかたと震えながら二人が息を吐いた。
                    ト ラ ウ マ
 心の中に流れ込む、桁外れの心的外傷。
本来なら外に向けられてるはずの憎悪だの何だのが、全部内側に向かっている。
 そのせいで、消えていくはずの傷がいつまでも治らずにあちこちで腐り始めていた。
マルミミや茂名も相当な『歪み』を持っているが―――


  ―――『腐臭』に満ちた精神なんてモノ、生まれてこの方見たこともない―――!



 がちがちがちがち、焦点の合わない目で奥歯をならす『チーフ』を見る。

 人の心の、本人すらも気付かないような『澱み』。
それを見てしまった人間は、はたしてどんな思いを抱くのだろうか。

 二、三回ほど深呼吸して、冷や汗を拭う。
「…とにかく、記憶の処置は終わったよ。『吸血』に関しての記憶は繋がりを切ってあるから、
 後は大量の血を見せたり…刺激を加えない限りは忘れてる筈…出るよ」

 こつこつと部屋を出る間際、もう一度しぃの方を振り向いた。

「無力な…モノだね。異能の力を持ってても、女の子一人救えない」
「『タブー』で傷を消すことは?」
「無理だよ。『タブー』でやれるのは『繋がりを切る』…『忘れさせる』事だけだ。
 僕の能力で『傷』の記憶を断ち切っても、また何かのきっかけで思い出す。
 そうしたら、余計に傷が広がるだけだ。
 『心の傷』っていうのは、本人がどうにかして乗り越えていかないといけないんだよ」
「彼女に…それが出来る?」
「さあ…ね。この診療所には、優しい人が沢山いるけど…可哀想にね。
 彼女は『傷』に邪魔されて、受け止められるはずの優しさも見えてないんだ。
 …綺麗なモノが見えない人間と、醜いモノまで見えてしまう人間と…一体、どっちが不幸なんだろうね」

「…私には、判らないよ」
「デチねぇ…人間は楽しいことだけやって生きてればいいんデチよ」
 そう言うと、ずりずりとフサを隣の病室に引きずり込んだ。
「さて…記憶消した時点で本日の勤務はおしまいデチ。よって…」
「ぎゃあ何をするのかと聞くことにも意味はなく」
 がぱり、といつの間にやら持っていたアタッシュケースが開かれた。
中に入っているのはお約束の如く、可愛らしい色に凶悪なデザインの―――

「初登場以来のシッポリ マッタリ デチ〜♪」
「ぎゃあシリアス空気ぶち壊し」

―――ちなみに翌日、イロイロでエラい事になったベッドシーツを二人で片づける事になったのは言うまでもない。





  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

384丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:43
〜オマケ〜 丸耳達のビート Another One 
          ―――の、そのまた Another One:あの時アレがコレならば



/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 今ならまだ間に合う。
| 『魂食い』を渡せば殺しはしない…

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                       yahoooo!yahoooo!
     ∧∧                    ((从ル))
    (,,゚Д゚)                  ル*´∀`)リ   ∩_∩
    (|  |)                 ノミ.三三つ   (´ー`;)
   〜|  |                   ミ===)     (   ヽ
     し´J                   (ノ ヽ)    と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                              | 必死こいて走り回ってたから…
                              | …気付いてなかったろ?
                              | 小さく小さく…ビルが揺れてるの。
                              \______________

385丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:43
           __ ヽヽ   ―――
          /  /      ____                                  │ │
           /           /              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・     │ │
          /           /     \\ /                     │ │
                     /         /                      ・  ・
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| なっ…!地震だと!?
| こんな時に!

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                               て
     ∧∧                    ((从ル))  そ
    (;゚Д゚)Σ                ル;´д`)リて  ∩_∩
   ⊂   ⊃                 ノミ.三三つ   (´ー`;)
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄
                              |   …ハズレ。
                              \________

386丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:45


                                   ガラガラッ


                                      | │ | |
 / ̄ ̄ ̄                             | │ | |        
 |  あ。                             | │ | |        
 \                                       
    ̄|/ ̄                           /`´ヽ,`フ   ゴッ!
     ∧∧                    ((从ル))   |;`(´ ` ;゛]  
    (;゚Д゚)Σ                ル;´д`)リ  └,_ヽ_`,コ て
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ   (´Д`;)  そ
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ  て
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                              | シャマードを只の人食いとしか
                              | 見てなかった…
                              | それがお前の敗い ブッ
                              \___________

387丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:45



                                  /`´ヽ,`フ
     ∧∧                    ((从ル))   |;`(´ ` ;゛]  
    (;゚Д゚)                 ル;´д`)リ  └,_ヽ_`,コ 
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ   ( Д ;)
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 結局…何がやりたかったんだ…?

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                                       ∩_∩
     ∧∧                    ((从ル)) ?     (*´∀`) ウワァイ キレイナ カワダヨー
    (;゚Д゚)                 ル;´д`)リ       ( )
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ       (
  〜(  ノ⊃                   ミ===)         )
    U                      (ノ ヽ)   ⊂⌒~⊃。Д。)⊃
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

388ブック:2004/05/23(日) 01:18
     EVER BLUE
     第十五話・CLOUD 〜暗雲〜


 薄暗くじめじめした石造りの牢獄のような部屋の中に、一人の男が投げ込まれた。
 すぐさま鉄格子が施錠され、男が部屋の中に閉じ込められる。

「…が……」
 男は力なくうつぶせに倒れ、低く獣のように呻く。
 男の体には、二つの頭と口、そしてみっつの耳と足があった。
 それは紛れも無い奇形だった、

「ふん。たったあれしきで力を使い果たし、
 あまつさえろくな成果も残せぬとは…やはり、出来損ないだな。」
 メタリックカラーのドラム缶のような体の男が、部下らしき者を横に倒れた男を見下す。
 その声には、電子音が混ざっていた。

「……ねぇ…」
 男の目がギラリと光った。
 次の瞬間、奇形男がドラム缶男目掛けて飛び掛かる。

「俺は出来損ないなんかじゃねぇええぇ!!!」
 しかし、男の突進は堅牢な鉄格子によって阻まれた。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
 ドラム缶男が取り出したスイッチを押すと、
 奇形男につけられた首輪から高圧電流が流れた。
 男が苦悶の表情を浮かべて絶叫する。

「それだけの力が残っているならば、少しは成果を残したらどうだ、奇形モララー?
 『カドモン』を創るのも、育てるのも、飼うのも、只ではないのだぞ。
 それを、貴様は失敗の為だけに使いおって…」
 悶絶する奇形男を、ドラム缶が睨みつけた。

「…歯車王様、そろそろ。」
 と、ドラム缶男の横に居た長耳の男が、ドラム缶男に声をかけた。

「ああ、そうだな。
 いつまでもこんな出来損ないに構っている暇は無い。」
 歯車王と呼ばれた男が奇形男に背を向けた。

「てめえええええええええぇぇぇぇぇああぁ!!!!!」
 奇形モララーが食い下がろうとする。
「GHAAAAAAAAAAAAA!!!」
 しかし、再び電流が彼の行動を封じた。
 黒焦げになり、奇形モララーは今度こそ失神した。


「…やれやれ。手間のかかる奴だ。」
 気絶した奇形モララーを一瞥もしないまま、歯車王は歩き出した。
 その横を、長耳の男が併行する。

「しかし、あの『カドモン』を失ったのは正直痛いな。
 あれ程の成功例、果たして再びあ奴に生み出せるかどうか…」
 歯車王が顎に手を当てる。

「ご安心を。
 選りすぐりの腕利きを寄越しましたので、必ずや手元に戻ってくるかと。」
 長耳男がうやうやしく進言する。

「…だが、いかんせん時間がかかるのではないか?
 時は、無限ではないのだぞ。」
 歯車王が渋る。

「その点はいたしかたありません。
 あまり派手に動いては、他の国に感づかれてしまう可能性がありますので…」
 長耳男が諌めるように告げる。

「…ままならんものよな。」
 歯車王が溜息をついた。

「焦っても解決はしません。
 今は、吉報を待ちましょう。」
 長耳男はそう言って、不気味な笑みを浮かべるのであった。

389ブック:2004/05/23(日) 01:19



     ・     ・     ・



 僕とオオミミ達はこれから先の進路を定めるべく、ブリッジに集合していた。
「…で、どうするんだ?」
 三月ウサギが、サカーナの親方の方を向く。

「取り敢えず、これを見てくれ。」
 サカーナの親方が高島美和に指示を促す。
 すると、ブリッジのディスプレイに世界地図が映し出された。

「いいか、野郎共。
 俺達は、今この辺りにいる。」
 赤いマーカーが地図のやや南東部分を指差した。
 その部分の周りは空の海だらけで、申し訳程度に小さな島がポツポツとある位だ。

「見ての通り、ここら辺には大きな島も無く、治安もあまり良ろしくねぇ。
 こんな所をちんたら渡ってたら、『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の連中に
 どうぞ襲って下さい、って言ってるようなもんだ。」
 誰の所為で襲われる破目になったんだ、とも思ったが、
 言っても事態は大して変わらないので黙っておく事にした。

「そこで、だ。
 まずは近くの国の勢力圏に入るのが先決だと思うんだが、どうだ?」
 サカーナの親方が皆の顔を見回した。

「私は特に異論有りませんね。
 一度どこかの国家勢力圏に入れば、
 『紅血の悪賊』も憲兵を気にして大きくは出て来れないでしょうしね。」
 高島美和が静かにお茶を啜った。

「問題はどこの国に行くのか、だなフォルァ。」
 ニラ茶猫が軽く背伸びをした。

「だったら、『ヌールポイント公国』はどうですか?
 あそこならある程度の力もありますし、
 中立的な立場の国ですから『紅血の悪賊』以外にも、
 他の国からも手出しし難くなると思いますし。」
 カウガールがはきはきとした声で答えた。

「俺もそれが良いと思う。」
 オオミミもカウガールの意見に賛同した。

「私はそういう事には疎いので、皆さんにお任せしますよ。」
 この船の乗組員でもないのに、何故かしたり顔でタカラギコが口を開いた。
 その背中にはあの巨大な十字架を担いでいる。
 どうやら、サカーナの親方から正式にパニッシャーを貸し出して貰えたらしい。

「…しかし、いいんですか?
 私にこんな大層な武器を渡してしまって。」
 タカラギコが試すような視線をサカーナの親方に向けた。

「なに、使って貰えた方が、その得物だって嬉しいだろ。
 それに…」
 サカーナの親方が目を細める。

「そんな得物を使った所で、俺の『モータルコンバット』は殺れねぇよ。」
 一瞬サカーナの親方から湧き出る殺気。
 直接殺気を向けられた訳でもないオオミミの背筋に、ぞわりと鳥肌が立つ。

「それはこわいですねぇ…」
 対して、殺気を直接受けた筈のタカラギコは普段と変わらぬ感じで飄々と返す。
 あれだけの殺気を受けて平気とは、この人本当に何者なんだ?

「…それで、結局『ヌールポイント公国』に行くのか?」
 サカーナの親方の殺気のせいで固まってしまった空気を払拭するかのように、
 三月ウサギが尋ねた。

「そうですね…
 恐らくそれが無難な線でしょう。」
 高島美和が頷いた。

「ま、それがいいんじゃねぇか?」
 ニラ茶猫も首を縦に振る。
 つーかお前何も考えてないだろ。

「…おっしゃ、決まりだな。」
 サカーナの親方が近くの手すりを一度叩いた。
「あと一時間程で『あぼ〜ん島』ってとこに着く。
 本来なら寄り道してる暇は無いんだが、どうやらガス欠みたいだからよ、
 そこで燃料、武器の補給だ。
 そっからはノンストップで『ヌールポイント公国』まで突っ切るぞ!」
 サカーナの親方が激を飛ばした。

「それじゃ、各自解散!!」
 その親方の鶴の一声で、各人がそれぞれの持ち場へと戻って行った。
 さてオオミミ、まだ少し時間があるみたいだし、部屋でゆっくりと…

「天、ちょっと待って。」
 と、オオミミが思いもよらぬ行動に出た。
 オオミミ、何だってそんな女に話しかけるんだ?

「何よ?」
 迷惑そうな顔で、天がオオミミに聞き返した。
 こいつ、人にはずけずけと話しかけるくせに、何て態度だ…!

「少し聞きたい事があるんだけど、いいかな…」
 オオミミが、真面目な顔でそう天に告げるのだった。

390ブック:2004/05/23(日) 01:19



     ・     ・     ・



「マジレスマンを連れて参りました。」
 縛られたマジレスマンを引っさげて、山崎渉が男の前へとひざまづいた。

「ご苦労だったな。」
 男が山崎渉を下がらせる。
 男の瞳はまるで猛禽類のような鋭さで、その口からは二本の牙が覗いていた。

「お…お許しを…!
 しばし時間を下さい!
 そうすれば必ず取られたモノを取り返して…」
 しかし、マジレスマンの言葉はそこで止まった。
 それと同時に、マジレスマンの首が独りでに後ろに曲がっていく。

「あ…やめ……助け…!」
 マジレスマンが必死に許しを懇願するも、
 その首は止まる事無く後ろに捻じれ続けた。

「ひぎぃ!」
 ついに負荷に耐えられなくなったマジレスマンの首の骨が、鈍い音を立てて破壊された。
 それでもなおマジレスマンの首はさらに捻られ、
 丁度一回点半した所でようやく動きを止めた。

「…捨てておけ。」
 汚い物でも見るような表情で、男が山崎渉に告げた。

「はっ。」
 山崎渉がマジレスマンの死体を担ぐ。

「後の指揮はお前に任せる。
 せいぜいそこの死体の尻拭いをしてやる事だ。」
 男が山崎渉に顔を向ける。
 その目は、まるで氷の様に冷たかった。

「はっ…」
 山崎渉は一礼すると、男の前から去って行った。
 部屋の中に、男だけが残される。

「…さて、この失策がどのような方向に転がるのか……」
 男が呟いた。
 その言葉は、薄暗い部屋の闇の中に静かに溶け込んで消えていくのであった。



     TO BE CONTINUED…

391N2:2004/05/23(日) 12:20

━━━━━━━━━━━━━━━

  まもなく
  『ギコ兄教授の何でも講義』が
  始まります

              ∩_∩
━━━━━━━━━ |___|F━━   ∧∧
              (・∀・ ;)        (゚Д゚ ;)
        ┌─┐   /⊂    ヽ    /⊂  ヽ
        |□|  √ ̄ (____ノ   √ ̄ (___ノ〜
      |   |  ||    ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | …えーっと、これ、どゆこと?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  …俺にもよく分からんぞゴルァ…
         \________________

392N2:2004/05/23(日) 12:21

 リル子さんの奇妙な見合い その④

少女がリル子さんへと突進した。
さっきリル子さんが「肉体強化型」のスタンドだと言っていたが、
どうやら強くなっているのは彼女の体毛だけではないらしい。
歳相応の運動能力を遥かに超越した速さで、少女が駆ける。

「…なかなか面白いスタンドですわ。
こういう類のものは使用者が少ないですからそれなりに楽しめそうですわね」
(最近戦ったのはザコばっかしだったからなあ…)
リル子さんはそんな少女を余裕を持って観察している。
必死に抑えているようだが、「戦」に対する興奮が口元にうっすらと現れているようにも見える。

「串刺しみるまらー!」
対する少女も針の隙間から覗く顔は異様な明るさを誇っている。
二人ともそんなに戦うのが好きなのかい。

間合いが詰まり、少女のパンチがリル子さんの胸目掛け繰り出される。
まともにヒットすれば、心臓が穴だらけになって即死ものだ。
が………

「ですが…」
(だがな…)
――あえてギリギリまで拳を引き付けて

「戦いには年季の差というものが…」
(だてに三十路を過ぎてるわけじゃ…)
――実力差を見せ付けるように寸での所で拳をかわし

「存在するのですよッ!!」
(ねえんだよッ!!)
―――拳を糸で絡め、全身ごと畳に叩き付けた。

胴から落っこちた為、肺に強い衝撃を受けて少女が苦しそうに咳き込む。
針で全身をガードしていたにも関わらず、あれだけのダメージ。
生身で受けていたなら一発で再起不能になっていたのだろう。

「…ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ
お前、だれ?」
彼女もオレ達を狙って来たのに全く関係の無い(と思っている)女に痛め付けられて、
自分の予定が大幅に狂ってしまったことに混乱しているらしい。
今にも泣きそうな顔で少女が聞く。

「そうですね…喩えるなら」
(そうだな…率直に言えば)
リル子さんがやたらと嬉しそうに少女の元へと歩み寄り、
勝ち誇った顔で彼女を見下ろす。

「『サザンクロス・悪の主役』…とでも言っておきましょうか?」
(スーパー完璧美人アナウンサーにして『サザンクロス』真のボスである
ハイパーワーキングウーマンリル子様に決まってんだろ!ガキが!!)
控えめ、と言うよりかは自虐的なコメントをリル子さんは吐いた。
…が、そこには彼女の余りに自尊的で奢り高ぶった本心が見え隠れしている。
つーかあんたはそこまで自意識過剰だったんかい。

「…リル子さん、カッコいいんだな!!」
(何だかよく分からないけど強い女性ハァハァ)
モララーは事態を全く把握していないようだが取り敢えずリル子さんが優勢ということは分かるようだ。
ここで騒ぎ立てられたら事態が悪化しかねないだけに、こいつが馬鹿で助かった。
褒められたリル子さんはリル子さんで、愛想笑いすらしてあげない。

393N2:2004/05/23(日) 12:24

さて、対する少女はどうしたかと言うと、
今度は非常に落ち込んだ表情をしてなにやらぶつくさ言っている。
「批判要望板はスクリプトでうめられた。
今みんなで再建している。
思い出したくないんだ。みんな口にださない。」

…何者だ、こいつ?
「みるまらー」という訳の分からんフレーズを連発したかと思えば、
今度は笑ったり落ち込んだり。
こいつには、確固たる感情とかそういう物が無いのだろうか。

ともかく、変人揃いの「サザンクロス」に居ても
ここまでデムパ(・∀・)ハイッテル奴に会うことはそうそうある事ではない。
さしものリル子さんも少女の行動には僅かながら不気味に感じるものがあるらしい。

「…よく分かりませんけど、あなたが我々『サザンクロス』に牙を剥くのであれば、
私はあなたを全力で駆逐するまでですわ」
(なによこの子、泣いたり笑ったりしててキモッ!)
そう言ってリル子さんの手から再び糸が噴き出す。
そして少女の全身を絡め取ろうとした、その時…

「みる、みる、みるまらーーー!」
「……ッ!!」
(危ないッ!!)
リル子さんの一瞬の油断と隙を突き、少女が突如大振りの鎌をどこからか取り出したかと思うと、
彼女の首を斬り落とす形ですれ違おうと飛びかかった。

「喰らいませんわッ!!」
リル子さんはそのまま糸で鎌の柄を捉えるとそのまま奪い取った。
だが少女はその間に障子を乱暴に閉めて部屋の外へと逃げて行った。

「逃がしませんわよ!!」
すぐにリル子さんの追撃が始まる。
少女を逃がすまじ、とモララーを放って追いかけるリル子さん。

だがまずい!
ギコ兄がおせっかいにも部屋の外にまでカメラを設置してしまったから、
少女が外で罠を張って待ち構えているのがオレ達には分かる!
行っちゃ駄目だ!!

394N2:2004/05/23(日) 12:27

オレ達の願いも空しく、リル子さんが再び威勢良く障子を開け放つ。
その瞬間、彼女の正面から無数の針が飛来した。

「引っ掛かったー!ギコ屋じゃなくたってその仲間なら即抹殺ものだよー!!」
まんまとリル子さんが罠に掛かり、大喜びする少女。

だが、目前に迫る針千本を前にして、リル子さんは決してうろたえなかった。
やれやれ、と疲れたような表情を一瞬見せたかと思うと、彼女は叫んだ。

「『トリビュート・トゥ・ベノム』!!」

リル子さんの全身から、おびただしい量の糸が噴き出す。
生々しくて怪しい粘液を垂らしながら。
そして針は全て粘った音と共に絡め取られ、決して本体に届くことはなかった。

「わざわざヴィジョンを形成しなきゃいけないだなんて、面倒ですわ…」
(手こずらせやがって、とっととくたばれよこのガキ!)
そう言ったリル子さんの横で、糸が急速に収束してゆく。
そしてそれは、毒々しい色をした異形のモンスターと化した。
ついでに、額には超人プロレス漫画よろしく「毒」の一文字が入っている。

(出たぞ…リル子のスタンド『トリビュート・トゥ・べノム』。
あいつがヴィジョンを出すってことは本気モードに入ったってことだ)
大将が誰に言うでもなく呟いた。

「そんなことしても無駄無駄無駄ァ!!だよー」
少女の挑発と共に、再び無数の針がリル子さんへと飛んでゆく。
だが、リル子さんは微動だにしない。

「無駄無駄無駄…って、今こうして針が食い止められたのに
まだ同じ攻撃を繰り返すつもりですか?
…進歩の無い方ね」
(こいつ、二番煎じが通用するとでも思ってんのかよ!?)

リル子さんの言葉通り、針は全て糸に受け止められてしまっている。
それこそ、こいつのやってる事の方が無駄な行動であろう。
だが、それでも少女の攻撃は止まない。

「…本当に諦めの悪い子ですわね。
幾らあなたの針を飛ばしても私のこの『蜘蛛の糸』が全て受け止めてしまいますわ」
リル子さんもそろそろ飽きてきたらしい。
ところがその言葉を聞いて少女が不適な笑みとともにぽつりと呟いた。

「…誰が『needle』しか出せないって言ったの?」

オレ達は目を疑った。
彼女の前方にはあの裁縫針サイズのトゲなどではなく、
むしろ杭と呼ぶべきサイズの大きな針が用意されていたのだ。

「ちっぽけな針がガード出来ても、ここまでおっきな針が飛んできたら…
どうかな?」

特大の針が、小さな針と同じ速度で発射される。
あれじゃあ、糸の壁を貫通してリル子さんに直撃してしまう!
かと言って、あのスピードではもう回避することも敵わない!
どうすんだ、リル子さんッ!!

「…誰が『粘っこい糸』しか出せないと言いましたか?」
(…決まったな!屈辱的な『セリフ返し』!!)

彼女の腕から再び糸が放出される…のだが、
それはあのネバネバしていたまさしく『蜘蛛の糸』などではなく、
硬く頑丈で清潔そうな、言うなればワイヤーのようなものであった。

「だからって糸なんかじゃ針には対抗出来ないよ!
貧弱、貧弱ゥ―――!!」
確かに少女の言うとおり、リル子さんの糸で巨大な針に太刀打ち出来るとは思えなかった。
のだが……、

395N2:2004/05/23(日) 12:28

「……『ウェブカッター』」

リル子さんの手中で収束した糸は、その形状を細身の剣のように変えた。
そして、飛来してくる糸を、一閃、二閃、三閃…。
針は微塵に砕け、やはり彼女の手前でその勢いを失った。
こりゃ一体、どういう事だ!?

「ウソ!ウソだよ!!
糸が針を壊せるはずが…」

動揺しうろたえる少女に、すかさずリル子さんの追撃が入る。
まともに入れば少女の身体を二分していた一撃を、彼女は寸での所で回避した。
逃げ遅れた彼女の髪が宙に舞う。

「蜘蛛の糸…と言うとよくネバネバしていて飛んで来た獲物を逃さない、
っていうイメージを抱く方が多いでしょうから、
それで中にはあの糸は全部が粘着性の強いものだとお思いの方もいらっしゃるようですけど、
本当は違うのですわよ。
蜘蛛の巣は蜘蛛自身が歩く必要もありますから、縦糸は切れにくくてツルツルした糸、
横糸は飛んで来た獲物をくっ付ける粘着性のある糸、という風になっているんですわよ」
(ハッ!どうせこんなガキだからこの程度の事も知らなかったんだろうよ)
とっさに後ろへと跳んだ少女を壁際にじわり、じわりと追い詰めながら、
リル子さんが得意げに語る。

「そして私の能力『トリビュート・トゥ・べノム』はそれら2種類の糸を使い分ける能力!
相手の攻撃の威力を殺す粘っこい横糸に、
相手の防御を打ち砕く強く頑丈な縦糸!!
…どう考えても分が悪いようですわね。但し、あなたがですけど」

完全に少女は塀の角へと追いやられた。
再びリル子さんがスタンドのヴィジョンを形成する。

「それじゃ、そろそろ年貢の納め時というやつですわね…」
(覚悟は出来てんだろうな、オラァ!!)

396N2:2004/05/23(日) 12:29

リル子さんが糸を放出すると共にそれを少女目掛け飛ばす。
少女の動きを封じ、一気にタコ殴りにするつもりなのだろう。
だが、少女はその糸を高くジャンプすることで回避した。
そして更に……!

「みる、みる、みるまらーーー!
わむてさん、地球!」
少女の背中から、純白の翼が生える。
あれも針能力の一環…って訳じゃなさそうだ。

「み、み、みるまらっっ!!!」
途端に、彼女の翼から無数の羽根が舞い落ちる。

「みる、みる、みるまらーーー!」
そして羽根は彼女の号令と共に、無数の針の雨と化してリル子さんに降り注いだ。

「…面倒臭い攻撃をしてくれますわね。
これで私を足止めすると同時に自分は逃げようという腹ですか?」
(…このド低脳DQN策士め…)
リル子さんの言葉どおり、少女はその隙に羽ばたいて逃げようとしている。
だが、リル子さんがそれをみすみす見逃す筈も無い。

「…無駄ですわね」
リル子さんの右手中で、瞬時に糸が絡み合い、それは一つの明確な形を創り上げた。
縦糸による骨に横糸による布を組み合わせた、『糸の傘』。
全ての雨が、それによってリル子さんに触れることはない。
そしてオレ達がそちらへと気を取られている内に、
当のリル子さんは左手から伸びる糸で既に少女を捕らえていた。

「ここまで暴れておいて、もうお帰りになるだなんて、ちょっと虫が良すぎませんこと?」
(たっぷりと痛い目に遭わせてやろうじゃねえかよォ〜〜!!)
彼女が手を引くと、少女がそれに釣られて引き寄せられる。
空中で完全にバランスを失い、何もすることが出来ない。
そして、そのままリル子さんの射程内まで入ってしまい、

『オラァッ!!』

顔面にスタンドの拳がクリーンヒット。
だがそれでもリル子さんの手は止まない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラァ―――――ッッ!!!!』

『トリビュート・トゥ・べノム』によるラッシュ攻撃。
少女も必死に身体に針を生やして防御するのだが、
その針も拳で破壊され、ほとんど役に立っていない。
最後の一撃で吹っ飛ばされるも、その身体にはまだきっちりと糸が繋がれている。

「まだよ。まだ終わりませんわ。
この横糸、付けるも剥がすも私次第ですもの」
(こんだけじゃ気が治まらねえんだよ!!)

再び少女の身体が引き戻される。
恐らく、これで決着が付くだろう。
オレらの内で、誰もがそう思っていた。

だがしかし、少女は更なる切り札を隠し持っていた。

397N2:2004/05/23(日) 12:30

「み…み…
みるまらー
Iフィールド」

彼女の容姿が再び変化する。
何やら近未来的な雰囲気を漂わせる彼女の前方から、
正体不明のレーザービームが発射された。

「………危ないですわね」
(この期に及んで…往生際の悪いッ…!!)

どこからエネルギーを捻出したかも分からないレーザービームは、
それでもリル子さんの糸を焼き払ってしまった。
已む無くリル子さんもそれを回避する。

「…こ…こまで…痛い目に…遭わされて………!
絶ッ…………対に…許…さんの……だァ……ッ…!!」
少女は完全に怒りに燃えている。
顔面パンチは彼女のプライドを損なうには十分だったらしい。

「みる…みる…」
再びもう聞き飽きたあのフレーズを唱え始める少女。
だが、今回はどこか様子が違う。

「みる…みる…みる…」
彼女の身体に異変が現れ始める。
首から下の部分が徐々に変質してゆくのだ。

「みる…みる…みる…みる…」
それは徐々に衣服の繊維質な質感から、ぬめぬめつるつるした生々しい質感へと変化し…

「みる…みる………みるまらーーーーーーーー!!!!」
彼女の雄叫びと共に、その姿は完全に異形のモンスターと化した。
顔は元の少女のままだが、首から下があたかも蛇のような姿になっている。
そしてその高さは、まさしく「屋根より高い」。

(こいつは…ラミアか!?
ギリシャ神話における子喰いのモンスターを持ち出すとは、
何たるセンスをしている…)
久々にギコ兄の解説キャラっぷりが発揮された。
…ってかさ、それ以前に羽根生えたりビーム撃ったり、
挙句モンスター化するそのとんでも人間っぷりの方を先突っ込めと。

「みるまらーーー!!」
満身創痍から一転、超強化された肉体を得た彼女がリル子さんを攻める。
さっきまでからは想像も付かない破壊力を持つ拳が、
軽々しくガードすることの出来ないリル子さんを今度は壁際へと追い詰めてゆく。

「…この子…何て破壊力…ッ!」
(クソッ、これじゃあスタンドガードするわけにもいかない…!)

少しずつ少しずつ、塀がリル子さんに近づいてゆく。
そしてとうとう、リル子さんは袋小路に追い詰められた。

398N2:2004/05/23(日) 12:32

「ここまで来れば、もうどこにも逃げられないよ!
ここまで痛い目に遭わされたからには、『痛い』なんかじゃ済まさないよ!
みる、みる、みるまらーーー!」
彼女は、その身をアルマジロの如く丸めだした。
そしてそれが巨大な球状になると、そこから再び無数の針が生えた。
…しかし、今度は身体そのものが巨大化しているが故に、
その針一本一本があの杭サイズと同じ位の大きさをしている。
とてもじゃないが、横糸の壁を作っても串刺し必至だ。

「…参りましたね。まさかここまで追い詰められるとは思いもしませんでしたわ」
リル子さんが、いつになく泣き言を言う。

「謝ってももう許さないよ!
みる、みる、みるまらーーー!」
遂に少女が転がり始めた。
もう駄目か!?リル子さん、万事休す!!

「…で、誰が負けると言いました?」
突然態度を豹変させるリル子さん。
…さっきの弱気は何だったんだ。

「無駄無駄ァ!このサイズのトゲボールを避けることは
絶ッ〜〜〜〜〜〜対に出来んのだァ〜〜〜!」
少女は更に走行スピードを速める。
リル子さん、本当にどこへと逃げるつもりだ!?

「…『トリビュート・トゥ・べノム』」
三度リル子さんのスタンドが現れた。
今度は登場して早々、何やら足に力を込めている。

「見せてあげますわ…!
伊達に強化スーツを着込んでいる人をヴィジョンにしている訳じゃないって事を!」
途端、『トリビュート・トゥ・べノム』が跳躍する。
するとリル子さんの身体も、並外れた高さまで飛び上がった。
それは、軽くトゲボールの高さを越えている。
…そして更に、彼女のいた場所には正真正銘『蜘蛛の巣』が張られていた。
そこへと見事に少女が突っ込んでしまう。

「…!!」
リル子さんの策に気付いても、時既に遅し。
彼女はまさしく、完全にリル子さんの獲物となってしまった。
粘着性の高い横糸に捕まり、彼女は完全に動きを封じられた。

「…巣を支える四隅の糸の内二本は地面にくっつけておき、
残り二本は私が手に持っています…どうしてでしょう?」
少女を飛び越え、着地するリル子さん。
それにより、蜘蛛の巣は見事に少女の上から覆い被さる形となった。

「そ…そんな事分かるわけないよ!」
もがきながらも反論する少女。
そんな彼女を、リル子さんは嘲笑するような顔で見据えた。

「それはね…こうするためなんだよォ―――ッ!!」
巣と地面を繋いでいた残り二本の糸も回収する。
それにより、少女は最早網に入ったスイカ状態となってしまった。

「『トワールヤンク』ッ!!」
その少女を、リル子さんはスタンドでブンブン振り回す。
高速回転の気持ち悪さによってか、少女のスタンドはいつの間にか解除されていた。

「いやややゃゃゃゃ
もうやめてー」
悲痛な叫びを上げる少女。
しかしリル子さんの攻撃は止まらない。

399N2:2004/05/23(日) 12:34

「…そしてここに縦糸で制作した『糸の壁』を作っておきました…。
さて、私はこれからどうするでしょう?」
再び少女にリル子さんが問う。

「そ…ッ!!そん……な…の…わか……!
オエッ」
吐き気を催しながら、彼女にはそこまで言うので精一杯のようだ。
その様子を、リル子さんは大そう機嫌良さそうに眺めていた。

「分からない?分からないでしょう、あなたみたいな子供程度には分かるはずないですもんね」
遂にリル子さんの暴言が表面化した。
…ああ、もうこれはどうにも止められなさそうだ。

「んだったらその身で味わってるんだなッ!!」
大方の予想通り、少女は『糸の壁』に叩き付けられた。
もちろん、それだけでリル子さんの怒りが収まるはずもない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラァ―――――ッッ!!!!』

怒号と共に、少女の肉体は何度も何度も硬そうな壁に叩き付けられ続ける。
見てるこっちの方が痛そうだ。
そして最後の一撃で、彼女は壁へとめり込んでしまった。
…それでも、リル子さんの怒りは収まらない。

『オラッ!!』
そのまま壁ごと少女を殴り上げ、それを追い越すように再びハイジャンプ。

『オラァッ!!』
上空で飛んで来る少女を迎え撃ち、腹目掛け強烈なかかと落とし。

『…オオオオオオオオォ―――ッ!!』
そして空中で落下の速度を拳の威力に加算する。

『オラァ――――――――――――ッッ!!!!』
最後に全ての威力を右手に封じ込め、少女の身体に衝撃を叩き込む。
あの頑丈な壁はその余波だけで木っ端微塵に砕け散り、
少女自身は大きく喀血してそのまま動かなくなった。

「…十億年早えんだよッ!このガキッ!!」
(…また十年くらい経ったらお越し下さいね)
やるだけのことをやってどうやらリル子さんもスッキリしたらしい。
気が抜けたのか、最後の最後に本音が口から飛び出した。
と言っても今更誰も驚かないが。

400N2:2004/05/23(日) 12:34



「いやー、凄かったよリル子さん!
僕には何が何だかさっぱり分からなかったけど、
とりあえずリル子さんが凄く頑張ってたのだけは『理解可能』!だったよ!」
(超能力戦士リル子さん萌え、いや燃えるぜハァハァ!)
部屋に戻ったリル子さんを、モララーが温かく出迎える。
…こいつも、スタンドが見えないのによくついて来たもんだ。
そこの部分だけは感心するよ。

「…まあ…その…ありがとうございます」
(…お前に褒められても全然嬉しくないわい!)
リル子さん、かなり嬉しくなさそうである。

「…ところでモララーさん、私の願い事、一つ聞いてくれませんこと?」
突然、リル子さんがモララーに尋ねる。
その瞬間、彼の中であらゆる妄想が暴走した。

「そッ…そりゃあリル子さんの願い事だったら何だって聞いてあげるさ!
それで何だい?高い指輪?式場の準備?それとも…?」
(もしかして『本番』ですかーッ!?
(*´Д`)ハァハァハァハァ/lァ/lァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \アノ \ア ノ \ア!)
…どうやら、完全に勘違いしてるようだ。
南無阿弥陀仏アメーン。

『オラッ!』
リル子さんの右手に集まった、『トリビュート・トゥ・べノム』の塊。
それを高速でぶん投げると、ヒット直前その頭がぬるり、と伸びる。
そして、ぶつかった衝撃の直後高速噛み付きの連撃!!
哀れ、モララーはその牙に噛み砕かれていく。

『オラァ――――ッ!!』
そして最後に、拳で吹っ飛ばされる。
「ヤッダーバァアァァァァアアアアア」
断末魔の叫び声を上げながら、モララーは血飛沫を撒き散らしながら宙を舞い、
頭から壁に突っ込んでめり込んでしまった。
…が、まだヒクヒク動いている。何つう生命力だ。
同族として、誇りに思うと言うか…いや!その前に情けないと言うか…。



(しかし、結局これで見合いはご破算ということらしいな)
熱狂的なバトルが終わって、ふとギコ兄が呟いた。
あ、そういや最初の目的はそれだったんだ。

(大将、これ以上ここにいてもしょうがありませんよ。
早くリル子さんに気付かれないようにここから脱出しましょう!)
ギコが大将に進言する。
大将もそれに頷き、コソーリと逃げようと動き始めた、その時…


「…で、どうしてあなた方がここにいらっしゃるのですか?」
(…逃げられるとでも思ったんですか?)

401N2:2004/05/23(日) 12:35

………!!!!
ピシャリと障子を開く音の後に、怒気のこもった女の声。
まさかッ、これはッ!!

「リ…リル子…これはその…あれだあれ、
一つの社会勉強の一環として…だな…」
青ざめて必至に言い訳をする大将。
だが、それでリル子さんが許してくれるはずが無い。

「………で?」
殺気に満ちたリル子さんの瞳。
やばい、リル子さんは今さっきの少女の時以上に怒っているッ!!

「……悪く思うな、『サザンク……』」
大将がスタンドを発現させようとする。
…が、リル子さんがその前に先手を取る。

『オラァッ!!』
触手のように伸びる『トリビュート・トゥ・べノム』の拳。
そしてそれは、大将がスタンドを出す前にその本体へと届いた。

「ガハァッ!!」
まともに拳を喰らい、大将がダウン。
そんなッ、頼みの綱の大将がやられただとォ――――ッ!?

「心に負い目を持った者は、スタンドの力も激減する…。
いつもそうおっしゃってましたよね?」
ピクリとも動かない大将を見下ろして、リル子さんがそう尋ねた。
大将は何も答えない。

「そして……」
リル子さんの目がこちらへと向けられる。

「覚悟は出来てんだろうな、オラァ――――ッ!!」
リル子さんの全身から、先程のバトルでは見せなかったほどの量の糸が噴き出す。
それに絡め取られ、オレ達三人は身動きが取れない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ――――ッ!!』
リル子さんのスタンドと本体のダブルラッシュが繰り出された。
…その後オレ達がどうなったか、それは敢えて言うまでも無かろう。

402N2:2004/05/23(日) 12:38



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



部屋の中では、ある女による男三人虐待ゲームが繰り広げられている。
それを子供三人は、子供特有の冷酷さで冷ややかに眺めていた。
ほったらかしにされた料理を独占しながら、三人がふと呟いた。

「確カニ今回、 イイ『社会勉強』ニハ ナッタヨ・・・」

「『女ハ怖イ』ッテコトガヨォーーー・・・」

「YES! YES! YES! ”OH MY GOD”」

┌─────────────────────────────────────────────────┐
|                                                                          │
|  ・逝きのいいギコ屋・相棒ギコ・ギコ兄                                        │
|  リル子さんに散々痛めつけられる。                                                │
|  本来ならば再起不能になりかねなかったのだが、そこはギコ兄弟の能力でどうにかなったらしい。             │
│  ちなみに、ギコ兄弟の傷はギコ兄が治療したが、彼がギコ屋の治療は拒否したため            .│
│  その傷は相棒ギコが波紋で治療した。                                                   │
│  再起可能。                                                               │
│                                                                          │
│  ・大将                                                                      │
│  一発でダウンしたのは実は見せかけで、その後に控えるラッシュを喰らわないためであった。                 .│
│  しかしそれを見抜いていたリル子さんに、見合い会場・庭園・そして自分のラッシュで荒らした会場の隣の部屋の ....│
│  修理費を全額押し付けられてしまう。                                                    │
│  占めて一千万円超の経済的負担。(金銭的に)再起不能。                                       │
│                                                                          │
│  ・キッコーマソ                                                                  │
│  秋にもなって池に落とされたお陰で、大風邪を引く。                                         │
│  しかもそれなのに帰ってから同罪ということできっちりリル子さんのラッシュを喰らう羽目に。                    │
│  心身ともにダメージが大きく、しばらく再起不能。                                           │
│                                                                          │
│  ・リル子                                                                      │
│  これに懲りず、いつか阿部本人と見合いをしようと目論んでいるようだ。                            │
│  一説には、高級な和室や庭園をブッ壊してスキーリしたとかしてないとか…。                             │
│                                                                          │

403N2:2004/05/23(日) 12:38
│  ・お見合いするモララー                                                          │
│  病院送り。職場への復帰はまだ先らしい。                                             │
│  だがリル子に対する執着心は再起可能。                                              │
│                                                                          │
│  ・みるまら(わむて・葱看)                                                           │
│  余りにダメージが酷く、放置していれば間違い無く死んでいたのだが、                             │
│  見るに耐えられなくなったギコ屋がギコ兄に治療を依頼。                                   │
│  しかし彼が全面的に拒否したため、相棒ギコが波紋で治療する。                                  │
│  と言っても、それは状況が「最悪」から「宇宙ヤバイ」くらいになった程度だが…。                        │
│  少なくともギコ屋達がこの町に滞在している間は、再起することはないだろう。                          │
│                                                                          │
│  ・手を負傷した仲居                                                               │
│  気絶している内にギコ兄が治してあげた。                                                 │
│                                                                          │
│  ・シャイタマー・ジサクジエン                                                                  │
│  この後、食べきれない料理をパックに詰めてもらい、歩いて自宅へと帰った。                           │
|                                                                          │                                                                        
└─────────────────────────────────────────────────┘

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

404N2:2004/05/23(日) 12:40

                    〃ノノ^ヾ
                    リ´−´ル
.                   (  l:l )
                     |__,l'l_|
                    |___|
                    .し´J

NAME リル子

まず最初に、彼女が椎名編の神尾と同一人物ではないことを記しておく。

地元TV局に所属する女子アナで、「サザンクロス」の実質No2。
穏やかで礼儀正しい口調とは裏腹に、考えていることは余りにどぎつい。
表向きは身分に従っているが、腹の内ではいつ下克上しようと考えているかも分からず、
大将も彼女の動向には結構気を配っているようだ。

見合い・ニュース番組・料理番組と何かとモララー族と接する機会が多く、
さらにどいつもこいつも下ネタ連発で自分に言い寄ってくるため、
完全にモララー族に対しては拒否反応が出ている。
その為か、個人的な恨みなどは全く無いのだが、ギコ屋に対しては
丸耳なのにどうもギコ2人よりも冷たく厳しく当たっているとの噂。

ただ、戦闘実績も高い為、周りからそういう意味では信頼されているのもまた事実である。

405N2:2004/05/23(日) 12:40

                                 使用前
                                 ___
                                <_葱看>
                              / i レノノ))) \
                                人il.゚ ヮ゚ノ人 みるまらー
                                  ∪Yi
                                  く_ :|〉
                                  し'ノ

                                  ↓

                                 使用後
                                   ____
                                 <_葱看>
                                / i レノノ)) ヽ
                                  人il.゚ - ゚ノ、   みるまらー
                                 fヽ{:::::::::::}ノ
                                 (ヽ::::: ::::::|/)
                                  |::|:: ::::::|::ヽ
                                  ヽ::ヽ:::::::| |:::|
                                  ___|::|:::::::| ヽ:ヽ
                                 /:::::||.:::::::|  ||
                              ノ´:::::::::::N):::::::|  /|
                             /:::::O::::::::ヽ|::::::::|  |ノ
                            ノ::::::::::::::::@::::::::::::ノ
                            |:::::::::::O:/ ̄ ̄
                            ヽ::::::::::/
                             ` ̄´

NAME みるまら(わむて・葱看)

2chでみるまら荒らしが流行した頃、ギコ屋町にも現れた謎の少女。
街中でなんかピコピコやってたかと思うと、通行人の首を鎌で斬り落としたりしていたらしく、
噂は街中に広がっていた。
正体は『もう一人の矢の男』の末端の部下で、ギコ屋達が料亭「伍瑠庵」へと向かったという情報を受けて
そこへと向かったはいいが部屋を一つ間違えたお陰でえらい目に遭う
(とは言え部屋が正しかったならば『クリアランス・セール』『バーニング・レイン』『カタパルト』
それにジサクジエンと『サザンクロス』を一気に相手する羽目になっていたので余計悲惨な結果に終わっていたかも知れないが…)。

名前を言わなかったが彼女のスタンド『new model』は肉体を強化してジョジョ第一・二部の吸血鬼のような真似が出来る
肉体強化型・ヴィジョン無しのスタンドである。
…ぶっちゃけ読んで分かったかと思いますが、最初はただの針を出すスタンドの予定でした。
でもそれだとバトルがすぐ終わってしまうので、結局途中から路線変更してこんなとんでも能力に…。
でもまあ、スタンドを強調する為に途中のとんでも肉体強化は当初全面排除の方針だったので、これもまた良し…か?

406N2:2004/05/23(日) 12:41

                  ∧_∧
                 ( ・∀・)
                 ( <V> )
                 | | |
                 (__)_)

NAME お見合いするモララー

リル子と共に『2ch News』に出演する地元テレビ局のアナウンサー。
長年リル子と仕事を続け、同時にリル子にアタックも続けてきたのだが
ことごとく無視され続けて来た。
今回、かなり姑息な真似をすることで強引に見合いへとこじつけたが、
その代償はかなり大きかったようだ。

本来このキャラはアナウンサーとは別人のはずであるが、
展開上同一人物とした。

407N2:2004/05/23(日) 12:42

             ∧蜘∧
            i´((>Ж<))   ∧毒∧
            | |ж#W⌒)  (_》 《_)ヽ
            |J ノ|J\\  WW/>")
            | | |   \⌒~WW/  ⌒)
            ∪∪     ⌒l Ж /# /
                     〉   WW )
                    /  ∧  ヽ
                    (  ( ヽ  ヽ
                    /  /  ヽ ヽ
                   WW )   ( WW

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:トリビュート・トゥ・ベノム           ┃
┃               本体名:リル子                  .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -D    .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -C  ....┃  精密動作性 -C......┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃強化スーツに身を包んだ某アメコミのキャラがヴィジョンのスタンド。.┃
┃強度に長け、収束させることで絶大な硬度を生み出せる『縦糸』と  ┃
┃粘着性が強く、相手を捕らえることの出来る『横糸』を放出する。   .┃
┃糸で制作出来るものは幅広く、縦糸は鋭い剣にも硬い盾にもなるし..┃
┃横糸は防御網にも捕縛網にもなる。                   ┃
┃またスタンド自身の運動能力は非常に高く、それを利用して      ┃
┃本体が超人的な動きをすることも可能である。               ┃
┃なお、イメージAAにある蜘蛛男はキャラを分かりやすくするため  .┃
┃だけの存在であって(単にコピペ後編集しなかったとも言う)、     ┃
┃実際にはヴィジョンには含まれてはいない。                    ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

408N2:2004/05/23(日) 12:42

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃             スタンド名:new model                    ┃
┃               本体名:みるまら                    .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -− ......┃   スピード -−  ..┃  射程距離 -−   . ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B    .┃  精密動作性 -− .┃   成長性 -B   ..┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃肉体を変化・変質させる、ヴィジョンの無いスタンド。            .┃
┃本体は主に肉体から無数の針を生み出す攻撃を使っていたが、   ┃
┃その他にも翼を生やす・ビーム・蛇化などといったことも可。     ┃
┃端的に言えば、吸血鬼みたいな事が出来ると考えて貰って       ┃
┃差し支えない。                                  ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

409N2:2004/05/23(日) 12:43

以下、以前の話に出てきて紹介し忘れた分を一挙に載せてしまいます。



                  /⌒⌒ミ
                 _|_J_ミ
                  (´∀` )
                  ( ̄| | ̄)
                  |___| |___|
                  (_(_)

NAME 空条モナ太郎

ご存知、スピードモナゴン財団に所属する海洋研究家。
かつてDIOと戦い、その後も『矢』に関して世界中を調査する。
彼のスタンド「スタープラモナ」は時を止める能力を持ち、最強との呼び声も高い。

擬古谷町へは『矢』を持つ者がもう一人いるとの情報を受けてやって来て、
そこで『もう一人の矢の男』、更に彼と戦うギコ屋を発見した。
そして彼の実力に期待し、また本人達の希望もあって
ギコ屋ら3人に『もう一人の矢の男』討伐の協力を依頼する
(丸餅氏の設定の出来た今にして言えば、<仲介人>の契約を結んだと言うべきか)。

また大将とはどうやら昔からの知り合いらしく、
ギコ屋達に「サザンクロス」入団を勧めたのも彼である。

410N2:2004/05/23(日) 12:44

                   /|/|/|
                   /| .//|
                 /// / |
                 ヽ─0─//
              ______ |´∀`||]
              \@ /ヽ ̄ ̄ /\@ /
              / ̄_| ̄| ̄ ̄|  ̄\
              |  _ュ ) |   /\__  |
               \_ノ _|___| (_/
                  ヽ_|_/
                    ミ┴/

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃             スタンド名:スタープラモナ                 ┃
┃              本体名:空条モナ太郎                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -E   .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃ 精密動作性 -A   .┃  成長性 -完成 ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃余りにも凄まじいスピードを誇り、時を2秒ほど止める事が出来る。...┃
┃またパワー・精密動作性も素晴らしく、ダイヤモンドほどの      ┃
┃硬度を誇る鉱石を素手で破壊したり、薄暗い写真の背景にいる   ┃
┃蝿の姿を正確に模写することも出来る。                     ┃
┃多くを語る必要の無い、余りに有名なスタンド。               .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

411N2:2004/05/23(日) 12:44

                      (   ▲∧
                     ⊂、⌒⊃゚ヮ゚)⊃

NAME ミィ

『もう一人の矢の男』の忠臣の一人。
半角で喋るので話が理解しにくいことこの上ない。
相手を感染・同化されるという恐るべき種族的能力を持ち、
更にスタンドも相手をミィ化されるウイルスを放出するというとんでも能力である。
しかし、ギコ屋曰く「ってそれスタンドの意味無いやん」。
戦っている最中に「聖母たちのララバイ」を歌ったのは
単に知っていただけなのか、はたまたその世代の人間だからなのか。

『もう一人の矢の男』に異常なまでの忠誠を誓い、彼の命には何の疑いも持たずに従っていた。
その結果、皮肉にも捨て駒として使われてしまった挙句、
ギコ兄によってでぃの脳細胞を植え付けられ完全に思考がでぃ化してしまい、
最後は『電気スタンド野郎』によってギコ屋達もろとも建物ごと強烈な電気を落とされ、
不死キャラであるにも関わらず完全に塵も残らずに焼失してしまった。

412N2:2004/05/23(日) 12:45

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:シック・ポップ・パラサイト            .┃
┃                 本体名:ミィ                    ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -C   ┃  射程距離 -E   .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -C  ....┃  精密動作性 -E ...┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃感染した者をミィ化させるウィルスを全身から撒き散らす。       ┃
┃ウィルスは呼吸・皮膚接触等あらゆる方法で感染するが、       ┃
┃空気中で生存していられる時間は極めて短い。                ┃
┃と言っても感染力は非常に高く、身体のパーツの一部が        ┃
┃既にミィ化してしまった時にはそこを切り落としても             .┃
┃手遅れである可能性の方が高い。                     ┃
┃本体による感染能力は接触ないし自身の虐待・虐殺が         .┃
┃条件であるのに対し、こちらはすぐ死ぬとは言えそれなりの       .┃
┃距離までウィルスは届くため、一応このスタンドに意味はある。    .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

413N2:2004/05/23(日) 12:46

                     ,∧_∧
                    X ノ ハヘ X
                     |゚ノ ^∀^)
                    §,     )
                     !!|  Y |
                     (__)_)

NAME 暗殺者(レモナっぽい)

ひろゆきの命でジョナ=ジョーンズを擬古谷町まで暗殺しに来た女。
どうやら本当に女だそうだが、彼女よりもジョナの方が
余程女らしく見えていたようだ。
手裏剣のスタンド『スカイ・ビューティーズ』で彼を殺そうとするも、
冷気で攻撃を全て防がれた挙句、わざと見逃されてしまう。
そのことで逆上した彼女は背後から奇襲をかけるのだが、
何故か逆に彼女が負傷し、最期はジョナに雷ギロチン
『王妃マリーの悲しみ』を落とされ、黒焦げになる。
しかもその上遺体をギコ兄に解析され、女としてのプライド丸潰れ。アーメン。

だがそもそも何故ひろゆきは彼女を使ってジョナを暗殺しようとしたのか?
肝心の部分については、まだ何も明らかにはなっていない。

ちなみに(レモナっぽい)というのはレモナと断言すると本スレでレモナを使う人が出た時に
不都合が出かねない(そして実際使う人が現れたが)ということを考慮した結果である。

414N2:2004/05/23(日) 12:47

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:スカイ・ビューティーズ            ┃
┃           本体名:暗殺者(レモナっぽい)               .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -B    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -C  ....┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -E   .┃  精密動作性 -A  .┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃手裏剣の形状をしたスタンド。                        .┃
┃本体の意志によって多数発生し、相手向かって飛行し、攻撃する。..┃
┃なおどうやらこれは手裏剣の姿をした群体型スタンドではなく、   .┃
┃その都度本体がスタンドパワーを消費して新しく作っているようだ。 .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

415N2:2004/05/23(日) 12:49

予告編:ギコ兄教授の何でも講義

1/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  んじゃ、講義を始めるぞ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       よろしくお願いします

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  一体何する気なんだろう…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  変な真似だけは勘弁だぞ…。
         \________________

2/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  今日は『今後の作品予告』についてだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
        いつ書けるか分からないのに予告
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  それだけの為にこんな大掛かりなセットを…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  つーか、兄貴の頭身が…。
         \________________

416N2:2004/05/23(日) 12:50

3/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  今後の予定は、次のようになっている。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
      『兄弟の絆』(仮)
      『痛みを分かち合う会』(仮)
      『デムパ(・∀・)ハイッテル』
      『快楽殺人鬼との戦い』(仮)
      以下、最終決戦へ…?

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  (仮)ってのはほぼ間違い無くタイトルが変わると思って欲しいんだな!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  まあ、一部好評だった『デムパ〜』はそのままで通すらしいが。
         \________________

4/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみに、そこへと何話か椎名編が割り込んでくるから、覚えておくように。
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       椎名編、忘れてませんか?
                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ :)      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
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    |  普通は忘れてるって…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ありゃほとんど空気と化してるからな…。
         \________________

417N2:2004/05/23(日) 12:51

5/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみに、我々ギコ屋編も番外編を入れようかと考えているところだ。
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       聞いて驚くなかれ
                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚ ;)
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    | へー、どんな話?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  嫌な予感…。
         \________________

6/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  それはこれだァ―――――ッ!!
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       『遥かなる旅路さらば擬古谷町よの巻』

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧======∧===
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    | お    い    ッ    !    !
    \__________________

418N2:2004/05/23(日) 12:51

7/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみにこちらがサブタイトルとなっている。
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━━━∨━━━━━━━━━━━━
       〜ピンク玉も出るよ〜
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ってタイトルは決定事項かよ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  つーかピンク玉っつったらあのキャラしかいねえじゃねえか!
         \________________

8/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ん?それがどうしたと言うんだ?
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       なんだ もんくあるか

                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚ ;)
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ラスボスも倒してないのに擬古谷町見捨てる気か、クラァ!!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  このセリフってやっぱり…。
         \________________

419N2:2004/05/23(日) 12:53

9/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  まあ、深い所は(゚ε゚)キニシナイ!!
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       番外は番外
                ∩_∩
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    | こら、ちゃんと質問に答えろ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  放っとけ、もう何言っても答えないぞ…。
         \________________

10/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  お、そろそろ時間のようだな。
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       長いようで短かった授業も、
       これでお終いです
                ∩_∩
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  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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    | 結局何がやりたかったんだよ…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  お前は「ピンク玉」と言いたかっただけとちゃうんか、と。
         \________________

420N2:2004/05/23(日) 12:53

11/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  んじゃ、これが宿題だ。
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       『私とギコ兄』のタイトルで
       400字詰め原稿用紙10枚以上に
       作文を書いてくること
                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
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    | 何で最後にそういう方向に行くんだ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ある意味俺には有利な宿題だな…。
         \________________


  /└─────────────┬┐
. <   Not To Be Continued... Maybe | |
  \┌─────────────┴┘

421新手のスタンド使い:2004/05/23(日) 17:10
ワロタ。N2氏乙!


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