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これを魔女の九九というようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 09:59:57 ID:SOhsxYKs0
汝、会得せよ。
.
291
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:17:02 ID:Um.BtjGM0
朝から降っていた雨はいつのまにか止んでいた。
幸先は良さそうだ。
なんとなくそう思いながら僕は折り畳み傘を鞄にしまった。
湿気を含んだ空気の中、僕たちは歩く。
その弾みで、足元の雑草が抱き抱えていた雫が解放されていった。
(´・_ゝ・`)「旅に出るとは言ったけどさ、まずどこに行くんだい」
門扉を開けながら問いかける。
('、`*川「とりあえずサバトで会った魔女に弟子入りしようかなぁって……」
(´・_ゝ・`)「で、君はその魔女の居場所を知ってるわけ?」
階段を降りる。
('、`*川「もらったマッチ箱に住所らしきものが書いてあったの」
路上には大きな水溜りが出来ていた。
旅に出て早々服を汚したくないので僕は思い切って飛び越えた。
振り返るとペニサスは、家に視線を送っていた。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん?」
('、`*川「……ううん、またそのうち帰ってこれるかなって」
(´・_ゝ・`)「帰れるさ、帰りたいと思えばいつだって」
('、`*川「……そっか」
292
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:20:25 ID:Um.BtjGM0
ふわりと彼女も空を飛ぶ。
金色と銀色の靴がきらりと光る。
その動作がとても美しく、僕は見惚れていた。
('、`*川「行きましょ」
(´・_ゝ・`)「ああ、うん。ところで場所わかってるの?」
ペニサスはぴたりと動きを止め、僕を見た。
('、`*川「……西比利亜市ってこっちよね?」
(´・_ゝ・`)「そっちじゃないよ。というか僕が住所見た方が早いんじゃないかな」
差し出した手にマッチ箱が乗せられる。
やたら重みがある箱を開けてみる。
(´・_ゝ・`)「!」
('、`*川「どうしたの?」
何も言わず、僕はペニサスにその中身を見せた。
('、`*川「あれ、こんなの入ってなかったのに」
つまみ上げられたそれは、氷砂糖であった。
白い塊はそのままペニサスの口の中へと消えていった。
からころと音が鳴り、僕もそれに倣うことにした。
氷砂糖なんて、子供の時に食べたきりじゃなかろうか。
293
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:21:40 ID:Um.BtjGM0
(´・_ゝ・`)「んー……西比利亜市、都所、か」
頭の中に地図を描きながら、僕は歩き始めた。
その後ろを、ペニサスがついてくる。
('、`*川「どれくらいかかりそう?」
(´・_ゝ・`)「半日くらいかな」
('、`*川「遠いのね」
(´・_ゝ・`)「少しだけね」
そんな他愛のない会話をしながら、僕は考える。
いつかは、彼女が僕を導くようになるだろう。
彼女が僕の先を歩くのだろう。
それを寂しく思うけれども、透き通った真っ直ぐな甘味が僕の背中を後押しする。
ペニサスが自分の夢を叶えられますように、それをずっと見守っていられますように、と。
ささやかな祈りが、口の中で溶けていった。
294
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:23:34 ID:Um.BtjGM0
すなわち九は一にして、十は無なり 了
.
295
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:25:15 ID:Um.BtjGM0
登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡デミタス
('、`*川 伊藤ペニサス
ζ(゚ー゚*ζ デレ
('A`) ドクオ
(´・ω・`) ショボン
|゚ノ ^∀^)/( ´ー`)/(-@∀@) ショボンの生み出した幻影たち
从 ゚∀从 躑躅の魔女
(*゚∀゚)/(-_-)/ξ゚⊿゚)ξ/lw´‐ _‐ノv 躑躅の魔女の財産たち
(//‰ ゚)/〈::゚-゚〉 石の魔女
/ ゚、。 //ミセ*゚ー゚)リ 石の魔女の財産たち
(,,゚Д゚) ギコ
氷砂糖
なんの変哲もないショ糖の塊だが幸せの結晶である
296
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:27:05 ID:Um.BtjGM0
汝、会得せよ
一を十と成せ
二を去るにまかせよ
三をただちに作れ、しからば汝は富まん
四を捨てよ
五と六より、七と八を生め
かく魔女は説く、かくて成さん
すなわち九は一にして、十は無なり
これを魔女の九九という
297
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:28:11 ID:Um.BtjGM0
………………
………………
……………………
…………………………………………
…………
………………………………
……………………………………
…………………………………………
…………………………
298
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:29:13 ID:Um.BtjGM0
……………………………………
………………………………
…………………………
……………………
………………
…………
……
.
299
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:30:40 ID:Um.BtjGM0
「見つけた!」
.
300
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:31:48 ID:Um.BtjGM0
これを魔女の九九というようです 了
.
301
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:32:28 ID:Um.BtjGM0
参考にした作品
ファウスト
幾原作品
参考にした楽曲
輪舞-revolution
TERRITORY
葉は華を惟ひ、華は葉を惟ふ
愛妻家の朝食
時が暴走する
消化したお題
不思議な飴
オーバードーズ
ギリギリ
猫
銀と金
教会
ポワレ
肥料
ハッピーバースデー
畑違い
リラックマ
雲
糞
蜘蛛
未消化のお題
ハッピーバースデー
ポワレ
本編はここで終わりですが補完的なお話があと一つだけあります
もう少しだけお付き合いお願いいたします
質問がありましたらお答えします
302
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:52:19 ID:0rEC8Y0I0
なんとも不思議な作品だった
お疲れ様でした
303
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 14:06:08 ID:2xs6OFmc0
おつ面白かった
304
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 14:20:09 ID:0TEy97Js0
盛大な乙を!!素晴らしい作品だった!!
305
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 14:20:34 ID:mvhIudbg0
不思議な気分だ
おつ
306
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 14:27:23 ID:wmzgNwq20
おつ
面白かった
しかもお題消化とは…素晴らしいのう
307
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 16:12:49 ID:J.4lYJko0
乙乙!! お題あったのか
とても面白かった。補完も楽しみ
308
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 22:50:15 ID:T3Mz440.0
おつ!
すげえおもしろかった!
ショボンってデミタスと似てたんだね。
ショボンは力があったからエゴな人助けができたけど、デミタスはない分身近なものにしか手を伸ばさなかったんだろうなー
補完も楽しみにしてる
309
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 23:35:14 ID:tYq1/n2E0
「見つけた!」の真意がわからん……
それとも補完で明確になるのか
310
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 00:11:58 ID:07sRsRZA0
ショボンの事だろ
311
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 00:13:35 ID:SYRS99i20
>>309
しょぼんを見つけたのかそれとも方法を見つけたのか
312
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 02:02:07 ID:2lvHYm/I0
乙。面白かった
ただ、読んでて
>>276
の八行目(空白抜きで六行目)でペニサスの名前が出てきちゃってるのに違和感がちょっとあったなぁ
ここデミタスの一人称で、この直後に思い出すまでペニサスの名前忘れてた状態だし
なんか盛り上がる部分で肩透かしを食らわされた感があったかな
そこまてまの盛り上げ方がよかった分、個人的にはそれが目についた感じ
なんか重箱のスミをつつくような不粋な感想すまぬ
313
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 04:10:33 ID:BdrafelI0
それは俺も感じたわ
名前は出さないほうがな
314
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 05:19:24 ID:uu7pNauw0
>>312
>>313
うわ本当ですね
これはうっかりやってしまったなー悔しい
以下に一応差し替え置いときますもう遅いけど
315
:
>>276訂正版
:2015/06/28(日) 05:21:39 ID:uu7pNauw0
脳裏に、一枚のポスターがちらつく。
サバトに行く道すがら、あるいはショボンに見せられたものだ。
制服を着て、幼い笑みを浮かべるあの子の姿。
(´・_ゝ・`)「君は、」
噴き上げる水がことさら強くなる。
水面が掻き乱され、その姿が失せかける。
君の、名前は。
––––伊藤ペニサスさんを探しています!!
.
316
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 08:00:33 ID:07sRsRZA0
やっと思い出せた名前がペニスって悲しくなるな
317
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 23:24:12 ID:Z8MAIW.Y0
乙乙
お題消化てこんな作品を書けるのか…
318
:
名も無きAAのようです
:2015/06/29(月) 03:23:52 ID:X6iyzmo60
乙乙!
この作品の雰囲気本当すき。
出会えてよかった。
補完の話しも楽しみにしてます。
319
:
名も無きAAのようです
:2015/06/30(火) 12:06:39 ID:qAKy9/Zc0
乙!めちゃくちゃ面白かった!
不思議な雰囲気が何かよかったよ
輪舞好きなんだけど、確かにこの話に合う気がする
補完的な話も楽しみだ
質問なんだけど、ペニサスが言ってた友達って誰?
あとデレの過去とかペニサスを嫌ってた理由とか、出来れば知りたいな
320
:
名も無きAAのようです
:2015/06/30(火) 12:18:14 ID:P80HFWfA0
そりゃあおめぇ、チューリップの娘は王子様に『ここにいるだけでいい』とまで言われた彼岸花を嫌うだろうよ。
321
:
名も無きAAのようです
:2015/06/30(火) 14:51:14 ID:qAKy9/Zc0
>>320
なるほど確かに!ありがとう
322
:
名も無きAAのようです
:2015/09/19(土) 08:13:34 ID:BBw54KTM0
面白かった。乙
323
:
名も無きAAのようです
:2015/12/09(水) 23:22:13 ID:liUN2d9g0
たった今読み終わりました。
ハラハラドキドキして、どんな風に進んでいくのか分からないストーリー展開が最高でした。
ラストは質のいい演劇の締めを見ているようで気持ち良かった!
作者さんありがとう!この作品を読めて良かったです!
324
:
名も無きAAのようです
:2016/01/06(水) 14:49:41 ID:7ochckmE0
待ってるよー
325
:
名も無きAAのようです
:2016/02/17(水) 21:01:23 ID:KBVdQSbM0
たった今ブンツン堂で読み終えてきた
雰囲気もよかったし、最初から最後まですっげー面白かった!
いい物語をありがとう、続き待ってます!
326
:
名も無きAAのようです
:2016/04/05(火) 00:01:30 ID:CJK58DcY0
教育的指導
327
:
名も無きAAのようです
:2016/04/07(木) 13:32:30 ID:0NHWARFs0
http://ow.ly/3zsUCx
328
:
名も無きAAのようです
:2016/05/04(水) 13:31:33 ID:ZhNHmJtI0
面白かったなぁ
なになにやつだも面白かったししゅごいよ
329
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:16:22 ID:Fqa66Dmo0
さざめく波の音が耳をつく。
その騒々しさに心を奪われ、はたと辺りを見渡した。
薄暗がり、グリルから漂う肉の焼ける音、それを邪魔しない程度に匂うカサブランカ。
手元にはワイングラス、行儀のいいウェイターが、うす桃色のワインを注ぎ入れた。
その下にはシルクで出来たクロス、艶やかな布の上にはボーンチャイナが一皿。
バターで風味付けされた鯛が、そっくり返っている。
食べてとねだっているのか、逃げようとして跳ねたところなのか。
オブジェのように固まったそれを、蝋燭の淡い光が暴く。
「食べないのかい?」
テーブルの向こうから、声が聞こえた。
視線を向けると、
(´・ω・`)「食べないと、ポアレが冷めてしまうよ」
彼は、鯛の身にナイフを当てた。
逆立った鱗が、刃にしがみつく。
330
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:17:04 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「どうしたんだい、デレ」
魚は嫌いだったか、と問う彼に、首を横に振る。
ζ( ー *ζ「なんでもないの」
そう、なんでもないの。
今日は四月一日。
わたしの誕生日。
忙しいなか、彼はわたしのために来てくれたのだ。
わたしが会いたいと手紙を出したから、彼は食事に誘ってくれたのだ。
震える手でカトラリーを持つ。
そっとフォークを身に突き立てて、ナイフで切り取り、口へと運ぶ。
仄かな塩気、胡椒の辛さ、バターの風味。
添えられたトマトのソースが、ほどよい酸味と甘さを含んでいてよく合っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしいわ」
(´・ω・`)「それはよかった」
窓へと視線を向け、彼は微笑んだ。
(´・ω・`)「いい景色だろう」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ」
延々と続く砂浜、青い海。
その果てはまっすぐ、まっすぐ突き抜けるように。
空と海の境が混ざるようにして、続いている。
331
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:18:02 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「僕も夜景が好きでね」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
ロゼのワインを、口に含む。
酔いが足りないようだった。
頭の片隅で、ざざん、ざざんと波が押し寄せる。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたの好きなものをわたしも見せてもらえるなんて」
幸せだ。
砂浜と海は欠落してゆく。
人工的な突起が次々とそれを八つ裂きにしていくからだ。
ちっか、ちっかと赤い明滅。
ヘリコプターや飛行機に高度を知らせる明かりだ。
南国を思わせる海は、あっという間に摩天楼の下へ埋もれていった。
(´・ω・`)「ここでどれほどの人が不幸で苦しんでいるのだろうね」
色もなく、彼は呟いた。
わたしは、何も答えずにもう一度ワインを飲んだ。
その頃には、すっかりとあの潮騒は遠ざかっていた。
頭の中に押し寄せた海が、干からびてしまったかのように。
332
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:18:50 ID:Fqa66Dmo0
愛の炎よ、澄み渡る方へ向かえよかし
.
333
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:19:34 ID:Fqa66Dmo0
わたしと彼の出会いを遡るには些か時間が掛かった。
まず、わたしはカンザスの田舎に住んでいた。
ママと二人で。
パパはいない。
いないことに疑問は持っていなかった。
ママはわたしのことをめいっぱいに愛していると伝えてきた。
一人でわたしを産んで、一人でわたしのために部屋を改装し、一人でわたしを育てるために、休みなく働きに出ていた。
ママが働きに出ると、わたしは本当に家の中で一人きりであった。
そういう時はどうするのかというと、ひたすらに窓の外を眺めていた。
ママが家から出ると、その背はラベンダーをかき分けて消えていく。
家の周りに生えているラベンダーは、元から生えていたらしい。
森のように鬱蒼と生い茂るそれで、時々ママはリネン水を作ってくれた。
足が痛くて眠れない時なんかは、枕とシーツにたっぷりつけてくれるとよく眠れたものだった。
見送ってしばらくは、そのラベンダーを観察した。
風にそよぐと、紫の花々はわたしに手を振った。
それだけで、あの芳香が鼻に蘇るのだ。
334
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:20:18 ID:Fqa66Dmo0
ラベンダーの花に見飽きてくると、今度は空を眺めた。
天気が良すぎる日はつまらなかった。
空に浮かぶ雲の形で、わたしは遊ぶことが多かった。
ζ(゚、 ゚*ζ(あれは馬)
その背に跨って、わたしはラベンダーの森を駆け抜ける。
ζ(゚、 ゚*ζ(あれはドーナツ)
ママはよくドーナツを作ってくれた。
今日のお昼も、きっとドーナツが置いてあるだろう。
ζ(゚、 ゚*ζ(あれはヒトデ)
本でしか読んだことがないけど、海の生き物だ。
あんまり動かなくて、何を食べているのかもわからない。
ただお星様の形をした生き物だというから、素敵なものに違いなかった。
ζ(゚、 ゚*ζ(海に行きたいな)
海は広い。
お風呂よりもたくさん水があって、冷たくて、魚やヒトデが住んでいる。
夏になると人がたくさん来て、泳ぐのだという。
裸で泳ぐのはダメで、水着というかわいい服を着るのだとか。
ζ(゚、 ゚*ζ(そんなにいいところじゃないって聞いたけど)
335
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:21:01 ID:Fqa66Dmo0
トイレよりも狭い部屋で、服を脱いで、水着を着て。
人混みに紛れて、ようやく海にたどり着いても、やっぱり人がいて。
大して遊べないうちに時間ばかりが過ぎていき、また狭い部屋で着替えて、疲れて家に帰る。
しかも、海の水はしょっぱくて、塩が肌にかぶれるのだという。
海にもシャワーが付けてあるけど、たくさん人が待っているから待つだけでもうんざりする。
おまけに水はちょっぴりしか出てこない。
それだったら浴びても浴びなくてもおんなじなのだと、ママは海の良くないところをたくさん説明してくれた。
(*゚ー゚)「それにね、ろくでもない連中がいるのよ」
それっきり、ママは機嫌悪そうにたばこを吸うから、わたしは海の話をあんまりしなかった。
ζ(゚、 ゚*ζ(それでも海に行ってみたい)
人があんまりいない時期ってないのかな。
夏になったら人が来るっていうんだから、春とか秋とかはそういうのはいいんじゃないかな。
冬はすっごく冷たいだろうから、わたしも行きたくない。
冬のお風呂はなかなかお湯が出なくって、あんまり好きじゃないからだ。
ζ(゚、 ゚*ζ(いつかママが連れてってくれますように)
336
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:21:44 ID:Fqa66Dmo0
空を見るのにも飽きてしまったら、今度は壁の絵を眺めてみる。
ママは、わたしが女の子だと知って喜んだそうだ。
男の子じゃなくって、絶対ぜったいぜーったい女の子がいいと思っていたそうだ。
どうして?と聞いたことがある。
(*゚ー゚)「だってママが赤ちゃんだった時の服が着れるのよ?」
そう言ってママは、ママとわたしが赤ちゃんだった時の服を見せてくれた。
小さくて、綿製のフリルがたくさんついたかわいいベビードレスだった。
首元にはピンクのリボンがついて、うさぎの刺繍だってしてあった。
(*゚ー゚)「ママとおんなじ服が着れてうれしいでしょ?」
ママは嬉しそうに言うから、わたしも嬉しくて頷いた。
じゃあもしわたしが男の子だったらどうしたのだろう。
そう聞いたら、ママはにこっと笑って、
(*゚ー゚)「よく切れる包丁があるから大丈夫」
と言った。
ママはその手間が省けてよかった、と言った。
337
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:22:40 ID:fUPr0iSM0
支援
338
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:23:15 ID:Fqa66Dmo0
(*゚ー゚)「生まれてきてくれてありがとう、女の子でありがとう。デレ、大好きよ、愛してるわ」
ちゅ、ちゅ、とキスの雨が降って来る。
ママのキスは、長い。
一度始まるとなかなか逃げられない。
ずーっと一日中、仕事しないでキスできると言っていた。
ママがわたしを一人にしないでくれるなら、こんなに嬉しいことはないと思った。
一人にしておくのは、ママも負い目があるようだった。
ピンクに塗られた部屋の壁にはユニコーンや虹や人魚の絵が描いてあった。
(*゚ー゚)「これはデレだけが読めるフェアリーテイル」
小人に、お姫様に、鹿や熊。
薔薇に、五弁のライラック。
バスケットにはリンゴとブドウ、オレンジ。
そんな絵が、寝室にも、トイレにも、キッチンにも、リビングにもあった。
足を引きずりながら、わたしは部屋を移動する。
ζ(゚、 ゚*ζ(今日は、小人と熊がピクニックに行く話)
昨日はお姫様と人魚の冒険譚。
一昨日はライラックのおまじないとユニコーンの恋。
組み合わせは無限大で、飽きればいくらでもママが壁に描いてくれた。
一日のほとんどが、この絵で遊ぶことに費やされていた。
そのうちお腹が減って、用意されたご飯を食べて、また絵を眺めたり、眠ったり。
ママが帰ってくるまで、ずっとそうしていた。
339
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:24:09 ID:Fqa66Dmo0
夕暮れもとっくに過ぎて、星が天高く輝く頃。
ママは疲れた顔をして帰ってくる。
怖い夢を見て泣きそうになったような顔をして、ママはわたしにキスをしてくる。
ぎゅぅっと強く、苦しくなるほど抱きついてくるから、わたしはママの気がすむまで頭を撫でてあげた。
怖い夢を見たときにママがそうしてくれるからだ。
そうすると少しは気が休まって、ママのことを好きになれるのだ。
ママも、怖い目にあって頭を撫でられたら、わたしのことを好きになってくれるに違いなかった。
(* ー )「デレ、足を出して」
不意にママがそう言う時がある。
わたしは大人しく、ママに向かって足を差し出した。
ママはたばことマッチ取り出した。
しゅ、しゅ、とマッチを擦る音。
とく、とく、と心臓の跳ねる音。
ママはわたしを愛してくれている。
ママはわたしが好きだった。
ママはわたしの支えであり、わたしはママの支えであった。
わたしはママの子供だけど、ママは時々わたしの子供になった。
子供だからほんとはたばこを吸ってはいけないんだけど、でも体は大人だから吸ってもよかった。
340
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:25:11 ID:Fqa66Dmo0
マッチに火がついた。
すぅ、と息を吸うとたばこに火がついた。
マッチが、わたしの足をジュッと焼く。
やけどのうえに作るやけどはとても痛い。
治りきらないうちに、また皮膚がぐちゃぐちゃになるからだ。
夏になると膿が出ることもあったし、そうなると体に毒が回って熱を出すこともあった。
それでもそう言う時はママがつきっきりで看病してくれるから、嬉しかった。
ママはわたしを愛してくれていた。
ふすふすとたばこの煙が顔にあたる。
けむくて、わたしはむせた。
ママは無表情で、たばこに取り憑かれていた。
そのうち吸い終わると、またわたしの足にたばこをこすりつけた。
そんなことを、今日は五回繰り返した。
吸い終わると、ママはとても優しくなる。
冷たい水で灰を洗い流し、軟膏を塗ってくれた。
包帯も巻いてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
そうして寝付くまでわたしのそばにいてくれた。
毎日毎日飽きもせず、わたしはママの灰皿で居続けた。
341
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:26:18 ID:Fqa66Dmo0
ある日、ママはいつものように仕事に出た。
ちょっと違ったのは、ママがたばこを忘れていったことだった。
ママはわたしの次にたばこが好きだった。
たばこがなくてママは困るだろうと思った。
わたしは、初めて外に出た。
ママの忘れ物を届けに、裸足で外を出た。
ちょうどその前の日は雨で、地面はぬかるんで居た。
ちょうどその前の日のママは、たばこをよく吸っていた。
包帯にじくじくと泥が染みて、わたしは立っていられないくらい足が痛くなった。
ゆっくり、ゆっくりと歩いているうちにわたしは転んだ。
転んだことのないわたしは、水たまりに倒れ伏した。
服も顔もどろどろで、そのまま這いずってママの後を追った。
たばこの箱だけは濡れないように、気をつけて。
そうしてどれほどの時間が経ったのか。
ぬかるんだ道はいつのまにか舗装された道路になり、わたしはなんとか歩けるようになった。
といってもひどい格好であった。
ママお手製のワンピースは、すっかり泥にまみれていたからだ。
それでもわたしは歩いた。
道行く人が奇異の目で見つめても、こそこそと噂してようと、わたしには関係なかった。
わたしには、ママしかいなかった。
342
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:27:33 ID:Fqa66Dmo0
ママがどんな仕事をしているのかはあまり知らなかった。
でもバスに乗るということだけは知っていた。
ママは、たしかにバス停にいた。
新しく買ったばかりのたばこを開けて、ぷかぷかとふかしていた。
ζ(゚、 ゚*ζ(……なんだ、買えばいいんだ、)
そうだ、たばこなんてお店にたくさん売っているのだ。
わたしが届けなくたって、ママはいくらでもたばこを買えるのだ。
こんな格好でわざわざ届けた方が、ママだって恥ずかしいかもしれない。
だってわたしはこんなにも笑われている。
視線だって浴びている。
わたしが今近付いたらママは笑い者になるだけだ。
ζ( 、 *ζ(でも、ほめてほしかった)
343
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:28:17 ID:Fqa66Dmo0
誰か、誰か。
わたしのことを笑わないでください。
わたしは、大好きなママに褒めて欲しかっただけなのです。
わたしのために働いてくれるママのために、役立ちたかっただけなのです。
日に晒されて、惨めな泥が、服から剥がれ落ちました。
そうしているうちに、ママはバスに乗り込んで、仕事に行きました。
わたしは、また足を引きずって、元来た道を戻りました。
こんなに恥ずかしくて嫌な思いをしたのは初めてでした。
そのうちなんだか悲しくなって、わたしは大声をあげて泣きました。
誰も聞いちゃいないと思っていたのです。
ラベンダーがそよそよと、風に揺れる音しか耳に入らなかったのですから。
344
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:29:21 ID:Fqa66Dmo0
でも。
「どうしたんだい、お嬢さん」
ママよりも柔らかく、優しい声が、聞こえたのです。
その人はすらりと背が高い人でした。
その人は優しい灰色の目をしていました。
その人はママが好きそうなフリルのついた服を着ていました。
その人は昔、絵本で読んだ王子様のような人でした。
その人は、
(´・ω・`)「よかったら話を聞かせてくれませんか?」
とても優しい、魔女でした。
345
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:30:07 ID:Fqa66Dmo0
わたしは、その人の服を汚すことも厭わずに泣きつきました。
その人もまた、怒ることなくわたしを抱きしめてくれました。
大好きなママのためにママの役に立てなくて笑い者になった悔しさと、ママが愛してくれたという証のせいでこんなにも汚れてしまった怒りと、それに対する裏切りを、全て全てぶちまけました。
それはまるで呪詛のように、己の身の内に響き渡り、ママを嫌いになりそうなわたしをまたさらに憎悪させました。
(´・ω・`)「よし、よし、お嬢さん。まずはお茶でも飲みませんか?」
そう言って、その人はラベンダーを踏みつけました。
346
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:31:28 ID:Fqa66Dmo0
するとそこら一帯は、たちまち灰色の影に飲み込まれて。
わたしの服を汚した泥は、ぐつぐつと煮え渡り、チョコレート色のテーブルを作り上げました。
風に揺れていたラベンダーは、水けを失って互いに縫い合いました。
そうしてたちまち、暗紫色のテーブルクロスが出来上がったのです。
道端の石ころは、かたかたと揺れてぽこりと膨れ上がりました。
ポットやカップの形をしたそれは、こつんとテーブルを叩くと……。
ζ(゚ー゚*ζ「わあ……」
ほかほかのレモンティーがたっぷり入っていました。
(´・ω・`)「おっと忘れてた、椅子を作らないとね」
魔女の一声で、灰色の影はすぐさま椅子を形づくりました。
材料は、わたしと魔女の影でした。
細い鉄線を編み込んだような椅子は、とっても座り心地がよくて、すぐに気に入りました。
(´・ω・`)「さあ、まずはお茶を飲んで。砂糖が欲しかったらいくらでもあげるよ。おなかが空いていたらお菓子もたくさんあげる」
347
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:32:42 ID:Fqa66Dmo0
テーブルをコツコツと叩けば、見たことのないお菓子が飛び出しました。
カゴに入ったクッキーにビスコッティ、チョコレート漬けのさくらんぼ。
ババロア、メレンゲのケーキ、いちごのたっぷり挟まったサンドイッチ。
気付けばわたしの顔も服も綺麗さっぱり、泥が消えていました。
わたしは遠慮なく、この見たことのないお菓子に手をつけました。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしい!」
ふかふかのクッションのようなお菓子は、ギモーヴというものでした。
甘くって舌がとろけそうになるほどおいしくて、わたしは夢中になって食べました。
(´・ω・`)「君はお母さんと二人暮らしだったのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうよ! ママとずーっと二人きり」
喉に張り付いた甘味を、レモンティーで押し流します。
口の中はさっぱり爽やか、ほろ酸っぱい香りが鼻に抜けていきました。
348
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:33:27 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「パパはどこに行ったのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「ママは一人でわたしを産んだって言ってた」
(´・ω・`)「でも必ずパパになる人がいるはずだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「んー……。よくわかんない」
(´・ω・`)「まあそれで君が幸せならいいけども」
ζ(゚ー゚*ζ「幸せだよ、ママは毎日わたしのこと好きって言ってくれるもの」
(´・ω・`)「その足の火傷はどうしたのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「ママがわたしのことを好きな証だって」
(´・ω・`)「ふうん。君は痛くないのかな?」
ζ(゚、 ゚*ζ「……痛いけど」
(´・ω・`)「けど?」
ζ(゚ー゚*ζ「ママはわたしのこと好きだからそうするの」
(´・ω・`)「本当に君のことが好きなのかな」
どこからともなく取り出した角砂糖を、魔女はティーカップに入れました。
一粒、二粒、からころと。
銀のスプーンが持ち上がって、一人でにかき混ぜています。
349
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:34:07 ID:Fqa66Dmo0
ζ(゚ー゚*ζ「好きだもん」
それを眺めながら、マフィンに手を伸ばしました。
かぼちゃの甘さとチーズのしょっぱさが引き立ちあって、あっというまにお腹の中に消えました。
(´・ω・`)「君が男の子でも?」
ζ(゚ー゚*ζ「……きっと好きだもん」
歯切れ悪く、幼いわたしは紅茶を飲みます。
ぴとりと鼻にレモンのスライスがくっついて、バツの悪い気分になりました。
(´・ω・`)「僕の両親は、性別なんか関係なく子供が生まれたら愛しいと言っていたよ」
ζ(゚、 ゚*ζ「だから?」
(´・ω・`)「君は男の子に生まれていたらお母さんに好かれていたのかなあと、僕は気になっているんだよ」
ζ(゚、 ゚*ζ「……好きだもん」
絶対に、と心の中で言い返します。
だけど何故でしょう、今までのような自信はありませんでした。
350
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:35:12 ID:fUPr0iSM0
しえしえ
351
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:35:28 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「君はお母さんと出かけたことはあるのかな?」
ζ(゚、 ゚*ζ「ママはお仕事で忙しいもん」
(´・ω・`)「じゃあ君が風邪を引いてもほったらかしにして仕事に行くんだね」
ζ(゚、 ゚*ζ「そんなことないもん!」
(´・ω・`)「じゃあどうしてお母さんは君とお出かけしてくれないのかな」
ζ(゚、 ゚*ζ「……だって、海は人がたくさんいて、大変だし」
(´・ω・`)「海以外にも出かける場所はたくさんあるよ」
ζ(゚、 ゚*ζ「仕事、いそがしい、し…………」
(´・ω・`)「……ねえ、お嬢さん」
魔女は、とても悲しそうにわたしを見つめます。
(´・ω・`)「君は虐待されているんだよ」
ζ(゚、 ゚*ζ「ぎゃくたい……?」
(´・ω・`)「お母さんは君に遠くへ行って欲しくないんだよ、君が物事を知ることを恐れているんだ」
ζ(゚、 ゚*ζ「どうして?」
(´・ω・`)「色んなことを知ってしまえば君のお母さんがおかしいことがわかってしまうからさ。おかしいことをしてまで、お母さんは君をそばにおきたかったんだ」
ζ(゚、 ゚*ζ「……そばにおいとくことはすきってことじゃないの? あいしてるってことじゃないの?」
わたしは混乱していました。
魔女は、黙って首を横に振りました。
352
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:36:29 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「本当に愛していたら君を痛い目には合わせない」
ζ( 、 *ζ「…………」
(´・ω・`)「本当に愛していたら、君を海に、いや、どこにだって連れて行くよ」
ζ( 、 *ζ「…………」
(´・ω・`)「君は本当の愛を知らないんだ」
可哀想だね、と魔女は言いました。
(´・ω・`)「僕がどうしてここに来たかわかる?」
ζ( 、 *ζ「……わかんない」
わたしは、俯いて涙をこらえるのに必死でした。
ママはわたしを愛していなかった、わたしはママを愛していたのに。
わたしは、ママを愛していたのに。
(´・ω・`)「君の声が聞こえたんだ。海に行きたいって」
だから連れて行こうと思ったんだけど、と魔女は区切りました。
ζ(゚、 ゚*ζ「……だから?」
(´・ω・`)「……君とお母さんを一緒にさせておいたら、いつか殺されちゃいそうでもっと可哀想だ」
だから、と魔女は手を差し伸べました。
(´・ω・`)「僕と一緒に旅をしよう。どこか、君が住みたいと思う場所があればそこにずっといたっていいから」
ζ(゚、 ゚*ζ「……ママに怒られちゃうよ」
(´・ω・`)「その時は僕が怒るよ。お嬢さんをあんな家に閉じ込めておくなんてあんたは酷い人だって」
ζ(゚、 ゚*ζ「……どこにでも連れてってくれる?」
心の奥底で、重く蓋をしていた欲望があふれ出そうとしていました。
353
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:37:27 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「ああ」
どこにでも連れてってあげるよ。
(´・ω・`)「君のことを助けたいんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「……デレ」
(´・ω・`)「僕は、 」
温かな手を取り、彼は言いました。
(´・ω・`)「この世から不幸を取り除くことが望みの、灰色の魔女さ」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、人を幸せにするのがあなたの使命?」
(´・ω・`)「そういうこと」
ζ(゚ー゚*ζ「……すてきね」
悲しいことも辛いこともない世の中なんて、素敵に違いありませんでした。
ζ(゚ー゚*ζ「わたしにもできることがあったらいいな」
(´・ω・`)「きっと君がやりたいことはすぐ見つかるよ」
ζ(゚ー゚*ζ「もう見つけたわ」
もっと彼のことを知りたい。
あの素敵な魔法の仕組みを知りたい。
わたしの心は、すぐ満たされていきました。
354
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:38:22 ID:Fqa66Dmo0
愛の炎よ、澄み渡る方へ向かえよかし 了
.
355
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:42:11 ID:fUPr0iSM0
乙でしたー
久々の投下嬉しい!
356
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 21:32:36 ID:mDQVV/QQ0
乙!
デレのお母さん怖いわ…
357
:
<^ω^;削除>
:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>
358
:
<^ω^;削除>
:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>
359
:
名も無きAAのようです
:2017/05/23(火) 18:15:22 ID:NXwRScpA0
乙乙
母親怖いけど救われる話でよかった
360
:
名も無きAAのようです
:2017/05/24(水) 14:06:44 ID:w6M4Mt6o0
乙です!
デレがどんな家庭環境で育ったのかちょっと気になってた
これはデレがショボンに依存するのも分かるな
361
:
名も無きAAのようです
:2017/05/26(金) 17:28:22 ID:FyO5tNSM0
きて嬉しい!!おつ
362
:
名も無きAAのようです
:2017/10/08(日) 08:57:07 ID:J62lfJug0
十月中に番外の続きを投下できると思います
結構な長さになりそうなのでもうしばらくお付き合い願います
363
:
名も無きAAのようです
:2017/10/09(月) 22:32:05 ID:eiPKTzpA0
たまたま見に来たら書き込みが!
楽しみにしているよ
364
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:31:51 ID:PogJdj520
真理よ、おのれを呪うものを救えよかし
.
365
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:32:32 ID:PogJdj520
透明なガラスで出来たティーポットの中で、茶葉が踊る。
ゆらゆら、ひらひら。
ζ(゚ー゚*ζ(マリンスノーみたい)
でも、中に入っているのは紅茶の葉っぱ。
もう少しで、二分が経つ。
ストレートの紅茶なら、もう少しだけ蒸らすけれども、
ζ(゚ー゚*ζ(今作っているのはレモンティー)
美味しいレモンティーを入れるコツは、普通の紅茶よりも
浅く蒸らすことが大事だと、あの人は言っていた。
だからすぐ、温めておいたカップへと注いでしまった。
用意したカップは、二人分。
一つはわたしで、もう一つは の。
ζ(゚、゚*ζ(……だったら良かったんだけどなぁ)
残念ながら、彼は出掛けてしまっている。
そんな時に限って、招かれざる客がやって来るのだ。
今日もそう。
が居なくなってすぐに、彼女はやってきた。
ζ(゚、゚*ζ(ついてないの)
今日はわたしの誕生日なのに、とごちながら、
レモンのスライスをカップへ滑らせた。
366
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:33:29 ID:PogJdj520
ζ(゚、゚*ζ(ま、しょうがないよね)
来てしまったものについては、嘆いていても仕方がない。
ため息を一つ吐き、キッチンを後にした。
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ」
極力明るく友好的な声を出して、相手の様子を見る。
o川* へ )o「…………」
だけど相変わらず、相手は黙りこくっている。
ζ(゚ー゚*ζ「お砂糖が欲しかったら、そこのポットに入っているからね」
親切を装って、牽制を一つ。
するとようやく、相手の目がちろりと動き出す。
赤く、赤く、泣き腫らした目だ。
ここへ来た時から、名も知らぬ客人は涙を流している。
腫れ腫れと浮腫んだその目元からして、ずっと涙を流していたに違いない。
ζ(゚、゚*ζ(泣きすぎると美人も台無しね)
手元に寄せたカップから、レモンを取り除きながらふと思う。
ζ(゚、゚*ζ(学生、かな)
二十代前半か、それよりも若く見える。
床にへたりこんでいるショルダーバッグからは、新品の教科書が覗いていた。
367
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:34:17 ID:PogJdj520
とすると大学に入ったばかりなのかもしれない。
そういえばこの間、 の元にはたくさんの書類が届いていた。
差出人はとある大学で、奨学金の保証人となる手続きを行うためのものだった。
ζ(゚、゚*ζ(ああ、わかった)
きっと は、貧しい女の子に富を分け与えたのだ。
それだけでは心許ないから、と彼は親身に相談に乗ってあげた。
それをこの子は、勘違いしてしまったのだ。
ζ(゚、゚*ζ(うんうん、あの人なら大体そういうことをしそうよね)
の目的は不幸の目を摘み取るためで、この子のことが好きでやったわけではない。
だけど大変可哀想なことに、 がいくら身を粉にして人に尽くしたとしても、
それが恋愛感情に則った行動だと勘違いする人は後を絶たない。
ζ(゚、゚*ζ(バカみたい)
お茶の一杯にも手をつけず、遠回しに睨んで来る女性を、
わたしは軽蔑しそうになる。
だけど、そうしてはいけない。
彼女はちょっと愚かなだけで、それは憐れむべきことなのだ。
同時に、その性質を慈しんでやらなくてはならない。
わたしは分別のある魔女となる人で、相手はそんな事もわからない、ただの人。
だからわたしは、彼女を許す。
の心を射止めたと思い込んで、子犬のように纏わり付き、自分が望んだ以上の幸せを欲する。
傲慢を体現したかのような彼女を、わたしは許す。
368
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:35:06 ID:PogJdj520
ζ(゚、゚*ζ(……あ、)
背後から扉の開く気配。
そっとそちらに首を向けると、
(´・ω・`)「誰か来てるの?」
やはり彼だった。
ζ(゚ー゚*ζ「お客さんよ」
あなたのね、と付け加えると、彼は不可解そうな顔をして、こちらへとやって来る。
(´・ω・`)「おや、どうしたんだい?」
買ってきた額縁を床へと降ろし、彼は床へと跪く。
この部屋にある椅子は、二つきりしかないからだ。
o川* へ )o「どういう、ことなの」
洟をすすりながら、女性は彼を睨む。
(´・ω・`)「ああ」
納得したように、そして一瞬、悲しげな顔をして、彼は宥める。
369
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:36:29 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「彼女は恋人でもなんでもない人だよ」
彼女、とは無論わたしのことである。
事実、わたしと彼は恋人などという浅い付き合いはない。
もっと深く、濃い繋がりを持っているのだが、
果たして彼女に理解出来るだろうか。
ζ(゚、゚*ζ(出来ないだろうな)
目ばかりではなく、顔全体を赤く染めて罵る女性を冷めた目で見る。
o川* へ )o「なんなの、それ」
意味わかんない、と呟く声。
それに対して、やっぱりねと思うわたし。
o川* へ )o「……あたしは、あんたと付き合ってるんだよね?」
(´・ω・`)「大事に思っているよ」
o川* へ )o「そうだよね?」
縋りつつも、責め立てるような声。
彼は、動じない。
o川* へ )o「じゃあなんで、この女と一緒に住んでんの?」
(´・ω・`)「……まあ、家族のようなものだよ」
慎重に言葉を選ぶ彼の頬に、平手が飛んだ。
370
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:37:11 ID:PogJdj520
o川* へ )o「見たよ。ベッド。一つしかないじゃん」
(´・ω・`)「このアパートは狭いからね」
o川*゚Д゚)o「いい年した男女が一緒のベッドに寝て、
何も起きないわけないじゃん」
(´・ω・`)「君が考えているようなことは何も起きていない」
o川*゚Д゚)o「起きてようがなかろうが、関係ないの!」
(´・ω・`)「君の言う通り、きちんと貞操は守っているよ」
o川*゚Д゚)o「っ……。そういう、問題じゃない、よ……っ」
再び嗚咽を漏らす彼女は、月並みな恨みを吐露する。
o川*;Д;)o「……わたしのこと、あいしてるって言ってたじゃない」
ζ(゚、゚*ζ(やっぱりバカだ、この人)
彼が抱いている愛は、すべての人に向けられている。
いわばそれは神から人に対する愛、アガペーであり、
女性から彼へと向けられるエロスとは、全く性質の違う愛なのだ。
自分が のことをそういう目で見ていたからって、
相手もそういう気持ちを抱いているだろうと確信を持って、
肉体だけの関係を結ぶなんてやっぱりバカとしか言えなかった。
371
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:38:47 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「もちろん、愛しているよ」
o川*;Д;)o「うそつき」
(´・ω・`)「うそじゃない」
o川*;Д;)o「うそつき!!」
(´・ω・`)「……君と僕の愛に対する認識が、ちょっと違っているだけだよ」
諦めたように、 は溜め息を吐く。
こうした事態は一度や二度ではないけれども、やっぱり心が痛むに違いない。
ζ(゚、゚*ζ(どうしてみんなは、彼の気持ちを理解してあげないのかしら)
彼から分け与えられる愛を拡大解釈して、そうではないと
気付いた瞬間から、手のひらを返す。
なんて恩知らずな人達なのだろう!
o川*;Д;)o「ねぇ、わたしの気持ちも、わかってよぉ……」
再三再四に渡る要求に、
ζ(゚、゚*ζ「あなたこそ、彼のことを何も理解していないくせに」
とうとう堪忍袋の緒が切れた。
372
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:39:32 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「デレ」
思わず飛び出した言葉を、 はたしなめる。
だけどわたしの気は治らない。
ζ(゚、゚*ζ「あなた、どうせ貧民街の出身なんでしょ?」
その言葉に、女性は怯んだ。
間違いない。
やはりわたしの見立ては正しかったのだと分かり、それが潤滑剤となって口を動かした。
ζ(゚、゚*ζ「そこでどんな地獄を見たのか、わたしは知らないわ。
けれど、そこから救われたいと何度も願ったことくらい、わたしにはわかる」
昔のわたしも、そうだった。
虐待されていることにも気付かずに、あんな母親を愛し、
不幸だとも思わずに過ごしていた歪な日々。
確かに、わたしは幸せだった。
けれども所詮、贋作の幸福。
ささやかな罅から全てが壊れ、わたしは絶望した。
彼はやって来たのは、ちょうどその時だった。
些細にして拙い祈りの声を、彼は拾ってくれたのだ。
彼がやって来なければ、今頃わたしはどうなっていたのかも分からない。
けれどそのままでいたのなら、変わらぬ日々を送り続けたことだろう。
母親のしたことは、許されることではない。
しかし幼いわたしを縛り付けなければならないほどに、あの人は壊れていた。
373
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:40:43 ID:PogJdj520
ζ(゚、゚*ζ(可哀想な人だった)
やはりあの人も、憐れむべき弱者であった。
あの人だけを置き去りにして、わたしはカンザスを飛び出した。
今頃どうなっていることか、確認する勇気をわたしは持ち合わせていない。
でも出来ることなら、幸せでいてほしい。
ζ(゚、゚*ζ「……不幸が嫌いなのは、みんな同じでしょう?」
優しく問いかけるように、視線を向ける。
女性は、そっと目を伏した。
ζ(゚、゚*ζ「不幸を無くそうとするのは、そんなにいけないことかしら?」
o川* へ )o「それ、は……」
ζ(゚、゚*ζ「みんな幸せになろうとすることは、悪なのかしら」
それは、到底叶うはずのない夢だと笑われることに違いなかった。
実際に笑われたこともある。
だけど、わたしは知っている。
彼の夢を馬鹿にする人間は、己が理想にうち破れた人間だ。
がむしゃらにそれを叶えようとして、けれども叶えることが出来なくて、
それを恥じて、馬鹿にすることで精神を保っている人間だ。
厄介なことに、その恥じらいは自他の境なく発生する。
つまり恥ずかしいと思う対象は過去の自分であり、目の前にいる人間でもあるのだ。
374
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:41:54 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「……でもね、」
どんなに馬鹿にされたとしても、わたしは諦めない。
愚直な彼の行いによって、わたしは確かに救われたのだから。
そして、全人種の幸せが彼の幸せであるのなら、
ζ(゚ー゚*ζ「わたしは、彼の味方でありたいの」
わたしも彼のようになりたいと願った。
わたしも、不幸な環境にいる人たちを救いたいと思った。
それが、わたしを救ってくれた彼の願いでもあるから。
ζ(゚、゚*ζ「なのにどうして、あなたにはそれがわからないの……」
全てを吐き出したわたしに、女性は絶句している。
同じような身の上にあったであろうわたしと彼女の違いを
まざまざと感じ取り、格の違いを目にしてしまったからだろう。
だって、彼女は我儘だから。
浅ましい愛を強請らずに、必死に恩を還元しようと
動いているわたしとは、絶対的に差があるから。
それなのに、どうして女性は害意の篭った視線を向けているのだろう。
375
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:42:59 ID:PogJdj520
o川*;Д;)o「あんたも、おかしい。……おかしいよ」
ζ(゚ー゚*ζ(二度も同じことを言わないでほしい)
半分、分かってはいる。
全く違う世界を生きているから、わたしや彼のことを異物としてしか見れないのだろう。
見識の狭い、貧しい心だ。
けれど残念なことに、大半の人間はそう思って生きている
ζ( 、 *ζ「やっぱり、あなたもそうなのね」
そんなことを言う人に限って、弱者に手を差し伸べることはない。
ζ(゚ー゚*ζ「非常に、不愉快だわ」
それは、彼に対する最大の侮蔑。
同時に、女性自身に齎された救済を踏み躙る発言。
誰のおかげで大学へ行けるようになったのか。
彼女はすっかりと忘れてしまったらしい。
なんて、愚かな発言だろう。
それを分からせるために、口を開いた時だった。
376
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:43:51 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「もういいよ、デレ」
くすんだ金色の瞳が、わたしを制す。
(´・ω・`)「君も、もう家に帰りなさい」
柔らかな言葉に、女性は、
o川*゚Д゚)o「はぁ!?」
(´・ω・`)「不愉快な気分にさせて、申し訳なかったね」
o川*゚Д゚)o「まだ話が、っ」
終わっていない、という言葉は飛び出さなかった。
の口付けによって封じられたからだ。
抵抗しようにも、今の彼女は指の一本も動かすことが出来ない。
もうずっと前から、彼女は魔法に掛けられていたから。
377
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:45:38 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「……今日のことはもう忘れて、帰りなさい」
床に置かれていたバッグを差し出すと、女性は大人しく受け取った。
(´・ω・`)「僕たちのことは、忘れなさい」
玄関へと送り出す口調は、子守唄のように懐かしい。
女性は、振り返ろうと首を動かしていた。
(´・ω・`)「忘れるんだ」
ひとりでに開く扉。
寂れたアパートの廊下は、灰色の明かりに照らされている。
(´・ω・`)「気を付けてお帰り」
o川* へ )o「っ 、」
女性が、彼の名前を呼ぶ。
彼は、首を横に振る。
(´-ω-`)「さようなら、幸せな人」
戸惑った表情の女性を、一人廊下に取り残して、扉はゆっくりと締まった。
378
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:46:48 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「……怒ってる?」
ζ(゚、゚*ζ「怒ってません」
(´・ω・`)「いや、怒ってるでしょう」
わしわしと頭を撫でられるも、わたしの視線は腫れた頬にしか向いていない。
ζ(゚、゚*ζ「痛そう」
(´・ω・`)「あんまり痛くないよ」
ζ(゚、゚*ζ「だって、すごく赤いもの」
(´・ω・`)「どれくらい?」
ζ(゚、゚*ζ「よく熟れたトマトにそっくり」
(´・ω・`)「……うん、実は結構な威力があった」
ζ(゚、゚*ζ「ほら、やっぱり!」
くるっと背を向けて、わたしは救急箱を取り出そうとした。
けれども彼は、それを優しく抱き止めた。
379
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:47:29 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「ありがとう」
ζ(゚、゚*ζ「……湿布、貼らないと」
(´・ω・`)「気持ちだけで十分さ」
またもや頭を撫でられて、わたしの髪はすっかり逆立っていた。
ζ(゚、゚*ζ(上手に結べてたのにー)
鏡を相手に、口を尖らせる。
こんがらがった毛糸束のような、黒い髪。
ブラシを手にして、よくよく梳くことにした。
鏡の中で、 はティーカップを手にしている。
あの女が一口も飲まなかった、可哀想なレモンティーだ。
見えざる手によって、スライスされたレモンが
浮き上がっているのが見えたから、きっとそうに違いなかった。
(´・ω・`)「苦いな」
ζ(゚、゚*ζ「渋かったかしら?」
(´・ω・`)「いいや、レモンのせいさ」
シュガーポットの蓋が、可愛らしい音を立ててずり落ちて、
シュガーキューブが一つ、二つ、羽の形になって飛び出した。
は、結構な甘党だ。
一日に二回はおやつの時間を設けている。
380
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:48:34 ID:PogJdj520
彼に出会った頃のわたしはガリガリで、棒みたいな体型をしていたけれど、
釣られて甘いものを食べていたら、あっという間に丸く肥えてしまった。
以来おやつの時間は、二日に一回までと決めるようにした。
彼は構わず、いつでも甘いものを食べているけれど。
ζ(゚、゚*ζ(耐えているこっちの身にもなって欲しいわ)
ようやく髪を整えて、振り向くと彼は銀の砂糖を溶かしている最中らしい。
銀のスプーンがゆっくり、一人でワルツを踊っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「無理して飲まなくていいのに」
すっかりと冷めた水底には、砂糖の粒がゴロゴロに転がっているに違いない。
(´・ω・`)「作ってくれた人に申し訳ないからね」
ζ(゚ー゚*ζ(それはわたしに向かって言っているのかしら)
定かではないが、気付いたことがひとつある。
スプーンで攪拌するごとに、頬の腫れがみるみる引いていくのだ。
(´・ω・`)「やっぱり、珍しいかい?」
思わず振り向いたわたしに、にやと得意げに笑う彼。
魔法は、やっぱり不思議だ。
目に見えるものも、目に見えないものも、魔女は全てを拾い上げる。
存在を承認されたものは、魔女の祈りを掬い上げ、そうなるべしと助力する。
381
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:49:50 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ(それは、世の中に対する画素を増やすようなもの)
ぼやけたままに過ごしていたそれに気付くと、世界は途端に鮮やかさを増す。
その瞬間が、どうしようもなく好きだった。
ζ(゚ー゚*ζ(早くわたしも みたいな魔女になりたいな)
ショボンに従事してから随分と時間が経ったけれど、
未だに弟子という身分で、使える魔法も数少ない。
ζ(゚、゚*ζ(早くエフェクト持ちになりたいな)
エフェクト。
それは、自分だけの魔法を獲得したという証。
実力を認められ、通過儀礼を果たした本物の魔女だけが得られる、特別な印。
のエフェクトは、灰色だ。
ζ(゚ー゚*ζ(初めて見た時には曇天の空みたいって思ったな)
穏やかな人柄からは想像もできないほどに冷たい色をしているけれど、
そこから飛び出す魔法はどんな魔女にも負けないくらい、鮮やかで楽しいものだった。
(´・ω・`)「うーん、苦い」
レモンティーを飲み干した頬は、すっかりと綺麗になっていた。
ζ(゚ー゚*ζ「もう痛くない?」
(´・ω・`)「うん。ありがとう」
382
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:52:36 ID:PogJdj520
彼に出会った頃のわたしはガリガリで、棒みたいな体型をしていたけれど、
釣られて甘いものを食べていたら、あっという間に丸く肥えてしまった。
以来おやつの時間は、二日に一回までと決めるようにした。
彼は構わず、いつでも甘いものを食べているけれど。
ζ(゚、゚*ζ(耐えているこっちの身にもなって欲しいわ)
ようやく髪を整えて、振り向くと彼は銀の砂糖を溶かしている最中らしい。
銀のスプーンがゆっくり、一人でワルツを踊っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「無理して飲まなくていいのに」
すっかりと冷めた水底には、砂糖の粒がゴロゴロに転がっているに違いない。
(´・ω・`)「作ってくれた人に申し訳ないからね」
ζ(゚ー゚*ζ(それはわたしに向かって言っているのかしら)
定かではないが、気付いたことがひとつある。
スプーンで攪拌するごとに、頬の腫れがみるみる引いていくのだ。
(´・ω・`)「やっぱり、珍しいかい?」
思わず振り向いたわたしに、にやと得意げに笑う彼。
魔法は、やっぱり不思議だ。
目に見えるものも、目に見えないものも、魔女は全てを拾い上げる。
存在を承認されたものは、魔女の祈りを掬い上げ、そうなるべしと助力する。
383
:
>>382連投ミスです
:2017/10/11(水) 20:53:54 ID:PogJdj520
再び頭を撫でようと腕が伸びてくる。
せっかく整えたばかりなので、
台無しにされては困るとわたしは口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ところで、あの額縁は何に使うの?」
ずっと気になっていたことを口にすると、
(´・ω・`)「君への誕生日プレゼントさ」
ζ(゚、゚*ζ「絵でも買ってくれるの?」
(´・ω・`)「まさか」
いたずらっ子のような笑みを浮かべて、彼は窓へと立てかけた。
(´・ω・`)「お手を拝借」
恭しく差し出された手を、わたしは握り返す。
額縁の向こうには、相変わらず霧がかった街が見えている。はずだった。
ζ(゚ー゚*ζ「あ……!」
公園の遊具、ヘルタースケルター。
飲みかけのレモンティーも、籠に盛られた果物も、ティーカップも、
ピカピカの鉄のフライパンも、玄関先に活けたカサブランカも、
ひとつきりしかないベッドも、皆吸い込まれていく。
当然、わたしたちも。
恐怖は、ない。
はてしなく続く螺旋状の滑り台に、身を委ねるだけ。
384
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:55:26 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「何処へ行くの!」
隣にはいない に向けて、わたしは叫ぶ。
(´・ω・`)「君の好きなところへ!」
張り上げた声は、すぐ後方から聞こえてきた。
いつの間にか抱き上げられていたらしい。
わたしのお腹をぎゅっと抱きしめるように、背中から腕が伸びていた。
(´・ω・`)「だって今日は君の誕生日だもの!」
去年は、樹上の果実の中で一晩を過ごした。
一昨年は、氷河を歩いて、永の眠りに付いた太古の花を見に行った。
その前の年は、四日かけて世界中の夜を観測しに行った。
さらに前の年には月の裏側でクレーターを使ったワッフル作り、
ドラキュラの杭を求めてルーマニアに行ったこともある。
ヴェネチアの水を集めてエジプトに雨を降らしたり、
ダイアモンドと瑠璃を燃やして蒼ざめたマフィンを作ったこともある。
初雪となるはずだった雲を全部アイスクリームに変えたこともあるし、
ジェリービーンズからカラフルなうさぎを作り出してもらったこともある。
世界中を転々としているから、行ったことのない場所はない。
そう、彼と一緒にいればどこまででも行くことが出来た。
わたしは、万能の力に守られていた。
385
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:56:52 ID:PogJdj520
ζ(゚、゚*ζ( と一緒に行きたいところ)
行ったことのないところ。
考えては浮かんだ案を却下し、また考えてを繰り返した末に、
ζ(゚、゚*ζ「あ、」
あった。
ひとつ、未だに行ったことのない場所。
海。
どこまでも青く、空と海の境すらもあやふやな海。
その中でもうんと暗い、
ζ(゚ー゚*ζ「深海へ!」
叫んだ途端、空があることに気付いた。
黒い、黒い、吸い込まれるような黒い空。
しっとりと纏わりつく海水は、しんと冷えている。
ζ(゚ー゚*ζ「わぁ……」
下を見れば、海底はすぐそこへと近付いていた。
そぞろと黒い影が蠢き、よく見るとそれは巨大なダンゴムシに似ていた。
(´・ω・`)「オオグソクムシ、海底の掃除人さ」
優雅に着地した の足元から、堆積した白い雪は、ふわりと舞い上がる。
(´・ω・`)「おいで」
ふふりと笑う彼は、未だに彷徨うわたしを捉えてくれた。
386
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:57:51 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「はぐれたらどうしようかと思った」
(´・ω・`)「そんな目に遭わせるわけないだろう」
ζ(゚ー゚*ζ(馬鹿なことを言ってしまった気がする)
急に恥ずかしくなり、わたしは辺りを見渡した。
深海には、際限なく闇が広がっていた。
それなのに、頭上からラベンダー色の明かりが灯されていた。
見ると、彼は頭上に向かって何かをばら撒いていた。
金粉、それも粉砂糖のように細かいものに見えた。
ζ(゚ー゚*ζ「なあに、それ」
(´・ω・`)「リンさ」
ζ(゚ー゚*ζ「リン?」
(´・ω・`)「この辺りの深海にはリンや硫黄を食用とする生き物が多い」
指差した先には、月面のようなクレーター。
よくよく目を凝らしてみると、そこから水が噴き出しているらしかった。
387
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:58:56 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「あれは硫黄泉。温度が六百度もある」
ζ(゚ー゚*ζ「熱いのね!」
(´・ω・`)「地下深くから噴き上がる時に膨大な摩擦が掛かる。
だから熱泉となって湧きだすんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、噴き出してるところにはフジツボみたいなのがいるけど」
(´・ω・`)「あれにとってはあそこが過ごしやすい場所なんだ。
科学では未だにあれを地上に連れ出すことは出来ない」
ζ(゚ー゚*ζ「魔法では?」
(´・ω・`)「まぁ、やろうと思えば出来るだろうね」
自信たっぷりに言う は、なんだか子供のようだった。
ζ(゚ー゚*ζ「それで、リンを撒いたらどうなるの?」
(´・ω・`)「そのうち分かるよ」
そう言って、ショボンは地底を蹴り出した。
沈みつつあったマリンスノーは、再び舞い上がる様を見て、
いつかに貰ったクリスマスプレゼントを思い出した。
雪だるまの入った、スノーグローブだ。
背景にはサンタクロースが煙突へと入る場面が描かれていて、
毎年冬になると飾るのが習慣となっていた。
388
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:59:57 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「あ、」
粉雪は、みるみるうちにテーブルを作り出した。
マジパンで作ったウェディングケーキみたいな、真っ白なテーブルだ。
整った円形に変じたその端からは、サラサラと滝がこぼれていく。
ただしよく見ると、それは細かなレースの柄を編んでいた。
スミレ、勿忘草、バラに、チューリップ、それからポピー。
どれも素敵な花ばかり。
(´・ω・`)「座りなさいな」
柔らかな声が指す方向には、いつの間にやらソファーが出来上がっていた。
深海色のベルベットが張られたクッションは、優しく体を受け止めてくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「宇宙にいるみたい」
まるっきり体重が消え去ったような気分で、思わず肘置きへとしがみつく。
(´・ω・`)「水中だからね」
至極当然な答えに、やはり気恥ずかしくなった。
ζ(゚ー゚*ζ(そうだ、水の中に入ると体が軽いんだ)
(´・ω・`)「心配しなくても、君が思い切りジャンプでも
しない限りは何処にも行かないよ」
見透かしたように、 は微笑んだ。
389
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:01:37 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあもし、何処か遠くで、たしが
迷ってしまっても迎えに来てくれる?」
意地悪く返すと、 は頷いた。
(´・ω・`)「何処にいても、迎えに行くよ」
答える指は、とんとんとテーブルを叩く。
その魔法は、
ζ(゚ー゚*ζ「お茶会!」
(´・ω・`)「正解」
柔く微笑む彼を遮るように、あちらこちらからお菓子が降ってくる。
牡蠣殻の形をしたマドレーヌ。
青いジェリーの海。
その中で泳ぐクジラのエクレア。
薄い玻璃のような飴細工を纏ったヤドカリのタルト。
ヒトデそっくりの巨大なクッキー。
かわいいウツボのロールケーキ。
巻き貝の形をしたティーセット。
ζ(゚ヮ゚*ζ「すごい、すごい、すごーい!」
声をあげてはしゃぐわたしに、彼は目を細めた。
390
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:02:21 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「喜んでくれて何よりだよ」
ζ(゚ヮ゚*ζ「だって、素敵だもの!」
薄地のティーカップの中では、レモンのスライスがぷかぷかと浮かんでいる。
口にすると、爽やかな甘みと紅茶の香りがふんわり広がった。
わたしの入れたものとは大違いだった。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしーい」
ついでにマドレーヌへと手を伸ばす。
しっとりふあふあとしたそれは、薄く塩がきかせてあった。
ζ(゚ー゚*ζ「全部おいしいよう……」
(´・ω・`)「まだまだたくさんあるから、ゆっくり食べなさい」
そう言う だって、タルトとロールケーキを交互に頬張っていた。
ζ(゚ー゚*ζ(幸せだなあ)
しんと静まり返った深海の底、わたしと の声だけが響く。
二人きりの世界。
それを見守るように、淡い光が降り注ぐ。
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