[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
801-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ
241
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:30:49 ID:x6g1yXaQ0
その横長のバッジに描かれていたのは
各々の剣を突き合わせたカエルたちの絵と、『三匹のカエル』という酒屋の名前
そして『レジスタンス会員証』という文字列だった。
☆ ☆ ☆
242
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:31:53 ID:x6g1yXaQ0
ドクオはその場をすぐに去った。
建前では行方不明だからだろう。
城下町を素早く、影の部分を選びながら駆けていき、人ごみに紛れていしまった。
ブーンは時間をおいてから歩きだした。
三匹のカエルは町の中にもいくつか看板を出していた。
ただ看板の矢印を完全に信じたがために、必要以上に大回りをしてしまった。
ようやく辿り憑いた時、その場所が広場からそう遠くはないことに気付いてブーンはがっかりした。
それでも気を取り直して、看板を確認する。
バッジと同じ絵。
剣を突き合わせた三匹のカエル。
城下町のレジスタンスのマークだ。
どうしてカエルなのかは知らない。
気分かもしれない。
243
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:32:51 ID:x6g1yXaQ0
そして衛兵の中にレジスタンスがいるという話も、ブーンは知らなかった。
お城に刃向う人々が、衛兵の中にいるなどなかなか考えられないことだ。
ドクオの話し方からして、彼はレジスタンスなのだろう。
一体どうしてなのだろう。
先程のモララーの話と関係があるのだろうか。
そういえばモララーも最後に言っていた。
三匹のカエルを覚えておけ。
それはこの酒場のことか。
だとしたら、モララーもまたレジスタンス?
ということは、どういう立場の人だったのか。
お城に味方しながら、お城の敵とも味方する。
なんでそんなことを。
244
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:33:53 ID:x6g1yXaQ0
その事情を知るにはもっと詳しい話を聞く必要がある。
だからブーンはこの場所に来た。
まだレジスタンスに協力するかは考えていない。
とにかく、今自分が知りたいのはモララー先輩のことだ。
ブーンはそう思って、お店の前で頷いた。
ドアノブに手を駆ける。
押すことで中が見えた。
ただ、光の加減で良く見えない。
「はい、いらっしゃい」
気のない声がする。
お店のマスターだろう。
思いのほか若い声だ。
マスターもまたレジスタンスなのだろうか。
このお店は全体としてレジスタンスの集会場となっているとも思える。
とにかく入ってからいろいろと聞きたい。
245
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:34:53 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは完全に扉を開けて、中に入り込んだ。
( ^ω^)「こんにちは、です……お」
声が尻すぼみになる。
目が慣れていったために、状況が次第に認識できたからだ。
お店にはお客は一人だけだった。
('A`)「よし、来たな」
ドクオはすでに到着していたのだ。
でも、それを目の端に捉えつつも、ブーンの目はマスターにくぎ付けだった。
(;^ω^)「……は?」
混乱が口を突いて出てくる。
およそ人に向けていい音ではないものが。
246
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:35:54 ID:x6g1yXaQ0
(;゚∀゚)「……は?」
まったく同じ意味合いの音が、ブーンに向けても発せられた。
その若いマスターはどこからどうみても、あのときの少年だ。
手作り地球儀を取りあった少年、ジョルジュ。
247
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:36:59 ID:x6g1yXaQ0
城下町の酒場、『三匹のカエル』にて
ブーンは初めて仲間に遭遇した。
心の隅の奇妙な痛みを今は無視して
ただモララーの後を追いかけていた。
248
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:37:54 ID:x6g1yXaQ0
―― 第二話 終わり ――
―― 第三話へ続く ――
.
249
:
名も無きAAのようです
:2013/08/26(月) 23:38:15 ID:N2LbX6EE0
しかしホントにペース早いな
支援
250
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:39:07 ID:x6g1yXaQ0
―― コラム② 魔人 ――
(,,゚Д゚)
グググ
(,,゚Д゚)
.∧∧ ピンッ
(,,゚Д゚)
.∧∧
(,,゚Д゚)「耳がめんどくさい」
251
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:39:54 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「コラムの表題にはなっているが、俺たちについてまだ話せないことは多い。
そもそも俺たち自身が自分たちの存在についてよくわかっていない。
300年前の世代はさすがにもうこの世にいないからな」
.∧∧
(,,゚Д゚)「まず、俺たちの身体には動物の一部がある。
普段は引っ込んでいて、仲間内や、力を使うとき、気分が昂ぶったときも出てきてしまう。
耳以外にもあるやつはいるし、爪とか牙とか、中には出し入れどころか骨格レベルで変わっちゃう奴もいる」
.∧∧
(,,゚Д゚)「俺たちは基本的に自然の中にいる。特に暮らしやすいから森が人気だ。野生でも変わったやつだけ町へ行く。
人間たちは俺たちに頼りたいときは森にやってくる。
それで手頃な力が使えそうな奴を選んで、お願い事をするんだ」
252
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:40:54 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「俺たちはそのお願い事が叶えられるように不思議な力を使って頑張る。
まあ簡単な力仕事くらいなら、力なんぞ使わなくても平気なんだがな。
それと、たまに自分の方からお願い事を聞きに行く積極的な奴もいるらしい」
.∧∧
(,,゚Д゚)「不思議な力は何でもありというわけでもない。
作中でも答えたが、大半は肉体強化だ。
そしてたまに自然現象を操ったり、超能力を操る奴が現れる」
.∧∧
(,,゚Д゚)「その力はあくまでも現実にあり得そうな限り発揮できるんだ。
何もないところからは何も生まれない。作中の靄だって、あまりにも空気が乾燥していたら出ない。
個体によってもその度合いは違う」
.∧∧
(,,゚Д゚)「人類は発展をやめたとドクオは言うが、不思議な力を使ってちょっとずつ良い製品が生まれたりしている。
作中では写真がその例だ。ただ、感光材とかは使わずに
紙やガラスに不思議な力によって正確な絵を表すことで写真としている」
.∧∧
(,,゚Д゚)「今後、うっかり18世紀後半になかったものが作中で現れても
きっとそれは不思議な力によるものだ。きっとそうだ。そうに違いない」
253
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:42:08 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「不思議な力はこのあたりにして、次の話にしよう。
俺たちの性質について。つまり、願いをかなえたくなるという性質だ」
.∧∧
(,,゚Д゚)「同胞を大別すれば二種類。契約済みか野生か、だ。
野生のは不思議な力を使えない。もし使っていたらそいつは本当は契約済みなんだろうな。
契約が破棄されれば不思議な力は使えなくなる」
.∧∧
(,,゚Д゚)「なんでこんな仕組みなのかと言われたら、そう言いつけられているからとしか言えない。
親の代からの命令なんだ。人間に協力してあげなさいってね。
もちろん心だってちゃんとあるし、普通の人間とほとんど変わりなく暮らしている奴もいる。幸せな奴さ」
254
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:42:51 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧ グググ
(,,゚Д゚)
ヒュン
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)「……あえて最後に言わせてもらうとすれば
俺たちのことを“魔人”と呼ぶのは人間だけだ。俺たちは俺たちのことを普通に人だと思っている」
(,,゚Д゚)ノシ「それではまた次回。さすがに今回より時間が空くだろうなあ」
―― コラム② おわり ――
255
:
名も無きAAのようです
:2013/08/26(月) 23:48:24 ID:uIIgNcxg0
乙
ギコの最後のセリフが物語の核になってそうな雰囲気だな
256
:
名も無きAAのようです
:2013/08/27(火) 00:03:15 ID:P42nA1/g0
おつ!
257
:
名も無きAAのようです
:2013/08/27(火) 00:52:25 ID:LDUumxIk0
面白い乙
ここからどう転んでいくのかね
258
:
名も無きAAのようです
:2013/08/27(火) 02:14:40 ID:zgkxYIy20
乙
ここでまさかのジョルジュ…わくわくするぜ
259
:
名も無きAAのようです
:2013/08/27(火) 03:12:50 ID:KZYrO.ywO
読み終わった、予告から察すればここまでは書き終わってたのかな?
260
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/28(水) 15:47:31 ID:DwMEyd4M0
―― 予告 ――
.
261
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/28(水) 15:48:36 ID:DwMEyd4M0
('A`)「……ちゃんとやるんならな」
そういうドクオの表情には、既に諦めの色が浮かんでいた。
そうとは知らず、ジョルジュは「よし!」と気合を入れる。
( ゚∀゚)「じゃ、俺はいくぞ! ブーンも足を引っ張るなよな」
( ^ω^)「……おー」
さっきまでブーンに向けていた怒りはどこへやら
ジョルジュは楽しそうに走っていった。
目標があれば、ひとまずそれにひた走るタイプなのだろう。
どこまでも調子の良い奴だと、その背中を見つめながら思った。
('A`)「で、ブーンは……」
ドクオはブーンの右手に握られたものを指さした。
262
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/28(水) 15:49:49 ID:DwMEyd4M0
('A`)「それで大丈夫なんだろうな? 心変わりしないか?
木刀とかもちゃんと在庫はあるんだが」
ドクオが確かめるのも無理はなかった。
武器は貸与された。
ヒートを捕まえるためならなんだって準備したという。
それでも、どうしても攻撃することが嫌だったブーンは
紹介された武器を全て無視して、酒場の隅に忘れ去られた客の持ち物を選んだ。
( ^ω^)「僕はこれで十分ですお。
相手は女の子なんだし、木刀なんて物騒な物持ってられないですお」
そういって、ブーンは自分の得物を顎で指す。
それは、どこからどうみても平凡な虫取り網だった。
263
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/28(水) 15:51:38 ID:DwMEyd4M0
―― 第三話 ――
―― 勝てない理由と追いかけっこ ――
明日午後9時から投下開始
……なんか、書けちゃいました。一晩で。
264
:
名も無きAAのようです
:2013/08/28(水) 17:35:24 ID:nlwjBo5MO
ほんと書くの早いな、一年以上息を潜めてたやつとは思えない
265
:
名も無きAAのようです
:2013/08/29(木) 00:13:06 ID:OMA7RlEQ0
楽しみ
266
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 20:59:19 ID:LUlKybsE0
投下を始めます。
267
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:00:22 ID:LUlKybsE0
昼下がり
城下町
露店の建ち並ぶ一角
今は実りの秋。
露店には様々な農作物が躍り出ていた。
瑞々しい野菜、採れたての果物、それを求めて道を行く人々
商売の場には常に賑わいが生まれる。
新嘗祭延期の話が出てから、気落ちしていた町の人々も
その賑わいを楽しみたいがゆえにこの道を通っていた面もある。
そんな賑やかな通りにて
突然轟音が響き渡った。
268
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:01:35 ID:LUlKybsE0
通りの人々は一斉に音のした方向を見た。
土煙が上がっている。
とある果物屋の前で騒動が起こっていた。
頭を短く刈り込んだ青年が、道にへたりこんでいる。
(;゚∀゚)「ああああああ、ちくしょう!! 逃げられた!」
青年、ジョルジュは上を向いて叫んだ。
と同時に、その顔面に物体が投げつけられる。
( ×∀×)「のわああああ」
ジョルジュが倒れる原因となったそれは、洋梨だった。
採れたてらしく、黄色い色合いが煙の中で映える。
人から投げつけられたように見えた。
でも、町の人々が何人かその投げた人のいるはずの方角を見ても
何者の姿も発見できなかったという。
いや、正確にいえば、速すぎて確認できなかったのだ。
269
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:02:32 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「ジョルジュ! 大丈夫かお!?」
雑踏の中からもう一人の青年が飛び出してきた。
どういうわけかその肩は赤く染まっていた。
ブーンはジョルジュの傍に駆け寄り、屈んだ。
(;゚∀゚)「無事に見えるかばーか!
逃げられちまったよ!」
やけくそ気味にジョルジュはブーンにつっかかった。
(;^ω^)「そんな、いつまでも尖がっている場合じゃないお」
(#゚∀゚)「なんだとこのやろう!」
270
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:03:27 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは立ち上がろうとして腕を下に降ろした。
しかし、その動きが途中で止まる。
ようやく晴れてきた煙。
果物屋の前に佇む人の姿が露わになる。
このお店の店主の姿。
@@@
@#_、_@
( ノ`)
毅然と立ち尽くすその姿。
口を閉じ、腕を組んで
物も言わずに静かに二人の青年を見下ろしている。
二人の青年は店主の女性を見上げていた。
身体が固まっている。
やがて、女性はゆっくりと口を開いた。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「お勘定」
271
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:05:06 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「ああ……もうだめだ……」
すっかり圧倒されてしまったのか、ジョルジュは泣きごとを漏らした。
(;^ω^)「ジョルジュ! 諦めるなお!」
ブーンが必死に呼びかける。
(;゚∀゚)「なんだよ! じゃあどうすりゃいいって!」
(;^ω^)「協力するんだお! そうしなきゃあの人には勝てないお!」
喚いている間に、店主の身体がゆらりと傾き始める。
行動が始まるのは明らかだ。
(;^ω^)「あの人に立ち向かう策ならあるお! だから!」
ブーンは立ち上がり、手を伸ばす。
ジョルジュを引き上げるために。
その手をぼんやり眺めていたジョルジュ。
焦りの顔から、少しずつ、歪んでいく。
引きつった笑みが浮かんでくる。
272
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:06:35 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「ほんとうだろうな? 策があるって」
ジョルジュが震える声で問いかける。
そのとき、とうとう店主が足を青年たちに近づけた。
その手には大きな看板が握られている。
高く、看板が降りあげられる。
そのまま振り下ろされれば、二人はひとたまりもない。
ブーンは一回だけ頷いた。
それだけで、ジョルジュは瞬時にブーンの手を握った。
(;゚∀゚)「じっくり教えろよな!」
叫ぶように答えながら、二人は走り出す。
同時に看板が空を切る。
さっきまで二人がいた場所へ。
273
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:07:46 ID:LUlKybsE0
こうして二人は、再び彼女を捕まえるために走り出した。
すでに数十メートル先を駆けている、あの赤毛の女性を捕まえるために。
そんなことを知ってか知らずか
ノパ⊿゚)「洋梨うめえわ」
女性は今もまだ、洋梨の詰まった袋片手に、城下町の屋根の上をひた走っていた。
☆ ☆ ☆
274
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:08:52 ID:LUlKybsE0
―― 第三話 勝てない理由と追いかけっこ ――
.
275
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:09:37 ID:LUlKybsE0
時は数時間前に遡る
酒場、『三匹のカエル』
ジョルジュはいつものような朝を迎え、いつものように店の準備を始めた。
何も悪い予感など無かった。
たとえ道で黒猫に遮られても
靴ひもが突然切れても
お皿をうっかり割ってしまっても
いつもどおりにお店は開かなきゃならない。
11時からから15時までのランチタイム。
それまでに掃除をし、食器を洗って、食材の確認をする。
料理担当の奴はルーズだから、どうせぎりぎりまで来ない。
今のうちにチェックしておかなければ開店が遅れてしまう。
だから、一人でせっせと働いた。
276
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:10:40 ID:LUlKybsE0
一人になるとつい考え事をしてしまう。
ワインセラーを眺め、切れそうなものはないか確認しながら
先日亡くなった知り合いのことを思い出していた。
衛兵のエリートとして躍進していたモララーのこと。
葬儀は衛兵隊の身内だけで行われたと聞く。
もちろんそれが当然であり、仕方のないことであった。
それにしても、あの人が死んでしまうとは、いまだに信じられない。
あの人に対する恩は、まだまだ返し切れていないというのに。
苛立ちはあった。
こっそり帰還したドクオから話も聞いていたので、事情は知っている。
南の山の麓で魔人に襲われたこと。
277
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:11:41 ID:LUlKybsE0
('A`)「正直言って、よくわからない点は結構ある。
本当にあの人が死んだのか、それすらも疑問に思うことだってある」
帰還早々酒場に来たドクオがそう言っていた。
('A`)「俺だって実はなんであの任務に誘われたのかわかっちゃいない。
モララーにはモララーの考えがあったのだろうけど」
('A`)「あいつは、俺に何を見せようとしたんだろうな」
渋い顔をして、そう呟くドクオ。
そのときジョルジュは、ドクオの向かいに座っていた。
('A`)「そうそう、あのとき他にも別の奴がいたんだった。
ほら、お前もモララーさんからちょくちょく話をきいていただろ?」
もちろん、とそのときジョルジュは頷いていた。
何度も聞いた名前だ。
関わったのはもうずっと昔の話なのに、なぜか奴の名前は良く聞く。
278
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:12:41 ID:LUlKybsE0
彼がモララーと関わっている経緯も聞いていた。
皮肉にもそのきっかけは自分だったということも。
その点、嫌な気分もする。
自分はあんなに苦労したのに、あいつは何も悩まずにのうのうと衛兵を続けてやがる。
ジョルジュは彼が嫌いだった。
あのにやけた顔も、おどおどした態度も、人に頼ればなんとかなると思っていそうな全体像も。
だから、その少年の話はあまり聞きたくなくて、そのときのドクオの話も聞き流していた。
モララーと付き添って南の山に向かった少年、ブーンの話。
279
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:13:36 ID:LUlKybsE0
お店の玄関が開けられて、顔をはっと上げる。
('A`)「よう」
青白い顔が覗く。
すっかり足のけがも治ったようで。すたすたとカウンター席まで歩いてきた。
('A`)「ジョルジュ、今日はこのあとお客さんが来るんだ」
( ゚∀゚)「お客?」
('A`)「そう、でな。俺はそいつに入団テストをしたいと思っている」
いきなり本題を話してくるものだから、ジョルジュは面食らった。
( ゚∀゚)「テストって……まさかレジスタンスの?」
ここ、『三匹のカエル』はレジスタンスのアジトの役割も果たしている。
関係者以外立ち入り禁止の扉をくぐれば、そこには秘密の部屋が隠れている。
レジスタンスは活動する場合、その部屋に籠って作戦を練り、行動を起こしていた。
280
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:15:02 ID:LUlKybsE0
('A`)「そうだ」
( ゚∀゚)「おおお、まじか! 俺以来だな!」
嬉しそうにジョルジュが言う。
彼がレジスタンスに入団したのは去年の冬だった。
さらに言えば、レジスタンスで入団テストをしたのも彼が初めてであった。
( ゚∀゚)「なあなあ、入団テスト俺がやっていい?」
('A`)「いいぞ。見るからにやりたそうな顔をしているからなあ」
( ゚∀゚)「そりゃあだって、今まで俺しかやってもらえなかったんだもの。
しかも相手はあのモララーさんだったし、あれは酷い目にあった」
ジョルジュが思い浮かべたのは、雪の降るかつての日。
その日、一晩をかけてジョルジュは入団テストを受けた。
あのとき受けた辛さはなかなか忘れられるものではない。
あれを自分だけがくらっているというのは、悔しいものであった。
悔しいという気持ちが何よりも嫌いなジョルジュは、その気持ちを早々に払拭したかったのである。
281
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:15:42 ID:LUlKybsE0
だから、わくわくしてその客人を待った。
数分が経過し、「迷ってるかもなあ」とドクオが漏らした頃
ようやく扉が開いた。
はやる気持ちを抑え、ジョルジュが見つめる先に立っていた人物は
自分が最も見たくないと思っていた人間だった。
☆ ☆ ☆
282
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:16:35 ID:LUlKybsE0
('A`)「あれ、まさか知り合いだったのか?」
ジョルジュとブーンを相互に見てから、ドクオがジョルジュに話しかけた。
('A`)「お前があの衛兵見習いの中にいたのはほんの少しの間って聞いていたが」
( ゚∀゚)「……その少しの間に会ったんだよ」
ジョルジュはきまり悪そうにそういうと、眉間に皺を寄せた。
( ゚∀゚)「むしろ、質問したいのはこっちなんだが。
どうしてこいつがここにいるんだ?」
ジョルジュの指がまっすぐ、ブーンに向けられる。
ブーンは再びジョルジュと向かい合う形となる。
( ^ω^)「ドクオさんが来いって」
('A`)「そうだ。俺が呼んだ。
俺が誘ったのはこいつだよ」
283
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:17:44 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「何勝手に決めてんすか! ドクオさん!」
ジョルジュが声を荒げ、テーブルを叩いた。
端のグラスがぐらぐらと揺れる。
(#゚∀゚)「ただでさえ、俺たちへの風当たりが強くなっているってのに。
……そうだ、この前のパフォーマンスだって、せっかくリーダーと一緒に考えて頑張ったのに
新嘗祭に影響したくらいで、すぐに町の連中冷めちまうし」
(#゚∀゚)「とにかく、今はレジスタンスの人口増やすよりも、今後の方針を立てるべきでしょう。
ひょっとしたらこいつだって、俺らの情報を漏らすために来たのかもしれないし」
('A`)「そんなことはないさ」
( ゚∀゚)「なんでですか」
('A`)「こいつは、モララーさんに認められた男だったからだよ。
あの人の最期のときもいたしな」
( ゚∀゚)「……」
284
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:18:40 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「えっと、ちょっといいですかお?」
ブーンがおずおずと手を挙げる。
('A`)「はいよ、どうぞ」
(;^ω^)「なんというか、状況がまったく飲み込めないんですお」
ブーンは正直に話した。
(;^ω^)「とりあえず、ドクオさんはレジスタンスなんですかお?
それで、僕をレジスタンスに誘っているってことですかお?」
('A`)「その通り」
あっさりとドクオは頷いた。
ジョルジュの舌打ちが聞こえたが、今は気にせず進める。
( ^ω^)「それで、モララーさんもレジスタンスだったんですかお?」
('A`)「いや……ちょっと違う。
モララーさんは俺たちに協力してくれていただけだ」
285
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:19:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「協力?」
('A`)「そうだな……まずレジスタンスについてはどんな印象を抱いている?」
( ^ω^)「そりゃあ、魔人が城下町に入ることを拒んでいた人たちですお。
それでときどき広場とか街頭でデモやパフォーマンスをしたり
時折過激な人たちが魔人相手に騒ぎを起こしたり」
('A`)「まあ、そういうことで衛兵の厄介になることもある。
そして俺とモララーは衛兵の立場から、こっそりレジスタンスが活動を続けられるようにはからっていたんだよ。
協力ってのはそういう陰ながらの強力な」
('A`)「モララーは立場上レジスタンスには入ってくれなかった。
もし入っていたら国王からも気にいられることはなかっただろうしな。
別に入団するしないは問題じゃない。あいつに助けられたことは大きい」
モララーは魔人を憎んでいた。
だからその魔人と敵対する人々と協力していた。
こっそりと、国王からも隠れて。
ブーンはドクオの説明を受けて、暗躍するモララーの姿を想像した。
( ^ω^)「……知らなかったですお」
('A`)「そうだな。結構あいつは隠しごとが多かった。嫌か?」
286
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:20:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「んー、でも魔人を嫌っていたのは本当ですお。
だから、まあそんな裏の一面があっても納得できるかなと」
人間一つか二つ、別の顔があるものだ。
ブーンはそのことに思い至った。
モララーにしたって、そんな別の顔があっても問題ではない。
むしろ、魔人と対峙するという点において一致しているあたり、芯が通っているとも思えた。
('A`)「そうか、良かった。
それで、モララーさんが良く話していたお前をここに連れてきたんだ」
( ^ω^)「良く話していたって、さっき言ってた『できないことができる』ってやつですかお?」
('A`)「ああ」
やはりあっさりと答えるドクオ。
でも、ブーンからしてみたら、やっぱり納得できない。
その点だけはどうしても。
(;^ω^)「申し訳ないんですが、やっぱり思い当らないですお。
自分に何かができるなんて」
287
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:21:39 ID:LUlKybsE0
('A`)「どうかな。それを判断するのは俺たちだ」
ドクオは自分と、ジョルジュを順番に指さした。
ジョルジュは露骨に嫌そうな顔をする。
( ゚∀゚)「いくらこいつが役立ちそうでも、仲間になりたくないんですけど」
忌憚なくひどいことを言ってのける。
しかし彼の魔人がいなくなったのは自分と関わったせいだったはず。
だからそっけなくされてもしかたないかとブーンは思った。
( ^ω^)「あれ?」
そこで、違和感に気付いた。
( ^ω^)「それじゃ、ジョルジュもモララーさんと会っていたのかお?」
質問をすると、ジョルジュは流し目でブーンを見た。
( ゚∀゚)「ああ、たまーにな。
この酒場にもちょくちょく顔出してくれていたし」
( ^ω^)「じゃあ、モララーさんのこと憎んだりしてなかったのかお?」
( ゚∀゚)「え? ああ、だって」
288
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:22:42 ID:LUlKybsE0
そこで、ジョルジュは目を閉じた。
顔が妙に緩んでいる。
次に目を開けたとき、なぜだかその目は輝いていた。
(*゚∀゚)「かっこいいんだもん!」
ジョルジュが手をぱたぱたと動かして、感情をあらわにした。
(*゚∀゚)「初めてみたときからさ、魔人をこう、がーってやっつけてさ!
人間なのにこんなことできるやつすっげーって思ったら尊敬しちゃって」
(;^ω^)「……」
( ゚∀゚)「何か言いたそうだな」
(;^ω^)「え? あ、いえ」
白状すれば、呆気にとられていた。
あの2年前に会った少年が、こんなに楽しそうに話しだすとは思ってもみなかった。
どうにも印象が変わっている。彼もかなり変わった成長の仕方をしたのではないだろうか。
そして何よりも、彼が自分と同じ気持ちを抱いていることがわかり
ブーンはどこか嬉しいと思っていた。
(*^ω^)「なんでもないおー」
289
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:23:39 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「明らかに笑ってんだろてめえ!」
(*^ω^)「親近感だお親近感」
( ゚∀゚)「はあ?」
口が悪いのは変わっていないみたいだ。
( ^ω^)「ていうか、それで魔人と離れたことはもう良くなったんかお?」
( ゚∀゚)「ああ、俺もう魔人嫌いだ。
俺の家族もみんな魔人嫌いになっていったし、もううちは人間味溢れているぜ」
けろっとした表情で言う。
ひどく淡白な内容だが、2年もたてば人はそれくらい変わるのかもしれない。
( ^ω^)「じゃ、別に僕嫌われる必要無いんじゃ」
( ゚∀゚)「いや、お前は嫌だ」
290
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:24:41 ID:LUlKybsE0
びしっと指を指される。
ブーンはわけがわからず瞬きした。
(;^ω^)「は? なんでだお?」
こうもはっきり拒否されてしまうと、どうしようもない。
第一意味がわからない。
だから首を傾げて質問をした。
ジョルジュは目を細めて、ブーンを睨みつけてくる。
( ゚∀゚)「あのときみじめな思いをさせられた恨みがあるからな」
ブーンはぽかんとして口を開けていた。
何をいいだすんだろう、こいつは。
そんな小さな矜持のために、僕はこいつに恨まれているというのか。
なんという
なんという調子のいい奴だ。
ジョルジュに抱きかけていた親近感が、急速に遠ざかる。
呆れて物も言えない。
やがて、胸の奥からふつふつと別の感情が湧いてくる。
291
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:25:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「……あのときだってきっかけはジョルジュがちょっかいだしてきたからなのに。
人の地球儀を壊そうとまでしておいて、ただ食べ物吹き付けたくらいでそんな」
言葉を無理やりまとめていく。
言いたいことが多すぎて大変だった。
( ^ω^)「いまだに僕やツンには謝罪の一言もなしで
それでいてモララーさんとはすっかり仲良くなっていて
僕だけいまだに許せないなんて……」
久しく忘れていた感情だった。
人に嫌われることを恐れていたかつての自分は、持つことを許されなかった気持ち。
それが今、目の前のジョルジュに向かって発現しようとしていた。
あまりにも頭にきたから。
(#^ω^)「お前どんだけ身勝手なんだお!」
久しぶりの怒声は、店内に響いた。
ジョルジュにもちゃんと届いたようで、彼は一瞬身動ぎした。
292
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:26:35 ID:LUlKybsE0
だけど、すぐに体勢を戻して、ジョルジュはブーンを睨みつける。
( ゚∀゚)「だいたい、お前がモララーさんに気に入られていたってのも気に食わねえ!
お前のこと、覚えているぞ! 別に大して力も無くて喚いていたじゃねえか」
(#^ω^)「あれから僕だって特訓したんだお! モララーさんとともに!」
( ゚∀゚)「それなのに同期の順位じゃ下から数えた方がはやいのか?」
(;^ω^)「な、なんでそれを……」
( ゚∀゚)「モララーさんとか、他の衛兵の客とかが教えてくれたからな。
情けないなあ、教えてもらったこと全部耳から抜け落ちていたんじゃねえの?」
(;^ω^)「そ、それは……」
順位が下なのは事実だ。
それは変えようもない。
だから、突き付けられると反論のしようが無い。
293
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:27:41 ID:LUlKybsE0
ブーンはすでに、さっき怒鳴ったときの勢いを失っていた。
口をもごもごと動かすも、何も言えない。
言葉が上手くまとまらない。
せっかく言い返したかったのに。
ジョルジュの言葉が胸に突き刺さってくる。
言葉を胸の奥に押し込めてしまう。
沈黙が流れた。
ジョルジュはいまだにブーンを睨んでいる。
警戒心がありありと浮かんでいた。
きっとジョルジュは僕の入団を認めてくれないだろう。
僕だって突然連れてこられただけだ。絶対入団しなくちゃならないわけじゃない。
そうだ、自分はどうしてこんなところにいるんだろう。
ドクオさんが連れてきただけだ。
だいたいその理由だって、何かモララーさんに褒められていたからってだけ。
その何かもわからない。
発揮できるようなものでもないだろう、そんなもの。
294
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:28:40 ID:LUlKybsE0
気持ちがどんどん後ろ向きになっていった。
帰りたい。
もう帰ってもいいんじゃないかな。
また今日一日悶々と過ごして、少しずつ心を回復して
それでまた職場復帰すればいいじゃないか。
それが僕の人生だ。
そう、思って、目をジョルジュからそむけた。
ドクオの方を見ようとした。
もう帰ります、その一言を言うために。
だけど
('A`)「よし、挨拶はすんだな」
ドクオの言葉に遮られる。
彼は手をぱんっと打ち鳴らした。
295
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:29:39 ID:LUlKybsE0
('A`)「ジョルジュ、ブーンが仲間に入るかどうかはお前がチェックしろ」
「は?」というジョルジュをよそに、ドクオが話を進めていく。
('A`)「入団テストだよ。
奥の訓練部屋があるだろ。そこでやるぞ。
お前が相手してやるんだ、ジョルジュ」
あっという間だった。
ブーンは文句も、批判も、泣き言もいう隙が無かった。
ドクオはそそくさと酒場の奥の扉を開けてしまう。
カウンターの端、『関係者以外立ち入り禁止』の文字。
本来なら店員しか入れないところ。
ドクオは半身だけそこにいれて、振り向いた。
ブーンを手招きする。
296
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:30:35 ID:LUlKybsE0
('A`)「ほら、入れ。
木刀用意しといてやるから」
(;^ω^)「い、いやえっと、拒否権は?」
('A`)「まあまあ、ちょっと試すだけだから」
(;^ω^)「それ、宗教勧誘とかの文句じゃ」
('A`)「お前が逃げたくても、あいつは気に入らないみたいだぞ」
ドクオはそういうと、ジョルジュの方を指さした。
見るまでも無く、痛い視線が突き刺さってくる。
(;^ω^)「じゃ、じゃあちょっと試すだけだお?」
('A`)「よしよし、それでいい」
のせられている感じは拭いきれないが
のらないとジョルジュがここを出してくれそうにない。
297
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:31:43 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「覚悟しろよてめえ、泣かしてやるからな」
ほらみろ、明らかに苛だちを明らかにしている。
触れたくない。
そればっかり考えていた。
それでもブーンは奥の扉へ入ることにした。
レジスタンス用の訓練部屋へ。
☆ ☆ ☆
298
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:32:37 ID:LUlKybsE0
('A`)「……」
訓練場にて、既に戦いは開始されていた。
目の前では木刀が振られている。
順を追って説明する。
まず入ってきたときに、ブーンとジョルジュ両方に防具を装備させた。
そして両者に木刀を与え、舞台に立たせた。
試合は三本勝負。
お互いに相手を狙い、上半身の防具に当たれば一本。
この程度のことなら見習いでも訓練の一環で行っていた。
だから、ブーンにもできる。
実際に実力を見るには一番いい形式のはずだった。
それに
「おーい」
突然背後の扉の奥から声が聞えた。
('A`)「誰だ?」
299
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:33:34 ID:LUlKybsE0
「私だ」
ぶしつけな答え方だが、よく知っていたのでドクオは頷いた。
('A`)「入っていいぞ、シュール」
扉が開けられる。
lw´‐ _‐ノv「お店開けといて誰もいないんじゃ不親切だろう」
入ってきていきなりの女性は、もっともな指摘をしてきた。
('A`)「ああ、ごめんな。
すぐ終わると思ったんだが、意外と長引いちゃってさ」
そう言って舞台の方を指す。
相変わらず木刀が風を切る音がする。
呼吸だって乱れているのがわかる。
lw´‐ _‐ノv「……あれ?」
シュールがお店の側を覗いて呟いた。
('A`)「どうした?」
lw´‐ _‐ノv「いや……まあいいか。後で説明する」
300
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:34:41 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「しかし入団テストか。懐かしいな」
('A`)「シュールのときはしてないんだっけ?」
lw´‐ _‐ノv「私は前の組織のときからずっとリーダーに従っていたから」
('A`)「へー、意外」
lw´‐ _‐ノv「ところで……どれくらいやってるんだ?」
('A`)「んー、1時間ってところかな」
lw´‐ _‐ノv「そんなにか? もうお昼だぞ」
('A`)「いやあ、びっくりだよね。ランチタイムもやってられんわ」
lw´‐ _‐ノv「さすがに見る目がなさすぎやしないかい?」
('A`)「仕方ないだろ。衛兵指導者だってあいつのこと、下に評価していたんだから」
lw´‐ _‐ノv「あいつって、あの見慣れない小さい奴?」
シュールは小さな手で、舞台の片隅に走るブーンを指した。
今も必死に足を動かして、攻撃をかわしている。
301
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:35:41 ID:LUlKybsE0
('A`)「そう」
lw´‐ _‐ノv「ふーん、で、お前の感想は?」
('A`)「何って、そりゃ、みたままだよ」
舞台全体を示すように、ドクオは両手を広げた。
木刀の空を切る音。
それだけしか、この1時間鳴っていなかった。
('A`)「昨今の指導者はまったく見る目がないってことさ」
ドクオはそう言って肩を竦めた。
顔には笑みがこぼれている。
目の前の光景にわくわくしていたから。
☆ ☆ ☆
302
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:36:41 ID:LUlKybsE0
ブーンは逃げた。
逃げ続けた。
1時間ぶっ通しで。
攻撃は、はっきり言ってしまえば、見えた。
ジョルジュの一挙手一投足が手に取るようにわかる。
彼の目の動き、足の動きを見て分析する。
癖もなんとなくわかる。すでに、身体の捻り方から呼吸のタイミングまで。
これだけ何度も攻撃を見させられれば、掌握するのは容易い。
(#゚∀゚)「このやろおおおおおおおおお!!」
叫び声とともに、ブーンから見て右下から左上への斜めの斬撃。
ブーンは身を左に反らした。
数センチ先で風が舞う。
髪が少しだけ刈られた。
303
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:37:35 ID:LUlKybsE0
二撃目が来るまでに、ブーンは右へ移動する。
敵の右手に握られた木刀の可動域から離れる。
ジョルジュの影へ。
再び体勢を立て直さなければ追撃はできないだろう。
作戦通り。
再び間合い。
木刀二本分以上。
また最初からやり直し。
(#゚∀゚)「なんで逃げてばっかなんだよてめええええええ!!!」
ジョルジュが悲痛な声を出す。
部屋全体に響き、軋んでいるようにも思えた。
ブーンは肩をびくつかせる。
(;^ω^)「だって、だって……」
木刀を握る手に力が入る。
この木刀をジョルジュの隙に打ち込めば、相手にダメージが入る。
そんなことはわかっている。
304
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:38:35 ID:LUlKybsE0
だけど、その姿を想像したとき
この木刀が相手にダメージを与えることを考えたとき
身体が萎縮してしまう。
たとえ相手が防具を装備していたとしても
ある種の恐怖がブーンを縛り付けるのだ。
攻撃したらきっと相手は痛がる。
そう思うと、腕が震える。
根本的に、攻撃するという動作がブーンには合わないのだ。
それが、衛兵の訓練でもなかなか後順位になれない理由だった。
ジョルジュが構えを緩め、足を止める。
木刀はいまだに握られているが、先程までのような気迫は無い。
一息ついている。
( ゚∀゚)「お前……まさか攻撃しないつもりか?」
ジョルジュが言う。
まっすぐな目でブーンに問いかけてくる。
そのあまりに純粋な瞳を前にして
ブーンはつられて頷いた。
305
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:39:36 ID:LUlKybsE0
途端に、ジョルジュの顔色が染まっていく。
赤く赤く。
(#゚∀゚)「こ……この……やろう」
内なる怒りが沸々と見え隠れしている。
横で誰かが噴き出した。
ブーンはさっとそちらを見る。
ドクオが片手で口元を押さえていた。
傍にセミロングの女性が立っている。
誰だろう。入ってきているのに気付かなかった。
('A`)「……ようやくモララーが言っていた意味がわかったよ」
笑いを堪える様子で、ドクオがブーンに言った。
ブーンは首を傾げるも、ジョルジュの殺気に気付いて身構える。
(#゚∀゚)「てめえ、どこまで俺をおちょくれば気が済むんだこらあああああ」
再び、ブーンに向けられる。
また斜め下からの切り込みだろうか。
ジョルジュは頭に血が上ると同じ形での攻撃しかしなくなるようだ。
306
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:40:34 ID:LUlKybsE0
ブーンは集中を始める。
相手の切っ先に目を。
向けられた刃の一番届かない場所へ行けばいい。
('A`)「ブーン、当てるのが嫌なら、つけるだけでいいよ」
ドクオの声が耳に届く。
つけるだけ?
ぶたなくてもいいということだろうか。
ジョルジュが距離を詰めてくる。
木刀を左脇に。
ブーンは木刀を左手に持ち替えた。
利き手にこだわる必要はない。
右足を下げ、ジョルジュが自分の懐に入ってくるのを許す。
(#゚∀゚)「だりゃあああああ!!」
307
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:41:32 ID:LUlKybsE0
ジョルジュの右腕が横へ。
木刀がブーンの胴目がけて振られる。
今まではそれを遠ざかって避けていた。
そして今は、足を屈めた。
( ゚∀゚)「!?」
疑問の音がする。
ジョルジュの顎が下から見える。
おそらくブーンの姿は見えていない。
足元にいるなんて。
308
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:44:53 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「ほいだお」
過ぎ去っていくジョルジュの身体の脇に、木刀の刀身を当てた。
本当に軽く、まるで木戸をノックするように。
こつんというこぎみ良い音がした。
('A`)「はい、おしまい」
ドクオが再び手を叩いた。
終わった……ブーンはようやく安堵する。
同時に疲れが襲ってきた。
集中していたがために、足を酷使していることに気づいていなかった。
(;^ω^)「おおっと……」
立ち上がろうとして、よろけ、転んでしまう。
('A`)「おいおい、疲れたのか?」
(;^ω^)「そうみたいですお……」
309
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:45:47 ID:LUlKybsE0
('A`)「無理もないか、1時間もやってたものな」
(;^ω^)「そうです……お? え、1時間?」
('A`)「気付いていなかったのか」
そういって、ドクオは再び引きつった笑みを浮かべてくれた。
( ゚∀゚)「おいおいおい、ちょっと待てよ!」
部屋の端から、ジョルジュが大声を出す。
( ゚∀゚)「俺は倒れていねえって!」
('A`)「だから、当てるだけでいいって言ったじゃん。
当てたくないみたいだし、それでいいよ」
(#゚∀゚)「はあ? そんなの認められるか!」
('A`)「強情だなあ……ん?」
310
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:46:50 ID:LUlKybsE0
ドクオが言葉を止める。
横にいた女性に脇をつつかれたからだ。
そのおとなしそうな女性は、ドクオを向いて口を開いた。
lw´‐ _‐ノv「あれあれ、さっき言った件」
('A`)「あ……あー、なるほど」
ドクオはそれで合点がついたようだ。
小さく頷いて、それからまたジョルジュを見る。
('A`)「ジョルジュ、納得いかないって言うなら、また別のテストをしよう」
それを聞くと、ジョルジュは「よっしゃ!」と嬉しそうに叫んだ。
一方、ブーンはあからさまに不満の声を出していた。
(;^ω^)「ま、まだ何かやるんですかお?」
正直もう動きたくない。
油断すれば足はがくがく震えだすだろう。
もう今日は休まなくては、明日は筋肉痛で大変なことに。
不満ばかりが頭に浮かぶ。
311
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:47:51 ID:LUlKybsE0
でも、ドクオはそんなブーンの内面はつゆ知らず、大きく一つだけ頷いた。
('A`)「レジスタンスにも大きく関わることだからなー」
そういって、ドクオは一旦咳払いした。
('A`)「リーダーがまた盗みを働きそうなんだ。
悪いが、二人で捕まえてくれ」
今度はジョルジュが「はあ!?」と大きく不満の声を漏らした。
(;゚∀゚)「じょ、冗談じゃねえよ……リーダーを止められるのはあんたとモララーさんくらいなもんだろ」
('A`)「そうだな。で、もうモララーはいない」
(;゚∀゚)「じゃああんたが捕まえろよ!」
('A`)「悪いが俺は負傷中だ。走るのは嫌だ」
(;゚∀゚)「お、嘘だろ……」
312
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:48:56 ID:LUlKybsE0
('A`)「はい、観念しろな。二人がかりならいけるだろ。
むしろ、捕まえられなかったらレジスタンスを出てもらおうか」
そう告げて、ドクオは一層顔を歪めた。
('A`)「どうせお前はただ昔の魔人への苛立ちからここに入り浸ってるだけだもんなあ。
モララーさんとも関わりがあったから普通にしているけど、技術もそこそこなんだし
ここらで役立ってもらわなきゃ、ただの酒場の店主だよなあ」
ブーンはジョルジュの方を見ていなかった。
それでも、彼が怒りで震えているのがわかる。伝わってくる。
( ゚∀゚)「……おーし、見てろよ。
この前輸入した道具使えば、あいつなんか……」
わなわなと言葉をもらしながら、ジョルジュは訓練部屋から、別の部屋へ移動していった。
どうもジョルジュの部屋らしい。看板がさがっている。
('A`)「さて、ブーンも用意してくれ」
(;^ω^)「よ、用意ったって、何も持ってきてないお?
ていうかちょっと試してみるだけじゃなかったのかお!? これじゃ性質の悪い勧誘だって」
313
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:49:53 ID:LUlKybsE0
('A`)「まあ、これから捕まえる人間がどんな奴か、そしてどうしてこんなテストをするのか教えるくらいさ。
それに、町の治安にも関わることだぞ? 衛兵見習いとしてやっておくべきだ」
そう言って、ドクオは手招きする。
釈然としない思いを抱きながらも
今度はお店の側へ、ブーンは連れて行かれた。
☆ ☆ ☆
314
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:50:48 ID:LUlKybsE0
('A`)「まずは確認したいことがある」
カウンターの内側。
椅子に座ってドクオとブーンが並んでいた。
シュールは厨房で食事を作ってくれている。
料理は彼女の担当らしい。
('A`)「3年前まで、この町に盗賊がいたことを知っているか?」
( ^ω^)「3年前……魔人がお城の仕事に正式に従事できるようになる前ですかお?
まあ……少しくらいなら。入ってきたときは知らなかったんですが
衛兵見習いをしているうちに話を聞きましたお」
3年前まで、お城を含めた町全体で盗賊被害が多発していた。
ところが3年前、お城は魔人をその中に取り込んだことにより、壁に不思議な力の防御を施すことに成功した。
その結果として盗賊の被害は減少した。簡単には入れなくなったからだ。
('A`)「その盗賊団の名前は『三匹のカエル』と言ったんだ」
( ^ω^)「え? それって……」
('A`)「そう、この酒場は元々その盗賊団のアジトだったのさ」
315
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:51:48 ID:LUlKybsE0
ドクオはそう言って、店内を見回した。
ブーンも釣られて首を動かしていく。
木造の簡単な室内。
掃除は行き届いているものの、そんなに歴史のあるお店だったとは。
lw´‐ _‐ノv「料理できましたぜー」
唐突にシュールがくるくる回りながら、厨房から出てきた。
無表情でそんなことするものだから、思わず顔が引きつる。
(;^ω^)「あ。ありがとうですお」
lw´‐ _‐ノv「おうよ」
ブーンの前に、とろとろのかぼちゃのポタージュと三斤のライ麦パンが置かれた。
暖かい湯気と甘い香りが鼻を刺激してくる。
('A`)「でな、話を続けるとだ」
同じ食事を口に運びながら、ドクオが言う。
316
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:52:54 ID:LUlKybsE0
('A`)「『三匹のカエル』の中には魔人の政務進出に反対する奴らがかなりいた。
そういった反対派が一旦『三匹のカエル』を解体して、再結成したのが今のレジスタンス。
つまり、『三匹のカエル』はレジスタンスの前身だったんだ」
('A`)「俺は2年前から、つまりレジスタンスになってからこの組織に加入している。
レジスタンス全体は大した人数じゃない。俺と、シュールと、ジョルジュと、リーダーと、
あとは今ちょうど他の町に行って交渉に参加している奴が少し」
('A`)「話を戻すと、反対派だった頃のリーダーが現レジスタンスのリーダー。
名前はヒートっていう。盗賊団の頃から、盗みの技術はすごかった。
で、今でもたまに盗みの血が騒ぐらしくて騒動を起こしてしまう」
('A`)「今までは俺やモララーがなんとかあいつの暴走を止めていたり、騒動を小さく見積もったりしていた。
でも、今モララーはいない。俺も動きたくない。だから少し良くないね。
ここでヒートがつかまりでもしたら、俺たちレジスタンスの評価は急降下さ。はは」
('A`)「というわけでお前の入団テストとして、あいつを捕まえてほしいんだ」
317
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:53:52 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「いやいやいやいや、おかしいですお!」
なかなか隙がつけなかったが、ようやくブーンは口を挟むことができた。
( ^ω^)「それあなたがたの問題ですおね?
僕まだレジスタンスじゃないし、そんなヒートさんがつかまるかどうかなんて知ったこっちゃないですお」
('A`)「何言ってる。町の治安は大事だろ」
( ^ω^)「いや、そんなの駐屯の衛兵に頼んでくださいお」
('A`)「テストも順調だし」
( ^ω^)「だからそれは、僕は流れで入団テストを受けただけですし。
ジョルジュがどうしても僕を倒したがっていたものですから……」
何度も同じ話をしているので、さすがにブーンは苛立ってきていた。
どうしてドクオはこんなにもレジスタンスに自分を入れたがるのだろう。
ドクオは少しだけ考えて、それから口を開いた。
('A`)「ほー、じゃあ魔人を倒したくはないんだな?」
318
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:54:51 ID:LUlKybsE0
新しい切り口。
そしてそれは確かに、ブーンの琴線に触れた。
( ^ω^)「魔人を倒す……」
('A`)「ああそうだ。
考えてもみろ。今この町で面と向かって魔人と対峙できるのはレジスタンスだけだ。
それ以外では建前上魔人と協力しなきゃならない」
('A`)「いつまでも、お前はモララーさんについての恨みを晴らしきれないままだぞ?」
( ^ω^)「……魔人全体が悪いってわけでもないですお。
僕の恨みはモララーさんという個人に起こった事件についてだけのものですし」
('A`)「でも、結果的にモララーの事件は事故として片付けられている。
野生の魔人がやったこととして」
( ^ω^)「それは、野生なんだししかたないんじゃないんですかお?」
('A`)「お前……あれが野生の魔人の仕業と本気で思っているのか?」
( ^ω^)「あ」
そういえば、あのとき。
ブーンは一気に思いだした。
319
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:55:45 ID:LUlKybsE0
あのとき南の山の麓で白い靄に包まれたこと。
あれは突然発生した自然現象。
でも、いきなりにしてはあまりに濃すぎるし、襲撃側にとって有利過ぎる。
あれは不思議な力のものなのか。
そうだとしたら、あれは野生の魔人のせいではない。
野生の魔人は不思議な力を使えない。
('A`)「それに、お前もあのとき王女を見たんだろ?」
( ^ω^)「…………」
はっきりした関係性はわからない。
でも、何か不穏な内容のことを話す彼女。
('A`)「あの事件、何があったのか知りたくはないか?
このままだと、野生の魔人のやったこととして処理されてしまう。
真相は闇の中だ。モララーはどうして死んだのか。誰の手によって殺されたのか」
('A`)「それを知りたいとは思わないのか?」
320
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:56:50 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「……それは」
確かに、とブーンは思った。
レジスタンスに入れば、最もやりやすい形で魔人に立ち向かうことができる。
魔人たちとずっと敵対してきた人たちなのだから。
('A`)「さっき人間が魔人に支配されている話をしたな。
この国にしたって同じだ。この国の住民は、町や城にいる魔人にフィルターがかかっている。
誰かが立ち向かわなきゃならないんだ。人間の尊厳のためにも」
ドクオが毅然と言い放つ。
( ^ω^)「……立ち向かうだけの基盤があるんですかお?」
321
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:58:01 ID:LUlKybsE0
('A`)「もちろんさ」
ドクオは胸を張った。
('A`)「この町が最近まで魔人を受け入れてこなかったから、小さな組織だけど
しっかり他の町のレジスタンスとも連絡を取っている。
だから魔人についての情報も溜まっているし、いざとなれば他の組織とも合流できる」
('A`)「純粋な人間の組織の一員だ。それだけの下地は確かにある」
( ^ω^)「……」
322
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:58:50 ID:LUlKybsE0
魔人をいっしょくたに考えていいのか、疑問はある。
でも、モララーについての恨みは確かにある。
胸の奥にひっそりとあって、沸きたつときを待っている。
今がそのときじゃないのか。
ブーンは自問した。
今、立ち向かわないでどうするというのだろう。
モララーという存在を奪われた悲しみを、いつ発揮すればいいのか。
そのきっかけになるのがこの入団じゃないのか。
数時間前にドクオが話してくれたこと。
人間の可能性の話。
自分は自分の可能性を潰しているのではないか。
今ここで決断してみるもの一計。
少し胸に痛いものがあるとしても
魔人にだっていろいろいて、それらを傷つけるのは気が引けるとしても
今ここで選択をすることが大事なのではないか。
323
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:59:51 ID:LUlKybsE0
結局は、やれるなら、やってみようか。
そう思い至ったとき、自然とブーンの首は縦に振られていた。
( ^ω^)「やってみたいですお」
声の震えはいつもより少ない気がする。
いつもいつも、こういうふうに発言を求められたときは震えていたというのに。
なんでだろう。
自分で決めたことだからか。
('A`)「そうか……じゃあ、やってくれるな」
( ^ω^)「はいですお!」
ブーンはいつになく、即答した。
疲れも引いていく。
( ^ω^)「とにかく今はヒートさんのこともっと教えてくださいお。
どこに現れるのかとか……」
('A`)「ああ、いいだろう。まず、あいつは果物が好きなんだ……」
324
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:00:52 ID:LUlKybsE0
それから、ブーンとドクオは話しこんだ。
ジョルジュの準備が終わるときまで。
目を輝かせて、ブーンはヒートの習性を学んでいった。
☆ ☆ ☆
325
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:01:56 ID:LUlKybsE0
午後1時
ラスティア城
デレは自室でノートをかいていた。
かりかりと音を立てて。
扉の向こう側で人が走ってくる音がする。
すると、デレはすばやくノートを閉じる。
足元にある箱型の引き出しの、一番上の取っ手を握る。
流れるような手つきで鍵を開け、ノートを入れ、また閉める。
鍵はカーテンの留め具に掛けられる。
知らない人がどこから見ても、こんなところに鍵があるなんて気付かないだろう。
よく部屋を捜索しない限りは。
ここまでの動作は非常に洗練されており、幾度も同じことを繰り返してきたようでもあった。
何食わぬ顔で、デレは机の上に両肘をのせて外を眺める。
まるで前からここで眺めていたんだと主張するように。
扉をノックする音がする。
ζ(゚ー゚*ζ「どなた?」
326
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:02:52 ID:LUlKybsE0
扉の向こう側の相手は、ぜえぜえと息を吐いていた。
扉越しに聞えるなんて相当だ。
よほど必死に走ってきたのだろう。
誰だかはすぐわかる。
「ミセリです!」
それは、お城のメイドの中でも比較的若い女性の名前。
デレとも歳が近く、親近感はあった。
ただどうも慌て過ぎな性格であった。
別にそれが嫌だとは、デレも思っていなかったが。
ζ(゚ー゚*ζ「何か用?」
ミセ*゚ー゚)リ「お父様が帰ってきました!
今鳥型魔人の引く飛行船に乗って、お城の東の高台にある停まり場に来ています」
外交から帰還したのだ。
デレは口の傍に手を添えた。
327
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:03:43 ID:LUlKybsE0
ζ(゚ー゚*ζ「わかったわ! ありがとう! ああ、なんて嬉しいの」
できるだけ上品そうに、それでいて子どもらしさが残っているように
そう聞えるだけの口調を表現した。
ミセ*゚ー゚)リ「ぜひお会いしてください! 待ってます!」
たたた、と走る音。
ミセリが扉から離れていったのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「……待ってます、ね」
それ以上は口に出さない。
デレの目つきは鋭くなる。
とうとう戻ってきたか……とでも言うように、何かに臨む者の目つきになっていた。
むろん、誰もその姿を見ていない。
誰も。
328
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:04:51 ID:LUlKybsE0
高台はお城の敷地内にあった。
鳥型魔人の降りる場所。
飛行船はすでに着陸していた。
デレはドレスを着て父を迎えに来ていた。
今日は赤いドレス。
派手な色が好きな父が喜ぶように。
「おーい」
デレに呼びかける声。
国王は見つけ次第、デレを呼んだようだ。
デレもそちらに手を振る。
笑い声がする。
国王の声。
(´・ω・`)ノシ「会いたかったよーーーーー」
329
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:05:53 ID:LUlKybsE0
間の抜けた挨拶だ。
デレは顔が綻ぶ。
ドレスの裾を持ちあげて、走り出した。
ζ(゚ー゚*ζ「お父様!」
思いっきり、デレは国王の懐に飛び込んだ。
頬を擦り寄せる。
そんなデレの様子を見て、国王はやれやれと頭をかいた。
(´・ω・`)「まったく、いまだにこんなに飛びついてくるとは」
そんなことを言う。
幸せそうに顔を緩ませて。
(´・ω・`)「おいで、食事としよう。少し遅れちゃったかね」
330
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:06:46 ID:LUlKybsE0
ζ(゚ー゚*ζ「いいんですよ! お父さん!」
デレは無邪気に答えた。
父の手を握って、大きく振る。
なんだか不自然なくらい、思いっきり。
(´・ω・`)「あれ、デレ。腕包帯はどうしたの?」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
ショボンが指さしたのは、デレの右手に巻かれている包帯。
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとだけ……怪我しましたの」
(;´・ω・`)「ええ? 大丈夫かい?
痛むようならお医者様に見せようか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん、平気!
ちょっと打っただけだから、すぐ引くから!」
(´・ω・`)「でも」
ζ(゚ー゚*ζ「行きましょう!」
(´・ω・`)「……ああ」
331
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:07:51 ID:LUlKybsE0
少しだけ間を置いてから、ショボンは答えた。
傍から見れば、それはどこからどうみても幸せな親子だった。
国王と王女という肩書きを抜きにして。
こうして、ラスティア国王、ショボンは帰還した。
彼がまっさきに取り組んだことは
延期されている新嘗祭の日取りを決めることであった。
☆ ☆ ☆
332
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:08:51 ID:LUlKybsE0
午後2時
空は快晴
体力の回復したブーンは外に出た。
秋の風が心地よい。
午前中にヒートは生鮮野菜市場で盗みを働いたらしい。
あまりにも素早くて、手口も見事で、
店主も時間が立たないと商品が異様に減っていることに気付かなかったそうだ。
( ^ω^)「一応聞くんですけど」
ブーンは玄関に立つドクオを振りむいた。
( ^ω^)「ヒートさんって人間ですおね?」
('A`)「ああ、それはもちろん。レジスタンスにいるくらいだしな。
ただ、残念なことに俊敏さでは魔人と引けを取らん。
下手したらあいつは魔人に勝てるだろうな、盗みという技術に関しては」
333
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:09:52 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「おい、ブーン。ひとつ言っておくぞ。
先に捕まえるのは俺だ」
ジョルジュがいきり立つ。
('A`)「おい、ちゃんと協力しろよ」
ドクオが諌めるも、ジョルジュは鼻で笑って返した。、
( ゚∀゚)「ちゃんとやるさ。
二手に分かれれば捕まえられるだろ。
ブーンが繁華街の方、俺が青果商通りの方」
すでに打ち合わせはすんでいた。
( ゚∀゚)「だから、任せてくれって」
ジョルジュが右腕でガッツポーズをする。
その手には小さな武器が握られていた。
334
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:10:56 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「この特製クロスボウがあれば大丈夫さ。
小型な上に、発射した途端敵を補足する網が飛び出す優れものだ。
まるでリーダーを捕まえるために造られたかのようなものさ」
ジョルジュは自信たっぷりに言う。
('A`)「……ちゃんとやるんならな」
そういうドクオの表情には、既に諦めの色が浮かんでいた。
そうとは知らず、ジョルジュは「よし!」と気合を入れる。
( ゚∀゚)「じゃ、俺はいくぞ! ブーンも足を引っ張るなよな」
( ^ω^)「……おー」
さっきまでブーンに向けていた怒りはどこへやら
ジョルジュは楽しそうに走っていった。
目標があれば、ひとまずそれにひた走るタイプなのだろう。
どこまでも調子の良い奴だと、その背中を見つめながら思った。
('A`)「で、ブーンは……」
ドクオはブーンの右手に握られたものを指さした。
('A`)「それで大丈夫なんだろうな? 心変わりしないか?
木刀とかもちゃんと在庫はあるんだが」
335
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:12:08 ID:LUlKybsE0
ドクオが確かめるのも無理はなかった。
武器は貸与された。
ヒートを捕まえるためならなんだって準備したという。
それでも、どうしても攻撃することが嫌だったブーンは
紹介された武器を全て無視して、酒場の隅に忘れ去られた客の持ち物を選んだ。
( ^ω^)「僕はこれで十分ですお。
相手は女の子なんだし、木刀なんて物騒な物持ってられないですお」
そういって、ブーンは自分の得物を顎で指す。
それは、どこからどうみても平凡な虫取り網だった。
('A`)「……ある意味かなり失礼だと思うんだが」
(*^ω^)「虫取り得意ですお。
網はちゃんと人が入れるくらいにしてあるし、強度も良いものですますお。
なんだかんだで使い勝手いいと思いますお」
336
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:12:51 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「……なかなか彼女にはお似合いかもしれない」
( ^ω^)「え」
('A`)「さ、ほら早くいけ」
長くなりそうだったためか、ドクオはブーンを手で払う動作をした。
ブーンは渋々了解して、歩み始める。
こうして最後のテストが始まった。
☆ ☆ ☆
337
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:13:44 ID:LUlKybsE0
繁華街
赤い屋根が立ち並ぶこの場所は、見た目も派手だし、活気もあった。
道の脇に露天商が立ち並んでいる。祭りで蓄えていた商品を少しずつ発散しているようだ。
おかげで人ごみもできている。歩くのもままならない。
ブーンはその人ごみを見て、ジョルジュにはめられたことを悟った。
この場所じゃたとえヒートを見つけたとしても追いかけるのは難しい。
逆に青果商の方ならば、夕方の時間まで人は少なめだろう。
食事時は終わったばかりなのだから。
(;^ω^)「ぐぬぬ、これは知らなかったお」
ぼやきながら、ブーンはとりあえず道を進んでいった。
それにしても、こんなに人がいたんだなと純粋に驚いていた。
今までお城の敷地内で暮らしていたから、見えてこなかった。
先日シラヒーゲ政務官が言っていた言葉
町に出れば気持ちが紛れる
その意味がようやくわかった気がした。
338
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:14:50 ID:LUlKybsE0
でも今はやることがある。
そう思い直して、一層ブーンは気を引き締めた。
少しでも騒ぎがあれば、見逃してはならない。
そこにヒートがいる可能性が高い。
ヒートという女性の特徴もしっかり聞いていた。
華奢な浅黒い身体に、赤い短い肩までの長さの広がった髪。
盗みを働くときはいつも軽装で、ダボダボのシャツとホットパンツを着る。
頭の中でその姿をイメージする。
( ^ω^)「赤い髪、赤い髪」
ちょうど目の前に赤毛の人が向かい側から来てので、まずはその髪を参考にした。
それにしても都合よく赤い髪の人がいたなあと思い、何気なくその人を見た。
339
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:15:51 ID:LUlKybsE0
ノパ⊿゚)
その姿を逐一観察して、横に並び、そして通り過ぎたとき
ブーンは歩みを止めた。
気付いたからだ。
( ^ω^)「……本人じゃないかお?」
急いで振り返る。
しかし人ごみが邪魔をする。
340
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:16:45 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「おお、どこだ、どこだお!?」
焦りつつも、背伸びして確認する。
ブーンから見て右斜め前の方向に向かっていくのが見えた。
赤い髪はとらえやすい。
少しずつ、そちらへ近づいていく。
人には当たるが、前には進める。
流れに逆行するブーンを訝しげな眼で見る人もいる。
視線が痛い。謝りたいけど、今は我慢する。
人と人の間にヒートが入っていった。
ブーンも急いでそこに手を入れる。
(;^ω^)「あ、挟まった」
341
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:18:34 ID:LUlKybsE0
手を抜こうとばたばたする。
しかし手のひらの先で何かを掴んで、止まる。
丸みを帯びた何かだ。
( ^ω^)「あ」
ひょとして掴んだのかな。ヒートを。
(;^ω^)「ちょっと、離れてくださいお!」
腕を挟んでいた人たちを強引にどかそうとする。
睨まれもしたが、目をそむけてやり過ごす。
人ごみが少しだけ緩和され、腕の先が見えた。
その手に握られていたのは、熟れた洋梨だった。
これはこれは美味しそうな
「ない!」
鋭い声がする。
342
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:19:33 ID:LUlKybsE0
「ないわ! 私の洋梨!」
ブーンの後ろの方だ。
流れていく人ごみがどよめいている。
「ここにのせといたのに。
きっと誰かに盗まれたんだわ」
ブーンは固まっていた。
伸ばした腕の先、洋梨を握る手がにじむ。
良く見れば洋梨には商品札がついていた。
「きっとまだこのあたりにいるわ。
みなさん! どうか洋梨を持った人を捕まえて!」
343
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:20:34 ID:LUlKybsE0
視線が集まるのを感じる。
ブーンは勤めて静かに、腕を引っ込めた。
そのままそーっと、洋梨を下に置く。
道の上。
ぽつんと。
それを残して、足をゆっくりゆっくり、前へ。
目の方はせわしなく動かしてヒートを探す。
いない。
そんなばかな。
いくらちょっと見えを離したからって、消えるはずがあるか。
あんなに目立つ赤い髪が。
塗料専門店の露店の脇まできて、息を吐く。
344
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:21:28 ID:LUlKybsE0
とうとう見失ってしまったことを受け入れざるを得なくなった。
また探さなければ、と思ったとき、目の端で何かの影を見た気がした。
鳥だろうか。
嫌に身軽に、地面から飛んだように見える。
思わずそれを追いかけた。
大きな建物の窪んだ場所。
鳥でもなければそんなところにはいかないだろうなと思われる場所。
(;^ω^)「……は?」
赤い髪が棚引いている。
見間違いかと思った。
でも、瞬きしても消えない。
345
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:22:38 ID:LUlKybsE0
ノパー゚) ニイィ
ヒートがそこに座っていた。
上ったというのか。
建物の窪みを利用して。
その不敵な笑みから、ブーンは察する。
自分は気付かれている。
顔を覚えられている。
なんでだろう。
それを考えようとしたとき
「あいつさっき洋梨置いていったぞ!」
背後から声がした。
さっきの女性の叫びをきいて、洋梨を探し始めた誰かさんだ。
346
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:23:34 ID:LUlKybsE0
振りむいている暇はなかった。
路地裏へ逃げ込もうと走り出す。
「誰か捕まえてくれ!」
また別の人の声。
随分すぐに仲間を作ったみたいだ。
それと少し遅れて、露店の脇を抜けようとするときに
露天商は何かをブーンに投げつけてきた。
肩に当たる。
でも確認している場合じゃない。
347
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:24:31 ID:LUlKybsE0
そのまま路地裏に逃げ込む。
土地勘などないが、止まってはいられない。
その肩にかかったのが、赤い塗料と気付くのは、まだしばらく先の話だった。
☆ ☆ ☆
348
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:25:29 ID:LUlKybsE0
『三匹のカエル』店内
('A`)「ところでシュール、どうしてヒートが盗みを働くってわかったんだ?」
客席でだらっと座りながら、ドクオが質問した。
カウンターでコーヒーメーカーを弄っていたシュールが顔も上げずに口を開く。
lw´‐ _‐ノv「本人から聞いた」
('A`)「本人? 今朝会ったのか?」
lw´‐ _‐ノv「いや、さっき会った」
コーヒー豆を選びながら、シュールが素っ気なく答えた。
('A`)「さっきって、いつだよ」
lw´‐ _‐ノv「ちょうど、私がここに来る直前」
('A`)「はあ? じゃあここに入ってくる前までいたってのか」
349
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:26:36 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「いや」
('A`)「?」
lw´‐ _‐ノv「むしろ私が扉を開けたときまでいた」
('A`)「ええ!?」
lw´‐ _‐ノv「で、たぶん中も見た。
ブーンとジョルジュが戦っているところ」
('A`)「……」
lw´‐ _‐ノv「で、扉を閉めるときにはいなくなってた。
たぶんあれ以上いたら私に捕まると思ったんだろう」
('A`)「……みられていたのか」
lw´‐ _‐ノv「ああ」
350
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:27:48 ID:LUlKybsE0
('A`)「それじゃ、だいぶ難航するかもなあ。
早めに捕まえておけばよかったのに」
lw´‐ _‐ノv「私は嫌だぞ。
私は料理と道具作り専門だ。力仕事はお前らに任せる」
('A`)「道具ったって、武器は作れないんだろ?」
lw´‐ _‐ノv「模造品だけは極めた。
ジョルジュがいいセンスのものを仕入れてくるからな。
あとはほら、ヒートが履いている強力なバネつきの靴とか」
はあ、と溜息をついて、ドクオは頬杖をついた。
lw´‐ _‐ノv「豆って何がいいんだよ」
('A`)「味わかんないんだし、どれでもいいじゃないか」
lw´‐ _‐ノv「一理ある」
☆ ☆ ☆
351
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:28:38 ID:LUlKybsE0
午後2時半
ジョルジュは青果商の露店が眺められる位置に辿りついていた。
時計を確認して、そろそろヒートが来るかなと予測する。
こればっかりは経験のないブーンにはわからないだろう。
いくらヒートが果物好きといっても、食事したばかりじゃ盗もうとはしない。
食後は繁華街でぶらぶら、たまに好みのものを盗んで
それから昼下がり、今の時刻になってようやく果物を手に入れに動き出す。
そこまでの細かい動きを、既に知っていた。
とはいえ、最初に繁華街に送ったのだし、ブーンにはむしろチャンスを与えたと言える。
そのチャンスをものにできなかったとしたら、それはブーンの責任だ。
自分は悪くないさ。
ジョルジュはそう自分に言い聞かせた。
( ゚∀゚)「そろそろ歩くかな」
そう言って背伸びをして、青果店を眺めて歩いた。
352
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:29:27 ID:LUlKybsE0
季節は秋。
旬の果実が並ぶ。
魔人といえども植物の好みを変えることはできない。
だから、その時期相応の食べ物が並んでいる。
今はどうやら洋梨が盛況らしい。
ヒートの大好物だ。
これはきっと狙われるに違いない。
ふと、道に目をやったとき
赤い髪の女性が数十メートル先にいることに気付いた。
( ゚∀゚)「ラッキー……」
手に持つクロスボウを、胸元に寄せる。
足早に近づいていく。
繁華街と比べれば空いている道。
歩きやすい。
353
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:30:34 ID:LUlKybsE0
音をなるべく立てないように、進む。
ヒートの背後に迫っていく。
ヒートはお店の品定めをしている様子だった。
今は下見だろうか。
もう少し後になって、完全に盗みに入るのかもしれない。
だとしたら今はチャンスだ。
仕事していない今ならば、油断しているだろうから。
ヒートがとあるお店に近づいた。
老舗の果物屋らしい。
軒先から、フルーツの芳醇な香りが漂ってくる。
ヒートはしゃがみこんで、顔を寄せて、果物をひとつひとつ眺めている。
354
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:31:34 ID:LUlKybsE0
@@@
@#_、_@
( ノ`)「気にいったかい?」
ヒートに対して店主が声をかけていた。
やけにがたいのいい女性だ。
ヒートが顔をあげる。
ジョルジュからは背中しか見えない。
ノパ⊿゚)「ああ、いい色してるね」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「採れたてだからね。
在庫もあるし、今なら安くしておくよ」
ノパ⊿゚)「考えておくよ。そうだ、おばさん」
ヒートが立ち上がる。
355
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:32:28 ID:LUlKybsE0
店主も釣られて顔を上に上げる。
無意識に。
その一瞬の隙。
ジョルジュは見逃さなかった。
ヒートが立ち上がりざま、腕を素早く下に動かしたのを。
そしてそのまま洋梨を自分の手持ち鞄の中に入れたことを。
音も、振動も出していない。
おそらく店主も気付いていないだろう。
ジョルジュはクロスボウを構えた。
今がチャンス。
現行犯だ、逃しやしない。
網の入った矢。放たれた瞬間拡散して網となる。
それを思いっきり指で引いた。きりきりと軋む。
356
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:33:35 ID:LUlKybsE0
指を離す。
放たれ、広がる網。
まっすぐヒートの方へ向けて。
途端に、状況が一変した。
( ゚∀゚)「え?」
声はすぐにかき消されてしまった。
ヒートが確かに立っていたその場所で、轟音が響き、土煙が上がる。
理解が追いつかない。
ヒートの姿も、お店の姿も見えなくなる。
自分もまたそれに巻き込まれた。
露店の前だけが急に、煙に包まれたのだ。
357
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:34:36 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「え、煙幕か!?」
ジョルジュは腰を抜かしてわめいた。
不自然な土煙だ。
煙の奥に人影が見える。
それが一気に跳んだ。
なんとか目で追う。
煙を飛びだしたその影が露わになる。
赤い髪が見えた。
(;゚∀゚)「ああああああ、ちくしょう!! 逃げられた!」
そう言い切ると同時に、顔面に何かを投げつけられた。
( ×∀×)「のわああああ」
情けないくらいの叫び声をあげながらそれを確認する。
洋梨だ。
青果店から盗んだものの一つに違いない。
くそ、してやられた。
358
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:35:33 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは立ち上がろうとする。
びっくりしただけだ。こんなところで倒れている場合じゃない。
せっかくブーンを出しぬけると思ったのに。
頭の中で憤りが錯綜する。
悔しさで目の前が滲む。
俺は、あいつに負けたくなんかないのに。
☆ ☆ ☆
359
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:36:29 ID:LUlKybsE0
最初に会ったときから気に食わなかった。
あんなにやにやした、いかにも臆病そうな少年が、ジョルジュはどうも嫌だった。
それで、うっかりちょっかいを出したから
あれよと言う間に魔人を失うことになった。
悔しかった。
何かを奪われることの悔しさをそのときに知った。
そのあとで、あの地球儀の事件のときに見た格好いい人が、
ブーンとこっそり特訓をしていることをたまたま聞いた。
最初は無視しようと思った。
ブーンが何していようと俺には関係ないって。
でも、モララーが衛兵の中でもかなり優秀な人であると知って、気が変わった。
自分もモララーに近づきたいと思ったのだ。
だけど、もうそのときのジョルジュにはモララーに近づけるチャンスはなかった。
少なくとも、衛兵見習いとしての身分じゃだめだ。接点はない。
唯一の接点はあの地球儀の事件だけ。
360
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:37:33 ID:LUlKybsE0
それでもどうにかしてモララーに近づきたい。
せっかくあのとき近づけたのに
ブーンと自分とで、差ができてしまうことが嫌だった。
それはくだらない固執かもしれない。
純粋な、負けたくないという気持ち。
人はそれを笑うこともある。
でも、ジョルジュはどこまでもその気持ちを大切にした。
あるときのことである。
城下町を歩いていたときに、レジスタンスのパフォーマンスを目にした。
そしてそれの後処理をしている人の中にモララーを見つけた。
あの人がこんな仕事もするのか、という興味。
そこから、ついジョルジュはモララーの後をつけた。
レジスタンスの舞台裏に忍び込んだ。
そこで、モララーとレジスタンスの関係を知った。
モララーがレジスタンスと協力していること
彼らの悪事を小さく報告し、なるべく活動が継続できるように取り計らっていること。
ジョルジュはそのとき、しめたと思った。
これを使えばモララーと近づけるかもしれない。
361
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:38:34 ID:LUlKybsE0
レジスタンスの舞台裏で張り込んだ。
こそこそと、そこから出てくるモララーを見つけた。
そして
( ・∀・)「あ……」
モララーと再び出会った。
( ・∀・)「お前あのときの」
モララーはジョルジュのことを覚えていた。
だらだら話していたら不審に思われる。
そう感じたので、ジョルジュはすぐに頭を下げた。
( ゚∀゚)「俺を弟子にしてください!」
一気に言ってのけた。
いつでも、欲しいものがあれば率直にアプローチする。
それがジョルジュの信条だった。
(;・∀・)「ええ? ちょっと待って、ええ?」
狼狽するモララーを、ジョルジュはまっすぐに見つめていた。
362
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:39:32 ID:LUlKybsE0
(;・∀・)「それって、何? 俺、君の魔人帰らせたんだよ?」
( ゚∀゚)「あいつはもういいです。クビにしました」
(;・∀・)「ああそう。思いきったことするんだね」
( ゚∀゚)「今は人間として強くなりたくて、お願いしてます!」
(;・∀・)「……」
(;ー∀ー)ハア
モララーは目を閉じて、眉間を指でつまんでいた。
頭が痛いときの動作。
( ・∀・)「どうすりゃいいのよ。俺は。
お前人間として強くなるって言ったって、それで何をしたいのさ」
( ゚∀゚)「何を……?」
( ・∀・)「それがわからなきゃ何も教えてやらね」
そう言って、モララーはその場をさっさと歩いて行ってしまった。
363
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:40:29 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは、やろうと思えばその歩みを止めることができた。
でもしなかった。
頭の中でモララーの言った言葉が響いていたからだ。
自分は何をしたいのか。
ジョルジュは純粋な男だった。
目の前の問題には真摯に立ち向かう。
精神誠意をこめてそれに対峙し、自分の欲しいものを獲得する。
それが信条。
一番大事なこと。
だからジョルジュは、その問いかけにも全力で取り組もうと思った。
余計なものや、煩わしいものを捨てて。
その一端として、ジョルジュは衛兵見習いをやめた。
寄宿舎に入ったことは、親の言いつけでしかなかったので
それを続けていてはいつまでたっても問題は解決しないと思ったのだ。
364
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:41:37 ID:LUlKybsE0
少しは大人らしくなるために、力をつけろと言われた。
いつまでも裕福な暮らししてちゃいけない。
他国にいい修行の場所がある。そこへいけ。
それで南西のテーベ国にある家を渋々出て、ラスティア国にきた。
でも、それは自分の意思じゃない。
じゃあ自分のしたいことは何なのか。
その問題に直面したのは初めてだった。
真剣に悩んだ。
城下町でその日暮らしを始めて、ひたすら自分をいじめ抜いて
世間のことも学んだ。
寄宿舎で閉じこもっていては得られないことだってたくさんあった。
それは今でも誇っている。
やがて、ジョルジュは自然とレジスタンスに辿りついた。
この町で一番まっすぐに生きている連中だと思ったからだ。
365
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:42:28 ID:LUlKybsE0
当時、レジスタンスはまだ盗賊団のメンバーで構成されていた。
それが次第に人数を減らしていった。
別にみんながレジスタンス活動をしたかったわけじゃないからだ。
その引き潮のときに、ジョルジュは入って、入団したいと答えた。
モララーと出会ってから1年が経過した、冬の話である。
そのとき、モララーはいなかった。
国王の外交に付き添っていたのである。
モララーの帰りを待って、ジョルジュは『三匹のカエル』に入り浸った。
やがてリーダーのヒートが面白がって彼にお酒を担当させてみた。
お酒も飲めない子どもなのに。
面白いことに、彼はカクテルの作り方を容易にマスターした。
モララーが帰還した夜
カウンターにいるジョルジュを見て、彼は愕然としていた。
(;・∀・)「……なんすかこれ」
( ゚∀゚)「マスターと呼んでください」
(#・∀・)「何しれっといるんだよてめえは」
そのまま、モララーは奥の部屋へとジョルジュを連行した。
366
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:43:37 ID:LUlKybsE0
現在の訓練部屋だ。
当時から、モララーとドクオが技術の鍛錬のために使っていた。
そこで、モララーはジョルジュを投げ捨てた。
( ×∀×)「ぬわあ」
( ・∀・)「なに情けない声だしてんだよ。
俺は今むしゃくしゃしてるんだ。ほら、木刀手に取れ」
モララーは部屋の隅にあった木刀に手をかけ、一本をジョルジュに投げる。
そしてもう一本を自分の手に持った。
( ・∀・)「いいか、ジョルジュ。これは入団テストだ。
この組織がレジスタンスとなって以来、初めてのな。
俺相手に三本取ってみろ」
その日、訓練部屋の灯りが消えることはなかったという。
367
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:44:29 ID:LUlKybsE0
こうしてジョルジュはレジスタンスのメンバーとなった。
以降、誰もレジスタンスになろうとしていない。
いや、誰も来なかった。
現在
ブーンがその門戸を開くまでは。
なんでよりにもよって、一番気に食わない奴が来てしまったのだろう。
一番会いたくない奴が。
こんな不思議な縁、いらなかったのに。
くそ野郎。
☆ ☆ ☆
368
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:45:31 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「ジョルジュ! 大丈夫かお!?」
雑踏の中からもう一人の青年が飛び出してきた。
どういうわけかその肩は赤く染まっていた。
ぱっと見たら血にも見えたかもしれないが、ただの塗料だ。
ブーンはジョルジュの傍に駆け寄り、屈んだ。
ああ、またこいつは現れた。
ジョルジュは心の中で悪態をついた。
会いたくないって思ってるのに。
なんだってこいつはくるんだ。
しかも、思いっきり俺を心配する表情で。
こいつは馬鹿なんじゃないか。
俺はお前を苦しめたことがあるんだぞ。
なんで俺を心配するんだよ。
あのときだって、俺と一緒にいた魔人ですら、俺を気遣ってくれなかったのに。
369
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:46:29 ID:LUlKybsE0
そう悪態をつきながら、
ジョルジュは自分が笑いそうになっていることに気付いた。
それを隠すため、思わず叫んだ。
(;゚∀゚)「無事に見えるかばーか!
逃げられちまったよ!」
やけくそ気味にジョルジュはブーンにつっかかった。
明らかに動揺しているブーン。
そりゃそうか、こんな風に叫ばれたら、こいつは驚いちゃうんだ。
小心者だから、ちょっと大声だしたくらいですぐ。
(;^ω^)「そんな……いつまでも尖がっている場合じゃないお」
そのくせこんなふうに反論してきやがる。
(#゚∀゚)「なんだとこのやろう!」
ジョルジュは立ち上がろうとして腕を下に降ろした。
しかし、その動きが途中で止まる。
ようやく晴れてきた煙。
果物屋の前に佇む人の姿が露わになる。
このお店の店主の姿。
370
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:47:34 ID:LUlKybsE0
@@@
@#_、_@
( ノ`)
毅然と立ち尽くすその姿。
口を閉じ、腕を組んで
物も言わずに静かに二人の青年を見下ろしている。
二人の青年は店主の女性を見上げていた。
身体が固まっている。
やがて、女性はゆっくりと口を開いた。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「お勘定」
(;゚∀゚)「ああ……もうだめだ……」
ジョルジュは泣きごとを漏らした。
(;^ω^)「ジョルジュ! 諦めるなお!」
ブーンが必死に呼びかける。
なんだよ、急に男らしいこといいやがって。
371
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:48:31 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「なんだよ! じゃあどうすりゃいいって!」
(;^ω^)「協力するんだお! そうしなきゃあの人には勝てないお!」
喚いている間に、店主の身体がゆらりと傾き始める。
行動が始まるのは明らかだ。
(;^ω^)「あの人に立ち向かう策ならあるお! だから!」
ブーンは立ち上がり、手を伸ばす。
ジョルジュを引き上げるために。
ジョルジュはその手をぼんやり眺めていた。
得体のしれない男が、まっすぐに自分を助けようとしてきている。
意味がわから……いや
ジョルジュは自分の思考を上書きする。
ああ、そうか。
こいつは優しいんだな。
モララーは言っていた。
ブーンは俺たちにできないことができるって。
その言葉が本当かどうか確かめられるかもしれない。
モララーがどうしてブーンに入れ込んでいたのか。
自分がいつまでもいらだってしかたないこの男に何があるというのか、わかる。
372
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:51:24 ID:LUlKybsE0
心の奥がざわめいた。
それを見てみたいという意欲が湧いた。
ブーンに賭けてみたいという気持ち。
焦りの顔から、少しずつ、歪んでいく。
引きつった笑みが浮かんでくる。
(;゚∀゚)「ほんとうだろうな? 策があるって」
ジョルジュが震える声で問いかける。
ジョルジュにははっきりと、ブーンの目が見えていた。
まっすぐに人を信じ切っている目。
一緒に何かをしようという目。
こういう目は、嫌いじゃない。
むしろ、俺の信条通りだ。
俺が最も憧れる生き方。
ジョルジュの警戒心が解けていく。
373
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:52:23 ID:LUlKybsE0
そのとき、とうとう店主が足を青年たちに近づけた。
その手には大きな看板が握られている。
高く、看板が抱えあげられる。
そのまま振り下ろされれば、二人はひとたまりもない。
ブーンは一回だけ頷いた。
それだけで、ジョルジュは瞬時にブーンの手を握った。
(;゚∀゚)「じっくり教えろよな!」
叫ぶように答えながら、二人は走り出す。
同時に看板が空を切る。
さっきまで二人がいた場所へ。
こうして二人は、再び彼女を捕まえるために走り出した。
すでに数十メートル先を駆けている、あの赤毛の女性を捕まえるために。
374
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:53:24 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは純粋な男だった。
蟠りがあっても、目標があれば、それに一直線。
その方が、楽だし、うじうじするより性に合う。
ジョルジュは前を向いた。
あの洋梨好きな女め、絶対のしてやる。
俺たちで。
☆ ☆ ☆
375
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:54:23 ID:LUlKybsE0
午後3時
住宅街
柔らかそうな茅葺屋根の上で、ヒートは洋梨をかじっていた。
基本的には通りすがりの一般人から盗み集めたものだ。
店先で盗むことは、本当はリスキーなのだ。
ノパ⊿゚)「あの子らどこいったんかねえ」
はるか遠くの青果商通りの方を眺めつつ、呟く。
洋梨が一つ食べ終わる。
芯をぽいっと捨てる。
『三匹のカエル』であの子らを見かけてから、予感がした。
ドクオのことだから、すぐに自分を捕まえに来るかなとも思った。
だけど、繁華街であの見慣れぬ少年がきょろきょろしているのをみたとき
事情はなんとなく察した。
ああ、自分を捕まえに来ているんだなって。
376
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:55:20 ID:LUlKybsE0
だからわざと騒ぎが起こるようにしむけてみた。
群衆の中で洋梨がないと最初に叫んだ女性の声が、私の声だと、あの子は気付いただろうか。
あのあとは勝手に人々が騒ぎ始めただけ。
ノパ⊿゚)「きっと気付いていないだろうなあ」
そういって、また一つ芯を落とす。
こうしておけば見つけられるだろうとぼんやり考えながら。
「おーい」
足元で声がする。
首を傾げて、そちらを見る。
ノパ⊿゚)「ありゃ」
( ^ω^)「おー」
少年がいつの間にか、建物の入り口のところにまできていた。
ノパ⊿゚)「よくわかったねー」
( ^ω^)「芯が落ちてたお」
ノパ⊿゚)「お、鋭い。感心するね」
377
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:56:23 ID:LUlKybsE0
自分の出したヒントにちゃんと気付いてくれるのは、嬉しい。
( ^ω^)「ちょっと下で話がしたいお」
ノパ⊿゚)「なんだい? つかまってとかは聞かないよ?」
( ^ω^)「あ、事情知ってるんだおね?
僕はブーンだお。これ、入団テストってことになっているお」
ノパ⊿゚)「ああ、どうせドクオが仕向けてきたんだろ。
自分で捕まえるのは面倒、とか言っちゃってさ」
( ^ω^)「そうだおー、ひどいことするお」
ノパ⊿゚)「同情するわー。
で、下降りたら何するの?」
( ^ω^)「テストだお」
テスト?
378
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:57:24 ID:LUlKybsE0
何だろう。
面白ければいいな。
ヒートはそう思って、飛び降りた。
☆ ☆ ☆
379
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:58:24 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「ヒートは、面白いことが好きなんだ」
( ^ω^)「面白いこと?」
( ゚∀゚)「ああ、だから、何か新しいものや、興味深いことがあると、まずは寄ってみたくなる。
美味しそうなものも好きだな。で、そこに急いで寄って行っちゃう」
( ^ω^)「なるほど……使えるかもしれないお」
( ゚∀゚)「お前の策に?」
( ^ω^)「そうだお。隙を作る必要があるからだお」
( ゚∀゚)「なるほど……でも
これえ気を引くとしたら、勝負は一瞬になるんじゃないか?」
( ^ω^)「それくらいギリギリの相手だお……」
☆ ☆ ☆
380
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:59:17 ID:LUlKybsE0
飛び降りたのは、ブーンの傍。
その隙に、ブーンは建物の屋根の下へと移動した。
上から覗いたときには見えなかった位置。
大きな網を備えた虫取り網があった。
ヒートは思わず笑ってしまった。
こんなもので自分を捕まえようとでもいうのだろうか。
振りかぶる動作さえあれば、自分にとって逃げるには十分なのに。
(#^ω^)「おおお!!」
ブーンが叫ぶ。
虫取り網が振りおろされる。
ヒートは一歩引いてそれを避けた。
道の真ん中へ。
網はかすりもしなかった。
381
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:00:17 ID:LUlKybsE0
そんなんじゃだめ、と言おうとした。
(#^ω^)「いまだお!」
ブーンが叫んで、背後の、茅葺屋根の上を見た。
さっきまでヒートのいたところ。
(#゚∀゚)「おお!」
ジョルジュがいた。
遠回りして、別の場所から屋根に上っていたのだろう。
そうか、芯を見つけたのは随分前だったんだな。
それで私がいるところがわかってから、計画を練ったのか。
ヒートは素直に感心した。
それから、批評した。
382
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:01:26 ID:LUlKybsE0
このブーンという少年は過ちを犯した。
見なければよかったのに。
ジョルジュの方を見なければ、私は彼に気付かなかったのに。
今、ジョルジュは上から私たちを見下ろしている。
圧倒的に優位な状況だ。
私が平面上でどこに逃げようとしても、簡単にあのクロスボウで狙って射止めることができる。
その優位な状況を破ってしまったのは、ブーン自身だ。
ヒートは足に力を込める。
くるっと後ろを振り向く。
ジョルジュが撃つ、その前に。
ヒートが今見ているのは、ジョルジュのいる家の向かい側の住宅。
幸いなことに、一つだけある窓枠の上に、出っ張った屋根がある。
私の脚力とバネの作用があれば、簡単にそこに乗り移ることができるだろう。
383
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:02:23 ID:LUlKybsE0
さよなら、見知らぬ少年よ。
私を捕まえるにはまだ早かったようだな。
心で別れを告げ、
地面を蹴る。
いつものように、空中へ。
「そうだお」
顔は見えなかった。
でも確かに、あの少年の声が聞えた。
後ろから。
( ^ω^)「そこにしか逃げ道はないんだお」
384
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:03:20 ID:LUlKybsE0
顔を向ける。
片目だけで、彼を見る。
彼はクロスボウを構えていた。
なんで、それがここにあるんだろう。
二つあったのか。
でも、だったらどうして初めから使わなかった。
ああ、私を油断させるためだったのか。
ジョルジュの方を見たのも、ブーンから注意をそむけさせるため。
ここに至るまでの何もかもが、私を驕らせるための布石。
385
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:04:30 ID:LUlKybsE0
その結論が導き出されたときには
すでに頭の上から足の先まで
大きな網が彼女を包み込んでいた。
☆ ☆ ☆
386
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:05:27 ID:LUlKybsE0
夕方
『三匹のカエル』
ノハ×⊿×) ムキュー
ブーンとジョルジュはヒートを抱えて連れてきた。
町中で大変な数の人々にみられたが、気にしている場合でもなかった。
むしろ積極的に、洋梨を販売していたお店や、盗まれたお客に声をかけた。
そうしてきっちり領収書をもらってきた。
('A`)「おおう、きっちり……きっちり……」
ドクオの顔は、明らかに、「こんなことまでしなくていいのに」と物語っていた。
( ゚∀゚)「お前らしいや」
ジョルジュがそう言ってのける。
387
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:06:23 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「お? そうかお?」
呑気に返すブーン。
ジョルジュはそれを鼻で笑った。
( ゚∀゚)「あほみたいに正直なんだな。
そりゃ、モララーさんも構っちゃうよ。
ほっといたら何するかわからんものな」
ブーンはむっとする。
(#^ω^)「なんだお、協力してやったのにその言い草は」
( ゚∀゚)「あー、はいはい。ありがとうさん」
(#^ω^)「ぐぬぬ……」
('A`)「さて、お金はなんとかしよう」
またもやドクオが口を挟んできた。
388
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:07:23 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「おい、模造品返せ」
シュールがブーンに声をかける。
ブーンは「ああ」と言って虫取り網の中からクロスボウの模造品を取りだした。
あのとき、ジョルジュと合流してから、一旦『三匹のカエル』へ赴いた。
そこで計画をしっかり練る中で、シュールの模造品の話を聞いた。
それが、ヒートを油断させるために使えるかもしれないとひらめき
ジョルジュに持たせて、ブーンはヒートの前に現れた。
( ^ω^)「うまくいきましたお。ありがとうですお」
lw´‐ _‐ノv「壊してないだろうな?」
(;^ω^)「た、たぶん。もし壊れていたらジョルジュのせいですお」
( ゚∀゚)「え?」
( ^ω^)「使ったのはお前だお!」
lw´‐ _‐ノv「ほう」
(;゚∀゚)「た、たぶん大丈夫です。はい」
389
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:08:23 ID:LUlKybsE0
('A`)「で、ヒート。何か言いたいことは」
ノパ⊿゚)「……縄をほどけ」
('A`)「嫌だ」
お店の一角にある柱に、ヒートは縛られていた。
盗みのあとで捕まったら、いつもこうして反省させているらしい。
ノパ⊿゚)「お前それがリーダーに対する態度か!?」
('A`)「もう何年も言ってるけどな、ここはもう盗賊団じゃないんだ。
レジスタンスなんだよ。魔人と戦う勇者の集いだ」
( ^ω^)「勇者?」
唐突に聞えた奇妙な単語に、ブーンは反応する。
('A`)「カエルって、勇者っぽいだろ?」
( ^ω^)「ええ……ええ?」
この団体は勇者のパーティだったのか。
やたらと俊敏な泥棒と、青白い細身の衛兵と、掴みどころのない料理人と、調子のいい青年と
……自分。
なんだこれ。
390
:
名も無きAAのようです
:2013/08/29(木) 23:08:25 ID:atSXWnCM0
長丁場の投下ですな。本当に筆早くて羨ましいわ
しえんしえん
391
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:09:20 ID:LUlKybsE0
ノパ⊿゚)「はーなーせー」
('A`)「いーやーだー」
lw´‐ _‐ノv「おう、洋梨のタルトできたぞ」
( ゚∀゚)「凝ってんなー」
それからレジスタンスの方々は話しあって、今日はもう店は閉めようということになった。
どうせいつも大した客は来ない。
それに、なんだかみんな疲れている。
だけど、閉めた後で
それからすぐに、号令に合わせて
小気味良いグラスの音が響く。
飲み会となれば話は別。
それに、新しい入団者が来ているのだから。
その日はずっと、ブーンは『三匹のカエル』で過ごしていた。
寄宿舎のF棟の管理人には後で謝っておこう。
392
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:10:26 ID:LUlKybsE0
気分は晴れた。
言い切ってもいい。
いつまでも落ち込んでばかりじゃいられない。
今は新しくできた仲間と共に過ごそう。
そして、魔人に立ち向かおう。
ブーンの心は、ひとまず今、固まっていた。
☆ ☆ ☆
393
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:11:18 ID:LUlKybsE0
午後8時
寄宿舎G棟3階368号室
ツンの部屋
ξ゚⊿゚)ξ「……月が綺麗」
彼女は思わず呟いた。
窓の外から見える、下弦のそれが、あまりにも綺麗だったから。
ブーンのことを思った。
彼は元気にしているだろうか。
心配でもあった。
ひょっとしたらやけをおこしているんじゃないか。
394
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:12:23 ID:LUlKybsE0
それで、やけになって、危ないことにでも手を出していやしないか。
もしそんなことになれば、自分は……
逸る気持ちを抑える。
ξ゚⊿゚)ξ「……きっと平気よ。ブーンなら」
誰にも届かない言葉。
それだけを残して、夜は更けていく。
深く、深く。
395
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:13:17 ID:LUlKybsE0
―― 第三話 おわり ――
―― 第四話へ続く ――
.
396
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:14:17 ID:LUlKybsE0
―― コラム③ レジスタンス ――
lw´‐ _‐ノv「……中世、近世、ヨーロッパ、料理、で検索っと」
lw´‐ _‐ノv カタカタカタ……
lw´‐ _‐ノv「中世ばっかり出てくるな……」
lw´‐ _‐ノv「……犬のようにがっつくのは当たり前。口の中に食べ物をめいっぱい詰め込み、その状態でお喋りをする。
食事中にゲップやオナラをして恥じ入ることがない。タンやツバをあちこちに吐き、
汚れた口はテーブルクロスを持ち上げてその裾で拭い、さらには同じ場所で洟までかむ。
皿以外に食器はなく、どんな料理も手づかみわしづかみ。汚れた指先は意地汚くしゃぶったり、あるいは洟をかんだテーブルクロスで拭う。
酒に酔っては大声で歌い、喚き、罵りあう。そのうちに相手の胸ぐらをつかみ、喧嘩が始まる。皿が舞い、食器が飛ぶ。
そのうちに武器を取り出す者が出てきて、刃傷沙汰へと発展する。悲鳴と怒号が響き、警備兵がすっ飛んできて、ますます辺りは喧噪に包まれる……」
lw´‐ _‐ノv「……彼らがこのように野放図な食事を繰り広げていた理由は、
当時のヨーロッパが慢性的な飢えや病気に苦しみ、その上戦争ばかりしていたからです……」
lw´‐ _‐ノv「あー、前提が違うな。ふむ」
lw´‐ _‐ノv「……なんでもありにするか」
397
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:15:17 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「レジスタンスはいろんな町にいる魔人反対派組織。
ラスティア城下町のように盗賊団がそのまま型となっていることもある。
大体において反政府勢力がなっていることがおおい」
lw´‐ _‐ノv「その活動は魔人利用に対する抗議デモやパフォーマンス
それと政府や衛兵が取り扱ってくれない魔人がらみの事件を解決していたりもする。
そのためたまーにレジスタンスのファンもいたりする」
lw´‐ _‐ノv「とはいえ、政府に反対しているわけだから大概は良い顔されない。
南の山での魔人の事件はイメージアップのいいチャンスだったんだけど、上手くはいかなかった。
イメージダウンすれば活動の幅も狭まったりする。割と辛い立場だ」
lw´‐ _‐ノv「ラスティア城下町のレジスタンスはかなり緩い方で
他の町や国にはもっと過激な団体さんもいる。
場合によっては政界に進出したりなんか怖いところに手を出している団体もある」
398
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 23:16:26 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「まあ、そういうところはいろいろと役立つ面もある。
純人間製の道具を作ったりだとか。ジョルジュが輸入していた武器もこれ。
私も作っていたりする。こっそりと」
lw´‐ _‐ノv「大きな町のレジスタンスはときどき集まって会合を開いている。
開催場所は内緒。そもそも開催の直前まで知らされない。
物語の時期ではちょうど他国でそれが行われていて、別のメンバーが行ってる」
lw´‐ _‐ノv「……総括すれば
政府とも魔人とも対立しているもう一つの派閥みたいなもの。
純粋な人間の組織としてのね」
lw´‐ _‐ノv「今回はこれで終わり。そろそろもうわざわざコラム出して説明する項目もなくなってきたと思う」
lw´‐ _‐ノvノシ「それじゃあ」
―― コラム③ おわり ――
399
:
名も無きAAのようです
:2013/08/29(木) 23:34:32 ID:bYVcXlZI0
カエルと勇者って聞くとクロノトリガー思い出す
400
:
名も無きAAのようです
:2013/08/30(金) 01:40:52 ID:PGCDrU5M0
乙
401
:
名も無きAAのようです
:2013/08/30(金) 04:54:15 ID:Wh.TUukAO
ω・)乙。面白いよ
402
:
名も無きAAのようです
:2013/08/30(金) 08:10:24 ID:T/VQgDAk0
乙
403
:
名も無きAAのようです
:2013/08/30(金) 21:49:47 ID:xAd0Vn.EO
2H以上もお疲れ乙でした、でももっと上はいるもんだ
ミセ*゚ー゚)リ樹海は休憩入れながらだけど先日8H以上やってたんだぜ
404
:
名も無きAAのようです
:2013/08/31(土) 00:15:45 ID:QGUK15KY0
作者それぞれのペースでいいじゃないか
読み手としてはそりゃ頻繁に来てくれたりいっぱい読ませてくれた方が嬉しいけどさ
405
:
403
:2013/08/31(土) 01:14:02 ID:S2dFR5J6O
>>404
別に悪い意味合いで書いたんじゃないんだぜ
純粋なねぎらいの気持ちで書いたんだよ、ミセ*゚ー゚)リ樹海に対しても
406
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/31(土) 23:04:37 ID:t8lg.qj.0
―― 予告 ――
.
407
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/31(土) 23:05:51 ID:t8lg.qj.0
「大丈夫ですかな」
声をかけられる。
落ち着いた、大人の声。
デレは反射的に顔を上げた。
( ФωФ)「私ですよ」
目の前にいたのは、衛兵隊長のロマネスク。
以前父に紹介されてから、知り合いだった。
ロマネスクはグラスを掲げ、猫のような目をデレに向ける。
( ФωФ)「楽しんでおられますかな」
デレは答えなかった。
その代わり、彼を睨み据える。
その表情を見てから、ロマネスクが「やれやれ」と残念そうな声を出した。
408
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/31(土) 23:07:27 ID:t8lg.qj.0
( ФωФ)「おられないみたいですな」
ζ(゚ー゚*ζ「おかげさまで」
デレは短く畳みかけた。
鋭い睨みはそのままに、上半身を動かして、なおのこと勢いをつけていた。
ロマネスクは虚を突かれたようで、微かに肩を震わせている。
それから、彼は目を細めた。
猫が知らない人を見るとき、相手を品定めするように。
( ФωФ)「小娘め……」
他の人には伝わらないように、細心の注意を払って出した声だろう。
デレだけの耳に、それは届いた。
409
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/31(土) 23:08:42 ID:t8lg.qj.0
―― 第四話 ――
―― 猜疑の瞳と月下の告白 ――
明日夜10時半から投下開始。
410
:
名も無きAAのようです
:2013/08/31(土) 23:12:22 ID:m1INFahM0
明日夜か……
最近寒くなってきたし靴下だけは履いて待ってる
411
:
名も無きAAのようです
:2013/08/31(土) 23:25:07 ID:S2dFR5J6O
今日予告ということは1日でほぼ書き終わったということか
ハイペースもいいけど無理するなよ
412
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/31(土) 23:39:10 ID:t8lg.qj.0
>>411
おっしゃるとおりです……
第四話でお話の前提がでそろうので、そこまでどうしても短期間で投下したかったんです。
そこからはもう少し余裕を持って臨もうと思います。腰も痛いし。
お楽しみに。
413
:
名も無きAAのようです
:2013/09/01(日) 03:32:49 ID:YE3GlqKM0
腰お大事に
ハイペースで嬉しいけど無理しないでね
414
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:28:37 ID:X94qherQ0
そろそろ投下を始めますね。
415
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:30:01 ID:X94qherQ0
ブーンはレジスタンスに加わった。
すでに彼はその活動に参加している。
暇をもらっているうちに、『三匹のカエル』に寄り、話し合う。
そして時折町で起きている魔人絡みのトラブルを解決していく。
解決と言っても、大それた事件があるわけではなく
お城によって揉み消されてしまいそうなものをしっかり成敗する、という役割だった。
情報を集めてくるのはシュール。
現場に赴くのはジョルジュやブーン。
もう少し大きな事件になればドクオやヒートも参加するそうだが、今のところその気配はなかった。
いずれにしろ、ブーンは新入りという立場上、比較的よく働かされている。
月は移った。
今は10月。
そろそろお休みの時期も終わりかな、これからは参加の間隔があいてしまうだろうな
そんなちょっとした不安をブーンが抱き始めていた頃。
☆ ☆ ☆
416
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:31:01 ID:X94qherQ0
ある日のお昼
(-@∀@)「号外だよー!!」
新聞屋が駆けまわっていた。
お城からスタートして、中央広場、商店街、住宅街
その背負った新聞を一枚一枚、道行く人々に配っている。
(-@∀@)「新嘗祭の日取りが決定したよー」
そのお触れが出されたのはつい先ほどのことだった。
政務官、貴族、町内会長、それに加えて国王が討議した結果だ。
(-@∀@)「ほら、お兄さんも」
('A`)「え? ああ、はい」
半ば押しつけられる形で、ドクオは新聞を手に入れた。
読もうとする間に新聞屋は走り去ってしまう。
('A`)「どれどれ……」
書かれている日付は、今日から3週間後。
もう秋が深まる時期になってようやく開催されるとのことだった。
417
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:32:01 ID:X94qherQ0
それじゃ新嘗祭の意味がないじゃないか。
そう突っ込みながらも、ドクオはそこに掲載された写真を見る。
満面の笑みを浮かべたショボンの写真。
よほど祭が行われることが楽しみなのだろう。
それにしても、相変わらず間抜けな顔をしている、とドクオは内心悪態をつく。
実際今のショボンはその人柄から、面白がられこそすれ、あまり尊敬されているとは言い難かった。
魔人をお城に入れなかった頃は、むしろ今とは逆に気の毒なほど暗くて棘のある人物だった。
その独特の雰囲気から、恐れられたり、時にはかっこいいと言われることもあったらしい。
しかし今のショボンは丸くなっていた。
人当たりが良くなったと言えば聞えもいいか。
こうして暢気に新嘗祭の日取りを決めているあたり、
親近感こそ湧くが、他もやることがあるんじゃないかなとも訝しんでしまう。
('A`)「あれ……」
そこで、ちょっとしたことにドクオは気付いた。
この写真はおそらく国王の部屋で撮られたものだ。
壁には数々の装飾品が飾られている。
その中には今時珍しい武器や防具なども見られた。インテリアとして飾られているのだろう。
418
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:33:02 ID:X94qherQ0
('A`)「これは、まさか」
ドクオが目を細める。
写真の中のそれが、自分の思い描いているものと同じか確認するために。
ドクオの気を引いた装飾品、それは壁に飾られた剣だった。
カラー写真なので、その色合いもよくわかる。
黄金色の柄に、赤い宝石がひとつ埋まっている。
大きなルビーの原石。
これと同じものを、ドクオは何度も目にしていた。
☆ ☆ ☆
419
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:34:01 ID:X94qherQ0
―― 第四話 猜疑の瞳と月下の告白 ――
.
420
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:35:02 ID:X94qherQ0
翌日の朝。
リ´−´ル「ツンちゃん、ツンちゃん!」
彼女が声をかけられたのは、G棟寄宿舎の廊下だった。
ツンは自分の部屋から出てきたばかりである。
ややふくよかな体系の、優しそうな女性。
何度か見覚えがあった。
ξ゚⊿゚)ξ「あれ、F棟の管理人さんじゃないですか」
主にブーンの部屋に寄るときに会っていた。
従者見習いが衛兵見習いの寄宿舎に入るためには許可が必要になる。
だから管理人とも知り合いになっていったのだ。
リ´−´ル「ツンちゃん、よくブーンくんに会っていたんだよねえ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、まあ。友達ですから」
リ´−´ル「実は、彼のことでちょっと困ってることがあって」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
寝耳に水だった。
ブーン、確かに最近彼に関して思うことはある。
でも決してネガティブなことじゃない。
421
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:36:01 ID:X94qherQ0
彼は最近妙に明るくなっていた。
モララーが亡くなったときはずっと悲しんでいたのに
それが、城下町に赴いた途端、変わっていったのだ。
何か町で楽しみでも見つけたのかな、とツンは思っていた。
それはそれで喜ばしいことだ。
そのためツンは特別彼に追求はしていない。
あの様子なら、きっと変なことには手出ししていないだろう。
そう思って、安心していたのに。
ξ゚⊿゚)ξ「……何があったんですか?」
やや慎重に、ツンは管理人の返事を待つ。
管理人は自分の口の傍に手を添える。
リ´−´ル「実はねえ、最近ブーンくんの帰りが遅いのよ」
発言をしっかり聞きいれて、ツンはわずかに安堵した。
422
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:37:01 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「それは……きっと町で遊んでいるからじゃないですかね?
落ち込んでいたようだし、そういうことで遅くなってもしかたないんじゃないでしょうか」
リ´−´ル「それはそうなんだけど……こう何日も遅く帰られると私の立場としてもよくなくてね」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなに、なんですか?」
リ´−´ル「ええ、もう1週間以上、毎晩遅くに帰ってくるの」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
これまた初めて聞く話。
思わず疑問符をつきつけてしまった。
思い返してみれば、ブーンを見かける機会は少なくなっていた。
以前よりもずっと。
リ´−´ル「ブーンくん、いっつも真面目で良い子だったのに。
そんなに遅くまで何をやっているのか、怖いことにならなきゃいいなと心配で」
423
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:38:00 ID:X94qherQ0
ツンの耳に、管理人の言葉が届く。
その意味内容が、冷や汗を流させた。
ツンは顎の下に手をつけて「うーん」と唸る。
引っ込んでいた不安が浮かんでくる。
ブーンは何をしているのか。
何か危ないことに手を出しているんじゃないのか。
ξ゚⊿゚)ξ「それじゃ、ちょっと聞いてみます。
あいつが復帰するときってわかります?」
リ´−´ル「ちょうど明日よ。お昼前の訓練に参加するはずだから
訓練場に行けば会えるんじゃないかしら」
頼んだ、との意味で管理人はツンに頭を下げる。
ツンもまた同じように頭を下げた。
☆ ☆ ☆
424
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:39:05 ID:X94qherQ0
同日のお昼
衛兵見習い訓練場入口。
ξ゚⊿゚)ξ「という話があったんだけど」
さっそく、ツンは話題のブーンの前に立っていた。
(;^ω^)「……」
ブーンは黙って、目を泳がせている。
何か言い訳しなくては、だけど咄嗟には出てこない。
まさか復帰初日から、こんな追求をされるとは思っていなかった。
今二人は壁際にいた。
ツンが壁に片手をついて、ブーンの前に聳え立っている。
まるで尋問だとブーンは思った。
ξ゚⊿゚)ξ「何かいうことないの?」
(;^ω^)「うーん……遊んでいたじゃだめなのかお?」
425
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:40:01 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「管理人が納得しきっていなかったわよ。
それに、いったいどんな遊びなのよ?」
(;^ω^)「それは、その……酒場とか」
ξ゚⊿゚)ξ「酒場!? あなたお酒のんでいたの?」
(;^ω^)「いやいや、違うお! 誤解だお!
僕はちゃんとジュースしか飲んでないお!」
ξ゚⊿゚)ξ「……じゃあ、どうして酒場に?」
(;^ω^)「それは……その、実は知り合いがそこで働いてまして」
ξ゚⊿゚)ξ「だれ?」
(;^ω^)「あー、昔衛兵見習いやってて、やめちゃった奴だお。
やめたあとに自分探ししていたらしくて、その酒場に落ち着いているんだお。
この前城下町に降りたときに出会って懐かしくて、楽しんでいたんだお」
ここでジョルジュの名前を出したらややこしくなる。
ブーンはなんとか彼の名前を言わずにこの場を取り繕おうとした。
426
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:41:00 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「ほらでも、酒場にいるなんてさすがに言えなかったんだお。
そいつもお酒を飲んじゃいけないはずだし、
もしかしたら言ったことで迷惑がかかっちゃうお」
(;^ω^)「だから黙っていたんだお。それで迷惑かけてしまったならごめんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「……ふーむ」
ツンが訝しげな表情をする。
鋭い視線が突き刺さる。
ブーンは身を固くしてツンの裁決を待った。
ξ゚⊿゚)ξ「……筋は通っているわね」
ほっとする。
溜めていた息が口から洩れる。
( ^ω^)「そ、そうかお。よかったお」
ξ゚⊿゚)ξ「ただ、このことちゃんと管理人に報告しておくからね」
( ^ω^)「あ……うん。わかったお」
なんとか危機を脱した。
手を振って去っていくツンの、金色の髪を眺めながら
これはますます活動しにくくなると思い、ブーンは顔を青ざめていた。
☆ ☆ ☆
427
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:41:59 ID:X94qherQ0
3日後のランチタイム
『三匹のカエル』
復帰してすぐに休みを要求したことでかなり怪しまれたが、許可はもらえた。
ただ、雰囲気から察するに、これからは一週間に一度しか休みはもらえないだろう。
客は数人だけいる。
町の技術工のおやじたちで、このお店の常連だ。
彼らはお店の隅に集まって、何事かを賑やかに談笑している。
その対角線上にブーンは座っていた。
向かいにはドクオがいて、話を聞いている。
( ^ω^)「……という話があったんですお」
ブーンはツンから疑いの目をかけられたことを述べた。
ドクオは口を窄める。
('A`)「……このままで大丈夫だと思うか?」
(;^ω^)「いやー、厳しい気がしますお。
もし僕がレジスタンスの仲間入りしていることがばれたらと思うと……
絶対に上官からは良い顔をされないですお」
428
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:43:00 ID:X94qherQ0
('A`)「うまく立ち回る自信がないなら、少し控えた方がいいかもしれないな。
しかし、今日もあっさり来てしまっているけどいいのか?」
( ^ω^)「まあ、外から見てればただの酒場ですし。
お城の上官そのものに目をつけられるよりかはましだった気がしますお」
(;^ω^)「むしろドクオさんは今までどうしていたんですかお?」
('A`)「俺はばれないように動くのが得意なんだ」
(;^ω^)「……影が薄いだけですおね?」
( ゚∀゚)「ようよう、何の話だよ」
カウンターから出てきたジョルジュが、陽気に声をかけてきた。
( ^ω^)「お、仕事いいのかお?」
( ゚∀゚)「どうせあのおっさんらは話しているだけだしな。
それで、何の話さ」
('A`)「それがなー、レジスタンスに入っているってことばれそうなんだってさ。
お城側の人にさ。めんどくさそうだよなあ」
( ゚∀゚)「そうかそうか、やめちゃえよ」
( ^ω^)「ちょ」
429
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:44:00 ID:X94qherQ0
( ゚∀゚)「んなことよりさあ、最近輸入が滞っているんだけど、お城側でなんかわからない?」
あっさり話題を変えられて残念だったが、それはそれで興味のある話題だった。
( ^ω^)「輸入……それ自体はわからないけど
世界のニュースが入りにくくなったとかぼやいている友達がいたお」
思えばその人が、ブーンを疑っている張本人。
( ゚∀゚)「んー? 外との関わりを絶ってる?
でも、その割には外交にいってるよな」
( ^ω^)「あれは北のマルティア王国にいってるんだお。
前々から親交があるとかで。大事なお得意様なんだろうお」
('A`)「この国は外交後進国だから、そういう繋がりは大事なんだな」
( ゚∀゚)「ふむむ、だったらなおさら、なんで輸入できないのかわからん」
430
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:45:00 ID:X94qherQ0
('A`)「あまり貿易しない国なんだろ。
とりあえずここにいるうちはシュールの発明で我慢するしかないな」
lw´‐ _‐ノv「そうだ」
(;゚∀゚)「うおお、びっくりしたあ!」
(;^ω^)「というか、え、誰もカウンターにいないのかお?」
lw´‐ _‐ノv「大丈夫、すぐに連れていく」
シュールはジョルジュの襟首を掴み、引っ張っていく。
どうやら単純に、さぼっているジョルジュを持っていくためにきたらしい。
賑やかさが遠のく。
( ^ω^)「そういえば、ドクオさんの方こそ今日は来てほしいって話だったじゃないですか。
なんなんですかお? そういう事情なんであんまり遅くまではいられないんですけど」
('A`)「ああ、今後の方針があってな。
ひとつ大きな仕事を見つけたんだ。ランチタイムが終わるまで待ってくれ」
431
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:46:03 ID:X94qherQ0
技術工たちが帰ったのは午後3時。
ランチタイムの時間いっぱいまで居座られていた。
その集団が去って、さらに数分後になり
扉が開かれる。
ノパ⊿゚)「遅れたわー」
ぐだぐだな様相で、リーダーが入ってきた。
('A`)「言うくらいなら遅れるなよ……
よし、みんな集合したな」
語り方からして、どちらがリーダーかわかったもんじゃない。
思うに、リーダーという肩書自体前の盗賊団から通して使っているというだけなのだろう。
432
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:47:00 ID:X94qherQ0
酒場には、レジスタンスのメンバーのみ。
ドクオは各自の顔を見回して、それから一枚の紙を取りだした。
( ^ω^)「新嘗祭の号外ですかお?」
('A`)「そう。このカラー写真を見てくれ」
写真に映る、ルビーの剣。
('A`)「……誰かこれを覚えている者はいないか?」
その剣を見たとき、ブーンはどこかに引っかかるものを感じた。
自分は確かにあれを見たことがある。何度も。
( ゚∀゚)「……ある」
カウンターからジョルジュが言う。
( ゚∀゚)「モララーさんの剣だろ?」
その言葉を聞いて、ようやくブーンは思い出した。
モララーが持っていたルビーの剣。
それが国王の背後に飾られているということは、今は国王の所有物なのだろう。
( ^ω^)「なんで、モララーさんの剣がそこにあるんですかお?」
433
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:48:00 ID:X94qherQ0
('A`)「理由は二つ考えられるな。
一つは国王自身がそれを欲しくて、事件の際に奪ったというケース。
もう一つは誰かが事件で盗んで、国王にそれを献上したというケース」
lw´‐ _‐ノv「それじゃ、モララーさんがいなくなったときも持っていっていたのか?」
('A`)「ああ。あの任務のときに確かに持っていた」
ノパ⊿゚)「それなら、最初のケースじゃないな。国王はその頃外交でいなかったわけだし。
誰かがそれを奪って国王に献上したってことか」
( ゚∀゚)「また魔人か?」
('A`)「それはわからない。確かに俺たちは魔人に襲われたが……
誰かがその魔人を操って奪ったのかもしれない。その操った人間が国王ということも考えられる」
('A`)「とにかく、あの剣はモララーさんの大切な家宝で、事件以後は行方不明になっていた。
俺としてはなんとしてでもあれを取り戻したいんだ。モララーの大切な品を、あんなところに置いておきたくない。
誰か、この考えに賛成してくれる者はいないか?」
ブーンはもう完全に思いだしていた。
モララーさんは衛兵になってからというもの、ずっとあの剣を携えていた。
家族を魔人に襲われたモララーさんにとって、家宝のそれは大切な思い出の品だったのかもしれない。
434
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:48:59 ID:X94qherQ0
それを取り戻したいというドクオの気持ちもわかる。
ブーンとしても、あの剣がひっそりとお城に飾られてしまっているのは釈然としない。
魔人と繋がっているあのお城に。
ノパ⊿゚)「あたしはやるぞ。
結局は盗めばいいんだろ? お安いご用さ」
ヒートが勢いよく手を挙げて答える。
ドクオは「ありがとう」と言って、別の人々の目を見て回る。
('A`)「他は?」
( ゚∀゚)「他も何も」
ジョルジュが口を挟む。
( ゚∀゚)「このレジスタンスに、あの人に恩が無い人なんていないでしょうよ。
どうせみんな行きたいはずさ。そうだろ?」
ジョルジュがそう言ってみんなを眺めた。
ブーンを含め、全員が首を縦に振る。
( ゚∀゚)「というわけですよ、ドクオさん。
そうと決まれば奪還作戦の計画を練りましょうよ」
ジョルジュの目が次第に輝いていく。
お城に忍び込む、それだけ大それたことを行える機会がやってきたのが嬉しいのだろう。
435
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:49:59 ID:X94qherQ0
それはブーンとしても同じ事であった。
何せお城は魔人によりガードされている。
たとえ敷地内で暮らす衛兵見習いとしても、1階の講堂以外には入らない。。
他の場所は用が無い限り立入禁止だ。
もちろんデレがいるところも。
そこで一つ思いつきがあった。
ひょっとしたら、お城にいけば彼女に会えるんじゃないか。
いや、会うまではいかなくても、彼女の行動に関する手掛かりは見つかるかもしれない。
たとえば、部屋に入るとか。
('A`)「よし、じゃあ次回集まったときに詳しく決めようじゃないか。
忍び込む目途だけでも決めておきたいんだが、いつがいいだろう」
( ^ω^)「あ、あの……」
若干気が引けるものの、ブーンは手を挙げる。
( ^ω^)「新嘗祭のときがいいんじゃないですかお?
国王だって町を回っているだろうし、警備はそっちに行ってしまっているし」
lw´‐ _‐ノv「……いいな」
ノパ⊿゚)「うん、いいと思う!」
436
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:50:59 ID:X94qherQ0
賛同する声があがる。
ブーンは頬が熱くなった。
なかなかなれるものでもないが、素直にうれしい。
('A`)「よし、3週間後か。そうと決まれば新嘗祭の状況がどうなるか調べてみよう。
各自できることを調べておいてくれ。1週間後ここで会おう」
そしてその場は解散となった。
( ^ω^)「僕早めに帰りますお」
ツンの話があってから、帰る時刻には気をつけている。
この時間なら文句はないはずだ。
玄関の扉を開け、外へ。
冷えつつある空気。
もうじき冬が来る、そんな予感を感じさせる。
そんな、道の上
437
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:52:00 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「……え?」
438
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:53:00 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「ツ、ツンかお!?」
反射的に、ブーンは後ろ手で扉を閉めた。
バタンという強い音。
ξ゚⊿゚)ξ「あー、ここだったのか!」
ツンは扉周りをしげしげと観察して回る。
(;^ω^)「な、なんでここに?」
ξ゚⊿゚)ξ「いやね、あんたをこのへんで見かけたって話を聞いたから。
このあたりの酒場ってどこだろうなーって、回っていたところなのよ」
(;^ω^)「なんでそんな探偵みたいなことするお!
こんなの個人の自由だろうお!」
ξ゚⊿゚)ξ「何怒ってるの? 私のだって個人の自由じゃない。
あれ、この看板どこかで」
ツンは店の軒先に掲げられた看板を見る。
三匹のカエルの絵。
レジスタンスのマーク
439
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:54:00 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「ツン!! そろそろ僕も帰るし、一緒に帰るお!
お店の場所もわかったことだし、今日のところはいいおね?」
ξ゚⊿゚)ξ「え? ああ、うん」
首を傾げるツンの背中をを押す。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、なおさら危ないって!」
(;^ω^)「ごめんだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「なんか随分挙動不審じゃない?」
(;^ω^)「いつものことだお」
ξ゚⊿゚)ξ「……そんなこと、ああ、まあいつもそんなだったっけ」
眉を顰めるツン。
何か言葉をつづけなきゃと思った。
そのとき、背後の扉がわずかに開く。
440
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:55:00 ID:X94qherQ0
('A`)「おい、何騒いでるんだ」
顔だけを出して、ドクオが言う。
(;^ω^)「あ……」
ブーンはドクオの顔を確認し、慌ててツンを見る。
彼女は相変わらず顔をブーンに向けていた。
ツンはドクオを知らない。
よかった、ドクオを見て怪しがられたら言い逃れできないところだった。
('A`)「……あれ、おい」
何故か、ドクオが声をかけてくる。
冗談じゃない、これ以上ここにいたらぼろがでてしまう。
(;^ω^)「し、知り合いですお! ちょっと僕に会いに来たみたいで……
とりあえずここは帰りますお!」
そう言って、さっきよりも必死でツンを押す。
441
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:56:00 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと! ちゃんと歩くわよ!」
苛立つツンも、ようやく帰る気になってくれたので、ブーンは安心した。
二人は急いでその場を退散する。
('A`)「あいつは……」
そのドクオの最後の言葉は、誰の耳にも至らなかった。
こうしてその場はひとまず収まった。
ブーンの心の中はおさまるどころじゃなかったが。
442
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:56:59 ID:X94qherQ0
本格的に良くないことになってきた。
せめて新嘗祭が始まる前までに対策を練らなければならない。
そう思い、この日からブーンは毎晩計画を練ることにした。
ツンをうまくはぐらかすために。
☆ ☆ ☆
443
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:58:08 ID:X94qherQ0
新嘗祭まであと2週間
ラスティア城、5階 貴族の間
お城には貴族が暮らしている。
国王であるショボンに近い親戚やその家族だ。
国王と王女が使っていないお城の部屋は基本的に彼らが使うことになっている。
彼らがお城に本格的に入ってくるようになったのも3年前からであった。
それまではごく少数の親族しか暮らせなかったので
その頃と比べれば現在は賑やかになったといえる。
貴族のほとんどは政治に務める。
かつては戦争にて率先して戦場に駆けつける役目もあったが、今時は無い。
わずかに衛兵隊長が貴族の血を引いているだけ。それだって、実力だ。
また、貴族全員がラスティア城にいるわけでもなく、
統治能力に長けた貴族はショボンの判断で地方の領主となることもあった。
そんなお城に暮らす彼らが、今日は貴族の間に集結していた。
お仕事を離れての、3か月に一度のパーティのためである。
たとえお祭りの日が近づいていようとも、従来通りに行われていた。
444
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:59:00 ID:X94qherQ0
ζ(゚ー゚*ζ「……なんだか久しぶりに参加したわ」
ショボンの隣の椅子に座って、デレが呟いた。
彼女がこのパーティに参加するのは、実に1年ぶりのことだった。
(´・ω・`)「いろいろあったからね、仕方ないね。
他の貴族の人たちとは話してこないのかい?」
ζ(゚ー゚*ζ「いいわ。歩くと疲れてしまうし」
(´・ω・`)「そうか……
デレは新嘗祭にも出ないのだから、もっと楽しめばいいのに」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、私はそういう賑わいを外から眺める方が好きなんですよ。
それに、お話合いのときはちゃんと出席しているでしょう?
私にはあれで十分ですよ。どんなお祭りになるのか、それだけ聞けば十分」
そういって、デレは微笑みをショボンに向けた。
(´・ω・`)「……そうだね、また来週には町長たちを交えての話し合いもしなきゃだし……」
ショボンはそれ以外にも何かを言いたそうにデレを見つめたが、やがて何度か小さく頷いて目を離した。
パーティの様相を眺めるその顔は、どこか悲しげである。
445
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 22:59:57 ID:X94qherQ0
貴族たちは思い思いに部屋を歩き、談笑をしている。
立食パーティなので移動はしやすい。
自分と趣味があう人と一緒に会食をし、お酒を飲み、楽しんでくれている。
|゚ノ ^∀^)「ショボンちゃん、外交お疲れ様」
ふいに声を掛けられて、ショボンは振り向く。
(´・ω・`)「やあ、レモナさん。こちらこそ、お世話になったよ。
あなたの文章力で私のスピーチはいつも助けられている」
|゚ノ ^∀^)「いえいえ、あれくらいお安いご用ですよ。
あら、デレちゃんもお久しぶり! なんだか大きくなったわね」
ζ(゚ー゚*ζ「最後に会ったのはまだ私が小さい頃でいたから」
貴族の一人、レモナ。
ショボンにとっては従妹にあたる。
彼女は3年前にお城にたくさん入ってきた貴族のうちの一人だった。
それまでは北の、マルティア国との境目にある領土で生活をしていた。
デレははるかな昔、まだ母親が生きていた頃にそのお城を訪ねたことがあったのである。
まだ父親である国王が、外の世界を恐れていなかった頃。
|゚ノ ^∀^)「懐かしいわね。本当に」
446
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:00:59 ID:X94qherQ0
3年前に入ってきた人たちの入城理由は多々ある。
彼女のように、辺境の領土から越してくる者は多かった。
大概に置いてラスティア城の方が生活しやすく、活気もあったからだ。
より裕福で暮らしやすい生活をしたい。
それは人間の本能であり、決して悪いことではない。
でも、貴族の人たちは表立ってそんなことは言えない。
ショボンの身を案じてとか、世間の中心に立ちたいとか
好き勝手に建前を述べる必要があった。
このレモナにしろ、例外ではない。
そしてそのような人たちは、デレにとって心を開く対象にはなりえなかった。
|゚ノ ^∀^)「そうだ、私の息子もだいぶかわったのよ。
ちょっと呼ぶね、おーい」
元気よく、レモナが声をかける。
パーティ会場の隅の方に、青年が座っていた。
彼がレモナの息子なのだろう。
(-_-)「……」
青年は、レモナとは対照的に物静かだった。
悪くいえば暗い。レモナと並んでも、とても親子とは思えないだろう。
447
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:01:57 ID:X94qherQ0
そして何より、その青年を見かけたことは今まで無かった。
3年間生きていてである。
よほど表に立たない人なのだろうか。だとしたら自分以上だ。
彼が近づいてくる間に考えたが、やはり思い出せない。
ζ(゚ー゚*ζ「えっと……ごめんなさい。
以前お会いしたのかもしれないけど、もしかしたら私、忘れちゃったかも」
|゚ノ ^∀^)「ああ、いいのよ。本当に小さいときの話だし
あれからこの子もだいぶ変わったからね」
そう言って高らかに笑いだす。元気な人だ。
やってきた静かな青年がますます対比されて映し出される。
|゚ノ ^∀^)「ほら、ヒッキー、挨拶しなさい」
催促されて、ヒッキーは頭を下げる。
しかしそこから言葉は続かず、そのままパーティの席へ戻ってしまった。
レモナが腰に手をついて溜息をつく。
|゚ノ ^∀^)「あの子もねえ、どうも人見知りなところがあるから。
とても引っ込み思案だし、困っちゃったなあ。勉強はできるんだけどねえ」
軽く愚痴をこぼすレモナ。
それからデレとショボンに手を振って、別の場所へと行ってしまった。
448
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:02:58 ID:X94qherQ0
その背中をしばらく見ていたデレ。
やがて目線を手元のグラスに移した。
ζ(゚ー゚*ζ「あら、もう飲んじゃってたのね」
(´・ω・`)「ついでこようか?」
ζ(゚ー゚*ζ「さすがに平気よ、これくらい自分でやるわ」
微妙に顔を引きつらせながら、デレはショボンを手で払う。
ζ(゚ー゚*ζ「まったくもう、いつまでも子ども扱いして」
(´・ω・`)「そうかな? いやあ、ごめんね」
そう言ってとぼけた顔をする。
デレはまた口元を押さえて微笑み、それから飲み物を探しに歩いた。
宴会はますます賑やかになっていく。
大人たちはお酒が回り、声の音量が少しずつ大きくなっていく。
子どもも数人混ざっていたが、彼らもその雰囲気に巻き込まれ、上気してきていた。
449
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:03:58 ID:X94qherQ0
ミセ*゚ー゚)リ「あ、王女! 飲み物をお探しれすか!」
ジュースのグラスを持とうとしたところで、メイドのミセリに呼びかけられる。
そもそも彼女は王女専門の付き人のはずだが、いつの間にか宴会そのものに参加していたらしい。
ζ(゚ー゚*ζ「お探しというか、今ちょうど飲もうとしていたところなのだけど」
ミセ*゚ー゚)リ「そうれすか! これはうっかりしれした! えへへ」
デレは得体のしれない不安を感じた。
明らかにいつもの様子と違う。
いや、いつもどこかしらおかしな人なのだけど、今日は格別に違っている。
頬は赤いし、ろれつも回っていない。
目の焦点もあっていない。
ζ(゚ー゚;ζ「……ミセリ、あなた酔ってるの?」
ミセ*゚ー゚)リ「ふぇ? ジュースしか飲んれないはずなんれすけろ、なんれそんなことg」
言葉が中断されたのは、ミセリの側頭部を強烈な一撃が見舞ったからだ。
ミセリの身体は丸いテーブルに突っ伏し、ぴんと伸ばされた何者かの手だけが残る。
450
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:05:00 ID:X94qherQ0
(゚、゚トソン「お見苦しいところをお見せしました。王女」
手を引っ込めたのは、髪を結わえた清楚な女性。
流れるような動きでデレに頭を下げた。
ζ(゚ー゚*ζ「あら、メイド長のトソンさん。
あなたもパーティにいらしていたの?」
(゚、゚トソン「はい。国王陛下と王女のためもありますし
後輩だけに任せておくのが不安でしかたなかったものですから」
トソンはそう言って、一瞬突き刺すような睨みをミセリの後頭部に向けた。
顔はすぐに元の清らかなものに戻ったが、デレはわずかに聞えた舌打ちを聞き逃さなかった。
(゚、゚トソン「……ミセリ?」
首を傾げてミセリの頭を叩くトソン。
結構大きな音がしたが、ミセリはちっとも動こうとしない。
トソンは顔をミセリに近づけて確認する。
451
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:05:59 ID:X94qherQ0
(゚、゚トソン「……こいつ」
小さくトソンがぼやく。
ζ(゚ー゚*;ζ「ね、ねえ。ミセリは大丈夫なの?
打ちどころが悪かったとか」
(゚、゚トソン「いえ、そんなんじゃ決してありません。
寝てるだけです。すいません。今すぐ連れ出します」
そういって、トソンはミセリの腕をぐいっと持ち上げた。
真っ赤なミセリの顔が露わになる。
ζ(゚ー゚*ζ「……ずいぶん飲んでいたのね」
それはそれは酷い顔だった。
思わず口を手で押さえ、でもまじまじと彼女を見ながら呟いた。
呼吸はちゃんとしているので、トソンの見立て通り、彼女は寝ているだけのようだ。
(゚、゚トソン「よっと」
トソンはミセリの腕を肩に回した。
酔い潰れた後輩を居酒屋から連れ出す上司そのものであった。
452
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:06:59 ID:X94qherQ0
(゚、゚トソン「王女、ミセリは何かご迷惑をおかけしていませんか?」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
トソンがそんなことを突然言うものだから、デレはきょとんとした。
(゚、゚トソン「この子もまだここに来て日が浅いうちに
王女の付き人になってしまったし、最初から不安はあったのです。
もしご不満があるようでしたらすぐに別の者に変える準備はできていますが」
ζ(゚ー゚*;ζ「いえ……いえいえ、そんなことはないですよ!」
思わずデレは大きな声を出しそうになる。
ζ(゚ー゚*ζ「ミセリは本当によくやってくれています。その、一生懸命に」
(゚、゚トソン「こんなんでもですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「それは……」
真っ赤なミセリを見ていても、何も思い浮かばなかった。
でも、とにかく言い繕おうとデレは口を開く。
ζ(゚ー゚*ζ「それはおいといて、包括的に見てです。
だいたい、歳が近いメイドをつけるように頼んだのは私です。
去年から、本当にミセリにはお世話になっていますよ」
453
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:07:59 ID:X94qherQ0
去年の夏、それまでデレの専属の付き人であった方が高齢のために退職した。
その抜けた役職を決める際に、デレはなるべく若い人を呼ぶように頼んだ。
そこでその年の従者見習いのうちで優秀な生徒から付き人を公募した。
デレ自身はその選ぶ場にいなかったが、その結果としてミセリが当選したのである。
(゚、゚トソン「そうですか。何分この子はまだまだ未熟な点があったので不安でしたが……」
まだトソンが納得のいかない顔をしていたので、デレは言葉を続けた。
ζ(゚ー゚*ζ「でも、たとえ成熟していなくても、見ていて楽しいですし
そういう親しみやすさって大事だと思いますよ」
デレはそういって、寝ているミセリに笑いかける。
ζ(゚ー゚*ζ「歳も近いし、話し相手にもなってくれるし
私はミセリで満足しています。そう不安に思わないであげてください」
不思議とお願いする形になってしまった。
トソンもまたミセリを見る。
少しだけ、笑みを漏らしていた。
(゚、゚トソン「わかりました。王女が言うならば、仕方ないです。
本当に、王女はお優しいのですね」
454
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:09:08 ID:X94qherQ0
瞬間
思考が止まった。
お優しい
数秒にも満たない間だったが、
そのワードはデレの鼓膜を刺激し、
身体の動きも鈍る。
455
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:10:00 ID:X94qherQ0
(゚、゚トソン「?」
トソンが目を瞬かせる。
疑問符を浮かべている。
咄嗟にデレは首を横に振った。
ζ(゚ー゚*;ζ「なんでもないですよ! なんでも。
早くミセリを介抱してあげてください」
(゚、゚トソン「あ、はい!」
急かすデレに促されて、トソンは軽々とミセリを運んでいく。
その場に残ったデレは、そっと自分の胸を触った。
鼓動がすっかり高くなってしまっている。
デレは息を吸い、長く吐いて、呼吸を整えようとした。
456
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:10:58 ID:X94qherQ0
トソンは不思議に思っただろうか。
どうかそんなことは忘れてしまってくれ。
デレは必死にそう祈った。
少しずつ、呼吸が落ち着いてくる。
自分の脈拍が正常に戻っていく。
ζ(゚ー゚*ζ「こんなんじゃだめ……」
誰にも聞えないくらい小さな声で、デレは呟いた。
自分に言い聞かせるために。
胸に置いた手のひらが、自然と拳を作り出す。
力が籠る。結びなれていない歪な拳。
でも、痛みは感じない。
もっともっと、強くあらねば。
あの程度で動揺していてはいけない。
どこから綻ぶかわからないのだから。
457
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:11:58 ID:X94qherQ0
瓶を握り、手持ちのグラスに注ぐ。
その飲み物を一気に飲み込んだ。
果汁の香りの混じった吐息。
グラスを置いて、目を閉じた。
こうしてデレは気合を入れようとしたのである。
しばらくは呼吸を整えるのに時間を割いた。
なぜだかなかなか脈がもとに戻らない。
「大丈夫ですかな」
声をかけられる。
落ち着いた、大人の声。
デレは反射的に顔を上げた。
( ФωФ)「私ですよ」
目の前にいたのは、衛兵隊長のロマネスク。
以前父に紹介されてから、知り合いだった。
458
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:13:01 ID:X94qherQ0
ロマネスクはグラスを掲げ、猫のような目をデレに向ける。
( ФωФ)「楽しんでおられますかな」
デレは答えなかった。
その代わり、彼を睨み据える。
その表情を見てから、ロマネスクが「やれやれ」と残念そうな声を出した。
( ФωФ)「おられないみたいですな」
ζ(゚ー゚*ζ「おかげさまで」
デレは短く畳みかけた。
目は変えず、首だけを動かしてなおのこと勢いをつけていた。
ロマネスクは虚を突かれたようで、微かに肩を震わせている。
それから、彼は目を細めた。
猫が知らない人を見るとき、相手を品定めするように。
459
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:14:00 ID:X94qherQ0
( ФωФ)「小娘め……」
他の人には伝わらないように、細心の注意を払って出した声だろう。
デレだけの耳に、それは届いた。
それをうけて、デレが鼻を鳴らす。
勢いづいていたためか、強気な態度になる。
ζ(゚ー゚*ζ「そんな言葉、私に向けていると牢屋に連れて行かれますわよ?
特にあの偏愛なお父様は黙っていないでしょうね」
すると、ロマネスクは不可解そうに眉を寄せた。
それから嘆息をもらす。
やがて口を開こうとするも、デレの指がその前に立たされる。
ぴんとのびたそれを、寄り目で見て、それからロマネスクはちらっとデレを向いた。
デレはにたりと顔をゆがめてその目線を受け止めた。
ζ(゚ー゚*ζ「私の腕の傷のこともまだ言わないんだから、感謝しなさい。
これだけでもあなたを虐め抜くには十分すぎるんじゃありませんこと?」
460
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:15:00 ID:X94qherQ0
そう言い切って、デレは指をロマネスクの口から離した。
ロマネスクは目を閉じ、肩を落とす。
側頭部に微かな汗があったが、それを拭った。
(;ФωФ)「……なんだかずいぶんと変わりましたな。
あなたがそんな態度を示すとは、いやはや、何が何だか……」
やや言葉を選んだ様子で、感想を述べてくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「そう? ありがとう。これであの人も喜ぶわ」
今度は無邪気な笑顔を浮かべ、デレが言った。
なぜだか不思議と気分がいい。
今なら好き勝手になんでも言える気がする。
ロマネスクはテーブルの上の瓶をつかむ。
ラベルには洋梨が描かれている。
グラスに半透明の液体が注がれた。
ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、あなたに頼みたいことがありましたのよ」
注ぎきるのを待ってから、デレが提案した。
ロマネスクは数秒だけ顔をゆがませる。
461
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:16:00 ID:X94qherQ0
(;ФωФ)「……断らせない気ですな」
ζ(゚ー゚*ζ「このお城を追放されたくなければ」
(;ФωФ)「……わかりました。
何ようですかな? あまりに突飛なことはできませんが」
ζ(゚ー゚*ζ「おそらく適役よ」
ロマネスクはデレの話に備えて、飲み物を一気に飲み込もうとする。
( ФωФ)「……ぬ!」
途中で止まり、ロマネスクが口をおさえる。
( ФωФ)「これはお酒ですな。
洋梨のジュースかと思ったのに、すっかり騙されてしまいました」
ζ(゚ー゚*;ζ「…………え?」
☆ ☆ ☆
462
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:17:00 ID:X94qherQ0
新嘗祭まで、あと1週間
朝早く
城下町中央広場
ブーンはお城を早々に出てきていた。
一週間ぶりに『三匹のカエル』に向かうために。
目的は、ある提案をするためだ。
( ^ω^)「お?」
噴水の前で足を止める。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从ト「あかねさす〜」
いつか見た魔人の迷子だ。
噴水の傍で座りこんで、何事かを歌っている。
463
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:18:01 ID:X94qherQ0
それは聞いたことのない文字だった。
きっとこの国のものではない。
もっとずっと、どこか遠くの国の言葉のように思われる。
(〆 ヽ)
从´ヮ`从トそ
少女とブーンの目があう。
はっとしたように、少女は反応して、それからさっさと走って行ってしまった。
( ^ω^)「なんだったんだお?」
あの子は毎日この噴水にきているんだろうか。
少しだけ考えたが、今は用事もある。
早く酒場に向かうことにしよう。
黒猫に横切られたのでもないし、不幸になるわけでもないだろう。
464
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:19:01 ID:X94qherQ0
朝8時半
『三匹のカエル』の扉を叩く。
わずかに開かれる。
('A`)「……早いな」
ドクオが小さな声で言う。
顔色は悪い。朝に弱いせいもあるし、話し合いが長引いているのだろう。
( ^ω^)「早く伝えたいと思いまして。
提案があるんですお」
('A`)「本当か?」
眉根を寄せるドクオ。
それに応じ、頷くブーン。
('A`)「……よし」
ブーンはほっとし、足を進めようとする。
('A`)「あっと、ちょっとまって。
ひとつ気になったことがあるんだが、最近魔人と会わなかったか?」
( ^ω^)「……え?」
465
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:20:02 ID:X94qherQ0
('A`)「ちょっとな、気になって」
ドクオは鼻を指さす。
魔人か人間か判別することができる鼻。
ああ、とブーンは納得する。
( ^ω^)「それなら、たぶん会いましたお。
町にやってきてる魔人に何度か」
ブーンが頭に思い浮かべていたのは、先程噴水で会ったあの女の子だった。
('A`)「やってきてる?」
( ^ω^)「まあ、特に危害のある魔人とは思えなかったですお」
('A`)「……そうか。うん、まあいい。今は作戦のことを考えよう」
やや納得のいっていない表情のドクオであったが、ようやくブーンを招き入れてくれた。
466
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:21:01 ID:X94qherQ0
そうして、この日
ある作戦が敢行された。
都合上、ここでは先に時間を進めるとしよう。
☆ ☆ ☆
467
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:21:58 ID:X94qherQ0
同日 夜8時
ラスティア城、2階
会議室
今日はパーティではない。
新嘗祭へ向けての最終調整だ。
参加しているのは、町長を含めた城下町の代表者、お城の専属の司祭、
国王や王女、それに加えて政務官、執務官を含む各種大臣だ。
なぜ政治関係の人々も参加しているかといえば
この祭には他国からの使者も来賓として招かれることになっていたからである。
特に、ラスティア国は北のマルティア国との親交が深くなっている。
数年前にマルティア国から王女の誕生日を祝われて以来の付き合いだ。
ショボンの方からも何度も顔を出し、とある交渉を進めている最中なのである。
今回は日取りが急に変更になったため、他の国から来賓がくるかはまだ判断しかねる状態だったが
ラスティア国としてはどうしてもマルティア国王には参加してもらいたいと思い
積極的にアプローチを仕掛けていた。
その結果として、今回も今までと同様にマルティア国の王を迎えることになったのであった。
468
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:23:03 ID:X94qherQ0
その話し合いの中、デレはなるべく顔を無表情で保っていた。
真剣な会議であるので、下手に笑みを浮かべても意味はない。
むしろ訝しがられてしまう。
かといって退屈そうな様子を与えてもいけない。
だから顔には何も出さないでおく。
ショボンがデレを会議に参加させるのは、自分の血を受け継ぐ者がデレしかいないからだ。
たとえ将来の王を外から迎え入れるとしても、デレに仕事を知っておいてもらわなければ支障が生じる。
今のうちから学んでおいてもらわなければならないのだ。
しかし、デレはその気持ちの裏側も察していた。
これは自分に対する申し訳なさから来ているのだということを。
積極的に外交に参加させたり、人を触れ合わせたりするのは
今までずっと私を閉じ込めておいてしまったことに対する反省なのだろう。
そう、デレは感じていた。
ショボンはそれを決して口には出さなかったけど。
469
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:24:00 ID:X94qherQ0
その会議室に突然衛兵が走り込んできたのは、会議の終盤にさしかかった頃であった。
(√`ー´)「大変です! 南東の門が魔人に襲撃されました!」
南東の門というのは、基本的に来客が使う門であった。
(;´・ω・`)「何、本当かい!?」
ζ(゚ー゚*;ζ「!?」
ショボンが焦りの色を浮かべ、その場の全員に緊張が走る。
デレとしてもそれは同じ事であった。
(√`ー´)「ええ、それで城下町の代表者の方々の車が襲われまして……」
発言を聞きうけて、来客たちのどよめきはますます大きくなった。
(;´・ω・`)「落ち着いてください! 落ち着いて!」
ショボンが諸手を挙げてその場を治めようとする。
興奮した空気が少しだけ和らいだ。
(´・ω・`)「それで、魔人たちはどうなったんですか?」
470
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:25:07 ID:X94qherQ0
(√`ー´)「はっ! 実はある衛兵見習いがその場にいまして
運よく無事、撃退することができたそうです!」
(´・ω・`)「なんだって!?」
ショボンはテーブルに身を乗り出した。
デレは横からしか見えなかったが、ショボンの目が輝いているのがわかった。
ショボンは昔から、衛兵の功労に目が無い。
それは性格が変わる前から共通していることであった。
以前モララーの武功を異様なほどに称えたのも、その性格ゆえ。
衛兵の情報を聞いて、他の来客たちは先ほどとは別の意味でどよめいている。
そんなことができるとは、いったいだれがやったんだ
感心と同時にその衛兵見習いに対する興味が湧いている。
(´・ω・`)「いったい誰なのかな、その衛兵見習いは。
ぜひお会いしてみたいのだが」
(√`ー´)「はい、ご案内します。
その人物は2年前に入城してきたブーンという若者でして」
☆ ☆ ☆
471
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:26:02 ID:X94qherQ0
ラスティア城 南東門守衛室
(;^ω^)「はい、そうなんですお。
魔人たちは確かに、次は『デレ王女を狙う』と言ってましたお」
南東門での騒ぎの後に、彼はここに連れてこられた。
お城の直接の防衛をしている守衛班の控える部屋だ。
毎晩、常に各門につき4人の衛兵が門の警備に当たる。
2、3時間ごとに1人ずつが門の傍で張り込む。
今夜、ブーンを連れてきたのは南東門の警備をしていたうちの1人であった。
(√`△´)「次は王女を、か……なかなか不穏な言葉だ」
衛兵はそうボヤいた。
(√`△´)「その魔人、お前が追い払ったあとはどうしたんだ?」
( ^ω^)「ものすごい勢いで走って逃げましたお。
衛兵さんもご覧になられたんじゃないですかお?」
(√`△´)「確かに、何やらすばしっこい影が走っていくのは見かけたな。
あれが魔人だったのか……」
472
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:27:00 ID:X94qherQ0
衛兵は報告書にいくつかを書き込み、それから羽ペンをくるくるとまわしはじめた。
ブーンを連れてきてからすでに20分は経過している。
追求の声もとぎれとぎれになってきている。
そろそろ終わりなのではないか、とブーンが思い始めた頃だった。
守衛室の扉がノックされる。
(√`△´)「何用だ」
警備の衛兵は扉に向けて言う。
扉が開かれ、また別の衛兵が顔を出した。
(√`ー´)「国王様より伝言で、早急に報告をするようにと。
それと、ブーンを連れてこいとのことです」
(√`△´)「なに、こいつもか?
うーむ、国王の命令ならばしかたない」
そう言って、警備の衛兵がブーンを手で促す。
はやくいけ、とのことらしい。
( ^ω^)「それでは、失礼しますお」
丁寧に頭を下げ、ブーンはその場を後にした。
後から入ってきた衛兵に連れられて。
473
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:28:00 ID:X94qherQ0
まさかいきなり国王に接見できるとは思わなかった。
だから、いささか緊張もしている。
(√`ー´)「お前は2階の会議室に連れて行く。
先程まで客人たちが来ていたのだが、すでにお帰りとなった。
国王はその場に残ってお前の帰りを待っていたのだ」
( ^ω^)「そんなことまで……」
(√`ー´)「それに、国王だけではないぞ」
( ^ω^)「え?」
どういうことですか、と聞こうと思ったときに、衛兵は歩みをとめた。
観音開きの扉がある。会議室の入口だ。
ブーンは口を閉じた。
どうせ扉が開いたときにわかる、そう思ったからだ。
扉が開かれる。
中の光景が明らかになった。
474
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:29:00 ID:X94qherQ0
(´・ω・`)「やあ! 君がブーンくんだね!」
途端に、目の前で大御所が手を振ってきた。
不意打ちだったので、面を食らってしまう。
(;^ω^)「あ、はいですお……」
おずおずと頭を下げる。
ショボンは大きな声で笑って返してきた。
(´・ω・`)「硬くならなくてもいいよ、僕は君を称えたいんだ。
君、報告書をこっちに」
ショボンが衛兵を指さした。
衛兵はすぐに歩んでいき、報告書をショボンに渡す。
その間に、声をかけられた。
475
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:30:01 ID:X94qherQ0
「お久しぶりね」
ちょうど、扉の陰に隠れた場所からだ。
誰かがいるのだとわかり、ブーンは慌てて扉を閉めようとする。
(;^ω^)「あっと、気付かなくてすいませんですお」
見えてもいない相手にぺこぺこと頭を下げる。
だけど、その姿が見えてきたとき
頭を動かしている余裕すら、ブーンには無くなっていた。
(;^ω^)「あ……」
ζ(゚ー゚*ζ「もう2カ月ぶりかしら」
デレがわずかに首を傾けて、微笑んでくる。
ブーンは顔を引きつらせた。
記憶がフラッシュバックする。
476
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:31:01 ID:X94qherQ0
南の山の事件。
モララーのこと。
その首の前でしゃがみこむデレ。
お城に近づいて、また会える機会はあるだろうかと思ったこともある。
まだ彼女のことを疑いきれていなかったから。
でも、こうして実際に目の前にすると
身体は硬直する以外の反応を示さなかった。
受け入れるわけでも無く、拒否するわけでもない。
じっと相手の出方を伺ってしまう、待ちの姿勢。
ζ(゚ー゚*ζ「……モララーさんのことかしら」
(;^ω^)「え」
477
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:32:00 ID:X94qherQ0
いきなりその名前が出てきて、ブーンの神経が緊張する。
その目の前で、デレは首を左右に振った。
ζ(゚ー゚*ζ「あれから一度もお会いできなかったけど
きっとあなたもショックを受けたと思うの。でも、今は緊張しないで。
ここでは魔人も何もいないし、安心してね」
そういって、デレははにかんで見せた。
どうやらブーンがあの日のことを思い出して怖がっていると思ったらしい。
ああ、そうか。彼女は僕が起きていたことを知らないんだ。
ようやくそのことに思い至り、ブーンは急いで体面と取り繕う。
(;^ω^)「あ、ありがとうですお。
そう言ってもらえると安心できますお」
ブーンは頭をさすって、俯き加減になって頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「そう? 良かった。
お父様はあなたのことを呼んでるの。こっちにきてね」
デレはブーンを手招きする。
その目はブーンの目線とぴったり一致していた。
478
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:33:00 ID:X94qherQ0
その瞳を、ブーンも見つめ返す。
妙な気がした。
恐怖とはまた違う。
デレの和らいだ目線の奥に、とても真剣なものを感じた。
笑っているのに、目は真剣。
そんなことってあるだろうか。
いったいどうしたらそんな顔になるんだろう。
その妙な引っかかりは、一瞬だけで終わった。
デレが国王の方を向いてしまったからだ。
( ^ω^)「あ、いきますお!」
デレの後をついていく。
ちょうど国王も報告書を読み終わったらしく、顔をあげていた。
衛兵に帰るように指示している。
479
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:34:00 ID:X94qherQ0
衛兵が外に出る。
扉も閉まる。
(´・ω・`)「驚いたよ」
まずそう言われた。
(´・ω・`)「君はデレを助けようとしたんだね」
デレを狙う魔人を追い払った。
そういう意味では、助けたともいえるかもしれない。
( ^ω^)「そうですお」
ブーンが言うと、ショボンは大きく頷いてくれる。
(´・ω・`)「ありがとう。
なんだか君を見ていると、モララーくんを思い出すようだよ」
またあの人の名前だ。
そういえば、モララーがデレ王女を助けた話を聞いたことがあった。
あの人が昇進した理由でもある。
480
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:35:00 ID:X94qherQ0
(´・ω・`)「君には恩ができたようだ」
ショボンが身振り手振りで、ことの大きさをアピールする。
(´・ω・`)「どうだい、君の望むものならできる限りあげるよ。
この国でもっとも権力のある私なら、大抵のものをそろえることができるだろう。
なんなら衛兵にしてあげてもいいくらいだ」
(;^ω^)「い、いいんですかお?」
(´・ω・`)「いいんだとも。君はそれだけのことをしてくれたんだ。
私にとって、命よりも大事なデレのことを守ってくれたのだから」
ブーンは顔を俯かせた。
しばらくの間沈黙する。
顔に冷や汗を浮かばせて。
その間、ショボンもデレも、静かにブーンに注目していた。
( ^ω^)「……ひとつだけ、希望があるんですお」
(´・ω・`)「なんだい? 衛兵になるかい」
( ^ω^)「いえ、それじゃなくて……あの」
481
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:36:01 ID:X94qherQ0
ブーンは慎重に、言葉を切る。
ちらっとだけ、デレの方を見て、それからショボンの方を向く。
( ^ω^)「新嘗祭の日、僕をデレ王女の監視役にしてほしいんですお」
比較的すらすらと、ブーンは言ってのけた。
その場がしんと静まり返る。
嫌な沈黙だ。
ブーンはじっとショボンの顔を見た。
ショボンの方は小さく頷いて、「ほうほう」とだけ言っている。
デレの方はわからない。
ショボンの方を見るので精いっぱいだったからだ。
もしこれで、怒ったような顔をしていたら
自分は今度こそデレに近寄れなくなるだろう
そんな恐怖が心の奥にあるのも確かなことだった。
(´・ω・`)「ふうむ、そうしたい気持ちはなんだね」
質問が帰ってくる。
ブーンの心臓が拍動を速めた。
(;^ω^)「……今回の魔人はまた現れる可能性が高いですお。
それに、新嘗祭はお城の衛兵のうちのかなりの人数を国王や他国の来賓のために使わなくちゃなりませんお。
だからお城の警備が手薄になってしまいますお。そこをしっかり守っていきたいんですお」
482
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:37:01 ID:X94qherQ0
やや早口気味に、ブーンは理由を述べた。
ショボンは手の甲を口につけて、「ううむ」と唸る。
(´・ω・`)「こういうときの王女の警備にはいつも人間を使わず、魔人で済ませていたのだが……
人間に監視させるとどうもデレが嫌がるものでね」
ブーンの頭が白くなっていく。
もしデレが嫌がるのであれば、きっとブーンの要望は通してもらえない。
(´・ω・`)「だから、デレの意見も聞きたいんだけど」
ショボンが目線をブーンからデレへと移していく。
ブーンはそれを追わず、ただ下を向いていた。
ブーンの拳が握られる。
緊張のためだ。
483
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:38:00 ID:X94qherQ0
彼女の判断に全てがかかっている。
どうか、上手くいってくれ。
せっかくここまで計画どおりなのだから。
☆ ☆ ☆
484
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:39:00 ID:X94qherQ0
少し時間を遡る。
新嘗祭1週間前のこの日、朝の9時
酒場『三匹のカエル』開店前
この日まで、レジスタンスはずっと作戦を練っていた。
あのモララーの剣を取り戻すため、いかにしてお城に忍び込むか。
お城の警備兵は各門に4人。
それに、一旦見つかってしまえば警戒を強められてしまう。
もし強化されればもう入ることはできなくなってしまうだろう。
だから、警備兵を一挙に出し抜く方法が要る。
その方法は、どうするか。
(;^ω^)「思いつきましたお!」
お店に入ってきたばかりのブーンが勢いよく手を挙げる。
昨晩から集まっていたレジスタンスのメンバーの目が光る。
ブーンに視線が集中した。
485
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:40:11 ID:X94qherQ0
すでにブーンの座学の成績が優秀であることは知れ渡っていた。
それに、ヒートと追いかけっこをしたときから、彼の閃きが役立つことも分かってきた。
だから、自然とみんなの期待が高まっている。
ブーンはそれを感じながら、話した。
(;^ω^)「外からじゃどうやっても限界があるんですお。
衛兵といっても簡単に倒せるわけでもないんですお。
だから、内側に仲間を仕込んでおくんですお」
('A`)「仲間?」
( ^ω^)「そうですお。まず、ドクオさんはまだ衛兵の服が残ってますおね?」
('A`)「ああ」
( ^ω^)「それと、ジョルジュも」
( ゚∀゚)「え? あー……たぶん……」
それを聞いて、ブーンは一回深く頷く。
( ^ω^)「5人中3人が衛兵のふりをできる。
これは活用するべきですお」
486
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:41:00 ID:X94qherQ0
( ^ω^)「その方法は後で教えるとして、前段階で僕が国王から信頼されていることが必要ですお。
国王に信頼される人間になれば、衛兵だって無視できなくなる。隙を突くチャンスが生まれる」
ノパ⊿゚)「簡単に言うけど、信頼なんてそう簡単にしてもらえるの?」
( ^ω^)「ひとつだけ、知っているんですお。
あの国王にとって最も大切なもの、それは王女ですお。
僕らの手で力を合わせて狂言を設定するんですお、王女を狙う魔人が現れたという振りをして」
( ^ω^)「それで、その魔人を僕が追い払うんですお。
上手くいけば、僕は国王に感謝され、取り入ることができるんですお。
これが今朝、僕の思いついた作戦ですお」
('A`)「なるほど、モララーが衛兵になった理由を利用するというわけか。
王女を助けて国王に認められ、それで昇格できたという」
( ^ω^)「着想はそこですお」
ブーンはそう言って、次にシュールの方を向いた。
(;^ω^)「シュールさん、次に国王が会議を開くときがいつかわかりますかお?
たぶんお客さんがいるときならデレ王女も会議に参加しているから
彼女を狙って襲ってきたという設定に説得力が増すんですお」
lw´‐ _‐ノv「今日」
シュールが即答する。さすがの情報力だ。
487
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:42:00 ID:X94qherQ0
と、同時に彼女はにやりと笑う。
lw´‐ _‐ノv「今日、やっちゃおう」
(;^ω^)「え、ほんとですかお? 準備とか」
( ゚∀゚)「大丈夫だって。聞いてみた感じだと問題はなさそうだった」
ジョルジュが組んでいた腕を解いて、上に伸ばす。
( ゚∀゚)「そうと決まれば今から準備だ!」
それから、細かい点は準備をしつつ決めていった。
時間が無いのだから、面倒なことはしない。
魔人のように見える衣装を即座にシュールが作り
逃げ足の速いヒートが魔人っぽい演技を練習する。
ドクオとジョルジュが話し合い、決行場所を決める。
南東の門、そこに客の荷物が集中している。
まずその荷物を狙い、捨て台詞で王女を狙うと吐く。
そうすれば客も帰るだろうし、国王も心配する。
488
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:43:00 ID:X94qherQ0
お店は閉められたまま
その中ではみんなが騒がしく準備を進めていった。
そろそろお店の運営はあぶなくならないのかな、とも思うくらいに。
ブーンはその間、思った。
これが上手くいけば、僕は王女を救うために頑張ったことになる。
それだけの功績が残れば、ツンだって納得してくれるんじゃないか。
あの猜疑の瞳を僕に向けてくるのをやめてくれるのではないか。
そうなれば、自分としては助かる。
一石二鳥だ。
レジスタンスのためにもなり、自分のためにもなるのだから。
と、そこまで考えたとき、別の目的も頭に浮かんだ。
デレのことだ。
お城に忍び込めば会えるかもしれない、その真意を知ることができるかもしれない
そう思っていたことは確かだ。
もしうまく付け入る隙があれば、なるべくデレに近づける方法を選ぼう。
もしもそんな選択ができればだけど。
この件に関しては、さすがにブーンも希望的観測しかもっていなかった。
489
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:44:04 ID:X94qherQ0
夜7時半
ラスティア城 南東門前
建物の建物の隙間に、人影が二人分
.ワ''""''フ
ノパ⊿゚)「よし、誰もいないな」
( ^ω^)「……ものすっごいふわふわしてますお」
.ワ''""''フ
ノパ⊿゚)「動物なら問題ないさ。ほら、やるぞ」
南東の門の前の通りに踊りでる。
門までは100メートルほどの距離だ。
(;^ω^)「うわあああああああ!!」
できるだけの情けない声を、ブーンは張り上げた。
門の傍でじっとしていた衛兵が身構え始める。
.ワ''""''フ
ノパ⊿゚)「お城襲っちゃうぞおらあああああああ!!」
さらに大きな声が響く。
周りの住民にもきっと聞えただろう。
490
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:44:59 ID:X94qherQ0
「な、なんだ、どうした!」
門番の慌てる声がする。姿もわずかだが見える。
ブーンはそれを確認してから、木刀を構える。
(;^ω^)「くらえお!!」
振りかざした木刀は、正しく空を切る。
それでもヒートは迫真の演技で負傷したように見せてくれた。
そのやり取りがもう二回ほど起きた。
これ以上やれば衛兵がこちらに飛んできてしまうかもしれない。
.ワ''""''フ
ノパ⊿゚)「くそお、次は王女を狙ってやるから覚えとけ!」
指をびしっとお城に向けたのち、ヒートは全力疾走で町を駆けていく。
衛兵だってちゃんとは見えないだろうに、凝った演技をしてくれる。
その後ろ姿はもはや魔人そのものであり、
あの本気の走りにはとても追い付けないとブーンは思った。
(√`△´)「お、おい君、大丈夫か!?」
ちょうどよく、衛兵が駆け寄ってきてくれた。
これで、上手くいった。
ブーンはそう安堵し、なるべく顔に恐怖の表情を浮かべて衛兵に向かい合った。
491
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:46:04 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「お、追い払いましたお!!」
興奮しているからこそ、できる演技だ。
緊張はする、でもそれを超えて
自分の作戦が成功する昂揚感を、ブーンは確かに感じていた。
それからは流れに身を任せた。
衛兵が質問してきて、ブーンはあらかじめ用意してきた設定を語る。
そして、客人を狙い、王女の命を狙う魔人像が出来上がったときに、国王に呼び出された。
これで国王に取り入れる。
もうその時点で作戦は終わったようなものであり、あとは適当に流していればよかったのだ。
彼からの信頼は得られたのだから。
それゆえに、会議室に入ってからデレと直接出会うことになったのは完全に誤算だった。
まさかこんなところで、こんなときに、再会することになるなんて。
☆ ☆ ☆
492
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:47:12 ID:X94qherQ0
デレの傍になるべくいられるようにする。
部屋の中に当の本人がいるものの、このチャンスを逃したくはなかった。
とはいえこの打診は、上手くいけばいいという程度のものだ。
もしダメでも、作戦に支障はない。
門番をしている衛兵になれるだけの身分にはすでになったはずだ。
国王から注目されるという当初の任務は果たしたのだから。
でも、もし上手くいくなら、王女の傍にいたい。
そして彼女の真意を知りたい。
レジスタンスの目的を超えて
自分の興味から、ブーンはそう願っていた。
(´・ω・`)「……デレ?」
ショボンが答えを催促している。
ブーンは顔を少しだけ動かす。
怖い怖いとも言っていられない。
いい加減に、デレの方を見ようとした。
493
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:48:00 ID:X94qherQ0
ζ(゚ー゚*ζ「いいですよ」
言うときは、あっさり。
まるでさっきまでの沈黙が、何でもなかったとでもいうように。
ブーンはようやくデレの方をはっきりと向いた。
彼女は相変わらず柔らかい目をブーンに向けてくれていた。
ζ(゚ー゚*ζ「彼はね、あのモララーさんの大切な後輩だったのよ」
デレが父親に説明する。
国王が息をのむ音がはっきりと聞えた。
(´・ω・`)「なんだって、あのモララーくんの!
それを早く言いなさいよ!」
ショボンがはしゃいで、椅子を叩いた。
ブーンはそれを、目を丸くしてみた。
入れ込んでいるとは聞いていたものの、ここまで極端に反応が変わるとは。
(´・ω・`)「それに、デレも彼が警備することを認めるんだね。
だとしたら、僕はもう言うことはないよ」
494
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:49:00 ID:X94qherQ0
ショボンはもう考え込む顔をやめてくれた。
ブーンはほっとする。
ここまで上手くいっていいのかと思い、溜息が洩れそうになる。
( ^ω^)「あ、ありがとうございますお!!」
勢いよく、頭を下げた。
国王に向け、その後、デレにも下げる。
心のうちでは、その間に何回ものガッツポーズをしていた。
明日にでも手紙を出してレジスタンスのみんなに報告しなければ。
新嘗祭までになんとかあと一度でも休暇を取り、作戦を練らないと。
大まかには考えているものの、まだまだ詰めが甘い。
みんなと準備する必要もある。
あの剣を取り戻すための、大掛かりな潜入奪還作戦を。
☆ ☆ ☆
495
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:50:01 ID:X94qherQ0
ζ(゚ー゚*ζ「詳しいことは後でお知らせするって」
デレがそういってくれたのは、会議室を出た廊下だ。
国王は大臣の部屋に向かって行ってしまった。
明日にでも再び会議を開くらしい。
ただ、今度はデレを参加させないでの会議になりそうではあった。
ζ(゚ー゚*ζ「といっても、お部屋の前にいればいいからね」
デレがそう付け加える。
どこからどう見ても普通の少女だった。
( ^ω^)「はいですお。精一杯努力しますお」
定型的なセリフ。
ここで唐突に、デレの真意など聞いても上手くいかないだろう。
なんとか、そのチャンスは彼女の監視をしているときに見つけなればならないはずだ。
だから、この場は静かに去り、寄宿舎へ帰ればいい。
ブーンは逸る気持ちを抑えた。
496
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:51:01 ID:X94qherQ0
二人はゆっくり歩んでいく。
見た目が完全に普通の少女だからといって、100%信用できるわけではないだろう。
でも、少なくともブーンの前にいる少女は今
単純に、ブーンにどんな言葉をかけていいか悩んでいるだけのようにみえた。
疑ってばかりもいられない。
自分だってぼろが出ないようにしなければ。
自分はあのとき眠っていたことになっている。
デレを疑う気持ちがあるなどと、デレに思わせてはいけないのだ。
階段を降りていき、1階へ。
まっすぐに歩めば、玄関。
南東の門に一番近い場所。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、ブーンさん」
デレが声をかけてくる。
( ^ω^)「なんだお?」
497
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:52:02 ID:X94qherQ0
ブーンが返事をしても、デレが続きを話すまでに時間がかかった。
ζ(゚ー゚*ζ「……何かあったら、ちゃんとくまなく探してね」
それをいうと、デレはすぐに扉に手をかけた。
ζ(゚ー゚*ζ「さ、早く行って!」
妙に、急かす。
( ^ω^)「はいですお! おやすみなさいですお」
疑問はあるものの、言われた通りに早く出る。
それから振り向いて別れのあいさつをしようとしたときには、既に扉は閉められてしまっていた。
中途半端に前に出た手が、固まってしまう。
( ^ω^)「……?」
首を傾けながら、しかたなく、寄宿舎へと歩んでいった。
☆ ☆ ☆
498
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:53:22 ID:X94qherQ0
寄宿舎F棟 玄関前
入ろうとした。
そのときだった。
腕を引っ張られたのは。
( ^ω^)「!?」
慌てている暇も無かった。
少しバランスを崩していたら、一気に脇に連れていかれた。
(;^ω^)「だ、誰だお!」
思わず叫ぶ。
目の前にいる人の背は低い。
大きい髪型が見えている。
よく、見たことがある。
499
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:54:04 ID:X94qherQ0
やや欠け始めた月が、その人の姿を映し出す。
(;^ω^)「……ツン」
小さく、名前を呼ぶ。
彼女の黄金色の髪が、月光により青白く輝いて見えた。
彼女は振り向きもせず、ぐんぐんと足を進めていく。
若干ふらついたため、ブーンは寄宿舎の窓にぶつかった。
(;^ω^)「あいたっ」
大きな音が出る。
ツンにだって聞えたはずだ。
それでもお構いなし。
ツンはまったく振り返ろうとしない。
毅然とした歩みが続く。
500
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:54:59 ID:X94qherQ0
そのまま、寄宿舎を通り過ぎ、林の中へ。
いつの日か、ジョルジュを追って入った場所へ。
( ^ω^)「……どうしたんだお」
言いながらも、予想はついていた。
突然知り合いをこんなところに、無言で連れてくるなんて普通じゃない。
絶対に良くないことが起きようとしている。
そんな不穏な予感だ。
やがて、開けた場所に辿りついた。
ツンの手が離れる。
その手が、今度は彼女のポケットに進んだ。
501
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:56:04 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン」
名前を呼んだのち、振り向く。
その腕がポケットから抜かれる。
一枚の紙が、ブーンの前につきつけられる。
三匹のカエルのマーク
そしてレジスタンスの文字
それは、いつの日かパフォーマンスの際に彼らが配布したものであった。
まさか、こんなにも堂々とヒントがあるとは。
油断していたと言うほかなかった。
502
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:57:14 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「……言い訳してみてよ」
ツンが突き刺してくる。
口調からして、端から信じる気もないことがわかる。
(;^ω^)「……」
何も思いつかない。
彼女の目を見ればわかる。
何を言っても無駄なことくらい。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ」
一歩、ツンが詰め寄ってくる。
ブーンは片足を引いた。
こつっと、背中に感触がある。
木だ。
場所からして、追い詰められていたのか。
503
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:57:59 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「……遊んでいた、じゃだめかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。今度は私も納得できないからね」
相変わらず、答えが素早い。
( ^ω^)「……わかったお」
溜息の塊が、口から押し出される。
目を泳がせるも、猛烈な引力を感じる。
ツンの青い目に引き寄せられてしまう。
まったくもって、見ていたくない目なのに。
( ^ω^)「観念するお。
僕はレジスタンスに参加していたお」
正直に言おう。
何を言ってもばれるなら、真実を言った方がいい。
504
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/01(日) 23:59:00 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「でも、これは別に国王に刃向おうって気持ちじゃないお。
実はモララーさんもレジスタンスに協力していたんだお。
あの人への恩義もあるし、それで初めはあの人の後を追っかけている形で近づいたんだお」
(;^ω^)「それに……それにあそこは魔人と立ち向かえるお。
モララーさんを追いこんだのも奴らだお。
もしちゃんとした戦い方を学べば、必ずや国王や王女を守ることにも繋がるお」
(;^ω^)「僕は、立場上微妙な立ち位置かもしれないお。
でも何かを守りたいって気持ちでは変わってないお。
そこはどうか、信じてほしいんだお」
そう言って、頭を下げる。
ξ゚⊿゚)ξ「やめてよ」
瞬時に、切られた。
ξ゚⊿゚)ξ「あたしにそんなかたっくるしいことやめて」
505
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:00:05 ID:osgyY/P20
ブーンは汗を感じた。
自分の頬を伝う。
ツンの顔をゆっくりと見上げた。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……」
彼女は、怒っていなかった。
ただ、悲しそうな顔をしている。
ξ゚⊿゚)ξ「誤解しているよ。
あたしは別に、ブーンが国に刃向うなんて、思っていないもの。
そんなことする人じゃないし」
その声は、酷く痛々しく聞えた。
( ^ω^)「……それじゃ、誤解って、なんだお?」
今度はブーンがツンを見つめる。
506
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:01:02 ID:osgyY/P20
ξ゚⊿゚)ξ「……レジスタンスの目的は?」
いきなりの質問だった。
( ^ω^)「魔人に反対すること、かお」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、あたしもそう思っている」
なんでこんなことを聞いたんだろう。
その疑問は浮かぶものの、ここはツンの言葉を待った方がいい気がした。
ξ゚⊿゚)ξ「あたしはね、違うの。
国家よりももっと別のことで、ブーンを危惧していたの」
そう言って、ツンはブーンから離れる。
開けた場所の真ん中へ。
ちょうど月明かりの下に、彼女はいた。
507
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:02:01 ID:osgyY/P20
彼女はその場でくるっとまわる。
その姿をブーンに見せている。
( ^ω^)「……ツン?」
胸の奥がざわついた。
直感が警戒信号を告げている。
これ以上、ここにいたら逃げられなくなる
なぜだかそう感じた。
何から逃げているのかもわからないのに。
ξ゚⊿゚)ξ「見ててね」
彼女はそれだけ言って
その場に立ち尽くした。
ブーンの目の前で。
508
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:03:09 ID:osgyY/P20
彼女は大きく息を吸う。
瞬きしている、そのうちに
彼女の髪よりもはるかに大きい影が、目の前に現れていた。
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ) 「驚いた?」
斜めに伸び、先が垂れている。
月光に彩られた、ウサギの耳だ。
509
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:04:02 ID:osgyY/P20
( ^ω^)「…………なんの冗談だお」
ぽつりと言う。
笑うこともできない。
こんなときに、さすがにこれは趣味が悪すぎる。
そう思った。
でも、そんなわずかのブーンの希望は
ツンの憂いを帯びた瞳を見たことにより、書き消えてしまった。
510
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:05:00 ID:osgyY/P20
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「……言ってなかったこと、たくさんあるの」
彼女は月を見上げた。
大きな耳の隙間から伸びる、小さな腕。
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「たとえば、私はね、魔人の村から人間の町に出てきた家族の中で育ったの。
凄く、冒険が好きな親でね、いっつも世界を見て回りたいって言っていた。
暮らしていた町の人たちも優しい人でね。一緒に言葉とかも教えてくれたの」
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「人間にはわからないだろうけど、私たちが言葉を覚えるのは大変なの。
口語なら、町にいれば勝手に覚えてくる。でも書き言葉は上手くいかない。
そもそも私たちには無い文化だから、覚えられない魔人もたくさんいるのよ」
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「でもね、私はあの地球儀みたいに、結構頑張って文字の練習した。
おかげですっごい汚い字になっちゃってるけどね。
そんな意味であの地球儀は思い出があったのよ」
511
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:06:03 ID:osgyY/P20
ツンは腕を降ろした。
耳が揺れる。
確かにそれは実体だった。
今度はブーンに近づいてくる。
一歩ずつ、着実に。
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「そんなこともあって、人間の風習をもっと知りたいと思った。
だから身分を偽ってこの寄宿舎に入った。
人間らしい習慣を学んじゃえば、どうってことない。溶け込むのは簡単よ」
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「耳さえしまっちゃえば変わらないんだもの。
私、髪も大きめだったから、ちょっと盛り上がっちゃってもごまかせたし。
契約さえしていなければ、ただちょっと身体が頑丈な人に見える」
足が止まる。
すでにブーンとの距離は詰められていた。
普通に会話する距離よりも、やや狭く。
512
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:07:00 ID:osgyY/P20
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「そんなわけで、うん。ごめんね。
今までずっと騙してた。それは申し訳ないと思う」
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「でも、ね、これならわかるでしょ?
私がレジスタンスに入ってほしくないって言っていたわけ」
そういって、彼女は目を伏せる。
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「確かに人間にとって脅威になる魔人もいるわ。
それは事実、隠しようが無いことだもの。ううん、隠す方が良くない。
だけどオープンにしていたって、偏見はつきまとう」
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「でも、そんな世間の中でも
私たちみたいに人間に溶け込もうとしている魔人は結構いる。
社会に興味があって、人間と一緒に暮らしたいって思っている魔人たちが」
そこで言葉を切った。
顔を上げ、瞳がブーンに向けられる。
そこにあるのは猜疑じゃない。
期待を込めた瞳であった。
513
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:08:00 ID:osgyY/P20
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「どうか、魔人をいっぺんに敵だってみなさないで欲しいの。
それが、私の言いたかったこと。
こんな場所まで連れてきちゃったけど、ね」
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚⊿゚)ヽ)「ブーン……?」
そこで彼女は微笑んだ。
酷く歪んで見えた。
それは、彼女自身がぎこちなく笑っていたせいでもあったし
ブーン自身の主観の問題でもあった。
名前を呼ばれたことに気づくまでに、数秒かかった。
それほど、ブーンは心が遠くへ行ってしまっていた。
(;^ω^)「あ……う……」
言葉を出そうとする。
なんとか返事をしようとする。
514
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:09:00 ID:osgyY/P20
自分だって、思ったことなのだ。
一瞬でも思っていたさ。
魔人は全員が悪いわけじゃない。
差別するのはよくない。
噴水のタヌキ耳の女の子を見たときに、そう思ったのを思い出した。
でも、まさかこんなに身近にもいるなんて。
これまで、どこか遠くのものごとのように考えていた。
魔人の存在も、何もかも。
レジスタンスに所属していながら、その相手とする魔人の存在は認識しきれていなかった。
彼らに立ち向かうビジョンすら、ぼんやりしていたのだ。
515
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:10:10 ID:osgyY/P20
目の前の、友人の本当の姿を見て、思う。
自分がやろうとしていることは何なのかと。
何に立ち向かえばいいのかと。
でも
すでに歯車はまわり始めている。
自分はレジスタンスとして、活動し、今度はお城に忍び込もうなどと企んでいる。
516
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:11:00 ID:osgyY/P20
もう後には戻れない。
一度決心したはずだったのに。
なんで今になって。
( ω )「……ツンの敵には、ならないお」
そう答えるしかなかった。
彼は優しかったから。
517
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:12:02 ID:osgyY/P20
いつか、この過ぎ去ってしまった時の流れが
自分の首を締めあげることになるだろう。
そんな、ほとんど確信に近い予感が、ブーンの頭の中に浮かんでいた。
☆ ☆ ☆
518
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:13:10 ID:osgyY/P20
自分に無いものがあった。
今回の作戦に当たって、それは必要なものであった。
南東の門で仲間が計画通りに騒ぎを起こした。
そのどさくさに紛れて忍び込むことができた。
馴れてしまえば簡単なものだ。
きっと本番でも上手くいくだろうな。
彼はそう思い、探索を進めた。
寄宿舎には特別な防御はない。
だから簡単に忍び込めた。
元盗賊団が傍にいるから、技術を得ることは簡単だった。
それが今日も役になっている。
519
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:14:22 ID:osgyY/P20
彼は寄宿舎の倉庫にてそれを見つけた。
新しい衛兵の上着だ。
自分がいた頃と、今の衛兵の着るものが微妙に違っているとわかり
早々に盗りにきたのである。
これで準備に向けて前進だな。
そう思って、寄宿舎の窓から出ようとしたときである。
そばにあった窓に何かがぶつかった。
急いで確認し、眺めてみる。
歩いていく二人組の姿が見えた。
一人は知らないが、もう一人はよくわかる。
( ゚∀゚)「ブーン……?」
520
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:15:20 ID:osgyY/P20
何をしているのだろう。
彼はもう、国王と話を済ませたのだろうか。
あの女の子と一緒に、どこへ。
気になったから、窓を出てついていく。
林の中へ。
懐かしい雰囲気を感じながら。
そして、月下の告白を全て見、聞いた。
呆然としているブーン。
それに歩み寄り、話しかけている女の子。
それらを遠目で見て、状況を把握する。
話も全て聞えた。
521
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:16:21 ID:osgyY/P20
( ゚∀゚)「……」
そのうえで、考えを巡らせる。
ブーンが何をしているのか。
自分が何をしなければならないか。
それが、月の下で起きていたもう一つの物語だった。
522
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:17:32 ID:osgyY/P20
―― 第四話 おわり ――
―― 第五話へ続く ――
.
523
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:19:20 ID:osgyY/P20
―― コラム④ 主な登場人物、及び勢力紹介 ――
〜レジスタンス(勇者)〜
・( ・∀・) モララー(死去)…………勇者
・ノパ⊿゚) ヒート…………盗賊
・('A`) ドクオ…………戦士
・( ゚∀゚) ジョルジュ…………遊び人
・lw´‐ _‐ノv シュール…………料理人+発明家
・? 現在他国に赴いている
524
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:21:20 ID:osgyY/P20
〜ラスティア城(魔王)〜
・ζ(゚ー゚*ζ デレ…………王女
・(´・ω・`) ショボン…………国王
・( ´W`) シラヒーゲ…………政務官
・ミセ*゚ー゚)リ ミセリ…………M
・(゚、゚トソン トソン…………S
・( ФωФ) ロマネスク…………衛兵隊長
・|゚ノ ^∀^) レモナ…………貴族
・(-_-) ヒッキー…………レモナの息子+引きこもり
・? 他、衛兵全員
525
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 00:23:04 ID:amoF4Y2.0
ツン…
526
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:24:49 ID:osgyY/P20
〜魔人(モンスター)〜
・ξ゚⊿゚)ξ ツン…………旅人の娘+従者見習い
・从´ヮ`从ト ???…………迷子+詩人
・? 森とか山とかにたくさんいる
〜その他〜
・(;^ω^) ブーン…………衛兵見習い
全てのグループに縁がある
しかも優柔不断なくせに人を助けたがる
その結果、どんどん泥沼へとはまっていく
新しい登場人物はそのうち追加されるでしょう。
もちろん別の勢力へ移動することもあり得ます。
物語を三幕に分けるならば、今は第一幕、状況説明が終わった段階です。
次はもう少し書きためてから臨むので、時間をかけます。
それでは。
527
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 00:28:22 ID:LztZNF4EO
自分の仕える国が人間なのに魔王側ってのは不思議だな、とにかく続き気になる
528
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 03:23:39 ID:Exbs.TpMO
ω)おつん
529
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 05:35:49 ID:P0ZKPQhcO
そうか、('A`)はξ゚⊿゚)ξを見た時に感づいてたんだな
これで序章が終わっていよいよ本編か第二幕からに期待
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚ ゚)ヽ) これなら訴訟されることは無いな
530
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 11:04:25 ID:cbxAt3dU0
耳ありツンが可愛い
乙
531
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 16:40:47 ID:NCaUm5oM0
ξ゚撿゚)ξの口をξ゚&.#8895;゚)ξ(&と#の間の.を抜いて)にしてくれるとありがたいです。。。
おつです
532
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 19:15:30 ID:osgyY/P20
>>531
そう見えてしまっているのでしょうか?
自分のパソコンからだと問題ない状態で見えるので、どうしたらいいかわからないんですが……
533
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 19:28:26 ID:aHChWRgQ0
2chmateでは
ξ゚撿゚)ξ←口が化ける
ξ゚⊿゚)ξ ( ξ゚&.#8895;゚)ξ から.を取った)←読める
534
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 19:39:27 ID:QtwptCaI0
投下しにくいだろうし気にしなくて良いよ
535
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 23:05:25 ID:N0S1unGI0
文字化けしたツンに慣れちゃって通常のツンに違和感があるw
乙
536
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 23:53:30 ID:j4s2L9jI0
ここまで一気に読んだ
設定がすごい深いし面白い
続き楽しみにしてるが、ブーンの性格が悪い方向に動きそうだな・・・
537
:
名も無きAAのようです
:2013/09/04(水) 09:07:51 ID:79RJ37O20
iPadのSafariでツンやヒートの口が文字化けしてたがSafariだけじゃなかったのか
>>535
みたいに文字化けしたツンとヒートに慣れたから正常なのみると違和感w
538
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/04(水) 23:47:21 ID:K5seVBKE0
―― 予告 ――
.
539
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/04(水) 23:48:12 ID:K5seVBKE0
10月25日
午後6時
ラスティア城下町中央広場
秋の日は短い。
先程まで赤みがかっていたと思ったら、今ではもう深い紫色。
やがてそれも黒く染められていく。星と月の灯りだけをまばらに残しながら。
中央広場に人々は集まっていた。
高台が設置されている。
昼間の内に、お城の従者と衛兵が協力して立てた豪勢なものだ。
そこに座っているのは貴族たちと来賓の方々であった。
(´・ω・`)「拡声器ちょうだい」
中央の一際大きな椅子に座っていたショボンが、従者に手を差し出していた。
その手のひらに、錘状の筒が渡される。
ただの筒に、魔人の不思議な力が施されたもの。
ショボンはその筒の細い方を口元に寄せ、話し始めた。
(´・ω・`)「新嘗祭を始めるよーーーー!!」
540
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/04(水) 23:49:01 ID:K5seVBKE0
声が大きくなり、広場中に広がっていく。
群衆は一同に声を張り上げる。
歓声がその場に響き渡る。拡声器よりもはるかに大きな声で。
ショボンはその様子を満足げに見降ろしていた。
ショボンにとって、この瞬間はとても楽しいものだった。
拡声器を外して、従者に返す。
それから客人の方を向いた。
(´・ω・`)「いよいよですな、国王様方」
主要な参加国は二つ。
マルティア国王、テーベ国王、及びその従者であった。
541
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/04(水) 23:51:41 ID:K5seVBKE0
―― 新嘗祭とラスティア城 ――
明日木曜日の午後9時から前半
明後日金曜日の午後9時から後半を投下します。
口とかいろいろ不都合あるかもしれませんが
このまま投下を続けることにします。ご理解ください。
それでは。
542
:
名も無きAAのようです
:2013/09/05(木) 00:24:58 ID:RXmSuLvgO
おいっ、今までと同じ製作ペースじゃねぇか
今回はペース落ちると思ってたのに、まあ続き早いのは歓迎するんだが
543
:
名も無きAAのようです
:2013/09/05(木) 02:40:43 ID:rbGkzx5IO
>>542
なんなんだお前は
544
:
名も無きAAのようです
:2013/09/05(木) 13:03:26 ID:/fCDTzio0
ひとまず1話だけ見たけど、ひらがなと漢字の分量が丁度良くて読みやすいね
見習いたいもんだ
545
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 20:10:12 ID:es9erg9o0
ちょっと用事入ったので、30分から1時間程度遅れます。
546
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:21:21 ID:es9erg9o0
9時半から投下します。
547
:
名も無きAAのようです
:2013/09/05(木) 21:25:55 ID:1/FI.9xg0
よしこい
548
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:30:12 ID:es9erg9o0
10月25日
午後6時
ラスティア城下町中央広場
秋の日は短い。
先程まで赤みがかっていたと思ったら、今ではもう深い紫色。
やがてそれも黒く染められていく。星と月の灯りだけをまばらに残しながら。
中央広場に人々は集まっていた。
高台が設置されている。
昼間の内に、お城の従者と衛兵が協力して立てた豪勢なものだ。
そこに座っているのは貴族たちと来賓の方々であった。
(´・ω・`)「拡声器ちょうだい」
中央の一際大きな椅子に座っていたショボンが、従者に手を差し出していた。
その手のひらに、錘状の筒が渡される。
ただの筒に、魔人の不思議な力が施されたもの。
ショボンはその筒の細い方を口元に寄せ、話し始めた。
(´・ω・`)「新嘗祭を始めるよーーーー!!」
549
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:32:03 ID:es9erg9o0
声が大きくなり、広場中に広がっていく。
群衆は一同に声を張り上げる。
歓声がその場に響き渡る。拡声器よりもはるかに大きな声で。
ショボンはその様子を満足げに見降ろしていた。
ショボンにとって、この瞬間はとても楽しいものだった。
拡声器を外して、従者に返す。
それから客人の方を向いた。
(´・ω・`)「いよいよですな、国王様方」
主要な参加国は二つ。
マルティア国王、テーベ国王、及びその従者であった。
☆ ☆ ☆
550
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:34:03 ID:es9erg9o0
―― 新嘗祭とラスティア城 ――
.
551
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:36:03 ID:es9erg9o0
1時間以上後
ラスティア城8階
王女の間の前
( ^ω^)「…………本当に僕一人で守っているお」
彼以外の警備はいない。
魔人や、彼らの仕掛けた罠によって、お城の上階は守られている。
ブーンが眺めているのは赤い絨毯の敷かれた廊下。
脇には数本のろうそくしかなく、等間隔ではあるものの、薄暗い。
その光景はブーンの寂寥感を増幅させていった。
王女はこんな寂しいところにいるのかと思い、身震いする。
確か以前よりも彼女は人々と触れ合うようになったと聞いていた。
でも、今現在も彼女はあまりイベントに参加しない。
町が賑やかな時、彼女はこの薄暗いお城の中。
どうしてこんなところに籠るのだろう。
もっと町の人と触れ合いたいとは思いたくないのか。
( ^ω^)「……あ、時間」
ブーンは廊下にかけられた時計を確認する。
約束の時刻まで、あと30分弱。
それまでに、彼は一旦お城を出て、北西の門に外側から向かわなければならないことになっていた。
552
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:38:03 ID:es9erg9o0
それが、お城にレジスタンスを迎え入れるための作戦の開始。
上手くいかなければ、その時点で終わってしまう。
結局、そこまで上手い方法が見つかったわけでもなかった。
ちょっとでも疑われたら終わってしまうかもしれない作戦。
だからなおのこと、細かいところで失敗してはならない。
ブーンは緊張を感じていた。
でも、その緊張を心地よいと感じていたのも事実だ。
彼は変わり始めていた。
引っ込み思案な性格だったのに、レジスタンスに入ってからはやたらと提案をしている。
その心境の変化の裏側には、どうにかしてモララーの無念を晴らしたいという思いがあった。
だけど、そのためには魔人と対立しなければならない。
そして魔人と対立できない理由が自分にはできてしまった。
正体を明かしたツンの姿が瞼の裏に浮かぶ。
長いこと友達として一緒に過ごしていた。それなのに全く気付いていなかった。
だからこそ、ショックは大きかった。
553
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:40:03 ID:es9erg9o0
ツンの意見は限界まで聞きいれる。
一方で自分はレジスタンス。
板挟みの中、彼はこの活動に参加するかどうか迷っていた。
でもここまで計画を練っていた以上、せめてこの潜入計画だけは成功させたい。
そこから先は考えていない。ひょっとしたらやめるかもしれない。
とりあえず今はこっち、という妥協。
いつまでも妥協が上手くいくとは限らないが、とにかく今は迷いを胸に潜めた。
だいたい、潜入作戦は魔人とは関係ない、モララーの遺品のためだ。
それは自分のためでもある。ツンを傷つけることにはならない。
だから、これくらい許してくれ。
ブーンは内心でそう訴えかけていた。誰に聞かれるわけでもない訴え。
人間一つか二つ隠し事はあるんだ。
全部を誰かに告白しなきゃならないってわけじゃない。
取捨選択して体面を繕っていく、それくらいいいはずさ。
その結論は開き直りとも言えたかもしれないが、、ブーンはそれ以上悩みたくなかった。
むしろ今この場で企んでいることがツンにばれないかという方を心配するべきと思おうとした。
554
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:42:03 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「……はあ」
ひどく草臥れた溜息を一つ。
まるで老人になったみたいだと、心の隅で自分を評価する。
それから時間が過ぎた。
7時20分になる。
目を閉じて、軽く伸びをするブーン。
そろそろ動かなくては。
そう思い、王女の部屋の扉を振り向く。
( ^ω^)「王女様、相談したいことが」
ζ(゚ー゚*ζ「なあに?」
すぐに返答がくる。
それは確かにデレの声だった。
555
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:44:05 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「少し階下に忘れ物をしてきたんですお。
取りに行ってもいいですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「あら! そうなの?
……どれくらいで戻って来れる?」
( ^ω^)「えっと、お城も広いし、罠も避けて歩かなきゃなんで
20分以上かかってしまうかもしれないお」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなに……まあ、でもしかたないわね。
構いませんよ。たぶんこのお城も無事でしょうし」
ブーンはほっと息をついた。
デレの顔色はわからないが、少なくとも許しはもらえた。
これから急いでレジスタンスのみんなの元へ向かおう。
( ^ω^)「……はいですお。
ありがとうございますお」
556
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:46:03 ID:es9erg9o0
見えもしないのに、頭を下げる。
足早に立ち去っていった。
罠の位置は事前に聞いていたので、注意をしながら進んでいかなければならない。
この情報も早いところ彼らに伝えなきゃならないと感じていた。
もう、廊下には誰もいない。
少なくとも人間は。
彼がいなくなった扉の内側には、しっかりとデレがいた。
彼女はそのとき、真剣な顔つきでいた。
ζ(゚ー゚*ζ「……行ったわね」
扉に寄せていた耳を離す。
その鋭い眼光は、まっすぐに窓を捉えていた。
557
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:48:01 ID:es9erg9o0
☆ ☆ ☆
7時半
ラスティア城北西門
この場所は通常、あまり使われない。
南側の坂の下にある城下町からは遠かったからだ。
門の回り自体も木々が生茂っており、見た目からして鬱屈としている。
そのためこの門は衛兵が非常時に使う門となっていた。
簡単に言ってしまえば、防衛は一番薄い。
新嘗祭の日に使うなんて思ってもいなかったから。
それこそが狙い目であった。
(√・A・)「ああ……なんで新嘗祭なのにこんなとこの門番やってなくちゃならなんだろう。
籤運が悪かったなあ、俺も花火見たかったなあ、ちくしょう」
ボヤいている警備の衛兵。
つまらなそうに石ころを蹴っている。
意識が低いのは明らかだ。
(√・A・)「……ん?」
その彼の目に、三人の人影が見えた。
558
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:50:00 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「こんばんはですお」
集団のうち、先頭を歩いていたブーンが言う。
(√・A・)「やあ、こんな夜中に何の用だい?
見たところ君らは衛兵のようだけど……」
衛兵は三人の姿を眺める。
三人とも、衛兵の基本装備を纏っていた。
ブーンの後ろの二人は大きな筒を持っている。
( ^ω^)「実は国王の頼まれごとで、こっそりお城にはいらなきゃならないんですお」
(√・A・)「頼まれごとだって? なんだろう、それにどうしてこの門から?」
若干訝しみながら、衛兵が連続して質問する。
ブーンは大きく頷く。
( ^ω^)「見た方が早いですお」
そう言って、ブーンは後ろの二人に合図を出した。
二人は門の横に移動する。
そして筒に手をかけ、両脇に引いた。
それは筒ではなかった。
広げてみれば、それは巨大な平たい物体となる。
559
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:51:59 ID:es9erg9o0
それは門の外から内側へと広がった。
(*^ω^)「今日の記念の旗ですお!
これをお城に運ばなきゃならないんですお。
秘密のことなので、みんなには内緒、だから正門を通るわけにいかなかったんですお」
楽しそうに、ブーンが説明する。
衛兵はやや慌てていた。
(√;・A・)「お、おいおいこんなところで広げるなよ」
(;^ω^)「え? あ、すいませんでしたお!」
(√;・A・)「謝らなくてもいいけど、ほら入っていいから畳んで」
(;^ω^)「わかりましたお。おーい、もういいお」
二人の男が、少しずつ旗を丸め始める。
ややぎこちない動き。
はた目から見れば、大きな旗を扱うのに苦労しているだけのように見える。
衛兵は気付いていなかった。
その旗の後ろ側で、二人の女性がこそこそと門を通過していたことを。
その女性たちは内側にある物陰にさっさと隠れた。
衛兵はブーンと話しているため、気付かないまま。
560
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:54:17 ID:es9erg9o0
(√・A・)「はい、それじゃあね」
( ^ω^)「まかせましたお。
そういえばさっき道でちょっと不審な人を見かけましたお」
(√・A・)「なに、本当か!?」
( ^ω^)「ええ、なんだか挙動不審で。
少し歩いて見てきた方がいいかもしれませんお」
(√・A・)「そうか……ありがとう。
お祭り成功させてくれよな」
衛兵はそう言って、素直に道を進んでいった。
もちろん遠くまでいくわけでもなく、少し見回ったら帰ってくるのだろう。
でも、わずかな時間で十分だった。
( ^ω^)「よし、入るお」
そう、二人の男に言う。
( ゚∀゚)「旗はどうするんよ」
('A`)「隠しとけ」
旗を抱えていたのは、ドクオとジョルジュ。
561
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:56:02 ID:es9erg9o0
彼らはやがて、女性が潜んだ物陰へと歩いて行った。
ノパ⊿゚)「お見事」
lw´‐ _‐ノv「上手く言ったな」
物陰から、ヒートとシュール。
(;^ω^)「いい衛兵で助かりましたお」
軽く頭をかく。
( ^ω^)「さて、今のうちに入りましょうお。
そろそろ僕は持ち場に戻らなければなりませんお」
門まで走って向かい、その錠を開ける。
重たい鉄の扉が動き、中へと繋がる道が見えてくる。
最初の作戦が上手く運んだことを、ブーンは心の中で喜んでいた。
幸先は良い。
迷ったりすることもあった。でも今は、自分に運が向いている。
今はひとまずこの作戦のことを考えよう。
レジスタンスの仲間たちを、国王の部屋へ連れて行くんだ。
( ^ω^)「こっちですお。僕が誘導しますお」
ブーンが大きい手振りで招き入れる。
こうして潜入が始まった。
562
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:58:04 ID:es9erg9o0
('A`)「……ううむ」
入ってすぐに、ドクオが呻いた。
鼻を抓って見るからに嫌そうな顔をする。
(;^ω^)「どうしたんですかお?」
('A`)「いやな。大したことじゃないんだ。
前々から思っていたことなんだけど……」
ドクオの目線がお城中に向けられていく。
城の内壁、燭台、蝋燭、絨毯、飾りの鎧に部屋への扉
('A`)「このお城、なんだかすごく鼻にくるんだ。
それも年々強くなっていってる」
ノパ⊿゚)「魔人かい?
でも実際お城の中で働いている奴もいるんだし
多少は仕方ないんじゃない?」
('A`)「…………だといいんだけど」
そう言って、ドクオは首を振る。
気合を入れなおしたのだ。
563
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:00:00 ID:es9erg9o0
('A`)「ぐだぐだ言ってしまってすまない」
( ^ω^)「いや、仕方ないですお。
きっとそんな鼻があった方が役立ちますお。
罠とかを仕掛けるのも魔人ですし」
('A`)「そうか。ありがたい話だ。
先へと進もうか」
ドクオを先頭にして一行は進んでいく。
ラスティア城。
衛兵見習い程度では下の階しか行ったことこの無いお城。
貴族以外の誰も、その全景を見たものはないという。
☆ ☆ ☆
564
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:02:01 ID:es9erg9o0
潜入してからも、暫く大事は起きなかった。
魔人の罠といえども、場所がわかっていれば怖くはない。
( ^ω^)「あ、そこ」
例えば、とある廊下。
( ^ω^)「そのあたりの床板踏むと槍が落ちてきますお」
( ゚∀゚)「え、どこどこ?」
(;^ω^)「あ、歩くなって!」
足をちょいちょいと地面に触れていくジョルジュを、ブーンが取り押さえる。
つまらなそうにむくれるジョルジュを無視して、脇道を指した。
( ^ω^)「そっちが正しい道ですお」
こんな風にして、大抵の罠は回避することができた。
そうして、5階まで彼らは進んでいった。
565
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:04:00 ID:es9erg9o0
ラスティア城5階
この階の構造は特殊であった。
( ^ω^)「ここはちょっと説明しなきゃなりませんお。
僕も今日初めて知らされたんですけど、ここには5つの大部屋があるんですお。
それが階の四隅と中央にある部屋なんですお」
( ^ω^)「四隅の部屋には階段があって、それを登れば貴族の部屋に続くんですお。
そして中央にある一際大きな部屋が、お城の中心にある塔へと伸びる扉ですお。
国王の部屋と王女の部屋はその中央の塔の中にあるんですお」
('A`)「じゃあ、俺たちはその中央の塔を登る必要があるんだな。
ブーンも王女の部屋の警備に戻らなきゃいけないんだし、一緒にいけるんだろ?」
( ^ω^)「それが……ちょっと中が複雑でして
6階に辿りつくと分岐があるんですお。
王女の部屋へ行くなら左、国王の部屋へ行くなら右、だから6階より先にはお別れですお」
ノパ⊿゚)「じゃあ、そこから先の罠の場所はわからないよってことか」
(;^ω^)「そうなんですお。僕は王女の部屋へ行く罠しか聞かされていないんですお。
だからこれ以上は、ちょっと役には立てないかなと……」
( ゚∀゚)「いや、俺は一向に構わないぜ」
566
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:06:01 ID:es9erg9o0
ジョルジュが一層にやりと笑った。
( ゚∀゚)「避けてばっかりでつまんなかったからな。
やっぱり潜入するからには楽しくやらなきゃだからよ」
lw´‐ _‐ノv「ああ……不安だ」
シュールの呟きもまったく聞えていないようであった。
(;^ω^)「ま、まあみなさんなら無事だと信じていますお」
('A`)「俺の鼻もあるんだ。協力すればなんとかなるだろう」
ノパ⊿゚)「ブーンは早く王女のところへ行ってなよ、怪しまれたらいけないし」
( ^ω^)「それなら……みなさん頑張ってくださいお!」
一行は中央の部屋に向かい、扉を開いた。
部屋の中には、幅の広い螺旋階段の登り口が一つだけある。
人ならば軽く5、6人並ぶことができる広さだ。
赤い絨毯が敷かれており、奥の方は道の蛇行のために見ることはできない。
567
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:08:00 ID:es9erg9o0
螺旋階段の壁には蝋燭が飾られていた。
金属質の燭台の上で、炎が等間隔で揺らめいている。
雰囲気は暗い。
煌びやかな雰囲気のあった5階から下とは違う、薄暗い道。
( ゚∀゚)「なんでこんなに暗くするんだろーな」
( ^ω^)「お城は暮らすための場所ってわけじゃないからだお。
ずっと昔は、お城は戦争の拠点として使われていたんだお。生活よりも、攻め込まれないことの方が大事。
今は趣があるからってそのお城を再活用しているだけで、貴族や王族の部屋以外はそこまで気を使っていないんだお」
('A`)「戦争していた時代か……今じゃ想像もできないな」
ドクオが呟く。
おそらく彼は単純に考えたことを述べただろう。
常に今の自分たち人間の立場を考えている彼の発想。
その言葉を聞いて、ブーンはふと思いついたことがあった。
聞いてみたいことが生まれた。
568
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:10:01 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「ドクオさんは……戦争についてはどう考えているんですかお?」
魔人が来て、世界が変わった。
一番変わったのは、大掛かりな戦争が無くなったことだ。
不思議な力を使えば、契約をした個人個人が戦争の大局を変更できる。
だから魔人を活用した戦争はできなくなり、人間同士の戦争も簡単に治めることができた。
それが魔人の功績だと称える人も多い。
安心して平和を享受する理由でもある。
その一方で、魔人に反対する人たちはその功績をどうとらえているのか。
魔人の有用性を無視するわけにはいかないんじゃないか。
質問の裏にあるのは、その疑問だ。
(;'A`)「…………」
返事がすぐにはこない。
いつもなら歯切れよく、一般論まで交えて演説してくれるのに、どうしたのだろう。
ブーンは小首を傾げる。
569
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:12:00 ID:es9erg9o0
それから考え直した。
ここはもっと率直に質問した方がいいんじゃないかと。
戦争が無くなったという、魔人の功罪についてどう考えているのかと。
口を開く。
( ^ω^)「それじゃ、戦争が無k――」
けれど、途中で切れてしまう。
返事があったのではない。
背筋に悪寒が走ったからだ。
誰かに強烈に睨まれたような感じ。
(;^ω^)「!?」
首を振り、あたりを見回す。
誰かに見つかったか? いや、そんなものはないはず。
この螺旋階段に、そんな隙間はないはず。
じゃあ、誰が自分を睨んだんだ。
570
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:14:08 ID:es9erg9o0
('A`)「? どうした」
ようやくドクオが言葉を返してくれた。
ただ、もうブーンにはそれに答える意識は無かった。
(;^ω^)「い、いえ……」
曖昧に答える。
確証があるわけじゃない。
睨まれたのが事実かどうかもブーンにはわかっていない。
視線を感じたというただの思い込みかもしれない。
気になるが、それにとらわれすぎても良くないだろうと考えた。
下手に場を擾乱させるべきじゃない。
ここまで上手くいっているんだから。
(;^ω^)「何でもないですお」
不思議そうに覗きこむドクオの顔に向けて、ブーンは小さく首を横に振った。
( ゚∀゚)「さ、6階についたぞ」
ブーンの後ろにいたジョルジュが言う。
571
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:16:00 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「お、本当だお。良かったお」
ほっとする。
緊張から解放された気がした。
ノパ⊿゚)「先に上歩いてるんだから気付けよなー」
わずかばかりの笑い。
その隅で、ジョルジュが笑っていなかったことに、誰も気づいていなかった。
☆ ☆ ☆
572
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:17:58 ID:es9erg9o0
中央広場
開始からすでに時間は経過している。
噴水の周りで光が爆ぜる。
町の技術者たちによる盛大な出し物が行われようとしていた。
ショボンは台座から降りている。
歩み寄っていく先は来賓の席。
(´・ω・`)「楽しんでいただけていますかな」
来賓の席は二つあったはずだが、一人はいなくなっていた。
仕方なくもう一人の方へ話しかける。
その来賓の老体は、しょぼくれた口を釣り上げて笑い返した。
やけに綺麗な歯並びが覗かせる。
/ ,' 3「ああ、見ていて愉快ですぞ。ショボンくん」
ラスティア国王を君付けで呼べる人。
そんな人はこの世に一人しかいなかった。
ショボンもまた、微笑み返す。
(´・ω・`)「それは良かった。マルティア国王様」
573
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:20:02 ID:es9erg9o0
最後の言葉を聞きうけて、老体は「いやいや」と首を左右に振る。
/ ,' 3「この国いるときは、国王なんて称号はいらんぞ。
せめて名前で呼んでくれないかの。スカルチノフと」
ショボンは若干気まずそうな顔をして、それから言い直す。
(´・ω・`)「これは、失礼しました。スカルチノフ様」
/ ,' 3「様か……まあよい」
スカルチノフはショボンから目を離し、手元の果実に手を出した。
そのひとつを取り、口に運んで一気に齧る。普通の老人にはできない芸当だ。
飛沫が飛んでも、スカルチノフは一向に気にしない。
その歯が全て不思議な力による強化仕様だということは、ショボンももちろん知っていた。
たかが歯を強くするためにも力を使ってしまう。
魔人使役についての先進国、マルティアの国王そのものだった。
/ ,' 3「話は聞きいれてくれたかな」
果実を見たまま、スカルチノフは言う。
もちろんその言葉はショボンに向けられた言葉だ。
574
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:22:18 ID:es9erg9o0
(;´・ω・`)「…………さすがにそのような一大事、簡単に聞きいれるわけにはいきません」
ショボンは努めて慎重に言った。
スカルチノフは残念そうな顔をする。
/ ,' 3「君なら早々に決断してくれると思ったんじゃがの」
(´・ω・`)「すいません。こちらとしても、マルティア国に対する恩は深いのですが
なにせ自国の政治に関わることですから」
/ ,' 3「……人による政治がそんなに必要かの?」
(´・ω・`)「え?」
ショボンの疑問の声に答える前に、スカルチノフは溜息をついて、椅子の握りに肘をかける。
両の手を交差して、その上に顎を乗せた。口がぽかんと開く。
/ ,' 3「人は争うぞ」
短いフレーズ。
/ ,' 3「魔人が来る前、人は戦ってばっかりだった。
いや、むしろちょうど人々が国家レベルで結集しようとしていた頃に魔人が来た。
だから世界は踏みとどまることができたんじゃ」
575
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:24:06 ID:es9erg9o0
/ ,' 3「もしあのまま時が進んでいたら、世界は火の海になったじゃろうな」
さらりと恐ろしいことをいう。
ショボンはそのような世界を一瞬想像して、すぐにかき消した。
渋い顔をする。
(´・ω・`)「見てきたように言うんですね」
/ ,' 3「見ていた人たちの頃から受け継がれてきていた物語じゃからのう。
むしろ君たちの国にはこんな話はないのかな」
(´・ω・`)「あいにくできてまだ日が浅い国でして」
「ふん」とスカルチノフは鼻を鳴らす。
侮辱の色はあったが、ショボンは動揺することなく話を聞いていた。
見た目では、だが。
/ ,' 3「まあよい。
本当はわかっておるんじゃないかな、わしが何を言いたいか」
品定めするような目が、ショボンに向けられた。
ショボンは微かに目を泳がせる。
(´・ω・`)「……この国は僕の国ですよ」
/ ,' 3「本当かの?」
(´・ω・`)「もちろんですよ。何を言っているんですか」
576
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:26:02 ID:es9erg9o0
ショボンは目を閉じてせせら笑った。
スカルチノフからの視線は遮られる。
ショボンはすぐに身体を噴水の方へ向けた。
目が開き、出し物を見る。
街道の方から技術者たちのパレードが現れようとしていた。
(´・ω・`)「今はお祭りです。
町の誰も不安を感じていない。
それを破ろうものなら、それこそ争いなのではないですか?」
ショボンの腕が、城下町をなぞっていく。
なだらかな動き。
/ ,' 3「お前らしい考えよのう」
頬杖を突きながら、スカルチノフが評した。
ショボンは何かを言い返そうとするも、目の端に人影を捉えたために中断する。
577
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:28:01 ID:es9erg9o0
(´・ω・`)「レモナか」
|゚ノ ^∀^)「そうだよー、ショボンちゃん。
スカルチノフさんもこんばんはー」
軽々しい声。
ただ、今この場のショボンにとってはありがたいものであった。
重苦しかった空気が瓦解する。
(´・ω・`)「庶民とは会ってきたのかい?
いつもの君なら遊びまわっている頃だと思ったのだけど」
|゚ノ ^∀^)「うん、もう結構遊んだよ。
ただこうしてお客様ともちゃんとお話しないと!」
そう言って、レモナの目がスカルチノフに向く。
|゚ノ ^∀^)「そうでしょう?」
視線が交わされる。
ショボンからは、レモナの顔を窺い知ることは出来なかった。
578
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:30:05 ID:es9erg9o0
だから
|゚ノ ^∀゚)
/ ,゚ 3
彼女たちがただならぬ目でアイコンタクトを取っていたことも
当然今のショボンは知る由もなかった。
579
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:32:00 ID:es9erg9o0
|゚ノ ^∀^)「さてと、ショボンちゃん」
レモナはすぐに顔を上げた。
|゚ノ ^∀^)「テーベ国の女王様はどちら?」
(´・ω・`)「ああ、空いてるよね。どこいったんだろう」
/ ,' 3「あの若いのならきっと下に降りて遊んでおるよ」
スカルチノフはそう言って、あきれたような顔をする。
/ ,' 3「まったく、前々からそういうふらつきが好きなやつじゃな」
(´・ω・`)「ははは、そこが国民に好かれたところなのでしょう」
話が変わったため、ショボンは余裕を取り戻せた。
頬に残っていた冷や汗をこっそりと拭いながら、その場を後にする。
580
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:34:02 ID:es9erg9o0
広場から伸びる街道の上。
何故か黒い服の人だかりができていた。
それらは町の住民じゃない。
たった一人を護衛するために付けられたSPたちだ。
「おいおい、こんなに纏わりつかれたら見えねえだろ」
人だかりの中心で人が叫ぶ。
「ですが国王、あなたを守らなくては」
「平気だっつの! 俺が下手な野郎になんか負けるか!」
中心の人はそういって、腕を振るった。
「なんならお前ら全員のしてやってもいいんだぞ?
俺様のパレード観覧を邪魔した罪でなー、はっはっは」
物騒な物言いとは裏腹に、最後には陽気な笑い声が続いた。
581
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:36:01 ID:es9erg9o0
町の人たちもその異様さに戦いている。
避けられているので、黒服の集団の周りだけぽかりと浮いてしまっていた。
パレードの音が近づく。
作り物の人形の集団が、光を纏いながら街道を進んできていた。
どちらにしろ、このままでは黒服は邪魔だ。
「おら、早くどけよ迷惑だろ!」
中心の人が再び怒鳴る。
数人の溜息。
黒服の男たちが観念して、散り散りとなっていく。
まだらになった黒服の間で、ようやくその人物が明らかになった。
その人もまた、ちゃんとパレードが見えるようになったことで非常に喜んでいるようだ。
嬌声が響く。その声で、ようやくその人物が女性であると気付いた町民も多かった。
582
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:38:02 ID:es9erg9o0
「ははー、こりゃすげーわ!!
俺もほしいなー!!」
その人は街道の中央で諸手を挙げた。
勢いよく伸びた腕の先から、パレードの光にさらされていく。
だんだんと、その光が進む。
ついには顔が露わとなる。
从 ゚∀从「あいつも見てるかなー!!」
彼女の名はハイン。
口調と態度こそ男性そのものであったが
ラスティアの南西にあるテーベ国の、歴史上初めての女帝であった。
☆ ☆ ☆
583
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:40:02 ID:es9erg9o0
ラスティア城7階
国王の部屋へ続く道
ブーンとは6階で別れ、それぞれの道を進んでいた。
('A`)「待った」
先陣を切っていたドクオが、皆を静止させる。
('A`)「匂いがする」
( ゚∀゚)「なんだ、魔人か?」
('A`)「たぶん」
一同は前を向いた。
道が二つに分かれている。
直進すれば幅の広い道を通ることになる。
左に折れれば、やや狭い道。蝋燭の本数も少ない。
584
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:42:02 ID:es9erg9o0
('A`)「……前の道からは強い匂いだ。大きいものがある気がする。
左の道は、なんだか細々といろんな匂いがする」
ノパ⊿゚)「大きいと、細々……
それ以上はわからない?」
('A`)「匂いなんてそんなもんだ。
とにかくどっちにしろ、いいことは起こりそうもないな」
lw´- _-ノv「ましな方を選べってことか」
シュールが発言し、みんなの顔を伺った。
全員がそれぞれ、頭の中で比較をする。
( ゚∀゚)「大きい方だな」
ジョルジュが先に結論を出した。
( ゚∀゚)「道幅も広いし、明るい。
対処しやすいのはこっちだろうよ」
('A`)「うん、同感だ」
585
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:44:02 ID:es9erg9o0
ドクオは頷きつつも、鋭い目線を幅の広い道に向けた。
('A`)「ただ油断はできないぞ」
( ゚∀゚)「大丈夫だって!」
ジョルジュは胸を叩く。
( ゚∀゚)「何か出てきたにしても倒してやるよ!」
(;'A`)「おい、何言ってんだお前」
( ゚∀゚)「いやあ、なんかもううずうずしていたんだよね!」
ジョルジュの足がさっさと前へ進んでしまう。
急にそんな行動に走ったジョルジュの心境を、ドクオははかりかねた。
とにかく止めなきゃ何が起こるかわからない。
(;'A`)「ヒート、止めるぞ!」
ノパ⊿゚)「あいよ」
586
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:46:02 ID:es9erg9o0
ドクオが焦り、ヒートと共に走り出す。
ジョルジュとの距離は近い。すぐに捕まる。
そのはずだった。
カチッ
(;゚∀゚)「え」
ジョルジュはきょとんとして、それから足元を見る。
何の変哲もない絨毯。
それなのに、何か妙にはまった感触があった。
ノパ⊿゚)「どうした?」
止まってしまったジョルジュの袖を、ヒートが掴む。
そのすぐ後ろを走っていたドクオも止まる。
('A`)「何の音……!?」
その場にいた全員が動揺した。
壁も、床も、盛り上がったように見えた。
587
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:48:01 ID:es9erg9o0
でもすぐにそれが誤りだと気付く。
足元にあったものが急速に遠ざかる。
落とし穴だ。
(;゚∀゚)「ぬおお!!」
咄嗟にジョルジュがクロスボウを上に向けて発射する。
特製の、ロープつきの矢。
空中で放射線を描いたそれは、天井に突き刺さる。
周りにいた人同士がつかまりあった。
近くにいた人だけで。
588
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:50:02 ID:es9erg9o0
____________________
/
. , '
/
ψ
∩
ウオォ (;゚∀゚)/
し
∩
ヨッ (゚△゚ノハ
し
('A`) グェ
しし
┏━━━━━━━━
鄴 ┃
||||
|||||||
lw´‐ _‐ノv アー
589
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:52:02 ID:es9erg9o0
やや遠いところにいたシュールの声が遠ざかっていく。
(;゚∀゚)「シュール!!」
ジョルジュの叫びは残響となる。
なかなか鳴りやまない。よほど深い穴のように思える。
ロープはそのまま、慣性をもって道の反対側へ向かっていった。
ノパ⊿゚)「そおい!」
勢いのままに、ヒートはドクオを投げつける。
抜け落ちていない道の向こう側へ向けて。
そして自らも壁に向かい跳んでいく。
自分なら自力で向こう側へ渡れるという確証があったからだ。
足が接着すると、バネの装置が作動する。
脚力が増したことで可能となる距離の長い三角飛び。
ノパ⊿゚)「っと!」
着地と同時に足を回す。
衝撃が緩和される。
数メートル走ったところでようやく彼女は止まることができた。
590
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:54:01 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「ドクオ?」
(;'A`)「……ここだ」
床に転がりこみながらも、手を上げる彼の姿があった。
(;'A`)「うう、頭打った」
ノパ⊿゚)「悪かったよ。ジョルジュは?」
言いながら顔を上げる。
ロープは依然として天井に突き刺さったままだ。
だけど、今は誰もそこに垂れさがっていない。
( ゚∀゚)「ここだよー」
声がして、ヒートとジョルジュは穴の反対側を見た。
一同が進んできた方。
そこにジョルジュはいた。
591
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:56:02 ID:es9erg9o0
( ゚∀゚)「悪い、俺ちょっとシュール助けてくる!」
目があうと同時に彼は言う。
( ゚∀゚)「こうなったのも俺のせいだし、急がないと!」
(;'A`)「あ、おいお前待て!」
ドクオの言葉にも、まったく動じずに
ジョルジュはさっさと元来た道を引き返しに行ってしまった。
(;'A`)「なんか、あいつ変じゃなかったか?」
ノパ⊿゚)「変?」
ヒートはドクオの傍に歩み寄りつつも、首を傾げた。
(;'A`)「妙に軽率と言うか……
まるで自分から罠にかかっていったような」
592
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:58:01 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「んな、まさか」
ヒートは軽く笑い飛ばす。
ノパ⊿゚)「そんなことして何になるんだよ」
(;'A`)「うーん、そうか……」
疑問として浮かんだものの答えは出てこない。
ぽっかりと空いてしまった穴を見つめる。
('A`)「とりあえずはシュールが無事であることを祈ろう」
違和感を覚えつつも、ドクオは身体を起こした。
前に進むために。
☆ ☆ ☆
593
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:00:01 ID:es9erg9o0
8階
国王の部屋へ続く道
ノパ⊿゚)「ひゃー、ずいぶん上ったなー」
たまたま壁にあった窓を覗いて、ヒートが感嘆する。
ノパ⊿゚)「よお、ドクオ。見てみろって」
(;'A`)「いや……高いのあんまり好きじゃないんだよ」
ノパ⊿゚)「そうだっけ? 忘れてたわ」
(;'A`)「お前なあ……昔話したことあっただろ」
ノパ⊿゚)「あー、なんとなく覚えているかも。
懐かしいねえ」
そんなことを言いながら、ヒートは窓辺の縁に座りこむ。
横目で窓の下の景色を眺めていた。
594
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:02:03 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「休憩しようよ。今のところ誰もいないみたいだし」
ヒートが提案する。
ドクオは顔をむすっとさせ、それから溜息をついた。
('A`)「……まあ、一気に上ってきたからな。
少しだからな? そしたら上っていこう」
ドクオはヒートの向かい側の廊下に座る。
胡坐をかいてだ。
ノパ⊿゚)「なんでそこなの?」
('A`)「この姿勢が一番素早く反応できるんだよ」
受け答えを聞いて、ヒートが目を閉じ首を左右に振る。
ノハ-⊿-)「相変わらず固いなあ」
やれやれと、身振り手振りであらわした。
ドクオはなおも硬い表情のままだ。
595
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:04:03 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「なあ、ドクオ。
昔の話が出たからさ、思い浮かべただけなんだけど」
ヒートはそこまで言って、目を再び窓側に向けた。
あまりドクオの方を向きたくなかったのかもしれない。
ノパ⊿゚)「姉さんは今も元気かな」
途端に、ドクオが立ち上がる。
ヒートを見下ろす形。
('A`)「そんなこと話すために休憩したのか?」
口早に責め立てた。
ヒートは一瞬眉根を寄せて、上目づかいでドクオを見つめた。
ノパ⊿゚)「ここに来たのはたまたまだよ。たまたま窓縁があっただけ。
でもさ、ほら。レジスタンスも随分賑やかになったから、なんだか楽しくて」
ノパ⊿゚)「年下も増えたし、面倒を見てなきゃで
最近その手の話題出して無かったじゃん。いわゆるあたしたちの話」
596
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:06:03 ID:es9erg9o0
('A`)「出さなくてもいいだろ、別に」
素っ気なくドクオが切り返す。
ノパ⊿゚)「必要あるよ」
今度はヒートがむくれた。
じーっとドクオを見据える。
その視線に、不穏な気配をドクオは感じ、わずかに身動ぎした。
(;'A`)「なんだよ」
我慢できずに、ドクオから口をひらく。
ヒートは目をかえずにそれに応えた。
ノパ⊿゚)「さっきブーンに戦争の話振られたとき、内心どきっとしたんじゃないの?」
(;'A`)「え……」
言ってから、うっかりという表情をドクオは浮かべた。
それをごまかすように咳払いする。
597
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:08:04 ID:es9erg9o0
('A`)「別に……何も」
ノパ⊿゚)「そう? あたしはしたけどなー。
姉さん以外にもあんなこと言う人いるんだなってね」
ノパ⊿゚)「それでも何も感じなかったっていうなら、あんたやっぱり――」
(#'A`)「そんなわけあるか!」
荒げられた声。
またも、言ってから顔を呆然とさせる。
ノパ⊿゚)「あたしに怒られても困るんだけどな」
そう呟いてから、ヒートは縁から離れて立ちあがった。
気持ち良さそうに伸びをする。
ノパ⊿゚)9m「よっし、休憩終わり。
途中で疲れても自己責任だからな」
ヒートの指がドクオにびしっと向けられた。
598
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:10:05 ID:es9erg9o0
('A`)「……ああ」
歯切れの悪い返事だけが返ってくる。
それを受けて、あからさまにヒートは機嫌を悪くした。
ノハ#゚⊿゚)「なんだよもー、これくらいで落ち込んじゃって。
ブーンやジョルジュの前だといつもすかした態度なくせに!」
キレのある指摘がドクオに突きささる。
ドクオは目を見開いた。
(;'A`)「な、そ……そうか?」
ノハ#゚⊿゚)「一時期暗くなったのは仕方ないとして、今では変な方向に行っちゃってるわ。
まったくもう、姉さんが見てたらなんて言うかねえ」
(;'A`)「…………お前だからあいつの話は」
ノハ;゚⊿゚)「え? あ! ごめんごめん。
今のはその、ほんとただのうっかりだから!
ショック受けさせたりしたらごめん!」
599
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:12:03 ID:es9erg9o0
(;'A`)「ええ? いやいやそれくらいでショックなんか」
ノパ⊿゚)「だって狼狽してんじゃん」
(;'A`)「してねえって!」
ノパ⊿゚)「してますわーその流れてる汗が証拠ですわー」
(;'A`)「はあ? それは、その……」
ドクオは言い返そうとするも、何も思いつかなかった。
唸り声を出しながら、頭をごしごしとこする。
ノパ⊿゚)「やーい、なんもいえねーのかよー、かっこつけー」
ヒートは口を窄めてドクオを野次り続けていた。
600
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:14:03 ID:es9erg9o0
そうしていくうちに、彼の唸りが、だんだんと細切れになっていく。
肩を震わせ、口元が綻び、破顔する。
はっきりと笑い声と認識できるようになった頃には
向かいに立つヒートの顔にも笑みが毀れていた。
ドクオはその時思っていた。
自分がこうして笑うのはいつぶりだろうって。
二人の若者にとって、それは束の間の休息となった。
☆ ☆ ☆
601
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:16:04 ID:es9erg9o0
ラスティア城7階から8階の間
王女の部屋へ続く道
ブーンは王女の部屋に戻りつつあった。
早く戻らなくては、そう思って焦る。
実のところ、7時40分はとっくに過ぎていた。若干読みが甘かったのだ。
20分以内に戻らなければ王女が怪しむかもしれない。
だから走る。
螺旋階段を駆け上り、8階へ。
部屋へと続く廊下には何もいなかった。
誰かが通った痕跡もない。
外に出ているうちに誰かに侵入されたということはないようだ。
ひとまずほっとするブーン。
足取り確かに、王女の部屋の扉の前に辿りついた。
呼吸を整えるため、やや時間を置く。
それから咳ばらいをした。
( ^ω^)「王女、帰ってきましたお」
602
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:18:01 ID:es9erg9o0
返事はない。
ブーンは首を傾げた。
(;^ω^)「王女? あー、少し遅れたこと、怒ってますかお?」
怖かったが、それでも尋ねた。
もしも怒っていたら、素直に謝ろうと思い始める。
しかし、やはり静かなままだ。
胸の奥がざわついた。
まさか、何か起こったのか?
そしたら、なおさら自分の身分が危ない。
(;^ω^)「王女!?」
慌ててドアをノックする。
やはり反応はない。
ポケットの中を探り、スペアのキーと取り出した。
もしものときはこれで部屋に入ることになっていたのである。
603
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:20:05 ID:es9erg9o0
(;^ω^)「失礼しますお!」
言ってから、急いで鍵穴に差し込む。
金属のぶつかり合う音。焦っているせいか、なかなか回せない。
落ちつけと自分に必死で言い聞かせる。
もし王女の身に何かあれば、自分は即刻罪人となるかもしれない。
あの王女に固執する国王のことだ、それくらいやりかねない。
なんとか鍵が回転する。
かちゃりという音。
ノブを捻って、一気に押す。
(;^ω^)「王女!!」
言葉だけがすっ飛んでいく。
顔面に向かってくる風を感じた。
604
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:22:11 ID:es9erg9o0
ブーンは目を白黒させる。
風など、どうして感じるのだろう。
どこから吹いているのだろう。
答えは目の前にあった。
王女の机の前にある窓が開いていたのだ。
夜風がそこから入り込んできていた。
ブーンは首を回し、部屋を確認する。
広い部屋、大きな家具、たくさん詰まった本棚に、ふかふかそうなベッド。
そして、誰もいない。
王女さえも。
(;^ω^)「」
絶句。
そして窓へと駆け寄った。
605
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:24:00 ID:es9erg9o0
まさか飛び降りたんじゃないだろうか。
サックに手をかけて、下をのぞく。
( ^ω^)「!!」
何かが垂れさがっているのがわかった。
ロープだ。それが、真下にある部屋のバルコニーに続いている。
ここは8階だが、まさかすぐ下にそんな足場があるとは知らなかった。
ロープはかなり余裕がある長さだ。
バルコニーでそれはくるくると丸まっており
その先端で大きな袋を結びつけていた。
ロープがどこから伸びているのか気になり、目線を登らせる。
カーテンに隠れた留め具のところを通過し、部屋の中へ続いていく。
やがてそれは大きな本棚の下に向かっていった。
どうやらその本棚を重石にしているようだ。
例えば一旦本をどかして軽くし、ロープの上に置くとする。
それから本を詰めていけば立派な重石が出来上がる。
少女一人を支えることもできるはずだ。
606
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:26:05 ID:es9erg9o0
じゃあ留め具は……考えようとしたが、何故そこを通してあったのかはわからなかった。
むしろ留め具が壊れたりすれば危ない気もするのだが。
方向を固定したかったのだろうか。
バルコニーの方には袋があった。
きっとあの袋にはおもりが入っていたのだろう。
デレはそこへ向けて、ここを伝い、降りたに違いない。
それ以外に脱出経路はない。
ブーンは再び窓の下の光景を見て、それからがっくりと肩を落とした。
いなくなったことそれ自体もショックであったし
デレと話す機会がまた無くなってしまったこともショックであった。
607
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:28:02 ID:es9erg9o0
どうすればいいだろう。
デレを探すべきか? でもどこにいるかもわからない。
この部屋に留まっている理由もない。
ならば、レジスタンスに協力する? でもそれはもう戻れないことの証。
(;^ω^)「あああ、どうしよう」
窓から離れ、ふらふらと動いて、それから椅子に座った。
机の前の、おそらくデレが使っていたであろう椅子。
やけに小さい。
ブーンの方が背が高いからだろうか。
それにしても、小さすぎる。幼いころのままなのではないか。
ここに、彼女はずっと座っていたのだろうか。
その姿を想起してしまう。
608
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:30:07 ID:es9erg9o0
それと同時に、思いだしたことがあった。
何かあったら、部屋をくまなく探すように。
それはデレが言った言葉。
609
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:32:04 ID:es9erg9o0
何かあったら……
あれは、自分で何かをすると宣言していたのだろうか。
そうだとしたら、デレがいなくなった今の状況こそ
部屋をくまなく探す機会。
でも、くまなく探すと言ってもどこを。
そこでまた、閃きがあった。
さきほど、デレの脱出経路考えるときに引っかかった場所。
どうしてカーテンの留め具をロープが通っているのか。
ロープを辿る。
留め具の場所を見るため、カーテンを動かした。
カーテンに隠れたその奥に煌めくものがあった。
( ^ω^)「そうか……」
610
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:34:07 ID:es9erg9o0
デレはロープをここに通した。
それは、これを発見させるためだったんだと、ブーンは合点がつく。
ゆっくりと手を動かす。
カーテンの留め具にかかっていたのは、銀色の小さな鍵だった。
鍵穴を探すこと、数分。
やがて、それが机の下にある小さな棚のものだと判明した。
人の棚を探ることには若干の抵抗はあったものの
思わせぶりに鍵がある以上、それを使いたくなるは無理もない。
( ^ω^)「……ダメだったら、それまでだお」
震える手で、また鍵穴にさしこむ。
さっきも似たような状況だったことを思い出した。
でも、さっきほどは緊張していない。
これがデレの真意に繋がっていると思ったからだ。
そう思うと、恐怖よりもわくわくする気持ちの方が勝る。
611
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:36:05 ID:es9erg9o0
鍵がはまり、解錠される。
棚の取っ手を引く。思いのほかするすると動いた。
普段から使われているのだろうか。
出てきたのは、一冊の厚いノートだった。
『日記帳』と書いてある。
(;^ω^)「これは……」
さすがにまずいと最初は思った。
個人の日記帳を盗み見るのは、いささか倫理に反している。
迷っているうちに、日記帳の上に紙切れがあるのに気付いた。
それを手に取る。
日記を見るよりは罪悪感は薄い。
小さなメモ書きだ。
その場に座り、折られている紙を開く。
(;^ω^)「……!?」
612
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:38:04 ID:es9erg9o0
目を見開いた。
そこに書いてあるのが、まぎれもなく自分のことだったからだ。
『ブーンさんへ
これを持って、読んでください。
それと、余計な音は立てないでね。
デレより』
☆ ☆ ☆
613
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:40:05 ID:es9erg9o0
―― 第五話 前半 終わり ――
―― 第五話 後半へ続く ――
.
614
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:48:01 ID:es9erg9o0
今日はおしまい。
また明日。
615
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 00:43:39 ID:GN9bRVE20
おつ、また明日が楽しみ
616
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 03:03:32 ID:Rav1g4qUO
おい、いいところで……と思ったが明日ならいいか!
617
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 20:59:23 ID:.J/zgTc.0
第五話後半の始まりです。
618
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:00:17 ID:.J/zgTc.0
ラスティア城8階から9階までの間
すでに螺旋階段を何段も踏み進めてきていた。
お城の中央に聳える塔、その内部を着実に上っている。
いくら進んでも、ひたすらに赤い絨毯が現れてくる。
注意しなければ、自分が本当に進んでいるのかどうかもわからなくなってしまう。
ドクオはヒートの先を歩いていた。
この階段の最上階に国王の部屋があるはずなのだ。
そこへいけば、モララーの剣がある。
('A`)「!!」
突然、ドクオが息をのみ、ヒートの前に手を出した。
('A`)「止まれ」
ノパ⊿゚)「なんだ、魔人か?」
('A`)「ああ」
619
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:02:17 ID:.J/zgTc.0
ドクオはこのお城に入ってから、ずっと魔人の匂いを感じてきていた。
だけど、今彼の感じている匂いはこれまでよりもはっきりしたもの。
('A`)「どうやら、待ち伏せしていた奴がいるみたいだ」
ドクオの手が、腰の柄にかかる。
ノパ⊿゚)「先に言っておくと、魔人相手に大した戦闘はできないぞ」
そういうヒートの手には、既に小型のナイフが握られていた。
ノパ⊿゚)「必要最低限のことをしたら、さっさと上に行く」
('A`)「それでいい。長いは無用だ」
ドクオの剣が抜かれる。
暫く使っていなかった剣だが、しっかりと光沢を帯びている。
こういう道具の手入れは怠らないのが彼の信条だった。
その握り手に力が籠る。
周りの空気が変わったのを感じたからだ。
620
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:04:18 ID:.J/zgTc.0
「貴様ら、何者だ」
螺旋階段の奥から人の声がした。
('A`)「……わけあってな、国王の部屋にいかなくちゃならないんだ」
「それはできないな」
最初の声とは少し違う声色。
('A`)「二人か」
ドクオは剣を引き絞る。
「国王の部屋には俺の主君が用なのだ」
「誰も通すわけにはいかない」
強気な口調が階段に響く。
ドクオは舌打ちをする。
高低差のある場所では下にいる者の方が不利だからだ。
621
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:06:18 ID:.J/zgTc.0
('A`)「……そんなら、どうすればいい」
「わかりきったことを」
「そんなの決まっているさ」
ドクオはヒートに目線を送る。
顎で先を示す。
('A`)「敵が来たら駆け抜けてくれ」
せめてヒートだけでも先に送ってやると思ったのだ。
敵がこちらに向かってくる隙に彼女が走れば、そうやすやすとは追いつけないはず。
ノパ⊿゚)「了解した」
短く答え、それから走りだすポーズをする。
ドクオは前を向いた。
階段の壁に影が見える。
622
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:08:18 ID:.J/zgTc.0
影が、一気に大きくなる。
敵が近づいてきている、螺旋階段を駆け降りて。
ドクオは剣を腰に据えて走りだす。
ヒートがその背後に隠れるようにして続く。
敵の姿が露わになる。
二人の姿。
( ´_ゝ`)「俺たち流石兄弟!」
(´<_`;)「俺たちを倒せたらな……兄者、言葉がそろってないぞ」
ぐだぐだの声色が重ねられてくる。
623
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:10:18 ID:.J/zgTc.0
二本の斧が振るわれてくる。
ハルバード、槍斧だ。
その武器が使われだしたのは、14世紀からだと言われている。
槍と斧を組み合わせた武器であり、
まだ世界が戦争をしていた頃は、人気のある扱いやすい武器だった。
二人組のやりとりこそ茶番だが、この武器は本物だ。
('A`)「いいもんもってるじゃねえか」
ドクオは楽しそうに言う。
剣を握る手のひらに力が籠る。
早速、戦闘が開始となった。
624
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:12:18 ID:.J/zgTc.0
ドクオは向かって左の男からくる一撃を交わし、右の男の一撃を剣で弾く。
そのまま身体を右の男へぶつける。
(´<_` )「うお!」
( ´_ゝ`)「弟者、そいつを抑えろ!」
ドクオが体当たりした男、弟者は体勢を崩しつつもドクオの腕を掴んだ。
離れようとするが、力が強い。
目の前では兄者が斧を引き寄せている。すぐに次の攻撃が始まるだろう。
('A`)「ヒート! 走れ!」
ノパ⊿゚)「おうよ!」
( ´_ゝ`)「え?」
兄者の動きが止まる。
その背後をヒートが駆け抜けていく。
(;´_ゝ`)「ぬお、見逃したあ!」
(´<_`;)「兄者、今はそれはいいからこいつをむぐっ!?」
隙をついて、ドクオは弟者の顔に蹴り込んだ。
腕が離れる。その脇を抜け、上段に立つ。
625
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 21:13:50 ID:.KT3oBGQ0
お、きたか
弟の鼻が全角になってるよ
626
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:14:17 ID:.J/zgTc.0
(´<_`;)「ぐ……くそ」
鼻を抑えて、弟者が呻いた。
そこへ、ドクオは一気に斬り込む。
( ´_ゝ`)「おっと、そうはさせねえ」
弟者の前に兄者の斧が出され、ドクオの攻撃をはじいた。
ドクオの足は方向を変える。
兄者の方へ。
弾かれた剣を握りなおし、下からの攻撃に切り替える。
兄者は槍斧を使って盾とする。
斧という武器は、主に振り下ろして攻撃する。
石器時代から存在する人間の原始的な道具が発達したものだ。
そのフォルムから、近接戦闘では防御面で有利に立つことができる。
これは剣にも槍にもない利点と言えた。
槍斧にしても、斧がついている以上は同じことがいえる。
627
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:16:27 ID:.J/zgTc.0
しかし、防御をする際には刃の腹を敵に向けなければならない。
攻撃に切り替えるためには、刃を敵に向けてから振りかぶる動作が必要になる。
普通に扱うにしても動作が緩慢な斧にとって、そのタイムロスは重要な弱点であった。
兄者はなんとか柄を握りなおすチャンスを見極めようとしていた。
ドクオの攻撃がやむとき、バランスを崩すとき、なんだっていい、ちょっとの隙があれば。
だけど、ドクオとて元衛兵の一員、訓練は積んでいた。
その斬撃に無駄は無い。斬りかかってはすぐに身を引き、次の攻撃の構えへと続いていく。
素人目には攻撃がいつまでも続いているように見える。
もちろん戦闘慣れしていれば、剣を引いた一瞬をついてアクションを起こすこともできた。
手元を叩きつけてもいいし、武器など捨てて殴りかかってもいい。
だけど、兄者はただ冷や汗を流して剣の先を目で追うばかり。
その様子をみて、ドクオはすでに気付いていた。
彼らは実戦経験が少ないようだと。
(´<_`#)「このお!!」
横から弟者の怒鳴り。
ドクオは咄嗟に階段を跳んでのぼった。
目の前に一直線に伸びる槍斧。
628
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:18:18 ID:.J/zgTc.0
兄者の槍斧とぶつかり、金属音が聞える。
そんなことをすれば、お互いに傷がついてしまう。
ドクオはそのことがわかっていたので、顔を顰めた。
('A`)「立派な武器を持っているようだが、宝の持ち腐れだな」
双子が睨んでくる。
武器を引いて、それぞれ再び構えなおす。
('A`)「ほら、今度は俺が上に立ってる。形成は逆転だ」
挑発するドクオ。
これにのってくれれば、武器は自分に振るわれるだろう。
おのずとその攻撃領域も予想できる。
身体を上手く運べば、カウンターは容易い。たとえ敵が二人でも。
ドクオは頭の中でそう算段した。
一層の集中。
緊張が張られる。
629
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:20:17 ID:.J/zgTc.0
その緊張が破られたのは
意外なことに、ドクオよりもさらに上の階からだった。
ノハ;゚⊿゚)「な、なんだこれ」
ドクオが顔だけを素早く向ける。
何故か階段の途中でよろめくヒートが見えた。
(;'A`)「おい、どうした? 急げよ!」
ノハ;゚⊿゚)「違うんだ、何か、見えない壁があって」
「ふふふ」という笑い声。
ドクオとヒートは双子を見下ろした。
( ´_ゝ`)「俺の主君の出した命令はこうだ。
よしと言うまで誰もそこに入れるなってな」
630
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:22:14 ID:.J/zgTc.0
そう言って、兄者は頭を指さした。
( ´_ゝ`)「悪いがその見えない壁は俺が張らせてもらった。
誰もそこを通させやしない。俺を倒さない限りな」
髪の下が膨らみを持つ。
形となって持ちあがる。
('A`)「魔人か」
∧_∧
( ´_ゝ`)「その通り。
親切に教えておくと、契約してあるのは俺だけだ」
∧_∧
(´<_` )「……それはカッコつけてまで言わない方が良かったんじゃないか?」
∧_∧
(;´_ゝ`)「え、まじd」
兄者のセリフが途切れる。
ドクオがすぐに斬りかかったからだ。
631
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:25:07 ID:.J/zgTc.0
耳ずれ過ぎてて吹いた。
そういえばテストしてなかった……
少し直してきます。
632
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:28:01 ID:.J/zgTc.0
∧_∧
(;´_ゝ`)「な、おいちょっと空気読めって」
('A`)「んなもんしるか、だいたいさっきから匂いでわかってるよ」
∧_∧
(;´_ゝ`)「なに!? それを先に」
∧_∧
(´<_` )「兄者、うまく避けろよ」
簡素な忠告。
兄者が返答する暇もなかった。
直感的に、ドクオは数歩後ろに下がる。
弟者が槍斧を真横に振るったのだ。
その身体の半径1メートルが斬撃の通り道となる。
∧_∧
(;´_ゝ`)「あぶなあ!?」
もちろん、兄者もその射程圏内。
弟者の斬撃に巻き込まれそうになるのを、身体を反らせることで避ける。
手をばたばたと回して、なんとか転ばずに済んだ。
633
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:31:42 ID:.J/zgTc.0
兄者の槍斧が手からこぼれ落ちる。
なんとか踏みとどまった兄者が、歯噛みして弟者を睨みつけた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「弟者! 危ないじゃないか!」
手振りで精いっぱいに抗議のアピールをする。
それに対して弟者は冷ややかな視線を向けるだけ。
∧_∧
(´<_` )「いや、戦闘ってこういうものだろ」
そしてすぐに顔をドクオの方に向ける。
∧_∧
(´<_` )「さてと、戦闘といきましょうや」
('A`)「最初からそのつもりだが」
ドクオは改めて自らの剣を引き締めた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「まったく……ん?」
足元に目を向けて、ぴたっと動きが止まる。
さきほど落としたはずの槍斧が消えている。
いったいどこへ。
634
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:33:39 ID:.J/zgTc.0
ノパ⊿゚)「いいもんもらった」
ヒートが言う。
彼女がいるのは、兄者より数段下。
その得意そうな顔の横に、兄者の槍斧を掲げている。
盗むという本能に近い行動が、彼女を素早く行動させていた。
兄者が背後の音に気付いて振り向いたときにはもう
彼の顔面に向けて、槍斧の柄の部分が突かれていた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「あ……」
ぽつり、と一言。
その視界はすぐに真っ黒に染まる。
∧_∧
(´<_` ;)「あ、兄者!」
弟者が慌てて足を向けようとする。
635
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:35:44 ID:.J/zgTc.0
しかし、その鼻先で煌めきが走り抜けた。
('A`)「お前の相手は俺だ」
ドクオは冷たく宣告する。
目を細めて、弟者の顔色をうかがっている。
∧_∧
(´<_` ;)「……うう」
弟者は歯を噛みしめながら、身体をドクオに向けた。
その腕の槍斧を再び握りなおす。
('A`)「いくぞ」
剣を引っ込め、振りかざす。
弟者が慌てて、槍斧を防御に活用する。
636
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:37:41 ID:.J/zgTc.0
ドクオと弟者の攻防が繰り返されている頃、階下でヒートは締めに入っていた。
ノパ⊿゚)「もういっちょ!」
わなわなと顔面を抑える兄者に対して、回し蹴りが炸裂する。
それ自体に威力があるわけではない。
でも、その靴の下にはバネが仕込まれていた。
シュールお手製の、高いところまで飛び跳ねることができる仕組み。
それは地面を離れた瞬間に、バネの力が靴の下側へと作用する。
その結果として思いっきり跳ねることができる。
ヒートの尋常ならざる脚力によって下支えされている道具であった。
今、ヒートの足が兄者の顔を離れようとする。
その瞬間に、
そのバネの力を利用した装置が作動した。
バネの力が靴の真下へ。
637
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:39:40 ID:.J/zgTc.0
兄者の頭を駆け抜ける衝撃。
壁に激突する後頭部。
血潮が駆け巡り、兄者の思考が混濁する。
∧ ∧
(;´_ゝ`)「くおお……」
か細い呻き。
目をいくら瞬いても、視界がぶれる。
力が抜けていく。
ノパ⊿゚)「じゃあね!」
そういって、ヒートは槍斧の柄を振りあげ、降ろした。
兄者の頭に目がけて。
すこんという小気味よい音が鳴る。
それがスイッチだったのだろう。
ほどなくして、身体を支える意志も消え、
兄者はあっさりと地面に突っ伏した。
638
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:41:41 ID:.J/zgTc.0
上階にて、ドクオは横目でその様子を確認する。
にやりとして、それから弟者に呼びかけた。
('A`)「おう、どうするよ」
∧ ∧
(´<_` ;)「……」
槍斧を構えたまま、弟者は話そうともしない。
ヒートが兄者を倒す間にも攻撃は交わされていた。
相変わらず、ドクオによる一方的な攻撃。
相手が弟者に変わろうとも、その優位は譲らせない。
それにもかかわらず、弟者は目をちらちらと階下に向けていた。
どうやらよほど兄者が気になっているようだ。
('A`)「おい」
しびれを切らして、ドクオが言う。
弟者は目を向けて、それから見開いた。
ドクオの剣の切っ先がまっすぐその顔に向けられている。
弟者の目に恐怖が浮かぶのが手に取るようにドクオにはわかった。
('A`)「おたくの連れはもうダメみたいだぜ?
いくら魔人のお前でも、不思議な力なしに前と後ろからはきついんじゃないか?」
639
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:43:41 ID:.J/zgTc.0
追い打ちをかける目的で、ドクオは語りかける。
なるべくなら無駄な乱闘はしたくない。
その思いから、譲歩のつもりで言っていた。
('A`)「どこでそんな武器を仕入れたかは知らないがな。
斧と剣の相性を考えてなかったのが悪いんだぜ?」
∧ ∧
(´<_` ;)「相性、か。
そうとも、何もかも兄者に任せていたからこうなったんだな」
弟者はそう言って、顔を強張らせた。
('A`)「なあ、あんたらの主人って誰だよ」
ドクオが質問する。
こうして魔人が防衛している以上、契約した相手がいるはずだ。
∧ ∧
(´<_` ;)「契約したのは兄者だ」
('A`)「そうかもな。でもお前もここにいる。
ってことは、お前にも雇い主がいるはずだろ?
兄者の契約主がお前に頼んできたのかもしれないしな」
∧ ∧
(´<_` ;)「……ご明察だよ。
だが、ここで言う必要もないだろう。どうせ上にいけばわかる」
640
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:45:46 ID:.J/zgTc.0
弟者はそういって、ドクオよりさらに上を顎でさした。
ドクオはそちらを見ず、弟者へ向けた剣も降ろさなかった。
('A`)「そうか。なら、退け」
∧ ∧
(´<_` ;)「……ああ、いいぜ」
弟者が息をもらし、肩を落とす。
槍斧も階段の一つに横になる。
刃の部分が大きいため、わずかに刃の方が段から外れ、浮いた形となる。
ドクオはそれを確認して、首を縦に振る。
許すときのサイン。
('A`)「いい判断だ」
途端に、弟者がほっとした様子になる。
緊張が解けた、と表情が語っていた。
('A`)「おい、ヒート、行くぞ」
641
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:48:03 ID:.J/zgTc.0
ドクオは階下のヒートに顔を向けて、手を振った。
こっちにこいという合図。
意識は完全にそちら側。
('A`)「おっと」
油断していたのか、ドクオはつい剣を落としてしまった。
からからと音を立てて、滑り落ちる。
それを拾おうとして、ドクオは思わず身を屈めそうになった。
∧ ∧
(´<_` )「……なんてな」
弟者が呟く。
彼は隙を見逃さなかった。
というよりも、最初から隙を探していた。
ノパ⊿゚)「……あ」
倒れた兄者の横で、彼女は顔を上げていた。
ドクオを見上げる状態。
だから気付くことができた。
642
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:49:40 ID:.J/zgTc.0
ノハ;゚⊿゚)「ドクオ、危ない!」
先程地面についた槍斧の先を、弟者が踏みつけた。
てこの原理。
槍斧の刃が下の段につき、代わりに柄が上に上がる。
半回転したそれは、弟者の手のひらに収まる。
そのまま勢いが活かされた。
手のひらは握りこぶしに変わり、肘が動く。
槍斧はさらに回転し、今まさに高く振りあげられていた。
ドクオはいまだに前傾姿勢。
その背に弟者の視線が突き刺さる。
∧ ∧
(´<_` ;)「ふん!!」
気合の一声。
振りかざされる槍斧。
剣で受け止めることもできない。
643
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:51:41 ID:.J/zgTc.0
それに対し、
ドクオは避けるどころかむしろ、敵の懐へと飛び込んだ。
∧ ∧
(´<_` ;)「!?」
空振り。
斧はただ空気を切り裂いただけ。
勢いで階段に突き刺さる。
一方で
刃も何もついていない柄の動きをはっきりと見極めてから
ドクオは右手を引いて力を込めた。
('A`)「いいことを教えてやるよ」
足が前に出る。
重心が移動する。
('A`)「武器に頼りきってちゃ、いつまでたっても見習いだぜ?」
身体の自然な流れに乗って、握られた拳が敵の顔面に突き刺さる。
鼻の骨の砕ける感触が、確かにドクオに伝わってきた。
悲鳴を出す間も無く、弟者の身体が横ざまに吹きとばされる。
644
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:53:41 ID:.J/zgTc.0
∧ ∧
(´<_` ;)「がっ……ふ」
壁にぶつかって呻く弟者。
床へと滑り落ちて、そのまま身を屈める。
嘆息。
ドクオのものだ。
弟者の垂れた頭を一瞥。
それから舌打ち。
('A`)「……ちょっと手が痛いわ」
忌々しげな目で、ドクオは自分の拳を睨んでいた。
645
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:55:43 ID:.J/zgTc.0
ノパ⊿゚)「やー、暴力的な人怖いわー」
飄々とヒートが上ってくる。
('A`)「……そっちは壁にめり込んでいるようだけど」
ノパ⊿゚)「うん」
('A`)「…………」
兄者が気絶したことで、すでに壁は無くなっていた。
二人は安心して先へ進む。
この先に誰が待ち構えているのかと気になりながら。
☆ ☆ ☆
646
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:57:40 ID:.J/zgTc.0
10階、すなわち、塔の最上階
国王の部屋
扉は開かれていた。
('A`)「……あいつらがいっていた奴か」
ノパ⊿゚)「誰がいるんだろうな?」
('A`)「さあ?
こんなときにこっそり忍び込もうって奴だ。
どうせ碌な奴じゃないんだろうさ」
階段を登りきる。
真っ暗な廊下。
部屋の明かりは異様にまぶしい。
人影が見えた。
壁の装飾品に顔を向けている。
後ろ姿だけでは誰か判別できなかった。
647
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:59:41 ID:.J/zgTc.0
彼が、あの双子の一人、兄者の契約者だろうか。
誰も通すなと指示した人物。
その人の腕が、上げられる。
壁にかけられた剣へと伸びていく。
('A`)「そいつに触れるな」
部屋に踏み込んだドクオは、さっそく告げた。
男が動きを止める。
右手ではすでにルビーの剣の柄を握っている。
「何者かな」
物静かな声。
振り返らなくても、誰かが来たことはわかっていたのかもしれない。
('A`)「それはこっちのセリ……フ?」
648
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:01:43 ID:.J/zgTc.0
最後の最後で、疑問符を浮かべた。
聞いたことのある声だったからだ。
数秒固まる。
沈黙。
そして、ドクオは息をのんだ。
(;'A`)「……あんた、まさか」
ドクオの声が震えていた。
ノパ⊿゚)「おい、どうしたんだよ?
知ってる人か、この人?」
ドクオの後方でヒートが聞いた。
だけど答えが返って来ない。
ドクオには答える余裕が無かった。
649
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:03:40 ID:.J/zgTc.0
(;'A`)「なんであんたなんかがここに……」
ドクオの頭の中が大きくうねる。
その人は、剣の柄をはっきりと握った。
そのまま、身を捻り、ドクオとヒートに対峙する。
剣の切っ先がまっすぐに二人に向けられた。
部屋の暖色の光を反射し、煌めく。
「良い剣だ」
端的に、男は評価する。
国王の部屋に、どうしてその人がいるのか、
ドクオには全く理解できなかった。
650
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:05:42 ID:.J/zgTc.0
ただ、今の自分が窮地に立たされていることだけははっきりとわかる。
( ФωФ)「この剣がここに飾られているのは、確かに惜しい」
ロマネスクはそう言って、冷ややかな目を向けてくる。
猫目が二人を捉える。
そして、ドクオとヒートがアクションを起こす前に
彼はもう片方の手を前へと突きだしていた。
☆ ☆ ☆
651
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:08:01 ID:.J/zgTc.0
8階
王女の部屋
足音が聞えてくる。
ブーンは思わず身を構えた。
日記はまだその右手に握られている。
実は少しだけ、既に中身を読んでいた。
最後の方だけだが。
胸が高鳴っている。
でも音が聞えている以上は気をつけなければならない。
いったい誰が来たというのか。
扉の前で、音が止まる。
開かれると、その先に顔が見えた。
652
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:10:03 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「あ……」
ブーンはほっとする。
見知った顔だったからだ。
なんだ、びっくりしてしまった。
( ^ω^)「どうしたんだお、ジョルジュ」
首を傾げて問いかける。
相手は肩をすくめた。
( ゚∀゚)「いや、なあに。大変かなと思ってさ」
ジョルジュは軽快な足取りでブーンに近づいた。
( ^ω^)「大変?」
言葉が気になったので、ブーンは繰り返した。
653
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:12:10 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「大変ってどういうことだお?」
( ゚∀゚)「そりゃ、単純に、お仕事がよ」
ジョルジュはそう言って笑う。
なんで笑っているのかわからなかったが、
ジョルジュはいつでもにやけているしそんなものかとブーンは思った。
( ^ω^)「まあ今夜はいろいろあったんだお。
ちょっと大変な面もあったお。
というか、レジスタンスの方はどうなったんだお」
( ゚∀゚)「ああ、ちょっとお前にも言いたいことがあってさ。
大丈夫。あいつらきっと上手く言ってるさ」
( ^ω^)「そうかお?
まあ、そう失敗する人たちじゃなさそうだおね。
あ、言いたいことと言えば僕もあるんだお!」
そう言って、ブーンは自分の手元に目をやる。
日記帳。
( ^ω^)「これをちょっとだけだけど、読んだんだお。
少ししか読んでいないけど……でも……」
654
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:14:02 ID:.J/zgTc.0
日記を持つ手に力が入る。
自分の考えを整理するブーン。
どうしても、この内容だけはちゃんと伝えなくては。
今後の自分の行動に関わる大切なことなんだから。
( ^ω^)「ひょっとしたら僕は、とんでもない間違いを――」
話しながら顔を上げた。
輝いていた目。
それが、急速に光を失う。
目の前に、矢があった。
ジョルジュの構えるクロスボウの矢。
(;^ω^)「…………は?」
思考が追いついていなかった。
655
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:16:01 ID:.J/zgTc.0
どうして自分に敵意が向けられているのかもわからなかった。
(;^ω^)「なんの冗談だお、ジョルジュ」
ブーンはおどけた調子で言う。
ジョルジュがいつものままなら、それにのっかって笑い飛ばしてくれるはず。
だけど、予想していた笑い声は聞こえてこない。
ジョルジュはただ、まっすぐな瞳でブーンを見つめてきていた。
☆ ☆ ☆
656
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:18:03 ID:.J/zgTc.0
国王の部屋
外を強風が吹き付けた。
ガラスが揺れる。
だけど、それは一瞬のこと。
すぐに部屋はもとの静寂に包まれる。
その部屋に突然
高笑いが響き渡った。
ロマネスクの高笑いだ。
彼は剣をくるくるとまわしていた。
その顔には満面の笑み。
不気味な細い目が光る。
( ФωФ)「すまないが、本気を出させてもらった」
ロマネスクの腕が振るわれる。
ルビーの剣が空気を切り裂く。
鋭い音がする。
657
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:20:02 ID:.J/zgTc.0
( ФωФ)「話す暇さえ与えなくてすまなかったな」
ロマネスクはそう言って、鼻を鳴らした。
( ФωФ)「しかし、万が一のことを考えてここを守っていて正解だった。
とんだ賊がいたものだ。こんなところまでご苦労なことよ」
ロマネスクはそう言って、身を捻った。
剣の鞘もまた飾られていたのだ。
その鞘を手に取り、ルビーの剣をおさめようとする。
綺麗な刀身。
それが、するりとおさまる。
( ФωФ)「おっと、まだだ」
そう言って、ロマネスクは腕を突きだした。
( ФωФ)「まだ少し、やらなきゃならないことはある」
そう言って、ロマネスクは歩きだした。
扉の方へ向けて。
☆ ☆ ☆
658
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:22:02 ID:.J/zgTc.0
王女の部屋
( ゚∀゚)「冗談じゃない、割と真剣だぜ?」
ジョルジュはそう言って、クロスボウの持ち手を握りなおす。
片手で引ける小型のクロスボウ。
( ゚∀゚)「ブーン、はっきりさせてくれ。
お前は敵か味方か、どっちなんだってな」
それははっきりとした宣告。
敵か味方か、その二者択一。
659
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:24:03 ID:.J/zgTc.0
どうして、ジョルジュがその質問をするんだろう。
なんで自分が心の中で自問して、結局は封印した内容をこの男が追求してくるんだ。
ブーンは瞳を揺らした。
( ^ω^)「…………何か、疑われるようなことしたかお?」
( ゚∀゚)「林の中でな」
ブーンの背筋が凍る。
それははっきり顔に表れていた。
だからジョルジュも顔をゆがめる。
( ゚∀゚)「心当たりはあるんだな」
(;^ω^)「あ……」
( ゚∀゚)「そうさ。お前があのウサギの耳の女の子と一緒にいたのを俺は見たんだ。
あの子は魔人の子なんだろ?」
660
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:26:06 ID:.J/zgTc.0
( ゚∀゚)「そしてお前はこうも言っていた。
その魔人の敵にはならないってな。
じゃあ、お前の立場は今どうなっているんだろうな」
(;^ω^)「て、敵じゃないお!
もちろんレジスタンスとも。じゃないと協力はしないお!」
ブーンは冷や汗をかきながらも訴えかけた。
その足がすくむ。
( ゚∀゚)「確かに、今日もこうして手伝ってくれているしな。
お前はレジスタンスに敵対するつもりはないんだろ」
ブーンは一旦、息を吐く。
とにかく落ちつこうとした。
まだジョルジュは自分を敵とみなしたわけではない。
クロスボウで狙われているものの、落ち着いて話せば理解してもらえるはず。
661
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:28:05 ID:.J/zgTc.0
(;^ω^)「すごく……微妙な立場なのはわかっているお」
ブーンは最初にそう付け加えた。
(;^ω^)「モララーさんのことを知っていたから、あの人の描いた理想の世界に興味が湧いて
それで君らと協力していたお。それはそれで、確かに楽しかったんだお」
(; ω )「でも、身近に魔人の友達がいることがわかって……
その子からもレジスタンスの活動には協力しないでくれと懇願されていて」
(; ω )「確かに魔人と仲良くすることはレジスタンスの考え方と反してしまうお。
だけど僕は……正直なところ彼女と、ツンとは真っ向から対立できないお。
そこまでして魔人を恨むつもりは無かったんだお。ただ、モララーさんの後を追っかけていただけで」
(; ω )「だから、それでレジスタンスに迷惑がかかるなら
僕はもう君らに近づかないお。協力する資格なんてないんだから……」
ブーンの頭が垂れる。
今まで、レジスタンスと共に活動してきた。
ほんのひと月のこと。
それでもブーンの心には残っている。
662
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:30:09 ID:.J/zgTc.0
だけど、どこまでもその組織についていけるわけじゃない。
特にツンからの告白を受けてからそう強く思うようになった。
いつかは抜けなくちゃならない。
この作戦が終わったら考えようとしていた。
それが、今こうしてジョルジュに問われている。
先延ばしにしてきた結論を言わなければならない。
だから思いのほかすらすらと、ブーンは自分の考えを伸びた。
すでに考えは固まっていたのだろう。
ブーンは自分の発言を客観視した。
それがここまで言えなかったのは
レジスタンスと一緒にいた日々が楽しかったから。
モララーさんが亡くなってから彼らと過ごして、笑うことを取り戻した。
仲間という存在ができた。
自分でも気がつかないうちに、それが大きな支えになっていた。
前を向く力になっていたのである。
663
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:32:03 ID:.J/zgTc.0
それをこうして、自分の手で手放さなきゃならない。
せっかくの支えをまた無くす。
ブーンの腹の底に寂しさがあった。
暗い渦巻のように、全てを掻き乱す。
耐えきろうとして、歯を強く噛んでいた。
目もぎゅっと閉じる。
もし緩めれば、涙が流れてしまいそうだった。
( ゚∀゚)「つまり、敵でも味方でもないってことだな」
ジョルジュの声が耳に届いてくる。
その発言の真意は測りかねた。
中途半端すぎただろうか。
結局味方でないのだからと、自分は射抜かれてしまうのだろうか。
それとも自分の優柔不断を笑い飛ばされるだろうか。
664
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:34:04 ID:.J/zgTc.0
不安がこみあげてくる。
心臓が早鐘を打ち始めた。
苦しい。
自分の考えを述べることはこんなに辛かったんだ。
久しく忘れていた恐怖心がよみがえってくる。
どうかこの時間をすぐに終わらせてくれ。
頭の中で、そう念じた。
誰に対してでもなく。
やがて、何かのこすれる音がした。
それを引き金にして、ふっと目が開く。
665
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:36:01 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「……?」
まだ撃たれてはいない。
恐る恐る、顔を上げる。
( ゚∀゚)「そう言うと思ったさ」
ジョルジュが武器を降ろしていた。
顔にはいつものような、不敵な笑み。
( ^ω^)「……え?」
クエスチョンマークが浮かんでくる。
( ゚∀゚)「あの林の中で、俺は二つの可能性を考えた」
ジョルジュが愉快そうに話し始めた。
666
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:38:05 ID:.J/zgTc.0
指を一本突き立てる。
( ゚∀゚)「お前が魔人と通じて俺らの邪魔をする可能性が一つ。
もしこれだったら、ここまで来る間にお前に対してこれを撃っていた。
少しでも怪しいことをすれば、な」
( ゚∀゚)「睨みは効かせていたけど、結局何も起きなかったし安心したぜ」
ジョルジュはそう言って歯を出し、にやりとする。
腕はすっかりだらけていて、後頭部を抑えている。
そして、二本目の指が突き立てられた。
( ゚∀゚)「もう一つは、お前が単純に板挟み状態な可能性。
もしこれならお前は悩んでいるんだろうなって思っていた。
俺たちも、そのツンっていう女の子のことも裏切れない性格だろうしな」
「え」と、思わずブーンの口から声が漏れる。
(;^ω^)「じゃあ何かお。
ここに来た時点で僕は君らの敵にはならないってわかっていたのかお?」
667
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:40:04 ID:.J/zgTc.0
( ゚∀゚)「確率はだいぶ低いと思っていたよ」
(;^ω^)「じゃ、なんでそんな物騒なもん僕に向けたんだお!?」
( ゚∀゚)「だってお前、これくらいしないと自分の考えなんか言わないじゃん。
それに他のレジスタンスの仲間がいた場合も、きっとみんなに気を使って本音を隠すだろうし」
ブーンは口をポカンと開けた。
(;^ω^)「え……ええ、えええ??」
目を瞬いて、頭を抑える。
(;^ω^)「僕はどれだけ気弱に思われているんだお……」
( ゚∀゚)「ま、敵でないってはっきりするのはいいことさ。
そして俺も、お前の敵にはならん」
ジョルジュのあっけらかんとした発言を耳にして、ブーンは小首を傾げた。
668
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:42:04 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「いいのかお?
僕はレジスタンスには協力できないってはっきり言っちゃったけど」
( ゚∀゚)「ああ、でも個人としては別さ。
お前はモララーさんも認めた奴なんだし、俺だって気にいってる。
きっと将来的に何かでかいことをしでかすと期待しているんだ」
期待、と聞いてつい萎縮してしまった。
(;^ω^)「うう……そうかお?」
( ゚∀゚)「ああ。だから困ったことがあったら言ってくれ。
きっと役に立つはずさ」
ジョルジュが手を伸ばしてくる。
握手。
669
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:44:04 ID:.J/zgTc.0
ブーンは溜息をついた。
腹の底の渦巻が消えていく。
平和な凪いだ海。
( ^ω^)「ありがとうだお、ジョルジュ」
手を握るブーン。
それを見て、ジョルジュは小さく頷き、それから言葉をつづけた。
( ゚∀゚)「それに、俺もそろそろレジスタンスを離れようと思っていたころなんだ」
唐突な発言だった。
手を離して、ブーンは目を見開く。
(;^ω^)「なんでだお?」
( ゚∀゚)「そろそろ国に帰らなきゃいけないみたいなんだよね」
670
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:46:04 ID:.J/zgTc.0
ジョルジュはちらりと窓の外を見た。
城下町の方。
なんでそちらを見たのだろう?
( ^ω^)「テーベ国にかお……それは残n――」
言葉が途切れてしまったのは、気配を感じたからだ。
音が聞えてくる。
ばたばたとした音。
(;^ω^)「誰かここにくるみたいだお!」
(;゚∀゚)「え、まじで?」
もしかして王女が帰ってきたのだろうか。
それとも別の警備の、魔人や衛兵だろうか。
どちらにしろ今この場でジョルジュを見つけられてしまうのはまずい。
(;^ω^)「ジョルジュ、窓だお窓!
脱出できるロープがあるんだお!」
671
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:48:03 ID:.J/zgTc.0
急いで彼を促す。
二人は窓辺へ移動する。
ロープは相変わらずだらりと階下のバルコニーに垂れさがっていた。
( ^ω^)「これを使って下へ逃げて、隙を見て逃げてくれお」
( ゚∀゚)「おおう、結構難易度高そうだな」
ジョルジュはそうぼやく。
しかしその顔は笑っている。
彼はそういう人なんだとブーンは思う。
楽しいこと、興味があることをする、そうしているうちは目いっぱい笑う。
自分を助けてくれるのも興味があるからだ。何かをしてくれるという期待。
そうして偏見もなく、立場も推してまっすぐに意見を聞いてくれる。
寄宿舎で会ったときとは全然違う。
よほどモララーさんに絞られたんだろうなと思い、ブーンはくすりと笑った。
672
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:50:08 ID:.J/zgTc.0
( ゚∀゚)「何笑ってんだよ」
(;^ω^)「お、お前に言われたくないお!」
言い返そうとするジョルジュだったが、部屋の扉がものすごい勢いで叩かれたために中断する。
( ゚∀゚)「じゃ、いくわ。
もしテーベに行く機会があったらこれを持っていきな」
ジョルジュは胸ポケットから一枚の紙切れを出し、ブーンに渡した。
それは何かと追求する前に、とっととジョルジュは降りてしまう。
いつも通りの勝手な奴。
しかたなしに、紙をポケットにしまい込む。
「おい、ブーン! いるんだな!」
扉の向こう側から声がする。
673
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:52:14 ID:.J/zgTc.0
聞いたことのない声。きっとお城を警備していた衛兵だ。
とにかく急いで対応しようと思い、ブーンは近づく。
「お前に聞きたいことがある。王女のことだ」
ドアのノブに手をかける直前、そう言われた。
ブーンの手が止まる。
王女はどこへいったのか。
何かあったのだろうか。
嫌な汗が流れる。
674
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:54:04 ID:.J/zgTc.0
(;^ω^)「い、今開けますお!」
慌ててそう言い、ノブを捻る。
それが王女の部屋で起こったお話。
☆ ☆ ☆
675
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:56:22 ID:.J/zgTc.0
('A`)「…………」
ドクオは黙っていた。
ロマネスクを見据える。
後ろのヒートにしていたって同じことだ。
彼らの目は、ロマネスクの突きだした手に集中している。
そこには、スケッチブックが握られていた。
素朴な読みやすい字が見える。
頭の中で、何度もその文章を読んでいた。
その通りにしていた。
だから、黙っているのである。
それは、次の文章だった。
676
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:58:03 ID:.J/zgTc.0
『 無駄話をするな!
全部聞かれているぞ! 』
.
677
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:00:13 ID:.J/zgTc.0
( ФωФ)「すまないが、長くなってしまうだろうな。
そもそも君らのことも知らないし、少し場所を移してゆっくり話そうではないか」
('A`)「……俺らを殺そうとする可能性は」
( ФωФ)「ない……とは言い切れないな。
ただ、よほどのことが無い限り私はお前たちに危害は加えんよ。
何分複雑な事情を抱えているのでな」
('A`)「じゃあ、一つだけ先に教えてくれ。
あんたはその剣をどうして手に入れようとしていたんだ?」
ドクオの指先が、ルビーの剣に伸びていく。
今もまだロマネスクの手中にある。
( ФωФ)「ああこれか。大したことではない。
王女がどうしても傍に置いておきたいと言っていたんだ。
あの……モララー殿の形見をな」
懐かしそうに目を細めるロマネスク。
その目に敵意が無いことは、ドクオたちの目にも明らかであった。
それが国王の部屋で起きたお話。
☆ ☆ ☆
678
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:02:10 ID:.J/zgTc.0
7時50分頃
ラスティア城敷地内
南にある大木の裏
彼女がここにいう理由を簡単に説明する必要がある。
まず、彼女は落とし穴にはまった。
落下に身を任せ、自らの発明品でその衝撃を受け流しているうちに
気がついたらお城の外へと吐きだされてしまっていたのである。
そのまま、しばらくは身を潜めていた。
すぐに助けはくるかなとタカをくくっていた。
しかし、いくら待っても誰もこない。
てっきりジョルジュあたりが駆り出されてくると思ったのに、薄情な奴らだと彼女は思った。
とはいえ、愚痴っている場合でもない。
下手にうろついていたら衛兵に見つかってしょっ引かれてしまう。
彼女にできることは、外で仲間が出てくるのを待つことだけだ。
679
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:04:03 ID:.J/zgTc.0
そのため、静かに大木の裏で息を潜めていた。
そこは茂みが近く、いざとなれば隠れられる。
門からも近い。仲間が助けに来なければ、寝ぼけている衛兵を吹きとばしてでも脱出しよう。
心の中で算段を決めていた頃
lw;´- _-ノv「……なんだ、あれは」
彼女が見たのは、人影。
お城の前をこそこそと歩いている。
その人の衣服がドレスなので、シュールはもしやと思った。
あれは王女なのではないか。
興味が湧いた。
なんで王女が自分の住んでいるお城でこそこそするのだろう。
680
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:06:02 ID:.J/zgTc.0
あとはその好奇心に従った。
彼女は小屋が立ち並ぶ場所へと向かっていった。
シュールもそれの後を追う。見つからないように気をつけながら。
必要以上に近づくわけにはいかない。
だからやや遠いところから見ているしかない。
くぐもった声だけ聞えていた。
王女が何事かを話しているのか。
いったい誰と話しているんだろう。
先程の魔人だろうか。
lw´‐ _‐ノv「……!!」
尖った叫びを聞いた。
恐ろしい声。
lw;´‐ _‐ノv「…………え?」
彼女の顔が強張る。
お城から、植えこみから、あらゆる場所に人影が現れたのが見えた。
681
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:08:04 ID:.J/zgTc.0
それも、いつの間にか。
一人、二人、どんどん増えていく。
しかもそのほとんど全てに耳がついていた。
それはどう見ても魔人だった。
王女の下に寄ってきているのか。
lw;´‐ _‐ノv「これは……まずいな」
そう呟き、振り返る。
間に合わなくなる前に逃げなくては。
だけど、その目の先で真っ赤な目の輝きがいくつも光っていた。
lw;´‐ _‐ノv「ああ……あうとー」
ふらふらした声が伸びていく。
682
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:10:03 ID:.J/zgTc.0
このお城には、すでに安全な場所は無かったんだな。
そう悟って、力なく微笑んだ。
新嘗祭の花火の音がする。
祭は盛況のようだ。
その祭が
ラスティア国の最後の祭事となった。
683
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:12:05 ID:.J/zgTc.0
―― 第五話 新嘗祭とラスティア城 おわり ――
―― 第六話 王女デレと勇者モララー へ続く ――
.
684
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:16:29 ID:.J/zgTc.0
―― コラム⑤ 世界地図 ――
うpロダお借りしました。
ちゃんとできているでしょうか。
ttp://u3.getuploader.com/boonnews/download/49/%E5%84%AA%E3%81%97%E3%81%84%E8%A1%9B%E5%85%B5%E3%81%A8%E5%86%B7%E3%81%9F%E3%81%84%E7%8E%8B%E5%A5%B3.jpg
絵などは描けませぬ。
場所も特別に想定はしていません。
685
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:18:30 ID:.J/zgTc.0
はい。
今日の投下は以上です。
次回はいわば謎解き回です。
城下町でのお話も、次回でおしまい。
最初のうちはAA乱れてすいません。
それでは。
686
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 23:18:53 ID:yDbP2bLY0
状況が一気に動いて衝撃の嵐だよおい面白いよおつ
地図ちゃんと見れた。樹海に走っている人がいるんですがそれは
687
:
名も無きAAのようです
:2013/09/07(土) 00:31:16 ID:1CmE/4U2O
さすがに次は少し待つ覚悟は出来てるんだからね
688
:
名も無きAAのようです
:2013/09/07(土) 02:39:17 ID:vNH/BBHE0
おつ
689
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/10(火) 00:00:21 ID:bamZPyCA0
―― 予告 ――
.
690
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/10(火) 00:01:41 ID:bamZPyCA0
305年 11月17日
私はこの声の主を、『魔王』と呼ぶことにしました。
.
691
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/10(火) 00:03:33 ID:bamZPyCA0
―― 第六話 ――
―― 王女デレと勇者モララー ――
12日木曜日9時から前半
13日金曜日9時から後半を投下します。
692
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 00:30:51 ID:wugBzvVg0
どんなペースよ
693
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 00:52:26 ID:xUcAIp96O
ホントにペース早いな
694
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 04:38:07 ID:cvczrJEU0
あああああああああどんどん気になる
695
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 10:13:22 ID:tabyqJ3c0
無理しないでくれよ
と言いつつすごく楽しみにしてる
696
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 20:41:07 ID:Cf7eUUhA0
ペース早くて読むのが追いつかないからまとめて読むの楽しみ
697
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 20:59:19 ID:eEgCKf9U0
そろそろ投下ですね。
698
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:00:34 ID:eEgCKf9U0
( ^ω^)「…………」
( ^ω^)「酷い目にあったお」
( ^ω^)「しばらく出られそうにないおね」
( ^ω^)「…………持ち物はあるお」
( ^ω^)「王女の日記も。しかし分厚いお」
( ^ω^)「暇だから最初から読むお」
☆ ☆ ☆
699
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:01:31 ID:eEgCKf9U0
304年 12月10日
今日は私の12歳の誕生日です。たまにはいいことがあるものです。
何か新しいことを始めようと思ったので、日記をつけることにしました。
毎日書くのは大変そうでも、頑張って出来事を記していきたいと思います。
今日、誕生日プレゼントということで白馬を頂きました。
とっても大きなマルティア国の国王様が私にくださったんだそうです。
私に白馬を見せるとき、父は苦笑いをしていました。
きっと父は、本当はあんまり他の国と関わりたくないと思っているのです。
母が亡くなったときからずっとそう。
でも大きな国からの、そういう良いものは受け取らないと後で嫌な顔をされてしまいます。
だから受け取らなきゃならない。そんな複雑な意味合いがあの苦笑いには含まれていたのだと思います。
父はむすっとしていて、いつも何かを抱え込んでいる人なので
これからもあの白馬に乗せたりして、楽しませてあげられればいいな。
そうしたら、いつか私もこのお城の外に出ることができるのかな。
出たいなあ。
700
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:02:46 ID:eEgCKf9U0
305年 1月1日
新しい年が始まりました。
お城の中でお祝いがありました。町の人たちを呼んでのです。
相変わらず父は私を外に出そうとしてくれません。
どうしてあんなに強情なのでしょうか。
出たいといくらいっても、危ないからとしかいいません。
父は私をそんなに弱い存在だと思っているのでしょうか。
私には父がよくわからないです。
・
・
・
305年 1月13日
今日は衛兵見習いの中でも成績優秀な方々とお会いしてきました。
遅めの新年会のようなものです。
彼らからしてみたら、私に会えることは光栄なことらしいです。
それは私があまり皆さんの前に顔を出さないからでしょうか。
ただ外に出られないものだから悔しくて
外にいらっしゃる皆さんとはお会いしにくいだけなのに
なんだか勝手な話だなと思いました。
でも一人カッコいい人がいたな……
701
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:03:27 ID:eEgCKf9U0
・
・
・
305年 4月16日
父はやっぱり嫌いです。
私は鳥籠の中の鳥なのでしょう。
・
・
・
305年7月24日
変わり映えのしない毎日です。
・
・
・
305年 8月15日
毎日、誰かが私に手を差し伸べてくれないかと考えています。
そんな方が現れれば、喜んでついていきますのに。
702
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:04:26 ID:eEgCKf9U0
305年 9月23日
声が聞えました。
どうやら魔人らしいのです。
私を出してくれるために、父とお話をすると言っていました。
あのお方が父を変えてくれるのでしょうか。
もしそうでしたら、私は本当にうれしくて……
☆ ☆ ☆
703
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:05:25 ID:eEgCKf9U0
|
第
六
話
|
―― 王女デレと勇者モララー ――
.
704
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:06:25 ID:eEgCKf9U0
305年 9月25日
(´・ω・`)「魔人をお城の中に招き入れようと思うんだ」
夜の会食のときに、ショボンは突然口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「え? どうして?」
(´・ω・`)「うん。ちょっと、気が変わってね」
フォークをいじりながら、ショボンは顔をあげてデレを向いた。
(´・ω・`)「魔人は不確かな面が多くて、私も今まで避けていた。
私が国王になってからすでに十数年、ずっと。妻が亡くなってからはなおさらだ」
(´・ω・`)「だから、このお城と城下町はなるべく魔人から遠ざけた。
距離がある町や村だと魔人を使っているらしいが、それは大目に見た。
少なくとも私の目の届く範囲では避けたんだ。彼らを元々の居住区である森に籠らせておいてね」
(´・ω・`)「だけど彼らが有用なのは事実だ。
私情で彼らを避けていれば、いずれこの国は他国よりも後進国になってしまう。
そんなことになってしまっては国民を守れない」
705
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:07:25 ID:eEgCKf9U0
(´・ω・`)「だから、そろそろ意識を変えなきゃいけないと思ったんだ。
魔人を受け入れて、一緒に働き、平和な国を築く」
(´・ω・`)「それが理想だと先日気付いたんだ。
長々話してすまなかったね。大丈夫かい?」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、もちろん」
デレは大きく頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「とても素敵な考え方だと思います」
言いながら、内心では昨日聞いた声のことを思い出していた。
きっとあの魔人さんが上手く交渉したんだ、国王相手にそんなことできるなんてすごいなあ、と
純粋な気持ちで、デレは心の中で声の魔人を称えていた。
(´・ω・`)「……そうだ、来週ちょっと外へ出てみないか」
ζ(゚ー゚*ζ「え!?」
706
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:08:25 ID:eEgCKf9U0
いきなりの提案に、デレは思わず大きな声を出してしまった。
手を口で覆うデレを見ながら、ショボンが微笑む。
(´・ω・`)「外交しようと思って、急いで手紙を送ったんだ。
前々から交渉しようと言ってきていた国でね。
先程言ったように後進国にならないためにも、これからは積極的に外交していきたいんだ」
(´・ω・`)「それで、そのついでになるけど
デレも一緒に来てくれるかな、と思ったんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「行きます!」
デレは二つ返事する。
ζ(゚ー゚*ζ「行きますわ! お父様。ああ、本当に、嬉しい……」
口を両手で押さえながら、デレが感嘆を漏らす。
油断すれば涙がこぼれそうになる。
さすがにそこまでしたらショボンを驚かせてしまうので、なんとか堪えていた。
それにしても、こうまでして自分の願いを叶えてしまうとは
あの声の魔人は本当にすごい魔人だったのだな、とデレは再びの賛辞を送った。
707
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:09:25 ID:eEgCKf9U0
その日の晩
ζ(゚ー゚*ζ「魔人さん、いらっしゃる?」
自分の部屋で魔人に話しかけた。
相手は姿が見えないので、話すときは厄介なのだが
部屋で声をかければ返事をしてくれた。
「……なんだい?」
やや遅れた返答。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたにとっても感謝しているの!」
デレは諸手を挙げて喜びを表した。
声の反応はない。
仕方なく口で説明する。
ζ(゚ー゚*ζ「お父様が魔人をここに受け入れるって。
それと、私も外交に連れて行ってもらえることになったのよ!」
「ああ、すごいじゃないか!」
魔人もまた嬉しそうに言う。
その日は魔人に対して、デレはひたすらに、いかに自分が嬉しいかを説明して聞かせていた。
708
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:10:25 ID:eEgCKf9U0
10月1日
デレはマルティア国にいた。
マルティア国の差し向けた鳥型魔人の牽く飛行船に乗ってである。
ショボンの説明により、マルティアが魔人受入れの先進国であるということをデレも知っていた。
今回はその先進国に、魔人受入れについてのアドバイス等を求めに来たのだそうだ。
ただし、デレは話し合いの中心には参加せず
マルティアの従者たちに連れられてお城の周囲を回っていた。
ラスティアの北にあり、さらに山の上にあるマルティア。
10月にしてすでに肌寒く、山の上には雪が張っていた。
国の北東に一際巨大な山脈が見えた。
300年前に魔人が初めて現れたと言われている場所だ。
その荘厳な峰も、上部が雪をかぶっている。
ζ(゚ー゚*ζ「綺麗……」
壮大な光景に、ただただデレは感動していた。
709
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:11:25 ID:eEgCKf9U0
10月2日
ラスティア城から手紙が届いた。
プレゼントとしてマルティアからもらいうけた白馬の容態が悪い、との知らせた。
ζ(゚ー゚*;ζ「お父様、大変!」
手紙を持ってデレは急いで父のもとへ急いだ。
デレは父に泣きつき、帰国したいと懇願した。
あの白馬は、お城に閉じ込められているデレにとって、唯一純粋に接することができる存在であった。
唯一の友達とも言える。
だからこそ、白馬の具合が悪くなったことにデレは心を痛めたのである。
本当なら上手くはいかない懇願だろう。
しかし、交渉相手がその白馬の送り主であるマルティア国王であったため
特別に許しをもらえた。
デレとショボンは自国へと急いだ。
交渉はまた後日、ということになった。
710
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:12:26 ID:eEgCKf9U0
夜にはラスティア城に辿りついた。
デレは白馬の元へ駆けつける。
その小屋の中でぐったりしているその姿を見て、息をのんだ。
それから、その首筋に抱きついた。
(√;゚ー゚)「王女様、あまり近寄られては……」
デレのいない代わりに白馬の世話をしていた衛兵たちが止めようとする。
(√;゚ー゚)「もしも何かの病気ならば、感染する危険もあります」
そう言われても、デレは必死に首を横に振った。
ζ(゚ー゚*;ζ「一緒にいたいの! お願い!」
(√;゚ー゚)「しかし……」
711
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:13:26 ID:eEgCKf9U0
衛兵の返答は尻すぼみになる。
大きな音に遮られた。
白馬が一声、嘶いたからだ。
首を持ち上げて反らす白馬。
それからデレに視線を向ける、
ζ(゚ー゚*ζ「……元気になったの?」
まるで人の言葉がわかるかのように、馬はまたひとつ嘶く。
デレは笑って、一層強くその背中に身を寄せた。
獣医が来てから診察したものの、病気の兆候はみられず
どうもデレがいなくて寂しいだけだった、と結論を下した。
その日からデレは、もし外交に行くとなれば
必ずその白馬を伴っていこうと誓ったのだった。
712
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:14:30 ID:eEgCKf9U0
10月15日
朝起きてすぐに、ショックを受けた。
ζ(゚ー゚*;ζ「え、やめるのですか?」
彼女の専属だったメイドが今月いっぱいで辞めることになっていた。
そのときはしかたなく、その老齢のメイドにねぎらいの言葉をかけるしかなかった。
しかし、徐々にデレは異変に気付き始めた。
お城を試しに数分歩いてみた。
人とは会う。貴族を含め、お城で働く人々の姿。
元々そこまで交流はしていなかった。
向こうとしても、王女と気軽に遊んだりするわけにはいかなかったのだろう。
だけど、ぱっと見ても、お城の大半の人が入れ替わっていることがわかった。
デレは嫌な予感がしたので、急いで父の所へ急いだ。
713
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:15:26 ID:eEgCKf9U0
(´・ω・`)「なんだいデレ。今忙しいんだよ」
素っ気ない態度でかわされてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ「そうなの……そんなに大変?」
(´・ω・`)「ああ、人事面でいろいろ忙しくてね」
ζ(゚ー゚*ζ「そのことで少し話したいことが」
(´・ω・`)「悪いが、人事については僕にまかせてくれ」
あまりにもきっぱりと断られ、デレも口をつぐんでしまう。
父が何を考えているのかわからなくない。
一時は良くなったと思ったのに。
以前抱いていた苛立ちを、デレはこの頃からまた抱き始めた。
714
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:16:25 ID:eEgCKf9U0
10月26日
|゚ノ ^∀^)「デレちゃんこんにちは〜」
ショボンの従妹、レモナが子どもを連れてきた。
彼女のように、お城に入ってくる貴族は近頃増えていた。
ショボンの気が変わったところに付け込んだのだろうとデレは推測した。
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、レモナさんこんにちは」
|゚ノ ^∀^)「ずっと昔に会ったのよ? 覚えてるかしら」
ζ(゚ー゚*ζ「微かには……」
|゚ノ ^∀^)「私の息子とも一緒に遊んだりして、ああ懐かしいわあ」
その時はたまたま、彼女の息子であるヒッキーとは会わなかった。
715
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:17:24 ID:eEgCKf9U0
|゚ノ ^∀^)「ショボンちゃん、お城の手伝いならしてあげるからね」
(´・ω・`)「ああ、レモナは文章が得意なんだっけ」
|゚ノ ^∀^)「ええ、任せて!」
そういって、彼女は強く腕を握る。
とても明るい人だと、傍から見ていたデレも思った。
でも、どうせこのお城の居心地がいいからきただけの人なんだ。
他の人と同じように。
そう思うと、どうしても素直に接することができなくなった。
716
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:18:27 ID:eEgCKf9U0
11月1日
ミセ*゚ー゚)リ「こんにちは! あたらしいメイドです! ミセリといいます!」
王女の部屋にやたらと黄色い声を出す女性がやってきた。
どうも新しい専属のメイドとして連れてこられたらしい。
確かに、ひそかに次は自分と近い年齢のメイドがいいなとぼやいたこともある。
でもまさかこんなに若そうな人がくるとは。
デレは困惑しつつも、ミセリと握手を交わした。
ミセ*゚ー゚)リ「頑張りますので!」
にっこりと笑う彼女を見て、デレもまた微笑んだ。
ここ最近少しだけ不安があったので、
その朗らかなメイドの存在はデレにとってありがたいものだった。
717
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:19:29 ID:eEgCKf9U0
11月9日
久しぶりにショボンが王女の部屋の扉を叩いた。
デレが招き入れると、見たことのある衛兵が入ってきた。
( ФωФ)「衛兵隊長のロマネスクです」
猫目の男性は深々と頭を下げた。
人間にしては鋭すぎる目に、デレは若干たじろいだ。
(´・ω・`)「デレ、彼を君の護衛役にしたいんだ。
今後、外交が増えると危険も増す。そんなときは誰かに守ってもらわなきゃならない」
( ФωФ)「私からも頼れる人に呼びかけます」
ロマネスクはそう言って胸を叩いた。
( ФωФ)「衛兵見習いにもなかなか骨のある奴がいますゆえ、必ずお役に立ちましょうぞ」
衛兵見習い。
ふっと思い浮かんだのは、あの新年会で出会った若い男性だった。
718
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:20:26 ID:eEgCKf9U0
11月15日
この日は夜が騒がしかった。
お城に働きに来た魔人の中に悪い魔人がいたらしい。
そんな風の噂が流れてきた。
ζ(゚ー゚*ζ「悪い魔人……」
不穏な気持ちが湧きあがった。
このお城はどんどん魔人を受け入れている。
その魔人が全員良い人とは限らない。
ひょっとしたら人間のことを見下している魔人だっているかもしれない。
そういう人が現れるのは、とっても怖いことだ。
なかなか寝付けずに、その怖さばかりを考えていた。
719
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:21:26 ID:eEgCKf9U0
11月16日
ζ(゚ー゚*ζ「昨日の魔人はどうなりましたの?」
朝目覚めて、ミセリと出会いがしらにそう質問した。
ミセ*゚ー゚)リ「え?」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、お城にいた悪い魔人っていう」
ミセ*゚ー゚)リ「なんのことですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「……え?」
その後、お城中の人々に聞いて回った。
昨日の魔人はどうなったのか。
ミセリだけが知らない、という可能性だってある。
でも、誰一人としてまともに答えを教えてくれる者はいなかった。
720
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:22:29 ID:eEgCKf9U0
教育係にその話をして、こっぴどく怒られたのち
デレはようやく自分の不安が正しいことを悟った。
魔人の噂をもみけしてしまうなんて。
それほど魔人を守ろうとする人が多いのだろうか。
きっと、同じ魔人は守ろうとするのだろう。
じゃあ、人間に話を聞いてみないと。
あれ
誰が人間なんだっけ。
721
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:23:26 ID:eEgCKf9U0
11月17日
お城中を駆け回った。
この前よりもはるかに真剣に。
たったひと月しかたっていない。
それなのに、もうお城の中は様変わりしていた。
ζ(゚ー゚*;ζ「なんで……みんな代わっているの」
かつて働いていた人たちの姿が見えない。
この数日でそんなにも激しい人事があったのか。
どうしてそんなことを。
少しずつ、人間だけが狙い撃ちされて、追い出されていたのか。
722
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:24:30 ID:eEgCKf9U0
ミセ*゚ー゚)リ「王女様!」
ミセリの声が聞えても、デレは部屋の扉を開けようとしなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「どうして開けてくれないのですか!」
ζ(゚ー゚*;ζ「一人にしてちょうだい!」
ドアノブの握りしめて、叫ぶように懇願した。
ミセリも最初のうちは扉を必死に叩いていた。
困ります、出てきてください、御病気ですか。お悩みですか。
やがて、その声も静まっていった。
ミセリはどこかへ向かったようだ。
ほっとして、デレは扉の前でしゃがみこむ。
723
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:25:27 ID:eEgCKf9U0
「どうしたんだい?」
その声を聞いたのは久しぶりだった。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたは……」
724
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:26:26 ID:eEgCKf9U0
「ずいぶん荒れているようだけど」
内容だけ見れば心配してくれているようだった。
でも、その声の軽さはどうやっても拭いきれていなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「……お父様に何を言ったの?」
相手の姿が見えないので、しかたなく天井を睨んだ。
「お城で魔人が働けるように。最初にもいったじゃないか」
ζ(゚ー゚*;ζ「でも、まさかみんなが入れ替わっちゃうなんて」
そこで、甲高い笑い声が響いた。
「そうだよ、ようやく気付いたんだね」
嬉しそうな口元が目に浮かぶようであった。
「でも僕は嘘をついていないよ。
何人働かせるかなんて言ってないもの」
725
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:27:25 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「お父様がこの話をしたがらないの」
笑い声を無視して、デレは続ける。
ζ(゚ー゚*;ζ「いったい何を吹き込んだの」
「そんなことお前に教える義理はないよ」
ζ(゚ー゚#ζ「どうしてよ!」
思わず声を荒げる。
「僕らは契約以上のことはしないんだ。
まあ、個人の考え方次第だけど。とりあえず僕はそのルールに従ってるよね」
ζ(゚ー゚#ζ「ルールって……」
「でも……そうだな。言った方が面白いかもしれない」
声は小さく、「なるほど」とか、「うん」とか呟いていた。
726
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:28:24 ID:eEgCKf9U0
「じゃあ特別にルール違反して、教えてあげるよ」
愉快そうに、声は言う。
「とはいっても、簡単なことだけどね。
僕がいつでも娘の傍にいるって、言っただけ。
それでもし僕の要求を拒んだら……後はわかるでしょ?」
ζ(゚ー゚*;ζ「あ、あなたは……」
恐ろしい考えが、頭の中で渦巻きだした。
ζ(゚ー゚*;ζ「まさか私を人質にして、こんなことを」
「非常に俗っぽい言い方で気に食わないけど、うん、そういうことだよ。
君の命なんて簡単に奪えるからね。
契約している以上、僕は君の居場所がわかるから」
デレは息を吐いて、胸を手で押さえた。
心臓の拍動が伝わってくる。
なんとかしてそれを抑え込もうとする。
この魔人は自分を煽ってくる。
これにのせられちゃだめだ。
727
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:29:25 ID:eEgCKf9U0
落ちついてから、デレは話し始めた。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたは私の願い事を利用したんですね」
「酷い言い方だなあ」
声が茶化してくる。
ζ(゚ー゚*ζ「お城に侵入するために」
「あのさ、君だって僕を利用して外に出ようとしたんだ。
他の魔人は何もしないけど、願い事に対価を求めたっていいだろ?
むしろそれが自然なことじゃないか」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、契約を破棄します」
魔人との契約は破棄すれば無くなる。
そうすれば、魔人はもう願い事をかなえる義務もなくなる。
そう考えて、提案した。
答えはない。
何も音のない時間が流れる。
728
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:30:26 ID:eEgCKf9U0
最初に、鼻で笑う音がした。
明らかに、あの声の主のもの。
それから、弾けるような笑い声。
これまで聞いたどの甲高い声よりも耳障りなものが、デレの頭の中で暴れまわった。
思わず耳を抑える。
いくらか音は和らいだ。
それでも音量が大きすぎるのか、消しきれない。
ζ(゚ー゚#ζ「なんなんですか!」
必死で喉を震わせた。
ζ(゚ー゚#ζ「何がおかしいんですか! 言って御覧なさいよ!」
「やあ、ごめんごめん」
息切れをしながら、声が謝ってくる。
729
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:31:25 ID:eEgCKf9U0
「あまりにも世間知らずなんだなと思ってさ」
ζ(゚ー゚#ζ「……」
歯を噛みしめて、言い返したくなるのを堪えていた。
「契約を破棄するためには、僕の頭に触れていなくちゃならないんだよ」
声が淡々と述べる。
デレはそれを聞いて、唖然とする。
ζ(゚ー゚*;ζ「そんな……私はあなたが誰なのかも知らないのに」
力が抜け、目の前がぼやけてくる。
それが涙だと気付いて、デレは急いで顔を手で覆った。
こんな姿、絶対に見せたくない。
そう思ったから。
730
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:32:25 ID:eEgCKf9U0
でもどうしたらいいんだろう。
デレは必死に思考を巡らせた。
姿の見えない相手との契約を破棄するなんて。
ζ(゚ー゚*ζ「あれ」
そこでふと、気付いたことがあった。
首を上げて、口を開く。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、じゃあ契約するときは?」
湧いてきた疑問。
それと同時に見えてくる希望。
ζ(゚ー゚*ζ「あなた、本当に私と契約したの?」
契約しなければ不思議な力は使えない。
それなのに、この魔人は不思議な力を使って自分に話しかけてきていた。
ζ(゚ー゚*ζ「もしそうなら、どうしてあなたは最初からその力を使えたの?」
731
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:33:25 ID:eEgCKf9U0
言葉が次々と出てくる。
自分の予測に乗っかって、質問を浴びせかける。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、答えてみてよ!」
もしまだ契約していないとしたら
自分は声から逃げることができるんじゃないか。
「いや」
含み笑いもなく、声が言う。
思えばこの魔人の真剣な声を初めて聞いた。
「君とはちゃんと契約しているよ。
でも、そうだね。もっと正確に言えば、あの部屋のときに君と契約したんじゃないよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……え?」
732
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:34:26 ID:eEgCKf9U0
「僕は君と、もっと前に会っていたんだよ」
「一度、強い願いを持って魔人と触れればいいんだ。それが契約成立の方法。
君はずっと外に出たいと思っていたんでしょ? だから、僕に触れたときにちゃんと契約した」
「そこからずっと君のことを見ていたんだけど、なかなか本心がわからなくてね。
この前部屋で呟いたのを聞いて、ようやく外に出たいんだってことがはっきりとわかった」
「だから僕は出てきたんだ。この力を使って」
希望が消え、新しい疑問に変わる。
すでに会っていた?
いったいいつ?
ζ(゚ー゚*;ζ「あ、あなたなんて知らない!」
首を思いっきり左右に振る。
この声を断ち切りたくて。
733
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:35:25 ID:eEgCKf9U0
再び天井を睨みつける。
さっきよりもずっと強い目で。
ζ(゚ー゚*;ζ「そ、そうよ、どうせそれもはったりなんでしょ!」
興奮を抑えきれず、声色にありありと乗せる。
ζ(゚ー゚*;ζ「どうせ私を殺せるっていうのもはったりでしょう!
そうやって言っておけば父を脅せるから、だからあなたは――」
言葉は続かなかった。
不意に心臓が跳ね上がり、動作を中断せざるを得なくなった。
呼吸ができない。
理由はわからなかった。
口元を抑えて、デレはその場に膝をついた。
なおも気持ちの悪い感触が、腹の底から湧き出てくる。
苦しくて目も開けていられない。
734
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:36:24 ID:eEgCKf9U0
「わかった?」
声がする。
同時に、胸への圧迫感が消えた。
ウソみたいに苦しみも無くなる。
舌を出して、なんとか呼吸を整えようとした。
答えられる状況じゃない。
胸の鼓動はいまだ速い。
あのまま苦しみが続けば、どうなっていたことか。
わからない。だからこそ恐ろしかった。
「というわけで僕は君を殺せるのです」
嫌に勝ち誇った声が聞えてくる。
735
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:37:24 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「……私に、こんなことするなんて……」
歯を食いしばって吐き気を我慢する。
なんとか絞り出した言葉。
ζ(゚ー゚*;ζ「こんなこと、絶対許さないから」
心臓が落ち着いてくる。
意識して深呼吸をして、言葉を重ねていく。
ζ(゚ー゚#ζ「私はこの国の王女なのよ。
こんな悪いこと、いずれは誰かに見つかって、あなたは」
「君らが本当に、王や王女だって言えるのかな」
声もまた、言い返してくる。
「言っておくけど、僕はそのうち国王だって簡単に殺せるようになるよ。
そうなれば君らは完全に僕の手のひらの上。
そんな状況で果たして君らは王族と呼べるのかな」
736
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:38:24 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「…………」
答えられなかった。
でも、決して彼女は諦めたわけではなかった。
その目の光はまだ失われていなかった。
ζ(゚ー゚*;ζ「見てなさい」
静かにそう告げる。
もう声は何も言ってこなかった。
笑い声さえもない。
聞えなかったのかもしれない。
デレは机へと向かった。
いつも使っていた日記帳。
そこに今日の出来事を書きくわえた。
☆ ☆ ☆
737
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:39:26 ID:eEgCKf9U0
305年 11月17日
私はこの声の主を、『魔王』と呼ぶことにしました。
いずれ必ず倒すべき存在として。
.
738
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:40:24 ID:eEgCKf9U0
☆ ☆ ☆
12月23日
メティス城
デレとショボンはこのラスティアよりはるか西にあるこの国のクリスマスパーティに招待されていた。
国内に巨大な河川と、魔人の住処を抱える国。
人々の生活には余裕が見られる。魔人との調和と言う観点ではマルティアをも凌ぐ国だ。
メティス城にて、パーティが行われていた。
大人たちはお酒を飲み、場の空気がのぼせていく。
その会場の隅で、デレは縮こまっていた。
先程から、こっそりと声に話しかけていた。
でも何も返って来ない。
思えばいつも部屋の中でしか彼と話していない。
739
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:41:26 ID:eEgCKf9U0
もしかしたら、新しい場所では彼の声は届かないのかも。
そう思って、即席の計画を作り立てた。
メティス国に逃亡する計画。
きっと父、そしてラスティアの人々は驚くだろう。
自分の王女という身分は、それだけ人の感心を引き寄せる性質がある。
忌々しいことなのだけど。
そして逃げた後、このメティスの北にあるエウロパの森へ向かう。
世界有数の魔人の住処。
そこへいけば、悪い魔人を退治してくれる魔人だっているかもしれない。
魔王を倒す方法がわかるかもしれない。
以前、魔王に脅された王女は、口に出さないまま
心の内側でで逞しく刃向う術を考えていたのである。
740
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:42:28 ID:eEgCKf9U0
パーティ会場を見まわした。
( ФωФ)
まず、衛兵隊長が目に入った。
貴族の血も含まれているという彼。
もしそれが本当なら、魔人である可能性は低い。
ということは魔王の仲間とは言い切れない。
ただ、あの猫のような目はどうにも気に入らなかった。
ひょっとしたら、猫型の魔人が自分を騙しているのかもしれないと、デレは警戒していた。
次に、視線を移す。
ミセ*゚ー゚)リ(゚、゚トソン
従者が二人ほど見えた
トソンがミセリを引きずって、部屋の外に連れ出している。
また何かしたのだろうか。
彼女たちのうち、ミセリは確実に後から来た人だ。
よって魔人である可能性が高い。
たとえ見た目が間抜けそうでも気を抜いちゃいけない。
ただ、そのために魔王である可能性は低いだろう。
彼女と会う前にデレは魔王と会っていたのだから。
横に居る女性はトソンという。
従者のリーダーらしいが、以前に会ったことはない。
だいたい従者も激しく入れ替わっていた。
だから彼女が後から来た人だと、みんな知らないだけかもしれない。
今のところは怪しいという段階だ。
741
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:43:26 ID:eEgCKf9U0
|゚ノ ^∀^)(-_-)
次に見たのが、このちぐはぐな親子。
彼女たちもまた部屋の外へと出るところだった。
レモナがショボンの従妹というのはどうやら本当らしい。
さすがに従妹の顔を忘れるようなショボンではないだろう。
ただ、その横に居る暗い彼。
その顔は全く見覚えが無かった。
それに、ほとんどしゃべっていない。
声がわからない。これは相当怪しいのではないか。
デレはそう思って、警戒のレベルを高めていた。
( ´W`)
他にも大臣たちが何人か見られる。
彼らとて後から来た人たちだ。
魔人である可能性はもちろん高いと言える。
(´・ω・`)
最後に見たのが、父親。
魔人ではない。もちろん魔王でもない。
脅されているだけの男。
742
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:44:40 ID:eEgCKf9U0
そして
最後
一人、見たことのある青年が混ざっていた。
( ・∀・)
彼は、ロマネスクが連れてきたらしい。
骨のある若者だと言って。
そういう話に目が無いショボンは、喜んでこの若者、モララーを連れてくる許可をだした。
実際成績はトップで、来年にはもう衛兵になるのではないかと噂されていた。
いや、そのような噂はどうでもよかった。
デレはその顔を見たことがあった。
もう一年近く前、まだ魔王の声を聞く前に、彼女は新年会で彼の姿を見た。
わずかに心が躍る。
声には出さないけど、自然と見てしまう。
そんな華やかさを彼は持っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「いけないわ」
首を振って、思考を止める。
何もモララーを見るためにここまで来たわけじゃないのだ。
ちゃんと自分がやるべきことをしなければ。
743
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:45:27 ID:eEgCKf9U0
時刻は夜の8時
ζ(゚ー゚*ζ「すみません、少しお部屋に忘れ物を」
そういって宴会場を抜け出した。
温和なメティス国の人が相手だからこそ、こんなに簡単な嘘が通じたのだろう。
すれ違う人々も、頭を下げればもう追求は無し。
外へでて、大きな三日月を見上げ、デレは一人ほくそ笑んだ。
自分の計画が滞りなく進むことに。
ζ(゚ー゚*ζ「さてと」
移動手段は考えていた。
あの白馬。
もちろん今回の外交にも連れてきている。
貴重な移動手段を、何の疑問も持たれずに連れてこれる。
デレにとっては幸運な状況だ。
あの白馬の寂しがりやな性格があってこそ、この計画は進められるのだ。
744
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:46:25 ID:eEgCKf9U0
白馬は現在、メティス城の厩舎に留められている。
そこへ向けて、進んでいく。
いくら温和な人々といっても、夜に厩舎にすたすたと歩いていけば怪しまれてしまうだろう。
だから、他の人には見つからないように、慎重に。
ζ(゚ー゚*ζ「?」
厩舎の傍で人の声を聞いた。
誰かいるのだろうか。
こっそりと、入口を覗きこむ。
真っ黒な二つの影。
体格からして大柄な男のように見えた。
こんなときになんだろう、とデレは心の内で恨み事を吐く。
その人影えおゆっくりと観察し、その頭を見たとき
ζ(゚ー゚*ζ「!」
耳があるのが確認できた。
745
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:47:29 ID:eEgCKf9U0
魔人がこんなところにいるのだろうか。
さすがに計画どころじゃないとデレは思った。
仮にも王女の白馬のいる厩舎、そんなところでこそこそと謀をする魔人。
どう考えても友好的な存在ではないだろう。
だから踵を返して引き返そうとした。
「誰だ!」
声をかけられて、咄嗟にデレは横に跳んだ。
草むらへ。
ほとんど反射的な動きだった。
勢いのままにしゃがみこむ。
心臓が早鐘を打つ。
草の陰から、厩舎の入口を眺める。
鋭い爪が見えた。
月明かりの下で、艶めかしく輝いている。
746
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:48:33 ID:eEgCKf9U0
デレは目を閉じた。
顔を下げて、腕の内側へと入れる。
「誰だ?」
また一つの声。
さきほどの魔人の声だろう。
「おい」
誰かに呼びかけているようにも思える。
もしかして自分になのだろうか。
もう見つかってる? だとしたら……
混濁する思考の隅で、空気を切り裂く音を聞いた。
叫び声がいくつかあがる。
何が起きているのかはわからなかった。
いくつかそれが続き、やがて静かになる。
747
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:49:39 ID:eEgCKf9U0
危機が去ったのだろうか。
恐る恐る、顔を上げた。
( ・∀・)「行ったか……」
先ほどとは別の意味で、言葉を失った。
宴会場に居たはずの彼が、どうして?
ζ(゚ー゚*ζ「あ、あの……」
立ち上がりざまに声をかけた。
( ・∀・)「あ、よかった」
青年は心底ほっとしたような表情になる。
( ・∀・)「いえね、あなたが宴会場を出ていくのが見えて、
帰って来ないものですから心配になって探し回っていたんです。
あなたを警護するという目的でここに来て連れてこられましたし」
748
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:50:24 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*ζ「探すって言ったって……どうやって」
( ・∀・)「だって、あなたこの国に来たの初めてでしょう?
知っている人も全員宴会場にいるわけだし、それで他に行くとしたら白馬のところかなと」
事もなげに、青年は言ってのける。
デレはぼーっとして、その顔立ちを見ていた。
(;・∀・)「あの、何かついてます?」
モララーが自分の顔をぺたぺたと触りだす。
それでようやくデレは目を瞬いた。
ζ(゚ー゚*;ζ「え、いや、そんなつもりじゃ!」
顔と手を勢いよく振る。
そのあと、モララーに連れられて、デレは父のもとへと向かった。
749
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:51:25 ID:eEgCKf9U0
宴会はまだ続いていた。
( ・∀・)「国王、ちょっと」
その隅で、彼はショボンを呼び出した。
(´・ω・`)「えっと、君は……」
( ・∀・)「モララーです。衛兵見習いですが、このたびロマネスクさんの推薦でこちらにきました。
王女の護衛をするためにです」
(´・ω・`)「ああ、そうだった! 御苦労さまだね。
それで、何かあったのかい?」
( ・∀・)「実は先程、王女が魔人に襲われました」
(;´・ω・`)「「なんだって!?」
途端に大きな声を出すショボン。
宴会場の賑わいが、一瞬静まる。
(;´・ω・`)「あ、ああいや、何でもないですよみなさん。
宴会を続けてください」
慌てふためきながらも、ショボンは手振りを交えて皆にそう伝えた。
止んでしまった話声が、徐々にまた始まっていく。
750
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:52:32 ID:eEgCKf9U0
(;´・ω・`)「続けてくれ」
今度は声を潜めて、ショボンはモララーに言った。
( ・∀・)「王女は少し休憩したくて宴会場の外に出たんです。
そこで怪しい男に声を掛けられ、逃げようとしたところを襲われました。
私がそこを助けました」
淡々とモララーが説明するも、その内容は事実とは異なっていた。
(;´・ω・`)「本当かい、デレ」
困惑した表情で、ショボンが確認してくる。
ζ(゚ー゚*ζ「えっと」
正しく言うべきなのか、判断に困っていた。
ふと、モララーと目があう。
彼はデレを直視して、ゆっくりと頷いた。
751
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:53:20 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「間違いありません」
嘘をつくことにした。
自分が厩舎に赴いたことも何も言わず。
(´・ω・`)「ふむむ……そうか」
ショボンは唸った。
それから顔を再びモララーに向ける。
(´・ω・`)「ありがとう、モララーくん。
君はデレの命を救ってくれた。このことはいずれ、君への褒賞としよう」
(*・∀・)「本当ですか?」
モララーは目を輝かせて言う。
(´・ω・`)「もちろんだとも。君が望むものならなんだってやろう。
私が最も大事にしているデレのために尽くしてくれたのだから」
(*・∀・)「謹んで考えさせていただきます」
にやりと笑って、彼は頭を下げた。
752
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:54:21 ID:eEgCKf9U0
(´・ω・`)「怖い思いをさせてすまなかった、デレ」
ショボンは悲しそうな顔で、デレを見つめた。
(´・ω・`)「この件はあとでメティス国王に相談しておこう。
せっかくのパーティでこんな目にあわせてしまうなんて」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、いいんですお父様」
首を軽く振る。
ζ(゚ー゚*ζ「ちゃんとこうして優秀な衛兵見習いさんに守ってもらったのだし
何も問題はなかったのですから、いいんです。
宴会だってまだまだ楽しめますわ」
思いのほかすらすらと、デレの口からショボンを慰める言葉が出てきた。
デレ自身がそれに驚いていた。
(´・ω・`)「そうか……ありがとう、デレ。
この件は外交にも響くだろう。大事にならなくてよかった。
もしそんなことになれば、騒ぎが広まって国が荒れただろう」
さらりと恐ろしいことを述べる。
753
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:55:21 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「……」
デレはショボンの言葉に答えず、ただ冷や汗を流していた。
(´・ω・`)「私はメティス国王に話してくるよ」
ショボンがその場を後にする。
宴会の向こう側へ。
後に残ったのは、デレとモララーだけ。
ζ(゚ー゚*;ζ「……良かった」
ショボンの背中を見ながら、デレは思わず呟いた。
もし自分が計画通りに行動していたらどうなっていたのだろうとふと思ってしまい、ぞっとする。
国は乱れ、国民も混乱し、きっとショボンだって今以上に忙しくなったはずだ。
自分がいなくなって、騒ぎが広まったらどうなっていただろう。
ショボンの心労はますます酷いものになっていたに違いない。
そうならなくて良かった、その思いが、思わず口をついてでてきたのだ。
754
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:56:25 ID:eEgCKf9U0
誰にもばれていないことを、ひそかに喜んでいた。
だけど、それは思い込みだった。
( ・∀・)「良かったですね」
いつの間にかデレの横に立っていたモララーが言う。
( ・∀・)「逃げ出そうとしたことがばれなくて」
ζ(゚ー゚*;ζ「え!?」
耳を疑った。
冷や汗を引っ込めるように、首を小さく振る。
ζ(゚ー゚*ζ「な、なんのことだか」
( ・∀・)「だって、あんな夜中に厩舎にいくなんて、それしかないでしょう?」
またもあっけらかんとした口調。
デレは呆然として、それから慌てて首を振る。
ζ(゚ー゚*;ζ「あの……誰にも言わないでくださる?」
755
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:57:22 ID:eEgCKf9U0
( ・∀・)「まあ、いろいろおありなんでしょうね」
モララーはそう言って、笑ってくれた。
( ・∀・)「もちろん、誰にも言うつもりはありません。
私はただ、あなたを護衛する任を果たしただけですから」
そういって、ごく自然なしぐさで、彼は身をかがめた。
その手がデレの腕に伸び、その手の甲に唇を合わせようとする。
ζ(゚ー゚*;ζ「!」
身を強張らせ、ついその腕を振り払ってしまう。
(;・∀・)「あ、ちょっとキザ過ぎましたかね? すいません」
頭をかいて、おどけた表情でモララーは言う。
( ・∀・)「あれ、王女? お酒でも飲みました? 顔が」
756
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:58:21 ID:eEgCKf9U0
ζ(////ζ「飲んでません!」
やや叫び気味に言い、デレはその場を後にした。
モララーを残して。
後ろに残されたモララーは、ただ肩をすくめるばかり。
頬の火照りを感じながら、デレは微かな光を感じていた。
あの聡明さならば、もしかしたら
魔王に対抗できるのではないか。
この胸に抱く淡い心を抜きにしても、試してみる価値はあるのではないか。
それが、王女デレと勇者モララーの出会いだった。
757
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:59:41 ID:eEgCKf9U0
―― 第六話 前半 終わり ――
―― 後半へ続く ――
.
758
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 22:00:22 ID:eEgCKf9U0
今日はおしまい。
また明日。
759
:
名も無きAAのようです
:2013/09/12(木) 22:21:50 ID:5X/2wQhw0
乙
760
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 02:34:31 ID:Fy0LKOgQO
ζ(゚ー゚*ζは敵なのか味方なのか、過去編では味方っぽいけど
761
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 18:59:12 ID:2tbziXDo0
乙
待ってるぞ
762
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 20:57:42 ID:.nLUMdgE0
そろそろですかね。9時からいきます
763
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:00:02 ID:.nLUMdgE0
306年 1月5日
この日は講堂に行くようにと言われました。
お父様がお触れを出したからです。
それは、モララーさんを衛兵とするとの内容でした。
先日私を助けてくれたことに、お父様がいたく感激したからです。
とはいえ、仮入隊というものらしく
モララーさんはまだしばらくあの寄宿舎で暮らすようですが。
私はお父様の隣で、彼の顔を伺っていました。
彼は努めて冷静に、お父様の言葉を受け止めているようでした。
こうして、彼は私の護衛の任に着くことを認められたのです。
不安渦巻くこのお城で、彼の存在は唯一の安心。
なんと嬉しいことなのでしょうか。
思わずあの講堂で彼に駆け寄りたかったくらい
私の心は踊っておりました。
764
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:00:59 ID:.nLUMdgE0
306年 1月10日
なんと、モララーさんが外防衛とやらに行ってしまわれました。
新人の衛兵に対する洗礼だそうです。
まだ正式じゃないのだから、そっとしておけばいいのに。
いったいあの人はどこまで私を焦らすというのでしょうか。
本当に心苦しい。
ですが負けてばかりもいられません。
幸いなことに、ひと月もすれば帰ってくるそうです。
ここは耐え忍んで、ちゃんと笑顔であの人を迎えられるようにしておかなければ。
ああ、本当に、待ち遠しい。
・
・
・
☆ ☆ ☆
765
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 21:01:20 ID:w2CjkoeI0
わーい!待ってた!
766
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:01:58 ID:.nLUMdgE0
( ^ω^)「…………」
( ^ω^)「ここから日付が連続するお」
( ^ω^)「会いたいとばっかり……」
( ^ω^)「よほどモララー先輩の存在が大きかったんだおね」
☆ ☆ ☆
767
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:02:58 ID:.nLUMdgE0
・
・
・
306年 2月7日
モララーさんが外防衛から帰ってまいりました。
ようやくです。
私はこの日が来るのを待ちわびておりました。
立派な馬に乗って門をくぐりぬけてくる彼の姿。
その姿を見たときの感動を、私はどう表現したらいいものかわかりません。
私はもう、この胸の高鳴りが何のためによるものなのか、理解しております。
きっとお父様にばれたら大騒ぎになるでしょう。
たとえそうなったとしても、私の気持ちは揺るがないでしょうが。
・
・
・
☆ ☆ ☆
768
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:04:00 ID:.nLUMdgE0
デレとモララーが出会って、数か月が経過した頃。
世界情勢に暗雲が立ち込め始めた。
北のマルティア国や西のテーベ国でも、怪しい動きが見られていた。
ラスティア国はその二国と海と砂漠に挟まれた場所なので
その乱れの影響で世界のニュースも届きにくくなっていった。
そんな中、ショボンはますます忙しく働いていたし
デレもその空気は感じていた。
大変な父親を見て辛そうだなとは思っていた。
でも、それを申し訳ないと思いながらも、
デレは隙を見てモララーと出会っていた。
仕事の合間、護衛としての連絡の際
会っていないときでさえも、モララーのことを考えていた。
そうすることで、お城に抱いていた不安が薄れたのだ。
769
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:04:59 ID:.nLUMdgE0
魔王のこともモララーに話した。
部屋にいると聞えてくる声の話。
最初のうち、デレは魔王が人間には感知できない方法でデレのことを監視しているものだと思っていた。
だから、いつでもデレを逃がさないなどと言えるのだと。
それを、モララーは否定した。
( ・∀・)「魔人といったって、なんでもできるわけではない。
彼らの能力は一つの願い事につき一つです。それは契約した時に決まります」
( ・∀・)「その力は魔人の潜在能力で決まりますし、第一現実に起こりうる現象でなければなりません。
声はまだしも、唐突に人間の命を奪える力があるとは思えない」
( ・∀・)「いつも使っているのがその声の力だというなら
あなたを襲った頭痛や吐き気もその応用なのではないですか?」
770
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:05:59 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「……不思議な力について詳しいんですね」
( ・∀・)「昔親を魔人に襲われましてね。それで奴らについてはいろいろ調べたんです」
( ・∀・)「それに契約相手であるあなたを殺したらもう力が使えなくなりますよね?
そんなデメリットがあるのにあなたを攻撃する意味はありません」
( ・∀・)「それなのに攻撃してきたのは。
ただあなたを脅したいだけだったのではないでしょうか」
ζ(゚ー゚*;ζ「確かに……」
魔王ならばありえる、とデレも納得した。
( ・∀・)「一つ実験をしてみましょう。
魔王の能力の限界を探る実験です。
これから言うとおりにしてください」
771
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:06:59 ID:.nLUMdgE0
それから、モララーの提案通りにある実験をした。
王女の部屋にて。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王さーん」
天井へ向けて呼びかける。
「おや、どうしたんだい、そっちからなんて」
いつものように、やや遅れてからの返事。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王さんのばーか」
「…………はあ?」
ζ(゚ー゚*ζ「なんだか急に腹が立ったのよ」
「だからってなんで急にそんなこと」
772
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:08:00 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「だって、いっつも私のこと馬鹿にしてくるからむかついちゃって」
「だって事実じゃないか」
こうして煽ってくるのもいつも通り。
ζ(゚ー゚*ζ「もう嫌なの! やめて!」
なるべく声を荒げている様を演じた。
自分が本当に怒っていると思ってくれるように。
「はあ……あのねえ、何度も言ったけど。君のことなんていつでも殺せるの。
ほら、今でもこんなふうに――」
最後の言葉を聞き切る前に、デレは扉の方へと走り出していた。
心臓が跳ねる。
これもいつも通り。
そこで、扉を開く。
「あ!」
驚きの声が聞えてくる。
773
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:09:00 ID:.nLUMdgE0
それを無視して、外へ。
廊下にて、デレは立ち止まった。
自分の拍動を確認する。
何も以上は見られない。
声だってもう聞えてこない。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王さーん」
逸る気持ちを抑えて呼びかけてみる。
返事はない。
ζ(゚ー゚*ζ「ばーか」
再び罵倒してみるも、やはり返ってくる言葉は無かった。
いつもならすぐに反応して、攻撃してくるのに。
774
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:09:59 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「……本当なんだ」
デレは笑みを浮かべて、そう呟いた。
モララーさんの予想通りだった。
魔王の声はデレの部屋の中でしか聞えてこない。
そしてあの攻撃もまた、デレの部屋の中だけでしか行えない。
能力を発揮できる場所が限定されているのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ただーいま!」
今度は元気よく言いながら、デレは自分の部屋に戻った。
すぐに舌打ちが聞こえてくる。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの? ちょっと外にいる人に用があったんだけど
どうしてすぐのお話やめちゃったの?」
目を細めながらデレは言った。
775
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:11:01 ID:.nLUMdgE0
「へえ……誰か来てたの」
ζ(゚ー゚*ζ「見えなかったの?」
「!! …………ああ、見逃しちゃってた」
言葉の前に空白があった。
それがはっきりわかったから、デレはますます笑みをこぼした。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王さん、急に馬鹿にしちゃってごめんね〜」
軽やかにいいつつ、自分の席へ向かう。
ζ(゚ー゚*ζ「これからは仲良くしましょ!」
「あ、ああ……」
躊躇いがちの返事。
それっきり、声は聞えなかった。
776
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:11:58 ID:.nLUMdgE0
デレは声を出さず、ただその場で手足をばたばたさせた。
とにかく嬉しくて仕方なかった。
この煩わしい魔王を出し抜くことができたのだから。
デレは急いで紙にペンを走らせた。
魔王に対する実験結果を書くために。
魔王はおそらく声、つまりは音の能力を持っている。
ゆえに目は見えない。だから紙に何かを書いていてもばれやしない。
部屋を出てしまえば魔王の声も届かない。
だから、この部屋を避けてモララーと話せば問題ない。
あの身体を襲ってくる攻撃も音を応用したもの。
モララーはすでに、その攻撃についてひとつの仮説を立てていた。
いまだに人間の科学力が残っているテーベでの噂話。
長いこと稼働している機械の傍に立っていると、急な頭痛や吐き気に襲われるとのこと。
その原因は、機械が発している微弱な音の振動だと言われている。
攻撃をしてくる最中に部屋を出たら、攻撃はやんだ。
そのことから察するに、この攻撃は微弱な音波を応用したものに過ぎないのだろう。
黙々と紙に事物を書き込んでいく。
モララーに言われた通りに。
777
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:12:59 ID:.nLUMdgE0
ミセ*゚ー゚)リ「王女様!」
突如として扉が叩かれる。
ミセリの声が聞えてきた。
ミセ*゚ー゚)リ「ちょっとご用があるのですが!」
思わず舌打ちしてしまう。
なんて間の悪い従者だろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ごめん、もう少しまって!」
この紙を隠さなければ、そう思った。
ミセリは魔人である可能性が高いのだから、魔王と繋がっているかもしれない。
もしかしたらこの突然の訪問も、自分を邪魔しに来たのかも。
机、そして棚を見回す。
ζ(゚ー゚*ζ「あ」
見つけたのは、使っていない鍵つきの棚。
何かしらの重要な物を入れる場所だが、いまだに使ったことはなかった。
778
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:13:58 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「ここへ……」
デレは鍵を取り出しそれを引き出す。
埃もなにもかぶっていない綺麗な空間。
そこへ紙を押し込める。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだ」
デレが次に見たのは、自分の日記帳。
あそこにはモララーのことが書いてある。
もしミセリがこれをみたら、魔王に告げ口してしまうかも。
そう思って、デレはその日記もまた棚に押し込んだ。
ミセ*゚ー゚)リ「王女様!」
ζ(゚ー゚*ζ「いきますよー」
デレは確かに鍵を回し、城をかけた。
そしてその鍵を、重たいカーテンの一番奥にある留め具にかけた。
以後、その鍵つき棚はデレの日記と秘密の手紙の隠れる専用の空間となった。
779
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:15:00 ID:.nLUMdgE0
数時間後
( ・∀・)「そうか、当たってましたか……」
お城のとある物陰にて、デレはモララーに実験の結果を伝えた。
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
デレは目を輝かせて言う。
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます、何から何まで」
デレは深々と頭を下げ、謝辞を述べる。
モララーは手を前に出して首を横に振った。
( ・∀・)「まだ魔王の特徴がわかっただけです。
正体についてはわからないまま」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、探してくれるんでしょう?」
(*・∀・)「それは、もちろん!」
モララーは力強く胸を叩いた。
(*・∀・)「そうしてあなたを護衛するのが私の役目ですし」
780
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:16:00 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「……嬉しい」
そう呟くと同時に、デレは頭をモララーの胸板に寄せた。
(;・∀・)「ちょ、ちょっと王女!」
慌ててモララーが手をあげ、デレの肩を押そうとする。
ζ(゚ー゚*ζ「やめて!」
急いでデレは叫んだ。
モララーの動きが止まる。
ζ(゚ー゚*ζ「……こうさせて」
今度は小さな、静かな声。
モララーの溜息が、その頭にかかった。
(;・∀・)「やれやれ、こんな姿、国王に見つかったらえらい目にあいそうだ」
そうぼやいて、ゆっくりと身を後進させていく。
建物の壁に寄り掛かった。
781
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:16:59 ID:.nLUMdgE0
モララーの手がデレの肩から離れる。
一旦空中で止まり、それからデレの背中へと回った。
デレはその感触が伝わるのをひたすらに待っていた。
その瞳が潤みだして、彼女は思わず目を閉じる。
また自分は泣こうとしている。
前にも涙を堪えたことがあったなと、そのとき思った。
でも、もうそれがいつなのかも思いだせなかった。
やがて今はもう泣いてもいいのだと気付き、感情を堰き止めるのをやめた。
涙も、声もそのまま
何も隠さずに
自然にそのような行いをするのは久しぶりだった。
デレの思考がまっさらになっていった。
ただ温かな感触だけを感じて。
☆ ☆ ☆
782
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:18:00 ID:.nLUMdgE0
魔王の能力が判明した後、デレは国王に手紙を見せた。
(;´・ω・`)「…………」
国王の部屋で、彼は冷や汗を流しながらそれを読んでいた。
後日、デレとショボンはお城の外にて向かい合い、状況を理解し合った。
ζ(゚ー゚*ζ『それじゃ、やっぱりお父様は私を人質に脅されていたのですね』
(´・ω・`)『ああ、そうだ』
声を聞かれるのを防ぐために、筆談で会話した。
ζ(゚ー゚*ζ『それじゃ、これでもう大丈夫だとわかったでしょう。
私はあのお城から出ていきます。そうすればもう魔王に襲われることもない。
お父様だってあいつを追い出すことができますよね?』
文章を見せたところ、ショボンは残念そうに頭を垂れた。
783
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:18:59 ID:.nLUMdgE0
(´・ω・`)『残念ながら、すでに時間が経ち過ぎている』
ζ(゚ー゚*;ζ「?」
首を傾げ、デレはショボンの言葉の続きを待った。
(´・ω・`)『最近、世界のニュースが届かないとは思わなかったかね?』
ようやく返ってきた言葉が質問であり、いまいち要領を得なかったため、デレは訝しんだ。
ただ、ニュースが届かないことは事実であったので、首を縦に振った。
(´・ω・`)『実はね、この国の北にあるマルティア国と、西にあるテーベ国の雲行きが怪しいからなんだ』
(´・ω・`)『魔人の力を利用することに長けたマルティアと、人間の力を今だ信じてやまないテーベは
その根本から対立するところの多い国だった。だから、近いうちに折衝があるのではと噂されてもいる。
その間に位置するこの国が、内政で動揺したらどうなるか』
(´・ω・`)『基盤の弱まっているこの国に、両国の軍隊が押し寄せてくるだろう。
ただ戦争用の地力を強めるために、ラスティアの国民はその土地を追われてしまう。
そうならないためには、毅然とした態度を示し続けなければならない』
(´・ω・`)『だから、大規模な混乱を見せる行為は政治的に良くないことなんだ。
君がお城を出ていくことも、そのひとつ。隠し通せることではないんだよ』
784
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:19:59 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ『そんな!』
デレは文字と、身振り手振りで自分の衝撃を表した。
ζ(゚ー゚*;ζ『そうでしたら、お部屋を移るのはどうですか』
(´・ω・`)『いや、そうしたら魔王に、君が何を知ったのかばれてしまう。
あのお城はすでに魔王の手下で満ちている。その場所で魔王と明白に対立してしまうわけにはいかない』
ζ(゚ー゚#ζ『それじゃ、私はこれからもずっとあそこで鳥籠の鳥を演じてなければならないんですか!!』
父親に詰め寄って、デレは睨みつけた。
ショボンは引きつりながらもペンを動かした。
(;´・ω・`)『どうしても、ということになれば逃げるんだ。
ぎりぎりまで、国民に迷惑をかけるわけにいかない。どうかわかってくれ』
懇願するショボン。
そんな姿を見ても、デレの憤りはなかなか収まらなかった。
それでも、まだ刃向うことはできる。
モララーという希望があったからこそ、まだデレは自分の感情を抑え込めることができた。
785
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:20:59 ID:.nLUMdgE0
それから日々が流れていった。
魔王の正体は掴めないまま、1年以上の歳月が流れた。
デレは14歳になり、前よりも遥かに逞しくなった。
以前はただ魔王の存在に怯えていた。
だけど最近は魔王も何もしてこない。
そもそも面と向かって対立しなければ、無害な存在だった。
第一、今はモララーという存在ができた。
信頼できる人。自分が心の内を曝け出せる人。
閉塞感を感じる環境でも、彼がいることで心に余裕を持つことができた。
彼に会うこと自体が楽しみになっていったから。
残念ながら魔王の正体は掴めないままだったが
デレは次第に問題の解決に焦らなくなった。
変わり映えは無くとも、それは幸せな日々に変わりなかった。
だから、こっそりとなのだけど
この何事もない日々がずっと続いてほしいとも思っていた。
そうは上手くいかないだろうと、心の隅ではデレも理解していたのだけど。
☆ ☆ ☆
786
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:21:59 ID:.nLUMdgE0
307年 10月5日
(´・ω・`)「デレ、話があるんだ」
国王の部屋に呼び出されたのは、夕方のことだった。
こんな風に仕事の時間に、自分にかまってもらえるのは久しぶりだったので
デレは意気揚々と部屋の扉を潜った。
(´・ω・`)「ある衛兵さんとこっそり会っているよね?」
唐突に彼の名前が出てきて、デレはきょとんとしてしまう。
ζ(゚ー゚*;ζ「……え」
(;´・ω・`)「いやね、デレがこそこそ物陰に行っているのが見えたから。
つい追っちゃって、さ」
うっかりしていたのは事実だ。
彼と会うことに関しては魔王に見つからないように、とばかり気にしていた。
だから、実の父親に見破られる時がくるかもしれないということを、考えていなかった。
787
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:22:59 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ「な、何してるの!?」
(;´・ω・`)「そりゃあ僕らのお城なんだ。気になるじゃないか。
だいたい君だって年頃の女の子なんだし、もしかしたらって」
ζ(゚ー゚#ζ「勝手なことしないで!」
鋭い目を国王に向ける。
ショボンはやや動揺したようだが、すぐに居住まいを正した。
(´・ω・`)「デレ、頼むから静かに話を聞いてくれ。
それ以上あの人に会っていたら、危険なことになるかもしれない」
その言葉を受けて、デレは目を瞬かせる。
ζ(゚ー゚*;ζ「な、何を言ってらっしゃるの?」
(´・ω・`)『いいか、良く聞いてくれ』
紙を持って、ショボンがすぐに文字を記入する。
(´・ω・`)『魔王の声はたまにこの部屋でも聞えてくる。だから筆談に移る』
788
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:23:59 ID:.nLUMdgE0
(´・ω・`)『衛兵さん、はっきり書けば、モララーが君のために努力してくれていることはもうわかった。
そこでただ君らが親密な関係になるだけなら、僕だって邪魔しようとはしない』
(´・ω・`)『でもここには魔人がいるんだ。
現に僕だって、お城で働く魔人からこの話を聞いた。ただの世間話としてだが』
(´・ω・`)『今はただのかわいい噂程度で通っている。
しかしそのうち君らが話している内容までばれてしまうかもしれない』
(´・ω・`)『魔王に仇名す人だとばれてしまう前に、彼と会うことを控えなければ』
ζ(゚ー゚*ζ『……さっぱり理解できません』
デレは口を真一文字に結んで文字を見せつけた。
ζ(゚ー゚*ζ『どうしてそんな危険があると断定できるんですか。
あの人と会ってもうすでに1年半以上が過ぎています。
その間何も起きていないのに、どうして今になって』
789
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:24:57 ID:.nLUMdgE0
(´・ω・`)『最近、魔王の声の届く範囲が広がっているからだ。
この国王の部屋以外にも、声の聞える場所が表れ始めている』
その情報は、デレの全く知らないものだった。
ζ(゚ー゚*;ζ『どうしてそんなことに?』
(´・ω・`)『おそらく……能力を使う場所として
最初にインプットしてあったのがこの私の部屋と、君の部屋だったんだろう。
だけどこのお城に粘着するうちに構造を覚え、声の伝わる範囲を拡大させてきたのではないかな』
(´・ω・`)『とにかく、油断していれば君もモララーも危なくなる。
まだ狙われていない今のうちに手を引くんだ』
ζ(゚ー゚*ζ「そんなの……」
デレはもう、紙の上にペンを動かす気力さえなくなっていた。
ζ(゚ー゚#ζ「そんなの聞きいれられるわけないでしょう!!」
叫んで、部屋を飛び出した。
魔王に聞かれようが知ったことじゃないと彼女は思った。
790
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:25:58 ID:.nLUMdgE0
辿りついたのは、いつかモララーに抱擁してもらった、あの建物の陰。
そこでただひたすら、デレは泣き続けた。
人目の届かない場所だが、それでもなお声を潜めて。
こんなの馬鹿げていると彼女は思った。
身体は自由なのに、思うままに行動できない制約があるなんて。
ただ会いたい人に会うことすらできないなんて。
妥協していた気持ちがなくなっていく。
心の内で、魔王に対する怒りが再び湧いてきていた。
必ずあの声の正体を突きとめてやる。
自分の手で、その息の根を止めてやりたい。
そんな凶暴な思いさえ抱くようになっていた。
791
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:26:56 ID:.nLUMdgE0
307年 12月27日
デレが15歳になって、暫くした頃。
モララーに通達が出された。
二度目の遠征、しかも今度は8カ月という長丁場だった。
出発の前の日、デレはショボンに許しを請うた。
どうかモララーに合わせてくれと。
ショボンは仕方ないといった表情で、二人に特別の部屋を用意した。
元々倉庫だった場所を整理した空間。
もちろん魔王の声が聞えたことも無かったし、普通の労働者だってめったに寄りつかない場所だった。
(´・ω・`)『それじゃ……僕が定期的にこの外を巡回しておくから』
デレとモララーをその部屋に入れたのち、ショボンは外に出て扉を閉めた。
鍵のしまる音。
もう中からしか開けることはできない。
792
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:27:55 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)『さて、と』
先に紙を見せたのはモララーだった。
( ・∀・)『遠くに行くことになっちゃったみたいです』
手短に書いて、モララーはぎこちなく笑った。
デレの方はというと、首を曲げて俯くばかり。
どうにも言葉が思い浮かばなかった。
( ・∀・)『……私はこのままお城には帰らない方が安全なんでしょうね』
不意に、モララーが自分の考えを書き始めた。
わずかばかり首を持ち上げて、デレはその文字を虚ろな目で追った。
( ・∀・)『このまま遠くへ行ったまま、帰ることを拒否すれば
私はあなたに会わなくて済む。そうすれば魔王に目をつけられることもない』
( ・∀・)『たとえ私が戻らなくても、あなたと国王は亡命するという手段がある。
国民のためになかなか使えない手段でしょうが、魔王の手から逃れるために最終的にはそうせざるを得ない。
テーベを越えてメティスにでも行けばもっと安全でしょう』
793
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:28:55 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)『私が戻ってくる意味なんてない。
そう思ってしまうのですが、デレ様はどうお考えでしょうか』
文字が途切れる。
デレはゆっくりと首を上げ、モララーを見た。
彼は静かにその言葉に対する答えを待っているようであった。
モララーが言うことは理解できたし、実際にそう思うこともデレにはあった。
合理的には正しい選択なのだろう。
このまま国の滅ぶのを見ながら、生き延びるという選択肢。
でも、どうしてか身体が言うことを聞かなかった。
デレは首を左右に動かす。
794
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:29:55 ID:.nLUMdgE0
ζ( ー *ζ「……帰ってきてほしいです」
ζ( ー *ζ「ちゃんとお城に帰ってきて、また私とこうして会ってほしいんです」
ペンを握れず、震える声でそう伝えた。
亡命したらもう会えなくなるかもしれない。
たったそれだけの事柄が、彼女を縛り付けていた。
( ・∀・)『……わかりました』
モララーはそう書いて、壁に寄り掛かった。
( ・∀・)『私はいつか必ずここに戻ってきます。
それで、そのときには必ずあなたを救います。奴を倒すために』
デレは、はっとする。
モララーははっきりと魔王と立ち向かう意思を示した。
自分の言葉のせいで。
795
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:30:55 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ「あ、あの…………」
口を開いて言葉を探した。
彼を思いとどめる言葉を。
ζ(゚ー゚*;ζ「……どうかさっきのこと、忘れてくれませんか」
ζ(゚ー゚*;ζ「この際私が嘘を言っていると疑ってしまってもいいです。
ほら、ここが魔王に聞かれているかもしれないのだし」
ζ( ー *;ζ「……私が本当のことを言っている保証なんて、どこにもないんですから」
ずっと自分に嘘をついてきていたからこそ、その発想が生まれた。
この場で口にすることができた。
自分は本当のことなど言っていないと、彼に思われたかった。
そうすれば彼は生きていられる。
合理的な選択できる。
796
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:31:56 ID:.nLUMdgE0
自分はいろんなものが欠けていたんだ。
デレは目を閉じて、思い返した。
母が死んだその日から、父によってお城に閉じ込められた。
そこで社交性を捨てた。
外に出たいという思いだけを募らせ、父への恨みを重ねてしまった。
そこを魔王に付け込まれた。
今、その結果として一見すると外に出られている。
でも、その実監視されている。
能力がわかっても、行動の制約があることに変わりはない。
何よりも、魔王に聞かれないためにと言葉を奪われてしまっている。
そのことがとても辛い。
自分の意見を伝えるのに、どうしたらいいのかわからない。
伝えない方がいいのかもしれない。
信じるなと言ってしまえば、どれほど楽か。
関係など断ち切ってしまえば、傷つくことなど何もないのだから。
797
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:32:55 ID:.nLUMdgE0
目を閉じているために、視界は真っ暗。
何も見えない。
自分の思考と同じ世界。
そんな世界の中で
いつかと同じ、温かさを感じた。
モララーの大きな手のひらを背中に感じ
彼の身体が寄るのを感じた。
デレの身が強張る。
でも怖くはなかった。
たとえ何も見えなくとも、何を言わなくとも構わない。
そう思えたからこそ、全てを受け入れられた。
デレの僅かな喘ぎ声が掻き消されたときにはすでに
言葉すら必要ではなくなっていた。
☆ ☆ ☆
798
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:33:55 ID:.nLUMdgE0
(;^ω^)「…………」
(;^ω^)「ここから先を読むのは、人として……」
( ^ω^) ペラペラ
( ^ω^)「……ん?」
( ゚ω゚)
(゚ω゚ )=( ゚ω゚)
(;^ω^) フゥ
( ^ω^)「もう少し、こう、流し読みで……」
☆ ☆ ☆
799
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:34:55 ID:.nLUMdgE0
308年 8月26日
モララーが帰還した。
そしてすぐに、デレと会った。
( ・∀・)「考えはあります」
こっそりと、モララーはデレにそう告げた。
( ・∀・)「この8カ月、私は状況を整理していました。
もうほとんど確証に近い考えを抱いています。
あなたにも協力していただきたい」
心強い言葉。
( ・∀・)「隙ができたらまた連絡します」
そのときはそれっきり、会話は終了した。
800
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:35:56 ID:.nLUMdgE0
308年 9月1日
ラスティア国、南の山にて事件が起こった。
テーベ国からの商人の死体が発見されたのである。
その死体は衛兵によって処理されたため、詳しい事情は国民には知らされなかった。
しかし、噂はすぐに広まった。
その人物の足取りから察するに、彼はラスティア城へと向かっていた。
しかしその人がいったい何をしようとしていたのかはわかっていない。
全てはラスティア城の衛兵により持ち去られてしまったからだ。
その商人の持ち物は、きっとお城にとって都合の悪いものだったのだろうというのが
噂話のだいたいの締め言葉となっていた。
801
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:36:56 ID:.nLUMdgE0
308年 9月13日
国王が2週間の外交に出かけた。
マルティア城に赴く、比較的規模の大きな外交であった。
前々から話し合いは続いており、その内実はデレにも知らされていなかった。
ただ、状況から察するに、テーベとも関係する事柄だろうと思われた。
最近では世界のニュースは届いてきていない。
不穏がラスティアの周囲を取り囲んでいた。
ニュースを見ることができない国民は、その状況を知る由もなかったが。
外交は戦争を避けるために行われる。
しかしそれが叶わない場合は、国民を守るために行われる。
なるべく被害を減らすために。
デレは、すでに後者の段階に至っていることを肌で感じていた。
モララーが彼女に手紙を送ったのは、その日の晩であった。
802
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:37:57 ID:.nLUMdgE0
手紙の内容を見る。
ζ(゚ー゚*ζ「これは……」
小さな言葉が口を突いて出てくる。
これくらいなら魔王に聞かれることはない。
その程度の加減はすでにできるようになっていた。
そこに書いてあった文字を見て、彼女は目を見開いた。
モララーの淡々とした字が目に映る。
『 作戦はすぐ行いましょう。
国王のいない間に、魔王を特定します。
あなたには、ある演技をしてもらいたいのです。 』
まさかこんなにすぐに動き出すとは思わなかった。
だからこその驚き。
そして、目はさらに下方へと移る。
何を演じたらいいのか、それが書いてあった。
803
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:38:57 ID:.nLUMdgE0
『 ・
・
・
まずは講堂にて
冷たい王女を演じてください。
・
・
・ 』
☆ ☆ ☆
804
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:39:55 ID:.nLUMdgE0
9月20日
南の山へ赴く前日
デレとモララー、そしてロマネスクは衛兵訓練場の近くで会合した。
どうしてロマネスクがいるのだろうとデレは不思議に思った。
だけどそれを聞く前に、もっと伺っておきたいことがある。
ζ(゚ー゚*ζ『言われた通りに演じることができていたでしょうか』
文字を見せつつ、デレは不安そうに首を傾げた。
モララーは微笑み、それからあらかじめ用意してあったメモを見せてくれた。
( ・∀・)『完璧です。これで、明日は大丈夫』
デレは安堵のため息をつく。
それからまたペンを動かし、次の言葉を綴った。
ζ(゚ー゚*ζ『それで、計画とはどのようなものなのでしょう』
真剣な視線が交錯する。
805
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:40:55 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)『魔王であると思われる人を連れていきます』
それから、モララーはその人物の名前を述べた。
デレは息をのむ。
ζ(゚ー゚*;ζ『そんな、まさか』
( ・∀・)『あくまでも推測です。
ただ、もしそうだとすると、あなたは国家レベルの陰謀に巻き込まれたということになりますね』
( ・∀・)『とにかくその人を連れて、我々は城下町の脱出を図ります』
脱出、という文字がデレの両眼に映る。亡命するのだろうか。
目を見開くデレ。モララーの続きを待つ。
( ・∀・)『もしその人が魔王でないならば、あなたは逃げることができます。
私が最も信頼する二人の衛兵と、このロマネスクがひっそりと護衛していますから』
モララーの指がロマネスクに向けられた。
ロマネスクは小さな咳払いをする。
( ФωФ)『恐れ多くも、王女様、私も尽力いたします。
それに私には信頼できる双子の魔人もついておりますゆえ、必ずお役にたちましょう』
魔人という言葉を見て、デレは微かに怯える。
ロマネスクは首を振って、その疑いを晴らそうとした。
( ФωФ)『大丈夫、彼らは私の地元からついてきている弟子のようなもの。
このモララーでさえ彼らのことは認めております。正しい心を持った魔人であると』
その言葉を見て、モララーは鼻で笑い、頷いた。
806
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:41:56 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)『私はこそこそ暗躍する魔人が嫌いなだけなんですよ。
とはいえ昔のトラウマから、魔人に対する疑いを完全には拭いきれていない。
それが私の弱さでもありますが』
そこまで書いて、モララーは首を横に振る。
こんな話を続けてもしかたない、といった様子だ。
( ・∀・)『話を戻しましょう。
もしその人物が魔王ならば、きっと私たちを襲ってきます』
( ・∀・)『ただし、あなたを直接襲うということはありません。
そんなことをすれば不思議な力を失うことになってしまいますから』
( ・∀・)『ですから、必ず他の魔人を利用しての攻撃を仕掛けてくるはずなのです。
もしわずかでも怪しい動きがあれば、私はそれを証拠として、その人物が魔王であると断定します』
( ・∀・)『そこから先は流れのまま、私は魔人と対決します。
そして私が勝ったとしても、あるいは負けたとしても、
最後には、この計画は私と言う不穏分子を消すためのものであった、と言い張ってください』
( ・∀・)『そうすれば魔王は、この旅路が逃亡のためのものでなかったと納得するでしょう。
あとは隙をついて、その人を倒せばいい。あなたは解放される』
807
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:42:55 ID:.nLUMdgE0
( ФωФ)『厄介事を消すために、私の連れの魔人が連れ添いの衛兵を眠らせます。
双子の弟の方がその能力を持ってますゆえ、できることなのです』
( ФωФ)『重要なのはその衛兵たちにそのような事件があったと理解させることです。
噂が広まれば魔王の行動は制約される。そうなると勝手にあなたを外へ出そうとはしなくなる。
あなたが外に行くことで生じる面倒な事態、正体がばれる危険をなくそうとするわけです』
( ФωФ)『魔王は外からの視線に意識を向け始め、隙が生じるでしょう。
そのときこそが、お城の内部にいる我々が奴を倒すチャンスとなるのです』
( ・∀・)『これが私の考えた計画です。
ご理解をいただけたでしょうか』
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
デレは考えた。
今、一気に見させられた計画は、確かに良くできている。
でもどうにも腑に落ちない点が一つ。
それを、ゆっくりと紙に書き出していく。
808
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:43:55 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ『もし、その人物が魔王で、あなたが負けたらどうなってしまうのでしょう』
疑問を書き述べる。
モララーは腰に手を据えて息を吐き、それから一気にペンを走らせた。
翻る手。
デレの目に映る文字。
( ・∀・)『私はあなたを逃亡させようとしている悪者なのですから
魔王の側も躍起になって私を襲ってくるでしょう』
( ・∀・)『おそらくは、致命傷以上の傷を負わされます。
最悪の場合はその場で殺されてしまうかもしれません』
モララーは何事でもないというように、すらすらとペンを動かした。
そこから先へと話を進めるべく。
だけど、その動きは止められてしまう。
懐には見慣れた黄金の髪が見えた。
愛おしく弧を描いたそれらが、左右に振られる。
静かな、言葉も出せない否定。
809
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:44:55 ID:.nLUMdgE0
デレは彼の胸に顔をうずめた。
そのまま二度と動きたくないと思った。
目を合わせれば最後、彼が遠くへ行ってしまう気がしたからだ。
この場を離れれば、もう二度と彼は自分を抱擁しないだろう。
彼女はひたすら、その背中に彼の手が触れるのを待った。
彼と出会ってからいつも、彼女が涙するたびに現れてくれる温もり。
悩みを打ち明けた時も、遠征行きが決定した時も
それは優しく彼女を迎えてくれた。
だから今回も来てくれる。
この涙を止めるために。
いつだって来てくれたのだから。
そんな期待を抱くようになっていた。
810
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:45:55 ID:.nLUMdgE0
モララーの吐く息が、彼女の頂きにかかった。
空気が頭をなでる。
( ∀ )「ロマネスク」
モララーの声がする。
顔色はうかがえないものの、それは確かに彼の声だった。
彼女がずっと聴きたかったもの。
( ФωФ)「しゃべっていいのか?」
ロマネスクが怪訝そうに言う。
モララーは肩をすくめた。
( ∀ )「少しくらいなら問題ないだろ。
魔王だって、こんな衛兵だけが使う場所の隅っこのところまで
聞いてもしかたないだろうしな」
相変わらずの落ちついた口調。
彼女はその一字一句から安心を掬い取っていた。
( ∀ )「こいつを連れ出してくれ」
そんな健気な行いに、彼の言葉が止めを刺した。
811
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:46:54 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ「!?」
顔を一息に上げ、彼の顔を伺おうとする。
だけどその前に肩に力がかかり、足がよろめいた。
モララーが彼女を突き飛ばしたのだ。
デレの腕が宙をばたつく。
その腕の一端を、ロマネスクはしっかり握りしめた。
( ФωФ)「また明日、な」
ロマネスクはそうモララーに呼びかけた。
彼からの返事はない。
デレの目の前で、モララーは背をむけていた。
顔色も何も伺えない。
何も知ることはできない。
デレは困惑した。
なぜ自分は見捨てられてしまったのか。
どうして彼の手のひらは自分の背中を包み込もうとしなかったのか。
812
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:47:56 ID:.nLUMdgE0
崖を墜落する心持だった。
目の前に岩壁がある。
モララーの姿は崖の上。
何も見えないし聞えない。
手を伸ばしても届かない。
ただ下へ下へと落ちていくだけ。
誰も自分を救ってはくれない。
そんな暗い予想が一挙に彼女を包み込む。
どんな鳥籠よりも怖い暗闇。
背筋を駆け巡る悪寒が、彼女の喉を震わせた。
813
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:49:01 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ「どうして!?」
絶叫。
身体は既に扉の外に出ている。
返事はこず、音を立てて扉が塞がる。
もう一度叫ぼうとした。
その口が手のひらで塞がれる。
(;ФωФ)「こんな夜に叫んではなりませぬ!」
ロマネスクが彼女を制止しようとしていた。
デレは頭をふり、その手のひらから逃れようとする。
それが叶わないと悟ると、口を開いて歯をむき出しにした。
そのまま、噛みつく。
(;ФωФ)「!?」
814
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 21:49:39 ID:nfamNBCU0
デュクォォ…
815
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:50:02 ID:.nLUMdgE0
動揺する手。
間隙。
デレは身をかがめ、前へと突き進もうとした。
再び彼のいる扉へと。
(#ФωФ)「なりませぬ!」
ロマネスクの怒声。
腕が再び掴まれる。
猛烈な勢いで、背後に引き寄せられた。
身体の軸がぶれ、よろめき、地面へと投げつけられる。
衝撃で目がくらむ。
草の匂いが飛び交う。
薄目の先に人影を見た。
例の猫目。
816
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:51:01 ID:.nLUMdgE0
ロマネスクはデレに馬乗りとなり、顔を向けてきていた。
考えている余裕もなかった。
デレはすぐに肘を絞り、平手を振りかざそうとする。
( ФωФ)「ふん」
鼻を鳴らす音だけ聞えた。
腕が止まる。
ロマネスクによって平手が食い止められたことを、やや遅れて認識する。
(#ФωФ)「聞き分けのない小娘め。
モララー殿が何を思ってそなたと顔を合わせないのか、わからんのか」
ζ( ー *ζ「何が、ですか……」
彼女は久しぶりに口を開いた。
か細い声。
腕にますます力が籠った。
ζ(゚−゚#ζ「何がわからないっていうんですか!」
そこから彼女は、感情の赴くままに言葉を吐露した。
ずっと押し殺してきた言葉。
言ってはいけないと思い、耐え忍んできた気持ち。
817
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:52:00 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚−゚#ζ「あなたがたはまだ何を隠しているって言うんですか!
私が何をしたっていうんですか。せっかく何もかもひた隠しにして生きてきたのに。
自分の気持ちに嘘をつき続けて、やっとの思いでここまでこれて、
魔王の正体だってもう少しで掴めそうだっていうときに!」
ζ(゚−゚#ζ「目の前で……ずっと会いたかった人がいなくなってしまうかもしれない。
そんな話を聞かされるなんて、思いもよらないに決まっていますよね?
だったら泣いたっていいじゃないですか! それくらい当然の感情でしょう!?
それなのに何も声をかけてもらえず、抱いてももらえず、あげくはその人本人にまで遠ざけられて……」
ζ(;−;#ζ「何のためにそんなことするっていうんですか!
ただ愛する人のそばにいることがそんなにいけないことだっていうんですか!
どうして私はそんなにも我慢しなくちゃいけないんですか、ねえ。
私が何をしたっていうの。答えてよ! 何が陰謀よ、何が魔王よ!」
ζ(;−;#ζ「みんな少しだって私の気持ちを考えたことはあるの?
私がどんな気持ちで毎日あの暗いお城の中で過ごしてきたと思っているの?
そこから抜け出そうとすることが、そんなに悪いことだったって言うの?
私はそんなにひどいことをしたの? なんでこんな目にあうの?」
ζ( − #ζ「お父様なんて嫌い。いっつも何にも言ってくれなくて、何考えてるのかわからなくて。
私をこんな目に合わせた奴らだって、嫌い。よその国だろうとなんだろうと。
魔王だって魔人だって人間だってみんな、みんな嫌い! 大っ嫌い!!
あなただって、モララーだって――」
818
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:53:00 ID:.nLUMdgE0
口は動いても、言葉が続かなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃに崩れていく。
浮かんでいたはずの言葉が出てこない。
言おうとしているのに、身体のどこかがそれに刃向った。
ζ( − ζ「なんでよ……」
自分の口を抑えた。
どうにかしてその震えを止めようとした。
だけど、その腕も手も、同様に震えている。
指が上手く動いてくれない。
目で確認したいのに、霞んでいて何もわからない。
口から、目元へと手のひらを動かした。
流れて止まらないそれを止めようとした。
とうとう誰も止めてくれなくなったそれを、自分の手で。
何も塞ぐものが無くなった口から、声が漏れた。
言葉を覚えてもいない赤子のように。
意味をなさない音の羅列となって、夜気を切り裂いていく。
819
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:54:00 ID:.nLUMdgE0
( ФωФ)「…………」
ロマネスクは静かに横に異動してくれた。
おかげで彼女は身が軽くなるのを感じた。
今ならもう一度走りだせる。
ロマネスクを逃れて、もう一度あの小屋に入ることだって。
だけど、そんな発想さえももう思い浮かばないほどに
彼女の思考は退行していた。
悲しみを埋めるために、自分の手では小さすぎる。
一人では何も満たすことはできない。
涙を止めることさえもできない。
デレは今更のように痛感していた。
( ФωФ)「…………彼はあなたを愛しています。
愛しているからこそ突き放すのです。
あなたに生きていてほしいから。情が残っていては、魔王は騙せません」
820
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:55:00 ID:.nLUMdgE0
淡々とロマネスクが説明してくれた。
味気ないその厳めしい語りが、今の彼女には心地よかった。
その事実を理解するのに、誰の感情も介在してほしくなかったから。
( ФωФ)「どうか、わかってやってください、王女様。
彼はあなたに願いを託したのです。
それをどうか、無駄にしないでください」
草の上を撫でる音がした。
デレは指の隙間から覗き見た。
ロマネスクが深々と頭を下げているのが見えた。
821
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 21:55:40 ID:zwr5HcQQ0
モララー…
822
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:56:00 ID:.nLUMdgE0
ζ( ー *ζ「……やめてください」
しゃがれた声で、ロマネスクに語りかける。
ζ( ー *ζ「魔王であろうとなかろうと、いずれにしろ私は王女じゃなくなってしまうのです。
そうなればもう、ただの小娘と同じですよ」
力ない笑いが続いた。
空気を震わせることさえできない微笑み。
夜空で輝く星が見えた。
ようやく目は滲まなくなっていた。
心が絞られた。
何をすべきか、わかったから。
☆ ☆ ☆
823
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:56:59 ID:.nLUMdgE0
308年 9月20日
私は明日、モララーさんと一緒に南の山へ向かいます。
モララーさんはこれまで、一人で魔王の正体を推理してくれていたそうです。
これまで私が話したこと、一緒にいたこと、その全てから。
もしも彼の言うことが正しければ
私は大きな政治的陰謀に巻き込まれてしまったということになります。
いいえ、私だけではありません。
国王も、そしてモララーさんも、みんな。
こんなに非道な話は他に聞いたことがありません。
今回の調査に、モララーさんは決死の覚悟で臨んでいます。
私だって、同じ思いを抱いています。
私は近いうちに決着をつけます。
全てを終わらせるために。
☆ ☆ ☆
824
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:58:00 ID:.nLUMdgE0
10月25日 新嘗祭の夜
夜7時50分頃
デレは外にいた。
人影を避け、闇夜に紛れ。
その華奢な手には似つかわしくない、銀のナイフを握って。
彼女は以前日記に書いたとおり
全ての決着をつけるために、ある場所へと向かっていた。
そこには魔王が潜んでいる。
それを証明してくれたのはほかでもないモララーだった。
あの日の手紙を、デレは思い返していた。
行われていた計画も。
ひと月前のことでも、鮮明に記憶されている。
825
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:59:00 ID:.nLUMdgE0
お城の角を曲がる。
小屋が立ち並ぶ場所があった。
あそこが目当ての場所。
デレは唾を飲み込んだ。
手が震えている。
何度も魔王を殺す想像はしてきた。
このひと月で、何度も。
国王の帰りを待ち望んでいた。
あの性格からして、絶対に新嘗祭を敢行すると思ったからである。
しかし確定ではなかったため、目つきが鋭くなることはあったが。
一番隙が生まれるのはこの新嘗祭だと思っていた。
国王も、衛兵も手薄になるこのときこそ、自分が行動する絶好のチャンス。
826
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:00:00 ID:.nLUMdgE0
国王には内緒にしておいた。
どうせ心配され、止められてしまうと思ったからだ。
もう言うことを聞いている場合ではない。
モララーを殺されたことに対するデレの怒りは、もはや収まるものではなかった。
モララーの死体を確認してから、ロマネスクと話し合った。
計画の第二段階、魔王の暗殺を企てるために。
ロマネスクは確かに信頼できる人だった。
( ФωФ)『魔王は私が仕留めて見せますよ』
10月に入ってから、彼が一度提案してくれた。
( ФωФ)『あなたよりも私の方が力はありますし、魔王は油断するんじゃないですかな』
ζ(゚ー゚*ζ『いえ、私にやらせてください』
デレは丁寧な文字でそれに応えた。
ζ(゚ー゚*ζ『私は人質なんです。魔王は簡単に私を殺せない。
だからこそ油断が生じる。そこを倒しに行くんです。
それに何よりも、私があの人を殺したい』
827
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:01:01 ID:.nLUMdgE0
最後に付け加えた物騒な文字を見て、ロマネスクは狼狽していた。
(;ФωФ)『王女、そのような言葉を使われては……』
ζ(゚ー゚*ζ『いいんです。前にも言ったでしょう、私はただの一人の小娘。
だからどんな言葉を使っても責めないでください』
(;ФωФ)『…………そうですか』
( ФωФ)『では、私ももう少しフランクに接しますかな、小娘さん』
それから妙に、デレはロマネスクに気に入られだした。
よく尽くしてくれる人だとデレも感謝している。
今ごろは国王の部屋でモララーの形見を取りにいってくれていた。
最も、その命令には、
魔王を倒す方に手出ししてほしくないという思いも込められていたのだけど。
828
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:02:00 ID:.nLUMdgE0
小屋。
より詳しく言えば、それは厩舎だ。
デレはその扉を開いた。
魔王はいた。
いつものように、綺麗な体毛を棚引かせている。
ζ(゚ー゚*ζ「…………あなたが」
一言、デレは呟いた。
ナイフがまっすぐ前を向く。
829
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:03:00 ID:.nLUMdgE0
マルティア国から、数年前プレゼントとして彼をもらった。
青い目の白馬。
ナイフを握りなおす。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王だったのね」
言うと同時に、デレは駆け出した。
月明かりから外れる。
真っ黒な通路を、ナイフを突きだして。
830
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:04:00 ID:.nLUMdgE0
魔人の特徴は獣の部分。
多くの場合、それは耳として現れる。
ただし中には、骨格レベルで変形してしまう者もいる。
人の身体と、馬の身体、二つを併せ持つ者もありうる。
モララーはそのことを考慮して
魔王の正体をその贈呈された白馬だと睨んだ。
だからあの日、南の山へ白馬も連れてくるように言った。
道中で、モララーが魔人を憎んでいることもにおわせて。
そうすれば魔王はモララーを襲いに来る。
ひょっとしたら殺しに来るだろう。
そうなれば、確実に、白馬が魔王と決まる。
結果として、モララーは殺された。
魔王の手下によって。
831
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:05:04 ID:.nLUMdgE0
デレは最後まで、演じ切った。
モララーの死体を前にして、あくまでも冷徹に振る舞った。
ロマネスクがこっそり連れてきていた魔人によって、ブーンたちも眠らせた。
計画は確かに上手く行ったのである。
それでも抑えきれない思いがあり
彼の額に口付けをすることで、その気持ちを静めた。
冷たくなる彼の顔を見降ろした彼女は、どうしても言いたくなった。
ζ(゚ー゚*ζ「人が口で言ったことを信じるなんて、馬鹿みたい」
あの倉庫で、デレが言ったこと。
帰ってきてほしいと言ってしまったこと。
それをモララーは実行した。
だから死んでしまった。
なんて馬鹿なんだろう。
少なくとも魔王だったら、絶対にそう言って嘲るだろう。
832
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:06:00 ID:.nLUMdgE0
だけど、
彼女はその愚かなまでのモララーの熱心さに救われた。
彼女は決して、モララーを嘲りたかったのではない。
魔王に疑われないように、細心の注意を払って呟いた
精一杯の労いの言葉だったのである。
833
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:07:03 ID:.nLUMdgE0
ナイフが振りあげられた。
全てを断ち切るために、
デレの顔が歪む。
これで終わるのだという安堵と共に。
「君は、まさか」
魔王の声がする。
口を動かしているようには見えないが、聞えてくる。
獣の部分が出ていれば、能力を使うことができる。
白馬の姿をしているから、能力を使ってきている。
声が聞えることも不思議ではない。
だから振り下ろす。
一気に。
834
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:08:00 ID:.nLUMdgE0
「僕がずっと白馬でいたと、本気で思っているのかい?」
ナイフが空を切る。
白馬の身体が縮んだからだ。
デレは舌打ちする。
言葉はよく聞き取れなかった。
でも聞いていても意味はないだろう。
それよりも早く仕留めなければ。
再び腕を振るおうとした。
だけど、その腕を後ろから握られる。
ζ(゚ー゚*;ζ「!?」
息をのみ、顔を振り向く。
835
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:09:00 ID:.nLUMdgE0
(゚、゚トソン「……いけませんよ」
従者の一人がそこにいた。
ζ(゚ー゚*;ζ「そんな、どうしてあなたが」
腕を振りほどこうとするも、信じられないほどの力がかかって離せない。
(゚、゚トソン「あなたにわかりやすいように説明するならば
私はずっとこのお城の内情を探っていたのです」
「そういうこと」
前で声がする。
デレは再び、魔王の声を向いた。
「この国はもう、前から目をつけられていたんだ。
マルティアにね」
836
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:10:00 ID:.nLUMdgE0
魔王の姿は変わっていた。
人間の姿へ。
ζ(゚ー゚*ζ「あ……」
言葉にならない音が漏れた。
ζ(゚ー゚*;ζ「そんな……」
思考が書き変わる。
今までの常識が覆る。
ζ(゚ー゚*;ζ「いったいどうやって!?」
837
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:11:00 ID:.nLUMdgE0
(゚、゚トソン「このお城が魔人のものになっていたからですよ」
後ろに立つトソンが淡々と説明してくれた。
(゚、゚トソン「最低でも半分以上が、我々の仲間ならば
多少不自然なところがあっても誤魔化すことができるというわけです」
(゚、゚トソン「だからある程度時間が経過した後に、あなたに近づいた。
そうして、実際に目でもあなたを監視していたんですよ」
「とはいえ、何を企んでるかまではわからなかったけどね。
その点は凄いと思うよ。南の山では完全に乗せられていたし」
「今日だって、こうして仲間に見張らせるくらいしか対策のしようが無かったもの」
ζ(゚ー゚*;ζ「対策って……どうして今日ここへ来るってわかったの?
ひと月も間が空いているのに」
838
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:12:00 ID:.nLUMdgE0
「君の性格からして」
魔王がデレに歩み寄る。
その指先が、デレの額に触れた。
恐ろしいほどに冷たい指先。
「誰にも邪魔されない日を選ぶだろうなとは思ったよ。
国王にも、衛兵にも邪魔されず、自分だけで決着をつけに来るって」
「結局君は誰も信じてないんだよ。しいていえばモララーだけを信じていた。
そのモララーを殺されれば、そりゃもう怒って僕を殺しに来るだろうな。
一番お城に隙ができる日を狙ってくるだろう、じゃあ防いでおこうってね」
指が離れる。
魔王はゆっくりと歩みを進めた。
外へ向かって。
デレの視線がそれを追いかけていった。
839
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:13:00 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「……こんなことをしたら、もうこのお城にはいられないんじゃありませんか?」
ζ(゚ー゚*ζ「もしここで私に何かしようものなら、お父様が黙ってないですよ。
このお城に残っていた人から疑われます。そうなればあなたもただじゃすまないはず」
「だから、ここはもう魔人や僕らの味方ばっかりなんだって」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、まだ国王は人間です。
ちゃんとした人間の王様で、私のお父様。
第一、国民だって人間の方が多いんですよ? 魔人の王政なんて続くわけが」
「あてはあるよ。ちゃんと上に立てそうな人間はいる。
僕らの考えに協力してくれそうな人が」
魔王の身体が、進む。
840
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:13:17 ID:hqYQ83Bw0
しえn
841
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:14:00 ID:.nLUMdgE0
「それに、残念だけど王女様。
もうほとんど僕らの計画は終わりの段階だよ」
「もう君に人質の価値はほとんどない」
入口の前。
月の光が差し込んでいる。
ζ(゚ー゚*;ζ「価値は、ないって……」
「そりゃまあ、生かしてはおくけど」
魔王が指を鳴らした。
その背後に、多数の赤い目が浮かぶ。
魔人が来ている。
いつの間にか、厩舎を取り囲んでいたのだ。
魔王は改めて、デレを見据えた。
842
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:15:28 ID:.nLUMdgE0
「君らの王政は」
その顔がより鮮明になる。
見間違いではないことも、はっきりと思い知らされた。
ミセ*゚ー゚)リ「もう終わり!」
嬌声が響き渡る。
声質が違っていても、すぐにわかる。
あの魔王の声と同じ人が発する声。
843
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:16:28 ID:.nLUMdgE0
赤い目が迫ってくるのが見えた。
いくつもいくつも。
尖った叫び声が聞えてきた。
魔人の叫び声だ。
この厩舎に入ってこようとしている。
デレは歯を噛みしめた。
844
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:17:28 ID:.nLUMdgE0
ミセ*゚ー゚)リ「残念だったね、あと少しだったのに」
すっかり勝ち誇った表情のミセリが、声をかけてきた。
ζ( ー *ζ「……そう」
俯いたまま、彼女は言う。
ほとんど聞き取れないほどの小さな声で。
ζ( ー *ζ「これで勝ったと思うのなら、そう思っておけばいいわ」
髪に隠れたその奥で
デレの瞳は光を失わずに輝いていた。
頭に浮かんでいたのは、部屋に置いてきた日記帳。
魔王は間違っている。そうデレは思った。
彼女にはもう一人、信じている人間がいた。
☆ ☆ ☆
845
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:18:07 ID:oUUFHOhs0
うおお…支援
846
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:18:29 ID:.nLUMdgE0
南の山へ赴いた日
あの湖の畔で
彼女はモララーと会話した。
そのときの話題は、いったいどんな人を連れて来たのかということだった。
モララーは信頼できる人を連れてきたと言っていたが、それ以上のことは何も聞かされていなかった。
( ・∀・)「今ちょうど、あの馬のところにいますよね。あっと、振り向かないで。
下手に振り向いたらこっちに来ちゃうかもしれませんし」
そう語る彼の姿は、どこかにやけていた。
( ・∀・)「まずあの大きな鼻を持った細身の男はドクオと言います。
あいつは実はレジスタンスにいて、隙あらばお城に刃向おうとしています。お城にとっては悪者ですね」
ζ(゚ー゚*;ζ「い、いいんですか? そんなこと言っちゃって」
( ・∀・)「あ、捕まえたりしないでくださいよ? まあ、それくらい許してやってください。
あいつもまた魔人のせいで、とても辛い経験をしているのです。
立場こそあれ、だからこそ強い。だから信頼できると私は思っています」
847
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:19:28 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)「で、もう一人の少年。実は衛兵見習いなのですが」
ここで、モララーは口元を抑えて笑った。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたのですか?」
( ・∀・)「いえね、あいつは……すごく優しいんです」
ζ(゚ー゚*ζ「優しい、ですか」
奇妙な言葉のように感じた。
そんなものが必要になるものなのかと、訝しんだ。
その気持ちも見透かすように、モララーは笑っていた。
( ・∀・)「何物も憎みきれない。だからこそ、誰にも選べないような選択をしてくれる。
あいつはきっと、魔人と人間のかけ橋になってくれる、そんな気がしてならないんです」
( ・∀・)「それが、ブーンを連れてきた理由なのです。
どうか、この計画が終わったのちは、彼を信じてやってください」
☆ ☆ ☆
848
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:20:27 ID:.nLUMdgE0
託すべきバトンは全て渡した。
モララーの信じたあの少年へ。
あの人の願いに自分の願いを重ねたのだ。
デレはそう思ったから、頬を緩ませていた。
ミセ*゚ー゚)リ「?」
不思議そうな声が聞えてくる。
そうだろうと思い、すぐに表情を切り替える。
胸の内に、思いは潜める。
これまで何度もしてきたことだ。
いつか、この冷たい感情を、
あの優しい衛兵が打ち砕いてくれるそのときまで
待っていようと心に決めた。
それもまた、一つの決意。
849
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:21:28 ID:.nLUMdgE0
こうして、
ラスティア国王女デレは、一旦世界の表舞台から姿を消すこととなった。
.
850
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:22:27 ID:.nLUMdgE0
'´ `ヽ !
l !
/ / ⊂⊃
、 _ ,r '´ /
`' ー-- ‐ ´
i
|
||
| / ',
‖ 〈__〉
Λ ハハハ
/ ゙、〈i]]]i〉
〈_ _〉 l  ̄`l
,ハ不ハ. | 「Λ|
〈i]]]]i〉| / ゙、 |
|丁丁| j/ ゙,Λ
| |人人|〈 〉_〉
l Λ/ ̄ ̄∨不不!ハ_|
‖ 〈ニ〉 __ 〈i]]]刈]i〉',
Λ |「l|/[_]\|「  ̄Λl|,ニ〉
| / ', 冂モモモモ|| 「l/ 'j」| |
. l /'/ ',「|丁丁丁l|| l/ ',Λ . l ∧
. Λ/ 〈 〉|,ЦΛ,Ll||〈 〉 ',Λ' ',
. / 〈 ,ハ不不ハ.|,/○\|l ハ不不ハ 〉 ', ___〉
〈___r'ニ{i[[[[[[i/ /\ ',i]]]]]]i}ニ!_〉jiハ
851
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:23:28 ID:.nLUMdgE0
―― 第六話 おわり ――
―― 第七話へつづく ――
.
852
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:24:10 ID:4fDvgHLE0
おおー……乙
853
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:24:46 ID:.nLUMdgE0
―― コラム⑥ 小ネタ ――
ミセ*゚ー゚)リ……M=魔王
(゚、゚トソン……S=しもべ
ラスティア城下町編はおしまいです。
次はテーベ国編なのですが、区切りもいいことですし
一旦時間をおいたり別の作品書いたりして頭を冷やしたいと思います。
ゆっくりお待ちください。
それでは。
854
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:30:29 ID:hqYQ83Bw0
乙!
そんな所に伏線?があったとは・・・
855
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:31:44 ID:Fy0LKOgQO
投下に気づいたら終わってた
今から読む
856
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:32:03 ID:.ZFC89Ss0
乙…上手いなぁ
857
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:55:22 ID:YSp3Icqc0
おつです!
すっごくドキドキした…!
ゆっくり待つよ!
858
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 23:24:13 ID:Fy0LKOgQO
予想外だったが今になってあれもこれも伏線だったのかと気づかされた
859
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 23:28:32 ID:NXaVFmGwO
ω・)おつ
860
:
名も無きAAのようです
:2013/09/14(土) 00:09:16 ID:SJI1rzyc0
さっぱり気付かなかったわ…
乙
861
:
名も無きAAのようです
:2013/09/14(土) 00:58:27 ID:fFlqprUo0
おつ
伏線やべえ!流石としかいいようがない
読んでてここまでドキドキしたのは久々だ
862
:
名も無きAAのようです
:2013/09/14(土) 04:11:45 ID:Nfa/SWck0
すげー…
863
:
名も無きAAのようです
:2013/09/30(月) 21:03:31 ID:yGuuVFcwO
ξ゚⊿゚)ξ別に待ってなんかいないんだからね
テストのために書きこんだだけよ、勘違いしないでね
864
:
名も無きAAのようです
:2013/10/13(日) 23:09:53 ID:/DR6zPF60
竜騎士になったデレを旗頭に、魔人たちを最も深き迷宮へ押し戻す…
あれ?
入れ替わり物の疑心暗鬼ドキドキ感は異常
865
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 19:20:42 ID:wfZ2VIa.0
落ちついたらこっちも読ませてくれ
楽しみにしてる
866
:
◆MgfCBKfMmo
:2014/02/02(日) 00:56:54 ID:QffNqF060
第一話〜第六話までを『第一部 王女と勇者の章』とします。
第七話からの『第二部 戦士と魔女の章』を小説板2にて投下を初めます。
今後もよろしくお願いします。
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/16305/1391263019/l50
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板