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( ^ω^)ヴィップワースのようです

1名も無きAAのようです:2013/10/20(日) 22:13:35 ID:mGY.ofts0

【 まとめ様 - Boon Romanさん 】
ttp://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/vipwirth.html

前スレ ( ^ω^)ブーン系創作板過去ログ(第9話〜第11話まで)
ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/13029/storage/1339772726.html

前々スレ  ( ^ω^)ブーン系創作板過去ログ(第5話〜第8話後 幕間2話まで)
ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/13029/storage/1326485180.html

前々々スレ ( ^ω^)ブーン系小説板(第0話〜第5話途中まで)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/37256/1307375951/

2名も無きAAのようです:2013/10/20(日) 22:23:27 ID:mGY.ofts0

別に見るべき所もないのですが会話パートを投下させて頂きやす。
無駄に長くなりそうだった次話の冒頭に使う予定だった20Kbそこそこなので超短いです

気を抜いたら設定忘れてボロ出まくるので、よく見直してから投下します。
コーシー買ってくるので、日付が変わる前にはまた来ますね。

3名も無きAAのようです:2013/10/20(日) 23:00:28 ID:pb4zlgOoO
ω・)フムフム

4名も無きAAのようです:2013/10/20(日) 23:32:27 ID:oH5/k2yo0
おし待ってる

5名も無きAAのようです:2013/10/20(日) 23:56:39 ID:mGY.ofts0

窓の外、嵐に轟く雷鳴。

部屋の片隅で、私は膝を抱えながら震えていた。
突然の稲光が恐ろしい悪魔の影を照らした気がして、怖くなった私は走りだす。

暗い寝室を抜け出した先、温かい暖炉の前でくつろぐ両親のもとへ駆け寄る。


『……眠れないの?』


そう言って震えるこの身を抱き寄せると、背中を撫でてくれた。
それだけで、心の中に抱いていた不安がすぅ、と消えていく。


『大丈夫』


やがて温もりの中で、安心しきった私の意識はまどろみの中に溶け込む。
私へと向けられた両親の表情を強く思い出そうとした。
霞がかかったように、記憶の中の光景ははっきりと思い浮かべる事はできない。

だけど、そこには何よりも優しい笑顔があったのを覚えている。




6名も無きAAのようです:2013/10/20(日) 23:59:44 ID:mGY.ofts0

ξ゚ー゚)ξ「明けない夜はないのよ」


窓際で雨音に耳を澄ましていた私にそう言った、彼女の言葉。
それが印象深かったのは、どこかあの頃の母の面影を、彼女に重ねていたからか。


川 ゚ -゚)「なかなか、寝付けなくてな」

ξ゚⊿゚)ξ「身体に障るわ」

川 ゚ -゚)「……あぁ」


間断なく降り注ぐ雨音が、激しく屋根を打ち据える。
深く広がる夜の闇は、底が見えない程にも深い。
辛い出来事に荒んだ心の傷を癒やすには、とても長い時間が必要だ。

それでも明日というものは、必ず来る。

7名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:01:13 ID:nHlzWWMo0

だから今は、幼い頃のような恐怖はそこにない。
しばらく見失っていたものだった。

傍らに誰かが居てくれることの、安らぎ。
この景色を一人で見ていたら、きっと堪えきれなかっただろう。

ベッドの上で両膝を突いて祈りを捧げるツンの横顔を、クーは何気なく盗み見た。


ξ-⊿-)ξ「……」


真摯に、ただひたむきに祈る彼女の姿は、やはり堂に入ったものだと感じさせられる。
それが誰に向けられたものかと考えて、はた、とクーはある事を思い出す。


川 ゚ -゚)「――ツン」

8名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:06:31 ID:nHlzWWMo0

それは妖かしの木々から逃れた先の、洞窟での会話だったか。
感情をむき出しにしたクーに対して、彼女が立てた誓いの言葉。
いつでも反故に出来る、嘘偽りを述べても誰しもが気づかないような、口約束。

そんなものを、きっと馬鹿正直にも守り続けてきたのだろう。
だからこそ―――変わらない彼女に対してこそ、自分は変わらなければならない。

少しだけはにかみながら、クーはツンの瞳をしっかりと見据えて、言った。


川 ゚ -゚)「アンナと、パンゼル」

ξ゚⊿゚)ξ「それ……って」

9名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:07:48 ID:nHlzWWMo0

少しだけ間を置いて気付いたようだ。
目を剥いたツンの瞳の中に、きらきらと光が躍ったような気がした。


「私の、最愛の母と―――父の名だ」


そうだ、変わらなければならない。
そう思う事が出来たのは、彼女と彼らの、変わらない直向さに触れてしまったから。

自分にとって何より尊い二人に、その名も知らぬまま祈り続けてきたツン。
今この瞬間からは、彼女自身の言葉を届けてもらいたい。

本心を示す、他ならぬ信頼を寄せての言葉だった。

10名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:09:03 ID:nHlzWWMo0

    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             第12話

            「臥龍転生」

11名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:11:07 ID:nHlzWWMo0

― リュメ 【烏合の酒徒亭】―


一行がヴィップを発ってからおよそ9日。
ロア村に一泊を滞在した一行は、デルタに無事の帰還を報せてやる事ができた。

そこには、無論クーも一緒に。

聞けば片道で2日の道程であるヴィップとリュメを繋ぐ街道を、デルタは僅か2日半の間に往復したという。
それというのも、クーの捜索に割ける人員がいなかったために火急の助けを求めに走ったのだった。

その彼とは今、錆びれたランプのかすかな灯火の下で、思い思いの時を過ごせていた。


爪'ー`)「最近どうだ、町は」

12名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:12:40 ID:nHlzWWMo0

( "ゞ)「件の騒ぎで随分死んじまってなぁ……どいつも、暗い顔して歩いてますさ」

爪'ー`)「……悪かったな。お前一人に、押し付けちまってよ」

カードに興じる彼らは、一進一退の攻防をその表情に出さぬまま会話を紡ぐ。
長年に渡って培われた、完成された様式美さながらだ。


( ^ω^)「あいてて……まだあいつのパンチ効いてるおね。
       ショボン、ここらへんにアザ残ってないかお?」

カタンの森で妖樹に追い込まれた際、湖の中に放り投げてしまった事から新調した装備も、
今では年季の入った風合いが出る程にあちこちで傷や凹みが見て取れた。

この分では次の依頼を終えた辺りには、また数百spもの出費で大赤字になるな、と、
皮の胸当てに馬油を塗りたくりながら、ブーンは愚痴をこぼす。

13名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:14:18 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「大丈夫、随分と男前になってるよ」

魔剣による一連の惨劇に終止符が打たれた後も、拠点を置く盗賊ギルドが先導する形で、
リュメ全体が騒動の終息に向けた各種作業に追われたそうだ。

フォックスの弟分でもあるというデルタとは、酒を酌み交わしながらよく話した。
ヴィップを訪れた時、そこでブーンと意気投合してパーティーを組んだということ。
少し前まで手配犯として扱われていたショボンと、聖ラウンジ司教の娘、ツンがそこに加わった経緯。
そして、紆余曲折あれど、今はクーをパーティーに迎え入れたという事。

白く濁ったデルタの瞳は職業柄の鋭さが見て取れたが、つっけんどんな所のない彼とは
フォックス同様に、驚くほど自然に接する事が出来ていた。


( "ゞ)「へっ、あんな良い女二人も引き連れて、兄貴も役得だな」

爪'ー`)y‐「馬鹿言うなよ……手ぇなんて出してみろ、男としての俺が斬り落とされる」

14名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:15:31 ID:nHlzWWMo0

( "ゞ)「俺としては、気の強ぇ女は嫌いじゃねぇんだがな。
    お前さんはどうなんだ? もしかして、兄貴の知らねぇ所でもう一人と進んでんじゃ……」

(*^ω^)「い、いやいや……ツンとは別にそんな事は全く……」

爪'ー`)y‐「お? 満更でもなさそうだけどよ、二股は良くねぇなぁリーダー。
     お前にはあの吸血姫さんがいるじゃねぇか。
     ツンなんて、あの対極の立場だってのに」

( 从*゚∀从『───惚れた』 )
     ○
     。
(;^ω^)「ちょ、冗談じゃないおっ」

( "ゞ)「聞くからに背徳的な臭いがするねぇ」

(´・ω・`)「……聞くも涙、語るも涙の話さ」

15名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:17:02 ID:nHlzWWMo0

旅の疲労と、道中での戦闘による生傷の数々。
ここリュメに辿り着いた時にはもう、5人ともがぼろぼろな状態だった。

今晩は宿も埋まっていたが、見るに見かねた店主が客室用にと残していた一部屋を貸してくれたのだ。
一日だけ休んだ後、すぐにヴィップへと戻って楽園亭のマスターに無事を報告せねばならない。


( ^ω^)「上は……喧嘩になったりしてないかおね」

爪'ー`)y‐「今は疲れてるだろうけどよ、朝方になったらまたおっぱじまってるかもな」


恐らくは複雑なクーの心中をおもんばかるところはあるが、今は新たな仲間を
迎え入れられた喜びの方が大きい事は、ブーン達の表情にも表れていた。

危惧する部分があるとすれば、互いに譲らない性分だという事ぐらいのものか。

16名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:18:04 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「そういえばショボン、何だお? それ」

(´・ω・`)「……ん〜」


傍らで一冊の書物に目を走らせるショボンは、没頭しているのか返事は返せど、顔も上げようとはしない。

こんな暗さで細かい文字ばかり見ていたら目が悪くなる、とブーンの言葉にも耳を貸さないぐらいだ。
人の会話も話半分に聞き流してしまうほど、彼にとっては大事なものが書かれていると窺える。


( ^ω^)「どれどれ」

(´・ω・`)「……あぁ、これね……」

17名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:19:11 ID:nHlzWWMo0

防具の手入れもそこそこに、彼が熱心に読む書物の内容を覗き見ようと、
ブーンはショボンの傍らに立つと、その頁に視線を落とした。

それはブーンにとっては不可解な文字であり、細かくびっしりと書き込まれる難解なもの。
構わずに頁をめくるショボンは、それを止まる事なく読み進めては、次々頭に入れているようだが。

かすれて判別不可能となってしまった表紙には、ショボンのような畑の者達が好む、魔導書にも似た風格を感じる。


(´・ω・`)「僕にとっては死霊術の入門書、みたいなものかな……」

(;^ω^)「……おっ? お、おぉっ?」

18名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:20:10 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「あのね、誤解の無いように言っておくけど―――」

(;^ω^)「ショボン……それは、それだけは間違ってるお!
       卑劣な真似をする奴を捕まえるために、自分もそんな道に身を堕とすなんて!」

(´・ω・`)「いや、だから―――」

(;^ω^)「ブーンはショボンにそんな事までして欲しくはないお……
       それじゃ、あの時のいけすかない死霊術野郎と一緒の―――」


ばたん。


(#`ハ´)「―――お前らッ! うるせぇアルぞッ!」

その時勢い良くドアを開けたのは店主のシナーだった。

19名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:21:12 ID:nHlzWWMo0

爪;'ー`)(やっべ)

(;"ゞ)(お前ら、隠せ隠せ!)


卓上に置かれていた酒瓶を、慌ててシナーの目から遠ざけようとするのには理由がある。

店じまいの後、寝室へと下がっていった店主の背中を見送った後、盗賊二人が周囲の制止をよそに
気配を殺してカウンターの中へ接近を試みると、棚にある酒を2〜3本拝借してきた事から、
こうしてささやかな酒宴が行われる運びになったのだ。


(´・ω・`)(おっと)

(;^ω^)「……おっ」

(#`ハ´)「………」

爪;'ー`)(あちゃ〜)

20名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:22:49 ID:nHlzWWMo0

こういう場面に手慣れたフォックス達は、すぐにただ酒の酒瓶を椅子の下へと隠せていた。
だが、目配せの合図に反応の遅れてしまったショボンが座する卓上には、栓を空けたばかりの”緋桜”。
片時、シナーの視線は確実にそれへと注がれていた。


(#`ハ´)「……せめて、静かに飲みやがれアル」

(;^ω^)「おっ……」


だがシナーは、まるで気付かなかったかのように振り返ると、小声でそう言いながら寝室のドアをぱたりと閉めた。
ドアの向こうの気配がまた遠ざかった頃合いを見計らって、デルタが小声で囁く。


( "ゞ)「……ありゃバレバレだったな」

21名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:23:57 ID:nHlzWWMo0

爪'ー`)y‐「ま、その辺は盗賊ギルドの顔でよ、後からフォロー頼むわ兄弟」

( "ゞ)「しゃあねぇ」

(;^ω^)「はぁ……勝手に酒飲んでるのによく怒らなかったおねぇ。
       楽園亭だったら、はげちゃびんのマスターにぶっ飛ばされてるところだお」

爪'ー`)y‐「そりゃあそうよ。なんたって俺らは正義の盗賊。
     得てきた信頼ってもんがあんだよ」

( ^ω^)「確かに、盗賊が大手を振って歩いてる町なんてのも珍しいかも知れないお」

22名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:27:46 ID:nHlzWWMo0

シナーも解っている。

情報収集やその提供、真っ当な報酬が発生するそれらの仕事以外に、この町の盗賊ギルドが主とするのは盗み。
日陰者であるはずの存在である彼らが、しかしリュメでは必要とされている者達なのだということが。

ごく一部の富裕層と、多くの貧困層との軋轢が激しいこの町では、彼らがその帳尻合わせを請け負う。
富を分け与える、仕事を斡旋するなど、例として上げればそこそこ義賊の名に恥じないだけの活動を行っている。

日頃のそれも信頼の理由の一つだが、先の連続殺人の一件もある。
ギルドが事件解決に一丸となって当たった事は、この町に住み暮らす多くの人々の記憶にも新しい。
今でも、親子ともが犠牲者となってしまった少女と母親の自宅前には、献花の絶える事がないという。


(#^ω^)「おっ、そうだお。ショボン、忘れちゃいないお。
       どういうことか話を聞かせてもらおうかお」

(´・ω・`)(やれやれ……忘れてくれればよかったのに)

23名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:29:01 ID:nHlzWWMo0

爪'ー`)y‐「けどよ、さっきのは俺もちょいと気になるぜ。
     死霊術師なんてクソったれだと思ってるのは、一番がお前さんだろうによ」

(´・ω・`)「それはもちろんさ」


フォックスの言う通り、ショボンは死霊術師に対して対抗心を燃やすべき立場。

賢者の塔で共に研鑽を積むべき間柄であった天才、モララー=マクベイン。
人の生命を媒介する証拠品を発見し、その本性を暴いた事からショボンは彼によってはめられた。

現在ではモララー自身もギルド暗部数名を殺害し逃亡している罪で重要手配犯として触れ回られているが、
その後アークメイジとの対話を通して、ショボンは自らの手で嫌疑を晴らさねばならない立場になったのだ。

それだけでなく、アルバの村で罪なき人々の命をいたずらに弄んだ術者もそうであった。
彼ら禁忌を侵す者たちとは、ショボン自身が因縁に引き寄せられているかのように縁深い存在である。

24名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:29:48 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「敵を破るためには、まず己も敵の手札を知っておく必要がある。
      あくまでそのための手段さ。内容は、心底嫌悪感を抱くものだけれどね」

(*^ω^)「なんだ、そういうことかお……」


ほっと胸をなでおろした様子のブーンを前に、激しく誤解を受けたショボンはふぅ、と溜息をついた。
ようやくの理解を得られたものの、至極単純で愚直なその思考は、時々彼自身を心配させられる。

「あまり人に見せられたものではないが」
そう付け足して、大仰な動作で肩をすくめた後にショボンは言葉を続けた。


(´・ω・`)「これは、かつて人の身にレイスを降霊させて種を逸脱しようと試みた、
      随分と行動力のある狂人が遺した研究成果―――その、写本だよ」

25名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:31:42 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「そんなことしたらどうなっちゃうんだお……レイスって、死神だおね?」


実際に死神といえる存在と対面した事があるのは、この場にブーン一人。

一般的にはレイスとは負の感情が生み出す強力な悪霊として恐れられている。
だが彼にとって馴染み深い死神というのは、人間が死後に就くかも知れない職業としての方だ。


(´・ω・`)「それが出来たのかは、結局は明かされないままだね。
      全くの未知だからこそ、その先に何があるのか僕も気になるよ」

爪'ー`)y‐「ふぅん。
     話に聞いてみるだけなら、興味は惹かれるかもな」

(´・ω・`)「正直、術の可能性については僕自身、興味を惹かれる事実を否定出来ない程だ。
      のめり込んでいく術者が居るのも、確かに頷ける」

26名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:33:45 ID:nHlzWWMo0

人を殺める。
最大の大罪にして、禁忌。

小心者であれば背徳感に耐え切れず、自ら命を絶つというのもままある話である。
だがその行いに高揚し、それにこそ愉悦を感じる人種も確実に存在する。

決して目を背ける事の出来ない、傲慢で、身勝手な人の性。
それは、本質としては悪なのだ。


( ^ω^)「……ブーンには、理解しがたいお。
       人が自分の……ましてや、他人の命をいじくるなんてことは」

(´・ω・`)「僕もそう思う。
      だが、そうして禁忌を侵さねば辿り着けない領域。
      困難で、危うい道程であるがゆえに、人はその先に大きな価値を求めるんだろう」

27名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:34:52 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「生きている、そう思えるだけで満足出来る人もいるのにお。
       不老不死でも求めたのかおねぇ、その本のやつは」

(´・ω・`)「近い所だと思っているよ―――だが恐らく、この手法ではそれは不可能だともね。
      今はまだ僕も術の手順や、必要とする道具に関して読み進めている最中だけれど」

( ^ω^)「例のモララーに関しては、期限の事もあるし放っておく訳にもいかないおね……
       クーも加わった事だし、そいつの足取りが掴めたなら皆でぼっこぼこにしてやるのにお」

(´・ω・`)「大陸随一の隠蔽魔法の前には、誰一人が彼を見つける事など出来はしないさ
      だからこそ、モララーが熟読していたこの書に、何かヒントがないかと思うんだ」

爪'ー`)y‐「目的が分かれば、今後立ち寄りそうな所でヤマを張る、と」


無言で彼の瞳を見据えて頷いたショボンに対して、フォックスは頭を振って肩をすくめた。

28名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:37:19 ID:nHlzWWMo0

魔術師ギルドのみならず、各街々でお尋ね者として触れ回られて、はやニ月を過ぎ―――
ヴィップ近隣に身を潜めているのならばまだ探しようもあるが、遠方の田舎町では手配書が
回っていない場所も決して少なくはない。

騎士団の目をも掻い潜る相手。
それを見つける事は限りなく困難だと、フォックスはそう考えているようだった。


爪'ー`)y‐「正味の話……本一冊からそこまで割り出すのは無茶だぜ。
     誰もそいつの思考までは読めねぇさ、お前さんのおつむの良さでもな」

(´・ω・`)「それはそうなんだが……監視の目を始末してまで動くからには、必ず何か意図があるはずだ」

爪'ー`)y‐「やっこさんがその書にえらく感銘を受けて、
     どでけぇ事を起こそうって誇大妄想を抱いたってか?」

29名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:38:41 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「僕にはそう感じるよ。
      意外と、モララーと僕とは似たもの同士な気がするからね」

( ^ω^)「ショボンはそんな奴とは全然違うお」

(´・ω・`)「……識ることだ」


読みかけの魔導書を膝下におくと、ショボンは自分の頭を指さし、告げた。


(´・ω・`)「知識に対する貪欲なまでの欲求……子供のように旺盛な好奇心と言い換えてもいい。
      その点において僕とモララーは、それを強く抱いている者同士だろう。
      彼が注釈を付けて自分なりの仮説や、今後実行に移そうとしていた内容などが
      書に直接書き加えられていたのも見る辺り、随分といれこんでいるようだったからね」

30名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:39:54 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「求道の先―――その場所に辿り着いた時、果たして何が見えるのか。
      今の奴には、そこまでの道筋というものも描いているように思う。
      外道の法に手を汚しながら、それを恥ともしない感覚こそ、僕には無いがね」

( ^ω^)「人の身体に死神を降霊したとして……
       それはもう、人じゃないおね」

(´・ω・`)「……そうだね。
      あるいはこの研究を土台に、更なる悪質なものへ昇華させるつもりかも知れない。
      多くの生命を馬鹿げた悪戯のために用いる愚劣な研究に、価値など見いだせない。
      だが他への応用をとまず考えた僕の思考を、モララーは先んじていると思うんだ」

爪'ー`)y‐「そいつがショボンの言うとおりの野郎だとしたら、破滅的に歪んじまってるなぁ」

31名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:41:09 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「自分のわがままで他人の命を奪うなんて、絶対に許せないお」

(´・ω・`)「あぁ、だからこそ絶対に捕まえなければならない。
      必ずや探り当てるよ、奴の目的と足取りを」

( "ゞ)「……なんか、お前さんがたも随分と抱え込んでるみてぇだな」

(´・ω・`)「色々とね」


”不本意ながら”
深くため息を吐いたショボンの仕草から、そう言いたげな様子がきっと伝わっただろう。

自分たちでこなした依頼の分だけ、稼ぎになる。
そんな分かりやすい構造で成り立っている冒険者稼業は、実に気楽ではある。
働く時は働く、そうでない時は決まった宿で飲んだくれていてもいい。

32名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:47:52 ID:nHlzWWMo0

だが富や名声を得るという漠然とした目的だけでは、続けていられない過酷な職業でもある。
明確な目的、強い意思というものがそこに通っていなければ、一月と持たないのが現実だ。

各々なりの事情というものもある。
お互いの考えのすり合わせをしっかりと行っているパーティーでさえ、絆を深める以前に
解散してしまう事の方が多いはずだ。

その中で、ブーン達と組んでやってきたこれまでは、確かによくやれていた。
これからも、ずっとこうして行きたいという感情も生まれるほどに。

自身は時に追われるその最中にありながら、新鮮な体験に触れ、そこからの成長もあった。
各々が夢や理想を抱き、恐らくは複雑な感情を内包しているこのパーティーにあって、
自分は少し違う立ち位置にあるのだと、ショボンは会話のなかで再度己を戒めた。

縛られている存在だという事を忘れ、願望のみに自分を委ねる訳にはいかないのだと。

33名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:48:44 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)(その後には……またすぐに旅立てるといいんだけど、ね)


仲間達は付いて行くと言い出すだろうが、その時には、きっと一人で決着をつけなければならない。
助力が見込めない訳ではなく、どうにも説明がし辛いこの感情は、意地だろうか。

いずれ離脱していく身ではあるが、今のような酒盛りの場は好都合だと思った。
各々の立ち位置を明確にしておけば、何かの拍子にパーティーが瓦解する心配事も減るからだ。

絆を深め、結束を強める事で跳ね除けられる逆境もある。
重要であるだけに、先にクーとツンが休んでしまったのは少しだけ残念だった。
あの二人が険悪でないか、まだ少しだけ心配に思っていたからだ。


( "ゞ)「兄貴なんか、そういうのはこれっぽっちもねぇでしょ」

34名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:50:09 ID:nHlzWWMo0

爪'ー`)y‐「馬鹿野郎、俺はうまいこと一財産当てて、この街ででかい面してる
     ゴードンの野郎の食い物にされてるお前らの暮らしを支えるためにだな……」

( "ゞ)「……ま、今までどおり気ままにやっててくれりゃあいいさ。
    当分は俺がこの街仕切らせてもらうからよ、安心して冒険者稼業楽しみな」

爪;'ー`)y‐「ま、まるで俺が遊び呆けてるみてぇじゃねぇか。
      俺は貧困にあえぐ皆のためにだな……」

( "ゞ)「お? なら今日は”お頭”の懐から、ギルドの運用を賄う上納金を徴収してもいいんですかい?」

爪;'ー`)y‐「き、今日はちょっとな……またにしてくれ。
      ここんとこ長旅続きで、儲けは旅費に消えてんだよ」

( ^ω^)(大部分は酒代と博打じゃないのかお?)

( "ゞ)「へっ、ならどえれぇ山を掘り当てた時は、本当に頼むぜ」

35名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:51:28 ID:nHlzWWMo0

爪'ー`)y‐「あぁ、期待しないで待ってろ」


デルタの前に親指を突き立てて、陽気に振る舞うフォックス。
初対面であれば、彼が口にする言葉はそのどれもが軽薄なものに聞こえるだろう。

しかし、彼と二晩飲み明かしてみればきっとその認識は変わる。
義に厚い男であり、飄々とした風を装いながら、その実様々な想いを巡らせているのだと。

深い所に何かを抱え込んでいるからこそ、それを周りには見せまいと振る舞うように。


(´・ω・`)「二人は本当の兄弟のようだね」

( "ゞ)「そりゃ付き合い長ぇし―――
    ま、外見こそ似ても似つかねぇがな」

36名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:52:42 ID:nHlzWWMo0

爪'ー`)y‐「かれこれ12、13年の腐れ縁よ」

( "ゞ)「何言ってるんだよ……”デルタはぼくが守るからな!”とか言ってくれたじゃねぇの」

(;^ω^)「おっ? フォックスが?」

爪;'ー`)y‐「……ばっ、ばっきゃろ! ガキの頃の話だろうが!」

( "ゞ)「いやいやいや、確かに言ってたさ。
    貧民窟から抜け出す時に、俺の手を引きながらな」

爪;'ー`)y‐「ったく。
     昔の話だろうが、昔の」


照れ隠しをするように、フォックスは卓に置かれたグラスを一気に底まで飲み干した。
幾度か酒飲み話の話題にのぼった事のある、彼の身の上話。

37名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:54:09 ID:nHlzWWMo0

毎度のようにすぐに当たり障りのない会話を振られて避けられていた事から、
本人にとってあまり触れて欲しくは無い部分なのだろうかと危惧してしまい、
それほど踏み込む事の出来なかったブーン達だった。

だが、彼の幼少時をあっけらかんと話すデルタが相席している今は、好奇心の方が勝った。


(´・ω・`)「君たちのご両親は?」

( "ゞ)「俺の方は、親父らしき男がくたばったのを目にしたがね。
    兄貴の方は―――」

爪'ー`)y‐「あん? 最初からいねぇさ」

( ^ω^)「……おっ」

38名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:55:24 ID:nHlzWWMo0

貧民窟。

呆けも始まった余命幾ばくも残されていない老人や、育てる事が困難で捨てられる幼子。
あるいは、どこへ行ってもつまはじきとされる浮浪者達が集い暮らす、劣悪な環境下の集落。

貧しい農村などでは、食い扶持を減らす為に子供を間引くなどよく聞く話だ。
フォックスがそれと同じ、両親の顔も知らずに育った捨て子であったというのは初耳だが。
糞尿の悪臭と汚泥に塗れ、草や木の根を食み暮らす日常は、彼ら自身にとって遠い昔の事なのだろう。


( "ゞ)「なんでこんな暮らしをしなきゃいけねぇんだと、おてんとさんを恨んだ事もあったっけな……」

爪'ー`)y‐「そうさなぁ……けどよ、生き抜くのに必死で忘れちまうんだ。
     そんなことは、そのうちな」

( ^ω^)「……」

39名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 00:57:02 ID:nHlzWWMo0

父母との死別を経験したというクーは、悲しい幼少時代を過ごしたと言わざるを得ない。
しかし、両親が愛情を注いでくれたであろう彼女とは、また事情が違う。
フォックスやデルタには、最初からそんな機会すら与えられなかった。

もっとも親しい間柄であるはずの血縁者と、ただ一つの想い出も存在しない。
それを考えれば、彼もまた同じように悲しい子供であったのだろう。

何かかける言葉はないか。
探してみたブーンではあったが、考え込んだ挙句に出てきたのは一言だった。


( ^ω^)「ブーンは、果報者だお」


ブーンなりの、精一杯の気遣いがそれだった。

辺鄙な片田舎で、愛情たっぷりに育てられてきた。
生い立ちに恵まれたブーンには、いくら仲間の心情を汲み取ろうとしても共有する事は出来ない。
過ぎ去った時間を経て形成されてきた、今のフォックスとの想い出を作っていく事しか。

40名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:02:01 ID:nHlzWWMo0

過去があるからこそ、今の彼があるのだと、仲間たちは想う。
逆境を跳ね除けようという意思を持つ、周囲をとても明るく照らしてくれる男の、今が。


爪'ー`)y‐「当たり前だ。
     お前みたいに人生が楽しいです、みたいな面した奴はそういねぇ」


笑って言ったフォックスにデルタが同調して、今度はブーンへと話題が振られた。


( "ゞ)「で、ブーン。
    お前は、両親はいるのか? 兄弟とかよ」

( ^ω^)「ブーンは一人っ子だお。
       母さんも居たけど、元々身体が弱かったからお……」

( "ゞ)「そうかい。
       頑丈に産んでくれたおふくろさんに、感謝しねぇとな」

( ^ω^)「だお。父さんもブーンが生まれる前までは傍にいたからおね。
       そういう意味では、ブーンはやっぱり果報者なんだお」

41名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:04:41 ID:nHlzWWMo0

爪'ー`)y‐「そういえば、親父も冒険者だったっけな?」

( ^ω^)「……」

( "ゞ)「なるほど」


フォックスの問いかけに、ブーンは卓へと立てかけた剣の柄を無言で彼らの前に掲げた。
握りの下部には、粗削りではあるが特徴のにじみ出た、龍の彫刻が模られている。

日頃から肌身離さず帯刀する彼の姿から、この剣が彼に遺されたものだという事にはぴんと来たようだ。


( ^ω^)「父さんには会った事がないんだお。
       この剣だけが、ブーンを産んで間もない母さんの所に帰って来たんだお」

(´・ω・`)「最後は、冒険の途中で?」

( ^ω^)「いや」

42名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:05:34 ID:nHlzWWMo0

頭を振ったブーンは、少し考え込んでいるようだった。
どちらなのだろうと、それを選びあぐねているように。


( ^ω^)「けど……多分、そうなのかも知れないお。
       母さんがますます弱っちゃったのも、父さんが死んだ報せを受けてかららしいお。
       それでも―――元々身体が弱いのに、ブーンを産んでくれたんだお」

爪'ー`)y‐「そりゃあ、最後に一目でも旦那に会いたかっただろうな。
     親父さんもさぞ無念だったろうぜ」

( ^ω^)「でも、母さんとは物心つくまで一緒に過ごせたお。
       だけど父さんの事は……他所に女でも作ってるんじゃないかと、まだふんぎりがつかないお」

( "ゞ)「かっかっか。
    もしそうなら、一発ぶん殴ってやんねぇとな」

43名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:07:01 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「ま、それは冗談だけどおね。
       依頼を受けて洞窟に行って、そこで行方が知れなくなったんだお。
       確か……ヒガンだとか何とか」

(´・ω・`)「あぁ、ヒガン鍾乳洞だね。
       ヴィップから北に4日程の所にあると思う」

( ^ω^)「そうそう、一度立ち寄ってみたいと思ってるんだけどお。
       なんでもそこで、底なしの地底湖に落ちちゃったっぽいんだおねぇ」

爪'ー`)y‐「なんつーか……」

事の真偽は分からないらしい。

だが危うく、ドジだな、と言いかけたフォックスが口をつぐんだ。
ぽりぽりと頭を掻いているブーンもまた、そう思っているようではあるが。
ただ、彼の父親が騎士団からも腕を見込まれた冒険者であったというのは、この場では明かされない事実だった。

44名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:08:03 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「ヒガンの鍾乳洞には、昔から龍伝承が残っているね」

( ^ω^)「おっおっ、そうなのかお?
       父さんも龍好きだったらしいお」


龍とは、決して伝説とされるような幻想の生き物にあらず。
この大陸に実存が確認され、比べてしまえば人間など取るに足らぬ最強の生物。
人も、妖魔もその前では分け隔てなく、龍の腹を満たす餌でしかない。

強さ故の気高さ、それ故の孤独。
龍とは何を想い、何をして生きていくものか。

並び立つものなき存在への畏怖は、いつしか人々にとっては半ば憧れのように刷り込まれていった。

45名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:09:35 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「航海の手段が確立される以前、大陸の大部分は自然に閉ざされた未開の地だった。
      そこに遠隔の離島からも人が集まるようになったのが、ヒロユキ=トゥーランドの伝説さ」

( ^ω^)「それはブーンも聞いた事があるお。
       ツガなんたらっていうとんでもなく凶悪な龍を倒したっていうのが、
       そのたった一人の男だってお」

爪'ー`)y‐「現実的に考えてみりゃあ分かるわなぁ。
     たった一人であんな馬鹿でかい化物、倒せるワケがねぇってのに」

(´・ω・`)「さすがにおとぎ話だと笑う人も多いけどね。
      その戦いの舞台となったのが、ヒガンの洞窟だと言われている。
      あの辺りでは実際に目撃談もあるらしいよ」

( ^ω^)「今でも、そこには龍が居るのかお?」

46名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:11:43 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「今はどうかな……だけど、次代の龍がいないとも言い切れない。
      なにせ龍とは、千年以上に渡り生き続けるとも言われる。
      最後の時には己の叡智を、次の世代に託してね―――」

爪'ー`)y‐「あれって繁殖するのか?
     今やせいぜい一匹や二匹しかいねぇんじゃねぇか?」

(´・ω・`)「繁殖の手段が交配のみ、と見られていたのはつい最近までの話さ。
      学会を賑わすとんでもない発表が、僕ら魔術師の間でも一時話題になってね」

爪'ー`)y‐「へ? ガキ生むんじゃねぇのか? どうやって増えるんだよ」

(´・ω・`)「それなんだが……生命としての在り方が、僕達人間には考えられないものなんだ。
      確かに胎内にて子を宿す、だけどそれは、また姿形を変えた自分自身でもある。
      ”転生”―――それが、正しいのかな」

47名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:13:18 ID:nHlzWWMo0

( "ゞ)「ほぉ、たった一匹で受胎しちまうってのか? どういう仕組みだそいつぁ」

(´・ω・`)「それについては、簡単に解ってしまえば苦労はないよ。
      多くの探検家や学士達が生涯を捧げた対価に、爪の垢ほどの僅かずつ明かされていく代物さ」

( ^ω^)「……なかなかにロマン溢れる生き物だと思うお。
       大昔は龍を操って戦う国だとかもあったんだって、絵本で見たお」

(´・ω・`)「それこそが、いわゆるおとぎ話だね。
      あのような存在を、誰が縛れるはずもない」

爪'ー`)y‐「俺も聞いた事があるような気がするけどな……まぁ、話盛ってるとは思ってたけどよ」

(´・ω・`)「悪龍ツガティグエに生贄を捧げ、それに守られていたという小国の話だろう」

48名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:19:22 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「”龍の国”の話を元に物語として美化したものや、史実を書き連ねたものも現存する。
      気高く孤高に生きるという事は、裏を返せば、我が強くわがままというところかな。
      人間などに従う程、龍とは気の長い生き物じゃあないさ」


龍の国、かつてそう呼ばれた国は滅んだ。
ツガティグエの力を盾に増長したその国は、近隣諸侯に怒りを振りまいたという。
そうして、英雄ヒロユキ=トゥーランドがツガティグエと戦った機に攻め込込まれて。

それゆえ彼らは自らの手で滅びたというのが、多くの人々の認識ではあるようだ。

自らの手に余る力を持ちながらも、人はより以上のものを求めてしまう。
その強欲がなければ今日までの文明の発達がないのもまた、事実ではあるのだが。

49名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:20:29 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「共存してるから、思い上がっちゃったって訳かお。
       龍の気が強い所も嫌いじゃないけど、やっぱり怖いおね」

爪'ー`)y‐「そいつは、今ニ階で寝息を立ててる誰かさんのことか?」

(;^ω^)「ばっ……ちっげぇお!」

( "ゞ)「ごちそうさんとだけ言っとくぜ。
    けどまぁ、その手彫りはよく出来てるよな……いい腕してるじゃねぇの、親父さん」


もの言わぬ小さな龍の造型は、決して緻密とは言えぬものの、その粗さが猛々しさもまた表現している。
当初の持ち主であったブーンの父親の目には、そう映る存在であった事が、ありありと窺えた。


爪'ー`)y‐「龍とばったり出くわしたのかもな、ブーンの親父さんは」

50名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:22:01 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「案外、そうかも知れないおね」


なかなかに精巧な、長剣の柄にあしらわれた彫刻。
それを施した父親が伝えようとしたものは、何なのだろうか。

もしかすると、意味自体がないのかも知れない。

それらを尋ねようと、ブーンはときどき、仲間達にも内緒で手紙を書く事がある。
宛名が無く、決して届くはずのないその手紙は、自分の父親へと宛てられたものだ。

”こっちは元気でやっている”
”母さんはこんなことを言っていた”
”今、父さんは―――”

いつも書きかけに終わり、途中でペンを放り出す。
書き終えてしまえば、父親がもうこの世を去ってしまった事実を、認めてしまうようで。

だが、きっとそうなのだろうと考えている自分も、確かに存在していた。

51名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:24:11 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)「もしかして、父親を探すためにかい?」

( ^ω^)「……」


ショボンの問いかけの意味は、ブーン自身がよく解っている。
冒険者になった意味、そして、こうして旅を続ける理由についてだ。

たった一人、サルダの村を後にしたのは、夢を抱いたからだけではない。
父親の後を追うようにして、もしかすると、どこかで生きているのではないかと。

だが、今はあの時と少し違う考えだった。


( ^ω^)「ちょっと違う、かおね」

爪'ー`)y‐「ヴィップの近くなら、親父さんのいなくなった場所にもすぐ寄れんだろ」

52名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:31:25 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「んん、それも予定にはあるけどお。
       色々な場所に行って、人々に会って見聞を広めて……」

( ^ω^)「置いてってくれたこの剣と一緒に、
       父さんの見た景色を、ブーンも見て行こうと思うお」

爪'ー`)y‐「……まぁ人生は長ぇ、当分は気ままにやりゃあいいさ」

(´・ω・`)「そうだね、龍ほどとまではいかない―――が……」

( ^ω^)「クーも加入してくれた事だし、これからは行動範囲も広げていくかお」

( "ゞ)「どっちかが兄貴に狙われないように、しっかりと見張っとくこったぜ」

爪;'ー`)y‐「馬鹿野郎」

53名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:32:39 ID:nHlzWWMo0

( ^ω^)「おっおっ。
       フォックスについては事前に手が早い男だと吹聴しているから無問題だお。
       楽園亭を訪れる女性なら誰でも知ってるお」

爪;'ー`)y‐「なッ……お、お前……そりゃあ、そりゃあいつからだ!?」

(;^ω^)「ちょッ、いってぇお! お前マジ掴むなお!」


(´・ω・`)(龍ほど………までとは)

互いの身の上話に花を咲かせながら、今度は色恋話、そしてブーンらの殴り合いに移行しつつある中で。
ショボンだけは、自分自身の言葉の中で言いかけたその言葉に、思考が囚われていた。

54名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:33:49 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)(彼らは命を繋ぐ―――悠久の叡智を後世へと残し、語り継ぎ―――)


これは、面白い。

可能不可能を抜きにして、あまりに分を弁えぬ、突飛な発想だ。
ショボン自らがそう思う事を、もしかすると、”あの男”もまた考えるのではないかと。

(´・ω・`)(命が……その在り方を変える?)


(#^ω^)「ゴラァッ!」

何かが、その部分で引っかかる。

55名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:36:39 ID:nHlzWWMo0

彼あたりに言わせれば恐らくは、自分は秀才の域に留まるだろう。

そう思うショボンをして、領分を逸脱した、あり得ない事だと。
誰もが成し得ない、それをもやりかねないのが、あの男なのではないか。
誰もが体現し得なかった魔術を、形にしてしまったのがあの男ではなかったか。

思い込んでからは、思考の奔流は堰を切ったようにして、留まる事なく溢れ出していた。

爪#'ー`)「野郎ッ! デレにかわされんのもテメェのせいなんだよッ!」

(;"ゞ)「お頭お頭……」


(´・ω・`)(そう言えば、いつだった?)

(´・ω・`)(ヒガンの洞窟でツガティグエが斃されたという時から、今は何年経った?)

56名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:43:16 ID:nHlzWWMo0

だからこそ、あえて発想を飛躍させてみる。
極めて歪んだ理想に陶酔する、比肩するもの無き天才のそれへと同調させる。

逆転させるのだ。
死人を喚ぶのではなく、自らを―――

意識してそれをすればするほど、あり得ぬ事ではないと、そう思えてならなかった。


(;"ゞ)「す、すまねぇな。
    もうどうにもならねぇやこれ」

(´・ω・`)「……いや」


だが、死という門をくぐったその先にあるのは、なんと歪んだ命か。
あるいは、命と呼べる代物ですらないのかも知れない。

その脳髄が司る、無限の知識を蓄える泉。

57名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:46:02 ID:nHlzWWMo0

(´・ω・`)(ヴィップに、500年を遡れる文献はあったかな―――)

調べてみる価値のある場所に、一つの大きな候補が浮かび上がった。
その瞬間に、ショボンは一人笑みを浮かべる。


( #`ハ´)「……ッッッるっせぇアルてめぇらァァァァァァァァァァァッ!!」

それは、シナーが牛刀を手に怒鳴りこんでくるのと、ほぼ同時であった。









一方、二階寝室。

ξ ⊿ )ξ川 - )Zzz...

58名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:47:00 ID:nHlzWWMo0

    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             第12話

            「臥龍転生」

59名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:48:35 ID:nHlzWWMo0

―【リュメ ゴードン=ニダーラン邸宅】―


かち。

かち、かち。


<丶`Д´>(ムニャ……うるさいニダ……)


かちかちかちかち。

かちかちかちかちかちかちかちかち。

60名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:49:34 ID:nHlzWWMo0

<丶`Д´>(……ンゴオォッ、ンゴオォォォォォッ)


かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち







ゴードンが、自身の宝物庫に賊が入ったと騒ぎ立てるのは翌朝の事だ。
ブーン一行がヴィップへ発つと同時期、そこからは一振りの刀剣だけが、忽然と消失していたそうだ。

61名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 01:51:59 ID:nHlzWWMo0


    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             第12話

            「臥龍転生」


              -了-

.

62名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 02:00:55 ID:nHlzWWMo0
主人公ショボブーンによる12話でした。
別に話も進まないから差話扱いでも良いような話だったもので、
後半投下中に書き足した悪ノリが表れてます、すませんー
またその内投下させて頂きます^^^

63名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 02:40:01 ID:J3TNYkbEO
乙!

64名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 03:04:49 ID:xlb8ZoZQO
ω・)乙。やっとブーンの生い立ちが語られたか…

65名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 07:56:34 ID:6DZ9LUdM0

会話のみでも読み応えあるね

66名も無きAAのようです:2013/10/22(火) 00:20:54 ID:X3gxa0vgC
(´・ω・`)「僕は復活したんだ、もう( ・∀・)なんか怖くないぞ」

67名も無きAAのようです:2013/10/23(水) 14:59:47 ID:A9zULyJoO
無理だろwwwハインにすら勝てないのにそれより強いオサムに圧勝だぞwww

68名も無きAAのようです:2013/10/24(木) 10:23:04 ID:zZxcBaZI0
おつ
モララーに迫れるか、親父はどうなったか、楽しみだ

69名も無きAAのようです:2013/10/26(土) 21:33:27 ID:W1KME2V60
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/37256/1307375951/
上記小説板スレの >>121-131 が第0話(4)「誰が為の祈り」の冒頭部分でありまして、
間にタイトルコールを挟む分かりづらい書き方のため、まとめ様の方でもお見落としなされてるようです
わざわざ修正して頂く内容でもないのでこのレスで補足としておきます

次はなんとなく盛岡団長の過去バナで短めの話にしやす

70名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 00:25:18 ID:qLWMzs1AO
ω・)次はシオンかと思ったw

71名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 02:49:03 ID:IAXMBun60
>>69
(すいません、こっそり修正しました)
次の話も待ってます

72名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 05:39:39 ID:UhnGL7h60

>>70
えぇ……思ったよりちょっと間が開きそうなので繋ぎに;;

>>71
あややや、大変お世話になっております。
ちょくちょく直して頂いたりしてるのに申し訳なかです!

73名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 21:33:19 ID:QBm8LrjU0
昔の設定と食い違うボロが出てきたので、細かい部分は忘れてね!
ざっと見なおした後投下します

74名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:06:51 ID:QBm8LrjU0


    ( ^ω^)ヴィップワースのようです


              幕間

            「栄光の丘」


.

75名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:07:59 ID:QBm8LrjU0

「お頭、なんでもグライフの野郎に、ガキが生まれたんですってよ。
 リュメに置いてきたコレから、手紙が届いたんだとか」

(´・_ゝ・`)「ほう」

「野郎、四六時中にやけ顔で惚気けやがるもんで……なんとか言ってやって下さいよ」

(´・_ゝ・`)「そうだな……次の出番の時は、お前だけ矢面に立てと言っとけ」

(´・_ゝ・`)「後は、次の仕事が終わったらガキの顔を見に帰ってやれともな」

「へへっ……
 団長命令だって、しっかりと伝えときまさぁ」

76名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:08:53 ID:QBm8LrjU0

ヴァイセン傭兵団。

常勝不敗を誇り、数々の戦場で輝かしい戦果を挙げて来た、猛者の一団。
荒くれ者たちばかりからなるこの傭兵団の統率がしっかりと取れているのは、
団長であるデミタス=エンポリオの魅力に、みなが惹きつけられているためだ。

上に立つ人間に求められるものは、人柄などよりも強さが重要とされる。
頭が強ければ、その威光は同業との差をつけるための示威にもなり、やがて太い客の目にも留まる。
戦いに勝ち続ける事で、稼ぎはそれだけ自然と増えて腹もふくれる。

ようは自分たちの暮らしを安定させるだけの器があるかどうかだ。
傭兵を束ねる長とは、それらを部下たちに見極められ続ける立場にある。
だがその点においては素養に問題があるどころか、デミタスは天賦の才に恵まれていた。

最初はたった一人で始めた傭兵稼業のはずだった。
それがいつの間にやら、彼を訪ねて多くの男たちが集まってくるほどに。

77名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:11:38 ID:QBm8LrjU0

聖教都市において”剣乱天舞会”と題打たれた御前試合が開催されていた事がある。

それに出場したのが、聖教が誇る円卓騎士団の次期団長と目されたフィレンクト=エルメネジルドなのだが、
彼はその全ての試合において他の出場者を圧倒し、完勝にて上り詰めたという実績がある。

武の高みを志すものの憧れでもあるかの聖騎士を引き合いに出してなお、団員達はこう口を揃えるのだ。

「きっと、やってみりゃあフィレンクトにだって勝っちまうさ。
 あの人は化けもんだからな」

長大な体躯から放たれる重剣の一撃は、堅装の板金鎧であろうと、タワーシールドすらもめくり上がらせる。
剣を重ねればたちまちにへし折られるという人並外れた膂力に、戦場に立つ者は敵ですら畏敬を覚えるほどだった。

傭兵家業に身を置く猛者達からも一目を置かれる強さを兼ね備えているだけでなく、
彼が部下たちから慕われる理由は、団員一人ひとりの事を気遣う人格者であるからというのも大きい。

78名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:13:24 ID:QBm8LrjU0

今はわずか9名の傭兵団ながら、無敗を掲げるのは一人ひとりの精強さを際立たせる彼の指揮力の高さにもある。
少数精鋭の小回りを生かして、戦場ではたくみに陣形を操り、最少の動作で最大の結果をもたらしてきた。

部下たちから寄せられる信頼は、それ自体が力となる。
元はごろつきや小悪党の彼らが世間からの鼻つまみ者としてではなく、
武勲を掲げる戦士としていられるのは、何よりも団長の存在があってこそだと、誰もが思っていた。



数年前、極東シベリア教会の信徒ら数十名が、この地で虐殺されたという丘陵があった。

以来、その霊を鎮めるためとして、この丘には無数に突き刺したような碑が立てられたという。
その場所で荷を下ろした傭兵たちは、デミタスを中心として円陣を組み、彼へと注目を集めた。


―― 大陸北西部 グラシーク地方 【慰霊の丘】――


(´・_ゝ・`)「どうやら、ある領主の旦那がえらく俺たちの強さをお気に召したそうだ」

79名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:15:18 ID:QBm8LrjU0

けっ。
そりゃあそうだ。
ざわつく傭兵たちの間では、口々にそんな言葉が飛び交う。

(´・_ゝ・`)「で、そいつによれば、俺たち全員を正規に私兵として迎えたいと来たもんだ。
      飯も、酒も、寝るとこにも不自由しないだけの生活を保証するってな」

「お、女もですかい?」

「そりゃあいいや。
 たまんねぇな!」

(´・_ゝ・`)「その代わり、今まで自分の腕だけで生き抜いて来た誇りは、綺麗さっぱり洗い流すことになる。
      ランクリフ殿に忠実な、子飼いの猟犬としてへつらって生きていくんだからな」

80名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:16:30 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「そこでだ。
      お前らは―――どっちがいい?」

「………」

今までと同じに生きるか、誰かに忠誠を誓って生きるか。
あえて、デミタスはそのような言い方をした。

自分が決める事ではない、団員一人ひとりが考えて、選ぶべき事。
無論、誰かの子飼いに成り下がるというのは、これまでそんなものを毛嫌いしてきた
彼らのような荒くれにとっては、反感を持つ事でもあるというのを踏まえた上で。

疎まれ、蔑まれてきた世のはみ出し者達が寄り合って―――
やがて、彼らは戦地で羨み、恐れられるようにもなっていった。

そうして力や名声を得て、そこへ来てちらつかされたのは、昔に求めたはずの真っ当な暮らし。

81名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:17:52 ID:QBm8LrjU0

食うにも寝るにも困らず、温かい場所に家族を招いて、不自由のない暮らしをする事が出来る。
そこへ辿り着くまでに積み上げて来た矜持を、すり減らしてきた命を、引き換えに差し出して。

団員たちは、しばらくデミタスの問いに答える事はなかった。
それぞれが今と昔とを天秤にかけ、そして考える。

いつまで自分たちは傭兵として食っていけるのか。
常に戦と正面から向き合い続ける日常も、いつかは立ち行かなくなるのではないか。
冷静にそう考えていたものもいれば、難色を示したものもいた。


「いや……俺は反対ですぜ。
 金持ちどもに丸めこまれて牙を失っちまったら、もう二度と人前で胸を張れないような気がしてね」

82名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:19:23 ID:QBm8LrjU0

「おいおい、俺はいいと思うけどな。
 おふくろがまだ生きてる奴らなんかは、安心させてやりたいと思うもんだろ?」

「そうだな、こんな良い話はねぇよ。
 逆に、お頭はどう思ってるんです?」

(´・_ゝ・`)「俺か」


まだ年の上では若い傭兵団の長は、こほんと軽く咳払いをした。
物怖じしたところの微塵もない立ち居振る舞いから、倍は年の違う一部の傭兵たちすらもが、
瞳を皿のようにして彼の弟であるかのように、告げる言葉を待ちわびる。

だが彼らという雑草に輝ける場所を与えてきたその男は、まるで関係ない事を口にした。

83名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:21:05 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「……あぁ、そういえばな。
      グライフにガキが生まれたそうだ」

「……へぇ、いつの間に」

「よくぞ言ってくれた団長!
 目元が俺に良く似た、利発そうな子らしいんだ……これがな」


グライフは入団して2年間というもの、デミタス以外にはまるで心を開かなかった男だ。
母親を早くに亡くし、父親の暴力ばかりが繰り返される毎日に嫌気が差し、南の集落から飛び出してきた。
ある時、滞在先の街で道行く娘と恋仲に落ち、多くの稼ぎを持ち帰ったら一緒に暮らすことを約束しあったそうだ。
その後は周囲の冷やかし混じりの祝福を受け、彼の態度も団に馴染み、すっかり軟化しつつある。

84名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:23:07 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「確か、先月にはピルロに嫁さん候補の女が出来たんだったよな。
      通算で何回目だったか忘れたが」

「いや、今度こそしとやかで良い女なんです。
 もうひと月もあいつと続いてるし、一緒になろうかなってね!
 できりゃあ、親父にも見せてやりたかったよ」

「はっ、お前のどこに惚れたんだかなぁ。
 まぁ最後のチャンスだと思うけどな」


まだあどけなさの残る少年という頃から、デミタスの元を尋ねてきた男がピルロだ。
最初は荒くれたち数人に怯えて、手伝いと言えるような事しか出来なかった彼だが、
初めての出陣で一人を打ち破った時から自信をつけ、その後はめきめきと中核の一員に成長してきた。
優男という印象だった体格も、今では周囲の男たちに引けを取らない逞しさになっている。

85名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:24:16 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「博打好きなお前の親父なら、きっとあの世でも
      お前が二晩で別れる方に賭けてたんだろうよ。
      さぞ、残念だろうに」


どっ、と笑いが起こる。
先ほどまでの少し緊張した空気が、それを機に若干ほぐれつつあった。


(´・_ゝ・`)「親父の鼻を明かしてやりな」

「へっへ! もちろんですよ!」

(´・_ゝ・`)「………で、だ」


いっとき巻き起こった笑いもすぐに鎮まり、再びデミタスは問いかける。

86名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:25:38 ID:QBm8LrjU0

いつ死ぬとも知れない戦場の中で、戦勝の酒に酔いしれながら、ずっとこの先戦い続けるのか。
首輪を付けられ、領主の私兵として安定した生活を求めて、これまでの生き方を捨て去るのか。


(´・_ゝ・`)「どっちにするかは、お前たちに任せるよ」


たとえ依頼主が飼い主に代わろうと、自分たちの培ってきた信頼関係だけは変わらない。
何より、共に剣を並べる相手として申し分のない仲間たちがそこにいるならば、何も変わりはしない。

団員たちもまた、デミタスと共に戦列に加わる事が出来るのならば、その場所でも―――と。
だからこそデミタスはこの時、彼らの選択ならば、どちらでもいいと思っていた。







87名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:27:36 ID:QBm8LrjU0

翌月、大陸西北を治める領主ランクリフ=アズクバルの元には、新たに9名の私兵が面通しされた。

団長は変わらず、人数は比べ物にならぬほど増え、さらには彼らの通り名もそのままに。
身分の上では対等とも言えないが、戦場においては元傭兵たちが主導を握る混成の一隊。
およそ100人からなる”ヴァイセン剣兵団”として、主を得たのだ。

これまでの使い古した装備に愛着は湧きながらも、仕える身である以上、装備を一新せよとの命令に尽くすしかなかった。
だが、ぱりっとした衣服に袖を通して、新たに支給された胸当てや鎧に身を包んでみると、やがて彼らは実感する。

「俺たち、本当に領主に雇われたんだな……」

「見てみろよ、この猫目石の廊下……ったく、金のある奴はおごってやがんなぁ」

(´・_ゝ・`)「分かってるとは思うが、滅多な事は口にするなよ。
      思っているのは、まぁ構わんが」

88名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:30:01 ID:QBm8LrjU0

居住する場所として与えられた詰め所のきらびやかさと清潔さに、目を丸くする団員たち。
まるで天地がひっくり返ったかのようなこれまでの生活との違いに驚くものもいれば、喜ぶ者もいた。

もちろん最初はあまり馴染むことが出来なかった彼らだったが、退屈だけはしなかった。
彼らの本懐である”戦い”というものには、事欠かなかったからだ。








(´・_ゝ・`)「バストン、スラッシュ、何人か連れて左に回れ。
      俺は右側から攻め入ってでかぶつどもを叩く」

グラシーク地方の北寄りに位置するランクリフの領地は、南側の領主ギレオル=クライセンの治める場所との境。
自分たちの今を選択したあの慰霊の丘から、さらに半日ばかり南下した場所が、彼らの戦場だった。

89名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:31:36 ID:QBm8LrjU0

デミタス率いるヴァイセン剣兵は、今まさに領主同士の争いの渦中にある。

この頃、異端かそうでないものを巡った信仰の違いによって過熱の一途を辿る宗教間の
争いが影響して、それは直に彼らヴァイセンに対して戦う場というものを与えていた。

その理由に、極東シベリア教会の狂信的とも言える信奉者であるギレオルの血縁のものが、
慰霊の丘にて虐殺された敬虔なシベリア信者の一人であったという背景がある。

そして、そのシベリア信徒たちを葬ったというのも、内部からは異分子と見なされていた過激派の聖ラウンジ信徒。
穏健派で知られる彼らがそんな暴挙に至ったのは、当時新たな司教の座を巡ったごたごたに感化されて、
迷いの生じた一部のものが、自らが信仰を逸れている事に気づかず、それを教えと履き違えていた事による。

そうしてぽつぽつと各地に生まれ落ちていったのが、他宗教を毛嫌いする、闘争の種火となる存在たち。
その中で一際大きな炎となったのが、聖ラウンジに対し強い憎しみを抱く、このギレオルだった。

90名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:35:40 ID:QBm8LrjU0

同じ頃、東部ロアリアの方で、それらに油を注ぐ出来事があった。

他宗教への弾圧を目的に、自らの信こそが聖ラウンジの道であると妄執を抱いた異端審問官がいた。
その”イスト=シェラザール”を中心として、自らの異常性を集団意識のもとに覆い隠しては、無実の人々に
目を覆いたくなるような拷問を繰り返すという、権威を縦にした過激派の暴挙。

”種火”の半数近くは、その虐殺のようなやり口にも同調しながら、聖ラウンジの弾圧に抵抗する者たちだった。

実質的に大陸で最大の権威を持ち、政にも大きな影響力を持った聖ラウンジを掲げる聖教都市。
やがてロアリアでイスト達が何者かによって殺害された出来事は、彼らシベリアの信徒にとっては好機となる。
当時イストらが変死した出来事は、極東シベリア教会の手によるものと見なされ、自らに非難が集中していたからだ。

当然、自分たちはそんなものに関わっていない、知る所ではない、事実無根だと断固突っぱねる。
ラウンジの暴徒化を腹に据えかねていたシベリアは、そして今度は、それを反撃の材料と捉えた。

91名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:37:10 ID:QBm8LrjU0

間違えた信仰は正さなければならないというのは、方便だ。
反旗を翻して、我々は真実のもとに徹底抗戦の構えをみせる―――それも、紛れも無い欺瞞だった。

”聖ラウンジの一教化を許してはならない”、根底にはそんな妬みのような感情を持ちながら、彼らはそそのかす。
多くの私兵を抱え、聖ラウンジを憎みさえしている領主の一人に耳打ちして、最も大きな炎を燃え上がらせる。
そのために、ギレオルに宗教戦争の幕開けを声高に宣言させて、表立って戦争を仕掛けさせる事とした。

正しさという大義名分を持つことによる、優越。
それを逆手にとって、これまで正しくあったはずのものから生まれた歪や綻びを、そこから崩す為に。
喉元にて抑えこんできた敵愾心をもはや剥き出して、聖ラウンジの息がかかったものを叩かせていった。

領主自らも聖ラウンジを信ずるランクリフなどは、真っ先にその眼に向けられた。
彼の元には、ギレオルの手によって矢継ぎ早に兵が送り込みつづけられたのだ。

一晩おき、はたまた夜襲。
日に3隊に分けて、3つの時間帯に行軍が押し寄せた事もあった。

92名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:39:27 ID:QBm8LrjU0

だがその全てを完膚なきまで完璧に敗走させ続けたのは、北部領主ランクリフが手に入れた最強の手駒、ヴァイセン。
その活躍によって守られていたランクリフは、この時自身に危険が及ぶことはないと、確信していたそうだ。

たかだか傭兵団と侮っていたと、雇い主は一度だけ彼らの前に口にした事もあった。
そしてならず者の一団ながら、鮮やかで苛烈な戦いぶりを見た時、実際に自身が感嘆を漏らした事も。
彼らを迎え入れるに至った経緯は、団長であるデミタスの戦い振りを風の噂に聞いた事が始まりだったという。


「団長! 敵隊後列、弓兵が動いてまっさ!」

(´・_ゝ・`)「あぁ、ネピア、スコッティ。
      集中砲火が降り注ぐと思うが、後は頼む」

「あいよぅ! 野郎ども、小さくまとまって、盾構えろぃ! 正面で弓隊の注意を引き付けんぞ!」

93名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:42:12 ID:QBm8LrjU0

ランクリフの兵も、そこそこの精強さは兼ね備えている。
しかし、100人から居るその兵たちの中心にいるのが、やはりデミタス率いる長く傭兵稼業に身を置いた者達。
およそ2倍もの兵数を相手取りながらも、上手くかく乱し、個々の戦力の高さを持って敵に恐怖を植え付ける。

いつか、どこかの異郷の地で、とある名将が口にした言葉がある。
恐怖の伝染した味方は、敵にも勝る脅威になり得るのだと。


(-+ | +-)「えぇい! 隊を分けおったか、すばしっこい奴らめ!」

(-+ | +-)「重装歩兵、叩き潰せ!」
  __
/=| |=\「ムー!」

94名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:43:31 ID:QBm8LrjU0

プレートアーマーをまとい、肉厚のバレルヘルムを装備した巨漢の列が前に出る。
細みの剣ではまず弾かれる強度をもつ、ほとんどの弱点部位が鎧に覆い隠された鉄壁の一団だ。

右翼から素早く間合いを詰めてそれへと接敵した第一陣であるデミタスは、構うことなくただ剣を薙ぐ。

(´・_ゝ・`)「やってみろよ」

そう言って、一振り。

どぐんッ。

素早く踏み込み、さらに一振り。

ぞぶんッ。

鉄の大樽のような兵士たちの、その腹や頭を目掛けた。
ぶぅん、と剣を振るうたび、火花を散らせながら轟音が稲妻のように抜ける。

鎧を切り裂き骨まで達するほどの致命傷を、一刀ごとに、確実にその場に残して。

95名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:44:47 ID:QBm8LrjU0

三人。

ごしゃッ。

そして四人。

ばごんッ。

 __
/=| |=\「えっ、おぁ……」

五人目が斬られた所で、上げなければいけないはずの戦列を乱して、一人が一歩あとずさった。

ずどんッ。

六人目が絶命間際の呻きを漏らす段になってそれに気付くのは、遅すぎた。

めぎょッ。

96名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:47:44 ID:QBm8LrjU0

(´・_ゝ・`)「打ち込めば確実に死ぬお前らに、避けられるのか?」
  __
/=| |=\「なんッ……!」

(´・_ゝ・`)「俺の剣を、その鈍さで」
  __
/=| |=\「―――ひっ、ひえぇぇ!」

6つの腸がぶち撒けられた光景を目の当たりにそう告げられた時、ようやく敵たちは認識の甘さを痛感する。

板金鎧が用をなさないまでの位階に達する剣戟など、誰しもの想像を凌駕していた。
そんな常識の埒外にある破壊力にかかれば、堅牢を誇る巨漢などはただただ鈍重な的でしかないのだ。

さらに三つの鉄樽から血飛沫が虚空に舞った時、死の想念が兵たちを襲った。

97名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:49:19 ID:QBm8LrjU0

「やめ、やめて」

デミタスの剣から逃げきれず、そんなか細い声が聞こえるようになった辺りから、
恐怖に意思を明け渡した兵士たちの多くが、彼から逃れようと間合いを取り始める。

その先々にも、脅威はあった。
今やランクリフの兵力の中翼を担うデミタスの部下たちによって、次々と討ち取られていったのだ。

(-+ | +-)「うっ、おぇッ……ば、馬鹿! 敵に道を開けてどうす―――ま、守れ! 私をッ!」

(´・_ゝ・`)「この5倍もいれば、案外良い勝負だったろうに」

微かにちらついただけの敗北の情景が、やがてはっきりと多くの者にも浮かんだ時、そこで勝負は付いていた。
恐怖に駆られ逃げ出す兵たちをかき分け、指揮官の頭蓋を縦真っ二つに断ち割った直後が、勝鬨の合図だ。

ばしゅッ。


「「……ウオオオォォォォォォーッ!」」

98名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:51:53 ID:QBm8LrjU0







秋になっても、冬を越しても兵は差し向けられた。

慰霊の丘に防衛戦を展開するヴァイセン剣兵団にも、少しずつ戦死者がでるようになる。
だが、これまでランクリフの元であまり戦を経験するものがなかった者の中にも、デミタスの指揮によって
頭角を表すものが少なくはなかったのが、彼らにとっては思いがけず幸いだった。

そして、間もなく糧食の問題が出始める。

99名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:53:30 ID:QBm8LrjU0

ランクリフが治める土地は広大ではあるものの、その多くを占めるのが岩山や荒れ地。
一方で、行軍に長い時間を要するものの、天然の要塞に囲まれて脅威の少ないギレオルの土地は、多くの作物が採れる。
躍起になって聖ラウンジに対抗しようという彼には、もはやそれの為に領民が飢饉に陥ろうとも、省みることはなかった。
何を憎んでいたのか、何の為に憎むのかも忘れてしまったような彼を、周囲は狂人と忌避したという。

20に届くかという戦いをくぐり抜けたデミタスは、一度ランクリフとの会食に立ち会った際、進言した。


(´・_ゝ・`)「信仰を捨てるという選択は、出来ないものでしょうか」


先に仕掛けてきたのはギレオルであると踏まえた上で、そう口にした。

講和の道を模索するという事は、可能と言えば可能なのではないか。
ただ一言、ギレオルに対して聖ラウンジの名を讃える事はやめる、と口にすれば。

100名も無きAAのようです:2013/11/01(金) 22:55:29 ID:QBm8LrjU0

しかし、妄執と狂信に駆りたてられたギレオルも、すでに莫大な損失を被っている。
プライドの高いランクリフにしても、この宗教間のいがみ合いは恐ろしい病気を持った野良犬に噛み付かれたようなものだ。
すでに互いの領主が言葉一つで溜飲を下げる事などあり得なかったのだが、そうと知りつつもデミタスは言った。

自分たちはいい、だが、新たに借り受けた兵たちにとっては、そう耐え切れる連戦ではなかった。
決して態度に表す事はしないまでも、弱っていく部下たちが討ち取られる様を目の当たりにしながら、
長たる人間がただ黙って上からの命令をこなしているべきなのかと、迷いと、使命感が生じたためだ。

その時には我を忘れて烈火の如くデミタスを叱責し、喉元に剣を突きつけるほど激昂したランクリフだが、
1年にも渡って続けられる戦いの中で、税収のほとんどがそれへと消えている事実を使用人から聞いた時には、
既に邸内の美術品などを売り払わねばやっていかれないほど、懐事情が逼迫していた。
その後はランクリフも、デミタスの言葉を思い返しては頭を悩ませる日々が続いたという。

前線に立たぬ男がそうであるのだから、当然、戦の日々が続くヴァイセン剣兵団は相当に疲弊していた。
20名以上が既に命を落とし、そこには傭兵の頃からデミタスに付き従っていた男たちも含まれている。


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