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昔桃子やベリの学園小説書いてた者だけど〜新狼
102
:
1
:2015/08/08(土) 00:46:24
「えっ、植村さんも、そういうのあんの?」
「うん。私は合唱部なんだけどさ…。ホラ、ずっと顧問だった寺田センセイがあんなことになって…」
「あー。大丈夫なのかな、寺田センセイ…」
うちの合唱部を何度も全国大会に導いていた寺田センセイは、去年いきなり喉の調子を悪くして、入院してしまったのだ。
「うん、手術は成功したんだけど、もう少し休養が必要みたいで…」
「そっか…」
音楽の授業で、平気でロックのレコードをかけたりするファンキーな寺田センセイは、俺も大好きだったのだ。早く復帰してほしい、と思ってる。
「それで、代わりにきた先生がさ…」と言うと、植村はため息をついた。
「あー、聞いた。なんか、音楽大学出た凄い先生って言ったな。名前何て言ったっけ?」
「菅井先生って言うんだけど…」
103
:
1
:2015/08/08(土) 00:47:16
菅井先生の噂は、俺も聞いたことがあった。
まあ、ハッキリ言って、よい噂ではない。
「なんか、セクハラするって聞いたけど…」と俺が言うと、
植村は「セクハラ? それは無い。まあ確かに体触ってきたりするけど、明らかに指導のためだし。それに、菅井ちゃん、ハードゲイだから女に興味ないし」と、一笑に付した。
「マジかよ? ガチホモってことか?」
「うん。たぶん…」
「それはそれでスゲーな…」
「菅井ちゃんはどちらかっていうと、パワハラとかモラハラって言うのかな…」と、植村は表情を曇らせた。
「パワハラ?」
「うん…。大声で怒鳴りつけたりするんだよね…。まあ、菅井ちゃんの指導通りに練習してこない子も悪いんだけど…」
104
:
1
:2015/08/08(土) 00:48:03
植村が菅井先生を擁護すればするほど、俺は正直、嫉妬した。
まあ、ホモに嫉妬しても仕方ないことくらい、分かっているのだが。
「でさ、それで、菅井ちゃんが怒鳴ったりするから、1年生が脅えてごっそり辞めちゃったんだよね」
「マジか…」
「でも、まあ、1年生ならまだ分かるよ。だけど、2年の、それも中心メンバーだった佳林まで辞めるって何なの?!」
「えっ、佳林って…、宮本のことか?」
「うん。確かに菅井ちゃんは厳しいけど、菅井ちゃんの言うとおりにやれば絶対実力はアップする…、って、そんなことが分からない佳林じゃないはずないのに…」
確かに、言われてみれば宮本はもともと1年の時からずっと合唱部にいたのだ。
だからこそ、ダンス部で宮本を見て、俺は驚いたのだ、と思い出した。
105
:
1
:2015/08/08(土) 00:48:38
「私、佳林のこと、見損なった…」と、植村は吐き捨てるように言った。
俺は返事に窮した。
俺が黙っていると、植村は「そうだ! 佳林って言えば、○○クン、佳林のいるダンス部に入ったんだって? それも、佳林目当てで入ったって聞いたけど…?」と、冷たい視線で聞いてきた。
「えっ!?何だよそれ!?」
俺は狼狽した。
俺がダンス部に入って、まだ昨日の今日なのだ。
それに、俺が去年宮本に告って玉砕したことは、俺と宮本とズッキしか知らない、はずなのだ…。
「…誰に、そんなこと聞いたの?」
俺が聞き返すと、
「ああ、ダンス部の3年生に高木さんっているでしょ? 私、仲いいんだ」と、植村は屈託のない表情で答えた。
「昨日ダンス部に入る時、何かキミが佳林にわざわざアヤつけてたって、紗友希ちゃんが言ってた」
106
:
1
:2015/08/08(土) 00:49:24
「アヤつけてた」とか…。
こりゃまたベタな…。
昭和のヤクザじゃないんだから、(いい加減にしてよ高木さん…)、と俺は思ったけど…。
確かに昨日、清水センセイに入部を強制され、鞘師にも頼まれた時、俺は宮本に「俺が入ってもいいのか?」なんて、みんなの前でわざわざ聞いていたのだった。
俺としては、宮本に対して最低限の仁義を通したつもりだったけど…、
確かに、他の女の子から見れば、俺が宮本の気を引こうとしていたとしか見えていなかったのかな、と俺は気が付いた。
(それにしても、そんなことをペラペラと…、あのお猿さん、お喋りがすぎるぜ)と俺は思った。
いや、でも、植村までが既にこんな話を知っているのだから、ダンス部の女の子たちは、みんな気が付いているはずだ。
当然、いろいろと尾鰭のついた噂だってしているだろう。
女の子ってのは、本当におしゃべりなものだ。
俺が去年宮本に告って玉砕したことまでバレているのかどうかはともかくとしても…。
どちらにしても、俺は今日の放課後、あの女の子たちに、どんな顔をして会えばいいのだろうか。
特に宮本と鞘師には…。
107
:
1
:2015/08/08(土) 00:49:46
俺がそんなことを考えてると、
「返事もできないってことは、やっぱり佳林狙いで図星なんだ?」と、植村が意地悪そうに聞いてきた。
「えっ…、違う…」 俺はうろたえながら答えた。
「そりゃ、昔は宮本のこと好きだったけど、今は…、別に俺、そんなつもりでダンス部に入った訳じゃない…」
慌ててつい、言わなくていいことまで答えてしまう俺であった。
「ほら、やっぱり好きなんじゃん」と、馬鹿にしたような目で俺を見る植村。
108
:
1
:2015/08/08(土) 00:50:09
「いや、その…」としどろもどろになる俺に、
「どうして男の子って、佳林みたいな子に、コロッと騙されちゃうのかな…」と、植村はちょっと馬鹿にしたような顔をして言った。
「えっ…?」
「だってさ、高校に入ってから今までに、10人以上の男の子が佳林に告白したって言うじゃん。佳林は全部断ったらしいけど」
「そなの…?」
ええ、俺もその10人のうちの1人です、とはさすがに言えなかった俺だった。
「植村さんは、宮本のこと嫌いなの?」
「えっ? 別にそんなことないけど。まあ、合唱部辞めたのは腹立ってるけどさ…」
「…でもさ、植村さんだってモテるだろ? 告白してくる男子だっていっぱいいるんじゃないのか?」
「は?何言ってんの? 私そんなこと言われたこと、一度もないもん!」
109
:
1
:2015/08/08(土) 00:50:31
「だけどさ、前に男子で人気投票したら、植村さんは学年でも…、かなり上位に入ってたんだぜ」
宮本の次の2位、とか、危うく言いそうになって、慌ててこらえた俺だった。
「は? そんなの聞いたことないもん。○○クン、私のことからかってるの? 馬鹿にしてるんなら怒るから!」
顔を真っ赤にして、植村が言った。
「いや、からかってない。植村さん本当に美人じゃん。俺もマジそう思ってる」
と言ってから、(いかん、これじゃまるで告白してるみたいだろ)と思った俺は慌てて、
「いや、別に変な意味じゃなくて。その…、みんな言ってることだし…」と、また俺はしどろもどろになってしまった。
「でも、私、全然男の子にモテないもん…」
と拗ねたように言う植村が可愛かった。
110
:
1
:2015/08/08(土) 00:50:53
いや、それはたぶん、植村さんに隙が無さ過ぎるっていうのか…」
「隙がない?」
「ホラ、そんな風に…、なんか怖いじゃん」
「怖い?私が…?」
植村はマジマジと俺の顔を見た後、
「私、そんな風に男子に思われてたのか…。 ちょっとショックだな…」とつぶやいた。
俺はなんとなくいたたまれなくなって、なんとかしてこの美少女を慰めたくなった。
「いや、でも、怖そうなところもいいっていうのか…、男にはほら、そういうやつも多いし…」
ちょっと、これは無理なフォローか…、と俺は思ったけど、植村はクスリと笑って、
「まあ、そんなに無理に持ち上げてもらわなくてもいいけど。でも…、ありがと」と、小さな声で言った。
植村が笑ったのを見て、俺が少しホッとしていると、
「それはともかく、部活の顧問の…、菅井ちゃんの話はこれからも相談していいかな?」と植村が聞いてきた。
「もちろん」と、俺が答えるのと、終業のチャイムが鳴るのが同時だった。
111
:
1
:2015/08/08(土) 00:51:20
その後、3時間目と4時間目が過ぎて…
学食でメシを食っていたときに、「そういえば俺、昼休みに職員室にこいって、嗣永センセイに言われてたっけ」と思い出した。
慌ててメシを平らげて職員室に行くと、嗣永センセイは自分の席にお弁当を広げて食っていた。
嗣永センセイの弁当は、女の子らしいかわいいお弁当なのかな?、と勝手に想像して覗き込んだら、これが予想に反して、
から揚げだけのおかずが眩しすぎる、男らしい弁当でびっくりした。
「おっ、来たか。ちょっとこれ食べるまで待っててくれる?」と嗣永センセイは言うと、丸椅子を出して、俺に座るよう勧めてきた。
俺はそこに座って、しばらくの間、嗣永センセイのなかなか男らしい食べっぷりをゆっくりと観察させてもらった。
112
:
1
:2015/08/08(土) 00:51:43
「さて、ここに何で呼ばれたかは分かっているよねー?」と、メシを食いおわった嗣永センセイは聞いてきた。
「あのー…、やっぱり真野ちゃ…、いや真野先生のことでしょうか?」と俺が聞くと、嗣永センセイは、
「正解ー!」と子供っぽい声でいいながら、俺を小指で指さした。
「真野先生が今日休んだのも、俺のせい…、なんですか?」
「ん…? いや、それは違う」
「じゃあ、なんで…?」
嗣永センセイは一瞬、あたりを見回してから、声を落として言った。
「いやー、昨日慰めるつもりで酒飲ませたらさ…、あいつ調子乗ってガンガン飲んで。ただの二日酔い」
113
:
1
:2015/08/08(土) 00:52:06
「えっ?二日酔い?」
俺が驚いて聞き返すと、嗣永センセイは「しっ!声が大きい!」と俺を制して、慌てて周囲を見回した。
「内緒だからね。ほかの生徒には絶対言っちゃダメだよ」
「は、はい…」
「○○クンが変に責任感じるといけないから、一応キミだけにはホントのこと言っておこうと思って、呼んだだけ」
真野ちゃんが休んだのは俺のせいではなくて、大五郎のせいだった、というのが分かって、俺はとりあえずホッとしたけど…、
それにしても、そんなに酒を飲まなきゃいけないほど、俺のせいで真野ちゃんが落ち込んだとでもいうのだろうか…。
114
:
1
:2015/08/08(土) 00:52:25
「嗣永センセイ、俺はそんなに真野先生を傷つけたんでしょうか?」
俺が真顔で聞くと、嗣永センセイは、「ん? ああ、それも違う」と、あっさり否定した。
「えっ?」
「落ち込んだきっかけは、確かに○○クンとの口論だったけど、昨日も後半は、男に捨てられた愚痴ばっかり話してたから…」
「そ、それは…」
「あっ、いけない! こんなこと生徒にしていい話じゃなかった。今の話は本当に、絶対内緒だからね。分かってんでしょうね!」
嗣永センセイは俺の学生服の袖をぐいっと引っ張ると、ちょっと凄むような顔をして念を押してきた。
115
:
1
:2015/08/08(土) 00:52:57
(世の中には、真野ちゃんの、あのエロコアラのようなピチピチした肢体を弄ぶだけ弄んで、飽きたらポイと捨てるオッサンがいるのか…)
また童貞特有の極端な妄想を始めて、下半身が熱くなってくる俺だった。
そんな俺の妄想をかき消すように、嗣永センセイは、
「まあ、でも…、そんな訳だからさ。○○クンもいろいろあるとは思うけど、ちょっと真野ちゃんにやさしくしてやってくれるかな?」と、
お姉さんのように優しい口調で囁いた。
「は、はい。それはまあ…」
「分かってくれた?」
「ええ。でも…」
「でも?」
「真野先生って… なかなか面倒くさい人ですね」
「それが分かってるからこそ、私が今わざわざこうやって、キミに頭下げて頼んでるんじゃん」
<一応、ひとしきり弄ばれた後のエロコアラ的イメージ画像>
http://i.imgur.com/u4G8Ht3.jpg
116
:
1
:2015/08/17(月) 11:43:21
そう言うと、嗣永センセイはため息をついた。
俺も、これからの真野センセイとの付き合い方を考えると、やっぱりため息が出た。
俺たちは思わず、顔を見合わせた。
「お互い、大変ですね」
「全くだ…」
そんな話をしていたとき、ガラッと職員室のドアが開いて、大柄なお姉さんが書類の束を抱えて入ってきた。
そのお姉さんが教頭先生の机に書類の束を置いて、帰ろうとして俺たちの前を通りかかった時に、嗣永センセイが声をかけた。
「よう、茉麻」
「おっ、桃じゃん。元気?」
そう言った後に、須藤さんは俺に気付いて、びっくりしたように話しかけてきた。
「あれっ? キミ、千奈美の弟の○○クンじゃないの? この高校にいたの?」
「あっ、須藤さん…。どうも御無沙汰してます」
俺が畏まったように挨拶をすると、嗣永センセイは俺たち二人を交互に見て、
「ちょっと何? あんたたち知り合いなの?」と驚いたように言った。
「知り合いも何も、ちいの弟じゃん。この子」
「えっ? 『ちい』って、あの千奈美のこと!?」
117
:
1
:2015/08/17(月) 11:44:04
俺は話が全くのみこめなかったのだが、嗣永センセイはまじまじと俺の顔を見つめてから言った。
「あー。言われてみりゃ確かに千奈美に似てるわ。いやー、自分が担任のクラスに、千奈美の弟がいるなんて気付かなかったなー」
「ちょっとさ桃…、アンタ担任なら、家庭調査書とか持ってんでしょ? 千奈美の名前書いてあっても気付かなかったの?」
そう須藤さんが突っ込むと、嗣永センセイは、書類をごそごそと探しながら、
「いやー、確かにそんな名前は見た記憶あるのよね。でも、あの千奈美だよ? その弟がうちみたいな進学校に来るわけないじゃん。だから別人だと思ってた」と、
悪びれる様子もなしに言った。
「ちょっと待ってくださいよ! それって俺を馬鹿にしてるんですか? それとも姉ちゃんを馬鹿にしてるんですか?」
思わず俺は大声を上げた。
あんな姉ちゃんでも、俺にとっては大事な姉ちゃんなのだ。
118
:
1
:2015/08/17(月) 11:44:41
「悪い悪い。全然馬鹿にするとかじゃなくて、うちらの間じゃそういうキャラなのよ、君の姉ちゃんは」と、嗣永センセイは笑いながら言った。
何か騙されているような気もするが…。まあ、それはいい。
「それより、お二人とうちの姉ちゃんはどんな関係なんですか? いや、須藤さんは同級生だったの知ってますけど、嗣永センセイは違う高校じゃ…?」
「ああ、ウチらバイト先が一緒だったの。駅前のフルーツケーキ屋さん」と須藤さんが言った。
そういえば、千奈美姉ちゃんは高校時代ずっと、そのフルーツケーキ屋でバイトをしていたのだった。
「えーっと、確か、何とか工房って言ったっけ…」
俺がそう言いかけると、「ベリーズ工房!」と嗣永センセイが怒ったように言った。
119
:
1
:2015/08/17(月) 11:45:10
しかし、姉ちゃんと嗣永センセイが友達だったとは、全然知らなかった。
そういえば、俺も姉ちゃんに、わざわざ担任の名前など伝えたことはなかったのだ。
そんなことを考えていると、
「あっ、そういえば確か、その頃の写真持ってたな…」と嗣永センセイが、スマホを取り出して探し始めた。
「あったあった。これ」
そう言うと、嗣永センセイは俺と須藤さんにスマホの画面を見せた。
<フルーツケーキ屋のバイト時代の嗣永センセイと須藤さん、千奈美姉ちゃんたちイメージ画像>
http://i.imgur.com/bFiFQXS.jpg
120
:
1
:2015/08/17(月) 11:45:40
「どれどれ…」と画面を覗き込んだ須藤さんは、「おー、この制服。懐かしい!」と声を上げた。
俺も写真を見た。千奈美姉ちゃんに嗣永センセイ、それに…、俺が毎晩お世話になってた頃の須藤さん…。
(みんな若いな)と思ったとき、俺はあることに気が付いた。
「あの…、嗣永センセイ」
「何?」
「もう一人、見たことのあるような人が写ってるんですけど」
「誰?」
「えーと、嗣永センセイの隣のこの人…」
「あー。佐紀ちゃんじゃん」
「佐紀ちゃんって…、清水センセイですか!?」
「そだよ」
「えーっ!?」
121
:
1
:2015/08/17(月) 11:46:14
(世の中と言うのは、こんなに狭いものなのか…)
俺が呆れていると、嗣永センセイが「いやー、でもこの7人は本当に仲良かったよねー」と須藤さんに言った。
須藤さんも「本当だよねー。でも、みんな若いなー」と弾んだ声で答えた。
すると、嗣永センセイは突然俺を見て、「ねえ、○○クンだったら、もし付き合うとしたらどの子を選ぶ?」と、半分からかうように聞いてきた。
「ええっと…」俺は7人の写真を見回した。
まあ、こんな質問に、まともに答える必要もないのだが…。思わず真剣に選んでしまう俺だった。
「そうですね… やっぱり嗣永センセイ…」
「えっ!?えっ!? やっぱりもぉなの? ダメよ○○クン、私は教師であなたは生徒よ!」
「…の隣の、赤いエプロンのこの人ですかね…」
「ブハハハハハハ」と須藤さんが豪快に笑った。「桃、やっぱり、りーちゃんだってさ」
「もう! どうして男の子って、ちゃんみたいな子に、コロッと騙されちゃうのかな…」
(あれ、今日、どこかで聞いたようなセリフだな)と俺は思った。
122
:
1
:2015/08/17(月) 11:46:40
(そうか、さっき植村が宮本のことを…)と俺が思い出していると、
「久しぶりにこの7人で集まって、女子会でもするか?」と須藤さんが言った。
「いいね」と、嗣永センセイ。
「じゃあさ、桃、佐紀ちゃんに言っといてよ。私、ほかのみんなに連絡するから」
「オーケー」
「いつ頃がいい?」
「明日終業式だから、夏休み入ったら、いつでも!」
123
:
1
:2015/08/17(月) 11:47:06
その時、昼休み終了前の予鈴がなった。
「いけない。早く戻らないと事務長に嫌味言われる」と須藤さん。
「ちょっと、○○クンも早く教室戻って、授業受ける準備しないと」と、したり顔の嗣永センセイ。
「ハイハイ」と俺が言うと、「ちょっと!『ハイ』は一回でしょ!?」と、嗣永センセイが口をとがらせた。
「はーい」
俺が立ち上がると、「千奈美によろしく言っといてね」と須藤さんが言った。
「あっ、私からもね」と嗣永センセイ。
124
:
1
:2015/08/17(月) 11:47:44
その日の放課後、俺はダンス部の練習のために第二体育館に行った。
俺がそこに着いたときには、女の子たちは既にあらかた集まっていたけど、鞘師はまだ来ていなかった。
よくよく考えてみると…
今朝一緒に練習して、ちょっと打ち解けた鞘師を除けば、この中に、俺が親しく話しかけれるような女の子は誰もいない。
何となく、みんなよそよそしい感じで、それでいて、遠巻きに俺の様子を探っている感じだ。
一瞬、宮本と目が合った。
(もう俺は、別にお前のことを何とも思ってないから、怖がらなくていい。安心しろ)
って言ってやりたいと思ったけど、そんなことをここで言ったら、また高木さんあたりに変な邪推をされるのは確実だ。
そんなことを考えてるまさに今も、高木さんが俺を見ているような気がする。
125
:
1
:2015/08/17(月) 11:48:12
その時、鞘師が壇上に上がってきた。
鞘師は、まっすぐ俺の方に歩いてくると、突然、真面目くさった顔で言った。
「今朝は…、なんか、ゴメン。悪かった」
「『ゴメン』って…、何がだよ?」
「うん…。あの後、私、ずっと考えてたんだけど…」
「何を?」
「ほら…、私『ツンツンしてる』って○○クンに言われたけど、本当にそうだなあって…」
「えっ?」
鞘師が何を言いたいのか、俺にはなかなか呑み込めなかった。
126
:
1
:2015/08/17(月) 11:48:37
鞘師は、少し顔を赤くして続けた。
「やっぱさ…、りなぶーとかから見ればさ、まるで私が〇○クンの彼女気取りで、しゃしゃり出てるように見えたかなあ…、って」
「いや、お前…」
思わず俺の方も、自分の頬が赤くなるのを感じた。
「そんな風に思われたら、○○クンだってきっと迷惑だったよね? ホント、ゴメン。『キミを守る』とか、私、調子乗りすぎてた」
127
:
1
:2015/08/17(月) 11:49:05
俺は慌てて否定した。
「いや、そんなことねーよ。俺は…、お前にそう言われて、嬉しかったよ」
俺がそう答えると、鞘師は「本当?」と、パッと表情を明るくして聞いてきた。
「ああ、本当だよ」
俺はまた、今朝と同じ昂揚感を感じていたのだが…、
その時、他の女の子たちが、素知らぬ風を装いながら、俺たちの会話に全身で聞き耳を立てている様子も、また痛いほどに感じていた。
そしてそれは、高木さんや竹内さんたちだけでなく、俺の気のせいかもしれんけど、どうも宮本までもがそんな様子なのだ。
128
:
1
:2015/08/17(月) 11:49:34
俺がそういうと、鞘師は「良かった」と無邪気な笑顔を見せた。
俺ももちろん嬉しい。
しかし…
(鞘師は周りの女の子たちが全く気にならないのだろうか?)と俺は思った。
今の俺たちの会話を、前後の脈絡も知らずに断片的に聞いた人にとっては、これはやはり一種の愛の告白のようにしか聞こえないのではないか?
そう思って周囲を見回すと、女の子たちはみんな慌てて視線をそらしていく。
宮本も、真っ赤な顔をしながら、不自然に下を向いた。
俺はまあいい。
でも鞘師は…。
鞘師はこの女の子たちの、探るような空気が全く気にならないのだろうか?
それとも、他の女の子たちなんか眼中にないとでもいうのか…
129
:
1
:2015/08/17(月) 11:49:54
俺がそんなことを考えていると、突然後ろからポンと肩をたたかれた。
清水センセイだった。
「おぱよ」
「あっ、どうも」
てゆーか、(こんな時間に『おぱよ』って、水商売のお姉さんかよ…)と、俺が思ったのは内緒だ。
「桃に聞いたよ。キミ、千奈美の弟だったんだって? びっくりしたなあ、もう…」
「あ、はい」
「ちいは元気?」
「ええ、おかげさまで。毎日元気にアシカの相手してるみたいです」
突然フレンドリーに話し出した清水センセイと俺を、周囲の女の子たちは「何事か」という感じで、様子を伺っている。
130
:
1
:2015/08/17(月) 11:50:27
すると、清水センセイは突然、キリッとした声に変わって、
「はーい、みんな集合!」と号令をかけた。
慌てて女の子たちが整列した。
「えーと、それじゃ、いつものように、みんなまずパート練習を…」と言いかけたところで、清水センセイはぐるりと全員を見回して、
「ふむ…」と、二、三秒考え込んだ。
(何だろう…)と俺が思っていると、
「いや、まず一度通して全体練習しようか。はい、準備!」と、清水センセイが言って、パンパンと手を鳴らした。
慌てて配置につこうとした俺と鞘師に、「あっ、○○クンと鞘師は踊らなくていいから。一緒にこっちで見てて」と清水センセイ。
「え? は、はい…」と訝しげな鞘師。
俺はまあ…、踊っても邪魔になるだけだ。
131
:
1
:2015/08/17(月) 11:50:49
清水センセイが曲をかけると、女の子たちがそれに合わせて踊りだした。
しばらくすると、鞘師は「えっ… ウソでしょ…」とつぶやき、身を乗り出して、食い入るように女の子たちのダンスを見つめだした。
そんな鞘師を見て、ニヤニヤとしてる清水センセイ。
何が起きてるのか、俺にはさっぱりわからなかった。
曲が終わると…
「どうよ?鞘師?」と、清水センセイが何故か勝ち誇ったようにドヤ顔で言った。
「信じられません…。たった一日で…。なんでみんなこんなに上手くなったんだろう…」と、鞘師は呆然とした様子だった。
すると、清水センセイは突然、「オーホホホホホ」と高笑いしてから言った。
「作戦大成功! やっぱ○○クンに無理やり入ってもらった効果あったわ!」
「えっ?」
俺と鞘師が同時に聞き返した。
132
:
1
:2015/08/17(月) 11:51:11
「あのさあ…、前から何度も何度も、『常に、見られることを意識して踊れ』って、言ってたじゃん私」
清水センセイは、今度は少し怒ったような声を出して、女の子全員を見回した。
呆気にとられてる女の子たち。
「みんな今まで全然言うこと聞かなかったくせに、男の子が一人入っただけで意識しちゃって。ホンっトに単純なんだから。普段より動きも表情も全然いいじゃん」
「えっ…!」と、声を上げた高木さんに、
「紗友希ー。紗友希はいつもよりずーっとエッチな表情してたよー。なんか体もクネクネしてたし。もう…、色気づいちゃってー」とからかう清水センセイ。
「してないです!してないです!」顔を真っ赤にして否定する高木さん。
「あれー? タケちゃん。タケちゃんいつもダッさいゆるゆるのTシャツ着てるくせに、今日はかわいいピチTじゃん。初めて見た―」
「ギャー」と悲鳴を上げてしゃがみこむ竹内さん。
「佳林ちゃん」
「えっ、は、はい」
「佳林ちゃんも、いつもは地味なゴムで髪まとめてんのに、今日は可愛いヘアバンドなんかつけてるしー」
「えっ、いや、これは…」 宮本までが顔を赤らめてうろたえてる。
133
:
1
:2015/08/17(月) 11:51:31
呆気にとられた様子の鞘師に、清水センセイが言った。
「だいたい鞘師だって…」
「えっ?」
「色つきのリップなんかつけてー。校則違反じゃん。普段そんなのしたことないくせに」
「違うんです!違うんです! 今朝家を出るとき、これしか見当たらなくて…」
うろたえる鞘師を無視して清水センセイは続けた。
「みんなさ、ちょっと男の子に見られること意識しただけでも、これくらい表情も動きもガラッと変われるんだよ。わかった!?」
「は、ハイ!」と女の子たちが慌てて返事をした。
134
:
1
:2015/08/17(月) 11:51:48
すると、清水センセイは、今度はくるりと俺の方を向いて言った。
「いやー、○○クン、本当にありがとう」
「は、はい」
「嫌がってたのに、強引に入ってもらった価値あった。ホントに助かったわ―」
「い、いえ…」
「無理強いして悪かったね。もう辞めてもいいよ」
「えっ…、ええっ!?」
135
:
1
:2015/08/17(月) 11:52:08
女の子が色気づいて、やる気になったところで、「ハイご苦労さん」って…
酷えよ、清水センセイ…。
(これじゃまるっきり、俺はただの当て馬じゃねえか…)と、軽くショックを受けた自分だった。
しかし…
よくよく考えてみれば、俺がダンスなんてやったって、女の子たちの邪魔になるだけなのは明らかだっだ。
鞘師だって、俺に教える暇があったら、自分の練習をした方が、よっぽど優勝の確率が高まるというものだ。
それに、鞘師はあんなに優勝したがっていたではないか。
だからこそ、清水センセイに言われるまま、俺に「入部してくれ」と、頭を下げてきたのだ。
だとすれば…
(ここは潔く身を引くのが男ってものか…)
そこまで考えたとき、ちょっと憤然とした表情で鞘師が言った。
「ちょっと待ってください!清水先生!」
136
:
1
:2015/08/18(火) 04:36:31
「何、鞘師?」と、クールな表情の清水センセイ。
「あ、あの…、せっかく○○クンに入ってもらったばかりなのに、用が済んだからすぐに辞めろっていうのは…」
「えっ、何? 鞘師は私の言うことが気に入らないわけ?」
(ちょっ… 怖えよ、佐紀ちゃん…)
俺はこの二人の女の対決にハラハラした。
「いえ、気に入らないとかじゃなくて…」
「だったら何なの?」
「せっかく○○クンもダンス始めてくれたんだから、一緒に大会出れたらなあ、って…」
「えっ、でも○○クン、嫌がってんじゃん。いつまでも無理強いはできないよ」
「でも!でも! 今朝○○クン、『ダンス楽しい』って…私に…」
137
:
1
:2015/08/18(火) 04:37:03
「えっ、そなの?」と清水センセイが俺に聞いてくるのと、
「そうだよね!?」と鞘師が俺に聞いてくるのが、同時だった。
「お、お、おう…」と、しどろもどろに答える俺。
その時、突然宮本が、
「清水先生、私からもお願いします。○○クンに居てもらうようにしてください」と声を上げた。
(えっ、宮本…、俺のこと見るのもイヤじゃなかったのか…?)
俺は訳が分からなくなった。
清水センセイは「ふーん…」と、鞘師と宮本を交互に見つめた後、
「まあ、あんたたちがそうしたいなら、別に構わないけど」と意味ありげに笑った。
138
:
1
:2015/08/18(火) 04:37:31
正直言って…、俺は動揺していた。
その後の練習のことは、実はあまりよく覚えていない。
「はい、今日はここまでー」という清水センセイの声に、我に返った。
女の子たちは、ぞろぞろと女子更衣室に向かっていった。
俺も男子更衣室に向かおうとして、壇上に置かれているCDラジカセに気が付いた。
「清水センセイ、これ、どこにしまうんですか?」と俺が聞くと、
「ああ、体育用具室の奥の棚に置いといて」と、清水センセイが答えた。
俺はCDラジカセを持ち上げると、のろのろと体育用具室に向かった。
139
:
1
:2015/08/18(火) 04:38:05
体育用具室は、ステージの脇にあって、L字型に奥が曲がっている。
その、曲がった奥の方の棚にCDラジカセを置いたとき、ガラガラと後ろでドアが開く気配がした。
「えっ、こんなとこで着替えて、男子とか入ってきたらどうするんですか?」
あれ、三年の稲場さんの声だ、と思ったとき、
「平気平気。女子更衣室混みすぎだから、うちらいつもここで着替えてるんだよ」と、竹内さんの声がした…、と思う間もなく、
竹内さんが汗で濡れたTシャツを豪快に脱ぎだした。
慌てて俺は奥に隠れた。
140
:
1
:2015/08/18(火) 04:38:36
(ちょっ…! こんなところにいるのがバレたら身の破滅だ…)と俺は思ったけど、今さら名乗り出るには、もう遅すぎた。
俺は壁の陰に隠れて、息を潜めながら、女の子たちから目が離せなくなった。
ピンク色のブラとパンツだけになった竹内さんの姿は、童貞の俺にとっては肉感的すぎた。
(やばい…、鼻血が出そうだ…)
そう思ったとき、「そうそう。全然平気」と言って、高木さんもTシャツとジャージのズボンを脱ぎだした。
高木さんはイエローのブラとパンツだった。
(このお猿さん、いい体してるじゃねえか…) 愚息が痛いぐらいにビンビンになってくるのを感じる俺。
「そうですか…」と言って、稲場さんもおずおずとTシャツを脱ぎだした。
真っ白い肌にブルーのブラジャーが眩しすぎた。
(ヤバい…。これは本当にヤバい…)
141
:
1
:2015/08/18(火) 04:39:15
俺がそう思った時、
「でもびっくりしたよねー」と竹内さんが言った。
「さやぴょんのこと?」と高木さん
(さやぴょん…? 鞘師のことか?)と俺が思う間もなく、
「あれ、絶対に○○クンのこと好きだよねー」と竹内さん。
「やっぱ、そう思ったー!?」と高木さんも大声を上げた。
「うん。何か、練習前に『彼女気取りでどうこう』、とか話してたし、それに、『ダンス部辞めさせないで』とか、すごく必死だったよね。それにあのリップ…」
「びっくりしたよねー。りほぴょんのあんなの初めて見たー」
「でもさー、紗友希ちゃんもエッチな表情してたんでしょー?」
「いやあっ! 何言ってんの? 自分だってピチT着てたくせにー」
「ぎゃーっ! いやだあっ!」
(こいつら… 何言ってやがる…)と俺が思ったとき、
「でも、佳林ちゃんも〇○クンのこと、好きなんじゃないでしょうか?」と稲場さんが言った。
142
:
1
:2015/08/18(火) 04:39:46
「ああー、そうかもねー」と竹内さん。
「うん。最初の日に○○クンもわざわざ『俺が入っていいのか』とか、佳林ちゃんにアヤつけてたしー」と高木さん。
(だからその、『アヤつける』とか、ベタな表現やめろよ)と、俺は心の中で叫んだ。
「何かさっきも、鞘師さんに張り合って、『私からもお願いします』とか、言ってたように感じました」と、
稲場さんがセーラー服の上着を身に着けながら言った。
(こいつら、俺が宮本に告って玉砕したことも知らずに、勝手なことばかり言いやがって…。てゆーか、さっさと着替えて出て行ってくれよ)と、俺は思った。
143
:
1
:2015/08/18(火) 04:40:19
三人が着替え終わって、用具室から出ていっても、俺はすぐにはそこから動けなかった。
もし出て行って、三人に見つかれば、俺がそこに隠れていたのが当然バレるからだ。
てゆーか、別に俺は隠れて覗いていたわけではない。あの三人が突然あんなところにやってきて、勝手に着替え始めた方が悪いのだ。それは、声を大にして言いたい。
しばらくたってから、俺は意を決して用具室から出た。
俺は無性に鞘師と話がしたかった。
鞘師の姿を探したけれど…、
鞘師どころか、第二体育館には、既に俺の他には誰もいなくなっていた。
144
:
1
:2015/08/18(火) 04:40:43
校舎を出て、自転車置き場に来てから、
(あっ、今日は朝に雨が降っていたから、電車で来たんだっけ)と思い出した。
雨は上がっていた。
電停に向かって歩き出したところで、
(そういえば、写真のフィルムと印画紙がなくなってたな。せっかく電車で来たんだから、ついでに買って帰ろうか)と、俺は思い直した。
いつもフィルムや印画紙を買う写真屋は、駅の近くにある。
俺は家へ帰るのとは反対方向の、駅前行きの電停から市電に乗りこんだ。
145
:
1
:2015/08/18(火) 04:41:03
写真屋に着いて、フィルムや印画紙を買い終えて、帰りの電車に乗ろうと思ったとき、
(そういえば、帰りの電停の前に、姉ちゃんがバイトしてた『ベリーズ工房』があったんだよな…)と俺は思い出した。
今は営業休止中だから、シャッターが閉まったままのはず、と思っていたのだが、予想に反して店は開いていた。
「あれ?」と思ってよく見ると、店の看板には「ANGERME」と書いてあった。
(店が替わったのか…。でも『アンガーミー』って、いったい何の店だ?)
146
:
1
:2015/08/21(金) 01:33:17
近寄ってよく見ると、看板には「コーヒーとホームメイドパイのお店 ANGERME」と書いてあった。
(ホームメイドパイ、って何だ?)
ウインドウに近づいて中を覗くと、どうやらそこは、喫茶店のような感じの店だった。
店の中には長いカウンターと、ボックスの席。インテリアは60年代のアメリカ風、という感じのネオンサインやブリキの看板が飾られていた。
その時、カウンターの間をこっちに向かって歩いてきた、エプロン姿のウエイトレスさんと目があって、俺は慌てて視線を逸らした。
(あっ、結構かわいいお姉さんかも…)
<結構かわいいウエイトレスのお姉さんイメージ画像>
http://i.imgur.com/cr5rdSr.jpg
147
:
1
:2015/08/21(金) 01:33:53
慌てて視線を外しはしたものの、俺はそのお姉さんのことが気になって、もう一度ウインドウの中を覗こうとした。
その時「ねえ、こんなとこで何やってんの?」と後ろから肩を叩かれて、俺はびっくりして振り向いた。
そこに立っていたのは、今朝も電車で一緒だった、田村芽実だった。
「な、なんだ、めいじゃねえかよ…。今日はよく会うな…」
「ねえ、何覗いてんの?」
「い、いや、新しい店できたんだなあって…。てゆーか、お前こそこんなとこで何やってんの? もう遅いだろ…」
時計を見ると、既に夜の7時を回っていた。
「めいはこの店で週に2回バイトしてるんだよ。いま仕事終わったところ」と田村は八重歯を見せて笑った。
148
:
1
:2015/08/21(金) 01:34:28
「そ、そうなのか。ところでこの店、何て読むんだ?」
「アンジュルム」
「案じる夢?」
「アンジュルム! フランス語で『天使の涙』っていう意味なんだよ」
田村はなぜか、ちょっと頬っぺたを膨らませて言った。
「ホームメイドパイって…アメリカだろ? それに店のインテリアもアメリカ風じゃん。何でフランス語なんだ?」
「知らないよめい。そんなこと、山崎さんに聞いてよ」
「山崎さん?」
「この店のオーナーやってるおじいちゃん。なんかいつも行き当たりばったりに物事決めるみたい」
「そなの?」
「うん。バイトの先輩の女子大生のお姉さんも『アンジュルムはいつもこうだ』って言ってたし…」
149
:
1
:2015/08/21(金) 01:35:06
「ふーん…」
よくわからずに相槌を打つと、田村は、
「私だけじゃなくて、りなぷーや3年生のかななんもバイトしてるんだよ」と笑った。
「かななん?」
「うん。中西さん。前に写真部にいたから知ってるでしょ?」
「あー、中西さん…」
中西さんは、抽象画的というのか、なかなか独特なセンスの写真を撮る先輩だったのだ。俺は中西さんのそんなふんわりとした写真が大好きだったのだけど、
そういう作風は、「友情、努力、勝利」を絶対のテーマとする真野ちゃんの好むところではなく…、
「指導」と称して散々作品に手を入れられた挙句、やはり山木さんと一緒に、今年の春先に部を辞めていたのだった。
(全く惜しい先輩を…)と俺が思っていると、
「あとねー、タケちゃん、竹内さんもいるんだよー。ダンス部忙しいみたいで、最近はあまりこないけど」と、田村は言った。
150
:
1
:2015/08/21(金) 01:35:28
竹内さん…。
そう言えば俺はさっき、竹内さんの肉感的な、ピンク色の下着姿を拝見していたのだった。
思い出すと、下半身が一気に勃起してくる俺だった。
「でも、ダンス部って言えばさ…」
そう田村が話しだしたとき、俺たちの家の方へ向かう電車がやってくるのが見えた。
「おい、あれに乗ろうぜ」
「わかった!」
俺たち二人は電停に向かって駆け出した。
151
:
1
:2015/08/21(金) 01:35:49
市電の中は比較的空いていた。
俺と田村は後ろの方の座席に、並んで腰を下ろした。
「ダンス部って言えばさあ…」
田村が話し出した。
「ん?」
「○○クン、ダンス部に入っちゃったの?」
俺の気のせいかもしれんけど、どことなく、非難のニュアンスにも聞こえる、田村の口調だった。
152
:
1
:2015/08/21(金) 01:36:22
「いや、まあ…、入ったって言うか、入らされたって言うか…」
「何で今朝、黙ってたの? 写真部の朝練とかウソまでついて…」
手厳しい田村のつっこみだった。
「いや…、俺がそう言ったつもりはないけど…」
「めいが聞いたら頷いたんだから、結局同じことじゃん」
「そうだったっけか?」
「ずるい!誤魔化して…」
まあ、確かにコイツの言う通りではあるのだが…
「まあ、ダンス部なんて、大の男がこっ恥ずかしいだろ。勘弁してくれよ」俺がそう言うと、
「そんなに恥ずかしいなら、そもそもなんで入部したの?」と、どこまでも問い詰めてくる田村だった。
153
:
1
:2015/08/21(金) 01:36:58
「いや、それがな…」
仕方ないから、清水センセイに盗撮魔に間違えられたくだりから、またいちいちコイツにも説明する羽目になった俺であった。
といっても、鞘師に「キミを守る」と言われたこととか、今日、放課後に退部を引き留められた一件なんかは、省略して話したのだが…。
説明をし終わっても、田村はあまり納得した表情を浮かべてはいなかった。
「ふーん…。人助けとか、ずいぶん優しいんだね。だったら演劇部も手伝ってくれたらよかったのに」
「えっ?どゆこと?」
「男子がいなくて困ってるのはダンス部だけじゃなくて演劇部も同じだよ。うちらだって男子が入ってくれた方が、全国大会に出れる確率高まるじゃん」
田村はそう言って、口をとがらせた。
154
:
1
:2015/08/21(金) 01:37:35
「いや…、そんなこと言われたって…。てゆーか、お前ら全国大会なんか出る気あんの? だいたい放課後に練習もしないでバイトなんかしてるんだろ?」
俺がそういうと、田村は「酷い! 演劇部のこと全然知らないくせにー!」と大声を上げた。
「えっ?」
「いまうちらの指導してくれてる須藤さんっていう人は、プレイングマネージャーで、自分自身も劇団に所属してるプロの舞台女優さんなの!
それで、夕方は本当は自分の劇団の練習にも行かなきゃならないのに、それでも週4回は放課後も残って教えてくれて、その他にも毎日朝練して頑張ってるのに…!
めいたちがバイトしてるのは、練習のない日の放課後だけだよ! それも『いろんな経験した方が演技に生かせる』って須藤さんに言われたからなのに…!」
「そ、そうか、スマン…。俺が悪かった」
田村の迫力に押されて思わず謝る俺だった。
155
:
1
:2015/08/21(金) 01:38:04
「でも、須藤さん、プロの舞台女優になってたのか…」と、俺が思わずつぶやくと、
「えっ、○○クン、須藤さん知ってるの?」と田村は驚いたような顔で聞いてきた。
「ああ。めいもうちの姉ちゃん知ってるだろ? 高校の同級生なんだ、須藤さん。昔からちょくちょくうちにも遊びに来てて…」
(だから、ガキの頃からおかずにしてました)と、心の中で田村に詫びる俺だった。
「へえー、そうなんだー」と、やっと表情が明るくなる田村。
「でも、うちの姉ちゃんの話だと、『卒業してもまともに働かずにプラプラしてた』ってことだったけど…」
「酷い―! そりゃ、演劇だけで食べていくのは大変だから、いろいろバイトしたりはしてたんだろうけど、でも地元の演劇界じゃ結構有名人なんだよ、須藤さん。それに、今度東京の舞台にも出るし…」
「そうなのか…」
(千奈美姉ちゃん、テキトーなことばっかり教えやがって…)と俺は思った。
156
:
1
:2015/08/21(金) 01:38:37
俺がそんなことを考えてると、「ホラ、これがその舞台だよ」と、田村が鞄の中からチラシを出して俺に見せてきた。
<須藤さんの出演する舞台・イメージ画像>
http://i.imgur.com/1Kkvfv4.jpg
俺がそのチラシに見入ってると、突然、電車の屋根を打つ雨音が聞こえ始めた。
「おっ、また雨降ってきたか…」と俺が言うと、
「いけない! めい、アンジュルムに傘忘れてきちゃった!」と、田村が叫んだ。
157
:
1
:2015/08/21(金) 01:39:13
その時、「次は○○です」と、俺の家の降りる電停のアナウンスが聞こえてきた。
田村の降りる電停は、さらに一つ先だ。
雨は結構な勢いで降っていた。
「どうする? 傘取りに戻るか?」と俺が聞くと、
「でも、もう遅いし…。どうしよう…」と、田村が泣きそうな声で言った。
「しょうがねえな…。俺の傘に入っていくか?」
「えっ?」
「遠回りになるけど…、送ってってやるよ」と俺は答えた。
降車ボタンを押す人もなく、俺の降りるはずだった電停を過ぎていく電車…。
158
:
1
:2015/08/21(金) 01:39:59
「えっ、いいの?」と、田村。
「いいも何も、もう俺の降りる電停過ぎちゃったしな。それに次の電停からお前の家まで結構歩くだろ? 傘なしじゃ済まんだろ」と、俺。
次の電停で、2人そろって電車を降りると、雨足はさらに強くなってきたようだった。
俺は鞄から折り畳みの傘を出して広げた。
(田村と相合傘か…) そう思いながら歩き出した時、
「今日は、何か、すごくいろいろあった一日だったな…」と、田村が言った。
それは俺もそうだった。
朝、コイツと一緒の電車に乗ってから、鞘師とのプライベートレッスン…、そしてズッキと二人で廊下に立たされ…、
植村さんと初めて会話し…、嗣永センセイと千奈美姉ちゃんが知り合いだったとわかり…、鞘師にダンス部に引き留められ…、
竹内さんや高木さんの下着姿を拝見して…、そして、今またコイツとこうして一緒にいる…。
159
:
1
:2015/08/21(金) 01:40:23
そこまで考えを辿ったとき、
「○○クンが今朝、めいのこと、『綺麗になったな』なんて言ったせいで、あの後、めいはりなぷーに散々からかわれたんだよ…」と、田村が呟いた。
「あっ、そなの…?」
「そうだよ。それなのに、○○クン、すぐその後に鞘師さんと、何かいい雰囲気になっていて…」
「えっ?」
「今度は『弄ばれてた』とか、『二股かけられてた』とか、またりなぷーにからかわれて…」
「…」
何と答えればいいものか、考えていたとき、
「○○クンは、鞘師さんのこと、好きなの?」と、田村が核心を突く質問を投げかけてきた。
160
:
1
:2015/08/21(金) 01:40:56
「そ、それは…」
「それは?」
また、例の上目遣いで俺を見上げる田村。
「それは…、俺にもまだ正直わからないよ」、と俺が言うと、
田村は怒ったような、拍子抜けしたような声で「何なの、それ?」と、言った。
「だって、初めて鞘師とまともに話をして、まだ二日目だし。あいつがどんなやつかも、俺には正直、まだ分かってないんだよ。ただ…」
「ただ?」
「ああいう風に、はっきりと自分の目標持ってるやつは、すごいな、とは思ってる」
俺がそう言うと、田村はしばらく黙り込んだ後、
「めいのこと、『綺麗になった』なんて、言わなけりゃよかったのに…」と、ぽつりと呟いた。
161
:
1
:2015/08/21(金) 01:41:30
沈黙が流れた。
「いや、でもめい、お前、本当に綺麗になったし…」
何か言わなけりゃいけない気がして、思わず俺は早口でしゃべり出した。
「えっ?」と、顔を赤らめて、俺を見上げる田村。
「うん。本当に綺麗になった。これが、あのダンゴ虫集めてたガキとはとても思えない…」
そこまで俺が言ったとき、田村は俺の背中を思いっきり叩いた。
「もう! めいのこと馬鹿にして! もういい! 一人で帰る!」
田村はそう叫ぶと、俺の傘から飛び出して、駆けだそうとした。
「おい!待て!」
その時、近くでドーンと雷が鳴った。
田村は「キャッ!」と叫ぶと、慌てて振り返って、俺に抱きついてきた。
162
:
1
:2015/08/21(金) 01:41:51
「めい…」
初めて感じる女の子の体の柔らかさに、俺は我を失いそうだった。
(このまま、めいの体をギュッと抱きしめたい)、という欲望に負けそうになったその時、
「ご、ごめん…」と言って、田村が俺から身を離した。
「い、いや…」 粘った声で返事をする俺。
「ゴメン、めい、雷ホント苦手で…」
田村がそう言ったとき、もう一度雷が近くで鳴って、また田村は俺にしがみついた。
163
:
1
:2015/08/21(金) 01:42:18
田村の体を抱きしめる勇気が無かった代わりに、俺は、恐る恐る田村の髪を撫でた。
すると、何となく、田村の髪からいい匂いが立ち上ってくるような気がした。
(シャンプー? いや、もっとお菓子みたいな甘い匂いだ…)
「めい、お前、何か甘い、いい匂いするな…」俺がそう言うと、
「ずっと厨房でアップルパイとか、フルーツクリームパイとか作ってたから、その匂いかも…」と、真っ赤な顔でつぶやく田村。
田村の匂いをもっと嗅ぎたくて、思わず俺は深呼吸をした。
164
:
1
:2015/08/21(金) 01:42:44
雷が鳴りだしてから、雨は一層激しく降りだして、もはや、傘をさしていても濡れるのは避けられないほどだった。
田村の白いセーラー服も既にびしょびしょに濡れていて、下着の模様までがはっきりと透けて見えるほどだった。
「めい、もっとこっちにこい…」
「うん…」
二人ほとんど密着するような姿勢で、傘にしがみついて歩いていた。
夏だというのに…
二人のびしょびしょに濡れた肌が触れ合うと、冷たく感じた。
「何か、寒い…」
「ん?」
「寒いね…」田村がつぶやいた。
俺は思わず、無言で田村の肩を抱き寄せた。
<その時の俺の脳内イメージソング>
https://www.youtube.com/watch?v=VDFAXMSSt2o
165
:
1
:2015/08/21(金) 01:43:24
田村の家の前にたどり着いたときには、二人とも濡れ鼠のようになっていて、正直、傘の意味などほとんど無かったのだった。
そして、皮肉なことに、そのころちょうど、雨が小降りになってきた。
「今、タオル持ってくるから、ちょっと待っててよ」と、玄関の前で田村は言った。
「いや、いいよ。どうせすぐだし、急いで帰る」
「でも…」
「こんな時間に男なんかと一緒に帰ってきたら、めいの母ちゃんだって、心配するだろ」
「そんな…」
「じゃ、またな」
俺が振り向いて帰ろうとしたとき、「○○クン!」と、田村が俺を呼び止めた。
「どうした?」
「あの…」
「ん?」
「今日はなんか…、いろいろ甘えちゃってゴメン」
「いや、俺の方こそ…」
そう言ったとき、田村の家の玄関の電気がついて、誰かが出てくる気配がした。
「じゃあな!」
俺は慌てて、自分の家に向かって駆けだした。
166
:
1
:2015/08/21(金) 01:43:49
急いで家まで帰って帰ってきて、玄関のドアを開けると、ばったりと千奈美姉ちゃんに出くわした。
从*´∇`)<アンタどうしたの?びしょ濡れじゃん
と呆れたように言う千奈美姉ちゃん。
「いやその…、すげー雨降ってたんだよ、今まで」と俺が言うと、千奈美姉ちゃんは、
从*´∇`)<ちょっと待ってな
と言ってから、バスルームからタオルを持ってきて、
从*´∇`)<ホラ、よく拭いてから玄関上がるんだよ
と、タオルを俺に投げてよこした。
167
:
1
:2015/08/21(金) 01:44:18
「サンキュー、姉ちゃん」
俺が頭をごしごしと拭いていると、
从*´∇`)<ちょっと、茉麻から聞いたよ! あんたの担任、桃なんだって? それにキャプテンも学校にいるとか? 今度飲み会やることなったよー
と、千奈美姉ちゃんが話しかけてきた。
「キャプテン?」と俺が問いかけると、
从*´∇`)<ああ、佐紀ちゃんのこと。バイトのシフトのキャプテンだったの
と、姉ちゃんが言った。
「そうなんだ。でも、俺もびっくりだよ。まさか嗣永センセイと千奈美姉ちゃんが友達だったなんて…」と、俺が言うと、千奈美姉ちゃんは、
从*´∇`)<友達? 違う違う。あいつはただのビジネスパートナー
と笑った。
168
:
1
:2015/08/22(土) 01:05:30
次の日は、前日とはうって変わり、すっきりと晴れわたった好天になった。
早起きしてチャリで学校に向かうまでの間にも、既に汗がダラダラと全身を伝ってきた。
俺が家庭科室についた時、鞘師はまだいなかった。
(今日は俺の方が先に来たみたいだな)
練習着に着替えようとして、家庭科準備室に通じるドアを何気なく開けると、
セーラー服の上着を脱ごうとしていた鞘師と目があった。
「キャッ!」
「す、すまん!」
慌ててドアを閉じる俺。
ほんの一瞬ではあったが、鞘師の白いブラジャー姿が、俺の目に強烈に焼き付いた。
しばらくすると、Tシャツとジャージに着替えた鞘師が、真っ赤な顔をしながら準備室から出てきた。
169
:
1
:2015/08/22(土) 01:06:00
「すまん、鞘師…、ノックもせずに。まだ来てないんだと勝手に思いこんでて…」
俺が早口で謝ると、鞘師は、
「い、いや…、ウチも、家庭科室の方に何か鞄でも置いとけばよかったかも…」と、赤い顔のままで下を向いた。
しばらく気まずい沈黙が続いた後、「早く練習しようか。着替えてきて…」と鞘師が俺を促した。
「お、おう…」
慌てて準備室に飛び込む俺。
急いで着替えをしていると、やはり昨日と同じように、鞘師のセーラー服が紙袋の中に無造作に突っ込まれるようにして置いてあるのに気がついた。
さっき一瞬だけ見た、鞘師のブラジャー姿が俺の頭の中に浮かんできて、どうにも離れなくなってきた。
そして目の前にある鞘師のセーラー服…
俺はどうにも欲求が抑えられなくなった。
(スマン鞘師、1秒だけだ…)
俺は紙袋の中に顔を突っ込むようにして、思い切り息を吸い込んだ。
どんな匂いがしたかはご想像にお任せしたい。
170
:
1
:2015/08/22(土) 01:06:27
匂いを吸い込んだ後、フル勃起した愚息を鎮めるために、深呼吸すること数秒。
正直まだ半勃起状態ではあったけど、これ以上時間をかけると確実に怪しまれると思って、意を決して俺は準備室を出た。
「それじゃ始めようか」と鞘師。
まだ鞘師にも恥ずかしさが残っているのか、俺を直視はしてこなかったのが幸いだった。
練習は淡々と進んだ。
俺の方もちょっとは慣れてきたおかげで、昨日みたいに手取り足取りは教えてもらわなくても、鞘師の言う通りに大体はできるようになってきた。
嬉しさ半分、残念さ半分、といったところか。
171
:
1
:2015/08/22(土) 01:06:54
そのまましばらく踊った後、鞘師が壁の時計を見て言った。
「まだちょっと時間はあるけど…、今日はキリのいいここまでにしとこうか」
「わかった」
「でも、○○クン、たった二日なのに、結構できるようになったね」
「ホントか!?」 鞘師に褒められたと思って、思わず表情の緩む俺。
「うん。下の下だったのが、下の中くらいにはなってきた」 と、したり顔で採点する鞘師。
「酷えな、下かよ…」 思わず俺が不満そうに言うと、
「ゴメン。でも、まだ始めたばかりなんだから当たり前じゃん…。そんなにすぐに上手くなるなら、私だって苦労しないわよ」と、鞘師は笑った。
172
:
1
:2015/08/22(土) 01:07:15
「あっ、そうか」と俺も笑うと、
「うん、そうだよ。でも、少しずつでも上手くなっているのはホントだから」と、鞘師が優しい表情を俺に見せた。
「そうなのか?」
思わず見つめあう俺と鞘師。
鞘師はまた少し顔を赤くして、慌てたように視線を逸らすと、早口でしゃべり出した。
「そ、そうだ。昨日のことなんだけど…」
「昨日?」
「私、やっぱり悪いことしちゃったかな?」
「…? 何の話?」
俺は鞘師の顔を覗き込んだ。
173
:
1
:2015/08/22(土) 01:07:40
「昨日、家に帰ってからずっと考えてたんだけど?」
「何を?」
「私が〇○クンをダンス部に引き留めたのは、本当に正しかったのかなって…」
「そのことか…」
「うん。せっかく○○クンが『ダンスは楽しい』って言ってくれたんだから、今さらやめて欲しくないと思って、清水先生に逆らったけど…」
「けど?」
「ホントは、○○クンにとっては、迷惑だったんじゃないか、って…」
あのいつも自身満々に見えていた鞘師が、まるで迷子になった子犬のような目で俺のことを見上げてきた。
174
:
1
:2015/08/22(土) 01:08:04
「迷惑だなんて…、鞘師がそんな風に思うことはないよ」
「本当?」
「うん。まあ、正直言って、ここ数日の成り行きには俺が一番戸惑っているんだけど…。ダンスが楽しいって言ったのはウソじゃない。ただ…」
「ただ?」
「俺なんかがいたら、お前の足を引っ張るだけじゃないかって。現にこうやって俺に教えてる間も、自分の練習した方が鞘師にとってはホントはいい筈だろ? むしろそれが心配なんだよ」
俺がそういうと、鞘師は少し怒ったような顔をして俺に言った。
「そんなこと、言わないの!」
「でも…」
「私は一人で優勝したいんじゃなくて、○○クンも含めたうちの学校のダンス好きな仲間全員と、みんなで優勝したいの!」
まっすぐに俺の目をみつめてくる、鞘師の表情が凛々しかった。
175
:
1
:2015/08/22(土) 01:08:22
「そうか…」俺がそういうと、
「うん。でも良かった。迷惑じゃないみたいで…」と、鞘師がホッとしたように言った。
「お前、ずっとそんなこと心配してたの?」
「おかしい?」
「いや…、でも鞘師って、そんな心配するタイプだと思ってなかったから、意外だったわ」
「どういうこと?」
「うん。もっと、何事にも自信満々なヤツかと思い込んでた」
「ひどーい。私全然そんなことないのに…」
「でもたぶん、みんなにそういうイメージ持たれてるぜ」
「私、あんまり顔に出さないだけで、いつもいろんなことにビクビクしてるのに…」
176
:
1
:2015/08/22(土) 01:08:46
鞘師とこんな話をしているのが、素直に楽しかった。
コイツとは、心が通じ合う何かがあるかもしれない、と俺は思った。
(もっと、鞘師のことを知りたいな…)
そう思ったとき、「じゃあ、まだ早いけど、そろそろ教室に戻ろうか…」と鞘師が言った。
「お、おう。それじゃ、俺また写真部の暗室行って着替えるから…」と俺は答えた。
177
:
1
:2015/08/22(土) 01:09:07
暗室に行って、着替えをしていると、さっきの鞘師のブラジャー姿が、また脳裏に蘇ってきた。
そして、あのセーラー服の匂い…。
たちまち元気になってきた愚息を、俺は持て余した。
正直言って…
イメージの鮮明なうちに、俺はこの場で一本抜いてしまいたい気持ちだった。
(やるか…?)
鍵をかければ誰も入ってこないし、換気扇もあるから臭いがこもることもないだろう…。
今着たばかりのズボンを再び脱ぎだす俺。パンツも下ろして、ビンビンになった一物を握りしめると、俺は目を閉じた。
(里保…、里保…!)
その時、トントンと暗室のドアをノックする音が聞こえて、俺は慌てた。
178
:
1
:2015/08/25(火) 03:50:40
「ちょっと待って!」と、俺は叫んだ。
(こんな時に…、どうせまた優樹か…)
俺は急いでパンツを穿いてズボンを上げると、ドアを開けた。
「あのな優樹…」と言いかけてよく見ると、そこにいたのは優樹じゃなくて、真野センセイだった。
「あっ、○○クン…」と、気まずそうに下を向く真野センセイ。
「あっ、真野センセイ、お早うございます」と挨拶しながら、俺も気まずいものを感じていた。
179
:
1
:2015/08/25(火) 03:51:19
「お早う…」と真野ちゃんは答えると、「今ちょっと、買ってきた薬品を置きに来ただけだから…」と、なぜか言いわけでもするように俺に言った。
「あっ、そうなんですか…」と俺。そして、沈黙が流れた。
この気まずい空気は、やはり早めにどうにかしといた方がいい。
それに昨日、嗣永センセイにも「真野ちゃんに優しくしろ」と念を押されていたのだった。
俺は意を決して言った。
「あの、真野センセイ…」
「何?」 警戒した表情の真野ちゃん。
「一昨日は、生意気なこと言って、済みませんでした」
「えっ?」
「俺、あんな風に言うつもりは…」
「あっ、それは私も全然気にしてないから。むしろ取り乱したりして、私の方が悪かったかも…」
明らかに無理に作り笑顔を見せる真野ちゃんだった。
180
:
1
:2015/08/25(火) 03:52:04
「は、はあ…」と、俺が答えると、
「それよりも、早く作品を私に提出してね」と、真野ちゃんは言った。
(結局、そこに話が戻るのか…)
俺は嘆息しかけたけど、それを言い出してはまた元の木阿弥だ。
「わかりました…」と俺が返事をしかけたとき、暗室の前で立ち話をしていた俺たちの眼前に、鞘師が現れた。
「あっ、鞘師…」
「良かった。やっぱりまだここにいた」と鞘師が笑って言った。
「今日の放課後のダンス部の練習、場所が変更になったから教えにきたの」
その時、真野ちゃんが「ダンス部の練習って、いったい何の話?」と、鞘師と俺を交互に見つめた。
181
:
1
:2015/08/25(火) 03:52:33
「あっ、えっと…」と、俺が返事を躊躇ってると、
「○○クン、一昨日から、ダンス部に入ってくれたんです」と、何も知らない鞘師がニコニコしながら真野ちゃんに言った。
(あっ、待て…)と俺が目配せする暇もなく…。
「ちょっと!何それ!そんな話、聞いてないわよ!」と、怖い顔で俺に向き直る真野ちゃん。
「えっ…、どうかしたの…?」と、鞘師が俺に耳打ちしてきた。
182
:
1
:2015/08/25(火) 03:53:16
俺は真野ちゃんと向き合ったまま、鞘師を制するように、後ろ手で鞘師の袖を軽く二回叩いた。
「いろいろあって、ダンス部に入ったんです」 俺がそう言うと、真野ちゃんは、いきり立った。
「『ダンス部に入った』ですって!? あなた自分の立場分かってるの!? 作品もまだ出してないくせに、そんなものなんかに関わってる暇ないでしょう!」
「えっ、『そんなもの』って…?」ぼそりとつぶやく鞘師。
すると、真野ちゃんは鞘師に、
「あなたが〇○クンを誘惑してダンス部なんかに引きずり込んだのね!? あのね、○○クンは写真で忙しいの!」と、決めつけるように言った。
「そんな…、私!」 鞘師が何か言おうとしたので、俺は慌てて二人の間に割って入った。
183
:
1
:2015/08/25(火) 03:53:46
「いや、真野センセイ、鞘師のせいにするのはやめてくれ。ダンス部はあくまで俺がやりたくて、俺の意志で入ったんだから」
「それじゃ写真はどうするつもりなのよ!?」
「もちろんやるけど…」
「けど…、何よ?」
「俺は義務感で写真を撮りたいわけじゃない…」
「あなたまだそんなこと言ってるの!?」
すると突然、今度は鞘師が俺と真野ちゃんの間に割って入ってきた。
184
:
1
:2015/08/25(火) 03:54:23
「真野先生、○○クンにはちゃんと、写真とダンスを両立してもらいますから。認めてください」と、鞘師は真野ちゃんに頭を下げた。
「鞘師…」 そんなことまで言い出す鞘師に、俺は正直すごく驚いた。
真野ちゃんは、「どうして鞘師さんにそんなことが言えるのよ!?」と、怒りが収まらない様子だったけど、
鞘師も、「あの…、○○クンがいい写真撮れるように、私もできることは手伝いますから!」と、一歩も引かない構えだった。
そのまま数秒。
真野ちゃんは「もうそろそろ、職員室戻らなきゃ…」と言うと、「まだ、完全に認めたわけじゃないからね…」と、捨て台詞を吐いて去って行った。
俺と鞘師は思わず見つめあった。
185
:
1
:2015/08/25(火) 03:55:01
「ふーっ」と鞘師はため息を一つついてから、
「あーびっくりした…。ずいぶん変わってるね、真野先生って」と呆れた様子で言った。
「ああ。去年の大会が散々だったから、『何としてでも今年は』って気負いすぎなんだよ。正直俺もすごく困ってる」と、俺は答えてから、
「でも、鞘師があんなことまで言ってくれるとは思わんかったわ」と、つい呟いた。
「あんなこと?」
「俺にいい写真を撮らせるとか」
「言ったじゃん、『キミを守る』って。あっ、でもまた出しゃばっちゃったかな…」
急に不安そうな目で俺を見る鞘師。
俺はそんな鞘師が可愛くなってきて、思わず鞘師の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でた。
「キャッ、髪が乱れる!」
「じゃあ、また放課後な」
「あっ、場所が多目的教室に変わったの。終業式のあと1時半から」
俺は無言で手を上げて、自分の教室に向かった。
186
:
1
:2015/08/25(火) 03:56:02
終業式が終わったのはお昼前だった。
ダンス部だの写真部だので忙しくなるのはわかっていても、やっぱり夏休みだと思うと解放感があった。
「練習1時半からだったよな…。あっ、そういや今日弁当持ってこなかったや。何か外に食いに行くかな…」
俺が独り言を言うと、隣の席のズッキが耳ざとく聞いていたのか、
「ねえ、私もお昼持ってこなかったんだけどさ、一緒に食べに行かない?」と、例の屈託のない笑顔で聞いてきた。
「ん、お前も練習あるのか?」
「うん。演劇部も1時半からだから、結構時間あるし」
「で、何か食いに行きたいものあるの?」
「前から気になってるスープカレー屋さんがあるんだ」
187
:
1
:2015/08/25(火) 03:56:31
「スープカレーか…。別にいいけど。でも、お前大丈夫なの?」
「何が?」
「ホラ、ダイエットしてたんだろ?」
「平気平気。ちゃんと計算して食べて、ちゃんと運動してるから」
ドヤ顔で語るズッキ。
「そういうもんなの?」
「うん。単に食事減らすより、そのほうがいいんだって」
「へえ…、それがこれの秘訣か…」
俺はズッキの爆乳を凝視した。
「もう!またそればっかり! だから、やらしいってば!」
ズッキが俺の背中を叩いた。
188
:
1
:2015/08/25(火) 03:57:22
「で、そのカレー屋って、どこにあるの?」と俺が聞くと、
「ちょっと前に聞いたお店で、私もまだ行ったことないんだけど、駅前の方にあるらしいの。行けばたぶんわかる」
「駅前か…」
学校からはちょっと遠いが、まだ二時間近く時間がある。行き帰りの時間を入れても余裕だろう。
「よし、行くか」と俺は答えた。
二人一緒に玄関を出て、自転車置き場の方に行こうとすると、
「えっ、市電じゃないの?」と聞いてくるズッキ。
「電車賃もったいないから、チャリで行こうぜ」と俺が言うと、
「だって、私電車通学だもん」とズッキが答えた。
「じゃあ、俺の後ろ乗れよ」
「わかった」
ズッキをチャリの後ろに乗せて校門を出ようとしたとき、後ろから「こらあっ!二人乗り!」と叫び声が聞こえた。
たぶん英語の光井センセイだろう。俺は構わずにスピードを上げて通りに出た。
熱風が吹きつけてきたけど、ズッキは「あー、風が気持ちいい」と言った。
189
:
1
:2015/08/25(火) 03:58:04
駅前通りに差し掛かった時には、すでに汗だくになっていた。
「で、カレー屋ってどの辺なの?」
「たぶん、この辺だと思うんだけど…」
「カレー屋なんかないじゃん」
「おっかしいなあ…。あっ、ちょっと止めて! あのお姉さんに聞いてみる!」
ズッキがそう言うので自転車を止めた。
(あれ、ここは…?)
ここは、昨日田村と出会った、「コーヒーとホームメイドパイの店ANGERME」の前だった。
綺麗なお姉さんが店の前の黒板に字を書きこんでいた。
昨日のぽっちゃりしたお姉さんではなくて、もっと痩せてて色黒のお姉さんだった。
着ている服も全然違うのだが、制服が何種類かあるのだろうか…。
<ANGERMEの綺麗なお姉さん・イメージ画像>
http://i.imgur.com/52u0Spo.jpg
190
:
1
:2015/08/25(火) 03:58:39
「あのー、スミマセン、この辺に『スープカレーの店スマイレージ』っていうのがあるって聞いたんですけど、知りませんか?」
と、ズッキが聞くと、
「あー、それうちのことです。どうぞどうぞ。名前が変わったのよ」と、お姉さんが屈託のない表情で答えた。
「えっ、でもカレー食べたいんですけど、『ホームメイドパイ』って…」と、躊躇するズッキを、
「大丈夫!カレーもちゃんとあるから」と、お姉さんは半ば強引に店内に押し込んだ。
慌てて自転車を止めて後を追う俺。
191
:
1
:2015/08/25(火) 03:59:07
お姉さんに案内されて、二人向かい合わせの席に座るズッキと俺だった。
「あの…、ここ昔、『フルーツケーキの店ベリーズ工房』だったところですよね?」と俺が聞くと、
「あっ、よく知ってるのね。オーナーが一緒なんですよ」とお姉さんが微笑んだ。
「そのあと、『スープカレーの店スマイレージ』になったんですか?」と俺が聞くと、横からズッキが、
「えっ、そのあと焼肉屋になってなかったっけ?」と口を挟んだ。
お姉さんはなぜかズッキを睨みつけた後、「スマイレージになって、それからアンジュルムになったのよ」と俺に言った。
192
:
1
:2015/08/25(火) 03:59:44
俺たち二人はスープカレーをオーダーした。
お姉さんがカウンターに戻ってから、俺はズッキに言った。
「この店、田村やりなぷーがバイトしてる店だぜ」
ズッキは、「あー、ここなのかー。噂には聞いてたけど」と答えてから、ぐるりと店内を見回した後、
「何かコンセプトの定まらない店だね」と、小声で俺に囁いた。
「そうだな」と俺も同意した。
「あっ、そうそう。めいめいって言えばさー…」とズッキが話し出した。
「何?」と聞き返しながら水を飲む俺。
「昨日○○クンと相合傘して帰ったんだって?」
俺は思わず水を吹き出しそうになった。
「何で知ってるの?」
「何でって…、今日の演劇部の朝練で、めいめいが嬉しそうに自分で喋ってたもん…」
193
:
1
:2015/08/25(火) 04:00:22
「あいつ、そんなことペラペラと…」と、俺が思わずこぼすと、
「いや、めいめいもペラペラ喋ったわけじゃないの。『昨日雨凄かったね』って話になった時、ついポロっと言っちゃったの。そしたらそれをりなぷーに散々からかわれて…」
と、ズッキが説明しだした。
「しょうがねえな…」
「でも、きっと嬉しかったんだよ、めいめい」
そう言って、ズッキは俺の表情を探るように見てきた。
俺が返答に窮していると、
「めいめいはきっと、○○クンのこと、好きなんだと思うな」と、ズッキが畳み掛けてきた。
194
:
1
:2015/08/25(火) 04:00:52
俺は、また水を噴きそうになった。
「いや、俺と田村は、ガキの頃からの幼馴染だからな。確かに仲はいいけど、お互いそんな気持ちはないと思うぞ」と、平静を装って言った。
とはいえ…
それが明らかに嘘だと言うのは、実は俺自身が一番よく知っていることだった。
雨の中、田村が抱きついてきたときの柔らかい体の感触を思い出して、俺は昨日、家に帰った後、2回もしていたからだった。
と、思い出している今も、ムクムクと愚息が鎌首をもたげてくるのが、正直なところだったのだ。
195
:
1
:2015/08/25(火) 04:01:28
「だけどさ、そうやってめいめいにもちょっかいかけて、里保ちゃんはどうすんの?」
「えっ?」
「里保ちゃんのこと好きなんでしょ?」
ドヤ顔のズッキだった。
「あのなあ…」俺は苦笑した。
「俺は田村のことはいいやつだと思ってるし、鞘師のことも、そう思い始めてる。そういうレベルの話なら、お前のことだって」
「私!?」と、大げさに驚いたふりをするズッキが小憎らしかった。
「うん。そうじゃなきゃ、こんなとこまで一緒にメシ食いにきたりしねえだろ」
「そうなの?」
「うん。でもそれが好きとか嫌いっていう話に関係あるのかどうかなんて、そんなこと俺には分からんけどな」
(俺、自分に嘘をついてるな)と、その時思った。
196
:
1
:2015/08/25(火) 04:02:05
そんなことを話していると、お姉さんが「お待たせしましたー」とカレーを持ってきた。
俺は正直ホッとした。この話題をいつまでも平静に続ける自信がなかったからだ。
「じゃ、食うか」
「うん。いただきまーす」
一口食って、俺たちは顔を見合わせた。
「普通…、だな」
「うん。普通…、だね」
可もなく不可もない、印象の薄い味のカレーだった。
普通のカレーを淡々と食うズッキの表情には、なかなかの味わいがあった。
「おい、一枚撮らせろ」
そういうと、俺は鞄からカメラを取り出して、有無を言わせずシャッターを切った。
「ちょっと何撮ってるのー!ひどいー!」
(使い物になるかどうかはともかく、こうやって写真も少しずつ撮っていかなきゃ)
ズッキの抗議を受け流しながら俺は思った。
197
:
1
:2015/08/25(火) 04:02:31
カレーを食い終わり、学校に戻ってきても、まだ30分以上時間が余っていた。
玄関まで来たところで、ズッキは「じゃ、私は演劇部の練習行くから、ここで」と、別れていった。
(さて、暗室にでも行って時間潰すか。いや、それより、まだ早いけど、一人でダンスの復習でもしておくか。確か多目的教室だったな…)
多目的教室に行ってドアを開けると…
まだ誰も来てないと思ったのに宮本が一人で練習していた。
<一人でダンスの練習をしていた宮本・イメージ動画>
https://youtu.be/ONTflT4Rqtk?t=1315
198
:
1
:2015/08/25(火) 04:03:08
目線が合うと、宮本は練習を止めて、こっちを見た。
俺は少し気まずくなって、「俺、後でまたくるわ」と言って、教室を出ようとしたけど、その時、
「待って!」と宮本が叫んだ。
「えっ?」と、俺が振り返ると、
「○○クン、あのさあ…、ずっと言おうと思ってたんだけどさあ…、何でそうやっていつも私のことだけ避けるわけ!? 前は仲良かったのに、もう半年も口きいてくれないし!」
怒ったような泣きそうな声で、宮本が叫んだ。
「何でって…、お前、俺なんかと話すのイヤなんだろ?」
「何言ってんの!? 意味わかんない!」
199
:
1
:2015/08/25(火) 04:04:05
いや…、意味が分からないのはこっちの方だ。
「お前さ、それは無いんじゃね? 俺が告った時、『○○クンなんか大っ嫌い、顔も見たくない』って言ったの、宮本の方じゃん」
言っててミジメさを噛み締める俺だったのだが、宮本の返事は想像を絶するものだった。
「えっ?あの…? あれ、まさか…、もしかして本気…、だったの!?」
宮本は両手で頬っぺたを抑えて突然、うろたえ始めた。
200
:
1
:2015/08/25(火) 04:04:49
「『本気か?』だって!? お前、冗談であんなこと言えると思ってんのかよ?」
思わず声を荒げる俺。
「えっ!?だって、だって…。あの日、朝から男子たちが次から次に私のこと呼び出しては、『好きだ』とか『付き合って』とか言ってきて…」
「?」
「最初のうちはちゃんとまじめに断ってたけど、10人目くらいから、『男子がみんなで示し合わせて、私のことからかって遊んでるんだ』って気がついて…」
「何!?」
「で、○○クンで15人目。あんなに仲の良かった○○クンまで私のことそんな風に馬鹿にするなんて、絶対に許せなかったんだもん!」
201
:
1
:2015/08/25(火) 04:05:30
俺は呆気にとられた。
確かにあの宿泊研修の晩、盛り上がった野郎どもの中には、「明日宮本に絶対告白する」と、息巻いていた連中もいたけれど、
俺が後日聞いた情報では、次の日に実際に告って玉砕したのは、確か俺を入れて3人のはずだったのだが…。
そういえば昨日、植村さんと話した時に、植村さんは「佳林はこの一年で10人くらいから告白された」とか言っていたから、一瞬「おや」とは思っていたのだ。
(実際は1日で15人かよ…)
そこまで考えていると、
「怒ってる…、よね?」と、宮本が恐る恐ると言った感じで、俺の目を覗き込んできた。
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