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悪魔憑きバトルロワイアル
212
:
月は昇り、日は沈む
◆PxtkrnEdFo
:2020/01/31(金) 03:21:05 ID:vYKtjpqc0
そこに神の視座でのみ気付き得る奇跡があった。
放った技に回転を伴うものを選んでいたこと。
ジョナサンが馬の力を受けて跳んでいたこと。
馬の走るフォームが【黄金長方形】を描いていたこと。
ジョナサンの波紋が黒死牟の斬撃と接した瞬間、黄金の回転の後押しを受けた一撃で全てを薙ぎ払い、黒死牟よりわずかに離れた地に降り立つ。
「馬鹿な…!?」
満身創痍の男が自らの奥義を打ち破り、自らに迫っている。
その現実が黒死牟には信じがたい。そして何より耐えがたい。このようなものが生きていてはこの世の理が狂いかねない。
主命が、義務感が、何より怒りが黒死牟に剣を振るわせる。
ジョナサンの命脈を今度こそ断たん、と剣技において最大の威力を発揮する大上段からの振り下ろしが見舞われる。
時に、剣道三倍段という言葉は徒手の者が剣を帯びた者に挑むときにも用いられることがある。
徒手のジョナサン、剣を振るうのに加えて呼吸による圧倒的な射程を誇る黒死牟。
大技を用いずともその差は大きく、そのままではジョナサンの勝機は皆無であっただろう。
だが戦士はもう一人いる。
黒死牟が技を放つその瞬間に、放り捨てたはずの鎖斧が運ばれていた。
七海やちよは身体の自由を失くしたが、魔法まで封じられてはいない。
生み出した槍をミラーのようにして戦況を見る。
そしてマギアで放っていた槍を操り、日輪刀をジョナサンに届けたのだ。
(これがッ、最後のチャンス!)
右手で鎖を、左手で肺を握る。
最期の波紋を絞り出し、黒死牟の斬撃と頭部を諸共に砕かんと日輪刀を横薙ぎに振るった。
(ッ!呼吸が……!)
だが溢れる血による嗚咽か、武器を振るう反動か、そもそも指で呼吸を制御するのに無理があったか、僅かに呼吸を乱してしまう。
放たれる呼吸のリズムは鋼を伝わるものでも、太陽の如きものでもなく、炎の波紋 緋色の波紋疾走(スカーレット・オーバードライブ)となってしまった。
だとしても、と万力の如き力を込めて日輪刀に走らせた。
それがジョナサンに微笑んだ二つ目の幸運。
炎の波紋の熱により日輪刀が色を【赫】く染める。
鬼を殺すべく、ジョナサンの意思に応えるように変化した日輪刀と波紋の併せ技。
―――月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月
―――炎と刃の波紋 赫色の波紋疾走(スカー・レッド・オーバードライブ)!!
黒死牟の振り下ろす刃にに呼応するように数多の斬撃が、神の杖の如く降り注ぎ大地を抉らんとす。
その斬撃に赫く染まった鉄球が叩きつけられ、そして斬撃の波を抜けて軌道を変えることなく黒死牟へと向かう。
屈辱に黒死牟の奥歯が音を立てて軋む。
だがそれを想定しないほど愚かではない。
黒死牟とジョナサンの位置関係は僅かに鎖の長さが足りず鉄球の届かない距離で―――
ゴギン
小さな音と、小さな違和感を黒死牟を覚えた。
そしてその予兆は結実する。
ゴギィ
(関節をッ!)
メギッ
(外して腕を伸ばすッ!その激痛は波紋エネルギーで―――)
和らげる?そんな些事に残りわずかな波紋を?
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