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悪魔憑きバトルロワイアル

1 ◆ejQgvbRQiA:2019/12/13(金) 17:38:35 ID:SMcTq7iQ0


【鬼滅の刃】〇竈門炭治郎〇我妻善逸〇嘴平伊之助〇不死川玄也〇時任無一郎〇宇髄天元●塁に切り刻まれた隊士〇鬼舞辻無惨〇妓夫太郎/堕姫〇猗窩座〇黒死牟 10/11

【彼岸島】〇宮本明〇宮本篤〇青山龍ノ介(師匠)〇西山正一(若しくは徹)〇山本勝次〇鮫島(兄)〇斧神〇金剛様〇雅 9/9

【魔法少女まどか☆マギカシリーズ】 〇鹿目まどか〇暁美ほむら〇巴マミ〇佐倉杏子〇アリナ・グレイ〇御園かりん〇環いろは〇七海やちよ〇双葉さな 9/9

【ジョジョの奇妙な冒険】 〇ジョナサン・ジョースター〇ロバート・E・O・スピードワゴン〇ディオ・ブランドー〇ジョセフ・ジョースター〇ルドルフォン・シュトロハイム〇カーズ〇エシディシ〇空条承太郎〇花京院典明 9/9

【サタノファニ】 〇甘城千歌〇鬼ヶ原小夜子〇カチュア・ラストルグエヴァ〇坂上和成〇フロイド・キング〇水野智己〇神崎京子 7/7

【血と灰の女王】 〇ドミノ・サザーランド〇佐神善〇狩野京児〇七原健〇堂島正〇加納クレタ〇芭藤哲也 7/7

【神尾ゆいは髪を結い】〇園宮鍵人〇神緒ゆい〇淡魂ほのか〇松蔵院カーラ〇橘城アヤ子〇あしゅら寺あす香 6/6

【HELLSING】 〇アーカード〇アレクサンド・アンデルセン〇セラス・ヴィクトリア〇ウォルター・C・ドルネーズ〇ピップ・ベルナドット 5/5

【ベルセルク】 〇ガッツ〇グリフィス〇キャスカ〇ゾッド〇ファルネーゼ 5/5

【チェンソーマン】〇デンジ〇早川アキ〇パワー〇サムライソード 4/4

【デビルマンG】〇不動アキラ〇雷沼ツバサ(シレーヌ)〇魔鬼邑 ミキ 3/3

74(5)名


書き手枠
〇/〇/〇/〇/〇/〇


地図
ttps://imgur.com/a/kGk7xTG

172 ◆A2923OYYmQ:2020/01/15(水) 17:41:25 ID:U1HdWWTQ0
再延長お願いします

173 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/20(月) 23:44:26 ID:3ecWWxcU0
予約を延長します

174 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/22(水) 18:51:06 ID:Fot.xVss0
すいません再延長おねがいします

175 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 17:59:23 ID:u7AC/3320
投下します

176浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:01:52 ID:u7AC/3320
ハァ、ハァ。

少年の口から吐息が漏れる。
帽子を被った小柄な少年の名は山本勝次。吸血鬼に支配された絶望の孤島・日本においても恐怖に屈せずたくましく生きる少年である。

「明とハゲも来てるのか...それに、金剛...」

名簿を確認した勝次は、思わずくしゃりと力を籠め握ってしまう。

知り合いがいた。
明と鮫島。共に、かけがえのない仲間たち。

金剛。
許せない敵だった。母ちゃんを強姦し、吸血鬼にした挙句、わざと血を与えず亡者にした男だった。
だが、彼は間違いなく死んだはずだ。小さな者と大きな者がいたが、小さい方は皆で協力して、大きな方は明が倒した。
あのセレモニーで見せたようにオババが蘇らせたのだろうか。

「...関係ねえ。あいつがまた蘇って、また悪さするつもりなら何度でも殺してやる」

勝次は決して忘れない。
大好きな母親を弄ばれた恨みを。
母の手で復讐を完遂したとて、金剛を許すなど到底できるはずもない。

そして、同時に思い返すのは母のこと。

母・ゆり子は亡者と化した己の身体に耐えきれず、自我が無くなる前にその命を断った。
あの老婆は殺し合いで優勝すればなんでも願いを叶えると言った。
ならば、老婆に従い参加者を殺し尽くせば母もきっと蘇らせてくれるだろう。

「なめんなよクソババァ」

そんな縋りつくような弱い思いを勝次は蹴飛ばした。

勝次は母のことが大好きだ。今でも家族で暮らしたあの日々を忘れられずにいる。
けれど、勝次はゆり子の死際に誓った。母ちゃんがいなくても頑張って強く生きていくと。
例え手を伸ばせば届く奇跡であっても、あの時の誓いを反故にしたくない。

それに、この会場には明と鮫島も連れてこられている。
彼らを殺して母を蘇らせるなど、それこそ母ちゃんに殺されても仕方がない。

そして、主催―――それに、雅や金剛のように息をするかのように他者を害する悪党は許せなかった。

だから勝次はこの殺し合いに反目すると決意した。

177浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:02:33 ID:u7AC/3320

勝次が荷物を纏め、仲間たちを探す為にその場をあとにしようとしたその時だ。

ザ バ ァ

勝次の背後の海からなにかが上がってきた音がした。
彼は慌てて振り向き、その姿を確認する。

そこにいたのは、巨大な魚を握りしめる巨人だった。
能面を被った、人間離れした巨漢だった。

勝次は驚愕しつつも、慌てて支給品である拳銃を構えた。

(で、デケェ...ハゲより半身ぶんデケェ)

驚愕する勝次とは対照的に、男の感情は読み取れない。
仮面で顔を隠しているからではなく、拳銃を突き付けられているというのに一切の動揺もしていないのだ。
まるで、拳銃など屁でもないと言わんばかりに無反応だった。

ハァ、ハァ、ハァ。
ぴちぴちぴち。
互いの呼吸音が魚のもがく音共に空気へと溶ける。
数秒ほどの沈黙が続くと、男はくるりと踵を返し、海沿いに歩いていく。

拳銃に怯えた様子もない。敵意はないのだろうか。だったら、と勝次はゴクリとつばを飲み込んだ。

「あっ、あの、おっちゃん!」
「案ずるな。ワシはこんな殺し合いになぞ乗らん。ましてや脅しの為にしか武器を構えられぬ小僧など相手にもしてられん」

意を決しての呼びかけに、男は冷たく言い放った。勝次など取って足らぬ相手だと。
そこは少々頭にきた勝次だが、感情任せに引き金を引くほど愚かではない。
そもそも勝次は男を脅す為に呼びかけた訳ではないのだから。

「ごめんよおっちゃん。俺、アンタを脅したかったわけじゃないんだ。明って男と鮫島ってデケェハゲ知らないかな。あんたからしたらハゲも小せェかもしれないけどさ」

ピタリ、と男の歩みが止まる。

「小僧、貴様、明の知り合いか」
「おっちゃん、明のこと知ってんのか!?」

思わぬ食いつきに、勝次の顔は綻んだ。
よもやこんなところで明の知り合いに会えるとは。

「小僧。向こうにワシの着替えがある。そこで腰を落ち着け話を聞かせてもらおう」

そんな勝次に思うところがあったのか、男は勝次についてくるように促した。

178浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:03:01 ID:u7AC/3320




木造の小屋の中、勝次は服を着た男と共に食事を取っていた。
先ほど、男が海で獲った巨大な魚である。

「ウメェよおっちゃん!魚はやっぱり焼くのに限るぜ!」

勝次は満面の笑みで焼き魚にかぶりつく。
勝次はすっかり男に気を許していた。男の名は青山龍ノ介といった。

龍ノ介の話は勝次にとって非常に惹かれるものだった。
なんでも龍ノ介は明の師匠らしく、あのオババに丸太で殴り掛かった男も明の兄貴らしい。

(そりゃ、こんなスゲェ奴らに囲まれたらああなるよなぁ)

勝次は、明がなぜあそこまで強くなれたかを理解した。
同時に、そんな明たちでも倒しきれない吸血鬼たち―――ひいては、雅の強大さを思い知らされる。

(明...)

勝次は思う。自分は肝心な時にはいつも明の力になれていない。
金剛の時だって、姑獲鳥の時だって、ここにいる師匠や兄貴のような強く頼れる者たちがいれば明ももう少し楽に戦えたはずだ。
自分が、明のように強くなれれば...

ゴクリ、と唾を飲み込み、その勢いのまま、勝次は膝を地につけた。

「なっ、なァおっちゃん!」
「むっ」
「この殺し合いから抜け出たらさ、俺を鍛えてくれよ!俺も明みたいになりたいんだ!頼むよ!」
「......」


がばり、と身体を丸め、勝次は額を地に着けた。
土下座。彼なりの全力の誠意である。

龍ノ介は、勝次を見下ろしたまま沈黙する。
十秒。二十秒。
その数秒が、勝次にとっては非常に重苦しいものだった。

179浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:03:39 ID:u7AC/3320

「...顔をあげろ」

その言葉に、勝次は顔を綻ばせた。

「おっ、おっちゃ」

パ ン ッ

顔を上げたその瞬間、勝次の頬に衝撃が走った。
頬を叩かれたのだと、遅れて気が付いた。

「...こんなのを躱せない人間に教えることなどあるものか」

それだけ言って、龍ノ介は座り直し、再び焼き魚にかぶりつき始めた。

その姿を見ていた勝次は、ヨロヨロと立ち上がり―――龍ノ介に飛びついた。

「離れい、小僧!」
「ヘッ、クソ坊主、俺が叩かれただけで諦めると思うなよ!!」
「ワシは素質のない奴には教えん」
「関係ねェ!俺は強くなるんだ。強くなって、明の力になるんだよ!!」
「......!」

勝次を引き離そうと藻掻いていた腕を止め、龍ノ介は改めて勝次へと向き合う。

「小僧。貴様はなぜ強さを求め、明の力になろうとする。吸血鬼の撲滅のためか?あるいは親族の仇か?」
「明は俺の友達だ。友達の力になりたくてなにが悪ィんだよ」

ハァ、ハァ、ハァ。
再び見つめあい沈黙する二人。ややあって、口を開いたのは龍ノ介。

「...わかった」
「おっ、おっちゃ」

ブンッ。

振るわれる右の張り手を、勝次は飛びのき躱す。

180浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:04:17 ID:u7AC/3320
「へっ、何度も同じ手は食わね」

言い終わる前に振るわれる左の張り手。
体勢の崩れたいま、勝次にそれを躱すことはできない。

パ ァ ン

その威力に勝次の身体は宙を舞い、壁に背中を打ち付けた。

ヨロ ヨロ

が、受けた痛みに歯を食いしばり耐え、すぐに立ち上がった。

「...いまのを食らってすぐに立ち上がるとは、決意は本物のようだな」
「何遍も言わせんなよ。俺は殴り殺されるまで諦めねェぞ」

龍ノ介は息を呑む。
勝次は明や篤のように心底吸血鬼を恨んでいる訳ではない。
母を亡者にされたと言っていたが、その仇も殺したため、彼らほどの恨みはない。
だが、それでもなお彼は明の力になるため戦うと決意を固めている。
明を、友達を助けたいと強く願っている。

「小僧。ワシに出来ることは全て教えてやるが、それでも雅に勝てるとは限らんし、明のようになれる保証もない。それでもよいな」
「!ありがとうおっちゃん...いや、師匠!!」

満面の笑顔を見せる勝次に、龍ノ介は思う。

勝次の話してくれた、明の様子。
恐らく、勝次と明が出会っている頃には自分はもう死んでいるのだろう。

そして、雅が本土にいるということは、彼岸島における吸血鬼と人間の戦争は吸血鬼が勝ったのだろう。
自分には死んだ記憶などないが、近い将来にどこぞで殺され、神子柴による蘇生の際に記憶を弄られたのだと推測した結果、そう仮説を立てることができた。

その仮説は勝次には話していない。所詮仮説は仮説であるし、彼には自分に妙な気を遣わず、明の友であってほしかったからだ。

「飯も食い終わったことじゃ。そろそろ明たちを探しに行くとするか」
「おう、師匠!」

火を消し、明たちを探しに行こうと二人が小屋を出たちょうどその時だった。

暗闇の中、一人の男が歩いてきたのは。

181浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:04:40 ID:u7AC/3320




歩み寄ってきたのは、紫のターバンとコートが特徴的な大男だった。
男は勝次たちを見つけるも、走りも動揺もせず、ただ淡々と歩いてきた。

「止まれ!ワシらはこの殺し合いには乗っておらん!」

龍ノ介の静止の声に、しかし男は歩みを止めない。
殺し合いに乗る参加者か―――龍ノ介は、デイバックから支給品である鉄のハンマーを取り出し構える。
それに対しても男に変化はない。まるで龍ノ介たちのことなど見えてもいないかのように悠々と歩みを続ける。

「『殺し合い』か。全くもってくだらん」

ポツリと男が呟いた。

「神子柴とか言ったか...貴様は許せん。我らへの侮辱、その命で償ってもらう」

男は龍ノ介の言葉への返答ではなく、独り言をぶつぶつと呟いていた。

「なァ師匠、あの男、オババを許せないって言ったよな?なら協力してくれるんじゃないかな」

勝次の問いかけに、龍ノ介は小さく首を振ることで否定の意を示す。

龍ノ介は、この男の不遜な態度と異様な気配に宿敵・雅の影を見ていた。
人を人とも思わぬ外道。人間を遥かに超越した、吸血鬼の王の影を。

龍ノ介の警戒心とは裏腹に、男との距離はどんどん縮まっていく。

男からの殺気は未だに感じていない。それ故に恐ろしい。

「――――ッ!!」

龍ノ介の予感は当たっていた。
男が彼らの横を通り過ぎ、その数瞬後―――龍ノ介の胸が裂け、血が噴き出した。

182浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:05:57 ID:u7AC/3320

「し、師匠!」

困惑しつつも、龍ノ介の身体に手をやろうとする勝次を、龍ノ介は制する。

「心配はいらん。薄皮一枚じゃ」
「今のを防いだか。多少は腕に覚えがあるようだな」

男はここにきてようやく『会話』をし始めた。

「てめーなにしやがる!殺し合いなんざくだらねェって言ったじゃねェかよ!!」
「その通りの意味だ。このカーズと貴様ら下等種族が『殺し合い』などという対等な立場に立てる訳がなかろう」

震えつつも激昂する勝次の言葉に、男―――カーズはフン、と鼻を鳴らした。

「貴様...何者じゃ」
「死にゆく者に答える必要はない」

会話をするのも面倒だと言わんばかりに、カーズは腕から刃を生やし龍ノ介へと斬りかかる。

ガキン、と金属音が鳴り、龍ノ介のハンマーの柄とカーズの刃が競り合う。

「ほぉう、パワーだけならサンタナに匹敵し得るか...だ・が、その程度ではこのカーズを倒せんなァ」
「勝次...すぐのこの場から離れろ。こいつのことを明にも知らせるんじゃ」

カーズから目を離すことなく、龍ノ介は言葉を投げる。
自分が食い止めている間にここから逃げろ。長くはもちそうにない。
勝次は、龍ノ介のいわんことを既に理解していた。

だからこそ。

「離れやがれこの紫色ォ!」

警告と共に、発砲。
パァン、パァン、と甲高い銃声と共にカーズの腹部に銃弾が着弾する。

「なにをしておる!」
「うるせェクソ坊主!あんた明の師匠なんだろ!だったら会わなきゃダメだろ!こんなところで死ぬみたいなこと言うんじゃねェよ!!」
「勝次...!」

「小僧...その躊躇いのなさは評価してやろう。だが、おれにこんな玩具が通用すると思うなよ」

鍔迫り合いの最中、カーズは仰け反り上体を逸らす。
急な脱力に対応できず、龍ノ介の上体は前のめりに突き出してしまい、無防備な腹部を晒す。

そこに放たれるカーズの蹴撃、加えて。

ドスリ。

カーズの足から生えた剣が龍ノ介の腹部を貫いた。

「がふっ」

その衝撃に吐血し、宙に浮かぶ龍ノ介の身体。

「てめええェェェ!!」

怒りのままに発砲する勝次。
しかし、その弾はあっさりとカーズの掌に収まった。

「そぅら、返してやるぞ小僧」

口角を吊り上げながら、カーズは銃弾を握った手を突き出し、親指と人差し指の間に銃弾を挟み込む。

「避けろ勝次!カーズはお前目掛けて銃弾を弾くつもりじゃ!!」

龍ノ介の警告も時すでに遅し。
カーズの指は弾かれ―――


ギャンッ!!

183浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:07:08 ID:u7AC/3320


突如、横合いからカーズの首元に食らいつくような衝撃が走り、小屋の壁へと叩きつけられる。
その衝撃に押され、カーズの照準がブレ、弾も明後日の方角へと飛んでいく。

「ぐあっ、こ、これは...!」

カーズの首元を圧迫するモノの正体。
それは、赤く大きな蟹の腕だった。

「カーズ...それが貴様への地獄の手向けよ」

現れたのは、顔の右半分を機械で覆い、軍服を着た大男だった。


「こんなものでこのおれを...」
「ふんっ!」

龍ノ介の振るったハンマーがカーズの頭部を潰し血液が飛び散る。

「ごあっ」

カーズの口からうめきがあがるも、しかしその身体はなお健在。突き出された両腕は龍ノ介の身体を掴もうと力強く蠢く。

「むっ、これでも生きておるか」
「そこの日本人、追撃はいらん!!すぐにカーズから離れろォォォォォォ!!!」

軍人の叫びに龍ノ介が振り返り、言われた通りにカーズから距離をとる。


「喰ウゥゥゥゥらえィィィィィィィカァァァァァァァズゥゥゥゥゥゥ!!我がナチスと同盟国日本の科学が産んだ最高知能の結晶ォォォォォォ!!!」

軍人の雄たけびと共に軍服がはだけ、その鍛え上げられた肌色の胸部と異様な腹部が露わになる。
砲門だ。赤く雄々しい砲門が彼の腹部から露出していたのだ!!


「新兵器、まどキャノン!!これで貴様を地獄に送ってやるぜェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

軍人の砲門から放たれる小型のミサイル。
それは、コン、とカーズの身体を一度跳ね―――辺りを覆うほどの爆発を引き起こした。


眼前の光景にあんぐりと口を開ける勝次。
彼が我に返るよりも早く、軍人は勝次にかけより脇に抱きかかえた。

「日本人、俺についてこい!あの程度でカーズがくたばると思うなッッ!!」

龍ノ介は、軍人の言葉に従いあとに続く。

「あの船に乗るぞ!出航さえしてしまえばしばらくの時間稼ぎにはなる!!」

軍人が指さす先には、確かに巨大な船があった。
ルールに書いてあった、参加者用の豪華客船だ。

「お主はいったい...」
「俺の名はルドル・フォン・シュトロハイム!詳しくは船に乗ってからだ!」


かくして自己紹介の暇すらなく、彼ら三人は船へと飛び乗った。

その三人の背を、カーズは確かに睨みつけていた。

184浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:07:58 ID:u7AC/3320



「大丈夫かよ師匠!」
「案ずるな。この程度ではワシは死なんよ。...奴をあそこで仕留めるわけにはいかなかったのか」
「奴を侮るなァ!奴は柱の男!あの程度でくたばるなら苦労は無いわァ!」
「柱の男?」

勝次の質問に、シュトロハイムは険しい顔で語り始める。
柱の男と吸血鬼の関係性、人類側からの対抗勢力・波紋の戦士達、彼らとの永きに渡る因縁...
簡易的ではあるが、大まかな事柄を二人に伝えた。

(あいつが吸血鬼を...それに、明たち以外にもあいつらに抗う人間がいたなんて!明にも伝えねェと!)

吸血鬼に脅かされど、そのルーツを知らなかった勝次は素直に感嘆する。

一方の龍ノ介は、仮面の下で神妙な表情を浮かべていた。
彼は彼岸島で生まれ育ち、吸血鬼の成り立ちについてはよく知っている。
その陰に『柱の男』の存在など影も形もなかったし、元々は吸血鬼も容易く増やせるようなものではなかった。
だが、実際に『柱の男』はいた。シュトロハイムが語った吸血鬼と自分たちの知る吸血鬼はまた別の存在なのだろうか。

「ところで...先ほど、あのカーズに退かず立ち向かったあの勇気に私は敬意を表する。
先ほどの戦闘で奴の脅威はわかっただろう。ここは同盟国同士、手を取り合い奴ら柱の男に目にもの見せてくれようではないかァ!!」
「そりゃいいけどさ、この殺し合いはおっちゃんはどうするんだ?」
「フンッ、しれたこと...確かにあの老婆の語った報酬はチト気になる...が、しかし!俺は誇り高きドイツ軍人!!
俺が従うのは偉大なる総統閣下のみ!!あの愚物に殺せと言われてホイホイと従うほど恥知らずではない!
この殺し合いを潰したうえで、あの婆の言った報酬とやらを奪い取ってみせるわァ!!」

ワハハハ、と豪快に笑い飛ばすシュトロハイムに、勝次は思わず耳を塞いだ。

「して、龍ノ介とやら。お前の言葉通り、その腹の傷は致命傷ではないのかもしれんが、一応応急処置だけはしっかりしておくべきだ。
戦場において傷口の放置はあらぬ失敗を引き寄せるからな。まだこの船を調べきれていないのでなんともいえんが、消毒や包帯くらいはあるだろう。探してくるといい」
「探してくるといいって、おっちゃんは?」
「俺はもう少し後方を見張っておく。カーズが別の船を用意せんとも限らんからな」
「わかった。師匠、少し我慢しててくれよ」

階段を降りていく勝次を見送り、甲板にはシュトロハイムと龍ノ介が取り残される。

「...時に龍ノ介、ひとつ聞きたいことがある」

先ほどまでの大声とは打って変わって、シュトロハイムは神妙な声音で語り掛ける。

「その腹の傷...確かに致命傷ではない。が、しかし、我慢してどうにかなるモノでもなかろうに」
「なにが言いたい」
「その人間離れしたタフさ...明らかに人間のものではない。お前の身体の特性も不老不死の手がかりになるやもしれん。龍ノ介よ、神子柴を倒した後、お前にも我がナチスの医科学班に協力してもらいたい」

協力―――この軍人の言う『協力』とは、要するに人体実験のことだろう。
既に日本軍に似たような建前で一族郎党、実験体にされていた為、龍ノ介は彼の真意を解っていた。

そして、やはりかと思う。
彼らは自分たち『吸血鬼』についてはなにも知らない。
先ほどの柱の男やらが生み出す吸血鬼と、彼岸島の吸血鬼はまるで別物だと。

ならばこそ、だ。

185浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:08:39 ID:u7AC/3320

「『協力』するのはいいが、条件がある」
「なんだ?」
「ワシと共にこの会場に来ている吸血鬼『雅』を共に殺してくれ。そうすれば、ワシは思い残すことはなにもない」

そう。彼岸島の常識に囚われている自分では雅を倒せずとも、異なる異形を研究しているこの男や波紋の戦士とやらの協力があれば今度こそ雅を倒せるかもしれない。
無論、雅を殺した後は自分も自害し研究などに使わせる余地すら与えないつもりでいる。
長寿を望む研究者の行き着く先は同じだ。もしも自分が素直に研究に協力すれば、第二の雅が生まれることは想像に難くない。
約束を破ることになるのは気が引けるが、それでもこれ以上『雅』を増やすわけにはいかなかったのだ。

「吸血鬼か...安心しろォ!この身体になった俺ならば吸血鬼など恐るるに足らん!なァァァァァァァぜならァァァァァ!!!我がナチスの科学はs」
「大変だ師匠、おっちゃん!!」

世界一、と普段からの口上を叫ぼうとしたシュトロハイムを遮り、勝次が慌てて駆け上がってきた。

「どうした勝次」
「この船動いてねェんだよ!これじゃあ師匠を病院に連れていけねェ!」
「馬鹿を言うな。我らがこうしてカーズを撒けたのはこの船に乗れたから―――ッ」

チラ、と時計に目をやり、シュトロハイムは絶句した。

「...おいお前たち。この船は確か10分程度で向かい側の港に着くと書いてあったな」
「ウム。そろそろ件の港に着いてもよい頃じゃが」
「そう。10分程度...多少の前後はあるだろう。だが、俺たちはこの船に乗って既に15分以上が経過している!!なのに陸地はあんなにも遠い!!この船の行程は半分程度までしか進んでおらんのだ!!」

一同に戦慄が走る。
この船は停滞している―――なぜ。

「こ、壊れたのかよ」
「わざわざルールブックに載っているようなものが作動15分で壊れるなんて馬鹿なことがあるかァ!故障だとしても人為的なミスとしか思えん!」
「じゃがこの船は無人で動いているのは確認した。乗組員はワシら三人...しかし、つい先ほどまで一切離れておらんし、勝次が離れたのもものの数分...そもそも勝次に壊す動機がない」
「ああ。俺はなにも触ってねェ」
「と、なると、まさか...」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

三人の背に冷や汗が滴る。

―――いる。
この船を、悪意を持って壊し、三人を陥れようとする何者かが。
そして本能が警鐘を鳴らす。ここに留まるのは危険だと。

186浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:09:03 ID:u7AC/3320

「マズイ...非常にマズイぞ。この船は広いとはいえ限られた空間。相手が俺たちを捕捉するのも時間の問題だ!いや、すでにされているのかもしれん!!」
「どうするんだよおっちゃん!!」
「う、うろたえるんじゃあない!ドイツ軍人はうろたえない!!なにか策を練らねば...!」
「いや...その余裕はなさそうじゃ」

ズ ン ッ
三人の足元から地響きのような衝撃が走り、足元は浮遊感に襲われる。
勝次は尻もちをつき、シュトロハイムと龍ノ介もぐらりと上体を崩してしまう。

「うわっ、なんだこれ気持ち悪ィ!!」
「ま、まさか...まさか敵は...!!」
「ウム。恐らく、この船のエンジンを壊し、船の一部も壊したのだろう。この船が沈むのも時間の問題じゃ」
「待てば藻屑、待たずとも藻屑...選択肢は最初から『この船から脱出する』以外にはなかったということか。ええい、味な真似を!!」
「急いで脱出しねーと!」

くるりと踵を返す勝次。

瞬間。

ボッ

「―――えっ」

床下から、一筋の閃光が走る。

同時に、勝次の足元へと垂れる赤い雫。

遅れて、ドチャリ、と音がした。

そして、地面に落ちたソレを認識してようやく理解した。

あの閃光の刹那、自分の左腕が切断されたことを。

「うわああああああああああ!!」

勝次の絶叫が響き渡り、切断面からじわじわと痛みが滲んでくる。

「ンンンンいい声だ...実にいい響きだぞ小僧」

それを嗤う者が一人。芸術のように磨き上げられた肉体が床下から這い出てくる。

そう。そいつの名は。ソイツの名は!!

「カァァァァァァァァァズゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

187浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:10:05 ID:u7AC/3320




「オオオオォォォオオオオ!!!」

雄たけびとともにシュトロハイムがカーズへと躍りかかる。

フン、と鼻を鳴らし、カーズは右腕から生えた刃―――『輝彩滑刀の流法(モード)』を振るう。
それに対し、シュトロハイムは、組み合わず、身をかがめ地面を転がった。

その先には、激痛に蹲る勝次。
シュトロハイムは勝次を抱きかかえ体勢を立て直す。彼の狙いは勝次の救出だったのだ。

「ほう。組み合わず躱すとは...おれのこの『輝彩滑刀の流法』の恐ろしさは理解しているらしい」
「この身を以ての経験を無下にするほど俺は愚か者ではない。...悔しいが、ジョジョがいない今!俺たちは圧倒的に不利な状況にいる!!
しかしどうやって!カーズ、貴様はどうやってこの船に乗り込んだのだ!!」

シュトロハイムは出航後も不審なボートや小舟が追ってきていないか見ていたが、そんな影は微塵もなかった。
如何に柱の男といえども、素潜りでは船ほどのスピードでは泳げない。
ならばなぜここにいる。

「シュトロハイムよ。貴様のくれた手向け、中々イイ代物じゃあないか」

カーズの左掌に乗せられるのは、シュトロハイムが彼に撃ち込んだまどキャンサー。
その後部から伸びるロープを見て、シュトロハイムは彼がこの船に乗り込めた理由を知った!

「き、貴様カーズっ!ロープを繋いだまどキャンサーを船に打ち込み、そのロープを辿ってきたというわけか!道理で追手の船が見当たらぬはずだ!!」

常人ならば、それでも追いつけはしないだろう。だが、柱の男の身体能力があればそれが可能!!

「...どうやら逃げ場はないようじゃな」
「龍ノ介、迂闊に『輝彩滑刀の流法』を受けようなどと思うなよ。カーズがその気になればお前のハンマーも容易く切られてしまうだろう」
「おっちゃん、師匠、俺...」
「小僧、這ってでもいい。なるべく壁に背を預けておけ」


シュトロハイムは勝次を下ろし、龍ノ介はハンマーを構えながらじり、じり、とカーズとの距離を詰めていく。

「「オオオオオォォォォォ―――!!!」」

二人の雄たけびが重なり、同時にカーズへと殴り掛かる。
龍ノ介のハンマーが、シュトロハイムの機械仕掛けの剛腕がカーズへと振るわれるが、しかしカーズは寸でのところで回避、返す刀で両者への反撃。
二人もまた、必死に身を捩りどうにか躱す。

カーズも二人も、互いの攻撃が芯を捉えることがないまま1分程度が経過するが、わずかその間だけで彼らの"差"が顕著になり始める。

未だ傷一つついておらぬうえ、息も乱さぬカーズ。

徐々にかすり傷が増え、微量ながらも出血し始め、呼吸も荒くなる龍ノ介とシュトロハイム。

どちらが有利かは火を見るよりも明らかだ。

そして、均衡はあっさりと崩れ去った。

188浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:10:42 ID:u7AC/3320
ドスリ。

再び、龍ノ介の腹部にカーズの足から生えた刃が刺さる。

「がふっ」
「このまま」
「させぬぞォォォ!」

両断させまいと、シュトロハイムは龍ノ介の腹部より貫通した刃を掴もうとするが、しかしカーズは龍ノ介を斬るのではなくそのまま足で持ち上げた。

「なっ」
「フンッ!」

まるでプロサッカー選手のように足を振るえば、龍ノ介の身体がシュトロハイムへと勢いよく飛んでいく。
回避の間に合わぬシュトロハイムは、正面から龍ノ介の全体重と衝突し、後方へと吹き飛ばされた。

その衝撃で吐血し、臀部を地に着ける二人。
改めて思い知らされる。いま戦い続ければ間違いなく敗けると。

「お、おのれ〜〜...こうなれば...」

シュトロハイムはこそこそと龍ノ介へと耳打ちをする。
それを見たカーズはフン、と鼻を鳴らしせせら笑った。

「なにをこそこそしている。どちらが先に死ぬか相談でもしていたか?」
「カーズ...この俺に完全勝利を収めたと思うなよ。我がナチスの科学は世界一ィィィィィ!!!」

ウィンウィンと作動音が鳴り、シュトロハイムの機械仕掛けの右目が蠢き開く。

「紫外線照射装置作動ォォォ!!」

そこから放たれるは光。柱の男が唯一苦手とする紫外線!
紫外線はカーズが咄嗟に翳した手を貫き通した!さすがのカーズもこれには動揺した!!

「WONUUUUUU!!」
「そしてェェェェェくらえまどキャノン!!」

発射される砲弾はまたしてもカーズを爆発に飲み込み、その火は船上に燃え移った。

189浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:12:17 ID:u7AC/3320
「いまだお前たち!この船から脱出するぞ!」

シュトロハイムが指さす場所は、海面。
ここから飛び降りる。そう告げているのを、二人は理解した。

チャンスはカーズの視界が塞がれているこの瞬間しかない。
龍ノ介は勝次を抱き抱え走った。

「飛べェェェェェェェェェェ!!」

甲板を蹴り、海へと飛び出す二人。
そう。二人―――シュトロハイムと勝次。

二人は共に「えっ」と声を漏らす。

「勝次よ。お前は生きろ。生きて、明と会え」

龍ノ介は、勝次を放り投げ船に留まっていた。

「シュトロハイム!勝次を頼んだぞ!!」
「キッ、貴様、龍ノ介!!...その覚悟、受け取ったぞ!!」

龍ノ介の行動に面を食らったシュトロハイムだが、その意図を汲み、勝次を引き寄せ、可能な限り勝次への衝撃を減らすように抱き抱えながら着水する。
水面から顔を出し、ぷはぁと息を大きく吐く二人は即座に次の行動に移した。
シュトロハイムは陸地へと向かうよう方角を確かめ、勝次は龍ノ介のもとへ行こうと船の方へ。

「テメェクソ坊主!!言ったじゃねェかよ!!あんたも明と会わなきゃ駄目だって!!」

叫ぶ勝次。その勝次の襟を掴み、シュトロハイムは抱き寄せ陸地へと泳ぎ始める。

「離せクソ軍人!!俺ァ師匠を見捨てねェぞ!!」
「甘ったれるな小僧ォ!戻ったところで今の貴様になにができる?腹を刺された奴以下の戦力の、片手落ちの貴様がカーズの相手が務まるとでも?
奴の覚悟を無駄にしたいのかァ!?」

シュトロハイムの言っていることは勝次でも解る。あの目くらましは一時的なもので、三人纏めて泳いで逃げるよりは、一人が残り時間を稼いだ方が誰かが生存する確率が高いと。
それでも納得できなかった。納得するには、勝次はまだ幼かった。

「いやだ!いやだ師匠ォォォォォォ!!」

シュトロハイムに引っ張られ、徐々に船から遠ざかっていく。
勝次の叫びに返ってくるのは、燃え盛り崩れていく船の音だけだった。

190浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:13:10 ID:u7AC/3320



ハァ ハァ ハァ

「よもや一人で残るとはな...」

龍ノ介のハンマーを持つ手に力が籠る。
眼前に立つその姿は、爆撃を受けても尚も健在。そして美的。
カーズは、先ほどまでと変わらぬ姿で立っていた。

「ひょっとして、一人で充分な時間が稼げると...本気で思っていたのか?」

龍ノ介を意にも介さないかのように、すたすた、とカーズは歩を進める。

「うおおおおおお!!」

吠える。吠える。傷ついた己の身体を鼓舞するように。
カーズはそれを冷ややかな目で眺めている。
無駄だ。どれだけ頑張ろうと結果は変わらんと。

龍ノ介がハンマーを振り下ろす。
寸前に迫ってもカーズはソレから目を逸らさない。寸でのところで躱し、最小限の動きで龍ノ介の懐に入り込む。

―――シャッ

右腕の刃による二振り。
一撃目は、龍ノ介の腹部を真横に裂き、上半身と下半身を両断。
二撃目は、彼の仮面を割りその素顔を晒した。

戦いは、余りにも静かに決してしまった。

191浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:14:04 ID:u7AC/3320
「ただの人間ではないと思ってはいたが...そうか貴様は吸血鬼だったか」

露わになった龍ノ介の素顔を見て、カーズは小さく鼻を鳴らした。

「我らの餌の中ではそこそこの使い手だったが所詮餌は餌。このカーズに立ち向かうなどおこがましいわ」

ギラリ、と眼光と共にカーズの右腕の刃が光る。
龍ノ介の首を刎ねるため、カーズは刃を振り下ろした。

「ッ!」

刃が龍ノ介へと届く寸前、ビタッとカーズの腕が止まる。
その原因は、カーズの腕を掴む腕。
上半身だけになった龍ノ介が、残された両腕でカーズの腕を掴み止めたのだ。

「貴様...どこにそんな力が...」

振り切れない。柱の男の身体能力を以てしても龍ノ介の両腕は剥がれない。
死の淵に瀕した火事場のバカ力とでも言うのか。

「無駄な抵抗をする...大人しくしていれば早々に楽になれたものを」

カーズの左腕から刃が生える。
龍ノ介が腕を離すのを待つ間もなく、切断するつもりだ。

もはや動けぬ龍ノ介に打つ手はない。このまま達磨にされ、首を斬られて死ぬのを待つだけだ。

(...いや、まだ終われん!!)

いま死ねば間違いなくカーズは勝次たちに追いついてしまう。
カーズが彼らを見失うまで、なにがなんでも止めなければならない。

(なにか手段はないか。なにか―――)

カーズの刃が振り下ろされる。瞬間、龍ノ介の思考は彼方に吹き飛んだ。
それは本能か意地か。彼は無意識下に口を大きく開き、カーズの右腕に噛みついた。

そして。

シャッ

光の線が走り、龍ノ介の頭部と身体が切断された。

192浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:17:59 ID:u7AC/3320

「最後の最後までしつこい餌だ」

カーズは未だ腕に食らいつく龍ノ介の頭部をはがそうと手をかける。

―――ガクリ。

カーズの視界がブレる。足場が揺れたのか?違う。彼の足が笑い膝をついたのだ。

「な...なんだコレは...?」

突然だった。
未だかつてない寒気と脱力感、痺れが身体に一気に押し寄せてくる。

それだけではない。

「ムゥッ!?」

―――プシュー ドボドボドボ

カーズの褌を突き破らん勢いで股間より小便が放出される。

「KUAAAAA...こ、こんな...!!」

ふらふらと覚束ない足取りで尻餅を着くカーズ。
それを見た龍ノ介は心中で嗤った。

(まさか貴様の血で助けられるとはな、雅)

龍ノ介は吸血鬼の混合種(アマルガム)。
その生命力は並の吸血鬼を遥かに凌駕し、また、雅同様、普通の吸血鬼としての力も有している。
彼の吸血は、カーズにすら例外なく効果を齎したのだ。

(勝次...ワシのことは気にするな。ワシは所詮過去の亡霊よ。未来を紡ぐべきはワシではない。お前たちじゃ)

龍ノ介の瞼が重くなっていくにつれ、生命の灯が消えていくのも実感する。
彼の並外れた生命力でも、首を断たれてはもはやどうしようもなかった。

(明...篤...雅を倒してくれ...勝次...どうか...我が愛弟子たちの心を救ってやってくれ...お前たちが...ワシらの希望...)

『龍ノ介殿』
『お頭』


沈んでいく意識の中、思い浮かぶは仇敵ではなく彼岸島で散っていった住民たち。

『お父さん』
『師匠』

そして、家族と家族のように慕ってくれた者たちの笑顔。
かつて過ごした幸せだったあの日々に微睡むように、龍ノ介の瞼はそっと閉じられた。


【青山龍ノ介(師匠)@彼岸島 G-8、海上にて散る】
※師匠の参戦時期は少なくとも明が弟子入りした後でした。
※師匠の支給武器であるピピンのハンマー@ベルセルクは海に沈みました。

193浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:18:55 ID:u7AC/3320



地図にしてG-7に位置する港。
シュトロハイムは、10分以上泳ぎ続けようやくここまで辿り着いた。

「ゼェ――ゼェ――ッ、つ、着いたぞ小僧」

上陸したシュトロハイムが己の背に縛り付けた勝次に声をかけるが、返事はない。
慌てて勝次を下ろし、呼吸を確認する。
異常はない。が、失血による疲労は顔にも表れている。
ある程度の応急手当を施し、まどキャンサーを装着させることで止血は済ませた為、失血死はないだろうが、落ち着き適切な処置を行える場所を探すのが先決だろう。

「輸血のことを考えれば病院へ向かうべきか。しかし殺し合いに輸血パックが置いてあるとも限らんし、殺し合いに乗った参加者が待ち伏せしている可能性もある...ここはやはりJOJOを探し波紋を頼むか?しかし奴がジョースター邸の近くにいるかもわからん...ええい、どうすればよいのだっ!!」

シュトロハイムは考える。
どちらへ進むべきか。勝次を、青山龍ノ介に託された命を救える場所はどちらなのかを。

振り返り、先ほどまで乗っていた船が燃え盛り崩れ落ちていくのを見つめる。
右手を掲げ、敬礼と共に勇敢なる戦士への賛美と勝利への誓いを立てる。

「迷っていたところで仕方あるまい...こちらに進むとしよう」

くるりと振り返り、方針を定め、歩き出すシュトロハイム。
その背で眠る勝次の目から、スゥ、と一筋の涙が流れ落ちた。




【G-7/1日目/黎明/港】


【山本勝次@彼岸島】
[状態]身体にダメージ(中)、師匠を喪った悲しみ、左腕切断(止血済み)、疲労による睡眠。
[装備]14話で堂島正が殺したヤクザが撃った銃@血と灰の女王、まどキャンサー@魔法少女まどか☆マギカシリーズ×1(左腕の止血用)、切断された左腕
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[行動方針]
基本方針:オババをぶっ倒す。
0:......
1:シュトロハイムと行動する。
2:明、鮫島との合流。師匠の知り合いの宮本篤、西山も探す。
3:金剛、カーズへの絶対的な敵対心。

※参戦時期は母ちゃんが死んだ後。

【ルドル・フォン・シュトロハイム@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]疲労(大)、全身にダメージ(中)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1、、まどキャノン@魔法少女まどか☆マギカシリーズ
[行動方針]
基本方針:このくだらんゲームを止め、主催共を粛正する。
0:病院かジョースター邸か...
1:同志を集める。
2:ジョセフ・ジョースター及びロバート・E・O・スピードワゴンと合流する。
3:柱の男及び吸血鬼(いるのなら)を倒す

※参戦時期はカーズに身体を両断された直後。
※腹部に仕込まれている機関銃は没収されました。代わりにまどキャノンが装着されています。


※支給品解説

【まどキャンサー@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
マギアレコード紹介漫画、マギア☆レポートに登場するまどか先輩の武装のひとつ。
因果を断ち切るVサイン、もとい蟹の手の形をしている。
こう見えて斬撃も衝撃も与えられる万能武器。
手先は案外起用で犬のフンをつまんだ後におにぎりを握ったこともあるほど。



【まどキャノン@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
同上。
最大の火力を持つキャノン砲に加え、ミサイル、レーダーを装備し、長時間の作戦行動では膝にも爆弾を抱える重装備。
砲撃時には自前の双眼鏡で照準を合わせるよ。

194浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:20:22 ID:u7AC/3320

ザバァ。
シュトロハイム達とは対岸側の港。
船の崩落と共に海に沈み、波にさらわれたカーズは近場の陸に上陸していた。

「おのれ神子柴とやらめ...この身体の異変も貴様の仕業か」

地に背を預けながら、カーズは空を忌々し気に睨みつける。
異変に気が付いたのは戦いの最中だった。

全力で動こうとすれば、なにかに抑えられるような違和感と共に動きは想定よりも鈍くなり。
輝彩滑刀の威力は明らかに落ち。
柱の男の普遍的な能力のひとつである吸収も、自動で吸収できるのではなく、意識して使わなければ発動せず、流法との併用も気軽にはできない。
もちろん吸収速度も落ちている。

その所為で、龍ノ介の最期の抵抗に不覚をとる羽目になったのだ。

「エシディシ...」

休憩のため身を隠しつつ、ここに連れてこられている男の名前をつぶやく。

彼は死んだ。波紋戦士であるジョセフ・ジョースターとの闘いで死んだ筈だった。
その彼が名簿に載っている。死んだふりをして身を潜めていたのか?あの見せしめで殺され蘇らせられた男のように生き返らせられたのか?

なんだっていい。生きているのならば合流するしかあるまい。
生きて、共にワムウのもとへと帰還する。必ずだ。

そしてジョセフ・ジョースター。
あの男は始末する。
奴との再戦を心待ちにしているワムウには悪く思うが、エシディシを倒した男を放っておくわけにはいかない。

(神子柴...貴様の目的がなにかは知らん。だが勝利するのは我らだ。我ら二人が貴様ごときに頭を垂れると思うな!!)




【F-1/1日目/黎明/港】

【カーズ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]疲労(中)、失禁
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、頑丈なロープ@現実、青山龍ノ介の首輪×1、まどキャンサー×1@魔法少女まどか☆マギカシリーズ(シュトロハイムの支給品)
[行動方針]
基本方針:エシディシと共に生き残る。
0:少し休憩をとる。
1:首輪のサンプルを集め、解析する。
2:ジョセフ・ジョースター及びシュトロハイムは始末しておきたい。


※参戦時期はエシディシ死亡以降。
※吸収能力は制限されています。自分で使おうと意識しなければ使えず、流法との併用はかなり体力を消耗します。


※港間を渡る豪華客船が燃え尽きました。第一回放送までに新しい船が主催側より配置されます。

195 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:22:48 ID:u7AC/3320
投下終了です

魔鬼邑ミキ、不死川玄弥を予約します

196名無しさん:2020/01/25(土) 00:27:31 ID:aA0WfJJE0
投下乙です

し、師匠…!!かっちゃんを鍛え明さんと再会して欲しかったが脱落して辛ェなぁ…
さらっとまどか先輩の武装が登場して草が生えたからチクショウ!

197 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/29(水) 00:42:02 ID:/A5OuY3M0
>>195の予約から玄弥を外して投下します

198マイペースで進めばいい ◆ejQgvbRQiA:2020/01/29(水) 00:43:09 ID:/A5OuY3M0
「だぁ〜〜〜っ、仕留められなかった!!」

あたし、魔鬼邑ミキは悔しさで地団太を踏んだ。

最後の一人になるまでの殺し合い。
そんな人道外れたゲームの主催者、オババこと神子柴が乱入者たちのお陰で隙だらけになったのでとっ捕まえようとしたら琵琶が鳴って、意識が飛んで、気が付いたらこのザマよ。
情けない。こんな有様じゃ今は亡き大柴先生に喝を入れられちゃう。

スゥッ、と息を吸い、パンパン、と顔をたたく。

「うしっ!闘魂注入!!」

死人が出てしまったとはいえ、恐怖に屈してオババの言いなりになる訳にはいかない。
...もちろん、すぐに頭を切り替えられるかって言われたら、まあ、無理だけどさ。
でもここで足を止めたところで、悔やみまくったところでなにか解決するわけでもない。
辛くても苦しくても、前に進まなくちゃいけないんだ。

「さてさて、配られた名簿とやらをチェックしてみようかな」

絶対に嫌だけど、もしかしたらあたしの知り合いも誰か巻き込まれてるかもしれない。
で、チェックしてみたところ、やっぱりいましたわ。
あたしの幼馴染兼居候の恋人でデビルマンアモンのアキラくん。
もう一人、我が義理の妹にしてテレパシー使いの秀才美少女、ツバサ。

その名前を見つけた時、あたしは思わず膝を抱えへたり込んだ。

あぁ〜もう、なんで連れてこられちゃうかなぁ〜。

そりゃこんな場所に一人放り込まれたら不安だし心細いよ。
実際、あの二人と一緒だったら敵なしだし頼もしいし。もちろん、二人とも殺し合いなんざ賛成しないってわかってる。
でも、でもだよ?
大切な人たちがあたしの知らないところで殺されてるかも、とか、アキラくんこの空気にあてられてヤンキーモードになってないかなとか、不安の方が大きくなっちゃうのは仕方ないでしょ。
戦う力がない学校の人たちやら家族が連れてこられてないのはまだよかったけどさ。
ぐぬぬぬぬ...あのオババめ、悪魔族(デーモン)じゃないとは思うけど、あんたが人間でも許せない範囲ってのはあるんだよ。
次に会ったら絶対にグーパン叩きこんでやっからね!

199マイペースで進めばいい ◆ejQgvbRQiA:2020/01/29(水) 00:44:46 ID:/A5OuY3M0

で、アキラくんたちと合流して殺し合いをブッ壊そうって意気込むのはいいけど、どこで合流するかだよね。

「地図、地図っと...は?あたしの家があんじゃん!!」

地図に記されていたあたしの家。
なんだこれ。あたしの家を引っこ抜いて持ってきたの?パパたち困ってない?
ムキー!勝手に人様の家を引っ越しさせおって!グーパンに加えて慰謝料ないしは損害賠償も徴収決定だ!


まあ、なんにせよ知ってる施設があったのは幸いだ。
ここならアキラくんもツバサも楽に合流できるだろう。

んじゃあ、目下あたしの家まで向かいますか!


あたしがそう方針を決めた時だった。





―――ズウン

何かが崩れる音が、どこか遠くない場所で響き渡った。





【E-7/1日目・深夜】


【魔鬼邑ミキ@デビルマンG】
[状態]健康
[装備]魔女っ子の衣装
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:打倒主催者。殺し合いには絶対に乗らない!!
0:ひえっ、なんの音!?
1:アキラ、ツバサと合流する。


※参戦時期は14話のあたりです。
※無惨が見滝原中学校を破壊した音を聞きました。

200 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/29(水) 00:45:21 ID:/A5OuY3M0
投下終了です

201名無しさん:2020/01/29(水) 20:28:16 ID:GbPfwSe.0
乙です
ミキも御子柴に対しアクション起こしてたんだよなぁ、それが吉と出るか凶と出るか
参戦時期がアキラと同じじゃないのも一見幸いだけど無惨様が近くにいるのがヤバい

202 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:13:16 ID:vYKtjpqc0
遅くなって本当に申し訳ない。
ひとまず感想から


> IDENTITY CRISIS
やはりそこから来たかアキラ……
一番きつい時期からの参戦で天を仰ぐ思いです
そして案の定いるよなサイコジェニー
刹那主義という意味ではアモンもジェニーも同類で、それを眺めるシレーヌの方がむしろ悪魔らしからぬなんですかねえ
そしてなんか国会議事堂に色々いる!最近流行りの噛みつき爆弾型吸血鬼まで!蟲の王もびっくりの国会議事堂で、主催陣混沌だなあ

> 浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて
師匠と勝次、時を超えた明さんの仲間の邂逅!彼岸島も随分やってるからなあ
シリアスに彼岸島の空気感を再現しててこのへん好きです
そこからカーズとシュトロハイムが現れてお、空気がジョジョになったかなって思ったらまどキャノンは笑う
フレーバーを信じるとすげえ兵器だし実際この戦闘で活躍してるんだけど出展的に草不可避
そして師匠ォォォォォォ!!さすがだよ、邪鬼になっても消えない正義は健在だよ
カーズを噛んでアマルガムがさらに進むか?とドキドキしたけどそうはならず、二人を助けられてよかった
あとはカーズとシュトロハイム、数少ない首輪解除候補だからここから進展してくれるかな……

> マイペースで進めばいい
ミキちゃん、シレーヌのことをまだ知らない時期から参戦でさらりと不安……
アキラもやべえ時期参加だし、デビルマン勢どうなるやら
真っ先に気にする家のことはなんか所帯じみたというかミキちゃんってそういうとこある
で、無惨様
開幕拡声器紛いのことやらかしてたわ……てか今更気付いたけど日が昇ったら隠れられる建物壊して目立ってどうすんだあの鬼
でもまあ脅威ではあるからアレが近くにいるのはやべえという
この近辺がまず日の出までの山になりそうかなあ

改めまして黒死牟、ジョナサン・ジョースター、七海やちよ投下します

203月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:14:16 ID:vYKtjpqc0

焦燥と混乱が七海やちよの中で激しく渦巻いていた。
突如殺し合いに巻き込まれたといっても、平時であればもう少し平静でいられたかもしれない。
魔法少女……願いを叶える代価に魔女という怪物を退治する戦士になってもう7年にもなる。
自他ともにベテランと認める彼女の経験からくる冷静さは、異常事態においても即座に対応を試みるだろう。
しかし彼女とて木石の塊というわけではなく、当然冷静さを失うこともある。

魔法少女となった自分の魂が宝石に変えられてしまっていると知った時。
今まで倒していた魔女が自分たち魔法少女の成れの果てだと知った時。
大切に思っていた仲間の死に立ち会ってしまった時。
その仲間の死の原因が自分の願いのせいではないかと思い至った時。
何より、それらの記憶を一度にフラッシュバックさせられた時。

記憶キュレーターのウワサという怪異に立ち会った彼女は、それらの過去を共有する親友の記憶を見せられ、動揺のさなかにいた。
そこに神子柴の狼藉を叩きつけられ、理性的な行動をとれる人物の方が稀であろう。
……かろうじて揺らがなかった彼女の根幹にある倫理観・正義感が今の彼女を幽鬼のようにゆっくりとだが動かしている。
支給されたバッグを漁り、まず目についた名簿を確かめる。

(環さん、二葉さん、御園さん……それに鹿目さんに暁美さん、佐倉さん……巴さんまで)

見知った名前がいくつかある。もう仲間ではない…仲間ではないが、それでもこんな事態に共に巻き込まれてしまったことに何も感じないというほど冷淡にはなれなかった。
無事に生き延びてほしいと少しだけ想う。
続けて名簿を隅々まで何度も見渡して、つい親友の名前を探してしまう。

(みふゆはいない……)

その事実に安堵の息がホッと漏れるが、いくつかの疑問は浮かんでくる。

(二葉さんはいるけれど、鶴乃とフェリシアはいない。アリナはいるけれど、みふゆともう一人のマギウス…里見灯花はいない。
 あの場にいた全員が連れられてはいないけど、どういう基準で?)

マギウスが関わっているのかと少しばかり考えたが、それならアリナがいるのもせっかく洗脳した二葉さながいるのも奇妙な話だ。
いくらなんでも切り捨てるには早すぎるだろう。
とはいえ考えたところでここにいる理由もいない理由も分かるはずもなく、詳しい事情を知りたければ本人たちに会って聞くしか―――

(いえ、それはダメ。一人で戦わないとまた私の願いで人が死んでしまう)

七海やちよは大多数の者がそうであるようにかつてキュウべぇという白い妖精と契約し、願いを叶えられたことで魔法少女となった。
託した願いは≪リーダーとして生き残りたい≫というもの。
生き残りたいというのは文字通りの意味ではなく、読者モデルをやっている彼女が芸能界で活動しているユニットで生き残りたい、という意味であった。
しかし彼女が実際に口にした願いは上記のものであり、そして魔法少女の固有魔法は願いから派生して成立するものである。
後の魔法少女としての戦いの日々で、彼女を庇うような形で命を落とした仲間が二人いた。

『未来へ進んで』
『守れてよかった』

最期に二人がそう言い残して彼女を守るように逝ってから、彼女には一つの疑念がついて離れない。
リーダーとして生き残ることを願った自分は、周囲の全てを犠牲にしてでも自分だけは生き残る魔法を身に着けてしまっているのではないかと。

そのため彼女はこの殺し合いにおいても一人で戦おうとしている。
誰も巻き込まないために。誰も死なせないために。
苦難の道ではあるが、進むことを七海やちよは決めた。

名簿には目を通した。
続けてルールも熟読する。
そして支給品を取り出して検めると

204月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:14:46 ID:vYKtjpqc0

「笛……?」

まず最初に出てきた物は木を削って作っただけの簡素な笛だった。
笛を武器にする魔法少女に心当たりはあるが、この笛は別段特別なものでもないらしい。
非常時に備える笛というのに心当たりはある。
災害に巻き込まれた時や遭難した時などに大声を出して助けを求めているとすぐに喉がつぶれてしまうので、自分の居場所を発信するためにこうした笛やあるいは鈴などを用いるというものだ。
災害時の避難グッズなどにも導入されているらしいが、殺し合いという状況で濫りに自分の居場所を知らせたいとは思わない。
軽く吹いてみると一応音は出るが、そう使うこともなさそうで、ハズレを掴まされたなとバッグにしまおうとするが

「女……なぜお前が…それを持っている……!?」

持ち主としてふさわしくないという意味で、その笛はやちよが想定する以上のハズレであった。



◇ ◇ ◇



黒死牟



名簿に書かれた自分の名前はすぐに見つかった。
人間であった頃は別の名であったが、主君の手によって鬼に転じてこの名となってから久しい。
人間時代の名で書かれていたら見つけるのにむしろ余計な時間がかかったかもしれない。
続けて近くに並べられた見覚えのある鬼の名が目に入る。




鬼舞辻無惨 妓夫太郎 堕姫 猗窩座



どれもここにあるのは少しばかり悩みの種になる名だ。

(無惨様は…解毒はすまれたのか……
 猗窩座……つい先刻鬼狩りめらに…討たれたはずだ……
 妓夫太郎に堕姫……この者らも……
 あの老婆……鬼まで…黄泉還らせたか……)

鬼舞辻無惨は裏切者の作った人間化薬を盛られ、その分解の時間を稼げと黒死牟たち鬼に命じていた。戦場に立てる状況ではないはず。
猗窩座はその戦いの中で、妓夫太郎と堕姫はそれ以前に命を奪われた。ここにいるわけがないのだが、神子柴のしたことを信じるならば真の猗窩座たちが蘇生しているのだろう。

(確かに…猗窩座の気配を感じた……今は分からんが……
 妓夫太郎も…いたやもしれん……)

右手にの刀を握る力を強め、神子柴に斬りかかろうとした瞬間のことを思い出す。
たしかにいくつか覚えのある感覚がした。鬼と鬼殺の剣士何人か、自らの子孫の気配も。

(あの者を…鬼に誘いはしたが…猗窩座と妓夫太郎が戻ったのならば…不要であろうか……
 いや…また討たれぬとも…限らぬか……)

玉壺を斬った柱、それに妓夫太郎を斬った柱もいるとあっては鬼の百戦百勝を妄信できるほど黒死牟は楽観できない。
一度は自分と鳴女以外の十二鬼月は全滅したのだ。さらにその鳴女が離反したとあっては、もはや前任の上弦であろうと信用しきれない。

(私が…動かねばなるまい…)

考えることは多い。
鳴女の裏切り。
黒死牟の推挙した新参の陸はともかくとしても、なぜ童磨に半天狗、玉壺でなく猗窩座と妓夫太郎がここにいるのか。
首輪が爆発すれば死ぬというが、鬼まで殺すということは日輪刀に近似したものなのか。
何より憂慮すべきはここに飛ばれてからまったく無惨の声が聞こえないこと。
この調子で鳴女も珠代なる鬼と同様にこれ幸いと離反したのか。
黒死牟自身がまだ生きているのだから無惨の命は無事ではあるのだろうが、毒から回復していたとしても万全であるとは限らない。
自らの足で動かねばならなくなったが、無惨に仇なすもの―――裏切った鳴女や神子柴なる狼藉者も含めて―――を全て斬り捨てるべく闇の中に一歩を踏み出そうとする。

………………発達した鬼の聴覚が小さな笛の音を捉えた。
跳ぶ。
その音を知っていた。その音が二度と鳴るはずがないことを知っていた。
懐に、あるべきものがないことに今気づいた。
………………音の出どころにはすぐに辿り着いた。

「女……なぜお前が…それを持っている……!?」

205月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:15:15 ID:vYKtjpqc0

神子柴を斬るべく抜き放っていた刀を衝動的に振るう。
矮小な小娘などその一太刀であっけなく首が地に落ちる、黒死牟はそう考えていた。
だが現実はそうはならない。
刀を振るわれたやちよは黒死牟の異様な風体と殺気に一瞬驚きはするものの、攻撃範囲からは即座に離脱していた。
その予想外の速さに黒死牟は六つある目をわずかに見開き仰天する。

(背丈は…女にしてはある……肌艶もいい…栄養状態は…上々……
 しかし…細い……手足も…筋も…
 鍛えては…いるようだが…武人の体つきとは違う…あれほどの速さには…ならない筈だが……)

黒死牟の視線がやちよの体の上を走り抜けた。
透き通る世界、無我の境地、至高の領域―――呼び方は様々だが、弛まぬ努力の果てに辿り着く武人の究極に黒死牟は至っている。
肉体のあらゆる感覚を完全に掌握・認識し、世界も見て感じとれる領域にまで至った者は人体を透き通って見ることができるようになるのだ。
その力で七海やちよの体の組成を観察した結果が黒死牟には珍しい困惑だった。

平成の日本に生まれ育ったやちよは、黒死牟の経験してきた戦国から大正の世に比べて食や生活の環境が発展しており、女にしては恵まれた体躯をしているように黒死牟には映った。
モデルとしての美意識や、日常的に行われる魔女や使い魔との戦闘経験がその体を肥やすことなく美しく保っており、それも健康体であるという最低限の形ではあるが読み取れる。
だがその程度の肉体で、黒死牟の剣閃を躱せるのはおかしい。
眼筋かそれを補う何かが鍛えられていなければ攻撃を認識できるはずもなく、認識したところで反応する肉体が未熟では回避が間に合うわけもない。
明らかに目の前の女の肉体は黒死牟に対処するだけの性能を備えていない。

(仕掛けがあるな…外法…血鬼術のような…
 あるいは装備…からくりの類は…さすがに分からぬ……)

胸に一瞬燃え上がった焦げ付くような感情はいつの間にやら初撃を生き延びた奇怪な存在への興味で鎮火されている。
ゆっくりと剣を構えなおし、愉しむように、されど慎重に次の動きを練る。

対する七海やちよは余裕をもって躱したようだが、実際のところ九死に一生であった。

(見えなかった……全く)

魔女のような怪物退治なら百戦錬磨、魔法少女同士で戦った経験もあり対人であってもそうは遅れはとらないとやちよは自負していた。
しかしこれはどうだ。
不意に現れた怪物の攻撃をからなぜ生き延びたのかはやちよ自身理解できていない。
まるで背後霊なるものがそこにいてやちよの手を引いて守ってくれたのではないか、そう思うほどにやちよは何が起きたか認識できていなかった。

(……勝てないわね)

向き合う怪物の外観はほぼ侍のそれで、多少の錯誤感はあるが魔女などに比べればよほど人間に近い。
ただし三対に並んだ六つの眼を持ち、そのうち中央の左眼に上弦、右眼に壱の文字が浮かんでおりその僅かなれど確かな差異が怪物性を際立てている。
あまりにも速く、熟練された剣技はやちよがこれまで戦った魔法少女とは比べ物にならず、怪物としての存在感はこれまで倒してきた魔女やウワサ全てを搔き集めても及ばない。
逃げる以外に彼女が生き延びるすべはない。だがただで逃げられるような相手ではない。
それゆえに、彼女が選んだ行動は

(死中に活!)

やちよの左手に嵌められた指輪、彼女の魂を結晶化させた宝石、ソウルジェムが輝く。
青く輝く魔力が身体を一瞬で包み、彼女を魔法少女の姿へと転じる。
そして涙の如く流れ落ちた一筋の魔力を槍へと変え、怪物へと即座に踊りかかった。

一瞬だった。
まばたきよりも早く、達人の抜刀もかくやという刹那でやちよは魔法少女への変身と攻撃を終えていた。
しかし黒死牟にはそれすら児戯。
全身の突撃まで乗せた槍の刺突を、彼は片手の刀で容易く受け止める。

206月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:15:40 ID:vYKtjpqc0

(何が…起きた…)

黒死牟の目の前で女の衣装が戦支度へと変わり、どこからともなく槍も取り出して仕掛けてきた。
まさに鬼が姿を変えたり武器を作り出すのと同じように。妓夫太郎や玉壺、そして黒死牟自身も似たようなことができるが、ただの人間にはできようはずもない。
得体の知れなさを増した女の正体を見極めようと反撃よりも防御を優先し、観察を深めていく。

(やはり…重いな…見た目よりも)

刺突自体は黒死牟なら受けるどころか先んじてやちよの腕を斬りおとすことすら可能な程度の速度だった。
しかし受けてみてはっきりと確信する、女の細腕で出せる威力ではないと。
やちよが即座に続けて放った薙ぎの数閃も軽く払いながら探りを入れていく。

「術師のたぐいか…血鬼術とは異なる…何者だ女」
「あなたこそ、何?」
「私は…鬼だ。さる偉大なお方の…御手により…人を超えた……」

その先の問答を打ち切るようにやちよが交錯する槍と刀を弾くようにして跳び距離を置く。
魔女と違って問答ができるならばそれで時間を稼ぐこともできるだろうが、やちよはそれを選ばない。
魔法少女のことを下手に知られれば、自分が逃げ延びた後に別の魔法少女に不利益となるかもしれないからだ。

(オニ、ってあの鬼?どういうものかはよく分からないけど、コイツ一体ではないでしょう。
 上弦以外に下弦とか朔とか……あとは十七夜なんているかもしれないし。壱というなら弐や参も……?)

槍の間合いで、二人無言で睨み合う。
剣道三倍段という言葉の通り、距離が離れればリーチに優るやちよに有利に働く。
だが黒死牟の腕前はやちよの三倍では効くまい。
鍛え方が違う。経験が違う。種族が違う。何より彼の本来の射程は剣の届く範囲に収まるものではない。
赤子の手を捻るどころか花を手折るように勝利できようが、その花がまるで赤子の這うような速度で動いているため些か不気味に思い警戒しているだけのこと。
だがそのための観察も終わりを迎えようとしていた。

(指輪が消え…新たに胸に宝石が現れている……恐らくこれが力の根幹か…
 支給されたか…自前かは分からんが…斬りおとせば常人に戻るか……
 口を割らせるにしろ…鬼にするにしろ…命さえあればよい…)

六つの目と透き通る世界を通じてやちよの変化を見抜く。
それが彼女の能力なのか、道具頼りなのかは判別できないがそれゆえに黒死牟の関心を惹く。
鬼であっても使える技術なのか。あるいはこの女を鬼とすれば全集中の呼吸や猗窩座の武術のようにより強大なものになるのか。
ひとまず指輪をしていた腕でも落とそう、と刀を中段に構えなおし横薙ぎの一撃を浴びせんとする。

その瞬間、眼の一つが新たな脅威の飛来を捉えた。
巨大な鉄球が轟と宙を翔け、黒死牟へ猛然と迫っている。
いつの間にか接近しつつある大男がこちらへ放ってよこしていたのだ。
やちよとは比べ物にならない強大な乱入者に黒死牟は振るう刃の行方を変える。

(日輪刀か…)

速度、重量、どちらも黒死牟の頸を落とすに足る一撃。
もっとも直撃すればの話だが。
投げられた鉄球をいなし、そのまま鉄球に繋がる鎖の向こうの使い手を斬り捨てる程度、黒死牟なら容易い。
はずだった。

黒死牟の刀と鉄球が交わった瞬間、刀の方が塵となり崩れていく。
まるで日の光にさらされた鬼を想起させる現象にさすがの黒死牟も肝を冷やす。

(なに…!?)

さらにその塵化は伝染するように刀の切っ先から鍔、柄へと流れ始めた。
それを握る黒死牟の腕も塵に還さんとするように。



―――月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦



咄嗟に放ったのは黒死牟の扱う呼吸・剣技・血鬼術を合わせた奥義の型の一つ。
自身を中心に三日月状の斬撃を一斉に放ち、周囲一帯を斬り刻む技だ。
攻撃範囲も優れるが最大の長所は刀を振るうことなく放てる、剣技にあるまじき速射性と利便性にある。
朽ち、刀身の半分も残されていない刀ではこれを放ち鉄球を弾くのが精いっぱいだったとも言える。
不完全な刀での行使だったのに加え、放たれた斬撃の多くも鉄球とそれに繋がる鎖によって塵に帰り、やちよにも鉄球の担い手にも一切のダメージはない。
鉄球と血鬼術が相打ちに終わったその猶予で男は黒死牟からやちよを守るように立ち塞がっていた。

207月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:16:17 ID:vYKtjpqc0

「波紋をいなしたかッ!怪物!」
「は…もん……?」

現れた男を前に黒死牟の警戒が強まる。
長く戦いに身を置いてきたが、さすがの黒死牟も西洋人の剣士とは初めて相対する。
未知の人種に未知の技術。
そんな男が両の手に携える武装は当代最強の鬼殺の剣士、悲鳴嶼行冥のために鍛えられた日輪刀だ。鎖鎌を巨大化させたようなとでもいうべきか。片手斧と巨大な鉄球が鎖でつながれた、刀の粋を逸脱した最高峰の個人兵装である。
それを振るう2m近い体躯、100㎏を超えるほどに積み上げられた筋肉は括りつけたディパックが小さく見える。
本来の担い手である悲鳴嶼には僅かに劣るが、それでも十分な巨躯と言えよう。そしてその差異も人種の違いが埋めていた。

(素晴らしい…三百年の間…斯様な剣士は見たことがない…日ノ本の民とは根源からして異なる筋と骨格…それを鍛えるとこうまで至るか……
 これより幾百の年月を重ねようとも…この者を超える男児は日ノ本では産まれまい……)

足の長さ、背筋や腸腰筋のつき方、骨盤の傾きをはじめとした骨格、その全てが東洋人以上の力を発揮する形になっている。
種は同じでも猫と獅子でまるで異なる強さであるような決定的な違いがそこにはあった。

「異国の剣士…それとも術師か…?鬼殺隊ではないな…その女の仲間か?」
「怪物などに誇りある我が名を教えたくはないが―――」

一瞬やちよの方へと意識を向け、男は堂々と名乗りを上げる。

「イギリス貴族ジョースター家党首、ジョナサン・ジョースター。彼女とは初対面だが、僕にはお前と戦う理由がある」

右手に斧、左手に鉄球、そして呼吸を整えジョナサンが構えた。
だが

「助けてくれたのには礼を言うけれど」

水を差すようにやちよがジョナサンに並ぶように前へ出て黒死牟に切っ先を突き付ける。

「これ以上私にかまわないで。それに刀を失った今が好機。あなたは退いて」

自分のために犠牲になる仲間はいらない。それがやちよのした決意だ。
万に一つもジョナサンのような、初対面の相手のために武器をとれる善き人を失うわけにはいかない。
刀のない相手ならば相打ちになってでも一人で仕留める、とやちよが槍を握る手に力をこめるが

「武器を失った?」

黒死牟から失笑とともに声が上がる。
そして事実、刀が一振り折れたことなど些末事であったと証明するように新たな刀を己の能力で精製して見せる。

「先刻までは…抜いた剣の納めどころがなく…提げていただけだったが…」

今度抜き放った刀は三支刀とでも言おうか。
七支刀は段違いの枝刃が七つ刀身についた祭具であるが、新たな黒死牟の刀は三つの枝刃のついた刀であった。
すなわち、これこそが彼の全力の武装。

「これよりは敬意をもって…貴様らを…我が剣の錆としてくれよう…」


―――月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え


振り下ろされた刀から幾筋もの斬撃が放たれた。
礫を伴う激流のように、小さな三日月状の刃を纏って進む斬撃の波がジョナサンとやちよを諸共に呑み込まんと迫る。


―――鋼を伝わる波紋 銀色の波紋疾走(メタルシルバー・オーバードライブ)!


迎え撃ったのはジョナサンの呼吸法だった。
太陽に一番近く、一年中陽の射すという陽光山で採れる猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石から打たれた日輪刀は、偶然にも太陽の性質を持つ波紋の呼吸との相性は抜群だった。
隅々まで日輪刀として鍛えられた悲鳴嶼の日輪刀に波紋を纏わせて振るい、黒死牟の斬撃をことごとく撃ち落とす。

(やはり…呼吸…しかし…知らぬ型だ……
 我流にしても…縁壱のものとは…まるで似つかぬ…)

透き通る世界によって黒死牟はジョナサンの動きを臓腑に至るまで見切る。
真っ先に着目した肺の活動からその戦闘方法はやちよのものより自分たち、否かつての自分たち鬼殺の剣士に近しいものだと推察できた。
一つ数えるうちに十を超える呼吸をしたかと思えば、常人の数十倍の空気を一瞬で取り込みまた吐き出し……血中の酸素濃度を操る全集中の呼吸とは異なる、波を発生させるような特殊な呼吸法だ。

(波…そうか波紋か……波紋の如く伝播する…
 雷の呼吸と血鬼術の複合も…そうなっていたか……なら一太刀でも受ければ…厄介だ…)


―――月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾


続けざまに黒死牟は次の型を披露した。
形状としてはシンプルな横薙ぎの斬撃を一振り。
ただしまさしく龍が尾を振るう如く巨大な一撃で、そして鱗のように満遍なく纏っている三日月状の刃が受けることを大きく困難にしている。
ジョナサンが波紋を帯びた鉄球を振るっても纏う刃に阻まれ掻き消しきれない。
目前まで攻撃が迫る。

208月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:17:26 ID:vYKtjpqc0

(跳んで避けることも、伏せて躱すことも叶わないッ!ならばせめて!)

二つの攻撃に反応しきれずにいるやちよに向けてジョナサンが手を伸ばす。
すると彼女の体が引き寄せられるようにジョナサンの元へ。
生命磁気への波紋疾走。
それによって彼女を引き寄せ、即座に攻撃範囲の外へと送りものも添えて放り出す。

(僕は波紋で防御を!)

最も強力な太陽の波紋と、弾く波紋を纏い耐える姿勢に入るが

「ミスター!」

やちよがそれを助けるべく動く。
彼女はジョナサンに波紋による肉体の強化を送られたのだ。
この波紋を受ければただの少女であっても2m近い大男を投げ飛ばせるほど。ジョナサンは知らない話だが、後にジョナサンの孫ジョセフはこれに手こずる羽目になる。
熟練の魔法少女であるやちよがその恩恵を受ければ、最強の鬼である黒死牟相手でも戦線に立てるほどのものであった。

複数の槍を魔力により生成し、空中にずらりと並べる。
即座にその意図を察したジョナサンは並ぶ槍を足場にして黒死牟の奥義を跳び越えた。
それを黙って見ている黒死牟ではないのだが、足場の役割を終えた槍が即座に向かってくるためその対処に追われる。
透き通る世界はあくまで人体の起こりを見極めて先の先をとる技術であり、肉体的変化を伴わない魔法による攻撃には黒死牟自身の技術で迎え撃たねばならないからだ。
当然、ジョナサンは槍に波紋を纏わせていたため迎撃した刀は大きなダメージを受け、その再生にも追われる。
そこへ跳んだジョナサンが鉄球を振るって追撃をかけ、黒死牟がそれを躱して隙が生じたことで戦場のイニシアチブが移る。

(これなら私にも……!)

コネクトという魔法少女間で力を共有する戦術を行使してきたため、ジョナサンが施した波紋による強化にもやちよは即座に順応した。
……仲間として認めるつもりはないが、この戦況を一人で切り抜けられると思うほど愚かにも傲慢にもやちよはなれない。
難敵相手に協力するのは必要なことだと自分をだましながら、見ることも能わず、歯噛みするしかなかった戦場に追いついたやちよが全力の一撃で黒死牟の命を狙う。


―――アブソリュート・レイン


撤退を考えての牽制などではない、渾身の奥義(マギア)。
足場にしたもの以上に強大な槍を六本生み出し、黒死牟を封ずるべく取り囲む。
さらに自らも七本目の槍をつがえ、その全てを急所へ向けて放つ。

「これ以上、出し惜しみするつもりはないから!」

捉えた!
切っ先が黒死牟の肌に触れた瞬間やちよはそう思った。

「斯様な…児戯で…鬼は殺せぬ…」

四方より飛来する槍の全てを黒死牟は掴み、止めていた。いくつかは肌を裂き血を流させていたが、致命には程遠い。
無刀取りという技法がある。
柔術や合気などに端を発する、徒手にて剣を防ぐ超絶技巧だ。
刀に比べれば触れられる箇所の多い槍であったことも黒死牟に幸いしたのは事実だが、それでも容易くなせることではない。
そしてその本質は後の先をとる反撃の技法にある。

続けざまに鉄球を叩きつけようとしているジョナサンに掴んだ槍を二つ投げつけて牽制を入れる。
流れるように残った槍をやちよに突き立てようとするが、やちよは咄嗟に掴まれた槍を放して距離を置きそれを躱す。
だがその間隙で黒死牟は再び刀を握っていた。


―――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り


大刀では追撃に間に合わぬと判断して、再度通常サイズの刀を作り即座に斬撃を放つ。
間断なく放たれたとは思えぬほどの数の横薙ぎの斬撃がやちよへと襲い掛かる。
それを阻むのは投げられた巨大な戦斧。
ジョナサンは自らに向かった槍の迎撃に武装は不要とし、波紋を纏わせた斧を黒死牟に投げていたのだ。
大規模な型でなかったのも幸いし、その一撃は黒死牟の攻撃をすべて呑み込んだ。

209月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:17:55 ID:vYKtjpqc0

(手放したな…日輪刀を…)

だがそれも黒死牟の掌の上。
一度突いた槍は引き戻さなければ次を打てぬように、投擲された鉄球や斧も回収しなければ攻防どちらにも使えない。
手元の鎖で槍をいなし、もう一つをかろうじて躱しはしたが黒死牟の技に比べればなんと無様なことか。
ジョナサンが鎖を引くより速く、黒死牟が踏み込む。


―――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮


雷の呼吸もかくやという神速の抜刀術が無数の斬撃を纏いジョナサンに襲い掛かる。
直撃すれば首か腕かいずかは間違いなく落ちるだろう。
だが黒死牟は一つ致命的な勘違いをしていた。
ジョナサン・ジョースターは剣士ではないということを。


―――太陽の波紋 山吹き色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!!


なるほどジョナサンは槍を使い、鎖を使い、剣を使った戦士である。波紋使いはそんな武装はもちろんのこと、シャボンやクラッカー、マフラーすらも武器にする。
されど最も強いとされる波紋は拳から放たれるものである。
騎士ブラフォードの剣戟を受けたように、ジョナサンの拳が黒死牟の刀を迎撃する。

「ぐ……!?」

湿った重い、何かが地に落ちる音がどさりと響く。
落ちたのは逆に黒死牟の腕の方だった。
太陽の波紋を纏った拳は傷つきながらも血鬼術を打ち破り、さらには刀身をへし折りそのまま黒死牟の左腕に届く。
その一撃が上腕を砕き、肘から先が地に落ちたがそれもすぐに塵に還る。
さらに波紋が残った腕を駆けのぼろうとするが

「がァァァ!」

咄嗟に肩口から先を引きちぎり、それ以上の拡大を防ぐ。
ちぎった肉片はジョナサンに投じた。
鬼の肌は鋼鉄の硬度を誇るゆえ、それもまた十分な殺傷力を秘めるのだが、ジョナサンが拳ではじくと即座に蒸発する。

(拳で…我が剣を無力化など…猗窩座にもできんぞ…)

動作自体は透き通る世界で読めていたが、さすがに月の呼吸を素手で破られるのは思いもよらず、痛打を受けてしまった。
それも上弦の鬼ならば即座に回復するはずだったが

(再生が…遅い…これは…まさか…)

即座に生えるはずの腕が未だに欠けたまま、少しづつ癒えるだけ。
鬼の再生を遅らせる手段に黒死牟は一つだけ心当たりがある。
そして今ジョナサンが放った呼吸は【太陽】の波紋であるというのも引っかかる。

「まさか貴様…異国に流れた…日の…」
「オォォォォォ!!」

黒死牟の発する言葉にジョナサンは耳を貸さず追撃する。
再生する怪物に大きなダメージを与えたのだから当然と言えよう。
片腕を失い重心が狂ってなお武術自体は黒死牟が優るため、放たれた拳を躱すのは容易い。
腕をくぐるようにジョナサンの脇を抜け、背後をとるがそこでジョナサンの首筋にあるものが目に付いた。

(痣…!)

左肩首筋の付け根に浮かぶ星型の痣。
波紋を練り上げ脈も体温も昂ったジョナサンに浮かぶそれと、太陽の波紋という類似性が黒死牟の胸を焦がす炎になった。

「その…痣は…」

背後に回った優位を活かすでもなく黒死牟の口からは言葉が突いて出ていた。
その言葉には、背後の黒死牟と向き合い、さらに日輪刀の鎖を手繰るために僅かながらジョナサンも応じる。

「父に聞いた。一族の者には皆この痣があると」
「…………生まれついての…痣者か…」

210月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:19:13 ID:vYKtjpqc0

黒死牟の胸の炎が強まる。
そして同時に、主より自分だけに賜った厳命も思い出す。
故にこの者は何としても殺さなければならないと。


―――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月


残った右腕の中に刀を生み出しながら振るい、不格好ながら斬撃を高速で黒死牟が繰り出す。
本来なら巨大な三日月状の斬撃を三つ放ち、衛星のように伴う斬撃も併せて敵を刻む技だが、片腕で振るったために二つしかなく、伴う斬撃も少ない。
それでも常人なら十人仕留めて余りある奥義であった。
だが相手はジョナサン・ジョースターである。波紋を纏わせ振るった鉄球で迎撃に成功する。
不完全とはいえ黒死牟の絶技相手にその戦果は十分に誇れるものであるのだが

(なにッ!?こいつ自らの攻撃に飛び込んで!)

それだけでは終わらず、続けざまに月の呼吸の斬撃を追い抜くような勢いで黒死牟が飛びかかる。
鬼の脚力に縮地の歩法も加え、自らの斬撃で身を削られるのも厭わず襲い来る怪物の姿がそこにあった。


―――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
―――鋼を伝わる波紋 銀色の波紋疾走(メタルシルバー・オーバードライブ)!


鉄球を放り、戦力が半減したジョナサンに改めて最速の月の呼吸を見舞う。
ジョナサンはそれを今度は波紋を纏った斧を振り下ろして撃ち砕く。
交錯により刀身を波紋が駆けのぼろうとするが、腕へと至る前に刀を捨てて黒死牟は徒手でジョナサンに迫る。
対するジョナサンもまた、伸び切った日輪刀を手放し拳から波紋を放って迎え撃とうとする。

次の瞬間、ジョナサンの拳は黒死牟を捉えていた。
だがそれによるダメージを黒死牟は一切受けていない。
対する黒死牟は、再生した左腕に生成した刃を握り、ジョナサンの胸に突き立てていた。
吸って、吐く一呼吸。それさえあれば波紋は練られ、黒死牟に引導を渡していただろう。
だがそれは叶わなかった。

黒死牟もまたジョナサンとは異なるが呼吸の名手であり、そして彼は透き通る世界を見通す武人であった。それゆえの先の先。
二つの月の呼吸を迎撃し、体内の波紋を吐き出したジョナサンは必ずや呼吸によって新たに波紋を練る必要がある。
その瞬間を黒死牟は透き通る世界によって見抜き、ジョナサンが息を吸うまさにその直前に牙を立てるような距離で息を吸い……ジョナサンが吸うはずの空気を奪った。
人間ほどの大きさの巨大で硬い瓢箪を破裂させるほどのすさまじい肺活量、さらに鬼となって300年余で強化された心肺での全集中の呼吸はまさしく大気の略奪ともいえるもの。
そして人体は酸素濃度の薄い空気を吸ってしまえば、即座に意識障害が発生する。
呼吸を奪われ、正気も奪われたジョナサンの拳は無為に終わり、全集中“常中”によって失った腕と刀を即座に再生した黒死牟は決定打を放った。

「終わり…だ…!」

肺と横隔膜を裂いた刀を滑らせ、とどめを刺さんと黒死牟の腕に力が籠もる。

「はぁぁぁぁぁ!!」

だがそれを阻む乱入者。
七海やちよの槍が黒死牟の刀を止める。

「無駄なことを…娘…」
「やらせない!もうこれ以上、私のためなんかに誰も死なせるなんて……!」

波紋で強化されたやちよの膂力はかろうじてだが黒死牟の進行を遅らせることはできている。
だが刀が止まった程度で、最強の鬼の進撃は止むことはない。
黒死牟が息を、吸って吐く。


―――月の呼吸 伍ノ型…

「VAAOHHHHHHHHH!!!」

この戦闘の始まり、ジョナサンの鉄球をいなした伍の型で二人を諸共に切り裂こうとしたが、突如響いた獣の嘶きがそれに待ったをかける。
ジョナサンが体に括りつけていたディパックに腕を突っ込むと、巨大な二頭の馬とそれに曳かれる戦車が飛び出した。
ただの馬ではない。
偶然にもジョナサンが研究し、宿敵ディオを生み出した石仮面と同じ原理で吸血馬となった怪物だ。
150馬力を誇るそれが突如現れ蹴りを見舞ったとなれば、さすがの黒死牟も怯むざるを得ない。
そうして生じた僅かな隙で、ジョナサンは胸の刀を引き抜き、やちよも抱えて戦車に飛び乗り黒死牟から離れていく。
時速60km以上の速さで駆ける戦車の操作は容易くないが、手綱は波紋が通るようにできており僅かな呼吸で吸血馬を操ることができる。
透き通る世界でそれを見た黒死牟は訝しむ。

211月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:19:42 ID:vYKtjpqc0

(損傷した…臓器で…なぜ呼吸ができている…!?)

肺を動かす横隔膜は断ち、肺にも刃が通って血が溜まりまともに機能するはずがない。それにもかかわらずジョナサンは波紋を練っている。
その疑問の答えを透き通る世界によって黒死牟は知ることになる。

(傷口から…手で直接肺を操作するとは…なんという…)

刀で突かれた穴をさらに広げて腕を突っ込み、肺を握る指が繊細に動いていた。
息を吐くたびに肺に溜まった血も吐き出している。
息を吸うたびに肺から血を流している。
それでも構わずジョナサンは波紋を練り続ける。そして黒死牟にとって恐るべきことに、呼吸のたびに波紋により傷が癒えているのか出血が少なくなりつつあった。
それを見た黒死牟の内で逃がさぬ、殺さねばならぬの念が強まる。
その殺意に呼応するかのように握る刀が巨大化していき、再び三支刀の形をとった。
なるほど吸血馬は速かろう。されどいかな俊足も剣聖の一太刀に優る道理無し。
追撃の構え。
背後から迫る死そのものと言っても過言ではないその殺気を遠ざけるべく、戦車上で真っ先にジョナサンが構えた。
すぐに続くようにやちよも反転して槍をとる。

その瞬間、ジョナサンの繰り出した貫き手がやちよに食い込む。

「がはっ…な、にを……?」

乱心としか思えない行動にやちよは困惑を隠せない。
だが次の瞬間の自分の行動にやちよはさらに戸惑うことになる。
再度反転して前方をむき、手綱をとって馬の足を速めたのだ……やちよの意に反して。
ジョナサンが貫き手とともに行ったのは横隔膜を刺激してやちよに波紋を練らせることと、身体操作の波紋を打ち込むこと。
それにより今のやちよは微弱な波紋で吸血馬を操る御者に徹するざるを得なくなった。
そしてジョナサンが体に括りつけていたディパックを戦車の上に置いたことで、何をしようとしているのか誰もが察せられてしまう。
致命になりかねない胸の傷に対して行っている自傷としか思えぬ行動も、彼の戦意の証明。
一人で残り、死ぬまで……いや死んでも戦うつもりなのだ。

「待って……待ちなさい!ダメよ!」

制止の言葉がやちよの口をついて飛び出る。
また自分の願いのせいで誰かが死んでしまう。そんなことは許せない。生きるために抗え。
そう止められるのもジョナサンは察してやちよに波紋を流したのだろう。
傷ついた呼吸器では喋るのも厳しいのか、ジョナサンは何も発さず静かに微笑むだけだった。
口の端から血を流しつつもあまりに美しく、気高く、強壮な笑みにやちよの言葉がはっと止む。
それで別れの挨拶は済んだということだろう。
ジョナサンの顔が戦士の相に戻る。

胸に突き立てていた腕を引き抜くと、そこから波紋を手綱に流した。
答えるように馬は嘶き、体を沈める。
そこにジョナサンが跳ぶと合わせるように蹴足を放った。
吸血馬とジョナサンの脚力、カタパルトのように二つを合わせて男は死地へと翔けた。



―――月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月
―――波紋乱渦疾走(トルネーディ・オーバードライブ)!!


これまでに放った月の呼吸のどれよりも巨大な螺旋状の斬撃が、月輪を纏ってやちよとジョナサンに襲い掛かる。
対してジョナサンは残った波紋を足先に集中し、黒死牟の奥義に真っ向から挑む。
先の衝突とは違い今回はジョナサンが不利だ。
太陽の波紋で刀身を折ったのは技が発動しきるより前に拳を繰り出せたのが大きい。
それで破ったのも基礎となる壱の型で、此度向かい合うのは磨きに磨かれた拾肆ノ型。
呼吸器のダメージもあり、まともに挑めばジョナサンは敗北は必定であった。

212月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:21:05 ID:vYKtjpqc0

そこに神の視座でのみ気付き得る奇跡があった。
放った技に回転を伴うものを選んでいたこと。
ジョナサンが馬の力を受けて跳んでいたこと。
馬の走るフォームが【黄金長方形】を描いていたこと。

ジョナサンの波紋が黒死牟の斬撃と接した瞬間、黄金の回転の後押しを受けた一撃で全てを薙ぎ払い、黒死牟よりわずかに離れた地に降り立つ。

「馬鹿な…!?」

満身創痍の男が自らの奥義を打ち破り、自らに迫っている。
その現実が黒死牟には信じがたい。そして何より耐えがたい。このようなものが生きていてはこの世の理が狂いかねない。
主命が、義務感が、何より怒りが黒死牟に剣を振るわせる。
ジョナサンの命脈を今度こそ断たん、と剣技において最大の威力を発揮する大上段からの振り下ろしが見舞われる。

時に、剣道三倍段という言葉は徒手の者が剣を帯びた者に挑むときにも用いられることがある。
徒手のジョナサン、剣を振るうのに加えて呼吸による圧倒的な射程を誇る黒死牟。
大技を用いずともその差は大きく、そのままではジョナサンの勝機は皆無であっただろう。
だが戦士はもう一人いる。
黒死牟が技を放つその瞬間に、放り捨てたはずの鎖斧が運ばれていた。
七海やちよは身体の自由を失くしたが、魔法まで封じられてはいない。
生み出した槍をミラーのようにして戦況を見る。
そしてマギアで放っていた槍を操り、日輪刀をジョナサンに届けたのだ。

(これがッ、最後のチャンス!)

右手で鎖を、左手で肺を握る。
最期の波紋を絞り出し、黒死牟の斬撃と頭部を諸共に砕かんと日輪刀を横薙ぎに振るった。

(ッ!呼吸が……!)

だが溢れる血による嗚咽か、武器を振るう反動か、そもそも指で呼吸を制御するのに無理があったか、僅かに呼吸を乱してしまう。
放たれる呼吸のリズムは鋼を伝わるものでも、太陽の如きものでもなく、炎の波紋 緋色の波紋疾走(スカーレット・オーバードライブ)となってしまった。
だとしても、と万力の如き力を込めて日輪刀に走らせた。
それがジョナサンに微笑んだ二つ目の幸運。

炎の波紋の熱により日輪刀が色を【赫】く染める。
鬼を殺すべく、ジョナサンの意思に応えるように変化した日輪刀と波紋の併せ技。


―――月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月
―――炎と刃の波紋 赫色の波紋疾走(スカー・レッド・オーバードライブ)!!


黒死牟の振り下ろす刃にに呼応するように数多の斬撃が、神の杖の如く降り注ぎ大地を抉らんとす。
その斬撃に赫く染まった鉄球が叩きつけられ、そして斬撃の波を抜けて軌道を変えることなく黒死牟へと向かう。
屈辱に黒死牟の奥歯が音を立てて軋む。
だがそれを想定しないほど愚かではない。
黒死牟とジョナサンの位置関係は僅かに鎖の長さが足りず鉄球の届かない距離で―――


ゴギン


小さな音と、小さな違和感を黒死牟を覚えた。
そしてその予兆は結実する。





ゴギィ





(関節をッ!)






メギッ





(外して腕を伸ばすッ!その激痛は波紋エネルギーで―――)

和らげる?そんな些事に残りわずかな波紋を?

213月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:22:26 ID:vYKtjpqc0

(無用ッ!この程度、耐えられずして何が紳士か!)

肩と肘の関節を外してリーチを伸ばす。
その差が黒死牟の目測を誤らせた。
鉄球が黒死牟へと迫る。

(味な…真似を…)

だが関節を外すのも透き通る世界ならば見通す。
感知できれば僅かな長さだ。少し体を逸らすだけで躱すことが


ざくり

と黒死牟のうなじあたりに何かが食い込む音がした。

(こ…れ…は…!)

七海やちよの槍。
彼女がマギアで放った魔力で操る槍は一本ではない。
視界の外から音もなく迫った刺客が、黒死牟の頭部をその場に縫い付けるように固定した。

「斯様な…児戯で…私を…!!」

躱せない。
黒死牟の視界が日輪刀の赫で埋まる。
そして流れる血の赤に染まり、次の瞬間には暗闇へと転じた。

同じようにジョナサンの視界も、黒死牟の斬撃で埋め尽くされていた。
赫刀の一振りは強力であった。
しかし無数に迫る斬撃全てを撃ち落とすことと、鬼を殺すことを両立させられるほど万能ではなかった。
斬撃が迫るにつれ、視界と脳裏が走馬灯に占められていく。

(騎士タルカス。君とのチェーンデスマッチがなければこうまで鎖を使うことはできなかったろう。感謝を。
 エレナ。すまない。どうか幸せになってほしい。
 スピードワゴン。心苦しいが、この事態の後を頼む。君ならば託せると信じている。
 そしてディオ。君の野望は人々の意思が必ずやそれを挫くだろう)

紡いだ絆を胸に、ジョナサン・ジョースターは目を閉じた。





◇ ◇ ◇

「……ぅぅぅぅううう」

戦車の上で一人、七海やちよは涙に濡れる。
シャフトを握りしめるゾンビのように、波紋によってただ手綱をとるしかない彼女は泣き崩れることもできず戦車を走らせるしかなかった。
それでも生きてほしい、と小鳥が嘴を突っ込むように槍を入れはした。
その結果鬼は倒れた。しかし、鬼が残した斬撃に戦士も倒れた。
その兵たちの戦場もすでにはるか後方。名残と言えば戦車にジョナサンが遺していったディパックだけ。
また、守られてしまった。

(やっぱり……私の魔法で!願いで!私は仲間を殺してしまう!)

突き放すべきだった。
こんな戦車があったなら最初から無理矢理にでも彼を乗せて逃がすべきだったのだ。
生き残るべきはどう考えたって、鬼一匹に苦戦する七海やちよはなくて鬼を打ち滅ぼす強者ジョナサン・ジョースターだった。
湧き上がる後悔が胸のソウルジェムも穢しかねないほどに湧き上がるが

(まだ……!まだ、ダメ。それじゃあかなえも、メルも、ジョースタさんの遺志まで穢してしまう。魔女になったら、それこそ直接死を振りまいてしまう……)

歯を食いしばり、涙を堪え、軋む心を無理矢理に奮わせる。

(もう、誰にも頼らない。私は孤独でいい。
 魔女も、ウワサも、マギウスも、鬼も、神子柴も!私が一人でも倒すから)

だから、放っておいて…………



その美しくも哀しいやちよの決意に、答えるようにソウルジェムが少しだけ輝きを増す。

『レディ。僕の最期の波紋だ。受け取ってくれ』

一人ではない。
一人にはさせない。
三人目の亡霊が、これより彼女の傍らに立つようになる。

214月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:24:21 ID:vYKtjpqc0

【E-3(戦車で移動中)/1日目・深夜】

【七海やちよ@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
[状態]精神ダメージ(中)、魔力消費(小)、一時的な波紋の呼吸、波紋で体機能を操られている
[装備]二頭の吸血馬と戦車@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]基本支給品×2、木彫りの笛@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜3
[行動方針]
基本方針:一人で戦う。もう誰も死なせたくない。
0:ジョナサンを死なせてしまった悲しみと罪悪感。
1:誰も死なせないため、一人で敵を倒す。神子柴も私が倒す。

※参戦時期はゲーム本編6章5話で記憶キュレーターのウワサに撃退された直後です。
※仲間の希望を受け継ぐ固有魔法により、ジョナサンの力を一部受け継ぎました。詳細は後続の書き手にお任せします。
※戦車がどこへ向かって走っているかは後続の書き手にお任せします。


【木彫りの笛@鬼滅の刃】
七海やちよに支給された。
それ自体は何の変哲もない、むしろ不格好な笛。
始まりの呼吸の剣士継国縁壱が兄から幼少期に送られた手製の笛。
縁壱はそれを大切にし、戦場で最期を迎えるその時まで持ち歩いていた。
縁壱の死後は笛を作った兄が持つようになり、彼もまた最期までその笛を手放すことはなかった、様々な想念の籠もった笛。

【二頭の吸血馬と戦車@ジョジョの奇妙な冒険】
ジョナサン・ジョースターに支給された。
柱の闇の一族ワムウとジョセフ・ジョースターが決闘に用いたもの。
石仮面と同様の原理で脳に骨芯を打ち込まれた吸血馬が二頭。
古代ローマのものを模した戦車が一台。
それを繋ぐ手綱が一本。手綱は波紋を通すようにできており、波紋で馬を操れる。
力で従えるのは柱の男をして至難の業らしい。
馬力は150馬力、二頭で戦車を引いて速度は時速60㎞程度。





◇ ◇ ◇

ジョナサン・ジョースターは黒死牟との戦いにおいて二つの大きな幸運に恵まれた。
黄金の回転。
赫刀の目覚め。
没百の鬼や吸血鬼どころか始まりの鬼たる鬼舞辻無惨や、柱の闇の一族であっても致命を狙える布陣であった。
だが、欠けているものもあった。いや、むしろ潤沢であったがゆえに生じた致命的なすれ違い。
彼の倒してきた吸血鬼や屍生人は、石仮面という脳に影響をもたらす道具によって生まれたもので、脳を破壊することで命尽きた。そう経験してきた。
だが黒死牟たち鬼は少し違う。
彼らは日輪刀で頸を斬られることで命を落とすのだ。
狙うべき部位の僅かなずれ。ゆえに

「…………ようやく…再生したか…」

黒死牟は生きていた。
ジョナサンの狙った通り、吸血鬼ならば致命になるほどに脳を抉り飛ばされたが、鬼である彼はそれでは死ななかったのだ。
鉄球を叩きつけられた肉片は飛散し、波紋傷が致命になることもなく。
赫刀による損傷は治癒を遅いが、それでも癒えない訳ではない。
脳髄を抉られ、諸共に眼球も吹き飛ばされ、意識も視界も暗闇に落ちていたが、それでも最強の鬼はここに健在である。

歩き始める。
その歩みは後遺症など微塵も感じさせない。
重厚さを感じさせる足取りでゆっくりとジョナサンに近づき、決着を確かめた。
心臓は止まっている。呼吸も止まっている。関節の外れた右腕はそのまま、あり得ない角度にひん曲がっている。振り回した鉄球が遠心力で戻ったのだろう、鎖が肉体を縛り上げ苛むように巻き付いていた。
透き通る世界を通してでなくともそれがただの肉塊になっているのが分かる。

「強者であった…よもやと思わされたぞ…あの日以来に…」

かつて己が敗北した日。その時黒死牟は死んでいるはずだった……最強の侍が目前で天寿を全うしなければ。
この戦いでも黒死牟は迫る死を感じた。されどジョナサンは黒死牟の剣に敗れ命を落とした。
黒死牟は思わない。もしジョナサンが鬼殺の知識を得ていたなら、躯となったのは自分かもしれないなど。
その慢心が埋伏の毒を―――

215月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:24:57 ID:vYKtjpqc0

「…いや…未だ死なぬか…」

積み重ねた知識と技が望外の毒に気付く。
弱肉強食、鬼は人を喰らうもの。戦闘での消耗を補うために肉を求めるのは当然と言えよう。
されど今のジョナサンは亡骸と化してなお抗い続けていた。

(日輪刀が…赫いまま…波紋を…残している…!)

日輪刀の材料となる猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石は太陽の性質を秘める。故に太陽の性質を持つ波紋が流れやすく、そして今も赫刀となってその性質を残していた。
亡骸に絡む鎖は始め戒めのようだと思った。
されど今は違う。
これは遺体を守る棺なのだ。
そして同時に、ジョナサンは死してなお赫刀という武装を守る墓守となっている。

呼吸を用いれば引きはがすことはできるだろう。
しかしその消耗に見合うほどの甲斐はあるのか。万一口にした肉に波紋の性質が残っていれば骨折り損ではないか。
そのために要する時間も惜しい。
今の黒死牟には一刻も早く殺さなければならない標的がいる。

(一族の者が…痣を持つと…言っていたな…)

隅から隅まで名簿は見た。そのため、見慣れない異人の名前であっても記憶している。

(ジョセフ・ジョースター…おそらくは…同族……こやつと同じ…痣者であろう…
 この者も…日の…波紋の呼吸の使い手ならば…根絶やしにせねばならん…異人であろうと…逃がしはせん…)

日ノ本の日の呼吸の使い手は殺し尽したはずだった。傍流か、あるいは縁壱と同じ呼吸を用いる化け物が産まれたのか、異国に残っているなど思いもよらなかった。
探し出して殺さなければならない。
そして他にも。
ここにきて黒死牟は名簿より前に確かめていた支給品を取り出し確かめる。
一枚の写真と一冊のファッション雑誌だった。
写真に写っているのは

(D、I、O、B、R、A、N、D、O…羅馬字も…異人の名も…よくは分からぬが…こやつも…首筋に星の痣がある…
 ジョセフかは不明だが…こやつも…ジョナサンの一族ならば…殺さねば…)

もう一つのファッション雑誌にも黒死牟が狙う者の姿が映っていた。
ファッション雑誌というものが黒死牟には何なのかこれもまた分からないのだが、文字と写真の情報は読み取れる。
七海やちよという名の女が八頁にもわたって乗っている……笛を持ち、先ほど黒死牟から逃げたあの女が!

(鳴女が…私に…意味もなく…これを渡すはずもあるまい…
 何を考えてるかは知らぬが…どのみち殺すのだ…いいだろう…貴様の首の隣に…こやつらの首を並べてやろう…)

改めて、最強の鬼が闇の中へ一歩を踏み出した。


【ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 死亡】
※E-3にジョナサンの死体と、それに巻き付いた悲鳴嶼行冥の日輪刀(赫刀になっている)@が残されています。


【E-3/1日目・深夜】


【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]ダメージ(小〜中、回復中)
[装備]
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1 ファッション雑誌BiBi@魔法少女まどか☆マギカシリーズ、DIOの写真@ジョジョの奇妙な冒険
[行動方針]
基本方針:無惨に忠義を尽くす
1:七海やちよを探し出し、殺して笛を奪い返す
2:星の痣と日の呼吸に関わりがありそうなジョセフ・ジョースターと写真の男(DIO)を殺す
3:無惨に仇なすものを殺す
4:欠番の増えた上弦の後釜を探す

※参戦時期は時任無一郎を鬼に誘った直後です。
※波紋の呼吸を日の呼吸に近いものと認識しました。


【ファッション雑誌BiBi@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
黒死牟に支給された。
普通の女性用ファッション誌。環いろはや七海やちよの活動する神浜ではよく見られている。
七海やちよの特集がぶち抜き8ページ組まれた特集号。
あと神浜の魔法少女である阿見莉愛も載っている。1ページだけ。

【DIOの写真@ジョジョの奇妙な冒険】
黒死牟に支給された。
ジョルノ・ジョバーナが写真に入れているDIOの写真。
彼にとって唯一父親を知る数少ない資料と思われる。
星の痣もくっきりと映っており、自信の首元と比べてジョルノは父とのつながりを感じたりしていたのだろうか。




【悲鳴嶼行冥の日輪刀@鬼滅の刃】
ジョナサン・ジョースターに支給された。
鬼殺隊最強の剣士悲鳴嶼行冥のための武装。
太陽に一番近く、一年中陽の射すという陽光山で採れる猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石から打たれた刀が日輪刀であるが、これは刀の域を逸脱している。
、片手用の戦斧に鋼球鎖をつないだ鎖鎌ならぬ「鎖斧」とでも呼ぶべき特殊な形状で、鎖の一片に足るまで鬼を殺す力を秘めている。

216名無しさん:2020/01/31(金) 03:26:07 ID:vYKtjpqc0
投下終了です

217 ◆As6lpa2ikE:2020/01/31(金) 14:03:55 ID:QE7S7.tI0
空条承太郎、妓夫太郎/堕姫、橘城アヤ子で予約します

218 ◆DWykRcNsUE:2020/01/31(金) 17:31:15 ID:DZWRar3A0
アーカード予約します

219 ◆DWykRcNsUE:2020/01/31(金) 20:42:21 ID:DZWRar3A0
投下します

220 ◆DWykRcNsUE:2020/01/31(金) 20:42:38 ID:DZWRar3A0
礼拝堂に、1人の男が佇んでいた。
長身の身体を黒い拘束衣に包む、血の気の無い。白蠟の如き肌の端正な顔立ちの男だった。
しかし、この男の本質はそんなところには無い。
見るが良い。食いしばった歯の間から覗く乱杭歯を。眼差しの先にあるものを焼き尽くさんばかりの、鮮血色の瞳から放たれる凄まじい眼光を。
なによりも、男が発散する礼拝堂に満ちる、常人ならば総毛立つ────どころか気死するであろう妖気よ。
男の名はアーガード。王立国教騎士団(Hellsing)の鬼札(ジョーカー)。
夜闇に無敵の怪物(フリーク)として君臨する吸血鬼(ヴァンパイア)。

「糞共が!!」

罵声と共に振るわれた脚が、礼拝堂の長椅子を破壊する。
舞い飛んだ長椅子の残骸を腕の一振りで塵と砕く。
アーカードは激怒していた。
あの夜。ミレニアムと十字軍がロンドンを地獄と変えた夜。
アンデルセンが、己が心臓をくれてやっても良いとまで思った男が。
死の河を斬り裂き、アンデルセンと共に死の河に身を投じた、第十三課の者達に支えられて。
あの男が、アレクサンド・アンデルセンが、己が心臓に、銃剣(バイヨネット)を突き立てるのを心躍らせながら待っていた。あの時間。
至福であり、至高である瞬間へと続く時間。

────それを奴等は奪い去った!!

許せない。許せるはずがない。必ず殺す。必ず報いをくれてやる。
それに何だ?殺し合え?この私に!?
主人であるヘルシング家当主、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングの従僕であり、主人の殺意のもと振るわれる凶器であるこの私に。

「ふざけやがって……」

あの女は私の主人にでもなったつもりか。
所詮化物(フリーク)。獲物を与えれば、考える事なく悦んで狩って回ると思ったか。
そんな事、出来るはずがない。
そんな事をすれば、己は狗になってしまう。
人であることに耐えられず。化物となり、不死身の身体と人を超えた身体能力を得て思い上がった糞供と同じになってしまう。
そんな事は耐えられ無い。そんな事は許容できない。
この身はインテグラの従僕。
この身はインテグラの猟犬。
この身はインテグラの凶器。
この身はインテグラの命令(オーダー)で、インテグラの意志で動く存在。
断じてあの様な女の命令(オーダー)や、意志ではない。

221 ◆DWykRcNsUE:2020/01/31(金) 20:44:03 ID:DZWRar3A0
「何様のつもりだ………!」


己の在り方を徹頭徹尾コネにされて、アーカードの怒りは際限なく高まっていく。
腕が、脚が、縦横に躍動し、礼拝堂内部を破壊していく。

「誰が貴様らの思惑など乗るものかよ!!」

殺戮に興じることを望んでいるのだろうが、生憎とそんなことなどしてやらない。
殺し合いに乗った者たちは殺し返してやるが、そうで無ければ放置する。
気に入った人間がいれば、其奴の意志に従ってやるのも良いだろう。

内部を破壊し尽くしたアーカードは、礼拝堂の扉を開けると、他の参加者を求めて歩き出した。

「クハハ…そうだった。インテグラも此処に居るか、確認するのを忘れていた」

怒りのあまり、従僕として最も基本的な事を忘れていたことに気づく。

「これは………!!?」

〇アーカード〇アレクサンド・アンデルセン〇セラス・ヴィクトリア〇ウォルター・C・ドルネーズ〇ピップ・ベルナドット 

名簿にある見知った者達の名前

「インテグラは居ない………か」

真っ先に主人の不在を確認したアーカードは、改めて名簿を見つめる
セラスに吸われた、ベルナドットが生きている事に疑問点を持つが、その辺は当人に直に問いただせばわかるだろう。
化物と成り果てていれば………その時は塵として処理するだけだ。

そして………。

「『ジョナサン』・ジョースター………」

あの男達の1人、ミナ・ハーカーを奪い合った男と同じ名を、アーカードは名簿に見出した。

「これから殺し合うかも知れん相手に、あの男達の名を見るとはな」

これも運命か。この『ジョナサン』とやらは、ジョナサン・ハーカーに比する男だろうか?

だが、それらはどうでも良いと言えばどうでも良い。

何よりも重要なのは。

「お前がいるのか、アンデルセン!!」

真っ直ぐに、真っ直ぐに、死の河を切り裂いたあの男が。人の身でありながら己(フリーク)と互角にまで練り上げたあの男が。心臓をくれてやっても良いとすら思ったあの男が!!

「良いだろう、アンデルセン。俺とお前、2人がいれば、決着はつけられる」

悪鬼の様に、乱杭歯を剥き出しにして笑ったアーカードは、今度こそ他の参加者を求めて歩き去った。

222 ◆DWykRcNsUE:2020/01/31(金) 20:44:33 ID:DZWRar3A0
現在地/F−3(教会)

【アーカード@HELLSING】
[状態]健康
[装備]不明
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2
基本方針:殺し合いには乗らないが、襲ってくる奴は殺す。黒幕は絶対殺す
0:アンデルセンを探す
1:他の参加者と接触する
2:現在適当な方角へ移動中です
3:ベルナドットが化物になっていたら塵として処理する
4:ジョナサン・ジョースターに興味

※参戦時期はアンデルセンが死の河越えてくるのをウッキウキで待ってた時です。

※礼拝堂内部はアーカードに完全に破壊されました

223 ◆DWykRcNsUE:2020/01/31(金) 20:49:10 ID:DZWRar3A0
吸血鬼と戦う話で主人公『ジョナサン』っていったらよぉー
普通吸血鬼ドラキュラの『ジョナサン・ハーカー』からとったと思うじゃねえか
なのにヨォー。何でファミレスなんだよ!!訳わかんねーだろチクショウ!!!

ジョナサンの名前の由来を思い出すたび心の中のギアッチョが暴れだす


投下を終了します

SSタイトルは【夜の続き】でお願いします

224 ◆DWykRcNsUE:2020/01/31(金) 20:50:36 ID:DZWRar3A0
佐倉杏子と書き手枠で予約します

225名無しさん:2020/02/01(土) 08:32:53 ID:JnMtaK760
投下お疲れさまでした。
アーカードが対主催のロワって初めてかも

226名無しさん:2020/02/01(土) 18:35:23 ID:KBQrBTjY0
投下乙です
鬼は八つ当たりで建物を壊していく習性でもあるのか

227 ◆As6lpa2ikE:2020/02/06(木) 11:49:47 ID:X2FtzzM.0
すみません。間に合わなさそうなので予約を取り消します

228 ◆As6lpa2ikE:2020/02/06(木) 11:50:19 ID:X2FtzzM.0
すみません。間に合わなさそうなので予約を取り消します

229 ◆DWykRcNsUE:2020/02/07(金) 19:44:35 ID:ji5AaqM.0
予約を破棄します

230 ◆ejQgvbRQiA:2020/02/07(金) 22:30:23 ID:V5B.uMNc0
投下乙です
>月は昇り、日は沈む
ジョ、ジョースターさん!!笛に呼ばれ、出会って間もない女性の為に身体を張って悪鬼と戦うその姿、まさに紳士!
持ち前の爆発力を余すことなく発揮するジョナサンにところどころ人間やめてる彼に軽く引きつつも圧倒的な強さを見せた兄上、やちよさんも力及ばず、病み気味な時期からの参戦ながらも兄上にも退かない姿勢やナイスアシストなど、ベテランの風格が感じられる立ち回り。
終盤の黄金の回転+赫刀+波紋、これ終盤の戦いだっけと思えるほど熱く、最後の最後まで互角でどちらが勝つかわからず凄くワクワクしながら読んでました。
やちよさんは承ったものを正しく引き継げるのか、ジョセフやDIOにも狙いをつけた兄上の今後はどうなるのか。
三人が三人とも強さと魅力を引き立てあう力作の投下、ありがとうございました

>夜の続き
ロワでは珍しいブチ切れ対主催の旦那。よりにもよってあの時期から呼んでくるとは、そりゃキレる。
興味を持ったジョナサンは散ってしまいましたが、彼の家系の男がすぐそばにいるのはなんという巡りあわせか。
ブチ切れ無惨様、イライラカーズ様、ブチ切れ旦那ととことんボス格の人外たちの地雷を踏んでいるオババ、いいですね。


キャスカ、松蔵院カーラを予約します

231 ◆ejQgvbRQiA:2020/02/14(金) 16:00:29 ID:jdwymZxY0
すみません、予約からカーラを外して投下します

232迷いの森 ◆ejQgvbRQiA:2020/02/14(金) 16:01:20 ID:jdwymZxY0
気が付けばここに飛ばされていた。
老婆に殺しあえと言われて。見せしめに一人が殺されたかと思えばまた生き返って。
二人の男が不意をついて老婆に斬りかかったと思ったらまた意識が飛んで。
その果てがこの様だ。これで困惑するなという方が難しい。

しかし、殺しあえ、か。確かに私たち鷹の団は傭兵で、戦を生業としているし、斬ってきた敵の屍は数えることができないほど築きあがっている。
殺し合いという分野にはこれ以上なく向いている人材だろう。
けれど、私たちは血の気は多くとも、一部を除けば戦闘狂ではないし、無駄な争いもしない。
報酬を得るための戦だから、仕事だから剣を抜くのであり、会ったばかりの奴にタダ働きで人を殺せと言われて喜んで勤しむ奴はそうはいない。

できるなら、さっさとあの老婆を斬って殺し合いから脱出し、帰りたいところだが...

私のそんな望みは、配られた名簿を見ればかき消されてしまった。

知った名前があった。

グリフィス。ガッツ。
私の属する鷹の団のリーダーと懐刀だった男。

ゾッド。
かつて敵対した男...否、化け物。その理不尽なほどの強さに、鷹の団は苦汁を嘗めさせられた。

なんということだ。
いまのグリフィスはウィンダム国王に捕らえられ、1年以上も拷問を受け続けている。
そんな衰弱しきった彼が、あんな怪物と出くわせば一たまりもない。
それはガッツがいたところで同じだ。あいつは強い。私が知る人間の中でも一番かもしれない。だが、ゾッドは強さという水準では測れぬ怪物だ。

「探さなくちゃ...グリフィス!」

233迷いの森 ◆ejQgvbRQiA:2020/02/14(金) 16:01:47 ID:jdwymZxY0

荷物を纏め立ち上がる。
彼がいるのはどこだ?手がかりになりうるのはミッドランド城。
ミッドランドは国の名前だが、もしかしたら『ミッドランドにあるどこだかの城』ということだろうか?
グリフィスはミッドランド王国のひとつであるウィンダムの城に捕らえられていた。もしこの地図の城が本物のウィンダム城ならば、グリフィスも捕らえられたままかもしれない。
いや、殺しあえというのだから、彼も既に解放されているかもしれない。
だとしたら、わざわざ自分が拷問されたような忌まわしき城へと戻るだろうか?
いや、グリフィスならそれすらも心に隠して、私やガッツと合流するための目印にするかも...

わからない。この場で、グリフィスがどう行動するかが全くわからない。

なんにせよ、だ。ミッドランド城へ向かうのは悪くない方針だと思う。
そこにいればそれでいいし、いなくともここにはいないという情報だけでも進展といえる。

とにかく、グリフィスを探し、保護して、それで...

―――それで、どうする?

グリフィスは満身創痍の身だ。
恐らく、今の彼では人ひとり殺すことすら難しいだろう。
ならばこそ、揃って脱出...どうやって。

私たちには爆発する首輪が嵌められている。
ガッツも私もそんじょそこらの人間には負けない。だが、この衝撃を与えれば爆発する首輪を外せるような技術は持っていない。
首輪を外す技術を持つ人間を探す...そんなゲームの根底を覆すような参加者、あの老婆が招くだろうか。
ならば、グリフィスを優勝させる。
ああ、それが一番確実かもしれない。...あの老婆が約束を守るという前提があってだが。
それに、グリフィスが人を殺せないかもしれない現状、彼の剣になるのは私かガッツになる。
仮に私たち三人が残った場合、私がガッツを、あるいはガッツが私を殺した後に自害する形になる。

(昔の私なら迷わずそうしたかもしれない...けど...)

234迷いの森 ◆ejQgvbRQiA:2020/02/14(金) 16:02:05 ID:jdwymZxY0

全てに疲れ切って、ガッツに後を任せて身を投げ出したあの時。あいつに助けられ、互いにさらけ出して、交わりあったあの時。
気づいてしまった。
私はグリフィスの剣であろうとしたけれど、心のどこかで女として彼という男を追い求めていたこと。
同時に。
それ以上に、憎み妬んでいた筈のガッツにすらも、グリフィスへの想い以上に惹かれていたこと。

昔ならガッツを斬れたかもしれない。でも、もう無理だ。
私はガッツを斬りたくない。あいつを殺すのも殺されるのも、もうできそうにない。

かといってグリフィスを見捨てることが出来るかと問われれば、間違いなく無理だ。
私はあの人の女になれずとも、あの人が私にとって代えがたい存在であるのには変わりない。

「私はどうすればいいんだ。どうすれば...」

いまの私にはわからない。

とにかくいまはできることだけをやろう。なにかを考えるのはそれからだ。

私には、迷いを抱えたままその足を動かすことしかできなかった。


【E-2/一日目・深夜】

【キャスカ@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:とにかくいまはグリフィスとガッツを探す。
0:ミッドランド城(ウィンダム城?)へと向かう。
1:グリフィス、ガッツと合流した後は...?
2:ゾッドには要警戒。できれば倒しておきたいが...

※参戦時期はガッツと交わり、グリフィスを助けに行くまでの間です。

235 ◆ejQgvbRQiA:2020/02/14(金) 16:02:28 ID:jdwymZxY0
投下終了です

236名無しさん:2020/02/14(金) 18:05:48 ID:NezqsMKQ0
乙です
キャスカは鷹の団時代の参戦かぁ。ガッツとグリフィスの参戦時期によっては面倒な事態になりそう

237 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 20:46:49 ID:ECRlNjLU0
阿修羅寺あす香、宮本明、甘城千歌を予約します

238 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:05:15 ID:ECRlNjLU0
投下します

239後光 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:06:08 ID:ECRlNjLU0
オ オ オ ォ ォ ォ

見る者を委縮させる鋭い双眸。
額から斜めに入った一筋の傷。
さほど手入れされていない無精ひげ。

青年―――宮本明は先刻の光景を脳裏で反芻させ、グッと目を瞑る。

(間違いない...あの時、ババアに斬りかかったのは兄貴だ)

宮本篤。明の敬愛する兄。
彼は死んだはずだった。それが、傷一つなく再び姿を見せたのだ。如何に歴戦の戦士である彼とて、動揺が生じるのも仕方のないことだろう。

ごそごそごそ。

明は、デイバックから名簿を取り出し、恐る恐る参加者を確認する。

知った名前があった。
鮫島。山本勝次。
二人とも、吸血鬼に蹂躙された日本本土で出会った仲間たちだ。
雅。
日本を壊滅に追い込んだ張本人であり、明にとって、多くの仲間たちの命を奪った怨敵。

そして、宮本篤、青山龍ノ介、西山、斧神。
皆、吸血鬼蠢く彼岸島で共に戦い、あるいは刃を交え、散った戦友たち。
そう。
彼らは死んだのだ。龍ノ介の最期はこの目で見届け、ほかの三人もこの手で命を散らしている。

普段の明ならば、主催からの嫌がらせか、あるいは同姓同名の別人だと考えただろう。
だが、彼は見てしまった。果敢にも主催に斬りかかった兄の姿を。そして、老婆が死んだ人間を生き返らせる場面も。
故に、明は名簿に載っている者たちが自分の知る彼らだと疑う余地もなかった。

ハァ、ハァ、ハァ。

自然と息は荒くなり、額には脂汗が滲みだす。

(チクショウ、あのババァなんてことしやがる!)

本音を言えば、散ったはずの彼らともう一度会えるなど夢のような話だ。共に帰ることが出来ればこれ以上に嬉しいことはない。
だが、ここは殺し合いの場だ。
制限時間が二日と短いうえに、再び彼らと殺しあわなければならない可能性もある。
もしも彼らが自分を殺しに来れば、再び彼らを斬るしかない。

240後光 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:06:30 ID:ECRlNjLU0

もう一度、彼らをこの手で葬ることになる。それは宮本明にとっては酷く辛いことだ。

ならば自分が優勝して彼らを本当に蘇らせるか?

もしも呼ばれた参加者がみんな吸血鬼であればその方法をとったかもしれない。
だがここには鮫島と勝次がいる。
本土からの大切な仲間たちを犠牲にすることはできない。

思い悩む明。
その耳に届く、微かな足音。
誰かが走っている。走って、こちらに向かってきている。

(悩んでいる暇もない、か)

明はひとまず知人たちのことは頭の片隅に置き、足音の主へと意識を向ける。

物陰に姿を潜め息を殺す明。その手に握られるのは、鉈のように刀身が沿り返った巨大な刀。そして

ばっ。

姿を見せた来訪者に、死角から刀の腹を向け、動きを牽制する。

「ひっ!」

突然、角から出てきた凶器に来訪者は小さな悲鳴を上げる。
来訪者は、制服に身を包んだ少女だった。


恐怖からか、身を震わせる少女。それが本心か演技かは明にはわからない。
ただ、どうにもこちらの存在に気づいていなかった素振りとこの怯えようから察するに、彼女はなにかから逃げてきたのだと判断する。
ならば情報が必要だ。彼女が逃げ出したのは、あの雅である可能性があるのだから。

「聞きたいことがある。あんたは逃げてきたようだが、向こうに誰かいるのか?」

剣をあてがい警戒心を保ったまま、明は少女へと問いかける。

ハァ、ハァ、と息を切らしつつ、少女はぽつりと言葉を漏らす。

「お釈迦様...」
「なに?」
「こ、校舎が崩れたから様子を見に行ったら、お釈迦様が...」

明の頭に疑問符が浮かぶ。
お釈迦様といえば、奈良にある仏像だ。
一瞬、参加者の一人である金剛の姿を連想するが、彼の姿はお釈迦ではなく金剛力士像だ。
そんなものが学校に置いてあったというのか。ならばなぜ人を救うというお釈迦様から逃げているのか。

その答えはほどなくして思い知らされる。

241後光 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:07:20 ID:ECRlNjLU0

―――カッ

突如、明の背後のビルが発光する。
背中越しにも伝わるあまりの眩しさに明は思わず腕で目を隠しながら振り返る。

「あ、危ないっ!」

その明を、少女は背後から被さるように倒した。

シ ャ ア ア ア ア ア

光は明たちの頭上を通り過ぎ、民家の壁を貫通し、発光のもとであるビルの壁面がドロドロと溶かされていく。

「なっ」

眼前の光景に、明は思わず絶句する。

「後光である。人ごときがあびれば...無へと還るぞ」

明の動揺に答えるかのように、ビルから言葉が発せられる。
眩しさに耐えつつ、明は目を凝らす。
人影だ。眩しすぎてハッキリとはわからなかったが、確かに人影がそこにある。


「あれはいったい!?」
「だから、お釈迦様なんです!崩れた校舎から急に出てきて色んなものをおしゃかにしてきて!」

ふっ、と光が消え、人影は明たちのもとへとビルへと降り立つ。

「私はあの方のもとへと帰還せねばならん...故に邪魔者達よ...ここで死ね...」

月光に照らされ、影の正体が露わになる。

この世の全てを憂う右目と薔薇の眼帯で隠された左目。
腰にまで届く長く美しい黒髪。
左右の肩口から生えた2対の腕。
すらりと長い、組まれたおみ足。
浮遊し、セーラー服に包まれた芸術のように整った肢体。

その姿、まさに仏像のソレ。

彼女こそ、奈良県怪光線お釈迦スケバン阿修羅寺あす香である。

明の額から冷や汗が伝い、自然とかみ合わせた歯にも力が入る。

(あれが、お釈迦様!)

★面妖なる敵現る!かつてない神技を前に、明たちの運命は!?

242後光 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:07:50 ID:ECRlNjLU0


【D-6/1日目・深夜】

【宮本明@彼岸島】
[状態]健康
[装備]
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、 十咎ももこの刀@魔法少女まどか☆マギカシリーズ
[行動方針]
基本方針:雅を殺す。
0:眼前の怪物(阿修羅寺あす香)に対処する。
1:雅を殺す。
2:鮫島、勝っちゃんとの合流。
3:兄貴、師匠、西山、斧神と合流。対処は彼らの様子を見てから判断する。

※参戦時期は少なくとも鮫島を知っている時期からです。

『十咎ももこの刀@魔法少女まどか☆マギカシリーズ』
マギアレコードに登場する魔法少女、十咎ももこの刀。大きさは身の丈ほどもある。
チャンスを逃さない鉈に近い形状をしている。




【天城千歌@サタノファニ】
[状態]健康
[装備]
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:生き残る。
0:お釈迦様に対処する。
1:???

※参戦時期は組長との対決以降です。
※千歌の人格がどちらかは後の書き手の方にお任せします。


【阿修羅寺あす香@神緒ゆいは髪を結い】
[状態]健康
[装備]
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:主催の老婆を殺す。
0:主催を殺し帰還する。その邪魔者たちよ、ここで死ね。

※無惨が倒壊させた見滝原中学校におり、生き埋めになっていましたがほぼ無傷です。

243 ◆ejQgvbRQiA:2020/03/02(月) 23:08:31 ID:ECRlNjLU0
投下終了です

244名無しさん:2020/03/03(火) 10:40:20 ID:uP0KHVdE0
投下乙です
話はシリアスなのに彼岸島特有の擬音芸で吹いたからチクショウ!
サラっと無惨様の癇癪の被害に遭ってるあす香で草。

245名無しさん:2020/03/04(水) 13:00:59 ID:qLZdtgAs0
どう考えてもピンチなのに負けるイメージが沸かねえ辺りスゲェよ明さんは

246 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 19:34:33 ID:LbhWGnaU0
斧神、金剛様で予約します

247 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 21:58:48 ID:LbhWGnaU0
投下します

248 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:00:54 ID:LbhWGnaU0
ズシン……ズシン……

大地を小さく揺らしながら歩き続けるのは10メートルは超える巨人だった。
雅の片腕にして混血種吸血鬼(アマルガム)であり、参加者の中でも巨体を誇る大男、それが金剛であった。
まだ殺人ゲームが始まったばかりなのに関わらず、彼の目的は既に決まっている。

(雅様を除く全ての参加者を殺害し、自決する。それが私の役目)

自分の主である雅の生存こそが第一であり、その為なら喜んでわが身を差し出す。
金剛は雅の狂信者であった。このゲームに呼ばれてから既に己の生存を諦めている。

(こんな首輪如きで雅様を殺せるとは思えん。だが万が一のリスクを雅様に背負わせるわけにはいかん。
このゲームから優勝して確実に生還してもらわなければ……)

考え事をしながら歩き続けて数分後の事だった。
腰巻にディバックが引っ掛けてあるのに金剛は気付いた。

「これは私に用意された支給品か?こんな小さな入れ物に入ってる武器等、役に立つとは思わんが……。
 もしかしたら雅様の役に立つ者が入っているかもしれん。一応、調べておこう」

ディバックは他の参加者に配られたのと同サイズであり
金剛は四苦八苦しながら何とかディバックを開ける事に成功した。

――ォォ  ――ォォ

「……?声が聞こえる。生き物でも入っているのか?」

ディバッグの中から響き渡る声を聞いた金剛は指をディバックの中に突っ込む。
容量を超える範囲まで指が入っていくのは何か仕掛けが施されているのか。
そう疑問に感じながらも音を発する正体をつまんで持ち上げた。

「……お前は」
「グゴーー!!グゴ――!!」

それは金剛と全く同じ顔をしていた。
金剛はその正体を知っている。
何度目かの脱皮の時に分裂したもう一人の自分だった。
なぜそれが自分のディバックに入っている?
まずは本人に問い質すとしよう。

「おい、起きろ」
「グゴ――!!グゴ――!!」
「起きろ!」
「ん、んん……」
「起きたか?」
「へへっ……なかなかいい締まり具合だぜ……むにゃむにゃ」

痺れを切らした金剛は手に持つもう一人の金剛をブンッ!と投げた。
眠っている金剛は地面に叩きつけられ、何度もバウンドしながら転がり続けて
木に激突した所でようやく勢いは止まった。

「いててて、私に攻撃したのは誰だっ!?出てこい!!」
「ようやく起きたか」
「なんだ?もう一人の私ではないか。何のつもりだ?」
「お前……今の状況を理解していないのか?」
「そう言えばここは一体どこだ?」
「やれやれ……何も知らんのか」

249 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:01:35 ID:LbhWGnaU0


「……つまりこの島で雅様以外の参加者を皆殺しにしなければならないのか」
「ああ、そうだ。お前にも働いてもらうぞ」
「それは構わないさ。しかし何者かは知らないがよくもまぁクソみてぇなゲームを考える物だな」
「何を目的にしているかは知らぬ。しかし死者を蘇らすその力は決して侮る事は出来ん」
「確かにそうだ。下手に反抗するよりもここは素直に従うべきではあるな」
「ん?……誰かが来る」

二人の金剛に向かって近づいてくる者の気配に気づく。
金剛のサイズからして向こうはすでに視認出来る位置なのにも関わらず
迷わずこちらへと近づいてくる。

メエエエエエエエエエエ!!  メエエエエエエエエエエ!!

それはヤギのような鳴き声を発し、ヤギの被り物を被った大男であり。
金剛と同じく混血種吸血鬼(アマルガム)の一人であり
金剛と共に雅の片腕として力を振るっていた誇り高き戦士、その名も斧神である。

「その声、斧神か……」
「金剛……なのか?そこまで大きくなっていたとは……」
「なんだ。お前、生き返ったのか。ガハハ」
「それに金剛がもう一人いる……一体どういう事だ?」
「教えてやろう。お前の死後に何があったか」



「そうか。既に本土は我ら吸血鬼が支配したのか」
「ああ、だが明も彼岸島にいた頃よりも更に力を得ているだろう。
 私も明を殺すためにひたすら己を鍛え上げた」
「おかげで現状を知る事が出来た。感謝する」
「斧神よ。かつて私とお前は共に雅様の片腕だった。
 その忠誠心は今でも残っているか?」
「愚問だぞ。俺が使える主は雅様ただ一人、例え死後でもそれは永久に変わることは無い」
「その言葉を聞いて安心した。ならばお前も雅様を優勝させるために他者を殺害して回れ」
「ああ……心得た。それで行先はどうする?」
「私はここから時計回りに島を移動して参加者を殺す。お前は反時計回りに移動して殺せ」
「では俺は西にある廃村から捜索するとしよう」
「この金剛も連れていけ。私なら一人で十分だ」
「えっ?私がこいつと一緒か?」
「不服か?戦力的にはそれが丁度よかろう」
「確かにそうだが……」

これからの方針を決めた参加者二人&支給品一人は行動を開始することになった。
金剛は東へ、斧神ともう一人の金剛は西へ、雅様を優勝させるべく他の参加者を皆殺しにするために。

【B-4/1日目・深夜】

【金剛様@彼岸島】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[行動方針]
基本方針:雅様の優勝
1:斧神と協力して雅様を除く、全ての参加者を殺害後に自害する。

参戦時期は明と対決する前です。

250 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:03:00 ID:LbhWGnaU0
俺は明との戦いの中で確かに友情を感じていたのだ。
彼は人間の中でもとてつもなく強く、心を躍らせた。
強さだけでない、その気高き精神は戦士としても敬意に値する男だった。
戦いに敗れた後、吸血鬼達が俺の姿を見て罵る中で明だけが俺に手を差し伸べてくれた。
もし出会いが違っていたなら敵同士では無く、友として……。

一度は明と協力する道も考えた。
だが俺は吸血鬼であり、雅様の忠誠を捨てる事は出来ない。
ならば俺の取るべき道は――。

「おい、聞いているか斧神!」
「すまない。考え事をしていた」

斧神と共に行動しているもう一人の金剛は参加者名簿を見ながら斧神と絡んでいた。
金剛の支給品は全てもう一人の金剛へ渡した。
私にはこんな物が無くても戦う事が出来る、と自信があっての判断だった。
もう一人の金剛が喋る内容は低俗極まり無い話だった。

「参加者を見る限り、それなりに女も参加しているようだが、どうだった?」
「『どうだった』とは?」
「そんなもの決まっているではないか!若い女だったか?かわいい女が多いかって話に決まっているだろ」
「……それほど把握はしていないが若い女が多かった。中には少女と呼べる程にまだ幼い子も混じっていた」
「そうかそうか!!成長しきった大人の女も味わい深いが未成熟の女とヤるのもたまんねえよな!!ギャハハハ!!」

品行下劣極まりないこんな男が金剛の片割れとは……。
分裂した金剛は煩悩の塊と言っていたが
まるで思考を全て下半身にゆだねたような俗物だ。

「最初は私が道具として扱われているのにカチンときたが
 参加者では無く、道具なら雅様が生存するのに私は死なずとも良いということ。
 ならば私だけ雅様と一緒に生き残る事が出来る訳だ。グハハハハハ!!」

もう一人の金剛の言う通り、彼には首輪を付けられていない。
道具は刀や銃といった武器だけじゃなく生物も含まれているのか。

「安心しろよ斧神、お前が死んでも私が生き証人になって武勇伝を語ってやろう」
「……それはありがたい」
「それと何か着る物が無いか?女とヤった後に全裸で寝てる内に連れてこられたから着る物がねえんだ」
「持って無い。廃村に着いてから探せ」

彼岸島を出てから金剛は更に強くなった。
明も本土にて更に力を付けている。
俺は……どうする?

「おっと忘れる所だった。斧神、一つ言っておく。女は殺すなよ?殺すのは私が飽きるまで犯し尽くしてからだ」
「金剛……」
「なんだ斧神?」
「俺は、明ともう一度戦いたい」
「話を聞いていたのか?お前が破れた後も明は更に強くなっているんだぞ。明ならもう一人の金剛に任せておけばいい」
「知っている。……だから俺も更に力を付ける。金剛のように……」

斧神から発する空気が変わっている事にもう一人の金剛は気づいた。
視線、動き、そして殺意が己を殺すべく向けられている事を。

「金剛、お前を喰らって俺は更なる高みを目指す」
「……本気で言ってるのか?」
「そうだ……」

しばしの沈黙の中、もう一人の金剛はディバッグから大剣ドラゴン殺しを取り出すと。
斧神に向かって飛びかかり、大剣を振るった。

「ふざけやがって!!ぶっ殺してやらアアア!!」
「どうした?その程度の力なのか?」
「なっ!?」

大剣は斧神の右肩に浅く刺さった所で動きを止めた。
斧神の能力である硬質化によって体の両断を防いだ。

「こっちの金剛はそれほどの強さを持っていないらしいな。ならば次はこちらから行くぞ」
「ひっ……待ってくれ!話を聞いてくれ!!」
「どうした?それでもアマルガムか?見苦しいぞ」
「吸血鬼ならそこらの参加者を吸血鬼化させてから食えばいい!協力者である私を食べる必要など無いではないか!」
「悪いが時間は無い。明と出会う前に一刻も早く力を付けねばならない」

斧神が肩に刺さった大剣を抜くと、もう一人の金剛へと近づく。
後ろへ一歩下がる金剛に向けて大剣を掲げ、振り下ろそうとした瞬間。

ポイッ コツン

金剛は何か小さな物を投げつけて、それが斧神の頭部へと当たった。

「何の真似――ぐっ!?」

投げた物が爆発と共に強烈な光を放ち、斧神を包んだ。
視界が封じられる中、金剛の逃げ足が耳に鳴り響く。

「スタングレネードか!くそっ……逃がさんぞ金剛っ!!」

メエエエエエエエ!! メエエエエエエエエエ!!

勝ち目が無いと悟った金剛は最後の支給品であるスタングレネードを使用。
斧神の視力を奪い、その隙に逃げる作戦へと移ったのだった。

(ちくしょう!!ゆっくり女を犯しながら雅様と脱出するつもりだったのに斧神の奴め!!
 なんで支給品の私までが殺されそうにならなければならんのだ!?)

このクソみてぇなロワの中では全てが殺し合いに巻き込まれている。
生きているならば例え参加者ではなくても、それは殺し合いの対象足りえるのであった。

251 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:03:26 ID:LbhWGnaU0
【B-3/1日目・深夜】

【斧神@彼岸島】
[状態]視力低下(時期に回復)、右肩に斬り傷(小)
[装備]ドラゴン殺し
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:雅様の優勝
1:更なる力を身に着けて、明ともう一度戦う。
2:雅様の優勝の為に他の参加者は皆殺し。
3:逃げる金剛を追う。

【もう一人の金剛様@彼岸島】
[状態]健康、全裸
[装備]なし
[道具]基本支給品、M84スタングレネード@現実×4
[行動方針]
基本方針:雅様の優勝
1:斧神から逃げる。
2:雅様の優勝の為に他の参加者は皆殺し。
3:ただし女は飽きるまで犯し尽してから殺す。

【ドラゴン殺し@ベルセルク】
金剛様に支給。
名工ゴドーが製作した、人の身の丈を超えるほどの巨大な黒剣。
曰く、「竜を殺せるような剣を作れ、と仰せつかったから、言われるとおりに作ってやった」
その重量は凄まじく、常人では持ち上げることも困難。
剣幅も広く、盾のように使われることも多い。
魔の者を無数に斬る内に、『魔の者を斬るための剣』としての性質を持ちつつある。

【もう一人の金剛様@彼岸島】
金剛様に支給。
金剛が何度目かの脱皮を行った際に、本体とは別に生まれてきた個体。
本体と違い、煩悩の塊のような性格で性欲のみを求める。
通称:エロ金剛。

252 ◆IOg1FjsOH2:2020/03/15(日) 22:10:34 ID:LbhWGnaU0
投下終了です
タイトルは三者三葉です

253名無しさん:2020/03/15(日) 22:38:39 ID:lONAREKU0
投下乙です
あったよ支給品にエロ金剛が!でかした!凄ェ!
斧神はやはり明さんとは殺し合う宿命なのか…辛ェなぁ…

254 ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 09:55:05 ID:yJQ0HNJw0
宇髄天元、書き手枠予約します。

255 ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:48:29 ID:yJQ0HNJw0
投下します。

256Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:49:45 ID:yJQ0HNJw0
「ほーお。するってーとおっさんは、ド派手に死んだってワケか。」
「その通りでごぜえます。ウズイさんとやら。話が早くて何よりです。」
「なるほど。生き返った命だ。大切にして生きろよ。おっさん。」

ここはとある一軒家の中。
老年のひげ男の話を一通り聞くと、元・音柱の宇髄天元は家の外へ向かって、風のような速さで走り出した。

「ま、待ってくだせえ!!」
「ん〜?まだ何かあるのかよ。話が地味に遅えぞ。」

天元がひげ男の目の前に再度現れる。それもまたつむじ風のようだった。

「ウズイさんの強さは最初の場所で見ました。
おねげえしやす。おれを守って下せえ。こんなおっそろしい所に一人でいたら、アリンコのフンみてえに死んでしまいやす。」

姿が見えるとひげ男は急に頭を深く下げ始めた。
地味で、卑屈で、ダサくて、みっともない。
天元だけではなく、他人が見てもそう感じただろう。

「派手に守ってやりてえのはやまやまだが、俺にはこの戦いでド派手に殺さなければならねえ奴がいるのよ。」


天元としてはこの戦いで、疑問に思ったことが二つあった。
一つは、自分の体のこと。
彼はこのバトルロワイヤルに参加させられる前に、遊郭で鬼の兄妹と戦った。
強大な力を持つ彼らを、同じ鬼殺隊の力を借り、何とか撃破するも、片腕と片目を失ってしまった。
しかし、今の自分は五体満足だ。

最初は御子柴に勢いで飛び掛かって行ったから気づかなかったが、今こうしていると奇妙に思えてきた。

結局のところどうして失った体が戻っているかは分からないが、音柱としてもう一度活躍するチャンスだと派手に割り切った。


そしてもう一つの疑問は、参加者にあった。
倒したはずの鬼、妓夫太郎兄妹がこの参加者名簿に載っていた。
どんな形で復活したのかは知らないが、生き返ったのなら犠牲者が出る前に倒さなければならない。

「俺は「鬼狩り」を派手にやってるんだが、この妓夫太郎と堕姫っていう、派手にいけ好かねえ顔した奴らとな……」
天元が首を狙っている相手は、妓夫太郎兄妹や主催者だけではない。
彼の同僚で会った煉獄杏寿郎を殺したという鬼、猗窩座。
そして、彼だけではなく、全ての鬼殺隊がその首を求めている鬼の首領、鬼舞辻無惨。

257Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:50:10 ID:yJQ0HNJw0

無力で卑屈なひげ男を、敵の手から守りたいという宇髄の発言は、嘘ではない。
だが、一般人一人を守るのに全力を尽くすあまり、他者大勢を犠牲にしてしまっては、本末転倒だ。
そのため、ひげ男をどこかに隠して、鬼や他の殺し合いに積極的な相手を退治しようと考えていた。

「ゲッ!!こいつは……。」
しかしひげ男が濁った目を見開いたのは、宇髄が指さした鬼ではなかった。
金髪で、腹をすかせた所で獲物に出会った猛禽類のように鋭い目つきの男が写っている。
名前欄には、「ディオ・ブランドー」と書いてあった。


「何だか派手な見た目の割に地味に嫌な感じの奴だな……。似た名前だから、家族か何かか?」
「コイツは、おれの息子だ!おれはコイツに毒を盛られて……殺されたんだ!!」
「毒……か……。親子ってやつは、どうしてこうも上手くいかないのかねえ……。」

かつては忍であった宇髄が思い出したのは、父親のこと。
彼は忍が時代から消え去ることを恐れ、自分と兄弟に虐待に近い修行を強いた。
その考えに嫌気がさした宇髄は死んでいく兄弟を後ろに忍を辞め、鬼殺隊に入った。
しかし、彼としては、自分の選択が父親を、引いては忍そのものを殺すのではないかという葛藤が常にあった。


「ウズイさん、コイツにだけは気を付けてくだせえ……?」
気が付くとひげ男、ダリオ・ブランドーは宇髄天元の広い背中の上に乗っていた。



「ちょっ……どんだけ足早いんですかい?」
「地味に遅え足に付き合ってる暇はねえからな!」
手練れの鬼殺隊でさえ、気が付いたら見逃している彼は、常人とは比べ物にならないほどの脚力を持っていた。
その速さは、ロンドンの馬車さえも超えていた。


「そのディオってガキを探すんだろ?鬼退治ついでに、俺様がド派手に手伝ってやるよ!!」


一人の父親を乗せた音柱は、颯爽と夜の闇へ向かって走り出した。

【B-1 早川アキの家入り口/1日目・深夜】



【宇髄天元@鬼滅の刃】
[状態]健康
[装備]いつもの音柱の服
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:打倒主催者。
1.知っている敵(鬼舞辻無惨、猗窩座、妓夫太郎兄妹)を倒す
2.ついでにダリオ・ブランドーをディオと和解させる。

※参戦時期は少なくとも妓夫兄妹戦後です。
※ただし、失った片腕と片目は戻っているため、それまでと同じ戦いができます。

258Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:50:27 ID:yJQ0HNJw0


(ウズイさん。最初に会えたのがアンタでよかったぜ。こいつは、おれにもツキが巡ってきやがった。)

初めて会えた相手が、最初の会場で主催者に対する敵意をはっきりと示した相手だということは僥倖だった。
別の時代の言い方をすれば、マイク・タイソン並みにラッキーだったといえるほど。
相手の邪魔をしない程度についていけば、それなりに命の保証はあるからだ。


(ディオ……まだまだてめえの好きにはさせねえぞ。)


天元の目が届かない場所で、ダリオの老婢な目が煌々と輝いた。
彼を背負って走っている男はまだ知らない。
ダリオは息子から盛られた毒以外に、心にもまた毒を含んでいたことを。

彼自身、死因は息子に憎まれ、毒殺されたことだとは知らなかった。
だが、宇髄天元に同情を買うためにでっち上げた話が、たまたま真実へと繋がった。


最期に息子に後を託し、自分がかつて助けた貴族の養子へのコネを紹介した。
だが、そんなものは最早どうでもいい。道端の石ころと大差ないくらい。
生き返ってしまえばこっちのもの。
自分を目の敵にしてきた、ディオも同じことだ。



(それにあいつの変な帽子……きんきら綺麗な飾りがついてるぜ。売ったら何本の酒を買えることやら。)
そしてもう一つ。彼には絶対に止められないものがあった。


「ありがとうごぜえます。ところでウズイさん。酒、持ってねえですかい?」
「はあ?あるわけねえだろ。それより、俺が敵に出会ったら、すぐに逃げるんだぞ。」

自分を背負って走っている相手は、ディオと和解させようとしているらしいが、それもまたどうでもよかった。
彼に関心があったのは、自分の生還と、そして酒、あるいはその酒を買うための金だけだったから。


【ダリオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]いつもの服
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3 (酒の類はない)
[行動方針]
基本方針:生還。どのような形でも構わない。
1.宇髄天元を頼りにし、自分の邪魔をする相手は殺してもらう。
2.ついでに何か金目の物、あるいは酒を手に入れる。

※本編死亡後の参戦です。

259Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 22:50:43 ID:yJQ0HNJw0
投下終了です。

260名無しさん:2020/05/31(日) 22:59:41 ID:PXXzL2yY0
投下乙です
DIO曰く、ダリオが吸血鬼化していたら相当強くなると推測してたな

261Poison Parent ◆vV5.jnbCYw:2020/05/31(日) 23:29:56 ID:yJQ0HNJw0
感想ありがとうございます。
吸血鬼・鬼化けしてもしなくても毒親として面倒ごと起こしそうですね。

262 ◆rXek/f915.:2022/09/22(木) 22:46:31 ID:4ChXtkOw0
エシディシで予約します。

263 ◆rXek/f915.:2022/09/30(金) 01:09:40 ID:lNVBu.Ds0
予約延長します

264 ◆rXek/f915.:2022/10/06(木) 00:20:28 ID:weEKzlkI0
すみません、予約破棄します

265月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:27:34 ID:iRmSq/Zg0
投下します。

266月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:27:52 ID:iRmSq/Zg0

「行くぜ行くぜ行くぜええええエエエぇぇェぇッッッ!!!!」


けたたましいモーター音と、人間の叫び声。
傍で見ていても耳を塞ぎたくなるような轟音が響く。
地獄で生まれた魔獣の雄たけびと言っても相違ない。


「ハ、なんともうるさい音だ。」

その爆音を一番近くで受けるのは、吸血鬼の王。
彼は逃げもせず、抵抗の意志も見せない。
最初は構えていた2本の銃剣は、刃先を下に向けており、そのままでは武器の役割を成さない。


「良いコト思い付いたぜェ!!」


言うが早いか、チェンソーの右腕をブンと振るう。
狙いは雅の白く細い首。
チェンソーで首を斬り落とされれば、悪魔だろうと生きてはいられない。
勿論、切り裂くことが出来ればの話だが。


「ほう。」


雅は余裕しゃくしゃくと言った様子で、首だけを動かして斬撃を躱した。
全身を動かす必要などない。本気を出さずとも簡単にあしらえると言った態度の表れだ。


「テメエみたいな悪い奴を全員ブッ殺せば、悪いオババがやりたいこと出来なくなって、万々歳じゃねえかァ!?」


良いアイデアを出せた悦びで、斬撃に勢いが乗る。
だが第二撃、第三撃も、同じ様に紙一重の動きで躱される。
敵の巨大な双剣で受け止められることは無い。一対の刃は縦横無尽に空間を暴れまわる。
だが、斬られたのは地面や雑草のみ。飛び散るのは血ではなく、草の切れはしや石畳のかけらだけだ。
その様子だけを見れば、押しているのはデンジの方。
だがよくよく見れば押されている雅が、これから嬲る獲物のイキの良さを下調べしているかのようだった。


「お前の言うことは正しい。実に素晴らしい解答だ。」
「だろ!?褒めても悪い奴には何も出さねえけどなァ!!!」


デンジの強気な言葉には、どことなく敵に対する恐怖を孕んでいた。
今まで斬殺して来た悪魔とはまるで違う相手の底知れなさを、僅かな間に感じ取っていた。

267月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:28:25 ID:iRmSq/Zg0

チェンソーの右腕を真っすぐ正面に突く。
これもまた後方に飛び退いた雅に当たらない。
チェンソーの刃渡りが、あるいはデンジの腕があと1センチ、いや、あと0.5センチ長ければ胸に刺さっただろう。
少なくとも、雅の生まれた時代の割りにはモダンな服に裂け目を入れることぐらいは出来たはずだ。


「不可能だということに目をつぶれば、だが。」
「!?」


銀色の何かが動いた。
銀色の何かが飛んだ。


「は……!?」


あまりの一瞬の出来事で、頭より先に身体を動かすデンジでさえ、硬直状態になった。
何しろ、敵が一瞬身じろぎしたと思ったら、自分の両腕がスポンと飛ばされていたのだから。
チェンソーの悪魔を心臓に宿したデンジならば、両腕を失おうと再生する。
問題は、攻撃をかわす所か、見ることさえ出来なかったことだ。


「存外頭が良いな。私が言ったことがもう分かったのか。」


雅が行ったのは、シンプルな逆袈裟斬り。
だが、それを対化物専用の武器で、人間を凌駕する吸血鬼の王がやることで。
チェンソーごと腕を斬り落とせる、常識を逸した一撃になる。


「分かんねえよバーカ!!」


両腕から再びチェンソーを生やす。
血さえあれば、四肢を斬り落とされようと簡単に再生が出来る。
先程の件など無かったかのように、ぐるぐると両腕を振り回す。
しかし、その様子は赤子が怖い何かを寄せ付けまいと、必死になっておもちゃを振り回しているようだった。


勿論、吸血鬼の王には掠りもしない。
雅にとっては、デンジというよりもその血の味の方に興味があった。
チェンソーの乱撃を1つ1つ躱しながらも、刃先の付いた血を上手そうに舐める。


「下品だが、コクがあって病みつきになる味だ……腕は今一つだが、血の味は悪くないな。」
「うるせえ!パフォーマンスにばっかり拘ってると長生きしねえって知らねえのか!?」

右腕を袈裟懸けに振るう。
狙いは雅の腰から足の付け根。ちょこまか動くなら、先にその足を斬りつけようという判断か。
答えは『それもある』だ。


ツルンッ

「何!?」


ゴチンッ


「うぐっ。」


雅がデンジの斬撃を躱した先には、血だまりがあった。
たまたま運悪くそこを踏んだのではない。デンジがその場所に来るように誘導したのだ。
しかも再生したばかりでまだ柔らかい頭を、後ろからぶつけてしまう。
デンジはろくに教育を受けていないため、知識に難はあるが、戦闘に差し支えるということはない。
むしろ幼少期からポチタとともに悪魔と戦い続けた経験のおかげで、即興の作戦を練る能力は優れている。
しかもそれは、岸部との修行によりさらに磨きがかかっていた。

268月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:29:09 ID:iRmSq/Zg0

チェンソーの右腕を真っすぐ正面に突く。
これもまた後方に飛び退いた雅に当たらない。
チェンソーの刃渡りが、あるいはデンジの腕があと1センチ、いや、あと0.5センチ長ければ胸に刺さっただろう。
少なくとも、雅の生まれた時代の割りにはモダンな服に裂け目を入れることぐらいは出来たはずだ。


「不可能だということに目をつぶれば、だが。」
「!?」


銀色の何かが動いた。
銀色の何かが飛んだ。


「は……!?」


あまりの一瞬の出来事で、頭より先に身体を動かすデンジでさえ、硬直状態になった。
何しろ、敵が一瞬身じろぎしたと思ったら、自分の両腕がスポンと飛ばされていたのだから。
チェンソーの悪魔を心臓に宿したデンジならば、両腕を失おうと再生する。
問題は、攻撃をかわす所か、見ることさえ出来なかったことだ。


「存外頭が良いな。私が言ったことがもう分かったのか。」


雅が行ったのは、シンプルな逆袈裟斬り。
だが、それを対化物専用の武器で、人間を凌駕する吸血鬼の王がやることで。
チェンソーごと腕を斬り落とせる、常識を逸した一撃になる。


「分かんねえよバーカ!!」


両腕から再びチェンソーを生やす。
血さえあれば、四肢を斬り落とされようと簡単に再生が出来る。
先程の件など無かったかのように、ぐるぐると両腕を振り回す。
しかし、その様子は赤子が怖い何かを寄せ付けまいと、必死になっておもちゃを振り回しているようだった。


勿論、吸血鬼の王には掠りもしない。
雅にとっては、デンジというよりもその血の味の方に興味があった。
チェンソーの乱撃を1つ1つ躱しながらも、刃先の付いた血を上手そうに舐める。


「下品だが、コクがあって病みつきになる味だ……腕は今一つだが、血の味は悪くないな。」
「うるせえ!パフォーマンスにばっかり拘ってると長生きしねえって知らねえのか!?」

右腕を袈裟懸けに振るう。
狙いは雅の腰から足の付け根。ちょこまか動くなら、先にその足を斬りつけようという判断か。
答えは『それもある』だ。


ツルンッ

「何!?」


ゴチンッ


「うぐっ。」


雅がデンジの斬撃を躱した先には、血だまりがあった。
たまたま運悪くそこを踏んだのではない。デンジがその場所に来るように誘導したのだ。
しかも再生したばかりでまだ柔らかい頭を、後ろからぶつけてしまう。
デンジはろくに教育を受けていないため、知識に難はあるが、戦闘に差し支えるということはない。
むしろ幼少期からポチタとともに悪魔と戦い続けた経験のおかげで、即興の作戦を練る能力は優れている。
しかもそれは、岸部との修行によりさらに磨きがかかっていた。

269月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:29:32 ID:iRmSq/Zg0

「どーだッ!これが未来のノーベル賞受賞者の頭脳って奴だぜ〜!!」


いくら格上の相手と言えど、仰向けに転んでしまえば、即座に反撃は出来ない。
おまけに銃剣は落としてしまい、斬撃を防御することも出来ない。
今こそがとどめを刺すチャンス。
両手ではなく、頭に付いてある刃で、吸血鬼の王を圧し潰そうとする。
シンプル故に確実に倒せる方法だ。頭をミンチにされて生きられる生物はいない。
しかも、破壊を司る悪魔の刃ならば猶更だ。


だが、それで倒すことが出来るとするなら。
雅はとある剣士によって、何度も倒されているはずだ。


「足りん。」


とどめを刺すはずだったチェンソーは、いとも簡単に止められた。
しかも、剣ではなく真っ白な両手で。
真剣白刃取りと言えばどのような状況か、明白だろうか。


「クッソおおおおおお!!離しやがれええええエエエエエェェェッッッ!!」
「ハ、その威勢だけは評価に値するよ。」


デンジはライブ中の観客が見せるヘッドバンキングのように頭を振ろうとするが、全く歯が立たない。
あろうことか、凄まじい腕力でチェンソーの回転まで止められる。
そもそも、白刃取りというのは実戦向きの技術ではない。そんな行動をとるのは、王者としての余裕の顕れでしかない。


ならばと両手の刃で、雅の両手を切り裂こうとする。
だがデンジが両手を動かす前に、雅はチェンソーを掴んだまま両手を高く掲げた。巴投げの体勢だ。


「うわああああああ!!」


急に重力の鎖を断ち切られ、空の旅へ送られてしまえば、デンジでなくとも驚くはずだ。
チェンソーの悪魔は、跳ぶ能力は持っていても、空を飛ぶ能力は持っていない。
従って、空中を支配することは出来ないのだ。


「刹那の暇つぶしにはなったが、宮本明の方がマシだ。」


雅としては、最初のチェンソーに変身する力には驚かされたが、それを使いこなす技術が未完成と言った所。
人間でありながら、手を変え品を変え自分の首を狙って来た男に比べれば、遠く及ばない。
終わりにしようと2本の剣の内の1本を拾い、円盤のように投げ飛ばす。


くるくると回転する刃がデンジの右手を切断する。
それだけではない。ブーメランのように回転し、戻って来た剣がデンジの腰より下を斬り落とす。


ぐちゃ、という音を立てて地面に落ちるデンジ。そこから血が水たまりのように広がって行く。
四肢の内三本を斬り落とされれば、まともな着地など出来やしない。
その様を雅は黙って見下ろしていた。


「出来はまだまだだが、その力は面白かった。どうだ?私の息子とならないか?」


雅はデンジそのものよりも、デンジの力に興味を示した。
腕を切り落としても再生する力に、チェンソーに変化して攻撃する能力。
人間というより邪鬼や混血種(アマルガム)に酷似しているというのに、自分の支配下に置かれていない。
逆に言えば、自分の血を与えれば、更なる力を得る可能性もある。

270月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:30:24 ID:iRmSq/Zg0

「何で俺がそんなものにならなきゃいけねえんだ。毎日三食食わしてくれんのか?」
「お前は頭が良いのか悪いのか分からないな。私に付けば助かるし、おまけに強い力が得られるんだぞ?」
「誰が男の言いなりになるかバーカ!」


ぺっ、と吐いた唾が雅の顔に飛んだ。
デンジは既にマキマという女性の物になっている。飯を食わせてもらったし、人並みの扱いをしてもらった。
それがなんで今更になって、こんな顔色の悪い男のしもべにならねばならんのだ。


「そうか。ならば私の手で吸血鬼にしよう。」


強者が弱者を従える。
単純にして明快な構図だ。


だが、忘れるなかれ。
この場では、雅も弱者の立場に落とされることもあるのだ。



黒い雷が、その場を走った。



気が付けば雅の目の前から、デンジは消えていた。



「邪魔立てか……どこにでもいるものだな。不必要な正義感に駆られて命を散らす者が……。」
「正義感?正義感と言ったわね!?アハハハハハハハハ!!だとしたらてんで見当違いだわ。
そもそも、私の格好が正義の味方に見えるかしら?」


あの医者の先生じゃあるまいし、と彼女は付け足す。
よく見れば、女性の格好は、暖色を中心とするスーツとマントを身にまとったヒーローとは程遠い。
むしろ、急所に該当する部分のみを黒で隠し、肩甲骨に当たる部分から翼が、臀部から尻尾が出ているという、悪魔じみた格好だ。
誰が言ったか。悪の組織の女幹部のようだと。


「え、えええええええ!!?」


デンジがそんな悲鳴を上げるのも無理はない。
彼女の美貌に魅了される間もなく、ポイっと離れた場所に投げ飛ばされた。
雅との戦いで、多少雑に扱っていい相手なのも分かっている。


「確かに言う通りだな。今の所作といい、悪の方に近い。
尤も、私にとって肝心なのは善や悪じゃ無いが。」


日本を手中に収めた雅にとって、大切なのは正義だの悪だの、そんなちっぽけなものじゃない。
己の退屈を紛らわせることが出来るか出来ないかという、それ以上に矮小なものだ。
雅はさらなる強者を相手に、2本の剣を構える。


吸血鬼の王と女王の戦いが幕を開けた。

271月夜の戦争 ◆vV5.jnbCYw:2023/06/21(水) 00:30:39 ID:iRmSq/Zg0




雅は吸血鬼の女王、ドミノ・サザーランドを強敵と見なした
先の動きと言い、彼女は態度だけではないことは、すぐに理解した。
だからこそ。全力を以て潰す。ただ勝つのではない。敗北を味合わせてから殺す。



強大な力が、夜の中で躍動する。
ドミノが両の翼を広げたと思ったら、チェンソーの刃で飛ばされた瓦礫が宙に浮き、雅に襲い掛かった。


「これは……中々面白い手品だ。」


雅は2本の長剣をバトンのように振り回し、瓦礫を豆腐のように切り裂く。
四六時中その身を守っているだけではない。
瞬間、雅の動きは守りから攻めへ。


デンジの時と違い、守りから攻めのリズムを作ることが出来ないと判断した雅は、地面を蹴る。
狙いは勿論、ドミノの翼。
物理法則では説明の出来ない動きは、彼女の黒い翼によるものだと判断した。


瓦礫の雨のなかを駆け抜け、ドミノを切り裂こうと剣を振りかぶる。
だが、その剣は振り下ろされることは無かった。


「何だこれは!動かないぞ!!」


先程まで、両手を開いていたドミノが、いつの間にか閉じている。
これもまた、彼女の吸血鬼としての能力。
堂島正との戦いで敵の自由を奪った時のように、雅の運動神経を阻害したのだ。


だが、上半身の動きは封じられても、下半身は比較的自由だ。
地面を思いっ切り蹴り、空へと逃げる。人間とは比べ物にならぬほど高い跳躍だ。
だが、それは雅のミスだった。
翼を持たぬ雅が、翼を持つドミノには空中で敵うはずがない。


「それで吸血鬼の王を名乗るつもり?」


今度は能力を使うためではなく、空を滑空するためにドミノは翼を広げる。
空中での軌道力ならば、ドミノが上。だが、高さならば先に地上を離れた雅の方が上。


「無論。」


空へ逃げた時、ドミノの能力の拘束は無くなった。
両腕が自由になると、雅は上空から剣を交叉させ、迫り来るドミノを切り裂こうとする。
その剣は化け物退治に向けて作られた道具。
吸血鬼の常人離れした力を持って振るえば、ドミノとて切り裂くことが出来るだろう。
切った部位、突いた部位によれば、一撃で息の根を止めることも不可能ではないはずだ。


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