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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/

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【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

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2名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:36:15 ID:F94asbco0
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好奇心で猫が死ぬ?        ヽ、   l          ヽ ,ィ
Cat has nine lives?               `ー.,′        _, イト
                        ,'         ..;;;;;;;;ィ  ジョルジュ・マグナーニ
まさか。                    /     ,ィ   ..,,;;;;'',.ィ仁   Georges・Magnanni
You're kidding me.             `ー--r‐、 ;;;;;:'' ,イ'.__ノ_イ
                             _,メリl__,ィニィ'ノ‐ ´
                         ,ィイメ` `r‐}l'´ , -イ
                        ,fリ′!、_ ..| ト∠- ′
                          Ⅷ  ー‐' ノ `リli|;;;;;;;;;;;;;
                    その猫が弱かっただけだろうよ。
                 That cat was so weak that it can't be alive.
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速度、信号、細かな道路規則を完璧に守るヴォルクスワーゲン社製の白いセダンは現代的で、そして厳めしい表情と堅牢な作りの洗練された美を有している。
低電力のライトは僅かに青みがかり、明るすぎず、だが暗く感じることのない適度な明るさで地面を照らしていた。
辺りには街灯が多く並び、仄かな白い光がアスファルトで舗装された道に光を落としている。
日中の太陽光と波力、そして風力で作られた電力を使用して発電しているため、その明るさは日によって違うと言う。

巨大な街が持つような発電施設はないが、自然の力を借りた発電施設は周囲の島々に散っており、この街には十分すぎるほどの電気が供給されている。
大嵐が島を襲ったとしても停電の心配はないと言われており、余った電力で得た金は街の重要な収入源の一つだ。
むしろ問題があるとすれば、建物の方だ。
嵐の度に昔ながらの作りをした家屋が新しくなるのは、この島の伝統的な風景とも言える。

3名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:39:55 ID:F94asbco0
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L|  .ヘ‐'      >''"    _,,,............,,_    `'マ〜く
ー'゙´    ァ=ーっ   ,x<´  ¢_¢  `>x   ヽ.ヽ\
      // 广´ /〃↑゙ヽ l÷l 〃♂ヽ {\__ノ ⌒^゙ヽ           August 9th
      //  } ∩/ ①乂__,.彡,.」⊥L乂__,.ノ__\       }          PM11:01
    /   U } `¨丁/      `丶.丁¨´{      /
    {       |ニニニ7    〃⌒ヽ.   マニニ|x-‐─《.
     '.      jニニニ{     {{QQQ}}    }ニニ!::::::::::::::::.
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鏡のように磨かれたスモークガラスのセダンを運転するのは、フレームレスの眼鏡によって知的な印象を与える鳶色の瞳を持つ若い女性だった。
美人に分類される顔の造形だが、彼女をよく知る人間からはそのような評価は一度たりとも下ったことがない。
一目彼女を見た人間もまた、その眼光に射竦められて評価を覆す。
もっとも、その女性は自分の容姿が異性に与える影響など眼中にはないのだが。

世界における正義の使者とも言えるジュスティア警察の長官専属秘書、ライダル・ヅーはハンドルを左手で掴み、右手は常にシフトレバーに添えている。
ギアを変える時に車が不自然に振動することもなく、車と搭乗者に負担をかけることのない運転を日頃から心掛けていることが分かる。
速度に応じてギアが変わっているのに気付くには、僅かなエンジン音の変化に耳を傾け続けるしかない。
時折ヅーの目は右側の助手席に座る男に向けられていたが、向けられた当の本人はそれに気付いていながらも無視を決め込んでいた。

助手席に座るのは整った服装のヅーとは対照的に、皺だらけのスーツを着てワイシャツのボタンを二つ外し、白髪だらけの乱れた髪の男だ。
右の頬にある大きな二本の傷は、人相の悪い彼をより一層悪人に思わせた。
落ち着きなく車外に目を向け、通行人や対向車、建物の上を観察する様は正に不審者そのものだ。
男の名前はトラギコ・マウンテンライト、ジュスティア警察のベテラン刑事である。

4名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:42:00 ID:F94asbco0
車は人通りの多い道から、ウィンカーを出して細い道に左折した。
すれ違う車は錆だらけ、もしくは土埃だらけの地元の人間が運転する車だけだった。
ヅーの車はいわゆる高級車で、地元民のそれとは明らかにかけ離れた美しさを持っているために、明らかに目立っている。
地味な見た目ながらも確かな質の品で彩られた車内に会話はなく、ラジオすら流れていない。

トラギコは気まずいとは思わなかったが、心地よい沈黙とも思えなかった。
目的地は本人の言葉が正しければ、ティンカーベルを代表する観光スポットであるグレート・ベル近辺のブライアンホテルだという。
ブライアンホテルという名前のホテルが実在するかどうか、実のところトラギコは知らなかった。
この島について、そこまで詳しくは知らないのだ。

閉鎖的な土地が好きな人間はそういないだろうし、トラギコもそういった人間の内の一人であり、ティンカーベルと関わる仕事の記憶がほとんどないのが原因だ。
何よりトラギコの記憶に強烈に焼き付いているのが島の雰囲気や地形よりも、捜査に非協力的な人間の多さだった。
そう云った経験も含め、この島での聞き込みはあまり実りあるものにはならないだろうとトラギコは確信していた。
だからこそ、自分の足を使って情報を手に入れて回るしかないのだ。

しかし、それはこのまま無事にホテルについて行動が出来るようになってからの話だ。
ヅーが大人しくトラギコの捜査の協力をするとは、どうしても考えられなかった。
規則一筋だからこそ優秀であり、ジュスティア警察の最高権力者であるツー・カレンスキーの専属秘書になったのだ。
世界で五指に入る優秀な秘書、とはよく言ったものだ。

トラギコに言わせれば、世界で五指に入る融通の利かない糞女である。
そのヅーが、己の独断で軍と警察の意向に反してトラギコを自由に行動させるなど、あまりにも非現実的すぎる話だった。
見え透いた罠だ。
彼女の目的はトラギコから情報を聞き出すことであり、保護することはその過程でしかない。

結果として情報を聞き出せれば、トラギコが殺されようとも気にも留めないだろう。
これまでに何度も彼女の行動を見てきたからこそ、彼女の言動の裏を考えざるを得ない。
ある意味で信頼と言えるだろう。
善意ある行動などなく、必ず裏に何かしらの目的を潜ませて動く女だという信頼。

5名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:45:28 ID:F94asbco0
このドライブも裏があると考えれば、常に首筋に剃刀を当てられているようなものだ。
脚の一本が使えなくてもヅーに力で勝つ自信はあるが、この女がトラギコとの体力的な差を考慮せずに拘束しようと画策しているとは考えられない。
ある地点に部隊が控えてあるか、この車に罠を仕込んでいるかもしれない。
テーザーガンで人をショック死させるような女なら、有り得る。

さりげなくルームミラーを見ると、後部座席に男女の対格差を無意味にする代物が鎮座していた。
強化外骨格――“棺桶”――だ。
彼女の使う棺桶は逃亡者を追い詰めるのに最適な物で、徒歩の人間は絶対に逃げきることが出来ない。
車内での争いは意味をなさないと考え、トラギコは再び視線を外に向けた。

車は、見覚えのある通りへと戻ってきた。
尾行車がいないか、それを見定めるための行動だ。
ヅーは意図的に細い道を選んだり、カーブを曲がる際に速度を上げたりと教本通りの対応をしている。
細かなハンドル操作と速度変化が多い中、ギアを変更する際、信号に従って車を止める際、どのような時もトラギコの体が前にのめり込むことはなかった。

車内には、エンジンが上げる低く小さな音だけがBGMとして流れていた。

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       '.      jニニニ{     {{QQQ}}    }ニニ!::::::::::::::::.    Ammo for Tinker!!編
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6名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:49:58 ID:F94asbco0
走り始めて一時間以上が経過したが、ホテルに到着する気配は一向になかった。
尾行車を警戒しての行動だとしたら、いささか時間をかけすぎている。
先ほどから後方を見てはいるが、それらしき車両を見かけてはいない。
何かを考えているのだろう。

トラギコをどこかに連れ込み、拷問をする算段でも立てているかもしれない。
セダンは似た景色の道を繰り返し通りながらも、確実に島の奥へと向かっている。
流石に我慢が出来なくなってきたトラギコは、運転席に仏頂面で座るヅーの方を向いた。

瓜゚ー゚)「何ですか?」

相変わらず、この顔が腹立たしい。
何もかもを知っている人間だけが出来る、落ち着き払った表情。
忌々しいこの女は常にその表情を顔に貼り付け、接してくる。
自分が上位にいることを示すかのような表情は、己の知識と技量の裏返しだ。

それだけ自分に自信があり、相手よりも勝っているという確信があるのだ。
上司でなければ殴っているところだ。

(=゚д゚)「どこに向かっているラギ?」

視線を窓の外に戻し、トラギコは質問をした。
思えば、このセダンに乗車してから初めての発言だった。

瓜゚∀゚)「ホテルです、遠回りですが」

返答したヅーもまた、視線を前に固定したままそれに応じた。、
表情は微塵も変化がなかった。

(=゚д゚)「あんまり時間をかけてほしくないラギ」

7名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:52:51 ID:F94asbco0
瓜゚∀゚)「構いませんが、島の地図は頭にありますか?」

成程、とトラギコはヅーの発言の意図を理解した。
トラギコにこの事件を担当させるのであれば、当然、捜査を行うことになる。
捜査に必要なのは根気と土地勘、情報、そして暴力だ。
島の形を理解し、島にある街並みとその細かな道を覚え、どこにどのような店があるのかを覚えておく必要がある。

特に、酒場は情報収集には最も適した場所だ。
酒精を摂取した人間は多かれ少なかれ、必ず集中力が落ちる。
その隙に付け入り、情報を手に入れるのは容易な話だ。
現にトラギコは、この一時間で四件の酒場を記憶していた。

やはり、抜け目のない女である。

(=゚д゚)「……やっぱり、もう少しだけ付き合うラギ」

街の案内をしながら送迎されているとは、思ってもみなかった。
しかし、罠である可能性は微塵も減っていない。
再び、無言のドライブが始まった。

8名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:55:57 ID:F94asbco0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Tinker!!編
              _,,斗zセニ二..,,,_ ̄ ̄三二ニ丶、
     ,.. -─=≦=ー-  .,,_     )'´,.斗-‐t━=ミ\   _
    _(ハ,_,,..二{》二二...,,,,_/.ノ__,,.. ィ゙ <∠..,,___,ハ,.-‐\\にl}   第五章【drive-ドライブ-】
  〃) ∨__リ____  {!に二¨¨:ア´ ̄ ̄ ̄``マニ==ー<∠....,,,,__
  |:i' c |[「 ̄ ̄ ̄ ̄|/ r‐ュ.  |::;′     ∠.,`ヽ     `ヽ   `>、
  U n   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    n ∪     / , -、'vハ        °/,:'ヽ',
  ∨_    0O           ____    /     ',Ⅵ',     l|  / ;  }|
  にニヽ. .....,,,,,,_ _ __ ___f'´-----‐\/ l{    }}ノ人      リ August 10th AM00:32
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ブライアンホテルに着いたのは日付が変わってからだった。
それまで徹底して口を利かないでいたトラギコは、この段階でもまだヅーを疑いの目で見ていた。
八階建てのホテルはペンキが塗り替えられて間もなく、内装は小奇麗に整っていた。
受付のあるラウンジも掃除が行き届いており、赤い絨毯は柔らかく足を負傷しているトラギコにとってはありがたく感じた。

ホテルの入り口近くには飲食や談話の出来る小さな丸テーブルと一人掛けのソファが三つあり、ラウンジの奥にはカウンターバーもあった。
ヅーは受付に立ち寄り、名前を告げてから鍵を受け取った。
その動作が生んだ僅かな時間の中で、トラギコはラウンジに不審な人間や物がないことを確認していた。
柱の陰や植木の陰にも目を向け、影や異常な動きがないかを見る。

入り口が密かに施錠されていないこと、その扉の近くに何か罠のような物がないことを確認した。
警察とジュスティア軍が好む手口は、標的が目的の建物に入った時に捕える方法だ。
瞬間的な油断の数値で言えば最も高いからだそうで、真っ先に行うのが出入り口の封鎖なのである。
別の手段で捕えに来るとしたら、部屋に入った瞬間か睡眠の際だろう。

9名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 19:58:11 ID:F94asbco0
トラギコを一瞥したヅーは何も言わずに先にエレベータに向かって歩き出し、昇降機を呼んだ。
それに続いてトラギコは松葉杖を突きながら、エレベータの前に立つ。
昇降機の中に武装した部隊がいたとしたら、抵抗は考えずに大人しくしておいた方がいいだろう。
だが予想とは裏腹に、開いた扉の中には誰もいなかった。

十人ほどが乗れるやや小さめの昇降機に乗って二階に向かい、五秒もかからずに到着する。
静まり返った廊下を進み、突き当りにある211号室の前で止まる。
廊下の突き当りには小窓があり、柵は設置されていない。
万が一の際にはここから飛び降りて逃げられることを確認した。

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部屋の扉を開き、先にヅーが入る。
一拍置いて安全を確認してから、トラギコも続いた。

瓜゚∀゚)「これから少し話をしますので、適当にかけてください」

そうは言っても、部屋には小さなベッドが一つと読書灯と電話、そしてメモ帳の載ったサイドテーブルが一つ。
椅子は一脚もない。
些細な家具の有無はどうでもよかったがどうしても見過ごせなかったのが、ユニットバスという点だった。
トラギコはユニットバスがこの上なく嫌いだった。

10名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:02:12 ID:F94asbco0
何が悲しくて糞を垂れる空間と、体を洗う風呂場を一緒にしなければならないのか。
だが侵入者が隠れる場所がないのはいいことだ。
とりあえず、トラギコはベッドの上に腰かけた。
ヅーは玄関を背にして、トラギコを見下ろしている。

窓から離れているのだ。
警察が盗聴に使用している機器の中に、窓の振動を使って室内の会話を聞き取る物がある。
本当に独断で動いているのかもしれないと、トラギコは今さらではあるがヅーの言葉に耳を傾ける気になった。

瓜゚∀゚)「まず、現状についてお話しします。
    脱獄犯の二人は未だ発見されておらず、現地の署、軍と連携して引き続き捜索しています。
    なお、軍からは人狩り専門の精鋭部隊が派遣されています」

(=゚д゚)「連中に人探しは無理ラギ。 跫音立てて狩りをするような連中ラギよ。
    狩りと捜査は全く別物ラギ」

瓜゚∀゚)「分かっています。 なので、軍は主に封鎖と緊急時の対応に力を入れています。
    全ての連絡所に部隊が設置され、数人の精鋭だけが島内を探っている状態です」

滅茶苦茶だ。
川の中を歩きながら探し物をするようなものだ。
泥が舞い上がり、足元が見えなくなることに憤りながら事態を悪化させ、更に憤慨して取り返しのつかない状況にするようなもの。
探し物をする時には慎重さが必要になる。

軍人にはそれが足りていない。
特に、ジュスティアの軍人はそれが致命的なまでに訓練されていない。
正義があれば何でもできると思い込んでいる狂信者。

(=゚д゚)「そもそも指揮は誰ラギ?」

11名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:05:47 ID:F94asbco0
瓜゚∀゚)「タカラ・クロガネ・トミーです。 元帥の」

軍の最高責任者のタカラについては、トラギコもその活躍を耳にしている。
そして、若さが仇となることを知らない人間であることも知っている。
行動力だけは認めるが、それ以外についてはあまり評価できる部分がない。
というのも、ジュスティア軍が他の地域に出向いて治安維持を行うようになったのは、彼が元帥になってからなのだ。

一世紀以上も前の仇を討とうとフォレスタに密かに派兵して壊滅したのは、確か彼の進言だったと記憶している。

(=゚д゚)「俺の足を撃ったのは、やっぱりカラマロスか?」

瓜゚∀゚)「……えぇ。 予定では掠めさせて脅す程度だったのですが、風の影響があったそうです」

嘘だと断言できる。
強い潮風が吹く中、高速で走るバイクのタイヤの軸を正確に撃ち抜いた人間だ。
確かに風の影響があったかもしれないが、カラマロス・ロングディスタンスはトラギコを殺すつもりで撃ってきた。
大動脈を撃ち抜いて殺すつもりが、風の影響で狙いが逸れただけなのだ。

どうやら、軍にかなり嫌われているらしい。

(=゚д゚)「あの糞野郎についてはさておくラギ。
    で、続きは? どうして手前がこの件に絡んでいるラギ?
    長官の専属秘書がどうしてここに?」

瓜゚∀゚)「……それについてはお教え出来かねます。
    私は別の指示があってここに来ているだけですから。
    話を戻しますが、ショボンが脱獄犯を逃した目的や彼の動き方を知っているのは貴方ぐらいしかいません。
    この状況でオアシズやオセアンの情報を貴方から聞き出すのは無理でしょうから、まずはこの事件を終わらせてほしいのです。

    リスク管理の問題です」

12名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:12:17 ID:F94asbco0
ようやく理解できた。
ヅーは、警察にかかる負担のほぼ全て。
つまり、事件に関わる上で発声する面倒全てをトラギコに押し付けようというのだ。
現実的に考えて、警察ではこの事件を解決出来ない。

相手は警察で働いていた経験を持つ、狡猾極まりないショボン・パドローネ。
トラギコを殺すために病棟を一つ燃やすような人間が、警察のやり方で見つけられるはずがない。
この女は尤もらしい理由を付けて説明しているが、あくまでも過剰なまでに盛り付けた話であって、本質には一切触れようとしていない。
そもそも、ヅーが独断で、という下り自体が明らかな嘘だし、正義を重んじるジュスティアがこれだけの大きな事件を一人に投げる訳がない。

要は捨て駒。
敵をおびき出すための駒として動き回らせ、あわよくば事件に関する情報を収集したいだけなのだ。
何せ、平気でオアシズを沈めようとする組織が相手なのだ。
こうして餌となるトラギコをこのホテルに泊まらせておけば、自ずと尻尾を表すことになる。

成程。
利口な餌になれという事なのだ。
恩を売っているように見せておいて、その実は作戦を動かす部品の一つとして動かす腹積もりなのである。
やはり、この女は好きにはなれない。

だがしかし、好都合な面もある。
アサピーのネタはこちらで隠したままだし、彼にある程度の話をしたことも秘匿したままだ。
何よりほぼ自由に動けるのは大きな利点だ。
互いに手の内は全て曝け出していない状態にある。

先手を打てば、トラギコにとって有利な状況を作ることが出来る。

13名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:14:44 ID:F94asbco0
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     三≧==-         ̄≫  `¨、 _-‐‐ ‐ /
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        ヽ       、\ iニニ= ` -=≦\ ヽ__
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(=゚д゚)「話は終わりラギか?」

瓜゚∀゚)「概ねは。 一つ、気になっていることがあります。
    貴方に答えてもらいたいことです」

来た。
恐らくこれが、ヅーがここにいる理由につながる質問のはずだ。
答える答えないはさておいて、話を聞けば相手の考えが何か分かるかもしれない。

瓜゚∀゚)「デレシア、という人物を知っていますか?」

(=゚д゚)「さぁ? 昨日も答えたけど、聞いたこともねぇラギ」

これで終わりだろうか。
デレシアはこちらもその正体が分かっていない上に、誰にも渡したくない獲物である。
何か知っていたとしても、教える気にはならない。
あの女は、トラギコの獲物なのだ。

瓜゚∀゚)「ニクラメン、そしてオアシズの事件に関与しているという話がありました。
    ですが、その人物の名前は偽名の可能性が非常に高く、その目的も不明です」

14名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:18:34 ID:F94asbco0
確かに関与はしていた。
それは間違いない。
関与どころではなく、深い部分で繋がっていたとトラギコは推理している。

(=゚д゚)「なら質問する先が間違ってるラギ。
    探偵に頼め」

会話が終わると思われたが、続きがあった。

瓜゚∀゚)「……問題なのが、その人物の名前がジュスティア史に出てくる人物の名前という事なのです」

それは初耳だ。
一応、ジュスティアにある大学を卒業したが、歴史の授業でその名前を耳にしたことはない。
特徴的な名前というのもあるが、トラギコは記憶力に関しては少し自信がある。
特に人命に関しての記憶力はよく、歴史上の人間の名前はある程度覚えていたはずだ。

仮に忘れていたとしても、その名前に何か違和感を覚えたりするはずなのだ。

(=゚д゚)「へぇ、単に歴史好きなだけじゃねぇのか?
    それとも歴史好きに悪い奴はいないとかって言うラギか?
    その名前、それほどすげぇのか?」

挑発的な言葉を無視して、ヅーは続けた。

瓜゚∀゚)「それはそうでしょう。 ジュスティアの中でもある程度の権威を持った人間だけが知り得る情報なのですから」

(=゚д゚)「……ほぅ?」

15名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:21:04 ID:F94asbco0
瓜゚∀゚)「詳しくはお話しできませんが、この名前を知っているという事は、ジュスティアにいたという事を意味します。
    そして、権威を持った人間であった、もしくはあるという可能性があります。
    そんな人間が件の事件を起こしたとなれば、これは非常に厄介な問題になります」

限られた人間だけが知ることの出来る歴史。
それはつまり、ジュスティアという街が出来上がるに際してかなり大きな影響を持つ情報という事だ。
これまでの間秘匿され続けてきた歴史。
是非とも知りたい。

当然の事だが、ヅーは話さないだろう。

(=゚д゚)「見つけたらどうするつもりラギ?」

瓜゚∀゚)「当然、死刑です。 汚点を世に晒すわけにはいきませんから」

これが、彼女の目的だ。
いや、彼女たちの、と言い換えた方が正確だろう。
真実の確認よりも先に消したい情報を持つ可能性のある人間、それがデレシアなのだ。
彼女が旅をしていることを知らなければ、同伴者がいることも知らないのに、随分と大きく出たものだ。

同時に複数の問題を解決しようとして――否、そうではない。
彼らは、デレシアもショボンの組織も同一視しているのだ。
とんだ勘違い、と言いたくもなるが実のところトラギコはデレシアの何も知らないことを再度自覚する。
本名も年齢も、旅の目的も。

16名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:24:26 ID:F94asbco0
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    何も      /{:八: : :i/: :八: ∨|八|  |/ :j            /    /: : :/ ハ :  \
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  知らない   / : : : : \ \ \: :从⌒            ∠/  //: / ノ.: :リ 〉: 〉
     /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
     {   { 厂      . : { /⌒\          .イ///: : : .____   人: :\/
     ':   ∨} _: : : : 二二/ /   | \_   -=≦⌒\く_: : /: : : : : : :_:): :\: :\
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分かっているのはその姿が浮世離れした美しさを備え、風変わりな格好をしている事、耳朶に心地いい声をしているという事。
そして、並外れた勘とただならぬ雰囲気を身に纏った若い女性だという事だけだ。
捜査にはほとんど役に立たない情報だが、知らないよりかはいい。
横取りをさせるわけにはいかないため、トラギコは一切の情報を流さないことを決め込んだ。

(=゚д゚)「ま、好きにしてくれラギ」

トラギコはここまでの段階で、ヅーが自分を疑っていることに気付いていた。
デレシアという人物に関して何も情報を開示していないのがその証拠。
あくまでも名前だけだ。
例えば性別や容姿については不自然なほどに言及しておらず、万が一トラギコが口を滑らせようものならそこを突いてくるつもりだったのだろう。

甘い。
そのような罠をトラギコに仕掛けるなど愚の骨頂だ。
ジュスティア警察ではよしとされていない手段だが、トラギコにとっては常套手段。
常識的過ぎて逆に不自然なものにまでなっている手段なのである。

瓜゚∀゚)「……そうします。 捜査は今日からですか?」

(=゚д゚)「ま、その予定ラギ」

17名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:28:19 ID:F94asbco0
瓜゚∀゚)「くれぐれも、捕まらないようしてください」

捕まらないようにお膳立てをしてくれる、という意味に捉えておく。

(=゚д゚)「なぁ、予算はくれないラギか?」

瓜゚∀゚)「……五十ドルだけ、そこの机の引き出しに入れました。
    それでどうにかしてください」

(;=゚д゚)「五十……ドル……? 一週間それで過ごせたら表彰ものラギ。
    バラエティーラジオの聞きすぎで脳味噌が退化したラギか?」

どれだけ節制したとしても、三日でなくなってしまう。
聞き込み、張り込みの基本は飲食店だ。
身分を隠して店に長居するには商品を買わなければならない。
喫茶店ならば一番安いコーヒー、酒場なら一番高い酒だ。

それが、五十ドル。
安い喫茶店でもコーヒー一杯五ドルだ。
コーヒー一杯で喫茶店に滞在したとしても、最終的には食事が必要になる。
三食摂るとして、一食当たり一ドル五十セントから二ドルの間でやりくりしても、日にかかるのは十ドル弱。

更に一食一ドル五十セントとなると、せいぜい痩せ細ったフランクフルトしか買えないだろう。
つまり、五日も持たない計算だ。
予算から算出されたヅーがトラギコに与えた猶予は、今日を含めて四日。
四日以内に脱獄犯を捕まえなければ、トラギコは捕えられて今度こそ逃げられないように監禁される。

部屋を出て行ったヅーに向けて中指を立てることもなく、トラギコはさっそく地図作りに取り掛かることにした。

18名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:32:12 ID:F94asbco0
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      i                ノ、__
      !              r'´ヽ `':,
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    /               ノ   i/    `',
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瓜゚∀゚)「……」

ライダル・ヅーはホテルから出てすぐに、純白のセダンに乗り込んで一息ついた。
だがエンジンをかけただけで、ハンドルを握ることもギアを変えることもなかった。
小型の携帯無線機をグローブボックスから取り出し、時間ごとに定期的に変えられる特殊な軍用の周波数に合わせ、通信状態を確認した。

瓜゚∀゚)白「“虎”は檻に、繰り返す、“虎”は檻に」

断続的にノイズが走り、通信は終わった。
これでヅーから軍への報告が終わり、後は客に紛れた捜査官たちがトラギコの動向を探ることになる。
すでにこのホテルの宿泊客は警察と軍関係者だけとなっており、ホテルの従業員もジュスティアの息のかかった人間達だ。
つまり、トラギコはこのホテルに入った時点ですでに監視下に入っていたのだ。

いくら警戒していたとしても、意味はない。
ホテルのどこかに潜んでいるのではなく、ホテルそのものがトラギコを監視する施設。
もはや、トラギコは好き勝手に動くことはない。
そして、何者かに襲われて負傷することもないのだ。

実際、トラギコに話したことに偽りはほとんどなかった。
この作戦を立案したのはヅーだし、責任者もヅーだ。
ショボンが組織に属しているのは分かったし、トラギコが狙われていることも十分に分かった。
だからこそ、トラギコを自由に動かすわけにはいかない。

19名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:34:59 ID:F94asbco0
傷つき、命が失われれば情報も失われる。
それは避けなければならない。
ジュスティアのみならず、世界に影響を及ぼしかねない。
彼が持っている情報には、それだけの可能性があるのだ。

かと言って、安全のために監禁されることを彼は嫌うだろう。
束縛を好む獣はいない。
せめて自由でいるという錯覚を味わってもらうために、このような運びにしたのだ。
勿論、ショボンの組織の人間をおびき出すという目的も含んでいるのだが、何よりも最優先に考えていたのは、トラギコの安全確保だった。

こればかりは、トラギコに言った通り、ヅーの独断による部分が大きかった。
自分らしくない行動だが、全体的な利益を加味すればやはりトラギコの存在は重要だ。
彼以外、餌として絶好な人材がいないのだ。
それだけでなく、トラギコだけが敵の組織を知っており、彼だけが敵の興味を引き付けている。

躊躇なく病院を燃やすような人間が単身でトラギコを狙うとは思えず、彼一人で対処出来るとも思えない。
必ずその裏に繊細な計画を練る人間、それこそショボンのような人間が数人控えていることだろう。
大規模な組織が関与しているのはトラギコの口から聞いた可能性の一つだが、おそらくはその見込みが正しいはずだ。
可能性の段階であるため、本部にはまだ報告していないが証拠が見つかり次第捜査に移ることが出来る。

今、警察本部が躍起になっているのがショボンと脱獄犯の行方、そして目的だ。
警察が誇る優秀な捜査官でさえ、その手がかりを掴むことさえ出来ていない体たらくぶり。
となると、秘密裏にでもトラギコを頼らざるを得ず、彼の機嫌を損ねるわけにも命を失うわけにもいかないのである。
今最優先されるのは、ショボンたちを捕まえて新たな事件を起こさせないことだ。

周囲のパニックを回避するために二人の脱獄犯の情報を偽ってアナウンスした中、エラルテ記念病院で起こってしまった放火事件。
それは、警察が犯人の動きに対応できなかったことを意味している。
故に、病院の火災はタバコの火の不始末による火災、として処理される。
事件性がないことが分かれば、住民たちもパニックになることはない。

20名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:40:23 ID:F94asbco0
ジュスティア警察と軍が島で警戒する中、不注意によって強化外骨格の不審者に放火されました、などとは口が裂けても言えない。
そういった意味では、トラギコの担当医だった男――名前は忘れた――の死は実に迷惑な物だ。
射殺された死体の始末と隠蔽は容易ではない。
偶然現場に居合わせた軍関係者が死体を隠したからよかったものの、医療関係者に見つかれば大事になっていた。

まだまだ手探りによる捜査が続きそうだが、どうにかするしかない。
溜息を吐くことを我慢し、ヅーはシートベルトを締め、車を走らせた。
ラジオを入れる代わりに窓を開け、風を車内に取り入れる。
夏の夜の匂いと潮の香りがする風が、車内を勢いよく駆け回る。

トラギコの匂いが、これでようやく消える。
正直、トラギコの匂いは苦手だった。
嗅いでいるとアルコールを摂取したような錯覚に陥り、思考が鈍ってしまうのだ。
決して不快な匂いではないのだが、自分を保つためには邪魔な匂いだった。

セダンは街を離れ、山奥に向かっていった。
街全体を見下ろすことの出来る小高い山は、日中はハイキング客、そして夜には天体観測を楽しむ人間でささやかな賑わいを見せる。
島全体が行き来を禁じられてからも、その客足は途絶えも衰えもしていない。
だが、海岸沿いには検問所と警察犬が配置されており、絶えず監視が行われている。

島から逃げるのは非常に難しいだろう。
ギアをサードからフォースに入れ、アクセルを深く踏み込む。
ジュスティアからの資金提供もあって、グルーバー島の車道はどこも綺麗に整備されている。
五年に一回はアスファルトを敷き直しているため、セダンでも難なく山道を走ることが出来る。

ライトをハイビームにして、ヅーは山沿いに一周してから街に戻ることにした。
グルーバー島で最も標高のあるアルマニック山の周囲は速度制限がない代わりに、常に転落と落石に注意という道路標識が目に入るようになっている。
ガードレールがあるとは言っても、速度が増せばそれを飛び越えて崖下に落下することもある。
それはハンドリングとアクセル、そしてブレーキ操作を誤った愚か者のすることだ。

21名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:44:44 ID:F94asbco0
ヅーは徐々にアクセルを深く踏み、一気に加速させた。
強風が車内に吹き込み、あらゆる匂いを吹き飛ばし、一新させる。
急カーブに差し掛かるとすかさずクラッチとブレーキを踏んで速度を落とし、ギアを落とす。
カーブを曲がり切ってから、再びギアと速度を上げた。

普段はルールに従っているが、速度制限がなければヅーは運転している車の限界速度まで走らせたいと考えていた。
限界まで速度を上げることで感じられる高揚感とスリルは、何物にも代えがたい。
勿論、日常生活でそれを満たそうなどとは考えていない。
ルールは必ず守らなければならないからだ。

これはあくまでも、仕事の一環として楽しむだけだ。
崖沿いの道から森の中を通る道に進路を切り替え、ドライブを続ける。
やがて、セダンが峠に続く細い道に差し掛かった頃、異変が起こった。
暴風の音に混じって、バイクのエンジン音が森の中から聞こえてきたのである。

それは森を横切って迫り、横合いからヅーの車を殴りつけようとしているようにも感じられた。
音は森の中で木霊しており、どこから聞こえているのか、正確な方向が分からない。
接近する音の位置を理解してタイミングをずらせば、激突は回避出来る。
当然、方向をより確実に伝えてくれるライトの動きにも注意を配る。

森の中を走破するには視界が有効でなければならない。
ライトなしでバイクを運転しているのだとしたら、自殺行為だ。
自殺志願者であればそのまま崖に向かい、鳥人間コンテストよろしく飛んで行くことだろう。
問題となるのは、全てが杞憂であるか否かという事だ。

今聞こえている音だけではオフロードレースに狂った人間か、それともショボンの仲間かは判別できない。
ギア操作とブレーキで速度を急激に落とし、グローブボックスからベレッタM92Fと予備の弾倉一つを取り出す。
一瞬だけハンドルから手を放して安全装置を解除し、遊底を引いて初弾を薬室に送り込む。
銃を膝の上に置いて、バックミラーを見る。

22名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:48:38 ID:F94asbco0
横に注意を逸らせて後方から襲撃してくる可能性を考えたのだが、それも違うようだ。
果たして、この山奥で何をしているのだろうか。
音が近付き、眩いライトが見えたことから、バイクのいる方向が右側であることが分かった。
もう間もなく、右手側の森から出現するはずだ。

ハンドブレーキに手を伸ばし、その時を待つ。
速度を時速18マイルにまで落とす。
殆ど徐行と言える速度だ。
注意深く森に目を向けつつ、車を走らせる。

このセダンはバイクにぶつけられても大破しない構造になっているし、潰れるのは助手席側だ。
しかし、銃撃されたら大ごとになる。
視界の端に森を捉え、木々の間を走り抜けながら接近してくるライトを確認する。
低いエンジン音から、オフロードタイプのバイクとは違うことに気が付く。

次の瞬間、ヅーが通り過ぎた森から全く別の存在が出現し、思わず振り返った。
黒いオフロードタイプの車だ。
そして僅かに遅れて、大型ツアラータイプのバイクが森から飛び出し、姿勢を崩すことなくセダンの前方に着地した。
目の錯覚か分からないが、一瞬だけ、二人乗りをしているように見えた。

バイクはテールランプの赤い尾を残してあっという間に走り去り、それに続いてオフロード車がセダンを右側から追い越した。
全ては一瞬の事だった。
瞬く間に二台はヅーの視界から遠ざかっていく。

瓜;゚∀゚)「何……ですか、あれは……」

警戒していた自分が馬鹿に思えた。
が、すぐに思考を切り替えた。
あれは、ただ事ではない。
若者の遊びの延長線上にある一光景ではなく、追う者と追われる者の関係にある姿だ。

23名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:54:48 ID:F94asbco0
ギアを変更し、オフロード車を追うことにした。
この短時間で離れた距離は、すぐに取り戻せる。
銃に安全装置をかけて助手席に置いて、ハンドルを握りしめる。
久しぶりのカーチェイス、もしくはレースだと思えばいい。

秘書として働く前は、短い間だが婦警として働いていたのだ。
速度違反を取り締まる仕事ばかりだったが、その時に変な趣味が身についてしまったようだ。
しかし同時に、コツと知識を身につけた。
追う時は徹底的に、そして執拗に。

アクセルはベタ踏み、狙いと注意は正確に。
報告は後だ。
一気に加速したセダンは、オフロード車との距離を順調に縮める。
先を行くバイクの姿はすでに視界になく、オフロード車は必死に追っているようだ。

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その特徴的な後ろ姿から、車種を導き出す。
――TOYOTA社製、ランドクルーザーだ。
頑丈かつ堅牢な作りをした四輪駆動車で、各地の武装勢力、ギャングにも人気の車種だ。
速度はそこまで出せないが、山道や悪路を走破するのには十分な性能を有している。

24名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:57:59 ID:F94asbco0
背後から迫るセダンは眼中にないのか、接近しても何の反応も示さない。
真後ろにピタリとつき、動向を窺うことにした。
相手から打って出てくれれば重畳だ。
そのまま返り討ちにして、情報を聞き出せばいい。

そうでなければどこか適当な場所で停車させ、情報を聞くだけである。
抵抗したならば制圧し、反抗したならば処分する。
いつものやり方でいい。
最上の展開としては、追っているバイクの乗り手に追いつき、この騒ぎの全容を知ることだがそれは難しいだろう。

峠を越え、下り道へと切り替わる。
道の両端に聳える木々が高速で過ぎ去り、速度感覚を狂わせる。
やがて山中から崖沿いの道へと抜け、起伏に富んだ一本道が待っていた。
速度を上げる二台の車は跳ねるようにして走り、着地し、タイヤを軋ませた。

左手に海を眺める開けた道に差し掛かったが、バイクの姿は見えない。
上手く撒かれたらしい。
ランドクルーザーが徐々に速度を落とし、待ち望んだ変化が起こった。
観音開き式のリアゲートが右側だけ開き、覆面をした人間が姿を現したのである。

その手にはストックを折りたたんだAK47突撃銃が握られており、発砲を予感したヅーは咄嗟にハンドルを横に切った。
予期していた発砲こそなかったが、その行為は明らかな脅しだった。
いや、親切な警告と言うべきだろう。
目の前にいる集団を敵として認識したヅーは、追跡から力による情報収集へと作戦を切り替える。

ランドクルーザーの右斜め後ろに素早く位置取り、ヅーは助手席からM92Fを手にして安全装置を解除。
パワーウィンドウを自動で全開にし、左手を窓から出して銃爪を引いた。
銃弾はリアバンパーに穴を空け、二発目の銃弾はカラシニコフの銃身に当たって火花を上げ、三発目で膝を撃ち抜いた。
膝を押さえて倒れた敵を無視し、ヅーは続けて運転席に向けて弾倉の中身を全て発砲した。

25名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 20:59:59 ID:F94asbco0
運転手に当たればと思ったのだが、最初の三発で警戒していたのか運転に大きな乱れはない。
また、後部座席にも五発ほど浴びせたのだが不気味なほどに反応がない。
撃ち尽くした弾倉を手首のスナップで落とし、再装填を素早く行って、ヅーは車の横に並ぼうとハンドルを切る。
だが、そうはさせてくれない。

ヅーの運転に合わせてそれを塞ぐ形で位置取り、後部座席から銃口がヅーを睨んだ。
近付きすぎていることを察し、ヅーはハンドルを切りながらブレーキを踏んだ。
数発がボンネットに当たって跳ね返り、フロントガラスに二発当たって残りは地面を穿った。
フロントガラスに拳大の蜘蛛の巣状のひびが入ったが、運転に問題はない。

すぐにアクセルを踏みながら、牽制射撃を行った。
相手のペースに飲まれることなく、ヅーは教本通り十対一の割合で撃ち返す。
こちらの装弾数は十七発と、あまり贅沢は出来ないのだ。
蛇行運転を繰り返し、少しでも被弾を減らす。

防弾ガラスも装甲も無敵ではない。
同じ個所に集中的に撃ち込まれたら、一発ぐらいは貫通する。
徹甲弾を撃たれたら一発でお終いだ。
二つ目の弾倉を撃ち尽くし、ヅーは銃を助手席に潔く投げ捨てた。

運転に集中し、フェイントをかけつつ横に並ぼうと一気に加速。
それを受け、一度だけランドクルーザーが左に曲がり、振り上げた拳のようにヅーのセダンに体当たりを放った。
が、これは予想通り。
ハンドブレーキを用いて急静動をかけ、それを回避する。

すぐさま速度を上げ、背後にピタリとつく。
これが警察車両であればサイレンや拡声器が使えたのだが、と舌打ちをする。
幸いなことに、峠を下りきった位置には検問所がある。
このままそこまで誘導できれば、ヅーの勝ちだ。

26名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 21:01:43 ID:F94asbco0
悶絶していた敵がカラシニコフを構えたのを見て、ヅーは咄嗟にアクセルを踏み込んでバンパーにぶつけた。
衝撃で男の体が大きく揺れる。
間隔を空けてもう一度ぶつけ、片方だけ閉じていたリアゲートが振動で開く。
あと一押しだ。

一際強く加速させて体当たりをすると、覆面の男が車外に転がり落ちた。
間髪入れずにヅーのセダンがそれを踏み潰し、車が大きく弾んだ。
この速度なら死んだだろう。
バックミラーでその姿を確認して、視線を前に戻した。

後部シートの間から銃口が見えた瞬間、ヅーは息を飲んだ。
H&K社製HK21軽機関銃だと認識したのは一瞬。
ハンドルを左に切ったのはその半瞬後。
銃弾が道を抉ったのは、僅かにコンマ五秒後の事であった。

思っていた通り、ただのチンピラではない。
装備が充実しすぎている。
海側に避けたヅーをガードレールに押し付けようと迫ってくることが予想されたため、ヅーは速度を上げすぎないように絶妙な位置につく。

瓜゚∀゚)「ここまでとは……」

思わず口を突いて出る独り言。
目の前にいるのがショボンの組織に関する人間なのは疑いようのないことだが、その行動力は見上げたものであると再評価しよう。
敵だと認識した瞬間に切り替える思考の速さは、是非とも見習いたいものだ。
警告の後の攻撃、そして攻撃の激化までの的確なプロセス。

一筋縄ではいかない。
少しばかり慢心があったのかもしれないと反省し、ヅーは改めて方針を打ち出した。
敵を一人だけでも捕え、尋問し、真実を吐かせる。
それ以外は処分するしかない。

27名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 21:05:20 ID:F94asbco0
次いで、現状の整理に移る。
相手は荒れた道を走破することに特化した車で、こちらは舗装路を走破することを得意とする。
車種による有利不利を言うのであれば、ヅーの方が有利だが大した意味はない。
逆に大した意味を持つのが武装だ。

拳銃と機関銃では、勝敗は明らかである。
おまけにこの状況では再装填も出来なければ、銃としての意味はない。
このままの状態で有利なのは相手だ。
そして次に相手が何をしてくるのかを考え、ヅーは覚悟を決めた。

――次の瞬間、ランドクルーザーは半回転しながら急停車し、セダンはその横っ腹に突っ込んだ。

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トラギコは観光用の地図に書き込みを終えると、それを折り畳んでサイドテーブルに置いた。
アサピー・ポストマンの写真が撮影された場所を考えると、このホテルに陣取るのは正解だ。
問題は操作をするのに必要となる資金が不足していることだ。
警察手帳を出せば足がつく。

ヅーはそこまで計算に入れた上で、五十ドルというふざけた金額を用意したのだ。
紛れもなく嫌がらせだ。

28名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 21:09:04 ID:F94asbco0
(=゚д゚)「ふぅ……」

ともあれ、ヅーはこちらをまんまと欺いたと思っているのだろうが、それは逆だ。
こちらがしてやったのだ。
アサピーを介して、昨晩の火事の全貌が公になる。
そうなれば、捜査は大混乱となる。

島中が警戒態勢となり、オアシズで行われたような作戦は展開し辛くなる。
ショボンの思い描いている計画は、これだけで大打撃を受けるはずだ。
昨夜の火事についてジュスティアが情報操作を行うことはおそらくショボンの計算の内にあることだが、その情報が表になるとは考えていないはず。
そうでなければあれほど大胆なことをするはずがない。

あれでショボンは慎重な人間だ。
ジュスティアが揉み消すことを信頼し、それを前提に作戦を進めていなければトラギコを焼殺する必要がない。
何か目的があって銃殺や毒殺を避け、あえて焼殺を選んだのだろう。
つまり火事を装ってトラギコを殺す必要があったという事だ。

しかし、それが崩されたのなら、どのような作戦であれ根底から練り直しが必要になる。
これでまずはショボンとヅーの両者に一矢報いた、という所だろう。
また、ヅーはトラギコがこのホテルに大人しく泊まると思っているのが傑作だ。
大前提として、トラギコはヅーを信頼していない。

もっと言えば、ジュスティアの人間で信頼しているのは一人としていない。
正義を口にする者全てが、トラギコの敵なのだ。
幾度となくトラギコに立ちはだかり、邪魔をし、そして罵ってきたのは正義。
今回もまた、正義が邪魔をしてきた。

29名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 21:14:17 ID:F94asbco0
銃と棺桶を持ち込めた時点で、トラギコはこのホテルからいつでも逃げることが出来る。
暫くの間はそうしないだけで、近々そうするつもりだ。
具体的に言えば、アサピーが放火の事を記事にして島中が大騒ぎになり、ヅーが憤慨してトラギコの下にやって来るまでだ。
明日の朝刊が配達されるのは後三時間後。

つまり、三時間以内にトラギコはここから逃げなければならない。
五十ドルの餞別をどう使うかが、今後に関わってきそうだ。
持ってきた銃の弾を確認し、懐のホルスターに戻す。
最悪の展開を回避するためには、武器は必要だ。

トラギコの考える最悪の展開とは、ヅーが用意周到にこのフロア全体に軍人を配備していることだ。
警官ならばまだ話が通じるだろうが、軍人となると会話にならない。
力で押し通るしかないのだ。
それこそ、足でも撃って行かなければならない。

トラギコはカラマロフ・ロングディスタンスに撃たれたのだから、お互い様だ。
思う存分やり返す。
まずは算段を立てなければならない。
前提とするのは状況だ。

どこにヅーの罠があり、どこに死角があるのか。
それを考えれる必要がある。
ホテルに入った段階、そしてこの部屋に来る段階で尾行者も監視者もいなかった。
それは間違いない。

しかし、しかし、だ。
あのヅーが手放しでトラギコに捜査を任せるとは思えない。
それは断言出来る。
用意周到さ、そしてルールを守ることに関しては徹底している女だ。

30名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 21:14:21 ID:nf.PkK0o0
支援

31名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 21:17:27 ID:F94asbco0
優しさなど、あの女には微塵も存在していないのだ。

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その時、三日後には誕生日を迎えるケイティ・グラハムは、人生で最も苛立っていた。
彼はツーリング仲間と共にモーターサイクル・ギャングへと転身し、新たな人生を謳歌していた。
妻と一人娘に恵まれ、街を転々として収入を得る生活に転機が訪れたのは、つい昨日の事。
対象を襲ってくれと言われて渡された金貨七百ドルは、日々の不安定な生活と別れを告げられるには十分な金額だった。

そのはずだった。
楽な仕事だと請け負った狩りには失敗し、十年の歳月を経て得た仲間を失い、愛車を失い、おまけにその追撃を邪魔された。
家族以外の全てを失った日とも言える。
こんな日は、人生の中で一度たりとも起こったことのない最悪の日だった。

胸を撃たれながらも咄嗟の判断で乱入者を食い止めた運転手のブブリア・ブロッコリーは意識を失い、助手席にいたオルゴン・バートレットは俯いたまま反応がない。
彼の手首に指を当てると、オルゴンの脈は停止していた。
後部座席で難を逃れたケイティは、一つだけ積んでおいた強化外骨格と軽機関銃を手に取って、車外に飛び降りた。
軽い頭痛がしたが、問題はない。

今は怒りのままに行動するだけなのだ。

32名も無きAAのようです:2015/02/08(日) 21:20:17 ID:F94asbco0
Ie゚U゚eI『我らの一歩は友の道。我らの歩みは国の路』

強化外骨格、キーボーイを起動し、身に纏う。
こちらが警告しただけで、いきなり発砲してくる女だ。
これぐらいの用心はしなければならない。

〔 (0)ш(0)〕

あれだけの激突があったにも拘らずほとんど損傷のない高級セダンを前に、ケイティは再び怒りを覚えた。
金持ちが道楽でこちらの邪魔をしたのであれば、それは許しがたいことだし、何よりも高級車を乗り回していることが気に入らなった。
腰だめに構えた軽機関銃を運転席に目掛けて撃つ。
防弾ガラスがひびで白く汚れ、そして砕け散った。

死体を確認するために運転席側に回り込み、ドアを引き剥がした。
しかしそこには、人影も肉片もなかった。
どこに行ったのか、という疑問は彼の人生で最大の衝撃が横から襲った瞬間に消え去った。

〔 (0)ш(0)〕『もるぁ?!』

もともと、キーボーイの装甲が薄いことは聞いていた。
だが、それでも強化外骨格だ。
人間の蹴りでダメージを受けることはもちろんだが、吹き飛ぶことなどまずありえない。
アスファルトの上をゴミのように転がり、ガードレールにぶつかってからケイティはどうにか立ち上がった。

持っていた軽機関銃が拉げているのを見て、それを投げ捨てた。

〔 (0)ш(0)〕『くそっ、何だってんだ……!!』


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