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ソラの波紋

98心愛:2013/01/05(土) 17:10:00 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp
>>ピーチ

なるほど!w


馬鹿にされるというか哀れなポジションの奴が一作品につき必ず一人はいるというw
だいたいツッコミ役だよね←

99ピーチ:2013/01/05(土) 23:22:03 HOST:EM49-252-160-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

哀れなポジション………あ、分かるかも←

ヒース然り空牙君然りヒナさん然りw

空牙君はともかく、二人はツッコミも交じってるしねw

100心愛:2013/01/06(日) 10:44:19 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp






「色仕掛けも実力の内ですわよ? 授かったものは生かしませんと」



「それ買うって言いませんから!」



「食い逃げ犯に言われたくはありませんわね」



「う」



返す言葉もない。



「では、これは空牙が渡してあげなさい」



―――素直じゃないなぁと空牙は思う。


空牙に買わせる気などなくて、最初から、自分で用意するつもりだったのだろう。……手段はどうであれ。

それなのに意地でも自分で渡そうとしないのは、彼女のプライドゆえか。



「空牙。余計なことを考えているようでしたら、これに相当する金額を次の依頼の報酬から前引きして」



「滅相も御座いません」



笑顔が眩しいリリスの脅しに、大人しく受け取ってコートのポケットに突っ込む空牙。

リリスは満足したように前に向き直り、




「―――あらあら」




すう、と瞳を眇(すが)めた。
その奥に冷徹な光が閃く。



「……どうやら、わたくしたちと遊びたがっている方がいるみたい。無謀ね」



複数の不穏な気配。
気取られないよう注意しながら、背後へ視線を走らせる。

街のごろつきだと思われる男が、喧騒に紛れて確実に二人の後を追って来ていた。
その周りに浮遊するのは、ゴーレム型の無骨な機械人形たち。



「ミュシアにも物騒な輩がいるのね。貴方のお仲間が五人、かしら」



「あんなのとミレーユを一緒にしないで下さいません?」



「まあお熱い」



軽口を叩きながらも二人は歩みを止めず、気づいていない風を装い徐々に彼らを人気のない場所へと誘導していく。



「ああ……美しいって罪ですわね」



「少しは謙遜したらどうですか」



「わたくしくらい美しいと謙遜は逆に嫌みになるの。こんな美人とデートしている男が絡まれるのはごく自然な流れね」



やがて、人通りの少ない路地裏に出た。
くるりと振り向けば案の定、酷薄な笑みを浮かべた男たちが。



「なあお嬢さん、ちょっとオレたち金に困ってるんだけどさ、貸してくんないかな」



「護衛連れ歩くお貴族様なら、ちょっとぐらい恵んでくれても困んねーよなぁ」



いかにも育ちの良い令嬢然としたリリスを見て楽勝だと高を括ったのだろう。
残念なことに、そのお貴族様とやらはエルゼリアを細腕一本で治め、纏め上げるいと畏(かしこ)き女王様であったのだが。



「生憎、わたくしも彼も無一文でしてよ」



威圧的な態度にもびくともしないで可愛らしく小首を傾げ、



「その代わり、腕には少しばかり自信がありますの」



怪訝な顔をした五人が行動を起こす前に。




「行きますわよ――――《散華魔鏡(フォル・モーント)》!」




リリスは異能を全面解放、とんっという音と共に空中へと舞い上がる。
魔力を瞬発力に変え、目標へと凄まじい速さで突撃。



「なっ」



鋭い蹴り。
リリスの何倍かというゴーレムの巨体が、まるでゴム鞠のように吹っ飛んだ。
衝突したゴーレムが壁を勢い良く抉る。



「くそっ」



慌てて人形遣いの男たちが魔力を集中させゴーレムを操作する。

全方位から彼女を押し潰さんと飛んできたゴーレムたちを、軌跡を“読んで”いたリリスは難なく、鮮やかに回避。
一体ずつ蹴り、殴り、叩き落としていく。



「…………」



男たちが余裕の表情を消し去り空中戦に気を取られ始めた頃合いを見て、空牙は下肢に力を込めた。

距離はほんの数メートル。

敵が並みの人形遣いなら―――魔力を練る前に、蹴りが、届く!



「俺のことも忘れんなっての!」



「なっっ」



強烈な一撃が突き刺さり、男の身体が宙に舞う。
集団に動揺が走り、目に見えて士気が崩れる。


すれ違いと同時に鋭く息を吐いて止め、力を抜いた両脚を全力で踏み込む空牙。

一歩で最高速度へ達した彼は男たちへと躍り掛かり、抵抗する間もなく組み伏せられた彼らの操るゴーレムのボディまでもが傾ぐ。



「《核》は流石に勘弁してあげる」



その隙に人形にとっての心臓、《核》の位置を把握したリリスは同時に、狙うべきゴーレムの弱点を幾つも視界へと浮かび上がらせて。
にこり、と微笑んだ。




「ごめんなさいね。……わたくしを狙った己の愚かさを呪いなさい」

101心愛:2013/01/06(日) 10:50:54 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp
>>ピーチ

多分ここあが一番書きやすいタイプなんだろうなw


そんな可哀想且つ激ニブな空牙だけど、一応頑張ったよ!
肉弾戦しかダメだけど!

102ピーチ:2013/01/06(日) 19:17:33 HOST:EM114-51-207-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの実力にしちゃう!?

リリス姫強いー! 空牙君も強いね!←

103心愛:2013/01/07(月) 10:07:00 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

エルゼリアは知能と体術に秀でた人が多いし、その王様のリリスは異能の種類的に結構何でもありだからねw
空牙はイレギュラーなんで生身で戦うしかないんだけど←


で、次からやっとミレーユとユリアスが出てくるよ!
長かった……!

104匿名希望:2013/01/07(月) 13:57:49 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
ウンコしてもいいですか?
ウンコスレ

105匿名希望:2013/01/07(月) 14:33:02 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
分けの分からないスレですが宜しく

106ピーチ:2013/01/08(火) 14:41:43 HOST:EM114-51-155-248.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

知能と体術かー…いーなー!←

ミレーユちゃーん! ユリアス様ー! 頑張ってねー!

107たっくん:2013/01/09(水) 12:16:04 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
↑何の話ですか?
メテオスマッシュとかないんですか?

108心愛:2013/01/11(金) 18:01:26 HOST:proxy10053.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ただいまー!

うん、ミレーユと空牙が揃えば喜劇ならぬ悲劇は避けられないけどねw

109心愛:2013/01/11(金) 18:03:45 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp







「リリス姫、空牙くん! お帰りなさい!」



淡い色の金髪をそよがせ、ぱたぱたと走ってきたユリアスが嬉しそうに出迎えてくれる。
つい新妻みたいだなと思ってしまった空牙だった。



「遅かったですね」



「申し訳ありません。少しばかり野良犬の躾(しつけ)をしておりまして」



「野良犬?」



「いえいえいえ気にしないで下さい!」



不思議そうに首をちょこんと傾げていたユリアスは、空牙の必死な形相を見て素直に追及をやめて。



「とにかく大事がなかったならよかった。ミレーユさんがずっと待って」



「はっ。ふざけるなです何故ミレーユが汚染物質と乳牛を待たねばならないのですか。ミレーユには到底理解不能ですね。むしろ汚いツラを視界に入れずに済んで清々していましたです」



「ついに無生物にまで落とされたっ!?」



「まぁ。わたくしたちに嫉妬する子が此処にも一人いたわね。すっかり忘れていたけれど……あらごめんなさい、悪気はありませんの」



「悪気ありありの癖に何をとぼけていますですか極悪肉女」



「あぁん空牙、わたくし下劣な人形の暴言にとっても傷ついてしまいましたわ! 慰めて下さるでしょう?」



「いやあのだから当たってますってば!」



「空牙から離れるですこの変態雌牛がっ!」



「あっあの皆さん、冷めちゃいますし食事にしましょうよっ! ねっ?」



これは自分が放っておいたらいつまでたっても終わらないと、勇気を振り絞ってユリアスが三人に呼び掛ける。



「わたくしの分まで? 却って気を遣わせてしまったようで申し訳ありません」



「せっかくですから、みんなでの方が楽しいですよ。 空牙くんも掛けて、ほらミレーユさんも!」



「……仕方ないですね」



ユリアスにいなされ、流石のミレーユも大人しく席に着く。



「おおぅ……! 数ヶ月ぶりのまともな食事……!」



「え、えと……、一杯、食べてね?」



テーブルに並ぶ皿に盛り付けられた料理たちを見て滂沱の涙を垂れ流している空牙に、ユリアスが少し引いていた。



「こほん」



「うう……美味すぎて死ぬ」



「こほん!」



「あー本当に美味いいいってぇぇぇ!?」



テーブルの下、ミレーユにガシッと足を踏まれた空牙が悲鳴を上げる。



「何すんだよ!」



「まったく愚鈍で愚昧で間抜けな水虫菌ですね。このいっそ天才的とも言える絶望的な間抜けぶりにはミレーユはうんざりです。失望しましたです」



「うん、食事中に罵倒すんな飯が不味くなる。結局何が言いたいんだお前は」



「……ですから……その」



恥ずかしそうに、ほんのりと頬を染めるミレーユ。




「ミレーユも、空牙に食べてほしくて……空牙がいない間、料理に挑戦してみたのです」




「えええっ!?」



驚愕した空牙はぎゅいんっと首をミレーユの方へ向ける。



「お前、料理なんかできたの!?」



「……言いたいことは色々ありますですが」



ミレーユは席を立ち、それから手に皿を乗せててくてくっと小走りに帰ってくる。



「どうぞです。空牙の大好物、魔界トマトの―――」



「あ、なんだサラダか。まぁ無難だけど安全圏だな」



ことん。




「―――ヘタの盛り合わせです」




「食えと!? これを食えと!?」



「飲み物はこちら。ミレーユ特製“まよねーず”です。はいどうぞどうぞ、遠慮なく」



「やーめーてぇー! 黄色っぽい何かが入ったグラスを無理矢理俺の口に近づけるの、やーめーてぇー!」



激しく無駄な攻防戦。
リリスは和やかに笑い、ユリアスは一人怯えた顔をしていた。

110ピーチ:2013/01/11(金) 22:41:01 HOST:EM114-51-196-240.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

おかえりー!

…ヘタの盛り合わせ? それはいったいどんな?←

ち、ちょっと待て、“まよねーず”ってあのまよねーずか………?

111心愛:2013/01/11(金) 23:30:33 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

マヨネーズ=卵黄・酢・塩・胡椒に油を加え、とろりとするまでかき混ぜてつくるソース。サラダなどに用いる。(by広辞苑)

…これを何の予備知識もなしに作っちゃったミレーユはなにげにすごいと思ふw


あ、ミニトマトの実を取り除いてヘタだけぶちこんだ緑色のサラダ(つまりただの生ゴミ)をイメージしてくれればわかりやすいかもです(*´д`*)

112心愛:2013/01/11(金) 23:33:36 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp






「そういえばユリアス様、《煉獄の扉》の管理はまだよろしいんですの?」



「は、はい。今は兄が担当していますのでしばらくは大丈夫です。僕にできることは少しでも体力を温存しておくことくらいですね……ってリリス姫っ?」



平然とフォークで温野菜を切り分けているリリスに、ユリアスが『止めてあげましょうよっ』と目で訴える。
リリスはふう、と優雅に一息。



「あの子、厨房を借りたのでしょう」



「え? は、はい」



自分がいなかったときの出来事でさえ、リリスには全てお見通しだ。
空牙と怒鳴り合っているミレーユを見てにっこり微笑む。



「でも、空牙の為に色々試してみたけれどみんな失敗して黒コゲになってしまって、だからヤケになっているのですわよ。あの程度のお茶目、可愛いものではありませんか」



「そうで……しょう、か」



可愛いで済ませて良いものなのだろうかと、ユリアスは本気で首を捻った。






+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+






「ミレーユ」



もう遅いからこのまま泊まっていったら良いというユリアスの勧めに有り難く乗り、王宮内のやたらと立派な部屋に通された空牙はミレーユに呼び掛ける。



「何ですか」



「こっち来て。目ぇ閉じてじっとしてろ」



「……………はい!?」



顔の下から上にかけて、しゅぼぼぼっと勢い良く白い肌に朱が走る。



「あう、わ、ど、どういう心境の変化ですかっ?」



「いーから」



わたわたしている彼女の腕を引き、強引にベッドに座らせる。


ゆっくり顔を近づけながら真剣な眼差しで見下ろすと、ミレーユはびくんと身を竦ませて。
やがて覚悟を決めたように、ぎゅっと瞼を閉じた。


空牙は彼女の細い肩に手を掛け、



「大人しくしてろよ」



……そのまま、何故かミレーユの髪を弄り始めた。



やっぱりかと落胆半分、自分は何を勝手に妄想していたのだろうという羞恥が半分。

だから、空牙が一体自分の髪に何をしているのかというごく単純な疑問は、そのときのミレーユの思考回路には全くなかった。




「―――はい、お土産」




ほら。と指さされた鏡の中、ミレーユが驚いたように金の瞳を丸くしている。


そのまま流していた髪をツーサイドアップに纏めているのは清楚な純白のリボン。
それぞれに控えめな大きさの、虹色のスワロフスキーを散りばめた蝶が中央の位置に留められている。



「二つセットなんだってさ。絶対ミレーユに似合うと思って」



「……これ、空牙が?」



「あ、あああーうん俺が選んだ」



ちょっと気まずそうに顔を逸らした空牙は、すぐにへへっと笑った。



「お前、綺紗(キラサ)に憧れてるんだもんな。これでお揃いだろ?」



図星を指され、ミレーユは思わず動揺してしまう。



「……そんな、こと」



からかうような眼差しの温かさと仄かな甘さに、どきどきと音を立てているような感じがする《核》を、胸の上から手で押さえる。



「ミレーユは……綺紗さんの代わりになれたらって、思ってただけで……」



空牙の大切なものになりたかった。


機械人形の分際でおこがましい、なんて、十分すぎるくらい分かってる。
それでも、そう願わずにはいられなかった。


口を開けば可愛くない言葉ばかりで。
迷惑をかけて嫌な思いばかりさせている。


だけど。
ミレーユを救ってくれた、このひとは。



「バーカ」



こつんっ、とミレーユの額を軽く指で弾く。



「代わりなんて言うな。綺紗は綺紗、お前はお前だ」



ミレーユが一番、ほしいと思っている言葉を、くれるのだ。




「俺が必要としてるのはミレーユ、お前なんだから」




「………っミレーユはもう寝ますです! おやすみなさいです!」



かああっと熱を持った頬を隠そうと、ベッドに勢い良く寝転がるミレーユ。



「……リボンつけたまま寝んのかよ」



苦笑しながら空牙もベッドに潜り込んだ。

大きな寝台に、距離を置いて、お互いに背を向けて。



「……一応、礼は言っておきますです。特別にクズからカスに格上げにしてやるです感謝するです」



「いやそれどっちが上か分かんないから」

113ピーチ:2013/01/12(土) 13:29:02 HOST:EM114-51-186-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

やっぱりそれだったか!

…確かに凄いよね、ミレーユちゃん

緑色のサラダ…見栄えだけはよさそうに見えると思うのはあたしだけか←

114心愛:2013/01/12(土) 20:37:50 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

食べれないけどね!
緑色は普通だけど←


もうすぐずどーんっと重い話入れるんで反動でアホやらせてみたw
そろそろまじめに頑張るよ!

115ピーチ:2013/01/12(土) 21:22:05 HOST:EM114-51-132-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

食べれないよねそうだよねっ!←

ずどーんっと重い話かー……頑張れここにゃん!

116心愛:2013/01/13(日) 17:40:31 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp






「色々すみません。迷惑かけるだけかけちゃって」



「ううんっ、たくさんお話できて楽しかったよ」



そして迎えた翌日、ミュシア王宮の門前で頭を下げる空牙の姿があった。



「でももう、森を荒らしちゃだめだからね?」



「心から申し訳御座いませんでした」



「……同じく、です」



空牙だけでなく、ミレーユも一応そっぽを向きつつ謝罪。



「わたくしだって、王宮を抜けてまで見送りに来てあげたのですから。感謝なさい」



「そんな頻繁に遊びに出掛けてて良いもんなんですか。悪さを企むひとがいてもおかしくありませんよ」



「あら。空牙はわたくしが理由もなしに遊び呆けていると思っていたの? 悲しいわ」



リリスは物憂げに頬に手をやって溜め息をつく。



「違うんですか?」



当然。と肩を竦め、



「そんなもの、好きなだけ泳がせておけば良いのですわ。わたくしの留守を狙う不届き者を潰す人材は、とっくに手配してありますもの」



「……俺、姫だけは敵に回したくないです」



「最高の讃辞を有難う」



麗しく微笑む切れ者の女王は、次にミレーユへと視線を移した。



「まぁ、素敵なリボンね。似合っていましてよ」



ミレーユは風に靡くリボンを手で押さえてふんっと華奢な顎を突き上げる。



「雌牛が人形如きに下手な気を遣う必要など欠片もないのです気色悪い」



「あぁ。もしかして、わたくしが言ったことをまだ気にしているの?」



「まだとは何です!」



「ミレーユ、落ち着けって」



ワインレッドの双眸には軽蔑の色も嘲弄の色もない。



「確かに空牙が本気で命令すれば、操り人形の貴女は絶対にそれを遂行するでしょうね」



でも、と小さく言い、リリスが華やかに笑む。




「それは貴女が優秀であることの、何よりの証でしてよ」




きょとん、と一瞬、ミレーユは不思議そうな表情をした。
今自分が何を言われたのか分からない、とでもいうように。



「空牙を頼みましたわよ、ミレーユ」



「……ふん。どうしてもと言うのでしたら非常に不本意ですが頼まれてやるです」



どうやら一時休戦、らしい。
空牙は安堵に笑みを浮かべ、



「……姫」



ゆっくりと振り向く彼女。




「俺、キサラギに生まれて良かったと思ってるんですよ」




生まれ持った無力さゆえに、名門の一族から冷遇され、排斥されてきた異端児は言う。



「もしそうじゃなかったら、こいつと出逢うこともなかったし、家のしきたりで、姫の眷属になることもなかった」



彼が歯を見せて笑えば、新雪の如く輝く長い髪が蒼穹に踊る。




「―――貴女に逢えて良かった」




リリスはしばらく、言葉を失って空牙を凝視していたが、



「……はぁ。そんなことはどうでも良いのですが」



「え、どうでも良いって酷くないですか!?」



「空牙くんって罪作りだよね……」「天然でやってますですからね」などという外野の声も聞かず、頭を切り替えるようにぱんぱんと頬を叩いたリリスは、




「―――わたくしたちから、正式な依頼ですわ」




空牙とミレーユが、自然と顔を引き締める。



「実は、結界を抜けた魔獣がまた暴れ回っているみたいなんだ」



「場所はファローズ領、東の森付近。討伐、お願いできますわね?」



「確かに承りました」



随分とまともなハンターとしての仕事。
自然と気分が浮き足立つ。



「……“あの方”が向かうという情報も入っていますし……」



「姫?」



「……何でもありませんわ。空牙、ちょっと耳を貸して」



「? はい」



少し間を置いてから、内緒話をするようにリリスがそっと囁いた。




―――“ネクタル”に気をつけて。




不可解そうに顔をしかめた空牙に微笑み、身体を離してひらひらと手を振る。



「では、また」



「……はい。お世話になりました」



段々小さくなる二つの背中に、打って変わって何処か弱気な雰囲気になったリリスの声が掛けられる。




「これで、良かったのかしら……」

117心愛:2013/01/13(日) 17:53:00 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、ここあ史上最も流血が多い回になる予定だよ←

でもずっと書きたかったんだよねこのシーン!
明日あたりに更新しますw

118ちー:2013/01/13(日) 20:10:39 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
更新楽しみー^^私の、君江届も、読んでみてください^^
(なんか、ナルシストみたいですね…w私。)

119ちー:2013/01/13(日) 20:11:29 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
君江じゃなくて、君へでした…届け

120ピーチ:2013/01/13(日) 20:54:48 HOST:EM114-51-209-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの流血!?

でも楽しみなのはあたしの頭が腐ってるからだw

121ちー:2013/01/13(日) 21:08:47 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
更新楽しみ^^
私もこういう文章が書けるといいのに…

122心愛:2013/01/14(月) 09:48:39 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp
>>ちーさん

初めまして!

読んで下さってありがとうございます(o^_^o)
分かりにくいところがあったら遠慮なく言って下さいね(^-^;


>>ピーチ

流血楽しみなのか!
ちなみにここあも、書きたかったシーンだったら流血も結構好きだったことが判明した←
じゃ、載せちゃいますw

123心愛:2013/01/14(月) 09:49:05 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp







それは遠い遠い、昔のこと―――




『……?』




数え年で十にも満たないだろう、幼い少女が暗雲の立ち込める空を見上げた。



透明感のある冴え冴えとした白い肌に、すっと細く通った鼻筋。花びらみたいに薄い唇。
さらりと零れる繊細な髪、瞼に淡い影を散りばめる長い睫は魔性の銀色。
ほっそりした指が触れる、花の女王たる薔薇でさえも消えて霞むその麗しさ。
美の化身というものがこの世に存在するのなら、きっとこのような姿をしているに違いない―――美しすぎて造り物めいた容貌は優美で危うく、砂糖菓子のように甘い。



雷鳴が響き、黒に澱む天空を稲光が走る。



少女は丁寧に棘を抜いた白薔薇の花束を大切そうに抱え、幾何学模様の宮廷庭園を抜け出した。

自身が暮らす離宮の中に入ると、すぐに青ざめた侍女が飛んでくる。



『姫様! 出歩いてはいけませんと散々申し上げたでしょう!』



『どうして?』



『どうしてもです! ご自分の部屋に戻って下さいませ、早くっ』



今日は自分の部屋に籠もっているように言われたのにもかかわらず、彼女の目を盗みこっそり庭園に行っていた少女は唇を尖らせる。



『そんなのつまらないもん。あとはお父様たちにこれを届けに行くだけだから、ね?』



『姫様ッ!』



するりとくぐり抜けて走り出すと、侍女は悲鳴を上げて追い掛けてくる。



『何をしているのです! 貴女も早く逃げなさい!』



『違うんです! 姫様が! ……っ離して!』



後ろで何か揉めているようだったが、その喧騒や、辺りに響く異常に切羽詰まった怒鳴り声は少女の耳には届かない。


何だか騒がしいな、くらいの気持ちでそのまま駆け抜けた。


回廊を通れば、すぐに王宮の大広間へ繋がる扉へと辿り着く。




『お父様、お母様、シリル! いらっしゃいますかっ?』




いつもの見張り役がいないことにもさして気を留めず、重い扉を苦労して開いた少女は笑顔で声を弾ませる。




『薔薇が咲きましたよ! 綺麗でしょう? ほら、薫りもこんなに―――』




その言葉が、止まった。



『………』



べっとりとした、どす黒い赤―――鮮血の色がこびりついた壁。
床一面に広がる同色の液体。
鉄のようにきつく、鼻を刺す独特な臭い。



小さな手から、花束が、ぱさっ、と乾いた音を立てて滑り落ちる。



血だまりに倒れ込んだ兵士の亡骸の中、少女が見たもの。



それは。




―――父の死体、だった。




まさか―――たちの悪い冗談だろう、と少女は笑おうとして頬を痙攣させたが、ひく、という音が僅かに漏れただけだった。




『お……父さ……』




隣に寄り添うように臥した母の透き通った銀髪が血にまみれ、床に散らばっている。


力を入れることを忘れたかのように固まった足を叱咤して一歩踏み出すと、靴の下で、ぴしゃ、と赤い水が跳ねた。




『……お母、様……?』




呼び掛けても、瞼を閉じた女性は二度と目覚めぬ深い眠りに落ちたまま。



そして。



ようやく、少女は“それ”の存在に気づく。

124心愛:2013/01/14(月) 09:49:54 HOST:proxy10035.docomo.ne.jp







傷を負った兵士たちに囲まれ、先程から耳障りな奇声を上げている、“それ”。



濁った眼、凶悪な牙、見上げなければ視界に入りきらない巨体を持つ、“それ”。



混沌と悪夢、無尽蔵の原初が渦巻く猛毒の都―――煉獄の、恐ろしき使者。




―――魔獣。




【グガァアアアアアアアッ!!】




ぐったりと弛緩した、少年の華奢な身体。
その心臓の位置を串刺しにした針の如く鋭い爪から、夥(おびただ)しい量の血が滴り落ちる。



ひっ、と青ざめた頬を引き攣らせる少女。
美しい顔が今にも泣き出しそうに、発狂しそうに歪む。




『シリル……っ! いやぁっ、シリルッ!』




掠れる声で彼の名を呼んだと同時、魔獣が無造作にその腕を振り上げた。


明らかに、既に絶命している少年―――兄の体躯が宙を舞って勢い良く壁に叩きつけられる。
ごぽ、と色を失った唇から赤黒いものが零れるのを、少女の大きく見開かれた、柘榴(ガーネット)の瞳がまるで鏡のように映す。




『う……ぁ』




温かくて少し硬い、父の大きな手の感触。

頼りないけれど優しい、母の笑顔。

気高く強く、少女の憧れだった、兄の声。

今はもう過去のものとなってしまった、この瞬間までの記憶が急速に少女の頭の中を駆け巡り、




―――こいつ、が。




こいつが!






『………ぁぁあああああああああああああああああッッ!!!』






理性が焼き切れる。



喉が壊れる程の絶叫が脳天を突き抜け、怒りが、悲しみが、愛しさが、恐怖が、狂気が、破裂する。



少女は目を血走らせ、床を蹴って我を忘れた獣のように突進しようとしたが、




『姫様っ!』




やっとのことで追いついた侍女に、背後から強く抱きすくめられる。
彼女は涙を零してカタカタと震えながら、それでも歯を食い縛り、必死になって少女を阻んでいた。




『いやぁああああああっ!!』




羽交い締めにされた少女は悲鳴と怒号が入り混じった、最早激昂と呼ぶにも生温い怨嗟の叫びと共に激しく暴れる。



『姫様、……姫様……!』



顔を涙でぐちゃぐちゃにしてしゃくり上げる侍女。



『おねが、……お願いです、おやめ下さい……っ!』



すぐにでも、一秒でも早く、こんな恐ろしい場所から逃げ出したいだろうに。
もしそうしたとしても、もう咎める者は誰もいないのに、自らの命を賭して主を守り抜こうとする彼女の懇願が耳元で切なく響く。




『姫様まで……、たら、王様も、哀しまれます……っ』




その余韻は鉛のように、ずしん、と重い感触を少女の薄い胸に残した。




『…………』




抵抗をやめた少女の腕が、だらりと力なく下がる。




『将軍! 応援が到着しましたッ!』




そのとき、荒々しく向かいの扉を開け放ち、雄叫びを上げながら新たな兵隊が突入した。




『王の……王家の仇だ! 死ぬ気で討て!』




朱が染み付いた左半身を庇い、頬を熱く濡らした老年の指揮官が声を嗄らして叫ぶ。




『やれ!』




返り血を浴びた醜い化け物へと数百もの毒矢が突き刺さり、死に物狂いで戦う兵士たちの妖気の炎が一斉に噴き上がる。




【ガァアアアアアアアアアッッッッ!!】




猛り叫ぶ魔獣の声と雷の轟きが、血に濡れた城を震わせる中。



不吉な程に美しく。



穢れなき純白の花片が、絶望の淵に立ち尽くす少女の足元で、ただ、深い紅へと染まっていた。

125心愛:2013/01/15(火) 17:30:08 HOST:proxy10059.docomo.ne.jp







ふわり、と何かが、月明かりの差し込む窓辺に降り立つ気配がした。




『―――……好い表情(かお)をするね』




“彼”の姿は、夜の黒に浮かんでいた。


闇の中に溶けきれない程の輝きを持つ肌は淡く発光し、その容(かんばせ)をさらに美しく彩っている。
切れ長で、血塗られたように紅い瞳に暗色の長い睫が柔らかな甘さを与える、性別という概念を超えた不可思議な美貌。


妖しく艶麗な微笑を湛えたその男の背で、ばさり、と漆黒の双翼が優雅に広がる。


魔界に棲むと云う、地獄の守りびとにして残虐なる断罪者。




―――悪魔。




空っぽの部屋の中心で、少女はその侵入者を真っ直ぐに見上げた。




『泣きたいのに、泣けない。……いや、泣かないと覚悟を決めた表情(かお)だ』




そう。

彼女は。



―――あの惨劇の間でさえ、たった一雫の涙も、零してはいなかった。



くす、と笑う少女の囀(さえず)るような、それでいて決して弱くない、はっきりとした声が響く。




『……王は泣くことを赦されない。だから、泣かない』




『流石だね。歴史上最強個体の侵攻に耐えた、ファローズ王家唯一の生き残り』




この青年はおそらく、少女が皆の優しさに守られただけで、何もできずに死んでいく家族を見送ったことを既に知っているのだろう。




『いや、死に損ない、と言った方が適切かな』




彼の口振りには、分かりやすい皮肉の色があった。


けれど、少女はその挑発に乗る程馬鹿ではない。




『どちらでも、貴方のお好きなように』




『……揶揄(からか)いがいのない娘だ』




楽しそうに笑う。


嫌いではない、と少女は思った。


軽薄そうな見た目とは裏腹に、芯の強さが窺える物言い。
頭の回転も良さそうだ。


どうせなら、話は早い方が良い。




『俺を呼んだのは、君?』




『そうよ』




昨日までの、子供らしく無邪気な様子とはまるで別人のように、悠然と構えた少女は鮮やかな唇の両端を上げた。
その手元で、ぱたん―――と、分厚く黄ばんだ本が音を立てて閉じられる。
悪魔を呼び出す儀式の手順が記された、正真正銘の禁書だ。




『悪魔である俺と、契約を結びたいということだね。その意味は分かってる?』




『代償のことなら承知してる』




悪魔は双眸を細めた。




『願いを聞こうか―――……いや、訂正。わざわざ聞くまでもない』




見透かすような視線を、少女は恐れることなく、強い眼差しで見返す。

悪魔が笑う。
彼女を誘惑するように、濡れた瞳に、薫り立つ媚態と僅かな知性の光を滲ませて。





『君の大切な家族のことだろう? 勿論、生き返らせることはできるよ。対価はその分―――』





『見くびるなッ!』





少女は吠えた。

目の奥に冷たい刃を閃かせ、憎しみに凍りついた瞳で、虚を衝かれたような顔をしている悪魔をきつく睨みつける。




『死者を辱めることは、たとえ誰であっても絶対に赦さない……ッ!』




誰よりも深く愛していた者たちを、死者と呼び。
痛みに耐えるように頬の内側を強く噛み締めながらも、甘言を撥(は)ね除けて。



己の、いや、王族としての矜持(ほこり)を優先したのだ。



この、幼姫は。




『……ふ、っははははは!』




嘲笑とは全く異なる、純粋な、可笑しくてたまらないとでも云うような笑い声を上げる悪魔。
少女の目つきが、真冬の月光のように鋭くなる。

126矢沢:2013/01/16(水) 12:23:45 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
下着

127ピーチ:2013/01/18(金) 20:03:35 HOST:EM114-51-30-88.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

おっひさー! 実力の訂正に追われていたピーチでございますです←

いや何かしばらく見ない間に進みまくってる神文章を一気読みできるのが最高に幸せだね! 一週間近くパソコンに触れなかったけど!←

128心愛:2013/01/18(金) 20:43:16 HOST:proxy10037.docomo.ne.jp
>>ピーチ

おつかれー!

ここあはピーチがこんなカス文章を読んでくれてることが最高に嬉しいよっヽ(≧▽≦)/


そんなわけで、美羽がリスペクトしてるあの人がやっとのことで登場でございます。
美羽と比べてみると面白いかも?

129心愛:2013/01/18(金) 20:44:16 HOST:proxy10038.docomo.ne.jp






『大したものだよ、君は。まだ幼いのに、こんなにも強い心を持っている』



『……わたしを愚弄しているの?』



『まさか』



不愉快そうに眉を跳ね上げた少女を宥めるように。



『君の覚悟に敬意を示して、一つだけ良いことを教えてあげる』




悪魔は彼女の耳に、その薄い唇を近づけて低い囁きを落とす。




『随分と酷い亡くなり方だったみたいだけど、君の御両親と兄上は、無事に天国へ運ばれたよ。これから永久に、神に愛されて幸せに暮らし続けるだろうね』




『……当然、よ』




ほっとして一瞬だけ緩んだ表情を誤魔化すように、少女はわざとらしく声を取り繕う。


宙に浮いた青年が微笑ましそうに表情を和らげ、空中で頬杖をついた。





『……それで? 君の、本当の望みは何?』




少女が顔を上げる。





『――――強さを』





悪魔の瞳が、濁った血の色から、熾火(おきび)の色に変わった。
鈍い光が灯る。




『兵の本隊が到着するまで、父も母も、兄も勇敢に戦ったと聞いたわ。それでも、敵を倒すには及ばなかったの』




おぞましい魔獣。
愛しいひとたちの命を奪ったあの化け物の姿を思い起こす。
怒りに狂い、哀しみに沈みたくなる過去の自分を必死に心の奥へと封じ込め、少女はさらに言葉を紡ぐ。




『……わたしは―――』




言いかけて。
少女は首を横に振り、




『―――ぼくは、兄に代わって、ファローズの家督を継承しなくてはならない』




今は亡き兄の、屹然とした口調を真似る。


いずれは王位を継ぎ、立派な王となるはずだった兄。
少女は、彼の務めるべきだった役割を全て引き受け、完璧に彼の代わりを果たそうとしていた。




『だから、託されたもの……ファローズの民を守れるだけの―――あの化け物を、滅すことができるだけの、強さを』




復讐の姫と化した少女は、凛然とした決意が輝く瞳を上げた。




『……大それた夢だね、と笑いたいところだけど』




優しく、悪魔が笑む。




『君なら案外、難しくないことかもしれないな。魔力的な強さ、とは、本人の精神力に左右されるから―――鋼のように強靭な、不屈の心を持つ君なら、ね』




悪魔が窓枠に腰掛け、巨大な翼を広げる。
黒い羽根がひらひらと舞い散り、少女の胸を軽く叩いた。




『俺はその成熟を早める手伝いをしようか』




少女の頬に手を伸ばす。
ぐい、と自分の方へと引き寄せ、口元を綻ばせた。




『絶対的な、この世界で一番の“強さ”を君に与える』




尖った爪が滑らかな肌に微かな傷をつけるが、少女は眉一つ動かさず、目の前の美しい青年を見据え続ける。




『じきに、この世界の誰もが君に跪くだろう』




『……そうなるよう、期待しているよ』




不敵な笑みを返す少女。

130心愛:2013/01/18(金) 20:45:18 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp







部屋に満ちた闇でさえもが、彼らの美しさを畏れたかのように。
対峙する二人の姿は、自身から発せられる燐光に包まれ、くっきりと浮かび上がっていた。




『で、その代償として、何を俺に差し出してくれるのかな?』




『ぼくの力を使えば良い』




反論は赦さない。無言のうちにそう告げる。




『これから、ぼくが手に入れるだろう富、権威、名声。それを好きなだけ利用しろ』




男の表情から余裕のある微笑が掻き消え、




『……俺に、君の眷属になれと?』




その響きには僅かながら、確かな憤慨が感じられた。




『悪魔に、魔族の僕(しもべ)になれと、そう言うのか?』




『あくまで形式的な主従関係だ。立場は対等ということで構わない』




だから付いて来い、と。
お前の居場所は此処だと。

自分の傍にこそ、お前の安息があるのだと。


幼いながら、既に絶対なる王者の風格を備えた姫君は強烈な光で悪魔を射抜く。




『君の処遇は約束する』




長い、永(なが)い、沈黙の後。




『……面白い』




チロリ、と赤い舌が覗いた。




『気に入ったよ。君を、俺の主と認めよう』




尊大に言い、悪魔は心底楽しそうに長い脚を組む。




『俺の名はアレックス。魔界一の大悪魔、ついでに魔界一の色男だ』




『……良く言う』




張り詰めた緊張が解け、少女の唇から、ふっ、と小さな笑みが零れた。



『そのうちぼくから、君が冥界で生きていく為の名を贈ろう』



そして少女は息を吸い込み、厳かに己の名を明かす。





『ぼくはシルヴィア。天より紅薔薇の紋章を戴く、誇り高きファローズ王家の末裔―――シルヴィア=ファローズ』





『……シルヴィア、か。好い名前だね』



それはどうも、と冷たくあしらう少女。



『ファローズでの眷属との契約は―――』



『知ってるよ。主となる者の血を媒介とするんだろう?』



悪魔が軽く手を振ると、その中に細身の長剣が出現した。
刀身が月明かりを浴び、青みがかった淡い銀光を放つ。



『刺突剣(レイピア)か。剣技の心得が?』



『まあ、一応護身用にね。俺って魔界の中なら文句なしに最強なんだけど、冥界では今一調子出ないみたいで』



『……大丈夫なんだろうな?』



不審そうに軽く睨む少女に、悪魔は飄々と肩を竦める。



『信用できない?』



『愚問だな。信用するしか、道はないだろう?』



平然とした彼に同じく平然と言い、少女は涼やかな声を張る。



『なら、君を信じる。それだけだ』



『……ふふっ。やっぱり君は最高に面白いよ』



少女が差し出した指へ、悪魔がスッと刃を滑らせる。

走る疼痛に少女が顔をしかめたが、それも一瞬。


気高く、美しく、荒野(ヒース)に咲く一輪の薔薇のように。

少女は面(おもて)を上げ、透き通る声で告げた。




『汝、奈落の淵より来(きた)る者。我への従属を誓え』




指先に唇が寄せられる。
傷口から溢れた血を拭い取る熱い舌の感触に、少女の背が微かに震えた。




『―――仰せのままに、俺の姫君』




上目遣いに、嫣然と微笑む。





『悪魔の命は永遠。その全てを、貴女の為に捧げよう』

131ピーチ:2013/01/18(金) 23:04:08 HOST:EM49-252-50-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いやカスどころか神だよ一文字違ってるぞここにゃん!

シルヴィアさんご登場しちゃったw

確かに口調とか一人称が同じだね、あと美羽ちゃんがなりきってるキャラの名前とw

何気に悪魔君が優しそうに思えたのはあたしだけか←

132心愛:2013/01/19(土) 12:14:43 HOST:proxy10027.docomo.ne.jp
>>ピーチ

シルヴィアは美羽の“理想”にとっても近いキャラなのです←
悪魔さんは基本優しいけど、ブラックな面もあるかもだよ(o^_^o)

美羽が自分の手切ろうとしてたことがあったのはこのシーンをパクろうとしてたからなんだぜ(^-^;


流血シーンがんばった!
こういうの苦手なここあにしてはがんばったんだよー!(涙)

133ピーチ:2013/01/19(土) 23:53:26 HOST:EM114-51-41-177.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

悪魔さんブラックないと悪魔さんじゃないよねw←

流血シーンお疲れ! 頑張ったよここにゃんいつもだけど!

134心愛:2013/01/20(日) 09:58:17 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ブラック悪魔大好物です←

ありがとうピーチ! ここあがんばった!(つд`)

135心愛:2013/01/20(日) 09:59:25 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp







「……これは……」



「……冗談じゃねーぞ」



空牙のこめかみに一筋の汗が伝う。


指定通りの場所へと辿り着いた空牙とミレーユを出迎えたのは、魔獣の大群だった。
その数、優に数十個体。常に煉獄からの使いがもたらす危機に晒される、冥界に暮らしている者とはいえ、滅多に一度でお目に掛かれるようなものではない。



【グギャアアアアアアッッ!!】



独特の金切り声の多重奏に耳が悲鳴を上げる。

いくらミレーユが規格外の強さを持つといえど、相手にできるのは精々五体前後。それ以上はまず空牙の体力と魔力が持たないだろう。



「どうするですか」



「仕方ねーな……。とりあえず様子を―――ん!?」



蒼穹に、一筋の閃光が走る。


空牙の視線の先、突然小柄な影―――長い銀髪を持つ一人の少女が何処からか飛び出した。
そのままの勢いで、ひらりと魔獣の頭上に舞い上がる。


魔獣の濁った眼が一斉に、小柄な彼女の姿を捕捉。



「ちょっ……え、何やってんだよあの子!」



あの大群を前に身を投げ出すなんて自殺行為に等しい。



「空牙!」



「分かってる!」



こうなったら一か八か、誰かも知らないがとにかく彼女を助けなくては。
空牙がミレーユに指示を出そうとしたとき―――




「彼女のことなら心配いらないよ」




彼女の知り合いだろうか。
黒瑪瑙(オニキス)よりもより深みのある闇色の髪を持つ青年が笑み、空牙たちに声を掛ける。



「それより、危ないから離れてた方が良いんじゃない?」



「そ、それはこっちの台詞ですよ!」



宙に浮いたミレーユも、あからさまな警戒の表情を見せている。



―――この男、いつの間に現れた?



「あんな女の子一人……殺す気ですか!」



「残念だけど、そんな趣味はないかな」



涼しげに整った目鼻立ちに、深い彫り。
鼻梁は通り、睫は長く、唇は薄く形がよい。
すらりとした長身に見合う長い手足を持つ彼は、顔立ち、体格、どれを取ってもまさしく絶世の美男であった。

しかし物腰は柔らかなのに、血のように紅い双眸には、何かゾクリと背筋を冷たくさせるものが宿っている。

感覚で言えば、リリスを前にしている時に近いかもしれない。
こちらの手の内を全て知られているような、そんな、油断ならない者特有の雰囲気。



「シィだったら、あれでもまだ余裕だからね。到底俺の出る幕はない」



余裕綽々の彼の態度に、空牙とミレーユは半信半疑で“彼女”を見上げた。



激しい風に靡く、二つに結われた煌びやかな銀色の髪。
瑞々しく、練り上げたシルクのように輝く肌は洗練された麗しさ。
小さな顔が一層際立つ、大粒の瞳は深い紅。
華奢な体躯を包むのは、黒と白を基調にしたゴシック・ロリータ。豪奢なフリルとレースで膨らむそれは、禍々しくも全世界の乙女の夢を織り込んだように愛らしい。


透き通った深紅の妖気を身に纏うその少女が静かに瞼を閉じ、




「殲滅せよ―――《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》」




そう、呟いた途端。

少女の肢体から先程までの比ではない程の量の、眩い妖気が迸る。
それは細い身体に纏わりつき、




「さぁ……懺悔の時間は終わりだ」




ふっと少女が微笑む。愚かな獲物を哀れむように、嘲笑うように。


その刹那―――




―――ッパァン!




ぴんと腕を伸ばした少女の右の手の平から生じた無数の薔薇の花弁が、弾けた。
それはまるで妖精の輪舞の如き幻想的な光景。
可憐な赤い花弁が勢い良く舞い散って、甘ったるい薫りが立ち上る。



【ッグギャアアアアアアアアア!!】



ミレーユが息を呑む。
空牙が目を見張る。



紅い光の奔流のように降り注ぐ花びらに触れた瞬間、魔獣は激しい苦痛の絶叫を上げ、



―――消滅、した。



あまりにも、美しく。
あまりにも、造作なく。


それはまさに蹂躙という言葉が相応しい、一方的な虐殺だった。
殺戮の姫は蝶が花から花へと飛び回るように光と共に舞い踊り、容赦なく地上の魔獣に猛毒の死を浴びせ、



―――トン、



最後の一体が苦悶の声を発しながら掻き消えたのと同時―――背中を編み上げる大きなヴェルヴェットリボンを揺らし、地面に降り立つ。

136ピーチ:2013/01/20(日) 17:11:15 HOST:EM114-51-128-112.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ブラック大好きー!←

あ、あれ? ひょっとして悪魔さんと姫君出てきちゃった?

137心愛:2013/01/21(月) 16:11:03 HOST:proxyag055.docomo.ne.jp






可愛い、とか、綺麗、とか、そんな生温い感想は一瞬で吹き飛ばされてしまう。

天から舞い降りた戦女神の如き、完全の美を体現した暴力的で圧倒的な美貌。

可憐な唇が僅かに開かれる様はまるで、咲きかけの紅薔薇がふわりと綻ぶかのようだった。

天工の芸術品に神の意思を幻視するような心地に眩暈すら覚える。



「お疲れ様、シィ」



にこりと笑んで話し掛ける青年の声を聞いているのかいないのか、冷ややかに透徹した氷の眼差しで。

光の加減によって色味を変える、大きくつぶらな柘榴石(ガーネット)の瞳を、動けずにいる空牙とミレーユに真っ直ぐ向けて。

馥郁たる薔薇の薫りと深紅の妖気を纏う、天使のように美しく、魔神のように猛々しい戦姫は。




「そんなことどうでもいいよ! ねぇねぇアレク、そのひとたち誰っ?」




「「……は」」



にっこにこ! と無邪気に美しい顔をキラキラ輝かせ、甘えるように高く幼い声音を弾ませた。


瞬く間に魔獣を残らず葬り去ってしまった少女と同一人物とは思いがたいあまりの豹変ぶりに、空牙とミレーユが揃って言葉を失う。


「あれ? あれあれ?」



どうしたのー? と目をぱちくりさせ、不思議そうに首を傾げる少女。

青年が苦笑した。



「ごめん、驚いた? 二重人格なんだよ」



「は、はぁ……二重人格」



「うん、ちょっと訳ありでね。普段はこんな風に子供っぽいんだけど、敵を前にすると人格が変わるんだ」



「子供っぽいって言うなー!」



ぷくっと可愛らしく膨れる少女には、やはり毒々しさや恐ろしさなど微塵もなく。



「………」



「あ、えっと、申し遅れました。こっちは相棒のミレーユ。俺はリリス姫の眷属、空牙という者です」



ミレーユの刺々しい視線に気づき、すっかり見惚れていた空牙は慌てて少女の問いに答える。



彼女は青年が持っていた、身の丈よりも大きい銀色の十字架を受け取りながら、



「リリスの! それじゃあ君が、あの有名なキサラギ家の人形遣い?」



この強さ。そして年下で、リリスを呼び捨てにできる人物などかなり限られているはず―――と、空牙は思考を巡らせかけ、少し遅れてから彼女の台詞の後半部分に驚く。



「え、有名なんですか俺」



「リリスに近いひとの中ではね。リリスのお気に入りで、連れている機械人形が物凄く強いって」



「当然です」



「俺じゃなくてミレーユの評判ですよねそれ……」



どうやら極度の話し好きらしい少女はにこにこと屈託なく笑い、




「ぼくはシルヴィア。仲良くしてね、空牙、ミレーユ」




やはり―――
魔獣の侵攻により、数年前に全ての血族を亡くしたという悲劇の姫君、シルヴィア=ファローズ。
あのリリスが唯一負けを認める存在であり、冥界中に若き最強の名を轟かせる彼女の噂は、世間に疎い空牙でさえも知っている。


そして、さらにその噂によれば。



「……じゃあ、貴方が」



空牙の確信の視線を受け止め、シルヴィアの隣に立つ青年が捕え処のない笑みを浮かべて。


ばさり―――


その背で、漆黒の翼を大きく広げてみせた。



「悪魔……ですか」



ミレーユの呟きに「うん」と頷き、




「俺はアレックス=リーヴィ。御覧の通り魔界出身なんだけど、シィの眷属をやってる」




シルヴィアが魔界の大悪魔と主従の契約を結んでいる、ということも有名な話。
まだ幼い魔族の姫が悪魔を手懐けた、と当時の各国の重鎮に少なからぬ衝撃を与えたものだ。



「なるほど。それで、シルヴィア姫は―――」



「あ、シィで良いよ! ぼくの方が年下なんだし……あ、敬語もなしね」



「えええええ」



王族に無茶な要求をされ困り果てていると、



「―――く、空牙!」



黒い影が空から落下してくるのに気づいたミレーユが声を上げる。
不格好な翼に独特の奇声―――魔獣だ。




【グギャァアアアア!】




こちらに狙いを定め、突進してくるそれに目もくれず、

可愛らしい笑顔で、可愛らしい声で、シルヴィアは空牙を見たまま、言った。




「―――舐めるな、下郎」




瞬間。シルヴィアの一閃した十字架、その衝撃波によって真っ二つに切り裂かれた魔獣の断末魔の叫びが木霊した。

138心愛:2013/01/21(月) 16:17:02 HOST:proxyag055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

いえす!

二重人格最強美少女シィと、ちょいブラックな美形悪魔アレクです!
シィはシルヴィア、アレクはアレックスの愛称ね(o^_^o)

139ピーチ:2013/01/23(水) 20:42:52 HOST:EM1-115-14-104.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの二重人格!?

………まぁでも確かに、あの人格のままだとちょっと怖いかも←

140心愛:2013/01/24(木) 16:55:41 HOST:proxyag086.docomo.ne.jp
>>ピーチ

シィはあの過去のせいで性格がちょっと歪んじゃった可哀想な子なのです(つд`)
でもどっちにしても根はいい子だし、やってることは正義だから大丈夫!

141ピーチ:2013/01/25(金) 06:05:39 HOST:EM114-51-162-116.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

悲しいよシルヴィア様ー!?

いや、確かにやってること正義だけどその時の言葉遣いある意味恐怖だよ!?←

142心愛:2013/01/27(日) 11:51:44 HOST:proxy10014.docomo.ne.jp
>>ピーチ

まぁ、家族の仇なのでちょっと厳しいこと言っちゃうんだよw

美羽の中二病がいかに可愛いレベルかが分かるね(^-^;

143ピーチ:2013/01/27(日) 14:28:35 HOST:EM49-252-73-193.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美羽ちゃんレベルが初めて可愛く見えた、気がする…!

ま、まぁ普段は可愛いよねシルヴィア様っ!←

144心愛:2013/02/05(火) 12:14:21 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ちなみにシルヴィアは、美形揃いのここあキャラ中でも最高レベルの美少女です(^-^;
少なくとも見た目は可愛いんだ、見た目は!

145心愛:2013/02/05(火) 12:15:17 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp







「「………」」



「ね、シィって呼んで?」



「……ハイ」



キラキラと粒子になって消えていく魔獣も、まるで関心がないように全く顧みず。
凶悪極まりない速度で振り下ろした十字架を鮮やかにターンさせて再び元の位置に戻し、純粋無垢を絵に描いたような至純の笑顔で、ねだるみたいに小首を傾げる少女。

引き攣った笑みを返す空牙は、背筋に物凄く薄ら寒いものを感じていた。



「……で、シィは、なんでこんなところに?」



「魔獣を始末する為だよ?」



それがどうしたの? とでも言いたげにきょとんとするシルヴィアに、ミレーユが非常に珍しいことに大人しく解説。



「ミレーユたちはハンターなのです。依頼を受けて、あれを討伐する為に来たのですよ」



「はんたー?」



「魔獣を退治する、専門の役職のことだよ」



アレックスの助け舟に、シルヴィアは数秒置いてからサッと綺麗な顔を青ざめさせた。



「えっ、え……ごめん! あれ、空牙の獲物だったの!? ぼく、全然知らなくて……自分で駆除しちゃったよ」



少々台詞が物騒なのが気になるが、シルヴィアは本当に申し訳なく思っているらしい。
泣きそうな声で「ごめんね」と繰り返す。



「そんな、気にすることじゃ」



「あれ、空牙とミレーユがやったってことにしていいから!」



「いや無理があるから」



それを聞いて、む。とミレーユが不穏に眼光を鋭くする。



「……聞き捨てならないですね」



空牙の何気ない言葉は、面倒な人形の闘争心に火を点けてしまったようだった。



「ちょ、……え、ミレーユ?」



ミレーユはやや眇めた純金の瞳でシルヴィアを真っ直ぐ映し、高らかに声を張って宣戦布告する。




「―――ミレーユと勝負するですっ!」




「うおおおいっ!?」



顔色を変えたのは空牙だ。



「何言ってんの!? お、おま、マジで何言っちゃってんの!?」



「んー……どうしよっかなぁー」



「シィ!?」



顎にほっそりした指を当てて考え込むシルヴィア。

彼女に本気を出されたら、こちらにとって良い結末はまず存在しないだろうことは、今までのやり取りだけでも十分推測できることだ。



「ま、待てごめんこいつすぐムキになるから、あー、今のはなしってことで―――」



「じゃあ」



しどろもどろな空牙の弁明を遮り、シルヴィアはにっこりと微笑んだ。




「そこのアレクを倒せたら、ぼくが相手するよ」




「俺?」



怒涛の展開を黙って傍観していたアレックスが、初めてその涼しげな双眸を僅かに開いた。



「いいでしょ? 体力有り余ってるんだし」



「シィ」



「勝負なんて肩肘張らないで、遊ぶような感じでさ!」



シルヴィアの無責任な笑顔に、アレックスが深い溜め息をつく。



「……今回だけだよ?」



「ふん。仕方ないですね」



「俺の意志は何処に……?」



ガックリうなだれる空牙に、アレックスが微笑を向けてくる。



「実は俺も、噂の人形遣い君の実力を一度見てみたかったんだよね」



「ますます後に退けなくなった!?」



「役立たずの腐れ犬の癖にうだうだ言ってんじゃないです。口汚く騒ぐしか能がないのですか?むしろ脳がないのですか?」



「……いやあ、随分と歪んだ主従関係だね。見ていて面白いけど」



「激しく他人事!?」



「ぼくはこの辺でテキトーに見てるから、あとよろしくー」



とにもかくにも、機械人形(マシンドール)を従えた少年と、余裕の笑みを湛える悪魔が対峙した。

146ピーチ:2013/02/09(土) 09:26:54 HOST:EM114-51-13-111.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの最高レベルっ! え、じゃあアレックスは男の中での最高?←

空牙君! 勝てるさ大丈夫っ! ミレーユちゃん居るから!←

147心愛:2013/02/09(土) 18:07:29 HOST:proxyag088.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、アレクもそうかなw
シュオンと並ぶよ!

ソフィアとシィの銀髪二人も同等?


ってことはシィに似てる美羽、アレクに似てる苺花もそうだよね(*^-^)ノ


どうだろう、仮にも悪魔だしアレクは結構手強いよ?(笑)

148ピーチ:2013/02/14(木) 05:32:02 HOST:EM114-51-138-2.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

銀髪ってもてるんだー…←

だよねー! あれ、でもそしたら美羽ちゃんたちだけ髪の色が…

大丈夫! 空牙君とミレーユちゃんだからっ!

149心愛:2013/02/14(木) 18:20:23 HOST:proxyag103.docomo.ne.jp
>>ピーチ

それは単純にここあが銀髪大好きだからだなw

美羽とシルヴィアはじめ、似てるといっても顔立ちとか雰囲気とかの話だよ(^-^;
そっくりさんが登場しても面白いけどねーw


ありがとう! ピーチがそう言ってくれるなら、ミレーユと空牙も頑張ってくれるさ!

150心愛:2013/02/18(月) 16:45:55 HOST:proxy10061.docomo.ne.jp







「手加減はしなくていいかな?」



「愚問ですね」



ミレーユが嘲弄するように笑う。



「さっさと掛かってきやがれです!」



ごうっ―――!

空気中に浮遊するマナを取り込み、瞬時に魔力へと変換。
空牙の痩身から溢れ出した、密度の濃い乳白色の妖気が膨れ上がる。



「……白、か」



白い肌、白い髪、白いコート。
アレックスの呟きを拾い、空牙は自嘲するように笑んだ。



「ええ。何もない、虚無。俺にぴったりでしょう?」



魔族が先天的に授かる能力―――異能を持たない空牙の特異体質については、アレックスも知っているらしい。
彼の血のように紅い双眸には、静かな理解の色があった。



「確かに、君らしいかもしれないね」



謳うような口調で、アレックスは言う。



「決して何色にも染まらない。穢れなく、強く、誇り高い色」



「……嬉しいことを言ってくれますね」



そんなことを言われたのは初めてだ。
空牙の本心からの言葉に、青年悪魔はおどけるように肩を竦める。



「お世辞は得意なんだ」



「……お喋りはそこまでです」



痺れを切らしたミレーユが割って入る。



「仕方ねーな」



苦笑した空牙の足元に、突如として同心円を作るように暴風が巻き起こった。
金色の輝きが螺旋状の複雑な紋様を描き、波紋が広がるように魔法陣が展開。




「導きを……《偽りの空を歌う星》」




魔力が行き渡ったミレーユの身体が虹色の燐光を帯びる。
ひらりと水平に飛翔、ミレーユはこの期に及んでも微笑を絶やさないアレックスを上から睨みつけた。



「変わった解放序詞だね。それにそれは……まさか、魔法陣?」



「俺たちは『特殊』なので」



興味深そうに空牙を見て。



「―――それじゃあ、こっちもいくよ?」



瞬間。紅い双眸に、ギラリと残忍な光が輝いた。




「塗り潰せ―――《闇淵の黒翼(フリューゲル・ヴェルト)》」




ずばんっ、と大気を切り裂いて、爆弾が破裂するような勢いでどす黒い光の刃が空(くう)を吹き飛ばし、凪払った。
突風を起こし、ごうごうと音を立てて溢れ出る妖気。
魔力が充実し、アレックスの姿が燃え上がる。


吹き荒れる嵐のような暴風の中心で、黒髪を踊らせる彼は艶麗な微笑を湛えていた。



空牙、そしてミレーユに緊張が走る。



―――この男……強い!



「うーん、やっぱり魔界より随分威力は落ちるけど」



余裕綽々、挑発するように唇の端を吊り上げる悪魔。



「―――……好い表情(かお)だ」



ふふっと笑みをひとつ。



「さて。お相手願おうか、お嬢さん?」



「……っ上等です!」



ミレーユが空中を蹴る。
凄まじい加速。一気に間合いを詰め悠然と構えたアレックスに肉迫する。



「これでも喰らえ、ですっ」



飛び蹴りのように身を浮かせ、ブーツの底でアレックスを狙う。
強烈な一撃だったが、アレックスは難なくかわした。


さらに勢いを減速させるために空中で蜻蛉返り、続けざまに攻撃をはかる。




「《幾千の夢眠る檻》!」




突き出した小さな手のひら、そして二の腕までを隠すフリルつきの長手袋(ドレスグローブ)までもが眩い虹色の光に包まれた。


アレックスが僅かに目を見張る。



「魔法……?」



触れた箇所から侵蝕し、広がり、雁字搦めにしようとしてくる光の網。
しかし、アレックスはあっさりと片手でそれを弾いてしまう。




「《天空を裂く雷(いかずち)の遊戯》!」




いきなり雷電の花が咲く。
剥き出しの両肩、背中、申し訳程度に身体を覆う妖美な衣装を帯電させ、
残像を尾のように曳(ひ)き、宙を駆ける。まるで稲妻。


ビリビリと鋭い電流を纏った拳を繰り出すミレーユに対し、アレックスは防戦一方だ。
漆黒の巨大な翼を広げて身を守る。




「《月華乱舞》ッ」




地上の空牙が苦しそうに歯を食い縛り、魔力の出力を上げた。


ミレーユを包む輝きが一層に増す。


蹴って、蹴って、廻って蹴って、猛火の如く攻め立てる。

151ピーチ:2013/02/20(水) 05:50:06 HOST:EM1-114-47-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いや待てアレックスー!

空牙君のこと考えてあげてよ手加減してよー!

何かごめんねいきなり! 最近テスト期間に入っちゃって!←

152心愛:2013/02/20(水) 22:51:29 HOST:proxyag067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

アレクは全力出したらすごいよw

ここあも今週定期試験終わったぜ! 2つの意味で!
テストは大事だから無理はしなくていいからね、そりゃ来てくれたらすっごく嬉しいけどさ!

153たっくん:2013/02/22(金) 01:03:17 HOST:zaq31fa4bcb.zaq.ne.jp

アホのサカタ元気か?
いや・・ドクター・ゲロか?
>>1さんのアダ名は色々あるからな〜


あんたのアダ名だよ
超人気キャラだから喜びなさい

あんたは幸せものだ

154たっくん:2013/02/22(金) 01:04:20 HOST:zaq31fa4bcb.zaq.ne.jp
>>1
これからはもう少しマシなスレ立てて下さいね
では
君達も私を見習って欲しい
私が以前立てたカードダススレッド良かったでしょう?
ああいう感じのを立てて欲しい

155ナコード:2013/02/22(金) 19:35:44 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
 >>153 人のあだ名を、特に関わりもない外野が決めるのは止めて下さい。
 皆が迷惑です。

 >>154 人の作品にケチをつける程、貴方は偉いんですか?
 立場を少し理解してください。

156心愛:2013/03/01(金) 22:00:49 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp







アレックスは巧みにミレーユを捌きつつ後退。



「機械人形(マシンドール)って、皆こういうものなのかな?」



彼を黙殺し、体重を載せた踵落としを仕掛けるミレーユの追撃を左腕で受け、弾き飛ばし、
くすりと笑む。




「好いね……面白くなってきた」




ばさ―――



悪魔は艶やかな微笑みと共に、己の双翼を一度だけ羽ばたかせた。


漆黒の羽根が舞う。
ひらひら踊る黒き欠片がミレーユを取り囲むように徐々に優しく広がっていく。

―――風に、流されることなく。



「ミレーユ、避けろっ」



「言われなくても分かってますです!」



危険を察知したミレーユが滑空して距離を取る。

あの羽根が、彼の異能に関係していると見てほぼ間違いない。



「はは、そんなに警戒されると哀しいなぁ」



紅い瞳を細め―――愉しげに一言。




「―――……始めようか」




―――ピシッ


ふわふわ優雅に辺りを漂っていた羽根が、一斉に凍結した。
……いや、違う。
ギラリと鈍い光を放つ―――硬質の鋼に変化したそれは、ミレーユに向けて四方八方から飛来する。



「くっ―――!」



ミレーユは持ち前の反射神経を生かしてさらに上空へと逃れる。
間一髪で直撃は避けたが、凶悪な刃と化した羽根がミレーユの柔肌を掠めた。

傷口から赤いものが滲む。



「へぇ。血も出るんだ」



明らかに面白がっている。
お気に入りの玩具を見つけた子供のように、アレックスは笑う。



「ふふっ……最高だね。噎せ返るように濃厚で甘美な、禁忌の薫りがするよ」



「……っ」



まるでそれ自体が意思を持っているかのように、逃げても逃げても執拗に追ってくる鋭利な羽根。
埒が明かない。



「《白銀の盾》っ!」



振り返りざまにミレーユは手を翳し、目の前に魔法陣でできた障壁を出現させる。


衝撃波。しかし、相殺ではない。ミレーユが圧された。

幾億もの数が集まり、黒い塊となった羽根の猛攻が彼女を襲う。
必死に踏ん張るけれど足元が滑り、じりじりと後ろに下がざるをえない。
両手で陣を支え、歯を噛み締めて衝撃に耐える。


一方、アレックスはといえば離れた場所から魔力を使って、己が生み出した羽根の動きを操作するだけ。
薄い笑みを浮かべた彼の余裕の態度が、ミレーユの苛立ちをさらに煽る。



「……ッ《世界の夢、願う月影》!」



障壁で身を守りながら羽根の海をくぐり抜けて突進、電光石火の勢いで攻撃を放つ。

視界が潰れる程に協力な光線が、悠然と構えたアレックスを貫き通そうと迫る。



「ねえ、地獄と云う場所を知っている?」



凝縮した羽根の盾がその光を阻み、周りに激しい火花が散る。


愛の言葉を歌う詩人の如き恍惚とした口振りで、アレックスは独り言のように語りかけた。



「雨は酸、足場は腐肉。罪を犯しても悔い改めない者が、苦しみを受ける場所。救われない魂が陥る絶対の監獄」



隠しきれない愉悦に輝く血の双眸が、さらに妖しさを増した熾火の色へと変化する。



「その中で、俺たち悪魔は罪人共を引き千切り、切り刻み、直接的な痛みを与えるんだ―――永劫に、ね」



反射的にミレーユが身体を硬くした。
沸々と込み上げてくる純粋な恐怖。



「だから悪魔は、君たちのように高潔な魂が大好物なんだよ」



薄い唇から、真っ赤な舌がチロリと覗く。



「地獄や魔界では決して見ることができない、美しく澄んだ魂が奏でる、これまた美しい悲鳴―――」



「黙るですっ」



畏怖を闘志で塗り替える。
威勢良く吠え、ミレーユは流れるように片手を突き出した。




「幻舞―――《胡蝶》!」




生み出したるは蝶々の大群。

彼らが撒き散らす儚い粒子が羽根に触れた瞬間、火花を散らしてそれを拒絶した。


アレックスが目を見張る。



「これは、俺の異能の対抗策か」



「打開策と言ってほしいですね!」



ミレーユが力むと、かつて羽毛だったものは虹色の燐光に押し潰され、もろもろと黒い灰になり―――


呆気なく、崩れ去った。

157ピーチ:2013/03/02(土) 10:40:56 HOST:EM49-252-90-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

久しぶりー!!

と思って読んだらいきなりこの展開!?

…アレックスが一瞬悪魔の本性見せた気がするの気のせいか←

158心愛:2013/03/02(土) 18:59:24 HOST:proxy10030.docomo.ne.jp
>>ピーチ

久しぶりー!
テスト期間は終わったのかな?


裏表あるキャラってここあ結構多いかもw
二面性を隠す派としては世渡り上手なシュオン、美空、あと春山かな。
美空と春山については後々深く突っ込みたいw

隠さない派ってゆーか素なのはアレク、シィあたりでしょうか。
ルイーズとかヒースも、敵認定すると若干性格かわるしね←


アレクは鬼畜だよ! ネチネチいたぶるよ!

159ピーチ:2013/03/02(土) 21:45:10 HOST:EM49-252-124-211.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

テスト終わって色んな意味で終わった&狂ったピーチですw

シュオン様は代表的存在だよねw←

美空先輩も言われてみれば二重人格っぽいw

160心愛:2013/03/03(日) 18:41:26 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

え、狂っちゃったの!?( ̄◇ ̄;)


シュオンは分かりやすい裏表だよねーw
王子様な外面、気を許した人限定の毒舌諸々、それからソフィア限定の甘々……三つか!

美空も結構黒いんだよー。ドジだけど←

161ピーチ:2013/03/03(日) 18:47:26 HOST:EM114-51-64-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

狂ったのですッ!←

シュオン様が一番わかりやすいかも←

え、美空先輩が!?

162心愛:2013/03/04(月) 15:33:07 HOST:proxy10070.docomo.ne.jp
>>ピーチ

く、狂ったのか…(汗)


シュオンは分かりやすいし書き分けしやすいよね! 書いてて楽しんじゃう←


美空は…ちょっとシュオンと似たとこがあって、利益を計算してそれが美羽や自分のためになるなら、どんなことでもするような子なのね。
めったに本音出さないから分かりにくいけど、結構色々考えてるよ!

163ピーチ:2013/03/05(火) 05:13:53 HOST:EM49-252-6-237.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あはは、どーしよー治らないよーw

シュオン様は読んでても分かりやすい! ヒースが気の毒だと思う以外は面白い!←

美空先輩の意外な一面発見!?

164心愛:2013/03/05(火) 17:04:25 HOST:proxyag110.docomo.ne.jp
>>ピーチ

治れー! 治れぇー!


シュオンの黒さは周りが被害被るのがねー。
それもまた愛ゆえに!……歪んでるけど。


うーん。美空と昴の話、早く書きたいなぁ…←
そろそろ昴が忘れ去られそうだしなぁ…。

165たっくん:2013/03/06(水) 11:55:13 HOST:zaq31fa58ac.zaq.ne.jp
>>ピーチさん

ピーチさん貴方・・
馬鹿を超えた馬鹿を更にもう一歩・・超えてみる気ありません?
現時点で既に馬鹿を超えてらっしゃいますが・・その領域を更に凌駕するなどという事が可能なのか?
誰もが最初はそう思うんです。

非現実的な事を可能にする。それこそが私の拘り
普通人の何百分の1の頭脳を持つ、100分の1
第3者から見れば、人間以外の何ものかなんです。
見込みのある人、大募集!

>>1さん
ピーチさん
貴方は見込みがあります。
馬鹿を改造し、更にその領域を超える

166たっくん:2013/03/06(水) 11:57:55 HOST:zaq31fa58ac.zaq.ne.jp
女性の方でもOK!
性別は問いません。ではまた

夢に描きながらも実現できなかった
あの究極の無能人アホ3(スリー)・・・
貴方ならできるかもしれない

>>1さん、そしてピーチさん
期待しています。

あの2chサイトの馬鹿住民を更に上回るチャンスです。

167ナコード:2013/03/06(水) 17:43:00 HOST:i118-17-185-78.s41.a018.ap.plala.or.jp
 >>165 >>166
 人の事を馬鹿呼ばわりするのもいい加減にして下さい。
 荒らしでしか目立つ事の出来ない人はこの世では馬鹿以下の分類ですよ?
 学習能力をつけてください。

168ピーチ:2013/03/13(水) 05:13:22 HOST:EM114-51-28-190.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ここにゃんのおかげで治った! 多分!

シュオン様、は……まぁしょうがないと言えばしょうがない←

昴さん忘れてませんよー! ちゃんと覚えてますよー!

169心愛:2013/03/13(水) 21:57:39 HOST:proxy10009.docomo.ne.jp
>>ピーチ

それはよかった!


昴忘れてない!?
極端に登場回数少ないからね、昴…。
彩あたりも最近出てないけども←

170心愛:2013/03/13(水) 21:58:04 HOST:proxy10010.docomo.ne.jp





「……ふふっ。本当に、大したものだよ」



異能を封じられたも同然だというのに、アレックスの余裕は微塵も揺らがなかった。



「これは、そろそろ俺も約束通り本気を出さなくてはならないみたいだね」



ミレーユの背筋に戦慄が走る。

残酷さを増した嗜虐的な笑みを浮かべ、アレックスはゆっくりと己の右手を持ち上げた。



「二対一って不平等(アンフェア)だと思わない?」



謳うように。
悪魔は紅い双眸を細め、




「昏(くら)き闇、古の唄―――我が契約に応え、奈落の淵より顕現せよ」




―――怒号のような吼え声が突風となり、ミレーユの髪を揺らした。


猛烈な地響きを立てて地面に亀裂を生み、その奥から竜巻そのものが出現する。



「―――――ッッ」



空中を滑るように飛び、すかさずミレーユが距離を取る。




【ォォォ………ッッォォォ……】




暴風の中央に、“何か”がいた。

逞しく発達した巨大な腕、二対の翼。
鱗に覆われた長い尾から連なる、しなやかで強靭な胴体が翻る。
大きく開かれた上顎と下顎から覗く、氷柱のように鋭い牙。



―――竜。



「俺の可愛い使い魔(ペット)さ」



唇の端をつり上げ、悪魔が笑む。




「折角だし―――遊んでやってよ」




主の命を受け、竜が凄まじい轟音と共に漆黒の火炎を放射した。
破裂した飛沫が瞬く間に氾濫し、津波の如く膨れ上がって大地を蹂躙する。



「……は、っ」



間一髪で逃れたミレーユが思わずと云うように身震いした。


その脅威は炎の威力だけに留まらない。
暴力的な光が奔流となって押し寄せ、迸り、空間を深い黒へと染め上げる。
続く形で襲い来るのは猛烈な熱波、そして音の衝撃波。



……もう出し惜しみは利かない。



「空牙、既に構築は完了していますです! 『あれ』を!」



魔法陣の盾で防御するミレーユが地上に向けて声を張る。



「……空牙? どうしたのです、早く―――」



返事がない所有者(マスター)を訝しんでミレーユが眉を寄せた瞬間、供給されていた魔力がふつりと途切れた。
盾が儚い粒子となって霧散し、掻き消える。



「……空牙ッ!?」



白いリボンが悲鳴のように揺れた。



はあ、はあ、と短く荒い呼吸。
今にも崩れ落ちそうに痩身が傾ぎ、とめどなく溢れる脂汗は血の気が失せた頬を伝い、地面に落ちる。
鋭さをなくした瞳は、ただぼんやりと虚空を映していた。


ミレーユがサッと青ざめ、すぐさま降下して空牙へと向かう。



「空牙! しっかりするです、空牙!」



涙混じりの叫びを上げるミレーユが空牙にすがりついた。


無防備にもがら空きになった彼女の背中に、勢い良く振り下ろされた竜の腕が迫り―――




「―――其処までだ」




涼やかな美声。


フリルとレースに飾られた、華奢な後ろ姿―――シルヴィアが、ミレーユと鉤爪との間にその身体を割り込ませていた。
冷え冷えとした厳しい視線を、空中のアレックスへ投げかける。



「いくら性格が歪んだ君でも、手負いの女をいたぶるなんて趣味は持ち合わせていないだろう?」



ミレーユを弱者や敗者でなく手負いの女と称したのは、彼女なりの気遣いだろうか。



「やだな、分かってるって。ちゃんと寸前で止めるつもりだったよ」



「はっ。信用できないな」



シルヴィアを前にした途端にその動きをピタリと止めた竜が、アレックスを不安そうに窺う。

アレックスが頷くと、竜はそれを解したかのようにゆっくりと頭部をもたげて。


―――やがて、キラキラと光る細かい粒子となって、消滅した。


それを冷たく透き通る瞳で見届けたシルヴィアは次にくるりと振り返り、可愛らしく眉を下げて。



「ミレーユ、空牙、大丈夫っ?」



「……なんとか……」



消耗した魔力の波と息とを整えながら、弱々しく笑う空牙。

彼に寄り添うミレーユの肌に刻まれた傷が、時間が経つにつれて徐々に塞がっていく。


もし空牙がミレーユの実力を全て生かし、発揮することができたなら、勝負の結果は違ったかもしれない―――と思うと、仕方ないとは分かっていてもやはり情けなくなってしまう。

171ピーチ:2013/03/15(金) 05:51:06 HOST:EM1-115-76-248.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

良かったよー!

昴さん忘れないよ! あんなにいい人忘れないよ!

極端でも悪役よりはずっといい←

あ、でも確かに高校の文化祭やってたもんね! 仕方ない!

172心愛:2013/03/16(土) 11:13:17 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp
>>ピーチ

文化祭長かったからね…←

ありがとう!
もうちょい忘れないでいてくれ!


ソラの波紋も、次の次くらいから要の部分に入ります(つд`)
終盤戦が長いんだこれが←
むしろ今までが前振りみたいな感じだしね。

紫の歌ラストに近いシリアス突入かも!

173ピーチ:2013/03/16(土) 20:51:20 HOST:EM114-51-179-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

文化祭長かった! でも面白かった!←

忘れない忘れない!

い、今までが前振り……!?

紫の歌ラストに近いってあれシリアスだけじゃありませんでしたかね…?←

174心愛:2013/03/18(月) 17:15:52 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとうごぜえます…!
デート(?)は短めだから、あと秋あたりに長いイベント一回はさんで、冬で事件起こして終わりかなぁ。


ソラの波紋は今からがメインです!
ドシリアスいきます! ここあなりに!
ミレーユのポジションがソフィアに近い感じになるかもね←

175ピーチ:2013/03/19(火) 05:40:00 HOST:EM114-51-37-149.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

デート短めなんだー←

あれ、冬の事件とやらが無性に気になるのは何でだろう←

ドシリアス頑張って! 応援するよ!

ソフィア様のポジション? 一番最初の?

176矢沢:2013/03/19(火) 13:53:17 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
すごいね。

177心愛:2013/03/19(火) 20:21:39 HOST:proxy10051.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ここあ作品の流れは、

主人公や中心人物が色々苦労する

出会い

コメディ入れつつ日常

急にシリアス展開、日常が揺らぐ

解決、ハッピーエンド


みたいなパターンだと思ってくれればw


邪気眼少女の冬の事件もシリアス予定だよー。

ソフィアのポジション…囚われの姫的な?←
これ以上言うとネタバレなのでやめとくw

178ピーチ:2013/03/19(火) 22:03:33 HOST:EM114-51-160-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

了解! 分かった!

な、何か美羽ちゃんの目の前でシリアス起こったらどーなるんだろ…←

ミレーユちゃんが囚われって印象は……あんまり浮かばないかも

179心愛:2013/03/20(水) 10:14:07 HOST:proxy10056.docomo.ne.jp
>>ピーチ


美羽は微シリアスな過去背負ってますので、その関係かな←

囚われっていうか囚われる前に敵をぶちのめしそうだよねw

180ピーチ:2013/03/20(水) 19:30:54 HOST:EM1-114-57-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

それか!

あれ、何でだろう、何かミレーユちゃんが空牙くんに八つ当たりしそうなイメージが←おい

181心愛:2013/03/20(水) 23:27:49 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ

「空牙がふらふらふらふら頼りないボウフラな所為でミレーユがこんな目に遭ったです! 責任取りやがれですクソ虫!」…みたいな?←

ただ、今回はどうだろう(~_~;)



邪気眼少女が一区切りついたんで、こっちを優先的に進めたいと思いますw
ただ内容が重いとスローペースになっちゃうかも←

182心愛:2013/03/22(金) 20:19:23 HOST:proxyag112.docomo.ne.jp





ミレーユの消耗はたいしたことはないが、彼女に魔力を供給する空牙の方が限界だった。



「ごめんね、アレクってばドSで、つい愉しんじゃうんだよね……。刺突剣(レイピア)を持ち出さなかっただけましだけど」



「まだ何かあるのかよ……」



「あはは。それにしても、相手がぼくじゃなくてよかったよ」



シルヴィアは手に持っている銀色の十字架に唇を押し当て、柘榴石(ガーネット)の瞳を妖艶に細めた。




「―――うっかり殺しちゃうかもしれないから」




ゾクッ―――と冷たいものを感じ、空牙とミレーユが一様に顔を引き攣らせる。



「でも、アレクとこれだけやり合うなんてすごいよ。冥界でも五指に入るんじゃない?」



「……あ、はは……そ、そうかな」



最強の名を冠するシルヴィアに誉められた嬉しさより、純粋な恐怖が勝る空牙だった。



「仕方ないですね。今日のところは勝ちを譲ってやるですよ」



「うん。君はかなり強いけど……今度も負けないよ」



敵意の火花を散らすミレーユに、アレックスは悠々とした笑みで応える。



「ふう。空牙が役立たずな所為で不本意な結果になりましたが、思い切り暴れてゴミ虫との二人旅の間のストレス発散ができたですから、良いとしますですか」



「酷い言われよう……」



空牙が回復してきたとほぼ同時にミレーユの毒舌も復活。
ふわりと浮き上がり、ミレーユは空牙のコートを引っ張って彼を急かす。



「さっさと行きますですよ、空牙」



「そんな急に!? み、ミレーユさーん? 俺、まだ動きたくないなー、なーんて」



「このまま引きずって行くです?」



「やめてお願いだから!」



渋々立ち上がった空牙に、シルヴィアがにこやかに微笑んでみせる。



「二人から奪っちゃった仕事については、目を瞑ってくれるようリリスに頼んでおくよ」



「それは助かる。……あー、ところでアレックスさん、最後に訊いておきたいことが」



「俺に?」



アレックスが器用に、片眉だけを上げる。
空牙は、己を打ち負かした彼をしっかりと見て言った。



「はい。貴方はかなりの才人のようなので」



「……へぇ。逢ったばかりなのに、案外良く見てるね」



アレックスが感心したように。



「その通り。永い刻を生きているから、それなりに物は知っているんだ」



「それじゃあ」



不思議そうにしているシルヴィア、ミレーユ。
同時に彼女らの反応をも窺うように―――




「―――“ネクタル”って、ご存知ですか」




瞬間、悪魔の双眸に不穏な光が輝いた。



「何処でその名を?」



「姫―――リリス姫から聞いたんです。気をつけろ、って」



アレックスはしばらく黙って考えている様子だったが、



「……なるほど」



やがて、納得したように呟く。



「そういう、ことか。流石は彼女」



「アレク? どうしたのさ」



「……ああ、ごめん。話の途中だったね」



何もない風を装い、空牙に再度向き合う。




「ごく小さな魔術組織だよ。機械人形(マシンドール)の生産や開発に関わっているらしい」




「機械人形……!?」



空牙は息を呑む。


あのリリスが、意味のない忠告をするはずがない。
おそらく―――いや、間違いなく、ミレーユに関係があると考えるべきだ。



「ネクタル? 機械人形? ……何の話です?」



当のミレーユは何も知らないようで、金の瞳をぱちくりさせている。



「どうする、空牙」



アレックスは、にやりと野性味溢れる笑みを浮かべた。
上品さが漂う絶世の美貌も相俟ってか、そのような表情も妙に様になる。



「本部の研究所は、此処から割と近いよ?」



彼がつらつらと述べた座標は、確かにこの地点から遠くはない。



「……ミレーユ」



空牙は訝しげな顔のミレーユを見つめた。



「お前の謎が、分かるかもしれない」



ミレーユが緊張で身体を強ばらせる。


―――圧倒的な美しさと機能性、さらには確固たる自我の所有。激しすぎる魔力の消費量。

彼女を取り巻く、数多の謎。

183ピーチ:2013/03/23(土) 09:46:40 HOST:EM1-114-3-215.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

シルヴィア様怖いよ!? 何か怖いよ!?

ミレーユちゃんの謎…楽しみだ!←おい

184心愛:2013/03/23(土) 18:40:46 HOST:proxyag099.docomo.ne.jp







「姫の忠告を無駄にすることになるけど……」



空牙は真剣な顔で。




「―――行ってみないか」




彼の言葉を受け、ミレーユはほんの一瞬だけ間を取ると。



「……仕方ないですね」



腕を組んで尊大に胸を反らし、ふんっと鼻を鳴らした。



「良く分かりませんが、空牙は頼りなくて一人では何もできない唐変木でタコスケで虫ケラですから、ミレーユが特別に付いて行ってやるです。感謝するです」



「あーはいはい感謝感謝」




耳慣れた罵倒を聞き流す。
彼女はむっとしてむくれていた。



「決まった?」



「ああ。このまま、その……“ネクタル”ってとこに、行ってみることにするよ」



首を傾げて見上げてくるシルヴィアにそう答えた後、空牙はアレックスに向き直った。



「色々教えて下さって有難う御座います。あと、手合わせも。良い経験ができました」



「こちらこそ。久々に楽しませてもらったよ」



柔らかに笑むアレックスに手を差し出され、握手を交わす。



「シィもまたな」



「うん!」



歩き出す空牙たちに、幼き姫君は愛らしく無邪気な微笑みを浮かべて手を振った。



「いつかぼくと、妥協も引き分けも一切なしの真剣勝負しようね!」



「の、望むところですっ! ミレーユは準備万端です、いつかと言わず今すぐにでも―――」



「いやほんと勘弁してください!」



ミレーユを引っ張って猛ダッシュで走り去る空牙。



彼らの姿が地平線の彼方に消えるまで見送り、シルヴィアはくるりと己の眷属を振り返った。



「ねぇアレク。ぼくたちまた、リリスの手のひらの上ってこと?」



「珍しい、シィも気づいたか」



「なんとなくね」



立てた十字架に寄りかかって、視線だけをアレックスに向けるシルヴィア。



「わざとぼくたちと逢わせて、アレクから情報を掴ませて。空牙たちとその組織を引き合わせるように仕向けて……。何がしたいんだろう、リリスは」



「それだけじゃないよ」



片手で主の美しい銀髪を梳き、アレックスはくすりと笑った。



「彼女は、ずっと後のことまで視通してる」



不思議そうに見てくるシルヴィアの頭をごく軽く、ぽんぽんと叩く。



「とにかく、俺たちは一体でも多く、魔獣を倒そう」



「もちろんだけど……また、空牙たちの仕事の邪魔しちゃうかな」



まったく、この娘は。とアレクは苦笑した。
幼いゆえの冷酷さと未熟さを兼ね備えた、何処かアンバランスで危うい少女。



「大丈夫だよ、シィ」



アレックスはそんな主に言い聞かせるように、声を潜めて微笑む。




「空牙たちも―――それに、俺たちも。じきに、それどころじゃなくなるからね」







+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+ +.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+







それから半日後。
寂れた街に、賑やかに話す二つの影があった。



「参ったな……このへんで合ってるはずなんだけど―――おいこらミレーユ、勝手に誰かの屋根に乗ってくつろぐなよ」



「此処からなら簡単に、空牙を見下(くだ)せるです」



「見下(お)ろせるの間違いだよな!?」





「―――ミレーユッ!?」





突然後方から発せられた叫び声に驚き、空牙とミレーユがそちらを見る。



「や、っ……と、見つけた……!」



ミレーユを真っ直ぐに映して輝く、暗い色合いの紅い瞳を驚愕と歓喜に見開いた、深紫色の髪を持つ青年。
知的に整った相貌とくたびれた白衣は、近寄りがたく独特な雰囲気を放っていた。



「知り合いか?」



「……」



ミレーユがふるふると頭(かぶり)を振る。
どうやら、以前の主でもないらしい。



「えーと、すみませんが……どちら様ですか?」



「これは失礼!」



ハッと我に返ったように瞬いてミレーユから目を離し、男は空牙に向けて丁寧な礼をした。




「申し遅れました。私は《ネクタル》所属の研究者、サミュエル=ノヴァと云う者です」

185心愛:2013/03/23(土) 18:45:13 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ


シィは怖いよねw
可愛いのに怖い、を目指しつつ←


やっとのことで《ネクタル》登場!
サミュエルの名前は今テキトーに考えたことは秘密ですw

186ピーチ:2013/03/23(土) 22:05:12 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

可愛すぎるせいで怖さ倍増w

ネクタルーw←

こ、ここにゃんそればらしてる秘密じゃなくなってる!

187心愛:2013/03/23(土) 23:51:37 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

サミュエルは超重要キャラのはずなのになぜだろう…。

ここあ初・極悪非道なるか!

188心愛:2013/03/23(土) 23:52:50 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp






話したいことがある、と男―――サミュエルは言った。


《ネクタル》が本拠にしているという研究所は、灰色の小さな建物だった。

錆び付いた扉が、ギギギ、と甲高く耳障りな音を立てる。



「散らかっていて悪いね」



優れた弦楽器のように澄んだ声が、沈黙の中響いた。


足元に幾つも転がるのは、人形のものと思しき部品(パーツ)―――否、残骸。


ミレーユが怯えて竦み上がり、空牙は不快感も露わに眉を寄せた。


サミュエルは二人を奥のソファへと招き、自分はその正面に座る。
助手らしい若い女に茶を淹れさせ、彼女が退出するのを見届けた後に脚を組み、こう切り出した。



「話というのは他でもない」




「ミレーユを売れ、ってことですか」




「――――ッ!!」




ミレーユが、今にも泣き出しそうな表情で空牙を見る。
『黙ってろ』と視線で命じた。



「話が早いね。もしかしてエルゼリア出身かい?」



「そんなことが今、関係あるんですか?」



「いや、特にないな」



くっくっと愉快そうに喉の奥で笑い、サミュエルは長い脚を組み替えた。



「そう、君の言う通りだ。其処のミレーユを、私に譲ってほしい」



「どうしてミレーユを? こいつのことを知っているんですか?」



矢継ぎ早に尋ねると。



「あまり急かさないでくれよ。だが、その問い自体は意義があるな」



ミレーユを見つめるサミュエルの暗い双眸に、強い光が宿った。




「―――私が、ミレーユの製作者だからだよ」




ミレーユの肩が跳ねる。

空牙はすかさず、目の前の男を観察した。

まだ若い。
空牙と十も変わらないように見える。

本当に彼がミレーユを造った張本人だとして、ミレーユが他の人形遣いに使役されていた時間を考えると、計算が合うとは思いがたい。



「ミレーユ、記憶はない? 君の生みの親だよ?」



数秒遅れ、こくりと弱々しく頷いたミレーユの透き通る頬は、僅かに青ざめているようだった。



「何か証明できるものは」



「証明……か」



サミュエルは薄く笑い、立ち上がる。



「私がこれからする説明が、きっとそのまま証明となる。ミレーユを造り出した私の、研究成果がね」



こっちに、と誘われて、空牙とミレーユは彼の後に続いた。


サミュエルは再び助手の男を二人呼び、設置されていた本棚をずらすように押させる。
何をしているのかと訝しんでいると―――本棚の裏にあった壁に、古びた扉が出現した。


隠し扉だ。



「君たちをこの部屋に入れる前に、ひとつ約束がある。これから見るものの存在を、他の誰にも言わないでくれ」



二人が頷くのを確認し、サミュエルは白衣のポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
現れた空洞の中へ、空牙たちを先導して歩き出す。


ひんやりとした冷気が空牙の身体を包み込む。


サミュエルの持つおぼろげな灯りに照らされ、闇の中浮かび上がったのは整然と並べられたガラスの円筒。

そして。




―――液体の満たされた容器に、生物標本のような少女の裸体が、収められていた。




「………っ、!」



吐き気が込み上げ、ミレーユが口を押さえる。
空牙も顔を険しくした。



無惨に切り裂かれた胸から覗くのは新鮮な色の肉、内臓。
造り物では有り得ない。



「ご覧の通り、私は禁術の使い手」



サミュエルだけが、心底楽しそうに微笑んでいた。



「研究内容の情報が流出したら大惨事だからね。それゆえの少数運営、それゆえの隔離施設だ」



可笑しくてたまらないとでも云うように。
サミュエルはくすくすと声を零す。




「私は禁じられた魔術を扱う研究者―――そして、一種の魔術師(ツァウベラー)だよ」

189ピーチ:2013/03/24(日) 00:21:12 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

空牙くーん! ミレーユちゃん売らないよね? ね!?

製作者とか何とか関係なくないですかねぇ!?

190心愛:2013/03/24(日) 18:11:53 HOST:proxyag089.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そっか、この時点では製作者がミレーユを欲しがってるとか、関係なく思えるよね…!

ありがとうピーチ!
そういう疑問とか不自然なとことかあったら、遠慮なく言ってくれ!
後で分かるようにするつもりだから!


なんかもうバレバレな気もしなくもないけど、引っ張りに引っ張ったミレーユの正体ばらしいくぜー↓

191心愛:2013/03/24(日) 18:12:25 HOST:proxyag089.docomo.ne.jp





……禁断の魔術。

嫌な汗が滲む。



「おかしいと思わないか?」



魔術師は、まるで役者がするように大袈裟な動作で両腕を広げ。



「ミレーユには自我があり、魔法が使える―――そう、我々魔族―――特に最も、ミュシアの王族に近い」



ミュシアの王弟、ユリアスを思い出す。
魔族の身でありながら異能を宿さず、その代わりに魔法を行使する極めて異例の存在。


……と、いうことは。


空牙が一つの、途方もない推測を弾き出すと同時、ミレーユが声を上げた。



「そんなことはどうでもいいですっ」



おそらく、恐怖が理性を上回ったのだろう。
冷静な思考を失ったミレーユは、カタカタと震えながら叫ぶ。



「答えて下さい! どうしてミレーユを欠陥品にしたのです!?」



彼女の金色の瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。



「ミレーユは、ずっとずっと、ミレーユを造ったひとを憎んできました……! いくら強くても、主の魔力を大量に吸い取ってしまうミレーユは、空牙と出逢うまで……、凄く、つらい思いをしてきたのですよ……っ?」



「お前は欠陥品ではない」



否定するサミュエルの静かな声が、部屋中に広がり、沁み渡る。



「話を戻せば、それどころか。元々、人形でさえもない」



「な―――」



「兵器だよ、ミレーユ」



歪んだ愛情を彷彿とさせる慈しみの視線に、背筋が泡立つ。



「これを見てごらん」



少女たちの遺体が浮かぶ透明な容器を、サミュエルは笑顔で振り仰いだ。



「ミレーユ、お前はこれらと同じ」



自らの成果を誇る研究者の顔。
ミレーユはただ困惑し、空牙は黙ってサミュエルを鋭く睨みつけた。


ふふっとたまらず笑みを漏らし、サミュエルは高らかに声を張る。




「魔族の肉体に、禁断の魔術を注ぎ込んだ―――私の最高傑作さ!」




そして、ミレーユは。

ようやく、理解した。



この少女たちは―――空っぽの《容器》なのだ。


生きものを《容器》として、機械の《部品》を組み込むことで、必要な養分や水分を生体に供給させ―――《容器》が死ぬまでの時間、極めて完成度の高い機械人形(マシンドール)として、稼働させることができる。


つまり。


ミレーユも、彼女らと同じ。



かつて魔族の少女として生まれながら、サミュエルの手によって人形に改造されたもの。


肉を裂かれ、部位を切り落とされ、機械人形として機能するために必要な《部品》を埋め込まれた―――実験動物。


数ある禁忌の中で最も嫌悪される、存在さえも赦されぬ、罪深き仮想生命。




『ふふっ……最高だね。噎せ返るように濃厚で甘美な、禁忌の薫りがするよ』




『人形というよりは―――』




背筋を痺れるような恐怖と嫌悪感が走り抜け、手足が強張り、呼吸が止まる。
毒を塗った爪で、心臓―――《核》を鷲掴みにされたような感覚に、悲鳴を上げそうになる。


ミレーユはたまらず空牙のコートにすがりつき、怯えながら彼を見上げた。



「……まどろっこしいな」



対する空牙は冷静だった。
サミュエルを射るが如き炯眼で睨み、低い声で言う。



「まだ一番大事なこと、話していないんじゃないですか? 勿体ぶってないで、さっさと言ってほしいんですけど」



「ははっ、本当に君は話が早い! その頭の回転の良さ、是非ともうちにスカウトしたいくらいだよ!」



サミュエルは一通り笑い、それから恍惚とした双眸でミレーユを映した。




「おそらく君の推察通り。かつてのミレーユは、魔族の中でも異例の存在―――」




最もミュシアの王族に近い、という言葉。
複数の魔法のストックを持つこの身体。


ミュシアの永い永い歴史の跡―――その系譜を遡れば、やがて辿り着くのは―――



いやだ。


嫌だ。


これ以上、何も聞きたくない!



ミレーユが瞼をきつく閉じ、歯を食い縛り、耳を押さえるその前に。
無情にも、彼女の優秀な聴覚は、男の声をはっきりと捉えた。





「―――魔女」





ミレーユの全身を、稲妻のような衝撃が貫いた。

192心愛:2013/03/25(月) 11:06:28 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp






「お前は魔女の中でもさらに規格外の、恐ろしく強大な力を持った実力者だったんだよ」



サミュエルは、膝が崩れて空牙に支えられているミレーユを、かつての彼女の面影を重ねるように熱い眼差しで見つめる。



「……今最強と謳われている、あの身の程知らずの小娘よりも、ずっとね」



今の最強。シルヴィアのことだ。
一瞬だけ鋭い憎しみに凍りついた双眸が、再び心酔に潤む。



「彼女は己の力に溺れ、殺戮を繰り返し、暴虐の限りを尽くした。すぐに冥界は荒れ果て、魔獣の処理どころではなくなってしまった」



空牙は自分に寄り添って力なく震えている、人形の少女を見る。
もしミレーユの人格が残忍で、闘争心がより強く、今は眠っている力を、自分の意志で全て生かすことができたなら―――。



「そしてついに、彼女の行いを見かねた王家が手を打った。三人の王直々に、彼女を捕縛する為戦線に立ったんだ」



それぞれ当時のエルゼリア王、ミュシア王、ファローズ王。
リリス、ユリアス、シルヴィアの祖先に当たる人物か。



「彼女は、それはそれは強かったからね。かなり苦戦したものの、冥界中に罠を張り巡らせ……やっとのことで彼女の身柄を拘束することに成功した」



サミュエルは可笑しげに肩を揺らし。



「彼女は勿論、即煉獄行きの運びだったのだが―――刑吏の目を盗み、牢に忍び込んだ輩がいた」



くすくす、くすくすと小さく笑って。



「そう、ファローズ王家直属の研究者として勤務していた、私たち《ネクタル》だよ」



美しく、狂喜に満ちた微笑を湛えた。




「これほどまでの逸材を、このまま殺すなんてできない。だから私たちは魔術と知恵を総動員して、連戦で弱った彼女を抑えつけ、生きた肉体を改造したんだ。
機械人形として、その力を引き継ぐ為に―――」




―――彼の口によって明かされたのは、あまりに凄惨で、残酷な過去だった。


ひっ、とミレーユが喉を鳴らし、両腕で戦慄く自分の身体―――犯罪者の肉体を抱きしめる。



ミレーユがごく当たり前のように魔法を使えるのも、膨大な量の魔力を欲するのも、自身がそれだけの力を持つ魔女だったから。
造り物の人形とは思えぬ美しさも、はっきりとした自我も。《容器》として使われたのが、かつて確かに生きていた、ひとりの魔族だったから―――。




「……ちょっと待って下さい」




衝撃を受けて黙り込んでいるミレーユに代わって、声を発したのは空牙だった。



「魔術師も魔女も所詮魔族。生もあれば死もあります」



サミュエルを真正面から見つめ、言葉を連ねる。



「魔女はとうの昔―――数千年前に滅びたはず。なら、ミレーユも、魔女がいた時代に生きていた貴方も、どうして今生きていられるんですか?」



ミレーユも、はっとしたようにサミュエルを見る。

そう……この話は、どう考えてもおかしい。

悪魔と違い、魔族には定められた寿命がある。
人間よりは長寿とはいえ、数千年もの間、この魔術師が生きていられるはずがない。



サミュエルは若々しい美貌で、「至極当然の疑問だね」と微笑んだ。




「彼女の改造手術が見つかってすぐ、勿論私たちも煉獄に幽閉されたんだけど……くくっ、少し前に這い出して来たんだよ」




―――お前に逢いたくてね。



サミュエルの微笑を絶やさない顔を、空牙は戦慄と共に凝視した。



この男は……《ネクタル》の研究者は、死者。


正真正銘の《咎人(アウフルーフ)》だ!



部外者にする作り話にしてはあまりに出来すぎている。
真実と受け取るべきだ。



……とにもかくにも、これで二つの理由ができた。
《ネクタル》は法で禁じられた魔術を扱っており、さらには煉獄を抜け出した罪人、《咎人》の集団だ。


どうにかして、彼らを捕らえてしまえば―――
……いや、その結論に至るにはまだ早い。




「それから、ミレーユの方だけど―――魔力が断絶したら仮死状態に陥るように、特殊な保護封印(プロテクト)をかけておいたからね。魔力が供給されている間は普通の少女として生きるけれど、魔力が切れた途端に刻は止まり、ミレーユは只の、完全な人形となる。良い保存方法だろう?」

193たっくん:2013/03/25(月) 11:27:46 HOST:zaq31fa52d6.zaq.ne.jp
 【貴方がフィギュアをおごってくれなければ即フリーザに乗り換えます】

貴方はフリーザと悟空どちらを愛しますか。
16号と18号どちらを欲しますか?
雑談しましょう。
フリーザの身体をなめまわせよお前ら

まあそれは置いておいて・・
単刀直入に言いますが、18号のフィギュアを私におごって下さい。
貴方のおこづかいで。

もし買っていただけない場合は、 18号のこと諦めます。
フリーザに乗り換えます。フリーザのほうを好きになります。

私がフリーザを好むか、18号を好むかは
>>1さんのサイフにかかっているのです。

それにしてもいつも18号のフィギュアだけ入手できないのだろうか・・?
何度入札しても落札できない。

超サイヤ人孫悟空およびフリーザのほうが比較的簡単に入手する事ができます。
この文をご覧になってもし、18号のほうを愛せよとおっしゃる方がいらっしゃいましたら
フィギュアを私に譲って下さい。お願いします。
寸法20cm以上希望。最低でも20cmは欲しいです。

でなければ即フリーザに乗り換えますからね
フリーザでも別にいいんですよ私は
元々、超サイヤ人覚醒時の孫悟空が好きでしたから。
フリーザのエピソードです。

194たっくん:2013/03/25(月) 11:57:49 HOST:zaq31fa52d6.zaq.ne.jp
サイフから金出たか?
早く出さないとフリーザになるぞ

やっぱりフリーザのフィギュアを買う事にします。
では

195ピーチ:2013/03/25(月) 20:51:57 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

サミュエル意味わからん!

まさかここにゃんキャラでこんな悪役が登場するとは夢にも思わなかった!←

ミレーユちゃんが只の人形になるわけがないっ! ミレーユちゃん大丈夫だよ!

196心愛:2013/03/25(月) 22:29:42 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
>>ピーチ

う、うん、魔力途絶えるとほんとに人形化するんだ…。
空牙との出逢いのときのミレーユを思い出してみてくれ!


そんなわけで、ミレーユ(の身体)は魔女でしたw
しかも悪い魔女です…←


サミュエルは冷酷非道で性格がちょっとクレイジーなんだね、うん。
ここあ頑張ってるよ…! 優しさの片鱗も見せないように頑張ってるよ…!

197ピーチ:2013/03/25(月) 22:39:02 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

出逢いのときのミレーユちゃんはまだ意識(?)あったぞー!←

ミレーユちゃんあんなに優しいのに!? あれで悪い魔女!?

……まぁ、空牙くんに対する言葉は除いてね!

サミュエルだけはどーやっても好きになれない…


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