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从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです Яeboot

1 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:30:51 ID:ytUFOiFEO

 

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202 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 19:53:44 ID:WbucYHaY0
<ヽ●∀●>「下らねえ…下らねえ茶番だ…全部な」

ジープの幌の間から、白い指が覗く。
物思いを中断すると、ニダーは両手のベレッタM76を、両腕を交差させる形にして構えた。
遠くの空で、稲光がどよもした。

203 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 19:55:04 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――沿岸道路を一列になって走る、装甲トレーラーとジープの群れ。
重金属酸性雨降りしきる太平洋の黒波を背景に、そのトレーラーの間を飛び石めいて跳ね渡っていく一つの影があった。

(*゚∀゚)「……」

黒革の拘束衣めいた衣装の上から、拘束ベルトと包帯を幾重にも巻きつけたその姿は、果たして人のものなのか。
プラチナブロンドヘアの左側頭部を、ピンクとブルーのメッシュのウェーブヘアに、
右側頭部をドレッド編みにしたそのネオ・ゴス・パンクの女の瞳は、黒と白が真逆になっており、一種の怪物めいた様相を呈していた。

今しも、その怪物じみた女が蹴って跳躍した10トントレーラーが、制御を失ったかのように蛇行し、
車線を外れて左の防砂林へ向かって流れていく。
バイオ植林の松の林にぶつかった車体が、壮絶な爆音と共に爆発炎上する中、
既に前のトレーラーのコンテナの上に着地していた女は、その包帯と拘束ベルトが巻きついた腕を槍のようにして構えると、
足元のコンテナの鉄板装甲に勢い良く振り下ろした。

鋼鉄と生身の拳の衝突は、しかし生身の拳の勝利だ。
泥濘を長靴で踏み抜いたかのような穴がコンテナの鉄板装甲に穿たれ、怪物じみた女はその穴の中へと滑るようにして降りていく。

「来やがった!撃て!撃て撃て撃てー!」

直後、コンテナの中で待ち構えていた陣龍の組員達が、手に手に握っていたサブマシンガンによる一斉放火を浴びせてくる。
黒のスーツで上下を固め、防弾ベストを着こんだ組員達の数は五人。
白と黒の逆になった双眸でそれらをぬらりと見渡すと、女は人形めいた仕草で首を傾げた。

204 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 19:56:10 ID:WbucYHaY0
(*゚∀゚)「ああ?んんん〜?」

運転席側と接するコンテナの、二つの頂点からの十字砲火。
飛んでくる銃弾の一発一発の軌道を、女は鈍化した世界の中で確かに認めた。
認めたうえで、その中へと無造作に飛びこんで行った。

「糞ったれが!なんだコイツは!何なんだこいつは!」

「死ね!死ね!死ね!死ね畜生めえええええ!」

弾幕の中に身を晒し、肉を抉られ、嬲られながらも突進してくる女に、組員達は狂乱の叫びを上げる。
違う。こいつは違う。人間じゃあ、ない。
組員達の誰もが同じ思いで引き金を引く中、刹那の疾駆で距離を詰めた女の爪先が、一人の組員の頭を文字通り砕いた。

「うわ、うわ、うわ、うわああああああ!?」

血の飛沫になったそこから、女は爪先を鎌めいて横に薙ぐ。
隣の組員の首が、壁に衝突したトマトめいて破裂し、肉塊がコンテナの壁に飛び散って赤黒い染みとなった。

(*゚∀゚)「んん――んっん〜…ああ、うんうん、まあ良いか?」

振り抜いた足を、カポエイラの型めいて宙でぶらぶらさせて、女はもう一方の隅の組員達を焦点の合わない眼で見据える。
一瞬にして二人の仲間を失った組員達は、狂乱と恐怖の中にも、目の前の怪物に対する戦闘意欲を失ってはいない。
三人のうちの二人が、マガジンを交換する中、残る一人が弾の切れたサブマシンガンを捨て、腰の特殊警棒を手に突進して来た。

205 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 19:58:04 ID:WbucYHaY0
「くそっ!くそっ!くそっ!くっそおおおお!」

(*゚∀゚)「あーちょっと待て。今、繋がる…ああ、もうちょっともうちょっと」

組員の決死の特攻を前に、怪物じみた女はヤク切れのジャンキーめいて口を半開きに、こめかみの辺りを自らノックするような仕草を取る。

(*゚∀゚)「…いー……ああ、うんうん…イイんじゃあないか…うん…」

「しゃっこらー!死ねやああああ!」

手負いの獣の如き形相で特殊警棒を振りかぶる組員。
電磁パルスが流れるその黒い棒身が、女の首筋に叩きつけられる瞬間。

(*゚∀゚)「よしっ、繋がったっ」

虚ろな目で虚空を見つめていた女が呟く。
同時、特殊警棒を握っていた組員の右手の手首から先が、消失していた。

「――え?」

何が起こったのか。組員が自分の右手へと視線を向けた瞬間、彼の全身を赤黒い奔流が飲み込んだ。

(*゚∀゚)「ケッ。こんなもンかよ。ま、悪くはねえか?」

組員を一瞬にして飲み込んだ赤黒いゲル状のそれは、血と肉片の散乱するコンテナの床から立ち上っている。
ぼこぼこと泡立つ、不定形の怪物染みたその奇怪な物質の登場に、組員達の中に残っていた最後の勇気が崩れ落ちた。

206 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 19:58:58 ID:WbucYHaY0
「あ、あ、ああ……!」

「うわ…うわああ…ああああ……」

マガジンの交換の済んだサブマシンガンを胸に抱いて、だらしなくその場に尻もちをついた二人の組員を、女は爬虫類の様な眼で見やる。

(*゚∀゚)「あー…終わりか?もう、終わりか?」

耳をほじりながら言う女に、組員達がえずくようにしてしゃくりあげた瞬間。
赤黒い不定形の塊が、残りの組員を包みこみ、押しつぶした。
断末魔の悲鳴すら、残らなかった。

怪物染みた女はその光景にも何ら感慨も抱かずに、屠殺場と化したコンテナの中をぐるりと睥睨する。
組員達の肉片の他には、これといって何も無いコンテナの様子に、彼女は気だるげに舌打ちした。

(*゚∀゚)「はいっ、ここも外れー」

投げやりに吐き捨て、女は先に自らが空けた穴からコンテナの外へと飛びあがる。
銃撃によって穴だらけになった血塗れの細身を、重金属酸性雨の粘つく雨粒が容赦なく叩く。
女はシャワーでも浴びるかのように、黒々とした天を仰いで眼を閉じると、束の間溜息を吐き出した。

207 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:00:26 ID:WbucYHaY0
退屈。退屈だ。
好き勝手に肉を引き裂いて、暴れまわるのは気分が良い。
気分は良いが、至極退屈だった。

ヴォルフの尻尾。それを回収するのが、ムズリーマから今に至るまでの彼女の、ツーの任務だ。
既に、トレーラーを六つは潰した。今したように、ヤクザ者達を虫でも潰すかのように嬲り殺しにしてきた。だが、その中に目当てのものは見つからなかった。
それについてはどうでもいい。至極、どうでもいいことだ。

ツーにとっては、暴れられる口実があるのならば、理由だとか目的だとかは一切関係ない。
肉を貫く感触と、血飛沫のシャワー、断末魔の叫びと、弱者の命乞いの声。
それだけが快感であり、全てにおいて優先される事だった。

パラグライダーを用いての空からの奇襲。
あれは気持ちが良かった。続く、コンテナへの襲撃。組員達の、恐怖に歪んだ断末魔。
これについても、概ね問題は無い。肉の感触は、そこそこに美味であった。

なのに満たされない。数日前からこっち、未だ喉は乾いたままだ。
原因は、はっきりとしている。

(*゚∀゚)「クソッ、下らねえ仕事だ……」

先日の件。良い所で、邪魔が入った。
極上の御馳走を前にして、目の前で犬に糞をされたような、あの顛末。
思い出すだけで、腸が煮えくりかえり、喉が渇く。

こんな事をしている場合じゃない、と本能は告げる。
原因が分かっている以上、一刻も早くこの渇きを鎮めなければならない。

208 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:01:19 ID:WbucYHaY0
遥か彼方の洋上で、遠雷が轟く。
一段と強くなった雨脚に、嵐の気配を感じながら、ツーは目の前のジープの幌を睨みつけた。

先頭の車両とも合わせて、残りは二つ。
コンテナからトレーラー運転席のルーフに飛び乗ると、右の手で屋根を貫いて中の運転手の首を手さぐりでねじ切る。
生温かい感触を掌に残しつつそのまま跳躍、ジープの尻の足場に着地し、幌に指を掛けた。

(*゚∀゚)「はい、御開帳〜」

冗談めかして言いながら、ツーは幌を開く。

<ヽ●∀●>「ガッチャ」

瞬間、その狂気染みた拘束衣のシルエットが、襤褸布のようにして斜め上方に吹き飛んだ。

209 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:02:46 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――爆音にも似た連射音が、雨に気ぶる沿岸道路に響き渡る。
ヘリのローター音めいた断続的な銃声の音源は、ジープの荷台、その中央にあった。

(゚、゚トソン「……」

棺桶めいた鉄の箱から立ち上がるようにして、その姿を晒しているのは、秒間一千発という驚異の弾幕を誇る、ワタナベ造兵廠製のガトリング機銃「W−999」。
攻撃ヘリの対地制圧用機銃を、足の間に挟んでそのグリップを握るのは、ワタナベの忠実なる秘書官、鋼鉄の処女トソンに他ならない。

ツーがジープの幌を開けるのと同時、この秘書官は鉄箱の麻布を取り払うや、即座に棺桶めいた箱の中のW−999を起動。
アイドリングもそこそこに、その驚異の弾幕を、たった一人の襲撃者に向けて解き放ったのだ。

炸裂火薬の爆炎にしか見えないマズルファイアと、そこから伸びる無数のレーザー照射めいた橙の火線が、
拘束衣が如き装束を纏ったツーのシルエットを、削岩機のようにして削っていく。
人間一人を対象とするには余剰に過ぎる集中砲火の衝撃は、化け物染みたタフネスを誇るツーをして、尚、その場に踏みとどまる事を許さない。
真正面から10トントラックに衝突されたような勢いで、ツーの細身は宙を舞い、
重金属酸性雨でドロドロに濡れたアスファルトに襤褸雑巾のようにして転がった。

(゚、゚トソン「……殲滅、完了」

抑揚のない声で呟いて、トソンはW−999のトリガーから指を離す。
規格外の連射性能から叩き出される衝撃を、二本の腕だけで御していた彼女はしかし、
スーツの襟元が僅かに乱れただけで、数秒前までガトリング機銃を扱っていたとはとても見えない。

210 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:03:43 ID:WbucYHaY0
きゅるきゅるという、力の抜けるような音と共に砲身の回転が収まるのを見ながら、
ジープの隅で立ち尽くしていたニダーは両耳を塞ぐ手を離した。

<ヽ●∀●>「ご自慢の玩具を見せびらかすのは結構だが、ぶっ放す前に一声掛けてくれると嬉しいね。
        お陰で向う三年は、音楽鑑賞を楽しめそうにない」

抗議を上げる彼の両手に握られたベレッタM76のマガジンには、未だに全弾が装填されたままだ。

<ヽ●∀●>「それとも、それがオタクの会社流のプレゼンテーションってやつか?」

ベレッタの銃口でこめかみを揉む香主を振り返り、トソンは相変わらずの平坦な声で言う。

(゚、゚トソン「……禁則事項です」

鉄面皮が如きその顔はしかし、口元に僅かな頬笑みのようなものを湛えているようでもあった。

<ヽ●∀●>「――だと思ったよ」

鋼鉄処女の微細な表情の変化に、ニダーは一瞬面食らったが、直ぐにその皺の刻まれた顔に苦笑を浮かべる。
がくん、とジープの車体が傾いたのは、まさにその時だった。

211 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:05:50 ID:WbucYHaY0
緩みかけた表情を直ぐに研ぎ澄まされた華僑のそれに転じて、ニダーはベレッタM76を構えると、
穴だらけになった幌を取り払い、後方に流れる沿岸道路を望む。
時速120キロで流れ過ぎていくアスファルトの上、50メートルの後方で、ツーの身体が引きずられるようにして転がっていた。

先の暴風雨の如き銃撃によって半ば肉の襤褸切れと化した彼女の身体、その傷口から流れ出すどす黒い血の筋が、
まるで綱のようにより合わさり伸びている。
赤黒い触手のようなそれは、ツーの全身の傷という傷からニダー達の乗るジープへと伸ばされ、
カーボン装甲に覆われた車体に、まるで蜘蛛糸めいて絡まっていた。

(*゚∀゚)「ヒャヒャヒャ…!景気が良い…これだけぶち込まれた方が、遥かに気持ちが良いネエ…!」

ミンチの半歩手前までに追い込まれても尚、壮絶な笑みを浮かべるツー。
両手を交差させて二丁の拳銃を構えるニダーは、そんな地獄の悪鬼の如き襲撃者に底知れぬ嫌悪が湧くのを感じていた。

<ヽ●∀●>「――何だありゃ。手品か何かか?」

二丁の拳銃が火を噴き、水上スキーめいて引きずられるツーの身体に、続けざまに八発の銃弾が食らいつく。
着弾の衝撃で左右にぶれたその体から血飛沫が上がるが、赤黒の軌跡はすぐさまより合わさり、新たな触手となってジープへと伸ばされた。
如何なるバイオ技術の成せる業か。狂えるこの女は、自身の身体から流れた血液を自在に操る事が出来るようだった。
香主の背中を、冷たい感触が僅かに駆け抜けた。


212 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:06:51 ID:WbucYHaY0
(*゚∀゚)「ヒャーハハッハア!いいね!いいねぇ!」

狂人めいて哄笑し、ツーは自身の身体から伸びる赤黒い触手の一つを握りしめる。

(*゚∀゚)「それじゃあ次はこっちの番だぁ!」

(゚、゚トソン「――!?」

W−999の銃座から立ち上がったトソンが、それを認めるや俄かに駆けた。

(*゚∀゚)「あらよっとぉ!」

細腕に力を込めて、ツーが触手を思いきり引っ張る。
両の手を手刀の形にして飛び出したトソンが、ジープの車体に絡まる触手へ、手刀の切っ先を突き出すも、間に合わない。
華奢な身からは想像もつかないツーの凄まじい膂力によって、ジープに絡まった触手がぴんと張り詰めるや、
相前後、ニダーとトソンの身体が宙を舞った。

<;ヽ●∀●>「チイッ――!?」

後方にかしぐ車体。
アスファルトに火花を散らして足を踏ん張ったツーが、綱引きの要領で触手に力を込める。
一トンはあろうジープが、タイヤを空転させながら宙を舞った。

滅茶苦茶な慣性によって、ニダーとトソンの二人は荷台から投げ出される。
豪雨となった重金属酸性雨のただ中へと放り出されたニダーは、咄嗟に受け身を取るも失敗、
アスファルトに叩きつけられ、ずた袋めいて転がった。

213 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:07:51 ID:WbucYHaY0
<;ヽ●∀●>「ガッ――アッ――!」

落下の衝撃による壮絶な痛みに香主の顔が歪む。
俯いた状態で口の端から血を流す彼の脇に、空中での姿勢制御に成功したトソンが、ジャイロバランサーの助力を借りて流麗に着地。
同時、釣り上げられたブラックバスめいて宙を舞っていたジープが、ツーの背後に落下、壮絶な轟音と共に爆発炎上した。

(*゚∀゚)「あっ、やべえ。爆発させたら不味かったか?」

背後で燃え盛るジープの車体を束の間振り返り、ツーはそのドレッドにした右側頭部を掻く。
アスファルトに突き立てて、踏ん張った彼女の足は、脛から下がミキサーに掛けられたかのようにぐちゃぐちゃになっている。
まともな人間ならば、けして意識を保っていられない満身創痍の体でありながら、その生白い顔には何の焦りも恐怖も感じられない。

ジープとの綱引きに勝った事といい、人間離れした奇業といい、ニダーはこの狂える襲撃者に対して恐怖を抱く事を禁じ得なかった。

<;ヽ●∀●>「畜生が…やってくれやがったな…化け物め…」

血痰を吐きながら、痛む身体に鞭を打ってニダーは身を起こす。
胸の鈍痛に、肋骨に罅が入った事を自覚しながら、彼はふらふらと立ち上がった。
ぶるってなんかいる場合じゃあねえ。自分を叱咤して、二丁のベレッタM76を化け物の狂った頭にポイントする。
銃口を向けられたツーの足元で、血だまりがごぼごぼと泡立ったかと思うと、
赤黒いゲル状の塊が、彼女のぐずぐずになった足に纏わりつき、その崩れた肉を整形した。

214 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:09:00 ID:WbucYHaY0
<ヽ●∀●>「随分と便利な身体してやがるじゃあねえか。ええ?
      お前さんを見世物小屋に売り飛ばしたら、幾らんなるだろうな?」

香主が立ち上がる様を、手も貸さずに眺めていたトソンが、ニダーより数歩前に進み出て、両の手を手刀の形にして構える。

(゚、゚トソン「……」

沿岸道路のアスファルトの上。

(*゚∀゚)「んああ…?」

叩きつける様な横殴りの重金属酸性雨を間に挟んだ、両陣営の距離はおおよそ200メートル弱。
コールタールの如く黒く濁った太平洋の荒波がうねり、その上の黒灰の空を、稲光がチェレンコフ光めいて瞬くように照らす。

紅蓮の炎と黒煙を噴き上げるジープの残骸を背にしたツーが、無造作な歩みで距離を詰めてくる。
狂える悪鬼の如きその周囲では、彼女の身体から未だ流れ落ちる血が、空中で渦のように逆巻き、
枝分かれ、赤黒い多頭龍めいて付き従っていた。

(*゚∀゚)「なあ、一応聞くけどよぉ…さっきのジープ、ダミーだよな?
     ヴォルフの尻尾ってのは、いっちゃん前のに乗っけてたんだろ?なあ?」

<ヽ●∀●>「さてな。トカゲの尻尾だか何だか知らんが、気になるんだったら今から追いかけて行って、確かめたらどうだ?」

215 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:10:11 ID:WbucYHaY0
銃口を向けたまま吐き捨てるように答えるニダー。
ツーはその答えに、首を傾げながら頭を掻く。

(*゚∀゚)「いや、ホントんところはどうだっていいんだ。ただ義理で聞いただけ。アタシとしちゃあさ、血が出ないモンには興味無いって言うか――」

その白と黒が真逆になった奇怪な双眸に、どろりとした殺意の光が灯った。

(*゚∀゚)「さっさと、こっからおさらばしたいって言う――かっ!」

言うな否や、ツーの身体がアスファルトの上から消失する。
刹那の後、悪鬼の鉤爪の如く右の掌を振りかぶったツーが、ニダーの正面、斜め上方から飛びかかってきた。

即座に両の手の拳銃を連射しながら、ニダーは身を左に傾け、猛禽の爪めいた急襲を回避、
そのままの勢いで雨粒を跳ね散らかしながらアスファルトを転がる。

<ヽ●∀●>「その意見にはウリも同意したい所だが――どうやらお前さんには、部下が世話になった礼をしなきゃらならんようだっ!」

跳躍からの奇襲をかわされたツーの身体は、ベレッタの弾丸を右半身に受けながらニダーの後方へ。
赤黒い血を纏わせた彼女の拳が、空を切ってアスファルトにめり込んだ。

アスファルトの上を転がりながら身を起こしたニダーは、振り返りざまに二発の弾丸を悪鬼の背中に叩きこむ。
包帯と拘束ベルトに覆われたその生白い背中に赤い花が二輪開花。
噴出した血飛沫が鋭利な棘となり、散弾めいてニダーを襲った。

216 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:11:06 ID:WbucYHaY0
<;ヽ●∀●>「糞ったれめいっ!」

咄嗟にニダーは両腕を交差させて顔面を守る。
茶色のトレンチコートに覆われた彼の身体の正面に、無数の赤黒い棘が突き刺さった。
傷自体はそこまで重い物では無い。あくまでも牽制、ニダーの動きを止めるための意味を持ったものだ。

(*゚∀゚)「ヒャヒャヒャ!綺麗な薔薇には棘があるっつうっしょ?なあおっさん!」

哄笑しながらアスファルトから拳を引き抜くと、ツーはその勢いを利用しての裏拳をニダーの脇腹に叩きこむ。
反応限界ぎりぎりの速度で繰りだされた横殴りの拳に、ニダーはそれでもギリギリで右腕を下ろしてガードを間に合わせた。

<;ヽ●∀●>「ぬうっ!?」

ネイルハンマーを叩きつけられたような衝撃がニダーの右腕から全身に伝わり、ニューロンが焼けつく様な痛みが広がる。
凄まじい衝撃はニダーの身体を軽々と吹き飛ばし、彼は錐揉み回転しながらアスファルトに転がった。

裏拳の勢いにその場で回転したツーはその場で足を撓めると跳躍。
左の手を槍めいて頭上に構え、這いつくばるニダー目掛けて急降下する。

(*゚∀゚)「先ずは一匹ぃっ!」

空を裂く、手刀の切っ先。赤黒い血塊の奔流。
寸での所でニダーは身を転がすと、死の一撃を回避した。

217 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:12:41 ID:WbucYHaY0
赤黒いゲル状になった血の塊で固めた手刀が、アスファルトを穿つ。
鋭利な切断面を晒すそこから手刀を引き抜くと、ツーは再びニダーを目掛けて振り下ろす。
再びニダーはこれを転がって避けようとするが、常人が完全に見切れる程にツーの攻撃は甘くは無い。
次が来ると分っていても尚、雷の速度で繰りだされる手刀の一撃はかわし切れない。

<;ヽ●∀●>「オブッ――!?」

トレンチコートごと、脇腹を数ミリ抉られたニダーは、血を吐きながらそれでも何とか片膝立ちまで態勢を持って行く。
しかしその時には既に、ツーは次の一撃を放っていた。

(*゚∀゚)「ちょこまかちょこまかと、小汚ぇ中年オヤジがよぉ――!」

渦を巻くようにして赤黒い血の奔流を纏わせた、左の大ぶりなフックがニダーの頭目掛けて繰りだされる。
一本の杭の周りに、無数の触手の細槍が円となって付き従う攻撃は、常識的な格闘技の攻撃範囲を逸脱した一撃。
身を捻っただけでは、本命の左拳の直撃は免れても、血の細槍の攻撃までもかわし切れない。

(*゚∀゚)「これで、くたばれよなっ!」

それでも回避する努力を怠るわけにはいかない。
一本、いや二本、三本か?最小被害を、ニューロンをフル回転させて計算しながら、ニダーは上体を捻り、痛みへの覚悟を決めた。

眼前ぎりぎりまで引き付けた、くい打ちが如き左拳が頬を掠めて通り過ぎる。
同時、その周囲に追随していた血の細槍の群れが、鎌首を擡げた蛇めいて曲がりくねり、ニダーの肩口へと三本の触手が食らいついた。

218 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:13:46 ID:WbucYHaY0
<;ヽ●∀●>「アアッ――ガグッ……!」

元はただの血液と言えども、如何な手段によるものか、その切っ先は鉄の槍のそれとなんら違う所など無い。
灼熱するかのような痛みが、ニダーの右の肩を駆け抜け、脳髄を痺れさせる。
それでもこのまま、踏み込まれるままにさせておくわけには無い。

既に腰だめに右の拳を構えて、トドメの一撃をニダーの腹に穿とうとするツー。
痛みの為に鈍くなった筋肉を叱咤して、ニダーは何とかして距離を取ろうと、アスファルトを後ろに蹴った。

追いすがる様にして、ツーの右拳が矢弾めいた動作で放たれる。
ニダーの腹を狙ったそれは、寸での所で届かない。

(;*゚∀゚)「なっ――!?」

<;ヽ●∀●>「おおおぉぉぉ!」

かわし切った。
即座に両手のベレッタを構えて、ツーの頭に銃口を向ける。
ここまでの短い戦いの経験からも、この化け物相手には頭以外を狙って撃っても意味は無い。
W−999の苛烈な弾幕ですらもすぐさま回復されるどころか、血飛沫は相手の手数を悪戯に増やして状況を悪化させるだけだった。
銃弾でこの人外を殺しせしめるには、頭を一気に砕く以外に方法は無い。
まるで、安いムービーホロの吸血鬼狩人めいた思考だな、とニダーが自嘲した時だ。

219 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:15:00 ID:WbucYHaY0
(*゚∀゚)「なーんちゃって!ヒャヒャヒャヒャ!甘ぇ!甘ぇんだよクソダボがァ!」

伸びきったツーの右腕。
そこに穿たれた無数の銃創から、赤黒い血の触手が伸びていく。
ニダーの胴体へと向かって伸び来る触手の群れは、途中でより合わさり、ねじり束ねられ、一本の太い槍を形作っていた。

後方跳躍を放ったニダーの身体は、未だ宙に浮いたまま。
身を捩ろうにも、既に意識の大半を二丁拳銃による銃撃に回していては、これに反応し切る余裕も無い。

<;ヽ●∀●>「しまっ――!?」

トリガーが引き絞られる。
赤黒の槍が迫る。
南無三。死を目前に、走馬灯を浮かべる余裕すらも無い。
雷鳴が鳴った。丸サングラスの視界が、黒に染まった。
それと同時に、耳をつんざくエグゾースト音が沿岸道路を震わせた。

<ヽ●∀●>「――!?」(゚∀゚*)

エグゾースト音。バイクの立てるけたたましいノズル排気音が、重金属酸性雨の豪雨に負けじと、戦場となった沿岸道路の上に響き渡った。
何事か。至近距離で交錯した二人はしかし、音を気に掛けて首を捻る余裕すらも無い。

未だ赤々と燃えるジープの残骸、その上。
地獄の業火めいて黒い炎の中から、飛び出してくる影がある。

それは、バイクだ。前輪、後輪共に、10トントラックのそれめいて、巨大な二つのタイヤを重ねた、規格外の大きさのバイクだ。
前輪の両側から突き出す、悪魔の角めいたホーン。後輪の両側から、二対四本で突き出す、悪魔の尾めいた排気ノズル。
黒い装甲板に覆われたその禍々しいフォルムは、悪鬼の下僕の獣めいて獰猛なシルエットを、
燃え盛る炎の中に浮かび上がらせながら、嵐の沿岸道路の上空に現れた。

220 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:26:57 ID:WbucYHaY0
地獄の業火の中から飛び出すように宙を舞ったモンスターマシンは、重金属酸性雨のカーテンを切り裂くように飛行。

一刹那の後、赤黒い槍を突き出すツーの身体を、巨大な後輪で押しつぶす様にして着地した。

(* ∀ )「――ガバッ」

有翼の悪魔めいた上空からの急降下奇襲。
飛び散る水飛沫、それに毒々しいコントラストを添える肉片の赤黒。
ツーの身体を横殴りに引き倒したモンスターマシンは、急ブレーキを掛けてドリフト旋回。
猛牛めいたターンの勢いで、後輪に巻き込んだツーの身体を振り飛ばした。

(* ∀ )「AAGRRRATH!?」

ベイゴマのように回転しながら、ツーはアスファルトの上を滑る様に吹き飛ぶ。
下ろし金が如くアスファルトに削られた彼女の身体から、スプリンクラーめいて噴き出す血飛沫。
車線から飛び出したツーは、もんどりうって防砂林の松の一本に打ちつけられ、丈の短い草むらに転がった。

低く唸る雷鳴の如きアイドリング音を響かせて、モンスターマシンがニダーの斜め前方で停止する。
何とか致命傷を免れたニダーは、抉られた脇腹を押えて立ち上がると、その地獄の獣の上に跨るライダーを見上げた。

221 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:28:13 ID:WbucYHaY0
<ヽ8w8>「……」

光化学スモッグと重金属酸性雨の嵐によって、夜中の如く暗い沿岸道路の上。
瞬きのような雷鳴によって照らされる、重金属酸性雨に濡れた漆黒の強化外骨格。
甲虫と爬虫類と地獄の悪魔をない交ぜにしたかのような、細身の節くれだって刺々しいシルエット。
髑髏のような形状のヘッドピース。その後ろから、ざんばら髪が如く垂れ下がるのは、放熱用のワイヤー型スタビライザーだろうか。
唇の無い、牙が剥き出しの口めいた顎部装甲。
その上で、昆虫の複眼めいた四つのアイカメラが、小さな金色の光を湛えて、アスファルトの上のニダーを無感情に見下ろしていた。

<ヽ●∀●>「……」

重金属酸性雨に汚れた丸サングラス越しに、ニダーもまた馬上のペイルライダーめいた漆黒の強化外骨格を睨み返す。

こいつは一体何者だ?
何故突然、この場に現れた?あの化け物を引きずり倒したっていう事は、ワタナベの増援か?
それじゃああの狂ったマシーンも、不吉な強化外骨格も、ワタナベの新作兵器ってとこか?
それとも本当に、ヨハネの黙示録が言う所の第四の騎士だとでも言うのか?

<ヽ8w8>「……」

地獄の悪鬼かはたまた死神か。
不吉なシルエットの強化外骨格は、ニダーの疑問に答える代わりに、モンスターマシンの腹を馬にそうするようにして蹴った。
圧縮空気の漏れだす音と共に、バイクの胴部から刀の柄が飛び出す。
悪魔の鉤爪めいた漆黒の籠手に包まれた右の手で刀を引き抜くと、ペイルライダーはバイクのスロットルを吹かした。

222 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:29:20 ID:WbucYHaY0
(* ∀ )「ギ…コォ……」

松の防砂林の方向。
そこから聞こえてきた、途切れ途切れのツーの言葉に、ニダーは自分の耳を疑った。

(* ∀ )「ヒャヒャ…ウヒャヒャ…こっちから逢いに行くつもりが…これは…ゴブッ――嬉しい…誤算だよぉ……」

<ヽ●∀●>「ギコ…」

ギコ。ギコだと。今、あの化け物女は、このペイルライダーをギコと呼んだのか?

(* ∀ )「ヘヘ…ヘヘヘ…今、そっちに行くから…嗚呼、畜生…こいつは久しぶりに利いた…ヘヘ…ずしんと来る…これが愛なんだねえ……」

モンスターマシンのタイヤに引きずられ、アスファルトのおろし金に掛けられたツーの身体は、既に肉塊と言っても過言ではない。
血だまりの中で自らもごぼごぼと血の泡を噴き出しながら、うわ言の様にして呟く彼女を、モンスターマシーンの上の強化外骨格が見やる。

(* ∀ )「待っててね…今…今、立つから…ゴボッ――ゲボッ…ガッ」

ツーが、血と肉塊の沼で折れまがった四肢をのたうたせる。

<ヽ●∀●>「黒狼?黒狼なのか?」

ニダーが、懐疑の眼差しで二丁拳銃を構える。

<ヽ8w8>「――」

ペイルライダーは、その場で後輪だけを滑らせて旋回、二本のホーンをツーの方向に向けると、
エグゾースト音の咆哮も大きく、アスファルトの上を駆け出した。

223 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:30:22 ID:WbucYHaY0
黒い風となってアスファルトを駆け抜ける地獄の獣。
馬上のペイルライダーは、右手の日本刀めいた振動ブレードをアスファルトに擦りつける。
アスファルトの接触で、切っ先から火花を散らす日本刀の刀身には、梵字にも似た意匠が施されており、
橙の火花に照らされたそれが赤熱するようにぼんやりと輝き始めた。

(* ∀ )「ギコォ!ギコォ!ギコォオオ!」

赤黒の斑に染まった草むらの中で、ツーが立ち上がる。
全身の肉という肉が裂け、四肢はあり得ない方向に曲がり、右の眼窩からは目玉が垂れ下がっていても尚、
彼女の狂った愉悦の叫びは止まらない。
ごぼごぼと濁った音を立てて、彼女の足元の血だまりが泡立ち、そこから立ち上った無数の触手が、
骨や内臓の剥き出しになった肉体に吸いこまれるようにして傷を塞ぎ、急ごしらえの肉体修復を開始する。

<ヽ8w8>「……」

(*゚∀メ)「ギィィイコォオオ!」

ムービーホロのゾンビのように、覚束ない足取りのツー。
地獄の猟犬の如くアスファルト疾駆するペイルライダー。

<ヽ●∀●>「黒狼…黒狼のギコなのか――?」

それを為す術も無く遠目に睨む、満身創痍のニダー。
混沌と化した、沿岸道路の上。
人外同士の影が交錯するその刹那。
ひと際大きな稲光が、黒波うねる太平洋の空を青白く照らした。

224 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:31:32 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――トーキョー摩天楼。
海外からの観光客などは、異常発達した高層建築群を指して、かつてのこの街の名前を未だに口にする。

林立する超高層ビルディングの間を、蜘蛛の巣上に張り巡らされたハイウェイ。
天空の橋めいたその上を、一台のリムジンが走っていた。

从'ー'从「うん、うん、分った。予定通りだね。まあ、そこら辺は頃合いを見て――うん。じゃあね」

通話を終えたワタナベは、受話機をシートに埋め込まれた車内端末に戻すと、
ローテーブルの上のカクテルグラスを手に取り、グラスホッパーの若草色を一口含む。
白塗りのストレッチ・リムジンのキャバレー染みた後部座席には、彼女の他にはそばかすの目立つ、若い代理秘書しか乗っていない。
ただでさえ広い車内の中で、たった一人、ワタナベのすぐ隣に腰かけた代理秘書は、
未だに少女の面影を残すそばかすだらけの顔に、誰が見ても明らかに分る緊張の色を浮かべていた。

('、`*;川「……」

从'ー'从「大丈夫?もしかして酔っちゃった?酔い止め、欲しい?」

('、`*;川「い、いえ!大丈夫、大丈夫です……」

从'ー'从「そう?限界になったら言ってね?エチケット袋はちゃんと持ってきてるから」

('、`*;川「あっはい…あっいえ…えと…あっはい……」

225 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:33:10 ID:WbucYHaY0
防弾処理を為されたミラーガラスの向うを流れ過ぎる、大陸の柱じみたビルの群れをぼんやりと眺めながら、
代理秘書、ペニサスは、自分が未だにこの女社長の隣に座っているという事が上手く飲み込めないでいた。

('、`*;川「落ちつけ…落ちつけペニサス…なんてことは無いわ…こんなのは、何でも無い事…大丈夫、貴方ならやれる……」

この春、単位をやりくりして何とか都内のトーキョー・ニューディー・カレッジを卒業したペニサスは、
サークルの先輩の伝手を頼って、渡辺グループ傘下の先物取引企業の事務員として、
晴れて新卒組として入社する事に成功した社会人一年目のひよっこだ。

ラウンジ区とニューソク区の丁度境目辺りにビルを持つ、黒井殿証券でのペニサスの主な業務は、
引っ切り無しに電話を掛けては頭を下げる社員達のボックス席の間を行ったり来たりして、お茶やコーヒーを運んで回る、実に単純な仕事だ。

入社して既に半年以上が経つが、未だに彼女は折に触れて「もしかして自分は喫茶店の代行派遣業に就職してしまったのではないか」という疑念が頭を過る事がある。

コネ就職という事で、碌な面接も無いままに入社したペニサスではあるが、
如何せん、中高大、ときて未だアルバイトも経験した事の無い彼女は、「世の中の新入社員」というものは、
最初の数年間はみなこのように、下積みから始まるのだろうと勝手に一人で納得していた。

実のところは、黒井殿証券は渡辺グループ傘下の中でも末端中の末端企業であり、
証券業界の中でも業績順で行けば、最底辺の方を行ったり来たりしている様な、
実に胡乱なものなのだが、良くも悪くも世ずれしていないペニサスには、
自社が現在、どのような状況に置かれているのかも把握してはいないのだ。

226 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:36:04 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「大丈夫よ…何とかなる…人生何とかなる…大丈夫…私を信じて……」

そんな彼女だからこそ、突如、親会社の親会社のそのまた親会社の…と幾つものセクションをすっ飛ばして、
渡辺グループの本社ビルへの転属辞令が自分の下へ舞い込んで来た時も、何の疑念も持たずに居られた。

同僚や先輩社員達からの羨望と嫉妬の眼差しを受けながら、辞令を手にした時のペニサスは、
自分が現代のシンデレラになったような夢見心地の気分であった。

初出勤の朝は、慣れない化粧に精を出し、地下リニアの窓ガラスに映る自分を、
何度も何度も見つめてはしまらない笑みが浮かびそうになるのを、必死でこらえた。

そうして初めて入った渡辺所有のアーコロジーの受付で、彼女に言い渡されたのは、
グループCEOであるアヤカ・ワタナベの代理秘書官という、想像だにしていなかった重役なのであった。

('、`*;川「ああ、やっぱりダメだよぅ…潰れちゃうよぅ…私じゃ無理だよぅ……」

底辺企業のお茶汲みが一転、一夜明けたら超巨大多国籍型コングロマリットのCEOの秘書官(代理)だ。
自慢ではないが、ペニサスは英語どころか日本語すらも怪しい程の語学力しかない。
一体全体秘書というものが何をするのかというのが、彼女には分らない所があったが、
とてもではないが自分に務まる様なものではないというのは辛うじて理解できる。
ワタナベと共にリムジンに乗っているだけでも、そのプレッシャーに押しつぶされてしまいそうだ。

227 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:36:58 ID:WbucYHaY0
从'ー'从「ねえ、本当に大丈夫?」

柔和そうな顔を、心配の形に歪めて女総帥がペニサスの顔を覗きこんでくる。
ペニサスは慌てて俯けていた顔を上げた。

('、`*;川「あっはい!大丈夫です!全然大丈夫!元気です!はいっ!」

从'ー'从「……」

両手を振って取り繕うペニサスの顔を、ワタナベは無表情でじっと見つめる。
急に、ペニサスはそばかすだらけの顔が熱くなるのを感じた。
それを見てとってか、ワタナベは表情を和らげると、我が子を前にした母のような優しい口調で言った。

从'ー'从「そんなに、緊張することは無いんだよ?秘書って言ったって、別に何か特別な事をするわけじゃないんだから」

('、`*;川「あっはい!…はい?」

从'ー'从「ただ、私の隣に居て、私の指示を適当に聞いていてくれればそれでいいの。簡単でしょ?」

('、`*;川「はあ…それだけで、本当に良いんですか?」

得心がいかないように窺うトソン。
ワタナベは、顎の下に人差し指を当てて小首を傾げると、ややあってそのつるりとした肌に、柔和な笑みを浮かべた。

从'ー^从「うーん、後は、私が退屈な時にお喋りに付き合うこと、かな?」

地上に舞い降りた天使のようなその笑顔に、トソンは心臓が高鳴るような気がした。

228 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:37:45 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「ああ…ええ……」

从'ー'从「だから、そんなに緊張しないで?ね?」

言いながら、ワタナベは膝の上で固く握りしめられたペニサスの拳を、両手でそっと包み込むようにする。
温かいその感触に、ペニサスの胸の中でばくばくと脈打っていた心臓が、ほうっと溜息をつくように静かになった。

从'ー'从「肩の力、抜こう?」

('、`*川「はい…はい…すいません…ありがとうございます…すいません……」

瞬間、天が割れる様な轟音と共に、二人の乗るリムジンが大きく揺れた。

('、`*;川「うわ、うわうわうわわわわ!?」

もんどりうって座席から滑り落ち掛けるペニサス。
リムジンの装甲板を豪雨の如く叩く、機関銃の連射音。
急激な速度上昇。無茶な蛇行運転に揺れる車内。ロ―テーブルの上のグラスやボトルが転が跳ね、ペニサスの脛を強かに打つ。

銃声?これは銃声なの?一体、何が起こったの?一体、私はどんな目にあっているの?

静まりかけていたと思ったペニサスの心臓が、再び早鐘を打ち始めた。

229 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:39:40 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「なななな何なんですかこれ!?てっぽう!?なんで!?え!?え!?強盗!?銀行強盗!?なんで!?」

座席から半分腰を落としながら、ペニサスは狂乱して叫ぶ。
ニューソクの中流家庭生まれの彼女は、22年間の人生の中で、幸運な事に銃声や企業間の抗争などを目にした事は無かった。
そんなものは、ニュースホロの中だけの世界だと思っていた。
自分は一生、そのような物騒な世界とは関わる事無く、畳の上で穏やかな老衰を迎えるのだと思いこんでいた。
それが今、現実となって窓の外に迫ってきている。

防弾ガラスの向う、隣接する車線の装甲車の上の銃座が、火を噴いた。
苛烈な火花に、黒塗りの防弾ガラスに蜘蛛の巣が走る。

白塗りのリムジンの後方。
環状ハイウェイの片側をびっしりと埋め尽くす様、横一列に並ぶのは、黒塗りの装甲バンや、軍用トレーラーの物々しい一群だ。
装甲バンの窓からは、手に手に機関銃や対物ライフルを握った、黒服達が頭を覗かせており、その銃口はペニサス達の乗るリムジンへと向けられている。
その黒服達の顔立ちは、まるで判で押したかのように全く同じ造形をしていた。

从'ー'从「クローン・アーミー……これは、ロマネスクさんとも付き合い方を考える必要があるかな?」

360度を一望する車載カメラからの映像を脳核ディスプレイの端に映しながら、ワタナベはポツリと呟いた。
隣では、ペニサスが狂乱した叫びを上げている。

230 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:40:34 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「なんで!?なんで撃たれてるの!?テロリスト!?いやだ!いやだ!死にたくない!私何も悪いことしてない!いやー!」

そばかすだらけの垢ぬけない顔を、涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたペニサス。
その両手を再び握って、ワタナベは化粧の剥げたペニサスの顔を覗きこんだ。

从'ー'从「大丈夫、大丈夫よペニサスさん。何てことは無いの。こんな銃撃ぐらいじゃ、このリムジンは爆発したりしないから」

('、;*川「――でも…でも!銀行強盗なんて…!わたし、そんな…撃たれるとか…私…!」

从'ー'从「そうだよね、こんな事になるなんて、思いもしてなかったからびっくりしたよね。
     ごめんね、でも大丈夫だからね。何も怖い事なんか無いんだよ。直ぐに、静かになるからね。あと、銀行強盗じゃないからね」

('、;*川「えうあ…ホント…ホントにですか…?」

从'ー'从「うん、うん、本当だよ。大丈夫。だから、ね?泣きやんで?可愛い顔が台無しだよ?」

(う、;*川「――あっはい……」

辛抱強い慈母のようなワタナベの囁きに、ペニサスは鼻水をすすりあげると、着なれないスーツの袖で顔を擦った。
車外では、今しも装甲トレーラーがリムジンの左隣に並び、そのコンテナをガルウィングめいて開く所だった。

231 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:41:33 ID:WbucYHaY0
舞台の幕が上がる様にして開き切ったコンテナの中には、対物アサルトライフルを構えた黒服達が、横二列になって整然と並んでいる。
揃いのスーツに、揃いのサイバーサングラス、同じ髪型に全く同じ顔かたち。
それは、ワタナベが先にこぼした通り、ブラウナウバイオニクスが世界に誇るクローニング技術の産物、クローン・アーミーだ。
ブラウナウバイオニクスをして世界規模の生化学企業に押し上げる事となった、
バイオ技術の申し子達は、一糸乱れぬ動きでアサルトライフルを構えると、一斉にそのトリガーを引いた。

交響楽団のユニゾンめいて、けたたましい銃声のハウリングが環状ハイウェイをどよもす。
一斉に発射された銃弾は、一発の誤射も無くペニサス達のリムジンのルーフと横腹に突き刺さる。

('、;*川「うわああ!いやだ!いやだ!死にたくなあああい!」

豪雨の如く装甲を叩く銃弾に、車内で再びペニサスが叫びを上げる。
しかし、リムジンの車体がそれによって何らかの被害をこうむることは無かった。

从'ー'从「だから、大丈夫だよ。このリムジンは、戦車の前面装甲よりもずっとずっと堅いんだから」

('、;*川「それって、どれくらい堅いんですか?」

从'ー'从「えーと、象さんが突進してきても大丈夫なくらいには堅いかな?」

('、`*川「象が突進してきても大丈夫……」

大昔のホログラフ映像で、象が踏んでも壊れない筆箱のCMがあったことを、ペニサスは束の間思い出す。
何となく、それだけで随分と彼女の心の中には余裕が出来た。


232 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:42:54 ID:WbucYHaY0
車外では、トレーラーのコンテナに整列したクローン・アーミー達が、
先の銃撃でも全くぶれる事の無いリムジンの走行を眺めながら、グレネードマウントに榴弾を込めている所だった。
一糸乱れぬ動きで、背広の袖から一斉に榴弾を取り出し装填したクローン・アーミー達は、再びその銃口をリムジンへと向ける。
しゅぽんっ、という乾いた射出音がハーモニーを奏で、偏差射撃の計算に基づいて一斉に放たれた榴弾が、
放物線を描いてリムジンの進路状に同時に着弾。
壮絶な轟音と爆炎が、リムジンを包んで環状ハイウェイを一瞬で火の海に変えた。

('、;*川「いやああああ!無理!無理!無理!潰れちゃう!潰れちゃうったらあ!」

爆炎と黒煙に包まれたリムジンの車内で、ペニサスが三度絶叫を上げる。
しかし、リムジンにはさしたる被害は見受けられない。黒煙が晴れた先、
榴弾の爆発で罅の入った道路を、ペニサス達を乗せた車体は変わらずにぐんぐんと進んで行く。

从'ー'从「だから大丈夫だよ。このリムジンは、戦車の前面装甲板よりもずっとずっと硬いんだから」

('、;*川「それって、どれくらい堅いんですか?」

从'ー'从「うーんと、ダイヤモンド百個分かな?」

('、`*川「ダイヤモンド百個分……」

大昔のホログラフ映像で、女優がダイヤモンドリングを前にして「ダイヤモンドは永遠の輝き」と呟くCMがあったことを、ペニサスは束の間思い出す。
永遠の輝きならば、きっと砕ける事は無いのだろう。しかもそれが百個だ。もう、何も恐れる事は無いのではないだろうか。

233 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:44:13 ID:WbucYHaY0
車外では、トレーラーのコンテナに整列したクローン・アーミー達が、榴弾の一斉投擲でも大破する事の無かったリムジンを眺めながら、
それぞれの足元においたパンツァーファウストへと持ち替えている所だった。
一糸乱れぬ動きで片膝をつき、右の肩にロケット推進式の対戦車無反動砲を担いだクローン・アーミー達は、再びその弾頭をリムジンへと向ける。
ぼしゅんっ、という音と共に無反動砲が煙を吐きだし、ロケット推進式の対戦車榴弾が、
無線誘導システムによってリムジンへと白煙の尾を引きながら迫る。

('、;*川「いやあああ!もうダメ!もうダメよおおお!こんなの無事で済むわけ無いわ!爆発しちゃううう!」

宙空を鮫の群れめいて泳いでくる榴弾から蛇行運転で逃げる車内で、ペニサスが四度目の絶叫を上げる。
後部座席と運転席を隔てる敷居の向う側では、老齢のワタナベ専属運転手が、老熟の域に入ったハンドル裁きで、
榴弾の鮫の群れを振り切ろうとしていた。
如何なリムジンと言えども、対戦車榴弾の直撃を受ければただではすまない。
老熟ドライバーが右に左にとハンドルを急確度で切る度、リムジンは尻を大きく振り、
その度ごとに榴弾の鮫達を引き離すのだが、直ぐにまた追いつかれてしまう。

('、;*川「いやだ!いやだ!いやだ!死にたくない!死にたくない!今度こそ死ぬううう!」

慣性の法則に挑むかのような無茶なハンドリングに、後部座席のペニサスとワタナベはゴロゴロと転がる。
酒瓶が割れ、グラスの中の氷が、無重力めいて車内を飛び交う。
それでもワタナベは一切その柔和な表情を崩すことなく、ローテーブルに固定されたカクテルグラスからグラスホッパーの残りを口にすると、ゆっくりと目を閉じてから開いた。

234 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:46:06 ID:WbucYHaY0
从'ー'从「それじゃあ、そろそろ私達も反撃といきましょうか」

('、;*川「――え?」

幼子の様にして泣き叫んでいたペニサスが、間の抜けた顔でワタナベを見返す。
ペニサスが見つめるワタナベの瞳の中、脳核ディスプレイの端では今しも、
彼女専用のホットラインとの通話が途切れた事を知らせる、終話アイコンが点滅していた。

老熟ドライバーが、ハンドルを右に切る。
鮫の群れを引きつれたまま、傾こうとするリムジン。
回避動作を阻むようにして、スピードを上げた装甲バンが、隣の車線に割り込んできた。
最早逃げ場は無い。

('、;*川「当たる!当たる!当たる!当たっちゃううう!」

後部の窓から後ろの様子を見ていたペニサスが、悲痛な悲鳴を上げる。
まさにその時、環状ハイウェイの左脇の空中に、天掛ける橋の下から浮き上がるようにして巨大な影が現れた。

運転席の老熟ドライバーが、アクセルを限界まで踏みつける。
瞬間的に加速したリムジンが、榴弾鮫の群れをぐんと引きなした瞬間。
巨大な影から放たれた幾筋かの火線が、榴弾鮫に次々に着弾、鮫の群れが宙空で虚しい爆炎を上げた。

235 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:48:28 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「えっ?えっ?」

皿のように眼を大きく開けて後ろを見ていたペニサスが、更に眼を大きくする。
突如として環状ハイウェイの上空に現れた大きな影は、シャチのような胴部に斜めに突き出した二つのプロペラを持つ、ニホン軍の攻撃用ヘリ「三十四式オルカ」だ。
シャチのような胴部の腹に当たる部分からは、乗降用タラップが突き出しており、
その上に腹ばいになったスキンスーツの狙撃手が握る対物スナイパーライフルのスコープが、陽光を反射してきらりと光った。

('、`*;川「軍隊?軍隊?なんで?……助かった?」

立て続けに起こる非日常に、ペニサスの思考回路は既にオーバーフロー寸前だった。
いきなり秘書(代理)になったと思ったら、赴任初日で謎のクローン軍団の襲撃、死を覚悟した所にニホン軍の攻撃ヘリが現れて……。
自分は夢でも見ているのだろうか?
ペニサスの疑問に答えるものはしかし、誰も居ない。
隣のワタナベは、グラスホッパーを手酌で注ぎ足しながら、悠然とした笑みを浮かべているだけだ。

二つの羽持つ「三十四式オルカ」は、ペニサス達のリムジンと並走するように、
環状ハイウェイの上空を飛びながら、シャチの口の下に生えたミニガンをアイドリングさせる。
リムジンを取り囲むようにして走る装甲バンやトレーラーの中から、クローン・アーミー達はこの空泳ぐ鉄のシャチに向かって、
それぞれに対物ライフルやパンツァーファウストを構えた。

機先を制したのは、上空のオルカだった。
刹那のうちにアイドリングを済ませたミニガンの砲身から、レーザー照射のような橙色の火線が走り、
クローン・アーミー達の乗る車両を次々に爆発炎上させていく。
ペニサス達の乗るリムジンは、ヘリの対地掃射によって緩んだ包囲網を抜けて、更にその速度を上げた。

236 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:49:27 ID:WbucYHaY0
「三十四式オルカ――!ニホン軍の介入くらい、予想しておくべきでしたわ…迂闊っ――!」

銃弾降り注ぐ装甲バンの群れの中央。
鉤十字の紋章をボンネットに刻んだ装甲トレーラーのコンテナ内に作られた仮設戦略室で、その女は、車載カメラの映像をホログラフで見ながら、歯噛みする。

「このままでは、逃げ切られてしまう…そんな事になったら、お父様に合わせる顔が……そんなのはダメよ…許されませんわ…絶対に…許されませんわ――」

碁盤めいて緑のグリッドが浮かぶ戦略机に両手をついていた彼女は、戦略机を叩くと、勢いよく顔を上げた。

「ニトロブーストで少しでも目標に近づけなさい!格なる上はわたくし自ら討って出ますわ!」

革命家めいて右手を突き出す彼女の指示に、仮設戦略室内で情報端末を睨んでいたクローン・アーミー達が一斉に顔を上げて敬礼する。

「「「ハイル、ロマネスク!仰せのままに!」」」

選手宣誓めいて右の掌を開いて突き出す、ナチス式の敬礼唱和が、情報端末のエメラルド光に染まった仮設戦略室内に響き渡った。

237 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 20:50:41 ID:WbucYHaY0

 

 

Next track coming soon...

 

 

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238 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 21:04:38 ID:WbucYHaY0
■親愛なる読者のみなさんへ■センコを焚く■蝉■

本日の投稿は以上となります。

次回の投稿は恐らく二週間後とかになると思うがオーボンが近いので、ユーレイ・リチュアルやらヤキニク重点インシデントなどが重なりケミカル・チャンポンを起こした結果、多忙指数が振り切る可能性も大いにある。

なので我々は断定しない。だが大丈夫。オーボンを乗り切れます。



■今日なハイクだ■不如帰■

ヒヤヤッコの隣に ゾンビアーミー



■終わりに■通気性の問題だ■納涼■

最近猛暑が続いており、外気温は大変高い事になっています。驚きです。

執筆チームの中でも、ニホンの過酷な夏にやられて、高熱を出しているメンバーが実際何人か確認されています。

ヒヤヤッコを支給することで我々もなんとか対応していますが、読者の皆様におかれましては、くれぐれも無理はなさらず、健康重点でこの夏をお過ごしください。

以上、ぎょうむれんらくでした。カラダニキヲツケテネ!

239名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 21:05:17 ID:y0vmPkk.0
ふえぇ乙

240名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 21:16:25 ID:uq4li3AI0
おっツンツーン!

241名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 21:16:41 ID:tc.B4EJA0


242名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 21:19:56 ID:Ajlw6rYA0
乙 なんかペニサス見てたらワロタ

あと>>227のトソンってペニサスの間違いだよね?

243 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/08(水) 22:02:36 ID:WbucYHaY0
■エマージェント■深刻なAA不足■外して保持■

読者の方から指摘があった通り、>>227でトソンと書かれている部分はペニサスの間違いです。

執筆担当者を問い詰めた所、猛暑のせいで誤字をしてしまったという証言が得られました。

審議の結果、我々はこの意見を情状酌量の余地があると判断し、ケジメは為されませんでした。お騒がせしております。

244名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 23:47:21 ID:ZflYcjgE0

いい作品だ

245 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/10(金) 14:52:39 ID:b0o6fvsQ0
■RADIO塊IM■THE PRODIGY - voodoo people (original)■般若■貴方?筒■

246名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 14:57:38 ID:9CfTRm3k0
なんとなく久々に覗いたら、鋼鉄の処女復活とか
テンションあがってきた

247 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/10(金) 15:46:27 ID:b0o6fvsQ0
■RADIO塊IM■THE PRODIGY - voodoo people (original) http://www.youtube.com/watch?v=-Fz85FE0KtQ■般若■貴方?筒■

ミスタイプは無かったね?我々は清い投稿生活を続いているね?

さもなくばカラテだ。カラテあるのみ。

248名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 17:02:23 ID:eKonMf460
支援。備えよう。

249 ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/10(金) 17:32:34 ID:IUfnx4KoO
(親愛なる読者の皆さんへ;残念ながら本日の投稿はない。だが我々は謝罪しない。何故ならばそれは処断対象であり、あなたのDIYを活性化させない。しかし大丈夫。鋼鉄処女は何処にも行かない。これに関しては様々な意見が飛び交うだろうが、今はただ、備えよう)

250名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 18:41:00 ID:BJOt71hs0
備えるか

251名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 21:18:40 ID:8/5xUebk0
備えあるのみ

252名も無きAAのようです:2012/08/20(月) 20:25:35 ID:ITxjaI320
忍殺めいて帰ってきた鋼鉄の処女があからさまに面白いのだ!

昔から好きな作品だったけどレベル上がったなー

253名も無きAAのようです:2012/08/22(水) 23:05:20 ID:uA2nuVkc0
こんなに忍殺めいてたっけ前、読み直してこよう

254執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/23(木) 10:09:24 ID:pjm.M0R2O
■お知らせ■中央な■夏■祭典■


親愛なる読者のみなさんへ;暑い夏はもう少しだけ続くのだと亀めいた甲羅のお爺さんが告げてます。いかがお過ごしでしょうか。

我々執筆チームは何とかオーボンのユーレイ・リチュアルやノンデ・ノンデ・パッション重点インシデントを乗り切った所で、現在は負傷者の手当てをしている所です。

さて、本日はそんな夏を乗り切る為のエキサイティングでクールなイベントのお知らせに参りました。

 

題して「サマーソニック・イン・アイアンメイデン」

 

これは一体何なのか?サマーソニック?アイアンメイデン?一体何なんだろう?気になって仕方ないね?詳細を聞きたいね?

それでは紹介しよう。サマーソニック・イン・アイアンメイデンとは何なのか?ずばりそれは、DIY(※脚注;日曜大工的な、無ければ作ろう)の精神を体現する、読者参加型企画である。

開催期間は現在連載中のエピソード「disc.11 No. of the Beast」が完結するまで。

この間、我々執筆チームは読者のみなさんから「僕、私はこういうエピソードが読みたいので君が書きたまえ」という思いを込めた書き込みを募集する。

読者の皆さんから寄せられた「公募プロット」は厳粛な宇宙意志による選別に掛けられ、その中でもっとも執筆チームのパンク・ソウルを熱く揺さぶったものが、何と実際に執筆チームの手によって書き起こされるのだ!

エキサイティング!エキサイティング・トランジスタ!ソー・ベリーベリー、エキサイティング!

どうだい?参加したくなったね?でも待って!その前にお約束事の欄を読もう。マナーを守って楽しいお祭り。地方自治体に迷惑を掛けてはいけない。それは悲しい。

255執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/23(木) 10:37:18 ID:6P0GBLJQ0

■取説■続■詳細な■西瓜■


・公募プロットを書きこむ際は、「サマーソニック・イン・アイアンメイデンのプロット公募企画への応募」であることを明記しよう!


・開催期間は現在連載中のエピソード「No. of the Beast」が完結するまで。
 これについては、三日前になった時点で執筆チームの方からアナウンスが入るのでだいじょうぶ。あんしんなカスタマーサービスだ。


・応募プロットの内様については一切の制約を設けませんが、執筆チームが書き起こす際にメインストーリーに絡まない形で修正される事になります。予め、ご了承ください。


・プロットをどこまで書くかは読者のみなさんにお任せします。導入から結末まで、全部書いてもよし。導入部とどんな話になるかだけ、ぼんやりと書くもよし。


・応募の書きこみは公式まとめサイトブーン芸VIP=サンの掲示板(http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9951/#4)の当該スレッド
 もしくは、このスレッドにおねがいします。


・尚、応募数が一定数に満たない場合は企画自体が中止になる可能性も無きにしも非ずだ。だが我々は大丈夫だと信じている。信じよう。


・自分の応募プロットが採用されなくても泣かない。貴方はオンリーワンであり、我々もオンリーワンである。常に奥ゆかしさを忘れないようにしよう。


・ゴミは必ず持ち帰ろう。近年、会場周辺の民家などからゴミのポイ捨てについて、非常に多くの苦情が寄せられています。それは悲しい。
 お祭りを楽しむのは実際素晴らしいことだが、周辺自治体のみなさんも楽しい気持ちになれるよう、周囲への気遣いを忘れない奥ゆかしさを持とう!


・ステージ前での危険すぎるモッシュピットは禁止です。前年度も実際、死傷者が四人ほど出ており、運営委員会の方でも「ここまで危険ならば来年から中止する」と卑劣な圧力が掛ってきている。
 我々はパンクの精神を体現する。即ちレベリオンである。しかし読者の皆さんにはいのちをだいじにしてほしい。なぜなら貴方はオンリーワンであり、我々もオンリーワンだからだ。いいね?

 

以上が今回のサマーソニック・イン・アイアンメイデンのルールになります。

わからないことがあったらお気軽に執筆チームにきいてください。

ファッカー!マザーファッカージーザス!

256名も無きAAのようです:2012/08/23(木) 10:49:02 ID:7z6eJMWQ0
オーイエス!オーイエス!

257名も無きAAのようです:2012/08/24(金) 01:25:16 ID:1m4cvOycO
シベリアや陣龍の日常風景

258執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/24(金) 15:26:36 ID:4CHsLzdQ0
■RADIO塊IM■Otep - Crooked Spoons http://www.youtube.com/watch?v=7Zavw_3Bxx0■盆栽■貴方?筒■

259名も無きAAのようです:2012/08/24(金) 19:55:46 ID:vJEav.lQ0
どっくんはじめての床オナ

260名も無きAAのようです:2012/08/25(土) 00:34:37 ID:wZZii91A0
ドクオとハインの最初の仕事
ドクオがハインを使って仕事をしようとする所から、初依頼を受ける迄のゴタゴタやら終わった後のやりとり迄を書いて欲しい。
鋼鉄処女の話の終わり方が凄く好きです。

後はピーチガーデンの全盛期の話も読みたいです。
サイバーパンク成分満載のが読みたいです。

261名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 14:44:41 ID:FqTceFv20
フォックス、キューちゃん、ニダーの休日
好きなキャラ多いから色々書いてほしいな
あとモナーのその後とか

262執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:20:12 ID:DGEbOzk.0

 

                【IRON MAIDEN】

 

.

263執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:25:25 ID:DGEbOzk.0

Track-β


――明りの落とされた駅のホームで、気がつけばギコは一人で錆ついた地下リニアの車体を前にぼんやりと佇んでいた。
高感度センサーを内蔵した視覚野の中で、空気中の微細な埃がまるで海中の雪のようにして、きらきらと舞っている。
警告灯の赤いLEDランプだけが灯るリニアの車内に目を向ければ、輪郭のはっきりしない、
黒い人影達が、おしのように黙って座席に腰掛けているのが分った。

( ∵)「………」

ちらほらと見えるその人影達の顔には、表情の無い白い仮面。
お互いに喋るでもなく、黙して座している彼らの眼は、皆一様にギコへと向けられている。
無面目に空いた黒い穴のようなその目からは、表情を窺うことは出来ない。
ギコは彼らの視線を一身に受けながら、その黒い穴の群れをぼんやりと見つめ返した。

ミ,,゚Д゚彡「どうした、乗らないのか?」

何時の間にか、傍らに立っていた義理の兄が、シケモクを消しながら言った。
ギコは束の間傍らの兄を見、それから再びリニアの車内に目を戻した。

(,,゚Д゚)「――どうだろうな。特等席はもう取ってあるんだろうが…さて……」

考えるでもなく、ぼんやりと車体を眺めるギコ。
脇から伸びてきたフサギコの手が、「綺羅星」を差し出す。
ギコが受け取りそれを咥えると、義理の兄はジッポで火をつけた。

264執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:27:31 ID:DGEbOzk.0
ミ,,゚Д゚彡「シケモクで悪いな」

(,,゚Д゚)y-~「俺には味なんざ分らんさ」

ミ,,゚Д゚彡「そう言えば、お前はヤニよりコッチだったか」

言いながら、フサギコは冗談めかして首筋に注射器をあてる仕草をする。
鼻で笑って、ギコはそれに応えた。

ミ,,゚Д゚彡「シィは、最近どうだ?」

表情の無い顔で、フサギコが言った。
紫煙をくゆらせて、ギコは押し黙った。
警告灯の赤いLEDランプが、じわりとした光で、ホームの中を照らしていた。
ギコは、風の無い麦畑のような車内の人影達を、じっと睨みつける。
仮面に空いた黒い穴の群れは、変わらず、こちらを見つめていた。

(,,゚Д゚)y-~「シィは、元気なものさ。相変わらず、車椅子だがな」

小さく呟くように言いながら、ギコは煙草を口から離す。
どんよりとした紫煙が、半開きにした口の間から漏れだす。
トンネルの向うから、何かが近づいてくる気配が、彼にはぼんやりと感じられた。

ミ,,゚Д゚彡「……そうか」

黒い、渦巻きのようなものだ。それは。
ギコは、何となく見当がついていた。そう。黒くて、大きい、渦巻き。
そんな風なイメージが、ギコの頭の中にはあった。

265執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:28:27 ID:DGEbOzk.0
ミ,,゚Д゚彡「お前は、タフだよ。タフな奴だよ」

地下鉄のホームが、地響きと共に揺れる。
穴の奥から、黒い渦巻きが近づいてくる。

ミ,,゚Д゚彡「だからお前は――」

義理の兄が何かを言おうとする。
同時、黒い奔流が地下トンネルの暗い穴からどっとあふれ出し、ホームを埋め尽くした。
コールタールめいて粘つく黒い大海嘯のうねりは、リニアの車体を押し流し、義理の兄の身体を飲み込む。

(,,゚Д゚)「……」

ごぼごぼと音を立てて沈んで行くそれらを、ギコは眠たげな眼差しでぼんやりと眺めていた。

266執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:30:01 ID:DGEbOzk.0

  ※ ※ ※ ※

――眼を覚ましたギコが最初に感じたのは、自分の身体への耐えがたいまでの違和感だった。

(´・ω・`)「おや、お目覚めかな」

横合いから掛けられた声に、首を捻る。
ワイシャツの袖を捲った、しょぼくれ眉の優男が、傍らに立っていた。
彼の背後には、罅割れ染みの浮いたコンクリートの壁と、錆ついた鉄扉が見えた。

(´・ω・`)「目覚めの挨拶の前に、先ずはクーにお礼を言いたまえ。
      彼女が駆け付けなかったら、君はサイバーテクノをBGMにしてヴァルハラに迎えられる所だったんだからね」

冗談めかして言って、優男は自分の右側を親指で示す。
親指の先、三台もの情報端末(ターミナル)と十数本のケーブルで有線直結した女が、俯けていた顔を上げた。

川 ゚ー゚)「困った時はお互い様、と言いますから。お気になさらないで下さい」

黒のゴシック・ドレスを纏った女の顔は、同色の帽子から垂れる黒いレースのヴェールで覆われている。
繻子のような黒髪と、陶磁器のような白い肌、その中で葡萄酒よりも濃い紅の双眸が、
レースのヴェール越しに気品のある輝きを浮かべてギコを見つめていた。

267執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:31:28 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)「――さて、とは言ってみても、先ずは僕が謝らなければならない所なんだけど……。
      何しろ、クーが駆け付けた時点で、大分ゴアな事になってたらしいからね」

川 ゚ー゚)「童謡のビスケット、一歩手前って所でしたからね」

口元を隠し、くすくすと笑うクー。

(´・ω・`)「勝手な事だとは分っていたけれど、それどころじゃなかったんだ。むしろ、脳核だけでも無事だったのが奇跡みたいなものさ」

ゆっくりと身を起こし、ギコは自分の右手を見つめる。
悪魔の鉤爪めいて刺々しい黒のシルエットが、視覚野に飛び込んできた。
視線を右手から外し、胸元からつま先へと滑らせる。
昆虫と爬虫類と悪魔の混血染みて、禍々しく節くれだった黒い外骨格は、市場で見かける事の無いデザインだった。

(´・ω・`)「内骨格から人工筋肉まで総入れ替えとなれば、当然パーツも足りなくなってくる。
      あり合わせのものを使わせてもらった事については、勘弁してほしいとしか言えないね」

川 ゚ー゚)「それについては、マスターのハンドメイドは、二流の市販品よりもよっぽど信頼性が高いので不自由は無いかと」

施術台から降りて、ギコは優男へと向き直る。
クール言葉通り、以前の強化外骨格に比べて、動作周りや運動出力は遥かに上回っているようだった。感覚で、ギコにはそれがわかった。

268執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:33:27 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)「……それで、これが問題なんだけれど、落ちついてよく聴いて欲しい」

そこで一旦言葉を切ると、優男はゆっくりと瞬きをする。

(´・ω・`)「君の新しい身体と、脳核についての非常に重要な話だ」

269執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:35:02 ID:DGEbOzk.0

  ※ ※ ※ ※

――白熱する蒼の稲光。
豪雨の中、衝突する二つの影。

(*゚∀メ)「ギィィィイイィィイコォォオオォォオ!」

<ヽ8w8>「――」

世界の時が一瞬鈍化したような、その瞬間。
鈍い衝突音と共に、時が動き出す。

(*゚∀メ)「ゲブッ――」

魔獣の如きバイク。そのホーン。
前輪から突き出した二本の角の片方。
よろけながらも前に踏み出したツーの身体が、衝突と共に悪魔の角に突き上げられるように、宙を舞っていた。

<ヽ8w8>「――……」

刹那の交錯。そのまま突き進むモンスターマシン。
宙で弧を描く赤黒の血飛沫。
強化タングステン製ダブルホーンで抉られたツーの脇腹。
臓物が零れるそこから、赤黒の触手の群れがヒュドラめいて飛び出し、バイク上のペイルライダーへと殺到する。

270執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:35:49 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「ヘヒャヒャヒャヒャ!熱烈なキスだねえ!最高だ!今のは最高にイッた!」

アスファルトの端。
円弧を描いて旋回するモンスターマシン。
鎌首をもたげた触手の群れは、規格外のバイクの巨大な胴部に絡みついた。

(*゚∀メ)「今度はアタシからもキスをさせておくれよ!飛びきり熱いヤツをよぉぉおお!」

真っ赤な口を裂けんばかりに開いて哄笑するツー。
その身体が、巻き上げワイヤーの要領で触手に引かれてモンスターマシンに急接近する。

<ヽ8w8>「――」

右手の日本刀状の振動ブレードで触手を切り落とすペイルライダー。
一本、二本、三本。
薙ぎ払う度に彼の腕を伝わる感触は、金属を叩き切る時のそれだ。

(*゚∀メ)「アヒャヒャヒャヒャ!ちゃぁあんと抱きとめておくれよぉぉおお!」

四本、五本、六本。
切りはらう度、新たに伸び来り絡みつく触手。
急接近するツーの身体。
間に合わない。

271執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:36:30 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「ダァァアイビィィインッ!」

<ヽ8w8>「……――」

腕を振りかぶる空中のツー。
赤黒くささくれ立った籠手を形成する血液。
ペイルライダーは、車体を蹴り、急激にモンスターマシンを傾ける。
摩擦熱で蒸発する雨粒。跳ねる火花。ドリフトターン。

(;*゚∀メ)「ニャニャニャ!?」

無茶な慣性で、ツーの身体はペイルライダーの頭上を飛び越して矢弾のように滑空飛行。
派手な水しぶきと血飛沫をまき散らし、アスファルトの上に叩きつけられた。

<ヽ8w8>「……」

エグゾースト音の尾を引いて、距離を離すモンスターマシン。
滅茶苦茶なマニューバにも、魔獣の唸りに変わった所は見られない。

(´・ω・`)『――計らずとも第二の生を歩む事となってしまった君に、僕からのささやかなバースディプレゼントだ』

ベヒーモス。
S&Kインダストリーの軍用バイク「タウロスLLL」のフレームを基礎として、「ショボン」と自分を名乗ったあの男が独自の改造を施したそれは、世界に二つとないワンオフ製。
バイクの規格を大きく逸脱する、総排気量10000ccの大容量エンジン。
軍用装甲車の装甲板をそのまま流用することで実現した驚異のタフネス。
強化タングステン製のダブルホーンが示す通り、このバイクは通常走行を目的としたものでは決してない。

272執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:38:01 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)『たとえば君が、環状ハイウェイを走っている時に、目の前のキャデラックのちんたらした走りに苛立ちを覚えたとする。
      ベヒーモスは、そんな君の苛立ちを、一瞬にして解消してくれる素晴らしい性能を秘めている』

(´・ω・`)『この地獄の魔獣に掛れば、もう渋滞に悩まされる事も無い。
     君はただ、ハンドルを真っ直ぐに保ったまま、ベヒーモスを前進させればいい。
     それだけで万事が解決さ。煩わしい車線変更も何も必要ない。どうだい、画期的だろう?』

したり顔で言った後、下手くそなウィンクをして見せた優男の顔を思い出しながら、ペイルライダーは車体をターンさせる。
進行方向の先、アスファルトの上ではツーが再び立ち上がろうとしていた。

(´・ω・`)『陸の覇者、ベヒーモスの歩みを止める事は何人たりとも出来やしない。
      地鳴りと共に、地を制覇する…まさにこいつは、巨獣そのものだよ』

スロットルを全開。
工事用重機の如く、四本のマフラーから吐き出される黒煙。
アスファルトを焦げ付かせ、再び突進を開始する陸の巨獣、ベヒーモス。

幽鬼染みて覚束ない足取りでツーが立ちあがる。
狂った色彩のその瞳が、仄暗い愉悦の表情を湛えて歪んだ。

273執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:38:46 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「随分とカッチョいいバイクだけどさあ…そろそろ降りてきて欲しいっていうか――」

臓物を腹からぶら下げたその足元が、にわかに泡立ち始める。

(*゚∀メ)「アタシを抱き締めて欲しいって言うかァッ――!?」

相前後。
血の池から、多頭龍めいた血の触手が立ち上り、鎌首をもたげるや、突進するベヒーモスに殺到した。

(*゚∀メ)「抱きしめてくれないなら、アタシから抱きついちゃおうってねぇえええ!」

曲線、直線、様々な軌道を描く血の触手。
一つ一つが鋭い切っ先を持ったそれは、まさに赤黒の槍の集中豪雨。

<ヽ8w8>「――!」

ハンドルを握る悪魔の籠手が、小刻みに動く。
上、横、斜め前、正面、全方位から迫りくる血槍の嵐の中を、ベヒーモスの巨大な車体はまるで縫うようにして滑らかに突っ切っていく。
さながらその様子は、矢が降り注ぐ戦場を駆け抜ける、一騎の黒騎士のようでもあった。

(*゚∀メ)「アヒャヒャヒャヒャ!避ける避けるゥ!ヒャヒャヒャ!なになに!?照れてるの!?照れてるのォ!?」

274執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:40:09 ID:DGEbOzk.0
疾駆する魔獣。
狂笑する魔性。
牙持つ魔獣が、餌食を前にして上げるエグゾースト音の咆哮。
けしかけた多頭龍をいなされたツーが、前屈の形に身を折り曲げて、血の池に両手を浸し――。

(*゚∀メ)「それじゃあこれは――」

バネのように身を起こし、両手を振り上げた。

(*゚∀メ)「どうっかなあ!?」

爆発する血の池。
溢れだす赤黒の奔流。
ミクロの大津波となった血液の超質量が、地を駆けるベヒーモスを押しつぶそうと迫る。

<ヽ8w8>「――!?」

右?左?否、否、否。ハンドリングでかわせる規模のそれでは無い。
ブレーキ?否、否、否。その行動に意味は無い。
回避不能?否、否、否。
シートの上で立ち上がり、人工筋肉の稼働率を140%でオーバードライブ。
黒い強化外骨格の下で、はち切れそうな程に膨らんだ筋肉を解き放ち、ペイルライダーは飛びあがった。

275執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:41:13 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「――あん?」

陸のベヒーモスを止めるのは、海のレビアタンか。
赤黒の大海嘯が、ベヒーモスの黒く禍々しいシルエットを飲み込む。

ベヒーモスの突進の勢いをも乗せて跳躍したペイルライダー。
血の大波の上、日本刀を上段に構えた彼は急降下。
稲光を背負って強襲するは、狂える女のその眉間。

<ヽ8w8>「――――――!」

(*゚∀メ)「はあああああ!?」

大波を発生させたままの姿勢から、ツーは更に仰け反って両腕を広げる。
血だら真っ赤なその顔に浮かぶのは、恋人を前にした乙女の至福の笑み。

(*゚∀メ)「ギコ!ギコ!ギコ!やった!やった!やっと来た!やっと来たああああ!」

大津波を作りだす為に殆んどの血液を注ぎこんでしまっている為、彼女を守る赤黒の触手は最早皆無だ。
それでも彼女は焦燥するどころか、極上の笑みを浮かべて天を仰ぐ。
愛しの君が、やっと自分の腕の中に飛び込んでくる。その事実だけがあれば、ツーにとって他は全てどうでもよかった。

<ヽ8w8>「……」

対する空中のペイルライダーは、この化け物を前に何を思うのか。
黒い悪魔染みた強化外骨格のヘッドピースの髑髏は、硬質な輝きを稲光に反射させるだけだ。

276名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 22:43:49 ID:Xvx61FA60
ギコ喋らないな…

支援

277執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:44:47 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「来て!来て!来てえええ!」

<ヽ8w8>「――――」

狂笑と鋼が、交錯する。
血に塗れた包帯だらけの肩口に、日本刀の刃が食い込む。
生白い細腕が、ペイルライダーを受け止める。
強化外骨格の全体重を乗せた一撃が、袈裟掛けにツーの身体を切り裂く。
装甲と生肌が触れ合い、ツーがペイルライダーの背中に腕を回す。
ボンテージ衣装の腰から、振動ブレードの刃が抜ける。

(*゚∀メ)「やっと、捕まえた――」

恍惚とした表情で、ツーが溜息をつく。
青ざめた唇の端から、どす黒い血の筋が垂れる。
一拍遅れて、その下半身がアスファルトの上に崩れ落ちた。

(* ∀メ)「もう、離さないんだから――」

胴から下を失ったツー。
左の腕だけで、ペイルライダーにしがみ付く彼女の口が、勢い良く開く。

(*゚∀メ)「もう離さないんだからあああああ!」

咆哮。直後、刹那のうちに彼女の口内に血で形作られた猛獣の牙が生え揃った。

<ヽ8w8>「――――!?」

278執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:46:50 ID:DGEbOzk.0
臓物と金属骨格を傷口からぶら下げた上半身だけのツー。
血の斑にそまったプラチナブロンドのハーフドレッドを振り乱し、彼女は顎の関節を引きちぎって口蓋を開く。

(*゚∀メ)「誓いのキスをををををを!」

狙うのは、ペイルライダーの顔面、牙が剥き出しの口めいた顎部装甲。
頬の肉が裂けた猛獣の口が迫る。
完全な肉迫状態。日本刀を振り抜いたままのペイルライダーでは間に合わない。

牙が伸びる。白と黒の双眸が愉悦に歪む。
ペイルライダーが上半身を捻る。生白い腕の拘束は解けない。

赤黒い牙が、噛みつく。
濁った血を啜り、悦楽の極みを噛みしめる。
自身のその姿をツーが幻視したその瞬間、彼女の頭が爆ぜた。

(*゚:::.・:∵「――ゴボッ」

側頭部を殴りつけられたように揺れるツーの頭。くぐもり、濁った苦鳴。
弾けるように飛び出し、赤と黄の弧を宙に描く脳漿。
強化外骨格の背中を掴む左腕から、力が抜ける。

ぐしゃり。

吐き気を催すような湿った音と共に、ツーの上半身はアスファルトにずり落ちた。

279執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:47:43 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「……やれやれだ。吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハント)を請け負ったつもりは無かったんだがな」

ペイルライダーとツー。二人から二十メートル程離れたアスファルトの上。
片膝をついて、面白くも無さそうに吐き捨てるニダー。
彼の右手に握られたベレッタM76の銃口が、白煙を吐きだしていた。

<ヽ●∀●>「こんな事になるんなら、銀の弾丸を持ってくるんだったぜ」

額から流れる血を左の袖で拭いながら、ニダーは両の足で立ち上がる。
足元に一個だけ転がった赤銅色の薬莢は、炸裂弾のものだった。

<ヽ8w8>「――」

頭を砕かれ、ひくひくと痙攣するツーの上半身から視線を上げて、ペイルライダーは香主を見やる。
悪魔のような黒いヘッドピースの中で、四つのカメラアイが無機質な黄金色に光った。

<ヽ●∀●>「……しかも吸血鬼が乱入したと思ったら、お次は黙示録の騎士様のご登場と来たものだ。
何だ?ワタナベは映画製作にまで手を伸ばしてやがったのか?」

松の防砂林の間を、強風が駆け抜ける。
ごう、というひと際大きな音と共に、松の林が気狂いのように一斉に頭を振った。

280執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:49:13 ID:DGEbOzk.0
<ヽ8w8>「……」

<ヽ●∀●>「今すぐにでも問いただしてやりたい所だが、肝心の秘書官さんはどういうわけか姿が見えねえ。“カスタマーセンター”に掛けても一向に通じる気配がねえ。
        これがニホンの“さらりまん”のやり方だっていうんなら、天晴れだぜ」

冗談めかした言葉をしかし淡々と口にするニダー。
彼の言葉通り、沿岸道路のアスファルトの上には、ペイルライダーとニダー、ミンチ寸前のツー以外に人影は無い。

<ヽ●∀●>「……だが、それについては今は置いておくとしよう。ビジネスも重要だが、ウリにはそれよりも気になる事がある」

そこで言葉を切ると、ニダーは丸サングラスをベレッタの銃口で直し、俯けていた顔を上げた。

<ヽ●∀●>「黒狼のギコ――。そこで伸びている化け物娘は、確かにお前さんの事をそう呼んだ。
        これは一体どういうことだ?あいつは確かに殺した筈だ。他ならねえ、ウリ自身が」

静かな怒気を含むニダーの声音は、その実はその下に困惑と恐怖を押し隠している。

<ヽ8w8>「……」

あの冬の日。ニーソク全体を巻き込む戦争の最後。
陣龍も、オオカミも、互いに血まみれになりながら迎えたあの日の朝焼け。
ケジメは、あの時にはっきりとつけた。

それじゃあ、今目の前に居るこの悪夢の中から抜け出てきた様な強化外骨格は何だ?
亡霊だとでも言うのか?

281執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:50:33 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「二秒以内に答えろ。お前さんは何だ?どんなわけがあってウリの前に出てきやがった?ウリはあと何回、お前さんを殺せばいい?」

つがいのベレッタM76を構えて、ニダーは押し殺せぬ殺意を歯と歯の間から吐き出す。

<ヽ8w8>「……」

答える代わりに、ペイルライダーは振動式ブレードの血糊を振り払うと、構える事も無くニダーに向かって静かに歩き出す。

<;ヽ●∀●>「……」

<ヽ8w8>「……」

二丁拳銃を構えて立つニダー。
日本刀をぶら下げたままゆっくりと歩むペイルライダー。
叩きつける豪雨の中、じりじりと、しかし確実に両者の距離が縮まる。
丸サングラス越しに、或いは四つのアイカメラ越しに、その視線が交錯する。
一歩、また一歩。
上がる前の幕の後ろに控えた、演奏前の楽団員達の間に伝わるような緊張感の中。
遂に、二人は互いの拳が届く距離にまで肉薄した。

<ヽ●∀●>「……教えろ。これは、悪夢か?」

目と鼻の先に迫った髑髏のような顔に向かって、ニダーは問いかける。

282執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:56:07 ID:DGEbOzk.0
「……亡霊」

ぽつり、と。

<ヽ8w8>「……亡霊ダ。俺ハ。今ノ、俺ハ」

その時初めて、ペイルライダーが口を開いた。
人工声帯から発せられた仮初の機械音声は、砂利をかみ砕くような濁った音となって、ニダーの耳朶を打った。

<ヽ●∀●>「……」

どういう意味だ。
問おうとするニダーの脇を、ペイルライダーは通り過ぎ、血だまりに転がったモンスターマシンの下まで歩くと、それを片手で起こして跨った。

漆黒の強化外骨格がアクセルペダルを蹴り飛ばし、スロットルを回すと、巨獣は再びあの低く唸るような咆哮を上げ始める。
血の津波の大質量に呑まれても尚、ベヒーモスの屈強な装甲は、そこここが歪んだだけで、走行に関して支障はなさそうだった。

<ヽ8w8>「……俺カラも聞かセてクレ。悪夢かラ覚メるニは、ドウシたラいイ?」

巨大な車体をその場で180度ターンさせて背を向け、ペイルライダーが問う。

<ヽ●∀●>「……」

ニダーがそれに咄嗟に答えられないでいる間にも、ベヒーモスはひと際大きな唸り声を上げて走り出す。
雨粒を切り裂き、遠ざかっていくエグゾースト音を聴きながら、ニダーは途方に暮れたように立ち尽くしていた。

283執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:56:51 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「――どうしたらいい?それは、こっちが聴きたいくらいだ」

構える先を失った二丁拳銃を、ニダーは力なく下ろす。

終わった筈の悪夢。
解かれた筈の呪い。
やっと脱出した筈の迷路。
楽になったつもりでいた。少なくとも、今日この日までは。

<ヽ●∀●>「碌でもねえ人生だぜ…全くよ……」

雷鳴の中で、ニダーはゆっくりと丸サングラスを外す。

<ヽ`∀†>「本当に、救いようのない人生だな…おい……」

かつての古傷が、雨に晒されて疼く感触が、たまらなく気持ち悪かった。

284執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:58:06 ID:DGEbOzk.0

※ ※ ※ ※

――機銃の掃射音。
クローン・アーミー達の上げる断末魔の叫び。
独楽のように回転して、後続車両を巻き込む装甲バン。
爆発が爆発を呼び、次々と咲き誇る紅蓮の華。

にび色の空、重金属酸性雨を孕んだ雲。
浮遊式看板のくすんだ電子文字の羅列。光を反射しない、黒塗りのモノリスが如きビルの大森林。
VIPの街の空を走る環状ハイウェイ。

天駆ける一尾の鋼鉄の鯱が齎した爆発を背にして、白塗りのリムジンはぐんぐんとスピードを上げる。
コヨーテの群れを背にした孤独なインパラが如く逃げるその背に食らいつこうと、今しも爆炎の中から飛び出してくる一つの影があった。

('、`*;川「うわ!まだ追ってくる!」

後部座席の窓から後ろを見ていたペニサスが、悲痛な叫びを上げる。
黒煙の中から鼻面を出したのは、ボンネットに真っ赤な鉤十字の紋章が描かれた、巨大な装甲トレーラーだった。

285執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:59:28 ID:DGEbOzk.0
「ニトロブースト、着火用意!」

「ドライ、ツヴァイ、アイン…着火!」

クロームメタルの巨大な車体の後部、ジャンボ・ジェットのエンジンの様な機関ノズルから、緑色の炎が勢いよく噴き出す。
ニトロ火薬の爆発により、20トンはあろう車体は、束の間バイソンのスプリントのようにして急加速した。

('、`*;川「何これ!?速い!速い!速い!追いつかれちゃうってえ!」

从'ー'从「だから大丈夫だってば」

('、`*;川「だって!だって!あれ、象よりもおっきいじゃないですか!潰されちゃいますよ!」

从'ー'从「だから、その前に追いつかれないから大丈夫ってこと」

ワタナベの言葉を証明せんとばかりに、上空の三十四式オルカが機銃の掃射もそのままに、機首を鉤十字のトレーラーへと向ける。
シャチのような胴部の両脇から突き出すヒレの下に備わった、対地ミサイルが白煙を吐きだして、トレーラーへと放たれた。

('、`*;川「ミサ、ミサ、ミサイルゥ!?」

宙を疾駆する四本の対地ミサイル。
流麗な弧を描く、コバンザメが如き火薬の塊がコンテナの屋根に着弾。
クロームメタル製の巨象めいた装甲トレーラーは、一瞬にして黒と紅蓮の爆炎に包まれた。

286執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:00:40 ID:DGEbOzk.0
('、;*川「死ぬ!死ぬ!だから死ぬってえ!」

10メートルにも満たない背後での爆風に煽られて、リムジンの車体が激しく揺れる。
窓ガラスに額をぶつけたペニサスは、涙目でワタナベを振り返った。
女社長は、ソファに腰掛けたまま、枝毛を探していた。

壮絶な爆炎の中で、よろめくようにして装甲トレーラーの巨大な車体が右に傾ぐ。
巨獣が力尽きるように横倒しになった車体のエンジンに更に引火。
再び上がった爆発の衝撃が、環状ハイウェイをどよもした。

後続の装甲バンの群れが、一斉にブレーキを踏む。
中央分離帯を砕いて横たわったトレーラーの車体が、ダムのようにして環状ハイウェイの流れをせき止める。
隣の車線を走っていた一般車両が、次々とクラッシュを起こし、その度に大小の爆発が巻き起こった。

誘爆に次ぐ誘爆により、物騒な花火会場と化した環状ハイウェイの上空。
装甲トレーラーの爆発と同時に、黒煙を裂いて飛び出した影が、光化学スモッグの空に金色の弧を描く。

「全く…何がクローン・アーミーですか…所詮は劣等種、全く持って使い物にならない…これでは烏合の衆ではありませんか……」

爆発の衝撃を推進力にした金色の影は、放物線を描いて飛翔。
環状ハイウェイを独走するワタナベ達のリムジンのルーフの上に片膝をついて着地した。

287執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:01:43 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「何!?何!?今度は何!?」

着地の衝撃に揺れる車内で取り乱すペニサス。

从'ー'从「……あらら」

枝毛探しを止めて、天井を仰ぐワタナベ。

「矢張り、真に信ずべきは血の優秀性……」

ルーフの上で、ゆっくりと立ち上がる金色の影。

∫ノイ゚⊿゚)ン「なればこそ、誇り高きアーリア人種の一人として、わたくしが示して見せましょう!
      真に世界の覇者となるのが誰なのか!ニホンという国が如何に欺瞞と頽廃に満ちた都かを!」

時速180キロで流れ行く風の中で上げられたその顔は、未だ年端もいかぬ10代後半の少女のそれであった。

∫ノイ゚⊿゚)ン「ゲルマン民族こそがこの世でただ一つ、頂点に立つ事を許された高潔なる存在であると!
       チルドレン・プロジェクトの完成形である!わたくしが!ノインが!直々に!証明してみせますわ!」

高らかに宣言して、自らをノインと名乗った少女は右の手を、指先をピンと伸ばした形で前に突き出す。
黄金に輝く金髪は緩く巻かれたポニーテールに、陶磁器の様に白い肌の中で強い意志を秘めた目はコバルトブルー。
かつてのナチスのSS将校制服めいた黒灰色の衣装は、動きがとり易いように丈が短く作られ、伸ばした彼女の右腕には、鉤十字――ハーケンクロイツを象った赤い腕章が巻かれていた。

288執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:02:52 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「へ?は?アーリア人種?ゲルマン民族?え?何です?何なんです!?」

从'ー'从「あはは!何だか面白い子が出てきたね〜!」

卓上サイズのホログラフとして映し出される、車載カメラの映像を前に、リムジン内の二人はそれぞれの反応を示す。
そんな足元の二人の様子など知らないノインは、ルーフの上に仁王立ちになると、
頭上をホバリングで並走飛行してくる三十四式オルカを挑戦的に睨みつけた。

∫ノイ゚ー゚)ン「ふふんっ!貴方様には散々痛い目にあわされましたが、直接ルーフの上に乗ってしまえば、もう手出しも出来ないんじゃなくって?
        そこで大人しく書き割りでも演じていなさいな!ほーっほっほっほ!」

その言葉に答えを返す様に、対地攻撃ヘリのタラップが開き、腹ばいになった狙撃手が再びその姿を現す。
雷鳴のような銃声と共に対物スナイパーライフルの銃身が跳ね上がり、ノインの頬に赤い筋が走った。

∫ノイ゚⊿゚)ン「――」

ぴたり、とノインの高笑いが止まる。
一拍遅れて、その白磁の頬を、血の滴が伝った。

∫ノイ゚⊿゚)ン「……そうですの。貴方、書き割りでは不服と仰いますのね?」

ノインの青い瞳が細められる。
狙撃手が次弾を装填する。

289執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:04:38 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ゚⊿゚)ン「――いいでしょう。ならば、このわたくしが監督として、劣等種の貴方に相応しい配役を用意しますわ」

左手の白手袋を、ノインがゆっくりと外す。
スコープを覗いて、狙撃手が再照準を合わせる。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛清!」

ノインの左手が鞭のようにしなる。
空気を裂いて、ブイ字の白い影が飛ぶ。
狙撃手のリング状のヘッドギアが縦に割れ、頭ががっくりと倒れる。
露わになった狙撃手の額から、細い血の筋が垂れていた。

∫ノイ゚ー゚)ン「貴方には、“主役の強さを引き立てる為に犠牲になる三下の敵役”が相応しい事でしょう」

事切れた狙撃手の手から、アンチマテリアル・スナイパーライフルが滑り落ちる。
その様に背を向け、ノインはポニーテールを涼しげにかき上げた。

('、`*;川「え?え?今、あの人何をしたんです?」

从'ー'从「……あらら。これは、ちょっと不味いかな?」

車載カメラの映像は、敷居で隔てられた運転席の翁の視覚野の隅にもモニタリングされてある。
有線直結によってリムジンと一つになった老熟ドライバーは、この新たな敵の登場に、
その皺の寄った目を僅かに見開くと、直ぐ様ハンドルを握る手に力を込めた。

290執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:05:31 ID:DGEbOzk.0
激しい蛇行運転に、リムジンのタイヤが悲鳴を上げる。
ルーフの上のノインはしかし、肩幅に足を開いただけで容易にバランスを取って見せた。

∫ノイ゚ー゚)ン「生憎、この程度の揺れは乗馬で慣れておりますの。高貴なる者の嗜みですわ」

髑髏の印章をつけた将校帽の下で、ノインは優雅な笑みを浮かべる。

∫ノイ゚ー゚)ン「――さて、仔馬との戯れも愉快なものですが、私にも任務がございますの」

上半身を柳のように僅かに揺らしながら、彼女は右の手の白手袋を脱ぐと、勲章のぶら下がった将校服の懐に丁寧に畳んでしまう。
露わになった右の手の甲には、赤い「9」と、その上にかぶさるように黒い鉤十字を象った刺青が彫られている。
彼女は右の手を高く振りかぶった。

∫ノイ゚⊿゚)ン「我らが偉大なる総統閣下を御保護した後、逆賊共にはしかるべき制裁を」

肩よりも上にあげられた右手の表面が、まるで第二の心臓を宿しているかのように脈打つ。

('、`*;川「え?え?え?え!?」

从'ー'从「……むむっ」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「全ては理想郷の為!栄えある第三帝国実現の為!劣等種よ、その礎となる名誉を抱き潰えるが良い!」

('、;*川「え!?え!?え!?ええええ!?」

一気呵成。
高らかな宣言と共に、ノインが右の腕を振り下ろす。
蛇行走行するリムジンが電光看板の下にさしかかったのは、奇しくも全く同じタイミングであった。

291執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:10:43 ID:DGEbOzk.0
看板。
交通規制情報や渋滞情報、その日の路面状態などをローカルネットワークで伝える、電光看板。
その上に、腕を組んで立つ一人の影あり。

「理想郷ですか。私のデータベースで検索をかけた所、それは“架空の都市”に分類されるものであるとの事でした」

平坦で抑揚のない、機械的な物言い。
感情の一欠けらも見せない言葉と共に、看板上の影が飛び立つ。
膝を抱えた姿勢で回転を決めたその影は、今しも看板の下を駆け抜けていこうとするリムジンの上に危うげなく着地、膝立ちのままにその顔を上げた。

(゚、゚トソン「一時間と五分三十四秒一七。まだまだ改良の余地がありますね」

生後一年の赤ん坊程もある、背中のジェット・パックを揺らしながら、新たな闖入者は立ち上がる。
バレッタで纏められた栗色の髪。瞬きの回数が極端に少ない菫色の瞳。
ワタナベの専任秘書官にして鋼鉄の処女たるトソンのスーツは、慌ただしい空の旅の為に、所々が激しく乱れていた。

从'ー'从「やっと来たー。もう、遅いぞぉー」

('、;*川「へっ?今度は何?ロケット人間?何なの?一体何なの?」

292執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:11:32 ID:DGEbOzk.0
未だに状況についていけないペニサス。
わざとらしい膨れ面を作るワタナベ。

(゚、゚トソン『遅れてしまい申し訳ありません。予測されていた交戦タイミングとずれてしまい、離脱タイミングを失しておりました』

从'ー'从『まあ、本命さんのご到着はまだまだ先だろうけどさぁ……』

(゚、゚トソン『懸念されていたエンジントラブルはありませんでしたが、出力に関して未だ課題が残りますね。
     元々、長距離航行が目的で無いとはいえ、強襲作戦に投入するにしても時期尚早かと』

从'ー'从『試作機だからしょうがないかっ。そこら辺はまあ、開発主任さんに任せるとして――』

(゚、゚トソン『――心得ております』

語尾を濁す主との通信を一旦切りあげ、トソンは目の前で腕を振りかぶったままのノインを真っ直ぐに見据える。
コバルトブルーの双眸が、突如現れたトソンを前に、嘲笑の形に細められた。

∫ノイ゚ー゚)ン「――なんですの?私の優秀性を証明するには、未だやられ役が不足だとでも仰いますの?」

(゚、゚トソン「貴方を排除させていただきます」

絶対的な自信を孕んだノインの嘲弄を、トソンの淡々とした言葉が受け流す。
幼さを残したノインの目元が、ぴくりと引きつった。

293執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:12:24 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「……そう。そうですの。貴方、中々面白い事を仰いますのね。排除?このわたくしを?“シスターズ”最強のわたくしを?
      我がブラウナウバイオニクスが誇る研究機関、“アーネンエルベ”最高傑作のわたくしを?言うに事かいて、排除すると――」

振り上げた拳を顔の前に下ろし、ノインは強く握る。
血管が浮き出る程に強く握られた拳の間から、無色透明の液体が零れる。
どうやらそれが、彼女の血のようだった。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「見上げた自信でございますわね。排除!ふんっ!その言葉は、わたくし以前の失敗作や、貴方達のような劣等種にこそふさわし――」

わなわなと拳を震わせて語るノイン。
その蜂蜜色の前髪が一筋絶たれ、風に流される。

(゚、゚トソン「恐縮ですが、口を動かす前にするべき事があるかと。……恐縮ですが」

一瞬にして肉迫したトソンが、手刀を振り抜いた姿勢で、ノインを見上げる。
本能的なレベルで上体を仰け反らせたノインの頬が、更に引きつった。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「このっ――!」

追撃の左手刀。
電撃的な速度のそれを、ノインは右膝蹴りで受け流し、ルーフを蹴って距離を取る。
ダックスフンドのように胴の長いリムジンの車上、五歩程の間合いで二者はにらみ合う形になった。

294執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:13:22 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「劣等種風情がこのわたくしを捕まえて説教を垂れるなど言語道断――。
        ならば、その小生意気な口を二度と利けぬよう、見せて差し上げますわ。
        わたくしの、選ばれし者の、優良種たる力というものを!」

右の掌を鉤の形に開くノイン。
赤の9と鉤十字の刺青の表面の血管が、線虫のように蠕動する。
口上の途中で既に駆け出していたトソンが、ノインの懐に飛び込んだ。

(゚、゚トソン「――」

迷いなく、鳩尾に向かって突き出される右の手刀。
空気中の微細な分子すらも切り裂こうかという速度のそれは、しかしノインの将校服めいた衣装をすら傷つけることが出来なかった。

∫ノイ゚⊿゚)ン「軽い。あまりにも、軽すぎますわ」

ノインの鳩尾の数センチ手前で静止したトソンの右手刀。
トソンの手首を掴み止めた、ノインの右手は、異形だった。

――恐らくは、爬虫類のそれ、と形容するのが最も相応しい。
将校服の袖を引き裂いて露出した右腕は、平均的な成人男性のものよりも、
二回りも三回りも太く、表面は赤銀色の鱗でびっしりと覆われている。
万力の如き絶対的な力でトソンの手刀を掴んだ指先には、猛獣めいた鉤爪が揃っており、肘からはくすんだ白の骨格が飛び出していた。

295執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:14:10 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ゚ー゚)ン「“ドラッヘン・ツィノーヴァ”。優越種たるわたくしにこそ相応しい、まさに至高の力にございましょう?」

獰猛な笑みを浮かべるノインの右の目元には、まばらに赤銀色の鱗が生え出している。
掴まれたトソンの右手首が、みしりという音を立てた。
戦車の前面装甲よりも堅い特殊カーボネイド装甲が、ノインの異常な握力によって悲鳴を上げているのだった。

(゚、゚トソン「……」

コンバット・データ・リンクによって即座に導き出された回答により、トソンはすぐさま左の手刀を繰り出す。
予備動作を既に認識していたノインは、手首を握る力を更に強めると、片腕だけで鋼鉄の処女の身体を持ち上げた。

∫ノイ゚ー゚)ン「さて、小生意気な劣等種には、少しばかり調教が必要ですわね?」

(゚、゚トソン「――むっ」

酷薄な笑みを瞳に浮かべるノイン。
相手の予想外の膂力に、僅かに菫色の双眸を見開くトソン。
視線の交錯はコンマ一秒。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「矯正!」

ノインは大ぶりな動作で身を捩り、トソンの身体を背面無げの形でルーフに叩きつける。
大型単車程もある鋼鉄の処女のボディは、まるでモグラ叩きのハンマーででもあるかのようにして顔面から衝突。
金属のひしゃげる鈍い音と共に、リムジンのルーフがへこんだ。

296執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:15:37 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「ひゃっ!?」

衝撃と共に、車内の天井が女の顔の形にへこむ。
心配そうに天井を見上げていたペニサスが悲鳴を上げた。

( 、 トソン「ぐ――む――」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「ほーらまだまだ行きますわよぉ――」

ルーフに叩きつけられた衝撃で僅かにバウンドするトソンのボディ。
その反動を利用し、ノインは再び身体をねじると、反対方向に向かってトソンのボディを振り下ろす。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「更生!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛清!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「矯正!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

297執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:16:21 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「更生!」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「矯正!」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛清!」

腕の一振り毎に啖呵を上げて、トソンの身体を玩具のようにして振り回すノイン。
正面、背面、正面、背面、と繰り返し何度も打ち付けられるうち、トソンの顔面の人工表皮が削げ、特殊カーボネイドの鈍いガンメタルカラーが露出し始める。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛!清!ッ!」

何十度目かのバウンドの後、ノインはひと際大きな掛け声と共に異形の右腕に力を込めると、流れ行くハイウェイのアスファルト目掛け、トソンのボディを思いきり投げ飛ばす。
人外の膂力によって、砲弾のように吹き飛ぶトソン。

('、`*;川「イヤアア!」

車載カメラの映像に、両手で顔を覆うペニサス。

(゚、メトソン「ヨ――ロ――」

激突まで、コンマ一秒と少し。
相次ぐ衝撃のせいで歪みの走るトソンの視覚野。
コンバット・データ・リンクが焼き切れる程の速度で打開策を検索。
未だに有線結線したままの背中のジェット・パックが、最大出力で燃焼ガスを噴き出した。
アスファルトに踵を擦りつけながら、トソンの身体がぎりぎりの所で浮上する。
ふらふらと頼りない動作で、空中で姿勢を制御する彼女のスーツスカートは、大きく焼け焦げていた。

298執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:17:45 ID:DGEbOzk.0
('、`*川「と、飛んだー!ヤッター!助かったー!」

起死回生の復帰を成し遂げたトソンに、車内のペニサスはガッツポーズを取る。
その隣ではワタナベが、涼しげな顔で三杯目のグラスホッパーを継ぎ足していた。

(゚、メトソン「……シイ状況――とは言えませんね」

待機状態を飛ばしての無茶なジェット噴射に、試作型ジェット・パックは今にも熱暴走を起こしかねない。
くわえて、先に受けた怒涛の打撃が与えた影響は決して少なくない。
トソンの視覚野の端に映し出される、ダメージ率を表す緑色のバーは、30%強を示して点滅を繰り返している。
車上への早急な復帰が最優先だった。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「ええい、小癪な!」

標的を仕留め損なった事を認め、ノインは左の手を宙空のトソンへ向ける。
心臓の鼓動のように、その手が脈打ち、右腕同様異形のそれへと変異していく。
異常に発達した右腕と比べ、左腕は一回り程細く、赤銀色の鱗に覆われた掌の中央には、ピンボール程の大きさの孔が空いていた。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「再粛清ッ!」

左腕の掌の孔が、まるで芋虫の怪物の口めいて開き、そこから白い液体の弾丸が放たれる。
超高速でトソンへと飛来するそれは、空気抵抗でブイの字に歪んでおり、
どうやら先に狙撃手の頭を一撃のもとに貫いたものと同様のもののようだった。

299執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:18:42 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「え?え?てっぽう!?」

(゚、メトソン「成程。体液射出ですか」

从'ー'从「ロマネスクさんも面白い“玩具”を作るねぇ」

飛来する液体弾を、トソンの視覚野は赤い三角形のターゲットマーカーで捉える。
有線直結により、思考速度と完全に同機したジェット・パックが、燃料タンクの左右に突き出した姿勢制御ノズルからジェットを噴射。
トソンの頭の脇の空気を貫いた液体弾は、対向車線の電光看板のLEDディスプレイに直撃し、
丁度下を通過しようとしたバイクの上に、液晶ガラスの雨を降らせた。

「うえうお!?アー!」

泡を食ったノーヘルメットのライダーの、インプラントだらけのスキンヘッドが環状ハイウェイに沈む。
スピンの後、クラッシュ。爆発炎上したバイクの残骸を避けようと、他の車両も次々とハンドリングを失敗してクラッシュ。
対向車線は一瞬にして混沌の坩堝に叩き落とされた。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛清ッ!粛清ッ!粛清ッ!粛清ッ!絶対粛清ッ!」

初弾を回避されたノインは、宙を漂うトソンへ向けて立て続けに液体弾を連射する。
ぶしゅっ、ぶしゅっ、ぶしゅっ。
体内で圧縮した空気により体液を吐きだす冒涜的な音。
思考速度とのタイムラグを駆逐したトソンのジェット・パックは、体液の機関銃掃射を、
必要最低限のジェット噴射により、絶妙な角度で回避していく。

300執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:19:27 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「落ちろ!落ちろ!落ちなさい、この劣等種ッ!」

それでも際限なく飛来する液体弾の全てを回避し切るのは鋼鉄の処女にも不可能だ。
何発かが掠り、スーツの肩や裾を引き裂いたと思えば、もう何発かが強かに直撃し、人工表皮を削り抉る。
一発一発は、特殊カーボネイドの頑健な装甲に傷をつける程のものではないが、
このまま宙に釘づけにされるとジェット・パックの熱暴走の可能性が肥大するばかりで危険だ。

从'ー'从『そろそろ決めちゃって』

(゚、メトソン「ええ、そうさせて頂きます」

メイン・ブースターの出力を強めると、今までリムジンと並走するように飛行していたトソンは空中で身を捻る。
液体弾の弾幕の中を錐揉み回転で避けながらの急上昇。
車上のノインは、その動きに咄嗟に反応出来ない。

∫ノイ;゚⊿゚)ン「なっ――!?」

一瞬の隙。
無理矢理に腕を上げ、直ぐ様照準をつけようとするノイン。
だが遅い。

急上昇の頂点。
熱暴走の危険も顧みず、ジェット・パックをオーバードライブさせるトソン。
慣性の法則を無視した急降下。
車上のノイン。
その頭上、斜め上から奇襲を駆けるトソン。
肉迫する二者。視線が、交錯する。

301執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:20:14 ID:DGEbOzk.0
(゚、メトソン「恐縮ですが、これで決めさせて頂きます。…恐縮ですが」

∫ノイ;゚⊿゚)ン「ッ――!?」

両手をクロスさせ、手刀を薙ぎ払いの型に構えるトソン。
咄嗟の防御に、異形の右腕で頭を庇うノイン。

雷撃の速度で振り抜かれる、トソンの両の手刀。
それが、防御するノインの右腕、赤銀色の鱗に触れる。
触れた、瞬間だ。

ごうっ。

先に撃ち抜かれた、交通看板の液晶モニタの残骸が、突如として炎を上げた。

(゚、メトソン「!?」

後方で起こったその不可解な現象を認識していたのは、恐らくその場ではノインだけだろう。
最も、彼女が認識していた、というのでは語弊がある。
彼女は初めから分っていた。
街頭看板が燃え上がる事も。

――無論、トソンの身体が、このタイミングで燃え上がる事も。

('、`*;川「な、なんでいきなり燃え――!?」

ノインに向かって空中から急降下をかけたトソン。
そのスーツに包まれた上半身が、轟々と逆巻く緑色の炎に包まれ炎上している。
不可解なのは、その炎が、彼女のスーツの内側から燃え広がった事だった。


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