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陰陽師 〜前世と現世〜

58ピーチ:2012/04/15(日) 07:39:32 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
「・・・何とかなるって、大丈夫だよ・・・」
「・・・お前さ、ほんと嘘吐くの下手だよな・・・」
裕也が、苦笑しながら言った。
「まだあの・・・呪詛?が抜けてねーんだろ?」
「え?あ、いや・・・」
「今さら誤魔化して何になる?」
裕也が笑いながら、でも、と言った。
「悪いな・・・わざわざ結界張る力まで使わせちまって」
「大丈夫だよ・・・気にしなくても」
「嘘吐くなよ?」
「分かった分かった・・・」
小さい声で答える誠人を見て、裕也が
「何か・・・明人の気持ちが分かる気がする・・・」
と言った。
「え?」
「いや、誠人ってさ、からかい甲斐あるじゃん?」
「・・・・・・」
その言葉を聞いて、誠人が蒼い顔をさらに蒼くした。
「じゃあ・・・裕也も明人と同じように俺で遊ぼうと?」
「・・・何もそこまで言ってねぇし・・・」
「・・・ゴメン、この家ってさ・・・一人になれる場所とかある?」
「え?」
突然、何を言い出すかのと思ったが、それを聞く前に誠人が倉庫を使っていいかと聞いてきたので、裕也は条件反射で答えた。
「べ、別にいいけど・・・」
「・・・ありがとう」
「あ、あぁ・・・?」
誠人はその言葉を聞き、倉庫に向かった。
「・・・・・・これでいいかな・・・」
そう呟くと、自分に似せた式紙を作り、裕也の所へ行くように指示を出した。そして、自分はそのまま家の外に出て行った。
「おーい!誠秋ー!」
「助けてくれー!」
「殺されるー!」
「え?」
突如聞こえてきた、聞き慣れた声の方向を振り向くと、やはりあの三匹が全力で誠人の方向かってきた。
「え・・・お前ら何したの!?」
「知るかー!」
「気付いたら追っかけ回されてたんだよ!」
「頼む!誠秋の生まれ変わり、誠人!」
なんとも丁寧なことだろうか。雑鬼達は“生まれ変わり”だけを綺麗に大合唱したのである。
「今の俺は・・・誠人だよ・・・前後に変な言葉付けるな」
そう言いながら誠人は、雑鬼達を追ってきた妖の顔を見た。姿かたちは普通の鳥のそれだが、鳴き方が全く別の生き物を示していた。が、その生き物までは、誠人には分からなかった。
「・・・面倒だな・・・」
誠人がそう言った直後、何かが勢い良く燃えた。鳥妖の羽に命中したからだ。
「な・・・なぁ誠人?」
「ん?」
「今の・・・燃えたやつ何?」
「・・・神札」
「え?」
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前』!!」
誠人が、真言密教の魔除の九字を唱えながら、手刀で格子を切った。そして、その力を格子状にして鳥妖に思い切りぶつけた。途端に鳥妖が暴れだす。しかし格子に囚われ、為す術もないまま消えていった。
直後。誠人が地面に崩れ落ちる。
「お、おい!大丈夫か?」
「あんまり無理すんなよ?」
「・・・大丈夫だよ、ちょっと力使いすぎただけ・・・」
「と、とりあえず!今日はもう帰れ!」
「そ、そーだ!俺らは何とかして逃げ延びるからよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
誠人は、何も言わずにその場を離れた。
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続きまーす

59ピーチ:2012/04/15(日) 08:03:44 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
次の日、誠人は裕也に言った。
「今日、どうしても行かなきゃいけない所あるから・・・」
「あぁ、分かった」
「え?」
「仕方ねーだろ?まぁ、視えないから何とかなるって」
「・・・俺の式紙置いていくから・・・」
誠人の言葉を聞いた裕也は、慌てて
「い、いや!いくら何でもそこまでは・・・」
と言った。だが誠人は
「大丈夫。そんなに怖くないから」
と言い返した。
「・・・そーゆー問題じゃなくて・・・」
「俺は」
突然、誠人が裕也の言葉を遮った。
「え?」
「誰も傷付けたくない・・・傷付けたらいけないんだ」
「・・・・・・!?」
突然の誠人の言葉に、裕也は言葉を失った。
「じゃあ・・・ゴメン」
「あ?あぁ・・・」
誠人が家に帰る途中、何体かの妖を見かけたが、全員、昨日ほどの妖気は放っていなかった。
「ただいま」
それだけ言って、誠人は自分の部屋に向かった。それを、タイミング悪く尭悸に見られていた。しかし、誠人はそんなこと、全く気付かなかった。
「・・・・・・」
誠人は自分の部屋に行き、記憶と本とを頼りに、鳥妖のことを調べていた。その際、調べる基準として、昨日倒した鳥妖から入手した羽と本とを見比べながら、小さく声をあげた。
「・・・!あった・・・」
名前は愕。姿かたちは鳥のようだが、鳴き声はこの世に存在しないもの、と記されていた。
「あれ・・・?何だこれ・・・!?」
誠人は、愕の説明が書いてある下の所に目を付けた。
「・・・何体もの妖を襲い、霊力を高めた・・・!?」
それを見た時、誠人の脳裏に雑鬼達が浮かんできた。咄嗟に、蝶の形をした式紙を作り、窓から飛ばした。異常がなければ、数分後には戻ってくる。
「・・・妖を襲う、か・・・」
そんなことを考えていたら、式紙が戻ってきた。どうやら、異常はなかったようだ。
そう思うと、今まで無意識に緊張して、張っていた肩の力が、一気に抜けた。
「誠人?いるか?」
突然、尭悸の声が聞こえてきた。
「え?あ、うん」
「入るぞ」
そう言ったかと思ったら、勝手にドアを開け、勝手に部屋に入ってきた。
「・・・?どうしかした?」
誠人は、平静を装いながら尭悸に尋ねた。
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続きまーす

60ピーチ:2012/04/15(日) 10:00:03 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
「この間、明人と二人で話したんだ」
「・・・何を?」
「・・・・・・お前が・・・」
尭悸はそこまで言って、
「いや、何でもない」
と言い換えた。
「・・・?分かった・・・」
誠人は、何か納得のいかない素振りを見せながらも、尭悸が部屋から出て行くのを、静かに見送った。
「まさか・・・な・・・」
誠人は、しばらくしてからもう一度、式紙を飛ばした。
「異常なし・・・」
それから後は、また昨日のように本を読みながら今まで見た妖の名前や説明を見ていた。
そして、いつものように七時を回ってから家を出た。誠人はその時、式紙を置いていなかった。すれ違いで、尭悸と明人が誠人の部屋に行ったのだ。
「・・・あれ?誠人?」
「やっぱりな・・・」
「やっぱり・・・って・・・」
「あぁ・・・追うぞ!」
「わ、分かってるよ!」
その頃誠人は、いつもの如く雑鬼達に様子を聞いていた。
「あ・・・あいつが・・・」
「・・・あいつってまさか・・・」
「昨日の奴だよ!あいつの仲間が俺達の仲間を・・・!」
「・・・愕・・・!」
≪我ラノ名ヲ知ッテイタカ・・・≫
「!?」
誠人達が声のした方を向くと、昨日の鳥妖、愕が姿を現した。
「・・・!」
≪ソンナ妖ドモナンカヨリ、オ前ノ方ガヨホド力ガアルヨウニ見エル・・・≫
愕がそう言った瞬間、誠人が地面に崩れ落ちた。
「誠人!?」
「どうした!?」
≪・・・未ダ呪詛ヲソノ身ニ宿シテイタカ≫
不気味な笑みを作りながら、その羽に黒く、大きな玉を作り出した。
≪オ前ニコレガ当タルトドウナルト思ウカ?オ前ノ身ニ宿ル呪詛ガ力ヲ増シテイキ、最終的ニオ前ハ死ヌ≫
「・・・冗談じゃないね、俺をそう簡単に倒せるわけねぇだろ?」
≪威勢ノ良サダケハ認メテヤロウ・・・ダガナ、コチラモ仲間ノ仇を討タネバ気ガスマヌ・・・≫
「『臨・兵・闘・者・皆・前・烈・在・前』!!」
真言密教を唱えながら、九字を切る。そして、手で格子を切った。しかし、昨日ほど上手くはいかず、惜しい所で逃げられた。
≪オ前ノ術ハ昨日全テ見テイル・・・避ケルコトナド造作モナイ・・・≫
そう言葉を洩らしながら、愕が黒い玉を投げつけてきた。誠人は、条件反射でそれを避ける。
「くそ・・・!」
誠人は咄嗟に、神札を放った。その神札が、愕の両羽を捕らえ、瞬時に焼き払う。
≪!?≫
突然のことに、さすがの愕も一瞬反応が遅れ、愕の両羽が灰と化していく。
≪オノレェ・・・≫
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前』!!」
その一瞬の隙を突いて九字を切り、手で格子を切った。今度は、愕も逃げる暇がなく、しっかりと誠人の術中にはまった。
≪・・・我ガ消エタ所デ、マタ別ノ妖魔ガ姿ヲ現スゾ・・・≫
「・・・・・・消え失せろ・・・この地に害を為すものよ・・・」
その言葉を最後に、誠人は愕を消し飛ばした。しかしその直後、また別の妖魔達が現れた。
「な・・・っ!?」
≪今、愕が言ッタダロウ?他ノ妖魔ガ現レルトナ・・・≫
「・・・・・・お前らの目的は何だ?」
その言葉に、妖魔達はこう答えた。
≪オ前ノ力≫
「・・・え?」
≪オ前ハスバラシク高イ霊力ヲ持ツ者・・・オ前ヲ主ニ献上スル・・・≫
「・・・お前らの言ってる主って誰だ?献上ってその主とやらに・・・俺をか?」
≪オ前ニハ知ル必要ノナイコトダ・・・≫
妖魔達が、一斉に誠人に迫ってきた。誠人は、無意識に後退ろうとしたが、なぜか足が動かなかった。
「・・・」
もう一度、神札でその場を凌ごうとしたが、一瞬遅く。妖魔達に囲まれた。
その直後、後方にいた妖魔達が悲鳴に似た声をあげた。
「え?」
≪!?≫
続きまーす

61ピーチ:2012/04/15(日) 10:42:54 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
後方の妖魔達が消えて初めて、視界に火の鳥が姿を見せた。
≪ナ・・・何ダ!?ドウシタ!?≫
「あれ・・・は・・・!?」
誠人はあの鳥に見覚えがあった。そう尭悸が放つ、あの鳥だ。
「・・・焼き払え、あの邪魔な妖魔達を」
後方の妖魔の更に後ろから、声が聞こえてきた。
≪ナ・・・!?≫
とうとう、前方の妖魔の所まで火の手が回ってきたが、その火が円形となり、誠人を包み込んだ。
「・・・やっぱり・・・」
妖魔を焼き払ったのも、誠人を火の盾で守ったのも、全て尭悸だったのだ。
「・・・神・・・」
「この間、明人と話したって言ったろ?」
「え?あ・・・うん・・・」
明人が、尭悸話を続けるかのように付け足した。
「その話の内容が、俺とお前を尭悸達が間違えたんじゃないかってことだったんだ」
「おーい!」
「誠秋ー!」
タイミング悪く、その時駆け寄ってきた雑鬼達が誠人のことを“誠秋”と呼んだ。
「あ・・・!」
「・・・やっぱりな・・・」
「あ、いや・・・」
言い訳をしようとしている誠人を見ながら、明人が心配そうに尋ねた。
「怪我してねーか?」
「あ・・・うん・・・」
「誠秋・・・?」
「大丈夫か?」
「今は誠人だって!」
条件反射で言い返した誠人を見て、雑鬼達が小さくなった。
「だってさぁ・・・」
「術の使い方とか、誠秋そのものだったもんなー・・・」
「それでも今は誠人!」
誠人と雑鬼達のやり取りを聞いて、尭悸の頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
「お前ら・・・誠人のこと気付いてたのか?」
「え?」
雑鬼達だけでなく、誠人まで聞き返していた。
「あ、あぁ!」
「一番最初は逃げ回ってたけどな!」
「独特の気配や力ですぐ分かったよ!」
上から一鬼、刃鬼、諜鬼の順だ。
「・・・そうか」
「ところで誠人、呪詛大丈夫なのか?」
「あ・・・!?」
「・・・呪詛だと?」
「あ、いや・・・別に・・・」
「もーいいじゃん、どーせばれるのだって時間の問題だし」
「左腕の所」
左腕、と言うのを聞いて、尭悸が誠人の左腕を掴みあげた。

続きまーす

62ピーチ:2012/04/15(日) 11:42:05 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
「痛い痛い!」
「・・・え?」
尭悸は、いや、雑鬼達も一瞬目を丸くした。確かに尭悸は、誠人の“左腕”を確認したのに、何もなかったからだ。
「な、何で?」
「い・・・たいって・・・」
「本当に左なんだよな?」
尭悸が、雑鬼達に尋ねる。
「あ、あぁ・・・」
「確かに左だったよ・・・」
それを見た誠人の口元が、微かに動いた。
「あのな、お前ら・・・呪詛を受けたのは俺自身じゃなくて、俺が放った式紙!まぁ、形代だったし、消したから良かったけど・・・」
「え?」
「式紙!?」
「あぁ・・・だから大丈夫だよ・・・」
誠人が苦笑しながら言った。
「・・・じゃあ帰るぞ」
大丈夫なら、と言う口調で、尭悸は誠人に帰るよう促した。
「あ、先帰ってて。少しこいつらに話あるから・・・」
「じゃあ俺も・・・」
「だめだ」
「え?」
「今、明人が一人になったら確実につぶされる・・・」
「・・・分かった」
「すぐ追いつくからさ」
「あぁ、行くぞ。明人」
「あ?あぁ!」
明人達が帰った後、誠人の左腕に黒々とした文様が浮かび上がってきた。
「お、お前それ・・・!?」
「あぁ、このことで頼みがあるんだ」
「え?」
「あのさ、もう少しだけこのこと黙っててほしいんだけど・・・」
「はぁ!?」
「せめて今月末まで、な?」
「・・・分かったよ・・・」
何を言われても、頑として譲らない誠人に根負けして、最終的に誤魔化すと約束した。
「じゃあ、また明日な」
「あぁ」
誠人が明人達に追いついたのは、その数分後だった。
「あ、いた」
「あ、誠人」
二人が全く同じタイミングで呟いた。
「誠人、大丈夫か?」
「うん」
「なぁ、誠人?」
「・・・はい?」
尭悸が、明らかに不機嫌な声色で誠人に問いかけた。
「後で話があるんだ・・・部屋、勝手に入らせてもらうぞ?」
その言葉を聞き、一瞬で誠人の顔色が変わった。

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63ピーチ:2012/04/15(日) 12:23:09 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
「・・・分かった・・・」
誠人の返事を聞き、尭悸は不機嫌そうに目を吊り上げながら誠人と明人の後をついてきている。
「・・・明人、神怖い・・・」
「まぁ・・・俺知らねーっと・・・」
「え・・・」
そして、しばらく話をしていた。が、誠人からすれば、今は地獄の家に到着した。
「・・・ねぇ明人?」
「何?」
「・・・俺今日、裕也の家泊まってきていい?」
「多分ダメだろーな」
「誠人」
いきなり尭悸に名を呼ばれ、途端に心臓の動きが早くなる。
「は、はい?」
「先に部屋行ってるからな・・・」
「・・・・・・はい・・・」
「あーあ・・・尭悸怒らすとこえーぞ・・・」
「説教は早い方がいいかもね・・・」
「はは・・・頑張れ」
「・・・」
自分の部屋へ行くと、尭悸がとんでもない形相をしながら待っていた。
「・・・誠人」
「・・・はい・・・」
「お前は何で黙ってた!?下手するとあの時死んでたんだぞ!?」
尭悸が凄い剣幕で怒鳴りつける。
「まーまー、無事だったんだからいいじゃねぇかよ?」
「え?」
誠人と尭悸の声が、重なった。
「あ、明人?」
「ああは言ったけど、やっぱ心配でさ・・・」
明人が、苦笑しながら言った。
「・・・お前な・・・」
尭悸が、小さくため息を吐いた。
「・・・ったく、今回は明人に免じて強くは言わないけど・・・」
「・・・ゴメンね・・・」
「良かったな・・・ってか、何で黙ってたの?」
誠人はしばらく黙っていたが、静かに口を開いた。
「なんか・・・不安だったんだよね」
「不安?」
「うん、今までみたいに“誠人”として見るんじゃなくて、“誠秋”として見られそうだったからさ、それに・・・」
誠人は静かな口調で続ける。
「神が、明人に今まで通り接せなくなるんじゃないかって思ってさ」
「え?俺らのこと心配してたの?」
「・・・も、あるのかな・・・」
「・・・あのな」
尭悸が、呆れた口調で言った。
「いくら俺でも、それはないぞ・・・?」
「・・・ゴメン・・・」
誠人が、小さくなりながら小声で謝った。
「そ、そー言えばさ誠人、さっき雑鬼達が言ってた呪詛とかって何なの?」
明人の言葉を聞き、尭悸が慌てて尋ねた。
「そうだ!お前本当に大丈夫なのか!?」
「・・・だ、大丈夫だよ・・・」
「・・・大丈夫ならいいけど・・・」
明人は、尭悸に誠人の説教を止めるように促した。
「とにかく・・・明日から俺もついていく、絶対な」
「あ、いや・・・別に大丈夫だよ・・・」
しかし、尭悸は絶対にダメだと言うように、首を横に振った。
「冗談じゃない。さっきのお前の様子見て、大丈夫なわけがない」
「・・・」
誠人は、苦笑しながら分かった、と答えた。誠人の答えを聞いて、尭悸は部屋を出て行った。

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64ピーチ:2012/04/15(日) 12:40:42 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
「・・・あんな剣幕で怒鳴る尭悸、初めて見た・・・」
「・・・明人でも初めて見た・・・?」
「あぁ」
誠人は小さく息を吐き、
「今回は反省したよ・・・」
と小さく声をあげた。それを聞いた明人が、
「へぇ?」
と面白そうに言った。
「優等生のお前が反省することがあるんだぁ?」
「優等生?誰が?」
「・・・お前だよ・・・」
ようやく、誠人が薄い笑みを作った。
「・・・尭悸も言ってたけどさ、誠人って感情読みにくいよな・・・」
「え?」
尭悸が?と聞こうとしたが、止めておいた。
「あぁ・・・まぁ、今度教えてやるよ」
「・・・うん、その今度を楽しみにしてるよ・・・」
誠人の顔が、微妙に引き攣っていた。
「じゃーな」
「うん、お休み」
明人が誠人の部屋を出た時、尭悸が誠人の部屋の前で待機していた。
「おわっ!?」
「余計なこと言ったな・・・」
「あー・・・」
尭悸が、独り言のように呟いた。
「・・・あの頃から全く変わってねぇな・・・」
「え?それって誠人のこと?」

続きまーす

65ピーチ:2012/04/15(日) 18:16:32 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
「え?あ、いや、気にするな」
そう言って、尭悸は一度誠人の部屋に行き、何かを言って外に出た。
「・・・誠人、尭悸何て言ってた?」
「えーっと・・・“ただでさえ力使いすぎたんだから、ちゃんと休んで回復させろ”ってさ・・・」
「・・・あいつらしいな・・・」
「・・・まぁ、俺が悪いんだけどね・・・」

続きまーす

66ピーチ:2012/04/15(日) 20:31:14 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
誠人が、苦笑しながら言った。
「・・・なぁ、大丈夫か?」
「・・・え?」
思わず聞き返した誠人に、明人はこう言った。
「誠人ってさ、変な所で上手く誤魔化しきくだろ?」
「そ・・・そうかな・・・?」
誠人は、言い返しながら自分の顔が引き攣っているのがはっきり分かった。
「まぁな・・・」
「あ・・・俺、もう寝るね」
「え?あ、あぁ・・・」
そう言って明人を部屋から追い出し、鍵を掛けた。そしてまた妖のことを調べるため、本を開いた。
次の日、とうとう夏休みが終わり誠人にとっては雑鬼達との約束期限が、今日で切れたことになる。
「・・・行ってきます・・・」
「大丈夫かー?何か顔色悪いぞ?」
「・・・明人が原因だろ・・・」
「え?俺が原因?」
「・・・何でもない・・・」
「はは・・・わりぃ・・・」
明人は、全く覚えがないが、一応謝った。
「あれ?誠人、どうしたの?」
誠人と明人の背後から、いきなり声が聞こえた。
「え?明菜!?」
「あ、おはよう」
まるで言い忘れていた、と言うかのように、後から付け足した。
「お、おはよう・・・」
「・・・オース・・・」
その直後、尭悸が誠人に声をかけた。
「おい誠人、俺は今日は明人の方行くからな。後で見回り行くぞ」
「あ・・・ゴメン、俺今日・・・ちょっと用事が・・・」
誠人が、目だけで明人にSOSを出す。明人はそれに気付き、誠人のSOSに答える。
「まぁまぁ・・・今日くらい、いいんじゃねぇの?」
「・・・夜からな・・・」
「・・・うん・・・」
しばらく四人で、周りから見れば三人で話しながら、教室の前で誠人と、明人、明菜に分かれた。
「あ!誠人!」
「え?」
後ろを向くと、裕也が手招きをしていた。それを見て、裕也の所に行った。
「あのさ・・・昨日何か、家の周りが歪んだ感じがしたんだけど・・・」
「・・・歪んだ・・・!?」
誠人がゆうやの家の周りに張った結界は、破られた時、裕也達でも気付くように簡単な加工をしていた。
「あ・・・あぁ・・・」
「今日、帰る前裕也の家寄ってもいい?」
「え?あ・・・別にいいけど・・・」
「・・・・・・・・・」
その後始業式が行われたが、誠人は、裕也の言葉が頭に張り付いていて、殆ど何の話も聞こえていなかった。
そして、始業式が終わり、裕也の家に向かった。

続きまーす

67ピーチ:2012/04/15(日) 21:51:46 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
「・・・まずい・・・!」
「・・・どうなってんだ?」
「・・・結界が破られた・・・」
「え!?」
誠人は大丈夫、と言った後、胸の前で両手を組んだ。しばらくの沈黙が続き、ようやく誠人が、組んでいた両手を元に戻した。
「・・・この前より強度上げたから、多分大丈夫・・・」
恐らく、前の結界が破られた以上、油断はできないのだろう。
「なるべく早く、親に帰ってきてもらうようにしてね。一人でいるよりずっといいから」
「あ、あぁ・・・」
「じゃあ・・・ついでだからここら辺見回って行こうかな・・・」
そう言って、誠人は裕也の家を後にした。しばらく見回して、何もいないのを確認してから帰ろうとした時、反射的に何もない地面を避けた。
「いってえぇぇぇ!」
突然、雑鬼達の悲鳴が上がる。
「・・・自業自得だ・・・」
と、誠人が小さく言った。
「ま、まさあ・・・誠人!」
「え?」
「お前この間・・・あの変な化け物倒したよな!?」
「あ・・・?あぁ、あれは・・・」
そう言いかけた時、誠人は全身を刺すような妖気を感じ、真正面を見た。
≪我ラガ仲間ノ・・・仇ダ・・・≫
「!?」
突然、誠人目掛けて鋭い棘のようなものが飛んできた。
「お・・・っと・・・」
≪オ前・・・ソノ身ニ呪詛ヲ宿シテイルナ・・・≫
「・・・・・・―――っ!!」
いきなり誠人の身体の中で、またあの大蛇が暴れだした。
≪・・・アイツラモ、ハジメカラコウシテレバ良カッタモノヲ・・・≫
はぁはぁと苦しそうな呼吸を繰り返す誠人を一瞥して、妖はこう言った。
≪苦シイダロウ?死ンデシマエバ楽ニナレルゾ?≫
そう言って妖は、誠人の腕を見やった。
≪痛々シイ傷ダ・・・コンナ傷、贄デアル者ニツケテテ良イ訳ガナイ・・・≫
妖が、誠人の腕に手を置こうとした時、誠人は反射的に避け、屋根の上に逃げていた。
≪何故逃ゲル?我ラガ主ノ贄トナレルコト、光栄ニ思エヨ・・・!≫
この妖が言葉を発するたびに、大蛇が一層激しく暴れ、それが、誠人の動きの殆どを封じていた。
≪・・・別ニ、オ前デナクトモ天野ノ人間ナラ誰デモ良イ・・・≫
「な・・・に言って・・・!?」
≪天野 明人、守人、水希・・・誰デモ構ワナイ・・・無論オ前デモナ・・・≫
「・・・!」
「ふざけるな、たかが地獄の使いが」
誠人が答える前に、すぐ近くで誠人や妖以外の声がした。
「え?」
≪・・・何者ダ・・・≫
「・・・お前なんかと話す必要はない、消えろ」
≪フ・・・フザケルナアァァァァ!!≫
「!?」
「う・・・わ!?」
不意に、誠人は自分の身体が宙に浮いたことを理解した。
≪フザケルナフザケルナフザケルナ・・・コノ者は主ノ贄ダァァ!!≫
「・・・その者は俺の主だ・・・」
そう言った直後、尭悸を包んでいた闘気が一瞬にして変わった。
「あの妖を・・・妖だけを焼き払え」
尭気が呟いた途端。火の鳥が姿を現し、誠人に、いや、妖に向かって飛び掛っていった。普段の何百倍もの熱さが頭上から降ってきた。慌てて、妖が誠人から手を離す。
「・・・同情の余地はねぇな・・・」
≪マ、待テ!何ダオ前ハ・・・!?≫
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前』!!」
そう唱えながら九字を切り、手で格子を切った。元々、尭気が放った鳥の効果で身動きは取れないので、真言密教だけでも良かったのだが、一匹一匹倒さないとずっとこうなるかも知れないと言う思いが、わざわざ九字切りまで持っていったのだ。
「・・・戻れ」
尭悸が、小さくその鳥に言った。
ギャァァァと言う不気味な悲鳴を上げながら、妖が消えた。と同時に、誠人が倒れ、そのまま意識を失った。

続きまーす

68ピーチ:2012/04/15(日) 22:38:51 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
「お、おい!誠人!?」
「な、なぁ・・・」
不意に、雑鬼達が尭悸に声をかけた。
「・・・何だ・・・」
「誠秋・・・じゃなくて誠人の左腕・・・」
「!?」
尭悸が誠人の左腕を見ると、黒々とした文様が浮かび上がっていた。それも、普通の大きさではない。
「な・・・・・・!?」
言葉を失っている尭悸は、とりあえず雑鬼達に礼を言って、誠人を連れ帰った。
しばらくして誠人が目を覚ました時、目の前に明人と尭悸、それになぜか守人までいた。
「あ・・・え!?ここって・・・」
「家だ」
不機嫌丸出しの状態で、尭悸がそう答えた。
「・・・俺確か・・・」
「あぁそうだ、妖に襲われた」
「・・・・・・!」
「守人、明人・・・悪い。少し二人にさせてくれ・・・」
「・・・分かった」
二人ともそう答えて、部屋を出て行った。
「・・・誠人」
「・・・分かってる、さっきの妖だろ?あれは―――」
「そうじゃない」
「・・・え?」
誠人は、尭悸が何を考えているのか分からなかった。恐らく、尭悸も同じだろう。
「・・・何で呪詛のことを黙っていた?」
呪詛。その言葉を聞いて、誠人はぐっと押し黙った。
「あのまま誰も気付かなかったら・・・お前今頃死んでたかも知れないんだぞ!?」
「・・・分かってる・・・」
「じゃあ何で・・・」
尚も言い募ろうとする尭悸を、口元に手を当て黙らせた。
≪・・・ドウスル?ヤハリ天野 誠人ヲ使ウカ・・・?≫
≪イヤ、アノ者ニハ妖ガツイテイル・・・天野 明人ノ方ガ・・・≫
≪シカシ、一番霊力ノ高イ者ヲ連レテクルト言ッタデハナイカ・・・≫
「・・・」
誠人が胸の前で両手を合わせ、小さく何かを囁いた。その直後、今まで軽く天野の敷地にいた妖達が外に吹き飛ばされる。それを確認し、誠人は組んだ両手を離した。
「・・・無茶ばかりするな」
尭悸が、重々しく口を開いた。誠人は、ただでさえ力を使いすぎているのだ。これ以上無理に力を使って制限が効かなくなったら、それこそ誠人の身体に余計な負担がかかる。
「・・・うん、分かってる」
「・・・いつからだったんだ?」
「え?」
「いつ、呪詛を受けた?」
誠人はしばらく黙っていたが、尭悸の気迫に負けて、小声で言った。
「・・・夏休みが始まってすぐ・・・」
裕也の家に泊まると言って、数日後に戻ってきた。その時には既に、誠人の身体は呪詛に蝕まれていたことになる。
「・・・文様も大きくなって当然だな・・・」
「・・・!?」
誠人は、反射的に自分の左腕を見た。すると、一番最初の頃よりもずっと大きく、黒々とした文様になっていた。
「いつも間にこんなに・・・!?」
「・・・とにかく、守人を呼んでくる」
「・・・え?」
「自己流で陰陽修行してたら、いつの間にか使えるようになったんだと」
「え・・・」
尭悸は、絶対にこの部屋からでるな、と念を押して、守人を呼びに行った。
「・・・何で気付かれたかな・・・」
そんなことを考えながら、しばらくすると、尭悸が守人を連れて部屋に入ってきた。守人は、誠人の腕を見ながら小さく呟いた。
「・・・何をどうしたらここまで大きくなる?」
「・・・さぁな、本人に聞いてみれば?」
「・・・とりあえず誠人、式紙の準備」
「あ・・・うん」
守人に言われて慌てて式紙を取り出し、自分の形にして隣に置く。
「・・・・・・天野 誠人の体内を蝕む闇の大蛇よ・・・この式紙を形代とし、それを通して暴れよ・・・!」
「・・・・・・・・・あ・・・!」
誠人の、今まで鉛のように重かった体が、急に軽くなった。
「その文様も、ニ、三日で消えると思う」
「あ・・・ありがとう・・・」
「誠人」
急に、尭悸に呼び止められた。守人は仕事があるからと言って、部屋から出て行った。
「・・・何?」
「・・・あまり無茶ばかりするな、分かったか?」
尭悸は、まるで苦虫を噛み潰したかのような表情で言った。
「あ・・・はい・・・」
「今日は家で大人しくしてろ・・・夜になってもだ、いいな?」
「・・・はい・・・」
それだけ言うと、尭悸は身を翻して誠人の部屋を出て行った。

陰陽師 〜前世と現世〜       終わり


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