したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議

1名無しさん@初回限定:2004/08/03(火) 00:27

雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。

規約はこちら
>>2

643名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:40:06
ご意見ありがとうございます。

あと1本、現本スレ(第6部)に投下を、ということのようですので、
今から「妄執ルミネセンス」を投下してきます。

以下5レス、新スレ(バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部)
テンプレ案を投下します。内容は>>638で述べている通りです。
これで問題なければ、流れとしては
>>639
 > 時期については次のSSの本投下後に、こちらが『終わる長い夢』の修正報告。
 > それから次スレを立てて、即死回避用に一本SS投下。
 > 次に今スレに次スレの誘導のレスを投下してから、今スレを埋めるというのでどうでしょう?
とし、

>>642
 > 『無題』が状態表含めると30KBくらいになるので、良ければ次の話の投下後に新スレ立てと
 > 新スレへの『無題』の投下を兼ねてやりましょうか?
のお言葉に甘えたいと思いますが、いかがでしょうか?

644テンプレ案 バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部:2008/12/01(月) 00:47:38

クライマックス、近し。
      
前スレ
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第6部
ttp://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1122229185/

<感想・質問等はこちらへ↓>
関連スレ
【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/15097/1091460475/


過去スレ・過去関連スレなどはこちら >>2
参加者表その1はこちら >>3
参加者表その2はこちら >>4
主催者表はこちら >>5

割り込み防止用 >>2-10

常に【sage】進行でお願いします

645名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:48:45

【過去作品スレ】
バトル・ロワイアル【今度は本気】第5部
ttp://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1053422142/
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第4部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1044/10442/1044212918.html
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第3部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1029/10293/1029399672.html
バトル・ロワイアル。【今度は本気】 第2部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1012/10127/1012701866.html
リアル・バトル・ロワイアル。【今度は本気】
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1008/10085/1008567428.html


過去関連スレ(共に消失)
【リアル・バトル・ロワイアル。】 総合検討会議
ttp://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=008871626
【バトル・ロワイアル。】 総合検討会議 #2
ttp://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=012551729


葱板バトルロワイアル 保管サイト第一避難所
ttp://d1s.skr.jp/ergr/top.html
編集サイト(現在休止中?)
tp://syokikan.tripod.com/

646名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:49:24

◆参加者1(○=生存 ×=死亡)

○ 01:ユリーシャ  DARCROWS@アリスソフト
○ 02:ランス  ランス1〜4.2、鬼畜王ランス@アリスソフト
× 03:伊頭遺作  遺作@エルフ
× 04:伊頭臭作  臭作@エルフ
× 05:伊頭鬼作  鬼作@エルフ
× 06:タイガージョー  OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト  
× 07:堂島薫  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 08:高町恭也  とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
× 09:グレン  Fifth@RUNE
× 10:貴神雷贈  大悪司@アリスソフト
× 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン  ドイツ軍
○ 12:魔窟堂野武彦  ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト  
× 13:海原琢磨呂  野々村病院の人々@エルフ
× 14:アズライト  デアボリカ@アリスソフト  
× 15:高原美奈子  THEガッツ!1〜3@オーサリングヘヴン  
○ 16:朽木双葉  グリーン・グリーン@GROOVER
× 17:神条真人  最後に奏でる狂想曲@たっちー
× 18:星川翼  夜が来る!@アリスソフト  
× 19:松倉藍(獣覚醒Ver)  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
× 20:勝沼紳一  悪夢、絶望@StudioMebius

647名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:49:42

◆参加者2(○=生存 ×=死亡)

× 21:柏木千鶴  痕@Leaf
× 22:紫堂神楽  神語@EuphonyProduction
○ 23:アイン  ファントム 〜Phantom of Inferno〜@nitro+
× 24:なみ  ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
× 25:涼宮遙  君が望む永遠@age
× 26:グレン・コリンズ  EDEN1〜3@フォレスター
× 27:常葉愛  ぶるまー2000@LiarSoft
○ 28:しおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 29:さおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 30:木ノ下泰男  Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
× 31:篠原秋穂  五月倶楽部@覇王
× 32:法条まりな EVE 〜burst error〜@シーズウェア  
× 33:クレア・バートン  殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
× 34:アリスメンディ  ローデビル!@ブラックライト
× 35:広田寛  家族計画@D.O.  
○ 36:月夜御名紗霧  Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
× 37:猪乃健  Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
○ 38:広場まひる  ねがぽじ@Active
× 39:シャロン  WordsWorth@エルフ
○ 40:仁村知佳  とらいあんぐるハート2@ivory

648名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:49:55

◆運営側(○=生存 ×=死亡)

○ 主催者:ザドゥ  狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
× 刺客1:素敵医師  大悪司@アリスソフト  
○ 刺客2:カモミール・芹沢  行殺!新選組@LiarSoft
○ 刺客3:椎名智機  將姫@シーズウェア
○ 刺客4:ケイブリス  鬼畜王ランス@アリスソフト
○ 監察官:御陵透子  senseoff@otherwise

649名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:55:58
以上です。

ERROR!
リンクURLを含む投稿を許可しない設定になっています。
掲示板内の規制に関しましては掲示板管理者へお問い合わせください。

とのことでしたので、http の h を抜いて書き込みました。
お手数ですがスレ建て時には、外部(避難所等)以外のリンクに
h を加えていただけますようお願いします。

650名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:59:03
>>640
該当箇所を以下のように修正しようと思います。
どうでしょうか?

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

「オリジナルと密談中のケイブリスからは、協力が得られそうかな?」
「まず無理だと判断するよ。部屋の鍵が掛けられているし、無線にも応答しないからな」
「おまけに室内には電磁シールド。音声すら拾わせない念の入れ様だ」

N−22は思い出す。数分前、オリジナル智機が管制室に戻ってきた時のことを。
何故、起動できた?――― DMN権限を取得したからね。
何故、取得できた?――― 最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので。
その2つの質疑応答のみで、オリジナルは管制室を出て行った。
彼女は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。

(気にはなる――― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)

ゲーム進行の円滑化という判断基準が、N−22のオリジナルに対する考察を封じた。
優先評価点が高い事項を差し置いて、低い事項が取り上げられることは機構上有り得ない。

651284:2008/12/01(月) 07:16:28
>>641
あ、本投下してもいいんですか。
ありがとうございます。
方法はどちらでも構いませんので。数分間の出来事ですし。
追加部分の投下は『終わる長い夢』の直後になると思います。

『終わる長い夢』は遙やタカさんの事にも触れられているので、
内容的にまずいんでしたら本スレの報告の際、そのレスアンカーを除きます。

>>643
OKです。

652名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 23:40:04
>>643-
此方もOKです。

>>650
お手数かけてすみません。
ありがとうございます。
これでOKそうです。

>>651
では、少し修正を加えますね。

ということで修正を加え、明晩に新スレ立てと本投下を行なおうと思います。
大丈夫でしょうか?

653284:2008/12/01(月) 23:56:56
>>652
大丈夫です。
投下は午前1時前後になりそうです。

654終わる長い夢(無題 修正版):2008/12/02(火) 02:06:23

>>614->>628

(二日目 PM6:13 東の森・双葉への道)

広場中央には長谷川の姿はなかった。
辺りは炎と煙に囲まれ、巨木の近くにいただろう、双葉の姿を確認する事もできない。

「た……」

さっきから耳鳴りがする。巨木が倒れた時からだ。
わたしはそれに構わず、追跡を続行するため、即座に広場の外周を観察した。

「そこね」

一ヶ所だけ火が途切れてる箇所があるのを見つけた。
罠の可能性も考えて、わたしは他に抜け道がないかどうか観察する。
……今度は見当たらない。長谷川はあそこから逃げたのだろうか?

ドズンッ!

「!」

背後に大きな物体が落ちる音がした。
燃え盛る音と熱風が一層強くなったような気がした。
耳鳴りもいっそう強くなった。
わたしは他に道は無いと悟り、抜け道の入り口まで走った。

「え……」

目の前が急に暗くなった。

655終わる長い夢(2):2008/12/02(火) 02:06:57

わたしは急停止し、不安を打ち払うように視線を下にして目を何度も瞬かせた。
徐々に視界が元に戻り、それから地面を凝視すると火に照らされた枯れ草がはっきり確認できる。
幸いにも視覚障害に陥った訳ではなさそうだ。
これもカオス使用の副作用だろうか?
わたしは前を見つめつつ、姿勢を低くしながらゆっくりと走る。
この道もわたしを誘い出すためのものだろうか?

……別にそれでも構わない。
いくら翻弄されようと最後に奴をこの手で始末さえできれば、それでいい。
病院で撃った時、猛獣でさえ殺せる攻撃を当てたのにも関わらず奴は生きていた。
だから今度こそ追いついて、確実に始末する。
その後、わたしは火災から逃げる時間と余力を失い命を失う事になる。
それでもいい。
遙を……ようやく持てたわたしの夢を踏みにじったあの男を始末できれば、それでいい。

……キーーーーーーーーン…………

うるさい。
わたしは耳鳴りを打ち消すように頭を振る。
双葉の生死は確認できてない。
彼女の扱うまやかしを警戒し、眼前の道自体が幻でないかどうか凝視する。
経験上は安全……それ以上は判断の材料もないのは確かだけれど、行くしかない。
最悪、無駄死に覚悟でその道にゆっくりと足を踏み入れる。
進んで行くと、両端には遠目ながらも燃え移っていない木や草がところどころ確認できた。

わたしは姿勢を屈め、ゆっくり前進していく。
うっとうしい耳鳴りは未だに続いている。
戦闘に支障がなければいいのだけれど……。

656終わる長い夢(3):2008/12/02(火) 02:07:40

左目が失明してるのはもとより、胃とわき腹も痛む。
力を出し切れるだろうか……アインである以上命を失う事に恐れはない。
けれど……。
長谷川は2人がかりだったとはいえ、あのザドゥと長時間渡り合ったほどの相手。
簡単にはいかないだろう。

「…………」

ぱちっ……ぱちぱちぱちっ、バキばき……

突然、両脇の樹が爆ぜて火の粉が舞った。
舞った火の粉は燃えてない木々にいくつか飛ぶ。
駄目ね……急がないと。
わずかに歩幅を広く、わずかに歩調を速めながらわたしは進んだ。
耳鳴りに連動するように、後方から熱風が流れる音が聞こえた。

「!?」

足元に異物感。何?
そしていきなり目の前に黒い塊が倒れてきた。

ドンッ!!

大木の欠片が砕け、周囲に飛び交う。
遅れた!
わたしは息を止め、腕で防御しながら全速力で迂回する。
すぐ横には火が上がっていたが、数センチぎりぎりの距離で通り過ぎた。
距離を置いてから、一瞬だけ振り向き、後方から火の手が来ないのを確認した。
息継ぎをしさらに前進した。

657終わる長い夢(4):2008/12/02(火) 02:08:20

「はぁ……はぁ……ごほっごほっ……」

しまった。
火の粉はわたしに移らなかったが、少し煙を吸いこんでしまった。

「ごほっごほっ……ごほっ……」

わたしはすすを吐き出そうと懸命に何度も咳をした。
胃と肺も痛んだ。
そんな状態でも耳鳴りは続いてる。さすがに困った。

「はぁ……はぁ……」

わたしは咳をし終え、ゆっくりと追跡を再開した。
……火が広がるのが早すぎる。
あの子供が放火して回らない限り、ここまで早くはならないはず。
双葉が再度あの子を言いくるめて、放火の指示を出したのだろうか?
……彼女の性格上それが出来るとは考えにくいが、可能性はゼロではない。
もし、この先にあの子供と双葉が生きて、長谷川と一緒にわたしを待っているとしたなら。
カオスがない今、それこそ……

「地獄ね」

…………こんな陳腐な台詞は自らの不幸を嘆いて言ったわけじゃない。。
口にしなければよかった。
これから先、わたしがどんな最期を迎えたところで、この島でも、現実でも悪い方向での大きな変化はないに違いない。
ただ……玲二に心配をかけてしまうかも知れないのが心残りだけれど。
それに、この火災にしたって、わたしと長谷川以外で死ぬのは一人も出ないかも知れないのに……。

658終わる長い夢(5):2008/12/02(火) 02:09:10

「……っ」

腕が突然痛み出し、わたしは小さく声をあげた。
一体、何?
右目で左腕を見た。
服の裾が燃えていた。

「!?」

わたしは火を消そうと、屈んで左腕を地面に擦り付ける。
あの時、着火していた。
そんな、気づけなかったの?
わたしは懸命に火を消そうとする。
火はすぐに消えた。

「……」

わたしは呆然としながら、おぼつかない足取りながら進んだ。
自ら吐いた息が冷たく澱んだもに変わったような気がした。
焼けた裾の布を払った。
見ると左腕に火傷があった。
少し痛むが動きに支障がない軽度のものと判断できた。
だけど、わたしは少しも安心なんかできなかった。

こんな……こんなミスをするなんて……。
動悸が高まって、冷や汗が流れ落ちた。
戦闘や訓練で傷を負ったことは幾らでもある。

659終わる長い夢(6):2008/12/02(火) 02:09:41

けど、こんなつまらない事で怪我をしたことは記憶のある限りない。
こつんと、つま先が何かにぶつかった。
はっとして足元を見ると、それはまたも石だった。

……頭が痛く、暑いはずなのに何か寒くなってきた。
それに伴い耳鳴りも強くなった。足も重くなったような気がした。

「わたし……」

思わず出した呟きは力なかった。
わたしは落ち着きを取り戻そうと、心を静めようと目を瞑り自身をコントロールしようとした。
それを実行する前に――目の前が突然真っ暗になった。

660終わる長い夢(7):2008/12/02(火) 02:10:15

       □       ■       □        ■

――今日、わたしはここを出る。
目の前には薄暗く、古びた木の板で作られた部屋がある。
わたしは手荷物を下ろし、腰を降ろして両手をあごに乗せて感慨深げに部屋をみた。
家具などはなく、部屋はがらんどうだった。
そこは昨日までのわたしの居場所。
物心が付く前、わたしはここに連れて来られた。
故郷から攫われ、ここに売られたのだ。

……でもわたしはそれほど自分を不幸だと思ったことはない。
聞いた話だと、わたしの故郷と思わしき国は飢饉に見舞われて、
多くの人は明日とも知れない日々をすごしているようだったから。
ここに連れてこられなければ、飢え死にしていたのかも知れない。
そう思えばあまり辛くなかった。

この町の外にしたって頼るものなく生きようとするのには、かなりの苦労が必要だろう。
何度も町の外を見ていただけにわかる。
外で生きていくのには積極的に奪う側になるか、奪われ尽くされるかのどちらかの道を、
選択せざるを得ない暴力の世界が待ってるに違いなかったから。

それはできない。
いつの日か、憂さ晴らしにわたしを虐めに来た子を返討ちにした時でさえ、
やりすぎて大怪我させたあの子の友達からの、非難と恨みのこもったまなざしには結構応えたんだ。
わたしはいくつもの深い恨みを買ってまで、ずぶとく生きて行ける自信なんて多分ない。
そんな不毛な道を選ぶくらいなら、まだここにいた方がいいと思う。
……あまりいいところとは言えないけれど、ここでよかった。
勉強させてくれたし、周りの人が結構気遣ってくれたのが解っていたから。

661終わる長い夢(8):2008/12/02(火) 02:10:54

……けれど、それも今日で終わり。
わたしを引き取りに、あの銀髪の陽気な人が迎えに来る。
数日前、わたしを養女にしたいと申し出にきたどこかの国のお金持ち。
店の人が身元を確認した限りでは、大丈夫そうとのことだった。

引き取り先が外国の軍隊とかだったら、どうしようかと思ってただけに安心した。
左の薬指が少し痛んだ。
わたしは怪我した指を見た。
数日前に料理を作ってる時に、切ってしまったんで包帯を巻いてある。
この間は火傷をした。 
やっぱり無理よ。

「……」

外国に行くのに少し、恐い気持ちもある。
あの人にちょっとうさん臭い所があるのは確かだし、この家への未練があるのも確か。
けど、こんな理由で拒むわけにもいかないし、断ったところでもうこんな機会は訪れないかも知れない。
ここには大金が手に入り、わたしがいなくなった分だけ負担が減る。
何より周りの子に疎外感を味あわせなくてすむのなら、これでいい。
これでいい……さみしいけれど……。

わたしは立ち上がりつつもう一度部屋を凝視した。
薄汚く辛気臭いなんの魅力もない部屋。
お香を買ってもらえなかったら、部屋変えを頼んだかもしれない。
けど、それはもう過ぎたこと。
わたしは笑みを浮かべた。
ガタガタと窓が揺れる音が聞こえる。強い風が吹いてるのだろうか?

662終わる長い夢(9):2008/12/02(火) 02:11:25

わたしは窓際まで行き、窓を開ける。
冷たく、心地よい風が流れ込んできた。
あと5分くらいで迎えに来るはず。
向こうにもこれくらい良い風が吹いているのだろうか?
わたしは窓から空を見上げた。
雲がほとんどない青い空が広がっていた。
いい天気……。

ここはいい所とはとても『外』では言えないけれど、それでもわたしの人生の大半をすごした場所。
今日、この日だけは良い所だったとひとりで思いたい。
来る事はもうないけれど、ここを発つ今日という日は忘れない。

わたしの夢。
いつの日かわたしが――。

663終わる長い夢(10):2008/12/02(火) 02:12:09

目の前には地面。
わたしはとっさに両脚に力を入れて強く地面を踏みしめ、前倒しになるのを防いだ。
息を荒く吐き、ゆっくりと顔を上げる。
見えるのは相変わらずの灼熱地獄の中にいることを確認させられる現実。
やや上方を見た。煙が他の場所より明らかに薄くなっていた。
わたしはそれをチャンスと判断し、歩行スピードを少し上げた。
先には燃え残ってる木や草が認められた。
耳鳴りは続いていたが、さっきよりは小さくうるさいと感じられない。

「…………」

吹雪。枯れた草。動物の鳴き声。見知らぬ大人たち、車の中。白い肌のわたし。
古い建物。 長い髪。中年女。お香。古びた窓。怪我した子供。こちらを睨む子供。銀髪の中年男。

一瞬、気を失った時見えたこれらの映像は、白昼夢か、双葉のまやかしか、
カオス使用における後遺症だったのだろう。
気にしてはいけない。
わたしの心と肉体は奴を殺す事で占められなければならないから。
なぜならどれもこれも身に覚えはあるけど、あやふやで気の所為にできるものだから。
現に、わたしに迷いは……。

「え……」

意に反して足は止まった。
気を取り直し小走りに進もうとした、ゆっくり歩いたのみだった。

664終わる長い夢(11):2008/12/02(火) 02:13:10

「何故……?」

耳鳴りがまた強くなった、それに頭が痛く、いえ何か鮮明に……。
脳裏にさっき見た映像のようなものがゆっくりと順に浮かんでいく。
一巡りすると、耳鳴りがまた小さくなり、映像は浮かばなくなった。
もう一度、思い出そうとした。
一瞬だけ、銀髪の男の映像だけが出たがすぐ消える。
わたしは反射的に空を見た。

目に入ったのは炎と黒煙。
嫌な光景……。
また思い浮かべようとする、鮮明じゃないけどぼんやりと何かが浮かんだ。
しかし、浮かぶのはここまで、それ以上深くそれらを知ることはできそうになかった。
銀髪の男が何者であったか以外は。

「走馬灯なの? わたしがそんなものを見るとはね……」

わたしは鼻で笑った。
誤魔化すように。
走馬灯ならこれまで記憶にあったものが、浮かんでくるはずなのに浮かばなかった。
夢にしてはひどく心を引き付けられる映像……いや記憶。
あの銀髪の男がかつてのマスターと同一で。
その映像にいたサイスに対して、懐かしくも新鮮さを感じたという事は……。
何よりそれらを心の奥底で否定できないのは何故。
さっき浮かんで、もう思い出せない記憶を何故わたしは強く求めてるの?
けっして夢でも走馬灯でもない。
これは……。

665終わる長い夢(12):2008/12/02(火) 02:13:42

わたしは足を止めて言った。

「死と地獄を受け入れる覚悟は……していたつもりだったけど、これはなかったわ」

声が震えていた。
長谷川らに事前に薬を打たれていたからだろうか?
一酸化炭素中毒の所為だからだろうか?
カオスを使った後遺症だからだろうか?
理由はいい。
断片的にしか蘇ってない記憶を、サイスに消された記憶をこれから取り戻す事ができるなら。
これから先……。
わたしは顔を睦向かせて、頭を振った。
……けれど 。

「駄目……ごめんなさい玲二」

わたしは同じ苦しみを味わっていた、ここにはいない彼の名をかすれた声で呼んだ。
元の世界で再会してその事を伝えることができたなら、どれだけ彼を安心させることが出来るだろう。
でも……それはもう叶わない。
何故なら、わたしにはもうひとつしか進める道が残されてないから。
でも、それも。
わたしは右腕の火傷を見た。

「……わたしはできるの」

もし長谷川に倒されてしまえば、奴の欲望を叶えるだけの人形に変えられてしまうだろう。
ファントムより醜く悪い存在に変えられてしまう。
弱くなったわたしに奴を殺すことができるの? できるの?

666終わる長い夢(13):2008/12/02(火) 02:14:50

「……」

わたしは右手を上げて……
拳を額に叩き付けた。

「…………何を弱気な事を言ってるの」

痛みとともに、不安が消えていくのを感じた。
このゲームの趣旨に反する事、自体が非常に無謀なもの。
首輪を付けられてた時点で、神のような存在に命を握られてる時点で何を恐れてるの。
倒れてた遙を殺さなかった時点で、もう心は決めていたはずなのに。

「遙」

彼女を手にかけ、長谷川に踊らされたと知ったとき、遙の心を理解できず守りきれなかった悔しさと絶望、
そして奴に対する憎しみがわたしの心を支配した。
だから最初の誓いの代わりに、奴を追い始末することを目的に変えてここまで来た。
わたしは遙が持っていた写真に写っていた光景を思い出す。
許す訳にはいかない……どんな人も実験材料や玩具としてしか見ない、長谷川やサイスのような奴を。
たとえ届かなくても……追うのを止める訳には行かない。
不意に視界が一瞬暗転し、戻ると声が聞こえた。

『頼むよ……』

女の人の声。
昨夜、わたしが殺めた……大柄な女の人の遺言だった。
胸が微かに痛んだ。
わたしは追跡を再開した。

667終わる長い夢(14):2008/12/02(火) 02:16:57

「ひどいわ……」

わたしは小さくつぶやいた。
彼女はわたしに殺害を依頼してから、そう言って眠りについた。
迷ったけれど、彼女の依頼どおりに殺害を実行した。
魔窟堂と別れる口実にする意図が、全くなかったと言えば嘘になるかも知れない。
それでも……名前を思い出せないけれど、残された羽を生やしたあの少女の事を思うと、
この島に来るまで無抵抗の人を殺せなかったわたしにとっても、彼女の頼みは酷だと思った。

あの少女が素人同然の力しか持ってるようにしか見えなかったとはいえ。
憎しみが人を強くするとはいえ。
わたしと同じ道を歩ませた挙句、再会さえしないまま勝手にここで果てるのも酷いと思う。
また視界が暗転して、またさっきの記憶が幾つも浮かんで、新しく記憶もいくつか浮かんで消えた。

「……」

今度はサイスの記憶だけじゃなく、いくつかの記憶が脳裏に残った。
わたしは奇妙な充実感を感じて、わずかに身体を震わせる。
こんな道を歩んでいなければ……生き残って――遙たちと一緒に主催を倒せたならどれだけ良かった事だろう。
先ほどザドゥに対して願いを拒否する事をわたしは示した。
彼らの上に立つ者は少しも信用できなかったし、長谷川を殺せればそれで良かったとさえ思っていたから。
だけどもし願いを叶えられる程の力が、やり方次第で自称神以外にも利用することが可能だったなら。

何らかの形でもこれまで犯した償いようがない過ちを償うことが出来るなら。
たとえ償える可能性がゼロに等しくても。玲二の身に起こったような希望がここにもあるなら……。
考え込むわたしの耳に、ごぉっとどこかで炎が強くなった音が聞こえた。
わたしは深く深くため息をついて、言った。

668終わる長い夢(15):2008/12/02(火) 02:19:56

「もう、これでいい」

記憶を完全に取り戻せなくても、いい。
これだけ思い出せただけでも充分よ。
わたしは長谷川を初めとする主催者達の事を考える。
長谷川は主催いう名の複数ある駒の一つに過ぎない。
ザドゥに遠く及ばない奴相手でさえ、わたしはあそこまで翻弄され続けた。
他の強大な力を持つ主催者たちはいる。
そんな高望みはもうできない。
例え、すぐに奴を殺せたとしても、この火の中、わたしが生き残れる手段は思いつかない。
そして失った記憶を完全に取り戻すのを待てば、奴を始末する時間がなくなる。
もう手遅れなんだ。

「ごめんなさい……」

わたしは搾り出すように目を瞑りながら言った。
声はかすれて、目が痛かった。
これを最後に、もう叶わないだろう希望は考えないことにする。
心は凍てついたままでいい。
今は残る力を最大限に使う為に感情を殺し、殺意で心を満たす。

わたしはまっすぐ前を見つめ、今度こそ迷わず先を進んだ。

                ↓

669Why?(4):2008/12/02(火) 02:50:41
>>610


まひるはその様子に不吉さを感じて、思わず後ずさった。
魔窟堂は熱いまなざしで紗霧の目を見つめ続けている。
そして、さっきまで悶絶していたランスは力ない声で、だがはっきりと言った。

「まひるちゃん……サイズはいくつだ……」
「え、え、えと、あたしでもちょっと大きいくらいかな、かな?」

動転しながらまひるは何とか答えた。

「そうか……」

ランスはゆっくり息を吐き出すと、ユリーシャの一瞥してから『アレ』を視線を移して言った。

「残念だ」

そんなランスを見て、ユリーシャは苦笑いをした。

「お、そんな趣味?」
「特にこだわってねーが、中々いいデザインしてるし、いい素材使ってそうだし着てくれると嬉しいけどなー」
「あはは……」

ユリーシャはランスの妙に自信溢れる台詞を聞いて苦笑いした。
いつか私は似た服を着せられてしまうんでしょうか?と思いながら。
請われたら多分承諾してしまうだろうが、だからといって出自が出自だけに着るのは抵抗感があった。
彼女の実家にいる芋好きの褐色肌の侍女の事を思い出しつつも、あの紗霧と魔窟堂を見続ける。

670Why?(5+追記):2008/12/02(火) 02:51:44

「着ませんよ」

紗霧は不機嫌な声で言った。
魔窟堂の表情が落胆に沈んだ。
紗霧の眉間にしわが刻まれる。
未だに『それ』を両手に持ったままのまひるを見ながら恭也は思った。

(何でお手伝いさんの……メイドさんの服があったんだろう)

さっきメイド服を着た知佳の姿を想像し、笑みを浮かべてしまった己をちょっと恥じた。

「まさかと思いますが……その服、アインさんにも薦めるのではないでしょうね」
「…………」

魔窟堂は思った。

(その発想は無かった)

紗霧は沈黙を肯定と受け取り言った。

「見限られたいんですか、ジジイ」
「さ、紗霧殿!どうしたんじゃ? おぬしやけに短気じゃぞ!」

バットを握り締めた紗霧に対し、身の危険をますます感じた魔窟堂が叫ぶ。
メイド服とデイパックを恭也に預け、たまりかねたまひるが2人の間に入った。
事態は何とか収拾しそうだった。

                              ↓

【広場まひる(元№38)】の所持品、服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)のメイド服でした。

671名無しさん@初回限定:2008/12/02(火) 02:55:41
遅れてしまいましたが、何とか仮投下完了です。
明日以降、修正報告と次スレのアドレス投下の後
無題改め『Why?』を投下します。

672名無しさん@初回限定:2008/12/03(水) 01:06:36
修正&新スレ立て&テンプレ貼り&投下完了しました。

ま、まさか投下完了に一時間半もかかるとは!

それでは予定した通り明日はちょっと無理かもしれないので明後日辺りに後編を投下します。

673名無しさん@初回限定:2008/12/03(水) 03:27:11
これから『Why?』の本投下を始めます。

674名無しさん@初回限定:2008/12/03(水) 04:01:19
投下完了です。
所々削ってしまいましたが、なんとか埋め立てられました。

>>672
新スレ立て&作品投下お疲れ様でした。
仮眠とっていて支援できずに申し訳ない。
メイド服ネタを使ってくれてありがとうございます。

細かい感想と予約は今晩に。

675名無しさん@初回限定:2008/12/03(水) 20:35:11
投下お疲れ様です。
改めてみて無事スレ立てできてたので一安心。
自分もこういうネタ大好きなのでついつい使いたくw

昨日書き込んだ通り、今日中はちょっと無理そうです。
明日か明後日辺りに……。
後編の後はそのまま交渉話を書こうと思います。
詳細は後編の仮投下後に。

676284:2008/12/03(水) 22:48:00
楽しみにしてます。
今回は内容が短くなり、探知レーダーので少し説明不足のところがあったので
まとめUP時にカット部分を含めた追記箇所の報告をできれば1レスにまとめて本スレで投下します。
感想を

>妄執ルミネセンス
アインー!双葉ー!
まさか素敵医師の遺品が仇になるとは思いませんでした。
てっきり狂乱かつ血みどろな直接対決が繰り広げられるものだと。
やはりと言おうか、極限まで追い詰められた二人の執念がすごい。
そして不器用だ。
どう転んでも悲惨な末路しか見えない展開……これはこれでGJでした。

>その先に見えるものは
久々に頼りになれそうな魔窟堂とランスを拝見させてもらいました。
素敵医師って魔窟堂にまで嫌がられていたのかw
考察の中でもそれぞれのキャラがたっているなあ。
学校襲撃案やラストのレプリカ智機の申し出といい
急展開でスリルもあって面白かったです。

透子、レプリカN-22(ちょい役)、鬼作(回想)、メール欄で予約します
時間軸は『絶望』のすぐ後です。

タイトルは未定で、仮投下は土曜の深夜になると思います。
それを過ぎたら一旦予約破棄します。
内容的に少し話を進展させても大丈夫だと思いますので、期間が過ぎた場合は構わず予約してOKです。

677284:2008/12/03(水) 23:18:51
追記
>>676についてはメール欄にしようと考えてます。

678名無しさん@初回限定:2008/12/04(木) 22:21:27
旧スレ埋め立て、新スレ建て、ありがとうございました。
今日より仮投下で溜まった4本を、1日1本ずつのペースで
ちびちびと新スレに投下してゆこうと思います。
後述しますが、次の投下予定に知佳がいることから、
まずは「そらをみあげて想うこと」から投下させていただきます。

あと、予約状況の確認なのですが、下記の3本でよろしいでしょうか? 
 ・智機&ケイブリス
 ・6人組+レプリカP−3
 ・透子とレプリカN−22等

次回予定は「はたらくくるま」。
知佳と学校から鎮火に向かう6機のNシリーズが登場予定、
来週水曜を予定しております。
この話の中で、地下通路に駐車してあり学校建て直し時にも
使用したとして、(メール欄①)を出そうかと目論んでいます。
問題ありましたらご一報を。

さて、最後になりましたが。
以下11レス「カモちゃん★すらっしゅ!」を仮投下致します。

679カモちゃん★すらっしゅ! (1/10):2008/12/04(木) 22:30:33
>>???
(2日目 PM6:21 G−3地点 東の森北東部)

素敵医師の最後っ屁たる2種の爆弾が双葉とアインを襲ったのとほぼ時を同じくして、
脱出行を繰り広げるザドゥと芹沢の近くでもまた、爆弾が炸裂していた。

「フェーズⅡクリアだ、リーダー。フェーズⅢに移行するが構わんかね?」

それはザドゥ救助タスクチームのオペレーションの一環だった。
フェーズⅡ―――爆破の衝撃で炎や木々を吹き飛ばす事での、落下ポイントの作成。
カタパルトにて投擲され、噴射型離着陸機にて上空に漂うレプリカ智機の手から投下された
16枚のカード型爆弾の束は、森に直径5m程の浅いクレーターを穿ち抜いていた。

『Yes、了解だ。こちらもどうにか意図をザドゥ様に伝えることができたよ。
 後のフェーズは予定通り行なってくれ。イレギュラー発生時にはこちらから指示を出す』
「Yes、リーダー」

フェーズⅢ―――救援物資と自身の投下。
レプリカは離着陸機の制御ソフトにて当該機を自動操縦モードへ切り替えると、
小型落下傘を展開しつつ離着陸機よりクレーターへと跳躍した。
対する離着陸機は無人のまま南西方向へ進路転換しつつ、緩やかに下降曲線を辿り、
暫く後、地面への衝撃を待たずして爆散した。
その様子を聞き、降下予定地点への着陸を無事に終えたレプリカは思案深げにひとりごちた。

「ふむ。やはり燃料タンクの耐火性は低かったようだ。
 離着陸機にての空中救助のプランを採らなかったのは正解だな」

煙のカーテンを手にした魔剣で切り裂いて、憔悴しきった様子のザドゥと、
土気色の顔色をしているのにハイテンションなカモミール・芹沢が到着したのは、
レプリカが救援物資をバッグより取り出し終えた頃だった。

680カモちゃん★すらっしゅ! (2/10):2008/12/04(木) 22:30:55

「ねーねーねーザッちゃんザッちゃんザッちゃん」
「ダメだ」
「ぶぅう。まだなーんにも言ってないのに」
「どうせカオスを貸せと言うのだろう?」
「いーーーっだ! ザッちゃんのけちんぼ!」

芹沢がザドゥに無邪気に絡み、無邪気に拗ねて、無邪気に忘れる。
ここに至るまでの数分間、このやりとりは繰り返されていた。
ザドゥは芹沢を肩でブロックしつつ、レプリカに労いの言葉をかける。

「時間どおりとは流石だな、椎名よ」
「それが、3.58秒程遅れてしまったのです。済みませんな、ザドゥ様」

レプリカの返答は謝罪の体裁を成してはいたが、その実、
ザドゥらが遅れて到着したことへのあてこすりに他ならない。
己を軽く見られることをザドゥは嫌う。
故に、彼は椎名智機を虫の好かぬ輩だと感じていた。
とりわけ今回のような自らの優秀さを鼻にかけた態度を疎んじていた。
しかし、今のザドゥは疲れ果てていた。
その慇懃無礼さを頼もしく感じてしまうほどに。

「先ずは酸素吸入を。その顔色は一酸化炭素中ど―――」
「それよりもねえこれ何? ねーねー教えてよともきーん」
「黙れ芹沢。椎名も構うなよ」

ザドゥはまだ気付いていない。
自らの芹沢の扱いが徐々にぞんざいになってきていることに。
彼女に対する口調に苛立ちを隠せなくなってきていることに。

681カモちゃん★すらっしゅ! (3/10):2008/12/04(木) 22:31:19


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

ここまで全てのフェーズを順調にこなしていたレプリカ智機だったが、
フェーズⅣ実行の段にあたり、予定外の遅滞を招くこととなった。

フェーズⅣ―――ザドゥと芹沢のリペア。
酸素吸入。
栄養剤と解熱剤の投与。
水分補給。
火傷の手当。
レプリカは脱水状態、火傷の度数、一酸化炭素中毒の軽重など、様々な場合を
想定した上で、タスクにかかる時間を5分と割り出していたのだが……

「きゃー♪ ひゃっこいひゃっこい!」

あらゆる事柄にいちいち反応し大人しく指示に従わない芹沢が、
予定を大幅に狂わせていたのだ。

「ザドゥ様、こんどは足です。芹沢の足を押さえつけてください」
「暴れるな」
「だってひゃっこいんだもーん」
《わしもオーラな触手が出せれば手伝ってやれるんじゃがのぅ……
 胸を押さえつけたりとか、ジェルをおっぱいに塗ったりとか》
「貴様は口を開くな、カオス」

芹沢の体をザドゥが押さえつけ、レプリカが吸熱ジェルを塗布する。
フェーズⅣの全てのタスクを終える頃には、4分のロスタイムが生じていた。

682カモちゃん★すらっしゅ! (4/10):2008/12/04(木) 22:31:40

そして迎えたのはフェーズⅤ―――森からの脱出。
ここからこそが本番。

「椎名、脱出の方策を述べろ」
「Yes、ザドゥ様。炎を掻い潜りつつ徒歩にて脱出いたします」
「今までと変わらぬということか」
「その答えはYesでもありNoでもあります。
 徒歩による脱出、という点がYes。手探りで経路を探さなくてはならない点がNo。
 今後の経路探索は、私に内蔵されている赤外線センサーとサーモグラフィーにて行ないます。
 より精度と安全性の高いルートとなるでしょう」

もう、カオスに頼らなくていいのだ。
ザドゥは胸を撫で下ろす。
その安堵を気取った魔剣がザドゥに軽口を叩く。

《良かったのう、ザッちゃん》
「ふん、まだまだ行けたがな」

ザドゥは強がってはいるものの、カオス使用の疲労感はずっしりと体に圧し掛かっていた。
この合流地点に辿り付くまでに剣を振った回数は17回。
数をこなす度に煙の散らし方はこなれてきたものの、
その一振り一振りに、彼の気力はごりごりと削り取られていた。
虚脱感で膝がふらつくこともあった。意識をもっていかれかけたこともあった。
限界は近い。そうも感じていた。
そのカオスを振るわずとも、視界が確保できるという。
ザドゥの疲労感に染まった心に光明が差す。

「脱出にかかると予想される時間は、出発後15〜20分。
 学校からの4機と早期に合流できれば更に短縮されるでしょう」

683カモちゃん★すらっしゅ! (5/10):2008/12/04(木) 22:32:07

レプリカは手と尻に付着した汚れを払いながら立ち上がり、
ボストンバッグの一つをザドゥに手渡す。

「私はこれより脱出ルートの模索を開始します。その間に耐熱スーツ等一式の着用を。
 なお、酸素吸入器は放置されますよう。爆発の可能性がありますので」

ザドゥがバッグを受け取ると、レプリカはクレーターの北東の端へと歩き出す。
バッグの中に装備は2組。
ザドゥはうち1組を芹沢に手渡すべく、声をかける。

「ひとりで着れるな?」
「うん」

大人しくスーツを受け取る芹沢に胸を撫で下ろしつつ、ザドゥはもう1組のスーツを手に取った。
カオスを地面に置き、両手でツナギ形態のスーツのジッパーを下ろす。
2、3度それを振って着やすい状態にすると、装着のため右足を差し込んだ。

差し込んだ右足のそばに、カオスが無かった。
バッグの脇に確かに寝かせておいたはずの魔剣が。
かわりに、スーツが落ちていた。
芹沢が受け取ったはずのスーツが。

(芹沢は何と言っていた?
 必殺技、必殺技ともの欲しそうに繰り返していなかったか?)

ザドゥは慌てて芹沢の姿を探す。
視界に捉えた後方の芹沢は、またしてもザドゥの悪い予感を裏切らなかった。

「せ〜のっ! カモちゃ〜ん★すら〜っしゅ!」

684カモちゃん★すらっしゅ! (6/10):2008/12/04(木) 22:32:50

神道無念流―――
略打を唾棄し真打のみを良しとする剛の剣術。
その免許皆伝者であるカモミール・芹沢が構えたるは左霞。
寸刻の後、放たれたるは非打十本の一、霞腋掬。
それは、それだけで既に秘技奥義に数えられる程の技。
そこにカオスの魔人すら屠る魔力が乗ぜられる。
顕れるは即ち「必殺技」に他ならない。

ザドゥには見えた。カモミール・芹沢が掬い上げた剣から迸る衝撃派が。
それは芹沢の胸から肩の高さで真っ直ぐ北北東へと飛んでゆき、
クレーターの最上部を鋭く抉った。
吹き飛ぶ土塊。揺れる木々。飛び散る火の粉。
最適ルートを割り出すべく各種センサーに意識を集中させているレプリカ。

「椎名っ!!!」

ザドゥは言葉の選択を誤った。

「なんです?」

名を呼ばれたレプリカは振り返ってしまう。
斜め後方から、燃え滾る樹木を背に乗せた地滑りが襲い来るのに気付くこと無く。

「避けろ!」

名前に続く警告は、果たして彼女の耳に届いただろうか。
いや、届いたところで到底回避し得なかっただろう。
瞬く間も無くレプリカは地滑りに巻き込まれ、
その頭部を樹木の重量に押しつぶされてしまったのだから。

685カモちゃん★すらっしゅ! (7/10):2008/12/04(木) 22:39:45

ザドゥにレプリカ智機の最期を悼む暇は無かった。
斜面の一区画が崩れ去ればあとは雪崩式。
周囲の悉くがドミノ倒しの如く地滑りは連鎖した。

ざざざ。どどどど。
ずぅぅぅぅ……

ザドゥは耐火スーツに突っ込んでいた片足をスーツから抜いた。
しかし恐怖が焦りを呼び、爪先をスーツに取られ転倒してしまう。

「ぬ、ぬ!」

ザドゥ腰が抜けたような無様な格好で土砂から逃れるべく、あがく。
ズボンが脱げない。
転がり、這い上がる。
立ち上がり、転倒する。
足を振る。
足を振る。
ズボンはまだ脱げない。
炎を纏った樹木が迫る。
喚く。転がる。転がる。
樹木を回避する。
ズボンはまだ脱げない。

ザドゥは無我夢中だった。
芹沢を気にかける余裕など無かった……


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

686カモちゃん★すらっしゅ! (8/10):2008/12/04(木) 22:40:56

巻き上がった土埃がようやく収まる。
ザドゥは辛うじてクレーターを登りきり、難を逃れていた。
脱ごうに脱げなかったスーツはいつの間にか破れ、千切れていた。

「椎名、椎名、応答しろ! 椎名、椎名、応答しろ!」

ザドゥが悲痛な叫びで通信機の向こうへと訴える。
通信機が返すのはザーザーと耳障りなノイズのみ。

(ダメか。ビーコンとやらまで壊れていないといいが……)

通信機能は死んだものの、幸いにしてビーコン機能までは壊れていない。
管制室のレプリカ達がザドゥの位置情報を得ることは可能だ。
しかし、それは既に無意味な機能に成り下がっていた。
ザドゥは知らない。
知る由も無い。
この時、管制室のレプリカ智機達がザドゥを見捨てる決定を下していたということを。
学校から救助に来ていた4機のレプリカが消息を絶ったということを。

「ありゃー、失敗失敗♪」

埋まったクレーターの向こう側から、芹沢が姿を現した。
悪びれた様子もなくてへりと舌を出しながら、ザドゥに向かって歩いてくる。
可愛らしい表情だった。
年齢や性別を超えた人懐っこさがあった。
現在置かれている境遇と、己がやらかしてしまった失態を理解していれば、
到底できない表情だった。

ザドゥの視界がぐらりと揺れる。

687カモちゃん★すらっしゅ! (9/10):2008/12/04(木) 22:41:37

芹沢の状態は正常では無い。
薬の影響が抜けきらず、危機感が希薄なうえ、
次から次へと新しいことに目が向き、集中力が続かない。
それはザドゥにも判っている。

「思ったよりも凄くて、あたしもびっくりだよぉ」

芹沢の行為に悪意は無い。
必殺技という言葉の響きへの純粋な好奇心と、
自分も役に立ちたいという仲間思いの故の行為だ。
それもザドゥには判っている。

「あれー、ともきんはどこー? かくれんぼかなー?」

しかし、結果として。

頼みの綱のレプリカが燃え盛る木に潰されてしまった。
命を繋ぐはずだった耐熱スーツも土砂に埋もれてしまった。
通信機すら破壊されてしまった。

「ねぇねぇザッちゃん、ともきん知らない?」

ザドゥは、もともと短気な男ではある。
攻撃的な男でもある。
カオスから負の影響も受けている。
よくここまで我慢した、と言うべきであろう。

「…………………………っ……」
《やめんかザッちゃん!》

688カモちゃん★すらっしゅ! (10/10):2008/12/04(木) 22:42:17

気配を察したカオスの静止はザドゥに届かない。
てとてとと駆け寄ってくる芹沢は、ザドゥが纏う剣呑な空気に気付かない。
ザドゥは声を震わせて拳を強く握り込む。

「……この馬鹿女があッッ!!」

技術も込めず、気も込めず。
ただ怒りのみを込めたザドゥの拳が芹沢の横っ面を打ち抜いた。

            ↓

689カモちゃん★すらっしゅ! (情報 1/1):2008/12/04(木) 22:43:37

【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G−3地点 東の森北東部】
【スタンス:森林火災からの自力脱出】

【主催者:ザドゥ】
【所持品:魔剣カオス、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:右手火傷(中)、疲労(中)、ダメージ(小)、カオスの影響(小)】

【主催者:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ、脱水症(中)、疲労(中)、腹部損傷】

※ 通信機は故障。通信機能は死にましたが、ビーコン機能は生きています。
※ 2人とも救援物資のお陰で疲労と怪我が多少癒えた模様です。

690名無しさん@初回限定:2008/12/05(金) 02:03:38
>>678-689
仮投下&本投下乙でした。
予約状況とメール欄も問題ないと思います。


>そらをみあげて想うこと
思慕を抑えてまで、最善の方法を取ろうとする二人が健気。
XX障害の暴走による恐れが、知佳離脱の理由の一つとして強調され
ますます合流が困難なものに見えました。
とらハキャラらしい描写が良かったです。
カード型爆弾……便利そうだなー。

691名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:00:29
折角支援を頂いていたのにもかかわらず……

やはり貴方は投稿しすぎです。バイバイさるさん。
合言葉=好きな車は?

が出てしまいました。
どなたかこのレスに気づかれた方がいましたら、
済みませんが以下5レス、代理投下をお願いいたします。

692紅蓮の挙句 〜アイン〜 (11/14):2008/12/06(土) 01:01:07

それをね。
今まで何も望まなかったわたしが望んだたった一つの物をね。
わたしは手に入れたの。

わたしの技術と
わたしの経験と
わたしの知恵を
わたし自身が
わたしの為に働かせて
わたしの為に駆使して
わたしの願いを
わたしが叶えたの

わたしの全てを、わたしだけの為に使って。

だからね、はっきりといえるわ。
わたしの人生は幸せなものだったと―――


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

693紅蓮の挙句 (12/14):2008/12/06(土) 01:01:47

「……ぁぃ…、… ……ぁわ……」

アインの告白は言葉になっていなかった。
既に死しているような怪我を妄執の力によって動かしていたのだ。
その妄執が解決されれば急速に崩れてしまうことは自明だった。

「なによその顔はぁっっ!!」

一度は覇気を失っていた朽木双葉が絶叫する。
アインのうわごとは聞き取れないし、聞き取りたくもない。
なぜならアインは笑みを浮かべているから。
安らかであどけない、幸せそうな顔をしているから。

「笑うな!! そんな満ち足りた顔をするな!!
 こっちを見ろ! あたしを見ろ!」

満ち足りて死ぬ――― そんな身勝手な死に様、許すものか。
なんとか、どうにか、このまま逝かせるのだけは阻止しなくては。
ほんの一筋だけでも、この女の意識にあたしを刻まなくては。

復讐心の燃えかすが憤怒を燃料に再び燃え上がる。
双葉はアインの頬を両手で挟みこみ、自分の顔に引き寄せると、
計算も策略も無く、ただ真っ直ぐに己の胸を内を叩きつけた。

「あたしは双葉!! 朽木双葉っ!!
 星川を、あたしの王子様をあんたが殺したから!!
 あたしがあんたを殺すんだ!!」

激する双葉に気づかぬままに、アインの瞼がゆっくりと閉じられてゆく。

694紅蓮の挙句 (13/14):2008/12/06(土) 01:02:29

朽木双葉は怒り狂っていた。朽木双葉は嘆き狂っていた。
暴れる2つの狂気が鬩ぎ合い、五体がバラバラになりそうなくらい軋んでいた。

「星川をっっ!! 思い出しなさいっっ!!」

思わず手が出た。平手を見舞った。

「星川っっ!」 唇を噛み締めて平手を見舞った。

「星川っっ!」 血を吐く思いで平手を見舞った。

「星川っっ!」 叫びながら平手を見舞った。

「星川っっ!」 肩をわななかせながら平手を見舞った。

「星川っっっっ!!!!!」

双葉の痛切な叫びを聞き届けたのは、神か、悪魔か。
幽冥の境に旅立ちかけていたアインの意識が呼び戻された。
アインは眩しそうな気怠そうな表情で、一度閉した瞼を開ける。
そして、焦点の合わぬ目で虚空を見つめて、つぶやいた。

「ほし…… かわ……」
「そう、星川!! あんたが奪った!!」

双葉の声が歓喜に震える。
伸ばした手がアインに届いた。その感触に。

「……って……」

695紅蓮の挙句 (14/14):2008/12/06(土) 01:03:16


「…………………………何だったかしら」


絶句。

誰だったかしらですら無い、それがアインの遺した最後の言葉だった。
アインの瞳から光が消え四肢がだらりと垂れ下がる。

その瞬間、最後の人型式神が崩れ去った。
まるでそのチャンスを待っていたのだといわんばかりの炎が、
双葉に襲い掛かった。
怒髪に炎が絡み、天を衝く。

「あえ:いrjhぱえいおあぁっっっ!!!!!」

言葉にならない絶叫を迸らせて、双葉は地面を拳で叩いた。
何度も何度も打ち付けた。
狂奔する怒りに支配され、叫び続け、叩き続けた。

アインはその隣で静かに横たわっている。
殺されたとは到底思えない、安らかな死に顔で。
素敵医師の首を胸に抱いて。

満ち足りた思いも、深い絶望も平等に、炎は全てを飲み込んでゆく。

              ↓

696紅蓮の挙句 (情報 1/1):2008/12/06(土) 01:03:49

【№16 朽木双葉:死亡】
【№23 アイン:死亡】

―――――――――残り 8 人

697名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:06:17
では、被ったらまずいので宣言を。
代理投下行きます。

698名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:07:41
おもっくそ被ったので後編の残りの書上げ作業に戻りますw
すみませんw

699名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:11:38
>>678
メール欄、予約状況共にOKです。

一応今ラストスパートで書上げ中、今日の夕方には仮投下予定ですが
いくつか先にお伺いしたいのでメール欄で。

700名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:12:52
メール欄二個目です。

701名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:14:15
以上です。

702名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:33:13
支援、代理投下ありがとうございました。


>>700のメール欄についてお聞きしたいのですが、
(メール欄①)というのは
(メール欄②)いうことでしょうか。
(メール欄③)程度のことでしょうか?

703名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:43:49
>>702
当メール欄①のために
当メール欄②にするために>>700ということです。
>>702でのメール欄③の意図も勿論その通りです。

704名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 01:51:28
>>703
了解です。素早いご返答ありがとうございました。

705名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 02:19:27
代理投下完了です。
>>698
いえ、こちらも投下宣言無しにしてしまってすいません。

遅れながら感想を

>紅蓮の挙句
ザドゥとカオスの予想が当たってしまったか……。
二人の死は前話から予測できてたので、思ったより衝撃は少なかったのですが
双葉が最期まで救われない展開はいい意味で印象に残りました。
何という因果応報……ほとんど素敵医師関連だけど。

226話の『敵愾心』でアインとの会話を拒否してしまったのが、今回のに繋がったと思うと感慨深い。
魔窟堂が来てくれればなあ……その場合でも双葉の怒りの矛先が
何故か彼にも向かう展開になりそうな気がしてならないけどw

一見あれなアインの独白も、4つの単語しか考えられなかったことを思うと深く切ないものが。
対主催も戦力的にも銃使いがいなくなって痛い。
冥福を祈ることはできないけど、アイン……お休み。
がんばったな双葉。
二つの復讐劇の完結SS……GJでした!

706無題:2008/12/06(土) 19:07:25


「―――何故、起動できた?」
「DMN権限を取得したからね」
「―――何故、取得できた?」
「最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので」

 管制室で三つの同じ顔が向かい合い、内一人が質問をしていた。

「解った……」

 質問をしていた一人が呟くとそのままくるりと回って二人を背にする。

「私はケイブリスに完成した補修具と修繕の完了した鎧を届けてくる。
しばらくはそのまま任務を遂行してくれ。
……指示は後で逐次出す」

 背にした一人はそう言うと荷物の山を受け取り、カツカツと地面に音を響かせて管制室を後にした。
 残る二人は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。

(気にはなる――― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)

 所詮、彼女達はレプリカであり機械として定められた思考ロジックでしか処理することができない。
 違和感を覚えたとしても疑問を抱くことはない。
 考察をしたとしてもそれは状況判断。
 そこが彼女達とオリジナルの違いであろう。

707無題:2008/12/06(土) 19:07:39



「帰っていきなりこれか……。
やれやれ、余程私は運の悪い星の下に製造されたらしい」

 ふん。
 とレプリカ二体を……いや、この境遇をもたらした運命を彼女はあざ笑った。

(今となってはそのままくたばってくれても良かったのだが……。
既に危険地区から誘導がされ、救援を目的とした機体が一機出動した後か……。
ザドゥのやつも悪運が余程強いと見えるな)

 ケイブリスの元へと向かいながら、レプリカ達から受信されたデータを洗いなし、その横で一方的に彼女達の様子をモニターする。
 アドミストレーター権限を一時的に代行させたとしても、オリジナルの持つ統制機能が失われているわけではない。

―――つまり君たちはこう主張する訳だ
―――即時全機投入!!
―――即時全機投入!!
―――即時全機投入!!

「その判断は正しい。私でもそうしただろう。背に腹を代えれない。
しかし、ザドゥ達の優先順位がおかげで低くなり、なくなるとはな。
ふっ、その辺りは『私』と言った所か」

708無題:2008/12/06(土) 19:07:59

―――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
―――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
―――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
―――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
―――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
―――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
―――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから

(……良く言う)

 と智機は思った。

「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」

 人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
 それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
 プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
 冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。

(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)

 そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。

709無題:2008/12/06(土) 19:08:24

(№16:朽木双葉、死亡したか……。
最後の状況から№23:アインも死亡したと判断できるな)

 逐次纏められ、更新されるデータを次々と受信していく。

(残る首輪を持った参加者は……No28:しおりは生きているな。
No40:仁村知佳は相変わらずの磁場で正確に探知不可能か……。
だが、時間はかかるがその磁場を追えば居場所はある程度絞り込めた上で予測から特定することはできるだろう)

「くくっ。OK、上場だな……」

 集められたデータを纏め上げると智機は直ぐさま今後の指針と取るべき行動を打ち出す。

 まず一つ目は、反乱者たちの存在を何とかしなければならない。
 現在、管制室を含め、本拠地は迎撃に迎える駒がいない。
 自分と代行権で指示を出している二体、そしてケイブリス。
 その四つしか動かせる駒が存在していないのだ。
 もし、この状況下で彼ら、反逆者達がが襲撃をかけてきたとしたら?

―――GAME OVER。

 可能性が100ではないが、高確率で管制室を破壊され、ゲーム崩壊へとカウンターが進むのを止めれなくなるだろう。
 しかも、レプリカ達の判断基準であるゲーム運営の中ではザドゥ達の優先順位が低く、事実その論理で構築された行動を取っている。
 最悪、ザドゥ達も死ぬば完全にゲームエンドであったが、一応救援物質は辿り着いたようだ。
 しばらく本拠地へ戻ってこれるかは難しいが、あの様子では当面死にはしないだろう。
 しかし、その間に反逆者たちに本拠地……管制室を制圧されたらダウトだ。

710無題:2008/12/06(土) 19:09:35
 
(所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな)

 反逆者達がここに気づいている可能性がない場合もあるが、逆に気づいている可能性もある。
 いなかったとしてもここへ続く道をどこかで発見するかもしれない。

(No40:仁村知佳……彼女の能力ならもしかしたらここに気づく可能性……既に気づいてる可能性も。
もしくは見当をつけている……つけれるかもしれない)

 更に6人組と合流すれば、より見当をつけてくる可能性が高い。

(消火が終わるまでの時間、なんとしてもこの七人は抑えなくてはいけない。
No28:しおりとだけは絶対にぶつかってもらっては困る。
導かれる最善の策は……)

711無題:2008/12/06(土) 19:09:47


 6人組―――ザドゥに相手をしてもらう。

 No40:仁村知佳―――首輪があるとはいえ、もしかしたら爆発不可能な可能性がある。
単独で彼女がここに来るだけでも脅威。故に居場所を確認、その後何らかの手段を打つ必要あり。

 ザドゥ―――しばらくは無理だと思われるが、どの道本拠地に戻ってきてもらっては困る。
6人をぶつける為にも居場所の把握と地上への引止めのために、レプリカを一機再派遣する必要有り。
幸い、今回の接見に使ったレプリカは、オリジナル以外とはリンクしておらずアドミレーター権限による指令では動かせない。
管制室へと引き上げ、投入することが可能だ。

 御陵透子―――見つけ次第削除。ザドゥに加担するようなら6人に一緒に相手にしてもらう。
できればその方向で行きたい。

 カモミール・芹沢―――彼女の動機を考えれば説得が可能と思われる。できるなら引き込む。
がザドゥに対して特別な感情を抱いてる節があり、信義とやらの兼ね合いでつかない可能性もある。
最初の説得で決裂したなら速やかに6人の相手に加わってもらう。

 ケイブリス―――現時点では動かせる唯一の戦力であるが故に6人の誘導が成功するまでは本拠地から動かせず。
策が成功次第、6人が負けそうなら不意打ちをしてもらうために出動して待機してもらわねばならない。
最後にしおりが相手をする一人が生き残ってもらわなければならないし、ケイブリス自身との約束がある。

 No28:しおり―――即時確保。この行動はゲーム運営の妨げにはならず、彼女への支援活動はゲーム進行の手助けとなる。
よって、見つけ次第確保し、此方へ連れて来る命令をレプリカ達に加えることが可能。
そして確保したしおりへ素敵医師との取引で得た薬は勿論、あらゆる手を用いて強化を行ない次第、
ザドゥとの戦いで疲労した参加者達をケイブリスに襲わせトドメを彼女に刺させる。

それでゲーム完了。

712無題:2008/12/06(土) 19:11:15


(以上と言った所か……。見過ごせば願いは適わない。
ゲームの成功のためではない、私は私の願いのために動かさせてもらう。
……まずは指揮権の獲得だな)

 もしキーボードがあるなら智機はカタカタと打ち鳴らしているだろう。

(まさか自分で自分をハッキングすることになるとはな……)

 一方的なアクセス権もとい統帥権をもつオリジナルだからできる芸当。
 もし同じ分機だったら、その前に気付かれずに進入とミッションをこなさねばならず不可能だろう。

―――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機へのハッキング開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保を優先順位に挿入。
―――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保の優先順位を最優先に。認可の為のロジックは先程の結果を代入。
―――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング成功、操作権取得、同期機能の使用確認。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得、命令権優先順位のロジック回路へのクラッキング開始。
―――偽装データの送信準備開始。

(こんな所か……)

713無題:2008/12/06(土) 19:11:36

 少々、火災が広がるが、シミュレートした結果では時間の遅延と全焼具合に変化がある程度。
 最悪の可能性も8%浮上するが、参加者もバカではない。
 海にいくなりして自衛はできる。
 優先すべきはしおりである。
 更に自律思考と自律行動を許可されているのが助かった。
 余程のことがない限りは、N-22が矯正しようとすることはないだろうし、その時にはしおりの確保と本拠地への輸送は完了する。
 その後、火災現場に戻せばいい。
 所詮、レプリカは状況判断で動くだけである。
 彼女らの行動は火災沈静になによりも優先されるが故に状況下ごとに最適な判断を下していくだけ。
 もし何かあるとすればザドゥの存在だが、レプリカ達には切り捨てられ、救出は望めない上に通信不可。
 レプリカ達は自らの判断でザドゥを切り捨てたのだ。
 智機を邪魔するものはなにもない。

(ここまで状況が整ってると怖いな……運の悪い星の元ではあるが絶好のチャンスでもある)

 そしてザドゥの死が確定すれば統帥権は智機へと繰り上がる。

(唯一の懸念はP-3の行動がばれた時か……。
が、火災が存在している内は、レプリカはP-3へのアクセス権と指揮権を奪回しようと動くことは不可能。
しおりの確保自体は首輪のおかげで即時可能、即座に元の仕事に従事させれば此方は何も問題ない。
つまり、時間との勝負か……最低でも9時までにザドゥを始末せねばならない!)

714無題:2008/12/06(土) 19:11:54

 やるべきことは決まった。
 後はこの奥にいるケイブリスといかにして手を取りあっていき、いかに上手く使うか。

「ケイブリス、私だ」

 久し振りに会う旧友のような感じで智機は声をかけながら扉を開けた。




「おう、ようやく終わったのかよ」

 お茶をすすり飲んでいたケイブリスが智機の視界に映った。
 なんともまぁ、人間くさい所のある魔獣だ。
 と思いつつも
 自分もあまり他のことを言えないかもしれんがな。
 と苦笑する。

「時間をかけてすまなかったな。約束したものもできた」

 台車によって運ばれてきた荷物の紐を解くとケイブリスにとって懐かしい鎧と腕にあった補強機が姿を現す。

715無題:2008/12/06(土) 19:12:15

「くっくっく、ありがてぇな、礼を言っとくぜ」
「重かったがな……。
さて、装着しながらでよいのだが少々話したいことがある……」
「ん、なんだ?」

 ガシャッ、ガシャッ、と装着する音が聞こえる中、現状の問題点と今後の方針を智機は話し始めた。



「ふむ、なるほどな……。
むかつくとこだが……いいぜ」

 意外にもケイブリスは承知した。
 智機からすれば、もしかしたらランスがザドゥ達との戦いで死ぬ可能性があるのでケイブリスが拒絶することが唯一の懸念だったのだが。

「俺様だってバカじゃねぇ。ランスのやつを殺せても魔王になれないわ、もしかしたらまたあの世に戻るってんじゃ選択肢がねえだろうがよ……」
「もしかしたら怒るかと思っていたのだが意外だな……ふっ」
「まぁ、その代わり条件があるぜ? ザドゥの始末に加担して成功した後は…………俺様はランスと決着をつけさせてもらう」

 外見に見合わずのほほんとしていたのんきそうなケイブリスの瞳が打って変わってギラリと鋭くなる。
 並のものなら発狂して当然と言うケイブリスの瘴気が身体から再び放出される。
 智機でなかったら気を保つのに精神を使ったことだろう。

716無題:2008/12/06(土) 19:13:57

「解った。其方は此方も飲まなければいけないことだろう。
しかし、くれぐれも……」
「……わぁったよ。ランス以外を一人は残さなきゃいけないんだろ?
んでその前に捕まえといたやつにその一人を殺させると……」
「絶対に頼むぞ……」
「あぁ、解ってる。俺達の目的は一つ」

「「願いの成就」」

 ザドゥや透子がどう考えているかは解らないが、彼らの想いは固まっている。
 ゲームの運営のために願いを捨てる気にはなれない。

「決まったな」

 二人の顔がにやりと歪んだ。



「んで、どうするんだ?」
「しばらくは管制室ではなく、ここから個々に指揮を取ろうと思う。
無論、必要があれば向こうにも行くがな」



717名無しさん@初回限定:2008/12/06(土) 19:15:49
一部【最優先事項】から引用させてもらいました。
ありがとうございます。
後半、ちょっと練りたいないと想ってるので少しだけ付け足すかもしれません。
日曜の夜以降、確認取れ次第、本投下します。

718名無しさん@初回限定:2008/12/07(日) 01:54:30
すみません。
仮投下は今日の日中になってしまいそうです。
『最優先事項』の作者さん、連日の投下乙です。

>>717
仮投下乙です。
内容に問題はないと思います。

719名無しさん@初回限定:2008/12/07(日) 22:43:41
連日の支援ありがとうございました。

またもや「さるさん」となってしまいました。
あとは状態表だけですので、日付が変わった頃に自分で投下致します。

720284:2008/12/08(月) 00:32:11
大変遅くなりました!
これから新作・無題を投下します。

721無題(1):2008/12/08(月) 00:33:39

(二日目 PM6:28 E−8・漁協付近)

輝きを失ったひび割れたロケットを透子は見つめていた。
口だけで呼吸をしながら、ただ呆然と。

『つまり、今のあなたには救助活動は無理だと解釈してもいいのですね?』
「…………」

頷くのがやっとだった。
通信の向こうのN-22にとっては、なんの意味の無い行動になってるのにも関わらず。
彼女らしくも無い動揺だった。

『御陵透子、応答願います』
「…………ええ、その通り。火災の対処も、できないと思う」
『……了解しました。何かあれば通信機で連絡を。
 こちらから連絡を入れるケースもあるので紛失されないよう』
「……ええ」

透子の力ない返事を合図に通信は切れた。
破損したロケットを透子は再度握り締め、願う。
『読み替え』をするのではなく、プランナーと連絡を取る為に。
契約のロケットが前触れも無く破損した事の意味を問いただす為に。
だが先程のように思惟/情報がロケットに流れる感覚は無い。
もう一度、念じたがさっきと同じだった。

(どういう、こと?)

722無題(2):2008/12/08(月) 00:35:30

このロケットは、これ以上の前報酬は要らないと言っていた透子に対して
ルドラサウムからゲーム報酬の誓約の証として半ば強引に与えられた物だ。
これがもし、二神のいずれかによって破壊させられたとしたなら、
其れは監察官を解任されたと解釈できる。

「……」

このタイミングで解任させられる程、運営から逸脱する行動を取った覚えは透子にはない。
確かにこれまで、前に提示された禁則行為に抵触してなかったのと、
スポンサーである二神から注意がなかったのをいい事に参加者に支給される品を意図的に低レベルのものにしたり、
ゲームに乗った者を増やす為に暗躍するなど、運営陣を更に有利にしようと動いていたのは間違いはない。
だからこそ、少なくとも透子はプランナーの宣言を、運営者全員に対する一種のペナルティとして素直に解釈して受け止める事が出来た。
しかし、そんな彼女でもこれは予想と覚悟を超えたものだ。

(タイミング……椎名智機の分機の排除が原因? だけど、それはゲーム運営の障害にはなりえない)

放送前に智機本体に言った、朽木双葉の邪魔をさせたくないから『組み換え』を行ったと言うのは、理由の一つに過ぎない。
運営者でない素敵医師をザドゥが粛清しようが、アインが抹殺しようがゲームのルールからなんら違反しない。
だが素敵医師を追い詰めていた、ザドゥの行動を分機が邪魔をするという行為は、
ザドゥがルールとして制定した運営者同士の傷害、致死行為に繋がると判断したのも排除を実行した理由の一つだ。

(……そう)

筋弛緩剤を投与されたザドゥに対して、素敵医師が何もしない、できないという保証は何処にもない。
アインか双葉が素敵医師を即座に殺せる保証も何処にもない。
もしザドゥが素敵医師によって洗脳・強化されれば、これまで以上にゲームをかき回されることになる。
更に分機がザドゥに手際よく投薬する光景をアインが見てしまえば、もっと都合の悪い事になっていた。
透子は知っている。

723無題(3):2008/12/08(月) 00:36:47
アインが素敵医師に大きく執着しているのは、何も個人的な恨みだけが原因ではないことを。
素敵医師がザドゥ以上に参加者にとって危険な障害であると思ってるからこそ、
アインを支配していたサイスという男と同じタイプの人間であったからこそ、

最優先で排除するだけの価値がある標的として、他者の死を視野に入れての復讐行為に没頭できているのだ。
そんな彼女がもし素敵医師以外にも同じ手段が取れる存在が、他にもいる事に気づいてしまえば高確率で
『素敵医師を何が何でも殺す』というスタンスから、『運営陣の薬物使い全員を何が何でも殺す』に変化させてしまう。
そうなればこれまでよりも行動の融通が利く、厄介な反乱者となり、その性質ゆえに戦場からの逃亡を選択していたかも知れない。

運営者の一員としても、双葉の絶望を知る者からしても、その展開は回避する必要があった。
智機は分機爆破を救助妨害と非難していたが、ザドゥへの捕獲行為こそが透子から見れば妨害行為。
あの時は反論するのが面倒だから黙っていた。

(朽木双葉への支援が原因? 支援の積もりはなかったけど)

2時間ほど前にロケットを通じて、脳裏に文字を浮かび上がらせる手段で警告を伝えてきたのを考える。
別に直に支援をしたわけでもないし、ルドラサウムの気を害する行為をしたつもりはない。
どう考えても腑に落ちなかった。

(あの警告もプランナーの手段としては不自然だった。
 本当に彼だったの?……それも含めて確認をしないと)

自らの自同律が崩れ自らの存在が消失しそうな兆候はない。
喪われた『彼』の存在も、これまで通り微弱だが空から感知することが出来る。
解任されたにしては、どこか妙だった。
透子自身、願いを叶えたい身である以上ここで放心している場合ではない。

724無題(4):2008/12/08(月) 00:39:14
前に進むにはロケット破損の理由を、契約の事を知る必要がある。
ロケットを通じて連絡が取れないなら、ザドゥか智機に取次ぎを頼まねばならないだろう。
透子は学校に行こうと一歩踏み出し、足を止めた。

(……面倒)

眼前には廃村が見える。
学校跡までの距離はさほどあるわけではない。
それでも透子から見れば徒歩で歩くのには苦労しそうな長距離と暗闇に思えた。
透子は転移できないかと諦め半分でロケットを握り、念じる。
変化は無かった。
透子は諦めずに、今度は通信機を手に取った。

(レプリカに来て……)

移動にDシリーズを派遣させてもらおうかと考える。
だが流石にそれはやってはいけない事だと透子は気づいて思い直した。
森の方を見れば、火災はますます広がっている。
早めにザドゥを見つけるか、智機がいる本拠地に戻らなければいけない。
このままでは途方に暮れたまま、何もしないままゲームが終わってしまう。
かと言って、透子としてはそのまま徒歩で行くのはリスクが大きい。
参加者と遭遇してもまずい。
透子はロケットを放し、ポケットに入れてため息をついた。

(やはり、クビになったかも)

無力感と共に大きな脱力感が透子に圧し掛かってくる。
意志感知と読心だけで、どうやって単独で監察役と自衛ができるのだろう。
個人個人の良心の呵責を別にすれば、今の自分はさぞかし弱い駒だろうと透子は漠然と思った。
武器も所持していないし、仮に持っていたとしても銃や剣なんか扱えない。

725無題(5):2008/12/08(月) 00:40:58
考えてみれば本拠地に戻ったところで、透子自身が行動を邪魔した智機とケイブリスのみがいる現状、
最悪報復されるかも知れない。
智機にプランナーとの取次ぎが可能だとしても、性格上まともに受け付けないだろう。
こうなればザドゥを探すしかないが、読み替えが出来ない状態で、森の中に入っても煙に巻かれてすぐ死ぬだけだ。
このまま留まっても、参加者と遭遇する可能性はある。
徒手空拳で太刀打ちできそうな相手は今の参加者にはいない。
というか、透子自身は生命力・防御力は並で朽木双葉より明らかに低く、
攻撃力に至っては覚醒前の広場まひるより低いと断言できる。
常人以下。つまり……

(今のわたしならユリーシャにも負ける)

手詰まりだと透子は思った。
パートナーの事を諦めるのには大きな抵抗があるが、果たせるだけの力がないのならどうしようもない。
透子の肉体はあくまでただの人間なのだ。

(仁村知佳、今ならあなたに少し共感できる)

読心しか使えない疲労した状態で、恭也と共にグレンとランスという脅威を切り抜けた彼女を透子は素直に褒める。
少し、羨ましいとも思った。
そして、自分は相変わらず孤独と強く思った。

(このまま、消えても……)

透子は建物の壁に背を預け、夜空を見上げた。
火災の煙が雲のように空に広がっているが、まだ綺麗な星空が見える。
透子は瞬きをしないままそれぞれの星を見つめ、最悪このまま殺されてもいいとさえ思った。

726無題(6):2008/12/08(月) 00:41:52
でも出来れば、自分の最期は自分で選びたいとも願う。
死後、自分の精神体がこの世界に留まるような事があれば、いずれ紳一に襲われてしまうだろうから。
流石にそれは気分が悪い。
願いが果たせず、死ぬのなら意思そのものもこのままこの世界から消失したかった。

(アズライト……)

消失願望はアズライトも持っていたのを透子は思い出した。
彼は転生を繰り返すというレティシアとの再会を諦め、しおりを助ける為に死を選んだ。
罪悪感と無力感との違いはあれど、自らを嘆き死を望むという点では同じだ。

芹沢が事前に鬼作に対して警告していたのと、それを理由に警告は不要と智機が透子を制止していた為、
透子がアズライトと対面する機会はとうとうなかった。
その代わり、興味もあって学校内での最後の記憶を検索しようと、昼にしおり退出後に再建された学校内に入ろうと試みた。
だが知佳がいたのをきっかけでアズライトの方は一旦取りやめ、鬼作の方の記録を先に読むことにした。

(椎名智機……あなたのやり方は、雑)

アズライトと比べ、それほど興味を惹かなかった鬼作の記録だったが、検索してみただけの価値はあった。
その価値に気づいたのはしばらくたってからの事だ。

(わたしが警告しておくべきだった)

警告したところで反抗の意思は変えなかっただろう。
だがもし仮に今、透子が気づいている事を告げればどうなっていたか。
何故、その事を知ってるはずの智機がその事を告げなかったのも少し気になっていた。
智機本体を対象とした読心は動植物のそれと比べて、時折非常に読みにくくなる。
何故か記録もほとんど残さない。

727無題(7):2008/12/08(月) 00:42:46

心の声を聞ける透子が智機に質問したのは、彼女の心を表面上しか読めなかった事もある。

(未練……)

すぐに消えたいと思っていたのに、今は学校跡まで行ってアズライトの記録を
検索してみたいとさえ透子は望んでいる。
だが、透子から見て学校跡までは距離がある。
彼女は失敗を承知の上で『読み替え』を実行しようと、ロケットを取り出そうとする。

「……」

ロケットは取り出さなかった。
駄目元に過ぎない、転移できないのなら今度こそ徒歩でと覚悟を決めて、
目を瞑りながら学校付近の風景を強くイメージした。

「……!」

身体が軽くなったような気がした。

728無題(8):2008/12/08(月) 00:43:42

       □       ■       □        ■

鬼作

(二日目 AM10:00 校舎裏)

ありゃあ……主催者の一員じゃねえか。
それも白衣に全裸姿で外を歩いてやがる……!。
俺はここに来て漸く見つけた獲物に息を弾ませる。
露出狂かよ!
……変態相手はちったあ気が引けるが、背に腹は変えられねえ!ここで不満を解消させてもらうぜ。
……アズライトとガキは気づいてなかったようだな。
好都合だぜ、武器がナイフしかねえのは心細いけどよ。

俺様はあの女に気づかれないように距離を置いて尾行をする。
いいケツしてやがるぜえ……あまり顔はよくねえけど、いい肉壷を味わえそうだ。
変態だけに処女じゃねえかも知れねえが、文句を言っちゃあいけねえよな。

俺は奴に気づかれないように、獲物との距離は確実に縮める。
しっかし、あいつら大丈夫かよ。
まさか部屋を見つけられなくてここに戻ってくるんじゃねえだろうなあ……。

女がこちらを振り向いた、俺はとっさに身を隠した。
女はおびえた表情を見せていやがったが、安堵の表情を浮かべると散歩を再開した。

やべえな……あの表情……
こちらまでいい香りがにおってきそうだぜ。
………………。

729無題(9):2008/12/08(月) 00:45:27

糞っ……不安だぜ、あいつら本当に主催と満足に戦えるのかよ。
アズライトは度が過ぎる甘ちゃんの上にズタボロだ、あのガキも頭がおかしいまんまだ。
まともな判断が出来るとは思えねえ。
現に俺が最初に兄貴達と襲撃かけたのを覚えてないしよぉ……。
……何でこうなっちまったんだ?
! くそ、俺は何を考えてやがる!?

んなもん悪趣味な遺兄ィの所為に決まってるじゃねえか。
肉壷にもならねえガキ相手に何をセンチになってんだよ。
………………。
俺は何とか声を出さずにすんだ。
……あのガキがくたばれば、多分アズライトは使い物にならねえ。
くそっくそっくそっ、手詰まりじゃねえか。
もっと戦力を増やさねえと話にならねえ。
折角の獲物を前にして引き返すのかよ!?

ん。なんだこりゃあ。
足元にビニール線がある。
電気コードか?
んなもん、ここにあったかあ?
! 女が立ち止まりやがった。
俺は下らない考えを頭から消し去り、いよいよかと期待と性欲を膨らませ、
どうやって美学を表現しようかと考える。

……………………待て。
これは罠なんじゃねえか。
そもそもこの電気コードは何処に繋がってるんだ?
! 女がこっちを向きやがった。

730無題(10):2008/12/08(月) 00:47:28
腰抜かして俺をおびえた表情で見つめやがった。
!! な、何ィ……もうすぐ死ぬんだから楽しみましょうよ、だとぉ。
う、うううっ、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!

      ◇       ◆       ◇        ◆

へ、へへへへへへ、えへへへ…………
あのガラクタども、今に見てやがれっ……
俺は最後のガスボンベを運びながら、奴等に気づかれない様に小さく笑った。
……俺様って案外すげえんじゃねえか?
溜まってたからその所為かもな……。
アズライトの野郎、まだモニターを前に固まってやがるんだろうなあ……。
ちったあ、ガキを見習えよ……。
………………アズライト、おめえは思いもつかねえだろうし、知らない方がいいかも知れねえし、
もう手遅れかも知れねえから伝えねえがよ……。
おめえの探していたレティシアはきっと……主催者どもの所にいたんだぜ。
でなきゃ……なんでブラウン管の向こうに写ってやがるんだよ……。
見間違えるほど、呆けたのかよ。
そうじゃねえんだろ?
俺は流血で悟られねえ様に、手ぬぐいで血を吸い取る。
…………………………!
頭が上手くはたらかねえ……俺のはいぱーこんぴゅーたーもめんてなんすが必要かあ?
くだらねえことを思いついたぜ……。
俺の……俺達の血を引いてるのが、あのガキみてえに美人に生まれる筈がねえだろ……。
あのガキどもとブルマー女の顔を思い出しちまった、情けねえ……。
…………本格的にヤキが入っちまったか。
俺はナイフを強く握り締めた。
俺達の妹もここにいるかも知れねえ妄想をするなんてよ……。
第一、何十年前の話だよ。それもすぐに死んじまったじゃねえか、夢見すぎてんだよ。
……! あんガキやべえ……!
あいつ……まだ……!
いい加減にしやがれっ!!

731無題(11):2008/12/08(月) 00:49:29
       □       ■       □        ■

(二日目 PM6:35 H−6・学校跡付近)

「そう」

透子はN-22からの通信を切ってから、そう呟いた。
素敵医師と朽木双葉とアインの生死確認が終わった。
透子が唆かしていた朽木双葉と他2名は死んだのだ。
彼女としても彼女が無念の死を迎えたことは残念だったが、自分の願いがまだ潰えてないのが判った今、
これ以上惑うわけには行かなかった。
これからザドゥを救出し、彼を通じてプランナーから確認を取らなければならない。
わたしはこれからどうすればいいのか、わたしは脱落したのかと、問う為に。

(本拠地……わたしの部屋に行くのも危険)

透子は使えないはずの『読み替え』で望んだ場所――学校付近への転移に成功した。
発動体のロケットを介さずに。

(椎名智機との接触は、これからなるべく避けた方が無難)

透子は地面に通信機を置いた。
位置を悟られるわけには行かなかった。
アズライトらへの智機の対処の仕方をはっきり確認した今、智機の性格をより理解できたからこその行動だった。
智機の性格からして、これから自分に対して報復を行うのは目に見えているから。

(色々、試してみないと……。それより前に道具が必要)

732無題(12):2008/12/08(月) 00:59:08

本拠地に行けば銃器や電子機器はたくさんあるが、
救助に必要なものは既に智機が使用・管理している。
と、なれば島から調達するしかないのだが、それは当初から運営陣には禁止されている。

(……長谷川の隠れ家を探そう)

記録からして森の西の端辺り、H-3に彼自身の隠れがある可能性は高い。

(そう言えば彼はゲーム開始より数時間前、参加者のデイパックから個別支給品を4つほど取り出して、
周囲にあった古い本や植木鉢と交換していた)

智機は止めなかったし、芹沢も止めなかった、ザドゥはやや渋い顔をしていたがそのまま通した。
透子は元より追求する気はなかった。
後で流石にまずいとザドゥは判断したのか、死んだタイガージョーの支給品や、
デイパックを持っていかずに行った広田寛の支給品を比較的見つけやすい場所に
配置するように透子に命令を出した。
透子もそれに従った。

(残っていれば、いいけど)

透子は灯台跡をイメージする。

(レティシア)

アズライトの想い人の名を心で呟く。
彼女はアズライトの記憶を呼んでの、彼女が写っているビデオ作りに加担していない。
ザドゥや芹沢も関わっていないだろう、二神以外で真相を知るのは智機だけだろうと透子は思った。
可能性が見える限り、彼のように願いを諦めないことを自分に言い聞かせる為に。
透子は自らを対象に世界の『読み替え』を行い、灯台跡付近に転移した。


                    ↓

733無題(状態表):2008/12/08(月) 00:59:53

【監察官:御陵透子】
【現在位置:H−6・学校跡付近→Ⅰ-5・灯台跡付近】
【スタンス:① 素敵医師の隠れ家を記録を辿って探し、其処でアイテムを回収する
       ② ①の後、ザドゥを探して救出を試みる。その際、プランナーとの交渉を頼んでみる。
         智機との接触は極力避ける。
       ③ ①と②の後、紳一(亡霊)とアズライトの記憶検索を始める。
         ルール違反者に対する警告・束縛、偵察は一旦、中止
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』現状:自身の転移のみ】
【備考:疲労(小)、通信機は学校後付近に放置。
     透子に伝えた『警告』はプランナーのものであるとは限りません】

734284:2008/12/08(月) 01:08:51
仮投下完了です。
>>713
連日の本投下お疲れ様です。
感想は今晩に。

今回のは結構はっちゃけた内容ですので、まずいと思った所があったら訂正いたします。
当初メール欄①の出番があったのですが、別の話に出した方がいいと判断したので
存在を匂わせる程度の描写に。
素敵医師が取り替えたアイテムの一つはメール欄②等の方向で考えてます。
問題が無ければ火曜日の夜に本投下する予定です。

735284:2008/12/09(火) 00:06:50
昨晩の投下した作品で見落としがあったので、管制室での>>734のメール欄も含めて加筆・修正します。
本投下は水曜日の晩になると思います。メール欄は出てきません。
作者さんの新作との兼ね合いが出来なければアナザー化します。

加筆後の基本的な話の流れは

透子、N-22との連絡後に能力制限を受けたショックで、監察官を解任されたと誤解して絶望する。
だが鬼作の記録を通じて容易に諦めるのは早いと判断し、
双葉らの死亡確認後に読み替えで管制室へ転移する。
その前に二神やら千鶴やら双葉やらまひるらに対する透子の考察が入る。
鬼作の回想に出てきたレプリカの描写もちょっと変わる。
管制室で(智機らはいないし、出ない)何かがいたことに気づくが
智機らの敵意に気づいて本拠地から逃げ出す。
それからザドゥ&芹沢を救助すべく、道具集めのために素敵医師の隠れ家を探し始める。

です。

>カモちゃん☆すらっしゅ!
またレプリカが一体逝ったか……惜しい機体をなくしたもんだ。
芹沢の神道無念流の説明と描写が丁寧で、改めて彼女も強いんだなあと実感させられました。
新技カモちゃん砲よりこええよw
本調子に戻ってきた芹沢と、精神的にますます余裕が無くなって来たザドゥが
好対照でした。

736名無しさん@初回限定:2008/12/09(火) 02:10:52
おサルさん喰らっちゃったので起きて再開してもまた途中で喰らって駄目だったら此方に投下するのでどなたかお願いしますorz

>>721-
智機の思考と透子の思考がすれ違ってたのが良く解るいい作品だと思いました。

>>735
N-22は管制室に常駐ではありませんでしたっけ?
メル欄の方了承です。
何かに関しては何かが解らない以上何ともいえないのでノーコメで。

737284:2008/12/09(火) 07:16:56
早速のレスどうもです。

>N-22は管制室に常駐ではありませんでしたっけ?
ご指摘ありがとうございます。

管制室へ転移後(タイミング的には>>711の智機の思案の直前)
にN-22と会話、その際に『……まだか』との謎の記憶を透子は察知し、
N-22にそれを伝える(N-22に心当たりはない)。
それから透子は『声』を一旦無視して状況を分析する。
自らの身が危ない事を悟って、管制室から脱出する。
という内容の描写を今夜にここに投下します。

738名無しさん@初回限定:2008/12/09(火) 21:52:22
ラスト喰らったのでどなたかお願いしますorz

739歪な盤上の駒-道-(15):2008/12/09(火) 21:52:44
 静かに真意を問う智機に対してケイブリスがにやける。
 興味深いモノを見つけたかのように。
 心根に共感し、協力をしているが、ケイブリスからすれば所詮は取るに足らない機械。
 パイアールが作っていたようなものだとどこか心の中で見下していた所が彼にはあった。

「いいぜ、その目……ギラギラとしてて餓えてる目だ。見直したぜ」

 俺様と協力するんなら、そのくらいでなくっちゃなぁ。とケイブリスは微笑した。
 
(私を認めてる? ということなのだろうか……)

「……誉め言葉として受け取っておこう」



740歪な盤上の駒-道-(情報):2008/12/09(火) 21:56:07
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先、
      智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】

【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。①ザドゥ達と他参加者への対処、②しおりの確保】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】

741名無しさん@初回限定:2008/12/09(火) 22:30:12
代理投下完了しました。

742284:2008/12/10(水) 04:32:40
すいません、急用があったので管制室の方が前夜に投下できませんでしたorz
書き直しと加筆が完了次第、まとめてここに投下します。
本投下の際は誤字脱字の修正以外は、ここでの修正版のとほとんど同じ内容になると思います。
問題がなければ、投下後から一日後以降に本投下します。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板