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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1名無しリゾナント:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

575名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:22:47
いつの間にか田中と新垣、光井による今後の『作戦会議』も進んでいたようだ
ジュンジュンとリンリンは初めて会った後輩達が気になるようで、一向に会議には入ろうとしない
それがかつてのリゾナンターのあり方だったのかもしれないが、現リゾナンター達は知ることはない

「・・・それで愛ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「う〜ん、わかんない!」
「はあ!?」
新垣が大声をあげても、高橋は、いや、だってさ、とマイペースのままだ
「絵里があんな風に暴れているのをみて、絵里自身の思いがあるなんて到底思えないんだもん
 きっとジュンジュンが言ったように、絵里の時は止まったまま、体だけが動いているんだよ」
「・・・愛ちゃん、どこから私達のことみてたの?」
「え?佐藤があの工場にみんなを跳ばしたところから」
「そんな前から見てるのに、なんで助けてくれないのよ!私、腕吹き飛ばされたんだよ」
「ガキさんならそれくらいなんってことないと思ったし、さゆもいるから大丈夫だよ」

腕を吹き飛ばされた、それを「それくらい」と表現する高橋の発言を聞き、工藤の喉がごくりと動く
(この人はいったい、どんな道を進んできたんだ?)

「いま、できるのは絵里の動きを止めることじゃないと思う
 あの体とダークネスが操り人形のように動かしている。でも心は絵里のもの
 あの『絵里』は心と体が一体化していない不安定な存在だと思う。
 もし無理やりにでも捕えてしまったならば、心の居場所がなくなってしまうと思う
 ただでさえ『時』を止められている絵里の心は不安定なはず。もしかしたらあの行動も見えているのかもしれない
 そんな絵里の心をこれ以上傷つけたら、もう元には戻せないかもしれない」
「・・・それならばどうすれば」
「簡単なことだよ。絵里が自分で自分を取り戻せばいい」

自分で自分を取り戻す、簡単なこと、と高橋は言ったが誰もが思った
それができれば苦労しないのに、と
仲間達の顔を見ても、技を受けても、凍り付いたびくともしない、あの心にどうやったら傷つけることなく記憶を蘇らせようか

576名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:23:53
「愛ちゃん、簡単に言うけどそれができたら苦労しないって」
新垣が思わず弱気を漏らすが、高橋は気にする様子もなく急に立ち上がった
「愛ちゃんどうしたと?」
「ん?さゆが疲れてるみたいだから、二階に連れて行こうと思って」
話の途中でまた勝手な行動をしようとする高橋に新垣はまた大声をあげそうになったが、道重の顔を見て留まった
「そ、そうだね。手伝うよ」

しかし高橋は「ガキさんはいいよ。鞘師!!手伝って」と鞘師の名前を呼んだ
「え?は、はい」
「鞘師、左肩支えてあげてね」
そういい、右腕を自身の肩に回し、座り込む道重を立ち上がらせた
階段をのぼりながら高橋が、「あ、そうだ」と首だけを振り向き新垣に笑って見せた
「あっしは上でさゆの看病してるから、作戦はガキさんに任せるからね」
「ちょっと!嘘でしょ?愛ちゃん?」
「じゃあね、里沙ちゃん、よろしく♪」
「・・・」

唖然とする新垣
それと対照的に田中は「愛ちゃんらしいっちゃね」と表情を変えず、ゆっくりと立ち上がった
「田中さん、急に立ち上がってどないしましたん?」
「え?だって愛ちゃんが『作戦はガキさんに任せた』いうけん、れーなも帰る」
新垣の「はあ?」という声をかき消すように、佐藤が「えーたなさたん、帰るのやだ〜」とれいなの前に瞬間移動で飛び込んだ
「まさ、もっともっとたなさたんと話す!」

「ちょっと、まーちゃん、田中さんだっていろいろあるんだから、離れろって!」
「やだ、まさは大好きなたなさたんといるの」
「だめだって」
「ヤダ!!!!」

577名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:24:37
子供のけんかを繰り返す二人だったが、れいながにかっと笑い、二人の肩に手を置いた
「佐藤、工藤、喧嘩はやめると。ま、喧嘩と言ってもかわいいもんやけどね
 ねえ、愛佳、この二人、今日はれーなが送って行ってもいいと?
 もう遅い時間やけん、家まで送り届けると」
佐藤の「まさ、子供じゃないもん」という反論と工藤の「なんで私まで?」という表情のコントラスト
「え、ええ、田中さんがええんならお願いしますわ」
「よし、佐藤、工藤、帰るとよ」
元気に「おやすみなさやし〜」とあいさつする佐藤と「おやすみなさい」と丁寧な工藤を連れて田中は去って行った
「ほ、ほんとうに帰るんだ・・・・」
田中にまとわりつくように歩く佐藤の後姿を見て石田はあきれ顔を浮かべた
「新垣さんに任せる、っておっしゃった高橋さんの言葉を信じて帰る田中さんも田中さんですけど・・・
 そんなに高橋さんのことを信じているんですね」

「まったく、愛ちゃんも田中っちも私に任せる、なんて、もう・・・
 ああ、疲れた!!いろいろあったし、愛佳、悪いけど、私ももう帰らせてもらうからね」
半ばやさぐれ状態で新垣がコートを羽織る
「ええ〜〜新垣さん、帰っちゃうんですかぁぁぁ?」
ここにもまた一名、疲れさせる天才がいることを思い出し、新垣は軽い眩暈を感じた
「せっかく、こうやってお会いできたんだから、もっとお話ししましょうよ」
「・・・生田、うざい」
「またまた〜それは愛情の裏返しってやつですね〜」
そんな生田を無視するように一人、店を出ようとする新垣だが、当然のように生田もついてくる

「ちょっと、えりぽん、何してるの?新垣さんが疲れちゃうでしょ!」
「ええ〜だったらえりが〜送って差し上げますよ〜」
「・・・いらないから」
そういいながらも帰ろうとする新垣、それを追う生田、それを追う譜久村という奇妙な構図のまま3人の姿は小さくなっていく

578名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:25:35
「結局、フクちゃんも新垣さんの邪魔になっているんだろうね」
鈴木が残ったコーヒーを飲みながら半笑いでいると、光井も立ち上がった
「まあ、今日はなんやかんやあったわけやし、みんな、疲れたやろ?
 これで今日は解散ってことにせえへん?」
リンリンとジュンジュンに同意を求めるように顔を向けた
「そうデスネ、色々あって、ジュンジュン疲れた。休みたい」
「リンリンも久々に日本を楽しみたいデスネ」
すでにバナナを1房近く食べているジュンジュンは眠そうに、あくびをかみ殺している

「決まりやな、ほな、あんたらも帰りや」
「え・・・あの、光井さん、ちょっとだけ相談に乗ってもらっていいですか?」
「なんや鈴木?また相談?・・・まあ、愛佳でなんかでよければ話くらいは聴いてもええけど」
そう言って、浮かべてカバンを手にし、帰る準備を整え、コートを羽織った
「ほな、鈴木行くで」
身支度を整えた光井に飯窪が遠慮がちに「・・・光井さん、私もいいですか?」と伺いを立てた
「なんや飯窪、あんたもあるんか?」
「はい、お邪魔でしょうか?」
表情は不安げな飯窪に光井は「そんなことあらへん。ま、あってもおかしくないやろと思ってたんや」と返した

光井達を見送った後、リンリンが椅子に座っている小田の真正面の席に座った
「さて、これでミンナ帰っタ。ここからはリンリン達の時間デス
 ダークネスにより作られた能力者、小田さくらダナ」
「・・・はい」
「これから、私と一緒にキテもらおう。それはリゾナンターとしてではなくて、万千吏、リンリンとしてのお願いダ」
「・・・拒否権は」
「ナイ。そして、中国式のもてなし方というものをさせてモラウ」
小田は下を向き、一息ため息をついた
「・・・仕方ありませんね。素直に応じさせていただきます」
「やけに素直ダナ」
「・・・いけませんか?」

579名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:26:11
「そして、ジュンジュンは石田ちゃんをもてなしさせてモラウ」
「!! なんでだ!!」
「だって、石田ちゃん、かわいいカラナ」
「やめろ!変態!!」
大声を上げる石田と笑顔のジュンジュン、お互い真剣な小田とリンリン
焦り、思わずリオンを出しかける石田に対して小田が「何してるんですか?」といわんばかりに視線を向ける
「ジュンジュン、冗談いってるだけダ」
それを聞いて安心した石田だったが、小田は唇を尖らせた
「・・・冗談、なのですね。本気でもよかったのに」

にぎやかな夜は過ぎていく
田中にじゃれつく佐藤、新垣に纏わりつく生田、光井に相談を持ち掛ける飯窪、中国史のもてなしを受ける小田
リゾナントの二階では鞘師が寝込んだ道重に付き添い、時折冷えたタオルで額を冷やす
高橋はそんな様子を見ながら、時折、鞘師に問いかけ、鞘師は静かに答えを返す
深夜3時も過ぎたころ、道重が体を起こしたのをきっかけとし、3人は語り合い始めることとなる

★★★★★★

「・・・」
亀井は転送装置を使い、ダークネスの本部に戻ってきた
リンリンの炎で、新垣のワイヤーで召物はぼろぼろだが、気にする様子もない
無表情
無機質な表情
ただただ、歩き続け、与えられた部屋、単なる休憩室に戻り、眠り始める
夢などみない、みれない、夢の中で彼女は寝る、そしてその中で眠り、さらに眠り・・
眠って、眠って、眠って・・・
そして幾重の夢の中でようやく、彼女は笑う

580名無しリゾナント:2015/02/01(日) 21:33:57
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(7)です
遅筆で申し訳ないです。言い訳すると忙しかった。
そして展開がΧや■と比べて遅くて申し訳ありません

ここまで転載お願いします。

581名無しリゾナント:2015/02/02(月) 06:54:18
更新乙です!転載行ってきます

582名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:14:53
>>544-550 の続きです



しかし見れば見るほど異様な光景だ。
異能力に目覚めて以来、大抵の異様なものには慣れていたつもりの春菜だったが。

「何を驚いているんだい? 見ての通りさ! 君の盟友である生田衣梨奈は今まさに! 四つの魂
に分けられたのだよ!!」

赤を基調とした、中世フランス的な軍服に身を包んだ男装の麗人。舞うように、踊るように春菜の目
の前に一歩踏み出す。どこかで見たことがあるような所作。
巻き巻きの金髪ロングからして、ベルばらだ。いや、宝塚か。

それよりも、問題はその衣梨奈のほうだ。

「はるなん、これどういうこと?」
「お前ら、元に戻すっちゃ!!」
「あーもう面倒臭いと。どうでもよかろ」
「全員ぶっ飛ばす! えりはいつでも臨戦態勢やけん!」

同じ顔した衣梨奈が、四人。
さっきのオスカルの言葉を信じれば、文字通り「魂を分けられた」のだろうが。
恐る恐る四人の衣梨奈に近づくも、今度は別の変な奴に遮られた。

583名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:16:12
「…リリーに近づかないで」
「り、リリー?」
「あなたはリリーを不幸にする…取った!あなたのイニシアチブ!」

同じく意味がわからない。
春菜の前に立った、奇妙な白と黒のドレスを着た少女は、まるで観客に語りかけるようにそんなこと
を口にした。

「そーゆーことなんだよ。うちら福田さんにこいつを無力化しろって言われてんだよ。怪我したくな
かったら引っ込めよばーか」

今度は、特攻服を着た少女がガムをくちゃくちゃ噛みながら、顔を限界までこちらに近づけてくる。
迫り来る特大ロングのリーゼントは、存在だけで十分な威嚇である。

「説明補足させていただきますと。ワタクシ田村芽実は、『劇団田村』という能力によってですね。
自分はもとより、相手の魂も分裂させることができるんです。ちなみに、ワタクシのような熟練者
でなければ、分裂させられた人はそれぞれが好き勝手なことを言ってまるで纏まりがなくなります」
「は、はあ…」

最後に、メガネスーツの社長秘書風な少女。
それぞれが違う格好をしているが。共通点は、濃い眉、垂れ目、犬ッ鼻、特徴的な八重歯。
全員同じ顔なのに、違うキャラ。ある意味壮観ですらある。

「というわけでワタクシ達は退散させていただきます」
「ずらかるぜ!!」
「永遠の繭期なの!」
「それでは!ごきげんよう!!」

それだけ言って、すたすたと部屋を出てゆく四人の田村芽実。
奇妙。滑稽。そんな空気に押されていた春菜は、ようやくあることに気がつく。

584名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:17:27
「逃げられた!!」

どうしよう。今から追いかけて捕まえるべきか。
聴覚を強化するも、足音はばらばらの方向から聞こえてくる。一体どっちを追えばいいのか判断がつ
かない。

「はるなん早く追っかけると!」
「いやいやその前にえりを元に戻して」
「あーもうおなかすいたけん」
「……」

矢継ぎ早に四人、と言っていいのだろうか。分裂させられた彼女たちに言葉をかけられる。
みんな言ってることがばらばら、しかも最後の一人は、ヘッドホンを被ってスマホをいじっている。
これは厄介なことになった。

いや、ちょっと待った。
確か芽実のうちの一人が、「福田さんの指示で」みたいなことを言っていたのを春菜は思い出す。こ
の前のことを逆恨みしてのことなのか。

だったら、この状況は明らかにおかしい。
それに。気になっている点が一つ、あった。
一人だけならまだしも、全員がだなんて、怪しすぎる。

春菜は、意識をある一点に集中させる…やっぱり。
確証を得た春菜が、部屋のロッカーのうちの一つに手をかけた。

「見つけた!!」
「ひいっ!?」

中から現れたのは。
二つ結びの、地味な格好をした少女。
顔はやはり先ほどの仮装集団と一緒の顔である。

585名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:18:36
「ど、どうしてここが」
「あの人達。匂いがしなかったんです」

春菜が感じた違和感。
それは、その場にいた四人の少女たちから匂いがまったく感じられなかったこと。
さらに、福田花音の指示という事であれば、衣梨奈を分裂させてそれでおしまいなんてことはありえ
ないだろう。必ずどこかに自分達を見ている人間がいる。そういう結論に達した。

あとは、嗅覚と聴覚を少しずつ、絞ってゆくだけ。
微かな心音と呼吸音。それと、自分と衣梨奈以外の「誰か」の匂い。
辿るのは、簡単だった。

「さあ、おとなしく生田さんを元に戻してもらいます!」

芽実の計画では。
分裂した衣梨奈に春菜が戸惑っている隙に、不意打ちを仕掛けるというものだった。
しかしここまで簡単にばれてしまっては、計画もへったくれもない。
花音からは「呪いの人形みたいのがいるかもしれないけど、そいつ自身は弱いから」と説明されてい
たものの。芽実もまた、戦闘特化タイプというわけでもない。

頑張った。一度は相手の虚をついた。
やれるだけのことはやったんだからしょうがない。
ついこの間までサブメンバーだった割にはいい仕事をした。
そう思いかけた芽実の頭に、花音がかけた言葉が過ぎる。

586名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:20:23
― この襲撃は、あんたたちの試金石でもあるんだから ―

そうだ。
この戦いに、自分達の今後が掛かっている。
こんなんじゃダメだ。ぜんぜん、仕事してない。
芽実の体が、小刻みに震えだす。

「ふ、ふふ、ふはははは!!!!」

気弱そうで地味な格好をしていた少女の姿が、ゆっくりと変わってゆく。
髪型が、そして服装が。
春菜の前に姿を現れたのは、ついさっき見た柄の悪い不良だった。

「テメー…よくも暴いてくれたなこの野郎ぉ!!」
「ひ、ひっ!!」

芽実の能力である、「分裂(スプリット)」。
文字通り、自らの魂を分裂させることができる能力。ただ、一人の本物以外は肉体を持たない分身の
ようなもの。春菜が匂いによって本体を突き止めたのはこの特性によるものだ。
また、能力の応用として他者の魂をも分裂させる事もできるわけだが、それはあくまでも副次的なもの。

その真骨頂は、芽実の持つ凄まじい「演技力」によって発揮される。
もともと芝居というものに尋常ならざる興味を抱いていた芽実は、やがて自らの能力に「演技」を結
びつけた。結果。

587名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:21:18
不遇の人間と吸血種のハーフを演じれば、その圧倒的な生命力を。
中世の男装の麗人騎士を演じれば、その鮮やかな剣技を。
有能な社長秘書を演じれば、その聡明な思考力を。
そして凶悪なヤンキーを演じれば、不良喧嘩殺法を手に入れることができるのだ。

なりたい自分に、なれてしまう。
恐るべきは、芽実のアクトレスとしての才能。
それこそ頭の天辺から爪先まで不良と化した芽実は、春菜に凶悪な眼差しを向けていた。

588名無しリゾナント:2015/02/03(火) 23:23:00
>>582-587
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

589名無しリゾナント:2015/02/06(金) 01:23:36
■ クシダノギナン −新垣里沙・田中れいな− ■

「おそい!遅いよぉ!田中っち!」

目を開けると、そこにガキさんがおった。

なん?バス?れいなたち以外誰もおらんと?貸切かいな。

「ちょぉっとぉ!いーつまでそこ突っ立ってんのぉ?
今日は田中っちが地元を案内してくれるってゆーさぁ」

そうやったっけ?れいな地元飛び出してから一度も帰ってないっちゃのに…
…もう…あれからどんくらい経っとるとかいね?
あっという間だったような…長かったような…

あれ?れいなどこ案内するつもりやったとかいね?
だってあの頃の流行のお店も行きつけのお店も
みんな無くなっとるかもしれんちゃのに…

590名無しリゾナント:2015/02/06(金) 01:24:46
「みて!田中っち!さくらだよぉ!さくら!あそこいこうよ!ほれ!
なんかでっかい神社見えてきたよぉ!」

えー!いつのまにバス走っとっちゃかね?
まいいかガキさんの行きたいとこいきましょう。
神社がええならそこに。

「いやーでっかい神社だったねぇ」

ですねー。

「ほぉっ!さくらだ!さくらだよ?田中っち!」

きれいですねー。

「田中っち!田中っち!…」

楽しい…楽しい…
なんやっとかね…
久しぶりったい…

ガキさんと、二人でこんなに…

楽しかった…楽しかったと…
また、また行きたいです…
ガキさんと…また…いっしょに…

―――そうだね…また、行けたら、いいね。―――

591名無しリゾナント:2015/02/06(金) 01:25:26
>>589-590
■ クシダノギナン −新垣里沙・田中れいな− ■
でした。

592名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:36:11
>>582-587 の続きです

本物さながらのヤンキーと化した芽実を前にして。
春菜は完全に、びびっていた。

「いっ!生田さんをははは早く元にいい!!」

春菜は。
ヤンキーという人種が苦手であった。
この世界に足を踏み入れる前はもちろんのこと、異能力を手にしてからも。
コンビニなどでこのような輩に遭遇する度に、五感全てをシャットダウンしてしまいたくなる。
サブカルガールと不良は、相容れない生き物同士なのだ。

「さっきからごちゃごちゃうっせえんだよ!!」
「ご、ごめんなさいっ!!!!」

春菜の襟元を掴み、壁伝いに吊るし上げる不良芽実。
いつの間にか、ガムまで噛んでいる。

「俺はこの姿になるとなぁ、喧嘩最強になるわけよ? オメーみてえなモヤシ、3秒でボッコだっつー
の!あぁん?」
「生田さん!た、助けてくださいっ!!」

これがヤンキーの気迫なのか。
すっかり気押されてしまった春菜は、思わず先輩に助けを求めてしまう。
しかし。

593名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:37:02
「えー、五感強化があるやん」
「じゃあ準備体操してから」
「面倒臭い…」
「……」

春菜は絶望する。
最後の一人に至ってはヘッドホンで音楽を聴きながら頭をぶんぶん振っている。
あまりにも自由。それが生田衣梨奈なのか。

「もう頼みません!こうなったら私一人で…!!」

襟首を掴む手、その手首を逆に掴み返す春菜。
痛覚を最小限に絞ることで、春菜は痛みを感じない戦闘マシーンと化す。
皮膚を切り裂かれても。骨が折れても。決して止まる事の無い暴走機関車となるのだ。

594名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:41:01
……

結果は、春菜の完敗だった。
容赦なく叩き込まれる拳、拳、拳。それでいて春菜の攻撃は全てかわされる。
痛みは確かに感じない。しかし、攻撃が当たらなければただのサンドバッグだ。文字通
りの喧嘩の達人となった芽実に、春菜の格闘術はまったくと言っていいほど通用しなか
った。

「ご、ごめんなさいぃぃ…」
「もやしが逆らってんじゃねーぞコラァ!」
「や、やっぱり生田さんじゃないと…」

情けない声をあげながら、完全に敵意喪失。
何よりも、ボコボコにされた体がついて来ない。

やはりここは、衣梨奈を戦線復帰させるしかないのか。
床にへばりついたまま、顔だけ横に向けて衣梨奈のほうを見る。
相変わらず好き勝手なことをしている四人。
纏まりのない衣梨奈。彼女たちを、何とか一つのことに目を向けさせることができれば。

そこで、ふと思いつく。
人間の三大欲求の一つである食欲。そこを利用すれば、彼女、というより彼女たちの意
識を集中させることができるのではないかと。
もちろん、都合よく春菜のポケットにそんなものは入っていない。そこで。

春菜の能力である、「五感強化」。これを最大限に駆使する。
味覚。視覚。嗅覚。聴覚。そして触覚。これを衣梨奈と共有することで、春菜の思い描
いたイメージをそのまま衣梨奈にぶつけることができるはずだ。

595名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:42:06
五感を総動員し、春菜はある食べ物を思い浮かべた。
これなら、衣梨奈の意識を一つの方向へ向けることができるはず。
漫画で鍛えた妄想力が今、爆発する。

次の瞬間。
四人の衣梨奈が一斉に起立する。
その表情は苦悶に満ち、そして顔面蒼白。
口を人間がすることのできる限界までひん曲げた彼女たちの発した言葉は。

「ピ…ピーマン!!!!!!!!!!!!!」

そう。
春菜は敢えて、衣梨奈の大嫌いな食べ物であるピーマンを頭に思い浮かべたのだ。
口にした時の歯ごたえ。食感。色味や香り。まるで本当に食べているかのような感覚は、
そのままダイレクトに衣梨奈に伝わった。

「ううっ…えりピーマン食べれんのにはるなん酷いと…」

するとどうだろう。
四人の衣梨奈は徐々にその姿を寄せてゆき、元の一人の衣梨奈に戻るではないか。
ピーマンを忌み嫌う心が、ばらばらになった魂をひとつにした。まさに奇跡。

「てめっ!何で元に戻ってんだよコノヤロー!!」
「ん…お前は確か…えりに変な術かけた店員!!」

状況を把握した衣梨奈が懐から糸を仕込んだグローブを装着しようとする。
しかし芽実はその隙を与えない。烈火の勢いで襲い掛かり、衣梨奈の手を叩き落す。

「そうはさせねえよ!!」

糸を繰っての精神破壊という攻撃方法を封じられた衣梨奈、それでも彼女は動じない。

596名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:43:11
「糸を使えない時もあるって、新垣さんに言われとるけんね!」

迫り来る芽実の顔面に、衣梨奈の唸る拳がクリーンヒット。
それでも芽実の勢いは止まらない。そのまま足を踏み出し、衣梨奈を殴り返す。

「てめーのへなちょこパンチなんて、めいには効かねーんだよ!!」
「はぁ?それはこっちの台詞やけん!!」

互いに一歩も退かない乱打戦が始まる。
衣梨奈が殴れば、芽実も殴り返す。殴り、殴られ、殴り、殴られ。
加勢に出ようとした春菜も、戦いの激しさに思わず立ち尽くしてしまう。

一進一退、ほぼ互角の勝負。
だが、徐々に衣梨奈が押し始める。彼女の一撃は、ただの一撃ではない。
衣梨奈の能力である「精神破壊」の力が込められた、一撃。

えりだって、成長しとるとよ!!

能力が発現した当初は、能力を垂れ流し状態だった衣梨奈。
強すぎる力の抑制も兼ねて、先輩の里沙の勧めもあり彼女と同じように糸を媒介しての精
神攻撃の鍛錬を始める。
しかし、里沙はこうも言っていた。

生田、糸が使えなくなった時のことも考えなさいよ。

思うままに精神破壊の力を使うのは強力ではあるが、反面自身の消耗も激しくなる。
そうならないように、衣梨奈は稽古の中で、そして実戦の中で。力をいかに効率的に使えるか。
その効果は、如実に現れていた。

597名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:44:40
「ぐぅ、がっ!!」

一撃一撃が、芽実の精神力を削ってゆく。
それはついに、彼女自身の膝を着かせるに至った。

体の冷や汗が止まらない。
体に力も、入らない。最早ここまでか。

「…めいは。めいたちはっ!!ここで!倒れるわけにはいかないんだ!!」

花音の指示によるリゾナンター襲撃。
それが花音の単なる私怨だということは、芽実たち四人も知っていた。
第一、リーダーである彩花がこの計画から外されているのがいい証拠だ。
あやちょは病み上がりだから、という空々しい言い訳を聞いて。それでもなお花音につい
てきたのは。

一見ダークネスの幹部崩しに成功し、他の能力者たちの一歩先を行ったと思われているス
マイレージ。
けれどそれが仮初の評価であることは、能力部隊の本拠地から帰ってきた花音の様子から
は容易に窺えた。
そのことと、花音が口にした「試金石」という言葉がぴったりと重なる。

これは自分たちだけではない。
6人となった新生「スマイレージ」にとっても、試金石なのだと。

強い思いが強い力となり、衣梨奈の顔面を撃ち抜く。
だが。

598名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:45:17
「それは衣梨奈たちも、一緒やけんっ!!!!」

衣梨奈は倒れなかった。
寧ろ力強く踏ん張り、逆に芽実を殴り返す。
彼女にも、負けられない理由がある。

ここに、さゆみはいない。
チケットが1枚足りなかったというのもあるが、それだけではない。
さゆみ抜きでも、この子たちは自分たちの身を守れる。そう信じて、送り出してくれた。
ならばその信頼を裏切るわけにはいかない。

「うらあああああぁっ!!!!」
「しゃあぁぁ!!!!」

互いに、最後の一撃。
繰り出された拳は交差し、相手の顔面を捉える。
あまりに激しい攻撃、春菜は思わず目を瞑ってしまう。

結果として、再び目を見開いた春菜が見たのは。
倒れている芽実と、辛うじて両足を突っ張り立っている、衣梨奈。

「生田さん!!」
「それより、みんなが危ない…みんなを、助けんと」

勝利の美酒に酔っている暇はない。
今この時、他のメンバーたちも同じように襲撃を受けている。
よろけつつも前に進もうとする衣梨奈に、春菜はそっと自らの肩を差し出すのだった。

599名無しリゾナント:2015/02/06(金) 08:46:05
>>592-598
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

600名無しリゾナント:2015/02/07(土) 01:52:17
■ ウィスパーインザノースウィンド −光井愛佳・福田花音− ■

電光掲示板が搭乗可能な旨をインフォメーションしている。

「ほな、ウチ行くわ」

はい、お気をつけて

「堪忍な、急なことやったのに、なにからなにまで手配してくれて」

いいえ、私は…

「?」

本当に…

「んん?」

本当に、いいんですか?
この記憶を奪えば、リゾナントの皆さんは、もう光井さんを追えない…
たとえ共鳴したとしても…
光井さんには『それが共鳴だとわからない』し、自らも『共鳴を返そう』と『想え』なくなる。
…それは、きっといつか…

601名無しリゾナント:2015/02/07(土) 01:52:48
「ええんや…どのみち…な…」



「ええんやて、ええんや…」



「なあ福田ちゃん」

はい

「もし…ウチの記憶がすべて戻ったとしたら…
…そんとき、ウチは、アンタを許せるんやろうか?それとも…」

許せない…でしょうね

「…そうか…堪忍な…」

…変な光井さん、なんで光井さんが謝るの?

「だってアンタ、ええ子やん?
なのにウチはアンタ憎まなアカンのやろ…そんなん悲しすぎるわ…」

…ちがいます…私は…

…私は…

光井を乗せた便を見送り、一人、つぶやく。

そのつぶやきは、北風だけが――

602名無しリゾナント:2015/02/07(土) 01:53:31
>>600-601

■ ウィスパーインザノースウィンド −光井愛佳・福田花音− ■
でした。

603名無しリゾナント:2015/02/08(日) 23:50:24
■ ツーデイズレイター −譜久村聖− ■

すべては終わってしまっていた。

道重さん…聖が目を覚ますまで、ずっといてくれたんだ…。

聖のせいだ。

聖を、選ばせてしまった。

道重さんに…捨てさせてしまった…

亀井さんを…親友を追うのを…諦めさせてしまった。

こんなはずじゃ、なかった…

道重さんの役に立ちたい!大好きな道重さんの!聖が探す!…絶対探すって…

何も訊かない

道重さんは何も訊かない

ごめんねって、譜久ちゃんが無事でよかったって…

今は、ゆっくり休んでって…

…そんな!…聖がわるいのに!…

聖は…役立たずだ…

みずきは…

604名無しリゾナント:2015/02/08(日) 23:50:55
■ ツーデイズレイター −譜久村聖− ■
でした。

605名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:23:35
>>592-598 の続き



白亜のお城をバックに、玉座に座るシンデレラ。
彼女を守るようにして、生気のない顔をした取り巻きたちが取り囲む。

「唐揚げ」

姫が命じれば、下僕の一人が跪き、白い皿に盛られた唐揚げを差し出す。
その山の一つを摘み、満足そうに口に入れ頬張る姫。
唐揚げだったら、無限に食べられる。そんな至福の表情だ。

「ティッシュ」

次の命令で、別の下僕が引き抜きタイプのウエットティッシュを御主人様の目の前に。
引き抜いたティッシュで油のついた指を丁寧に拭い、それから意地悪な視線を正面に立つ人物
へと差し向けた。

「タケちゃんさあ、あたし、何て言った?」

ゆっくりとした口調に隠された、鋭い棘。
名指しされた、茶色い頭の少年少女は途端に顔を引き攣らせる。
覚悟を決めてきたはずなのに、たった一言で朱莉は萎縮してしまった。

606名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:25:01
「あの、て、敵を倒せって」
「だよねえ。びっくりしちゃった。あたし、間違った指示を出したんじゃないかって」

大げさに表情を緩め、朱莉に問いかける花音。
気にするでない、よきに計らえ。そんな台詞が飛び出てもおかしくないような、寛容さ。
薄く微笑みを作ったまま、花音は。唐揚げの一つを思い切り朱莉に投げつけた。水っぽい音を
立てて朱莉にぶつけられた唐揚げは、ぽそりと地面に落ちる。

「じゃあさ。なんでフクちゃんがここにいるの?」

ゆっくりと玉座から立ち上がった花音が、朱莉の目と鼻の先まで近づく。
油で汚れた指を朱莉の着ているパーカーで拭い、それから。

「ブクブク太ったアザラシの言うことは聞けないって?」
「いや!そんなことは」
「福田さん違うの!これは聖が朱莉ちゃんに」
「外野は黙ってな!!」

見かねて声をあげた聖を、花音が強く制する。

「あたし言ったよね?今回の襲撃が、『スマイレージ』の名誉を回復させる唯一の方法だって。
それをしないってことは、タケは『スマイレージ』なんかどうだっていいんだ?」
「だから、ちがっ!!」

近距離からの右フックが、朱莉の脇腹に叩き込まれた。
もちろん非力な花音であるから、大してダメージにはなっていないが。

607名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:26:16
「何が違うの?」
「あかりはただ!こんなやり方…間違ってるって…」
「嘘つくなよ。あんたはただフクちゃんがリゾナンターにいるって知ったから躊躇しただけで
しょ。あたし、知ってるんだから」

朱莉の顔が、苦くなる。
花音の言う通りだ。スマイレージに敵対しているという、リゾナンター。その中に、聖がいる
ことを朱莉は知らなかった。だが、実際に聖に会い、話を聞くと。どうしても花音がお題目通
りの行動をしているとは思えなくなってしまった。

「福田さん、お願い、聖の話を聞いて!!」
「今あたし、タケと話してるの。フクちゃんの下らない話はその後に聞いてあげる」

聖は、覚悟を持ってこの場に来た。
何故、花音は執拗にリゾナンターをつけ狙うのか。そのことを問い質すために。
その答え如何によっては、戦うことも止むを得ない。けれど。
こんな朱莉を吊るし上げるような結果は、望んではいなかった。

「ねえタケ。『スマイレージ』としての決断より、フクちゃんのことが大事? もしかしてなん
か怪しい関係なんじゃないの?」
「だからっ!」
「なーんてね。わかってる。タケちゃんとフクちゃんは養成所時代からの仲良し。そうでしょ」

無言で頷く、朱莉。
それを見た花音は心底嬉しそうな顔をする。

608名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:27:21
「じゃあさ。その美しい友情とやらに免じて。ここは退いてあげる」
「えっ!ほんと!?」
「ただし…これを耐え切ったらね」

花音が、指を鳴らす。
それを合図に朱莉に群がる、花音の下僕たち。

「福田さん何を…きゃあっ!!!」

それと同時に聖の周りにも操られた男女が集まる。
両手を取られ、さらに身動きができないように固められてしまった。

「フクちゃんは黙ってそこで見てな。お友達が頑張る姿をね」

朱莉を取り囲んでいた群集のうちの三人が、一気に襲い掛かる。
それに対する、当然の反応。朱莉は両手を合わせ、光り輝く何かを発生させる。合わせた手を
広げれば、それは棒状に伸びてゆく。

一瞬。
朱莉がその棒状の何かを翻し、回し、相手に叩き付ける。
崩れ落ちた男を飛び越え、なおも襲い掛かってくる二人。朱莉に打ち込まれる拳と蹴り。
しかし朱莉には傷ひとつ与えられない。先ほど朱莉が出した光る棒が、薄く延ばされ楯状にな
って相手の攻撃をシャットダウンする。

それでも怯まずに向かってくる敵の一人に、朱莉の派手な回し蹴りが突き刺さる。
足はやはり、光り輝く何かに包まれている。さらに背後を狙おうとにじり寄っていた最後の一
人に向き直り。
大きく弧を描いての突進で懐に飛び込んでからの、ゼロ距離からの拳。
光輝く何かに包まれた拳の一撃を受け、男はぐうと音を立てて崩れ落ちた。

609名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:30:07
「ちょっとー。何やってんのタケちゃん。抵抗しちゃあダメなんだって。増してや『可塑錬気』
を使うなんて、論外」
「そんな!!」
「あれ?タケは、フクちゃんのために頑張れないんだ?」
「くっ…」

自らの気を練り、思いのままの形にして操る「可塑錬気」。
それが朱莉の能力だった。
ある時は棒状にして武器とし、ある時は手足に纏わせ攻撃力の強化に使う。さらに、盾として
展開することで相手の攻撃を凌ぐ装甲ともなる。
それを奪われるということは。

「がっ!がぼっ!!」
「いいねー。今のはみぞおち入ったかな?」

囲まれ、無防備の腹に一撃を加えられる。
操られている男に力の加減などできるわけもなく。
ただの少女となってしまった朱莉の体に、容赦ない拳が突き刺さった。

610名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:31:57
「あかりちゃん!」
「みずきちゃんだ…大丈夫だって。こんなの、ぜーんぜん、効かねーから…ぐっ!!」

精一杯の強がりを見せて笑ってみせる朱莉。
だが、花音の下僕の一人の繰り出した足払いに、体勢を崩し地面に倒れてしまう。
そこへさらに無慈悲な追い打ちをかけられる。文字通りの、袋叩き。

「福田さんっ!もうやめて!!これじゃ朱莉ちゃんが!!」
「あたしは別にやめてもいいんだけど。タケがフクちゃんのために体張るって、どうしても聞
かないからさぁ」

まるで朱莉が自ら申し出て今の状況を作っているかのように話す、花音。
それでも朱莉は地に手をつき、立ち上がる。

「ふ、福田さん…あかりがこれを耐え切ったら…約束、守ってくれるんですよね」
「あったりまえじゃん、可愛い後輩の頼みだもんね」

満面の笑み。
それが何を意味しているのか。
大勢の手で上から押さえつけられ身動きできない聖は、ただ見守ることしかできない。
それが、途方も無く悔しかった。

611名無しリゾナント:2015/02/09(月) 22:33:08
>>605-610
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

612名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:50:57
>>605-610 の続きです



里保と香音を引き連れ、歩く女。
元いた宇宙ワールドのエリアの端まで来ると、そこから先は「関係者立入禁止」の看板と鉄板
によるバリケードで封鎖されていた。そう言えばリヒトラウムの新しいアトラクションを擁するテ
リトリーが開発中であることを、ニュースか何かで聞いたのを二人は思い出す。

鉄の板に設けられた、扉が一つ。
そこにもご丁寧に「関係者以外立入禁止」とある。しかし女は。
自らのポケットをごそごそと探り、取り出した鍵で扉を開けてしまう。

「え」
「一応、関係者だから」

それだけ言うと、再び背を向けて歩き出す。
変な人。二人の率直な感想だ。
能力者のはずなのに、それらしき気配はまったく感じられない。ということはダークネスの手の
者か。いや、それとも違う。この感覚、どこかで感じたような。里保は思い返してみたが、うまく
それを記憶から掘り出すことができないでいた。

鉄骨が組まれただけの建物群を抜け、広い敷地に出る。
女は気だるそうに左右を振り返りつつ、ここなら誰にも邪魔されないか、と呟いた。

「あなた、何者なんですか」

里保が、何度目かの同じ質問をする。
女がゆっくりと、振り返った。

613名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:52:05
「このリヒトラウムの管理人、なのかな。ただ、この敷地に悪意を持って侵入してくるような
連中に対しての、だけど」
「悪意?そんなのあるわけない!だってうちら、ただ遊びに来ただけなのに…」

そこで香音は気づく。
いたではないか。里保がいつの間にかぶっ倒していた、いかにもな少女が。

「もしかして…」
「そう。あんたが倒したあの子を含めた数人が、悪意を持ってこの『夢の国』に入ってきた。
目的は、多分、あんたたち」

さして興味もなさそうな顔で、二人を指差す女。
話を総合すると、「外敵」がやって来たから出動した、ということは。間違いなく自分達はそ
の外敵ではないのだから、何の問題もないということになる。が。

「じゃあ何で、あたしたちをこんな場所へ?」
「…退屈しのぎ」

空気が、明らかに変わる。
やる気のある顔には見えないが、やる気のようだ。

「はぁ!?うちらが何であんたの退屈しのぎに付き合わなきゃなんないの!」
「そこのぽっちゃり、あんたのことは別に呼んでない」
「ぽ、ぽ、ぽっちゃり!!」

至極当たり前の疑問をぶつけただけなのに。
返って来た返答はあまりにも理不尽で、かつ日頃から気にしている事をぐさりと突き刺した。

614名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:53:01
「私はそこの子と一対一でやりたいから。さっさと帰って」
「そんなことできないし!てかぽっちゃりじゃなくてちょっとふくよかなだけだし!!」
「そうだよ、香音ちゃんはちょっと人より体が大きいだけだから」
「里保ちゃん…」

ここにも身も蓋もないことを言うやつがいたか。
しかも無自覚ときたもんだから、手の付けようがない。

「それにさ。今頃、さっきのゆるふわっぽい子の仲間たちがあんたたちの仲間に対して同じよ
うなこと、してるはずだし。助けに行ったほうがいいと思うけど」
「なっ…!!」
「香音ちゃん、うちからもお願い」

半身になり、構えを取りながら里保。
瞬間、背筋が寒くなる。こんな彼女を見たのはいつぶりだろうか。

「大丈夫。後から駆けつけるから」
「…わかった」

ここは里保の反対を押し切って二人で戦う、そんな選択肢もあったかもしれない。
しかし、香音は敢えて選ばなかった。女の言うように、他の仲間のことも心配だし。それに。
里保の言葉を、里保自身を信じているからこそ。

踵を返し、振り返ることなく駆け出す香音。
そのまま壁を透過したのだろう、足音はまったく聞こえなくなった。

615名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:54:16
「…あんた、リゾナンターでしょ」

二人きりになってすぐに。
女は表情を変えず、里保の所属を言い当てる。

「どうしてそれを」
「会ったことがあるからね、『高橋愛』に」

編上靴を鳴らし、里保との間合いを詰める。
ダークネスの差し向ける、人工能力者に良く似た感じ。それでも、やはり決定的な何かが違う。

「遠くにいたのを見ただけだったけど。一人だけ、オーラが違った。至高の、光使い」

そうだ。
里保はようやく思い出す。
これは。この感じは。ゼロから作られた、無機質なもの。

「あんたは。高橋愛の後継者でしょ?」

自らを、デュマの小説の登場人物に準えた、三人組。
そして元ダークネスの構成員が立ち上げた、能力者集団。彼女たちに共通する事項。
かつてダークネスに身を置いていた新垣里沙は言った。ダークネスが生み出した人工能力者を
「造る」技術、それが提供され大量生産という形で応用している組織があるということを。

「その肩書きに相応しいかどうか。力、見せてよ」

凄まじい風が、地面から吹き上げているような感覚。
ただそれは錯覚に過ぎない。あくまで相手がこちらに発する、威圧の具現化。

616名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:58:12
もうすでに、戦いは始まっている。
ファーストコンタクトで里保が感じた、達人クラスの相手という評価は間違っていなかった。そ
れどころか。かつて里保たちを圧倒的実力差で苦しめた「赤の粛清」の域に達している可能性す
らある。

「うちがどれだけ強くなったか。悪いけど、いいチャンスだと思ってるから」

香音を行かせたのは。
もちろん他のメンバーたちが心配なこともある。
けれど、自分自身の今の力。成長。もう敵ではなくなってしまった舞美や茉麻相手では出すこと
ができない、全力。
それをこの手で、確かめたかった。

女の右手から、白い何かが生み出されてゆく。
相手は、塩を操る能力者。倒れている刺客・里奈に向けて使った様子から、そう予測立てていた。
問題は、それがどう人体に影響を及ぼすか。

「はあっ!!!!」

愛刀「驟雨環奔」を地面に突き立てる。
舗装されていない、むき出しの砂利が敷き詰められた地面が砕け、礫となって女に襲い掛かる。
その瞬間。女の体の周囲に、白い輪のようなものが現れる。輪に軌跡を阻まれた石礫は、輪と
同じように白くなり、ぽろぽろと崩れ落ちていった。

やっぱり。
里保は確信する。
女の、塩を析出させる能力は危険だ。あの塩に触れたら最後、塩と化して崩壊してしまう。幸
い、人体に対してはある程度タイムラグがあるようだ。証拠に、里奈の塩にされた足は里保の
水流によって事なきを得ている。

617名無しリゾナント:2015/02/12(木) 19:59:15
「…塩に触れたら、危険。そう思った?」

女の問いに、里保は答えない。
答える必要も無い。気を抜いたが最後、あの塩の餌食になってしまう。

体勢を低くし、抜刀の構えを取る。
向かい合っているだけで、空気が焼け付く日差しのように肌を刺す。
強い。改めてそう感じる。だから。

一発で決める。そのつもりで女に向かって駆け出した。
刀を抜き、同時に携帯していたペットボトルを相手に向かって投げつける。
だが目的は相手にぶつけることではない。口の開いたペットボトルは回転しながら、水を撒き散
らす。それら全てが、里保の武器となる。

走りつつ、撒かれた水でもう一本の刀を象る。
二刀流。加えて中に舞う水の粒を珠に変え、集中砲火を浴びせる。持ちうる限りの、全力だ。

「勝たせて、貰う!!」

俊敏な動きで女の懐に入り、水の刀を逆手に持ち替え下から上へと薙ぐ。
塩の輪を崩し、返す刀で相手を斬る。
瞬時に出来上がった里保のイメージ、だがそれは予想もつかない出来事によって崩される。

破裂。
そう。先ほどまで自分の物だと思っていた水の刀が、まるで支配を拒むかのように。
形を崩し、砕け散った。
それだけではない。前方に展開していた水球、その全てが同じように破裂し消えていく。

618名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:00:46
「どうして!!」
「あんたの水は、あたしの塩が混ざることで、『あんたのもの』じゃなくなる」

アトラクションの行列の中で里保の水の刀を難なく霧散させたのも、そのせいか。
水が使えない。ならば、相手の意のままにならない「水」を使うしかない。
覚悟を決め、刀を振り上げようとしたその時だ。

「30から、300。あっという間だから。『それ』は、やめときなよ」
「何を」
「自分の血で刀を作ろうとしてたでしょ。やめたほうがいい」

切っ先を掌に這わせ、血の刀を作ろうとしているのを見抜かれた。
それだけではない。30から300とは何を意味しているのか。
考えあぐねていると、自らの足の感触が変わっていくことに里保は気づいた。

地面を覆いつくす、塩。
いつの間にか、湧き出るように。まずい。
目に付いた街灯に飛び移り、事なきを得る里保だが。

「塩の致死量って、30グラムから300グラムなんだって。傷なんてつけたら、すぐ死んじゃう。
特に、こんな嵐の中じゃ」

最初は、そよ風程度だった。
雪のように積もった塩が、ぱらぱらと舞うくらいの。
けれどもそよ風は円を描き、円を重ねるうちに勢いを増してゆく。舞い上げられる白い結晶。
ついには、街灯のガラスフードの上に乗っていた里保がバランスを崩し地上に降りざるを得ない
ほどの大嵐と化していた。

まるで、塩の吹雪。吹き荒れる風にすべてのものが白に染められる。
外灯の柱に白い結晶が吹きつけ、朽木が倒れるかのようにゆっくりと崩れ落ちた。
この空間は非常に危険だ。

619名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:01:45
「くそっ!!」
「どうする? あたしを止めないと、塩の嵐に塗れてそのまま固まるけど」

女の言うとおりだった。自らの身を守る水がない現状では、瞬く間に吹き付ける塩に絡め取られ
てしまう。水は。里保は周囲を見渡す。作りかけのアトラクションの他には…いや。里保は、見
つけた。お誂え向きのものを。

なるべく自分の体に塩がこびり付かないよう、転がりながらそこに移動する。
そして立ち上がり刀を一閃。
赤色の鉄の箱は見事に斜めから真っ二つになり、中のものをばらばらと撒き散らす。
ミネラルウォーターの、ペットボトル。

「なるほどね」

自販機を目ざとく見つけた里保。
里保が自らの武器とも言うべき水を探し当てたにも関わらず、女が動じることはない。
それは、いくら水があっても無駄なのを知っているから。

それでも里保は、水の入ったペットボトルを次々に斜斬りにしてゆく。
そして撒き散らされた水は、里保の体に張り付くようにして纏われた。水の鎧。同じ水使いとし
て一戦を交えた矢島舞美の得意とする戦法。

「行くぞ!!」

渾身の力で、大きく刀を振るう。
太刀筋を避けるかのように、塩の嵐が薄くなった道。
それを、一直線に駆け抜けた。

620名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:02:35
鎧がもつ時間は、おそらく僅か。
その僅かな時間で、一気に畳み掛ける。
女の眼前に迫った里保が、上段からの切り下ろし。これは女に読まれ、バックステップでかわさ
れる。だがそこからの素早い切り返し、斜め上への切り上げ、燕返し。女の着ていたカーキ色の
ツナギが切り裂かれ、下に着ている黒のTシャツが顔をのぞかせた。

「さすがに舐め過ぎたか」
「まだまだっ!!!」

さらなる攻勢を掛けようとする里保だが。
タイムリミット。水の鎧は塩分をたっぷりと含み、花が枯れるかのように形を崩し消える。
だが。躊躇している時間はない。

再び刀を上段に構える里保、それは敵の目を引くフェイント。
振りかぶる態勢を取りつつの、まさかの投擲。女は身を低く屈めて避けざるを得ない。

そこを一気に攻める。
れいなに仕込まれた格闘術の真価が発揮される時だった。
屈んだ体を刈り取るように中段の蹴り。すかさず、女が頭部を右手でガードする。
しかも、ただの防御ではない。里保の足を絡め取り、地面に引き倒す投げ技のコンボ。

この人、格闘術も!?

地面に打ち付けられる前に、空いたほうの足で相手の胸板を思い切り蹴りつける。
手を放した隙に距離を取り、再び相手に突っ込んだ。
腹部への右ストレート、半身になってからのひじ打ち。全てが女に当たる前に捌かれてしまう。

621名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:03:08
「そろそろ、塩になるよ?」
「…そう。そろそろ」

里保が無我夢中に繰り出したように見えた拳。
明後日に放たれたようなその攻撃は。
攻撃するためのものではなかった。空を掴んだかのように見えたその手には。
握られていた。投げつけたはずの、「驟雨環奔」。

「本命は、それか!!」

はじめて女が、大きく叫んだ。
投擲したかに見えて、ブーメランの要領で描いた弧の軌跡。
持ち主の手に還った刀が、女の体を一閃した。

「さすが、高橋愛の後継者。と言いたいところだけど」
「?」
「それじゃあ、切れないでしょ」

女に言われて、ぎょっとする。
刀には。びっしりと塩がこびりついていた。

622名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:06:47
咄嗟に距離を大きく取り、地面に刀身を叩きつける。
塩が剥がれ銀色の刃が姿を現した。損傷はないようだが。

「…退屈だ」

女が、塩の嵐を収める。
その表情には、不満がありありと映っている。

「お前の実力は、そんなものじゃないだろう。何を戸惑ってる?」
「な、何を…」

何を馬鹿なことを、と言いかけた里保だが。
彼女の記憶の海の奥底に、それは確かに沈んでいた。

自らを律することができずに能力を暴走させてしまった、幼き日。
そして水面に映る、深い赤の瞳。
水に揺蕩う、黒い髪。燃えるような、赤い毛先。
心の奥に封じ込めたそれは、ゆっくりと、浮かびつつあった。

623名無しリゾナント:2015/02/12(木) 20:07:37
>>612-622
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

624名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:51:28
■ スパイラルラボラトリ -中澤裕子- ■

らせん階段。
巨大な、巨大な、らせん階段。

中央の支柱をくりぬく資材用エレベーターは、
生物が載ることを許さぬ構造となっていた。
殺菌と粉塵除去…
低温と低酸素…

その『実験室』の、主のもとにたどり着くには、
この階段を、降りていくしかない。

中澤裕子は、いつもそうしていた。
それが、この女に会うための、儀式か何かであるように…

やー中澤さん、おひさしぶりです…

「最近、定例に出てこんな…」

いろいろいそがしくて…

「それがこれ、か」

ええ、まあ…

「セルシウスを動かしたんは、お前やな」

ふふっ…

625名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:52:47
「勝手は困る…『あれ』の確実な回収…それが至上命題や。
お前の横やりのせいで、余計な犠牲が増えた。
…この責任、どう取るつもりや。」

責任?もちろん…私の責任は、いつでも、いくらでも、とりますが…
もし、矢口さんや保田さんのことをおっしゃっているのなら…
それは自業自得というものです…

「…なんやと」

何も知らずに首を突っ込むのが悪い…
『横やり』というのであれば、そもそも私の実験の邪魔をしてきたのは、
矢口さんですからね…中澤さんもおっしゃったはず…
…すべて、私に一任する、と…

「来たるべき時のため、『あれ』を完全に組織の制御下に置く…
その為の権限は与えた。
だが、それだけや。
その為のあの子らであり…そのための実験だけや…
『あれ』の制御どころか、回収すらできん状態で、
勝手にあの子らを殺すことまで許可した覚えはない」

ご期待通り、『あの人』には鎖をつけてあげたじゃないですか…
私は私の責任は果たしていると考えますが?

「その鎖が制御できとらんというのでは、元も子もない。
あの子らは生き残り…『あれ』の回収は失敗…
それで責任を果たしとると?」

…何をおっしゃるかと思えば…『あの人』の回収など…
もう、どうでもよいではないですか…

626名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:53:24
「なに?」

あの子たちにも『夢』は必要でしょう、と、言う事です…

「何が言いたい?何を言っとる?」

障害が大きければ大きいほど、『夢』への渇望は強固なものに…
もはや、あの子たちは、どんな犠牲を払っても、その『夢』を諦められない…
引き返せない…
あんなに失ったんですもの…あんなに失って、ここで諦められるわけがない…
たとえ、この先もっと…何倍も何倍も…失うとしても…
…『夢』とは、そういう『呪い』ですよ…

あの子たちの『夢』にとって、『A』の覚醒は、夢のとん挫を意味することになる…
…ふふふ…もう、放っておいても勝手に、あの子たちは、
こちらの意図したとおりに動いてくれます…

「ばかな…お前は、あの子らを捨てた…
セルシウスまで使って…お前は失敗した!
これでどうやって『あれ』を使うんや?
もう…時間は残されておらんのやぞ!」

先日、あの子たちから連絡が来ました、と言ったらどうです?…

「なん、やと?」

取引したい、だそうです…ふふふ…

ふふふふふ…

627名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:53:55
…良い子たちでしょう?

なんてすばらしい!

特にあの子!
私も!惚れ惚れするほどの!
完璧な!合理主義!

あんなにだましても!友人を二人殺しても!
地下深くに捨て去っても!それでもちゃあんと!戻ってくるんです!

しっぽをふって!

ははは!傑作!はらわたが煮えくり返っていることでしょうに!
今すぐ私を八つ裂きにしたいでしょうに!
それなのに、微笑すら浮かべて!

命の恩人で!全ての元凶で!
友のかたきで!裏切り者の!

この私!

この私に!まだ!利用価値があると!

628名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:54:53
ふふふ…ふふふふふふ…

私は取引に応じましたよ…
あの子たちの要求を す べ て 、飲みました…

だぁって…それは!私自身、一度『やってみたかった』ことだったんですもの!

あははは!

いやもう本当に!
思わず!この手で抱きしめたくなります!

『直接会えないのが!本当に残念!』

中澤さん!私たちは何も失いませんよ!すべてが私の!思い通りだ!

あはははは!あははははは!あはははははは!

629名無しリゾナント:2015/02/14(土) 02:55:30

■ スパイラルラボラトリ -中澤裕子- ■
でした。

630名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:40:10
月明かりに照らされた大通りから一本外れた小道に影が三つ
二つの陰、小柄な女性とそれよりも少し背の高いショートカットの少女
そして、その小柄の女性の左手を常に握ってぶらぶらとあたかも行進するかのように歩く少女
「それで、あゆみんなんて言ったと思います〜?『まあちゃんは、子供だから』
 3つしか違わないのに、そんなこと言われたくないです」
「アハハ、石田らしいっちゃね」
「・・・」

楽しそうな二人をみて、工藤はなぜだか苛立たしを感じた
(なにさ、まあちゃん、田中さんが来ると、田中さん、田中さんってなってさ
 はるだって、色々田中さんにせっかくだから訊きたいことあるっていうのにさ)

「・・・・あ!!」
突然、佐藤の足がピタッと止まり、真面目な顔で田中の真正面に立った
「タナサタン!!」
「まあちゃん、どうしたの?もしかして敵襲?」
千里眼で周囲を見渡しながら、身構える工藤
「まさ、おなかすいた」
膝から崩れ落ちる工藤と腹を抱えて笑い出す田中
「アハハハ・・・ほんと、佐藤は天然っちゃね。でもそうやね、もうこんな時間やん」
携帯に映し出された電子時計の光で顔が照らされる
「れーなもちょっと食べようかな、工藤もおなかすいとう?」
「え、そ、そうですね、はるも少しおなかすいてます」
本当は空腹なのだが、自分はそうでもないと取り繕う工藤
「それなら、コンビニ行こっか」
「ヤッホータイ」
「なんかいな、それ」
「イシシシシ」

631名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:40:55
コンビニでおでんを買った三人は偶然見つけた公園と名の付いた広場のベンチに横になって座った
当然のように田中が真ん中である
プラスティックのふたを開けた途端に広がる白い湯気とこぼれる白い息
「おいしそーまさ、がんも食べる」
「こら、佐藤、れーなが食べたいって思ったけん、買ったと!!」
「え〜じゃあ、たなさたんとわけわけする〜」
「もうしかたなかとね」
割りばしでいびつに二つにわけようとしたが、ふと田中は考え直し、みっつにわけた
「ほら、工藤も食べると」
「え・・・」
「イシシ、美味しいよ〜きっと」
ゆっくりと口元に運んで、かじりつく、甘みが広がる

一口一口でオーバーリアクションをする佐藤、それをみて笑う田中、適当に相槌をうつ工藤
「これも食べてください」と食べかけのおでんを田中に差しだし、田中は「ほんとやね」と優しく答える
工藤が「はるにもちょうだい」というと佐藤は「はい、DOどぅにゆでタマゴ」と食べたくないものを差し出す
「なんで、はるにはまあちゃんのおすすめくれないの!」
「だって、まさとたなさたんで食べたんだもん」
「答えになってない」
「ほらほら二人とも、まだおでんはあるっちゃ。仲良く食べるとよ」

まるで仲の良い姉妹のように寒空の下、暖かな夜食は進む
しかし、当然というか、必然というか、佐藤は事件を起こす
「あああああ」
おでんの汁をこぼしてしまったのだ
「何してんのまあちゃん」
「うう、ぬるくて気持ち悪いよ」
「ほら、佐藤、ハンカチ貸してあげるなら、洗っておいで」
ハンカチの臭いをクンクンと嗅ぎながら、は〜い、と言って佐藤は立ち上がり、消えた
どこに向かったのかはわからないのだが、跳んだのだ

632名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:42:14
「まったく、佐藤はちょっとお手洗いに行くだけでいいのに、わざわざ力、使わんくてもええやろ
 工藤もそう思うっちゃろ?」
しらたきを口に運びながら、田中があきれながら工藤に問いかける
「は、はい、はるもそう思います
 まあちゃんはいいヤツだけど、なんていうんでしょうか、ものすごく気分屋ですからね」
「アハハ、そうっちゃね。でも、それが佐藤らしさやん」
「・・・でも、それでいいんですかね?
 まあちゃんは本当にムラがあるんですし、何を考えているのかわからないときがはるにもあるんです
 友達として一緒に遊ぶには楽しいんですけど」

「それでもええっちゃろ?仲間であるまえに友達っちゃろ?」
今度は昆布を食べ始める
「でもリゾナンターです!!まあちゃんが何をかんがえているのかわからないと困る時もあるんです
 このまえもまあちゃんが道重さんの作戦を無視して一人で勝手に行動して・・・
 結果的には作戦は成功しましたよ。でも、まあちゃん、怪我して帰ってきて、なんといったと思います
 『みにしげさ〜ん、まさ、すっごいがんばったからほめてください』、ですよ
 協調性に欠けているんですよ」
「ふ〜ん」
「あれだけ自由にやっているのに、道重さんは怒りもしないで『うん、よく頑張ったね』って笑顔で傷を治したんですよ!!
 そうかと思えば、全く動こうともしないときもあって、この前全員集合なのに来なかったんです
 どうして来なかったの?って聞いたら、『まさ、忙しかった』の一点張りですよ
 理由きいてもぜんっぜん教えてくれないんです
 あ、ごめんなさい、田中さんにまあちゃんへの愚痴を聞かせてしまって」

何かを考えるように田中は宙を見つめ、そしてぷっと吹き出し笑い始めた
突然笑い出した田中を見て、工藤は茫然としてしまう
「アハハハハハ・・・」
「な、なんで笑っているんですか!」
「いや〜工藤、可愛いなって思って、それに佐藤のこと大好きっちゃね」
「! な、何言ってるんですか!!」

633名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:42:52
もう暗くなっているので田中には見えなかったが工藤は耳まで真っ赤だった
ただ、「工藤、真っ赤になっとるやろ」と笑いながら言った
「そ、そんなことないですよ」と必死に指定しながらも、早口になる
「工藤は昔から恥ずかしがりやし、隠さんでもいいやろ?」
「う・・・
 で、でも田中さんもまあちゃんのそういうところ、どうにかするべきだと思いませんか?
 リゾナンターとしてチームプレーは必要ですし、あのムラさえなければまあちゃんはもっと強くなると思うんです」

「でも、それって佐藤らしさなくなるやろ?
 佐藤の魅力って常識にとらわれない自由奔放なところだし、真面目やったられーな、佐藤を好きになれんと思う」
「で、でも、チームの一員としては」
「チーム、チームって別にそこまで考えんくてもいいっちゃない?
 れーなのときにも自由な子おったわけやし。それでも、問題なかったけん、気にする必要はなかよ」
「・・・」

「それより、佐藤をあーだこーだ言ってるけど、れーなからしたら工藤にもそれは言えることあるとよ」
工藤は田中の目をまじまじと見つめなおした
「れーなからみると工藤は起こりうることを予想している、そうっちゃろ?」
「も、もちろんです」
「でも、その想定している範囲が未熟っちゃね
 具体的にいうと、工藤は工藤が「できること」の範囲の中でしか自分を見ていない、そうれーなには見えると
 佐藤が、佐藤が、っていっとったけど、それは佐藤の動きを読まなきゃならんって考えとうわけやろ
 もう全てを把握していたいんじゃないのかな、工藤は」
そんなことはない、と言い返そうとしたが、返す勇気が出なかった
「佐藤なら、もしかしたら言うこと聞いてくれるかもしれんよ
 でも、それをダークネスが、はい、そうですね、それはフェアではありません、やめましょう、なんていうと思うと?
 ありえんやろ?想定外、想定外、想定外しかおきんよ」

634名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:44:35
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「ん?別にれーなはそれがいいとか悪いとかはいっておらんよ
 愛佳みたく未来が見えるわけでも、愛ちゃんがガキさんみたいに頭がキレるわけでもないけん
 それにリンリンみたいに技術があるわけでもないし、やれることって限られとう」
腕を頭の上に組んで月を見上げ、「まー、れーなの場合は出たとこ勝負っちゃね」とつぶやいた

「・・・最初ははるが、はるなんやあゆみん、まあちゃんを引っ張る気でいたんです
 でも気づけば、みんなはるの前にいるようになって
 自信はあるんですよ、はるが一番だって!絶対負けないって
 ただそうはならないことが不安なんですよ。はるは田中さんみたいに強くないから」
「別にれーなは強くなかとよ。泣きたい時だってあるし、逃げたいときだってあると
 でも、そんな自分を後から思い返したら悔しいけん、逃げんようにしとるだけっちゃ
 後悔しない、今の自分でできることをする、それだけでいいっちゃない?
 ・・・ま、れーなにはわからんけど、工藤の自信の大きさなんて」
ベンチに横になるれいな
「れーなはみんなにこうすればいいとか教えられんよ、元々一人やったし
 ただ、考えすぎないように、自分の限界とか決めないようにはしてるとよ
 工藤ももう少し考えるのをやめてみたらいいっちゃない?」
「・・・」

千里眼―すべての真理を見抜く力、だからこそ工藤は全てを理解しようとしていたのかもしれない
違うのかもしれない。工藤自身にもわからないが、田中の言葉は工藤の奥深くにすっと入ってきた
工藤もベンチに横になる
「田中さん」
「ん?」
「月、綺麗ですね」
「ニシシ、なんや工藤乙女みたいなこと言っとうとね」

そこにビューンと現れる、元気娘
「あ〜たなさたんとDOどぅ寝てる!!まさも入る!!」
間に割り込もうと大声を上げた

635名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:45:11
「ちょ、まあちゃん、やめてよ」
「ずるいよ、たなさたんの隣はまさのものなの」
子供の喧嘩はいつでも始まる

「・・・でも、確かに工藤の言うことも一理あるっちゃね
 よしっ。佐藤」
「はい、たなさたん」
「うわっ」
ベンチをがたがた揺らすのを急に辞めたので工藤は落ちそうになる

「なんですか?あ、これ、はんかちです。まさ、返しますね」
「はい、どうも。佐藤、さっきどこまで跳んだと?」
「う〜ん、おうちの洗面所です」
「そこの手洗い場じゃだめかいな?」
「え〜しっかりと着替えしたかったんだもん。たなさたんからもらった服着てるってみせたかったもん」
佐藤の頭をなでまわす
「うんうん、れーなのお古使っとうとね。服も喜んでるっちゃね」
「イヒヒヒ・・・」

「だけど、佐藤、ただ少し濡れただけやろ?それでわざわざ家まで跳ぶとか、疲れるやろ?
 着替えやなくて、少しだけハンカチできれいにするだけでいいっちゃない?」
「たなさたんに服みせたかったんだもん」
頬を膨らませ、やや不満げな表情を浮かべる
「もちろん、れーなもうれしいっちゃけど、すぐに能力を使ってまででもすることではなかとよ
 それよりもれーなは佐藤と少しでも長く話せるようにすぐに帰ってきてほしかったと
 そのためには着替えるんやなくて、ちょっとの水で洗い流す、でよかとよ」
「たなさたんはまさと一緒にいてくれるの?」
「あたりまえやん、れーなは佐藤が大好きとよ、もちろん、工藤も
 やけん、佐藤にはもっと自分の考えだけで決めるんやなくて、周りをみてほしいと」
「周り?誰もいませんよ」
「アハハハ、まあ、すぐにわからんくてもいいっちゃよ」

636名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:45:53
首をかしげ考えようとしたがすぐに諦め、田中に佐藤は抱き付いた
「わかんないけどわかった!!たなさたん、まさと一緒にいてください」
「・・・まあちゃん、足、足」
「足?」
「・・・はるの足踏んでる」
ごめん、といって足を上げる佐藤
「こういうことですか?」
「アハハ、うんうん、まずはこういうことからかいな」
田中はまた笑い始めた

楽しそうな田中を見て、佐藤も笑った、工藤もつられて笑った
「アハハハ」「イヒヒヒ」「ハハハ」
笑い声の三重奏、闇に包まれた周囲なのにその部分は明るく輝いて見えたことだろう
しばらくして笑いつかれたのだろう田中が立ち上がった
「ふぅ、疲れた、じゃあ、佐藤、工藤、帰るよ!」
「はい!」「え〜やだ」
「ほら、もう遅いし、明日のこともあるっちゃろ。学校を寝坊させるわけにはいかんとよ
 さあ、二人とも帰るよ」
「「は〜い」」

★★★★★★

誰かが呼んでる、私の名前を
あなたはだれ?
・・・
長い黒髪をなびかせ、彼女は大声で私を呼んでる
あなたはだれ?
・・・
声は聴こえないけど、間違いなく私の名前を呼んでる
あなたはだれ?
私は・・・だれだっけ?

637名無しリゾナント:2015/02/14(土) 21:49:05
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(8)
執筆速度がムラあってごめんなさい。シリーズは一つしか書けんよ。
しばらくはこういう内容で行きます。
ハッピィバレンタイン。オリーブオイルのフレンチトーストを明日食べてはいかが?

638名無しリゾナント:2015/02/15(日) 09:38:56
更新乙です!リゾキュア書いて欲しかったけどVanish!大好きだから諦めますw転載行ってきます

639名無しリゾナント:2015/02/15(日) 20:18:19
代理ありがとうございます
プリキュア見たことないから、どんな感じでボケればいいのかわかんないっすw

640名無しリゾナント:2015/02/16(月) 01:33:15
>>612-622 の続きです



奇しくも、刺客を打ち倒したリゾナンターたちが一所に顔を合わせたのは、ほぼ同時。

「あれ、亜佑美ちゃん何やってると!?」
「生田さんこそ!って言うか小田も!!」
「いや、あの譜久村さんが急にいなくなって」

互いが互いの状況を把握できていない。
我先にと口を開くものだから、収拾がつかなくなりつつあるところを。

「ちょっとみんな落ち着いて。まずはそれぞれの身に起きたことから話そう?」

さすがは最年長の貫禄と言ったところか。
春菜の言葉に従い、一人ずつ話し始める。能力者に襲われた、もしくは一緒にいた人間とはぐ
れてしまった。など。
互いに情報を交換してようやく、自分達が置かれている状況を理解するのだった。

「くそ!またあいつらかよ、しつけーな!!」
「まさが出会ったらぐしゃぐしゃって丸めて、ぽいってしてあげたのにね」

自分たちが敵方に放置してもいいだろうと判断されていたことも知らず、遥と優樹がそんなこと
を言う。
そんな中、さくらが聖と里保の不在に気づいた。

「あの、鞘師さんと譜久村さんは…」
「里保ちゃんなら大丈夫。後で駆けつけるって」

香音は敢えて、例の施設管理人のことは話さなかった。
ここで全員でそちらのほうへ向かおうものなら、里保の気遣いが無駄になってしまう。

641名無しリゾナント:2015/02/16(月) 01:34:07
「じゃあ、聖は」

衣梨奈も、まるで見当がつかないわけではなかった。
先ほどから、痛いくらいに響き渡る悲鳴のような、心の声。全員が、それを頼りにしてこの地点へと集まっていた。
それを受けて、言おうかどうか迷っていた亜佑美が。

「…もしかして譜久村さん、あのお城のほうにいるんじゃ」

その場にいた誰もが、はるか向こうに聳え立つ瀟洒な城を仰ぎ見る。
リヒトラウムのシンボルであるあの城のほうから、心の声が聞こえる。悲痛な、何かを耐えているような、そんな声が。
最早疑いようもない。疑念が、確信に変わる。

「急がないと!譜久村さんが!!」

遥の叫びをきっかけに、優樹が、亜佑美が、春菜が。走り出す。
そしてさくら、衣梨奈、香音も。
彼女たちが聞いた心の声は、助けを求めるものではなかった。けれど、心が引き裂かれるような、悲しみと痛みが入り混じったような。

少女たちは、仲間の窮地を救うために、走り続ける。

642名無しリゾナント:2015/02/16(月) 01:35:54


ほぼ同時刻。
リゾナンターのリーダーであるさゆみもまた、後輩たちがいるであろうリヒトラウムに向かって
いた。きっかけは、一本の電話。

「道重さん、大変や!あいつらが…あいつらが!!」

要領を得ない、後輩・光井愛佳からの突然の電話。
だが、彼女が落ち着いて話せるようになると、その内容の緊急性がさゆみに伝わる。

愛佳の予知能力が、血まみれで倒れている9人の少女の姿を映し出した。
そしてその9人の少女は。紛れも無く先ほどリゾナントを出発した後輩たちであると。

なぜ。どうして「失われていた」はずの愛佳の予知能力が復活したかはわからない。
ただ、これだけは言える。彼女の予知は、意図的に誰かが変えようとしない限り、必ず現実の
ものになる。
それはかつて行動をともにしていたさゆみが、嫌と言うほど見せられてきたことだった。

こんな時に、高速移動能力や瞬間移動の力が自分にあれば。

そう思わざるを得ないほど、状況は逼迫している。
里沙や愛にその手の能力者を紹介してもらおうとしても、連絡すら取れない。

頼れるのは、自分だけ。
自分の足で走るしかないのだ。

とは言え、能力者であること以外は一般の女性とあまりスペックの変わらないさゆみ。
いや、体力などはひょっとしたらそれ以下かもしれない。最近は鍛えているとは言えその効果
も雀の涙。そんなことも無視しひたすら走っていたが、ついに悲劇が。

643名無しリゾナント:2015/02/16(月) 01:36:59
「あうっ!!」

足が、攣ってしまう。
走る勢いがそのまま体に加わり、転倒。周りに人がいないのがせめてもの救いだ。
まさか、駅に着く前にこんなことになるとは。
情けなさで泣きたくなるが、そんな暇は無い。一刻も早くリヒトラウムに到着しなければならな
いのだから。

「あのー、大丈夫ですか?」

倒れているさゆみに、声を掛ける女性がいた。
流れるような長い黒髪に、小麦色の肌。彫りの深い顔も相まって、エキゾチックな印象のある美
しい人。端的に言えば、さゆみの好みだった。

「え、はい、ちょっと転んだだけですから」
「道重…さゆみさん、ですよね?」

初対面なのに自分のことを知っている人間は、大抵。
身構えてしまうさゆみだが、相手の女性からは微塵の敵意も感じられない。

「向かってるんですよね、リヒトラウム」
「どうしてそれを」
「彩も、いるんです。迎えに行かなきゃいけない子たちがそこに」

それだけ言うと、すぐ側にあったコンビニの入口に敷いてあったマットを引き剥がし、持って来
る。こんなもので、一体何をしようと言うのか。

「一緒に行きましょ。急いでるんですよね?」

八重歯を覗かせ、にこっと笑う女性。
マットが魔法を掛けられたように、空に翻った。

644名無しリゾナント:2015/02/16(月) 01:38:12
>>640-643
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

645名無しリゾナント:2015/02/17(火) 20:45:20
>>640-643 の続きです



でぃんどんでぃんどん…でぃんどんでぃんどん…てんてけてんてん…てんてけてけてけ…

眩い電飾と床置きサーチライトに照らされた、大広間。
中年男性のアカペラ音楽とともに入場するのは、どこかで見たようなキャラクターたち。

目つきの悪い、鼠に似た団扇のような大きな耳をした男と女の二人組。
続いて、「ミツ」と書かれた黄色い壺を持っている茶色い生き物が、ふらふらと入ってくる。
さらに、緑色の四足歩行の馬のような、犬のような。そんな不思議な物体。
最後に、水色のセーラーを着た不細工な鳥の顔をした男。
よたよたと連なって歩く様は、何かのパレードのようにも見えた。

広間の中央に敷かれた、赤絨毯。その最奥の玉座に、ポニーテールの少女が座っていた。
しばらく少女は、その奇妙なパレードを眺めていたのだが。

「…うざ」

それだけ言うと、中年男性の声でずっとてんてけてんてけ言ってるのを流しているCDプレイヤー
を鼠の男に向かって投げつけた。
重量に速度が乗った物体は嫌な音を立てて鼠男の顔面を破壊する。飛び散り、床に赤い染みを
作る血。
それを見て、異形の者たちはパニックに陥る。緑色の馬犬はくるくると回り続け、鼠女と茶色い生
き物がひたすら相手を蹴り合い続ける。何をしていいかわからずに近くにあったサーチライトを持
ち上げた鳥男に、少女が襲い掛かった。

646名無しリゾナント:2015/02/17(火) 20:53:10
懐に飛び込まれ、顔面を蹴り上げられる。
ぼきりという、首の骨の折れる音。明後日の方向に首を曲げた鳥男は、膝をついて仰向けに倒れ
それきり沈黙してしまう
少女の暴挙はさらに続く。くるくると回っている犬馬の背を掴み、その頭から垂れ下がった両耳
を。力任せに、引きちぎった。痛みで汚らしい悲鳴を上げる緑の生き物、それも少女の放った止
めの蹴りを腹に刺され、止まる。

少女の目は、壷を持った茶色い生き物にも向けられる。
自分が殺される事を察知したのか。おずおずと、「ミツ」と書かれた壷を少女に差し出す生き物。
その中に手を入れてくれ、という意思表示なのか。

躊躇せず、壷の中に手を入れる少女。
しかしそれは罠であった。その黄色い壷こそが、生物の真の口吻。好奇心で差し入れた人間の手
を、ばりばりと噛み砕くのだ。少女の手もそうなる運命だった。はずが。

「くっだらねーことしてんじゃねえよ」

少女は。壷に手を噛みつかれたまま、生き物をゆっくりと頭上に持ち上げる。
その高さが頂点に達した時。勢いのままに茶色の生物を床に叩きつけた。叩きつけ、いや、叩き
潰された生物は全身の骨を砕かれ、そのまま動かなくなった。

動かなくなった死体に、なおも攻撃の手は緩めない。
元々つくりの丈夫でない彼らは、忽ち自らの肉体を崩壊させた。
腕がもげ、眼球は飛び出し、腹が破け腸が噴き出る。
あちこちで血を流し、臓物を撒き散らして倒れている死体。
サーチライトに照らされ、返り血を浴びた少女は広間に響き渡るように高らかな笑い声をあげる
のだった。

647名無しリゾナント:2015/02/17(火) 20:54:04
そんな血腥い惨劇を黙ってみていた、もう一人の巻き毛の少女が。
呆れ口調を交えて、語りかける。

「何や、のんが『リヒトラウム』のパレード見たい言うから、マルシェの研究室から盗んできたのに」
「これのどこがパレードなんだよ、きもいって」

言いながら、恐怖で固まっていた鼠女の首根っこを掴み、近くの柱に激突させる。
ごしゃあっ、という音と共に流れ出る、粘りのある赤い水。錆びた鉄の臭いが、辺りに立ち籠めた。彼
らは、彼女らは、組織の狂科学者が作り出した哀れな失敗作だった。

「のんはさ。純粋に夢の国を楽しみたかったのに。やっぱ中身は乙女だし」
「おええっ、そんな血まみれなツラして何が乙女や」
「は? あいぼんに言われたくねーし」
「ははっ、うちこそ真の乙女やで? 寝る前のリップクリームは欠かせへんし」
「バージニアスリムの間違いだろ」

些細なことから、しばし睨み合う二人。いつものことではあるが。
冷静になり引くのは、いつも巻き毛のほうだ。

「まあええ。自分、かなり苛立ってんなあ」
「”うちらの”敷地で余計なことしてる連中がいるみたいだけど」

ポニーテールの苛立ちの原因は、そこだった。
この夢と光の世界に、リゾナンターを招き入れて殲滅する。
その計画は順調のはずだった。

648名無しリゾナント:2015/02/17(火) 20:55:02
「鋼脚」から掠め取った精神操作能力を優樹に使い、あたかも偶然このテーマパークに招待されるよう
な形を作った。
リゾナンターのアドバイザー的存在の光井愛佳に、「9人の後輩たちが血まみれで横たわる」未来を見
たかのように錯覚させた。
愛佳からそのことを聞いた道重さゆみは、一目散にリヒトラウムを目指すだろう。
あとは元々の目的が眠っているこの地で、さゆみを亡き者にするだけ。ところが。

自分たちの計画に、水を差す能力者たちが現れた。
福田花音が率いる「スマイレージ」のことだ。もちろん。
彼女、「金鴉」にとっては取るに足りない存在だが、目に入れば煩わしい。

「ええやん。そいつらもついでに”うちらの宴”に招待したろ」

不敵な笑み。
ハプニングさえも、自らの計画に取り入れる。
それくらい、あいつにできて、うちに出来へんわけないわ。
誰に言うとでもなく、もう一人の少女、「煙鏡」がひとりごちる。

「リヒトラウムの管理人はどうするよ」
「こぶ平のやつには言うたんやけどな。まあええ。遅かれ早かれ、あっちから連絡が行くやろ」
「ふーん。ま、いいや」
「珍しいな。のんもそいつと戦いたい、とか言わへんなんて」
「ツクリモノとか、興味ないし」
「…せやな」

肩を竦め、広間の窓際に立つ「煙鏡」。
眼下には、夢と希望で溢れる、楽園がどこまでも広がっている。

649名無しリゾナント:2015/02/17(火) 20:57:29
「のんも見てみ。このおもちゃみたいな楽しいテーマパークの地下に、悪魔みたいな『ブツ』が隠され
てるなんて、あそこにいる誰も知らんのやで?」
「でもさ、それさえ手に入ったら。あいぼんとのんは」
「ああ。大逆転や」

偉そうにしている、弱い奴。
そいつを排除しただけなのに。彼女たちに組織の長が与えた懲罰はあまりにも不当。
そうとしか思えなかった。

そして「首領」に幽閉されてからずっと。
そのことだけを考えていた。隔離された、狂気の世界。
昏い思いは年月とともに凝縮され、一つの形になる。

復讐。

ずっとこの時を、待っていた。
偉そうな「首領」も。すかしている「叡智の集積」も。
自分たちを虐げていた連中は、痕跡さえ残さずに消してやる。

「ざまあ見晒せ。うちらが反省なんか、するわけないやろ」

懐から取り出したトランシーバは、敷地内の放送設備をジャックし、敷地全体に「声」を届ける役目を
果たす。
もうすぐ、楽園は地獄と化す。その瞬間を決めるのは。
自分だけだ。

あーあー。テス、テス。
ただいま、マイクの、テスト中…

650名無しリゾナント:2015/02/17(火) 20:58:06
>>645-649
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

651名無しリゾナント:2015/02/18(水) 21:23:27
>>645-649 の続きです



「Dr.マルシェ!こちらにおられたのですか!!」

息を切らし、黒服のサングラスといういかにもな格好の男が建物に入る。
ここは、ダークネスの本拠地に設置された、食堂。
非合法な組織にしては意外とまともな作り、一見どこかの大学の学食と見紛うばかりだ。
そこで紺野は、少し遅めの朝食を取っていたのだった。

「騒がしいですね。何か御用ですか、諜報部の方…ああ、すみません。マッシュポテトは大盛りでお願
いします」

自らの食事タイムの邪魔をされたせいか少々不機嫌になった紺野ではあるが、すぐに食堂の中年女性に
追加注文をする。テーブルには、少しずつ食べたトースト、目玉焼き、スクランブルエッグ。

「探しましたよ!てっきり研究室にいるものとばかり…」
「日夜部屋に篭り、わずかばかりの栄養ゼリーと煮詰まったコーヒーで腹を満たす。そんな典型的な研
究者像にでも惑わされましたか」

言いながら、小さく切り分けたスクランブルエッグを口にする。
このペースだと、食事を終えるのは随分先になるのは必至の遅さだ。

652名無しリゾナント:2015/02/18(水) 21:24:55
「手短にお願いします。食事の時間は、なるべくゆっくりしたい」
「ええ。実は、消息不明になっていた『金鴉』様と『煙鏡』様の居場所が掴めました」

様、とつけてはいるが。
明らかにその名を口にする時に苦い表情をする、諜報部員。それもそのはず。彼女たちの所在を把握す
るまでに、何人もの同僚が戯れに命を奪われているのだから。
しかし紺野は。

「おそらくですが。『夢と光の国』では?」
「え」
「ある程度の予測は立てていましたが。しかし実際にそうなってみると、案外感慨深いものですね」

あまりにはっきりと言い当てるものだから、諜報部の男はしばらく二の句が継げない。
いや、確かにおっしゃるとおりなんですが、などと口淀む男に対し、紺野は。

「あそこには、管理人がいたはずです。オーナーの堀内さんが例の『先生』のとこの組織と契約して派
遣されている」
「はい。確か組織の7番手の実力者が配されていたはずですが…」
「やはり。密約が交わされていたようですね」

施設の守護者とも言うべき人間がいるにも関わらず、例の二人はあっさりと敷地内に入っている。いつ
ぞやの「先生がらみの仕事」というのも、どうやら単純なブラフでもなかったらしい。紺野は「煙鏡」
の抜け目の無さに、苦笑を漏らす。

653名無しリゾナント:2015/02/18(水) 21:25:56
「…『鋼脚』さんには報告は」
「ええ。ただ、例の二人の件はDr.マルシェに任せているとのことで」
「なるほど」

すっかり冷めてしまったトーストを一口だけ齧り、考え込む。
とは言え、既に答えは出ているのだが。

「いかがいたしましょうか」
「そうですね…好きにやらせたらいいんじゃないですか?」
「は?」
「『金鴉』さんと『煙鏡』さんが目をつけたのは、きっと何か理由があるのでしょう。面白い。徹底的
に暴いてもらおうじゃないですか」

男は恐れおののいた。
もちろん、滅茶苦茶なことをやらかすであろう例の悪童どももそうだが。
この目の前の女も、まともではない。破滅が目の前にあるというのに、喜んですらいる。

「しかしそれでは…」
「あなたたちに、何ができるって言うんです?」

俄かに生まれた反駁の心、それも紺野の一言で消えてしまう。
この前の「詐術師」の内乱以降、ダークネスの本拠地は厳戒態勢を取り続けていた。そんな状況下にお
いて身内であるはずの、しかも目的すら読めない二人に対して人員を寄越すのは現実的ではない。

紺野は、暗に自分達でリヒトラウムに行ったらどうです、と問うているのだ。
もちろん、物言わぬ躯となって帰ってくることを前提にして。

654名無しリゾナント:2015/02/18(水) 21:26:19
「わ、わかりました。引き続き、監視体制を」
「それが賢明でしょう。何か興味深い動きがあれば、またご報告下さい」

紺野は話は終わりました、とばかりに食事を続ける。
苦虫を噛み潰したような顔をしながら引き下がろうとする男、しかしそれは背後からの衝撃に遮られた。

「いたっ、な、なんだよ!」
「すまん、緊急事態なんだ!!」

別の黒服が、同じように慌てて食堂に入ってきたものだから、男と衝突してしまったのだ。
訝る先客を押しのけ、男が紺野の前に出た。

「まったく。落ち着いて食事もできませんね」
「Dr.マルシェ!大変です!!天使の、天使の檻の上空に…」
「ほう?」

紺野の表情が、変わる。
それは、想定の外にあるものを目にした時のような顔。
ただし。世の大半の人間が想定外の事態に驚き、顔を青ざめさせるのに対し。
笑っていた。まるで、新しい玩具を得た子供のように。

655名無しリゾナント:2015/02/18(水) 21:26:50
>>651-654
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

656名無しリゾナント:2015/02/19(木) 22:07:35
■ ベインズワークショップ -少女たち- ■

http://www.youtube.com/watch?v=GZKwPcZoX1o

…………で続くクーデターの続報です
本日行われた定例会見にて、国連軍は、
天候不順を理由に空爆の延期を発表、また来月の…
…事実上の撤退であるとし、激しく非難するとともに…
…度重なる作戦失敗をうけ…

また、このニュースか…
なんか、やなことおもいだしちゃうね…
うん…
きっと、あの子たちは、いまでも組織にいるんでしょうね…
うん…
きっと、私たちを憎んでいるんでしょうね…
うん…きっと…きっとそうだよ…

かつて「あの海上」で激突した。
まだ、あどけなさの残る、少女たち。

力づくで、蹴散らした。

あの子たちを助けたかった。
助けたかった。

657名無しリゾナント:2015/02/19(木) 22:08:33
組織に囚われた、かわいそうな子供たち。
そう思った。
もう大丈夫、一緒に帰りましょう。
でも駄目だった。
間違いだった。
もう、遅かった。

658名無しリゾナント:2015/02/19(木) 22:09:32
その戦場に不釣り合いな、派手なファッション。
その幼さに不釣り合いな、派手なメイク。

強制でも、命令でもない。
あの子たちは、自らの意志で、私たちに。

説得している時間は無かった。
選択しなければならなかった。
だから、あの子たちは捨てた。
その目的のために…

立ちはだかるあの子たちを…あの子たちを…

あの子たちは言った。
私たちはエリートだと。
いずれ、組織の上に立つ存在だと。

すべて私たちが支配する。

血と災厄。
絶望と焦土。

そのすべてを私たちが支配する。

すべての戦争を私たちが始める。
すべての戦争を私たちが終わらせる。

私たちは『ベインズ』…

【破滅の工房(ベインズワークショップ;banes workshop)】と…

659名無しリゾナント:2015/02/19(木) 22:10:36

■ ベインズワークショップ -少女達- ■

でした。


(あとがきスレ用)
以前「なぜベリーズが出ていないのか?」というご質問を受けたことがあります。
その際は確か「作品には出てこないが動いてはいる」というようなあいまいなことしかお答えできなかったように思います

とっさのご質問だったため即答できませんでした
あのあとすぐ今解答できる情報の範囲内で拙作を書いたのですが
今度は社会情勢というか彼女たちが主に活動している場所が
娯楽小説の舞台にするにはあまりそぐわなくなってしまっているようです
今後予定通り進めるか変更するか
いずれにせよもうしばらく寝かせるしかないかもしれません

660名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:25:47
>>651-654 の続きです



ダークネスの外部施設に、「天使の檻」と呼ばれる場所がある。
飾り気のない、白く四角い建造物。だが、その内部はいくつもの厳重なセキュリティ、ミサイル砲を打ち込
んだとしてもビクともしないような隔離壁。
その最深部に、「天使」は隔離されていた。

「檻」の、はるか上空。
人の目では決して確認することのできない物体が、浮遊している。

「ここが機体をあちらさんに感知されない限界ってやつっすかねー」

ステルスバリアが張り巡らされた、飛空船のデッキスペース。
肉感的な、目鼻立ちのはっきりとした女性が下を覗き込み、言う。

「うん。ここから『転送』で直接人員を檻の敷地内に移動させるみたいだよ」

答えるのは、小柄な女性。

「こっからだと距離にして数キロメートルはありますよね」
「だねえ。でも作戦指令書にはそう書いてるから何とかなるんじゃない?」
「そんなもんすかね」
「大丈夫大丈夫」

言いながら、小さな女性がにかっと笑う。
げっ歯類のような大きな前歯が、唇から顔を覗かせた。

661名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:27:16
「それにしても、変な形っすね。この飛行機」
「何でも、コストダウンやら何やらで、元々の大きさの半分くらいにしたらしいよ」
「マジっすか? それでも機能とか半端なくない? この何だっけ、エリ、エリなんとか号」
「『エリックフクサキ号』ね。元は違う名前だったみたいだけど」

そんな中、デッキの扉が開かれる。
現れたのは、水色のドレスを着た、童顔の女。

「のっち、ここにいたんだ。それにきっかも」
「真野ちゃん」
「もう、『サトリ』って呼んでって言ってるのに! それより、本部長がみんなを集めて作戦の最終確認す
るって」
「おっ、あいあいさー」
「本部長、ねえ。対能力者部隊『エッグ』の結成以来かね、会うのは」

実際、彼女たちが本部長と呼ばれる人間と相対したことは数える程度しかない。
それはここにはいない「スマイレージ」のメンバーもまた然り。何せ、外部から彼女たちが警察組織に持ち
込まれると同時にプロジェクトリーダーとして就任。経歴は一切謎の人物、だが手腕だけは確かと専らの評
判だった。

船内に戻り作戦会議室と呼ばれる一室に入る三人。
そこに座したる、錚々たるメンバーたち。「エッグ」の精鋭と呼ばれる能力者揃いだ。

「あれ、のっち、あの子たちって」
「『セルシウス』に『スコアズビー』。改めて見ると、さすがにね」

662名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:28:40
会議室の後方、まるでこの場にいる「エッグ」たちを値踏みするかのように、五人組と七人組の集団が立っ
ていた。
彼女たちの存在は「エッグ」筆頭を務める能登有沙やミス破天荒としてその奇行ぶりが知られる吉川友、新
宿のシンデレラこと真野恵里菜が知らないはずもなく。
ついこの前まで、彼女たちは敵対関係にあったと言っても過言ではなかった。

ダークネス自慢の秘蔵っ子ったちとして。
いや、それ以前に「エッグ」のプロトタイプ的存在として。
この二つのグループの名前は彼女たちの頭に刻み込まれていた。
まだ未熟なはずのリゾナンターたちに倒されたダークネスの尖兵が今目の前にいるグループと同一であるこ
とを知ったのは、しばらくしてからのことではあるが。

一方、テーブルの端のほうで行儀よく座っている五人の少女たち。
赤と黒のツートンカラーで統一された衣装。緊張しているのか、幾分幼さを残した顔が強張っている。
見たこともない顔ぶれに、思わず。

「…誰?あの子たち」
「さあ。あの人がどっかからスカウトしてきた子たちでしょ」

友の問いに、面白くなさそうに席の最奥を指す。

「おうお前ら、久しぶりやな」

そんな二人に、指した人物から声がかかる。
特徴的な、少し掠れた声。
金髪と色つきのサングラス、そしてやや扱けた頬。白のタキシードという格好も相まってまるでどこかのホ
ストクラブの経営者にしか見えない。秘書のような出で立ちの二人の女性を従え、悠然と椅子に背をもたせ
掛けたこの男は。

663名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:30:02
警視庁対能力者新規特殊部隊「エッグ」本部長。
それがこの男。つんくを自称する男の、本来の肩書きであった。

「御無沙汰してます。悪趣味なファッションセンスはお変わりないようで」

席に座った恵里菜がそんな皮肉を込めるのも、致し方ない。
対能力者部隊立ち上げとともに、能力者の卵のスカウト活動と称してあちらこちらをふらふらと。怪しげな
「商品」を売り歩き、どこの馬の骨とも知れない連中に肩入れしている。エッグによる彼の評判は一言で言
えば、最悪だった。

しかしながら。彼が部署のトップとして上層部から重用されていることは明らかだった。
だから、ここにいる。

「さて。全員揃ったことやし、作戦の最終確認…言うても何も難しいことはあらへん。『転送』で天使の檻
の敷地に突っ込む。ただそれだけの楽な仕事や」

最終確認、と言うにはあまりに大雑把な説明。
本人の胡散臭さも相まって、場は何とも言えない空気に包まれる。

銀翼の天使こと安倍なつみ。
双璧を成していた「黒翼の悪魔」の不在によって、判明している限りではダークネスの最大戦力と目されて
いる能力者。
それをこちらの手駒にするという大胆な目的の割に、実に単純。単純すぎる。
当然のことながら、不満の声が上がる。

664名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:31:33
「潜入後のことはさておき。まずこのような高度から地上に『転送』すること自体、本当に可能かどうか」

普段はあまり口を開くことのない、クールな表情の女性。
暗殺者然としたいでたちの北原沙弥香が疑問を呈すのも当然の話。ダークネスが所有し運用する「ゲート」
でもない限り、物体の長距離転送は不可能と言ってもいい。

「そう言えば、つんくさんがこの前やった『お遊び』ではリゾナンカーなる乗り物を使用して母艦から遠距
離の移動を可能にしたんですよね。今回も、それを使うつもりですか?」
「リゾナンカーなら、前使った時に壊れてもうたわ」
「じゃあ、どうやって」

つんくの曖昧な回答に苛立つ恵里菜。
それに構わず、部屋の外に向かって呼びかけた。

「金子、入っておいで」

ドアが開かれ、一人の幸の薄そうな少女が姿を現す。
彼女の名は金子りえ。「転送」の能力を保有する能力者だった。

「ちょ、マジっすか! りっちゃんの能力じゃうちら空中に放り出されてペッチャンコっすよ?いくらきっ
かがワガママボディだからって、無理無理!!」

大げさな身振り手振りでそんなことを言う友。
彼女はりえのことを知っていた。その知識からすれば、とても長距離転送を実現させるような能力は有して
いない。

「それができるんやなぁ。この薬さえあればな」

そんなことを言いつつ、つんくが胸ポケットから小さな白い錠剤を取り出す。
一見ラムネ粒にしか見えないような、何の変哲も無い薬にしか見えないが。

665名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:33:02
「安心してください。この錠剤の効果は本人への投与も含めて実証済みです」
「最新の実験では、ドラム缶100個を10キロメートル先の場所に転送することに成功してますからね」

つんくの脇を固める二人の女性の、もっともらしい説明。
だが、その説明を聞いて最も安心しているのは、能力者であるりえ自身だった。

これが成功すれば私は…

りえは、エッグの中でも研修中を理由に前線に立たせてもらえない存在だった。
転送能力には、特筆すべき精度も威力もない。同期の仲間たちが適材適所の場所へ旅立つのとは裏腹に、り
えだけがいつ終わるとも知れない訓練をやらされていた。

そんな彼女にも、一筋の光が射す。
それがこの、安倍なつみの解放作戦だった。
幸運なことに、作戦に必要不可欠な「転送」の役目を任された。つんくの投与した薬剤による能力の飛躍的
向上のおかげではあるが、ともかく。

「天使の檻」の何重にも施されたセキュリティ網をすり抜けて能力者たちを転送することができれば、必然
的にりえの評価は上がる。つまり、かつて彼女を追い抜いていった人間を見返すことが出来る。
彼女が緊張し、気合が入るのも当然のことだった。

「じゃあ、早速『転送』はじめるで。みんな、準備は出来てるか…せや、いくら金子の転送能力が優れてる
言うても、ばらけた状態やとしんどいからな。隣にある小部屋に移動頼むわ」

その場に居た全員に場所の移動を促しつつ。
つんくもまた、小部屋に移動すべく席を立つ。
するとやはり不安が先立ったのか、りえがつんくに駆け寄った。

666名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:33:40
「あの、つんくさん」
「何や。何も心配することあらへん。早よ、この薬飲みや」

りえの手のひらに、そっと錠剤を置くつんく。
りえはその丸く小さな薬をしばし見つめ、それから意を決して口にした。

「ちなみにこの薬、いつもより少し強力なもんにしてるから。揺り戻しはきっついで?」
「は、はい!大丈夫です!!」

背を向け、後ろ手に手を振るつんくを見ながら。
りえは、自分がつんくのことをひどく誤解していたことを恥じた。

能力者の卵の、見境ないスカウト。
そして、怪しい商品の売り込み。
金に執着心の強い、強欲で心無い人物だとばかり思っていたが。

つんくさん、見ててください。私、やります!!

薬が徐々に自らの肉体に浸透してゆく感覚。
りえはただひたすら、能力を発動させる瞬間を待っていた。

667名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:34:56
………

「全員、小部屋の入室、完了しました」
「おう、石井に前田、ご苦労やったな。お前らも部屋に入り」
「はい。失礼します」

恭しくつんくに一礼し、部屋の中に入ってゆく二人の秘書。
つんくは、先ほどまで自分達のいた会議室のほうへと視線を向ける。
そこでは、りえがつんくのゴーサインを待っているはずだ。

頼んだで、金子。

「天使の檻」からの距離に加え、上空数千メートルという高度。
これら全てを飛び越え、『転送』を成功させるにはりえの能力が必要不可欠だった。そして、りえに与えた
薬は彼女自身との相性が抜群によかった。あの錠剤によって能力を最大限に使役できるようになった彼女な
らば、必ずや成功させてくれるだろう。

最新の実験では、ドラム缶100個を10キロメートル先の場所に転送することに成功してます。か。
秘書の石井が言った言葉をつんくは思い返す。嘘も方便とは、このことだと。
実験如きで、「彼女」を消耗させてはいけない。実際はドラム缶は実験場の敷地から少し離れた場所に転が
っていた。薬の効能がわかれば、それでよかったのだ。なぜなら本番では、普段与えている薬の数千倍の効
果が出るものを服用してもらうのだから。

あの薬のおかげで、生涯最高のパフォーマンスを見せてくれるやろ。
文字通り。命が、燃え尽きるまでな。

668名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:35:37
艦内放送に直結したピンマイクに向け、つんくは言う。

「今から全員部屋に入る。したら、『転送』の開始や。頼むで」

つんくの前で開かれた扉。
彼が部屋の中に入ると、ゆっくりと扉が閉められた。
ぱたん、と音を立て、沈黙する部屋の扉。

数秒後。どこからともなく。
人の声とは思えないような、阿鼻叫喚が聞こえてくる。
喉を極限まで絞り上げ、それでも飽き足らず喉に向け爪を立て、掻き毟り、抉る。
そんな行為の果てに生み出されたような、絶叫だった。
めらめらと激しく燃え盛る炎のように響き渡ったそれは、やがてすぐに小さくなり消えてゆく。
そして。何の音も聞こえなくなった。

669名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:41:51
>>660-668
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

研修生大喜利とか知ってる人いるのかとか思いつつそれでもネタにしてしまう…
一応貼っておきますw
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1377912821/

670名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:50:29
「潜入後のことはさておき。まずこのような高度から地上に『転送』すること自体、本当に可能かどうか」

普段はあまり口を開くことのない、クールな表情の女性。
暗殺者然としたいでたちの北原沙弥香が疑問を呈すのも当然の話。ダークネスが所有し運用する「ゲート」
でもない限り、物体の長距離転送は不可能と言ってもいい。

「そう言えば、つんくさんがこの前やった『お遊び』ではリゾナンカーなる乗り物を使用して母艦から遠距
離の移動を可能にしたんですよね。今回も、それを使うつもりですか?」
「リゾナンカーなら、前使うた時に壊れてもうたわ」
「じゃあ、どうやって」

つんくの曖昧な回答に苛立つ恵里菜。
それに構わず、部屋の外に向かって呼びかけた。

「金子、入っておいで」

ドアが開かれ、一人の幸の薄そうな少女が姿を現す。
彼女の名は金子りえ。「転送」の能力を保有する能力者だった。

「ちょ、マジっすか! りっちゃんの能力じゃうちら空中に放り出されてペッチャンコっすよ?いくらきっ
かがワガママボディだからって、無理無理!!」

大げさな身振り手振りでそんなことを言う友。
彼女はりえのことを知っていた。その知識からすれば、とても長距離転送を実現させるような能力は有して
いない。

「それができるんやなぁ。この薬さえあればな」

そんなことを言いつつ、つんくが胸ポケットから小さな白い錠剤を取り出す。
一見ラムネ粒に酷似した、何の変哲も無い薬にしか見えないが。

671名無しリゾナント:2015/02/20(金) 01:57:39
>>670
投稿ミスです
申し訳ない

672名無しリゾナント:2015/02/22(日) 04:01:06
書き込めなくなったので代理をお願いいたします。
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1150.html#id_2d146de9 の続きです。

673名無しリゾナント:2015/02/22(日) 04:02:23

宮本、佳林さん

「私達には石田さんの力が必要なんです。お願いします! 私達の仲間になって下さい!」

思いっ切り頭を下げる、宮本さん

お願いされても困るよ……
それに

「ウチを仲間にして、どうするの?」

頭を上げる宮本さん
すごい真剣な顔してる

「私達はまだ、小さな集団です。強い能力者集団を相手にしたら簡単に負けちゃうくらい……だから、どこにも負けない強さ欲しいんです!」
「でも、ウチじゃなくたって……」

宮本さんが近づいて、両手でウチの手を掴んだ

「石田さんは強いですよ。私を助けてくれた時、ちゃんと見てたんですから!」
「でも……」
「お願いします!」

必要って言ってくれて嬉しいよ
嬉しいんだけど……
ウチはやっぱり

「……リゾナントが良い」

674名無しリゾナント:2015/02/22(日) 04:03:22

だって

楽しくて
優しくて
暖かくて

大好きな人が居る

「あの場所が、ウチの帰る場所だから」

宮本さんの顔が、険しくなった

「で、でも! 意地を張っても、あの人達の所へは戻れないんですよ!?」

『この店にあんたは要らない』

さっきの道重さんの言葉が、心に刺さる

「そうかも、しれないけど……だけどウチは、あの場所が良い! リゾナントがウチの場所なんだもん! 嫌われたって何されたって、ウチはリゾナントが良いの!」
「石田さん……」

ウチの手を離した宮本さん
そのまま俯いた

わかって、くれたのかな

「仕方ない……〝あの人〟に頼んで強引にでも……」
「亜佑美ちゃんは渡さないよ」


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