したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

変身ロワイアルその6

230探偵物語(左翔太郎編) ◆gry038wOvE:2014/11/03(月) 14:24:57 ID:3afmAm6s0
 翔太郎も否とは言えないが。
 暁への怒りはその怪訝さえも覆い隠して暁に質問を投げかけさせた。

「動機を説明しろ、動機を! 何故いま俺を殴った!」
「俺はな、無駄に気障な男を見ると腹が立つんだ」
「威張るな!」

 大した理由ではなかったので、もう一発スリッパで殴ろうとした翔太郎だが、やはり思い直す。
 いけないいけない。冷静に考えれば暴力はアウトだ──。殴り合いになるとならないでは、ならないに越した事はない。耐えようと思える状況ならば耐えるべきだ。一発殴ってしまったが、それはそれ、これはこれだ。むしろ、一発殴り合って丁度釣り合いが取れたのだから水に流すべきだろう。
 ……などと、翔太郎が腹式呼吸で怒りを抑えている間に、再度、暁が口を開いた。

「杏子ちゃん。こういうタイプの男はな、実は殴ると燃えるんだ。
 殴り合いがドラマで傷つけあいが友情だと思ってるアホだ。
 ……だから、チャンスがあれば殴った方がいい。
 いつ、『杏子、俺を殴れ』とか言いだすんじゃないかとヒヤヒヤしてたぜ、こっちも」
「なっ……お前、どうしてそれを!」

 言葉で痛いところを突かれた翔太郎は動きを止める。腹式呼吸の真っ最中、喉で唾が引っかかって咽そうになった。
 そう、先ほど、翔太郎の脳内は、暁が言った通りの言葉を想定していたのだ。それを口に出す可能性があった。土下座に加え、それも少し検討していたのは確かな事実である。その事実を他人に見透かされていたと思うと、無性に恥ずかしくなった。まして、全て終わった今となっては余計に。

「いや、でもあんたが殴る機会はないだろ……」

 横から杏子が、ほとんど呆れたように言った。こちらも、突然の事で、考える暇もなくどこかずれた言葉を返してしまったようだ。

「いーや、大ありだね。俺たちはこれから暗号を解かなきゃならないんだ。
 その局面を前に余計な内輪話で尺を食った分、一発殴らせて貰わないと気が済まん。
 外ではみんなここを守るために戦ってるんだぜ?
 ……だいたい、女の子絡みの話で俺より目立つなよな。嫉妬しちまうぜ全く」

 この慌ただしい状況でこうして翔太郎が余計な話を進めたのは暁にとっても癪に障る話だったらしい。暁も、殴るほどの事ではないと思ったが、結局一発殴らせてもらったようだ。
 美希が、そこで出てきた嫉妬という言葉に、恥ずかしそうに首を垂れた。わずかとはいえ、自分も軽い嫉妬を覚えたのを思い出したのだろう。
 まあ、実際のところ、スリッパで叩いたのは翔太郎の意識を覚醒させるのに一役買う行為だったのだろうか。翔太郎にとって、確かに痛みは一つの切り替えだった。この痛みの「前」と「後」で、自分がどう変わったのか再認識できる。

「……あー、あー。まあいいぜ。眠気覚ましには丁度よかったぜ。
 ……っしゃ! 暗号でもランボーでもターミネーターでも何でも来い!!」

 結局、翔太郎は、こんな調子である。やはりこういうタイプの人間か、と暁と杏子は翔太郎を冷やかに見た。おおよそ暁の直感に狂いはなく、探偵としての人間観察眼も水準を超える程度ではあるらしい。翔太郎がわかりやすい人間であるのも一つだが。

「……な? 言ったとおりだろ?」
「まったく……単純な兄ちゃんだな。じゃあ、お言葉に甘えてあたしも一発いくか」
「あ、ちょっと待て、杏子! NO! スリッパNO!」

 スリッパの音がもう一発、翔太郎の顔面から炸裂し、翔太郎の悲鳴が聞こえたが、全員がしらんぷりをしていた。
 イジメを見て見ぬふりするのはいけないが、今のあれは放っておいてもいいものだ。今繰り広げられているのは仲良しの証である(ただ、これを読んでいる人間は、少なくとも、「仲良しの証」と言って、心底拒絶している相手に暴力を振るうのは決して正しい事ではなく、立派なイジメの一つだというのは念頭に入れておいてほしい。あくまで、ここにいる彼らは特例的にやられる側もやる側も強い信頼関係で結ばれた上で戯れているのであって、普段そうでない相手に行ってはならない事だ)。

「……あのー……暁さん?」

 そんな折、物陰からマミが顔を出し、どこか申し訳なさそうに声をかけた。暁はすっかり、マミの存在を忘れているようである。
 暁は今の出来事だけ見て、すっかり、全て忘れた顔でいた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板