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変身ロワイアルその6

1名無しさん:2014/08/07(木) 11:23:31 ID:V1L9C12Q0
この企画は、変身能力を持ったキャラ達を集めてバトルロワイアルを行おうというものです
企画の性質上、キャラの死亡や残酷な描写といった過激な要素も多く含まれます
また、原作のエピソードに関するネタバレが発生することもあります
あらかじめご了承ください

書き手はいつでも大歓迎です
基本的なルールはまとめwikiのほうに載せてありますが、わからないことがあった場合は遠慮せずしたらばの雑談スレまでおこしください
いつでもお待ちしております


したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15067/

まとめwiki
ttp://www10.atwiki.jp/henroy/

180らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:37:38 ID:4VrrmyR20

 それは、キュアブロッサムにとっては、大道克己との戦いの時に見た光景と同じだった。
 キュアブロッサムは空中で唾を飲み込んだ。
 邪でありながら当人は譲る事のできない強い意思──それが、プリキュアの浄化技さえも拒絶し、剛力で捻じ伏せてしまう。
 あかねの想いは、まさしくそれだったというのか。

「──そんな!!」
「甘いのよっあんたは!! はあっ!!」

 そして、キュアブロッサムが気づいた時には一歩遅かった。
 あかねが上空に向けて突き上げた拳が、キュアブロッサムの腹部に激突する。

「くっ……」

 まるで突き刺さるような一撃だ。
 重力の力と、下から拳を突き上げたあかねと伝説の道着の力──それらに挟まれ、ブロッサムが一瞬、息をする事ができなくなる。
 キュアブロッサムの口から、微量の唾と汗が飛んだ。拳の上を一度バウンドして、またその上に落ちた。

「げふっ……げふっ……」

 あかねは、咽かえっているキュアブロッサムを乱雑に地面に下ろした。
 下ろした、というよりも落としたという方が的を射ているかもしれない。
 キュアブロッサムは、腹部を抑えながら、力なく倒れこむ。息が整うまで、しばらくの時間を要した。まともに喋る事も、痛みを絶叫で表現する事も少しできなかった。
 苦渋に歪んだ顔で、己の力不足を呪った。

「……トドメを刺してあげるわ」

 あかねは、ふと自らの近くにある人間の死体があるのに気が付いた。
 美樹さやか──先ほど、あかねが不意を突いて殺せた彼らの仲間である。
 ライジングタイタンソードへと物質変換したのは、「裏正」という刀であった。
 二つに折れた刃の刃先が、まだこの木の影にいるさやかの遺体から見える。柄がどこに消えてしまったのかはわからないが、木々に紛れて見えないだけだろう。
 あかねは、少し手を伸ばして、それを掴みとった。遺体から引き抜いて、つぼみを殺すのに使おうとした。そう、この刃先ならばまだ「機械」の「破壊」に使える。
 刃を手で直接握っても、あかねは痛みなど感じなかった。
 ここにあの刀が落ちているとは、都合が良い──これで殺しやすくなった、とあかねは思っただろう。
 血が右手を真っ赤に染め上げるが、あかねはまるで気にせずに、目の前の獲物を見た。

「つぼみっ……!」

 良牙がそこに駆け寄った。瓦礫の山とでも言うべきその木々の残骸の間を、潜り抜けてやっとつぼみの元に辿り着く。
 キュアブロッサムの変身は解除され、つぼみは下着のような神秘的に光るワンピースに体を包んでいた。
 良牙は、その傍らのあかねの方に目をやった。

「はぁ……はぁ……もう邪魔はさせないわよ……私は……私は……」

 とはいえ、あかねも大分参っているようだった。
 しかし、まずい。つぼみにトドメを指そうとしている。

 あかねにとってはつぼみも厄介な邪魔者の一人に違いない。
 邪魔だからと言って、つぼみを排除しかねない。
 あかねはその体制に近づいている。裏正を振り上げ、寝転ぶつぼみに近寄っていく。

「……壊れろッッ!!」

 死という言葉を使わないのはなにゆえか──それは良牙もつぼみも知る由もないが、あかねはまさしくつぼみに「死ね」と言おうとしていた。
 それが願望だった。
 今、目の前にいる参加者をどうするべきか。全て、一刻も早く殺し尽くし、あかねは願いを叶えて元の世界に帰らなければならない。
 だから、首を刺し貫いたらすぐに、つぼみにはその生命活動を停止してもらいたかった。

 時間がない。──昼までなのだ。
 どんな敵がいたとしても、泳がせるなどという方法は使えない。
 見つけ次第、どんな手を使ってでも最短で殺し、あかねは元の世界に願いを叶えてから帰る。日常に回帰し、大事な人とまた過ごす。
 そのために。
 そのために。
 そのために。



(……でも、────)



 ────大事な人がわからない。





181らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:38:04 ID:4VrrmyR20



 あかねは、確実につぼみを殺そうとしている。狙うのはおそらく頸動脈。このままいけば、良牙は親しい人の血しぶきを目の当りにする事になる。
 良牙を襲う焦燥感。
 目が敵を睨み、腕が型を作る。

「くっ……獅子咆哮──」

 やめるんだ、の一言よりも攻撃による制止が出てしまった事は良牙自身も意外に思っただろう。
 それは、良牙がこの一日、殺し合いの中で「誰かを守る」という事の為に力を使う意義を覚えたからだ。良牙はつぼみを守るために、あかねを攻撃しようとしていた。
 そこに個人的な優先順位などもはや関係なかった。
 弱く正しい者を守り、それを脅かす者を倒す──その公式が、良牙の中にもいつの間にか出来上がっていたのだ。
 あかねを攻撃しようとした事を一瞬でも後悔するのは、ある出来事によって、獅子咆哮弾を使うのを躊躇してからの話である。

「──ぶきっ!!」

 ──そう、発動しようとした直後にその声が聞こえたのが、良牙が動きを止めた理由であった。
 それは人間の声ではなかった。高音で幼く、何かを訴えていても理解できない言葉で喚く小さな動物だった。

 そう、かつて、鯖が変身したのと似通った外見の黒い鯖豚だ。黒い子豚に変身していた頃の良牙と瓜二つである(正直、豚なんてどれも同じだが)。一応、デイパックに仕舞い込んでいたはずが、戦闘中にいつの間にか抜け出してしまったらしい。
 この惨状の中で、かの子豚は倒れ伏しているつぼみに寄り添おうとしている。

「な……っ」

 あかねの動きが、一瞬止まった。
 その光景はあまりにも不自然であった。まるで時間が止まったかのように、突然にあかねは引いた腕を止めたのである。
 前に突き出してつぼみの頸動脈をかききろうとしていたあの腕が、よりにもよって、あの子豚によって突如止められたのである。
 つぼみも、何故相手が止まっているのかわからないようだった。

「豚さん……っ。逃げて……」

 声にならない声で必死にそう訴えるつぼみだが、その言葉は無邪気な鯖豚には届かない。
 この鯖豚は、おそらくただ、デイパックから抜け出した後に一帯を迷って、近くにいた主の元に歩いていっただけである。
 だから、そう……。
 もはや、そこに来れば巻き添えで死んでしまう事などこの鯖豚は知る由もないという事である。

「くそっ……!」

 あの子豚もつぼみも、このままでは危ないと良牙は咄嗟に思った。
 あかねが止まっているうちに、良牙はそこに助け出なければならない。
 この木の足場を飛び越えて、目の前を妨害する木の枝を手刀で切り裂いて、良牙は一心にそこに向かって走っていく。

182らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:38:26 ID:4VrrmyR20

「無事でいろ……っ!」

 ──だが、そんな中で、ふと何かを思い出した。

 響良牙が、天道あかねを好きになった時。──それは、初めて会った時の事ではない。
 確か、雨の夜の話。あれを思い出すのはセンチメンタリズムだ。
 子豚に変身した良牙を、あかねは抱きしめた。周囲に反発する良牙を抱きしめ、赤子のように可愛がったのだ。
 あかねはペットとして、良牙が変身した黒い子豚に「Pちゃん」と名付けたのだ。

(待て……)

 あの時──。
 そうだ、あの時──。

「そうか……! だから、あかねさんは……!!」

 あかねは思い出しているのだ。
 いや、思い出すとまではいかなくても、本能がその黒い子豚に反応を示している。
 動きを止めたのは、彼女が小動物を殺そうという発想に至らないからに違いない。
 きっと。
 きっと、全て忘れていても、あかねは弱いものには優しいあかねのままなのだ。

「……Pちゃんだ、あかねさん!! その子豚はPちゃんだ!!」

 あかねも、つぼみも、子豚も、良牙の方に一斉に視線を集中させた。
 良牙が何の事を言っているのか、誰もわからなかったかもしれない。

 ただ、あかねはその拙い言葉の響きに何かを感じた。
 自分の手元にあるガイアメモリにも似通った名前がついているはずである。
 しかし、「P」だ。その言葉に何かを感じる。P……Pig。

「P……ちゃん……?」
「そうだ、Pちゃんだ!! あかねさんが大事に育ててくれた、バカで間抜けで方向音痴な子豚の名前だよ!!」
「P……」

 そう言われた時、あかねは今のままの体制を維持できなくなった。強烈な頭痛がするとともに、咄嗟に頭を抱え、倒れこんだ。伝説の道着も、この時は主の異変に焦った事だろう。

 シャワールーム。大事な人。黒い子豚。────。
 飛竜昇天破。獅子咆哮弾。呪泉郷。────。
 あのバンダナの男。高速回転するブーメラン。ロミオとジュリエット。────。

「Pちゃん……」

 連鎖するキーワードたち。ここまで、あかねに何か異変を齎してきた言葉たちであった。
 一体、それがあかねにとって欠落している何を示しているのか、それがうっすらと浮かんでは、また消えていく。
 何かが掴めそうで掴めないもどかしさが、いっそう頭痛の芽となって脳髄に根を張るような痛みを起こす。

「あああっ……あああっ…………!!!!!」

 あかねがどれほど頭を抱えても、その記憶は探り当てられない。だからいっそう苦しいのだ。
 記憶のどこかには存在するが、蓋を閉じられていたり、脳内のどこかを飛んでいたり、ずっとあやふやにあかねの中で跋扈している。それを掴みとろうとするが、一切掴みとれない。
 時折出てきては消える何か。それが……。

「まだ思い出せないっていうなら、いくらでも大事な事を教えてやる!! 俺の名前は響良牙だ!! あかねさんの友達で、●●とは前の学校からのダチだ!! 何度も一緒に遊んだじゃないか!! 俺は何があっても忘れないぜ!!」

 言葉があかねを刺激するなら、それを止ませる必要はない。
 いくらでも浴びせる。あかねの苦しむ顔がその瞳に映っても。
 瞳はそらさない。自分が最も見たくなかったあかねの苦しい姿を、目に焼き付け、それでももっと苦しませる。
 きっと、これを語り続けなければならないのだ。

「ずっと前にあかねさんの髪を切ってしまった事はずっと後悔してるんだ!! 何度でも謝る、何度殴られたって構わない!! 思い出してくれよ、あかねさん!! 憎い俺を殴れよ!!」

183らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:38:56 ID:4VrrmyR20

 だが、その言葉は決定的な一撃とは、ならなかった……。
 あかねはうずくまって頭を押さえるだけで、どんな言葉も心に届かない。
 しかし、黒い子豚を見た時のように強い衝撃を受けてくれない。良牙自身の事を何度教えても、あかねが強く反応してくれる事はなかった。

「Pちゃん……Pちゃん……」

 あかねは必死で小刻みに首を横に振っている。

「くそ……駄目なのか……」

 一瞬、挫けそうになる。
 あかねは、まだ何かに怯えるように頭を抱え続けるだけなのだ。
 それが、ただただ苦痛だった。良牙自身の事を一切覚えておらず、あろうことか乱馬さえも記憶の中から外れているのかもしれないと、良牙は感じた。
 そんな話が良牙にとってショックでないはずがない。

 そもそも、Pちゃんの話には反応したが、良牙の話は一切反応を示さないのだ。
 何度聞いても、何度叫んでも、何度届かせようとしても。
 良牙の言葉そのものが、まるであかねの耳をすり抜けていくようだった。
 そして────



「…………いや、わかった。わかっちまった。くそ…………」



 ────良牙は、理解してしまった。
 それは、一途に一人の女性を想い続けた男にとっては、残酷で、信じたくない現実だったかもしれない。
 いや、何度もそれをあかねは言葉にしていたが、良牙は受け入れなかったのだ。

 ふと、思ったのだ。
 あかねがこれから何も思い出してくれないのは、もしかすると、


 良牙の存在があかねの中で、良牙が思っているほど大きくないからかもしれない──と。


 良牙が伝えようと思っている事は、あかねにとっては聞くほどの事ではないつまらない話題でしかないのではないか。
 考えてみれば、これまでも、何度も何度も言われてきた。
 お友達。お友達。お友達。────。
 そう、あかねにとっては、良牙はきっと、「お友達」以上の何者でもない、人生の中の脇役たちの一人だ。即ち、取るに足らない存在なのだ。

 良牙があかねを誰よりも大事に思っている一方で、あかねは良牙を大勢いるお友達の一人にしか思っていない。──乱馬が死んで殺し合いに乗る彼女だが、もし良牙が死んで彼女は殺し合いに乗っただろうか?
 あかねに良牙を殺したいほど憎む事ができるか。
 あかねに良牙を抱きしめたいという感情はあるのか。

 そう、最初から彼女が大事に思っていたのは、許嫁の乱馬ただ一人。良牙には、そこに付け入る隙など最初からなかったのだ。
 良牙にとって、良牙としての思い出とPちゃんとしての思い出が同じ物でも、あかねにとっては全く別物だ。黒い子豚の方が、あかねとずっと一緒にいた。

 そう、それが、一人の男に向けられた、青春の真実だった。



「…………そういう事、か」



 男の目から、一筋の涙が垂れた。──それはごく個人的な愛情が、この場でもまだ胸の中に残っていたという証拠だ。
 俯いた横顔で、良牙の前髪はその真っ赤な瞳を隠した。

184らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:39:15 ID:4VrrmyR20
 つぼみは、その横顔を見て、何かを感じる事ができただろうか。

「────あかねさん、ごめん」

 小さく、良牙は口元でそうかたどった。声には出なかった。
 喉の奥で掠れて、まるで神にでも謝罪するかのようにそう呟いたのだ。
 当人に訊かれてはならない謝罪の言葉だった。
 この場であかねを説得するのに、何よりも効果的な一言があり、それがあかねに謝らなければならないような言葉なのだと、良牙は気づいたのだった。

 すぐに、良牙は大きく息を吸いこんだ。──生涯、絶対にあかねに向けて口にするはずがないと思っていた口汚い言葉を、良牙は自分の記憶の中から探り当てた。
 少し躊躇ったが、一気にその言葉を吐き出す事になった。



「────かわいくねえっ!!」




 ──その言葉が、不意にあかねの動きを止めた。

 あかねは、何かに気づいたように良牙の方に体を向けた。
 つぼみが、驚いたように良牙を見つめた。良牙の目からは、涙などとうに枯れていた。大口を開けて、良牙はあかねに対して何度でも言葉をかける。

「色気がねえっ!!」

 ふと、あかねの脳裏に、「痛み」ではない何かが過った。
 それは、確かにその言葉によって、するすると記憶の蓋が溶解していく感覚だった。

「凶暴!! 不器用!! ずん胴!! まぬけっ!!」

 あかねは、一つ一つの言葉を聞くたびに、別の人間の顔と声がオーバーラップするのを感じた。良牙の顔と声を塗り替えて、おさげ髪でもっと少年っぽい声の男が乱入する。
 良牙は、全ての言葉を大声で叫ぶと、俯いて、拳を硬く握った。

 やはり、だ。
 この言葉が、あかねの記憶を呼び戻してしまった。
 認めたくなかった。しかし、そんな小さなプライドを捨てて、良牙は叫んだ。
 本当にその言葉を浴びせるべき男はもういない。だが、その男の代わりに。

「忘れたとは言わせない! あなたが……俺たちが好きだった……早乙女乱馬という男の言葉だ! あの下品で馬鹿な奴があなたに浴びせた最低の言葉たちだ!! だが、あかねさんと乱馬にとってはこの一つ一つの言葉が思い出なんだ!! 忘れちゃいけない!!」

 早乙女乱馬。
 聞き覚えのある名前──いや、ごく近くにいた、知っている人。
 もう世界中を探してもどこにもいない。
 天道道の食卓で居候の分際で大量の飯を食べて、学校ではサボリも遅刻も早退も当たり前の劣等生で、そのくせ戦いだけは強くてあかねがどうやっても敵わない、あの早乙女乱馬という男──。

「……!」

 あかねの胸中に、そんな記憶の暖かさが戻ってくるのが感じられた。
 不意に思い出すだけでも胸中が少し暖かくなってしまう。
 不思議と涙が溢れた。
 もう何も戻らない──そんな確信があかねの胸に再び過る。



「忘れないでくれ、あかねさん……俺の事は忘れても、乱馬の事だけは…………」



 男の声は、涙まじりで、震えて聞き取りづらかった。
 俯いている男の、震える拳を、あかねは確かに遠目に見た。おそらくは、泣かないと決意して、それを一瞬で破った男の涙だった。
 良牙がずっと秘めていたあかねへの想いは、もう完全に叶う事はなくなってしまったのである。

185らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:39:58 ID:4VrrmyR20

「乱……馬……そう、か……」

 早乙女乱馬の名前が、ようやく、天道あかねの口から出た。
 乱馬の事を彼女が思い出し、心の靄が晴れたように消えていった。
 伝説の道着も全てを察したのだろうか。

「──」

 伝説の道着は、嫉妬深い性質の持ち主であるとされる。
 主人と認めた武道家に深い愛情を注ぎ、それ以外の異性があかねに近寄るのを許さない。もし、それを見かけた場合、伝説の道着は解体されてしまうのである。
 今がまさに、その時であった。
 道着は、乱馬と──そして良牙への敗北を確かに認め、その時、確かに伝説の道着ははらりとその役割を終えてしまった。
 幾人もの敵を苦しめてきた怪奇な鎧は、その時、他人の愛によって役割を停止した。

「くっ……」

 ──良牙も、同じだった。その瞬間は嬉しかったが、悔しくて仕方がなかった。

 どうやっても、あかねに思われ続ける乱馬には勝てない。たとえ格闘で勝っても、力で勝っても、勉強で勝っても、身長で勝っても……何で勝ったとしても、何よりも欲したその一点だけは。
 だから、乱馬をもう認めるしかなくなってしまった。
 内心では、まだ悔しい。
 いつもずっと、あかねを手に入れる事を考えてきた。二人の仲に付け入る隙はまだきっとあると、どこかで信じていた。
 しかし、そんなのは所詮気休めだった。良牙の思い込みで、もうどこにもチャンスなんていうものはなかったのだ。

「────」

 もう、これっきりだろう。

 良牙は、そう思いながら、つぼみと鯖豚のもとへと歩き出した。
 あかねとは、かつてのような関係にはもう戻れない。
 友達ですら、いられない。きっと……。
 乱馬の事を思い出してくれたとしても、あれだけ呼びかけて反応しないほど取るに足らない自分の事などあかねが覚えているわけもないだろう。

「つぼみ……」

 良牙はつぼみの近くに寄り、そっと手を貸した。
 力強く、つぼみの腕を握るその手。引っ張り上げて、すぐにでもつぼみを背負ったその背中。まぎれもなく、大丈夫と呼んでも差し支えない男のものだった。──しかし、その男は泣いていた。
 良牙は左腕に、鯖豚を抱えた。

「……あかねさん」

 そっと、右手を半分裸のあかねに向けて差し出した。
 あかねは、戸惑ったようにその右腕を見つめた。

 自分は何をしていたのだろう。こうまでして、何故……。
 自分の為にここまでしてくれる男が近くにいたのに、そんな相手まで殺そうとして。
 優しく、気高く、誰よりも傷つきやすい男を、あかねは容赦なく傷つけた。
 おそらくは一生、残り続ける傷跡を彼に残しただろう。
 胸に罪悪感が湧きでてきた。

「……」

 あかねはその右腕を良牙に差し出そうとしたが、その直前にふと嫌な物が見えた。
 自分の手には、真っ赤な血がついている。
 裏正を握った時の血だ。

 ……理解していた。だから、諦めたように自分の掌を見つめ続けていた。

「……」

 そう、一文字隼人に美樹さやか──もう二人の人間を殺している。
 あかねが出した犠牲はそれにとどまらないかもしれない。

186らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:40:24 ID:4VrrmyR20
 目の前の男の心も傷つけ、目の前の女の体も傷つけ、計り知れない悪事を重ねた。
 言い訳はない。
 この一日、あかねは目的さえも忘れて無意味に人を傷つけ、襲い、殺し続けていた。

 そう──それは、もうどうやっても日常に帰る事などできない証だった。
 父にも、姉にも、友達にも、もう会えない。
 大事な人の前に立つ事も、もう叶わない。
 乱馬を守る、という目的は既に潰えたと言っていい。

 ふと思った。
 彼が差し出した右腕は、このあかねの手に汚れるのだろうか。
 いや、そうもいくまい。
 この右腕が罪の証ならば、あかねはそれを自分だけで背負っていくのみだ。

「……ううん」

 大事な友達の指を、あかねの罪で穢してはならない。
 あかねは、一息ついて、その右腕をひっこめた。
 男は、そんなあかねの様子を見て、眉をしかめた。
 そんな彼の表情を見て、あかねは息を大きく吐き出した。



「……ごめんね…………みんな……乱馬……」



 そう呟くと、あかねの体はゆっくりと力を失い、上半身ごと倒れこんだ。
 全身の力がもう、どこにもない。
 いや、もはや生命を維持するだけの余力もないだろう。

「あかねさんっ!」

 あらゆる変身能力があかねに手を貸したが、あかねの肉体が持つキャパシティを遥かに超える膨大な力があかねに取りついてしまった。幾つもの変身、幾つもの顔、幾つもの力──それが、あかねの体を蝕み、最後には何も残らない怪物に変えてしまった。
 その悪魔の力は自分の命さえも吸った。肉体は崩壊しきっていると言っていい。

「大丈夫。忘れたりなんかしないよ……良牙くん。良牙くんは私の一番特別な友達だから……。────ありがとう」

 ああ、せめて、……大事な親友・響良牙の名前を呼び、彼が意外そうな顔でこちらを見るだけの余力があったのは、ちょっとした救いになっただろうか。







 あかねの亡骸の右腕を、良牙は黙って握り続けた。
 空はもう晴れている。
 一帯が潰れたこの激戦の痕も、随分と違った景色に見え始めていた。
 長い時間が経ったように思われたが、時計はほんの数十分の出来事だったのだと告げている。

「……」

 つぼみは良牙に声をかける事ができなかった。
 良牙は何も言わず、ずっと黙っていた。
 それは、まだ彼が涙を止められず、立ち上がってこちらに顔を向けられないという事だと、容易にわかった。
 人は大事な人の死に目に悲しみを覚える。その時に自然に流れる涙であっても、他人に見せるのは情けないと教育されて生きているのが男たちである。
 ましてや、彼のように頑固で誰よりも強い人間は、涙を易々と見せたいとは思わないだろう。

 ──彼は我慢している。
 本当は遠吠えのような声をあげて泣きたいのかもしれないが、つぼみがいる手前、それができないのだろう。
 だから、何となく居心地の悪さを感じていたのだろうが、やはりつぼみは意を決して告げた。

187らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:40:44 ID:4VrrmyR20

「良牙さん……一緒に泣きましょう」

 つぼみの提案は聞こえただろうか。

「私もずっと、我慢していました。……でも、やっぱり……無理をするのはきっと、体に毒です」

 何も言わない良牙の背中に、つぼみは語り掛けた。
 やはり頭が真っ白で、何も聞こえていない──聞こえたとしても理解できない──のかもしれない。
 つぼみ自身、自分が何を言っているのか、すぐにわからなくなった。
 考えて出た言葉というよりも、ただ感じた言葉だった。
 今、自分がしたい事だろうか。

「……っ」

 良牙はあかねの手をまた強く握った。
 より強く。──しかし、握り返してもらえない心の痛み。
 それが良牙の中からあふれ出る。

「あかねさああああああああああああああああああああああああああんっっっっ!!!!!!!!!!!!!」

 良牙は、あかねに縋り付いて泣いていた。
 そんな良牙の背中で、つぼみは大事な友達をまた喪った悲しみと、それからまた一人、心は救えても命までは救えなかった痛みに慟哭した。







 良牙は、倒れた木々が茂るその場所にあかねの遺体を隠した。
 地面に埋める事ができなかったのは、まだどこかに未練があるからだろう。
 五代雄介や美樹さやかもここにいて、罪の連鎖がここにある。
 五代をさやかが殺し、さやかをあかねが殺し、あかねも死んでしまった。

「……つぼみ。ごめん」

 また二人で冴島邸に向かう森の中を歩きながら、良牙は言った。
 あかねの荷物を形見として回収したが、その中には殺人の為の武器ばかりである。
 ガイアメモリも、おそらくそのために使われたのだろう。

「折角みんなで助けたのに、さやかは……」

 どうにも良牙は居心地が悪そうだった。
 身体的、精神的に疲労がたまって、ただ、何も考えられないままにつぼみにそう言ったのだ。涙が枯れても、まだ呆然として何も考えられなかった。
 乱馬やシャンプーと違い、その死に目を直接見てしまったのがつらかったのだろう。

「なんで、良牙さんが謝るんですか」
「……」
「私は、さやかの命を奪った罪を憎みます。でも、……あかねさんは憎みません。それが私で、それが良牙さんですから」

 誰かが犯した罪を憎み、罪を犯した人間を憎まない。
 それは、つぼみの鉄の意志だった。そして、良牙自身も無自覚にそんなやさしさを心に秘めている人間だとつぼみは思っていた。
 今回の場合、ある人を狂わせたのは確実に「外的要因」である。
 それに、同じように、さやかは良牙と同行者である五代雄介を殺してしまっている。
 つぼみが、あかねを責める気はなかった。

「……そうか」

 良牙もそのつぼみの意見に概ね納得した。
 これ以上、二人で話しても、結局、結論は同じだ。主催を倒す事で、その罪を消し去る。
 それこそが、これから仮面ライダーとプリキュア──古今東西のあらゆる戦士たちがすべき事である。

 大道克己もそうだ。いつの間にかあの男への恨みは晴れていった。

188らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:41:08 ID:4VrrmyR20
 自分が憎んでいたのは、大道克己ではなく、彼の罪だとわかり始めていたのかもしれない。
 仮面ライダーエターナルとしての力を得た良牙は、これからもまた、仮面ライダーの力を自分が信じる正しい使い方で使っていくだろう。

「そうだ、良牙さん。さっきからずっと不思議だった事があるんです」

 ふとつぼみが口を開いた。
 先ほどからどうしても疑問だったことが一つあるのだ。

「…………あかねさんが私にトドメを刺そうとした時、どこからか声がしたんです。『早くこの娘を助けてあげて』、って。女の人の声でした。一体……誰の声だったんでしょうね」

 それは、回想して見ると、夢や幻のような声であったようにも思えるが、確かにあの時は耳を通って聞こえた声だった。
 距離感覚的にも、果たして良牙に聞こえたのかどうかはわからない。
 ただ、ここで子豚が「ぶきっ、ぶきっ」と、まるで賛同するかのように声をあげていた。

「……俺も不思議に思っていた事がある。あかねさんが息を引き取った後、あかねさんが持っていたあの折れた刀の刃先がどこにもなくなっていた……もしかしたら」

 あらゆる呪いの道具を目の当りにしてきた良牙である。
 物の中に「意思」があるかもしれないと言われても、すぐに呑み込めるだろう。
 もしかすれば、あの刀──裏正が、一人の少女の心を救えたと知って、満足気にその怨念を絶やして消えていったかもしれない。

 彼らは知る由もないが、裏正という刀は、ある女性の魂が宿されている。
 腑破十臓という男の妻の魂だった。人斬りだった夫を止める為に、何度も何度も説得して、それでも結局止められなかった怨念である。
 しかし、その刀はある物を見届けるとともに、その恨みを消した。
 二つに折れた刀の柄は、美樹さやかが友に認められるのを見た時に、そして刃は、天道あかねが友によって止められた時に。
 ……もう、自分が世にいる必要はなくなった、と確信したのだろう。

(なるほど──)

 良牙の中に、確信ともいえるべき何かがあった。
 それを胸に秘めながら、手元にあるエターナルのメモリを、良牙はじっと見つめた。

(俺もいずれ、お前の声を聴かせてもらうぜ、エターナル)

 エターナル。
 かつて、風都を死人の街にしようと目論んだ悪の仮面ライダー──。
 その力が一人の少年の手に渡り、いつの間にか、全く別の道に向けて風が送られていた。

189らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:41:25 ID:4VrrmyR20



【2日目 昼】
【E−5 森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:冴島邸へ。
1:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
2:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

190らんまの心臓(後編) ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:41:44 ID:4VrrmyR20

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(中)、五代・乱馬・村雨・あかねの死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル、バイオレンス、ナスカ)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×18(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ、あかね、溝呂木、一条、速水))、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実×2、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜8(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子0〜2、溝呂木0〜2)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:自分の仲間を守る
0:冴島邸へ。
1:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
2:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。







【天道あかね@らんま1/2 死亡】
【残り15名】

191 ◆gry038wOvE:2014/10/07(火) 15:43:10 ID:4VrrmyR20
以上、投下終了です。

192名無しさん:2014/10/07(火) 18:07:57 ID:5x6vqHEU0
投下乙です
やっぱりあかねは助からなかったか…
でも、最期に乱馬や良牙の事を思い出せて良かった

しかし良牙はほんと報われんなあ
どんなに強く想ってても、あかねの心を強く揺さぶるのは彼自身の言葉でなくて、乱馬の言葉だなんて、悲しいなあ
あかねの最期の言葉でもあくまで『友達』呼びなあたりにも哀愁を感じるw
まあ、良牙には一応あかねとは別に相思相愛の彼女がいるわけだが

193名無しさん:2014/10/07(火) 18:28:45 ID:/cmDtofk0
投下乙です。
おお、苦難続きだったあかねはようやく最期に一つの救いを手に入れられましたか……
新たなる決意を胸にした二人に幸があらんことを

194名無しさん:2014/10/07(火) 19:18:23 ID:yRfU5JMs0
投下乙です

あかねは彼女だけの責任でもないんだが選択肢の結果でとことんまで行ったからなあ
助からないとは思ったがせめて最後に救いの一つがあっただけでも…
良牙は本当なら休ませてあげたいがロワの最終章はまだ続く
せめて頑張れ

195名無しさん:2014/10/09(木) 00:14:49 ID:c..nCN/gO
投下乙です。

良牙はどう頑張っても乱馬に勝てない。
それでもあかねにとっては、乱馬の事を想い出させてくれた「大事なお友達」だ。

196 ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:52:05 ID:/DLS..kw0
投下します。

197騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:53:33 ID:/DLS..kw0








 Where there is light, shadows lurk and fear reigns…
(光あるところに、漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)











 But by the blade of knights, mankind was given hope…
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)















 涼邑零。──この男に、その名前がついたのはごく最近の話である。

 元々、彼には「本当の名前」はなかった。人の子として生まれたはずだが、気づいた時には親は目の前にはいなかった。自分と血のつながりのある人間は人生の始まりから間もなくして、何らかの事情で彼の目の前から姿を消していたのだ。
 おそらくは────もうその彼の血縁者はこの世にいない。両親は彼が生まれて間もなくして、ホラーに殺されたという話をされた事があったが、やはりそれが真実なのだろう。
 だから、実の両親がつけるべきもの──「本当の名前」は彼にはない。

『──父さん! 静香!』

 親のなかった彼にとっての家族とは、道寺という老いた魔戒騎士の父と、静香という妹である。自分が道寺や静香と血のつながりがない事を知ったのは、十年前、彼が八歳の時だ。
 それを告げられるその時まで、何の違和感もなく彼を本当の父だと思って生きてきたのだった。強く優しい道寺の背中は、本当の父そのもの──彼は、ずっとそれを追って来た。
 魔戒騎士の血が自分と静香に流れ、自分はその血に従って、父同様の立派な魔戒騎士になると思っていた。

『怒らないで、坊や。道寺はね、身寄りのないあなたと静香を引き取って、自分の子供として育てる決意をしたの。それがどんなに覚悟の要る決断であったか、あなたにはわからないでしょうね──』

 倉庫の中で魔導具シルヴァと出会い、そう言われた時の衝撃を彼は忘れないだろう。月並みな言い方をすれば、ハンマーで殴られたような衝撃である。
 後に、その真実を再度、道寺から聞かされた時の静香の驚いた顔も忘れない。
 “ああ、あの時自分はこんな顔をしていたのか……”と。
 だが、決して、失望だけの色ではなく、どこか嬉しさがこみあげていたのは、兄と妹の関係では叶わないような想いを、お互いに胸に抱いていたからだろう。

 彼が道寺のもとで暮らしていた時の名前は銀牙と言った。
 これはおそらく、一人の身寄りのない子供に道寺がつけた名前だ。銀牙騎士ゼロ、という道寺の称号の名前を考えれば、容易にわかる事である。おそらくそこから取ったのだ。

198騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:53:51 ID:/DLS..kw0
 銀牙はその名前を、己の誇りにした。血のつながりはないとはいえ、それでも父は自分を魔戒騎士にしようとしている。父の称号から受けた名前がより一層、自分は魔戒騎士になるのだという想いを強くさせた。誉れ高き魔戒騎士が、己の称号を他人に名付けるはずがない。実の息子のような愛情を注いでいるから、この名前が銀牙に受け継がれたはずだ。
 道寺や静香が、自分の事を「銀牙」と呼んでくれる日々がただ嬉しかった。
 たとえ血のつながりがなくとも、そこにいるのは確かに「家族」。父から子へと受け継がれた、魔戒騎士の魂の絆だった。

 ……とはいえ、元々、道寺が彼を引き取ったのは、「絶狼」の称号を持つ鎧の後継者が空席だったからであった。決して孤児を不憫に思ったわけでもなく、己の寂しさを紛らわすだけでもなく、ただこの世にありふれたたくさんの孤児の中から、奇跡的な才能の持ち主を見出して、自分の後継者を育てようとしたのであった。
 魔戒騎士になるには血のにじむような努力が要される。昼夜を問わず心身ともに修行し、天才的な素養と努力によって己の術を高めていく。一般的な人間が一生涯に行うほどの努力を少年期に詰め込むくらいでなければ、古の怪物ホラーを狩る事はできない。
 本来ならば血統も重んじられるが、その差を一層の努力で埋めなければならない定めも彼には圧し掛かった。

 しかし、銀牙にはそんな生活も、手ごたえのない努力も、苦ではなかった。
 苦しさの数に勝る幸せがあり、道寺の息子として魔戒騎士を夢見る事もまた誇りであったからだ。銀牙自身が、魔戒騎士の子たちに遅れを取らない才能の持ち主であった所為もある。

『ねえ、銀牙はなぜ魔戒騎士になったの?』
『──きみを守るために』

 「大事な物を守る」──魔戒騎士にとって、最も大事な想いと、しかるべき義務もまた、銀牙の胸の内に確かに秘められていた。日々の辛い修練も、父や静香を守るために魔戒騎士になるその時を思えば耐えられたのだ。それに、父の生成した魔導具・シルヴァも彼らを支えていた。

 そして、いつの間にか銀牙は、魔戒騎士の血統を継いだ者たちよりも立派な魔戒騎士になっていたのである。
 それだけの素質を開化させる頃には、銀牙は十八歳になり、私生活では静香との結婚を意識するようになっていた。まるで前世からの悲恋が叶うような喜びが胸に広がっているのを銀牙は感じた。
 そう、おそらくは──この愛おしさは、今に限った事ではない。
 兄と妹だった時よりも、ずっと以前から二人は惹かれあっていたはずだ。
 そして、やがて訪れる幸せを夢見て、銀牙は日に日に強くなっていった。誰よりも強く、誰よりも静香の事を守れる魔戒騎士になるために──あるいは、最高位の黄金騎士の力に届いてもおかしくないほどの急激な成長ぶりであっただろう。


 そんな日々も──。


 あの日。左翔太郎の言葉を借りるならば、「ビギンズナイト」とでも呼ぶべき、銀牙の運命を変えた日、遂に銀牙の幸せな日々は幕を下ろした。
 長い時間をかけて育まれたその幸せが崩されるのは一瞬だった。
 それが崩された理由の単純さも、その運命の無情さを表していた。

 たった一人の魔戒騎士が、ある秘薬を奪う為だけに、銀牙の目の前で道寺と静香を殺害したのである。目の前で、家族たちの温かさは消えていった。
 その日から、銀牙は己の名前を捨てた。あの名前が呼ばれるは、銀牙が育ったあの草原にぽつりと建てられた小さな家の中だけだ。
 誇り高き、「銀牙」の名前は、もう使われるべきではない。これからはどんなに汚れた事でも行う。魔戒騎士の道理に逆らってでも、家族の仇を取るのだ──。

 「銀牙」は、その時に死んだ。──そして、新しく「涼邑零」という名前の男が生まれ、復讐の為の日々は始まったのである。







 仇敵は目の前にいた。
 暗黒騎士キバ──。いや、それを狂わせていた『鎧』だった。この鎧は中身を伴っていない。残留思念だけが具現化された物であるとザルバは言う。
 実のところ、確かにそこから人間らしい意思は感じられなかった。

 しかし、確かにそれは仇敵だった。

199騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:54:17 ID:/DLS..kw0
 千体のホラーを喰らい、魔戒騎士たちを喰らい、バラゴの精神までもを喰らったのは全てこの暗黒騎士キバの鎧の方である。
 真に憎まれるべき仇は鋼牙でもバラゴでもない。──ここにいる、鎧の怪物だ。

 ──魔戒騎士たちの鎧は、須らく危険性のある材質で出来ている。
 ソウルメタル──現世で99.9秒以上装着していれば鎧の力に食われ、暴走するという代物である。その時から鎧はデスメタルへと還元され、より強固で強力になる代わりに、鎧自体の自我も強くなるのである。
 文字通り、“魂が死んだ”状態と言っていい。
 実のところ、辛い修行を経てきた多くの魔戒騎士たちはソウルメタル難なくそれを使いこなすのだが、時として飽くなき力の誘惑に負け、99.9秒を超過しても鎧を解除せず、結果として怪物になる者が現れる。

 この鎧の主であるバラゴは、その限られた稀な魔戒騎士だった。
 バラゴはもうこの世にはいないが、全てを喰らった鎧の方こそがバラゴを暴走させ、怪物の意思を持っていたのだろう。バラゴの蛮行は当然許される事ではないが、より許せないのは、一人の人間の想いを利用して騎士の道を狂わせたこの悪しき鎧──それが今、ようやく零にも理解できたようであった。

「──いくぞ」

 ゼロはその仇敵の暗黒騎士の喉元を冷静に──あるいは、冷淡に見つめた。銀牙騎士ゼロの鎧を纏い、今自分は戦いの現場にいる。
 しかし、己の内心には奇妙な落ち着きも見受けられた。戦意は高揚もしているはずなのだが、決してそれだけではない。今までよりもずっと、沈着した怒りで敵に相対している。
 ずっと……ずっと、追い求めてきた己の仇が、今目の前にいるはずなのに。あれだけ憎み、あれだけ零を苦しめた諸悪の根源が目の前にいて、今度は零の命を奪おうとしているはずなのに。本来なら復讐の意思が牙を剥いても全くおかしくない話だが、零はその想いに飲まれなかった。

「暗黒騎士……いや、俺たちの敵・ホラーよ」

 勝つか、負けるか──それは生きるか、死ぬか。幾度もその緊張を乗り越えてきたとはいえ、この破格の相手を前に考えてみれば恐ろしい物だが、今こうして、久々に暗黒騎士と対決する日が来た時、零の胸には辛い修行を乗り切った後に敵に勝ったような達成感があった。
 ──いや、勝てる。これは勝てる戦だ。その確信が既に零にはある。

「貴様の陰我──今度は、俺が断ち切る!」

 道寺も。静香も。シルヴァも。鋼牙も。──今はいないが、彼らから教わって来た魔戒騎士の義務と守りしものだけは、零の中に残される。いや、彼らにその想いを受け継がせてきた幾千の英霊の魂や想い、誇りもまた、銀牙騎士がここに生まれるまでに存在しているのである。それらは決して消えない。
 古今東西、あらゆる黄金騎士や銀牙騎士たちが鋼牙・零の代まで継承させた力と意思である。たかだか十年程度、見せかけの強さで悪の限りを尽くした暗黒騎士──いや、騎士と呼ぶ事さえおこがましい目の前の怪物とは違う。

 ゼロがこんな所で、こんな相手に負けるはずがなかった。
 この剣に、この両腕に、この血潮に、幾千幾万の戦士たちの力と想いが宿り続けている。そして、ゼロの背中を押しているのである。

 ──それに、ここには新しい仲間もいる。
 その追い風に身を委ねるように、彼は駆けだした。

「──はあああああああああああっ!!!」

 両手に剣を握りしめたゼロは、まるで舞うようにキバの体表へと剣をぶつけた。
 火花は勿論、キバを動かす邪念の欠片もまた、そこから漏れ出たように感じた。
 胸を張り、然として、キバはその一撃を受ける。
 その衝撃を鎧の強度で飲み込み、当のキバは隙を見てゼロの腹を、胸を蹴り飛ばした。
 数歩、ゼロは退く。

「はあっ!!!!」

 しかし、そこから縦一閃。
 刃がキバの体を引き裂かんと振るわれた。
 両腕の付け根に向けて突進した斬撃の光は、その体を抜けて後方の木々へと、地面に垂直な焦げ跡を刻んだ。

「ぐっ……!」

 今度はキバが後退した。

200騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:54:36 ID:/DLS..kw0

 真横に剣を構えて、ゼロの手前の虚空を引き裂く。彼らの一撃は、風を作りだす。──鎌鼬、という現象のように。
 ゼロは高く跳躍してそれを回避する。キバの斬撃は、そんなゼロの足の下を素通りしていった。後方数十メートル、幹が抉られた木が残った。



 ──その時、キバにも隙が出来たように見えた。

「はぁっ!!」

 この掛け声はゼロでもキバでもない者が発した声だった。そして、真横からキバの左腕に向けて振るわれる剣──。これは、おそらく戦闘の素人による攻撃だ。キバはその左腕で剣の切っ先を掴む。

 その見かけは黄金の輝きを放っていた。──ゼロの仲間だ。
 黄金騎士ガロの姿に変身したレイジングハート・エクセリオンである。ダミーメモリという強力なメモリが、一度見た敵をより強くなっている。

「愚かなッ」

 キバはまず、そちらに一度、剣を振るった。刃はまるで突き刺したかのように深く鎧を抉り、滑らかに線を作る。黄金の鎧に一文字の傷跡。レイジングハートの方が接近しすぎた証であろう。指に嵌められたザルバも、その不覚を呪っているに違いない。
 もう少し距離感を計算に入れるべきだ、と。

「ぐああああああああああああああッッ!!」

 レイジングハートは基本的にはここにいる誰よりも戦闘に不慣れだ。
 ゆえに、キバに敵うだけの力は持ち合わせない。キバにとっても、取るにたらない存在のはずだ。

「大丈夫かっ!?」

 着地したゼロがレイジングハートの身を案じる。
 だが、彼女には決して役立たずではなかった。彼女にも、ここにいる誰も持たない技能がある。この場の誰もが、その行動をただの無茶や不慣れと勘違いしたようだが、レイジングハートも接近戦が危険である事など重々理解している。

 ──彼女も「変身」においては、ここにいる誰よりも多様なバリエーションを持っているのだ。これまで見てきたあらゆる物に姿を変え、その能力の片鱗を自在に引きだす事ができる。扱う者によれば、その強さは絶大。
 今、まさに、その能力を活かして目の前の巨悪に一矢報いようと思ったのである。

「──OK,……変、身ッ!」

 この時、傷ついたレイジングハートが姿を変えたのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの姿であった。所持していた黄金の剣は、鎌形の魔法刃・ハーケンセイバーへと姿を変える。ダミーメモリによる疑似的な魔法力だけではなく、レイジングハート自身のリンカーコアから供給される魔法が一層、その刃を強くする。

「ハーケンセイバァーッ!」

 ごろろろろ。──形を変えた剣から発せられるのは、轟く雷鳴。
 キバの頭部から足元まで雷が駆け巡った。人間ならば一瞬で焼死する。非殺傷設定などこの相手には使われていなかった。

「なにっ……!」

 肉を斬らせて、骨を絶つ──。
 接近戦の危険性は重々承知していたが、レイジングハートはこの距離で「変身」する事を考えていた。ガロとして接近してキバを狙い、直後にフェイトの姿へと変身し、魔力を発動する。その作戦通り、ハーケンセイバーへと変形した黄金剣は、キバの頭上に雷と魔法刃を落としたのであった。

「……ぐっ!?」

 魔戒騎士を相手にすればありえないトリッキー。──それが、暗黒騎士キバの鎧に突かれた弱点である。
 目の前の敵が黄金騎士ではなく、湖で目にした女であるとはわかっていたが、あくまで、キバは無意識に「魔戒騎士の能力」への対応を考えていたのだろう。しかし、当のレイジングハートの側は決して黄金騎士としての能力だけを有しているわけではない。これまでの戦いのあらゆるデータが全てそのままダミードーパントの能力に直結している。

201騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:54:52 ID:/DLS..kw0

 変身のバリエージョンは無限に存在し、瞬時にその姿と能力を入れ替えて戦闘する事ができる。その切り替えが上達している事をキバは想定していなかった。
 ゆえに、甘んじてその体は電撃を喰らう事になったのだ。
 体を駆け巡った電流の残滓を振り払い、レイジングハートを一睨みする。

「ふんっ……」

 キバにとってはまだまだ致命傷に届かない一撃だ。
 鎧自体の能力も、易々と敵に遅れを取るレベルではない。中身がない分、人間と比べて「痛み」のない彼には、一瞬だけ受けた外傷である。
 通常の金属と違い、感電する事はありえない。破損レベルも低く、決して意義のある攻撃にはなりえなかった。

「……この程度か!」

 レイジングハートが行ったのは、実際には「骨を絶たせて肉を斬る」という程度だったのだろうか。キバの受けたダメージは、レイジングハートの意に反して、微々たるものであった。
 しかし、キバのペースを乱したのは確かである。下に見ていた相手から初めてまともな攻撃を貰って、内心では動揺も受けただろう。自尊心の強い怪物であるがゆえ、自分の想定を崩されると理不尽な怒りも湧き上がる。
 実際、微々たるものとはいえ、鎧そのものに与えたダメージがあるのは確かだ。蓄積されれば十分に破壊につながる。おそらく、通常の攻撃では、多少でもダメージは与えられない。

『おい……あんまり無茶をするな……! 身が保たないぞ!』

 ただ、レイジングハートを想い、ザルバは叫んだ。実際、その通りだろうとレイジングハートも自覚する。
 この戦法が一度成功して以降は、おそらくその効果は弱くなる。まだキバが知らないような能力もいくつか使えるが、それを使い続ければキバもレイジングハートの命そのものを消し去る為の対策を生みだすだろう。

 レイジングハートは、キバから距離を置いて膝をついている。胸部の傷跡を触れながら、あと二、三発同様に攻撃されればレイジングハート自体が破壊されてしまう可能性も高い──それを実感した。

「まずいっ!」

 好機。キバはそこにねらい目を感じる。
 その最中、仮面ライダースーパー1──沖一也がそこに駆け寄った。

「ふんっ」

 キバが空中に剣で十字を描くと、それはまるで黒色の衝撃波のような姿へと姿を変えて、そのままレイジングハートを狙う。

「──ッ」

 ──が、その攻撃の延長線上には、既にスーパー1が到着していた。
 十字の黒炎がレイジングハートの体を引き裂く前に、スーパー1が両掌をキバに向けて腰を少し下ろす。構えは、ほぼ正確だった。

「赤林少林拳! 梅花の型!」

 十字の中央、四股が集う場所が、スーパー1の掌と重なり、包まれた。まるでスーパー1の掌の底から漆黒の花が咲いたようにも見えるだろう。
 レイジングハートは、自分に向けられた攻撃に咄嗟に目を瞑ったが、己を守るスーパー1の背中を目の当りにして、ほっと息をついた。

「破ァッ!」

 スーパー1は、キバの剣から放たれた衝撃波を梅花の型で吸収する。
 彼は別にこの腕に力を込めたつもりはなかった。ただ、自然の流れに従い、己の鋭敏な感覚を信じてそこに手を起き、流れに任せたのみである。
 その結果、黒炎の力は押しとどまり、やがてスーパー1の付近数メートルに暴風を発生させた後、元通り自然の流れに消えた。

 全て終われば、舞い散る木葉だけが、スーパー1とレイジングハートの周囲には舞っている。
 守る。──という行為においては、彼はプロフェッショナルであると言える。
 梅花とは、その為の力である。その使いどころが発揮されたという事だ。

202騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:55:33 ID:/DLS..kw0

「ハァッ!」

 ゼロが再び、キバに接近して剣舞する。
 本来ならば相当に使う難く、剣道でもルール上可能であれ、誰も使わない二刀流。──現代では、それを使いこなせるほど頭の回転の早く、両手の握力やテクニックの強い戦士は存在していなかった。
 それが、今、一度、二度、三度、四度と、キバを翻弄して傷つけている。

 彼は二刀流において、おそらくその時代で最強の実力の持ち主であった。並の人間にとっては一刀流が最も安定した剣術だろうが、彼にとっては二刀流の方が遥かに扱いやすい。
 刀、という無機質な相棒でも、一つでも多い方がいいと──寂しく思っていたのかもしれない。
 それは、滑らかにキバの体表を削り取った後、背後に退いた。

「うらァァあああああッ!!」

 そんな最中、三人──ゼロとスーパー1とレイジングハート──の耳朶を打つのは、もう一人の後衛の叫び声である。咄嗟に、ゼロとスーパー1は己の身の危険を感じた。
 味方ではあるが、決して優しくはない攻撃がキバに向けられたのだろう。

「ぐっ……!!」

 ゼロが後退した理由はこれである。
 スーパー1のもとに、更に一閃の攻撃が向かってきた。──今度は、梅花による回避は難しい速度であった。力の位置が安定せず、捉えるのは難しい。

 咄嗟に、スーパー1とレイジングハートはその頭を下げて屈み、体ごと回避した。
 激突。
 二人の後方、冴島邸の塀に真っ赤な炎を帯びた斬撃が走る。爆弾がコンクリートを粉にしたような轟音とともに、塀が崩れ落ちてきた。
 レイジングハートの頭部をスーパー1が庇うようにして守る。瓦礫は彼の体には柔らかな土塊も同然だ。

「ドウコク……!」

 その技の主を見れば、それは血祭ドウコクであった。──彼にとっては、この軌道もおおよそ予想通りだっただろう。最もキバを捉えやすい角度に、力任せに剣を振るっただけだ。
 暗黒騎士キバ以上に恐ろしい異形を、スーパー1は黙って見つめる。その瞳にはドウコクへの批難と反抗の念も込められていたが、当のドウコクは全くそんな視線を受けている意識はなかった。

「フン」

 ドウコクは憮然と立ち構えたまま、キバの方を見据えている。スーパー1とレイジングハートの方には最初から目をやっていないようだ。明確にスーパー1やレイジングハートを狙ったわけではないが、巻き添えも辞さないと判断したのだ。
 いずれ敵になる男……というのを二人は確信した。

 これがこの男の戦法だ。
 スーパー1とレイジングハートの回避を信頼したわけではなく、「回避できない雑魚ならば味方として扱う価値はない」と最初から方針を決めて戦っている。
 これが同じ外道衆の仲間ならば違っただろうが、相手が外道と相容れない善良な人間ともなるとこんな扱いである。──ドウコクは、スーパー1たちが休む間もなく次の行動に出た。

「ハァァァァァァァァッ!!!!!」

 そう吠えたかと思えば、次の瞬間には、ドウコクがその場から姿を消した。いや、その場にいた人間の目が一瞬だけその姿を捕捉できなくなっただけだった。
 よく目を凝らせばわかるが、ドウコクは超高速で移動してキバの体を斬りつけていた。それは傍から見れば単純に右から左へ動いているように見えるかもしれないが、実のところ、ドウコクの足は地を蹴っていない。
 それこそが外道衆なる妖怪たちの特異性だろう。
 僅かならば、地に足をつけずに、自分が作りだした大気の流れだけで移動ができる。

「ハアッ!!」

 何度、キバの体が傷を負っただろうか、というくらいに切りつけたところでドウコクが飛びあがり、上空から青い雷を放ってキバに落とした。

203名無しさん:2014/10/13(月) 23:56:28 ID:/DLS..kw0

 スーパー1とレイジングハートは退いてそれを回避していた。今は到底、そこに飛び込めるような状況ではない。
 これがドウコクの実力である。この時の彼は、おそらくこの場で最も非情に戦闘行為を行っていたのだろう。──首輪を外した以上、彼を縛る者は何もない。

「ぐっ!! はっ……!!」

 キバは、傷つきながらも機転を効かせて、その雷を上空に翳した剣を避雷針にして「回収」する。そして、剣を華麗に振るって、その電撃が自らに到達するよりも早く────大地へと雷を押し返す。
 なかなかの初速だ。視界そのもののモードを切り替え、ドウコクの戦闘をコンピュータで捉えていたスーパー1以外、その一瞬は捉えきれなかっただろうと、スーパー1は自負した。
 地面が裂け、電撃はゼロの方へと突進していく。

「危ないっ!!」

 スーパー1が思わず叫んだ。
 雷が土竜のように地を掘り進め、地上にそのエネルギーを解放しようとしている。
 そのゴール地点にゼロがいるのである。彼の耐久精度がどの程度か認識していなかったスーパー1は、彼の身を案じた。
 しかし、それは全くの杞憂だったといえよう。

「はっ」

 ゼロは両手を広げ、空中へと飛びあがる。──彼は、キバが雷よりも早く動いた事を確かにその目で捉えていたらしい。それは、人間離れした運動神経と動体視力であると言える。
 空は真昼の太陽がもう雲に隠れていて、既に陽が落ちそうに暗くなっていた。今、空にある輝きはゼロだけだった。
 なるほど、スーパー1が思っていた以上に、頼りがいのある仲間だ。

「──」

 ドウコクの方は、これといって反応せず、憮然と立ちすくんでいる。──彼も、スーパー1の予測以上の動体視力で、一部始終を確認したのだろうか。
 スーパー1──沖一也と決定的に違うのは、ゼロが舞い降りるあの空に一切興味を持たないところだ。
 遅れて、レイジングハートが、顔を上げてゼロの姿を探した。今の一瞬は彼女でも捉えられなかったらしい。ドウコクがキバに雷を落としてからの展開を彼女は読めていない。

 ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ……。

 そんな風に空を彼らが見つめていると、どこからか蹄の音が鳴り渡った。
 味方さえも、その音に翻弄される。キバに向かっていくその音。
 まるで、森の中から突然に現れて出てきたように聞こえた。

「!!」

 巨大な銀の馬が、森の奥から駆け出してくるのだ。
 ゼロの鎧と同じく、白銀に輝くその馬は、どんなサラブレットよりも美しく猛々しい。
 スーパー1は思わず息を飲んだ。

「──」

 魔導馬、銀牙である。巨体は四足を駆動させて彼らの元へと向かっていた。
 ゼロが召喚したのだ。あらゆる意味で最後の相棒にして、己のかつての名前が名付けられている家族。現世に降臨した魔導馬は、英霊たちの魂さえも載せてゼロへと近づいていた。

 ゼロはその巨体を繰り、直線上にあるキバの鎧を狙っていたのである。

「はあああああっ!!」

 その時速を確認する。銀牙は、森の奥から現れ、ゼロの着地点まで一瞬で距離を縮めた。
 ──一秒後には、キバの後方へとたどり着けるスピードだろう。
 ゼロが銀牙の上に落下し、丁度跨る形になって、キバへと肉薄するに至った。

「──ッ」

 本来、キバの鎧はその邪念だけで魔界と人間界とのつながりを一時的に断絶する「結界」を張るだけの能力があるが、この時、彼の邪念は結界を張るに至らなかったのである。
 それは、彼が最も恨んでいる黄金騎士の存在がこの場になかった事と、絶狼の鎧を喰らおうとしていた事に由来する。

 しかし、今自分が戦っている相手は既に魔導馬を持っており、それをこうまで手懐け、使いこなしている事をキバは理解した。目の前の敵は、安易に“喰らえる”相手ではない。
 どうやら、もっと簡単にゼロを倒す策を講じなければならない。

204騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:57:56 ID:/DLS..kw0



 銀牙に載ったゼロの刃は、通りすがりにキバの胸を切り裂く。
 先ほど、似非の黄金騎士に与えた傷口よりもずっと深く、空っぽの鎧を抉りだす。

「ぐっ……」

 通りすぎたゼロは、再度後ろを振り向いて、キバの方へと向かっていく。
 キバは倒れかかったその体でも、向かってくるゼロと銀牙を睨み据える。

 ──喰うか喰われるか。
 接近する銀牙を前にも、キバは冷静に己の刃を腕でなぞった。すると、まるでそこから魔導火を翳したかのように、刀身で炎があがった
 デスメタルの刃がいっそう強く燃え上がり、向かってくるゼロを斬りつけようと感じた。

「フンッ!!」
「ハアッ!!」

 ゼロとキバ、お互いの刃から衝撃波が発される。
 膨大なエネルギーを発するお互いの刃が空中で激突、拮抗した──。

 ──爆裂。

 双方の力が押し合いきれずにそのエネルギーを直進させ続ける事ができなかったのだ。
 真横に逃げ出そうと抵抗した力が空中で小さな爆発を起こす。
 空気が振動し、ゼロとキバはそれぞれ、衝撃を体の前面で受けて吹き飛ばされる。

「ぐぅっ!」

 ゼロが起き上がる。
 ──いや、その姿は生身の涼邑零へと再び戻っていた。

「フフ……」

 魔界騎士の鎧が解除されており、背にいたはずの魔導馬も消えている。しかし、零には召喚を解除した覚えも、召喚の継続が不可能になる次元のダメージを負った覚えもない。
 考えうるのは、外的要因。強制的に他人の鎧を解除できる抑止力だ。しかし、それも心当たりがなく、零は困惑した。

「────なっ……一体、どういう事だっ!」

 尻を地面についたまま、零は己の両掌を見る。
 傍らに落ちている双剣にふと気づいて、それを手に取る。
 即座に、その剣で空中に真円を二つ描いて、真魔界とのコネクトを図るが、……すぐにゲートが消失した。これでは、鎧の召喚が行えない。

『奴の邪念を受けたんだ! 奴は結界を張って鎧の召喚を妨害しているぞ!』

 レイジングハートの指で魔導輪ザルバがその気配を察知し、ゼロに原理を伝えた。キバの強い邪念がゼロのソウルメタルの装着を解除させ、一時的に真魔界に鎧と騎馬を送還させたというのである。
 更に、キバはその邪念でホラーを操り、現実世界へと鎧を運ぶ魔天使を妨害している。
 その為に、零は再度鎧を装着する事ができなくなってしまったらしい。

「くっ……奴め! あと一歩のところで!」
『おい、零。もう一度ゲートを開け、俺様が裂け目に入って何とかしてやる!』
「……わかった!」

 零は、頷くとザルバに従って空中に円を描こうとする。
 だが、そんな彼の目の前には既に起き上がったキバが接近している。

 円を描く時間はない──。

「はぁっ!!」

 スーパー1がキバに掴みかかり、零への接近を阻止する。パワーハンドへとチェンジしたファイブハンドは、キバが零を殺害する隙を与えなかった。

205騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:58:31 ID:/DLS..kw0
 キバの外殻を掴み、敵の動きを止める。
 現実世界の科学技術で魔界の鎧を阻止する、その人間の凄まじき情熱──それもまた、キバには疎ましい。真に強きは人ではなく、魔物であると信じるがゆえに、彼はホラーを喰らい続けたのだ。

「くっ。仮面ライダーめ、何度この俺の邪魔をするッ!」
「何度でもだっ!」
「ならばッ! ──はぁッ!」

 スーパー1の鳩尾にキバの肘鉄が入る。強固なスーパー1のボディに、それは損害として認識された。もしまともに喰らえば、沖一也としての内臓部にも危険信号が入りかねない。
 しかし、今この時にスーパー1がしたかったのは時間稼ぎだ。一秒でも稼がれたのなら十分である。

「──ザルバ!」

 零は、スーパー1が作った隙を見て、魔戒剣で真魔界と現実世界とを繋ぐゲートを描いた。
 二つの真円からこぼれ出る光は、魔界とこの世界をつなげる色彩だ。確かに、この小さな裂け目から、あの世界への道筋は開かれている。

「無事を!」
『任せろ!』

 レイジングハートは、即座にそこにザルバを放り投げる。アーチになって綺麗に裂け目へと侵入したザルバの姿が消えたのだろう。
 魔界とのゲートがホラーの妨害によって現実世界から消えていく直前、ザルバは向こうの世界に“帰った”。
 結界を解除し、こちらの世界へと再び鎧を召喚するべく──。

「くっ……」

 キバは、その様子を不快そうに見つめ、スーパー1の腕を払った。
 スーパー1も何メートルか後退する。しかし、今一時の目的は十分に果たせた。
 これで、ともかく、零が生身に限らず奮闘できる状況だ。

「よし、あとは鎧が戻るまで──」

 前方に零とレイジングハート、右方にスーパー1、左方にドウコク。
 四人がキバに向かおうとする。多勢に無勢、というほどキバは弱くない。
 ひとまずは、ここにいる四人を葬るだけの余力はあると──キバは、驕った。







 キバに迫ったのは、赤心少林拳の手刀であった。
 並の鉄ならば切り裂くだろうが、当然デスメタルの鎧にはそれだけの効果はない。
 金属と金属がぶつかる音とともに、キバはスーパー1の腹部に刃を滑らせる。
 その傷は深く抉れて、スーパー1にも深刻な損害をもたらした。

「うらあっ!!」

 スーパー1に注意を向けていたキバの背中から、血祭ドウコクの襲撃である。
 またも、それは味方の損失を一切考えない利己的な攻撃方法であった。
 キバの鎧に向けられた掌から、見えない衝撃波が発生する。疾風ともまた違う、空気そのものが重みを帯びてドウコクの掌から発されたような一撃。
 背後を振り向いたキバにとって痛手だったのは、その一撃のあまりの深さ。
 全身から火花が散るほどである。

「……俺と同じか」

 だが、キバも背中のマントを翻して、そのダメージを最小限に抑えていた。
 既に、ドウコクが自分やホラーと同種である事は理解している。それゆえか、スーパー1の身体を顧みずに一撃を放るような無情な性格が見受けられた。まさに、“外道”と呼ぶにふさわしい悪徳だ。

 スーパー1の腹部を切り裂いた剣を、そのままドウコクに向けて振るった。
 黒炎の斬撃がドウコクに向けて空気を切り裂いて進行する。その一撃はドウコクの体表を抉った。

206きしに:2014/10/13(月) 23:59:38 ID:/DLS..kw0

「うぉっ!」

 ドウコク自身、どうやら避ける気はなかったらしく、予想以上の痛みに少しは困惑したようである。──しかし、その困惑は決して消極的な意味ではなかった。
 敵の出方、敵の持つ一撃、敵から受ける痛み。全てに興味を持ったのだろう。
 どうやら、ドウコクを敗北に至らしめるほどの力はない。

「──ふん、少しはやるようじゃねえか」

 実際のところ、ここにいる中ではレイジングハート以外の全員が片手落ちで倒せてしまいそうな程度、とは思っているが、ドウコクは薄く褒めた。
 少しは、という表現が全く虚栄ではない。
 ドウコクにとって、目の前の敵の実力は、「思ったより少しは上」という程度だった。元のハードルが低い所為もあるが、褒める程度には値する。少なくとも、シンケンレッドや十臓とは同じ程度。

「だが、これ以上俺の手を煩わせる必要もねえみてえだな」

 純粋な破壊願望とともにここに来たが、ドウコクにはもう十分であった。
 あとは、彼らに任せても殆ど問題はない。
 底が見えた──そう感じたのだろう。スーパー1が後退し、キバの周囲から人が消える。ドウコクもそこに突っ込む事はなかった。

『──Divine Buster』

 ──高町なのはの姿へと変身したレイジングハートが既に照準を合わせている。
 桃色の砲火が、そのままキバの鎧へと突進し、爆ぜた。

「やりましたか?」

 爆煙の中でキバの姿を探す。こういう場合、大抵は効き目がない。
 ──この場合も、既存の展開と同じように、キバは再びその煙の中からシルエットを現した。やはり、その目はこちらを睨んでいる。
 キバは接近する。
 慌てて、零がレイジングハートの前に出た。キバが剣を振るうが、二つの魔戒剣がその刃が人を斬るを押しとどめる。

「──いや、奴はまさか……」

 ドウコクが、少しばかり怪訝そうに見つめた。
 相手は消耗しているはずだが、何故かこちらの攻撃がトドメとして通らない。それだけの手ごたえが何故か失われている。
 ……いや。もしかすると。
 相手は、実は“不死身”なのではないかという疑念が湧いた。







 ────真魔界。
 ここは、あらゆる人間たちが持つ心の裏側の精神世界であった。暗雲が立ち込め、屍の匂いがする最悪の場所でもある。
 魔導輪ザルバは、レイジングハートに投げ込まれた事で、こちら側の世界への侵入に成功したのであった。

「ふぅ、やれやれ。……なんだか俺様は前にも同じ事をした覚えがあるぜ」

 当のザルバは記憶にないが、かつて、ザルバがここに来た時は、奪還するのが黄金騎士牙狼の鎧だったが、今回は銀牙騎士絶狼の鎧である。全く、二人とも世話を焼かせる。
 もっと以前から黄金騎士の魂を感じてきたザルバにとって、二人はまだ青二才だ。
 とはいえ……鋼牙。彼はまだ、これ以上に育つ素質のある男だった。思えば、歴代最強の魔戒騎士にもなりえただろう。
 ……いや、こんな事を考えるのはよそう。
 まずは──



「────この、真魔界にいる一面のホラーを何とかしなきゃな」



 ザルバが召喚された位置の絶壁の周囲は、果て無く素体ホラーで埋め尽くされている。
 何百、何千……いや。「無数」というのはまさにこの事だろう。地を這い、空を飛ぶホラーだらけで何も見えなくなっているではないか。見るだけで鳥肌ものである。
 これがあの暗黒騎士キバの鎧が張った結界の力だというのか。

207騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:00:17 ID:VsklBJWI0

「あれか!」

 ザルバが見たのは、鎧を真魔界から現実世界へと運ぶ魔天使たち。それぞれ、銀牙騎士の鎧に接近しては、ホラーに阻まれている。あれでは、おそらく永久に魔天使は鎧を現実世界に送れないだろう。
 なるほど、これでは零も鎧を召喚できないはずだ。
 方法はひとつ。

「いくぜ、魔導輪の意地を見せてやる!」

 ザルバの口から、緑の炎が吐き出される。
 ザルバは自らの力で回転して、自分の周囲のホラーたちを殲滅していく。
 緑の炎に触れたホラーたちは、その火力に燃え尽くされ、消滅した。
 突如として現れた刺客に、多くのホラーはたじろいだ事だろう。逃げていこうとする者もいた。

 しかし──。

「ふぃふぃふぁない!!」(キリがない……!!)

 ザルバがどれだけの速度で進んでも、ホラーの数は圧倒的。
 中にはザルバを破壊しようとして接近する者もいる。しかし、それを何とか殲滅しながら、ザルバは進んでいく。
 これだと何時間かかるかわからない。
 嘆かわしい。このままでは、鎧を返還する前に零たちがトドメを刺して勝ってしまうのではないか。まったく、あの魔天使も自分もこれだけ頑張っているのだから、活躍の場が欲しいものだ。──と考えつつも、ザルバは自分たちが予想以上にピンチである事を感じていた。

 あの暗黒騎士キバの鎧を倒したところで、まだ邪念が消えるとは限らない。
 このホラーたちを全滅させて零に鎧を届けなければ、今後にも響く。

「──しまっ、」

 ザルバの後方、素体ホラーがニアミスを果たしていた。
 ザルバを握りつぶそうとしているのか、その手をザルバに向けて伸ばしていく。
 まずい。
 ザルバがそちらを振り向こうとするが、間に合わない。緑炎が届く前に、このホラーは──。

 ──ザクッ。

 しかし、そんなザルバの焦燥を裏切り、ホラーの姿は崩れ落ちた。
 ホラーの後ろで何者かがその体を斬りつけたのだ。
 ホラーが朽ち果て、その後方から一人の男が現れた。

「……お前は」

 確かに、ザルバはその男を知っていた。
 この時まで、この男がここに現れ、協力する事になろうとは思わなかっただろう。

「バラゴ!」

 バラゴであった。
 彼は一つの錆びた剣を握って、ザルバの周囲のホラーを効率よく斬り捨てていく。時代劇顔負けの殺陣であろう。ホラーたちは崩れ、果て、魔天使たちのもとへと群がるホラーたちの元へと、バラゴが駆けていく。

「時間がない。……いくぞ、ザルバ」

 言って、やはりバラゴはホラーたちを斬り捨てた。
 魔戒騎士としての実力は相当に高い。ホラーの気配を察知して、前後左右上下……あらゆる場所で自らに最も近づくホラーを地に還していく。
 その背中は、ある魔戒騎士にも似ていた。

(────なるほど。怨念を、捨て去ったのか)

208騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:00:42 ID:VsklBJWI0

 鋼牙によって倒されたバラゴの魂は、罪人としてこの真魔界に流刑されたのである。
 しかし、バラゴの心に悪意と強さへの渇望を生み落した暗黒騎士キバの鎧は消え、バラゴの中に根を張っていた邪心は全て空白になったのだろう。
 ゆえに、彼は今、魔戒騎士として戦っている。
 かつて、大河のもとで修行を積み、ゴンザやザルバと団欒した日々の事が一瞬だけ、ふと頭をよぎった。
 とうにそんな記憶は枯れたはずだが、ザルバはその既視感の意味を解して、ニヤリと笑った。

「ザルバ! 何をしている! 早く来い!」

 バラゴは叱咤する。
 呆気に取られながらも、その光景に無性な懐かしさを感じてザルバはその背を追う。
 あるいは、きっと、それは魔戒騎士として本来あるべきバラゴの姿だったのかもしれない。
 バラゴは傷つきながらも、懸命に崖の上の鎧へと向かおうとしていた。

「──わかった!」

 まだザルバにも余力がある。
 暗黒騎士キバの鎧を打倒しようとする仲間は、あそこにいる者たちだけではない。
 ザルバは、バラゴの背中を追い、魔導火でホラーを殲滅していく。







 ────零たちの戦いは、ほとんど互角に続いた。
 ディバインバスターの直撃や、その他のあらゆる攻撃を受けても、暗黒騎士キバの鎧を破壊する決定打とはならない。
 いや、確実にそれが相手の体力を削っているはずなのだが、どうにもトドメとなる技に手ごたえがなかったのだ。実際、目の前の敵は生存している。

(奴め……意外と!)

 不思議であったが、それはおそらくソウルメタルの鎧がない事に由来した。
 本来ならば、ホラーはソウルメタルを用いなければ倒せない。まさしく、暗黒騎士キバの鎧はそれと同等の存在である。彼は騎士である以上に、ホラーの支配を受けている。ホラーと同じ存在であると言える。

 そして、彼はこの殺し合いにおいては、真魔界から召喚されたイレギュラーであり、主催者側の手が行き届かない場所から現れた第三勢力であった。
 主催が用意した魔弾によってホラー化した園咲冴子のような場合は、参加者の持つ戦力──それこそ現代兵器でも倒す事ができるだろうが、怨念として外部から召喚されたホラーは制限の縛りが弱く、ゲームバランスと無関係に作用している。ソウルメタルでしか倒せないのだ。
 ──そして、ただの魔戒剣ではそれには及ばず、相手にダメージを与えているはずなのに、決定打を打てない状況にあった。

「くっ……」

 このままいけば、ただの終わる事のない泥試合だ。永久的に殺し合いを演じる羽目になる。
 ましてや、持久戦に持ち込まれた場合、体力が無尽蔵な鎧に分がある。こちらは根本的に持久戦などと言っていられる状況ではないのだ。ゲーム終了とともにこの場に取り残されるかもしれない以上、時間はないはずである。
 ザルバが一刻も早く帰還せねば、こちらに勝機はない。

「──はああああっっ!!」

 しかし。
 それでも、零は立ち向かう。
 ソウルメタルで生成されたこの剣のみが決定的なカギだ。
 これがなければ暗黒騎士キバの鎧は撃退できない。もう残り時間は一時間と少しだ。

「おりゃあっ!!」

 零には守るべき物がある。
 静香、道寺、シルヴァ、鋼牙、結城丈二……あらゆる仲間たちがいなくなっても。
 まだ、この世界には力なき人、ホラーの脅威に怯える人、立ち向かう力がなく屠られる人たちがいる。

209騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:01:05 ID:VsklBJWI0
 魔戒騎士は、そんな守るべき物たちの物にあるのだ──。

 零は再び、その想いを胸に秘めた。
 飛びあがった零の刃が、キバの鎧に到達する。

 ──その時である。

「空が、光っ──」

 零の頭上で、光が差し込んだ。それは、決して雨やみでも木漏れ日でもない。
 それは、勝機の光であった。
 時空の裂け目──いや、銀牙騎士の鎧が召喚される時の光だ。

『よぅ、零。待たせたな』

 魔天使に引き連れられ、魔導輪ザルバが帰って来たのである。
 魔天使たちは、それぞれ銀牙騎士ゼロの鎧のパーツを運んでいた。
 自分が張ったはずの結界が破られた事を知った彼は、僅かに苛立ったようである。

 召喚されたゼロの鎧は、魔天使たちが零の体へと装着する。それは、見る者の目を奪う神秘的な光景であった。
 神話の天使たちが、今まさしく目の前で羽ばたき、零に鎧を装着している。
 こんな原理で魔戒騎士は鎧を召喚してたというのか──。

「──ありがとう、ザルバ。おかえり」

 白銀の狼が、これまでと同じくキバを睨んだまま、そこに再臨した。
 ガルルゥ。──吠える。
 銀牙騎士絶狼が再びこの世界に解放された。

「所詮は無名の魔戒騎士……念のために結界を張ったが、貴様程度に何ができる?」

 しかし、キバはまた、慢心ともいうべき余裕をゼロに投げかけた。
 そんな言葉も、ゼロは易々と流した。

「違うな、俺は無名の魔戒騎士じゃない。……銀牙騎士ゼロだ!」

 暗黒騎士キバの鎧は、もし表情という物があれば怪訝な顔をしたであろう。
 この空間が魔界でない限り、彼は99.9秒程度の猶予で戦わなければならない。
 しかし、その絶対不利な状況下でありながら、彼は余裕を見せていた。

「銀牙騎士……フン。黄金騎士以外は全てその他大勢の雑魚に過ぎない。だが──」

 銀牙騎士──。
 無名と思しき魔戒騎士の称号、それが後に一時代の魔戒騎士のナンバーツーに数えられる事は、この暗黒騎士の知らぬ話だ。
 ただ、やはり同じ出自の鎧は、敵のその素養をどこかで感じ取ったのかもしれない。

「面白い……掛かってこい!」

 キバは、内心で舌なめずりをしていた。敵が強ければ強いほど、喰らった後に良い栄養になる。物理的に敵を捕食できるこの鎧は、実際に目の当りにしている敵に相当唾を飲んでいるようだった。

 しかし、舌なめずりついでに戦闘の準備は十二分固められていた。
 剣はその指先が硬く包んでおり、力を欲する戦士として、どんな手を使っても敵を仕留める覚悟。

「はああああああああっ!!」

 キバは、己が硬く握っている剣に目をやった。その刀身には徐々にシルエットを大きくする銀色の光が映っている。この角度から、敵の攻撃が来るべき場所を読む──。
 接近。
 そして、衝突。

「ふんっ────」

 双剣がキバの剣へと叩きつけられるまで、一秒とかからなかった。
 ゼロは一瞬、戦慄したかもしれない。己が狙ったキバの首元の手前、突然滑らかに剣がかざされた瞬間は、意表をつかれたかもしれない。
 ────やはりできる、と思いながら、ゼロがもう一方の左手の剣を強く握る。

210騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:01:37 ID:VsklBJWI0

「はっ!」

 防がれた右手の剣は囮だ。もう一方の剣は敵の腰下から脇腹に向けて斬り上げられる。
 火花が散る。キバの鎧は己の不覚を呪う。
 しかしながら、決してその一撃をダメージとして受け取らず、敵の感触を飲み込んで次の一手に出た。

「くっ!」

 キバは即座に実像のゼロに目をやり、体を回転させてゼロを払う。そのまま、背中のマントをはためかせて、足を高く上げると、ゼロの胸部に蹴りが炸裂する。
 ──はずだった。

 ──ゼロの剣は、キバの鎧を既に、斬っていた。

「な……何っ!!」

 キバの中から横一文字、光が覗いている。それは、ゼロの輝きの残滓だろうか。はたまた、そのデスメタルの鎧にかつて込められていた魔戒騎士の想いなのだろうか。
 キバの予測では、彼にそんな力はない。この瞬間まで、そんな力は見受けられなかった。

「ば、馬鹿な……」

 ゼロは、二本の魔戒剣を連結させ、両刃のそれを使って縦一閃、キバを引き裂いた。
 彼の邪念が解き放たれ、魔の気配が消失していく。
 ゼロは、もう一度真横に斬ると、その体を回転させた。キバは己の背にあったが、もはやこれ以上斬る必要も、敵が攻撃してくる事もなかった。

「な、何故だっ……!! ぐっ……ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」

 キバは、ゼロの背を見て、どこかに手を伸ばした。
 助けを求めたのか、逃げ出そうとしたのか、ただ苦しみで空を掴んだのかはわからない。
 しかし、その手は地面に倒れこみ、落ちて消えていった。
 零の口が開く前に、暗黒騎士の怨念は爆発四散し、この世から永久に存在を消した。

「あんたには、守るべき物がなかった……。それが、この結果さ。俺たち魔戒騎士は、守るべきの顔が見えているから強い────お前は、騎士じゃなかったのさ」

 聞こえているかはわからないが、零はそう呟く。せめてもの手向けに、魔戒騎士の真の強さを教えてやろうとしたのだ。

 こうして、“人間の敵”を一人、銀牙騎士ゼロが葬ったのだった。
 彼は復讐者としてではなく、戦士としてその使命を果たしたのである。
 ゆえに、彼の心に曇りや、或いは──長年の憎しみの寂莫からの開放感は、“零”であった。







 ────父さん、静香、シルヴァ。

 零は、ふと父と妹の姿を見た。
 それは幻か、それとも真魔界からの使者か──しかし、零はそこに念話で語り掛けた。

 ──聞いてくれ、父さん、静香。俺は決して、家族の仇を取るために戦ったわけじゃない。大事な物を守るために戦ったんだ。
 ──俺は、父さんみたいな立派な魔戒騎士になったよ。
 ──俺は、静香やシルヴァの命は守れなかったけど、お前たちの想いを守れたよ。

 魔戒騎士の師でもあった男は頷いた。
 それは優しくも厳しい、魔戒騎士たちの歪んだ笑みであるといえよう。
 零は、もう少し素直な笑顔で父に返した。
 魔戒騎士として抱くべきこの強さ、この想いは三人の家族から送られた物だ。
 それを裏切り、復讐の為にキバを殺した時、彼らの想いまでも穢される。
 騎士として、零は立派に人間の敵・ホラーを狩って見せたのだ。

 ──それじゃあ。俺はまだ、やるべき事があるから──





211騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:02:00 ID:VsklBJWI0



「……さて」

 残り時間は一時間二十分。
 目の前の冴島邸では、例の暗号を片づけただろうか。──いや、全て片づけていなければ困るのである。
 零とレイジングハートは冴島邸に入ろうとしていたが、その時に後ろから声がかかる。

「おーい!」
「ん?」

 呼び声だ。
 それは、男性と女性のものが重なったように聞こえた。
 ……見れば、先頭を駆ける女性と、男性の二人組。先ほどまで零と行動を共にしていた人間である。

「良牙、それにつぼみちゃん」

 花咲つぼみと、響良牙だった。
 二人とも、ここまでちゃんと辿り着いたようだ。特に、異常な方向音痴の良牙が心配だったが、彼は何とか合流地点までたどり着けたらしい。安心したが、すぐに零は顔を曇らせた。

「大丈夫か?」
「……ええ」

 零は振り向いて彼らがここまで辿り着くのを見届ける。
 二人は、この冴島邸の前で、零、レイジングハート、一也、ドウコクという異色の組み合わせが揃っている光景に怪訝そうな顔付を示していた。
 しかし、零の方も、決して良い雲行きを見守っている顔ではいられなかった。

「……その……あの女の子は?」

 そう言った時、二人が眉をしかめた。
 やはり、と思う。────もうこの世にいないか、離別したか。
 そして、この表情を見るに、前者だ。
 美樹さやか。彼女は魔女の世界から解放されたが、人間のまま再度殺されてしまった。

「あかねさんに殺された。だが、あかねさんももう……死んだ」

 良牙のかすれた声を、零は耳に通した。
 守れなかった。──その痛みは零にもよくわかる。まさしく、零もその決着をつけてきたところだ。

「でも、誤解しないでください。あかねさんは、本当は悪い人じゃなかったんです。ただ、どこかで歯車が狂って……それで……」

 つぼみは、必死でフォローに入っていた。しかし、どう説明すれば良いのかはわからない。
 実際のところ、どうして天道あかねが悪の道を走るようになったのか、そのプロセスを完全には把握していないのだから、つぼみの知る限りの情報でそれを説明するのは不可能だった。

「わかった。……いや、わかってないかもしれないが、俺がとやかく言う事じゃないしな」
「……すまねえ」
「こっちも少しホラーと戦う事になってたが、解決した」

 残された問題はほとんど解決した。
 彼らにとって、この殺し合いゲームの中で残すべきミッションはたった一つ──。



「ただ、お互い少し一疲れしたついでだ。そろそろ、このゲームに決着をつけよう」



 ────主催の打倒である。

 花咲つぼみ、響良牙、涼邑零。まだ未熟な子供であった彼らも強く成長する。
 プリキュア、仮面ライダー、魔戒騎士──それらが持つべき意思を、彼らは着実につかんでいた。

212騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:02:18 ID:VsklBJWI0





【2日目 昼】
【E−5 冴島邸前】

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(中)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。
※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。
※魔女の真実を知りました。

213騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:02:35 ID:VsklBJWI0

【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS、魔導輪ザルバ@牙狼
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター 、バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています)
[思考]
基本:悪を倒す。
1:零とは今後も協力する。
2:ケーキが食べたい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。

214騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:02:55 ID:VsklBJWI0
【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
2:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

215騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:03:08 ID:VsklBJWI0

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(中)、五代・乱馬・村雨・あかねの死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル、バイオレンス、ナスカ)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×18(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ、あかね、溝呂木、一条、速水))、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実×2、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜8(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子0〜2、溝呂木0〜2)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:自分の仲間を守る
1:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
2:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。





216騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:03:26 ID:VsklBJWI0



(まずい……)

 沖一也も、冴島邸に帰らなければならない事はわかっている。しかし、一方で、残り二十分でドウコクによる「間引き」が行われかねない事も危惧していた。
 蒼乃美希、石堀光彦、沖一也、孤門一輝、佐倉杏子、涼村暁、涼邑零、血祭ドウコク、巴マミ、花咲つぼみ、左翔太郎、響良牙、桃園ラブ──やはり、ドウコクの方針からすれば三人も余ってしまう。

(だが、彼らを信じるならば──)

 十二時までに残り十人まで減らすか、それとも涼村暁と左翔太郎が例の暗号を解いた事を信じるか、その二択である。
 また、暗号が直接主催の打倒に無関係である可能性もゼロではないので、注意を払う必要がある。
 いずれにせよ、ドウコクの実力から考えれば、仮面ライダースーパー1として出来る事は、足止め程度だろう。
 他のみんなに生存してもらうには、残りの全員でドウコクを倒してもらわなければならない。
 非常に難しい局面である。

 ──はたして。





(涼村暁、それに左翔太郎……彼らは────)





【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
1:ドウコクに映像を何とか誤魔化す。というか、ドウコクの対処をする。
2:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
3:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。←おそらく解決しました。

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:大量のコンビニの酒
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:仕方がないので一也たちと協力して、主催者を殺す。 もし11時までに動きがなければ一也を殺して参加者を10人まで減らす。
1:マンプクや加頭を殺す。
2:杏子や翔太郎なども後で殺す。ただし、マンプクたちを倒してから(11時までに問題が解決していなければ別)。
3:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問。
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。

【備考】
※近くにリクシンキ@超光戦士シャンゼリオンが放置されていますが、暁が推理に夢中なので超光騎士として起動されず、使われていません。






217騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:03:47 ID:VsklBJWI0



 ──時は少し遡る。

 先ほど、ザルバが時空の裂け目から現実世界に帰ろうとしている時だ。
 バラゴとザルバの活躍によって、魔天使たちを妨害しているホラーたちは消え去ろうとしていた。
 まだホラーたちは群がるが、それらはかなり遠くにいる。こちらは、もう鎧を返還する準備が整っていた。

 ザルバは時空の裂け目から現実世界へと旅立とうとする。
 しかし、バラゴは、ここに残り続けるのだろうか──。もう一分もしないうちに、ホラーはこちらへ辿り着くだろう。傷だらけのバラゴがどれだけ戦えるのかはわからないが、現実世界に連れていくこともできない。彼は死人であり、罪人でもある。ここに留まり続けなければならない宿命の持ち主だ。
 ザルバは、せめてとばかりにバラゴに言った。

「バラゴ、零を言うぜ。お前とは、本当の魔戒騎士として共に戦いたかった。きっと、鋼牙が生きていたらそう言うに違いない」
「……そうか。俺もまた、同じだ」
「お前の事は俺様から零にも伝えておいてやる。お前は立派な魔戒騎士だったってな」
「……いや、それは待て」

 バラゴは、そこでザルバの言葉を切った。
 ザルバの親切に、少し思うところがあるのだろう。

「奴は僕のような悪しき魔物を絶つ魔戒騎士。しかし、あの涼邑零は優しすぎる。いずれ、ホラーとの和解を考えるまでになるかもしれない」
「……」
「僕は終始、悪しき魔物だった。──それでいいはずだ。今もし彼に、敵の善意を信じて戦う余裕ができてしまえば、彼はいずれ敵を斬れなくなる。……全てを知るのは、もっと強くなってからでなければならない」

 バラゴの笑みと声をザルバは聞いた。
 零は、誰よりも努力を怠らず、孤独でありながら他人を求め、誰より人に優しい魔戒騎士だ。

「しかし、彼が闇に堕ちなかったのは幸いだ。きっと、大河以上の師として多くの魔戒騎士を導く存在になる。鋼牙がいないのは残念だが、奴はまたいずれ黄金騎士の隣に並べるだろう……」
「あいつがか?」
「ああ。ではレイジングハートを頼んだ。今度は力を使い果たしていないな? お前はまた黄金騎士の相棒をやれるわけだ。……俺は、ここで魔戒騎士の使命を全うしよう」

 バラゴは、再び強く剣を構えた。ホラーはすぐ近くまで接近しており、彼はそれを迎え撃とうとしていた。
 それが、ザルバがバラゴを見た最後だった。

 彼は、いずれこの地獄のような魔界で、罪を償い、理想郷に辿り着けるのだろうか……。
 幸せな世界で、転生できるのだろうか……。
 ザルバは、その背中を寂しく見送っていた。







【暗黒騎士キバの鎧@牙狼 消滅】



【ゲーム終了まで、残り一時間二十分】

218 ◆gry038wOvE:2014/10/14(火) 00:04:10 ID:VsklBJWI0
以上、投下終了です。

219名無しさん:2014/10/14(火) 07:16:31 ID:fN2msVRA0
投下乙です
零は自分の因縁に決着を着けたか、前回の『騎士』と同様格好良い話だったなぁ
そろそろ終わりが近づいてきたが、ドウコクやガドルの復活と問題が残ってて不安だ…

220名無しさん:2014/10/14(火) 17:36:44 ID:N3WefgxA0
投下乙です

一つの因縁に決着は付いた
零、かっこよかったぞ
最後に向かって物事が収束してるがまだまだ…

221名無しさん:2014/10/14(火) 21:45:36 ID:JXDCk53U0
投下乙です!
いよいよ零は全ての因縁に決着を付けられましたか……
魔戒騎士を救うバラゴとか、小説版を意識した展開が入っていてニヤリと来ましたね。

222名無しさん:2014/10/19(日) 17:22:40 ID:28p/kuGQ0
遅れたが予約来てるなあ

223<削除>:<削除>
<削除>

224 ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 13:45:24 ID:3afmAm6s0
完成しているんですが、所要で15時までの投下が間に合わないので、期限超過になりますが今日の夜に投下します。

225 ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:21:03 ID:3afmAm6s0
なんだかんだで用事がなくなって間に合ったのですぐに投下します。

226探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:23:00 ID:3afmAm6s0








 涼村暁と左翔太郎は探偵である。────














 だが、バカである。

















 以上。







 同盟を組む仲間同士の空気が一定以上温和である事は当然ながら推奨される。場の空気で士気を上げる事も良い集団の条件だ。
 何らかの形で小さな亀裂の入ったチームには早めの修繕が求められる。それが失敗に終われば亀裂は隅々まで走っていき、やがてチームワークを崩壊させるからだ。この時はまさにその修繕が必要な時期だった。
 絶望を希望に変えるべき存在──仮面ライダーと、絶望へと近づいていく存在──魔法少女。いつの間にやらその立場が逆転してしまい、これまた不思議な事に、仮面ライダーである左翔太郎こそが絶望し、魔法少女である佐倉杏子の方が人並み以上に希望を信じるようになってしまったのである。

「……」

 いや、しかし。
 それもまた、今となっては過去の話である。
 再び仮面ライダーとしての意志を取り戻した翔太郎にとっては、自分が途方に暮れていたのも僅かな時間の話と振り返る事ができる。その僅かな時間、周囲を失望させ、大事な約束を忘れていた落とし前を自分の中でつけなければならない。
 意固地になる事などない。
 面倒を見る約束をしながら、絶望に負けてそれを果たせなかった自分の不覚である。
 翔太郎も杏子も、ほとんど同時に口を開いた。

「兄──」

227探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:23:26 ID:3afmAm6s0
「杏子、すまん!」

しかし、要旨を一息で言い尽くしたのは翔太郎の方だった。歯切れが悪くなったが、杏子が口を閉ざす。誰が見ている事も構わずに、翔太郎は中折れ帽を外して頭を下げていた。まだ湿り気のある頭が杏子の方に切実に向けられた。
 瞼は普段より重たく、肩が普段より落ちた様子であった。
 周囲の視線はその翔太郎に一時注がれる事になった。他の誰も、そこから目を離す事ができなかった。逆に目を離した方が気まずくなるからだ。これだけ部屋の中央で堂々と頭を下げられて、知らない振りができるはずもなく、そこで繰り広げられている様相を意図せずして見届けようとしていた。

「──」

 頭を下げられた当の杏子の方は開いた口が塞がらない様子である。
 それは文字通り口をあんぐりと開けたままになっているという事だった。喜怒哀楽の表情のどれでもない顔で、物珍しそうに翔太郎の後頭部を直視していた。翔太郎に顔を合わすのが気まずかった杏子としては、かなり意表を突かれたようだ。

「悪かった! その、自分の事ばっかりに気を取られちまって、お前やみんなを放っておいちまった事……」

 翔太郎は顔を上げ、凛とした表情で杏子を見る。
 しかし、杏子を見るのはすぐにやめた。翔太郎は、ここにいる全員に順番に頭を下げた。マミ、ラブ、美希、暁、孤門、石堀……。考えてみれば、杏子だけではなく彼らにだって迷惑はかけたのだ。立ち直るまでに失望させてしまった人間はいくらでもいる。普段明るく振る舞っていたばかりに、余計にその落差を感じた者もいただろう。
 その微妙な気分を誰にも味あわせてしまった事は、ただただ申し訳なかった。
 本心を打ち明けよう。自分が知った事を打ち明けよう。

「なんだかんだ言って、結局俺はフィリップがいなきゃ半人前だったんだ……いや、それ以下かもしれない。
 あいつに託された事も、街のみんなの事もすっかり忘れて俺は一人でしょぼくれていた。仮面ライダーになれなきゃ俺は何もできないって思ってたんだ」
「……」
「だけど、たとえ仮面ライダーじゃなくても、ハーフボイルドでも、魂だけは冷ましちゃならねえ!
 ……そいつをすっかり忘れちまってた……それに、お前に教えた事も、お前との約束も何もかも忘れて、一人で全部塞いで無気力になってた……」

 翔太郎は脇目を向いて胸をなで下ろした。
 語るべき事は幾つもあった。自分を貶める言葉はなるべく口にしたくはなかったが、それもまた過去の自分への蔑みであった。
 確かに今の自分とその時の自分は違う。──もっと、萎れていて駄目だった自分への言葉だ。しかし、だからこそ、一層申し訳なく、心の奥底が震えるようだった。
 一息に、自分の中に在る言葉を吐き出したかった。

「だから、悪かった! 許してくれ、みんな!」

 翔太郎は何なら土下座でも何でもしてやる覚悟である。たとえ、その姿を誰が見ていても構わない。それが誠意だ。
 自分に非があるのならば、プライドを捨ててでも謝るのが当然である。
 こう言っては何だが、翔太郎は、所謂ナルシストで、時折自分に酔うタイプであったがゆえに、こうして周知の中で謝罪するのには人一倍の誠意がいるのだ。翔太郎が土下座でもしようと考えるならば、それは余程の事であるといえよう。周囲の視線は今でも痛むが、それ以上に、自分の罪を謝る事ができなければ胸の中の靄は晴らされないだろうと思った。

「ほら、杏子」

 美希が翔太郎に聞こえないような小声で横から小突く。「ここまで言ってるんだから許してあげなよ」という学級委員のようななフォローの意味合いで呼びかけたはずだが、杏子が美希の方に目をやる事はなかった。
 杏子は少しだけ真剣そうな目つきに表情を変えた。美希が杏子を小突いた意図を彼女が察しているのかは誰にもわからない。

「ふー……。なんだかなぁ」

 杏子がそんな翔太郎の様子を見て口を開く。まるでタバコの煙をいっぱいに吸ったような溜息が聞こえたようにも感じたが、実際には、それは溜息というより、緊張をほぐすような息だった。少し息を吸った後、吐息の残滓をまた少し漏らして、杏子は翔太郎の方に視線を合わせる。
 少しばかり、険しい目をしていた。

228探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:24:08 ID:3afmAm6s0

「……帰ったらぶん殴ろうかと思ってたけど、こうしてみると怒る気もしないっていうかなんていうか」

 杏子はそっぽを向いて頭を掻いた。
 当の翔太郎や、周りの人間には、それがどういう意味なのかわからなかった。
 怒る価値もないという事なのか、許したという事なのか──。こうして頭を下げる翔太郎に、また別の失望を覚えたのではないかと、一瞬だけ肝を冷やした。
 このままずりずりと彼女の中で評価が下がっていけば、一生彼女に本当に許してもらえなくなるかもしれないと思った。

「……」

 杏子が、少しの沈黙を作り、そしてそれをすぐに破って、口を開いた。

「──あんた、いっつも恰好つけてるから、素直に謝るタイプじゃないんじゃないかって思ってた。だけど、それは完全な誤解だったみたいだな」

 杏子の口から溢れたのは予想外の言葉である。やれやれ、と肩を竦めてその視線を落とす。
 また顔を上げると、今度はもう少しばかり笑顔に近い表情を作った。

「……え?」

 翔太郎の不安は、全くの杞憂だったらしいと、その時わかった。

「あたしだって、別に過ぎた事を何度も責めるほど器が小さくはないよ。あたしの倍くらい生きている大の大人の兄ちゃんが頭下げて謝ってんなら、……許すしかないだろ」

 うっすらとした笑顔にも見える表情が翔太郎の視界を覆った。それは確かな許しのサインであった。杏子は、素直な感情を顔に出す時は屈託のない表情をするので、翔太郎たちも見ればそれが真実だと容易にわかる。
 感激が翔太郎に彼女の名前を呼ばせた。

「杏子……」
「あんた、案外素直なんだな……。ちょっと見直した」

 杏子が照れたようにそう言う。翔太郎は、その瞬間にようやく肩の荷を下ろしたような気分になった。数秒かけて、どこか軽い笑顔を作る時間を貰う。
 無意識な深呼吸が、妙な間をつくった。

「……ふっ」

 今、この時に翔太郎の胸にあったのは近しい人間の失望に対する恐怖だったのだろう。胸がすっとするのがわかった。
 それが取り払われれば、あとは簡単だった。

「当たり前だ」

 打って変って、翔太郎は不敵に笑った。

「……だって、俺たちは全員誓っただろ。『悪い事をしたら謝る』って」

 ──いつもの調子で、いつもの気障な言葉を投げかける事ができた。それこそが、最大の解決策であるとこの時悟った。
 杏子にとっても、その少し抜けた言い方こそが、この翔太郎らしいと思えたのだ。
 杏子は、胸から何かが広がって、肩が落ちていくような開放感を覚えた。なるほど、これでこそ翔太郎……なのである。
 普段、真面目でいるよりも、こんな時の翔太郎の方が凛々しく、優しく見えるのである。

「そうか、悪い事をしたら謝る……か。
 ……そいつは、ヴィヴィオが声をかけて、あたしが付け加えたんだ」
「そうだったのか……」
「ああ、でもヴィヴィオにも良い弔いさ。
 ずっとその言葉が守られ続ければ──きっと、ヴィヴィオも少しは報われる」

 悪い事をしたら謝る──その言葉の意味を杏子と翔太郎は己の中で反芻した。
 悪い事と呼んでしまうと少し酷な原因であったが、翔太郎は少なくとも誰かに迷惑をかけた。自分の非に対する反省と誠意を見せ、ある関係に発生した亀裂を修復するのが謝罪の本質である。翔太郎たちは、その行為に誠実であり続けると誓ったのである。
 たとえどれだけ気障でも、素直ではないとしても、己の罪は数え、洗い流す努力をするだけの意志はある。──そう、少なくとも、「ビギンズナイト」を経てからは特に。
 彼らはその誓いの意味を再確認したのだった。

229探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:24:29 ID:3afmAm6s0

 暁は、ヴィヴィオが死んでいない事を教えてやりたかった気持ちもあるだろうが、彼はそれよりも頭の片隅で別の事を考えて顔を険しくしていた。

「ふぅ、……で、やっぱりこうなるのね」
「薄々わかってはいたけど……」

 美希と孤門がそんな調子で、深く息をついた。
 杏子がこの仲違いと仲直りを繰り返すのにはもう慣れた。
 いや、それを最初にやったのはほかならぬ美希であったが、彼女は一体、どれだけ他人と絆を結ぶのだろう。美希もそのうちの一人として、僅かながら嫉妬するほどだ。
 しかし、杏子が誰より信頼して、光を託したのはほかならぬ自分であった事も、美希は思い出した。今も美希の中にはウルトラの光がある。

(……)

 ──美希は、ふと、その光を誰に託そうかを考えた。
 ここにはたくさん仲間がいる。杏子に還してしまうわけにもいかないだろう。
 ラブか、あるいは──と、思った時である。

「よし、じゃあ丸く収まったところで情報交換や元の作業に──」

 石堀が手を叩いてそんな事を言いだした。美希以外は、誰に言われるでもなく、全員何かが切れたように作業に戻ろうとしていた。皆、いい加減そろそろ良いと思ったのだろう。亀裂が修復したのなら、もうそれ以上する事はない。
 ああ、めでたしめでたしという感じだ。ぞろぞろと足が動いて位置を変える。美希も動く事にした。そして、すぐにその中の一人として揉まれた。
 元の鞘に収まるのを全員が何となく予感していたが、僅かばかりの不安が拭われたようである。
 さて、実は美希の他にも動こうとしない者はもう一人いた。

「──こ・の・野郎ッ!」

 ぱこん、と音が響いた。その音の正体を誰もが一瞬捉えられなかった。誰かが突如として、翔太郎の背後から現れると、その額をスリッパで叩いたのである。これが裏切りの刃ならば翔太郎の命はなかった。──が、当然そんな唐突で残酷な展開にはならなかった。
 何の作業が残っているわけでもないが、作業に戻りかけた全員がそちらに視線を送り直す。観衆は、これまた一斉にそちらに目を配った。
 翔太郎は、何が起こったのかもわからずに赤くなった瞼の上を抑えていた。

「……って、痛ぇぇぇぇぇぇっ!!! なんだ、突然!! 何!? 亜樹子!! 亜樹子かっ!? 亜樹子リターンズ!?」

 まるで巨大なうわごとのように女性の名前を叫ぶ翔太郎。
 鳴海亜樹子──その女性の名前を知らない者は、何の事やらわからなかっただろうが、思わずその一撃に全くそっくりな言動をする者が翔太郎の周りにいたのである。ただ、翔太郎にとって決定的に違ったのは、より強い力と暴力性を持っていた一撃であった事だろう。
 翔太郎が涙目を開けると、彼の視界には緑のスリッパを振り下ろした男の姿が見えた。

「ちょっ……暁さん!? 何やってるんですか!?」

 ラブが特に驚いた様子で暁に声をあげた。
 ──翔太郎をスリッパで叩いた犯人は、この中にいる最も異質な男・涼村暁であった。冴島鋼牙に支給されていた亜樹子スリッパを使ったらしい。
 彼はもう全く、自分がやった事を隠す様子を見せず、振りかぶった後の姿勢であった。してやったり、とばかりにその姿勢を崩さない。会心の音に、自らもしばらく一人の世界に入って、気取ってしまったらしい。
 すぐに暁はその姿勢を直すと、杏子の方にてくてく歩いて行った。

「あのね、杏子ちゃん。こういう奴はさ、許すより前に一発殴らないと駄目なんだよ」
「いま殴らずに解決しようとしてただろうが、この野郎! 暴力反対だ!」

 追って、暁からスリッパを奪った翔太郎は、やり返すように暁の額(というよりはほとんど目に近い)を叩いた。仕返し。憎しみの連鎖だが、仕方がない。
 暁は「痛ァッ!」とまた、翔太郎に負けず劣らずの声量で己の痛みを訴えた。
 彼ももろに眼球に打撃を受けたらしく、目玉の周りが少し赤くなった。

「何しやがる!」
「それはこっちの台詞だろヘボ探偵!」
「……それもそうだな。言われてみれば尤もだ。台詞を返上してやろう」

 無駄に思案顔の暁に、誰もが呆然といった様子である。あまりにも飄々としているというか、こうもあっさりと認めてしまうあたり、その場のノリだけで一つ一つの言葉が発信されていたようだ。

230探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:24:57 ID:3afmAm6s0
 翔太郎も否とは言えないが。
 暁への怒りはその怪訝さえも覆い隠して暁に質問を投げかけさせた。

「動機を説明しろ、動機を! 何故いま俺を殴った!」
「俺はな、無駄に気障な男を見ると腹が立つんだ」
「威張るな!」

 大した理由ではなかったので、もう一発スリッパで殴ろうとした翔太郎だが、やはり思い直す。
 いけないいけない。冷静に考えれば暴力はアウトだ──。殴り合いになるとならないでは、ならないに越した事はない。耐えようと思える状況ならば耐えるべきだ。一発殴ってしまったが、それはそれ、これはこれだ。むしろ、一発殴り合って丁度釣り合いが取れたのだから水に流すべきだろう。
 ……などと、翔太郎が腹式呼吸で怒りを抑えている間に、再度、暁が口を開いた。

「杏子ちゃん。こういうタイプの男はな、実は殴ると燃えるんだ。
 殴り合いがドラマで傷つけあいが友情だと思ってるアホだ。
 ……だから、チャンスがあれば殴った方がいい。
 いつ、『杏子、俺を殴れ』とか言いだすんじゃないかとヒヤヒヤしてたぜ、こっちも」
「なっ……お前、どうしてそれを!」

 言葉で痛いところを突かれた翔太郎は動きを止める。腹式呼吸の真っ最中、喉で唾が引っかかって咽そうになった。
 そう、先ほど、翔太郎の脳内は、暁が言った通りの言葉を想定していたのだ。それを口に出す可能性があった。土下座に加え、それも少し検討していたのは確かな事実である。その事実を他人に見透かされていたと思うと、無性に恥ずかしくなった。まして、全て終わった今となっては余計に。

「いや、でもあんたが殴る機会はないだろ……」

 横から杏子が、ほとんど呆れたように言った。こちらも、突然の事で、考える暇もなくどこかずれた言葉を返してしまったようだ。

「いーや、大ありだね。俺たちはこれから暗号を解かなきゃならないんだ。
 その局面を前に余計な内輪話で尺を食った分、一発殴らせて貰わないと気が済まん。
 外ではみんなここを守るために戦ってるんだぜ?
 ……だいたい、女の子絡みの話で俺より目立つなよな。嫉妬しちまうぜ全く」

 この慌ただしい状況でこうして翔太郎が余計な話を進めたのは暁にとっても癪に障る話だったらしい。暁も、殴るほどの事ではないと思ったが、結局一発殴らせてもらったようだ。
 美希が、そこで出てきた嫉妬という言葉に、恥ずかしそうに首を垂れた。わずかとはいえ、自分も軽い嫉妬を覚えたのを思い出したのだろう。
 まあ、実際のところ、スリッパで叩いたのは翔太郎の意識を覚醒させるのに一役買う行為だったのだろうか。翔太郎にとって、確かに痛みは一つの切り替えだった。この痛みの「前」と「後」で、自分がどう変わったのか再認識できる。

「……あー、あー。まあいいぜ。眠気覚ましには丁度よかったぜ。
 ……っしゃ! 暗号でもランボーでもターミネーターでも何でも来い!!」

 結局、翔太郎は、こんな調子である。やはりこういうタイプの人間か、と暁と杏子は翔太郎を冷やかに見た。おおよそ暁の直感に狂いはなく、探偵としての人間観察眼も水準を超える程度ではあるらしい。翔太郎がわかりやすい人間であるのも一つだが。

「……な? 言ったとおりだろ?」
「まったく……単純な兄ちゃんだな。じゃあ、お言葉に甘えてあたしも一発いくか」
「あ、ちょっと待て、杏子! NO! スリッパNO!」

 スリッパの音がもう一発、翔太郎の顔面から炸裂し、翔太郎の悲鳴が聞こえたが、全員がしらんぷりをしていた。
 イジメを見て見ぬふりするのはいけないが、今のあれは放っておいてもいいものだ。今繰り広げられているのは仲良しの証である(ただ、これを読んでいる人間は、少なくとも、「仲良しの証」と言って、心底拒絶している相手に暴力を振るうのは決して正しい事ではなく、立派なイジメの一つだというのは念頭に入れておいてほしい。あくまで、ここにいる彼らは特例的にやられる側もやる側も強い信頼関係で結ばれた上で戯れているのであって、普段そうでない相手に行ってはならない事だ)。

「……あのー……暁さん?」

 そんな折、物陰からマミが顔を出し、どこか申し訳なさそうに声をかけた。暁はすっかり、マミの存在を忘れているようである。
 暁は今の出来事だけ見て、すっかり、全て忘れた顔でいた。

231探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:25:30 ID:3afmAm6s0

「ん? 何? って……」

 暁は声をかけられた瞬間こそ、ニヤニヤと気持ち悪く笑いながら腕を組んで、かなり偉そうに翔太郎が叩かれるのを眺めていたが、マミの方を向いた瞬間、翔太郎の悲鳴などかき消されるほどの大きな悲鳴を挙げる事になった。





「うわあああああああああああああああああああああああああああーーーーーッッッッ!!! オバケ、出、出た〜〜〜〜〜!!!」





 マミが現れるなり、長く大きい悲鳴をあげて机を探し出す暁。机の下に潜り込もうとしているのだろう。部屋の中央に置いてあったダイニングテーブルが、彼のシェルターとして目測させた。
 すると、彼は体の随所を固い物にぶつけながらダイニングテーブルの下に蹲り、潜った。

 ──この間、僅か二秒である。
 捕捉しておくと、暁にとっては、巴マミは死体として認識されている少女である。こうして暁の目の前で立って歩いて喋って語り掛けてくる事──その全部が薄気味悪く、霊的であるのは当然だった。

「おい、マミ、オバケだってよ」

 杏子が、スリッパを片手に(そして四つん這いの翔太郎を真下に)、顔だけマミを見てそう言って笑った。マミと暁のどちらを笑っているのかはわからない。もしかすると、どちらの事も笑っているのかもしれない。
 マミも別段、腹は立たなかった。

「あの、だから……えっと、私はオバケとかじゃなくて……」

 苦笑しながらマミは頬を掻く。
 他人に怯えられるのは通常なら不快だろうが、暁の姿はどこかコミカルで、不思議と不快にはならなかった。魔法少女であった時に化け物扱いされるのと、誤解によって幽霊扱いされるのとでは、また随分と違った感覚である。
 やれやれ、と肩を竦めるのはマミだけではなく、他の全員も同じだ。

「ったく、仕方がないな……」

 代表して石堀が、ダイニングテーブルの下を覗いた。

「おい、暁。出て来い。この子の足を見ろ。ちゃんとあるぞ」
「バカ野郎! 幽霊に足がないなんて迷信だ!」
「幽霊も迷信だろ」
「わからねえだろ! 実際、俺はこの子が埋められているのを見て……」

 ──ふと、暁の中にフラッシュバックするマミの記憶。
 暁は若く綺麗な女性の顔は忘れない。男性の顔はほぼ忘れており、こうしている間にも何人か顔と名前がわからなくなっている人間が多々いるが、それはそれとして、マミは「若くて」「綺麗な」女性であった事や、ほむらに関連する人物である事もあって、確かに暁の記憶上でその死に顔を残している。
 あの時に感じた不快感と、また同時に湧きあがった死への恐怖と憧れも忘れられてはいないだろう。

「参ったねぇ……」

 石堀が頭を掻いた。

「あの……それなら」

 マミは、石堀を退けて暁の前にその顔を晒した。当然悲鳴があがる事と思ったが、暁は意外と小さな声で「うわっ……!!」と驚いた。そう何度も何度もゴキブリに遭うような悲鳴をあげてはいられないのか、単純に声が出せないのか、将又相手の立場を忘れて少し見惚れたのかはわからない。

「涼村暁さんですよね?」

232探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:25:47 ID:3afmAm6s0

 マミは、そのまま暁の腕を優しく掴むと、それを自らの胸に引き寄せた。

「えっ……おい……」

 巨大な乳と乳の間に暁の指先が触れる。確かに恥ずかしいが冷静を保って、「なんでもない事だ」「減るものじゃない」と必死に思い込みながら、マミは自らの胸に引き寄せた暁の手に鼓音を伝えた。
 暁は、普段の軟派な顔ではいられなかった。指先に伝わる振動を感じる。
 生きている人間以外には完全に不要な内臓の振動。あの時の遺体にはなかった震え。それが、今こうして、そこにある。

「……わかりますか? 私──巴マミは生きてます。……みんなのお陰で。
 だから、安心してください」
「……」
「このリズムを取り戻す為に、みんな戦ってくれたんです。
 私も、いつかみんなにお返しします。そう、いつか絶対に……。
 ……暁さん。私はもう普通の人間ですから。話を聞いてもらえると助かります」

 マミが諭すように言った。マミが何かを喋るために、指に皮膚の振動が伝わった。決して落ち着いたリズムではなかった。再び殺し合いに巻き込まれた渦中で、彼女の中にも恐怖は巻いていたのだろう。
 暁は、戸惑いながら、ゆっくり自分の腕をひっこめた。これ以上、そこに腕を置かずとも彼女が生きている事は判然とした。指は、ひやりとした空気を感じた。
 それから、暁はとぼけたように二の句を告げた。

「……あのな、マミちゃん。気持ちは嬉しいけど何もこんなところで」
「巴マミ。涼村暁はこういう男だ。理解できたらもう二度とこんな事はするな」
「わかりました。もうやめます……」

 マミは下を向いて腕を胸の前に組んだ。数秒前の自分を恥じた。
 目の前の男は、やはり「チャラ男」的外見そのままな性格と言動の人間であるようだと察知したのだろう。
 バストが大きいと、前々から男子生徒にいやらしい目で見られる事も少なくなかったが、いや、これはまさにそうした警戒を怠った瞬間である。この手の男には近づくべきではないし、ましてや自分から大胆にも胸に手を伸ばさせる事などもってのほかであった。

「とはいえ、暁。彼女が純然たる血の通った人間だっていう事は確認できたよな?」
「ん……あ、ああ……おかげ様で。良い思いもできたし一石二鳥だな……」

 暁が気のない返事をしたが、実際はもう少しはっきり理解していた。
 確かに、マミは生存している。今のところどういう理屈なのかはわからない。
 双子なのか、姿が同じだけなのか、実は生きていたのか、それとも「蘇った」のか……。しかし、どんな理由があるにせよ、彼女は生きている。理屈を訊かされてもわかる気がしない暁には、その事実だけが重要だった。

 ──と、なると、これは死体を弄る悪趣味ではない。

「あの、マミちゃん。ちょっと」
「何ですか?」

 暁は、それから「もう一回だけ」と小声で言って、暁は手を真っ直ぐ彼女の胸元に伸ばした。その指先は、マミの右手によって思いっきりはねのけられた。







 孤門一輝が、巴マミとともに魔女化に関する事情を他の全員に説明していた。
 翔太郎ら、何らかの形でそれを知っていた人間は聞き流していたが、暁は全く初耳の事ばかりである。何故、人間が地中に埋められた死体から、血の通った人間に戻れるかを彼は全く想像できなかった。
 説明の難しいところではあるが、とにかく孤門が先導して丁寧に一から説明した。こんな事をしている場合でないのはわかっているが、これからの為にも話さなければならない。

「要するに、主催側はもう一段階上の【魔女化】というステップを彼女たちに残させていたんだ。
 魔法少女だけが精神的な要因や戦闘の場数を踏みすぎると死亡扱いになっていたのは、後半で残りの参加者を減らす為の仕掛けだったんだろう」

233探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:26:19 ID:3afmAm6s0

 ゲームのルール上、魔法少女はこれまでソウルジェムが濁り切ると死亡扱いになっていた。
 しかし、変身道具が使用の度に生存率を著しく下げ、殺し合いの状況下、絶望のスイッチが入っただけで息の根が止まるというのは些かアンフェアだ。主催側がこれをゲームだと認識しているのならば、魔法少女を生存させる気がほとんどなく、ゲーム性に欠くように思えてしまう。

 死亡に至る身体的ダメージの場合でも大抵の魔法少女は死亡するし、精神衛生、魔力の残存などを考慮しながら戦い、ソウルジェムの安定化をさせるのもこの状況では難しい。
 まして、本来なら彼女たちのソウルジェムが黒く穢れた結果の末路が、魔女への変貌であるのなら、わざわざ魔女化を封じる必要は主催側にはない。魔女は確実に参加者を減らしてゲームを盛り上げる事ができる存在である。
 それならば、「魔女化をさせない」という選択肢は不自然なのだ。ゲームをさせたいならば、魔女化の仕組みを外す必要はない。
 そう、そこには何らかの仕組みをわざわざ仕掛ける意味が必要なのだ。

 そして、孤門たちが魔女化について推察した「意味」がそれだった。明答か否かはわからない。

「それから、プリキュアの力で魔女としての暴走を止めて──」
「キルンの力を媒介に元の肉体を──」

 ともかく、暁はそうした説明で概ね納得したようである。
 マミを死人にしたところで暁にはメリットはない。暁とマミの話もひと段落というところである。
 実際のところ、信じ難い話ではあったが、ラブと共にいた暁は彼女の一途な活躍を純粋に祝した。シャンゼリオンの力よりも数段、役に立つ力であるかもしれない。
 本来、戦わずして敵を屈服させるのが一番の兵法であるが、相手を味方につける事ができる力というのはそれ以上の物と分類していいだろう。

「なるほどねぇ……。でも、もし本当に後から残りの参加者を減らす為にマミちゃんたちを利用したのだとすると、こうしてその障壁を味方につける形になったのは主催側にとっては予想外の出来事だよな」
「……そうだな。おそらく、向こうも手馴れてない。この殺し合いには、きっと予想外の出来事はこれ以外にも多々あったはずだ」

 翔太郎は言った。

 以前、フィリップとは主催陣との戦闘が次のステップに移行しているかもしれない……という話をした事がある。
 それは、対主催陣営が主催者と戦闘するところまで計算に入れたゲームであるという話であったが、それは「そうなる可能性が高いので相手方が戦闘準備を十分に備えている」というだけであって、主催側にとっても心から望む展開ではないはずだ。
 戦闘を傍観するのはまだしも、戦闘の当事者としてそこにいるのが好きなタイプは主催陣には少ない。そもそも、そういうタイプならば自ら、このゲームに参加する側として選ばれる事を表明するはずだ。その段階、というのが来る事自体が主催者にとっては好ましくないが、もはや完全に残りの生存者は団結して主催陣営と戦闘になろうとしている。
 ──しかし、その上で、「来るなら来い」と胸を張っているようにも思える。こちらも、それに対抗する手段を持たなければならない。
 いずれにせよ、主催者の意に反する行動はいくつも挙げられるだろう。

 対主催側の奮戦がガドルら強敵を倒した事。
 ダークプリキュアの心を救いだしたプリキュアの力。
 対主催陣営が一日の終わりごろには一挙に揃っていた事。
 早々に首輪を解除して禁止エリアが意味をなさなくなった事。
 志葉丈瑠が外道に堕ちた事。
 など。

 そう、主催側にとって、全く予想だにしなかったであろう展開は多く、こちらからすれば、「主催者たちは手馴れていない」という感想が抱かれる。おそらく、主催側にはバトルロワイアルというゲームを主催する事に対する一種の抗体がないのだろう。……だとすると、これは主催側が一番最初に執り行った「実験」なのだろうか。
 それなら十分に隙はあると思えた。
 そして、その事を特に強く実感しているのは、実は翔太郎ではない。────ゴハットのようなあからさまな裏切り者と遭遇した暁であろう。生還者を一名出しているところから考えても、内部分裂まで生じている可能性が高いと思えたのだ。

「相手の予想を覆したとしても、相手への打撃にはなっていない」

 今度は石堀が横から口を開いた。実際、尖兵であったマミやさやかが浄化を経てこちら側に戻った事が主催陣営にとって、現状大きな不利益を与えたわけではない。ただ、こちらが自分たちにとっての不利益を排除しただけである。

234探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:26:39 ID:3afmAm6s0
 孤門が、そんな石堀に反論するように口を開いた。

「……そうですね。でも、覆したという事は僕たちにとっては希望です。
 僕たちは相手の意のままに操られる人形ではない。
 ────それが証明できたっていう事に……なりませんか?」
「それも尤もだ。それに、向こうも動揺したかもしれない。
 自分たちが用意したトラップが予期せぬ形で乗り越えられれば、普通少しは焦るもんだ」

 まるで自身も経験があるかのように、石堀が一息に言った。暁がそんな石堀を怪訝そうに見つめた。何か引っかかったようだった。しかし、それはあくまで予感という程度にとどめられて、別にそこから石堀を問いたてる事もなかった。
 孤門が、それを聞いて、今度はマミの方を見た。彼は、この会話の流れからマミに対して何か言っておく事があると思ったのだろう。

「マミちゃん、君が生きている事──。
 ……それがやっぱり、僕たちにとっては希望なんだ。
 役に立つとか立たないとかよりも」
「ええ、わかってます」

 その言葉は、嫌にあっさりしているように聞こえた。彼女はもう少し、今の境遇について悩みを見せていたはずだが、それが今の彼女にはなかった。

「さっき、ずっと桃園さんを見ていて、……魔女になっていた時の記憶が薄らと蘇ったんです」

 名前を出された事で、ラブがマミの方に目をやった。

「私も魔女になっていた間、──いや、魔法少女でも魔女でも人間でもなかった間、少しだけ夢を見ていた気がします」
「……マミさん」
「それは……正義の味方の夢を、桃園さんが果たしてくれているのを、私がずっと見守っている夢です」

 ふと、それを聞いた時にラブには懐かしい感覚が胸に蘇るような感じがした。
 胸の中で何かが解けていく感覚。遠い祖父との思い出を回想するようなノスタルジー。
 ラブは、いつか夢でマミを見た覚えがあった。起きたら忘れられる夢だ。起きたばかりならばその残滓を掬い上げられたかもしれないが、今となっては、ただの懐かしい感覚や既視感に終わってしまう。

 しかし、……きっと、そんな夢を見たのだろう。

「夢の話なんてしても仕方ないんでしょうけど、私は正夢を見たような気分でした。
 そこで、誰かと一緒に桃園さんにエールを送っていて、それで、彼女がこれからも正義の味方であり続ける事を祈っていた気がするんです……。
 おこがましいかもしれないけど、私は……彼女の支えであり続けられたと思うんです」

 それは、自信を持って言える事だった。具体的にどんな戦いをしていたかをはっきり語る事はできないが、マミは夢の中で「真実」を見つめていた気がする。断片的な、キュアピーチの一日の戦いがマミの記憶の中で薄らと形を持っていた。

 そうだ。────ラブも思い出した。

「うん……! そうだ……私も、ほんの少しだけ覚えてます。夢にマミさんや私の友達が出てきて、応援してくれた事。
 だから、きっと祈りは通じたんだと思います。それが私の力になっているのは間違いありません。今も、きっと」

 プリキュア仲間たちや一文字、マミが夢に少し出てきた事を、ラブは少し思い出した。
 それこそが、ラブの胸に響いて来る新しい「愛」の力を生みだしていたのだろう。
 テレパシーや思念という物があるのなら、まさしくそれを受けて、二人が通じ合ったと言える出来事であった。

「……良かった。戦いの役に立つ事じゃなくて、生きる事の意味がわかってくれたんだね」
「そうですね……。私は、やっぱり、少しでも長く生きたいんです。
 死ぬのが怖いって────そう思って、私は魔法少女になったんですから……。
 でも、生きている事でみんなの励みになるなら、そのためにも、もっと真っ直ぐに生きられる」

 マミが魔法少女になったのは、そんな理由だった。交通事故による衝撃と全身の痛み、目の前で燃え尽きる両親、止まない二次災害──あのままだと死ぬ運命だったマミにとって、魔法少女になるという事が唯一生きる手段であり、最後の希望だった。
 彼女にとって、生きているという事の心地よさは何よりの救いだ。

235探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:27:01 ID:3afmAm6s0

「ああ、誰だって生きたいさ。ここで死んだ奴らもみんな……生きたかったはずだ」

 その横で翔太郎が拳を思いっきり机に叩きつけた。鈍い音が響いて、全員がそちらを注視する。無音が作られた。

「……だからこそ、これ以上あいつらの思い通りにはさせねえ!
 全部が奴らの思い通りに進んでるわけじゃないって事が証明されたなら、俺たちはまだいくらでもやれるって事だ」
「同感。きっと、ここにいる者は全員同意見だろ。……ドウコクの奴も含めてな」

 杏子もそう言って外道シンケンレッドの方に視線を飛ばした。全員、無意識に部屋の隅の外道シンケンレッドに目をやった。置物のようではあるが、あれも脅威の一つとしてカウントしていい。
 味方であるうちはともかく、敵にいつ回るかはわからない。
 外道シンケンレッドには意思らしき物はないが、全員ばつが悪くなって視線を外した。
 石堀が景気よく話題を変えた。

「……と、まあ少し考えてみたはいいが、この段階まで来ても、こちらには敵の全貌を探る術はないな。
 敵の持つ兵力、兵器、物量、戦法、それから、技術レベルではどうしようもない不可解性、オカルト性、SF性も含めて全く未知数だ。
 手近な暗号から解読して、まずは生存人数の問題を解決しよう。……そうだろ、孤門隊長?」
「えっ……? あ、え、ええ、全く、その通りです。石堀さん」

 孤門が少し焦ったのを、石堀は薄く笑って返した。
 未熟でありながらリーダーを任され、元々上司だったはずの石堀にこうした皮肉を言われるのも、案外平気な様子であったが、少し孤門も休みたい気分になってきた。
 改めて石堀に言われた内容は、口で言うのもはばかれるくらい途方もない話である。パラレルワールドを往来できるのなら、その能力は無限であると言っていいかもしれない。そんな相手との戦闘行為を、無策で口にして、恐怖を感じぬわけがなかった。
 相手の情報も推測の材料も足りない現状で、いくらこういった事を話しても仕方がないだろう。敵地に突っ込む作戦にも関わらず殆ど無策の状態でいかねばならないのは、やはり不安ばかりが大きい。

「……ただなぁ」

 杏子が、机の上で頬杖をついて見守る二人の大人の探偵は、少し真面目な風ではなかった。
 二人の名探偵は、石堀や孤門などに指示を受ける前に、既に暗号の文書を持って何やら話し合っている。

 ────やはり、というべきか。

「暗号解読か、任せとけ! この涼村暁がかっこよく解いてやるぜ!」
「待て。まずは俺に貸してみろ……俺がハードボイルドに解く」
「やっぱりこういう時は、書いてあるのと逆に、あえてマミちゃんの胸にまず飛び込んでみるのが」
「オイオイ、中学生に手を出すなんざ、ロリコンか? これだから幼児性の抜け落ちないチェリーボーイは」
「うーん……いや、むしろ、マミちゃんレベルだとマザコン人気の方が」

 不安そうな瞳を向けるのは杏子一人ではなかった。
 そこにいる全員が、不安と呆れの様子で見なければならないような二人が、この暗号の解読を買って出ようとしているのである。

「はぁー……」

 溜息が出た。







『桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。
 巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。
 島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい』

 さて。
 この文書に、今は全員が目を通していた。机を外道シンケンレッド除く全員が囲んでいる。

236探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:27:25 ID:3afmAm6s0

「私とつぼみちゃん……?」
「私と暁美さん……?」

 ラブとマミ。二人は、まずこの暗号において重要な手がかりを持つ人間であるように思えたので、暁や翔太郎と一緒に紙切れの周りに集まっていた。まるで雀卓を囲むように四人が四角く座って、暗号を見る。その周囲で立ち見をするのがその他の面々である。
 これで、果たして暗号とやらは解けるのだろうか。

 まず、真っ先に着目したのは名前だ。これは、放送の際のボーナスクイズとして出題された時も重要視された要素である。参加者名を使ったクイズ、というのはあの時の事を想起させた。今回もまず名前だけを羅列する。
 花咲つぼみ、桃園ラブ、暁美ほむら、巴マミ。
 指定されているつぼみとほむらは、下の名前がひらがなで表記されている。そこから連想して、書いてある単語を「しま」、「むね」とひらがなに直してみるが、これといった収穫はなかった。
 ローマ字に直すと、HANASAKI TSUBOMI、MOMOZONO RABU、AKEMI HOMURA、TOMOE MAMIだが、これを並べ替えてどうなるという事もなかった。
 名前の意味を考えても、「愛」、「蕾」、「焔」など、一見意味ありげなだけの言葉が出てくるが、結局は関係なさそうであった。

 次に、彼女らの境遇を考えた。
 一行目の花咲つぼみと桃園ラブはプリキュア。
 二行目の巴マミと暁美ほむらは魔法少女。
 いずれにしても、同じ行の人物は同じ世界、同じタイプの戦士に変身している。
 花咲つぼみの実家は花屋。桃園ラブの実家は一般家庭。
 巴マミは両親を事故で喪っている。暁美ほむらは不明。
 初変身の時期は、つぼみよりラブが早く、魔法少女はほむらに関して不明であり、比較ができない。
 つぼみとラブとほむらが中学二年生、マミは中学三年生なので、これもつぼみとほむら、ラブとマミで綺麗に二分する事ができない。
 人種も、全員純日本人であった。ラブという名前は日本人離れしているが、彼女が立派に日本人であるという旨は、以前のフィリップと石堀とラブとの会話ではっきりしている。

 それから、戦闘後の能力も考えたが、ここでキュアブロッサムとキュアピーチに大きな差異がないようである。両名を比較して何かが浮かび上がらなければ、こうして探っていく意味はなさそうであった。

「この中でこの名前の人物全員に面識のある人は?」

 孤門が訊くと、杏子と暁が手を上げた。
 確かに、ラブ、マミの他、つぼみとほむらにも会った事があるのはこの二人だけだ。
 基本的に、ここにいる多くはつぼみとも面識があるだろうが、ほむらとの面識が欠けている。ただ、あくまで血の通った人間として鉢合わせた事はなくとも、孤門など数名はほむらの「遺体」と対面していた。
 マミはつぼみとまだ面識がなかった。

「そうだ。とりあえず、マミちゃんとほむらちゃんで決定的に違う点はあるか?」

 翔太郎が訊いた。まずはそこから訊かねばならない。
 暁が間髪入れずに答えた。

「顔」
「ああ……そりゃ違うだろうけど」

 没だ。差異があってもどう違うのかはっきり言えない物を暗号にしても仕方がない。
 顔のつくりで、何か記号化できる違いがあるだろうかと考えたが、それは一切なかった。

「顔の特徴で、大きな違いはある?」

 目の大きさや鼻の高さを比べてもおそらく答えは出ない。
 強いて言えば、つぼみとほむらには「メガネをしている」という共通項があったが、暁や杏子が知るほむらはメガネを一切かけていなかったので、これは誰も思いつかなかった。
 実際、これは解答には関係ない点だった。

「髪の色は?」
「ああ、確かに違うな。つぼみは赤、ほむらが黒で、マミとラブは黄色だ」

 と、杏子。これは少し気になった。
 選ばれなかった側で共通して黄色というのは少し気になる。だが、やはり選ばれたつぼみとほむらの方で違いが生まれてしまうとなるとそれもやはり採用しづらい。綺麗に、「つぼみとほむら」、「ラブとマミ」で二分できなければおかしいのである。

237探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:27:44 ID:3afmAm6s0

「身長はほむらちゃんもマミちゃんもあまり変わらないな……」

 暁が言った。
 数ミリ単位の身長差については比べようがない。それに、身長を比較するならば、もっとあからさまな身長差のある二名を選択して暗号にしなければ、意味が全く通じないだろう。
 身長もボツ。勿論、体重も測りようがないのでボツだ。

「あ、そうだ。ほむらとつぼみは髪がほぼストレートだけど、マミとラブはウェーブがある」

 杏子が何かに気づいたように口を開いた。
 確かにそれは共通点の一つだ。一応、女性らしい意見も出てくるものだ。孤門が関心する。

「確かにそうだね。意外といい線なんじゃないかな?」

 ほむらとつぼみの「ストレート」という部分に何かある気がしないでもない。真っ直ぐ──真っ直ぐな場所や物を示しているとか、そういう可能性が考えうる。
 ここにいるほとんど全員が、少しそれが答えに近づく意味のある言葉であると期待した。

「……あ。いや、でも」

 杏子がやはり、と少し考えた後で言い直した。

「マミ。その髪はセットした物だったよな?」
「……ええ。下ろしても一応少し癖はあるけど」

 杏子がそこで少し引っかかったようだ。引っかかってはいるが、髪型を答えにする事に対する違和感を上手く言葉にできずに、ただ不機嫌な顔色で返す。髪型というのはどうも違う気がしたのだ。
 翔太郎は杏子の表情を見て、彼女が言いたい事を察すると、この場合の問題点を代弁した。

「……髪型は一定じゃない。その日その日で簡単に変わる物だ。
 こういう暗号には向いてない。今ここで刈っちまえば坊主……そういう事だろ?」
「四人とも女だから尼さんだけどな」
「……いや、まあ、確かにそうだけどな。
 とにかく、これだと状況によって、暗号の意味が通じなくなってしまう。
 それじゃあ、こいつは暗号でも何でもなくなっちまうんだ」
「いや、でもこれを作った奴がそこまで考えてないっていう可能性だってある。
 だから、一応言わずにいたんだけど……」

 翔太郎は杏子の返しに何も言えなかった。
 確かに、一般的な暗号では、暗号を通用させる前提条件が覆って相手に通じなくなってしまう事が起きては本末転倒だ。しかし、おそらくこの暗号は即席で作られているので、そこまで考えの及んだ物ではないかもしれない。
 それに、暗号をよこした相手は決して頭の良い相手ではなさそうだ。
 彼女たちの髪型が変わる事や、あるいは既にヘアアイロンなどでセットされた髪である事まで視野に入れていないかもしれない。

 その時、ふと美希が発言した。

「あの……普段縛ってるからわかりにくいけど、つぼみの髪にも癖はあります」
「え?」
「肩まではほとんど癖がないけど、肩から下は結構ウェーブがかかっています。
 何度か結んだ事はありますし、普段もよく見ればわかるはずです」

 翔太郎は、自分なりの記憶力でつぼみの容姿を思い出した。
 確かに、縛られたツインテールの髪は、ゴムより下で大きな波を打っていた。
 再度、脳内でつぼみの髪をストレートで思い描いてみたが、一度ウェーブの髪のつぼみを思い出した後だと、それは全くのまがい物になった。翔太郎もここまで詳しくは覚えていなかった。

「そうだな……。ありがとう、危うく余計な問題で立ち止まる所だったぜ」
「いえ、偶然覚えていて」

 美希は、どうやら女性の──とりわけ、衣装を着て舞台に立つ女性の容姿に関しては、ほとんど記憶しているようである。
 美希自身もファッションモデルであった事を翔太郎は思い出す。プロのモデルである美希は、別の学校でファッション部をやっているつぼみたちにファッションやみだしなみについて指導したのだろう。その際に、つぼみやえりかの体格や特徴を指導し、それが偶然頭に入っていてもおかしくはない。

「それじゃあ、ここに来てから……そうだな、昨日一日の行動経路はどうだろう?」

238探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:28:00 ID:3afmAm6s0

 そうするとほむらと、それから一応マミ(ゴハットの死亡段階でマミの死はゴハットには伝わっていないだろう)だけ死亡しており、やはり比較が難しいところであった。
 一日の行動経路を考え直しても、つぼみとラブでは大きな違いはなく、ほむらとマミでは早い段階で死亡した以上の共通点はない。つぼみとほむら、ラブとマミを比較するならばともかく、つぼみとラブ、ほむらとマミを比較したうえでつぼみとほむらが選ばれたのは不自然だろう。
 これもすぐにボツだ。

「誕生日は?」
「血液型は?」

 どちらも訊いたが、それもどうも決め手にはならず、その上にほむらの情報が詳細不明であるために難しかった。
 こうして、考えうるデータを話してみても、どうやら答えが出ない。このまま行くと、更に問題が細かくなって、解答から遠い場所になっていくような気がした。
 納得のいく共通点は見つかりそうにない。

「……」

 暁は、全員がそうして考えている中で、一人目を瞑って発言せずに考え事を始めていた。
 積極的に解くべきポジションでありながら、どうやら一人きりで考えているようである。

「……暁、お前はどうしたんだ? さっきから黙ってるが」

 石堀が、暁に発破をかけた。声をかけたが、返事はない。
 考え込んでいるのか、呆けているのか、もしかしたら寝ているのかもわからないので、彼の考えを理解するのは難しい。
 いや、今回の場合は、もしかすうrときちんと考え込んでいるのだろうか。比較的、シリアスの横顔であるように見える。

 さて、その時、実際には暁は────。





239探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:28:26 ID:3afmAm6s0



(おーい、ほむらー)

 ……の一言に始まるのは、暁の思考の世界であった。彼は、何度か夢の中でほむらに会ったような気がするので、ここらでいっそ、ヒントを聴くためにほむらにこちらから交信してしまおうかなー、という、ちょっと反則的な技を使ってみようと思ったのである。
 そのために、彼は瞼を閉じて外界の映像と音声を途絶した。
 暁は、瞼の裏の真っ黒な世界で、ほむらの姿が浮かぶのを期待した。
 心頭滅却。馬耳東風。弱肉強食。起承転結。西川貴教。天然記念物。代々木公園。万国博覧会。学園七不思議殺人事件。
 あらゆるそれらしい四字熟語を頭に浮かべながら、心霊を呼ぶ準備をする。
 霊の世界と交信するには、何か漢字をいっぱい使っていた事だけは何となく知っていたので、ダメ元で真似してみたのだ。

「死んでいる人を軽々しく呼ばないで」

 と、ほむらが悪態をついて現れた。
 もはや、何でもアリである。

「人に現れすぎとか言っていた割りに、いざって言う時に頼るのね。本当に最低の大人だわ」
(いいからいいから。細かい事を気にすると長生きできないぜ、ほむら)
「……殺されたいのかしら。私、もう死んでるのよ?」

 皮肉にしか聞こえない暁の言葉に、ほむらは険しい表情で辛辣な一言を返した。ほむらは既に死人である。死人がこうして出てきちゃっていいのかは、もう暁とほむらに関してはあまり深く考えてはならない部分である。

(いや、たとえここで駄目でも、パラ○ワとかオ○ズロワとか二次○次とかでも長生きしたいだろ? 細かい事は気にするな、人生は楽しまなきゃ〜!)
「……」

 ほむらは、そう言われて息を飲んだ。──確かに、そっちではもう少し長生きしたいと思っているのかもしれない。

 ちなみに、今回はどんな感じの容姿のほむらなのかは想像に任せる。この殺し合いに呼ばれた時の彼女なのか、メガネなのか、悪魔なのか、幽霊の衣装なのかは、暁の好みが結局どれだったのか、推して知るべしというところだが、想像力豊かな人間は自分の好みで考えて良いだろう。
 小説には多様な解釈が求められるのもまた一興だ。特に、読者の好みが分かれる場合。

「……で、本題は何かしら。そっちに入りましょう」

 ほむらは話題を逸らした。

(率直に言おう。……暗号の答え教えて)

 暁は相手を安心させるように微笑みながら言った。
 まるで餌を欲する犬のような目でじーっとほむらの方を見る。死人ならば答えを知っているとでも思っているのだろうか。そういうわけでもあるまい。

「自分で考えて。……というか、どう考えてもこのやり方は反則だと思わない?」
(俺は解ければいいんだ! どんな手を使ったって解ければ問題はない。
 お前とマミちゃん、つぼみちゃんとラブちゃんの決定的な違いを教えてくれればいい。……とにかく違う点だ。
 ほむらとつぼみちゃんが小さくて、マミちゃんとラブちゃんが大きい物を答えてくれ。
 ……これがわかれば、俺たちは、それにみんなが助かる。
 だから、頼む。この通りだ!)
「……」

 ほむらは黙った。考え込んでいるわけでも呆れているわけでもなく──ましてや、暁の切実さに感銘を受けたわけでもなく、ただ何というか、殺意が湧いたのだった。

 ほむらとつぼみが小さく、マミとラブで大きい?
 ……言いたくないが、一つしかないではないか。それを思うと殺意が湧くのも当然。殺意の対象は何故か暁だった。

 しかし、暁ならば真っ先にそれに目をやるのではないかと思っていたくらいだが、何故暁は気づいていないのだろう。流石に暁も、中学生くらいが相手だと興味がないのか? ──とも思ったが、そういえば開始してしばらくして自分をナンパしたのはまぎれもないこの男だった。

240探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:28:48 ID:3afmAm6s0

「────ねえ、自分で言ってて、答えに気づかないの?」
(え?)

 ほむらは、我慢できずに深い溜息を吐いた。ほむらの負けだ。
 せめて、ヒントをやろう。この男にはどうやら、敵わないらしい。

「この問題は、本当にふざけた問題よ。涼村暁らしいふざけた考え方をするといいわ」
(で? 答えは?)
「ヒントならあげるわ」

 ほむらは、答えを自分の口から言うのを拒絶した。
 自分からなんてとても言えない。

「あなたが街を歩いていて、偶然目の前から、マミと同じ体格の女性が歩いていたら、まず、どこを見る?」
(────それは)
「そう、単純に考えて、暁……」

 やはり、ヒントでも口にしてみると殺したくなったが、それが答えだ。
 少なくともここにいる奴らくらいは助けたい、と少なからず願っている暁に、極上のヒントを与えよう。
 ほむらは、そのまま暁の瞼の裏から消えていった。







「暁! 暁! おい、まさか十数年ぶりに頭を使って死んだんじゃないだろうな……」

 石堀の声が暁の脳にまで達した。自分が何度か呼びかけられていたらしい事を暁は察する。寝ていたのか、考え込んでいたのかは自分の中でも判然としない。
 しかし、暁はぱっと目を開けて立ち上がった。暁が瞼を閉じてから三分も経っていないらしく、みんなまだ考えている。

「……バカ言え。俺は生きてる。それより、わかったぞ」
「わかった? 何がだ? 自分が寝ていた事か?」
「暗号の答えさ」

 石堀がこの上なく驚いた様子で暁を見る。これだけの人数で解けない問題に、暁は出ていった。

「……そうだ。わかったんだ。つぼみちゃんとラブちゃん、ほむらとマミちゃんの違い──その意味が」

 そう暁が言うと、須らく、その場にいる者たちは戦慄した様子であった。
 名探偵による推理ショーが始まる。──という時の光景だ。
 誰もが黙り、暁の方を見る。暁も、その空気の重さに、少し鼓動を速めた。
 自分の答えが間違っているかもしれない──そのスリルが暁の中に生まれた。この感覚は久々である。
 過ちは恥、答えれば英雄だ。

「……言ってみろ。真面目に聞いてやる」

 石堀は、そこに生まれた静寂を切り裂くようにしてそう言った。
 暁はうなずき、全員の眼が一層真剣に暁を見た。
 暁は、唾を一口飲むと、口を開いた。

「まず、この暗号が誰に渡された物なのかっていうのが重要だ。
 そう……こいつは、他の誰でもない、この俺、涼村暁様への挑戦状だった。
 でも、相手は黒岩みたいに知識をひけらかして俺を貶めようなんて考えてる奴じゃない。
 むしろ俺にヒントとしてわざわざこの問題を送ったはずだ。
 それなら、俺が解けないような難しい問題は出さない」
「……というと?」
「この問題を送ったのは、ゴハット。あいつは、変わった趣味のダークザイドだ。
 敵のくせに俺の──いや、シャンゼリオンの活躍を望んでいる、まあちょっと頭がおかしいんじゃないかと思う手の奴だった。
 そして、それならこの暗号も『俺に解かせるため』に作った物なんじゃないかって事だ。
 これはただ難しい問題というより、多分、他の誰でもないこの俺が単純に考えればわかるようにできたなぞなぞなんだよ」

241探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:29:09 ID:3afmAm6s0

 饒舌な暁に、全員が息を飲む。
 言っている事は少しばからしいが、いつになく真面目に自分の推理の過程を熱弁する暁には、探偵らしい迫力があった。
 ただ一人、翔太郎だけは安易に彼を評価するわけにもいかないと思っていた。他の全員は暁に対して微かに見直したかもしれないが、翔太郎にとっては、もしかすると商売敵やライバルとでもいうべき存在になる。世界の違いがあるので、利益には直接影響しないだろうが、それでも、自分の腕に自信がある以上、他を手放しに認めるのはプライドが許さないだろう。
 暁は続けた。

「使われる名前が桃園ラブ、花咲つぼみ、暁美ほむら、巴マミでなければならなかった理由も、考えてみれば単純だ。
 ……俺は、ゴハットと戦う前にこの四人全員に会っていたんだ。
 マミちゃんがここに来る前にこの全員に会っていたのは俺と杏子ちゃん、それからラブちゃんだけのはずだ。……まあ、マミちゃんの場合は名前も知らなかったけど、俺は『死体』を見て、『体格』を覚えていた。
 あの死体がマミちゃんだっていう事は、みんなに聞けばすぐにわかる事だ」
「で、長々話すのはいいけど、使われる名前がその四人じゃなきゃいけなかった理由って何だよ?」

 杏子が訊いた。前置きの長さに苛立ったのだろう。
 しかし、探偵はこうして焦らさなければならない。……と、暁は勝手に思っている。
 そして、何よりそんな自分に酔っている。

「……ちょっと待てよ、杏子ちゃん。折角、珍しく探偵らしくやってるんだから。焦らさせてくれよ」
「もはやキャラ崩壊レベルだもんな。実物はこんな事できない」
「あー、うるせー! とにかく、その理由は、さっき言った通り、『俺が全員の名前や体格を知っていた』って事だよ。
 この暗号は、なるべく俺以外の人間に解かせないようにできているんだ。この暗号は、そもそも名前が書いてある四人、全員分の姿がわからないとどうしようもない作りになっている。
 だから、俺が知っているこの四人を暗号に使って、そこで俺が一人でこの暗号を解けるようにゴハットの奴が作ったに違いない。
 ……俺や杏子ちゃんのように全員の体格や容姿をきちんと把握して覚えていた人間じゃないと最初から解きようがない。
 今はほむらやマミちゃんを見た人もいるから全員の顔と名前が一致する奴も多いが、元々、マミちゃんはあのまま死んでいた可能性だって高かったわけだから、ここにマミちゃんが無事に来ていなければ、全員の容姿を知らなかった人間の方が多かろう」

 そう、ゴハットが絶命した時点では、マミがどうなっているのかはまだわかっていなかった。マミがここに来ると、ゴハットはどの程度考えていたのだろう。
 結果、マミが出現した事で、暁以外にも暗号を解読できる可能性は高まった。
 ほむらの遺体は警察署に安置されていたので、多くの人間は彼女の遺体の体格を目にしている。翔太郎も、これによって、全員の体格は知っていた。
 本来ならゴハットは望まない状況だったはずだ。
 しかし、それでも翔太郎たちは問題の核心となる部分を解けていなかった。

「そう、何度も言う通り、これは全部、俺のための暗号なんだ。ゴハットは、誰でも解ける問題にするつもりは最初からないし、むしろなるべくなら俺以外に解けないように作ろうとしている。
 あいつは俺ことシャンゼリオンの熱狂的ファンで、それが高じたからだろう。俺の活躍だけを望んでいるんだ。
 だから、重要な手がかりを示す暗号に俺が知っている四人の名前をヒントに記して、俺によこした。──元々、俺に向けた暗号だから、俺以外がそう簡単に解けるはずがない」

 ふと、翔太郎たちは正反対のニードルの問題を思い出した。
 あの問題は、それこそ「引き算」の概念のないグロンギや、極端に知識のない人間以外は誰でも解答できるようになっている。使用された名前さえ読めれば、あとは問題がない。
 ここにいる殆どの人間は、主催側の問題という事であのニードルの問題と同じく、誰でも解ける事を前提に考えただろう。
 しかし、これは根本的に、他の人間に向けられた物ではなく、暁に向けられた問題なのだ。
 ほむらなどの人間と接触──あるいは、写真を見るなどしなければ解きようがなかった。

「そして、杏子ちゃんたちみたいに全員を知っていても、ある一点だけは、俺の思考にならないとほとんど解けない。俺と同じレベルの思考の奴ならまた別かもしれないが。
 とにかく、俺の性格をちゃんと把握したうえで、ゴハットはこの問題を作ってるんだ。そう────それは、この『胸に飛び込みなさい』の部分だ」

242探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:29:30 ID:3afmAm6s0

 暁は、ここからだんだん得意げになっていた。
 今までよりも数段、鼻が高くなっているようである。ギャラリーもだんだん、感心するよりも呆れ始めていた。普通なら関心するシチュエーションであるというのに、暁がやるとそうもいかないのだ。
 暁の推理の披露も芝居がかっており、だんだんと演出が感じられるようになっている。
 その小芝居のひとつだろうか、暁はラブの方を見てこういう聞き方をした。

「なあ、ラブちゃん、もし『胸に飛び込め』って言われると何を想像する?」
「え……。えっとぉ……私は、白馬の王子様との抱擁とか……?」
「じゃあ、石堀は?」
「そうだな……。俺もほとんど同じ……抱擁かな」

 帰ってくるのは、抱擁というワードだった。上品な言い方だ。
 しかし、暁はこれまでも、「つぼみちゃんの胸に飛び込む」だとか、「マミちゃんの胸に飛び込む」だとか、そういうもっと下品な言い回しで使用していたはずだ。
 それが、ラブや石堀と、暁との決定的な違いである。

「……いーや、違うね。俺の場合はそうじゃないんだ。
 ここは俺のレベルで物事を考えないといけない。……俺なら、全く別の物を想像する」

 暁はここでニヤリと笑った。





「そう、────『ぱふぱふ』だ!」





 それから、周囲が冷めた様子で暁を見つめた。
 約十秒ほど、全員が固まって、暁の方を白けた様子で見ていたのだった。
 暁も凍り付いて動かず、しかしその顔はニヤリと笑ったままだった。
 思わず、石堀が訊いた。

「…………は?」
「胸にな、顔をうずめるんだ」

 ラブの顔が赤くなり、杏子の顔が険しくなり、美希とマミの顔が完全に呆れ果てていた。
 この瞬間、彼の推理はクライマックスに突入し、同時に再下降に向かっていったのだ。

「胸という言葉の解釈が、今回のキーワードってわけか」

 翔太郎は、肩をすくめながら言った。呆れ顔であるように見えて真剣だった。

 胸に飛び込め。そう聞いて、邪な考えを捨て去った人間──というか、まともな人間は、胸をただの体の一部と考える。「胸に飛び込む」という行為は、青春ドラマの中でも熱血台詞の一つとして使われるが、それは抱擁という接触であって、胸の大きさは勿論、男女の関係ない物であるとされる。
 しかし、暁はもう少しバカだった。胸と聞けば、当然、それを「おっぱい」と訳す。女性の胸。ボリュームを尺度に入れて考える物体になる。
 この問題においても、多くの人間は、仮に考えても「まさか敵が暗号でそんな内容書かんだろ」と勝手に思い込んで、一瞬でボツにしていただろう。しかし、実際は、これはバカな怪人がバカなヒーローの為に作った問題なので、そのくらい単純で良いのである。

「つまり、つぼみちゃんとラブちゃん、ほむらとマミちゃん──この二組において、ラブちゃんとマミちゃんの共通点は、『胸の大きさがもう片方より勝っている』というところなんだ。
 言っちゃ悪いが、つぼみちゃんとほむらは二人に比べて貧乳だ。そして、ラブちゃんとマミちゃんは見ての通りだ。暗号が示しているのは、『ふくらみの小さい方』という事だったんだよ!」
「ええーーーーーーーーーっっっ!!」

 思わず胸を抑えてラブが驚いている。つぼみがここにいなかったのは幸いである。
 絶対につぼみに、今後永劫、暗号の話はしてはならないだろう。相当傷つくに違いない。
 これからなのであまり気にするな、と一言フォローを入れるしかない。
 しかし、何にせよ、他の全員が固まっている様子である。

「────つまり、おっぱいなんだ、今回の暗号はおっぱいだったんだ! わかったか? みんな!」

243探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:29:55 ID:3afmAm6s0

 勝ち誇ったように、暁はガッツポーズをした。
 この一言のために長々と推理を話してきたかのように。
 これまでにない調子の乗りようであった。

「……」

 翔太郎が、仏頂面でそんな暁に歩み寄っていった。
 何か言い知れぬ怒りを感じたようで、暁はふとその顔を引きつる。
 革のブーツがてくてくと暁の方に足音を近づけ、やがて、暁の目の前で止まった。

「え、おいおい……」

 零距離。
 キス目前のところまで、翔太郎の顔が暁に近づいた。まるでガンを飛ばされたような気分である。
 そして、翔太郎が口を開いた。

「…………………………で?」

 翔太郎は一言、──いや、一文字、言った。

「え?」

 暁も負けずに一文字、返した。
 翔太郎はコホンと咳払いをした。暁が気づいていないようなので、翔太郎は問い返す。

「今回の暗号がおっぱいだったのはわかった。だがな、……だから何だっていうんだ?」
「だから、おっぱいなんだ。もう全部おっぱいなんだ」
「違ぇよ!! おっぱいじゃ何の解決にもなってねえ!! それがわかったからって、後はどうするんだよ!! それがわかったところで何にもならねえだろ!!」

 そう、翔太郎の言う通り、そこまで推理が辿り着いたとしても、そこから先に全く進まないのである。ゴハットが、「小さい方」を意味する言葉を暗号として残したとしても、そこから進みようがない。
 そこだけわかったとしても、主催に関する何の手がかりになるというのだろう。

「そ、そうだな……そ、それじゃあこれからの意味を一緒に考えなきゃな」
「おいおい……ちょっと待てよ」

 この暗号には続きがあるはずだ。────それを、暁は忘れていた。
 翔太郎の目が険しかったのは、このためだった。彼が、おっぱいで満足してその先に進めなかった事に怒りを感じているのだろう。

「……暁。こいつは、そのゴハットとかいう奴がお前の為に残した暗号なんだろ。じゃあ、ここから先もお前が解くんだ」
「え?」
「ゴハットは、お前の為にこの暗号を残した。そいつがヴィヴィオを殺したってんなら俺は許せねえ……けど」

 暁からすれば、ゴハットが冤罪被っているのを訂正したいが、それをする事で逆にヴィヴィオに危険が迫るであろう事を考えると何も言えない。
 翔太郎は続けた。

「考えてみろ、そいつに救いをやれるのは、お前だけだ。
 ────俺は力を貸さない。お前が解くんだ……ここにいるみんなのために」

 そう、暁はこの問題を暁自身で解かなければならなかったのだ。







 時は、フィリップが生きていた頃までさかのぼる。
 翔太郎が、フィリップに頼んで主催に関して調べていた時だ。

 闇生物ゴハット。
 ────その名前を、以前、フィリップは無限の本棚で検索した。
 ゴハットに関するデータは、『ヒーローおたく』としての記述が大半を占めていた。
 やはり、放送での情報に嘘偽りはなく、彼はヒーローを愛する存在だったようだ。

244探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:30:27 ID:3afmAm6s0

 しかし、一筋縄ではいかない部分もゴハットには多い。
 ゴハットには過剰ともいえる拘りがあった。
 そう、「ヒーローは死なない」という幻想や、非人間的な生活をしている者というイメージでの独自のヒーロー観の押しつけである。
 ずっと昔のヒーローを前提とした、勧善懲悪型の「名乗ったり」、「爆発したり」、「叫んだり」を行うヒーロー以外、彼はヒーローと認めず、世捨て人のように飄々として自分の幸せをなげうった孤独な者をヒーローと呼ぶのだ。それ以外は、更生させるためのスパルタ教育をする。
 涼村暁や左翔太郎の持つ一般人としての生活感覚を彼が認めるかといえば、おそらくはNOだろう。

「なあ、フィリップ……こいつは、ちょっとヤバいんじゃねえか?」
「ああ。以前僕たちが戦ったコックローチ・ドーパントの持つ独善性にも似ているね。ヒーローが好きだからといって、彼自身の行いが立派なヒーローといえるかは別問題だ」

 ヒーローに憧れるという人間が決して、人間的に成熟できた立派な人間になれるという事ではない。
 いや、むしろ憧れたものに対する一方的な幻想を抱く者だって、悲しい事に一定数いるのである。──ゴハットや、コックローチ・ドーパントこと伊狩はそういう物を持っていただろう。
 ある種、オタク気質というか、それを突き詰めた人間に陥りやすい傾向だ。

「まったく、ヒーローってのは、なんだかわからねえな、本当に」
「確かにね。わからないなら僕たちも自分たちの事をヒーローと思わない方がいいかもしれない。
 僕たちも血の通った人間には違いないからね。所謂──そう、Nobody’s perfect」

 フィリップは、どうやらそこから先の事もあまり考えていないようである。自分がヒーローであるか否か、という問いから先、彼が答えを出す事はなく、答えを出す気もなかっただろう。
 彼は、自分がヒーローと呼ばれる事に、この時はあまり関心を持っていないようだった。
 やはり、既にこの殺し合いの中で幾人もの犠牲者を出した後だったから──だろうか。
 到底、自分の事をそう呼べる精神状況ではなかった。
 それから、フィリップは補足した。

「……ただ、街の人や……特に子供たちを見ていると思うよ。ヒーローにあこがれる人間は、行いも含めてヒーローのようであってほしいとね。
 完璧じゃなくたっていいから。────まあ、これは、僕自身の勝手な願望だけど」

 あの時、フィリップは、一見すると興味なさそうにそう言っていた。
 翔太郎は、それを思い出した。







 翔太郎は、暁の推理を訊いた時に、こう思ったのだ。──データによると、あそこまで独善的で、一方的なゴハットの感性ならば、当然こんな問題は出しえない、と。
 翔太郎が問題に答えを出せなかったのは、それが原因だった。彼も、一度はその解答も考え、ボツにしたのだった。
 ゴハットは、本来なら暁にこんなふざけた問題は出さない。ヒーローに対して、「硬派」という幻想を抱いているゴハットが、暁を認めてこんな問題を出すだろうか?
 ゴハットが、データと全く同じでぶれない存在であったなら、暗号の内容はもっと難解で硬派な物だったはずである。
 しかし、現実には、あらゆる案が出されたものの、おそらく暁の解答で間違いない。

 ────どういうわけかわからないが、ゴハットは暁を認めたのである。

 彼は、かつての暑苦しいヒーロー像に熱狂していたはずだが、この場において、一人間としての──時にふざけているが、時に真面目な、暁や翔太郎のような新世代のヒーローを認めたという事になる。
 バカでも。ぶっきらぼうでも。体が弱くても。自分の宿命に押しつぶされるほどに弱い一人の人間であっても。──それは、立派なヒーローの形の一つである、と。
 それはきっと、暁がこのバトルロワイアルで行ったすべてをゴハットが見届けた結果だ。
 暁の生き方は、一つの考えに囚われた旧世代をも突き動かしたのである。

 これは、そんな彼が、シャンゼリオンに向けて作った挑戦状であり、ラブレターなのだ。
 その手柄を、今回ばかりは翔太郎が奪うわけにはいかない。照井竜が井坂深紅郎との決着をつける事になったあの戦いの時と同じく、脇役として見守るだけだ。

245探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:30:51 ID:3afmAm6s0
 そして、暁を推理の過程で立ち止まらせて、この暗号の答えを解かせないわけにはいかない。

 翔太郎には、もう答えはわかっていた。
 しかし、暁が答える事に拘って、彼は黙って暁を見ていた。誰も、暁に協力してやろうとは思っていないようだった。
 その状況で、暁は口を開いた。

「……わかった。ここから先は、俺に任せてくれ」

 自分がやらなければならない。
 癪だが、今はゴハットの為に。あの怪物の為に。暁はまた、やらなきゃならない。
 確かにあのゴハットは、ヴィヴィオを救っているのだ。そのお返しと言っては何だが、暁自身が自分の力で最後のピースをはめる事で、ゴハットの悲願をかなえさせてやらなければならない。

 暁は考えた。
 もう一度、暗号を考えてみよう。

『桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。
 巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。
 島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい』

 まだ触れていないのは、そう……「島の中で」という部分だ。先ほどの暁の推理の中では、わざわざ「島の中で」と注されている部分が完全に無視されている。
 島の中。ここは孤島だ。この島の事だろう。しかし、その意味だ。暁たちがこの島の中にいるのは当然である。
 じゃあ、この暗号における島とは何だ? 島の中には、何がある?

「……島! そうだ──」

 暁は、何かに気づいたように、慌てて手近なデイパックを漁った。
 中にある物を床に散らかして、暁は、それを必死に探した。

 そんな姿を、誰もが黙って見つめていた。暁は、今、真相に近づこうとしている。
 ある者の意志に答える形で、必死にデイパックの中身を漁っている。暁の慌てようは、答えを探す為の行為に見えた。

 そう、彼が探しているのは、ヒントではない。──答えなのだ。

 ペットボトルを投げる。パンを投げるのを杏子がキャッチして文句を言う。その言葉は暁の耳に入らない。中身を引きだして投げていく暁は、ある答えだけを探していた。
 そして、それはすぐに見つかった。

「そうか……そういう事だったのか」

 涼村暁は、決定的な答えを広げた後、その意味に気づき、握りしめた。
 彼の考えには思い違いはなかったらしい。

 謎は、すべて解けた。







 彼らが監禁され、殺し合いを強要されているこの島は、そのほとんどが山のみと言っていいほどに緑が豊かな島である。人間たちの侵攻は浅く、外れに小さな街や村がある程度で、参加者たちもこの暗い山々に何度悩まされた事だろう。
 夜は特に参加者たちの恐怖を煽る。緑ばかりが茂り、その木々は何度も参加者たちに根本から切り落とされ、焼き尽くされてきた。元の形はないが、地図上では今もそれらの山々は真緑で表現されていた。
 この緑の部分が、今回の暗号において、注目されるべき物だった。

 そう、暁が今回、手に取ったのは、「地図」だ。
 ところどころが禁止エリアとして黒く塗りつぶされている地図を、暁は掲げる。
 そして、ある部分を指さした。

「この山に注目してくれ」

 暁がそう口にするのを、誰もが黙って聞いていた。全員が注目する中、暁は先ほどのような緊張を感じなかった。もはや、核心ともいえるべきものが彼の中にあったのだろう。
 地図上の山について、暁は話した。

246探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:31:09 ID:3afmAm6s0

「この山は、あるところで二つに分かれている。この山の高さが問題なんだ。グロンギ遺跡のある方の山は南の山より少し大きいだろ?」

 確かに、山の大きさは二つとも違う。
 中央部だけが凹んでおり、この島の山は頂きが二つある形になっていた。
 高く積もった方と、やや沈んでいる方。この二つが今回のキーワードだ。

「これはただの山じゃない。俺が考えている通り、おっぱいなんだ」

 全員が白い目で暁を見た。
 少し見直そうとした者たちも、やはり見直した分を無しにした。

「わからないか? この大きい方の山がマミちゃんのおっぱい、この小さい方の山がほむらのおっぱいなんだ」
「あの、いい加減にしないとそろそろセクハラで訴えますよ……?」
「訴えるならゴハットの奴にしてくれ。俺は答えを言っているだけだぜ」

 マミがもじもじした。暁はおそらくわざとセクハラ性を強調した言い方をしているのだが、「ゴハットのせい」という盾で自分を守る。
 これだからセクハラは悪質である。女性が言い返せない状況が自然に作られるのだ。

「で、この山だ。ずっと前は何もなかっただろ? でも、今は違う」

 暁は、気にせずに続けた。
 暁はかつて、このどこかにある禁止エリアを恐れて、その山を駆け抜けた事がある。その時には、この山には何もなかった。
 ──そう、しかし、今は暁の言う通り、違う。
 実はその後、この山の上で、通常なら見逃すはずもないような物を見たと証言していた(らしい)人間が現れたのだ。

「……そうか、ドウコクが見た山頂の物体だ」

 石堀が気づいて言った。
 血祭ドウコク。──外道衆総大将を仲間に引き入れた事が、思わぬところで役に立ったらしい。翔太郎や一也がドウコクから得た情報はこの場において共有されている。

「その通り♪」
「じゃあ……」

 孤門が見たのは、窓の外だった。
 もはや外の戦いは終わっただろうか。静かな外の空気の中で、たった一つ、見えている物があった。森の中、微かに膨らんでいる一つの山の頂。



「────つまり、ゴハットの奴が示したかったのはその事なんだ。小さい方の山──すぐそこに見えている、あの山こそ、俺たちが飛び込むべき、つぼみちゃんとほむらの小さいおっぱいに何かあるって事なんだよ!」



 暁が遂に、後ろからスリッパで殴られた。殴ったのは、美希だった。
 暁の解答は、結論から言えば間違いなかった。
 ドウコクが見たというあの奇怪な物体こそ、主催陣営のもとへ向かう鍵となる。
 考えてみれば、最も怪しいのだ。現時点で、鳴海探偵事務所やクリスタルステーションのように、戦闘配備としての意味がまるで感じられないあの物体。

 それは、この冴島邸から見える景色の中にあった。
 青く光っている、あの奇妙な物体──暁たちは、それをただ見つめていた。













247探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:31:28 ID:3afmAm6s0



 ここは、既に冴島邸を離れた外の森エリアだった。
 少し生暖かく、嗅いでみれば硝煙の匂いもするかもしれない森の中──心地よい森林の香はもう、どこかへ消えている。
 彼らの目の前にある、山の山頂を彼らは目指す事になった。
 冴島邸内で合流した、孤門チームと良牙チーム。──これで残る参加者は遂に全員出揃った。

「残ったのは、十五人か……」

 孤門一輝。石堀光彦。涼村暁。左翔太郎。沖一也。響良牙。桃園ラブ。蒼乃美希。花咲つぼみ。佐倉杏子。巴マミ。レイジングハート・エクセリオン。涼邑零。血祭ドウコク。外道シンケンレッド。そのほか、リクシンキ。

 ──ガイアセイバーズ。
 そう名付けられた部隊は、これにて全員集合した。

「ゲーム終了までは、一時間──」

 ゲーム終了までの時間もわずかとなった。
 沖一也と血祭ドウコクの約束の時間、十一時が遂に来る事になった。
 本来ならば、ここで一也の首はない。────しかし。

「てめえら、よくやったじゃねえか」

 血祭ドウコクは、その時、彼らの報告に素直な賞賛の言葉を与えた。暗号が解き明かされた以上、ドウコクが謀反を企てる意味はない。
 それから、そこで用済み、という事もなく、ドウコクは素直に彼らと共に行動している。
 それというのも、やはり戦力・駒としてはまだ十分に使えると判断しているからだろう。

 一也は、タイムリミットまでに暁と翔太郎が成功させた事でかなり安心しているが、一方で不可解に思う部分もあった。

(……この島の外に何かがいた事も確かだ。あれは一体────)

 一也だけが見た、あの黒い影。──あれを話すべきだろうか? しかし、仮にその事を話せばそれはそれで、ドウコクは帰還不可能とみなし、内部分裂が起こるかもしれない。
 何もいえないもどかしさが一也の胸にしこりを作った。

(まずは彼らが得たヒントをもとに、あの場所に向かうしかない……)

 それから、少しだけここにいるメンバーは情報を交換した。







 花咲つぼみは、美樹さやかの死について全て語った。その報告に最もショックを受けていたのは、佐倉杏子であった。

「そうか、それであいつは……」

 彼女が魔女に救われたと聞いた時、これは和解のチャンスだと、杏子は思ったが、その直後に結局、別の人間に殺されてしまったらしい。その人間──天道あかねも死んでしまった。
 杏子としては、美樹さやかも天道あかねも知り合いだっただけに、こういう結末になったのは残念でならなかった。
 さやかとも、あかねとも、和解をする機会は永久に失われてしまったわけだ。──そう思うと、最悪のコンタクトを相手に残せてしまったのは残念でならない。二人とも、もっと別の形で会いたかった相手である。

「……人間に戻るって事は、それだけ体が弱くなってしまうって事なのね」

 マミが、落ち込んだように言う。
 知り合いの死を知って、やはり悲しみもあるのだろう。元の世界の知り合いで生存しているのは、もう杏子だけだ。しかし、一人でも元の世界の仲間がいれば、それは十分恵まれている。ほとんどの人間が、自分以外の仲間がもういない状態だった。

248探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:31:46 ID:3afmAm6s0

 さやかは、魔法少女であれば変身してどうにか対処できたかもしれない状況で死んだという。変身できないという事は、それだけの危険も伴うという事だ。それもマミは考慮に入れなければならない。
 魔法少女の感覚に慣れていたがゆえ、彼女にとっても気を付けなければならない話である。まして、これから行く場所はどんな戦闘が巻き起こるかわからない。
 荷物をしっかりと持って、武器を把握して、マミは出来る限りの手段で仲間を支援し、生き残らなければならないのだろう。

「あの、つかぬ事をお伺いしますが、マミさんは、……やっぱり、人間に戻れて幸せですか?」

 ふと、つぼみはマミに訊いた。人間として救いだされた率直な感想を、マミから訊きたかったのだ。さやかがどう思っていたのかを知る術はないが、同じ境遇の人間から聞き出す事はできる。

「そうね……。魔法少女として、みんなを守っていた時は自分にしかできない事があるっていう嬉しさがあったけど、今は違うわ」
「え?」
「私たちの力には、魔女になるリスクもあった。
 ……ずっと一緒にいるには危険すぎる力だし、何より魔女になって暴れ続ける事なんて全然幸せじゃないと思うの。
 人間は本来、人間であるべき──それが普通なのよ」

 そうマミが言った時に、横から杏子が言った。
 彼女こそ、正真正銘、魔法少女の心情を誰よりもよく知っているのだった。
 全ての真実を、冷徹に目の前に突き付けられ、それを乗り越えた彼女である。

「なあ、つぼみ。現役の魔法少女から一言言っておくよ。
 魔法少女として死ぬよりは、人として死んだ方がずっといい。
 ……ましてや、魔女として死ぬなんて最悪だ」
「そう、ですか……」
「あんたはよくやったよ。あいつもきっと、喜んでいるはずだ」

 そう、この中では杏子だけ、今もまだ魔法少女でいる。
 彼女にはまだ心に孤独があるはずだ。だから、こんな事を言うのだ。まだ体は人でなく、いつでも魔女になる可能性があるだろう。
 いつか、人間に戻すことができるのなら、そうしてやりたい──と、つぼみは思う。

「……ありがとうございます」

 つぼみは、苦い顔で礼を言った。杏子の境遇を思えば、彼女は慰められる側であろう。しかし、つぼみを慰めようとしている。
 その事を、つぼみは少しばかり情けなく思った。







 響良牙は、まず沖一也と左翔太郎に向けて謝らなければならない事があった。
 それは、天道あかねを絶対に救うと「仮面ライダー」の名に誓いながら、それを果たせなかった事である。

「すまねえ……。あんたたちの名を語っておきながら、約束を果たせなくて」

 良牙が他人に頭を下げるのも、滅多にありえない事である。
 彼はそうそう人に向けて素直に謝れるタイプの人間ではない。しかし、ここにいる大人たちには、良牙がそうそう敵うような相手ではないと本能的に悟ったのだろう。単純な腕力とは別の次元で、自分より「上」の相手である。
 五代雄介や、一条薫もそうだった。

「……いや、いいんだ。良牙君は出来る限りの事をしただろう?」

 一也が訊くが、良牙は何も言えなかった。
 彼は自分がどれだけの事ができたのか、わからなかった。全力でやれた実感はない。
 ただ、良牙は、当然ながらあかねを助ける為に何でもするつもりだった。
 その想いだけは決して変わらない。自信を持って言えるのは、その想いがあった事だけである。あれが良牙のできる全力の手助けだったのかは何とも言えない。
 あかねが負っていた生傷を考えれば、最初から命を助ける事はできなかったのかもしれない──。

249探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:32:04 ID:3afmAm6s0

「誰だってそうだ。意志があってもできない事はある。俺も……」
「……あんたにもあるのか?」
「ああ。父のような人も、同僚も、師匠も、兄弟子も、仲間も、親友も、先輩たちも、未来の後輩も──俺にはこの手で守れなかった命がいくつもある」

 一也は、スーパー1として戦った日々を少し回想した。そして、このバトルロワイアルで喪った仲間たちの事も浮かんだ。
 あの無力の痛みが一也の拳にもまだ残っている。
 仮面ライダーは、決してここで全ての人間を救えていない。しかし、一人でも多くの命を守るために彼らは戦った。本郷猛も、一文字隼人も、結城丈二も、村雨良も、五代雄介も、一条薫も、フィリップも、照井竜も──。風見志郎も、神敬介も、アマゾンも、城茂も、筑波洋も、門矢士も、鳴海壮吉も、火野映司も──。
 その生き様に恥じぬよう、一也はこれからも仮面ライダーとして、一人でも助け出すために戦うだけである。
 たとえ、誰も助ける事ができなくても、助ける為に戦い続ける──それが力を持った宿命である。

「良牙。……俺から言える事は何もねえ。
 もしかしたら、俺よりもお前の方がずっと仮面ライダーらしいかもしれないからな」

 翔太郎も、そう言った。少し前までしょげていた翔太郎とは顔色が違うと、良牙はすぐに見抜いた。
 彼もまた、フィリップという仲間を失い、しばらく茫然自失の状態だったのだ。

「俺たちは、仮面ライダーである以前に人間だ。
 Nobody’s perfect──完璧な人間なんていやしない」

 翔太郎の胸の中に在るその言葉は今も、時として彼を慰める。
 戦い疲れた仮面ライダーの心に、師匠から受け継いだその言葉は今も何よりの癒しになるのだ。

「たとえ誰かを守れなかったとしても、お前は立派に仮面ライダーだったさ」







「……サラマンダー男爵によると、ここに永住しても問題なく食料に不便はないという話だ。
 だけど、ここで永久に生活しようって思ってる奴はいるか?」

 零が、他の全員に訊いた。この情報は既に全員に行き渡っているので、改めて確認の為にそう口にしたのだった。肯定する者はここにはいなかった。
 勿論、いるはずはない。
 ここにいる者には、ドウコクも含めて帰るべき世界、帰るべき場所があるはずなのだ。

「……じゃあ、決まりだな」
「異存はありません」

 決意は胸にある。
 恐怖も胸にある。
 しかし、元の世界に帰るためには、そこへいかなければならない。
 それに、ここで倒れた人間の為にも、これからこのように殺し合いに巻き込まれるかもしれない人間の為にも、戦わない時が近づいているのがわかった。

 十五人。
 兵力としては、あまりにも少ない。これで戦えるだろうか。
 ほとんどの人間の胸には、焦りと不安が湧いていた。まるで特攻にでも向かうような心境である。手が震えているのは止まらない。言葉も零のように発せない物もいるかもしれない。

「行こう、みんな────ガイアセイバーズ、出動!」

 孤門一輝が喉の奥の震えを押し殺して、そう叫んだ。


 ──そんな中、石堀光彦だけは内心、薄気味悪く笑っていた。





 To be continued……




250探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:32:48 ID:3afmAm6s0



状態表は長くなるので、これまでの物語を参照してください。
全員の最優先行動方針に、「F−5山頂に向かう」が追加されています。



【支給品紹介】
※これまで公開しきれなかった不明支給品を全て紹介します。

【鳴海亜樹子のツッコミスリッパ@仮面ライダーW】
冴島鋼牙に支給。
亜樹子がツッコミに使用する緑のスリッパ。毎回別の文字が書いてある。

【セガサターン@現実】
冴島鋼牙に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1994年に発売した家庭用ゲーム機。略称はSS。

【アヒル型のおまる@らんま1/2】
冴島鋼牙に支給。
ムースが暗器として使用した武器のひとつ。場合によっては撲殺に使える。

【フラケンシュタインの被りもの@フレッシュプリキュア!】
村雨良に支給。
第16話でラブのクラスが文化祭のオバケ屋敷の為に用意していたフランケンシュタインらしき怪物の被りもの。ちなみに、一応「フランケンシュタイン」は怪物を作った博士の名前なのも有名な話。

【ネギ@仮面ライダーW】
孤門一輝に支給。
小説版で翔太郎の風邪を治したネギ。使用方法は……。
なので使用済じゃない事を祈りたい。

【ドリームキャスト@現実】
孤門一輝に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1998年に発売した家庭用ゲーム機。略称はDC。

【風の左平次パニックリベンジャーDVD-BOX@仮面ライダーW】
東せつなに支給。
巷で流行している時代劇のDVD。左翔太郎と鳴海亜樹子がこれのファン。

【メガドライブ@現実】
沖一也に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1988年に発売した家庭用ゲーム機。略称はMD。

【おふろセット@魔法少女リリカルなのはVivid】
沖一也に支給。
高町ヴィヴィオが普段お風呂の時に使っているアイテム。
アヒルのアレや水鉄砲などが入っている。
もしかしたら、美希、杏子、ヴィヴィオが銭湯に入った時に使っている可能性あり。

【プリキュアのサイン入りクリスマスカード@ハートキャッチプリキュア!】
ズ・ゴオマ・グに支給。
第44話でハートキャッチプリキュアの面々がプリキュア好きの青年にあげたサイン入りカード。キュアブロッサム、キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライト、そしてキュアフラワーのサインが書いてある。うらやましい。

【マタタビ@現実】
バラゴに支給。
猫を酔っぱらわせる実。このロワではわりと使える。

【配置アイテムネタバレマップ@オリジナル】
園咲冴子に支給。
支給されていない配置アイテムの場所が記されている。何が置いてあるかは書いていない。

251探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:33:27 ID:3afmAm6s0

【ハートリンクメーカー@フレッシュプリキュア!】
園咲冴子に支給。
誰でもビーズが作れるという画期的なアイテム。
第18話と第40話くらいしかまともに出番がない。「ハートキャッチプリキュア!」などのプリキュアシリーズにも、各作品ごとに別の物がたまに出てくる。

【未確認生命体第0号の記録映像@仮面ライダークウガ】
溝呂木眞也に支給。
長野県九郎ヶ丘遺跡で未確認生命体第0号(ン・ダグバ・ゼバ)が研究員を殺害して暴れた映像が記録されているビデオテープ。

【山邑理子の絵@ウルトラマンネクサス】
月影ゆりに支給。
山邑理子が描いた不気味な絵。
東武動物公園で家族旅行された帰りに家族が殺され、ビーストにされた少女がその光景をクレヨンとかで描いたもの。

【魔力負荷リストバンド@魔法少女リリカルなのはVivid】
月影ゆりに支給。
マリエル・アテンザがヴィヴィオたちのために作ったリストバンド。
これをつけると魔力の使用に負荷がかかる。要するにドラゴンボールの重いリストバンドの魔法少女版みたいなやつ。

【HK-G36C@仮面ライダーW】
早乙女乱馬に支給。
葦原賢が使用する突撃銃。装弾数は30発。
「仮面ライダーSPIRITS」などにも登場する。

【白埴鋤歯叉@侍戦隊シンケンジャー】
早乙女乱馬に支給。
モチベトリが使用する武器。
「しらはにすきばのまた」と読む。

252 ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:33:51 ID:3afmAm6s0
以上で投下を終了します。

253名無しさん:2014/11/03(月) 17:18:00 ID:jxHkQGOM0
投下乙です

いやあ、本当の最後の戦いの前のひと時というかお互いの確かめ合いというか
二人の探偵がコメディしつつもヒーローしてるのもいい
ヒーロー組も魔法少女組もそれぞれの心理描写が本当にらしいわあ

254名無しさん:2014/11/03(月) 17:31:39 ID:AmLOij0c0
投下乙です!
おお、いよいよ暗号の答えも見つけましたか! 
でもこれから向かう所にはレーテというヤバい物があるんですよね……

255名無しさん:2014/11/03(月) 18:17:32 ID:552Ynb5c0
投下乙です

暁ww
ほむらに守護霊として憑かれてるな

256名無しさん:2014/11/04(火) 01:18:49 ID:ECMQAqBI0
投下乙です。
まさに涼村一青年の事件簿。

そうか、あの暗号は暁がバカな思考で解き明かす事前提の暗号だったのか、暁がやって来た事はゴバットにも影響を与えてゴバットの思考にも変化を与えていたのか。
暗号の答えは出てきた時点で予想出来たけど、まさにそれがそのまま正解だったとは……未だかつてアレな暗号の答えで主催ルートが示された事があっただろうか。

再び仲間が集結して決戦突入……だがもうそろそろ石堀が仕事を始める頃か……暁、暗号解いて浮かれている所悪いけど暁に与えられた仕事はまだ残っているぞ。
まぁ石堀が本気出してヒャッハーしても、今回の主催を出し抜けるかどうかは……

で、もう既に上でも触れられているけどほむほむ本当に何度目の登場だろう。退場してからの方が活躍している気がする。こんなある意味活き活きしたほむほむ他所では絶対に見られない気がする。

257名無しさん:2014/11/04(火) 15:19:52 ID:qf6dxKUM0
石堀がいつ裏切るかずーっとそわそわしてたんだが、ここまでくるとラスボスポジションになるやもしれんな

258名無しさん:2014/11/04(火) 22:15:33 ID:XI5ppeEs0
投下乙です
小さなおっぱいにれっつごーです

ツッコミスリッパは不法投棄されていた覚えがあります

259名無しさん:2014/11/04(火) 22:21:38 ID:XI5ppeEs0
すみません
スリッパの件は記憶違い でした

260名無しさん:2014/12/10(水) 14:14:35 ID:25B6iFPsO
予約キタ

261名無しさん:2014/12/10(水) 23:59:44 ID:T/L8BbNEO
楽しみにしております

262 ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:50:15 ID:ezDSmj8g0
年末なので、折角だから、前回投下予定だった話の前半部を投下します。
後半部はまだ40KBくらいしか完成してないので、また来年という事で。

263崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:51:22 ID:ezDSmj8g0


 そこは、島の地下施設の一角であった。
 数百台のモニターから来る光源だけで綺麗に白みがかった部屋には、横並びに幾つもの椅子が佇んでいる。加頭順はその一つに座って、前方のモニターから、通称“ガイアセイバーズ”の様子を観察していた。彼の座っている以外の椅子は全て、既に空席である。

 このゲームの仕掛け人としては、本来なら至極緊張する場面まで話は進んでいた。だが、彼は、身体が緊張するような精神状態になる事がなかった。──加頭は、「NEVER」であり、その副作用として、死への恐怖が欠如している。
 “ガイアセイバーズ”はもう間もなく加頭たちの居所まで来ようとしている。F-5の山が基地の入り口となっているのは事実であり、順調に彼らは加頭の頭上で距離を縮めているらしい。
 尚更問題となるのは、加頭の所属する財団Xのメンバーやその他の主催陣は全員撤退を済ませ、もうここに残っている支援者は加頭を含めた数名のみであるという事だ。この部屋で閑古鳥が鳴いているのもそうした事情がある。残りの数名も、もしかすれば加頭以外、既に離脱しているかもしれない。
 少なくともこの一室は加頭以外誰もいなかった。このモニターも一時間後には映像を停止するので、そう時間を減る事なく、この一室は永久的な暗闇に飲まれるだろう。
 そこから見えている最後の映像に、何かしら反応するような感情がその面持ちから見て取れる事はなかった。

 加頭も死への恐怖を忘れたとはいえ、まだ生きている間しか果たしえない野望がある身である。それゆえ、本来ならば離脱すべき局面であり、引き際を弁える程度には頭も働くはずだが、今はここにしばらく留まる事にしていた。
 彼らの最後の絶望を見届け、このゲームに最後の仕上げを行うのは、ゲームのオープニングを務めた加頭の仕事である。放送機能も整えてあるし、彼らに残りの全てを伝える役目は存分に果たす事ができるだろう。

 そして、何より、加頭自身の願いは、この島で過ごす事だ。彼らが残り十人まで人数を減らすのに失敗した場合は、こちらで処刑を済ませねばならない。──その対策も、もはや整っていると言っていいが。
 加頭が願いを乞わねばならぬ相手がいるのも、元の世界ではなかった。たとえ誰が離脱したとしても、加頭だけはこの島を離れない。

 何としても……。

「……ゲームオーバー」

 おそらく、この殺し合いゲーム『変身ロワイアル』は終了(ゲームオーバー)だ。既にこのルールの枠組みからすれば、現状はれっきとした失敗である。ゲームそのものが加頭たちの目的であったならばこちらの敗北は確定に違いない。
 加頭は、全く悲観的ではなかった。こんなゲームは所詮、彼にとっては道楽だ。結局は参加者全員を拷問で殺し、それを中継した方がリスクもコストも時間もかからなかったくらいである。加頭以外の誰かがそれだけでは納得しなかったというだけの話である。
 加頭にとっては、この殺し合いの意味そのものは、「支配・管理の副産物として、せいぜい数日楽しませてもらえれば御の字というイベント」以上の何者でもない。

 それに、このゲームが終了したところで物語はまだ終わらない。
 ベリアルが作る全パラレルワールドの管理を以て、全ては「始まる」のだ。
 所詮、殺し合いなどその為の実験であり、この段階で既に「成功」といえるだけのデータは取れてしまっている。殺し合いの中に閉じ込められた者たちは外世界について何も知らないが、既に外世界は管理され、幸福なき世が完成しつつあった。
 いわば、その点においては、ヒーローたちの敗北である。「苦境の脱出」という栄光でさえ、結局は掌の上の出来事だ。

 さて、これから加頭はあの左翔太郎やその仲間たちが最後のダンスを踊るのを見届ける事になるが、彼はここで脱落するのだろうか──あるいは、「生きて帰って絶望する」事になるのだろうか。

「──」

 ダークザギや血祭ドウコクが快進撃を始めるのには、あと十分程度時間を要するだろう。この二名が、これからおそらく参加者を十名まで減らす要である。このエリアの頭上にレーテを配置したのも、石堀の野望と絡めた問題だ。

「おや……」

 残り五十八分を切った時、加頭はあるモニターを目にする事になった。
 それは、そのモニターが、この数時間の傾向通りの不動の景色ではなく、ある動きを見せたからである。加頭は一見すると参加者の集うモニターばかり見ているようでありながら、全てのモニターを視界に入れ、頭の中で無意識に整理していたのだ。微妙な違いにもすぐに気づける。

264崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:51:40 ID:ezDSmj8g0

「これは……」

 それは、既に死亡したはずであるゴ・ガドル・バ──改め、ン・ガドル・ゼバの遺体が移されている映像である。

 ──今、ガドルは……動かなかったか?

 いや、それは疑問形では済まされない。
 確かに、ガドルは動いた。手を震わせ、何やら起き上がろうとしている。現在進行形で、まるでコマ送りのように、僅かずつ生体を取り戻している。
 心臓がまだ生きているのか? あれだけの攻撃を受けても尚──。

「……どういう事だ」

 慌てて、加頭はコンピュータに指をやり、映像を拡大する。頭の中では、それまでの出来事を振り返った。グロンギの大凡のデータで測れるだろうか。──自分の持ちうるグロンギに関する記憶を整理し、ガドルの死について思い出す。
 首輪による認証が行われていないので、生存・死亡のデータは視認によって確認するほかなく、ラ・バルバ・デ、ラ・ドルド・グのようにグロンギの生態について詳しい意見を聴ける相手も既にこの世にいない為、これまで正確な生死確認はできなかった。
 ベルトの破壊も相まって、死んだ物として通していたが、どうやら、これは簡単には行かぬ話のようだ。試しに、五代の死地やダグバの遺体を探ってみるが、映像上では現状、映っている物は死体である。
 一度は焦ったが、ガドルが生存している事は別に加頭にとって不都合な事象ではなかった。

「……もう一人伏兵がいたとは、──これは面白い」

 ン・ガドル・ゼバは、加頭が余裕を取り戻して微笑を浮かべた頃には、両足で立って歩いていた。もはや彼が再誕した事は疑う余地もない。
 ぼろぼろの軍服を纏った男の姿。それは、夢幻ではなく、現実の出来事としてモニターにははっきりと刻まれていた。
 こちらの死亡者情報は改めなければならないようだが、結局、もはやこの段階ではどうでもいい。参加者たちに全て明かす必要もないだろう。

 その後、ぼろぼろの軍服を纏ったガドルの姿に、あのン・ダグバ・ゼバの異形が重なった。

 それもまた、夢でも幻でもなかった。
 今、ガドルが、ダグバに──グロンギの王と同じ姿に成ったという事。
 加頭の持つ限りの情報で推察すると、ダグバのベルトを取りこんだがゆえに、「ベルトを一つ破壊されても尚、ガドルは生きていた」と考えられる。二つのベルトの内、生きていた方のベルトがガドルの命を繋げているのである。
 そして、仮面ライダーダブルに破壊されたのは、ガドルのベルトだった──なるほど、それならば説明はつく。

「これは本当に、面白い物が見られそうだ……」

 彼はすぐにレーテまで来るだろう。
 ガドルは本能的に戦いの嗅覚を作動させているらしく、──もはや加頭が促すまでもなく、彼はレーテの方へと歩いて向かっていった。
 自分をここまで追い込んだ強敵たちを見つけ出そうとしているのだろうか。







 涼村暁は、他の生存者とともに山林を歩いていた。計十五名。暗いピクニックである。
 周囲を見回してみても、全員、暁の数倍は気合いが入っているようだ。

 先ほど、今後必要そうな装備となる道具は全てデイパックから出し、使えそうにない物は一つのデイパックに纏めて、念のために完備している。水、食料は、必要分だけ口に含んだ。それでも少し余った。お腹いっぱいにパンを食べる者はここにはいなかったのだ。
 杏子や暁は、パンではなくお菓子を食べて少し落ち着いた。甘いものもまた、脳を活性化させ、体の疲れを外に出せる。特に、暁は長期間ガムを噛み続ける事によって、この状況のストレスを発散させていた。

 結局、それから数分間、誰も一言も口を開く事はなかった。戦場に向かうという意識が高く、普段もう少し柔らかそうな女子中学生たちも、まるで別人のように張りつめた顔をしている。

265崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:51:59 ID:ezDSmj8g0

 ……暁はこの空気が苦手であった。元々、ダークザイドとの戦いも一度きりだった、完全なる戦場初体験お気楽野郎である。
 空気が重すぎる。冗談の一つも通りそうにない。それどころか、暁が何か一言でも何か口にすれば、それだけで罵声が飛んできそうだ。
 ともすれば、暁が溜息をつく暇もなさそうだ。音声一つが喝の種であるようにさえ思う。
 誰も、何も言わない。
 ……黙ってばかりで苦しくないか?

 ……まあ、暁としても、死ぬのが怖い気持ちはわかる。敵を倒さなければならないのはわかる。しかし、それでも暁は、もう少しふんわかいく感じでも良いのではないかと思うのだ。
 厳めしい顔をして全員で山林を歩いていても士気が上がる事はないだろう。変身の時の最初の第一声、「燦然!」を口にする前に口が塞がってしまいそうである。シャンゼリオン、あるいはガイアポロンとして戦う前に、枯死してしまってもおかしくない。

「……なんだ、人間ってぇのは、随分つまらねえな」

 暁の願い通り、その静寂を切り裂いたのは、血祭ドウコクだった。
 全員が血祭ドウコクの方を見た。ドウコクがその時に足を止めていたせいか、全員がその時、ぴたりと足を止めた。おそらく、ドウコクにもそうして全員の足を止めさせ、こちらに注意を向けさせる意図があったのだろう。ドウコクの姿は太陽のほぼ真下にあるようで、微かに真っ直ぐではない木漏れ日がドウコクの頭上に差していた。
 野太く、どこか冷たい声でドウコクは続けた。

「こういう時は、ふつう戦意を奮い起こすもんだ。これじゃあ、まるでコソ泥じゃねえか。……俺たちはこれから敵の大将を叩くんだぜ?」

 暁としても引っかかる所はあったが、概ね思った通りの考えには近づいている。この沈黙の行列には殆ど、意味はない。他にも、ドウコクに寄った意見の者はいたかもしれない。しかし、奮起するのが嫌いなナイーブな者も同時に存在したので、反対派もいるだろう。
 ドウコク自身、それがストレスでもあったらしい。ドウコクはもう少しばかり豪快な気質の持ち主で、敵陣を責める時はもっと全員の士気を高めてから向かうタイプである。
 酒を飲み、火を放ち、叫びながら志葉家を責めている姿などからも想像がつく通り、そうしなければ戦意が高まらないのである。

「奴らはもう俺たちに気づいているはずだ。どういう方法かわからねえが、俺たちを見ているからな」
「……」
「だとすると、こそこそ動いても仕方がねえ。意気を高めてかかった方が怪我しねえで済むかもな」

 夜襲の軍隊であり、隠密が基本のナイトレイダー隊員──孤門一輝はこれまで隊長命令に従って戦ってきたので、その感覚が掴めていなかった。最近までレスキュー隊にいたので、人間を相手にした兵法など殆ど知らないのだ。
 歴戦の勇士であるドウコクの言う事も一理あると思えた。

「みんな、どう思う? 声を出した方がいいかな?」
「……餓鬼か、てめえは」

 そうドウコクに言われると、どうも孤門としては黙らずにはいられない。まさか、こんな厄介な人間まで束ねる事になるとは思わなかったのだ。ひよっこリーダーにはまだまだ自分一人の判断ではできない事が多い。こんな運動部のような提案が出てきてしまう。
 しかし、ドウコクの言う通り、やはり戦闘の前に、ある程度、感覚を麻痺させるのも必要な作戦なのは確かだ。冷静でいるからこそ、妙に恐れが募り、戦いの中で硬直してしまう。もっと感覚が麻痺しているからこそ、軍勢は強い。勢い──それも、この時はおそらく大事な要素の一つだろう。
 一方、暁は先ほど言った通り、ドウコクの意見に、必ずしも賛同するわけではない。中立というか、また別の考えがある。

「……なぁ、俺もずっと思ってたんだけど」

 暁が、見かねて挙手した。
 こうして誰かが空気を変えてくれれば、暁にも発言をする勇気が出るのだろう。その隙間を作ったのはドウコクだった。一斉に全員が暁の方を見た時は、やはり少し後悔したが、こうなれば自分の意見を言ってしまうしかないだろう。

「黙るのも、わざわざ騒ぐのも、何か違くない? ……いつも通り、ふんわか行けばいいんじゃないの?」
「は? 何言ってんだテメェ」
「え……あ、いや、何か悪い事言ったかな俺……」

266崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:52:17 ID:ezDSmj8g0

 ドウコクからの威圧に思わず声を小さくする暁である。仕方のない話だった。このバケモノを相手に平常でいられる方がどうかしているくらいである。ともあれ、ドウコクに意見するのはなるべく止した方がいいのを忘れていたので、考えをひっこめる。タイミングがタイミングなだけに、難しい。

「でも、それも一つの意見だ。それによって落ち着く人だっていると思う」
「纏まりのねえ集まりだぜ……」
「……それはまあ、寄せ集めだから」

 孤門は、ほとんど無意識に、乞うように沖一也に目をやった。一瞬だけ目が合い、少し気まずくなる。彼としては、こういう時は専門家の一也を頼りたい物だと思ったが、一也も一也で、敵陣に向かう際にどうすべきか思案しているようだ。
 この男こそ、こういう時の攻め方を熟知していそうなものだが、所詮は一人の格闘家であり科学者──兵隊ではない。集団戦のやり方を知るところではない。確かに、雑学や予備知識的に知ってはいるのだが……。
 そんな期待を概ね全員から寄せられたのに気づいたか、一也は思案顔をやめて、現状の自分の意見を口に出す事にした。

「……確かにドウコクの言う事も一理あるな。しかし、残念だが、わかっているのは山頂に向かうのが鍵という事だけだ。そこにわかりやすく出入り口があるわけでもあるまい。山頂で俺たちは一度立ち止まる事になるだろう」
「今のうちから意気を高揚させても仕方ねえって事か?」
「ああ。それに、お前は敵が俺たちの行動に気づいていると言ったが、それならば山頂に何らかの罠が張ってある可能性は高い。冷静な判断ができない状態で向かっても、罠にかかるだけだぞ」

 ふぅ、とドウコクが溜息をついた。
 ドウコクの言わんとしている作戦では、既に数名の犠牲は想定内である。だが、それでも彼はその作戦を決行するのが最良だと思っていた。

「そのための盾が何人も俺の前を歩いてるんじゃねえか。一人や二人脱落したところで痛手でも何でもねえだろう?」

 佐倉杏子が、思わず目を見開き、ドウコクに掴みかかろうとした。

「──何だと!?」

 勇気があるというよりは、ほぼ脊髄反射での行動である。現に、掴みかかろうと指を曲げているが、その指は裸のドウコクの胸倉をつかめようはずもない。そんな杏子の体を止めるのは、左翔太郎であった。彼も同じく鉄砲玉のように飛び込んでいこうとした部分があり、杏子以上に苛立ちを感じた事と思うが、こうして杏子を俯瞰で見た時に、こうして彼女を止める「大人」としての役割を意識したのだろう。
 一也が横から割り込むようにして、ドウコクを説得した。

「ドウコク。人間は、お前の思っている以上に強い。一人の人間が他の誰かの心の支えになる事もあるし、数が揃う事で思わぬ力を発揮する事もあるんだ」
「……くだらねえ」
「それに、お前のやり方の結果として戦力を喪っても、お前にとって意味はないだろう。仮に俺たちが命を賭けるなら、もっと別の局面で使った方がいいはずだ」

 あまり適切な言い方ではないかもしれないが、一也は、ドウコクを納得させるためにそう言ったのだった。
 この「命を賭ける」という言葉に怯える者もいるかもしれない。しかし、一也としては、真っ先に命を賭けるのは一也自身であるという事を他の全員にわかってほしかった。
 勿論、出来る事ならば命を持って帰りたいが。

 やがて、ここでの対立の無意味さに折れたのはドウコクの方だった。
 一也の言わんとしている事がわかったのかもしれない。

「そうか。そいつは、確かにな。てめえらは、俺たち以上に自分の命を大切にしねぇって事を忘れてたぜ。命を賭けて戦うってのは、てめえらの専売特許だ。無駄死にさせるよりは、意味のある死をしてもらった方が、俺にとっても得があるってわけだな」

 一也の意図の通りだ。要は、ドウコクにとっては、「死に時」に死んでもらうのが一番効率的であると言いたかったのだ。無論、一也からすれば、あくまでドウコクを納得させるための詭弁に過ぎないが、それでもこの場を凌ぐには十分である。
 ここにいる他の者には、そのその場しのぎの一言としての意味も伝わっただろうか。

「わかってもらえてうれしいぜ、バケモノ野郎」

 翔太郎が皮肉っぽく横から言った。

267崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:52:34 ID:ezDSmj8g0

「……要するに、このまま行けばいいって事だ。もう間もなく到着する。今の提案通りに行くぞ」

 そして、石堀光彦が、やけに冷たい声で纏めて、横から口を挟んだ。
 彼は、ドウコクらが話している最中も、苛立った様子で体を山頂の方に向けて、顔だけを向けていた。まるで一刻も早く山頂に辿り着こうと、必死の様子である。
 なんだか奇妙な心持がした。

「あの……石堀さん……?」

 それは、まるで彼ら全員の議論を拒絶しているようにも思えた。普段ならば、もう少し会話に参加するはずである。要は、普段の石堀の口調とはまるで別物だと、孤門にさえ違和感を持たせる物だった。
 孤門以上に、暁が怪訝そうに石堀を見た。

「……おい、石堀。この際だから言わせてもらうが、お前はお前で、最近様子が変じゃないか?」

 暁がカマをかける。真横で、ラブが眉を潜めた。全員、今度は、暁と石堀の方に目をやった。
 特に、ラブは以前、暁に貰ったラブレターの事を思い出したのだろう。あのラブレターにおいて、暁が本当に伝えたかったのは、おそらく石堀が危険であるという事実である。
 それは、何故だかラブにもごく最近わかってきたような気がした。女の勘である。
 そう、最近とはいっても、この数十分からだ。──暁のお陰で、ゴハットの例の暗号が解けてから。

(石堀さんは、確かに何かおかしい……)

 ラブの胸中で、何か言い知れぬ不安が強まっていく感覚がする。無数の蜘蛛が内臓で這い回っているように気持ちが悪い。当に、ラブの知らぬところでその不安は糸を張っていたのだろう。
 それは、主催の穴倉にいるであろう無数の敵の存在よりも、ラブを怯えさせる。
 強烈な悪意、強大な憎悪だ──。石堀から溢れだすそんな邪悪な意志を、ラブは本能的に察していたのかもしれない。

「……何故そう思う」
「何となくだ」
「何となく、か。お前と会ったのもごく最近、数日も経っていないはずだが、何故最近の俺の様子がおかしいと思ったんだ?」

 暁は、真剣なまなざしで石堀を見据え、ただ黙っていた。
 石堀の様子がおかしい事に、普段は鈍感な孤門でさえ気づいた。暁やラブだけではなく、左翔太郎も、蒼乃美希も、涼邑零も、何となくはその溢れ出す石堀の妖しさを察知し始めたかもしれない。
 とはいえ、孤門にとって石堀は、ナイトレイダーとして何か月もともに戦ってきた友人であり、仲間だ。彼を簡単に疑うほど、孤門はクールな性格にはなりきれなかった。多少様子がおかしくとも、それは何の意図もなく、ただ偶然、この状況下で気分を害しただけとか、そんな風に捉えたかもしれない。
 暁だけは、やはり石堀があまりに露骨に態度を異にしているように思えてならなかった。

「なぁ、アクセルドライバー、持ってるだろ。貸してみろよ」
「何……?」
「いいから貸せって。武器も全部だ」

 暁が提案する。周囲がざわめいた。
 多少の挙動不審で、ここまで疑心暗鬼に駆られるとは、妙だと思ったのだ。
 翔太郎が代表して、暁の肩をポンと叩く。

「おい、暁。お前、何言ってんだ急に。……いいじゃねえか、こいつは今まで照井のドライバーをちゃんとみんなの為に使って──」
「いーや、俺はしっかり見てたぜ。ちょっと前、冴島邸を出る時の荷物の準備で、こいつアクセルドライバーに仕掛けをしてたんだ。今思えば、こいつも何か企んでいるに違いない」

 仕掛け、と言うのは少々苦しいように思えた。
 暁はこう言うが、ドライバーの事情は翔太郎もよく知っている。あれは風都の持つオーバーテクノロジー以外では、まず理解に手間取るような仕組みでできている。素人がいきなり妙な細工をできるような代物ではない。いくら石堀が別世界において科学に強いプロフェッショナルだからとはいって、簡単に調整できよう物ではないだろう。
 翔太郎が、呆れて口を出そうとしたが、先に反論したのは石堀であった。

「何を言いだすかと思えば……俺は別にそんな事はしていない。せいぜい、これから使う道具の調子を確認していただけだぜ」
「そうか……なら、貸して見せてくれ」

268崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:52:52 ID:ezDSmj8g0

 暁が言うと、石堀は大人しくそれを渡した。翔太郎は、肩を竦めて言いかけた言葉をしまう。

(そろそろこいつらも感づき始めたか……)

 石堀には全く、このアクセルドライバーに対して怪しまれる事をした心当たりはない。だから、それを渡す事そのものには何の躊躇もない。問題は、何故暁が突然こんな事を言いだしたのかという事だ。
 おそらくは、既に別の要因で石堀への警戒体制が高まっており、それが原因で全く関係のない些細な行動まで怪しく見えてしまうところまで来ているという事だ。しかし、石堀にとっては、もう怪しまれようが警戒されようが関係のない状態だった。あと数分だけ騙し続けられれば問題はない。
 暁は、受け取ったアクセルドライバーを覗きこむ。

「このハンドルの部分だ。お前はここを念入りに弄っていた」
「そんな事はないと思うが」
「いや、そんな事はあるね。見ろ、このハンドルの部分と、それからメモリのスロットだ。いかにも怪しい。この要になる部分に何かの細工を施したはずだ。ここを弄れば何かあるんだろ? なぁ、もう一人の探偵」

 暁は、翔太郎の方を向いて訊いた。こちらに同意を求められても困る。
 だらしなく口を開けて、同意を求めるかのようなニヤケ顔で、そんな言葉が出てくるのを、翔太郎は呆れ顔で見ていた。口の中からはみ出しているガムをどうにかしてほしいと思うだけだ。

「……残念だが、素人が弄ったところで、このドライバーは強くもならないし、ビームが出るようにもならねえな。何を疑ってるのかわからねえが、あんたの推理は多分ハズレだ。いや、推理というよりかは、この状況で疑心暗鬼か──目を覚ませよ」

 結局、翔太郎の返事はそんなところだった。
 暁も疲れているのだろう。確かに石堀の態度も変だったが、こうなると暁も同じである。
 翔太郎も石堀を疑いかけたが「この二人が疲れているだけ」と判断した。
 結局、怪しいだけで断罪できる状況ではない。

「おい、何全員でくだらねえ事で立ち止まってやがるんだ。どうでもいい、俺の士気まで下がる……さっさと行くぞ!!」

 その時、ドウコクの堪忍袋の緒が切れたようだった。最初にこの場にいる全員を立ち止まらせたのは他ならぬドウコクだが、自分の用が終わればもう関係ないらしい。
 暁は背筋を凍らせる。さっきから、一番怒らせてはならぬ相手を怒らせっぱなしである。
 それどころか、全員にどんくさい人間だと思われているのではなかろうか。
 仕方がなく、暁はアクセルドライバーを石堀に大人しく返す事にした。頭を掻きむしりながら、申し訳ないとさえ思わずに石堀に片手で手渡す姿は、到底、大人らしい誠意が見られない。

「……おかしいな。俺の勘違いなのか?」
「随分、お前の方こそ姑息な仕掛けをしたんじゃないのか。たとえば、噛んでいたガムを引っ付けるとか、爆弾をしかけるとか」

 石堀が口にすると、暁の顔色が変わった。
 そのため、不審に思い、慌てて石堀はアクセルドライバーを調べる。しかし、元のままだった。ガムが引っ付いているわけでもなく、爆弾が取り付けられたわけでもなさそうだ。顔色を変えたのは、こちらをからかう為だったらしい。
 あてつけのように、暁はぺっとガムを吐き出して紙に包んだ。ゴミをその辺に捨てると怒られるので、躊躇いつつもポケットの中にしまう。

「…………ふっ。冗談だ。仲良くしようぜ、暁。こんなところで機嫌を損ねても何のメリットもない」

 暁は何も言い返せなかったが、こうして周囲に警戒を促していた。──特に、桃園ラブに対しては。

 何故だかわからないが、このタイミングで妙に石堀は、おそらく嬉々としている。もしかすると、石堀こそが主催側の人間なのだろうか。主催側の秘策でも持っているのかもしれない。
 しかし、黒岩の情報を打ち明けるにはまだ早い。
 なんだか胸騒ぎがするのだ。
 あの情報は、限界まで悟られてはならない。……そう、石堀が本性を現し、掌を返すその時まで。その時まで、彼を見張るのは暁の務めである。

269崩壊─ゲームオーバー─(1) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:53:12 ID:ezDSmj8g0

「そうだな。……悪いな、俺の勘違いだったよ」

 しかし、暁はひとまず、素直に石堀に謝った。今度は妙に素直になったが、それはそれで、この石堀光彦でも理解不能な涼村暁らしく思えた。
 孤門が横から石堀に訊く。

「あの、石堀隊員。何か気分でも悪いんですか? 考え事があるとか……」
「そんな事はない」
「本当に大丈夫ですか?」
「……俺を誰だと思ってる」

 それでも、何となく腑に落ちないまま、孤門は先に上っていく石堀の後を追った。石堀の歪んだ笑顔は、誰も目にする事はできなかった。

 山頂は近い。
 孤門一輝たちの目の前には、忘却の海レーテがその巨大なシルエットを露わにし始めている。
 これが主催者の居所に繋がる存在。

 人々の絶望の記憶を超えた先に、敵はいる──。
 誰もが、そう思っていた。







 花咲つぼみは、山の途中で、思わず真後ろを見返した。

(……来たんですね、遂に、終わりの時が)

 山頂に近いここからは、あまりにも綺麗に、あらゆる景色が目に入った。少し煙たくもあるが、それでも思ったよりは澄み渡った綺麗な景色が広がっている。
 木々を巻き込んだ戦闘によって禿げた大地が見えた。木々も生きている。この殺し合いで命を絶ったのは、人間だけではない。つぼみは戦闘に巻き込まれた木々に心で謝罪した。決して、殺し合いに乗った者だけが破壊したわけではない物である。

 それから、おそらく自分がダークプリキュアと戦った場所があのあたり、とか……。
 さやかと別れたのがあの川のあたり、とか……。
 村雨良と大道克己の戦いを見届けたのはあそこ、とか……。
 あの山では、あの向こうにある呪泉郷では、そしてその向こうにある三人の友の墓では────。

 この殺し合いに巻き込まれてからのあらゆる記憶が蘇った。
 長い一日半であった。
 しかし、それももう終わる。

 つぼみは、再び前を見た。
 彼女たち、十五人の前には、もう決戦の舞台があった。

『死人の箱にゃあ15人
 よいこらさあ、それからラムが一びんと
 残りのやつらは酒と悪魔がかたづけた
 よいこらさあ、それからラムが一びんと』

 それから、つぼみがむかし図書館で読んだスティーブンソンの『宝島』の海賊の歌が自然と思い出された。十五、という数字は、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』も思い出される。
 十五人は宝の地図に示された、宝の在りかを見つけたのだ。

 それしか残らなかった事は、つぼみにとって最も胸が痛い事実だった。





270崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:53:48 ID:ezDSmj8g0



 ……それから、驚くほどにあっさりと、山頂に辿り着いた。

 ここまで来るのに、何の妨害工作もなかったのは意外というべきか。
 あまりにも不自然に思えた。ゴハットが正しければ、本拠地であるはずのこの山頂。あまりにもノーガードである。
 決戦の地と呼ぶには、殺風景であった。本当に殺し合いが行われているとは思えなかった。
 木々もあらかた撤去され、クリーンな大地に、到底自然から生まれたとは思えない電子の海が乗っかっているのである。

 青く、或は黒く光る幾何学的な光が、その山の上で蠢いていた。
 欠陥のような赤い糸が青黒い海を駆け巡っている。
 臓器──その中でもとりわけ、心臓のようにも見える巨大な物体が、文字通り鼓音を鳴らしていた。
 これが、忘却の海レーテである。
 孤門一輝と石堀光彦だけが、それを知っていた。この間近で見たのは、彼らと血祭ドウコクだけであった。







「……これから、最後の戦いが始まるのね」

 蒼乃美希が、緊張の面持ちで言った。ここまで自分が来ている事が不思議だった。
 何か口に出して、その言葉を誰かが拾ってくれて、そうして少しでも誰かと繋がらなければ耐えられないような状態だった。
 かつて、管理国家ラビリンスと戦った時よりも、今の美希は恐怖を胸に抱いている。吐き気さえ催されているが、それを必死に飲み込んでいた。この緊張さえ、死ぬほどつらい。何か言葉にして口に出さなければやっていられない。
 そうして無意識に出た美希の言葉を拾ったのは、孤門であった。

「ああ。この無意味な殺し合いを終わらせる──完璧にね」

 孤門は、美希の口癖で返した。
 少しでも緊張を和らがせようとしているようだが、孤門とて命が惜しくないわけがない。──いや、美希以上に、孤門の方がこれからの戦いを恐れているかもしれないほどだ。
 年を経るごとにだんだんと受け入れ、諦められていくような死への恐怖が、再び十代の頃のように強くなっていた。

 彼には変身する為の道具もなく、最悪の緊急時の為に、パペティアーメモリとアイスエイジメモリが渡されている。片方は、以前使用して暴走しなかったものである。使用が安全な範囲であるとされたのだろうが、それでもやはり極力使いたくはない。パペティアーはその戦闘利用が難しい為か、更に最悪の場合に備えてアイスエイジも支給されている。
 同じように、マミにもウェザーメモリが渡されていた。こちらは完全に適合するか否かは、完全に行き当たりばったりの運任せである。一歩間違えばマミの暴走につながりかねない。
 とはいえ、それらも所詮は気休めにしかならなそうだった。勿論、恐怖の方が上回っている。

「……孤門さん、ありがとうございます」
「え?」
「一日中、ずっと私に付き添ってくれて」

 思えば、孤門と美希とは、この殺し合い始まって以来、殆ど共に行動していた。
 強いて言えば、二度ほど美希は単独で行動する羽目になったが、それも結局、美希は深手を負う事もなく孤門のところに帰る事ができている。
 そして、今もこうして二人で、忘却の海を前に言葉を交わす事もできるのだ。
 決戦の入り口は目の前である。

「私、ウルトラマンっていうのになっちゃったけど……まあ、この力をくれた杏子には悪いけど、本当に私が持つべき力なのかなって今も思うんです」

 美希は突然、孤門にそんな事を言った。
 もしかすると、これが最後かもしれないと思ったのかもしれない。
 孤門が周りを見ると、誰もが、これまで付き添ってきた誰かに言葉をかけている。
 それが、孤門にとっては美希だったという事であろうか。

「……だって、孤門さんって、ずっと姫矢さんや千樹憐さんや杏子、色んなデュナミストを支えてきたんですよね」
「いや。支えてなんかいないよ。……僕が支えられてきたんだ。だから、僕が次のウルトラマンっていう事はないと思うし、今は君が持っているべきだと思う」

271崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:54:29 ID:ezDSmj8g0

 美希がクスリと笑った。

「孤門さんがみんなを支えて、みんなが孤門さんを支えてきた。……それじゃあ、支え合ってきたっていう事ですね」

 孤門が頭を掻いた。
 どうも、この子には自分の上を行かれているような気がする。とはいっても、孤門は別段、この子ならば不快感はない。憐を見た後では、自分より頭の良く大人びた年下にプライドを傷つけられる事は、もう当分なさそうである。

 彼が情けないと思うのは、こんな女の子をこれから戦力としてここから先に行かせなければならない事だ。
 年齢は、十四歳と言っただろうか。
 十四歳といえば、孤門はまだ高校の受験の話さえろくに考えておらず、ただレスキュー隊に入ろうという夢だけが頭の中に入っていた頃だ。それからレスキュー隊に入るまでには、五年以上の歳月があった。
 夢を叶えるにも、まだ足りない年齢である。

「……ねえ、美希ちゃん。これからやりたい事はある?」
「これから?」
「将来の夢だよ。僕は、昔から誰かを守る仕事につきたかった。……確かにレスキュー隊になれて、ナイトレイダーにもなれた。でも、守れなかった物もたくさんあるから、僕はまだ、全然夢を叶えていないんだ。今はもっとたくさんの人を守りたいと思ってる」

 孤門は、これからも生きていく覚悟を確かに持っている。
 こんなところで終わるまいと、ここから脱出した後の事まで考えていたのだ。
 そんな孤門の前向きさを、美希は受け止めた。

「モデルになるのが私の昔の夢でした。そして、私はそれを叶えたから、次のステップに進みたいと思っています。……今度は、世界に名を轟かすトップモデルになりたいんです」

 ……結局、美希は孤門の上を行く回答を示してしまった。
 彼女も既に一つの夢を叶え、次の夢を追っている。どうやら孤門と同じ場所に立っているようである。
 だが、それに関心しつつも、孤門は、そんな美希の夢を守る想いだけは強くした。

「そうか、素敵な夢だね」
「孤門さんも」
「これまで、この殺し合いでそんな夢がいくつも壊されてきたかもしれない。でも、僕は、ここに残っている分は全員守りたいんだ」

 美希は、そんな孤門の考えに頷いた。
 その時の孤門の表情は、嘘偽りのない精悍さに満ちていた。
 孤門が美希を大人びた少女だと認めた以上に、美希は孤門を素直で優しい兄のような人と思っている。

 ──次に、美希が誰にウルトラマンの光を送るのか、この時に確定した。







「ぶきっ……」

 良牙が連れていた子豚が突然、鳴いた。またデイパックから出てきたらしい。
 空気穴代わりにデイパックには微弱な隙間を作っているのだが、いつもそこから這い出してしまう。あのあかねとの戦闘を含めて、二回目だ。

「お……?」

 良牙は、それに気づいた。
 すっかり忘れていたが、こいつも一応、立派な仲間だ。この子豚の健闘がなければ、あかねは元のあかねに戻れなかったかもしれない。
 彼女は、この良牙によく似た子豚にPちゃんを重ね、だからこそ正気に戻れたのだ。

「そういえば、お前には前に世話になったな。……そうだ、何かやろう」

272崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:54:56 ID:ezDSmj8g0

 そうだ、せめて何か、あのあかねの時の褒美をこの豚にもやろうと──良牙は、自分の頭のバンダナを外し、その豚の首に巻いた。
 ……とはいえ、良牙の額には、まだバンダナがある。二重、三重……いや、もう多重に巻いていたようである。良牙にとっては武器になるからだろう。
 このバンダナは、良牙が気を注入して硬直させればブーメランにもなるしナイフにもなる。彼には布きれでさえ立派な武器だ。特に、山林でサバイバルする羽目になるのが珍しくない彼は、刃物の周りとして手頃なのだろう。

「良牙さん、そのバンダナ、何枚巻いてるんですか?」

 不意に、つぼみが訊いた。
 今の様子を隣で見ていたのだろう。

「……いっぱいだな。数えた事はない」
「どうしていっぱい買っていっぱい巻く必要があるんですか?」

 武器だから、とは答えづらい相手だ。つぼみは優しく、戦いが嫌いな性格である。
 正直にこのバンダナを武器のつもりで巻いていると言えば、あんまり良い顔をしないかもしれない。
 良牙は誤魔化す事にした。

「そうだな、これは………………気に入ってたから」
「そうなんですか……。それでたくさん持っているんですね」
「あ、ああ……」

 全くの嘘であるだけに、どうにも後ろめたさが拭い去れない。
 ただ、つぼみも次の一句を切りだしにくいかのように、もじもじとした。
 少し躊躇してから、何かを口に出すのはつぼみの方だった。

「あの、良牙さん、もしよろしければ、そのバンダナ、一つ私にもいただけませんか?」
「え?」
「せめて、良牙さんとのお近づきの印です。私たち、お互いに大事な友達を失いましたけど、それでも、良牙さんという大事なお友達ができました。だから……」

 つぼみの言っている事は、良牙にもよくわかった。
 良牙も、今ではつぼみたちの事を大事な友人の一人に数えている。これまで、友と呼べるような人間が殆どおらず、それが悩みの種でもあった良牙には、ある面では良い一日半になっただろう。大事な武器とは言っても、良牙はまだいくらでもバンダナを所持している。一枚くらいはつぼみに渡そう。全員に配っても足りるかもしれない。

「……まあ、いいぜ。減るもんじゃないしな」
「いや、それ減ると思いますけど……」

 つぼみが的確に突っ込んだ。
 それから受け取ったバンダナは、本来なら汗がにじんでいてもおかしくないというのに、殆ど埃も汗もなく、新品同様であった。本当にどれだけ巻いているのだろう。幾つも重なっているので、汗がそこまで染みていないようである。
 見たところ厚みはないが、こればかりは科学では解明できそうにない。永遠の謎である。
 良牙は、少し会話に間が開いてから、つぼみに訊いた。

「で、つぼみは俺に何をくれるんだ?」
「え?」
「元の世界に帰った時に、俺へのお土産として、……まあ、なんだ。記念に少し、残しておこうと思って」

 良牙には普段、旅先で土産を買う習慣がある。全国各地、全ての土産をコンプリートしている自信はある。何度も道に迷い、いつの間にか四十七都道府県を全て回るほど──下手をすれば日本の隅から隅まで嘗め尽くすほどにお土産屋を回っている。
 しかし、殺し合いの会場に来るのも、そこで異世界の少女と出会うのも、彼にとっては生まれて初めてだ。
 つぼみは、自分の体を一通り眺めて、それでも何も気づかなかったようだが、少し経ってから何か閃いたようだった。何か贈れる物に気づいたのだろう。

「……そうですね。じゃあ、このヘアゴムを差し上げます」

 髪を二つ束ねたつぼみは、片方の髪を解いた。
 つぼみは、黄色い花形の特徴的なヘアゴムをつけていた。正直言えば興味がなかったので、良牙がそのユニークな形に気づくのは今が初めてだ。
 つぼみにとっては、お気に入りだが、予備もあるし、それでも足りなければまた買えばいい。──そう、亡き友が住んでいた、あのお隣の家で。
 そして、片方だけ縛るのも変なので、つぼみはもう片方のヘアゴムも外した。

273崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:55:15 ID:ezDSmj8g0

「じゃあ、こっちは、こっちの子豚ちゃんに」

 そうして、子豚のしっぽには黄色い花が咲いた。バンダナとヘアゴムを巻きつかれて、まるで飼い主に恵まれなかったペットのようである。しかし、どうやらペット本人もまんざらではないらしい。良牙を父、つぼみを母のように思っているかもしれない。
 ……これから、この子豚は危ない目に遭うかもしれない。デイパックの中に避難してもらいたいと思っていた。

「あっ……ヘアゴムなんて、男の人にあげても仕方がないですか?」
「いや。お土産なんてそんなもんさ。行きたいところへ行くためのお守りになればそれでいい。ありがとう、つぼみ」

 お守り。
 もし、良牙がそんな物をこの最終決戦の場に持って行けるとしたら、それは本来、天道あかねと雲竜あかりの写真であるべきだっただろう。その写真は、良牙の励ましになる。
 しかし、やはり今はそれはいらないと思った。
 あかねの姿を見るのは、しばらく勘弁願いたいし、仮に見てしまえば、悲しさと共に殺し合いの主催者への憎しみも湧いてしまうかもしれない。この黄色い花のヘアゴムを、良牙は左手首に通した。
 武骨な良牙の手首には、そのファンシーなヘアゴムは不釣合いであった。
 しかし、それを見て、つぼみもバンダナを腕に巻いた。

「……良牙さん。実は、私、年上の男の人と友達になるのは初めてかもしれません」
「そうだったのか。……俺なんて、いつも登下校でさえ道に迷って学校にもろくに行けなかったから、友達すら数えるほどしかいないぜ。それに男子校だったからな……こんなに年下の女の子と友達になるのは……ああ、たぶん初めてだ」
「あの、良牙さん、実は────」

 つぼみは、少し勇気を絞り出して何かを言おうとした。

「いえ、何でもありません。……それに、やっぱり、これ以上言っても仕方ない事ですから」

 そして、やはり結局それだけ言って、良牙が一瞬だけ可愛いと思うくらいに、細やかに笑った。







 左翔太郎は、佐倉杏子の方に目をやった。
 そういえば、この少女とは、殺し合いが始まってからそうそう時間も経ってない内に遭遇し、それ以来、何度か離れたりまた会ったりして、今また隣にいる。
 その度に、杏子の目は変わっていた。
 最初に会った時は、彼女は翔太郎を殺すつもりだったのだろう。だが、この杏子は、フェイト・テスタロッサや東せつな、蒼乃美希のように、色んな同性から影響を受けて変わっていった。
 最大の功労者は彼女らに譲るが、男性の中で最も彼女を変えられたのは自分であると、翔太郎は自負する。
 そんな彼女に、この場を借りて何かを言ってやる必要もあるだろうか。

「杏子、折角だから、戦いの前に一つ願いを聞いてやる。俺が叶えてやるよ」

 翔太郎が、ぽんと杏子の頭に手を乗せた。いかにも保護者らしい手つきである。それだけの身長差が二人にはあった。

「は?」
「あらかじめ言っておくが、悪魔の契約じゃないぜ。これは優しいナイトからプリンセスへのプレゼントだ。何がいい? どんな願いでも、俺が体を張って叶えてやる」

 翔太郎は気障に言うが、ナイトとプリンセスという設定からするとこんな喋り方は破綻している。
 本人がそれに気づいて、わざとお道化ているのか、それとも、全くの天然なのかはわからない。ただ、もしこの場に彼の最大の理解者フィリップの意見を挙げておくなら、「ただの恰好つけ」と答えてくれるだろう。
 ふと、翔太郎は暁を思い出して、彼のように下世話な事を言って女心を掴んでみようと思った。

「キスでもいいぜ」
「無理」
「ハグもOKだ」
「最低。大人として恥ずかしくないのか?」

274崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:55:35 ID:ezDSmj8g0

 効果なしだったようである。
 やはり、暁式ナンパ法は使えそうにない。悔しいが、ナンパに関しては暁の方が一枚上手であろう。既に翔太郎はこの場でナンパに失敗している。逆に、暁が実質成功して守護霊まで獲得している事など翔太郎は知る由もない。
 翔太郎らしく言おう。

「そうか。……なら、お前を魔法少女じゃなくしてやるよ」
「……」

 その一言に、杏子は翔太郎の方を見た。それから、マミの姿を探した。さやかの事も思い出しただろう。そう、魔法少女の運命から解放される術が、今ならこの場に転がっている。
 それは、まぎれもないチャンスだ。
 彼はおそらく、それを本命の願いとしている。杏子の身を案じて、その術を力ずくで探すと声をかけてくれているのだ。
 しかし、杏子は言葉を返せずに、少し悩んだ。

「……なあ、本当にそんな大それた願いでも、何でもいいのか?」

 杏子は、僅かな沈黙の後で訊き返した。これは重要な問題である。
 本当に実現するのかはともかく、翔太郎の覚悟は本物だ。彼はきっと、実現の為の自分の力を最大限使う事に躊躇しないだろう。杏子は甘言に騙される事はないだろうと思っていたが、彼になら騙されても良いと思った。
 どんな願いでもいいというのなら……。

「ああ。何でも訊いてやる」

 翔太郎は迷いなく答えた。
 それならば、杏子ももう迷う事はあるまい。

「……じゃあ、あんたが気に入っていて、今被っている、その帽子が欲しい」
「は? 帽子? これが?」
「被り心地が良かったんだ。何より私に似合うんだろ?」

 ある戦いを、翔太郎と杏子は絆の証として覚えている。
 杏子がウルトラマンとして血祭ドウコクと戦った、昨日の午後の出来事。
 この場で今は同盟を組んでいる強敵に一矢報いる為に──いや、もしかすれば杏子自身が変われる為に、翔太郎はこの杏子を一度だけ杏子に預けたのだ。

「……ああ、……ったく、仕方ねえな……こいつは風都でしか手に入らねえWind Scaleっていうブランド物だ。もし、もっと欲しくなったら、今度風都に遊びに来い。街中の人にお前を紹介してやる」

 翔太郎は、お気に入りのソフト帽を手放して杏子に渡した。
 帽子を被っていないと落ち着かないが、仕方がない。杏子が欲しいと言っているのだ。

 やはり、Wind Scaleの帽子をそこまで気に入ってくれたのなら翔太郎も嬉しい。風都特性ブランドの帽子はやはりデザインが一線を画していると言えるだろう。ファッションモデルの美希も興味津々だったほどの帽子である。
 そういえば、翔太郎には、(少し変わっているが)異世界を自由に渡れる友人がいる。あいつがまた来てくれれば、きっとここにいる仲間とは生還後もまた会えるだろうし、杏子もWind Scaleの帽子を買いに来る事ができるだろう。その時には一応プレゼントしてやろう。
 そう考えていた時、杏子はがさごそとデイパックを漁っていた。
 見ると、杏子はデイパックの中から、何やら翔太郎にとって見覚えのある帽子を大量に取り出しているではないか。

「そうか。いつか行くよ。……じゃあ、その代わり、ほら、あんたの事務所でちゃんと拝借しといた帽子がこれだけあるから、こっちを被ってな、ほら」

 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ……それだけの数の帽子が次々翔太郎に手渡される。
 翔太郎は、一瞬唖然とした様子である。

「って、オイ、帽子あんじゃねえか!! ていうか、それ俺の帽子!! 勝手に!!」
「いや、その帽子は別にいらないよ。……こっちの帽子がいいんだ」

 と、杏子が懐かしむようにあの帽子を見た。
 その横顔は、まるで生まれたばかりの赤子を見る母のようでもある。と、なると翔太郎はその赤ん坊の祖父か、まあせいぜい年齢的に考えて叔父にでもあたるだろうか。

(そうか、やっぱり……あの時の事が心に残っているのか)

275崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:55:54 ID:ezDSmj8g0

「わかった。そいつはお前にプレゼントする。似合ってるぜ、レディ?」

 翔太郎は、杏子が事務所から大量にかっぱらっていたという帽子の山をデイパックに詰め込んで、その中から今の服装に最も似合いそうな黒い帽子を頭に乗せた。
 少し調節して、最も良い角度で被る。
 杏子も同じく、帽子を被っていた。殆どお揃いである。

「……杏子。本当に、魔法少女をやめるよりもそっちのが大事なのかよ」
「ああ、今はね。それに、さ」
「何だよ」
「……仮面ライダーなら、頼まなくたって、そっちの願いは叶えてくれるんだろ?」

 何故か新鮮なその言葉に、翔太郎はどきりとした。
 確かに、翔太郎はこのまま杏子を放ってはおく気はない。たとえ、自分がどんな目に遭おうとも彼女を魔法少女のまま放っておくつもりはないし、それまで絶対に魔女にはさせない。彼女だけではなく、泣いている魔法少女たちは全員助けてやりたいと思っている。

「……ったく、がめつい奴だなぁ、お前も。この俺に二つも願いを叶えてもらうってのか」
「あんまり欲張りすぎるとしっぺ返しが来るって、痛いほどわかってるつもりだったんだけど、……でも、これは悪魔の契約じゃないんだろ?」
「……まあ、構わねえぜ。いくらでも聞いてやる。しっぺ返しなんてさせねえよ」

 我ながらかっこいい文句が言えた物だ。
 翔太郎としても、これは惚れられても文句が言えないレベルである。久々にカッコいい台詞が言えた手ごたえを感じて、自分で自分に惚れそうになったほどである。

 しかし、やはりこの年で女子中学生に惚れられるというのは困る。
 そういえば、翔太郎は前に銭湯で杏子たち女湯の話題が聞こえた事を思い出した。杏子が魔法少女であるがゆえに恋ひとつできないコンプレックスみたいなものを、翔太郎はそこで耳にしている。

「あ。一応言っとくが、杏子。……魔法少女じゃなくなったからって、俺に惚れるなよ?」

 ふざけているのか、本気なのか、翔太郎はすぐに、フォローするようにそう言った。
 それを聞いた時、杏子もまた銭湯の一連の会話を思い出したらしい。
 その会話に行きつくような手がかりなしに、女の勘が次の一句を発させた。

「────なあ、翔太郎。あんた、まさか、あの銭湯覗いて……」
「は? 人聞きの悪い事言うな! 覗いてねえ、聞こえただけだ!! ……あっ」
「ボロを出したな! 女湯の会話聞くなんて見損なったぞ、翔太郎!!」
「そういうお前だって、ボロを出してるじゃねえか!」

 その後、翔太郎は、杏子の呼称が「兄ちゃん」から「翔太郎」になっている事を告げた。
 彼女は、今の翔太郎にとってかけがえのない相棒だ。







 涼邑零は、一人で思案していた。
 これから向かう場には、当然ホラーたちも現れるだろうと推測している。
 鋼牙曰く、ホラーであるというガルムやコダマがこの先にいるとなると、やはりソウルメタルを持つ零の存在はこれからの戦いでは必要不可欠だ。
 ガルムやコダマの強さは破格だという。零一人で戦う事自体が非常に危険だ。

「いよいよですね、零」

 零に声をかけた美女の名はレイジングハート・エクセリオンである。
 ……どうも、零は人間以外の美女に縁が深いらしい。シルヴァに感じた運命と同種だろうか、このレイジングハートにも何処か惹かれるものがある。
 本来の造形を詳しくは知らないが、今も実のところは人間らしい姿には感じない。
 人間の形をしたところで、やはり本当の人間に比べると一枚壁を隔てているような違和感はあった。

「ああ。そうだな。このゲームは終わらせる」
「ええ。……しかし、今日までの犠牲も計り知れない物でした。敵を倒したからといって、悲しみや痛みが消えるわけではありません。本当に戦いの傷に終わりは来るのでしょうか」

276崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:56:13 ID:ezDSmj8g0

 零は、そんなレイジングハートの言葉に、少し俯いて黙り込んだ。
 確かに、御月カオルや倉橋ゴンザに何と言えば良いやら、零にも決心はつかない。
 零一人では、彼の家族たちをどれだけ支える事ができようか。
 魔戒騎士の力は、その程度の物であった。いくら戦いで勝ったとしても、その後にはしばらく尾を引く傷跡が残る。
 世界が経験した幾つもの戦争も、魔戒騎士たちとホラーの古よりの戦いも、全て、簡単には癒えぬ痛みが残り続けている。
 魔導輪ザルバが零の指先で言った。

『残念だが、もしかしたら消えないかもしれないな』
「……だな」

 零も全くの同感である。
 戦いを経験した者、その大事な家族や仲間が生きている限り、悲しみや憎しみ、痛みは消えない。それに、この戦いに限らず、零は元の世界に帰ってからも、また魔戒騎士としての戦いの日々と、──それから、番犬所からの罰が待つだろう。
 魔戒騎士同士の争いは掟で禁じられているが、零はそれを元の世界で何度となく破っている。特に零の居所の戒律は厳しい。

「……でも、レイジングハート。誰より悲しみや痛みに震えているのって、実はお前なんじゃないか」
「──」
「……やっぱりな。高町なのはや、その周囲の人間たち……元の世界の知り合いや未来の仲間になるはずだった人が、みんないなくなっちまったっていうんだろ」

 冷たいが、それが現実だ。
 勿論、元の世界にはそれ以外の仲間もいるが、レイジングハートは既になのはの能力に合わせて最適化されている。しばらくは、レイジングハートを使いこなせる魔導師は現れる事はないだろうし、これから帰っていける場所はない。
 零は、そんなレイジングハートに自分を重ねた。

「なあ、レイジングハート。俺も実は、帰ったらしばらく一人なんだ。……一緒に、俺の世界で、ホラーを倒す旅をしないか?」
「一人? それでは、ザルバは?」
『俺様は、次の黄金騎士が現れるまで、しばらくは冴島家で眠りにつくつもりだ。零と一緒にはいられない。次代の黄金騎士が現れるのは、明日か、それとも百年後かもわからないな』
「……」

 初めは敵であったが、零は今やレイジングハートの立派な仲間である。
 零の提案も、決して悪い申し出だとは思わなかった。
 むしろ、レイジングハートにしてみれば、ここにいる人間たちの住む管理外世界は興味深い場所でもあるだろう。

『俺からも言っておくが、零の話は別に悪い提案じゃないと思うぜ? あんたのいた場所では、異世界同士を繋ぐ船があるんだろ? 戻りたい時に元の世界の仲間に会う事だってできるはずだ』
「……」
『零の奴もすっかりあんたに惚れこんでいるみたいだぜ、行くあてがない同士なら丁度良い』

 惚れこんでいる、という意味は文字通り恋愛感情があるというわけではないが、ある意味ではそれに近くもある。彼女の美を知り、共に旅をしながら、バラゴの事や魔戒騎士の事を知ってもらおうという計らいもあるのだろう。

「……わかりました。では、その時までに考えておきます」

 時間は刻一刻と近づいている。
 誰もが、おそらくお互いの別れをどこかで惜しんでいるのだろう。
 だから、こうして誰かを自分の世界につなげておきたいと、本気で思っている。
 いつかまた会えるかもしれないとは言えど、それがどんなに遠くになるかわからない不安を抱え込んでいるのだ。

「シルヴァが修復されたら、嫉妬するかな」

 零は、苦笑した。





277崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:56:34 ID:ezDSmj8g0



 巴マミと桃園ラブは、周囲を見て肩を竦めた。
 どうやら、周りの女性という女性は須らく男性パートナーのような物がいるらしい。
 ラブにもいないわけではないが、その涼村暁は今、到底話しかけられるような状態ではなかった。ラブも、今の彼が石堀光彦の危険性を察知して気にかけている事はよく理解していた。今は話しかけない方が良いだろう。
 自分たちだけ、女子二人で肩を寄せている。

「本当にこれで殺し合いは終わるのかしら?」

 マミは、ラブに堪えられない疑問と不安を打ち明けた。
 彼女だけが抱いている心配ではないようだが、それをはっきり漏らしたのはマミだけである。このゲーム、もしかしたら果てのない物かもしれないと思えたのだ。

「どういう事ですか?」
「これだけの規模の殺し合いを開く相手が、どうして私たちの目と鼻の先で全て見るような真似をしているのか、気になったの」
「それは……」
「変だと思わない? 囮っていう事はないかしら……。この先に爆弾がしかけられているとか、そういう事は考えられない?」

 やはり、不安は尽きないようだ。勿論、心配性はこの場においては悪い事ではない。
 いくつもの危険な可能性を挙げていき、それを疑い続け、修繕した結果、あらゆる問題は未然に防がれていく。

「爆弾なんかが仕掛けられている可能性は、おそらく低いよ」

 横から口を挟んだのは、沖一也である。彼は、ここで二人の会話を聞いていたらしい。
 しかし、一也はこういう時は最も役立つエキスパートである。悪の組織の基地に侵入した回数ならば、この中の残りメンバーの中ではトップであろう。爆弾で基地ごと吹き飛ばされかける事もある。

「何故ですか?」
「この基地がおそらく……囮だからだ」

 その返答に、ラブが首をかしげていた。
 囮、と言われてもピンと来るところがなかったのだ。だいたい、何故囮だとわかっているのならそれを教えず、そこに向かおうとするのかもわからない。

「ゲームメーカーが地下施設を作ってまでやりたい事がわかったんだ。地下には、おそらく加頭や放送担当者をはじめとする、ゲームに直接関係のない幹部はいるかもしれないが、首領はいない」
「え?」
「かつて、本郷さんと一文字さんがゲルショッカーを滅ぼした時の事だ──。その首領を倒した事で、ゲルショッカーは滅んだ。しかし、実はそれ自体は、次に生まれる新たな組織を目下で再編する為の囮、影武者だった」

 かなり昔の話に遡るが、一也は自分の知るダブルライダーの武勇伝をデータの一つとして引きだしていた。
 その話は、二名にとっては少し理解し難い物だったかもしれない。

「確かにその直後、爆弾で基地が吹き飛ばされたものの、ダブルライダーは脱出した。しかし、今回の基地はおそらく、そういった爆弾は設置されてはいないだろう。俺たちを爆弾で吹き飛ばしてしまえば、ダブルライダーのように『この事件が無事に解決した』と考えて証明する証人はいなくなってしまう」
「……でも、沖さん。このゲームの主催者が、ゲルショッカー? と同じ事を考えているという考えは一体どこから出てきたんですか?」
「この島の外に、別の存在がいるのをバットショットで確認したんだ。この地下施設そのものは、おそらく捨て駒や囮だろう。『ベリアル帝国』の首領がいるのは、ここじゃないはずだ。何故、正体を現さずに島の外で見張る必要があるのかを考えたが、やはり……この殺し合いを捨てて、次の野望を考えている可能性が高い。俺たちには、脱出の為の希望は残されているが、諸悪を叩くのはもっと小さな希望かもしれない……」

 一也は、もはやそれを仲間に伝えてもいい段階だと理解していた。
 しかし、どうやら伝えられるのはこの二名だけである。
 今は、全員が取り込んでいる。こういう休息も必要である。

「倒しているようで、それは本当に諸悪の根源を倒した事になっていないっていう事ですね?」

 たとえば、ここで戦いを終えて安心して帰って、まだ敵が生きていようものならば、その存在はまた悪事を繰り返すに違いない。
 そう簡単に懲りるような相手ではなさそうである。
 これからしばらく悪事を侵さないとしても、時空管理局らが必ず見つけ出すであろう。

278崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:56:53 ID:ezDSmj8g0

「……でも、マミさん、沖さん。もし……もし、これから先の世界でも悪いやつが残っていて、またこんな事を繰り返そうって思っていたら、一体どうするんですか?」
「どうするって……それは……」

 ラブに訊かれてうろたえるのはマミだった。
 一也は既に覚悟を固めているらしい。

「……私はわかってますよ。二人は、正義の味方だから、きっとここにいる一緒に立ち向かってくれるって」

 そうラブが言った時、マミの胸を何かが直撃する感覚がした。
 マミにとって、懐かしい一言である。
 正義の味方。──この場では、あまりに臭すぎて誰もそんな言葉を使っていなかったのである。その曖昧な定義の言葉は誰も率先して使おうとしなかったのだろう。
 この中にいる、「正義の味方」と認定できるであろう仲間は、みな、自分を正義と思うよりもまず、目の前で困っている者を見捨てられない人間というだけであった。正義というより、己の主義に従順なのである。「正義の是非を問う」というテーマは流行るが、やはりそれは答えのない話題であって、続けるだけナンセンスなのかもしれない。
 だからこそ、マミはこの頃、それをあまり連呼するのを耐えかねたのかもしれない。

「……そうね。でも、桃園さん、やっぱり一つ訂正があるわ。ここにいる私たちは、正義の味方じゃなくて、巴マミと、沖一也と、桃園ラブよ」
「え?」
「困っている人を放っておけない人、誰かを守りたいと思う人、希望を捨てない人、諦めない人……そして、誰かを幸せにしようとする人。ここにいたら、それを、『正義の味方』なんていう一言で片づけちゃいけないと思ったの」

 これまでのマミの生活で、「正義の味方」というのは、テレビ番組や自伝小説の中で映っている存在であった。そこからの影響が大きく、生の目で正義の味方を見た事はない。
 だが、マミはおそらく、天然で、何も意識せずに「正義の味方」であれる桃園ラブと出会った。おそらく、マミが己の命を賭けてでもラブを守りたいと願ったのは、そんなラブを助けたいと思ったからだろう。
 マミは、これまで正義の味方であろうとしてきた。自分の中にそれだけの器があるのか、何度悩んだ事だろう。
 ラブや一也は、ただマミの理想通りの正義の味方だった。何も意識する事なく、ただ脊髄がそのように彼女を動かしていた。いや、彼女だけではなく、ここにいるたくさんの人が同じく、ただ生きていく事が「正義の味方」のようだったのだ。

「『正義の味方』なんて言葉に従わずに……自分が自分であるままに、誰かの支えになる生き方がしたい。そして、きっと、いずれ会った時も、私は巴マミのままでいるわ。だから、そんな私を信じてくれる……?」
「……はい! 本当はずっと、正義の味方っていう言葉よりも、……私はマミさんの事を信じていましたから。だって、マミさんはマミさんのままで、カッコいいんですもん」

 二人は、それから笑った。
 仮にもし、この先でゲームの主催者を倒した時、そこからまた逃げている者がいたとしても、絶対に過ちは繰り返させない。
 二人ならできる。
 巴マミと、桃園ラブならば──。

「そうか。君たちは頼もしいな」

 一也が、そんな二人の様子を見て微笑んだ。
 それは、これまでにない笑顔であった。誰よりも戦いに年期のある仮面ライダーとして、彼女たちの考えを認めてあげなければならないと思ったのだろう。
 過ちを正すのも仕事だが、彼の思想上は、彼女たちの気づいた事は誇っていい考え方である。

「ある人が言っていた。仮面ライダーは、正義の為に戦うんじゃない。人間の自由と平和の為に戦うんだと」

 正義という言葉は、あまり使わない方が良い、と。
 それならば、人間の自由と平和の為に戦う方が、ずっとヒーローである、と。
 そんな言葉をかけられた記憶がある。
 その「ある人」が誰なのか──沖一也の物語を追っても明かされる事はないだろう。
 しかし、仮面ライダーと呼ばれた者たちには、おそらく、いつかその格言を聞き、心に留める日が来る事になる運命にあった。

「……あ。『天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! 俺は正義の戦士!』なんて名乗る仮面ライダーもいるけど、あの人は特別だから」

279崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:57:14 ID:ezDSmj8g0

 正義。その言葉は曖昧であるが、おおよその形式は固まっている。
 誰かを助ける事や、人を殺し合わせる蛮行を食い止める姿勢は、現代の社会では間違いなく正義に近い行いであると思われるだろう。
 しかし、その手段の是非は明確には、それらの言葉では測れない。悪事を行う根源を、武力によって鎮静し、その脅威の命を絶つ所まで正義とは言えないのである。
 あくまで、「正義」と「悪」が存在するのは限られた状況であり、「食い止める」というところまでは正義であっても、「倒す」ところまでは正義とは言えない。その仮面ライダーは、きっと、「倒す」ではなく、「悪を止め、人々を救う」ところまでを正義と定義して叫んでいるのだろう。
 悪を食い止め、脅かされる人々を助ける為に、天と地と人が呼んだ、「正義」。
 しかし、そこから先、敵を倒すのは、正義ではなく、彼が判断した「最後の手段」なのである。この部分は、「正義」と「悪」の二極で測った場合、おそらくはどちらの理屈も破綻するので、これらの言葉でカバーできる範囲ではない。
 殺人は犯罪だが、彼らの「正当防衛」、「過剰防衛」を図れるはずはないのである。

「……はぁ」

 その仮面ライダーに全く心当たりはないラブたちは額に汗を浮かべる。
 ともかく、一也は「正義の味方」という言葉で定義される範囲が、この殺し合いの最中でも有効とは思えない状況に気づいた彼女を優秀な相手だと思った。
 これから先、誰かを守ったり、悪徳を犯したりする相手を、「殺す」という形で果たさなければならないが、そこには「正義」はない。しかし、間違った行いではないのである。
 ゆえに、時に「正義」であり、普段は「正義」ではない一也が、彼女たちにかける言葉は、ただ一つ。

「君たちは君たちでいい。間違った事なんて何もしていないんだから。それは、俺たちが保障する。俺は人間の自由と平和の為に戦う。だから、君たちも、自分の信じる大切なものの為に戦ってくれ」







「……辞世の句、みてえなもんか」

 血祭ドウコクは、外道シンケンレッドを横に携えて、レーテの前に群がる人間の兵士たちの様子を、一見すると興味なさそうに眺めていた。
 彼からすれば、一人一人の行動は少々理解し難い。戦いの前に誰かとくだらない世間話をしているようである。ただ、それがおそらく、人間たちの中では意味のある行動であろうとドウコクも薄々感じる事ができた。
 だからこそ、彼は、この時ばかりは水を差す事なく、その光景を静観していたのだろう。

「てめえも、少しは何か感じるか? 志葉の──」

 外道シンケンレッドは、そう言われてドウコクの方に体を向けた。
 だが、そのゆっくりとしたモーションからは、およそ人気味を感じられなかった。
 ドウコクの一生で見てきた人間の所作とは、やはり違った。

「……感じねえか。無理もねえ。感情らしいモンが抜け落ちてるからな」

 言葉に反応する事はあるが、それはおよそ人の要素を感じさせない抜け殻のような物だった。仮にもし、志葉丈瑠の魂であるなら、せめて思案する様子は見せるだろう。
 しかし、丈瑠は死に、外道として魂もない存在がここに在る。
 殺し合いに乗り、三途の川にさえ見初められた怪物。
 はぐれ外道の中のはぐれ外道。その魂は、今どこにあるのだろうか。
 あるとすれば、どこかでこのはぐれ外道の姿を欲するのだろうか。

「まあいい。これが奴らにとっての盃だ。あまり長引くようなら叩き斬るが、どうやらもうそろそろ、幕を引いてくれるらしい」

 ドウコクが、そう言うと同時に、ある男が、一言口を開いた。






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