現在のところ新設する火力発電設備の対策だけが明確になっている。2030年度のエネルギーミックスの目標では石炭火力が全体の26%、LNG(液化天然ガス)火力が27%を占める。政府は石炭火力の平均水準を現在の最高レベルの発電方式である「USC:超々臨界圧(Ultra Super Critical)」並みに引き上げる方針を打ち出した(図3)。
この方針に従って、新設する石炭火力はUSC以上の効率を発揮する設備に制限する。同様にLNG火力は発電効率が50%以上のコンバインドサイクル(複合発電)を標準に設定する考えだ(図4)。火力発電設備を新設する場合のガイドラインは「BAT(Best Available Technology、最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況)」で決まっている。今後はBATの基準に見合わない発電設備は新設できなくなる。
太陽光や風力といった再生可能エネルギーは依然としてコスト高の上、発電量が一定しない弱点を抱えている。CO2を出さないエネルギー源と期待されていた原発は、以前のような積極的な活用はあり得ない。そうした中では、石炭火力や天然ガスを燃料とする発電に比重を置いていかざるを得ないのは明らかだろう。
ちなみに、13年版の世界エネルギー会議報告書『World Energy Resources』によると、世界の石炭埋蔵量は8915億トンで、今後113.8年間にわたって採掘が可能という。この採掘可能年数は、天然ガスの60年や石油の56年を大きく上回り、石炭は安定エネルギーといえる。
国内では、エネルギー効率が良く、コストの引き下げとCO2の排出削減が可能な新設の発電所が増えれば、旧式プラントは競争力を失い、自然に淘汰されていくだろう。それにもかかわらず、今頃になって新設計画を凍結すると言わんばかりの環境省の政策音痴ぶりに対して、不信感が高まるのは当然だろう。
世の中には脱原発を決めて自然エネルギーを推進するドイツのエネルギー政策を、何としても「失敗」と描きだしたい勢力があるらしい。10月6日にファイナンシャルタイムズが掲載した社説「The costly muddle of German energy policy」もそのあらわれなのだろう。「メルケルが脱原発を決めたのは大きな誤り」と書いて、「失敗」の根拠をあれこれあげつらっている。どれも言い古されたネタばかりだが、「ファイナンシャルタイムズが言うのなら本当かも」、と思う人もいるかもしれない。
これに先立つ第1段階の「配慮書」を6月に提出済みだが、環境大臣が「現段階では計画を是認できない」との厳しい意見を出して波紋を呼んだ。武豊火力発電所に新設する設備は最新技術の「超々臨界圧(USC:Ultra Super Critical)」を採用して、発電効率は石炭火力で最高水準の46%に達する。排ガスに含まれる有害物質を除去する装置も備えている(図3)。
火力発電の効率向上は2通りの方法で業界を挙げて取り組んでいく。1つは経済産業省と環境省が共同で策定した火力発電の技術基準「BAT(Best Available Technology、経済的に利用可能な最良の技術)」に従って火力発電所を新設する。すでに2013年度以降に運転を開始した火力発電所のうち4カ所がBATに適合している(図1)。この4カ所が稼働したことで年間のCO2排出量を約380万トン削減できる。