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剣―TURUGI―
198
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 17:45:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
はい、キルティーアは妹を殺そうとするけれど、実は妹思いなお兄ちゃんなんです。多分彼はシスコンでs((
そうなんですか?まあ、ここまで妹思いになるのは難しいですよ…w
オジサンは能天気というか、ただのお馬鹿さんです((
最強というからには、とてつもないことをさせてみようと思います^^
199
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 00:11:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「さーてと、次はどんだけの量が出てくれるかなぁー?」
ディルティールはいかにも楽しそうな口調で、刀の切っ先を上に向けてくるくると回している。
先程の攻撃で、既にかなりのダメージを受けている魁斗だったが、それを気にしている暇は無い。
魁斗は刀を構えて、相手の出方を窺う。
「……いくぜ。二百七人分だ」
ディルティールが炎の塊を放つ。
しかし、大きさ的にもかわせない大きさではないし、速度も自分の脚力なら充分にかわせる。だが、
途中で、大きな炎の塊が、複数の火の玉に割れ、一斉に魁斗に襲い掛かる。
「何だとぉ!?」
不意を疲れた攻撃に魁斗は慌てて、動き回り、何とか全てをかわす。
「あー、逃げんなよ。当たらねぇじゃねーか」
「アホか!逃げるっつの!」
相手が敵だということを忘れてしまいそうなくらい、仲間にツッコむ時と同じトーンで相手にツッコむ。
しかし、かわせたとしても不利なのには変わりが無い。
魁斗は先程の攻撃でダメージを負っているが、かなりの魔力を消費したと思われるディルティールは息一つ乱していない。むしろ、楽しそうな笑みさえ浮かべている。
(……、相手はまだ俺を下って見てる。つーことは、手加減してるってことだ……一か八かやってみっか)
魁斗は脚に力を込めて、思い切り踏み込む。
自慢の脚力を活かして、一気にディルティールとの距離を詰め、刀を強く握り締める。
ディルティールは笑みを崩さずにkろえを迎え撃とうとする。
「ははっ。やってやろうじゃねぇのぉ!」
ディルティールが刀を横薙ぎに振るい、魁斗を斬りつけようとしたが
魁斗がニッと笑みを浮かべる。
魁斗はハードルを飛び越えるような軽やかさで、ディルティールの頭上を飛び越え、彼の背後に回りこむ。
「んなぁ!?」
その思いもしない行動にディルティールは驚きの表情を隠せない。
そして、魁斗は刀での攻撃ではなく、足を振りかぶった。
「サッカーとか苦手だけどな、ボール回されたらかなりのスピードで蹴れるんだぜ?」
魁斗の高い脚力ならではの蹴りがディルティールの背中に炸裂し、彼はそのまま吹っ飛び、壁に激突する。
ふぅ、と軽く息を吐いて、魁斗は刀を構えなおす。
「来いよ、これで倒せたなんて思っちゃいねぇさ」
ディルティールは『いてて』と背中の辺りを軽く摩りながら、立ち上がる。
それから、刀を構えて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「はは……まあな。んじゃ、そろそろ本気、出すとすっかぁ!!」
一気にディルティールの雰囲気が変わる。
魔力が一気に放出されたのだ。
獲物が来ていない時に、まどろむ獅子から、獲物を見つけた時の相手を追い掛け回す獅子へと変貌していった。
彼の刀には魁斗が受けた時とほぼ同等の炎が纏っている。
「そーだよなぁ。これで終わったらつまんねぇもんな。さっさと始めようぜ。第二ラウンドだ」
「……何だよ、オイ。随分と面白いことになってきたじゃねーか……」
魁斗の表情には笑みが浮かんでいたが、このめちゃくちゃな状況に対して、笑うしかない時の苦笑だった。
「ッ!?」
ルミーナは肩をビクッとさせて、辺りを凄い勢いで見回す。
ルミーナと手を繋いでいた(強制的に相手が握ってきた)藤崎も必然的に動きが止まり、ルミーナを見る。
「……どうしたの?」
二人が足を止めたことにより、一緒にいたフォレストも足を止め、振り返る。
「どうしたんですか。まさか、ここに来てビビッてるなんてことは……」
フォレストはルミーナを見て、気付く。
彼女の身体が小刻みに震えていることに。
「……さん、が……」
震えている声でルミーナは言葉を紡ぐ。
「……ディルティールさんが、本気を出した……いくら天子さんでも……」
ルミーナは震える声でただ、
「………………勝てないよ……」
一言、告げた。
200
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 10:33:53 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「―――何だ、この魔力は……?」
桐生はアジト全体に迸るとてつもない魔力に気付き、足を止める。
彼の顔には僅かな冷や汗さえも浮かんでいた。
「……何というか、説明のしようがないな……。危険で、猛々しくて……目に映るもの全てを焼き払うような魔力……!」
桐生は指で眼鏡を軽く上げる。
「誰だ、こんな奴と戦ってるのは―――?いや、一人しかいないか」
桐生は再び走り出す。
考えるのが面倒になった。仲間の勝ちを諦めた。だから走ったのではない。
考えついて、仲間の勝ちを信じたからこそ、彼を信じて走ったのだ。
そう、切原魁斗の勝利を信じて。
魁斗はディルティールの刀に纏う真っ赤に燃え上がる炎を見て、息を呑んでいた。
魁斗が今持っているレナから貰った剣(つるぎ)『祓魔の爪牙(ふつまのそうが)』は魔力によって纏わせた炎や、光の能力を自身の魔力の最大限分を常に纏わせる能力だ。しかし、逆に言えば、最大限分を常に出しているから、これ以上のパワーアップは望めない、ということだ。
「……スゲーな……やっぱ、最強って言われるだけあるじゃねーか……」
魁斗は無理な笑みを浮かべて、そう言う。
彼自身も、今の状態で勝てるとは思っていない。でも、勝たなければいけないのだ。
魁斗は脚に思い切り力を込めて、相手に突っ込む。
刀を振りかぶる、ディルティールの前で横薙ぎに払おうとした瞬間、ディルティールの横薙ぎの攻撃が魁斗の刀を二本とも弾き飛ばした。
「……な……」
ディルティールはニィ、と笑みを浮かべて、
「お前じゃ、まだまだ俺には早かったかな?」
ディルティールの蹴りが魁斗の腹に入り、魁斗の身体がくの字に曲がる。そこへ、畳み掛けるように、魁斗の顔にディルティールの膝蹴りが叩き込まれ、魁斗の身体は宙を舞う。
それから力なく、地面に仰向けに倒れてしまう。
僅かに呻きと呼吸が聞こえるが、立てる状態じゃない。
ディルティールは、タバコの煙を吐き出しながら、
「……ここまでだ。これが俺とテメェの差だ」
ディルティールガ踵を返し、歩き出そうとした瞬間、
「……、待てよッ!!」
魁斗の叫び声がディルティールの耳を突く。
彼が勢いよく振り返ると、魁斗は荒々しく息を吐きながら立っていた。
しかも、ただ立っているだけじゃない。
魁斗の身体を柔らかく包むように、淡く白い光が魁斗の身体を包んでいる。
(……何だ、あの光は……?)
ディルティールは見たことのない現象に眉をひそめる。
(……まさか、アイツが天子だってことも関係してんのか……?)
魁斗は遠くに弾かれ、転がっている自分の剣(つるぎ)を拾い、刀を構える。
それと同時に、魁斗を包んでいた光は消えてしまう。
魁斗は刀にありったけの光を纏わせ、
「―――さあ、続けようぜディルティール。そろそろ、決着つけようじゃねぇか!!」
「……ははっ。面白ぇ!最高に面白ぇぞ切原魁斗!!」
二人の戦いは、決着を迎えようとしていた―――。
201
:
ライナー
:2011/10/09(日) 15:01:41 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
一日おきコメントになってしまい済みません^^;
では、200レス到達おめでとうございます!
もうそろそろなんですかね、最終回。
そんな感じがします(違ったら済みません)
お馬鹿さんと天子君の決着がどうなるか楽しみです!
ではではwww
202
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 15:10:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
ありがとうございます!
自分でもよくこんなに続いたなー、とか思いますw
……いや、まだ最終回ではありません!
確かにこの第三章の最終回は近いですけど……
はい、もう決着がつきます!
お楽しみにしていてください!
203
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 15:31:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十閃「炎を打ち砕く光」
「うおおおおっ!!」
魁斗は刀を光を纏わせて、咆哮を上げながらディルティールに突っ込む。
ディルティールも刀の切っ先を上に向け、くるくると回している。
そんな彼は僅かに笑みを浮かべていた。
「はははっ!いいね!そうだよ、お前みたいな強い奴はそうでなくちゃなぁ!!こんなところで終わっちゃあ、つまんねぇよなぁ!!」
刀を回すのを止め、自身の魔力で大きさを変えた炎の塊を魁斗に向かって放つ。
だが、魁斗は高く跳んで、この炎の塊をかわす。
そしてそのまま、刀を振りかぶって急降下してくる。ディルティールも、ただ待っているだけじゃない。
魁斗は光を纏った刀を、ディルティールは炎を纏った刀を、ぶつけ合う。
今度力負けして刀が弾かれたのはディルティールの刀だ。
魁斗はディルティールから距離を取るように離れると、
「……拾っていーぜ。公平な条件で倒さねぇと、意味ねぇからな」
「……こいつ……」
魁斗の口からそんな言葉が出たのは、余裕があるからではない。
ただ、相手を認め、自分より強いと分かっていても、本気でぶつかり合って、倒したいと思ったからだ。刀がない相手を倒すなんていう卑怯な手は使いたくない、と思っていたのだ。
ディルティールは刀を拾い、肩に担ぐように持つ。
「……よォ、天子。そろそろ限界なんじゃねぇの?隠そうとしても、肩で息してんのバレバレだぜ?」
「……隠そうとしてねぇよ……」
魁斗の体力は限界に近かった。
ディルティールは魁斗より魔力を使っているだろうが、魁斗との魔力の量が違う。ディルティールはほんの僅かに息を切らしているだけだ。
それに、魁斗はディルティールより、明らかにダメージを負っている。
恐らく、持久戦にもつれ込んでしまっては、魁斗の勝利はゼロに近い。
ディルティールは、タバコを吐き、靴底で灰の部分を消すと、
「んじゃ、俺も最後の一撃だ。次の一発、それに全力を込めるぜ」
ディルティールの刀に巨大な炎が纏う。
恐らく炎の量は千人分で、自身の魔力も付加させてるから、倍以上の威力を誇るだろう。
相手の本気を見た魁斗も自身の刀に光を纏わせる。
「俺だって、負けるわけにはいかねぇんだよ!!」
刀に纏う光が大きくなり、魁斗の身体が光に包まれたように眩しく輝く。ディルティールも、炎の量が大きくて、彼自身が炎になっているように見える。
「いくぜ」
二人は同時に突っ込み、刀を振りかぶる。
そして、光の刀と炎の刀がぶつかり、アジト全体が大きく揺れる。
204
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 16:33:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
二人の刀はぶつかり合い、衝撃でアジトが揺れ、爆風が起こり、地面に細かいものや、大きいヒビを走らせていった。
魁斗とディルティールの咆哮が重なり、鍔迫り合いの状態が解かれる。
負けたのは魁斗だ。
魁斗の刀が弾き飛ばされ、回転しながら宙を舞う。
ここでようやく、勝利を確信したディルティールが笑みを浮かべる。
しかし、
「……まだだぜ」
ディルティールが魁斗の言葉で視線を落とした時だった。
魁斗の左手にはまだ刀が握られている。
ディルティールが自分の弾き飛ばした刀へと目を向けると、宙を舞っている刀は、一本だけだ。
ディルティールが攻撃態勢に移ろうとしたが、もう遅かった。
魁斗は両手で刀の柄を握り、ディルティールの刀へと思い切りぶつける。当然、ディルティールの手から刀は抜けて、魁斗の刀と同じように宙を舞う。
「……言っただろ」
魁斗が左から、右手へと刀を持つ手を変えて、振り上げる。
「負けるわけにはいかねぇって」
魁斗が刀を振り下ろし、ディルティールの身体を斬りつける。
斬りつけられたディルティールは、倒れそうになる身体に踏ん張りを利かせ、倒れずに、何とか立った状態で耐える。
「なっ……」
「……はは……。まだ、続けようぜ……!」
魁斗はディルティールのしぶとさに圧倒されていたが、宙を舞う相手の刀を見て、
「いや、どうやら決着はつくみたいだぜ」
魁斗の視線をディルティールも追う。
自分の刀か、と思いディルティールは眺めている。その刀はやがて、地面に刺さる。刺さると同時に刀の刀身が砕けてしまう。
「ッ!」
魁斗はフッと笑みを浮かべて、刀を肩に担ぐようにして持つ。
「な?言っただろ?」
ディルティールもしばらくきょとん、としていたがやがて口に笑みが戻る。
笑みが戻り、
「っははははははははははーっ!!」
大声でいきなり笑い出した。
今度はそのディルティールに魁斗がきょとんとする。
「確かに、お前さんの言うとおりだ!こりゃ、俺の負けだな!」
ディルティールは、その場に座り込み、
「行けよ。仲間が待ってるかもしれねぇぜ?さっきから負けてるのは、うちの連中だけみたいだからな」
魁斗は弾き飛ばされた自分の刀を拾い、剣(つるぎ)をブレスレット状に戻す。
それから、出口へと歩いて行きながら、
「ここにいるのって、悪い奴だけじゃねーんだな。エリザだって、キルティーアさんだってそうだった。アンタだってそうなんだろ?」
魁斗は笑みを浮かべながら、ディルティールに問いかける。
ディルティールはタバコに火をつけて、
「……自分で『俺は良い奴』って言う奴いねーだろ。俺は、ただ強い奴と戦えりゃ満足だからな」
魁斗フッと笑って部屋を出る。
切原魁斗VSディルティール。
勝者、切原魁斗。
205
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 21:25:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ディルティールは、自分以外誰もいなくなった部屋でタバコを吸いながら、自分だけの時間をくつろいでいた。
それから入り口の方に視線をやると、何かに勘付いたように声を出す。
「……で、アンタはいつまでそこにいる気だよ、お譲ちゃん」
その言葉に、入り口から『ふえ?』という甲高い声が聞こえる。
入り口から顔をひょこっと顔を覗かせたのは、何故か少々困った顔をしている十六歳のメルティだ。
先程の『時の皇帝(タイムエンペラー)』の強制解放で、通常行く事ができない二十八歳に行った為、今は上手く制御出来ず元の年齢でいるのだ。
メルティは中へ入ると、ディルティールに近づいて行く。ディルティールは、メルティが近づくと、配慮か、タバコの煙を消す。
「何で天子の前に姿を現さなかったんだよ。恥ずかしいのか?」
「その前にどっか行っちゃったんだもん!アジトの揺れで目が覚めたら、お兄ちゃんもいないし!」
ディルティールは楽しそうに笑っている。
それに不機嫌になったのか、メルティは頬を膨らませ『ぶー』と唸っている。
「しっかし、あのガキ強いな。お前らの中で間違いなく最強だ。だって俺に勝ったし」
「……それって、自分が最強って認めてるってこと?」
まーな、とディルティールはあっさり肯定する。
メルティは呆れたように息を吐く。
「ねえ、ここの零部隊の隊長。私の情報網でも尻尾すら掴めてないんだけど……何か知らない?」
「知らねーよ」
メルティの質問にディルティールは即答した。
適当にも、面倒そうにも取れるような調子で。
「俺だって奴のことはほとんど知らねぇ。どんな容姿してんのか、年齢も、性別も、声も、剣(つるぎ)も。奴に関することは何も知らねぇ。マルトースなら何か知ってるかもな」
「マルトースって……第五部隊の隊長?」
「さすが情報屋。よーく知ってるじゃねぇか。俺は零部隊の隊長より、マルトースの方が気になるぜ」
ディルティールは参っている声で呟く。
メルティは、懐からフォレストに貰った薬の瓶を出して、相手の側に置いていく。
首を傾げているディルティールに、メルティは出口へ向かいながら告げる。
「使って良いよ。今の私には必要ないだろうから」
「何だよ、こりゃ」
「傷薬。すぐに効くワケじゃないけど、無いよりはマシでしょ?」
ありがとよ、とディルティールは短く礼を言う。
薬の代わりとでも言うように、ディルティールは口を開く。
「……次の敵は零部隊の馬鹿になるかもな。どんな奴か知らねぇが、気を付けろよ」
メルティはコクリと頷いて、部屋を出て行く。
ディルティールは新しいタバコに火をつけて吸い始める。
「さーて、俺はこっからどうすっかなー」
その言葉は、これから先の希望を楽しむようにも聞こえた。
206
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/10(月) 12:48:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十一閃「仮面」
レナとハクアは長い長い廊下を走っていた。最初の方は歩いていたが、だんだん傷も楽になってきたのか、走っても平気なぐらい回復したが、戦うにはまだ不十分である。
二人は巨大な扉の前で立ち止まる。
その扉は何の装飾もなく、ただただ大きいだけの扉だ。
レナはその扉を見つめて、思わずといった調子で呟く。
「……何だか、普通ですね。装飾がついていないというのも、可笑しいですし……」
「ま、気にしてもしょーがないでしょ」
ハクアは風を纏った薙刀を振りかぶっている。
レナに嫌な予感が走り、止めようとするが今から言っても遅かった。
「だぁっ!!」
ハクアは薙刀を扉にぶつけ、扉を強引に開く(というか壊す)。
扉の下半分は壊れ、人一人が余裕で通れる位の大きさの穴が出来た。
レナとハクアの二人が通る前に、残った扉の上半分が落ちて、下に瓦礫のように無造作に転がった。
ハクアは何でもないかのように扉をくぐっていき、レナは少々遠慮気味に通っていった。
部屋の中には大きさや、高さや、形が様々なブロックが置いてある。ただ、人より小さい物はなく、どれも正方形や長方形の形で、三角形などはない。色も真っ黒だ。
薄暗い部屋にそのブロックだらけが見える部屋で、
「不気味ですね。このブロックが何を意味するか分かりませんが……」
「中からエイリアンみたいなのが出てきたら面白いわよね」
どこが、とレナは思わず叫んでしまう。
だが、ハクアの『出てくる』は案外外れではなかった。
「何や、まだ二人かいな」
レナとハクアの耳に関西弁の女性の声が響き、薄暗い闇の中から細い刀身が伸び、レナへと襲い掛かる。
何とか反応できたレナはそれをかわし、刀を構えて叫ぶ。
「誰です!?」
ハクアも薙刀を構えなおし、辺りを見回す。
「おー、怖い怖い。女の子は、そんな怖い顔してたらアカンよ?」
薄暗い部屋に明かりがつき、攻撃してきた人物の姿が明らかになる。
その人物は縦の長方形のブロックの上に乗っており、長い紫の後ろ髪を全て前に垂らしている狐の仮面を被った女性だ。顔は分からず、年齢まではっきり分からない。
何の装飾も無いドレスのような衣服に、身を包んだその女は、依然睨みつけているレナに向かって、
「まーまー、落ち着き。ちゃーんと話すで」
恐らく仮面の中では笑っているようなトーンで告げる。
「皆揃ったらな」
207
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/10(月) 17:37:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
レナは白いドレスの狐の仮面を被った女性と睨み合っている。
女性の表情は窺えないが、恐らく笑みを浮かべているだろう。怪しく不気味な、どう思っているか分からないような笑みを。
「皆が揃ってから、正体を明かす……ですか。それは結構ですが、私達は二人います。怪我を負っていようと、簡単に負けることはありませんよ」
「どうやろなー。案外君ら楽にやられてくれそうやし、むしろ手抜いても勝てるんちゃう?」
「見くびられたものですね!」
レナは狐の仮面の女性へと突っ込む。
女性は刀を伸ばしたまま、動き回るレナを斬りつけようと刀を振るうが、上手く相手に当たらない。さすがに、手元と遥か下の刀身では動きが伝わるのに時差がある。腕を振るうタイミングが良かったとしても、刀身が動く頃にはタイミングがずれてしまう。
レナは思い切り跳んで、空中で女性とほぼ同位置にたどり着く。
思い切り刀を振りかぶって、横薙ぎに刀を振ろうとした瞬間、
横から、巨大な金棒を振りかぶった猫のような仮面を被った、黄緑色ツインテールの小柄な人物が襲い掛かる。
「ッ!?」
レナが何とか反応し、金棒の攻撃を刀で受け止めるが、あっさりと力負けし再び下の方へ飛ばされ、背中をブロックにぶつける。
レナの口から僅かに呻き声が聞こえるが、相手はいちいち気にしない。
さらに金棒の追撃がレナを襲う。今度は立ち上がって、相手の攻撃をかわす。
「二人、いたのですか!?」
「相手の余裕の理由はこれね。まったく、面倒ね!」
狐の仮面の女は仮面越しでも分かるような、笑みをこぼして、
「そーやでー?ちなみに、二人だけとちゃう。ほれ、止まっとると、また来るで?」
相手と距離を取り、完全に気を緩めていたレナの背後から、トンファーを振りかぶった、くすんだ金髪の狼の様な仮面を被った人物が襲い掛かる。
「レナ!!」
ハクアが叫ぶが、レナの防御もハクアの援護も間に合わない。
相手のトンファーがレナの頭を捉え、思い切りトンファーを振るうが、黒い影がレナを連れ去り、相手の攻撃は空を裂く。
「?」
レナを攫った黒い影はブロックの上に乗り、レナを叩きつけるようにブッ録の上へと落とす。
レナは自分を助けた人物に信じられないような目を向ける。
「……ざ、ザンザさん!?」
名前を呼ばれたザンザは低く舌打ちして、不機嫌そうな表情を浮かべている。
更に部屋には、カテリーナ、エリザ、クリスタ、ゲインの四人が入り、数の優劣はあっという間に覆された。
優劣がひっくり返りるが、関西弁の狐女はおsれでも他の二人に指示を飛ばす。
「数なんてどーでもええよ。まずは手負いの奴等から片付けるのが定石っちゅう―――」
女の言葉は途中で切られる。
何故なら下半身と刀が急に氷付けにされたからだ。
女は勢いよく入り口に視線を向ける。そこには、刀を突き刺し、眼鏡をかけた人物が立っていた。
「君の刀は封じたよ。数の優劣が何だって?」
そう、桐生仙一が。
レナとハクアは仲間の登場に笑みを浮かべる。
そして、動きを封じられた女の代わりに動こうとした、ツインテールの少女と金髪の女の首元に、それぞれ刀が突きつけられる。
藤崎恋音とルミーナだ。
魁斗達と元『死を司る人形(デスパペット)』のメンバーで、謎の仮面集団の動きを封じる。
そして、そこへ最後の人物が入ってくる。
「な、何か仲間の数増えてねーか?」
入ってきたのは、魁斗とメルティだ。
仮面集団を倒す間もなく、全員が揃った。
208
:
ライナー
:2011/10/10(月) 18:05:58 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
何だか凄い展開ですね、何だ謎の仮面集団!!
とりあえず、みんな頑張れ!そしてザンザが特に頑張れ!
でも、女性キャラではレナさんが大好きd((殴
ハクアさんも大好k((殴
メルティだってd((殴
一推しはレナさんです!
ではではwww
209
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/10(月) 19:11:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
>>207
は結構ゴチャゴチャした感があったのですが…しかも今読み返せばフォレストの名前を書き忘れてた…orz
多分、今後元『死を司る人形(デスパペット)』で活躍するのはカテリーナだと思いまs((
でもなるべくザンザも活躍させます。ザンザとカテリーナは二人で一人なので!
何か女性キャラが多くなってしまって…僕はハクア推しでs((
自分が作ったキャラなので、大抵皆好きですがw
キャラを好いてくださって嬉しいです!
210
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/10(月) 19:46:29 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ん?」
部屋に遅れてメルティと一緒に入ってきた魁斗は、目を丸くして辺りを見回す。
レナ達とは別に、違う意味で『見慣れた』相手が何人かいる。
そう、かつて敵としてぶつかった、三人が。
「って、何でザンザとカテリーナがいるの?エリザまで……しかも見たこと無い眼帯と小さい子までいるし!」
魁斗のよく分からない言葉に反応したのはクリスタだ。
「貴様は空気を読め!!何なんだ、貴様は!?緊張感を台無しにするな!!」
何だと!?と魁斗とクリスタが睨み合いを展開する。
この二人はちょっとのことですぐカッとなるため、ある意味似てるのかもしれない。
「ちょっと、話が進まないんで喧嘩なら後に回しちまってくださいよ」
二人に鋭いツッコミを入れて、とりあえず二人を黙らせたフォレストは三人の仮面集団を見る。
この場にいる誰もが、硬直して、動こうとしない。
そこへ、
「アメージングです!!まさかまさか、『死を司る人形(デスパペット)』の隊長と小隊隊長が裏切るとは!!」
テンションの高い声とともに、一人の男がブロックの上へと降り立つ。
真っ白い衣装に身を包み、マントをはためかせたマルトースだ。
「……、お前は」
魁斗とレナには見覚えがあった。
沢木を乗っ取ったプルートを撃退した後、現れたからだ。さすがに敵といえど、真っ白い衣装の人間をそう忘れることは無いだろう。
「おや、覚えててくれたようですね。天子さん。まあ、養育係さんも片隅に置いてくださってるようですが」
「ケッ。結局、今回のは全部お前の手の平の上ってか?」
ザンザは皮肉るような笑みを浮かべてそう訊ねる。
対して、ふふんと鼻で笑って、マルトースはシルクハットのつばに軽く手を添え、答える。
「そうではありません。するつもりがなかったのが、貴方達が上手く手の平の上に来てくれたのです」
その答えにザンザは軽く舌打ちをする。
表情には表さないが、エリザとカテリーナも心の中では舌打ちをしているだろう。
「そのとーり!全ては、貴方達のお陰なのよ!」
更に、別のブロックの上に一人の人物が降り立つ。
巫女服を着た、マルトースの部下であるカルラだ。
彼女を知らない者は、この中には誰一人としていない。彼女を見て、フォレストが思わず叫ぶ。
「お前は、ストリップ巫女!」
「誰がよ!!つーかアンタがストリップにしたんでしょ?私の事は『カルラたん』と呼びなさい!!」
こほん、とカルラは咳払いをして、話を進める。
「さて、それでは私達が今どのような立場にあるのか、説明してあげる。私達は『死を司る人形(デスパペット)』の上の組織に今は属しているの」
「上だと?」
クリスタの復唱にカルラは頷く。
エリザ達もそんな組織の存在は聞かされていない。
笑みを浮かべながら、マルトースは続ける。
「皆さんご存知ないでしょう?私達が属するのは、『六道輪廻(ろくどうりんね)』。そう!貴方達が誰も知らない、第零部隊の隊長がリーダーを務める、最強の集団なのです!!」
魁斗達は絶句する。
言葉が何も出ない。その組織が今まで戦ってきた『死を司る人形(デスパペット)』よりも強大な気がしたからだ。
対して、ザンザだけは冷静だった。
「……よく分かんねェけどよ、要はお前らを潰せばいいんだろ?」
「そうではありません」
ザンザの言葉にマルトースは否定する。
今まで黙ってた黄緑色の髪をツインテールにした少女が、元気よく手を挙げて、
「はいはい!今日は宣戦布告っていう難しい言葉をしにきただけなのだ!だってだって!今君達と戦っても勝ちは見えているのだからなのだ!」
「ま、そーゆーこっちゃ。今日は堪忍な」
狐の仮面の女はそう言って、下半身を凍らせていた氷を強引に砕き、他のブロックにいた全員がマルトースの元へと集まる。
マルトースは全員集まると、より一層笑みを深くして、
「それではまたの機会に会いましょう」
指を鳴らすと、マルトース達が姿を消す。
新たな敵『六道輪廻(ろくどうりんね)』。
まだ見ぬ強大な存在に魁斗達は今後の対策を考えるまでも無く、立ち尽くしていた。
「―――『六道輪廻(ろくどうりんね)』」
魁斗は、新たな敵勢力の名を小さく呟いた。
211
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/19(水) 16:53:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十二閃「一時の終結」
『死を司る人形(デスパペット)』との戦いが終わり、『六道輪廻(ろくどうりんね)』という勢力の判明してから、魁斗達はフォレストの小屋で二日間傷を癒していた。
しかし、魁斗達だけならまだしも、そこにザンザやカテリーナ達、『死を司る人形(デスパペット)』脱退組も一緒のため、小屋の中はかなりすし詰め状態だ。
「……つーかよ」
狭い小屋で、人数が多くさらに狭く感じられる小屋で魁斗がポツリと呟いた。
その言葉はたった一人の人物へ向けられる悪態の切り出しの言葉だ。
「何っでお前までいるのかなー?お前らが来たせいでさらにここが狭いんだよ!」
「うっせ、知るか!狭さに不満があんならお前が出てきゃいいだろうが、天子クン?」
悪態の言葉が向けられたのはザンザだ。
当初は敵として対立していたが、今は単に仲が悪い対立となっている。何故だか、この二人には共通する何かが感じられる。
「まーまー、カイト様。落ち着いてください」
「ザンザもホラ!喧嘩しない!」
そんな子どもみたいな二人を親のようになだめるのが、レナとカテリーナだ。
二人はいがみ合う似ている二人を止めながら目を合わせると、呆れたような溜息を同時についた。
「……お前、よくあんなメンバーの中で埋もれずにいられるな」
椅子に座って魁斗達の方を見ていた桐生にクリスタが話しかける。
桐生は僅かに息を吐いて、
「話すのも見るのも初めてだね。クリスタさん、だっけ?僕が『埋もれてない』じゃなくて、皆が僕に合わせてくれてるんじゃないかな?貴女も、一緒にいるメンバーは中々濃いと思うけど?」
クリスタは桐生の問いに少しの間も開けずに答えた。
「そうでもないな。私が何のために眼帯をつけていると思っている。これがあればキャラが立つだろう」
傷があるとか、そういう理由だと思っていた桐生は呆れたように苦笑する。
仲が良いように見える桐生とクリスタを不機嫌そうに眺める藤崎に、横に座っていたルミーナが口を開いた。
「なーんか、恋音ちゃん機嫌悪いね。もしかして、あの眼鏡の男の人のこと……」
途端に顔を赤くする藤崎。
バッと一気にルミーナの方を向き、口を塞ごうとしたが、ルミーナの後ろからハクアが口を塞ぐ。ルミーナは突然のことに『んん!?』と目を大きく開けて驚いていた。
「……セーフ。これでいい、恋音ちゃん?」
「ふぅ……ありがと、ハクアさん」
藤崎は溜息をつく。
藤崎の桐生に対する感情を僅かに悟っているハクアが安堵の溜息をつくと、横からゲインが、
「やっぱ綺麗やわ。なーなー、ハクアちゃん。良かったら僕と連絡先でも……」
ハクアがゲインの言葉を遮るように、彼の顔面を薙刀の柄で思い切り殴る。
ゲインがその場でうずくまって悶える光景を見て、目が合ったメルティとエリザは笑みを零す。
魁斗とザンザは未だに睨み合って言い合いをしており、レナとハクアはその二人を止め、桐生とクリスタは談笑をして、藤崎とルミーナは恋愛話で盛り上がり、ハクアはゲインを踏みつけている。
そんな平和な光景を横目に捉えながら、フォレストは薬の瓶の整理をしている。
整理をしながら、彼女は心の中で呟いた。
(……まったく、今まで対立してたことも忘れちまってますね。平和ボケしなけりゃいーですが……ま、たまにはこーゆーのも悪くないって思っちまうのは、まだ僕が戦いに慣れてないせいですかね……)
フォレストは僅かに笑みを零しながらそう思っていた。
そして翌日、魁斗達は天界から帰ることも。フォレストだけでなく、全員が何となく勘付いていた。
212
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 00:38:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗達は、フォレストの小屋から出て、メルティに向こうの世界へと繋ぐ扉を出してもらい、扉の前に立っていた。
帰るのは天界に来たメルティ以外の五人。
扉を出すために出てきたメルティだけでなく、他のザンザ達、元『師を司る人形(デスパペット)』のメンバーもきていた。
ザンザは言いにくそうに、溜息をついてから唇を動かした。
「オイ、天子。今回はお前らと共闘するかもしんねェが、忘れんな」
ザンザは右の拳をスッと、前に差し出して、
「お前と俺は敵同士。これは変わっちゃいねェ。全て終わったら、俺はお前を潰すぞ」
「ハッ。『終わったら』なんて言わず、いつでも来いよ」
余裕のつもりか、それもと修行相手になってもらうつもりか、または何も考えていないだけか。魁斗はそう答えた。
それから、挨拶をするように魁斗はごく自然な動きで、ザンザの拳と自分の拳を突き合わせた。
その様子を横目で捉えていたカテリーナは、レナに向かって呟くように言う。
「……実際、私の目標もレナさんなんだよねー」
言葉に気付いてレナがカテリーナの方を向く。
カテリーナは笑みを浮かべて、レナの手を握ると、言葉を続ける。
「私もザンザと同じで、レナさんのこと、ライバルだと思ってる!だから、私が勝つまで負けないで!」
レナは『ライバル』と言ってもらえたのが嬉しかったのか、表情を綻ばせ数秒固まると、はっきりとした笑みを見せて、コクリと頷いた。
「カテリーナさんも。負けないでください!」
桐生は小屋の中と同じように、クリスタと話していた。
何故か気が合い、会話が弾んで仲が良くなったらしいのだが、どうもこのツーショットは有り得ないと思う。
「次は貴女達の力も必要になりそうだ。手を貸してくれますよね、クリスタさん」
「ああ、断る理由もないな」
二人は力強く握手を交わす。
二人には、それ以上の物は何も必要ない。言外にそう語っていた。
「じゃあね、ルミーナちゃん!何かあったら私達を頼ってね!すぐ助けにいくから!」
「……はい、じゃあ、また……」
小さく手を降るルミーナに、藤崎は微笑み返す。
ルミーナも小さく表情を綻ばせる。
一方で、ハクアはいつまでも付きまとうゲインに嫌気が差していた。
むしろ、嫌気が差さない人物を見て見たい気もするが。
「あー、もう鬱陶しい!何回断れば気が済むのよ!」
「だってぇー!連絡先だけやん!それぐらい教えてーなー!」
このままじゃいつまで経っても、帰れない。
ハクアは溜息をついて、譲歩したように、
「分かった。次の戦いで成果を挙げたら教えてあげる」
ホンマ!?とゲインの目が眩く光る。
やっと解放されたハクアは脱力している。
「……」
魁斗は思い残すことの無いような表情で、最後に告げた。
「じゃあな、天界!!そして、皆も!世話になったぜ!!」
魁斗の言葉を合図として、扉をくぐっていく。
それは、戻るための一歩であり、未来へための一歩であり、戦いから解放される一歩でもある。
それと同時に。この一歩は彼らを新しい戦いへと誘(いざな)う―――。
そんな、激動の一歩。変動の一歩。死闘の一歩。
これは、束の間の平和。束の間の休息。
そして背後から、忍び寄るは
『次ノ戦イヘト誘ウ、妖シク蠢ク死色ノ影也』
213
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 12:41:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗達が住んでいる、天界で言うところの『人間界』。
時刻は午後五時過ぎ。丁度学校も終わり、街には学生や晩ご飯の買い物に出かけた人の姿なども見える。
住宅街の中にひっそりとある、幼児達が遊ぶような公園の上空から声が降りてくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
落ちてきたのは、魁斗だ。彼はうつ伏せに倒れ、起き上がろうとする前に、桐生、ハクア、レナ、藤崎の順でどんどんと魁斗の上に人が積み重なっていく。
一番上で、特に何の重さもない藤崎は(まだ乗ったままだからレナの背中に)座って、辺りをキョロキョロと見回している。
それから、公園の景色を思い出したように、
「あ、そーだ!ここ私達が天界に行くときに扉くぐった公園だ!」
ぽん、と手を叩いて言う藤崎だったが、乗られている方からすれば、早く退いてほしいわけで。一番下の魁斗が何を思っているかは誰でも想像できるだろう。
「……藤崎さん……。と、とりあえず……まず降りて……」
桐生が振り絞るような声で告げる。
それから、藤崎は自分の下に皆がいたことに気付かないような顔を向けて、僅かに顔を蒼くすると、短い悲鳴を上げて、急いで人の山の頂上から降りた。
やっと人のリアルな重みから解き放たれた魁斗は深い溜息をついて、藤崎と同じように辺りを見回す。
「……確かに、俺らが行くときに使った公園だな」
「ですね。誰もいなくてよかったです……。もしいたら……」
空から降ってきて、後に出来上がった人間山を見られたら、恥ずかしくて外を歩けない。
それに、魁斗と桐生はそれほどでもないが、レナとハクアは見た目的にかなり特徴があるし、藤崎はテレビに出てるアイドルだ。アイドルが人間山の一角を担っていると知れたら、流石に大変なことになる。
ハクアは公園にある時計を見て、
「ねぇ、この時間って学校終わってるよね」
午後五時過ぎ。
確かに、六時間目までの学校なら終わっているだろう。部活動などならば、まだ続けているかもしれないが、大抵は恐らく帰っている。
「終わってるんだったらさ、行こうよ。あの場所」
魁斗達は分からぬまま、ハクアの先導について行く。
街に建っている、一つの家。
一般的な二階建ての家で、住むのには充分すぎるほどの大きさが見た目だけでもありそうだが、とても大家族が住んでそうには見えない。そもそも、中から声が全く聞こえないのが、原因の一つでもあるだろうが。
その家の二階には一人の少女が机で宿題のようなものをやっている。
淡い茶髪に、首からネックレスのような物をぶら下げている、一人の少女。
沢木叶絵。
彼女の家は現在両親とも何処かに行っていて、彼女が家に帰ってもいつもと言っていいほど一人だ。親は滅多に帰らず、帰ったと思えば、気付いたらまたいなくなっている。それの繰り返しだ。
「……ふぅ」
沢木は僅かに息を吐いて、ペンを動かす手を止めて、思い切り伸びをする。
それから、天井を見上げたまま、考え事をしてみる。
(カイト君……みんな。大丈夫でしょうか……?私が行っても何も出来ないことは分かってる……でも)
彼女の頭と心は色々は感情が渦巻いていた。
だが、一際大きいのは、ただただ単純な『不安』だ。
天界に行ったみんなのことを考えると、泣きそうになってしまう。そんなしんみりモードの沢木の耳に、
ピンポーン!というインターホンが聞こえる。
沢木は思わず椅子から落っこちてしまい、尻餅をついた。
沢木は起き上がって、階段を降り、玄関の前に立って、扉を開ける。
そこにいたのは、
「ほーら、やっぱいた。ね、来てよかったでしょ?」
自慢げな表情のハクアに、そんな彼女に呆れ顔の魁斗達の姿があった。
沢木は息が止まるかと思った。
「……あ……あ……」
上手く言葉が出ない。
一気に『不安』やその他の感情が消し飛び、彼女の頭と心にある感情が、皆がいるという『喜び』に変わった。
「サワ。んな顔すんじゃねーよ、今にも泣きそうじゃねーか」
魁斗は頭をぐしぐし、とかいて、全員と目を合わせると、みんなの代表のように、一言告げる。
「ただいま」
沢木は目から溢れる涙を拭って、泣きそうになる自分を必死に抑えながら、魁斗達に向かって、微笑みかける。
彼女が告げる言葉も、ただ一言だった。
「おかえりなさい」
To be next stage...
214
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 13:32:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
<小休止>
とうとう、長かった『死を司る人形(デスパペット)』との戦いも終わりを迎えることが出来ました!
レナと出会うところから初めて、色んな戦いを乗り越えて、魁斗達も心身ともに成長したと思います。
さあ、次の敵は『六道輪廻(ろくどうりんね)』になるわけですが、まだです!
まだ本格的に『六道輪廻編』が開始するわけじゃないんです!
実は、次から始まるのは、『十二星徒(じゅうにせいと)編』なんです。
『十二星徒』……。初めて出てくるキーワードでありますが、こいつらの正体は本編で!
それでは、ここで新たに始まる『十二星徒編』の予告であります!
平和が戻った魁斗達。
だが、次の敵『六道輪廻』がいつ動き出すか分からない。
そんな折、魁斗達の学校に二人の転校生!?
しかも、片方は見たことのある人物で、もう一人は魁斗にメロメロ!?
―――そして、天界である噂が。
謎の組織『十二星徒』。
十二星徒編、始。
215
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 17:28:59 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十三閃「転校生フィーバー」
「おはよう、切原君」
『死を司る人形(デスパペット)』との戦いから一週間が過ぎようとしていた。
学校への道を欠伸をしながら、鞄を肩に担ぐ形で歩いている魁斗に桐生は後ろから声をかけた。
天界から帰って来た魁斗達を待っていたのは、二日間の無断欠席という事で、生徒会長の久瀬詩織(くぜ しおり)からの説教だった。その説教を受けたのは魁斗、レナ、桐生の三人で藤崎は仕事でその日は学校を休んでいた。まあ、翌日に説教を喰らったのだが。
桐生は魁斗の左右を見て、
「今日はレナさんか沢木さんは一緒じゃないのかい?」
『今日は』ということは、いつも一緒にいるイメージでも定着しているのだろうか。
レナは間違っていないのだが、沢木は学校で一緒にいるというだけである。
魁斗は眠たそうにしながら、
「……サワは俺より先に学校についてる。今日はちょっと寝坊したから、レナも先に行ったよ」
「そろそろ、生活リズムを戻さないといけないんじゃないのかい」
うるせー、と魁斗は悪態をつく。
そもそも、戦いから一週間も経っていれば普通に生活リズムは整えられる。
今日の寝坊の理由は、ただ単に昨夜遅くまでレナに勝つまでオセロをやっていただけである。結果的に0勝49敗となってしまった。
魁斗と桐生は、学校の玄関に来て、靴箱のロッカーを開ける。
すると、桐生の手が止まる。
魁斗がロッカーの中を覗き込むと、二枚の封をしてある手紙が置かれてあった。
「それって、ラブレターじゃねーの?」
「……帰ってきてから妙に増えてね。しかも、学年もばらばらだ」
桐生は溜息をついて、手紙を鞄の中へとしまう。
とりあえず二人はそこで別れて、昼休みに屋上で集合ということになった。
そこへ、ふっと深緑の髪をポニーテールにした女子と魁斗がすれ違い、その彼女が何かを落としたのを視界の端に捉えたので、魁斗がその女子を呼び止める。
「あの、すいません。ハンカチ、落としましたよ」
魁斗が廊下に落ちたハンカチを拾い、すれ違った女子に声をかける。
その女子は足を止めて、魁斗の方へ歩み寄ると、笑みを浮かべて答える。
「あら、どうもありがとうございました。母から貰ったものなので、とても大切にしているんですの」
お嬢様口調で返され、僅かに面食らう魁斗だったが、魁斗は彼女に見覚えがあった。
確か、二年B組の風藤五月(かざふじ さつき)。
美化委員長を務めている、風藤グループの社長令嬢であるお嬢様だ。
ほんのりと漂う香水の香りに圧倒されつつも、魁斗はハンカチを風藤へと渡す。
風藤はお辞儀をし、顔を上げると、
「また会えるといいですわね。親切な後輩さん」
優しく、温かい笑みを向け、去っていった。
今まで、レナやハクアやメルティといった変な女が周りを囲っていたため、典型的なお嬢様に心が惹かれそうになる魁斗であった。
「転校生フィーバーだな」
魁斗はレナと沢木と話しながら、窓の景色に目をやりながら呟く。
レナと沢木は目を丸くして、硬直してしまった。
それから勇気を振り絞るかのように、沢木が口を開く。
「あの、どういう意味ですか?」
「だって、つい最近レナも来たし。今回桐生のクラスとうちのクラスに一人ずつ来るんだろ?フィーバーじゃん、祭りじゃん」
魁斗の微妙なテンションに顔を引きつらせるレナと沢木。
レナは引きつった笑みを浮かべながら、
「ま、まあいいじゃないですか…。このクラスに来る人とも仲良く出来たらいいですね」
レナがそう言うと、先生が入ってくる。朝のHRの合図だ。
生徒が全員席へ着き、静かになると先生が口を開ける。
「えー、皆の耳にも届いてると思うが、今日は転校生が来ている。とても元気な子だ」
すると、教室の扉が開き、転校生が入ってくる。
桃色の髪に小柄な体型で、頭頂部からは先が渦を巻いているアホ毛が立っている。その姿がとても可愛らしい少女だ。
その子は黒板に自分の名前を大きく書き始めた。
「……えーっとぉ、早乙女瑠璃(さおとめ るり)っす!!超乙女チック少女、瑠璃たん見参!仲良くしてちょ!」
出だしからいきなり皆に引かれている。
この瞬間、レナは魁斗に言った言葉を撤回したくなり、魁斗と沢木は関わりたくないと心の底から思ってしまった。
216
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 22:10:16 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
授業中。
一限目は現代文だ。本読み以外で当てられることはないので、授業自体は静かで、あまり勉強できない魁斗もホッと安心していた。
転校生の早乙女瑠璃は魁斗の隣の席で一生懸命に版書をしている途中だ。
すると、手の甲に消しゴムが当たり、消しゴムが下に落ちてしまう。
それに気付いた魁斗は消しゴムを拾い、早乙女の方を向く。
「お前のか?」
というか明らかに消しゴムを落としてしまった、的な顔をしているので、訊くまでもなかったが。
魁斗は相手が差し出した手の平に消しゴムを置くと、
「気を付けろよ」
それだけ言って、再び版書に移る。
だが、早乙女の頬は僅かに赤くなっていて、ずっと魁斗を見つめている。
彼女の心の中で、恋に落ちる音がした。
今日の彼女の星座、おとめ座は。恋愛運が一位だった。
一限目が終わり、思い切り伸びをする魁斗。
休み時間になると、自然に魁斗の周りにレナと沢木が集まる。席も近いので、集まるより振り返るの方が正しいかもしれない。
と、休み時間の休息を遮るかのように教室の扉の方から、聞きなれた声が魁斗達三人に届く。
「切原君、沢木さん、神宮さんはいるかい!?」
神宮さん、はレナのこっちの世界での苗字だ。
扉の方から、誰かがずかずかとこちらへ寄ってくる。
声の持ち主は、桐生だ。
彼は教室の距離が遠いわけでもないのに、息を切らしていた。
「……来てくれ」
桐生は魁斗達に息を切らしながら告げる。
「とんでもない人が来たぞ」
魁斗達は桐生のクラスに足を運び、例の転校生を見に来た。
数秒、転校生の正体を知った魁斗達が硬直してしまった。
何だか、すごく見覚えがある人物だった。
淡いピンク色の髪をポニーテールにしている、茶髪の目つき悪い男といつも一緒に居るようなイメージが定着してしまった、
カテリーナだ。
「何でお前がここにいるんだよッ!?」
魁斗は思わず叫ぶ。
教室中の注目を集めているが、今はそんなこと気にならなかった。今は何故カテリーナがいるかの方が気になったからだ。
カテリーナは頭をかきながら、苦笑する。
「いやぁー、実はこっちにも色々事情があるのよ。とりあえず、話が長くなるから昼休みにさせてもらうけどさ」
何だか煮え切らない魁斗だったが、説明するならいいか、と歯がゆい気持ちで昼休みを待つことにした。
街中を、一人の少女が歩いていた。
少女なのだが、何故か学ランを羽織り、制服は男物の制服を着用している。
くすんだ金髪のその少女は照りつける太陽を睨むような眼光で、空を仰ぐ。
「……っくしょー」
それから悪態をつくような口調で、ポツリと呟く。
「……まだあっちぃ。学ラン羽織るんじゃなかったぜ」
217
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/23(日) 11:20:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
授業中、藤崎恋音はいたって普通の生徒だ。
学校に居る時だけは、アイドルという自身の職業も忘れ、周りの人と同じように授業に取り組み、友達と話したり、普通に食堂に行ったりもする。時折、授業中に目が合った時、微笑みかけるというサービス精神も忘れていない。
最近の学校は楽しい、と思えるようになった彼女は、前までアイドルという肩書きだけで寄って来た友達と言えるかどうか分からない人じゃなく、ちゃんとした友達もクラス内にいる。
藤崎が教室内の時計を見て、ポツリと思う。
(……あと十分、か)
ポケットに入っている携帯が授業中に何度かバイブで震えていたため、恐らくマネージャーからの仕事の連絡だろう。後で確認しなければ、などと思っているところに、急に教室の扉が開く。
入ってきたのは、くすんだ金髪に学ランを肩に羽織っている男子の制服を着た女子だ。目つきはかなり悪く、真正面で向き合っていると睨まれている感覚に陥りそうになる。
藤崎はその少女を見つめながら、
(……なーんか、どっかで見たことあるよーな。気のせいかな……?)
そう思いながら、隣の席の女子に小さい声で問いかける。
「……ねぇ、あの娘って誰?」
「ああ、恋音ちゃんは知らないか。國崎梨王(くにさき りおう)さん。恋音ちゃんが来たときに限って休んでた……って言っても通常でも結構休んでるけど」
ふーん、と藤崎は相槌を打つ。
それから、自分の席へ向かう國崎と目が合う。
皆にするのと同じように微笑みかけるが、國崎は鼻で息を吐き、完全に無視した。他の人なら同じように笑みを浮かべていたのに、見た目が不良なのでそういうのは通じないのか、と藤崎は思う。
授業が終わり、休み時間中に藤崎はずかずかと勇み足で國崎の席へと近づいていった。
周りの生徒が驚きの声と止めるような声が聞こえるが、藤崎の耳には届かない。
國崎の席に寄って、國崎が藤崎に視線を向けると、藤崎を唇を動かす。
「國崎さん、でいいよね?私、藤崎恋音っていうんだけど―――」
「だから何だよ」
言葉が終わる前に遮られた。
名乗ったところで別にどうということは無いが、名乗った後に手を差し出して、よろしくの握手でもしようとしてたのだが、真正面から計画が崩された。
それでも、藤崎はめげない。
「えーっとね、その、仲良くしよう!みたいな感じで声かけたんだけど……」
「知るか。俺に関わってんじゃねーよ。ほら、周りも若干引いてるぜ?」
國崎は藤崎に周りを見回してそう告げる。
そんなこと藤崎はとっくに気付いている。だが、何故だか分からないが、藤崎は國崎と友達になりたいと思った。
だからこそ、諦めずに声をかける。
「ねえ、下の名前……梨王ちゃんって呼んで良い?私の事も恋音ちゃんって呼んでいいからさ!」
國崎は重い溜息をついて、席を立つ。
怒ったんじゃ?と思い、クラスの皆が警戒するが、國崎は特に何もしようとせず教室の扉へと向かう。どうやらトイレのようだ。
去り際に、國崎は藤崎に告げる。
「どーぞご勝手に。お前を呼ぶことなんかねーと思うけどな」
藤崎は教室から去っていく國崎の背中を目で追いかけていた。
そんな中で密かに呟く。
「……絶対諦めない!」
その呟きを耳に入れてしまった一部の生徒はほんの一瞬、こんな思考が頭をよぎった。
『藤崎さんって、同性愛者なのかな?』と。
218
:
ライナー
:2011/10/23(日) 14:04:30 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
新しい場面は入りましたね!
転校生か……この言葉で思い出すのが、学校とかに「転校生」か来るらしいと言う噂を聞いて、女子だと分かると何故か男子生徒が校内をウロチョロして後でガッカリする場面ですね(この前見た自分状況)^^;
しかも、凄い苗字ですね。自分もこんなカックイイ苗字が良かっt((殴
ではではwww
219
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/23(日) 14:10:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい、新章突入ですね。
この話で新キャラが三人、そして名前だけ出たのが一人ですね。
で、カテリーナを転校生とした理由は、さすがにザンザとエリザはないだろうな、と思いましたw
クリスタもそんなキャラじゃないだろうし…。
カックイイですか?名前は結構気を遣ってるので、褒めてもらえて嬉しいです^^
220
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/23(日) 15:07:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十四閃「十二星徒」
昼休み。カテリーナは屋上のフェンスから手をかざして、街中の風景を眺めていた。
おー、と感嘆の声を僅かに上げて、表情をほころばせている。
「いいなー、いいなー。カイト君達っていっつもこんな景色見ながらご飯食べてるんだー」
「カテリーナさん」
風景を楽しんでいるカテリーナの背後から、突如やや不機嫌そうな声が飛んでくる。
振り返ると、そこに立っているのは飲み物とパン数個を持った桐生だ。
「おー、さんきゅー!」
カテリーナは桐生の手から飲み物とパンを二つほど受け取ると、嬉しそうな笑みを浮かべて、座り込んでパンの袋を開ける。
桐生もカテリーナと同じように座り込んで、
「……まったく、初めてだよ。転校生に購買に行かされたのは」
「じゃんけんで負けた方が買いに行くって納得したじゃん」
カテリーナは頬を膨らませているだろうか、パンをくわえているため、あまり分からない。
そこへ、更に魁斗とレナと沢木が屋上にやって来た。
「お、お前らもういたのかよ」
「僕はさっき来たばっかだけどね」
沢木はちょこんと座ると、辺りを見回して小さく呟く。
「あれ、恋音ちゃんは?」
そういえば、という顔で全員がはっとする。
学校には来ているようだが、今日はまだ姿を見ていない。出来れば、カテリーナの話があるので、全員で聞いておきたいところだが。
「……藤崎さんには、後で僕が伝えておくよ。カテリーナさん、話してくれるかい?」
「……うん」
カテリーナは口に含んでいるパンを、飲み物で一気に飲み干すと、ふぅ、と息を吐く。
それから、魁斗達の方を向いて、告げる。
「忘れた」
この後、カテリーナは魁斗にポニーテールを引っ張られ、桐生に頬をつねられるという悲劇が起こってしまった。
一方で、藤崎は國崎の前の机の椅子を借りて、彼女と向かい合うような状態でサンドイッチを頬張っている。
向かい合っている國崎は怪訝な表情で飲み物を飲みながら、藤崎に問いかける。
「オイ、お前いつまでそうしてる気だ」
「どーゆー意味?」
首をかしげて問いかける藤崎に、國崎は苛立った感じで答える。
「だから、特に話すこともねぇのに、いつまで俺と向き合ってメシ食ってんだって訊いてんだよ」
國崎の口調はかなり苛立っていた。
その様子に教室にいる生徒はかなりビクビクしている。
しかし、藤崎は全然怯える様子も見せず、
「だって、誰かと一緒に食べた方が美味しいでしょ?一人で食べるよりさ」
ふふー、と笑みを浮かべる藤崎。
それでも國崎の苛立ちは収まらない。この程度で収まるわけがない。
「何で俺に付きまとう?」
再び首をかしげる藤崎。
「二時間目と三時間目の終わりの休み時間。それに今の昼休み。俺の返事が生返事でも、お前は常に楽しそうに声をかけやがる。理解に苦しむんだが」
「……友達になりたいの、梨王ちゃんと」
國崎の表情が揺らぐ。
まるで信じられないものを聞いたかのように、懐かしい人の声を聴いたように、真意を突かれる言葉を言われた時のように。
「何でかよく分かんないけど……直感で思ったの。気が合うって思ったかもしれないし、優しそうって思ったかもしれないし、私に無いものを持ってそうって思ったかもしれないし」
國崎はずっと藤崎の言葉を聞いている。
「友達になろうって思うことに理由なんていらないよ。声をかけたら仲が良くなってることもあるじゃん?」
藤崎はニッコリと笑いながら、國崎に言う。
國崎はそんな言葉を聞いて、溜息をつく。呆れたような溜息じゃなく、やれやれといったような、そういう優しい溜息だ。
「……アホらしい。アイドルって皆そんななのか」
「ううん、多分私限定だよ」
「ぷっ。何だそりゃ」
國崎は思わず笑ってしまう。
今の彼女達を見て、友達じゃないと思うものは恐らく一人もいない。
藤崎と國崎の間に、僅かな友情が芽生えた。
221
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/23(日) 17:44:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
(……友達になりたいの)
(友達になろうって思うことに理由なんていらないよ)
五時間目の授業中、國崎の頭の中に、藤崎の優しく暖かい言葉が何度も何度も再生される。
國崎の席は窓側の一番後ろで、彼女は頬杖をつきながら、窓から見える外の景色をボーっと眺めていた。特に何も思うことはない。授業はつまらないし、ノートを写すのも面倒だし。ただただ上の空なだけだ。
(……友達、か)
國崎は心の中で呟くように、言葉を続ける。
(……いいモンだな。そういうのも)
表情には表さないが、國崎は笑みを浮かべそうになっていた。
そこへ、窓の外に意識が集中している國崎に、現在授業を行っている数学の教師が國崎を指名する。
「おい、國崎。結構余裕だな。次の問題、ちょっと難しいが―――」
「3だろ?」
相手の言葉を遮るように國崎は問題の答えを即答した。
あらかじめ問題を解いていたわけでも、答えをしっていたわけでもない。
ただ彼女は、一瞬問題を見てそれからすぐに答えを導き出しただけのことだ。
こんな性格だから色々勘違いされているが、彼女は実は勉強が出来る子なのだ。
「すっごーい!!」
チャイムが五時間目終了の合図を告げる。
それと同時に大声を出して國崎に近づいてきたのは、言うまでも無く藤崎だ。
先ほどの数学での即答でビックリしたのか、藤崎は目を光らせて彼女を見つめている。
「すごいね!梨王ちゃん、勉強できるんだ!私理数系だけは駄目なんだよねー」
はは、と苦笑してみせる藤崎。
國崎はそんな藤崎に応じるかのように僅かに笑みを浮かべて、
「まあ理数系だけが出来るわけじゃねぇ。この前英語の小テストあったろ?アレ、俺満点だったし」
「すごいすごい!!ホントに頭良いんだ!!」
藤崎はあまりの感動で我を忘れ、國崎の肩を掴んでがくがくと前後に揺さぶる。
國崎は激しい揺れに襲われ、藤崎に止めるように促すが彼女は全く気付いていない。
「……だぁー」
脱力した声とともに、魁斗は机に突っ伏す。
傍らでレナと沢木が苦笑しているが、魁斗は対して気にしていないようだ。
「……結局カテリーナが内容を忘れたせいで放課後ザンザに連絡するまで先延ばしかー。ああ、歯がゆいー!!」
魁斗は妙にむしゃくしゃしている。
この調子だと、五時間目の授業は対して頭に入らなかったことだろう。
「まあ、気長に待ちましょうよ。あと、一時間ですし……」
沢木は魁斗を慰めている。
「……ですが、気になりますね。今何が起こってるのか。もしかしたら『六道輪廻(ろくどうりんね)』が動き出したかもしれませんし……」
「ああ、有り得るな」
魁斗達は心の準備をして、放課後を待つことにした。
桐生は教室で隣に座っているカテリーナに問いかける。
「本当は忘れてなんかないくせに」
含み笑いをして、楽しそうに誤魔化すカテリーナ。
「だって、どーせ話すならさ、恋音ちゃんもハクアさんも居た方がいいでしょ?」
「それだったら、後で連絡するって言ったじゃないか」
それじゃ駄目なの、とカテリーナは断じる。
指先でペンを弄びながら、言葉を続ける。
「ちょこーっとややこしいからね。私が口頭で全部説明した方がいいのよ」
222
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/28(金) 23:55:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
学校が終わってから、魁斗達は別クラスの藤崎、桐生、カテリーナと合流する。魁斗とレナと沢木は同じクラスなので合流などは必要なかったが、何故か走り回った後のように三人の表情は疲れ切っている。
その三人に、桐生達は首を傾げるが、とりあえず駅へと向かう。
駅で何かするわけでも無いが、一応カテリーナがここでザンザに電話をするために立ち寄ったらしい。実際は、本当に伝えるべき内容を忘れていた。色々伝えなければいけない、ということは辛うじて覚えていたらしいが。
『アホかァ!!』
電話越しにザンザの怒鳴り声がカテリーナの耳を突き刺す。
カテリーナの前に立っている魁斗達も少々耳を傷めたため、耳元で聞いていたカテリーナの鼓膜は大丈夫だろうか、と本気で心配になってくる。
カテリーナは慌てた様子で電話の応対をしている。その大変さは、彼女の連続でしているお辞儀で何となく分かる。
終わったのか、彼女は携帯電話を仕舞って軽く息を吐いた。
「で、今天界で起こってる事はね、ある組織が動き出した。その名は『十二星徒(じゅうにせいと)』。十二星座って知ってるよね?その星座一つ一つを司る者達のことよ」
カテリーナの声色が突然変わる。
学校で聞いた、飄々とした天真爛漫な声ではなく、戦いに長年身を投じているような、貫禄のある戦士の様な声だ。
カテリーナは続けて、
「詳細は不明なんだけどね、天界では何度か騒がれているのよ。出てきては消えるイタチごっこで、目立った被害がないんだけど……レナさんなら知ってるでしょ?」
カテリーナの問いにレナはコクリと頷く。
「私も何度か耳にしたことはあります。何がしたい集団なのか分からない、とか」
「そう。今回も……って言いたいトコだけど、エリザ様の考えが、カイト君にあるんじゃないかって思ってるのよ」
全員の視線が魁斗に集中する。
そう、かつてはカテリーナやザンザも彼の命ではなく、彼の中にある『シャイン』という未だ謎が多く残されている物質を狙っていたからだ。元敵であるエリザらしい着目であるとも言える。
桐生は、眼鏡を上げると、
「でも、敵も生半可な奴じゃないはずだ。天界での僕らの戦いは知っているだろうし、それこそ今まで小規模な被害を起こさなかった半端な連中ばかりじゃないだろうね」
藤崎も軽く頷く。
沢木は胸の辺りで右手で左手を包み込むように握り締める。
「……このこと、ハクアさんに言わなくていいんですか……?」
「実はね、ここで召集してないって言ったらあとでエリザ様が話してくれるって」
そのことに一応安心する沢木。彼女もハクアの強さは知っている。彼女がいれば、心強い事は間違いない。
すると、状況を見計らったように、一人の人物が現れる。
「お?カイト君じゃまいかー!!」
途中で国名を挟まれたが、魁斗とレナと沢木にはこの声はとても聞き覚えがあった。
今の状態なら誰か即答できる自信がある。
桃色の髪に小柄な体型、頭頂部に先が渦を巻いたアホ毛が立っている、超乙女チック少女の瑠璃たんが見参してしまった。
今の会話を聞かれていないだろうか、と思う魁斗達だがその悩みは一気に解消する。
「もー、いつの間にか校舎からいなくなるしぃー!帰ってたんだ!皆カイト君のお友達ー?」
瑠璃はレナと沢木以外に視線を向ける。
あの会話を気にする様子は無いため、恐らく聞かれていない。
にしても、最初魁斗達が疲れていたのは、追跡する彼女を撒く為に体力を使い果たしたからだった。三人が逃げるために、三人が力を合わせて、結局全員が疲れてしまった。
「あ、恋音ちゃんだー!私ファンでね、CDも持ってるんだー!サインとかしてもらっていいかなー?」
藤崎も少々驚きながらも、サインをする。
ここでも芸能人である事は忘れていないようだ。
桐生は話がコロコロと変わっていく彼女を見て、息を吐く。
「……誰だい、彼女は?酷く絡みにくい娘なんだけど……」
「うちのクラスに来た転校生だよ」
魁斗が疲れきった声で返す。
聞いたら殴られそうだが、何だか彼女は魁斗にご執心のようだ。
「……で、彼女は何で切原君に興味を持ってるワケ?」
「あ、やっぱり聞きます?」
レナの声も疲れきっていた。
魁斗は早乙女に抱きつかれて、完全にホールドされ、今にもお持ち帰りされそうな雰囲気だが、そこは無視してレナは説明をする。
発端は、現代文の授業の時だった―――。
223
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/29(土) 12:48:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
一時間目の現代文の授業中、魁斗は隣の席に座った超乙女チック転校生早乙女の消しゴムを拾ってから、隣の席から熱い視線を送られていた。
それが気になって気になって仕方が無いのだが、早乙女の方を振り返ると、彼女は凄い勢いで顔を逸らす。その光景からして『こっち見んなよ』などと言える程魁斗は勇気がない。
結局一時間目は隣からの視線を気にしながらも、何とか乗り越えた。
一時間目終了後にレナと沢木が魁斗の机に集まるより早く、早乙女が口を開いた。
「……あ、あの!」
その声に魁斗は振り返る。
レナと沢木も着いた直後に早乙女の方へと視線がいっている。
早乙女は顔を赤くして、少々俯きながら、唇を動かす。
「……さ、さっきはありがとうございました……。
ああ、と何とも曖昧かつ適当な返事を返す。
レナと沢木から『さっきって?』と聞かれれば、消しゴムを拾ったことと説明をする。
「……よ、良かったらお名前を……」
「切原魁斗」
何となく相手の言うことが分かったのか、魁斗は途中で遮って悪いと思いながら自分の名前を告げる。
次に、早乙女は携帯電話を取り出して、
「連絡先を、交換していただけますか!?」
やたらと押してくる相手に少々戸惑いながらも魁斗は携帯電話をポケットから取り出す。
それから連絡先を交換し、早乙女は魁斗の手を握って、
「か、カイト君ですね!えと、あの……」
何だか上手く言葉が紡ぎ出せない(ように見える)相手に魁斗は苦笑して、
「……そんなかしこまらなくても……気軽にいこうぜ、早乙女」
その言葉に余計に顔を赤くして早乙女は魁斗に顔を近づける。
「ありがとう!カイト君!」
「それから、一時間目が終わるたび、話をかけられています。席が隣だというにも関わらず、メールがほとんど毎回来てますし」
それを聞いた桐生はどう反応していいか分からなかった。
同情すべきか、労るべきか、励ますべきか、慰めるべきか、応援すべきか。彼は指で眼鏡を上げ、
「まあ……いいんじゃないかな、そういう娘も。少々異常だけど……」
「少々か!?席が隣なのにメールが来るのは充分可笑しいだろが!!」
魁斗は抱きついている早乙女の顔を押しながら、桐生に叫ぶ。
早乙女は顔を押されながらも、あることに気がつく。
「そーだ!私そろそろ帰らなきゃ!丁度駅がそこだし、じゃあまたね!」
結局彼女が去った後は騒がしさが残った。
腕時計を確認した藤崎も『あっ』と声を上げて、
「私も!今日雑誌の取材があるんだった!じゃあ、来れたらまた明日ね!」
藤崎も軽く手を振って、駅の中へと走っていった。
残った魁斗達は息を吐いて、
「じゃあ俺達も帰るか。つーか、カテリーナは泊まるアテとかあんの?」
すると、カテリーナはきょとんとした顔で魁斗を見つめる。
というか、突然予定を変更されたような目だ。
「……何だよ」
「いや、カイト君。泊めてくれるんじゃないの?」
「いつ俺が泊めると言いました!?」
カテリーナは魁斗が泊めてくれる前提で来ていたため、泊まる場所などない。魁斗の家もレナがいる時点で既に結構いっぱいいっぱいだ。
桐生に助けを求めたが、彼も『女性と一緒に住むのは抵抗がある』と断る。
ぎゃあぎゃあと言い合う魁斗達に沢木は、小さく手を挙げて、声を上げる。
「……あ、あの。カテリーナさん。私の家でよければ……」
沢木の僅かな勇気で場は収束した。
というか、ザンザやエリザも『カイト君なら泊めてくれるっしょ』などと思っていたのだろうか。
建物の屋上で、一人の人物が携帯電話を耳に当て、話している。
長い黒髪に、右耳にピアスをしているスタイルのいい女性だ。
彼女は、天界の住人でレナと親友のハクア。カテリーナの言ってた通り、エリザはハクアに連絡していたようだ。
「……なるほどね。つまり私達は『六道輪廻(ろくどうりんね)』より先に『十二星徒(じゅうにせいと)』をどーにかしないといけないワケか……分かったわ。また、何かあったら連絡ちょうだい」
ハクアはポケットに携帯電話をしまい、ピアス状の剣(つるぎ)を発動し、薙刀の剣(つるぎ)の上に椅子に腰をかけるような体勢で乗る。
それから空に飛び立って、
「……カイト君達にはカテリーナさんがついてるっぽいし、まあ安心か。にしても、彼といるとホント退屈しないのねー」
224
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/29(土) 19:15:21 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十五閃「沢木叶絵とカテリーナ」
「おおー!」
沢木の家に入ったカテリーナは思わず感嘆の声を上げる。
二階建ての大きめな家。だが、いるのは沢木一人で父親と母親はいない。親は帰ったと思えばまた何処かに行ってしまう、その繰り返しだ。そのため、沢木は親とまともに会話をしたことがない。
カテリーナは沢木に出されたスリッパを履いて、部屋の中へと入る。
「へー、いい家ね。ここに住んでるの?」
「はい。私の部屋以外は空いてるので、好きに使ってくれていいですよ」
その声にカテリーナは止まる。
先ほど説明があったが、カテリーナは彼女の親が家に帰っていないことを知らない。
そのことを沢木から知らされたカテリーナは、目に涙を浮かべて、沢木を抱きしめ始める。
「ッ!!!???」
いきなりのことで、上手く頭が働かない沢木。
それもそのはず。話し終わったら聞いていた相手が涙を堪え、急に自分を抱きしめ始めたのだから。
「あ、あの!?カテリーナ……さん?一体……」
「辛いでしょ?今まで寂しかったでしょ?よし、今は存分に泣きなさい!私がこの胸で受け止めてあげる!!」
「え、えーと……」
これは説明しても無駄だな。そう判断し、沢木はカテリーナのホールドが終わるまで目を閉じていた。
不思議なもので、嫌な気分は全くせず心が温まり、安らぐ。自分に姉がいて、今一緒に住んでいたらこんな感じだろうか、と沢木は考える。
沢木の悲しさと寂しさ(カテリーナの勘違いだが)を汲み取ったカテリーナは沢木の部屋で過ごすこととなった。
が、事件は夜に起きた。
「ちょ、カテリーナさ……大丈夫ですよ……私が床で……」
「いいのいいの!沢木さんはベッドで!しかも、沢木さんが『一緒に入りましょう』なんて言うから……めっちゃ狭いし」
現在、沢木の部屋にある一人用のベッドで沢木とカテリーナは寝ていた。
と言っても、一人用を無理矢理に二人で使っているため、ベッドの中は結構窮屈だ。それを見越してどちらかが床で寝るか揉めていたのだが、どっちも譲らず結局二人で入ることとなった。
カテリーナとしては、泊めてもらっているし、お風呂も先に入らせてもらったし、晩ご飯の片付けもしてもらったし、居候らしいことを何一つ出来ていないので、むしろ床で寝かせてほしいのだが。
ここは一応、カテリーナが沢木を壁側に寝かせ、自分が落ちやすいベッドの際で寝ることにした。
翌朝、カテリーナが落ちていた事は言うまでも無い。
天界。
通称『迷いの森』にある薬剤師の小屋で、三人の人影が見当たる。
一人は肩くらいまでの黒髪に、ショートパンツとニーソを履いている見た目の歳相応の格好をしている、小屋の家主であるフォレスト。
二人の内一人は、右目に眼帯をし、黒い髪をポニーテールに纏めている十八歳前後の女、クリスタ。もう一人は茶髪に長い前髪で右目が隠れている青年のザンザだ。
二人は、フォレストから瓶をいくつか受け取ると、小屋を出る。
「……案外すんなりと協力してくれたな。まあ、こっちとしてはそれで大助かりだが」
「まあな。相手の強さが分かんねェし、向こうも天子と知り合いなら狙われない可能性もゼロじゃねェ」
身の危険は感じてるってことだ、とザンザが付け足す。
クリスタが鼻で息を鳴らし、腕を組む。
「どう思う?カテリーナはちゃんとやっていると思うか?」
クリスタの質問にザンザは不機嫌な表情になる。
カテリーナが嫌いなワケではないが、彼の不機嫌さは調子を狂わされたようなニュアンスの不機嫌だ。
「知るかよ。ま、俺がやるよりは上手くやってんだろ。俺だったらすぐに天子と衝突するだろうしなァ。アイツは意外とホイホイ懐きやがるから、心配はいらねェよ」
言い終わると、クリスタの表情に悪戯っ子のような笑みが宿る。
「そうかそうか。お前がエリザに天界との中継役でお前を選んだ時に拒んだのは、天子と衝突するからか」
真意を疲れたザンザはクリスタを睨む。
が、クリスタは笑みを浮かべたまま、ニヤニヤしている。
「う、うるせェ!理由はどうだっていいだろが!とっととエリザ様んとこ戻るぞ!」
ザンザはずかずかと進んでいく。
足取りが何故か早く感じ取られ、クリスタは親のような目線でザンザを見て溜息をついている。
「……意外と可愛いとこあるじゃないか」
クリスタは小さく呟いてザンザを追う。
「ちなみに、お前逆方向だぞ」
「あッ!?真顔でついて来ずに言えよ!!」
225
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/30(日) 11:32:49 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
あるアパートの一室。
その部屋にいる人物は日が暮れ始めるまで電気は点けない、という節約を心がけた信念を持っており、今は電気が点いていない。そのため、テレビの光が妙に明るく感じられるくらいだ。
アパートの住人はテレビを食い入るように見ている。
今はニュース番組の占いのコーナー。住人が、毎日欠かさずチェックしているコーナーだ。
『今日の一位はおとめ座のあなた!今日は気になる異性と急接近できるかも!ラッキーアイテムは新品のアクセサリーです!』
「にょ!」
住人は自分の星座が壱位だったことに反応し、ラッキーアイテムを探し出す。
偶然、新しいアクセサリーがあったりするのだ。
「……むむー、これは自分の初デートでつけるつもりだったんだけど……。でも、チャンスを逃すワケにはいかない!」
住人はピアスを取り出して耳につける。
それから朝ごはんを食べ、歯を磨き、顔を洗い、制服を着て、念入りに鑑で自分をチェックしている。
ピンク色の髪に、ちょこんと立ったアホ毛が気になるが、チャームポイントとしてそのままにしている。
「うしっ!今日も私は乙女チック全開だぜー!」
乙女チック全開の少女は、今日も勇んで学校へと向かう。
カテリーナがベッドから落ちた日、つまりこっちの世界に来た翌日の昼休み。カテリーナ達は魁斗達を集めて校舎裏で話していた。
昨日の話で何となく分かっていたが、今日は休み時間中ずっと追い回されていたらしく、魁斗はレナに肩を貸してもらう形でぐったりしている。
その様子に全員は最初引いていたが、カテリーナが咳払いをすると、話しに集中する姿勢に変わる。
「……さっき電話があったんだけど、いきなり進展があったわ」
「……『十二星徒(じゅうにせいと)』か……」
魁斗は消えてしまいそうな声で問う。
一応返事をしておいたカテリーナだが、『カイト君はちょっと黙ってて』と冷たいながらも相手を気遣う。
「進展って……天界でエリザちゃん達が戦ったってこと?」
藤崎の言葉にカテリーナは言葉を詰まらせる。
「へ、えーと……そういう進展じゃなくって。見分け方……かなぁ?」
見分け方?と沢木は首を傾げる。
いまいちよく分かっていないメンバーに説明するように、カテリーナは続ける。
「うん。ルミーナさんと一緒に行動してるゲインさんが手に入れたらしくてね、『十二星徒(じゅうにせいと)』は性別関係なく自身の司る星座のマークをかたどったアクセサリーをつけてるらしいの」
「そんなこと言ったって、見た目じゃ分からないよ。十二星座全てのマークを覚えてるわけじゃないし……」
「それもそうなんだけど……」
説明したカテリーナが申し訳なさそうになる。
「それも十二人いるし……見つけ出すのに困難なのは変わりないよ」
「ですが、一人見つけて倒せば相手も攻撃してくる可能性が高まります。何にしても一人見つけ出せば後は楽になる可能性もありますよ」
藤崎の言葉にレナはそう返す。
真剣な作戦会議の場に、招かれざる客が乱入する。
「あー!カイト君みーっけ!」
「ッ!?」
肩を貸してもらっていたぐったり魁斗が肩を大きく震わせ、顔色が悪くなる。
ものすごい勢いでこっちへ走ってくる乙女チック少女早乙女。
魁斗は肩を貸してもらう体勢をやめて、すぐさま走り出す。
「レナ、五時間目まで戻ってくる自信ねぇから……早退したことにしといてくれ!!」
魁斗が自慢の脚力で逃走を開始する。
それに負けじと、残ったレナ達を横切って早乙女は走り去っていく。
そこで、沢木は早乙女の耳に何か光る物を垣間見た。
「……!」
沢木は早乙女が見えなくなるまで、背中を目で追っていた。
「はー、カイト君も大変ね」
「昨日の話聞いてたら、何となく分かってはいたけどね」
カテリーナは溜息をついて同情し、藤崎は苦笑いを浮かべて労る。
「……沢木さん?」
すると桐生が沢木の微妙な変化に勘付いたのか、声をかける。
沢木は、震える唇を動かす。
「……あった」
沢木の小さな声に全員が反応を示す。
何があったのか、聞く前に沢木が答えを言う。
「……、早乙女さんの耳に、おとめ座のマークのピアスがあったんです!!」
226
:
そら
◆yC4b452a8U
:2011/10/30(日) 11:40:16 HOST:p180.net112139158.tokai.or.jp
初めまして、こんにちは。
文章力が凄いですノ読みやすいし、面白いですノ
これからも頑張ってくださいノ応援してます。
227
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/30(日) 11:51:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
そらさん>
コメントありがとうございます!
もう大分進んじゃってますが……。
褒めてくださって嬉しいです!たまにごちゃって読みにくくなることもあると思いますが……。
はい、これからも頑張らせていただきます^^
228
:
ライナー
:2011/10/30(日) 16:42:18 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
いきなし『十二星徒(じゅうにせいと)』一人目見つかっちゃいましたね。
後が楽d((殴
展開の切り替えもだいぶ上手くなってきたと思います。
しかし、展開の遣り取りがあまり意味のあるものだと思えないので、主人公視点以外のギャグの使用は控えた方が良いですね。
ではではwww
229
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/30(日) 16:57:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
こめんとありがとうございます^^
『十二星座〜』とかカテリーナが言ってたので、『十二星徒(じゅうにせいと)』はなるべく星座の名前を入れようと思います。
その典型的なのが、超乙女チックな女の子ですが((
さて、超乙女チックと戦うのは魁斗なのか!それとも別の誰かか!
ああ、確かに。
ザンザはちょいと出したかっただけですね。
意味が無いと言えば、確かに無い……。気をつけます。
230
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/30(日) 21:26:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「うおおおおおおおっ!?」
学校を飛び出した魁斗は、叫び声を上げながら街中を全力で駆け抜けていた。
彼は天子と呼ばれる存在で、脚力が極端に高く、それは走力においても例外ではない。
彼が叫び声を上げたのは、全力で走っていたからではない。
後ろから走ってくる超乙女チック少女の早乙女瑠璃が彼の脚力を前に、ほぼ同じ距離を保ちながら走っていたからだ。
「待ってよカイト君!なーんも照れることなんてないよー!」
何か勘違いしている台詞を吐きながら、早乙女は魁斗を追っている。
何故か目が酷くギラギラしていて、女の子がこんなにも怖いと思ったのは初めてだった。
(バケモンかアイツ!?俺、全速力ですよ?俺、天子ですよ?それでも振り切れないって……どんだけだよ!?)
彼女が魁斗を必死に追跡しているのは、彼のことを本気で好きだからだ。
実は彼女自身はそれほど走りに自信があるわけではないのだが。
(くそ!何なんだよ、この状況!)
女の子に好かれる事は嬉しいが、ここまで執拗になるととても複雑な気持ちだ。
「早乙女さんのピアスが、おとめ座のマーク!?」
一方、レナ達は沢木の言葉に反応していた。
沢木は、おとめ座のマークだけは覚えていたらしく、彼女の耳にそのマークのピアスがあったのを偶然見つけてしまったのだ。
カテリーナの話が本当ならば、早乙女がおとめ座を司る『十二星徒(じゅうにせいと)』とほぼ断定できる。
「まずいな。今の切原君が早乙女さんと戦えるとは思えない」
「エリザさんみたいに、最初から明確な敵意を持っていない人をいきなり攻撃しろと言われても、カイト様は恐らく戦えません」
桐生とレナは冷静に魁斗の人柄を見て、そう判断する。
早乙女の恋心に気付かずとも、自分に好意を持って接してくれていることには気付くだろう。魁斗がそれに気付いていれば、魁斗が早乙女を斬る確率は、極めて低い。
「だったら早く追わないと!」
「そうね。手遅れになる前に、追わないと……」
藤崎の言葉にカテリーナが賛同し、全員が動き出そうとしたところで、
「貴方達。いつまでこんな所にいるの」
不意に声をかけられる。
声のした方向に振り返ると、一人の女生徒が立っていた。
腰くらいの長い黒髪に、両サイドの髪の先をリボンでくくり前に垂らしている。目はきりっとしていて、スタイルも良い方に入るであろうその少女は、左腕に『生徒会会長』と書かれた腕章がある。
久瀬詩織。
魁斗達が天界から戻った際に、無断で学校を休んだことを厳しく叱った、二年でありながら、生徒会長を務める少女だ。
「もうすぐ五時間目が始まるわよ。こんなトコにいて、遅刻しないわけ?早く戻りなさい」
「でも……」
「でも何よ?」
レナが何か言おうとしたところで久瀬が問い詰める。
レナは口をつぐみ、何もいえなくなるのを見れば、久瀬は溜息をつく。
沢木は空を見上げて、何かを垣間見る。
「わ、分かりました!今すぐ戻りますよ!」
そう言って、レナ達を無理矢理引き連れて去っていく。
「ちょ、沢木さん!?カイト様は……」
「大丈夫です」
レナの言葉に沢木は短くそう返答した。
「大丈夫なんです。ここには今、もう一人心強い仲間がいますから」
「あり?」
早乙女はある河川敷で足を止めた。
その河川敷は、魁斗達が沢木を救出するためにメルティという情報屋とともに修行をした河川敷だ。最初の副隊長と遭遇した場所でもある。
早乙女は魁斗の姿を見失ったと言わんばかりに辺りをキョロキョロと見回している。
「もー、照れ屋さんなんだからぁー!逃げなくてもいーのに。にしても見失っちゃった。何処に行ったの―――」
唐突に空から竜巻が襲い掛かる。
寸前で気付いた早乙女は、後方に跳んで竜巻をかわす。
上を向いて、目つきを僅かに鋭くした早乙女は問いかける。
「誰!?」
しかし、答えの声は上からではなく前方から聞こえてきた。
「外したか……。ま、そうでなくちゃ面白くないもんね」
土煙で見えない前方に映る影は、槍のような薙刀のような武器をくるくると回している。シルエットと声からして女性だろう。
「さーて、アンタが最初の『十二星徒(じゅうにせいと)』ね?カイト君を狙うなんて随分と考えたモンだけど……残念でした」
人影が槍のような薙刀のような武器を振るい、土煙をはらす。
人影の容姿は黒い長髪に、スタイルのいい体型。手には緑の柄の薙刀が握られている。
沢木が空を見上げた時に見つけたのは、薙刀にまたがって空を飛んでいるハクアだったのだ。
「……アンタ、誰?」
「それはこっちの台詞よ。ま、答えなくていいわ」
ハクアは悠然と笑って、
「アンタは私に倒される。名前は名乗る必要がない」
231
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/04(金) 18:45:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十六閃「ハクアVS早乙女瑠璃」
魁斗は街中を走っていた。
いつしか、早乙女との距離を振り返って確かめず走っていたせいか、隣町にまで突入していた。
魁斗は天子の脚力を最小限に抑えながら、
(……まさか、隣町にまで来ちまうとは……ずっと真っ直ぐ走ったし、そんな複雑な走り方はしてないから大丈夫だろうケド……)
魁斗は内心『ちゃんと帰れるかな』と不安になっていた。
そこへ、急に遠くの方から強い魔力の放出を感じ取る。
魁斗はあちこち見回すが、距離が遠すぎて、いまいち何処か分からない。
しかし、その魔力を魁斗は覚えていた。
「……、ハクアさんか」
それに、魁斗には感じ取った魔力の側にいる人物の僅かに漂っている魔力にも、覚えがあった。
「……嘘だろ……。これって……」
「ッ!?」
別の教室で、レナ、沢木、藤崎、桐生、カテリーナの五人はハクアの魔力を、魁斗と同様に感じ取っていた。
戦うことが出来ない沢木はには『何かぞっとした』程度だったが、それがハクアのものだと何となく気付いたらしい。
(……沢木さんが大丈夫って言った理由はハクアさんか……)
教室で隠れるように笑みを零すカテリーナを見て、僅かに溜息を吐く桐生。
彼も彼で、色々と考えていたのだ。
(……まさか、最初の『十二星徒(じゅうにせいと)』が早乙女さんだとは……ま、ちょっと知り合った僕らが戦うより、全く面識が無いハクアさんが戦う方がいいだろうけど……)
そこに、マナーモードにしていた桐生にメールを知らせるバイブが鳴る。
先生に見つからないように確認すると、メールを送ったのは魁斗だ。
内容は『道が分からなくなった!帰り迎えに来てくれ!』というSOSメールだ。
(……ッ!何故……、何故僕なんだ……ッ!?)
こめかみに青筋を立てる桐生だったが、常識を考えて授業中に叫んだりはしなかった。
ハクアと早乙女が河川敷で向かい合っている。
突如現れたハクアに、早乙女は睨み付けるような目つきで見ている。
一方のハクアは、大して表情も変えず笑みを浮かべたままだった。
「……貴女が、『十二星徒(じゅうにせいと)』?最初にカイト君を狙うなんて……でも、狙うなら単体でいる私を狙った方が良かったかも―――」
「貴女はどういう関係?」
早乙女の不可解な言葉にハクアは眉をひそめる。
それから、早乙女はもう一度確認するかのように、
「貴女は誰!カイト君の何!どういう関係!?」
そこまで聞いてハクアは、何となく全てを理解したようだった。
(……なるほど、彼女はカイト君にご執心なワケね。カイト君を狙ったのも、彼がリーダー的存在だからじゃなく好意を寄せてるから、か……。なら、)
ハクアの笑みが悪戯っ子のような可愛らしさと怪しさを含む。
きらーん、という効果音が似合いそうな目つきで、彼女は唇を動かす。
「……貴女、カイト君が好きなんだー。でも、カイト君は貴女に興味ないわよ?」
「なぬ!?」
だって、とハクアは続けて、
「(レナが)カイト君と同棲してるし」
がーん、と早乙女の表情が絶望に染まる。
彼女の作戦は『目一杯絶望させて戦意を削いでやる!』という若干誠意に欠ける戦い方だ。
「さらに、(レナが)キスもしたし……」
早乙女は気絶しそうになる。
ハクアのずるい所は、自分じゃなくレナを使うことだ。その方が、効果的ではあるだろうが。
「ぬぬぬぬ……!破廉恥な……!」
「ふふふ、どう?嫉妬した?」
「殺すっっ!!」
純情なハートが燃え盛った早乙女とハクアのマジバトルが幕を開けた―――。
232
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/04(金) 23:42:19 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
刀を構え、斬りかかる早乙女を薙刀をくるくると回しながら待ち構えるハクア。
早乙女の手に握られている刀が、彼女の『剣(つるぎ)』だろうか。にしても可笑しなデザインだった。
柄はピンク色で、鍔は丸型で、肝心の刀身はままごとで使うような、何も斬れないちゃちな作りだ。
このまま、本気で薙刀を振るえば壊れてしまいそうだが、それを武器のように使っている時点で、何だか壊すのに若干の躊躇いが見えるハクア。
彼女は、とりあえず薙刀の先を下に向け、風の逆噴射を利用し、空高く飛び上がる。
「ぬっ!?」
上空に首を向ける早乙女。
ハクアは素早く、薙刀を縦から横に向け、魔女が箒で飛ぶ時のようにまたがった。
早乙女は、上空のハクアに叫ぶ。
「にー!空に逃げるだなんて、卑怯だぞ、この泥棒猫ー!」
「カイト君はアンタの彼氏でもないだろーが!!」
実際彼女が言ったことを何一つ行っていないハクアだが『泥棒猫』は流石に嫌らしい。
彼女の柄にも合わず、叫んでしまう。
にしても、何だか一般人に見えて仕方が無い早乙女を攻撃するのはハクアも抵抗がある。
ハクアは軽めに、風の玉を投げつけて攻撃しようとする。
「ッ!?」
「一応、仕置き程度よ」
風の玉を投げ、見事早乙女に直撃する。
音と巻き上がった煙がそうでもない事から、威力もさほど高くは無いが非戦闘員的な少女を気絶させるにはこれの方がいいだろう、と考え、彼女のいた場所から距離を取って着地する。
もくもくと上がる煙を、ハクアは見つめる。
(……やりすぎー、かな?いや、でもあんな風の玉、きっとレナならしゅばっ!!とかわすだろうし、エリザさんならばぁん!!と打ち消すだろうし。そもそも、こっちの常識を向こうの人間に押し付けるのが間違いか。死んではないと思うけど……やべぇ、不安になってきた。……煙の中から人影が全然見当たらないんですけど……)
意外と小心者のハクアだったが、不安は一気に払拭された。
煙の中から、凄まじい速度で、細く、長い切っ先が襲い掛かり、ハクアの腹部に突き刺さったからだ。
「……ッ!?」
ハクアは腹部に走る痛みを堪え、苦痛に顔を歪めながらも切っ先を引き抜く。
そして、凶刃が飛び出した煙の方へと視線を向ける。
「んもー、何ですか今の攻撃は。余裕のつもり?それって、単なる驕(おご)りですよね」
煙の中から、通常の長さの細い刀を持った早乙女が、無傷で立っていた。
(……無傷……!?馬鹿な……!)
ハクアは更に、顔を歪めた。
「きょーれつな一撃が出ると思ったから……用心して無責任?あ、違う。損か!」
早乙女は言葉を思い出し、手をポンと叩く。
ハクアは血が出る腹部を押さえながら、
「……複数の……『剣(つるぎ)』を、使うの……?」
搾り出すような声で、早乙女に尋ねる。
一方で、決定的な一撃を与え、上機嫌になっている早乙女は、その言葉をしっかりと耳に捉え、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ふっふっふっー。違うのですよ、これ見てわっかるっかなー!?」
早乙女の持っていた刀が光を放ち、姿を変えていく。
光の中で、刀のシルエットはどんどん丸みを帯び、遂には球形になって、発光が収まる。
早乙女の手にあったのは、手の平サイズの水色の水晶玉だ。
ハクアは、それを見て唇を動かす。
「……変形型『剣(つるぎ)』……『武具変晶(ぶぐへんしょう)』……。カテリーナさんが見たら、飛びつきそうな逸品ね……!」
233
:
ライナー
:2011/11/05(土) 11:34:09 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
早乙女さんすごいっすね!
にしてもハクアさんが戦うことになるとは、一体どうなるやら……
次も楽しみにしております!
ではではwww
234
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/05(土) 12:06:11 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
はい、魁斗はまず戦えなさそうだし、早乙女のペースに乗せられそうだから『あ、コイツ使えねーな』みたいな感じで斬り捨てでs((
他の奴らは学校ですしw
いけるのはハクアくらいでしたw
多分、今のところ作中で一番強いのがハクアだろうから、きっと勝ちますよw
次も頑張りますね!
235
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/05(土) 14:39:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ハクアは腹部から伝わる痛みに顔を顰めながら、早乙女の出方を窺っていた。
早乙女の使用する水晶型の剣(つるぎ)『武具変晶(ぶぐへんしょう)』は自分の想像した通りの武器に水晶が形を変えるという、つまり型がない武器なのだ。自分の位置に合わせて最も戦いやすい武器で相手に挑むことが出来る。想像次第では『絶対に折れない剣』や『絶対にかわす事が出来ない弾を撃つ銃』や『絶対に何でも切断する斧』など何でもありだ。
だが、早乙女はそんなものを想像しない。
彼女が使うのは『乙女チックな武器』である。彼女の武器は自身が読んだ漫画のキャラが使用していた物や、乙女らしい武器がモチーフとなっている。最初の刀が玩具のように見えたのはそのせいだ。
だったら攻撃を防ぐ時は、乙女に傷が似合わないとかいう理由で『絶対に何でも防ぐ盾』を想像しただろう。現在、彼女が無傷なのも、恐らくそんな盾を想像したからだろう。
(……参ったね)
ハクアは腹部の痛みに耐えながら、状況を分析する。
腹部の傷が冷静さと体力と神経を少しずつ削っていく。
(……思い通りに変形する『剣(つるぎ)』……こんなレアなモンをこんな奴に持たせるなんて……でも、恐らく戦いは素人。刀の構え方もマトモに出来てなかったし……こいつの想像力に任せてるってワケか)
普通にやり合えば、ハクアは何て無い涼しい顔で一気に決着を着けることだろう。
だが、彼女の無双の想像力の前にはハクアは成す術は無い。
もしも『絶対に身体を護る鎧』などを想像されたらただの消耗戦になり、体力が尽きたところを畳み掛けられるに決まっている。
だからこそ、体力の消耗を抑えるためにも下手に動けないのだが、ただ立ってるだけでも、腹の傷の痛みで体力は削られている。
ハクアは吹くの袖を切って、強引に不出来な状態で腹の傷の止血に使うために腹に巻きつける。
「ふふん。そんなことしても私には勝てないよ、泥棒猫さん!」
「だから、違うっての」
ハクアは慎重に息を整えながら、対抗策を考える。
一気に強力な技で決める、もあるが『絶対に防ぐ盾』で防がれる。下手すれば、ずっと盾で篭城戦を続けられるかもしれないのだ。
だったら、
(……だったら……そうか、その手があるわね)
ハクアがニヤリ、と笑みを浮かべる。
怪しく、諦めてない笑みを。
「だったら、これしかないわね。来なさいよ、もの泥棒猫を倒してみたいでしょ?」
「……倒してみたい、じゃなく!倒すの!」
早乙女は再び刀をなってない構えで、持ちハクアに突っ込む。
早乙女が薙刀のリーチ内に入ると、ハクアは、迷わず薙刀を振るう。それを、ぎりぎりで後方へかわす早乙女。
「ふふっ!だったら、盾を出してずっと待ってりゃ―――」
「させると思う?」
続けて、ハクアが薙刀を振るう。
しかも、一度ではない。連続で振るい、相手に休む暇を与えないような、連撃を繰り出していた。
いつしか、かわすことに精一杯になっていた早乙女は刀から次の形へと変えることが出来ない。
ハクアが思いついた作戦は、『相手を想像させる余裕をなくすくらいに攻める』だ。
戦いが素人の早乙女にとって、攻め続けられるのはかわすことで精一杯になり、他の事に頭が回らなくなる。
「はんっ!戦う相手が悪かったわね!レナとかカイト君とか、真面目な奴があいてならこんな荒々しい答えは出さなかっただろうけど……悪いね、私は」
カァン、と乾いた音を立てて、ハクアが早乙女の持っていた刀を弾き飛ばす。
「しまった……!」
「私は、カイト君達の中で一番……不真面目な女なの!」
ズドン!!と早乙女の腹にハクアが薙刀の柄の先で突きを繰り出す。
早乙女が口から息を漏らして横向けに倒れる。
「あ、こいつらの目的訊くの忘れちゃった……まあいいか。後でで」
ハクアは早乙女を肩に担ぐと、早乙女のポケットから何かが地面に落ちる。
ハクアがそれを拾い、落ちた物をよく見る。
「……これは?」
早乙女のポケットから落ちたのは、ネックレスのような物で、円盤の部分におとめ座のマークが刻まれている物だった。
236
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/05(土) 21:45:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ハクアと早乙女の激闘の翌日、学校が終わった後にハクアに呼び出された魁斗達は目の前の光景に絶句していた。
何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの早乙女瑠璃がいたからだ。
今から何が行われるかというと、早乙女を倒した後に彼女のポケットから落ちたおとめ座のマークが刻まれたネックレスについての詰問だ。
この場にカテリーナはいない。彼女は用事があるらしく、早々にどこかへ去ってしまった。
「……ハクアさん、これ……」
若干引き気味にハクアに訊ねようとする魁斗。
ハクアは、魁斗が何を言いたいのか分かったようにコクリと頷くと、
「戦利品」
一言で言い切った。
人を物として扱っているような言い方だが、恐らく彼女の冗談だろう。そうでなくてもそうであってほしい。
「瑠璃ちゃぁん?君のポケットから出てきたんだけど……このネックレスは何?」
早乙女はずっと黙っている。
というかガムテープで話せないのだ。彼女はずっと『んー!んー!』と何やら唸っている。
話せない理由に気付いたハクアがガムテープを剥がすと、
「誰が教えるか!この泥棒猫!」
「……ほほぅ」
ハクアは目を細め、早乙女の脇に手を伸ばす。
それから、指を器用に動かし、ハクアによるくすぐり地獄が始まった。
「ひぁっ……ひゃああああああ!?や、やめてよぉー!」
ハクアは悪魔のような笑みを浮かべて、止める様子が無い。
「やめてほしいなら話しなさい!」
「にゅー……だ、誰が話すかぁー!」
ハクアは脇から手をどけて、早乙女の靴を脱がす。
脇の次は足の裏をくすぐり始めた。
「きゃあああああああっ!?ぎ、ぎぶぎぶ!ぎぶですぅー!話す、話すってばぁ!あっ……らめぇー!」
ハクアのくすぐり地獄から開放された早乙女は息を整えている。
呼吸が落ち着き始めると、ネックレスについて話し出す。
「……私達『十二星徒(じゅうにせいと)』のメンバーは全員、これと同じようにそれぞれの司る星座のマークが刻まれたネックレスを持っているんです。それを『守護の証』って言います」
「―――『守護の証』?」
早乙女の言葉に魁斗達が眉をひそめる。
十二星座というものは、黄道が通る十三の星座のうち『へびつかい座』を除く十二の星座のことである。
「私も、組織の事はよく分からなくて……リーダーの顔も名前も性別すらも知らないんです」
そこで勘付いた魁斗は、もしやと思って訊ねる。
「……じゃあお前、目的も知らないんじゃ……」
コクリと早乙女は頷く。
目的も何も知らない少女が戦うために使われ、負けても仲間は知らん振り。魁斗達は言葉を失ってしまった。
「……ふざけやがって」
魁斗は思わず呟いていた。
拳を強く握り締め、歯を食いしばり、見れば誰もが怒っていると分かるくたい顔を顰めていた。
魁斗は早乙女の頭に手を置いて、
「お前を許したわけじゃねぇけど、利用されてたってことは分かった。後は任せろ」
早乙女は涙を溜めた目で魁斗を見つめる。
魁斗は早乙女を目を合わすと、フッと笑みを浮かべて、
「『十二星徒(じゅうにせいと)』は俺らが潰す!お前は安心してろ。もう変な事すんじゃねーぞ!」
早乙女は、そこで耐えられなくなったのか、思い切り涙腺が緩み、涙を流す。
「……カイト君……!」
とりあえず魁斗達はそこで別れ、カテリーナには後で桐生が連絡を入れることで話がついた。
カテリーナはビルの屋上で、携帯電話を耳に当てていた。
コール音の後に電話に出たような音が鳴ると、
「うぃーっす!ザンザ、元気ー?」
『……相変わらず無駄に元気だな。その様子だと、上手くやってるみてェじゃねェか』
電話の相手はザンザだ。
彼には状況報告をしようと電話をしていたのだ。
『んで、そっちはどォだ』
「あー、ハクアさんが一人倒したよ。おとめ座の『十二星徒(じゅうにせいと)』を」
その言葉を聞いたザンザは、ほぉ、と感心の言葉を上げて、
『まァアイツなら心配はいらねェし、そっちにいる中で一番強いからな』
「私じゃなくて?」
当たり前だろ、とカテリーナがツッコまれる。
僅かな沈黙の後に、ザンザが話を切り出す。
『リーちゃん、この電話が終わった後に、天子に連絡出来るか?』
「……出来るけど?」
カテリーナはきょとんとした様子で答える。
ザンザは答えを聞いて言葉を続ける。
『だったら伝えてくれ。俺の名前は面倒だから出すなよ』
うん、とカテリーナが頷く。
意識してか、無意識か、ザンザは僅かに早口で伝えた。
『天子を天界に連れて、フォレストの小屋へ行け』
237
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/06(日) 13:21:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十七閃「教会に潜む十二星徒」
魁斗は不機嫌な表情で、公園にいた。
目の前にいるのはカテリーナだ。夜に電話があり『明日天界に行くぜー』とだけ伝えられ、強引に連れてこられたのだ。
この調子で学校は大丈夫だろうか、魁斗はかなり不安になっていた。
また久瀬会長に怒られそうだ、と心の中で怯えていると、カテリーナが天界へと繋ぐ扉を開く準備が終わっていた。
カテリーナは、小さく息を吐いて、
「さー、準備できたよ!行こうぜ天界!」
「ちょい待て」
勇み足のカテリーナを魁斗が呼び止める。
「何で俺が天界に行かなきゃいけねぇんだ?」
カテリーナは魁斗の質問に当然というような調子で答える。
「決まってんじゃん。だって皆学校だし」
「俺だって学校だっつの!!」
カテリーナの言葉に魁斗は思わず叫んでしまう。
そもそも、こっちの世界で学校などを気にせず使える人はハクアだけなのだが、勝手に人を変えるとザンザが怒りそうなので、魁斗を連れて行くことにした。魁斗からすればいい迷惑だ。
「ザンザの頼みってのもあるし、フォレストさんのご指名でもあるの。文句はフォレストさんに言って」
魁斗は息を吐く。
とりあえず、魁斗はカテリーナの出した天界への扉をくぐって、天界へと向かう。
着いた場所は、前回来た時と同じような一面に緑の景色が広がる森だ。ここは確か『迷いの森』と呼ばれていた気がする。
「さー、行くよ。と言ってもはぐれちゃいけないから、手を繋ごう!」
カテリーナが魁斗の手を握り、先導するように歩いていく。
それに連れて、魁斗の足も動くが、握られている手の方に意識が集中してしまう。
そんなこんなで魁斗の目に見覚えのある小屋が映る。
フォレストが住んでいる小屋だ。前回来た時にはなかった看板には『forest house』と書かれている。
カテリーナが扉に手を当て、元気良く扉を開け放つ。
「やっほーい!やあやあ、元気かね!?」
目の前の光景に魁斗とカテリーナが硬直する。
何故なら、着替え中で、下着もパンツだけしか履いていないフォレストが後ろ向きで、顔だけをこちらに向けている状態で立っていたからだ。
「な……っ!?」
魁斗はその光景に顔を赤くするが、顔を逸らすという信号が遅れない。
カテリーナも同じように顔を赤くして、顔を逸らしていない魁斗の腹に蹴りを食らわす。
「カイト君、何ジッと見てるのよ!?」
「ぐほっ!」
魁斗は腹を押さえてその場に崩れ落ちる。
一方、ほぼ裸状態を見られたにも関わらず、顔を赤くしていないし、全くと言っていい動揺していないフォレストは、
「そんなに怒らなくても。僕は全然怒ってないんで、むしろ見せてあげてもいいくらいです」
カテリーナはそんな事を言うフォレストを必死に説得して、急いで服を着せる。
フォレストが着替え終わった頃には、魁斗も腹の痛みがマシになってきたのか、顔を上げている。
カテリーナが出て行くと、小屋に魁斗とフォレストだけが取り残される。
いつまでも立たせるわけにはいかないので、フォレストは、
「どうぞ、座ってください。立ち話も嫌でしょう?」
「あ、ああ……」
裸を見られたことについて怒ってないようでよかった、と胸を撫で下ろしフォレストと向き合う形で魁斗は椅子に座らせてもらう。
238
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/06(日) 17:01:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗が座るなり、フォレストは飲み物を出す準備をしている。僅かに漂う香りからコーヒーだろう。
魁斗は頬杖をつきながら、フォレストに問いかける。
「なあ、何でお前は俺を指名したんだ?」
魁斗の質問にフォレストは魁斗の方をチラッと見る。
飲み物が出来たのか、二人用のコップを持って、席へ戻ってくる。
「別に。ただ、いても気まずくないからです。貴方とはちょこっと話をしたことありますし、そういう点で、僕は貴方のこと信頼してるんです」
どうぞ、と言ってフォレストはコップを魁斗の前に置く。
やはり、コーヒーだった。
「砂糖はいりますか?」
「え、いや。このままでいいよ」
魁斗はそう言うと、一口コーヒーを口に含む。
フォレストは角砂糖の入った器から、角砂糖を八個程度、コップの中にどばどばと入れていく。
苦いのが嫌なら飲まなきゃいいのに、と思った魁斗だが、言ったら睨まれそうなので、心の中に留めておく。
「で、俺を呼んだのは?」
「一緒に戦ってもらうためです」
フォレストはコーヒーを飲みながら答える。
うぇ、とまだ苦かったらしく僅かな声を漏らす。フォレストは更にコップに角砂糖を二個投入した。
「一緒にったって……今も戦ってるんじゃ?」
「だから、間接的にでなく、直接的にです」
魁斗の言葉を否定するようにフォレストはそう言い放つ。
「……それって、タッグを組むってことか?」
「分かりやすく言えばそうですね。エリザさん達に頼んだところ、彼女達は彼女達で忙しいみたいなんで」
ふーん、と魁斗は返事を返す。
カテリーナも人間界に来てはいるものの、戦う事はしようとしていないし、天界と人間界の情報を繋ぐ中継役のような役割を担っているだけのように思える。
フォレストは丁度いい甘さになったのか満足げに頷いて、
「ま、元『死を司る人形(デスパペット)』組は情報収集。僕ら無所属組は戦い専門、みてぇな感じですかね」
確かに、情報の収集は向こうの方が向いているかもしれない。
だが、彼ら以上に向いている人物が一人、天界にはいる。
そう、幻の情報屋であるメルティが。
今は関係のないことだが、今彼女は何をしているのだろう。
「で、俺と一緒に戦うにあたって、『十二星徒(じゅうにせいと)』が何処にいるか、とか目星はついてるのか?」
「勿論です」
フォレストはコクリと頷く。
「この森の付近にある、山。そこにいます」
「山!?」
魁斗はフォレストの言葉を聞いて、思わず叫ぶ。
フォレストはコップの中のコーヒーを飲み干して、
「はい。そうですが。山と言っても頂上にある教会にいるらしいですよ。山のてっぺんなんで、教会自体はほとんど使われてねぇみたいですけど」
フォレストは足をぱたぱたと動かしながら言った。その行動がとても可愛らしいものに見える。
「……教会に関係ある十二星座ってあんの?」
「さあ?僕はその辺り詳しくないんで良く分かんないんですけど……行ってみれば分かりますよ」
フォレストは立ち上がって、出かける準備をする。
『死を司る人形(デスパペット)』との戦いの際はスカートだったのだが、今は短パンである。今から戦いに行くため、わざわざ戦いやすい衣装を選んだのだろうか。
小さな袋の中に、傷薬を詰め込み、肩に担ぐようにして背負う。
「さあ、早いトコ行って、とっとと片付けちまいましょうよ」
「ああ、そうだな」
魁斗もフォレストの言葉に頷き、彼女と一緒に小屋を出る。
魁斗は再びはぐれないように、兄妹のような感じでフォレストと手を繋いで森を歩く。
239
:
ライナー
:2011/11/06(日) 17:13:38 HOST:222-151-086-024.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
何かが動き出しそうな予感ですね……フムフム
ふぉ、フォレストさん。鍵くらい掛けておこうよ……
にしても魁斗君がぞんざいな扱いをされて、ただいま同情真っ最中です(笑)
久々にアドバイスをします。
今回は2つありますが、1つは文章についてです。
全体的に分かりやすい文章に構成しており、僕はこの作品見ながら焦っているんですが、注意点が1つ^^;
分かりにくい文章って奴です。
そいつらは、いつ何時でも文章の中に潜んでおり、推敲という罠をくぐり抜けてくる……と言うことなんですが(笑)
例えば、本作のこの文章。
何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの早乙女瑠璃がいたからだ。
この文章は言ってみれば、区切りを付けながら一息で読めと言っている文書です。
何故かというと、「。」が少ないんですね。
これが少ないと読者が文章の中で何度も読み返しながら混乱してしまいます。僕の知っている中では、ある作品がこのようなことをすると今までのファンまで消えると言うとんでもない代物だったりします^^;
例を挙げた文章を手直しすると、こうなります。
何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない早乙女瑠璃。
見るからに、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの姿であった。
2文に分けるならこんな感じですね。
ですので「。」の使い方を心がけると良いでしょう。だいぶ見やすくなってくるので^^
次は、ストーリーですね。
日常模写がまた消えているような気がします。そのため、バトルシーンになっても同じような読み応えで新鮮さに欠けますね。
思い切って、日常だけのギャグ(読み切り形式的な)ものを作ってみると良いですよ。
それと、バトルシーンその物にも迫力が欠けます。これは今僕も苦戦中なのですが、ピンチの作り方ですね。
ピンチを作るときに効果的なのは、自分の持っている能力を無効化されるなどの時です……とりあえずこれも例を挙げましょう。
主人公が炎の能力を持っていたとしましょう。
その炎は勿論のこと水に弱く、そんな技を使う強敵が出てきました。
戦うことになった主人公は、そんな敵の水をどうにかしなければありません。
それを主人公が努力し、何とかするというのですが、あまり参考になりませんでしたね^^;
用は、自分の攻撃パターンが全て効かなくなった時どうするかです。
竜野さんのピンチの作り方だと、あまり深みが無くまた同じピンチが繰り返されてる場面があるような気がします。
ではでは、長くなりましたがwww
240
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/06(日) 17:47:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
魁斗の二度目のラッキースケベです。
未だにレナや沢木とのラッキースケベがないのにね((
最近は何か可愛そうな役回りばっかですねw
その文章ですね。
自分もこれ読みにくいかな、と思ってましたが、たまに本文が長すぎてエラーになってしまうんですよ……。
だから纏めた方が短縮できると思ったのですが……以後気をつけますね。
あー……日常模写については返す言葉がございません。
そうですよね。カテリーナがせっかく出て来たんだから、それを使わねば……。
あ、例えば桐生の相手が炎を使うとかですよね。
……今のところ予定無いな((
出来るだけ増やしてみよう。
ありがとうございます。
久しぶりにためになるアドバイスありがたくいただきますね^^
241
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/06(日) 21:47:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗とフォレストは手を繋いで、森の中を歩いていた。
今日で女子と手を繋ぐのが二回目になった魁斗は、今まで女子とそういうイベントがなかったからか、結構心臓がバクバクと動いている。
フォレストは顔を赤くしている魁斗を横目で捉えて、
「心臓の音、聞こえてます」
「ええっ!?」
かなり恥ずかしい事に気が付かれたからか、魁斗は顔をより赤く染めて叫ぶ。
しかし、フォレストは口元に手を当てて『冗談ですよ』と言う。
魁斗がオーバーに驚いてしまったために、かなりドキドキしていることがバレてしまった。
そして、会話が途切れてしまった。
魁斗とフォレストが話したと言っても、カルラの襲撃があったため、そんなに長話をしたわけではない。自分の無力さが原因で夢が潰(つい)えた、みたいなことを言っていたような気もするが、今する話ではない。
そこで魁斗はふと思ったことを口にする。
「……なあ、フォレスト」
「僕のことは『フォーちゃん』と呼んで下さい。で、何ですか?」
フォレストは目線だけを魁斗に向ける。
「お前って何歳?」
意外な質問だったのか、常に無表情のイメージがあるフォレストの眉が僅かに動いた。
フォレストは目線を前に向け直し、答える。
「……十五です」
「十五なの!?てっきりもうちょい下かと思ってた……」
十五歳といえば魁斗より二つした。言われてみればそんな気もするが、聞いてみれば以外だと思う。
そんなこんなで何とか山に辿り着き、ここからは登山が始まる。
森を抜けたため、手を繋ぐのを止めた二人だが、魁斗の手にはフォレストの小さい手の温もりが残っていた。
山をちょっと登り、フォレストが僅かに息を乱し始める。
「キツイなら背負おうか?女子には厳しいだろうし」
「……お願い出来ますか」
『必要ありません』と言われると思っていたため、意外な返事が帰って来た魁斗はきょとんとする。
素直なフォレストを背負い、魁斗は歩き始める。
身長が低いせいか、彼女自身も結構軽かった。それで、内心安心している。
「……密かに『コイツ重たかったらどうしよう』とか思ってました?」
「い、いや!そんなことないって!」
フォレストの言葉を慌てて否定する。
若干ジト目のフォレストがやけに怖い。
ならいいです、と言ってフォレストは抱きつくように腕を魁斗の首の辺りに回す。
密着した成果、魁斗の背中に柔らかくて小さい物の感触がかなり伝わる。
(……こ、この感触はまさか……!?」
魁斗は顔を真っ赤にする。
「……変な想像とかしてませんよね」
フォレストの言葉にドキッとする魁斗。
例えば、とフォレストが言って、
「『胸が背中に当たってる』……とか―――」
「してない!してない!」
魁斗は首を横にぶんぶんと振って否定する。
一方のフォレストは全く信じてないが、これ以上攻めると可愛そうなので止めておいた。
何て話をしていると、教会へと辿り着いた。
魁斗はそこでフォレストを下ろして、二人は教会へと入る。
中はテレビなどでよく見る、並べられた椅子など無く、奥にある窓から光が差し込んでいた。教会内の電気が点いていないため、光が眩しく感じられる。
そして、その窓の前に立ち、光を背中に受けて立っている人物が一人いる。
身長は高めだが、何となく女性らしいラインが際立っている。スタイルも良く見えるし、綺麗な金髪が腰の辺りまで伸びている。顔は仮面をしていて良く分からないが、耳にうお座のマークを模したピアスをしている。
「……あれって何の星座のマークだ?」
「多分うお座です」
星座の知識に疎い魁斗はフォレストに問いかけ、答えを聞いて『教会と関係ないのか』と思う。
目の前の人物はフッと聞こえるように笑って、
「お気楽な奴らだな。戦っても愉しそうだ」
魁斗はその言葉を聞いて、二本の刀を構える。
(……アレ?)
しかし、フォレストは別のことに気を取られていた。
(……この声、聞いたことある……?初めて聞いた声じゃない……)
242
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/11(金) 19:44:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ねーねー、桐生クン」
学校で、一時間目が終わった後の休み時間。桐生の隣の席に座っていたカテリーナが桐生に話しかける。
二人は席が隣なのも関わらず、カテリーナが問題を解けなかった時だけ会話する程度で、クラス内での二人の関係はあまり良いとは言えない。
妙に甘ったるい声を掛けられた桐生は、溜息をついてカテリーナへと視線を向ける。
「カイト君とフォレストさん。上手くやってると思う?」
「どうだろうね」
桐生は指で眼鏡の位置を調節しながら言った。
机の中から次の授業の教科書を取り出しながら言葉を続ける。
「そもそも、何でフォレストさんは切原君を呼んだんだ?こっちの世界に学校が無いって思ってるわけじゃないだろ」
カテリーナはうーん、と唸って、
「まー、ザン君……じゃねぇや。ザンザが言うにはー」
「呼びやすい方でいいよ。誰か分かるし」
僅かに躊躇いが見えたカテリーナに、桐生はそう告げる。
カテリーナは苦笑いを浮かべて、再び話しを続ける。
「ザンザが言うには『切原魁斗は学校っつく面倒なモンがあるから、選ぶ時は考慮しろ』って言ったらしいけど、フォレストさんは『天子でお願いします。一番話しやすいんで』って言ってカイト君をご指名したんだって。ま、そうじゃなけりゃハクアさんしかいないから、選ばせる意味なくなっちゃうしねー」
ザンザとフォレストの言葉だけ何故か若干真似をした節がある。
ともあれ、共闘するとなれば一番接しやすい相手が良いのは誰でも分かる。
桐生も全然話した事がない相手とより、まだ面識がある相手との方がまだまだやれそうな気がする。
「フォレストさんってカイト君のこと好きなのかなー?」
「そんな理由で選んだ訳じゃあるまいし」
「でもでも、カイト君って結構好かれてるよねー。彼に女難の相が見えるよ」
カテリーナは何故か目を細めて同情の眼差しをしている。
だが、視線を向けられている桐生からすれば複雑な心境だ。
「レナさんってさ、カイト君のこと好きだと思う?」
「どうだろうね。尊敬以上の感情を持ってそうだけど……今日はまた随分と突っ込んでくるね」
ふふ、とカテリーナは笑って、
「だってさー、カイト君が他の女の子と一緒にいるんだよ?養育係さん的には!一日中負のオーラ発生中じゃない?」
そんな馬鹿な、と桐生は鼻で笑う。
だが、案外カテリーナの推理は合っていてレナは机に顔を突っ伏せていた。
一方、天界にある山の頂上の教会内で魁斗とフォレストは仮面をした『十二星徒(じゅうにせいと)』と対峙していた。
魁斗は二本の刀を構えながら、相手に問いかける。
「仮面、取った方がいいぜ」
「フッ。それは対等に戦うためか?」
「それもある」
魁斗は一度言葉を区切って、
「アンタの強さはイマイチ分からねぇけど、二人を相手にするんだぜ?仮面つけたままじゃ視野も狭まるし」
魁斗の言葉に不満の声を漏らす。
だが、それは仮面の女ではなくフォレストだった。
「女性を寄ってたかって二人でやるつもりですか。そんなイジメに僕は参加しませんよ」
おい、と魁斗はフォレストにツッコミを入れる。
「お前はどっちの味方だよ!?」
「今は彼女です」
フォレストはいたって真顔だ。
この表情が彼女の真剣さを引き出していた。
魁斗はほぼヤケクソ気味に息を吐いた。
「わーったよ、俺一人でやるよ!でも、とりあえず仮面は取れ!何かやりづらい!」
「フッ。しゃーねーな」
女は仮面に手を掛ける。
仮面を取る手を止めて、女は二人に話しかける。
「だが良かったよ。少年が相手で。そっちの女の子じゃ……私を倒す事は不可能だからな」
女が仮面を取り、放り投げる。
顔立ちはかなり綺麗で、金色の目が彼女の美しさを際立たせている。仮面をしているのが勿体ないくらいだ。
そう思っていた魁斗だが、彼女の顔を見た瞬間に、フォレストの表情が驚愕に染まる。
「……?どした、フォレスト?」
「……ぅあ……、う、嘘だ……」
フォレストの言葉は震えている。
魁斗が彼女を呼んだ時の定番『フォーちゃんと呼んで下さい』のやり取りが出来ないくらい、彼女は驚いていた。
「……あ、貴女は……」
金髪の女は、フッと笑って、
「久しぶりだな、フォーちゃん」
ただただ、混乱する魁斗をよそにフォレストにそう告げた。
243
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/13(日) 02:52:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十八閃「揺れる心」
目の前に素顔を見せた、うお座の『十二星徒(じゅうにせいと)』を見てフォレストは目を大きく見開いたまま固まっていた。
信じられないものを見るかのような、そんな目で相手を見つめている。
魁斗は明らかに様子が可笑しいフォレストの肩に手を置いて、問い質す。
「おい、フォレスト。どうしたんだよ」
「……」
だが、フォレストは答えなかった。
ただずっと嗚咽のように声を漏らしているだけだ。
肩に手を置いて、初めて分かったことは彼女が小刻みに震えていることだ。
彼女の表情も驚愕という他ないが、目には涙を溜めている。『恐怖』ではなく『喜び』の涙だ。
「……おい」
「……知ってましたよね」
魁斗が再び声をかけた瞬間に、フォレストが口を開く。
首を傾げている魁斗に、徐々に落ち着いてきたフォレストが説明する。
「……僕の夢です……。僕を拾ってくれた恩人と一緒に、薬草師をするのが夢だって……」
確かそんな話をしたような気がする。
『死を司る人形(デスパペット)』を倒すために天界に乗り込み、早々にストリップ巫女(カルラ)の襲撃を受け、助けてもらったお礼を言おうとした時に話してくれた。
でも、その恩人は今……。
「……言いにくいけど……お前自分で……」
「はい。僕の無力のせいで……でも、信じれますか?」
フォレストの目から大粒の涙が零れ、頬を伝う。
涙を拭うことも忘れ、フォレストは言葉を続ける。
「……大好きだったクーラさんが……目の前にいるんですよ……?」
瞬間。目の前に槍を振るおうと構えているクーラが立ちはだかる。
「ッ!?」
いきなりのことで、きょとんとしたまま動く事が出来ないフォレスト。
何とか反応できた魁斗がタックル気味にフォレストを突き飛ばして、クーラの槍の一撃を刀で受け止める。
ぎりぎり、と金属と金属が擦れ合い、鍔迫り合いの状態になっている。
「……!」
フォレストの頭が理解まで追いついていない。
何故こんなことをしているのか。話が全然理解出来ないまま物語の最終回を見たような感覚だ。
「……何で……」
「何で、だって?」
魁斗に押し返され、後方に跳んだクーラは距離を取って、槍を肩に担ぐ。
「敵だろ、今は。私は『十二星徒(じゅうにせいと)』のうお座。双魚宮を護りし者」
槍の先を魁斗に向けて、クーラは続ける。
「お前らを討つ、女の名だ」
魁斗は自身の脚力を利用し、相手が反応できない程速く、懐に潜り込む。
それに気付いたクーラは素直に賞賛の言葉を述べる。
「へぇ、速いな。で、潜り込んでどうする?」
「言うかよ。アンタがフォレストの恩人だってことは分かった。だから、傷つけずに倒すからせめて抵抗は―――」
「無理だよ」
刀の峰を相手の腹に叩き込むつもりで動かしていた魁斗の手が止まる。
そこへ、フォレストの叫びが響く。
「待ってください!その人はクーラさんなんです!攻撃しないでください!!」
魁斗の戦意が、フォレストのか細い声で一気に失われた。
完全に止まった魁斗の腹にクーラの槍の柄の先端が食い込み、後方に飛ばされ、壁に激突する。
「……ぐぅ……」
魁斗は僅かに呻き、身体を起こす。
「そーそー、そーだよな。お前は私を攻撃できないし、攻撃を受けさせようとしない」
クーラは怪しく笑みを浮かべ、告げる。
「私はフォーちゃんの恩人だから、アイツは私を護ろうとするんだよ」
244
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/13(日) 14:32:20 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
少女はずっと一人だった。
物心ついた時から周りに『ヒト』の姿は無く、見えるのは葉っぱの緑色と樹木の茶色のみ。植物以外のイキモノは大抵寄ってくる事はなかった。
晴れの日も雨の日も雪の日も曇りの日も。少女はずっと一人で森の中にいた。
『ヒト』を見る事は無く、身体は徐々に衰弱していき、しまいには倒れこんで起き上がることさえ辛くなった。
そんなある日のことだった。
イキモノとは違う足音を聞いた。
それが『ヒト』の足音だと、気付くまでどれほどの時間を有するのだろう。少女は『ヒト』の足音を初めて聞いた。
「……おい、大丈夫か!?」
近づいてくる足音は少女を拾い上げた。
それから何の迷いも無く、少女を抱えて自分の小屋へと向けて走り出したのだ。
「……っ」
少女は目を覚ます。
記憶にあるのは金髪の人物が自分を抱えて走ったところまで。
映る光景は木材の天井。
身体を起こそうとしても、腕に力が入らず、上手く起こす事が出来ない。
少女は転がるように身を捻って、自分が寝かされていたベッドから落ちる。
それから四つん這いになって自分がいた部屋の扉を開ける。
目の前にいたのは、金髪の女性。
扉を開けようとしていたためか、勝手に開いた扉にきょとんとしているようだった。
「……目覚ましたか。フッ、良かった。いきなり意識失うから死んだのかと思ってたぜ」
女性は少女を抱きかかえて、椅子に座らせる。
椅子の前にはテーブルが置かれており、テーブルの上にはパンがあった。
しかし、少女にはそれが何だか分からない。
「食えよ。腹減ってるだろ」
「……これは食物なのか……」
女性はフッと笑って頷く。
少女の痩せ方が尋常無いため、食器を使わない物を選んだのだ。少女は恐る恐る手を伸ばし、一つ手にとって口に含む。
「美味いか」
少女はコクリと頷いて、もぐもぐと頬張っていく。
食べれば食べるほど我慢していたお腹が音を鳴らす。
その音を初めて聞いたのか、少女は肩をビクッと震わせて辺りをきょろきょろ見回している。
その光景に女性はただ笑みを浮かべていた。
「……何で、助けたんですか……」
「オイオイ、飯平らげた後にする質問じゃねーだろ」
女性は呆れ気味に、少女にそう言う。
「……私なんて拾っても……何の得にもならないし……。……一体何が目的で……」
「じゃあお前は助けて欲しくなかったのか」
少女は目を大きく見開く。
ハッとして、女性の顔を見た。
「私はお前を助けたいから助けたし、お前の声が聞こえた気がした。目的も目論みも企ても何もねぇ。見返りも必要としてねぇ。ただ、助けたいから助けた」
少女は申し訳なさそうに俯く。
そんな少女の頭を女性は軽く撫でて、告げる。
「……一緒に暮らそうぜ。私なら、お前を護ってやれる。それに、よく見たら結構可愛いしな」
女性は笑みを浮かべて少女に言った。
女性・クーラと少女・フォレストはこの時出遭った―――。
245
:
ライナー
:2011/11/13(日) 15:00:32 HOST:222-151-086-022.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
何だか、いろんな人の過去が出てきて面白いですね。
今回はフォレストさんですか、楽しみにさせて貰いましょう。
今回も少しアドバイスを。
えーと、キャラについて何ですが、デスパペの奴らが仲間になったところなのですが、またもやメインキャラが増えてきていますね。
これだと以前言ったローテーションを駆使しても、ある程度のキャラクターが空気キャラになりかねません。
この場合どうしたらよいか、残念ですがキャラを自然に消していくしかないんですね^^;
小説では、過去のキャラクターが消えていくのは自然なことなんです。
消えていかないとしても、それは少数精鋭のキャラクターを率いた小説です。
次の敵を倒し、仲間を増やすのは良いです。確かに展開としては面白いです。しかし、それの犠牲となって今までのキャラが消えることも覚えておいて下さい。
なので、幾つかは消えることを覚悟して書いた方が良いと思います(誠に残念ですが)
もう1つ言うと、サブキャラにも限界があるので気を付けて下さい。
ではではwww
246
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/13(日) 16:35:40 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
フォレストの過去については詳しくやる、と宣言していたので、今回書かせてもらいました。
なるべく空気にならないように他のキャラを満遍なく出しているのですが、どうも藤崎だけ話に織り込むことができないんですよ……。あのアイドルもどk((
デスパペのメンバーも五人の隊長が出てこなかったり、小隊隊長にいたっては二人意外でなかったり、キャラを消すのは頑張ってるんですけど……。まだ、し切れてないって感じですかね。
消そうとするキャラほど愛着が出てきてしまうことがあって中々消す事g((
はい、参考にさせてもらいます。
毎回アドバイスありがとうございます。
247
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/19(土) 19:23:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「オラオラァ!!」
クーラの大声とともに、彼女の手に握られている槍が力強く振り回される。
その槍の攻撃を、魁斗は自慢の足とレナと出会ってから嫌という程鍛えられた瞬発力でかわし続ける。
しかし、余裕という程の軽々しさはなく、むしろ紙一重というギリギリのところでかわし続けていた。
槍を振ってはかわされ、振ってはかわされ。そのつまらない応酬にクーラが痺れを切らしたように舌打ちを打つ。
「オイオイ、いつまでお前は逃げるつもりなんだよ。逃げてばっかじゃ勝ちは掴めやしねぇぞ」
(……んなもん分かってるっつーの……)
魁斗は心の中でクーラに悪態をつく。
攻撃しようと思えばいつでも出来る。だが、それは一人の時だけだ。
今は一人ではなく、後ろにフォレストがいる。
『攻撃しないでください!!』というフォレストのか細い声が妙に頭にこびりついている。
クーラは自分が攻撃できないと知りながら、わざと隙を作り、魁斗に攻撃の隙を与えている。
出来もしない、攻撃の隙を。
「……アンタは、本当にフォレストの師匠なのかよ……!?」
魁斗はふとそんな言葉を投げかけていた。
クーラはきょとんとした表情で固まっている。
だが、やがて笑みを浮かべ、言葉を返す。
「決まってんだろ。フォーちゃんと遭った時も覚えてるし、自分が死んだことだって理解出来てるさ」
「……アンタは、何でこんなことやってるんだ……。『十二星徒(じゅうにせいと)』ってのは、弟子を敵に回さなきゃいけなくなるほど、圧倒的な存在なのかよ」
「いいや、それは違うな」
フッと笑みを浮かべて、クーラはそう返す。
彼女は続けてこう言った。
「私は自ら望んで入ったんだ。勿論、フォーちゃんがそっち側だなんて知らなかったし、遭う事もないだろうと思ってたぜ?」
クーラの表情に嘘は感じれなかった。
魁斗はチラッと後ろのフォレストを見る。
彼女は今だ心配そうな表情で、握りこぶしを胸の中心に当てている。
目は切なく、幼馴染の男子二人が自分を取り合って殴り合っているのを見ているようだった。
そんな表情をしている女の子に戦わせるわけにはいかない。
魁斗は心の中でそう誓い、出来もしない攻撃の構えを取る。
「……フォレスト、心配すんな。俺の事はいいから、自分の事だけ考えてろ」
フォレストは魁斗の言葉に涙が出そうになる。
自分の弱さで、彼が傷ついている。自責の念に駆られている。
「……クーラさん。何で私は薬を作るのに携わせてくれないんですか」
フォレストはむすっとした表情で、クーラに訊ねる。
現在の二人は、晩ご飯を食べている途中で、スープをすくい、口に運ぶ手を止め、クーラは呆れた息を吐く。
「だから、何度も言ってるだろ。まだ無理だって。ちょっとの分量の間違いがとんでもない劇薬を作っちまうことだってあるんだから。それに、私の事は『クーちゃん』って呼べって言ってるだろ」
クーラはスープをすすって、ホッと一息をつく。
「フォレストはまだ小さいだろ。薬が目に入って失明でもしたら大変だしな」
その言葉にフォレストはとんでもなく、頬を膨らます。
「私は子どもじゃないです!大人な五歳なんです!」
「充分子どもだ」
白熱するフォレストの熱を、クーラが一言で冷ます。
フォレストは落ち着いて、口を尖らせた状態で俯くと、
「……自分の名前で呼ぶのは嫌いだから『フォーちゃん』って呼んでくださいって言ってるじゃないですか」
「嫌だ。私はお前の名前好きだし、それにそう呼んでもらいたいならお前も私を『クーちゃん』と―――」
「嫌です。名前好きなんで」
鸚鵡(おうむ)返しをされた。
これ程切ない気持ちになるのか、初めて鸚鵡返しを受けたクーラは冷たい風が通り抜けたような感じがした。
「……名前が嫌いなら、好きなように呼ばせればいい。お前に言わなきゃ良かったな」
クーラは失策を悔いて、息を吐く。
してやったと言わんばかりにフォレストは笑みを浮かべている。
実に楽しそうな笑みを。
248
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 20:41:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十九閃「ボクノキヲク」
ごく平和な日常。
クーラは一人では決して味わう事の出来ないこの幸せに、目を細めていた。
嬉しそうにスープを飲み干そうと器を傾けているフォレストにクーラは質問をする。
「なあ、フォレスト」
フォレストは丁度スープを飲み干し、満足げに息を吐く。
それから、クーラの方を向いて、話を聞く体勢を作った。
「……もし、の話だ。もし私が、お前の前から消えたらどうする?」
フォレストはその言葉にきょとんとして、表情を固まらせてしまう。
訂正するかのように、クーラは『いや』と付け足して、
「死ぬとかじゃないんだ。ここへ出ることになったりしたらってこと。そん時お前は―――」
「考えませんよ」
クーラの言葉を遮るように、フォレストはそう告げる。
フォレストは言葉を続けて、
「クーラさんは最強の人です。絶対死なないし、負けないし。それに、たとえ何処へ行こうとも私はずっとついて行きます!」
『ついて行く』。
クーラはその言葉に胸を打たれる。
その様子に気付かないフォレストは、無邪気に自分の意見を並べる。
「私はクーラさんの弟子です!何処へでも行きます。だから、『僕』も!絶対につれてってください!!」
にこっと微笑んでフォレストはそう告げる。
フッとクーラは笑みを零す。
嬉しかったのか。ただ笑えたのか。泣きそうになって誤魔化すために笑ったのか。それは覚えてない。
クーラはフォレストの頭に手を乗せて、耳元で囁くような言葉で告げる。
「―――ありがとう」
その時は、そんな都合の良い言葉を並べれた。
あの時までは、クーラが最強だと思っていた。
絶対に負けるはずが無いと信じていた。
何処までもついて行くと決めていた。
だが、現実は無残にも彼女の目の前で幻想を打ち砕いた。
最強だと思っていた人は血塗れで、負けないと思っていた人は床に伏し、何処までもついて行くと言ったのについて行けないところに行ってしまった。
フォレストは師を抱きかかえる。
彼女の最期の言葉を、フォレストは一言一句逃さず聞いていた。
その言葉を今、思い出す。
目の前には大好きな師と、彼女にいいようにやられている仲間の少年。
彼女がとるべき行動は一つ。
自分の手でクーラを討つ。それだけだった。
「……はぁ……はぁ……」
魁斗は荒々しく息を吐きながら、それでも握っている刀だけは手放さない。
その様子を息を吐いて、呆れ気味にクーラは見つめている。
「いい加減諦めろ。お前じゃ俺には勝てないってことだ」
「……うるせぇよ……!お前は俺が倒す!何も心配すんなって、フォレストに言ったからな……!」
「だったら」
クーラが突っ込み、槍を振りかぶる。
かわそうとする魁斗だが、足が上手く動かず、かわすのに完全に遅れた。
「ここで死ね」
そこへ、矢を構えたフォレストが二人の間に割って入る。
「「ッ!?」」
二人は大き目を見開いて、驚く。
僅かにクーラの攻撃の手が躊躇う。
「……フォーちゃん……そこをどいて……!」
しかし、フォレストは師の言葉を聞かない。
目の前のよりも、胸に有る師の方を信じた。
「『私は、お前に何も出来なかった。それは不甲斐ないと思っている。だが、私のお陰でお前が前を歩めるなら、私はそれでいいと思うことが出来る。お前は最期まで私を『クーちゃん』と呼ばなかったな。だから、私もお前を『フォーちゃん』と呼ばない』」
フォレストは大好きな師を思い出し、涙を流す。
涙を溜めた、覚悟の瞳でクーラを見つめ、攻撃を放つ。
「……クーラさん、は……何があっても、僕を『フォーちゃん』と呼ばない!!僕の名前を、大好きだと言ってくれたから!!」
少女の鋭い、覚悟と想いが籠った矢が、偽物の師を貫く。
249
:
ライナー
:2011/11/20(日) 22:32:35 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
フォレストさん、本当は、本当は……フォーちゃんじゃなくても良いと思っているんじゃないですか?(オイッ)
いや、にしても何でなんだクーラさん。
クーラって聞くとドラゴンボールのフリーザの兄貴を思い出しまs((殴
これから2人の間に何があるか楽しみです!
続きをお待ちしております!
ではではwww
250
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/21(月) 00:33:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
いや、フォーちゃんと呼んでほしいんです。
自分の名前は嫌いだけど、クーラが好きだと言ってくれたから……みたいな感じですね。
え、そうなんですか?
ドラゴンボールはあんまり見て無いから知らなかったです。にしてもフリーザの兄か……((
はい、続きも気合入れて書きますね!
251
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/25(金) 19:51:27 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
矢で貫かれ、後ろへと倒れるクーラの身体。
彼女の表情は自分がやられた、というよりフォレストが自分を攻撃した、ということに驚いているような顔だ。
「……ちく、しょう……!」
その言葉とともに、クーラの目が閉じられる。
すると、彼女の身体からするり、と小魚のような物が飛び出す。
『ちくしょぉー!!』
その魚はそのまま上へ上へ上って行く。
空中を泳ぐ魚。人間界では決して見れない光景だ。さすがは天界、といったところか。
「アレは何だ?」
「……天界に生息する人語を話す魚です。人に憑く事があるんだとか。名前は『ハート』。恐らく、アイツが身体に憑いてクーラさんを操っていた……」
「そうか」
魁斗はそれだけ聞くと、頷く。
それから、上へ逃げて行く『ハート』を睨みつけて、
「後は任せろ」
「……え、任せろって……」
フォレストが疑問を投げかける前に、魁斗は行動に移る。
魁斗が取った行動は、脚に思い切り力を込め、『ハート』に向かって跳んだ。
天子の驚異的な脚力を使った跳躍力は、やはりすぐに『ハート』に追いついた。
『魚(ぎょ)エェ!?』
「よぉ」
魁斗は不適な笑みを浮かべて、刀を振りかぶっている。
「さーて、どうなるかは、大体予想ついてるよなァ?」
『待て!待ってくれ……!』
「断る」
魁斗が巨大な光を纏った刀を振るう。
勿論、『ハート』は跡形も無く消滅する。
魁斗は着地すると、仰向けに倒れていたクーラを抱きかかえているフォレストに視線を向ける。
「……」
クーラはゆっくりと目を開けて、目の前に映る泣き出しそうなフォレストの顔を見つめ、フッと笑みを零す。
「……なんつー顔してんだよ……その顔、二度も向けるんじゃねぇ……」
クーラの声はドアを開けた時の音よりも小さく、ふとしたことで消えてしまいそうだった。
その声をフォレストは聞き逃さない。
「……いいじゃないですか、泣いたって……女の子ですよ……?」
クーラは『そうだな』と呟く。
それから彼女の視線は、魁斗へと向けられる。
「……良かったよ、フォレストにも君みたいな友達がいて……師匠としては、一安心だな……」
「友達っつーか、戦友?……それでも友達か」
フッとクーラは笑みを浮かべる。
「……私の首に、うお座の守護の証がある……それを取っていけ。どーせ、私にはもういらないしな……」
フォレストは言われたとおりに、クーラの首に掛けられていた『守護の証』を取る。
「……少年、フォレストの事、頼んだぜ……」
「……言われなくても。仲間だからな」
魁斗はフォレストの頭に手を乗せる。
「頼まれた!」
クーラは満足そうな笑みを浮かべ、視線を再びフォレストに向ける。
フォレストは俯きながら、涙を拭って、ちょっとしたことでまた泣きそうな顔を上げる。
「……もう泣きませんっ!」
「……次泣いたら、デコピンな……」
クーラはいつもやるようなやり取りをした後、スッと目を閉じ、呼吸するたび浮き沈みする腹の動きも止まる。
彼女の閉じた目は二度と開かれる事はなかった。
クーラはフォレストの膝の上で、静かに眠る。
252
:
ライナー
:2011/11/26(土) 15:52:06 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
ま、まさかの魚が取り憑いていただって!
にしても、魚本体が弱くて良かったですw
って……クーラさん……な、何でなんだー!!(泣)
これからは、フォーちゃんとと呼ばせて頂きます。フォーちゃんガンバw
続きを楽しみにしております、ではではwww
253
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/26(土) 17:05:56 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい、よくありますよね。
本体は弱いっていう展開。しかもクーラさんの剣(つるぎ)の名前出そうと思ってたのに出してないし((
おお、それはフォレストも喜ぶと思いますよ。
出来れば、クーラもクーちゃんと呼んでやってくださi((
はい、頑張りますw
254
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/03(土) 00:47:03 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……え、僕が持ってていいんですか?うお座の守護の証」
フォレストは目の前の魁斗を見上げそう言う。
クーラ戦の翌日、早々に『用事が済んだら戻ってね』という連絡をカテリーナからもらい、うお座の守護の証も手に入れたことだし、人間界に帰ることになる。
今はうお座の守護の証を、フォレストが持つか、魁斗が持つかの相談だ。
「僕が持ってても、向こうに行くわけじゃあるまいし。貴方が持ってた方がいいんじゃ?」
「いや、お前が持っててやれよ」
うお座の『十二星徒(じゅうにせいと)』はクーラだった。
魁斗は、クーラも自分よりフォレストが持っている方が喜ぶ。とそんな気がしたのだ。
散々渋っていたが、フォレストはうお座の守護の証をきゅっと握って、胸に寄せる。
「……分かりました。じゃあこれは僕が……」
フォレストは少し俯いて、そう言う。
それから、別れの言葉を魁斗に掛ける。
「今回はわざわざすみませんでした。向こうから赴いてくれて、ロクなことも出来ず……。本当に、貴方には迷惑ばっか掛けてますね」
「んな事ねーって。ストリップ巫女の時はこっちも迷惑掛けたし……お互い様だ」
魁斗の言う『ストリップ巫女』とは元『死を司る人形(デスパペット)』のカルラだ。
実際に彼女が脱いで、そのあだ名がついたわけではないが、フォレストと戦い、彼女が結果的に素っ裸にされたため、そのあだ名が定着した。
「……そうですか……そう言ってくれると嬉しいです」
フォレストは魁斗を見上げて、笑みを零す。
そして、一歩前へ踏み出し、魁斗の胸へ両手を当てる。それから、背が低い彼女は背伸びをして、目を閉じ、唇を魁斗の頬へと付ける。
「ッ!!!???」
魁斗は突然の事に顔を真っ赤にする。
耳まで真っ赤にした彼は、思い切り動揺して、口を離したフォレストを前に何も言えない。
一方で、頬を微かに赤く染めるフォレストは、少し照れた様子で、
「……僕も一応女の子なので……あんま優しくすると、こうなりますよ……?」
魁斗は何も言えない。
それを汲み取ったのか、そんな魁斗をよそにフォレストは人間界への扉を開く。
「お世話になりました。これからも、どうぞ宜しくです」
「……あ、ああ……」
魁斗の顔はまだ赤い。
魁斗はいそいそと扉をくぐり、、扉の先に姿を消した。
扉が閉じ、巨大な扉は姿を消す。
フォレストはふぅ、と息を吐いて、
「……出てきてくださいよ。わざと、一人になったんですし」
フォレストの言葉を受け、スッと森の茂みから一人の人影が姿を現す。
目元以外を露出させておらず、身体全体を漆黒の衣装に包んだ、いかにも怪しい雰囲気の男だ。
そんな相手の様子を確認し、フォレストは腕を組む。
「で、何の用ですか?うお座の守護の証ですか?それとも……」
「貴様の命だ」
瞬間、男の二本の刀がフォレストの首に左右から襲い掛かった。
255
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/15(木) 16:02:09 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
ここでは初めてのコメントですねノ
というか、コメントが遅れてしまい申し訳ないです;
とても楽しく読ませていただきました!
戦闘描写も相変わらず上手くて、とにかく尊敬です←
キャラはみんな素敵なのですが、特に桐生くんとフォーちゃんがお気に入りです^^
『死を司る人形(デスパペット)編』を読んでいた時は「桐生くんはカッコよすぎる!!」だったのですが、今では「フォーちゃんかわいいよフォーちゃん」も追加されましt((蹴
さて、フォーちゃんに敵が来たわけですが、圧勝するフォーちゃんも見たいけど、ピンチから逆転するフォーちゃんも見たいという、ちょっと欲張りな事を考えていたり((
このままではフォーちゃんの事で埋め尽くされてしまいそうd((
それはさて置き、続き楽しみにしています! これからも頑張ってください^^ノ
256
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/16(金) 18:25:45 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪さん>
コメントありがとうございます^^
楽しく読んでいただけるなんて、とても嬉しいです。
戦闘描写にはそれなりに力を入れているので、評価してくださってありがとうございます!
わーお、まさかの桐生とフォーちゃん推しですか!
こう考えると主人公が割と不人気気味でs((
桐生とスノウの戦いに力入れ過ぎたなー、とか思っているのですが、今ではそれもいい方向に転がっているようで((
フォーちゃんは僕もお気に入りなので、出てくる時は愛を込めて書いております^^
敵来ましたねー。
だいぶ他人事のような調子で言ってますが……。まあ、ここからはあんまフォーちゃん活躍しなi((
その代わりに同じロリ要員のメルティが出るかな((
はい、頑張らせていただきます。
これからもお互い頑張りましょー^^
257
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/17(土) 09:46:23 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十閃「襲い来る雷撃」
魁斗が天界から帰ってくる日。
桐生は学校へ向かう朝から機嫌が悪かった。
理由は一つだけだ。
朝携帯電話を開くと、メールが届いていた。カテリーナからのものだが、彼女がこっちの世界に来てからは、珍しくもない。
彼が機嫌を悪くしたのは、彼女のメールの内容だ。
『今日私ズル休みしたいから。適当な理由つけて休みだって事伝えといて!なーに、桐生君頭良いから朝飯前でしょ』
一瞬、桐生は『本気で殴ってやろうか、こいつ』と思った程だ。
そんなこんなで、今は機嫌がひどく悪い。
今ならすぐに中学生の喧嘩っ早い桐生仙一に戻れる気がする。
そう思っていた彼に、二人の少女がぶつかりそうになる。
「おっと!」
「うわっ!」
その少女は桐生の胸くらいの身長だ。二人の身長はほぼ変わらない。
容姿は、肩くらいのショートカットの少女と、長さは肩くらいなのだが、左側の髪を一まとめにくくっている少女。二人の顔つきはよく似ていて、双子というやつだろう、と桐生は考える。
自分の不注意もあったせいで、桐生は相手の少女に声をかける。
「ごめん。考え事をしてて……。怪我はないかい?」
「あ、はい!ぜんぜん大丈夫ですよ!」
「こちらこそ、しっかり前を見てなくて。申し訳ありませんでした」
二人の少女はぺこっと頭を下げる。
彼女達も通学中なのか、セーラー服を着ていた。しかも、老人達が見たらあまり快く思わないであろう何かをかたどったおそろいのピアスを、二人の少女はつけていた。
桐生がその形に見覚えがあったが、
「では、私達はこれで!」
ショートカットの方の子が、そう告げて去っていく。
桐生も大して考えないように、振り返らずに、足を学校へと運ぶ。
すると、後ろから恐ろしいほど、無垢で。純粋で。無邪気な殺気が襲い掛かる。
桐生は剣(つるぎ)を出すことも忘れ、振り返る。
襲い掛かったのはさっきの左側の髪をまとめていた、さっきの少女だ。
そこで、桐生は思い出す。
彼女達のつけていたピアスが、『ふたご座』のマークをかたどったものだと。
「あっれー?」
藤崎は携帯電話に耳を当てて、疑問の声を浮かべる。
彼女が電話をしていたのは桐生だ。
普通ならすぐ出てくれるはずだが、最近会ってないし、という可愛らしい理由で、事務所に向かう車内で電話をかけていた。
だが、受話器から聞こえてくる音はコール音ばかり。
藤崎も諦めて、携帯電話を閉じ、ポケットにしまう。
むっすー、と明らかに機嫌を悪くする藤崎の顔を、運転手の二十代の青年は見逃さなかった。
「……不機嫌だね、恋音ちゃん。彼氏にでもフラれた?」
瞬間、藤崎は『ぶっ!?』と噴出してごほごほ、とむせる。
「ち、ちち違いますっ!桐生君と私はそういう関係じゃなくて、ただの友達です!恋愛ネタでからかうのやめてくださいよ!」
「ハハハ。これは失敬」
藤崎は運転手と友達のような感覚で話す。
運転手の斉藤春一(さいとう はるいち)は藤崎が芸能界デビューしてきた時から、ずっと彼女を支えてきた、藤崎にとって良いお兄さんのような人だ。
「……で、その桐生君。だっけ?恋音ちゃんは、彼のこと、結構信頼してるんだ」
「え、あ……はい。いつもなら、すぐ電話に出てくれるんですけど……」
斉藤の目が僅かに細くなる。
それから、彼は口を切った。
「……まさか、女が出来たとか―――」
「だからそういうネタでからかうのはやめてくださいっ!!」
車内に藤崎の叫びが反響する。
258
:
ライナー
:2011/12/17(土) 10:19:15 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
おお、いよいよ双子座登場ですか。双子座だけあってホントに双子が担当している!
ってか、桐生どうなる!? 相手は2人いますが、是非、勝って欲しいものです。
双子の剣の能力も気になりますね……
続きも楽しみにしております。ではではwww
259
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/17(土) 10:25:56 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
ふたご座は『十二星徒編』思いついた時から「よし、双子にしよう!」と決めてました。
あと、桐生と戦わせるというのもw
桐生君は強いので、多分大丈夫です。状況しだいで、魁斗より強いはず((
双子の剣(つるぎ)の能力は……明かせるかなぁ?
そこはちょっと考えてますね^^;
しかも恋音が桐生にデレ始めてる件w
斉藤さんもきっと大変です……。
260
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/17(土) 22:36:59 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ふたご座のマークをかたどったピアスをつけている中学生、双葉結花(ふたば ゆいか)と妹の双葉解花(ふたば ほどか)は街中を手を繋いで歩いていた。
二人ともセーラーの制服を着込んだままなので、昼過ぎの街中で彼女達はかなり目立っている。
街の人の視線をいちいち気にする解花に、結花は面倒そうな口調で告げる。
「……解花。いちいち気にしないの。死ぬほど面倒だから」
「だって、結花姉。ちらちら見てくるんだもん。私は結花姉を他の奴に見られたくないの!」
その言葉を聞いた結花は、無表情な表情を一つも変えずに、解花を頭を撫でてやる。
撫でられた解花は『うにゃー』と幸せそうな声を出して、結花の腕にしがみ付くようにくっつく。
「ねーねー、桐生だっけ?あいつ、死んだと思う?」
「……どうだろうね」
二人の会話は、先ほど仕留めた相手の話へと変わっていく。
「死ぬほど痛めつけて、死ぬほどボコって、河川敷の鉄橋の下に置いてきたから。動くのはしばらく無理だろうね」
その言葉を聞いた解花はにっこりと笑みを浮かべる。
嬉しそうなのは表情だけではない。声までも嬉しいのが伝わり、彼女は楽しそうに話し出す。
「だねー。これで私達もリーダーに褒められるねー」
「……まあ私達、リーダーが誰だか死ぬほど知らないけど」
藤崎は自分が出る歌番組の楽屋で、リラックスしていた。
彼女は収録前に必ずすることがある。
一つは、楽屋でリラックスすること。二つは、友達の写真を見ることだ。
何でも、自分の自己暗示かもしれないが、友達の顔を見れば安心するらしい。
藤崎は携帯電話のフォルダに入っている、魁斗達の写真を見る。
すると、急に着信が入る。
「ッ!!!???」
大きく肩をビクッと動かして、椅子から転びそうになる。
表示された名前は『桐生仙一』。
藤崎は慌てて、電話に出る。
「ひゃ、ひゃい!?ふ、藤崎ですですけども!?」
かなりおかしな日本語になってしまった。
いきなり電話がかかってきたことに驚いて、かなりテンパっているらしい。
電話の向こうの声は、そんな様子に気づかないのか、こう返してきた。
『……ああ、元気そうで良かった……。そっちは、何とも……ないようだね』
藤崎は電話越しの声に違和感を感じる。
どこか力を振り絞るように聞こえる。
「……桐生君?大丈夫?」
『……僕は何ともないよ……。少し、食らったけど……向こうの詰めが甘くて助かった……』
藤崎は不安な表情を隠せずにいる。
『……携帯を見てみたら、着信が入ってたから……。手遅れじゃないなら、用件を聞くけど……』
「えぇっ!?あ、いや……。今日仕事でさ、最近会えてないから……ちょっとでも話してリラックスしたくて……」
受話器から桐生のフッという笑いが聞こえる。
『そうか……。ならいいけど……かえって不安を煽るような結果になってごめんね……』
「ううん、いいの。……本当に大丈夫?」
大丈夫だよ、と桐生は返す。
それから立ち上がるような力んだ声が聞こえた。
『……仕事、頑張ってね……。応援してるよ』
「うん。わざわざありがとう。じゃね」
藤崎は安心したような調子で電話を切る。
その様子を見た、斉藤は悪戯のように呟く。
「彼氏、ですか?」
「だ、だから違いますって!!」
藤崎は慌てて否定する。
だが、他の人が見れば今の会話の内容は、カップルみたいだった。
桐生は、河川敷の鉄橋の下で、刀を杖代わりに地面に突き刺し、身体を支えていた。
僅かに息を乱しているが、今の彼にゆっくり休む暇などない。
彼は指で眼鏡を上げて、軽く深呼吸をする。
「……さて、年下の女の子へ。お仕置きしにいくか」
桐生はよろよろとしながら、中々おぼつかない足で歩き出す。
「女の子を苛める損な役回りは、僕の仕事だ」
261
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/18(日) 17:40:35 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
日も落ちてきた夕方、双葉結花と解花の二人は河川敷を歩いていた。
この河川敷の鉄橋の下に、二人は桐生仙一を置いてきたのだ。
今彼はどうしているのか、そう考えて生きていたなら殺すし、死んでいたらそのまま放って置く。どちらにしても、彼の運命は決まっていた。
二人は死んでいるだろう、と意見を一致させ、鉄橋の下へと足を運ぶ。
だが、そこには人一人どころか、何も無かった。
血痕も、誰かがいたであろう痕跡も、何一つ残っていない。
「……?」
「あれ!?ここにいた、桐生仙一は?何で?何で何も無いの!?」
「落ち着いて、解花」
慌てる解花に、結花は優しく語り掛ける。
自分たちが置いた場所に間違いないはずだ。
反対側かもしれないが、反対側にも赤いもの、つまり血痕は見えないし、桐生仙一らしき人影も見当たらない。
すると、結花の携帯電話がポケットの中で振動する。
誰かからのメールを受信したようだ。
結花は冷静に携帯電話を開いて、メールの内容を確認する。
メールの送り主は『K.S』と表記されていた。
『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーだ。
結花は届いたメールの文面を口にする。
「……『貴女達に伝え忘れた桐生仙一の情報について。彼は元『死を司る人形(デスパペット)』の隊長である、スノウに修行をつけてもらっていた。当時の彼は、今と比べ物にならないくらい、鋭く尖っていて、強く輝いていて、引き際も往生際も諦めも人相も、全て超がつくほど悪い人物だった』……?」
「待ってたよ」
メールを読み終わると、言葉とともに、結花と解花の二人は背筋に何か寒いものを感じる。
氷じゃない。水でもない。殺気に似た、身の毛もよだつような、気配だ。
「「……ッ!?」」
二人は急いで振り返る。
彼女たちより十メートル程離れたところに、一人の人影が立っていた。
水色の髪に、細めの身体つきの、眼鏡が似合いそうな少年。
そう、桐生仙一だ。
彼は顔に、手当てしたような形跡があるが、目は鋭くしっかりと二人を捉えていた。
「……!」
結花と解花の二人は言葉を失う。
だが、相手は手負いだ。
二人で一斉にかかれば、楽に倒せるはず。
結花は指輪になっている剣(つるぎ)を発動させる。
双剣の片方を、解花に渡す。
二人の剣(つるぎ)『双雷閃(そうらいせん)』は、攻防一体の刀だ。
現在、結花が持っている方が『攻』の刀、解花の方が『防』の刀だ。
二人は絶妙なコンビネーションで、桐生を追い詰め倒した、というわけだ。
二人は刀を構え、左右逆に走り出し、桐生を挟撃する。
『防』の刀でも、攻撃は出来るのだ。
「お前はもっかい、結花姉と私にやられちゃえ!」
「……復活とか、死ぬほどウザイし」
二人の攻撃を待ち構え、桐生は刀を地面に突き刺す。
たったそれだけだ。
だが、結花と解花の二人の動きを縫い止めるように、肌を傷つけないように服だけを貫くように、氷の氷柱が地面から生える。
桐生は、身動きが取れない二人に、告げる。
「……同じ相手だと思うな。今の桐生仙一は、君らの知ってる桐生仙一じゃない」
262
:
ライナー
:2011/12/18(日) 17:55:21 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
ついに桐生君のバトルスタートだ!
桐生ファンとして、無傷を望m((殴
攻と防に分かれているとは、というかそれ以前に2対1なんてひきょーだぞ! 双子め!(実は自分は双子座)
いや、桐生君なら強いから2人なんて余裕だ! と思います。
ではではwww 続きを楽しみしております。
263
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/18(日) 19:55:55 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
桐生は上から落ちてくる何か光る物を手でキャッチする。
落ちてきたものは二つ。
どちらも歪な形の物がくっついたネックレスだ。桐生はその二つのマークをくっつけてみる。
ふたご座のマークだ。
桐生は下から氷柱を出した際に、二人のネックレスを上に弾いていた。『守護の証』が手に入れば、桐生としても双子に用はない。
「……じゃあな。時間が経てば、氷も消えるさ」
「……待て……ッ!!」
歯噛みしているような振り絞る声。
後ろで、黄色い光が瞬く。
桐生が振り返ると、双葉結花の方が、電撃を放ち氷を砕いて、動けない状態から脱出した。
だが、氷を砕くために電撃を流したのと、氷柱で衣服を貫かれたのとあって、彼女の服はあちこちが破けていた。横腹や太もも、左肩。見られて困るようなところは大丈夫なようだ。
結花はかなり鋭い目つきで、ギロっと桐生を睨みつける。
「……まだやる気か」
「……諦めるか。私はお前を、死ぬほど叩き潰したいんだ……!そして、死ぬほど後悔させてやるッ!」
桐生は小さく息を吐き、断言した。
「お前には無理だ。今ので分かったろう?お前と俺とじゃ差が開きすぎている」
桐生の言葉に、すぐさま結花は言葉を返した。
「そ、そんな事あるもんか!私達は、お前に一回勝った!お前に死ぬほど電撃を浴びせた!だから、もう一回勝つ事だって死ぬほど楽な―――」
「ああ、不意打ちだったらな」
桐生の言葉に、勇んでいた結花の言葉は詰まる。
解花は姉に加勢すべく、氷から開放されようともがいている。
「……、じゃあ、じゃあせめて、『守護の証』を返し、解花を開放しろ」
「……じゃあ誓え。二度と俺達の仲間を攻撃するな」
桐生の言葉に、結花は小さく頷いた。
それを見て、桐生は解花を囲っていた氷柱を砕き、持っていた『守護の証』を空高く上へと投げる。
「……ッ!」
結花と解花の視線は上へと集中される。
二つを合わせた『守護の証』は空中を舞いながらも、形を保ったままだ。
上へと意識が集中する二人に衝撃が走る。
目に見えない、心に走ったものではなく、彼女達の身体に走った。
下から出てきた氷の棒に、二人は強く顎を突かれる。
「……ッ!?」
二人は強い衝撃に、そのまま後ろへと倒れこむ。
落ちてくる『守護の証』の首を通す部分に、桐生は刀身を通す。
「……お、お前……!」
結花が振り絞るような声で、倒れながら桐生を見る。
桐生は刀身に通した『守護の証』をポケットにしまい、
「……言ったはずだ。『今の桐生仙一は、君らの知っている桐生仙一じゃない』ってな」
つまり、と桐生は一度言葉を区切って、告げた。
「卑怯な手も使うさ」
桐生はその場を去っていく。
騙された結花は歯を食いしばり、強く地面を叩く。
涙さえも、悔しみの言葉も、何も出なかった。
「お疲れ様」
桐生仙一に一人の女性が話しをかける。
桐生がそちらへ振り返ると、ハクアが立っていた。
どうやら戦いを全て見ていたらしく、戦っているのが桐生だから手を出さないでいたらしい。
「……見ていたんですか。加勢してくれても良かったのに」
そこでハクアは見た。
桐生仙一が、いつもの彼に戻るのを。
「やっぱアレは演技だったので。わざと悪役ぶっちゃって、下手っぴよ?」
「……勘弁してくださいよ。僕にはアレが限界なんですから」
ふふ、とハクアは笑みを浮かべる。
「……手当て、ありがとうございました。では」
桐生はひらっと手を振って、帰っていく。
ハクアはその桐生の後姿を見ながら、ポツリと呟いた。
「……なーんか、もうちょっとカイト君みたく表情を表に出していいと思うんだけどなぁ」
一方、天界でも一つの戦いが終わりを迎えようとしていた。
突如現れた双剣を使う男と、フォレストとの戦いだ。
だが、結果は同じとは限らない。
「……はあ……はあ……」
二人の人影がある。
一人は怪我を負い、肩膝をつき、息を乱している、少女。
もう一人は、それをつまらなそうに見下ろしている、男性だ。
そう、天界の方では天子側ではなく、『十二星徒(じゅうにせいと)』側が勝利しようとしていた。
「……案外つまらんな。貴様」
男の言葉に、フォレストは悔しそうな表情で、相手を睨む。
264
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/18(日) 19:59:50 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます!
桐生君は女の子と戦うのが苦手な人です。
スノウの時はそれを感じれなかったけど、スノウさんは別です。あの人は普通じゃないからです。
それがふたご座なんです。
あの子達はどっちかが欠けたらどうにもなんない、面倒な奴らです。しかも両方シスコンです((
意外と桐生君は余裕ありますからね。
ハクアさんや、エリザに次いで、余裕ありますよ(多分)。
265
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/22(木) 21:58:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十一閃「孤立無援」
自分を見下ろす、二本の刀を持つ男を、膝をつき、傷を負っているフォレストは見上げるような形で、相手を睨む。
現在、フォレストの武器である『銀嶺光矢(ぎんれいこうや)』は手元にない。
彼女の武器である弓は、後方に転がされてるも同然と言った様な形で、置かれている。
正確に言えば『置かれている』ではなく、『弾き飛ばされた』が正しい。
相手の猛攻を耐えるために、弓で相手の攻撃を防いでいたフォレストだが、やはり十五歳の少女の腕力が耐えられるものではなkったらしく、簡単に弾き飛ばされてしまった。
つまり、手元に武器がないと言う事は今のフォレストに戦う術がない、ということだ。
「……」
フォレストは、相手に気づかれるか気づかないかくらいの微妙な動きで、後方へと振り返る。
移るのは弾き飛ばされた自分の頼もしい武器。
勿論、念じても拝み倒しても武器は、自分が取りに行かない限り、自分の元に戻らないだろう。
彼女は懐に手を突っ込み、ごそごそと何かを取り出そうとしている。
それを、男は心底つまらなそうな表情で見下ろしている。
「……何をしている、貴様。まさか、ここまできてまだ無駄な足掻きを行おうとしているのか」
フッと、フォレストは不適な笑みを見せた。
余裕とも取れるほどの、不適な笑みを。
「無駄かどうかは、見てから決めてくださいよ」
フォレストは手を引き抜く。彼女の小さな手には、黄色い玉が掴まれていた。
フォレストは、その玉についてあるピンを口で引き抜くと、地面に落とすように、パッと手を離す。
「……ッ!?まさか、手榴……!」
男の言葉はそこで止まった。
玉が落ちると、起きたのは爆発。ではなく、眩いほどの光だった。
フォレストが使用したのは、閃光弾だ。
こんなこともあろうかと。
ザンザとクリスタが訪れた際に、武器を数個受け取っていたのだ。
フォレストは弾が光ると同時に、後ろへ駆け出し自身を弓を掴み取る。
掴み取った瞬間だった。
気を緩めていた彼女の首の左右に、後ろから鋭い刀の刃が向けられる。
「……、後ろを向いて、どうする気だ、貴様。作戦は良かったが、詰めが甘いな」
フォレストの動きが、弓を掴んだままで止まる。
振り返って、自身の魔力で矢を生み出し、矢を引いて放つより先に、相手の刀が自分の首を切り落とす方が早いのは明確だ。
だからこそ、下手に動けないのだ。
「……」
フォレストは相手に気づかれないように、歯を食いしばった。
男は当然それに気づいていない。
「……終わりだ、貴様」
男が左右の歯をフォレストの首に食い込ませようとした瞬間だった。
ドッと、強烈な音とともに、男の横っ腹に光の球体がぶつかり、男の身体が横向きにくの字に折れ曲がる。
「……何……?」
男は状況が理解出来ないままに、横へ飛ばされ、木にぶつかり、そのまま木をへし折ってしまった。
状況が分からないフォレストが目を点にして、吹っ飛んだ相手を見つめていると、後方から声が飛んでくる。
「まったく、その子は死なせたくないのよ。何故かって?薬の補給路が断たれるじゃない」
後方からの声は、幼い声だった。
フォレストよりも幼く、それでいてどこか甘ったるい。だが逆に、その声を聞いたら、自然にも悪寒が走るような、寒気も感じさせる。
だが、フォレストは寒気を感じることはない。
何故なら、この声の持ち主を知っているからだ。信頼できる相手と分かっているからだ。仲間だと説明しなくてもいいからだ。
フォレストは、相手の名前を口にしながら、振り返る。
「……エリザさん……!」
後方にいたのは、金髪の髪をツインテールのように分けている幼女と、見た目十八歳程度の、黒髪をポニーテールにした、右目に眼帯を当てている女の二人だ。
「んにゃー、大正解。クリスタもいるけどねー」
「助けに来た、と。ベタに言った方がいいかな」
266
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 13:31:30 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
現在、森の中で一人の人物を左右から挟むように、二人の人物が立っている。
一人はアフロヘアーで、サングラスをした男。もう一人は強面のガタイがいい大男だ。
アフロヘアーの方の男はナイフを、ガタイがいい男は矛のような武器を構えている。
彼らの間にいるのは、一人の少女。
銀髪の髪を持ち、ハルバード型の武器を担ぐように持った、見た目十六歳程度の少女だ。
少女は今の状況を把握し小さく息を吐く。
数で押せば勝てると思ったのか。負けるはずがないのに。
銀髪の少女、メルトイーアは溜息をつきながらそう思っていた。
「ヘイ!どーしたんだヨ!溜息ついちゃって。ミー達に勝てないと思ったからかい?」
「……モォ」
アフロヘアーの男が陽気に話すのとは対照的に、大男は小さく唸っただけだった。
メルティは二人を交互に三度見てから、
「いや、別に。たださ、アンタ達って何者なのって思っただけよ」
アフロヘアーの男のサングラスが、キランと光ったように見えた。
待ってましたよ、その質問!と言いたげな感じで、男は答える。
「ミー達はユー達の新たな敵!『十二星徒(じゅうにせいと)』だぜ!」
「……ぶぅ」
またまた大男は小さく唸る。
アフロヘアーの男の回答に、メルティは『へー』と小さく返す。
「……その十人生徒が何の用?ってか学級閉鎖じゃん」
「ノーノー!十人生徒はノット!まァ、俺らが何者か名乗ったところで理解はしなくてもいいケドな!」
メルティは面倒そうに息を吐いて、頭をかいている。
二人の男が武器を再度構え直し、ナイフの切っ先と矛の切っ先をメルティに向ける。
メルティの身体から、余裕が消え真剣さがみなぎる。
「……ユーはここで殺られんだぜ」
「……俺、我慢できない……!……早く、殺したい……!」
大男が始めて長い言葉を話した。
普通の人からすれば、長くない言葉だが、さっきから短い唸りを繰り返してきたところしか見ていないメルティには、長い言葉に感じられた。
メルティは自身が持っているハルバード型の斧を、担ぐのをやめ、両手で持つ。
「やっと休めると思ったのに。ホーント、私ってば情報屋だから人気だわ」
メルティの斧に、雷が纏う。
バチバチ、と電撃が走る音が連続して、メルティと男二人の耳に届く。
「さってと、せめてウォーミングアップ程度は手伝ってよね!」
エリザは槍状の武器『蓮華(れんげ)』を手で回しながらフォレストの横まで歩み寄る。一緒にいたクリスタも同じようにエリザについてくる。まるで付き人みたいだ、とフォレストは思った。
「……大丈夫?フォーちゃん。ところでさ、アイツ何?」
エリザは不機嫌そうな顔で、立ち上がる男を睨みつける。
男は何事もなかったかのように立ち上がり、二本の刀を構える。
効いてないのかよ、と僅かに悪態をつきながらも、エリザは闘志を見せる。
「……クリスタ。フォーちゃんを治療してあげてね」
「……構わないが、お前がアイツと戦うのか」
エリザはこくりと頷く。
「ここで一番強いのって私でしょ。少しでも勝率が高い私が行った方がいいてのは、アンタも分かるでしょ?」
「……そうだな。任せた」
クリスタは目を閉じ、フォレストをお姫様抱っこで抱えると、木にもたれさせ、配慮のためか、戦いを見れるような体勢にした。
十五メートル程の間を空けて、二本刀の男はエリザを睨みつける。
「ハロー。さっきの効いた?」
「……少し」
男は刀を構え、そう答える。
エリザはやれやれ、と言った調子で額に手を当てる。
それから『蓮華(れんげ)』の切っ先を相手に向け、光の球体を作り出す。
「もっと痛い目見てもらうか。オニーサン♪」
ニィ、と無邪気で無垢で純粋な笑みを浮かべた。
267
:
ライナー
:2011/12/23(金) 17:36:26 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
何やらバトルがてんこ盛りですね!
個人的にはアフロヘアーの人物がメチャクチャ気になります(笑)
喋り方も個性的で、敵のオシメンはこの人で決まりですな (−v−)〜♪
アドバイスの方も少し……
バトル展開が広がってきて面白いのですが、登場人物が出過ぎているというのが少し残念です。
登場人物が出過ぎると、読者の理解が間に合わず、この人誰? と言うことになってしまいます。
例えば、複数のものを数えるとき、1つずつ出てくればそれをゆっくりと数えれば良いですが、一気に出てしまっては数えづらくなりますよね? これと同じ理由です。
それと、視点移動についてですが、正直多すぎると思います。
視点移動が多いせいで、さらに文章の理解が難しくなっています。
ちなみに、竜野さんが使っている手法の視点移動は、ほぼ、漫画がでしか使われない手法ですので、あまりに多い視点移動は止めましょう。
視点移動をする分には、その展開のバトルが終わってからなど、分かりやすい区切りを付けてあげましょう。
最後は、その視点移動の根本的なところです。
この小説の主人公は魁斗だと思いますが、出番が少なすぎます。
小説は主人公を視点に描くものであって漫画とは違います。漫画なら絵でどう登場人物が出ているか分かりますが、小説は文章で伝えるのはプロでも困難です。
今の状況だと、その主人公が、ただ話の流れを掴むもので、仲間がアクションを起こす。こんな役割配分に見えてしまいます。
あくまで主人公視点なので、主人公に見える範囲の状況をなるべく描きましょう。
主人公以外の視点を描くときは、その主人公の行動に直接関係している人物を単体で書く場合なので、そこらをもう少し注意して書く必要があると思います。
全く少しでないアドバイスでしたが、少しでも分かって頂けたらと思います^^;
ではではwww
268
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 17:47:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤崎恋音は日が暮れ始めた頃、仕事も終わり帰りの電車に乗っていた。
電車の窓から外を見れば、家の電気や外套の薄明るい光、落ちていく夕日のオレンジ色が街を照らしている。
綺麗だな、と藤崎が率直な意見を心の中で浮かべていた。
彼女は仕事へ行くときは車だが、帰りは電車で帰っている。
何でも斉藤春一は、藤崎を車で仕事場へ連れて行き、仕事が終わるまで待ってくれてはいるのだが、そのまま自分の家へ帰ってしまうのだ。
仕事場まで連れて行ってくれるだけで嬉しいのだから、帰りはなるべく電車を利用することにしている。
すると、藤崎の鞄の中で鈍い音が聞こえる。
藤崎が鞄を開けて、中を漁ると携帯電話の振動音だった。
(……何だろ?)
藤崎は携帯電話を開けて、着信かメールの受信かを確認する。
メールの受信だった。しかも相手は桐生仙一。
「ッ!!」
藤崎は僅かに肩を震わせて、急いでメールの内容を確認する。
『今日は色々と心配かけてゴメン。そっちは何ともないようで本当に良かったよ。じゃあ、会えたら明日学校でね』
何とも素っ気無い、桐生らしい文面だが藤崎にとってはそれだけで幸せだった。
しかし、彼女はハッとして首を横に振る。
(だー、違う違う!桐生君はただの友達であって、そういうんじゃないんだから!何過剰に意識してんのよ私ーっ!!)
すると、電車が藤崎の降りる駅に停車する。
藤崎が鞄を持って、電車から降りる。
階段を下り、ポケットから定期を取り出して、改札に定期を通す。彼女から駅から出ると、藤崎は目を疑う。
夕暮れの駅だというのに、人が一人も見当たらない。
それどころか、雨が土砂降りと言ってもいいほど降っているのだ。
藤崎の記憶にある今日の天気は午後の降水確率は0パーセント。しかも、電車の中で見た景色では、雨は降っていなかった。
(……どういうこと?もしかして、『剣(つるぎ)』の能力?)
切原魁斗達と知り合って以来、彼女は『死を司る人形(デスパペット)』という組織と死闘を繰り広げた。更に現在でも『十二星徒(じゅうにせいと)』という組織と戦っている。
急に雨が降っているし、地面には少し水が溜まっていた。
こんな奇天烈な出来事、『剣(つるぎ)』の能力以外では考えられない。
だが、天候までも操れる強力な『剣(つるぎ)』があるのか。藤崎が考えていると、何処からか音が聞こえる。
水が溜まった地面を歩く音。それとともに何かを引きずるような音だ。
藤崎が音の方向に振り返ると、一人の人物がこっちに歩み寄ってきている。
背は藤崎よりも低く、中性的な顔つきの少年だ。彼が引きずっているのはサソリのハサミを巨大化したようなもので、右手に纏わり付いている。
藤崎の直感が告げている。
いや、切原魁斗の仲間なら、誰でも彼のことをこう思ったはずだ。
(……『十二星徒(じゅうにせいと)』だ……!)
少年は藤崎から二十メートル程離れたところで足を止め、藤崎を見つめる。
「初めまして、藤崎恋音さん。いやー、写真や雑誌で見るより全然可愛いなぁ。ハッキリ言ってタイプですよ」
「……だから?」
藤崎は素っ気無い返事を返す。
相手が敵だと分かっているからだ。現に今の彼女の手には刀が握られている。
少年は笑みを浮かべて言葉を続ける。
「僕は『十二星徒(じゅうにせいと)』メンバーのさそり座を担当してます、名前はそのまんま。サソリです」
「だから何って言ってるのよ!アンタが敵なら、私はただ、倒すだけよ!」
藤崎が突っ込む。
彼女はまだゲージが溜まっていないため、自身の魔力で炎を作り出す。炎を纏った刀で、サソリへと思い切り振り下ろす。
が、
彼女の刀はサソリの巨大な右腕によって止められていた。
しかもそれだけじゃない。
彼女の刀に纏った筈の炎が跡形もなく消えている。
「ッ!?」
「あらあら、大変ですね」
サソリは不適な笑みを見せ、こう告げる。
「こんな雨が降って湿気が溜まってる場所じゃあ、炎なんて扱えませんねー」
269
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 18:01:07 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい。
『死を司る人形(デスパペット)』編でもやったような、敵が来てそれを倒す、みたいな展開ですが……。
ちなみに、アフロさんはおひつじ座。大男はおうし座です。
大男は気付いてもらえるように、開口一番『……モォ』と言わせています。
気付いたでしょうか?
現在、藤崎さんがヤバメです。メルティとエリザのロリ二人は心配ないです((
あー、だからなるべく、『十二星徒(じゅうにせいと)』編に入ってから、今まで出てきたキャラが出るたびに、容姿を説明させているのですが……。
それだけじゃちょっと足りないですかね?
これ言っちゃいけないと思うんですけど、正直全員分の戦い書くのつらi((
だから次に視点が戻った時に、決着つきましたよ、的な感じにしようと思ったのです。
でも、多すぎるというのが問題なんですよね。
少なくするように心がけなくては。
はい、仰るとおり魁斗君です((
>>268
を書いてる時に名前を出して気付きました。
『あ、最近コイツ見ねぇな』って((
彼は桐生戦、エリザ戦、メルティ戦、藤崎戦が終わってから出そうという予定なのですが、さすがに出番がないですね……。
この四人でここまで時間がかかるとは……。まあ四つもあるし((
一方でハクアは出てきたけど、高校生組が出ない((
レナとかサワは何してるんだろう。藤崎さんのお友達、國崎さんも出番が……。
いえいえ、むしろダメな点を多く指摘してくださった方がこちらとしても助かります。
意外とダメなところは自分では気付かないので……。
ありがとうございました^^
270
:
ライナー
:2011/12/23(金) 19:11:11 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
とりあえず、疑問を解決するべくコメント返しておきます。
容姿ですか、むしろ容姿は無いか少なめで良いと思います。
小説には、読者に想像させるという裏の顔を持ち合わせ、僕のようなこの小説にはまっている読者はほぼ想像しちゃってます^^;
ですので、そこら辺は作者の自由と言うことになるので、大丈夫です。
大切なのは存在感です。
コイツはこういう名前で、こういう性格で、こういう能力(武器)を持っている。といった情報を分かりやすくすると良いでしょう。
やはり全員分は辛いでしょうね^^;
人数が多いので、以前も言いましたが何人か自然にカットすることをお薦めします。
それと、この話ではコイツとコイツのサブキャラを出そう、などあらかじめ出すキャラクターと出さないキャラクターを決めると良いでしょう。
例に挙げると、ブリーチなどが良い例です。
あまり詳しくは知らないのですが、死神の時と通常の人間の時で世界が違うためキャラの変更をしやすいです。
竜野さんもせっかくそう言った世界観があるので、天界と人間界の2つでステージを分けるとより一層分かりやすくなりますよ。
いえいえ、自分なんかのアドバイスで喜んでいただけるとは恐縮です。
それとお詫びが……
擬音に関してですが、「!」は1つなら使用が可能らしいです。本当に申し訳ありません。
さらに、繰り返し言葉以外の擬音の使い方として、一番メジャーで無難なのが、溜めてドンです。
―――(擬音)
てなかんじです。
例を挙げると……
俺は銃を持ち上げ、ゆっくりとターゲットに向かって引き金を引いた。
―――カチッ
撃鉄の乾いた音が、額に冷や汗を浮かべさせる。
このように、引き金を引いたなら銃声がする、と言う常識が擬音によって何でカチッ? と、疑問を持たせることで、興味を持たせ、より読みやすくなるのですね。
ご参考までに^^
ではではwww
271
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 20:04:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
あ、そうなんですか。
久々に出てくるキャラなどはちょこっと説明を入れた方がいいと思っていたり……。
魁斗を含むメインキャラ(レナ、ハクア、桐生、藤崎、沢木)は結構出るので、説明は不必要と自己解釈してますが、メルティとかフォーちゃんとかエリザとか(ry
説明を入れた方が、いいかなと思ってました。
むしろ、名前、性格、能力などを入れた方がいいのですね^^
僕の場合、結構行き当たりばったりな感じがします((
本来ならば、エリザとか出す予定なかったけど……、今出とるし。
藤崎さんは最初からさそり座と戦わせる予定でした。
さそり座はもっと、アイドルオタクっぽい奴にしようと思ってました((
ブリーチは僕も知ってますし、大好きな作品です。
言われてみれば、ソウル・ソサエティと人間界でのキャラの使い分けは上手いと思います。
そうなんですか。
擬音もそういう使い方があるとは……。
これから参考にさせていただきます^^
272
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/24(土) 12:52:46 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森の中を二人の人物が並んで歩いている。
元『死を司る人形(デスパペット)』の部隊長を務めていた、ルミーナとゲインの二人だ。
特に接点もなく、あまり会話もしたことがない異色の組み合わせである。
二人はエリザからの頼み(命令)で、ある人物の捜索を頼まれていた。
それが『幻の情報屋』と謳われている、メルティを見つけるためだ。
現在の『死を司る人形(デスパペット)』残党組のエリザ達は、主にザンザが方々を駆け回って情報を仕入れている。彼によると、この森でメルティらしき人物を見かけた、という情報が最も有力らしい。
何にしても、どんな情報でも提供できるメルティがいてくれれば、情報面でも心強い。
しかし、森の中を彷徨い小一時間。一向に見当たる気配はないし、人影すらも見つけれない。
「はー、ホンマにこんなトコにおるんかいな。メルティちゃん」
「……さあ。……でも、ザンザ君が頑張って教えてくれたんだし……」
諦めかけていたゲインの言葉に、ルミーナが返事をする。
ぶっちゃけると、ルミーナも少々諦めかけている。
だが、仲間の努力を無にしないために、諦めていない素振りを見せているのだ。
ゲインは溜息をついて、ルミーナにある提案をする。
「……もう帰らへん?」
「だ、だめです!それは絶対にだめ!もうちょっとだけ探しましょうよ!!」
ルミーナは必死に反抗して、もうちょっとだけ探すことを提案する。
女性に弱いゲイン(今はハクアにベタ惚れだが、可愛い子には頭が上がらない)は、ルミーナの提案にしぶしぶ乗ることにした。
すると。後方の方から、草を掻き分ける音が聞こえる。
現在森の中はかなり静かなので、その微かな音さえも鮮明に耳に届いた。
二人は振り返って、いつでも戦えるように『剣(つるぎ)』を発動する。
だが、出てきた人物は意外な人物だった。
銀髪の髪に、ハルバード型の武器を持った少女。
そう、メルティだった。
「……おや?奇遇だね、お二人さん。デート中だった?」
彼女は後ろの襟を掴んで、アフロヘアーと大男の『十二星徒(じゅうにせいと)』を引きずって登場した。
「ほらぁ!」
一方、人間界では藤崎恋音とサソリが戦いを繰り広げていた。
駅の近くだというのに、人が一人もいない。そのためか、サソリも容赦なく攻撃しているように見える。
彼はハサミ型の大きな右腕を振り回して、水の刃を放つ。
藤崎が身体を逸らしてかわすと、水の刃は電柱に当たり、電柱が綺麗に切断された。
(……電柱が……っ!)
藤崎は綺麗に切断された電柱を見て、背筋に寒気を感じる。
あんなもの食らえば、藤崎の華奢な身体も綺麗に真っ二つだ。
「……くっ!」
藤崎は距離を取って、刀を前方に構える。
サソリはそれを笑みを浮かべながら見つめている。
「いやぁー、雨に濡れて制服が透けてるね。良い感じに色っぽいよー」
「やかましい!戦いに集中しなさいよ!」
藤崎は相手の言葉に顔を赤くして、手で胸の辺りを覆う。
(……こんな状態じゃ炎を生み出せない。さっきから何度も試してるけど、ちょっとの火も灯せなかった。しかも、水場で動きにくいし……)
今の戦場は藤崎にとって、状況の悪い戦場だ。
水場で雨が降り、湿気が充満してるため、炎を使った攻撃が全く出来ない状況だ。
炎を使うことが出来なければ、藤崎の『剣(つるぎ)』もただの刀になってしまう。
(……、室内に移動した方がいいかな)
藤崎は戦えそうな場所へ移動するために走り出す。
「鬼ごっこ?いーよ、僕鬼ごっこ大好きだしさ」
サソリも藤崎を追うために、走り出す。
藤崎は走りながら、ポケットの中から携帯電話を取り出そうとする。
「……とりあえず、アイツと私じゃ相性が悪すぎる……!誰かに助けを求めて……」
そこで、藤崎の足が止まる。
ふとした疑問が彼女の心に浮かんだからだ。
『切原君達と会ってから、自分は一人で勝った事がないんじゃないか?』
ザーディアの時だって、桐生に助けてもらって勝ったし、エリザ戦では負けた。ルミーナの時だって、フォレストの助けがなければ殺されていたかもしれない。
「……だめだ。誰かに頼るようじゃ……私はまだ、だめだ……!」
藤崎が俯いて、歯を食いしばる。
その時、後ろからサソリの巨大な右腕が襲い掛かってきた。
273
:
ライナー
:2011/12/25(日) 15:44:44 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
サソリの水の威力が恐ろしいほど凄いことになっていますね^^;
電柱が切れるとは……クワバラクワバラ……
にしても変態ですな、サソリさん。負けたら藤崎さんが襲わr((殴
さてさて、どうなる事やら。これからも楽しみにしております!
ではではwww
274
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/25(日) 20:36:31 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
サソリのハサミから出る水は『ウォーターカッター』というものと酷似しています。
でも連発は出来ないので(( せめて三秒程度間を空けないと無理です。
サソリ君は変態ではなく、ただエロいだk((
はい、期待に沿うよう頑張ります^^
275
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/29(木) 19:31:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十二閃「RE-ON!'s Victory!」
サソリの背後からの奇襲を何とかかわし、その後の猛攻も全てかわし切った藤崎は右肩を押さえながら息を切らし、雨が降りしきる駅の付近を走っていた。
今は何とかサソリの追撃を振り払い、身を隠そうとしているところだ。
右肩は追撃を振り払う際に、僅かに水の刃に切りつけられた。傷は浅いし、何とも無い。
(……どうする?)
ビルにもたれかかって、藤崎は考える。
どうすれば相手に攻撃を与えられるか。
隙ならば今までも何度かあった。それだけ相手が自分に手加減をしている、という表れだ。だが、その隙を有効に活用できない。
攻撃しようとすれば、リーチと幅が大きい右腕に防がれてしまい、今度はこっちに隙が出来る。相手もその隙を見逃さず、すぐに反撃へと転じてくる。
まず相手の巨大な右腕と大きいだけの刀じゃ、リーチどころか威力も違ってくる。
藤崎は、ほとんどの面でサソリに負けている。
藤崎はポケットに手を当て、中に入っている携帯電話の感触を確かめる。
桐生仙一、レナ、ハクア。今の藤崎には頼れる強い仲間が存在する。
だが、藤崎は決めていた。
(―――、ダメだ!)
藤崎は刀の柄を握る手に、力を改めて強く込める。
(―――、私の力で勝つんだ!!)
藤崎がそう誓い、再びサソリのところへ行こうとした瞬間、
―――シュカン、と。
綺麗な切断音が藤崎のすぐ近くで聞こえた。
見れば藤崎が今までもたれていたビルの壁が綺麗に真っ二つに裂かれている。
「……ッ!」
この状況で、今の状況で犯人は一人しかいない。
藤崎が前方を見据えると、睨みつけるようにこちらを見ているサソリがいた。
「……いい加減さぁ……鬼ごっこも終わりにしようよ。大丈夫。君は殺さないよ。でも、その代わりに君が僕の物になってくれればいいからさ」
サソリが水が溜まってきた地面を歩く。
(……勝つんだ)
一歩一歩ゆくりと、藤崎に歩み寄るサソリ。
(……勝つんだ!)
彼の右腕のハサミが、口のように、大きく開閉する。
藤崎は脚に力を込めて、思い切り地面を蹴る。
(絶対に勝つんだ!!)
藤崎は刀を振りかぶって、サソリに突っ込む。
一方、天界ではエリザと二刀流の男が激突していた。
男の表情は伺えないが、エリザは楽しんでいるように口元に笑みを浮かべていた。
「……ここで悠長に戦ってていいのか、貴様」
「……?」
男の不意の言葉に、エリザが眉をひそめる。
お互いが十分に距離を取り、睨みあっている。
「……ここで戦っている間にも、人間界での仲間の危機は迫っている。今は藤崎恋音が標的だ」
「……恋音ちゃんが?」
エリザが反応する。
彼女にとって藤崎恋音の存在は、自分が初めて対等と認めたライバルだ。自分以外に、藤崎恋音がやられてほしくない。
エリザの頭にそんな思考がよぎる。
だが、
「んー、恋音ちゃんなら心配ないかな。だって強いし」
エリザは相手が拍子抜けするほどの軽い言葉を返した。
勿論、エリザとしても何の考えもなしに言ったわけではない。
「……正気か、貴様。桐生仙一は傷を負い、レナとハクアは藤崎恋音が戦っていることに気付いていない。切原魁斗も帰ってきても気付かんだろう」
「……だーかーら。大丈夫なんだって。確かに、今挙げた四人は助けに行けない。私とクリスタとフォーちゃんだって無理だし、ルミーナとゲインとメルティじゃ今から行っても間に合わないでしょ」
なら、と一度言葉を区切って、
「私は何で余裕を見せてると思う?まだいるでしょ?アンタが忘れるほどの、影がうっすーい可哀想な子達が、ね!」
人間界で、藤崎とサソリの戦いに近づいてくる影が二つあった。
一人は身の丈ほどの大きな刀を背に背負い、もう一人はポニーテールの髪型だ。
大きな刀を背負った方。恐らく男だ。
彼は、面倒そうに呟いた。
「―――、行くぜ。くっだらねェ戦いを幕引きにすんぞ」
276
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/30(金) 11:15:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤崎とサソリが戦っているのを、遠くのビルの屋上から双眼鏡で眺める一人の人物がいる。
髪は短めの白髪で、ハットを被り、スーツを着ている、見た目三十代後半の男だ。
普通に見れば一般的な男性だが、彼が両手を置き、杖のようにしている一本の刀が『一般的』を潰していた。
彼も『十二星徒(じゅうにせいと)』の一人。やぎ座の八木という男だ。
そして不自然な点がもう一つあった。
藤崎とサソリが戦っているところは雨が降りしきっている。だが、八木のいるところは雨どころか、雨粒の一つも落ちてこない。実に綺麗な夕焼けが見えるだけだ。
「……どうやら、惑っているようですな」
八木は戦況を見ながら、一人で呟いた。
「私の剣(つるぎ)は、空間を作り出す。貴女にとって、とても不利な空間を作らせていただきましたよ、藤崎さん」
八木が言うに、今の藤崎とサソリがいるところは、八木の剣(つるぎ)が作り出したこの世に存在しない空間らしい。
それもそうだ。
何処の世界に夕方の駅前だというのに、人が一人もいないなんていう駅があるか。
雨が降り、水が地面に溜まり、湿気が多く火が灯せない無人の駅前。そういう空間を八木は作り出したのだ。
「……これで、天子側の一人は脱落ですね。まったくサソリも、私の力を使わないで勝ってほしいものですが……」
「いいんじゃねェの?仲良さそうで」
ふと、八木の後ろから声がかけられる。
そこにいたのは巨大な刀を背に担いだ男、ザンザだ。
彼の鋭い目つきが、八木を睨んでいるからか、より鋭く感じられる。
「……馬鹿なッ!貴方は今天界にいるはず……!」
「その天界にいる上司から、命令くらったのよ」
八木の隣にカテリーナが降り立つ。
そう。エリザが人間界の助っ人として送り込んだのは、ザンザとカテリーナだ。
ザンザは背中の刀をゆっくりと引き抜きながら、笑みを浮かべている。
「……さァ、覚悟はできるよなァ……?」
「……!」
ザンザがそのまま刀を八木に向かって振り下ろす。
剣(つるぎ)を持っている以外は、普通の男である八木は、咄嗟にかわすことも出来ず、刀が迫るのを待つしかなかった。
「うわあああああああああああっ!?」
しかし、響いたのは切り裂く音ではなく、鈍い打撃音だった。
ザンザの巨大な刀を利用した広い幅で、八木の頭を叩きつけたのだ。
八木はそのままぐしゃ、と崩れ落ち、ぴくぴくと僅かに痙攣していた。
ザンザは八木の首からネックレスを奪い取る。
「これがやぎ座の『守護の証』か」
一方、藤崎とサソリの戦況にも変化が起きていた。
雨が止み、地面に溜まっていた水が一瞬にして消えたのだ。
「「ッ!?」」
そこで、事実を知るサソリだけが辺りを見回し、慌てだす。
(……八木!?あのオッサン、やられやがったッ!?」
「……ふぅん」
サソリはハッとして振り返る。
そこには満面の笑みの藤崎がいた。
ここでお馬鹿なアイドル藤崎恋音は、何か勘違いをした。
今までのは全て幻覚だ、という平和な勘違いだ。
振ってた雨は幻覚で。水が溜まっていた地面も幻覚で。相手が出していた水の刃も幻覚で。濡れている服は、まあどうでもいいや。そんな平和な勘違いをして、藤崎は一気に距離を詰める。
サソリが右腕を突き出し、水の刃を出そうとしたが、
「遅いよッ!!」
藤崎が下から上に弾き上げるように、強く右腕を弾いた。
上に腕を上げられ無防備になるサソリの顔に藤崎の刀の峰が直撃する。
そのまま仰向けに倒れるサソリを見て、藤崎は力強く叫んだ。
「RE-ON!'s Victory!」
277
:
ライナー
:2011/12/30(金) 15:59:56 HOST:as02-ppp22.osaka.sannet.ne.jp
コメント失礼します、ライナーです^^
藤崎嬢勝ちましたね!
最後の言葉は名言ですなこりゃw
にしても、八木さん何か一瞬でしたが、出番これで終わり!? 何となく八木さん支持しますw
さて、今度はエリザさんの番でしょうか?
続きが楽しみです。頑張って下さい!
ではではwww
278
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/03(火) 21:55:24 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
藤崎嬢の勝利は結局、誰かの力を借りてまs((
いつかは一人で勝てるように頑張らせますw
ちなみに、本編の中でもちょろっと出ましたが、藤崎の英語の成績は赤点ギリギリセーフなので、あんま良くないです。この子は漢字しか出来ません((
……八木さんは一瞬ですね。後はカテリーナに懐漁られるくらいしか出番が((
次はエリザが決着&出来れば忘れ去られた主人公も帰還させます。
はい、頑張らせていただきます^^
279
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/03(火) 22:23:37 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ザンザは携帯電話を耳に押し当てていた。
耳元ではコール音が鳴り響き、しばらくして相手の声が返ってきた。
『もしもし?』
幼い少女の声だ。
ザンザは予想通りの相手が出たことに一応安心する。
彼女は自分の上司であるエリザだろう。
「報告だ。吉報だらけだぜ?まず一つ。藤崎恋音が勝った。さそり座の『守護の証』も同時に手に入れてる。それと、もう一つ」
ザンザはチラッと視線を横に向けて、告げた。
「やぎ座も撃退した。コイツは一瞬で済んだぜ」
『そーか。じゃあ私もお報せー』
甘ったるい少女の声の後に、お報せは返ってくる。
『こっちも一人片付けたよ。多分かに座。後ね、ルミーナとゲインの報告も。メルティがおひつじ座とおうし座片付けたって!』
ザンザは受話器の向こうでは余裕の勝利を収めたエリザの前で、かに座の『十二星徒(じゅうにせいと)』がコテンパンにされて倒れているだろう、と想像する。
エリザの報告と、自分達の成果、そして魁斗達の情報を全て整理して、
「つー事は、残るは……」
『うん。てんびん座、しし座、みずがめ座、いて座の四つだね』
フッとザンザは受話器の向こうでは分からないような笑みを零す。
「いよいよ大詰めだなァ。そろそろ決着も近いぜ」
『そーだね。ラストスパートがんばろー!』
自分の上司の激励の言葉を聞いて、ザンザは電話を切る。
携帯電話を折りたたみ、ポケットにしまってから視線を倒れている八木の方へと向ける。八木の方へ向けると、自然にカテリーナも視界に入ってきた。
何故なら、倒れてるオッサン(八木)の懐を、少女(カテリーナ)が漁っているからだ。
今にもこの場から走り去りたい気分に駆られたザンザは引いたような口調で、カテリーナに訊ねる。
「オイ、カテリーナ。お前何でオッサンの服の中漁ってんだよ」
「んー?珍しいモンがあるかなー、って」
ザンザは溜息をつく。
これは彼女とずっと仕事をしているから知っていることだが、彼女は倒した相手の懐を老若男女構わず漁りだす。答えは簡単だ。
珍しい剣(つるぎ)を持っているかもしれないから。
彼女は剣(つるぎ)マニアで、元『死を司る人形(デスパペット)』のメンバーも、彼女から武器を貰った者は多い。エリザ、ルミーナもカテリーナから剣(つるぎ)を貰っている。
彼女が探しているのは武器に留まらず、ハクアが沢木に渡した『神王の聖域(しんおうのせいいき)』やメルティの『時の皇帝(タイムエンペラー)』などの神具(しんぐ)も探している。
「お、これは珍しー!」
カテリーナが珍しく可愛らしい声を出す。
彼女が見つけたものはブレスレット状の物で、それを見つけたカテリーナの瞳はキラキラと輝いていた。
「何だよ、それ」
「知らないの?付けてると一時的に魔力を底上げする神具で……」
「分かった。とっとと帰るぞ」
ザンザはぷい、と身体を背けて歩き出す。
置いていかれたカテリーナは叫びながら、ザンザの背中を追いかける。
「ちょ、待ってよ!置いていかないでザンくんー!」
天界では、包帯を傷のあった部分に巻いているフォレストが棚の中の薬を整理していた。
棚の中には瓶などが所狭しと敷き詰められ、これの何処をそう整理するのだろう、と思ってしまう程である。さすがに高いところは脚立を上って整理するらしい。
その状況を見たクリスタは、思わず溜息をついてしまう。
「……仕事熱心だな。だが、今お前は怪我人だぞ?そんなに無茶をしなくても……」
「これが、僕の仕事ですから」
クリスタの言葉を遮るようにフォレストが言った。
その言葉には強さと、決して揺らがない意志が篭っており、クリスタもさすがに言い返すことが出来なかった。
すると、整理しているフォレストの手がぴたり、と止まる。
「……、どうした?」
クリスタが訊ねる。
フォレストが顎に手を添え、唸るように声を出してから首を傾げる。
「……瓶が、一つ減ってます。誰かが盗んで行きやがったみてぇです」
「……盗難、か?良くある事か?」
フォレストは再び考え出して、答えを導き出した。
「いいえ、今はあんまり。クーラさんの時はよくあったみたいですけど」
その言葉からは、若干皮肉が感じ取られた。
280
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/06(金) 17:40:24 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
人間界の上空から。
絶叫が聞こえる。その叫びはどんどん大きくなっていっているように聞こえるが、それは語弊だ。正しくは、叫びが近くなってきている。
今、上空から落ちてきているのは一人の少年。
切原魁斗だ。
彼がこのまま下に落ちれば鉄骨だらけの工事現場に落ちてしまう。もしそんな所に落ちれば、落ちた衝撃で鉄骨やらが降って生き埋めになるかもしれないし、そもそも鉄骨に当たって無事で済むだろうか。少なくとも、骨は数本折るはずだ。
そんなことを考えながら、魁斗が落ちるスピードは増していった。
「……ちょ、ちょ、ちょ……ちょっと待てぇぇーーー!!さすがにあそこに落ちるのはヤバイって!つーか、公園から天界に行ったのに何で帰る時はこんなわけ分かんねぇ場所なんだよ!?」
魁斗の身体があと数十メートルで、家のように組み立てられた鉄骨に当たりそうな時、
ふわっ、と身体が風のようなものに救い上げられるのを感じた。
魁斗がそれに気付いた時には、襟を掴まれ、空中でぶら下がっている状態だった。
「何とかセーフね。怪我はない?」
魁斗が声に振り返ると、襟を掴んで助けてくれたのはハクアだった。
ハクアはそのまま魁斗を持ち上げ、自分が乗っている薙刀上の剣(つるぎ)の上に座らせる。
「ハクアさん?」
「そーよ?私以外に剣(つるぎ)をこんな画期的な使い方する奴が何処にいるのよ」
画期的な、は乗り物として使っている事だろうか。
ただ移動が面倒なだけじゃないか、とツッコミそうになったが、魁斗はそこをぐっと堪えた。
「ところで、向こうで『十二星徒(じゅうにせいと)』倒せたの?」
「……ああ、随分と戦いにくい相手だったけど。何とか」
ハクアは、よろしい、と言ってから、手を差し出す。
まるで、おつかいから帰ってきた子供に、おつりを渡せ、と言っている様に。
だが、魁斗は首を傾げている。何を渡せばいいのか分かっていないようだ。
ハクアは溜息をついて、
「『守護の証』よ!『十二星徒(じゅうにせいと)』って言ったら、それしかないでしょ!?」
「……あー」
勿論、魁斗も『守護の証』を忘れたわけではなかった。
ただ、今手元に無いから首を傾げたのだ。手元にあったら即座に渡しているだろう。回収元がハクアなのは、不明だが。
どうしたの?と問いかけるハクアに、魁斗は答えにくそうに答える。
「……フォレストに……預けました……」
「……は?」
時が、止まった。
すると、ハクアは魁斗の胸倉を掴んで叫ぶ。
「君は何をしてるのかしら!?何で持って帰ってこないのよ!馬鹿なの?君は馬鹿なの!?」
「ちょ、苦し……つか、操作……!」
ハクアが薙刀の操作をせずに、魁斗を問い質したため、統率がなくなった薙刀は落下寸前だった。
ハクアもそれにはさすがに驚いて、急いで操作に戻る。
「……色々あったんですよ……」
咳き込みながら魁斗が答える。
若干むくれているハクアは不機嫌そうにしながらも、納得してくれた。
「そーだ。さっきカテリーナさんから連絡あってね。メルティさんがおうし座とおひつじ座、エリザさんがかに座、恋音ちゃんがさそり座、カテリーナさんろザンザ君がやぎ座を倒したから、残る『十二星徒(じゅうにせいと)』は四人だって」
ハクアの報告に魁斗は反応する。
自分の知識を総動員して、残りの星座を割り出す。
「ってことは、残ってるのは、てんびん座、しし座、みずがめ座、いて座の四つか」
「そーゆー事」
そこで、魁斗はさっきのメンバーを思い返して、ハッとする。
「……あのさ、もしかして『十二星徒(じゅうにせいと)』倒してないのって、俺だけ?」
ハクアは、んー?と間延びした声を出して、
「あー、そんな事になるわねー。桐生君だってふたご座倒したし。あ、でも君以外に一人いるわよ?」
魁斗が誰?と聞き返す。
ハクアは、何で気付かないんだろう、という風な口調で告げた。
「レナよ」
「……あ……ああ……」
納得したような、残念なような、判断が難しい返事を魁斗は返す。
「レナとサワちゃんに帰ったって事伝えなさいよ?あの二人、学校にいる間ずっと憔悴気味だったからさ」
そこまで元気なくなるか?俺って二人にとってどんな存在?と大きな好意を寄せられているにも関わらず、純情で鈍感な魁斗には、いまいち理解が出来ていなかった。
281
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/06(金) 21:11:54 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメント失礼しますノ
八木さん……!あなたの事は一生忘れないz((物っ凄くどうでも良いことですが、月峰は山羊座だったりしまs←
それにしても、前々から思っていたのですが、ザンザさんとカテリーナちゃんのやり取りが好きですw そもそもこの二人が好きでs((
さて、十二星徒を倒していないのは魁斗くんとレナさん……つまり、主人公と準主人公ということは、これから活躍&強敵フラグという事でしょうか……!?
そして、最終的に魁斗くんはレナさんとサワちゃんどっちを取るのでしょう。恋愛面でも楽しみです!
続き楽しみにしてます^^
282
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/06(金) 21:23:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪さん>
コメントありがとうございます^^
やぎ座なんですか?だったら、もう少し八木さんの出番多くても良かったかな……でもあれ以上出番増やせそうにないz((
僕もあの二人は結構気に入ってるんですよ。今では普通に名前で呼び合ってますが、『ザン君』『リーちゃん』と呼び合ってた時期もありましt((
そこら辺の話しも出来たらしますかね^^;
魁斗君は主人公なんで、ちゃんと見せ場作りますよー!いやー、腕が鳴ります((
レナさんは……最近ボケキャラへと劣化してしまいました……。クールキャラで通すつもりだったのに……
ラストまでは結構考えてるんですけど、その三角関係はいまいちまとまりません((
でも、眼鏡とアイドルはくっ付かせます!絶対に!
はい、頑張らせていただきます^^
283
:
ライナー
:2012/01/07(土) 23:11:00 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
コメント失礼します。
さーて、あと四つどうなりますかね。
と言うか、天界からの帰還、ご苦労様ッス魁斗さん^^;
自分は天界には行く気がしません、帰りが怖いかr((殴
行きはよいよい帰りは怖いってこの事ですね(笑)
やっと主人公動きますか、見せ場というか、小説の主人公が基本視点なので、見せ場はもっと充分に作った方が良いと思いますよ……(人のこと言えないんですが^^;)
にしても、レナさんクールキャラだとは初耳です!
結構ドジっ娘キャラだと思ってました(汗)
ギャグも程良く入っていて面白かったです。
続き楽しみにしております^^
ではではwww
284
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/07(土) 23:17:55 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
天界から帰ってくる場合は必ず落下しますw
一回目もああやって人間ピラミッドできましたしねw
今回、人間界にハクアがいなかったらどうなっていたことか((
そうですよね……^^;
こっから魁斗君バンバン活躍するはず、です((
意外とクールなんですよ。
二話目からボケてますが、初めは茶目っ気のあるクールにしようと思ったのですが、中々上手くいきませんね((
今ではボケ&ドジっ娘+天然ですね。わあ、萌え要素がたくさんd((
はい、続きも頑張らせていただきます^^
285
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/08(日) 01:26:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十三閃「帰還と訪問」
魁斗は家の扉を開ける。
ハクアによると『レナとサワちゃんが憔悴してた』らしいので、帰ったらとりあえず励ましてやらないと。そう考えながら、ドアを開ける。
すると、何かが飛んできた。
物ではなく、人だ。
「カイト様ー!!」
長い銀髪の髪をなびかせ、抱きつくような態勢で憔悴してたはずのレナが飛んできた。
これなら心配ない、と魁斗が心の中で頷き、ひらりと華麗にかわす。
抱きつく相手がいなくなったレナの身体は空中でブレーキが効かず、そのまま顔から床に倒れた。
魁斗がそのままレナをスルーして部屋へ戻ろうとすると、レナが鼻を押さえながら涙声で引き止める。
「ちょ……カイト様……?冷たくありません?私の事はスルーですか?」
「……今はお前の抱擁を優しく迎えられるほどの体力は残ってねー」
レナは鼻を押さえているせいか、鼻声のような声で話す。
「……向こうで戦われたのですね……。大分苦戦されたのですか?」
いや、と魁斗は言葉を否定する。
それから遠い目でずっと昔の思い出を思い出すように、語りだす。
「強いて言うなら、カテリーナにどつかれたな。フォレストにはおちょくられるし……」
はは、という自嘲もすごく悲しいものに思えた。
思えば天界に行ってから良いことが起きてないような気がする。これも強いて言うなら、フォレストからキスしてもらったくらいだろうか。
こんなことを言えばレナの反応が大変になりそうだし、自分から言うほどの勇気もない。
魁斗はこの事だけを胸にしまい、部屋へと戻っていった。
部屋へ戻ると、とりあえず沢木に電話をしてみる。元気付けてあげないと、と思い電話をかけると、
『ふぁ、ふぁい!?こ、こちら沢木ですけど……』
「あー、サワ?大丈夫か?すんごい甲高い声が聞こえたけど……」
『だ、大丈夫、大丈夫です!それより、カイト君も大丈夫?』
ああ、と魁斗は頷く。
声を聞く限り、相手も思ったより元気でよかった、と魁斗は思う。
『……あの、明日学校来てくれる……?』
「ああ、行くよ。心配すんな」
『分かった……じゃあまた明日』
沢木はそう言って電話を切る。
明日、もう一度『十二星徒(じゅうにせいと)』の残りメンバーを整理しなければならない。
それぞれ、思うことは別々だ。
天界の方でも、今頃エリザが作戦会議をしていることだろう。
(―――あと、四人)
魁斗は気持ちを新たにして、残りの『十二星徒(じゅうにせいと)』と戦う決意を固めた。
「どーなってるの?」
電気が全く点いていない、暗い部屋の中で、椅子に腰をかけ、机に脚を乗せている少女がそう呟く。
その少女は腕を組んでおり、左腕には何かがくっついている。
「残り四人って……藤崎恋音も倒せなかったってことよね?まったく、あの娘が一番弱いのよ?一番弱い奴倒せないでどうするのよ」
部屋にはその少女以外に、三人いた。シルエットからして二人は男、もう一人は女だ。
その少女の苛立ちは納まらない。
恐らくは、この少女が『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーだ。
少女は溜息をつき、部屋にいる女へと視線を移す。
「……アンタ、いけるわね?切原魁斗を叩きなさい」
女はフッと笑みを浮かべ、少女に言葉を返した。
「了解っさー」
286
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/14(土) 19:40:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「それじゃあ、ちゃんとノートを写して、明日返してくださいね」
魁斗が帰還してきた翌日の学校からの下校中、魁斗と一緒に校舎から出てきた沢木は人差し指をぴんと立ててそう言う。
魁斗が休んでいる間(一日程度だが)の、授業のノートを魁斗に渡し、家で写してくるように説明しているところだ。
ちなみに、普段魁斗達が下校する際はレナや、稀に桐生と藤崎も一緒なのだが、レナは図書室に用があって『先に帰っててください』と言われ、桐生は藤崎に呼び出しをくらったらしく、今は魁斗と沢木の二人だけだ。
今日写しても良かったのだが、運が悪いことに今日の時間割は、昨日とは全く違う時間割なので、時間割どおり忠実に教科書を入れている魁斗は他の用意を持ってきていないのだ。
「しかし、悪いなサワ。お前だって勉強しなきゃいけねーのに」
「いいんですよ。私に出来ることは任せてください」
沢木は魁斗に笑顔を向けながら、そう言う。
そんな事を話しながら校門へと向かっている魁斗と沢木の目に怪しい人物が目に入る。
校門のところで、長身の男性が立っている。
遠目なので見た目の年齢は分からないが、ハットにスーツを着た、長身の男だということは分かる。
しかし、その男の怪しいところは見た目ではない。
何やら校門の前できょろきょろとしている。
完全に不審者だろう、と思った魁斗は同じく相手を見て表情を引きつらせている沢木に耳打ちする。
「(いいか。門をくぐる時、絶対にアイツを見るなよ。きっとややこしい事になる)」
「(は……はい)」
二人は真っ直ぐに前を見て、相手を視界に入れようとせず、門をくぐろうとする。そのため何処か不自然な感じになっている二人だが、当の二人は気付くはずも無い。
校門を出ようとしたところで、
「……ちょっといいかな」
「は、はいっ!?」
結構特徴のある独特な声で、長身の男に声をかけられ、沢木が甲高い声を上げた。
そんな沢木に魁斗は再び耳打ちをする。
「(アホかー!何で返事するんだよ!)」
「(す、すいません……。つい……)」
返事してしまったなら仕方ないので、魁斗と沢木は長身の男に目をやる。
「……何でしょうか?」
「君達はここの学校の生徒だよね。悪いが、職員室まで案内してくれるかな」
挙動が不審だった割には、意外と普通なお願いだった。
魁斗と沢木は顔を見合わせて頷き、それくらいなら、と先導して長身の男を案内する。
「娘さんが……ですか?」
校舎に向かう途中に、どういう理由で来たのかを、魁斗と沢木は長身の男に聞いていた。
なんでも、自分の娘がこっちの学校に転入するので、そのための手続きのためらしい。
「うん。上手く馴染めるか心配だが……君達の学年は?」
「二年です」
そう答えると、長身の男は嬉しそうな表情を浮かべた。
「実は私の娘も二年でね。もし同じクラスに転入することになったらよろしく頼むよ。葛城千(かつらぎ せん)という名前なんだ」
初対面の割には、かなり気さくな人で話しやすかった。
「ちなみに、貴方の名前は?」
「私かい?私は葛城獅郎(かつらぎ しろう)というんだ、いやあ、よろしくね」
魁斗の質問に、長身の男・葛城は答えてくれた。
二人は職員室の前まで案内し、そこで葛城と別れることとなった。
「いやあ、ありがとうね。助かったよ。最後に、君達の名前を聞いても良いかな?」
二人は僅かに戸惑った後に、名乗るだけならいいか、と思い、自分の名前を口にする。
「切原魁斗です」
「沢木叶絵です」
葛城は二人の苗字を復唱し、暗記する。
「切原君に沢木さんだね。分かった。娘に君達と仲良くするように言っておくよ」
葛城は職員室のドアをノックし、部屋の中へと入っていく。
それと時を同じくして、階段から降りてきたレナが未だ校舎内にいる、魁斗と沢木を見つけて、名前を呼びながら手を振っていた。
287
:
ライナー
:2012/01/15(日) 14:29:06 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
おおっ!? 新キャラ登場でしょうか、どんな人だか楽しみです^^
それと、『十二星徒』の動きも気になりますね。さてはて、これからどうなる事やr((
続きも楽しみにしております、ではではwww
288
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/15(日) 21:08:17 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
ただの娘思いのお父さんです。
これからも登場しますので、活躍にご期待ください!
『十二星徒』の方はもう終盤に向かってます。
次の戦いは、魁斗とてんびん座の戦いになりそうですw
289
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/28(土) 13:56:28 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
午後五時過ぎ。
街の雑貨屋に制服を着た男女二人がなにやら話し合っている。
その二人は桐生仙一と藤崎恋音。
行き交う人々は、藤崎恋音が男子高校生と一緒にいる、ということで足を止め、数秒見てから再び歩き始める。
どうやら、桐生のルックスに自分が勝てない、と分かってしまったようだ。
忘れられがちだが、眼鏡イケメンの桐生仙一は、意外とモテるのである。
桐生と藤崎が、雑貨店で選んでいるのはカチューシャだ。
「ねーねー、桐生君。どっちがいいと思う?黄色か白か」
一方で、特に雑貨店で欲しいものはない桐生は、店内をきょろきょろと見渡して、藤崎の方に視線を向けると、
「白」
と短く答える。だが、
「えー、私的には黄色がいいんだけど……あ!こっちの赤いのもラメ入ってて可愛いかも!」
女との買い物には慣れている。
大体、自分の意見は相手に否定されることも分かっていた。
だが、分かっていたが予想通りになると、急に苛立ちがこみ上げてくる。
「久々の休みだって言うから……そもそも何で僕を誘ったんだい?女子と一緒の方が楽しいだろう?」
桐生は、やや不満げな声で藤崎に言う。
藤崎はカチューシャを選ぶのに必死であるが、一応質問は聞いていたらしく、返答する。
「だって、沢木さんとレナさんは切原君と一緒にいたいだろうし……。学校に女友達いないもん」
「同じクラスの……えっと、國崎さんだっけ?彼女は?」
あー、と藤崎は小さく間延びした声を漏らす。
「何か、最近来なくなったの。先生が言うには風邪とかの連絡は受けてないみたいだけど……」
友達のことだから気になるのか、藤崎は困ったような表情で俯く。
桐生は元気が無くなった藤崎の頭を、軽く撫でる。
「気にすることはないよ。何か用事があって、忙しくて連絡が出来ないだけじゃないかな。きっとまた学校に来てくれるよ」
「……でも」
藤崎の元気は戻らない。
桐生は軽く息を吐いて、
「お腹減ってない?今日は機嫌がいいから、奢るけど?」
「ホントに!?」
急に藤崎の元気が戻った。
表情を引きつらせて、桐生は苦笑いを浮かべる。
「……分かりやすいな、君は……」
二人は雑貨店を出て、何処で食事をするかの店選びを始めた。
すると、二人と一人の巫女装束を着た女子がすれ違う。と、
「ッ!?」
桐生の背筋に寒気が走った。
明らかに敵だという反応。桐生の直感がそう告げていた。
(……今のは、まさか!)
桐生の予感が、自然と身体を振り返らせていた。
だが、人ごみのせいかそれらしい女性の姿は見えない。
目立つ巫女装束の姿を着た女性を、見つけることが出来ない。
桐生は、眉間にしわを寄せて、顔をしかめている。
(―――『十二星徒(じゅうにせいと)』か―――?)
見間違いでなければ。
彼女の首に、てんびん座のネックレスがあったような気がした。
290
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/28(土) 21:14:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
途中の道で沢木と別れ、魁斗とレナは二人で家へと向かっていた。
特に何も話すこともなく、二人はただ黙って歩いている。
その状況に耐えられなかったのか、レナは口を開く。
「あの……カイト様」
レナの呼び掛けに魁斗は顔をレナに向ける。
呼んだからといって、特に何も話すことがないのだが、沈黙よりはマシだろうと思ったのだ。
レナは自然に口から出た言葉を、思わず言ってしまう。
「……何だか、少し会わなかっただけなのに……久しぶりに会ったような気がします」
「……は?」
レナはハッとして、急に頬を赤く染める。
恥ずかしいのか、魁斗から顔を背け頬に手を当てている。
何かいつもと違う、と思い、魁斗は溜息をつく。
「大丈夫か、お前。俺が帰ってきてから可笑しくね?」
「お、可笑しくなんかありませんよぉ!?私はいたって普通です!!」
と言っているが、顔は背けたままだ。
すると、レナの鞄からメールを受信した時の着信音が鳴り響く。曲は藤崎の曲だった。
レナは鞄から携帯電話を取り出して、メールの内容を確認する。
「……ハクアから呼び出しメールです。しかも私だけ」
「内容は?」
「『買い物したいんだけど人手がほしー。だから来てちょ☆手伝ってくれたら何か奢ってあげるから!』だそうです」
ほう、と魁斗は小さく返す。
顔を見せていないが、魁斗はレナがどういう表情をしているか大体予想がついた。
多分『奢る』という言葉に釣られ、ニヤけていると思う。
「……行っていいぞ。一人で帰れるし」
「そ、それは出来ません!もしお一人の時に襲撃されたら……!」
レナはそこで勢いよく振り返ってしまう。
まあ、必然的に顔も見えてしまうわけで。やはりレナの表情はニヤけていた。
自分の下心が丸出しの表情にがっくりするレナの肩に、魁斗はぽんと手を置く。
「行ってこい。大丈夫。人間なんてそういうもんだ」
レナは『はい』と元気が無い声を出し、うわーん!!と声を上げながら走り去っていった。
例のアイドルも、眼鏡少年の『奢る』という言葉に釣られているのだから、決して悪いことではない。
一人になった魁斗の耳に、女性の言葉が響く。
「やーっと一人になってくれたさねー!」
魁斗は勢いよく振り返る。
声は上からだ。電柱の上に立っていた人影が、そこから飛び降りて、華麗に地面に着地する。はずが、
「ひゅべっ!?」
足を滑らせ、甲高い声を上げて地面に倒れこんでしまう。
「……あのー……」
こんな登場をする人は初めてだ。
魁斗もそれなりに低姿勢で相手に声を掛ける。
「……あいたたたー……。やっぱ高すぎたねー。塀からにすべきだったかなー。いや、でもそれじゃ迫力にかけちゃうし」
「……」
降りて来た人影は、身体を起こして座り込みながら一人で反省会をしている。
にしても、奇抜な格好だ。巫女装束に薄紫の髪を、後ろで三つ編みに結っている。見た目は二十代の女性だ。
その女性は魁斗の視線に気付き、きょとんとした表情を向ける。
それからハッとして、すぐに立ち上がる。
「いっけね。忘れるとこだった。私は『十二星徒(じゅうにせいと)』のてんびん座。天草秤(あまくさ はかり)さ」
「……こりゃまた、面倒な奴が来たな……」
思えば、自分は変な『十二星徒(じゅうにせいと)』にばっか絡まれているような気がする、と魁斗は感じていた。
291
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/17(金) 22:07:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十四閃「天子VS天秤」
天草秤、と名乗った巫女服の女は、魁斗の事をじーっと見つめている。
一度目が合ったと思えば、自分の違うところに目を移したり、自分の事を凝視しているのは分かるのだが、あまり気味のいいものではない。
天草は顎に手を添えて、一人で勝手にうんうんと頷いている。
「……Bだね。付き合うのに丁度いいルックスだよ、君は」
「……はい?」
天草のいきなりの言葉に目を点にする魁斗。
自分を凝視したのは、ルックスの判断のためだけか?と僅かにがっかりする。相手の戦い方のための準備だと思っていた自分が馬鹿みたいだ。
「友達ならさ、どのランクでもいいんだけど、やっぱ恋人となるとAかBが丁度いいよね!Sランクってさ、ちょっと重くない?テレビで活躍してるイケメン俳優とか、アイドル歌手とかさー。世間から嫉妬の視線を永久的に向けられるんだよ?耐えられないよねー」
「知るかッ!!」
天草のマシンガントークに痺れを切らした魁斗が、思わずそう怒鳴る。
怒鳴られた天草は、ありゃりゃと声を漏らし、眉を下げた。
「……お前は『十二星徒(じゅうにせいと)』なんだろ?だったら、俺を狙いに来たんじゃねーか?」
「君はどうよ?」
「あ?」
やはり会話が噛み合ってない。
狙われたことに対して『どうよ?』と聞かれてるのかもしれないが、天草の口から出たのは予想外すぎる言葉だった。
「君は女の子と付き合うなら、SからFのどのルックスの女の子がいい?」
「だから知るかって!お前は戦いに来たのか、雑談に来たのか、どっちだ!」
忘れてた、と天草が言うと、彼女は十字の形をした槍を構える。
だが、槍の先はそれほど鋭さを感じさせるものではなく、先が少しだけ丸みを帯びている。
魁斗は相手の槍を見て、十分に警戒をする。
「……それが、お前の剣(つるぎ)か」
「そう。私の名前は天草秤。『十二星徒(じゅうにせいと)』の―――」
「てんびん座だろ?ちなみに名前もさっき名乗ってたぞ」
当然のように語る魁斗に、天草はぎょっとする。
「何で君が私の司る星座を知ってるのー?しかも名前も知ってたって……何者!?」
魁斗は思った。
―――ああ、コイツ。今までの敵で一番面倒くさいな、と。
魁斗は溜息をついて、双剣である二本の刀を構えた。
「……とりあえず、始めようぜ。天草秤」
「ひゅー。いきなりフルネームを覚えてくれるかー。名前で呼んでくれても良かったのにー」
生憎だな、と魁斗は呟きながら地面を思い切り蹴る。
たったそれだけで、十数メートルあった魁斗と天草の距離が一気に縮まる。
(わお、さすがに速いね)
天子の脚力の高さに、僅かに驚く天草。
話には聞いていたが、ここまでとは予想外だったらしい。
魁斗の横薙ぎに振るわれた刀を、天草は十字型の槍で防ぐが、強力な光を纏っている魁斗の力に負け、天草は横方向に飛ばされてしまう。
だが、天草はすぐに体勢を立て直し、電柱を蹴って、思い切り空に跳び上がった。
「なぁっ!?」
魁斗の視線も、自然と空中に舞い上がった天草へと向けられる。
彼女は宙で身体を舞わせながら、上空から槍先を地上の魁斗に向けた。
「ッ!?」
その状態で、天草は歌うように、短い言葉を紡いだ。
「獄中火葬(ごくちゅうかそう)―――『炎天(えんてん)』」
言葉と同時に、天草の槍先から巨大な柱のように、炎が噴出した。
292
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/19(日) 11:46:42 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「獄中火葬(ごくちゅうかそう)―――『炎天(えんてん)』」
天草の掛け声とともに、十字槍の先から巨大な炎の柱が噴き出す。
どんどん迫ってくる炎の柱を、魁斗は刀に光を纏わせ、受け止める。
「ぐ……っ!」
魁斗が歯を食いしばり、両方の刀を使い始める。
そして、纏わせた光をいっそう大きくして、刀を横に薙ぐような形で振るう。
すると、炎の柱は打ち消される。
だが、魁斗が上空に目をやると、さっきまでいたはずの天草の姿が見えない。
魁斗が相手の姿を追おうと、視線を這わせると、不意に後ろから声が飛んでくる。
先程と同じような詠唱を始めとした、先程と同じような技名が。
「天地鳴動(てんちめいどう)―――『雷天(らいてん)』」
魁斗が後ろを振り返ると同時に、頬のすぐ横を、黄色い電撃が一直線に走る。
動きを止める魁斗に、天草は槍を構えながら突っ込む。
「ッ!」
天草の突進に何とか魁斗は反応し、相手の攻撃を刀で受け止める。が、そこで魁斗は相手の意図に気が付く。今まで離れて攻撃していた相手が、急に接近戦に持っていった事に、早めに気付くべきだった。
―――槍の先が、こちらへと向けられたまま鍔迫り合いになっている。
ニィ、と怪しげな笑みを浮かべ、天草はゆっくりと口を開いた。
「裂空激昂(れっくうげっこう)―――『風天(ふうてん)』」
その攻撃は、魁斗の予想通りのものだった。
槍の先から竜巻が起こり、魁斗はそのまま後方へと吹き飛ばされる。飛ばされながら何とか体勢を立て直そうと思う魁斗だが、天草は畳み掛けるように、再び上空へと飛び、槍の先を自分に向けている。
(しまった……!これじゃかわせない!)
「獄中火葬―――『炎天』」
再び炎の柱が魁斗に向かって放たれる。
魁斗は抵抗できぬまま、相手の炎の柱を正面から受け、土煙が舞い起こる。
天草は着地して、その土煙の方へ視線を投げる。
「……君、ルックスはBなのに戦いはDだね。そんなんじゃ、私は倒せないっさよー」
楽しそうな笑みを浮かべる天草。
魁斗は刀を杖代わりに地面に突き刺し、口の端から垂れる血を手の甲で拭いながら立ち上がる。
「……うるせぇよ……!」
魁斗は、久しぶりの実践で感覚を取り戻したのか、口の端に笑みを浮かべる。
293
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/19(日) 13:56:28 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
立ち上がった魁斗に、天草は楽しそうな笑みを見せる。
魁斗も立ち上がってすぐは攻撃しようとしない。相手の剣(つるぎ)の能力を探ろうとしているのだ。
相手に正面きって訊ねて、相手が答えてくれるかも分からない。いや、自分の手の内を晒すような真似は、相手だってしないだろう。
「いやー、聞いてた通り結構粘るよねー。私の剣(つるぎ)、『七乱十字(しちらんじゅうじ)』の能力を分かったとしても、君に勝ち目はないってのよ?」
魁斗だって、相手の剣(つるぎ)の能力が全く分かっていないわけではない。
天草が技を出す前の掛け声に合わせて、それに対応した属性の技が出るということは何となくだが分かっていた。
今のところ分かっているのは三つ。『七乱十字(しちらんじゅうじ)』というからには、あと四つあるのだろうか。
「悪いことは言わないよ。諦めなさいって。たとえ私達を倒して『十二星徒(じゅうにせいと)』の真相に辿り着いたとして、君達に何が出来るのさ。希望を潰すようで悪いけど、君の中の誰もリーダーには勝てない。絶対にね」
天草は絶対の自信を持って告げた。
そこまで自分のリーダーを信じているのか。魁斗としても、天草はかなりの実力者だと分かる。そんな彼女に『強い』と言わしめるほどのリーダーが強いのは分かる。
だが、今まで仲間が何人もやられているのに、一向に動こうとしないリーダーを、魁斗ならば信用はしない。
「私にここまで追い詰められている時点で、君のリーダーへの勝機は限りなく薄いよ。諦めなさいって。時には大人の言う事を聞くのも肝心さ」
「……やってみなけりゃ、分かんねぇだろ……!」
魁斗の言葉に天草の表情が変わる。
今まで笑みを浮かべていた彼女の表情が、きょとんとした顔になった。
「……確かにお前は強いよ。そんなお前を下に置いてるリーダーはもっと強いってのは分かる。だけどな、俺達は勝たなきゃいけないんじゃねぇ……、勝つんだよ。お前にも、そのリーダーにも、『六道輪廻(ろくどうりんね)』にも、全部にな!!」
天草の表情に笑みが戻る。
だが、先程までの『楽しい』笑みではなく、『愉しい』笑みだ。
「いいねぇ、そういう気迫!危うく惚れちゃうとこだよ!」
天草は十字槍の先を地面に突き刺し、再び詠唱から始まる技名を口にした。
「氷牢閉鎖(ひょうろうへいさ)―――『氷天(ひょうてん)』」
掛け声とともに、魁斗を氷の檻が囲う。
魁斗は刀を、檻に向けて思い切り力を込めて、横に薙ぐ。氷の檻は音を立てて砕けていく。
天草は地面に槍を突き刺したまま、ニッと笑みを浮かべた。
「残念だったねぇ。『氷天(ひょうてん)』は、砕かれて次の技が出せるようになるんだよ。氷牢決壊(ひょうろうけっかい)―――『水天(すいてん)』」
言葉とともに氷が一点に集中し、水の塊と化す。
その水の塊は、魁斗の腹に吸い込まれるように、突っ込んでいく。
「ぐふっ……!」
魁斗は腹の痛みに耐えながら、体勢を崩さぬように持ちこたえる。
だが、一瞬の隙も与えようとしない天草は、再び魁斗へと突っ込んでいく。
天草が突き出すように、槍を前に出すと魁斗は顔を逸らして攻撃をかわしただけだった。
「同じ手にかかるかよっ!」
魁斗は刀の峰を天草の腹に叩き込み、相手を後方へと飛ばす。
天草は後方に飛ばされながらも、槍先を魁斗に向ける。
「……天地鳴動(てんちめいどう)―――『雷天(らいてん)』」
「待ってたぜ、その技」
魁斗は刀を構え迫り来る電撃を、片手の刀で弾いた。
「この技は威力は弱いが、早い。だからこそ俺は、アンタを飛ばしてその技を出させたんだ。威力が弱けりゃ飛ばされる方向と逆に出しても、反動で遠くに飛ばされないだろうからな」
そして、魁斗は反撃に移る。
天子の高い脚力を利用して、思い切り地面を蹴り、一気に天草へと突っ込む。
(―――速いッ!)
「戦いはDだって?上等だ」
魁斗は巨大な光を刀に纏わせ、相手の十字槍を狙う。
巨大な光を纏った刀を十字槍に叩きつけ、相手の剣(つるぎ)を破壊する。これで天草はもう戦えない。
(……しまった……!)
「俺のDは、ど根性のDだ!」
294
:
館脇 燎
◆SgMmRiSMrY
:2012/02/19(日) 15:06:35 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします。 筆者が竜野様だったので拝見させて頂きました!
竜野様は更新率が多くて、アイディアの豊富さに憧れます。キャラクターも様々な人物が居て、とても面白いです!
僕が一番好きなキャラクターは桐生です。氷系は結構好きなので。
次の更新も楽しみにしております。
295
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/19(日) 15:39:15 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
館脇燎さん>
コメントありがとうございます。
もうすぐ300レスだというのに、相変わらずスローテンポなこの作品を読んでくださり、とても嬉しいです^^
ぶっちゃけて言うと、作品を更新する際は、大体三〜四割は思いつきで放り込んでます。そのため、最初から思っていたものとだいぶ違うものになってたりしますw
キャラの個性は一度指摘があったので、出来るだけ目立たせるようにしていますw 一番個性が弱いのは魁斗だと思ったr((
僕も桐生は結構お気に入りキャラですw 彼と恋音を絡ませている時が、一番楽しかったりしますw
氷系つながりでは、まだスノウしか出てませんね……。これから氷系は出てくるのか((
はい、続きも頑張らせていただきます!
296
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/19(日) 20:23:19 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
武器が壊されてしまった天草は、そのまま地面に尻餅をつくような体勢で、倒れてしまう。
戦う術がなくなってしまい、天草は剣(つるぎ)を破壊した魁斗を見る。
「……甘いさね……」
魁斗は天草の言葉に、反応する。
天草は尻をついたまま、起き上がろうともせずに、言葉を紡いでゆく。
「……私を直接狙わず武器だけを狙って……情け?それとも、敵でも女だからって優しさを見せたつもり?言っとくけどね、そんな中途半端な情けは必要ない!女を攻撃する勇気がないのなら、初めから戦うな!」
「……別に、情けをかけたわけでも、優しさを見せたつもりでもねーよ」
魁斗は静かにこう切り出した。
魁斗は自分の持っていた二本の刀をブレスレットに戻し、尻餅をついたままの天草に手を差し出す。
「ただ、何となく嫌だったんだ。アンタを傷つけるのは。本当の悪人って感じがしなかったから」
何?と天草は眉間にしわを寄せる。
魁斗自身も、今の自分が何を言っているのか、理解しながら喋っているわけではないだろう。
「俺だって、根っからの善人ってわけじゃない。一目見ただけで、その人が本当に良い人だってのも分かるわけじゃない。でも、戦ってる内に何となく分かるさ」
「知った風な口を……!私はアンタを殺すつもりで攻撃した!本気の本気で―――」
「それは嘘だ」
魁斗が相手の言葉を遮るように言った。
何かを言おうとしていた天草も、途中で言葉が詰まる。魁斗の言葉に圧されたのか、魁斗の言葉には言い聞かせるようなニュアンスが含まれていた。
魁斗は、言葉を続ける。
「俺を殺すチャンスならいくらでもあったはずだ。最初の『炎天(えんてん)』の後、俺の背後に回って『雷天(らいてん)』を出したよな。わざわざ威力の低い技を出さなくても良かっただろ。しかも、あの時俺は振り返るのに精一杯でかわすことが出来なかった。つまり、アンタは俺を狙って『雷天(らいてん)』を当てることも出来たし、違う技で攻撃も出来たはずだ」
確かに、魁斗の言う通りかもしれない。
背後から、全くかわすことが間に合わない相手になら、大技を出すだろう。少なくとも、あそこで『炎天(えんてん)』を出していれば、決定的なダメージは与えれた。
『水天(すいてん)』の後に、接近戦に持ち込まずに、『風天(ふうてん)』か『炎天(えんてん)』かで、遠距離で攻撃することも出来たはずだ。
天草がそれを実行しなかった理由は一つだ。
「―――アンタが善人だから、そうしたんだろ」
天草は顔を逸らして、噛み砕くように呟く。
「……そんな事ない……私は、私は……」
天草は悔しさを隠しきれていない。
そんなところを見せるのも、彼女が全くの悪人ではなく、人を殺すことに躊躇いを持っているからだ。
「剣(つるぎ)なら、俺の知り合いに剣(つるぎ)マニアがいるんだ。そいつなら、治せる人を知っているかもしれない。お前の剣(つるぎ)だって、また使えるかもしれないぜ」
魁斗は、差し伸べた手を一度も引っ込めずに、未だ伸ばしたままだ。
その差し伸べた手は、天草に『立て』と言っているのと同時に、『仲間にならないか』と言っているようにも見えた。
「……天草。お前さえよければ一緒に戦ってくれ。お前がいれば心強いし、『十二星徒(じゅうにせいと)』の情報だって、入手できる」
「……、私は……」
天草の右手が、ピクッと動く。
天草はゆっくりと差し伸べられた手に、自分の右手を伸ばしていく。
「……いいの……?私なんかを、仲間に入れても……?」
「ああ」
天草の疑問に、魁斗は即答した。
「説明なら俺がするし、皆だって納得してくれるさ。俺に任せとけ」
「……ありがとう」
天草は僅かに頬を染めて、自分の伸ばした右手を、魁斗の差し伸べた手に重ねる。
魁斗は尻餅をついたままの天草を引き上げて、立ち上がらせる。
「大丈夫か?」
「ふ、ふん!心配されるまでもないっさね!私はそんなにダメージは受けてないし、君の方が大丈夫か心配っさ!」
天草は腕を組みながら、そう言った。
魁斗はその様子に、僅かに笑みをこぼす。
「そういや、今レナはハクアさんと一緒なんだよな……。まずは二人に連絡して、天草の事を説明するか」
魁斗は携帯電話を開いて、レナとハクア(電話をかけたのはレナの携帯電話)に連絡する。
その時、天草秤は上空からの冷たい視線に悪寒を感じる。
だが、その事は、魁斗に言えず、大きな恐怖を感じながら、彼女は口を塞いでいた。
297
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/02(金) 21:31:13 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十五閃「本当の仲間」
天草秤の一件以降、レナのご機嫌はナナメ状態だった。
元『十二星徒(じゅうにせいと)』であるとはいえ、今では武器もないし、反抗の意志もない。更に少ないとはいえ敵方の情報を得られるのは彼女だけではなく皆にとっても利点である。それはいいのだ。
だが、彼女が問題視しているのはそんな利点だらけのところでもなく、天草が仲間になった事でもない。
現在、学校の昼休み。
この時間魁斗達は、屋上に集まって昼食を摂るのがお決まりになっていたため、ハクアも屋上に来ている。
そして何故か、変装など全くせず、巫女装束のまま来た天草秤が、思いっきり魁斗に抱きついている事だった。
レナの心境は今こうだ。
(……この野郎……!!)
普段表情には出さないレナにとって、悟られる事は少ないが、長年の付き合いであるハクアにはお見通しのようだ。
いや、親友でなくとも、自分の主が最近知り合った女に抱きつかれているのだ。平静でいられるわけがない。元敵であるなら余計にだ。
「……しかしまあ、切原君。君は良く好かれるよね、変人系の敵に」
桐生が紙カップの飲み物を飲みながら言う。
それを聞いた天草は、桐生に詰め寄り、ほとんどヤクザみたいな言い方で桐生に言葉を投げかける。
「ああん?誰が変人っさね。私の何処を見て変人だと決め付けとるさ?」
巫女装束に特徴的な口調。
何処と言われても答えに困るほどだ。まず、どこからツッコんでいいか分からない。
ずっと黙っていたら天草に勝ち誇った顔をされた。面倒が減って助かったが、あれはあれで表情に異様に腹が立つ。。
大人な桐生は、特にそこを気に留めずにいられるあたりがすごい。
「ところでさ、天草さん。聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
ハクアが小さく手を挙げてそう言う。
「『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーってどんなのなの?」
それは魁斗達が今一番欲しい情報だ。
その質問に、天草は僅かに黙り込む。
「……私でも分かる事は限られるっさ。ただ、女の人で、年は高校生ぐらい。こんだけしか分からんっさね」
どれも新しい情報だ。
一番最初に捕えた早乙女からは性別すらも聞く事は出来なかったのだから。
ただ、高校生ぐらいというのは少し驚いた。
「高校生かぁ……一気に近くなったね」
藤崎が溜息混じりに呟く。
「そうですね。もしかしたらこの学校に潜んでるかも知れませんし……」
「どの道、注意しても悪い事はないね」
沢木に続き、桐生がそう言う。
なんにしても、年齢と性別が分かったところで、相手を判断する事は不可能だ。
「それと、リーダーさんが言ってた事があるっさ」
全員が眉をひそめる。
天草は、人差し指を立てて説明しだす。
「名前は覚えてないけど……しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』が結構強敵らしいっさ」
「……しし座……か」
まだ戦ってない相手だ、と魁斗は思う。
最後の方に厄介な奴が残ってしまったな、と魁斗は溜息をついた。
「とりあえず、一人で行動すんのは危ないかもね。桐生君と藤崎さん、私とサワちゃん、カイト君とレナと天草さんのチームで行動しない?」
ハクアの提案に、レナは少し大きめな声で意見を述べる。
「私もハクアと沢木さんチームでいいです」
その言葉に、妙にピリピリしてると思った魁斗は、
「……どうしたんだよ、レナ。何か怒ってんのか?」
「私は怒ってなんかいません」
ぷい、とレナは魁斗から顔を逸らしてしまった。
天草の行動に乙女の怒りはマックスなのである。そんな女心に気付かない魁斗であった。
「レナがいいならいっか。じゃあ桐生君と藤崎さん、私とレナとサワちゃん、カイト君と天草さんチームで行動しましょ」
だが、彼らは後に知る。
このチーム編成が、悲劇を生む事になると―――。
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