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本のブログ(2013年から新規)

574korou:2020/07/15(水) 14:37:05
「私の履歴書 46」を読了。

小汀利得、坂口謹一郎、中村汀女、松田伊三雄の4名。
小汀氏は痛快な人柄で、やや小難しい経済通の爺さんとばかり思っていたのだが
その生き様はなかなか魅力的だった。
坂口氏は、それに対して真面目一方で
典型的な学者人生、それもかなり運に恵まれた幸福な人生という他ない。
中村氏は、まさに身辺のことを事細かに記した履歴書で
読みにくい感じもしたが、いかにもという感じもあった。
松田氏は、典型的な昭和財界人で
まさにこの時期の典型的な履歴書を読んだという感が強い(中村氏の直後に読むので一層そう思った)。

だんだんと自分の記憶にある世界の様子とシンクロしてくる(昭和47年の履歴書)。
それでも、大正期の東京の郊外の様子が
昭和47年にもいくらか残っているという記述を読むと(松田氏の文章)
昭和47年と令和2年の現在との時間の幅も感じてしまう。
もうこの履歴書から半世紀経っているのだ。
大正期の半世紀前は幕末・維新直後なのだから。

575korou:2020/07/24(金) 12:03:27
「私の履歴書 47」を読了。

赤尾好夫、坂本繁二郎、滝田実、田代茂樹の4名。
赤尾、坂本両氏は
対照的な人柄でありながら
現代では意外なほど居なくなったタイプの”大きな人物”であるように
思われた。
それに対し、後半の滝田、田代のような人たちは
現代でも探せば相当数存在するように思われる。
もちろん、前者のようなタイプの人が書いた文章のほうが
圧倒的に面白い。
赤尾さんのような直線まっすぐの人からは
何かを見失っていないかという自戒の念に駆られるとともに
社会を批評する視点の修正を迫られる、
坂本さんの、いかにも本当の日本人ともいうべき感性、思考には
同じく、現代では見失われた何かを思わせるものがある。

滝田、田代両氏とて
読んでみて何も得るものがないというわけではない。
しかし、その時代において当時の財界を背負った人たちは
自分たちが負うべき責任の重さを痛感するあまり
その時代において最善の道を模索し決断し実行することに専念し
自らの仕事を、もっと長いスパンで自省するという作業が
やはりおろそかになっているのである。
今の経営者には、もっと先の未来を見つめた視点が求められている。
それは困難で、さすがに現代の経営者も目先のことで汲々している人ばかりだが
その意味では、この両氏の履歴書には
参考になるべきものは少ないと言わざるを得ないのである。

576korou:2020/07/31(金) 16:14:58
「私の履歴書 48」を読了。

赤城宗徳、池田謙蔵、古賀政男、高畑誠一の4名。
いずれも大変読みやすく、皆記述が簡潔で要も得ていた。
赤城氏の分は以前読んだ記憶があったはずだったが
読み始めると、そうではないことが判明。
当時でも古武士のようなイメージの方だったろうが
今となってはもはやこういうタイプの政治家は
全く居なくなってしまったと言ってよいだろう。
河野一郎とのコンビで、佐藤・池田の官僚政治を打破する勢力として
頑張ってほしかったが、河野の早逝でどうにもならなくなってしまったのは残念。
池田謙蔵、高畑誠一の両財界人については
おもに若い時代の仕事を中心に記述されていた。
また、池田氏は、三菱本社(上司があの奥村政雄氏)から三菱信託に行き
高畑氏は、鈴木商店から倒産後は日商に行き
それぞれ、信託業界、商社業務について面白い話が多かった。
池田氏が明治26年、高畑氏が明治20年の生まれということで
最近読んだ履歴書の財界人のなかでは執筆時の年齢が高齢であったことも
話の面白さの秘密の1つかもしれない。
明治の終わりには、もう前途有望な青年として生きていたわけだから。
古賀政男氏についても、ある程度はその苦労話は聞いてはいたが
本人の生々しい体験を読むのは初めてで、これも興味深かった。

さて、残り1冊となった「履歴書」。
図書館の本を借りずにいると、あっという間の進行ぶりだ。

577korou:2020/08/07(金) 22:53:35
「私の履歴書 50」を読了。

三遊亭圓生、塚本憲甫、前尾繁三郎、武蔵川喜偉の4名。
圓生師匠と武蔵川親方は、それぞれ昔の寄席、相撲の世界を
的確に冷静に叙述されていて
非常に参考になるので、永久保存版として残した。
塚本氏と前尾氏は、それぞれ堅実な人生を送られ
それなりに面白かったが、永久保存するまでのことはなかった。

しかし、4名ともに読み応えがあった。
一時期、時代が新しくなるにつれ
だんだん面白さがなくなったなと思ったこともあったが
やはり、この時期までは面白い。
もう持ち帰り分は全部読んで、ほぼ本の形から解体し
8名分だけ永久保存できた。

明日から何を読もうか、思案中。

578korou:2020/08/16(日) 09:58:05
大森実「ザ・アメリカ3 ライバル企業は潰せ 石油王ロックフェラー」(講談社)を読了。

30年以上も前に購入した本で、ずっと読み切れずにいたが
ついに今回読破した。
ゆったりとした活字なのに読み切れなかったのは
単なる自分の怠慢のせいでもあったが
読み始めてみて、大森氏の独特の文章のクセのせいでもあったことに
気付かされたのも事実だった。
敏腕新聞記者として名を馳せた大森氏ではあるが
面白い取材対象を嗅ぎ付ける才覚に関しては超一流であっても
読みやすい文章を書く才能については
せいぜい人並み程度であったということになる。
文章の途中で、主語に対応する述語を書いた直後にすぐ別の主語を挿入したり
それならまだましな方で、最初の主語に対する述語を略して
知らぬ間に別の主語を略したままその述語を直接続けるという文章を
平気で書く人なのである。
だから文章の正確な意味を読み取るに結構苦労した。

それでも読み通せたのは、
書いてある内容が歴史の隠された真実を暴くかのごとく
興味深いものがあったからである。
読後、「アメリカのビッグビジネス」(日本経済新聞社)でロックフェラーの項を探し
読んでみたが、同じような記述で、文章はこっちのほうが断然読みやすいので
この大森本は保存しないことにした。
まあ、名前ほどには読むに値しない本だけど
同種の本がなければ仕方なく必読本になる、という類の本である(自分には上記同種本があるので必読ではないということ)

579korou:2020/08/19(水) 17:11:20
赤瀬川隼「獅子たちの曳光 西鉄ライオンズ銘々伝」(文春文庫)を読了。

前職場からの土産本で、いつか読もうと思いつつ
だんだんと読む気がしなくなってきたので
今しかないと思って読み始めた。
この種の懐かし野球思い出話本は
なぜか最近になってあまり読む気がしなくなってきた。
やはり、あまりに昔過ぎて
今の感覚ではこれはあり得ないという部分が多すぎて
現実の世界の話ではないような嘘っぽさが漂ってきたからだろうか。
それなりに現代の野球は進化したように思う。
その一方で、野球だけの世界で議論を深めても
もはやどうにもならない制約が
この21世紀になってから全社会的に多くなってきているのも事実で
それは野球だけに限らないのだが。
その意味で、この本の書かれた1990年頃というのは
まだ戦後の雰囲気をひきずっていて
こういう豪傑野球の伝説を面白く読める時代ではあったのだろう。
あの頃、ひたすら昔の野球を懐かしんでいたのを思い出す。
青田昇、嶋アナ、三原・水原伝説、渡辺謙太郎アナ、CXのプロ野球ニュース・・・etc。
残念ながら、この本を2020年の今読むとしたら
ノスタルジーしか残らない。
本当に「残念ながら」だ(いい本だけど)

580korou:2020/08/26(水) 21:47:05
大坪正則「メジャー野球の経営学」(集英社新書)を読了。

ずっと前に購入して、ずっと「つん読」だった本。
つまみ食いのように読めば、なかなか役に立つ本だと思っていたが
今回通して全部読んでみると、今の自分の好みとは程遠く
読み通すのがしんどい本だった。
何よりも、こういう教科書風にかちっとした内容の本を
最近敬遠していたので読み慣れず
そういえば現役の司書の頃は、こういう本の読み方をしていたなあと
懐かしく思い出しさえしたほどだ、

内容は、2002年に書かれた本としてはベストに近く
当時読みこなしていれば相当なものだっただろうが
さすがに、それから20年近く経った今
いろいろな箇所が風化してしまっているのは否めない。
MLBはもちろん、NPBも、この20年で随分と変化したので
この本を今バイブルのように理解するのは
意外と難しいのではないかという気がする。
また、2002年ということで、日本人選手がMLBで最も重宝がられた時期であり
今思えば、本書の随所に書かれている「日本人有力選手のMLB行きを食い止める」という文言が
おかしくもあり、懐かしくさえ感じさせる。
優れた本なのだが、激動の分野だけに寿命も短い、そういった本だった。

581korou:2020/08/30(日) 16:55:42
小堺昭三「西武VS東急戦国史 上」(角川文庫)を読了。

上中下の3分冊の本なので、
本来なら全部読んで「読了」としたいところだが
結構内容が濃いので
今回は1冊ずつ感想を書き記すことにした。

この上巻は
五島慶太と堤康次郎の生い立ちから昭和10年代までの
それぞれの活躍ぶりを記した本になっていた。
あまりに多くのことが記されていて
洩れなく感想を書いていくことすら困難だが
この2人に共通しているのは
すでに大学に入る時点で、いわゆる立志伝中の人物になっていたこと、
そして、その青雲の志が引き寄せたかのごとく
大隈重信、後藤新平、小林一三といった政財界の大物が
まだ20代の五島、堤の両名を支援するという展開になっていたことが
極めて印象的だった。
そして、それぞれに悪名が世間に流布したなかでの
事業の拡大、新事業の創業という点も共通している。
そして、他にもこういう強引な事業を重ねた人物も居るはずなのに
特にこの2人が注目されてしまうのは
やはり、大衆に密着した事業である鉄道、住宅の分野で
顕著な実績を挙げたことが大きいだろう。
これに、映画と野球、テレビなどのソフト面を加えれば
日本の大衆社会の形成という切り口で
まとまった思索が可能かもしれない。

そうした期待をもって、いざ中巻の読書に突入。

582korou:2020/09/04(金) 13:37:35
小堺昭三「西武VS東急戦国史 中」(角川文庫)を読了。

上巻の続きで、太平洋戦争途中から戦後の高度成長時代の途中までを扱っている。
何と言っても、
上巻からその生い立ち、事業の拡大をずっと追っていった五島慶太、堤康次郎が
この中巻の後半で大往生を遂げる場面が印象的である。
まさに”巨星墜つ”という感じだ。
丁寧に事実を調べ上げて、それを何気なく記していく著者の記述スタイルが
この中巻においてはまずます磨きがかかり
もはや夢中で読まざるを得ないわけだ。

そこから後の2代目の対比も面白い。
五島昇の協調的な性格、意外と包容力のある人格が素晴らしい割には
なぜか事業が停滞してしまうさまは
別の意味で劇的だし
堤清二の苦境は、諸事情からみて壊滅的であったのに
なぜか事業が好転していくさまは
この人の持っていた運を想起させる。

いやあ、本当に面白い。
通読したら面白い本だろうとは思っていたが
こんなにハマるとは想像以上だった。
さあ、下巻を読もう!

583korou:2020/09/09(水) 22:14:35
小堺昭三「西武VS東急戦国史 下」(角川文庫)を読了。

下巻ともなると、1970年代以降の話になるので
少なくともそこに書かれているエピソードの時代背景などについては
読んで新しく知る、という楽しみはなくなってしまう。
加えて、下巻の最後のあたりになると
この本の書かれた1980年代半ばでの現在進行形の話は中心になるので
理由のはっきりしたスカっとした叙述ではなくなり
ほぼ推察ばかりのモヤモヤっとした叙述ばかりになっていく。
しかも、2020年の今、そこに書かれていることの半分は
実際にはそうならなかったわけで(西武も東急もかつての栄光は消えている)
そうなると
中巻までのワクワクした面白さが激減した感じになる。
残念ながら、この下巻は、普通に面白い現代史というレべルにとどまった。

ただ、1980年代半ばでの建造物などが
2020年の今どうなっているのかという変遷を辿る面白さは
いくらか残っていた。
横井英樹のホテルニュージャパンがプルデンシャルタワーになっていたのは
事実としては知っていたが
それがかつての赤坂東急ホテルの隣地であることは
今回地図を見るまでは知らなかったし
その近くに赤坂プリンスホテルがあって
その正面にホテルニューオータニがあるということも
今回初めて知った。
こういうのは、こういう本を読まないと確認しない事実だろうから
その意味では貴重な読書だった。
また、上之郷利昭氏の「西武王国」を読む楽しみもできたというものである。

584korou:2020/09/13(日) 15:53:47
小藤武門「S盤アワー わが青春のポップス」(アドパックセンター)を読了。

前からの続きで、上之郷利昭氏の「西武王国」を読み始めたのだが
想定外に読んでもあまり面白くなく、ついには断念。
代わりに、全く違う種類の本だが、以前から気になっていたこの本を
読むことにした。
これは、軽く読める本だったので、ほぼ3日間で読了できた。
なかなかのアイデアマンで、現代にもこういう人材は引く手あまただろうと思われるほど
とにかく、宣伝のためには労力、根回し、人脈総動員を惜しまない人のようだ。
意外と強引かつ強面風の人らしく
最後のほうに小藤氏ゆかりの人たちの文章が収められているが
そのほとんどが、なかなかの難しい人、でもその芯の部分は心遣いのできる人という風に
書かれているのが興味深い。
こういう部分は隠して出版するケースも多いと思うが
その点で、この著者は正直で、まさに実直な人柄なのだろうと思われた。
また、この本で知った知識を
youtubeで確認しようとすると
意外なほどデータが見当たらないケースが多く
すでに昭和20年代〜30年代に関しては
ネットだけで言えば、確認不可能な時代になっているのだなと実感した。
小藤氏の功績についても、簡単に書いておこうと思ったが
まあ、忘れてもいいかなとも思ったので、ここでは略(でもWikiに項目は欲しいなあ)。
久々に、なかなか楽しい本でした。

585korou:2020/09/17(木) 14:54:23
「淀川長治自伝 上」(中央公論社)を読了。

以前から読もう読もうと思っていたが
なぜか手をつけられなかった本で
それは映画の古い面白話を読もうとするあまり
淀川氏の人生、それも背景となる
昔の神戸あたりの佇まいについての描写が
結構しつこく語られている出だしの部分で
つまずいてしまうからだった。
今回は
そういう部分も含めて楽しく読めた。
むしろ、そういう部分こそ丁寧に読んだ。
その上で、この無類の人とでもいうべき方の感受性、世界観などが
ハッキリと浮かび上がってくるのが感じられ
本当に読むべき時に読めて良かった、と思わざるを得ないのだ。

さらに言えば、やはり「映画に古い時代の面白話」も詰まっている。
これだけ読書意欲をそそる要素がてんこ盛りであれば
読書のスピードが進むのは当然だろう。
途中からは一気読みに近かった。
その勢いで下巻に突入することになる。

587korou:2020/09/23(水) 15:00:17
「淀川長治自伝 下」(中央公論社)を読了。

下巻の途中までは「自伝」で、後半はほぼエッセイのようなことになっていた。
それはそれで別に構わないことだが、淀川サンにそれほど興味のない人にとっては
羊頭狗肉のような感じかもしれない。
そのエッセイの部分も、いかにも淀川サンらしい人間観察のペーソスにあふれ
小説のワンシーンを思わせる描写ばかりだった。
もちろん、自伝部分も素晴らしく
戦後ともなると、実際にハリウッド、ニューヨークに出かけて
ハリウッド映画の多彩な主役たちと対面する場面が
どれもこれも魅力的で
しかも”とことん映画好き”ということだけでコミュニケーションをとろうとする
淀川サンの不思議な魅力に
どの「主役」たちも魅せられていくさまが
本当に読んでいて愉しくなるのである。

本を読んで、その場限りの面白さだったら
もう捨ててしまおうと思って自分の書棚の本を読み漁っているわけだが
この上下本の自伝は
捨てられるわけがない。
何度も読み直すわけでもないが
少なくともしばらくは手元に置いておこうと思っている。
淀川長治という人としての魅力にあふれた本である。

588korou:2020/10/13(火) 09:05:45
小林信彦「また、本音を申せば」(文藝春秋)を読了。

前回の読了本から2週間以上経ち、久々に県立図書館から本を借りて読んだ。
この本はその一発目。間違いのない小林さんのエッセーの最新作。

大病明けだけに、文章に乱れがないか素人なりに懸念したのだが
その心配は無用だった。いつもの小林さんだった。
ただ、1つだけ感想を記せば
古い映画の話よりも身辺雑話の類のほうがずっと面白かった。
もはや、小林さんの存在そのものが貴重で
小林さんの嗜好を楽しむというより
小林さん自身を楽しむという次のレベルに達している感じなのだ。
逆に言えば、そこまでいけば、もはやどんな文章でも大丈夫ということになる。
小林さんにとっては嬉しくもなんともない話ではあるが。

まあ、そんな感じで、いつも通り楽しく読めました。

589korou:2020/10/13(火) 14:26:14
中川一徳「二重らせん 欲望と喧騒のメディア」(講談社)を読了。

県立図書館で借りた550pもの大部な著書。
もともとは、1970年代のNET(テレ朝)で起きた大川博と赤尾好夫の主導権争いに
いかに田中角栄が絡んで、最終的に新聞社とテレビ局の系列化を実現させたかという事案に
興味があって借りたのだが
もちろんそのあたりの描写も詳しく参考にはなったものの
それは最初の3分の1あたりまでで
残り3分の2については、最終的にライブドアによるフジテレビ買収未遂劇に至る
放送人をめぐる人間模様の描写がメインの本だった。
しかも、そのほとんどが生々しいマネーゲームで
複雑怪奇な仕組みを活用した難しい話のオンパレードということになるので
そのあたりには素人の自分にはちんぷんかんぷんの全く分からない話ということになるのだった。
というわけで
最初の3分の1は、話の分野としては大好物で美味しく頂いたものの
残り3分の2は、次第に興味が醒めていく(話の中身が分からないので)一方の読書となった。
村上ファンドあたりがどう動いたのかとか
新しく知ったこともいくつかあったが
まあ、もう少し簡便に知る方法もあったのではないかという後悔も残る読書になった。
著者の文章は、専門知識とか人物相関図に詳しい人にはピンとくる感じだろうが
それらが不足する場合は、意外なくらい難解な文章なのではないかと思われた。

以上まとめれば
大好物と不満だらけが混在した困った書物だった。

590korou:2020/10/29(木) 14:06:28
クリスチャン・メルラン「偉大なる指揮者」(ヤマハミュージックメディア)を読了。

音楽鑑賞を体系的に続けているので
こういう本も読んでみようかと気軽に借りてみた本だったのだが
読み始めると、きちんとした評伝になっていて
思ったよりも知的刺激に満ちたタメになる本だった。
クーセヴィッキー、ストコフスキー、アンセルメ、ライナー、サバタ、ミトロプーロス、
オーマンディ、アンチェル、マルケヴィッチ、チェリビダッケ、ショルティ、ヴァント、
ドホナーニなど、今までは詳しく知らなかったその生きざまについて知ることができたし
フリッチャイの人生は特に印象深いものがあった。
マリス・ヤンソンスとネルソンスの関係なども興味深いし
バレンボイムとジャクリーヌ・デュ・プレの人生も
今回詳しく調べる機会ができて良かった。

案外、こういうシンプルな指揮者評伝というのは
なかなか出版されないようで
こういう本は本当に貴重である。
この指揮者にはこういう録音があって、その概要はこうであって、という類の本なら
巷にあふれているのだが。

また借りて読むかもしれない。
というか、立ち読みになるかも。

591korou:2020/10/29(木) 15:43:44
山口昌男「挫折の昭和史(上)」(岩波書店)を読了。

退職したらじっくり読み込もうと思っていた本。
読後の感想を率直に言えば
同じく退職後のお楽しみ本だった広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す」と同様
今の自分には無縁な本だった。
もはや、こういうペダンチックで話が脈絡なく飛びまくる蘊蓄歴史学の本については
以前のような興味を持ち得ないことを改めて悟った。
とにかく読んでいて非常に疲れるので
下巻については、読むか読まないかはともかく
少し間を空けることにした。

592korou:2020/11/04(水) 08:43:12
長谷川慶太郎「大局を読むための世界の近現代史」 (SB新書)を読了。

前半が第一次世界大戦あたりの経緯から第二次大戦後の冷戦の始まりと終焉を記述した
まさに近現代史の話になり
後半は、中国と北朝鮮の現状を分析し、その結果、両国の現体制(出版時の2014年現在)が
まもなく崩壊するはずという予言を書いた本になっている。
2020年の今、その両国は未だ崩壊どころか、その兆しすら伝わってこないので
後半部分は、そんな状況の時もあったということで割り切って読む必要があるのだが
前半部分の分析は、独特のロジックで、それなりの説得力もあり興味深かった。
特に、No.1Warのときのオーストリア軍の弱さが
いわば多国籍軍のようなもので共通の言語すらない事情に由来するものであることや
共産主義国家の運営が硬直化する理由を、実際にそれらの国々を訪問した実体験をもとに
分析している部分は、なかなか他の本では読めないところだと思った。
あとは、中国や北朝鮮の崩壊が、若干の遅れはあるが実現するのかどうかということだが
こればかりは著者が死去されたので、どうにも確かめようがない。
ただし、崩壊した中国が軍の分割状態になり、最終的に連邦制を採らざるを得ないことや
統一した朝鮮半島が巨額の資金、援助を必要として、その際、日本が重要な鍵を握ることになるはず
とかの予想未来図については、確かに現実味のある話だと思われる。

なかなか知的刺激に満ちた本だった。

593korou:2020/11/13(金) 09:24:29
谷口智彦「日本人のための現代史講義」(草思社文庫)を読了。

最近になって初めて、著者が自分の高校の同級生であることに気付いたので
急きょ県立図書館でこの本を借りて読んでみた次第。
読み進めていくのと同時に、著者の正体も徐々に分かってきて
とにかく安倍首相の側近、代弁者ということで世間から見られていることも判明。
たしかに、この本の著述でも部分部分におかしな箇所が見られるが
実際にこの本が書かれた年代である2013年には
すでに外務省の副報道官だったのだから(しかも安倍政権に移動した直後の時期)
そういうことの反映なのかもしれない。

とはいえ、こういう感じの現代史はもっと書かれて然るべきだとも思った。
編年体とか年代順という歴史叙述の常套は
現代史では必須でないだろうし
また、歴史の素人が歴史を語る際に、そういう制約は不要な妨げでしかないのだが
かといって素人は歴史を語るなということにはならないだろう。
素人も現代史をどんどん語るべきだし、それが多彩な未来像を保証することにもなる。
その意味で、この谷口流現代史の叙述は好ましく思われた。
その内容に関しては、いろいろとツッコミどころ満載とは思うが。

読んでいる途中は、部分部分で感心する箇所もあったのだが
読み終わってみると、その叙述スタイル以上に感銘を受けた箇所となると
意外と少ないという印象になった。
現代史を意義深く語るというのは難しい作業なのだと改めて思った。

594korou:2020/11/18(水) 19:08:13
県立図書館で借りた本で初のケース。

昨日、借りている「論壇の戦後史」(奥武則著)を返却期限延長をしようとしたら
期限2日前だったので処理できず
まあ今日になってすればOKと思い
その処理をしないまま、今日は県立図書館に行ってきた(さらに2冊借りる)。
帰宅後、期限延長をしようとすると
なぜか延長できない画面になっているので
おやっと思いよく見ると、何と予約が入っているではないか!
明日が期限なのに、急きょ予約が入ったので
明日また県立図書館に行かなくちゃいけない。
さすがに連日はこたえるなあ、疲れるなあ。
でもしようがない。
この本は面白いので、じっくり読もうと思っていた矢先の出来事。
また借りるときのために
どこまで読んだかメモっておこうか。
とりあえず第4章(106p)まで読んだ。
(「世界」の執筆者周辺で全面講和論のはずが朝鮮戦争勃発で動揺がみられたという記述まで)

まっ、次借りるときは全部忘れてしまい
また最初から読むことになるかも・・・・

595korou:2020/11/19(木) 16:33:13
昨日の書き込みから事情急変し、家人が明日図書館に行くというので
その便で返却してもらうことにして、今日はその「論壇史」を読めるだけ読んでおくことにした。
で、意外なほど読み進めることができて、ついに読了した。

奥武則「論壇の戦後史」(平凡社ライブラリー)を読了。
よくまとめてある本だった(その意味で期待通りだった)。
1970年までの「戦後史」になっているが
末尾に補論などが追加してあり。さらに「解説」の保阪正康氏の文章なども
その後の経緯なども違う視点で書かれているので
今回の増補版で名実共に「戦後史」の各論、論壇史として完成した形になっている。

それにしても、戦後から10年間ほどのソ連という国に対しての楽観的というか好意的な見方については
2020年の今となっては想像を絶するものがある。
逆に言えば、そういう実態とかけはなれた前提で為された論議であるゆえに
1960年代に顕著になった批判意見に対して無策というか無言にならざるを得なかったのだろう。
それが論壇の一区切りであり、簡単に言ってしまえば、無駄な25年間ということになってしまった。
ハンガリー動乱の際の、そういう左翼系学者の反応が象徴的に思えた。
「民度の低い国だから、ソ連が教育してるんですよ」という見方、今ではあり得ないと思う。

こういった今ではなかなか想像しにくい時代の論壇の趨勢を
見事にまとめている好著だと思う。
個人的な観点も多いが、さほど気にならないのは
大筋を押さえてあるからだろう。
未読で返却を免れて本当に良かった。

596korou:2020/11/23(月) 14:06:56
山川静夫「私の『紅白歌合戦』物語」を読了。

カーシーさんのHPでこの本の存在を知り、さっそく県立図書館で借りて一気に読了。
カーシーさんの紅白歌合戦ブログで取り上げていた1974年の紅白の模様が
同じようにこの本でも詳しく描写されていたので
その比較も面白かったが
さすがに実際に司会を担当した人でしか書けない生々しい記述も多く
一気に読むことができた。
感覚的には古いものを感じるが
それはさておき
記憶力の良い方なので
「紅白」に限らず
昔のNHKの話を
こんな感じでどんどん書いてほしいと思った。

597korou:2020/11/23(月) 14:24:42
追記:↑の本は(文春文庫)

598korou:2020/11/24(火) 07:38:18
「60歳からはじめるSNS」(日経BP社)をざっと読了。

全ページしっかり読んだわけではないが
必要な箇所はほぼチェックし終えたので感想を。
2017年12月発行の本なのに、もう内容が古くなっているのには驚いた。
懇切丁寧に図版を多用してビジュアルにわかりやすく見せているのに
肝心のその画面の外見が
今現在アクセスして見られる外見とかなり食い違っているのである。
さらに、LINE,Facebook、Twitter、Instagramのどのツールでも
フォームをモデルチェンジした際に常に何のヘルプも用意せず
「使ってりゃそのうち分かるだろう」という方針で通しているので
この種の本の価値はますます下がってしまうことになる。
やはりSNSは未完成なツールと言わざるを得ない。
これだけ普及しても、それに対応する態勢が間に合っていないのである。
せっかく”63歳からはじめよう”と思ったのに
これでは難しいなと実感した。
前回借りたスマホアプリの本といい、今回の本といい
借りてはみたもののなかなかものにならない。
いっそのこと語学に専念しようかな、いやムリかな、うーむ、迷うところだなあ。

599korou:2020/12/03(木) 14:31:19
宮下洋一「安楽死を遂げた日本人」(小学館)を読了。

本当は「安楽死を遂げるまで」を借りたつもりだったが(講談社ノンフィクション賞受賞作として)
読み始めると、その次の作品であることに気付いた。
というより、この本がノンフィクション受賞作と読み終わるまで思っていた。
たしかに、この本がもたらす衝撃というよりも
安楽死というものを本格的に紹介した前作のほうが
未読なのだが多分衝撃度は大きかっただろうと推測できる。
その衝撃度の大きかったはずの前作を受けて
(著者の考えによるところが大きいのだが)
まだまだ日本社会では安楽死の議論が不足しているということで
日本社会と安楽死というテーマで実例をもとに踏み込んでいったというのが今作だ。

そもそもが安楽死についての知識がなく
ゆえに安楽死をめぐる現状についても知識皆無だったので
読んでいて、新鮮な知的刺激と同時に
著者の考えにも違和感を覚え
さらに日本社会の安楽死への意識の変化についても確信が持てなくなった。
どう考えていいのか分からないという状態。
多くの人はそうだろうと思う。
そんな状態で議論など進むのか、
そうこうしているうちに、安楽死の「便利さ」だけが独り歩きしていきそうな雰囲気。
著者の努力?にもかかわらず、そんな未来が想像されて(今の日本にこういう問題を真摯に議論する余地などないだろう)
読後の印象は辛いだけだった。
話もどうしても暗くなるし。
でも良書であることは否定しない。

600korou:2020/12/09(水) 10:09:40
峯村健司「宿命 習近平 闘争秘史」(文春文庫)を読了。

最近、がっちりとした労作に出会わないなあと思っていたのだが
そういう欲求を120%満足させてくれた名著だった。
あとがきを読むと、和歌山カレー毒殺事件で
マスコミのなかで唯一、犯人とおぼしき人物との接触に成功し
スクープをとったのも束の間
別件でフライング報道の罰を受け、左遷同然に中国出張を命じられ
そこで一から中国語を勉強、出遅れのハンディを徹底した現場取材で補い
これだけの労作をものにされたということが分かる。
最初のほうは、米国での取材、それもかなり瑣末な部分を詳しくえぐりとっているように思えて
何だ、核心に迫らない本だったのかと失望感も覚えたのだが
第3章あたりから中国本土での話になり、
一気にリアルな権力闘争の内幕を暴く迫力満点の記述に切り替わったので
俄然面白くなった。
まさに鄧小平以降の中国の政界闘争の話であり
簿熙来失脚をめぐる内幕話などは
実際に取材した者でなければ、ここまでリアルには描けないだろいうと思われた。
習近平について知りたかったのだが
それについてもかなり満足度の高い読書となった。
あと1冊、この著者の中国モノがあるようなので、さっそく借りてこよう。
間違いなく、今年有数の読書体験だった。
万人にオススメできる名著である。

601korou:2020/12/17(木) 17:25:16
ベン・ライター「アストロボール」(角川書店)を読了。

久々のMLB本。なかなかの力作とはいえ
このところ名著が続くMLB本のなかでは普通の出来だった。
やはり、不祥事が発覚した後では、この本に書かれている特に後半部分について
文字通り受け取ることができないわけで
その点で、この本に書かれたアストロズの復活劇については
もう1つの本の存在が予定されていなければならないのだが
今のところ、そういう本が企画されることを待つしかない。

前半部分は、なかなかの出来である。
特にルーノウ、シグ達の
「マネーボール」バージョンアップ版ともいうべき思考方法は
データ野球を批判する人たちにぜひ知っておいてほしい事項ではないかと思った。
全体に、取材対象への愛情が溢れ過ぎて
彼らのしていることはすべてうまくいったという前提でもあるかのような叙述が
各所にみられ、それが全体の焦点をぼやかせているきらいがあるのだが
データ以外の重要なポイントをどうみるか、というところだけは、うまく描けている。
その反面、なぜバーランダーがトレードに同意したのかについては曖昧だし
なぜ2014年のドラフトで失敗したのかについての分析は叙述が不十分だし
ベルトランに至っては、もはや「もう1つの本」が出ない限り、
ある意味間違いだらけなのかもしれない。

とはいえ、貴重なMLB本だ。
今現在のMLBを知る上で必須の情報が詰まっているのは事実だ。
ファンであれば必読だろう。

602korou:2020/12/24(木) 10:14:31
中川右介・石井義興「ホロヴィッツ」(アルファベータブックス)を読了。

ホロヴィッツについての日本有数のコレクターと言われる石井氏のコレクションを
以前出版した高価な本の普及版として紹介するために
編集者として中川さんが労を取った本である。
ほぼ4分の3程度、中川さんのホロヴィッツ伝記が占め
その余白に頻繁にジャケット等の現物資料の写真等のデータが入り
最後に石井さんの文章とデータ一覧が掲載されるという体裁になっている。
例によって中川さんの文章は要を得ていて簡潔にして分かりやすい。
ホロヴィッツの一生が明確な姿で浮かび上がってくる。
石井さんの巻末のエッセイ風の文章も面白く
コレクターというのはこれほどの努力をするものだと感心させられる
(かつての「脱走1号」さんの雰囲気を連想してしまった)
特にホロヴィッツの大ファンということでなくても
これほどの大ピアニストなのであるから
この程度のことは知っておいて損はないということだろう。
これからは、ホロヴィッツの演奏を聴くたびに
ああ、この時期はこういう感じだったのだなと思うことになる。
読む前に想像していたよりも得るものは多かった本である。

603korou:2020/12/30(水) 17:51:05
「日本陸海軍のリーダー総覧」(「歴史と旅」臨時増刊 S61/9)を読了。

トイレ読書で読了。
何時から読み始めたのか記憶も過去の記述もないが
ほぼ半年以上は読み続けていたような感覚だ。
かなり分厚いムック(424p)なので
毎日とはいえごく短い読書時間で
本当に読み終えることができるのかどうか、途中でくじけて止めてしまうかも
とも思ったのだが
本日、無事読了。
150名もの軍人について記載してあるので
もはや細かいことは全部忘れてしまったが(半年前に読んだところなどは特に)
何となく全部を網羅したという達成感で
日本の軍人についての基礎知識を身に着けたような感じで
勝手に悦に入っている。
間に挿入されている棟田博氏などのエッセイは秀逸。

604korou:2021/01/01(金) 18:56:29
「全著作 森繁久彌コレクション 1 自伝」(藤原書店)を読了。

600p余もある大部な本で
面白い内容にもかかわらず
(年末年始という時期でもあり)読了するのに結構時間がかかった。
第1部が「私の履歴書」で、すでに第2部を世に出していた森繁さんが
日経のそのコーナーに書いたのは、自らの出自と満州へ渡るまでの半生の出来事。
第2部が、昭和37年に50歳のときに書いた「森繁自伝」で
これが今の自分の出発点であることは間違いないところ。
第3部と第4部は、文筆家でもあった森繁さんが
折に触れて雑誌などに書いた文章をまとめたもので
第3部「満州」は、第2部の自伝の内容と重なるところが多く
ここが一番読んでいて難しいところだった(飛ばし読みしたいのだが、うまく“飛ばせ”ない)。
第4部「わが家族」は、森繁一家の日常エピソードをまとめたもので
このあたりは始めて知る事実が多く、奥様がこれほどの冒険家(シュヴァイツァーに憧れ
単身で会いに行く。日本女性初の南極訪問など)だったとは知らなかった。

こうしてみると、やはり第2部「自伝」の面白さは格別で
今となっては
若い頃にこの本に出合った幸運を喜ぶ他ない。
他にもいろいろ感想は多いのだが
今回はあまりぐだぐだと書くことは止めておこう。
余韻にも浸りたいので。
2021年最初の読了本です。

605korou:2021/01/05(火) 15:53:01
峯村健司「潜入中国」を読了。

前回読んだ同著者の本と、内容は一部被っているものの
権力闘争に焦点を合わせた前回の本と比べると
今回はテーマが広範囲にわたっていて
現代中国をコンパクトに知るには
こうした新書の形で手っ取り早く知るのがベターだろうと思われた。
ただ、新書サイズの制約のなかで、ここまで広範囲に話を広げてしまうと
どうしても中途半端な形、展開不十分な話になってしまうことは避けられず
読後の充実感という点では、前著に及ばなかったのが実感である。
それにしても怖いのが、最後の章に書かれていることで
今現在の中国は「1984(オーウェル)」のような強烈な監視社会になっていることだ。
中国の真実を知ることは、もはや国外でしか可能でないように思え
ゾッとした。

(以下どうでもいい話だが・・・)
アマゾンの書評は(あまりにくだらなくて)もはや滑稽である。
自分の信じたいものを信じるという子供のような精神状態の人たちが
この好著のなかに、信じたくないものを重箱の隅を突くようにして見つけて
こき下ろすという書評があるのだが
それがアマゾンのレビュアーでナンバーワンの存在の人だというのだから
笑ってしまう。
その方が、この本に代わって推薦する本というのが
どう見ても嫌韓、嫌中の類の本なのだから、いやはや・・・

606korou:2021/01/13(水) 15:40:50
中川右介「ロマン派の音楽家たち」(ちくま新書)を読了。

今回の中川本は、人物が複雑に入り組んで絡み合い
それを、最初の部分を除いて、すべて暦年別に記述してあるので
記憶力のない自分には、結構読み辛い本になった。
原則として、メンデルスゾーン、シューマン、ワーグナー、リスト、ショパンという5大音楽家の
1820年代から1840年代にかけての足跡を記した本ということになるが
それぞれに関係する人物の人数も多く、さらにベルリオーズの物語も追加され
誰が誰やら、あるいはそこまでの経緯はどうだったか、ということを確認するために
今読んでいるところから数ページ以上遡って該当箇所を探すという作業を
読書中ずっと続けなければならなかった。
そういう手間を惜しまずに読んだ結果
結構、この昔々の天才たちの進化ぶり、恋愛の様子などが
読む前には想像もしなかったほど具体的に脳裏に刻み込まれ
今は、一刻も早くWikipediaで再確認したいと思うほどである。
相変わらず、史料の読み込み、各史実の展開のさせ方など
さすがのプロの仕事だった。
正直、対象そのものへの興味は低かったので
読む前にはそれほど期待していなかったのだが
読み終わると、いつもの満足感がいつものように残った。

607korou:2021/01/19(火) 15:47:08
石原豊一「野球の世界情勢」(ベースボール・マガジン社)を読了。

何となく借りた本だが
ひょっとしてこんな内容だったらタメになるかなと思ったレベルに
十分達していた本だったので良かった。
ただ、この時期(冬。眼痛がしばしな起こる季節)だけの難しさで
ちょっとした活字の小ささが途中から気になり始めて
20ページほど読んだら目が痛んでくるのには弱った。
なかなか読書が進まない、その割には知らない事実が多すぎて
ちょっと前のページでも記憶が定かでなくなるので
何度も読み返すということを繰り返していたので
読了まで予想以上の時間がかかった。
結局、記憶力の限界というべきか
ちょっと前にも中南米の野球の本を読んだというのに
それでも各国の野球事情について
いまだにハッキリとは覚えられていないわけだ(読破直後の今でさえ)

ヨーロッパ各国の野球については
今まで全く知らなかったので
今回の読書はタメになった。
まさに、レジャーとしての野球、社交場としての野球場といった感じで
それぞれの国々でそれぞれの問題点が山積しているのも事実。
その点、中南米あたりは、真剣モードで、問題点も深刻なものが多い。
野球が盛んな国でのオリンピックの場合、野球は公開競技として復活の可能性は大、という指摘も
新鮮だった。
まあ、野球の本なので、どう読んでも愉しいのは愉しいのだが。

608korou:2021/01/31(日) 14:36:33
ピーター・ヘイワース「クレンペラーとの対話」(白水社)を読了。

音楽鑑賞を続けていると
どうしてもクレンペラーという人の巨大さを意識せざるを得ないことが
たびたび起こってくる。
いつかこの人の生の言葉を知らなければという思いが深まってきて
今回、県立図書館の書庫から引っ張り出してきて借りて読んでみた。
残念ながら、その生の言葉からは、クレンペラー自身が経験した時代である
西洋音楽としては古き良き時代ともいえる
20世紀最初の頃の時代の雰囲気だけが伝わってきて
彼自身の独特の叡智に満ちた言葉で、具体的に詳しく語る部分はなかった。
他人への批評、特に自分より年少の人たちへの言及もごく僅かだった。
いくらか記憶に残っているのは
「前衛音楽を紹介しようとかそういう意図は全くない。クロールでは、よいものを創ろうとしただけだ」
「今の指揮者(1960年代後半)たちは、踏むべき段階があるのを知らないか、もしくは忘れているかのようだ」
「十二音音楽が特殊だというのは偏見だ。古典派音楽も十二音使って書かれている。同じ音楽なのだ」
という言葉。
だが、その言葉は言い足りないことだらけだろう。
興味深いインタビュー本なのだが
クレンペラーの創造したその音楽の深遠さを説明するパンフレットにはなり得ていない。
インタビュアーの丁寧な進行が感じられて、悪くはない本だけれども。

609korou:2021/02/02(火) 09:38:25
読了した本ではないが、気になる本。
「スマホで見る阪神淡路大震災」(西日本新聞社)

映像を、本に記載のQRコードをスマホで読み取ることで実感できる本。
買ってもいいかな、と思ったりする。

610korou:2021/02/03(水) 16:39:09
「私の履歴書 経済人12」(日本経済新聞社)を読了。

6名の履歴書の内、永野重雄、加藤辨三郎両氏のものは既読なので
残る木下又三郎、司忠、砂野仁、倉田主税の4名分を今回読了した。

司、砂野両氏は、令和の現在、読むに堪えないものがあった。
昭和においても、こういう人の配下で働かざるを得なかった人たちは
相当苦労しただろうと思う。
木下氏のものも、自慢話のオンパレードなのだが
苦労の度合いが違うので、むしろそっちに意識が向かい
そこまでの嫌悪感は感じなかった。

日立製作所社長を務めた倉田氏の履歴書は興味深く読めた。
さほど苦労せずにのんびりと生きてきた倉田氏が
小平社長の人格に触れ一気に目覚めた後の人生は
壮絶というか、まさに苦労の連続であり
また実際の出来事を正確かつ細やかに記憶されているので
それがどういう苦労なのかが、そこから半世紀以上経った令和の今読んでも
手に取るように分かるところが凄いのである。
この倉田氏の慎重かつ堅実、謙虚な姿勢が
日立の社風、というか経営首脳陣の空気を作り上げたのだろうと推察できる。
昭和の経営者として模範的な生き方だったろうに違いない。

砂野氏などは1899年生まれ(司氏でも1892年)で
倉田氏の1889年とはほんの少し世代が違うのだが
その差は大きいような気がしてきた(その他、今までに読んだ人たちを思い起こせば)

611korou:2021/02/14(日) 22:58:18
佐野眞一「唐牛伝」(小学館)を読了。

今までの佐野氏の著作と比べると
信じがたいほど未熟な本だった。
著者は、これこそ今自分が書くべきテーマであり
そのことに確信を抱いていたはずだが
実際にはそういう思いとは程遠い駄作となったと言える。
佐野氏自身もそのことを直感として感じたのか
この作品以降全く何も書けていない。
無理やりに自らの体験と近い題材にして
さして効果のあったと思えない現場取材を重ね
そして、それをまとめるにあたって
それまでの著作ではあり得なかったほど混乱した記述を重ねているのを
読みながら感じてしまい
こうして優れた著作家は急に衰えていくこともあるのだ
と驚くばかりだった。
実に読みにくい。
インタビュー部分を不必要なくらいに分割して
他のインタビュー記事と混ぜこぜにしているので
今一体誰のインタビューを読んでいるのか
注意していないと分からなくなる箇所が何度もあった。
取材をいとわない姿勢はさすがだとは思うのだが
その取材自体、あまりにも無収穫で無駄で無意味なように思える箇所が
頻繁に見受けられ、全体として生煮えのノンフィクションとなった。
唐牛健次郎の生き様は、ある程度伝えられてはいるが
今までの佐野さんなら、こんな生ぬるい著作では終わらなかっただろう。
最近、新作が出ないなあと思っていたが
もはや魅力的な新作が書ける状態ではないのだなという
悲しい事実を確認するだけに終わった。

612korou:2021/02/24(水) 17:48:28
湯浅博「全体主義と闘った男 河合栄治郎」(産経新聞出版)を読了。

イギリスの理想主義に啓発され、戦前日本で唯一と言っていいほど自由主義に徹して
マルクス主義ひいては軍部という巨大な影響力を持つ権威、組織と闘い続けた河合栄治郎という人を
もっと知りたくて借りて読んでみた(丸山真男の対談集でしばしばその名前が出てきたので、その影響もある)
この本を読んで最も興味深く思ったことは
河合栄治郎は志半ばで病魔に倒れたものの(このことは戦後まで生きていたら日本の将来も変わっていただろうという
想像をたくましくさせる。でも吉田茂も河合ほどではないもののイギリス仕込みの自由主義の理解者であったから、
やはり対GHQという点では同じだっただろう。もっとも、吉田学校みたいな趣味が河合にはなかったので、そこは大きく
違うわけで、その意味ではポスト吉田とポスト河合は随分と違ってきたのかも。つまり、池田にも佐藤にも吉田のような
哲学はなかったわけで、その点で河合が政治家の中に後継者を見出せていたとしたら、それは大変な功績になったはず)
その河合の仕事を、弟子たちが戦後になって社会思想研究会という形で受け継ぎ、社会思想社を立ち上げ、個性的な出版物
を世に送り出すことで、一般人にもその特徴を伝えたという点だろう。自分もその影響を大きく受けた。小学生低学年なのに
「教養人の手帖」などという凄い本に出合ったり、映画に関しては「教養文庫」なしで今の知識にたどり着けたとは思えない。
そして、その反対側で権威を保っていたのが、「非武装中立」路線の進歩的文化人という立場で、この本は書かれている。
まさに社会党、共産党VS民社党という構図だ。その意味でこの本の主張は部分的に正しい。しかし、本当にそんな野放しの
非武装中立論ばかりだったのか、非共産党陣営の論者でもっと現実的な主張をする人も居たのではないかという疑念も残る。
以上は戦後の後継者たちの話であり、読後の印象もそのあたりが自分には生々しく残るのだが
戦前の河合本人の活動そのものについても、軍部と真正面から闘った勇気は大いに称えられていいのは言うまでもない。
そこには明治人としての国家意識、天皇賛美の傾向が残るとしても
逆に良心的知識人がたどり着いた人間像として分析すべきではないかと考える。
何でも現代の基準で過去の人物を裁けばよし、ということではないのである。
最近はそういう傾向が強まっているので、それには断固「否」と言いたい。

613korou:2021/02/27(土) 15:02:15
浦久俊彦「ベートーヴェンと日本人」(新潮新書)を読了。

書名とは違って、ベートーヴェン限定ではなく
明治・大正時代の日本においていかに洋楽が広まっていったかについて
その様子を大まかに伝える本になっていた。
読後の印象としては
文章があっさりしているので特にひっかかるところがなく
結果として記憶に残るポイントが皆無、新しく何を知ることができたのか不明という
残念なことに。
もう少しトリヴィアを掘り下げてほしかったし
こういう類の本であれば
それぞれの団体、個人のつながりに着目して
現存団体のルーツはこれになるというような叙述がもっと欲しかった。
読みやすいのはいいのだが、ここまでライトだと
結局何も得られないという典型的な本。

614korou:2021/03/08(月) 10:12:02
谷川建司「映画人が語る 日本映画史の舞台裏」(森話社)を読了。

たまたま県立図書館で見つけて借りた本。
最初のほうは特撮技術の専門的な話が多く
読み進めるのに難渋したものの
途中からは映画興行、宣伝などの話が中心となったので
かなり読みやすく、かつ面白く読めた。
2010年代に行われた”聞き書き”なので
映画黄金時代に仕事をされた方々の思い出を記録するのに
ちょうどギリギリの時期となり
その意味で谷川氏他の関係者の人たちは
本当に良い仕事をされたと思う。
無茶苦茶な労働環境と、何事にも大雑把で管理など後回しという
イメージの強い昭和20年代・30年代の映画界の様子が
具体的に語られていて、かなり面白い。

不満な点をいえば
東宝、大映、東映(特に動画関係)についてはかなり語られていて
それぞれの会社の沿革もWikiで補足して調べたりできたが
日活と松竹については、ほぼ語られていないので
そこは後日の研究を待つしかない。
それとインタビュアーの事実認識がズレている点も
随所にみられるのだが
できればインタビュアーの経歴も巻末に列記してほしかった。
たとえば1980年代で映画館が特撮映画特集をすれば、客が集まるのは容易に予想できるのに
「ビデオが普及していたはずなのでその影響はなかったのですか」などと頓珍漢な質問をしたりしているので。
若い人ならともかく、リアルタイムでその時期の空気を吸っていたなら
こんな質問は出ないと思うので。

615korou:2021/03/09(火) 17:03:12
断念した本・・・「朝鮮語を学ぼう 改訂版」(三修社)

この上ない詳しい本なのだが
理解が難しい箇所を丁寧に易しく書くという修行ができていない人が書いているので
途中から何を書いているのか全く分からなくなってしまった。
まあ、100ページほどは読めたので
少しは役に立ったということにしておこうか。

616korou:2021/03/11(木) 22:02:33
読了本といえるかどうか、半分しか読んでいないのだが
大物クラスは全部読んだつもりなので、とりあえず読了ということで・・・
瑞佐富郎「さよなら、プロレス」(standars)をほぼ読了。

(読了)
阿修羅原、アントニオ猪木、ザ・グレート・カブキ、前田日明、ジャンボ鶴田、スタン・ハンセン、
馳浩、小橋健太、田上明、佐々木健介、天龍源一郎、長州力、獣神サンダー・ライガー

(未読)
浅子 覚、垣原賢人、SUWA、ミラノコレクションA.T、力皇 猛、井上 亘、スーパー・ストロング・マシン
アブドーラ・ザ・ブッチャー、飯塚高史、中西 学

まあ、こうしてみれば、ブッチャーを除きほぼ網羅できたかなという印象。
なかなか独特の熱量の文章で、プロレスともなればこの熱量なのかなと納得もした。
とにかく、団体の乱立、メンバーの移動の激しいスポーツで
そのこと自体がこのスポーツの面白さでもあるようなので
Wikiで参照しながら読んでいると時間がかかること夥しかったが
なかなか楽しい読書&調べ物だった。
このくらい仕入れていると
アサヒ芸能の連載も比較的すらすら読めるかも。
って、何を目指しているのか、自分。

617korou:2021/03/24(水) 09:40:36
<日本の新常識研究会編>「令和の新常識」(PHP文庫)を読了。

雑学を増やしたい、クイズ番組で優越感に浸りたいというような目的で借りた本。
そういう欲求を満たすという意味では期待通りの内容だった。
ただし、幅広いジャンルにわたって新常識が書かれていたので
それらをすべて覚えて自分のものにすることは不可能だ。
この種の本を何度も何度も繰り返して読めばいいのだろうが
さすがにそういうマニアックな読書に挑戦する意欲はない。
まあ、時々、こういうのも借りてみるか、という程度の話。

618korou:2021/03/24(水) 09:46:04
高城千昭「『世界遺産』20年の旅」(河出書房新社)を読了。

世界遺産について何も知らないに等しいので
ちょっと知識を仕入れておこうという程度のノリで借りた本だが
これが予想以上の好著で、読んでいて本当にタメになった。
世界遺産の基準(10ポイント)について、具体的にわかりやすく書かれてあり
さらに、世界遺産をめぐる現在の問題点、課題も適切にまとめられていて
何よりも、随所に、著者が実際にその世界遺産を訪れた体験談が語られているので
叙述にリアリティ、説得力があるのが良い。
これを機会に
もう少し、世界遺産について読み込んでいこうかという気にもなった。
今月の読書のピカ一。

619korou:2021/03/30(火) 16:51:12
山平重樹「実録 赤坂ニューラテンクォーター物語」(双葉社)を読了。

以前「東京アンダーグラウンド」(R・ホワイティング)に書かれていた力道山と東声会の関係とかにも
興味があり、借りて読むことにしたが
まあまあ面白いものの、何となく苦労せず成功した若社長の物語という体が強く感じられ
イマイチ読み進むスピードに加速がかからないもどかしさがあった。
それが、力道山刺殺の現場に居合わせた若社長ならではの
生々しい描写のあたりから俄然面白くなり
後半は一気に読み終えてしまった。
確かに物凄い苦労などは皆無なのだが
それなりに苦しい体験も豊富で
何よりも空手経験者としての強みが
山本信太郎というこの若社長の強みだろう。
単なるボンボンだと、こうまで裏社会の実力者から気に入られることはないはず。
体育系ならではの礼儀正しさもあっただろう。
児玉機関系列の人脈と、博多の頭山満系統から流れる人脈が
程よく住吉系ヤクザ、山口組関連のヤクザ、あるいは東声会、稲川会も含めて
最上の形でこのナイトクラブ「ニューラテンクォーター」に融合しているかのようだ。
上質な文章、文体とは言えないが
まとまりのある分かりやすい構成で、ある意味描写の難しいこのジャンルのこうした本を
見事に書き切った著者も良い仕事をしたと言える。
裏社会を描きながら、読後の印象が薄暗い感じにならないのも良かった。

620korou:2021/03/31(水) 14:15:46
読むのを止めた本
「世界遺産に行こう」(学研パブリッシング)
止めた理由・・・世界遺産に興味が失せたから(飽きっぽい・・・)

621korou:2021/04/16(金) 17:31:18
井川聡「頭山満伝」(潮書房光人社)を読了。

読売新聞編集局次長などを務めた著者が
地元福岡で親しんできた玄洋社ゆかりの人たちの話などをまとめて
600ページを超える大著として
意外にも世に出ることの少ない近代日本の巨人である頭山満の伝記をものにした本。
著者自らあとがきで記しているように
歴史の専門家でもなければ、ノンフィクションとして定評のある書き手でもないのだが
とにかく対象となる人物への親愛の情、敬愛の念はピカ一な本になっている。
正伝というには程遠く、伝聞の事実を常識の範囲で吟味したとでもいうべき事柄を
時系列も自由に羅列している一方で
史実の検証、細部の検証などは後回しになっている印象は否めない。
その意味で、あくまでも正伝がない現状のなかで
そのうちに伝聞の事実すらもつかめなくなる最悪の事態を避けるために
とりあえず叩き台として伝聞事実を網羅し、うまくいけば入門用の書としても重宝されればよいという意図のもと
一定の決意のもとに出版されたということなのだろう。
読後の印象では、その意図は十分に達成されているように感じた。
あくまでも当座の整理の本であり、この本に示された思想、考えをどう受け止めようと
それは読者の自由だろう。
例えば、頭山の思想を阻んだのは、軍部の暴走、つまり軍という組織の崩壊が大きい要素なのだが
そのことについての記述がほとんどなく
もっぱら支配者層のミスリードという形で批判が集中しているのだが
個人的にはこういう叙述は中途半端で首肯し難いものがある。
しかし、それはそれでいいのである。
この本のおかげで、頭山の思想は十分に伝わってくるし
その人脈、交友関係もほぼ完ぺきに理解できたように思う。
その意味で、この本は、その後の知識の補充、さらなる考察を要求する本でもある。
名著ではないが、日本の近代史を考える上で重要なピースとなる人物の生き様を
自然体で描いた好著ということができるだろう。

622korou:2021/04/20(火) 15:31:58
金成玟「K-POP」(岩波新書)を読了。

あまり期待もせず、まあこのジャンルの網羅的理解の助けになればと思い借りた本だが
読んでみると意外に役に立って面白かった。
ほぼ時系列で書いてあるので読みやすかったが
所々で抽象的な理屈が混ぜてあって、そこがひどく理解しにくい文章になっていたのが
玉に瑕といったところか。
別スレに要点だけ抜き出してみたが
途中から面倒臭くなり止めてしまった。
もう1回、この種の本を通読すれば
今度はかなり明確に記憶できそうなのだが
そこまでの手間をかけるかどうかは今は分からない。
K-POPの本なのに、J-POPとの対比が書いてある箇所があって
そこは非常に参考になった。
K-POPは常に外に開かれていて、その実質について客観的な定義を試みることは可能だが
J-POPは基本的に自己規定の概念であり、定義自体が形式そのものであるという異形な言葉なのだということ。
だから、J-POPについて言えば
その範囲は明確な一方、それ以上に実質的な意義はその言葉からは見いだせないのに対し
K-POPについては、実質を示す言葉でもあるので(勿論、韓国のポップスという形式的な意味も含んでいる)
さらに深い考察も可能な言葉なのだということ。
そこに、音楽産業として見た場合、J-POPと比べて、より意図的な、何かを指向することが明確な傾向が顕著で
ゆえに、このような書籍で語ることが可能であり、意味もあるということになる。
J-POPを語ると、こうはいかない。
もっと雑然とした雑駁とした内容のものになる。
指針のない文化は徐々に避けられる時代になってきたと思うので
K-POPの未来は明るいだろうなと思う(J-POPはその点危うい)。
そんなことを思わせた本だった(好著)。

623korou:2021/04/26(月) 12:24:49
許永中「海峡に立つ」(小学館)を読了。

以前から関心のあった許永中について
自伝が2019年9月に刊行されていたようなので
さっそく県立図書館で借りて読んでみることにした。
内容は予想通りというか
少し文章に騙された感もあるが(一読、極貧の出と勘違いさせられた)
少年期から父親の名声により
在日としては優位な立場に立った上
いろいろな人脈を培いのし上がっていったという人生が
描かれていた。
最初は、ほぼ極道ばかりで
それでも当初から同和関係者の知己も多かったのだろう。
それから、大谷貴義などとの関係も生まれ
この本には書かれていない人脈筋もできていったのだろう。
お金に関しては、当初は同和関係で、それから住友の磯田などが絡んだいたのだろう。
だから、検察も、住友を直接やるわけにもいかず
許が犠牲になったのだと考えられる。
まあ、それにしても
目一杯生きた人生だから悔いはないはず。
その意味では爽快な味も残る自伝なのだが
でも、やはりドロドロしているのは否めない。
反社、というのはこういう人のことを言うのだろう。
でも、社会から抹殺するだけで本当にいいのだろうか。
本当に悪い奴はもっと居るはずだ。
許の自伝を読んで、ますますそう思えるようになった。
文章は雑で、どことなく偏りもあるが、それでも名著の部類だと思う。

624korou:2021/05/10(月) 17:36:21
時枝威勲「面白いほどよくわかる世界の王朝興亡史」(日本文芸社)を読了。

前半がおもに地理的にヨーロッパの王朝興亡史、後半は中国とイスラム世界の王朝興亡史という構成。
かなり多くの誤植が見られたが
それを上回る数多くの知識、情報が詰め込まれた好著で
読んでいて本当にタメになった。
周辺が中枢に入り込み新陳代謝を行うという”王朝の移り変わりの本質”が
繰り返し語られ
特に中国王朝の歴史は
その視点で見直すと全く違った形に見えるのが実に面白かった。
イスラム王朝の複雑な展開も
何となくではなるが全部理解できたような気もするし
その意味では後半の叙述について
知らない事実が多かったので、得るものが多かった。
前半部分にしても
ローマ時代などはあまり知らなかったので興味深く読めたし
まさに、この本のおかげで
ここ数年で興味が湧いてきた世界史全般に
一層関心が深まったような気がする。
となれば、次読むのも世界史の本かな。

625korou:2021/05/18(火) 18:01:23
広瀬隆「ロシア革命史入門」(インターナショナル新書)を読了。

世界史に興味が湧いているこの頃
広瀬氏が書いた「ロシア革命」の本を見つけ
面白そうと思い即借りたのだが
その一方で極端な陰謀論に基づく歴史叙述だったら困るなという
思いもあった。
読了した今、そんな懸念は無用だったといえる。
戦争回避が最大目的の「ロシア革命」だったというのは
広瀬氏が思うほど知られていないわけでもなく
むしろ、知られていないのは、革命成就後の戦時体制の名を借りた
度を過ぎた独裁政治ぶりのほうだったろう。
とはいえ、戦争回避の革命という部分も
世間の常識ということではなく、自分も知らなかったことなので
このコンパクトな新書全体を通じて
初めて知る史実が多く、大変タメになった。
また違った目、史観で見た「ロシア革命」の本を
読みたいとも思った。
やはり、広瀬氏の叙述は独特なので
面白く一気に読み切るには最適なのだが
世間一般的にはどうなのかという”セカンド・オピニオン”も
求めたくなるので。
全体としては、テーマの目のつけどころもよく、好著の部類だと思う。

626korou:2021/05/25(火) 09:15:38
吹浦忠正「『平和』の歴史」(光文社新書)を読了。

平和について書かれたまとまった本を探してはいたので
ひょっとしてと思い県立で借りた本。
全部で10章から成り、テーマ別に平和の歴史を叙述するスタイルだったが
読んでみた結果
最後の2章以外は、
著者の個人的意見を具体的な史実にあてはめて解釈するという
ある種残念な本になっていた。
ただし、著者は机上の空論を延々と述べているわけではなく
実際に国際平和に関する活動を続けて居られる方なので
それなりの説得力はあるのではあるが・・・
最後の2章は、これまでの世界の歴史のなかで
平和について考察するにあたって参考にすべき人物とその思想を
コンパクトにまとめていて
さらに、実際の国際平和活動に際して
どのような団体が存在し、またどのような方法が試みられているかを
ざっと叙述してあるので
案外、こういう類の「まとめ」はそう簡単には目にしない実情を思えば
なかなか貴重な本であるように思えた。
それにしても「憲法第九条」というのは
なかなかデリケートなものであるということもよく判った。
実際に活動を続けて居られた吹浦氏の文章からも
それは端々からよく伝わってきた。
同種の本が数多く出版されることを期待している。

627korou:2021/06/01(火) 11:56:48
八幡和郎「「領土」の世界史」(祥伝社新書)を読了。
(注:書き込み日付は6/1だが読了は5/31なので、5月読了分としてカウント)

世界史への興味が、ひいては各国史への興味にまで広がってきたので
こういう本を借りてみた。
一応その興味は満たされ、さらに未知の史実を知ることも多かったので
意義深い読書にはなったが
その反面、かなり多かった誤植に加えて
著者自身の記述ミスも信じられないほど多く
それらを確認すること自体は大変勉強になったものの
結果としてそういう作業に熱中するあまり
読書以外の時間を大幅に食ってしまうということにもなった。
まあ、全体として意義深い読書にはなったのだが。

オランダの実質首都がハーグであることは今回初めて知った。
その他にも、フランスの中世の混乱ぶりとか
スペイン、ポルトガルの近代史の具体的イメージとか
ロシア史のなかなかな面白さなど
世界史を学ぶ楽しさ満載の読書となった。
本としては、ミスが多すぎるので手放しで褒めるわけにはいかないが
今の自分にぴったりの本であったことは間違いない。

628korou:2021/06/29(火) 20:34:41
みの「戦いの音楽史」(KADOKAWA)を読了。

1か月ぶりに開館した県立図書館で
新刊コーナーにこの本があったので
今やっているyoutube動画編集作業との関連も感じられて
借りることにした。
実際に読んでみると
前半はまあまあの感じで、後半は期待外れという感想。
もともとボリュームのない本(大きな活字で250p程度、1時間で読もうと思えば読める)なので
内容の詳しさとかは期待していなかったが
1990年以降の音楽について、あまりにあっさりと書かれていたので
知りたい知識が全く増えなかった。
それ以前にしても
網羅的ではあったけれど
さすがに叙述が簡単すぎるのと
主な重要人物の選択にも制限がかかっていて
物足りないこと夥しかった。
やはり、この種の本をキッチリ書くのは難しい作業なのだろう。
誰か書いてほしいのだが。

629korou:2021/07/05(月) 11:19:01
伊藤金次郎「陸海軍人国記」(芙蓉書房)を読了。

トイレに持ち込んで、ちょっとずつ読み進めていた本で
1回につき1〜2ページ程度しか進まないので、毎日の用足しとはいえ
500ページ上下2段組みの本なので、読了までほぼ半年から1年近くかかった(読み始めの正確な日付が分からない)。
なにはともあれ、本日読了したので
古本市で20年ほど前に買ったこの本を、やっと読了できたことになる。

もともとは昭和14年に発行された本で、それを昭和55年に復刻したものを手に入れたわけである。
日中戦争が最も有利な展開になっていた時期で、まだ事態は泥沼化していないので
軍部を語る口調は肯定的で、日本の未来は明るいものとなっている。
本の構成は、日本列島を自在に横断し、各地方別に出身軍人を取り上げるというもので
やはり将官級人物を中心に、将来有望な左官級軍人をいくらか混ぜて
その功績がつぶさに語られている。
このような経緯、時期で出版された本だけに
2021年の今読み返すならば、かなりのリテラシーと予備知識が必要であることはいうまでもない。
少なくとも、陸軍の長州閥と海軍の薩州閥については知っていないと判読不能にもなるし
日本万歳風の叙述も、当時の世相、軍部礼賛の「空気」を察知して読まなければならないだろう。

そのような制約があるとしても
これだけの人数の軍人をとりあげて人物評している本は
なかなか見当たらないので貴重である。
読めば読むほど手放せなくなる本であることは間違いない。
巻末の索引も重宝するし、我ながら良い本を入手したものだと自画自賛したくなる。

630korou:2021/07/07(水) 18:18:58
君塚直隆「ヨーロッパ近代史」(ちくま新書)を読了。

中世以降の西欧史に興味を持ち始めていたので
この本を図書館で再発見(一度見つけていながらその5分後には無くなっていたという体験アリ)した時には
即借りることにした。
しかし、読み始めて、それが特定の人物の小伝をつないだような叙述であることが分かり
いささか気が削がれた。
それでも、基本的な史実については洩れなく記されていたので
少しずつでも読み進めていくことにした。
それにしても、その小伝がすべて近代の芸術・科学の担い手ばかりで
いうなれば統治者の歴史からみれば脇役に過ぎない人物ということなので
やはり隔靴掻痒の念は免れない。
王や皇帝を中心にした西欧近代政治史を読みたかったのだということを
改めて感じた次第である。
そうした点を除けば、叙述はシンプルで分かりやすく
しかも最後のまとめの章で、西欧の近代に芽ばえた「個人」の意味を追究する叙述などは
著者の史観をも連想できるものであり
歴史の叙述として一貫したものを感じ、なかなかの好著だと思えた。
それにしても、最後の方のレーニンの小伝など
つい最近別の本で同じような内容を読んだはずなのに
その大半を思い出せないという情けない記憶力を感じてしまった。
仕方ないのだが、がっかりである(自分に)。

631korou:2021/07/12(月) 17:24:44
吉沢英明「Wikipedai完全活用ガイド」(マックス)を一通り読了。

もともとは、そろそろWikipediaへの投稿を再開しようかなと思い
その参考にと思って借りた本だったが
内容が薄すぎて、その目的には全くふさわしくない本だった。
Wikipediaに関するマニュアル本というのが
ほとんど出版されていないのが現状なわけで
想定読者数が少ないということは
そういう目的をもった人は
冊子形態の活字本などでそういう知識を得ようと思わない
ということの裏返しのようだ。
薄い内容の割には細々とした叙述も目立ったこの本のおかげで
”Wikipedia雑学”だけはそこそこ増えた。
とはいえ、本当に役立ちそうなことは
項目の右端に✯印のあるものは優秀項目であるということぐらいか(それも日本語版で100項目以下しかないし)。
コモンズの説明も分かったような分からないような感じで
どうも役に立った読書とはいえない感じだが
類書もないのでどうしようもない。
(2006年12月発行という古さは我慢するとしても・・・)

632korou:2021/07/19(月) 21:57:33
中西孝樹「CASE革命」(日経ビジネス人文庫)を読了。

Web雑誌の何かで紹介された本の関係でこの本の存在を知り
さっそく県立図書館で借りてみた。
読み始めると、期待に違わず充実した内容で圧倒される思いだったが
とにかくカタカナ語、英語の略語の多さには困ってしまった。
内容が内容だけに、日本語の訳語などが間に合わないのは分かるのだが
これだけ多いのであれば、基本用語についてまとめた章を設けてほしい思いだった。
まあ面倒くさがらずに逐一ヤフーで検索すれば事は足りると思い直し
なんとか読み進めた。

「C」Connected
「A」Autonomous
「S」Shared&Service
「E」Electric
ということで「CASE(ケース)」なのだが
さすがに文庫本1冊の中で繰り返しその内容が説明されているため
読み終わったときには、その細部まで完全に理解できていないにしても
大体のイメージは浮かぶようにはなった。
それにしても、自動車業界の今は大変な過渡期となっていて
それは、20年ほど前の電機業界と同じような激変期とも言えるのだが
日本の業界はその激変の流れに乗ることができず、今や電機業界は壊滅状態。
願わくば、自動車業界がその轍を踏まないようにしてほしいものだ。
それと、もしこの本の内容が正しければ
自分は何とかその激変後の世界は体験せずに済みそうだということで一安心。

633korou:2021/07/19(月) 22:11:38
川崎大助「教養としてのロック名盤ベスト100」(光文社新書)を読了。

アメリカのローリング・ストーン(RS)の2012年改定版リストと
イギリスのニュー・ミュージック・エクスプレス(NME)の2013年版リストを
それぞれ合計して出したベスト100のロック名盤を取り上げた本。
ビルボードのチャートを追いかけた結果、そこから洩れている最大の音楽ジャンル、ロックについて
見聞を深めたいと思い借りた本だ。
読了の結果、見聞が深まったかといえば
なかなか難しいところで
確かにいくつかのアーティストについては
実際にyoutubeで音源を確認したりして見聞は広くはなったものの
全体としては、さほど新鮮な驚きがない残念な感じも残った。
やはり、特定の年だけのランキングというのは
どうしても偏りが出てしまい
そこには”音楽史を語る”という客観的、啓蒙的なモードは抜けてしまっているわけだ。
レッチリ、グリーンデイ、オアシス、U2などが抜けてしまっているし
その反対に、ジョン・コルトレーンやマイルス・デイヴィスなどのジャズを入れる根拠は何なのか?
ボブ・ディラン(5枚)、デヴィッド・ボウイ(4枚)、ブルース・スプリングスティーン(3枚)は
偉大なのは分かるとしても、選ばれた枚数が多すぎやしないか(全部で100枚しかないんだぞ)。
というわけで、音楽史的イメージは全くふくらまなかった。
案外、自分が所有している本に、そういう知的欲求を満足させてくれるものを見つけたので
またその本を取り出して読むことにしよう。
この本はこの本で、ランキングのつけかたを明示している以上、特にこれ以上不満を書けるわけでもない。

634korou:2021/07/22(木) 13:29:26
松本重治「昭和史への一証言」(毎日新聞社)を読了。

30年ほど昔に買った本で、ずっと本棚に置いていて
やっと今回読了したということになる。
きっかけは、やはり関口宏の「近現代史」をずっと録画して保阪正康氏の解説などを観ているうちに
ふと軍部の中国進出については、この本に詳しく書いていたなあということを思い出したからである。
かつてその部分だけを抜き読みしたことがあったのだが
そういえば最初から読んでいないなあということになり
今回、トイレ本として少しずつ読み進めてみた。
松本氏が優れた国際人であることには間違いないが
必ずしもその信条、判断基準に誤りがないということではないことも
読む前の予断としてあった。
そして、大体その通りの読後感となった。
これだけの経歴、家柄にあって、戦後日本への貢献があまりに少ないのではないかという不満も残る。
その一方で、他人には言えない健康上の不安が影響していたのではないかとも推測できる。
そういう人格への疑義は残るものの
こうして聞き書き(聞き手は國弘正雄氏)という形で出来上がった本自体については
余人をもって語ることのできない重要な史実について
その舞台裏を明らかにした昭和史研究の必読本となっている。
少なくとも、当時の中国の様子をこれほど具体的に生々しく語れる人は
出版時の1985年の時点にあって稀であったに違いない。
昭和史に興味のある人間には必読書というべきだろう。
できれば、本人がもっと若いうちに書いた「上海時代」も読みたいのだが
たしか活字の大きさが小さかったように記憶しているので諦めるしかないか・・・

635korou:2021/07/30(金) 17:17:57
常松裕明「笑う奴ほどよく眠る 吉本興業社長・大崎洋物語」(幻冬舎)を読了。

2013年、現吉本興業会長大崎洋が社長時代に出版された本で
著者は「噂の真相」出身の常松という人(元々は日刊ゲンダイの連載)。
2019年の反社騒動以前に書かれた本だけに
終盤に繰り返し現れる反社関係との人物との関係も
結構正直に書かれていて、そのあたりが面白いのは皮肉でもある。
終始、会社のアウトローを自認しているものの
実際にはこの人が会社の主流を歩んでいたことは否定しようもなく
そのあたりのムリさ加減が、いささかこの本の価値を下げているのは残念だが
そこを読み取れない人が案外多数居て
アマゾンの素人書評で「感動した」とか書いているのは滑稽だ。
木村政雄の配下に居て、東京初進出の功労者で、さらに紳助、さんま、ダウンタウンの実質マネージャーで
主流になれないわけがない。
やっかみはあったかもしれないが、そのあたりをアウトローという立場に偽装して書いているのは事実捏造だし
木村の仕事とされる新喜劇の立て直しを、自らの功績と断言しているのも、眉唾ものだ。
全体として、何がどうなってこうなったからこんなことになったという因果関係が全部ぼかされていて
読んでいてさっぱりわからない本になっている(どうして吉本が発展していったのか?細かいところでは「いいとも」の横澤Pは
東京支社長としてそこまで無能?)。
ただし、出てくる人物はお馴染みの人物ばかりだし、終盤の中田カウスとか紳助との関係などはリアルだし
面白く読める本であることは間違いない。
一気読みできて面白いし、部分的には十分納得できる叙述も多いのだが
吉本興業の歴史として参照するのは、かなりのリテラシーをもって読まなければならない本であることも確かだ。

636korou:2021/08/07(土) 22:03:56
トラヴィス・ソーチック「ビッグデータ・ベースボール」(角川書店)を再読了。

同じ本を2回読むことについては
今までそこまでの心の余裕がないせいもあって
少なくともこのスレにおいては例のないことだったが
ついにその禁?を破った。
というのも、今現在のMLBの試合を観るにつけ
この本で書かれたことの延長上に展開されていることは
紛れのない事実であり
そのことは、この本を初めて読んだ2016年には
そこまで痛切に分かっていないことだったからである。
今読むとどうだろうか、ある意味ワクワクしながら再読した。
今まで再読したことは何冊かあるのだが
これほど短期間の再読はあまり例がなかったし
さらに実際の世界で起こっていることを再検証するような読書というのも
例のない体験で実に面白いことに思えた。
再読してみて、初読のときに結構深く読み込んだはずなのに、実はそうでなかったことを痛感した。
若い時に読んだ本を再読して、何と浅い読書だったことかと思うのはよくあることだが
たかが5年前の読書でもこういうことがあるのかと驚かされた。
どう読んでもパイレーツが初めてビッグデータを駆使したチームではないこと。
要するに財政的に苦しい球団のやむを得ない”徹底”だったこと。
ピッチフレーミングというのが、審判の目を誤魔化すかのような技術では決してないこと。
ツーシームを投げる投手が、この時点では脚光を浴び始めていたこと。
すべて前回の読書では読み落としていた。
トータルでの読後の印象をすべて正確に書き連ねることは、現段階では困難だし、その必要もないだろう。
自分にとっては本当に必要な再読だった。

637korou:2021/08/26(木) 17:54:04
船山基紀(著)、馬飼野元宏(構成・文)「ヒット曲の料理人 編曲家 船山基紀の時代」(リットーミュージック)を読了。

たまたま県立図書館の書棚で見つけた本で
借りた後から、これはシリーズ物企画のようなもので第1弾として萩田光雄の本が出ていることに気付いたが
まあ第2弾から先に読むこともよくある話なので、仕方ないところ。

最初のほうで、やはり萩田氏の先駆的仕事のことが書かれていて
このあたりは先に読んでみたかったところだが
途中からは、船山氏独自の個性が全開となっていったので
これはこれで完結した評伝となっている(形式上は本人の著作ということだが評伝的性格も強い)。
アレンジャーの仕事というのは
筒美京平の仕事を考えた場合、非常に重要なポジションを占めているわけで
筒美氏に注目しっぱなしの自分としては、当然関心は高いことになる。
その意味で、この本に書かれていることは、筒美氏の仕事の内容を逆方向から照らしている感じで
興味深いことこの上なかった。
もちろん、船山氏は萩田氏ほどには筒美氏に密着した関係ではないので
途中からは船山氏独自の仕事の叙述が中心となっていく。
それはそれでアレンジャーという仕事の魅力を存分に語った本になっている。

それにしても、すでに10年以上実績をあげてプロ中のプロと目された船山氏に対して
CCBのデビュー曲のアレンジを依頼した筒美氏が、そのアレンジを聴くなり
本人の目の前で「これは船山君より大村君に頼んだほうが良かったね」と言ってダメ出しをするエピソードは
筒美京平という人間が、いかに仕事人間、仕事一途の職人であったかということを
残酷なまでに表していて、読んでいてゾクッとした。

末尾に詳細なディスコグラフィーもあり、途中に挟まれる関係者へのインタビューも人選・内容ともに的確だし
この種の本としてはよく出来た本だと思う。

638korou:2021/08/27(金) 17:29:37
一応記録だけ。

本日、大型本「ノモンハンの夏(中)」を読了。
あとは下巻のみ。

639korou:2021/09/29(水) 16:30:10
うーむ、1カ月以上読了本がないという珍記録となってしまった。
県立図書館のコロナ禍による長期閉館の影響は、思ったより大きかったかな。
今回は、そんな中で、トイレ本として継続して読んでいた本の読了報告。

「歴史読本WORLD 特集・アメリカ合衆国大統領」(新人物往来社)を読了。

この本を買ったのは1988年。
当時はレーガン政権の2期目満了の頃で、
次の新大統領の選挙がいよいよ本格的に始まったという時期。
まあブッシュ父以降のことは他でも調べられるので
それ以前の大統領について知識を増やしたいと思い、今回やっと完読。
こうして列伝を読むと、転機はセオドア・ルーズベルト大統領のときで
彼より前の年代の大統領に関しては
ワシントン(初代)からジャクソン(7代)までと、リンカーン(16代)の
8人だけ知っておけばいいくらい、無力な存在に思えた。
やはり20世紀以降がアメリカの時代なのだとつくづく思う。
そして、それは経済面での台頭もあったが
T・ルーズベルトのような政治家の出現も大きな要因であっただろう。
政党の果たした役割とか、連邦政府と各州の関係など
今一つ記述が欲しい部分もあったが
やはりこうした列伝は自分としては大好物であることを再認識した。
ということで、次回のトイレ本は、日本の首相列伝ということにした。

640korou:2021/10/10(日) 12:33:49
ベン・リンドバーグ、トラビス・ソーチック著「アメリカン・ベースボール革命」(化学同人)を読了。

県立図書館で予約して、1人待ちの後、臨時閉館中に確保済みの連絡がメールで来て
ギリギリのタイミングで借りに行き、家に帰って確認したら
もう次の予約が入っていて貸出延長は不可になっていたという経緯で読み始めた本。
自分のコンディションのせいなのか、翻訳の文章のせいなのか、どういうわけかMLBのことが
詳しく書いてある本なのに、なかなか読み進められず、かといって貸出延長ができないので
ずっと焦りながら読み続けることになってしまった。
しかも、期限である10/12(火)は天候不良なので、今日返却しておきたいと思い
急いで読み進めて、読後の余韻もなくすぐこうして感想を書き始めるという余裕のなさである。

というわけで、現時点では要領よくこの本の大意をまとめることができない。
500p近いボリュームにふさわしい、現時点でのMLBの状況が幅広く、洩れなく記述されている良書だと思うのだが
その内容を手際よくここに書き切ることは(内容の多彩さもあって)不可能である。
とにかく「選手の育成」ということに焦点を合わせていて
20年前の話題作「マネー・ボール」が、同じデータ活用でありながら「選手の発見」に注目した本であるのと
好対照である。
そして、それがあまりに合理的であるために、特定の球団(アストロズ)の暴走を招いた点についても
エピローグにおいて触れられていて、近いうちに行われる予定のMLB労使協定についての懸念についても書かれている
徹底したリサーチ、話題の展開力が魅力の本でもある。
もう1回ぼんやりと全体を復習して読み直したいのだが、もう返却するしかないのでそれも敵わない。
あーあ。プレーオフの面白そうなシーンの観戦も中断して読了したというのに・・・残念。

641korou:2021/10/18(月) 18:07:49
泉麻人「昭和40年代ファン手帳」(中公新書ラクレ)を読了。

泉氏得意の昭和ノスタルジア物で
昭和40年代に子供・大衆レベルで流行ったものを
各年ごとにまとめた読みやすいエッセイとなっていた。
この種の本に細かい分析などは不要で
まさに読んで楽しめればそれで良し、世代が違えば何の面白みもない本
ということになる。
著者自身がごく普通の感性の持ち主なので
書いてあることに全く違和感がなく
さらに当時書いていた日記からの記述も多いということで
正確な年代史になっているのも
この本の美点だろう。
本当は、この本から創作のヒントをもらうつもりだったが
読んでいくうちに
そういうことはどうでもよくなった。
(この本の後「ぼくら昭和33年生まれ」という、趣旨のよく似た本を読み始めているが
 そちらは特殊な感性の人が書いているので
 同じような本でありながら読後感は違っている)

642korou:2021/10/22(金) 17:44:11
四家秀治「ぼくら昭和33年生まれ」(言視舎)を読了。

泉麻人の本と同じく、ノスタルジアものなのだが
著者がクセのあるマスコミ人(アナウンサー出身)な分だけ
クセのある本になってしまっている。
結構古いタイプの性格のようで
自分とはかなり違う意見、感性の持ち主のように思われた。
さらに”補注者”なる人物が、随所に補足的な記述をしていて
その記述も結構クセがあるので
泉サンの本を読んでいるときほどリラックスした感じの読書にはならなかった。
逆に、そういう真反対の感覚の人だからこそ
今の自分が忘れ去っていた出来事が結構詳しく書かれていたり
同じ出来事でもそういう感じ方があるのかという発見もあったりした。
巻末の小宮悦子との対談では
著者のその個性が空回りして
悦ちゃんに軽くいなされたりしているのが痛快だった。
また、藤沢周へのインタビューの部分は
なかなか興味深いものがあった。
ポストモダンから歴史への回帰というテーマは面白い。
読んだことのない作家だが、機会があれば読んでみようかと思わせた。

まあ、難しいこと言わなければ、ノスタルジアものというくくりでもよい本なのだが。

643korou:2021/11/10(水) 10:06:07
岸信介・矢次一夫・伊藤隆「岸信介の回想」(文藝春秋)を読了。

文春学藝ライブラリー(文庫サイズ)で474p、
ただし巻末の資料編が大部で130p以上もあり、その部分を借りた本で逐一読むことは難しいので、
そこは略して読んだが
それでも部分的に小さな活字もあったりして、さらに偶々の眼痛もあって
これだけ面白い本なのに読了するのに結構時間を費やす結果となった。

全体として、岸の政治家としての信条がよく分かる本になっており
その点は岸としても会心の回顧録と言えるのではないかと思われる。
岸の残した業績は多岐にわたっているので
その業績をいったん肯定的に評価してしまうと
意図しようがしまいが結果として”提灯本”になりがちだが
この本は、岸本人が自身の業績を淡々と語っているので
そういう悪しき傾向に陥っていないのである。
元々記憶力の良い人なので、矢次のサポートは不要とも言えるが
それでも本人が喋りにくいであろうところを先回りして察して
無難な解説を補足するあたり
いかにも岸との付き合いの長さを思わせる配慮を見せている。
伊藤教授の質問はやや公式的で、岸・矢次の淡々としたスタンスとのギャップを感じた。
もっと岸・矢次のスタンスに寄り添った質問で掘り下げる方向で話を進めてほしかったのだが
これはこれで仕方ないというか、こういうオーラル・ヒストリーの企画を実現されたことを評価するしかないだろう。
特に矢次は、この企画の後数年も経たず死去しているので、その意味でも貴重なオーラル・ヒストリーになっているわけだ。
個々の論点についての感想は、また別の機会で違う形で書くことにする。

644korou:2021/11/10(水) 12:05:08
読了しなかった本、的場昭弘・佐藤優「復権するマルクス」(角川新書)について。

マルクスについて、資本論について、共産主義国家について、ソ連について
もっと具体的に、この2021年の現在において、もっと知りたいと思い借りてみたが
いきなり「国家と市民社会」、「マルクスと宗教」といった副次的かつ難解なテーマについて
博学な著者たちが、高度な基礎知識を前提にして語り始める本だったので
早々と読書意欲を削がれてしまった。
今日になって、全体構造を見ておこうと再度チェックしたら
第3章の「社会主義はなぜ失敗したのか」のあたりが
そこまでの難解な対話から一変して
具体的な留学時での体験を語り合う箇所になっていたので
急きょ、そこだけ読み通した。
ソ連崩壊から東欧社会の変動に至った時期まで、1990年頃までの
その地域での生活はもっと再認識されてもいい、日本では誤解だらけだという指摘は面白いと思った。
国外へ出れば自国通貨が弱いのでダメだが
国内に居る限り、意外と充実した生活、人間らしい生活が送れるというのは
意外だった。
そして第4章以降も覗いてみたが
資本論の話、マルクスの可能性の話となると、また難解、というか細かい話になってしまい
これも読むのは断念。
結局、70年代から80年代にかけての東欧諸国(主にユーゴ、チェコ)での具体的な話を読む
という読書に終わった。
まあ、それだけでも結構面白かったけれど(佐藤、的場両氏の博学が効いている)

645korou:2021/11/17(水) 11:07:10
末廣健一「岡山表町商店街物語」(吉備人出版)を読了。

何かのきっかけでスネークマンショーの桑原茂一の表町での少年時代のことを検索したときに
この本の存在に気付き、県立図書館で予約をかけたところ、すぐ貸出可になったので借りることにした。
思っていた内容に近いところもあり、そうでなく単なる個人の趣味をだらだらと書き連ねている部分もあり
特にプラモデル制作の蘊蓄を語る部分は途中で読み飛ばしたりもしたが
全体としては、この種の本がもっと欲しいと思わせる好著ではあった。
何よりも、著者が表町(上之町)で周囲の人たちに十分に可愛がられ愛されていた存在であったことが
この本の内容をかなり前向きにさせているのを感じ
自分にもしこれだけの精密な記憶が残っている環境、世代であったとしても
随分違った感じのものを書くに至っただろうと想定できるのである。
そうした現実肯定的な気分は、その後の朝日高校での充実した生活とか
自分の感性、趣味に合った職業、進路選びにもつながっているわけで
自分とは正反対の人生を送った人なのである。
そういう感性で表町を思う気持ちというのは
自分には想像もできない部分であり
その意味では大変興味深かったのだが
その反面、そうじゃないだろうという気持ちが残るのも事実である。
著者の音楽趣味が随分と軽いものであることを、この本の記述により知ることになるが
そうした数少ない欠点を知ることで、我ながら嫌味たっぷりな優越感に浸ったことも
間違いなく事実なのである。
その意味では読後感としては、読む前の予想よりはかなり違ったものにはなったが
まあ、それでも結論として好著であることも間違いない、まあ複雑なテイストだなあ、これは。

646korou:2021/11/19(金) 18:00:45
ジョン・G・ロバーツ+グレン・デイビス(森山尚美<訳>)「軍隊なき占領 戦後日本を操った謎の男」(講談社+α文庫)を読了。

岸信介のオーラルヒストリーの本を読んで
ハリー・カーンという謎の人物に興味を持ったところ
その人物についての格好の著作があるというので
すぐに借りて読んだ次第。
ある程度予測はしていたものの、想像以上に「陰謀もの」だった。
そして、陰謀論の本によくみられる欠点が、読むにつれてどんどん気になってきだして
途中からは読み続けるのが苦痛にすらなった。
これは、最近になって広瀬隆の本を読む際に感じる不快感と同質のものだった。

たしかにGHQの「逆コース」について、いろいろな関係者が暗躍したことは間違いない。
しかし、それは正式なルートでも解析可能なので、
そこを強引に非公式なラインからの解説で強調する必要はないのである。
開戦直前の日本からの対米和平工作について
いわゆる神父たちの暗躍が民間外交として知られてはいるものの
そこは、松岡外相の公式外交と近衛首相の対米外交との齟齬、及び野村駐米大使の奮闘をメインとして
そのサブストーリーのなかで神父たちを記述すればいいだけの話なのだ。
それと同様、ダレス、ドッジなどの活動、米国本土でのマッカーシー旋風などをメインとして
サブストーリーのなかでハリー・カーンたちを描いていけばいいだけの話に思えた。
この本では、マッカーサーの占領行政の方向を”反共”に変えたのは
カーン一派の功績が大きいという前提で書かれているので
終始違和感がつきまとった。
未知の人物も多く登場したが、大半はネット上にデータが存在していなくて
その点も、この本の叙述が公式に認められていないことを示すように思われた。
活字が大きいので、苦しくても読了はできたが、なかなかオススメはできない本。

647korou:2021/11/25(木) 10:44:44
「ノモンハンの夏」(半藤一利)<大活字本>を読了。

かつて活字の小ささのせいで読むのを断念していたこの名著が
大活字本で県立図書館にあるのを知り、すぐに上巻(全3巻)を借りて読んだのがこの夏のこと。
すぐに読み終わり、中巻に進み、これも読んだところで、県立図書館がコロナ禍で1か月ほどの臨時閉館となり
中巻を返却した時点で一時ストップとなる。
図書館が再開して、しばらくして行ってみたところ、全3巻全部が借りられて現物が消えているのに呆然となる。
それから2か月ほど経ち、ノモンハンへの興味というか読後の記憶そのものが薄れてきて
どうしようかと思案したが、このままではあまりに中途半端なので
再び現物が戻ってきたのを確認後、定評ある研究書と一緒に下巻を借りることにした。
その下巻を今日読み終わり、これで全3巻読み通したことになる(ただし現時点で上巻と中巻の記憶はほぼ薄れている)。
ただし、半藤氏の丁寧な記述、注釈とか、巻末の土門周平という方の全巻の内容をコンパクトにまとめた記述などのおかげで
下巻だけの記憶しかない中途半端な読書ということにはなっていないので、助かる思いである。

それにしても、読んでいてこれほど怒りがこみあげる本もなかなかないだろう。
司馬遼太郎がノモンハンの本を書き上げることができなかったのも
こういう誰もが感じる怒りの感情、それも激怒に近い感情、そうしたコントロール困難な精神状態のせいだろう。
しかも、誰もが辿ることになる、つまり、その激怒の感情がいつしか諦めの感情になっていくこと自体、自分でも許せなくなり、
そうなると、渾身の大作になるに違いないこの素材を扱うことすらできなくなる。
本当に気の毒すぎる下士官、兵卒たち、これこそ無駄死に、犬死というものだ。
日本人自体、戦争を指揮する人材を大量には生み出せない民族なのだろう。
上杉謙信、武田信玄は輩出できるが、それ以上同時代には生み出せないのだろう。
そう思うしかない、こんなヒドい高級軍人ばかり見せつけられては。

648korou:2021/11/26(金) 15:58:39
岩城成幸「ノモンハン事件の虚像と実像」(彩流社)を読了。

ノモンハン事件に関する最新資料が網羅された話題作ということだったが
実際に読んでみると、著者が元国会図書館職員ということもあって
全体の脈絡が不明というか漠然とした最新情報源の羅列ばかりの本だった。
もちろん、ゾルゲとの関連、石井部隊の活躍など
他の類書ではあまり見たことのない項目も多く
その点は参考になったのだが
肝心の事件概略について記述した部分が皆無なため
そもそもノモンハンで何があったのかについては
同時進行で読んでいた半藤さんの著作に頼るほかなかった。
同一テーマについて複数の研究者がそれぞれの視点から論を深める、といったタイプの本は
よく見かけるが
これは一人で書かれた本であり、なおかつ、
第一章に「村上春樹と司馬遼太郎のノモンハン事件」、第二章が「ノモンハン事件の主要文献、研究動向」ときて
第三章に「ノモンハン事件の概要と敗因」とあるのだが、そこには概要についての記述がほぼなくて
第四章で「同事件の見直しと歴史上の”もし・・”」とあるのに、大した「もし」の記述がなく
第五章以下は、自分の調べ得た範囲のみの各論が延々と続くのである。
途中からは読み進めるのに苦痛を覚えたが、飛ばし飛ばし何とか300p弱を読み終えた。
入門書の延長にある本ではなく、研究者のための論文集のような趣き。

649korou:2021/11/27(土) 17:01:00
有元葉子「今さら聞けない料理のこつ」(大和書房)を読了。

少しは料理のことについて知識を広げたいと思い、県立図書館で借りてみた。
ただし、今回の本は、”レシピ以前に知っておきたい”という副題を
初心者のための本と勘違いして理解していて
実際に読んでみると、料理の初心者というより
中級者程度のある程度献立を工夫し始めている人が
今後の参考に読んでおくための本だったようだ。

ということで、実際には今の自分にはあまり役立たない本だったのだが
まあ、こういう失敗はよく知らないジャンルだとよくある話だと思い
要は、こうした感じで次々と読み進めていくことだと悟った。
沢山読んで、沢山忘れて、それでも頭に残っていった部分で
スタートしていくしかないだろう。

ということで、この本についての感想はここまで。
次回も料理の初心者用の本を探して、借りることにしよう。

650korou:2021/12/01(水) 11:29:53
嵯峨隆「頭山満」(ちくま新書)を読了。

今年になって読んだ頭山満の伝記本は
かなり頭山の思想に共鳴の深い著者の手になる本だっただけに
随所に礼賛の記述が見られて、その点で違和感も多かったので
県立図書館の新刊本コーナーで見つけたこの本については
当然ながら客観的な叙述というものを期待するところ大であった。
読了した直後の今の印象で言うと
たしかにある程度は客観的な視点も感じられたのだが
新書としての独自性を出そうとするあまり
その思想から独自のアジア主義を抜き出すことを強調し過ぎて
叙述が空回りしている点も否めない、という感じだ。
頭山翁がアジアの関心が深かったというのは事実としても
単にそうしたインド、東南アジアなどの政治面での先駆者と対面したというだけで
何かを成し遂げたというわけでもないだろう。
やはりもう少し肉付けが必要で
結局、本当のところは、たまたま出会いがあって、そこから関係を深めた数人についてのみ
少なからぬ援助を施したという程度ではないだろうか。
そうなると、ムダなことにかなりのページ数を費やした本ということにもなる。
とはいえ、なかなかコンパクトな伝記すら見当たらない頭山翁について
やっと新書サイズのきちんとした本が刊行されたこと自体は
画期的なことである。
新書であれば数年は大型書店で現物が並ぶ可能性があるので
歴史の裏道に興味がある人たちにとって便利な本となることは間違いないだろう。
一応、それだけのクオリティは備えている本ではある。

651korou:2021/12/02(木) 18:05:56
高木大成「プロ野球チームの社員」(ワニブックスPLUS新書)を読了。

今日、県立図書館で借りた本で、もう今日のうちに読了してしまった。
大きい活字で170ページ程度、文章も平易で内容も明快なので、さすがに1時間程度あれば読了可能だ。
高木大成という久しぶりに見た名前と、書名が表す明快な内容に惹かれて、借りてみた。
読んでいくうちに、これは自分にも共通する物語だなと思えてきた。
32才で最初の社会人人生というか、その職業の人生を終え
似たような感じではあるけれど、それまでの経験が直には活かせない別の職業に転じ
しっかりとそれに向き合っているうちに、その職業も自分に向いているのではないかと思え
そこからまたまたもっと知らない世界の職業に転任して、そこでもやれることはすべてやりながら対応し
今また戻ってきて、47才の今充実しているという流れは
そのまま自分の人生に重なってくる。
(ここからの人生は、自分にとってはそれほど楽しいものではなくなってくるのだが
 それは自分だけの独特な世界なので、高木氏には参考にならないだろうが)
そう思って読んでいると、おのずからページをめくる手が早くなっていくのが分かる。

まあ、そういった個人的感慨は措くとして
本の内容についていえば、西武ライオンズがどうのこうのというよりも(具体的に書いてあるのだが、実際にそれを体験できないので)
パ・リーグの最新の動向、球団同士が連携して効率的な運営の仕組みを発展させたことについて
分かりやすく書いてあるのが参考になった。
映像関係のライセンスを、球団自身がコンテンツを制作した上で、共同管理することで効率的に収益を上げているのは
素晴らしいし、今やそれは米国まで輸出できるコンテンツ、運営になっているのには驚いた。
そうなると、セ・リーグの立ち遅れが惜しいところだ。
そんな新しい知見を得ることができた。
名著という類ではないが、NPBの現状をイメージするのに最適な本だと思った。

652korou:2021/12/06(月) 20:13:38
スージー鈴木「EPICソニーとその時代」(集英社新書)を読了。

県立図書館で借りて、ゆっくり読もうと思っていたら
知らん間に予約が入ってしまい、期限内に返却しなければいけないことに。
急いで、今日一日で読了。まあ1日で読めるライトな本ではあるけど。
最初の章で、EPICソニーが出した名盤を逐一年代順に紹介、評価、コメントを行い
次の章で、ざっとEPICソニーの歴史を、特にキーとなる人物中心に記述、
最後の章で、そのなかでも特に重要な小坂洋二、佐野元春の2名へのインタビューという構成。

最初の章では、youtubeで実際に聴いてみながら読み進めていった。
バービーボーイズなんて今までほぼ聴いていなかったのだが
こうして聴いてみると、男女のツインボーカル、それも個性的な声質、歌唱のボーカル
というのも案外日本では珍しいのではないかと思ったし
LOOKの「シャイニンオン」などは懐かしく、また改めて聴いてみて素晴らしいボーカルだと再認識。
岡村靖幸は相変わらず訳が分からない。訳わからなさでは椎名林檎と双璧か。
大沢誉士幸のサウンドも、今聴くとなかなかクオリティ高い。

第2章の歴史編は、今日ではなく借りてきた日に一気に読んでいたので、もう内容については忘れかけている。

第3章のインタビューは興味深かった。
小坂洋二という人そのものが面白かったし、
後で知ったのだが、大塚博堂の「めぐり逢い紡いで」の作詞者”るい”は小坂氏のことだったというのも驚きだった。
佐野元春のインタビューも、佐野さんの人柄もにじみ出ていて愉しく読めた。

さらに「リマインダー」というサイトも発見(これから探索する予定)。
予約でせかされたとはいえ、なかなか収穫の多い読書になった。

653korou:2021/12/10(金) 21:44:07
歴史読本WORLD「20世紀の政治家たち」(新人物往来社)を(主にトイレで)読了。

トイレ本第3弾?かな。
とにかくタメになる本だった。
アフリカはもちろん、中南米なども全く政治情勢などに無知だったので
この本で主要政治家とその業績をおおまかに知ることができ有意義だった。
また、アフリカ、中南米の国々では
なかなか民主政治が実現せず
形だけはソ連の独裁制を真似た疑似共産主義のような政体になっていくのも
独立までの諸事情などから頷けたし
この本の出版時期(1989年)以降の政治情勢についても
Wikiで確認したりできるのも、ネット時代の良いところだ。

ナセル、ネルー、あるいはチトーなどは
本当に大政治家だと思う。
思えば日本において、こういうスケールの政治家となると
戦後誰一人として思い浮かばない。
全世界的にも、随分と政治家が小粒になったのではないだろうか。
20世紀の特に中盤にそうした優れた政治家が続々現れたことに
何か理由があるのだろうか。
そんなことも思わせた本だった。

654korou:2021/12/15(水) 10:45:02
小熊英二「<民主>と<愛国>」(新曜社)を読了。

800ページにわたって、一読で理解できるような容易なものではない文章が延々と連なっている大著。
時に史実の叙述というか、取り上げる人物の小伝のような部分も挟まってはいるものの
その大半は、著者曰く「名前のない”何か”」というべき言葉をもたない概念、それも本書の主題となるべき重要な概念について
それをめぐる知識人たちの言葉の使い回しとか、その言葉が時代によって”読みかえ”られる過程を丹念に追跡していく記述であるため
本当に読むのがしんどく、大変な読書だった。
にもかかわらず、途中であきらめることなく読み続けられたのは
そこに書いてあることに多くの真実らしきものが感じられ
なおかつ、例えば「吉本隆明は何を訴え、何を書き、そしてそれが多くの人に影響を与えることになったのか」というような
今までの自分が全く知っていなかったことについて、新しい知識をもたらす読書であったことが大きかった。
膨大すぎる新しい知見のせいで、mixiの日記まで書いてしまったが(当掲示板の「政治・経済」スレまで復活!)
結局、この本について、読後直後の今の時点で
多くを語ることは不可能に近いと言わざるを得ないのである、

この著者には、まだまだ多くの読むべき著作があるのだが
今回の読書のしんどさを思うと、そうたびたび読破に挑戦できるものでもないと痛感する。
『単一民族神話の起源――<日本人>の自画像の系譜』(新曜社 1995年) とか
『<日本人>の境界――沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮:植民地支配から復帰運動まで』(新曜社 1998年)などは
いずれ読んでみたいとは思うのだが
しばらく間隔をあけたいと思う。
今は、今回の読書について、いろいろなキーワードを心にとどめ
徐々に発酵させていきたいと思っている。

655korou:2021/12/21(火) 16:57:20
マイケル・ルイス「マネー・ボール」(ランダムハウス講談社)を読了。

以前読了したはずの本だったが
このところMLB関係の面白い本をいくつか読んでみて
この本の内容をほぼ忘れかけていることから再読しなければと思い
今回再読してみた。
案の定、初めて読んだ本だった・・・(爆)

そもそも2002年のアスレチックスのレギュラーシーズンの戦いぶりを描いた本だということを
初読の際にきちんと認識できていなかったというのも不思議だが
それはともかく、当時はとても読みにくい本だという印象だった。
今回、再読してみて、その印象について前半は正しく、
後半の主にA'sの試合ぶりを描いた部分では全く正しくないことが分かった。
初読のときには後半を読んでいなかったのではないかと思ってしまう。
逆に、この本には重大な欠点があり、前半があまり面白くなく、後半は面白いということ。
にもかかわらず、前半のほうが重要で、後半は付け足しと極言してもよい内容であることが
この本の評価を難しくさせている。
さらに、この本が指摘していることは、球団のフロントの人間にしかあてはまらないわけで
その意味で、多数の野球ファンと選手自身を置き去りにしている。
にもかかわらず、不思議な魅力を湛えているのは
著者がMLBとは全く無関係な職種の人であり
どんなに客観的に書いても、それが普通であるという一般的な、野球を好まない人までも納得する感覚の持ち主である
ということだ。
野球本は、想像以上に、野球好きな人が野球好きな人のために書かれている間口の狭いジャンルなのである。
この本は、そのジャンルの外にあるころで
いまだに名著のクオリティを保っているのである。

656korou:2021/12/30(木) 11:49:32
(2021.12.30読了だが、2021年読了分はまとめてしまったので、2022年読了分としてカウント予定)
佐藤啓「無名の開幕投手」(桜山社)を読了。

高橋ユニオンズのエース格だった滝良彦投手の生き様を
その出身校の後輩にあたる中京テレビの元アナウンサー(スポーツ畑)が
テンポのよい文体で書き上げた本である。
専門のノンフィクションライターではないものの
一つ一つの手がかりを手際よくまとめていて
調べて分かった事実へのコメントも適切で
読んでいて気持ちの良い本だった。
高橋ユニオンズのキャンプは岡山で行われていたが
宿舎が「たきもと旅館」であったこと、練習は岡山県営球場であったこと、
陸上競技の専門のコーチがランニングの指導にあたったことなど
かつてネットでチラッとだけ見たことがある事実を
再確認できたのは良かったし
滝投手が後輩(佐々木信也)を連れて後楽園で撮ったスナップ写真などは
珍しいワンショットだった。
他にも、今や跡形もない名古屋の八事球場という場所で
選抜高校野球の第1回大会が開催されたことなど
知らなかった史実も多く発見できた。
思った以上に楽しい読書となった。

657korou:2022/01/06(木) 11:59:01
佐藤啓「ウェルカム!ビートルズ」(リットー・ミュージック)を読了。

1966年のビートルズ武道館公演については
招へいしたキョードー企画の永島達司氏の存在が知られていて
かつて読んだ永島氏の評伝の記憶も鮮明なのだが
この本は、さらに踏み込んで、
その永島氏の周辺の人物、特に東芝音工の石坂範一郎(専務)について
知られざるその功績を明らかにしている。
当時、財界総理的存在だった石坂泰三の親戚筋だったということもあり
本人に十分な野心があれば
戦後、東芝の復興に尽くした石坂一族として著名な財界人になれたはずの範一郎だったが
当人は全くの温厚な紳士で
あえて言えば、泰三の執念(本来は東芝傘下だった日本ビクターを松下に奪われ、その代償として東芝に音楽事業部を創設)を
影ながら支えたことくらいが財界人としての唯一の業績として残ったのである。
著者は、そんな謙虚な範一郎について、もっと知られるべき人物として
この本を執筆したということになる。
それゆえ、範一郎への過度な賛美も随所に見られ
その分だけ永島氏の業績への言及が過少になっているきらいもあるのだが
それを除けば、(石坂家の直接取材以外すべて)二次資料を駆使した本とはいえ
概ね妥当な線で叙述が進んでいるので
安心して読めた。
1966年の出来事、あるいはその前段として1960年代前半の日本、世界の様子など
もはや活字の世界では忘れられがちな時代になりつつあるのだが
その意味で、2018年にこうした本が読みやすい形で出版された意義は
それだけで大きいものがあると言える。

658korou:2022/01/07(金) 15:27:25
スージー鈴木「サザンオールスターズ 1978-1985」(新潮新書)を読了。

読む前にはあまり期待していなかったのだが(例によってスージー氏独特の理論が展開か?)
一通り読んだ後の感想としては、意外と面白かったということになる。
やはり、この本にしても、1980年、あるいは1981年の頃のサザンの低空飛行ぶりなどを
すっかり忘れていたにもかかわらず、そのことを指摘されると
「ああ、そうだったな」と意外なほどリアルに思い出せるのであり
そんなにリアルだったはずなのに、なんで今まで忘れていたんだろうという
不思議な感覚にとらわれたということが大きいのである。
ただし、このグループについて何か書くのであれば
やはり21世紀の今現在までを含めて書くのが正しいやり方だろうし
40年以上の活躍のなかで、最初の活動停止状態までの8年間だけに絞るやり方は
中途半端以外の何者でもない。
あえてそういう角度で書かざるを得なかったのは
著者の思い出回顧という側面が強かったということでしかない。
もっとも、そうであっても
上記のように、リアルタイムであれもう40年以上も前の出来事について
いろいろと思い出させてくれるのは
同じ同時代人としてありがたいとも言えるので
これは世代を選ぶ本かもしれない。

659korou:2022/01/09(日) 20:51:29
小林信彦「私の東京地図」(筑摩書房)を読了。

2013年刊行の本で、その時期に、往時の東京と現在の東京の街並みなどの様子を
長年、東京周辺で暮らしている著者が、エッセイ風にまとめた本である。
いつもの小林流というか
自分が実際に見聞きしてその中でも確かなものだけを
きっちりと書き尽くすというスタイルが貫かれている。
読んでいて不確かなものも含めてとりあえず吸収するといったよくあるタイプの読書とは
その点で一線を画している。
東京の地理の話なので、どうしてもグーグルマップなどでの確認作業が必要となり
大きな活字で200pにも満たない本なのに
丸一日費やすような読書を数日続けないと読破できなかったのも確かである。
前半の赤坂、青山、渋谷、新宿あたりの記述は
想定以上に読み進めるのが大変だったのだが
後半の日本橋、本所、深川、両国あたりの記述は
すらすらと読み通せたのは
著者の幼少期の地元だったからなのか。
深川の「イースト21」というホテルとか、富岡八幡宮、清洲橋、深川江戸資料館など
あるいは人形町あたりの風情、明治座とかの名所などは
この本を読んだせいで行ってみたくなった。
相変わらずの小林節にホッとしながら読み終えた。

660korou:2022/01/15(土) 11:20:30
「ヒット曲の料理人 編曲家 萩田光雄の時代」(リットーミュージック)を読了。

リットーミュージック刊行の同シリーズの第1弾で
第2弾の船山基紀のほうは半年前ほどに読了済みである。
何と言っても筒美京平サウンドを筒美氏と一緒に作り上げた人という印象が強いので
筒美氏が日本のJ-POPの祖であるとするなら
萩田氏も同じくらいの栄誉を受けて当然だと思うのである。
つまり、この種のシリーズで第1弾が萩田氏であることに
音楽業界の誰もが異存ないだろうと思えるのである。

ただし、音楽ブログでも書いてアップしたが
本としては船山本の面白さに至らなかった。
これは萩田氏が、自分の仕事について十分に語れないという
個人的な制約からくるものだろうと思うし
また、萩田氏が自分の性格というものをよくご存じなのだろうと
今思えばそう解釈できるのである(要するに理系の頭脳で自分の感性で突進するので
ひいては業界仲間に迷惑をかける叙述になる可能性を直感しているのでは?)
まあ、ことはどうあれ、アレンジャーとして先駆者的存在であることにはかわりはないのだが。

最後のほうのインタビュー記事で、クリス松村氏の分はマニアックで面白かったし
何よりも、佐藤剛氏のインタビュー記事の見事さには脱帽だ。
これほど的確に日本の大衆音楽、流行歌⇒歌謡曲⇒ニューミュージック&アイドル⇒J-POPという流れのなかで
アレンジャーの果たした役割をまとめた文章は
今までに見たことがない。
永久保存の価値があると思い、その部分だけコピーしたくらいだ。
萩田氏の叙述が不十分でも、この部分だけでこの本の価値は十分にある。

661korou:2022/01/18(火) 10:26:27
松尾秀哉「ヨーロッパ現代史」(ちくま新書)を読了。

少し前に読んだ「ヨーロッパ近代史」(ちくま新書・君塚直隆著)の続編のような標題だが
その本と時代が連続しているかどうかは未確認。
「近代史」がややがっかりな内容だったのに対して
この「現代史」は、「近代史」を読む前のときのような過度な期待感もなかったせいもあって
事前の予想よりは遥かに内容の濃い名著であるように思われた。
とにかく、センテンスの長さが的確で、文脈がとれない部分がほとんどなく
スラスラと読めるし
各国の指導者について、結構手間がかかるであろうミニ評伝の類がほぼ完ぺきに記述されていて
これなど伝記マニアの自分には
嬉しい限りだった。
内容は、ほぼ10年単位で章組みが為されていて
そのなかで英・仏・独・露(途中まではソ連)については必ず記述され
さらにその10年ごとに東欧、北欧などが特集されてまとめて記述されるという
実にスタンダードな構成で分かりやすくなっている。

当初は、総力戦となってしまった世界大戦の反省のもと
各国とも福祉国家を目指して戦後の復興を急いだものの
60年代途中で行き詰まり、さらにオイルショックなどを経て
80年代からは新自由主義(=自由主義、小さい政府)が台頭、
そして今現在はその新自由主義がもたらした弊害(&EU統合に伴う諸問題)に
各国とも苦しんでいるという大きな流れが
この本を読むだけで、何となくつかめてくるという名著。

662korou:2022/01/18(火) 10:38:58
恒川光太郎「白昼夢の森の少女」(角川書店)を読了。

小説については、退職後は1冊だけ読んだ(東野圭吾)ような気がするが
それ以来の久々の小説となった。
恒川さんなら何とか読めるのでは、と目論んだのだが
もくろみ通り、面白く読めた。
短編集というのも正解だった。

記憶力が本当になくなってしまっていて
あんなに面白く読んだのに
今、目次を見て
その表題からすぐに内容が思い浮かばないのに
我ながら苛立つというか、呆れてしまう。

子供の頃の話で、友達の家と思ってついていって、ものすごい数の布団にまみれて遊んでいたら
実は友達の家ではなかったという「布団窟」が、リアルな感じで秀逸だと思ったし
謎の船に乗ってしまう「銀の船」は、「スタープレイヤー」などの異世界物を連想させる
まさに恒川ワールドと呼ぶしかない独自の境地へ連れていかれる物語だった。
「平成最後のおとしあな」は、こんな短い作品で見事なまでに伏線の回収ができていて気持ちいいくらいだし
「オレンジボール」も、何ともいえぬ不安な感じの読後感に苛まれて、やみつきになる。
最後の「夕闇地蔵」は。やや説明的な文章が多すぎるようにも思うが
描かれた世界は、「夜市」のようなおどろおどろしい、まさに前近代の闇の世界が突然現れたような
生々しい感じで、どこかで血の匂いも漂うホラー風味となっている。

ああ面白かった。

663korou:2022/01/20(木) 11:23:55
小林泰三「パラレルワールド」(角川春樹事務所)を読了。

今回図書館で借りた小説は
今読んでいる福田赳夫本の合間にちょこちょこ読む程度で済ませようと思っていたのに
この本は、読み始めると途中で止められなくなって
一気読みとなってしまった。
小説を一気読みなんて
東野圭吾のミステリーを除けば
最近ではそうそうない体験だし(司書時代も含めて)
東野ミステリーでさえ最近は一気読みも難しいはずだったのに
一体この読書体験は何なのか?
アマゾンの書評でこの本は散々な書かれようだが
自分には無条件に面白かった。
まあ、パラレルワールドをここまで徹底的に展開されると
我が粗雑な頭ではもはや完全理解は不可能なわけで
途中意味不明なところも読み飛ばすように進んでいってわけだが
それにしてもハラハラドキドキで面白い。
小説の一気読みがこれほど時間を忘れさせてくれる、ワクワクする時間を与えてくれるとは
久々の体験で、もうすっかり忘れてしまっていた。
小林泰三さんは裏切らない。
アリスなど名作パロディものも
今読むと面白いのかもしれないが
まあとりあえず書架に並んでいるものから借りることにするか。

664korou:2022/01/28(金) 14:30:36
五百旗頭真ほか「評伝 福田赳夫」(岩波書店)を読了。

2021年刊行の本で、なぜか今まで本格的な評伝がなかった福田赳夫に関する本ということで
県立図書館に予約までして借りた本である。
680pにも及ぶ大部な本であり、しかも活字が小さめに印字されているので
その意味では読み通すのに苦労したが
内容そのものは期待通りで面白い本だった。
その財政家としての基礎といえば
高橋是清のバランス感覚から学んだものであり
それが、第一次石油ショック直後の蔵相として的確な政策判断を培い
ひいては、物価高、消極投資のダブル不況となりながらも
日本が、先進国のなかでショックからいち早く立ち直ったという
大きな功績につながった、ということがよく分かった。
また、政治家としてはナイーブすぎる信念をもっており
そのことが政治家・福田の最大の魅力でもあり
反面、政治家として為すべき政策の完結を妨げる短命政権の元と
なったことも否定できない。
優れた「安定成長」経済政策家であり
ナイーブな理想主義者であり
しかし高級官僚にありがちな自己アピールの下手な人でもあったということ。
そういった福田氏の個性を強調するあまり
反対勢力の中心だった田中角栄への評価が
かなり一方的になっているのが、この著書の最大の欠点ではあるのだが
そこは、別に田中角栄本で補うしかないだろう。

665korou:2022/01/30(日) 20:48:05
なべおさみ「やくざと芸能界」(講談社+α文庫)を読了。

以前から気にはなっていたので
とりあえず1冊だけなべおさみの本を読んでみた。
思ったよりもズブズブの芸能界裏話の連発で
芸能界入りする前のヤクザとの交流なども
思ったよりも面白く読めたのだが
読み込んでいくうちに
文章の雑な展開が嫌になってきて(主語を省く日本語でこういう文章を書いてはいけないと思う)
第3章の前半のほとんどを占める「裏世界の人間とは」という哲学的な考察は
とても読み進める自信がなくなり、そこは全部飛ばして読み終えた。

読み終えた後、youtubeでなべおさみの映像をいくつか見た。
シャボン玉ホリデーをリアルタイムで観ていたときも
なべおさみの映画監督のコントだけは
不快な感じがして好きでなかったのだが
今こうして観ても、印象は変わらなかった。
何かが足りないのである。それが何かは曰く言い難いのだが。
ダウンタウンの番組で、この本に書いてあるような芸能界の裏話をしている動画は
ダウンタウンや坂上忍のリアクションが面白くて
なかなか良かったのだが。
ネットのチャンネルまで持っていて、頻繁に更新しているようだが
時間が長めの動画なので、今すぐには観る気がしなかった。

まあ、図書館で借りて読むぶんには、特にどうということはない本。
こんな本、買ってしまったら後悔するだろうな。
悪い人じゃないんだけどねえ。

666korou:2022/02/01(火) 17:14:50
本間ひろむ「ユダヤ人とクラシック音楽」(光文社新書)を読了。

今一つ分かりにくいユダヤ問題を
しかも個人的に既知の事実が多いクラシック音楽というジャンルのなかで
新書という読みやすいサイズで、かつわかりやすそうな文章で書いてくれている、ということで借りてみた。
読み始めは、なんだかよく分からないまま一方的に
ユダヤの歴史が民族音楽とかオペラとかの関係で語り続けられていて
これは相当粗雑な頭の人が書いた本なのか?直前に読んだなべおさみと同等のトンデモ本の類かと思わせたが
読み終わってみると、いわゆるクラシック雑学のなかの
ユダヤ人関係の部分だけがうまく抜き取られた上でコンパクトにまとめられたような
比較的良さげな印象になってしまった。
新しい知見、新しい解釈を望む向きには全く役に立たない本だが
そうした「まとめ」サイトのような効能を期待する人には
なかなかの好著だと思った。
「まとめ」サイトで簡潔でもあるので
文字にできる形では、これ以上の感想はない。

667korou:2022/02/06(日) 23:08:16
秋山長造「わが回想録 一筋の道」(山陽新聞社)を読了。

かつて神野力先生の山陽新聞社賞受賞祝賀会で受付をした際
「あ」行の来賓の担当だったのだが
そこで秋山長造氏を受付した際
「大変だね、ありがとう、頑張って」と激励して頂いた記憶があり
参議院副議長という大物でありながら
全く偉ぶらない人柄に魅了されたということもあり
秋山氏の名前は気にしていたのだが
今回、県立図書館の郷土資料コーナーでこの本を見つけ
借りて読んだ次第。
前半は自叙伝、後半は各所で発表された文章のアンソロジーで
自叙伝はシンプルなスタイルで読みやすく一気読みだった。
後半は、今となってはその時代だけの関心事だけのものも多かったので
いくらか飛ばし読みした。
社会党が斜陽化していく時代を党の長老として生きたわけで
そのあたりに何とも言えない不燃焼感、残念な気持ちが
どの文章からもにじみ出ていて
いかにも誠実、真面目な秋山氏の心情を思わせた。
加藤武徳と知事選で争ったことなどは初めて知ったのだが
昭和30年代の政界の様子などは
こうした古老の回想談でないと知れないわけで
その意味で貴重な本ともいえる。

668korou:2022/02/11(金) 12:29:30
中国地方総合研究センター「歴史に学ぶ地域再生、中国地域の経世家たち」(吉備人出版)を読了。

中国地域に関する本ということで、岡山県以外にも記述があるので
本来は岡山県関係の人物だけ読んで終わろうと思っていたのだが
読み進めていくにつれ、他県のことも知っておこうと思い直して
結局全部読了することにした。
江戸時代の地方各藩の財政の苦しさ加減は
ある程度知っていたつもりでいたが
この本を読んで、生半可なものではなかったのだなと
再認識させられた。
その反面、決意を強くして藩財政改革に当たれば
意外と早く状況が好転するということも分かったのだが
これは、江戸時代という主従関係が強固な時代にあって
藩政を左右できる立場という強みの為せることなのだろう。
要は、商業経済をどうみるかということであり
それは深く言えば、この世界、そこで生き抜いている人間全般を
どう見るかという人生観、世界観の話にも通じるのだが
そこが、そういう深い認識になかなか結び付かない現代の財政問題と
大きく違う点だろう。
また、グローバル経済に巻き込まれた現代と違って
この時代にあっては、とりあえず日本国内のことだけを想定しておけば良いので
その点でも随分異なるのだが
それ以外の面について言えば
江戸時代のことといえども、現代でも参考になる事例が豊富にあるように思えた。
なかなか渋い好著である。

669korou:2022/02/16(水) 17:07:59
こだま「夫のちんぽが入らない」(扶桑社)を読了。

興味深い本ではあったが、書名のせいで高校図書館で購入するのには躊躇したことがあり
今回その判断の可否も知りたくて借りてみた。
予想通り、良い本ではあったが、内容は高校生向きではなかったので
書名うんぬんは関係なく、購入しなかった判断は正しかったと分かった。
本としては上質であることは間違いない。
これほど自分の心情を率直に書くことは
簡単そうで難しい。
その一点のみで、この本には価値がある。
もっとも、いろいろと書き切れていない部分はあって
そんなダメ女がなぜいきなり結婚するような展開になるのか
いかにも不自然だし
ダメ先生が、退職後も児童に慕われるくだりも
納得できる記述がない。
両親などについては過不足なく書けているようなのだが
自分のことと夫のことについては十分に書けていないはずで
随所に不自然な記述が見られる。
しかし、そんな不備など吹き飛ばしてしまう率直で大胆な記述スタイルが
この本の最大の魅力だと感じる。
最終的に「夫(だけ)のちんぽが入らない」私の性器が
一番の苦しみになり
それを乗り越えようとしている現在進行形の「私」で物語は終わる。
それもいさぎよい終わり方で好感が持てた。
どうしてもこの書名になるだろうな、この物語は。

670korou:2022/02/22(火) 17:18:46
塩田潮「江田三郎 早すぎた改革者」(文藝春秋)を読了。

江田三郎には以前から関心があった上に
最近になって秋山長造の本を読んだばかりだったので
”郷土資料・連続「伝記」読書に挑戦”の一環として
今回読んでみた。
塩田氏の叙述は、この時期にはまだ生硬で結構読みにくかったのだが
とりあえず江田三郎を語る上で最低限必要なことはほぼ網羅してあったように思え
とりあえずの紹介本として十分に役立つ本だった。
「党を離れるのには遅すぎ、亡くなるのが早すぎた」人という評価は
まさにその通りで
江田氏は早めに社会党に見切りをつけて、最低限でも民社党と共闘していれば
随分と日本の政治も変わっていっただろうと想像できる。
また、社会主義協会が出しゃばる前に
佐々木更三の抵抗を押し切って党内で主導権を握れていたら
もっとダイナミックに変わっていただろうと十分想像できる。
社会党の幹部でありながら「アメリカの生活水準」という目標を掲げるあたり
まさに江田氏の見識は見事で時代をよく読んでいたと思う。
それを阻んだ鈴木ー佐々木-成田という主導部の動きについては
今度は当事者側から反対検証もしなければならないが
どちらにせよ、時代を読み誤っていることには変わりはない。
後は、和田博雄、黒田寿男なども含めて
岡山県人がこうした先駆者の仕事を忘れずに顕彰していくことも大事なことだろう。
とりあえず江田三郎を知るための本としては十分な内容。

671korou:2022/03/01(火) 16:17:51
谷川健司「近衛十四郎 十番勝負」(雄山閣)をほぼ読了。

全500p弱の大部な本であるが
後半の約300pは、近衛十四郎の出演した映画の詳細な紹介であり
今さら入手の難しいそれらの映画について
ストーリーや企画の経緯などを詳しく知っても仕方がないので
前半の200p読了の時点で「ほぼ読了」とすることにした。

市川右太衛門プロの研究生募集に応募して研究生となったのを初めとし
その右太プロでの人脈で大都映画に入り
一躍若手時代劇スターとして名を馳せたものの
戦時中の特殊事情で大都映画は大映となった時点で
時代劇スターばかりの大映では活躍できないとして
劇団を結成して巡業生活を続けた近衛十四郎。
兵役で中国に渡り、苦しい抑留生活の後、帰国し、再度劇団生活を続けるが
映画への夢も捨て切れず、嵐勘寿郎の芸能プロに所属しながら新東宝などの映画に
端役で出演した後、阪妻急逝後の松竹に移籍して時代劇スターとして復活。
ただし、あくまでも準主役に止まったので、第二東映設立と同時に移籍して
そこでは短期間なら主役として活躍。第二東映解散後もしばらく東映で活躍し
「柳生武芸帳」の剣豪柳生十兵衛役などの当たり役もあったものの
東映の任侠路線への変更を機に、東映テレビに所属してテレビ時代劇に進出。
そこで「素浪人月影兵庫」「素浪人花山大吉」の大ヒットとなり
日本中で知られる有名時代劇スターとなったというのが大筋。

ちょっと前に大都映画の本を読んではいたが
詳しい流れがこの本で分かって頭の整理になった。
まさに労作という印象の本。

672korou:2022/03/07(月) 18:00:09
鈴木美勝「北方領土交渉史」(ちくま新書)を読了。

鳩山一郎が行った対ソ交渉から、安倍晋三の対ロ交渉までを
動きの無かった時代を省きつつ
主なところはすべておさえて解説してある「北方領土交渉史」だった。
多少文章が読みにくい点はあるのだが
書いてある内容が興味深いので
思わず読み込んでしまうという迫力あるノンフィクションとなっており
また、著者が主観を入れて書いてある箇所は
読んでいて、ここは著者の主観部分とはっきりと分かるようになっていた。

1956年の「平和条約と同時に二島返還」というのは、当時としてはギリギリの線で
鳩山首相としては、国連加盟と抑留者帰還という優先事項を実現させたのだから
後世の人間としては文句は言えないところ。
それを粘り強く交渉して、相手国の国力が落ちた時点で
「四島返還」についてソ連(ゴルバチョフ)及びロシア(エリツィン)に認めさせたところまでは
日本外交の成果だったに違いない。
しかし、外交なのだから、「四島返還」可能な時点で、わざと妥協する手法もあったはず。
恩を売って、とりあえず「二島」で妥協して平和条約を結び、経済協力を進める手もあったに違いない。
もちろん、その後の歴史を見ると、ロシアは強硬な態度に変貌したに違いないので
「四島」全部は永遠に戻ってこなかっただろうが
今のように、二島返還でさえ日米安保破棄を条件とするような事態には至っていなかっただろう。
安倍晋三の外交の失敗についてページ数が割かれているが
これは橋本政権時に政治決断ができなかった龍太郎の責任ではないか。

まあ、それにしても、よくまとめあげたものだ。
政治記者経験豊富な著者にとってはそれほどでもないのだろうが、労作と言ってよい。
タメになった本。

673korou:2022/03/09(水) 10:18:31
グレンコ・アンドリ―「プーチン幻想」(PHP新書)を読了。

最初のほうで、
米国がロシアに対しNATO拡張はしないと約束した史実は一切ないと断言している記述を読んで
これはなかなか面倒な本だなと思い、いったん読書を中止(明らかな史実誤認なので)。
読書再開後も、日本外務省の「ロシア・スクール」は対ロシアで好意的な見方を助長している
などという調査不足の記述に悩まされたが(こういうのが自分の気付かない他の箇所でもあるのかという疑い)
実際のところは、再開後の読書については、ある程度のリテラシーを確立して読み続けることができたので
それほど面倒ではなかった。
そういった些細ではあるが、結構致命的な事実誤認を除けば
これは熱量の高い、志の高い、なかなか日本人のライターではここまでは書けないだろうと思われるほど
徹底して自説で説得してくる本で
その自説も荒唐無稽でなく、むしろ知見を正す類の良書に思えた。
また、文章に関しても、どういう仕掛けなのか見当もつかないが
少なくとも、これだけの日本語を駆使できるのだとしたら
本当に敬意に値するレベルで
他の多くの日本人学者も見習ってほしいくらいの熟達した流暢な日本語だった。

この本で「プーチン幻想」がほどけていったかどうかについては
読む人にとって様々だろう。
しかし、こういう本は貴重である。出版されて然るべきである。
著者のスタンスはどうあれ、これこそ民主主義社会における言論の自由なのだと思った。
(少なくとも、プーチンはそれを認めていないのだから)

674korou:2022/03/13(日) 17:07:25
東郷和彦「危機の外交」(角川新書)を読了。

1990年代の日本の外交をリードする外務省官僚だった著者が
2015年頃の時点で一民間外交研究家として
日本の外交のあるべき姿を論じた本である。
250p足らずの新書ながら、中身はきっしりと詰まっており
どの文章の行間からも、実際に外交実務に携わってきた外交官としての感覚が
滲み出るようだった。
恐らくはここに書かれているような在り方が
日本の外交としてはベストなのだろう。
しかし、もうこの著書から7年近く経過し
「対韓国(慰安婦・徴用工・竹島)」「対中国(靖国・尖閣)」「対ロシア(北方領土)」のどの問題についても
解決の方向どころか悪化する一方だし
むしろ、日本自体の国力について地盤沈下が激しく
国際政治上のポジションが著しく低下しているのが現状だ。
対韓国となれば、お互いに国力が伸び悩んでいることに加え
国際法上ムリな要求をしているのが韓国自身であることから
その関係は、韓国の強引な国際社会へのアピールだけ注視していけば足りるのだが
こと対中国に関しては、本気で対日関係に圧力をかけてくれば
日本にはそれに対抗し得るものは何一つない状態だ。
対ロシアは、すでにこの著書の時点で破綻の方向を示していたが
その後の安倍外交の失態、そして今回のロシアによる強引なウクライナ侵攻により
完全に手がかりを失ったうように見える。
インド・太平洋共同構想も絵にかいた餅に傾きつつある。
そのような悪化の方向にある中で、この本を読むことは
もはや採るべき方向の示唆をいうよりも
この時期ならまだ可能だったかもというノスタルジーに近い絶望を感じる作業とも言えた。
本は立派なのだが、もはや現状がそれに追いついていない。

675korou:2022/03/16(水) 12:04:28
風間賢二「怪異猟奇ミステリー全史」(新潮選書)を読了。

18世紀西欧で隆盛となったゴシック文学から始まり
現代日本のミステリー事情まで
おもに怪異、変格ミステリーに焦点を当てて
その歴史の概略が記された本。
ゴシック文学が、近代社会において根強い人気を保ち続け
それが明治以降の日本においても
日本独特の形で受け入れられたという流れが明確に示され、
読んでいてタメになった。
新しく知ったことが結構たくさんあって
その逐一をここで確認することすら難しいくらいだが
例えばWikiの力も借りて「嵐が丘」のあらすじを詳細に知ったり
谷崎潤一郎のミステリーを読みたくなり
県立図書館でのチェック本リストに追加してみたり。
途中から、ゴシック文学史なのかミステリー史なのか
日本”キワモノ文学”史なのか日本ミステリー文学史なのか
判然としない感じもあるが
全体として、書かれるべきことがしかるべき妥当な著者によって書かれたという
安心感が漂う好著であることには間違いない。

676korou:2022/03/25(金) 12:20:57
歴史読本臨時増刊(’88-9)「特集 世界を動かす謎の国際機関」(新人物往来社)を読了。

トイレでの読書本として、結構長期間読み続けていた。
かなり怪しい本かと思っていたが
他の本ではなかなか読めないような特殊な分野の情報について
要領よくまとめてあるので
これはこれで要保存の本とすることにした。
1988年発行の本なので
データとしては古いのだが
それも今となってはなかなか面白く
ソ連の存在とか、インターネット以前の情報産業の様子とか
案外もう人々の記憶から薄れかけている時代を
思わせてくれて
なかなかユニークな本である(というか、ユニークになってしまった、というか)

677korou:2022/03/30(水) 21:08:13
村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(新潮社)を読了。

かなり昔に単行本で買って、いつまでも読めずにいて
数年前に意を決して読み始めたところ
主人公が冷凍食品を買って、そのまま家に帰らずに食品を車に積んだまま
いろいろな店に寄って、結局数時間後に帰宅するというシーンを読んだとき
非現実的な話だと思い、読むのを止めてしまった。
そういう経緯で、また数年ほったらかしにして
今回、その非現実には目をつぶって読み進めようと思い(「ねじまき鳥」を読みたいと思い、その前提となる小説として)
またまた意を決して読み始めた。
今度は、冷凍食品を車に長時間放置どころではなく
随所に飲酒運転のシーンが出てくるのには呆れたものの
こうまで作者が飲酒運転を気にせず書きまくり、ハルキさんの編集者もそれを黙認しているとなると
もはやハルキ作品を読むのに”ハルキさんの常識”に従って読まなければならないのだと観念した。
(だから、冷凍食品はいつまでも腐らない、飲酒しても車の運転に支障はない、大けがの後でも酒を飲んでよい・・・等々)

さてそういう読書の入り口での不審な点を切り抜けて
なんとか最後まで読み切ってみて
この小説がどうだったのかといえば
とても短い文章では書き切れないし
かといって、長文をしたためる余裕も知識も体力もない。
ただひたすら、並行して描かれた2つの世界が最後に合体する仕掛けのみが
脳裏をぐるぐると回り、印象に残るのみである。
意識と無意識、企みと受け身、世界の終りと世界の崩壊・・・何だろう、分かるようで分からない、分かりにくい。
こうなると「ねじまき鳥」を読んで、まとめて感想を書くしかない。

678korou:2022/05/17(火) 18:23:50
「特集 日本の名門1000家(別冊歴史読本)」(新人物往来社)を読了。

トイレ読書本として読了した。
この種の本は今までに何冊も読んではいるのだが
この本に関しては、他の本ではなかなか取り上げられない分野が
意外と詳しく書いてあり、結構面白く読むことができた。
能・狂言、あるいは茶道・華道などの名門の歴史などは
今回初めて詳しく知ることができたし
巻末の「華族一覧」も
詳しくチェックすれば、なかなか役に立つ「辞典」のように使える。
その反面、財界とか、他の本でも詳しい歌舞伎などについては
特に目新しい叙述はなく、むしろ出版年(1988年)からくる古さが目立った。
トータルとしてみれば
かなり使える本であり
しばらくは捨てずに保存しておこうと思った本である。

679korou:2022/05/25(水) 22:20:26
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル(第1部〜第3部)」(新潮文庫)を読了。

多分4月1日から読み始めた。そして今日読了。1か月と25日、最近では期間最長の読書となった。
些細なことではあるが、第1部の文庫本が最近再版された大き目の活字だったのに対し
第2部と第3部は改版前の比較的小さめの活字だったことが
期間最長の一因であることは間違いない。
この大きさの活字は短時間で済ませないといけないと思い
第2部からは一層読書スピードが遅くなった。
それでいて、その期間中、トイレ読書以外の本はほぼ読まず、この本の読破に専念した。

思ったよりも凡作で、同時に思ったとおりの力作だった。
作者は渾身の思いでこの小説を書き、作者はそれにより何かを得てなにがしかの変化を体得したが
読者はそこまでの感銘を得られない場合がほとんどだったに違いない。
何といっても混乱している。
そうでなくても、飛躍の多い文体と直喩や象徴が頻出する実は難解な文章(読みやすいのだが・・・)の作者が
さらに近現代史に踏み込んで、しかも日本語文体のコラージュまでも意図してちりばめているので
読者としては、それら全体を統一した形で把握することにかなりの労力を要するのである。
しかもその労力は小説を読むことによって得られる愉悦には昇華せず
最後まで「飽きないんだけど面白さとなるとどうかな?」という印象が続く。
彼は意識と無意識、自我と他者などの近代人のエゴを描こうとしているのだろうけど
そこに至るまでの道具立てが勿体ぶった大層なものになっていて
まあいうなれば効率が良くない。
印象的な場面はいくつもあるのだけれど
結局、主人公以外の登場人物はどれも人物が描けていないも同然だ。
とにかく、読後直後の今は
この作品の美点よりもガッカリ感のほうが支配して
作品そのものへの批評にまで至らない、というのが正直なところだ。
また何か書けるようになったら書くことにしようか。

680korou:2022/06/01(水) 13:33:00
横山源之助「明治富豪史」(現代教養文庫)の前半2篇を読了。

文庫本200ページの中身が、「明治富豪史」「富豪貴族」「海外の人」の三つに分けられていて
「明治富豪史」は本人もとりあえずのまとめとして一気に書かれたものであるのに対して
「富豪貴族」「海外の人」はいろいろな雑誌に書かれた同種の内容をまとめた章立てとなっている。
今回の読書では、「海外の人」は読了せず、他の2篇を読了した。
やはり、現代の財閥系企業につながる大本の話のほうが面白く
移民関係の話は実感が湧かないので。
そして、横山の意図が、富豪の成り立ちの偽善性を暴くものであったとしても
令和の今読むにあたって、そういう社会主義的な視点はなくとも
ただ単純に明治時代の秘められた歴史ということだけで
面白く読めることは否定できないわけである。
なかなか、ここまで詳しく明治初期の富豪の様子を書いた本というのは
ありそうで無いように思う。
期待通りの面白さだった。

681korou:2022/09/03(土) 12:03:41
猪俣勝人・田山力哉「日本映画作家全史(上)」(現代教養文庫)を読了。

トイレ本として読了。
猪俣氏の関係した人物が多数取り上げられていて
そのことは逆に、猪俣氏が
日本映画史上重要な役割を果たした人物であるということの
証しということにもなる。
そして、各人物の略伝に付記される形で書かれた各エピソードが
どれも人間ドラマのように思わるほど面白く
列伝を読む面白さ以上の魅力が付け加わっていた。
ちょっとこれは廃棄できない。永久保存版の本。

682korou:2022/09/04(日) 23:08:08
ロボットマナブ(原案)・大仏見富士(著)「自衛隊入隊日記」(学研プラス)を読了。

必要があって急きょ県立図書館から借りて読んだ本。
借りる前にパラパラとめくった感じで、これは読みやすいはずと判断したが
実際読んでみて、全くストレスなく最後まで一気読みできた。
結構個性的な著者なので、書いてあることが普通にそうなのだろうかという疑問は残るのだが
誰が書いても恐らく細部はそうなるだろうという部分に関しては
とりあえず最低限の描写がしてあるので
実際に実戦部隊として自衛官を志望する人にとっては
これほど有益な本はないかもしれない。
反対に、自衛官志望者以外にとって
どんな意味がある本なのかと言えば
なかなか難しい。
文章が極めて主観的なので、客観的に自衛隊のことを知ろうと思った人には
あまり参考にならないかもしれない。
個人的には、まあ話のタネとして使えるかも、という感じだった。
結局、巷によくある珍しい体験本という部類か。

683korou:2022/09/08(木) 15:02:38
岡田真理「自衛官になるには」(ぺりかん社)を読了。

必要があって読み始めた自衛隊本第2弾。
当面知りたい部分だけ先に読み、それで終わろうかと思ったものの
思い直して、再度、最初から全部読み通した本。
「なるにはBOOKS」をこんな形で読むことになるとは
想像もしなかったが
ある意味、その職業の良い面だけを強調して
闇の部分は抹消してあるともいえるので
高校生対象の推薦本、進路関係本として
本当にこれでいいのかという疑問も残った。
これはロクに読み通していなかった学校司書時代には
意外と見落としていた部分だが
それはともかく
当面の役には立った。
それ以上の感想は出てこない。

684korou:2022/09/12(月) 17:33:06
佐道明広「自衛隊史」(ちくま新書)を部分読み。

どうにも目が痛くなる本なので(活字は普通程度の大きさだが文章が読みにくく目が疲れてしまう)
読了は諦めて、ざっと目を通す程度にした(前半半分は読了したのだが、もう限界)、
自衛隊史としては
1960年代までは政治の思惑に振り回され、むしろ存在感を消すように要請されていたくらいだが
1970年代後半から、米国の衰退、軍事力の低下を背景に、日本の自衛力向上が要請され
1980年代はその押し問答が続き、なんとか日本の経済力と政治家の駆け引きで現状維持を保っていたものの
1990年代になり、例外的な措置を余儀なくされ、自衛隊の存在は曖昧なまま目立つレベルになってきた。
2000年代になり、周辺国からの危機が顕在化し、さらに神戸大震災などの災害等非常事態への対応も大きな任務とされ
2010年代になり、おもに安倍内閣の主導で、自衛力向上のためのプログラムが組まれるようになる。
まあ、そういった以前から何となくそうではないかと思っていた流れを
再確認した本ではある。
細部では知らない事実もいくつかあって参考になったが
そこまで読み込むための代償としては
この激しい眼痛は痛すぎる。
残念だが、他の本で探ってみたいと思う。

685korou:2022/10/01(土) 17:51:02
中川右介「文化復興 1945年」(朝日新書)を読了。

野球のシーズンも終わりかけているので
読書も少しずつ始めなければと思い
”中川本”でまずウォームアップということで
この本からスタート。
ただし、日によって目の疲れがひどいこともあるので
ムリはできない感じだ。

本そのものは、いつもの”中川本”で
安心して読める文章と、かっちりとした資料読み込みで
全く問題なく読めた。
ただし、一次資料を追って叙述するスタイルだけに
こうした特定の地点に絞った著作だと
中川氏の個性がうまく生かせない面も出てくる。
今度は、時系列に沿って推移するスタイルの本を
読もうと思っている。
あと、トイレ本として今現在も読書進行中の「映画作家全史」との関連で
客観的な叙述の中川氏と、あたかも自伝小説のような猪俣氏とで
同一人物ながら全く違った印象の人物評になるところも
興味深かった。

686korou:2022/10/29(土) 11:15:43
中川右介「至高の十代指揮者」(角川ソフィア文庫)を読了。

いつもの中川本。読みやすく、タメになって、読書ストレスフリーの本。
十大指揮者は、ベルリン・フィル常任指揮者(フルヴェン以降)を軸に、世代、国籍について万遍なく選んだ結果らしい。
トスカニーニ、ワルター、フルトヴェングラー、ミュンシュ、ムラヴィンスキー、カラヤン、バーンスタイン、アバド、小沢征爾、ラトル
といった面々で、前半の数名についてはすでに読んだ本の内容と重複することになる(しかしすでに忘れてもいるのでムダな読書ではない)
後半のアバド、小沢、ラトルについては、今回初めてその活躍の詳細を知ることができた。
これ以上の感想はもう書けない。
あとはそれぞれの指揮ぶりを、実際の音響で堪能することになる。

687korou:2022/11/08(火) 17:26:52
小菅宏「異能の男 ジャニ―喜多川」(徳間書店)を読了。

とにかくヒドい日本語、ヒドい文章だった。
こんなレベルで、よくフリーのライターが務まるなあと思った。
最初のページから最後のページまで、まともな文章はほとんどなかった。
意味を理解できるところだけ飛び飛びに読んだというのが実感だ。
意味を理解できる箇所は、ほぼ過去の事実をそのまま書いている部分で
それすら、かなりの部分が意味不明だった。
まして、著者の考えが書いてある部分など
どうやって読解せよと言うのかと言いたいくらいだった。

それでも読了(いや飛ばし読みかな)してしまったのは
ジャニーズに関する解説本が
あまりにも少ないという現実、しかも著者は
少なくとも80年代途中までは伝聞ではなく直接ジャニ―姉弟を取材していた
大手出版社の編集者だったからで
これが違うジャンルの違う著者であれば
最初の10数ページで投げ出していただろう。

著述の中身は、あまりに断片的に読んだので(そう読まざるを得なかった!)
イマイチ頭の中でまとまらない。
すでに整理してあるジャニーズ関係の知識と照合しながら
徐々に理解していくしかない。

キツい読書だ(苦笑)

688korou:2022/11/13(日) 15:30:02
小菅宏「女帝 メリー喜多川」(青志社)を読了。

前著同様、読みにくい本だった。
明らかに著者の文章は下手くそを通り越して
日本語として意味を成していない。
このような著作を出す人が
ジャニーズ関連本の権威と目されているのには
呆れてしまうが
それが現代日本の現状なのだろう。
いかに意味不明な文章が連なっていようとも
その中に挿入されるエピソードの数々は
著者でなければ書けない、他の人は体験すらできない事実なのだから
尊重されてしかるべきなのだが
それにしても、である。
結局のところ、何が書かれていたのか
読み終わった今は
むしろ悪文を通し読みした疲労のほうが勝ってしまい
何も思いつかないのである。
そして、最後には、オリジナル事実も散在しているが
やはり無視しても大丈夫な本かな、という評価になる。
オリジナルにしても
そんなに大したことない話だし。

689korou:2022/11/25(金) 13:54:47
猪俣勝人・田山力哉「日本映画作家全史(下)」(現代教養文庫)を読了。

トイレ本として9月上旬から読み始め、本日読了。
下巻のほうは、田山氏が主に書いているようで
取り上げられた作家たちも
この本の出版時(1978年)においては
中堅どころの人が多く
これからの活躍が期待される人々列伝という趣きである。
そして、最後のほうの数名について
その後の経歴もWikiで調べてみたが
ほとんど活躍できておらず
この本に書かれた仕事以降
映画人としては終わってしまっている状態だった。
それを思えば、物悲しい列伝ということになるが
本そのもののテイストとしては
やはり名著と言えるだろう。
これだけの人々を取り上げて
1冊の本に仕上げる苦労、努力は並大抵でない。
これもうかつに廃棄できない本である。

690korou:2023/02/17(金) 15:40:47
ほぼ3カ月ぶりの読了!
宇佐見陽「大リーグと都市の物語」(平凡社新書)を読了。

2001年発行の新書で、当掲示板がMLB関連の書き込みで潤っていた時期にはもう購入済みで
その時期からずっと、読みかけては途中で断念、途中で止めるを繰り返していた本だ。
ほぼ20年越しでやっと読了できた次第。
決して面白くなくて読み終えることができなかったということではなく
ただ単に偶然により読書が中断しただけだが
まあ、そういうことはよくある。
今回読み終えて、思ったよりも内容が濃かったことと
さすがに20年も経つと内容が古くなるということを痛感した。
2001年時点では、見事な新書と言えるが
やはり現在進行形の出来事を扱っているだけに
それ以後の多くの現在進行形が抜けてしまうのは
当たり前とはいえ、内容の新鮮さにおいて致命的になってしまっている。
あれからMLBは日々変化し、停滞もすれば進展もした。
20世紀のMLBはこの本でかなりの部分を参照できるが
21世紀のMLBも22年経過している。
読む時期を逸したと言わざるを得ない。
でも、不思議なのは、読後にこれは即廃棄かなと思えなかった点だ。
またいつか読み返したい、でもいつ読み返すんだという自問自答。
もう少し時間が経たないと結論は出ない。

691korou:2023/03/10(金) 12:57:11
宮崎勇・田谷禎三「世界経済図説 第四版」(岩波新書)を読了。

トイレ本として読了、前回が9月に読了だから、この本を半年かけて読んだことになる。
思ったより長くかかったが、やはり読みやすいとはいえない内容のせいだっただろうか。
事前に思っていたほどデータが多くなく、むしろ経済学の立場から現代の世界経済を眺めた場合
どのような考え方が最も妥当で一般的なのかを、文章で説明している本といってよい。
共著者の宮崎氏(福田赳夫氏のOBサミットの事務局長でもあった)は
この本の前回の改版(第三版)の直後に亡くなられ
今回の版の著者は田谷氏単独ということになったが
本としての構成、版組みは確立済みなので
単独著者になっても、そこのクオリティに関しては問題ないわけである。
なかなか平和が実現せず、むしろ新しい紛争の火種が増えてきていること、
紛争のない先進国にあっても、経済運営はスムーズでなく、むしろ格差問題が生じていること、
経済の世界一体化が進む一方で、そこでの問題、課題を解決する組織が機能していないこと、
そういったことが語られている本で
ある意味、普段感じていることの総復習のような読書でもあった。
悪くはないのだが、新しい知見に乏しく、魅力ある本とは言い難く
もっとデータ提供に徹したほうが使い手があるのだがと
思ってしまう。

692korou:2023/03/28(火) 17:28:14
池上彰・佐藤優「真説 日本左翼史」(講談社現代新書)を読了。

昨年11月にジャニー姉弟の本を借りて以来、久々に県立図書館の本を借りて読む。
これは、出版された当時に概要を知って、ぜひ読みたいと思った本である。
それから1年半ほど経って、世間的には注目度はぐっと落ちたのか、普通に書棚に並んでいて
続編共々、借りる人が居ないようだったので、それならと思い借りてみた。
自分としても以前よりは日本左翼史への関心は落ちてはいるが
まあ新書ぐらいならと思い読み始めてみたところ
結構その方面の記憶すらあやふやになっていて
小熊英二氏のあの力作を読んでいた時期とは
随分異なっている自分にまず戸惑う。

読後の印象としては
左翼全般について、まさに社会党のシンクタンク組織に属していた佐藤氏の独壇場とも言え
池上氏は、当時の政治状況について優しく解説を加えるにとどまっている。
そして、左翼史とはいいながら
実質、日本共産党と日本社会党の政党史となっており
そのことには違和感はなかったが
佐藤氏が、向坂逸郎とか宮本顕治などを絶賛する姿勢には
違和感を覚えた。
時に滑稽なくらい違和感を露呈するのも佐藤氏の個性ではあるのだが。

さて、しばらく他の本を片付けてから、続編に挑むことになる。

693korou:2023/03/29(水) 20:49:42
読了断念本
平川克美「喪失の戦後史」(東洋経済新報社)

BSプレミアムの特集番組で、戦後日本の60年代の喪失感が気になり
似たような問題意識かもしれないと思い県立図書館で借りた本だが
いつまで経っても、そうしたテーマは現れなかった。
そして、重要なポイントにおける認識の違いも目立ち
ある意味、著者の友人である内田樹氏の文章で感じられる「一流なんだけどうさんくさい」感が
鼻についてきたのも事実。
まあ、それ以前に目的に合ってなかったので読了断念。

694korou:2023/04/13(木) 10:01:08
池上彰・佐藤優「激動 日本左翼史」(講談社現代新書)を読了。

日本左翼史3部作の第2弾。60年安保以後から70年代初頭の新左翼の衰退までが描かれている。
今回は、第1弾では概要だけの解説で佐藤氏の引き立て役に回っていた池上氏が
リアルタイムで新左翼の衰亡を体験した自身の記憶をもとに、大いに語っている
(第1弾だけ読んで池上氏の限界を嗤った書評を見たが何と軽率なことか)。

新左翼の流れは複雑でとらえにくく、この本はその点を出来る限り分かりやすく語ってはいるが
それでも難しい。
あまりにも分派が激しすぎて、結局、若者だけの運動だったので
全体のまとめ役が不在だったのだろう(そして、まとめ役に耳を傾ける気持ちもなさそうだ)。
そして、達成感のない(自称)革命行動に閉塞感を覚え
本来の敵対勢力である国家権力への憎悪のはずが
派内の人間関係のこじれから、内部に敵を見出してしまったのだろう。
新左翼の成れの果ては、内部抗争、凄惨な暴力、殺し合いに行き着き
誰からも支持されない運動に終わってしまった。
始まりは聴くべきものがあった革命思想が、なぜか無意味な内部暴力に終わってしまったのは何故か。
そこにこの本を企画した意義があると、著者両名は語っている。
そのことをもっと掘り下げて分析してほしかったが
考えてみれば、そういう意図のもとに広く大衆向けに書かれた本は
今までになかったのではないかとも思えるので
その意味で本書はもっと読まれるべき類のものだろう。
内容に関しては、特に異論はなく、ためになる新知識が多く
有意義な読書となった。

695korou:2023/04/13(木) 14:16:51
安西巧「歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想」(日経プレミアシリーズ)を読了。

ついつい借りてしまったプロ野球本。その割には面白かった。
前半の「拡大構想」については、読んでから少々間が空いたので
その内容についてほとんど覚えていないのだが
後半の「歴史に学ぶ」部分の記述は
ややこしい球団設立過程について実にコンパクトに分かりやすくまとめていて
知識の整理という面で実に役立つ読書になった。
球団の実質オーナーの変遷について
表面だけをなぞった球史の類は多いが
なぜそうなったかまでをこれほど簡潔に記した本は
滅多にない。

また知識が混乱したとき
この本を頼りに球史を振り返ることにしよう。

696korou:2023/04/25(火) 17:55:48
池上彰・佐藤優「漂流 日本左翼史」(講談社現代新書)を読了。

3部作の最終編で、1970年代の「あさま山荘」での新左翼勢力解体以降から、ウクライナ戦争の現在までを扱っている。
半世紀にも及び長い期間を新書1冊で概説するのだから、当然ながら駆け足で重大な事項のみを取り上げるスタイルになってしまうのは
当然と言えば当然だが、逆に考えれば、新書1冊分で済む程度の内容しかない「日本左翼史」だったとも言える。
ただただ衰退していき漂流しながら迷走していく「日本の左翼」。
最初は労働運動が目立ち、それからソ連の低迷、暴走を受ける形で社会党が変貌し(結局、衰退し)、ソ連の解体を受けて完全に左翼としての
アイデンティティを喪失した結果、今や”リベラル”と同義語となってしまうほど意味不明な言葉になってしまった「左翼」。
その経過が、著者二人の博学により語られている。
この本も、新知識満載でタメになった。
本来なら3冊とも購入して、何回も読み返したいところだが
残念ながらこの本の知識を活用するような場面もないだろうから
今の自分としては、読んでいるときの知的高揚感だけで満足するしかないのが
残念といえば残念。

697korou:2023/05/09(火) 21:37:21
半藤一利・池上彰「令和を生きる」(幻冬舎新書)を読了。

気軽に読める本として県立図書館で借りた本。
確かにスラスラ読める対話本だったが、後半から次第に半藤氏の独断が鼻についてきて
読後感はそれほど爽快ではなかったのも事実。
前半は、平成の最初の方の出来事を振り返る内容だったので
自分でも忘れていたことが多くあり、いい復習になったのだが・・・

半藤氏について悪く言えるわけもない。
でも、生涯の最後はこういう風にもなるという教訓かもしれない。
根拠が薄く、思い込みに近い主張が、決して控え目でなく強く出てきている。
池上氏はその点でまだそこまで老け込んでいないので
いつもの冷静な解説でわかりやすさも健在だが
それでも半藤氏に合わせたかのように
強引な論理の展開も垣間見え
池上さんは本当にそう思っているのだろうか、という疑念も湧く。

ということで
後半はかなり読み通すことに疲れてしまった。
まあ、そんなわけで
読後に「令和を生きる」知恵が増したかと言われれば
必ずしもそうではなく、むしろ碩学お二人の強引さに困惑したというのが
正直なところ。

698korou:2023/06/06(火) 16:18:08
中川右介「社長たちの映画史」(日本実業出版社)を読了。

久々に視力のこともある程度犠牲にして、しゃかりきに読んだ。そして、予想通り面白い本だった。
ある程度は、今までの映画関連本で既知としている史実だったが
自分の頭の中では、それらが整然と並んでいなくて、極端に言えば断片的な知識でしかなかったので
こうして一気に史実の絡み合いがほどかれ、人物の関わり合いが明快に示されると
本当の意味での知的興奮を覚え、知的爽快感に満たされる。

やはり、後半の昭和戦後編ともいうべき箇所(1945年ー1971年)に惹かれた。
昭和20年代には新興産業として創造意欲に燃えていた各社の経営陣が
昭和30年代後半に主にテレビ産業の躍進に負け始めたときに
的確な判断が全くできなかったという史実が何とも歯がゆく、空しい思いになる。
そして、そこから脱皮しようとして個人プロを立ち上げた三船敏郎、石原裕次郎たちの思いが
全く実を結ばず、最終的に悲劇的な結末を遂げるわけだが
その純粋な思いが胸を打つとともに、さすがにその純粋さだけではどうにもならないだろうと
誰もが思うわけで、なぜ誰も助けなかったのだろうという残念さが残る。
(「黒部の太陽」のときの関西電力だけは例外だったが・・・)
石原慎太郎という人について、少なくともこの面からみれば、大した人だと言わざるを得ない。
嫌いな佇まいの人だが、そこは認めざるを得ないだろう。

読んでいて、あまりに参考になるので、いっそのこと購入しようかと思ったくらいだが(分厚い本なのに税抜き二千円という安さ!)
もう少し留保することにした。

さて,次の中川本も読みたくなってきたぞ。

699korou:2023/06/20(火) 13:50:51
中川右介「アニメ大国建国紀 1963-1973」(イースト・プレス)を読了。

マンガならともかくアニメはちょっと、と思いながら借りてきた本だが
そんな懸念は無用だった。
中川氏は自分と同世代なので、マンガをベースに記述しながらアニメの歴史を記述していた。
そして、1964年から数年間は、自分もマンガをそこそこ熱心に読んでいた時期なので
書いてある内容に懐かしさとか、知らなかった事実への驚きが次々と溢れ出て
これほど楽しい、そして面白い読書になるとは、想像以上だった。

最後のページで、宮崎駿が手塚治虫について批判的な感想を述べた部分の引用があるが
これこそ、この本を読了した時点で、実に納得できる話であり
かつ、宮崎氏の感想は個人的なそれでしかないというのも納得できるのである。
やはり手塚治虫のまっすぐな思いが、人を動かし、時代を動かし
逆にそのまっすぐで妥協のない姿勢のせいで、人が離れて、時代からも縁遠い存在になっていった経緯が
多数の関連人物の動きとあわさって描かれている本である。
もう少し前の時期であれば、関係者への取材が可能であったに違いないし
これほど関係者の証言が食い違ったり、無言を貫いていたりして、曖昧な部分の多い日本アニメ黎明期の歴史について
直接取材は不可避だったはずだが、
それが可能であった時代には、誰もその作業に従事しなかった。
ゆえに、こういう形でしか、日本アニメ史は語れないのが残念でもあるが
それを成し遂げた中川氏の仕事は偉大であり不滅である。
今や日本が世界に誇れるものはこの分野ぐらいしかないのだから
ある意味、今の日本国民にとって必読書と言ってよいかもしれない。
またしても中川マジックに陶酔させられた。幸福な二週間だった。

700korou:2023/06/20(火) 13:55:00
早川隆「日本の上流社会と閨閥」(角川書店)を読了(トイレ本)。

今年3月から今日までかけて、読み続けた(眺め続けた)トイレ本。
1980年代前半に購入して以来、どれほどこの本を参照し続けてきたか分からないほど身近な本なので
今さら通読など想定もしていなかったが
適当なトイレ本がないので、読み始めることにした。
本当にイメージ通りピッタリのトイレ本だった。
本の内容については今更なので省略。

明日からどうしよう。
適当なトイレ本がないが、何か探さねば。

701korou:2023/07/21(金) 16:26:41
中川右介「プロ野球『経営』全史」(日本実業出版社)を読了。

県立図書館に直接リクエストして購入してもらった本で
読み始めてすぐに、リクエストしたかいがあったと実感できた本である。
これほど面白い観点で書かれたプロ野球の本は、かつてなかったと断言できる。
断片的に特定の視点、特定の球団に限定した形なら
いくつかあったかもしれないが
日本のプロ野球の歴史全体を「経営」の視点で書き綴った本というのは
かつて記憶がなく
そして、それはこれからの”あるべき経営の形”を示唆することにもなっている。

とにかく、あらゆる人物が登場し
それらの人物についてのミニ評伝、ミニ伝記も逐一書かれている。
日本で野球がプロ興行として成立し発展していく過程で
いかに多くの人物がそこに関わってきたかということがよく分かる。
正力松太郎が中心になって成立させ発展させてきたという”偽りの正史”は、
この本によって完全に化けの皮がはがされたといってもよい。
しかし、そのことは逆の意味において
この世界(NPB)において
真の意味におけるリーダーシップを発揮した人物が
過去に居なかったということの証明でもあり
そのことが現在のNPBを閉塞した状況に追い込んでいるということでもあるような気がする。
そう思えば、この本が出版された意義は
さらに大きく思えてくるのである。

702korou:2023/08/21(月) 16:14:03
中川右介「世襲」(幻冬舎新書)を読了。

政治家、自動車・鉄道事業の企業家、歌舞伎の名家について
それぞれの世界での世襲の実例を示しつつ
実際のところ、近代日本政治史、近代日本産業史、江戸時代以来の歌舞伎史について
コンパクトに知ることができる本にもなっているというスグレモノ。
他の本でこれほど詳しく書かれているものはないのではないかと思われる。
この種の本を読み続けている者として
これほど嬉しい読書体験はない。

政治史に関しては
どのような経緯で権力者たちが権力を得ていったのかが
こうしたフィルターで記述されることによって
意外なほどハッキリ見えてくる。
企業史に関しては
そもそもここまでコンパクトかつ詳しく書かれた自動車産業史、鉄道事業史の記述は
他の本では見たことがない。
歌舞伎史は、江戸時代の世襲について詳しく書かれていて
これも明治以降に偏りがちな類書と比べて優れているといえよう。

さらに、あとがきでサラッと書いているが
これは「天皇史」へのオマージュでもあるだろう。
ハッキリと”天皇家の世襲は望ましくない”と書いたりすると
不要な雑音、揉め事に巻き込まれる恐れがあるので
今回の著作では意図的に外しているように思えた。
しかし、著者の結論としては、そのように読める。
まさに、これこそこの本を書いた最大の動機なのだろうと思ったりする。

なんとか返却期限までに読めた、一安心(読み辛くて読破に時間がかかったのではなく、たまたま)

703korou:2023/08/22(火) 17:33:18
猪俣勝人・田山力哉「世界映画俳優全史 女優篇」(社会思想社<現代教養文庫>)を読了。

トイレ本として読了。
前回の閨閥本読了の後、何をトイレ本にしようか迷った末
このシリーズの「俳優篇」に目をつけ、まず女優篇から読むことにしたのだが
これは大当たりだった。
適度に知らない部分があり、ほどほど知っている部分もあり
活字の大きさも適当、叙述の平易さも妥当ということで
今回の女優篇の次は、当然ながら男優篇ということになる。
その次は男女優込みの現代篇、
それが終わったら日本の俳優に移る。

内容については省略。
意外と、著者たちが個人的な思い出を語っているのには驚いたが(今はこのたぐいの叙述は出版しにくいだろう)
まあ、猪俣氏にしても田山氏にしても、今までずっとその叙述に触れてきていて大体の嗜好などは承知できているので
特に問題はなかった。

さて、トイレ本、次回からは男優篇だ。

704korou:2023/09/09(土) 15:15:42
本多圭「ジャニーズ帝国崩壊」(鹿砦社)を読了。

ジャニーズ事務所の”悪業”が注目されているこの時期
かつて購入して一度読了もしているはずのこの本を
再読してみた。
思ったよりも中身が濃くて面白い本であることを再確認。

いろいろあって、なかなか要点を絞るのは難しいが
やはり、藤嶋泰輔というメリー喜多川にとってのパトロンの存在がユニークで
そこから最終的に勝共連合に資金が流れていく過程が
一般には語られていない部分で興味深かった。
喜多川姉弟というのは、あまりにも純粋で視野が狭く
そこを藤嶋がつついて好きなように資金を使っていたという構図が
みてとれる(証拠も何もないが、それこそ藤嶋の悪賢さだろう)。

そこから小杉理宇造、白波瀬傑といった小悪人に”悪業”が受け継がれ
さらに表面上は喜多川メリー、ジュリー親子に批判が集中する構図になっていく。
ジャニ―喜多川は、自らの悪業を自らのカリスマ性で帳消しにするという稀な人物だったが
亡くなってしまうと、その悪業を弁護する要素も消えてしまった。
そして、メリー亡きあと、ジュリーが一手に背負うには重すぎたジャニーズ事務所の負の遺産は
海外からの指摘で、一番わかりやすい性的犯罪行為により
その正体を浮き彫りにされたのだろうと思う。

つまり最初の悪業ともいえる労働搾取による統一教会への献金という行為は
もはやどこかにいってしまっているのだ。
そんなことを読後に思った。

705korou:2023/09/10(日) 16:38:34
木村元彦「江藤慎一とその時代」(ぴあ)を読了。

県立図書館で借りた本で
借りる前から、すぐに読了してしまうだろうなという予感があったが
その通りに一気読みで終わった。

叙述スタイルは
一次資料を駆使して二次資料を構築するという”中川右介”スタイルではなく
オーソドックスに関係者にインタビューを重ねて事実関係を掘り下げていくものである。
それだけに話は時として脇道にそれたり、関係なさそうな部分も出てくるが
やはり、まだ当事者に事実を確認できるテーマについては
このスタイルのノンフィクションは貴重であり、かつ欠かせないものだろう。

もともと江藤という打者に思い入れがある上に
こうした貴重な情報も満載だったので
実に面白く読めた。
水原茂という人のとらえ方も
また人間というものの不可思議さの典型のように思え
それに比べて、一昔前の野球人に時としてみられる傲慢さ、理不尽さは
あまりに人として浅く不誠実で、実に腹立たしく思えてくる。

大きな活字で200ページ程度の小著であるが
中身の詰まった好著だった。

706korou:2023/09/16(土) 17:06:43
西崎伸彦「海峡を越えた怪物」(小学館)を読了。

これも県立図書館で借りた本。ロッテ創業者の重光武雄についての評伝である。
読み終わった直後の印象としては
週刊誌の連載記事をまとめた本ということで
世間一般の評価よりも厳しい人物評となっており
それは登場人物全般においてそのようになっている。
例えば、次男で会社全般を引き継いだ立場の重光昭夫について
普通なら、不振のロッテ球団を立て直した仕事のできるオーナーという評価だと思うが
この本では大したこともできなかったダメな管理者という評価となっているし
また、この本のほぼ最後のほうまでは
一流の経営者の扱いだった武雄本人の評価にしても
最後の章(これは週刊誌連載の後、今回の出版に際して追記された章)では
2000年代に入ってからのいろいろなつまずき、お家騒動について
容赦ない指摘で、一気に評価を下げているのも
ある意味奇異な印象を受けた。
やはり、最も活躍していた時代から半世紀近く過ぎて
関係者から直接の証言を得ることが困難になっているので
どうしても過去の業績については
限定されたものしか出てこないというのが大きい、
それに対して、最近の出来事については
あらゆる情報が飛び交い
どうしても負の側面が隠し切れないという面もあるだろう。
現代の著名人の伝記ではよくあることだが
秘密主義のロッテという企業に関しては
そうした面がさらに大きく出てしまったという感が強い。
まあ、伝記として、この時期に書かれたものとしては(ほぼ2000年前後に書かれた連載だが)
よく出来たほうだとは思うのだが。

707korou:2023/10/24(火) 13:55:08
井沢元彦「日本史集中講義 1〜3(大活字本)」(大活字)を読了。

1・2は、先々週の金曜日(電気工事で停電・断水の日)に、図書館内で読了。
時間の関係で、3だけを借りて帰り、しばらく目を休めるために(結婚式を控えて健康管理)そのままにしておいて
やっと昨日一気に読了した。

副題で「点と点が線になる」と書いてあるが
まさに、そういう歴史の流れを重視した日本史の通史本だった。
もっとも、事細かく事件・出来事を記述する教科書のような本ではなく
歴史の流れだけを書いている本なので
すでに通史についてある程度理解している人でないと
この本を読み通しても無意味だろう。

近現代で、突然個人攻撃が始まったのには驚いた。
藤原彰という、さほど有名でもない歴史学者(井沢氏は歴史学の大家と評していて、こういう人が第一人者であることが許せないらしいが)を
これほど攻撃しなくても、普通に書いていれば納得するのに
ここだけは違和感ありありだ。
その勢いで、次々と指摘が続き、それらは重要な論点であるので、
今までの経緯、反対意見の論拠、自分の意見の論拠などを示す必要があると思うのだが
なぜか近現代編だけは、読みようによっては独断の連続のようにもとれる。
参考になる歴史観も多いのだが、近現代だけは独特だなと
思わざるを得なかった。
まあ、全体として良書だとは思うのだが・・・

708korou:2023/10/27(金) 14:30:37
猪俣勝人・田山力哉「世界映画俳優全史 男優篇」(社会思想社<現代教養文庫>)を読了。

トイレ本として、約2か月読み続けた本。
前回の女優篇と同様、
一昔前のこうした本では普通だった(でも今ではなかなか許されない)著者である猪俣・田山両氏ともに
主観丸出しの叙述で
自分には非常に面白く読めた。
特に田山氏については、自分の青春の想い出をふりかえるような叙述ばかりで
でもこういうのが本当の映画ファンだよなと思いながら読み進めた。

古い時代については知らない俳優ばかりで
でも、これで少しは目印がついたので
その時代の映画を観る際には
以前よりは興味深く視聴できるのではないか
という気がする。

さて、次は「現代篇」だ。これも楽しみ。

709korou:2023/11/09(木) 21:46:46
川島卓也「ユニオンズ戦記」(彩流社)を読了。

久々にボリュームのある本に食らいついた感じだった。
高橋ユニオンズのことが書いてあるはずと思って図書館で借りたのだが
最初は読めども読めども高橋ユニオンズの話が出てこず
もっぱら毎日新聞の大阪での夕刊発行のダミーとして設立された「新大阪」のことばかり書いてあり
なかなかユニークな本だと思った。
小谷正一、足立巻一、黒崎貞治郎といった人たちの群像劇が延々と描かれ
それはそれでかなり面白い読み物になっていたので
とりあえずは退屈せずに読み進めることができた。

黒崎貞治郎は毎日球団の関係者なので
なるほどと思い読んでいくと
予想通り、昭和20年代半ばの頃の激動のNPBの歴史が
独特のタッチで掘り起こされていく。
このあたりも独自の視点で書かれていて、なかなか参考にもなる。

そして、この本の後半は
高橋ユニオンズの戦いぶりを当時の新聞記事などで再現したかのごとく
なんと全試合の概要が延々と書かれているのだから驚く。
ハッキリ言って、途中で飽きてしまうほどの単調さなのだが
これも著者のユニオンズ愛というべきか。
まあ、これはこれなりに日本プロ野球史の貴重な記録ともいえる。

続編も予定されているらしい(そもそも昭和29年で終わっているし)
自分のような独特の野球ファンにとっては
こたえられない「ヘンな野球本」であることは確かである。

710korou:2023/11/11(土) 15:40:00
岸宣仁「事務次官という謎」(中公新書ラクレ)を読了。

本のタイトルと違った点が2つ。
①事務次官という言葉を使いながら、記述の大半が財務省(大蔵省)の次官に偏っていること
②事務次官についてのあるべき未来像を語る後半において、その記述はむしろ公務員制度の改革に偏っていること
こうした偏りはあったが、全体としては面白く読めた。
それは、当方が勝手知ったる公務員のことなので、
特に著者が取材した官僚の談話などから
言葉の背後から伝わってくるものが
実感をもって迫ってくるからなのだろう。

幹部級のエリート官僚だけは
独自の選抜制度にすべきというのが
現時点のベターな正解なのだろう。
その第一歩としてなら「内閣人事局」の創設・運用というのもアリだろうが
やはり、これからの日本においては
無理やりでも国家の目標を仮説の形で言語化して
その仮説に沿った各省の目標を定め
その目標を数年単位で具体化した上で
幹部官僚の職務を明確にする、そしてその職務に最適の人材を公募するという
新しい公務員制度を検討しなければならないだろう。
一気に改革できない今の日本だが
せめて事務次官だけでも、それからごく少数の幹部職員だけでも、
そして、公募と内部昇格の2本立てで運用というのが
現実的だと思える。

そんなこんないろいろなことを考えさせられる好著だった。

711korou:2023/11/14(火) 20:44:03
二宮清純「証言 昭和平成プロ野球」(廣済堂新書)を読了。

多分すぐ読めるだろうと思って借りた本で、実際すぐ読めた。
その割には、中身は予想以上に詰まっていて
今まではつまらない本が多かった二宮氏への認識を
改める結果となった。

二宮氏は、還暦となったこともあり
これからは古い時代の出来事を関係者から「オーラルヒストリー」を重ねて
未来の世代に残していく仕事を中心にしたいと
この本の”まえがき”で書いている。
二宮氏なら、そういう仕事は適任だし
いい方向に進んでもらったと
応援したい気持ちになった。

今回は、杉下茂、金田留広、城之内邦雄、柴田勲、佐々木信也、長谷部稔、古葉竹識、大下剛史、安仁屋宗八、田淵幸一、鈴木康友の
11名への「オーラルヒストリー」だった。
なかには、取材時からまもなく死去された方も居られるので
生前に話を聞けてよかったと思うのである。
話があまりに多方面に広がっているので(新書サイズとはいえ)
具体的なことはすぐには思い出せないのだが
なかなか面白く読めた本だった。

712korou:2023/11/21(火) 09:50:45
連城三紀彦「悲体」(幻戯書房)を読了。

何か小説の文体についてヒントを得たいと思い
畏敬する作家である連城氏の小説を借りた、というシンプルな動機。
しかし、もはやそのようなことはどうでもよくなり
世間一般では評価の低い小説というのに
自分としては無我夢中で読み進めることになった。
小説をこんなに一気に読んでしまうことなど
もう我が人生ではないだろうと思っていたのだが。
何年ぶりのことなのか、少なくとも退職後は初めてのはず。

何が凄いかといって
これほど細かく丁寧に人間描写ができて
しかも文章が洗練されているので
全く読みづらくないということ。
活字を追う疲れなど全然感じない反面
あまりに情景がリアルに迫ってくるので
(フィクションとはいえ)そういう体験を繰り返し味わうことへの疲れで
本を閉じたくなってしまうのである。
こんな作家は他にはいない。

また連城氏が紡ぐ物語を読みたくなってきた。
「恋文」などが良さそうだな。

713korou:2023/11/28(火) 21:50:25
笹山敬輔「興行師列伝」(新潮新書)を読了。

目次を見ての第一印象は
ありきたりな本だなということ。
興行師として、守田勘彌は面白いとしても
その後の大谷竹次郎、吉本せい、永田雅一、小林一三という章立ては
あまりに普通すぎると思ったのである。
しかし・・・読み始めてすぐに
この著者は出来る人だと感じた。
説明するのに苦労するような複雑な状況を
簡潔で分かりやすく書ける才能のある人である。
そして、各事件、事案についての簡潔なまとめについても
概ね妥当な、常識のある大人の意見と思われ
安心して読めるのだ。

ということで
すっかりこの著者のファンになってしまった。
今回の著作にしても
今まで知っていたことも多くあったとはいえ
それについて記憶があやふやになっていたところを
明瞭な形で再復習できたし
また同じ著者の別の著作を読みたくなってきた。

良い本にめぐりあうことは年に数回はあるのだが
良い著者にめぐりあうことは稀である。
今回はその稀な幸運に出会った感じだ。

714korou:2023/12/02(土) 10:37:13
竹中功「吉本興業史」(角川新書)を読了。

吉本興業の社員として数々の功績を残した著者だが、2015年に退職。
改めて外から吉本を眺める機会を得た。
その上で、いろいろな感慨、反省も含めつつ
私家版「吉本の歴史」としてまとめた本ということになる。
著者は、吉本興業の正史である「105年史」にも
社員時代にいくらか関わっており
それと対比させる意味もあったようだ。
その意味で、冒頭から
闇社会との関わりを延々と書き連ねて
なかなかの心意気を見せたわけだが
読み終わってみると
やはり全般として「手ぬるい」印象は拭えない。
もっとも、元社員としては、これが「手一杯」かもしれないが。

社史としてみれば
私家版ということで客観的な視点など期待すべくもない。
ただし、何もかも自慢するような嫌な感じもなく
そのあたりは巧く書けていると思った。
そして、エピソードの数々には
私家版ならではの「もう一つの真実味」が感じられ
全体としては好著といえる。
でも、まだまだネタはあるはず、
この著者にはもっと書いてほしいと思う。

715korou:2023/12/04(月) 21:09:13
(未読)連城三紀彦「恋文」<短編集まるまる1冊読了ではないが5作中2作を読んだ>

連城氏が1984年に直木賞を受賞した表題作と、「紅き唇」の2作を(大活字本で)読んだ。
いずれにせよ、とにかく作品世界が濃ゆい。
人間臭さ全開で、よくよく考えたら
自分が一番苦手な世界なのではないか?
文章が巧すぎて、ついつい手を出してしまうのだが
最初はその巧さに感嘆しながら
いつしか読み進めるのがしんどくなり
ついに投げ出してしまうというパターンが見えてきた。
前に読んだ「悲体」は、その点であっさり味もあって完読できたが
今回はさすがに濃ゆい、濃ゆい!
もうムリということで、残り3作品はパスすることにした。

連城氏の小説は
今のところ、ほぼ私小説の変型だ。
違うテイストがあれば
文章の達人だけに読みたいのだが
多分、どの小説にも濃ゆい人間関係が描き込まれているのではないか。

716korou:2023/12/14(木) 16:24:35
笹山敬輔「ドリフターズとその時代」(文春新書)を読了。

最近発見した久々の名文章家、笹山さん。その最新作。
期待通りの面白さだったし
最後の最後で、志村けんがなぜ喜劇王なのかということに触れ
それは著者のライフワーク(演劇史)と重なることによって
この本を書いた動機も明確になるという見事な結末となった。
何よりも、著者の”ドリフターズ愛”が心地よい。
また、そうした書いている対象への敬愛がなければ
ここまで深く書き表せないだろう。
自分は
(リアルタイムなのに)ドリフターズについては何の思い入れもないので
ここまで思い入れることのできる著者を
羨ましくも思うし
逆に今回初めていろいろな事実を教えられた。
特に、志村けんについては認識を改めることが多かった。

皆、昭和を生きた人間だと痛切に思うのである。
昭和という時代のいろいろな要素が
彼らの活動には詰まっている。
だから、こうして言葉の力で
その時代の顛末を振り返る必要があるのだと思う。
その意味では、書かれるべき時期に
書かれるべき著者によって書かれた
実にタイムリーな著作になっている。
文字通りの「佳書」だ。

717korou:2023/12/15(金) 12:15:22
大脇利雄「フェレンツ・フリッチャイ」(アルファベータブックス)を読了。

この本の出版元であるアルファベータブックスという会社が
近年数多くのクラシック音楽家の本を出している
貴重な出版社であることが分かり
さらに、中川右介氏が創業した出版社であることを知って
そのことも驚きの一つ。
フリッチャイのような必ずしも絶大な人気を誇っているわけではない指揮者について
さらに専門家でなく、その指揮者のファンであるという一般人の著作を
こうして企画し出版する心意気には
敬意を表さざるを得ない。

そうして出来上がったこの本は
中身も素晴らしく
さすがに長年のファン(フリッチャイのサイトの運営者でもある)だけのことはある。
知りたいことはほぼ書き尽くされていて
逆にこれ以上のことは推測でしか分からないだろうと思われる。
フリッチャイの命を奪った病名は
一般に言われる白血病とは断定できず
むしろ悪性リンパ腫と考えたほうが辻褄が合うという最後のコラムなどは
従来の見解を覆すものであり
こうした研究成果は広く知られるべきだろう。

まあ、フリッチャイに興味ない、そもそも知らないという人には
何の価値もない本ということになる。
伝記だから仕方ないけど。

718korou:2023/12/28(木) 17:50:24
笹山敬輔「昭和芸人 七人の最期」(文春文庫)を読了。

またまた笹山氏の著作をゲット、県立図書館の書庫から出してもらって借りた本。
七人の昭和芸人とは、エノケン、ロッパ、エンタツ、石田一松、シミキン、金語楼、トニー谷のこと。

個人的には
金語楼とトニー谷の晩年のテレビでの姿しか判らないわけだが
一般的にも、この本が出版された時点(文庫書下ろしで2016年刊行)で
これらの芸人のことを事細かく書けるほどリアルタイムで観ていた人は
皆無ではないかと思う。
その意味で、まさに
二次資料を駆使して見事な文章を組み立てる笹山氏の面目躍如たる本なのである。

「最期」とはいえ、きっちりとその生きざま、活躍の概要が簡潔にまとめられていて
そもそもがあまり詳しい生涯が語られなくなった人たちばかりなので
それだけでも貴重なのである。
もっと他にもいろいろと書いてほしいと
切に願うばかり、それ以上のことはない。
見事な複数伝記本。

719korou:2023/12/29(金) 10:29:20
田山力哉「世界映画俳優全史 現代篇」(社会思想社)を読了。

トイレ本として読了。
いまはなき社会思想社の映画シリーズとしてほぼ最新版といえるが
現代篇と銘打ちながら1984年頃までの映画俳優について語っているわけで
今となってはレトロ編といえるだろう。
メリル・ストリープ、トム・クルーズなど
2023年の現在でも大活躍を続けている例もあるが
その大半は80年代もしくは90年代の活躍で終わっていて
なかには何で取り上げているんだろうと疑問な人選も
ないではないが
個人の著作なのである程度の偏りは免れないところ。
そして、田山氏ならではの仏映画偏愛の傾向は
この著作でも顕著で
女優偏愛の傾向も全然改められていないのは
もはやご愛嬌という他ない。
そういう独断と偏見も
この方の著作の大きな魅力といえる。

さて、次は何を読もうか。

720korou:2023/12/29(金) 10:40:45
(2023年読了本① 1月〜9月)
(1月)
ナシ
(2月)
宇佐見陽「大リーグと都市の物語」(平凡社新書)
(3月)
宮崎勇・田谷禎三「世界経済図説 第四版」(岩波新書)
池上彰・佐藤優「真説 日本左翼史」(講談社現代新書)
(4月)
池上彰・佐藤優「激動 日本左翼史」(講談社現代新書)
安西巧「歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想」(日経プレミアシリーズ)
池上彰・佐藤優「漂流 日本左翼史」(講談社現代新書)
(5月)
半藤一利・池上彰「令和を生きる」(幻冬舎新書)
(6月)
中川右介「社長たちの映画史」(日本実業出版社)
中川右介「アニメ大国建国紀 1963-1973」(イースト・プレス)
早川隆「日本の上流社会と閨閥」(角川書店)
(7月)
中川右介「プロ野球『経営』全史」(日本実業出版社)
(8月)
中川右介「世襲」(幻冬舎新書)
猪俣勝人・田山力哉「世界映画俳優全史 女優篇」(社会思想社)
(9月)
本多圭「ジャニーズ帝国崩壊」(鹿砦社)
木村元彦「江藤慎一とその時代」(ぴあ)
西崎伸彦「海峡を越えた怪物」(小学館)

721korou:2023/12/29(金) 10:42:10
(2023年読了本② 10月〜12月)
(10月)
井沢元彦「日本史集中講義 1〜3(大活字本)」(大活字)
猪俣勝人・田山力哉「世界映画俳優全史 男優篇」(社会思想社)
(11月)
川島卓也「ユニオンズ戦記」(彩流社)
岸宣仁「事務次官という謎」(中公新書ラクレ)
二宮清純「証言 昭和平成プロ野球」(廣済堂新書)
連城三紀彦「悲体」(幻戯書房)
笹山敬輔「興行師列伝」(新潮新書)
(12月)
竹中功「吉本興業史」(角川新書)
笹山敬輔「ドリフターズとその時代」(文春新書)
大脇利雄「フェレンツ・フリッチャイ」(アルファベータブックス)
笹山敬輔「昭和芸人 七人の最期」(文春文庫)
田山力哉「世界映画俳優全史 現代篇」(社会思想社)

<計28冊>

722korou:2024/01/03(水) 15:02:05
ルーベルト・シェトレ「指揮台の神々」(音楽之友社)を読了。

ユンク君サイトで話題になっていたので
県立図書館の書庫からリクエストして借りた本。
苦手の翻訳ものだったが意外と読みやすく
450pを超す分厚い本ながら短期間で読み終えることができた。

ハンス・フォン・ビューローから始まる指揮者列伝で
普通なら次はニキシュになりがちなところを
ハンス・リヒターをその間に挟むところが
いかにも分かってらっしゃるというセンスを感じる。
ニキシュの後にマーラーというのもさすがだし
そこでやっとトスカニーニの登場と相成る。
以下、ワルター、クレンペラー、フルトヴェングラー、クナと続き
さらにベーム、カラヤン、バーンスタインという流れ。
最後にラトルへのインタビューとなっている、
叙述は妙にバランスを崩してまでは詳しくもなく
かといって押さえるべきところはきちんと押さえてあって
なかなか信頼に足るバイオグラフィーだと感じた。

特に、ビューロー、リヒター、ニキシュ、マーラーあたりは
詳しい生涯を知るところが無かったので
新鮮でタメになった。
いい感じの佳著である。

723korou:2024/01/15(月) 16:44:57
ベン・リンドバーグ&トラヴィス・ソーチック「アメリカン・ベースボール革命」(化学同人)を再読。

2回目の読書となる本書。前回は、次に予約が入ってしまい、500p近いこの大著を大急ぎで読む羽目に陥ったのだが、今回は
年末年始の貸出期間長期となる期間を利用して、さらに2週間の貸出延長もかけて、じっくりと読むことができた。
前回は、最初に読んだ衝撃ということもあり、この本に書かれたいろいろなMLBでの変化について、初めて知った喜びが強すぎた
かもしれない。今回は割と冷静に読むことができ、こうしたMLB内での「革命」を過大にも過少にも評価できるようになったよう
な気がする。

この「革命」の最大の利点は、超一流選手は才能、という従来の決定論のような思考を覆して、一流に近い才能さえあれば、より科学的
にベースボールを追求することによって、誰でも超一流選手になれるということが実際に証明されたことである。超一流選手が増えれば
それは間違いなく野球界全体のレベルアップにつながり、今まで見たことのない新しい世界が開かれるはずだ。

一方、この「革命」は、野球のアスリートとしての側面だけを一気に改善する流れなので、野球そのものの競技としての側面には一切
関係なくなっていく。イチローはそれが言いたかったのだろう。でも、競技としての野球のレベルアップは、今のMLBだとかなり
難しいのではないか。より優れたアスリートになろうとする努力は、おそらくMLBレベルにまで達した選手であれば、ほぼ全員が
その方向により良くなろうとするだろうが、野球という競技のなかで頭脳を発揮する方向により努力しようとする選手は、どうしても
限られてくるのではないだろうか。残念ながら、近代スポーツはどうしてもその方向に発展しがちだ。それは他の競技でもそうなのだ。

また、こうした努力が、結局若い選手の早期育成につながることによって、その反作用として高年俸の選手の排除につながり、選手に
とっていいことばかりではなくなり、一方的に球団の財務が潤うだけという批判もある。その一方で、この流れが定着すれば、高年俸の
選手であってもまだまだ進化していくということでもあり、この点はまだ進行中の事実ということで結論には至っていない。
そして、そうした努力の最先端にいたアストロズの球団ぐるみの不正行為は、いかなる努力でもある程度の良識抜きだと皆が納得する
「革命」にはなり得ないということを明らかにしている。少なくとも野球界の外部では、厳しいコンプライアンスが要求されている現在
において、結果だけを追い求める姿勢は社会からは支持されないわけで、それに加えて、ファンあってのプロスポーツである以上、あま
りに極端な「革命」にならないよう、今まで以上に慎重に検討されるべきだろう。

今回の読了ではそんなことを考えた。そして、この本が名著であることに変わりないと再度思った。

724korou:2024/02/01(木) 16:57:30
大見崇晴「『テレビリアリティ』の時代」(大和書房)を読了。

笹山敬輔氏の著作からこの本の存在を知り、
さっそく県立図書館で書庫から出してもらって借りることに。
読了後の印象としては
思ったほど整理された本ではなく雑然とした叙述だったが
部分的には優れた考察も見られる好著ということになる。

戦後日本でスタートしたテレビという媒体を
「民主化を促す」媒体という本来の設立趣旨と
コンテンツ自体が内包している「エンタテインメント」としての性格に二分するとともに、
それらが自ずから両立し得ないものであることから
1970年代の「あさま山荘」実況中継のあたりから
「エンタテインメント」としてより
「ダダもれ」としてのドキュメント性のほうが優位になるという考察。
視聴者と制作者がお互いにお互いを必要とする日本のテレビ独特のコンテンツが形成され
そして、それが21世紀になって、ネット全盛時代に引きずられるかのように
双方向性、コメントする視聴者と
「やらせ」のないコンプライアンス重視のドキュメントスタイルの番組を作り続ける制作者との双方向性、
そして、それは「ニコニコ動画」のようなスタイルにすぐ馴染む日本独自の感性を生んだ、という考察。

しかし、この本の後半に頻発する「環境環境」という言葉などはあまりに抽象的で
この本の前半の分かりやすさ(萩本欽一の役割の強調、そして彼の復権をもくろむ叙述)に比して
後半の抽象的な難解さには閉口した。
前半の叙述だけでうまくまとめていればもっと面白い本になっただろうけど
著者が素人文学ファンということから、それは難しかったのかもしれないが。

725korou:2024/02/11(日) 12:31:42
マイケル・チャーリー「ジョージ・セル」(鳥影社)を読了。

480ページに及ぶ大著で、さらに優に100ページ以上あると思われる注釈・参考データが末尾に続く
稀代の名指揮者ジョージ・セルに関する伝記の決定版と言える好著である。
翻訳の文章が誠実過ぎて堅苦しいこともあって
読み続けるのには苦労したが
詳しいことは何一つ伝わっていない20世紀前半から中盤にかけての欧米のクラシック音楽界の実情を
前回読了したフリッチャイの伝記と合わせて
具体的かつ詳細に知ることができたのは
読了前の期待通りとなった。
ただし、全体を通して(クリーヴランド時代以降の後半の叙述では特に)
細かすぎる記述(個々の演奏会についていちいち曲目を羅列する細かさ)には閉口した。
翻訳文体の固さと相俟って
この本を必要以上に読みにくくさせている。

そうした退屈さの合間合間に
(人としてはともかく)芸術家としては極めて誠実な人生を送ったセルらしい言葉が挿入され
それはこの本の最大の魅力となっているだろう。
そして、もう一点。
絶賛を浴びた晩年の指揮ぶりでさえ
「予測可能だった」「説教臭い」などという批判も浴びていたことも
忘れてはならない。
どんなに真剣に芸術に取り組んでいて、まして才能に満ち溢れていたとしても
それだけでは完璧な芸術にならないという、いわば当たり前の事実が
ここには示されているのである。
そして、それはセルにどうしても馴染めない今の自分には
重要な真実であるように思えたのである。

726korou:2024/03/01(金) 14:08:47
山崎浩太郎「演奏史譚 1954/55」(アルファベータブックス)を読了。

読み始めるまでは、それほど期待はしていなくて
クラシック音楽の雑学が少し増えればという程度だったのだが
読み進めるにつれ、予想に反して面白い本であることが分かった。
ちょうど、今の自分の関心が深まっている分野、時代についての著書であることが
この読書を有意義なものにしているというわけだ。

直前にセルの本を読んだので
トスカニーニ、ミトロプーロスに関する出来事、あるいは
ワルター、モントゥー。ライナー、バーンスタインについての当時の評価など
まるで復習をするかのように読むことができた。
そして、トスカニーニはもちろん、フルトヴェングラー、カラヤン、カラスなどの
この時期の詳しい動きも
的確な記述で手に取るように分かった。
さらに、吉田秀和、山根銀二、朝比奈隆などの当時の日本音楽界での立場とか
大岡昇平、福田恆存などの当時の文化人のクラシック音楽への関心など
全く新しく知ることが多かった。

意外なほどタメになる本だった。

727korou:2024/03/05(火) 17:45:23
ノーマン・レブレヒト「クラシックレコードの百年史」(春秋社)を読了。

第1部が本編で、第2部・第3部はレコード史における名盤・迷盤の紹介となっている。
第1部は読み切ったが、第2部・第3部は読了しなくてもよいと思ったので
飛ばし見程度、そういう意味での読了ということになる。

第1部だけ完全読了とはいえ
実に読みにくい本で苦労した。
最初は、自分が固有名詞を覚え切れないせいだろうと思っていたが
読み進むにつれ、叙述自体が滅茶苦茶なせいも大きいと気がついた。
段落切れも何もなく、いきなり次の行で全く違う話が続いていたりして
読んでいるほうは、それに気づくまでかなりの時間がかかるのだから。
同じ段落のなかで、最初の行だけEMIの話、その次の行がいきなりデッカの話という風に
何の脈略もなく連続しているわけだ。
訳担当者は、もっと思い切って意訳すべきで
原著の不都合な流れをそのまま翻訳してどうするのか
と言いたくなる。

書いてある内容は興味深いもので
途中から極端な悲観論に終始するのには閉口したが
それ以外は、現時点でぜひ知りたい情報、知識が大半だった。
少なくとも、レコード会社、その関係者に関する知識量は
読む前よりも飛躍的に増えたような気がする。
まあ、もっと分かりやすい本で読みたかったけれど(^^;;

728korou:2024/03/16(土) 18:01:58
戸部田誠「芸能界誕生)(新潮新書)を読了。

予想以上に面白い本だった。
いわゆる聞き書きスタイルで書かれている本なので
そのすべてが真実であるかどうかは定かでないが
この種のサブカル本については
こうしたスタイルで書かれた本が必須なのであり
きちんとした検証が不可能な場合も多いので
そうなれば、ここで書かれたことが真実に一番近い事実として
語られることになるだろう。

”芸能界”については
ここで語られたことが全てでないのは勿論で
ナベプロが興行の世界まで支配し始めた時期の直前まで
日本の興行界を牛耳っていたヤクザの存在については
この本では全く語られていない。
しかし、それ以外の
おもにテレビ時代以降の芸能界の中心的存在となった芸能プロダクションについては
ほぼ完ぺきに歴史が網羅されていて、しかも簡潔で読みやすい記述となっている。
(あと、レコード会社とテレビ・ラジオ放送局の歴史も必要だが・・ここまで書いてみて
 それが不足していたと思い当たった)

昭和、特に戦後について芸能界を語る上での
必読書ともいえる佳著であることは間違いない。

729korou:2024/03/18(月) 12:18:22
お股ニキ「セイバーメトリクスの落とし穴」(光文社新書)を読了。

ダルビッシュ投手とのやりとりで有名になった著者だが
基本的に野球シロウトとしての立場を踏まえつつ
最新の野球理論についてどう考えたらいいのか、ひいては
最終的に野球の面白さとはどういうところにあるのかについて
いろいろな観点から語っている本である。
副題に「マネー・ボールを超える野球論」とあるが
出版社などの担当者たちが
いかに野球のことに無知であるかが
この副題のつけかたに示されている。
そして、その副題を了承してしまったところに
この著者の”シロウトとしての遠慮”が見えて面白い。
マネー・ボールはセイバーメトリクスと何の関係もない。

記述は多岐にわたっていて
そのすべてを理解するには
かなりの”野球愛”を必要とする。
そして、分析面では鋭いものの
著書全体としてはまとめ方が上手でなく
結局何が言いたいのかということにもなるのだが
この種の本では、そこは目をつむって
分析の面白さを味わうべきだろう。
特に変化球の分析に関しては
他に類のない見事なもので
ハッキリ言って全部理解することは難しいのだが
一読の価値はあると思った。
もう少し分かりやすいものが出ればベストなのだが
著者の次回作を待ちたいところである。

730korou:2024/03/26(火) 11:32:04
猪俣勝人・田山力哉「世界映画作家全史(上)」(社会思想社・教養文庫)を読了。

トイレ本として読了。
読む前から面白い本として分かっていたし
実際、タメになった本だったのだが
それにしても、今更ながら知らない人物も多くて
映画史全体を把握することの困難さを
改めて思い知った次第。
特に、ハリウッド以外の地域の映画人については
代表的な数人しか知らないわけで
この本に載っている人物にしても
この共著者たちが選んだ範囲内ということでしかないので
すべてが網羅されていることではないわけだ。

そんななかで
かなり古い映画について
猪俣氏が実際に観たときの感想、世評などを
具体的に書かれているのは貴重は記述だと思う。
なかなか、昭和初期の頃の映画をめぐるエピソードなど
ここまで細かく書ける人は
この本の出版時でもそう多くは居なかったわけで
まして2024年の今、それを知ることができることそのものが
奇跡のようなものだ。

というわけで貴重な読書だった。
次は下巻。

731korou:2024/04/02(火) 11:56:52
吉田光男(編著)ほか「韓国朝鮮の歴史」(放送大学教育振興会)を読了。

放送大学の講義を随時聴いている関係で
一度通史を読んでおきたいと思い
何でもいいから読みやすそうなものをと県立図書館で借りた本が
たまたま放送大学のテキストだった(借りる前には気付かなかった)という
ウソのような話。
そして、ゆっくりゆっくり読んでいって
貸出延長でさらに2週間かけて読もうと思った矢先
次の人の予約が入ってしまい延長ができなくなったので
慌てて昨日、今日で一気読みしたという経緯。
まあ、それでも落ち着いて読めたのでよしとするか。

期待通りの通史の内容、レベルで
非常に満足できる読書ととなった。
後はこのイメージに具体的な事項を追加していくことになる。
韓国朝鮮の歴史は思ったよりも複雑で
こうして通史を知ることは
すべての日本人に必要ではないかと感じた。
誤ったイメージで語られることが多すぎるので
自分としてももっと知識を増やしていく必要があるだろう。
放送大学のテキストというのは
その意味で(基礎知識の網羅。知識を身に付けるための最初のステップ)
重要な意味合いをもつと
今回の読書で認識させられた。

732korou:2024/04/10(水) 14:38:35
生明俊雄「二〇世紀日本レコード産業史」(勁草書房)を読了。

いわゆるコロンビア、ビクターなどのレコード会社について
二〇世紀における企業としての隆盛史を記した本である。
この本のあとがきで著者が書いているとおり
この種の本はほとんど書かれておらず
その意味でこの本の存在は貴重ですらある。
ただし、文章は生硬で晦渋で読みにくく
誤字脱字、単純な勘違いなどが頻出する
言ってみれば、編集者は何をしていたのかと
嘆きたくなるような本でもある。
読みにくいけど、初めて詳しく知る事実も沢山知ることができる
という類の本になる。
(それにしても、これで東京芸術大の博士論文の草稿かと思うと唖然。
 要するに、誰もこの本の中身をチェックできないということか。
 それで博士論文として幅を利かせるのはどうかと思うが・・・)

今回の読書で得た知識は膨大なものになる。
音楽雑談スレを新設した上で、いくつかそのスレでまとめて記しているが
それでもごく一部に過ぎない。
まあしつこく読み通せば、編集の不備はなんとか解決できるので
全体としては良書と言えるかもしれない。
誤字脱字、勘違いなどは、著者に全部、責があるわけでもないので。

733korou:2024/04/22(月) 18:36:45
ジョン・カルショー<山崎浩太郎訳>「レコードはまっすぐに」(学研)を読了。

実に面白い本だった。
もともとの文章がイギリス人独特のひねくれたユーモアに満ちていて
さらに訳文もその文章の特徴を十分に生かした巧みな文章になっていたので
翻訳本を読んでいるある種辛い日本語体験など
まったく感じることなく読み進めることができた。
アマゾンの評だと、訳文の間違いなどが厳しく指摘されているが
確かにそういう誤りが頻出している上に訳文も酷ければ
その指摘はそうだと思うのだけれども
これだけ面白く訳されているのだから
細かい間違いは、それはそれでグッと腹に収めておくのが
読書人の良識というものだろう。
誰かと厳密な議論をするわけでもあるまいし。

この本でもし残念なところがあるとすれば
カルショーが自身の仕事ぶりについて
あまりに謙虚で、自慢すらしない書きっぷりなので
客観的にみてカルショーの評価はどうなのかが
さっぱり分からないことだろう。
幸いにも、カルショーを高く評価している本を先に読んでいたので
「指環」録音の偉業なども知った上で読むことができたのだが。

それにしても生々しい(笑)
ルービンシュタインのエピソードなど、本当なのだろうけど
ちょっと可哀想(爆)
この本のおかげで、(今後も多分聴くことは少ないだろうけど)
オペラなどで活躍する名歌手の人たちについて
親近感が増したのは間違いない事実。


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