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錬金術師は遂せるようです

1 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 00:49:46 ID:YLCyI6VU0
ラノブンピック参加作品です
ややグロ注意

94 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:04:00 ID:YLCyI6VU0
川 ゚ 々゚)「いやはや、なかなかの難敵よ」

やおらテーブルの下からそれを取り出して、彼はそう言った。
差し出された瓶の中には、白いダイアモンド――【傷みの王】が鎮座している。
成人男性の握り拳ほどの大きさをしたそれは、
室内の僅かな光さえも糧にし、輝きを放っていた。
一見すると神々しく見える光景だが、入間は石の影に注視する。
【王】が落とす影は赤黒く、微かに脈動していた。
臣下を失い、硝子の檻に閉じ込められてもなお、【王】は己が価値を主張している。
しかし入間は、少々違った感想が浮かんでいた。
それは時を超えてなお身の潔白を主張する、
カリオストロ伯爵の叫び声のように思えたのだ。
……いずれにせよ、不気味で異様な代物には違いなかった。

川 ゚ 々゚)「んふふ」

入間が鑑賞する様を愉しむように、彼は笑った。
そして來狂は、【王】から入間を取り上げるかのように、瓶を持ち上げた。
入間はさして気にも止めず、瓶の行方を見守る。
來狂の手に収まった【傷みの王】は、ゆらりと揺らめく。
それが動揺している様子に思えて、入間は仕方がなかった。
來狂の歩む先は、コレクションの山。
さも抗議するかのように、【王】は七色の光を放ったが、來狂はそれに構う様子はない。
そして彼は、

川 ゚ 々゚)「よいしょっと」

無造作に【王】をしまい込む。
積年のコレクションは、智で智を撲り合う格闘技場のようだった。
ぞぶぞぶと沈む【傷みの王】を、入間は絶句しながら見守る。
さしもの光も、漏れ出でることはなかった。

95 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:06:36 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(……あれ、結局はいつか
       俺が片付けることになるんだろうか)

あまり考えたくない可能性がチラつき、入間は額を抑えた。
とうに飲んだはずのコーヒーが、未だに苦味を感じる気がして、彼は少々憂鬱だった。

川 ゚ 々゚)「素晴らしい仕事ぶりだったよ」

そんな様子にも気付かず、興奮した声音を來狂は惜しげも無く出した。
しかし入間の表情は、未だ険しい。

( ^ν^)「あんた、模原のことを知ってたんだろう」

川 ゚ 々゚)「模原?」

とぼける來狂は、あざとく小首を傾げてみせた。

( ^ν^)「都子の選択肢を【狭窄】していたホムンクルスだ」

模原の補足に、ああ、と來狂は呟いた。

川 ゚ 々゚)「アレってそんな名前だったんだ」

ウンウンと頷いて、來狂は席へと戻るが、白々しい様子に入間は確信を深めた。
彼は模原の正体や能力を把握していながらも、わざと入間に伝えなかったのだ。

96 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:11:01 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(大方、俺を試したんだろう。
       錬金術師として、一枚殻を破らせるために)

舐るような入間の視線に、來狂は腕を組んだ。

川 ゚ 々゚)「ヒントは与えたつもりだけど?」

( ^ν^)「やり方がまどろっこしいんだよ」

入間が憤るのも、無理はなかった。
何故なら彼の指すヒントとは、会議中に勤しんでいた折り紙の素材に隠されていたのだ。
古めかしいその紙は、元々とある医院の壁に貼られていた、人体解剖図の一種である。
脳の輪切りは体性感覚――体から入力された刺激を、
脳内のどの部分に投射されるのかを纏めた地図だ。
これらの区分を、医学ではホムンクルスと呼ぶ。
また体から脳へと受ける刺激の量と感度には、各分野で大きな差がある。
人間は唇や顔、手から刺激を多く受け取るが、背中や尻は逆に乏しいとされる。
これらの差異を視覚的に表現した結果が、異形じみた小人の絵である。

( ^ν^)(模原の正体は、この小人に他ならなかった)

自分自身の脳さえも欺く模原は、他人の脳と同期することも、容易く行なってみせた。
そして自身が人間だと思い込んでいるうちは、
選択肢の【狭窄】という能力のみを使いこなしていた。
ただし屋上で、彼は受け入れがたい事実を都子から突きつけられた。
その際自身に課した【狭窄】が解除され、
「本来の記憶を取り戻す」という選択肢が、突然模原の目の前に出でたのだ。
見知らぬ情報に対する興味関心は、
無視できない程の牽引力で、本人を過酷な状況へと導く。
よって模原は自分の意思とは関係なしに、
無意識のうちに都子の語る真実へと耳を傾けてしまった。
事実思い出した模原が慌てて彼女の口を封じたところで、それはとうに遅すぎたのだ。

97 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:14:05 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(故に奴の真価は、早々に解放されてしまった)

入間を宙に飛ばした時点で、模原の本能は、真実を掴んでいたに等しかった。
脳を司る小人としての本性を表した彼は、他人の脳を自在に操ることが出来た。
入間が強引に空間転移したのも、それが原因である。
空間認知機能を乗っ取り、五指の如く操った模原は、入間の位置情報を修正したのだ。
さも最初から、入間がそこに存在していたかのように。

( ^ν^)「散々だったんだぞ」

その苦労を一言に集約し、入間は言った。
しかし來狂は、さして興味がないように
豆だらけのコーヒーを啜った。

川 ゚ 々゚)「今後の勉強になっただろう?」

それは、來狂の本心であった。
身の丈に合わぬ欲を持ち、叶わざる願いをなぞるべく、
業(ごう)に染まりて業(わざ)を獲得する。
時として実子の肉体を傷付け、犠牲を強いながらも、
手放すことの出来ない価値を得る。
欺きによって牧羊犬と化し、真実を知りて狼獣へと還る。
自然にしろ、人工にしろ、産み出した結果に対する
向き合い方に、問題を抱える者は多い。
そして時にはそれを利用し、何者かの幸せを掴む道を選ばなくてはならない。
――これより参倍郷と新参会は、入間の暗躍によって殺しあうことになる。
両陣営を構成する人々にも人生があり、人格があり、思想がある。
それを皆、破壊するのだ。

( ^ν^)(分かっちゃいるよ)

だからこそ來狂は、入間に都子を傷付けさせたのだ。
だからこそ來狂は、入間に模原の真実を伏せたのだ。
悩み、思案し、誰かを救い、誰かを絶望へ
衝き落とすという決断を、自ら下せるようになるために。

( ^ν^)「本当に、あんたはイかれてる」

礼代わりの言葉に、來狂は微かに微笑んだ。
その背後にある扉より――ノックが四度響いた。

98 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:17:15 ID:YLCyI6VU0
來狂が振り向くよりも早く、扉が開く。

『ちゃーっす』

深淵のように深い山の向こうから、軽快な声が掛けられた。

川 ゚ 々゚)「どうぞ」

遅れて來狂が言うと、声の主は無遠慮な足取りでやってきた。
喪服に身を包むその人は、

川 ゚ 々゚)『どーもどーも』

來狂と変わらぬ姿を持ち、同じ声をし、
均しい所作を振る舞い、同程度の狂気を纏っていた。
彼は、並行世界の來狂である。
時空間を操作する來狂は、数多ある並行世界の自分と同盟を組んでいた。
彼らは錬金術を行使できないものの、幅広い職業や地位を築いている。
錬金術師の來狂は、彼らに報酬を支払う代わりに、彼らと入れ替わる権利を得ていた。

( ^ν^)(たしか参倍郷に入会した來須は、
       有名コンビナートの役員だったっけ)

來狂の錬金術は仕組みを看破されない限り、
常人には來狂が入れ替わったことすら気付かれない。
よって來狂は、入れ替わった自分の持つ経歴や
技能をそのままに、安全かつ巧妙に工作活動が出来た。
とはいえ今やって来た彼は、どうも様子が違っていた。
喪服と馴染む色合いの袋を背負い、額には汗が滴っている。

川 ゚ 々゚)『例のブツになります』

床に置かれた長細い袋は、いかにも重々しい音を鳴らす。
席を立つ錬金術師に釣られ、入間も袋に近付くことにした。
一足早く中身を拝んだ來狂二人は、神妙に手を合わせた。

99 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:19:19 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)「!」

袋の中身は、高出 都子の死体だった。

川 ゚ 々゚)「もう帰っていいよ」

金の延べ棒を握らせ、來狂はそう言った。
そそくさと懐にしまう葬儀屋の体からは、死体特有の甘い香りが染み付いている。
去る彼の後ろ姿を、入間は静かに見送った。

( ^ν^)「これは――」

川 ゚ 々゚)「並行世界で死んでしまった、都子ちゃんだよ」

ことも無げに、來狂はそう言った。
絶句する入間は、ようやく彼女に手を合わせる。
袋の中の都子は、瞼を閉じているが、その目は酷く落ち窪んでいる。
薄く開いた口からは、泥漿じみた血が淀んでいた。
微かに薫る死臭を嗅ぎ、酸っぱいものが入間の喉に迫った。

( ^ν^)「どうして……」

力無く死因を問いただす入間に、來狂は理由を語ってみせた。
曰くこの都子は、生きたまま模原に【傷みの王】を抉られたのだという。
その世界線での模原の中では、存在しない妹が生き続けていた。
そこで彼は、妹のために【王】を調達した。
【王】を携え、愛する妹の元へと奔走する模原だが、
その途中で偽りの記憶に気付いてしまう。
おそらく妹の入院する病院が存在しないことで、疑念を抱いたのだろう。
混乱した彼は事の真偽を探るべく、自らの心臓さえも抉り取った。
そして人ならざる心臓を認め、失意に溺れる彼は、
そのまま息絶えたのだという――。

100 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:19:55 ID:YLCyI6VU0
川 ゚ 々゚)「そんなわけで秘密裏に処理する死体を、そのまま貰い受けたってわけ」

イかれた來狂は、続けて言う。

川 ゚ 々゚)「彼女を使って、上手いこと参倍郷を挑発する」

(  ν )「――――」

様々な思いが、入間の身を駆け巡る。
知っている顔なのに、まったく別の道を進んだ都子。
自ら破綻し、一人で逝ったであろう模原への哀れみ。
新参会が都子を攫い、参倍郷を挑発するというシナリオ、
その最適解とも言える手段。
やれやれ、と入間は袋のチャックを更に下げた。

( ^ν^)「人使いが荒いぜ」

そう言いながらも、錬金術師の入間は行動を開始した。

( ^ν^)(まずは彼女の指を切り落とし、参倍郷の会長に送りつけるか)

後生大事に都子を抱え、入間は小さく謝罪を口にした。

101 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:20:43 ID:YLCyI6VU0



終章 錬金術師は遂せるようです


.

102 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:21:47 ID:YLCyI6VU0
――都子の救出劇より、半年が経とうとしていた。
彼女は現在も、來狂の住居に匿われている。
【傷みの王】を摘出したことで、彼女の肉体は超常的な回復力を失った。
人並みの身体能力を得た都子は、
移植された心臓の経過を見ながら、日々リハビリに励んでいる。
長い努力の末、ようやく都子は軽い運動ができるようになった。
短時間であれば走ることも、泳ぐこともできる。
制約の多い日々は、未だ抜けることができない。
だが何も許されていなかった頃に比べれば、彼女は自由に選び採ることが出来た。
更に空いた時間を活用して、彼女は勉学にも励んでいた。
通信制の高校に入学すべく、都子は自力で問題集をこなしていた。
数学はやや苦手だが、特に気に入っているのは歴史や英語である。
物語めいた教科とそれに追随する文化の枝葉に、
どうやら彼女は惹かれているらしかった。
その興味は止まるところを知らず、じきに同世代の人間を追い越すことが予想できた。
もっとも本人はそれに気付いていないのだが。
――そんな忙しく過ごす彼女も、時折外出することがあった。
來狂の庇護を離れ、散歩をするのだ。
時間にして最大一時間半の、散歩。
それが都子にとって、一番の楽しみであった。
さて今日の都子は、川沿いのサイクリングコースを、歩いていた。
気付けば季節は秋へと変わり、微かに夏を残した風が吹いていた。

ζ(゚ー゚*ζ「気持ちいい天気ですね」

三つ編みを風に攫われながら、都子は言った。
柔らかく笑みを浮かべる視線の先には、お目付役の入間が佇んでいる。

( ^ν^)「ああ」

都子の外出には、毎回入間は携わっていた。
護衛半分、楽しみ半分といった割合で、彼も都子との時間を楽しんでいた。
なんと先日は彼女の自立を見守るべく、アパートの内見にも付き合った。
その際彼女には頼れる身内がいないことに気付き、
不肖ながらも彼女の従兄弟を入間は名乗ることになった。
多少気恥ずかしかったものの、入間は満更でもなかった。

103 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:23:26 ID:YLCyI6VU0
ζ(゚、゚*ζ「そういえば」

と、いつになく真面目な声音で、都子は切り出した。

ζ(゚、゚*ζ「あの時、模原さんと最後に何を話していたんですか?」

それは言わずもがな、屋上での戦闘後の様子を指している。

( ^ν^)「……話していたように見えたか?」

思い返す入間は、当時の模原の容姿が思い出せない。
遠く見下ろしていた都子は、なおのこと二人の様子が分からないことだろう。
それなのに彼女が断定したものだから、入間は戸惑っていた。
それに対し都子は、だって、と切り出した。

ζ(゚ー゚*ζ「入間さんがお話を聞いてくれてる時って、すごく優しい顔してるんですよ」

( ^ν^)「…………」

自覚なき男は、硬直した。
來狂にはそんな顔をした覚えはもちろんのこと、都子や模原にだって、そんな顔をしたことはない、はずだと彼は思っていた。

( ^ν^)「……見間違えじゃないか?」

川面を眺め、入間はお茶を濁した。
その視線に取り入ろうと、都子が欄干に身を乗り出した時だった。

ζ(゚ヮ゚*ζ「あーっ!」

( ^ν^)そ

すわ何事かと身構える入間だが、

ζ(゚ー゚*ζ「入間さん、おっきい亀がいますよ!」

無邪気に彼女はそう言った。

104 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:25:11 ID:YLCyI6VU0
視線を辿れば、猫の額ほどの中洲で、亀がいる。
ミシシッピアカミミガメが首を伸ばし、日差しを享受している。

(;^ν^)「お、おう……そうだな……」

体から力が抜けながらも、入間は精一杯優しく言うよう努めた。

(;^ν^)(なんとか男同士の約束は守ったぜ、模原……)

そんな心も知らず、都子は更なる報せを運ぶ。

ζ(゚ヮ゚*ζ「しかもアイスクリームみたいに、三段重ねしてますよー!」

興奮気味に語る都子は、スマホを取り出した。
先月契約したばかりのそれは、ようやく彼女の手に馴染もうとしている。

( ^ν^)(電源のつけ方さえ分からなかった子が、写真を撮ってる)

故障を疑ってスマホを片手にベソをかいていた都子を思い出し、入間は眉根を寄せた。
無論それは不機嫌を表しているのではなく、微笑ましさを隠したものだった。
それに気付かず、都子は日向ぼっこをする亀タワーを画面に収めた。

( ^ν^)「撮ってどうするんだ」

ζ(゚ヮ゚*ζ「來狂さんに、見せるんです!」

屈託のなく答える都子に、入間はしばし考え込んだ。

( ^ν^)「……そりゃいいな」

意味深に開いた間には気付かず、都子はニコニコと微笑む。
入間の脳裏では、亀を見せられて、反応に困る來狂の姿が浮かんでいた。
都子の無邪気さには、さしもの彼もたじろいでしまうのだ。
その様を密かに観察し、溜飲を下げるのが入間の日課であった。

105 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:25:55 ID:YLCyI6VU0
( ^ν^)(それも、あと少しで見れなくなるがな)

理由は単純明解。
参倍郷の壊滅が、目前に迫っていたからだ。
【乳母のフラスコ】を失った参倍郷は、会員の離脱によって急速に衰退した。
くわえて参倍郷は、新参会と激しい抗争を起こした。
言わずもがなそれは、入間の暗躍が原因である。
もはや両者は共倒れ寸前のチンピラ集団に成り下がり、
近く警察も大規模な逮捕を計画しているらしい。
よって入間と來狂は組織の滅亡を見届けた後、都子を社会へと戻すことにした。
無論都子も経緯を知っており、入間たち二人には頭が上がらないほどの感謝を口にした。

( ^ν^)(お守りも、とうとう卒業か)

遅れて歩く入間に、都子が気付いた。
先行く彼女は道を引き返し、やや寂寥に浸る入間へと声を掛ける。

ζ(゚ー゚*ζ「休憩、しますか?」

その優しさに、入間は首を振った。

( ^ν^)「一人暮らし、楽しみだよな」

入間の言葉に、都子は一瞬虚をつかれたような顔をする。
欄干に身を預けた彼女は、こくりと頷いた。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、ちょっと寂しいです」

( ^ν^)「すぐ友達が出来るさ」

ζ(゚ー゚*ζ「多分、そうですね」

106 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:27:07 ID:YLCyI6VU0
でも、と都子は言葉を紡ぐ。

ζ(゚ー゚*ζ「入間さんや來狂さんの代わりに
     なるような人なんて、絶対いませんよ。絶っ対!」

言葉の調子に、入間はぽかんとした。
そして毒気を抜かれたように、ようやく微笑んだ。

( ^ν^)「あんな変人が、この世界に何人もいてたまるかよ」

くすくすと笑う入間に、都子もつられて笑う。
來狂の同盟について流石に隠しているとはいえ、彼の変人エピソードは事欠かない。
どうしたって來狂の狂気は、隠しきれないのである。

ζ(゚ー゚*ζ「でもそれだけじゃなくて、本当に代わりになんてならないですよ」

念を押して言われた言葉に、入間は気付く。
彼女を救ったのは、他でもない自分であり、來狂でもあるのだ。
苛烈な過去を、都子は忘れないだろう。
その身に刻まれた辛苦も、彼女を虐げることだろう。
されどその苦しみから目を背けない限り、都子は命の恩人を忘れることもないのだ。

( ^ν^)「……たまに、散歩に誘えよ」

珍しく出た入間の要望に、今度は都子が驚く番だった。
されど見開いた目は、芽吹くように喜びへと変わる。

107 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:27:55 ID:YLCyI6VU0
ζ(゚ー゚*ζ「しましょう。散歩以外にも」

( ^ν^)「こう見えても、結構忙しいんだぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「でも必ず付き添ってくれるじゃないですか。
     洋服屋さんとか、クレープ屋さんとか、プリクラとか」

( ^ν^)「そりゃ迷子にならないよう、見張ってるだけだ」

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ迷子になったら、入間さんに連絡しますね」

( ^ν^)「マップアプリで調べろよ」

ζ(゚ー゚*ζ「なんですか、それ?」

(;^ν^)「だー、もうっ!教えてやるから、貸せ」

欄干にもたれる二人は、スマホを覗き込む。
あれやこれやと話し込み、入間の動作に都子は目を輝かせる。
その背を眺める川の流れは、傾く秋の陽を浴びて、細かな光を返した。
それはまるで、玻璃の破片が散るように。
日常へと歩みだした都子へ、祝福を捧げるように。
智と情を背負う錬金術師へ、健闘を祈るように。
儚き小人を思わせる煌めきは、波立つ泡と消えて、二人を見送った。

108 ◆vXEvaff8lA:2020/05/03(日) 22:28:47 ID:YLCyI6VU0



錬金術師は遂せるようです 終


.

109名無しさん:2020/05/03(日) 22:33:18 ID:ZwDuAQio0
すごい読み応えあった
おつ

110名無しさん:2020/05/03(日) 22:33:32 ID:lLLHlqTM0
ンン乙!!!!

111名無しさん:2020/05/03(日) 23:17:55 ID:PFL2lZPE0
乙!面白かった!

112名無しさん:2020/05/04(月) 07:54:57 ID:Hnyv6x5U0
乙です!

113 ◆S/V.fhvKrE:2020/05/07(木) 00:14:58 ID:CASE550M0
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114名無しさん:2020/05/16(土) 13:12:18 ID:/d1NBOzI0
バチクソ良かった乙
作者は語彙が豊富だな

115名無しさん:2020/06/21(日) 20:23:58 ID:J.tzOaTs0

小銃は拳銃じゃなくてアサルトライフルのことだぞ


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