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変身ロワイアルその6

273崩壊─ゲームオーバー─(2) ◆gry038wOvE:2014/12/31(水) 17:55:15 ID:ezDSmj8g0

「じゃあ、こっちは、こっちの子豚ちゃんに」

 そうして、子豚のしっぽには黄色い花が咲いた。バンダナとヘアゴムを巻きつかれて、まるで飼い主に恵まれなかったペットのようである。しかし、どうやらペット本人もまんざらではないらしい。良牙を父、つぼみを母のように思っているかもしれない。
 ……これから、この子豚は危ない目に遭うかもしれない。デイパックの中に避難してもらいたいと思っていた。

「あっ……ヘアゴムなんて、男の人にあげても仕方がないですか?」
「いや。お土産なんてそんなもんさ。行きたいところへ行くためのお守りになればそれでいい。ありがとう、つぼみ」

 お守り。
 もし、良牙がそんな物をこの最終決戦の場に持って行けるとしたら、それは本来、天道あかねと雲竜あかりの写真であるべきだっただろう。その写真は、良牙の励ましになる。
 しかし、やはり今はそれはいらないと思った。
 あかねの姿を見るのは、しばらく勘弁願いたいし、仮に見てしまえば、悲しさと共に殺し合いの主催者への憎しみも湧いてしまうかもしれない。この黄色い花のヘアゴムを、良牙は左手首に通した。
 武骨な良牙の手首には、そのファンシーなヘアゴムは不釣合いであった。
 しかし、それを見て、つぼみもバンダナを腕に巻いた。

「……良牙さん。実は、私、年上の男の人と友達になるのは初めてかもしれません」
「そうだったのか。……俺なんて、いつも登下校でさえ道に迷って学校にもろくに行けなかったから、友達すら数えるほどしかいないぜ。それに男子校だったからな……こんなに年下の女の子と友達になるのは……ああ、たぶん初めてだ」
「あの、良牙さん、実は────」

 つぼみは、少し勇気を絞り出して何かを言おうとした。

「いえ、何でもありません。……それに、やっぱり、これ以上言っても仕方ない事ですから」

 そして、やはり結局それだけ言って、良牙が一瞬だけ可愛いと思うくらいに、細やかに笑った。







 左翔太郎は、佐倉杏子の方に目をやった。
 そういえば、この少女とは、殺し合いが始まってからそうそう時間も経ってない内に遭遇し、それ以来、何度か離れたりまた会ったりして、今また隣にいる。
 その度に、杏子の目は変わっていた。
 最初に会った時は、彼女は翔太郎を殺すつもりだったのだろう。だが、この杏子は、フェイト・テスタロッサや東せつな、蒼乃美希のように、色んな同性から影響を受けて変わっていった。
 最大の功労者は彼女らに譲るが、男性の中で最も彼女を変えられたのは自分であると、翔太郎は自負する。
 そんな彼女に、この場を借りて何かを言ってやる必要もあるだろうか。

「杏子、折角だから、戦いの前に一つ願いを聞いてやる。俺が叶えてやるよ」

 翔太郎が、ぽんと杏子の頭に手を乗せた。いかにも保護者らしい手つきである。それだけの身長差が二人にはあった。

「は?」
「あらかじめ言っておくが、悪魔の契約じゃないぜ。これは優しいナイトからプリンセスへのプレゼントだ。何がいい? どんな願いでも、俺が体を張って叶えてやる」

 翔太郎は気障に言うが、ナイトとプリンセスという設定からするとこんな喋り方は破綻している。
 本人がそれに気づいて、わざとお道化ているのか、それとも、全くの天然なのかはわからない。ただ、もしこの場に彼の最大の理解者フィリップの意見を挙げておくなら、「ただの恰好つけ」と答えてくれるだろう。
 ふと、翔太郎は暁を思い出して、彼のように下世話な事を言って女心を掴んでみようと思った。

「キスでもいいぜ」
「無理」
「ハグもOKだ」
「最低。大人として恥ずかしくないのか?」


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