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変身ロワイアルその6

199騎士Ⅱ ◆gry038wOvE:2014/10/13(月) 23:54:17 ID:/DLS..kw0
 千体のホラーを喰らい、魔戒騎士たちを喰らい、バラゴの精神までもを喰らったのは全てこの暗黒騎士キバの鎧の方である。
 真に憎まれるべき仇は鋼牙でもバラゴでもない。──ここにいる、鎧の怪物だ。

 ──魔戒騎士たちの鎧は、須らく危険性のある材質で出来ている。
 ソウルメタル──現世で99.9秒以上装着していれば鎧の力に食われ、暴走するという代物である。その時から鎧はデスメタルへと還元され、より強固で強力になる代わりに、鎧自体の自我も強くなるのである。
 文字通り、“魂が死んだ”状態と言っていい。
 実のところ、辛い修行を経てきた多くの魔戒騎士たちはソウルメタル難なくそれを使いこなすのだが、時として飽くなき力の誘惑に負け、99.9秒を超過しても鎧を解除せず、結果として怪物になる者が現れる。

 この鎧の主であるバラゴは、その限られた稀な魔戒騎士だった。
 バラゴはもうこの世にはいないが、全てを喰らった鎧の方こそがバラゴを暴走させ、怪物の意思を持っていたのだろう。バラゴの蛮行は当然許される事ではないが、より許せないのは、一人の人間の想いを利用して騎士の道を狂わせたこの悪しき鎧──それが今、ようやく零にも理解できたようであった。

「──いくぞ」

 ゼロはその仇敵の暗黒騎士の喉元を冷静に──あるいは、冷淡に見つめた。銀牙騎士ゼロの鎧を纏い、今自分は戦いの現場にいる。
 しかし、己の内心には奇妙な落ち着きも見受けられた。戦意は高揚もしているはずなのだが、決してそれだけではない。今までよりもずっと、沈着した怒りで敵に相対している。
 ずっと……ずっと、追い求めてきた己の仇が、今目の前にいるはずなのに。あれだけ憎み、あれだけ零を苦しめた諸悪の根源が目の前にいて、今度は零の命を奪おうとしているはずなのに。本来なら復讐の意思が牙を剥いても全くおかしくない話だが、零はその想いに飲まれなかった。

「暗黒騎士……いや、俺たちの敵・ホラーよ」

 勝つか、負けるか──それは生きるか、死ぬか。幾度もその緊張を乗り越えてきたとはいえ、この破格の相手を前に考えてみれば恐ろしい物だが、今こうして、久々に暗黒騎士と対決する日が来た時、零の胸には辛い修行を乗り切った後に敵に勝ったような達成感があった。
 ──いや、勝てる。これは勝てる戦だ。その確信が既に零にはある。

「貴様の陰我──今度は、俺が断ち切る!」

 道寺も。静香も。シルヴァも。鋼牙も。──今はいないが、彼らから教わって来た魔戒騎士の義務と守りしものだけは、零の中に残される。いや、彼らにその想いを受け継がせてきた幾千の英霊の魂や想い、誇りもまた、銀牙騎士がここに生まれるまでに存在しているのである。それらは決して消えない。
 古今東西、あらゆる黄金騎士や銀牙騎士たちが鋼牙・零の代まで継承させた力と意思である。たかだか十年程度、見せかけの強さで悪の限りを尽くした暗黒騎士──いや、騎士と呼ぶ事さえおこがましい目の前の怪物とは違う。

 ゼロがこんな所で、こんな相手に負けるはずがなかった。
 この剣に、この両腕に、この血潮に、幾千幾万の戦士たちの力と想いが宿り続けている。そして、ゼロの背中を押しているのである。

 ──それに、ここには新しい仲間もいる。
 その追い風に身を委ねるように、彼は駆けだした。

「──はあああああああああああっ!!!」

 両手に剣を握りしめたゼロは、まるで舞うようにキバの体表へと剣をぶつけた。
 火花は勿論、キバを動かす邪念の欠片もまた、そこから漏れ出たように感じた。
 胸を張り、然として、キバはその一撃を受ける。
 その衝撃を鎧の強度で飲み込み、当のキバは隙を見てゼロの腹を、胸を蹴り飛ばした。
 数歩、ゼロは退く。

「はあっ!!!!」

 しかし、そこから縦一閃。
 刃がキバの体を引き裂かんと振るわれた。
 両腕の付け根に向けて突進した斬撃の光は、その体を抜けて後方の木々へと、地面に垂直な焦げ跡を刻んだ。

「ぐっ……!」

 今度はキバが後退した。


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