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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 12:08:05 ID:xaL22uFs0
―――― 予告 ――――
.
2
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 12:09:00 ID:xaL22uFs0
( ・∀・)「ブーン?」
もう一度、モララーは呼びかけた。
しかし、ブーンは動かない。
相変わらず、口をぽかんと開けて、目線を前に。
(;・∀・)「おい、おい!」
モララーはブーンの肩をもち、ぶんぶんと揺すった。
ようやくブーンが、まるで今気付いたとでも言うように、
言葉にならない声を発してモララーの方を向いた。
(;^ω^)「ど、どうしましたお!?」
今度はモララーが呆然とする番であった。
(;・∀・)「どうしましたって、お前……話聞いてただろ?」
( ^ω^)「あ、話……」
3
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 12:09:51 ID:xaL22uFs0
( ・∀・)「え?」
(;^ω^)「い、いえ実はその」
ブーンは何事かをもごもごと口にした。
モララーにも聞えないくらい小さな声で。
( ・∀・)「は?」
モララーはいい加減いらだって、つい強めに追求してしまった。
ブーンはますますびくついてしまう。
そしてちらちらと、前の方を見る。
そう、デレ王女の方へ。
(;^ω^)「綺麗だなと」
4
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 12:10:40 ID:xaL22uFs0
―― 第一話 ――
―― 「山での事件と秘密の任務」 ――
今夜10時から投下開始。
5
:
名も無きAAのようです
:2013/08/21(水) 12:11:45 ID:EhTt1OYs0
紳士的支援
6
:
名も無きAAのようです
:2013/08/21(水) 14:57:21 ID:ezcKPhGA0
これは期待
7
:
名も無きAAのようです
:2013/08/21(水) 21:28:54 ID:2s.aj1EQ0
支援
8
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 21:58:35 ID:BuuB5olM0
投下前にあれですが
すごい量の雷が鳴り響いておりますので
途中で投下が途切れたら停電してると思ってください(´;ω;`)
では始めます。
9
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:00:41 ID:BuuB5olM0
この世界には魔人がいて、人間と共存している。
戦争とかそういったものはお互いのために良くないという話し合いがなされたからだ。
そしてこの世に魔人が現れてから三百年、平和な日々が続いていた。
☆ ☆ ☆
10
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:01:32 ID:BuuB5olM0
―― 第一話 山での事件と秘密の任務 ――
.
11
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:02:32 ID:BuuB5olM0
少女は窓枠から外を眺めていた。
目線を下げれば城下町が見える。
あそこでは何千もの人たちが暮らしている。
もちろん少女だってそのくらいは知っていた。
しかし少女は産まれてから今まで、ずっとお城の敷地の中で暮らしてきた。
彼女は外に出ることを許されていなかった。
鳥かごの中の鳥を彼女はよく思い浮かべていた。
自分はとても大切に育てられている。重々理解してはいた。
両親はどうしても自分を危険な目に会わせたくなかったのだ。
だけど両親は、少女がどう思っているかについては考えていなかったようだ。
だから飼っている鳥と同じように、私をずっとこのお城に閉じ込める。
お城に居れば絶対安全、綺麗なまま。
12
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:03:33 ID:BuuB5olM0
少女はそれが大嫌いで、でも何もできなかった。
守りが堅過ぎるからだ。
国王はお城を堅牢なものにすることに執着していた。
数年前に母親が外の悪漢に襲われ、亡くなった。
そしてそのときから、徹底的に危険を排除しようとしていたのである。
そのため、国王は国民の中から有力な男を募ってお城の衛兵を育てていた。
この国でも屈指の実力を誇る兵士たちだ。
お城の防衛だけに利用するというのは実にもったいない。
ここが普通の国ならば、暴動が起きた可能性もある。
人の税金や、労働力を奪って何をやっているのかと。
しかし現実には、国王に刃向えるものなど誰一人としていなかった。
だからいつまでも、不公平な防衛偏重が続いていた。
そのことはますます少女の気持ちを沈ませた。
誰もかなわない国王に、自分がかなうはずないのだから。
13
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:04:31 ID:BuuB5olM0
少女は自分の鬱屈した思いをノートに書き綴っていた。
このノートはきっと誰にも見せられない代物だとつくづく感じていた。
もしも国王にこんなものを見られたら、鳥かごが穴のない鉄の箱になってしまうだろう。
それに普通の人が見てもきっと辛い。
書いている少女だって辛いのだ。
ノートを要約すれば、ただ切に「出たい」としか書かれていないのだから。
今日もまた、机に向かい、羽ペンを用いて書いていく。
何度も何度も同じ内容を、飽きもせずに。
だってそれしか考えていないのだから。
それだけを国王に伝えられれば十分なのに、どうしてできないのか。
理由ははっきりしている。
あの苦しそうな国王の姿をみたら、誰だってそっとしておきたくなる。
でも……
憤りは自己嫌悪となり、少女を苦しめていた。
このままではいずれ私は潰れてしまう。
書いている手を止めて、目を閉じた。
強く、目がつぶれるのではないかと思うほどに。
14
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:05:47 ID:BuuB5olM0
「出たい」
思わず呟いた。
ノートだけではもう限界だった。
目を閉じて、自分の願望を。
15
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:06:32 ID:BuuB5olM0
「出たい?」
聞えないはずの返答。
それは空耳ではなかった。
16
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:07:32 ID:BuuB5olM0
空気に紛れて消える煙のように微かな声。
でも確かに聞えた音。
少女は目を見開いて、弾けるように振り返った。椅子の背凭れが軋む。
少女の部屋には誰もいなかった。
寒気を感じた。
私はいったい何を聞いたというのだ。まさか幽霊とでもいうのか。
それとも幻聴だろうか。
「強い想いが聞えたよ」
先ほどよりもずっと長い文章が聞えた。
どこからでもない。頭に響いているのだと少女はようやく気づいた。
誰なのだ、いったい。
少女は思考を巡らせてその声の主を当てようとした。
たとえ町に降りれなくても、世の中の常識は知っている。
このような怪奇現象が起こる場合、その多くが魔人のせいであるとよく言われている。
17
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:08:32 ID:BuuB5olM0
ζ(゚ー゚*ζ「魔人さん?」
少女は声を出す。とても弱々しい声。
何日も人と話していなかったからこそ出せる声。
返事をする人の姿も見えないが、甲高い笑い声だけが聞えた。
「そう思ってくれて構わないよ。
でも僕を呼んだのは君だよ。僕は君の強い願いをかなえようと思ってきたんだよ」
まるで子どものような無邪気な話し方をする。
少女は不気味さを感じた。
しかしそれ以上に、魔人の声には惹かれるものがあった。
だから、話を続けることにした。
ζ(゚ー゚*ζ「願いをかなえる? ねえ、それってひょっとして」
少女はちらりとノートを見た。
羽ペンからインクが垂れ落ちており、黒い斑点が用紙に広がっている。
また、笑い声がした。
先ほどの声の主が、再び甲高い声を出したのである。
「君の願いをかなえてあげるよ」
18
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:09:32 ID:BuuB5olM0
少女の胸の奥が躍った。
怖さも不気味さもある。でも今は関係ない。
自分を苦しめる一番のものを除外できるなら、そんなものは恐ろしくもなんともない。
少女は目を輝かせた。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、それってとてもすばらしい提案だと思うの。
ぜひお願いをかなえてほしいんだけど、何かすることはあるの?」
この場合、きっとただではすまないとわかっていた。
物語の中で願いがかなうときは、大抵何事かの制約がつきものだ。
回数に制限があるかもしれないし、ひょっとしたら命に関わることかもしれない。
知らないうちに契約するのは早計だ。
「もちろん、あるよ。でも大丈夫、絶対に君は傷つかないよ」
それを聞いて、少女は心の奥の蟠りが少しだけ消えた。
でも油断はできない。声に集中し、続く言葉を待った。
声の主はわずかに間をおいてから言った。
「君のお父さんとお話がしたいんだ。
このお城でお仕事ができないか相談したいんだよ」
19
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:10:33 ID:BuuB5olM0
少女は今度こそ胸を撫で下ろした。
自分にとっては何も不都合のない条件だったからだ。
確かに父親、つまりここの国王は魔人に対して懐疑心が強い。
危険を恐れる正確ゆえに、不確かな力を使える魔人をなるべく遠ざけたいのだろう。
だから魔人がお城で働くことにも反対していた。
上手く魔人がお城でお勤めできるかわからない。
でも話し合うことくらいできるだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「いいよ」
少女は快諾する。
か細いが、希望の籠った溌剌とした返事だった。
よりいっそう甲高い笑い声が、広い部屋に響く。
「ありがとう、それじゃあ、行ってくるね」
声はそう言った。
見えはしないが、きっと国王の元へ向かったのだろう。
少女は改めて部屋を見回した。
少女には不釣り合いなほどの広い空間、広いカーペット、広いベッド……
その広さこそが彼女に圧迫感を与えていた。
20
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:11:39 ID:BuuB5olM0
ようやくこの部屋を出れる。
少女はそう思い、腹の底から湧いてくる嬉しさに酔いしれた。
もし外に出たら何をしよう、まずは城下町を廻ろう。
それからもっと遠く、城壁の外、南の山でもその手前の草原でもいい、とにかく自然に触れる。
そして人々と会いたい。庶民でも、いや、誰でもいいのだ。
とにかく生きているという実感が欲しい。
それだけが望み。
自分の望みが叶えられればそれでいい。
それで国王が優しくなれば、もっともっと嬉しいけど。
日が暮れて、お城がにわかに騒がしくなった。
少女、つまりはこの国の王女の知らない遠くの部屋で、何事かが起こっていた。
21
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:12:32 ID:BuuB5olM0
そしてその日から、国王は変わった。
☆ ☆ ☆
22
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:13:32 ID:BuuB5olM0
魔人と共存すると決めたとき、人間は発展することをやめた。
わずかながらの科学力を駆使せずとも、
魔人のもつ不思議な力を利用すれば生活を豊かにすることは可能だったからだ。
微かに芽吹いていた革命の息吹も消え、人間の生活は外見上中世に戻っていた。
たとえば見た目には弱々しい石と木でできた簡素な家でも、
不思議な力によって守れば長持ちし、雨も風も火災さえも防ぐことができた。
だから必要以上の発展をする必要がなくなったのである。
それはこの国でも同じだった。
ただ、現在の国王が頑固に魔人を拒んでいた頃は公に不思議な力を得られず、
生活に窮した国民の有志によって科学技術も少しは用いられていた。
とはいえ発展の止まった時代から、ほんの少しだけバージョンアップした程度の弱々しい技術だが。
そんな状況では魔人の力を使いこなす他国から舐められてしまう。
国は現在の国王が治めてすぐに消極的な鎖国となった。
他の国との関わりを薄れさせて細々と生きていたのである。
しかし国王の変化はこの事情を変えてくれた。
不思議な力の恩恵に与ることができたのである。
23
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:14:32 ID:BuuB5olM0
国王はより外交に積極的になった。
いままでの国王からは考えられないほど人と接し、外の世界に触れるようになった。
王女もそれに同伴して世界を回った。
外から見て、その姿はとても輝いて見えた。
彼女自身がその外交を心より楽しんでいるふうであった。
魔人をお城に入れてから3年、国も城下町も活気づいた。
未来は明るい、そんな予感で溢れていた。
だけど、事件が起こった。
南の山で他国の商人の死体が発見されたのである。
死体は衛兵により見つかり、国王や専門家との話し合いの末秘密裏に処理された。
その行いから伺えるように、国王は本当はその死について秘密にしておきたかったのかもしれない。
しかし噂と言うのは一旦火がつけば止まらない。
少しでも商人の死について知った者から、次々と話が広まっていった。
国中の噂となるのはあっという間だった。
24
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:15:32 ID:BuuB5olM0
そして、物語は一人の衛兵を主人公として始まる。
☆ ☆ ☆
25
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:16:32 ID:BuuB5olM0
( ゚ 々゚)「なんだよ、なんか文句あるのかよ」
大柄な少年がぼやいた。歳は15であり、まるっとした体形。
彼はこのお城の衛兵見習いをしていた。
見た目からも口調からも、その粗暴さが伺えた。
( ゚ 々゚)「俺はお前の持っている剣が錆びてたり、曲がっていたりしないか見てやろうってんだ。
善意で点検してやろうって言ってるのに、なんでそんなに嫌がるんだよ。人の善意は受け取るべきだろ」
大柄な少年はしたり顔をして彼を睨みつけていた。
その右手には、見習いが持つにしては一回りも二周りも高級な剣が握られている。
彼に対峙している少年は、その剣の高級さもさることながら、
自分にとっても大切なものであるがゆえに、なんとか抵抗して剣を奪い取ろうとした。
(;^ω^)「やめてくれお、それは先輩から貸してもらっていた大切なものなんだお。
それが無くなったり傷ついたりしたら僕が怒られちゃうお」
ひどく震えた声が、彼の口から出てきた。
自分としてはちゃんとはっきり言ったつもりなのだ。
でも、自分より随分と大きい少年を前にして、気持ちが萎縮してしまっていた。
出てくる声も、まるで人の前に出てきた小動物のように震えきっている。
情けないことこの上ないと自分でも思った。
26
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:17:32 ID:BuuB5olM0
大柄な少年は鼻を「ふん」と鳴らして鋭い目つきで彼を睨み、それから大きく口を開けた。
大きな声がくると彼にもわかったが、避けられなかった。
(#゚ 々゚)「だから! なんで俺がこれを無くしたり傷つけたりするって決めつけているんだよ!
お前本当に性格が悪いな。もっと人を信頼するってことをしろよ、なあ」
大柄な少年は周りにいた取り巻きたちに同意を求めた。
まってましたと言わんばかりに、取り巻きたちは一斉に首を縦に振る。
気弱な少年は心苦しかった。
性格が悪いなどとマイナスな言葉を掛けられると、どうにも思考が鈍ってしまう。
僕は決してそんなひどい人じゃない、僕はただ自分の主張を……どうかわかって……
残念ながら言葉は出なかった。それこそがまさに彼の性格によるものだった。
でも、どうにかして剣を取り返したい。
震える手をのばす。
大柄な少年は急いで剣を抱きしめ、威嚇する。
そして急に、わざとらしく溜息をついた。
27
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:18:32 ID:BuuB5olM0
(#゚ 々゚)「ああもう、わかった。今晩返すさ! それでいいだろ?
何もこの剣を売っちまおうとかそういうんじゃない。
ちゃんと夜にはお前の部屋に行って返すよ。そうすれば明日から先輩にも顔向けできる。
そうだろ? なんの問題もないじゃないか」
(;^ω^)「本当に、すぐ返すのかお?」
大柄な少年はここぞとばかりに目を輝かせて、大きく身振り手振りを付け加えて肯定を表した。
(*゚ 々゚)「返す返す、ちょっと写真ってのを撮るだけなんだから!
最近魔人の知り合いが力使ってそういうことやってくれててさ、
俺たちもせっかく写真に残せるならかっこつけようって思ったわけよ。
な? これくらいならすぐ返せるだろ」
気弱な少年は、なるほどと納得した。
大柄な少年の言っている主張は正しいと思った。
たとえ途中で事件があったとしても、その魔人とか彼らを責めれば問題は解決する。
自分に悪いことが降りかかる恐れはない。
そうと決まれば争うことも無い。
彼は何よりも争いが嫌いだった。
争いは何も生まない、ただ痛いだけだ。苦しいだけだ。怖いだけだ。
28
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:19:33 ID:BuuB5olM0
(;^ω^)「じゃ、じゃあそれ」
彼が少しだけ話しだした時だった。
(;゚ 々゚)「痛っ!」
大柄な少年の頭部に、気持ちのいい音を立てて棒状のものが降りかかった。
良く見ればそれは、見習いが練習で使う木刀であった。
( ・∀・)「そいつは承諾できないな」
悶絶する大柄な少年をよそに、先程木刀を振りかざした男が言う。
栗色の髪の下で、鷹のように鋭い目線が光る。まっすぐに彼を射止めていた。
( ・∀・)「な、ブーン」
気弱な少年こと、ブーンは名前を呼ばれたことで焦り、目線を反らした。
しかし青年の目線が自分に突き刺さっていることは紛れもない事実であり、もはや逃れられる代物ではなかった。
ブーンはわずかに唇を震わせて、「はい」とだけ答えた。
(;゚ 々゚)「お、おいさっき約束したのとちが、あう」
( ・∀・)「さっきのはまだ返答してないだろ。
さ、早く言ってくれ。俺はブーンに用があるんだ」
29
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:20:32 ID:BuuB5olM0
木刀が再び振りかざされていた。
大柄な少年はそう言われると、舌打ちした。
それでも怒られるのは怖いので、さっさと取り巻きを連れていってしまう。
ブーンと、栗毛の青年だけが道の上に残った。
お城と寄宿舎を結ぶ連絡通路の上である。
「モララー先輩」
ブーンが言ったのは、栗毛の青年の名前である。
( ・∀・)「まったく、いまだにお前はなよなよしちゃって。
寄宿舎にいたころから成長していないのか」
(;^ω^)「面目ないですお」
( ・∀・)「……確かお前と出会ったときもこんなことしていなかったっけ」
(*^ω^)「寄宿舎に来てすぐ、先輩方に絡まれたときですおね。
あのときもモララー先輩が来なかったら大変なことになっていましたお」
(;・∀・)「誇らしげに言うなって」
(*^ω^)「すいませんですお」
30
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:21:32 ID:BuuB5olM0
モララーが寄宿舎を出て、晴れて衛兵となってから2年。
彼は現在も、期待の新鋭の衛兵として名を馳せていた。
モララーは頭をかいて、ブーンと向かい合った。
( ・∀・)「やれやれ、お前ももう少ししゃんとしてくれたら俺も安心できるんだがな」
ごまかしてはいたものの、その言葉を聞いてさすがにブーンは頬が熱を帯びるのを感じた。
いつだってそうだとブーンは思った。
いつだって自分は、今一歩のところで自分の主張を引っ込めてしまう。
そして最後にはモララーみたいに、もっとはきはきとした人たちに助けられる。
( ^ω^)「でも、だって……」
それでも、ブーンにも言い分はあった。
手を出さない理由。
( ^ω^)「怪我させたらきっと痛いお」
すると、モララーががっくりと肩を落とした。
31
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:22:32 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「そりゃあ、優しさってのは大事だけどさ。
こう、自分を守るときくらいはそういうの捨てていかないと。
お前人生大変だぞ?」
モララーの言うことはもっともである。
ただどうしても、相手のことを考えてしまう。
傷つけたくない、どうか仲良くしてほしい。
それがブーンの考えていること。
ブーンは次第に顔を俯かせた。
何か言いたくても、どうしても口は動かない。
モララーはそれ以上追及はしなかった。
やれやれといったふうに手を振り、話題を変える。
( ・∀・)「で、だ。こんなことしている場合じゃないんだった。
お前と俺が呼びだされているんだ。ちょっと来てもらえるかな」
32
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:23:35 ID:BuuB5olM0
( ^ω^)「え?」
唐突なセリフを耳にして、ブーンは思わず顔を上げ、疑問符を口にした。
( ・∀・)「上からのお呼び出しだよ。とはいえ、お前を推薦したのは俺だけど」
(;^ω^)「え、な、なんでですかお?」
( ・∀・)「なんでもだよ。いくぞほら」
そういって、モララーはブーンを手招きしてきた。
通常上からお呼び出しがかかるのは、正式に衛兵となった者だけだ。
例えばお城の外での事件の調査にあたれだとか、
国王の親衛隊として外交に連れ添えだとか、
そのような場合にのみ上から直々に呼ばれることとなっている。
モララーならば十分に実力も伴っている。
2年前に見習いから正式な衛兵となったときにはすでに同輩の中でも一、二を争う席次についていた。
国王を含めた貴族から気に入られているという噂もある。
なので上から呼ばれることに不可解な点は無い。
しかし今回はブーンも呼ばれている。
モララーの推薦にしろ、見習いが呼ばれることなど普通ではない。
いったいどうしてなのだろうか。
ブーンはモララーの後を追いながら、不安な気持ちしか抱いていなかった。
33
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:24:33 ID:BuuB5olM0
☆ ☆ ☆
お城は中世の趣を残した造りとなっていた。
長らく脆弱なつくりであったが、3年前に魔人を場内に受け入れてからはその強化が図られていた。
簡単にいえば、魔人が用いる不思議な力をお城の外壁に張り巡らせたのである。
このため、細々と続いていたお城の盗難被害は一切無くなったと言われていた。
その代わり、お城の内部構造をしっかり把握している者は極端に少なくなった。
下手にいじったりすれば力にやられてしまうから、怖くて勝手に出歩いたりする者がいなくなったのだ。
そのお城の中央にある講堂に、モララーとブーンは集められた。
たった二人を呼ぶにしては随分と豪勢な場所だ。
この講堂が使われている理由は、ただ単に命を出す場所として利用されている場所だからに過ぎない。
ブーンとモララーは跪いて時をまった。
とはいえ周りには誰もいない。
彼らを呼びだした上位の衛兵もどこかへ行ってしまっていた。上の方をお呼びにいったらしい。
34
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:25:33 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「やれやれ、お偉いさん方は俺たちを犬か何かとでも思っているんかね」
モララーは両膝をついて体勢を緩め、そのまま伸びをした。
ブーンは恐れ多くて跪いたままだったが、モララーに指摘されておずおずと同じように体勢を崩した。
( ・∀・)「お前を推薦したのはな、信頼できる人をなるべく少人数選んでくれって言われたからなんだ」
モララーがブーンに打ち明ける。
信頼できる人?
そんな人が必要になってくるとはどういうことだろう。
上の方は何か秘密裏に衛兵を使おうとしているのだろうか。
( ^ω^)「それってひょっとして、先日の商人の事件ですかお」
すると、モララーは拍手してくれた。
( ・∀・)「どうしてそう思った?」
( ^ω^)「推測したんですお。
ここ最近上の方が気にするような事件が何かあったかなと考えたら、あの商人の事件ですお」
( ^ω^)「せっかく国王の意識改革で魔人と協力できるようになったのに、
あの事件があったら、魔人は危険だ、中枢に入れるなっていうデモが起こるかもしれないですお。
国内情勢が不安定になれば国王にとっても良くはないですお。だから秘密裏に問題を探ろうとするのかなと」
35
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:26:32 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「さすが。座学での成績は伊達じゃないな」
あまりにも直球に褒められて、ブーンは思わず目線を下に向ける。
褒められることには慣れていない。
とはいえブーンの座学での成績がかなり優秀であることは事実であった。
(;^ω^)「でも、座学で優秀でも意味無いですお。
結局は実技をこなさなくちゃ衛兵にはなれないお……」
ぼそぼそと、ブーンが呟く。
ブーンがいまだに衛兵見習いとして、さきほどの大柄な少年のような連中に絡まれるのは、
元々の性格に加えて実技の成績のせいでもあった。
衛兵への適正に一番関わってくる事柄に対して、ブーンはあまり芳しくない成績を取り続けていた。
だから他の同僚からも舐められる。いつまでも気弱なイメージがまとわりつく。
ブーンが露骨に暗くなったのを見ると、モララーは腰に手を据えた。
( ・∀・)「お前、落ち込むなよ。いいこと教えてやるよ。
今回の呼びだしの内容を上手くこなせば、衛兵見習い脱出も夢じゃないんだぞ」
( ^ω^)「え?」
36
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:27:13 ID:BuuB5olM0
どういうことですか、とブーンが聞こうとしたとき、講堂の扉が軋んだ。
ちょうど二人の左側にある扉である。
上の方はいつもそこから入場することになっていた。
モララーが素早く手を振って、ブーンに跪くように合図する。
言われるのとほぼ同時にブーンは元の体勢に戻った。
こういうときは俊敏なのだ。
扉が開く音がする。
上の方が入ってきたのだろう。
足の音と、服を引きずる音がする。
ローブだろうか。
あいにく跪いた体勢では顔があげられず、見ることはできない。
それでも気配を感じることはできた。
身分の高い方。通常なら国王なのだが、今回は違う。
ブーンにもわかっていた。
国王は現在外交のため他国に赴いていたのである。
おおむね二週間にもなる長旅で、しかも旅立ったばかりであった。
そこで、現在この場に現れる上の方はその娘のはずだった。
つまり、王女である。
37
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:28:04 ID:BuuB5olM0
ブーンは内心わくわくしていた。
王女はあまり人前に姿を現さない方だったので、いまだに見たことが無かったのだ。
祭事のときも、衛兵見習いとして入隊したときの式でも、王女の姿を目にすることはめったに無かった。
それでもお城の内部で行われる衛兵の入隊祝いにだけは出席していると聞く。
お城を守る方々の顔くらいは把握しておきたいのではないか、というのが世間の見解だった。
跪いていても足の先は見ることができる。
煌びやかな薄い水色のドレスの端が、視界の隅に伺えた。
ゆっくりと、跪く二人の前に移動している。庶民の歩き方とは違う。
なるべくドレスを乱さないように、足も上げずにじっくりと進んでいる。
ドレスの裾が若干はためき、白いヒールが見えた。
上流階級は城の中でもヒールを履くのか。
わざわざ一人の衛兵と、一人の見習いのためにも身なりを整えるなんて。
そこまで気を遣わなくてもいいのにと、内心ブーンは思案してしまう。
(√`Д´)「顔をあげてよろしい」
声を出したのは上の方を連れてきた上位の衛兵だった。
厳しそうな声で、顔をみなくてもそのしかつめらしい顔が浮かんでくるようだった。
ブーンとモララーは同時に、ゆっくりと顔を上げた。
跪いた姿勢のまま、顔だけが90度傾き、前を向く。
ブーンは息をのんだ。
☆ ☆ ☆
38
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:29:05 ID:BuuB5olM0
(√`Д´)「先日の商人の件が噂になっているのは知っているな?」
上位の衛兵が言う。
モララーはもちろんというふうに頭を下げた。
上位の衛兵はその姿を見て、小さく「うむ」と言う。
(√`Д´)「実はだ、あの事件を受けて魔人への批難が出ているのである。
魔人を受け入れた国王がいない今のうちに、反対派がここぞとばかりに声を大きくしているのだ」
( ・∀・)「もともと受入れに反対していたレジスタンスたちが、ですね。
私も小耳に挟んでおります。耳ざとい奴らですね」
モララーは受け答えをする。
上位の衛兵はさらに満足そうに二度、頷いた。
(√`Д´)「ならば話が早い。あの事件の調査を行ってほしいのである。
場所は南の山、商人を発見した場所の地図は後で渡そう。
馬で駆けて半日かければ辿りつく。近いがゆえに住民も怯えているわけだ」
39
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:30:05 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「なるほど……
しかし、その程度の内容でしたら一般的な伝令でも良かったのではないですか?」
モララーが質問すると、上位の衛兵は三度首を縦に振った。
(√`Д´)「それもごもっともな話だ。しかしできない理由が二つある。
一つは、この事件が極秘であるからだ。
国王からの言伝で、商人の事件についてはなるべく一般人を巻き込まないようにと通達されている。
衛兵であっても信頼のおけない人間は呼ぶことを許されない」
(√`Д´)「このたびモララー、お前が選ばれたのは
お前が新人の衛兵として優秀な成績を収め、さらに国王からの信頼も厚かったからなのである。
他の衛兵にはほとんど知られていないし、知られてはいけないのだ」
そこで、上位の衛兵は一旦話を区切り、それから一つ咳き込んだ。そしてゆっくりと、隣の女性に目をやる。
(√`Д´)「そしてもう一つの理由だが……デレ王女がこの捜査に加わりたいのだそうだ」
一瞬、空白の時間が生まれた。
モララーは目に見えて動揺していた。
(;・∀・)「そんな、何を仰られますか!」
モララーはとんでもないという意味で首を横に振った。
40
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:31:05 ID:BuuB5olM0
(;・∀・)「捜査は遊びではないのですよ!
どうして王女様をそのような危険な目に合わせなければならないのですか」
ζ(゚ー゚*ζ「現在、この城の城主は私です」
王女、デレは勤めて冷静に受け答えする。
ζ(゚ー゚*ζ「私は国王のいない今、この城の全ての仕事に干渉する権限を持っています。
それに私としても、城の外の脅威について知っておきたい。
なに、私に何か危険が及ぶようならばあなたがた衛兵が守ってくれればよいでしょう。そのための衛兵なのだから」
モララーは言い返そうとしたが、何も言えなかった。
この城で一番権限を有しているのが王女であることは明白だ。
たとえ衛兵の中で優秀だとしても、反論は許されないし、意味もなさない。
( ・∀・)「わかりました」
モララーは下唇を噛んで、それから答えた。
( ・∀・)「私はいかなる場合も王女を守る責務にあります。
たとえどのような状況であろうとも、あなたを守る、そしてあなたの意思を達成させたい所存であります。
あなたがそれで満足するというのなら、心行くまで、私を利用してください」
41
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:32:06 ID:BuuB5olM0
モララーは頭を下げる。しかしすぐに顔を持ちあげた。
( ・∀・)「しかし私が今この場に連れてきた後輩のブーンは、そのような内容を聞いていません。
私は彼を推薦しましたが。もしかしたら今の話を聞いてひどく恐怖を抱いたかもしれない。
ぜひここは彼の意向を聞いてみるべきだと思います」
( ・∀・)「なあ、ブーン」
モララーは声をかけた。
こうして逃げ道を作ってあげるのは彼なりの優しさであるように思われた。
しかしブーンからの返事が無い。
なぜか顔を前に向けたまま、呆然としている。
( ・∀・)「ブーン?」
もう一度、モララーは呼びかけた。
しかし、ブーンは動かない。
相変わらず、口をぽかんと開けて、目線を前に。
42
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:33:05 ID:BuuB5olM0
(;・∀・)「おい、おい!」
モララーはブーンの肩をもち、ぶんぶんと揺すった。
ようやくブーンが、まるで今気付いたとでも言うように、言葉にならない声を発してモララーの方を向いた。
(;^ω^)「ど、どうしましたお!?」
今度はモララーが呆然とする番であった。
(;・∀・)「どうしましたって、お前……話聞いてただろ?」
( ^ω^)「あ、話……」
( ・∀・)「え?」
(;^ω^)「い、いえ実はその」
ブーンは何事かをもごもごと口にした。
モララーにも聞えないくらい小さな声で。
43
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:34:05 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「は?」
モララーはいい加減いらだって、つい強めに追求してしまった。
ブーンはますますびくついてしまう。
そしてちらちらと、前の方を見る。
そう、デレ王女の方へ。
(;^ω^)「綺麗だなと」
ようやく聞き取れた、震えきったその声に、その場は水をうったように静まり返った。
頬を赤らめてもじもじしているブーン以外の全員が、呆然としてしまっていた。
☆ ☆ ☆
44
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:35:07 ID:BuuB5olM0
ブーンはその場の状況を察した。
自分でも思い返してみて、発言の不適切さに気付いた。
まさか謝罪もなしに、聞いてなかったとも申し上げずに、
あろうことか王女に向かって、軽々しく褒め言葉を投げかけてしまうなんて。
今更のように慌てふためいて、この場を取り繕う術を探した。
しかし当然見つかるはずもない。
むなしく上体を前に後ろに、回したり、口を手で覆ったり、
全ての行動に意味は無く、混乱を極めていく。
そこへ、救いの手が差し伸べられた。
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとう」
澄んだ声がブーンに投げかけられた。
ブーンは目を開いて、再び顔を正面に向けた。
今度は動かさず、じっと、デレの方へ。
45
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:36:07 ID:BuuB5olM0
デレの小さな唇が、優しく弧を描いていた。
柔らかそうな頬にうっすらとくぼみが見える。
筋の通った白い鼻、潤いをもった瞳、控え目だが存在感のある睫毛、
綺麗な肌、黄金色に輝く髪、整った輪郭、
ピックアップするポイントを次々に変化させながら、
徐々にデレの全体像が、ブーンの瞳に映る。
年齢は自分と同じ15歳くらいに見えた。
大人ではなく、かといって幼すぎることもない。
成長期特有の力のあるオーラが滲み出ている。
刺繍の施された見事な水色のドレスが彼女の清純さをより一層際立たせていた。
( ^ω^)「……綺麗だお」
悟り顔で再度呟いたとき、横から思いっきり強い張り手が飛んできた。
☆ ☆ ☆
46
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:37:05 ID:BuuB5olM0
寄宿舎には衛兵見習いばかりが入居している、というわけではなかった。
衛兵になっても寄宿舎で暮らしている人はいる。
経済的、家庭的事情で町に家を持っていない人々だ。
ただ、寄宿舎も余裕があるわけではないので、
そのような見習い卒業生たちは上位の衛兵との濃密な面談ののちに入居者は決定されていた。
そして他にも寄宿舎にお世話になっている人たちがいる。
衛兵以外でのお城に関わる仕事、貴族の付添としての従者見習いだ。
これは衛兵程には人が多くない。
しかし必要性はある。
特に他の国とも関わるようになってからは、国王の付き人、交通手段、異文化の教育、情報享受発信等
多方面での専門技能が必要とされていた。
そのため、寄宿舎の側も最近増設してまで付添見習いを入居させていた。
その半数以上が女性であり、寄宿舎は今やかつてないほどの華やかさを備えていた。
無論、衛兵見習いばかりという男臭い空間に比べれば、である。
47
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:38:05 ID:BuuB5olM0
女性と男性の住居は高い壁と怖い管理人によって隔てられている。
万一貴族のお膝元で性の乱れでも発生すれば、即刻その因子を追い出すのだそうだ。
ただ、住居以外ではそこまで厳しくない。
特に最も大きい寄宿舎の一階にある大食堂は、男子も女子も分け隔てなく入ることができた。
そのためいつも夕食時には盛大な賑わいを生み出していた。
(*^ω^)「ふんふーんだお」
ブーンは上機嫌でいた。
先刻の上からの命令、秘密の任務の件で、である。
もちろんそれは名誉のことであり、
一般の見習いとしてもそのような任務に関われることは嬉しいことだった。
ただ、この場合のブーンの喜びはたいへん不純なものであった。
(*^ω^)「ふふ、王女、へへ……」
ブーンの頭の中では未だに先程の彼女の姿がふわふわと浮かんでいた。
頬の筋肉を弛緩させて、くるくるとフォークをいじる。
パスタが巻き込まれていく。
48
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:39:06 ID:BuuB5olM0
注意は非常に散漫だった。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
背後に知り合いがいることにも気づかないくらいに。
ξ゚⊿゚)ξ「きもちわるっ」
( ^ω^)「ん? ツンかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなにやけたつらでこっち見ないでくれる? 身の危険を感じるんだけど」
( ^ω^)「にやけてるのはいつも通りだお。
こっちきて一緒にご飯を食べるおー」
ξ゚⊿゚)ξ「まあそのつもりで来たんだけど……
なんでまたそんなに上機嫌なわけよ」
ツンは従者見習いとして寄宿舎で暮らしていた。
ブーンとは同期であり、接触する機会も多かった。
だからこうして食堂でも、よく一緒にご飯を食べる。
49
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:40:05 ID:BuuB5olM0
( ^ω^)「……」
いくら浮かれているとはいっても、こんなところであっさり答えるほど間抜けではなかった。
あの任務は秘密の調査。たとえお城に関係する知り合いだとしても気軽に言うわけにはいかない。
( ^ω^)「さすがに言えないお」
ξ゚⊿゚)ξ「そう?」
( ^ω^)「そうだお。ごめんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「まあいいけど。浮かれ過ぎて変なことになるんじゃないわよー」
( ^ω^)「浮かれ過ぎ……へへ」
ξ゚⊿゚)ξ「……いつにも増してきもいわ。やっぱり」
今更のようだが、ブーンはデレ王女の申し出を二つ返事していた。
50
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:41:05 ID:BuuB5olM0
ξ゚⊿゚)ξ「ところでさ、新聞しらない?」
( ^ω^)「新聞? 配布されなかったかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、違うの。日報じゃなくて
世界のニュースが読める奴よ。月刊の。
本当なら昨日届いているはずなのにどこにもないのよね」
( ^ω^)「ふうん、ツンはニュース好きだおね」
ξ゚⊿゚)ξ「教養は付けておくべきよ。いろんな考えの人がいるんだから。
この国にいるだけじゃわからないことだってたくさんあるのよ」
( ^ω^)「わからないこと、かお。
僕は国内でもいいから地元のニュースを知りたいお」
ξ゚⊿゚)ξ「寄宿舎に入ると住み込みだもんね。
ここって国内の他の町には妙に無頓着だし」
( ^ω^)「国王の目が外に向いちゃってるからしかたないんだお」
51
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:42:11 ID:BuuB5olM0
ξ゚⊿゚)ξ「今も外交に行っちゃってるものね。
新嘗祭にも間に合わないらしいし、王女が代行するのかな」
(*^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
(*^ω^)「え?」
(;^ω^)「あ、ああいや、なんでも」
ξ゚⊿゚)ξ「怪しい……」
目を光らせるツンを前にして、ブーンは何も言えなくなる。
そのままそそくさと、食堂を後にした。
幸いなことに、それ以上ツンが追求してくることはなかった。
52
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:43:05 ID:BuuB5olM0
ブーンはしばらく浮ついた気持ちのまま日々を過ごした。
出発の日はこっそりと伝えられた。
モララーの口を介してだ。
一日があっという間に過ぎていく。
思えばそれは
まだ日常が平和に満たされていたからこそだったのだろう。
☆ ☆ ☆
53
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:44:18 ID:BuuB5olM0
ある日の5時
朝靄が街を包んでいる。
待ち合わせは門の前。
秘密と言えども、門番ばかりは事情を知っており
むしろ彼らは余計な人物がこの場に現れないようにと見張る役割を果たしていた。
(;^ω^)「つきましたお!」
ブーンは駆け足でその場に滑り込んだ。
( ・∀・)「んー、ぎりっぎり」
(;^ω^)「大丈夫、な、はず」
両の膝の皿を手で覆い、むせこみつつ呼吸を整える。
('A`)「おう、すでに満身創痍だな」
聞きなれない声。
ブーンは首を僅かに動かして、その人物を見上げた。
(;^ω^)「誰ですかお?」
54
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:45:05 ID:BuuB5olM0
随分と顔の白い人だ。夜明け前の暗さに溶け込んでいる。
その人はふっと鼻を鳴らし、嘲笑ともとれる微妙な顔をした。
('A`)「俺の名はドクオ。モララーと同期なのさ。
今回の調査で付添を頼まれたんだ」
( ・∀・)「そう、俺が呼んだ。こいつも頼りになるぞー」
頼り、か。
ブーンは心の中で首をかしげた。
失礼ながら、目の前にいるひょろっとした青年が、頼れると評価される人だとはどうも思えなかったからである。
もちろんそんなこと言えないので、曖昧にブーンはドクオに笑いかける。
( ^ω^)「よ、よろしくですお」
('A`)「まあ、体調がよければそれでいい」
('A`)「そんなことより、問題の王女様はまだか」
( ・∀・)σ「あそこだよ」
モララーは指をさす。
お城に直通の、大通の真ん中。
55
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:46:06 ID:BuuB5olM0
真っ白な馬が闊歩していた。
すらりとのびた首、一歩一歩刻むようにおろされる脚。
その背には、黒いフードつきのコートを来た女性。
('A`)「……ありゃあ任務を良く理解してないな」
( ・∀・)「まあまあ、服装だけでも精一杯庶民に近づけたんだ。
箱入り娘なんだ、あんまり悪く言っちゃいけない」
( ・∀・)「な、ブーン……あ、こいつまた」
(;^ω^)「いや、いや! 大丈夫ですお大丈夫!」
モララーの張り手を今度こそかわすことに成功した。
とはいえ、見とれていたのは事実ののだけど。
ζ(゚ー゚*ζ「何を騒いでいるんですか?」
近づいてきたデレは、きょとんとした表情になっていた。
( ・∀・)「いえ、何でもないですよ。
ところで王女、この度の目的は理解していますか?」
56
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:47:05 ID:BuuB5olM0
ζ(゚ー゚*ζ「ええもちろん。
南の山の事件現場の調査です」
誇らしげな表情、そのことからよほど自信があることが伺える。
( ・∀・)「そうなんですけど……まあ、あれだな。うん。
とりあえずフードを被っていましょうか。
民間人に見つかっては後々面倒なので」
( ^ω^)「……きっとすぐ噂されるお」
('A`)「思ったことそのまま言っちゃだめだぜ。箱入り娘だからな」
(;^ω^)「受け売りですおね?」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
やがてモララーの合図により、門が開けられた。
城下町と外の街とを結ぶ橋が姿を現す。
四頭の馬は、なるべく音を立てないように粛々とその場を後にした。
57
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:48:06 ID:BuuB5olM0
橋を超えたら、もう城下町ではない。
ただ領土としては国のものである。
森も石も山も国の財産であり、他国が進入することは許されなかった。
三人はまず草原の中の集落を目指した。
木こりたちと、旅人の集まる村だ。
城下町から南へ数キロ、多くの城の旅人がそこを最初の宿屋としていた。
もしこれがモララー率いる衛兵だけの集団だったならば、お昼前には到着したはずであった。
だけど、問題はすぐに明らかになった。
ζ(゚ー゚*;ζ「ちょっと、休んでもいいかしら」
「え」とモララーは振り替える。
( ・∀・)「まだ宿まで半分も歩いていないのですが」
ζ(゚ー゚*;ζ「すいません、疲れてしまったので」
確かに、乗馬というのは思いの外体力を使うものである。
いくら鞍をつけたとしても、馬は常に動いている。
体を支えるためには大腿部の筋力も必要になるし、上半身も絶えず移動させてバランスを取らなければならない。
58
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:49:04 ID:BuuB5olM0
こうして馬に乗ってきた以上、王女はそれなりに乗馬の経験があるはずだった。
しかし疲れてしまうのは仕方ない。
彼女は訓練を受けていない。衛兵とは比べられない。
( ・∀・)「わかりました。もう少ししたら小さな湖があります。
その湖畔で休みましょう。水分補給もできますし」
道のりが思いの外時間のかかるものとなることは明白だった。
一行は南へ歩く。
時おり東の森の中に人影や民家が見えた。
木こりとして働く人々の仕事場であり、集落もあるのだろう。
こちらを見ても何もしてこない。衛兵が見回りでもしていると思っているようだ。
そして、森の中には魔人も済んでいる。
彼らはどうしてか自然の中をこのんで住処としていた。
人間に協力するときだけ人間のいる町へ降りてくるのである。
人は町で、魔人は自然の中で、というように綺麗に住み分けられていた。
主要な労働力を魔人で賄えたため、人は不必要に繁殖する必要も無かった。
自然のいくつかを魔人のものとしても住む場所に困るということはなかったのだ。
やがて道が上向く。
坂道は蛇行しながら丘を上り詰めていく。
森は次第に木の本数を減らしていった。
上っている側からすれば、草原が丘を包んでいるように見えた。
ζ(゚ー゚*ζ「……これか、近いの、ですか?」
( ・∀・)「ええ」
59
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:50:05 ID:BuuB5olM0
素っ気ない返事だけをモララーは返す。
デレは言い返そうとしたのか口を動かしたが、結局思い直したように頭を振った。
そうして丘の頂きに辿り着いた。
ζ(゚ー゚*ζ「わあ!」
デレは両手で口を押さえて感嘆を漏らした。
ζ(゚ー゚*ζ「すごいわ! こんなにたくさん! 水が!」
深い青が眼下に広がっている。
小さいといっても、人間の体よりは全然大きい湖だ。
湖畔には色の濃い植物が生い茂り、湖を包み込んでいた。
ζ(゚ー゚*ζ「泳いではいけないのですか?」
あまりにも能天気な発言をするので、とうとうモララーは吹き出してしまった。
なんとか王女を傷つけないように、顔を無理矢理笑顔に変えてしまう。
( ・∀・)「流石にそれは不味いです。湖畔にだって人は住んでいますから。
姿を見せるわけにはいかないです。遊ぶなら森にしてください」
60
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:51:04 ID:BuuB5olM0
( ^ω^)「……」
お城の門を出てから今まで、ブーンは口を開いていなかった。
王女であるデレに気軽に話しかけるわけにもいかなかった、という事情もある。
見てるだけで自分は十分なのだし、それはそれで問題ない。
でも、それ以外の引っ掛かることがあった。
ただ、口にはしなかった。
湖畔はとても涼しかった。
ようやく夏も過ぎ去った頃合い。
水は冷たく、木々の間を抜ける風も心地よい。
ブーンは湖の側で馬の手入れをし始めた。
モララーたちに頼まれたからである。
実際に衛兵見習いは馬の手入れを行う立場でもあったので、そのこと自体に不満はなかった。
滑らかな毛並みの白馬が1頭、茶色い普通の馬が3頭。
畏れ多いので白馬は後回しにし、衛兵の馬から手入れにかかる。
馬が逃げないように、杭とロープで留める。
鞍を丁寧に外して、その下の背中を水で湿らせる。
すると、馬が柔らかく嘶いた。
61
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:52:05 ID:BuuB5olM0
( ^ω^)「蒸れて気持ち悪かったかお? 大変だったお。
今晩までには到着するだろうからもう少し辛抱してくれお」
伝わるわけでもないが、ブーンは語りかけながら手を進めた。
そんなにゆっくり休むわけにもいかないだろうし、急がなくては。
ふとモララーたちの方を振り向いた。
モララーとデレは相変わらず話し合っている。
湖畔に腰かけて、何事か、ときおり笑いを交えながら。
( ^ω^)「……」
モララーはデレと知り合いだったのだろうか。
この任務の内容については、モララーは聞かされていないようであった。
あの講堂での様子からはそう読みとれた。
でも、任務のことは知らなくても、妙にモララーはデレと親しそうに見えた。
モララーの性格故なのだろうか。
モララーは話も上手いし、きっと楽しいだろうな、とも思う。
だからああして笑っているんだろう。
早く仕事終わらせて、話したいな。
でも僕は何を話せるかな。
ちょっとだけ、胸が痛んだ。
62
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:53:05 ID:BuuB5olM0
( ^ω^)「あれ……」
今更、気づいたことがあった。
誰かもうひとりいたような。
('A`)「おい」
(;^ω^)「うおおおお!!」
('A`)「なんだよ、叫ぶなよ」
背後から、顔だけをブーンの横に突き出して、ドクオが声をかけてきていた。
まったく予想していなかったから、ブーンは必要以上に焦る。
(;^ω^)「ど、ドクオさん。どこにいたんですかお?」
('A`)「散歩。森が好きなんだ」
(;^ω^)「そ、そうですかお。
ていうかだったら手伝ってほしいですお」
('A`)「いやあ、俺は人見知りするたちだから」
( ^ω^)「……お、おう」
('A`)「はあ、まあ、暇すぎるし手伝ってやろう」
( ^ω^)「……」
63
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:54:06 ID:BuuB5olM0
失礼を承知で言うならば、物凄く影の薄い人だとブーンは思った。
しかし苦手というわけではない。
ドクオは自分の芦毛の馬の手入れに取りかかった。
ドクオに触られて少しだけ頭を振り、馬は猛々しく鳴いた。
とても大きな馬だ。威圧感もある。乗り手とは大違い。
ブーンはドクオの横顔を見ていた。
馬の方とは違い、顔色も良くなく、ひょろりとしている。
それでも馬には気に入られているようであり、いまいち印象のつかみづらい人だった。
( ^ω^)「ドクオさん」
('A`)「ん?」
( ^ω^)「ドクオさんはどうしてモララー先輩と知り合いに?」
この任務についたということは、モララーもドクオを信頼していたということなのだろう。
だったら普通の知り合いより深い親交があったはず。
いったいこの人がどのようにモララーさんと仲良くなったのだろう。
それは純粋な疑問であった。
('A`)「……ただ同期なだけだよ。
衛兵になったとき、たまたま一緒に演習して、話し合った。
それだけ」
64
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:55:05 ID:BuuB5olM0
それだけ?
あまりにも素っ気なくて、ブーンは暫く黙ってしまった。
やがてドクオの話がもう終わったことに気付き、あわてて言葉を発する。
( ^ω^)「そんな、それじゃどうしてこの任務に?」
('A`)「ん? ああそれは」
ドクオはそこでちょっとだけ間をおいた。
自分なりに考えているようでもあった。
('A`)「多分、俺があいつと同じことを考えていたからじゃないかな」
( ^ω^)「同じこと?」
('A`)「きいてない?」
( ^ω^)「え?」
('A`)「まあ、そうか」
そういって、ドクオは僅かに笑みを浮かべた。
('A`)「あいつは面白いこと考えているんだよ。
なに、気に入られているならきっと教えてもらえるさ。そのうちな」
65
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:56:07 ID:BuuB5olM0
('A`)「それにしてもあいつは凄い奴さ。
今じゃ衛兵トップのロマネスクさんからも一目置かれている。
俺たちの中じゃスターみたいな奴だよ」
とくに嫌みの感情もこめることなく、ドクオがモララーを見ながら言った。
当のモララーはいまだにデレと話している。
何をそんなに話すことがあるんだろう。
すると、突然モララーがブーンとドクオのいる方を向いた。
手を開いて口元に添えている。
( ・∀・)「ドクオー」
湖の向こう側から、モララーが大声で呼び掛けてきた。
('A`)「お、なんだかお呼びだしのようだ。
後はこの白馬だけだし、任せたぞ」
66
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:56:48 ID:BuuB5olM0
( ^ω^)「あ、はいですお」
少し寂しさを感じながら、走っていくドクオの背中をブーンは眺めていた。
早いところこの白馬を綺麗にしてあげよう。
これにはデレ王女が乗るのだから。
ブーンは白馬の横に立つ。
ちょっと見ただけでも、その毛並みが見事に整えられていることがわかった。
そして、手で触れてみて初めて、この馬が思いのほか若いことに気付いた。
純粋な白馬は稀少だ。
白馬と認識されている馬の多くは、先程のドクオの乗っていたような芦毛の馬の老成した姿である。
歳を取るにつれて、黒や灰色の毛色と肌が白くなっていく。色が抜けていくのである。
ところが、王女の馬は若い。
ということはこの馬は産まれたときから白馬だったはずだ。
67
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:57:57 ID:BuuB5olM0
馬が嘶いた。
( ^ω^)「おっと、ごめんだお。見つめすぎちゃったかお?」
ブーンはぺこぺこと頭を下げ、白馬の目を見た。
つぶらな黒目の周りが、ほんのりと青みがかっている。
( ^ω^)「……初めて見たお」
淡い水色目をもつの白馬。
馬の中でも稀少な白馬の、さらに稀少な品種。
前に見た王女のドレスローブの色を思い出させた。
王女はこのような高価な馬をどうして今日連れてきたのだろうか。
ブーンはふと疑問に思った。
たとえ王女と言えども、この馬の価値はわかっているはずだ。
ひょっとしたらどこかの大使からのプレゼントとか、そういう代物なのかもしれない。
だったら大切にお城に保管すべきじゃないのか。
68
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:58:57 ID:BuuB5olM0
ブーンは白馬の鞍を抱え、外した。
毛並みの潰れた様相が露わになる。
ブーンは顔を顰めた。
この馬は歩きなれていない。
( ^ω^)「疲れていたのは君だったんだおね」
ブーンは馬に語りかけた。
( ^ω^)「君が疲れて、重心がぶれて
それで王女の体力が奪われてしまったんだお」
ブーンは水を汲み、馬の背に濡れたブラシをかけた。
白馬が身を震わせる。
ブーンは少しだけ止めて、それからさらに優しくブラシをかけた。
( ^ω^)「今日のところはごめんだお。君は歩くの辛そうだけど
もう半日もしたら麓に着くはずだお。我慢してくれお。
たった一日二日、ちょっとハードな運動しているってくらいに考えるんだお」
69
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 22:59:47 ID:BuuB5olM0
白馬が小さく嘶いた。
言葉など通じないはずだが、水色の目は明らかに憂いの表情を浮かべていた。
と、突然白馬は顔をブーンに近づけた。
ぬっと迫るその顔に、ブーンは身を強張らせる。
(;^ω^)「な、なんだお」
ブーンがよけようとする前に、馬は口を開いた。
まさか噛まれるのではないか、そう思って咄嗟に目を閉じる。
馬の歯は頑丈だ。本気で噛まれれば捻りつぶされてしまう。
直後、ぬらりとした感触が頬に当たった。
恐る恐る目を開ける。
白馬が舌を引っ込める姿が見えた。
(;^ω^)「……?」
70
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:00:57 ID:BuuB5olM0
ζ(゚ー゚*ζ「すごい、懐かれたのね」
後ろから声を掛けられて、ブーンははっと振り向く。
言葉が咄嗟に出なかった。
デレがまっすぐに、ブーンを見つめてくれていた。
ζ(゚ー゚*ζ「私以外の人が触ると嫌がるのに。
あなたが随分親しみやすく見えたのね」
そういって、デレはまた一歩ブーンに近づいた。
ブーンの心臓が高鳴る。
嗅いだ事のない香りがデレから漂ってきた。
香水をつけているのだろう。ウェーブがかった髪がなびく。
ζ(゚ー゚*ζ「……?」
(;^ω^)「あ、いや」
71
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:01:57 ID:BuuB5olM0
デレは首をかしげるも、すぐに白馬に目線を映した。
真っ白な、しかし決して不健康ではない腕が白馬の横顔に添えられる。
彼女の肌が、白馬の肌と連なった。
ζ(゚ー゚*ζ「この子ね、すごく寂しがり屋なの。
私が遠くにいくときはいつも寂しそうにうずくまっちゃう。
だから気の毒で、今日も連れてきたの」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、いけなかったかしら」
デレが問いかけた。
その相手がブーンであることに、ブーン自身遅れて気付いた。
(;^ω^)「あ……聞えていたのかお」
ブーンは自分の頬が熱を帯びるのを感じた。
デレと話しているだけでなく、デレを責め立てるようにも受け取れる発言をしてしまったことに
羞恥心やら、罪悪感やら、様々な感情が湧き起こった。
とにかく何かしら謝りたいのだけど、それもどこかおかしい。
だからこの場合、どういえばいいのか、ブーンは悩んで、結局顔を俯かせるしかなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとう」
72
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:02:57 ID:BuuB5olM0
はっとして、ブーンは顔を上げた。
デレの笑顔がまぶしい。
ζ(゚ー゚*ζ「実はね、モララーさんにこの馬の手入れを手伝うように言われてこっちにきたの。
でも私正直この子のことよく知らなくて、その、手入れとかそういうのは従者の仕事だったし。
だからお手伝いできるか不安だった」
ζ(゚ー゚*ζ「でもこんなにこの子のこと理解してくれる人が手入れしてくれるなら、安心できるわ。
だからありがとう、ブーンさん」
ζ(゚ー゚*ζ「せっかく歳が近いのだし、仲良くしましょ?
いつも堅苦しく話すよう教わっていて、こう気軽に話せる人がいてくれると嬉しいの」
たたみかけるようにデレは言葉をつづけた。
ブーンの認識が現実に追いついたときには、すでにデレの右手がブーンの前に差し出されていた。
握手を求められていることに気付くまで、さらに数秒。
(;^ω^)「あ……はいだお」
ぎこちなく伸ばされたブーンの手のひら。
若干震えているようにもみえたそれを、彼女の手のひらがさっと包み込む。
手を握れば、それは立派な友好の証となった。
73
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:04:00 ID:BuuB5olM0
それからブーンはモララーとペース配分について相談した。
白馬が無理しないように、歩みの速度、休憩の感覚をチェックしていった。
予定は遅延するばかりだが、人を待たせるような調査でも無かったので問題はない。
一行は湖を後にした。
草原の集落で昼食を兼ねた休憩を取った。
山から湖へと流れていく河川の傍に、細長い集落が形成されている。
とはいえ城下町ほどににぎわってはいない。今は仕事の時間だから。
このような集落は魔人が来た頃から役割が変わっていない。
むしろ楽に力が得られる分、退化している面もあった。
住民の多くは農業に従事している。
自分たちの生活のためでもあり、国王他各地の領主に納めるためでもあった。
一行は衛兵の一団という身分を隠して過ごした。
もし明かしていれば高待遇で高級な食事処に招待されたかもしれない。
もっとも小さな集落におけるそれは、本当に些細な待遇だっただろうが。
それからまた馬を休め、お昼を回った頃。
再び道を歩み始めた。
74
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:05:00 ID:BuuB5olM0
日が高い位置に上り、やがて角度を狭め始める。
景色は草原から岩場へと変わっていった。
坂道を登る機会も増えてきていた。
着実に山岳地帯へと近づいてきていたのである。
旅人がつくってきた道の上を歩んでいく。
秋の風が寂しさを際立たせた。
山の麓に着くまでは、人気のない道が続くことになる。
見かける人々は木こりや農夫から、林業や工夫に変わっていった。
( ^ω^)「……」
鉱山労働者の姿を見かけるたびに、ブーンは思わず目で追ってしまっていた。
ζ(゚ー゚*ζ「どうかしたの? ブーンさん」
(;^ω^)「え? あ、ああ」
75
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:06:06 ID:BuuB5olM0
デレは話しかけてくれるようになった。
しかし肝心のブーンが、いまだにそのことに慣れていなかった。
結果として冒頭に必ず情けない反応がついてまわった。
( ^ω^)「実は僕は鉱山の町の出身なんですお。
だからつい、あの人たちを見ていると両親を思い出すんですお」
ζ(゚ー゚*ζ「鉱山の町ってことは、南の山のそのまた南?」
( ^ω^)「たぶん、思っているよりもっとずっと南、海の方ですお。
南の山から先はずっと貴金属の鉱山地帯になっているんですお」
そういって、ブーンは胸元を指す。
そこにはペンダントが提げられていた。
( ^ω^)「母がくれたペンダントですお。
なんでも珍しい石が見つかったからって、僕にくれたんですお」
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃ、結構遠くから……
じゃあどうしてあの国の衛兵に?」
( ^ω^)「ああ、それは」
ブーンにとってはもう2年も前のことだ。
13歳のときに衛兵見習いとして送られてきた。
( ^ω^)「たぶんほとんど他の人と同じ理由ですお。
この国の城下町は衛兵をたくさん訓練してくれるから、若者の修行にうってつけという噂が広まっていて
ブーンの両親もその話を聞いて、僕を修行させるために衛兵の技術を身につけさせようとしているんですお」
ζ(゚ー゚*ζ「へええ、そんな利用のされ方もあったのね、知らなかったわ。
それじゃブーンは衛兵になれたら故郷へ帰るの?」
76
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:06:59 ID:BuuB5olM0
( ^ω^)「うーん」
ζ(゚ー゚*ζ「……?」
( ^ω^)「帰れるといえば帰れるんですお。ただ何分お金がないもので
しばらくはお城の傍で暮らすと思いますお」
ζ(゚ー゚*;ζ「……なんだか聞いてしまってすいません」
(;^ω^)「え? え、あ、違うお! 別に皮肉とか嫌みとかそういうんじゃないお!
ただその、魔人と触れ合うのが一般的になってからやっぱり鉱物の需要も減ってきていて」
簡単に強化する方法があるならば、そちらを取ればいい。
わざわざ鉱物から金属を精製しなくても楽に済む。
それがこの世界でまかり通っているルールの一端だった。
( ・∀・)「王女に向かってお金の話とは、大胆なことするねえ」
前方を走っていたはずのモララーが、いつの間にか速度を緩めてブーンとデレのそばに来ていた。
( ・∀・)「ひょっとしたら何か恵んでもらえるかもしれないな」
ζ(゚ー゚*ζ「そうだわ、ブーンさん。私に手伝えることがありましたらなんでも言ってください」
(;^ω^)「いや、そんな、なんてことを言うんだおモララー先輩」
77
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:07:59 ID:BuuB5olM0
それからまずモララーが笑いだし、つられてデレも口元を手で押さえた。
その様子を見て、ふとブーンの頭の中には疑問が再浮上する。
ただ前のときよりも聞きにくいとは感じない。
自然と問いかけの言葉が出てきた。
( ^ω^)「お二人は、お知り合いなのかお?」
すると、デレとモララーは顔を見合わせた。
目線で何事かを告げあっている。
やがて、モララーが口を開いた。
「前にお城でこの子を助けたことがあってね、それから」
「あら、もっと前から知っていましたよ?」
「え? そうなんですか?」
「ほら、衛兵の成り立てを集めたパーティーのときに、ちょっとだけ」
「あー、なるほど。
というわけだよブーン。他の衛兵とかと比べたら、ちょっと会っている回数が多いんだ」
78
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:08:59 ID:BuuB5olM0
モララーはあっさりとした答えを返す。
だけどその答えは、新しい疑問を抱かせた。
モララーはこの任務を初めから知っていたのではないか。
質問しようとして口を開いた。
しかしすぐにさえぎられてしまう。
('A`)「懐かしいな」
珍しく、後方を走っていたドクオが話に加わってきた。
('A`)「パーティーってお前ができあがってたときのことだろ、モララー」
( ・∀・)「そりゃあだって、衛兵に慣れて嬉しかったからさ」
('A`)「あのときはたまたま国王がいなかったから良かったものの
もしタイミングが悪ければその衛兵の資格も取り消されたかもしれないんだぞ」
( ^ω^)「……? 何か言ったんですかお?」
79
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:09:58 ID:BuuB5olM0
時期としてはおそらくブーンが入居してすぐの話だろう。
ブーンがモララーと知り合って間もないころ、モララーは衛兵になった。
そこでモララーは何かをしでかしていたのだろうか。
( ・∀・)「何、俺がここに来た目的を言っただけよ。
みんな修行のためだとか言ってるし、俺もその一種だと思ったんだけどな」
( ・∀・)「俺はな、強くなりたいんだよ。
魔人よりもずっと強く」
ブーンはいまいちモララーの言葉を飲み込めないでいた。
( ^ω^)「それって、どういうことですかお?
力なら僕らは魔人に勝てないし、修行したところで強くなるわけでも」
( ・∀・)「精神的な話だよ」
モララーはさらりといってのける。
ますます話が抽象的になっていく。
( ・∀・)「お前もそのうちわかるさ」
そういって、モララーは話を切り上げてしまった。
80
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:10:58 ID:BuuB5olM0
湖でドクオが言っていたことをブーンは思い浮かべた。
モララーなにかを企んでいるのだろうか。
そしてそれを王女が知っているのだろうか。
ブーンはこっそりとデレに目をやる。
しかし彼女は俯いていた。
髪に隠れて顔はまるで見えない。
これでは彼女の表情を読み取ることができない。
ただ、その姿から一瞬恐怖を感じたのは事実だった。
すぐにデレが顔を上げたので、きっとモララーもドクオも気付いていないのだが。
ブーンはデレを観察するのをやめた。
81
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:11:57 ID:BuuB5olM0
それからしばらく他愛のない話が続いた。
道からはますます緑が減っていく。
ブーンはようやくまともにデレと話せるようになっていった。
初対面のドクオにしたって、苦手とは感じない。
相変わらず何を考えているのかわからない節もあったが、
基本的には聞き上手な人であり、話しやすかった。
四人は着実に歩を進めていった。
和やかな雰囲気を抱えたまま。
このままいけば、ちょうど日が暮れる頃に麓の村に着く。
そこで少しだけ宿を取り、明日調査に出る。
多少変更はあったものの、計画はそうなっていた。
上手くいけば、だったが。
☆ ☆ ☆
82
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:12:57 ID:BuuB5olM0
('A`)「モララー」
山道に緑が戻り始めていたころだ。
もうすぐ道が開けて、整理された林が現れ、麓の村が現れるはずだった。
日が昇っているうちならば、雄大に聳える南の山が見えたはずである。
そんなところで、ドクオが声をかけてきた。
('A`)「匂ってきた」
( ・∀・)「来たか」
モララーが言う。
その手はすぐに、腰にある剣の柄に動いていた。
( ・∀・)「思ったより早いな」
('A`)「動いていたのかも知れない」
ブーンにとってわけのわからない会話が続いた。
二人の顔を見比べるブーン。
(;^ω^)「……誰かが襲ってくるんですかお?」
83
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:13:58 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「商人の事件がヒントな」
モララーは顔の端を釣り上げた。
ブーンは噂話を思い出した。
商人が襲われたのは魔人の仕業らしい。
(;^ω^)「……この調査の目的、ひょっとしてその魔人を始末することなんですかお?」
魔人が犯人であると知られれば、国家の内情が荒れる。
だから魔人が犯人であるという証拠を残したくない。
だから、その魔人そのものを消してしまえ。
そういうことなのか。
( ・∀・)「半分正解」
いつの間にか、モララーの周囲に靄が発生していた。
ブーンはあたりを見回す。
靄は自分たちを包んでいる。
これも魔人の仕業なのだろうか。
84
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:14:57 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「デレ王女、そろそろブーンに本当のことを教えてあげましょうよ。
もうブーンが立派な衛兵見習いであることは理解できたでしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ「……少なくとも」
ブーンの横で、デレが口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「悪い人ではないことだけは確かだと思っています」
(;^ω^)「……ひょっとして、やっぱりお二人とも何か仕組んでいたんですかお?」
さっきタイミングが悪くて聞けなかった疑問をようやく口にする。
( ・∀・)「その通り」
モララーが愉快そうに笑った。
( ・∀・)「講堂で話していたときはあの偉そうな衛兵さん騙すために、初めて聞いたふりをしたけどな。
もともとは俺と王女様で考えた計画だよ」
となればこの任務自体、この二人が仕組んだものだったのだろうか。
この、城下町から離れた場所でいったい何をしようというのか。
その詳細を聞こうとするも、すでにモララーは行動を始めていた。
モララーが剣を抜いた。
斜陽によって輝き、剣先がひどく赤く煌めく。
85
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:16:08 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「ブーン、デレの傍によって守っていてくれ。
片をつけるのは俺とドクオだ」
('A`)「おう」
ドクオは応え、馬の速度を上げる。
ブーンとデレを抜き去ると、モララーの横にならんだ。
二人とも既に白い靄のために、ひどくぼやけてしまっている。
ブーンは走りながら、デレの傍に寄った。
デレの顔が若干はっきりする。
微笑んでいることもわかった。
ζ(゚ー゚*ζ「この任務の目的は、魔人にも悪い人がいることをわからせることなんですよ」
デレが告白する。
ζ(゚ー゚*ζ「この任務、たとえ成功しても失敗しても、私はその結果を公に公表します。
そうすれば実際にこの事件を受けて、嫌が応にも国王は反応するはず。
もっとあの人の目線を、レジスタンスを含めた国民に向けさせるための苦肉の策です」
( ・∀・)「そういうこと。ブーン、お前はデレ王女を守ることに集中しな」
そう言ったのはモララーの声だった。
ただ、その姿はすっかりブーンの目から見えなくなっていた。
86
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:17:08 ID:BuuB5olM0
木々の集まりが森を形成し始めた。
もうじき麓の村につく。
そんな場所で、もう景色も判別しにくいほどの靄ができた。
そして、敵は襲撃してきた。
☆ ☆ ☆
87
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:18:07 ID:BuuB5olM0
モララーは剣を握りしめた。
気配を感じたからだ。
('A`)「右だ」
ドクオの指示が聞える。
すでに彼の姿は見えない。
その声を信じるしかない。
モララーは右に腕を震う。
剣が前方左上から右方下へ流れていく。
ひっかかる感触があった。
血が噴き出すほどではないが、あたりはした。
姿の見えない敵の衣服か、体毛か。
後ろから悲鳴が聞えた。
(;・∀・)「ドクオ!?」
88
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:18:57 ID:BuuB5olM0
('A`)「いや、大丈夫だ。俺じゃない」
ドクオの冷静な声が届く。
('A`)「こっちにも襲ってきたんだ。さっきお前が切り損ねたやつ。
安心してくれ、俺には全部匂っている」
( ・∀・)「ああ」
モララーはにやりと笑う。
まったくもって、便利な男だとつくづく思う。
('A`)「左方後方から」
ドクオは絶えず指示を出す。
モララーは馬をとめた。
嘶き、前足を持ちあげて、後ろ足で立ち上がる馬。
そのままモララーは剣を水平にして左方に構えた。
89
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:19:58 ID:BuuB5olM0
手ごたえ、あり。
敵は左方後方からまっすぐ、剣のある方へ飛びかかってきた。
血が噴き出す音がする。
奴らにだって血は流れている。
人間と同じ。
手に何かがかかった。体液か、血か。
悲鳴がする。
およそ人のものではない。
猫の声をそのまま図太くしたような。
それが敵の鳴き声だった。
90
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:21:02 ID:BuuB5olM0
('A`)「右からもだ!」
ドクオの叫ぶ声。
いつも冷静な奴が、珍しい。
というよりも、焦っている。
「モララーは剣の柄の先をてこにして、くるりと剣を回転させた。
そのまま右へ突き刺す。
反応はない、空振り。
( ・∀・)「敵は一人じゃないんだな?」
('A`)「ああ、数まではわからないが、濃い」
ドクオはそういってから、呻いた。
(;・∀・)「どうした!?」
モララーが叫ぶ。
(;'A`)「すまん、足を負傷しただけだ!」
91
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:21:57 ID:BuuB5olM0
(;'A`)「何か……これは、弓?」
飛び道具。
モララーは舌打ちした。
そんなものまで使う魔人がいるというのか。
通常このような野党の魔人は己の肉体と不思議な力のみを武器とする。
他の道具に頼ることは少ない。
野党になるような魔人は人の作った技術が気に入らないと聞いたことがある。
なのに今の敵は道具を使ってくる。
これが意味することは何か。
「上だ」
声。
モララーは咄嗟に、剣の柄を握り、上へと突き刺した。
剣の先はまたしても、何も捉えない。
突如、モララーの馬が鳴いた。
これまで聞いたことのないほどの音量で。
☆ ☆ ☆
92
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:22:56 ID:BuuB5olM0
モララーがドクオと出会ったのは衛兵になってすぐの話だ。
2年前、お城の一階の講堂で宴会が開かれた。
新しい衛兵の誕生を祝うために。
その宴会の席で、彼は一人でいるドクオの傍に腰掛けた。
あからさまに酔っ払っており、ドクオは閉口した。
普通の人ともあまり話さないのにこんなのを相手にしたくないというわけだ。
でもモララーはすでにドクオに興味を抱いてしまっていた。
ドクオは何度かモララーから離れようとしたが、無駄だった。
どうもモララーは衛兵になれたことで喜んでいるらしかった。
目をキラキラさせて、自分の夢を語りだす。
( ・∀・)「俺は強くなって、故郷に帰るんだ。
俺の両親は魔人に襲われたことがあるんだ。普通に暮らしていてだぜ?
それで血みどろになって、魔人を殺そうと考えていたらしい」
( ・∀・)「でも、世間の空気がそうじゃなかった。
魔人には力ではかなわない。人類はむしろ魔人を利用して発展するべきだって。
そんなわけで、誰も魔人と戦おうとはしなかった」
( ・∀・)「俺はそんな世界嫌だった。
自分の身を守りたいときに、魔人なんか頼ってられない。
いざというときは自分で自分を、そしてその大切なものを守らなきゃならない」
93
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:23:57 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「だから力をつけるためにここにきた。
人間が学べる最強の技術がここにあったからさ。
ここで修行をつんで、故郷に帰って、まだ何とか生きてくれている母を安心させたいんだ」
モララーは手を握りしめていた。
心の底からそう思っているからこそ、話すには力が要る。
モララーは話し終えて、ふっと息を吐いてテーブルの上のお酒に手を出した。
その姿は面白かった。
少し変わっているなともドクオは思った。
('A`)「なるほどね……」
ドクオはそう言って、慌てて口を抑えた。
つい口をついて、そんな言葉が出てしまった。
後悔したがもう遅かった。
モララーはそれを見逃さなかったし、聞き逃さなかった。
モララーの顔が、意地悪げに歪む。
94
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:24:59 ID:BuuB5olM0
( ・∀・)「お、なんだお前しゃべれるじゃん」
ドクオはやれやれと、肩をすくめた。
モララーはドクオの前のグラスにお酒を注いだ。
( ・∀・)「さ、のみな」
(;'A`)「……あのさあ」
グラスに手を伸ばすドクオ。
こんな風に人と話すのは、いつぶりだったろう。
('A`)「あんたが大声で話すから釣られただけだよ」
ちびちびとワインを啜りながらそう答えた。
それでも、モララーにとっては十分面白いことだったらしい。
モララーは心底興味ありげに目を輝かせていた。
( ・∀・)「じゃあさ、今度はお前がここに来た理由を教えてくれよ」
95
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:25:53 ID:BuuB5olM0
('A`)「俺の夢は、魔人を倒すことさ。
昔魔人に襲われて、鼻を少し失ったんでな。
今ある鼻は詰め物をしたものなんだ。みためは普通だけど」
ドクオは小さな声で言った。
今まで誰にも、少なくとも寄宿舎に来てからは誰にも言わなかった。
この国は今魔人を受け入れ始めていた。
大きな声で魔人と敵対する発言をすれば、それだけで風当たりが強くなる。
衛兵ともなれば民衆の意見を大切にしなければならない。
個人的私怨を控える必要があることは重々承知だった。
だからこのときの発言も、相手が嫌な顔をすればすぐに「冗談だ」と笑い飛ばすつもりでいた。
そうすれば誰も傷つけずにすむからだ。
ところが、現実は違った。
(*・∀・)「おお、俺と同じだな!」
しれっと言ってしまうところが、モララーの不思議なところであった。
96
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:26:37 ID:BuuB5olM0
(*・∀・)「俺も魔人を倒したいさ。
ここにいる奴らはみんな甘ちゃんだからつまらねえ。
衛兵になる技術を身につけても、そこから伸びようとはしない」
(*・∀・)「もっと上の力をもつ魔人はごろごろいるのに、立ち向かおうとしないんだ。
他の人間だって同じ。魔人を前にして、みんな発展をやめた。
俺はそれに反対だ。俺は、魔人を倒して人類の世を取り戻したい」
ドクオはモララーを見た。
あまりにもまっすぐな目をした青年がそこにいた。
ドクオはしばし止まっていた。
それから次第に、笑いがこみあげてきた。
(*'A`)「へ、へへ」
上手く笑うことができない。
思えば人前で笑うこと自体が久しぶりだった。
顔の一部が欠損したこと。
そしてその結果、魔人の匂いがわかるという変わった能力を手に入れてしまったこと。
その普通ではない要素が、ドクオをいつも苛んでいた。
97
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:27:50 ID:BuuB5olM0
自分はきっと人と同じにはなれない。
だから誰とも付き合わなくていい。
どうせ仲良くなれる人はいない。
そう、思っていた。
はずなのに。
モララーは突然、ドクオの目の前で立ち上がった。
ドクオは目を白黒させる。
モララーは手を大きく広げ、上に伸ばした。
(*・∀・)「みんなーーーーーーーーーー!!」
大きな声がホールに響く。
注目が集まる。
ドクオは頬が赤くなる。
注目を集めるのにはなれていない。
どうしてこんなことを。
思わずモララーを見上げる。
98
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:28:44 ID:BuuB5olM0
(*・∀・)「俺たちは、魔人を倒すぞーーーーーーーーーーー!!!!」
ホールに響く、どなり声のような大きな声。
ホールは水をうったようにしんと静まり返った。
ドクオは心臓が怪しい動きをするのを感じた。
胃を中心に、内臓があらぬ方向へねじ曲がるみたいだ。
(;'A`)「お、おま、なにを」
なかなか言葉をつづけられず、ドクオは呻く。
どうにかこの場をおさめたい。
自分に注目が集まらないなら、なんでも。
しかし、その必要はなかった。
ホールのどこかからか、拍手が聞えてきた。
最初は数人。
次第に複数に増えていく。
99
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◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:29:45 ID:BuuB5olM0
音もそれにともなって拡大されていった。
手のひらと手のひらを重ね合わせ、音を鳴らす。
たったそれだけのことが、何人もの間で行われた。
結局、腹の底で同じことを考えている人はいたのだ。
ここは衛兵の祝賀会。
誰かを守る人が集まった場所。
何かしら力を欲した人たち。
世界の潮流とは違くても、本当は抗いたい。
自分の力で何かを守りたい。
この拍手が、内に秘めたその意思を如実に表していた。
会場は拍手の渦と化した。
モララーは自分でも拍手していた。
能天気な人だとドクオは見ていて思った。
そして、それをいいなとも思った。
100
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◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:30:44 ID:BuuB5olM0
('A`)「……モララーか」
ドクオはそう呟いて、顔を綻ばさせる。
それが二人の出会い。
このことは同期の間での秘密だった。
みんなモララーの人柄が気に入っていたし、
わざわざその暴言を告げ口してもメリットはなかったからだ。
だから宴会に出席していない、貴族を含めたお城の政務の人たちも、何も知らない。
そんな不穏分子の話など。
そしてこのとき、たまたま国王は外出中であり
宴会場にいた貴族はただ一人。
デレ王女だけであった。
☆ ☆ ☆
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