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从 ゚∀从二人暮らしのようです(-_-)
1
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 10:11:46 ID:KbZp5als0
※ハートフル同棲ものですが少しエロがあります
252
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:39:22 ID:bLfC7y560
鍵をかけて部屋に入る。幸いにも誰にも会わなかった。
トソンは靴を脱いできょろきょろと部屋の中を眺めている。普通のワンケーの部屋であり特徴のようなものもない。
ましてこれまで相鉄線沿線のマンション暮らし、最近では横浜山手の邸宅で暮らしていたトソンにとっては狭く感じるだろう。
更に帰宅して衝動的に飛び出してきたのでスーツは脱ぎ捨てられたままだ。部屋も完璧に片付いている訳ではない。
(´・_ゝ・`)「君の制服でない姿は初めてだ」
(゚、゚トソン「デミタスさんこそスーツでない姿は初めて見ます」
お互い笑い合う。笑い合って、トソンが先に言葉を失った。
(´・_ゝ・`)「どうしたんだ」
(゚、゚トソン「…寂しかった」
(´・_ゝ・`)「寂しかった」
(゚、゚トソン「会いたかった」
(´・_ゝ・`)「会いたかった」
(゚、゚トソン「だけど自分からは言い出せませんでした。 未練がましく連絡先も消せなかったのに、巻き込みたくないと思っていました」
(´・_ゝ・`)「あぁ」
(-、-トソン「だから本当に、嬉しかったんです」
トソンの肩が震える。ぼくはその華奢な肩をそっと抱いた。
静かに泣くトソンの頭を撫でる。早く、早くこうするべきだった。
しかしもう後悔しても遅い。これから後悔しないようにしなければならない。
トソンを強く抱きしめるのはその決意のあらわれのようでもあった。
253
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:42:06 ID:bLfC7y560
それからトソンとセックスをした。制服を身につけないとても普通のセックス。
互いに身に着けていたものを全て脱いで裸でセックスをした。
まさぐりあい埋め合うように二人で何度も交わった。
今日は控えるべきなのでは、と思ったがトソンは求め続けた。
貪欲に欲しがりぼくはそれに応えようと善処した。
そうする事で書き換えなんてものは出来やしない。
出来るとすれば上書きだ。それでも構わないと思った。
交わって、果てて、交わって、果てて、ぼくとトソンは沈み込むように眠った。
目を覚ますともう夜明けが近い事が分かった。カーテンを引くとうっすら明るくなっている。
新しい朝。新しい旅立ち。ぼくとトソンは今日から生まれ変わるのだ。全てを捨てて。
(´・_ゝ・`)「遠くへ行こう」
二人分のコーヒーを入れる。トソンには好みを訊いてたっぷりのミルクを注ぐ。
(´・_ゝ・`)「君が昨夜急に家を飛び出して、家の人は行方不明届けを出しているだろうか」
(゚、゚トソン「恐らくは」
(´・_ゝ・`)「君とぼくの繋がりは残していない。 君のぼくのコンタクトは全て携帯電話で行われた。
その携帯電話は君が持っている。 電源は家を出てすぐのところで切られている」
(゚、゚トソン「はい」
(´・_ゝ・`)「家出か拉致か迷うところだ。 更に君は自分の意志で家の門を出ている」
(゚、゚トソン「監視カメラに映っています。 デミタスさんの車は映っていないはず」
(´・_ゝ・`)「そして家の方も家主が君を抱いていたというやましい点がある。 それが苦痛で家出をしたと考えているかもしれない」
(゚、゚トソン「それが一番考えられると思います」
熱いコーヒーを飲む。トソンは猫舌のようで慎重に冷ましてから少し口をつける。
(´・_ゝ・`)「どこか遠くに行こう」
(゚、゚トソン「どこか遠く」
(´・_ゝ・`)「ぼく達の事を誰も知らないどこか遠くへ」
254
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:43:57 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「いいと思います」
(´・_ゝ・`)「せっかくだし、どこか行ってみたいところはあるかい」
(゚、゚トソン「父は多忙でしたが旅行好きで、色々なところに連れて行ってもらいました。 国内だと沖縄、北海道、神戸、京都、松山、青森、名古屋…」
(´・_ゝ・`)「殆ど行っているみたいだね」
(゚、゚トソン「あぁ、でも九州には行った事がありません。 縁がありませんでした」
(´・_ゝ・`)「九州か。 いいな、とても遠い」
(゚、゚トソン「遠いですよね」
(´・_ゝ・`)「いいんだ、遠い。 ぼく達の事を誰も知らない」
もう振り向く事もない。留まる事も必要ない。
(´・_ゝ・`)「行こう、九州」
(゚、゚トソン「今からですか」
(´・_ゝ・`)「早い方がいいさ。 君の日用品はきちんと買い揃えよう」
(゚、゚トソン「でも」
(´・_ゝ・`)「いいんだ。 君を放したくない。 一緒に行こう」
(゚、゚トソン「はい」
255
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:45:44 ID:bLfC7y560
職場に今日は体調不良で休むと連絡をする。明日朝までの勤務で明後日以降は怪しまれるだろう。
キャリー・バッグに荷物をまとめてスバル・レガシィに積み込む。トソンの日用品はどこかのドラッグ・ストアで買おう。
まだ夜は明けたばかりで住人が出てくる気配はない。素早くトソンを車に乗せてアパートを発った。
谷津船橋インターチェンジから東関東道に入り湾岸線に出る。有明ジャンクションからレインボー・ブリッジを渡る。
レインボー・ブリッジから日の出が見える。東京の摩天楼はようやく眠りから覚めようとしている。
その眠りから街が覚めない内にぼく達は慣れ親しんだ東京を出て行ってしまう。アクセルを踏み込み、街を置き去りにする。
渋滞名所の浜崎橋ジャンクションも全く混雑がない。交通量は極めて少なく快適に都心を横断する事が出来る。
回送表示のタクシーやトラックがいつもよりスピードを上げて走っていく。渋谷の開けた谷間を通り過ぎる。
マークシティから出庫してきた銀座線の奇抜な色の車両がビルの中に設けられた駅へゆっくり入っていった。
用賀を過ぎてそのまま東名高速道路へ入った。東京インターチェンジからの合流で三車線の道路が始まる。
御殿場から新東名高速道路に入る。駿河湾沼津サービス・エリアでいったん休憩して更に西へ進む。
足柄付近で急カーブの連続だった東名高速と比べて新東名はそれほどのカーブも勾配もなく走りやすい。
三車線区間と二車線区間が交互にやって来るが全線で三車線に出来るスペースは確保されている。
浜松サービス・エリアを出て二月に開通したばかりの区間を通りそのまま伊勢湾岸自動車道に入る。
三つの橋が連なる名港トリトンで名古屋港を一気に駆け抜ける。
東名阪自動車道で流れが悪くなり新名神高速道路でまた一気に流れる。
土山サービス・エリアで刈谷パーキング・エリア以来の休憩を取った。
東京を出て六時間が過ぎていた。そこで昼食にする。
もう関西地方なのだ。西日本までやって来た。
夜が明けるまで東京にいたとは思えないところまで来た。
(゚、゚トソン「随分と遠くまで来ましたね」
(´・_ゝ・`)「あぁ」
256
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:48:39 ID:bLfC7y560
上下線集約型の土山サービス・エリアのフード・コートで食事を取る。
凝り固まった身体の筋肉をほぐす。長時間の運転で全身が痛い。
普段これほどに長時間運転する事はなく慣れていないせいでもある。
毎日のように長距離を行き来するトラックドライバー達は大したものだ。
サービス・エリアで休憩するたび身体を伸ばしていたがそれでも疲労は溜まっている。
(゚、゚トソン「お疲れのようです」
(´・_ゝ・`)「もう若くないのだと痛感したよ」
三十代に入ってから一気に体力の衰えを感じていた。
間もなく四十代だ。こればかりは考えると気が滅入りそうになる。
(゚、゚トソン「今日はもうやめておきますか」
(´・_ゝ・`)「うん、そうだね、この辺りで泊まろう」
携帯電話で駐車場付きのビジネス・ホテルを探す。
この辺りとは言ってもまだ滋賀県に入ったばかりの山間部なのでその先の大津や草津で探す事にする。
ラブ・ホテルならば駐車場が自動的に用意されている。しかし宿泊ならばやはり普通のビジネス・ホテルの方が好ましい気がした。
結局、大津市内のビジネス・ホテルが良さそうだったのでそこに決める。名神高速道路のインターチェンジからもほど近い。
昼食を終えて車に戻る。柔らかいクッションの購入を真剣に検討する必要がありそうだ。
部分開通の新名神高速道路は草津で終わり、名神高速道路に合流する。
サービス・エリアと併設の大津インターチェンジで遂に高速道路を降りる。
一般道に出て下り坂を進むとすぐに市街地に出る。大津市の市街地は山と湖に挟まれているようだ。
道なりに進んでいくと琵琶湖が見えてくる。先にドラッグ・ストアに立ち寄りトソンの日用品を買い揃える。
予約をしておいた東横インは駅からも近く国道沿いにあった。国道の中央には線路が伸びている。
路面電車でも来るのかと信号待ちの間に待っていると駅から四両編成の普通の列車が走っていく。
道路の上を普通の列車が走るのも衝撃だが急カーブをなんとか曲がっていくのも驚きだ。
東横インにはタワー駐車場がありそこに車を停めてチェック・インを済ませる。
257
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:51:34 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「お疲れ様でした」
(´・_ゝ・`)「いやぁ、疲れた」
ベッドに座って深く息をついた。テレビの電源を入れてみると放送局が関東とは違うので戸惑う。
チャンネル一番はやはりNHKだがそれ以外の大手民放は順番が違い混乱する。
(゚、゚トソン「難しいですね」
(´・_ゝ・`)「難しいな」
せっかくなので琵琶湖を見に行く。
中央に線路が敷かれている国道を歩いていくと湖の畔に設けられた駅に出る。
そこで線路は交差点を横切る形で大きく曲がっているため電線が多く張り巡らされている。
歩道橋に上がると駅に繋がっていた。時刻表や運賃表を見ると先ほどの四両編成は京都まで行くようだ。
琵琶湖の近くで道路の上を路面電車のように走り、県境では山間の急勾配を走り、京都市内では地下鉄として走るらしい。
随分とマルチな活躍をするのだと思った。琵琶湖を映したような水色の四両編成は鐘のような警笛を鳴らしながら交差点に入っていく。
歩道橋は駅を出てもペデストリアンデッキとなって続き、そこから広大な琵琶湖を見渡す事が出来た。
吹き付ける風は強すぎずむしろ気持ちいいぐらいだった。
(´・_ゝ・`)「琵琶湖を初めて見たよ」
(゚、゚トソン「琵琶湖の下の方は結構絞られて狭くなっています。 彦根とか長浜の方が大きく見えますよ」
(´・_ゝ・`)「そうなのか。 ここだけでも海みたいに見えるけどね」
駅近くの洋食屋で夕食にする。瑞々しくカラフルなテリーヌが目を引いた。
昨晩にトソンを攫ってからもう丸一日が経とうとしている。
今朝まで東京で今では大津だ。遠いところまで来た。
しかし目指すべき九州はもっともっと先だ。
258
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:54:27 ID:bLfC7y560
ぼくは会社に体調不良を言って休んだがこの言い訳は長くは持たない。
トソンの方も家出か事件か判断をしかねているだろう。
どちらも時間が経過すると共にこれはおかしいと気づかれるはずだ。
しかしぼくとトソンの関係性については何も残っていないはずだ。
関東から同じ日に二人が失踪しただけだ。
その間にぼくとトソンは遠い異郷の地に行ってしまうのだ。
(´・_ゝ・`)「せっかくだから、明日は四国でも寄って行こうかな」
(゚、゚トソン「四国ですか」
(´・_ゝ・`)「行った事がないんだ。 あの大きな橋もテレビでしか見た事がない」
(゚、゚トソン「高松へ行った時は列車で、松山へ行った時は飛行機でした。 車で行くのは初めてです」
(´・_ゝ・`)「せっかくだしな」
駅から東横インへ歩いていく。国道に敷かれた線路を四両編成の列車がゆっくりと走っていく。
車用に設置された信号機が赤に変わり並走する車と共に横断歩道の前で停車する。
青信号に変わると鐘の音のような警笛を鳴らしながら列車は発車していく。
もう少し行った先で列車は身をよじらせて国道から離れていった。
部屋に戻ってシャワーを浴びた。それからトソンとセックスをした。
シャワーからトソンは何も身につけずに出てきた。ぼくも裸でそれを待っていた。
ぼくは制服が好きだ。女子高生が好きだ。それは今でも変わっていない。
何年も積み重ねてきた性癖は簡単に消えたりはしない。
それでもトソンとは制服を介さずともセックスしたいと思った。
気がつけば一人の女性として愛していた。
(゚、゚トソン「父との行為は日常的なものであったし私もその時間は好きでした」
(´・_ゝ・`)「お父さんと一つになれる」
259
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:58:18 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「一つになる前の時間も、一つになっている瞬間も、終わった後の時間も好きでした」
胸元までシーツを持ってきてトソンはぼくの胸に顔を寄せた。
(゚、゚トソン「脳卒中で倒れてからあっという間でした、。 その予兆もありませんでした。 何の前触れもなく。 文字通り私は急に父を失ってしまいました。
気持ちの整理がつかないうちにあの人に話を持ちかけられました。 そこには直接的な表現でないものの私が身体を差し出す必要があると示唆しました」
それが前に語った通り、トソンが当てつけとして援助交際に名乗りを上げた理由だ。
(゚、゚トソン「そしてデミタスさんと会いました。 初めて父以外と。 その時点で愛していた訳でもない人と」
(´・_ゝ・`)「ぼくは驚いたんだ。 こんな性的なものとは無縁そうなお嬢様学校の生徒がこれほど上手にするものかと」
(゚、゚トソン「父は本当に色々な事を私に教えました。 見方によれば妻を亡くした男が娘を都合の良いように教育しただけに過ぎないのかもしれません。
それでも私は父が好きでしたし求められればその分応えたかったのです。 二人だけの家庭においてそれは日常の一部でした」
トソンに様々なものを与え、トソンにとっての全てであり、急に去ってしまった父親。ぼくは彼を想像する。
父親である以上に彼は娘を愛した。トソンの家族としての愛情も恋としての愛情も彼のものだった。
彼はトソンにとっての全てであったしトソンの全てを持っていた。
(゚、゚トソン「普通は出会ったお互いを知って恋をして一つになる。 だけど私達は逆から始めてしまいましたね」
(´・_ゝ・`)「そうだな。 だからぼくは君を抱いても君の中まで見られないような気がしていた。 実際そうなんだ。
いくらセックスをしても本当に相手の全てが分かる訳ではない。 考えている事が手に取るように分かる事もない」
(゚、゚トソン「正直なところ私は本当に好きになってしまうとは思っていませんでした。 まだ父がこの世を去ってからじゅうぶんな時間が経った訳でもない」
(´・_ゝ・`)「君は父親とずっと繋がっていたから、急にそれが断ち切られてしまったんだ。 そしてぼくと繋がるようになった。 誰かと繋がっていていたかった」
260
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:02:07 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「そうなのかもしれません」
トソンが顔を寄せる。確かめるように少し唇を合わせ、今度は時間をかけて唇を重ねる。
(゚、゚トソン「だけどあの時、デミタスさんに打ち明けた時は、当てつけとして利用した罪悪感もありましたし、純粋に話したかったんです。
そしてデミタスさんなら良かったのにと、本当に思いました」
(´・_ゝ・`)「ぼくは怯えてしまった。 早く決心すれば君が傷つく事はなかった」
(゚、゚トソン「いいんです。 今こうして二人でいられるのなら」
翌朝チェック・アウトを済ませて東横インを出た。タワー駐車場からスバル・レガシィを出庫させ西を目指す。
大津インターチェンジから再び名神高速道路に乗る。吹田サービス・エリアで休憩をしてから終点の西宮インターチェンジに到達する。
そこから阪神高速道路神戸線に乗り継ぎが出来る。神戸市街地を眺めながら二車線の道路が続く。
市街地を横断する神戸線は防音壁が高く、更に海寄りにもう一つ道路がありそちらの方は眺めが良さそうだった。
やがて山間部に入り関西の象徴ホームセンター・コーナンを横目に分岐すると美しい形の垂水ジャンクションに入る。
ジャンクションの先は長いトンネルで変化のない景色は眠気を誘った。遠い先にようやく光が見えてくる。
長いトンネルを抜けるともう明石海峡大橋が目前に迫っていた。トンネルを出るとすぐに橋を渡り始めるのだ。
世界最長の単独吊り橋で長さはおよそ四キロメートルにも及ぶ。そこから眺める明石海峡は格別だ。
橋を支える二つの主塔は高さ三百メートルほどあり、これは横浜ランドマークタワーと同じほどだ。
渡り終えてすぐの場所に設置された淡路サービス・エリアで停まり橋を眺める。
再び走りだし淡路島を抜けて大鳴門橋を渡るとようやく四国に入る。
徳島へ向かう真新しい道路との分岐を過ぎると片側一車線の対面通行となる。
実質高速道路に組み込まれている有料道路区間にある津田の松原サービス・エリアで昼食にする。
坂出ジャンクションから瀬戸大橋に入り四国を出る。瀬戸大橋は瀬戸内海に架かる幾つもの橋の総称だ。
瀬戸内海に浮かぶ途中の与島にはパーキング・エリアが設置されていて立ち寄る事が出来る。
その日は広島で泊まる。テレビでニュース番組を見ていたが世間は平和だ。
それに地方はローカル局の番組が多くなかなか全国区の番組をやっていない。
翌朝広島を発ち、昼前に壇ノ浦パーキング・エリアに着いた。本州最後の休憩施設だ。
車を停めるとすぐ眼前に関門橋がどかんと構えている。これを越えれば九州だ。
展望スペースへ降りて暫く関門海峡を眺めた。大きな船舶が行き来していく。
これまでに通ってきた明石海峡や瀬戸内海と比べると対岸までの距離は近い。
向こう側の九州の様子がよく分かる。
261
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:04:41 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「壇ノ浦の戦いで有名なところだね」
(゚、゚トソン「はい」
(´・_ゝ・`)「もう少しで九州だね」
(゚、゚トソン「ここまで来ましたね」
(´・_ゝ・`)「九州で行ってみたい場所はあるかい?」
(゚、゚トソン「熊本城ですかね…あとは長崎鼻に」
(´・_ゝ・`)「長崎鼻?」
(゚、゚トソン「鹿児島県の南端にある九州最南端です」
(´・_ゝ・`)「いいね、文字通り地の果てという訳だ」
壇ノ浦パーキング・エリアを出て出発する。
関門橋を越える。遂に九州に入る。陸路で行ける果てだ。
山口で山陽自動車道から乗り継いだ中国自動車道は九州自動車道に名前を変える。
九州自動車道は大合併で広大な土地を持つ北九州の市街地を迂回するように通り過ぎる。
福岡インターチェンジで九州自動車道を降りて福岡都市高速道路へ乗り継いだ。
西鉄天神駅近くの駐車場に車を停めて福岡の市街地を散策した。
九州とはいえ市街地は本州とさほど変わらない。どこまでもビルが続く。
道路脇には色とりどりのタクシーが並び路線バスが長い列を作っている。
他の大都市と比べて福岡の空港は市街地のすぐ隣にあって飛行機が近くに見える。
食事をして駅近くの西鉄インで一泊する。カーテンを開くと西鉄の線路がすぐ下を走っていた。
翌日に再び福岡都市高速道路に乗り南下する。市街地に隣接する福岡空港のすぐ隣を通る。
フェンスのない場所から国際線ターミナルが見えた。そのまま終点まで進み国道三号線に出る。
西鉄太宰府線を越えて左折して大型駐車場に停めた。石畳の参道を歩いて奥へ進む。
(゚、゚トソン「太宰府天満宮は一度行ってみたかったんです」
(´・_ゝ・`)「ぼくもいつか九州に行く機会があれば行ってみたいと思っていたんだ」
262
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:08:26 ID:bLfC7y560
平日という事もあり境内はそれほど混んでいなかった。三が日などには初詣客でごった返すのだという。
五月の大型連休も終わりここからは休日の一つもない退屈な日々だ。更に梅雨も控えている。
本殿に着いてトソンに硬貨を渡して一緒に放る。手を合わせて静かな時間が訪れる。
祀られているのは菅原道真で、学問の神として全国的に有名だ。
トソンは一体何を祈ったのだろうか。大学進学についてだろうか。
今こうしてぼくと生活を共にしている間、トソンは学校を休んでいる。
トソンは家を出た直後からずっと携帯電話の電源を切ったままだ。
勿論無断欠席という訳ではなく家の者が何か理由をつけて学校に連絡をしているだろう。
こうしてぼくといわば駆け落ちのような状態が続いている以上は学校という日常にも戻らない。
それでもトソンはその日常に戻った先での大学進学という至極まっとうな目標を祈っているのだろうか。
別にぼくとの関係の継続をトソンにも祈って欲しいだとか、そういう押し付けがましい高校生じみた希望がある訳ではない。
ただ純粋に気になるのだ。そもそもこの逃避行はおそらくは永続する事のないものだ。それはぼくもトソンも心のどこかでは冷静に理解している。
ぼくはトソンを助けたかった。トソンはあの男から逃げたかった。ぼくはトソンを愛していた。トソンもぼくを愛していた。
二人で誰も知らない場所へ行きたかった。しかしそれは永遠に続く事はないだろう。トソンの家の者は捜索願を出しているだろう。
ぼくの行為は拉致だ。略取・誘拐罪として検挙されるだろう。いつかぼくとトソンの繋がりがどこかから調べ上げられてたどり着かれるかもしれない。
職場には体調不良だと言い続けているがそろそろ限界だろう。昨日から着信が多くなり電源を切ってしまった。
緊急連絡先として住所を職場に提出しているのでそのうち上司がやって来るはずだ。そこにはぼくも車もない。
上司はようやく異変に気づく。ぼくも捜索願を出されるかもしれない。そう考え始めるとぼくとトソンの時間は極めて有限である気がする。
少しでも長くトソンといられるように。ぼくは願う。きっといつかトソンはあの邸宅に連れ戻される。あの男の元へ戻される。
トソンの望まない環境に戻される。どういう形になるかは分からないけれど。せめて少しでも長くこうしていたい。
263
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:10:21 ID:bLfC7y560
幼稚な考えだと分かっていた。トソンを助けたいという気持ちだけでここまで来た。誰もがぼく達の知らない場所へ。
しかし将来的な展望などはそこにない。行き当たりばったりの逃避行だ。果てまでたどり着いてその先にどうするのか。
どうやって生活していくのか。いずれ貯金は尽きる。会社から解雇通知が来る。頭でそんな当然の未来は理解しているのだ。
それでももう後戻りは出来ないとトソンを邸宅から連れ出して横浜ベイブリッジを渡った時に覚悟したのだ。
(´・_ゝ・`)「行こうか」
(゚、゚トソン「はい」
ぼくは結局トソンが何をお願いしたのか訊かなかったしトソンもぼくに訊かなかった。
九州自動車道に戻って南下を続ける。熊本インターチェンジで降りて市街地へ向かう。
駐車場に車を停めてトソンが見てみたいと言っていた熊本城に行く。
それから繁華街を歩いてみた。熊本もJRの駅と中心地は離れているようだった。
新幹線もある熊本駅からは路面電車が繁華街の方へ続いている。
古い単行の列車もあれば黒塗りの豪華絢爛といった列車も走っている。
散策をしているともう遅い時間となったので熊本で泊まる事にする。
繁華街にある三井ガーデンホテルに予約をして駐車場に車を入れた。
もう熊本なのだ。もう一つ南下すると鹿児島に入る。果ての地、長崎鼻まで間もなくだ。
そこでいったんぼく達の旅は終わる。果てに着いてしまえばその先はない。
それからの事も考えていなかった。トソンを助け出し、一緒に逃げ、果てに着く。
そうしてどうするのか。明確なビジョンなんて持っていなかった。
しかし必ずその先というのは存在するのだ。どういう形であれ存在する。待ち構えている。
ホテルでぼくはトソンとセックスをする。一日の運転の疲れを癒やすようにトソンは労る。
こんな日々がずっと続いていけばいいと思っていた。果てに着いてしまうのならばまた一周すればいいと思った。
二人で日本一周でもしようかとすら思った。しかしそれは違うのだ。時間の引き伸ばしにしかならないのだ。
ぼくはトソンを助けたかった。助け出した。しかしそれは一時的なものに過ぎない。本質的なものは解決されない。
現実からトソンを隠匿しているだけだ。いずれ終焉が来るものだ。分かっているのだ。
264
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:12:50 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「ねぇトソン」
(゚、゚トソン「はい」
(´・_ゝ・`)「明日にはきっと長崎鼻に着くよ。 九州最南端に」
(゚、゚トソン「なんだか旅の終わりみたいですね」
(´・_ゝ・`)「あぁ、本当だ」
ぼくの腕に絡まるトソンの頭を撫でる。この時が永久に続けば。しかし永遠なんて存在しない。
そのうちトソンは眠ってしまったようだった。小さく寝息をたて始めた。
ぼくはトソンを助けたかったし、守りたいのだ。しかしこの状況は最善ではない。
ようやく決心をする。トソンのより良い未来のために。輝かしい未来のために。
せめて今日ばかりはこうしてトソンとのゆったりとした時間を楽しみたいと思った。
翌日、熊本から九州自動車道に乗る。南下して県境を越え霧島山を横目に最後の鹿児島県に入る。
海に突き当たり鹿児島湾に寄り添うように九州自動車道はやんわりとカーブする。
鹿児島インターチェンジで九州自動車道の終点を迎える。
吹田から続く中国自動車道から関門橋より託された道路もここで終わりだ。
道路はそのまま指宿スカイラインとしてもう少し続く。
途中からそれまでの高速道路とは異なり一般的な有料道路らしい形態になる。
ETCにすら対応していない終点の料金所を越えるといよいよ道路も終わる。
夜明け前の谷津船橋インターチェンジから。東名高速道路の起点東京インターチェンジから。
随分と走ってきたものだ。長い旅だった気がする。何度も給油が必要であったし時間もかかった。
後は地の果てまで一般道路を走るだけだ。途中の大きな湖が見られる駐車場で停まった。
トイレに行くと言ってトソンを車に残してぼくは携帯電話の電源を数日ぶりに入れる。
そしてどの着信履歴とも違う番号に連絡をする。そして車に戻って最後の地を目指した。
長崎鼻入口という分かりやすい交差点で曲がる。もう夕方となっていた。
奥には綺麗な形をした開聞岳が見える。半島の先端に近づくにつれ左右が狭くなる。
やがて道路は一本だけになった。そして道路が終わり脇にあった駐車場に車を停めた。
まさしく終着地だ。地の果て。旅のゴール地点。遂にここまで来てしまった。
車を降りて歩いてその先を目指した。先には白い灯台が建っていた。
更にその先にごつごつとした岩が海に張り出していた。その先へ岩に注意しながら歩く。
そして遂に赤い岩の先端にたどり着いた。もうこの先には何もない。
夕陽に照らされて海が輝いている。奥で形の綺麗な開聞岳が佇んでいる。
地の果て。これ以上はもうどこにも行けない。ゴール。行き止まり。
265
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:14:35 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「ここまで来ましたね」
(´・_ゝ・`)「ここまで来たな」
(゚、゚トソン「なんだか感慨深いです」
(´・_ゝ・`)「あぁ。 トソン、ぼくは君に会えて良かったよ。 出会えて良かった。
ずっと女子高生と援助交際をしているような男がようやく一人の女性を愛したいと思った」
(゚、゚トソン「私もデミタスさんに出会えて良かったです。 自暴自棄になって掲示板に書き込んで、ここまで来るとは思いませんでした」
(´・_ゝ・`)「ある意味では運命的だ。 ぼくは新たな援助交際のパートナーを探していて、君は自棄になり当てつけで掲示板に書き込んだ」
(゚、゚トソン「それでもデミタスさんが一番誠実そうな方だと思ったからです。 援助交際で誠実そうかどうかで判断するなんて変な話ですが」
(´・_ゝ・`)「本当に考えれば考えるほどよく出会えたものだ。 まぁ男女の出会いなんてどれも運命的でロマンチックなものなんだろうけど」
(゚、゚トソン「たとえ援助交際だとしても」
(´・_ゝ・`)「全くだよ。 もしも違う出会い方をしていれば、とぼくは今でも思う」
(゚、゚トソン「違う出会い方」
トソンが繰り返す。
(´・_ゝ・`)「あぁ、違う出会い方。 たとえばぼくは普通の青年で君は女子高生でなく普通の大人の女性だったならば」
(゚、゚トソン「だったならば?」
(´・_ゝ・`)「きっと普通の男女の関係になれたのかもしれない」
266
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:16:45 ID:bLfC7y560
あくまで仮定の話だ。違う出会い方をしていれば、抱えている問題も環境も違ったかもしれない。
このような結末をたどる事もなかったのかもしれない。
けれどぼくが好きなのは女子高生で、その仮定はやはり仮定の域を出ない。
(´・_ゝ・`)「でも実際は女子高生しか愛せなかった男と未成年の女の子だ」
だから。そこで区切る。きっとお互い分かっていた事だ。
(´・_ゝ・`)「この関係は永続するものではない」
トソンは何も言わずに海を見ていた。この海の先にあるのは屋久島に種子島、奄美大島に沖縄の南西諸島だ。
道路はここで終わりこの先に行けなくとも土地も生活もまだ続いている。二人で行く機会があればきっと楽しいだろう。
(´・_ゝ・`)「間もなくこの逃避行という非日常は終わる。 君はこれから日常に帰る。
また普通に高校に通い、大学へ進学して、希望の進路へと進む」
(゚、゚トソン「私は、デミタスさんと一緒に」
(´・_ゝ・`)「いいや、君には未来がある。 今の生活を続けていくのはその未来を閉ざす事になる。 君の将来を思うこそなんだ」
(゚、゚トソン「どうして」
(´・_ゝ・`)「分かるんだ、ぼくみたいに十年近く援助交際を続けて何人もの女子高生と接していると分かる。 君のような年齢の判断能力はとても低い。
君は同じ年齢の子と比べるとしっかりしているし大人びているけれど、それでも長期的なビジョンを見据えた時の判断能力は低いんだ。
それを食い物にしてきたぼくが言うのもおこがましい事なんだが、ぼく達大人がそれを正して補助しなくてはならない」
(゚、゚トソン「そんな…」
(´・_ゝ・`)「今日までの日々が間違いだったとは言わない。 ぼくは後悔していないし、楽しかった。
だけど君は元の日常に戻らないといけない」
(゚、゚トソン「でも今になって」
267
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:18:34 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「大丈夫だ、ぼくは誘拐犯で君は連れ回された。 そういう構図になる。 君は被害者だ」
(゚、゚トソン「デミタスさんを犠牲にするも同然ではありませんか」
(´・_ゝ・`)「実際に罰せられるのはぼくだよ。 援助交際に未成年の誘拐と連れ回し。 紛れも無く犯罪だ」
トソンは守られる。奇異の目で見られるかもしれないが、守られるのだ。
(´・_ゝ・`)「ぼくは君があの邸宅で受けていた仕打ちを話す。 この誘拐がその仕打ちから救い出すべく行われたものだと話すよ。
そして君も正直に全て話すんだ」
(゚、゚トソン「私も、話す」
(´・_ゝ・`)「そうだ。 君をあの邸宅から攫った事で風穴ぐらいは開けられただろう。 そして、そうして警察に話す事でこの逃避行は完遂するんだ」
それでも揉み消されるかもしれない。抹殺されてしまうのかもしれない。
もっと確固たる証拠を掴んで突きつけてやるとか、そういう根本的な解決が出来たら良かった。
しかしセキュリティが強固で閉鎖的な邸宅でそれは叶わない。
(゚、゚トソン「デミタスさん、私は離れたくないんです」
(´・_ゝ・`)「そう言ってくれるのは本当に嬉しい」
ぼくは本当に嬉しい。十年近く援助交際を続けてきて、ここまで心を通わせた子はいなかった。
そもそもいずれ大人になってしまう女子高生には恋愛感情を抱かないようにしてきたせいでもある。
だから今になってこれほどに誰かの事を思う時が来るとは思わなかった。我ながら驚くばかりだ。
トソンの未来のためならばぼくは進んで犠牲になる。それは傲慢ながらこれまでの贖罪にも繋がるだろう。
十年あまり援助交際を続けて己の欲求を満たしながらもどこかでいつかは手を打たなければならないと思っていた。
まさに今がその時なのだと思う。これまでの自分の行いが清浄化される訳ではない。それでも構わない。
トソンが救えるのなら。トソンの未来を少しでも良いものに変えられるのなら。
何せトソンはまだ十代の女子高生だ。未来はどの方向にも繋がっている。
268
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:22:27 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「ありがとう、トソン。 どうか幸せに」
(゚、゚トソン「どうして、今生の別れみたいではないですか」
(´・_ゝ・`)「それに等しいものさ」
ぼくは振り返って両手を挙げる。
(´・_ゝ・`)「投降します」
長崎鼻の灯台の前に何人もの警察官が構えていた。大きな湖が見られる駐車場でぼくが携帯電話で通報した警察だ。
背後に忍び寄る存在に気がついていなかったトソンは驚いて周囲を見渡した。
最南端の地の果て、海に囲まれた岩場の先端。完全に警察官に包囲されている。
(´・_ゝ・`)「これでぼくは誘拐犯、君は攫われた被害者だ」
(゚、゚トソン「そんな、デミタスさん、これでは」
(´・_ゝ・`)「いいんだ」
トソンが女性警察官に保護される。ぼくには男性警察官がやって来て、手を取る。
/ ゚、。 /「先程電話で通報したデミタスさんでよろしいですか?」
(´・_ゝ・`)「はい。 ぼくがデミタスです。 彼女はトソン。 ぼくが誘拐しました」
/ ゚、。 /「分かりました。 ではデミタス容疑者、略取・誘拐罪で十七時四分、現行犯逮捕します」
手錠がかけられる。テレビ・ドラマなどでよく見る銀色のものでなく黒い手錠だった。
トソンの方を見る。女性警察官に保護されたトソンは泣きそうな顔をしていた。
そんな弱々しい表情を初めて見た。胸を締め付けられる。きっとこれが最後に見る彼女の顔だ。
269
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:26:16 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「さようなら、トソン」
警察官に手を引かれながらぼくは言う。
(´・_ゝ・`)「君は幸せになるんだ」
それが最後だった。泣き出したトソンはもう何も言葉に出来なかった。
ぼくは取り調べで全てを話した。トソンの家庭状況も、この十年あまり援助交際を続けていた事も洗いざらい話した。
新聞の社会面で報道され会社も懲戒解雇となった。担当弁護士から聞かされた話ではトソンはぼくが悪くないのだと庇っているそうだった。
ぼくとしてはいっそ悪者にしてもらって構わなかった。それでトソンが元の生活に復帰出来るのならばそれで構わない。
逃避行の間は家の者が仮病で通しただろうし、公開捜査に踏み切られていないうえ未成年なのでメディア媒体に名前も出ていない。
気がかりなのはあのロマネスクという男との関係性がどうなったかであった。トソンの望む方へ進んでいればと願うばかりだった。
ぼくには実刑判決が下った。求刑は懲役四年で言い渡された判決は懲役三年だ。ぼくは控訴せず受け入れ一審判決が確定した。
そしてどうやらあの横浜山手の邸宅で働いていた従者の一人がロマネスクとトソンの身体的関係を週刊誌にリークしたようだった。
週刊誌は三週に渡って大々的に特集を組み、ワイドショーでは昼夜問わず連日騒がれた。国会でも厳しい追求が行われた。
野党第二位の党首を務める大物国会議員が引き取った未成年の少女を夜な夜な抱いていたというスキャンダルは世間を騒がした。
彼は失脚して表舞台から姿を消した。そしてトソンは新たな環境に身を置く事となった。ここまでが担当弁護士に聞かされた事実だ。
270
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:28:24 ID:bLfC7y560
当然ながらぼくは出所後もトソンとの接触を禁じられている。もうトソンに会う事もないだろう。どこかで幸せに暮らしているのならそれで良いのだ。
取り調べにおいても裁判においてもぼくは反省しているのだと語った。しかし後悔はやはり全く感じていない。
これで良かった。ぼくは確信を持ってそう言える。未練や後悔など微塵もない。
トソンを助けたかった。本当に愛した。良い未来にしてあげたいと思った。
それにきっとどこかでこれまでの贖罪を求めていた。
援助交際を続ける現状をどこかで終わらせなければならないと気づいていた。
全てを失ったが、それはこれまでの代償にも思えた。そしてトソンを救えたのだという事実でぼくはやはり満足をする。
出所をしてからぼくは鹿児島へ住まいを移した。もう会社は解雇されているし元同僚や友人に合わせる顔もない。
元々両親はとっくに他界していて遠い親戚がちらほらいたぐらいだし、津田沼は出身地でもなく思い入れのある土地でもない。
あれほど通った首都高湾岸線を走る事はもうないだろう。あの欲望渦巻く大都会東京に戻る事もきっとない。
それに、誰も知らない場所に行きたかったのだ。ぼくが援助交際を十年近く続けて、女子高生を誘拐したとは誰も知らない場所へ。
ぼくが逮捕された鹿児島では小さな記事程度にしかならなかっただろうし、もう三年も経っていれば誰も覚えていない。
全くの新しい土地でゼロからのスタートを切る。これまでとは違う人生を歩み始める。誰もぼくを知らない場所で。
住み込みで働ける建設現場の仕事に就いてなんとか一応は安定した生活に入る。
ぼくのような流れ者が多い職場で人種も様々だ。同じ前科者が全体の二割を占めるほどだ。
これまで鹿児島には縁がなかったが、面白い街だと思う。テレビで降灰予報を流している。
駅ビルの屋上には何故か観覧車がある。蛇のような連接の路面電車が市街地を走っている。
もう長年乗ってきたスバル・レガシィに乗る事は出来ないけれど、ようやく安い中古の軽自動車を買える。
たまに安い中古の軽自動車で長崎鼻に行く事がある。その行為に意味はないけれどどうしても行ってしまう。
駐車場に車を停めて歩いて灯台まで行き、その先の赤いごつごつとした岩を眺める。
地の果て。最後の場所。トソンとの時間はそこで終わった。何もその痕跡はない。
駆けつけてきた警察官も赤色灯を回転させた鹿児島県警のパトカーもいない。
勿論トソンもそこにはいない。
271
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:32:52 ID:bLfC7y560
トソンの事を忘れた事はなかった。忘れた日はなかった。元気にしているか、無事に日常に戻れたか、望む進路に決まっただろうか。
三年が経った今、トソンはもう女子高生ではない。お嬢様学校を卒業し、神奈川か東京の大学に進み、成人を迎えているはずだ。
制服を脱いで大人になったトソンを時折想像する。元々大人びた彼女なので劇的に変わる事もないだろう。
ぼくからの接触は禁じられている。それにこっそり会いに行ったり姿だけ見に行ったりしようとも考えなかった。
この日本のどこかでトソンが良い未来に進み幸せに暮らしていればそれで良いのだ。
そう思っているがぼくはこうしてあの最後の地の果てを訪れてしまう。恐らく彼女の面影を求めている。
やはり、きっと会いたいのだ。夢の中でもいいから一目見たいのだ。
そうして成長して大人になったトソンの姿を確認して良かったなぁと心から安堵したいのだ。
しかしそれは叶わない。叶う事はない。ぼくは東京から遠く離れた地の果てで彼女を想う。それだけだ。
さて、ぼくの話はこれでお終いだ。異常性癖を持った男の哀れな末路だと言われてもぼくは否定する事が出来ない。
もっと違う道があっただとか、それではただの自己満足だとか罵られてもぼくはそれを黙って受け入れるほかない。
それでもぼくは後悔していないのだ。これで良かった。願わくば、いつか会う事が許されるのならば。
ぼくは目を閉じる。聞こえるのは海のさざなみだけだ。緩やかに、激しく、それは打ちつける。満ちては引いていく。
初めて会った日の事を思い出す。四月九日、土曜日。横浜駅西口。ヨドバシカメラマルチメディア横浜のベンチ。
今でも鮮明に思い出せる。果たして彼女は本当に来るだろうかと不安に思いながら腕時計を見ると声をかけられる。
―――さん」
忘れもしない彼女の声。きっと永遠に忘れる事のない、
「デミタスさん」
透き通るような凛とした声がぼくの名前を呼ぶ。
ぼくはゆっくりと声のした方を振り返る。
(゚、゚トソン「久しぶり、ですね」
(´・_ゝ・`)「久しぶり、だな」
(´・_ゝ・`)また出会うようです(゚、゚トソン
272
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:33:51 ID:bLfC7y560
投下終了です。
読んでいただいた方ありがとうございました。
273
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:35:48 ID:LKSIJcuI0
いいねえ
部屋と男女の関係が毎回凄く面白かった
乙
274
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:42:27 ID:bLfC7y560
余談です。
今回の同棲もの+物件情報は新潮NEX『この部屋で君と』の真似です。
あと紅白で投下した人間オナホールは元々このスレに投下するものでした。
別に書いていたものが全く間に合わなかったので紅白の方に回しました。
あと無名ちゃんめちゃシコ
275
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 00:16:48 ID:PVtQUY0.0
オナホもこれもすげー面白かった
>>1
に盛大に乙
あと抜いた
276
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 10:50:39 ID:YFUPYrhM0
乙! とても良かったです
277
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 11:18:28 ID:lJtXTmMU0
人間オナホールあんただったのか
あれもすごく好きだったよ
278
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 14:36:15 ID:jqTRXESg0
乙!すごくよかった。人間オナホの人だったのか、あれも面白かったなあ。
出てくる登場人物が大体自分の異常な部分とか最低な部分を認めてるのが好きだな。
特にデミタスなんかは、未成年買春に変わりは無いんだけどその上で最善の行動をした感じだ。
279
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 15:59:23 ID:OOg4SPg60
濃厚な鹿児島描写で懐かしい気持ちにさせられた
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