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悪魔憑きバトルロワイアル

236名無しさん:2020/02/14(金) 18:05:48 ID:NezqsMKQ0
乙です
キャスカは鷹の団時代の参戦かぁ。ガッツとグリフィスの参戦時期によっては面倒な事態になりそう

237 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 20:46:49 ID:ECRlNjLU0
阿修羅寺あす香、宮本明、甘城千歌を予約します

238 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:05:15 ID:ECRlNjLU0
投下します

239後光 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:06:08 ID:ECRlNjLU0
オ オ オ ォ ォ ォ

見る者を委縮させる鋭い双眸。
額から斜めに入った一筋の傷。
さほど手入れされていない無精ひげ。

青年―――宮本明は先刻の光景を脳裏で反芻させ、グッと目を瞑る。

(間違いない...あの時、ババアに斬りかかったのは兄貴だ)

宮本篤。明の敬愛する兄。
彼は死んだはずだった。それが、傷一つなく再び姿を見せたのだ。如何に歴戦の戦士である彼とて、動揺が生じるのも仕方のないことだろう。

ごそごそごそ。

明は、デイバックから名簿を取り出し、恐る恐る参加者を確認する。

知った名前があった。
鮫島。山本勝次。
二人とも、吸血鬼に蹂躙された日本本土で出会った仲間たちだ。
雅。
日本を壊滅に追い込んだ張本人であり、明にとって、多くの仲間たちの命を奪った怨敵。

そして、宮本篤、青山龍ノ介、西山、斧神。
皆、吸血鬼蠢く彼岸島で共に戦い、あるいは刃を交え、散った戦友たち。
そう。
彼らは死んだのだ。龍ノ介の最期はこの目で見届け、ほかの三人もこの手で命を散らしている。

普段の明ならば、主催からの嫌がらせか、あるいは同姓同名の別人だと考えただろう。
だが、彼は見てしまった。果敢にも主催に斬りかかった兄の姿を。そして、老婆が死んだ人間を生き返らせる場面も。
故に、明は名簿に載っている者たちが自分の知る彼らだと疑う余地もなかった。

ハァ、ハァ、ハァ。

自然と息は荒くなり、額には脂汗が滲みだす。

(チクショウ、あのババァなんてことしやがる!)

本音を言えば、散ったはずの彼らともう一度会えるなど夢のような話だ。共に帰ることが出来ればこれ以上に嬉しいことはない。
だが、ここは殺し合いの場だ。
制限時間が二日と短いうえに、再び彼らと殺しあわなければならない可能性もある。
もしも彼らが自分を殺しに来れば、再び彼らを斬るしかない。

240後光 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:06:30 ID:ECRlNjLU0

もう一度、彼らをこの手で葬ることになる。それは宮本明にとっては酷く辛いことだ。

ならば自分が優勝して彼らを本当に蘇らせるか?

もしも呼ばれた参加者がみんな吸血鬼であればその方法をとったかもしれない。
だがここには鮫島と勝次がいる。
本土からの大切な仲間たちを犠牲にすることはできない。

思い悩む明。
その耳に届く、微かな足音。
誰かが走っている。走って、こちらに向かってきている。

(悩んでいる暇もない、か)

明はひとまず知人たちのことは頭の片隅に置き、足音の主へと意識を向ける。

物陰に姿を潜め息を殺す明。その手に握られるのは、鉈のように刀身が沿り返った巨大な刀。そして

ばっ。

姿を見せた来訪者に、死角から刀の腹を向け、動きを牽制する。

「ひっ!」

突然、角から出てきた凶器に来訪者は小さな悲鳴を上げる。
来訪者は、制服に身を包んだ少女だった。


恐怖からか、身を震わせる少女。それが本心か演技かは明にはわからない。
ただ、どうにもこちらの存在に気づいていなかった素振りとこの怯えようから察するに、彼女はなにかから逃げてきたのだと判断する。
ならば情報が必要だ。彼女が逃げ出したのは、あの雅である可能性があるのだから。

「聞きたいことがある。あんたは逃げてきたようだが、向こうに誰かいるのか?」

剣をあてがい警戒心を保ったまま、明は少女へと問いかける。

ハァ、ハァ、と息を切らしつつ、少女はぽつりと言葉を漏らす。

「お釈迦様...」
「なに?」
「こ、校舎が崩れたから様子を見に行ったら、お釈迦様が...」

明の頭に疑問符が浮かぶ。
お釈迦様といえば、奈良にある仏像だ。
一瞬、参加者の一人である金剛の姿を連想するが、彼の姿はお釈迦ではなく金剛力士像だ。
そんなものが学校に置いてあったというのか。ならばなぜ人を救うというお釈迦様から逃げているのか。

その答えはほどなくして思い知らされる。

241後光 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:07:20 ID:ECRlNjLU0

―――カッ

突如、明の背後のビルが発光する。
背中越しにも伝わるあまりの眩しさに明は思わず腕で目を隠しながら振り返る。

「あ、危ないっ!」

その明を、少女は背後から被さるように倒した。

シ ャ ア ア ア ア ア

光は明たちの頭上を通り過ぎ、民家の壁を貫通し、発光のもとであるビルの壁面がドロドロと溶かされていく。

「なっ」

眼前の光景に、明は思わず絶句する。

「後光である。人ごときがあびれば...無へと還るぞ」

明の動揺に答えるかのように、ビルから言葉が発せられる。
眩しさに耐えつつ、明は目を凝らす。
人影だ。眩しすぎてハッキリとはわからなかったが、確かに人影がそこにある。


「あれはいったい!?」
「だから、お釈迦様なんです!崩れた校舎から急に出てきて色んなものをおしゃかにしてきて!」

ふっ、と光が消え、人影は明たちのもとへとビルへと降り立つ。

「私はあの方のもとへと帰還せねばならん...故に邪魔者達よ...ここで死ね...」

月光に照らされ、影の正体が露わになる。

この世の全てを憂う右目と薔薇の眼帯で隠された左目。
腰にまで届く長く美しい黒髪。
左右の肩口から生えた2対の腕。
すらりと長い、組まれたおみ足。
浮遊し、セーラー服に包まれた芸術のように整った肢体。

その姿、まさに仏像のソレ。

彼女こそ、奈良県怪光線お釈迦スケバン阿修羅寺あす香である。

明の額から冷や汗が伝い、自然とかみ合わせた歯にも力が入る。

(あれが、お釈迦様!)

★面妖なる敵現る!かつてない神技を前に、明たちの運命は!?

242後光 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:07:50 ID:ECRlNjLU0


【D-6/1日目・深夜】

【宮本明@彼岸島】
[状態]健康
[装備]
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、 十咎ももこの刀@魔法少女まどか☆マギカシリーズ
[行動方針]
基本方針:雅を殺す。
0:眼前の怪物(阿修羅寺あす香)に対処する。
1:雅を殺す。
2:鮫島、勝っちゃんとの合流。
3:兄貴、師匠、西山、斧神と合流。対処は彼らの様子を見てから判断する。

※参戦時期は少なくとも鮫島を知っている時期からです。

『十咎ももこの刀@魔法少女まどか☆マギカシリーズ』
マギアレコードに登場する魔法少女、十咎ももこの刀。大きさは身の丈ほどもある。
チャンスを逃さない鉈に近い形状をしている。




【天城千歌@サタノファニ】
[状態]健康
[装備]
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:生き残る。
0:お釈迦様に対処する。
1:???

※参戦時期は組長との対決以降です。
※千歌の人格がどちらかは後の書き手の方にお任せします。


【阿修羅寺あす香@神緒ゆいは髪を結い】
[状態]健康
[装備]
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:主催の老婆を殺す。
0:主催を殺し帰還する。その邪魔者たちよ、ここで死ね。

※無惨が倒壊させた見滝原中学校におり、生き埋めになっていましたがほぼ無傷です。

243 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:08:31 ID:ECRlNjLU0
投下終了です

244名無しさん:2020/03/03(火) 10:40:20 ID:uP0KHVdE0
投下乙です
話はシリアスなのに彼岸島特有の擬音芸で吹いたからチクショウ!
サラっと無惨様の癇癪の被害に遭ってるあす香で草。

245名無しさん:2020/03/04(水) 13:00:59 ID:qLZdtgAs0
どう考えてもピンチなのに負けるイメージが沸かねえ辺りスゲェよ明さんは

246 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 19:34:33 ID:LbhWGnaU0
斧神、金剛様で予約します

247 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 21:58:48 ID:LbhWGnaU0
投下します

248 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:00:54 ID:LbhWGnaU0
ズシン……ズシン……

大地を小さく揺らしながら歩き続けるのは10メートルは超える巨人だった。
雅の片腕にして混血種吸血鬼(アマルガム)であり、参加者の中でも巨体を誇る大男、それが金剛であった。
まだ殺人ゲームが始まったばかりなのに関わらず、彼の目的は既に決まっている。

(雅様を除く全ての参加者を殺害し、自決する。それが私の役目)

自分の主である雅の生存こそが第一であり、その為なら喜んでわが身を差し出す。
金剛は雅の狂信者であった。このゲームに呼ばれてから既に己の生存を諦めている。

(こんな首輪如きで雅様を殺せるとは思えん。だが万が一のリスクを雅様に背負わせるわけにはいかん。
このゲームから優勝して確実に生還してもらわなければ……)

考え事をしながら歩き続けて数分後の事だった。
腰巻にディバックが引っ掛けてあるのに金剛は気付いた。

「これは私に用意された支給品か?こんな小さな入れ物に入ってる武器等、役に立つとは思わんが……。
 もしかしたら雅様の役に立つ者が入っているかもしれん。一応、調べておこう」

ディバックは他の参加者に配られたのと同サイズであり
金剛は四苦八苦しながら何とかディバックを開ける事に成功した。

――ォォ  ――ォォ

「……?声が聞こえる。生き物でも入っているのか?」

ディバッグの中から響き渡る声を聞いた金剛は指をディバックの中に突っ込む。
容量を超える範囲まで指が入っていくのは何か仕掛けが施されているのか。
そう疑問に感じながらも音を発する正体をつまんで持ち上げた。

「……お前は」
「グゴーー!!グゴ――!!」

それは金剛と全く同じ顔をしていた。
金剛はその正体を知っている。
何度目かの脱皮の時に分裂したもう一人の自分だった。
なぜそれが自分のディバックに入っている?
まずは本人に問い質すとしよう。

「おい、起きろ」
「グゴ――!!グゴ――!!」
「起きろ!」
「ん、んん……」
「起きたか?」
「へへっ……なかなかいい締まり具合だぜ……むにゃむにゃ」

痺れを切らした金剛は手に持つもう一人の金剛をブンッ!と投げた。
眠っている金剛は地面に叩きつけられ、何度もバウンドしながら転がり続けて
木に激突した所でようやく勢いは止まった。

「いててて、私に攻撃したのは誰だっ!?出てこい!!」
「ようやく起きたか」
「なんだ?もう一人の私ではないか。何のつもりだ?」
「お前……今の状況を理解していないのか?」
「そう言えばここは一体どこだ?」
「やれやれ……何も知らんのか」

249 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:01:35 ID:LbhWGnaU0


「……つまりこの島で雅様以外の参加者を皆殺しにしなければならないのか」
「ああ、そうだ。お前にも働いてもらうぞ」
「それは構わないさ。しかし何者かは知らないがよくもまぁクソみてぇなゲームを考える物だな」
「何を目的にしているかは知らぬ。しかし死者を蘇らすその力は決して侮る事は出来ん」
「確かにそうだ。下手に反抗するよりもここは素直に従うべきではあるな」
「ん?……誰かが来る」

二人の金剛に向かって近づいてくる者の気配に気づく。
金剛のサイズからして向こうはすでに視認出来る位置なのにも関わらず
迷わずこちらへと近づいてくる。

メエエエエエエエエエエ!!  メエエエエエエエエエエ!!

それはヤギのような鳴き声を発し、ヤギの被り物を被った大男であり。
金剛と同じく混血種吸血鬼(アマルガム)の一人であり
金剛と共に雅の片腕として力を振るっていた誇り高き戦士、その名も斧神である。

「その声、斧神か……」
「金剛……なのか?そこまで大きくなっていたとは……」
「なんだ。お前、生き返ったのか。ガハハ」
「それに金剛がもう一人いる……一体どういう事だ?」
「教えてやろう。お前の死後に何があったか」



「そうか。既に本土は我ら吸血鬼が支配したのか」
「ああ、だが明も彼岸島にいた頃よりも更に力を得ているだろう。
 私も明を殺すためにひたすら己を鍛え上げた」
「おかげで現状を知る事が出来た。感謝する」
「斧神よ。かつて私とお前は共に雅様の片腕だった。
 その忠誠心は今でも残っているか?」
「愚問だぞ。俺が使える主は雅様ただ一人、例え死後でもそれは永久に変わることは無い」
「その言葉を聞いて安心した。ならばお前も雅様を優勝させるために他者を殺害して回れ」
「ああ……心得た。それで行先はどうする?」
「私はここから時計回りに島を移動して参加者を殺す。お前は反時計回りに移動して殺せ」
「では俺は西にある廃村から捜索するとしよう」
「この金剛も連れていけ。私なら一人で十分だ」
「えっ?私がこいつと一緒か?」
「不服か?戦力的にはそれが丁度よかろう」
「確かにそうだが……」

これからの方針を決めた参加者二人&支給品一人は行動を開始することになった。
金剛は東へ、斧神ともう一人の金剛は西へ、雅様を優勝させるべく他の参加者を皆殺しにするために。

【B-4/1日目・深夜】

【金剛様@彼岸島】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[行動方針]
基本方針:雅様の優勝
1:斧神と協力して雅様を除く、全ての参加者を殺害後に自害する。

参戦時期は明と対決する前です。

250 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:03:00 ID:LbhWGnaU0
俺は明との戦いの中で確かに友情を感じていたのだ。
彼は人間の中でもとてつもなく強く、心を躍らせた。
強さだけでない、その気高き精神は戦士としても敬意に値する男だった。
戦いに敗れた後、吸血鬼達が俺の姿を見て罵る中で明だけが俺に手を差し伸べてくれた。
もし出会いが違っていたなら敵同士では無く、友として……。

一度は明と協力する道も考えた。
だが俺は吸血鬼であり、雅様の忠誠を捨てる事は出来ない。
ならば俺の取るべき道は――。

「おい、聞いているか斧神!」
「すまない。考え事をしていた」

斧神と共に行動しているもう一人の金剛は参加者名簿を見ながら斧神と絡んでいた。
金剛の支給品は全てもう一人の金剛へ渡した。
私にはこんな物が無くても戦う事が出来る、と自信があっての判断だった。
もう一人の金剛が喋る内容は低俗極まり無い話だった。

「参加者を見る限り、それなりに女も参加しているようだが、どうだった?」
「『どうだった』とは?」
「そんなもの決まっているではないか!若い女だったか?かわいい女が多いかって話に決まっているだろ」
「……それほど把握はしていないが若い女が多かった。中には少女と呼べる程にまだ幼い子も混じっていた」
「そうかそうか!!成長しきった大人の女も味わい深いが未成熟の女とヤるのもたまんねえよな!!ギャハハハ!!」

品行下劣極まりないこんな男が金剛の片割れとは……。
分裂した金剛は煩悩の塊と言っていたが
まるで思考を全て下半身にゆだねたような俗物だ。

「最初は私が道具として扱われているのにカチンときたが
 参加者では無く、道具なら雅様が生存するのに私は死なずとも良いということ。
 ならば私だけ雅様と一緒に生き残る事が出来る訳だ。グハハハハハ!!」

もう一人の金剛の言う通り、彼には首輪を付けられていない。
道具は刀や銃といった武器だけじゃなく生物も含まれているのか。

「安心しろよ斧神、お前が死んでも私が生き証人になって武勇伝を語ってやろう」
「……それはありがたい」
「それと何か着る物が無いか?女とヤった後に全裸で寝てる内に連れてこられたから着る物がねえんだ」
「持って無い。廃村に着いてから探せ」

彼岸島を出てから金剛は更に強くなった。
明も本土にて更に力を付けている。
俺は……どうする?

「おっと忘れる所だった。斧神、一つ言っておく。女は殺すなよ?殺すのは私が飽きるまで犯し尽くしてからだ」
「金剛……」
「なんだ斧神?」
「俺は、明ともう一度戦いたい」
「話を聞いていたのか?お前が破れた後も明は更に強くなっているんだぞ。明ならもう一人の金剛に任せておけばいい」
「知っている。……だから俺も更に力を付ける。金剛のように……」

斧神から発する空気が変わっている事にもう一人の金剛は気づいた。
視線、動き、そして殺意が己を殺すべく向けられている事を。

「金剛、お前を喰らって俺は更なる高みを目指す」
「……本気で言ってるのか?」
「そうだ……」

しばしの沈黙の中、もう一人の金剛はディバッグから大剣ドラゴン殺しを取り出すと。
斧神に向かって飛びかかり、大剣を振るった。

「ふざけやがって!!ぶっ殺してやらアアア!!」
「どうした?その程度の力なのか?」
「なっ!?」

大剣は斧神の右肩に浅く刺さった所で動きを止めた。
斧神の能力である硬質化によって体の両断を防いだ。

「こっちの金剛はそれほどの強さを持っていないらしいな。ならば次はこちらから行くぞ」
「ひっ……待ってくれ!話を聞いてくれ!!」
「どうした?それでもアマルガムか?見苦しいぞ」
「吸血鬼ならそこらの参加者を吸血鬼化させてから食えばいい!協力者である私を食べる必要など無いではないか!」
「悪いが時間は無い。明と出会う前に一刻も早く力を付けねばならない」

斧神が肩に刺さった大剣を抜くと、もう一人の金剛へと近づく。
後ろへ一歩下がる金剛に向けて大剣を掲げ、振り下ろそうとした瞬間。

ポイッ コツン

金剛は何か小さな物を投げつけて、それが斧神の頭部へと当たった。

「何の真似――ぐっ!?」

投げた物が爆発と共に強烈な光を放ち、斧神を包んだ。
視界が封じられる中、金剛の逃げ足が耳に鳴り響く。

「スタングレネードか!くそっ……逃がさんぞ金剛っ!!」

メエエエエエエエ!! メエエエエエエエエエ!!

勝ち目が無いと悟った金剛は最後の支給品であるスタングレネードを使用。
斧神の視力を奪い、その隙に逃げる作戦へと移ったのだった。

(ちくしょう!!ゆっくり女を犯しながら雅様と脱出するつもりだったのに斧神の奴め!!
 なんで支給品の私までが殺されそうにならなければならんのだ!?)

このクソみてぇなロワの中では全てが殺し合いに巻き込まれている。
生きているならば例え参加者ではなくても、それは殺し合いの対象足りえるのであった。

251 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:03:26 ID:LbhWGnaU0
【B-3/1日目・深夜】

【斧神@彼岸島】
[状態]視力低下(時期に回復)、右肩に斬り傷(小)
[装備]ドラゴン殺し
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:雅様の優勝
1:更なる力を身に着けて、明ともう一度戦う。
2:雅様の優勝の為に他の参加者は皆殺し。
3:逃げる金剛を追う。

【もう一人の金剛様@彼岸島】
[状態]健康、全裸
[装備]なし
[道具]基本支給品、M84スタングレネード@現実×4
[行動方針]
基本方針:雅様の優勝
1:斧神から逃げる。
2:雅様の優勝の為に他の参加者は皆殺し。
3:ただし女は飽きるまで犯し尽してから殺す。

【ドラゴン殺し@ベルセルク】
金剛様に支給。
名工ゴドーが製作した、人の身の丈を超えるほどの巨大な黒剣。
曰く、「竜を殺せるような剣を作れ、と仰せつかったから、言われるとおりに作ってやった」
その重量は凄まじく、常人では持ち上げることも困難。
剣幅も広く、盾のように使われることも多い。
魔の者を無数に斬る内に、『魔の者を斬るための剣』としての性質を持ちつつある。

【もう一人の金剛様@彼岸島】
金剛様に支給。
金剛が何度目かの脱皮を行った際に、本体とは別に生まれてきた個体。
本体と違い、煩悩の塊のような性格で性欲のみを求める。
通称:エロ金剛。

252 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:10:34 ID:LbhWGnaU0
投下終了です
タイトルは三者三葉です

253名無しさん:2020/03/15(日) 22:38:39 ID:lONAREKU0
投下乙です
あったよ支給品にエロ金剛が!でかした!凄ェ!
斧神はやはり明さんとは殺し合う宿命なのか…辛ェなぁ…

254 ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 09:55:05 ID:yJQ0HNJw0
宇髄天元、書き手枠予約します。

255 ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:48:29 ID:yJQ0HNJw0
投下します。

256Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:49:45 ID:yJQ0HNJw0
「ほーお。するってーとおっさんは、ド派手に死んだってワケか。」
「その通りでごぜえます。ウズイさんとやら。話が早くて何よりです。」
「なるほど。生き返った命だ。大切にして生きろよ。おっさん。」

ここはとある一軒家の中。
老年のひげ男の話を一通り聞くと、元・音柱の宇髄天元は家の外へ向かって、風のような速さで走り出した。

「ま、待ってくだせえ!!」
「ん〜?まだ何かあるのかよ。話が地味に遅えぞ。」

天元がひげ男の目の前に再度現れる。それもまたつむじ風のようだった。

「ウズイさんの強さは最初の場所で見ました。
おねげえしやす。おれを守って下せえ。こんなおっそろしい所に一人でいたら、アリンコのフンみてえに死んでしまいやす。」

姿が見えるとひげ男は急に頭を深く下げ始めた。
地味で、卑屈で、ダサくて、みっともない。
天元だけではなく、他人が見てもそう感じただろう。

「派手に守ってやりてえのはやまやまだが、俺にはこの戦いでド派手に殺さなければならねえ奴がいるのよ。」


天元としてはこの戦いで、疑問に思ったことが二つあった。
一つは、自分の体のこと。
彼はこのバトルロワイヤルに参加させられる前に、遊郭で鬼の兄妹と戦った。
強大な力を持つ彼らを、同じ鬼殺隊の力を借り、何とか撃破するも、片腕と片目を失ってしまった。
しかし、今の自分は五体満足だ。

最初は御子柴に勢いで飛び掛かって行ったから気づかなかったが、今こうしていると奇妙に思えてきた。

結局のところどうして失った体が戻っているかは分からないが、音柱としてもう一度活躍するチャンスだと派手に割り切った。


そしてもう一つの疑問は、参加者にあった。
倒したはずの鬼、妓夫太郎兄妹がこの参加者名簿に載っていた。
どんな形で復活したのかは知らないが、生き返ったのなら犠牲者が出る前に倒さなければならない。

「俺は「鬼狩り」を派手にやってるんだが、この妓夫太郎と堕姫っていう、派手にいけ好かねえ顔した奴らとな……」
天元が首を狙っている相手は、妓夫太郎兄妹や主催者だけではない。
彼の同僚で会った煉獄杏寿郎を殺したという鬼、猗窩座。
そして、彼だけではなく、全ての鬼殺隊がその首を求めている鬼の首領、鬼舞辻無惨。

257Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:50:10 ID:yJQ0HNJw0

無力で卑屈なひげ男を、敵の手から守りたいという宇髄の発言は、嘘ではない。
だが、一般人一人を守るのに全力を尽くすあまり、他者大勢を犠牲にしてしまっては、本末転倒だ。
そのため、ひげ男をどこかに隠して、鬼や他の殺し合いに積極的な相手を退治しようと考えていた。

「ゲッ!!こいつは……。」
しかしひげ男が濁った目を見開いたのは、宇髄が指さした鬼ではなかった。
金髪で、腹をすかせた所で獲物に出会った猛禽類のように鋭い目つきの男が写っている。
名前欄には、「ディオ・ブランドー」と書いてあった。


「何だか派手な見た目の割に地味に嫌な感じの奴だな……。似た名前だから、家族か何かか?」
「コイツは、おれの息子だ!おれはコイツに毒を盛られて……殺されたんだ!!」
「毒……か……。親子ってやつは、どうしてこうも上手くいかないのかねえ……。」

かつては忍であった宇髄が思い出したのは、父親のこと。
彼は忍が時代から消え去ることを恐れ、自分と兄弟に虐待に近い修行を強いた。
その考えに嫌気がさした宇髄は死んでいく兄弟を後ろに忍を辞め、鬼殺隊に入った。
しかし、彼としては、自分の選択が父親を、引いては忍そのものを殺すのではないかという葛藤が常にあった。


「ウズイさん、コイツにだけは気を付けてくだせえ……?」
気が付くとひげ男、ダリオ・ブランドーは宇髄天元の広い背中の上に乗っていた。



「ちょっ……どんだけ足早いんですかい?」
「地味に遅え足に付き合ってる暇はねえからな!」
手練れの鬼殺隊でさえ、気が付いたら見逃している彼は、常人とは比べ物にならないほどの脚力を持っていた。
その速さは、ロンドンの馬車さえも超えていた。


「そのディオってガキを探すんだろ?鬼退治ついでに、俺様がド派手に手伝ってやるよ!!」


一人の父親を乗せた音柱は、颯爽と夜の闇へ向かって走り出した。

【B-1 早川アキの家入り口/1日目・深夜】



【宇髄天元@鬼滅の刃】
[状態]健康
[装備]いつもの音柱の服
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:打倒主催者。
1.知っている敵(鬼舞辻無惨、猗窩座、妓夫太郎兄妹)を倒す
2.ついでにダリオ・ブランドーをディオと和解させる。

※参戦時期は少なくとも妓夫兄妹戦後です。
※ただし、失った片腕と片目は戻っているため、それまでと同じ戦いができます。

258Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:50:27 ID:yJQ0HNJw0


(ウズイさん。最初に会えたのがアンタでよかったぜ。こいつは、おれにもツキが巡ってきやがった。)

初めて会えた相手が、最初の会場で主催者に対する敵意をはっきりと示した相手だということは僥倖だった。
別の時代の言い方をすれば、マイク・タイソン並みにラッキーだったといえるほど。
相手の邪魔をしない程度についていけば、それなりに命の保証はあるからだ。


(ディオ……まだまだてめえの好きにはさせねえぞ。)


天元の目が届かない場所で、ダリオの老婢な目が煌々と輝いた。
彼を背負って走っている男はまだ知らない。
ダリオは息子から盛られた毒以外に、心にもまた毒を含んでいたことを。

彼自身、死因は息子に憎まれ、毒殺されたことだとは知らなかった。
だが、宇髄天元に同情を買うためにでっち上げた話が、たまたま真実へと繋がった。


最期に息子に後を託し、自分がかつて助けた貴族の養子へのコネを紹介した。
だが、そんなものは最早どうでもいい。道端の石ころと大差ないくらい。
生き返ってしまえばこっちのもの。
自分を目の敵にしてきた、ディオも同じことだ。



(それにあいつの変な帽子……きんきら綺麗な飾りがついてるぜ。売ったら何本の酒を買えることやら。)
そしてもう一つ。彼には絶対に止められないものがあった。


「ありがとうごぜえます。ところでウズイさん。酒、持ってねえですかい?」
「はあ?あるわけねえだろ。それより、俺が敵に出会ったら、すぐに逃げるんだぞ。」

自分を背負って走っている相手は、ディオと和解させようとしているらしいが、それもまたどうでもよかった。
彼に関心があったのは、自分の生還と、そして酒、あるいはその酒を買うための金だけだったから。


【ダリオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]いつもの服
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3 (酒の類はない)
[行動方針]
基本方針:生還。どのような形でも構わない。
1.宇髄天元を頼りにし、自分の邪魔をする相手は殺してもらう。
2.ついでに何か金目の物、あるいは酒を手に入れる。

※本編死亡後の参戦です。

259Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:50:43 ID:yJQ0HNJw0
投下終了です。

260名無しさん:2020/05/31(日) 22:59:41 ID:PXXzL2yY0
投下乙です
DIO曰く、ダリオが吸血鬼化していたら相当強くなると推測してたな

261Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 23:29:56 ID:yJQ0HNJw0
感想ありがとうございます。
吸血鬼・鬼化けしてもしなくても毒親として面倒ごと起こしそうですね。

262 ◆rXek/f915.:2022/09/22(木) 22:46:31 ID:4ChXtkOw0
エシディシで予約します。

263 ◆rXek/f915.:2022/09/30(金) 01:09:40 ID:lNVBu.Ds0
予約延長します

264 ◆rXek/f915.:2022/10/06(木) 00:20:28 ID:weEKzlkI0
すみません、予約破棄します

265月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:27:34 ID:iRmSq/Zg0
投下します。

266月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:27:52 ID:iRmSq/Zg0

「行くぜ行くぜ行くぜええええエエエぇぇェぇッッッ!!!!」


けたたましいモーター音と、人間の叫び声。
傍で見ていても耳を塞ぎたくなるような轟音が響く。
地獄で生まれた魔獣の雄たけびと言っても相違ない。


「ハ、なんともうるさい音だ。」

その爆音を一番近くで受けるのは、吸血鬼の王。
彼は逃げもせず、抵抗の意志も見せない。
最初は構えていた2本の銃剣は、刃先を下に向けており、そのままでは武器の役割を成さない。


「良いコト思い付いたぜェ!!」


言うが早いか、チェンソーの右腕をブンと振るう。
狙いは雅の白く細い首。
チェンソーで首を斬り落とされれば、悪魔だろうと生きてはいられない。
勿論、切り裂くことが出来ればの話だが。


「ほう。」


雅は余裕しゃくしゃくと言った様子で、首だけを動かして斬撃を躱した。
全身を動かす必要などない。本気を出さずとも簡単にあしらえると言った態度の表れだ。


「テメエみたいな悪い奴を全員ブッ殺せば、悪いオババがやりたいこと出来なくなって、万々歳じゃねえかァ!?」


良いアイデアを出せた悦びで、斬撃に勢いが乗る。
だが第二撃、第三撃も、同じ様に紙一重の動きで躱される。
敵の巨大な双剣で受け止められることは無い。一対の刃は縦横無尽に空間を暴れまわる。
だが、斬られたのは地面や雑草のみ。飛び散るのは血ではなく、草の切れはしや石畳のかけらだけだ。
その様子だけを見れば、押しているのはデンジの方。
だがよくよく見れば押されている雅が、これから嬲る獲物のイキの良さを下調べしているかのようだった。


「お前の言うことは正しい。実に素晴らしい解答だ。」
「だろ!?褒めても悪い奴には何も出さねえけどなァ!!!」


デンジの強気な言葉には、どことなく敵に対する恐怖を孕んでいた。
今まで斬殺して来た悪魔とはまるで違う相手の底知れなさを、僅かな間に感じ取っていた。

267月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:28:25 ID:iRmSq/Zg0

チェンソーの右腕を真っすぐ正面に突く。
これもまた後方に飛び退いた雅に当たらない。
チェンソーの刃渡りが、あるいはデンジの腕があと1センチ、いや、あと0.5センチ長ければ胸に刺さっただろう。
少なくとも、雅の生まれた時代の割りにはモダンな服に裂け目を入れることぐらいは出来たはずだ。


「不可能だということに目をつぶれば、だが。」
「!?」


銀色の何かが動いた。
銀色の何かが飛んだ。


「は……!?」


あまりの一瞬の出来事で、頭より先に身体を動かすデンジでさえ、硬直状態になった。
何しろ、敵が一瞬身じろぎしたと思ったら、自分の両腕がスポンと飛ばされていたのだから。
チェンソーの悪魔を心臓に宿したデンジならば、両腕を失おうと再生する。
問題は、攻撃をかわす所か、見ることさえ出来なかったことだ。


「存外頭が良いな。私が言ったことがもう分かったのか。」


雅が行ったのは、シンプルな逆袈裟斬り。
だが、それを対化物専用の武器で、人間を凌駕する吸血鬼の王がやることで。
チェンソーごと腕を斬り落とせる、常識を逸した一撃になる。


「分かんねえよバーカ!!」


両腕から再びチェンソーを生やす。
血さえあれば、四肢を斬り落とされようと簡単に再生が出来る。
先程の件など無かったかのように、ぐるぐると両腕を振り回す。
しかし、その様子は赤子が怖い何かを寄せ付けまいと、必死になっておもちゃを振り回しているようだった。


勿論、吸血鬼の王には掠りもしない。
雅にとっては、デンジというよりもその血の味の方に興味があった。
チェンソーの乱撃を1つ1つ躱しながらも、刃先の付いた血を上手そうに舐める。


「下品だが、コクがあって病みつきになる味だ……腕は今一つだが、血の味は悪くないな。」
「うるせえ!パフォーマンスにばっかり拘ってると長生きしねえって知らねえのか!?」

右腕を袈裟懸けに振るう。
狙いは雅の腰から足の付け根。ちょこまか動くなら、先にその足を斬りつけようという判断か。
答えは『それもある』だ。


ツルンッ

「何!?」


ゴチンッ


「うぐっ。」


雅がデンジの斬撃を躱した先には、血だまりがあった。
たまたま運悪くそこを踏んだのではない。デンジがその場所に来るように誘導したのだ。
しかも再生したばかりでまだ柔らかい頭を、後ろからぶつけてしまう。
デンジはろくに教育を受けていないため、知識に難はあるが、戦闘に差し支えるということはない。
むしろ幼少期からポチタとともに悪魔と戦い続けた経験のおかげで、即興の作戦を練る能力は優れている。
しかもそれは、岸部との修行によりさらに磨きがかかっていた。

268月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:29:09 ID:iRmSq/Zg0

チェンソーの右腕を真っすぐ正面に突く。
これもまた後方に飛び退いた雅に当たらない。
チェンソーの刃渡りが、あるいはデンジの腕があと1センチ、いや、あと0.5センチ長ければ胸に刺さっただろう。
少なくとも、雅の生まれた時代の割りにはモダンな服に裂け目を入れることぐらいは出来たはずだ。


「不可能だということに目をつぶれば、だが。」
「!?」


銀色の何かが動いた。
銀色の何かが飛んだ。


「は……!?」


あまりの一瞬の出来事で、頭より先に身体を動かすデンジでさえ、硬直状態になった。
何しろ、敵が一瞬身じろぎしたと思ったら、自分の両腕がスポンと飛ばされていたのだから。
チェンソーの悪魔を心臓に宿したデンジならば、両腕を失おうと再生する。
問題は、攻撃をかわす所か、見ることさえ出来なかったことだ。


「存外頭が良いな。私が言ったことがもう分かったのか。」


雅が行ったのは、シンプルな逆袈裟斬り。
だが、それを対化物専用の武器で、人間を凌駕する吸血鬼の王がやることで。
チェンソーごと腕を斬り落とせる、常識を逸した一撃になる。


「分かんねえよバーカ!!」


両腕から再びチェンソーを生やす。
血さえあれば、四肢を斬り落とされようと簡単に再生が出来る。
先程の件など無かったかのように、ぐるぐると両腕を振り回す。
しかし、その様子は赤子が怖い何かを寄せ付けまいと、必死になっておもちゃを振り回しているようだった。


勿論、吸血鬼の王には掠りもしない。
雅にとっては、デンジというよりもその血の味の方に興味があった。
チェンソーの乱撃を1つ1つ躱しながらも、刃先の付いた血を上手そうに舐める。


「下品だが、コクがあって病みつきになる味だ……腕は今一つだが、血の味は悪くないな。」
「うるせえ!パフォーマンスにばっかり拘ってると長生きしねえって知らねえのか!?」

右腕を袈裟懸けに振るう。
狙いは雅の腰から足の付け根。ちょこまか動くなら、先にその足を斬りつけようという判断か。
答えは『それもある』だ。


ツルンッ

「何!?」


ゴチンッ


「うぐっ。」


雅がデンジの斬撃を躱した先には、血だまりがあった。
たまたま運悪くそこを踏んだのではない。デンジがその場所に来るように誘導したのだ。
しかも再生したばかりでまだ柔らかい頭を、後ろからぶつけてしまう。
デンジはろくに教育を受けていないため、知識に難はあるが、戦闘に差し支えるということはない。
むしろ幼少期からポチタとともに悪魔と戦い続けた経験のおかげで、即興の作戦を練る能力は優れている。
しかもそれは、岸部との修行によりさらに磨きがかかっていた。

269月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:29:32 ID:iRmSq/Zg0

「どーだッ!これが未来のノーベル賞受賞者の頭脳って奴だぜ〜!!」


いくら格上の相手と言えど、仰向けに転んでしまえば、即座に反撃は出来ない。
おまけに銃剣は落としてしまい、斬撃を防御することも出来ない。
今こそがとどめを刺すチャンス。
両手ではなく、頭に付いてある刃で、吸血鬼の王を圧し潰そうとする。
シンプル故に確実に倒せる方法だ。頭をミンチにされて生きられる生物はいない。
しかも、破壊を司る悪魔の刃ならば猶更だ。


だが、それで倒すことが出来るとするなら。
雅はとある剣士によって、何度も倒されているはずだ。


「足りん。」


とどめを刺すはずだったチェンソーは、いとも簡単に止められた。
しかも、剣ではなく真っ白な両手で。
真剣白刃取りと言えばどのような状況か、明白だろうか。


「クッソおおおおおお!!離しやがれええええエエエエエェェェッッッ!!」
「ハ、その威勢だけは評価に値するよ。」


デンジはライブ中の観客が見せるヘッドバンキングのように頭を振ろうとするが、全く歯が立たない。
あろうことか、凄まじい腕力でチェンソーの回転まで止められる。
そもそも、白刃取りというのは実戦向きの技術ではない。そんな行動をとるのは、王者としての余裕の顕れでしかない。


ならばと両手の刃で、雅の両手を切り裂こうとする。
だがデンジが両手を動かす前に、雅はチェンソーを掴んだまま両手を高く掲げた。巴投げの体勢だ。


「うわああああああ!!」


急に重力の鎖を断ち切られ、空の旅へ送られてしまえば、デンジでなくとも驚くはずだ。
チェンソーの悪魔は、跳ぶ能力は持っていても、空を飛ぶ能力は持っていない。
従って、空中を支配することは出来ないのだ。


「刹那の暇つぶしにはなったが、宮本明の方がマシだ。」


雅としては、最初のチェンソーに変身する力には驚かされたが、それを使いこなす技術が未完成と言った所。
人間でありながら、手を変え品を変え自分の首を狙って来た男に比べれば、遠く及ばない。
終わりにしようと2本の剣の内の1本を拾い、円盤のように投げ飛ばす。


くるくると回転する刃がデンジの右手を切断する。
それだけではない。ブーメランのように回転し、戻って来た剣がデンジの腰より下を斬り落とす。


ぐちゃ、という音を立てて地面に落ちるデンジ。そこから血が水たまりのように広がって行く。
四肢の内三本を斬り落とされれば、まともな着地など出来やしない。
その様を雅は黙って見下ろしていた。


「出来はまだまだだが、その力は面白かった。どうだ?私の息子とならないか?」


雅はデンジそのものよりも、デンジの力に興味を示した。
腕を切り落としても再生する力に、チェンソーに変化して攻撃する能力。
人間というより邪鬼や混血種(アマルガム)に酷似しているというのに、自分の支配下に置かれていない。
逆に言えば、自分の血を与えれば、更なる力を得る可能性もある。

270月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:30:24 ID:iRmSq/Zg0

「何で俺がそんなものにならなきゃいけねえんだ。毎日三食食わしてくれんのか?」
「お前は頭が良いのか悪いのか分からないな。私に付けば助かるし、おまけに強い力が得られるんだぞ?」
「誰が男の言いなりになるかバーカ!」


ぺっ、と吐いた唾が雅の顔に飛んだ。
デンジは既にマキマという女性の物になっている。飯を食わせてもらったし、人並みの扱いをしてもらった。
それがなんで今更になって、こんな顔色の悪い男のしもべにならねばならんのだ。


「そうか。ならば私の手で吸血鬼にしよう。」


強者が弱者を従える。
単純にして明快な構図だ。


だが、忘れるなかれ。
この場では、雅も弱者の立場に落とされることもあるのだ。



黒い雷が、その場を走った。



気が付けば雅の目の前から、デンジは消えていた。



「邪魔立てか……どこにでもいるものだな。不必要な正義感に駆られて命を散らす者が……。」
「正義感?正義感と言ったわね!?アハハハハハハハハ!!だとしたらてんで見当違いだわ。
そもそも、私の格好が正義の味方に見えるかしら?」


あの医者の先生じゃあるまいし、と彼女は付け足す。
よく見れば、女性の格好は、暖色を中心とするスーツとマントを身にまとったヒーローとは程遠い。
むしろ、急所に該当する部分のみを黒で隠し、肩甲骨に当たる部分から翼が、臀部から尻尾が出ているという、悪魔じみた格好だ。
誰が言ったか。悪の組織の女幹部のようだと。


「え、えええええええ!!?」


デンジがそんな悲鳴を上げるのも無理はない。
彼女の美貌に魅了される間もなく、ポイっと離れた場所に投げ飛ばされた。
雅との戦いで、多少雑に扱っていい相手なのも分かっている。


「確かに言う通りだな。今の所作といい、悪の方に近い。
尤も、私にとって肝心なのは善や悪じゃ無いが。」


日本を手中に収めた雅にとって、大切なのは正義だの悪だの、そんなちっぽけなものじゃない。
己の退屈を紛らわせることが出来るか出来ないかという、それ以上に矮小なものだ。
雅はさらなる強者を相手に、2本の剣を構える。


吸血鬼の王と女王の戦いが幕を開けた。

271月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:30:39 ID:iRmSq/Zg0




雅は吸血鬼の女王、ドミノ・サザーランドを強敵と見なした
先の動きと言い、彼女は態度だけではないことは、すぐに理解した。
だからこそ。全力を以て潰す。ただ勝つのではない。敗北を味合わせてから殺す。



強大な力が、夜の中で躍動する。
ドミノが両の翼を広げたと思ったら、チェンソーの刃で飛ばされた瓦礫が宙に浮き、雅に襲い掛かった。


「これは……中々面白い手品だ。」


雅は2本の長剣をバトンのように振り回し、瓦礫を豆腐のように切り裂く。
四六時中その身を守っているだけではない。
瞬間、雅の動きは守りから攻めへ。


デンジの時と違い、守りから攻めのリズムを作ることが出来ないと判断した雅は、地面を蹴る。
狙いは勿論、ドミノの翼。
物理法則では説明の出来ない動きは、彼女の黒い翼によるものだと判断した。


瓦礫の雨のなかを駆け抜け、ドミノを切り裂こうと剣を振りかぶる。
だが、その剣は振り下ろされることは無かった。


「何だこれは!動かないぞ!!」


先程まで、両手を開いていたドミノが、いつの間にか閉じている。
これもまた、彼女の吸血鬼としての能力。
堂島正との戦いで敵の自由を奪った時のように、雅の運動神経を阻害したのだ。


だが、上半身の動きは封じられても、下半身は比較的自由だ。
地面を思いっ切り蹴り、空へと逃げる。人間とは比べ物にならぬほど高い跳躍だ。
だが、それは雅のミスだった。
翼を持たぬ雅が、翼を持つドミノには空中で敵うはずがない。


「それで吸血鬼の王を名乗るつもり?」


今度は能力を使うためではなく、空を滑空するためにドミノは翼を広げる。
空中での軌道力ならば、ドミノが上。だが、高さならば先に地上を離れた雅の方が上。


「無論。」


空へ逃げた時、ドミノの能力の拘束は無くなった。
両腕が自由になると、雅は上空から剣を交叉させ、迫り来るドミノを切り裂こうとする。
その剣は化け物退治に向けて作られた道具。
吸血鬼の常人離れした力を持って振るえば、ドミノとて切り裂くことが出来るだろう。
切った部位、突いた部位によれば、一撃で息の根を止めることも不可能ではないはずだ。

272月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:31:34 ID:iRmSq/Zg0


(あの医者より早い剣さばきね……でも!!)

ドミノは吸血鬼に対する凶器に臆することなく突っ込んでいく。
滑空したまま右手の拳を突き出し、雅の心臓を打ち抜こうとする。
王が切り裂くか、女王が穿ち抜くか。


「これで終わりよ…」
「ぐっ………。」


ドミノの右手は、雅の斬撃によって切り落とされた。
だが、お返しとばかりに雅の心臓を左手で貫く。元々右手はブラフ。本命は背後で構えていた左手だ。
右手と心臓、等価交換で済む話でないのは自明の理だ。
だが、吸血鬼。しかも異なる世界同士の吸血鬼であれば話は異なる。


「……!?なにこれ!!?」


ドミノは勝利を確信していた。何しろ、彼女の世界の吸血鬼は心臓こそが急所だから。
だが、鼻がムズムズし、喉がいがらっぽくなったと思いきや、金属棒に脳味噌をかき回されるような感触を覚える。
いや、その程度で済むというのは、ドミノが吸血鬼の上澄みたる証左だろう。
雅の脳波干渉(サイコジャック)をまともに受ければ、顔中から血を流し、強靭な精神を持っていなければ操り人形になってしまうはずだから。


「ちっ!!」


接近戦では危ないと感じたドミノは、左手を思いっ切り振り、雅を地面に叩き落とす。
高さと勢いからして、まともな硬度を持つ生き物ならばミンチになっていてもおかしくない。
だが、相手も吸血鬼の王。
服が汚れた程度で、ムクリと立ち上がる。


それを追いかけるように、ドミノも雅から少し離れた場所に降り立つ。


「やるじゃないか。お前ならば私の退屈を紛らわせてくれそうだ。」
「まさか、退屈しのぎにこんなことをしている訳?」


ドミノは気になっていた。
日ノ本士郎やユーベンとは別の、自分を吸血鬼の王と名乗る雅に。
最初は他者を甚振るような行為を目にしたからこそ、止めようとした。
だが、それからは男がどのような哲学を持つのか、王としてどのような未来を作りたいのか、戦いを通して見極めたかった。


「その通りだ。私が元いた世界はつまらなさを極めていた。退屈は人だけじゃない。吸血鬼も殺す。」
「あなた、本当につまらないヤツなのね。まあいいわ。」
「ほざけ。」


雅は常に品定めする側だった。
玩具を作り、脅える人間の挙動を眺め、酒の肴に人間が作り出す血の染みを眺め。
つまるつまらないは彼によって決めていた。
だというのに、目の前の女はなんだ。
自分を品定めし、しかもマイナス評価を付けて来た。
初めて経験した状況に苛立ち、ギリギリと牙をこすり合わせる音を立てる。

273月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:31:55 ID:iRmSq/Zg0

「まあいいわ。あの子もどこかへ行ったことだし……フルパワーよ!!」


ドミノの顔が、女王のものから羅刹のものへと変わった。
美しさと妖艶さから、恐怖を感じさせる表情へと変わる。
同時に、彼女を覆っていた黒い翼が巨大化し、空気を鳴らす。


「なんだ……これは……!!」
「せいぜいそこで指をくわえて、新しい世界を見ていなさい。私が女王になれば、世界は楽しいわよ。」


それは技というより災害。その一撃が、どれほど常識外れなのか、語るのに難を要するほどだ。
天が叫び、地は唸る。
凄まじい力を持ったエネルギー波が、雅に襲い掛かる。
まるで核でも落としたかのような爆発が、雅を飲み込もうとする。


「ハ、長生きしてみれば、面白いことに巡り合えるものだ。」


彼の表情からは、諦念が現れていた。
抵抗の遺志を見せず、逃走もせず、ただ黙って爆風が飲み込むのを待っているかのようだった。


この戦いで、吸血鬼の女王は王に対し、ほとんど全ての面で勝っていた。
戦闘センス、能力、単純な力、そしてカリスマ性。
だが、唯一雅が勝っていた点があった。


それは生き汚さである。
何度も何度も宮本明とその兄に追い詰めながら、時には首をも斬り落とされても、生き延びてきた。
それがあったからこそ、ついには日本を征服することが出来たのである。
彼は銃剣の柄に仕込んであった爆薬で地面を吹き飛ばし、ドミノの力が彼を飲み込む前に、
即興の防空壕を作っていた。
勿論、それだけでダメージを全てカバーできたわけではないが、それでも即死や戦闘不能は免れた。


「………逃げたのね。」


音が止み、辺りが荒れ地と化すと、ドミノは呟いた。


(ハ、ひとまずお前の勝利で終わらせてやろう。吸血鬼の女王。)


雅はそこから出て、ドミノに対して反撃に出るような真似はしなかった。
命こそ助かったが、それが勝利につながるとは思っていないからだ。
地面をひたすら掘り進み、女王の目が光る場所から離れていく。
王とは思えないほどの動きだが、今は雌伏の時ということなのだろう。


(だが、この戦いでの勝者は私だということを忘れるな。)


吸血鬼の頂上決戦は、ひとまず終わりを告げる。

274月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:32:21 ID:iRmSq/Zg0

(ひとまず、あの男の子をどうにかしないと。捨て置いたままというのも、女王として無責任だしね。)


ドミノは雅のことは一旦置いて、デンジを探しに行くことにした。

(それに……私の3人の部下や、死んだはずの燦然党の奴等も気になるわね……。)


女王というのは、いつの世でも仕事に追われるのだ。
積極的に世に出ようとし、より良い治世をするならば猶の事である。





【F-3/1日目・黎明】

【デンジ@チェンソーマン】
[状態]ダメージ(大) 貧血
[装備]なし
[道具]基本支給品(食料消耗済み)、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:主催の悪魔をぶっ殺して全部解決だぜ〜!
1.雅って奴はヤバいが、いつかブッ殺してやる
2.あのエロいねーちゃんは誰だったんだ?
3.パワーの奴どこへ行きやがったんだ?

※参戦時期は少なくとも岸部に鍛えてもらった後


【F-2/1日目・黎明】


【ドミノ・サザーランド@血と灰の女王】
[状態]疲労(中) 右手にダメージ 回復中
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:この世界でも女王となり、殺し合いをやめさせる
1.まずは助けた少年(デンジ)に会いに行く
2.殺し合いに乗った者には容赦しない。
3.部下(善、京児、七原)を探す
4.雅には今度会ったら倒す。

※参戦時期は少なくともユーベンに会った以降
※真祖の能力に制限が課せられています


【F-2・地下/1日目・黎明】


【雅@彼岸島】
[状態]ダメージ(大)(再生中)
[装備]アンデルセンの銃剣@HELLSING
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[行動方針]
基本方針:宮本明を探す
1.この世界で戦いを楽しむ
2.吸血鬼の女王(ドミノ)よ。いずれお前をその座から引き摺り降ろしてやるぞ。


※ドミノの力で、F-2一体に爆音が響きました。周囲にいる者が気付いたかもしれません。

275 ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:39:47 ID:1xboIOo60
投下します

276僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:40:35 ID:1xboIOo60

夜のとばりに包まれた世界を、ほんの一筋の光が照らした。
その光は、悪鬼羅刹から人を守るには、余りにも弱い火だった。
だがそれでも、ある人間の生きる実感にはなった。
小さな火の行きつく先は、タバコの先端だった。


「はーーーー。」


タバコが似合いそうな、悪く言えば柄の悪い中年、芭藤哲也は口から煙を吐き出す。
身体に悪い物質が肺に満ちていくその感覚は、ニコチンが身体の中を循環する死者には味わえないものだ。
一度死んだその男は、生者にしか味わえないであろう感覚を噛み締めると、幾分か安堵を覚える。
自分が生きていることを知ると、今度は思考を始める。


なぜ死んだはずなのに、こうして生きているのか。
名簿を探ってみると、自分の知っている名前があった。
自分を殺した佐神善と狩野京児に、その2人が従っているドミノ・サザーランド。
同じ燦然党のメンバーで、自分と同じように死んだはずの加納クレタ、その燦然党に加入したばかりの堂島正。
そして、自分が同じ道に進むように勧誘した七原健。


知り合いがいないわけではないが、だからといってなんだという感情を抱いたわけではなかった。
自分を殺した相手に報復を加えようという気もない。
自分と同じチームにいた者達を探して協力しようという気もない。
七原だけは僅かながら、会ったらどうするか考えたが、すぐにその考えを捨てた。
覆水盆に返らずというが、一度あの関係になってしまった以上は、ここでも同じように殺し合うしかない。

「はーーーー。」


二本目のタバコを吸い始める。
自分は死んだ。それでおしまい。
生き返ったからと言って、自分の人生をやり直そうなんて気はさらさら無かった。
この世界でも、誰かが不幸になれば良いとは思うが、進んで50人以上を不幸にすることは出来ない。
たとえ右腕の銃を撃ったとしても、これだけ広い場所だと殺せるのは多くて3,4人。
中にはその力を受け止める者もいるかもしれない。



何かをしようにも、人が集まっていないんじゃ何をする気にもならない。
3本目のタバコに指をかけようとした、その時だった。
つかつかつかつかと、一人の少女が芭藤の前を横切って行った。


「おい、冷たいじゃねえか。」
「………。」


芭藤は一瞬、彼女が盲目で、自分のことをそもそも見えないのではないかと思った。
だが目の前の少女は、黙って静かに自分をじっと見据えていた。
何とも言えず、付き合い辛い奴を呼び寄せちまったな。
少女の物憂げな眼を見て思った言葉はそれだった。

277僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:40:52 ID:1xboIOo60

「人が座っているのに、挨拶もせずに素通りするなんてよ。」


まるでヤクザのような恫喝のかけ方。
実際に彼はヤクザなのだが。
芭藤が少女、栗花落カナヲを呼びかけたのは、彼女を殺そうとするつもりではない。
彼女の外からの光を閉ざしているような瞳に、思い出すものがあったからだ。


カナヲは芭藤の前に近づく。その足取りは物憂げな雰囲気に似つかわしくない、大地をしっかりと踏みしめた歩き方だ。
だが、歩いて近付くだけだ。その後に何かの言葉を話すわけでも、何かしらのアクションを取る訳でもない。


「隣、座れよ。俺が見上げっぱなしじゃ首が痛くてかなわねえ。」


いやに素直に、カナヲは芭藤の隣に座った。
抵抗の態度も見せず、かといって恐れる訳でもない。
あまりに素直過ぎて、言い出した芭藤でさえ罠かと思ったほどだった。
座った後は、何もしない。
芭藤が吐き出した煙が、たまたま彼女の顔にかかった際、一瞬顔を歪めただけ。
静かな時間が続いていた。


「なあ、お前はこの殺し合いをどうするつもりだ?」
「……分からない。」


栗花落カナヲは、心を閉ざした少女だ。
同じ心を閉ざした者同士、この場で惹かれ合ったのだろうか。


「それなら、俺と一緒に周りを不幸にしていかねえか?」


言葉を聞かずとも、目を見て分かった。
カナヲも自分と同様に、光のない世界で生きていたのだと。


「……!」


その言葉を聞いて、彼女は反射的に身構える。
先程まで座っていたというのに、瞬時に立ち上がり、臨戦態勢に入る。
表情は変わらない。だがその姿勢は、死地へと向かう戦士の物だった。
この殺し合いに乗るつもりが無かったように、善悪の判断も最低限は出来る。
そして今の言葉で、目の前の男が悪なのだと分かった。

278僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:41:10 ID:1xboIOo60

「ひでえな。俺がまるで人殺しみてえな態度じゃねえか。まあ、俺がお前を殺すかは態度次第なんだがな。」


そして今のカナヲの挙動で、芭藤がはっきりと分かったことがあった。
目の前の少女は、少なくとも燦然党の下っ端よりかは力を持っていることだ。
ヴァンパイアにはなれないにしろ、自分と共に行けばさぞかし役に立つだろうとは思った。


「……!!」
「その目を見りゃ分かる。お前も俺と同じで、糞共に理不尽を押し付けられてきたんだろ?」


芭藤の言うことは当たっている。
栗花落カナヲは幼少期、愛というものを与えられずに育った。
覚えているのは、動かなくなった兄弟の冷たい感触と、父親の怒声と殴打。
そして、二束三文で売りに出されそうになった。


だから、それをカナヲは否定しない。
それでも、肯定もしない。
肯定すれば最後、自分の心は目の前の男に飲まれて行ってしまうと、脳ではなく心が思ったからだ。


「だからだ。俺達が今度は奪う側になればいい。目をきらめかせて、希望だの何だの語っている奴等を、片っ端から不幸にしてやればいいんだよ。」


世の闇を湛えている瞳を覗き込む。
世の闇を湛えている瞳から見つめられる。


(この人……悪い人?斬らなきゃいけない?でも鬼じゃない。……不幸にするって?どうすれば……
指示。指令。命令……しのぶ姉さん……。アオイ姉さん……。)


芭藤が一方的にカナヲに興味を抱いていただけではない。
カナヲもまた、彼と話をしているうちに、どこか放っておけなくなっていた。

既に彼女は気づいていた。
芭藤哲也という男が、自分が斬って来た鬼とは違う。少なくとも悪だと断定しきれる相手ではないということに。
彼女の並外れていた視力を以てすれば、彼の闇を知ることなど難しい事ではない。
そんなことは、彼の長髪に隠された傷痕を見ずとも分かる。
彼の同期である炭治郎が匂いで人の感情を知ることが出来たように。
善逸が音で人の胸の内を探ることが出来たように。
彼女もまた、神経の動きや表情筋の動きで人や鬼の奥を見抜くことが出来る。


「何が何だか分かんねえって面持ちだな。
気持ちいいぞ。自分を正しいと思っていた奴等が絶望する瞬間を見るのは。なのに何でお前は嫌がるの?」

「……したくない……から。」


カナヲの心は、凍土のようなものだ。
幼い頃に理不尽という名の吹雪に、荒らし尽くされてしまった。
心という名の種を植えても、それが芽吹くことは無い。
芽吹くことは無いはずだった。

だが、それでも胡蝶カナエという柱が、善意という種をまき続けた。
その剣士は不幸にも、カナヲの行く末を知る前に帰らぬ人となったが、その妹が、同じ弟子がその芽を育て続けた。
その甲斐があり、花の力を持つ剣士の植えた種は、ほんの小さな芽を出した。

279僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:41:28 ID:1xboIOo60

「初めはそうやって嫌がるんだ。みんなで幸せにありたいってな。でも、一度やってみりゃスッキリするぞ。
この殺し合いを壊して皆で生きて帰ろうって、理想ばかり吐いている奴等を殺してやるんだ。」

芭藤は言葉を続ける。
だが、その言葉を言い切る前に、カナヲは脱兎のごとく駆け出した。


目の前の男は、育ての親がくれた物を摘み取ろうとしている。
それを背筋で分かったカナヲは、そうなる前に彼の言葉が聞こえなくなる場所まで走ろうとした。


「おい。」


その動きは、実力者が闊歩する燦然党幹部の芭藤から見ても俊敏だった。
だが、拘束力を持つヴァンパイアに変身すれば、捕まえることも難しくない。


「!?」


彼がカナヲの目の前に投げたのは、獲物を拘束する体の一部―――ではなかった。
芭藤には知らぬことだが、一本の刀だった。
殺すつもりで投げたのではないことは、鞘に入っていた時点でカナヲにも伝わった。


「好きなように使えよ。俺としてはそいつで正義面した奴等を不幸にしてくれればうれしいことこの上ないがな。」

剣だけ受け取ると、カナヲはさらに走り出した。
あの男は殺すべき相手ではないかもしれない。
それでも、手を取るべき相手ではないかもしれない。
どうすべきか全くわからない相手を、彼女は置き去りにするしか出来なかった。



【E-4北西/1日目・深夜】

【栗花落カナヲ@鬼滅の刃】
[状態]健康
[装備]日輪刀@鬼滅の刃
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2(武器の類は無し) カナヲのコイン@鬼滅の刃
[行動方針]
基本方針:コインで決める(殺し合いには乗らない)
1:西へ進む
2:あの人(芭藤哲也)は何だったんだろう…いい人?悪い人?







カナヲの姿が見えなくなると、彼はまたタバコを吸い始めた。
自分の手を振り払った相手を殺さず、よりによって武器まで与えるとはどういうことだろうか。

「らしくねえことをしたもんだ。」


紫煙と共に、独り言が虚空へと消える。
とりあえず名も知れぬ少女のことは頭の片隅に追いやり、これからどうするか決める。
とはいえ、結局彼の回答は1つしかない。
殺し合いを打破し、あの老婆を殺そうという、正義に身を委ねた者達を殺して行く。
最早彼にとって、他者の不幸でしか満たされる物は無い。


それを見た瞬間、あの少女はどんな顔をするだろうか。



「あばよ。」


彼女が走って行った方向へそう告げると、逆の方向に歩き始めた。




【芭藤哲也@血と灰の女王】

[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[行動方針]
基本方針:正義面した対主催の者達を不幸にする。
1:次に会った相手は殺すべきか泳がせるか。
2:あのガキ(栗花落カナヲ)はどうなるんだろうな。
※参戦時期は死亡後

280僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:43:31 ID:1xboIOo60
投下終了です

281名無し:2023/10/12(木) 23:25:20 ID:aF4jyD2o0
予約します。


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