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仮投下スレ2

1もふもふーな名無しさん:2009/05/15(金) 20:32:18 ID:SF0f54Dw
SS投下時に本スレが使えないときや
規制を食らったときなど
ここを使ってください

679鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:02:34 ID:wOPEoI2k


さわわっと、夜風が草根を分けそよぐ。
草原に群ぐ雑草たちが、陽光の名残を惜しんでさんざめき。
明日の我が身を鑑みることもなく、ただただ光を求めて揺れる刹那草。
この殺人ゲームを模すかのように、今を生き足掻いていて美しい。
そんな草叢を掻き分け、夜闇に熔けて強殖装甲が駆ける。
草原を、抜ける。次なるフィールドは水辺。強化された脚力で泥底を踏みしめたその瞬間。
異形が、割れる。甲殻を思わせる鎧が弾けるように外れ、"中身"が露出していく。
泥と藻に足を取られ、"中身"は転倒した。押し寄せる水に、全身が翻弄される。
熱を、寒気を、怖気を、良識を、後悔を、内外あらゆる障害物を排除し、装着者を守ってきた鎧が、今はもうない。
そうして"中身"は無防備だった。肉体はもちろん、精神すらも、磨耗しきっていた。
辛うじてそんな"中身"に存在意義と存在理由を与えていた強殖装甲。
無機質なそれは、自己を否定する者に恩恵を与える情など持ち合わせない。
不幸と失態の果てに、全てを拒絶した"中身"は。
遂に、己の『根』をも手放しつつあった。

「う……ごおええええ!!! ごえええええ!!! 」

嘔、吐。黄色じみた血の混ざった吐瀉物が、水面を汚して広がって。
たった今まで仮面に覆われていた顔からは苦痛しか読み取れない。
体内の全ての水分を吐き出した、と思えるほどの穢れを垂れ流しながら、"中身"は泣いていた。

「――――●∴→!! φ〆!!!」

のたうちまわり、仰向けになった"中身"が激しく痙攣しながら声にもならない雄叫びを飛ばす。ズキン、ズキン。
はて、"中身"の頭にズキン、と響くもの。それは痛み? 心の痛み? いや、"中身"の心は既に痛みを感じない。
何故なら"中身"は壊れているから。この場の仲間を見捨て、この場の肉親を見捨て、日常へ戻る事だけを求めてきた。
そう、"中身"はその実最初から――この島に降りたった瞬間から、その為だけに生き、殺してきたのだ。

680鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:03:12 ID:wOPEoI2k
                 .....
(そうだ……俺は、最初に何をした!?)

気付いた。"中身"は、自分の『根』に、今始めて目を向けた。
この殺し合いの舞台に落とされ、"中身"が最初にとった行動。
それは、他者の身を案じる事ではなく、自分の武器の確認だった。

(SOS団の仲間を救う? その為にハルヒとここで仲良くなった奴を殺して長門の親玉を満足させる!?
 うっかりハルヒを殺しちまって、ええと次は何だっけ? そうそう、長門に皆を生き返らせてもらって、
 都合よく記憶を消してもらって万々歳! ああ、そんな感じだったそんな感じだった、俺の思考ッ!!!
 仕方ないよなぁ、そういう思考なら俺以外の奴を皆殺しにしてもいいんだ、仕方ない、仕方なかったよなぁ。
 って馬鹿か! 死んだ人間は生きかえらねえし、長門一人ならまだしも、草壁のおっさんがいるんだぞ、
 殺し合いの結果を無意味にする願いなんて叶えるわけがないだろ! はっきりしない口約束だけで、
 なんで俺は信じちまったんだ? 信じなけりゃ、それで終わりだったからさ! ああ、希望に縋りついて何が悪い!?
 畜生、痛え、痛くねえっ! こんなもん、ハルヒに比べりゃ全然痛くねえだろ、多分。って俺誰に話してんだ?
 【俺】か? 【俺】って誰だよぉぉぉぉぉっ!!! そんな奴、どこにもいねえよ! 俺は一人! 生き残るのも一人!
 だからって、何で殺しちまったんだろうな? そんなの決まってんだろ……生き残りたかったからだよ……。
 怪物がいっぱい居るこんな島で生き残るには、こっちから攻めるしかないんだ! 俺は力を手に入れたんだから!
 でも、もうガイバーもなくなっちまった! スバルを殺したのがそんなに堪えたのか? もう何人も殺したのになぁ、
 おかしいなぁ……はは、はははは……ハルヒィィィィィィィーーーー!!!! ハルヒィィィィィィィーーーー!!!!)

激しく流れる、まとまらない、指針のない思考で痛みが麻痺し始める。
鎧を失った"中身"には、狂気、恐怖、憐憫、忘失志願、自己肯定etcetc...数多の感情が飛来していた。
力によって抑制され、押さえつけられてきたいわゆる人間らしい感情が、窯窪にくべられた様に燃え上がる。
それが一段落着くと、次は一旦棚上げされた痛みが帰ってきた。
痛みの出所は、ウォーズマンのスクリュー・ドライバーを喰らった左頭部の挫傷。
そのダメージの回復中に起こった、"中身"の揺らぎ。仲間と肉親の死による、大きな揺らぎ。
心が壊れていても、"中身"には変えられない過去があり、変わらない精神がある。揺らぎも無理ならぬ事。
だが、その揺らぎの代償は大きい。途中で回復を中止された挫傷からは、じわじわと血が流れ始めていた。
血は"中身"の目に入って、視界を赤く染めていた。仰向けに倒れた"中身"は、四肢で水の流れを感じながら、
口元にたどり着いた血を舌で拭う。味を感じているのかいないのか。"中身"は無表情のまま、空を見上げる。

「星が、星が見えないぞ……長門、そりゃお前は天体観測なんてする必要ないだろうがな、風情って物がなぁ……」

うわ言のように呟き、ふらりと立ち上がる。おぼつかない足取りで水場から離れて、草原に戻る。

681鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:03:49 ID:wOPEoI2k


「まったく……なんで、こんな事になったんだろうなぁ……一日足らずで人間ってここまで変われる物なのか?」

自分が何をしてきたのか。"中身"は、それを無性に誰かに話したい気分になっていた。
がさり、と背後から物音。今はガイバーならぬ身、気付かなかったのは当然。
背後から近寄ってくる物がなんであれ、"中身"に抗う術はない。
だから、"中身"は"振り向いた"。この島に来てから恐らく初めて、何の計算もなしに、自然に。

「キュックルー!」「ガウウ……」「キュア〜♪」「ヴォー!」『Mr.キョン……』

「よりにもよってお前らかよ……」

『キョン』。
それは、"中身"の名前ではない。
それでも、今現在の"中身"にとっては。

『……キョ、ン? な、何なのよその変な格好はー!!!』

最も心地よい、呼ばれ方だった。

「ヴォー?」

「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」

682鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:04:32 ID:wOPEoI2k




「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」


少年……ケリュケイオンが言うには、キョンと言うらしいが……キョン少年は、ぼそりとそう呟いた。
全く、人型種族ってのはいつもこうだな。自分達が最も賢いと思っていやがる。
まあ、ライガー族の俺からすれば賢さなんぞ二の次。
忠義と敵を食い破る牙さえあれば生きていける事が、俺達の誇りだ。
さて、俺の御主人様はどうこいつに接するのかね……?

「ヴォー」

おいおい……また見逃すつもりか。
今までの流れから見ても、こいつが御主人に害をもたらす存在であることは明らか。
本来ならこの場で俺がこのキョンとやらの首を噛み千切っているところだ。
だが、この島では俺は(恐らくは、ピクシーのババアも、フリードさんもだろうが)、
御主人様の意志に沿う行動しか取れない。俺が御主人様の為を思っても、命令があるまで動けない。
そして御主人様は今まで、自分の身に危険が迫っても俺やババアやフリードさんを矢面には立たせなかった。
その優しさには胸を打たれるが、それでは何故俺達を召喚したのか分からないではないか。
今のところ賑やかしとしてしか活動してないぞ、俺達……。別に戦いたいわけではないが、俺もあと数時間の命。
どうせ死ぬならこの命、せめて御主人様のために燃やし尽くしたいものだが……。

『Mr.キョン。貴方を追って温泉から飛び出してきたMr.ケロロから話は聞きました。今すぐ我々と共に……』

「どの面下げて戻れってんだ? 俺はスバルを殺した……」

『Ms.スバルは死んでいません。マッハキャリバーが身を呈して守ったそうです』

「……そうかよ、まだあいつを戦わせたいってわけか……せっかく楽にしてやろうと思ったのに」

『どうやら錯乱して起こした行動ではなかったようですね。それならばなおさら、温泉に出頭するべきです。
 貴方はMs.高町達に裁かれなければならない。このまま人殺しを続ける事は、貴方にとってよくない事です』

「いや。もう、俺は戻れない」

683鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:07:16 ID:wOPEoI2k

ケリュケイオンの野郎が、キョンに話しかける。そうそう、このキョンが温泉から尋常ならぬ様子で飛び出してきて、
皆で何事かと温泉の前まで向かった時にあの旨そうなカエルが飛び出してきて、俺達に一部始終を説明したのだ。
しかしこのデバイスって連中は何故俺達と違って共通語が喋れるのだろう。動けないからか?
マッキャリ君や一口サイズのボインちゃんも喋れてたよなぁ……いいよなぁ……御主人様の言葉は分かるが、
こっちの言葉が通じてるのか分からないのは地味にやり辛いのだ。って、そうだった! コイツ……キョン野郎!

「ガウガウ! ガガウ!(てめえよくも貴重なロリ巨乳を殺してくれたなぁ! 俺はボインちゃんが大好きなんだよ!)」

「吼えるなよ……俺はお前らとは違うんだ……今から話すよ、俺がやってきた事を。聞いてくれ……頼む……」

全く、言葉が通じないのは不便だ。誰もお前の言い訳なんぞ聞きたくないってんだ。
罪悪感を感じてるならさっさと自殺でもなんでもしやがれ、この災害野郎。
と、御主人様が俺の方を見て、ヴォーと鳴く。……ああ、ボインちゃんを殺したのはコイツじゃないのか。
あのカエルの慌てた口ぶりじゃコイツのせいでボインちゃんとマッキャリ君が死んだって印象だったが……。
御主人様には、他者の感情を深読みする力があるのかもしれない。
だからか、御主人様は俺に大人しくキョンの話を聞くように、ともう一度短く鳴いた。

「俺はここに来てからすぐ、男の子を殺した。大人しそうな、中学生くらいの子だったよ。
 軍曹とか姉ちゃんとか、死に際に言ってたなぁ……殺した理由は、ほら、覚えてないか?
 最初にルールを説明したあの女の子。あの子、俺の仲間なんだよ。楽しくやってた、仲間だったんだ……。
 涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝比奈みくる、それとあの長門有希。SOS団、なんてもんを作ったりして、
 学校で本当に仲良くしてたんだぜ? でも、ハルヒって奴にはちょっとした不思議な力があってな。
 俺以外のメンバーはそれを調べるためにハルヒに近づいてたんだ、最初はな。
 でも、あいつの無茶苦茶に振り回されるうちに、俺達は本当に"団"になってたと思うんだよ。
 だから長門も、目的……ハルヒがこういう舞台に巻き込まれてどういう反応をするかって事だと思う……それをさ、
 その目的さえ達成すれば、俺達を元に戻してくれると思ったんだ。笑えるだろ? 笑えよ、アクセサリー」

『……』

「次に俺は、妹を殴った。運悪く出会っちまってさ。で、そのバチが当たったのか、ナーガっておっさんに負けた。
 で、その後に、肝心要のハルヒを殺した。本当はヴィヴィオとかって子供を殺して、ハルヒを刺激しようとしたんだ。
 長門の目的の為に、な。でも、ハルヒは死んじまった。だから俺は……参加者を皆殺しにして、優勝して長門達に
 全部元通りにしてもらおうと決めたんだ。最初は俺自身は日常に戻るつもりはなかったんだが、
 雨蜘蛛やナーガに何度も負けたり、土下座したりしてるうちに、俺にも"生きたい"って気持ちがある事に気付いた」

684鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:08:28 ID:wOPEoI2k

『虫のいい話ですね。死者の蘇生? そんな世迷言を本気で信じていて、しかも自分も生きたい、と?』

「アクセサリーに説教されるようじゃ、俺もいよいよだな……。ああそうだ、白状するよ。俺は、帰りたかった。
 ハルヒのためだ、みんなのためだって口では言ってたし頭でも無理矢理そう思ってたが、本当はきっと、
 あの日常に帰って、何もかもを忘れたかったんだよ、そんな甘っちょろい考えだったから、【俺】だの夢だの、
 くっだらねえ現実逃避をうじうじ続けて、目的も手段もダメにしちまったんだろうなぁ……。
 でもよ、俺は何で責められなきゃいけないんだ? 俺はお前らみたいな戦いが日常の奴等とは違う、
 まともな人間だったんだよ。いきなり殺人鬼になんてなれるわけないじゃないか。ヒーローなんてもっと無理だ。
 だから俺はショウやスバルを偽善者と呼んで見下し、ナーガのおっさんには"様"をつけて服従した。
 芯のある奴を、真っ直ぐ見れなかったんだ……我ながら、情けないって思うよ。もう嫌だ……辛い……」

『自分を客観視することは更正への第一歩です。しかし貴方はまだ本当の意味で自分に向き合っていない。
 貴方がどれだけの心痛を感じていたかは理解しましたし、貴方の行動の動機も大方分かりました。
 しかし、貴方が殺した人にはそんな事は問題にはならない。貴方は現実に裁かれなければならない』

「現実なんて糞くらえだったよ。普通に考えれば死んだ人は生き返らないし、こんな事をした長門が全部を元通りにして、
 更に元のSOS団に戻るなんてことはありっこないって、最初ッから分かってはいたさ。でもそれを認めたら、
 俺には何も出来なかった。ナーガのおっさんを巨人殖装で殺したときに、長門に会ったんだ。その時、
 長門は俺に対して特に感情を見せなかった。いや、普段から感情を見せないのが普通な奴なんだが。
 それでも俺には、あいつが変わっちまったことくらいは分かる。それでも、もう戻れなかったんだ。
 その後、長門が俺の妹を殺したって分かってから、そこで初めて、長門の変化を実感した、そう思う。
 俺はもう何人も殺した。全部元通りになる、なんて馬鹿げた夢も捨てた。もうバトルもロワイヤルもないんだよ……。
 だからって死ぬのは嫌だ。殺すのも、うんざりだ。全部忘れて元の世界に戻れないなら、俺はどうすればいいんだ?
 もう、後の事を考えないで妄想レベルの希望にだけ進むなんて事は出来ない。自分の本心に気付いちまったからな」

『確かに、死んだ人間は蘇りません。貴方自身が殺したというMs.涼宮も。しかし、死者は無価値ではない。
 貴方からMs.スバルを守って死んだマッハキャリバーが決して無価値ではないように。
 Ms.涼宮も、親友だった貴方に今のような醜態を晒して欲しいとは思わないでしょう。
 死ぬのも殺すのも、現実逃避さえも嫌だというのなら、貴方はさながら悪夢のように彷徨うしかない。
 死んでいても生きていても同じ、無価値な存在になる。それはとても悲しいことです。だから、私達と共に来なさい。
 Ms.長門達に逆らい、勝利しましょう。そして貴方は仲間のいない貴方の世界に戻り、貴方の世界の裁きを受けなさい。
 それで初めて、貴方が殺したMs.涼宮達に、貴方は顔向けが出来る様になる、と私は判断します』

「そういう異世界じみた考えとは相容れないってんだよ……。 俺は普通の人間だと言ってるのが分からないのか?
 俺の生きてきた人生には、殺し殺され殺しあうなんてイベントはなかった。だからこそ、人を殺すってのがどれだけ
 おかしくて、許されないことかっていうのが分かるんだよ。俺はもう、お前たちの側にはいけない。
 俺は人を殺した。人を殺したんだよ……。お前らみたいな、戦いに明け暮れてるヒーローワールドの住民には
 分からないだろうがな、人間が人間を殺すってのは、普通の感覚だと在り得ないんだ。だから、俺ももう在り得ない。
 俺はもうどこに戻れないしどこへも行けないんだ。無価値な存在? ああそれでいい、それでいいからほっといてくれ。
 スバル達に伝えてくれ、俺にはもう構わないでくれってな。俺はもう疲れた。もう何も考えたくない」

『……』

685鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:09:09 ID:wOPEoI2k


川にゲロが流れていくのを見てもらいゲロしそうになってたら、会話が途切れた。っていうかセリフ長えな、オイ。
キョンの野郎、「僕はもう疲れたからほっといて!」って言うのにどれだけかかってんだよ。
あとケリュケイオン、機械仕掛けの癖によく喋るなぁ、ウゼえ。御主人様の方を見ると、悲しそうな顔でキョンを見ている。
御主人様にこういう顔をさせるだけで本来なら死刑確定なんだが、命令がないのでストレスが溜まるぜ。
会話にも参加できないので、余計にゲージが上がるって感じだ。今なら大技が出せる、気分的に。
大体何だコイツ、のほほんとした世界にいた事が免罪符みたいな口を聞きやがって。
俺の勘では、こういう情けない声の奴は俺達の世界にいても凶悪なワルモンになっていたに違いない。
と、ケリュケイオンが再びキョンに話しかけた。こいつの声の調子は常に一定だが、やや不快なニュアンスを孕ませて。

『わかりました。Ms.高町たちにはその旨伝えます。スバルは貴方を更正させられると思っていたようですが、
 客観的に見てそうは考えられませんので、貴方の申し出を拒否する理由はありませんから。……ここからは私見、
 デバイスである私が私見など、本当は言いたくないのですが、あなたが我々に二度と近づかないよう、あくまで
 Ms.高町たちの為に申し添えます。私もインテリジェント・デバイスとしての機能上、多くの悪党と相対してきましたが、
 貴方ほど美点を見出せない醜い人間は滅多に見ません。自分の行為を恥じ、後悔している風に振る舞いながら、
 それを改めも戒めもしない。それは、貴方が貴方の心の平穏の為に後悔を装っているだけだからです。
 貴方は悪党ですらありません。貴方の言うような普通の人間でもありません。要らない人間、まさしくそれです。
 Mr.キョン、さようなら。今後もし貴方に出会っても、私やMs.スバル達が貴方に関心を寄せることはないでしょう』

「う……」


キョンがたじろぐ。全てを否定しても、自分が否定されるとこれか。コイツ、本当に見所ねえな……。
多分ケリュケイオンは自分のマスターの同僚に危険が迫るのを避けるために、
機械的な動作でこういう毒舌を吐いているんだろうが、大体俺も同じ意見だった。ババアやフリードさんもそうだろう。
が……我らが御主人様は、違う。

「ヴォーヴォーロォーーー!!!」

『Mr.troll……? 何をおっしゃりたいのですか?』

686鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:09:54 ID:wOPEoI2k

翻訳もしてやれねえが、簡潔に言うとこういうことだよ、ケリュケイオン。
『それでも、放っておきたくない』。御主人様は既に自分が守ろうと思っていた子供を何人か失っている。
ここでキョンを放っぽり出せば、メイやサツキ、シンジの二の舞は確定だからな。
こんな無意味なこいつを見捨てない、それが俺達の御主人様なんだよ、ケリュケイオン……。
お前もそのうち、理解してくれるだろう。少しづつだが、俺達の意思を汲み取れるようになってるみたいだしな。
さて、御主人様の意向は分かった。御主人様への忠誠心と、キョンへの嫌悪感を天秤にかける。
忠誠心は俺の心のテーブルをぶち破り、地球の反対側まで沈んでいった。当たり前だ、この小僧と御主人様を
比べること自体が不忠。俺は御主人様の方を見て、小さく唸る。御主人様は少し驚いた顔をしながらも、
ニカーッと微笑んで、俺に命令(御主人様からすればお願い、だろうが……)を下さった。

『Mr.ライガー……?』

「ガウ、ガーウ……(あばよ、ケリュケイオン、ババア、フリードさん……いつか必ず再びあなたの御前に、御主人様)」

俺が、目が死にきったキョンの目の前まで歩き、背に乗るように促す。
キョンは驚いたように一歩後ずさったが、御主人様を見て無言で首を垂れ、俺の背に乗った。
不快だが、感じる体重にさえもう生気がない。惨めな野郎だ。
消える瞬間に御主人様の側に居られないのは、無論辛い。だが、御主人様が俺を信頼して、任せてくれたのだ。
もちろん本当は御主人様自身がキョンを運びたいのだろうが、せっかく仲間と会えたケリュケイオン達をそれに
付き合わせるのはどうか、と考えておられた。だから、俺が単独でコイツを運ぶ役を買って出た。
御主人様は、キョンがきっといつか改心できると信じている。善の極地におられる御方だからな。
その是非はどうでもいい。俺は忠義を果たすのみ、ライガー族の誇りにかけて、キョンを落ち着ける場所へ運ぼう。
俺が消えるまで後数時間、それでどこまでコイツを運べるか。御主人様の命令では、なるべく安全な場所がいいらしい。
御主人様の身の安全を考えるなら禁止エリアに突撃するのがいいのだろうが、俺が従うのは御主人様の御心。
俺は走り出す。決して振り向かない。御主人様が俺に求めたのは、劣情と隷属ではなく、友情と共生。
友達が泣く姿など、御主人様は見たくはないだろう。御主人様――どうか、御無事で。 最後の忠義、御覧あれ。
いや――最後はあえて、こう呼ぼう!


さらば、我が友!

687鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:11:27 ID:wOPEoI2k





狼みたいな獣の背に乗って、視界が激しく変わっていく。
ガイバーでもないのに、このスピードはキツイ。あの怪獣も、余計な気を回してくれたもんだ。
もっとも、もう俺には今までみたいに偽善者の気遣いを蹴って悪態をつくような余裕もなかったんだがな。
殺し合いに乗ってもどうせ全て元通りになんかならない、と認めちまった以上、もうそんな意地を張る意味もない。
襲われたら抵抗するだろうし、朝倉辺りが襲われてたら助けるかもな。でも、自分からはもう戦う気はない。
で、利用できる物は全部利用するだけだ。今までやってきた事を考えれば、そんな物はもうほとんどないだろうけどな。
狼をチラリと見ると、なんか泣いていた。泣くほど嫌なら乗せなければいいのにな。可哀想に。

「採掘所は……ダメだな、掲示板の書き込みで古泉を裏切った以上、もうノコノコいけるわけもない」

「ガウ」

俺が操縦しているわけでもないが、そう言うと狼は多少進路を変えたように感じた。
それ以外にどこか行きたくない所、行きたいところを思い浮かべてみたが、特に浮かばなかった。
強いて言うなら、ハルヒの死体の場所だろうか。放置されているなら、埋葬したい。
もう、誰も殺さなくていいんだから、それくらいの時間は悠々取れるだろう。
まあ、この狼がたまたまあの学校にたどり着いたりしたら、そうしようかな。
その後は……ハハ、何も思い浮かばねえや。誰にも会わなけりゃ、それが一番なんだろうなぁ……。

あれ?

それだと、死んじゃうのか。オレンジジュースになって。
死にたくねえよ。どうすりゃいいんだ? 死ななくても、どうにもならないんだろうけどな。
あーあ。誰か、俺を導いてくれよ。『団長』とかって腕章をつけた、ポニーテールが似合う無軌道凶悪女子高生とかさ。
全くどうして……。

「どうしてこんなことになったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!! 」

答えてくれる奴は、もちろんどこにもいなかった。


【G-5 草原/一日目・夜】
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(大) 無気力
【持ち物】デイパック(支給品一式入り) ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
【思考】
1:もう何も考えたくない。
2:誰か俺を導いてくれ。
3:もし学校に着いたら、ハルヒを埋葬する。
【備考】
※「全てが元通りになる」という考えを捨てました。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※あと3〜4時間程でライガーは消えます。ライガーはそれまで『キョンを安全な場所に運ぶ』為に行動します。
※ガイバーは使用不能になりました。以後使えるようになるかは後の書き手さんにお任せします。

688鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:14:32 ID:wOPEoI2k


『Mr.troll、何故……?』

「ヴォー……」

『彼の弱さに同情しているのなら、それは間違いです。彼は強い。この世で最も悪い方向に、ですが』

温泉へと戻りながら、ケリュケイオンは問い掛ける。
……理解不能。何故、あんなものに情けをかけるような真似をするのだろうか?
Mr.ライガーはあと数時間の命。Mr.キョンなどをどこかに運ぶことが最後の活動など、あまりに残酷だ。
Ms.高町たちから遠ざけると言う意味では、悪くないが……それより、彼女達にMr.キョンの事をどう話すかが問題だろう。

『Ms.ヴィヴィオ……』

Mr.キョンが襲ったという、Ms.高町の娘。
これを聞いて、Ms.高町がどういう行動を取るかは大方予測できる。
Ms.スバルが重傷の今(更に、もうすぐ夜中だ)、戦力の分散は出来るだけ避けたい。
言うべきか、言わざるべきか……。

インテリジェントデバイス、ケリュケイオンは、早くもキョンをメモリーから消しつつ、深く考えるのであった。

【G-4 草原/一日目・夜】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.????????????????
【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます。

689 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:15:15 ID:wOPEoI2k
以上で投下終了となります
どなたか、本スレへの代理投下をお願い致します

690 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:09:32 ID:Uw68TWIc
ちょっと不安があるため、一度こちらに仮投下します。

6913・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:11:59 ID:Uw68TWIc
リナとドロロは決断を迫られていた。

目の前には様変わりした協力者たちがいる。
服装がガラっと変わっていたり、明らかに体型・年齢が変わっていたりするが…
変身やらそういったものに耐性がある2人にとってはそれはさほど問題ではない。
いや、問題ではあるにはあるが―――今対処すべきことは他にあった。

2人が操作していた、そして今、朝倉が凝視しているパソコンのディスプレイには
プロフィールが表示されている。

"県立北高校1年、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"である
朝倉涼子のプロフィールを。


友好的な振舞いを見せていた人物が、裏でこそこそと自分の素姓を調べていた―――
これを面白く思う者はいないでござろう。

―――ドロロは素直に謝罪すべきか否か、真剣に吟味していた。


もう画面は見られてしまった。ごまかしが効くような相手とは思えない。
あたしの世界では普通のことだと言い張るか、ドロロが言い出したことにするか…

―――リナは開き直るか責任転嫁するか、真剣に吟味していた。





気まずい沈黙が辺りを漂う。
沈黙を保てば保つだけ悪いことをしたと思っていると言っているようなものだ、
そう判断したあたし、剣士にして美少女天才魔道士であるリナ=インバースが
意を決して開き直ろうとしたとき。

「それが、キーワードを入力した結果得られる情報というわけね」

アサクラが先に口を開いた。
突然の反応に思わずあたしはビクっと肩を震わす。
となりのドロロがハラハラしている雰囲気も伝わってくる。

「なるほど、参加者の顔写真と簡単なプロフィールさらに最初の支給品まで分かるのね。
 ちょっと面倒だけど、これを全員分覚えておけば…かなり有用なのは間違いないわね」

あたしとドロロの脇を通り抜け、パソコンの前まで歩を進めながら飄々と言葉を紡ぐ。
画面を覗き込んでいるのでその表情は伺いしれないがえらくあっさり風味である。

6923・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:12:50 ID:Uw68TWIc
「あ…朝倉殿。気を悪くしてないのでござるか?」

なんだかあまりにあっさりしすぎているので不審に思たようでドロロが尋ねた。
ディスプレイを覗き込んでいた朝倉は、ゆっくりと身体を反転させる。

「ええ」

短い一言を言ったその表情は、笑顔だった。
無理して作った笑顔でもなければゼロスのような胡散臭さも感じさせない、
バックで光がきらきらしている満面の笑顔。
その見事なまでのスマイルが
『気を悪くしない?うん、それ無理』
と逆に物語っているような気がしてドロロ、あたしのみならず
ヴィヴィオちゃんまでも思わず後ずさった。


● ● ●


場は丸く…かどうかは非常に怪しいけど、とりあえず収まった。
そしてまずアサクラはあたしとドロロにヴィヴィオがどうして突然"成長"したのか説明してくれた。

新・夢成長促進銃―――効果を目の当たりにしなければ絶対に信用しないようなアイテムであるが…
肉体年齢を操作することができるなんて、異世界って広い。
これが平時なら解体してその原理を調べレポートするなり転売するなりしてひと儲けするところだが
あいにくとそんなことをやっている場合ではない。
まずは、今後の方針をしっかりさせておく必要がある。

「…いまさら確認するまでもないかもしれないけど、念のため。
 あたしもドロロもさっきのズーマのときのような状況にならなきゃ
 進んで殺し合いをする気はないわ。アサクラたちもそうと思っていいわね?」

あたしの問いに大きくなったヴィヴィオちゃんがこくりと頷く。
しかし、その隣にたたずむアサクラは凛とした瞳でこちらを見据え、はっきりと言った。

「私は少し違うわ」

静かに言った。
これはすぐに肯定されるだろうと思っていたあたしはちょっと面食らい、場の空気が張り詰める。

「もちろん、無駄な争いは起こさないつもりだし、進んで殺し合うつもりもない。
 ………だけど。例外もいる」

ヴィヴィオちゃんの左腕につけてある、メイド服とは不釣り合いな腕章に目をやりきっぱりと言った。
その"例外"が誰なのか察したヴィヴィオちゃんは物哀しげな様子を見せる。

「…オーケー。その人に関してはアサクラの判断に任せるわ。
 今は話を進めるわよ」

ある程度話は聞いていたのであたしも言いたいことを推察できた。
あとで話を聞くことにして会議を進行させる。
何せあと30分ないし40分もすればまたショウたちとのチャットが始まる。
情報が増えるまでにできる限り情報整理は終えておきたい。

6933・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:13:42 ID:Uw68TWIc
「時間が惜しいから、あたしがアサクラたちに聞きたいことをざっと挙げるわ。
 まず第一にあなた達の知り合いについての情報。危険人物については最優先で。
 次に、首輪について。
 アサクラが『どうにかできるかもしれない』って言った根拠も教えてもらいたいわ。
 あとそれと―――」

「"対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"とは何か―――
 とかもどうかしら?」

素晴らしき笑顔でそういった朝倉に思わず、うぐっと言葉に詰まる。

確かに気になってる、気にはなってるけども………
ああああああ、やっぱりこっそりプロフィール見たの根に持ってる!!?

などと頭の中で冷や汗を流しながらも、

「あはははは、うんそれもお願い…」

とりあえずひきつった笑顔で返事するぐらいしかできない。
………彼女から話してくれるまで、この話題には触れないでおこう…。

「…朝倉殿たちが拙者らに聞きたいことは何かあるでござるか?」

トラブルを引き起こしたくないとか言ってたドロロが助け舟を出してくれたおかげで、
話の軌道が修正された。ガウリイにはできない気遣いである。ナイス。

「そうね…私たちもあなた達の知り合いについては最低限押さえておきたいわ。
 それにこの殺し合いのシステムやパソコンなどの情報においても
 二人のほうが知っていることは多いようだし、教えてほしいところね。
 そんなに悪くない条件のはずよ。情報交換に関してはこれでどうかしら?」

「こちらとしてもそれでいいわ」

あたしは内心ほっとしていた。
"首輪解除"についての情報は脱出を目論む参加者としては必須の情報、
その価値はあたしたちが考察したり集めたりした情報全ての価値よりも上になり得る。
最悪、アサクラが首輪の情報と引き換えにこちらの情報から支給品まで全て要求してきたとしても
突っぱねるかどうかは非常にきわどいほど、最最最重要なもの。
それがこの程度の対価で得られるならば願ってもない。

だからといってここであからさまに喜べば足元見られる可能性もある。
あたしとしてはそこらへんで手を抜くはずにもいかない。
ここは冷静に、そういった感情は伏せて情報交換をしよう。

6943・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:14:22 ID:Uw68TWIc
「よし、それじゃあ情報交換を始めましょう」

「拙者はそれと並行して参加者のことをkskコンテンツで調べるでござる。
 晶殿とチャットする前に『雨蜘蛛』『川口夏子』について調べておきたいでござるからな」

「それがいいわ。
 ついでに、『草壁姉妹』と『トトロ』、『冬月コウゾウ』についても
 調べてもらってもいいかしら、ドロロさん?」

「承知したでござる。それだけでいいでござるか?」

ドロロの問いにアサクラは綺麗な眉をぴくりと動かし眼を右上の虚空へと遣る。
他に何かなかったのだろうかと思案しているようだ。

やがて、何か思い至ったのか手をポンと叩き口を開いた。

「そうそう。大柄で浅黒い肌の中年男がいたら教えてちょうだい」

アサクラのその言葉にあたしとドロロは目を合わす。
なんつーか…あんまり思い出したくないんだけど………思い当たる節があるという説が…

「ねぇドロロ…」

「察するに…彼奴でござろうなぁ…」

ドロロは布越しにでも分かるほどの大きな溜息を吐き、
あたしは眉間をひっつかんで頭が痛いことをアピール。
皆まで言うなかれ、あたしのような繊細な心を持つ乙女にはあれを思い出すのは精神衛生上よろしくない。

「二人とも、彼に会ったの?」

「明け方に………一戦交えたでござる。この眼も彼奴――ギュオーにやられたのでござるよ」

そう言ってドロロは左目を指差した。
その痛々しさに、ヴィヴィオちゃんは思わず目を背ける。
対照的にアサクラは平然としているが。

「そうなの。それについては情報交換のときに聞かせてもらってもいいかしら」

「もちろんでござる。
 リナ殿とヴィヴィオ殿は他に何か調べておくことはござらんか?」

ヴィヴィオちゃんはドロロのほうを向いて首を横に振る。
あたしはしばらくあごに手を当て考えてみた。

6953・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:15:02 ID:Uw68TWIc
このkskコンテンツとやらには各参加者が最初に持っていた支給品情報が記述されているようだ。
逆に言えば特定の支給品が誰の手に渡っているかの手がかりにもなるし、
この島の中に存在するアイテムを特定することもできる。
そうなるとすると、その存在を確認しておきたいアイテムはいくらかあった。

あたしは口を開く。

「『光の剣』別名『烈火の剣(ゴルンノヴァ)』、それと『タリスマン』。
 あとさすがにないと思うけど異界黙示録(クレアバイブル)。
 こいつらが支給品にないかチェックして」

「有用なアイテムなのね?」

アサクラが微笑を浮かべながらこちらを見る。
あたしはその眼を見てこくんと頷いた。

「ええ。もし支給品としてこの島にあるのなら説明するわ。
 それじゃ、時間もないし―――始めましょうか」

『All Right』

かくして、kskコンテンツを用いた情報収集と4人+1機による情報交換という一大イベントは幕を上げた。


● ● ●


これまでの軌跡。
出会った人物。
元の世界の知り合いetc.

情報交換は滞りなく行われた。
ドロロにしても朝倉にしても、誰も言ってくれないので自分で言っちゃうがあたしも
"聡明"と称して差し支えがない程度には切れ者だと思う。
語り手は話す内容は最低限に絞り、聞き手も実に的確に質問をするという理想的な情報交換であった。
ヴィヴィオだけはそうもいかないが、そこはバルディッシュがいる。
彼が手早くフォローに入るため問題なかった。

「………と、拙者についてはこんなものでござる。
 他に質問はござらんか?」

最後の一人であったドロロが全てを語り終え、キーボードを叩く手を休め3人に目を遣る。
もっとも道中はほとんどあたしと一緒だったし出身世界の仲間たちの話をしたのみ。
よって大した量ではなかったのですぐに終わったけど。

見渡してもアサクラもヴィヴィオちゃんも手を挙げる様子も口を開く様子もない。

「うん、それじゃあ…これで最低限だけど、情報交換は終了でいいわね?」

ふぅ、と息を吐き一息入れるためにあたしは首をコキコキ鳴らした。

6963・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:15:34 ID:Uw68TWIc
アサクラの話によると、どうやらギュオーはあたしたちとの戦闘直後に滝付近で倒れていたらしい。
そこをウォーズマンとかいうまっくろくろすけが保護して治療したということだ。

ちぃっ、余計な真似を。

それにしても、ウォーズマンが滝に駆け付けた時は周囲には誰もおらず
ギュオーだけがいたそうで、荷物も盗られていなかったようだ。
ということは誰かに奇襲を受けて倒れたわけではなく
あたしたちとの戦闘によるダメージによって力尽きたのだと推測できる。

竜破斬を受けてまだ戦っていたりドロロとあたしを撃退したことからしても
タフなのは間違いないようだが…その後倒れちゃうようじゃマヌケとしか言いようがない。
もしかしたらギュオーのおつむは発酵してるんじゃなかろうか。
おまけにストーカーな上に変態なので脳みそが半分溶けてるガウリイよりもタチが悪い。
だが、性格もなんとなく掴んでるし上手くやれば利用してやれるかもしんない。
………できればもう会いたくないもんだけど。

「それじゃドロロ、kskコンテンツのほうはどう?」

「報告するでござる。
 まず、これを見てほしいでござる」

ドロロはそう言い、マウスを操作してページを送る。
瞬間的に誰かの写真が映り、すぐにまた別の写真が映る。
クリックに反応してまたすぐに別の写真に切り替わる。
そんなことを繰り返して映し出された画面には―――

「あっ…あの温泉の怪物!?」

風格漂う、獲物を狙うヘビの眼を持つ紫の怪物の写真が映されていた。
肩書きは『ワルモン四天王』。
非常に悪そうな団体名?と四天王というなんだか強そうな肩書き。
分かりやすいのはいいけどもうちょっとどうにかならなかったのか…などと
心の中でツッコミを入れるがこの際どうでもいいので捨て置く。

その名前を見ると―――

「こいつが、やっぱりナーガか」

「先程放送で呼ばれた名前ね」

「ええ。ショウから名前は聞いてたけど…間違いなかったみたいね」

「それと、この写真も見てほしいでござる」

ドロロがそう言いもう一度カチカチとマウスを操作する。
顔写真が流れるように表示されていき映ったのは。
顔を覆った布から鋭い瞳と針のような髪を覗かせる、見慣れた顔。

6973・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:16:20 ID:Uw68TWIc
「っ…ズーマ」

「やはりそうでござったか。拙者は顔こそ知らないでござるが
 『凄腕の暗殺者』という肩書きを見てそうではないかと思ったでござる。
 ラドック=ランザード…それが彼奴の本名のようでござるよ」

「あたしも初めて知ったわ。けど…」

この名前は先程の放送でも呼ばれていた。
だが、今まで散々苦しめられた相手の名前だろうと今知ったところで役に立つわけでもない。

「殺し合いに乗って死んだような連中はどうでもいい。他になんかなかった?
 光の剣が支給されてました―――とか」

「リナ殿が探してほしいと言われたアイテムは光の剣とタリスマンが確認できたでござる。
 もっとも、光の剣はレプリカでござったが…」

「れぷりかぁ?」

「レプリカ…ね。ということは別に入手する必要はないかしら」

「んー…でも普通の剣よりはずっと便利なのよね、レプリカのほうでも」

光の剣のレプリカといえば、
おそらくポコタが持っていたタフォーラシアの技術で作られたものであろう。
レプリカと聞いてアサクラはパッチもんの劣悪品というイメージを持ったのかもしれない。
だが、美術品でもそうであるようにレプリカでも出来がいいものは結構ある。
このレプリカもその類で、本物にこそ及ばないものの使い勝手は十分に良いのだ。

「どういった効果の剣なの?」

「物質的な破壊力と、相手の精神そのものを断ち切る、
 持ち主の意志力を具現化した光の刀身を生み出す剣で切れ味はそれなりにいいわ。
 魔法を上からかけてやることで威力を上げたり光の刀身だけを打ち出したりと応用も利くし
 あるに越したことはないんだけどね」

「で、それは誰に支給されたの?」

「…彼でござる」

そういってドロロが表示させた画像は………
銀色のマスクが光る強面でごつい身体。
肩書きは『悪魔超人軍の首領』!
その名は悪魔将軍!!

どう見ても悪人です本当にありがとうございました。

6983・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:17:23 ID:Uw68TWIc
「また厄介そうな人の支給品になっちゃったものね…」

「でも、この人が持ってない可能性もあるんだよね?」

「ヴィヴィオちゃんの言う通りね。
 もうここに連れてこられてからかなり経ってるし…
 こいつの手を離れてても全然不思議じゃないわ」

うまく手に入るといいんだけどなー、と思うが…まぁそう都合よくはいかないだろう。
島の中にあるのが分かっただけでも良しとしよう。

「で、ドロロ。タリスマンは?」

「彼でござる」

カチリと手元を動かし表示させたその画面に映ったのは
ブタ鼻とタラコ唇、額に『肉』と書かれたマスクを付けた
できれば関わり合いになりたくないようななかなかお目にかかれないブ男の画像だった。

全身写真じゃないため断言こそできないがいい身体つきをしている。
筋肉も見せ筋ではなく実戦で鍛えたもののようだ。
肩書きの『キン肉星王子』やら『超人オリンピックV2達成』が
どれほどすごいのかあたしにはイマイチ判断できないが…
なんだか単純そうだなぁ、とか直感的に思った。
あと『正義超人』という肩書きもあたしに言わせれば非常にうさんくさい。
と、散々な評価をあたしは下していたが
ヴィヴィオちゃんとアサクラには別に思うところがあったようだ。

「キン肉マンさん!」
「あら、キン肉マンさんじゃない」

「こいつがゼロスと一緒にいなくなったっていう奴なの?」

「ええ」

ゼロスと同じところに転移したのかどうか知らないけど…
もし今も一緒にいるのならいいようにされてないことを祈るばかりである。

「キン肉マンさんはあたしが確認した時点では初期支給品は全て持っていたはずよ。
 ところでそのタリスマンはどういったアイテムなの?」

「魔法発動前に短い増幅魔法と唱えてやると使用者の魔力容量が一時的に上がるのよ。
 これがあると使える魔法のレパートリーも威力も増えるし便利なんだけど…」

6993・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:18:17 ID:Uw68TWIc
そこでふとある考えが頭をよぎった。
『タリスマンがあると使える魔法』というのはあたしの場合は
獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)だったり神滅斬(ラグナ・ブレード)だったり
暴爆呪(ブラスト・ボム)だったりするわけだが…

この暴爆呪、火炎球(ファイアー・ボール)よりも数倍の火力を誇る火球を数発撃ち出す
凶悪無比な火系統の魔法なのだが何を隠そうタリスマンがあればゼロスくんも使用可能なのである。

ゼロスと一緒に消えたタリスマン(+ブタ鼻)。
そしてさっき市街地のほうであった大規模な火事。
アサクラの話では迷惑極まりない放火犯はゼロスではなかったそうであるが、
精神生命体である魔族にとって外見なんてかりそめのもの。
高位魔族である彼は少なくとも元の世界では外見を自由に変えることができる。

つーことはつまり。

………まさか…ね。



……

………ゼロスならやりそうだなぁ。

「リナさん、どうしたの?」

アサクラの声ではっと我に返る。
そうそう、んなこと考えてる場合じゃなかった。
時間を見るともう19時直前、ショウたちとチャットをする約束の時間だ。

「ドロロ、もう時間がないわ。冬月コウゾウとかそこらへんについてはあとからでもいいけど、
 川口夏子と雨蜘蛛についても調べてくれた?」

「全員分の記述は一応は目を通したでござる。
 もちろん、川口夏子と雨蜘蛛に対する記述にも。
 前者は『元オアシス政府軍下士官』『反政府組織特殊部隊所属』だそうでござる。
 後者は『魂すら取り立てる地獄の取立人』だそうでござる」

レジスタンスと取立人。…どうも、これだけの情報で彼らが
ショウを利用しようとしているかどうかの判断を下すのは難しそうだ。
じゃあどうするか?

7003・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:18:57 ID:Uw68TWIc
「その二人の顔を表示してくれる?
 もうかったるいし人相で判断しちゃいましょ」

「人を見た目で判断するのは良くないでござるよ。
 それにもう約束の時間が―――」

「"深町晶"だし待たせても問題ないわ」

「どんな理由でござるか!?」

あたしがこう主張しても、ドロロは『約束は守るべき』の一点張り。
ヴィヴィオちゃんも非難するような目でこっちを見てくるし
アサクラも『協力者の信頼を損ねる行為は慎むべきよ』と笑顔で言ってきた。
………"やっちゃった"あたしとしては彼女にそう言われると反論できない。

「分かったわよ。それじゃドロロ、そっちは頼むわね」

「…リナ殿、どこかに行く気でござるか!?」

あたしが自分のディバックを担いでいるのを見て、ドロロが驚きの声を上げた。

「ちょっと遊園地を調査してくるわ。昼間に来た時は使える道具がないか、って調べてたけど
 リングとかそういったギミックが仕掛けられている可能性があるって分かったし
 そういうのをちょっと探してみようかなって」

あたしは遊園地に何かしらが仕掛けられている可能性は非常に高いと推測していた。
もし何もないのなら禁止エリアをわざわざ3つも使ってここを封鎖する理由が説明できなくなる。
ドロロと考えていても結局何も思い浮かばなかったが―――なら実際に見て調べてみるっきゃない!

………本当に気まぐれで禁止エリアを選んでるとかだったら泣くぞあたしは。

「しかし一人で行くのは―――」

「だいじょーぶだって。魔力もそこそこ回復したし、何かあってもムチャする気はないから。
 それに深町晶とのやりとりはずっとドロロがやってきたから
 ここをアサクラに任せてドロロ連れていくってのも向こうが戸惑うでしょ」

ドロロが心配そうにこちらを見てくるが、あたしは手をぱたぱた振ってそう答えた。
アサクラかヴィヴィオちゃんのどちらか一人を連れていく…というテもあるけど、
これまでの二人の様子を見る限りヴィヴィオちゃんはアサクラのことをかなり信頼しているようだ。
今の外見こそあたしやアサクラと大差ない年齢になっているが精神年齢はまだまだ子供。
しかも、今は落ち着いているが放送直後の様子からしても精神的にかなり負担がきているのは
会ったばかりのあたしでも容易に想像がつく。
そんな彼女とアサクラを引き離すのはどーも忍びない。

7013・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:19:33 ID:Uw68TWIc
「しかし…」

あたしの考えを知ってか知らずかなおも心配そうなドロロ。
うーん、仕方がない。譲歩してあげよう。

「ドロロはあたしが一人だと、もしギュオーとかズーマみたいなのに襲われたら危険だ。
 …こう言いたいのね?」

「そ、そうでござる」

まぁ、それはそうだろう。
正直なところ、一人だったらとっくに放送で名前を呼ばれてたはずだ。

「ならこうしましょう。あたしとアサクラとヴィヴィオちゃんの3人で調査に行く。
 ドロロはここに残る。うん、完璧」

「拙者が一人!!?」

ドロロが不服のツッコミをいれる。我儘なヤツである。

「それじゃ、いっそ何かトラブルに巻き込まれたことにして
 ショウのことはほったらかしに―――」

「ヴィヴィオちゃん、リナさんに付き合ってあげて」

予想外の人物の予想外の発言によりあたしの発想の転換をしたナイス提案はストップさせられた。
あたしもドロロもヴィヴィオちゃんも驚きの目でその発言者、アサクラのほうを見る。

「え…でも、涼子お姉ちゃん…?」

ヴィヴィオちゃんも戸惑いの色が強いようで、目をぱちくりしながらどうにかその言葉を発した。
アサクラがそれを制し、言葉を続ける。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 さっき言ったように自分で自分の身も守れるようになっておいたほうがいい。
 けれど、有機生命体というものはそんなすぐに簡単に強くなれるように作られてないわ。
 そして、私はあなたを守ってあげることはできても強くしてあげることは――残念ながらできない」

そこまで言い終えたところで、アサクラはすっと腕を上げ―――
こともあろうにあたしのほうを指差した。

「でも、リナさんは同じ魔法使い。リナさんにアドバイスをもらえば、
 少なくともあたしといるよりは強くなることができると思うの」

いや、確かにそうかもしんないけど…あたしの意思は!?
正直なところヴィヴィオちゃんがどれほど戦えるのか知らないが頼りに出来るとは思っちゃいない。
ドロロが心配しているような有事の際には足手纏いになること請け合いである。
そもそも、ヴィヴィオちゃんもアサクラと一緒にいたいはずだ。
何か反撃してやれっ!

7023・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:20:46 ID:Uw68TWIc
「………」

何か考えるように伏目になるヴィヴィオちゃん。
考えるちゃいけない、感じるのよ!そして反論してあげなさい!!

「涼子お姉ちゃんがそういうなら…うん、私リナさんと一緒に行くことにする」

少し悩んだ末、力強い瞳でヴィヴィオちゃんは言った。
流されるなぁぁぁっ!!!
仕方ないのでここはあたしも口を出すことにしよう。

「アサクラ。悪いけどあたしはヴィヴィオちゃんを連れていくことに賛同できない。
 一人なら逃走できるような場面でも二人だとそうもいかないこともあるし―――」

「けれど、ヴィヴィオちゃんを連れていけば"逃走するような場面"を
 回避できるかもしれないわよ。ね、バルディッシュ?」

『Yes.』

ヴィヴィオの胸元のブローチが金色に光り、返事した。
ああ、そっか。ヴィヴィオちゃんが装備してるデバイス・バルディッシュ。
そういえば索敵機能みたいなものがついているんだっけ。
少々彼女には失礼な考え方かもしれないが、もれなくバルディッシュが付いてくるのならば
まわりへの警戒はバルディッシュに任せてあたしは調査に集中できるし確かに悪くはない。
異世界の魔法についてじっくり話を聞くいい機会でもあるが―――

「言っておくけど、最善は尽くすけども、
 いざってときにヴィヴィオちゃんを絶対に守れるなんて保証はちょっと…」

「それを保証してくれるのなら――さっきのあなたたちの行動は許してあげるわ」

笑顔でアサクラが言った。
さっきの行動、とやらは…もしかしなくてもこっそりkskコンテンツでアサクラの情報を見たことだろう。
………まだ根に持ってたのね…。

「それに…なんで私が"一番あなたたちが知りたい話"をしてないか。
 単に時間が足りなかったというのもあるけど…どうしてか分かる?」

7033・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:21:26 ID:Uw68TWIc
そう、実はまだ首輪についてやアサクラの正体については一切話を聞いていない。
"あたしたちが一番知りたい話"とは十中八九、首輪解除についてのことだろう。
つまりは彼女、『私の言うこと聞かないと首輪のことしんないゾ☆』と言ってるのだ。
さっき教えてくれるって言ったぢゃないか、ヒドい!
…なーんて思うが後の祭り。
まぁ、この提案自体はさっき考えたように悪いことばかりではない。
もっとも今後も首輪をネタに同じような脅迫を繰り返すならそれ相応の応酬をさせてもらうが。

「―――仕方ないわね。あんまり無茶しないように1時間かそこらで帰ってくるようにするわ。
 よろしくね、ヴィヴィオちゃん、バルディッシュ。」

やり口はちょっと不服だけど、まぁいっか。
あたしはウインクをしながらヴィヴィオちゃんに手を差し出した。
その手を見たヴィヴィオちゃんはパーッと明るい顔をしてあたしの手を握る。

その笑顔は…悔しいがかわいい。
背も胸もあたしより大きいし…くそぅどいつもこいつも。

ヴィヴィオちゃんと手をつないだまま部屋を出ようとして―――
危ない危ない、これだけは確認しとかないと。

「アサクラ。あなた、空を飛ぶことはできる?」

もし、何かトラブルに巻き込まれた際にはドロロとアサクラを置いてきぼりにして
遊園地を離脱する必要があるかもしれない。
そうなったとき、置いてきぼりにした二人が禁止エリアのせいで立ち往生しました―――
とか笑い話にもならない。
そう考えて念のために尋ねたのだが―――

「…涼子お姉ちゃん?」

「どうなさった、朝倉殿!?」

その質問を境に突然アサクラの笑顔がひきつったものに変わる。
よく見ると冷や汗までかき始めている。
………なんか聞いてはいけないことだったのだろうか?

7043・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:23:02 ID:Uw68TWIc
「飛べない…ことはない、わ」

消え入りそうな声でアサクラはぼそっと呟いた。
…何がそんなに嫌なのかは知らないが、飛べるのだったら話は早い。

「もし遊園地が封鎖されちゃった後に、
 あたしたちが帰ってこなかったりここを離れないといけない事情ができたりしたら
 ドロロを抱えて飛んで脱出してもらっていい?
 安心して、ヴィヴィオちゃんはちゃんと面倒みるから」

「………分かったわ」

ものすごく躊躇の混じった返答。
………何がそんなに嫌なのか。

「できればそういう状況にならないように祈りたいけどね。
 じゃ、リナさんも気をつけて。
 さっき話をしたようにこの会場には転送装置がいくらかあるみたい。
 ヴィヴィオちゃんとはぐれるのだけは避けたいからそれだけは注意してね」

『お願い』と手を目の前で合わせてウインクする彼女に、あたしはコクリと頷いた。
―――はぐれたくないのならなんでわざわざ別行動を促すような真似をしたのか分からないけど…
ゼロスといい彼女といい笑顔を絶やさないヤツはホント何考えているんだか。

「それじゃ二人とも、ショウの相手よろしく。
 アサクラ、首輪については戻ってきてからちゃんと聞かせてもらうわよ?」

あたしはディバックを担ぎそのまま部屋を出た。
左手に引いているのはサイドポニーの綺麗な茶色い長髪を持つオッドアイの美少女メイド。
ふと目が合い、彼女はニコっと笑いかけてくれた。
その笑顔にはどうも緊張の色がある。
まぁ状況を考えればそりゃ緊張もするだろうけど。

引率なんてガラじゃないんだけどな…。

あたしは彼女の手を引き、夜の遊園地へと繰り出した。
………デートに行くカップルじゃあるまいし何やってるんだろ。


◆ ◆

7053・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:23:52 ID:Uw68TWIc
「さて、それでは晶殿が待ちわびているやもしれないでござる。
 すぐにチャットを―――」

リナたちが出て行ったのを確認したドロロがマウスを握ろうとして―――
いつのまにかそのマウスを朝倉が握っていることに気付いた。

そして操作する。今はキン肉マンのページが表示されているkskコンテンツを。
マウスに連動する矢印は支給品情報が書かれている下の
青い『→』のマークに移動し、

カチカチカチカチカチッとクリック連打。

「あ、朝倉殿!?」

「ごめんなさい、ドロロさん。どうしてもこれだけは確認しておきたいの」

そう言ってページを送り続けた先に表示されたのは―――
金髪の髪とオッドアイの瞳を持つ少女のページだった。

朝倉は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースである。
そのためか、相手の外見にとらわれず冷静に相手の性質に気付くことができる。
ギュオーもゼロスも直感的にただの人間ではない、
もしくは人間ではないと気付いたのはそのためだ。

そんな彼女がヴィヴィオに抱いたわずかな"違和感"。
最初は『異世界の人間だからだろう』ぐらいにしか思っていなかった。
だが、どうも違うと確信したのはリナと出会ってからだろうか。
同じく『異世界の人間』で『魔法を使う』存在でありながら彼女には"違和感"を感じなかった。

こうやってその違和感の正体を突き止めようとしているのは単純に知的好奇心からだけではない。
疑問や迷いは咄嗟の判断を遅らせる。
そしてこの"違和感"というノイズは有事の際に自身の判断を鈍らせるかもしれない。
だからこそ、彼女を守り通すためにはそれを知っておくのも必要なことだと結論付けた。
とは言っても本人やバルディッシュに
「ヴィヴィオちゃんは普通の人間と何か違う。その理由を教えて♪」
と言えるわけもなく、一時的にリナにヴィヴィオを預けこういう行動に出たのだった。

7063・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:25:27 ID:Uw68TWIc
そして、朝倉はヴィヴィオの肩書きを見る。

"魔法学院初等科所属、聖王の器"

「聖王………の…器?」

「器…とはまた面妖な表現でござるな」

朝倉もドロロも怪訝とする。
『聖王』というだけならまだ理解できるのだが…『器』の意味がさっぱり分からなかった。
だが、わざわざここに特記事項として書かれているのだ。
"違和感"の正体の鍵は、この言葉が握っている可能性が高い。

(機をうかがって、本人かバルディッシュに聞いてみればいいかな)

「ありがとう、もういいわ」

朝倉はそう言いマウスを手離した。
溜息を吐きつつ、ドロロがそのマウスを握る。

「ここで出会う女性は押しが強いでござるな…」

苦笑しながら、ドロロはマウスを操作し始めた。


【D-02 遊園地(スタッフルーム)/一日目・夜】

【ドロロ兵長@ケロロ軍曹】
【状態】切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯
【持ち物】匕首@現実世界、魚(大量)、デイパック、基本セット一式、遊園地で集めた雑貨や食糧、
【思考】
0.殺し合いを止める。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.リナとともに行動し、一般人を保護する。
3.ケロロ小隊と合流する。
4.草壁サツキの事を調べる。
5.後で朝倉と首輪解除の話をする。主催者が首輪をあまり作動させたがらない事も気になる。
6.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
7.「KSK」という言葉の意味が気になる。

【備考】
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※晶達から、『主催者は首輪の発動に積極的ではない』という仮説を聞きました。
※参加者プロフィールにざっと目を通しました。



【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(大) 、ダメージ(中)、自分の変質に僅かに疑問、ドロロとリナに対してちょっと不快感?
【持ち物】鬼娘専用変身銃@ケロロ軍曹、小砂の首輪
     綾波のプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ディパック(支給品一式)、新・夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     リチウムイオンバッテリー(11/12) 、クロスミラージュの銃身と銃把@リリカルなのはStrikerS、遊園地で回収した衣装(3着)
【思考】
0.ヴィヴィオを必ず守り抜く。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.武器もないので、気は進まないが鬼娘専用変身銃を使う事も辞さない。
3.キョンを殺す。
4.長門有希を止める。
5.古泉を捜すため北の施設(中学校・図書館・小学校の順)を回る。
6.基本的に殺し合いに乗らない。
7.ゼロスとスグルの行方が気がかり。
8.『聖王の器』がどういう意味なのか気になる。
9.できればゲーム脱出時、ハルヒの死体を回収したい。


【備考】
※長門有希が暴走していると考えています。
※クロスミラージュを改変しました。元に戻せるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※クロスミラージュは銃身とグリップに切断され、機能停止しています。
 朝倉は自分の力ではくっつけるのが限界で、機能の回復は無理だと思っています。
※制限に気づきました。
 肉体への情報改変は、傷を塞ぐ程度が限界のようです。
 自分もそれに含まれると予測しています。
※遊園地で適当な衣装を回収しました。どんな服を手に入れたかは次回以降の書き手さんにお任せします。
※kskコンテンツはドロロが説明した参加者情報しか目を通していないため
 晶たちといる雨蜘蛛が神社で会った変態マスクだと気づいていません。

707それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:26:41 ID:Uw68TWIc
◆ ◆ ◆


「わぁ…きれい…」

あたしの隣でメイド服に身を包んだ美少女、ヴィヴィオちゃんが感嘆の声を漏らした。

あたしたちを乗せた船は水上をゆっくりと移動し、
色とりどりのイルミネーションをあたしたちの視界へと運んできてくれる。

近くで突如水が噴きあがった。
何者かが潜んでいたのかと慌てて呪文を唱えながら身構えるあたしだったが、取り越し苦労だったようだ。
何色ものイルミネーションに水しぶきが照らされ、空間が虹色になっている。
空中に散った水により本物の虹まで見えていた。

周囲の幻想的な雰囲気にあたしの戦いで荒んだ心も癒されていく。


勘違いがないように言っておくと、あたしたちは決して遊んでいるわけではない。
遊園地の調査をするといったが、昼間に来た時に既にドロロと二人であらかた調べたのだ。
しかし、『使えるようなものはないだろう』と思って調べなかった箇所がいくらかある。
それがこういったアトラクションだ。

やがてあたしたちが乗っていた船が発着点に到達する。
このアトラクションにも、仕掛けらしきものも見当たらなかった。

「リナさん!次はあれに乗ろうよ!!」

そういってヴィヴィオちゃんは指差したのは―――馬や馬車の彫像が円上をぐるぐる回るもの。
やれやれ、とあたしは苦笑しながら
ヴィヴィオちゃんに手を引かれそちらのほうに移動し始めた。

落ち着いてこそいたが、情報交換のときに明るい表情をすることはほとんどなく、
話にもほとんど参加してこなかった(会話の内容が彼女が付いてくるには難しかったからかもしれない)。
そんな彼女が…あくまで"表面上"ではあるが
楽しそうに、そして友好的に話しかけてくれることは好ましいことではある―――

だけども。

大事なことなので2回言っておく。

「まったく、仕方ないわねー」

あたしたちは決して遊んでいるわけではない。

708それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:27:22 ID:Uw68TWIc
● ● ●


「ねぇ、リナさん…」

その後もいくらかのアトラクションに乗ったがめぼしい発見は何もなく
次はどの乗り物に乗ろうかと思案していると、
さっきまでのトーンとは打って変わった声で
ヴィヴィオちゃんがためらいながらも後ろから呼びかけてきた。

「私…リナさんから見て、みんなに迷惑掛けていると思いますか?」

尋ねてきた内容はそれだった。
『そんなことないわよ』と軽く返そうかと思ったが、振り返った先にいる
彼女の表情は、深刻な顔をしていた。

「ここに来てから私は色々な人に会いました。
 けれど、誰も助けることはできませんでした。
 私がどうにかできるほど世界は優しくない―――そう涼子お姉ちゃんに言われました」

ぽつりぽつりと彼女は語り始めた。
風が彼女の後ろからあたしのほうへと吹き抜け、あたしたちの髪をなびかせる。
あたしは黙って彼女の言葉に耳を傾けた。

「私にできる最善のことをしていた―――涼子お姉ちゃんはそうも言ってくれました。
 けど、それじゃダメなんです。
 どんなに私が頑張っても、それでも迷惑をかけるんじゃ…ダメなんです。
 だから―――」

「で、あたしが『迷惑だ』って言ったら…ヴィヴィオちゃんはどうするの?」

あたしはわざと彼女の言葉に割り込みこう言った。
子供の愚痴に付き合ってあげるほどあたしは暇でもなければ優しくもない。

「だから、私は"今の"私よりももっと強くなりたいと思ってます」

「口だけなら何とでも言えるわ。
 …問題はどうやって強くなるかよ」

今度は語気を強めてちょっときつめに言ってやった。
アサクラも言っていたが、人が『強くなる』のは簡単なことではない。
もしこの程度で折れるぐらいなら彼女が強くなることはないだろう。
ここらへんで殻を破る必要がある。
たぶん、アサクラもそう思って短時間とはいえあえて別行動させたのではないか。
あたしはそういうふうに考え始めていた。

709それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:28:15 ID:Uw68TWIc
「そこで、リナさんにお願いがあります」

ヴィヴィオちゃんはあたしを見た。
オッドアイの瞳に宿る光が力強い。
彼女が何を言いたいのか予想はついている。
おそらく、こう言うだろう。

「私にレリックを譲ってください!!」

『私に魔法を教えてください!!』と―――って…あれ?
目の前でメイド服のヴィヴィオちゃんが頭を下げているが―――ちょい予定外。

「………レリックって何?」

「リナさんが持っている赤い宝石のことです」

おそらく、あの魔力が詰まった宝石のことだろう。
レリックというらしい。
どうやら、ヴィヴィオちゃんに縁があるもののようだが―――

「嫌よ」

あたしはきっぱりと言った。

「アレがどういったものかは知らないけど、
 あたしなりにアレは有効活用しているし、ないと困る。
 残念だけどヴィヴィオちゃんにあげることはできない」

「でも、あれがあれば私は―――」

『Stop』

そこで割り込んでくる機械的な第三者の声。
ヴィヴィオの胸のバルディッシュだった。

『Ms.インバース。ヴィヴィオにレリックを渡してはいけません』

「バルディッシュ!!」

バルディッシュが強めの口調で言い、
それに対してヴィヴィオちゃんが珍しく語気を強めた。
今まで必要がないと喋らなかったバルディッシュが割り込んできたということは
どうもただ事ではないようだ。

『レリックは超高エネルギー結晶体です。
 その性質故、魔力波動などを受けると爆発する危険があります。
 かつて、レリックが原因の周辺を巻き込む大規模な災害が幾度か起きました』

ゲゲッ…両手に握って魔力の回復なんかに使っていたが、そんな危険物だったのか。
これからは注意して使うようにしよう。

710それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:29:14 ID:Uw68TWIc
『ヴィヴィオ。貴女が持つには危険すぎます。
 また、レリックを埋め込まれた貴女が何をやったか忘れたわけではないでしょう』

「っ…それは…」

『それに、我が主が望んでいない。そう思います』

「………。…ずるいよ、そんなの」

バルディッシュの説得に、ヴィヴィオちゃんは反論したが最後のほうはか細く、
風上にいればほとんど聞こえなかっただろう。
確か、バルディッシュは彼女の母親が使っていたデバイスだったか。
バルディッシュの言葉にどれほどの重みがあったのかはあたしには分からないが…
それっきりヴィヴィオちゃんは黙ってしまった。

次に向かうつもりだったアトラクションのほうへと歩き出す。
一応、ヴィヴィオちゃんも後ろをとぼとぼと付いてきてはいるが…

うーん、こりは気まずい。
さっきまでのほのぼの〜とした雰囲気が見事にぷち壊れてしまった。
さてどうしたものか。


◆ ◆ ◆ ◆


ヴィヴィオはひどく落ち込んでいた。
一時的とはいえ大人の身体になり、レリックまで見つけた。
これならきっと自分の身を守れる。それだけじゃなく、涼子お姉ちゃんやなのはママだって守れる。
周りにいる大事な人たちを守る力を手に入れることができる。

そう思ったのだが―――。

(バルディッシュまで…あんなこと言うんだもん)

きっとバルディッシュなら自分の想いを分かってくれる、協力してくれる。
ヴィヴィオはそう信じていたが現実は甘くなかった。

フェイトママが望んでいない。

確かにそうかもしれない。
でも、ママが間違っていると言っても自分で考えて正しいと思ったことは
やらなくちゃいけないのではないか。

ヴィヴィオは落ち込み半分、恨めしさ半分の眼で胸元のバルディッシュを見た。
考えていることを知ってか知らずか、当然無反応である。

711それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:30:09 ID:Uw68TWIc
「…ーー…ー……ーー…」

そのとき、ヴィヴィオの前方から声が聞こえてきた。
リナが発した言葉なのは間違いないが―――何と言ったかはさっぱり分からなかった。

「身の程を過ぎた力は身を滅ぼすわよ」

突然、リナが言った。
ヴィヴィオのほうからは前方を歩いている彼女の表情を窺い知ることはできない。

「あたしも経験あるのよ。
 自分じゃ扱えないような魔法を無理やり唱えて、危うく世界を滅ぼしかけたこと」

もはや身を滅ぼすとかいう次元ではないが
とりあえず誰もツッコミを入れず黙って聞いていた。

「あなたが過去にレリックで何をやらかしたのかは知んないけど―――
 もしここで厄介なトラブルを引き起こしたりなんかしたら
 あたしもドロロも、もちろんアサクラも、下手すればみんな死ぬわ」

あまりにそっけないリナの言葉。
そのそっけなさが、逆に『死』が身近なものと感じさせ
ヴィヴィオの背筋を凍らせる。

「アサクラも言ってたけど、人が一段階強くなるのは簡単なことじゃない」

リナは歩みを止め、振り向いた。
それまでの厳しい基調とは裏腹に、彼女は優しい顔をしていた。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 あなたはあなたができる精一杯を全力でやればいいのよ。
 ヴィヴィオちゃんにしかできないことだってあるんだから。
 みんなを魔法で守る、なんてのはあたしに任せときなさい」

親指をグッと立てたリナの優しい言葉が染み込むが―――それじゃヴィヴィオは納得できなかった。

「…私にしかできないことってなんですか?
 今までも、情報交換のときもそうでした。
 私にしかできないことなんて全然―――きゃっ」

712それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:31:07 ID:Uw68TWIc
ヴィヴィオの言葉は途中で中断された。
―――何を思ったか、リナがでこぴんしたのだ。

「じゃ、あたしがヴィヴィオちゃんが使える
 とっておきの魔法を教えてあげるわ。
 いい、よく聞きなさい。



 ――――――『頑張って!』」

「………はい?」

リナの突飛な行動と突飛な発言により、ヴィヴィオの思考が一時停止させられる。

「オトナってものはね、肝心な時にどーでもいいこと考えていたりするわけよ。
 ものすごく強い敵を相手に『こりゃ勝てないわ』と戦う前から諦めたり、とかね。
 そういうときに『勝てるよ!頑張って!!』って魔法かけてあげなさい。
 本当に力が湧いてきちゃうんだから。
 可愛いコにしか使えない高等魔法なのよ」

リナはヴィヴィオの肩をぽんぽんっ、と叩きながら笑った。

     負けるつもりで戦えば、勝てる確率もゼロになる。
     たとえ勝利の確率が低くても、必ず勝つつもりで戦うっ!

これはかつてリナが言った言葉。
しかし、本当に絶望的な戦いのときはリナさえもそれを忘れかけることがある。
それをみんなに思い出させるのには"不屈の心"を示すことが必要だ。

あるときは叱責かもしれない。
あるときは開き直りかもしれない。
あるときは応援かもしれない。

それを示す鍵が何か分からない。
でもヴィヴィオならそれをみんなに伝えられるんではないか。
それが彼女のできる、彼女しかできないことなのではないだろうか。
根拠なんて何もないけど、リナはなんとなくそんなことを思ったのだった。

713それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:32:06 ID:Uw68TWIc
どれくらいの時間が静かに過ぎただろう。
しばらく呆然としていたヴィヴィオだったが、少しずつ顔が綻んでいく。

「えへへ…ありがとう、リナさん」

胸のつっかえがひとつ取れたような笑顔。
遊園地ではしゃいでいた時よりも幾分清々しいように思える。

「私、みんなに"魔法"かけるよ」

力強い少女の声が朗々と響いた。

「でも"魔法"かけても恥ずかしくないように私も頑張る。
 もっと強くなる。少しずつでも、ちゃんと順番追って強くなってく。
 リナさんや涼子お姉ちゃんに迷惑かけないように。
 なのはママにエヘンと胸を張って会えるように。
 フェイトママにもう心配させないように!」

爽やかな笑顔。オッドアイの瞳に映る確かな輝き。
まだまだ小さい彼女に言うには少々難しいことだったかもしれないが―――
どうやら余計な心配だったらしい。
一回り大きくなったかな、とリナは思った。

「…ーー…ー……ーー…」

再びヴィヴィオに背を向けたリナが、ゆっくりと言った。先程言っていた謎の言葉だ。
ヴィヴィオにはさっぱり理解できなかったのだが―――

「炎の矢(フレア・アロー)!」

リナが『力ある言葉』を放つと同時に、リナの目の前に燃え盛る炎の矢が生まれた。
そのままにしておくことも消すこともできないのか、とりあえず手近な地面に放つ。
レンガ造りの地面を一か所を黒く焦がし、炎は消え去った。

「この魔法の詠唱は訳すと『全ての力の源よ 我が手に集いて力となれ』ってとこね。
 呪文は短いから丸暗記できるだろうし、割と実用的な魔法よ」

そう言ってリナはもう一度ヴィヴィオのほうを見た。
ニヤッともニコッともとれる、不敵な笑みを浮かべて。

714それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:33:36 ID:Uw68TWIc
「ちょっとヴィヴィオちゃんが考えていたような順番じゃなくなっちゃうかもしんないけど―――
 覚えてみる?」

「―――よろしくおねがいします!」

深々と頭を下げ、ヴィヴィオが言った。
すぐに使えるようになるかどうかはリナにも分からないし
そもそも余計なお節介かもしれないが…リナ=インバースにそんなこと関係ない。


【D-02 遊園地/一日目・夜】

【リナ=インバース@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】疲労(小)、精神的疲労(小)
【持ち物】ハサミ@涼宮ハルヒの憂鬱、パイプ椅子@キン肉マン、浴衣五十着、タオル百枚、
     レリック@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 遊園地でがめた雑貨や食糧、ペンや紙など各種文房具、
     デイパック、 基本セット一式、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊、
     ベアークロー(右)(刃先がひとつ欠けている)@キン肉マンシリーズ
【思考】
0.殺し合いには乗らない。絶対に生き残る。
1.遊園地を調べながらヴィヴィオと行動する。
2.20時が過ぎた頃にはスタッフルームに戻りドロロ達と合流する。
3.朝倉の正体が気になる。涼宮ハルヒについても機を伺い聞いてみる。
4.当分はドロロと一緒に行動したい。
5.ゼロスを警戒。でも状況次第では協力してやってもいい。
6.草壁サツキの事を調べる。
7.後で朝倉と首輪解除の話をする。
8.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
9.時間ができれば遊園地のkskコンテンツにしっかりと目を通しておく。

【備考】
※レリックの魔力を取り込み、精神回復ができるようになりました。
 魔力を取り込むことで、どのような影響が出るかは不明です。
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※市街地の火災の犯人はもしかしたらゼロスではないかと推測しました。



【ヴィヴィオ@リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、16歳程の姿、腕章を装備、メイド服の下に白いレオタードを着ている。
【持ち物】バルディッシュ・アサルト(6/6)@リリカルなのはStrikerS、SOS団の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱  メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱 
     ディパック(支給品一式)、ヴィヴィオが来ていた服一式
【思考】
0.誰かの力になれるように、強くなりたい。
1.リナと一緒に行動する。
2.なのはママが心配、なんとか再会したい。
3.キョンを助けたい。
4.ハルヒの代わりにSOS団をなんとかしたい。
5.スバル、ノーヴェをさがす。
6.スグルとゼロスの行方が気になる。
7.ゼロスが何となく怖い。
8.涼子お姉ちゃんを信じる。

【備考】
※ヴィヴィオの力の詳細は、次回以降の書き手にお任せします。
※長門とタツヲは悪い人に操られていると思ってます。
※キョンはガイバーになったことで操られたと思っています。
※149話「そして私にできるコト」にて見た夢に影響を与えられている?
※アスカが殺しあいに乗っていると認識。
※ガイバーの姿がトラウマになっているようです。
※炎の矢(フレア・アロー)を教わり始めました。すぐに習得できるかどうかは不明です。

715 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:35:08 ID:Uw68TWIc
以上で投下終了です。
指摘がありましたらよろしくお願いします。

ちなみに題名は仮題ですので変えるかもしれません。

716 ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:49:18 ID:Uw68TWIc
本投下しようと思ったのですが
今日に限って規制くらってしまいました。
こちらに投下しますので、申し訳ありませんがどなたか代理投下よろしくお願いします。

717彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:50:05 ID:Uw68TWIc
リナとドロロは決断を迫られていた。

目の前には様変わりした協力者たちがいる。
服装がガラっと変わっていたり、明らかに体型・年齢が変わっていたりするが…
変身やらそういったものに耐性がある2人にとってはそれはさほど問題ではない。
いや、問題ではあるにはあるが―――今対処すべきことは他にあった。

2人が操作していた、そして今、朝倉が凝視しているパソコンのディスプレイには
プロフィールが表示されている。

"県立北高校1年、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"である
朝倉涼子のプロフィールを。


友好的な振舞いを見せていた人物が、裏でこそこそと自分の素姓を調べていた―――
これを面白く思う者はいないでござろう。

―――ドロロは素直に謝罪すべきか否か、真剣に吟味していた。


もう画面は見られてしまった。ごまかしが効くような相手とは思えない。
あたしの世界では普通のことだと言い張るか、ドロロが言い出したことにするか…

―――リナは開き直るか責任転嫁するか、真剣に吟味していた。





気まずい沈黙が辺りを漂う。
沈黙を保てば保つだけ悪いことをしたと思っていると言っているようなものだ、
そう判断したあたし、剣士にして美少女天才魔道士であるリナ=インバースが
意を決して開き直ろうとしたとき。

「それが、キーワードを入力した結果得られる情報というわけね」

アサクラが先に口を開いた。
突然の反応に思わずあたしはビクっと肩を震わす。
となりのドロロがハラハラしている雰囲気も伝わってくる。

「なるほど、参加者の顔写真と簡単なプロフィールさらに最初の支給品まで分かるのね。
 ちょっと面倒だけど、これを全員分覚えておけば…かなり有用なのは間違いないわね」

718彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:50:46 ID:Uw68TWIc
あたしとドロロの脇を通り抜け、パソコンの前まで歩を進めながら飄々と言葉を紡ぐ。
画面を覗き込んでいるのでその表情は伺いしれないがえらくあっさり風味である。

「あ…朝倉殿。気を悪くしてないのでござるか?」

なんだかあまりにあっさりしすぎているので不審に思たようでドロロが尋ねた。
ディスプレイを覗き込んでいた朝倉は、ゆっくりと身体を反転させる。

「ええ」

短い一言を言ったその表情は、笑顔だった。
無理して作った笑顔でもなければゼロスのような胡散臭さも感じさせない、
バックで光がきらきらしている満面の笑顔。
その見事なまでのスマイルが
『気を悪くしない?うん、それ無理』
と逆に物語っているような気がしてドロロ、あたしのみならず
ヴィヴィオちゃんまでも思わず後ずさった。


● ● ●


場は丸く…かどうかは非常に怪しいけど、とりあえず収まった。
そしてまずアサクラはあたしとドロロにヴィヴィオがどうして突然"成長"したのか説明してくれた。

新・夢成長促進銃―――効果を目の当たりにしなければ絶対に信用しないようなアイテムであるが…
肉体年齢を操作することができるなんて、異世界って広い。
これが平時なら解体してその原理を調べレポートするなり転売するなりしてひと儲けするところだが
あいにくとそんなことをやっている場合ではない。
まずは、今後の方針をしっかりさせておく必要がある。

「…いまさら確認するまでもないかもしれないけど、念のため。
 あたしもドロロもさっきのズーマのときのような状況にならなきゃ
 進んで殺し合いをする気はないわ。アサクラたちもそうと思っていいわね?」

あたしの問いに大きくなったヴィヴィオちゃんがこくりと頷く。
しかし、その隣にたたずむアサクラは凛とした瞳でこちらを見据え、はっきりと言った。

「私は少し違うわ」

静かに言った。
これはすぐに肯定されるだろうと思っていたあたしはちょっと面食らい、場の空気が張り詰める。

「もちろん、無駄な争いは起こさないつもりだし、進んで殺し合うつもりもない。
 ………だけど。例外もいる」

ヴィヴィオちゃんの左腕につけてある、メイド服とは不釣り合いな腕章に目をやりきっぱりと言った。
その"例外"が誰なのか察したヴィヴィオちゃんは物哀しげな様子を見せる。

719彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:51:24 ID:Uw68TWIc
「…オーケー。その人に関してはアサクラの判断に任せるわ。
 今は話を進めるわよ」

ある程度話は聞いていたのであたしも言いたいことを推察できた。
あとで話を聞くことにして会議を進行させる。
何せあと30分ないし40分もすればまたショウたちとのチャットが始まる。
情報が増えるまでにできる限り情報整理は終えておきたい。

「時間が惜しいから、あたしがアサクラたちに聞きたいことをざっと挙げるわ。
 まず第一にあなた達の知り合いについての情報。危険人物については最優先で。
 次に、首輪について。
 アサクラが『どうにかできるかもしれない』って言った根拠も教えてもらいたいわ。
 あとそれと―――」

「"対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"とは何か―――
 とかもどうかしら?」

素晴らしき笑顔でそういった朝倉に思わず、うぐっと言葉に詰まる。

確かに気になってる、気にはなってるけども………
ああああああ、やっぱりこっそりプロフィール見たの根に持ってる!!?

などと頭の中で冷や汗を流しながらも、

「あはははは、うんそれもお願い…」

とりあえずひきつった笑顔で返事するぐらいしかできない。
………彼女から話してくれるまで、この話題には触れないでおこう…。

「…朝倉殿たちが拙者らに聞きたいことは何かあるでござるか?」

トラブルを引き起こしたくないとか言ってたドロロが助け舟を出してくれたおかげで、
話の軌道が修正された。ガウリイにはできない気遣いである。ナイス。

「そうね…私たちもあなた達の知り合いについては最低限押さえておきたいわ。
 それにこの殺し合いのシステムやパソコンなどの情報においても
 二人のほうが知っていることは多いようだし、教えてほしいところね。
 そんなに悪くない条件のはずよ。情報交換に関してはこれでどうかしら?」

「こちらとしてもそれでいいわ」

あたしは内心ほっとしていた。
"首輪解除"についての情報は脱出を目論む参加者としては必須の情報、
その価値はあたしたちが考察したり集めたりした情報全ての価値よりも上になり得る。
最悪、アサクラが首輪の情報と引き換えにこちらの情報から支給品まで全て要求してきたとしても
突っぱねるかどうかは非常にきわどいほど、最最最重要なもの。
それがこの程度の対価で得られるならば願ってもない。

だからといってここであからさまに喜べば足元見られる可能性もある。
あたしとしてはそこらへんで手を抜くはずにもいかない。
ここは冷静に、そういった感情は伏せて情報交換をしよう。

720彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:51:57 ID:Uw68TWIc
「よし、それじゃあ情報交換を始めましょう」

「拙者はそれと並行して参加者のことをkskコンテンツで調べるでござる。
 晶殿とチャットする前に『雨蜘蛛』『川口夏子』について調べておきたいでござるからな」

「それがいいわ。
 ついでに、『草壁姉妹』と『トトロ』、『冬月コウゾウ』についても
 調べてもらってもいいかしら、ドロロさん?」

「承知したでござる。それだけでいいでござるか?」

ドロロの問いにアサクラは綺麗な眉をぴくりと動かし眼を右上の虚空へと遣る。
他に何かなかったのだろうかと思案しているようだ。

やがて、何か思い至ったのか手をポンと叩き口を開いた。

「そうそう。大柄で浅黒い肌の中年男がいたら教えてちょうだい」

アサクラのその言葉にあたしとドロロは目を合わす。
なんつーか…あんまり思い出したくないんだけど………思い当たる節があるという説が…

「ねぇドロロ…」

「察するに…彼奴でござろうなぁ…」

ドロロは布越しにでも分かるほどの大きな溜息を吐き、
あたしは眉間をひっつかんで頭が痛いことをアピール。
皆まで言うなかれ、あたしのような繊細な心を持つ乙女にはあれを思い出すのは精神衛生上よろしくない。

「二人とも、彼に会ったの?」

「明け方に………一戦交えたでござる。この眼も彼奴――ギュオーにやられたのでござるよ」

そう言ってドロロは左目を指差した。
その痛々しさに、ヴィヴィオちゃんは思わず目を背ける。
対照的にアサクラは平然としているが。

「そうなの。それについては情報交換のときに聞かせてもらってもいいかしら」

「もちろんでござる。
 リナ殿とヴィヴィオ殿は他に何か調べておくことはござらんか?」

ヴィヴィオちゃんはドロロのほうを向いて首を横に振る。
あたしはしばらくあごに手を当て考えてみた。

このkskコンテンツとやらには各参加者が最初に持っていた支給品情報が記述されているようだ。
逆に言えば特定の支給品が誰の手に渡っているかの手がかりにもなるし、
この島の中に存在するアイテムを特定することもできる。
そうなるとすると、その存在を確認しておきたいアイテムはいくらかあった。

721彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:52:43 ID:Uw68TWIc
あたしは口を開く。

「『光の剣』別名『烈火の剣(ゴルンノヴァ)』、それと『タリスマン』。
 あとさすがにないと思うけど異界黙示録(クレアバイブル)。
 こいつらが支給品にないかチェックして」

「有用なアイテムなのね?」

アサクラが微笑を浮かべながらこちらを見る。
あたしはその眼を見てこくんと頷いた。

「ええ。もし支給品としてこの島にあるのなら説明するわ。
 それじゃ、時間もないし―――始めましょうか」

『Yes』

かくして、kskコンテンツを用いた情報収集と4人+1機による情報交換という一大イベントは幕を上げた。


● ● ●


これまでの軌跡。
出会った人物。
元の世界の知り合いetc.

情報交換は滞りなく行われた。
ドロロにしても朝倉にしても、誰も言ってくれないので自分で言っちゃうがあたしも
"聡明"と称して差し支えがない程度には切れ者だと思う。
語り手は話す内容は最低限に絞り、聞き手も実に的確に質問をするという理想的な情報交換であった。
ヴィヴィオだけはそうもいかないが、そこはバルディッシュがいる。
彼が手早くフォローに入るため問題なかった。

「………と、拙者についてはこんなものでござる。
 他に質問はござらんか?」

最後の一人であったドロロが全てを語り終え、キーボードを叩く手を休め3人に目を遣る。
もっとも道中はほとんどあたしと一緒だったし出身世界の仲間たちの話をしたのみ。
よって大した量ではなかったのですぐに終わったけど。

見渡してもアサクラもヴィヴィオちゃんも手を挙げる様子も口を開く様子もない。

「うん、それじゃあ…これで最低限だけど、情報交換は終了でいいわね?」

ふぅ、と息を吐き一息入れるためにあたしは首をコキコキ鳴らした。

アサクラの話によると、どうやらギュオーはあたしたちとの戦闘直後に滝付近で倒れていたらしい。
そこをウォーズマンとかいうまっくろくろすけが保護して治療したということだ。

ちぃっ、余計な真似を。

それにしても、ウォーズマンが滝に駆け付けた時は周囲には誰もおらず
ギュオーだけがいたそうで、荷物も盗られていなかったようだ。
ということは誰かに奇襲を受けて倒れたわけではなく
あたしたちとの戦闘によるダメージによって力尽きたのだと推測できる。

722彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:53:38 ID:Uw68TWIc
竜破斬を受けてまだ戦っていたりドロロとあたしを撃退したことからしても
タフなのは間違いないようだが…その後倒れちゃうようじゃマヌケとしか言いようがない。
もしかしたらギュオーのおつむは発酵してるんじゃなかろうか。
おまけにストーカーな上に変態なので脳みそが半分溶けてるガウリイよりもタチが悪い。
だが、性格もなんとなく掴んでるし上手くやれば利用してやれるかもしんない。
………できればもう会いたくないもんだけど。

「それじゃドロロ、kskコンテンツのほうはどう?」

「報告するでござる。
 まず、これを見てほしいでござる」

ドロロはそう言い、マウスを操作してページを送る。
瞬間的に誰かの写真が映り、すぐにまた別の写真が映る。
クリックに反応してまたすぐに別の写真に切り替わる。
そんなことを繰り返して映し出された画面には―――

「あっ…あの温泉の怪物!?」

風格漂う、獲物を狙うヘビの眼を持つ紫の怪物の写真が映されていた。
肩書きは『ワルモン四天王』。
非常に悪そうな団体名?と四天王というなんだか強そうな肩書き。
分かりやすいのはいいけどもうちょっとどうにかならなかったのか…などと
心の中でツッコミを入れるがこの際どうでもいいので捨て置く。

その名前を見ると―――

「こいつが、やっぱりナーガか」

「先程放送で呼ばれた名前ね」

「ええ。ショウから名前は聞いてたけど…間違いなかったみたいね」

「それと、この写真も見てほしいでござる」

ドロロがそう言いもう一度カチカチとマウスを操作する。
顔写真が流れるように表示されていき映ったのは。
顔を覆った布から鋭い瞳と針のような髪を覗かせる、見慣れた顔。

「っ…ズーマ」

「やはりそうでござったか。拙者は顔こそ知らないでござるが
 『凄腕の暗殺者』という肩書きを見てそうではないかと思ったでござる。
 ラドック=ランザード…それが彼奴の本名のようでござるよ」

「あたしも初めて知ったわ。けど…」

この名前は先程の放送でも呼ばれていた。
だが、今まで散々苦しめられた相手の名前だろうと今知ったところで役に立つわけでもない。

「殺し合いに乗って死んだような連中はどうでもいい。他になんかなかった?
 光の剣が支給されてました―――とか」

723彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:54:11 ID:Uw68TWIc
「リナ殿が探してほしいと言われたアイテムは光の剣とタリスマンが確認できたでござる。
 もっとも、光の剣はレプリカでござったが…」

「れぷりかぁ?」

「レプリカ…ね。ということは別に入手する必要はないかしら」

「んー…でも普通の剣よりはずっと便利なのよね、レプリカのほうでも」

光の剣のレプリカといえば、
おそらくポコタが持っていたタフォーラシアの技術で作られたものであろう。
レプリカと聞いてアサクラはパッチもんの劣悪品というイメージを持ったのかもしれない。
だが、美術品でもそうであるようにレプリカでも出来がいいものは結構ある。
このレプリカもその類で、本物にこそ及ばないものの使い勝手は十分に良いのだ。

「どういった効果の剣なの?」

「物質的な破壊力と、相手の精神そのものを断ち切る、
 持ち主の意志力を具現化した光の刀身を生み出す剣で切れ味はそれなりにいいわ。
 魔法を上からかけてやることでそれを収束・増幅して威力を上げたり
 光の刀身だけを打ち出したりと応用も利くし、あるに越したことはないんだけど」

「で、それは誰に支給されたの?」

「…彼でござる」

そういってドロロが表示させた画像は………
銀色のマスクが光る強面でごつい身体。
肩書きは『悪魔超人軍の首領』!
その名は悪魔将軍!!

どう見ても悪人です本当にありがとうございました。

「また厄介そうな人の支給品になっちゃったものね…」

「でも、この人が持ってない可能性もあるんだよね?」

「ヴィヴィオちゃんの言う通りね。
 もうここに連れてこられてからかなり経ってるし…
 こいつの手を離れてても全然不思議じゃないわ」

うまく手に入るといいんだけどなー、と思うが…まぁそう都合よくはいかないだろう。
島の中にあるのが分かっただけでも良しとしよう。

724彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:54:48 ID:Uw68TWIc
「で、ドロロ。タリスマンは?」

「彼でござる」

カチリと手元を動かし表示させたその画面に映ったのは
ブタ鼻とタラコ唇、額に『肉』と書かれたマスクを付けた
できれば関わり合いになりたくないようななかなかお目にかかれないブ男の画像だった。

全身写真じゃないため断言こそできないがいい身体つきをしている。
筋肉も見せ筋ではなく実戦で鍛えたもののようだ。
肩書きの『キン肉星王子』やら『超人オリンピックV2達成』が
どれほどすごいのかあたしにはイマイチ判断できないが…
なんだか単純そうだなぁ、と直感的に思った。
あと肩書き。
先程の悪魔将軍みたいなのが『人を超えた』とか名乗るのはまだ納得いくのだが
こんな不細工な奴が『超人』、おまけに『正義』なんか名乗っていたら胡散臭さ大爆発だ。
と、散々な評価をあたしは下していたが
ヴィヴィオちゃんとアサクラには別に思うところがあったようだ。

「キン肉マンさん!」
「あら、キン肉マンさんじゃない」

「こいつがゼロスと一緒にいなくなったっていう奴なの?」

「ええ」

ゼロスと同じところに転移したのかどうか知らないけど…
もし今も一緒にいるのならいいようにされてないことを祈るばかりである。

「キン肉マンさんはあたしが確認した時点では初期支給品は全て持っていたはずよ。
 ところでそのタリスマンはどういったアイテムなの?」

「魔法発動前に短い増幅魔法と唱えてやると使用者の魔力容量が一時的に上がるのよ。
 これがあると使える魔法のレパートリーも威力も増えるし便利なんだけど…」

そこでふとある考えが頭をよぎった。
『タリスマンがあると使える魔法』というのはあたしの場合は
獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)だったり神滅斬(ラグナ・ブレード)だったり
暴爆呪(ブラスト・ボム)だったりするわけだが…

この暴爆呪、火炎球(ファイアー・ボール)よりも数倍の火力を誇る火球を数発撃ち出す
凶悪無比な火系統の魔法なのだが何を隠そうタリスマンがあればゼロスくんも使用可能なのである。

725彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:55:31 ID:Uw68TWIc
ゼロスと一緒に消えたタリスマン(+ブタ鼻)。
そしてさっき市街地のほうであった大規模な火事。
アサクラの話では迷惑極まりない放火犯はゼロスではなかったそうであるが、
精神生命体である魔族にとって外見なんてかりそめのもの。
高位魔族である彼は少なくとも元の世界では外見を自由に変えることができる。

つーことはつまり。

………まさか…ね。



……

………ゼロスならやりそうだなぁ。

「リナさん、どうしたの?」

アサクラの声ではっと我に返る。
そうそう、んなこと考えてる場合じゃなかった。
時間を見るともう19時直前、ショウたちとチャットをする約束の時間だ。

「ドロロ、もう時間がないわ。冬月コウゾウとかそこらへんについてはあとからでもいいけど、
 川口夏子と雨蜘蛛についても調べてくれた?」

「全員分の記述は一応は目を通したでござる。
 もちろん、川口夏子と雨蜘蛛に対する記述にも。
 前者は『元オアシス政府軍下士官』『反政府組織特殊部隊所属』だそうでござる。
 後者は『魂すら取り立てる地獄の取立人』だそうでござる」

レジスタンスと取立人。…どうも、これだけの情報で彼らが
ショウを利用しようとしているかどうかの判断を下すのは難しそうだ。
じゃあどうするか?

「その二人の顔を表示してくれる?
 もうかったるいし人相で判断しちゃいましょ」

「人を見た目で判断するのは良くないでござるよ。
 それにもう約束の時間が―――」

「"深町晶"だし待たせても問題ないわ」

「どんな理由でござるか!?」

あたしがこう主張しても、ドロロは『約束は守るべき』の一点張り。
ヴィヴィオちゃんも非難するような目でこっちを見てくるし
アサクラも『協力者の信頼を損ねる行為は慎むべきよ』と笑顔で言ってきた。
………"やっちゃった"あたしとしては彼女にそう言われると反論できない。

726彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:56:20 ID:Uw68TWIc
「分かったわよ。それじゃドロロ、そっちは頼むわね」

「…リナ殿、どこかに行く気でござるか!?」

あたしが自分のディバックを担いでいるのを見て、ドロロが驚きの声を上げた。

「ちょっと遊園地を調査してくるわ。昼間に来た時は使える道具がないか、って調べてたけど
 リングとかそういったギミックが仕掛けられている可能性があるって分かったし
 そういうのをちょっと探してみようかなって」

あたしは遊園地に何かしらが仕掛けられている可能性は非常に高いと推測していた。
もし何もないのなら禁止エリアをわざわざ3つも使ってここを封鎖する理由が説明できなくなる。
ドロロと考えていても結局何も思い浮かばなかったが―――なら実際に見て調べてみるっきゃない!

………本当に気まぐれで禁止エリアを選んでるとかだったら泣くぞあたしは。

「しかし一人で行くのは―――」

「だいじょーぶだって。魔力もそこそこ回復したし、何かあってもムチャする気はないから。
 それに深町晶とのやりとりはずっとドロロがやってきたから
 ここをアサクラに任せてドロロ連れていくってのも向こうが戸惑うでしょ」

ドロロが心配そうにこちらを見てくるが、あたしは手をぱたぱた振ってそう答えた。
アサクラかヴィヴィオちゃんのどちらか一人を連れていく…というテもあるけど、
これまでの二人の様子を見る限りヴィヴィオちゃんはアサクラのことをかなり信頼しているようだ。
今の外見こそあたしやアサクラと大差ない年齢になっているが精神年齢はまだまだ子供。
しかも、今は落ち着いているが放送直後の様子からしても精神的にかなり負担がきているのは
会ったばかりのあたしでも容易に想像がつく。
そんな彼女とアサクラを引き離すのはどーも忍びない。

「しかし…」

あたしの考えを知ってか知らずかなおも心配そうなドロロ。
うーん、仕方がない。譲歩してあげよう。

「ドロロはあたしが一人だと、もしギュオーとかズーマみたいなのに襲われたら危険だ。
 …こう言いたいのね?」

「そ、そうでござる」

まぁ、それはそうだろう。
正直なところ、一人だったらとっくに放送で名前を呼ばれてたはずだ。

「ならこうしましょう。あたしとアサクラとヴィヴィオちゃんの3人で調査に行く。
 ドロロはここに残る。うん、完璧」

「拙者が一人!!?」

ドロロが不服のツッコミをいれる。我儘なヤツである。

「それじゃ、いっそ何かトラブルに巻き込まれたことにして
 ショウのことはほったらかしに―――」

727彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:57:20 ID:Uw68TWIc
「ヴィヴィオちゃん、リナさんに付き合ってあげて」

予想外の人物の予想外の発言によりあたしの発想の転換をしたナイス提案はストップさせられた。
あたしもドロロもヴィヴィオちゃんも驚きの目でその発言者、アサクラのほうを見る。

「え…でも、涼子お姉ちゃん…?」

ヴィヴィオちゃんも戸惑いの色が強いようで、目をぱちくりしながらどうにかその言葉を発した。
アサクラがそれを制し、言葉を続ける。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 さっき言ったように自分で自分の身も守れるようになっておいたほうがいい。
 けれど、有機生命体というものはそんなすぐに簡単に強くなれるように作られてないわ。
 そして、私はあなたを守ってあげることはできても強くしてあげることは――残念ながらできない」

そこまで言い終えたところで、アサクラはすっと腕を上げ―――
こともあろうにあたしのほうを指差した。

「でも、リナさんは同じ魔法使い。リナさんにアドバイスをもらえば、
 少なくともあたしといるよりは強くなることができると思うの」

いや、確かにそうかもしんないけど…あたしの意思は!?
正直なところヴィヴィオちゃんがどれほど戦えるのか知らないが頼りに出来るとは思っちゃいない。
ドロロが心配しているような有事の際には足手纏いになること請け合いである。
そもそも、ヴィヴィオちゃんもアサクラと一緒にいたいはずだ。
何か反撃してやれっ!

「………」

何か考えるように伏目になるヴィヴィオちゃん。
考えるちゃいけない、感じるのよ!そして反論してあげなさい!!

「涼子お姉ちゃんがそういうなら…うん、私リナさんと一緒に行くことにする」

少し悩んだ末、力強い瞳でヴィヴィオちゃんは言った。
流されるなぁぁぁっ!!!
仕方ないのでここはあたしも口を出すことにしよう。

「アサクラ。悪いけどあたしはヴィヴィオちゃんを連れていくことに賛同できない。
 一人なら逃走できるような場面でも二人だとそうもいかないこともあるし―――」

「けれど、ヴィヴィオちゃんを連れていけば"逃走するような場面"を
 回避できるかもしれないわよ。ね、バルディッシュ?」

『Yes』

728彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:58:37 ID:Uw68TWIc
ヴィヴィオちゃんの胸元のブローチがきらりと金色に光り、返事した。
ああ、そっか。ヴィヴィオちゃんが装備してるデバイス・バルディッシュ。
そういえば索敵機能みたいなものがついているんだっけ。
少々彼女には失礼な考え方かもしれないが、もれなくバルディッシュが付いてくるのならば
まわりへの警戒はバルディッシュに任せてあたしは調査に集中できるし確かに悪くはない。
異世界の魔法についてじっくり話を聞くいい機会でもあるが―――

「言っておくけど、最善は尽くすけども、
 いざってときにヴィヴィオちゃんを絶対に守れるなんて保証はちょっと…」

「それを保証してくれるのなら――さっきのあなたたちの行動は許してあげるわ」

笑顔でアサクラが言った。
さっきの行動、とやらは…もしかしなくてもこっそりkskコンテンツでアサクラの情報を見たことだろう。
………まだ根に持ってたのね…。

「それに…なんで私が"一番あなたたちが知りたい話"をしてないか。
 単に時間が足りなかったというのもあるけど…どうしてか分かる?」

そう、実はまだ首輪についてやアサクラの正体については一切話を聞いていない。
"あたしたちが一番知りたい話"とは十中八九、首輪解除についてのことだろう。
つまりは彼女、『私の言うこと聞かないと首輪のことしんないゾ☆』と言ってるのだ。
さっき教えてくれるって言ったぢゃないか、ヒドい!
…なーんて思うが後の祭り。
まぁ、この提案自体はさっき考えたように悪いことばかりではない。
もっとも今後も首輪をネタに同じような脅迫を繰り返すならそれ相応の応酬をさせてもらうが。

「―――仕方ないわね。あんまり無茶しないように1時間かそこらで帰ってくるようにするわ。
 よろしくね、ヴィヴィオちゃん、バルディッシュ。」

やり口はちょっと不服だけど、まぁいっか。
あたしはウインクをしながらヴィヴィオちゃんに手を差し出した。
その手を見たヴィヴィオちゃんはパーッと明るい顔をしてあたしの手を握る。

その笑顔は…悔しいがかわいい。
背も胸もあたしより大きいし…くそぅどいつもこいつも。

ヴィヴィオちゃんと手をつないだまま部屋を出ようとして―――
危ない危ない、これだけは確認しとかないと。

「アサクラ。あなた、空を飛ぶことはできる?」

もし、何かトラブルに巻き込まれた際にはドロロとアサクラを置いてきぼりにして
遊園地を離脱する必要があるかもしれない。
そうなったとき、置いてきぼりにした二人が禁止エリアのせいで立ち往生しました―――
とか笑い話にもならない。
そう考えて念のために尋ねたのだが―――

「…涼子お姉ちゃん?」

「どうなさった、朝倉殿!?」

729彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:59:13 ID:Uw68TWIc
その質問を境に突然アサクラの笑顔がひきつったものに変わる。
よく見ると冷や汗までかき始めている。
………なんか聞いてはいけないことだったのだろうか?

「飛べない…ことはない、わ」

消え入りそうな声でアサクラはぼそっと呟いた。
…何がそんなに嫌なのかは知らないが、飛べるのだったら話は早い。

「もし遊園地が封鎖されちゃった後に、
 あたしたちが帰ってこなかったりここを離れないといけない事情ができたりしたら
 ドロロを抱えて飛んで脱出してもらっていい?
 安心して、ヴィヴィオちゃんはちゃんと面倒みるから」

「………分かったわ」

ものすごく躊躇の混じった返答。
………何がそんなに嫌なのか。

「できればそういう状況にならないように祈りたいけどね。
 じゃ、リナさんも気をつけて。
 さっき話をしたようにこの会場には転送装置がいくらかあるみたい。
 ヴィヴィオちゃんとはぐれるのだけは避けたいからそれだけは注意してね」

『お願い』と手を目の前で合わせてウインクする彼女に、あたしはコクリと頷いた。
―――はぐれたくないのならなんでわざわざ別行動を促すような真似をしたのか分からないけど…
ゼロスといい彼女といい笑顔を絶やさないヤツはホント何考えているんだか。

730彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:59:48 ID:Uw68TWIc
「それじゃ二人とも、ショウの相手よろしく。
 アサクラ、首輪については戻ってきてからちゃんと聞かせてもらうわよ?」

あたしはディバックを担ぎそのまま部屋を出た。
左手に引いているのはサイドポニーの綺麗な茶色い長髪を持つオッドアイの美少女メイド。
ふと目が合い、彼女はニコっと笑いかけてくれた。
その笑顔にはどうも緊張の色がある。
まぁ状況を考えればそりゃ緊張もするだろうけど。

引率なんてガラじゃないんだけどな…。

あたしは彼女の手を引き、夜の遊園地へと繰り出した。
………デートに行くカップルじゃあるまいし何やってるんだろ。


◆ ◆


「さて、それでは晶殿が待ちわびているやもしれないでござる。
 すぐにチャットを―――」

リナたちが出て行ったのを確認したドロロがマウスを握ろうとして―――
いつのまにかそのマウスを朝倉が握っていることに気付いた。

そして操作する。今はキン肉マンのページが表示されているkskコンテンツを。
マウスに連動する矢印は支給品情報が書かれている下の
青い『→』のマークに移動し、

カチカチカチカチカチッとクリック連打。

「あ、朝倉殿!?」

「ごめんなさい、ドロロさん。どうしてもこれだけは確認しておきたいの」

そう言ってページを送り続けた先に表示されたのは―――
金髪の髪とオッドアイの瞳を持つ少女のページだった。

731彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:00:24 ID:Uw68TWIc
朝倉は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースである。
そのためか、相手の外見にとらわれず冷静に相手の性質に気付くことができる。
ギュオーもゼロスも直感的にただの人間ではない、
もしくは人間ではないと気付いたのはそのためだ。

そんな彼女がヴィヴィオに抱いたわずかな"違和感"。
最初は『異世界の人間だからだろう』ぐらいにしか思っていなかった。
だが、どうも違うと確信したのはリナと出会ってからだろうか。
同じく『異世界の人間』で『魔法を使う』存在でありながら彼女には"違和感"を感じなかった。

こうやってその違和感の正体を突き止めようとしているのは単純に知的好奇心からだけではない。
疑問や迷いは咄嗟の判断を遅らせる。
そしてこの"違和感"というノイズは有事の際に自身の判断を鈍らせるかもしれない。
だからこそ、彼女を守り通すためにはそれを知っておくのも必要なことだと結論付けた。
とは言っても本人やバルディッシュに
「ヴィヴィオちゃんは普通の人間と何か違う。その理由を教えて♪」
と言えるわけもなく、一時的にリナにヴィヴィオを預けこういう行動に出たのだった。

そして、朝倉はヴィヴィオの肩書きを見る。

"魔法学院初等科所属、聖王の器"

「聖王………の…器?」

「器…とはまた面妖な表現でござるな」

朝倉もドロロも怪訝とする。
『聖王』というだけならまだ理解できるのだが…『器』の意味がさっぱり分からなかった。
だが、わざわざここに特記事項として書かれているのだ。
"違和感"の正体の鍵は、この言葉が握っている可能性が高い。

(機をうかがって、本人かバルディッシュに聞いてみればいいかな)

「ありがとう、もういいわ」

朝倉はそう言いマウスを手離した。
溜息を吐きつつ、ドロロがそのマウスを握る。

「ここで出会う女性は押しが強いでござるな…」

苦笑しながら、ドロロはマウスを操作し始めた。

732彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:01:16 ID:Uw68TWIc
【D-02 遊園地(スタッフルーム)/一日目・夜】

【ドロロ兵長@ケロロ軍曹】
【状態】切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯
【持ち物】匕首@現実世界、魚(大量)、デイパック、基本セット一式、遊園地で集めた雑貨や食糧、
【思考】
0.殺し合いを止める。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.リナとともに行動し、一般人を保護する。
3.ケロロ小隊と合流する。
4.草壁サツキの事を調べる。
5.後で朝倉と首輪解除の話をする。主催者が首輪をあまり作動させたがらない事も気になる。
6.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
7.「KSK」という言葉の意味が気になる。

【備考】
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※晶達から、『主催者は首輪の発動に積極的ではない』という仮説を聞きました。
※参加者プロフィールにざっと目を通しました。



【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(大) 、ダメージ(中)、自分の変質に僅かに疑問、ドロロとリナに対してちょっと不快感?
【持ち物】鬼娘専用変身銃@ケロロ軍曹、小砂の首輪
     綾波のプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ディパック(支給品一式)、新・夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     リチウムイオンバッテリー(11/12) 、クロスミラージュの銃身と銃把@リリカルなのはStrikerS、遊園地で回収した衣装(3着)
【思考】
0.ヴィヴィオを必ず守り抜く。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.武器もないので、気は進まないが鬼娘専用変身銃を使う事も辞さない。
3.キョンを殺す。
4.長門有希を止める。
5.古泉を捜すため北の施設(中学校・図書館・小学校の順)を回る。
6.基本的に殺し合いに乗らない。
7.ゼロスとスグルの行方が気がかり。
8.『聖王の器』がどういう意味なのか気になる。
9.できればゲーム脱出時、ハルヒの死体を回収したい。


【備考】
※長門有希が暴走していると考えています。
※クロスミラージュを改変しました。元に戻せるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※クロスミラージュは銃身とグリップに切断され、機能停止しています。
 朝倉は自分の力ではくっつけるのが限界で、機能の回復は無理だと思っています。
※制限に気づきました。
 肉体への情報改変は、傷を塞ぐ程度が限界のようです。
 自分もそれに含まれると予測しています。
※遊園地で適当な衣装を回収しました。どんな服を手に入れたかは次回以降の書き手さんにお任せします。
※kskコンテンツはドロロが説明した参加者情報しか目を通していないため
 晶たちといる雨蜘蛛が神社で会った変態マスクだと気づいていません。

733彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:01:50 ID:Uw68TWIc
◆ ◆ ◆


「わぁ…きれい…」

あたしの隣でメイド服に身を包んだ美少女、ヴィヴィオちゃんが感嘆の声を漏らした。

あたしたちを乗せた船は水上をゆっくりと移動し、
色とりどりのイルミネーションをあたしたちの視界へと運んできてくれる。

近くで突如水が噴きあがった。
何者かが潜んでいたのかと慌てて呪文を唱えながら身構えるあたしだったが、取り越し苦労だったようだ。
何色ものイルミネーションに水しぶきが照らされ、空間が虹色になっている。
空中に散った水により本物の虹まで見えていた。

周囲の幻想的な雰囲気にあたしの戦いで荒んだ心も癒されていく。


勘違いがないように言っておくと、あたしたちは決して遊んでいるわけではない。
遊園地の調査をするといったが、昼間に来た時に既にドロロと二人であらかた調べたのだ。
しかし、『使えるようなものはないだろう』と思って調べなかった箇所がいくらかある。
それがこういったアトラクションだ。

やがてあたしたちが乗っていた船が発着点に到達する。
このアトラクションにも、仕掛けらしきものも見当たらなかった。

「リナさん!次はあれに行きましょう!!」

そういってヴィヴィオちゃんは指差したのは―――馬や馬車の彫像が円上をぐるぐる回るもの。
やれやれ、とあたしは苦笑しながら
ヴィヴィオちゃんに手を引かれそちらのほうに移動し始めた。

落ち着いてこそいたが、情報交換のときに明るい表情をすることはほとんどなく、
話にもほとんど参加してこなかった(会話の内容が彼女が付いてくるには難しかったからかもしれない)。
そんな彼女が…まだ無理している感じはあるが、それでも"表面上"だけでも
楽しそうに、そして友好的に話しかけてくれることは好ましいことではある―――

だけども。

大事なことなので2回言っておく。

734彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:03:03 ID:Uw68TWIc
「まったく、仕方ないわねー」

あたしたちは決して遊んでいるわけではない。


● ● ●


「ねぇ、リナさん…」

その後もいくらかのアトラクションに乗ったがめぼしい発見は何もなく
次はどの乗り物に乗ろうかと思案していると、
さっきまでのトーンとは打って変わった声で
ヴィヴィオちゃんがためらいながらも後ろから呼びかけてきた。

「私…リナさんから見て、みんなに迷惑掛けていると思いますか?」

尋ねてきた内容はそれだった。
『そんなことないわよ』と軽く返そうかと思ったが、振り返った先にいる
彼女の表情は、深刻な顔をしていた。

「ここに来てから私は色々な人に会いました。
 けれど、誰も助けることはできませんでした。
 私がどうにかできるほど世界は優しくない―――そう涼子お姉ちゃんに言われました」

ぽつりぽつりと彼女は語り始めた。
風が彼女の後ろからあたしのほうへと吹き抜け、あたしたちの髪をなびかせる。
あたしは黙って彼女の言葉に耳を傾けた。

「私にできる最善のことをしていた―――涼子お姉ちゃんはそうも言ってくれました。
 けど、それじゃダメなんです。
 どんなに私が頑張っても、それでも迷惑をかけるんじゃ…ダメなんです。
 だから―――」

「で、あたしが『迷惑だ』って言ったら…ヴィヴィオちゃんはどうするの?」

あたしはわざと彼女の言葉に割り込みこう言った。
子供の愚痴に付き合ってあげるほどあたしは暇でもなければ優しくもない。

「だから、私は"今の"私よりももっと強くなりたいと思ってます」

「口だけなら何とでも言えるわ。
 …問題はどうやって強くなるかよ」

今度は語気を強めてちょっときつめに言ってやった。
アサクラも言っていたが、人が『強くなる』のは簡単なことではない。
もしこの程度で折れるぐらいなら彼女が強くなることはないだろう。

ここらへんで殻を破る必要がある。

たぶん、アサクラもそう思って短時間とはいえあえて別行動させたのではないか。
あたしはそういうふうに考え始めていた。

735彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:03:58 ID:Uw68TWIc
「そこで、リナさんにお願いがあります」

ヴィヴィオちゃんはあたしを見た。
オッドアイの瞳に宿る光が力強い。
彼女が何を言いたいのか予想はついている。
おそらく、こう言うだろう。

「私にレリックを譲ってください!!」

『私に魔法を教えてください!!』と―――って…あれ?
目の前でメイド服のヴィヴィオちゃんが頭を下げているが―――ちょい予定外。

「………レリックって何?」

「リナさんが持っている赤い宝石のことです」

おそらく、あの魔力が詰まった宝石のことだろう。
レリックというらしい。
どうやら、ヴィヴィオちゃんに縁があるもののようだが―――

「嫌よ」

あたしはきっぱりと言った。

「アレがどういったものかは知らないけど、
 あたしなりにアレは有効活用しているし、ないと困る。
 残念だけどヴィヴィオちゃんにあげることはできない」

「でも、あれがあれば私は―――」

『Stop』

そこで割り込んでくる機械的な第三者の声。
ヴィヴィオの胸のバルディッシュだった。

『Ms.インバース。ヴィヴィオにレリックを渡してはいけません』

「バルディッシュ!!」

バルディッシュが強めの口調で言い、
それに対してヴィヴィオちゃんが珍しく語気を強めた。
今まで必要がないと喋らなかったバルディッシュが割り込んできたということは
どうもただ事ではないようだ。

736彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:04:29 ID:Uw68TWIc
『レリックは超高エネルギー結晶体です。
 その性質故、魔力波動などを受けると爆発する危険があります。
 かつて、レリックが原因の周辺を巻き込む大規模な災害が幾度か起きました』

ゲゲッ…両手に握って魔力の回復なんかに使っていたが、そんな危険物だったのか。
これからは注意して使うようにしよう。

『ヴィヴィオ。今の貴女が持つには危険すぎます。
 また、レリックを埋め込まれた貴女が何をやったか忘れたわけではないでしょう』

「っ…それは…」

『それに、我が主はそのようなことを望んでいない。そう思います』

「………。…ずるいよ、そんなの」

バルディッシュの説得に、ヴィヴィオちゃんは反論したが最後のほうはか細く、
風上にいればほとんど聞こえなかっただろう。
確か、バルディッシュは彼女の母親が使っていたデバイスだったか。
バルディッシュの言葉にどれほどの重みがあったのかはあたしには分からないが…
それっきりヴィヴィオちゃんは黙ってしまった。

次に向かうつもりだったアトラクションのほうへと歩き出す。
一応、ヴィヴィオちゃんも後ろをとぼとぼと付いてきてはいるが…

うーん、こりは気まずい。
さっきまでのほのぼの〜とした雰囲気が見事にぷち壊れてしまった。
さてどうしたものか。


◆ ◆ ◆ ◆


ヴィヴィオはひどく落ち込んでいた。
一時的とはいえ大人の身体になり、レリックまで見つけた。
これならきっと自分の身を守れる。それだけじゃなく、涼子お姉ちゃんやなのはママだって守れる。
周りにいる大事な人たちを守る力を手に入れることができる。

そう思ったのだが―――。

737彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:05:08 ID:Uw68TWIc
(バルディッシュまで…あんなこと言うんだもん)

きっとバルディッシュなら自分の想いを分かってくれる、協力してくれる。
ヴィヴィオはそう信じていたが現実は甘くなかった。

フェイトママはそんなこと望んでいない。

確かにそうかもしれない。
でも、ママが間違っていると言っても、それがみんなのためになるのなら。
自分で考えて正しいと思ったことのならばやらなくちゃいけないのではないか。
バルディッシュはフェイトママのために作られたデバイス。それができない。
それをするのは娘である私の役目じゃないのか。

ヴィヴィオは落ち込み半分、恨めしさ半分の眼で胸元のバルディッシュを見た。
考えていることを知ってか知らずか、当然無反応である。

「…………………」

そのとき、ヴィヴィオの前方から声が聞こえてきた。
リナが発した言葉なのかも判然としない。
単なる空耳だろうか?

「身の程を過ぎた力は身を滅ぼすわよ」

今度は間違いない。リナが言った。
ヴィヴィオのほうからは前方を歩いている彼女の表情を窺い知ることはできない。

「あたしも経験あるのよ。
 自分じゃ扱えないような魔法を無理やり唱えて、危うく世界を滅ぼしかけたこと」

もはや身を滅ぼすとかいう次元ではないが
とりあえず誰もツッコミを入れず黙って聞いていた。

「あなたが過去にレリックで何をやらかしたのかは知んないけど―――
 もしここで厄介なトラブルを引き起こしたりなんかしたら
 あたしもドロロも、もちろんアサクラも、下手すればみんな死ぬわ」

あまりにそっけないリナの言葉。
そのそっけなさが、逆に『死』が身近なものと感じさせる。
腕章をつけている左腕がズキンと痛んだ気がした。

738彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:05:40 ID:Uw68TWIc
「アサクラも言ってたけど、人が一段階強くなるのは簡単なことじゃない」

リナは歩みを止め、振り向いた。
それまでの厳しい基調とは裏腹に、彼女は優しい顔をしていた。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 あなたはあなたができる精一杯を全力でやればいいのよ。
 ヴィヴィオちゃんにしかできないことだってあるんだから。
 魔法で戦うとか守る、なんてのは…あたしに任せときなさい!」

親指をグッと立てたリナの優しい言葉が染み込むが―――それじゃヴィヴィオは納得できなかった。

「…私にしかできないことってなんですか?
 今までも、情報交換のときもそうでした。
 私にしかできないことなんて全然―――きゃっ」

ヴィヴィオの言葉は途中で中断された。
―――何を思ったか、リナがでこぴんしたのだ。

「じゃ、あたしがヴィヴィオちゃんが使える
 とっておきの魔法を教えてあげるわ。
 いい、よく聞きなさい。



 ――――――『頑張って!』」

「………はい?」

リナの突飛な行動と突飛な発言により、ヴィヴィオの思考が一時停止させられる。

「オトナってものはね、肝心な時にどーでもいいこと考えていたりするわけよ。
 ものすごく強い敵を相手に『こりゃ勝てないわ』と戦う前から諦めたり、とかね。
 そういうときに『勝てるよ!頑張って!!』って魔法かけてあげなさい。
 本当に力が湧いてきちゃうんだから。
 可愛いコにしか使えない高等魔法なのよ」

739彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:06:11 ID:Uw68TWIc
リナはヴィヴィオの肩をぽんぽんっ、と叩きながら笑った。

     負けるつもりで戦えば、勝てる確率もゼロになる。
     たとえ勝利の確率が低くても、必ず勝つつもりで戦うっ!

これはかつてリナが言った言葉。
しかし、本当に絶望的な戦いのときはリナさえもそれを忘れかけることがある。
それをみんなに思い出させるのには"不屈の心"を示すことが必要だ。

あるときは叱責かもしれない。
あるときは開き直りかもしれない。
あるときは応援かもしれない。

それを示す鍵が何か分からない。
でもヴィヴィオならそれをみんなに伝えられるんではないか。
それが彼女のできる、彼女しかできないことなのではないだろうか。
根拠なんて何もないけど、リナはなんとなくそんなことを思ったのだった。


どれくらいの時間が静かに過ぎただろう。
しばらく呆然としていたヴィヴィオだったが、少しずつ顔が綻んでいく。

「えへへ…ありがとう、リナさん」

胸のつっかえがひとつ取れたような笑顔。
遊園地ではしゃいでいた時よりも幾分清々しいように思える。

「私、みんなに"魔法"かけるよ」

力強い少女の声が朗々と響いた。

740彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:06:49 ID:Uw68TWIc
「でも"魔法"かけても恥ずかしくないように私も頑張る。
 もっと強くなる。少しずつでも、ちゃんと順番追って強くなってく。
 リナさんや涼子お姉ちゃんに迷惑かけないように。
 なのはママにエヘンと胸を張って会えるように。
 フェイトママにもう心配させないように!」

爽やかな笑顔。オッドアイの瞳に映る確かな輝き。
まだまだ小さい彼女に言うには少々難しいことだったかもしれないが、
どうやら余計な心配だったらしい。
大したものね、とリナは素直に感心した。

「…ーー…ー……ーー…」

再びヴィヴィオに背を向けたリナが、ゆっくりと言った。
聞き取れはするのだが、何と言っているのかはよく分からない。
もちろんその言葉の意味もヴィヴィオにはさっぱり理解できないだが―――

「炎の矢(フレア・アロー)!」

リナが『力ある言葉』を放つと同時に、彼女の目の前に燃え盛る炎の矢が生まれた。
そのままにしておくことも消すこともできないのか、とりあえず手近な地面に放つ。
レンガ造りの地面を一か所を黒く焦がし、炎は消え去った。

「この魔法の詠唱は訳すと『全ての力の源よ 我が手に集いて力となれ』ってとこね。
 呪文は短いから丸暗記できるだろうし、割と実用的な魔法よ」

そう言ってリナはもう一度ヴィヴィオのほうを見た。
ニヤッともニコッともとれる、不敵な笑みを浮かべて。

「ちょっとヴィヴィオちゃんが考えていたような順番じゃなくなっちゃうかもしんないけど―――
 覚えてみる?」

一瞬、何を言われたのかよく分からなかったのか
ヴィヴィオはきょとんとしていた。
その瞳が、徐々に輝きを増していく。

「―――よろしくおねがいします!」

深々と頭を下げ、ヴィヴィオが言った。
すぐに使えるようになるかどうかはリナにも分からない。
無駄手間になるかもしれないしそもそも余計なお節介かもしれないが―――
戦場の一端、遊園地の光に照らされた彼女らの顔にはそれぞれの笑みがあった。

741彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:07:22 ID:Uw68TWIc
【D-02 遊園地/一日目・夜】

【リナ=インバース@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】疲労(小)、精神的疲労(小)
【持ち物】ハサミ@涼宮ハルヒの憂鬱、パイプ椅子@キン肉マン、浴衣五十着、タオル百枚、
     レリック@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 遊園地でがめた雑貨や食糧、ペンや紙など各種文房具、
     デイパック、 基本セット一式、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊、
     ベアークロー(右)(刃先がひとつ欠けている)@キン肉マンシリーズ
【思考】
0.殺し合いには乗らない。絶対に生き残る。
1.遊園地を調べながらヴィヴィオと行動する。
2.20時が過ぎた頃にはスタッフルームに戻りドロロ達と合流する。
3.朝倉の正体が気になる。涼宮ハルヒについても機を伺い聞いてみる。
4.当分はドロロと一緒に行動したい。
5.ゼロスを警戒。でも状況次第では協力してやってもいい。
6.草壁サツキの事を調べる。
7.後で朝倉と首輪解除の話をする。
8.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
9.時間ができれば遊園地のkskコンテンツにしっかりと目を通しておく。

【備考】
※レリックの魔力を取り込み、精神回復ができるようになりました。
 魔力を取り込むことで、どのような影響が出るかは不明です。
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※市街地の火災の犯人はもしかしたらゼロスではないかと推測しました。



【ヴィヴィオ@リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、16歳程の姿、腕章を装備、メイド服の下に白いレオタードを着ている。
【持ち物】バルディッシュ・アサルト(6/6)@リリカルなのはStrikerS、SOS団の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱  メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱 
     ディパック(支給品一式)、ヴィヴィオが来ていた服一式
【思考】
0.誰かの力になれるように、強くなりたい。
1.リナと一緒に行動する。
2.なのはママが心配、なんとか再会したい。
3.キョンを助けたい。
4.ハルヒの代わりにSOS団をなんとかしたい。
5.スバル、ノーヴェをさがす。
6.スグルとゼロスの行方が気になる。
7.ゼロスが何となく怖い。
8.涼子お姉ちゃんを信じる。

【備考】
※ヴィヴィオの力の詳細は、次回以降の書き手にお任せします。
※長門とタツヲは悪い人に操られていると思ってます。
※キョンはガイバーになったことで操られたと思っています。
※149話「そして私にできるコト」にて見た夢に影響を与えられている?
※アスカが殺しあいに乗っていると認識。
※ガイバーの姿がトラウマになっているようです。
※炎の矢(フレア・アロー)を教わり始めました。すぐに習得できるかどうかは不明です。

742 ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:08:57 ID:Uw68TWIc
投下完了です。
少しミスしまして、>>733から【彼女らにできるコト】になります。
では、本スレに投下できる方がいればどなたかよろしくお願いします。

743もふもふーな名無しさん:2009/11/01(日) 20:36:57 ID:sxxn9wRo
「代理っす」です
連続投稿で閉め出し喰らいました
731から先誰かお願いします

744もふもふーな名無しさん:2009/11/01(日) 21:18:04 ID:sxxn9wRo
「代理っす」です
何とか>>733までは行けたので、後お願いします
閉め出しきついです

745もふもふーな名無しさん:2009/11/01(日) 21:19:00 ID:sxxn9wRo
すいません
>>732まででした

746もふもふーな名無しさん:2009/11/01(日) 22:41:32 ID:Z3.0zEr.
乙です
代理代理やっときましたー

747もふもふーな名無しさん:2009/11/03(火) 13:46:53 ID:sxxn9wRo
「代理っす」です
お手数おかけ致しました

748 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:44:56 ID:OQFqoiZc
規制中につきこちらで投下します

749鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:45:58 ID:OQFqoiZc



――――身を隠す。
視界に突如飛び込んできた大量の水、オアシス。
砂漠で生きる川口夏子にとってそれは二度目に見る威容。
だが彼女が素早く林の中に引き返したのは、湖に気圧されたからではない。
湖の中心、リングの上に二つの影が見えたからだ。
星の光を反射して、周囲より僅かに明るいリング上。
そこにあった影は、双方とも彼女が知るものだった。

(万太郎君と……古泉! まさか、悪魔将軍もすぐ近くにいるの!?)

先刻の万太郎の叫び声から予測はしていた事だが、あれからまだ2分も経っていない。
悪魔将軍の手先である古泉がこうも早く万太郎に接敵している事を考えれば、それは容易に推測できた。
万太郎と一度戦っているはずのオメガマンも、今や悪魔将軍に与しているのだろう。
敵は四人……万太郎に引きつけさせておけばいいという考えは捨てるべきか?

(朝比奈みくると離れ離れになった時、私達は隠れていたのに悪魔将軍たちに発見された……この距離はマズイ!)

リングからここまで、おおよそ200mといった所だろうか?
ガイバーの能力ならば、派手に動けば察知される可能性は決して低くないだろう。
彼女は数十m先まで救急車で来ていたが、その駆動音が気付かれているのでは、という懸念は捨てた。
気付かれているなら、既に攻撃されているはずと考えたのだ。
夏子は息を潜め、同時に嗅覚を研ぎ澄ます。
この近くに落ちたはずのロケットが噴出していたガスの臭いを捉える。
発臭元を目で追えば、ギリギリ視界に入る位置に地面にめり込んだ弾頭と、それに括られたディバックが見えた。
林の中だ。リング上からは見えないはず……夏子は僅かに身を揺らす。
今は動けない。運よくやり過ごせる事を願うしかない……。
身を焼くは悔しさ、憎悪、怒り。自分の弱さが情けなかった。力があれば、こんな雌伏で時間を取られる事もないだろうに。
歯軋りも出来ず、視線を再びリングに戻す。
激しく言い争いをしていた万太郎と古泉の様子に、異変が生じていた。
静かな夜に、音を反射する水面の上での会話だ、耳を澄ませば内容もよく聞こえる。
目を凝らし、静かに銃を抜いて、事の成り行きを見守る。

(ごめんなさい、万太郎君……私には君を助けてあげることは出来ない。
 だからせめて一人でも多く、連中を道連れにしてね……?)

これからここで確実に起こるであろう、惨劇の成り行きを。

750鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:46:49 ID:OQFqoiZc





背後で水音が聞こえ、飛沫があがったと万太郎が気付き、振り向いた時。
既に古泉一樹は、ガイバーの飛行能力によってリング上に飛び込んでいた。
湖から爆風で流れ込んだ水でマットを濡らし、万太郎を睨みつける。

「ガ……ガイバーⅢーーーっ! 一番手はキミってことだね! さっきみたいにはいかないよ!」

「あなたは……」

ボロボロの体でファイティング・ポーズを取る万太郎。
そんな正義超人に向け、殺意すら込もった呆れ声で古泉が言葉を繋ぐ。

「あなたは、バカですか?」

「な……なんだってぇ!? 超人界でプロフェッサーとまで呼ばれたボクに対して何たる暴言!」

「ヘタレ。貴方は俺をそう呼びましたよね。これでおあいこって事で」

「あ、あれは単なる挑発だよ! ひょ、ひょっとして悪魔将軍も今の君くらい怒ってた?
 ヒャワワワ〜〜ッ! お、お前のカーチャンデベソは言い過ぎたかな〜〜っ」

「知りませんよ」


つい先ほど勇猛果敢な叫び声を上げたとは思えない取り乱し様の万太郎の問いに、冷たく答える古泉。
その返答と態度は、狼狽する万太郎の目にも奇怪に映った。

「知らないって……キミは悪魔将軍の手下だろう? ひょ、ひょっとして正義の心に目覚めてヤツと別れたとか……。
 そうか! やっぱりあの時のビームはボクを生かす為に手加減してくれてたんだね!」

「……そう、なりますかね」

無難な言葉を返しながら、万太郎を観察する古泉。
コンディションだけ見ても、仮にこれから自分と二人がかりで悪魔将軍に立ち向かったところで返り討ちにされるだろう。
反逆の時には、やはりまだ満ち足りない。一刻も早くここを離れるべきだと、万太郎に注進する。

「それはできないよ! 悪魔将軍を放っておけば必ずその犠牲者は増えていく……だから、ボクはここに来たんだ!」

「勝てないとわかっているのに、ですか」

「勝てるさ! キミが協力してくれれば、きっと勝てるよ! あのノーヴェって娘も悪い子には見えなかったし、
 彼女だって説得すれば協力してくれると思うんだけど、ガイバースリーはどう思う?」

「いえ、それはないです。だから一刻も早くここを……」

言いつつ、古泉は万太郎の言葉に妙な説得力を感じていた。

(流石は将軍が恐れていた"キン肉マン"の眷属といったところですか……ヒーロー的なカリスマがありますね。
 追い詰められる程、それが表面化するタイプと見ました。しかし、それも万全ならば、の話です)

751鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:47:41 ID:OQFqoiZc

古泉は、激しく脳を働かせて策を練る。
悪魔将軍とオメガマンはまもなくこの場に来るだろう。
ノーヴェは……来たとしても、もう自分の味方になるとは思えなかった。

(俺は彼女を裏切ったんですからね。希望的観測は避けるべきでしょう)

必ず悪魔将軍たちを倒そうとポジティブに自分に詰め寄る万太郎を適当にいなしながら、古泉は周囲に気を配った。
……気配は感じない。まだ僅かに猶予はあるか。と、万太郎が聞き捨てならない言葉を発した。

「悪魔将軍やオメガマンはそりゃ強いけど、決して無敵じゃない。だって20年以上前にボクの父上に負けてるんだからさ。
 今じゃ没落した悪魔超人軍の首領が何故ここにいるのかはわからないけど、勝てない相手じゃないはずだよ。
 いや……むしろ奴等に勝てなきゃ、ボクは超人オリンピック二世代制覇なんて到底なし得ないんだ!
 ボクだって父上の血を引いて火事場のクソ力を習得したキン肉マン2世! きっと勝てるさ、ガイバースリー! 」

「え……? 20年前って……どういうことですか、万太郎さん!?」

「く、食いつくところおかしくないかな……?」

万太郎が、淡々と悪魔将軍たちの出自、そしてその末路を語る。
それは彼にとっては訓練所の授業で習った当たり前の、常識とも言えるものであった。
が、古泉はその情報に大きな衝撃を受ける。数秒の逡巡。古泉の頭を様々な情報が駆ける。

超人。正義超人。悪魔超人。悪魔将軍のプライド。ノーヴェ。オメガマン。朝比奈みくる。復讐。未来。没落。"彼"。

様々な要素を組み重ね、やがて古泉は会心の"策"に辿り付いた。

「万太郎さん。悪魔将軍とオメガマンがここに着き、俺とあなたにタッグマッチを挑むとします。
 そうすれば、我々のコンディションでは絶対に勝てない。それは理解してくれますか?」

「ム……そ、それはそうかもしれないけど、正義超人はどんな苦境でも逃げない――」

「俺は正義超人じゃありません。でも、あなたと同じく悪魔将軍に危険を感じている。
 彼は俺の目の前で俺の仲間を殺した。そして、俺を悪魔超人として改造しようとしている……。
 これはまだ言っていませんでしたね? 将軍は自分のためなら、他者をどこまでも利用し、蹴落とすことが出来ます。
 いずれは自分の意に沿わない者全てを殺しつくすでしょう。間違いなく、彼は最も優勝に近い参加者の一人です」

「なんだって! そ……そうか!やはりキミは仲間を殺されて、脅されてあんな悪魔と同行してたのかい?
 ボクとしたことが告白されるまではっきりそうだと分からかったなんて! 必ず仇は討つ……いや、一緒に討とう!」

自分の事のように古泉の仲間が殺されたことに憤慨する万太郎。
そんな男に僅かに心を和まされる古泉だったが、その安息を即座に捨てる。
自分は"駒"として万太郎を利用しようとしているのだ。情は捨てろ、要点だけを話せ、と心に刻む。

752鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:48:30 ID:OQFqoiZc

「ですから……ここは一時撤退すべきなんです。失礼ですが、今貴方は感情的になりすぎている。
 試合をするならベストコンディション、これはどんな格闘技にも通じる常識のはずでは?」

「ボクが感情的になってるって? それはないよ、ガイバースリー。ボクは今『無我』の教えを取り戻してる!
 例え相手がどんな酷いやつで、こっちがどんなにボロボロでも、リングの上では正々堂々戦えるよ!」

「……」

ダメだ、と古泉は説得を諦めた。自分とはあまりに考え方が違いすぎる。
自分のように、憎しみで動く者の冷静な打算など、この万太郎にとっては一生無縁の物なのだろう。
体育会系と文科系、なんて生易しい差異ではない(もっとも、古泉はそのどちらでもないが)。
ならば、と古泉はシンプルに、万太郎をこの場から離す為の簡易策を発動させる。

「あっ! ノーヴェさん! いくら湖で夜だからって裸で何を!?」

「えっ!? あの子そんなに大胆なタイプだったの?」

「ふんもっふ!」

股間を隆起させながら凄い勢いで振り返った万太郎の腹部に、古泉はガイバーの武器、"重圧砲"を打ち込んだ。
呼吸を激しく乱され、口をパクパクさせながら気絶する万太郎。

「やっぱりダメじゃないですか……」

万全の状態でも万太郎は振り向いただろうが、こんな弱い一撃で気絶はしなかったはず。
苦笑しながら古泉は自分のディバックから紙を一枚取り出し、サラサラと"策"を記す。
リング中央に、風などで飛ばされないように、そしてちょっとした演出を狙い、コンバットナイフで紙を突き立てる。

「さて……」

古泉は気絶した万太郎を抱え、迷わず湖に身を投げる。
激しく痛む身体を歓喜でなんとか持たせ、ガイバー・ユニットによる重力制御で水面上を飛ぶ。
歓喜。古泉には、今その感情しかない。
なぜならば――遂に、憎っくき悪魔将軍に挑戦状、下克上を叩きつけたのだから。

753鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:49:10 ID:OQFqoiZc





何が、間違いだったのか。
私は荒々しく歩を進めている。キン肉万太郎への制裁を行うべく、だ。
しかし、その歩みは決して早いものではない。
当然だ、自分が"負けた"歴史の存在を聞かされたのだからな。
オメガマンは嘘を言っているようには見えなかった。
ならば、私はキン肉スグルに負けたのだろう。奴の生きた時代ではな。
時間超人の存在を知る私にとっては、それは大した問題ではない。
心を乱される必要もない、これからその"敗北"の歴史を塗り替えればよいのだから。

「とはいえ、キン肉マンが私に勝った時空もあるならば、それについて考える意味はある」

ぼそりと呟き、キン肉マンが自分に勝利するイメージを浮かべる。
キン肉マンが持つ不可思議なスキル、火事場のクソ力以外に自分が遅れを取る事は想像できなかった。

「万太郎がキン肉王家の一員であることは間違いあるまい。あんなセンスのないマスクを選ぶのは奴らくらいだ」

ならば、万太郎が火事場のクソ力を持つ可能性もなくはない。時空が入れ乱れて参加者が集っているとわかった今、
キン肉万太郎はキン肉スグルの実子である、などといった無茶苦茶な可能性すら許容されるのだ。
だからこそ、私自らが赴いているのだからな。火事場のクソ力を奪う事はあのバッファローマンにも出来なかった。
だがこの悪魔将軍ならば、それも不可能ではないはず。キン肉マンの唯一の長所を得られれば、私の勝ちは揺らがない。

「……少し急ぐか」

別に本気で火事場のクソ力を欲している訳ではないが、もし自分より先に古泉やノーヴェが万太郎を始末しては拙い。
キン肉王家はこの手で断絶したいし、古泉たちが自分の命令を無視したならそれに対する制裁もせねばならない。
私は歩幅を広げ、数分で湖にたどり着いた。しかし。

「万太郎の姿がない……逃げたわけではないだろうが……む?」

私の視界に、リングに突き立てられたナイフが映った。
何かを固定しているのか……?

「ボートを漕ぐのは面倒だな」

すぐ側にボートがあったが、ノロノロ漕いでいっては何分かかるか分からん。
私はディバックからユニット・リムーバーを取り出し、全力で投げる。
自身もプラネットマンの宇宙的レスリングを彷彿とさせる跳躍でリムーバーに飛び乗り、
一直線に湖中央のリングに向かった。リムーバーがマットに突き刺さり、着地成功。リングに刺さったナイフを抜く。
そのナイフは、一枚の紙切れをリングに縫い付けていた。

754鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:50:02 ID:OQFqoiZc

「汚い字だな……」

灯りを取り出し、紙切れに書かれた文字を読む。
それは、挑戦状だった。万太郎からのではなく、我が部下からの。


『拝啓 悪魔将軍様
 
 俺はあなたを裏切ります 理由は単純 あなたと居るメリットが消滅したからです
 驚愕しましたよ あなたがあれほど雄弁に語っていた悪魔超人軍の権威が地に落ちていたとはね
 もはやあなたに就く意味なし そう判断させていただきました そしてあなたへケジメをつけさせて頂きます
 翌日 09:00 あなたにここ湖上リングでタッグマッチを申し込みます そちらのパートナーは誰でも構いません
 こちらのパートナーはもちろんあなたを破ったキン肉マンの息子 あなたにとっては未来の超人、キン肉万太郎氏です
 歴史を繰り返したくなければ逃げることをお勧めしますよ 我々マッスル&ガイバーズからね

                                                   正義超人  古泉一樹より   』


「ほう」

薄々古泉の叛意には気付いていたが、こうも明確に反逆するとはな。
小癪にも時間稼ぎの為に時間指定までしておるわ。
ヤツと同行していたノーヴェも恐らく既に殺されているだろう。
まったく、愚かなヤツよ。だから古泉には気を許すなと忠告したものを。

「マットはまだ温かい……そう遠くへは行っていないだろうが……」

挑戦状を懐にしまい、私は古泉について考えを廻らせる。
奴が裏切ったのは、万太郎が私の未来について語ったからだろう。
この文面を見てもそれは明らかであり、悪魔超人界に入ることを断念した理由としては妥当だ。
何らかの理由で正義超人に鞍替えする悪行超人などそう珍しくもない。だが、私は古泉の本心を見抜いていた。

「愚かな……オメガマンもそうだが、この私に一度仕えた者が私から離れて生きていけると思うのか……!」

古泉は、結局朝比奈みくるの死と涼宮ハルヒの呪縛から逃れられなかったのだ。
やはり人間が手に入れ得る悪魔の精神など、あの程度が限界だったか。
少しは期待していたが、恥知らずにも正義超人を名乗るようではもう見込みはない。
アシュラマンの替わりは他で探すとしよう。

「……が、この悪魔将軍に挑戦状を叩きつける気概は買ってやらねばな。いいだろう、古泉よ!
 貴様の挑戦、しかと受け取った! 聞いているなら精々身を休め、引退試合に恥じぬ状態でリングに上がるのだな!」


今すぐ追えば容易に捕らえられるだろうが、試合を挑まれてそんな無粋な真似をする超人はいない。
最も、私とて紳士というわけではないから、試合前に"偶然"出くわせばそこで決着をつけることになるだろうがな。
湖全体に轟く叫び声を上げ、私は再びユニット・リムーバーを投擲、騎乗する。
さて……適当なタッグ・パートナーを探さねばな。
湖上の深々とした裂風を身に浴びながら、迫る陸地。
私の目に、水色の髪が映った。

755鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:50:46 ID:OQFqoiZc




「……僥倖でしたね、オメガマンが将軍を裏切っていたとは」

E-8中央部分、湖の畔の木々の枝根にて。
湖上を飛ぶ悪魔将軍に憎悪の目を向けながら、指向性マイクから耳を離して古泉が一人ごちる。
片脇には気絶した万太郎。いびきや鼻息で悪魔将軍に気取られては笑い話にもならないので、布で口を縛られている。
古泉にとっては悪魔将軍があの挑戦状を受け入れる事は予想通り。
悪魔超人の首領が、正義超人から試合を挑まれて受けないはずがない。
最も、あの場に留まって直接試合を申し込んでも素直に時間を与えてくれるような人物ではない。
ゆえに、噴飯物の古風な挑戦状などを使わざるを得なかったのだが……。

「あのリムーバーがある以上、俺は悪魔将軍の前ではほとんど無力……だから、今まで大人しく従ってきたわけですが」

遂に、悪魔将軍の行動を操作できるチャンスが来た。
"明日" "朝九時" "ここ"に、悪魔将軍は確実にやってくるだろう。
しかし、古泉が狙う好機はその瞬間ではない。
古泉は超人ではなく、リング上での試合に拘ることもない。

「万太郎さんをどう言いくるめるか……それも面倒ですが、俺にとっての理想の展開は一つ。
 そこに持っていく為に、早速行動するとしましょう」

古泉の計画は、果し合いではない。奇襲。試合前の緊迫した時間……七時から八時辺りになるだろうか。
その時間帯に、できるだけ多くの仲間を集めて悪魔将軍をリング外で襲撃し、打ち倒す。
人数が居れば、前衛に将軍を抑えてもらってリムーバーの効果が及ばない距離から援護に徹することも出来る。

「オメガマンの協力はなんとしても欲しいところですが……危険が大きい。ノーヴェさんや"彼"は論外として……。
 朝比奈さんと行動していた女性と動物や、朝倉涼子……知り合いの中にはそう信頼を置けそうな人物はいない、か」

戦力的にも、関係的にも、自分が知っていて現在生き残っている者に期待を寄せるのは難しそうだった。
まだ見ぬ強者に加勢を望むしかないのか……幸い、時間は10時間近くある。ガイバーのままなら、眠くなることもない。
必死で会場を駆けずり回り、悪魔将軍が見込んでいた『高町なのは』や『キン肉スグル』を探し出す、それしかないか?
蜘蛛の糸を渡るような、ハイリスクでローリターンすら期待できない作戦だ。
だが、古泉が悪魔将軍への復讐を遂げる為には、この薄氷を踏み砕く覚悟と、冗談のような強運が必要なのも事実。

「将軍としばらく過ごしていて、寝首を掻くのは不可能だと分かりましたからね。裏を掻くのが無理ならば、
 正面から――いえ、側面から、といったところですか。横合いから殴りつける、これしかありません」

漁夫の利を狙うつもりなどない。
あくまで、将軍を倒すのは自分だと古泉は胸中に言質を込める。
強者を集め、彼らの協力の下で将軍を倒す。言葉にすれば簡単だが、
古泉自身がこの計画の問題点を深く理解している事は彼の仮面の下の苦悶の表情からも明白であった。
彼は自分が仲間だと思っていた者に偽の悪評を流され、悪魔に加担していたという事実さえある。
参加者に広まる自己の風評次第では、この計画は一瞬で崩れ去るだろう。

「それでも……引き返すわけにはいかないんですよ、ノーヴェさん」

自分が裏切り、下手をすれば将軍に処刑されるかもしれない状況に追い込んだ女性に詫びるように呟き、
古泉……ガイバーⅢは、自分が滅ぼすべき悪鬼が去ったことを確認し、暗く沈む闇の中に消えていった。

756鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:51:47 ID:OQFqoiZc

【E-8 森林/一日目・夜】

【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(大) 気絶 勃起
【持ち物】ザ・ニンジャの襟巻き@キン肉マンシリーズ
【思考】
1.悪魔将軍を倒し、ガイバーを解放する。
2.危険人物の撃退と弱者の保護。
3.夏子たちと合流する。
4.頼りになる仲間をスカウトしたい。
  父上(キン肉マン)にはそんなに期待していない。 会いたいけど。
【備考】
※超人オリンピック決勝直前からの参戦です。


【E-8 森林/一日目・夜】

【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、みくるの首輪、
      デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、 ケーブル10本セット@現実、
      ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
     基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
     七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個) 高性能指向性マイク@現実、ノートパソコン@現実?

【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.この場から離れる。
3.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子、高町なのはを優先。
4.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
5.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。

757鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:53:10 ID:OQFqoiZc



「起きろ」

「んあ……?」

戦闘機人、ノーヴェが湖が見える位置まで着いたと思った瞬間。その眼前には悪魔将軍が佇んでいた。
バチン、と電源が落ちたような音。取り戻したばかりの意識が、再び一瞬消滅する。
身体がうつ伏せになっている事に気付き、寝ぼけ眼で立ち上がろうとする。
……立ち上がれない。悪魔将軍が、ノーヴェの背中を踏みつけていた。

「え……? しょ、将軍……?」

「お前は……要らん」

冷たく言うと、悪魔将軍はその体重をノーヴェの矮躯に押し付けた。
メリメリと、機械と肉が軋む音。
悲鳴すら上げられずに、ノーヴェは激痛にその身を支配されていた。

「ッガッ……ァ……」

「ふん」

体重を除け、ノーヴェの短い髪を掴み、持ち上げる。
堰を切ったように咽込むノーヴェの顔を、殴る。悪魔将軍は、殴る。

「え……? なぁ……?」

殴られながら、しかしノーヴェは反撃できない。
痛みに苛まれているから、ではない。
明確な殺意。それを今まで向けられる事のなかった彼女は、混乱していた。
敵意とは違う。彼女が過去向けられた害意は、あくまで対等な"敵"あるいは"標的"が放つものだった。
蠅を潰すような動作で、躊躇なく自分を破壊しようとする……こんなものでは、決してなかった。
混乱は戦慄に、戦慄は恐怖にシフトしていく。目の前の存在は、先ほどまで同行していたモノと同じとは思えなかった。

(これ……将軍……だよな? なんで、だ? 古泉が裏切ったからか?)

「私のくれてやったアドバイスを言ってみろ」

「え……ひっ……」

「復唱しろ!」

「こ、ここ古泉に対して、けけ警戒をおをお怠るな、だよな? わわ、悪かったよ、あた、あたしがあ、甘」

がくがくと膝を笑わせながら、呂律の回らない謝罪をするノーヴェ。
表情にはうっすらと笑いを乗せ、自分に対し殺意を向ける悪魔将軍に媚び、宥めるような意志を伝えている。
しかし、それは将軍の拳で遮られる。
顔面を殴られて「ひっ」と声を漏らし、涙を漏らす戦闘機人に、普段の勝気な性格は欠片も見えない。

「貴様が甘いことなど、その様を見れば知れるわ。最も、古泉も甘い……貴様を生かしていったのだからな」

「ご、ごめん。ごめん。あたしが悪い、わる、悪かったって。今度から、今度から気をつけ」

「貴様に次などあると思うか?」

悪魔将軍は淡々と呟き、渾身の力でノーヴェを近くの木に押し付けた。
    .......
いや、押し込んだというべきだろう。木に押し付けられたノーヴェが、僅かに樹皮にめり込むほどの勢いだった。

758鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:53:55 ID:OQFqoiZc

「ちょ、ちょっと待てって、ま、まだ放送、放送来てないよな? ま、万太郎を殺せば、って、って約、約束」

「……貴様を倒した古泉はその万太郎と合流し、私に挑戦状を叩きつけていったぞ?」

「えっ」

一瞬、恐怖が追いやられ、ぎょっとした顔になるノーヴェ。
本当に将軍を裏切ったのかよ……? と目で語るノーヴェの腕を取り、悪魔将軍は少女を地面に叩きつけた。
最初の態勢と同じ、うつ伏せの形に戻るノーヴェの腹部に、容赦なく横からの蹴りが入る。

「はッアッッ……アアアッ! ガッ! や、やめ……」

「ノーヴェ」

「……ぁ、ァァ……」

「ノーヴェ!」

「なな、なんだ、なんで、なんですすす、か」


蹴りがやみ、仰向けにされるノーヴェ。血と涎の混ざった汁を吐き出しながら、空ろな目で将軍を見上げる。
慣れない敬語を使おうとしたのか、戦々恐々とした顔で尻切れトンボに小さく呟いている。

「貴様、強くなりたいのではなかったのか」

「……」

「ならば、何故私のアドバイスに背く。何故甘さを捨てない」

「……」

「貴様のやり方では、永遠に強くなどなれんぞ」


断じるように言う将軍に、普段なら反発の色を露わにするノーヴェも、一言も言い返せない。
今の彼女は、この恐怖から、初めて感じる"死"の恐怖から逃れることだけを、求めている。

「……わ、分かった、分かったよ。もう将軍の言う事に逆らわないから。逆らわないから。ごめん。ごめんな、さい」

「いや、もういい」

貴様は要らんといっただろう、と悪魔将軍が吐き捨てる。

――殺される。

そう直感したノーヴェは、悪魔将軍の足元に縋りつき、体を震わせながら懇願した。

「もう……もう、将軍の言う事を疑ったりしないから! み、見捨てないでくれ……あたし、あたし強く、強く……」

なりたいんだ、と吐露する。ノーヴェは、今まで真面目に将軍の下につく意味を考えたことがなかった。
しかし、それを今直感で理解する。将軍が自分に向けた殺意を、自分が他人に向けるイメージを持つ。
今――ノーヴェは、悪魔の精神の土壌を得た。戦闘機人のプライドが、将軍の配下である事のプライドに置き換わる。
しかし、返答は無情。

759鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:55:22 ID:OQFqoiZc

「仏の顔も、三度まで。そう言ったはずだ。貴様は三度誤った」

「……」

「……だが、三度も謝った貴様に対し、私も少々思うところがないでもない。そうだな……。
 後一度、チャンスをやろう。可愛い部下よ、キョンという奴の事は覚えているな? そいつを探して連れてくるのだ。
 そいつ以外にも、私と気が合いそうな者がいたら集めて来い。タッグ戦の日取りが決まったのでな。
 パートナーが必要なのだ。……オメガマンには気をつけろ、奴も私を裏切ったからな」

「あ、あたし一人で、か?」

「休息は許さん。行け。私はモールにでも行って貴様を待っていることにしよう」

いましがた、製造(うま)れて初めての恐怖を味わったノーヴェにとって、夜道を一人で歩く事は厳しい試練であった。
だが、将軍はそんな怯えを許さない。縮こまるノーヴェを一瞥すると、ディバックからユニット・リムーバーを取り出した。
腕に装着し、振りかぶる。ノーヴェの脳裏によぎるのは、このユニットで無惨な姿になった女性の死化粧。

「い、行く、行くよ! キョンって奴と、将軍と気が合いそうな奴だな! わかった!」

「ノーヴェ」

「な、なななんだよ」

「弱い貴様は、今死んだ。心に悪魔のプライドがあれば、誰にも負けることはない」

「!! ……行ってくるぜ、将軍!」

見ようによっては不器用な励ましにも取れる将軍の言葉を胸に、僅かに覇気を取り戻し、ノーヴェが駆ける。
それをつまらないものを見るような目で見送り、悪魔将軍もまた反対方向へと駆け出した。
      ...
「あんなものが悪魔を名乗れると考えていたとはな。我ながら不覚、だ」

――冷たい、鎧の拳を握りながら。

【F-09 森林/一日目・夜】
【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】健康、万太郎への激しい敵意。
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(6/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
 ディパック(支給品一式、食料ゼロ)、朝比奈みくるの死体(一部)入りデイパック コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.翌日09:00に湖上リングへ行き、万太郎、古泉を自らの手で殺す。
2.ノーヴェは見限る、使い捨てとして扱う。
3.強い奴は利用、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
4.殺し合いに主催者達も混ぜ、更に発展させる。
5.強者であるなのはに興味。
6.もしもオメガマンに再会したら、悪魔の制裁を施す。
7.モールでタッグパートナーを待つ。

【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(小)、ダメージ(大) 悪魔の精神(弱) 恐慌
【持ち物】 ディパック(支給品一式)、小説『k君とs君のkみそテクニック』、不明支給品0〜2
【思考】
0.強くなる
1.悪魔将軍の命令に従う
2.ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
3.タイプゼロセカンドと会ったら蹴っ飛ばす。
4.ジェットエッジが欲しい。
5.キョン、悪魔将軍と気が合いそうな奴を探してモールまで連れて行く。

※参加者が別の世界、また同じ世界からでも別の時間軸から集められてきた事に気付きました。

760鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:55:54 ID:OQFqoiZc




誰も居なくなった湖のリングを眺めながら。
川口夏子は、先ほど聞いた情報を頭の中で組み替えていた。

(……あの悪魔将軍たちも一枚岩ではない、ということね。付け入る隙があると分かったのは良かったわ)

9時から始まるという内戦。自分がどうこの島で立ち回るにしても、有益な情報を入手できた。
万太郎がそれに巻き込まれている様子なのは同情を誘ったが、自分にはどうしようもない。
夏子はわずかに笑みを浮かべ、念のため這ってロケットの元に向かう。

(悪魔将軍……危険なのは確かだけど、戦力として見れば彼以上の逸材はいない)

口先での説得が可能だとは思えないが、リングの上での様子を見る限り実力を重視するタイプの人間に見えた。
少なくとも先ほどまでの、ロボット兵のような意思疎通すら困難な怪物という認識は薄れた。

(恩を売って、有用と言えるほどの力を見せれば協力できない事もないでしょうけど……何を考えてるんだか、全く)

知り合いを最低でも一人は殺している参加者と共闘を考えるなど、と己を軽く律する。
ロケットに括り付けられたディバックに到達。中身を引っくり返し、出来るだけ素早く確認。
ハムとの待ち合わせ時間まで、そう時間はない。

壊れた剣。金貨がぎっしりつまった箱。ディバッグ複数(食料も水もある!)。更に首輪の残骸。
ウィンチェスターM1897。これは確か、水野灌太が愛用していた銃だ。
他にもガラクタが大量に詰まっていた。これらも、使い方次第によっては十分な利器となるだろう。
総合してみれば、時間を割いて回収しに来た甲斐はあったといえるだろう。
と、ディバッグの隅に押し込まれた饅頭を見つける。

「包みもなしとはね」

苦笑しながら口に運ぶ。緊張で小腹が空いていたのだ、丁度いい。

『……噛まないでもらいたい』

「そげぶっ!?」

彼女、砂漠の凄腕美人・川口夏子を知る者なら想像も出来ない声。
だが無理もない。食べようとしていた饅頭がしゃべり、耳を突き出してギョロ目で彼女を見たのだから。
あたふたと饅頭を取り落とし、懐から無駄のない動作で拳銃を取り出し、構える。

「ななっ!? えっ? じゅ、銃を……う、動くな!」

『今はそんな事をしている場合ではない! 一刻も早く私を連れてここから離れてもらいたい!』

喋る饅頭に指図されるという異常事態。しかし考えて見ればウサギやブタが喋るのだ、饅頭が喋ったって……。
と、そこまで考えたところで、夏子が饅頭に見覚えがある、と気付く。これは……。

「あなた、アプトムの頭に付いてた……えっと、ネブラ、だったかしら?」

『そうだ。君は確かアプトムに脅されていた女性だな。私の能力を知っているなら手っ取り早い。
 私を頭につけてくれたまえ。君はそれで飛べるようになる、この場を離れられるのだ』

「……」

正直、かなり抵抗があった。夏子にとってネブラ(というかアプトム)には悪い思い出しかない。
しかし、このネブラという生物……なんというか、可愛……いや、妙な安心感がある気がする。
結果、夏子は自分に憧れていた小砂のように、嫌悪していたアプトムのように、ホイホイネブラを身に付けてしまった。

761鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:56:49 ID:OQFqoiZc

「……はい、これでいいかしら。ああ、飛ばなくてもいいわよ。車があるから」

『車……ああ、地球の機械か。飛んだほうが早いと思うが……』

「お断りよ。目立ちすぎるわ」

きっぱりと斬り捨てつつ、夏子は頭部でウニョウニョ動くネブラの異様な感触に参っていた。
フラフラと立ち上がり、戦利品を全て抱えながら歩く。

『ちょっといいかね?』

「荷物でも持ってくれるの?」

『いや、私の前の持ち主が産んだミサイルを私の中に入れて欲しいのだ。
 私に装填していればすぐに発射できるし、君の頭部が重くなる事もない』

「……どんな奴よ、ミサイル産むって」

なんとなく予想はつく気はしたが(市街地で暴れていた奴だろう)、一応突っ込む夏子。
と。

「……」

ミサイルを自身に収納するネブラを見て、夏子の目つきが変わる。
湖畔に目を向け、中心にあるリングへの距離を目で測る。

「ネブラ。そのミサイル、あそこまで届くかしら」

『あのリングまで、かね? 届くと思うが……』

「あなた、自在に動けるのよね? 銃、扱える?」

『教えてもらえば大抵の作業はできる。今は平常時よりテンポが遅れるかも知れんがね。
 それより早くここを離れよう。君は見ていたのだろうが、先ほどここにいた闇の者(ダークレイス)は……。
 あれは、マズイ。アレは、私の処理能力を大幅に超えている。今のままでは勝てないだろう』

「悪魔将軍の事? ……そうね、待ち合わせの時間ももうすぐだし、あまり時間を潰すわけにもいかないわ」

『頼む。私がここに来た詳しい経緯や、私の詳細は追って教える。今はここを離れてくれ』

はいはい、と請け合いながら、夏子は隠してある救急車の元へ歩き出す。
満面の笑みで。いかな色にも染まる、真っ白な満面の笑みで。
"力"を手に入れた、実感を伴いながら。

この湖周辺に集った五名。

復讐鬼:古泉一樹。復讐の殖鎧を纏う者。
セイギノミカタ:キン肉万太郎。筋肉の正鎧を纏う者。
無始無終:悪魔将軍。虚ろな邪鎧を纏う者。
隷属者:ノーヴェ。恐怖の弱鎧を纏う者。
傍観者:川口夏子。白地の黒鎧を纏う者。

さて、一番恐ろしいのは誰か。
それは今後のお楽しみ、と。

762鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:57:39 ID:OQFqoiZc

【D-09 湖畔/一日目・夜】

【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】顔にダメージ、強い決意。
【装備】ネブラ=サザンクロス@ケロロ軍曹 ゼクトールの生体ミサイル(10/10) 救急車
【持ち物】デイパック×4(支給品一式入り、水・食糧が増量)、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
 各種医療道具、医薬品、医学書 光の剣(レプリカ、刀身折損)@スレイヤーズREVORUSION、
 金貨一万枚@スレイヤーズREVORUSION ヴィヴィオのデイパック、ウィンチェスターM1897(1/5)@砂ぼうず
 ナイフ×12、包丁×3、大型テレビ液晶の破片が多数入ったビニール袋、スーツ(下着同梱)×3
 消火器、砲丸投げの砲丸、喫茶店に書かれていた文面のメモ 首輪の残骸(アプトムのもの)
 黄金のマスク型ブロジェクター@キン肉マン、ストラーダ(修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、、

【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、19時半を目安に、ゴルフ場の事務室でハムと待ち合わせ。20時までに来なければ、単独行動を行う。
2、キン肉スグル、ウォーズマン、深町晶、キョン、朝倉涼子を探してみる。
3、ハムは油断ならないと思っているが今は自分を見放せないとも判っている。
4、生き残る為に邪魔となる存在は始末する。
5、翌日09:00に湖上リングに向かい、臨機応変に行動。
6、ネブラと情報交換する。
7、水野灌太と会ったら――――

【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※悪魔将軍、古泉、ノーヴェ、ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※トトロ(名前は知らない)は主催と繋がりがあるかもしれないと疑いを持っています。

763鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:58:55 ID:OQFqoiZc
以上で投下終了です。
よろしければどなたか代理投下していただけるとありがたいです

>>754の最後の
>私の目に、水色の髪が映った。はミスです

正しくは

>私の目に、赤色の髪が映った。

でお願いします。

764>>749修正 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/14(土) 10:52:53 ID:uCWpLj4U

――――身を隠す。
視界に突如飛び込んできた大量の水、オアシスといったところか。
砂漠で生きる川口夏子にとってそれは二度目に見る威容。
だが彼女が素早く林の中に引き返したのは、湖に気圧されたからではない。
湖の中心、リングの上に二つの影が見えたからだ。
二人以上の侵入者を感知し、試合に備えてライト・アップされたリング上。
そこにあった影は、双方とも彼女が知るものだった。

(万太郎君と……古泉! まさか、悪魔将軍もすぐ近くにいるの!?)

先刻の万太郎の叫び声から予測はしていた事だが、あれからまだ2分も経っていない。
悪魔将軍の手先である古泉がこうも早く万太郎に接敵している事を考えれば、それは容易に推測できた。
万太郎と一度戦っているはずのオメガマンも、今や悪魔将軍に与しているのだろう。
敵は四人……万太郎に引きつけさせておけばいいという考えは捨てるべきか?

(朝比奈みくると離れ離れになった時、私達は隠れていたのに悪魔将軍たちに発見された……この距離はマズイ!)

リングからここまで、おおよそ200mといった所だろうか?
ガイバーの能力ならば、派手に動けば察知される可能性は決して低くないだろう。
彼女は数十m先まで救急車で来ていたが、その駆動音が気付かれているのでは、という懸念は捨てた。
気付かれているなら、既に攻撃されているはずと考えたのだ。
夏子は息を潜め、同時に嗅覚を研ぎ澄ます。
この近くに落ちたはずのロケットが噴出していたガスの臭いを捉える。
発臭元を目で追えば、ギリギリ視界に入る位置に地面にめり込んだ弾頭と、それに括られたディバックが見えた。
林の中だ。リング上からは見えないはず……夏子は僅かに身を揺らす。
今は動けない。運よくやり過ごせる事を願うしかない……。
身を焼くは悔しさ、憎悪、怒り。自分の弱さが情けなかった。力があれば、こんな雌伏で時間を取られる事もないだろうに。
歯軋りも出来ず、視線を再びリングに戻す。
激しく言い争いをしていた万太郎と古泉の様子に、異変が生じていた。
静かな夜に、音を反射する水面の上での会話だ。
先ほど万太郎の声を聞きつけたように、この距離で耳を澄ませばある程度の大声なら内容も聞こえるのではないか?
目を凝らし、静かに銃を抜いて、事の成り行きを見守る。

(ごめんなさい、万太郎君……私には君を助けてあげることは出来ない。
 だからせめて一人でも多く、連中を道連れにしてね……?)

これからここで確実に起こるであろう、惨劇の成り行きを。

765>>753修正 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/14(土) 10:56:08 ID:uCWpLj4U




何が、間違いだったのか。
私は荒々しく歩を進めている。キン肉万太郎への制裁を行うべく、だ。
しかし、その歩みは決して早いものではない。
当然だ、自分が"負けた"歴史の存在を聞かされたのだからな。
オメガマンは嘘を言っているようには見えなかった。
ならば、私はキン肉スグルに負けたのだろう。奴の生きた時代ではな。
時間超人の存在を知る私にとっては、それは大した問題ではない。
心を乱される必要もない、これからその"敗北"の歴史を塗り替えればよいのだから。

「とはいえ、キン肉マンが私に勝った時空もあるならば、それについて考える意味はある」

ぼそりと呟き、キン肉マンが自分に勝利するイメージを浮かべる。
キン肉マンが持つ不可思議なスキル、火事場のクソ力以外に自分が遅れを取る事は想像できなかった。

「万太郎がキン肉王家の一員であることは間違いあるまい。あんなセンスのないマスクを選ぶのは奴らくらいだ」

ならば、万太郎が火事場のクソ力を持つ可能性もなくはない。時空が入れ乱れて参加者が集っているとわかった今、
キン肉万太郎はキン肉スグルの実子である、などといった無茶苦茶な可能性すら許容されるのだ。
だからこそ、私自らが赴いているのだからな。火事場のクソ力を奪う事はあのバッファローマンにも出来なかった。
だがこの悪魔将軍ならば、それも不可能ではないはず。キン肉マンの唯一の長所を得られれば、私の勝ちは揺らがない。
と、湖の方から言い争う声が聞こえる。ここからでは内容までは聞き取れないが、万太郎に誰かが接触しているのか?

「……少し急ぐか」

別に本気で火事場のクソ力を欲している訳ではないが、もし自分より先に古泉やノーヴェが万太郎を始末しては拙い。
キン肉王家はこの手で断絶したいし、古泉たちが自分の命令を無視したならそれに対する制裁もせねばならない。
私は歩幅を広げ、数分で湖にたどり着いた。しかし。

「万太郎の姿がない……逃げたわけではないだろうが……む?」

私の視界に、リングに突き立てられたナイフが映った。
何かを固定しているのか……?

「ボートを漕ぐのは面倒だな」

すぐ側に新しいボートがあったが、ノロノロ漕いでいっては何分かかるか分からん。
私はディバックからユニット・リムーバーを取り出し、全力で投げる。
自身もプラネットマンの宇宙的レスリングを彷彿とさせる跳躍でリムーバーに飛び乗り、
一直線に湖中央のリングに向かった。リムーバーがマットに突き刺さり、着地成功。リングに刺さったナイフを抜く。
そのナイフは、一枚の紙切れをリングに縫い付けていた。

766>>754修正 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/14(土) 11:00:56 ID:uCWpLj4U

「汚い字だな……」

灯りを取り出し、紙切れに書かれた文字を読む。
それは、挑戦状だった。万太郎からのではなく、我が部下からの。


『拝啓 悪魔将軍様
 
 俺はあなたを裏切ります 理由は単純 あなたと居るメリットが消滅したからです
 驚愕しましたよ あなたがあれほど雄弁に語っていた悪魔超人軍の権威が地に落ちていたとはね
 もはやあなたに就く意味なし そう判断させていただきました そしてあなたへケジメをつけさせて頂きます
 翌日 09:00 あなたにここ湖上リングでタッグマッチを申し込みます そちらのパートナーは誰でも構いません
 こちらのパートナーはもちろんあなたを破ったキン肉マンの息子 あなたにとっては未来の超人、キン肉万太郎氏です
 歴史を繰り返したくなければ逃げることをお勧めしますよ 我々マッスル&ガイバーズからね

                                                   正義超人  古泉一樹より   』


「ほう」

薄々古泉の叛意には気付いていたが、こうも明確に反逆するとはな。
小癪にも時間稼ぎの為に時間指定までしておるわ。
ヤツと同行していたノーヴェも恐らく既に殺されているだろう。
まったく、愚かなヤツよ。だから古泉には気を許すなと忠告したものを。

「マットはまだ温かい……そう遠くへは行っていないだろうが……」

挑戦状を懐にしまい、私は古泉について考えを廻らせる。
奴が裏切ったのは、万太郎が私の未来について語ったからだろう。
この文面を見てもそれは明らかであり、悪魔超人界に入ることを断念した理由としては妥当だ。
何らかの理由で正義超人に鞍替えする悪行超人などそう珍しくもない。だが、私は古泉の本心を見抜いていた。

「愚かな……オメガマンもそうだが、この私に一度仕えた者が私から離れて生きていけると思うのか……!」

声のトーンが危険さを増し、湖全てに流れ込むように私の怒りが漏れる。かまうものか。
古泉は、結局朝比奈みくるの死と涼宮ハルヒの呪縛から逃れられなかったのだ。
やはり人間が手に入れ得る悪魔の精神など、あの程度が限界だったか。
少しは期待していたが、恥知らずにも正義超人を名乗るようではもう見込みはない。
アシュラマンの替わりは他で探すとしよう。

「……が、この悪魔将軍に挑戦状を叩きつける気概は買ってやらねばな。いいだろう、古泉よ! 明日九時、ここで!
 貴様の挑戦、しかと受け取った! 聞いているなら精々身を休め、引退試合に恥じぬ状態でリングに上がるのだな!」


湖全体に轟く叫び声を上げ、私は再びユニット・リムーバーを投擲、騎乗する。
今すぐ古泉たちを追えば容易に捕らえられるだろうが、試合を挑まれてそんな無粋な真似をする超人はいない。
無論、私とて紳士というわけではないから、試合前に"偶然"出くわせばそこで決着をつけることになるだろうがな。
さて……適当なタッグ・パートナーを探さねばな。
湖上の深々とした裂風を身に浴びながら、陸地が迫る。
私の目に、風になびく赤い髪が映った。

767>>760修正 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/14(土) 11:03:39 ID:uCWpLj4U




誰も居なくなり、数分ほど置いて灯りも消えた湖のリングを眺めながら。
川口夏子は、先ほど聞いた情報、特に将軍の怒声の内容を頭の中で組み替えていた。
結局小声での会話の内容までは聞き取れなかったが、手に入れた情報は三つ。

・古泉が万太郎を気絶させ、リングになんらかのメッセージを残して去った。
・そのメッセージを読んだ悪魔将軍の叫びによれば、オメガマンと古泉が悪魔将軍を裏切った。
・明日9時にここで古泉らと悪魔将軍の戦闘が起こる可能性大。

古泉と万太郎の関係、悪魔将軍達と共にいた赤髪の少女の行方など不明な点も多かったが、これだけ分かれば十分だ。

(……あの悪魔将軍たちも一枚岩ではない、ということね。付け入る隙があると分かったのは良かったわ)

9時から始まるという内戦。自分が今後どのようにこの島で立ち回るにしても、有益な情報を入手できた。
万太郎がそれに巻き込まれている様子なのは同情を誘ったが、自分にはどうしようもない。
夏子はわずかに笑みを浮かべ、念のため這ってロケットの元に向かう。

(悪魔将軍……危険なのは確かだけど、戦力として見れば彼以上の逸材はいない)

口先での説得が可能だとは思えないが、リングの上での様子を見る限り実力を重視するタイプの人間に見えた。
少なくとも先ほどまでの、ロボット兵のような意思疎通すら困難な怪物という認識は薄れた。

(恩を売って、有用と言えるほどの力を見せれば協力できない事もないでしょうけど……何を考えてるんだか、全く)

知り合いを最低でも一人は殺している参加者と共闘を考えるなど、と己を軽く律する。
ロケットに括り付けられたディバックに到達。中身を引っくり返し、出来るだけ素早く確認。
ハムとの待ち合わせ時間まで、そう時間はない。

壊れた剣。金貨がぎっしりつまった箱。ディバッグ複数(食料も水もある!)。更に首輪の残骸。
ウィンチェスターM1897。これは確か、水野灌太が愛用していた銃だ。
他にもガラクタが大量に詰まっていた。これらも、使い方次第によっては十分な利器となるだろう。
総合してみれば、時間を割いて回収しに来た甲斐はあったといえるだろう。
と、ディバッグの隅に押し込まれた饅頭を見つける。

「包みもなしとはね」

苦笑しながら口に運ぶ。緊張で小腹が空いていたのだ、丁度いい。

『……噛まないでもらいたい』

「そげぶっ!?」

彼女、砂漠の凄腕美人・川口夏子を知る者なら想像も出来ない声。
だが無理もない。食べようとしていた饅頭がしゃべり、耳を突き出してギョロ目で彼女を見たのだから。
あたふたと饅頭を取り落としつつも、懐から無駄のない動作で拳銃を取り出し、構える。

「ななっ!? えっ? じゅ、銃を……う、動くな!」

『今はそんな事をしている場合ではない! 一刻も早く私を連れてここから離れてもらいたい!』

喋る饅頭に指図されるという異常事態。しかし考えて見ればウサギやブタが喋るのだ、饅頭が喋ったって……。
と、そこまで考えたところで、夏子が饅頭に見覚えがある、と気付く。これは……。

「あなた、アプトムの頭に付いてた……えっと、ネブラ、だったかしら?」

『そうだ。君は確かアプトムに脅されていた女性だな。私の能力を知っているなら手っ取り早い。
 私を頭につけてくれたまえ。君はそれで飛べるようになる、この場を離れられるのだ』

「……」

正直、かなり抵抗があった。夏子にとってネブラ(というかアプトム)には悪い思い出しかない。
しかし、このネブラという生物……なんというか、可愛……いや、妙な安心感がある気がする。
結果、夏子は自分に憧れていた小砂のように、嫌悪していたアプトムのように、ホイホイネブラを身に付けてしまった。

768 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:29:28 ID:7QWhozu2
ちょっと不安なところがあるのでこちらに投下します

769 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:30:12 ID:7QWhozu2
◆ ◆ ◆ ◆ ◆


その時、時刻は19時56分27秒。
警告時間の1分間を足すと残り時間は4分33秒。

4分33秒間。
それがリヒャルト・ギュオーに許された逃走のための時間だった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ずるずると重く、動かない体を引きずってエリアの端を目指す。
先ほどウォーズマンとの激しい戦いを経た体はなかなか言うことを聞かない。
木の根に足を取られた巨躯がぐらりと傾いだ。

「くそっ!ウォーズマンめ!」

俺は生きて、世界の支配者となるのだ!
だから、この俺がーー

「このリヒャルト・ギュオーがっ!こんな所で潰えることがあってはならんのだああぁぁぁぁあああっっっ!!!」

咆哮を上げ走り出す。
それは演奏開始の合図。
ギュオーは振り上げたのだ。
自分に残された4分33秒を奏でる指揮のタクトを。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ざわざわざわ、びゅうびゅうびゅう。
副旋律は、風を切る音、闇に塗りつぶされた木々がざわめく音。
ぜぇぜぇぜぇ、どくどくどく。
主旋律は己の体の悲鳴。呼吸の音、心臓の早鐘。
体の外から、内から、音はF-5と名付けられた範囲に響き渡る。

時間は淀むことなく勤勉に進み、ついには最終楽章に至る。
演奏記号はcrescendoでPrestissimo。
その身にまとわりつく音はどんどん大きく速度を上げていく。

果たしてその旋律はこの男の耳に届いているのだろうか?

残された力を振り絞るようにギュオーは前へ進む。
生にしがみつく精神はすでに限界を叫ぶ体をさらに加速させる。
軋む体に鞭を打つように、両の足を交互に繰り出すことにのみ全神経を傾ける!

残り1分を刻んだところで
ひとつ、音を奏でる楽器が増えた。

『警告。
 リヒャルト・ギュオーの指定範囲外地域への侵入を確認。
 一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る。
 繰り返す……』

走りながら落ち着きなく目玉を動かす。
そろそろエリアの端に出るはずなのだが明確な目印があるわけではない。
首筋から這い寄る死の影がやかましくわめき続けてる。

『10、9、8、7……』

「えぇい!くそぅっ!!」

追いつめられた彼は最後に賭けに出た。
出ざるを得なかった……自分の命をチップにした賭けに!!

どん!と最後の跳躍。
男の体は宙を舞った。

770 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:30:44 ID:7QWhozu2

◆ ◆ ◆ ◆ ◆


とける。
リヒャルト・ギュオーをリヒャルト・ギュオーたらしめている輪郭が解け消える。
慣性の法則に従い、人であった橙色は恐ろしく美しい弧を描く。
投げ出されたオレンジ・ジュースはパシャリと音を立てて、
死線を越えた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
その時、男は肩で大きく息をついていた。
その体は、濃く暗い木の陰の中。
彼の後ろには目に見えない線がある。深くて暗い線が在る。
エリアを分つ線を越えた液体は、まるで壊れたビデオが逆再生をするように輪郭を取り戻した。

同時に「それ」は再び名前を得る。
名前はギュオー。リヒャルト・ギュオー。

「うぅっ!な、何だ、今のは……。この身に何が起きたというのだ……?」

がくがくと体を震わせ、わななく唇でそう呟いた。

「それに今の感覚はなんなのだ……!? まるで俺が俺でなくなるような…………!」

変化の瞬間に感じていたのは想像していたような痛みでも灼熱感でもない。
ただ自分という個が消えてしまうような感覚だった。

ギュオーは野心の強い男である。
支配者アルカンフェルをも打ち倒し、成り代わろうとする業の深い男である。
故に彼は誰も信用せず、己の力と存在のみを拠り所としていた男。
         ・・・・・・・・・・
その男が唯一信ずる自分が自分でなくなるとしたらーー

びくり
突然、体を震えを止める。
おもむろに褐色の指を自らの喉元へ。

「……まさかっ!『あれ』が俺の体内に入り込んだのではあるまいなっ!?」

ギュオーは『あれ』を知ってしまっていた。
首輪の中に潜む未知の存在を。
そしてそれが参加者の体を離れる時に体内に潜り込むということを。

自分はまだ生きている。気のせいに違いない。
だが思ってしまったのだ。
この首輪、少し軽くなってやしないか? と。

「フ、フハ、フハハハハハッハハハハッハハハハハッ!!!!」

男は笑う。
その身に起こった異変に動じず、さながら王のように。

「今のが禁止エリアの発動というものか! くくく……面白い、面白いぞ雑魚がぁ!!」

狂ってはいない。
その振る舞いは髪の先まで、常の彼と微塵も違わない。

「俺はユニットを手に入れ神に、支配者になる男だ!
 たとえ一度死んだとてハクがついたというものよっ!」

男は歩く。
先ほどとは別人のように、ゆったりと余裕さえ見えるようで。

しかし、黒い恐怖は彼の背に貼り付いて放さない。
音もなく、べたりと。

ただべったりと。

771 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:31:16 ID:7QWhozu2
【F-5周辺/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、左肩負傷、ダメージ(大)、疲労(大)
買@ンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、 毒入りカプセル×4@現実、
bガイバー 、
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹、
     ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、不明支給品0〜1
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。その際、主催者も殺す。
2:キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。

※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。
※ギュオーの体内に首輪内蔵の植物のようなものが侵入した可能性があります
 また、一度ギュオーをLCL化させたことで首輪に変化があるかもしれません。

※ギュオーはF-5以外の、F-5を中心とする9コマのエリアどこかにいます。どこにいるかは、次の書き手さんにお任せします

772 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:33:29 ID:7QWhozu2
以上です

首輪の扱いのあたりがちょっと不安なのでご意見いただければと思います

773 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:49:45 ID:7QWhozu2
規制中につき、こちらに決定稿投下します

774『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:50:33 ID:7QWhozu2
◆ ◆ ◆ ◆ ◆


その時、時刻は19時56分27秒。
警告時間の1分間を足すと残り時間は4分33秒。

4分33秒間。
それがリヒャルト・ギュオーに許された逃走のための時間だった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ずるずると重く、動かない体を引きずってエリアの端を目指す。
先ほどウォーズマンとの激しい戦いを経た体はなかなか言うことを聞かない。
木の根に足を取られた巨躯がぐらりと傾いだ。

「くそっ!ウォーズマンめ!」

俺は生きて、世界の支配者となるのだ!
だから、この俺がーー

「このリヒャルト・ギュオーがっ!こんな所で潰えることがあってはならんのだああぁぁぁぁあああっっっ!!!」

咆哮を上げ走り出す。
それは演奏開始の合図。
ギュオーは振り上げたのだ。
自分に残された4分33秒を奏でる指揮のタクトを。

775『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:51:24 ID:7QWhozu2
◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ざわざわざわ、びゅうびゅうびゅう。
ベースラインは、風を切る音、闇に塗りつぶされた木々がざわめく音。
ぜぇぜぇぜぇ、どくどくどく。
主旋律は己の体の悲鳴。呼吸の音、心臓の早鐘。
体の外から、内から、音はF-5と名付けられた範囲に響き渡る。

時間は淀むことなく勤勉に進み、ついには最終楽章に至る。
演奏記号はcrescendoでPrestissimo。
その身にまとわりつく音はどんどん大きく速度を上げていく。

果たしてその旋律はこの男の耳に届いているのだろうか?

残された力を振り絞るようにギュオーは前へ進む。
生にしがみつく精神はすでに限界を叫ぶ体をさらに加速させる。
軋む体に鞭を打つように、両の足を交互に繰り出すことにのみ全神経を傾ける!

残り1分を刻んだところで
ひとつ、音を奏でる楽器が増えた。

『警告。
 リヒャルト・ギュオーの指定範囲外地域への侵入を確認。
 一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る。
 繰り返す……』

走りながら落ち着きなく目玉を動かす。
そろそろエリアの端に出るはずなのだが明確な目印があるわけではない。
首筋から這い寄る死の影がやかましくわめき続ける。

『10、9、8、7……』

「えぇい!くそぅっ!!」

追いつめられた彼は最後に賭けに出た。
出ざるを得なかった……自分の命をチップにした賭けに!!

どん!と最後の跳躍。
男の体は宙を舞った。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『……6、5、4、……』
その巨躯は数瞬空を舞った。
それは獣神将の力によるものではなく、男・ギュオーとしての挑戦。
慣性の法則に従い、人体の通過点は放物線を構築する。
『……3、2、……』
未だ生存ラインに届かない、警告音は鳴り止まない。
しかしその足はすでに再び地に着こうとしている。
『1、ゼ………………』

男は死線を越えた。

776『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:52:21 ID:7QWhozu2
◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
男は肩で大きく息をついていた。
その体は、濃く暗い木の陰の中。
彼の後ろには目に見えない線がある。深くて暗い線が在る。

『退避確認』
曲の最後の音は勝利を歌った。

男は賭けに勝ったのだ。
しかし生を勝ち得た男は快哉を叫ぶこともなく、ただうずくまる。

「うぅっ!な、何だ、今のは……」

がくがくと体を震わせ、わななく唇でそう呟いた。
蠢いたのだ、何かが自分の首元で。
それが自分の中で起こったものか、首輪の側で起こったものかは判然としない。
だが、確実にこの幾ばくもない隙間で何かが起こっていた。
ギュオーの脳裏に『あれ』の存在がかすめていく。
加持を殺めたときに知った存在、首輪に潜む『あれ』が。

「それに今の感覚はなんなのだ……!? まるで俺が俺でなくなるような…………!」

もう駄目かと思うほど崖っぷち、その瞬間、感じたのは想像していたような痛みでも灼熱感でもない。
ただ自分という個が消えてしまうような感覚だった。

ギュオーは野心の強い男である。
支配者アルカンフェルをも打ち倒し、成り代わろうとする業の深い男である。
故に彼は誰も信用せず、己の力と存在のみを拠り所としていた男。
         ・・・・・・・・・・
その男が唯一信ずる自分が自分でなくなるとしたらーー

「フ、フハ、フハハハハハッハハハハッハハハハハッ!!!!」

男は笑う。
その身に起こった異変に動じず、さながら王のように。

「今のが禁止エリアの発動の片鱗というものか! くくく……面白い、面白いぞ雑魚がぁ!!」

狂ってなどいない。
その振る舞いは髪の先まで、常の彼と微塵も違わない。

「俺はユニットを手に入れ神に、支配者になる男だ!一度死にかけたとてハクがついたというものよっ!」

男は歩く。
先ほどとは別人のように、ゆったりと余裕さえ見えるようで。

しかし、黒い恐怖は彼の背に貼り付いて放さない。
音もなく、べたりと。

ただべったりと。

777『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:52:54 ID:7QWhozu2
【F-5周辺のエリアのどこか/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、左肩負傷、ダメージ(大)、疲労(大)
買@ンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、 毒入りカプセル×4@現実、
bガイバー 、
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹、
     ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、不明支給品0〜1
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。その際、主催者も殺す。
2:キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。

※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。
※一度ギュオーをLCL化させかけた影響で首輪に変化があるかもしれません。

※ギュオーはF-5以外の、F-5を中心とする9コマのエリアどこかにいます。どこにいるかは、次の書き手さんにお任せします

778『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:54:40 ID:7QWhozu2
以上になります。

たくさんのご意見ありがとうございました。
どなたか代理投下していただければと思います。


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