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第8回電撃short3

1名無しさん:2003/05/02(金) 01:07
もう締め切りは過ぎちゃいましたが、
この企画に便乗してお題小説を書いていきたいと思います。
みなさん、どんどん曝しちゃってください。

4難民323の作品その1:2003/05/02(金) 01:49
右手に茶碗、逆手にお箸。それぞれ持ちて少女は茶漬けをすする。ずずずっと。
 ちゃぶだい越しに向かって座る、オヤジが同じく茶漬けをすする。ずずじゅっと。
「おいしいか? 娘よ」
「――、全然だよ、お父さん」
 言って娘は茶碗を置く。言われて父はま、仕方ないかとため息をつく。
「具、つくしだけだしなぁ」
「味もしょうゆしかないじゃん」
 少女の茶碗を覗いて見れば、そこには確かにつくしとご飯がほんのり赤づき茶に浸っている。というかつくしって食べ物なんだろか。
「ねー、お父さん。地面生えてるほかのものさ、食べれないかな」
「ぬう。父さんだって食べたいが、地面のアレは雑草以外のなんでもないぞ? 食べたら腹壊すかもしれないぞ?」
「ひもじいよぅ、ひもじいよぅ!」
 部屋の中にはちゃぶ台一つとベッドが二つ、水道とガスと調理用具と炊飯器が整備され、棚には米と山のような本としょうゆが
置いてある。多分どっかに空気穴さえ生えている。が、この部屋に木などは少しもありはしない。壁は土、床も天井も全て土。
だったら扉はどうなんだと問われれば、一つもないと言うしかない。そう、この部屋は密室なのである。
それでも天井には光ファイバーが生えており、床から生える植物達が元気を誘う。されどそれらはつくしのほかに食べれたものじゃあ全然なくて、二人は途方にくれている。
 して、この二人について話をしよう。実は二人、出会うまでの記憶がない。
 というか、気付けばこの密室に、いきなり二人で倒れていた。何がどうだか全く解らず、回りにあった本を読み、
今自分はどういう状況なのかをそれぞれ自分で調べあい、やっとのことでとりあえず制服を着てる方が娘で、腹巻していて腹が出ていて禿げ始めの方を父親と定義して、
で、ワシらはナニモノなんだろうと話がおよんだのが今日のいまである。

5難民323の作品その2:2003/05/02(金) 01:50
「ねーねーお父さん、あたしが思うにさ、あたし達多分ロボットだよ」
「――なんだそのロボットってのは」
「人間じゃなくてさー、体が全部機械で出来てるの」
「ふむ。それならワシらの記憶が無いのも説明できるな」
「でしょー? たぶんそれだよー。ねね、ためして見ない?」
 ちなみに二人はすでに色々試している。魔法使いとか超能力者とかエスパー伊藤とか。
そんなものじゃないと、あたし達がこんなところにこんな状態でいるはずないじゃんとかいう娘が主張したがために。誰かに閉じ込められたとかいう考えは浮かばないらしい。
「して、どうやってわしらがロボットだと証明する?」
 言われて娘はむっふっふ〜と得意げに笑顔を作り、
「カタナでひとつき!」
 父は言われて固まって。
「……は?」
「ロボットだったらきりつけたら血が出ないの! 人間だったら血がでるの!」
「――血って、よく物語の主人公が出してるアレ?」
 父は顔を蒼くしつつも一つ問う。
「アレだね!」
 言って少女は丸く笑う。

6難民323の作品その3:2003/05/02(金) 01:50
「もし人間だったら?」
「……ま、大丈夫でしょう」
「であってたまるかぁぁぁぁっ!」
 娘は能天気に言い放ち、父は叫んで立ちつつちゃぶ台返して鼻息荒くぜーはーする。
「貴様は何もわかってない! アレはな、流したら痛んだぞ! 苦しいんだぞ!」
「流したことあるの?」
 記憶自体は一週間分ぐらいしかない。
「無い! 無いが痛そうだ!」
「大丈夫だよー、指の先っちょ切るだけ」
 言われて父は固まって、一瞬考え、
「やっぱだめだ! 事をせくんじゃない!」
「だってさ、今床が春だしさ、たぶん外も春なんだよ。あたしは制服着てるしさ、ニュウガクシキシーズンっていうらしくてさ。今学校行かなくていつ行くのよ!」
「だからってそんな急がなくても」
「だから、切ってみれば解るんだって」
 言って少女は包丁を持ち、親父の方を見、ギラリと笑う。
「……ね?」
 されど父には未知の恐怖に勝てはせず、「――すまんっ!」
 叫んでいきなりにげだした。
「あー! こらまてーーっ!」
 狭い部屋に逃げ場所はなく、ぐるぐる二人は回りつづける。天井でも、ピンホールカメラがぐるぐる回り動いている。

7難民344の作品その1:2003/05/02(金) 01:51
 え? ええ。はい。入学式の日です。よく覚えています。そうです。あの、霧が出てい
た日です。その日は姉が大学の入学式でして……え? 私ですか? 私は、散歩をしてい
たんですよ。ええ、朝にです。みんなが起きる前のことです。え? 何故か……ですか?
さぁ……何故でしょう。とにかく、そんな気分だったんです。すみません。あまり深い理
由はないんです。
 公園に行きました。近くに、広い公園があるんです。時間が時間だから、誰もいません
でした。霧に包まれた公園は、どこか、神秘的で……でも何か、恐ろしげに感じました。
辺りは静まり返っていて、私一人がどこかに置いてきぼりにされたような……。
 空気はひんやりと冷たくて、私もひんやりしていました。落ち着いた感じというか、夢
の中のような……。しばらくは、公園内をぶらぶらとしていたんです。霧越しに見える淡
いピンクの桜を見たり、芝生の間から見えるつくしを見たり。鳥が一斉に飛び立つ音も聞
きました。ああ、春なんだなぁ――と思いました。それなのに朝の空気は、そんな季節を
感じさせないから、不思議ですよね。え? あ、すみません。話を先に進めます。はい。
すみません。私、要領が悪いんです。
 公園を出て、河川敷のほうまで行きました。ええはい。その間、誰ともすれ違ってはい
ません。はい。朝が早かったもので。さらさらと流れる水の音は、少し、怖かったです。
ええ。怖がりなんです。だから、あの時見たものも……ああいえ。分かってます。そこの
ところを、聞きたいんですよね。ええ。すみません。

8難民344の作品その2:2003/05/02(金) 01:51
先輩は、死体というものを見たことがありますか? え? ああ、おばあさんの……そ
うですか。私は、初めて見たんです。はい。あれが、初めてでした。今でも、よく覚えて
います。忘れようとしても忘れられないんです。何度も夢に見ます。夢の中で、その人は
むくりと起き上がって……。すごく、恐ろしいんです。まるで私を恨んでいるようで……
私、あの人に取り付かれてしまったんでしょうか? いえ。なんとなくそう思ったんです。
やっぱり殺されたりしたら、この世に未練があるでしょうから。
ええ。そうです。見つけたのは、川原に降りたところです。ああそうです。その、ベン
チが並んでいるところです。え? 誰かを見たか……ですか?
いいえ。見ませんでした。はい。不審な人は、誰もいませんでした。それは間違いあり
ません。何より私は恐ろしくて、他の事は……。
霧の中でどうして気付いたのか、ですか? 物音が、したんです。はい。ゴミ箱が、倒
れる音です。はい。警察の方にもお話しています。実際に倒れていたそうです。私……で
すか? いえ。分かりません。見ていません。動転していたんです。紐で……首が絞めら
れていて……。はい。そうです。目が、剥き出しで…………。
すみません。ええ。大丈夫です。あのときから私、少し情緒不安定なんです。すみませ
ん。ええ。大丈夫です。すみません。
小柄な人でした。ええ。ニュースでは姉と同い年で……詳しいことは知りません。ニュ
ースを見るのも恐ろしくて……。
え? お知り合い……だったんですか? 先輩の? そう……だったんですか。それで、
この話を聞きたかったんですね。え? 恋人だったんですか? そんな……すみません。
知りませんでした……ごめんなさい。先輩は、お姉ちゃんの、恋人なのに、私は何も知ら
なくて……すみません。辛い、ですよね。ああすみません。泣いたりして。先輩のほうが
……辛いのに……。

9難民344の作品その3:2003/05/02(金) 01:51
え? 紐が、見つかっていないんですか? 首を絞めていた紐が? そうなんですか。
ちっとも知りませんでした。すみません。
姉……ですか? ええ。家で、まだ寝ていましたよ。はい。間違いありません。え? あ
の、意味が、よく分かりません。何を言ってるんですか? 違います。そんなことありま
せん。姉はあの人のことは知らないと言っています。姉を、疑っているんですか? 姉が
先輩を自分のものにするために、その人を殺したと?
違います! 何でそんなことを言うんですか? 何を言っているんです。私は姉の後を
つけたりなんかしていません。公園で一斉に鳥が飛び立ったのは、そこで殺人が起こった
証拠? 姉が公園でその人を殺して、私が姉に嫌疑がかからないようにその人を川原に運
んで、証拠になりそうな紐を処分した? どこにそんな証拠があるんです! え? 動転
してるのに何故、小柄かどうか覚えているか、ですか?
もう、いいじゃないですか。やめましょう。もうイヤです。その人が帰ってくるわけで
はありません。悲しいことですが。先輩も、姉と幸せに……違います! 姉は、姉は関係
ありません! 姉はずっと家にいました。そうです。そう……私、私です。私は、先輩が
好きだったんです。だから、あの人が邪魔で……そうです。私が全てやったんです。私が
殺したんです。姉は関係ありません。姉は無関係です。姉は……

10難民358の作品その1:2003/05/02(金) 01:52
 合格通知が来ていたので、入学手続きにいくと「あんたの名前はありません」と言われた。
どうやら、あの合格通知は誰かが仕組んだドッキリカメラだったようだ。
 そう考えてみれば、不審な通知だった。外は普通の長四茶封筒だったし、中にはインクジェ
ットプリンタで出力したみたいな紙が一枚。消印はうちの町内にある郵便局のだった。でも、
初めてだったからそういうもんだと思ってた。
 くそー、だまされた。
 俺はさっそく、ドッキリを仕掛けた奴に復讐することにした。犯人の目星は付いている。
俺より先に不合格が決まっていたノブアキ、こいつに間違いない。
 早速殺しに行った。俺の将来を台無しにしたんだから、殺されても仕方がない。俺は
バイト帰りのノブアキを暗い夜道で襲撃した。
「なんだよおまえ、何する!」

11難民358の作品その2:2003/05/02(金) 01:52
 ノブアキはばれたことに驚いて抵抗したが、ノブアキ殺戮マシンを持っていた
俺の敵ではなかった。
「よくも偽者でぬか喜びさせてくれたな! 死ね!」
 ノブアキは最期まで自分の罪を認めなかった。
「助けてくれ!」と俺の足元に跪いて懇願するノブアキに止めを刺した後、俺は
考えた。ひょっとしたら本当に人違いだったのかもしれない。だとしたら、ノブア
キにはかわいそうな事をした。
 俺はハタと気付いた。
 そうだ。あいつだ。あいつが犯人だ!
 あいつとは前に付き合っていた彼女で、名前をつくしと言う。俺にふられた事を
逆恨みして、俺の人生をめちゃめちゃにするつもりで犯行に及んだに違いない。
 間違いない。
 俺は胸にみなぎる確信のもと、早速つくしを殺しに行った。つくしはちょうど新し
い男と玄関先で話し込んでいた。俺は「ノブアキ殺戮マシン」の名前を急遽「つく
し殺戮マシン」と変えて、つくしに襲い掛かった。

12難民358の作品その3:2003/05/02(金) 01:53
「あんた誰よ!」
 最初の一撃を避けてつくしが叫ぶ。
「俺を忘れたのか!」
「あんたなんか知らない」
 つくしは俺が手にしたマシンを見て顔を引きつらせた。いい気分だ。俺は新しい男ごと
つくしをめった裂きにした。つくしは泣いて許しを請ったがもちろん許さない。
「おまえが送ってきた偽者の合格通知で、俺の人生はめちゃくちゃだ!」
「知らない、知らない、知らない!」
「うるせえ! 死ね!」
 新しい男も戦いに加わり、戦闘は激しさを増したが、俺はついに二人を成敗した。
足元に転がるつくしと新しい男を見下ろし、勝利の余韻に浸った。
「悪は、滅した」
 遠くでサイレンの音がする。騒ぎを聞きつけて、誰かが通報したんだろう。さっさと帰ろう。
 あれ? 足が動かない。
 思っているよりダメージが大きいのかもしれない。そういえば腹が痛い。
 あれ?
 なんで赤いんだ?
 それに、どこだここは?
 あれ?
 あれ?
 あれあれ?
 なんだかよくわからなくなってきたぞ。
 だいたい、俺はどこを受けたんだ……?


「昨夜十一時過ぎ、会社帰りの男性を襲った能代智弘容疑者は、もみ合ったさい自分の
腹部に包丁が刺さり、今朝早く収容先の病院で亡くなりました。能代容疑者はいわゆる
司法浪人で、最近では引きこもりぎみになり、家族ともほとんど話をしていなかったと言
うことです。襲われた男性は能代容疑者と高校時代の同級生で、家も近くにありますが、
襲われる理由はまったく思いつかないと話しています」

13難民381の作品その1:2003/05/02(金) 01:53
 窓際から見える学生服の人達が羨ましい。 
 僕もあの事故がなければきっと今頃はあそこで友達と話し合っていたんだ。そう思うと何処か寂しい気持ちになってしまうのがわかった。
 入学式前日の事故。僕の人生はそこから変わっていったんだ。コンビニへ買い物に行った帰りに、信号を無視した僕はトラックに跳ねられた。
跳ねられ、蹲っていたその時は痛い、というよりも怖い気持ちが強かった。このまま死ぬのだろうか、もう一生誰とも口をきくことは出来ないのだろうか。自分でも不思議だけれどあの一瞬で
たくさんの事が頭に思い浮かんできたんだ。
 運転手がすぐに救急車を呼んでくれたおかげで一命は取り留めたけれど、代わりに僕は自由を奪われた。
足が麻痺して、歩くことができなくなったのだ。事故は自分の責任。それに、足が動かなくなった事も自分の責任だ。だから、込み上げてくる怒りは何処にもぶつけることが出来なかった。
数日たつと、その怒りさえ麻痺してきた。怒りが麻痺すれば、妬みが起こる。窓際から見える学生服を着こんだ彼らを殺したい、と思った事さえあった。
「春樹、大丈夫だよ。きっと足は動くようになる。お医者さんも言ってたでしょ? 動く確率は0%じゃないって」
 お母さんが毎日のように言うその言葉が胸に痛い。
 自分を心配してくれている事は本当に有り難いけど、どうしてもその言葉には――君の足が動くのは限りなく0%に近いんだよ、と言われているように思ってしまう。
こんな自分が大嫌いで、いつも最後はお母さんに謝ってしまう。お母さんはそれを聞くたびにきょとん、としているけどきっと僕が言いたいことはわかっていてくれている気がする。

14難民381の作品その2:2003/05/02(金) 01:54
寝室の中で一人になると僕はいつも春の陽気に誘われるように眠りにつく。夢の中の僕は二本の足で歩くことが出来るから。
夢に入ると僕はいつも一面の平野を歩いている。いつも同じ風景。緑色の草花が子犬がえさをもらう時と同じで必死に訴えかけるようにして日光を欲しがっている。
たまたま、その日の僕は平野に座り込んだ。ふと、見下げるとお尻の近くにつくしが生えている。そのつくしは口を持っていて僕に喋りかけてきた。
「君はいつもなにもしようとはしないね」
 僕はつくしが話している事よりもつくしが話した事に驚いた。
「だって、仕方ないじゃないか。なにもしようとしないんじゃない。出来ないんだもの」
 咄嗟にそう言ったのはつくしが僕を見下しているように思えたからだ。
「それは甘えだよ。足が動かなければ何も出来ないなんて本当に思っているの? 足が動かなくても必死で何かをしようとしている人はたくさんいるよ?」
「でも、僕はまだ子供なんだ。だいたい、君だってそこで土に植えられているだけじゃないか」
 僕の声は大きくなっていた。
「僕は違うよ。必死で生きているんだ。土から養分をもらって、太陽から日光を貰っている。君とは違うだろ?」
「何も違わない! 僕だって必死に生きてるし、食物だって食べてる! 何が違うのさ」
「君は、自分で何かしようと思ったことがあるかい? 自分で何かをやり遂げようとして、必死に努力したことは? ないだろう。だからそんな甘えた事が言えるんだ」
「違う!! ――何で君は僕を傷つけようとするの……」
「君を助けたいから言ってるんだ。僕は君の事が好きなんだよ。だから、諦めてほしくない。0%に近くてもいいじゃないか。それでも可能性はあるだろう? 必死に頑張ればきっと君は歩けるよ」
「神様が僕を見捨てたんだ! だから、絶対歩くことなんて出来ない!」
「神様なんていないんだよ。いるとしたらそれは幻想だ。人生は神様が決める物じゃなくて自分がどれだけ必死で努力をするかで決まるんだ」

15難民381の作品その3:2003/05/02(金) 01:54
 そこで、僕の夢は覚めた。
 おもむろに、窓の近くに置かれている棚を見れば、そこには花瓶がおいてあり中学時代の友人達から一本のつくしが送られていた。
 花瓶の横に手紙が置いてあり、その中には『春樹とはずっと友達でいたいから、今日からはいつもお見舞いにきます。だから、春樹も頑張れよ』
と、書かれてあった。
 その日から、僕はリハビリを初め、今もこうして努力を続けている。
 全ての人間には努力の終わりがなく、キリがない。だからこそ、必死で生きて栄光を勝ち取ろうとするんだ。
 僕も栄光を勝ち取る日まではきっと全てを諦めないでがんばり続けると思う。窓際から見える彼らにも生きていくことはすばらしい事なんだよ、と伝えたいな。
 

           終わり。

16難民387の作品その1:2003/05/02(金) 01:55
コメント:ラノベとは違う作法で書いてみた。

桜の木々はこの街に分散して存在しているけど
僕達の卒業式の当日であり、桜の開花予想日のど真ん中の今日は
街中が一本の桜みたいで、校門から見渡す僕の学校は
さすが地域一番の桜の名所と感嘆するしかない風景だった。
ポカンと開けている口に桜の花びらが入ってきた。

窓の外は真っ白な陽光に桜吹雪が眩しいかったけど
この美術室は、卒業式の喧騒から切り離された沈黙と
直射日光を遮断した上質な暗闇を保っていた。
僕は空のイーゼルを前に坐り、そんな美術室の油絵の具の空気を満喫していた。
残像として微かに残る入学式のピュアな気持ちを掘り起こして弄んぶ。
そして次は、初めて美術部に入った時の期待。
色褪せた不安が胸に去来すれば、入試の前日は一日中絵を描いていたことを
気恥ずかしさで身体をよじれば、修学旅行の時のハジケっぷりを思い出した。
まだまだ、このような甘酸っぱい思い出は続くけど、
この回想が、ついさっき終わった卒業式で抱いたわずかな虚無感で終わることだけは判っていた。
校舎は変わらない、季節はただ繰り返すだけ
だけど、僕は変わることに気がついて新鮮な感銘を受けた。

17難民387の作品その2:2003/05/02(金) 01:55
誰かがドアを開けて、辛気臭い美術室に進入してくる。
「私はオーストラリアへ行くわ」
この脈絡ない登場の仕方と話し方はアオイ先輩(僕と同級生なのに先輩と言われている子)だ。
「はぁ?」
「自慢の英語力を駆使して、豪州で一旗あげるってわけ」
勝利者の笑みといったものを浮かべたまま、黒板に一番近い窓を開けて、風を浴びた。
「意味がわかりませんよ……、なんつぅーか日本から、東京から逃げるんですか?」
「そこんとか勘違いするのがお子ちゃまだって言うの、こういう場合は戦略的撤退」
彼女は窓の外の春風に掻き乱される薄く染めた髪を手で押さえた。
「で、どの分野で成功するですか?」
「油彩画」
高校の美術部に僕以上に来なかった人が?
「夢って良いですね。んじゃ、ぜひがんばって成功してください」
「表現する楽しさを知ったから無敵よ。クラッカー1枚っきりで1週間で絵を描きつづけることも可能よ」
そう言って、名残惜しそうに窓を閉め
イーゼル越しの僕に見せ付けるように黒板に白線の線描をし始めた。
単純化された体育館が書かれ、そこに棒人間とでもいうような人物が書き加えられていく。
壇上に居るの宇宙人か校長だろう、その舞台袖でフランスパンを持っているのはブラバンだろう。
その光景は始業式、終業式、もしくは入学式か、卒業式だろうか、いや他にもあったかな……
「さぁ、これはなんでしょう?」
彼女は自信たっぷりにそういうと、黙考する僕を置いて、教室から走って出ていった。
また戻ってくるような気がしたので、一応、考えられる範囲で解答を出し尽くしておく。
彼女は上履きではなく、来客用の緑のスリッパを履いていた。


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