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霧が晴れた時―BAD KIDS―
1
:
理科。
:2002/08/19(月) 17:16
管理人さんのお言葉に甘えて
銀板から越してきますた。
よろしくお願いします。
80
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:35
「…勝手に解釈しないでほしいなぁ。」
「…違った、かぁ…。はは。ごめん、梨華」
柴っちゃんと、おーやんは少し切なさそうな瞳で、私とひとみちゃんを
見据えていた。ちょっとバツが悪くなった私は、そんな二人を真っ直ぐに
見ることが出来ない。一気に残り少なくなった缶ジュースを飲み干し
鞄を掴み、『おやすみ。』と伝え、そそくさとその場から逃げるように
隣のお部屋と向かった。
「…あのさぁ。二人供…許してあげてよ。あれでも梨」
「あ―――!わかってる!大丈夫!怒ってないから。」
「…ぜってー嘘だね。柴田は怒ってる。」
81
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:36
「...それ以上言ったら、おーやんは廊下で眠ってもらうからね!
はい!コレ、おにぎり!二人で仲良く食べなさい!」
あー...あたし、お邪魔かも。
どーも、ごちそうさまです。はいはい。
二人に気づかれないように、自分の荷物を手に取り
隠れながら梨華の居る部屋へ…。
――――――
82
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:36
「あ、よっすぃ〜。お風呂入っちゃえば?」
「あ、うん、いや…。え、あ、じゃあ、あたしも入っちゃおう。」
ベットの上に、バスタオル一枚の梨華。
濡れた髪を拭きながら何でもないようにそう言った。
…反対に、あたしの心臓は爆ついていた。
危なく口から出そうな勢いだったけど…。
お風呂場までダッシュ。
バタンとドアを閉める。
情けない…。
ズルズルあたしは足から崩れ落ちて行き
とうとう狭いその場所で気を失ってしまったようだった…。
―――――――――
83
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:37
気がつくと、目の前には真っ白い天井が映った。
額には熱冷まシートがペタリ。
ソヨソヨと、クーラーの風があたしに吹いている。
寒くもなく、丁度良い按配で。
「よっすぃ〜。」
「…あ。」
梨華―。
真っ白いノースリーブから出ている細い腕には
何本もの、ジュースが抱えられていた。
半乾きの髪をタオルで一本に結んで、少し困った様な表情をし
あたしの顔を覗いている。
それが何だか可笑しくて。
プっと噴出してしまっていた。
「…何で笑うのよ。」
「え…?あぁ、ゴメンね。」
84
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:39
梨華は、ちょっとムっとした顔をして
手にしていたジュースを机に置くと、自分のベットに
寝そべった。
あたしは何も言わないまま、その寝ている彼女を
じっと見ていた。
シーンと静まり返る部屋の中に
微かに聞こえる波の音。
(…え?)
フ...っと梨華が思いつめた表情で
あたしを見つめる。
「ねぇ…そっち行っていい?」
「え!あたしのベット!?」
「…ダメ?」
「だ、ダメじゃないけど…どーしたの?急に?」
85
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:41
ダメなワケない!
でも…何で。
ホントに急だった。
あたしはドギマギしていた。
もし、柴っちゃんや、おーやんがいきなりこっちの部屋に
入ってきた事を想定し、あたしは鍵がかかってるかを
さりげなく確認してみる。
上半身を起きあがらせ、八の字眉で真剣な表情で
あたしをずっと見ている梨華。
胸元からキラリと光るペンダントに
あたしの目は釘付けになっていて。
「…よっすぃー...ダメなの?いいの?」
「…来なよ。」
プツリと脳で何かの糸が切れた音がした。
静かに。
静かに―。
そう暑くもないのに、あたしの額からは汗が流れ落ちている。
ブラリと垂れ下がった熱冷まシートを取り、ベットの脇に備え付けている
ゴミ箱へポイと投げ捨てた。
薄いタオルケットをはぎ、あたしは布団をポンポンと
叩いて見せた。
86
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:42
少々緊張したような顔を浮かべ、梨華はベットから身を乗り出し、
あたしのベットへと一歩一歩、ゆっくりと歩いて来る。
ゴクリと唾を飲む音が喉で響く。
梨華が近づくに連れて、あたしの心臓は張り裂けんばかりに
大きく鼓動する。
フっと灯りが消え、クーラーの音だけが
部屋中を支配していた。
そして―。
石鹸のいい匂いが、フワリと鼻についた時―。
梨華の細い腕があたしの首に強く回された。
カタカタと震える彼女の華奢な手。
頭がクラクラする。
意識が飛ぶ。
梨華の細い腰に両手を回し、あたしは彼女を引き寄せた。
そして倒れ込むように、あたしと梨華はそのままベットへ
身を委ねる。
87
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:42
「…っすぃー、…ひと、みちゃん。…これは夢なの。
現実じゃなくてね…?全部、夢…。」
「…うん。夢、だよ…。梨華。」
梨華もあたしも泣いていた。
消え去るような声で梨華がそう言った。
梨華がそう言うなら…これは夢なんだ。
…覚めない夢であってほしい。
何でだろう。
凄い切なくて、悲しくて。
あたしの腕にスッポリと収まる梨華がとても愛しい。
あたしは彼女の細い顎を持ち上げ、唇を落とした。
微塵も抵抗しない梨華。
一度離し、あたしは上唇を軽く挟むようにキスした。
「…ん。」
88
:
長い夜
:2002/08/30(金) 19:43
脳みそが揺れるような刺激にあたしの頭はショート寸前だ。
これはヤバいと感じたあたしだったが…
すでに思考回路は『梨華』という愛しい人物により破壊されていた。
梨華も梨華であたしの髪の毛を撫でつけ、そしてゆっくりと下に
向け、背中を優しく撫で回す。
何て心地よいんだろう…。
「…梨、華。」
「…とみ、ちゃん…。」
梨華の黒く潤んだ瞳―。
深く深く、それはどこまで続いているんだろう。
吸い込まれたい。
夢中で梨華を抱く。
長い長い夜だった―。
――――――
89
:
理科。
:2002/08/30(金) 19:46
更新しますた。
…ちょとマターリしすぎてました。
スミマセンでした(反省。。。
90
:
名無しプッチ
:2002/09/01(日) 12:56
マターリでも、楽しみにしています。
がんがってください。
91
:
理科。
:2002/09/02(月) 19:09
>名無しプッチさん
ありがとうございます。
がんがりますよほ。
92
:
長い夜
:2002/09/02(月) 19:11
胸元の愛の印を数える。
1、2...3、…6コ。
紛れもない、ひとみちゃんが付けてくれた印。
夢だと言い聞かせ、私はひとみちゃんに迫った。
そして彼女は優しく私を抱いてくれた。
交わることは初めてではなかった。
…あの人にされたなんて考えるだけでも吐き気がする。
大好きな…人と、一つになると言うことは
何て素晴らしい事だろう。
隣でスースー寝息を立てているひとみちゃんの顔を見ると…
キュンと胸が痛んだ。
彼女を起こさぬように、私はベットから抜けだし
静かにひとみちゃんの腕をタオルケットの中に仕舞い込む。
今日から自由行動だった。
本当はひとみちゃんとずっといたいけど…
もう一人の私が邪魔するんだ。
溶け出すことのない氷。
私はシャワー室へと足を運んだ。
―――――――――
93
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:11
「ちょっと!アンタ等、人の話聞きなさいよ!」
「ヤッスー、早く自由行動しよーよ。時間なくなっちゃうよ?」
「うっさい!大谷!アンタが一番心配なのよ!!」
あたしはそんな二人のやり取りを目に、
チラっと梨華を見た。
いつもと変わらない彼女がいる。
やっぱり昨日の出来事は夢だったんだ…。
心の何処かで、少しは前より接してくれるんじゃ…
って、淡い思いを抱いていた自分は甘かった。
少し離れた場所に、梨華は座って携帯をいじっている。
じっと見ていたあたしの視線に気づいたのか、梨華は顔を
あげ、あたしを見た。でもすぐに視線をずらされる始末。
心なしか頬が赤かったのは気のせいだろう。
「あ――!もーいいわ!おまん等、自由に羽ばたきなさい!
でも悪いことや、知らない人に飴買ってあげるからって
着いていっちゃ…」
「わーったよ!ヤッスー!!水牛乗れなくなるぞ!」
「そ、そそそそそれは困るわ!!じゃ、いい自由行動を!
なっち&カオリ!行くわよ」
94
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:12
そう言い残し、あたし達生徒はただただ呆然と
保田先生にいいように引きずられてく安倍先生と飯田先生は
すでに諦めきった顔をしている。そんな姿を見つめ
みな、あんぐりと口を開けたまま、その場で固まっていた。
…そんなに乗りたかったんだね、先生。
しかし、他の組の生徒の一人が仲間と供に活動を始めるのを
キッカケに、次々と出かけて行く。
そしてそこに残された組は、いつしか
あたし達、4人だけとなっていた。
「どーっすっか?」
「あら、私とおーやんはこれから買い物でしょ?じゃ、お二人さん♪
私達はこれから出かけますね。では夕方会いましょー!」
いつになく、強引な柴っちゃん。
って…こっちに来てからちょっと性格が変わったね。
嬉しいのか、悲しいのか…。
少し複雑な気分だ。
あたしは手を振り、二人の姿が見えなくなったのを
確認してから梨華の方へと足を運ぶ。
ホテルの従業員達が忙しそうにアクセク動いていた。
「…ど−しよっか。」
「私は疲れたから…少しお部屋で休むことにする。
よっすぃーは好きなトコ行っておいでよ。」
95
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:12
いまだに梨華は顔を上げずにカチカチ
携帯をいじっている。
『疲れたから』と言う言葉に、あたしは昨日の出来事が
頭に浮かび、少し恥かしさを覚え
横にあった見た事もないトゲトゲの木に目を配る。
「あ…うん。じゃ…行ってくるね。」
返事はなかったけど、何だか嬉しかった。
心なしか梨華の言い方が優しく感じられたから。
それだけで十分過ぎた。
まだ8時を回ったばかりだというのに
外はカンカン照りで、あたしはその中を
元気よく駆け出した。
――――――――
96
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:12
初めて来た街。
見た事のない木々。
何もかもが新鮮で、どれもこれも興味深い物だった。
照りつける太陽なんて何のその。
あたしは歩く。
ドンドン歩く。
さすが沖縄。
行き交う人々は…やはり黒かった。
梨華も黒いけど…っと。
この先は言わないでおこう。
焼けつく太陽の光をいっぱいに浴び、
この南国で、強靭に育ってきた人々。
何処かパワフルだった。
「…カッケー。」
ポツリと漏らした言葉が何故か寂しい。
吹き出る汗を拭いながら、あたしはさとうきび畑を
突き進み、とにかく歩いた。
自分より背の高いさとうきび達は
風に吹かれ、ザワザワと揺れている。
何処まで歩いてもそれは終りなく続いている。
「…ホントに甘いのかな。」
97
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:13
テレビでさとうきびをかじるシーンを観たことがあった。
『あまぁ〜い』
と口にするレポーター。
甘さと美味さに平伏す。
極上の味を示す、至福な顔。
ムクムクと大きくなっていく好奇心は止められない。
懸命に汗水流して育てた会った事のないおじいさんの顔を思う。
ここの主はきっとおじいさん。
自分の孫のように心底可愛がっいることだろう。
真っ黒く日に焼けたおじいさんが、せっせと毎日
育てたに違いない。
勝手なあたしの妄想は広がる。
ドンドン膨らむ好奇心。
あたしは勝てなかった。
一本拝借しようと、あたしはそれをポキっと折ってみた。
けど…結構、固いんだね、コレって。
中々折れないや…。
98
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:13
「たーやが?」
「え…。誰?」
「誰って…こっちが聞いてるんですけど。私はここの畑を
管理してるものです…。」
白い帽子に黄色いTシャツを着た女のコが
ガサガサとさときび畑から出てきた。
背中には大きな篭。
手には鋭く光るカマ。
あたしはその姿に愕然として、
手に持っていたさとうきびを離し、
途中でやめてしまっていた。
おじいさんはどこへ。
あたしの想像していたおじいさんは
どこへ行ってしまったのか。
「泥棒…?」
「いや…ちが…本当に甘いのかなぁって…思って。つい…」
女のコは首にかけたタオルを外し
おもむろに帽子を取り、汗を拭いた。
小さく息をつき、ニコっと笑みを溢す。
さほど自分とは歳がかわらないはずだ、などと、
思っていたあたしに、彼女は背中の大きな篭から
一本、さとうきびを取り、かまで固い皮を剥ぎ
あたしに差し出したのだった。
99
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:13
「…え。」
「どうぞ。」
「あ、ありがと…」
ツーっと汗が滴る。
あたしは乱暴に手の甲でそれを拭き取ったあと
彼女の手から、それを受け取りかじってみる。
甘かった。
ジュンと口いっぱいに広がる味を、あたしは堪能した。
砂糖のように裏甘くなくて、初めて体験した味に
体が震える。
レポーターのあの顔が浮かんだ。
「うわぁ…」
「おいしいでしょ?」
「うん!何か…初めての味」
100
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:14
そう告げたら、彼女は『どうだ』と言わんばかりの
笑顔であたしを見ていた。
太陽のように眩しい笑顔に、あたしは恥かしくなり
あたしはそれをかじりながら、ごまかすように
畑一面を見渡していた。
「私は亜弥。松浦亜弥って言います。あなたは?」
「あたしは吉澤ひとみ。修学旅行中で来てるんだけど、
今は自由行動中なんだ。…何かヘンだね、今の言い方。」
「ヘンじゃないですよ。そっか…。めんそーれ、沖縄。」
「え?めんそーれ…?」
「ようこそ、沖縄って意味。丁度、休憩しようと思ってたんです。
あそこの木陰で少し話しませんか?…久しぶりにあっちの話しも
聞きたいし。」
101
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:14
松浦さんは確かに『ひさしぶりに』と言った。
あたしはそこだけ何故か妙に引っかかって。
黙って彼女の後ろをついて歩く。
引越してきたのかな、ここへ。
それとも遊びにいったとか?
松浦さんはさほど方言が強いわけでもなかった。
ホテルの従業員さん達が普通に会話をしていたのを
聞いたことがあったっけ。
何を話していて、何に対して笑ってるのかがわからなかった。
5分程歩いた場所に、大きな木がデンと聳え立っていた。
あたし達はその下へと座り込んだ。
「はー…疲れたぁ。吉澤さん、喉乾きませんか?」
「あ、はい。少し。」
そう言うと松浦さんは、腰に巻いていたバックから
水筒を取り出す。キュっとフタを捻り
コポコポとコップにお茶を汲んで、あたしに渡した。
「ありがとう。」
102
:
はいさい。
:2002/09/02(月) 19:14
あたしはそれを受け取り、乾ききった口に
持ってゆき、一滴も残さず飲み乾した。
少しどころではなかった。
本当は唇も喉もカラカラに乾いていた。
枯れ木に水を与えてくれた松浦さん。
ありがとう。
キレイに花を咲かせます。
「もぉ、一杯いかがですか?」
「あ、いいんですか?いただきます。
ちょっと変わった味がしますね。美味しいけど。」
「シーグヮー茶って言うんです。良かったぁ、気にいってもらえて。」
変わったイントネーション。
サワサワと風が吹く中、あたしはまたお茶を飲み干した。
喉がカラカラだったせいもあってか
今まで生きてきた中で最高の味がした。
暑かった体の熱が、みるみるスーっと引いて、
何とも言えないような感覚に陥る。
それが妙に気持ち良くて、あたしはコップを持ったまま
目を閉じた。
隣に座っていた松浦さんは何も言わずにいる。
風に揺らされ、さとうきびや葉っぱの触れる音。
鳥達の楽しげな唄―。
ここには自然と人とを守る大きな神様がいるんだ。
静かにあたしの耳に優しく入っていくのだった。
――――――――――
103
:
理科。
:2002/09/02(月) 19:15
(O^〜^)ノ<しゅ〜りょお〜♪ウージーカッケー!
104
:
胡麻べいぐる
:2002/09/04(水) 11:58
何だか読んでて、物凄い勢いで『島唄』が聴きたくなりますた。
(O^〜^)<♪島唄よ 風に乗り〜
あやや、かわいいなぁ。
105
:
総長@さわやか。
:2002/09/08(日) 21:00
溶けるはずのない氷、ひどく切ないですね。
素直になって、腕の中に飛び込んでしまえばいいのに。。。と何度思ったことか。
上手すぎますぞ!作者様。がんがって下さい。
106
:
代理
:2002/09/13(金) 06:40
作者が体調不良の為、入院しまして…
少しの間、更新できません。
読んでくださってる読者の方々、
大変申し訳ございません。
107
:
胡麻べいぐる
:2002/09/13(金) 17:18
ゆっくり休んでください。
どうぞお大事に。。。
108
:
管理人
:2002/09/14(土) 21:01
理科たんの、一日でも早い回復を管理人も
遠くから、祈っていますです。
早く元気になってください。ヽ(^▽^)人(0^〜^0 )ノ
109
:
ごーまるいち
:2002/09/16(月) 00:17
お大事になさってくださいね。
理科。たんのお帰りをゆっくりとお待ちしております。
110
:
オイラ
:2002/09/16(月) 01:20
早く元気になるように北のお空に向かって祈りを捧げます。。。
無理せずお大事に!!(*^▽^)σ)^〜^o)
111
:
理科。
:2002/10/04(金) 05:07
>胡麻べいぐるさん。
(O^〜^)<島唄、オイラ大好きだYO!
ご心配おかけしました。それにしても更新早いですね(w
素晴らすぃ。。。
>総長@さわやかさん。
人間、素直が一番です!…が。ここのいしかーさんは
どうでしょうか。((((O:^〜^)ノ<梨華ちゃ〜ん!
がんがります。何とか完結で…(汗
>管理人さん。
祈りが… 届 き ま し た !
まだ完全には退院してませんが、体調はイイ!ですので(w
>ごーまるいちたん。
( T▽T)<ありあと〜。早くお家に帰りたい。。。。
ゆっくり待っててください。なるべく早く帰ってきたいです。
結構、書いてる作品があるんで、それを次はうp…。
>オイラたん。
(O:`〜´)<…ムムムムム。 ←(祈り)
完全フカーツしたらどんどんエ(r
…いや。静かにひっそりと(モゴモゴ
112
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:12
ひとみちゃんに、ああは言ったものの
お部屋で一人携帯片手に
ベットに寝そべっていることが
これほどまでにヒマだとは思わなかった。
左へゴロゴロ。
右へゴロゴロ。
モスラのようにモソモソ。
「あ―――!つまんない!!」
せっかく沖縄にまで来たとゆうのに
てんでいつもと変わらない日常生活をしているのか。
「バカだなぁ…。」
今頃、彼女は何処に行って何をしているのだろう。
ふと昔の事を思い浮かべる。
小さい頃、近所の夏祭りがあった。
私とひとみちゃんはちょっとしたケンカをして。
本当は一緒に行くはずだったのに。
凄く凄く、楽しみにしていはずなのに。
113
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:13
祭りの前の日、ひとみちゃんが私に謝りにきてくれたんだけど、
素直になれない私は頑なにそれを許さなかった。
一人布団の中でモヤモヤと
リンゴ飴を食べるはずだったとか…
金魚すくいもしたかったのに、とか…
『あーん、鼻緒が切れちゃったよ!』
『仕方ないな、梨華は。おぶさりなよ』
『うん♪』
なんて…最大の計画も水の泡。
『ひとみちゃんとマタっと過ごす楽しいお祭りプラン』
はしっかり私の頭で作り上げられ、
分厚い企画書は完成を向かえていた。
…何と言っても一番は、ひとみちゃんが
誰とお祭りに行っているのかが気になってたっけ。
楽しげに響く太鼓の音や、笛の音が聞こえてくるたびに
後悔が風船のように膨らんで行った。
膨らんで膨らんで、破裂しちゃえば素直になれたのかな。
114
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:13
「…ペンダント…してる、のに…。」
キラリと光る胸元。
私はギュっと握り締める。
…どうしてあのとき、私もゴメンねって言えなかったんだろう。
たった一言、ゴメンと。
こんな思いをするなら、これからは素直になるんだと
自分で決めたはずだった。
「ふー...。ジュースでも買ってこようっと。」
このままゴロゴロお部屋の中にいたならば、モスラは糸を吐き
繭になって、それこそ閉じこもってしまうだろう。
そして立派に作り上げられた繭の中でネガティブな構想が
大きく膨らむ。悪いけど誰にも止められないわ。
『ネガティブな私。』
映画予告のワンシーンでも観ているように
鮮明に駆け登る。
くだらない…。
お財布から小銭を取り出した私は、
下のフロアに向かった。
「あ…これ、昨日飲もうって思ってたっけ。」
ここに来て、私はジュースを買うという些細な楽しみが出来た。
見た事もないジュースばかりが販売機に入っていて。
物珍しさに販売機のジュースを品定め。
腕を組み、ウーンと唸る。
よく子供の頃に集めた、お人形シリーズを思い出す。
115
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:14
「あ…これ、昨日飲もうって思ってたっけ。」
ここに来て、私はジュースを買うという些細な楽しみが出来た。
見た事もないジュースばかりが販売機に入っていて。
物珍しさに販売機のジュースを品定め。
腕を組み、ウーンと唸る。
よく子供の頃に集めた、お人形シリーズを思い出す。
「グヮバ…美味しいのかなぁ。」
―ガコン―
勢いよく出てきたジュースを取りだし、
私はフロアにデーンと構えてるソファに腰かける。
フロントにいた従業員が、不思議そうに私を見ていたけど
そんなのは気にも止めず、フタを開けそれを飲もうとした時だった。
「あっついわぁ!あ!!い、石川!!ちょっとそれちょうだい!」
116
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:14
編み笠のてっぺんがちょっと尖った帽子…?を
被った保田先生が(かなり似合ってる)
私が今飲もうとしている
ジュースを取り上げると、それを一気に飲み干すのだった。
ちょっとどころではなかった。
私は目を白黒させながら、今、何が起こっているのかを
把握するまでに多少なりとも時間がかかる。
確かに先生は、安倍先生と飯田先生を引き連れて
水牛に乗りにいったはずだった。
それがなぜ、ここにいるのか?
「ウマイ!!風呂上りのビールよりはイケてないけど…うまいわよ!!」
「先生…どうして。」
「あら?水牛にはまたがったわよ?これが証拠。」
笠に指を指し、1枚の写真を鞄から出すと
そこにはニッコリと満足そうな顔で水牛にまたがった
先生が写っていた。
なぜ…一緒に写ってる周りの人達が驚いた顔をしていたのか
凄く疑問に思ったのだけど…。
117
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:15
「…あのね。水牛にまたがっちゃいけないんですって。
ちゃんとした座る場所があって…。アタシ、無理矢理
またがって座っちゃったらさぁ、怒られちゃって。で、これが
なっちが写してくれたの。こんなの滅多にないことだって。
意味わかんない!ふふ。」
「…帰されたんですか?」
「ま!失礼ね!!危うくこの白魚のような白い肌が焼けそうになったから
早めに帰ってきただけのことよ!!」
私はなぜかシラス干しを連想していた。
白いことは白いけど、踊り食いのときのような透明な白さではなく
真っ白なシラス干しを。
大根おろしと一緒にどうぞ。
牛の背中にパラパラ申し訳なさそうに広がるシラス干し。
「…プ!」
118
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:16
「な、何なの!何よ!失礼しちゃう!!笑った罰よ!
今からお昼一緒!ケテーイね!!イヤとは言わせない!!」
「えー、石川、ヒマじゃないんですけど。」
グイ!っと先生は私の腕を掴んで離さなかった。
本当にこの先生は行動派だ。
でもそれが先生のいい所なのかもしれない。
口では、ああ言ってみたものの、こうして誘ってくれるのが
嬉しかった。
私は黙って先生に連れられ、つまらないホテルを飛び出した。
――――――――
119
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:16
近くの食堂でお昼を済ませ、私と先生は…
水牛乗り場までやってきていた。
「…楽しいの。ホント楽しいのよ!乗りましょ!」
「は、はぁ…。」
これ以上ないくらい、先生の顔はご機嫌だ。
マングローブの木々。
遠浅の静かな入り江。
大きな角のはえた牛。
初めてみる光景に、私の心はソワソワと落ち着かない。
「あれ、あんたまた来たのか。」
「来たのよ!おじいさん!水牛もおじいさんもジョーグーよ!」
三味線とはまた違ったものを抱えながら
先生と同じ笠を被った、真っ黒く日焼けしたおじいさんは
苦笑いをしながら私達の方にやってきた。
120
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:17
「チュラカーギーと、ウンマクーやっさー。」
「ちょっと!それどーゆー意味?」
「あの…何て?」
「…美しい人と…。わんぱくですって。失礼しちゃう!」
同じ日本でも、こうまで言葉が違うとは。
ううん、それより先生は何で沖縄の方言に
詳しいんだろう。
楽しげに会話する二人を、私はただ見つめていた。
「はいさい。お譲さん。」
「はい、さい…?」
「こんにちわだって。」
先生が教えてくれた。
私はハっとして、枯れ木がきしむ音のように
笑ってるおじいさんに向かって
「は、はいさい!です!す、凄い三味線ですね!」
121
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:17
『さい』の所で、私は声が裏返る。
なぜか私はおじいさんが手にしている三味線に目が釘付けで。
…だって蛇の皮なんだもん。
おじさんは、ビックリした顔で私と先生を交互に
見ていた。そして三味線を奏で、
「これは、蛇皮線やっさー。」
「またの名を、サンシンって言うのよ?とにかく水牛!
太郎が待ちくたびれてるわよ!おじいさん!!」
がっはっは!と大笑いするおじいさん。
ポンと太郎の頭を叩く。
その顔は本当に楽しそうだった。
私と同じくらいの身長。
失礼だけど、とても年寄りには見えない。
その笑いが凄いパワフルで。
これからお昼を取るところだったらしかったけど
先生の迫力に負けてか、おじいさんは私と先生を
乗せてくれると言った。
お客さんは私と先生、二人だけ。
すでにお昼を済ませた2人の御者さん達は
お客さんを乗せていた。
122
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:18
今度は頼むから車の方に乗ってくれと言うおじいさんに
残念そうな顔をする先生。
今度は素直に車の方に私と先生が乗る。
「先生はこのおじいさんと知り合いなんですか?」
「知らないわ。さっき初めて会ったばかりだけど?」
先生って凄い…。
沖縄の人達に負けてはいなかった。
思ったより、水牛の歩みは速くて。
私は驚きを隠せない。
「…アタシさぁ。石川と同じ歳の頃…母親が蒸発しちゃったのよね。」
「え…」
思いがけないいきなりの先生の告白に
私は耳を疑った。
123
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:19
「父親はそれでおかしくなっちゃって…何処かにいっちゃうし。
あんまり会ったことのない叔父夫婦に引き取られてさ…。
アタシ、その頃…誰も信じられなくなってたの。」
パシャパシャと水が跳ねる音ー。
「..でも学校には通ってたわ。仕方なくね。でもつまんなかった。
クラスメート達は悲惨な目でアタシを見て…どこかよそよそしかった。
いっその事、自殺でもしようかなと思ってた時期…があって。」
遠くで鳥が鳴いた―。
「でもね…一人の先生がさ…助けてくれたの。
本気で心配してくれて…。本気で怒ってくれて…。
本気でぶつかってきてくれた。あの先生がいなかったら
今のアタシは存在しなかった。」
太郎がモーと鳴く―。
「最初は信じられなかったね。この先生は自分を
よく見せようとしてんだわって。
くだらない…この偽善者め!…ってね。
…でもね、それはアタシの大きな間違いだったの。」
目を細めて眩しく光る水面を眺める―。
124
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:19
「ちょっとした事件に巻き込まれたことがあったの。
ううん。ちょっとじゃないわね。殺されそうになったわ。
可笑しくない?自殺考えてた人間がさ、必死で助けを求めてたのよ?」
私は完全に瞳を閉じた―。
「そこに先生が現れた。大ケガしながらアタシを助けてくれた。
気がつくと病院のベットで。虚ろな目が最初に捉えたのが…
体中、包帯だらけの先生だった。ああ、この人は本当にアタシの事を
心配してくれてる、この人には勝てないって思ったわ。
それからのアタシは変わった。そして目標を見つけたの…。」
「…教師、になるってゆう、目標…ですか?」
私は目を開き、震える声で問いかけた。
先生はニコリと笑い、首を縦にふった。
私は泣きそうになった。
目頭が熱い。
お腹の底からこみあげる熱い感情。
足元も震える。
自分がここにいる事が恥かしくなった。
今すぐ太郎が引っ張る車から、私ははってでも
逃げ出したかった。
笑われてもいい。
とにかく…逃げ出さないと…。
125
:
島唄
:2002/10/04(金) 05:20
「な…んで、先生は…そん、な事を…私なんかに…」
「石川とアタシが似てたから。それに…」
「…そ、れに…?」
私の顔はすでにグチャグチャだった。
「アンタが本当に心配だったからよ。」
おじいさんが蛇皮線を奏で、唄い始めた。
話すときと違ってその力強い歌声は、想像をはるかに超えていた。
弱い私を励ますように、その歌声は水面を伝い心に響く。
私は先生にしがみ付き、ワンワン声を上げて泣いていた。
――――――――
126
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:23
松浦さんとたくさん話した。
沖縄の方言について。
あたしのいっこ下だってこと。
本当は神戸に住んでたこと。
事情があって、ここ沖縄に引っ越してきて
おばあちゃんと二人暮しだと言うこと。
大好きな人と無理矢理引き裂かれたということ。
この畑は一人で育ててるということ。
学校には行ってないこと。
さとうきびは、ウージーだってこと。
最後はどうでもよかったことだけど、
松浦さんは…その引っ越してきた事情を
あたしなんかに話してくれた。
あたしはそれを聞いたあと…胸が張り裂けそうになった。
最後に松浦さんはこう言った。
『力強く育ってるウージーになんかに負けてらんないさー!』
それがやけに心に響いていた。
何て強靭な人なんだろう。
少し弱気になっていた自分が情けない。
あたしは梨華のこと…心の何処かで
もう昔のような仲に戻るなんてムリなんじゃないか
と半ば諦め半分だった。追えば離れる梨華に、
正直少し愛想をつき始めていたし、疲れていた。
127
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:25
…この旅行で、何も変化が見られないのなら。
あたしは身を引こうと…考えていた。
しかし、松浦さんに出会った事で、
あたしのそんな考えは吹っ飛んでしまった。
いっそう、梨華が愛しく感じられて。
これからもあたしは梨華の元を離れない。
梨華が離れていっても、あたしはどこまでも
心を開いてくれるまでついていこうと。
あたしは、松浦さんが『梨華ちゃんにも…』と
一本貰ったウージー片手に来た道を引き返す。
あたしは泣いていた。
青と赤のコントラスの中、沈み行く太陽を見ながら―。
―――――――――
128
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:26
私は一人、お部屋のソファに膝を抱えながら座っていた。
水牛に乗ったあと、先生とホテルに戻り
お部屋に戻ろうとしたとき、
安倍先生に出くわした。
『何、泣いてるの?』
やっと泣きやんだのに、私は安倍先生の
優しい問いかけに涙腺が緩む。
スイッチオン。
ただただ私は安倍先生の胸の中で泣きじゃくった。
『…圭ちゃんね。なっち達と水牛に乗りにいったっしょ?
でもねー…どこかソワソワしてて。乗ってる間中も
何処かに電話してるみたいだったべ。乗り終えたら
『アタシ酔ったみたい!』何て嘘つくもんだから
なっちと圭織怒ったの!
勝手に連れてきて帰るはないでしょ!って…。そしたら
『…石川が一人ホテルに残ってるらしいのよ。』って。
ホテルに電話して聞いてたみたい。あ、このこと、圭ちゃんには
秘密っしょ!…いい先生だよね。』
129
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:28
「…ヒック。」
やりきれない思いが身を包む。
いったい、どんな顔をしてひとみちゃんと
顔を合わせればいいのだろう。
とにかく狂いそうになっていた。
彼女の優しさを利用し、
私は悲劇のヒロインなのと幅をきかせてきた毎日。
「…梨華…!どーしたの!電気もつけないで!!
…泣いてるの?いったい、何が」
パチっと灯りがつく。
いきなり灯りをつけられたものだから
私は目を細め顔をあげ、ゆっくりと
ひとみちゃんの顔を見た。
「…私…バカだぁ…ひと、みちゃん…」
少し日に焼けたひとみちゃんはたくましく感じた。
私はそんな彼女に抱き付いた。
抱き付いて泣いた。
あんなに会うのがイヤだったはずなのに
彼女の顔を見たら理性は吹っ飛んでいた。
何も言わずに、ひとみちゃんは私を
力一杯抱きしめる。
130
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:29
「…何かされたの?」
「ちが…違…ちが…」
うまく呼吸が出来ない。
勢いよく水面を蹴って、陸に着地した魚は
こんな風にもがき苦しむのだろうか。
鼻はつまり、涙で視界が歪む。
それは私の心のように。
伝えたいことはたくさんあるはずなのに
一体、何から言うべきなのか
私は戸惑う。
「…梨華。まずは…落ちつこうか。ゆっくりでいいから…息、吐いて…。」
ひとみちゃんの腕が緩んだとき、私はコクリと頷き
スーっと息を吐く。ヒック!と大きなしゃっくりが出た。
「…いいよ。今は何も言わないで…いいから。」
彼女は左手で涙で顔にへばりついた髪を、丁寧に
耳にかけてくれた。そしていつのまにか手には
ハンカチが用意されていて。
優しく優しく、涙を拭ってくれた。
私はそれだけで気を失いそうになった。
ひとみちゃんには勝てない。
いくら私が強がっても、いくら振り回しても
この人には勝てない。
131
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:30
この世に神様がいるのなら―。
どうか私の願いを聞いてください…。
私はもう二度と―。
この人を悲しませたりはしません。
だから―。
わずかな勇気をください―。
「…ひと!ック!…み」
「梨華。ゴメンね…。あたしがもっとしっかり梨華のコト…
大事に思っていたげたら…こんな…苦しい思いしなくてよかったのにね。」
「…ひ」
「…ごめん。ゴメンね!…梨華…」
132
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:31
相変わらず私は、言いたい事が吐き出せず
一人でヒックヒック言っていた。
(違う…違うの…)
大きな彼女の瞳から
崩れ落ちる涙は、真珠のようにキレイだった。
「…ちがう!…ひと!ック…みちゃんは…わ、るくな、い。」
私はひとみちゃんの顔を見つめ、壊れたロボットのように
ゆっくりゆっくり言葉を発した。
ひとみちゃんも泣いたまま、私の目をジ...っと見ている。
「わた…しが、ぜん、ぶ、あまえちゃ…って」
「梨華…」
突然、ひとみちゃんが私の口元に細い指をあてた。
一瞬、私の体が硬直し、彼女に触れられた個所が
熱をおびはじめる。
133
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:33
「…あたしが言うコトに、答えて。…梨華は、今まで反発してきたのは
本心からじゃない…よね。」
「…ん、それ、は..違うよ…。でも」
『でもとか、だってはいらない』
と彼女は言った。
私は首を縦に振り、彼女から次出る言葉を待っていた。
まるでそれは、おわずけをくらってる犬のようだった。
「…矢口さん達や、しばっちゃん…おーやん、これまで
迷惑かけてきた友人達に、自分で謝れる?」
「…うん。謝るよ…。」
「それだけ聞ければ…。あとは何も言わなくていいよ…。
素直に言ってくれて…ありがとう。これからも…一緒だから。」
134
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:34
ニッコリと彼女が笑う。
どうしてひとみちゃんはこんなに優しいんだろう。
私は彼女に必死で抱き付いた。
細いけど、たくましい腕が、私をしっかりと
抱きしめ返してくれる。
この上ない至福感だ。
でも…私はどうしてもひとみちゃんに謝りたいことがあった。
謝りたいじゃない。謝らなければいけない―だ。
それは昨日の行為。
何であんなこと―。
「ひとみちゃん..!あの、これだけは聞いて…。」
「ん?何…?」
「私…昨日…えっと…あの…。ゴメンなさい!…あんなコトして…」
「梨華。少なくとも、あたしのコト、好きでしょ?こんぐらいとか。」
ひとみちゃんは指でちっちゃな輪っかを作り
私の目の前に突き出した。
ちょっとおどけて見せる彼女の顔が何だか可笑しくて。
135
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:34
「ううん!そのくらいじゃ足りないよ!…大好き!いっぱい大好きだよ!」
「いっぱいかぁ…じゃあ、あたしは梨華の上。もっともっとっぱい!」
「じゃあ…私はひと―」
やんわりと私の言葉を遮るひとみちゃんの唇。
目の前には切れ長の瞳を閉じ、長いキレイな睫毛。
私もそっと瞳を閉じる。
何回かキスを交わした。
でも気持ちが一つにはなっていなかったキス。
初めてのキスは、ちょっとしょっぱくて。
ほろ苦い。
よくレモンのような…って言うけど、
そんな味はしなかった。
136
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:35
―心がポカポカ温かい―
「…梨華が好きなんだ。」
「…ひとみちゃん。私も好きだよぅ…。
ゴメンね…今まで…本当にゴメンなさ…い」
「…長かったぁ―――!!…これからだよ。
今までの空いた時間を埋めていこうね。」
「…うん!…今のキスで半分は…埋まったか、な…エヘヘ。」
「そう…?じゃあ…」
ひとみちゃんは私を抱いたまま、少しかがんで
顔を斜めに向ける。私は彼女の唇、目掛けて
自分のを合わせた。ひとみちゃんはそんな私の行動に
少しビックリしたようだったが、少し経つと、
私の上唇を軽く挟んでひと噛み。
そしてそのまま下へ、彼女の唇がゆっくりと移動する。
何かを舐め取るように、それは優しく。
今度は下唇を挟み、キュっと吸いついた。
(…ん。…ひとみちゃん…上手、だよぉ…)
137
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:35
頭の芯が痺れはじめた。
するとひとみちゃんは、不意に唇を離す。
「…へへ。」
「ひとみちゃんって結構…」
「…結構?」
「…Hなんだね。」
「…昨日の梨」
「あ―――――――!!だ、ダメダメ!!それ以上は」
「言わないでおこうか。あ!そうだ、あたしさぁ
梨華におみやげがあるんだった。今日ね―」
楽しそうにお喋りしてるひとみちゃんの表情は
楽しかった中学時代の頃、そのままだった。
ううん。それ以上かもしれない。
先生。
ありがとう。
私…先生がいなかったら…
大好きな人に気持ち、この先、伝えれなかった。
ありがとう。
そして、さよなら。
長いようで短かった私の反抗期。
―――――――――
138
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:36
「…ったく。世話が焼けるヤシ等だったわ。」
ドアの隙間からバカみたいじゃない!
下から、柴田、大谷、そしてこのアタシ。
「…圭ちゃん、私等さぁ…入れないんだけど…。」
「…だよなぁ。柴田ぁ…どーする?」
「うっさいわね!アンタ等はアタシの部屋に泊まり!
そして激しく飲むわよ!エンドレスでね!ホホ。」
「っつーか、未成年だしなぁ。」
「誰が飲ませるって言ったのよ?激しく飲むのはアタシだけ!
アンタ達はお酌よ?ホホ。アタシの飲みっぷり特とご覧アレ♪」
「「見たくねーよ!!」」
139
:
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
:2002/10/04(金) 05:37
石川。
良かったわね。
正直、もっと時間がかかると思ってたけど。
アンタの心にモヤモヤかかっていた霧が…
今、すっきり晴れ渡ったみたいね。
たった一言、素直に『ゴメン』と
言えるこの日まで、アンタは凄く
卑怯で臆病者だったけど。
そんな石川はもう、いないわ。
こうやって人は成長してくもんなの。
自分の甘さに気づき、それを素直に改心できたとき、
人に優しく接しれると言う事を忘れないで―。
もう、アンタは BAD KIDS じゃないんだから。
アタシは大谷と柴田の首根っこを掴み、
自分の部屋へと連れて行く。
「…あら。さすが沖縄。」
ふと窓から見渡す景色―。
雲一つない夕焼け空。
今までで見てきたどんな空よりも
それはキレイに澄みきっていた―。
霧が晴れた時ーBAD KIDS−
―END―
140
:
理科。
:2002/10/04(金) 05:40
いる内に完結。。。
そしてお粗末さまでした。
ペンダントについて、色々ツッコミ所があると
思いますが…。
あとで番外編を書きたいと思っています。
読んでくださっていたみなさん、ありがとうございました。
141
:
管理人
:2002/10/04(金) 20:08
理科さん。完結お疲れさまでした。
色々ありましたが。。。。。完結していただけて、感謝しています。(涙)
ありがとうございました。
すごく楽しくよまさせていただきました。
番外編楽しみにしています。ヽ(^▽^)人(0^〜^0)ノ
142
:
名無し○い○ん
:2002/10/04(金) 20:26
完結お疲れ様でした。
前の時から、楽しみにROMっていましたが面白かったです。
番外編も楽しみにしています。
143
:
名無しヌード
:2002/10/05(土) 19:34
完結お疲れ様でした。
番外編楽しみです!!
144
:
ひとみんこ
:2002/10/08(火) 23:44
も〜、あたしゃなんなんでしょうね?
「よしりか」ってなると、幸せでも、痛くても、泣けてくるなんて?
鼻水(ごめん汚くて)ぐずぐずです。
番外編、たのしみで〜す。
145
:
オガマー
:2002/10/09(水) 00:25
うーん。ジーンとしました。
最後までヤッスーも健在で!(藁
よかったー。
完結、お疲れ様です。
番外編も待ってますね(w
146
:
理科。
:2002/10/10(木) 20:34
>管理人さん。
色々…ご迷惑おかけしました(汗
私の方こそ感謝の気持ちでイパーイですが何か?(w
番外編書かせていただきますね。
>名無し○い○んさん。
ありがとうございます。ホント、お騒がせいたしました…。
番外編がんがりますよほ。
>名無しヌードさん。
ありがとうございます。
楽しみですか…。うぅ…ちょっと緊張。
>ひとみんこさん。
(O;^〜^)ノ□<て、ティッシュどーぞ。
ホントに好きなんですね、いしよし。
って、泣かないでください(w
>オガマーさん。
ヤッスーは私の生甲斐です。(ウソ
でも本当かも(w
ありがとうございます。
147
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:36
「梨華、まだそのペンダントしてくれてるんだね。」
「あたりまえだよ!ひとみちゃん!だって、これは…」
思いで深い修学旅行からから帰ってきて、
あたし達は2日間のお休み。
二人して、丁度良い温度が保っている部屋で
ぐでーっとベットに寝そべって他愛のないお喋りに
花を咲かせていた。
梨華の胸元にペンダント。
浅黒い健康的な肌から、それは存在を示すかのように
銀色に光っている。
148
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:37
あれは…いつだったかなぁ…。
そうだ。
秋風漂う帰り道。
真っ赤な夕暮れをバックに、川沿いの土手を
マッタリと歩く。
ふかふかのあんまん片手に自転車こいで。
ホクホクしながら笑いあっていた…―
「あー!うまかった!部活帰りの買い食いカッケー!」
「カッケーかは知らないけど…美味しかったね!」
梨華がクスクス笑いながらあたしを見る。
そんな梨華を見てあたしも笑った。
こみ上げる気持ち。
まだ帰りたくはない。
(さて。どーしよー...)
こうして梨華と時間をずっと感じていたい。
家に帰っても ヒマだしさ。
でもそれだけじゃないんだよね…。
チラリと梨華を見ると、頬に両手をあてがって
『あったか〜い』
なんて言っていた。
(ああん♪梨華ったら!ってあたしキショ!)
149
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:37
さっきまで熱いあんまん持っていたから、その熱を
利用してるんだね。
美味しかったし、温かいしで
一石二鳥。
100円でこんなに幸せになれるなんて。
あんまん考えた人、カッケー!
もぉ!梨華って可愛い!!
何故かあたしが恥かしがっていたのは気のせい。多分ね。
いや、多分じゃな―
「あれ?こんなトコにお店が出来てるよ、ひとみちゃん」
「え?」
あたしの思考は甘い声に切断される。
本当だ。
でもいつのまに??
土手沿いの脇の小さな公園をちょっと行った
トコに、小さなお店がひっそりとあった。
…外見からして梨華が好きそうだね。
だってピンクなんだよ?
やべー。あたしの気持ちが生み出したんじゃない?この店。
なわきゃーない。
そんな事だったらあたしは魔法使いじゃん。
魔法使い(ヒ)トミー?
マジつまんないし、訳わからんちん。
とんちんかんちん 一休さん♪だ。
150
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:38
いやいやいや。
そんな妄想はいいんだけど…。
「ね!ちょっとだけ寄ってみない?」
「うん!いいね。」
(やった!もうちょっと一緒にいられる♪)
大きな木製の扉を二人で開ける。
何かいいなぁ。
「…うわぁ。」
見渡す限りファンタジー。
やっぱり魔法だよ。
うーん。目がチカチカするね。
しかしあたしの大好きな人はと言うと…
梨華の瞳はキラキラ輝いている。
う〜ん、ベイベェ。
夜の空に瞬く一番星みたいだYO!
…くっせぇ。
151
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:38
両手を組み、感動中だ。
あぁ。
こうなっちゃえば梨華はあたしの声なんか耳に
てんで入ってないワケで…。
行っておいで―と。
あたしは愛犬をほっぽり出し
ベンチにドカっと腰掛ける少し疲れ顔の主人で…
言うなれば梨華は楽しそうにハシャギ回る犬状態。
犬に例えるのは申し訳ないんだけど…
だって本当にそんな感じなんだ。
あたしの愛犬ラッキーは忙しそうに走りまわる。
ニコニコニコ…。
あんまり遠くに行っちゃダメだよ。
なぁ〜んて声をかけたいぐらいだ。
(…ん?)
ピタっと足が止まっていた。
まるでおわずけ食らってるみたい…。(プ
のそりとあたしは梨華の元へと向かう。
彼女の近くまで行っても、あたしなんか視界に入っては
いなかった。
目をキラキラさせながらジーっと睨めっこ。
152
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:39
「梨華?どした??」
「…きれい。」
彼女の視線に目を運ぶ。
そこには銀色に光ってる一つのペンダント。
一向に梨華の目はそのペンダントを見つめ続ける。
仕方ない。
可愛い愛犬の為だ。
丁度良く一昨日の日
おこずかいを貰ったばっかだからさ。
ここはご主人様が…
(!た、高ぇ…!!)
値段を見て、あたしは大きな瞳をさらに丸くさせた。
おいおい!落ちるよ あたしの目玉ってぐらいね。
まぁそんなハズはないし…ってか取れねーだろ!
…コホン。
中学生には、到底簡単には買えない品物。
いや!ムリだし!
だって...38000円だよ?
よく分からないけど、あたしはあの時、
結婚指輪は給料3ヶ月分なんてフレーズ(?)を
思い浮かべた。
153
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:39
「…凄い値段だね。」
「うん。…でも。いいね…コレ。」
ハァーっとペンダントを見つめ、溜め息を吐く梨華。
ハァーっと梨華を見つめ溜め息を吐くあたし。
後ろ髪引かれる思いで梨華とあたしはその店を
後にした。
「・・・。」
「・・・。」
…沈黙が重苦しいのですが。
(…え〜い!決めた!)
あたし頑張ってアレ買う!
買って梨華にプレゼントしよう!
ヤバ!あたしカッケー!
そうと決まれば…膳は急げ!
154
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:40
「梨華!あたしさぁ…ちょっと学校に忘れ物してきたみたい
なんだ…あはは。だから先帰っててよ。」
「え?何忘れたの?」
「あ…体育着!ほら!体育館に脱いだまま来ちゃって!」
「…ひとみちゃん、カゴに入ってるのはなぁに?」
「え…?」
おおぅ!まさにコレは…あたしの体育着じゃん!
チラリと梨華を見ると…不思議そうな顔をして
首をかしげていた。
「あ――!そ、そう!トレーナー!あたしの大好きな
ハリケンジャーの!そうそう!あれがないと眠れないんだよね!」
「…ひとみちゃん、ハリケンジャーのトレーナーなら、私のお家に
忘れていったじゃない。買ってもらったって、嬉しそうに見せに
きたの忘れたの?」
155
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:40
粉砕。玉砕。
しかし梨華もツッコむな。
梨華はその後に付け足した。
『そんな大事なトレーナー、何で持っていかなかったの?』
…さいですね。
いや、しっかりぐっすり眠れてますが。
じゃあ、あたしは学校に何を忘れてきたんだろ?
学校で名高い、忘れ物王のあたしは今日に限って何一つ
忘れてこなかった事に気付く。
勉強道具でしょ?
体育着でしょ?
財布に、タオル。
…仕方ない。
使いたくなかったけど、ここはあの手段で・・・
「あ…イタタタタ。お、お腹が痛い!トイレ!
…梨華も一緒に」
「しないよ。」
即答ありがとう。
分かってたよ。
156
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:41
「大丈夫?ひとみちゃん?私…おトイレ探してくる!」
「あ!いいの!さっきのお店で借りるから!」
「え?じゃあ私も行くよ。心配だし…。」
「いい!いいよ!あたし長いしさ!身長の分出さないといけないし!」
「?…うん。わかった。お大事にね?また明日。」
「バイバイ。」
ブンブンと梨華の姿が見えなくなるまで
あたしは手を振った。
サワサワと少し冷たい秋の風が優しく
あたしの頬を撫で付ける。
157
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:41
「よし!」
勇ましく自転車に飛び乗り、あたしは今来た道を
物凄いスピードで戻っていった。
たまに道行く人達が、ギョ!っとした顔をしてた。
わかってます。ニタニタ笑いながら運転してるってのは。
そりゃ、恐いっしょ?
あたしは立ち乗りして必死でペダルを漕ぐ。
額に薄っすらと汗が滲む。
息苦しかった。
しかし頭に浮かび上がる梨華のビックリして
飛びあがり喜ぶ姿を想像すると
苦しさなんて感じない。
「…あの!」
「ん?さっきの。」
目の前に、金髪、カラコン、咥え煙草の
店員さんが外に置いてあった花を
中に入れる最中だった。
あたしの姿にちょっとだけ驚いたようだったけど
(ってか、あたしもその店員さんを最初見たとき驚いたけどね)
あたしはとにかくさっきのペンダントの事が
気になってどうしようもなかったんだ。
158
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:42
ハァハァハァ。
自転車を降りると、足がガクガク震えだして。
ピシャリと脹脛を叩く。
スーっと息を吸って…よし!
「すみません…ちょ…ハァ、っと話が…」
「なんや?…凄い汗やけど。」
「あ…大丈夫ですから…。あの…中にある、クロムのペンダント…
あれ…あたしに売ってください。それで…今、あたしおこずかい
3000円しかなくて…でも絶対に欲しいんです!お金貯めて
必ず払いますから…!お願いします!」
一気にまくし立てるあたし。
キョトンとしている店員さん。
さきほどより強い風が、あたし達の間をすり抜けて行く。
159
:
番外編
:2002/10/10(木) 20:42
「…ええよ。青年!君のために取っといてやるわ。」
「ほ、ホントですかぁ?ありがとうございます!
必ず買いに来ます!それと…ですね。」
「まだ何かあるんか?」
「あたし…青年じゃなくて少女ですけど。」
「少女って…ジョークやがな!ジョーク!スカートはいてる
青年が何処におんねん!おもろいなぁ!」
(ちっともおもろくないんですが。)
…まぁ、予約出来たからよしとするか。
――――――――
160
:
理科。
:2002/10/10(木) 20:43
(O^〜^)ノ<更新、終了♪
161
:
名無し垂れ目
:2002/10/11(金) 02:03
かわいーなーw
続き期待(w
162
:
理科。
:2002/10/11(金) 04:57
>名無し垂れ目さん。
期待に添えれるようがんがります♪
(O^〜^)<梨華って可愛いよね♪
(#^▽^)<…ひとみちゃんも♪
(O^〜^)<梨華の方が…
(#^▽^)<ひとみちゃんの方が…
(エンドレス)
163
:
番外編
:2002/10/11(金) 04:57
1月19日―。
来年の梨華の誕生日までに。
あたしはお母さんの手伝いしたり、
寒い中、お父さんの車を洗ったりと
必死で頑張った。
そんなあたしを見て弟達は、
お姉ちゃんがおかしくなったと騒いでいた。
少ないお小遣いをコツコツ貯めた。
部活が終った後の一本、一個のジュースにあんまん。
新しい服に、雑誌、ゲームソフト。
我慢した。
梨華がそんなあたしを見て、おかしいと言った。
弟達と同じようなコト言わないでよ…梨華。
毎日…でもないけど、あたしは部活が終ってからの
あんまんは当たり前となっていたわけだから。
親戚の人達が集まる正月は最高だった。
だって一気に懐に38000円が入ったのだから。
…今までのあたしの苦労は何だったんだろう。
そうだ…。お年玉という手があったんだ。
いや!あたしが苦労して買ってあげたかったからいいの!
164
:
番外編
:2002/10/11(金) 04:58
そして―。
あれは1月15日―。
「おはよう!ひとみちゃん!」
ピンクのコートに赤いマフラー姿の梨華が
満面の笑みで玄関に立っていた。
「おはよ。はやいね、梨華ちゃん。」
梨華が前日、買い物に付合ってくれって言うから
あたしはヒョコヒョコ付合った。
何処に行くのと聞いても、ニコニコして内緒と
言うばかり。
わき目も振らず、梨華は真っ直ぐに
自転車を漕ぐ。
「ねぇ、梨華。いったいどこに行くの?いい加減教えてよ。」
「あのお店にあったペンダント…お年玉で買うの!」
どんな宝石よりも輝いていた梨華の瞳。
あたしは心の中で
『ななななななんですと〜!』
165
:
番外編
:2002/10/11(金) 04:58
って叫んでた。
危なく自転車から転げ落ちそうになった。
だってあれはあたしが買うんだよ。
凄い焦った。本当に。
予約してたから無くなってはいない。
しかし―。
あたしはとんでもない事に気付く。
あれからあたしは店の店員さん、中澤さんって言うんだけど
凄い仲良くなって。
色んな話をした。
学校の事とかは勿論、部活、
…そして何と言ってもシツコく聞いてきたのは
梨華の事だった。だからペンダントを彼女にプレゼントするって
話もしていたんだ。
とんでもないことってのは…
あの店員さんに口止めしてなかったってコト。
…こう言っちゃぁ悪いけど、中澤さんって…
おしゃべりだからなぁ…。
マジでピンチ。
何であたしってつめが甘いのかなぁ…。
ドンドンあたし達と店の距離が縮み始めた。
166
:
番外編
:2002/10/11(金) 04:59
(…しかたない。)
あたしはその途中、
得意とする仮病を使おうと決めた。
素直な梨華は、本当に信じてしまう。
悪いと思ってんだけどさぁ…
だって…。
…。
「い、イタタタタ…。お腹が痛い…」
「だ、大丈夫?ひとみちゃん!」
キ!っと自転車を止める梨華。
急いであたしの方へと駆け寄ってきた。
「顔色悪いよ…?」
「え…マジで?」
「うん。真っ赤な顔してる。」
(…そりゃ、ずーっと自転車こいでたし。風が冷たいから…)
167
:
番外編
:2002/10/11(金) 04:59
普通、お腹が痛いとなると、顔なんか真っ赤に
なるハズなんてない。(と思う)
青かったり、紫だったり…。
でも梨華がそう思ってんなら好都合だ。
丁度良く、お店の一歩手前にある公園。
「あ、あたし…トイレ行ってくる!梨華はベンチで
休んでて…!絶対何処へも行かないでね!!!」
「うん!わかった!ひとみちゃんを一人にしないよ!」
真剣な面持ちの梨華…。
ホント…ゴメンよ…。
あたしは心の中でやっきとなって謝った。
しっかりと梨華がベンチに座るのを確認して
公園のトイレに駆け込み、バタン!と鍵を閉める。
あたしは外で梨華ちゃんを待たせ窓から脱出を試みる。
168
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:00
「…狭い。」
やっとのことで、あたしは裏に出ることが出来た。
あまり使われてないのだろう…。
あたしの頭に蜘蛛の巣や、埃…最悪な事に虫の死骸が…。
こんな事で凹たれてたまるか!
パンパンとそれらを払いながら
壁に隠れて梨華を盗み見。
しめしめ。大人しく座ってるぞ。
そして店に一人でダッシュ。
【梨華貯金】と書かれた袋をスタジャンのポッケに
入れてあるのを右手で確認。
店の前までやってきて、あたしはその場で感動していた。
今まで頑張ってきた日々が…頭の中をまるで走馬灯のように
かけ走る。全身が震えた。
大好きなハリケンジャーや、アンパンマンのグッズ…
お菓子やアイスにジュース…
あたしマジで頑張った!
ジーンと目頭が熱くなってきた。
あたしはきっと今日という日を忘れないだろう。
169
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:00
「こ、こんにちわ!予約の品買いにきました!」
とあたしは中澤さんに告げた。
勢いよくドアを開けたんで
最初、ビックリした顔であたしを見ていた中澤さんも
ニッコリと笑って出迎えてくれた。
「こんにちわ。待ってたわ。」
『まぁ、椅子に座り。』って淡い色の椅子を出してくれて
あたしは素直に座って中澤さんを見つめた。
鼻歌混じりで中澤さんは、奥の机から
黒い布に包んだペンダントを、とても大事そうに
持ってきてくれて
「お客さま。こちらの商品で間違いありませんか?」
と言った―。
あたしは初めてここに寄って、梨華と顔を見合わせた
日を思い出していた。
それは間違いなく、あの日のまま、この黒い布の上に
キラキラ輝いていたペンダントだった。
170
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:01
「は、い。間違いないです…。コレです。」
裏返る声。
喜ぶ梨華の顔。
中澤さんがまた優しく微笑む。
ぐるぐるぐる。
物凄い勢いで、あたし頭の中は
いろんな妄想やら 構想やらでモー大変。
何かいつもの中澤さんじゃない。
冗談混じりの、たまに辛口な中澤さん。
あたしはくすぐったく感じてた。
「今、ラッピング致しますので少々お待ちください。」
そう言って中澤さんはあたしに缶コーヒーをくれた。
静かに流れるBGM。
自然と心が落ち着いてきた。
箱に詰め、キレイなピンク色した紙で包んでくれ、
最後に黒い紙の袋にそれを入れて
あたしに手渡す。
「お待ちどうさまでした。…ようやったやん。」
「はい。」
171
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:01
あたしは大事に両手で受け取った。
商品そのものは凄い軽かったけど、
あたしにはとても重く感じる。
「本当に、ありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとう。」
中澤さんはくしゃくしゃと、あたしの髪を
撫で付け、優しく微笑んでくれた。
満面の笑みを残し、
あたしは梨華が待つ公園にダッシュした。
そこには、一人ベンチで足をブラブラさせながら
ソワソワしてる梨華がいた。
ダマして悪いと思いながらも、あたしは心底楽しんでいた。
いったいどんな顔をするだろう。
嬉しすぎて泣き出したらどうしようか?
もしかしたら…こんな高いの貰えないよ!
って…受けとって貰えないかもしれない。
とにかくここまで来た。
逸る気持ちを落ち着かせ、
彼女が待つベンチまで足を運ぶ。
172
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:02
「梨華。」
「ぅわ!ひ、ひとみちゃん!ビックリしたぁ…。
もー大丈夫なんだね!ね!じゃあ、行こっか。」
ぱぁっと梨華が笑顔に変わる瞬間、あたしは胸が
握りつぶされるかと思ったよ。
「…あのさぁ、ちょっといい?」
「え?うん。どしたの?」
…ヤベぇ…。
緊張してきた。
汗ばむ掌。
タラタラと落ちてくる汗。
あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
173
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:03
たかがプレゼント。
されどプレゼント。
(よし!…今だ!)
「コレ…ちょっと早いけど!誕生日おめでとう!」
「え…」
乾いた風が吹いていた。
汗が一瞬にしてひいていくのが分かるほど…。
受けとってくれるのか…。
それとも…
心臓が痛い―。
ああ…。何て長い間なんだ…。
あたしは静かに瞳を開け、目の前にいる
梨華ちゃんの顔を見る。
「…梨華…。」
174
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:04
梨華ちゃんは…泣いていた。
少し大きめなコートの袖口から見える華奢な
彼女の手は、流れ落ちる涙を拾い上げるように
それを拭っていた。
あたしは困った。
いったいどうしたらいいのか?
何だか罪悪感?みたいな…なんつーのか…。
んっと…。
意味もなくあたしはその場でオロオロしていた。
ふと視線をトイレに向けたら、顔を真っ赤にしたおじさんが
切なさそうに駆け込んで行って。
なぜか心の中で応援してたんだ。
あぁ。あたしもそんな時あるよ…って。
んなこたぁ、どーでもいいんだよ!
「…とみ、ちゃん…」
「え?」
「…とみ、ちゃん…私…嬉し…い。で、も…」
「で、でも…?」
175
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:04
でも―。
その先は分かってた。
梨華が思って今から口から出そうとしてる言葉。
『高いから―。』
「…こんな、高い…の、貰え」
ほらね。
「いいの!あたしが好きでプレゼントした事だから。
高いとか…そんなんじゃなくて…。えっと。だから…
素直に受け取ってください…。」
梨華はそれでも申し訳なさそうな顔をしていたよ。
でも、あたしの顔をチラっと見ると…
「…ありがとぉ。」
176
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:05
泣き顔から笑顔へ。
ぱぁっと眩しいくらいの、それは凄くキレイで美しかった。
可愛いとか…そんな次元じゃなくって。
本当にキレイだと思った。
梨華はあたしから、ゆっくりとそれを受け取った。
渡すとき、あたしの手と梨華の手が軽く触れたんだ。
何度も手を繋いで。
何度も触れ合った手。
何でもない、日常茶飯事的な些細な事に…
何故かドキっとした。
全身に緊張感が走った。
キューってこの大きい体がスピードをあげて
縮まって行くような…
そんな気がしたんだ。
「…開けていい?」
「…うん。」
近くにあるベンチへと移動し、
梨華はおもむろに袋から箱を取り出し
椅子の上に置いた。
コトリと小さな乾いた音が、あたしの耳に飛び込んでくる。
177
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:05
「…うわぁ。」
彼女の少し潤んだ瞳が輝く。
あたしは照れた。
背中がムズ痒かったけど、微塵もそれを表さないよう、
必死で我慢した。
「…キレイだねー...。…付けて、いい、かな?」
「どうぞ。」
真っ直ぐに梨華の目を見れないよ…。
どうしてあたしはこんな時でもトイレを見てるんだろう。
あ。
さっきのおじさん。
すげー幸せそうな顔で出てきた。
「…ひとみちゃん?」
「どした?」
「…っと。あのね…?これ…ひとみちゃんが付けてくれないかな。」
「…しょうがないな。貸してみ。」
178
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:06
何がしょうがないだ。
本当は嬉しいくせに。
ああ、そうさ。
ホントはここで『まかせな!』ってさ。
カッケーとこ、見せてやりたいよ?
「ごめんね。」
「いや。」
大人になりたかった。
カッケーく決めたかった。
心とは裏腹に。
勝手に言葉が出てくるんだ。
汗で手が滑る。
梨華にバレるかも。
あたしが緊張してるって。
うまくハマんないぞ?
落ちつけ…
うん。
落ちつけば…きっと…大丈、夫…っと。
179
:
番外編
:2002/10/11(金) 05:08
「はい。」
「…へへ。似合うかな?」
「うん…。似合う。」
あたしはベンチから腰を上げ、
『よいしょ!』って背伸びする。
…まともに今、梨華の顔なんか見れないよ。
(…え?)
「梨華!…どう」
「こっち向かないで。…そのままで聞いて―。」
「…わかった。」
あたしは大きく万歳。
そしてあたしの腰の周りには愛する梨華の手が
回されていた。
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