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从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです Яeboot

1 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 05:30:51 ID:ytUFOiFEO

 

010100010110101010100100101110110101010001010101110

system setup

01010100100101101010010011000101010101001110010010101

server access

0100101101010010100010010111101011010010100100110

changed protocol

01010110101001010100011101010001110101101000101010101001

 

.

2 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 05:33:54 ID:ytUFOiFEO
0101011010010110101010010100101

「……これも因縁、かお」

0101001001001010010010001010010

「ヒトの驕りか…ならばこれは、バベルの塔だな」

0101001000100111010101010100101

「……オレ達は破壊と殺戮をバラまき、手前がこしらえた瓦礫の上にアグラをかいてる。その瓦礫の山を、振り返る事もなくな」

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「必ず殺してあげるから……」

01010110100101100010110100101010

「そうやって、忘れて行くんだ。何もかも、な」

01010101101010110110101101001010

「相変わらず吠える事だけは一人前ね。見苦しいったらないわ」

01010110110101101001011010010010110

「偽善者、いくじなし。私のことを救う覚悟もないくせに」

0101101001011001001001100010010110

3 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 05:36:30 ID:jEUte4TsO
えっマジで?

4 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 05:40:09 ID:ytUFOiFEO
0101010110100101101010010010

「ヘブンズゲート、一日限りの復活パレードだ」

01010010110110010011001010

「まったく…どいつもこいつも、死に急ぎやがって………」

010010011101100111001000111000110010

「ツンドラの地で磨かれた諸君らの氷の意志、黄色猿共に見せつけてやれ!」

01011001001100100011010101010100110110

「でもね、世の中には“楯突いちゃいけないもの”があるんだ」

0101010101001001101001001001001011010

「オレ一人じゃ…何も出来ねぇのかよ……」
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「……だから、貴様には私が居なくとも立派に一人でやって行けるようになってもらわなければ…」

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5 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 05:50:14 ID:ytUFOiFEO
01010100100110100101010100101001001

「……これは、私の罪だ」

010101010101010100100101101001010010

「君は、何処へ行こうとしてる?」

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「ジョーカーを…止めて欲しいんだお……」
010101000101001010

6 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 05:53:00 ID:ytUFOiFEO
0101011010010101001001100100100110

「それでも、可能な限りは貴様の側に居よう。動かなくなるまで。出来る限り」

0101010101101101001011010110100001101

「一部の、力を持った人たちだけが得をするなんて、こんなの絶対に間違ってる」

0101101001011010011010010010

「こんなの、絶対に許しちゃいけないんだよ」

01001011101001010010010110100110010

「――振リ返ルナ。タダ、嵐ノ夜ヲ往ケ」
0101010100101001001001001001001

7 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 05:57:04 ID:ytUFOiFEO
※※※※※※※※※※※※

commando prompt

 

C:\>

 

※※※※※※※※※※※※

8 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 05:58:55 ID:ytUFOiFEO

 

 

C:\>Reboot

 

 

.

9 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 06:03:44 ID:ytUFOiFEO
0101010100100100101001001010010

command accept

0100100100100110100100100010010

get lady

010101001001001001010010001001010

roboot reboot reboot

010101010110110010100100101100100

10 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 06:06:20 ID:ytUFOiFEO
※※※※※※※※※※※※

 

Hello, and welcome back

 

※※※※※※※※※※※※

11 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 06:08:29 ID:ytUFOiFEO

 

 

从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

      =Яeboot=

 

 

.

12 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 06:36:27 ID:C.I5fgP.O
えっ?




……えっ?

13 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 07:13:33 ID:QAEZfx4Q0
えっ?
マジで?

14 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 07:26:37 ID:bAtfHbz.0
うひぉおおお!

15 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 07:32:09 ID:Uo8tpxoMO
ふぉぉ!鳥肌たった!

16 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 07:44:43 ID:QzX5mkLkO
おかえり

何かタイミング良過ぎてスクォークの人と同一人物かとおもえる

17 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 07:51:16 ID:IwAzBS2MO
うおおおお!

おかえり!

18 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:16:46 ID:pisun.Qw0

 

0101010101101001010100100101101010
0101011011010100101011100100010011
0100100010111010101010011010010101
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※Nowloading※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※
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0101010101101010010101011010010101

19 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:20:48 ID:pisun.Qw0

………

……



insert disc to 「The common case」

///hava a nice dive!///

20 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:25:26 ID:pisun.Qw0

 

Purple haze all around

Don’t know if I’m comin’ up or down

Am I happy or in misery?

Whatever it is, that girl put a spell on me

 

……Purple Haze/Jimi Hendrix

.

21 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:26:57 ID:pisun.Qw0

 

从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

 =Яeboot=


「The, common case」

 

.

22 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:28:27 ID:pisun.Qw0


 
 
///disc.1///

 

.

23 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 08:28:47 ID:C.I5fgP.O
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
早起きしてよかったあああああああああああああああ

24 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:29:45 ID:pisun.Qw0

Prologue

 
――少年がそのショーウィンドウの前に立ち尽くしてから、もう三十分ばかりの時間が立っていた。
朝から振っていた雨が上がり、雲間からやっとこさ太陽が顔を覗かせた、それは日曜日の午後の事だった。

黄色いレインコートを着て、揃いの傘を小脇に抱えた少年は、小路を歩く人々の視線も意に介さず、小さなまなこをめいっぱいに大きく開いて、水垢のこびりついたガラスケースの中を睨みつけている。
うらぶれた通りの寂れた楽器屋。その展示ガラスの向うでは、年季の入ったテナーサックスが飾り台の上で鈍い光を放っていた。
金色の輝きを反射した少年の目が、ゼロの沢山ついた値札に注がれる。
レインコートのポケットからロケットのアップリケのついた財布を取り出すと、少年はその中身を覗きこんで溜息をつく。三十分ばかり前から数えて、これで七度目の溜息だった。

「おーい、お待たせー」

雨粒を跳ね上げて、もう一人の少年がそこにかけてくる。
青色のレインコートを着たその少年は、黄色いレインコートの少年よりも頭二つ分程背が高く、両の手にそれぞれアイスクリームを握っていた。

25 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:32:01 ID:pisun.Qw0
「はいこれ、お前の分」

息を切らせて走ってきた青色のレインコートの少年は、ショーウィンドウの前までやってくると、左手に握ったチョコミントフレーバーのアイスをもう一方の少年に差し出す。
黄色のレインコートを着た少年は、それを一瞥しただけで顔を戻すと、再びショーウィンドウの中へと目を向けた。
古ぼけた中古のテナーサックスは相変わらず鈍い光を放っており、値札に並んだゼロの数も変わることはなかった。

「欲しいのか?」

背中越しに掛けられた言葉に、黄色のレインコートの少年は返事を返さない。
ランドセルの中にしまったままの給食費袋の事を少年は思い出す。ここで「うん」と返事を返しただけで、どうにかなる様なものではないと知っていた。

「どうしても、欲しいのか?」

だんまりを決め込んだまま恨めしげにショーウィンドウをにらみ続ける弟に、青のレインコートを着た少年は微かに嘆息をつく。
彼の手に握られたチョコミントのアイスは、既に溶け始めていた。

「――あーあー。またバイト増やさないといけないなあ」

やぶからぼうのそのぼやきに、黄色のレインコートの少年ははっとして顔を上げる。
両手を頭の後ろに回した兄の視線は、明後日の方向を向いていた。

「今度は何にすっかなあ。やっぱ工事現場が一番稼ぎが良いかなあ」

わざとらしい口調でぼやきながら、青のレインコートの少年は罅の入った楽器店の自動ドアの方へ向かって歩いて行く。
自分よりも頭二つ分大きい兄の後を慌てて追うと、黄色のレインコートの少年はその背中に飛びついた。

26 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:33:12 ID:pisun.Qw0
「ホントに、ホントにいいの?」

「はあ?何のこと?」

必死な顔をして聞いてくる弟を振りかえってとぼけてみせると、青のレインコートの少年は両手のアイスを弟に渡し、楽器店のドアをくぐる。
カウンターでまどろんでいた店員を起こしてショーウィンドウの中のテナーサックスを指差す兄の様子を、黄色のレインコートの少年は先にショーウィンドウを見つめていた時よりも更に大きく開いた眼で見つめていた。

やがて会計を終えた兄は、黒いケースを手に下げ店から出てくると、弟の手に握られたチョコミントアイスを奪い取り、空いたその手に黒の楽器ケースを押しつけた。

「お前、荷物持ちな」

ぶっきらぼうに言い捨てる兄の言葉におざなりな頷きを返し、黄色のレインコートの少年は火がついたかのような動きでケースの留め金を外す。
年季の入ったテナーサックスが、雨上がりの陽光を反射して、金色に輝いた。
黄色のレインコートの少年は、兄の顔を見上げる。

「おい、ちゃんと閉まっとけ。落としたりしたら承知しないからな」

ばつの悪そうな顔で視線を逸らす兄に、頷きを返す少年の顔には、テナーサックス同様に光輝く、満面の笑みが浮かんでいた。

「ありがとう、兄ちゃん!」

ある、雨上がりの日曜日の午後の事だった。

27 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:34:39 ID:pisun.Qw0

#track-1

――四隅の両面テープ(あのホームセンターで売ってる特別強力なやつだ)を剥がしたところで、俺はそれをくるりとひっくり返すと、目線の高さに合わせて事務所の錆ついたドアに貼りつける。
黒塗りの真新しい表札の上には、流麗な筆記体で「D&H detective」の銀文字。
予想以上に様になっているじゃあないか。

('A`)「うむ、イッツ・ソゥ・オシャンティ。どこからどう見てもお洒落な喫茶店だ。
ブラックボードに本日のお勧めを書いてイーゼルに立てかけて置けば、女子大生の顧客獲得も容易いぜ」

努めて満足げな顔を作ると、一歩下がって新たな事務所の入り口を見上げる。
通りに面した木目調の壁には西洋風の窓が五つ等間隔で並び、その下で行儀よく整列した植え込みから見ても、かつてはここがバーか喫茶店かだった事を窺わせる。
正面から見て右側の端にある、こじんまりとしたポーチと青銅を模した色合いに塗られたドアなども、如何にもといった作りで、首を左右に振ったりしなければ、ウラバラ・ストリートの喫茶店と言っても差支えは無いだろう。

('A`)「――首を、左右に振らなければな」

現実から背けていた視線を無理矢理に戻して、ビルの両脇を見やる。
右側には「兎夢猫〜トム・キャット〜」のピンクの看板が下がったソープランド。左側には錆ついたシャッターが半開きになった違法バイオ端子屋(これは果たして営業しているのかどうかも怪しい)。
VIP特別指定政令都市、ニーソク区13番街。ここが、風俗街と非合法商店街の間に挟まれた胡乱な通りの中にあるという事実は、出来るのならば思い出したくはなかった。
最も、ウラバラ・ストリートそのものに事務所を構えるなんて、死んでも嫌ではあるが。

28 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:37:30 ID:pisun.Qw0
「おい、聞いてくれドクオ。私は今凄い事を発見したのだがな――」

背後から掛けられた声に振りかえる。

从 ゚∀从「貴様を貶める為に幾つもの悪罵のバリエーションを考え続けてきた私だったが、
このたび遂にこれ以上なんという呼び名で罵倒したらいいのか分らなくなった」

買い物袋を両腕にぶら下げた、馴染みの相棒の姿がそこにあった。

('A`)「いや、それは重畳。俺もここ最近は、君の罵倒に対してい
ちいち気のきいたジョークを返してやるのが億劫になってきててね。歳かね」

銀の髪に赤い瞳。何時も召しているゴシック・ロリータのワンピースは、夏に合わせてやや薄手のものになっている。
最も、彼女にとっては夏の暑さも冬の寒さもおよそ関係の無い事ではあるのだが。

('A`)「いい機会だし、これからは清純系女子っぽい口調になってもいいんじゃないかな」

从 ゚∀从「え〜?そうですか〜?そっちの方がいいですか〜?」

声音だけを妙に甲高く黄色に、相も変わらずの仏頂面で彼女はその色素の薄い唇を開く。
何時ものことながら、彼女は俺に「ある日突然、フードプロセッサーが女の子の声で喋ったらどういう気持ちになるか」というのを懇切丁寧に教えてくれる。
彼女の存在があるからこそ、俺は寂しい夜にセクサロイド専門の風俗店の自動ドアを潜る様な過ちを犯さないでここまでこれたと言っても、過言ではないだろう。無論、皮肉だ。

29 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 08:38:56 ID:bxItDSIMO
おおお!!おかえり!
待ってたよ!支援!

30 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 08:39:32 ID:QwE9i8sE0
今まで敬遠してたが鋼鉄の処女読んでくるわ

31 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:39:33 ID:pisun.Qw0
从 ゚∀从「で、それが新しい事務所の表札か?」

大きく膨れた買い物袋を提げたままの右手を上げて、相棒が俺の後ろを指差す。
彼女の視線は、俺が二時間をかけてやっとの思いで作り上げたあの表札を無感情な瞳で見つめていた。

('A`)「そ、ドクオ&ハイン、探偵事務所。だからD&H detective」

彼女の名前はハインリッヒ。特A級護衛専任ガイノイドに分類される、鋼鉄の処女、アイアンメイデン、所謂ロボット。
俺達は何でも屋。金さえ積まれれば、世の中の面倒事を一手に引き受ける、縁の下の力持ち。
飼い犬の散歩から庭の害虫駆除、護衛任務にトランスポート、相応のペイが望めるのなら、合法非合法は問わない。
真っ当な人間からしたら、言わばヤクザモノの商売だ。

从 ゚∀从「ドクオとハイン、というのでは少し語弊があるな。
     ドクオonハインでDoHか、もしくはハインwithドクオでHwDにすべきでは?」

('A`)「…まあ、お好きに」

从 ゚∀从「それと、detectiveというのもこのままでは表示詐称になる。実務内容から大きく逸脱しているからな」

('A`)「それじゃあ、キミの案は?」

从 ゚∀从「そうだな、分りやすさを追求して“生体廃棄物博物館”というのはどうだ?」

('A`)「いいね、的を射ている。これ以上ないくらいに的確だ」

从 ゚∀从「惜しむらくは展示品がドクオ一体のみな点だな」

32 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:41:15 ID:pisun.Qw0
('A`)「んで、言ってた通りの買い物は済ませたのか?」

日課の戯言に適当な返事をしてから、彼女の手にぶら下がった買い物袋を指差す。
帽子を被ったスカンクのマークがプリントされたホームセンターのビニール袋の口からは、食器やメタルラックなどがその顔を覗かせていた。

从 ゚∀从「買い物メモの象形文字を解読するのに手こずったが、他は滞りない」

右手の買い物袋を俺に押しつけながら彼女は憎まれ口「のような言葉」を使うが、彼女ほどの高性能な人工知能を有したアイアンメイデンが買い物メモを必要とするわけがない。
言わば、人間らしさの演出と俺の趣味を兼ねた手心というものだ。恐らく俺のこの行動は他人からは、理解しがたいフェティズムにも映るのだろう。

('A`)「よし、コーヒーもちゃんと買ってきてるな。オーケー、ここらで一つ一服をいれるか」

買い物袋の中を確認し、目当てのインスタントコーヒーの瓶を取り出すと、ハインに先じて新たな事務所の扉を開ける。
四十畳ほどの部屋は横に長く、奥にはバイオヒノキのバーカウンターと同じ素材の酒瓶棚、カウンターから見えるフロアには小さな木製テーブルが二席。
床の各所には未だに荷解きをしていないダンボールの山が転がって散らかっているとはいえ、かつてはバーか喫茶店が入っていたであろう、この新たな事務所の雰囲気を、俺はそこそこに気に入っていた。

从 ゚∀从「さて、今日ぐらいは私が茶の準備をしてやろう」

買い物袋をぶら下げたまま、バーカウンターの横合いから奥の厨房へと入っていこうとするハインに、俺は手にしたインスタントコーヒーの瓶を放り投げて、カウンターの隅に腰を下ろす。
既に自分の城であるとはいえ、真ん中に座るのは落ち着かないものなのだ。

33 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:42:56 ID:pisun.Qw0
「矢張り本格的な調理設備が整っているというのは良いものだな。腕がなる」

ビニール袋を漁る音と共に聞こえてくるハインリッヒの声に、「腕がなるのは関節の老朽化が原因じゃないのか」と胸中で呟く。
こないだの仕事が思ったよりも金になった為、戯れで準二級の調理プログラムの入った素子なるものを買い与えてみたが、果たしてこれは正解と言えるのだろうか。
一夜にして板前見習い程度の調理テクニックを身につけてからというもの、彼女は何かにつけて天然食材を買ってきては我が家の経済状況に小さくても決して無視できない打撃を与えるようになった。
その点の浪費については、しかし俺も常日頃から彼女に指摘され続けている為、真っ正面から抗弁する資格も無い。
何よりも以前よりも遥かに美味い飯が食えるようになったのは実際悪い事では無いとくれば、嬉しい悩みの部類に入るのだろう。

从 ゚∀从「お待たせしましたお客様、こちらモカ・ブレンドとレアチーズケーキになります」

わざとらしい口調で言いながらトレイの上にコーヒーとケーキを乗せてやってきたハインは、どういうわけかシックな給仕服に白いレースのエプロンを纏っている。

从 ゚∀从「昼は喫茶店、夜は何でも屋。そんな戯画的な雰囲気は嫌いか?」

なるほど。それもまた悪くない。

从 ゚∀从「貴様もどうせそのような雰囲気を期待してこの物件を選んだのだろう?」

('A`)「……分ってらっしゃるようで」

本場大英帝国も顔負けの動作でカウンターに置かれたコーヒーカップを、俺は左の手で包むようにして掴む。
感触を確かめながらゆっくりと持ち上げ、何とか口元まで運んだ所で、カップが粉々に砕けた。

34 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:44:39 ID:pisun.Qw0
从 ゚∀从「まだ、力加減が慣れないか?」

('A`)「ああ、そうみたいだ」

コールタールのように真っ黒なコーヒーで汚れたテーブルを、俺は右の手にダスターを握って拭いて行く。これで通算三度目の失敗だ。
生まれて初めてサイバネ義手なるものの世話になることとなってしまったが、矢張りこういうものに金を惜しんではいけないようだ。

从 ゚∀从「だからギーク12にしろと言ったのだ。いくらギュウキが
戦闘用の頑丈さを持っていようと、三世代も前のモデルでは日常生活に支障が出る」

('A`)「力加減は慣れればいいんだよ。頑丈なら、それでいいんだ」

俺の左手を覆う黒革の手袋の下には、クロームメタルの鉄板と配線が剥き出しになった武骨なフォルムが収まっている。
こんな商売をしているにも関わらず、今まではニューロジャック以外のインプラントの世話にならないで一生を終えるものだとばかり思い込んでいた。
ハインリッヒが何時も隣にいるからだろうか。実に、甘い認識だったと思う。
結果的に、サイバネ義肢をつけたことで、カスタムデザートイーグルの口径も義肢用に二周りほど大きくする事が出来たのは、怪我の功名という所か。

('A`)「大体、ここを借りるだけでも結構吹き飛んだんだ。その分、抑えるとこは抑えとかないとな」

从 ゚∀从「事務所と自分の左腕を同列で語るな。それだけ型が古いと、しょっちゅう整備しないとならないぞ。
      大体、貴様は金の使い所がおかしい。私に調理ソフトなどをインストールする余裕があるのなら……」

客観的な視点で実に的確なお説教が始まる。
最早日課になってしまいつつあることだが、自分自身も設定に関わっているAIに説教されるなんてのは、どうにもしまらないものである。進歩の無い所が、人間らしいとも言えようか。

35 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:46:17 ID:pisun.Qw0
('A`)「いっそ俺の頭の中身も定期的にアップデートされるようにならんもんかね……」

愚にもつかない戯言をぼやいた所で、懐が僅かに振動する。
よれによれたコートの内ポケットから携帯端末を取り出せば、そこには「非通知着信」の五文字。
傍らで小言の続きを垂れるハインに視線を送り、俺は受話ボタンを押した。

('A`)「はい、こちらD&H――」

「助けてくれ!追われている!」

思わず受話機から耳を離して顰め面を作る。
金切り声に近い叫びを上げる電話の向うの主。
それすらもかき消すかのように、ヘリのローター音じみた機銃の正射音が後に続いた。

('A`)「いや、いきなり助けてくれも何も先ずは――」

「何でも屋なんだろう!?金なら幾らでも払う!今すぐニーソク第五埠頭に来てくれ!大至急だ!」

銃声。続いて、爆発音。そして電話は切れた。

('A`)「……」

相棒を見る。

从 ゚∀从「却下だ。理由は言わずともわかるな」

('A`)「それも却下だ」

从 ゚∀从「理由は?」

俺は尻ポケットから財布を取り出してさかさまにする。
百円素子が三つ、新たな事務所の木の床を転がった。

36 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:47:34 ID:pisun.Qw0

#track-2

――黄色いドアを開いてドロイドタクシーの助手席に乗り込むと、ドライバーの中古ドロイドが骨格の剥き出しになった口から片言めいた日本語で警告音声を鳴らした。

〈-L-〉「お客様ノ座席は後部トナッテオリマス。恐縮デスが一度オノリカエノホドヲ――」

('A`)「やかましいんだよ、ポンコツ」

配線の剥き出しになった鉄板の顔面を、黒革の手袋に覆われた左手で殴りつけると、その首筋にジャックインケーブルを突き刺す。
視覚野に違法行為を示す「イリーガル」の赤い警告文が表示されるが無視。
“リッパー”を走らせてドライバードロイドの安いファイアーウォールをぶち抜くと、二秒のうちにドロイドの制御中枢を掌握した。

从 ゚∀从「ここまで行くとキセル乗車も堂々としたものだな。いっそ犯罪者に転向したらどうだ?」

('A`)「最初から似た様なものだろ」

从 ゚∀从「違いない」

軽口を叩く相棒が後部座席に乗ったのを確認して、俺はドロイドの脳核に行き先のデータを入力する。
ドライバードロイドがドラッグ漬けのロックミュージシャンめいてしわがれた電子音声を発した後、俺達を乗せたドロイドタクシーは、昼下がりのニーソクの交差点のど真ん中でUターンを決めると、猛スピードで発進した。

37 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:49:26 ID:pisun.Qw0
从 ゚∀从「しかし、名前も明かさぬ、予測される敵対勢力の情報も無い。
     これで幾らでも払うと言われて、はいそうですか、
     となる貴様の思考回路は雲一つない日本晴れのようだな」

('A`)「キミは学があるから諺にも詳しいだろ?いいか、溺れる者は――?」

从 ゚∀从「時々、何のために生きているか分からなくならないか?」

('A`)「言うな馬鹿。貧乏暇なし、下手の考え休むに似たり、考えるのはペイの支払いの時だけで十分だ」

後ろ腰のホルスターからカスタムデザートイーグルを取り出して、マガジンと薬室の弾丸、有線制御モジュールの正常動作を確認する。
バックミラー越しに見える相棒は、左腕のネイルガトリングの給弾ベルトを腕の中にしまって確認を終えた所だった。

最大効率を求めて即席でタイプされたプログラムに従い、ドロイドタクシーは制限速度を三十キロもオーバーした速度で公道を爆進する。
無茶な追い越しを繰り返す車体の窓越しに、煤けたネオン看板やサイバネ改造でごちゃごちゃしたパンクス達の頭が通り過ぎていく。
頽廃と享楽の街ニーソクは、ドロイドタクシーの暴走行為にも顔色一つ変える事無く、光化学スモッグの齎す淀みの底に沈んでいた。

('A`)「ここで一つ賭けをしようぜ。依頼人はどんな奴だと思う?」

从 ゚∀从「類は友を呼ぶ、と言う」

('A`)「交渉に失敗したヤクザか、預金残高の改竄に失敗したハッカーか」

从 ゚∀从「どちらにしろ、ボンクラだ。賭けにならない」

('A`)「ごもっとも、ってやつだ」

38 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:51:20 ID:pisun.Qw0
下らない毎日を構成するのには、碌でもない仕事と碌でもない依頼人、そして救いようのない俺。
何年続けても、これのうちどれか一つでも変わった試しが無い。
職業案内所へ行く気が起きないのもまた、それに拍車をかける。

('A`)「いっそ全てを投げ打って温泉旅行にでも行きたいと思わないか?」

从 ゚∀从「新しい事務所を借りる資金をそっちに回せばよかったじゃないか」

('A`)「その手があったか」

从 ゚∀从「たらればだが、もしそうしていたなら帰ってくる場所が無くなっていたがな」

('A`)「その時は旅先に骨を埋めるよ。キョート辺り、いいね」

从 ゚∀从「貴様との心中はご免被りたい。一人で涅槃でチークダンスでも踊っていろ」

機械との漫談も、慣れたものだ。
突き詰めていけば、全ては俺の独り言でしかないが、少なくとも孤独を誤魔化す程度には重宝している。
会話はこのとかく生きづらい世の中を渡る為の一種の精神安定剤だ。たとえそれが、機械とのものだとしても、だ。

下にもつかない“ひとり言”を繰り返しているうち、フロントガラスの向うに、コンテナや貸倉庫、無数の煙突やパイプを生やしたコンビナートの鉛色の威容が見えてくる。
石油資源の加工を目的とした施設が集中する、ニーソク区第五埠頭は昼夜を問わずに薄ら暗い。
光化学スモッグとそこから慢性的に降りしきる重金属酸性雨は、ここが出来てからというもの幾つもの公害問題の槍玉として挙げられてきたが、天下の渡辺グループ傘下の企業達がそれに対してまともに取り合う筈も無かった。
数年前まで盛んにデモ行進を行っていた労働組合も、今ではとんとその姿を見かける事も無くなって久しい。
“慰謝料”は幾ら程出たのだろうか?何処にでも転がっている、碌でもない話の典型だ。

39 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:53:10 ID:pisun.Qw0
('A`)「さて、クライアント殿はどちらに――」

ドライバードロイドに結線したまま首を巡らせていると、懐が再び振動。取り出して受話ボタンを押す。

「やっと来たか!遅いぞ!」

携帯端末を耳に当てると同時、今にも泣き出しそうな情けない声が飛び出してきた。

('A`)「これが最高速度でね、お客さん。既に棺桶に片足を突っ込んだ運転だったんだが、それについても別途の――」

「緑色のコンテナの下だ!早く!早くこっちに――」

銃声、銃声、後、爆発音。再び通話は切れる。
溜息をつきたくなるのを堪えて視線を巡らせれば、フロントガラスの向う、波打ち際にうずたかく積まれたコンテナの群れを背後に、二十人前後の人影とその間で閃く銃の火線が見えた。

('A`)「さて、久しぶりに荒い運転をするが、ジャイロの方は?」

从 ゚∀从「貴様の金銭感覚よりはバランスが取れている」

('A`)「オウケイ」

ドライバードロイドの操作をマニュアルコマンドに切り替え、オーディオのスイッチを入れる。
埃まみれのスピーカーから吐き出される、ノイズと区別のつかない野太いグロウル。
インディーズグラインドコアメタルバンド、「パペットマスター」のサードシングルのギターソロに合わせて、俺はニューロンの中でアクセルをめいっぱいに踏み込んだ。

40 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:54:43 ID:pisun.Qw0
唸りを上げて、ドロイドタクシーの黄色い車体が尻を振りながら走り出す。
向かう先は、コンテナの前に展開した鉄火場、そのど真ん中。
手に手にサブマシンガンやハンドガンを構えた黒服の集団が、招かれざる客である所の俺達を一斉に振り向いた。

('A`)「ヘイ、ヘイ、ヘイ、暴れ牛だ!マタドール気取りは止めとけよお!」

黄色の暴れ牛の突進に、黒服達の手のエモノが一斉に火を噴く。
乱れ飛ぶ銃弾の雨あられ。火花と共にボンネットがチーズめいて穴ぼこを晒し、フロントガラスに蜘蛛の巣が這う。
サイバネ義手の左でフロントガラスをぶち破って視界を確保した瞬間、右の頬を銃弾が掠めた。

「なんだこいつは!?」

「ざっけんな畜生め!撃て撃て!撃ちまくれ!」

車体を伝う肉の感触。鈍い衝突音の度に、ぶれる車体。
ごっ、ごっ、ごっ。三人引っかけた。後部座席のハインが、前のシートに頭をぶつける気配がする。

銃弾の猛攻は止まない。閃く火線にサイドミラーが千切れて吹き飛んだ。
横の窓を突き破って、銃弾が車内にまで飛び込んでくる。
頭を低くした瞬間、隣の運転席でドライバードロイドの不細工な頭が弾け飛んで、機械油の汚らしい茶色の飛沫が飛び散った。
有線結線の弊害で、フィードバックが俺の脳髄を駆け抜ける。
鼻の奥で熱い感触。ニューロンを丸ごと焼き切られなかっただけでも儲けものだ。

('A`)「ファックオフ!」

左の手の甲で鼻血を拭いながら、右の手でお留守になったハンドルを握る。
幸か不幸か、アクセルは全力で踏みぬかれたままだ。
舞飛ぶ怒号と銃弾の嵐の中を、スクラップ寸前の黄色い車体はコンテナ目掛けてフルスロットルで突っ込んでいく。
風通しのよくなったフロントガラスから、緑色のコンテナの山の下で頭を抱えて蹲る人影が見えた。

41 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:57:18 ID:pisun.Qw0

('A`)「ビンゴォ!」

右の足で無理矢理にブレーキを踏みつけながら、ハンドルを思い切り右に切る。
パンク寸前のタイヤがバンシーめいた金切声を上げて、車体がドリフト旋回。
ギリギリの所でコンテナにぶつからずに停止した。
止まない銃声の中で、ハインリッヒが後部座席のドアを開けて、よれよれのコートとハンチング帽を召したクライアントを片腕で車内に引きずり込む。
ドアが閉まった事も確認せずにブレーキを離し、俺は車体を急発進させた。

('A`)「待たせたね、お客さん。まだ脳核は無事かい?」

(;´_ゝ`)「ああ、お陰さまでご健在だよ畜生!地獄に仏とはこの事だ!」

再び黒服の集団へと突進を始めるタクシーの車内で、バックミラー越しにクライアントの姿を確認する。
茶色の薄汚れたトレンチコートと、同色のハンチング帽を被って大きな黒革のバッグを抱えた男は、齢にして三十代の半ば程だろうか。
煤と埃で汚れた顔には幾つもの皺が刻まれており、見ようによっては四十後半から五十代にさえも見える。
粗末な服装とも相まって、くたびれ切った雰囲気の拭いきれない所などは、如何にも与太者然としていた。
後生大事そうに抱えている手元の鞄には幾ら入っているのだろうか。
皮算用を始めそうになる自分を、俺は胸中で戒めた。

('A`)「安心するのはもうちょっと先にしてくれ。あと、頭を低くな」

再び黒服達へと突進を開始した車体を、銃弾の雨が叩く。
後部座席へとハンドシグナルでゴーサイン。
同時、水を得た魚のようにドアを蹴破り、一羽の隼めいてハインリッヒが車外に飛び出した。

42 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 08:59:03 ID:pisun.Qw0
(;´_ゝ`)「お、おい!あんな女の子一人置き去りにして、大丈夫なのか?」

('A`)「当然の反応、ドーモ。だがアイツに限ってはそんな心配はいらない。
少なくとも、そこらの戦車よりは丈夫に出来てるんでね」

銃弾に食いちぎられて殆んど原型を留めていないバックミラーの中では、アスファルトの上で転がった鋼鉄の処女が、今しも立ちあがって背中から長物を取り出そうとしている。

从 ゚∀从「やれ、残飯処理は何時も私と言うわけだ」

地上に顕現した死の天使のようなハインの姿に、泡を食いながらも小銃を構える黒服達。
黒銀の風となった鋼鉄の処女の、ダンス・マカブルが始まった。

(;´_ゝ`)「ジーザス…こいつは驚いた…こいつぁまるで――」

あっけにとられて溜息をこぼすクライアント。
血飛沫に真っ赤に染まったバックミラーから視線を前に戻して、俺はハンドルを左に切る。
猛牛の突進をかわして安心していた黒服の一人をバンパーで跳ね飛ばし、進路を埠頭の出口に向けた。

('A`)「それでだ、お客さん。あんたを三途の川のこちら側まで連れ戻す前に、運賃についての相談なんだが……」

( ´_ゝ`)「ああ、ああ、そいつについては安心してくれ。
今の俺はアラブの石油王みてえなもんだ。幾ら欲しい?吹っかけてくれても構わんぜ?」

('A`)「五、いや必要経費も含めて八って所か」

( ´_ゝ`)「お安い御用だ!もってけ泥棒!」

43 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:00:45 ID:pisun.Qw0
頭の横から生の札束が突き出される。
目の前に飛び出してきた黒服を跳ね飛ばし、札束をむしり取る。
数えるまでも無い厚みだ。

('A`)「ヘイ、桁が間違ってるぜ、お客さん。八十じゃない。八百だ」

( ´_ゝ`)「へへ、ジョークだよ、ジョーク。面白くなかったか?」

('A`)「ああ、悪いが笑えねえな」

( ´_ゝ`)「悪かったよ、ほら、そんなにかっかしなさんな」

黒革の鞄から更に札の束を引っ張り出すクライアントの手元を、バックミラー越しにそれとなく観察する。
生の札束の山と、色とりどりのキャッシュ素子の群れの中に、白い粉の袋が幾つか散見された。

( ´_ゝ`)「ほれ、小遣いだ!大事に使えよ!」

再び差し出される札束。今度のは厚みも十分にある。
俺は後ろ腰のカスタムデザートイーグルの安全装置を掛け直した。

从 ゚∀从『残飯処理が完了した。追跡の心配は、今のところは無い。合流地点は?』

('A`)『オーライ。取りあえずかぼちゃの馬車を処分する。五つ区画を離した埋立地で落ち合おう』

短く返事を返す相棒を確認し、脳核通信を終える。
ガタピシ唸るエンジン音に紛れて聞こえていた銃声も、確かに鳴りやんでいた。

俺達を乗せた元ドロイドタクシーは、工場区画の裏道を進んで行く。
鉄と鉄のぶつかり合いと、機械の駆動音の騒々しさに満たされた狭苦しい道に、人の姿は見られない。
どれだけオートメーション化が進んでいるのかは知らないが、ここいらの工場は規模の割には従業員数が少ないらしい。学歴の無い人間にはとかく生きづらい世の中だ。

44 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 09:01:25 ID:1R/fa1ao0
おかえりいいいいいいいいいいいいい

45 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:02:45 ID:pisun.Qw0
('A`)「――で、だ。これからこのタクシーを処分するわけだが、お客さんはどちらまでの送迎をご希望で?」

後部座席でバッグの中の金勘定に夢中になっていたクライアント殿が、はっとしたように顔を上げる。

( ´_ゝ`)「何処までかって?ハッ!これだけありゃあ何処まで行ける?
     どこまでだって行けるだろうよ!キョート、カルイザワ、いや、なんならタヒチだっていい!」

('A`)「冗談は今は置いといてくれ。ビズの話だ。
   実際、あんたがそんな大金をどうやって手に入れたのかは知らんが、追手の事を考えたらそれなりに高跳びせにゃならんだろう?
   無論、その場合は別プランって事で別途料金の請求をさせてもらうがな」

( ´_ゝ`)「追手!ハッ!あいつらが!あのケチなヤクザ気取り共にそんなのを出す余力なんざ残ってないさ!
     ゆすり、ゆすり、集金のピンハネ、またゆすり!実際、それくらいしか手が出せねえのさ!
     デカイ後ろ盾があるわけじゃあねえ!ワンマン運営さまさまだな!」

鼻息も荒く一息にそこまでまくし立てると、男は鼻を鳴らして中身の飛び出したシートに深く身を沈める。
皺の寄った口が僅かに開き、そこから深いため息が漏れた。

( ´_ゝ`)「――下らない商売さ。何時までも続く訳がねえ。西村が仕切ってた頃とは違うんだ。
     大陸の奴らと張り合おうなんて、どだい無理な話さ。意地とか言ってても、馬鹿を見るだけだって気付きもしねえ。おめでたい連中さ」

46 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:04:23 ID:pisun.Qw0
男はトレンチコートの内ポケットから一箱180円の「綺羅星」を取り出すと、使い捨てライターで火を灯す。

('A`)「悪いがここは禁煙だ」

俺の言葉に構う事も無く、男は一口目を大きく吸い込むと、灰をバックシートに落とした。

( ´_ゝ`)y‐~「五年も前からとうに潮時だったのさ。さっさと切り上げるべきだった。
       この商売で一番大事なのは何か分るか?」

('A`)「さてね」

( ´_ゝ`)y-~「引き時だよ。そいつを見誤った奴から死んでいく。実際、あいつらは死んで、こうして俺は生きている。そうだろう?」

('A`)「かもな」

板金加工工場の角を左に曲がると、合流地点である所の埋め立て地の看板が見えてくる。
脳核通信で相棒に適当な連絡を送ると、俺は欠伸を噛み殺してオーディオのスイッチをまさぐる。
耳が寂しいと思っていたら、先の銃撃でカーステレオはダメになっていた。

( ´_ゝ`)y-~「長く続ける商売じゃあねえ。そこんところを弁えてンだ、俺ぁ。
       地獄のあいつらには悪いが、俺は一足先に上がらせてもらうってわけさ。
       退職金もたんまり貰った訳だし、ちまい喫茶店でも開いて隠居と洒落込ませてもらうさ」

顰め面で最後の一口を吸い終えると、男は風通しのよくなった窓枠に煙草を押しつける。
安い火の粉が僅かに舞い、光化学スモッグやその他諸々の汚染物質を含んだ潮風に嬲られ後ろに流れた。

( ´_ゝ`)「後ろ暗いだけで碌な事がねえ。あんたも、さっさとこんな商売にはケリをつけた方がいいぜ」

俺は適当に相槌を打つ。この男の戯言にはうんざりしていた。

47 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:06:07 ID:pisun.Qw0
('A`)「つまり、俺もあんたも尻拭いの手間を考えなくてもいいってことか?」

( ´_ゝ`)「ま、そう言う事だ。あの嬢ちゃんに撃ち漏らしが無けりゃな」

('A`)「それについては問題ないさ」

俺が言うのと同時、バックミラーにゴシック・ロリータ・ファッションの死神の影が映る。
返り血に汚れたそのワンピースのクリーニングの事を考えていると、オンボロの車体が強い衝撃に揺れ、ルーフがへこんだ。

(;´_ゝ`)「うおっ!?なんだ!?撃ち漏らしは無いんじゃなかったのか?」

('A`)「おい、ムービーホロじゃねえんだ。演出をサービスするこたあねえぞ」

从 ゚∀从「そうだったか?」

鋼鉄の処女が、運転席の窓から首だけを出して車内を覗く。
後部座席で目を丸くするクライアントにウィンクを投げかけると、ハインリッヒは運転席にへばりついたままのドライバードロイドの残骸を片腕で引きずり出し、そこに滑り込んだ。

('A`)「随分と遅かったじゃないか」

从 ゚∀从「新しい兵装の運用方針を試していた。多人数相手なら弾薬費と修理費を天秤にかけても使う価値があるな」

('A`)「そいつは良かった。最も、えり好みしてる余裕なんざ無いがね」

从 ゚∀从「それについては、彼次第という面もあるのでは?」

48 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:08:11 ID:pisun.Qw0
唐突に水を向けられた事で男は瞬きを繰り返していたが、直ぐに首を振った。

(;´_ゝ`)「ヘイ!ここまでの仕事の分はさっき渡したばっかだろ!?
      いくら退職祝いだからって、これ以上は出せねえぞ!俺の新生活の元手なんだ!」

从 ゚∀从「そうなのか?」

('A`)「ああ、ペイの支払いは済んでる」

从 ゚∀从「それを踏まえて、ということか?」

俺が無言を貫いた事で、男がにわかに慌てだす。

(;´_ゝ`)「おい、冗談じゃないぞ!まさかこれ以上俺から揺すろうって言うのか?
      俺が金を持ってるから、吹っかけようってタマか?ああん?」

('A`)「いや、別にそういう訳じゃないが……」

(;´_ゝ`)「止めろ!もういい!ここで下ろせ!冗談じゃないぜ!」

男のわめき声に合わせて、鋼鉄の処女がブレーキを踏みこむ。
フレームだけで走っていたような車体が、悲痛なうめき声をあげて急停車。
男は既に閉まらなくなったドアを蹴り開けると、黒煙を上げる工場の裏の路上に転がり出た。

(;´_ゝ`)「ガッデム!忌々しいチンピラ共が…ゴロツキを頼ると碌な事がねえ……」

黒革の鞄を両腕でかき抱きながら、男はおぼつかない足取りで路地の暗がりへと歩いて行く。
俺と相棒は、そのよれたトレンチコートに包まれた曲がった背中を、ボロボロのタクシーの中から見送った。

49 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:09:41 ID:pisun.Qw0
暫くの間、俺達は肩で息をするようなアイドリングの中で、おしのように黙っていた。
遠くで、パワーショベルがのそのそと動く音がしている。
やがて、口が寂しくなったので、懐からマルボロを取り出して火を点けた。

从 ゚∀从「――で、幾ら貰ったんだ?」

最初に口火を切ったのは鋼鉄の処女だった。

('A`)y-~「800」

从 ゚∀从「800!ハッ!」

鋼鉄の処女は器用に鼻で笑う。

('A`)y-~「組の金を横領しようなんて考えるヤツにしてはそこそこだと思わんか?」

从 ゚∀从「事務所の移転費の足しにもならない。ネイルガトリングを使わずにいて正解だったな」

('A`)y-~「キミのメンテナンスは……」

从 ゚∀从「誤魔化せるのは再来週までだろうな」

('A`)y-~「やれやれだな……」

溜息をつくと、ダッシュボードにマルボロを押しつけて発車を促す。
老人が堰きこむようにして走り出した車体から、ホイールが外れて乾いた音を立てた。
気のせいか、頭の奥が微かに痛む様な気がした。

50 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:11:51 ID:pisun.Qw0

#track-3

――ドロリとした喉越しのそれは、酒と言うよりかはトマトジュースを飲んでいるような感覚に近い。
グラスの縁に塗られた湖沼の味が、ピリリとした後味を気持ちばかりに残すが、正直な感想を言わせてもらうのならば、あまり美味いとは思えなかった。

∬´_ゝ`)「――それでヨ?こっからが肝心なのヨ。ソイツ、なんテ言ったと思う?」

从 ゚∀从「……さてな」

∬´_ゝ`)「“妻とは別れる!これからは君一筋だ!この指輪に誓うよ!”」

从 ゚∀从「……ほう」

∬#´_ゝ`)「ジョーダンじゃないってんだワヨ!ソーイウことを言ってンじゃないってのヨ!
     妻が居るんだったら付き合う前から言いなさいッテことヨ!」

从 ゚∀从「……ああ、うむ」

∬´_ゝ`)「それをアータ……これじゃアタシが道化みたいじゃない?ネエ?アータもそう思わない?」

从 ゚∀从「それはご愁傷様だったな」

∬´_ゝ`)「ネッ!ネッ!アータもそう思うでショ?」

51 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:13:06 ID:pisun.Qw0
唐突に水を向けられ、手元のグラスから顔を上げる。
ファンデーションや頬紅をべたべたに塗りたくった、五十路前の中年ママのどぎつい顔が、俺を覗きこんでいた。

('A`)「――ん?ああ、いや、すまん。聞いてなかった」

∬´_ゝ`)「ンモー、まーたコレよ。コレ。コレだからアータは女の子にモテないのヨ!」

从 ゚∀从「それだけが原因ではないだろうがな」

('A`)「――るせえ。ほっとけ」

∬´_ゝ`)「モー、ヤーダー!コーワーイー!」

酒に焼けてしわがれただみ声で芝居めかすと、常連客達から“姐者”と呼ばれるくたびれたママは、自分の手元の芋焼酎を一息に煽った。
抑えめの照明がカウンター席とホールに二つばかり設置された店内には、客達がグラスを傾けてささやかな享楽を楽しむ音がぼんやりとまどろんでいる。
日付変更間際のバー「コシモト」は、居酒屋特有の騒々しさや、洒落込ましたバーの気取ったようなところとは無縁の独特な雰囲気を、今夜も保っていた。

∬´_ゝ`)「……デネ、コレがその時の指輪」

姐者がカウンター向うのシンクの縁から飾り気のないシルバーリングを取ってくると、俺の右隣に座るハインリッヒの前に置く。
仄かな電球照明を受けて鈍い光を照り返すリングは、長い年月の中で随分と摩耗してしまっているようで、内側に刻まれていたであろう二人の名前は掠れて読めない。
未だにこの“姐者”の本名を知らない俺だが、今回もそれを知る機会は無さそうだった。

52 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:15:11 ID:pisun.Qw0
∬´_ゝ`)「やッすいリングよ。イミテーションシルバーなの。渡辺の百貨店だってもっとマシなのが買えるワ」

从 ゚∀从「――その割には、大切にしているようだが」

∬´_ゝ`)「……そうネ、馬鹿な話ヨネ。こんなオモチャ、何時までも持ってたってしょうがないのにネ」

从 ゚∀从「いや、そういう意味で言ったのでは――」

∬´_ゝ`)「イイの、分ってるワ。アータはそういう子じゃないもの。ただ…ううん、何でもないワ」

独特のイントネーションで鋼鉄乙女の言葉を遮ると、姐者は懐かしむようにシルバーリングの表面を撫でてから、再びシンクの縁にそれを戻す。
話の流れは聞いていなかったから分らないが、何となくそういう事なのだと思った。

∬´_ゝ`)「アータも気をつけるのヨ。顔や性格が良いからッテ、直ぐに男を信用しちゃダ・メ。
     アイツら、こっちが何も知らないと思ッテ、裏では何やッテるんだか分ったモンじゃないンだかラ!」

从 ゚∀从「んん、ああ…はあ…」

∬´_ゝ`)「アータみたいなカワイイ子は特に注意しナきゃダメ。
     男なんテ蠅みたいにたかってくるけど――アラヤダ、喩がバッチかったワネ――
     その内碌な奴なンテ、ホンの一握りヨ!」

从 ゚∀从「……ああ、うん、うん」

53 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:16:39 ID:pisun.Qw0
∬´_ゝ`)「そこのヘチャムクレだって、ハードボイルドを気取ってるけど、何考えてるんだか分ったモンじゃないのヨ?
      変な事されそうになったラ、直ぐにアタシに言いなさいネ?」

从 ゚∀从「それについては日頃より心得ている」

('A`)「やかましいわ」

このこじんまりとした飲み屋のママにおいては、鋼鉄の処女たるハインリッヒの素性を明かしていない。
無論、それは姐者だけにとどまるわけではなく、商売柄、何処で敵を作って何処に敵が潜んでいるかが分らない以上、無闇矢鱈にアイアンメイデンを所有しているなどと吹聴するのはいただけない。
それ以前に、お役所に対して彼女の所持を正式に届け出ていないという事の方が、理由としては遥かに大きなウェイトを占める。
叩けば埃の出る身は何かと辛いものだ。

∬´_ゝ`)「もしも辛くなったラ、何時でもアタシのトコ来なさいネ。     アータ、トッてもカワイイから、お客さンもきっと喜ぶワ」

从 ゚∀从「今すぐでも問題ないか?」

∬*´_ゝ`)「ヤーダー!ホントにィー?モチロン大歓迎よォー!」

('A`)「……」

最早口を挟むのも面倒になり、未だ半分も残っている手元のグラスに口をつける。
トマトの匂いに顰め面を作りかけたその時、ドアベル代わりの風鈴が何時もより騒々しい音を立てた。

54 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:18:03 ID:pisun.Qw0
∬´_ゝ`)「いらッシャーい。ごめんネェ、今カウンターしか空いて無いのヨォ。それでもいいかしらン?」

「――だぁとよぉ。大丈夫だよなあ?」

「アーちゃんと一緒なら何処だっていい〜」

「だはは!こ〜いつぅ〜!」

手慣れた風に出迎える姐者に、新たな客のアベックは喧しく答えると、荒く覚束ない足音を立ててこちらへと近づいてくる。
既に何軒か回ってきたのか、玄関からここまで来る間にも呂律の回らない口調で囁き合う二人は、この店で見かける中では珍しい部類の人種のように思われた。

∬´_ゝ`)「ンデ、何にしまショウか?」

「ジンだ!きっついジンをな!しこたま頼む!」

「あたしモスコミュール〜」

新たな客達が俺から左に二つ離れた席にどっかと腰を下ろしたのを耳で確認しながら、手元のグラスに目を落とす。
脳核時計のデジタル表示は、深夜の一時を回った所。
閉店までの残り一時間程を、この騒々しさの中で過ごすのかと思うと、少しばかりも溜息をつきたくなった。

55 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:19:29 ID:pisun.Qw0
「でね〜、ヨシコがねえ、彼氏にジョージ・ヤマモトのバッグを買って貰ったって自慢してくるんだケドさぁ〜」

「ジョージ・ヤマモトォ〜?あんなのコケオドシだろォがあ。俺だったらもっとこう…ルシオ・タバタモリとか、選ぶ所だ」

「ええ〜、でもルシオって高すぎない〜?英国王室御用達なんでしょ?アタシじゃ手が出ないっていうか――」

「はんっ!ルシオの一つや二つ、俺が買ってやンよぉ。何がいい?ネックレスか?バッグか?それともドレスがいいか?」

「キャー!ホントにィ〜?嬉しぃ〜!…でも、大丈夫?」

「バ〜カ。俺を誰だと思ってンだよ。金ならはいて捨てるだけ余ってンだよ」

「スッゴーイ!流石アー君だ〜!」

∬´_ゝ`)「ハイ、モスコミュールと、ジンのキッツイのしこたま」

「おーし、じゃあイッキ行ってみるぜえ〜!」

「イェ〜イ」

姐者の化粧以上にけばけばしいアベックの会話に、微かな胸焼けを覚え、身ぶりで水を頼む。
差し出されたそれを一気に飲み干して、氷の残ったグラスを額につけると、ゆっくりと目を閉じた。
瞼の裏で、ちりちりとしたノイズが瞬き、一つの像を結ぼうとするが、歓楽街のネオン看板のような隣の話声がそれを遮る。
――今日はもう引き上げるべきか。
財布を探してコートの内ポケットに手を伸ばしたその時だ。

56 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:21:00 ID:pisun.Qw0
「アー!アンタ!アンタだよアンタ!」

にわかに上がった素っ頓狂な声に右隣りを見ると、そこに何処かで見た顔があった。

(*´_ゝ`)「アンタだよな!?ああ、確かにアンタだ!そのセツは世話になったなあ!俺だよ!俺!」

('A`)「……ん?」

一体何処で見た顔なのか、と首を捻りかけた所で思い出す。
二か月程前、駆け込み乗車よろしくトランスポートしてやったあの男だ。
直ぐに思い出せなかったのは、男がデザイナーズブランドのスーツに身を包み、整髪料で頭を撫でつけた、あの時とは随分違った井出達をしていたためだ。

「ん〜?お知り合い〜?」

毛皮のコートにワンピースドレスを着た連れの女が、アルコールに緩んだ顔を覗かせる。
頭の上でサザエのようになった髪から見ても、水商売の女のように見えた。

(*´_ゝ`)「ああ、コイツァ――っと、このお人は、俺の昔馴染みで…命の恩人、みてぇなモンだ。だよな!?」

('A`)「ん?ああ、どうだろうな……」

馬鹿正直に肯定するのも何だか間抜けに思えて、おざなりにお茶を濁す。
二人はそんな俺の反応をさして気に留めた様子も無く、酔っ払い特有の胡散臭い笑顔を浮かべた。

57 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:22:27 ID:pisun.Qw0
(*´_ゝ`)「あん時はヒデえこと言っちまったけどよ…思えば、今の俺があんのもアンタと、アンタの相棒の活躍あってこそだよな」

「ってことはァ、アタシとアーくんが出会えたのも、この人たちのお陰ってこと?」

(*´_ゝ`)「そーいうこったあな!」

「キャー!スゴーイ!」

必要以上に大げさな声を上げて二人は顔を見合わせると、互いに蛸のように唇を突き出して、何やらむにゃむにゃと睦言のようなものをかわしあう。
何としてこの場から立ち去ろうかとぼんやりと思案を巡らせていると、男の方がやおら俺の肩を抱いて、酒臭い顔をぐいと近付けてきた。

(*´_ゝ`)「アンタに乾杯だ!今日は奢らせてくれ!何がいい!?何を飲む!?」

('A`)「いや、俺はもうそろそろ……」

(*´_ゝ`)「ええい、もう何だっていいぜ!これだけあれば足りるかい!?」

俺の言葉にも構わず男は身を捩ってスーツの内ポケットから長財布を取り出すと、その中から大量のクレジット素子をカウンターに叩きつけた。
グラスを拭きながらひいふうみいと素子を数えていた姐者が、口紅を分厚く塗った口を阿呆のように開けて俺を見やる。
俺はそれに眉をしかめてみせた。

58 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:24:20 ID:pisun.Qw0
('A`)「悪いが、これは受け取れ――」

(*´_ゝ`)「だああ!遠慮なんてらしくねえぜ兄弟!そうだろう!?
     アンタは俺の恩人で、俺は恩返しがしたい!ただそれだけのことさな!」

('A`)「しかし――」

「ねェ〜アタシそろそろ眠くなってきちゃった……」

(*´_ゝ`)「お?お?しょうがねえなあ〜。じゃ、そういうことだからよ!閉店まで楽しんでくれよな!」

しなだれかかる女を受け止めながら、男は自分達の分の勘定をカウンターに叩きつけ、くんずほぐれつ、千鳥足で店を後にする。
来た時と同じように、ドアベル代わりの風鈴が喧しい音を立ててドアが閉まると、店内には台風が過ぎ去ったあとの様な静けさが訪れた。
去り際にちらりと見えた二人の首筋には、三角形のように三つ並んだ注射針の痕が窺えた。
酒だけじゃなかったのか、と得心がいった。

∬´_ゝ`)「何したのか知らないケド、アータついてるわネ。
     これだけあれば、今年いっぱいはアタシとタダ酒が飲めるワヨ」

カウンターの上のクレジット素子を数え終えた姐者が、出目金のように目玉を大きくして言う。

('A`)「そいつは大いに結構な事だね」

沈むようにどっかりと席に腰を下ろすと、胸ポケットからマルボロを取り出してくわえる。
何もしていないのに、無性に疲れを感じた。

59 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:25:44 ID:pisun.Qw0
カウンターの隅、クレジット素子の山の陰から「コシモト」と書かれた紙マッチを手にとり、火をつけようとした所でふと姐者の顔を見上げる。
グラスとダスターを握った彼女の視線は、先の二人組が出て行ったドアを呆けたようにして見つめていた。

∬´_ゝ`)「……」

('A`)y-「どうかしたか?」

∬´_ゝ`)「ンエ?ああ、いいエ、何でも無いのヨ」

俺の言葉に姐者は我に返ったように首を振ると、再びグラス磨きに戻る。
紫のスパンコール柄という時代錯誤も甚だしいスーツを着た彼女の肩越しに、シンクの縁のシルバーリングが何となく目に入った。
俺は黙ってマッチを擦った。

∬´_ゝ`)「それよりアータ、何時まで一つのグラス握ってるのヨ。洗い物済ませちゃイたいカラ、早く空けちゃッテよネ」

言われて手元のグラスに視線を落とす。
とうの昔にグラスの中の氷は溶け切っており、半分ほど残ったブラッディメアリーは、血の色からは程遠いニンジンのような色合いになっていた。
なるたけ握りつぶさないように煙草を左の手に持ち替えると、水滴だらけのグラスを握って残りを飲み干す。
予想通り薄くなりきったトマトの味が口の中いっぱいに広がり、俺は自然と顰め面を作ることとなっった。

60 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:27:09 ID:pisun.Qw0
('A`)y-~「……こんなのを好き好んで飲む奴の気が知れないね」

∬´_ゝ`)「ハァ?アータ何言ってるのヨ?」

('A`)y-~「いや、何でも」

口直しに、震える手でマルボロを一口吸いこむ。
トマトとヤニの味が口の中で混じり合い、よりいっそう苦々しい味わいとなる。
半分も吸わないうち、俺は灰皿にマルボロを押しつけた。
夜が、更けていく。

61 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:28:22 ID:pisun.Qw0

#track-4

――吹きすさぶビル風が背筋を震わせて、思わず両手に息を吹きかける。
吐きだしたそれが白い色に染まっているのに、少なからずの驚きを覚えて、空を見上げる。
光化学スモッグに覆われた、万魔殿外周区の空は、相も変わらずどんよりと曇り、その向うにある筈の星の輝きも見当たらなかった。

('A`)「そろそろ、雪が降り出すかね」

視線を前に戻して、崩れかけたコンクリート壁に背中を預ける。
ひんやりとした感触がコート越しに伝わり、反射的に首をすぼめた。

从 ゚∀从「ヒマワリネットによれば、もう三日ばかり先だという事だ」

('A`)「今年もあの黒いのを見るのかと思うと、それだけで滅入っちまうね」

从 ゚∀从「メンテナンスの回数も増えるな」

('A`)「……やんなるね」

足元の暗視ゴーグルを取り、建設途中で放棄されたマンションの廃墟を見渡す。
三時間前から何度同じ動作を繰り返した事だろうか。
こうも動きが無いと、集中力が途切れて余計に寒さが気になる一方だ。

('A`)「本当に、来ると思うか?」

从 ゚∀从「ビッグ・ダディの弁を信じるなら、ここが取引場所と見て間違いない。
     少なくとも張り込むポイントの座標を間違えた訳ではないことだけは確かだ」

从 ゚∀从「「誰かさんと違って、私が地図を読み間違えるようなことは決してないしな」」('A`)

62 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:30:03 ID:pisun.Qw0
傍らにしゃがみ込んだ鋼鉄の処女の仏頂面が、俺を無言で睨みつける。
俺は肩を竦めてみせた。

('A`)「――しかしだ。あのオッサンも一応はここの主みたいなもんなんだろう?
   腕の方も憶えがあると聞くしよ、俺達が出張る必要も無かったんじゃないのか?」

从 ゚∀从「彼は既に売人達に面が割れている。それに、別件の方で立てこんでいるとか」

('A`)「……まあ、ここときたら厄介事のネタには事欠かないだろうしな。そういうことならしょうがないか」

从 ゚∀从「ここが今年最後の稼ぎ時だ。凍え死なずに年を越せるかどうかは、この仕事の成否如何に掛っている。気張れよ」

('A`)「オーライ、オーライ、任せとけ」

まだ何か言おうとする相棒を、右手を振って遮り、暗視ゴーグルを覗く。
白と青の斑に塗り分けられた視界の中で、動くものがあった。

从 ゚∀从『来たな』

('A`)『ああ、ミスター・サンタクロースの遅れたご到着だ』

即座に脳核通信を起動して、後ろ腰のホルスターからカスタムデザートイーグルを引き抜く。
結線ケーブルを引っ張り、首の後ろのニューロジャックと繋ぐと、FCSを起動。
白と青の視覚野に赤いターゲットマーカーが人の形に表示されたのを確認すると、腰を低くして俺は歩き出した。

63 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:31:40 ID:pisun.Qw0
周りの廃墟よりも幾らか背の高いビルの亡骸の下。
今にも崩れそうな非常口――として作られていたであろう四角い穴――の壁に手をついて話し込む二人組の姿が見えた。
コンクリートの瓦礫や、隆起したアスファルトのせいで、でこぼことした足元に注意しながら、左手の愛銃の有効射程圏内まで近づくと、手近な瓦礫の陰にしゃがみ込んで耳をそばだてる。

「――チッ、またテメェかよ。金はあるんだろうな?」

「だ、大丈夫だ。今日は、今日はちゃんとある」

「どれ、見せてみろよ」

やや巻き舌の入った棘のある声と、舌の根が震えているような情けない声。
前者は売人で、後者はその顧客のジャンキーと言ったところか。
未だ覚束ない左手に代わって、右の手でカスタムデザートイーグルのセーフティーを解除すると、俺は少し腰を浮かせた。

「ふーん、持ってんなら最初から出しゃいいんだよ。――ホレ」

「助かった…これが無いと俺ぁ……おい、たったこれだけか?」

「ああ?何か文句でもあンのかよ?」

「だだだって、いいい何時もより、量が――」

「相場が上がったんだよ」

「そ、そんな――」

「ああン!?テメぇまだケチつけるってのか!?ざけんなよコラァ!」

64 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:33:45 ID:pisun.Qw0
恫喝も荒く、売人が手を振り上げる。
曲げた膝を伸ばし切る。今だ。

('A`)「フリーズ!企業警察だ!両手を頭の後ろに回して膝をつけ!」

(-@∀@)「アアンッ!?マッポだァ?――テメェ、ハメやがったな!」

パーカーのフードを目深に被った売人が、隣のジャンキーを束の間睨みつける。

「ししし知らない!俺じゃない!俺は違う!」

左の手にバタフライナイフを握った与太者の恫喝に、哀れな中毒者は必死に首を横に振って跪いた。

('A`)「二人とも大人しく武器を捨てて投降しろ!少しでも逃げる様な素振りを見せたら撃つ!黙って言う事を聴いた方が身のためだぞ!」

無論、俺達が企業警察に就職した訳じゃない。単なる脅し文句だ。
麻薬の売人程度のチンピラだったら、こんなコケオドシでも通じる事がある為、無駄弾を節約する意味でもこの警告は重要だ。

(-@∀@)「チッ!マッポ如きがなんだってんだよ!やってやる――やってやらァ!」

最も、最近使い始めたこのハッタリが、思惑通りに上手く行ったためしは、数える程しかない。
今しもその最たる例の一つが、バタフライナイフだけを手に、瓦礫の山をこちらへ向かって真正面から突き進んでくる。
カスタムデザートイーグルを突き付けられても啖呵を切れるその根性は、愚かを通り越して天晴れなものだが、彼の不運はそれだけでは終わらなかった。

65 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 09:34:40 ID:WWWpQnfk0
 きたか…!!

_ / ̄ ̄ ̄/
\/___/
  ( ゚д゚ ) ガタッ
  .r   ヾ
__|_|  |_|
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

66 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:35:50 ID:pisun.Qw0
スプリントを切って走り出した彼の頭上。
廃墟となったビルの窓枠から、乾いた夜に舞い踊る影。
闇よりも尚濃い、黒の衣を召したそいつは、翼の無い堕天使めいた急降下で売人の前に降り立つ。
着地と同時に、重々しい音が響き、うねるアスファルトに新たな亀裂が走ったのが、暗視ゴーグル越しに見えた。

从 ゚∀从「その手に握った物は、抵抗の意志ありとみなしていいのか?」

天からの予期せぬ乱入に、泡を食う売人。
その首筋に、鋼鉄の処女は右の掌の付け根から飛び出した振動式ブレードを突き付ける。

(-@∀@)「――ヒ、ヒィ!?」

流石の猪突猛進も、人外の身体能力を見せつけられては為す術も無い。
第三者が聞いたら思わず噴き出してしまいそうな情けない声と共に、売人の手からバタフライナイフが零れ落ちた。

从 ゚∀从「ふむ、大人しくするのなら最初からそうしてればいいのだ。
     ――さて、それでは拘束の後に楽しい楽しいインタビュータイムと行こうじゃないか」

悪鬼の様な残酷な笑みを白磁の横顔に浮かべて、死の天使は売人の首筋に振動ブレードをあてがいその薄皮を裂く。
一筋の血液が首を伝うのと同時、売人は糸の切れた人形のようにして膝をつくと、しめやかに失禁した。
今年最後の仕事は、実にあっけなく終わった。あとは、後始末だけだ。

67 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:38:23 ID:pisun.Qw0
('A`)「そこ」

ターゲットマーカーの中で動くものを捉えた俺のニューロンが、有線直結された銃のトリガーを半自動で引き絞る。
アクションムービーの一幕のような捕物劇の傍らで、自分だけ密かに逃げ出そうとしていたジャンキーは、足元の瓦礫が爆ぜた事でその場にへたり込んだ。

('A`)「誰が動いて良いって言った?お前さんもギルティなんだよ」

「勘弁…!勘弁してくれよぉ……」

瓦礫の陰から進み出て、嗚咽を漏らすジャンキーの元へと近づいて行く。
インフラという概念が存在しない、万魔殿の原始の闇の中。
地べたに這いつくばって土下座するジャンキーの下にしゃがみ込むと、俺はその顎を右の手で掴んで引き上げた。

( ;_ゝ;)「頼む…!見逃してくれ…!後生だから…!なぁ…!」

その顔を見るのは、これで三度目だった。

('A`)「お前――」

穴のあいた襤褸布を纏っただけの男の顔は、長く洗髪も散髪もしていないであろう、ぼさぼさの油ぎった髪と無精髭に覆われているが、間違いなく何時ぞやのあの男のものだ。

( ;_ゝ;)「ア、アンタあの時の!」

そして、どうやら向うも俺に気付いたようだった。

68 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:40:28 ID:pisun.Qw0
( ;_ゝ;)「よよよ良かった…地獄に仏とはまままさにこのことだぜ…!
     なァ、俺とアンタのよしみだろ?頼む!見逃してくれよ…!」

薬物中毒の為に呂律の回らない舌を繰り、男は必死で俺のスラックスの裾にしがみつく。

( ;_ゝ;)「つつつつい出来心だったんだよ!ツイてねえことがあって、むしゃくしゃしてて――
     それでつい!こんな事になるなら手なんて出すんじゃなかったって後悔してるんだ!」

襤褸雑巾のような顔で許しを乞うその姿は、あの夜「コシモト」で大見栄を切っていた時のそれからはあまりにもかけ離れすぎていて、とても同じ人物だとは思えなかった。

( ;_ゝ;)「株も、新しい商売も失敗するし、女には逃げられるし…そうだ、あのクソ売女…!
最初から俺の金が目当てですり寄ってきてやがったんだ…!
畜生…畜生…忌々しい阿婆擦れがッ…!思えばアイツの浮気から全てが上手くいかなくなったんだ…!」

憎々し気に吐き捨てて、男は砕けたアスファルトの破片を握りしめる。
真っ赤になったその手からじわりと血が滲み始めた所で、男ははっとしたようにその汚い顔を上げた。

( ;_ゝ;)「そうだ!あの晩!俺ぁ、アンタに酒を奢ったよな!なァ、憶えてるだろ!?」

俺は、微かに頷きを返した。

( ;_ゝ;)「べべべ別によ、今更それを返せだなんて言わねェよ…言わねェけど…なぁ、分るだろう…?なあ?」

泣き笑いのような表情を浮かべて、男は縋るように俺を見上げる。
恥も外聞も何もかもを捨てたその顔を、俺は随分長い間見据えていた。

69 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:42:35 ID:pisun.Qw0
( ;_ゝ;)「なァ…頼むよぅ…この通りだよぅ…頼むって言ってんだ…なあよおおお!頼むっつってンだろうがア!」

哀願から一転、吠えるような恫喝。

( ;_ゝ;)「俺ァ…もう何もねぇンだ…組の金は株とギャンブルと女に使っちまった……。
      何も残ってねェんだよ…こんな俺をふん縛った所で、何も出てこねえんだからよぉ…なぁ……」

そして、二度目の泣き脅し。
カスタムデザートイーグルをホルスターに戻し、俺は立ち上がる。

( ;_ゝ;)「……あ」

('A`)「――失せろ」

( ;_ゝ;)「――え」

('A`)「聞こえなかったか。目障りだから失せろって言ってるんだよ」

( ;_ゝ;)「あ…アァ…ああ…!」

その時、男の顔に浮かんでいたのは安堵だろうか、悔しみだろうか。
情けない嗚咽を漏らしながら、這いずる様にして歩き出すその背中は、見た目以上に小さく見えて。
だからというわけではないが、俺はその蟾蜍のようになった男を呼びとめると、財布の中から10万クレジット素子を取り出して彼の足元に放った。

70 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:44:10 ID:pisun.Qw0
( ;_ゝ;)「――これは…?」

乾いた音を立てて転がるクレジット素子を、ポカンとした顔で見つめて男は問い返す。

('A`)「――借りは返す。それで足りるかどうかは知らんがね。
   それを持って、カルイザワでもキョートでもグアムでも、何処へなりと消えろ。
   そして、もう二度と俺の前に現れるな」

( ;_ゝ;)「ぅあ…アァ…!」

それらしく聞こえるように、途中から語気を強めて言った俺の言葉に、男は弾かれたようにして記憶素子を鷲掴みにすると、もんどりうちながらも逃げるようにしてその場から駆けだした。
明り一つ無い万魔殿の闇の向うへと消えていく、その後ろ姿を見送りながら、大きく溜息をつく。
先刻まで胸の中で蟠っていた苛立ちが、行き場を失い倦怠感となって俺の身体を支配していた。

从 ゚∀从「おい、貴様は今、一体何をしたんだ?」

売人を後手に縛って転がした鋼鉄の処女が、文字通り鋼のように冷たい視線を向けてくる。

从 ゚∀从「初めに言わなかったか?今日の仕事の成否如何が、年末を越せるかどうかの瀬戸際だと。
     あんなゴロツキに情けを掛けてやる程、私達の事務所の経済事情は軽いものではないと知ってのことか?」

予想通りの説教。俺は肩を竦めた。

('A`)「別に、情けを掛けた訳じゃない。借りを返した。ただそれだけだ」

从 ゚∀从「……」

71 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 09:44:25 ID:gWx4Lu.E0
まじかよ

72 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:45:46 ID:pisun.Qw0
ハインリッヒは、その血の様な双眸でじっと俺を見つめる。
表情の無い、真っ赤なガラス玉を、俺も見据え返す。
実際、嘘は何一つついていなかった。

从 ゚∀从「――まぁ、言った所で貴様のその悪癖が治ったためしは無いのだがな」

長い視線の交換の後、鋼鉄の処女が芝居めかして両手を上げる。

('A`)「だから、別にそんなんじゃないさ」

俺の抗議を何時もの仏頂面で聞き流す彼女に、更に抗弁を重ねようとしたその時、眼前に白い綿の塊のようなものが降ってきた。

('A`)「あ――」

从 ゚∀从「雪、だな」

俺の言葉を継ぐように言い、ハインリッヒは頭上を仰ぐ。

从 ゚∀从「今年は、白だったな」

予報よりも三日早い初雪は、光化学スモッグと排煙けぶるVIPの空にあって、珍しい純白。
ビルとマンションの骸の間から見上げる、真闇の黒を背景に、真綿のような雪が降る様は、自分が光の届かない海の底に居る様な心持にさせた。

73 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:48:55 ID:pisun.Qw0
('A`)「一足遅れのクリスマス・プレゼントにしては悪くないかもな」

口の端を緩めて、相棒と共に歩き出す。

从 ゚∀从「――今夜は鍋だな」

('A`)「ああ、炬燵も出さなきゃな」

从 ゚∀从「炬燵で鍋を囲んで、説教の続きだな」

('A`)「ああ、今年の垢は今年の内に落とさないとな」

純白にはまだ一歩遠い綿雪は、VIPの街のアスファルトに触れるそばから溶けていく事だろう。

('A`)「――お手柔らかに頼むぜ」

年の瀬の、晩の事だった。

74 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 09:53:00 ID:pisun.Qw0



……

………

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75 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 10:11:22 ID:pisun.Qw0
■親愛なる読者のみなさんへ■戻る■久しぶりだ■めでたい■

長い間ご無沙汰しておりました。お久しぶりです。

一時は無期限休止という欺瞞的センテンスに甘んじて逃亡していた執筆担当者ですが、この度なんか復帰する事になりました。

休止中も度々掲示板の方を覗いては、皆様の熱いお声を拝見する度に、血の涙を流しておりました。だがもう帰って来たのでおそらく大丈夫。

二年以上もの月日を空けていたのは実際セプク級のインシデントであり、死亡説も流れているのでセプクするかとも思われましたが続編を欠く事でこれは回避されました。安心して下さい。

みなさまにおかれましてはこれほど長い期間をお留守にしていたのに、温かい言葉で迎えていただいて執筆担当者は現在、涙を流しながらこのセンテンスをタイピングしています。ユウジョウ!

今回こうして復帰できたのも、ひとえにかつてみなさんがかけてくださった数々のお言葉があってこそと思えば、執筆担当者としてこれ以上の幸せは実際まれなのでなんかうれしいとおもう。

なお、今回の連載はここまでだ。続きに関しては恐らく不定期になることだろう。

タイトルの下にあるリブートの文字は担当者なりのケジメでありこれは「一度貴様は挫折した身なのでそれをゆめゆめ忘れないよう」重点する為のものである。

また「Яeboot」より表示形式の変更を伴いつつ本格的に我々はエピソード間の時系列を無視することに決定重点しました。

つまりこれから連載されていくであろうエピソードはもしかしたら前のエピソードよりも昔のものかもしれないし遥か未来のエピソードかもしれない。

実際これはオイテケボリ・ショックを誘発する危険な策であるがオーディンめいた髭のおじいさんが大丈夫だろうと言っているので担当者も大丈夫と判断した次第だです。

76 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 10:19:43 ID:vq3EZOeo0
文書が心地良い
後で過去のを読み返してこよう

77 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 10:23:30 ID:WWWpQnfk0


78 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 10:26:15 ID:pisun.Qw0
■親愛なる読者のみなさんへ■続く■取説■全革前進■

むしろカットバックを用いる事で作劇に幅が出来て色々な形でドキドキを堪能できる可能性も無きにしも非ずだ。

これは別に執筆担当者がその時書きたい話を書く為の言いわけではないのでご安心ください。

それでは、長くなりましたがここらで「ただいま」の挨拶と締めさせていただきます。

最後にもう一度、温かく迎えて下さった皆様に「ありがとうございます」を。

オタッシャデー!

79 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 10:29:01 ID:pisun.Qw0
■まとめ■これまでの■実際長い■

・ブーン芸VIP様
http://boonsoldier.web.fc2.com/

・本作掲載ページな
http://boonsoldier.web.fc2.com/maiden.htm

80 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 11:04:36 ID:nXMFcOLU0
マジかよ待ってたよ嬉しい

81 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 11:18:32 ID:uYZOck0o0
おおおおおおおおおお超まってたーぜー!!!
ホントかっけぇ文章だわー!

てーかいまブーン系のRPGをつくってんだけど
そこに鋼鉄の処女のキャラや武器をだそうと思うんですけど
よろしければ許可をいただきたいんですが
めんどくさくなければお返事くらさい!
くれれば逆立ちして大喜びします!!

一応スレおいときます!お返事永遠にまってます!!
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1343216844/

82 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 11:53:49 ID:eVQT7GbY0
今まで創作板ではROMってたが今回は書き込ませてもらう
お帰りなさい、ずっと待ってました!

83 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 11:55:36 ID:bAtfHbz.0
ちょっとここまで読み返してくるわ
おかえり!

84 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 13:31:20 ID:D6IyeSwI0
びっくりしたまじで嬉しいわ
これからもゆっくりでいいからよろしく

85 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 13:56:54 ID:OItceorE0
生きてたのか!

86 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/26(木) 14:17:49 ID:pisun.Qw0
■鋼■親愛なる読者の皆さんへ■鉄■

二次創作についてのご質問を頂いたので、改めてというわけでもありませんがこの機会に一応はきりと書いておくと実際楽かもしれないので書きしるそうと思います。

基本的に本作におけるファンジン(脚注:二次創作など)は商業利用を目的としたものでなければ、まったくもってフリーという姿勢を取っています。

なぜならば本作そのものがDIY(脚注:日曜大工的な、無ければ自分で作ろう)の精神に則ったものであるので、鋼鉄の処女が何らかの着火剤となるのは執筆担当者としても非常に好ましいことだからです。

なのでみなさんはどんどん鋼鉄の処女を元にした絵とかなんかを作ってくれてだいじょうぶです。

その際は執筆担当者にご一報を下さるとよろこびのなみだがみれるのでどうぞおねがいします。

87 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 15:09:27 ID:uYZOck0o0
返答ありあーす
鋼鉄の処女に泥を塗らないように精一杯がんばるますー

88 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 17:17:36 ID:n3OgHcO.0
スレタイ見つけて鳥肌立ったぜ
超嬉しいよ、頑張ってくれ 乙

89 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 17:48:21 ID:6pfUxBDg0
生きてた!?
待ってたよおかえり

90 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 18:46:11 ID:LjsxD1220
いきてまのか

91 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 20:23:54 ID:2leA83Ak0
まじでビビったwwwおかえり!

92 名も無きAAのようです :2012/07/26(木) 21:38:48 ID:Pao3/WUw0
帰って来てくれて有難う

93 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 10:16:11 ID:CQ1aXRxo0
ドーモ。サクシャ=サン。
実際戻ってきてくれて超嬉しい。2年なんてあっちゅうまさ。
まるで昨日みたいに感じるw

そして流石の文章……ワザマエ!

94 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 11:37:19 ID:OjKpqSoo0
懐かしいな、一時期狂ったように読んでた記憶が蘇るわ

95 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 12:06:01 ID:/ZsWte9o0
田所さん!田所さんじゃないか!

96 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 14:14:56 ID:OcBptQis0
イヤッフーーー!!!!!!
久しぶりに創作板覗いたらなんてサプライズだ

97 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 14:17:44 ID:qK9UKz.g0
帰ってきたのか

あんたのおかげで俺はサイバーパンクが好きになったんだ

98 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 20:28:20 ID:1X4xdoOc0
あんまり読んでなかったけど好きだったよ
ヘリカルの話が印象に残ってる

おかえりんこ!

99 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:36:27 ID:GXwXwpuY0

 

           【IRON MAIDEN】

 

.

100 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 22:40:14 ID:maqxoVNY0
きたか?

101 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:42:24 ID:GXwXwpuY0

………

……



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102 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:44:03 ID:GXwXwpuY0

 

           ///disc 2///

 

.

103 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:45:37 ID:GXwXwpuY0

#track-5

――喧しい電動ドリルの音が止んで暫くしてから、処置室のドアが開く。
機械油に塗れた白衣姿のサイバネ医師が姿を現した。

(@ゝ@)「終わったよ」

('A`)「どこか異常は?」

(@ゝ@)「関節部が少しばかり錆ついていたからギアをちょこっと交換した他は、これと言って特に。
     人工筋肉も、カーボン装甲も綺麗なもんさ。お前さんも、やっと機械の扱いってもんがわかってきたかね?」

('A`)「そうか、そいつは重畳だ」

黄ばんだマスクを顎までずらし、サイバネ医師は煙草に火を点ける。
その後ろから、着替えを終えたハインリッヒが手を握ったり開いたりしながら出てきた。

('A`)「調子はどうだ?」

从 ゚∀从「ああ、関節の滑りが大分良くなった。試してみるか?」

白磁の面に不敵な笑みを作り、鋼鉄の処女は俺に飛びかかると、コブラツイストの形を決める。
俺は溜息を一つつくと、その太ももを軽く叩いてギブアップを宣言。
舌打ちをして、構えを解くと、ハインリッヒはつまらなそうな表情を作る。
彼女も随分と冗談のセンスが落ちたものだ。

104 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:46:21 ID:GXwXwpuY0
(@ゝ@)y-~「そういや、ドクオ、お前さんもサイバネ義手にしたんだったよな?」

俺達のじゃれあいを眠たげな眼で眺めていたサイバネ医師が、紫煙を吐きながら言う。

(@ゝ@)y-~「ついでだから、お前のも見せてみろ。料金も気持ちばかりだがサービスしてやろう」

('A`)「そう言って余分な診断料をふんだくろうって腹づもりなんだろう?結構だよ」

(@ゝ@)y-~「ハッ!吹っかけるんならもっと金を持ってそうな奴にするよ。ま、お前がそう言うんなら――」

从 ゚∀从「ならば私から頼もう。このごくつぶしの左腕を診てやってくれ」

('A`)「何を余計な事を――」

从 ゚∀从「こないだから、貴様が撃ち損じた敵勢力を私が何体処分したか、数えていたか?
      私はきちんと記録している。答えは31体だ。では弾道のぶれは何処から来る?
      貴様の脳核が腐っているせいで、FCSがイカれたからか?」

問答無用で言葉を遮るハインリッヒ。
悔しい事に、彼女の言葉に嘘は無い。事実、一か月ほど前から左腕の調子は悪い。
具体的には、レスポンスの遅延と一瞬の硬直だ。

(@ゝ@)y-~「老婆心から言わせてもらえば、義手の整備不良は放っておくと、生身の方にも支障が出るぞ?
     最悪、俺とはまた別の医者に掛らなきゃならん。余計に金が飛ぶだけだぜ」

黒革の手袋に包まれた己の左手を見つめる。
最後にメンテナンスをしたのは何時だったか。憶えていない。

105 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:49:54 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……わかった。それじゃあ俺の分も頼む」

苦々しい思いで首を縦に振る。
余計な金を使うのは気に入らないが、背に腹は代えられない。
これ以上、病院の厄介になるのはご免被りたかった。

(@ゝ@)y-~「素直で結構。なあに、そっちの嬢ちゃんと違って片腕だけだから、一時間も掛らんよ」

罅の入ったガラスの灰皿に煙草を押しつけると、サイバネ医師は白衣の裾を翻して処置室に戻っていく。俺もその後ろに続いた。

コンクリート打ちっぱなしの処置室内。
入るのは、これで何度目だったか。憶えていないが、そこまで多くは無い。

煤だらけの天井からは、配線が剥き出しの義手や義足がぶら下がり、壁際の棚には真空パック詰めにされた人工筋肉や培養臓器、合成血液パックなどが乱雑に積まれている。
部屋に一つだけの粗末な手術台へ座るように俺を促すと、サイバネ医師はその脇の銀のトレイからマイクロドライバーを手に取った。

(@ゝ@)「お前に設えてやったのは、確かギュウキだったか。実にお前さんらしいチョイスだよ」

('A`)「どういう意味だよ」

コートと手袋を脱いで、腕を捲る。
燻銀色に蛍光灯の光を反射する鉄板装甲の各所からは、筋肉繊維のような黄色と緑の配線の束が覗く。
スケルトン仕様、と言えば聞こえはいいが、ようは安かろう悪かろうの精神を体現しただけだ。

106 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:51:35 ID:GXwXwpuY0
(@ゝ@)「ギュウキは初期のモデルとしては、戦闘用義手の中でもずば抜けて頑丈だ。
     当時のバウンティハンター達なんかがよく愛用していた。あの頃は、ウチに来る奴らの大半がこれだったな」

マイクロドライバーを、鉄板装甲を止めるネジに当てて、医師はスイッチを入れる。
蚊の羽音に似た微細な回転音に、俺は束の間歯医者のソレとの相違点に思いを馳せた。

(@ゝ@)「しかしまあ、サイバネ技術の進歩に伴って、頑丈さと繊細を併せ持った義手が次々と開発されていくに従い、こいつを見る事も少なくなっていった。
     実際、ギュウキは戦闘の事だけを考えて設計されているから、握力調整なんかがかなり大雑把だ」

('A`)「今年まででもう二十個はグラスを握りつぶしたぜ」

(@ゝ@)「だろう?まあ、開発元がS&Kじゃあな。あそこは元々ガンスミスだ。
    あそこの銃との有線式ターゲット機構との互換性だとかは確かにいいが……。
    逆に言えば、それだけだ。今の時代、戦闘用義手という括りで選ぶにしても、もっといいものは幾らでもある」

('A`)「財布と相談した結果だ。それは前にも言っただろう?」

(@ゝ@)「守銭奴ここに極まれり、ってか。確かに、お前さんの相棒はそこら辺厳しそうだからな」

鉄板装甲を無造作に剥がしながら、サイバネ医師は鼻で笑う。
それについては、あの鋼鉄の処女においても「金より体の事を考えろ」という言質を頂いているが、それを口にしたらしたで、面倒になるのは目に見えていた。

107 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:52:15 ID:GXwXwpuY0
鉄板を全て剥がし終えたサイバネ医師は、染みだらけの白衣のポケットからペンライトを取り出して、俺の左腕の中身を左右に照らす。
その口から、呆れたような溜息が洩れでた。

(@ゝ@)「ヒュー。こいつぁおったまげた。こんなんで良く一年も持ったな。錆やら液漏れやらでどろっどろだ。ちょっとしたゴアだな、こりゃ」

('A`)「治るのか?」

(@ゝ@)「――治る事は治るさ。ただ、なにぶんパーツが旧式でね。揃うまで少しばかり待って貰う事になる」

('A`)「幾ら掛る?」

(@ゝ@)「施術料で二十万。パーツの料金も合わせて七十万か」

('A`)「サービスするんじゃなかったのか」

(@ゝ@)「サービス込みでだ。ホントの所を言えば百万は最低でも貰っておきたい。
     だが、あんたには嬢ちゃんの定期メンテで世話になってる。こっちも赤字覚悟だよ」

俺は苦い顔を作る。
七十万。決して少なくない出費だ。闇医者の事。無論、保険は降りない。
金で健康を買えるなら、と割り切るしかなさそうだった。

108 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:53:20 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……分った。それで頼む。パーツが揃うのは何時頃だ?」

(@ゝ@)「一週間、と言いたい所だが、こればっかりはどうなるか。互換性を無視すりゃ、三日と掛らないが。
     あとで整備不良を訴えられちゃ、俺の沽券に関わるんでね」

('A`)「知った事かよ。一週間で用意しろ」

(@ゝ@)「ヘイ、口には気をつけな。これはお前さんの為でもあるんだ。
    互換性を無視した結果、拒絶反応でニューロリジェクションを患いたかないだろう?」

語気を強めるサイバネ医師。
眠たげに垂れたその瞳には、有無を言わせぬ眼光が宿っていた。

('A`)「――オーライ、オーライ。俺が悪かった。お前さんに任せるよ。だからそうカッカすんな」

右手を上げて降参する。
サイバネ医師は肩を竦めると、マイクロドライバーを握って、鉄板装甲を留めに掛った。

(@ゝ@)「それでいい。お前さんはもうちょっと自分の身体を気遣う事だ。モルグに入るにはまだ早い。そうだろう?」

('A`)「――どうだかね。時たま、早い所コフィンで安らかに眠るのも悪くないと思う時があるよ」

(@ゝ@)「てめえの患者からそんな言葉を聞くのは些か悲しいね。そんなに人生は辛いか?」

('A`)「辛くない人生があるんなら聞かせて欲しいね。借金、借金、また借金。
   それを返す為に下らねえ仕事を繰り返す。時々、何のために生きているんだか分らなくなる」

109 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:54:09 ID:GXwXwpuY0
(@ゝ@)「仕事があるうちが華だぜ。それと、もう一つコトワザがあってだな…なんて言ったか…馬鹿は考えない方がいい、みたいなよ」

('A`)「馬鹿の考え休むに似たり、か?」

(@ゝ@)「そう、それだ。――思うに、考えるだけ無駄なんだよ。人生ってのはな。
     何で俺はこんな事をしているんだろう、とか、何で俺は生きているんだろうとか。
     答えなんてでねえのに、無い知恵絞って考え過ぎる奴はごまんといるがよ。考えたら負けだよ」

('A`)「ハッ!お前に人生を語られるとは、俺も落ちぶれたな」

(@ゝ@)「俺も何でお前さんと人生相談なんかしてるのかと、さっきから疑問だったよ。――っとこれでよし」

最後のネジを留め終えて、サイバネ医師が鉄板装甲を軽く叩く。
手術台から降りてコートをはおりなすと、俺は彼と共に処置室を出た。

(@ゝ@)「なるたけ大急ぎで、伝手を当たってみるが、それなりに時間が掛る事は覚悟しといてくれ。揃い次第、連絡する」

('A`)「それまで俺はベッドの中で震えながら、人生について考えておくよ」

(@ゝ@)「お前さんも大概しつこい奴だな。そんなに悶々としてるんなら、気晴らしにパーっとやったらどうだ?だが、ドラッグは止めとけよ」

('A`)「そんな金があったら、事務所の返済に充てるよ」

(@ゝ@)「馬鹿野郎、俺への借金を先にしやがれ」

110 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:56:19 ID:GXwXwpuY0
軽口の応酬をそこで切り上げると、ハインリッヒを促して俺は施術所を後にする。
貸しビルと貸しビルの間、猫の通り道めいた細い路地に出た所で、肌にまとわりつくじめりとした湿気を感じ、俺は思わず頭上を仰いだ。

('A`)「こりゃ、一雨くるか?」

ツタめいてビルの壁を這うパイプや、エアコンの室外機の間から見える空は、相変わらず黒灰の分厚い雲に覆われているが、今は何時にも増してそれが低く垂れこめている。
そろそろ梅雨入りが近いのだと、今朝のニュースホロが言っていたのを思い出した。

('A`)「嫌な季節が近づいてきたな」

从 ゚∀从「メンテナンスの頻度も増えるな」

前にも似た様なやり取りをしたな、なんて事を考えながら首を戻すと、この狭苦しい路地に入ってくる人影が目に入った。

「あの野郎…俺がヘマしたからって、報酬をケチりやがって…ふざけやがって…畜生め……」

ぶつぶつと呟きながら、ふらふらとした足取りで歩いてくるその男のシルエットは、些か不格好だった。
具体的には、右の腕が左よりも随分と太く、長く、角ばっていた。

「反応速度か…?もう少し処理の速いチップに変えるか?…いや、増設パックで火薬の量を増やすべきか……」

くたびれた鼠色のトレンチコートの袖越しにでもわかる、その節くれだった右腕は間違いなくサイバネ義手だろう。
人体のバランスを欠きかけたその大きさから見ても、格納兵装が内臓されているのは明らかだ。
恐らくは、杭打ち機構か、ハンドキャノンだろうか。片腕で扱える範疇のギリギリといったところだ。

111 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:56:59 ID:GXwXwpuY0
「……おい、何見てンだよ」

俺の視線に気づいたのか、剣呑な響きで言いながら、男が俯けていた顔を上げる。
瞬間、脳裏を「二度ある事は三度ある」という言葉が過った。

( ´_ゝ§)「――って、もしかしてアンタ、あの時の!?」

驚きの声を上げるその男は、記憶が確かならば、かつての俺のクライアントだ。

(;´_ゝ§)「ま、まさかこんな所でアンタとまた会うなんてな…いやあ、偶然ってのは恐ろしいものだぜ……」

左のカメラアイを中心に配線が這った顔には、困惑と焦りが浮かんでいた。

(;´_ゝ§)「ホント偶然だ。また会うなんて、これっぽっちも――」

視線を右往左往させて、男は取り繕うように左の手を振る。

(;´_ゝ§)「イヤ、でも俺は感謝してるんだぜ。アンタがあの時見逃してくれたから、俺は立ち直る事が出来たんだ…それだけは言わしてくれ……」

卑屈な笑みが、その口元に浮かんだ。

(;´_ゝ§)「見てくれよ、これを。アンタがくれた金で義手に換えて、バウンティーハンターをやってるんだ。お、俺にしては、中々様になってるだろ?」

右の袖をたくって、男はその下の鋼の腕を見せる。
ごつごつとしたクロムメタルの装甲板が、西洋甲冑の籠手めいたシルエットを形成するそれは、二世代程前の戦闘用サイバネ義手「チャリオット」だ。
記憶が確かならば、その武骨な太腕の中には、単分子槍が格納されていて、それを火薬を使い掌からパイルバンカーの原理で打ち出すものな筈だ。

112 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:57:45 ID:GXwXwpuY0
(;´_ゝ§)「十万じゃ足らなかったから、借金をする事にはなったがよ…へへ…そんなのは屁でもねえさ……。
      クスリに溺れるのはもう止めだ。社会復帰するのさ、俺ァ……」

一度言葉を区切ると、そこで男は自身の右腕をうっとりとした眼で見つめ、クロムメタルの表面を撫でる。

(;´_ゝ§)「あの時、お前さんにドヤされてよ…俺ァビビってた…実際、小便をちびりかけた。
       ――だがよ、それと同時に、痺れてたんだ。頭の後ろを、何かに殴りつけられたような、って言うだろう?あんな…へへ…そうさ」

右腕を見つめる男の口には、引きつった様な笑みが浮かんでいた。

(;´_ゝ§)「ま、まだまだ駆け出しだけどよ…何とかかんとか、食いつないで行けてるよ…へへ……。
       もしかしたら、俺にはこういうのが向いているのかもしれねえ。今日も、新しいインプラントを増やしに来たのさ」

言いながら、男は俺の背後の闇サイバネ・クリニックを左の手で指差す。
そして、その指で首の後ろのニューロ・ジャックをほじくった。
引き抜かれた指の先には、黄色い油がべっとりとついていた。

(;´_ゝ§)「こ、ここまで来るのに色々あったがよ…人間、思ったよりも何とかなるもんだな……。
      破れかぶれになりゃあ、出来ねえ事はねえって言うかよ…まあ、それもこれもアンタのお陰なんだがな」

俺は、肩を竦めた。

113 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 22:58:06 ID:d8uuIxvg0
おいおい今日もかよ
嬉しすぎてやばいぞ

114 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:58:35 ID:GXwXwpuY0
( ´_ゝ§)「もし…もしもだけどよ、アンタさえよけりゃ、今度奢らせてくれよ。
      何だかんだ言って、アンタとはゆっくり話もした事が無かったし……。
      それに、俺ァちゃんとした礼が言いてぇんだ。な?いいだろう?」

サイバネ置換していない方の男の瞳に、縋るような色が浮かぶ。
俺は、そのどんよりとした黒を暫くの間見つめていた。
やがて、俺は曖昧に頷いた。

( ´_ゝ§)「そ、そうか…ありがてぇ…ヘ、ヘへ…誰かと呑むなんて、ひ、久しぶりだな……そうか…そうか……」

安堵したように溜息をつくと、男はぎこちない笑みを浮かべる。
泣き笑いの様な、皺のよったその表情が、不思議と印象的だった。

( ´_ゝ§)「コレが、俺の端末のアドレスだ。飲みたくなったら、電話、くれよな」

鼠色のトレンチコートのポケットから、折れ曲がった名刺を取り出し、男は差し出す。
俺がそれに一瞥をくれて頷くのを確認してから、男は俺とすれ違い、闇クリニックの中へと消えていった。

从 ゚∀从「……」

無言で俺を見つめる仏頂面の相棒。
名刺をトレンチコートの内ポケットにしまい、俺は歩き出す。
鋼鉄の処女もまた、それに従った。

115 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 22:59:50 ID:GXwXwpuY0
从 ゚∀从「名刺は、捨てないのだな」

隣に並んだ相棒が、聞いてくる。

('A`)「ああ、そうみたいだな」

他人事めかして答えてから、空を見上げる。
どんよりとしたそこから雨粒が落ちてくるのを見て、俺達は足取りを速めた。

116 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:00:31 ID:GXwXwpuY0

#track-6

――饐えた臭いが鼻をつく。
もしも全身義体であったのならば、嗅覚のスイッチをオフにしている所だ。

('A`)「これで言うのは何度目か分らんが言わせてくれ。鼻がもげたら、換えの鼻ってつけられるか?」

傾いた冷蔵庫の上で、凝った肩を揉みながら弱音を吐く。
眼下に広がる粗大ゴミの山。
そこに腕を突っ込んでいた相棒が、振り返らずに言った。

从 ゚∀从「これで178度目になる台詞だが、言わせてもらおう。
     かつての貴様の部屋と比べたら、ここは滅菌消毒した手術室みたいなものだ」

扇風機、冷蔵庫、自転車、タイヤ、電子看板、果ては貨物コンテナから小型ジャイロコプターまでもが転がる夢の島。
ニーソク区の港湾部、遥か太平洋を望む、出島のようなその鉄屑の島は、誰が呼んだか地域住民達からは「グレイブ・アイランド」なんて通称をつけられている。
港から何十キロと離れたこの小島は、かつてはゴミ処理船によって行き来がなされていたが、相次ぐ不法投棄の末、遂にはゴミで形作られた道によって、港と繋がってしまったというショッキングな逸話を誇る、不法投棄のメッカだ。

人工的な埋め立て工事を行ったわけでもなく、ただ、無数のゴミだけによって浮島めいた形を保っているその威容は「圧巻」の二文字で済ませられるものではない。
グレイブ・アイランド周辺の海底には、海面まで出てこないだけで、多くの粗大ゴミ達が暗礁めいて沈んでおり、近隣を航行する船などがこれで船底を擦って沈んだという話は枚挙にいとまがない。
そうして座礁した船でさえもが、この夢の島を形成する鉄の陸地となる事で、このグレイブ・アイランドはその面積を今なお拡大している。
海面からビルめいて垂直に屹立するタンカーの黒い船体や、その下に群がるようにして船腹を晒しているクルーザーなどを見れば、ここがニホンのサルガッソーと呼ばれるのも頷けた。

117 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:01:38 ID:GXwXwpuY0
('A`)「何か、使えそうな物は見つかったか?」

額の汗を拭いながら、冷蔵庫の上から両腕を使って慎重に降りる。
「電脳喫茶しゅらふ」と書かれた巨大なネオン看板の上に足を置けば、そのプラスチックパネルがみしりと音を立てて軋んだ。

从 ゚∀从「いや、何も――いや待て、これは……」

こちらに背を向けたまま、鉄屑の山に手を突っ込んでいたハインリッヒが、確信めいた声音と共にその腕を引き抜く。
ケーブルや海藻が巻きついた、何世代も前のターミナルの液晶ディスプレイが、その両手に握られていた。

从 ゚∀从「ハズレ、か」

無感情に言い捨てて、彼女は液晶ディスプレイを放り投げる。
そのまま再び、黙々とゴミ漁りに戻る彼女の、汚れたゴシック・ロリータ・ワンピースの背中を見て、俺は溜息が洩れるのを禁じ得なかった。

('A`)「まさか、この歳でゴミを漁るような生活を経験するなんて、思いもしなかったよ」

从 ゚∀从「経費削減の一環だ。そもそも、事務所の経営難の十割は貴様の浪費癖と甲斐性不全が原因だろう」

('A`)「それについては、全面的に謝罪するがな……」

それにしたって、グレイブ・アイランドくんだりまで来て、ゴミを漁らないといけないなどと考えれば、惨めにもなろうものだ。

118 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:02:36 ID:GXwXwpuY0
从 ゚∀从「ゴミ漁りと考えるから惨めなのだろう。スカベンジング、もしくはサルベージと言えばいい。
     分りやすい所でリサイクルというのを採用するのもいいだろう」

('A`)「スカベンジングの方は英語になっただけだろ……」

懐からマルボロを取り出そうとして、持ってきた分は全て吸い終えてしまったことに気付く。
煙草が切れた以上、最早一分一秒でも早く帰りたかった。

無論、我が相棒がそのような怠慢を許すわけも無い。
千切れた義体の腕を検分しては、無言でそれを投げ捨てゴミの山と格闘するその背中から視線を外すと、辺りを見渡す。
何か適当な物でもないかと視線をさ迷わせていると、ズタズタになった日の丸の国旗の陰に、アップライトピアノを見つけた。

('A`)「ふむ、どれ」

煤けた日の丸国旗を取り払ってみれば、茶色の表面は思ったよりも綺麗だ。
試しに、鍵盤を叩いてみる。
くぐもってはいるが、修理に出せばまだまだ使えそうだった。

近くに転がっていた外部記憶端末の四角いボディを引っ張ってきてそれに腰かける。
鍵盤に右の手を乗せると、少し考えてから、唯一弾ける曲である所の、「ねこふんじゃった」を引いてみる事にした。

ねこふんじゃった、ねこふんじゃった、ふんづけちゃったら、ひっかいた

ねこひっかいた、ねこひっかいた、びっくりして、ひっかいた

119 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:03:16 ID:GXwXwpuY0
('A`)「ははっ、意外と憶えているもんだな」

ふざけた歌詞だが、片手だけで弾けるというのを知った当時は、ただそれだけで画期的な事だと思っていた。

無論、きちんと弾くとなると左の手も使う事になる。
演奏を止めて、黒革の手袋に包まれた左の手を見やる。
未だ、修理が済んでいないとは言え、これといった支障は出ていない。

('A`)「……やれるか?」

恐る恐る、鍵盤の上に左の手を乗せて、曲の頭から弾き直す。

ねこふんじゃった、ねこふんじゃった、ふんづけちゃったら、ひっかいた

ねこひっかいた、ねこひっかいた、びっくりして、ひっかいた

わるいねこめ、つめをきれ、やねをおりて、ひげをそれ

('A`)「おっ、おっ、いけるんじゃないのか?」

にゃーご、にゃーご、ねこかぶり、ねこなでごえで、あまえてる

ねこごめんなさい、ねこごめんなさい、ねこおどかしちゃってごめんな

――ばきりっ。

120 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:04:31 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……」

左の手の下で、鍵盤が砕け散り、白と黒の木屑と化している。
義手の動作不良という訳ではない。
調子に乗って弾いていたら、力加減を間違えた。

('A`)「やっぱ、楽器弾くのは無理そうだな」

从 ゚∀从「相棒にゴミ漁りを任せて自分は演奏ごっこか。良い御身分だな」

('A`)「サボタージュじゃないさ。もしも使えそうだったら、持って行って売り飛ばせるかと思ってよ」

从 ゚∀从「――それをか?」

鍵盤の砕けたアップライトピアノを顎で指して、相棒が尋ねる。

('A`)「偶発的な事故だ」

俺は肩を竦めてみせた。
同時に、懐で携帯端末が振動した。

('A`)「はい、こちらD&H探偵事務所」

('A`)「…ええ、ええ、はい…分りました」

('A`)「では、これから戻りますので、夕方頃という事で…はい、お待ちしております…」

通話を切り、懐にしまう。
相棒が、何時もの仏頂面でこちらを見ていた。



121 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:05:50 ID:GXwXwpuY0
('A`)「仕事が入った。さっさと戻ろうぜ」

从 ゚∀从「――思っていたんだが」

('A`)「ん?」

从 ゚∀从「矢張り、D&Hというのはいかがなものか」

('A`)「今更何を言っているんだか……」

やれやれと首を振り、ゴミの山の上を歩きだす。
ここから立ち去れるのならば、仕事であっても大歓迎だった。

122 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:07:12 ID:GXwXwpuY0

#track-7

――兄を、探して欲しいんです。

ああ、これが兄の写真でして――僕とそっくりでしょう?――ええ、よく言われます。

……最後に会ったのは、僕が高校を卒業してからなので……もう、十年も前ですね。

僕達兄弟は、早くに両親に先立たれてしまいましてね。父親は僕の物心がついた時には既に居ませんでしたし、母親も僕が小学生に上がる頃には食道ガンで逝ってしまったものですから、僕らはそれから孤児院に引き取られる事になったんですがね……。

――ああ、いえ、すいません。大丈夫です。ええ…ただ、あまり、孤児院の事は思い出したくないものでして。……あそこは…何というか…とにかく、決して「良い所」とは言えない所だった。

結局、逃げ出しちゃったんです。僕達は、孤児院をね。僕が十二歳で、兄が十九歳の頃の事です。

ニーソクのあちこちを転々としましたよ。日銭は、兄がアルバイトで全て賄っていました。ここら辺は、身元照明がはっきりしていなくても、たとえ未成年であっても、「働き口」にだけ関して言えば、困る様なことはありませんからね。

アパートも、最低限の所を選んで借りる事が出来ていました。廃教会の裏側の、路地の所に「耶麻無」ってプレハブみたいな建物があるの、ご存知ですか。ええ、ええ、そこです、そこ。

僕は、あそこから小学校、中学校、高校と通っていたんです。今にして思えば、よくアパートなんて借りて居られたな、って思いますよ。万魔殿で寝泊まりしていたとしても、決して不思議じゃなかった。

123 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:08:52 ID:GXwXwpuY0
人一人が幾つもアルバイトを掛け持ちした所で、僕の学費や生活費の全てを捻出できるわけがないんです。

きっと、あの時で既に兄は裏の社会に片足を突っ込んでいたんでしょうね。

全て、僕を養う為にしてくれていたのに、僕はそれを許してやることが出来なかった。

高校三年の時です。もう、あと数週間で卒業するって時になって、兄に向って言ったんです。

卒業を機に、自分も大人になる。これからは、自分の食いぶちは自分で働いて自分で賄う。だから、もうヤクザな仕事は止めてくれって。

随分と生意気な事を言ってしまったと、今でも後悔してます。

あの時の僕は、兄がどれだけの覚悟で裏の仕事に手を出していのか、それを知らなかった。

ただ、世間体というものに怯えるだけの子供でしか無かった。

兄は、何も言いませんでした。何も言わないで、それから二日後に家から姿を消してしまいました。

残されたのは、僕用の口座に振り込まれた五百万円と、兄のピアノだけでした。

当時は、そんな無責任な兄の行動を恨み、憤る日々でした。

何も言わずに居なくなるなんて、どういう事なんだって。

やっと自分の行動を反省して、後悔するようになったのは五年前程からです。

それまでは、唯一の家族である筈なのに、捜そうともしなかった。

兄のお陰で、僕は高校も卒業出来て、ちゃんとした会社にも就職出来た。それなのに僕は――。

124 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:10:08 ID:GXwXwpuY0
――来月、結婚するんです。だから、兄には是非出席してもらいたくて…今更、ムシの良い話かな、とも思うんですが……。

兄のお陰で、僕はこんなに幸せになれた、兄のお陰でここまで来る事が出来た、それを兄に伝えたいんです。そして謝りたいんです。あの時の言葉を。

だからどうか。どうか、兄を、捜してやってくれませんか。

('A`)「“報酬は、そこまで多くは用意出来ませんが”」

从 ゚∀从「我らが事務所の相場も随分と下がったものだな。
私としては、あの額では猫一匹捜してやる気にはならないものだが」

('A`)「“仕事を選んでいる程高貴な身分では無いだろう?”ってのは、何時ものキミの言葉と記憶しているが」

从 ゚∀从「塩豚への調査費用も含めれば、完全に赤字だ。こんなふざけた仕事は前代未聞だな」

('A`)「宣伝効果を期待してるんだよ」

「一体何を宣伝しようというのだ。貴様の頭の悪さか?」、というハインリッヒの言葉を聞き流して、後ろ腰からカスタムデザートイーグルを抜いて構える。

「イヒ…いヒヒ…アバー…アア…ヒッヒッヒヒ…」

闇の吹き溜まりの中から、引きつった笑い声が上がった。

125 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:10:54 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……この中に、入っていくのか?」

从 ゚∀从「それが、仕事と言うものだ」

万魔殿。崩れかけたビルの廃墟の一室。
俺達の目の前には、地下へと続く階段が口を開けている。
傾きかけた太陽の、橙色の光さえも届かない、暗闇への入り口だ。

「アヒッ!ヒヒヒッ…ヒヘッ!…ウブブ…ゴエ…ッフ――ヒィヒィイィヒヒッ!」

暗がりの中から、再びあの引きつった笑い声が響いてくる。
常人のものからはほど遠い、病み、狂ったような、そんな響きの笑い声。

俺は、もう一度相棒の顔を振り返る。
傍らの相棒は目を閉じ、首を左右に振った。

('A`)「――やれやれ、だな」

カスタムデザートイーグルから結線ケーブルを引っ張り、ニューロジャックに繋げる。
左手で銃を、右手でマグライトをそれぞれ頭の高さに構えると、俺は地下室への階段を一段一段、慎重に降りて行く。

マグライトの明りの中に照らし出される、朽ちかけたコンクリート壁からは、パンクス達が描いていったであろう、スプレーグラフィティアートの髑髏や悪魔などがこちらを睨んでくる。
階段のそこここには、鼠の糞や酒瓶の破片、何十年も前の新聞の切れはしなどが散乱しており、アンモニアとアルコール、そして仄かな血の臭いもがそれに混じり合い、吐き気を堪えるのにも一苦労した。

126 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:13:53 ID:GXwXwpuY0
思いの他長い下りの末、視界が開ける。

深さにして、地下5メートル程だろうか。
地下室の割には天井の高い部屋は、元はボイラー室だったのだろう。
パイプやダクトが這いまわり、錆ついたボイラー設備が無言のままに鎮座する空間。
階段を降り切って、真っ直ぐ、突き当りの壁に、背を預けて座り込む人影があった。

( ※_ゝ§)「ヒヒ…アー…イイ…ソイツを…アア……」

('A`)「……」

これで、会うのは五度目だな。
そんなことを、ぼんやりと考えながら近づいて行き、その前にしゃがみ込む。
サイバネティクスの配線が顔面を這いまわる男は、俺の接近にも何ら反応を示す事も無く、痙攣した様な笑いを漏らし続けていた。

( ※_ゝ§)「コ、コレが…フィヒ…き、キモチイイんだ…アア…フィヒヒヒ!」

前に会った時は、右腕と左目だけだったサイバネ改造は、今は右眼と左腕にまでも広がっている。
配線や強化樹脂装甲が露出する男の左耳の下には、追加ニューロジャックやソフトウェアソケットが増設されており、そこからは膿みと機械油の混じった腐汁が溢れ、彼の肩に垂れていた。

改造に次ぐ改造。整備不良によるサイバネティクスの老朽化。
それらによってニューロンが損傷した結果、精神を病む者は少なくない。
目の前の彼もまた、「サイバーサイコ」と呼ばれるその一人だった。

127 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:14:51 ID:GXwXwpuY0
('A`)「……」

頭の高さに構えていたカスタムデザートイーグルを、だらりと下ろす。
こうなってしまったら、もうどうする事も出来ない。
ふん縛ってアサイラムに入れた所で、何かが変わるわけでもない。傷ついたニューロンを修復することなど、今の科学では不可能だ。

俺は、踵を返す。
腹の底から胸へと向かって、言いようのない倦怠感のようなものが、せり上がってくる。
背後で聞こえていた笑い声が、ふいに途切れた。

(;'A`)「――シッ!」

即座に振りかえり、銃を構える。

( ※_ゝ§)「ケヒ!ケヒヒヒィィイイ!」

バネ仕掛けめいて飛び出してくる男を、ニューロンが補足。
コンマゼロ秒の誤差も無く、パルス信号の命令で、直結されたカスタムデザートイーグルのトリガーが引かれる。
少なくとも、引かれはした。

(;'A`)「なっ――!?」

腰の高さで固まった左腕。あらぬ方向へと飛んでいく銃弾。ここに来てのフリーズ。
たとえそれが、一コンマの遅れであろうと、命のやり取りにおいては致命的な遅れだ。
低く飛んだ男が、両腕を熊めいて振りかぶった姿勢で、突っ込んでくる。
咄嗟に左の手で上体を庇おうとするが、三世代も前のサイバネ義手は未だその硬直が解けない。
間に合わない。俺は、反射的に目を閉じる。

128 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:15:49 ID:GXwXwpuY0
予測された痛みは、しかしやってこなかった。
ゆっくりと目を開ける。

从 ゚∀从「やれ、矢張り貴様を先行させるべきでは無かったな。これは私の判断ミスだ」

黒衣の堕天使めいた鋼鉄の処女が、サイバーサイコの振り上げた左の長腕を、両手の長物で受け止めていた。

从 ゚∀从「――で、“コレ”は処分してしまっても構わないか?」

つばぜり合いを続けながら、鋼鉄の処女は振り返らずに尋ねてくる。

( ※_ゝ§)「イヒ!フィヒヒヒー!裂いて!裂いて!裂きたいのおおおお!アヘヒャヒャヒャ!」

俺は、依頼人の言葉を束の間思い出す。

「来月、結婚するんです。だから、兄には是非出席してもらいたくて…今更、ムシの良い話かな、とも思うんですが……」

「兄のお陰で、僕はこんなに幸せになれた、兄のお陰でここまで来る事が出来た、それを兄に伝えたいんです。
 そして謝りたいんです。あの時の言葉を」

('A`)「……」

俺が答えを出しかねている間にも、鋼鉄の処女はサイバーサイコを腕ごとその長物で押しやり、自分もバックステップで距離を取る。
ボイラー室の狭い通路ギリギリの長さを誇る彼女のエモノは、幅広にして肉厚な刃を持つ大鎌だ。
伸縮式の柄と取り外し可能な刃によって構成されるそれは、何の特殊機構も持たない極めて原始的な武装だ。
刃自体の重量と、伸縮式の柄により間合いの調整が可能な事以外、何の強みも持たないそれは、本来は常人が扱う様な代物ではない。
ハインリッヒが、人外の運動能力を有する鋼鉄の処女が握ってこそ、初めて一線級の活躍が期待できるものなのだ。

129 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:17:22 ID:GXwXwpuY0
( ※_ゝ§)「ヘヒ…ヘヒヒ…?」

从 ゚∀从「……哀れな奴だ。私の主の次くらいには、哀れな奴だよ、貴様は」

二人は、互いの間合いを窺うように、足を前に出したり引っ込めたりしながら、通路の間で睨み合う。
だがすぐに、サイバーサイコの方が待ちきれなくなり、右の腕を腰だめに構えて地を蹴った。

( ※_ゝ§)「刺して!挿して!サシテサシテサシテサシテエエエ!」

鋼鉄の処女に向かって一直線に突進するサイバーサイコの右腕の掌が、カメラのファインダーめいて開く。
ボディブローの要領でもって、電撃的速度で突き出される右腕。
その肘の部分に仕込まれた火薬が炸裂し、くい打ち機構めいて打ち出された単分子ランスの鋭い切っ先が、鋼鉄の処女を狙う。

ハインリッヒはこれを、上体を僅かに逸らして回避。
サイバーサイコはすぐさま右腕を引き戻し、続く第二撃を放つ。
瞬時に格納された単分子ランスが、次弾の装填の済んだ火薬によって再び爆発的に突出。
鋼鉄の処女は上体と膝を曲げてブリッジの姿勢。
難なく避けると、そのままの姿勢で両手を地面につき、バックフリップの勢いで蹴り上げた。

下から掬いあげるように繰り出された爪先が、カミソリのような鋭さでサイバーサイコの顎を捉える。
金属と金属のぶつかる硬質な音。鋼鉄処女の重い蹴りを受けたサイバーサイコはよろめき後ずさる。
一回転して姿勢を整えたハインリッヒは、大鎌を構えて一歩前進。両者の距離は2メートル弱。

从 ゚∀从「攻撃が単調に過ぎる。最も、サイコに判断力を求めるのが間違いか」

無機質な言葉と共に、両手の中の大鎌を振るった。

130 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:18:03 ID:GXwXwpuY0
( ※_ゝ§)「アバッ!?アババババ!?」

銀の閃きとなった大鎌の切っ先が、サイバーサイコの右腕を捉える。
和紙を勢いよく千切る様な断裁音に続いて、西洋甲冑の籠手めいたサイバネ義手が宙を舞う。
一拍遅れて、その平坦な切断面から、潤滑油と血の混じり合った毒々しい液体が噴出、地下ボイラー室の湿った床を斑に染めた。

从 ゚∀从「トドメッ!」

振り抜いた勢いを利用して大鎌を頭上で回転。
ハインリッヒは袈裟掛けに切り下ろす。
死神の審判めいたその切っ先がサイバーサイコの肩口を捉える寸前、狂える男はその場で後ろに跳躍、死の刃を逃れると同時、後方の壁を蹴って斜め上からの奇襲に出た。

( ※_ゝ§)「アイイイイイ!エエエエエェエ!」

サイバーサイコが頭上で振りかぶる右の腕は、左に比べて線の細いシルエットの鉄板装甲に覆われている。
軽装鎧の籠手めいた上腕部の装甲が跳ね上がり、そこからスリット状の発射口が出現。
空気の抜けるような乾いた射出音と共に、そこから円盤状の小型刃が無数に飛びだした。

閃く銀環の群れが、鋼鉄の処女の黒衣を裂いて、その上体に次々と突き刺さる。
矢襖めいて円盤を生やした鋼鉄の処女は、しかし怯む様子は無い。

从 ゚∀从「羽虫の特攻が――」

先に袈裟掛けに振りおろしていた大鎌の刃を上に向け、彼女は柄を逆手に握り直す。

从 ゚∀从「私を止められるなどと思いあがるな!」

怒号と同時、鋼鉄の処女は逆手に握った大鎌を振り上げる。
悪鬼の下顎から突き出す牙めいて跳ね上がった大鎌の切っ先が、頭上に迫ったサイバーサイコの腹を貫通。
振りあげた勢いもそのままに、鋼鉄の処女は半身を捻ると、空中で串刺しにした狂人の身体を、後ろの床に叩きつけた。

131 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:19:05 ID:GXwXwpuY0
( ※_ゝ§)「オグッ――!カッ――ポッ――!?」

ずしりと音を立ててボイラー室の床に伏したサイバーサイコの口から、血の泡が吹き出す。
蛙めいて手足を痙攣させるその体は、大鎌の刃によって縫い付けられ、最早身動き一つ取れそうも無い。
最後の足掻きとばかりに、大鎌の刃を掴もうとする右の手を、鋼鉄の処女が無慈悲に踏みつけた。

从 ゚∀从「――それで、どうする?」

刹那の内に殺陣を終えた鋼鉄の処女が、上半身に食い込んだ銀環を引き抜きながら、こちらを振り返る。
血の様に真っ赤な双眸は、相変わらずの機械らしい無表情を湛えて、真っ直ぐに俺を見つめていた。

从 ゚∀从「ここで処分して、依頼主には適当な報告を返すか?それとも拘束して連れ帰り、引き合わせるか?」

('A`)「……」

妙に気だるい体を動かし、サイバーサイコの元へ近づき屈みこむ。
未だに痙攣し続けながら、血の泡を噴き出す男の顔を、俺は覗きこんだ。

( ※_ゝ§)「ゲフッ――ガッ――ハァ…カアァ…ェエェ――ッサをヤるのサ…」

虫の息の彼の口が、意味のある言葉を紡ごうとしている。
俺は、耳をそばだてた。

132 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:20:07 ID:GXwXwpuY0
( ※_ゝ§)「俺がマスターで…お前が給仕でよゥ…ヘヘッ――ジャズ喫茶を…やるんだ」

むせながらうわ言を言う男の眼は、焦点があっていない。

( ※_ゝ§)「だから――お前…ジャズ喫茶だからヨゥ…練習――チャんとしておけよゥ――ゲホッ!ウェホッ!エホッ!」

('A`)「……」

( ※_ゝ§)「オオオオオレも――ゲホッ!ガホッ!――ピピピアノの…練習…しとくかラ――ウェッ!…馬鹿野郎――俺ァ、お前とは年季が――ゲホッ!ガボッ!ゴボッ!」

そこまで聞いて、俺は立ち上がる。
カスタムデザートイーグルの遊底を引いて、銃口を男の頭に向けた。

( ※_ゝ§)「イイ案だと思わねェか?なあ、兄弟でジャズ喫茶だ――なあ――」

俺は、無言でトリガーを引いた。
乾いた音が地下室にこだまし、男の身体が一瞬大きく跳ねた。
薬莢が、ボイラー室の床を叩く音が、耳朶を打った。

133 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:21:43 ID:GXwXwpuY0
从 ゚∀从「依頼主には、何と報告する?」

大鎌を引き抜き、柄と刃を分解しながら相棒が聞いてくる。
しばらく考えてから、俺は答えた。

('A`)「病死だ。過労が祟っての病死。カルテや戸籍は適当に用意する」

ホルスターに銃をしまいつつ、コートの内ポケットを探る。
くしゃくしゃになった紙片を引っ張り出して、それを開く。
ミミズののたくったような字で書かれたアドレスを一瞥してから、俺はそれを男の亡骸に向かって放った。

从 ゚∀从「――結局、一度も飲むことは無かったな」

別段興味も無さそうに言う相棒を促し、俺は地下室の階段へと足を進める。

('A`)「そういう事の方が多いさ、この街では」

言いながら火を点けたマルボロは、味がしなかった。

134 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:23:18 ID:GXwXwpuY0

track-8

――その日の「コシモト」には、俺達以外の客の姿は無かった。

∬´_ゝ`)「ン何よモウ!今日は暇だったからもう閉めようと思ってたのにン!」

来店一番、俺達の姿を認めた姐者が顰め面で口をとがらせる。

('A`)「客商売がそんな事を言ってて成り立つのか?」

∬´_ゝ`)「アータ達は別ヨゥ!うちにボトルも入れてくれないじゃないの!」

相棒が入ったのを確認して、後手にドアを閉めるとガラガラのカウンターに腰を下ろす。

('A`)「それじゃあ今日は特別だ。コレで空けられる適当なウィスキーを頼む」

一万円のクレジット素子を、カウンター越しに姐者に放る。
両の手で挟むようにしてそれをキャッチした彼女が、珍しそうに眉を上げた。

∬´_ゝ`)「何?ボトル?アータが?何があったのヨ?」

('A`)「快気祝いだよ。俺の」

∬´_ゝ`)「ハァ?アータが病気?ヤダモウ、変な冗談止めテよネ!」

右の手を振り、ケタケタと笑いながら酒瓶棚へと向かう姐者。
隣の相棒が密かに鼻を鳴らすのを聞きながら、俺は黒革の手袋に包まれた左の手を見つめる。
ここに来る度に何度も繰り返したが、もう一度掌を握っては開いてみる。
微細な稼働音こそすれ、以前よりも遥かにマシになった感触がニューロンに返ってきた。

135 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:24:16 ID:GXwXwpuY0
('A`)「そう言えば、前にキミは事務所の名前が気に入らない、って言ってたな」

右隣に行儀よく座って、お冷のグラスをじっと見つめる相棒を振り仰ぐ。

从 ゚∀从「んん?ああ、そう言えばそんな事もあったな」

膝の上に両手を揃えて、魅入られたようにグラスを見つめていた彼女は、まるで慌てたようにしてこちらを向く。
カウンターで酒瓶を吟味する姐者をちらりと見て、先の鋼鉄乙女の挙動を思い出した俺は、胸中で密かに笑った。

('A`)「今、良い案が思い浮かんだんだ。リブート、と言うのはどうだろう」

从 ゚∀从「リブート?再起動?――由来は?」

問い返してくる相棒に、左の手を振って見せる。
相変わらずの仏頂面でそれを見ていた彼女は、口を半開きにしたまま暫く思案するかのようにしていたが、やがて鼻を鳴らして首を振った。

从 ゚∀从「まあ、貴様にしては悪くないんじゃないか?」

('A`)「新しい門出、ってわけ。再出発だよ」

从 ゚∀从「これで借金もリセットされれば言う事は無いんだがな」

('A`)「違いねえ」

136 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:25:32 ID:GXwXwpuY0
束の間、封を切っていない督促状の山の事を思い出しかける。
幸いな事に、目の前に勢い良くおかれたウィスキーのボトルが、俺の思考を遮ってくれた。

∬´_ゝ`)「どうせもう閉めるつもりだったんだから、アタシにも付き合わせなさいヨ」

氷の入った二つのグラスに、銘柄も知らないウィスキーが注がれる。
先に注いだグラスに俺が手をつけようとすると、姐者はそれをひったくる様にして奪うと、一気に煽ってゲップを吐いた。
俺は、唖然としてそれを見つめるしかなかった。

∬´_ゝ`)「アータ達だからこんな姿見せるのヨ」

('A`)「嬉しくねえよ」

∬´_ゝ`)「ヤーダー!モーウ!」

芝居めかしてしなを作ったかと思えば、一転、厚かましい中年女性の態度で笑いだす姐者に、俺は顰め面を作る。
仕方なく、手酌でウィスキーをついでいると、視界の端では隣の相棒が、カルピスの入ったグラスを前に、再びあの姿勢を取っていた。
洗浄が面倒なので、今までこのような場面になる度お預けをくわせていたが、少しばかり哀れに思えた。

∬´_ゝ`)「それよりヨ、ちょっとアレ見テ、アレ」

既に赤ら顔になりつつある姐者の指し示す先、カウンター席の隅の壁には、古ぼけたグランドピアノが置いてある。

137 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:26:30 ID:GXwXwpuY0
∬´_ゝ`)「こないだ馴染みのお客さンがね、持って来たのよ、ソレ」

('A`)「は?」

∬´_ゝ`)「トラック呼んでヨ!?信じられル!?」

グラスを煽ろうとして開いていた口が、そのままの形で固まる。

∬´_ゝ`)「ピアノの心得があるから、ここで弾きたいって言いだしてサ。
      でも、ウチにそんなピアノを買うお金なんテ無いッテ言ったのよ。
      そしたら、自分で用意するカラいいって言って、それでアレよ」

「ホント、信じられないわ」と言いながら、二杯目をグラスに注ぐ姐者。

从 ゚∀从「世の中には、貴様以上に想像を絶する狂人が居るものだな」

皮肉っぽく言って、相棒はカルピスのグラスを手に取る。
唇にグラスが触れた所で、我に返ったのか、彼女は恨めしげな顔でグラスをカウンターに置こうとした。
視線でそれに、OKサインを出す。
目を見開いた後、彼女は僅かに眉を顰め、それでもグラスを空にした。
口元が僅かに緩んだ。

∬´_ゝ`)「でもネ、結局そのお客さん、それから一度もウチに来てないのヨ。
      連絡先も知らないし、捨てるにもお金が掛るじゃない?だから仕方なく、そこに置いてるッテわけ」

('A`)「まあ、置いてる分には金は掛らんからな」

138 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:27:55 ID:GXwXwpuY0
言いながら、グラスを空にしてカウンターに置くと、俺は立ち上がってピアノの方へと近づく。
年季こそ入っているが、黒塗りのそれには傷一つ無い。
不釣り合いに粗末なパイプ椅子に腰を下ろすと、鍵盤を覆うカバーを上げた。

∬´_ゝ`)「なにアータ、ピアノ弾けるの?」

('A`)「いや別に」

露われた鍵盤も綺麗なものだ。
白い鍵盤の上に両手を乗せると、俺は矢張り「ねこふんじゃった」の譜面を頭に思い浮かべた。

ねこふんじゃった、ねこふんじゃった、ふんづけちゃったら、ひっかいた

ねこひっかいた、ねこひっかいた、びっくりして、ひっかいた

∬´_ゝ`)「やだもう、下手くそねェ。アタシのがヨッポドか上手いワヨ」

('A`)「芸才には恵まれてなくてね」

言いながらも、鍵盤の上を打つ指は止めない。
修理を済ませた為か、左の手も前より滑らかに動いている。

にゃーご、にゃーご、ねこかぶり、ねこなでごえで、あまえてる

ねこごめんなさい、ねこごめんなさい、ねこおどかしちゃってごめんな

歪んだ音が、ひと際高く響いた。
俺は、両の手を止めた。

139 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:28:57 ID:GXwXwpuY0
∬´_ゝ`)「ンモー、ホンッと下手くそ。なにヨソレ、小学生?アータ小学生でももっとマシよソレ」

げんなりした表情で茶々を入れてくる姐者に苦笑いを返して、左の手を見つめる。
黒革の手袋に包まれた三世代前の戦闘用義手は、相変わらず低いモーター音を立てていた。

140 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:29:41 ID:GXwXwpuY0

Epilogue

――暮れなずむ夕日が、あばら家の建ち並ぶ下町の傍らを流れる、ドブ川を黄金色に染め上げる。
少年とその兄は、まばゆい金の輝きを反射する川沿いの堤防を、二人並んで家路についていた。

「ねえ、兄ちゃん、僕の演奏どうだった?」

胸の前で、両手を演奏の形にして動かしていた少年が、傍らの兄を振り仰ぐ。
黒い楽器ケースを肩に担いだ兄は、小さく鼻を鳴らすと、その顔に意地の悪い表情を浮かべた。

「まだまだだな、ありゃ。全然、まだまだ」

「えー!だってお客さん、沢山拍手してくれたよ!?」

「そりゃ、お前がガキだからサービスしてくれたんだよ、馬鹿」

兄の言葉に、少年はしゅんと項垂れる。
予想以上のその落ち込みように、兄は幾分かばつの悪い表情で頭をかいた。
カラスが、遠くの空で鳴いていた。

「あー、その、なんだ、それじゃあ今度一回、俺と音合わせしてみるか?」

「だって兄ちゃんピアノじゃん。意味無いじゃん」

「馬鹿、他の楽器に合わせるってだけでも、練習になるんだよ」

「本当に?」

「本当だ」

141 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:30:42 ID:GXwXwpuY0
納得のいかないような顔を作る少年。
その歩みが、知らず知らずのうちに遅くなる。
夕飯の買い物を済ませた主婦が、スーパーの袋を自転車の籠に入れて通り過ぎていく。
兄は、空いている手で少年の背中をどやしつけた。

「ジャズ喫茶、やるんだろ?なあよ?だったら、今からその時の為に練習しねえとよ」

少年は、兄の顔を見上げる。
兄はそれに、にっかと笑ってみせた。

「ちゃんとよ、俺の演奏についてこられるように、練習しねえとなあ。お前はまだまだだから……」

ぶつぶつと言いながら歩き出す兄の背中を、少年は足を速めて付いて行く。

「ねえねえ、じゃあどっちがマスターやるの?僕?」

「はっ?お前、酒作れんの?」

「作れるようになる!」

「あそう」

「作れるようになるよ!」

「酒もいいけど、お前はサックスの方をいっちょ前にしろよ」

「うん!」

142 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:32:18 ID:GXwXwpuY0
「分ってんの?」

「うん!」

「本当に?」

「うん!」

目を輝かせて、自信満々に頷く少年に、兄は苦笑を返すと再び前を向く。
夕焼けが、丁度彼らの向かう先を照らして橙色に灼熱していた。

「約束だぞ。ちゃんと、サックスの練習をすること」

「約束する!」

元気に返事を返す少年に、兄は手を差し出す。
その手を握ろうともせずに少年は駆けだすと、兄を追い越していった。
紅の中で逆光になったその背中を、目を細めて見送りながら、兄はゆっくりと瞬きした。

「兄ちゃん、早く!早く!」

ある日の、帰り道の事だった。

143 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:36:38 ID:GXwXwpuY0
 

 

         从 ゚∀从は鋼鉄の処女

           =Яeboot=
 

          /// the end ///

 

.

144 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:37:49 ID:GXwXwpuY0
 

 

         从 ゚∀从は鋼鉄の処女

           =Яeboot=
 

         「the common case」

 
          /// the end ///

145 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/27(金) 23:54:52 ID:zubNyNBAO
■親愛なる読者の皆さんへ■責任問題だ■囲んで棒で叩く■激しく重点■

今回のエピソードはこれで終了です。尚、最後のエンドタイトルに不手際が散見された為、投稿担当者は速やかにケジメされました。ごあんしんください。

次回の投稿日についてはまだ決まっていない。だがどういう話を書くかは決まっているので大丈夫だ。なので大丈夫です。と思う。

いじょうおわり

146 名も無きAAのようです :2012/07/27(金) 23:58:52 ID:Hu7Gs.K60
投下はえーなおい


147 名も無きAAのようです :2012/07/28(土) 00:35:10 ID:4784m5Wc0


148 名も無きAAのようです :2012/07/28(土) 00:50:48 ID:fa37GdkQ0

なんていうか世の無常って感じのお話だったな
エピローグぐっときた

ところで>>9のget ladyはreadyじゃなくてあえてのlady?

149 名も無きAAのようです :2012/07/28(土) 00:58:21 ID:bWFT8CDA0

救われねぇな

150 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/28(土) 01:56:19 ID:F7IOq84cO
>>148=サン指摘された通りざっと見返しただけでも今回のエピソードではミスタイプが目立っています。

担当責任者を問い詰めた所、UNIX端末の不調によって、出力時に何らかのエラーがあったかもしれないとの証言があったため現在事実関係をついきゅうちゅうです。

尚、この間違いはなんか後日修正されるかもしれません。お騒がせしております。

151 名も無きAAのようです :2012/07/28(土) 03:50:04 ID:UrSaLR6.0
乙!
なかなかキツイ話だったな

152 名も無きAAのようです :2012/07/28(土) 03:51:42 ID:N/k/FF/Q0
帰ってきてくれてマジで嬉しい
当時一番好きな作品だったものの続きが読めると思うとwktkが止まらない

153 名も無きAAのようです :2012/07/29(日) 00:36:49 ID:co/VI7Co0
おかえりなさああああい!
昨日気がついて、一気に読みました!
また読めるなんて思わなかった!!

154 名も無きAAのようです :2012/07/29(日) 08:33:51 ID:JkD/QpYY0
鋼鉄処女の人お久しぶり、そしてお帰りなさい
芸さんの掲示板でラブコールかけまくってホントに良かったよ

155 名も無きAAのようです :2012/07/29(日) 08:38:17 ID:lR2Ed3Q6O
久しぶりだな!ダークヒーロー!

156 名も無きAAのようです :2012/07/30(月) 10:38:16 ID:a12.RbYE0
ところでなんでコメントだけこんな翻訳して再翻訳したような文章なんだ

157 名も無きAAのようです :2012/07/31(火) 01:45:45 ID:y2ZS.ST60
ドクオの性格変わった?

だいぶハードボイルドになったような気がするwww

これも作者さんの意図かな?

158 名も無きAAのようです :2012/07/31(火) 02:18:01 ID:Cm9KWx8Q0
年月は人を変えるものよの
っていうかヘッズになって戻ってくるとは

159 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/31(火) 13:12:09 ID:tFqY5Ngo0
ドクオがどうしてカタユデになったのかは、彼の左腕と事務所移転の秘密と共にこれから語られるだろう。備えよう。


という構成担当者からの言葉を我々は預かってきております。

因みに今日はЯeboot以前の頃(以後、無印)のダソク・リチュアルであったキャラクウータープロフィールと、インデックスの投稿にやってきた。

キャラクウータープロフィールの方はЯebootになってからもやるかもしれないが、インデックスの方は無印が完結次第廃止される。

何故ならばそれは大いなる宇宙意志の思し召しによるもので、遥か電子空間の果てに存在するハッカー達のヴァルハラの繊細なコズミックバランスを崩しかねない危険性を孕んでいるからに他ならない。

だけどインデックスが無くなっても鋼鉄処女は鋼鉄処女だし、ハインリッヒは毒舌のままだ。ごあんしんください。

160 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/31(火) 13:14:14 ID:tFqY5Ngo0
=index=



【blank disc P-4. Subliminal murder】

story…幼き日の淡い愛。若かりし日の青い誓い。在りし日の残照をグラスに浮かべる暴君。
    血濡れの言葉。不確かな現実。罪人を追う電脳の申し子たち。
    過去と現在が交錯する先に待つのは、果たして光か闇か。
    ――人は、変わらなければ生きていけない。

tips…パーナル外伝。彼女とダイオードの出自を描いた話。サスペンス風。

↓成分表↓
バトル…☆☆☆☆☆
罵詈雑言…★☆☆☆☆
ミステリ…★★★☆☆
サイバーパンク…★★★★★
萌え…★★★★☆
サスペンス…★★★★★
ショタ…★★★★★
ハイン…☆☆☆☆☆
シュール…★★★★☆
R-18…★★★☆☆
田所さん…★☆☆☆☆

161 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/31(火) 13:15:55 ID:tFqY5Ngo0

キャラクタープロフィール

ノ从パ-ナル

氏名:パーナリア・カンテミール
年齢:70歳(AD;2150年現在)
性別:♀
誕生日:9月4日
血液型:A 型
人種:ロシア人(スラブ系)
現住所:不明
本籍:ロシア モスクワ カンテミール財閥本社ビル12‐1
所属:“シベリア”モスクワ支部代表
病歴:無し
術歴:脳核挿入手術(非公式施術の為市民IDは無い)、全身義体置換手術
頭髪:灰色。ウェーブがかった肩甲骨までのロングヘア。
瞳:鳶色
好きなもの:ダイオードが作ったスィルニキ、ワイルドターキー、クラシック(特に小フーガト短調)、ニーチェ
嫌いなもの: 紅茶、ロックンロール、野球とそれを好んで見る人種、人混み(人の波を見るたびにチェーンソーで薙ぎ払いたいと思う)

――シシリアンマフィア“シベリア”のモスクワ支部、通称「氷の旅団」の代表。50年前の灰の二年間を生き延びた帰還兵。
全ての戦闘行為において加減というものを知らず、目の前に立ち塞がるもの全てを根絶するそのやり方から「氷の暴君」と呼ばれている。
日本という国に対して非常に強い憎悪を抱いており、出来るならこの小さな島国を世界地図から消し去りたいとすら思っている危険思想の持ち主。
中途半端を嫌い、全ての行動が徹底的だが、零か百かでしか物事を考えられない不器用な性分であるともとれる。

162 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/31(火) 13:16:41 ID:tFqY5Ngo0
キャラクタープロフィール

/ ゚、。 /

氏名:ダイオード・アバカロフ
年齢:78歳(AD;2150年現在)
性別:♂
誕生日:2月19日
血液型:AB
人種:ロシア人(スラブ系)
現住所:不明
本籍:ロシア モスクワ カンテミール財閥本社ビル12‐1
所属:“シベリア”モスクワ支部構成員
病歴:無し
術歴:脳核挿入手術(非公式施術の為市民IDは無い)、軍用特殊全身義体置換手術
頭髪:くすんだ白
瞳:白(サイバーアイ)
好きなもの:雪、ベラスケス、廃墟、退廃美全般。
嫌いなもの:いさかいごと。

――パーナルの右腕にして“氷の旅団”の切り込み隊長。特注サイズの軍用全身義体は並大抵の火器では貫けない堅牢な装甲を誇る。
根は穏やかで争いを嫌う性質だが、主人であるパーナルへの忠誠心から現在の立場を受け入れた。
余談であるが、現在の義体を入れてから今日至るまでの40余年の間、彼は一睡もしていない。

163 ◆fkFC0hkKyQ :2012/07/31(火) 13:23:26 ID:tFqY5Ngo0
インデックスとプロウフィールの方はいじょうだ。

公式まとめサイトブーン芸VIP=サンの掲示板でも告知しましたが、無印は無印として完結する話であり、わかりやすくいえば無印は第一部ということになるだろう。つまりЯebootは第二部だ。

どうして第一部が完結しないのに第二部が始まるのかという質問があるかとも思いますがごもっともだ。しかしそれについては大丈夫。マザーユニックスの判断にゆだねよう。不安は無いです。安定です。

いじょう緒連絡などでした。

164 名も無きAAのようです :2012/07/31(火) 13:49:55 ID:a.9phntk0
70越えてたのか
びっくりだわ

165 名も無きAAのようです :2012/07/31(火) 16:48:09 ID:OO2Z2G5s0
可愛らしい女の子と従順な執事が戦場に放り込まれたら
スーパージジババになって帰ってきたでござる…

スィルニキをググったら腹減ってきた

166 名も無きAAのようです :2012/08/01(水) 09:16:57 ID:6X/4rOVIO
へははw
戻ってきたのかー

楽しみしております。

167 名も無きAAのようです :2012/08/07(火) 01:01:20 ID:RZtzTpzkO
てめぇこのやろう忍殺重点しすぎて忘れかけてたぞこのやろう。いいからハイクを詠め、さもなくば…あとはわかるな

168 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 13:35:40 ID:WbucYHaY0
■RADIO塊IM■capsule‐Starry Sky http://www.youtube.com/watch?v=LA37DbXmx9E■接続■貴方?筒■

169 名も無きAAのようです :2012/08/08(水) 15:39:17 ID:9obI6rSg0
何か狙いがあるんだろ。
期待して待ってようぜ

170 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:33:58 ID:WbucYHaY0

 

           【IRON MAIDEN】

 

.

171 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:37:35 ID:WbucYHaY0

 

“Today I’m dirty

I want to be pretty

Tomorrow I know, I’m just dirt

We are the nobodies

Wanna be somebodies

When we’re dead , they’ll know just who we are”

 

……The Nobodies/Marilyn Manson

172 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:39:15 ID:WbucYHaY0

 

 

       从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

         Disc11.No. of the beast

 

 

.

173 名も無きAAのようです :2012/08/08(水) 18:40:02 ID:Ajlw6rYA0
もう来たのか!wktk支援

174 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:41:23 ID:WbucYHaY0

Prologue


――極彩色のライトをミラーボールが反射して、ダンスホールの中は赤、青、黄、緑とひっきりなしにその色彩を変ずる。
多元アンプから吐き出される、重低音の繰り返しに合わせて、サイバーテクノヒッピー達が踊り狂う様は、一種宗教染みてすら見えた。

ニーソク区三番街の地下ディスコ「ゲヘナ」。
享楽と頽廃の権化。夜毎繰り返される、サバト染みた狂乱の宴に足を運ぶのは、
埋め込み式サイバーサングラスやミラーシェードで目元を覆い隠した与太者達、サイバーヒッピーと呼ばれる人種が殆んどだ。

幾何学的なシルエットのヒッピー達の服装は、ホール内の目まぐるしく変わる毒々しい色彩にも共通するカラーコーディネートで、
そのPVC加工されたジャケットやズボンの表面を、0と1などの意味の無い英数字の緑色の羅列が、電光掲示板のように流れ過ぎていく。
およそ非自然物のカリカチュアめいたサイバーテクノヘアやボブカットの男女は、
その露出した腕や腹、背中にも衣服同様の電光掲示板めいた液晶ディスプレイをインプラントしている者が散見された。

サイバーテクノへと帰属する者達の間で共通のシンボルのようにして流行している、この「テクノタトゥー」は、
彼らサイバーテクノヒッピー達の自己表現の一種でもある。
自分の座右の銘や、リスペクトするテクノアーティストや思想家の名前などを、
緑色の電子文字にして自分の肌の上を流す事は、サイバーテクノへの帰属度を計る一種のバロメータとしても機能しているようだ。

175 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:45:57 ID:WbucYHaY0
服の上にLEDを這わせただけのものは二流。ファッションテクノだ。
自らの肌に直接ディスプレイをインプラントし、サイバーテクノと文字通り一つになる。
無論、そのような反道徳的なインプラントなどを施してしまえば、社会においては真っ当な地位につける筈も無い。
そのリスクを冒してでも、インプラントを良しとし、反社会の精神を体現する事こそが、
「サイバーテクノヒッピー」としての覚悟の表れなのだと彼等は語るのだった。

(,,゚Д゚)「――理解出来んな」

炭のように黒いトレンチコートを着こんだ、がたいの良いその男は、サイバーテクノヒッピー達の饗宴の中にあって、浮いていた。
短く刈り込まれた黒髪と、無精髭の生えた浅黒く精悍な顔立ち。
夜の闇の底で獲物を狙う狼のような鋭い眼光とも相まって、とてもカタギの人間には見えない。
首筋から覗く展開式ヘッドギアの漆黒のシルエットと、トレンチコートの下に隠された夜色の強化外骨格は、
彼が電脳時代の狩人である事を無言のうちに語っていた。

黒狼のギコ。
夜に生きる住民の中で、その名を知らない者はいない。
漆黒の強化外骨格に身を包み、日本刀めいた振動実剣を振るう、始末屋。

サイバーヒッピーの群れを掻き分けながら、ギコはダンスホールの中を確かな足取りでもって進んで行く。
無論、彼にサイバーテクノを聴く趣味は無い。ギコの眼は、サイバーヒッピー達の群れの、ある一点に注がれていた。

176 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:47:36 ID:WbucYHaY0
(,,゚Д゚)『対称の一人を捕捉した。この騒ぎの中ならやれるが』

脳核回線を開いて、ギコは依頼主に問いかける。

『タイミングについては全て君に任せるよ。荒事に関しては、僕よりも君の方が専門だろうからね』

アノニマス表示の依頼主が、ギコの視覚野の隅で合成音声を返した。

『ただ、気をつけて欲しい。彼女は君が思っているよりも遥かに手強い。くれぐれも、油断はしないように』

(,,゚Д゚)『俺に油断は無い。後にも先にもだ』

短く告げて通信を切ると、ギコは改めて今回の標的の後頭部を注視する。
プラチナブロンドの頭髪は、左側がピンクや青のメッシュを入れたウェーブ状、右側がドレッド編みにされたアシンメトリースタイル。
一見した所では、ネオ・ゴス・パンクスのようにも見えるその女が何をしたのか、ギコは知らない。だが興味はある。

普段なら、女子供は手に掛けない主義を持ち出して、依頼そのものを突っぱねる筈だったが、今回は違った。

依頼主からの事前情報と、尾行によって見えてきた標的の輪郭は、この女が、
何時も相手にしているサイバーサイコやヤクザ崩れ達とは一味も二味も違った存在である事を示している。
隙だらけに見えて、その実は涎を垂らして牙をむき出しにした狂犬の如き殺気を、薄皮一枚の下に押し隠したかのような立ち居振る舞い。
長年この稼業を続けてきたが、ギコはついぞこのような者を相手にした事は無かった。

177 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:49:00 ID:WbucYHaY0
トレンチコートの裾の下で、手首の内側の格納鞘から単分子ナイフを手の中に滑り込ませる。
久しぶりに強敵と相まみえるかもしれない、という予感めいた感覚に、ギコは暗い期待を寄せている自分が居る事に気付いた。

(,;-Д-)「……」

ゆっくりと目を閉じ、苦悩深い皺の刻まれた眉間を、ギコは左の手で揉む。
その浅黒いこめかみを、脂汗が伝っていた。
自分の思考回路は、まるでウォーモンガーのそれではないか。
ミイラ取りがミイラになる。ぞっとしない話だ。

体内のドラッグホルダーを起動し、ダウナー系のドラッグを脳髄に染み込ませる。
ダンスホールの重低音が遠くに聞こえ、幾分か冷静さが取り戻されてきた。

(,,゚Д゚)「大丈夫だ…俺は、まだ大丈夫だ……」

自分に言い聞かせるように呟くと、ギコは額の汗を拭って単分子ナイフの感触を確かめる。
テクノカットやボブカットの頭の中にあって、ピンクとブルーのメッシュが入ったドレッド・アシンメトリーのヘアスタイルは随分と浮いている。
標的を見失う心配が無い事に、幾分かのやり易さを覚えながら、ギコはその背中へとヒッピー達の群れを掻き分け近づいて行った。

トランスミュージックと、ハードコアテクノの中間の様な、ざらざらとしたサウンドがギコの耳朶を嬲る。
異常な熱気に沸いたダンスホールの中で、標的と自分の周りの時間だけが静止したかのような、妙な錯覚を覚える。
標的の、レザーボンテージスーツの開いた背中に、狙いを定める。
幾重にも巻かれた、包帯と拘束ベルトの隙間から覗く、病的なまでに白い肌。
手を伸ばせば、届く距離。何気ない動作に見せかけて、右手を動かすだけ。それだけで、一つの命を刈り取れる。

178 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:50:17 ID:WbucYHaY0
(,,゚Д゚)「……」

果たして、そんなに上手くいくものなのか?
ギコの胸中に、疑問が浮かんだ、まさにその瞬間だった。

「やあっと、来てくれた」

目の前の、拘束衣めいた衣装に包まれた背中が、ゆっくりと振り返った。

(*゚∀゚)「尾行ばっかで、全然話しかけてくれないから、待ち遠しかったんだゾ?」

血の気の無い石膏めいた輪郭の中で、白と黒の逆になった双眸が、愉悦の三日月に歪む。

(,,;゚Д゚)「――ッ!?」

不味い。ギコのニューロンが、警告のレッドアラートを鳴らした時には、既に遅かった。

(*゚∀゚)「レディを待たせるなんて――マナーがなって無いゾ?」

胸を貫く、生温かい感触。
ギコは、目を落とす。
包帯に覆われた生白い腕が、トレンチコートと、その下の強化外骨格を貫いていた。

喉元から、鮮血の奔流がせり上がってくる。
全身の力が、一瞬にして抜け切る。
そのまま倒れ込むギコの上半身を、左の手で受け止めながら、アシンメトリーヘアの病的な女は、彼の耳朶に愛おしそうな声で呟いた。

179 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:50:59 ID:WbucYHaY0

「逢いたかったよ、ギコ」

相前後、彼の意識は黒の奔流に飲み込まれていった。

180 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:53:18 ID:WbucYHaY0

Track-α

 


――はためくジープの幌の間から、生ぬるい潮風が吹きこみ、彼の頬を撫でる。
無理を言って大陸から取り寄せた「飛虎包」も、湿気を吸ってか酷く不味かった。

<ヽ●∀●>y―~「――これは興味本位で聞くんだが…お前さん達にも嗜好ってものは存在するのかい?
        自己発想許容型AIってのは、実際の所はどうなんだ?」

ジープの荷台の隅、木箱の上に腰を下ろした中華系の男が、大陸葉巻を唇から離して紫煙を吐き出す。
茶色のトレンチコートに、黒のスーツ。
オールバックに撫でつけた頭髪と、いかつい顔を更にいかつくしている丸サングラスからは、右の眼に走った裂傷が微かにはみ出していた。

(゚、゚トソン「……禁則事項です」

ユーラシア最大の犯罪組織、三合会。
その下部組織である陣龍の日本支部代表を任された、香主ニダーの言葉にも、ワタナベの秘書官は淡々とした態度を崩す事は無かった。

列島から出島めいて突き出した、ニホン国特別政令指定都市VIP、その北の外れ。
松の防砂林の向う、黒々とした太平洋の表面を、重金属酸性雨が叩く。
足が三本になったウミネコ達の群れを左手に望むここは、円形の出島の外周部を走る沿岸道路。
大型装甲車と、兵員輸送車じみたトレーラーが幾台も縦に連なり、手狭な車道を大名行列めいて走る光景は、
どんよりと黒く濁った太平洋の荒波とも相まって、破滅から逃げ出す一種のエクソダスめいてすら見えた。

181 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:54:24 ID:WbucYHaY0
<ヽ●∀●>「――なあ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃあないか?ウリ達は、一体何を運んでいる?」

輸送隊列の先頭から二番手を走る装甲ジープの荷台の中。
潮風を吸って不味くなった葉巻を幌の間から捨てて、ニダーは再び寡黙な秘書官に問い返す。

(゚、゚トソン「……禁則事項です」

菫色の瞳を揺らがせる事も無く、機械的に跳ね付けるトソン。
もうかれこれ、十度ばかり繰り返されたやり取りであった。
芝居めいた仕草で肩を竦めると、ニダーはやれやれと小さな溜息をついた。

<ヽ●∀●>「……確かに、お宅からは口止め料にビルが買えるだけの金は受け取っている。
        ウリ達としても、渡辺グループのお墨付きが貰えるなら、今よりも遥かに商売がしやすい。それについては何の文句も無いさ」

だが、と香主はその先を続ける。

<ヽ●∀●>「これだけのダミーの輸送車両と警備を用意するっていうのは、ちっとばかし尋常じゃあねえ。一体これは何事だ?」

(゚、゚トソン「……」

事務所を訪れた、渡辺のネゴシエイターを名乗るラテン系のイタリア男の弁を、ニダーは束の間思い出す。
  _
( ゚∀゚)『ブツを運んで欲しい。前金はここにある。足りなかったら言ってくれ。上と掛け合ってみる。
     詮索は無用だ。渡辺グループはそれを望まない。兎に角重要なブツだ。受けるか?受けないか?この場で直ぐに決めてくれ』

182 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:55:46 ID:WbucYHaY0
挨拶もそこそこに、ビズの話を持ち出したネゴシエーターが喋ったのもそこまで。
胡乱な話ではあったが、渡辺グループとのパイプは持っていた方がこの街では遥かにやり易い。
陣龍の香主としては、そこに何かしらの地雷が見え隠れしていようと、受けざるを得なかった。

<ヽ●∀●>「それとも、このキャラバンは地獄行きか?積み荷はウリ達、華僑共と、こう来るわけだ」

(゚、゚トソン「……」

<ヽ●∀●>「笑えねえ冗談だったか?」

(゚、゚トソン「……いえ」

荷台の中央、巨大な麻布で覆われた、棺桶程もある縦長の鉄箱の傍らにしゃがみ込んだトソンは、相変わらずの鉄面皮だ。
“オーライ、レディ”。香主は小さく頭を振る。

<ヽ●∀●>「それじゃあ、質問を変えよう。今度のオフは何時になる?是非ともキミを食事に誘いたい」

少しの間。思案するようにしていたトソンは、ややあってから、矢張り表情を崩すことなく答えた。

(゚、゚トソン「……禁則事項です」

少しの間。豆鉄砲を食らった鳩のようにしていたニダーは、ややあってから、首を仰け反らせて乾いた笑いを上げた。

気に入らない仕事だ。それでも、乗るしかない。
乾いた笑いの下に、泥濘のようにどろりとした表情を押し隠し、ニダーは葉巻をもう一本咥えた。

183 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 18:57:28 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――黄昏の空、光化学スモッグの琥珀色。
バベルの塔めいて、天の神まで届かんばかりに林立する超高層ビルの大森林と、
その間に御神木めいて頭を突き出す、企業アーコロジーの超巨大三角錐のシルエット。
地上から伸びたサーチライトが右に左に光の道を伸ばす空を飛ぶのは、浮遊式街頭スクリーンや、セキュリティボットの群れ。
電脳時代のニホンの中心たるラウンジ区の高層建築の景観は、宝石を散りばめた巨大な墓石群めいたおどろおどろしさを持って、
足元を歩くハイソサエティなビジネスマン達の頭上にのしかかってくるようでもあった。

( <●><●>)『それで、ヴォルフの尻尾の方は、無事回収できたのかね?』

ニホンの中心ラウンジ、更にその中心、ニホンという国の玉座たる、渡辺グループのアーコロジー。
CEOとその身辺警護担当者を含む、ごく一部の人間のみが立ち入る事を許可された、ピラミッドの頂上階層部。
大理石の床にギリシャ彫刻や世界の名画や芸術品が立ち並ぶ、美術館めいたこのフロアは、
階層そのものが丸ごと、渡辺グループのCEOの為だけに用意された執務室となっている。

从'ー'从「ええ、その件につきましては、何も滞りなく。事は全て、順調に進んでおりますわ」

クリスタル細工のローテーブルの上に置かれた、三角錐型の立体ホログラフ投影機。
そこから掌サイズの小人のようにして映し出される、老人のホログラフに語りかける女性こそ、
このフロアの――ひいてはVIPという街の支配者たる女王、渡辺グループ総帥アヤカ=ワタナベに他ならない。

184 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:00:39 ID:WbucYHaY0
緩く外に跳ねた飴色のくせ毛に覆われたその顔は、渡辺グループの総帥という立場にしては異常なまでに幼い。
空色のスーツを上品に着崩し、本革のソファにしなを作る様にしてもたれかかった彼女は、
そのくるくると動く子供のような瞳をホログラフの老人から逸らして、わざとらしい仕草で髪をいじった。

从'ー'从「最も、この時期にムズリーマに飛ぶと言われた時は、正気の沙汰とも思えませんでしたけれどね」

したり顔でそう言う彼女の言葉の端には、ホログラフの老人を非難する様な響きがあった。

( <●><●>)『全てはTHUKU-YOMIの導き出した答えだ。“彼等”の言葉に間違いは無い』

从'ー'从「我々は、その有り難い御言葉に従うのみ、ってわけかしらん?」

ホログラフの中の老人は、ワタナベの言葉を咎める様な様子も無く、まるで幻想小説の中の賢者のような顎鬚をしごく。
皺だらけの顔の中から覗くその二つの眼は、老獪な鷲か、はたまた宇宙の深淵を宿したかのような、底知れない輝きを湛えて静かに揺れていた。

( <●><●>)『兎に角、ヴォルフの尻尾を回収できたのなら、それに越した事は無い。至急、我々の下に移送を――』

老人の言葉を遮るように、甲高く短い電子音が、断続的なリズムで響く。

从'ー'从「あら、失礼。キャッチが入ってしまいましたわ。お話の続きはまた後ほど……」

( <●><●>)『そんなものは後でいい。ヴォルフの尻尾の方が……』

185 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:02:01 ID:WbucYHaY0
尚も抗議の声を上げようとする老人を無視して、ワタナベは手元のチャンネルからキャッチ先を呼び出す。

从'ー'从「ビジネスは一分一秒を争うものですわ」

既に途切れた映像に向かって舌を出して見せると同時、新たな通話相手のホログラフ映像が彼女の前に浮かび上がった。

(´・ω・`)『やあ、アヤカ総帥におきましてはご機嫌麗しゅう……取り込み中だったかな?』

从'ー'从「ううん、全然〜。何も問題は無いよぉ。何も、ねっ」

くたびれたような垂れ目と眉が特徴的な、優男のホログラフ映像。
ワタナベの声音は、その相手を認めた瞬間に、蠱惑的に砕けたものとなった。

(´・ω・`)『それは良かった。先日のムズリーマの件ではお世話になったね。
      何しろニホンじゃどうしてもアレの試運転を気軽に行えるものでもないからね。助かったよ』

从'ー'从「こちらこそ、面白い物を見せてくれて有難う。
     うちの工場の人たちも、貴方に触発されて量産化の打診をしてたみたいで、良い刺激になったよぅ」

(´・ω・`)『ははは、それもまた面白いかもしれないね。
      ――それで、今日はそのお礼と言ってはなんだけど、耳寄りな情報を持って来たよ』

しょぼくれ眉の優男は柳が笑うような表情を作る。
昼下がりの喫茶店での恋人同士の会話めいたその物腰の中には、しかし、
どろりとした得体の知れない灰褐色の何かが蟠っている様な空気が感ぜられるようだった。

186 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:03:13 ID:WbucYHaY0
(´・ω・`)『そう、これはムズリーマの話の続きでもある。ヴォルフの尻尾を、キミ達は持っているね。それを狙う賊の情報さ』

ぴくり、とワタナベの眉が上がる。

(´・ω・`)『向うでも随分と多くの賊に狙われていたみたいだけど、彼等中々しつこいね』

从'ー'从「……それで、賊と言うのは?」

勿体ぶったような優男の口調に、ワタナベは努めて平静を装いながらも、焦れた様子を隠し切れない。
優男はそれが可笑しかったのか、口の端を僅かに緩めた。

(´・ω・`)『一週間前、フェリーの監視カメラで確認した。ムズリーマでやんちゃをやらかしていた二人が、日本入りを果たしたようだよ』

束の間、ワタナベは記憶の糸を辿る。
燃え盛る兵器格納庫の中で、狂ったように笑うネオゴスパンク女の姿が、直ぐに思い出された。

(´・ω・`)『御節介だと思ったけれど、既に僕の方でも一人、その道のプロを雇って後を追わせている。
     それでもあの二人は手強い。キミ達の方でも準備をした方がいいだろうね』

優男の言葉と同時に、ロ―テーブルの脇の情報端末がメールデータの受信を知らせる。
直ぐ様それを開いて、中身のデータを確認したワタナベは、その薄い唇を忌々し気に歪めた。

187 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:04:43 ID:WbucYHaY0
从'ー'从「“髑髏と骨”……米帝も、随分と“あのお方”に御執心みたいだねぇ……」

(´・ω・`)『元同僚としても、彼らの百カ年計画には舌を巻かざるを得ないよ。
      その内、彼等は銀河の警察でも名乗るつもりなのかな?ぞっとしないね』

从'ー'从「本当、ぞっとしないよねぇ……」

優男の言葉に合わせながら、ワタナベは先の老人の事を思い出す。
予言の忠実な遂行者。ニホンという国の舵を取っているつもりの、賢者気取りの愚者。

支配者達の欲望に果ては無い。
地上の全てを手に入れても尚、飽く事の無いそれは、最早無限にも等しい。
自分もまた、それらと肩を並べ、予言の為に動く一つの歯車となって動いているという事実が、尚の事腹立たしかった。

(´・ω・`)『そう言うわけで、僕の方でも動いてはいるけれど、
      そっちでも出来る限り何か対策を練っておいてほしい、という話でした』

最後に「またね」と下手くそなウィンクを作って通信を切る優男を見届けてから、
ワタナベは本革のソファから身を起こすと、顎の下に指を当てて思案を繰りつつフロアの端へと歩いて行く。
360度が総ガラス張りの頂上フロアからは、VIPという街の全景が見渡せる。
大気汚染にくすむ、黄昏の街並みを見下ろす彼女の脇に、何時の間にか並ぶようにして佇む者があった。

188 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:06:13 ID:WbucYHaY0
(゚、゚トソン「それで、如何なさいますか?」

栗色の髪をバレッタでひとまとめにした、秘書風の井出達の女の名前はトソン。
菫色の瞳で主を真っ直ぐに見詰める彼女は、ワタナベの傍仕えを任された特A級護衛専任ガイノイド、「アイアンメイデン」だ。

(゚、゚トソン「先日のムズリーマでの彼女達の様子から鑑みるに、やると決まれば彼女達は手段を選ばないと思われます。
     脅威度で言えば、シベリアの“暴君”には及ばないかもしれませんが、それ以上に行動に予測がつきにくい分、危険かと」

从'ー'从「うん…そう、かもね」

(゚、゚トソン「シベリアの“暴君”と言えば、我が社の株式は未だ彼女達の手に大半を握られたままです。
     買い戻しや新たな株券の発行により、彼女達の影響力を弱める工作は続けておりますが、それでも寝首を掻かれる危険性は十分に存在するかと」

从'ー'从「……うん、うん、分ってるよ」

(゚、゚トソン「ニーソク界隈における陣龍の台頭も無視できない状態です。
     加えて、ブラウバイオニクス社も今でこそは協調路線を維持しておりますが、彼等の動向も注意すべき所でしょう。
     “カグラ”の方も、今回のヴォルフの尻尾の移送が滞っているという事で―-」

从#'ー'从「分ってる!分ってるって言ってるでしょ!」

189 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:09:20 ID:WbucYHaY0
堪え切れなくなったワタナベの一喝が、二人だけのフロアに木霊する。
何時もは支配者の余裕たる微笑を湛えた唇は、今は焦燥と怒りに歪んで引きつっていた。

从;'ー'从「分ってる…分ってるわよ…そんな事…」

海外犯罪組織の流入からこっち、渡辺グループの支配体制は目に見えない所で揺らぎ始めている。
ニーソクを二分していた日系ヤクザが、陣龍と氷の旅団によって壊滅させられてからは、その傾向が顕著だ。
渡辺傘下の企業でさえも、下部の下部にまで視線を落とせば、これら海外犯罪組織の買収・脅迫活動により、
既に食い物にされたものが何社も見受けられる。
ムズリーマ行の少し前に、業を煮やした渡辺によって、ロイヤルハントを導入しての「氷の旅団壊滅作戦」が指揮されたが、
それさえもニホン軍の過去の汚点を盾に回避されてしまった。
実際、その痛手はかなり大きかったと言えよう。

今の所、ラウンジ区を中心に根を張った「氷の旅団」と、ニーソク区に根を張った「陣龍」が、
ニューソク区を干渉地帯にして睨み合っており、これからどう転ぶのかは未だに判然とはしない。
いっそのこと、この二勢力が互いに食いつぶしあってくれれば、渡辺グループとしては言う所は無い。
最も、三合会とシベリアという世界規模の犯罪組織に、そのような愚鈍な采配を期待するのが間違いと言うものだろう。

企業警察を導入して一斉摘発を行おうにも、「氷の旅団」は先だっての壊滅作戦の失敗以後、
その本拠地を変えた様で、それを突き止めるにも時間が掛りすぎる。
片や陣龍はと言えば、万魔殿を中心としたニーソクの与太者達を賄賂などで上手く抱きこんでいるようで、
多少の攻撃もトカゲの尻尾切りで上手く逃げられるだけだろう。
氷の旅団にも共通して言えることだが、頭を潰さない事には決定打には至らないと言えた。

190 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:10:22 ID:WbucYHaY0
从'ー'从「頭を潰す……」

強化ガラスの向うに広がる悪徳の街を見下ろしていたワタナベの顔が、何かを思いついたかのように上向く。
すぐさま情報端末の方へと取って返すと、アドレスリストを開いて定型文からメールをこしらえて送信した。

(゚、゚トソン「何か、案が?」

機械らしい無感情な調子で秘書官が尋ねてくる。

从'ー'从「トソン、貴方には陣龍に出向してもらいます」

得意の嘲う様な調子を取り戻すと、ワタナベは口の端をほころばせて言った。

从'ー'从「――そこで、香主殿と共に、ヴォルフの尻尾の移送任務に当たってもらいま〜す」

満面の笑みを湛える渡辺グループCEOの顔は、苺のケーキのワンホールを前にした少女のようですらあった。

191 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:11:35 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――アサヒ・ウギタは今年で43歳になる。
結婚十年目、妻と一人娘と三人で、ニューソク区の一番安い2LDKのマンションで暮らしている。
酒と煙草はほどほど、ギャンブルには見向きもしない、いたって真面目な男だ。
中肉中背の体型に、牛乳瓶の底のような眼鏡を掛けた彼は、一見しただけでは何処にでも居る中流階層のサラリーマンにしか見えない。

(-@∀@)「こないだの父兄参観も、結局出られなくてよ……」

「で、今日の学芸会も出られない、と」

(-@∀@)「埋め合わせに今度遊園地連れて行く事になってはいるがよ……」

「そっちも潰れたりして」

(-@∀@)「馬鹿野郎!――そういうのは…止めろ。……ホント、止めてくれ」

「ハハハ、スンマセン」

輸送隊の最後尾。
ダミーの10トントレーラーの助手席に座ったアサヒは、二回りも年下の若手組員の軽薄な笑いに、顔をしかめる。
ピンクファウンデーション系列のマーケティング企業に就いていた彼は、
ピンクファウンデーションがブラウナウバイニクス社を買収した際の人員整理の煽りを受けて、二年前の四十路突入早々、職を失った。
二十年以上を務めた会社も、手を切るとなればそこには一切の慈悲も無い。
会社の為にとサムライが如き忠義で仕えてきたアサヒは、雀の涙程の退職金だけを突き付けられて、
一方的に追いだされるような形で路頭に放り出された。

192 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:12:58 ID:WbucYHaY0
あの時。
あの時だ、とアサヒはふとした瞬間などに述懐する。

あの時から、アサヒの中での価値観は一転した。
上司の嫌味に耐え、行きたくも無いキャバレーに接待と称して連行され、取引先に頭を下げて、残業、残業、また残業の繰り返し。
それでも妻子の為にと粉骨砕身してきたアサヒは、あの時、何の前触れもなく、
一瞬にして職を奪われたあの瞬間から、止まっていた時間が動き出したかのような錯覚を覚えている。

ピンクファウンデーション系列と言えば、一流とまではいかなくても株式上場企業の一端だ。
同業他社の再就職先に困る様な事は無い。
それでもアサヒは、もう二度とあのような世界に戻りたいとは思わない。
それはある種のトラウマなのかもしれない、とも思う。

(-@∀@)「そういうお前はどうなんだよ?え?アケミちゃんだっけ?」

窓外を流れる松の防砂林の刺々しい頭の群れから眼を戻して、アサヒは隣の同僚に向かって小指を立てて見せる。
二回りも年下の、アサヒにとっての“先輩”は、バツの悪そうな顔で目を逸らした。

「いやーほら、アイツはアイツで忙しいだろうし。一応、俺もたまに店に顔出したりするんすけどね」

(-@∀@)「それだってお前、陣龍の仕事とかでだろう?プライベートではどうなんだって話だよ」

「んープライベートっすかあ…無いっすねえ…特に…あ、こないだ一緒に焼き肉行ったかも」

(-@∀@)「こないだって何時だよ」

「えーと、半年前?」

193 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:14:36 ID:WbucYHaY0
(-@∀@)「馬鹿野郎、それはこないだって言わねえんだよ。
      大昔だ、大昔。そんなんじゃ、直ぐに冷められちまうぜ?」

「ウェー……。止めて下さいよ、そういうの。……マジで、止めて下さいよ」

(-@∀@)「ムハハハ!スマンスマン!」

苦虫を噛み潰したような顔でハンドルを握る同僚の背中を叩いてひとしきり笑った後。
ふと、アサヒはフロントガラスの向うに気になるものを見つけ、その目を細めた。

(-@∀@)「ん?なんだ、ありゃ?」

目の前を走る装甲トレーラーのコンテナの上に広がる、灰色の雨雲。
重金属酸性雨降りしきる、暗黒の空。
疲れ切ったウミネコの群れに混じって、ひと際大きな白い影が飛んでいた。

(-@∀@)「鳥か?……それにしたって、ありゃ随分と――」

「どうしたンスか?」

(-@∀@)「いや、アレなんだけどよ――」

欠伸を噛み殺しながら聞いてくる同僚に、答えを返そうとして、アサヒはもう一度その影があった場所へと視線を戻す。
重金属酸性雨で粘ついたフロントガラスの向うには、しかし先に彼が認めた影は見当たらなかった。

194 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:15:48 ID:WbucYHaY0
(-@∀@)「んん?おかしいな…確かにさっき――」

首を傾げてフロントガラスに首を近付けるアサピー。
前の装甲トレーラーのコンテナと灰色の雨雲の間の空に、目を凝らす。
耐えがたい程の衝撃がアサヒ達を襲ったのは、まさにその瞬間だった。

「なななななんなンスか!?」

上からの衝撃に、10トントレーラーが束の間揺れる。
タイヤが滑り、車体がかしぐ。若手組員がハンドルを慌てて切りなおす。
なんとか、横転だけは免れた。

しかし、それだけでは終わらなかった。

(;-@∀@)「ナンダ!?一体何が起こっているってんだ!?」

トレーラーのコンテナを、巨大なハンマーか何かで打つような鈍い音が断続的に響く。
コンテナ。襲撃か?
二人がその予測を頭に浮かべた瞬間、ひと際大きな打撃音の後、金属が裂ける身の毛もよだつような音が、車体全体に響き渡った。

(;-@∀@)「通信を!香主にこの事を知らせなければ!」

慌てふためきながらも、咄嗟に思い至ったアサヒがダッシュボード脇の車載無線に手を伸ばす。
しかし、その手は無線を掴むことは無かった。

195 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:16:35 ID:WbucYHaY0
(-@∀@)「――え?」

アサヒは、我が目を疑った。
これは、何だ?手か?人の手、生白い、包帯だらけの細い腕?それが、自分の肩越しに突き出して――。

(-@∀@)「――何で?」

疑問に答えるように、生白い掌が開く。
相前後、鷲の鉤爪めいて開いた掌が、アサヒの顔を掴み、後ろに引いて押しつぶした。

196 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:19:34 ID:WbucYHaY0
◆休憩時間◆ご飯とか食べなさい◆

197 名も無きAAのようです :2012/08/08(水) 19:29:31 ID:uq4li3AI0
飯くっちゃったよ!

198 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:47:00 ID:WbucYHaY0
■RADIO塊IM■Marilyn Manson- The Nobodies (Against All Gods Remix) http://www.youtube.com/watch?v=qi5nTb-NRFU ■白粉■貴方?筒■

199 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:50:15 ID:WbucYHaY0
◆再開ドスエ◆

200 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:52:04 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――脳核通信を切ると、香主は後ろ腰のホルスターからつがいのベレッタM76を抜き取り、両の手にそれぞれ構えた。

<ヽ●∀●>「パラグライダーでの襲撃だとよ。この雨模様で、よくもフライト許可が下りたものだな?」

冗談めかして、香主は傍らのトソンに語りかける。
遠くで、金属を殴りつける鈍い音に紛れて、ひっきりなしに銃声が響いている。
後続車両の間では、既に戦いが始まっているようだった。

(゚、゚トソン「……」

ダークブラウンのスーツを召した渡辺の忠実な秘書官は、ニダーの冗談に応じる事は無い。
麻布に覆われた鉄箱の傍らにしゃがみ込んだ彼女は、揺らぐ事の無い菫色の双眸で、ジープの幌をじっと睨みつけていた。

<ヽ●∀●>「オーライ、お喋りの時間はここまでだ。真面目に勤労に取り組ませて貰うとするさ」

二丁拳銃を握ったままで、香主が降参めいて両の手を肩の高さで上げる。
直ぐ後ろの車両で、爆発音が上がった。

続けざまに、サブマシンガンの銃声が響き渡る。

「糞ったれが!なんだコイツは!何なんだこいつは!」

「死ね!死ね!死ね!死ね畜生めえええええ!」

201 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:53:03 ID:WbucYHaY0
組員達の恐慌した叫び声。
風切音。肉の弾ける湿った音。

「邪魔、邪魔、邪魔、邪魔だよ邪魔あ」

場違いな程に間の抜けた、女の声。
硝煙の臭いと、それに混じる血の臭気。重金属酸性雨の湿り気。
ひと際高く銃声が響いた後、不気味なまでの静けさが訪れた。

<ヽ●∀●>「……」

遥か後方で、トレーラーが横転して爆発する音が聞こえてきた。
ニダーは、両掌に握ったベレッタM76の感触を確かめる。
恐らくは、今ので全てのダミー車両がやられた事だろう。

<ヽ●∀●>「――舐めた真似、してくれるじゃあねえか」

混沌する脳核通信で、ニダーが唯一確認できた現状の襲撃者は一人。
一人。たった一人に、自分達の部下が、恐らくは全滅させられた。
腹の底から赤黒い炎にも似た感情がせり上がり、ニューロンを焼けつく舌先で舐める。
ニダーは、昨年の冬の事を思い出していた。

たった一人の殺し屋崩れに、陣龍そのものが地獄の釜の上でジルバを踊らされた、あの時の事を。

知らず、噛みしめていた奥歯から、ゆっくりと力を抜く。
もう終わった事だ。あの悪夢は、もう冷めたのだ。

202 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:53:44 ID:WbucYHaY0
<ヽ●∀●>「下らねえ…下らねえ茶番だ…全部な」

ジープの幌の間から、白い指が覗く。
物思いを中断すると、ニダーは両手のベレッタM76を、両腕を交差させる形にして構えた。
遠くの空で、稲光がどよもした。

203 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:55:04 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――沿岸道路を一列になって走る、装甲トレーラーとジープの群れ。
重金属酸性雨降りしきる太平洋の黒波を背景に、そのトレーラーの間を飛び石めいて跳ね渡っていく一つの影があった。

(*゚∀゚)「……」

黒革の拘束衣めいた衣装の上から、拘束ベルトと包帯を幾重にも巻きつけたその姿は、果たして人のものなのか。
プラチナブロンドヘアの左側頭部を、ピンクとブルーのメッシュのウェーブヘアに、
右側頭部をドレッド編みにしたそのネオ・ゴス・パンクの女の瞳は、黒と白が真逆になっており、一種の怪物めいた様相を呈していた。

今しも、その怪物じみた女が蹴って跳躍した10トントレーラーが、制御を失ったかのように蛇行し、
車線を外れて左の防砂林へ向かって流れていく。
バイオ植林の松の林にぶつかった車体が、壮絶な爆音と共に爆発炎上する中、
既に前のトレーラーのコンテナの上に着地していた女は、その包帯と拘束ベルトが巻きついた腕を槍のようにして構えると、
足元のコンテナの鉄板装甲に勢い良く振り下ろした。

鋼鉄と生身の拳の衝突は、しかし生身の拳の勝利だ。
泥濘を長靴で踏み抜いたかのような穴がコンテナの鉄板装甲に穿たれ、怪物じみた女はその穴の中へと滑るようにして降りていく。

「来やがった!撃て!撃て撃て撃てー!」

直後、コンテナの中で待ち構えていた陣龍の組員達が、手に手に握っていたサブマシンガンによる一斉放火を浴びせてくる。
黒のスーツで上下を固め、防弾ベストを着こんだ組員達の数は五人。
白と黒の逆になった双眸でそれらをぬらりと見渡すと、女は人形めいた仕草で首を傾げた。

204 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:56:10 ID:WbucYHaY0
(*゚∀゚)「ああ?んんん〜?」

運転席側と接するコンテナの、二つの頂点からの十字砲火。
飛んでくる銃弾の一発一発の軌道を、女は鈍化した世界の中で確かに認めた。
認めたうえで、その中へと無造作に飛びこんで行った。

「糞ったれが!なんだコイツは!何なんだこいつは!」

「死ね!死ね!死ね!死ね畜生めえええええ!」

弾幕の中に身を晒し、肉を抉られ、嬲られながらも突進してくる女に、組員達は狂乱の叫びを上げる。
違う。こいつは違う。人間じゃあ、ない。
組員達の誰もが同じ思いで引き金を引く中、刹那の疾駆で距離を詰めた女の爪先が、一人の組員の頭を文字通り砕いた。

「うわ、うわ、うわ、うわああああああ!?」

血の飛沫になったそこから、女は爪先を鎌めいて横に薙ぐ。
隣の組員の首が、壁に衝突したトマトめいて破裂し、肉塊がコンテナの壁に飛び散って赤黒い染みとなった。

(*゚∀゚)「んん――んっん〜…ああ、うんうん、まあ良いか?」

振り抜いた足を、カポエイラの型めいて宙でぶらぶらさせて、女はもう一方の隅の組員達を焦点の合わない眼で見据える。
一瞬にして二人の仲間を失った組員達は、狂乱と恐怖の中にも、目の前の怪物に対する戦闘意欲を失ってはいない。
三人のうちの二人が、マガジンを交換する中、残る一人が弾の切れたサブマシンガンを捨て、腰の特殊警棒を手に突進して来た。

205 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:58:04 ID:WbucYHaY0
「くそっ!くそっ!くそっ!くっそおおおお!」

(*゚∀゚)「あーちょっと待て。今、繋がる…ああ、もうちょっともうちょっと」

組員の決死の特攻を前に、怪物じみた女はヤク切れのジャンキーめいて口を半開きに、こめかみの辺りを自らノックするような仕草を取る。

(*゚∀゚)「…いー……ああ、うんうん…イイんじゃあないか…うん…」

「しゃっこらー!死ねやああああ!」

手負いの獣の如き形相で特殊警棒を振りかぶる組員。
電磁パルスが流れるその黒い棒身が、女の首筋に叩きつけられる瞬間。

(*゚∀゚)「よしっ、繋がったっ」

虚ろな目で虚空を見つめていた女が呟く。
同時、特殊警棒を握っていた組員の右手の手首から先が、消失していた。

「――え?」

何が起こったのか。組員が自分の右手へと視線を向けた瞬間、彼の全身を赤黒い奔流が飲み込んだ。

(*゚∀゚)「ケッ。こんなもンかよ。ま、悪くはねえか?」

組員を一瞬にして飲み込んだ赤黒いゲル状のそれは、血と肉片の散乱するコンテナの床から立ち上っている。
ぼこぼこと泡立つ、不定形の怪物染みたその奇怪な物質の登場に、組員達の中に残っていた最後の勇気が崩れ落ちた。

206 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 19:58:58 ID:WbucYHaY0
「あ、あ、ああ……!」

「うわ…うわああ…ああああ……」

マガジンの交換の済んだサブマシンガンを胸に抱いて、だらしなくその場に尻もちをついた二人の組員を、女は爬虫類の様な眼で見やる。

(*゚∀゚)「あー…終わりか?もう、終わりか?」

耳をほじりながら言う女に、組員達がえずくようにしてしゃくりあげた瞬間。
赤黒い不定形の塊が、残りの組員を包みこみ、押しつぶした。
断末魔の悲鳴すら、残らなかった。

怪物染みた女はその光景にも何ら感慨も抱かずに、屠殺場と化したコンテナの中をぐるりと睥睨する。
組員達の肉片の他には、これといって何も無いコンテナの様子に、彼女は気だるげに舌打ちした。

(*゚∀゚)「はいっ、ここも外れー」

投げやりに吐き捨て、女は先に自らが空けた穴からコンテナの外へと飛びあがる。
銃撃によって穴だらけになった血塗れの細身を、重金属酸性雨の粘つく雨粒が容赦なく叩く。
女はシャワーでも浴びるかのように、黒々とした天を仰いで眼を閉じると、束の間溜息を吐き出した。

207 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:00:26 ID:WbucYHaY0
退屈。退屈だ。
好き勝手に肉を引き裂いて、暴れまわるのは気分が良い。
気分は良いが、至極退屈だった。

ヴォルフの尻尾。それを回収するのが、ムズリーマから今に至るまでの彼女の、ツーの任務だ。
既に、トレーラーを六つは潰した。今したように、ヤクザ者達を虫でも潰すかのように嬲り殺しにしてきた。だが、その中に目当てのものは見つからなかった。
それについてはどうでもいい。至極、どうでもいいことだ。

ツーにとっては、暴れられる口実があるのならば、理由だとか目的だとかは一切関係ない。
肉を貫く感触と、血飛沫のシャワー、断末魔の叫びと、弱者の命乞いの声。
それだけが快感であり、全てにおいて優先される事だった。

パラグライダーを用いての空からの奇襲。
あれは気持ちが良かった。続く、コンテナへの襲撃。組員達の、恐怖に歪んだ断末魔。
これについても、概ね問題は無い。肉の感触は、そこそこに美味であった。

なのに満たされない。数日前からこっち、未だ喉は乾いたままだ。
原因は、はっきりとしている。

(*゚∀゚)「クソッ、下らねえ仕事だ……」

先日の件。良い所で、邪魔が入った。
極上の御馳走を前にして、目の前で犬に糞をされたような、あの顛末。
思い出すだけで、腸が煮えくりかえり、喉が渇く。

こんな事をしている場合じゃない、と本能は告げる。
原因が分かっている以上、一刻も早くこの渇きを鎮めなければならない。

208 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:01:19 ID:WbucYHaY0
遥か彼方の洋上で、遠雷が轟く。
一段と強くなった雨脚に、嵐の気配を感じながら、ツーは目の前のジープの幌を睨みつけた。

先頭の車両とも合わせて、残りは二つ。
コンテナからトレーラー運転席のルーフに飛び乗ると、右の手で屋根を貫いて中の運転手の首を手さぐりでねじ切る。
生温かい感触を掌に残しつつそのまま跳躍、ジープの尻の足場に着地し、幌に指を掛けた。

(*゚∀゚)「はい、御開帳〜」

冗談めかして言いながら、ツーは幌を開く。

<ヽ●∀●>「ガッチャ」

瞬間、その狂気染みた拘束衣のシルエットが、襤褸布のようにして斜め上方に吹き飛んだ。

209 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:02:46 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――爆音にも似た連射音が、雨に気ぶる沿岸道路に響き渡る。
ヘリのローター音めいた断続的な銃声の音源は、ジープの荷台、その中央にあった。

(゚、゚トソン「……」

棺桶めいた鉄の箱から立ち上がるようにして、その姿を晒しているのは、秒間一千発という驚異の弾幕を誇る、ワタナベ造兵廠製のガトリング機銃「W−999」。
攻撃ヘリの対地制圧用機銃を、足の間に挟んでそのグリップを握るのは、ワタナベの忠実なる秘書官、鋼鉄の処女トソンに他ならない。

ツーがジープの幌を開けるのと同時、この秘書官は鉄箱の麻布を取り払うや、即座に棺桶めいた箱の中のW−999を起動。
アイドリングもそこそこに、その驚異の弾幕を、たった一人の襲撃者に向けて解き放ったのだ。

炸裂火薬の爆炎にしか見えないマズルファイアと、そこから伸びる無数のレーザー照射めいた橙の火線が、
拘束衣が如き装束を纏ったツーのシルエットを、削岩機のようにして削っていく。
人間一人を対象とするには余剰に過ぎる集中砲火の衝撃は、化け物染みたタフネスを誇るツーをして、尚、その場に踏みとどまる事を許さない。
真正面から10トントラックに衝突されたような勢いで、ツーの細身は宙を舞い、
重金属酸性雨でドロドロに濡れたアスファルトに襤褸雑巾のようにして転がった。

(゚、゚トソン「……殲滅、完了」

抑揚のない声で呟いて、トソンはW−999のトリガーから指を離す。
規格外の連射性能から叩き出される衝撃を、二本の腕だけで御していた彼女はしかし、
スーツの襟元が僅かに乱れただけで、数秒前までガトリング機銃を扱っていたとはとても見えない。

210 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:03:43 ID:WbucYHaY0
きゅるきゅるという、力の抜けるような音と共に砲身の回転が収まるのを見ながら、
ジープの隅で立ち尽くしていたニダーは両耳を塞ぐ手を離した。

<ヽ●∀●>「ご自慢の玩具を見せびらかすのは結構だが、ぶっ放す前に一声掛けてくれると嬉しいね。
        お陰で向う三年は、音楽鑑賞を楽しめそうにない」

抗議を上げる彼の両手に握られたベレッタM76のマガジンには、未だに全弾が装填されたままだ。

<ヽ●∀●>「それとも、それがオタクの会社流のプレゼンテーションってやつか?」

ベレッタの銃口でこめかみを揉む香主を振り返り、トソンは相変わらずの平坦な声で言う。

(゚、゚トソン「……禁則事項です」

鉄面皮が如きその顔はしかし、口元に僅かな頬笑みのようなものを湛えているようでもあった。

<ヽ●∀●>「――だと思ったよ」

鋼鉄処女の微細な表情の変化に、ニダーは一瞬面食らったが、直ぐにその皺の刻まれた顔に苦笑を浮かべる。
がくん、とジープの車体が傾いたのは、まさにその時だった。

211 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:05:50 ID:WbucYHaY0
緩みかけた表情を直ぐに研ぎ澄まされた華僑のそれに転じて、ニダーはベレッタM76を構えると、
穴だらけになった幌を取り払い、後方に流れる沿岸道路を望む。
時速120キロで流れ過ぎていくアスファルトの上、50メートルの後方で、ツーの身体が引きずられるようにして転がっていた。

先の暴風雨の如き銃撃によって半ば肉の襤褸切れと化した彼女の身体、その傷口から流れ出すどす黒い血の筋が、
まるで綱のようにより合わさり伸びている。
赤黒い触手のようなそれは、ツーの全身の傷という傷からニダー達の乗るジープへと伸ばされ、
カーボン装甲に覆われた車体に、まるで蜘蛛糸めいて絡まっていた。

(*゚∀゚)「ヒャヒャヒャ…!景気が良い…これだけぶち込まれた方が、遥かに気持ちが良いネエ…!」

ミンチの半歩手前までに追い込まれても尚、壮絶な笑みを浮かべるツー。
両手を交差させて二丁の拳銃を構えるニダーは、そんな地獄の悪鬼の如き襲撃者に底知れぬ嫌悪が湧くのを感じていた。

<ヽ●∀●>「――何だありゃ。手品か何かか?」

二丁の拳銃が火を噴き、水上スキーめいて引きずられるツーの身体に、続けざまに八発の銃弾が食らいつく。
着弾の衝撃で左右にぶれたその体から血飛沫が上がるが、赤黒の軌跡はすぐさまより合わさり、新たな触手となってジープへと伸ばされた。
如何なるバイオ技術の成せる業か。狂えるこの女は、自身の身体から流れた血液を自在に操る事が出来るようだった。
香主の背中を、冷たい感触が僅かに駆け抜けた。


212 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:06:51 ID:WbucYHaY0
(*゚∀゚)「ヒャーハハッハア!いいね!いいねぇ!」

狂人めいて哄笑し、ツーは自身の身体から伸びる赤黒い触手の一つを握りしめる。

(*゚∀゚)「それじゃあ次はこっちの番だぁ!」

(゚、゚トソン「――!?」

W−999の銃座から立ち上がったトソンが、それを認めるや俄かに駆けた。

(*゚∀゚)「あらよっとぉ!」

細腕に力を込めて、ツーが触手を思いきり引っ張る。
両の手を手刀の形にして飛び出したトソンが、ジープの車体に絡まる触手へ、手刀の切っ先を突き出すも、間に合わない。
華奢な身からは想像もつかないツーの凄まじい膂力によって、ジープに絡まった触手がぴんと張り詰めるや、
相前後、ニダーとトソンの身体が宙を舞った。

<;ヽ●∀●>「チイッ――!?」

後方にかしぐ車体。
アスファルトに火花を散らして足を踏ん張ったツーが、綱引きの要領で触手に力を込める。
一トンはあろうジープが、タイヤを空転させながら宙を舞った。

滅茶苦茶な慣性によって、ニダーとトソンの二人は荷台から投げ出される。
豪雨となった重金属酸性雨のただ中へと放り出されたニダーは、咄嗟に受け身を取るも失敗、
アスファルトに叩きつけられ、ずた袋めいて転がった。

213 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:07:51 ID:WbucYHaY0
<;ヽ●∀●>「ガッ――アッ――!」

落下の衝撃による壮絶な痛みに香主の顔が歪む。
俯いた状態で口の端から血を流す彼の脇に、空中での姿勢制御に成功したトソンが、ジャイロバランサーの助力を借りて流麗に着地。
同時、釣り上げられたブラックバスめいて宙を舞っていたジープが、ツーの背後に落下、壮絶な轟音と共に爆発炎上した。

(*゚∀゚)「あっ、やべえ。爆発させたら不味かったか?」

背後で燃え盛るジープの車体を束の間振り返り、ツーはそのドレッドにした右側頭部を掻く。
アスファルトに突き立てて、踏ん張った彼女の足は、脛から下がミキサーに掛けられたかのようにぐちゃぐちゃになっている。
まともな人間ならば、けして意識を保っていられない満身創痍の体でありながら、その生白い顔には何の焦りも恐怖も感じられない。

ジープとの綱引きに勝った事といい、人間離れした奇業といい、ニダーはこの狂える襲撃者に対して恐怖を抱く事を禁じ得なかった。

<;ヽ●∀●>「畜生が…やってくれやがったな…化け物め…」

血痰を吐きながら、痛む身体に鞭を打ってニダーは身を起こす。
胸の鈍痛に、肋骨に罅が入った事を自覚しながら、彼はふらふらと立ち上がった。
ぶるってなんかいる場合じゃあねえ。自分を叱咤して、二丁のベレッタM76を化け物の狂った頭にポイントする。
銃口を向けられたツーの足元で、血だまりがごぼごぼと泡立ったかと思うと、
赤黒いゲル状の塊が、彼女のぐずぐずになった足に纏わりつき、その崩れた肉を整形した。

214 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:09:00 ID:WbucYHaY0
<ヽ●∀●>「随分と便利な身体してやがるじゃあねえか。ええ?
      お前さんを見世物小屋に売り飛ばしたら、幾らんなるだろうな?」

香主が立ち上がる様を、手も貸さずに眺めていたトソンが、ニダーより数歩前に進み出て、両の手を手刀の形にして構える。

(゚、゚トソン「……」

沿岸道路のアスファルトの上。

(*゚∀゚)「んああ…?」

叩きつける様な横殴りの重金属酸性雨を間に挟んだ、両陣営の距離はおおよそ200メートル弱。
コールタールの如く黒く濁った太平洋の荒波がうねり、その上の黒灰の空を、稲光がチェレンコフ光めいて瞬くように照らす。

紅蓮の炎と黒煙を噴き上げるジープの残骸を背にしたツーが、無造作な歩みで距離を詰めてくる。
狂える悪鬼の如きその周囲では、彼女の身体から未だ流れ落ちる血が、空中で渦のように逆巻き、
枝分かれ、赤黒い多頭龍めいて付き従っていた。

(*゚∀゚)「なあ、一応聞くけどよぉ…さっきのジープ、ダミーだよな?
     ヴォルフの尻尾ってのは、いっちゃん前のに乗っけてたんだろ?なあ?」

<ヽ●∀●>「さてな。トカゲの尻尾だか何だか知らんが、気になるんだったら今から追いかけて行って、確かめたらどうだ?」

215 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:10:11 ID:WbucYHaY0
銃口を向けたまま吐き捨てるように答えるニダー。
ツーはその答えに、首を傾げながら頭を掻く。

(*゚∀゚)「いや、ホントんところはどうだっていいんだ。ただ義理で聞いただけ。アタシとしちゃあさ、血が出ないモンには興味無いって言うか――」

その白と黒が真逆になった奇怪な双眸に、どろりとした殺意の光が灯った。

(*゚∀゚)「さっさと、こっからおさらばしたいって言う――かっ!」

言うな否や、ツーの身体がアスファルトの上から消失する。
刹那の後、悪鬼の鉤爪の如く右の掌を振りかぶったツーが、ニダーの正面、斜め上方から飛びかかってきた。

即座に両の手の拳銃を連射しながら、ニダーは身を左に傾け、猛禽の爪めいた急襲を回避、
そのままの勢いで雨粒を跳ね散らかしながらアスファルトを転がる。

<ヽ●∀●>「その意見にはウリも同意したい所だが――どうやらお前さんには、部下が世話になった礼をしなきゃらならんようだっ!」

跳躍からの奇襲をかわされたツーの身体は、ベレッタの弾丸を右半身に受けながらニダーの後方へ。
赤黒い血を纏わせた彼女の拳が、空を切ってアスファルトにめり込んだ。

アスファルトの上を転がりながら身を起こしたニダーは、振り返りざまに二発の弾丸を悪鬼の背中に叩きこむ。
包帯と拘束ベルトに覆われたその生白い背中に赤い花が二輪開花。
噴出した血飛沫が鋭利な棘となり、散弾めいてニダーを襲った。

216 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:11:06 ID:WbucYHaY0
<;ヽ●∀●>「糞ったれめいっ!」

咄嗟にニダーは両腕を交差させて顔面を守る。
茶色のトレンチコートに覆われた彼の身体の正面に、無数の赤黒い棘が突き刺さった。
傷自体はそこまで重い物では無い。あくまでも牽制、ニダーの動きを止めるための意味を持ったものだ。

(*゚∀゚)「ヒャヒャヒャ!綺麗な薔薇には棘があるっつうっしょ?なあおっさん!」

哄笑しながらアスファルトから拳を引き抜くと、ツーはその勢いを利用しての裏拳をニダーの脇腹に叩きこむ。
反応限界ぎりぎりの速度で繰りだされた横殴りの拳に、ニダーはそれでもギリギリで右腕を下ろしてガードを間に合わせた。

<;ヽ●∀●>「ぬうっ!?」

ネイルハンマーを叩きつけられたような衝撃がニダーの右腕から全身に伝わり、ニューロンが焼けつく様な痛みが広がる。
凄まじい衝撃はニダーの身体を軽々と吹き飛ばし、彼は錐揉み回転しながらアスファルトに転がった。

裏拳の勢いにその場で回転したツーはその場で足を撓めると跳躍。
左の手を槍めいて頭上に構え、這いつくばるニダー目掛けて急降下する。

(*゚∀゚)「先ずは一匹ぃっ!」

空を裂く、手刀の切っ先。赤黒い血塊の奔流。
寸での所でニダーは身を転がすと、死の一撃を回避した。

217 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:12:41 ID:WbucYHaY0
赤黒いゲル状になった血の塊で固めた手刀が、アスファルトを穿つ。
鋭利な切断面を晒すそこから手刀を引き抜くと、ツーは再びニダーを目掛けて振り下ろす。
再びニダーはこれを転がって避けようとするが、常人が完全に見切れる程にツーの攻撃は甘くは無い。
次が来ると分っていても尚、雷の速度で繰りだされる手刀の一撃はかわし切れない。

<;ヽ●∀●>「オブッ――!?」

トレンチコートごと、脇腹を数ミリ抉られたニダーは、血を吐きながらそれでも何とか片膝立ちまで態勢を持って行く。
しかしその時には既に、ツーは次の一撃を放っていた。

(*゚∀゚)「ちょこまかちょこまかと、小汚ぇ中年オヤジがよぉ――!」

渦を巻くようにして赤黒い血の奔流を纏わせた、左の大ぶりなフックがニダーの頭目掛けて繰りだされる。
一本の杭の周りに、無数の触手の細槍が円となって付き従う攻撃は、常識的な格闘技の攻撃範囲を逸脱した一撃。
身を捻っただけでは、本命の左拳の直撃は免れても、血の細槍の攻撃までもかわし切れない。

(*゚∀゚)「これで、くたばれよなっ!」

それでも回避する努力を怠るわけにはいかない。
一本、いや二本、三本か?最小被害を、ニューロンをフル回転させて計算しながら、ニダーは上体を捻り、痛みへの覚悟を決めた。

眼前ぎりぎりまで引き付けた、くい打ちが如き左拳が頬を掠めて通り過ぎる。
同時、その周囲に追随していた血の細槍の群れが、鎌首を擡げた蛇めいて曲がりくねり、ニダーの肩口へと三本の触手が食らいついた。

218 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:13:46 ID:WbucYHaY0
<;ヽ●∀●>「アアッ――ガグッ……!」

元はただの血液と言えども、如何な手段によるものか、その切っ先は鉄の槍のそれとなんら違う所など無い。
灼熱するかのような痛みが、ニダーの右の肩を駆け抜け、脳髄を痺れさせる。
それでもこのまま、踏み込まれるままにさせておくわけには無い。

既に腰だめに右の拳を構えて、トドメの一撃をニダーの腹に穿とうとするツー。
痛みの為に鈍くなった筋肉を叱咤して、ニダーは何とかして距離を取ろうと、アスファルトを後ろに蹴った。

追いすがる様にして、ツーの右拳が矢弾めいた動作で放たれる。
ニダーの腹を狙ったそれは、寸での所で届かない。

(;*゚∀゚)「なっ――!?」

<;ヽ●∀●>「おおおぉぉぉ!」

かわし切った。
即座に両手のベレッタを構えて、ツーの頭に銃口を向ける。
ここまでの短い戦いの経験からも、この化け物相手には頭以外を狙って撃っても意味は無い。
W−999の苛烈な弾幕ですらもすぐさま回復されるどころか、血飛沫は相手の手数を悪戯に増やして状況を悪化させるだけだった。
銃弾でこの人外を殺しせしめるには、頭を一気に砕く以外に方法は無い。
まるで、安いムービーホロの吸血鬼狩人めいた思考だな、とニダーが自嘲した時だ。

219 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:15:00 ID:WbucYHaY0
(*゚∀゚)「なーんちゃって!ヒャヒャヒャヒャ!甘ぇ!甘ぇんだよクソダボがァ!」

伸びきったツーの右腕。
そこに穿たれた無数の銃創から、赤黒い血の触手が伸びていく。
ニダーの胴体へと向かって伸び来る触手の群れは、途中でより合わさり、ねじり束ねられ、一本の太い槍を形作っていた。

後方跳躍を放ったニダーの身体は、未だ宙に浮いたまま。
身を捩ろうにも、既に意識の大半を二丁拳銃による銃撃に回していては、これに反応し切る余裕も無い。

<;ヽ●∀●>「しまっ――!?」

トリガーが引き絞られる。
赤黒の槍が迫る。
南無三。死を目前に、走馬灯を浮かべる余裕すらも無い。
雷鳴が鳴った。丸サングラスの視界が、黒に染まった。
それと同時に、耳をつんざくエグゾースト音が沿岸道路を震わせた。

<ヽ●∀●>「――!?」(゚∀゚*)

エグゾースト音。バイクの立てるけたたましいノズル排気音が、重金属酸性雨の豪雨に負けじと、戦場となった沿岸道路の上に響き渡った。
何事か。至近距離で交錯した二人はしかし、音を気に掛けて首を捻る余裕すらも無い。

未だ赤々と燃えるジープの残骸、その上。
地獄の業火めいて黒い炎の中から、飛び出してくる影がある。

それは、バイクだ。前輪、後輪共に、10トントラックのそれめいて、巨大な二つのタイヤを重ねた、規格外の大きさのバイクだ。
前輪の両側から突き出す、悪魔の角めいたホーン。後輪の両側から、二対四本で突き出す、悪魔の尾めいた排気ノズル。
黒い装甲板に覆われたその禍々しいフォルムは、悪鬼の下僕の獣めいて獰猛なシルエットを、
燃え盛る炎の中に浮かび上がらせながら、嵐の沿岸道路の上空に現れた。

220 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:26:57 ID:WbucYHaY0
地獄の業火の中から飛び出すように宙を舞ったモンスターマシンは、重金属酸性雨のカーテンを切り裂くように飛行。

一刹那の後、赤黒い槍を突き出すツーの身体を、巨大な後輪で押しつぶす様にして着地した。

(* ∀ )「――ガバッ」

有翼の悪魔めいた上空からの急降下奇襲。
飛び散る水飛沫、それに毒々しいコントラストを添える肉片の赤黒。
ツーの身体を横殴りに引き倒したモンスターマシンは、急ブレーキを掛けてドリフト旋回。
猛牛めいたターンの勢いで、後輪に巻き込んだツーの身体を振り飛ばした。

(* ∀ )「AAGRRRATH!?」

ベイゴマのように回転しながら、ツーはアスファルトの上を滑る様に吹き飛ぶ。
下ろし金が如くアスファルトに削られた彼女の身体から、スプリンクラーめいて噴き出す血飛沫。
車線から飛び出したツーは、もんどりうって防砂林の松の一本に打ちつけられ、丈の短い草むらに転がった。

低く唸る雷鳴の如きアイドリング音を響かせて、モンスターマシンがニダーの斜め前方で停止する。
何とか致命傷を免れたニダーは、抉られた脇腹を押えて立ち上がると、その地獄の獣の上に跨るライダーを見上げた。

221 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:28:13 ID:WbucYHaY0
<ヽ8w8>「……」

光化学スモッグと重金属酸性雨の嵐によって、夜中の如く暗い沿岸道路の上。
瞬きのような雷鳴によって照らされる、重金属酸性雨に濡れた漆黒の強化外骨格。
甲虫と爬虫類と地獄の悪魔をない交ぜにしたかのような、細身の節くれだって刺々しいシルエット。
髑髏のような形状のヘッドピース。その後ろから、ざんばら髪が如く垂れ下がるのは、放熱用のワイヤー型スタビライザーだろうか。
唇の無い、牙が剥き出しの口めいた顎部装甲。
その上で、昆虫の複眼めいた四つのアイカメラが、小さな金色の光を湛えて、アスファルトの上のニダーを無感情に見下ろしていた。

<ヽ●∀●>「……」

重金属酸性雨に汚れた丸サングラス越しに、ニダーもまた馬上のペイルライダーめいた漆黒の強化外骨格を睨み返す。

こいつは一体何者だ?
何故突然、この場に現れた?あの化け物を引きずり倒したっていう事は、ワタナベの増援か?
それじゃああの狂ったマシーンも、不吉な強化外骨格も、ワタナベの新作兵器ってとこか?
それとも本当に、ヨハネの黙示録が言う所の第四の騎士だとでも言うのか?

<ヽ8w8>「……」

地獄の悪鬼かはたまた死神か。
不吉なシルエットの強化外骨格は、ニダーの疑問に答える代わりに、モンスターマシンの腹を馬にそうするようにして蹴った。
圧縮空気の漏れだす音と共に、バイクの胴部から刀の柄が飛び出す。
悪魔の鉤爪めいた漆黒の籠手に包まれた右の手で刀を引き抜くと、ペイルライダーはバイクのスロットルを吹かした。

222 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:29:20 ID:WbucYHaY0
(* ∀ )「ギ…コォ……」

松の防砂林の方向。
そこから聞こえてきた、途切れ途切れのツーの言葉に、ニダーは自分の耳を疑った。

(* ∀ )「ヒャヒャ…ウヒャヒャ…こっちから逢いに行くつもりが…これは…ゴブッ――嬉しい…誤算だよぉ……」

<ヽ●∀●>「ギコ…」

ギコ。ギコだと。今、あの化け物女は、このペイルライダーをギコと呼んだのか?

(* ∀ )「ヘヘ…ヘヘヘ…今、そっちに行くから…嗚呼、畜生…こいつは久しぶりに利いた…ヘヘ…ずしんと来る…これが愛なんだねえ……」

モンスターマシンのタイヤに引きずられ、アスファルトのおろし金に掛けられたツーの身体は、既に肉塊と言っても過言ではない。
血だまりの中で自らもごぼごぼと血の泡を噴き出しながら、うわ言の様にして呟く彼女を、モンスターマシーンの上の強化外骨格が見やる。

(* ∀ )「待っててね…今…今、立つから…ゴボッ――ゲボッ…ガッ」

ツーが、血と肉塊の沼で折れまがった四肢をのたうたせる。

<ヽ●∀●>「黒狼?黒狼なのか?」

ニダーが、懐疑の眼差しで二丁拳銃を構える。

<ヽ8w8>「――」

ペイルライダーは、その場で後輪だけを滑らせて旋回、二本のホーンをツーの方向に向けると、
エグゾースト音の咆哮も大きく、アスファルトの上を駆け出した。

223 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:30:22 ID:WbucYHaY0
黒い風となってアスファルトを駆け抜ける地獄の獣。
馬上のペイルライダーは、右手の日本刀めいた振動ブレードをアスファルトに擦りつける。
アスファルトの接触で、切っ先から火花を散らす日本刀の刀身には、梵字にも似た意匠が施されており、
橙の火花に照らされたそれが赤熱するようにぼんやりと輝き始めた。

(* ∀ )「ギコォ!ギコォ!ギコォオオ!」

赤黒の斑に染まった草むらの中で、ツーが立ち上がる。
全身の肉という肉が裂け、四肢はあり得ない方向に曲がり、右の眼窩からは目玉が垂れ下がっていても尚、
彼女の狂った愉悦の叫びは止まらない。
ごぼごぼと濁った音を立てて、彼女の足元の血だまりが泡立ち、そこから立ち上った無数の触手が、
骨や内臓の剥き出しになった肉体に吸いこまれるようにして傷を塞ぎ、急ごしらえの肉体修復を開始する。

<ヽ8w8>「……」

(*゚∀メ)「ギィィイコォオオ!」

ムービーホロのゾンビのように、覚束ない足取りのツー。
地獄の猟犬の如くアスファルト疾駆するペイルライダー。

<ヽ●∀●>「黒狼…黒狼のギコなのか――?」

それを為す術も無く遠目に睨む、満身創痍のニダー。
混沌と化した、沿岸道路の上。
人外同士の影が交錯するその刹那。
ひと際大きな稲光が、黒波うねる太平洋の空を青白く照らした。

224 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:31:32 ID:WbucYHaY0

  ※ ※ ※ ※

――トーキョー摩天楼。
海外からの観光客などは、異常発達した高層建築群を指して、かつてのこの街の名前を未だに口にする。

林立する超高層ビルディングの間を、蜘蛛の巣上に張り巡らされたハイウェイ。
天空の橋めいたその上を、一台のリムジンが走っていた。

从'ー'从「うん、うん、分った。予定通りだね。まあ、そこら辺は頃合いを見て――うん。じゃあね」

通話を終えたワタナベは、受話機をシートに埋め込まれた車内端末に戻すと、
ローテーブルの上のカクテルグラスを手に取り、グラスホッパーの若草色を一口含む。
白塗りのストレッチ・リムジンのキャバレー染みた後部座席には、彼女の他にはそばかすの目立つ、若い代理秘書しか乗っていない。
ただでさえ広い車内の中で、たった一人、ワタナベのすぐ隣に腰かけた代理秘書は、
未だに少女の面影を残すそばかすだらけの顔に、誰が見ても明らかに分る緊張の色を浮かべていた。

('、`*;川「……」

从'ー'从「大丈夫?もしかして酔っちゃった?酔い止め、欲しい?」

('、`*;川「い、いえ!大丈夫、大丈夫です……」

从'ー'从「そう?限界になったら言ってね?エチケット袋はちゃんと持ってきてるから」

('、`*;川「あっはい…あっいえ…えと…あっはい……」

225 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:33:10 ID:WbucYHaY0
防弾処理を為されたミラーガラスの向うを流れ過ぎる、大陸の柱じみたビルの群れをぼんやりと眺めながら、
代理秘書、ペニサスは、自分が未だにこの女社長の隣に座っているという事が上手く飲み込めないでいた。

('、`*;川「落ちつけ…落ちつけペニサス…なんてことは無いわ…こんなのは、何でも無い事…大丈夫、貴方ならやれる……」

この春、単位をやりくりして何とか都内のトーキョー・ニューディー・カレッジを卒業したペニサスは、
サークルの先輩の伝手を頼って、渡辺グループ傘下の先物取引企業の事務員として、
晴れて新卒組として入社する事に成功した社会人一年目のひよっこだ。

ラウンジ区とニューソク区の丁度境目辺りにビルを持つ、黒井殿証券でのペニサスの主な業務は、
引っ切り無しに電話を掛けては頭を下げる社員達のボックス席の間を行ったり来たりして、お茶やコーヒーを運んで回る、実に単純な仕事だ。

入社して既に半年以上が経つが、未だに彼女は折に触れて「もしかして自分は喫茶店の代行派遣業に就職してしまったのではないか」という疑念が頭を過る事がある。

コネ就職という事で、碌な面接も無いままに入社したペニサスではあるが、
如何せん、中高大、ときて未だアルバイトも経験した事の無い彼女は、「世の中の新入社員」というものは、
最初の数年間はみなこのように、下積みから始まるのだろうと勝手に一人で納得していた。

実のところは、黒井殿証券は渡辺グループ傘下の中でも末端中の末端企業であり、
証券業界の中でも業績順で行けば、最底辺の方を行ったり来たりしている様な、
実に胡乱なものなのだが、良くも悪くも世ずれしていないペニサスには、
自社が現在、どのような状況に置かれているのかも把握してはいないのだ。

226 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:36:04 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「大丈夫よ…何とかなる…人生何とかなる…大丈夫…私を信じて……」

そんな彼女だからこそ、突如、親会社の親会社のそのまた親会社の…と幾つものセクションをすっ飛ばして、
渡辺グループの本社ビルへの転属辞令が自分の下へ舞い込んで来た時も、何の疑念も持たずに居られた。

同僚や先輩社員達からの羨望と嫉妬の眼差しを受けながら、辞令を手にした時のペニサスは、
自分が現代のシンデレラになったような夢見心地の気分であった。

初出勤の朝は、慣れない化粧に精を出し、地下リニアの窓ガラスに映る自分を、
何度も何度も見つめてはしまらない笑みが浮かびそうになるのを、必死でこらえた。

そうして初めて入った渡辺所有のアーコロジーの受付で、彼女に言い渡されたのは、
グループCEOであるアヤカ・ワタナベの代理秘書官という、想像だにしていなかった重役なのであった。

('、`*;川「ああ、やっぱりダメだよぅ…潰れちゃうよぅ…私じゃ無理だよぅ……」

底辺企業のお茶汲みが一転、一夜明けたら超巨大多国籍型コングロマリットのCEOの秘書官(代理)だ。
自慢ではないが、ペニサスは英語どころか日本語すらも怪しい程の語学力しかない。
一体全体秘書というものが何をするのかというのが、彼女には分らない所があったが、
とてもではないが自分に務まる様なものではないというのは辛うじて理解できる。
ワタナベと共にリムジンに乗っているだけでも、そのプレッシャーに押しつぶされてしまいそうだ。

227 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:36:58 ID:WbucYHaY0
从'ー'从「ねえ、本当に大丈夫?」

柔和そうな顔を、心配の形に歪めて女総帥がペニサスの顔を覗きこんでくる。
ペニサスは慌てて俯けていた顔を上げた。

('、`*;川「あっはい!大丈夫です!全然大丈夫!元気です!はいっ!」

从'ー'从「……」

両手を振って取り繕うペニサスの顔を、ワタナベは無表情でじっと見つめる。
急に、ペニサスはそばかすだらけの顔が熱くなるのを感じた。
それを見てとってか、ワタナベは表情を和らげると、我が子を前にした母のような優しい口調で言った。

从'ー'从「そんなに、緊張することは無いんだよ?秘書って言ったって、別に何か特別な事をするわけじゃないんだから」

('、`*;川「あっはい!…はい?」

从'ー'从「ただ、私の隣に居て、私の指示を適当に聞いていてくれればそれでいいの。簡単でしょ?」

('、`*;川「はあ…それだけで、本当に良いんですか?」

得心がいかないように窺うトソン。
ワタナベは、顎の下に人差し指を当てて小首を傾げると、ややあってそのつるりとした肌に、柔和な笑みを浮かべた。

从'ー^从「うーん、後は、私が退屈な時にお喋りに付き合うこと、かな?」

地上に舞い降りた天使のようなその笑顔に、トソンは心臓が高鳴るような気がした。

228 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:37:45 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「ああ…ええ……」

从'ー'从「だから、そんなに緊張しないで?ね?」

言いながら、ワタナベは膝の上で固く握りしめられたペニサスの拳を、両手でそっと包み込むようにする。
温かいその感触に、ペニサスの胸の中でばくばくと脈打っていた心臓が、ほうっと溜息をつくように静かになった。

从'ー'从「肩の力、抜こう?」

('、`*川「はい…はい…すいません…ありがとうございます…すいません……」

瞬間、天が割れる様な轟音と共に、二人の乗るリムジンが大きく揺れた。

('、`*;川「うわ、うわうわうわわわわ!?」

もんどりうって座席から滑り落ち掛けるペニサス。
リムジンの装甲板を豪雨の如く叩く、機関銃の連射音。
急激な速度上昇。無茶な蛇行運転に揺れる車内。ロ―テーブルの上のグラスやボトルが転が跳ね、ペニサスの脛を強かに打つ。

銃声?これは銃声なの?一体、何が起こったの?一体、私はどんな目にあっているの?

静まりかけていたと思ったペニサスの心臓が、再び早鐘を打ち始めた。

229 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:39:40 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「なななな何なんですかこれ!?てっぽう!?なんで!?え!?え!?強盗!?銀行強盗!?なんで!?」

座席から半分腰を落としながら、ペニサスは狂乱して叫ぶ。
ニューソクの中流家庭生まれの彼女は、22年間の人生の中で、幸運な事に銃声や企業間の抗争などを目にした事は無かった。
そんなものは、ニュースホロの中だけの世界だと思っていた。
自分は一生、そのような物騒な世界とは関わる事無く、畳の上で穏やかな老衰を迎えるのだと思いこんでいた。
それが今、現実となって窓の外に迫ってきている。

防弾ガラスの向う、隣接する車線の装甲車の上の銃座が、火を噴いた。
苛烈な火花に、黒塗りの防弾ガラスに蜘蛛の巣が走る。

白塗りのリムジンの後方。
環状ハイウェイの片側をびっしりと埋め尽くす様、横一列に並ぶのは、黒塗りの装甲バンや、軍用トレーラーの物々しい一群だ。
装甲バンの窓からは、手に手に機関銃や対物ライフルを握った、黒服達が頭を覗かせており、その銃口はペニサス達の乗るリムジンへと向けられている。
その黒服達の顔立ちは、まるで判で押したかのように全く同じ造形をしていた。

从'ー'从「クローン・アーミー……これは、ロマネスクさんとも付き合い方を考える必要があるかな?」

360度を一望する車載カメラからの映像を脳核ディスプレイの端に映しながら、ワタナベはポツリと呟いた。
隣では、ペニサスが狂乱した叫びを上げている。

230 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:40:34 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「なんで!?なんで撃たれてるの!?テロリスト!?いやだ!いやだ!死にたくない!私何も悪いことしてない!いやー!」

そばかすだらけの垢ぬけない顔を、涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたペニサス。
その両手を再び握って、ワタナベは化粧の剥げたペニサスの顔を覗きこんだ。

从'ー'从「大丈夫、大丈夫よペニサスさん。何てことは無いの。こんな銃撃ぐらいじゃ、このリムジンは爆発したりしないから」

('、;*川「――でも…でも!銀行強盗なんて…!わたし、そんな…撃たれるとか…私…!」

从'ー'从「そうだよね、こんな事になるなんて、思いもしてなかったからびっくりしたよね。
     ごめんね、でも大丈夫だからね。何も怖い事なんか無いんだよ。直ぐに、静かになるからね。あと、銀行強盗じゃないからね」

('、;*川「えうあ…ホント…ホントにですか…?」

从'ー'从「うん、うん、本当だよ。大丈夫。だから、ね?泣きやんで?可愛い顔が台無しだよ?」

(う、;*川「――あっはい……」

辛抱強い慈母のようなワタナベの囁きに、ペニサスは鼻水をすすりあげると、着なれないスーツの袖で顔を擦った。
車外では、今しも装甲トレーラーがリムジンの左隣に並び、そのコンテナをガルウィングめいて開く所だった。

231 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:41:33 ID:WbucYHaY0
舞台の幕が上がる様にして開き切ったコンテナの中には、対物アサルトライフルを構えた黒服達が、横二列になって整然と並んでいる。
揃いのスーツに、揃いのサイバーサングラス、同じ髪型に全く同じ顔かたち。
それは、ワタナベが先にこぼした通り、ブラウナウバイオニクスが世界に誇るクローニング技術の産物、クローン・アーミーだ。
ブラウナウバイオニクスをして世界規模の生化学企業に押し上げる事となった、
バイオ技術の申し子達は、一糸乱れぬ動きでアサルトライフルを構えると、一斉にそのトリガーを引いた。

交響楽団のユニゾンめいて、けたたましい銃声のハウリングが環状ハイウェイをどよもす。
一斉に発射された銃弾は、一発の誤射も無くペニサス達のリムジンのルーフと横腹に突き刺さる。

('、;*川「うわああ!いやだ!いやだ!死にたくなあああい!」

豪雨の如く装甲を叩く銃弾に、車内で再びペニサスが叫びを上げる。
しかし、リムジンの車体がそれによって何らかの被害をこうむることは無かった。

从'ー'从「だから、大丈夫だよ。このリムジンは、戦車の前面装甲よりもずっとずっと堅いんだから」

('、;*川「それって、どれくらい堅いんですか?」

从'ー'从「えーと、象さんが突進してきても大丈夫なくらいには堅いかな?」

('、`*川「象が突進してきても大丈夫……」

大昔のホログラフ映像で、象が踏んでも壊れない筆箱のCMがあったことを、ペニサスは束の間思い出す。
何となく、それだけで随分と彼女の心の中には余裕が出来た。


232 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:42:54 ID:WbucYHaY0
車外では、トレーラーのコンテナに整列したクローン・アーミー達が、
先の銃撃でも全くぶれる事の無いリムジンの走行を眺めながら、グレネードマウントに榴弾を込めている所だった。
一糸乱れぬ動きで、背広の袖から一斉に榴弾を取り出し装填したクローン・アーミー達は、再びその銃口をリムジンへと向ける。
しゅぽんっ、という乾いた射出音がハーモニーを奏で、偏差射撃の計算に基づいて一斉に放たれた榴弾が、
放物線を描いてリムジンの進路状に同時に着弾。
壮絶な轟音と爆炎が、リムジンを包んで環状ハイウェイを一瞬で火の海に変えた。

('、;*川「いやああああ!無理!無理!無理!潰れちゃう!潰れちゃうったらあ!」

爆炎と黒煙に包まれたリムジンの車内で、ペニサスが三度絶叫を上げる。
しかし、リムジンにはさしたる被害は見受けられない。黒煙が晴れた先、
榴弾の爆発で罅の入った道路を、ペニサス達を乗せた車体は変わらずにぐんぐんと進んで行く。

从'ー'从「だから大丈夫だよ。このリムジンは、戦車の前面装甲板よりもずっとずっと硬いんだから」

('、;*川「それって、どれくらい堅いんですか?」

从'ー'从「うーんと、ダイヤモンド百個分かな?」

('、`*川「ダイヤモンド百個分……」

大昔のホログラフ映像で、女優がダイヤモンドリングを前にして「ダイヤモンドは永遠の輝き」と呟くCMがあったことを、ペニサスは束の間思い出す。
永遠の輝きならば、きっと砕ける事は無いのだろう。しかもそれが百個だ。もう、何も恐れる事は無いのではないだろうか。

233 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:44:13 ID:WbucYHaY0
車外では、トレーラーのコンテナに整列したクローン・アーミー達が、榴弾の一斉投擲でも大破する事の無かったリムジンを眺めながら、
それぞれの足元においたパンツァーファウストへと持ち替えている所だった。
一糸乱れぬ動きで片膝をつき、右の肩にロケット推進式の対戦車無反動砲を担いだクローン・アーミー達は、再びその弾頭をリムジンへと向ける。
ぼしゅんっ、という音と共に無反動砲が煙を吐きだし、ロケット推進式の対戦車榴弾が、
無線誘導システムによってリムジンへと白煙の尾を引きながら迫る。

('、;*川「いやあああ!もうダメ!もうダメよおおお!こんなの無事で済むわけ無いわ!爆発しちゃううう!」

宙空を鮫の群れめいて泳いでくる榴弾から蛇行運転で逃げる車内で、ペニサスが四度目の絶叫を上げる。
後部座席と運転席を隔てる敷居の向う側では、老齢のワタナベ専属運転手が、老熟の域に入ったハンドル裁きで、
榴弾の鮫の群れを振り切ろうとしていた。
如何なリムジンと言えども、対戦車榴弾の直撃を受ければただではすまない。
老熟ドライバーが右に左にとハンドルを急確度で切る度、リムジンは尻を大きく振り、
その度ごとに榴弾の鮫達を引き離すのだが、直ぐにまた追いつかれてしまう。

('、;*川「いやだ!いやだ!いやだ!死にたくない!死にたくない!今度こそ死ぬううう!」

慣性の法則に挑むかのような無茶なハンドリングに、後部座席のペニサスとワタナベはゴロゴロと転がる。
酒瓶が割れ、グラスの中の氷が、無重力めいて車内を飛び交う。
それでもワタナベは一切その柔和な表情を崩すことなく、ローテーブルに固定されたカクテルグラスからグラスホッパーの残りを口にすると、ゆっくりと目を閉じてから開いた。

234 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:46:06 ID:WbucYHaY0
从'ー'从「それじゃあ、そろそろ私達も反撃といきましょうか」

('、;*川「――え?」

幼子の様にして泣き叫んでいたペニサスが、間の抜けた顔でワタナベを見返す。
ペニサスが見つめるワタナベの瞳の中、脳核ディスプレイの端では今しも、
彼女専用のホットラインとの通話が途切れた事を知らせる、終話アイコンが点滅していた。

老熟ドライバーが、ハンドルを右に切る。
鮫の群れを引きつれたまま、傾こうとするリムジン。
回避動作を阻むようにして、スピードを上げた装甲バンが、隣の車線に割り込んできた。
最早逃げ場は無い。

('、;*川「当たる!当たる!当たる!当たっちゃううう!」

後部の窓から後ろの様子を見ていたペニサスが、悲痛な悲鳴を上げる。
まさにその時、環状ハイウェイの左脇の空中に、天掛ける橋の下から浮き上がるようにして巨大な影が現れた。

運転席の老熟ドライバーが、アクセルを限界まで踏みつける。
瞬間的に加速したリムジンが、榴弾鮫の群れをぐんと引きなした瞬間。
巨大な影から放たれた幾筋かの火線が、榴弾鮫に次々に着弾、鮫の群れが宙空で虚しい爆炎を上げた。

235 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:48:28 ID:WbucYHaY0
('、`*;川「えっ?えっ?」

皿のように眼を大きく開けて後ろを見ていたペニサスが、更に眼を大きくする。
突如として環状ハイウェイの上空に現れた大きな影は、シャチのような胴部に斜めに突き出した二つのプロペラを持つ、ニホン軍の攻撃用ヘリ「三十四式オルカ」だ。
シャチのような胴部の腹に当たる部分からは、乗降用タラップが突き出しており、
その上に腹ばいになったスキンスーツの狙撃手が握る対物スナイパーライフルのスコープが、陽光を反射してきらりと光った。

('、`*;川「軍隊?軍隊?なんで?……助かった?」

立て続けに起こる非日常に、ペニサスの思考回路は既にオーバーフロー寸前だった。
いきなり秘書(代理)になったと思ったら、赴任初日で謎のクローン軍団の襲撃、死を覚悟した所にニホン軍の攻撃ヘリが現れて……。
自分は夢でも見ているのだろうか?
ペニサスの疑問に答えるものはしかし、誰も居ない。
隣のワタナベは、グラスホッパーを手酌で注ぎ足しながら、悠然とした笑みを浮かべているだけだ。

二つの羽持つ「三十四式オルカ」は、ペニサス達のリムジンと並走するように、
環状ハイウェイの上空を飛びながら、シャチの口の下に生えたミニガンをアイドリングさせる。
リムジンを取り囲むようにして走る装甲バンやトレーラーの中から、クローン・アーミー達はこの空泳ぐ鉄のシャチに向かって、
それぞれに対物ライフルやパンツァーファウストを構えた。

機先を制したのは、上空のオルカだった。
刹那のうちにアイドリングを済ませたミニガンの砲身から、レーザー照射のような橙色の火線が走り、
クローン・アーミー達の乗る車両を次々に爆発炎上させていく。
ペニサス達の乗るリムジンは、ヘリの対地掃射によって緩んだ包囲網を抜けて、更にその速度を上げた。

236 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:49:27 ID:WbucYHaY0
「三十四式オルカ――!ニホン軍の介入くらい、予想しておくべきでしたわ…迂闊っ――!」

銃弾降り注ぐ装甲バンの群れの中央。
鉤十字の紋章をボンネットに刻んだ装甲トレーラーのコンテナ内に作られた仮設戦略室で、その女は、車載カメラの映像をホログラフで見ながら、歯噛みする。

「このままでは、逃げ切られてしまう…そんな事になったら、お父様に合わせる顔が……そんなのはダメよ…許されませんわ…絶対に…許されませんわ――」

碁盤めいて緑のグリッドが浮かぶ戦略机に両手をついていた彼女は、戦略机を叩くと、勢いよく顔を上げた。

「ニトロブーストで少しでも目標に近づけなさい!格なる上はわたくし自ら討って出ますわ!」

革命家めいて右手を突き出す彼女の指示に、仮設戦略室内で情報端末を睨んでいたクローン・アーミー達が一斉に顔を上げて敬礼する。

「「「ハイル、ロマネスク!仰せのままに!」」」

選手宣誓めいて右の掌を開いて突き出す、ナチス式の敬礼唱和が、情報端末のエメラルド光に染まった仮設戦略室内に響き渡った。

237 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 20:50:41 ID:WbucYHaY0

 

 

Next track coming soon...

 

 

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238 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 21:04:38 ID:WbucYHaY0
■親愛なる読者のみなさんへ■センコを焚く■蝉■

本日の投稿は以上となります。

次回の投稿は恐らく二週間後とかになると思うがオーボンが近いので、ユーレイ・リチュアルやらヤキニク重点インシデントなどが重なりケミカル・チャンポンを起こした結果、多忙指数が振り切る可能性も大いにある。

なので我々は断定しない。だが大丈夫。オーボンを乗り切れます。



■今日なハイクだ■不如帰■

ヒヤヤッコの隣に ゾンビアーミー



■終わりに■通気性の問題だ■納涼■

最近猛暑が続いており、外気温は大変高い事になっています。驚きです。

執筆チームの中でも、ニホンの過酷な夏にやられて、高熱を出しているメンバーが実際何人か確認されています。

ヒヤヤッコを支給することで我々もなんとか対応していますが、読者の皆様におかれましては、くれぐれも無理はなさらず、健康重点でこの夏をお過ごしください。

以上、ぎょうむれんらくでした。カラダニキヲツケテネ!

239 名も無きAAのようです :2012/08/08(水) 21:05:17 ID:y0vmPkk.0
ふえぇ乙

240 名も無きAAのようです :2012/08/08(水) 21:16:25 ID:uq4li3AI0
おっツンツーン!

241 名も無きAAのようです :2012/08/08(水) 21:16:41 ID:tc.B4EJA0


242 名も無きAAのようです :2012/08/08(水) 21:19:56 ID:Ajlw6rYA0
乙 なんかペニサス見てたらワロタ

あと>>227のトソンってペニサスの間違いだよね?

243 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/08(水) 22:02:36 ID:WbucYHaY0
■エマージェント■深刻なAA不足■外して保持■

読者の方から指摘があった通り、>>227でトソンと書かれている部分はペニサスの間違いです。

執筆担当者を問い詰めた所、猛暑のせいで誤字をしてしまったという証言が得られました。

審議の結果、我々はこの意見を情状酌量の余地があると判断し、ケジメは為されませんでした。お騒がせしております。

244 名も無きAAのようです :2012/08/09(木) 23:47:21 ID:ZflYcjgE0

いい作品だ

245 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/10(金) 14:52:39 ID:b0o6fvsQ0
■RADIO塊IM■THE PRODIGY - voodoo people (original)■般若■貴方?筒■

246 名も無きAAのようです :2012/08/10(金) 14:57:38 ID:9CfTRm3k0
なんとなく久々に覗いたら、鋼鉄の処女復活とか
テンションあがってきた

247 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/10(金) 15:46:27 ID:b0o6fvsQ0
■RADIO塊IM■THE PRODIGY - voodoo people (original) http://www.youtube.com/watch?v=-Fz85FE0KtQ■般若■貴方?筒■

ミスタイプは無かったね?我々は清い投稿生活を続いているね?

さもなくばカラテだ。カラテあるのみ。

248 名も無きAAのようです :2012/08/10(金) 17:02:23 ID:eKonMf460
支援。備えよう。

249 ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/10(金) 17:32:34 ID:IUfnx4KoO
(親愛なる読者の皆さんへ;残念ながら本日の投稿はない。だが我々は謝罪しない。何故ならばそれは処断対象であり、あなたのDIYを活性化させない。しかし大丈夫。鋼鉄処女は何処にも行かない。これに関しては様々な意見が飛び交うだろうが、今はただ、備えよう)

250 名も無きAAのようです :2012/08/13(月) 18:41:00 ID:BJOt71hs0
備えるか

251 名も無きAAのようです :2012/08/13(月) 21:18:40 ID:8/5xUebk0
備えあるのみ

252 名も無きAAのようです :2012/08/20(月) 20:25:35 ID:ITxjaI320
忍殺めいて帰ってきた鋼鉄の処女があからさまに面白いのだ!

昔から好きな作品だったけどレベル上がったなー

253 名も無きAAのようです :2012/08/22(水) 23:05:20 ID:uA2nuVkc0
こんなに忍殺めいてたっけ前、読み直してこよう

254 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/23(木) 10:09:24 ID:pjm.M0R2O
■お知らせ■中央な■夏■祭典■


親愛なる読者のみなさんへ;暑い夏はもう少しだけ続くのだと亀めいた甲羅のお爺さんが告げてます。いかがお過ごしでしょうか。

我々執筆チームは何とかオーボンのユーレイ・リチュアルやノンデ・ノンデ・パッション重点インシデントを乗り切った所で、現在は負傷者の手当てをしている所です。

さて、本日はそんな夏を乗り切る為のエキサイティングでクールなイベントのお知らせに参りました。

 

題して「サマーソニック・イン・アイアンメイデン」

 

これは一体何なのか?サマーソニック?アイアンメイデン?一体何なんだろう?気になって仕方ないね?詳細を聞きたいね?

それでは紹介しよう。サマーソニック・イン・アイアンメイデンとは何なのか?ずばりそれは、DIY(※脚注;日曜大工的な、無ければ作ろう)の精神を体現する、読者参加型企画である。

開催期間は現在連載中のエピソード「disc.11 No. of the Beast」が完結するまで。

この間、我々執筆チームは読者のみなさんから「僕、私はこういうエピソードが読みたいので君が書きたまえ」という思いを込めた書き込みを募集する。

読者の皆さんから寄せられた「公募プロット」は厳粛な宇宙意志による選別に掛けられ、その中でもっとも執筆チームのパンク・ソウルを熱く揺さぶったものが、何と実際に執筆チームの手によって書き起こされるのだ!

エキサイティング!エキサイティング・トランジスタ!ソー・ベリーベリー、エキサイティング!

どうだい?参加したくなったね?でも待って!その前にお約束事の欄を読もう。マナーを守って楽しいお祭り。地方自治体に迷惑を掛けてはいけない。それは悲しい。

255 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/23(木) 10:37:18 ID:6P0GBLJQ0

■取説■続■詳細な■西瓜■


・公募プロットを書きこむ際は、「サマーソニック・イン・アイアンメイデンのプロット公募企画への応募」であることを明記しよう!


・開催期間は現在連載中のエピソード「No. of the Beast」が完結するまで。
 これについては、三日前になった時点で執筆チームの方からアナウンスが入るのでだいじょうぶ。あんしんなカスタマーサービスだ。


・応募プロットの内様については一切の制約を設けませんが、執筆チームが書き起こす際にメインストーリーに絡まない形で修正される事になります。予め、ご了承ください。


・プロットをどこまで書くかは読者のみなさんにお任せします。導入から結末まで、全部書いてもよし。導入部とどんな話になるかだけ、ぼんやりと書くもよし。


・応募の書きこみは公式まとめサイトブーン芸VIP=サンの掲示板(http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9951/#4)の当該スレッド
 もしくは、このスレッドにおねがいします。


・尚、応募数が一定数に満たない場合は企画自体が中止になる可能性も無きにしも非ずだ。だが我々は大丈夫だと信じている。信じよう。


・自分の応募プロットが採用されなくても泣かない。貴方はオンリーワンであり、我々もオンリーワンである。常に奥ゆかしさを忘れないようにしよう。


・ゴミは必ず持ち帰ろう。近年、会場周辺の民家などからゴミのポイ捨てについて、非常に多くの苦情が寄せられています。それは悲しい。
 お祭りを楽しむのは実際素晴らしいことだが、周辺自治体のみなさんも楽しい気持ちになれるよう、周囲への気遣いを忘れない奥ゆかしさを持とう!


・ステージ前での危険すぎるモッシュピットは禁止です。前年度も実際、死傷者が四人ほど出ており、運営委員会の方でも「ここまで危険ならば来年から中止する」と卑劣な圧力が掛ってきている。
 我々はパンクの精神を体現する。即ちレベリオンである。しかし読者の皆さんにはいのちをだいじにしてほしい。なぜなら貴方はオンリーワンであり、我々もオンリーワンだからだ。いいね?

 

以上が今回のサマーソニック・イン・アイアンメイデンのルールになります。

わからないことがあったらお気軽に執筆チームにきいてください。

ファッカー!マザーファッカージーザス!

256 名も無きAAのようです :2012/08/23(木) 10:49:02 ID:7z6eJMWQ0
オーイエス!オーイエス!

257 名も無きAAのようです :2012/08/24(金) 01:25:16 ID:1m4cvOycO
シベリアや陣龍の日常風景

258 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/24(金) 15:26:36 ID:4CHsLzdQ0
■RADIO塊IM■Otep - Crooked Spoons http://www.youtube.com/watch?v=7Zavw_3Bxx0■盆栽■貴方?筒■

259 名も無きAAのようです :2012/08/24(金) 19:55:46 ID:vJEav.lQ0
どっくんはじめての床オナ

260 名も無きAAのようです :2012/08/25(土) 00:34:37 ID:wZZii91A0
ドクオとハインの最初の仕事
ドクオがハインを使って仕事をしようとする所から、初依頼を受ける迄のゴタゴタやら終わった後のやりとり迄を書いて欲しい。
鋼鉄処女の話の終わり方が凄く好きです。

後はピーチガーデンの全盛期の話も読みたいです。
サイバーパンク成分満載のが読みたいです。

261 名も無きAAのようです :2012/08/26(日) 14:44:41 ID:FqTceFv20
フォックス、キューちゃん、ニダーの休日
好きなキャラ多いから色々書いてほしいな
あとモナーのその後とか

262 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:20:12 ID:DGEbOzk.0

 

                【IRON MAIDEN】

 

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263 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:25:25 ID:DGEbOzk.0

Track-β


――明りの落とされた駅のホームで、気がつけばギコは一人で錆ついた地下リニアの車体を前にぼんやりと佇んでいた。
高感度センサーを内蔵した視覚野の中で、空気中の微細な埃がまるで海中の雪のようにして、きらきらと舞っている。
警告灯の赤いLEDランプだけが灯るリニアの車内に目を向ければ、輪郭のはっきりしない、
黒い人影達が、おしのように黙って座席に腰掛けているのが分った。

( ∵)「………」

ちらほらと見えるその人影達の顔には、表情の無い白い仮面。
お互いに喋るでもなく、黙して座している彼らの眼は、皆一様にギコへと向けられている。
無面目に空いた黒い穴のようなその目からは、表情を窺うことは出来ない。
ギコは彼らの視線を一身に受けながら、その黒い穴の群れをぼんやりと見つめ返した。

ミ,,゚Д゚彡「どうした、乗らないのか?」

何時の間にか、傍らに立っていた義理の兄が、シケモクを消しながら言った。
ギコは束の間傍らの兄を見、それから再びリニアの車内に目を戻した。

(,,゚Д゚)「――どうだろうな。特等席はもう取ってあるんだろうが…さて……」

考えるでもなく、ぼんやりと車体を眺めるギコ。
脇から伸びてきたフサギコの手が、「綺羅星」を差し出す。
ギコが受け取りそれを咥えると、義理の兄はジッポで火をつけた。

264 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:27:31 ID:DGEbOzk.0
ミ,,゚Д゚彡「シケモクで悪いな」

(,,゚Д゚)y-~「俺には味なんざ分らんさ」

ミ,,゚Д゚彡「そう言えば、お前はヤニよりコッチだったか」

言いながら、フサギコは冗談めかして首筋に注射器をあてる仕草をする。
鼻で笑って、ギコはそれに応えた。

ミ,,゚Д゚彡「シィは、最近どうだ?」

表情の無い顔で、フサギコが言った。
紫煙をくゆらせて、ギコは押し黙った。
警告灯の赤いLEDランプが、じわりとした光で、ホームの中を照らしていた。
ギコは、風の無い麦畑のような車内の人影達を、じっと睨みつける。
仮面に空いた黒い穴の群れは、変わらず、こちらを見つめていた。

(,,゚Д゚)y-~「シィは、元気なものさ。相変わらず、車椅子だがな」

小さく呟くように言いながら、ギコは煙草を口から離す。
どんよりとした紫煙が、半開きにした口の間から漏れだす。
トンネルの向うから、何かが近づいてくる気配が、彼にはぼんやりと感じられた。

ミ,,゚Д゚彡「……そうか」

黒い、渦巻きのようなものだ。それは。
ギコは、何となく見当がついていた。そう。黒くて、大きい、渦巻き。
そんな風なイメージが、ギコの頭の中にはあった。

265 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:28:27 ID:DGEbOzk.0
ミ,,゚Д゚彡「お前は、タフだよ。タフな奴だよ」

地下鉄のホームが、地響きと共に揺れる。
穴の奥から、黒い渦巻きが近づいてくる。

ミ,,゚Д゚彡「だからお前は――」

義理の兄が何かを言おうとする。
同時、黒い奔流が地下トンネルの暗い穴からどっとあふれ出し、ホームを埋め尽くした。
コールタールめいて粘つく黒い大海嘯のうねりは、リニアの車体を押し流し、義理の兄の身体を飲み込む。

(,,゚Д゚)「……」

ごぼごぼと音を立てて沈んで行くそれらを、ギコは眠たげな眼差しでぼんやりと眺めていた。

266 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:30:01 ID:DGEbOzk.0

  ※ ※ ※ ※

――眼を覚ましたギコが最初に感じたのは、自分の身体への耐えがたいまでの違和感だった。

(´・ω・`)「おや、お目覚めかな」

横合いから掛けられた声に、首を捻る。
ワイシャツの袖を捲った、しょぼくれ眉の優男が、傍らに立っていた。
彼の背後には、罅割れ染みの浮いたコンクリートの壁と、錆ついた鉄扉が見えた。

(´・ω・`)「目覚めの挨拶の前に、先ずはクーにお礼を言いたまえ。
      彼女が駆け付けなかったら、君はサイバーテクノをBGMにしてヴァルハラに迎えられる所だったんだからね」

冗談めかして言って、優男は自分の右側を親指で示す。
親指の先、三台もの情報端末(ターミナル)と十数本のケーブルで有線直結した女が、俯けていた顔を上げた。

川 ゚ー゚)「困った時はお互い様、と言いますから。お気になさらないで下さい」

黒のゴシック・ドレスを纏った女の顔は、同色の帽子から垂れる黒いレースのヴェールで覆われている。
繻子のような黒髪と、陶磁器のような白い肌、その中で葡萄酒よりも濃い紅の双眸が、
レースのヴェール越しに気品のある輝きを浮かべてギコを見つめていた。

267 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:31:28 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)「――さて、とは言ってみても、先ずは僕が謝らなければならない所なんだけど……。
      何しろ、クーが駆け付けた時点で、大分ゴアな事になってたらしいからね」

川 ゚ー゚)「童謡のビスケット、一歩手前って所でしたからね」

口元を隠し、くすくすと笑うクー。

(´・ω・`)「勝手な事だとは分っていたけれど、それどころじゃなかったんだ。むしろ、脳核だけでも無事だったのが奇跡みたいなものさ」

ゆっくりと身を起こし、ギコは自分の右手を見つめる。
悪魔の鉤爪めいて刺々しい黒のシルエットが、視覚野に飛び込んできた。
視線を右手から外し、胸元からつま先へと滑らせる。
昆虫と爬虫類と悪魔の混血染みて、禍々しく節くれだった黒い外骨格は、市場で見かける事の無いデザインだった。

(´・ω・`)「内骨格から人工筋肉まで総入れ替えとなれば、当然パーツも足りなくなってくる。
      あり合わせのものを使わせてもらった事については、勘弁してほしいとしか言えないね」

川 ゚ー゚)「それについては、マスターのハンドメイドは、二流の市販品よりもよっぽど信頼性が高いので不自由は無いかと」

施術台から降りて、ギコは優男へと向き直る。
クール言葉通り、以前の強化外骨格に比べて、動作周りや運動出力は遥かに上回っているようだった。感覚で、ギコにはそれがわかった。

268 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:33:27 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)「……それで、これが問題なんだけれど、落ちついてよく聴いて欲しい」

そこで一旦言葉を切ると、優男はゆっくりと瞬きをする。

(´・ω・`)「君の新しい身体と、脳核についての非常に重要な話だ」

269 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:35:02 ID:DGEbOzk.0

  ※ ※ ※ ※

――白熱する蒼の稲光。
豪雨の中、衝突する二つの影。

(*゚∀メ)「ギィィィイイィィイコォォオオォォオ!」

<ヽ8w8>「――」

世界の時が一瞬鈍化したような、その瞬間。
鈍い衝突音と共に、時が動き出す。

(*゚∀メ)「ゲブッ――」

魔獣の如きバイク。そのホーン。
前輪から突き出した二本の角の片方。
よろけながらも前に踏み出したツーの身体が、衝突と共に悪魔の角に突き上げられるように、宙を舞っていた。

<ヽ8w8>「――……」

刹那の交錯。そのまま突き進むモンスターマシン。
宙で弧を描く赤黒の血飛沫。
強化タングステン製ダブルホーンで抉られたツーの脇腹。
臓物が零れるそこから、赤黒の触手の群れがヒュドラめいて飛び出し、バイク上のペイルライダーへと殺到する。

270 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:35:49 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「ヘヒャヒャヒャヒャ!熱烈なキスだねえ!最高だ!今のは最高にイッた!」

アスファルトの端。
円弧を描いて旋回するモンスターマシン。
鎌首をもたげた触手の群れは、規格外のバイクの巨大な胴部に絡みついた。

(*゚∀メ)「今度はアタシからもキスをさせておくれよ!飛びきり熱いヤツをよぉぉおお!」

真っ赤な口を裂けんばかりに開いて哄笑するツー。
その身体が、巻き上げワイヤーの要領で触手に引かれてモンスターマシンに急接近する。

<ヽ8w8>「――」

右手の日本刀状の振動ブレードで触手を切り落とすペイルライダー。
一本、二本、三本。
薙ぎ払う度に彼の腕を伝わる感触は、金属を叩き切る時のそれだ。

(*゚∀メ)「アヒャヒャヒャヒャ!ちゃぁあんと抱きとめておくれよぉぉおお!」

四本、五本、六本。
切りはらう度、新たに伸び来り絡みつく触手。
急接近するツーの身体。
間に合わない。

271 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:36:30 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「ダァァアイビィィインッ!」

<ヽ8w8>「……――」

腕を振りかぶる空中のツー。
赤黒くささくれ立った籠手を形成する血液。
ペイルライダーは、車体を蹴り、急激にモンスターマシンを傾ける。
摩擦熱で蒸発する雨粒。跳ねる火花。ドリフトターン。

(;*゚∀メ)「ニャニャニャ!?」

無茶な慣性で、ツーの身体はペイルライダーの頭上を飛び越して矢弾のように滑空飛行。
派手な水しぶきと血飛沫をまき散らし、アスファルトの上に叩きつけられた。

<ヽ8w8>「……」

エグゾースト音の尾を引いて、距離を離すモンスターマシン。
滅茶苦茶なマニューバにも、魔獣の唸りに変わった所は見られない。

(´・ω・`)『――計らずとも第二の生を歩む事となってしまった君に、僕からのささやかなバースディプレゼントだ』

ベヒーモス。
S&Kインダストリーの軍用バイク「タウロスLLL」のフレームを基礎として、「ショボン」と自分を名乗ったあの男が独自の改造を施したそれは、世界に二つとないワンオフ製。
バイクの規格を大きく逸脱する、総排気量10000ccの大容量エンジン。
軍用装甲車の装甲板をそのまま流用することで実現した驚異のタフネス。
強化タングステン製のダブルホーンが示す通り、このバイクは通常走行を目的としたものでは決してない。

272 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:38:01 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)『たとえば君が、環状ハイウェイを走っている時に、目の前のキャデラックのちんたらした走りに苛立ちを覚えたとする。
      ベヒーモスは、そんな君の苛立ちを、一瞬にして解消してくれる素晴らしい性能を秘めている』

(´・ω・`)『この地獄の魔獣に掛れば、もう渋滞に悩まされる事も無い。
     君はただ、ハンドルを真っ直ぐに保ったまま、ベヒーモスを前進させればいい。
     それだけで万事が解決さ。煩わしい車線変更も何も必要ない。どうだい、画期的だろう?』

したり顔で言った後、下手くそなウィンクをして見せた優男の顔を思い出しながら、ペイルライダーは車体をターンさせる。
進行方向の先、アスファルトの上ではツーが再び立ち上がろうとしていた。

(´・ω・`)『陸の覇者、ベヒーモスの歩みを止める事は何人たりとも出来やしない。
      地鳴りと共に、地を制覇する…まさにこいつは、巨獣そのものだよ』

スロットルを全開。
工事用重機の如く、四本のマフラーから吐き出される黒煙。
アスファルトを焦げ付かせ、再び突進を開始する陸の巨獣、ベヒーモス。

幽鬼染みて覚束ない足取りでツーが立ちあがる。
狂った色彩のその瞳が、仄暗い愉悦の表情を湛えて歪んだ。

273 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:38:46 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「随分とカッチョいいバイクだけどさあ…そろそろ降りてきて欲しいっていうか――」

臓物を腹からぶら下げたその足元が、にわかに泡立ち始める。

(*゚∀メ)「アタシを抱き締めて欲しいって言うかァッ――!?」

相前後。
血の池から、多頭龍めいた血の触手が立ち上り、鎌首をもたげるや、突進するベヒーモスに殺到した。

(*゚∀メ)「抱きしめてくれないなら、アタシから抱きついちゃおうってねぇえええ!」

曲線、直線、様々な軌道を描く血の触手。
一つ一つが鋭い切っ先を持ったそれは、まさに赤黒の槍の集中豪雨。

<ヽ8w8>「――!」

ハンドルを握る悪魔の籠手が、小刻みに動く。
上、横、斜め前、正面、全方位から迫りくる血槍の嵐の中を、ベヒーモスの巨大な車体はまるで縫うようにして滑らかに突っ切っていく。
さながらその様子は、矢が降り注ぐ戦場を駆け抜ける、一騎の黒騎士のようでもあった。

(*゚∀メ)「アヒャヒャヒャヒャ!避ける避けるゥ!ヒャヒャヒャ!なになに!?照れてるの!?照れてるのォ!?」

274 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:40:09 ID:DGEbOzk.0
疾駆する魔獣。
狂笑する魔性。
牙持つ魔獣が、餌食を前にして上げるエグゾースト音の咆哮。
けしかけた多頭龍をいなされたツーが、前屈の形に身を折り曲げて、血の池に両手を浸し――。

(*゚∀メ)「それじゃあこれは――」

バネのように身を起こし、両手を振り上げた。

(*゚∀メ)「どうっかなあ!?」

爆発する血の池。
溢れだす赤黒の奔流。
ミクロの大津波となった血液の超質量が、地を駆けるベヒーモスを押しつぶそうと迫る。

<ヽ8w8>「――!?」

右?左?否、否、否。ハンドリングでかわせる規模のそれでは無い。
ブレーキ?否、否、否。その行動に意味は無い。
回避不能?否、否、否。
シートの上で立ち上がり、人工筋肉の稼働率を140%でオーバードライブ。
黒い強化外骨格の下で、はち切れそうな程に膨らんだ筋肉を解き放ち、ペイルライダーは飛びあがった。

275 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:41:13 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「――あん?」

陸のベヒーモスを止めるのは、海のレビアタンか。
赤黒の大海嘯が、ベヒーモスの黒く禍々しいシルエットを飲み込む。

ベヒーモスの突進の勢いをも乗せて跳躍したペイルライダー。
血の大波の上、日本刀を上段に構えた彼は急降下。
稲光を背負って強襲するは、狂える女のその眉間。

<ヽ8w8>「――――――!」

(*゚∀メ)「はあああああ!?」

大波を発生させたままの姿勢から、ツーは更に仰け反って両腕を広げる。
血だら真っ赤なその顔に浮かぶのは、恋人を前にした乙女の至福の笑み。

(*゚∀メ)「ギコ!ギコ!ギコ!やった!やった!やっと来た!やっと来たああああ!」

大津波を作りだす為に殆んどの血液を注ぎこんでしまっている為、彼女を守る赤黒の触手は最早皆無だ。
それでも彼女は焦燥するどころか、極上の笑みを浮かべて天を仰ぐ。
愛しの君が、やっと自分の腕の中に飛び込んでくる。その事実だけがあれば、ツーにとって他は全てどうでもよかった。

<ヽ8w8>「……」

対する空中のペイルライダーは、この化け物を前に何を思うのか。
黒い悪魔染みた強化外骨格のヘッドピースの髑髏は、硬質な輝きを稲光に反射させるだけだ。

276 名も無きAAのようです :2012/08/26(日) 22:43:49 ID:Xvx61FA60
ギコ喋らないな…

支援

277 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:44:47 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「来て!来て!来てえええ!」

<ヽ8w8>「――――」

狂笑と鋼が、交錯する。
血に塗れた包帯だらけの肩口に、日本刀の刃が食い込む。
生白い細腕が、ペイルライダーを受け止める。
強化外骨格の全体重を乗せた一撃が、袈裟掛けにツーの身体を切り裂く。
装甲と生肌が触れ合い、ツーがペイルライダーの背中に腕を回す。
ボンテージ衣装の腰から、振動ブレードの刃が抜ける。

(*゚∀メ)「やっと、捕まえた――」

恍惚とした表情で、ツーが溜息をつく。
青ざめた唇の端から、どす黒い血の筋が垂れる。
一拍遅れて、その下半身がアスファルトの上に崩れ落ちた。

(* ∀メ)「もう、離さないんだから――」

胴から下を失ったツー。
左の腕だけで、ペイルライダーにしがみ付く彼女の口が、勢い良く開く。

(*゚∀メ)「もう離さないんだからあああああ!」

咆哮。直後、刹那のうちに彼女の口内に血で形作られた猛獣の牙が生え揃った。

<ヽ8w8>「――――!?」

278 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:46:50 ID:DGEbOzk.0
臓物と金属骨格を傷口からぶら下げた上半身だけのツー。
血の斑にそまったプラチナブロンドのハーフドレッドを振り乱し、彼女は顎の関節を引きちぎって口蓋を開く。

(*゚∀メ)「誓いのキスをををををを!」

狙うのは、ペイルライダーの顔面、牙が剥き出しの口めいた顎部装甲。
頬の肉が裂けた猛獣の口が迫る。
完全な肉迫状態。日本刀を振り抜いたままのペイルライダーでは間に合わない。

牙が伸びる。白と黒の双眸が愉悦に歪む。
ペイルライダーが上半身を捻る。生白い腕の拘束は解けない。

赤黒い牙が、噛みつく。
濁った血を啜り、悦楽の極みを噛みしめる。
自身のその姿をツーが幻視したその瞬間、彼女の頭が爆ぜた。

(*゚:::.・:∵「――ゴボッ」

側頭部を殴りつけられたように揺れるツーの頭。くぐもり、濁った苦鳴。
弾けるように飛び出し、赤と黄の弧を宙に描く脳漿。
強化外骨格の背中を掴む左腕から、力が抜ける。

ぐしゃり。

吐き気を催すような湿った音と共に、ツーの上半身はアスファルトにずり落ちた。

279 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:47:43 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「……やれやれだ。吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハント)を請け負ったつもりは無かったんだがな」

ペイルライダーとツー。二人から二十メートル程離れたアスファルトの上。
片膝をついて、面白くも無さそうに吐き捨てるニダー。
彼の右手に握られたベレッタM76の銃口が、白煙を吐きだしていた。

<ヽ●∀●>「こんな事になるんなら、銀の弾丸を持ってくるんだったぜ」

額から流れる血を左の袖で拭いながら、ニダーは両の足で立ち上がる。
足元に一個だけ転がった赤銅色の薬莢は、炸裂弾のものだった。

<ヽ8w8>「――」

頭を砕かれ、ひくひくと痙攣するツーの上半身から視線を上げて、ペイルライダーは香主を見やる。
悪魔のような黒いヘッドピースの中で、四つのカメラアイが無機質な黄金色に光った。

<ヽ●∀●>「……しかも吸血鬼が乱入したと思ったら、お次は黙示録の騎士様のご登場と来たものだ。
何だ?ワタナベは映画製作にまで手を伸ばしてやがったのか?」

松の防砂林の間を、強風が駆け抜ける。
ごう、というひと際大きな音と共に、松の林が気狂いのように一斉に頭を振った。

280 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:49:13 ID:DGEbOzk.0
<ヽ8w8>「……」

<ヽ●∀●>「今すぐにでも問いただしてやりたい所だが、肝心の秘書官さんはどういうわけか姿が見えねえ。“カスタマーセンター”に掛けても一向に通じる気配がねえ。
        これがニホンの“さらりまん”のやり方だっていうんなら、天晴れだぜ」

冗談めかした言葉をしかし淡々と口にするニダー。
彼の言葉通り、沿岸道路のアスファルトの上には、ペイルライダーとニダー、ミンチ寸前のツー以外に人影は無い。

<ヽ●∀●>「……だが、それについては今は置いておくとしよう。ビジネスも重要だが、ウリにはそれよりも気になる事がある」

そこで言葉を切ると、ニダーは丸サングラスをベレッタの銃口で直し、俯けていた顔を上げた。

<ヽ●∀●>「黒狼のギコ――。そこで伸びている化け物娘は、確かにお前さんの事をそう呼んだ。
        これは一体どういうことだ?あいつは確かに殺した筈だ。他ならねえ、ウリ自身が」

静かな怒気を含むニダーの声音は、その実はその下に困惑と恐怖を押し隠している。

<ヽ8w8>「……」

あの冬の日。ニーソク全体を巻き込む戦争の最後。
陣龍も、オオカミも、互いに血まみれになりながら迎えたあの日の朝焼け。
ケジメは、あの時にはっきりとつけた。

それじゃあ、今目の前に居るこの悪夢の中から抜け出てきた様な強化外骨格は何だ?
亡霊だとでも言うのか?

281 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:50:33 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「二秒以内に答えろ。お前さんは何だ?どんなわけがあってウリの前に出てきやがった?ウリはあと何回、お前さんを殺せばいい?」

つがいのベレッタM76を構えて、ニダーは押し殺せぬ殺意を歯と歯の間から吐き出す。

<ヽ8w8>「……」

答える代わりに、ペイルライダーは振動式ブレードの血糊を振り払うと、構える事も無くニダーに向かって静かに歩き出す。

<;ヽ●∀●>「……」

<ヽ8w8>「……」

二丁拳銃を構えて立つニダー。
日本刀をぶら下げたままゆっくりと歩むペイルライダー。
叩きつける豪雨の中、じりじりと、しかし確実に両者の距離が縮まる。
丸サングラス越しに、或いは四つのアイカメラ越しに、その視線が交錯する。
一歩、また一歩。
上がる前の幕の後ろに控えた、演奏前の楽団員達の間に伝わるような緊張感の中。
遂に、二人は互いの拳が届く距離にまで肉薄した。

<ヽ●∀●>「……教えろ。これは、悪夢か?」

目と鼻の先に迫った髑髏のような顔に向かって、ニダーは問いかける。

282 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:56:07 ID:DGEbOzk.0
「……亡霊」

ぽつり、と。

<ヽ8w8>「……亡霊ダ。俺ハ。今ノ、俺ハ」

その時初めて、ペイルライダーが口を開いた。
人工声帯から発せられた仮初の機械音声は、砂利をかみ砕くような濁った音となって、ニダーの耳朶を打った。

<ヽ●∀●>「……」

どういう意味だ。
問おうとするニダーの脇を、ペイルライダーは通り過ぎ、血だまりに転がったモンスターマシンの下まで歩くと、それを片手で起こして跨った。

漆黒の強化外骨格がアクセルペダルを蹴り飛ばし、スロットルを回すと、巨獣は再びあの低く唸るような咆哮を上げ始める。
血の津波の大質量に呑まれても尚、ベヒーモスの屈強な装甲は、そこここが歪んだだけで、走行に関して支障はなさそうだった。

<ヽ8w8>「……俺カラも聞かセてクレ。悪夢かラ覚メるニは、ドウシたラいイ?」

巨大な車体をその場で180度ターンさせて背を向け、ペイルライダーが問う。

<ヽ●∀●>「……」

ニダーがそれに咄嗟に答えられないでいる間にも、ベヒーモスはひと際大きな唸り声を上げて走り出す。
雨粒を切り裂き、遠ざかっていくエグゾースト音を聴きながら、ニダーは途方に暮れたように立ち尽くしていた。

283 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:56:51 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「――どうしたらいい?それは、こっちが聴きたいくらいだ」

構える先を失った二丁拳銃を、ニダーは力なく下ろす。

終わった筈の悪夢。
解かれた筈の呪い。
やっと脱出した筈の迷路。
楽になったつもりでいた。少なくとも、今日この日までは。

<ヽ●∀●>「碌でもねえ人生だぜ…全くよ……」

雷鳴の中で、ニダーはゆっくりと丸サングラスを外す。

<ヽ`∀†>「本当に、救いようのない人生だな…おい……」

かつての古傷が、雨に晒されて疼く感触が、たまらなく気持ち悪かった。

284 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:58:06 ID:DGEbOzk.0

※ ※ ※ ※

――機銃の掃射音。
クローン・アーミー達の上げる断末魔の叫び。
独楽のように回転して、後続車両を巻き込む装甲バン。
爆発が爆発を呼び、次々と咲き誇る紅蓮の華。

にび色の空、重金属酸性雨を孕んだ雲。
浮遊式看板のくすんだ電子文字の羅列。光を反射しない、黒塗りのモノリスが如きビルの大森林。
VIPの街の空を走る環状ハイウェイ。

天駆ける一尾の鋼鉄の鯱が齎した爆発を背にして、白塗りのリムジンはぐんぐんとスピードを上げる。
コヨーテの群れを背にした孤独なインパラが如く逃げるその背に食らいつこうと、今しも爆炎の中から飛び出してくる一つの影があった。

('、`*;川「うわ!まだ追ってくる!」

後部座席の窓から後ろを見ていたペニサスが、悲痛な叫びを上げる。
黒煙の中から鼻面を出したのは、ボンネットに真っ赤な鉤十字の紋章が描かれた、巨大な装甲トレーラーだった。

285 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 22:59:28 ID:DGEbOzk.0
「ニトロブースト、着火用意!」

「ドライ、ツヴァイ、アイン…着火!」

クロームメタルの巨大な車体の後部、ジャンボ・ジェットのエンジンの様な機関ノズルから、緑色の炎が勢いよく噴き出す。
ニトロ火薬の爆発により、20トンはあろう車体は、束の間バイソンのスプリントのようにして急加速した。

('、`*;川「何これ!?速い!速い!速い!追いつかれちゃうってえ!」

从'ー'从「だから大丈夫だってば」

('、`*;川「だって!だって!あれ、象よりもおっきいじゃないですか!潰されちゃいますよ!」

从'ー'从「だから、その前に追いつかれないから大丈夫ってこと」

ワタナベの言葉を証明せんとばかりに、上空の三十四式オルカが機銃の掃射もそのままに、機首を鉤十字のトレーラーへと向ける。
シャチのような胴部の両脇から突き出すヒレの下に備わった、対地ミサイルが白煙を吐きだして、トレーラーへと放たれた。

('、`*;川「ミサ、ミサ、ミサイルゥ!?」

宙を疾駆する四本の対地ミサイル。
流麗な弧を描く、コバンザメが如き火薬の塊がコンテナの屋根に着弾。
クロームメタル製の巨象めいた装甲トレーラーは、一瞬にして黒と紅蓮の爆炎に包まれた。

286 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:00:40 ID:DGEbOzk.0
('、;*川「死ぬ!死ぬ!だから死ぬってえ!」

10メートルにも満たない背後での爆風に煽られて、リムジンの車体が激しく揺れる。
窓ガラスに額をぶつけたペニサスは、涙目でワタナベを振り返った。
女社長は、ソファに腰掛けたまま、枝毛を探していた。

壮絶な爆炎の中で、よろめくようにして装甲トレーラーの巨大な車体が右に傾ぐ。
巨獣が力尽きるように横倒しになった車体のエンジンに更に引火。
再び上がった爆発の衝撃が、環状ハイウェイをどよもした。

後続の装甲バンの群れが、一斉にブレーキを踏む。
中央分離帯を砕いて横たわったトレーラーの車体が、ダムのようにして環状ハイウェイの流れをせき止める。
隣の車線を走っていた一般車両が、次々とクラッシュを起こし、その度に大小の爆発が巻き起こった。

誘爆に次ぐ誘爆により、物騒な花火会場と化した環状ハイウェイの上空。
装甲トレーラーの爆発と同時に、黒煙を裂いて飛び出した影が、光化学スモッグの空に金色の弧を描く。

「全く…何がクローン・アーミーですか…所詮は劣等種、全く持って使い物にならない…これでは烏合の衆ではありませんか……」

爆発の衝撃を推進力にした金色の影は、放物線を描いて飛翔。
環状ハイウェイを独走するワタナベ達のリムジンのルーフの上に片膝をついて着地した。

287 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:01:43 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「何!?何!?今度は何!?」

着地の衝撃に揺れる車内で取り乱すペニサス。

从'ー'从「……あらら」

枝毛探しを止めて、天井を仰ぐワタナベ。

「矢張り、真に信ずべきは血の優秀性……」

ルーフの上で、ゆっくりと立ち上がる金色の影。

∫ノイ゚⊿゚)ン「なればこそ、誇り高きアーリア人種の一人として、わたくしが示して見せましょう!
      真に世界の覇者となるのが誰なのか!ニホンという国が如何に欺瞞と頽廃に満ちた都かを!」

時速180キロで流れ行く風の中で上げられたその顔は、未だ年端もいかぬ10代後半の少女のそれであった。

∫ノイ゚⊿゚)ン「ゲルマン民族こそがこの世でただ一つ、頂点に立つ事を許された高潔なる存在であると!
       チルドレン・プロジェクトの完成形である!わたくしが!ノインが!直々に!証明してみせますわ!」

高らかに宣言して、自らをノインと名乗った少女は右の手を、指先をピンと伸ばした形で前に突き出す。
黄金に輝く金髪は緩く巻かれたポニーテールに、陶磁器の様に白い肌の中で強い意志を秘めた目はコバルトブルー。
かつてのナチスのSS将校制服めいた黒灰色の衣装は、動きがとり易いように丈が短く作られ、伸ばした彼女の右腕には、鉤十字――ハーケンクロイツを象った赤い腕章が巻かれていた。

288 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:02:52 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「へ?は?アーリア人種?ゲルマン民族?え?何です?何なんです!?」

从'ー'从「あはは!何だか面白い子が出てきたね〜!」

卓上サイズのホログラフとして映し出される、車載カメラの映像を前に、リムジン内の二人はそれぞれの反応を示す。
そんな足元の二人の様子など知らないノインは、ルーフの上に仁王立ちになると、
頭上をホバリングで並走飛行してくる三十四式オルカを挑戦的に睨みつけた。

∫ノイ゚ー゚)ン「ふふんっ!貴方様には散々痛い目にあわされましたが、直接ルーフの上に乗ってしまえば、もう手出しも出来ないんじゃなくって?
        そこで大人しく書き割りでも演じていなさいな!ほーっほっほっほ!」

その言葉に答えを返す様に、対地攻撃ヘリのタラップが開き、腹ばいになった狙撃手が再びその姿を現す。
雷鳴のような銃声と共に対物スナイパーライフルの銃身が跳ね上がり、ノインの頬に赤い筋が走った。

∫ノイ゚⊿゚)ン「――」

ぴたり、とノインの高笑いが止まる。
一拍遅れて、その白磁の頬を、血の滴が伝った。

∫ノイ゚⊿゚)ン「……そうですの。貴方、書き割りでは不服と仰いますのね?」

ノインの青い瞳が細められる。
狙撃手が次弾を装填する。

289 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:04:38 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ゚⊿゚)ン「――いいでしょう。ならば、このわたくしが監督として、劣等種の貴方に相応しい配役を用意しますわ」

左手の白手袋を、ノインがゆっくりと外す。
スコープを覗いて、狙撃手が再照準を合わせる。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛清!」

ノインの左手が鞭のようにしなる。
空気を裂いて、ブイ字の白い影が飛ぶ。
狙撃手のリング状のヘッドギアが縦に割れ、頭ががっくりと倒れる。
露わになった狙撃手の額から、細い血の筋が垂れていた。

∫ノイ゚ー゚)ン「貴方には、“主役の強さを引き立てる為に犠牲になる三下の敵役”が相応しい事でしょう」

事切れた狙撃手の手から、アンチマテリアル・スナイパーライフルが滑り落ちる。
その様に背を向け、ノインはポニーテールを涼しげにかき上げた。

('、`*;川「え?え?今、あの人何をしたんです?」

从'ー'从「……あらら。これは、ちょっと不味いかな?」

車載カメラの映像は、敷居で隔てられた運転席の翁の視覚野の隅にもモニタリングされてある。
有線直結によってリムジンと一つになった老熟ドライバーは、この新たな敵の登場に、
その皺の寄った目を僅かに見開くと、直ぐ様ハンドルを握る手に力を込めた。

290 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:05:31 ID:DGEbOzk.0
激しい蛇行運転に、リムジンのタイヤが悲鳴を上げる。
ルーフの上のノインはしかし、肩幅に足を開いただけで容易にバランスを取って見せた。

∫ノイ゚ー゚)ン「生憎、この程度の揺れは乗馬で慣れておりますの。高貴なる者の嗜みですわ」

髑髏の印章をつけた将校帽の下で、ノインは優雅な笑みを浮かべる。

∫ノイ゚ー゚)ン「――さて、仔馬との戯れも愉快なものですが、私にも任務がございますの」

上半身を柳のように僅かに揺らしながら、彼女は右の手の白手袋を脱ぐと、勲章のぶら下がった将校服の懐に丁寧に畳んでしまう。
露わになった右の手の甲には、赤い「9」と、その上にかぶさるように黒い鉤十字を象った刺青が彫られている。
彼女は右の手を高く振りかぶった。

∫ノイ゚⊿゚)ン「我らが偉大なる総統閣下を御保護した後、逆賊共にはしかるべき制裁を」

肩よりも上にあげられた右手の表面が、まるで第二の心臓を宿しているかのように脈打つ。

('、`*;川「え?え?え?え!?」

从'ー'从「……むむっ」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「全ては理想郷の為!栄えある第三帝国実現の為!劣等種よ、その礎となる名誉を抱き潰えるが良い!」

('、;*川「え!?え!?え!?ええええ!?」

一気呵成。
高らかな宣言と共に、ノインが右の腕を振り下ろす。
蛇行走行するリムジンが電光看板の下にさしかかったのは、奇しくも全く同じタイミングであった。

291 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:10:43 ID:DGEbOzk.0
看板。
交通規制情報や渋滞情報、その日の路面状態などをローカルネットワークで伝える、電光看板。
その上に、腕を組んで立つ一人の影あり。

「理想郷ですか。私のデータベースで検索をかけた所、それは“架空の都市”に分類されるものであるとの事でした」

平坦で抑揚のない、機械的な物言い。
感情の一欠けらも見せない言葉と共に、看板上の影が飛び立つ。
膝を抱えた姿勢で回転を決めたその影は、今しも看板の下を駆け抜けていこうとするリムジンの上に危うげなく着地、膝立ちのままにその顔を上げた。

(゚、゚トソン「一時間と五分三十四秒一七。まだまだ改良の余地がありますね」

生後一年の赤ん坊程もある、背中のジェット・パックを揺らしながら、新たな闖入者は立ち上がる。
バレッタで纏められた栗色の髪。瞬きの回数が極端に少ない菫色の瞳。
ワタナベの専任秘書官にして鋼鉄の処女たるトソンのスーツは、慌ただしい空の旅の為に、所々が激しく乱れていた。

从'ー'从「やっと来たー。もう、遅いぞぉー」

('、;*川「へっ?今度は何?ロケット人間?何なの?一体何なの?」

292 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:11:32 ID:DGEbOzk.0
未だに状況についていけないペニサス。
わざとらしい膨れ面を作るワタナベ。

(゚、゚トソン『遅れてしまい申し訳ありません。予測されていた交戦タイミングとずれてしまい、離脱タイミングを失しておりました』

从'ー'从『まあ、本命さんのご到着はまだまだ先だろうけどさぁ……』

(゚、゚トソン『懸念されていたエンジントラブルはありませんでしたが、出力に関して未だ課題が残りますね。
     元々、長距離航行が目的で無いとはいえ、強襲作戦に投入するにしても時期尚早かと』

从'ー'从『試作機だからしょうがないかっ。そこら辺はまあ、開発主任さんに任せるとして――』

(゚、゚トソン『――心得ております』

語尾を濁す主との通信を一旦切りあげ、トソンは目の前で腕を振りかぶったままのノインを真っ直ぐに見据える。
コバルトブルーの双眸が、突如現れたトソンを前に、嘲笑の形に細められた。

∫ノイ゚ー゚)ン「――なんですの?私の優秀性を証明するには、未だやられ役が不足だとでも仰いますの?」

(゚、゚トソン「貴方を排除させていただきます」

絶対的な自信を孕んだノインの嘲弄を、トソンの淡々とした言葉が受け流す。
幼さを残したノインの目元が、ぴくりと引きつった。

293 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:12:24 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「……そう。そうですの。貴方、中々面白い事を仰いますのね。排除?このわたくしを?“シスターズ”最強のわたくしを?
      我がブラウナウバイオニクスが誇る研究機関、“アーネンエルベ”最高傑作のわたくしを?言うに事かいて、排除すると――」

振り上げた拳を顔の前に下ろし、ノインは強く握る。
血管が浮き出る程に強く握られた拳の間から、無色透明の液体が零れる。
どうやらそれが、彼女の血のようだった。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「見上げた自信でございますわね。排除!ふんっ!その言葉は、わたくし以前の失敗作や、貴方達のような劣等種にこそふさわし――」

わなわなと拳を震わせて語るノイン。
その蜂蜜色の前髪が一筋絶たれ、風に流される。

(゚、゚トソン「恐縮ですが、口を動かす前にするべき事があるかと。……恐縮ですが」

一瞬にして肉迫したトソンが、手刀を振り抜いた姿勢で、ノインを見上げる。
本能的なレベルで上体を仰け反らせたノインの頬が、更に引きつった。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「このっ――!」

追撃の左手刀。
電撃的な速度のそれを、ノインは右膝蹴りで受け流し、ルーフを蹴って距離を取る。
ダックスフンドのように胴の長いリムジンの車上、五歩程の間合いで二者はにらみ合う形になった。

294 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:13:22 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「劣等種風情がこのわたくしを捕まえて説教を垂れるなど言語道断――。
        ならば、その小生意気な口を二度と利けぬよう、見せて差し上げますわ。
        わたくしの、選ばれし者の、優良種たる力というものを!」

右の掌を鉤の形に開くノイン。
赤の9と鉤十字の刺青の表面の血管が、線虫のように蠕動する。
口上の途中で既に駆け出していたトソンが、ノインの懐に飛び込んだ。

(゚、゚トソン「――」

迷いなく、鳩尾に向かって突き出される右の手刀。
空気中の微細な分子すらも切り裂こうかという速度のそれは、しかしノインの将校服めいた衣装をすら傷つけることが出来なかった。

∫ノイ゚⊿゚)ン「軽い。あまりにも、軽すぎますわ」

ノインの鳩尾の数センチ手前で静止したトソンの右手刀。
トソンの手首を掴み止めた、ノインの右手は、異形だった。

――恐らくは、爬虫類のそれ、と形容するのが最も相応しい。
将校服の袖を引き裂いて露出した右腕は、平均的な成人男性のものよりも、
二回りも三回りも太く、表面は赤銀色の鱗でびっしりと覆われている。
万力の如き絶対的な力でトソンの手刀を掴んだ指先には、猛獣めいた鉤爪が揃っており、肘からはくすんだ白の骨格が飛び出していた。

295 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:14:10 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ゚ー゚)ン「“ドラッヘン・ツィノーヴァ”。優越種たるわたくしにこそ相応しい、まさに至高の力にございましょう?」

獰猛な笑みを浮かべるノインの右の目元には、まばらに赤銀色の鱗が生え出している。
掴まれたトソンの右手首が、みしりという音を立てた。
戦車の前面装甲よりも堅い特殊カーボネイド装甲が、ノインの異常な握力によって悲鳴を上げているのだった。

(゚、゚トソン「……」

コンバット・データ・リンクによって即座に導き出された回答により、トソンはすぐさま左の手刀を繰り出す。
予備動作を既に認識していたノインは、手首を握る力を更に強めると、片腕だけで鋼鉄の処女の身体を持ち上げた。

∫ノイ゚ー゚)ン「さて、小生意気な劣等種には、少しばかり調教が必要ですわね?」

(゚、゚トソン「――むっ」

酷薄な笑みを瞳に浮かべるノイン。
相手の予想外の膂力に、僅かに菫色の双眸を見開くトソン。
視線の交錯はコンマ一秒。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「矯正!」

ノインは大ぶりな動作で身を捩り、トソンの身体を背面無げの形でルーフに叩きつける。
大型単車程もある鋼鉄の処女のボディは、まるでモグラ叩きのハンマーででもあるかのようにして顔面から衝突。
金属のひしゃげる鈍い音と共に、リムジンのルーフがへこんだ。

296 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:15:37 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「ひゃっ!?」

衝撃と共に、車内の天井が女の顔の形にへこむ。
心配そうに天井を見上げていたペニサスが悲鳴を上げた。

( 、 トソン「ぐ――む――」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「ほーらまだまだ行きますわよぉ――」

ルーフに叩きつけられた衝撃で僅かにバウンドするトソンのボディ。
その反動を利用し、ノインは再び身体をねじると、反対方向に向かってトソンのボディを振り下ろす。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「更生!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛清!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「矯正!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

297 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:16:21 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「更生!」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「矯正!」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛清!」

腕の一振り毎に啖呵を上げて、トソンの身体を玩具のようにして振り回すノイン。
正面、背面、正面、背面、と繰り返し何度も打ち付けられるうち、トソンの顔面の人工表皮が削げ、特殊カーボネイドの鈍いガンメタルカラーが露出し始める。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛!清!ッ!」

何十度目かのバウンドの後、ノインはひと際大きな掛け声と共に異形の右腕に力を込めると、流れ行くハイウェイのアスファルト目掛け、トソンのボディを思いきり投げ飛ばす。
人外の膂力によって、砲弾のように吹き飛ぶトソン。

('、`*;川「イヤアア!」

車載カメラの映像に、両手で顔を覆うペニサス。

(゚、メトソン「ヨ――ロ――」

激突まで、コンマ一秒と少し。
相次ぐ衝撃のせいで歪みの走るトソンの視覚野。
コンバット・データ・リンクが焼き切れる程の速度で打開策を検索。
未だに有線結線したままの背中のジェット・パックが、最大出力で燃焼ガスを噴き出した。
アスファルトに踵を擦りつけながら、トソンの身体がぎりぎりの所で浮上する。
ふらふらと頼りない動作で、空中で姿勢を制御する彼女のスーツスカートは、大きく焼け焦げていた。

298 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:17:45 ID:DGEbOzk.0
('、`*川「と、飛んだー!ヤッター!助かったー!」

起死回生の復帰を成し遂げたトソンに、車内のペニサスはガッツポーズを取る。
その隣ではワタナベが、涼しげな顔で三杯目のグラスホッパーを継ぎ足していた。

(゚、メトソン「……シイ状況――とは言えませんね」

待機状態を飛ばしての無茶なジェット噴射に、試作型ジェット・パックは今にも熱暴走を起こしかねない。
くわえて、先に受けた怒涛の打撃が与えた影響は決して少なくない。
トソンの視覚野の端に映し出される、ダメージ率を表す緑色のバーは、30%強を示して点滅を繰り返している。
車上への早急な復帰が最優先だった。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「ええい、小癪な!」

標的を仕留め損なった事を認め、ノインは左の手を宙空のトソンへ向ける。
心臓の鼓動のように、その手が脈打ち、右腕同様異形のそれへと変異していく。
異常に発達した右腕と比べ、左腕は一回り程細く、赤銀色の鱗に覆われた掌の中央には、ピンボール程の大きさの孔が空いていた。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「再粛清ッ!」

左腕の掌の孔が、まるで芋虫の怪物の口めいて開き、そこから白い液体の弾丸が放たれる。
超高速でトソンへと飛来するそれは、空気抵抗でブイの字に歪んでおり、
どうやら先に狙撃手の頭を一撃のもとに貫いたものと同様のもののようだった。

299 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:18:42 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「え?え?てっぽう!?」

(゚、メトソン「成程。体液射出ですか」

从'ー'从「ロマネスクさんも面白い“玩具”を作るねぇ」

飛来する液体弾を、トソンの視覚野は赤い三角形のターゲットマーカーで捉える。
有線直結により、思考速度と完全に同機したジェット・パックが、燃料タンクの左右に突き出した姿勢制御ノズルからジェットを噴射。
トソンの頭の脇の空気を貫いた液体弾は、対向車線の電光看板のLEDディスプレイに直撃し、
丁度下を通過しようとしたバイクの上に、液晶ガラスの雨を降らせた。

「うえうお!?アー!」

泡を食ったノーヘルメットのライダーの、インプラントだらけのスキンヘッドが環状ハイウェイに沈む。
スピンの後、クラッシュ。爆発炎上したバイクの残骸を避けようと、他の車両も次々とハンドリングを失敗してクラッシュ。
対向車線は一瞬にして混沌の坩堝に叩き落とされた。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「粛清ッ!粛清ッ!粛清ッ!粛清ッ!絶対粛清ッ!」

初弾を回避されたノインは、宙を漂うトソンへ向けて立て続けに液体弾を連射する。
ぶしゅっ、ぶしゅっ、ぶしゅっ。
体内で圧縮した空気により体液を吐きだす冒涜的な音。
思考速度とのタイムラグを駆逐したトソンのジェット・パックは、体液の機関銃掃射を、
必要最低限のジェット噴射により、絶妙な角度で回避していく。

300 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:19:27 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「落ちろ!落ちろ!落ちなさい、この劣等種ッ!」

それでも際限なく飛来する液体弾の全てを回避し切るのは鋼鉄の処女にも不可能だ。
何発かが掠り、スーツの肩や裾を引き裂いたと思えば、もう何発かが強かに直撃し、人工表皮を削り抉る。
一発一発は、特殊カーボネイドの頑健な装甲に傷をつける程のものではないが、
このまま宙に釘づけにされるとジェット・パックの熱暴走の可能性が肥大するばかりで危険だ。

从'ー'从『そろそろ決めちゃって』

(゚、メトソン「ええ、そうさせて頂きます」

メイン・ブースターの出力を強めると、今までリムジンと並走するように飛行していたトソンは空中で身を捻る。
液体弾の弾幕の中を錐揉み回転で避けながらの急上昇。
車上のノインは、その動きに咄嗟に反応出来ない。

∫ノイ;゚⊿゚)ン「なっ――!?」

一瞬の隙。
無理矢理に腕を上げ、直ぐ様照準をつけようとするノイン。
だが遅い。

急上昇の頂点。
熱暴走の危険も顧みず、ジェット・パックをオーバードライブさせるトソン。
慣性の法則を無視した急降下。
車上のノイン。
その頭上、斜め上から奇襲を駆けるトソン。
肉迫する二者。視線が、交錯する。

301 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:20:14 ID:DGEbOzk.0
(゚、メトソン「恐縮ですが、これで決めさせて頂きます。…恐縮ですが」

∫ノイ;゚⊿゚)ン「ッ――!?」

両手をクロスさせ、手刀を薙ぎ払いの型に構えるトソン。
咄嗟の防御に、異形の右腕で頭を庇うノイン。

雷撃の速度で振り抜かれる、トソンの両の手刀。
それが、防御するノインの右腕、赤銀色の鱗に触れる。
触れた、瞬間だ。

ごうっ。

先に撃ち抜かれた、交通看板の液晶モニタの残骸が、突如として炎を上げた。

(゚、メトソン「!?」

後方で起こったその不可解な現象を認識していたのは、恐らくその場ではノインだけだろう。
最も、彼女が認識していた、というのでは語弊がある。
彼女は初めから分っていた。
街頭看板が燃え上がる事も。

――無論、トソンの身体が、このタイミングで燃え上がる事も。

('、`*;川「な、なんでいきなり燃え――!?」

ノインに向かって空中から急降下をかけたトソン。
そのスーツに包まれた上半身が、轟々と逆巻く緑色の炎に包まれ炎上している。
不可解なのは、その炎が、彼女のスーツの内側から燃え広がった事だった。

302 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:21:06 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ゚ー゚)ン「ふふ、惜しかったですわね。もうちょっとで、わたくしに手が届く所でしたのに」

突然の発火に威力を失ったトソンの手刀を右手で受け流し、ノインがほくそ笑む。
緑色の炎に照らされて輝く赤銀色の鱗の一部が剥がれ、花弁のように宙を舞った後、自ら炎を上げて灰となった。

∫ノイ゚ー゚)ン「“ドラッヘン・ツィノーヴァ”。古来より、支配者達はその力の象徴として、竜を用いてきましたわ。
実に…実にわたくしにこそ相応しい力だと思いませんこと?」

急降下の勢いを殺し切れないトソンを、半身を捻って後ろに流し、ノインは陶酔したような笑みを浮かべる。

('、`*;川「そん…な――」

从'ー'从「……」

( 、 トソン「――」

緑色の火だるまとなったトソンは、ルーフの上に顔面から激突。
縦長の車体を短く横に横断した後、車道へと滑り落ちていく。
ジェット・パックのジェット噴射が尾を引く。
燃え盛るエメラルドの炎が、燃料タンクに引火する。
トソンのボディが車道に叩きつけられる。
同時、黒と橙の塊が膨張するようにして、環状ハイウェイに爆発の華が咲いた。

('、;*川「そんなあああ!?」

303 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:22:02 ID:DGEbOzk.0
車上の戦いの一部始終を眺めていたペニサスが、堪え切れずにクリスタル製のロ―テーブルを叩いた。
卓上ホログラフの中では、爆発に背を向けたまま、酷薄な笑みを浮かべるノインの堂々たる立ち姿が映っている。
もしも、幻想小説に謳われる「竜」なるものが実在したとして、今ノインが浮かべている表情は、
まさに「人間など、取るに足らない矮小な羽虫に過ぎない」と考える超越的な竜のような笑みだ。
人は、ここまで残酷な表情が出来るのかと思うと、ペニサスは自分が今いるここが何なのか、分らなくなりそうだった。

('、;*川「やだ…もう、嫌だ…嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……」

当然のように銃弾が飛び交い、まるで賑やかしか何かのようにして無関係な人々が巻き込まれて死んでいく。
現実は何処だ。こんなもの、自分が知っている現実では無い。
どうして自分がこんな目に合わなければいけないのだ。一体自分が何をしたというのだ。

確かに自分はあまり利口な方では無い。むしろ愚鈍な方だ。
だからと言って、たったそれだけの理由でこんな目に合わなければいけないなんて、理不尽にも度が過ぎる。

もう嫌だ。
誰か助けて。私をここから救い出して。誰か。誰か。誰か――。

304 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:22:55 ID:DGEbOzk.0
その時だ。ペニサスの肩を、隣から強く、優しく抱きこむ腕があった。

('、;*川「――へ?」

从'ー'从「大丈夫。もう、大丈夫だから――」

ワタナベであった。
相次ぐ乱暴な走行により、ペニサスの心同様、滅茶苦茶になった車内の中で、ワタナベはそれでも決して柔和な笑みを崩すことなく、ペニサスの顔を覗きこんでいた。

从'ー'从「大丈夫。もう、大丈夫」

優しく、慈しみ深く、繰り返し、「大丈夫」という言葉を口にするワタナベ。
一体どうして、この人はこんなに泰然としていられるのだろう。
この人もまた、私が知らない異世界の住人なのだろうか。

从'ー'从「……大丈夫、もう、大丈夫だから」

何度も、何度も、辛抱強く、ワタナベは繰り返す。
悲痛な形に歪んだペニサスの口が、一瞬震えた後、ワタナベの後を追うように音を発した。

('、`*;川「大丈夫…もう、大丈夫……」

从'ー'从「大丈夫…もう、大丈夫」

言っているうちに、心臓の動悸が収まってくる。
一寸前まで滝のように流れていた涙も、直ぐに止まった。
大丈夫、大丈夫。
口にしながら、ペニサスは卓上ホログラフの方へと視線を映す。
そこには、異形と化した右腕から、無色透明の血をだらだらと流す、ノインの姿があった。

305 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:23:43 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ;゚⊿゚)ン「な、なんですの、これは――」

ざっくりと切り裂かれ、骨まで達した傷口を凝視するノイン。
まさか、先の手刀の攻撃が利いていたというのだろうか。
そんな筈は無い。あの時受けた手刀は、このような大きな傷を作れる程の重さを持っていなかった。

∫ノイ;゚⊿゚)ン「じゃあ、なんでわたくしが血を流すなどと――」

言いかけてはっとすると、ノインは竜の本能で振り返る。

(゚、メトソン「僭越ながら私見を挟ませていただければ、先に手の内を明かした方から負ける。――恐縮ですが」

宙を駆け、真っ直ぐにノインへと突進してくるトソンの、焼け焦げ皮下装甲の露出した顔が、そこにあった。

从'ー'从「大丈夫…大丈夫……」

∫ノイ;゚⊿゚)ン「なっ――!?」

(゚、メトソン「貴方のバイオ技術を基点とした戦術からは実に有益なデータが採取できました。
      きっと、今後の渡辺グループの発展に大いに役立ってくれることでしょう」

('、`*川「大丈夫…大丈夫…!」

306 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:24:52 ID:DGEbOzk.0
一体、どのような手段でトソンは復帰を果たしたのか。

結論から言えば、それは鋼鉄の処女の驚異的なまでの状況判断能力と耐久性の賜物であった。

急降下突撃を受け流され、ハイウェイに激突する寸前、トソンは火達磨になりながらも、
背負っていたジェット・パックを即座に脱ぐと、それを足場として蹴った。

ここで、既にトソンの身体から燃え移った炎が燃料タンクに引火し爆発。
常人やそこらの義体程度では、この爆発で粉々の肉片になっていただろうが、アイアンメイデンの特殊カーボネイド装甲は伊達では無い。

多大なダメージを被りつつも、足の裏に爆発の衝撃を受け、それをそのまま推進力としたトソンは見事車上に復帰。
今まさに、ノインへ目掛けて宙空から再び手刀で薙ぎ払いに掛る。

(゚、メトソン「我が社としては、もう少々戦いを引き延ばし、今後の為により多岐に渡った戦闘データを採取したい所ですが、中々そうも言っておられません」

では、ノインの右腕を切り裂いた攻撃の正体は何なのか。
それもまた、この瞬間にも明らかになろうとしている。

(゚、メトソン「私の稼働限界も近いですし…何より、これ以上私の部下を泣かせるわけにもいきませんから」

両腕を交差させ、腰だめに構えるトソン。
視覚野の隅では、未だに脳核通信がワタナベと繋がっている事を示す通話マーク。

('、`*川「大丈夫!大丈夫!大丈夫!」

ホログラフを前に、祈る様に繰り返すペニサス。

307 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:25:53 ID:DGEbOzk.0
(゚、メトソン「ここで――決着です」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「――!」

既にひしゃげかけた両腕を、まるで居合のようにして振り抜くトソン。
真正面からそこに右腕を叩きこむノイン。
手刀と拳がぶつかる。ぶつかる……否、ぶつからない。

∫ノイ;゚⊿゚)ン「そんなっ――!?」

下から掬いあげるように、エックスの字を描くトソンの手刀。
その指先が一瞬まばゆく光り、光子の刃を刹那の間だけ形成する。
両手十指の先に仕込まれた光学剣による、それはまさに二刀居合であった。
瞬間的に伸びたリーチにより、ノインの右腕はトソンの両腕とぶつかる前に、光子の刃によって両断、透明な血飛沫と共に宙を舞う。

(゚、メトソン「もう一度繰り返させてもらえれば、決闘では先に手の内を明かした方から負ける。――恐縮ですが」

異形の腕を切り払いながら、トソンはがら空きになったノインの胴を蹴って突進の勢いを殺すとルーフに着地。
爆発の衝撃の何分の一かを受けたノインの上半身が傾ぎ、バランスを失った彼女はそのまま車道へ向けて背中から落ちていく。

∫ノイ ⊿ )ン「――先に手の内を明かした方から負ける。ええ、まったくもってその通りだとわたくしも思いますわ」

――かに思われた。

∫ノイ ⊿ )ン「まったくもって、その通り過ぎて、わたくし、本当に可笑しくて可笑しくてしょうがないんですの」

しかし、そうはならなかった。

308 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:27:36 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「劣等種風情が私を前に勝ち誇るなど!言語!道断!」

傾いだノインの後ろ腰から、突如として鱗に覆われた爬虫類の尾が生え出し、
着地から立ち上がろうとするトソンの胴に両腕をも縛る形で巻きつく。
あまりにも咄嗟の事に対処が遅れたトソンは、自らも道連れにされまいとその場で踏ん張るしかない。
狙い通り、車道への落下を免れたノインは、トソンの首を絞める力をいっそう強めながら、宙を舞っていた自身の右腕をキャッチした。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「わたくしの名前はノイン!
      ブラウナウバイオニクスが誇る研究機関“アーネンエルベ”が最高傑作にして、チルドレン・プロジェクトの完成形!
      シスターズ最強の、竜の名を頂きし優良種!愚劣なる劣等種の上に立つべき、新の支配者である!」

叫び、ノインは切り落とされた右の手の爪を、身動きの取れないトソンの顔面に突き刺す。
先にこの腕が切り飛ばされた時、トソンの身体はそこから飛び散った透明な血飛沫を浴びていた。
竜の右腕がトソンの顔面に突き刺さった瞬間、その透明な血液が、僅かな摩擦熱で鱗から生じた火花により引火、爆発的に燃え上がった。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「燃えろ!燃えろ!燃え尽きろ!愚劣なる劣等種が!これが竜の炎だ!これが、支配者の力だ!」

( 、 トソン「グガ――ギッ――」

両目に竜の爪を突き立てられ、頭から緑色の毒々しい炎を上げるトソン。
アイカメラを砕かれた彼女のHUD(ヘッドアップディスプレイ)は既にブラックアウトしており、
彼女の電脳核が見せる、システムエラーの緑文字の羅列が、真っ暗な視界を引っ切り無しに下から上へと流れ過ぎて行く。
幸か不幸か、竜の爪は彼女の電脳核にまで達していなかったが、ナパーム炸薬が如き超高熱に苛まれては、
AIそのものが先にダウンしかねない。

竜の尾の拘束を解こうにも、その膂力はまるで50トン級の工業万力のそれであり、
鋼鉄の処女の人工筋肉とパワーステアリングをもってしても、びくともしない。

状況は、絵に描いた様な絶望だった。

309 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:29:18 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚ー゚)ン「ふふっ…ふふふっ……このまま貴方が動かなくなるのにどれくらい掛るかしら。
        どの道長くないでしょうね。そしたら、この下の女王気取りの勘違い劣等種を排除して、いよいよ総統閣下を御保護出来る……。
        そう、私の手で、お父様に千年王国への切符を渡す事が出来る……」

燃え盛るトソンの顔面から、自身の右腕を引き抜くと、ノインは自身の肩口の切断面にそれをあてがう。
筋繊維と白骨を晒すその表面が、一瞬燃え上がった後、彼女の右腕はまるで溶接のようにして再び繋がった。

∫ノイ#゚ー゚)ン「お父様はお喜びになりますわ…きっと…ええ、わたくしこそがお父様の娘に相応しいと……きっと認めて下さる。
        そうしたらもう、誰にもわたくしをノインなどとは呼ばせない……。
        わたくしがツンよ…わたくしこそが、唯一のツンデリア・オンデンブルグになるのよ……」

尾の締めつける力はそのままに、恍惚とした表情で呟くノインのそれは、最早うわ言めいてすら聞こえる。
虚空を見つめるコバルトブルーの瞳と、引きつり痙攣した様な笑みを浮かべる口元は、一種の病的なものを孕んでいた。

∫ノイ#゚ー゚)ン「ふふ…うふふ…わたくしは違う…アインやツヴァイのような失敗作とは違う……。
        わたくしは完成系。完璧。完全。至高。唯一無二。わたくしこそが、オリジナル」

滔々とした口調で、陶酔したように呟き続けるノインは、だからこそ気付く事が出来なかった。

310 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:30:06 ID:DGEbOzk.0
('、;*川「大丈夫…大丈夫…大丈夫……」

ホログラフを前に、零れ落ちそうになる涙を必死でこらえながら、無心に祈り続けるペニサス。

从'ー'从「大丈夫…大丈夫…大丈夫…」

その隣で、声を合わせて呟くワタナベも、今ではペニサスの声を追いかけるようにしてその言葉を口に出している。

故に、その事実に気付けたのは、運転席でハンドルを握る、老齢のワタナベ専属ドライバーだけであった。
有線直結でリムジンと一体になっていた老熟ドライバーのニューロンは、前方にそれを見つけた瞬間、全力でブレーキを踏みこんだ。

∫ノイ゚⊿゚)ン「えっ――」

時速180キロをとうに過ぎ去っていた車体が、タイヤの上げる断末魔の中で半ばつんのめるようにして急停車する。
アスファルトを摩擦熱で焦がす程の慣性に、ルーフの上の二者が宙へと放り投げられる。

カタパルト射出のようにして弧を描いた二者は、アスファルトに滑走するように衝突。
衝撃によってノインの拘束が解け、満身創痍のトソンが壊れたマリオネットのように車道に転がった。

311 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:31:42 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「つう――……!?」

リムジンの後部座席。ワタナベと共にソファから投げ出されたペニサスが、額を摩りながら起き上る。
一体どうして急停止など?
脳みそを撹拌されたかのような感覚のままに、ロ―テーブルの上のホログラフを目にしたペニサスは、
そこに映し出された映像に目を見開いた。

「ハロハロロ〜ン♪おっひさしぶりね〜シャッチョさーん!元気してたぁ〜ん?」

急停止したリムジンの前方、100メートル。
煙を上げる乗用車やバイク、小型トレーラーを幾つも積み重ねて作った車両のバリケードの前。
場違いな口調でだみ声を上げるその人物は、控えめに言っても「異形」であった。

【+  】ゞ゚)「あー、でも、あれかしらあん。もしかして、アタシの顔見るのは今日が初めてかしらん?だったらアレよね、改めましてのご挨拶よねえ?」

ボア付きの長いレザーコートを羽織った佇まいは長身痩躯。例えるならば、枯れた柳。
濡れ羽色の長髪は、頭皮にべったりと張り付くオールバックにされ、毛先は縮れている。
起伏の少ないのっぺりとした顔は白塗りに、目元は黒いチークで隈取りのようなアイシャドウが塗られていた。
レザーコートの胸元は肌蹴られ、そこから覗く病的な白さの胸板には、
十字架をグロテスクなまでに戯画化したようなタトゥーが刻まれている。
はなにつくような戯画的な口調と身ぶり手ぶりで言葉を紡ぐその人物は、一見した所ではその性別は判然としない。
しかし、そのような病的な見た目より、なお一層この人物の異常性を引き立てるのは、
その背後にそそり立つように置かれた、2メーター弱はあろうかという黒塗りの棺桶の存在だった。

312 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:32:37 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ;゚⊿゚)ン「なん――ですの――?」

('、`*;川「一体、この人は……」

从'ー'从「……」

黄昏が近づき始めたVIPの空のその真下。
環状ハイウェイの道路を完全封鎖して佇むその異形の人物に、その場の全員が言葉を失う中。
爪先の跳ねあがったブーツの踵を鳴らして、件の人物は一歩前に進み出ると。

【+  】ゞ゚)「はじめましての子は初めまして。そうじゃない子も初めまして。アタシ、オサム。――こう見えても、CIAやってンのヨ♪」

冗談めかした仕草で、頭を下げた。

('、`*;川「シーアイエー?今、あの人、シーアイエーって――」

縋る様にして、ペニサスは隣のワタナベを仰ぐ。

从;'ー'从「遂に、本命のご登場ってわけ……」

ここに至るまで、決して余裕を崩す事の無かったCEOの額には、うっすらと汗が滲んでいた。

【+  】ゞ゚)「――ってヤーダー!アタシッたらコレ言っちゃいけないコトじゃなーいのよーう!ンモー!やんなっちゃうワッ!」

蜘蛛のそれめいて細長い指先を鉤の形に曲げて、自分の額を小突くオサム。
冗談めかしてウィンクの形を作るその目は、黄色く濁り、瞳孔が縦に裂けていた。

313 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:33:29 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「え?え?シーアイエーって、アレですよね、アメリカの特殊部隊の――」

そのCIAがどうしてここに?
ペニサスの言葉は当たらずとも遠からずで正確性を欠いていたが、彼女がCIAを正しく認識していたとしても、
その胸に浮かべた疑問が変わる事は無かっただろう。

('、`*;川「え?なんで?え?社長――」

从'ー'从「逃げて」

足元のアタッシュケースを掴み、ワタナベがドアを蹴り開ける。

('、`*;川「え?え?でも特殊部隊なら私達をたすけ――」

从#'ー'从「良いから逃げて!」

叫ぶと同時、ペニサスの首根っこを掴んで、ワタナベはリムジンから飛び出す。
もんどりうってアスファルトの上に二人が転がり出した一拍後、主不在のリムジンが金切声をあげて急発進した。

「――散らば、諸共」

その日、ワタナベ専属の寡黙な老熟ドライバーは、初めて言葉を口にした。

【+  】ゞ゚)「あらん?あららん?何?何?スタントショー?アッハ!オンモシロソー!」

有線結線により、リムジンと一体化した翁の皺のよった口元は、血が出る程にきつく轢き結ばれている。
幼少期よりワタナベに仕える事二十と九年。
現CEOの、揺り籠から会長就任までを運転席から見守ってきた老人は、この日、この瞬間、遂にその死に場所を見つけた。

314 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:34:27 ID:DGEbOzk.0
アクセルを踏み込む。ただ、その一点に全ニューロンを集中させた翁の脳裏に、走馬灯は流れない。
ただ、一点へと目掛けて車を走らせる。
未だ社会を知らぬ生意気な若造だったころ、初めてマシンと一つになった瞬間の感触が、蘇ってくる。
一点だ。
マシンを転がすのは、その先へ向かう為だ。他の事は、何も考えない。
ただ、ただ、そこを目指して駆け抜けるだけだ。

「――南無三!」

【+  】ゞ゚)「アアアンビリイバボオオオオ!?」

轟音。
白塗りのボンネットがひしゃげる。
塗料が剥げて、火花と共に宙を舞う。
運転席が潰れる。潰れる車体に巻き込まれ、足が折れる。
駆動制御CPUが砕け、そのフィードバッグが翁のニューロンを滅茶苦茶にかき回す。
苦鳴を噛み殺して、翁はハンドルを握る両の手に満身の力を込める。
運転席が縦に裂ける。
ガラスが砕け散り、数本のニューロジャックが千切れてスパークする。
エンジンに引火する。翁は白目を剥く。既にその意識は無い。
爆炎。壮絶な翁の表情を、黒い炎が包み込む。爆発。
ドアが、ボンネットが、マフラーが、ハンドルが、或いは後部座席の酒瓶が、
ソファーが、吹き飛ばされ、熱波に煽られ、ハイウェイの上空に舞う。
翁の遺体もまた、リムジン同様にバラバラになって、黒煙の中に飲み込まれた。

315 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:35:33 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「あ…あ…あぁ……」

路上にへたり込んだまま、ペニサスはその壮絶な爆発を呆けたように見つめていた。

从'ー'从「……」

舞いあがる黒煙と黒炎を見上げるワタナベの表情は、揺らがなかった。
その双眸だけが、真っ直ぐに、燃え盛る炎の中を見つめ続けていた。
彼女は、五秒間、微動だにしなかった。アタッシュケースを握る指先だけが、人知れず、小刻みに震えていた。

「ンンンンンナメイズィィィングッ!ヒッジョーにアメイジィングッ!」

朦々と逆巻く黒煙の向うから、巻き舌の喧しい声が響いてきた時、だからワタナベは、
一瞬、ホンの一瞬、この世の全てに絶望したかのような表情を浮かべた。

「クレイズィィィィイ!イッジョーなまでにクレイズィィィイイ!バンザイ=チャージ!?カミカゼ=アタック!?
 これだからジャポネって怖いワァン!キンタマひゅんってなっちゃうじゃなあい!」

爆発の中心。
黒煙を上げるリムジンの残骸の中央に、直立不動で立っているのは、あの黒塗りの棺桶だ。

【+  】ゞ゚)「アラヤダ!アタシったら!そう言えばキンタマ無かったんだっけ!」

その棺桶の蓋が鈍い音と共に開く。
中から姿を現したオサムには、かすり傷一つ付いてなかった。

316 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:36:21 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「そん…な……」

わなわなと震えながら、オサムを見つめるペニサス。

【+  】ゞ゚)「ンン?……――アッ!そうそうコレよ!コレ!ンモー、スッゴいでしょう!?個人用核シェルターってヤツ!?
        スッゴく堅いの。ホント。これならアタシはアイアンメイデンいらないわあ。ホント、ホント」

ペニサスの視線に気づいて、自らが出てきた棺桶をノックして見せるオサム。

【+  】ゞ゚)「でもコレ、スッゴク重たいの。アタシか弱いから、一人じゃ持てなくてね〜。
        今日もここまで来るのに同僚の子に運んできてもらったんだけどね〜」

まるで世間話でもするかのように、おどけた調子で言って見せると、オサムは背後に積まれた車両のバリケードを振り返る。

【+  】ゞ゚)「そうそう!コレ見て!コレ!コレもその子がやってくれたのヨ〜!ホンッとあたしってか弱いじゃなあい?荒事向きじゃないのよネェ…だから助かるって言うかぁ――」

そこでオサムは首だけで振り返ると、蛇のようにぬらりとした視線をワタナベ達に向け、

【+  】ゞ゚)「――だから、シャッチョさんも、“ソレ”、穏便に渡してくれると助かるカナ〜って思ってるんだけどぉ〜どうかしらァ?」

直後、今まで事態を見守るだけで手出しが出来なかった三十四式オルカが、思い出したようにミニガンをアイドリングさせる。
ワタナベと敵対対称の距離が十分に離れたと踏んで、攻撃を再開しようと言うのか。
――否、その束ねられた八つの砲身は、ワタナベとペニサスの二人をポイントしていた。

317 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:37:21 ID:DGEbOzk.0
【+  】ゞ゚)「さもなくば蜂の巣になって貰いまっすん〜♪ってアラ!これってひょっとして、デ・ジャ・ブ?」

ふざけた調子でオサムが言うのと、ミニガンが火を吹くのは同時だった。

【+  】ゞ゚)「まったくオタクのネットセキュリティってテンでザルだわあん!
        運転中までハッキングされてりゃザマアねえ――ってアラヤダ!これまたデ・ジャ・ブ♪」

从;'ー'从「「――!?」」('、`*;川

オレンジ色の火線。
二人が気付いたのは、二発目の弾丸が放たれた時。
かわせない。ペニサスは目を閉じる。ワタナベは目を見開く。
炎が揺らぐ。空気が千切れる。
二人の身体を、横殴りの衝撃が吹き飛ばした。

('、`*;川「あっ――!」

錐揉みしながら宙を舞うその瞬間、ペニサスは見た。
その場の誰よりも早く、三十四式オルカがハッキングされた事に気付き、咄嗟にスプリントを切ったその影を。
自分達を突き飛ばし、今しも鉛玉の集中豪雨の洗礼を浴びる、その影を。

318 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:38:20 ID:DGEbOzk.0
从#;Д'从「トソォォォオン!」

ワタナベが叫んだ。か細い喉を引き裂かんばかり、声の限りに。
猛り狂うミニガンの掃射音の中で、その顔は戦火に呑まれる我が子を前にした母の様であった。

(#、メトソン「メ――ギッ――」

嬲る、嬲る、嬲る。
銃弾が、鋼鉄の処女のボディを、トソンの身体を、その下半身を、叩く、叩く、叩く。
宙を低く飛んだトソンは、顔面から着地。
衝撃で頭を斜め後ろに折らせながらも、そのまま前転。
よろめきつつも低い姿勢で立ち上がり、自らが突き飛ばした二人の下へと疾駆する。
追随するように、その足元を弾丸の集中豪雨が、抉る、抉る、抉る。
トソンの左足首が、掠った銃弾により千切れ飛んだ。
俄かにバランスを崩したトソン。
左足首が路面につく前に、右脚だけで前方に跳躍。
アスファルトの上を這うようにして逃げていたワタナベとペニサスの後ろ襟をそれぞれ掴む。

(#、メトソン「逃走経路、確保。ゴ安心ヲ。オ二人の安全ハ、ワタシガ保障しマす」

('、`*;川「へ?え?何を――」

戸惑うペニサス。それに、特殊カーボネイドが露出した顔面を、笑みの形に引き攣らせるトソン。

(#ーメトソン「――大丈夫、モウ大丈夫」

直後、限界まで稼働率を引き上げたトソンの人工筋肉により、ワタナベの握るアタッシュケースが明後日の方向へと蹴り飛ばされた。

319 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:46:01 ID:glgdbP.gO
◆夜遅いので寝なさい◆

320 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/26(日) 23:53:50 ID:glgdbP.gO
◆もしくはプレデターズとか観なさい◆

321 名も無きAAのようです :2012/08/26(日) 23:55:59 ID:FqTceFv20
おい

322 名も無きAAのようです :2012/08/27(月) 00:04:13 ID:bjC0GMvg0
オサムはシュールじゃなかったのか

おやすみ

323 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 00:16:15 ID:Dhys3oHcO
(親愛なる読者のみなさんへ:二階からの突然の物音に驚いた我々が、気になってやってきてみると、そこには白目を向いてキーボードに突っ伏している投稿担当者の姿があった。

一体何があったのか我々が聞いても彼女はうわごとめいてゾンビアーミーとしか繰り返さないがゾンビアーミーは架空のクリーチャーアーなので実在しない。

UNIX机の前の窓が空いておりそこに黄緑色の液体が付着していたが、恐らくはメロンソーダだと思われるので大丈夫だ。

現在我々は事実関係を追求中だが、明日の昼には問題なく続きが投稿されると思うのでしんぱいないです。

繰り返すがゾンビアーミーは架空のクリーチャーアーなので実在しないし投稿担当者もメロンソーダをこぼしただけだと今証言したので外に出て探したりしないでください)

324 名も無きAAのようです :2012/08/27(月) 00:40:13 ID:N3vA7ay20

重要キャラだと思ったツーがあっさり退場しやがった

325 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:40:01 ID:legAO0qM0
◆再開ドスエ◆

326 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:42:58 ID:legAO0qM0
【+  】ゞ゚)「――オヤ、マア」

放物線を描いて宙を舞うアタッシュケースの銀色。
くるくると回転するその四角が、放物線の頂点に達した時。

「AAAARAHHAAAA!」

黄金と赤銀の混じり合った影が、放物線と垂直に交差するようにして飛びあがり、それを両腕で抱え込むようにして捕まえた。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「渡さない!誰にも渡さない!御父様の娘はわたくしだけ!ツンデリア・オンデンブルグになるのはわたくしだけなんだからああああ!」

アタッシュケースをかき抱くようにして叫ぶその影はノイン。
血走った瞳。ちりちりと煙を上げる頬の鱗。
宙を舞うその背中に、三十四式オルカの砲身が向けられた。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「邪魔だッ!邪魔だッ!邪魔だッ!邪魔だッ!邪魔だアアアア!」

猛り狂う赤き竜の如く吠えると、ノインは左腕を肩越しに空のシャチへ向けて、液体弾を速射する。
仄白い血のカッターが、アイドリング中のミニガンを斜めに切り落とし、シャチの胴部にも食らいつく。
ミニガンの暴発により、可燃性の体液に引火。激しい緑の炎に包まれた三十四式オルカは爆発炎上。
その残骸は、遥か500メートル下で、日常を謳歌するニューソク区民の頭上に降り注いだ。

327 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:44:00 ID:legAO0qM0
【+  】ゞ゚)「アラ。アララ。アラアラマアマア、アラマアマア」

一部始終を、直立する棺桶の上に腰を下ろして眺めていたオサムが、呆けたように目を丸くする。
一瞬後、彼は棺桶の上に立ちあがると、その節くれだった両手でぱんぱんと乾いた拍手を送った。

【+  】ゞ゚)「ファァンタスティィイイック。スンゴイじゃなァいアータ。
        まァるでうちの子みたいな芸当しちゃうのネン。スタンディング・オベーションよ、コレ。イヤ、マジでぇ」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「フゥー…フゥー…フゥー…――」

着地したノインが、息を荒げながらもその枯柳のようなシルエットを睨みつける。
一瞬前まで血走っていたその瞳は、幾らかの理性を取り戻しているようだった。

【+  】ゞ゚)「もしかしてアレ?アータもウェイク・アップ・ザ・デッド、やった口?違う?」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「――忌まわしい劣等種に、語る口などもちませんわ」

【+  】ゞ゚)「ア、違ったァー?それじゃアレ?遺伝子工学ってヤツ?ブラウナウ・バイオニクスってんだから、やっぱバイオテックッ!なわけ?」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「シャッ――!」

答える代わりに、ノインは液体弾を放つ。
僅かに首を傾げたオサムの頬から、黄緑色の血が滲んだ。

328 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:47:46 ID:legAO0qM0
【+  】ゞ゚)「ンマッ、何だって良いワんッ。アタシが言いたいのは、その鱗、とってもチャーミングって事ヨ」

不意に、オサムの周囲の空間が歪む。

【+  】ゞ゚)「食ぁべちゃいたいくらいにっ――ねぇ!」

突如、緑色の閃光が、何も無い空間から放たれた。
ノインは咄嗟にアスファルトを転がる。
その後ろを追いかけるように、立て続けに五本の光条が貫いた。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「ふんっ!貴方の攻撃の正体は分っていてよ!
       あの失敗作も、たまには良い仕事をしますわね!」

前転の勢いで立ち上がったノインが、懐から手榴弾のようなものを取り出し、オサムへ向かって投げつける。
卵型のそれが空中で縦に開き、リンゴの芯のような機構が露出、チェレンコフ光めいた青白い燐光を瞬間的に放つ。
直後、先までに何も無かった空間に、光学迷彩をジャミングによって剥がされた、緑の光線の正体が現れた。

それは、宙を舞う、無数の髑髏だ。
ガンメタルカラーにいびつに輝く鋼の髑髏は、小型反重力装置でも搭載しているのか、封鎖されたハイウェイの上空に、まるで鬼火のようにしてゆらゆらと漂っている。
半開きになったそれら髑髏の口からは、マイクロ・レーザーの照射機構が覗いており、
どうやら主であるオサムと無線ネットワーク制御で繋がっているようだ。

小型反重力装置と光学迷彩を同時に搭載する資金力もさることながら、恐るべきはこの無数の髑髏を無線ネットワーク制御だけで、
個別に操作するオサムの技術である。
全部で三十個は下らないであろう、この髑髏を制御しつつ、彼は三十四式オルカへのハッキングまでやってのけたのだ。

並みのハッカーが真似をしようとしても、こうはいかない。
並列処理の情報負荷に耐えかね、殆んどの者はニューロンが千切れるか、
良くても精神を病み、ジャックアウト後もその後遺症に苛まれることだろう。

329 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:48:44 ID:legAO0qM0
【+  】ゞ゚)「アラ、ばれちゃってるのォ〜?ンモー!しょーがないわねぇん。種が割れちゃったら手品師の面目丸潰れじゃなぁい!商売あがったりよ!」

軽口を叩きながら、棺桶の上で身を捩る姿からは到底想像も付きにくい事だが、
このオサムという人物も、投薬強化や遺伝子調整などの人体改造を受けている事だろう。
脳髄をかき回し、冒涜的な梃入れをしない限り、とてもでは無いが、このオービットの群れは、人間が単独で制御出来るような代物ではない。

ハイウェイの上でにらみ合う二人は、否、二匹は、既に人間という枠組みから大きく逸脱した、化け物だった。

【+  】ゞ゚)「マッ、でもバレた所でやる事と言ったら変わらないんだけどォ〜」

すとん、とオサムが棺桶の上から飛び降りる。
周囲の髑髏型オービットが、ランダムな軌道でその周囲を飛びまわる。

∫ノイ゚⊿゚)ン「そうですわね。わたくしも、貴方が何をしようと、やる事は変わりませんわ」

リムジンの灰を擦りながら、ノインが両足を大きく開く。

(#、メトソン「ギ…グギ…ガ……」

('、`*;川「ダメです!今立ち上がっちゃ――」

化け物達の遥か後方では、半壊したボディを軋ませ立ち上がろうとするトソンに、ペニサスがしがみつく。

330 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:49:38 ID:legAO0qM0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「シッ――!」

短く息を吐きだすと同時、ノインが姿勢を低くして走り出した。
アタッシュケースを抱き抱えたまま、彼女が目指す先は、環状ハイウェイの左、落下防止のコンクリート壁。
その向うには、ニューソクの街並みを遥か眼下に見下ろす、高空が広がるばかりだ。

【+  】ゞ゚)「ちょっとぉ、つれないじゃなぁい。もうちょっとアタシと遊びましょうよぉ」

宙を舞う髑髏達の口から、エメラルドグリーンの光線が吐き出される。
縦、横、斜め。360度、ありとあらゆる確度からノインへ降り注ぐ緑光。
足元を抉り、アスファルトの破砕片を巻き上げるこれを、ノインは身を捩り、時に跳び、紙一重でかわす、かわす、かわす。

∫ノイ#゚⊿゚)ン「アアアアアア!」

それでもオサムの攻撃は熾烈だ。
一つのレーザーをかわせば、その先にもう一本のレーザーが。
それをかわすべくして跳躍すれば、着地点へ更に倍のレーザーが突き刺さる。
先に、自らがトソンへと放った液体弾の弾幕を優に凌駕する、怒涛のレーザー弾幕を、彼女が全てかわし切る事は出来ない。

∫ノイ;゚⊿゚)ン「グッ――!」

肩口を、二の腕を、脇腹を、太ももを、緑光が掠る度、肌を焼く痛みに姿勢がぶれる。
セントラル・バンクの大金庫に設置される、侵入者撃退用のレーザートラップめいて、高密度な光の格子は、態勢を崩したノインを容赦なく攻め立てる。
ハイウェイの壁まで残り四メートル。後は一息に跳躍するだけという所で、遂にノインの両足を緑の光子が貫いた。

331 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:50:32 ID:legAO0qM0
∫ノイ;゚⊿゚)ン「クアッ――!?」

もんどりうって、前のめりに転がるノイン。
その腕から、アタッシュケースが転がり落ちる。
瞬間、彼女の周囲を衛星めいて張り付き光線を浴びせていた髑髏の一つが、ふわりと飛び込み、アタッシュケースの取っ手をその顎で咥えた。

【+  】ゞ゚)「ゲッチュー!ミーチュー!ナイストゥーミーチュー!」

20メートル程離れた位置で、棺桶にもたれかかったオサムの下へと、アタッシュケースを咥えた髑髏が即座に舞い戻る。
枯れ枝のような指を伸ばしてアタッシュケースを受け取ったオサムは、強化ポリカーボンの表面を愛おしげに撫でると、ノインに向かって片目を閉じて見せた。

【+  】ゞ゚)「惜しかったわぁん。ホント、惜しかったワヨ、アナタ。でもま、決着は決着ってことで。恨みっこなーしよ?」

∫ノイ#゚⊿゚)ン「こ…のっ――!」

倒れた姿勢のままで振り返り、ノインが左腕を上げる。
緑光が閃き、その左腕が千切れ飛んだ。

【+  】ゞ゚)「アナタみたいな子、アタシすっごく好みヨ。好みだから、ホントはこんな事するのイヤなんだけど……」

アヒルのように唇を尖らせるオサム。
直後、髑髏の群れが一斉に緑光を吐きだし、ノインの胴体を無数の光子の矢が貫いた。

332 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:51:37 ID:legAO0qM0
∫ノイ;゚⊿゚)ン「カッ――ハッ――!?」

目を見開くノイン。
その口から、無色透明に近い、白濁した血液がごぼりと溢れる。

【+  】ゞ゚)「オヤスミ、ロリータ。せめて、違う形で逢いたかったワ……」

両膝を着き、前のめりにアスファルトへと倒れ込むノイン。
レースのハンカチを噛んで芝居めかした仕草でそれを見やると、オサムは背後の棺桶の蓋に手をかけた。

【+  】ゞ゚)「サテ、頂くものも頂いたし、アタシはこれでオサラバさせて貰うわン。
        “悲シイ別レ”を経験して、オサムは精神的に強くなるのでした――なんつってん♪」

(#、メトソン「――ッ」

まるでそれに待ったをかけるように、今まで片膝立ちの姿勢で事態を静観していたトソンが立ち上がった。

('、`*;川「だ、だから今立ったらダメで――」

トソンの下半身に縋りつくペニサス。
振り返らず、トソンはそれを振り払って言った。

333 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:52:47 ID:legAO0qM0
(#、メトソン「ココで彼を逃すワけニは行キませン。コレは我が社ノ――ひいてはニホンの運命ヲ決すル一大事ナノでス」

濁り、歪んだ電子音声で、呻くようにトソンは言う。
人工表皮の殆んどが剥げ、露出した特殊カーボネイドにもまた穴が空き、内骨格と人工筋肉がはみ出したその姿は、既に半壊の域に達している。
左足首がもげ、首の関節は最早人工筋肉の束だけで繋がっている状態だが、それでも尚彼女は立ちあがり、オサムの方へとその千切れ断面を晒す足を踏み出す。

(#、メトソン「既に救援ハ呼んデあリマす。後ノコトハ私に任せ、お二人ハお逃ゲ下サ――」

その前に、立ち塞がる影があった。

从'ー'从「……」

(#、メトソン「アヤカ様……?」

燃え盛るリムジンの骸を背に、両腕を広げ、唇をきつく轢き結んで立ちはだかる自らの主を、半壊したカメラアイで、トソンは不思議そうに見つめる。

(#、メトソン「申シ訳ありまセンが、そコを退イテ頂けマスカ。
     情けナイこトに、ジャイロが損傷しテいるヨウデ、歩行スルダケデも……」

从'ー'从「――もういい」

(#、メトソン「……ハイ?」

334 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:53:47 ID:legAO0qM0
从'ー'从「もう、良いから。ヴォルフの尻尾は、もういいから」

(#、メトソン「シカシ――」

尚も抗弁しようとするトソン。
その配線が飛び出した顔を真っ直ぐに睨みつけ、ワタナベが言った。

从'ー'从「これは命令よ、トソン。“ヴォルフの尻尾”奪還は一時保留。今は、私達二人の護衛を最優先しなさい」

(#、メトソン「でスかラ、既ニ救援の方はお呼ビ――」

从 ー 从「――トソン!」

その時ワタナベが発した声は、普段の彼女からは予想もつかないような、張り裂けそうな程に震えた大声だった。

从 ー 从「貴方は、何?」

(#、メトソン「……私は――」

从 ー 从「貴方は、アイアンメイデン。特A級護衛専任ガイノイド。そして、私専属の秘書。ならば、貴方が最優先しなければいけないのは、何?」

(#、メトソン「……」

335 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:55:24 ID:legAO0qM0
肯定の意を、沈黙で返すトソン。
その横を通り過ぎるワタナベ。

从 ー 从「それで良いの。今は、それで……」

('、`*;川「……」

自分の方へ向かって歩いてくるワタナベの瞳に、涙の粒が溜まっているのを、
遠くで響くヘリのローター音を聴きながら、ペニサスは確かに見てとった。

【+  】ゞ゚)「おうっとう。こうしちゃいられないわネン。さっさとずらからないとっ♪」

先ほどのトソンの言葉通り、光化学スモッグを切り裂いて遠空から近づいてくる、三十四式オルカの三個編隊。
オサムは髑髏型オービットを自分の頭上に、円形に集めると、足元のアスファルト目掛け、時計回りに緑光を吐かせる。
レーザー光線が穿った孔と孔が罅で繋がり、一つの巨大な円を形成。

【+  】ゞ゚)「それじゃ、オタッシャデー!」

直後、ぼこりという鈍い音と共に、オサムの足元が崩れ、棺桶ごと彼の身体は落下していった。

∫ノイ# ⊿ )ン「グ…ガッ――逃が――すかッ――!」

最早虫の息かに見えたノインが突如として立ちあがり、後を追うべくして駆けだす。
白濁した血に塗れた彼女の上半身から炎が立ち上り、その背中からずるりという音と共に、赤銀色の竜の翼が飛び出した。

336 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:56:53 ID:legAO0qM0
∫ノイ#゚⊿゚)ン「AAAAARRRAAHHAAAAATH!」

自らの身を緑色の炎で包んだノインは、オサムが空けた穴へ向かって飛びこむ。
その様子を遠目に見つめながら、ペニサスは呆けたようにその場にへたりこんでいた。

('、`*川「……」

遠耳に聞こえる、サイレン、ヘリのローター音、人々の叫び声。
傍らに立ち尽くすワタナベの、険しい表情。
ボロボロになりながら、それでもワタナベの傍らに寄り添って立つトソン。

今日は、あまりにも多くの事が起こり過ぎた。ペニサスは、ぼんやりと考える。
昨日まで、何も知らない市居の新社会人でしかなかった自分には想像がつかない様な、あまりにも多くの事が起こった。
どうして自分達は襲われたのか。ワタナベとは。ヴォルフの尻尾とは。ブラウナウバイオニクス。竜のようなバイオテクノロジーの怪物。そして、最後のあの蛇のような男。

恐らくは、自分みたいな愚鈍な女が考えた所で、どうしようもない事なのだろう。
今はただ、少なくとも今日はもう銃声を聞かなくて良い事だけが救いだ。

(#、メトソン「――到着、シマシタネ」

首関節を軋ませながら、トソンが上空でホバリングする三十四式オルカを見上げる。
ヘリのシートに座ったら、死んだように眠ろう。
ハイウェイの上に降りてこようとするヘリのタラップが開くのを観ながら、ペニサスはそう思った。

337 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 14:58:37 ID:legAO0qM0

 

 

Next track coming soon...

 

 

.

338 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/27(月) 15:15:00 ID:legAO0qM0
■親愛なる読者のみなさんへ■オカメ■熱気■月曜は休日■

今回の投稿は以上になります。途中で投稿担当者が倒れるというアクシデントが見られましたが、現在はヒヤヤッコを支給した事もあり元気にゲームをしています。ごしんぱいをおかけしました。

次回の投稿については分らないし二週間後とかにしたいと思っているけどどうなるかは不安定です。

恐らくは次の投稿で今回のエピソードは終わるだろう。それは同時にサマーソニックなんちゃらの締切日をも意味するね?

現在も既に公募プロットらしきものがちらほらと散見されるが、まだまだ募集中なので、これを観ている貴方もまだなら是非とも書き込もう!それは貴方のDIYを活性化させる。つまりパンクだ。

サイバー・パンク!パンク!ブルータル・フェスティバル!


■今日なハイクだ■糸■

セミの抜け殻が スイカの皮に 落ちていた

339 名も無きAAのようです :2012/08/27(月) 15:21:52 ID:kRfHqjyc0

もうドクオにはどうしようもないとこまで話進んでんな

340 名も無きAAのようです :2012/08/27(月) 15:44:50 ID:eyKDWj560


341 名も無きAAのようです :2012/08/27(月) 15:59:51 ID:MjDGbFdI0

ドクオもう太刀打ちできるとかそんなレベルじゃねーなコレ

342 名も無きAAのようです :2012/08/30(木) 19:32:48 ID:/Hle476.0
備えage

343 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/08/31(金) 23:04:48 ID:pD9cvO7E0
■斬新なシステム!■これで分るんですって?■なんてDIYなんだろう!■門松■


親愛なる読者のみなさんへ:実は少し前から我々はツイッタアーの方で、鋼鉄の処女の更新情報をお知らせする、画期的なシステムの構築に成功していた。

即ちそれはツイッタアーのリアルタイム性を利用したボット・アカウント「从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです」に他ならない。

ツイッタアーのアカウントを持っている人は、なんとこのボットをフォローするだけで、鋼鉄の処女がその日投稿されているかどうかが分ると言う優れもの!

技術研究部が開発したこの画期的なシステムは、我々執筆チームの間でも大好評をはくしている。執筆アジトは連日スキヤキ・パーティーでにぎわっています。

もしもあなたがツイッタアーのアカウントを持っているばあい、何はなくともすぐさまフォローしよう。そうすれば、あなたの生活のレベルは間違いなく向上するし、きっと笑顔だ。ハッピーが似合う。

基本的に更新情報が無い時は作中の用語解説などをツイートウーしているので、未だ広がり続ける鋼鉄処女世界のおさらいをするのにもうってつけだろう。

あとたまに投稿担当者や手の空いたスタッフがなんかツイートウーすることもあるからそれも見逃せない。きっとそれは生活向上に役に立つ情報だ。

こんなに素晴らしいシステムが無料で楽しめる!実にパンクじゃないか!あなた方は得しかしない。こんなにハッピーでいいのだろうか?いいのである。なぜならそれはDIYでパンクだからだ。

ここまで読んだあなたはきっとフォローしたくてしょうがないね?そうだね?ツイッタアーのアカウントを持っていなくてもフォローしたくなったね?

こちらが気になるツイッタアー・アカウントである。

https://twitter.com/gozou_ropputann

なんか浮き出しそうなボタンを押せばフォロー完了だ。簡単な操作!シームレスな情報取得!ストレスフリーな生活!

時代は既にサイバーなところにきている。あなたも乗り遅れるな!

344 名も無きAAのようです :2012/09/01(土) 16:01:58 ID:uYpLlXzM0
五臓六腑たん…

345 名も無きAAのようです :2012/09/02(日) 00:36:24 ID:d4VLLt8c0
Twitterに勤しむどっくん見たいと思ったけどあの世界のネット技術だとTwitterなんて糞の欠片も残ってないだろうな

346 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:41:54 ID:n4n6KyEc0

 

              【IRON MAIDEN】

 

.

347 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:44:35 ID:n4n6KyEc0

Track-γ


――ジョルジュ・アルベルダ・ナガオカは、生来、気の短い男だった。
  _
( ゚∀゚)「んー、参りましたなあ、これは。この書類を見る限りじゃ、納期はもう三時間も前に過ぎているのですがねえ」

(;・田・)「そ、それはしかし、その――」

博徒であった頃より物腰の柔らかさで、他人がそれと気付く事は無かったが、
ジョルジュ・アルベルダ・長岡は、自分が非常に気の短い性分である事を、幼い時分より自覚していた。
  _
( ゚∀゚)「三時間、と言っても納期は納期ですからなあ。こればっかりは、きっちりと守って頂かないと。……受け売りですが、ビジネスは一分一秒を争うものですしねえ……」

(;・田・)「あと一時間、一時間もあれば直ぐに契約分はご用意出来ますので――」

故に、その短気な性分を自覚した頃より、ジョルジュは意図してその自分の性分を隠す方法を身にすべく、長らく思考錯誤して来た。
努力は実り、それはおおよそ齢にして彼が十五の時に大成した。
  _
( ゚∀゚)「いやあ、違うんですよ。分ります?さっきも言ったじゃあないですか。納期は納期。
     一時間だろうが、三時間だろうが、過ぎたものはもう手遅れなんですよ。タイムオーバー。
     分ります?ゲームじゃあないんだ。人生に待ったはなし。
最も、チェスやオセロにだって、持ち時間っていうのは決められてい、ま、す、が」

(;・田・)「だ、だから、納期の延長の御相談はメールでお送りした筈――」

348 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:45:44 ID:n4n6KyEc0
即ちそれは、余裕のある立ち居振る舞い。
掴みどころの見えない口調。そう言ったものだ。

ジョルジュはそろそろ自身の我慢に限界が近い事を自覚していた。
目の前の哀れな係長だか部長だかは、悲劇的なまでに察しが悪い。
  _
( ゚∀゚)「メール?」

(;・田・)「そ、それなのに返信を寄越さなかったのはお宅の方じゃないですか!」

夕暮れの残照が窓枠に未練がましくぶら下がるナナフシ・ワークス・ビル三十四階。
納期前後の過酷な労働に耐えかねた社員達が、デスクに突っ伏すオフィスの中央で、
ジョルジュと係長だか部長(ジョルジュの記憶が正しければチームリーダーと呼ばれていた)は一束の書類を間に挟んでにらみ合う。

契約書を見るだけで、実務に携わっていないものにも無茶だと分る、ソフトウェア発注。
この納期までにこれだけの製品をどうやって用意するつもりだったのか、
この契約を取り決めた責任者に聞いてみたいものだ、とジョルジュは思っていた。

だからこそ、今日、今、こうして、ここに赴いたのだった。
  _
( ゚∀゚)「おかしいですねえ。本当に送ったんですか?ちょっと送信履歴を見せて頂けますか?
     ――ああ、これはこれは…アドレスの打ち間違いですかね?道理で届いていない筈だ。
     うーん、こっちとしては何とも言いづらい事ですが、こればっかりは御社の不手際、という形になってしまいますねえ……」

(;・田・)「ぐっ…くっ――!」

ナナフシ・ワークスは、かつてワタナベ・グループと双璧を為すグループ規模を誇ったピンク・ファウンデーション系列のメガコーポの一つだ。
ピンク・ファウンデーションが幅を利かせていた頃は、一系列企業として巨獣の傘下に甘んじていたナナフシ・ワークスは、
ブラウナウ・バイオニクスのM&Aによってピンク・ファウンデーションの首脳部が一斉解雇されたのを良い事に、
今まで二の足を踏んでいた国内シェアの拡大に手をつけ始めた。

349 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:47:22 ID:n4n6KyEc0
世界に名だたる渡辺グループは、だからこそ、自らの腹の中で少しでも好き勝手な事をしようとするナナフシ・ワークスを見逃すことは無かった。
  _
( ゚∀゚)「さて、製品がまだ揃っていない所で、これ以上ここに居ても無駄なだけですし……。
     残念ですが、我々はそろそろお暇させていただきます。いやはや、忙しい中大変失礼しました」

(;・田・)「待って――!ちょっと待って下さい!」
  _
( ゚∀゚)「まだ、何か?」

アドレスの間違いなど、てんで出鱈目だ。はなから、そのアドレスは渡辺の物ではない。
そも、今回の無茶な発注契約そのものが、ナナフシ・ワークスの業界内での威信を傷つける為だけに用意された、言わば経済戦争の布石なのだ。
出る杭の鼻面を叩き折り、屈服させる、それは渡辺グループからナナフシ・ワークスへの牽制攻撃だ。

(;・田・)「連絡の不手際については当社の非を全面的に認めます。ですから、ですからどうか後少しだけ待って頂ければと――」
  _
( ゚∀゚)「……」

タイル張りの床に額を擦りつけて土下座するチームリーダー(それとも係長だったろうか?)を、ジョルジュは何の感慨も持たない瞳で見下ろす。
あーあ、全面的に非を認めるって言っちゃったよ、この人。
そのような事をぼんやりと考えながらも、ジョルジュはやっとこさ相手が折れた事に、内心ではほっと胸をなでおろしていた。
あと少しでもこの男がぐずる様だったら、手が出ていたかもしれない。
いや、ともすれば、それよりも早く彼女が手を出す事になったのだろうか。

350 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:48:29 ID:n4n6KyEc0
「だ〜か〜ら〜!もう待てないってさっき言ったばっかじゃ〜ん!おじちゃん、話聞いて無かったのぉ〜?」

デスマーチ明けのオフィスには似つかわしくない、妙にハイトーンな声が、衝立だけで隔てられた応接区画から響く。
チームリーダーが、はっとしたように床から顔を上げてそちらを見た。

「ジョ“オ”ジュも言ってたでしょ〜?ビジネスは一分一秒を争うって!」

微妙に舌っ足らずな幼い声の主が、衝立の奥からよちよちとした歩みで姿を現す。
身長にして、140センチに届くかと言う程の小柄な声の主は、砂糖菓子調のロリータドレスのぶかぶかな袖を勢いよく振り上げた。

ミ*゚∀゚彡「はい!時間にルーズなのは行けない事だって、フーは思います!」

(;・田・)「え?…あ?…え?…え?……は、はい?」

得意げな顔で右手を上げるその少女の姿に、チームリーダーは戸惑いを隠せぬ様子で瞬きを繰り返す。
綿菓子のようにふわふわした薄桃色の髪。蜂蜜と同色の双眸。
袖丈のあっていない、ぶかぶかのロリータドレス。マシュマロのようなやわ肌。
どう取り繕っても11、2歳にしか見えないその少女は、オフィスの中はおろか、
およそ現実に存在するという事そのものに、違和感を覚える様な存在だった。

351 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:49:45 ID:n4n6KyEc0
ミ*゚∀゚彡「はい!分りましたか?分りましたね!と、言うわけでフー達はかえ――」

元気いっぱいに喋りつづけようとする少女の口を、横合いから伸びてきたジョルジュの手が塞ぐ。
  _
( ゚∀゚)「おっと、うちの子が失礼をしました」

(;・田・)「は?…ああ、はあ…?」

ミ*゚三゚彡「もが!もががー!もがががー!」
  _
( ゚∀゚)「ほら、先ずは初めましてのご挨拶からだろう?きちんとした礼儀作法が出来て無いと、レディとは言えないよ?」

ミ*゚三゚彡「もが!もが!」
  _
( ゚∀゚)「出来るね?」

ミ*゚三゚彡「もがっ!」

口を塞がれたままに、少女は元気良く頷く。
ジョルジュはそれににっこりとほほ笑みを浮かべると、少女の口を覆う手をどけた。

ミ*゚∀゚彡ノ「はい!初めまして!フーはフーという名前です!とくえーきゅうごえいせんにんがいのいど、えーと、えとっ!
      あっ!はい!はいっ!あいあん!あいあんめいでんをやっています!ひじょーにつよいです!はい!あいさつおわりー」
  _
( ゚∀゚)「はいっ、よくできました」

352 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:50:43 ID:n4n6KyEc0
まるで我が子ででもあるかのように、ジョルジュは膝を屈めてフーの頭を撫でる。

ミ*゚∀゚彡v「きゃほうっ!」

気持ち良さそうに目を細めた後、フーは小さく飛び跳ねると、チームリーダーの方に向かってピースをして見せた。

(;・田・)v「あ、ああ…ええ…はあ…?」

現状についていけないチームリーダーは、釈然としないままにもブイサインを返した。

ミ*゚∀゚彡「褒められましたっ!」

えへんっ、とフーは胸を張る。
チームリーダーがそれにどのような反応を返したらいいのか分らないでいる間にも、
フーはくるりとジョルジュへ向き直ると、スーツの裾をくいくいと引っ張った。

ミ*゚∀゚彡「ねえ御挨拶出来たしもお帰ろっ!いいっしょ?ねえいいっしょ〜?」
  _
( ゚∀゚)「ああ、そうだね。もう用件も伝えた事だしね」

ミ*゚∀゚彡「はいそーしましょ!ごきたくしましょう!そーしましょ!あっるっこー!あっるっこー!」

(;・田・)「ああ!ままま待って!待って下さい!」

気紛れな幼児そのままに踵を返そうとするフーとジョルジュに、チームリーダーは慌てて追いすがる。

353 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:51:28 ID:n4n6KyEc0
  _
( ゚∀゚)「まだ、何か?」

(;・田・)「ででで、ですから、どうか、どうかもう少しだけ、納期を――」

そこまで言いかけたチームリーダーの言葉は、しかし最後まで紡がれる事は無かった。

「だ〜か〜ら〜言ったっしょ〜?おっじっちゃあんっ!」

(;・田・)「ひ――ひィっ――!?」

情けない悲鳴を上げる、チームリーダーの眼前。
虞風を纏って飛び出した棘つきの鉄球が、彼の鼻先数ミリの位置で、ピタリと静止していた。

ミ*゚∀゚彡「はい!じかんげんしゅ!しめきりはのびません!めっ!」

どすん。重々しい音を立てて、棘鉄球がチームリーダーの股の間に落下する。
バスケットボール程もある鉄球からは鋼の鎖が伸びており、それはフーのぶかぶかと垂れ下がったフリル付きの袖の中へと続いていた。

(;・田・)「あ、あ、あ、あ……」

放心したように口を開閉させるチームリーダー。
へたり込んだ彼の股の周囲に、生温かい水たまりが広がり、湯気を上げる。

ミ*>∀<彡「あー!おじちゃんお漏らししてるー!あははははは!大人なのに!あは!あはははははは!お漏らし!あははははは!お漏らししてやんのー!」

354 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:52:26 ID:n4n6KyEc0
  _
( ゚∀゚)「やれやれ…これはちょいとおイタが過ぎるんじゃあないかな?」

ミ*>∀<彡「お漏らし!だって――あは!――おも――あははは!――お漏らし!あはは!あははははは!大人なのに――お漏らし――あはははははははははは!」

文字通り、腹を抱えて笑い転げるフーは、笑い過ぎて過呼吸を起こした“かのように”にして、床の上で転がり、足をばたつかせている。
ジョルジュは心底困り果てたとでも言うように、眉間に指を当てて首を振った。
その懐が、俄かに振動した。
  _
( ゚∀゚)】「はい、こちらナガオカ――ええ、ええ、ナナフシ・ワークスの件で――ええ、そうです。はい。――はあ?今、ですか?」

携帯端末を耳にあてがいつつ、ジョルジュは床の上を転がるフーと、それを前に呆けたままのチームリーダー(いや、部長だったろうか?)にちらりと目を向ける。
  _
( ゚∀゚)】「まあ、確かに丁度いいと言えば丁度いいですが――はあ――いえ、めっそうもございません。
      ――分ってますって。ええ、ビジネスは一分一秒を争う、ですものね。
      ――はい、はい、了解いたしました――ええ、お任せを――はは、大丈夫ですって」

愛想笑いで通話を終えると、ジョルジュは携帯端末を懐に戻しながら、チームリーダーの目の前に屈みこむ。
未だ焦点のあっていない彼の目の前で、ぱんっと手を叩くと、ジョルジュはその肩に手を置いた。
  _
( ゚∀゚)「おめでとうございます!只今、上から連絡がありまして、何とナナフシ・ワークスさんにはこれとはまた別件で、お仕事をお頼みしたいとの事でした!」

(・田・)「――へ?」

355 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:53:12 ID:n4n6KyEc0
  _
( ゚∀゚)「この件を引き受けてくれたのならば、今回の納期オーバーについては、水に流すとの言質も承っております!やりましたね!」

(*・田・)「ほ、本当ですか!?」
  _
( ゚∀゚)「ええ、ええ。それでですね、つきましては――御社の私設セキュリティ部隊なんですが……今から一時間以内に、どれだけの量を動員出来ますかね?」

(;・田・)「――え」

ミ*>∀<彡「あはははは!おも――お漏らし――あはははははは!あははははははははは!」
  _
( ゚∀゚)「“今”から、“一時間以内”に、私設セキュリティ部隊を、“どれだけ”、動員、出来ますか?」

(;・田・)「――え?」

チームリーダーは、空いた口を塞ぐ事が出来なかった。

356 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:54:35 ID:n4n6KyEc0

  ※ ※ ※ ※


――その日最後の煙草に火をつけながら、俺は耐えがたいまでの苛立ちを堪えるのに必死だった。

<ヽ●∀●>】「……そうか。矢張り、残りの車両も全部ダミーだったか。
       ……ああ、ウリ達をだまくらかすなんぞ、太ぇ根性をしてやがる。
       そこら辺は、後できっちりお灸を据えさせてもらうとするさ」

バックミラーの中。
携帯端末で部下とやり取りをするニダーの大親分の顔に、表情は無い。
淡々とした彼の受け答えと反比例するよう、受話口からは爆発寸前のダイナマイトみたいなだみ声が、運転席にまで聞こえて来る。
コンクリート詰めだとか、硫酸のプールだとか、ぶつ切りの単語だけでもゾッとしないものばかりだった。

<ヽ●∀●>】「ああ――そうだな。この借りはきっちりとさせて貰うさ。……ああ、それとは別に野暮用が出来てな。
       ――何、大したことじゃあねえ。ちょいと、昔の知り合いと会ってな。思い出話に花が咲いちまっただけさ」

レンタカーの窓を開けて、煙草の灰を落とす。
黄昏は終わりを迎え、フロントガラスからは暗黒の沿岸道路が見えた。

<ヽ●∀●>】「――そう言うわけで、今日は遅れるから先に上がってろ。事務所の鍵はきちっと閉めておけよ。最近は物騒だからな」

あんたがそれを言うのか、と心の中で俺が毒づくのと同時、香主殿は通話を終えると携帯を懐にしまった。

357 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:55:16 ID:n4n6KyEc0
<ヽ●∀●>「――で、見つかったか?」

('A`)y-~「アンタが部下とのラブコールを始めてから何分経ったと思う?早々に見つかるわけがねえだろ。ハッカーを神様か何かと勘違いしているんじゃないのか?」

<ヽ●∀●>「違うのか?」

大陸流の冗談か何かだろうか。
当然の様な顔で聞き返してくる香主殿に、俺は胸中で溜息をつく。

('A`)y-~「進行ルートから大まかな潜伏先が予測出来ると言っても、相手はあの黒狼だ。
    幾らあの塩豚が“電子の王(笑)”を自称しているとはいえ、アンタの視覚データだけを手掛かりに調べるとなると、そう容易いものじゃあねえよ」

<ヽ●∀●>「細けえ事情なんざ、ウリの知ったこっちゃあねえ。急がせろ。ケツの穴にベレッタを突っ込むとでも言え。そうすりゃトクガワのマイゾウキンだって掘り当ててくれるだろうよ」

('A`)y-~「オーライ、ボス。アンタがそうしろって言うんならな」

今度は実際に溜息をつきつつも、本音の所では俺自身、後がつかえているのでこの仕事はさっさと終わらせたい。
バックミラー越しに顎で促すと、鋼鉄の処女は無言で携帯端末を取り出した。

从 ゚∀从「尻の穴から硫酸を注ぎ込まれつつ口から煮えたぎった重油を飲まされたく無かったらさっさと仕事を上げろ。依頼じゃない。これは命令だ」

携帯端末越しに塩豚の憤怒の声が聞こえてきたが、ハインリッヒは涼しい顔でそれを無視して通話を終える。
白磁の仏頂面には、幾分か恍惚とした表情が浮かんでいた。
俺の背筋が無意識のうちに冷たくなっていた。

358 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:56:30 ID:n4n6KyEc0
o川;*゚ー゚)o「……」

シートベルトをきっちりと締めて、助手席の上に縮こまるように座ったキュートは、三十分程前から一言も言葉を発する事は無い。
二流のクライム・ホロのような車内の空気に耐えられないのか、その顔は真っ青だ。
同情はしない。ついてくるなという俺の弁を無視したのはこいつ自身だ。

o川;*゚ー゚)o「あの、私ちょっとおトイレに――」

<ヽ●∀●>「窓からしな、お嬢ちゃん。目は瞑っててやる」

o川;*゚ー゚)o「は、はひっ――!」

アヒルの玩具みたいな声を上げて、小さくなった身体を更に小さくするキュート。
だから言ったんだ。碌な目に合わないと。

o川;*゚ー゚)o「ちょっと、どっくん!なんなのこのコワイおじさま…聞いて無いんだけど……」

('A`)「顧客情報には守秘義務があるからな」

小声で聞いてくるキュートに、俺は当然の返答を返す。
横目で見れば、その可愛らしい眉がげじげじ虫のように歪んでいるのが分った。

o川;*゚ー゚)o「まあ、そこは無理言ってついてきた私が全面的に悪いのは認めるけどさ……」

そのとーり。

o川;*゚ー゚)o「こんなことしてて良いの?明日の飛行機、間に合うの?」

359 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:57:18 ID:n4n6KyEc0
('A`)「それについては、俺も不本意だとは思ってる」

o川;*゚ー゚)o「じゃあ何で断らなかったの?」

('A`)「……」

電話があったのは二時間ほど前、キュートとハインと共に旅支度を纏めている最中の事だった。
別件の依頼で、明日の朝九時までにはハネダに到着していなければならない身としては、電話そのものを無視する腹積もりであった。
気が変わったのは、留守電に変わった瞬間、彼の声が聞こえてきた時だった。

o川;*゚ー゚)o「ねぇ、どっくん?聞いてる?私としてはお肌の事も考えたいっていうか……」

真っ直ぐに前を向いたまま、視線だけでバックミラーの中を窺う。
後部座席、鋼鉄の処女と並んで腰を埋めたニダーは、つがいのベレッタなんたらかんたら(憶えていないが相当な骨董品だったと思う)を分解し、スプリングの調子を確かめていた。
黙々と、淡々と、愛銃の手入れをする彼の表情は、サングラスに覆われていて窺えない。
だが、何を考えているのかぐらいは大体想像がつく。

俺は、二時間ほど前、予感めいたものに突き動かされ、沿岸道路に駆け付けた所にニダーが放った第一声を思い出す。

<ヽ●∀●>『決着だ。黒狼との決着をつけに行く』

一体そこで何が起こったのかまでは分らない。
裾という裾が破れ血まみれになったトレンチコートと、青あざと擦り傷だらけの顔からその時の俺が予測できたのは、既にひと悶着があった後だという事だけ。
その時俺が思っていたのは、予感なんてものは当たった所で碌でもないだけだという、どうしようもないことだった。

360 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 22:58:14 ID:n4n6KyEc0
o川;*゚ー゚)o「ねぇ、どっくんってば!ちょっと!」

('A`)「……」

あの冬の事を、クリスマスが間近に迫ったあの冬の日の事を、思い出さずにはいられない。
何より、家を出る時点で俺の頭の中にあったのは、その日の事だけだった。

皮肉なものだ、と自分でも思う。
結末が先延ばしになっただけの復讐劇。その狂言回しの役目が再び回ってきたのは、どういった偶然か?
もしも神様なんていう、クソ下らないモノが居るとして、そいつは俺に何を期待している?見届けろと?この男達の復讐を?俺に?

o川#*゚ー゚)o「ねぇ、どっくん!あんま無視してると私、怒る――」

('A`)「……だとしたら、迷惑も良い所だ」

o川;*゚ー゚)o「ひぇ!?え!?あ、あう、あの、私そういうつもりじゃ…えと、その……ごめん……」

隣であたふたするキュートの口に、板ガムを突っ込んで塞ぐ。

o川;*゚Ж゚)o「ふぐっ!?へべ!?ひょっほ!?ひょっほあひ!?ひほふはい!?」

俺は振り返らず、後部座席に声をかけた。

361 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 23:01:00 ID:n4n6KyEc0
('A`)「もう一度確認させて貰うが…黒狼の居場所が割れたらアンタをそこまで送り届ける。俺達の仕事はそこまででいいのか?」

愛銃の手入れを続けながら、香主は微かに頷く。

<ヽ●∀●>「上出来だ、坊っちゃん。これで月末の試験も安心だな」

苛立ちを堪えながら、俺は繰り返した。

('A`)「本当に、それでいいのか?」

銃をいじるニダーの手が、ぴたりと止まった。

<ヽ●∀●>「――どういう意味だ、それは」

香主の言葉が、剣呑さを帯びる。
俺の苛立ちも、大きくなった。

('A`)「言葉通りの意味だよ。黒狼の居場所を突き止めて、アンタを送り届けて、本当にそれだけでいいのかって事さ」

バックミラー越しに、俺達はにらみ合う。
鋼鉄の処女は、俺達のやり取りにさして興味を示す事も無く、窓外を流れる道路灯の光の帯をぼんやりと眺めている。

<ヽ●∀●>「……手出しは無用だ。余計な事はするな」

ややあって、ニダーは歯と歯の間から絞り出すようにして呟いた。
俺の中で、行き場の無い苛立ちが余計に募った。

362 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 23:01:43 ID:n4n6KyEc0
('A`)「……」

言うべきかどうか、迷った。
それでも俺は口を開いた。

('A`)「アンタ一人で、黒狼に敵うわけがねえだろ」

助手席で、キュートが恐ろしい物を見る目で俺を見ている。
それを無視して、俺は言葉を継ぐ。

('A`)「自覚があるかどうかは知らねえけど、はっきり言ってやるよ。復讐だケジメだって言って、アンタがのこのこアイツを追っかけて行った所で、アンタにゃ万に一つも勝ち目なんか無い」

<ヽ●∀●>「……」

('A`)「何しろ向うは百戦錬磨の始末屋で、強化外骨格を身につけてると来た。アンタも知ってるだろう?
    ありゃあもう人間じゃあねえよ。化け物だ。そこにウェット(生身)のアンタが挑んだ所で、犬死にも良い所だ」

苛立ちを表に出さないよう、俺は努めて淡々とした口調で吐き出していく。

('A`)「復讐?大いに結構、殺し合いなら好きなだけやってくれ。ヤクザなあんたらにとっちゃ、それが仕事みたいなもんだもんな。
   だがよ、それは俺の目の届かない所でやってくれないか?付き合わされるこっちとしちゃ、たまったもんじゃないんだよ」

結局、淡々としていたのは口調だけで、俺自身の苛立ちは隠せなかった。

363 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 23:02:58 ID:n4n6KyEc0
o川;*゚ー゚)o「どっくん…?」

その証拠に、にぶちん世界選手権代表のキュートが、真っ先に俺に心配そうな眼差しを俺に向けてきている。
どうにも、ハードボイルドには今一つ遠そうだ。

<ヽ●∀●>「さっきから聞いていれば、随分と知った風な口を聞くようになったじゃないか?ええ?どうした、坊っちゃん?何か辛い事でもあったのか?」

俯けていた顔を上げて、ニダーがサングラスとバックミラー越しに俺の目を見据える。
皺の深く刻まれた顔からは、相変わらず表情らしい表情は読み取れない。

<ヽ●∀●>「人さまの生き死にが、そんなに怖いのか?それとも何か?お前さんは、御大層にもウリの心配でもしてくれているのか?」

自分で言って可笑しかったのか、そこでニダーは場違いな程に大きな声で笑う。

<ヽ●∀●>「だとしたら傑作だ。今世紀最大のスケッチだぜ。モンティパイソンも敗北感に首を括りかねんな」

('A`)「別に、アンタの心配なんてしてねえよ。アンタが死のうが、万に一つ黒狼が死のうが、そんな事はどうだっていい」

<ヽ●∀●>「その割には、随分とぶるってるみてぇじゃあねえか?」

自分でも自覚していた事なので、敢えてそれを取り繕おうとはしない。
代わりに俺は、キュートにやったのと同じ板ガムを口の中に放り込んだ。

364 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 23:05:07 ID:n4n6KyEc0
('A`)「アンタの言う通り、俺は臆病もんだよ。救いようの無いチキン野郎さ。
    だから、てめぇの知ってる範囲で人死にが起きる、っていうのに耐えられないんだ。
    寝覚めが悪いって奴さ。分るか?つまり俺は、俺自身の安らかなる眠りについて話しているんだ」

車体が緩やかなカーブに差し掛かる。
ハンドルを右に傾ける。左手に見える夜の海では、海上石油コンビナートの常夜灯の明りが、ちかちかと点滅していた。

('A`)「そこんとこを勘違いしないで欲しいね。わざわざ忙しい中呼び出されて、今から自殺するから崖の端まで送迎してくれ、って言われて良い顔する奴は居ない。違うか?」

o川;*゚ー゚)o「自殺…?」

未だに事情を飲み込めないまでにも、俺達の会話に不穏なものを感じ取っていたらしいキュートの顔が俄かに曇る。

<ヽ●∀●>「迷惑料ならもう払っただろう?何のためにわざわざお前さんを選んだと思っている?何時からお前さんところは人生相談所になったんだ?」

呆れた事に、俺が電話を受け取った時には既に、手付金のつもりか口座にはここ半年の稼ぎ分にも足る額の大金が振り込まれていた。
金は払うから、口は挟むな。それは実にスマートで筋の通った話で、俺達の業界では最低限の常識でもある。

<ヽ●∀●>「それにお前さんもこの依頼は飲んでくれたんじゃあなかったのか?なのに何を今更口を挟む必要がある?」

365 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 23:06:16 ID:n4n6KyEc0
('A`)「……」

ニダーの言葉は理屈の面では完璧だ。
俺は既に(半ば強制的にだが)仕事を受けて、塩豚に黒狼探しまで依頼している。
故に、俺が今更何を言った所で、それは業務怠慢からの愚痴にしかならないのかもしれない。
否、最初からこれは、俺の勝手な戯言でしかない。

('A`)「なあ、もう一度聞くんだが、アンタはあの黒狼に勝てるつもりでいるのか?」

味の薄くなってきたガムを、それでも俺は何度も何度も噛みしめながら言葉を紡ぐ。

('A`)「決着とか言ってるけどよ…アンタ、本当にアイツに勝てる気でいるのか?」

<ヽ●∀●>「……」

ニダーは、答えない。
手元の愛銃を見つめ俯いたままのその顔は、復讐者のそれではない。
二時間前に駆け付けた時点で、薄々は分っていた。

('A`)「なあよ、俺の口から言うべきじゃないってのは分ってる。だがこっちもいい加減苛々が限界なんだ」

相変わらず、ニダーは答えない。
よれによれたトレンチコートに包まれた肩が、酷く小さい。

('A`)「――アンタは、楽になりたいだけだ。仇だとか、復讐だとか、そう言った面倒くせえ事から、さっさと解放されたいってだけの、ただのクズだ」

366 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 23:07:02 ID:n4n6KyEc0
o川;*゚ー゚)o「……」

从 ゚∀从「……」

助手席で、キュートが表情をこわばらせる。
後部座席のハインが、微かに眉を顰めて俺を見つめる。
車内の空気が、僅かな緊張感を帯びた。

<ヽ●∀●>「……」

ニダーの肩が、小刻みに震える。
怒りからではなく、それは笑いから。
枯れた柳のような、それはとても虚ろで、乾いた笑いからだった。

<ヽ●∀●>「クズ…くはは…クズか…香主なんざやるようになってから、てめぇ以外にクズ呼ばわりされたのは初めてだな」

('A`)「そいつは光栄なこって」

俺は努めて不機嫌な顔を作って吐き捨てる。
ひとしきり、痛々しい笑いを上げた後、ニダーは溜息をついて天井を見上げた。
皺の刻まれたその顔が、急に老けこんで見えた。

<ヽ●∀●>「本当の所なら、今すぐにでもそのお利口さんなオツムの風通しを良くしてやるんだが……。
        行きがけの駄賃だ。今のは聞かなかった事にしてやる。その減らず口は大事にとっておけ」

ニダーは、疲れ切ったような笑みを口の端に浮かべる。
老衰前の翁のようなその達観した態度が、俺にはたまらなく気に食わなかった。

367 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 23:07:58 ID:n4n6KyEc0
('A`)「……そうかよ」

押し殺すように呟くのが限界だった。
これ以上、何を言っても、何かが変わるわけじゃない。
俺は、ハンドルを握る指に力を込める。
沈黙の帳が、車内にゆっくりと降りてきた。
カーステレオからは、歪んだパイプオルガンをバックに、がらがらに枯れた男の声が、陰鬱な調子で唄う英語の声が聴こえてくる。

Today I am dirty

I want to be pretty

Tomorrow, I know I'm just dirt

――今日の俺は醜くて。美しくなりたいと思っている。でも分ってる。明日になっても、俺はゴミ。

前にアラブに飛んだ時に入れたままの自動翻訳アプリが、視覚野の隅のウィンドウに和訳の歌詞を綴っていく。

We are the nobodies

Wanna be somebodies

We’re dead, we know just who we are

――名もなき俺達は、素敵な何かになりたいんだ。俺達が死ねば、あいつらも気付くだろう。

そこまで表示された所で顔を顰めると、俺はカーステレオのスイッチを切った。
何もかもが、気に食わなかった。

368 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/06(木) 23:13:45 ID:Uk3FUys.O
◆ブギーマンが来るので寝なさい◆

369 名も無きAAのようです :2012/09/06(木) 23:20:30 ID:ySBzC5zQ0
どういうことだってばよ…!

370 名も無きAAのようです :2012/09/06(木) 23:43:52 ID:lSkeMhjw0
とりあえず乙

371 名も無きAAのようです :2012/09/06(木) 23:47:31 ID:66X0fJgc0


このニダ−はどうしてこんなにかっこいいんだろう…

372 名も無きAAのようです :2012/09/06(木) 23:51:28 ID:yqrpIhQc0
アッハイ、寝ます

373 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:10:50 ID:HZSLFZ1g0
■RADIO塊IM■凛として時雨 ‐ telecastic fake show http://www.youtube.com/watch?v=G0tA92rW3y8&amp;feature=related■接続■貴方?筒■

374 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:12:21 ID:HZSLFZ1g0
◆ブギーマンとか居なくなりましたか?◆再開◆

375 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:14:02 ID:HZSLFZ1g0
o川;*゚ー゚)o「あ、あの……」

今まで黙っていたキュートが、出しぬけに口を開いた。

o川;*゚ー゚)o「わ、私、その、えと…事情とか、全然、分らないんですけど、その……」

ホットパンツの短い裾をぎゅっと握りしめ、彼女はおずおずといった風情で後部座席のニダーを振り返る。
ニダーの纏うヤクザ者の雰囲気に慣れないのか、言葉の端々からは僅かな怯えの様なものが残っていた。

o川;*゚ー゚)o「じ、自殺は良くないなって!その、お、思います!自殺だけは、ダ、ダメだって!」

('A`)「……」

<ヽ●∀●>「……」

恐らくは、彼女なりの精いっぱいの言葉なのだろう。
場違いな台詞ではあるが、その大粒の瞳に宿った真剣さは、偽りの無いものだ。
今日初めて会った人間の事を、分けが分らないなりにも、心の底から心配する。
先のクソッたれた歌の歌詞が頭を過って、俺は思わず苦い顔を作った。

ニダーは、そんな彼女の言葉に一体何を思うのだろうか。
前の席から首だけを覗かせて真剣な(彼女なりの)表情を作るキュートに、彼はやんわりと苦笑を返して再び座席に深く身を沈めた。

376 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:14:49 ID:HZSLFZ1g0
<ヽ●∀●>「……そうだな。ああ、自殺はいけねえな。おっかさんを悲しませちまうもんな」

o川;*゚ー゚)o「そ、そうです!だから、ね?げ、元気を出して――!」

<ヽ●∀●>「ああ、ああ、そうだな…そうだとも……」

キュートの言葉を、聞き流すでもなく、遮るでもなく、ニダーは腰の上で手を合わせると、首を仰け反らせて天井を仰ぐ。

<ヽ●∀●>「そうとも…そうともさ……」

虚ろなその呟きだけが、語る者の居なくなった車内に零れ続けた。

377 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:15:58 ID:HZSLFZ1g0

  ※ ※ ※ ※


――ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「見てんじゃあねえぞ、クソガキが」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「気に食わねえ目え、しやがって……」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「――ああ?なんだ?聞こえねえぞ?」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「おい、おい、おい、なんだ?なんだってんだ?何を泣いてやがる?俺は悪者か?ああ?」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「てめえ、なんだそれは――舐めやがって、クソ。舐めやがって……どいつもこいつも――」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「その目だっつんでだろうがよぉ!聞いてなかったのかよクソガキがぁ――!」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

378 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:16:53 ID:HZSLFZ1g0
「ごめんね、ごめんね、ごめんね……」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「このッ!ガキがッ!目ぇ!見るなっ!」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「ごめんね、ごめんね、ごめんね……」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「ぶっ殺して――!ハァー!ハァー!ハァー!」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

ノイズ。ノイズ。ノイズ。

「ああっ!?てめえ、そりゃ――なん――」

ぶつん。

379 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:18:23 ID:HZSLFZ1g0
油まみれの換気扇。フリーザーの低い唸り声。
開け放した窓。蝉の大合唱。ノイズ。四畳半。ちゃぶ台。酒瓶の山。
染みだらけの安カーテン。ノイズ。ささくれ立った畳。倒れた角刈りの男。
壁際で啜り泣くネグリジェの女。ノイズ。部屋の柱に刻まれた爪の跡。ノイズ。
血、血、ノイズ、血、ノイズ、包丁、ノイズ、ノイズ、少女、ノイズ。

かちり。

「あ……」

少女はその白く細い腕から包丁を取り落とすと、自分の胸元から下腹部までを見下ろした。
胸元の肌蹴られたワンピースは、返り血で真っ赤に染まっていた。

「ああ……」

吐息を零しつつ、少女は宙を見つめる。
部屋の隅から母親の啜り泣きが聞こえてくる。
開け放した窓から聞こえる蝉の大合唱が耳に喧しい。

「――そっか。そっか、そっか」

得心が言ったように頷くと、少女はふらふらと立ちあがり、玄関へ向かって歩いて行く。
母親は、その後ろ姿を見送る事もせずに、動かなくなった男をぼんやりと眺めていた。

「そっかぁ。こうすれば、良かったんだ。こうすれば。そっか――」

少女のノイズ虚ろノイズな笑ノイズ。ノイズ。ノイズ。ノイズ。

ぶつん。

380 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:19:29 ID:HZSLFZ1g0
ノイズ。ノイズ。ノイズ。
ビールの空き箱の塔。罅の入ったコンクリ。ノイズ。水たまり。吐瀉物の臭い。
使い捨て記憶素子の破片。ノイズ。火花を上げるネオン看板。

「ハァ、ハァ、ハァ――そうだ、大人しく――大人しくッ!――ハァ…してろよ――ヘヘハハハハ……」

息を荒げて、ズボンを下ろすヤクザ男。肩に光る綾瀬の代紋。
埋め込み式サイバーサングラスに映る、女の白い顔。
ノイズ。白い肢体を這う生傷。青あざ。ノイズ。みみずばれ。ノイズ。

「いや…イヤァ……!」

乱れるプラチナブロンド。ノイズ。馬乗りになる男。
ノイズ。殴打。ノイズ。殴打。ノイズ。殴打。ノイズ。殴打。

「ヘ、ヘヘ…こんな上玉、滅多にいねえ…ハァ、ハァ……。
 どうせ、これから何人の男に抱かれるかも分ったもんじゃないんだ。だったら、今俺に抱かれた所で――」

「止め、止めて――イヤだ…イヤ、イ――」

剥ぎ取られる下着。縄で縛られた両手。嬲られる乳房。
ノイズ。男。ノイズ。突き入れられる。ノイズ。赤。ノイズ。赤。ノイズ。ノイズ。赤。

「ヒャハ!ヒャハハハ!しょ、処女だぜこいつ!ヘハハハ!安心しろよぉ…お前の初めては――」

突く。突く。突く。ノイズ。痛み。ノイズ。耐えがたい痛み。ノイズ。
裂ける。ノイズ。破ける。破裂する。ノイズ。

痛いノイズ痛ノイズい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いノイズ痛い痛い痛い痛い。

ぶつん。

381 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:20:23 ID:HZSLFZ1g0
ノイズ。ノイズ。白。ノイズ。リネンの香り。ノイズ。
リノリウムの床。ノイズ。ノイズ。正面に座った医師。ノイズ。
寿命の近くなった蛍光灯。ノイズ。膝の上で揃えられた手。はれ上がった顔面。ノイズ。

「――落ちついて、聞いて下さいね」

ノイズ。ノイズ。眼鏡の奥。ノイズ。
無表情の医師。ノイズ。ノイズ。止めろ。ノイズ。

「貴方の身体では、子供はもう――」

止めろ。

「子宮が著しく傷つけられ――」

止めろ。

「卵巣そのものが――体外受精も――」

止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ。

ぶつん。

382 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:21:31 ID:HZSLFZ1g0
ノイズ。ノイズ。ノイズ。
黒い空。星の無い夜。ビルの屋上。摩天楼のネオン。

【+  】ゞ゚)「――で、身体の調子はどうかしらん?“死の淵から蘇った”感想は?」

女は掌を見つめた。
包帯だらけの皮膚の上に、バタフライナイフを這わせる。
滲みだした血がぶくぶくと泡立ち、掌の上で蠕動した。
悪くない気分だった。

【+  】ゞ゚)「ラボの連中、驚いていたわよ。アンタみたいな体質は百年に一人居るか居ないかだって。
        ウェイク・アップ・ザ・デッドに適合するだけならともかく、ソレまで使いこなせるなんて、天が与えた逸材だってサ」

掌の上の血に、女は意識を集中する。
殺せ。そう命じるだけで、血は赤い鉤爪となって女の掌を覆った。

【+  】ゞ゚)「液体金属だっけ?ウチのチーフも妙なモノをこしらえたもんよね。まるで化け物じゃない、アンタ」

面白くもなさそうに言って、オサムは夜の街に視線を馳せる。
夜の帳の下では、相も変わらず人の波がごった返していた。

【+  】ゞ゚)「そう、化け物と言えば。綾瀬のトコで、アタシ面白いもの観たわよ」

懐から取り出した掌サイズの小型プロジェクターで、オサムは空中に映像を投影する。
立体ホログラフの中では、一人の強化外骨格の男が日本刀を振るって、次々とヤクザ達を斬り伏せていっていた。
返り血を浴びながら荒い息を着く男の顔は、修羅か鬼神のようであった。

383 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:22:49 ID:HZSLFZ1g0
【+  】ゞ゚)「西村の生き残りかしらね。綾瀬への復讐だか何だか言ってたみたいだけど、この子もかなりキテるわ」

楽しげに言いながら、オサムは映像を早回し、目当てのシーンで止める。
再び動き出したホログラフ映像。
ヤクザの死体の山の中央で、強化外骨格の男は突如として吠えたけると、
手にした日本刀を振るって、既に動かなくなったヤクザの身体を更に細切れの肉片へと変えていく。
およそ、人間的な理性の欠片も見られない、獣の食い散らかしにも似たその様に、女は目を見開いた。

『足りない!足りない!足りない!足りない!足りないんだよぉぉおぉぉお!』

刻む度飛び散る、血、皮膚、肉、内蔵、皮下脂肪、骨。
黄、白、赤、朱、黄土、人を形造る、肉の絵の具の醜怪なコントラスト。
今にも泣き出しそうな顔で、叫び、刀を振るうホログラフの中の男。

彼女はしかし、その男の悲壮な表情の中に、確かにそれを見つけた。

「なあ、コイツ、なんて言うんだ?」

ホログラフを見つめたままに、女は問いかける。

【+  】ゞ゚)「は?名前?このワンちゃんの?アタシが知るわけ無いじゃないの」

興味なさそうに返すオサム。
女はそれを聞き流しながら、食い入るようにホログラフの映像を見つめ続けた。

384 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:23:30 ID:HZSLFZ1g0
『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…』

鬼気迫る表情で、荒い息を着く強化外骨格の男。
自分の作りだした屠殺場の光景に気付き、彼の顔に恐怖とも後悔ともつかぬ表情が過る。
その一瞬。まさにその一瞬前、男の顔に浮かびかけて消えた表情を、女は見逃さなかった。

「――同じ、だ」

【+  】ゞ゚)「はぁ?」

問い返すオサムにも、女は言葉を返すことなく、呆けたようにしてホログラフの中を見つめている。

(*゚∀゚)「――アタシと、同じだ」

その時彼女の顔に浮かんでいたのは、砂漠の中でオアシスを見つけた旅人のそれのようであった。

385 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:24:32 ID:HZSLFZ1g0

  ※ ※ ※ ※


――生ぬるい浮遊感の中で、ツーは目を開く。
視界いっぱいに広がる闇にも、人工タペタムを通して見えたのは低い石造りの天井が見えた。
鼻が腐れ落ちてしまいそうな程の饐えた臭いからして、ここはVIPの街の地下を走る下水道網の一端だろう。
自分はその下水の上にぷかぷかと浮かんでいるのだ、と言う所までを自覚した所で、ツーは頭の中からぼんやりとした霞が引いて行くような感覚を覚えた。

(*メ∀゚)「アァ――畜生――血が――血が足りねえ……」

左側頭部を手で触る。
砕かれた骨と皮膚組織は液体金属により無理矢理に縫合したが、失った組織に関しては再生にもう少しばかり時間が掛りそうだ。
本物のIps細胞ならば、もっと迅速な治癒が見込めただろうが、実際その真似事が出来るだけでも彼女の血中に潜む「カーミラ」は非常に優秀な人工血液であると言えよう。
今やツーの全身の血管の八割の中を流れるこの液体金属兵器は、彼女の生命活動そのものに影響を及ぼす段階にまで浸透していた。

(*メ∀゚)「あの、ウリナラヒョウタン――外野が、出しゃばりやがって――クソッたれがよぉ……」

汚水の川の中でツーは身を捩る様にして泳ぐと、壁際の足場の上に身を横たえる。
今まで餌を求めてうろついていたドブネズミが、彼女の登場に驚き泡を食うようにして逃げ出す。
生皮の剥がれたままの腕を振るってそれを捕まえると、ツーは何のためらいも無くドブネズミの頭に齧り付いた。

386 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:26:10 ID:HZSLFZ1g0
犬歯が皮を貫くぶちりという音と、弾力のある肉を咀嚼する音、そして小骨をかみ砕く微かな音が、湿った地下下水道の中に陰鬱に響く。
常人ならば七度も死亡している程の重傷を治すには、「カーミラ」による縫合以外にも、
ウェイク・アップ・ザ・デッドの代謝促進に頼る必要がある為、タンパク質と鉄分の摂取は欠かせない。

無論、ツー自身がそのような事を理解しているわけではない。
最早彼女に理性と呼べるものが存在するのかは、神のみぞ知る領域だ。

ただ、腹が減っていて、傷を癒すには捕食が必要だと言う、それは獣が知りうる本能レベルでの判断だった。

(*メ∀゚)「クソ、まじぃ…クソ…クソ…クソが……!」

彼女にとって幸いなことは二つあった。
一つは、行動不能となったツーを完全に死亡したものと、あの中華系の男が勝手に思い込んでくれた事。
もう一つは、倒れた近くに偶然にもマンホールが存在していた事。
この二つの幸いが、ツーの命を寸でで繋ぎとめた。

彼女とて、けして不死身では無い。このどちらかが欠けていたら、万に一つも助かる見込みは無かっただろう。
最も、そのようなことでさえも、今の彼女にとっては瑣末な事でしか無かった。

(*メ∀゚)「ギコ…ギコォ……」

鼠の小骨を咀嚼するぽきり、ぽきり、という音を口の端から零しながら、ツーはその名を口にする。
自らの生き死ににすら、微塵の興味を抱かない彼女が、唯一執着するもの。

初めて彼の存在を知ったあの日から、壊れ尽くした彼女の人生の中に、確かな変化が生まれた。

387 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:27:22 ID:HZSLFZ1g0
(*メ∀゚)「アア…ハァ…クソ…ギコ…ギコが…遠くに行っちゃう……」

欲しい。どうしても、それが欲しいのだ。
一体、何が欲しいのかは、ツー自身にとっても良くは分らなかったが、たまらなく欲しいのだ。

(*メ∀゚)「連れ戻さなきゃ…逢いに行かなきゃ……」

汚水の中を泳いできたドブネズミをもう一匹捕まえ、ツーは咀嚼する。
思考が幾分かクリアになってきた。
先ずは、作戦を練るべきだ、と彼女は思った。

ギコの事ならば、彼女は誰よりも詳しいのだという自負があった。
彼の存在を知ってからこっち、彼女は今日に至るまで彼の行動の全てを調査してきた。
フリーの情報屋を使う時もあれば、オサムに袖の下を通してCIAの監視衛星を使ったりもした。
どのような経歴の下で、どのような環境に置かれ、どのような生活サイクルを送っているのか。
それら全てを、彼女は把握していた。

(*メ∀゚)「やぁっぱ、アレかな――」

ドブネズミの小骨の端を吐きだしながら、ツーはゆっくりと立ち上がる。
傷口から漏れ出た赤い流体金属が、まるで彼女の意志に呼応するかのようにして、微かに震えた。

388 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:28:52 ID:HZSLFZ1g0

  ※ ※ ※ ※


――かつて、24世紀最後の詩人と言われたVIP出身のさる芸術家がこう言った。

「この街の星達は、皆空から地に落ちてしまった」

彼の言葉を示すように、夜の帳が降りた天には分厚い光化学スモッグが垂れこめ、
その代わりでもあるかのようにして、ビルの大樹海の中で煌めくネオン光は、年々その輝きを増していっている。

被害妄想の強かった詩人は、その言葉を残した五年後に、風呂場で拳銃を咥えたまま動かなくなっているのを政府警察に発見された。
何処にでも居るような詩人の最後は、何処にでもある様な自殺事件として処理され、何時の時代もそうであるように、
次第にその名前を忘れ去られ、今では誰一人としてその名を覚えている者はいない。

……珍しく、それは月の出ている夜だった。
ナイフ傷のような暗雲の切れ間から、青白い月明かりが降り注ぎ、その姿を浮かび上がらせる。

モノリスVIP。
ラウンジ区とニューソク区の境目にある、黒塗りのオベリスクめいたそのビルは、
渡辺所有のアーコロジーを頭二つ分追い越し、VIPの最高建築記録の一位を五年間守り続けている。
ニホン国特別政令指定都市の象徴として建造された、その観光シンボルの頂上。
地上一千メートルの高さで、四角錐のてっぺんから突き出すポールの上に、まるで止り木に停まる鴉が如き一つの影があった。

389 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:30:29 ID:HZSLFZ1g0
<ヽ8w8>「……」

青ざめた月光の中に浮かび上がる、漆黒の装甲。
昆虫と爬虫類と地獄の悪魔の混血染みた、異形のシルエット。

かつて、黒狼と呼ばれたその男は、狼らしく月に吠えるでもなく、ただ、
ただ、黙したままに、眼下に広がる地上の星屑の海を見下ろしていた。

<ヽ8w8>「……」

一体、どれ程の時間をそうしていたのだろうか。
一瞬かもしれないし、途方も無い時間かもしれない。

黒狼は、かつてそう呼ばれていた始末屋は、ギコは、その悪鬼の髑髏めいたヘッドピースの奥底で、何時果てるともしれない、葛藤の内に沈んでいた。

(´・ω・`)『君の新しい身体と、脳核についての非常に重要な話だ』

――君も、実感で分ると思うけれど、今の君の“身体”は以前の君の“身体”に比べたら、途方も無い程の力を秘めている。
詩的な言い回しを止めるなら、今の君の強化外骨格は、以前と単純比較して四倍、いや、それ以上のスペックを持つ。
運動能力、反応速度、装甲そのものの強度、そのどれもが桁からして違う。

ああ、表情で君が何を考えているかは分るよ。
そうだね、何時の時代も大いなる力には相応の代償が付き物だ。

これから話すのは、その代償についてだ。

390 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:32:08 ID:HZSLFZ1g0
<ヽ8w8>「……」

――君はどうやら、以前から神経加速装置(イグニッション)や、ペインキラーとか言ったアッパー系のドラッグのお世話になっていただろうから、とても説明がし易くて助かる。

……先ずは原理から説明しようか。
君の強化外骨格は、素体であるマシーンボディとの脊椎直結で動いている。
分るかい?平たく言えば、ニューロジャックだけじゃなく、脊椎、つまり全身で一つの自動化鎧と繋がっている様なものだ。

初めて聞いた?無理も無い。ニューロジャックのみでの通常結線と違って、脊椎直結は心身ともに直結者への負担が半端じゃない。
もしも痛覚をオンにでもした日には、銃弾が掠めた感触だけで発狂してしまうことだってある。
まあ、この期に及んで君がそんな失敗をする間抜けだとは思わないけれどね。

初めに言ったオーバースペックは、この脊椎直結がその殆んどを齎していると言っても過言じゃない。
僕達みたいなハッカーは、度々電脳空間にジャックインしたときに、肉体という枷から解き放たれて、
思考するだけでどこまでも一瞬で飛び立てるような全能感を感じる。

今の君は、さしずめそんなところだろうね。「生身以上に反応が良い」、ってのが僕の考えた売り文句さ。

さて、そこで君の心身に掛ってくる負担だ。
今現在、君は全く持って意識はしていないだろうが、既にその“身体”を着て動いている、
という時点で君のニューロンには微小な負担が掛っている。

恐ろしいだろう?自覚はしていなくとも、少しずつ君のニューロンはこの異常加速した世界に侵されていっているんだ。
これが、銃弾飛び交う戦場に出たら、一体どうなると思う?

391 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:35:39 ID:HZSLFZ1g0

――答えは、「僕にも分らない」だ。

その気になれば、君は全てが静止した世界の中をゆっくりと歩いて、宙に浮いた弾丸を摘まんで、
そのまま指で握りつぶす事も可能かもしれない。

或いは、降り注ぐ瓦礫の雨の中、たった数ミリのずれさえも許されない安全地帯をコンマゼロ秒以下で見つけ出し、
その中に刹那の内に身を翻す事が出来るかもしれない。

そうしてもって、君の身体が、ニューロンが、精神が、どうなるのかは、僕にも未知数だ。

一科学者として、この「未知数」という単語は胸躍るものだよ。

何処まで行けるのか、それとも限界など無いのか。知りたくてしょうがなくなる。

……そこで、君に僕からの提案だ。

もしも、その強化外骨格を着用し続けるのに不安があるのなら、言って欲しい。
少しばかり時間は頂くけれど、直ぐに別のまともなものを用意しよう。

スペックは遥かに劣るけれど、少なくとも着用しているだけで精神が侵されるような危険な代物ではないと約束する。

だが。だが、もしも、だよ。

もしも、君が僕の好奇心に付き合って、その強化外骨格を着続けてくれるなら……。

そう、君には義理の妹が居たね?名前は、確かシィだ。

何故知ってるかって?悪いとは思ったけれど、君に最初の仕事を持ってきた時点で調べさせてもらった。

392 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:36:58 ID:HZSLFZ1g0
――で、だ。

その、義理の妹さんは、ニューロ・リジェクションを患っている。違うかい?

――血友病で、手術もままならない。……可哀想に。

<ヽ8w8>「……」

僕が、治してあげるよ。

<ヽ8w8>「……」

君は、その強化外骨格を着て、あちらこちらで戦ってくれれば良い。
その時の戦闘データを、君は僕に提供してくれるだけでいい。

何の事は無い。その強化外骨格には、無線中継機能が付いている。
君が特別何かをするわけでもない。ただ、刀を振るってくれれば、それでいい。

――どうだい。この話に、君は乗るかい?

<ヽ8w8>「……シィが治る保証が、何処にアる」

ミンチ寸前だった君を、ここまでに復活させた僕の腕を疑うって言うのかい?

問題ないさ。大体、君の“リアニメイト”に比べたら、ニューロ・リジェクションくらい、盲腸の手術をするみたいなものさ。

その昔はニューロマンサーを名乗ってた事だってあるんだよ?

393 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:38:11 ID:HZSLFZ1g0
<ヽ8w8>「オ前が、約束ヲ守るトいウ保証は――」

おおっと。まあ、そうくるだろうね。
それについては、御安心を。さっき言った、データ送信用の無線リンクを辿れば、君からでも僕の居場所は直ぐ分る。

これなら、僕がとんずらしようとしても、君は安心してその場に駆け付け、僕に刀を突き付ける事が出来るってわけだ。
最も、僕は約束を破るような、プライドの無い男だと思われるのは心外だけどね。

<ヽ8w8>「……」

どうだい?受けて見る気は、無いかい?

<ヽ8w8>「……悪魔メ」

ははは!確かにそうかもしれないね。願いをかなえる代わりに、莫大な代償を要求してる!

成程、まさに僕は悪魔だ。でもよく言うだろう?
悪魔は決して約束を破らない、ってさ。

<ヽ8w8>「……」

――まあ、返事は気長に待つとするよ。

さしあたっては、最初の依頼分の二人の首を上げて貰うのが何よりの優先事項だしね。
その間、その強化外骨格はお試し期間、って事で。

ああ、そうだ。“その強化外骨格”、じゃ呼び辛いね。名前をつけよう。

そうだな…君は、僕を悪魔と呼んだ。

それなら、悪魔からのプレゼント、という事でそいつにも相応しい名をつけようじゃあないか。

394 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:39:22 ID:HZSLFZ1g0
“666”

スリーシックス。ロク、ロク、ロク。発音は、まあ、適当に。
字面だけ見ると、型番みたいで乙だろう?

あは。

それじゃあ、良い返事を期待しているよ。

………。

……。

…。

<ヽ8w8>「フザケ――タ…事ヲ……」

拘束具のようなフェイスガードの奥で、ギコは奥歯を噛みしめる。

何処まで行けるか、試してみたい?

先のツーだとか言うイカレ女との戦いだけでも、ギコにはそれが十分に良く分っていた。
神経加速装置(イグニッション)やペインキラーのフィードバックなんかの比では無い。

人類の、生物の限界を超越したその軌道のバックファイアは、さしずめ身体の内側からナパーム火薬で責め苛まれるような、耐えがたいまでの苦痛という、非常に分り易い形で現れた。

強化外骨格などでは無い。
これは、棺桶だ。

もしくは、中世の拷問器具たる鋼鉄の処女、そのものだ。

395 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:40:59 ID:HZSLFZ1g0
<ヽ8w8>「アアグ――ガッ――ハッ!」

顎部の装甲が開き、髑髏の怪物のような剥き出しの牙の間から、ギコは喀血する。
体内ドラッグホルダーのペインキラーで抑え込んだ所で、そう長くはもたない。
強化外骨格の表面装甲に痛覚が無いとはいえ、培養物とはいえ、内臓は未だに生身だ。

一体、何時までこの身体がもつと言うのか。

<ヽ8w8>「ハァ――ハァ――ハァ――」

奴は。
ショボンと名乗ったあの男は、シィを治すと言った。
本当なのかどうか。それは、重要ではない。元より、彼は嘘だとしてもそれに縋るつもりであった。

<ヽ8w8>「ヤット――ヤット、アイつを幸せニ出来るンだ――コレしキの痛み――」

幸せに。
そう、幸せに、するのだ。

彼女は、シィは、長い間、不幸の沼の中に、浸かり続けてきた。

抗争、復讐、抗争、復讐、そして復讐。

彼女は何一つ悪くない。周りの我儘に振り回され続けてきた彼女こそが、最大の被害者なのだ。

もう、彼女は幸せになってもいいのだ。

<ヽ8w8>「ソウ――ダ……シィを治しテもらッて――ソレデ、一緒ニ――」

一緒に。
一緒に?自分が。彼女と。一緒に?

396 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:42:07 ID:HZSLFZ1g0
<ヽ8w8>「ガ――ガガッグッゲ――」

ならば。
ならば何故、あの時、あの瞬間、奴にトドメを刺さなかったのか。

<ヽ8w8>「ニダー…ニダー…ニダー……」

ニダー。ニダー。ニダー。

幸せな生活を送るのならば。シィと、共に歩むのならば。
排除せねばならない。禍根は、残せない。そうだとも。

復讐を成し遂げ、シィを治療して、それで、ハッピーエンドなのだ。

なのに、どうして。どうしてあの時、トドメを刺さなかった。

<ヽ8w8>「アグォ――ゴッ――ググ――」

どうしてあのときとどめをささなかったのかしあわせなせいかつをおくるのならばかこのかこんはのこして
おくわけにはいかないいますぐにやつにとどめをさせいますぐだとどめをいますぐいますぐいますぐいますぐ

<ヽ8w8>「アア――!……ハッ、ハッ、ハァー…ハァー……」

ギコは、自らの首を絞めつけていた。
無自覚の事だった。
空では蒼い満月が、尖塔の悪鬼の如きギコの姿をぼんやりと照らしている。

397 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:44:01 ID:HZSLFZ1g0
<ヽ8w8>「……ニダー」

ギコは、もう一度だけ、呟いた。
慢性的に歪んでいる合成音声も、その瞬間だけは、淀みの無い音階で空気を振るわせた。
光学センサの青と白の視覚野の隅で、脳核通信を知らせるアイコンが点滅していた。

『――第二ターゲットの所在地が判明したよ。これから転送するね』

アノニマス表示のアイコンウィンドウの中で、送信中の無機質な三文字が躍る。

『これが最後のターゲットだ。義妹さんの為にも、頑張って』

ギコはそれに返事を返す代わりに、後ろ腰から横一文字に吊るした日本刀を鞘走らせると、正中線と平行になるようにして構える。

<ヽ8w8>「GRAAAAAAATH!」

満月に向かって一声吠え、ギコは飛翔する悪魔の如く、モノリスVIPのてっぺんから飛び出した。
地上の星屑の海は、一匹の魔獣のシルエットを、無関心な表情で出迎えた。

398 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:45:44 ID:HZSLFZ1g0

 

         Next track coming soon...

 

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399 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/07(金) 14:53:27 ID:HZSLFZ1g0
■ジョルジュは■親愛なる読者のみなさんへ■ロリコン■

前回の投稿の際、次で今回のエピソードが完結すると言っていましたがあれは嘘では無かったなのです。

ただ構成担当と執筆担当がなんか文量が増えると言いだしたので投稿担当者としては分割しなければならないと思ったので、私は悪くない。

悪いのは執筆担当者と構成担当者なので私を責めるのはお角違いだ。わかるね?私は正しいですね?

次の投稿は分らないけどその時こそはサマーなんとかの締切日なのでちゃんと告知するし大丈夫。安心しよう。尚意外と早く出来上がるかもしれないもよう。

400 名も無きAAのようです :2012/09/07(金) 17:22:40 ID:5sUduzJ60
おちゅ
ジョルジュは流石の紳士

401 名も無きAAのようです :2012/09/07(金) 18:10:17 ID:Pa1dAlwk0
正しいですか?おかしいと思いませんか?アナタ

402 名も無きAAのようです :2012/09/07(金) 19:40:26 ID:4hDNoqY20


403 名も無きAAのようです :2012/09/15(土) 00:49:53 ID:GYHzbJ1k0

左道外道に踊らされてどうにもならなくなるのはギブスンやシャドウランやN◎VA、サイバーパンクの決まりごとだけどやっぱり救いがあってほしいなあ……。

404 執筆担当者 ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/15(土) 10:29:29 ID:WY1j8W2g0
■親愛なる読者の皆さんへ■お知らせ■約束が大事です■

我々はサマーうんたらの締切日がやってきたら、三日前に告知すると言ったね?

それはもちろん嘘ではないのでこれは告知だ。

ナンバーなんとかは三日後に完結する。意外と速くできたので執筆担当者(これを書いている私だ)もびっくりしている。投稿担当者はもっとびっくりしている。

公式まとめサイトブーン芸ヴィップさんの方でも告知しましたがたぶんなんかこれで出尽くした感があるのでなんか大丈夫だとおもう。

あとなんかメインストーリーに絡まないみたいなことを言っていたかもしれないが忘れた。

もしかしたらケミカルなアレが起こってメインストーリーのラインに組み込まれたりもするかもしれないけどそれは選んでみないと分からないので落ち着こう。

つまり、発表は作品の掲載を持ってのお知らせとなる、という方式を採用することになりました。

今現在もすでに応募された中で、我々はどのような話が作れるかどうかを模索中だ。これは非常にDIYめいていて実にユニーク。構成担当者もタノシイだ。

まだ締め切りまでは三日あるので、その間も皆さんは応募してくれていいし、カキゴリを食べててもいい。それをリバティと言います。

採用されたプロットにもよりますが、これはたぶん比較的に早く出来上がる予感がすると、スイカ畑のおじいさんが言っています。

以上、業務連絡の終了です。

405 名も無きAAのようです :2012/09/15(土) 11:43:41 ID:q9gYSGuE0
待ってまーす

406 名も無きAAのようです :2012/09/15(土) 18:59:58 ID:GYHzbJ1k0
了解です
カラダニキヲツケテネ!

407 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 12:53:06 ID:xtON.OOM0

 

                【IRON MAIDEN】

 


408 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 12:58:53 ID:xtON.OOM0

Track-δ


――広大な地下空間を席巻するのは、黒く濁った汚水である。
水底から天井までの高さは7メーター弱。

地下にしては広々としたそのドーム状のホールの中央には、浮島のようにして鉄筋組みのブラックボックス染みた管理小屋が立つ。

四方八方の壁には錆ついた巨大な水門がそれぞれに並び、これらが中央の管理小屋のコマンドを受け、
定期的に開閉しては汚水の流れをコントロールしている。

ニホンという国の汚濁の中心であるVIP。
その欲望の街が吐きだした汚濁の全てが最後に行き着く下水処理施設。

ドーム状の天井の隅に空いた下水口から、今まさにこの掃き溜めの中の掃き溜めに滑り落ちてくるものがあった。

「イイイイイイヤッホオオオオオォォォウォウォウォウォウ!?」

最初に落ちてきたのは棺桶だった。
ボブスレーめいて滑走飛行した棺桶が、下水の上にざぶりと着水した。

その上に、それを追いかけるようにして枯れ枝のような人影がすとんと着地した。
棺桶が、人影の体重を受けて僅かに浮き沈みした。

【+  】ゞ゚)「ヒュウー!これはこれで、刺激的ン。お股、ヒュンッてなっちゃった♪」

ボア付きレザーコートの前を肌蹴た異形の人物オサムは、身体をくねらせて誰にともなく言う。
起伏の少ない蒼白な顔の半分は、黒く焼けただれ、所々が炭化していた。

409 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:00:02 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ゚)「全く…折角おめかししたってのに、あの子ったら乱暴なんだから……」

枯れ枝のような指を自身の首元に這わせると、オサムはまさぐるような仕草の後に爪を立てる。
ずるり、という音と共に皮膚が捲れ、まるで蛇の脱皮の如くして彼は自身の顔面の皮膚を脱ぎ捨てた。
粘液でテラテラと光る、生まれたばかりの赤子のように皺の寄った顔が現れた。

【+  】ゞ゚)「ンー、ンー、ンー……ンン!メイキャップ!」

化粧水を肌に馴染ませるような仕草でオサムは自身の顔面を叩き、伸ばす。
一瞬の後には、以前と変わらない起伏の少ない青ざめて蛇染みた顔がそこにはあった。

ウェイク・アップ・ザ・デッド。
生命を冒涜する投薬強化の、それは禍々しい一側面であった。

【+  】ゞ゚)「……何よ、アイツまだ来てないじゃないの」

機械的に無感動な表情で周囲を見回してから、オサムは左手に提げた強化ポリカーボンのアタッシュケースに目を落とす。
最後に通信をかわしたのは、ヴォルフの尻尾回収の報告の際。今から三時間前だ。

目的物も手に入れて、後はここから用意した小型潜水艇で本部の回収部隊と合流。
そうすれば、今回の長い仕事もようやく終わるというのに。

【+  】ゞ゚)「あの気狂いが…何処をほっつき歩いてやがる……」

普段は見せないような、ドスの効いた低い声が知らずオサムの口から零れる。
任務の度、オサムは彼女の独断行動に振り回されてきた。

大かた、あのギコとか言う始末屋絡みだろう。最後の通話の時も、心ここにあらずと言った様子だった。
最も、あの気狂いに心があるのかは、オサムにも謎ではあったが。

410 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:01:08 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ゚)「クソが…アタシがスカウトした方だと思って好き勝手にやりやがってよ……」

平坦な表情とは裏腹に、オサムの胸の中では苛立ちが募っていた。
ギコ、ギコ、ギコ。そしてギコ、だ。

手当たり次第に壊し、殺し、ばらすだけだったあの気狂いは、数年前から変わった。

全てを憎むだけの希望も意味も無いあの娘の呪われた生に射したそれは、一筋の光明なのだろうか?

だとしたら、全く馬鹿げた光明もあったものだ。

オサムは知っている。
それがたとえ光明だとしても、その先には何も待っていない。

【+  】ゞ゚)「……いっちょ前に人間の振りか?おめえには、何も出来ねえんだよ」

結局のところ、彼女には壊すことしかできない。
たとえ、その狂った頭の中に一片の理性が残っていたとしても、あの娘には建設的な事など何一つ。

【+  】ゞ )「破壊を振りまくだけで、なあんにも生み出す事なんか出来やしねえ…出来やしねえんだよ……」

あの夜の事を、オサムは思い出す。

ネオンの中に浮かび上がる摩天楼。
星明りも月の光も射さない、暗く、無慈悲な血臭漂うあの夜を。

かつて死体だった肉の塊の屠殺場のただ中で、狂ったように泣き叫ぶ、あの娘を見つけ出したあの日の夜の事を。

411 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:02:17 ID:xtON.OOM0
『憎いんだ。何もかもが憎いんだ。だから殺したんだ。滅茶苦茶にしてやった。ぶっ壊してやった』

『でも何なんだ。――コレはよ?何でだ?ムカつくぜ…クソ!私は何を憎めばいい?
 何もかもが憎いんだ。なあ、私は何を殺せばいい?何を壊せばいい?クソ!クソッたれ!』

あの時、彼女は泣いていた。

返り血で真っ赤に汚れた両手を胸の前で振るわせて。
何が憎くて、自分がどうしたらいいのかもわからず。

それは、途方に暮れた幼子のようでもあった。

『ナイフだ。困った時は、全部こいつが解決してくれるもんだと思ってた。
 ガキの頃だって、全部こいつが何とかしてくれたんだ。――でも、でも……』

『――畜生!何なんだ!何なんだよ!何なんだよこれは…!』

『なぁ……アンタ、教えてくれよ。私はどうすればいい?何を殺せばいい?
 何を壊せばいい?全部か?全部、ばらばらにしてやれば、これは終わるのか?なあ!?』

【+  】ゞ )「……」

それは、正真正銘の化け物だった。
オサムが見つける以前から、彼女は既に壊れた化け物だった。
そのまま生きていても、ストリートの路地裏に転がり、下らない生を終えるだけだった。

それでも、殺意だけは一人前以上だった。

だから、拾い上げた。不純物を取り除いて、完璧な化け物にしてやった。

412 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:05:02 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ )「お前は、化け物なんだよ…化け物以外の、何者にもなれやしねえんだよ……」

知らず、オサムは拳を握りしめていた。
黒くチークで縁取った蛇の目は、表情を消して虚空を見つめていた。

【+  】ゞ゚)「アンタもそう思うでしょ――ねえ!?」

虚空を八条の緑光が駆け抜け、ドーム状の壁の一点を穿った。
コンクリの欠片と土煙が舞う。
その中から、周囲の景色を歪ませる半透明のシルエットが飛び出した。

「――」

それの着水の勢いで汚水が跳ね散らかる。
静電気めいたバチバチという音と共に光学迷彩の覆いが解かれ、闇よりも尚濃いその姿が露わになった。

〈ヽ8w8〉「……」

日本刀を片手に提げた、地獄の悪鬼の様な姿の、それはギコであった。

【+  】ゞ゚)「……久しぶりね、ワンちゃん。アタシの事、憶えてるかしら?
        って言っても、七年前に、一度会ったきりだから、憶えてないかしら?」

〈ヽ8w8〉「……」

【+  】ゞ゚)「――それとも、獣にそんな事を聞くこと自体、間違ってたかしら?」

地獄の悪鬼は、金色に光る四つのアイカメラで真っ直ぐにオサムを見据えた。

413 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:06:01 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――そして言った。

〈ヽ8w8〉「貴様ヲ、殺シテ、シぃを幸セニすル」

【+  】ゞ゚)「そう……」

オサムの顔から、一瞬表情が消える。

【+  】ゞ゚)「なら、やって見やがれってンダよ!このクソ化け物があああああ!」

咆哮。
無数の緑光が地下の闇を切り裂いて乱舞する。

〈ヽ8w8〉「――SHAA…!」

身を沈めて、ギコが駆ける。
初速から最速へ、それは刹那の内に。

黒い水飛沫が、緑光に貫かれて水煙に変化する。
闇色の虞風が、エメラルドの格子の嵐を吹き抜ける。

【+  】ゞ゚)「くたばれ!くたばれ!くたばれ!アンタは!アンタは!アンタは!」

憎悪の塊を音にして吐きだし、オサムが吠える。
エメラルドの光条の一つが、ギコの右大腿を掠り、外骨格の装甲を削り取った。

ギコの体勢が、一瞬崩れた。

【+  】ゞ゚)「そこぉおおおおお!」

その隙を見逃さず、虚空から一斉に緑光がギコへと殺到する。
縦、横、斜め、前、後ろ、頭上、凡そ三次元の全ての包囲から飛来するそれは、回避不能。

414 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:06:48 ID:xtON.OOM0
――否。

〈ヽ8w8〉「clock-up」

ギコの金色の瞳が一瞬光る。
瞬間、彼の視覚野の中で、時間が汚泥の中にどっぷりと浸かった。

〈ヽ8w8〉「AAAAAARRRAAAAAGGHHH!?」

それは、光の速度をも超越した、究極の加速。
ニューロンが焼けつき、全身の人工筋肉が千切れる寸前の絶叫の大合唱を送る。

ドラッグホルダーから即座にペインキラーを投与。
痛みは殺し切れない。

それでも構っている暇は無い。
視線をさ迷わせ、脱出路を検索。発見。右斜め後方に微かな隙間。

身を沈ませ、手足を無理な姿勢にねじり、そこへ滑り込む。
その動作の直前で、泥沼の中から時計が浮上した。

【+  】ゞ゚)「死ぃいに腐れええええ!」

エメラルドの集中豪雨が着弾。
大瀑布となり、汚水を、コンクリートを、沸騰爆発させる。

黒々とした水柱が、高く、高く、上がり、汚水の雨を降らせる。
その中から、地獄の悪鬼が飛び出した。

〈ヽ8w8〉「GRAAAAAAATH!」

粘つくタールのような汚水の糸を引きながら跳躍するギコ。
悪鬼のような強化外骨格の各所からは、レーザー光により抉られた傷が煙を上げている。

415 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:08:34 ID:xtON.OOM0
全体損壊率25%。
視覚野の隅に表示された人体モデルが、右半身にかけて点滅していた。

『ふーん。どんな手を使ってくるかと思ったけど、オサムも相変わらずだねえ。
 ……うん。何てことは無い。ジャマーを起動しなよ。それで大概は何ともない筈さ』

脳核通信の向う側で、ショボンが欠伸混じりに言うのを聞きながら、ギコは制御中枢に命令を出す。
ドレッドヘアのようにして後頭部から伸びた、ワイヤー・スタビライザーの束が励起。
チェレンコフ光染みて青白い燐光を発する。

同時、下水処理施設の各所でバチバチという音が鳴り、鬼火のように浮かぶ髑髏型オービットの群れが露わになった。

『あっは。オービッドのデザインまで変わって無いよ。これはちょっと笑えるかも』

【+  】ゞ゚)「腐れ犬畜生がぁああああ…運良く生き延びやがってよおおおお!」

髑髏の群れが、ランダムな動きで宙を舞い、時間差でレーザー光を吐きだす。

『本当なら、無線機能そのものにまで干渉出来るスペックを用意したかったんだけど、そうなると小型化がちょっと難しくてね。
 でもまあ、君なら姿が見えただけでも十分だろう?』

光子の槍に合わせて身を捩り、ギコは飛び跳ねる。
発射地点と、発射角が分れば、そこからの弾道予測によりレーザー光をかわすのも不可能ではない。

否、それは“666”の規格外のスペックがあってこそ出来る芸当だ。
人間の反射神経、運動能力では到底それは到達し得ない、まさに神業の領域。


416 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:09:28 ID:xtON.OOM0
〈ヽ8w8〉「GYARRRAAHHHTH!」

剥き出しの牙めいた顎部装甲を開いて喀血しながら、ギコは背中の脊髄鞘から蛇腹剣を引き抜く。

刃の連結を解除。
鞭状にしならせたぶつ切りの刃で、レーザー光を受ける。
ミラーコーティングされた刃が、緑光を受けるそばから霧散させていく。

【+  】ゞ゚)「小細工を…化け物の分際でっ――!」

右手に日本刀型振動実剣を、左手に蛇腹剣を握り、汚水と緑光が飛び交う中で、剣舞うギコ。

跳ね、飛び、時に身を沈め、捩り、左手を振りまわしてレーザーを弾き、返す刃で宙の髑髏を貫く。
全身を軋ませ、血反吐を吐くその姿は、さながら修羅か悪鬼羅刹か。

〈ヽ8w8〉「AAAAALLAAAGGGGAAAAA!」

四つのアイカメラが、金色の光が、闇の中で残像を引きずりながら輪舞する。
七つの髑髏を落とされた所で危機感を覚えたオサムは、蛇腹剣のリーチの外へと残りの髑髏達を退避させる。

奇しくもそれは、自身もまた壁際に追いつめられるような形となった。
まるでそれを見計らっていたかのように、ギコの身体が弾丸のようにオサムへと直進して来た。

【+  】ゞ゚)「クソが!クソが!クソがああああ!」

自身の背後の宙空に退けた髑髏の口から、我武者羅にレーザーを吐きださせるオサム。

無意味。
発射角が見えている事に加え、直線的で立体性を欠いた弾道では、ギコが見切る事など造作も無い。

身を低く保ち、鞭状の蛇腹剣を振り回し、エメラルド光を弾きながら突っ込んでくるギコは地獄の暴風、漆黒の竜巻。

417 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:11:05 ID:xtON.OOM0
〈ヽ8w8〉「トォオオォオオドメエエエエ!」

地獄の悪鬼が、壮絶にして虚ろな咆哮と共に振動実剣を振りかぶる。
汚水を跳ね上げ跳躍、狙うは棺桶の上に立ち尽くすオサム。

【+  】ゞ゚)「フレェェェエエエッド!何を寝ていやがる!てめぇの出番だ!さっさと起きやがれえええ!」

憎悪と焦燥の蛇が吠え叫ぶ。
直後、オサムの足元の棺桶の蓋が内側から爆発したように跳ね跳び、鋼の質量が伸びあがった。

〈ヽ8w8〉「GRYU!?」

地雷の炸裂に嬲られるような怒涛の勢いで宙高く舞うギコの身体。
鋼の八つ腕が、八方からそれをがっちりと包み込んだ。

〔φ@φ〕「KHOOOOO……」

ガスマスクのようなクローム装甲の顔面が、苦しそうな呼吸音を吐きだしながら、ギコを見つめる。

ぎりぎりと締め上げてくる八つの腕は、配線が剥き出しの基礎骨格そのままなクレーンアーム。

棺桶の中から立ち上がったカーボンナノ装甲の下半身は、まるで蛇かムカデの様にとぐろを巻き、
汚水の中で痙攣するようにして脈打っていた。

【+  】ゞ゚)「ハァ――ハァ――ドイツもコイツも、化け物の癖に夢見てくれちゃって……そういうのさあ……虫唾が走るってのよね……」

汚水の中で片膝をついた姿勢で、オサムは頭上にそそり立つ“フレッド”と、その腕の中のギコを見上げる。
のっぺりとした鼻と、黒く縁取られた目元からは、どす黒い血の筋が幾本か垂れていた。

418 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:12:24 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ゚)「――殺すしか、ないのよ。壊れたら、それしか無いのよ。
        脳みそを弄られて、身体も弄られて…アタシ達みたいな奴らには――」

黄色の蛇の瞳が、束の間絶望に歪む。

【+  】ゞ゚)「フレエエエエッド!そのままソイツを絞め殺せ!バラバラに引き裂いて、ミートロ―フにしちまえ!
        プレジデントはそれをお望みだ!俺とお前で撃墜勲章だああああ!」

〔φ@φ〕「KHOOOO……!」

ガスマスクの間から、腐臭にも似た息を吐きだして、“フレッド”が絞め付ける力を更に強める。
みしみしと、ギコの強化外骨格が軋みを上げた。

<ヽ8w8>「GWHOOOO!」

【+  】ゞ゚)「殺して!殺して!殺して!ぶっ壊して!ボーナスをもらって!次の休暇は何処で過ごそうかしら!?
        ねえフレッド!アハハハハハ!フレエエエッド!聴こえてるかしらあああああ!?」

耳から、鼻から、目から、血を流しながら、上体を仰け反らせてオサムは吠える。
痩せ細ったその肩から、ボア付きのレザーコートがずり落ち、裸の上半身が露わとなる。

蝋人形のように生白い、骨の浮いた背中には何本もの無線制御用端子がサボテンの針のように突き立ち、
首筋のひと際大きな襟巻状の無線通信回路は、ぶすぶすと黒い煙を上げていた。

人の限界を超えた多重同時ジャックインに、彼のニューロンは焼ききれる寸前だった。

419 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:13:57 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ;)「フレッド!フレエエエエッド!また俺達の勝利だなあ!?向かう所敵無しだ!畜生め!
        本土に帰ったらこのままペンタゴンまでぶっ潰してやるか!?あの腐れ爺共をぶっ殺してやろうか!?そしたら自由だ!ハハハハハ!」

<ヽ8w8>「グ――ギギッ――」

〔φ@φ〕「KHOOO…!」

狂ったように血の涙を流しながら、泣き笑うオサム。
ギコの身体を絞め付ける腕に力を込める“フレッド”の目に、理性の光は無い。
首筋に巻かれた、無線制御用通信回路が、オサムの叫びに呼応するかのように点滅を繰り返すだけだ。

【+  】ゞ;)「俺達を縛るものなんかねえ!あの爺共をぶっ殺したら!
         もう、何も殺さなくて良いんだ!最高だ!最高だなあ!ええ!?そう思うだろう!お前もそう思うだろおおおお!?」

<ヽ8w8>「ググ――ギィ――ガッ――」

八つのクレーンアームの中でギコがもがく。

満身の力で絞め付けてくる“フレッド”の膂力は、ギコが知る由もないことではあるが、
先刻、環状ハイウェイの上に廃車のバリケードを築くのにも用いられている。

人間性を捨てて、理性を捨てて“フレッド”が手に入れたのは、高層ビル建設に用いるパワー・アームのそれだった。

420 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:15:02 ID:xtON.OOM0
『フレッド、フレッド、フレッド…ああ、居た居た、こいつかあ。そう言えば、こんな奴も居たっけなあ。
 何があったのか知らないけど、これまた随分と面白おかしい有様になっちゃってるねえ』

チタン製の内骨格に亀裂が入り、腕の人工筋肉が悲鳴を上げる。
そんな事はどこ吹く風とでも言わんばかりに、ギコの視覚野の隅でアノニマス表示のショボンがぶつぶつと呟く。

『ああ、大丈夫?抜けだせそう?無理そうなら言ってね?今回はデータ回収を優先したいかな、って思ってるからさ』

<ヽ8w8>「ガ――グッ――ギ――」

青と白の光学センサーフィルタを通したギコの視覚野に、ノイズが走り始める。
警告メッセージが、引っ切り無しに脳髄で鳴り響く。
遠くで、爆音が聞こえた。

〈ヽ§〉「ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!」

ドーム状のコンクリ壁の一部が崩れ、そこからクリーム色の強化外骨格を纏った一団がなだれ込んでくる。
対物アサルトライフルや、対戦車榴弾砲で武装した彼等の肩には、ナナフシ・ワークスの社章である「Ж」の字を横にしたようなマーク。

激しい銃撃の音が、ドーム状の地下空間に響き渡った。

【+  】ゞ;)「自由だ!自由ってのは素晴らしいなあ!?ええ!?
        爺共をぶっ殺したら、その次はお前をそんな身体にしたラボの連中を血祭りに上げてやろうぜ!
        復讐ってやつだ!みんな、みんな、俺達を縛りつける奴らは皆殺しだ!なあ!」

421 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:15:49 ID:xtON.OOM0
〔φ@φ〕「KHOOO…KOHH…!」

ギコの身体を絞め付けたまま、“フレッド”は突入して来たナナフシの私設部隊を、身を捩って見下ろす。

〈ヽ§〉「何だ、何なんだこの化け物は!?」

モノ・アイ型のカメラで“フレッド”の異形を認めた隊員達の間に、束の間戦慄が走る。
何人かが、その場で一瞬後じさりもした。
それでも、彼等は挫けそうになる士気を何とか保ち、その異形へ向けて銃撃を開始した。

【+  】ゞ;)「アタシ達は最強よ!最強のコンビなのよ!誰も、誰にも止められやしないわ!」

〔φ@φ〕「KHHOOO…!KHOOOO!」

鋼百足のような装甲板を、鉛玉の集中豪雨が容赦なく叩く。
鎌首をもたげるように上半身を捻ると、足元のナナフシ私設部隊に向けて、“フレッド”の巨体が突進を始める。

〈ヽ§〉「来るな…来るな…来るなああああ!」

矢じり型の陣形の先端で、隊長らしき外骨格が悲鳴を上げる。
闇雲に乱射された銃弾が、“フレッド”のガスマスクめいた顔面装甲に当たり、弾かれた。

胸の中にギコを抱き込んだまま、上体を叩きつけるようにしてフレッドは突進する。
ナナフシ私設部隊の隊員達がボーリングのピンか何かのようにして吹き飛ばされて宙を舞った。

あらぬ方向に放たれた対戦車榴弾が、ドームを支える柱の一本に着弾した。
地下空間が、束の間昼間のように明るく照らされた。

422 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:17:41 ID:xtON.OOM0
〔φ@φ〕「KHOOO!KHOOOOO!」

大瀑布のようにしてナナフシ私設部隊を蹴散らした“フレッド”の巨体は、勢いもそのままに下水ドームの中を突進する。

進行方向には、地下ドームを支えるコンクリの柱。
八つのパワー・アームでがっちりとギコを抱え込んだまま、“フレッド”はそれに正面から衝突する。

<ヽ8w8>「グヌ――オォ――グギ――」

最早それは、黒銀の砲弾か。
ギコを前面に押し出す形で、次から次へと柱に突進してはそれを砕く“フレッド”。

衝突の度に、全身を打ちつけられる衝撃がギコを襲う。

初撃の突進を運良くかわしたナナフシの隊員が、破れかぶれに対物アサルトライフルの引き金を引くが、
“フレッド”の怒涛の突進は止まらない。

〔φ@φ〕「KOHHHHHHHH!KHOOOOO!」

〈ヽ§〉「うわ!うわあ!うわあああああ!?」

丸太のような“フレッド”の蛇腹の下敷きになり、隊員の一人が悲鳴を上げる。
重戦車が如き行進に轢きずられ、クリーム色の外骨格の装甲プロテクターがひしゃげて飛び散った。

〔φ@φ〕「KHOOO…KHOOO…」

“フレッド”もまた、無傷ではいられない。

柱への衝突を繰り返した上半身は、所々の配線が千切れて火花を上げ、ガスマスク状の顔面装甲も剥げている。
ナナフシ私設部隊の放った銃弾も、カーボンナノ装甲の蛇腹にチーズめいた穴を空け、
そこからは潤滑油と人工血液がどぼどぼと零れ落ちていた。

423 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:18:50 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ;)「フレッド!フレエエエッド!俺達は最強だ!そうだろう!?
         俺とお前となら、何処までだって行ける!そうさ、あの爺共だって、殺せる筈なんだ!違うか!?」

それでも。
それでも、“フレッド”のパワー・アームを絞め付ける力が緩まる事は無い。

それは、オサムの無線制御のコマンドによるものか?それとも、“フレッド”自身の意志によるものか?

〈ヽ§〉「クソ!クソ!クソ!何だってんだ!何だって俺達がこんなに目に合わなきゃいけないんだあああ!」

ナナフシの生き残りが放った流れ弾が、オサムの裸の上半身に何発か食らいつく。
着弾の衝撃に枯れ枝のような身が傾ぐが、それでもオサムは倒れることなく泣き笑いを続ける。

【+  】ゞ;)「あいつらをぶっ殺して、逃げるんだ!もう、クソ共の言いなりになる事なんてねえ!
        南の島にでも飛んでよ…俺とお前と、気に食わないがあの娘も連れて行ってやるか。
        そこで、三人で好き勝手やって暮らすんだ!誰にも文句を言わせねえで、好き勝手によ!」

血の涙を流しながら頭上の“フレッド”に叫び続けるオサム。
突進を続ける“フレッド”の腕の中で、ギコの意識が薄らいでいく。
視覚野に亀裂が入る。黒い霞みが脳髄に降り始める。

<ヽ8w8>「――ゴフッ」

視界が、赤黒に染まっていく。

424 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:19:57 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――交差点でブレーキを踏む。ビルのネオンが降り注ぐ。人の波が、黒と白の縞の上を渡っていく。
ぼんやりと眺めていると、横合いから腕を掴まれた。

o川*゚ー゚)o「……」

無言で見つめてくる、キュートの大粒の瞳は、何時ものように俺の薄汚れた心を流れ弾のように削り穿って行く。

('A`)「……」

俺は、適当に冗談めかした表情を作って、視線を逸らそうとした。
キュートの指が、腕に食い込んだ。

o川*゚ー゚)o「……本当に、行かせて良かったの?」

バックミラーの中で、ハインリッヒが自身の指先をぼんやりと見つめている。
交差点の中央では、酔っぱらったサラリーマンが座り込んで何やら熱心にクダを巻いていた。
俺は、溜息をついてキュートの指を剥ぎ取った。

425 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:21:07 ID:xtON.OOM0
('A`)「良いか良くないかで言えば、どっちでも無いな」

o川*゚ー゚)o「それ、答えになって無い」

流麗なキュートの眉が、真面目に答えろと俺を糾弾する。
肩を竦めてみせると、その表情が更に険しくなった。

o川*゚ー゚)o「……単純な話じゃない、ってのは分るよ。私も、そこまで馬鹿じゃないし。――でもさ」

('A`)「俺にあいつを止める権利は無い」

o川*゚ー゚)o「それは言いわけでしょう?」

自身の胸中で今しも自己嫌悪の台詞として使おうと思っていた言葉を、彼女が先に口にした。

o川*゚ー゚)o「事情はさ、詳しく分んないけど。それくらい、私にだって察しがつくって言うか――」

('A`)「肩入れする、義理は無い」

o川*゚ー゚)o「……」

俺達は、それから少しの間押し黙った。
交差点の真ん中の酔漢は、寝転がった拍子に企業警察の巡視員に引きずられ、路地の暗がりに消えた。

信号が青になって、車の波が動き出す。
後部座席のハインリッヒは、相変わらずの仏頂面で流れ行く景色を見るともなしに眺めていた。

426 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:22:26 ID:xtON.OOM0
('A`)「――そのうち、慣れるさ。こんな業界じゃ、ごろごろ転がっている様な話だからな」

歩道橋の上を飛ぶ、浮遊型街頭モニターの液晶パネルの中で、ムービースターがタフガイらしい笑みを浮かべている。
右手に銃を、左手に美女を抱いた彼の背後で、作り物の爆発の華が咲いた。

ここから数キロもいかない環状ハイウェイの上では、昼間に爆発事件があったらしい。
つい二時間前に、携帯端末で知った情報も、こうして思い出しもしなければ、脳核の隅で錆ついて行った事だろう。

o川*゚ー゚)o「どっくんはさ、もう慣れたの?」

('A`)「……」

どうだろうか。
俺は、この灰色の日々に慣れたのだろうか。

o川*゚ー゚)o「慣れたら、ダメなんだと思う。それは……」

俯きがちに言って、キュートはもう一度俺の腕を掴む。

o川*゚ー゚)o「……ねえ、辛くなったら、言ってね。お酒くらいなら、付き合うから」

潤んだ瞳で、真っ直ぐに俺を見つめるその瞳から、目を逸らす。

('A`)「で、その後の面倒も見てくれるのか?」

耐えきれず、冗談が口をついて出た。
キュートの顔が、みるみる真っ赤に染まる。

427 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:23:53 ID:xtON.OOM0
o川*//へ//)o「ど、どっくんの馬鹿!知らない!」

俺の腕を抓って、キュートはぷいっとそっぽを向く。
「人が本気で心配してあげてるのに」、とぼそりと呟く彼女を横目で見ながら、俺の口から乾いた笑いが漏れた。

('A`)「はは、冗談だ。本気にするな」

そうだ。
これでいい。良くなど無いが、これでいいんだ。

从 ゚∀从「おい、運転手。局地的な温暖化のせいで車内が釜茹で地獄だ。冷房を上げろ」

o川*//Д//)o「ハ、ハインちゃんまでにゃにゃにゃに言ってるの!べ、別にそんなんじゃ――!」

从 ゚∀从「“にゃにゃにゃにゃ”か。ドクオ、今のは何点だ?」

('A`)「うーん、三十七点かな。無自覚だというので加点して、五十八点って所か。
   萌えるにはちょっと時代的に遅いかなあと」

o川*//Д//)o「ふ、二人して私を馬鹿にし腐ってからにぃい!」

空気の読める相棒の茶化しに、一瞬にして車内のムードが百八十度で転換する。

俺はアクセルを緩めない。

今はただ、“車”を転がす事だけを考える事にした。

428 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 13:24:28 ID:4BDREpvo0
おお 来てる
支援

429 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:24:53 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――ギコは、実の親の顔を知らない。

物心がついたころには、彼は万魔殿の裏路地でナイフを握り、その日のパンと寝床を他人から奪って生きていた。

生きる為なら、自分よりも背の高い大人の男にすら牙を向けた。
毎日、血の臭いを落とす為にドブ川で身体を洗っていたような憶えがある。

その頃の記憶はあまり確かではない。
その日、その瞬間を生き残る為に精一杯だったためだろうか。
少なくとも、彼自身、それが思い出したくない記憶である事は確かだろう。

ともあれ、彼の「人生」が動き出したのは、一人のヤクザと出会ってからだった。

西村組の頭目を名乗るその人物は、どんな気紛れからか、彼を拾って寝床を与えたばかりか、学校にまで通わせてくれた。

温かい食事と、安心して眠れる寝床。
そして、何より家族と呼べる人物ができた事は、ギコの人生の中で一等に価値のある事だった。

当時のギコは、毎晩ベッドの中で眠りに就く度に思ったものだ。

「果たして、こんなに幸せでいいのだろうか?
 薄汚い出の自分が、ヤクザとはいえこのような心やさしい人々に囲まれて、
 何の不自由も無く暮らしていて、本当に良いのだろうか?
 その内、天罰が下るのではないだろうか?」

彼の予想は、皮肉にも現実のものとなった。
恩人にして実の父のように接してくれた、西村の頭目が殺されたのだ。

それは、あまりにもあっけない幕切れでもあり、幕開けでもあった。

430 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:26:05 ID:xtON.OOM0
その時よりギコは、刀を手に取り復讐の道をひた走ってきた。

父同然の存在を殺めた綾瀬会と陣龍の事務所を襲った。
憎悪を叩きつけるように、手当たり次第に殺して回った。

綾瀬会は潰えた。
それは、ギコがまき散らした殺戮とは、また別の形で終焉を迎えた。

復讐はそれでも終わらなかった。残った陣龍との抗争は長らく続いた。
多くの人々が、ギコの手に掛り、もしくはギコが救いきれずに、死んでいった。

西村が消えた。義兄がオオカミを興した。

そして、あの冬の日がやってきた。

結果から言えば、ギコは世界に二人ぼっちになってしまった。

志半ばで義兄は倒れ、彼が興したオオカミは消滅。
後には、無様に生き残った自分と、忘れ形見の義妹だけが取り残された。

それは恐らく、代償なのだろう。
仇ばかりを追いかけ続け、手当たり次第に殺戮をばら撒き続けてきた、それはギコへの罰なのだろう。

ギコは思う。

だからこそ、終わらせなければならない。
連綿と続く、この復讐の鎖を断ち切らなければならない。

そして、何が何でも守り抜かなければならない。
最後に残った絆を。自分に残された、最後の希望を。

何時か。
何時か、全てを終わらせた後に、再び帰るべき場所が無くならないように。
命を賭してでも、守り抜かなければならない。

431 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:27:09 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――“フレッド”は……“フレッド”と無線接続により繋がったオサムは、その時、自らの八つの腕の中に、微妙な違和感を覚えた。
それは、よくよく注意しなければ気付けない、ともすれば気のせいとして忘れ去られてもおかしくない、とても小さな違和感だった。

<ヽ8w8>「……」

彼の標的が意識を失ってから、数十秒が経過している。
その間も“フレッド”は柱や壁面、地面に向かって絶え間なく衝突を繰り返し、更なる追撃を加え続けてきた。

如何様に強固な装甲を誇る強化外骨格と言えども、内臓までは鎧うことは出来ない。
これだけの衝撃を加え続けたのだ。既に肺あたりが潰れていてもおかしくない。

事切れこそすれ、それが動き出す事など、決してありえない。

あり得ない、筈だ。

<ヽ8w8>「……――ィ」

それなのに。

<ヽ8w8>「――シィ」

髑髏めいた顎部装甲が僅かに開閉し、呟きが漏れる。
“フレッド”の聴覚と繋がったオサムは確かにそれを聴いた。聴いたうえで、八つの腕に更に力を込めた。

432 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:28:11 ID:xtON.OOM0
〔φ@φ〕「GHOOOOO!」

所詮は虫の息だ。
このまま力を込めれば、数秒と経たずミンチだ。

<ヽ8w8>「シィ…シィ…シィ……」

うわ言のように標的は一つの名前を繰り返す。
オサムは、“フレッド”のパワー・アームのリミッタ―を外した。

そこまでする必要など無いと、理性では理解していた。それでも、彼はそうせずに居られなかった。

【+  】ゞ;)「クソが…クソが…アタシ達は無敵なのよ…無敵なんだから……!」

濃密な白い蒸気を吐きだして、“フレッド”のパワー・アームが苦鳴のような軋みを上げる。
無線制御リンク用のソケットを通して、フレッドの八つ腕の感触が、オサムのニューロンに流れ込んでくる。

硬い、金属の感触。このまま、押しつぶしてやろうと力む。
力むが、腕が動かない。

【+  】ゞ;)「な――」

なんで。
そんな筈は。まさか、抗っていると言うのか?

<ヽ8w8>「シィ…シィ…シィ……」

息をするだけでも精一杯な筈なのに。
声を発するだけでも血を吐きだしそうなのに。

あのギコとかいう男は、それでもまだ抗っているというのか。

433 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:29:24 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ;)「なんで……」

なんで。
そこまでして抗って、何になるというのだ。

<ヽ8w8>「シィ…シィ…シィ…!」

ギコの黒い装甲の下で、人工筋肉が千切れるぶちぶちというくぐもった音が響く。
装甲と装甲の継ぎ目から、人工血液と潤滑油が勢いよく噴き出す。

無駄だ。強化外骨格を着ていようが、人間一人がどうこう出来る様なものではない。

それなのに。

【+  】ゞ;)「なんでよ…無駄なのに…そんなことしても、無駄なのに……」

<ヽ8w8>「シィ…!シィ…!シィ…!」

【+  】ゞ;)「無駄だって言ってんでしょおおおおおおお!」

血塗れの叫びと共に、“フレッド”の身が蠕動して再び突進を開始する。
宙でくねらせた上半身は、折れた柱の礎部、尖って槍のようになったそこへとギコを叩きつけるべく進む。

【+  】ゞ;)「抗ったって無駄なのよ!どうしようもないのよ!
         所詮化け物は化け物でしか無いのよおおおおお!」

オサムのニューロンの中を、様々な光景が過っては消えて行く。
初めての殺し。初めての任務。肉体改造。髑髏と骨。首輪。楔。楔。楔。傷。

そして、檻。

視界いっぱいに広がる檻。どうやっても破る事の出来ない檻。

434 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:30:22 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「――」

轟音が響いた。
衝突によって舞いあがった土煙が、地下の下水処理施設を満たした。

【+  】ゞ;)「うっ…うっ…ああ…ああええ……」

血の嗚咽を漏らし、オサムは汚水の中に膝をついた。
彼には既に分っていた。

【+  】ゞ;)「何でよ…何でアンタは……」

土煙が、晴れて行く。
槍のように尖った柱の礎部。胸郭を貫かれ、動かなくなった“フレッド”。

配線だらけのその背中に、体重を感じさせない様子で降り立つ影。

<ヽ8w8>「……」

装甲と装甲の継ぎ目から、千切れた人工筋肉の繊維をぶら下げて。
開き切った顎部装甲の間から、赤黒い血の筋を幾つも垂らして。

半死半生の様相で、それでも四つのアイカメラを爛々と光らせて、オサムを真っ直ぐに見据えるその影は。

<ヽ8w8>「シィが待っている。手短に終わらせるぞ」

【+  】ゞ;)「…アンタは…アンタは…アンタは……」

汚水の中で、オサムはぬらりと立ち上がる。
ギコが両手の得物をそれぞれに構える。

435 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:31:40 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ;)「アンタはああああああああああああああ!」

オサムが、叫んだ。
周囲の髑髏が、一斉に口を開いた。
ギコが、右脚に力を込めた。

「邪魔してんじゃねええええええええええええええええええええ!」

咆哮が、オサムの胸を貫いた。

【+  】ゞ;)「な――」

オサムの口の端から、血の筋が一筋垂れる。

【+  】ゞ;)「なんで――」

彼は、自身の胸を見下ろした。
赤黒い槍が、背中から胸板までを貫いていた。

なんで。

もう一度呟こうとする前に、彼の身体は汚水の中に倒れ込んだ。
髑髏の群れが、一斉に落下して虚しい水音を立てた。

「私はよお、ガッコなんか碌に行って無かったから、間違ってるかも知れねえけどよ……。
 良く言うだろぉ?人の恋路を邪魔する奴は……ってよぉ」

ドーム状の壁の上部。
四メーターほどの高さに空いた下水口の暗がりから、汚水を跳ね上げて歩いてくる者が居た。

436 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:33:19 ID:xtON.OOM0
(*゚∀゚)「――邪魔、してんじゃあねえぜ。ええ、オサムさんよお?」

赤黒い触手を右の手首の傷口から伸ばしたそれは、ツーだった。

【+  】ゞ )「アンタ――は――」

がぼがぼと喉を鳴らすオサム。
その胸板を貫く触手をするすると手元に戻して、ツーは下水口から飛び降りる。

ギコは、我が目を疑った。

(*゚∀゚)「ようやくだ。スゲー、面倒だったけどよ。ちゃあんと、準備も整えてきた」

ツーの左脇。
米俵のようにして抱えられたそれが、もぞもぞもと動く。

(*゚∀゚)「――これで、アタシの事を見てくれるだろ?」

「――コにぃ……」

(*゚∀゚)「否が応でも、アタシとヤらなきゃなんないだろぉ?」

437 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:34:22 ID:xtON.OOM0

 

 

(*;ー;)「助けて……ギコにぃ」

 

 



438 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:35:12 ID:xtON.OOM0
(*゚∀゚)「なあああ!ギコォオォォォォォオォォオォォォォオ!」

凶声。
殺到する血の刃。

<ヽ8w8>「お前は――」

束の間、ギコは深く息を吸い、吐き出してからそれを見つめ。

<ヽ8w8>「――お前は、殺す」

短く。
だが、それでもはっきりと。
純粋な殺意の言葉と共に、地を蹴った。

439 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:37:53 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――爆音、轟音、そしてノイズ。
金属の悲鳴を吐き出し続ける無線機から耳を離し、通信兵は背後のジョルジュを仰ぎ見た。

(;´・L・`)「せ、先遣隊壊滅…続く第二小隊も、全20人のうち、11人が死亡、残り9人は負傷で身動きが取れない状況です」
 _
( ゚∀゚)「……ふーむ、これはまた手強い相手ですなあ」

オールバックから一筋だけ額に垂れた金髪をいじりながら、ジョルジュはそれに返す。
仮設作戦本部となった電脳基地めく小型バンの中には、彼とナナフシの通信兵の二人の他に姿は無かった。

(;´・L・`)「わ、我々が出せる戦力はこれで全部です。もしも増援をお呼びになられるなら――」
 _
( ゚∀゚)「いや、その必要は無い」

(;´・L・`)「ええっと……」
 _
( ゚∀゚)「今、目撃者を増やすような事を、何故する必要がある?」

(;´・L・`)「――は?」

通信兵が疑問を顔に浮かべた時には、既に遅かった。

440 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:39:01 ID:xtON.OOM0
 _
( ゚∀゚)「――今、車内には君と僕だけしかいない。だから、いいんじゃあないか」

ぐしゃり、と。
湿った音を立てて、通信兵の頭が、軽装ヘルメットごと、砕けた。
ごとん、と。
重苦しい音を立てて、刺鉄球が、小型バンの床に転がった。
 _
( ゚∀゚)「――ふう。やれやれ、“使い捨ての偵察機”と言えども、人が死ぬ所を見るのは心が痛むね」

背広の胸ポケットから煙草を取り出し、ジョルジュは眉一つしかめずに呟く。
彼の背後の空間がぐにゃりと歪み、刺鉄球の主がその姿を現した。

ミ*゚∀゚彡ノ「はい!せんせー!フーそれ知ってまーす!“ぎまん”って言いまーす!」
 _
( ゚∀゚)y-~「いいや、違うよフー。これはね、“礼儀作法”と言うんだよ」

ミ*゚∀゚彡「れいぎさほー?」
 _
( ゚∀゚)y-~「ああ、礼儀だ。ニホンに古来より伝わる、とっても由緒正しい、洗練された言語モデルなんだ。
     大人の社会ではね、偉くなればなるほど、この“礼儀”がしっかりしてるかどうかが、重要になってくるんだよ」

ミ*゚∀゚彡「ほえー」

441 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:41:39 ID:xtON.OOM0
 _
( ゚∀゚)y-~「うちのワタナベ会長もよく仰ってるだろう?“誠に遺憾でありますが”だとか、
      “前向きに検討します”だとか、“誠心誠意、問題解決に向けて善処します”だとか、さ」

ミ*゚∀゚彡「おー!そうだ!そいえばアヤカちゃんも言ってた!
     こないだも目ん玉のじーちゃんに“まことにいかんであり、とーしゃとしてもふほんいなじたいです。
     なので、まえむきにけんとーしたうえで、せいしんせーい、もんだいかいけつにむけてぜんしょします”って!言ってたぞ!」
 _
( ゚∀゚)y-~「彼女ほど偉くなると、いついかなる時でもすらすらと“礼儀”に則った会話が出来るものなんだ。
       それほど、彼女が大人のレディーとして洗練されている証拠だね」

ミ*゚∀゚彡ノ「なるほどー。それじゃあフーも大人のれでぃーになる為に“れいぎ”を頑張りたいと思います!」
 _
( ゚∀゚)y-~「うむ。大いに励みたまえ」

ぴょこん、と跳ねて手を上げるフーの頭をくしゃりと撫でてから、ジョルジュは携帯端末を取り出しコールする。
  _
【( ゚∀゚)y-~「ジョルジュよりアンダータスクへ。ナナフシ先遣隊の全滅を確認。予定通り、回収作戦の第二段階へ移行する」

手短に用件を伝え、終話ボタンを押した所で、つぶらな瞳が彼を見上げていた。

442 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:43:11 ID:xtON.OOM0
ミ*゚∀゚彡「なーなー、フーのお仕事はまだー?」
 _
( ゚∀゚)「ああ、今丁度その話をしていた所だよ。大丈夫、もう直ぐさ」

ミ*゚∀゚彡「おお!?マジで!?」
 _
( ゚∀゚)「ああ、“死ぬほど眠たくなーるガス”で地下の皆さんが“お休みになられたら”、また連絡が入る。
     そしたらフーが下に降りて行って、“目標物”を“拝借”してくるんだよ」

ミ*゚∀゚彡「おおー!ジョ“オ”ジュの“れいぎ”もすげーなー!」
 _
( ゚∀゚)「はは、そうだろう?なんたって僕も、いっぱしのジェントルメンだからね」

ミ*゚∀゚彡「じぇんとるめん!?じぇんとるめんすげえー!なあなあ、フーもじぇんとるめんなれる!?」
 _
( ゚∀゚)「さーて、どうだかなあ……」

双眸に綺羅星を瞬かせるフーに苦笑を返して、ジョルジュは彼女の頭に掌を乗せる。
腕時計の針が、作戦決行の時間へ向かってのろのろとした歩みを進めていた。

443 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:43:55 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――ふわり、と自らの身体が宙を舞った次の瞬間。
シィは、化け物の伸ばした赤黒い血の鎖によって、自分が天井からぶら下げられた事を知った。

(*゚∀゚)「ギィィイィイイィィイコォォオオォォオオ!」

<ヽ8w8>「AAARRRAAHHHA!」

真っ暗で、臭くて、広い、地下空洞。
眼下には、浮島のような管理小屋。
そして、その足元でぶつかり合う、二つの異形。

(*;へ;)「ギコ、にぃ…?」

数十分ほど前。
突如として、病院の窓ガラスを突き破って現れた、異形の風によってここまで連れて来られる間。
彼女は、途切れることなくその名を呼び続けて来た。

(*゚∀゚)「アヒャヒャヒャヒャ!楽しい!楽しいねえ!これだよ!これ!この感じだ!」

<ヽ8w8>「殺す。――殺す」

(*゚∀゚)「それだよ!それ!それが!欲しかったんだ!私はさああああ!」

だが。
何だ、これは。
ギコ。あの化け物が。あの、黒い悪魔のような異形が、ギコだと。そう、言うのか。

444 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:44:50 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「貴様は、殺す。内臓を引きずり出し、殺す。全身の骨を砕いて、殺す。
      血管の中の血を1cc残らず絞り出して、殺す。脳髄を砕きミンチにして、殺す」

全身を軋ませ、二振りの刀を振るい。
悪鬼のような鎧を身に纏い。
憎悪と怨嗟で編んだ殺意を剥き出しにして切り結ぶ。

あれが。
あれが、自分の義兄の姿だと言うのか。

(*;へ;)「ああ…ぅあ…あぁ……」

そんな筈は無い。
自分の知っている兄は、あんな、化け物のような姿をしていない。

ギコは。ギコにいは。

(*゚∀゚)「ヒャヒャヒャヒャ!アーヒャヒャヒャ!たまんねえ!たまんねえぞお!ええ!
     これじゃ、今すぐにでもイっちまいそうだ!ウェヘヘヘハハア!嬉しい悲鳴が出ちまうぜええええ!」

<ヽ8w8>「――耳障りな声だな。先ずはその舌を切り落としてくれる」

私の知っているギコにいは、こんな。

(*;へ;)「こんな――」

私の知っている?
何を、知っている?自分は、ギコの、何を知っている?

445 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:45:44 ID:xtON.OOM0
(*;д;)「あぁ……――」

知らない。
私は、ギコにぃの事を。
病室の外の彼を。
ベッドの前ではにかむようにして笑う彼の、その下に隠した顔を。
私は、何も知らない。

(*゚∀゚)「アアアア!良いぜ!良いぜえ!もっとだ!もっと強く!もっと激しく!もっとくれえええ!」

<ヽ8w8>「GRRAAATH!」

(*;д;)「私……」

あの日、あの時、あの冬。
世界にたった二人だけになったあの夜。
もう、こんな仕事は止めにすると。もう、側を離れないと言った彼の言葉に安心して。

私は、見ようともしなかった。
知ろうともしなかった。
彼が、どれだけの憎悪と呪詛と血に塗れて、日々を生きて来たのかを。
その苦しみの一端も、何も知らないで。

<ヽ8w8>「死ね…死ね…死ね…死ね…死ね…――苦しんで、死ね」

たった一人で苦しんで。もがいて。足掻いて。
こんな姿に成り果てて。

(*;д;)「ごべ――ごめんなさ――私――」

涙が頬を伝った。
後悔が、胸の底から湧きだしてきた。

446 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:47:11 ID:xtON.OOM0
(*;д;)「なんで……」

なんで、私の脚は動かないのだろう。
脚が動いたのなら、こんな事になる前に、気付いてあげられたのに。
病室を出て行こうとする彼の後を追えたのに。

だって、そうだ。
私には、分かるんだ。
彼は、ギコは、ギコにぃは、そういう人だ。

いっつも一人で抱え込んで。
大事なことは、何も話さないで。
私が。私の脚が動かないから。私のことを、守るだとか、勝手に背負いこんで。

だから、私がちゃんと聞いておかなきゃいけなかったのに。

(*;д;)「ギコにぃ…ギコにぃ…ギコにぃ……!」

汚水の上では、未だに化け物たちの殺し合いが続いている。
最早それは、人間の領域を逸脱した自然災害に近かった。

(*;д;)「……」

シィは、祈るように目を閉じた。
助けて、という言葉を飲み込んだ。
無力感を噛みしめながら、彼女はただ、我武者羅に胸の中でその名前を呼び続けた。

447 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:48:42 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――人工筋肉は、とっくの昔に限界を迎えていた。

<ヽ8w8>「AAAAAAAAGH!VHGAAAAAAAEEE!」

脊椎を中心とした神経系も、既に焼き切れる寸前だった。

(*゚∀゚)「アヒャヒャヒャヒャ!いよいよ獣らしくなってきたぜええええ!たまんねえなあああ!」

それでもギコは動き続けた。

“フレッド”のクレーン・アームから抜け出した時点で、彼の内骨格は急激な疲労骨折により三割が使い物にならなくなっていた。
ツーの初撃をかわす際の神経加速で、人工培養の肺には大きな穴が空いていた。

それでも彼は止まらなかった。

最早、妄執に近かった。

本能が、彼を突き動かしていた。

448 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 13:49:38 ID:xtON.OOM0
■お昼寝をするぞ■

449 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 13:53:11 ID:4BDREpvo0
かわいいなおい

450 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 13:54:30 ID:/CLIVcps0
ゆっくりおやすみw

451 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 15:47:08 ID:qLk0D7M20
おやすみ

452 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 16:39:12 ID:vEnWOG16O
不覚にも吹いた

453 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:15:29 ID:xtON.OOM0
■ホーク、フジ=ヤマ、おナスが強い■再開だ■

454 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:16:51 ID:xtON.OOM0
(*゚∀゚)「もっと!もっと愛し合おうぜええええ!
    なああギコォォォオオ!愛してるんだあああああ!」

赤黒の刃の群れ。
我先に、入り乱れるよう、絡まり合うように殺到する、血の豪雨。

上半身を逸らし、右足だけで飛び、左腿を掠った一本を日本刀型振動実剣で切り捨て、頭を狙って飛び来るもう一本を歯で噛んで止める。

<ヽ8w8>「シィを…シィを…シィを……」

着地。
全身の装甲の隙間から人工血液と潤滑油が噴き出すが無視。
走る度、装甲板が剥がれ落ちるがそれも無視。
刀を握って再びの低跳躍。右足の腱が乾いた音を立てて千切れたが無論無視。
赤黒の槍が胴を、腿を、肩を、腕を、胸を、貫いていたが、しかし無視。
蛇腹の刃を振るって触手の群れを切り払い、開けた視界、日本刀を振り抜く。

<ヽ8w8>「シィィィイイイィィイイィィイイヲヲヲヲヲヲ!」

それは、呼びかけではなく、咆哮。
空気を、原子を切り裂く、神速の一撃。

(*゚∀゚)「ヒャヒャヒャヒャヒャ――!」

赤黒の触手の塊となったツーが、狂笑する。
黒鋼の悪鬼が、その横を駆け抜ける。

455 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:18:31 ID:xtON.OOM0
汚水が跳ねあがる。
血の飛沫が踊る。
時間が止まる。

<ヽ8w8>「――」

(*゚∀゚)「――」

どさり、と音がする。

(*゚∀゚)「ゲ――ブッ――」

ツーの首が、ぐらりと傾ぎ、そのまま汚水の中に転がった。

<ヽ8w8>「ハァ…ハァ…アア…アアア……」

ギコは、振りかえらなかった。
日本刀型の振動実剣を振り抜いたままの姿勢で。それは、残身のようでもあった。
四つのカメラ・アイは、金色から一点、仄暗い鬼火の赤に変じていた。

<ヽ8w8>「シィ……」

彼は、最後の力を振り絞るようにして、首を上向けた。
ドーム状の天井の錆ついた鉄パイプから、血の鎖で吊るされた、“彼の唯一の希望”を見上げた。

(*;д;)「ギコにぃ…!良かった…良かった……」

<ヽ8w8>「――今、迎えニ、行く、かラ、な」

456 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:19:36 ID:xtON.OOM0
彼は、腱の千切れた脚を踏み出した。
意識は既に混濁していた。
ただ、その身体だけが、機械的に動いていた。

『バイタル低下…40、34、29…限界か。――いや、よくもここまでもったものだ、と言った方がいいか』

既に罅割れまともな映像を映さなくなった視覚野の隅で、ショボンが驚嘆の声を上げる。
その声も、ギコには既に聞こえていなかった。

主を失った血の鎖がずるりと解け、シィの身体が重力に引かれる。
滅茶苦茶になった世界の中で、ギコはその様子をスローモーション映像のように認めながら、両腕を広げた。

<ヽ8w8>「ヤッ――ト――」

(*;ー;)「ギコにぃ…!」

とすん、と。
羽毛のように重さを感じさせないシィの身体を抱きとめて。
その軽さに、その壊れやすさに。ギコは泣きたくなるほど悲しい気持ちになった。

(*;д;)「ごめんね、ギコにぃ。あたしが…あたしが、気付いて上げるべきだったね…もっと、ちゃんと見ていてあげるべきだったね……」

嗚咽交じりに「ごめんね」を繰り返しながら、胸郭装甲に頬を寄せるシィ。
栗色の髪。入院服の裾から覗く、か細い四肢。華奢な肩。
その全てを、抱きしめたくて。抱きしめたらば、壊して、握りつぶしてしまいそうで。
ギコは、ただ、ただ、首の下と腰の下にあてがった腕を、動かせないままに、立ちつくしていた。

457 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:23:28 ID:xtON.OOM0
(*;д;)「もう、離さないから…どんなことがあっても、絶対離さないから……。
      もう、何処にも行かないで…ねえ…お願い…今度こそ、離さないから……」

<ヽ8w8>「……」

泪と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、それでもシィは弱弱しい笑みを向けて来る。

――ギコは、泣いた。
その日、彼は人生で初めての涙を流した。

けれど、彼には涙を流す涙腺が無かった。
泣き顔を作る顔面括約筋が無かった。

ギコは、だから、心で泣いた。
悪鬼のような忌まわしい形相のまま、彼は返す言葉もなく、立ち尽くした。

(*;ー;)「――ねえ、約束。これからは、ギコにぃが辛い時は、あたしにちゃんと話すこと。
     何か、悩みがある時は、あたしに相談すること。一人で背負いこまないで。ね?
     あたしたち、たった二人の家族なんだから……」

泣き笑いのままに、シィは小指を立てて突き出す。
ゆっくりとシィの身体を瓦礫の上に降ろすと、ギコは恐る恐る自らの小指を差し出した。
節くれだった鋼のそれを、シィの細い指が絡め取った。

(*;ー;)「……ゆびきりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーます。ゆびきった」

震える声でそらんじて、シィが指を離す。
小指と鋼が離れる。
ギコは、その瞬間を、間延びした意識の中で何時までも何時までも見つめていた。

458 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:25:02 ID:xtON.OOM0
何時までも、何時までも、見つめていたかった。

<ヽ8w8>「ココデ、待っテイろ」

(*;ー;)「え?」

シィの顔が、一瞬歪んだ。
ギコは、背後を振りかえった。

<ヽ8w8>「――全テ、終ワラセテクル」

苦鳴のような歪んだノイズ音声に答えるよう、闇の中で動くものがあった。

「ついてみたら祭りの後かと思ったが…やれやれ…どうにも、間にあっちまったみたいだな」

ギコは、足元の振動実剣を拾う。
壁際の下水口から這い出してきた人影が立ち上がる。

<ヽ●∀●>「――よう、犬っころ。来てやったからには、持て成せよ。勿論、お前流のやり方でな」

二丁拳銃を構えたニダーが、そこに居た。

459 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:26:10 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――とても寒かった。それは、多分、長い間下水の中を這いずってきたからだけでは無い。
ニダーは、そんなことを考えながら、一歩を踏み出した。

<ヽ●∀●>「なあよ、ここまで来るには随分と長かった。
      どうだい、ここは一つ趣向を凝らして、おっぱじめる前に打ち明け話の一つでもしねえか?」

まっすぐに、ギコを見据えたままで、ニダーは両手を脇にだらりと下げた。
どうしてそんな言葉が口をついて出たのかは、彼にも分からなかった。
随分と、ナーバスになったものだ、と口の端に自嘲の笑みが浮かぶのが分かった。

<ヽ8w8>「……」

ギコは、何も反応しなかった。
幽鬼のように立ち尽くしたまま、その四つの眼をぼんやりと赤く光らせていた。

<ヽ●∀●>「思えば、お前さんとウリの因縁も随分と長い事になっちまった。
        妙な話だぜ、全くよ。今じゃ、お前さんが昔別れた恋人か何かみてえに思えちまう」

ふざけた話だ。
そう、吐き捨てる様に次いで、彼は懐からしけった葉巻を取りだした。
それから懐をまさぐった。目当てのものは、そこには無かった。

<ヽ●∀●>y―「ああ、参ったな。ここに来る途中で落としちまったか……。
        なあ、お前さん、火ぃ、持ってねえか?」

460 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:28:20 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「……」

ギコは、無言で首を振った。

<ヽ●∀●>y―「――そうかい。まあ、どの道しけっちまって火なんかつきやしねえだろうがな……」

何でもないように言って、ニダーは火のついていない葉巻をくわえたまま、天を仰ぐ。
天井に空いた、一際大きな下水口が見えた。
まるで、鼠捕りの仕掛けの中に居るみたいだな、と思った。

彼は、大きな溜息をついた。
それから、気だるげに丸サングラスを外した。

<ヽ†∀´>y―「“覚えてるか?ヒッキーを。覚えてるか?お前さんに付けられた、この傷を。
        ウリは忘れもしない。目を閉じる度にこの傷が疼くからな”」

そこで一旦言葉を切り、ニダーは肩を竦めた。

<ヽ†∀´>y―「我ながら、こっぱずかしい話もあったもんだな。
       道中で聞いたが、どうにもウリがお前さんだと思って撃ったのは、
       別人さんらしいじゃあねえか。ええ?こいつぁ傑作だな」

乾いた笑いが、ニダーの肩を震わせた。
ギコは、それに僅かに拳を握りしめた。
だが、彼はそれ以上は動かなかった。

<ヽ†∀´>y―「……笑えるぜ。とんだ笑い話だよ、これは。
       それで復讐が終わったと思って、ウリは昨日まで高鼾をかいていたんだ」

461 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:29:46 ID:xtON.OOM0
ニダーは、ひとしきり笑い続けた。
枯た柳のような笑いだった。

やがて、彼は大きな溜息とともに口を閉じた。
そうしてもって、再びサングラスを掛け直した。

<ヽ●∀●>y―「――なあ、ウリはもう疲れちまった。仇だとか、復讐だとか、
       そう言った大義名分を振り回して、やんちゃするには、疲れっちまったんだ」

<ヽ8w8>「……」

ギコの四つの瞳が、相槌を打つかのように赤く点滅した。
ニダーは、火のついていない葉巻を吐き出した。
ぽちゃん、という酷く惨めな音をたてて、汚水に小さな波紋が広がった。

<ヽ●∀●>「だがよ、ウリはそんな風に腐れ落ちていく自分を許せそうもねえ。
      ヒッキーの仇打ちを成し遂げられないまま、老いぼれていくてめぇを許せそうもねえ」

ゆっくりと、ニダーが右の手の拳銃を構えた。

<ヽ●∀●>「だからよ、せめて。せめて、ウリがアイツの事に拘っていられる、今のうちに。
      全て、終わらせてくれねえか」

ギコは、その銃口を見るともなしに見つめた。
小さな穴は、吸い込まれそうな程に、暗かった。

<ヽ●∀●>「そして、お慰みだと思って教えてくれ。……黒狼のギコ。
      ――“お前は、この復讐を終えた後、それからどうする?”」

ニダーが言い終わると同時に、地下空洞に悲鳴が響き渡った。

462 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:31:12 ID:xtON.OOM0
(*;ー;)「いや!いやああああ!」

(*#゚∀メ)「うるせえうるせえうるせえうるせえうるせえあああうるせえええええええ!」

浮島めいた瓦礫の上。
何時の間に立ち直ったのか。
血の触手でシィを縛り上げたツーが、血走った目を見開いて吠えた。

(*#゚∀メ)「外野が!部外者が!何時までも!何時までも!出しゃばってんじゃあねええええ!
     ギコォオオ!こっちを見ろォ!私を見ろおおお!」

<ヽ8w8>「……」

(*#゚∀メ)「お前は私のものだ!誰にも渡さねえ!こっちを見ろってんだよぉおお!」

鋭く尖らせた触手の先端が、シィの首筋にあてがわれる。
白く細いそこから、血の筋が一筋、垂れ落ちた。

(*;д;)「ぁ――ぁあ――」

(*#゚∀メ)「やっと見つけたんだ!やっと出会えたんだ!今更首をブッ飛ばされたぐらいで手放せるかよ!
     私にはお前しか残ってないんだ!ギコ!ギコォオオ!」

<ヽ8w8>「……」

ギコは、ゆっくりと瞬きした。
それは、アイカメラの点滅という形で現れた。

彼は、ニダーを見つめた。そうして、次に天を仰いだ。
鼠捕りのような天井が、そこにあった。

463 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:32:14 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「……」

もう一度、ギコはニダーを見つめた。
丸サングラスの中に映る自分の姿がそこにあった。

彼は、頷いた。
そうして、ゆっくりと上体を逸らした。

<ヽ8w8>「ハハハ…クハハハ…ハアッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

ギコは、笑った。
歪んだ電子音声で、狂ったように笑い出した。

464 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:33:32 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――その瞬間のギコの頭の中は、今までの混濁が嘘のようにクリアだった。

<ヽ8w8>「クハハハハハ!ハハハハハ!ハハハハハハ!」

彼の背後で、シィの喉元に触手をつき付けたまま、ツーが硬直している。
目の前のニダーは、表情を消した顔で、黙ってギコを見つめ続けている。

彼は問うた。

「復讐を終えて、それからどうする?」と。

長い間、気付かなかった。
どうして、自分はそんな事を考えていたのだろう、と今更になってギコは思い知った。

<ヽ8w8>「ハハハハ!クハハハ!ハハハハ!復讐?
     復讐を終えて、ソれカら?クハハハハハ!」

(*;д;)「ギコ、にぃ……?」

<ヽ8w8>「復讐ヲ、終えル?ドウヤッテ?復讐トハ、終わリガあるモノナノカ?」

<ヽ●∀●>「……」

本当は、最初から気付いていた。
オヤジが殺されたあの夜。
再び刃を手に取ったあの日の時点で、気付いていた。

ただ、自分に都合がいいようにと今まで忘れていただけに過ぎない。
最初から、決まっていたのだ。初めの一人を殺めた時点で、もう後戻りなど出来なかったのだ。

465 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:34:32 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「ハハハハ!クハ!ハハハ!幸せに?なル?ドウやッテ?俺ガ?しィと?」

仮に、今ここでニダーを殺めたとしよう。
それで復讐が終わるのか?なるほど、確かに自分の分の復讐は終わる。

だが、ニダーの方はどうだ?
ニダーを殺された、彼の部下達はどうだ?

終わらない。
ギコが仇を討てば討つほど、殺された者の復讐を望む者が、再びその前に立ちふさがるだけだ。

実際、今彼の目の前に立っているニダーにしたって、そのようにしてここに居るのだ。

何も変わっては居ない。
あの頃から。復讐を誓ったあの日から、何一つとして変わっていない。

綾瀬会を潰したら陣龍が出て来た。
陣龍を潰せば次は大陸から三合会が出張ってくるのだろうか。

自分は、そのままの勢いで全てを皆殺しにするつもりでも居たのだろうか。

<ヽ8w8>「ハハ!ハハハハ!全ク!馬鹿馬鹿しイ話もアッタもノだ!」

それとも、ニダーを殺めた後は、シィを連れて復讐者から身を隠しながら各地を転々と逃げ回るつもりだったのだろうか。

それが、自分にとっての、シィにとっての幸せだと思っていたのだろうか。

466 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:35:23 ID:xtON.OOM0
<ヽ8w8>「ハハハッハ!ハハハハハハ!ハハハハ……ハハハ…ハハ…ハ……」

(*;д;)「ギコにぃ……」

ならば、自分はどうするべきなのか。
シィとの幸せも叶わず、復讐の無限地獄からも解放されない自分は、これからどうするべきなのか。

<ヽ8w8>「――オイ。聴いテイるか、悪魔よ!」

<ヽ●∀●>「……」

<ヽ8w8>「契約ハ成ッタ!約束通リ、シィハ治しテ貰オウ!」

ギコが叫んだのと同時だった。

「いいだろう。――君のその願い、僕が叶えてしんぜよう」

芝居めかしたその声が、闇の吹き溜まりから木霊した。

467 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:36:46 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――最後のタンクを設置し終えた隊員が、白銀の西洋甲冑めいた強化外骨格の右手を上げた。

<ヽ÷>「ポイント・デルタ、クリア。これにて第二段階のシーケンスを完了。作戦を第三段階へ移行されたし」

ヘッドギアの中のインカムに向かって報告。
地下の為か、若干電波が悪い。返事を待つべく、彼は同僚達にハンドシグナルで待機のサインを送る。

<ヽ÷>「――しかし、VXガスか。あの若造も、随分とえげつない手を考え付く」

当初は会長の客分として招かれた筈のあのラテン男は、知らないうちに自分達に命令を飛ばす現場指揮官の座についていた。

一体、何故あの若造が、と当時は隊員の殆どが異を唱えた。

だが今なら理解できる。あの男は、“会長好みのやり方”というものを、存分に心得ている。

やると決めたのなら、そこに一切の慈悲や迷いは無い。
徹底的に、機械的な判断でもって、仕事を成し遂げる。
そのような自らの隊内での評判を耳にした当の本人は、「まあ、“メカニック”として長かったから」と冗談めかして答えていた。

468 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:37:49 ID:xtON.OOM0
<ヽ÷>「末恐ろしい、ってのはああいうのを言うのかね……」

常日頃のジョルジュは気さくな二枚目半と言った所だ。
ジョークを言う事を心掛け、年下に指図される事が気に食わない隊員達に対し、細やかな気配りでもって誠意を見せる。
敵にすれば恐ろしいが、味方にすれば頼もしい。概ね、部隊内でのジョルジュの評価はそんなものだった。

だが、彼は、そんなジョルジュの笑顔を見る度に、何かしらの違和感を覚えていた。
それは、ひどく些細なもので、ともすれば気のせいだとも言い切れてしまうような、本当に小さな違和感だった。

<ヽ÷>「――ったく、何をじじむさい事を考えているんだか」

他人の心配より、今は作戦の遂行が第一だ。
知らずのうちに、自分にもヤキが回ったのだろうか。

壁から背を離し、もう一度地上へ通信を試みる。
短いコールの後、帰ってきたのはノイズだった。

<ヽ÷>「畜生め。一体なんだってんだ。圏外です、ってか?」

毒づき、ヘッドギアをごつんと叩く。
スピーカーが一瞬ぶれた後、遠くで巨大な何かが動くような音がした。

<ヽ÷>「――ああん?」

彼は、周囲を見渡した。
他の隊員達は、それぞれに壁に寄りかかったり、足場に座り込んだり、特に変わった様子は無い。

469 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:39:53 ID:xtON.OOM0
<ヽ÷>「……気のせいか?」

連日の激務で、神経が過敏になっているのだろうか。

<ヽ÷>「帰ったら、久しぶりにキメるか……」

自室のフローリングの下に隠した、ペインキラーの箱の事を思い出しながら、彼は再びとりとめの無い思索に耽った。

470 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:40:59 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――少女の喉元に爪を立てながら、ツーは生まれて初めて自分の行動を訝った。

(*#゚∀メ)「お前は私のものだ!誰にも渡さねえ!こっちを見ろってんだよぉおお!」

自分は、何をしているのだろう。
一体、こんな事をして何になるというのだろう。

(*#゚∀メ)「やっと見つけたんだ!やっと出会えたんだ!今更首をブッ飛ばされたぐらいで手放せるかよ!
     私にはお前しか残ってないんだ!ギコ!ギコォオオ!」

(*;д;)「あぁ…あぁ……」

少女の首の薄皮が破れ、血が滲む。
思えば、この娘を人質に取った時点で気付くべきだったのだ。

いや、もしかしたら気付いていたのかもしれない。
気付いていて、気付かないふりをしていただけなのかもしれない。

(*#゚∀メ)「私を見ろぉぉぉおお!ギコォォオ!私だけを見ろってんだよぉおおお!」

こんな事は、無駄だ。
こんな事をした所で、何にもならない。

<ヽ8w8>「……」

(*;д;)「ギコにぃ…たすけ……」

中華系男の言葉を前に立ちつくすギコ。
その背中に向かって、必死に呼びかけるシィ。

471 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:41:56 ID:xtON.OOM0
(* ∀メ)「私を――私を見ろ――私だけを――」

言葉が、音が、宙に放り出されたままで、汚水の中に転がる。

<ヽ8w8>「クハハハハハハ!クハハハハハ!」

獣の哄笑。
血に狂った、化け物の上げる笑い。

それは、自分が求めていたモノの筈なのに。
血溜まりの中で、狂おしい程に求め続けていたモノの筈なのに。

(*;∀メ)「私だけを……見ろ……見ろ……見て……」

本当は、気付いていた。
先に、彼とぶつかり合った時には、もう気付いていた。

彼は、私の事など、見ていない。
例え、彼の大切なモノを人質に取ろうと、私が何をしようと。
彼が、私を見てくれることなんてないと。

(*;д;)「ギコにぃ!ギコにぃ!返事をしてよぉ!」

きっと、それは、この少女の命を奪おうと、変わらない。
何時だって、この少女は殺せた。それをしなかったのは、分かっていたから。

本当は、最初から。
あの雨煙る沿岸道路での邂逅の時から、分かっていた。

472 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:42:58 ID:xtON.OOM0
(*;∀メ)「お願い…だから…私を……見てよぉ……」

それでも、縋りたかった。
彼は、自分と「同じ」だと証明したかったから。

化け物は、獣は、自分だけじゃないと。
そう、証明したかったから。

<ヽ8w8>「クハハハハ!ハハハ!フハハハハ!」

(*;∀メ)「ああ……あ…ぅあ――」

ツーは、少女の首筋から手を離し、ギコへと向かって伸ばす。
血だらけの腕が、空気を掴む。

遠い。

たった数メートルの、血の鞭を伸ばせば届く距離が、果てしなく遠い。


<ヽ8w8>「悪魔ヨ!俺ノ身体ハクレテやル!連れテいクがイイ!貴様ガ言ウ、人類ノ限界トやラへ!」

(*;∀メ)「あぁ――」

待って。
置いていかないで。

私も連れて行って。
私を、一人にしないで。

お願い。お願い。お願い。

473 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:43:52 ID:xtON.OOM0
(*;∀メ)「おね…が…い……」

ツーの頬を、風が撫でた。

川 ゚ -゚)「――御覚悟を」

大鎌を振り被った黒衣の堕天使が、彼女の頭上に落ちて来た。

474 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:45:14 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――横倒しになった視界の中に、夥しい数の死体が転がっている。
自分もまた、この中の一人に加わるのだろうか、などと考えながら、オサムは荒い呼吸を整えるのに必死だった。

【+  】ゞ )「カハッ――コッ――ヒュッ――」

血の触手に貫かれたのは、幸か不幸か心臓では無く肺だった。
一撃の下の絶命は免れたが、このままでは呼吸困難で数分ともたない。
何度となく、自らを化け物と自認してきたが、まさかこんな無様な最期を遂げるとは、思いもしなかった。

【+  】ゞ )「ホント――上手く――いかないわネ――」

目と鼻の先。
少し手を伸ばせば届きそうな距離にある、アタッシュケースを憎々しげに睨みつける。

酸素不足で頭に霞が掛ってきた。
この分だと、任務の達成は到底無理そうだ。

「――やあ、久しぶり。随分と苦しそうだけど、大丈夫かい?」

唐突に、その声は天から降ってきた。
まさか、とオサムは首を巡らせた。

475 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:47:03 ID:xtON.OOM0
【+  】ゞ )「アン――タ――」

(´・ω・`)「やあやあ、何年ぶりだろうねえ。データベースが正しければ、
     確かツクバでの件以来だから…もうかれこれ十年以上経つわけか」

そんな筈は無い、と理性は否定した。
彼がここに立っている筈が無いと、異を唱えた。

(´・ω・`)「死んだ筈だって?そうだね、確かに僕は君達の手によって殺されちゃったね。
      じゃあ、どうしてここに立っているんでしょう?答えは、“まーそういうのはどうでもいいんじゃあ、ないかなあ”です」

下手糞なウィンクをして見せた後、彼は、ショボンは「ああ、そうだ」と言って二の句を継ぐ。

(´・ω・`)「君達の手によって、っていうのは訂正しよう。君達に裏切られて、といのが正しいかな。
     実際、実行犯はロイヤルハントだったし、本当、君達の職場はそういう根回しが上手いよね。
     僕も最近では、君達のやり口を見習ってるんだけど、――どうだい?びっくりした?」

人を小馬鹿にしたような態度。
あくまでも柔和な表情と物腰を崩さない、優男風の出で立ち。
それは、オサムの記憶の中の彼と、寸分違わぬままの姿を保っていた。

(´・ω・`)「まあ、でもさ。別に、僕は復讐だとかそう言った事は、今は割とどうでもいいんだ。
      あっちの子達はそうでもなさそうだけど」

くすり、と子犬のような笑顔を浮かべてショボンは自らの背後を顎でしゃくる。
中央管理小屋の足元、瓦礫と死体の山の中では、今しもギコとニダーが睨みあっている所だった。

476 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:49:02 ID:xtON.OOM0
(´・ω・`)「君達にも、止むにやまれぬ事情があったことだろうし。元々、あそこはそういう方針だったしね。
     それに、僕が憎いのは、あくまでも“米帝”という概念そのものさ。そこら辺、勘違いしないでほしいな。
     元同僚で今は何の関係もないとはいえ、かつての友人と険悪な仲になっちゃうのは苦手だ」

【+  】ゞ )「ハッ――そんなの――知ったこっちゃ――ない、わ――」

何が、友人だ。
何時も、何時もこいつはそうだ。
フラットラインだとか、ニューロマンサーだとか言われ、常に余裕のある態度で笑いかけて。
ノブリス・オブリージェとでも言いたいのか?

【+  】ゞ )「クソったれ――何が――望みよ――」

(´・ω・`)「何が望みって、聞かれてもね……別段、君達とは関わりの無い所なんだけど」

困ったような笑顔を浮かべると、ショボンは足元に転がっていたアタッシュケースを拾い上げる。

(´・ω・`)「まあ、ちょっとした交渉材料の調達と言うか、ね。僕も色々と夢のある若者でして。
      主目的はそれだったんだけどさ――」

独裁者の遺伝子をアタッシュケースから取り出し、それを背広の内ポケットに入れると、彼は立ち上がって再び先の二人へと視線を向ける。

(´・ω・`)「――今は、俄然あの子に興味津々、恋する季節ってところさ。君も直接やり合ったから分かるだろう?
      信じられないよ。今、まさに彼は、人類という種の限界の先へと一歩を踏み出そうとしている所だ」

477 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:50:41 ID:xtON.OOM0
生まれて初めてカブトムシの雄を見る少年のような眼差しで、ショボンは黒い悪鬼の威容を見つめる。
人類の限界の先。下らない。ようは、ただの化け物だ。

【+  】ゞ )「何――アンタ――マッドサ、イエン――ティスト、に――転向したわ、け――」

地下下水処理施設中に、狂ったような哄笑が響き渡る。
上半身を仰け反らせ、悪鬼羅刹が大口を開けていた。

その後ろでは、ツーが、茫然自失とした表情で、その様を見つめている。
人質にとった少女への拘束も緩み、ただ、ただ、途方に暮れたようにしてギコだけを見つめるその様子が、
初めて彼女と会った時のそれと重なった。

(* ∀メ)「あ…あ…あ…あ……」

【+  】ゞ )「ザマア――無いわね――バッカ――みたい――ほん、と――」

結局、壊すことしかできない彼女に、何が成せるというものでもない。
大人しく、首輪を嵌められたまま、命令された相手だけに噛みついていれば、餌は貰えるのに。

それで、満足していなければならなかったのに。

<ヽ8w8>「――オイ。聴いテイるか、悪魔よ!」

下手な希望など、持つから、馬鹿を見るっていうのに。

<ヽ8w8>「契約ハ成ッタ!約束通リ、シィハ治しテ貰オウ!」

悪鬼羅刹の叫びに呼応するように、新たな質量がオサムの脇に降り立つ。
濡羽色の髪に、同色のゴシックドレス。レースのヴェールから覗く、ぞっとするほどに白い肌。

478 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:51:52 ID:xtON.OOM0
川 ゚ー゚)「マスター。そろそろ私の出番ではないでしょうか?」

(´・ω・`)「ああ、そうだね。ご客人の大事な大事な妹君だ。丁重に、御迎えに上がっておくれ」

川 ゚ー゚)「イエス、マスター。仰せのままに――」

恭しく、まるで執事か何かのように一礼をすると、女は左の手首を捻る。
圧縮空気の漏れる小さな音と共に手首の穴から飛び出す鋼鉄製の伸縮棒。
右手でそれを引き抜き回転の勢いで伸ばすと、ゴシックドレスの開いた背中から取り出した刃と連結。
またたく間に組み上がった大鎌を手に携え、女は跳んだ。

(* ∀メ)「あ…あ…ああ……」

向かう先は、放心状態のツー。
目的は、火を見るよりも明らか。

【+  】ゞ )「――“フレ――ッド”――聞こえ、てる――んでしょ――フレ…ッド……」

無線制御データリンクに、僅かな反応。
矢張り、チーム内最強のタフネスは頼もしい。

【+  】ゞ )「クソ――ったれね――アタシが――こんなザマで――
        悪い、けど――も、ひと――ふんばり――して――くれ、る?」

大鎌の女が、クーが、ツー達への距離を詰める。
からり、と遠くで微かに瓦礫が崩れる音がした。

479 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:52:48 ID:xtON.OOM0
(* ∀メ)「ぎ、こ…わたし…わた…わたしは……」

虚空を見つめたまま、へたり込むツー。
不吉な鴉の急降下めいて跳びかかるクー。
大鎌の刃が振り被られる。
ツーは、動かない。

――ホント、馬鹿な子。

【+  】ゞ )「ホント――救いようが――ない――くらい――アンタは――手が掛る――わ――」

川 ゚ -゚)「――御覚悟を」

(* ∀メ)「……」

振り下ろされる、大鎌。

断裁音。

硬く、耳障りな、断裁音。
否。刃が鋼に食い込む、それは金切り声。

川 ゚ -゚)「むっ」

(*゚∀メ)「――え?」

〔φ@φ〕「KHO…HOOOO……G」

ツーと、クーの、間に、鋼百足の上半身が、割って入っていた。

480 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:54:44 ID:xtON.OOM0
(*゚∀メ)「え――」

耳元での轟音に、我を取り戻したツーが、鋼の百足を見上げる。
白黒の真逆になった双眸が見開かれ、次いでオサムを見た。
全てを悟ったその顔が、くしゃりと、紙のように歪んだ。

(*゚∀メ)「な――んで――」

【+  】ゞ )「ホント――なんでかしら――ね――ガラじゃ――ないってのに――」

――あーあ。
ホント、アタシってば、バッカみたい。
なんで、こんな――。

……ああ、そうか。アタシは、こいつの事を――。

(´・ω・`)「おっと、邪魔をしてくれちゃ、困るな」

ショボンが、袖口からポップアップした拳銃の引き金を引いた。
ずどん、と乾いた音が鳴った。
銃声にしては、比較的小さかったが、それで事足りた。

【+  】ゞ )「ガッ――」

虫の息の根を止めるには、それだけで十分だった。

481 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:55:46 ID:xtON.OOM0

  ※ ※ ※ ※


――突如として、翼の無い堕天使のような影が、飛来した。
大鎌を振り被った女と、鋼の百足めいた化け物がぶつかった。
離れた場所で、銃声が鳴った。
その瞬間、ニダーの中で時が動き出した。

(*;゚∀メ)「なんで――こんな――なんで――」

ネオゴス風の女が、へたり込んだまま、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。

(´・ω・`)「やれやれ…もうそろそろ時間も押してきてる。手早く頼むよ」

銃声の音源では、背広姿のしょぼくれた顔の男が、遠巻きにこちらを見つめている。

川 ゚ー゚)「ええ、善処いたしますわ」

鋼百足の残骸の上では、ゴシックドレスの女が大鎌の刃を引きぬいている。

(*;д;)「ギコにぃ!ギコにぃ!返事してよ!ギコにぃぃい!」

その傍らでは、まだ幼さの残る少女が、声の限りに叫び続けている。

<ヽ8w8>「ハハハハハ!クハハハハハ!ハハハハ!」

そして、目の前では、討つべき筈だった仇が、未だ狂ったようにして笑い続けている。

482 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:56:54 ID:xtON.OOM0
<ヽ●∀●>「……」

ニダーは束の間、天を仰いだ。
矢張り、そこには鼠捕りのような天井が広がっていた。

首を振って、彼はもう一度地下空間を見渡した。
自分は今、何をするべきなのかを、考えた。

<ヽ8w8>「ハハハハ!クハハハハ!ハハハハハ!」

ともすれば、今のギコならば、銃弾の一発でその命を消し去ることが出来るだろう。
あのいけすかない何でも屋が言う通り、勝てる見込みが無かった試合だが、ここにきてまさかの逆転さよなら満塁ホームランに変わるわけだ。

<ヽ●∀●>「……下らねえ。下らねえし、笑えねえな」

それに、何の意味があるのだろう。
復讐を果たす価値は?今、ここで奴の眉間に鉛玉を叩きこむ事の価値は?
今のこの男の首を手土産に、あの世のヒッキーに持っていた所で、何になる?

――こいつには、今、何も見えていない。

(*;д;)「ギコにぃ!ギコにぃ!ねえ!返事をしてってば!お願いギコにぃ!」

悲痛な、張り裂けそうな、魂を八つ裂きにでもされているかのような悲鳴が、耳にこびりついて離れない。

可哀相に。
どういうわけか知らんが、彼女の兄貴は急にヤクでも決まっちまったかのように、笑い転げていて聞く耳も持たないようだ。

<ヽ●∀●>「ご愁傷さま、ってやつだぜ」

483 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:58:02 ID:xtON.OOM0
言葉にしてみて、何と乾いた響きなのだろうかと愕然とした。
結局、最期の矜持の残照すらも貫けない、どうしようもない自分。
成るほど、あの何でも屋が言った通り、自分は確かにクズなようだ。

<ヽ●∀●>「……」

ならば、クズはクズらしく、しみったれた最期を遂げるのが相応しいのでは?

<ヽ●∀●>「ハッ。本当に、下らねえ人生だったぜ、おい」

その場に座り込み、ベレッタの銃口を自分の側頭部に押し付けると、丸サングラスの下でニダーはそっと目を閉じる。

こう言う時は、今までの半生が瞼の裏を過るものだと相場が決まっているが、何時まで待っても一向にその兆候は訪れない。

「ギコにぃ!ギコにぃ!お願い――だからぁ!返事、してよぉ…!」

代わりに聞こえて来るものと言えば、悲痛なまでの少女の叫びだけだった。

<ヽ●∀●>「……」

ニダーは、再び目を開いた。
こんなに騒々しくては、おちおち半生も振り返れない。

川 ゚ -゚)「さあ、シィ様、こちらへ」

跪いたゴシックドレスの女が、少女へ向かって左の空いている手を差し出している。
少女はいやいやと、懸命にその細い首を振っている。

484 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:58:54 ID:xtON.OOM0
(*;口;)「イヤ!イヤァ!ギコにぃと!私はギコにぃと居るの!もう離さないって、ずっと側に居るって!約束したんだからぁ!」

ギコは、黒狼は――悪鬼は、振りかえらない。

<ヽ8w8>「ハハハハハハハ!」

狂ったように笑い続ける修羅の眼には、既に何も映っていなかった。

川 ゚ -゚)「我儘を言われましても困りますわ。さあ、お手を――」

(*;口;)「イヤだっ!」

差し出された手を、少女がはねのける。
ぱんっ、と乾いた音が鳴った。

川 ゚ -゚)「そう――ですか」

ゴシックドレスの女の表情が、鋼鉄の冷たさを帯びた。

川 ゚ -゚)「――あまり、こういうのは好きではないんですがね……」

跳ねのけられたままに宙ぶらりんになっていた女の手が、ゆっくりと少女の首根っこへと伸びていく。

ニダーは、走り出していた。

485 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 17:59:54 ID:xtON.OOM0
<ヽ●∀●>「……」

ベレッタを右の手だけに握って、ニダーは走っていた。

(*;口;)「イヤ!いやぁ!」

何だ、これは。
何で、自分はこのようなな事をしている?

まさかとは思うが、あの少女を助けようとでも言うのか?
あろうことか自分は、仇の妹を助けるつもりでいるのか?

止めておけ。そんな事をして、それこそ何なる。
ヒーロー気取りか?だとしたら、それは何処の世界のヒーローだ?
それは一体、何の冗談だ?

川 ゚ -゚)「申し訳ありませんが、マスターの命令ですので――大人しく、していただけますね?」

少女の薄い胸倉に、女の指先が触れる。
精一杯に上半身を引いて、少女が逃げる。
それを追うように、女が身を乗り出す。

(*;口;)「イヤアアアア!」

空気を切り裂く様な悲鳴。
宙に架かる、涙滴の橋。

<#ヽ●∀●>「――糞ったれめっ!」

ニダーは、引き金を引いた。
乾いた音が、福音のように彼の耳朶を打った。

486 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:01:32 ID:xtON.OOM0
川 ゚ -゚)「――むっ」

鋼の衝撃に、女の腕が弾かれる。
面くらったような表情を束の間浮かべた女が、直ぐ様ニダーの存在に気付いて顔を上げた。
ニダーは、獰猛な笑みを浮かべてそれを見返した。

<#ヽ●∀●>「はっ!大陸の双龍の名は伊達じゃあねえぜ!」

立て続けに二発、三発、四発、とニダーはベレッタを連射する。
女はそれを避けるでもなく防ぐでもなく、着弾の衝撃に僅かに身を揺らしながらも、ゆっくりと立ち上がった。

川 ゚ -゚)「それは、我々への敵対行動、という事で宜しいですか?」

<#ヽ●∀●>「そんな事はお天道様にでも聞きな!」

川 ゚ー゚)「――なるほど。神のみぞ知る、ですか。良いでしょう」

ゆっくりと、これから演武でも始めるかのようにして、女が大鎌を構える。
互いの距離は、目測にして10メートルもない。
馬鹿な事をしている。ニダーの口の端に、自嘲の笑みが浮かんだ。

川 ゚ー゚)「ですが、その答えは貴方自身が天に登って聞いてきて下さいませ」

大鎌の切っ先が、落雷の速度で弧を描く。
反射神経で避けるのは、不可能だ。
ニダーの行動は最初から決まっていた。

487 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:03:10 ID:xtON.OOM0
<#ヽ●∀●>「おおおおおおお!」

雄たけびと共に、身を沈める。
断頭台の一撃が、ニダーの頭上を過っていく。
汚水を跳ね上げつつ、彼はスライディングの姿勢でゴシックドレスの女とすれ違った。

川 ゚ -゚)「おや――」

そのまま直ぐ様身を起こし、少女の腰を抱く。

(*;д;)「――え?」

涙に濡れた顔が、ニダーを見上げる。

<ヽ●∀●>「嬢ちゃん、ちょいと失礼するぜ」

腰と首に手を回して少女を抱き上げると、ニダーは一点を目指して再び走り出した。
遠くで、地響きにも似た音が近付いてきていた。

(*;口;)「離して!離して!ギコにぃ!私はギコにぃと――!」

腕の中で少女がもがく。

川 ゚ -゚)「――逃がしませんよ」

大鎌を振りかざした女が、背後に迫る。
随分と、滑稽なとんずらの絵面だ。
そう言えば、あの夜もこうして必死に走ったものだ。

488 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:07:01 ID:xtON.OOM0
――あれは確か、荒巻屋のショバ代の取り立ての時だ。
子供騙しの幽霊屋敷で気絶したヒッキーを抱えて、夜の街を事務所に向かって走ったっけ。

幽霊など居るわけもないのに。
馬鹿みたいにブルって。
必死になって、全力で、死に物狂いで駆け抜けたものだった。

<ヽ●∀●>「――あの頃から、馬鹿なまんまだぜ」

若かった。
あの頃は、必死だった。
兎に角、体当たりだった。
それで、何とかなると思っていた。

何時からだ。
それだけで、何とかなるものじゃないと、思い知ったのは。

川 ゚ -゚)「シッ!」

大鎌の切っ先が、ニダーのトレンチコートの裾を切り裂く。
脚がもつれて、転びそうになる。

<;ヽ●∀●>「チィッ――!」

何とか立て直して、彼は前を見据える。地響きが、どんどんと近くなってくる。
“目指す先”まで、後少し。だが、もう若くない。

<;ヽ●∀●>「ハァ…ハァ…クソったれ……」

あの夜。
事務所に帰りついてからポケットを漁ったら、メジロステイツの馬券が無くなっていた。
皮肉にも、その日の一着は、自分が一点張りをし続けたあの駄馬だった。

489 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:08:05 ID:xtON.OOM0
結局、あの日以来、メジロステイツはもう二度と一位の栄誉を得る事もなく、
再び最下位を舐めるように独走した後、一昨年の春に一部のファンに惜しまれながら天へと旅立った。

走る為に生を受けながら駄馬の烙印を押された彼は、その苦しい生涯の中で一度だけ“奇跡”を起こした競走馬として、競馬界に名を残した。

<;ヽ●∀●>「走れ…走れ……」

地響きが、地下空洞をどよもす。

川 ゚ー゚)「御覚悟――!」

大鎌の刃が、肩口に迫る。

<ヽ●∀●>「走れ…!走れ…!」

奇跡。
もしも、そんなものが、自分にも起こせるならば。

<#ヽ●∀●>「走れえええええええ!」

最後の2メートル。
肺の中に残った空気を全て吐き出して、跳ぶ。

(* ∀メ)「なんで…なんで……」

ドームの壁に、亀裂が走る。
少女を抱えたままで、ニダーの身体が宙に弧を描く。

490 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:08:59 ID:xtON.OOM0
川;゚ -゚)「くっ――このっ!」

大鎌の刃が、右の肩甲骨の上の肉を切り裂く。
痛みを堪えて、少女を抱く腕に力を込める。

(´・ω・`)「――潮時、か」

二人の身体が、巨大な棺桶の中に着地する。

(*;口;)「ギコにぃ!ギコにぃ!イヤ!イヤアアアアア!」

ドームの壁を突き破って、汚水の濁流が迸る。

<#ヽ●∀●>「おおおおおおお!」

満身の力で、棺桶の蓋を閉じる。

<ヽ8w8>「ハハハハハハ!ハアッハッハッハッハッハッハ!」

暗黒の大波濤を背にして、悪鬼が狂笑する。

<;ヽ●∀●>「ハァ…ハァ…ハァ…」

これで、正しかったのだろうか?
自問自答に目を閉じる。
瞼の裏で、懐かしいあの顔が、困ったような顔で笑ったような気がした。

<ヽ●∀●>「ヘヘッ…どっちだよ…馬鹿……」

黒い濁流が、全てを飲み込んだ。

491 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:10:19 ID:xtON.OOM0

Epilogue


――『爆破テロか!?VIP地下下水処理施設、謎の大崩落』。

携帯端末に表示されたニューステロップから顔を上げて、頭上を仰ぐ。
通勤ラッシュでごった返すニーソク駅前のロータリー。
ビルの壁面に埋め込まれた街頭テレビの中では、GMN(グローバル・メディア・ネットワーク)の新人女子アナウンサーが、
神妙な顔で原稿を読み上げていた。

「昨夜未明、突如として起こったこの崩落の原因は未だ不明――坑内の支柱に爆弾が仕掛けられていた疑いが――
 死傷者の数も不明ですが、地上では今の所怪我人は見られま――」

('A`)「……」

溜息が、知らず口から漏れる。
隣を歩くキュートが、それを目敏く見咎めた。

o川*゚ー゚)o「……ほぉら、どっくん!ぼーっとしてると置いてくよ!」

意地悪そうな表情を作り、キュートは努めて明るい声音で言う。
彼女もまた、割り切った訳ではない。
優しい彼女は、それでも俺を気遣う事を優先してくれる。
その気遣いが、とても痛かった。

492 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:11:50 ID:xtON.OOM0
('A`)「んん、ああ、すまんこ、すまんこ」

o川#゚ー゚)o「ちょっとぉ!朝からそういうの止めてくれるう!?」

('A`)「ほっほっほ。おぬしもまだまだうぶよのぉ。
   そんな事では、我が毒尾流の秘儀を授けるのは何時の日になる事やら……」

o川#゚ー゚)o「けっ!こう!ですっ!」

さくらんぼのように頬を真っ赤に染めると、キュートはそっぽを向いて歩きだす。
デニム地の短いジャケットの背中に聞こえないよう、俺はそっと謝った。

从 ゚∀从「……結末が、気になるか」

何時の間にか追いついていたハインが、右隣に並ぶ。
血のように真っ赤な双眸は、俺では無く、前だけを見つめていた。
答えは予測できたが、ふと気になって聞いてみた。

('A`)「――君は、どうだ。気になるか?」

鋼鉄の処女は、だが、以外にも直ぐには答えなかった。
ちらりと俺を横目で見てから、彼女は再び目の前を行く人混みの中へと視線を戻した。
ヒトの形をしたヒトならざるその瞳は、ここでは無い何処かを睨みつけているようだった。

从 ゚∀从「……復讐は、神が行うものだ。それは、人間の領分ではない」

一陣の風が、彼女の銀糸の髪をなびかせる。
この世ならざる美貌が、一瞬隠れる。

493 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:13:00 ID:xtON.OOM0
从 ゚∀从「人の怒りは。怒りによる報復の裁きは、人が下して良いものではない。
それは本来、神と神の法に任せるべきものだ」

どういう意味だ?
尋ねようとして、彼女の視線が上向いているのに気付いた。

从 ゚∀从「宗教の垂れる戯言だが、今回ばかりは的を射ていたようだな」

視線を辿ったその先。
摩天楼の屋上看板の上に立つ黒い影。
豆粒ほどにしか見えないその影が、俺には咆哮したように見えた。

从 ゚∀从「復讐を遂げるのならば、ヒトでは居られない。だが、ヒトは神にはなれない」

瞬きをした次の瞬間には、その黒い影は看板の上から姿を消していた。
風に乗って微かに聞こえて来た咆哮の残響が、俺の眼が確かだった事を保障した。

从 ゚∀从「では、彼らは何処へ向かえばいい?」

('A`)「……」

俺は、束の間目を閉じ、耳をすませた。
その咆哮は、泣いているようにも聞こえた。

494 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:15:49 ID:xtON.OOM0

 

 

       从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

         Disc11.No. of the beast

           ///the end/// 

 

 
.

495 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 18:24:03 ID:4BDREpvo0
進んだなあ


496 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 18:24:32 ID:CN5MqrtQ0

これのニダーやっぱ好きだわ

497 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/18(火) 18:26:18 ID:xtON.OOM0
■親愛なる読者のみなさんへ■オカメ■貴方もオカメ■

予測演算UNIXが故障していたせいで今回のエピソードが長くなることを我々は予見できませんでした。

これは我々ではなく調整を担当したUNIX業者の責任なので我々はノーギルティです。ご安心ください。

次のエピソードは恐らくはЯebootの方の時系列のエピソードとなることだろう。

しかもなんと次のエピソードはサマーなんとかで募集した公募プロットの中から選ばれたものを元にしたお話だ。素晴らしいDIYだと思う。

どのプロットを参考にしたのかは、みなさんがその目で確かめてほしい。あなたは時代を見つめる。

次の投稿はわからないが多分早い。我々は疾走感を追体験する。だが分からない。備えよう。

498 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 18:56:02 ID:Hh8v4olU0
まじか楽しみやで

499 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 21:21:24 ID:/mpPRCEg0
セルフ管理メント重点な

500 名も無きAAのようです :2012/09/18(火) 21:28:15 ID:vIgFicgo0


501 名も無きAAのようです :2012/09/19(水) 01:29:50 ID:OSsRGgNw0
乙乙

502 名も無きAAのようです :2012/09/20(木) 02:12:06 ID:.rxkkgVo0

キュートかわいいなぁ
ドクオがキュートと一緒に行動してるのは次の依頼がキュートからのものだったから?
でもそれにしては違和感のある言い回しが多かったし、何か他の理由があったのかな?

503 名も無きAAのようです :2012/09/20(木) 02:14:30 ID:YfpN/UD20
>>502
前回嫁

504 名も無きAAのようです :2012/09/20(木) 07:14:28 ID:1Vx.e6.60
ハインのプロフはまだか

505 名も無きAAのようです :2012/09/20(木) 13:24:08 ID:bWcIH5co0
おつ

506 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/21(金) 03:32:26 ID:VkdYY7x.0
◆ハインリッヒ◆インデックスとキャラクタープロウフィール◆ワッザ◆誰だそれは◆投稿される◆

507 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/21(金) 03:35:34 ID:VkdYY7x.0
   
     =index=


【disc 11. No. of the Beast】

story…雨に錆ついた因果。海を超える悪意。疾走する狂気。嘲笑する悪魔。
   復讐、陰謀、切なる願いも全てを置き去りにして、激化する戦い。
   殺し殺され奪い奪われ、この復讐の果てには何が待つ。
   ――今、獣の咆哮が、VIPの街に木霊する。


tips…バトル、バトル、またバトル。頭から尻まで殴り合いが続く超人オリンピック回。
   「disc10.ヴォルフの尻尾」の後日談的なアレなのと過去のエピソードからの続投キャラが多いので、単体では訳が分からない感じです。
   「disc6. 硝煙挽歌」を読まれてから目を通す事をお勧めします。
   

↓成分表↓
バトル……………★★★★★
サイバーパンク…★★★★★
萌え………………★★☆☆☆
サスペンス………★★★★☆
ハイン……………★☆☆☆☆
田所さん…………★★★☆☆



508 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/21(金) 03:36:50 ID:VkdYY7x.0
キャラクタープロフィール

<ヽ`∀´>

氏名:ニダー(本名の記録なし)
年齢:47歳(AD;2150年現在)
性別:♂
誕生日:2月9日
血液型:B型
人種:モンゴロイド(朝鮮人)
現住所:不明
本籍:ニホン国特別政令都市VIPニューソク区鵬華通り3-1(偽造国籍)
所属:「陣龍」日本支部代表
病歴:成人二年目に胃下垂を一度患ったが、入院はしなかった。
術歴:脳核挿入手術。尻に銃弾を受けた際に、自分で外科摘出を行った(非公式)。
頭髪:黒の頭髪、オールバックの髪型。
瞳:黒
好きなもの:莱謝(中華料理店)の北京ダック、競馬、爪切り(自室の抽斗にコレクションがある)、スラップスティックコメディ
嫌いなもの: 凪凪(子飼いの中華料理店)の北京ダック、推理小説(なぞなぞを解く為に小説を捲るのは下らないと考えている)、電脳ゲーム全般(ヒッキーに大負けして以来触っていない)

――ユーラシア最大の犯罪組織「三合会」の下部組織、「陣龍」の香主(代表)。
かつては陣龍の中でも一介の鉄砲玉でしかなかったが、数々の仕事をこなして行く事で組織内で伸し上がっていき、現在の地位に就いた。
二丁拳銃の名手であり、全身義体を相手に回しても、条件次第では十分打ち勝てる程の実力を持つ。
現在は一線を退き書類仕事や管理職めいた業務が多いが、今でもその腕はさほど衰えてはいない。
初めての部下であるヒッキーとは鉄砲玉時代からの付き合いであり、幾つもの鉄火場を共に潜り抜けてきた仲である。



509 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/21(金) 03:38:35 ID:VkdYY7x.0
キャラクタープロフィール

(,,゚Д゚)

氏名:西村ギコ
年齢:25歳(AD;2150年現在)
性別:♂
誕生日:1月5日
血液型:O型
人種:モンゴロイド(ニホン人)
現住所:不明
本籍:無し(市民IDを持たない為、不法滞在者と同義)
所属:フリーランス
病歴:無し
術歴:全身義体置換手術(FUGAKU)→ヾ(666)、神経加速装置挿入手術、ドラッグホルダー挿入手術、脊椎直結用プラグ挿入手術(以上、全て違法サイバネ手術)
頭髪:くすんだ黒
瞳:黒(サイバーアイ)
好きなもの:シィと過ごす時間、シィが向いたリンゴ、リッキー(彼が世話をするタマサボテンの鉢植え)、ホームセンター(工具を見て回るのが好き)、手の掛る女の子(本人は無自覚)
嫌いなもの:海(泳げない)、蜘蛛、カレー(甘口も食べられない)、定規(幼少時に怒ったシィに投げつけられてからトラウマ)

――通称「黒狼のギコ」。闇社会でその名を知らぬものの居ない始末屋。
漆黒の強化外骨格と光学迷彩に身を包み、日本刀のような形をした振動ブレードをエモノとして振るう姿は、「ジャパニーズ・ニンジャ」で裏社会の者には通じる程。
「万魔殿」の浮浪児出身でありながら、当時の西村組の頭目に見出され、養子として迎えられる。シィとフサギコとは義理の兄妹。
西村組の頭目が殺害された事により、その復讐を遂げる為に始末屋として裏社会に足を踏み出し、現在に至る。非常に意志が強く頑固。



510 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/21(金) 03:43:03 ID:VkdYY7x.0
◆以上だ◆一切の欺瞞は無いので安心です◆獅子舞◆

511 名も無きAAのようです :2012/09/21(金) 04:16:49 ID:xjdPIykM0
おつー

512 名も無きAAのようです :2012/09/21(金) 09:46:05 ID:/iQrS.SAO
突然だが作者さんってブログやってるの?

513 名も無きAAのようです :2012/09/21(金) 14:46:34 ID:rcHR0jSU0
田所さんじゃなかった

514 名も無きAAのようです :2012/09/24(月) 16:31:00 ID:PN5rYyxA0
レポートから現実逃避だよお
('A`)从 ゚∀从o川*゚ー゚)o
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_082.jpg

515 名も無きAAのようです :2012/09/24(月) 16:34:39 ID:PN5rYyxA0
sage&h抜き忘れ
済まぬ

516 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/24(月) 21:34:27 ID:I0FdEFaw0
◆◆◆◆

定時巡回の際に質問やDIYなイラストを頂いている事を発見した投稿担当者は、悲鳴を上げて執筆アジトに引き返した。

「た、大変です。二年ぶりのイラストと質問です。どうしたらいいですか?
 こんなことは予測演算UNIXも言って無かった。私は正直コワイ」

チャブの前で正座してコブチャを飲んでいた執筆担当者は、彼女を振りかえると、ゆっくりとザブトンを差し出した。

「落ちつきなさい。先ずはキミもコブチャを飲みなさい。とても健康に良い。ニューロンが冴え渡る」

差し出されたユノミを、投稿担当者は時間を掛けて空にする。
ややあって、その口からほうっとため息が吐き出された。

「どうだね、落ちついたかね?」

「はい、遥かに良いです……遥かに……」

「それで、何がコワイだって?」

「え、でも、こんな突然イラストを頂けるなんて…あと質問も…」

投稿担当者は拳を握りしめて言った。

「何かの陰謀ですよ、これは。我々が構われた事で調子に乗った所を、足元を掬おうとしている何者かの陰謀に違いありま――」

「オチツキタマエ!」

執筆担当者の怒号が、六畳半の執筆アジトに響き渡った。
投稿担当者はびっくりしてユノミを落とした。コブチャがタタミを濡らした。

「……キミは、そんな事でいちいち取り乱していたのかね」

「で、でも……」

「我々は何だね?」

「こ、鋼鉄なんとかの執筆チームです」

「そうだ。鋼鉄なんとかの執筆チームだ。その執筆チームが、作品に寄せられたイラストや、読者からの質問にいちいちビクついていて、何が出来る。
 まさかキミは、作品の投稿と読者へのアナウンスンーだけが自分の仕事だとでも思っていたのかね?」

鷹のような鋭い眼光で、執筆担当者は上から見下ろすように言う。投稿担当者は、しめやかに失禁しそうになったが我慢した。

「今すぐ投稿UNIXを立ち上げたまえ。そして、今から私が言う事を一時一句間違わずタイピングするのだ」

投稿担当者は恐怖した。この男の放つ圧倒的な人外の雰囲気に比べれば、あるかないかもわからない陰謀論など稚気じみたものに思えた。

「いいか、書きだしはこうだ――」

517 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/24(月) 22:04:26 ID:I0FdEFaw0
■親愛なる読者のみなさんへ■初秋■オカメコオロギ■

そう言うわけで私は今回、執筆担当者の言葉を預かってきております。
ミスタイプは許されないので、何時も以上に緊張しているがだいじょうぶ。自分をしんじよう。

先ずは、我々執筆チームがブログを持っているかという質問(>>512)について。

「かつて、Яebootが始まる以前の開拓時代は、そのようなものが存在したという事実はありますが、今現在我々はブログを持っていません。

 我々執筆チームは、パンクの意志を受け継ぐヒッピーめいて電子の海を漂う放浪の身であり、今後また新たにブログを開設する予定は今の所はありません。

 作中の用語整理など、必要性に駆られればその限りではありませんが、ツイッタアーの方の“从 ゚∀从鋼鉄の処女のようです”アカウントで事足りるだろう、というのがチーム内での一応の結論となっております。

 執筆チームの生態系については、我々はこれまで通り若干霞が掛った状態を維持する。何故ならそっちの方がクールだからだ」


続いて、今回頂いたイラスト(>>514)について。

「僕がこの鋼鉄なんとかを書いていて一番幸せな瞬間は何か?
 思うように筆が滑っている時か?ドラマツルギーの地平を垣間見た時か?
 どちらも合っているが、世の中にはもっと素晴らしい瞬間が他にある。
 即ち、読者の皆さんから作品への感想を頂いた時、そしてDIYなイラストを頂いた時、この二つだ。
 それは、僕のタイピングが紡いだお話にジャックインめいて没入してくれている人が居る、という事を確信する事が出来る実に幸福な瞬間だ。
 このイラストのドクオの厭世的な目は実に良い。キュートも実にキュートだ。ハインリッヒも含め、ポップな感じが出ていて可愛らしい。
 皆さんから頂いたイラストは、僕の中で未だ形となっていなかったキャラクター達の細かい所を、その都度補完していってくれている。
 これこそがDIYなんだ(彼は興奮を隠そうともせず熱弁を振るった)」


以上です。
これからも質問とかがあった時は、気軽にどしどしレスポンスンーをしよう。

我々はフレンドリーシップを重点します。なぜならそれもまたDIYの一側面だからです。

サラバダ!

518 名も無きAAのようです :2012/09/24(月) 22:05:14 ID:gbx9Ih0w0
フェイントかよ投下始めるのかと思ったじゃねえか

>>514
デフォルメいいな

519 名も無きAAのようです :2012/09/24(月) 22:15:53 ID:NNrnFjZY0
完成してからこのスレに貼ろうと思ったけど、コーヒー零してしまったので途中ですが貼らしてください・・・・・・
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_040.jpg

520 名も無きAAのようです :2012/09/25(火) 00:04:28 ID:487wW8L6O
前見たけど あんたの描くハインも大人っぽくて好きよ・・・

521 名も無きAAのようです :2012/09/26(水) 23:46:54 ID:uOCgCGf20
絵支援
http://blog-imgs-55.fc2.com/r/p/b/rpbtkool/20120926233434eca.jpg

自スレにも貼ったものですが
厚かましくこちらにも
ブーン系の中で一番好きなハインです
これからも超応援しております

522 名も無きAAのようです :2012/09/26(水) 23:55:09 ID:uqL7DA0Y0
>>521これ好き
クールでいいね

523 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:30:13 ID:m7k0Y3tk0
あなたがたの知らない真実    執筆アジトの部屋には沢山の額縁があり、今まで寄せられてイラストが全て飾ってある。無論、これからもだ

524 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:31:33 ID:m7k0Y3tk0
◆ワッザ◆電気的介入な◆重点◆

525 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:35:24 ID:m7k0Y3tk0


        WATANABЁNTERTAIMENT PURODUCE


      サマーソニック・イン・アイアンメイデン

            金賞受賞作

526 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:37:49 ID:m7k0Y3tk0
0101■R010101AO塊IM■Solitaire (Single Version) --Carpenters http://www.youtube.com/watch?v=0tgfBabA1_U■01続■貴10?筒■01

527 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:38:58 ID:m7k0Y3tk0

 

0101010101101001010100100101101010
0101011011010100101011100100010011
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0101010101101010010101011010010101

 
.

528 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:39:45 ID:m7k0Y3tk0

………

……



insert disc to 「the October country」

///hava a nice dive!///

529 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:40:48 ID:m7k0Y3tk0

 

And solitaire's the only game in town

and every road that takes him takes him down

and by himself it's easy to pretend

he'll never love again

 

……Solitaire/Carpenters

530 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:42:09 ID:m7k0Y3tk0

 

从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

    =Яeboot=


  「10月はため息の国」

 
.

531 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:43:42 ID:m7k0Y3tk0


 
 
           ///disc.1///

 

.

532 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:46:35 ID:m7k0Y3tk0

Prologue


――早朝六時の二分前。
  _,,,
_/::o・ァ「アサダョ、オキテ!オキ――グゲッ」

LEDのカメラアイをピンクに染めようとする鳥型ペットロイドの頭を鷲掴みにすると、私はアラームが鳴り出す前に布団を跳ね上げる。

o川*゚∀゚)o「おはようございます!!」

掌の中で“きゅう子”がペットロイドらしからぬ苦悶の電子音声を上げるが無視して埋め込み式クローゼットの前に移動。

o川*゚口゚)o「破ァッ!」

桜色の寝巻を刹那のうちにパージ。
生まれたままの姿でクローゼットを開け、昨晩用意していたチューブトップとホットパンツ、ニット帽を装着。

o川*゚ 3゚)o「トウッ!」

ワンステップで六畳半を横断し、窓際へ。
さくらんぼ柄のカーテンを引き開けた所で朝日と対面した私は、今日という一日への万感の思いを込め、高らかに告げる。

o川*゚∀゚)o「よぉぉおおし!今日は一日楽しむぞぉお!」
  _,,,_
/::o・ァ「アサダョォ…オキテョォ……」

握りしめたままの“きゅう子”が、ぐったりとした電子音声でそれに答えた。

533 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:49:19 ID:m7k0Y3tk0

#track-1


――最後のワンセンテンスを打ち終えてエンターキーを押すと、大きく伸びをする。
椅子の背もたれを鳴らしながら壁の時計を見上げれば、サクランボの絵柄が散らばる文字盤の中では、
今しもノッポとおチビさんがハグをしようとする所だった。

o川*う〜`)o「ふぁ…もう、こんな時間……」

動体ポインターを指先で操作してテキストを保存。
ホログラフ・ディスプレイを閉じてもう一欠伸。
単純計算すれば、ぶっ続けで三時間も原稿を書いていた事になる。
道理で、背骨が痛いわけだ。

o川*゚〜゚)o「んー…やっぱ、有線直結式の方に変えた方が良いのかな……」

机の上の、まな板にも似た情報端末(ターミナル)を見つめる。
ジャックインすれば、思考の速度がそのままタイピング速度に置き換わる。
作業効率を考えれば、そっちの方が遥かに賢いだろう。

賢いのだろうけれど。

o川*゚―゚)o「……」

ともすれば浮かんできそうになるあの光景を、頭を振って追いだす。
気が付けば、知らず、首筋の六角形を触っている自分が居た。

534 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:50:19 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「――っていうか、作業効率とか……乙女として、その思考はどうなのよ、私」

一昨年にGMN(グローバル・メディア・ネットワーク)を退職してきたからこっち、考える事が随分と増えた。
社会保険だとか、年金だとか、フリーランスというのもこれで中々楽では無い。
企業に属していなければ、小回りの利いた調査が出来ると思っていたかつての自分が、如何に世間知らずだったか。

o川*゚ー゚)o「タイムマシンがあるのなら、説教に行ってるとこだよ、ホント」

フリーランスとなれば、自分で仕事を取ってこないといけないと言う事だ。
人間は呼吸をするだけでもお金を消費する。
実際の所は、明日を食いつなぐ為に方々から仕事を取ってくる事に忙殺され、それどころでは無かった。

社会の闇を暴く正義のフリージャーナリスト、なんてものはムービーホロの中だけ。

現実は、カブキ俳優のスキャンダルを追っかけまわしては、カストリ電脳雑誌の編集者と、
原稿料の上がり下がりを掛けて不毛な暗闘を繰り返す毎日だ。

535 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:52:38 ID:m7k0Y3tk0
o川*;-_‐)o「なんだかなぁ……」

椅子から立ち上がり、六畳一間の自室を見回す。
サクランボ柄のベッドとステンレスの机を置いただけでいっぱいいっぱいの室内は、とてもうら若き乙女の部屋には見えない。
かと言って、フリーランスの出来る女のそれに見えるかというと、首をひねらざるを得ない。

o川*;‐д‐)o「はぁ……」

いまいちカッコよくはいかない。
等身大の私は、否定するにも肯定するにも、どうにも中途半端な所に居るようだ。

o川*゚ー゚)o「――でもま、自分でお休みが選べるのは良い所だ、ってことでここは一つ」

卓上カレンダーの中で自己主張する赤マル。
右にも左にも傾けないなら、傾けないなりにする事は沢山ある。

o川*゚v゚)o「よーっし、明日はしこたま買うぞー!」

小さくガッツポーズを作り、シャワールーム(無論バス・トイレ兼用)の扉を開ける。
独り言が多くなりつつある自分が居る事は、この際無視する事にした。

o川*゚ー゚)o「……」

……無視する事にしたったら無視にする事にした。

536 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:54:25 ID:m7k0Y3tk0

#track-2


――先ず、事を始めるにあたって私の“お気に入り”について話そうと思う。
私の日常には三つの“お気に入り”があって、これは他人から見れば凄くどうでもいいことなのだろうけれど、
私自身にとってこれは、私という人間を構成する上で非常に重要なパーツなのだと思っている。
いささか悠長なことではあるかもしれないが、少し語らせてほしい。
 _,,,_
/::o・ァ「キュキュキュ?キュゥ?」

一つ目は帽子だ。
ハット、キャスケット、キャップ、種類は色々とあるけれど、その中でも私はニットがお気に入りだ。
だるだるに伸びたニットを浅く被って、頭の後ろにびろーんと垂らすのが一番具合が良い。

オフの日は大体、ニット帽を被っている。
自宅が職場なフリーの身になった今は、寝るとき以外は四六時中ニット帽を被っている。
 _,,,_
/::o・ァ「ナンデ?ナンデソンナニスキナノ?」

何でそこまで好きなのか、と聞かれるといささか言葉に詰まるけれど、それが一番しっくりくるのだからしょうがない。
多分、頭を包みこまれているあの感触に、何かしらの安堵を感じるんだと思う。
 _,,,_
/::o・ァ「フーン!アッソゥ!アッソゥナノ!」

二つ目はヘアゴムだ。
GMN(グローバル・メディア・ネットワーク)時代から、頭の両サイドでちょこんと髪を括るスタイルは私のトレードマークだった。
キュートと言えば、あの髪型だ、という感じでお茶の間の皆さんにも記憶していて貰えると自負している。
ニットの帽子を浅く被るのも、この髪型を崩さない為、というのが大きい。

537 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:55:29 ID:m7k0Y3tk0
 _,,,_
/::o・ァ「ソウナノ?ソウナノ?キューチャンシラナカタョ?」

ヘアゴムの方に話を戻そう。
ニット帽程ではないが、ヘアゴムについても私の拘りは深い。

先ず、でっかい玉の飾りがついていないと駄目だ。
子供っぽいと言われようが、これは変えられない。アイデンティティだ。譲れない。

次に……。
 _,,,_
/::o・ァ「ツギニ?」

あれ。

o川*゚ー゚)o「……思い返せば、それ以外に特に拘りとか無いや」
 _,,,_
/::o・ァ「……」

……まあいい。
兎に角、この髪型を崩さないことこそが、私のアイデンティティの形成に置いて非常に重要であると言う事だ。
 _,,,_
/::o・ァ「ヘー!ソウナンダ!ソウナンダ!」

o川*゚ー゚)o「……」

気を取り直して、最後の“お気に入り”に移ろうと思う。
三番目は、エア・ボードだ。
これは私の“お気に入り”の中では比較的歴史の浅いものに分類される。
エア・ボードを御存知無い方は少ないと思う。あの、小型反重力装置のついたスケボーみたいなやつだ。

538 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:57:09 ID:m7k0Y3tk0
 _,,,_
/::o・ァ「ソウナンダ!ソウナンダ!ヘー!ヘー!」

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンシラナカッタナァ!ヘー!ヘー!」

o川*゚ー゚)o「……おほんっ」
 _,,,_
/::o・ァ「……」

フリージャーナリストとして独立してから、何かと自分の足に頼らないといけない場面が多くなってきた。
今までは緊急速報であっても、会社のバンなどで運んでもらっていたが、フリーとなるとそうはいかない。
 _,,,_
/::o・ァ「ハタラクジョシハツライネ!ネ!」

最初は自転車を利用していたのだが、如何せん体力がついて行かない。
速度的にも、小回りの面でも、エア・ボードに軍配が上がるのは、一度乗った事がある人になら分かっていただけるかと思う。
 _,,,_
/::o・ァ「ソウハセイガシュゴィ!ゥンドーエネルギーコウリツモシュバラシィ!」

経済的にはバッテリーの充電だとかで結構割高ではあるが、矢張り利便性には敵わない。文明は偉大である。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンモブンメイノチョウジデスョ!キューチャンモネ!」

私が乗るエア・ボードは、ナノテック社の「ピクシーⅡ」のピンク色だ。
一世代前のモデルだけれど、ネットで調べたら最新型よりも燃費が良いと言う事で、こちらを選んだ。

デザインも、桜の花びらみたいで可愛かったし。

539 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:58:09 ID:m7k0Y3tk0
 _,,,_
/::o・ァ「オトメテキニカンガミテ!カワィィハゼッタィソンシュ!キマリダネ!」

そんな訳で、外出時には常にエア・ボードのお世話になっている。

ニット、ヘアゴム、エア・ボード。
これが、わたくしキュートのアイデンティティたる三種の神器と言っても過言ではないだろう。
 _,,,_
/::o・ァ「ネェキューチャンハ?キューチャンハィッテナィョ?キューチャンチガウノ?チガウ?」

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンサンシュノジンギチガゥ?ナンデ?ネェナンデ?キューチャン――」

o川*゚ー゚)o「お黙り」
 _,,,_
/::o・ァ「――グエッ」

o川*゚ー゚)o「……」

……おほんっ。
三種の神器、プラスアルファの「アルファ」の部分を紹介しようと思う。
 _,,,_
/::o・ァ「キュキュキュ!キューチャンダ!キューチャンダネ?ソゥダネ?」

鳥型ペットロイドの“きゅう子”。
この子も、私の日常を語る上では外せないファクターだ。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンデス!キューチャンノトゥジョゥデス!ハイハクシュ!ハクシュシテ!」

540 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 01:59:39 ID:m7k0Y3tk0
この子との付き合いは、エア・ボードより少し長いかぐらいのものだったかと思う。
 _,,,_
/::o・ァ「ォモゥ?キューチャンノホゥガナガィョ!ゼッタィナガィョ!」

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「ナガィトオモゥ…ケド、ドゥダッタカナァ…キューチャンワカンナィナァ……」

この通り、一見すると口やかましいだけのペットロイドに見えるが、それだけではない。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンハシュゴィョ!アンシカメラモソナェタジセダィノジョゥホゥツールナンダョ!」

本人(…本人?)が言う通り、“きゅう子”は元々は本場の技術を流用して作られた、ペットロイドに偽装されたスパイ・ドロイドだ。
一定の周波数だけを選んで拾う事も可能な高性能集音マイク。
熱センサーと光学センサーの切り替えが可能な小型ハイレゾ・カメラ。
等級こそアイアンメイデンのそれに劣りこそすれ、自己学習機能のついたAI。
合法、非合法を問わず、最先端科学の粋をこれでもかと詰め込んだこの子は、市場に出回っているものではない。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャンハトクベツナンデス!オンリーワンナンデス!オーダーメィドナンデス!」

情報収集と言えば脳核インプラントで自身の視覚や聴覚そのものをサイバネ置換するという手もあるが、
乙女としてはその手のモノには抵抗がある。
何より、ペットロイド型という事で、人が入っていけないような狭い場所の調査や、
パパラッチを警戒する月九の女王を追跡する時なんかは、この子の存在がとても頼りになる。
 _,,,_
/::o・ァ「アガメタマェ!タテマツリタマェ!ケィィヲハラッテセッシタマェ!」

541 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:01:03 ID:m7k0Y3tk0
……最も、全てをこの子に任せられるかと言うと、そうでもない。
小型も小型な為、バッテリーはそこまで長くはもたないし、ハッキングを防ぐ為に、
敢えてスタンドアローンとして設計されているので、リアルタイムで映像を中継する事も出来ない。

なので、調査の際はこの子の他にも、この子が集めて来た記録を再生する為に、ハンディカメラも持っていく。
何より、ジャーナリストとして、カメラが無いというのは矢張り格好がつかない。

o川*゚ー゚)o「そう思わない?」
 _,,,_
/::o・ァ「ジャーナリズムハファッションジャ――」

o川*゚ー゚)o「そ、う、お、も、わ、な、い?」
 _,,,_
/::o・ァ「…ハィ…キュートチャンノィゥトォリダトオモィマス……ハィ……」

設計者に似たのか、時々生意気な口を聞く事もあるが、この子が頼りになる事は疑いようも無い。
寂しい夜の話し相手にならない事も無いし、何だかんだで私の相棒と言えなくもないのだろうか。

o川*゚ー゚)o「相棒…相棒、か――」

機械が相棒だなんて、まるで誰かさんみたいだ。

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「ョ!ァィボゥ!タョリニシテルゼ!」

o川*゚ -゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「ォーィ?ァィボゥ?ドーチタ?キューチャンノァィボゥサン?ドーチタノ?」

542 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:01:47 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「……ううん、何でも無い」
 _,,,_
/::o・ァ「ソゥナノ?ナンデモナィノ?セィリトカジャナィ?」

o川*゚ー゚)o「……おい」
 _,,,_
/::o・ァ「ゴメンネ!キューチャンジョークダョ!ユルチテネ!オチャメダカラネ!ネ!ネ!――グゲッ」

……ともあれ、一つ多くなってしまったが、これで私の“お気に入り”の紹介を終わろうと思う。
さあ、待ちに待った休日が始まる。

543 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:03:31 ID:m7k0Y3tk0

#track-3


――クリーム色に塗られた六角形の柱。
自分が住むマンションの外観を説明する時に、私は何時もそう答えるようにしている。

「コーポ・ミナミ」。
ニューソク区は8番街。
住宅街の真ん中に立つ、このクリーム色の建物の四階二号室が、今現在の私の“ネグラ”だ。

o川*゚ー゚)o「ネグラ、って響きはカッコ良いと思います」
 _,,,_
/::o・ァ「カッコィィ?カッコィィ?ェ?ェ?」

構造的な話しをすれば、それは見た目通り。
中央の吹き抜けに沿って渡された六つの辺の一つ一つにそれぞれ個室が割り振られ、それが六階建てで連なっている。
……ので、全部で36の世帯がここに暮らしている事になるのだろう。

「ハッ――ハッ――ハッ――」

今しもその36世帯のうちの1人が、朝もや煙る通りの向こうから走ってくる所だった。

o川*゚ー゚)ノシ「モナーさーん!おはようございまーす!」

(;´∀`)「ハッ――ハッ――ハッ――ア」

その場でジャンプしながら手を振る私に気付くと、彼はよろよろと片手を上げる。
少々前に突き出したお腹のお肉が、彼が脚を止めるのと同時にぷるるんっと揺れた。
彼を見ると、何故か私は中華マンが食べたくなる。どうしてだろう。

544 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:04:39 ID:m7k0Y3tk0
(;´∀`)「ハッ――ハッ――キューちゃん、おは――おはようモナ――ゼハァ――」

膝に両手をつき、息も絶え絶えに挨拶を返すと、モナーさんは首に巻いたスポーツタオルで顔の汗を拭った。
人の良さそうな丸顔は、有酸素運動の為にリンゴみたいに真っ赤っかになっている。

o川*゚ー゚)o「お疲れ様です!何時もこの時間はジョギングしてるんですか?」

(;´∀`)「そ、そうモナ――ハァ…ハァ…ほら、僕――ホフゥ…こんな体系だから…ブヒュゥ」

o川*゚ー゚)o「ダイエットってやつ?」

(;´∀`)「モナッ。もっと痩せて――見返してやるんだモナ――プフウ……」

モナーさんは、吹き抜けを挟んで丁度私の部屋の向かい側に住んでいる男の人だ。
越してきた当初は、こんな感じの見た目とあまり社交的と言えない性格も相まって、失礼ながら「アレ」な人だと思っていた。
それでも何だかんだと挨拶をかわして行くうち、誤解を招きやすいだけで、
性根はとても優しい人だと言う事が分かって、今では顔を合わせる度に長い立ち話をするだけの間柄にはなっている。
この前も、買い過ぎた干し柿を分けて貰った。実家からの仕送りだって。甘みが利いていて大変に美味しうございました。

o川*゚ー゚)o「見返す?」

(;´∀`)「っとと!こんな場所で立ち話をしている場合じゃなかったモナ!早いとこ準備しないと!」

o川*゚ー゚)o「バイトですか?」

(;´∀`)「モナッ!夜勤明けは店長の機嫌が悪いから、遅刻したらお目玉モナッ!」

545 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:05:52 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「コンビニっていうのも大変ですねえ」

(;´∀`)「モナ、モナ。なんか慌ただしくてごめんモナ。今度またゆっくり!」

フリーター、というのだろうか。
詳しくは分からないけれど、モナーさんは幾つかのアルバイトを掛け持ちする何かと忙しい身だ。
私が知っている限りでも、工事現場、コンビニ、居酒屋、フラワーショップ、とそのジャンルは多岐を極める。

資格だとかも沢山持っているらしく、スキューバダイビングの講師だとか、
危険物だとか、TOEICだとか、こないだは秘書検定なるものまで取ったと喜んでいた。
どうしてそんなに沢山の資格を持っているのに定職に就いていないのかは分からないが、きっと何か事情があるのだろう。

( ´∀`)「あ、そう言えばこないだ貰ったお米有難うだモナ!月末で厳しかったから助かったモナ!」

o川*^ー^)o「いいえー。何時も貰ってばっかりなのは私の方ですからー」

しゅたっ、と手を上げてマンションの玄関に吸い込まれて行くその背中に小さく手を振る。
どういった事情があるにしろ、頑張っているモナーさんの姿には、何時も何かと元気を分けて貰っている。
私も彼を見習って頑張らなければ。

o川*゚ー゚)o「……まあ、今日の所はゆっくりと羽を伸ばすんだけどね」
 _,,,_
/::o・ァ「ハネ?ハネ、ノビル?ノビナイョ?ゴムジャナィョ?」

今度また、お米の差し入れでも持っていこう。
胸の中で秘かに誓って歩きだす。
肩の上では、“きゅう子”が自分の桜色の羽をつついては、不思議そうに首を傾げていた。

546 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:06:58 ID:m7k0Y3tk0

#track-4


――午前八時に十四分前。
携帯端末を忙しなくいじるサラリーマンや、ヘッドホンを首から下げた学生の群れが、
私達(……達?)の横合いを、何かに追われるように駆け抜けていく。

未だシャッターが半開きのセンターアーケードの真ん中をぼんやりと歩きながら、
「そう言えば世間様は今日も通常運転だったか」などととりとめも無い事をぼんやりと考えた。

o川*゚ー゚)o「ちょっと前は私も毎朝あんな感じだったなー……」

目覚ましアラームに慌てて飛び起き、締切に追われたアニメーターの如く化粧を整えて、
腕時計を気にしつつリニアに飛び込み、車内で毎朝開催されるエクストリームおしくらまんじゅうのVIP大会を経て出社……。

今にして思えば、よくあれで身体がついて行ったものだ。若かったからか。

――いや、今だって十分若いし。花の二十代だし。ふざけんな。責任者出てこい。

(;><)「ぽ、ぽっぽちゃん待って下さい〜!く、靴紐が〜!」

(#*‘ω‘ *)「もー!ワカはどーしてそんなドンくさいっぽ!?ホンっと、しんじられないっぽ!」

益体も無い事を考えている私の横を、二人の小学生が忙しなく駆け抜けていく。
流石にあの二人の若さには負けるな、なんて考えながらも頬が緩むのを禁じ得ない。

547 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:09:27 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「くすっ、かわいい」

幼馴染とか、そういうのだろうか。
私を追いぬいた所で靴紐を結ぶ為にしゃがみ込んだ少年に、気の強そうな少女がランドセルを揺すって可愛らしい嫌味を吐き出している。
少女が何か言う度に、彼女の首から下がった銀色のチョーカーが陽光を反射してキラキラと光った。

(#*‘ω‘ *)「ぐず!のろま!ぐどん!ろどん!しゃかいのおにもつ!
あんたみたいなのがプロジェクトのあしをひっぱるって、パパが言ってったっぽ!」

……いや、可愛らしい嫌味というのは訂正しておこう。今時の小学生こわっ。
どこでそんな言葉覚えて来るのよ。インターネッツは規制すべきだと思いました。

( 。><)「そ、そんなこと言ったって〜」

男の子も半泣きだし。私が教師だったら、言葉のナイフは無闇矢鱈に振り回したらいけませんと教えている所だ。
ナイフを抜くのは、確実に相手を殺せると確信した時だけだ。

(#*‘ω‘ *)「ほんっと〜あんたはわたしがいないとなにもできないっぽね〜……」

ため息をついて、少女が妙に大人ぶった仕草で「やれやれ」と首を振る。
何だかんだと憎まれ口を叩いているが、少女の目元には優しげな表情が浮かんでいた。

(*‘ω‘ *)「はぁ…二分だけまつっぽ。それ以上経ったら置いて行くっぽ」

腕組みをして「いーち、にー」とカウントダウンをする少女。
だが、きっとこの子は二分が経っても少年を置いて行ったりはしない。

恐らくは小学6年生くらいかと思われるが、この歳で既にその域に達しているのは凄い。
きっと、将来的には駄目な旦那の尻を蹴飛ばして顎で使う肝っ玉カーチャンになっている事だろう。

548 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:10:26 ID:m7k0Y3tk0
(*‘ω‘ *)「ひゃーくいち、ひゃーくに」

(。><)「ロスタイム!ロスタイムをください!」

o川*゚ー゚)o「……」

その時まで、この二人の仲が続いていますように。
余計なおせっかいだろうが、胸の中で居るか居ないかも分からない神様に祈っておいた。

(*‘ω‘ *)「はい、ロスタイムしゅうりょうー。じゃ、そういうことで私はお先に」

(。><)「ま、まってください〜!」

o川;゚―゚)o「……」

……結局待たないのかよ。
私の祈りを返せ。返して下さい。ちょっとなんか惨めです。

o川*゚ー゚)o「……はぁ」

ため息と共に苦笑を浮かべると、背中のエア・ボードを担ぎ直して歩きだす。
そう言えば、私の子供時代はどんなだっただろう。

自分では、概ね人並みの子であったとは思っているけれど、それが真に客観的なものだという確証は無い。
高校の頃の友人は、「キュートって話しやすいよねー」と言っていた。
中学二年の頃、斜め後ろに座っていた守山さんは「キュートさんって男子にモテるよね…ねたま、羨ましい」と言っていた。
母親は、「あんたのおへそがボリューム調節のつまみだったらいいのにね」と言っていた。

549 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:11:54 ID:m7k0Y3tk0
o川;゚ー゚)o「どういう子だ……」

総評すると、ちょっと声が大きいけど(ちょっと、ね。ちょっと)快活で人好きのする子という事で良いのだろうか。
むむ、もしかしてそれはとっても素晴らしいことではないか?何だか知らないけれど自信が湧いてきたぞ。割と無根拠だけど。
 _,,,_
/::o・ァ「ァンタノオヘソガヴォリュームチョウセツノツマミダッタラィィノニネ!ネ!」
  _,
o川#゚ー゚)o「うっさい!焼き鳥にするわよ!」
 _,,,_
/::o・ァ「ドウブツギャクタィハンタィ!ハンタィ!キューチャンハォィシクナィデス!」

パタパタと頭の周りを飛び回っては騒ぎ立てる“きゅう子”を追いかけ回していたら、周囲の視線が突き刺さった。
気付いてそっちの方を見れば、通勤途中の人々が胡乱な眼で私と“きゅう子”を見つめている。
“きゅう子”の足を鷲掴みにしてその嘴を塞ぐと、私は大きく咳払いをした。

o川;゚ー゚)o「も、もー困ったなー!この子、どっか故障しちゃったのかなー?
      まいったな―!修理に出さないとなー!電気屋さんもう開いてたかなー?」
 _,,,_
/::o・ァ「クギュゥ……」

私の迫真の演技に、群衆は白けた視線を送ってから再び流れ出す。
完全に私が痛い子扱い。これで私の声が大きい、というのは証明されたわけですね。お母さん、これで満足ですか?

550 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:13:08 ID:m7k0Y3tk0
o川;‐д‐)o「ハァ……」

ため息をつきつつも、そう言えば、と私は先の思考の続きに戻る。
小、中、高、大、と友人に困らなかった私だが、あの頃の友人達は今頃どうしているのだろうか。

大学の時点で携帯端末のアドレスの「友人」の欄は800件を超えていたが、今ではその中でも連絡を取り合っている子は殆ど居ない。

GMNに勤めていた頃は、それでも定期的に集まっては、カラオケやら飲み会やらと騒いだりもしたが、それすらも年々頻度が減って行った。

大人になると、何かと仕事を優先させがちで、お互いがお互いに気を遣ううち、自然消滅するかのようにして会えなくなるものだと良く言う。

世間一般ではそうなのだろうが、私の場合はフリーランスとして独立した時点で、自ら友人達との繋がりを絶った。
自分がしようと決めた事に、他の子達を巻きこむわけにはいかない。
多分、そんな風に恰好をつけてのことだったと思う。

後悔は、していない。
少なくとも、頭の中の「お利口さんな私」は、そう言い続けている。

でも、アドレスは変えていない。あの頃からずっと。

連絡しようと思えば、向こうから連絡がつくし、たまに半年に二回くらいのペースでバーベキューのお誘いが来る。

でも、私は返信しない。しちゃ、いけない。そしたらきっと、私は挫けてしまうから。

o川*゚ー゚)o「っておいおーい!暗いぞキュートー!ダメでしょー!スマイルスマーイル!」

から元気を振り絞って頬を叩く。
通行人の視線が再び集まりかけたので、慌てて口笛を吹いてごまかす。古典的過ぎるでしょそれ。

551 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:15:45 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「……ん?」

一人新喜劇を演じながら歩いていた私は、右手のショーウィンドウの中に、あるモノを見つけて駆けよる。

セクサロイド専門風俗の如何わしいピンク色の看板の隣、錆ついた立て看板には「おもちゃのフミヲ」とある。
おいおい、こんな所におもちゃ屋とか立てていいのか。大人のおもちゃと勘違いしたカップルが入店しちゃったらどうするの。
いや、乙女的にはここで顔を赤らめる所でしょ。……失礼、取り乱しました。

錆ついた立て看板や、傾きかかった店構えといい、「おもちゃのフミオ」は築うん十年を回ってそうである。
だとすれば、隣の「にゃんニャン☆パラダイム」とか言うえっちぃお店の方が後から建った形になるので、「おもちゃのフミヲ」に罪は無い。
きっとノーギルティ。勝訴です。

私の目を引いたのは、そんな老舗玩具店のショーウィンドウの中で、埃を被ってこちらを指さす等身大のポップだった。

o川*゚ー゚)o「うわ、五臓六腑たんだ!懐かしー!」

ピンク色のフリフリがついたドレスっぽい衣装。
アニメチックにデフォルメされた幼い少女が握るのは、魔法のステッキ「とらぺぞ☆ヘドロ」。
あのステッキの先の花びらが開いて、ヘドロみたいな何かが出て来る。

忘れもしない。
目の横でピースサインをして、右足をぴょこんと跳ねあげた決めポーズは、
十数年前の日曜朝七時のアイドル、「マジかるラジかる!?どぴゅきゅるっ!ハートビート乙女ちっくアイドル!魔法少女五臓六腑たん」に他ならない。

552 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:17:08 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)o「うわ!うわー!懐かし過ぎるんですけど!
      なんで!?なんでまだこんなの残ってるのー!?」

あまりの懐かしさに、思わず妙なテンションになってしまう。
再び周囲の視線が集まってくる前に声のボリュームを落とさねば。

でもほら、中学校とか高校とかに上がった時、別の地区の子と小さい頃やってたアニメの話しとかすると、変に盛り上がったりしない?

しないですか?……はい。

――それにしても五臓六腑たん。懐かし過ぎる。
第一作が放映されたのは、私がまだ幼稚園を上がるか上がらないかの頃だから、下手をすればもう二十年も前になる。

当時は、変身グッズ的なものを親に買って貰い、隣の部屋の男の子とマンションの駐車場で五臓六腑たんごっこなるものをしたものだ。
無論、私が五臓六腑たんで、男の子(たしかショウタ君だと思う)は怪神マユゲルゲの役だ。

o川*゚ー゚)o「あれ?マユビルゲだっけ?」

まあいい。
兎に角、そんな感じでなりきりごっこまでするほど、私は五臓六腑たんに入れ込んでいた。

話しの筋としては、「何処にでもいる小さな女の子が、ある日突然魔法の力を手にいれ、
マスコット的な小動物や仲間と共に悪者と戦う」というよくあるものだ。

日曜朝七時と言えば伝統的に子供向けのアニメが放送されているという事で、
概ね五臓六腑たんも分かり易い勧善懲悪なストーリーラインだったが、一つだけ、私の記憶の中に今なお強烈に焼き付いている回がある。

553 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:18:29 ID:m7k0Y3tk0
それは確か、私が小学二年生の頃だから「マジかるラジかる!?どぴゅきゅるっ!ハートビート乙女ちっくアイドル!魔法少女五臓六腑たん 〜the another birthday〜」(確か第六シーズンくらいまであるうちの第二シーズン目)の中の一エピソードだ。

何時ものように怪神が出て来て街で悪さを働き、それを五臓六腑たんとその仲間達がやっつける、
という筋書きは変わらないのだが、その回だけは少し捻りが利いていた。

悪役として出て来たのが、事実無根の悪い噂をばら撒いて人々の猜疑心を煽り、仲間割れを目論む、という何ともえげつない怪神だったのだ。

この怪神(何かメガロマニアンとかそういう名前だったと思う)によって、
五臓六腑たん(本名は五蔵カレンだ。今思い出した)達の担任の女の先生は浮気の嫌疑をかけられ、結婚目前の恋人に振られそうになる。

そこで、先生を信じる五臓六腑たんと仲間達、そして怪神が噂をばら撒く際に名前を騙られたジャーナリストの男の人が、
先生の潔白を証明する為に奔走するのだ。

信用は、崩すのは一瞬だが築き上げるのにはとても長い時間が必要だ。
子供向けアニメである筈の五臓六腑たんも、そこは徹底してシビアに描いていた。

悪い噂の元を辿る傍ら、火消しに躍起になる五臓六腑たんの努力をあざ笑うように、悲劇は加速して行く。
今まで笑顔を向けられていた子供達から、蔑みの視線を送られる担任の先生は、見ていてとても辛いものがあった。

であるからして、何とか噂の元である怪神を突き止め、五臓六腑たんが「らじかるビーム」でやっつけた時には、幼心に心底ほっとしたものだ。

554 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:19:36 ID:m7k0Y3tk0
エンドタイトルの一歩手前。
何とか今回の騒動が解決した事で、みんなに笑顔が戻ってきた所で、ジャーナリストの男の人が言った台詞が忘れられない。

「今回は、怪神の仕業だったから、何とかなったけど、これが誰か悪意のある人間によるものだったらどうなっていただろう」

アニメでは、分かり易い悪の根源が出て来て、それを倒せば全部解決する。
実際、その回も怪神を倒した事で、全てが解決、元通りめでたしめでたしだった。

今までアニメ調の路線でやってきた臓六腑たんの中で、ジャーナリストの男の人が言ったその台詞は、だからこそ深く私の中に刻まれた。

「一体誰が嘘をついているか、誰を信じていいか分からない、というのはとても怖いことだね……。
 だから僕は、僕だけでも、この嘘だらけの世界で本当の事を報道し続けるんだ!」

o川*゚ー゚)o「……」

思い出せば、割かし陳腐な台詞のようにも思える。
でも、多分、あの頃から、私の中で不確かながらも将来のビジョンというものが形づくられていたのだろう。
当時、テレビの前で「あたし、ジャーナリストになる!」なんて言った記憶は無いが、
あの回が報道関係に興味を持つきっかけとなったのは確かだ。

そして今、私はかつて目指したジャーナリストとしてVIPの街を駆けずり回っている。

現実世界では分かり易い悪なんてものは存在しないし、悪者をやっつけた所で全てが解決するなんてことはあり得無い。

世間に居るのは人間だけで、そこには善いも悪いも無くて、みんながみんな、自分こそが正義だと思って、必死になって今日を生きている。

誰かが笑えばその陰で泣いている誰かが居て、何が正しいのか何が正しくないのかなんて、考えても考えても、決して答えなんて出ない。

555 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:22:52 ID:m7k0Y3tk0
それでも世界は回り続ける。

幾億、幾兆の人生を乗せて、その数割を振り落としながら、止まる事を知らずに回り続ける。

その回転から振り落とされないように、今はしがみつくだけで精一杯だ。

何時かは、立ち上がることが出来るのだろうか。

私も――そして、願わくば――。

o川*゚ー゚)o「……」

いや、信じるしかないのだ。それこそ、五臓六腑たんが担任の先生の潔白を信じたように。
何時か立ち上がり、しっかりとした足取りで歩きだす事を。

o川*゚д゚)o「…っしゃー!」

思考の迷路から脱出した所で、玩具店のドアを叩く。
折角だから、記念に魔法のステッキ「とらぺぞ☆ヘドロ」でも買っていこう。
ネットオークションで多分マニアに高値で売れると思うし。
――あ、ヤバ、既に思考がとらぬ狸の何とやらに染まりそう。乙女的に自粛せよ。

556 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:24:20 ID:m7k0Y3tk0

#track-5


――センターアーケードを抜けて二分程歩くと、ニューソク駅前の大交差点に辿りつく。
現在時刻は午前九時をちょっと回ったあたり。
既に目覚め切った街では、地下鉄の入り口が今日もひっきりなしに人の波を吐いたり飲み込んだりを繰り返していた。

o川*゚ー゚)ノ―☆「まっほうのち〜か〜ら〜がみっなぎる丹田〜♪
        はーなて勝利のっマッジカル・ラッジカル・アルアジフ〜♪」

魔法のステッキとらぺぞ☆ヘドロ(税込2980円)を振り回し、私は人混みから少し外れた歩道の上をご機嫌な気分で歩いていく。
ここまで人の波が大きくなってくると、私一人が電波な歌を歌いながら歩いた所で、さして気には止められない。
だがきっと、顔には出さないが誰もが心の中でこう思っている筈だ。

「なんだこの女キモ。伝染るとあかんから近寄らんとこ」

貴方は正しい。正しいが……気分が良くて何が悪い?
ついでに言わせて貰えば、サイバネ置換で頭に動力パイプみたいなのを這わせている人の方がどうかと思います。
え、ニューソク駅前までそんなパンクな人が足を延ばしてきてるの?こわっ。近寄らんとこ。

o川;゚ -゚)o「……って、マジで?」

自分の述懐に、思わず背後を振りかえる。
今しがたすれ違ったばかりの三人組の男たちのうち、右の男は左腕にクロームメタルの義体を、
真ん中の男は両目がサイバネ義眼に、左の男に至っては顔面の六割を薄緑の鉄板が覆い、
先の私の述懐通り、スキンヘッドの上をうねうねと動力パイプが這っていた。

557 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:26:11 ID:m7k0Y3tk0
 _,,,_
/::o・ァ「ャクザモノダ!ョタモノダ!」

o川;゚ー゚)o「こ、こらっ!」

白痴的に囀ろうとする“きゅう子”の口を慌てて抑える。
幸い、件の三人には聴こえていないようで、ほっと胸を撫で下ろした。

o川;゚ー゚)o「――にしましても、ねぇ……」

フリーになってからと言うもの、この手のパンクス達の姿を見る事には大分慣れていた。
ニュースでは報道されないような事件に首を突っ込んで行く手前、社会の裏側とは、
嫌が応にも膝を突き合わせる距離でにらめっこをしなければならない。当然のことだ。

それでも、あの手の「カタギじゃない」人種は、ニーソクや万魔殿にまでお出かけしないとお目にかかれないものだ。
あくまでも、ニューソクは平凡な表の世界の人々が住まう地だと思っていた。

o川*゚ー゚)o「最近、治安が悪いのかな……」

それとも、私の認識が間違っていたのだろうか。
世間には既に昼と夜の境目なんてものは存在しなくて、私達は長く白夜の中をそれと知らず歩いて来ていたのだろうか。

o川*゚ー゚)o「むむっ。これは次のコラムのネタに使えるかも」

一抹の不安は残れど、それで思い悩んでも仕方が無い。
悩む前に、記事を書け。私の武器は、銃でも振動実剣でも無くペンだ。
ペンは剣よりも強し。銃は剣よりも強し。つまり、ペン最強。それを握る私は超最強。超最強って頭悪そうな響きだね。

558 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:27:36 ID:m7k0Y3tk0
 _,,,_
/::o・ァ「ュケ!キュートチャン!ゲンコーリョーノタメニ!タタカェ!キュートチャン!」

人聞きの悪い事を言われては困ります。
これは、ジャーナリズムの為の戦いです。
その戦いの中で、少しのご褒美が貰えれば、ちょっと…いや、結構切実に嬉しいなあっていうだけです。
あくまで聖戦。ジハード。……あれ、途端に胡散臭くなったなあ。

o川*゚ー゚)o「おろ?」

大交差点から少し歩いた先、歩道が膨らんで大きくなった所には奇怪なオブジェが立っている。

黄金色に光り輝く高さ五メートルのそれは、巨大な人間がブリッジの姿勢で天に右手を伸ばすという、何ともコメントのしづらい造形だ。

「希望へ」というタイトルを付けられたこの前衛芸術的なオブジェの周囲には、囲むようにしてベンチが置かれており、
ニューソクの人々にとっては待ち合わせスポットとして親しまれて(親しまれて?)いる。

そんな名状し難いオブジェの足元に、私は見知った人影を見つけた。

「……マジかー。それじゃしょうがないかー」

黄金巨人に右の手をつき、左の肩と耳で携帯端末を挟みつつ、更に左手で別の携帯端末をいじる彼。
前に二、三度会っただけではあるが、ちゃんと覚えている。

男の子にしては艶のあるさらさらな茶髪を、頭の後ろでお団子にして、襟足をそのまま伸ばしたユニセックスな髪型は、間違いない。

559 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:28:44 ID:m7k0Y3tk0
o川*゚ー゚)ノ「フォックスさーん、ちわーっす!」

爪;'ー`)】「ヒッ――!?」

私の呼びかけに、メッシュの黒いカーディガンに包まれた肩がビクりと上下する。
まるで浮気現場を押さえられたジゴロのようだ。悲しいのは、多分「ようだ」じゃない所だ。

ヽ爪;'ー`)】「な、なんだキュートちゃんか…ち、ちわーっす……脅かさないでよ……。
        ――え?ああ、知りあい。…うん?違うって。俺はお前一筋だって…うん、うん、愛してるよ…うんマジで」

振り返りつつ私に挨拶を返し、そのまま電話の向こうの相手へ愛を囁くその手際は実に鮮やかだ。
しかも同時に左手でいじっている携帯端末は、間違い無くまた別の女の子へのメールだろう。
恐らく彼は脳核が三つくらいあるのだろう。あと、下半身も三つくらいある。少なくとも今確認出来るだけでは二つずつある。

o川*゚ー゚)o「あーなんですかー。またスケコマシですかー?」

爪;'ー`)】「違うって、人聞きが悪いな!それとスケコマシは動詞じゃな――え?だから違うって!マジ勘弁してよ!ホント、ただの知り合いだから。
       うん、ちょっとお脳が可哀相な子なんだよ…うん…え?…大丈夫、それ以外は普通…だと思う…うん……」

すったもんだと揉めつつも、何とか会話を切り上げ、フォックスさんはコバルトブルーの携帯端末をパタンと閉じる。
何やら最後の方で私のネガティブキャンペーンが行われた気配があったが、私は大人の女なので追及はしない。
その代わり生温かい視線をプレゼントしてやろう。――もわっ。

560 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:30:57 ID:m7k0Y3tk0
爪;'ー`)y‐「ひ、久しぶりだね、キュートちゃん。今日は何?取材?」

気を取り直して、と言う感じで柑橘類の弾ける爽やか笑顔を浮かべるフォックスさん。
高い鼻梁を中心にして、中性的に整った顔立ちは、私から見ても十分以上に美男子だと思う。
なるほど、これなら女の子に苦労はし無さそうだ。ギルティな殿方であらせられる。

o川*゚ー゚)o「今日はですね、オフなのでゆっくりお散歩なのです。そういうフォックスさんはスケコマシですか?」

爪;'ー`)y‐「いや、だからこれには深い訳があって……」

o川*゚ー゚)o「ほどほどにしないと、リリちゃん、泣いちゃいますよ?」

爪;'ー`)y‐「だからね、ホント違うの!あとあの子の名前は出すの止めて!ね!」

o川*゚ー゚)o「えー…何が違うんですかぁ……?」

尚も食いさがろうとする私を前に進退極まったフォックスさんは、そこでポンと手を打つ。

爪;'ー`)y‐「そうだ!キュートちゃん、こないだレ・パルシェのブラマンジェが食べたいって言ってたよね?」

その単語を耳にした瞬間、私の瞳にはきっとお星様が瞬いていただろう。

o川*゚∀゚)o「え!?奢ってくれるんですか!?」

爪;'ー`)y‐「え?ええと、まだ何も言って無いっていうか、まあ、そのつもりではあるんだけど…ええー……」

マジですか!

o川*゚∀゚)o「マジですか!?」

561 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:32:02 ID:m7k0Y3tk0
爪;'ー`)y‐「う、うん、奢る。奢るよ。だから、さ――」

o川*゚∀゚)o「じゃあカボチャのアドリア海風タルト〜パティシェのメランコリー〜も食べても良いですか!?」

爪;'ー`)y‐「え?何が“じゃあ”なの?いや、別にいいけど……」

o川*>∀<)o「じゃあじゃあ、おまけでコーラル・スカイ・マリン・ブルー・トリニティ・モンブランも三つくらいつけちゃってもいいですか!?」

爪;'ー`)y‐「え?なに?コーラル――なに?……ま、まあいいよ…だからさ――」

うおおおおお!

o川*゚∀゚)o「あざっす!ざっす!ざっす!うっひょぉ〜!フォックスさんマジ唯一神〜!テンションあがってきた〜!」

語尾も上がってきたあ!

爪;'ー`)y‐「は、はは…有難う…ていうかそのテンション何?ぶっちゃけ引くわ……それでね、奢る代わりに――」

天にまします我らがフォックス神よ!貴方の恵みに感謝します!

o川*゚∀゚)o「行きましょう、フォックスさん!今日は聖誕祭です!フォックス神の誕生を祝してスイーツ三昧っすよお〜!」

爪;'ー`)y‐「いや、だからね、奢る代わりに――ちょっと!聴いてる!?ねえ!」

いざ、聖地へ!

562 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:32:58 ID:m7k0Y3tk0

#track-6


――神!

o川*゚∀゚)o「マジで神!フォックス神!超!唯一神!」

爪;'ー`)y‐「その神っての止めてくんない?何か馬鹿にされてる気がする……」

o川*>∀<)o「やだなあ!本心からの私の気持ちですよぉ!ホント!あ、私今日からフォックス教に改宗しますね!ニュー・テスタメントです!」

爪;'ー`)y‐「ていうかキュートちゃんってそういうキャラだっけ…?痩せるとか言われて、変なクスリに手出したりとかしてない?」

o川*゚∀゚)o「そぉおんな訳無いじゃないですかぁ!ただちょっと、神の誕生を前にして感極まってるだけですよぅ♪」

爪;'ー`)y‐「そ、そう…?なんか、肩の上の“きゅう子”ちゃんも引いてるけど、大丈夫?」
 _,,,_
/::o・ァ「……ナィヮァ」

o川*゚∀゚)o「この子、最近ちょっと調子悪いんですよね―!でも大丈夫!
      今日のうちになんか直ると思います!叩けば!斜め四十五度で!」
 _,,,_
/::o・ァ「――ピギッ!」

爪;'ー`)y‐「や、その、精密機械なんでしょ?叩くとか……」

o川*゚∀゚)o「そう言えばそうですね!忘れてました!」

563 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:34:34 ID:m7k0Y3tk0
爪;'ー`)y‐「そう…そうなんだ…うん…うん……」

ニューソク区は六番街。
ウラハラ・ストリートの中に立つシュークリームショップ「レ・パルシェ」の店内。
まるでこの世の終わりが来たかのような顔で、フォックスさんは項垂れる。

o川*゚д゚)o「あ、この苺美味しっ!フォックスさんも一口いかが?」

爪;'ー`)y‐「いや、俺は遠慮しとくよ……」

私達二人の間、それそのものが、パティシェの手によるお菓子にさえ見えるテーブルの上には、
フォンダンショコラ、タルト、マドレーヌ、ブラマンジェ、オレオ、古今東西色とりどりのスイーツがトレイ狭しと並んでいる。

我々純真なる乙女の間で話題沸騰、業界騒然なレ・パルシェは、シュークリームをメインに取り扱うお店ではあるが、スイーツ全般に渡ってとても美味な事で有名だ。

前に一度、週刊ルージュ(働く女性のバイブル)のスイーツ特集の記事を書く為に訪れて以来、私もその味に骨を抜かれた一人だ。
抜かれたのは主に脊髄とかだと思います。

o川*゚д゚)o「ホンッと、マジ感謝してます!レ・パルシェって、美味しいんですけどお値段も結構なものだから、フリーでやってると中々……」

実際、今日のオフは大奮発してここのジャンボシュークリームを一箱買って締めにしよう、と秘かに決めていた。
私の経済能力ではそれが限界なのだ。
それを、このフォックス神は好きなだけ食べていいと言って下さる。

o川*´ー`)o「やーん私もうフォックスさんのお嫁さんになっちゃおっかなー」

爪;'ー`)y‐「はは、冗談でも嬉しいよって言おうと思ったけど、やっぱり全然嬉しくないや……」

564 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:35:34 ID:m7k0Y3tk0
o川*^ー゚)o「まーたまたぁ!こんなに可愛いキュートちゃんを前に、スケコマシなフォックスさんがそんな事言うわけ無いです!
      ホントは嬉しいくせにぃ!照れちゃってぇ♪このこのぉ〜♪」

爪;'ー`)y‐「もうそろそろそのウザキャラやめない?あと、そのスケコマシっていうの止めてくれる…?」

はぁ、とため息をついて、フォックスさんは目線で煙草を吸って良いか尋ねてくる。
無論、私が神を前に首を横に振る筈も無い。

とろけるような私の笑みに、フォックスさんはずっと指に挟んでいた煙草に火をつけると、
周りのお客さん(殆ど女の子)にも多少の気を遣いながら、なるたけ煙が散らないよう肩身が狭そうに煙草を齧る。
煙草に限ったことではないけど、こういう細かい気配りが出来るのも、モテる理由の一つだろう。

ただ、本当に気を使うなら女の子と一緒の時は煙草に火を灯さないのが正解だけどね。乙女の私が言うんだから間違いない。

爪'ー`)y‐~「でさ、ここは俺が奢るからさ、さっきのはリリには黙っててくれないかな?」

o川*゚д゚)o「ほらー!やっぱり浮気だったんじゃないですかー!」

爪;'ー`)y‐~「いや、だから違うんだって……」

o川#゚ー゚)o「何が違うんですか!そんなんで――モグ――私はごまかせません――モグ――あ、この栗きんとん美味しっ――よ!」

爪;'ー`)y‐~「え?栗きんとん?」

o川#゚д゚)o「ごまかさないで下さい!」

爪;'ー`)y‐~「なにこれ、なんでこの子こんな理不尽なの……」

565 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:36:45 ID:m7k0Y3tk0
o川#゚ー゚)o「と、に、か、く!一人の乙女として、フォックスさんのその浮気癖は許せません!
      幾らスイーツ神と言えど、やって良い事と悪いことがあります!私がスイーツ如きで買収されると思ったんですか!」

爪;'ー`)y‐~「いや、実際めっちゃちょろい感じだったよ…俺が人攫いとかじゃなくて良かったよね、ホント……」

o川#゚ー゚)o「甘い!この苺のタルトよりも甘い!」

爪;'ー`)y‐~「あー来ると思った、その台詞……」

o川#゚ー゚)o「だまらっしゃい!」

裁判官の振るうハンマーのようにして、テーブルに拳を叩きつける。
衝撃でフォークとナイフが音を立てた。危ない。もう少しで食べかけのクランベリーパイが皿から落ちる所だった。
甘味はとても尊い。主にキュート条約とかで保護されてる。

o川#゚ー゚)o「ホント、信じられませんよ……。あんなに可愛くて、健気で、ちっちゃくて、一途で、それからちっちゃいカノジョが居るのに……。
      一体、何が不満なんですか!?ちっちゃくちゃダメですか!?」

爪;'ー`)y‐~「いや、別にカノジョじゃないし…あと、ちっちゃい言い過ぎだよ……。
        あの子、あれで背の事結構気にしてるから、本人の前では言わないだげてね…」

o川#゚ー゚)o「カ〜ノ〜ジョ〜じゃ〜な〜いぃい〜?どぉの口がそう言う事を仰るんですか?
        この口ですか?この、女の子みたいに形の良い唇が言ってるんですか?」

爪;'ー`)y‐「いや、だって、別に、どっちかが付き合おうとか、そう言う事は全然言って無いし……」

o川#゚д゚)o「ハァ〜?この期に及んでその言い訳ですかぁ〜?」

566 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:38:19 ID:m7k0Y3tk0
言っていて、何だか少し泣けて来た。
あれで恋人じゃないというのは、リリちゃんにとってはあまりにも、あんまりだ。

o川;‐_‐)o「見損ないましたよ、フォックスさん…私の知ってるフォックスさんが、まさかこんな中学生みたいな言い訳をするなんて……。
       スイーツも奢ってくれるし、もっと誠実な人だと思ってました……」

爪;'ー`)y‐~「君の誠実さの基準って面白い所にあるね……」

はふん、と重油のように重たいため息が口をついて出る。
どうでもいいけど、重油って「重い」って書くけど実際の所は重いの?

o川;゚ー゚)o「だって、だって、毎日お弁当を作って持ってきてくれてるんでしょ!?
       しかも、あのおピンクなお店の中まで届けに来てくれるんでしょう!?
       女の子があんなお店に足を踏み入れるのにどれだけの勇気が居ると思っているんですか!?」

本当に信じられない事だけれど、この美男子スイーツ神(そろそろ邪神になる予定)は、
えっちぃゲームを専門で売っているお店の雇われ店長をやっている。

私もあの人の紹介で初めてお店に入った時は、正直引いた。

いや、女の子であの異様な空間で三秒以上呼吸が出来る子なんて、きっとそうは居ない。
男の子の中でそういう趣味を持っている人が結構居ると知っていても、やっぱり無理。

何であそこはあんなに禍々しい空気を漂わせているのだろうか?
多分、スライムのお化けとかが居たらそいつの体内はあんな感じだと思う。
めっちゃねばっこい。あと、変な汁とか滴っている。比喩どころじゃないのが怖い。

そんな異空間に、毎日決まった時間にお弁当を届けに来てくれるリリちゃんは、私から見ても凄いと思う。
男の子から見たらきっとあの献身っぷりは天使だ。仕える神がフォックス神という邪神だけど。

567 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:40:49 ID:m7k0Y3tk0
◆就寝時間だ◆静かにして下さい◆

568 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/09/29(土) 02:42:42 ID:m7k0Y3tk0
■RADIO塊IM■フジファブリック-虹 http://www.youtube.com/watch?v=-1PwXs-XHas&amp;feature=relmfu■貴方?筒■子守唄■

569 名も無きAAのようです :2012/09/29(土) 02:51:52 ID:II41TV5o0
おつ
キューちゃん可愛い

570 名も無きAAのようです :2012/09/29(土) 03:10:23 ID:0EAeVnvI0
乙!おやすみなさい

571 名も無きAAのようです :2012/09/29(土) 04:48:14 ID:JAks1pRk0
キャラクターが文字通り生き生きしてるNE!!
支援

572 名も無きAAのようです :2012/09/29(土) 10:19:18 ID:bUTa5we20
キューちゃんsoキュートじゃないですか・・・何ですかこれは・・・

573 名も無きAAのようです :2012/09/29(土) 12:40:28 ID:wZogdVTY0

次は二日後か・・・

574 名も無きAAのようです :2012/09/29(土) 17:03:50 ID:K4FpSB6g0

五臓六腑たんが気になって仕方ないな
モナーがいるならシャロンだって…

575 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 10:49:15 ID:FzV8uf/k0

◆コールドスリープ終了◆ウラシマ効果?◆

576 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 10:50:18 ID:FzV8uf/k0

 

            【IRON MAIDEN】

 
.

577 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 10:57:01 ID:FzV8uf/k0
爪;'ー`)y‐~「――まあ、あいつはその、ほら、ちょっと特殊だし…それに、昔からの付き合いだから、えっと、その延長線上だろ?」

o川#゚ー゚)o「それだけであの魔窟に足を踏み入れるなんて普通できません!それ以上の何かが無いと!絶対無理!
      ていうか、普通の女の子だったら、あんなお店に勤めてるって時点でもう引いちゃいますよ!」

爪;'ー`)y‐~「あ、やっぱそうなの…?分かってたけど、ちょっと傷ついたわ…」

o川#゚ー゚)o「だーかーらー!そうまでしても、会いに来てくれてるってのが!ね!
      特別だって言うのがっ!わっかんないんですかねえこのスケコマシさんは!」

何時までも煮え切らない態度のスケコマ神(とても邪悪。乙女的にアークエネミー)に、私の堪忍袋の緒も遂に千切れた。
思わず手が出る。耳たぶを思い切りひっぱってやった。

爪;'ー`)y‐~「だだだだっ!痛い痛い痛い痛い痛い!千切れる千切れる千切れる!」

o川#゚ー゚)o「リリちゃんの心の声も聞こえないような耳なんか、千切れちゃえば良いんです!」

――そう、私の堪忍袋の緒のように。
……どやぁ。

爪;'ー`)y‐~「だー!わかったわかったわかったわかりました!わかりましたから離して!ホント、マジで血ィ出るって!」

o川#゚ー゚)o「ホントに分かってますぅ!?」

578 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 10:58:08 ID:FzV8uf/k0
爪;'ー`)y‐~「分かってる分かってる!だだだだ!あ、今ぶつっていった!ぶつって!」

o川#゚ー゚)o「反省してますか!?」

爪;'ー`)y‐~「してますしてますしてますしてます!ああ何かあったかいの垂れて来た!
        これ血じゃない!?ねえこれ血ィ出て無い!?」

o川#゚ー゚)o「じゃあ、仮釈放です」

言ってから、最後に思い切り力を込めて引っ張り、そして離す。
ぱちんっと、ゴムが弾けるような音がして、フォックスさんは苦悶の表情を浮かべた後、テーブルに突っ伏した。
これが恋の痛みだ。思い知ったかスケコマ神め。

爪;'ー`)y‐~「つぅ〜――!…なんでスイーツ奢らされた上に耳まで千切られなきゃいけないんだ……」

o川#゚ー゚)o「フォックスさんが悪いんですよ。リリちゃんに、もっと誠実になってあげるべきです。
      ラブコメ漫画の主人公じゃあるまいし、本当はリリちゃんの気持ち、気付いてるんでしょ?」

全くだ。
あんなの、誰が見たって丸わかり。私ですら、初めて二人を見た瞬間に分かったぐらいだ。
ましてや、このスケコマ神(次からあだ名として使う予定)ほど女の子に慣れている人が気付いていない訳が無い。

赤くはれた耳たぶ(ちょっと裂けて血が滲んでる)を摩りながら、フォックスさんはばつが悪そうに視線を逸らす。

爪 ')y‐~「勿論、とっくに気付いてるよ――」

線の細いその横顔に、一瞬苦々しい表情が過った。

579 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 10:59:14 ID:FzV8uf/k0
o川#゚ー゚)o「じゃあ、なんで――」

身を乗り出して、その横顔に私は食らいつく。
フォックスさんは、煙草を一吸いしてから視線を戻す。

爪'ー`)y‐~「ほら、キュートちゃんも言っただろ?ああ言う店の店長やってるって女子的にかなりポイント低いって。
       だからさ、あの子みたいな良い子は俺と付き合わない方がいーの」

再び私の方を向いたその顔には、何時ものいい加減な、それでも女の子を騙すにはもってこいの、魅力的な笑みが貼り付いていた。
  _,
o川*゚ぺ)o「それは、まあ、事実ですけど……」

爪'ー`)y‐~「ね?自分のカレシがピンクなお店に勤めてますよ〜なんて、友達には言えないっしょ?」
  _,
o川*゚д゚)o「でも、リリちゃん、今更そんな事気にしないと――」

爪'ー`)y‐~「はは、だったら嬉しいんだけどねー。どうだかなあ……」

困ったように笑いながら、フォックスさんは窓の外に目をやる。
遠くを見つめるようなその瞳には、やんわりとした隔絶の色があった。

多分、フォックスさんの本音は、今しがた彼が語った“理由”とはまた、別の所にあるのだろう。
気にはなるが、それ以上突っ込んで聞く事も出来ず、私はもてあまし気味にチョコミントクッキーを頬張るしか無かった。
  _,
o川*゚ぺ)o「むー……」

あ、このチョコミントまいうー。

580 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:00:26 ID:FzV8uf/k0
o川*゚ぺ)o「じゃあ、一つだけっ」

爪'ー`)y‐~「ん?」

o川*゚ー゚)o「フォックスさん自身は、リリちゃんの事をどう思ってるんですか?
      女の子として、好きなんですか?それとも、ただの幼馴染?」

爪'ー`)y‐~「んー……」

「どうなんだろうなあ」とぼやき、フォックスさんは考え込むように、ぼんやりと天井を見上げる。
ぷかぷかと吐き出す紫煙を追うその瞳は、切なげな色を帯びているような気がした。

爪'ー`)y‐~「あんま、深く考えたこと無かったなあ……」
  _,
o川*゚д゚)o「じゃあ今考えて下さい!」

爪;'ー`)y‐~「んな事いきなり言われても……」

困ったように後ろ頭をかきながら、フォックスさんは煙草をいっきに吸い終えて、新しいのに火を灯す。

爪'ー`)y‐~「まあ、好きなんじゃないかな?わかんないけど」
  _,
o川#゚д゚)o「だー!もうっ!」

……この分では、リリちゃんが報われる日が来るのは、まだまだ先のようだ。

581 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:01:22 ID:FzV8uf/k0

#track-7


――カウベルのお洒落な音に見送られつつ天を仰げば、光化学スモッグの切れ間からは、南中したお天道様がひょっこりと顔を覗かせていた。
腕時計を確認すれば、現在時刻は午前十一時半。
気の早い人々が今日の昼飯を探し出す頃合いだが、フォックス神のお陰で心行くまでスイーツを堪能できた私にランチは要りそうもない。
ここからなら駅前のPINKも近いことだし、昼前からウィンドウショッピングと洒落込もうかと思った所で、隣の彼の事を思い出した。

o川*゚ー゚)o「それで、フォックスさんはこれからどうするんですか?」

爪'ー`)y‐「え?俺?」

o川*゚ー゚)o「そう言えば、“希望へ”のトコで誰かと待ち合わせしてたんじゃないんですか?」

爪'ー`)y‐「いや、あれはいいんだ。向こうに急用が入ったとかでキャンセルになっちゃったから」

o川*゚ー゚)o「ふーん、そうなんですか」

爪;'ー`)y‐「ていうか、そう言う事はレ・パルシェに入る前に聞くよね、普通……」

o川*゚ー゚)o「もしこれから暇だったら、一緒にぶらぶらしません?」

爪;'ー`)y‐「……聞いちゃいないよ」
  _,
o川#゚д゚)o「一緒にぶらぶらするんですか!?しないんですか!?」

爪;'ー`)y‐「何だこれ…何なんだこれ……」

582 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:03:31 ID:FzV8uf/k0
何故かぐったりと項垂れると、フォックスさんは疲れたようなため息をつく。

爪;'ー`)y‐「はあ……まあ、どうせ家に帰っても暇なだけだからいいんだけどさ」

o川*゚ー゚)o「それは、着いてくると言う事ですか!?」

観念したように頷くと、フォックスさんはまた煙草に火を点けた。

o川*゚ー゚)o「“しゅしょー”な心がけですね。ま、こんなに可愛いキュートちゃんのお誘いを断るなんて、考えられない事ですけどっ!」

爪;'ー`)y‐~「ていうかもう一回聴くけど、キュートちゃんって何時からそんなキャラになったの?
        俺、君はもう少し常識のある子だと思ってたよ……」

o川*‐へ-)o「今日は思いっきりを羽を伸ばすと決めているゆえ、ぶれいこーです」

爪;'ー`)y‐~「ああ、自分が常識の無い事してるって自覚はあったんだね…安心した…安心したけど納得はしないよね」

どうでもいいけど、無礼講とブレイクルをネイティブに発音したのって似てるよね。
ぶれいこう。ブレイコゥ!……ほらね?

o川*゚ー゚)o「フォックスさんだから、こういう私を見せてるんですよ?誰にだってこんな風に接する訳じゃありません!」

爪;'ー`)y‐~「えーと、それは喜んでいいの…?」

o川*゚ー゚)o「フォックスさんの中のキュート株がどんなに下がった所で、全然、全く、どうでもいいんで!」

爪;'ー`)y‐~「あっそう……」

583 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:04:25 ID:FzV8uf/k0
o川*゚ー^)o「なーんて、冗談ですっ!冗談、ね?こういう冗談が言えるくらいには、私、フォックスさんとは打ち解けてるつもりですよ?」

爪;'ー`)y‐~「ああ、うん、有難う。嬉しいよ。出来ればもうちょっと俺が疲れない感じの冗談にしてくれるともっと嬉しいかな」

o川*^ー^)o「あはっ♪」

華が咲くように(と自分では思っている)笑ってから一回転すると、私は歩きだす。

爪;'ー`)y‐~「やれやれだ」

フォックスさんも、携帯灰皿(革勢のお洒落な感じのやつだった)に煙草を押し付け、その後に続いた。

お洒落な外観のショップが立ち並ぶウラハラ・ストリートを歩くのは、街の雰囲気に示し合わせたかのような、お洒落な格好をした今時の若者たちだ。
「ストリート・ジョーカー」だとか、「ファンファン」だとか言ったファッション雑誌の中から抜け出て来たような彼らは、まさに青春真っ盛りと言った所。
友人や恋人と談笑しながら、時折弾けた様に笑う彼らのそんな姿に、少しばかりの気遅れを感じて、私はフォックスさんの腕に抱きついた。

爪'ー`)「んん?」

180cmは身長のあるフォックスさんが、上から怪訝な顔で覗きこんでくる。
突然女の子に抱きつかれても、慌てたりしない所は、何だかちょっぴりずるいなと思った。

o川*゚ー゚)o「こうしてれば、私達も恋人同士に見えますかね?」

爪'ー`)「そう言うのはね、本当に気になる男の子にしてあげなさい」
   _,
o川*゚ 3゚)o「居たらこんなことしませんよーだ」

584 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:05:39 ID:FzV8uf/k0
爪'ー`)「またまた、そんな事言って……」

苦笑しながらその次の言葉を継ごうとして、フォックスさんは「しまった」という顔をする。

爪;'ー`)「あー、えーと…そう言えば、こないだ観たホロ・ムービーなんだけど……」

ばつが悪そうに話題を変えようとするフォックスさんだったが、それは乙女的には0点の対応だ。
ていうかなんだその誤魔化しかた。漫画か。
   _,
o川*゚д゚)o「はいアウトー!」

罰として、わき腹をつねってしんぜよう。つねりっ。

爪;'ー`)「いてててっ!ちょっと!本気でつねるの止めて!抉れるからっ!ねっ!」

o川*゚ー゚)o「乙女に気を遣わせた罰ですっ」

爪;'ー`)「っつー…ホント、容赦無いなぁ……」

o川*゚ー゚)o「ついでに、今日一日は私の恋人役を演じなさい。これはめーれーです」

爪'ー`)「はいはい、分かりましたよ、お姫様」

やれやれ、と困ったように笑いながら、フォックスさんはごく自然な形で私が絡めた腕を解く。
誤解も、下心の入る余地もない、自然な横並びの距離。
うむうむ、今のはなかなか悪くない対応ですな。80点と言った所でしょう。

585 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:12:53 ID:FzV8uf/k0
o川*^ー^)o「うむっ、くるしゅうない」

爪'ー`)「それで、どちらへ向かわれますか?」

o川*゚ー゚)o「姫はお洋服が見たいので、可愛いお洋服があるお店にあないせいっ」

爪'ー`)「――はいはい、仰せのままに」

苦笑交じりに、芝居めかして恭しい一礼と共に、フォックスさんは私へ騎士か何かのように掌を差し出す。
一日お姫様になった私がそれを取ると、私達はしゃなりしゃなりと歩き始めた。
肩の上で、“きゅう子”が退屈そうに欠伸のフリをした。

586 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:13:57 ID:FzV8uf/k0

#track-8


――店を出た所で私がその背中を見かけて立ち止まった瞬間、後ろからフォックスさんの抗議の声が上がった。

爪;'ー(#)「っつー……なに?キュートちゃん、実は俺を謀殺しようとか、そういう事を企んでるのかな?滅茶苦茶痛いんだけど」

恐らくは、私がいきなりドアの取っ手を離したから、ドアに額をぶつけでもしたのだろう。
文句を言いながら私の横に並んだフォックスさんのおでこは真っ赤になっていたが、
買い物袋で両手が塞がっているせいで、額を摩る事も出来ないようだ。

一瞬可哀相だなと思ったけれど、これも罰の一環として私は再び視線を前に戻した。

爪;'ー`)「やれやれ……」

現在時刻は午後の二時に十五分ほど。
今しがた、私達がショッピングを満喫してきた(満喫したのは主に私一人だけど)セレクトショップのはす向かい。
青とピンクと白を基調とした、花弁舞い散るような乙女的色彩の看板を掲げるアパレルショップ「kos-mos」の入り口の前に立ち尽くす一つの影に、私はぼんやりとした既視感を覚えた。

o川*゚ー゚)o「えーと……」

相も変わらず若者たちが行き交うウラハラ・ストリートの青春色の中にあって、そのトレンチコートの背中はとても浮いている。
一体何処で見たのだろう。いまいち思い出せない。
記憶の糸を手繰り寄せていると、その背中がゆっくりと振り向いた。

587 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:16:36 ID:FzV8uf/k0
<;ヽ●□●>「冗談じゃあねえ…なんでウリが…大体だ、そういう柄じゃあねえだろうが……」

ハンチング帽子と丸サングラスに大きなマスクをつけたその顔は、まさに不審者そのものだ。
こんな人物に見覚えがあるなんて、私の人生はちょっと不味いのではないだろうか。何かの勘違いじゃ?
せめて、顔の仔細が分かれば、すっきりもしようものだけれど。

<;ヽ●□●>「……チッ!ああ、くそったれめい!」

件の怪人物は、苛立たしげに爪先を上下させ、再び背後のファンシーな店構えを振りかえる。
憎々しげに「kos-mos」の看板を見上げるその立ち姿は、討入り前のヤクザのような鬼気迫るものがあった。

<;ヽ●□●>「ぐ、ぐぐぐ……」

革の手袋に包まれた拳を握りしめ、看板を見上げた姿勢で男の背中が固まる。
道行く人々は、そんな一人任侠ホロを演じる男を、気味の悪いものでも見るようにして遠巻きに見つつ歩いていく。
時折、面白がった誰かが足を止めて携帯端末のカメラで写真を撮ったりもしているが、男がそれに気付いた様子も無かった。

o川;゚ー゚)o「えー……」

えー、なんで私こんな人に見覚えがあるんだろう。
勘違いだよね?勘違いであって下さい。勘違いじゃないと私の社会性がヤバい。

……なんて事を考えていると、今まで看板を睨み続けていた男に動きが生じた。

588 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:17:31 ID:FzV8uf/k0
<;ヽ●□●>「ええいっ、ままよ!」

何かを振り切るような一喝と共に、男の足が店の入り口向けて踏み出される。
裂帛の気合を乗せたその声に、周囲で写真を撮っていた若者達がビクりと肩を震わせた。
思わず私も息を呑み、男の様子を見守るように口の前で拳を握りしめる。

<;ヽ●□●>「……」

o川;゚ー゚)o「……」

(;-@∀@)「……」

爪;'ー`)「……」

張り詰めた糸のような空気が、ウラハラス・トリートを席巻していた。
道を往く者は誰しもが足を止め、空を飛ぶ鳥すらも今は電柱の上で翼を留め、男の様子に固唾を呑んでいる。
――恐らく、この場の誰もが思っていたことだろう。

「一番最初に動いた奴が、死ぬ」。

ヤバい脇汗滲んできた。帰ったらシャワー浴びよっと。

<;ヽ●□●>「ぬううう……おおお……!」

右足を前に踏み出したままの姿勢で固まっていた男の肩が震える。
群衆の間に戦慄が走る。
“その瞬間”に向けて、皆が皆、全身の筋肉を緊張させた、まさにその時だ。

589 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:18:31 ID:FzV8uf/k0
<#ヽ●□●>「馬鹿野郎っ!何が悲しくて小娘の使いッパシリなぞせにゃならんのだ!
       ふざけるな!ウリを誰だと思って居やがる!」

やけっぱちな怒声と共に、男が「kos-mos」に背を向けた。
破れかぶれな男は、そこに来て初めて、自分を取り巻く群衆を目にする事と成る。

<;ヽ●□●>「がっ――!」

丸サングラスの下で、恐らく彼は驚愕に目を見開いたことだろう。
奇異の視線を注いでいた群衆達は、慌てたように目を逸らし、努めて何事も無かったかのようにして、三々五々とウラハラ・ストリートの方々に散らばっていく。
二次会のカラオケで気合を入れて歌ったら、思いの外みんなが引いていた時の、
何とも言えない気まずさのような空気が、ウラハラ・ストリート全体に広がっていた。
なんで私の番になるとみんな一斉にトイレに行くの?何なの?膀胱緩いの?

<;ヽ●□●>「くっ…!」

トレンチコートの裾を翻して、男は足早にその場から退散して行く。
心なしかその背中が、煤けて見えた。

o川;゚ー゚)o「……」

――で、結局誰だっけ。
疑問はしかし、解決しない方が良さそうでもあった。主に私の安らぎの為に。

590 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:19:36 ID:FzV8uf/k0

#track-9


――基本的に、私自身にあまり音楽を聴く様な趣味は無い。
周囲の友人はレゲエだとか、ガールズロックだとか、ヒップホップだとか、色々と聴いているような子も居たりはしたが、
概ね私はテレビで流れているようなポップスをカラオケ用に覚えたりするくらいで、
本腰を入れてME(ミュージック・エレメント。音楽素子)を買ったりするようなひいきのアーティストが居たりはしない。

なので、フォックスさんに連れられて駅裏の「バベル」に足を踏み入れたのは、かれこれ二年ぶりの体験であった。

爪'ー`)「ごめんね、俺の買い物に付き合わせちゃって。どうしても欲しいMEがあってさ」
   _,
o川*゚ぺ)o「ホントですよー。あまり待たせないでくださいねー」

爪;'ー`)「え、今までの流れでそんな事言うんだ…俺ちょっとショックなんだけど……」

未だ買い物袋で両手の塞がれたフォックスさんが、ひきつった半笑いを浮かべる。
現在時刻は午後の三時に二分を過ぎた所。
ウラハラ・ストリートで私の荷物持ちをやらされている間も、文句の一つも垂れなかったフォックスさんは、
私の言葉に今まで信じて来た女王に裏切られた騎士のような悲愴さを漂わせていた。

o川*^ー゚)o「だーかーらー、冗談ですって。冗談っ♪」

爪;'ー`)「そっか…良かった。キュートちゃんも堕ちる所まで堕ちたかと心配になってた所だったんだ……」

o川*゚ー゚)o「ほらほら、ぶれいこーぶれいこー」

591 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:20:41 ID:FzV8uf/k0
そう言いながら、フォックスさんの手から紙袋を奪う。
フォックスさんの顔が、束の間驚愕に歪んだ。何その反応。私だって弁える所は弁えますし。失礼しちゃう。ぷんぷん。
 _,,,_
/::o・ァ「ケッ!ブリッコブリヤガッテョ!」

肩の上で何やら雑音が聞こえたので、今夜のおかずはシーチキンにしようと思いました。
 _,,,_
/::o・ァ「……」

o川*゚ー゚)o「あれ?シーチキンって鳥じゃなかったっけ?」

爪'ー`)「……」

フォックスさんが、縁側で戯れる初孫を見守るおじいちゃんのような瞳でこちらを見つめている。
脛を蹴っ飛ばしてやろうと思ったけれど、淑やかさとか女子力とかいう単語が脳裏をよぎったので、私は照れ隠しににへらっと笑ってみせた。
因みにシーチキンはマグロとかカツオのお肉です。最初から知ってたし。
ユーモアのある乙女っぷりをアピールしただけだし。ホントだし。信じろし。

o川*゚ー゚)o「所で、フォックスさんはどんな音楽を聴くんですか?」

爪'ー`)「んー……」

フォックスさんは直ぐには返さず、「これは言って良いのだろうか?」とでもいった様子で唸っている。
何だろう、人には言い辛いジャンルなのだろうか。アニメ・ソングとか?

592 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:21:50 ID:FzV8uf/k0
爪'ー`)「ヘビーメタル、ってキュートちゃんは聴く?」

o川*゚ー゚)o「ヘビメタって、あのドコドコギュイーンってするやつですか?聴かないですね―」

爪;'ー`)「ドコド――」

かくんっと小首を傾げて訊き返すと、フォックスさんは束の間スゴい顔をした。
この世全ての憎悪を掻き集め、大釜で煮込んだかのようなその表情が顔を過ったのは、
ホンの一瞬の事だったけれど、私は身の危険を感じてちょっと身を引いた。
こわっ。何今の顔。取り殺されるかと思った。

爪;'ー`)「ま、まあ聴かない人からしたら五月蝿いだけだもんねー」

o川;゚ー゚)o「あーいやー、えー」

取り繕うかのように笑ってはいるが、その頬からは未だ引き攣った痕が拭いされていない。
何なの?フォックスさんは心の中に獣でも飼っているの?
時々抑えきれなくなって、殺戮衝動に屈しちゃったりするの?左手が疼いたりしちゃうような人なの?

爪;'ー`)「まあ、そういうわけで、ちょっと引いちゃうと思うから、キュートちゃんはどっか適当にベンチとか座っててよ」

o川;゚ー゚)o「あ、いや、えーと、うー……」

正直な所を言えば、メタルというのにはあまり興味が無い。
更に言えば、趣味人にとって趣味の時間は一人にして欲しいものなのだろう。
だから、ここは大人しくベンチで待つのが正解と言えば正解なのだろうけど、今まで私の買い物に付き合って貰った手前、引き難い所がある。
文句も言わずここまで荷物持ちをしてくれた人に対する、最低限の礼儀は守るべきだと思った。
何度も確認するけれど、私だって常識が無いわけじゃない。今日は“ぶれいこー”なだけだ。確認。

593 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:23:30 ID:FzV8uf/k0
o川*゚ー゚)o「ううん、私もついてきますよ。ヘビメタとか分かんないですけど、相槌くらいは打てますし」

爪;'ー`)「あ、そう?あんま無理しなくていいよ?」

o川*^ー゚)o「だいじょぶだいじょぶ!今更フォックスさんの異常な性癖の一つや二つ、知った所で引いたりしませんよ!」

爪;'ー`)「あはは、有難う…でも別に、エロゲ屋に勤めてるからってセックスマイノリティな訳じゃないからね?」

o川*^ー^)o「ふたなり、とか最初聞いた時は危ないお薬やってる人かと思いましたけど、私、フォックスさんがホントは良い人だって知ってますから!」

爪;'ー`)「天下の往来でそういう事言うの止めて!あと、俺は至ってノーマルだからね!勘違いしないでね!割とマジで!」

o川*゚ー゚)o「あ、もしかして複数の人と同時にお付き合いしてるのは、幾つもの性癖を持っているからとか?日替わりでアブノーマルプレイですか?」

爪;'ー`)「ホント、勘弁してよ!さっきから乙女的にもかなり問題な発言してるって事にいい加減気付いて!」

o川*^ー゚)o「ジョークですって、ジョーク!キューティージョークですよう♪」

爪;'ー`)「ジョークだとしてもキツいんだってば…はぁ…ホント、なんで俺こんなに疲れてるの……」

フォックスさんは何やら「どっと疲れたー」という顔をしている。
景気付けにその背中をどんっと叩いてあげた。
乾いた笑いが、フォックスさんの口からカラカラと漏れた。人間打楽器の完成だ。
あまり荒く演奏すると直ぐに壊れちゃいそうなので、これからは優しく取り扱って上げようと思いました。

594 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:24:53 ID:FzV8uf/k0
そんなこんなでエレベーターに乗り、私達は七階のHR/HM(ハードロック、ヘヴィメタルの意味なんだそうだ)のコーナーに降り立った。

┏爪#゚д゚)┛「ファッキューガバメェェエエンツッ!」

エレベーターのドアが開くと同時、フォックスさんは謎の雄たけびを上げるや、マサイの戦士が如く駆け出し、林立する陳列棚の影に消えた。
残された私は、鉄の箱の中から、フォックスさんが消えた棚の間を呆然と見つめるしかない。
何だあれ。ファッキューガバメントって何だ。フォックスさんも疲れてるのかな。
ごめんなさい、引くとか引かないとか、もうそういう話しじゃありませんでした。
 _,,,_
/::o・ァ「……マジキチ」

――っく。フォローしなきゃいけないのに言葉が出てこないっ。

o川;゚ー゚)o「……取り合えず、探せばいいのかな」

見つけ出した所で、何と声をかけていいのか分からないけれど、一応ついて行くと言った手前、はぐれたままなのもいかがなものか。
ライオンとチーターが殺し合ってでもいるかのようなギターが鳴り響くホールへと、仕方なく歩み出し、棚の間を見て回る。

o川;゚ー゚)o「うわっ、ひろっ!」

とは言え、ミクロな体育館ほどの広さを持つフロアを探し回るのはとても骨が折れる。
加えて、狭い通路には、黒革のジャンパーやシルバーなアクセサリーをじゃらじゃらとつけたメタラー達が犇めいていて、ちらっと見ただけでは通路全体を見渡せない。
なんでこの人達こんな無駄にがたいがいいの?あと、髪とかめっちゃ長いし。
ていうか、女の私よりサラサラした髪のおっさんが居るのは何?コンディショナーは欠かさないの?
そんなのメタルじゃねえ!このファッションメタルめ!メタルとか知らんけど。

595 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:26:39 ID:FzV8uf/k0
 _,,,_
/::o・ァ「ロクオン、キルョ!ウルサシュギッ!」

フロア内に鳴り響くアグレッシブなサウンドに、肩の上の“きゅう子”も相当まいっているようだ。
いやちょっと待て。「録音切る」って今まで録音してたのか。おいどういうことだそれちょっとカメラ止めろおい。

o川;゚ー゚)o「うーん、何処行っちゃったのかなー……」

頑張って、頑張って、十分ほど棚と棚の間を見て回ったが、あのユニセックスでありながらも爽やかさを失わない後ろ姿を見つける事は出来ない。
諦めて、携帯端末にメールだけ残して下で待とうかと思っていた時だ。
フロアの隅、「インディーズ・コーナー」と書かれた吊り下げポップの下、
大量のMEがごちゃごちゃと入ったワゴンの前に、私は場違いなものを見つけて立ち止まった。

o川*゚ー゚)o「んん?あれって……」

筋肉ムキムキマッチョマン(死語)なメタラー達の中にあって、150cmにも満たない低身長。
ちいちゃい角がちょこん、ちょこん、と二つ突き出した紫のフード。
パーカーのおっきなポケットに手を突っ込んでワゴンの中を覗きながら、
時折リズムを取るかのように身を揺らしているのは、ヘッドホンで音楽を聴いているからだろう。
呼びかけても聴こえないだろうから、私は彼女の肩を背後から叩く事にした。

o川*゚ー゚)o「シュ〜ルさんっ♪」

lw´‐ _‐ノv「アーハン?ファッキンガバメンツ?」

なんだそれ。流行ってるのかそれ。挨拶か。メタラー同士の合言葉か何かか。

596 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:28:00 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「ち、ちわーっす」

何と返して良いのか分からず、若干どもりながらの挨拶をかけてしまう。
ていうか、後ろから声を掛けたら驚くだろうと思ったのに、こっちが不意打ちを食らった気分なのが釈然としない。
恐るべしシュールさん。この人は底が知れない。

lw´‐ _‐ノv「あー…えー……っと」

o川*゚ー゚)o「……?」

lw´‐ _‐ノv「――待って、今思い出す。アカシックレコードにアクセスしてるから。大丈夫、もう直ぐ引き出せる」

あー、もしかしてこれ、私、忘れられてる?
確かにリアルで会ったのはこれで三回目だけど、ちょっとショックだ。

o川;゚ー゚)o「あの、私、キュ――」

lw´#゚д゚ノv「言うなって!今思い出すんだから!ああほらチャネリング途切れた!
       あーあーあー!何なんだよもー!何なのキミ!?ホント、キミは何なの!?」

o川;゚ー゚)o「え、えー…キュートですけど……」

lw´#゚д゚ノv「知ってるよそんな事!あーあーもー!せっかく繋がりかけてたのになー!
       どうしてくれんだよーもー!あーマジ萎えるわー!あーあーあー!」

え?え?なんでこんな私怒られてるの?
ていうか何?アカシック……何?

597 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:28:53 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「え、あ、えう、その、何か、ごめんなさい……」

lw´#‐ _‐ノv「あーあー…マジ萎えるわー…マジファッキンガバメントだわー…どうしてくれんだよー…おいよー…」

o川;゚ー゚)o「……」

うわ、マジで怒らせちゃったの?でも私、何かした?え?これって、なに?私が悪いの?

lw´#‐ _‐ノv「くっそー…もうちょっとだったのになー…もうちょっとで大宇宙の神秘が欠片でもつかめたんだけどなー。
        くっそー…何なんだよも―…ホント、逆に泣けてくるわー」

o川;゚ -゚)o「す、すいませんでした……」

lw´‐ _‐ノv「――ふっ」

o川;゚ー゚)o「へ……?」

┗lw´^ _^ノ┛「なーんて、冗談でした〜!シューちゃんギャグだっぴょ〜ん!ごめんねごめんね〜♪お茶目だから〜♪」

ばびろ〜ん、とかいう擬音が似合う感じで、シュールさんは形容しがたいポーズを取る。

o川;゚ー゚)o「え――」

どういうリアクションを取って良いか分からず言葉に詰まっていると、ポンと肩を掴まれた。

lw´‐ _‐ノv「――笑えよ」

真顔で紡がれた彼女の言葉は、底冷えがする程に低かった。

598 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:29:46 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「ひ、ひいィ――!?」

思わず変な悲鳴を上げてしまう。
いや、笑えって、そんな、急に言われましても――。

lw´‐ _‐ノv「――それとも……つまらなかったか?」

o川;゚ー゚)o「あ、あはは、あは。そんな事、無い、ですよ〜?」

lw´‐ _‐ノv「――ホントに?」

o川;^ー^)o「ほ、ホントに!超面白かったですっ!めっちゃ面白かったです!ファッキンガバメントとかの辺りが!」

lw´‐ _‐ノv「――え」

o川;^ー^)o「――え」

lw´‐ _‐ノv「……」

o川;^ー^)o「……」

lw´^ _^ノv「そっかそっかー。面白かったかー。良かった―。新作ギャグだったから、ちょっと不安だったんだよね―。いやー良かった良かった―」

o川;^ー^)o「あ、あははは。そうなんですかー。いやー、全然大丈夫だと思いますよ〜?」

ほっ。
取り合えず、何とか凌ぎ切ったと思っていいのかな?
今日一日散々フォックスさんの前でボケ倒して来た私だけど、この人のジョークのセンスは未だに良く分からない。
ハッカーという人種は、みんな彼女のような人ばかりなのだろうか。いやまさか。
少なくとも、もう一人、彼女と知り合うきっかけとなった彼は割と普通だった。……あくまで、割と。

599 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:30:48 ID:FzV8uf/k0
lw´‐ _‐ノv「え、キュンキュンってメタル聴くっけ?」

青みがかった髪の間から、シュールさんは眠たげな眼で私を見上げて来る。
顔の造形自体はお人形さんみたいに可愛いのだけれど、ぬぼーっとした表情のせいで美少女からは今一歩遠い。
いや、私の蔑みとかじゃなく。いやいや、ホント、そんなんじゃないです。
実際、私より遥かにシュールさんの方が可愛いと思います。違うっす、「可愛いって言ってるアタシ可愛い」とかそういうのじゃないっす。ホント。

o川*゚ー゚)o「いえー、私は音楽とかは全然―。フォックスさんについてきただけで……」

そいでもってうっかり聞き流す所だったけど、「キュンキュン」ってもしかして私のあだ名なのかな。
なんか、大昔のアイドルのぱちもんみたいに聞こえるので、出来れば改名を要求したいです。

lw´‐ _‐ノv「そかー」

ほんの少し残念そうな顔をして、シュールさんはちょびっとだけ俯く。
ちいちゃな顔とアンバランスな程におっきなヘッドホンが、首の動きに合わせて揺れる様は、
女の子の私が見てもきゅんっと来るほどに可愛らしかった。
リリちゃんと言い、シュールさんと言い、私は小ちゃい女の子に弱いのかもしれない。
違うよ?ロリコンじゃないよ?仮にそうだとしても、私女の子だから何もやましい所なんて無いよ?

lw´‐ _‐ノv「キュンキュンが同士だったら嬉しかったんだけどな―」

o川;^ー^)o「はは、こういう激しいのはあまり得意じゃなくて……」

lw´‐ _‐ノv「そかー……」

しゅんっ、という擬音が聞こえてきそうなほど、しょんぼりするシュールさん。
寂しげに視線を逸らして、ワゴンの中のMEのジャケットを見ては、ふっとため息をつく。
ああ!もう!何でさー!そんなさー!可愛いさー!仕草をさー!もー!たまらーん!

600 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:33:09 ID:FzV8uf/k0
o川;゚д゚)o「やや!でもさ、シュールさんがそこまで好きなら、ちょっと聴いてみたいなーとか、思っちゃったりなんかりー!?」

lw´‐ _‐ノv「――マジで?」

o川*゚д゚)o「マジ!マジ!」

lw´‐ _‐ノv「超マジ?」

o川*゚∀゚)o「超マジ!」

lw´‐ _‐ノv「ファッキューガバメンツ?」

o川*゚∀゚)o「ファッキューガバメンツ!」

lw´*^ _^ノv「おお…おお…!おおお!」

開いているか開いていないか分からないシュールさんの目が、至福の胡桃型に見開かれる。

lw´*^ _^ノv「じゃ、じゃあさじゃあさ!これ!パペマス!ね!これ、おす、おす、オススメだからさ!
        ききききき聴いてみてよ!ファッキュン・ジーザスだよ!マジ!マジ!」

痙攣でも起こしたかのようにたどたどしい口調で言いながら、彼女はワゴンの中から一つのMEのケースを凄いスピードで取り出すと、私に差し出した。
インディーズ・バンドコーナーだからか、私が普段知っているようなケースよりも少しばかり安っぽいジャケットの中では、
アメリカンなタッチの骸骨がトゲトゲしたギターを振り回している。
おどろおどろしいフォントでジャケット上部に描かれた「地獄の盆踊り野郎、テキサスへの帰還」というのはアルバムのタイトルだろうか。
ぶっちゃけ何処の何を目指しているのかさっぱり不明なタイトルだが、シュールさんの笑顔が見れるならどうでもよかった。

601 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:34:26 ID:FzV8uf/k0
lw´*^ _^ノv「パペマスはさ、メジャーからもちょろっと出したけどさ、個人的にはアレはメタルっていうよりポップスって感じで好きくないっていうか!
       やっぱ、インディーズの頃からやってた、下水道ヴォイスが無いとパペマスじゃないっていうか!」

o川*^ー^)o「ふーん!」

lw´*^ _^ノv「だからWMEと別れたのは正解って言うか!やっぱり初期三部作が至高!窮極!
        その地獄の盆踊り野郎は三部作の二つ目なんだけど、一番聴きやすくて尚且つパペマス本来の――」

o川*^ー^)o「うん!うん!」

lw´*^ _^ノv「これぞグラインドコアの地平線!インディーズメタルバンドの極北!
        パペマスと言えばあのワタナベアーコロジーでの決死ライブが一番有名な伝説だけど、既にしてこの三部作がもう伝説なので――」

o川*^ー^)o「へー!そうなんだ!」

lw´*^ _^ノv「つまり、何が言いたいかって言うと、“ヘッドスピン・キルミー”最強です!はい!」

o川*^ー^)o「なるほどー!」

……別に聞き流してるわけじゃないし。ただ、知識が無いから口を挟めないだけだし。
シュールさんの話自体はちゃんと聴いていますよ?
要約すると、このアルバムはパペットマスターというバンドのもので、シュールさんは彼らがインディーズでやってた頃の音楽性の方が好き。
中でも、初期三部作と呼ばれるアルバム群が名盤揃いで、その中でも真ん中の、
今私が握っている「地獄の盆踊り野郎、テキサスへの帰還」というアルバムは、
初めての人にも聴きやすく、それでいてパペットマスター本来の持ち味も良く出ているのでベスト。
そしてシュールさん個人は、このアルバムの“ヘッドスピン・キルミー”という曲がとても好き。

……どうだ。ちゃんと正確に理解しているでしょう?一片の興味も無いけどね。
一生懸命喋るシュールさんが可愛いんだから、それでいいじゃない!

602 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:35:38 ID:FzV8uf/k0
「はぁ?“ヘッドスピン・キルミー”?――はっ、これだからにわかは……」

突如として、私とシュールさんの甘甘空間に切りこんでくる声があった。

「あんな売れ線狙ったかのような媚び媚びの曲聴いて喜んでるとか、マジ分かってねえよな……。
 そういう奴がパペマス語るとか、マジで虫唾が走るんで止めて貰えませんかねえ…?」

lw´;‐ _‐ノv「な、何だとこら!ざっけんな!ヘッドスピン・キルミー最強だろうが!マジで神曲だろうが!」

そうだそうだ!私とシュールさんの楽しい語らいに土足で踏み込んでくるんじゃねえ!

爪'ー`)「最強〜?神曲ぅ〜?ぷっ!何でもかんでも神、神、神!神様のバーゲンセールかよ!
     ちょっと頭悪く聞こえるんで、止めて貰えますぅ〜?」

とか思って振り向いたら、フォックスさんでした。
うわあ、何このテンション。さっきのマサイの戦士みたいなのも大概だったけど、これはこれで痛々しさがヤバいです。

lw´#‐ _‐ノv「ああ!?神曲を神曲って言って何が悪いんだよこら!
        大体ニホンは八百万の神様っていうだろうが!アニミズム舐めんな!裁き下すぞ!」

爪'ー`)「はいはい厨房乙―。アニミズムってネットで調べたんでちゅかー?お利口さんでちゅねー!」

lw´#‐ _‐ノv「このっ!てめっ、やんのかこらあ!住所教えろやあ!
        ヤクザに頼んでお前ぼこぼこにすっからな!あたしの彼氏ヤクザに知り合いいっから!」

爪'ー`)「ぷぷぷー!ヤクザに頼むとか!おめーは一人じゃ何もできねーのかよ!やるんならてめえでやってみやがれってんだよ!」

603 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:36:30 ID:FzV8uf/k0
lw´#‐ _‐ノv「おめー、マジ泣かす……」

爪'ー`)「あーあー、聞こえなーい。口だけちゃんが何か言ってますね―?何を言ってるんでしょ―ねー?」

lw´#‐ _‐ノv「ぐぬぬ……」

爪'ー`)「ぷーくすくす!」

o川;゚ー゚)o「……」

何だか知らないうちに、曲から離れた所で口の殴り合いをしている。
これはそろそろ止めるべきなのだろうか。
割と洒落にならない雰囲気で睨みあってるけど……と私が心配をしていると、
二人は突然どちらからともなく不敵な笑みを浮かべるや、がっしりと握手を交わした。

爪'ー`)「……お久しぶりです、メンター。元気そうですね」

lw´‐ _‐ノv「……貴様こそ、相変わらずそうで何よりだよ」

爪'ー`)「――“ヘッドスピン・キルミー”、最強っすよね。組手とは言え、メンターのソウル・ソングを愚弄した罪、どうかお許しを……」

lw´‐ _‐ノv「……ふっ、気にするな。ぶっちゃけ、あの曲のリフとか若干くどい気もするし」

爪'ー`)「そっすよね…それを除けば、ドラムの疾走感とかたまんないっすけどね……」

lw´‐ _‐ノv「うむ……クックルはインディーズメタル界の千手観音だよ……」

爪'ー`)「マジ唯一神っすよね……」

604 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:37:49 ID:FzV8uf/k0
うんうん、うむうむ、などとしきりに頷き合いながら、二人は“ヘッドスピン・キルミー”、引いては“パペットマスター”への愛を滔々と語らう。
完全に置いてけぼりをくらった形となった私は、一人、ワゴンの中のMEを漁っていた。
「急降下爆撃〜BAKU‐GEKI〜」というタイトルのアルバムが目にとまる。
副題をつけようとしてめんどくさくなったのだろうか。私だったら〜KYU‐KOUKA〜とつける。KYU-TOだけに。……上手くない。

lw´‐ _‐ノv「おっと、愛すべき愚弟との再会で忘れる所だった」

一人脳内新喜劇の第二幕を演じていると、シュールさんが慌てて私の方を振り返った。
つられて視線を向けたフォックスさんの顔が、みるみるうちにひきつっていく。

爪;'ー`)「あ、キュートちゃん、い、居たんだ……」

o川;゚ー゚)o「や、やっはっはっは〜。――どもー……」

私自身、何と声をかけて良いものか、非常に判断に困る。
何時もは爽やか柑橘系イケメンをやっているだけあって、先のシュールさんとの会話が普通の女の子にとってどんな風に聴こえるかは、
フォックスさんにも分かっていたようだ。
浮気現場を押さえられたジゴロみたいに(あれ?本日二回目?)ぎくしゃくした笑顔を浮かべる彼は、
あまりにも痛まし過ぎて、とても直視できるようなものではなかった。

爪;'ー`)「あ、あっはっはっはっはー!いやーこれは恥ずかしい所を見られちゃったな―」

必死に何時もの瑞々しい笑顔を浮かべようとして、フォックスさんの口の端が針で縫ったようにして歪む。
これは流石に、私が「全然別に気にしてないよ―」みたいな感じを出して行かないと可哀相だ。
何か無いか。何か、誰も傷つかず、この場を切り抜ける上手い返しは。

605 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:39:02 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「い、いやー驚いちゃったな―。まさか、フォックスさんとシュールさんって知り合いだったなんてー。仲良いんですねー」

良しっ!これだ!
これなら、「さっきちょっとぎこちない感じだったのは、二人が知り合いだと知ってびっくりしたからでーす」みたいに見える筈!完璧!

lw´‐ _‐ノv「フォックスさん…?」

爪'ー`)「シュールさん…?」

……え?

爪;'ー`)「えーと……あ、ああ!名前か!」

lw´*‐ _‐ノv「ああ、なるほど!そうか、“此ノ世ヲ滅ボス者†ルキフグス†”くんはリアルではフォックスという名前なんだね!」

爪;'ー`)「っ――!」

o川;゚ー゚)o「……」

コノヨヲホロボスモノダガーマークルキフグスダガーマークくん。
長い、名前だ。オレノナマエハイッパイアッテナくんよりも長い。

lw´*‐ _‐ノv「いやー、一瞬何か分からなかったけど、そうかー。
        そう言えば私達はまだお互いの名前すら知らなかったんだなー」

606 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:40:14 ID:FzV8uf/k0
爪'ー`)「そ、そっすねー…そう言えば、そっすねー……」

魂の抜け切ったような顔で、フォックスさんは虚空に呟く。
私は何も間違った事はしていないと思います。事件があった当時、被告人の精神は大変混迷を極めていましたが、それでも最善の行動を取りました。
よって、ここに彼女への責任能力が発生しないと結論付けます。以上、閉廷。閉廷ったら閉廷!

o川;゚ー゚)o「あー、えーっと、二人は、ネットで知り合ったとか、そういう感じ……?」

lw´‐ _‐ノv「うむ。メタラー同士の情報交換を目的としたチャットルームで罵り合って以来の仲さ。あの頃はまだ若かった……」

爪;'ー`)「あ、え、と……」

lw´‐ _‐ノv「そう、あれは確か、秋口にしては随分と寒い…丁度、今日のような日の事だった……」

爪;'ー`)「……」

しみじみとした口調で、二人の想い出を語り出そうとするシュールさんを前に、
フォックスさんは絞首台の階段を一段一段と登る死刑囚のような顔をしている。
所謂一つの「黒歴史博覧会」と言った状態なのだろう。
可哀相に。せめて骨だけは拾ってあげましょう。

なんて思っていると、ふいにキュートさんの糸のような目が、私の肩の上に注がれていることに気付いた。

607 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:41:10 ID:FzV8uf/k0
lw´‐ _‐ノv「おや、これまた懐かしい奴と再会したな」

o川*゚ー゚)o「?」

はてな?と小首を傾げる私に構わず、シュールさんは私の肩の方に手を伸ばす。
血管が透けて見える程に白い彼女の右手の甲に、桜色の小さな影がちょこんと跳び乗った。
 _,,,_
/::o・ァ「シューチャン!ヒサシブリ!ヒサシブリネ!ネ!」

lw´‐ _‐ノv「ああ、久しぶり。今日はどうも、再会の日か何かなのかな?ふふっ」

細く甲高い電子音声を上げる“きゅう子”に、シュールさんは慈母のような優しい笑みを浮かべる。
彼女にとっては、丸一年ぶりだろうか。ある意味、親子の感動の再会、でもあるのかしらん。
視界の隅では、話題がそれた事に安心したフォックスさんが、ほっと胸を撫で下ろしていた。おめでとう、おめでとう、おめでとう。

lw´‐ _‐ノv「ふふっ、元気にしてたかい?」
 _,,,_
/::o・ァ「ワリトネ!ワリトゲンキダョ!ワリト!」

lw´‐ _‐ノv「そうかそうか…何処か、調子が悪い所とかは無いかい?」
 _,,,_
/::o・ァ「ンットネ!タマニキュートチャンガイヂメルケドネ!ダイジョブョ!ワリト!ワリトネ!」

……ぎくっ。

608 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:42:28 ID:FzV8uf/k0
lw´‐ _‐ノv「むっ――」

開いているのか閉じているのか分からない視線が、じとっと注がれる。
いまいち迫力に欠けるが、ばつが悪いのに変わりは無いので、明後日の方向を見ることにした。

o川;゚ー゚)o「あ、あははははー!いやー可愛さ余ってなんとやらと言いますかー!」
 _,,,_
/::o・ァ「デモネ!オオムネヤサシィノデ!ダイジョウブカモョ!オオムネネ!オオムネ!」

lw´‐ _‐ノv「そかー」

ナイスフォローだ“きゅう子”。
焼き鳥にするのは免除してあげよう。
 _,,,_
/::o・ァ「パパンハゲンキシテル?シテル?」

lw´‐ _‐ノv「……」
 _,,,_
/::o・ァ「キョーモヒキコモリ?コモリッキリデチカ?」

lw´‐ _‐ノv「ああ、相も変わらず、出無精この上ないよ」
 _,,,_
/::o・ァ「ソカー。コンドアソビィクョ!メンテナンスシナイト!メンテナンスネ!」

lw´‐ _‐ノv「……」
 _,,,_
/::o・ァ「ゴクジョーノオィルヨゥィシテテネ!パパンニィットィテ!ゴクジョゥノヤツ!ネ!」

lw´‐ _‐ノv「……」
 _,,,_
/::o・ァ「シューチャン?ドッチタノ?シュー!チャン!」

609 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:43:30 ID:FzV8uf/k0
o川*゚ー゚)o「……」

lw´‐ _‐ノv「……ああ、伝えておくよ。だから、何時でもおいで」

言って、 “きゅう子”のちいちゃな頭を撫でると、シュールさんは私を見上げて笑った。
最後まで、彼女は優しげな笑顔を崩す事は無かった。
だから、私もそれに確かな頷きを返した。

lw´‐ _‐ノv「……さて、それじゃあ私はここら辺でお暇するよ。お前のお陰で、パパンの世話が残っているのを思い出した」

最後に悪戯っぽく笑って“きゅう子”に小さく手を振ると、シュールさんは私達に背を向ける。

lw´  ‐ノv「アディオス。次のループでまた会おう……」

角付きのフードを被った、その紫色のパーカーの背中は、ウィザード級のハッカーのものでも、
不思議電波系人物のものでも無い、沙緒シュール、という少女のそれだった。

o川*゚ー゚)o「……」
 _,,,_
/::o・ァ「……」

その背中がエレベーターの中に吸い込まれて行く所までを見届けてから、私と“きゅう子”はどちらともなく見つめあった。
視界の隅では、フォックスさんが不思議そうに首を傾げている。
私はそれに、適当な笑みを返しておいた。

610 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:44:49 ID:FzV8uf/k0
o川*゚ー゚)o「……私達もそろそろ出ますか」

爪'ー`)「ん?ああ、そうだね、もう四時だ」

o川*゚ー゚)o「最後にちょっとだけ、寄りたい場所があるんですけど、着いて来てくれます?」

爪'ー`)「寄りたい所?これから?」

o川*゚ー゚)o「フォックスさんの帰り道でもあるんで、今日一日のお礼にお見送りって形になるかもしですけどね」

爪'ー`)「まあ、今更何処に行こうと文句を言うつもりはないんだけどね」
   _,
o川*゚ー゚)o「あっ、嫌味ですかー?」

爪'ー`)「ははは、御想像にお任せってことでここは一つ」

軽口をたたき合いながら、私達はレジでそれぞれ手にしていたものを買い、エレベーターに乗った。
私は「地獄の盆踊り野郎、テキサスへの帰還」を。
フォックスさんは、「大殺界ネバーエンド」を。

三部作の最後である「悪夢の終局、或いは黄金の夜明け」は、今度シュールさんと一緒に買いに来ようと思った。

611 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:46:13 ID:FzV8uf/k0

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――秋の空は早くに落ちる。
窓の外を流れ行くビルの森は、急速にその影を伸ばし、朱色の時間はリニアと同じ速度で流れていってるようですらあった。
ニューソク駅からニーソク駅までの所要時間は十分に満たない。
その十分の間に、夜の足音は慌ただしくやってきて、黄昏の時間は刹那のうちに過ぎ去って行く。

夕日を見上げて物思いに耽るには、この橙の時間は短すぎる。
それは果たして喜ぶべきことなのか、はたまた憂うべきことなのか。
私のようなちっぽけな者にとって、それは答えの出ない禅問答と同じような愚考だった。

o川*゚ー゚)o「……えーっと、ここまでで良いです」

ニーソク駅を出てから三十分ほど歩いた所で、夕暮れの残照は撤収を始めていた。
フォックスさんの左の手から、残りの紙袋を受け取る。
昼間にニューソクの大交差点で見たようなパンクスが一人、うらぶれた足取りで私達の横を通り過ぎていった。

爪'ー`)y‐「大丈夫?この時間帯にここら辺を女の子が歩くのは、あまり宜しくないと思うけど……」

そのツインモヒカンのパンクスから私を庇うようにして、フォックスさんは立ち位置を変える。
どぎつい色彩のネオン看板が、両脇をびっしりと固める路地の隅では、しゃがみ込んだ襤褸布姿のジャンキーが、
焦点の定まらない目で私達の方を見つめていた。

o川*^ー゚)o「だーいじょーぶでーすよーぅ!これでも、伊達にフリージャーナリストなんてやってませんって!
      その手の揉め事が起こったら、どうするべきかぐらい、心得てますって♪」

612 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:47:10 ID:FzV8uf/k0
爪'ー`)y‐「……」

底抜けに明るい感じで言ってみたが、フォックスさんは真面目な顔を崩さない。

o川*゚ー゚)o「それに、心配するんだったら、私じゃなくてリリちゃんの事を心配してあげた方がいいですよ?
      リリちゃんだって、毎日毎日、この辺の道を歩いているんでしょう?ちゃんと、送り迎えとかしてあげてます?」

爪'ー`)y‐「あの子の事は今は関係ないだろう?」

真っすぐに私を見つめて来るその瞳は、まるで私の心の中の全てを見透かしているようだった。
いいや、ようだった、じゃない。
きっと、この人には、何もかもお見通し何だろう。分かっているからこそ、こんな事を聴くんだろう。
心底、この人はお人よしだ。

爪'ー`)y‐「――俺が、ついて行こうか?」

その優しさが、今は、辛い。

爪'ー`)y‐「それか、また今度にしないか?今日は、もう、こんな時間だし……」

あくまでも、「夜道の心配」という形を崩さないフォックスさん。
その優しさに、縋りたくなる。
なるけれど。

o川* ー )o「――大丈夫。一人で、大丈夫ですから」

それに縋ったら最後、きっと永遠に私は前に進めないまま、立ち尽くしてしまう。

だから。

613 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:48:08 ID:FzV8uf/k0
爪'ー`)y‐「……そう」

フォックスさんは、それ以上は何も言わなかった。
ただ、真っすぐに、揺らぐこと無く、私を見つめ続けるその目だけが、「頑張れ」と言っていた。

o川*゚ー゚)o「今日は、有難うございました。色々と、私の我儘に付き合ってくれて、嬉しかったです」

爪'ー`)y‐「……ああ」

o川*゚ー゚)o「……今度、何か、お礼しますね。焼き肉とかで良いですか?」

爪'ー`)y‐「……ん」

o川*゚ー゚)o「――えっと、それで……」

爪'ー`)y‐「……」

o川*゚ー゚)o「えっと…えっと…えっと……」

駄目だ。
何をやっているんだ、私は。

o川;゚ー゚)o「そ、それじゃあまた今度!」

意気地の無い自分を振り払い、フォックスさんに背を向け走り出す。

遠耳に、「グッドラック」、と彼が呟くのが、聴こえたような気がした。

確かめる為に振り返るような事はしない。そうしたらきっと、また動けなくなる。

前だけを向いて、私は地面を蹴る力を強める。止まらないように。くじけないように。

614 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:49:34 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「ハッ――ハッ――ハッ――」

アンモニアと魚の腐敗臭が混じり合ったような、独特の臭気が漂うニューソクの大通り。
猥雑なネオン光と、その中で浮き沈みする、与太者達の頽廃的な喧騒。
貸しビルと貸しビルの間を、ビールの空き箱の上を、蹲って動かないジャンキーの死体の上を、走り、飛び越し、走る、走る、走る。
両手の紙袋の重みがそろそろきつくなりかけて来たころ、私はそこに辿りついた。

o川*゚ー゚)o「……」

宵闇の帳がおりかけた小路、ニーソク区13番街。
ピンク色のネオン看板を掲げるソープランド「兎夢猫〜トム・キャット〜」と、錆ついたシャッターが半開きのままの違法バイオ端子屋の間。
そこだけが、ウラハラ・ストリートのピンナップから切り取ってきたかのような、小洒落たバーか喫茶店のような外観。
青銅を模した小さなドアには、「Яeboot」の切文字の貼られたドアプレートが下がっている。
ネットにも碌な広告を出していなかったから、探すのには苦労した。だが、ここで間違いない。

o川;゚ー゚)o「……スゥ…ハァ…」

五つの窓からは、薄らぼんやりとした明かりが漏れている。
ドアのノッカーを叩けば、恐らくは“彼”か“彼女”が出て来るだろう。
何の事は無い、ただ、数歩にも満たない距離を歩き、ノッカーを二、三度軽く鳴らすだけ。難しいことなど無い。

簡単なことなのに。

615 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:50:46 ID:FzV8uf/k0
o川* - )o「……」

――やっぱり、今日は止めようかな。
別に、無理して今日でなくてもいいんじゃないかな。
むしろ、ここまでやってこれただけでも上出来じゃないかな。
今日は、場所を確認しにきただけって、それで良いんじゃないかな。

o川* - )o「うぅ…うぅぅ――」

馬鹿、馬鹿、馬鹿、意気地無し。
泣いてどうなる。それで何が解決する。
泣くな。泣くなってば。

o川*;へ;)o「だって…だって――」

嗚呼、なんて、なんて情けないんだろう。
こんなの、って無い。
私って、どうしてこんなに弱いのだろう。
あーあ……。最低だ。

o川*うд;)o「う…ぅう……」

後から後から溢れて来る涙を拭いながら、“彼”に背を向ける。
自己嫌悪に苛まれる私の視界に、向かいの路地の暗がりで話しこむ二人の人影の姿が映った。

「おい、サツの方は大丈夫なんだろうな?」

「ああ、ちょいとおクスリを握らせてやったら、上機嫌で口笛吹いてやがったぜ」

616 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:51:41 ID:FzV8uf/k0
o川*うд;)o「……?」

不吉なものを感じ取って、手近な電柱の陰に隠れて、そっと様子を窺う。
ネオン看板のけばけばしい明かりも届かない暗がりの中。
タンクトップ姿のスキンヘッド男と、アロハシャツを着崩したサイバネ義眼の男が何やら話しこんでいた。

「……しかし、最近は楽じゃねえぜ。ここらの奴らも妙に身持ちが堅くなっちまいやがってよ。
 なんで、ニューソクくんだりまで出稼ぎにいかにゃならねえんだってんだわな」

「全くだ。ま、そこら辺の手数料は今日これから交渉させて貰おうぜ。上物も手に入った事だしな」

下品な笑い声を上げて、タンクトップの男が右肩に担いだずた袋を叩く。
筋骨隆々の腕に叩かれたずた袋が、束の間びくんっとマグロのように痙攣した。

「それじゃあ、ちゃっちゃといきますかね。さっさと帰って“PK”キメてぇ」

「おい、今度俺にも分けてくれよな。こないだ“マサムネ”でのまれてよぉ……」

「ああ?まーだお前“マサムネ”やってんのかよ、馬鹿だねえ――」

気だるげな声を残して、男たちの背中が路地の闇の奥に遠ざかっていく。
三分ほど待って、完全に二人の気配が消えたのを確認してから、私は二人が立っていた暗がりに近寄った。

o川*゚ー゚)o「今のって……」

暗がりではあったが、あれは恐らくは昼間にニューソクの大交差点の所ですれ違ったパンクス達に間違いないだろう。
顔面の殆どを覆う鉄板装甲と、スキンヘッドの上でうねる動力パイプは、忘れようも無い。
問題なのは、彼らが話していたその内容だ。

617 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:52:26 ID:FzV8uf/k0
o川*゚ー゚)o「……人身、売買」

肝心な所がぼやけた会話ではあった。
だが、彼らが担いでいたずた袋。米俵程のあの中には、恐らく――。

o川* ー )o「……」

乾いた吐瀉物が貼りついたアスファルトの上、銀色に輝くそれを、屈みこんで拾う。
銀色の十字架を模した、安臭いチョーカー。
先に、ずた袋が揺れた時、落ちたのだろう。
朝に出会ったあの子達の顔がフラッシュバックして、私は唇の端を僅かに噛んだ。

o川;゚ー゚)o「今すぐ警察に――」

携帯端末を取り出しかけて、先のパンクス達の会話を思い出す。
あれが真実だとするならば、政府警察は先ず役に立たない。
ニーソクにおける政府警察など、ヤクザの延長線上のようなものだ。
市民の盾が、市民の敵と仲良しこよしなど、最高の皮肉だ。

――では、企業警察は?

駄目だ。

企業警察も、あくまで企業。そこらのバウンティハンターが、徒党を組んだのとなんら変わらない。
実利を優先する彼らは、ニーソクで起こる殆どの事件に首を突っ込みたがらない。
リスクとリターンのつり合いが取れないからだ。

――となると、私が取れる選択肢は二つしかない。

618 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:53:33 ID:FzV8uf/k0
背後。小路を出た所にある“あそこ”を、束の間振り返る。
青銅を模したドアのノッカーまでの距離が、果てしなく遠い。

そんな場合じゃないと、分かっている。
分かっているのに。

o川;゚ー゚)o「……っ!」

逃げるように目を背けると、両手の紙袋を放り出し、背負っていたエア・ボードを起動、アスファルトの上に放る。
ぶうん、という低い音を立てて、「ピクシーⅡ」の桜色のボディが、アスファルトの上に浮かんだ。

o川;゚ー゚)o「“きゅう子”!」
 _,,,_
/::o・ァ「ァィ!ァィ!サッキノャロゥドモヲダョネ!ネ!ネ!」

水を得た魚(この場合は餌を見つけた鳥か)のようにして“きゅう子”は私の肩から飛び立つと、
ビルとビルの間から暗灰色の空へと吸い込まれて行く。
やがて五秒と立たずして急降下で戻ってきた“きゅう子”は、忙しなく特殊樹脂製の羽をばたつかせて言った。
 _,,,_
/::o・ァ「クルマニノリマシタ!クルマネ!ャロゥドモクルマニノッタョ!」

囀る“きゅう子”を肩の上に乗せて、自分もまたエア・ボードに飛び乗り地面を蹴る。
上体でバランスを取りながら、ベルトポーチを漁りハンディカメラを取り出すと、
結線ケーブルを伸ばして“きゅう子”の首筋のプラグに接続。
流れる空気の中に投影されたホログラフ上で、先の与太者達が小型バンに乗り込む様子が鮮明に映し出される。
ナンバープレートの文字列を覚えると、“きゅう子”の首筋からケーブルを抜いた。

619 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:54:40 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「NAB-898774‐JIK、車種はS&Kのリーガリー…!」
 _,,,_
/::o・ァ「ルートヨソクシュルョ!タブンネ、ィキサキハ、コーワンブダトオモィマス!ソゥダネ?」

港湾部。
この手の人売り屋が拠点としている所となると、ニーソク第三埠頭辺りだろうか。
あの辺りは貸倉庫が林立している為、後ろ盾のある無しに関わらず犯罪のお供に持ってこいなのだそうだ。
前に、“彼”がそんな事を言っていた。

o川;゚ー゚)o「となると、ここからは――」

頭の中でニーソクの大まかな地図を描く。
万魔殿の外周を擦る事になるが、七番街の闇市通りを突っ切るのが一番早いだろう。
この一年で、随分と私もニーソクの地理に詳しくなったものだ。これも、“彼”のお陰なのだろうか。

o川;゚ー゚)o「っ――!」

ワン・アクション毎に湧きあがってくるノイズを振り払い、エア・ボードの尾部、速度調節ペダルを一番下まで踏み込む。
急加速に頭の上のニット帽が飛ばされそうになりながらも、私と“きゅう子”を乗せたエア・ボードはニーソクの黄土色に汚れた街並みを飛び越えていく。

酔っ払い達で溢れる歓楽街を縫い、路上で殴り合うジャンキー達の頭上を飛び越え、
ネオン看板がぶら下がるビルの壁面を舐め、地下道の手摺に着地。

一気に下り、付き辺りの壁にボードの底をぶつけてターン、勢いもそのままに地下道の壁を疾駆。
段ボールに寝そべるホームレスを見下ろし、そして駆け抜け、再び地上へ。

目の前に見えたガードレールを踏み台にして跳躍、車道を流れ行く車の上を飛び越える。
けたたましいクラクションと人々の驚きの声を無視して、闇市通りのアーチを潜った。

620 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:56:04 ID:FzV8uf/k0
 _,,,_
/::o・ァ「ヒュー!トバスネー!ンンンキモッチィィィ!」

肩の上で忙しなく羽ばたき、“きゅう子”が電子の歓声を上げる。
目深にフードを被った露天商達が犇めく闇市通りを突っ切ると、饐えた空気に微かに潮の匂いが混じってきた。

o川;゚ー゚)o「そろそろ、ぶち当たる筈だけど……」

“きゅう子”の導きだしたルート予測と、ここまでの所要時間を照らし合わせれば、
そろそろリーガリーの青く角ばったシルエットが見えて来る計算だ。

ボードを滑らせつつ、視線も左右に滑らせる。
遠く、左手に海を望む倉庫街の一歩手前の国道。歩道橋の上からその流れを見下ろす事、約三秒。
正面、車の波の向こうに、それらしき影を見つけた。

o川;゚ー゚)o「きゅう子!」
 _,,,_
/::o・ァ「マチガィナィョ!ナンバーモァッテマス!」

ハイレゾ・カメラの確度を、今更疑う必要など無い。
その場でターンして歩道橋から飛び降りると、再び小路の中へと滑りこむ。
ここからは道路も細くなり、第三埠頭への一本道が残るのみ。
あとは、向こうが辿りつく前に先回りして、隙を窺うだけ。

予測通り過ぎて、自分が怖くなるくらいだ。

621 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:56:58 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「は、はは…私、正義のジャーナリスト出来てるじゃん……」

塗炭壁のサイコロめいた貸倉庫が、碁盤の目のように並ぶニューソク第三埠頭の倉庫街。
貸倉庫と貸倉庫の間、ドラム缶の陰に屈みこんで、辺りの様子を窺う。
ややあって、控えめなエンジン音と共に、リーガリーの青いボディが倉庫街にゆっくりと滑りこんできた。

「それじゃあ、俺はここいらで」

「やっこさん方は何時頃御到着で?」

「今日はモーター・フィストの開幕戦だ。それからディナーやらを済ませて、八時くらいだろうよ」

「……今季はどこが来ると思う?」

「マクレーンの奴が前シーズンみたいにぶちかましてくれれば、ボーンズが行けるだろうがなあ……」

「エクストか」

「ああ。あいつが居るから、ホーネスツってのもあるかもしれねえぞ?」

「はっ!どうだかね!」

世間話の声と共に、二人分の足音が寂れた倉庫街に虚ろに響き渡る。
息を殺し、ドラム缶とドラム缶の間から覗いていれば、与太者達は丁度向かい側の貸倉庫の中に入って行く。
青のリーガリーも、それを見届けると、早々にその場から走り去った。

622 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:57:48 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「……」

完全に人の気配が消えたのを確認して、そっと立ち上がる。
腕時計で確認した今の時刻は、午後五時を十分過ぎた所。
与太者達の話を信じるなら、三時間の猶予がある事となる。

だからと言って、呑気に構えているような余裕など無い。

倉庫の中に彼らの仲間が居るのかどうかは知らない。
知らないが、こちらがたった一人であるという事実だけは変わりようが無い。
サイバネティクスで武装した与太者達を相手に、女の細腕一つで立ち回らなければならないのだ。
加えて、あの子達を無事に助け出す、というのが難度を更に高くしている。

たった一つの失敗が、全ての破滅につながり兼ねない。

背中の毛穴に怖気が立つのが分かった。

o川;゚ー゚)o「――“きゅう子”、お願い」
 _,,,_
/::o・ァ「ァィァィー!」

何は無くとも、先ずは情報だ。
都合がいい事に、ここから見える倉庫の二階の窓の桟の下の塗炭が緩んでおり、丁度隙間が開いている。
ドラム缶の陰にしゃがんだままで、“きゅう子”を件の貸倉庫へ偵察に向かわせた。

623 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:58:31 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「――ふぅ」

桜色の小鳥を見送ると、ドラム缶に背を預けて束の間私は目を閉じる。
ここまでの追跡の間は、無我夢中で意識する暇も無かったが、一人になった瞬間、途方も無い不安と恐怖が腹の底から湧きあがってきた。

o川;゚ー゚)o「……大丈夫、大丈夫」

自分に言い聞かせて肩を抱く。
それでも身体の震えは止まらない。
何なんだ。一体私は何なんだ。

こんな事でビクつくぐらいなら、どうしてここまであのパンクス達を追ってきた?

――結局の所、ただ、現実逃避がしたかっただけなんじゃないのか。

“彼”に会う事に怯えている自分を忘れたくて。
安っぽい義侠心を振りかざして、弱者の為だとか、正義の為だとか、そんな事を言っている自分に、ただ、酔いたかっただけなんじゃないのか。

o川; へ )o「うぅ…ぅぅ…」

止めろ。止めろ。止めろ。
今、そんな事を考えて、何になる。
下らない自己嫌悪で、自分を追い詰めて、それで何になる。
自分を責める事なら、あの子達を救い出した後で、幾らでも出来る。
今はただ、目の前の事に集中しろ。

624 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 11:59:23 ID:FzV8uf/k0
 _,,,_
/::o・ァ「タラィ…マー……」

何の得にもならない思考を遮るよう、“きゅう子”が戻ってくる。
途切れがちになった電子音声は、この子の残りバッテリーが少ない事を意味していた。
 _,,,_
/::o・ァ「モ…ダメ…ゲンカィ……」

生憎、休日と言う事でバッテリーを持ってこなかったのが裏目に出た。
よろけるようにして膝の上に着地した“きゅう子”の首筋に、直ぐ様結線ケーブルを繋いで映像と音声を吸い出す。
ハンディカメラにデータの転送が終わった所で、“きゅう子”は眠るようにしてLEDの瞳を閉じた。

o川*゚ー゚)o「よく頑張ったね…今日はゆっくりお休み」

動かなくなったその頭をそっと一撫ですると、ベルトポーチの隣にぶら下がった“寝袋”の中にそっと収める。
いよいよこれで、本当に独りぼっちだ。

o川;゚ー゚)o「……」

再び湧きおこってくる恐怖と不安を必死で押さえこみ、両の頬を力強く叩く。
怖がるのも、自己嫌悪をするのも、今は、後回しだ。
   _,
o川*゚д゚)o「ビビってんじゃあないわよ、キュート…あんたがやるんだから…他の誰でもない、あんたが……!」

ハンディカメラの内臓プロジェクタで、立体ホロを立ち上げる。
あらゆる角度から撮影された画像が紙芝居めいて次々と流れ過ぎた後、それから組み立てられた、倉庫内の予測見取り図が浮かび上がった。
私には勿体ないくらいに優秀なAIだ。

625 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:00:34 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「――さて、作戦タイムね」

倉庫の作りは至ってシンプルで、メインとなる大きな箱の後ろに、三つの個室が接続されたような作り。
ドラム缶や木箱が雑然と散らばるだけの、その大きな箱とも呼べるメインガレージの中央に、
一つのずた袋を囲むよう、先の二人の与太者達が椅子を引いて座っているようだった。

貸し倉庫への侵入経路は四つ。
先に与太者達が使った、正面シャッターの脇のアルミドア。
もう三つは建物の裏側、メインガレージへ繋がる三つの個室それぞれについた窓だ。

油断しきっているのか、はたまたこのビズ自体に大した熱意が無いのか、与太者達は倉庫の戸締りに手を抜いている。

それこそが、私の付け入るべき隙だ。

o川;゚ー゚)o「……やってやるわよ」

生唾を飲み込み、立ち上がる。
エア・ボードの板を掴む手に、力を込めた。

626 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:02:01 ID:FzV8uf/k0

#track-11


――回って、回って、回って、回り続ける私の頭、大混乱。
貴方が、貴方が、貴方が、来てから回りっぱなしの私の頭、どうにかしてよ、この混乱。

ヘッドスピン・キルミー。
早く止めてよ、この回転。
ヘッドスピン・キルミー。
静めてよ、この想い。
ヘッドスピン・キルミー。
そう、そうね貴方のその手で殺して。

o川*‐ -)o「……」

両耳を埋め尽くす音の洪水。
絨毯爆撃のようなドラムと、狂気のようなギターサウンド。鳥の悪魔が上げる断末魔のような、女性グロウル。
最大ボリュームで小型ヘッドホンから流れ込んでくる、「ヘッドスピン・キルミー」のサウンドは、矢張り私には少しばかり理解しがたい。

だが今は、この轟音も、心臓の鼓動を誤魔化すにはちょうどいい。

o川*゚ -゚)o「――さて、行きますか」

627 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:02:54 ID:FzV8uf/k0
精神集中を終えた後のサムライめかして両目を開けると、私は窓の下にしゃがみ込み、短距離走者のように、クラウチングポーズを取る。

最後に一度、深呼吸。

“ヘッドスピン・キルミー 止めてよ、この鼓動”

サビの歌い出しと同時、私はバネに弾かれるピンボールのようにしてスタートダッシュを切る。

瞬間、閑散とした倉庫街に、大音量のヘビーメタルサウンドが響き渡った。

「うおっ!な、なんだ何だ!?」

僅かに開いた窓の隙間から、倉庫内の与太者達が泡を食ったような声が微かに聞えて来る。
背中にそれを聴きながら、私は倉庫の壁に沿ってスプリントすると、隣の窓の下で急ブレーキをかけた。

o川;゚ー゚)o「間にあって――!」

仕掛けは至って単純、小学生でも思いつく。
窓と、窓のサッシの間に、携帯音楽プレイヤーを挟み、小型ヘッドホンを接続して大音量で音楽を流す。
小型ヘッドホンをしたままの私が走りだした事で、配線が引っ張られて携帯音楽プレイヤーから抜ける。
スプリントを切りつつ、突然流れ出したメタルサウンドで室内の与太者達を陽動して、隣の個室の窓から中に侵入。

あとはそのままメインガレージへと抜け、中の子供を救出。
シャッター脇のドアから飛び出し、予め入口の前に待機浮遊させたエア・ボードで、夜の街へととんずら。

単純故に、一つのミスも許されないプランだった。

628 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:04:17 ID:FzV8uf/k0
「くそったれが!何なんだよこの喧しいのはよぉ!」

「チンドン屋でも来てるってえのかあ?ああ!?」

隣の個室で、壁を蹴飛ばす音が聞こえる。
シュールさんとフォックスさんが神曲と崇めた例の曲は、散々な言われようだ。

窓枠を飛び越えた私は、段ボールがうずたかく積まれた個室の中をコンマ二秒で横断し、ドアを開ける。
メインガレージの中央。
パイプ椅子から腰を浮かし掛けた、サイバネ義眼のパンクスと目があった。

(*く*#)「なんだてめっ――」

灰色に濁ったその瞳から直ぐに目を逸らし、彼の足元に転がるずた袋を見る。
大きさは米袋程。眠らされているのか、ぐったりとしてピクリとも動かない。
乙女の細腕で、これを抱えて逃げなければならない。
相当に、骨の折れる仕事だ。

o川#゚口゚)o「わあああああ!」

我武者羅に叫び、サイバネ義眼の男へと走り出す。
突然の事に、男の反応が遅れる。

チャンス。

だるだるに伸びたニット帽を脱いで、男の頭にすっぽりとかぶせ、首まで引き降ろした。

629 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:05:12 ID:FzV8uf/k0
( く #)「ンガッ!?ガガッ!?ウゴッ!?」

一瞬にして視界を奪われた男が、両腕を滅茶苦茶に振り回す。
サイバネ義眼を相手に、こんなのは一瞬の時間稼ぎにしかならない。

だが、その一瞬が重要なのだ。それこそが、生死を分ける。
その為なら、お気に入りのニット帽も涙を飲んでくれてやる。

「おい、なんだ!?何があった!?」

個室の奥から、もう一人のパンクスの声。
時間が無い。
米俵程もあるずた袋を、渾身の力で抱えあげ、再び走り出す。

シャッター脇のドアまで、目測九メートル。
歩数にして、約八歩。
抱えたずた袋が重い。
重いが、構っていられない。

(*く*#)「こぉおのクソアマァッ!舐めやがってぇえ!」

サイバネ義眼の男が、転がっていた鉄パイプを拾い上げ、後ろに迫る。

(,#゚J゚)「おい、てめえ!何してんだこコラァ!」

個室から飛び出してきたもう一人が、右のサイバネ義手から突出式ブレードの刃を生やす。

o川#゚口゚)o「私だって!私だってええええええ!」

ドアまで、残り一歩。
迫る足音。背後で震える空気。ノブに手を伸ばす。今、掴んだ。捻ろ。

630 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:06:30 ID:FzV8uf/k0
(゚Ё゚ )「何だか知らんが、とっ捕まえてバラしゃあいいんだな?」

筋肉と鉄板装甲で覆われた太腕が、伸びて来る。
サイバネ義腕に掛れば、私の身体など、プラスチックの玩具にも等しい。
殺される。抵抗も出来ずに、殺される。

(゚Ё゚ )「へへへっ、しみったれた仕事だと思ってたが、こいつぁ願ってもねえアクシデントだぜ」

o川;゚ロ゚)o「イヤ…イヤ……」

(゚Ё゚ )「どうせなら、バラすまえに一発お楽しみ、ってのもいいかもなあ?」

錆の浮いた鉄板装甲の中で、パンクスの濁った瞳が下卑た色を浮かべる。

(゚Ё゚ )「よぉし、子猫ちゃん。大人しくしててくれよぉ…手元が狂っちまうからなあ…!」

o川;゚д゚)o「イ、イヤ……」

涙が、ジワリと滲む。
結局、何も出来ないのか。
矜持も無い、正義も無い、下卑た暴力によって、私は殺されるというのか。
蹂躙され、凌辱され、使い捨てのセクサロイドのように、路上に放り捨てられるというのか。

o川; д )o「うっ――うぅ――」

ふざけるな。
そんな、馬鹿げた最期など、あってたまるか。

631 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:07:13 ID:FzV8uf/k0
o川#゚口゚)o「うわあああああ!」

背中に手を伸ばし、バックの中の“それ”を掴む。

ふざけるな。
このまま抵抗もせず、されるがままに殺されてやるほど、安い命じゃない。

o川#゚д゚)o「あんたら何かに!殺されてたまるかあああああ!」

バックから引き抜いた“それ”を巨漢に付きつけ、私はそのスイッチを押す。
瞬間、眩いばかりの閃光が迸った。

(゚Ё゚; )「ぬぉっ――!?」

狙ってやった事では無かった。
破れかぶれだった。やけっぱちだった。
それでも、こんな所で何もしないで殺されるなんてまっぴらだった。
その気持ちが、天にでも通じたのだろうか。

経年劣化で、内部の回路がおかしくなっていたのだろう。
二十年もの歳月を玩具店のショーウィンドウの中で過ごした「とらぺぞ☆ヘドロ」のステッキは、
突如として入れらたスイッチに驚き、通常の何十倍という光を、まさしくアニメ内のそれのようにして、放った。

(゚Ё゚; )「くそっ!なんだこの光は!」

スタングレネードの爆発が如き閃光に目を覆う巨漢の手から、ピクシーⅡの桜色のボディが滑り落ちる。
即座にそれを拾ってスイッチを入れると、巨漢がたじろいで出来たドアの隙間に、私は滑りこんだ。
本能というか、予感のようなものがあったため、発光の瞬間に目を閉じている事が出来たのが幸いだった。

632 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:08:00 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「はあ…!はあ…!私だって…!私だって…!」

ガレージを脱し、ずた袋を抱えたまま、エア・ボードを目線の先に放って浮かべ、それに飛び乗る。
許容重量を僅かに逸脱した事で、桜色の板ががくがくと揺れるが、構ってなどいられない。
フットペダルを蹴飛ばしギアを最大まで上げると、夜の帳の下りた倉庫街へと飛び出した。

「クッソがああ!待てやこらああああ!」

「ざっけんな!ぶっ殺してやる!ぜってえぶっ殺してやる!」

虚しく響く怒声を背後に、エア・ボードはどんどん加速して行く。
秋の日は短い。午後六時を前にして、既に港湾部は闇の中。
このまま適当に街中を駆けまわり、頃合いを見てどこかに身を隠せば、パンクス達をまくのは難しいことではない。

o川;゚ー゚)o「やった…私、やったんだ……」

掌に滲んでいた汗が、じわりと引いて行く。
アドレナリンで白熱していた頭が、徐々に冷めて行く。
換わりに、腹の底から、言いようも無い達成感とも喜びともつかぬ、激しい感情がせり上がってきた。

o川*;ー;)o「やってやったんだ…私…!」

溢れ出たのは、涙だった。
夜のしじまに、視界がぼやけるが、気にはならなかった。
身体全体がじわりと痺れるような感覚も、今は、許容出来た。

633 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:09:10 ID:FzV8uf/k0
だから、ヘッドライトの明かりが突如として闇を切り裂いた瞬間、私は反応できなかった。

o川*;д;)o「っ――!?」

上体が仰け反る。バランスが崩れる。ぐらり、とエア・ボードが傾ぐ。
成す術も無く、私の身体がアスファルトを転がる。
パアーン、という強烈なクラクションの音。
ぎゃりぎゃりという、タイヤの摩擦音。
地を這う私の目の前で、横腹を見せて小型装甲バンが止まった。

「いたぞ、こいつだ!」

バンのドアがスライドし、堰を切るようにしてアロハシャツの集団が降りて来る。
手に手に、ジャックナイフや特殊警棒、サブマシンガンを握った彼らは、私を取り囲むとそれぞれの手の得物を足元の私に向けた。

「乳臭えガキの分際で、俺らを舐め腐りやがって……」

「こんなアマ一人に舐められるたあ、アイツらもヤキが回ったかねえ」

o川*;д;)o「そん――な――」

この短時間で、仲間を呼ばれたと言うのか。
そんな事が、あのようなゴロツキ達に出来ると言うのか。
あんな、油断しきって倉庫の戸締りにも手を抜く様なゴロツキ達に――。

――いや、違う。油断しきっていたのは、私だ。
あんなゴロツキ達など、とタカを括っていたから、こうして彼らが本気になった瞬間、足元をすくわれたのだ。

最後の最後で、私は自分に負けたのだ。

634 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:10:00 ID:FzV8uf/k0
「こりゃあよぉ、ちぃっと俺らのメンツ的にも…なあ?」

「ヤキ入れだけじゃ、済ませれねえわなあ…?」

「へへへへ…嬢ちゃん、おめえもさあ、分かってんだろ?お?」

「へっへっへっへっへっへ……」

o川*;д;)o「あっ――あっ――」

下卑た笑いが伝播して、包囲の輪が一歩狭まる。
魔法のステッキのスイッチを入れてみるが、反応は無い。
エア・ボードから転がった時に挫いたのか、足がずきずきと痛む。
包囲網を形成する人数は、全部で八人。
どう足掻いた所で、私一人すら逃げられるようなものではない。
痛みよりも、それよりも、恐怖で足が動かない事には、どうしようもない。

o川*;д;)o「ぅぅああ……」

「おいおい、泣いちゃったよぉこの子!カーワイイー!ヒュー!」

「誰に泣かされちゃったんでちゅかー?お兄さんに教えてごらーん?」

「ギャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

怖い。情けない。こんなのって、ない。
必死に虚勢を張って、無い知恵を振り絞ってここまでやってみたが、最後の最後で私はどうしようもないくらいに無力だ。
ペンは銃より強し?笑わせる。ペンが銃よりも強いのは、あくまでも弾丸が届かない範囲での話だ。
こうやって、安全地帯から引きずり出されれば、小さくなって震えることしかできない。
そう、そうだ。最後は何時だって、暴力が全てを終わらせるんだ。

635 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:10:48 ID:FzV8uf/k0
「さあて、それじゃあ順番決めっかあ。俺が最初で良いよな?」

「ああ?何言ってんだテメエ。こないだ俺に負けた10万、まだ払ってねえだろうが。
 見逃してやるからここは俺に譲れよ」

「ヘイ。ヘイヘイヘイ、ちょっと待ちな。この中で誰が一番年長だと思っている?
 てめえら、年功序列って言葉を知らないのか?」

「知るかよ。何時まで経ってもパシられてるだけのクズなだけだろうが」

「おうおうおう、醜くも争っちゃってまあまあまあ。こういうのは早い者勝ちだろうが」

言い争うパンクス。その環から外れた一人の手が、私の方へと伸びて来る。

o川*;д;)o「ヤッ……!」

身を捩って避けようとするが、後ろ髪を掴まれ、そのまま引きずり倒される。

「ヘヘヘ、そいじゃあお先に〜」

無遠慮な指先が、チューブトップの裾に掛る。
生理的な嫌悪感に、吐き気がこみあげて来る。
服が捲りあげられる。夜風が素肌に触れる。
男の指先が、下着のホックに伸びる。

私は目を閉じ、思考を止めた。
ただ、ただ、それが終わる瞬間だけを待った。

その時、風が、夜を切り裂いた。

636 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:11:46 ID:FzV8uf/k0
「――ぎゃあああああああ!?」

つんざくような男の絶叫。
私は目を開ける。

从 ∀从「――」

目の前を、黒と銀の風が駆け抜けた。

「い、いきなりなんだコイツァ!?」

「クソっ!クソッ!クソッ!死ね!死ね!死ねえ!」

「うおおおおお!?」

混乱するゴロツキ達。
倉庫街に響き渡る虚しい銃声。
それら全てを、侮蔑し、嘲笑うよう、大鎌を握った黒銀の影が、ゴロツキ達の間を舞う。

「あ、相手はたった一人だ!囲め!囲め!」

「畜生!畜生ぉぉお!」

夜闇を照らす、マズルフラッシュ。
怒号と、それをかき消す連射音。
靡く銀の髪、駆け抜ける黒い影、ひるがえる大鎌の刃。
それは、まさに一瞬の事だった。

637 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:12:39 ID:FzV8uf/k0
「がっ――あぁ――」

「う――そ――だろ――」

私が気付いた時には、ゴロツキ達はその全員が身体中から血を流して倒れ伏しており、辺りには静寂だけが残っていた。

o川;゚д゚)o「……」

暫く、その光景を呆然と見つめていた私は、初めは何が起こったのか分からなかった。
漸くにして、頭が思考能力を取り戻すと、私は慌てて先の黒い影を探して辺りを見渡した。
そして、見つけた。

o川;゚ー゚)o「あれは――」

遥か遠く、日本海を望む物資搬入用クレーンの上。
暗黒の海と、雲の切れ間から覗く三日月を背負って立つ、二つの影。

(  ') 从从 ゚)

もっとよく見ようと目を凝らした所で、月明かりを雲が遮る。
再び闇に塗り込められた視界では、確かめようも無い。

o川* - )o「ど――」

思わず呟きかけたその時、足元のずた袋が動く気配がした。

638 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:13:29 ID:FzV8uf/k0
「う、うーん……」

幼さのある声に、はっとして周囲を見渡す。
血の池地獄と化したこの光景は、彼女には刺激が強すぎるだろう。

o川*゚ー゚)o「ひとまず、何処かに移動しないと……」

乱れた衣服を整え、ずた袋にくるまれたままの少女を抱き上げる。
ここまで来る途中は気付かなかったが、その重さは矢張り私一人が持ち上げるには中々にしんどいものだった。
それはそのまま、人一人の命の重みのように思えた。

o川*゚ー゚)o「……有難う」

束の間、私はその感触を確かめるよう、ずた袋越しに彼女を抱きしめる。
十月の夜の肌寒い空気の中で、その体温は確かに私を温めてくれた。

639 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:14:24 ID:FzV8uf/k0

Epilogue


――目を覚ました少女を家まで送り届けてから、自分のマンションまで戻ってくると、時計の針は既に深夜を回っていた。
結局、最後の最後であんな大イベントがあったせいで、逆に疲れる休日となってしまった。

o川*゚ー゚)o「……ふぅ。ていうか、やっぱ最近の小学生って頭いいのね」

自分が誘拐されかけた、なんて事実をそのまま伝えるのはあまり宜しくないと思い、
適当な嘘で誤魔化そうと思ったが、これがこれで中々骨が折れた。
何とか、公園のベンチで眠っていた所を保護した、という事で納得はしてくれたみたいだが、
一歩間違えれば、私が通報されていたかもしれない。
恐るべし、現代っ子。

o川*゚ー゚)o「……ふふっ」

それでも、何だかんだで可愛い所もある。
自分の首から下がっていたチョーカーが無くなっている事に気付いた時の少女の顔と、
私のポケットからそれが出て来た時の顔は、年相応の少女のそれだった。

彼女自身がはっきりとそう言った訳ではないが、恐らくはあの朝一緒に隣を歩いていた少年から貰ったものなのだろう。
チョーカーを握り締めながらお礼を言ってくる少女の笑顔は、ただ、それだけで、
こんな風な休日があっても悪くない、と思わせるだけのものがあった。

640 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:15:15 ID:FzV8uf/k0
o川*´〜`)o「んあー、疲れたー」

……ともあれ、身体の方の疲れはしっかりと残っている。
メールチェックの後、シャワーを浴びて、今日は早々にベッドにダイブしよう。
そう思って、情報端末(ターミナル)のスイッチをつけると、ホロ・ブラウザの隅で手紙のアイコンがぴっこりと点滅していた。

o川*゚ー゚)o「あ、シュールさんからメールだ。珍しいこともあるなー」

今日の事で、何かあったのかな、と思いつつメールを開く。
件名の無いメールには、短いセンテンスと、音楽データが一つ添付されているだけだった。

o川*゚ー゚)o「悪夢の終局、或いは黄金の夜明け……?」

なんだそりゃ。
ウィルスとかじゃないよね?いや、まさか。知り合いにウィルス送りつける人とか、前代未聞だ。

クエスチョンマークを浮かべつつもクリックする。
聴き覚えのある女性ボーカルが、しっとりとした歌声で唄い始めた。

o川*゚ー゚)o「んん……?」

誰だっけ、この声…と思考を巡らせる事、約一分。
サビの前の、しゃくりあげるような独特のアクセントに、それを思い出す。

o川*゚ー゚)o「……もしかして、パペットマスター?」

ヘッドスピン・キルミーでは、野獣のようなグロウルだったせいで、直ぐには分からなかった。
そう言えば、シュールさんとはパペットマスターの話題で盛り上がった(シュールさんだけが)んだっけ。

641 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:16:00 ID:FzV8uf/k0
o川*゚ー゚)o「へえ…でも、こんなしっとりとした曲も歌うんだ。意外」

うねるようなギターサウンドや、機関銃のようなドラムの代わりに聞こえて来るのは、
か細くも優しいピアノの旋律と、女性ボーカルの切なげな声の二つ。

“夢を見ていた。長く、怖い夢を。

目覚めたら貴方が隣に居て、大丈夫だよと、怖くないよと手を握ってくれる。

そんな夜明けを、黄金の夜明けを

夢見て、今日は、眠りにつこう”

メールを最後までスクロールさせると、大量の改行の後、シュールさんのコメントがちょろっと載っていた。

「私のような玄人にとってはギャグみたいな曲だけど、キュンキュンにはこれくらいがちょうどいいと思った次第でござそうろう。ニンニン」

o川*゚ー゚)o「ぴーえす、今度ライブに連れて行ってあげよう。そこで、本物のメタルがどういったものかを教えてやる。ファッキューガバメンツ……はぁ」

それは是非とも止めて欲しい、と返事を打ちそうになって、ホログラフ・キーボードを叩く指を止める。
少し考えてから、「楽しみにしてます」とだけ書いて、送信した。
ブラウザの中で、デフォルメされた山羊さんがポストに向かって走って行く様を見ながら、ベッドの上にどっかと倒れ込む。
瞼を閉じると、私はさっき聴いたばかりのサビを口の中で繰り返した。

642 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:17:16 ID:FzV8uf/k0
o川*- -)o「“そんな夜明けを、黄金の夜明けを、夢見て、今日は眠りにつこう”――」

シュールさんはギャグと言ったけれど、こういう曲もあってもいいもと思う。
そんな事をぼんやりと考えているうちに、眠気がやってきた。

“そんな夜明けを

黄金の夜明けを

そんな夜明けを

黄金の夜明けを”

立ちあげっぱなしのターミナルから流れる曲の最期を聴きながら、私は眠りについた。

643 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:18:22 ID:FzV8uf/k0
 

 

         从 ゚∀从は鋼鉄の処女

           =Яeboot=
 

         「10月はため息の国」

 
          /// the end ///

644 名も無きAAのようです :2012/10/01(月) 12:22:02 ID:Wurda7Iw0
来てた!
乙!乙!

645 名も無きAAのようです :2012/10/01(月) 12:22:34 ID:FDqb./EQ0


646 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 12:43:37 ID:FzV8uf/k0
■親愛なる読者のみなさんへ■夏祭り■オジギ■

以上で、今回のエピソードはおわりとなります。

今回のエピソードは、サマーソニックなんとかで、皆さんから募集したプロットの中からアイデアを頂き、執筆担当者がスシを摘まみながら書きあげたエピソードとなります。

それについて、執筆担当者と構成担当者からコメントを預かってきていますので、アフタージフェスティボとしてここに決断的に掲載する。

「ドーモ。先ずは、皆さん、今回のマツリに関して沢山のプロットの応募、大変有難うございました。
 魅力的なプロットの数々の中から、どれか一つを選び取るのは実にハードだった。今回はキュートの休日、というテーマの下、一つ書かせて頂く事になったわけだが、いかがだっただろうか?
 このエピソードは、実際キュートの休日を謳ってはいるが、複数のプロットの集合体めいたストラクチュアでもある。
 今までその内面を描かれてこなかったキュートというキャラクターの一人称で書きだす、という試みは、
 始めは困難を極めるかと思われたが、書いてみると実にしっくりと来た。
 尚、今回のエピソードはЯebootと言う事で、無印の一連のエピソード群よりも、時系列を後にするエピソードの一つとなっている。
 これから無印が完結する間は、このようにЯebootと無印のエピソードを交互に投稿する事となるが、
 基本的にЯebootのエピソード掲載順は、無印が完結するまでは時系列が前後するような事もあるだろう。
 何故ならクールでパンクだからだ。わかるね?
 兎に角、皆さんが楽しんでくれれば、と言う事を我々は常に祈っています。そしてまた、執筆チームも楽しむ事を我々は忘れない。それがDIYの一側面だからだ。
 それではまた、次回の投稿でお会いしましょう。オタッシャデー!」

いじょうです。

次回の投稿はわからないが二週間後とかをよていしています。

次はまた一転、無印のエピソードとなるでしょう。マッチャを啜っておまちください。

改めまして、沢山のごおうぼありがとうございました。

647 名も無きAAのようです :2012/10/01(月) 12:46:54 ID:r.I51NoM0

ニダーはしぃのパシリか?
キューちゃんもニダーもかわいいな

648 名も無きAAのようです :2012/10/01(月) 15:43:46 ID:DGDNg8vA0
ドクオがハードボイルドすぐる乙

649 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/01(月) 17:37:35 ID:r6qJPzkoO
(親愛なる読者のみなさんへ;巡回作業の最中で、我々は今回のエピソードにおいて重大なレス番号の抜け落ちを確認しました。これは数時間後に修正される予定です。
なお、担当責任者は今回の事を重く受け止め、自らオハギ断ちをすることを決定しました。わたしは彼女の判断を支持したい)

650 名も無きAAのようです :2012/10/01(月) 18:10:53 ID:YkMrKW6E0

面白かった!続き待ってる

651 名も無きAAのようです :2012/10/01(月) 18:39:19 ID:XnBWD5dY0

きゅーちや

652 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/02(火) 01:18:24 ID:m8Bg0Vls0
■修正箇所とは■ミッシングリンク■

>>629>>630の間のレスポンスンーが欠落だ。
次の一レスはその間に本来挟まっているべきレスポンスンーである。

653 >>629、コレ、>>630 ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/02(火) 01:19:34 ID:m8Bg0Vls0
「――おいおい、なんだこの騒ぎは」

捻ろ。

o川;゚д゚)o「あっ――」

私がドアノブを捻る前に、外側からドアが開かれた。

(゜Ё゜ )「暇だったから様子を見に来てみりゃあ……。
      これまた可愛らしいお客さんが来てたもんだ」

目の前に、動力パイプを頭に這わせた例のパンクスが立っていた。

(,#゚J゚)「そいつを捕まえろ!そのアマ、俺達の商品をギるつもりだ!」

(*く*#)「いいやぶっ殺せ!このクソアマ、俺をコケにしやがって!」

背後で、パンクス達が叫ぶ。

(゚Ё゚ )「んん〜?」

目の前の巨漢が、嗜虐的な目で見降ろしてくる。

o川;゚ロ゚)o「あ…あ…あ……」

動力パイプのパンクスの手には、桜色のエア・ボード。
二メートルにも届くその巨躯が、目の前のドアを塞ぐ。
逃げ道は、無い。

654 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/02(火) 01:20:48 ID:m8Bg0Vls0

■以上です■決断的に訂正■サケ■外して保持■倫理観■

655 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/02(火) 06:11:24 ID:m8Bg0Vls0
■関連書籍■ワッザ■ http://www.amazon.co.jp/%E3%81%A1%E3%82%87%E3%81%A3%E3%81%A8%E3%81%8B%E3%82%8F%E3%81%84%E3%81%84%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3-1-%E3%82%AB%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9-%CE%B1%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%A9/dp/4041203007/ref=tag_stp_s2_edpp_url

656 名も無きAAのようです :2012/10/02(火) 13:01:02 ID:CieLDYRI0
それは「ちょっとかわいい」だけどハインちゃんは「すっごくかわいい」だから大丈夫だと思います!

657 名も無きAAのようです :2012/10/03(水) 00:07:11 ID:Tc7EK3320
アイアンメイデン流行クル――――!?

658 名も無きAAのようです :2012/10/14(日) 04:59:11 ID:BJCpBkscO
今来た
作者生きてた!よかった!
また鋼鉄処女が読めるのが心の底から嬉しい

659 名も無きAAのようです :2012/10/17(水) 11:25:30 ID:PDxx3hY60
続きまだー(屮゚Д゚)屮 カモーン

660 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/17(水) 17:26:03 ID:P7PNF8UQO
■お知らせ■闘争■決断的な■

親愛なる読者のみなさんへ

現在我々の執筆アジトでは、NTT代理店との熾烈な光回線戦争の真っ最中にあり、マザーUNIXがインタアーネッツに接続出来ない状態にあります。

我々執筆チームも全力でNTT代理店との抗争にあたっていますが、奴らはのらりくらりと責任問題を受け流すゲリラ戦術のエキスパートであり、これを駆逐しきるにはまだ少し時間が掛かりそうです。

もっかのところインタアーネッツの復旧見通しはいまだたっておらず、いつ頃になったら投稿出来るかさだかでない。読者のみなさんにはもうしばらくご迷惑をお掛けするかもしれませんがお許しください。

だが我々は必ず勝って帰るぞ。なぜならパンクでありレベリオンだからだ。

661 名も無きAAのようです :2012/10/17(水) 17:28:57 ID:HE0QxJ1Q0
要するに支払いが滞ったわけかww

662 名も無きAAのようです :2012/10/17(水) 17:29:07 ID:qjHnZHhg0
待ってる!

663 名も無きAAのようです :2012/10/17(水) 17:39:54 ID:TFKOcRc20
ワロタwwwwがんばwwww

664 名も無きAAのようです :2012/10/17(水) 18:23:51 ID:L61RoCfUO
ニンスレっぽいしゃべり方だな
復活楽しみだぜ

665 名も無きAAのようです :2012/10/17(水) 19:24:00 ID:8RfsNKOY0
がんばれーwww

666 名も無きAAのようです :2012/10/17(水) 19:29:52 ID:jaHB1kJs0
代理店通すと色々めんどくさそうだな
頑張れ

667 名も無きAAのようです :2012/10/29(月) 01:19:52 ID:CgGdvzEI0
回線は復活したかな…?待ってる

668 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/10/30(火) 21:31:39 ID:/hZEfKJIO
■続報■戦闘的行動■おオマミ■しよう■

親愛なる読者のみなさんへ

我々は一週間程前にNTT代理店にスパイエージェントウーを送り込んだところ「一週間から十日程でログイン用IDとパスワードウーが発行されるのではないか」との事だった。

既に一週間は経過しているので、残り四日程の間に何か動きがあるのではないか?と我々執筆チームは睨んでおります。

なお、原稿の方は待ちきれない執筆担当者の手によって書き上がったものがマザーUNIXとUSBメモリー端子の中に保存されている。

インタアーネッツに接続されていない状態だと作業効率がアッパー・イールかと思われたが、このことに関して因果関係は見られないと執筆担当者は言っています。

今回のエピソードは恐らくは中編規模のものとなるでしょう。備えよう。

最後に、最近はハッカー・クランの活動も盛んなので、みなさんも頭にアルミホイルをまくなどしてクラッキングから身を守りましょう。セルフディフェンスメント重点しよう。

669 名も無きAAのようです :2012/10/30(火) 21:56:54 ID:zFAeZAto0
さあこの期間に書き溜め放題だ

670 名も無きAAのようです :2012/10/30(火) 22:11:32 ID:iDCZ84zQ0
備えよう

671 名も無きAAのようです :2012/10/30(火) 22:16:05 ID:0SmKHPYo0
期待

672 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 19:23:24 ID:lF8RX.4g0

 

 

                【IRON MAIDEN】

 

 
.

673 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:26:30 ID:lF8RX.4g0

 

“Du

du hast

du hast mich

du hast mich gefragt

du hast mich gefragt, und ich hab nichts gesagt“

 

……Du hast/Rammstein

674 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:27:35 ID:lF8RX.4g0

 

 

         从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

           Disc12.禁じられた遊び

 

 
.

675 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:28:33 ID:lF8RX.4g0

Prologue


――走る。走る。走る。
泥水を蹴立てて、潤滑油を撒き散らして、土砂降りの中を、目指す場所すら分からず、ただ、駆ける。

「死なせない…何があっても、貴様だけは死なせない……」

背後で響く、追いたてるような銃声。
アスファルトを抉る、爆炎の咆哮。
腕の中で、小さくなっていく鼓動。

「ハハ…流石に、今回ばかりは…ちょっと無理かもね……」

端から血を流す唇が作った、弱弱しい笑み。
目を閉じ、耳をふさぎ、それら全てから逃げるように、ただ、ただ、走る。

口だけが、意味の無い言葉を紡ぎ続けた。

「貴様は死なせない。絶対に、私が守る」

絶対に。縋るように、もう一度繰り返す。
まるでそれだけしか無いように、我武者羅に繰り返す。

676 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:29:24 ID:lF8RX.4g0
「ねえ、聞いて。――大事なことだ」

腕の中で紡がれようとする言葉。

「本当に、救いようのない人生だったけど――君と一緒に馬鹿どもを嘲笑うのは面白かった」

聞きたくない、別れの言葉。

「命令だよ、01舊ホ紆1ケ鼇011」

従いたくない、最後の命令(コード)。

「君は、生きろ」

轟音と共に、地面が炸裂する。
爆炎に弄られた身が、宙を舞う。
抱きしめた鼓動が、腕から離れる。

厭だ。

厭だ。

――厭だ。

「010l鐚ス畆11キ耆01010唹11rqk兪10」

エメラルドのノイズが、濁流となって全てを飲み込んだ。

677 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:30:40 ID:lF8RX.4g0

Track-α


――左手にべっとりとした湿り気を感じて、慌ててそれにかぶりつく。
口の中にキャラメルの仄かな甘みが広がり、俺は僅かに顔をしかめた。

('A`)「これはちょいとばかし甘過ぎるな」

从 ゚∀从「この空気がか?」

冬の朝のように凍える声が、横合いから掛けられる。
振り返れば、そこに銀髪赤眼、ゴスロリワンピースの相棒が、買い物袋を両手にぶら下げて立っていた。

从 ゚∀从「貴様がよく時間を浪費しているアダルトソフトウェアではよくあるシチュエーションだろう?何が気に食わない?」

何時もの仏頂面で、微粒子レベルの感情もこもらない声音で語りかけて来る彼女の名前はハインリッヒ。
特A級護衛専任ガイノイド、通称を「アイアンメイデン」。
一体でニホン軍の一個小隊にも匹敵する戦闘力を誇り、自己発想許容型AIの搭載により、人間に限りなく近づいた、いわばロボット。

血も涙も無い毒舌少女は、秋も深まってきたと言う事で、何時ものゴシックロリータワンピースの上から、同色のケープを羽織り、
華奢なお御脚には黒のタイツとロングブーツをはいていた。

678 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:32:08 ID:lF8RX.4g0
('A`)「ちげえよ、これだよ、これ」

秋ファッションの彼女に向けて、手の中のそれを突き出して見せる。
茶色い雪だるまのような二段重ねのアイスは、一段目が生チョコレート、二段目がキャラメル味。
お洒落な感じの四角いコーンの縁には、溶けかかった一段目のチョコレートが垂れて来ていた。

('A`)「ハードボルイドな俺には、この甘さはちょっとばかりキツイぜ」

从 ゚∀从「普段からニコチンばかり摂取しているからだ癌細胞。
     煙草を止めてみろ。そうすれば、貴様の灰色の食生活にも一片の色どりが添えられるというものだ」

('A`)「あのさ、それよく聞くけどさ――煙草止めれば、食べ物が美味しくなるってやつ?その通りだと思うよ。全くもってその通り。
    だけどさ、喫煙者にとっては食後の一服、というものもそれに代え難い美味さがあるわけなんですよ」

从 ゚∀从「煙草をやめれば、それにオプションで健康的な肉体、がついてくるが?」

('A`)「健康!ハッ!キミ、誰にモノを言っているのか分かる?このドクオ様に、健康について巧拙たれちゃうの?」

やだー!超うけるんですけどー!健康とか健全とかマジうけるんですけどー!

('A`)「健康なんてクソッ喰らえだね!肺がんで死ぬその日まで、俺は煙草を吸う事を止めない!」

「ぷーくすくすくー」と笑ってやると、ハインリッヒはその白磁の顔に胡乱な表情を浮かべた。

从 ゚∀从「矢張り貴様の脳核にはメモリを増設する必要性があるな。盲腸炎の時の苦しみを忘れたと言うのか?
     床の上をのたうつ生体廃棄物を抱えて、病院まで運んだのは誰だか知っているか?
     肺がんの痛みは、あんなものではないぞ」

679 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:33:28 ID:lF8RX.4g0
ぎくっ。

从 ゚∀从「まあ?貴様が既に自分が肺がんになった事を見越して、私の次の管理者を用意してある、というのならば?
     私としても貴様が何処で野たれ死のうが一向に構わないが。
     入院費、葬式代、全て揃えてくれていれば、肺がんだろうがクラミジアだろうが、好きなように死んでくれ」

(;'A`)「……おい、ちょっとそういう愛の無い事言うのはやめてくれませんか。本気で寂しくなっちゃうだろうが」

从 ゚∀从「どうした?自分が如何に社会的に不要な存在か知ってしまってショックを受けたか?
      心配するな、ドクオ。貴様が居なくても、世界は何時も通り回り続けるぞ。安心して、心おきなく死んでくれ」

(;'A`)「止めて…せめて、“私にはご主人様が居ないと駄目なんでぷー!”ぐらい言って!」

从 ゚∀从「貴様が居なくなったとしても、貴様の生きた証が消える事は無い。私の中の貴様の記憶を、増設メモリに移し替えて闇市に流すのだ。
     そうすれば、貴様は生き続ける事が出来る。――中古ソフトウェアショップの棚の隅でな」

(;>'A`)>「止めろ…止めろ…止めろぉお!ドラック&ドロップで俺を消し去るなぁあ!」

頭を抱えてアイデンティティの崩壊に耐える俺を、鋼鉄の処女は嗜虐的な笑みで見下す。
最近気付いたが、こいつは銃弾飛び交う鉄火場の中でも似たような顔をしている。
戦略的排除目標を撃つのと、俺の硝子のようなまっさらな心を打ち砕くのは、彼女にとって同じように愉悦の対象なのだろうか。

だとしたら、更に俺のアイデンティティがやばい。

680 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:34:34 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「……反省したか?」

('A;)「……うん」

从 ゚∀从「これからは健康にも気をつけると約束するか?」

('A;)「……うん」

从 ゚∀从「……ならば良し。飴をくれてやろう」

('A;)「……有難う」

ころころ。

从 ゚∀从「……美味しいか?」

('A;)「……うん。でもちょっと苦いや」

从 ゚∀从「それが人生の味だ」

……俺達は、何でも屋。
気になるあの子への代理告白から、企業機密の強奪まで、報酬次第で何でもやってのける、地域密着型のダ―クヒーロー。
端的に言えば、金の亡者。
人の生のほろ苦さを痛感した俺は、口直しにと手元のダブルアイスを一舐めする。

('A`)「……やっぱり、甘すぎるな」

从 ゚∀从「何だ?この空気がか?貴様がよく時間を浪費しているアダルトソフトウェアではよくあるシチュエーションだろう?何が気に食わない?」

681 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:36:03 ID:lF8RX.4g0
('A`)「おいちょっと会話がルー……」

……プしてんぞ、と言いかけた俺の背後から、慌ただしい足音が近づいてくる。
勤めてそれを無視しようとしたが、残念なことに向こうはそれを許してくれなかった。

「ねえねえどっくーん!どっくんってばー!」

弾けるパッションの黄色い声に、痛み出した頭を押さえつつ振り向く。
家族連れやカップルで賑わう大型ショッピングモールの回廊を、俺に向かって一直線に走ってくると、
彼女は両手にぶら下げた布切れを突き出し、藪から棒に言った。

o川*゚ー゚)o「ねえねえどっくん!どっち!?」

ピンクのキャミソールに、デニム地のジャケットと同じくデニム地のタイトなスカートを穿いたその格好は、
如何にも「休日のショッピングを楽しむ女子大生」と言った所。

浅く被った白と青のしましまのニット帽の下で、桃のような頬を仄かに上気させ、自信満々な顔をしているキュートに、
俺はため息が出るのを禁じ得なかった。

('A`)「いや、どっちってお前――」

目の前に突き出された、ひらひらした布切れから目を逸らす。
右手にはパレオのついた青いビキニ。左手にはピンクとイエローのボーダー柄のセパレート水着。
殊更に深いため息をついてみせたが、彼女は俺の表情もお構いなしに、両手の水着をもう一度突き出した。

o川*゚ー゚)o「どっちが似合うと思う!?」

('A`)「いや、だから君さ――」

o川*>ー<)o「それとも着てみないと分からないとか?やだー!どっくんのえっちー!」

(#'A`)「て、てめえ……」

682 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:37:19 ID:lF8RX.4g0
総天然色ハイテンションできゃいのきゃいのと騒ぐキュートに仄かな殺意を覚えて拳を握る。

从 ゚ー从「……」

隣の相棒は、そんな俺の様子を、督促状を付きつけられた負債者を見下すような表情で観ていた。
なんでこいつ、こういう時だけは楽しそうなの。やっぱり今度、電脳核をいじり直す必要があるよね。

o川*゚ー゚)o「あ、あとねー、ワンピースのやつもあったんだけどねー、
ちょっと似合うかどうか自信無かったから持ってこなかったの。……そっちも見たい?」

(#'A`)「いらんわ!」

o川*゚ぺ)o「えー。じゃあ、こっちのどっちか決めてよー」

(#'A`)「だーかーらー!そういうこと言ってるんじゃないの!」

どうにも調子を崩される。
悔しいが、ハインリッヒの言った通り、こういうのはあまり得意じゃない。

(#'A`)「いいか?今日は、そんなちゃらちゃらした買い物をする為に来たんじゃないの!
    大体水着って何だ!何時着るんだそんなもん!」

o川*゚ぺ)o「えー、向こうに海って無いっけ?」

(#'A`)「ツクバに海なんかあるか!良いから戻して来なさい!」

めっ!と言って怖い顔をすると、キュートはぶうたれながらも、しぶしぶと言った様子で、
人混みの向こう、服屋のテナントの中へと戻って行く。
本当に彼女は、今日の買い物の意味を理解しているのだろうか。甚だ疑問だった。

683 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:38:27 ID:lF8RX.4g0
('A`)「やれやれだ……」

ため息一つ、ベンチに腰掛ける。
祝日ということで、ニューソク駅前の「PINK」は人でごった返している。
同心円状の回廊にずらりと並んだ服屋やレコードショップ、ファストフード店のテナントの間に溢れかえるのは、
幸せそうな顔をしたカップルや家族連れ、流行りのPSYストリート風ファッションに身を包んだ若者たちなど、
凡そ俺のような人間の底辺とは縁遠い存在ばかり。

ショッピングカートを押し、手に手に風船やらブティックの袋などを持った彼らは、遠目から見るだけでも気遅れを感じぜずには居られない。

('A`)「……日陰者には辛い場所だぜ」

( ´ω`)「まったくだお……」

('A`)「ていうかなんでこいつらこんな幸せそうな顔してるの?何なの?毎日がエブリデーなの?」

( ´ω`)「それを言うなら毎日がエブリデーだお」

('A`)「いや、それ変わって無いから」

( ´ω`)「あ、その通りだったお。こいつは失敬」

('A`)「どっ!わっはっはっはっはっは」

( ´ω`)「……」

('A`)「……」

おい。ちょっと待て。

684 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:39:54 ID:lF8RX.4g0
(;^ω^)「って、なんでドクオがこんな所に居るんだお!」

('A`)「それはこっちの台詞だっつーの」

自然な体で俺の独り言に割り込んできたのは、俺以上に日陰の臭いのキツイ塩豚であった。

('A`)「え、お前も外出とかすんの?何時日光を克服したの?目ん玉焼かれたりしてない?」

(;^ω^)「僕は吸血鬼か深海魚かお……」

('A`)「いや、だって……ねえ?」

塩豚改めブーン、事内藤ホライズンの姿を今一度、頭からつま先までなぞる。
何時も着ている黒地のパーカーは洗濯されたのか毛玉一つ見当たらず、下にはおろしたてのワーカーパンツを穿いている。
センスの面から言えば相変わらずだが、全体的に小奇麗に纏まったやつの佇まいは、
情報端末(ターミナル)に四六時中齧りついている社会不適合者のそれからは大分乖離していた。

(;^ω^)「まあ、確かに自分でも出無精で引きこもりである所は否定しないけど……」

('A`)「だろ?何ならジャックインしたまんま現実に戻ってこないまである」

(;^ω^)「……反論したくても出来ないのが悔しい所だお」

('A`)「電脳もほどほどにしとけよ」

(;^ω^)「間違った事は何も言われてないのに、お前に言われると素直に頷けないのが不思議だお……」

685 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:41:24 ID:lF8RX.4g0
('A`)「――で、何でまたお前みたいな社会の落伍者が、こんな人生大好きっ子達の溜まり場に?」

(;^ω^)「いや、まあ、僕自身はどうでもよかったんだお?ただ、その――」

('A`)「?」

言い淀むブーン。
俺がそれに怪訝な顔を返すと、奴の背後にぬっと立つ影があった。

lw´‐ _‐ノv「私だ」

('A`)「あんたか……」

横に広いブーンの身体の影から出て来たシュールさんは、ストライプ柄のキャスケット帽子にモザイク模様のストールとカーディガン、といった出で立ちだ。
かの引きこもりの同類だと言うのに、そこそこのファッションセンスを有していたり、
この塩豚をニューソクくんだりまで連れて来るバイタリティと言い、シュールさんに限らず、
同じオタクでも女の子の方が男子よりも社会性が高いのは何故なのだろうか。
男子は死ぬまで子供だとよく聞くが、もしかしたらそこに真実が隠されているのかもしれない。

('A`)「何でぇ、女連れかよ……チッ」

(;^ω^)「いやいや、別にそういうんじゃないお!ただ、ホント、なんて言うか――」

lw´‐ _‐ノv「ねえダーリン♪次はあたし、オサレな喫茶店でハニードーナッツが食べたいな♪」

('A`)「蜂の巣になってしまえ」

(;^ω^)「いや、だからこれは違うんだって!ただ、服を!僕の服を買いに来ただけだってば!
      ほら、僕って出無精だから!買い出し!買い出しだお!そう!」

686 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:42:34 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「世間一般にはそれをデートと呼ぶんじゃないのか?」

(;^ω^)「ハ、ハインちゃんまで……」

的確な所で会話に混ざってくる冷血の処女。
デートだろうがデートじゃなかろうが、ネタに出来るのならばいじるのが、
高校時代にいじりのドクオと呼ばれた俺のポリシーなので、取り合えずこの場はいじり倒す。慈悲は無い。

从 ゚∀从「貴様は愚息でもいじっていろ」

('A`)「仮にも女の子の格好してる子がそゆ事言っちゃめっ!て教えたでしょ!めっ!」

おい何だこのロボ娘。てっきり俺の味方だと思ったら全方位無差別攻撃かよ。
お前はウォーモンガーか。識別信号を見極めろ。

o川*゚ー゚)o「ぐそく?なになに?どっくん、サムライにジョブチェンジしたの?」

俺の背後から上がった黄色い声に、ブーンの目が剣呑な目を帯びる。
よりによって、最悪のタイミングで最悪の伏兵が戻ってきた。

( ^ω^)「ドクオくん、お兄さんちょっとお話があります」

('A`)「ちょっと待て。俺達は一度、冷静になって話しあうべきだと思う」

(#^ω^)「人の事を散々煽っておいて、自分こそこんな可愛い女の子と!」

('A`)「違うよ、全然違うよ。デートとかじゃないよ」

(#^ω^)「うるさいお!童貞!インポ!知らない間にこんな可愛い子を捕まえて!
       何処のセクサロイド店で売ってるんですか!」

('A`)「おい言葉に気をつけろよドサンピン」

687 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:43:51 ID:lF8RX.4g0
o川*゚ー゚)o「せくさ…?何?ダイエットサプリメント?」

怒りに任せてセクシャルハラスメントを口にするブーンに、俺の後ろでキュートは首を傾げる。
彼女の愚鈍さに、今は少しばかり救われたようだった。

(;^ω^)「――全く、僕の事を茶化す権利なんて、自分だってないんじゃないかお」

('A`)「いや、だから別にお前が思ってるようなもんじゃないんだって」

援護射撃を求めて振り返れば、キュートは塩豚とシュールさんを見て首を傾げている。

o川*゚ー゚)o「ねえ、どっくん、この人達は?」

そう言えば、俺とハインリッヒ以外にとっては皆が皆、初対面と言う事になるのだろう。
キュートにはブーンとシュールさんを、二人にはキュートの事を手短に紹介する。
その様を横合いから見ていたハインリッヒが、「これが世に言うダブルデートというものだな」とこぼしたので、視線で牽制すると嗜虐的な笑みを返された。何処までも主を見下したガイノイドだ。

o川*゚ー゚)o「どうも、日頃よりどっくんがお世話になっております。
こんな人ですけど、これからも仲良くしてあげて下さいね」

全員の紹介が済んだ所で、キュートが二人にぺこりと頭を下げる。
どうしてこの子はそんないけしゃあしゃあと妙に近しい挨拶をするの?会ってまだひと月と経って無いよね?

( ^ω^)「おっおっ。こちらこそ、こんな童貞を腐らせたような友人ですが、どうか見捨てないでやって下さいお」

('A`)「だーかーらー、そういうんじゃないの。分かる?お二人さん?ビジネス。これ、ビジネスね?ドゥーユーアンダスタン?」

688 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 19:44:49 ID:YTDcaU8g0
きたか…!!
  ^‐‐‐^
  ( ゚ д ゚ ) ガタッ
  /   ヾ
_L| / ̄ ̄ ̄/_


689 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:45:01 ID:lF8RX.4g0
いい加減に面倒くさくなってきた俺は、溜息と共に言葉を吐く。

('A`)「俺達が今日ここに来てるのは、お仕事の一環なの。デートとか、そう言った浮ついたものじゃないの」

o川;゚д゚)o「ええ!?デートじゃなかったの!?」

何やらキュートが阿呆みたいに口を開けているが、相手にするのが面倒なのでノータリンはこの際無視する。

( ^ω^)「仕事の一環で、PINKで女の子とショッピングかお?」

('A`)「護衛の仕事で、ちょっと遠出する事になったんだよ。今日は、その準備で入用なものを買い出しにきてるってわけ」

( ^ω^)「遠出?こないだアラブに行って来たと思ったら、今度は何処だお?」

('A`)「ツクバ」

俺の短い返答に、ブーンは僅かに眉を上げた後、その弛んだ頬を気持ち引き締める。

( ^ω^)「――ツクバ、かお」

何やら含みのあるような口調で呟くように反芻すると、ブーンは束の間考えた後に俺の瞳を真正面から覗きこんで言った。

( ^ω^)「僕も、連れて行ってくれないかお?」

('A`)「いや、駄目だろ」

(;^ω^)「って即答かお!」

かと思ったら、売れない芸人みたいな合いの手を入れて来た。
忙しい塩豚だ。

690 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:46:14 ID:lF8RX.4g0
(;^ω^)「キュートちゃんもついて行くんだったら、僕も助手とか言って付いて行っても問題ないんじゃないかお?」

('A`)「お前みたいな脂ぎった顔の仔豚が助手じゃ俺も箔がつかないだろうが」

(#^ω^)「てめえ、言うに事欠いて……」

('A`)「それに、これはクライアントの指定でもあるんだ」

怒りに豚面を赤く染めたブーンが、「はえ?」と間抜けな顔をする。
どういう事なのかと説明を求める台詞が出る前に、俺は先回りで口を開いた。

('A`)「電脳上で依頼を受けた時からの指定なんだ。俺とハインと、それからキュート。この三人に、仕事を頼みたいって、名指しでな」

(;^ω^)「いや、ドクオとハインちゃんは分かるとしても……キュートちゃんを名指しで?」

o川*゚ー゚)o「いえーす、あいあむっ」

塩豚の訝しげな視線を受けて、全力馬鹿がむんっと得意気に大きめの胸を張る。
頭からっぽのこいつは何も疑問に思って無いようだが、ブーンが抱いているであろう疑問は、恐らくは俺も抱いているものと同じものだ。

(;^ω^)「一応聞くけど、キュートちゃんってあのしみったれた何でも屋の社員だっけ?」

('A`)「んなわけあるか。ていうかしみったれた、は余計だろうが」

(;^ω^)「じゃあ、なんでドクオとセットで名指しされるんだお?」

691 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:47:40 ID:lF8RX.4g0
('A`)「……それは、俺も知らん」

仕事の依頼は、一通のメールによるものだった。
ある朝、事務所据え置きの情報端末(ターミナル)に届いたそのメールには、
護衛を頼みたい事、ツクバでの仕事になること、高すぎず低すぎない報酬のこと、
そして俺達三人を指定する旨の事だけが、至って簡素に綴られていた。

他には、何も無い。

“タナカ”を名乗る依頼人は、具体的な依頼内容も、どうして俺達を指名したのかの理由を記すような事も、何もしていなかった。

(;^ω^)「はあ?何だお、その胡散臭さの塊みたいな依頼は」

俺の説明を聞き終えたブーンは、開口一番に奇声を上げると、信じられないモノをみるような目で俺を見る。

(;^ω^)「いや、どう考えてもそれ、碌な依頼じゃないお」

ブーンの目は、「むしろそれは“依頼”じゃない可能性の方が高い」と言いたそうだった。

('A`)「勿論、俺だってそれくらい見りゃわかるさ。百歩譲った所で、これが罠である可能性は否定しきれない」

(;^ω^)「八割方罠みたいなもんだお!なんでそんな依頼――」

('A`)「――だが、逆に罠だとしたら、あまりにも稚拙な罠だ」

(;^ω^)「おっ……」

692 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:49:09 ID:lF8RX.4g0
そこが、俺には引っかかっていた。
本当に俺達を陥れようとしている人物が、あんな警戒してくれと言わんばかりの、胡散臭さ丸出しのメールを寄越すだろうか。

仮に、この“タナカ”という人物が、俺達三人を呼び出して殺したいとしよう。
それならば、俺とキュートに個別に偽の依頼を送りつけ、集まった所で狙撃手なりなんなりをつかって始末すればいい。
わざわざ、「俺に」、「俺、ハインリッヒ、キュートの三人」を名指しで指名する依頼のメールを送りつけて猜疑心を煽るなど、プロのすることじゃない。

何か、他の意図があるように思えた。

('A`)「……仮に、罠じゃないとして、だ。この“タナカ”ってやつは、何故俺とハインリッヒの他に、キュートを名指ししてきた?」

o川*゚ー゚)o「ほえ?」

自分の名前を呼ばれた事で、キュートがチュッパチョップスを舐めながらこちらを振り返る。
サクランボ味のキャンディーをシマリスのようにして頬張る、この総天然色阿呆娘と俺達は、先日のムズリーマでの一件以前の接点は皆無だ。
単純な推論で行けば、そのムズリーマ行での何かしらが、今回のこの名指しに関わっていると思えるが……。

('A`)「渡辺、なのか……?」

ムズリーマで俺達が出会った事。
ウヒッブ派。その頭目、歯車の王。その彼の最期。

そして、思い出したくも無い、あの再会。

693 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:50:20 ID:lF8RX.4g0
('A`)「……」

(;^ω^)「……ドクオ?」

('A`)「ん?ああ、いや、何でも無い」

( ^ω^)「おぉ?」

o川*゚ー゚)o「……」

……何れにしろ、こちらの動向を知られているという以上、この“タナカ”という人物が厄介な相手である事に変わりは無い。
むしろ、あのメールは何処かの間抜けが俺達を始末する為に送ってきたものだと考える方が、随分と気が楽だ。

('A`)「この“タナカ”が何者なのか、何の目的で俺達を呼び出したいのかは知らない。
   知らないが、先にお前が言った罠よりも、遥かに碌でも無い事が起きるのは確かだろうな」

それでも、そのまま無視してしまうには、あまりにも寝覚めが悪い。
結局の所、確かめられずには居られない。
それが罠だとしても、この依頼を断る事は出来なかった。

……故に、向こうで何が起きてもいいようにとの、準備を整える為の今日のこの買い物行な訳だが。

('A`)「どっかの馬鹿は、やれアイスだ、やれ水着だと随分とはしゃいでらっしゃるご様子だったが」

o川*゚ 3゚)o〜♪「ひゅーひゅー」

俺の湿度満点の視線に、キュートは時代錯誤も甚だしく、空々しい口笛を吹く。
そろそろこのリアクションも古典芸能に分類されても良い頃合いだと思います。

694 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 19:51:54 ID:lF8RX.4g0
o川#゚ー゚)o「ていうかー、どっくんこそ、PINKに来て何を準備するってーの?
      ここショッピングモールだよ?てっぽーとか、ぼーだんべすととか、売ってると思ってるわけ?」

lw´‐ _‐ノv「そーだそーだー!」

何故か水を得た魚のようにして追従するシュールさんと共に、キュートは「言ってやったぜ」みたいな顔をする。
これだから素人は分かっちゃいない。銃と防弾ベストだけが、鉄火場を生き残る全てだと思っていやがる。

('A`)「そんなんだからキミは甘いんだよ。本当の戦場ってやつを知らねえネンネちゃんが、知ったふうな口を聞いて貰っちゃ困るね」

o川#゚ぺ)o「かっちーん。……じゃあ、何買ったのさー」

('A`)「ふんっ、いいだろう。この際だからキミにも、戦場を生き抜くための知恵ってやつを教えてやるよ」

言いながら、俺は足元に置いた買い物袋から“それ”を取り出し、キュートの目の前に突き出す。
ふくれっ面から一転、キュートの顔に訝しげな表情が浮かんだ。

o川*゚ー゚)o「……何それ」

('A`)「見ての通り、テディベアだ」

俺は両手でテディの両脇を握ってその茶色い腕をふにふにと動かす。
動作に合わせて、「こんにちは!僕テディ!」と声音を変える腹話術も披露してやる。
キュートの顔が、苛立ちを孕んでひきつった。

695 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 20:15:00 ID:lBlipISw0
執筆チーム!

696 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:16:13 ID:lF8RX.4g0
o川#゚ー゚)o「……で?」

('A`)「“僕、熊のテディ!好物はサフランの蜜と不労所得だよ!”――ん?」

o川#゚ー゚)o「“ん?”じゃないっ!それで、そのテディベアが、戦場を生き抜くのにどう役に立つのか、ちゃんと説明してくれるんだよね?」

('A`)「立たないよ」

o川#゚ー゚)o「は?」

('A`)「役に立たない」

o川#゚ー゚)o「……ごめんね、どっくん、良く聞こえなかった。もう一回言ってみて?」

('A`)「舞い飛ぶ銃弾の中で、こんな綿袋なんかあった所で何の役にも立たないよ」

瞬間、両脇をリボンで括ったキュートの頭が、ぼんっと音を立てて噴火した。

o川#゚д゚)o「人が!下手に出てれば!つけ上がって!あんたはー!」

「むきー!」とかなんとか言いながら、両手を振り回して怒り心頭を表現するキュート。
本当にこういう怒り方する人、初めて見た。漫画とかだと笑えるけど、現実に見ると鳥肌ものだな。無論、悪い意味で。

('A`)「おい馬鹿やめろ。確かにこの子は何の役にも立たないが、それでも抱きしめる事が出来る。
    この子を抱きしめていれば、たとえ鉄火場の中で孤立無援だとしても、心安らかに居られる。それは素晴らしいことだと思わないか?」

o川#`へ´)o「その子を抱いたままミンチになっちゃえばいいんだっ!」

697 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:17:25 ID:lF8RX.4g0
「ふんっだ!」と言ってそっぽを向くキュート嬢に、俺は肩を竦めて苦笑する。
テディを買った理由は他にあるが、こう面白いリアクションを返してくれると矢張りからかってみて正解だった。
今時、この手の戯言にいちいち真面目になって取り合ってくれる女の子は貴重だ。レッドデータアニマルズで保護されるまである。

(;^ω^)「……アホくさ」

俺達のやり取りを見守っていたブーンが、うんざりした顔でぼそりと呟く。
確かに阿呆の極みではあるが、これが俺流コミュニケイションである。つまり俺は阿呆の極み。

('A`)「いやほら、からかい甲斐がある子が居るとつい、ほら」

いぢめじゃないよ?スキンシップだよ?

( ^ω^)「……好きな子に意地悪する小学生かお」

('A`)「は?ふざけた事言ってるとぶん殴るよ?」

両の拳をぽきりぽきりと鳴らす俺に、塩豚はため息交じりに苦笑を洩らす。
その視線が、ぷんすかぷん、とそっぽを向くキュートに注がれた後、再び俺へと戻ってくれば、
そこには何時もよりも少しばかり引き締まった表情がにわかに浮かんでいた。

( ^ω^)「――それにしても、ツクバ、かお」

ポツリ、と一種未練を織り交ぜたような呟きが、俺の足元に落ちる。

矢張り、こいつにとって、ツクバという地名は気になるのだろう。

698 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:18:34 ID:lF8RX.4g0
かつて、「電子の海を泳ぐ街」の件で、俺達が辿りついた構造体。
ツクバ学術研究都市の中枢データバンクと、そこに表れた仮面のアバター、「ジョーカー」。
ツクバ軌道エレベーター跡に、ジョーカーの正体に迫る何かしらがあるのではないか、と奴は思っているのだろう。

( ^ω^)「……うーん、困ったお。あそこはネットが繋がっていないから、ドロイドを同行させるってわけにも――」

ぶつぶつと呟きながら、ブーンは何やら考え込むように腕組みをする。
やがて、何かを思いついたように顔を上げると、尻ポケットに手を突っ込んで桜色の小さな何かを取り出した。

( ^ω^)「これを、僕の代わりに連れて行ってくれお」

掌に乗せられた、桜色のそれは、プラスチック樹脂製の小鳥型ペットロイドのようだ。

('A`)「これは……?」

o川*゚∀゚)o「キャー!カワイイー!」

俺が尋ね返すよりも前に、横合いから覗きこんできたキュートが、弾けるような奇声を上げて、俺の掌の中から小鳥型ペットロイドを奪い去る。

699 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:19:41 ID:lF8RX.4g0
o川*>∀<)o「やだー!何これー!超可愛いんですけどー!きゃー!きゃー!」

(;^ω^)「おっ、おぉ……?」

自らの掌の中で矯めつ眇めつ、指でつついたりしては、かしましい悲鳴を上げるキュートに、ブーンは泡を食ったような顔で俺に視線で助けを求める。
この手のきゃいのきゃいのしたテンションは、矢張りこいつにはキツイのだろうが、俺もこれで完全に慣れたわけでは無い。SOSを出されても困る。

('A`)「おい……」

o川*>д<)o「んもー!何これー!何でこんなに可愛いのー!?なになに!?ブーンさん、何これー!?」

(;^ω^)「ひゅふっ!?」

パッション全開で体当たりするかのように詰め寄ってくるキュートに、ブーンの口から名状し難い声音が漏れる。

lw´‐ _‐ノv「むっ……」

傍らでその様子を見ていたシュールさんが、糸のように細い目を僅かに見開いた。
俺は、心の中で短く十字を切った。

(;^ω^)「え、ええとこれは、その、ペットロイドの形をした、スパイウェアで……」

o川*゚ー゚)o「うん!うん!」

(;^ω^)「その、ハイレゾカメラとか、一定の周波数を拾って録音したり…えっとその……」

口の中で、もごもごと説明になっていない説明をするブーン。
きゃぴきゃぴした女子を前にどもるその姿は、哀れな童貞以外の何物でも無かった。

700 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:20:33 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「電子の王かっこ笑い」

ここぞとばかりに、冷笑を浮かべるハインリッヒ。

lw´‐ _‐ノv「電子の王かっこ暗黒微笑」

その横で、ライスチョコレートを頬張りながら、二人の様子を眺めるシュールさん。
気のせいか、米粒型のチョコレートを噛み砕くその音が、妙に暴力的だった。

(;^ω^)「つまり、その、えっと、その子が録画、録音したモノを、後で僕に見せて欲しいと、そういうことですお……はい」

o川*>∀<)o「じゃあじゃあ!この子は私が持って行って良いんですね!?」

電子の童貞と元気印フリージャーナリストの会話は、驚くほどに噛み合っていない。
良い機会だから、この童貞も少し女の子の恐怖というものに慣れておくべきである。

(;^ω^)「ドクオ!ドクオー!」

心の中で南無阿弥陀仏と唱えてから視線を逸らす。
皆の話しの輪から離れた位置で、こちらを見ていた鋼鉄の処女と目があった。

从 ゚∀从「……賑やかだな」

('A`)「ああ、喧しくてかなわんね」

適当な返事を返して、俺はベンチに再び腰かける。
その横に並ぶように、ハインリッヒもまた、しゃなりと腰を下ろした。
少し離れた場所では、未だにブーンとキュート、シュールさんの三人がきゃいのきゃいのと騒いでいる。
俺達は、その様子をぼんやりと眺めた。

701 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:21:18 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「……本当に、随分と賑やかになった」

先の言葉を、ハインリッヒは繰り返す。
何時もの鉄面皮が、今は少しばかり緩んでいるようだった。

从 ゚∀从「五年前、私が貴様に拾われた時は、貴様と私の二人きりだったのにな」

('A`)「いや、あの塩豚も居ただろう」

从 -∀从「……」

俺の指摘に、ハインリッヒは「そうじゃない」とでも言うように、ゆっくりと首を振る。
やんわりと目を閉じたその横顔に、何時から彼女はこんな表情をデコードするようになったのだろうか、と思った。

('A`)「……で、それがどうかしたのか?」

从 ゚ー从「いや…何でもない」

思わせぶりに微笑を浮かべるも束の間、彼女は直ぐに何時もの仏頂面に戻ると話題を切り替えた。

从 ゚∀从「それより、件の依頼だが……」

語尾を濁らせた彼女の横顔は、「本当に引き受けて良かったのか?」と俺に問い掛ける。
何を今更、という表情で俺がそれに答えると、彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

702 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 20:22:07 ID:eb4cGbXQ0
>>697
依頼にテディベアと言ったら
宝石とか貴重品とか

703 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:22:30 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「あのような騙す気すらも無い文面である以上、罠も何もあったものではないが……。
     私達を“誘っている”事に関しては間違いないだろう。努々、油断せぬ事だ」

('A`)「へいへい…わぁってるよ。どうせなら、俺に言うよりもあっちの頭パープリンちゃんに言い聞かせてやった方が良くないか?」

向こうで黄色い悲鳴を上げているキュート嬢を顎で示す。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャン!キューチャン!」

o川*>∀<)o「キィィィャアアアア!シャァアベッタアアアアアア!」

(;^ω^)lw´‐ _‐ノv「……」

ハインリッヒはそれに一度視線を動かすと、再び俺の方にその真っ赤な双眸を戻し、その白磁の美貌に憮然とした表情を浮かべた。

从 ゚∀从「……あくまでも、私の役目は貴様の命を守ることだ。彼女の命を守るのは、貴様の領分では?」

つっけんどんにそう言うハインリッヒに、俺は後ろ頭をかく。
何時も冷淡で温度の籠らない声音ではあるのが、このように突き放した物言いをする彼女は少しばかり珍しかった。

('A`)「はは、この自堕落駄目人間に、随分とハードルの高い事を仰る」

从 ゚∀从「ハードルを蹴り倒してでも良いから、貴様はそろそろその“自堕落駄目人間”という己が己に貼り付けたレッテルを克服すべきだ」

('A`)「そろそろ、って言うか何時も言われてるよね?」

自分で言っていて、「いや、それは俺の台詞じゃないでしょ」と異を唱える。
脳内閣僚達の異議あり、という指先が俺を糾弾する幻聴が聞こえたような気がした。

704 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 20:23:01 ID:eb4cGbXQ0
>>697
依頼にテディベアと言ったら
宝石とか

705 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:24:55 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「……兎に角、だ。私としては、貴様がキュート女史の護衛を通して彼女と心を通わせ、
     何やかんやのすったもんだがあったのち、最後は恋仲になってくれれば何も言う事は無い」

(;'A`)「はあ?」

从 ゚∀从「恋人でも出来れば、貴様のその救いようのない屑思考も幾分かの改善が見られる、
     と踏んでの私の希望だ。別に恋人が出来るのなら、キュート嬢で無くても問題ない。
     ただ、この場合では彼女が最も手ごろかつ、妥当と判断しての先の発言だ」

('A`)「キミは俺のカーチャンかよ……」

从 ゚∀从「恋は良いぞ。愛する人の為だから、と自分を騙していればどんな嫌な事も我慢できる。
     時たま湧いてくる、何のために自分は生きているのか、という疑問も“愛の為”で全て解決するので思考する必要性も無い。
     貴様のようなペシミストをこじらせた怠惰な人間の底辺には実にうってつけの合法ドラッグだ」

('A`)「今のキミの台詞を中学校のホームルームで言ったとしたら、思春期真っ盛りの少年少女達は100パーセント碌な大人にならないぞ……」

从 ゚∀从「そんな訳で、貴様は彼女と恋に落ちてみるつもりはないか?
そうしてくれれば私も、貴様の保護者としての懸念事項のうち2割ほどが解決するのだが」

('A`)「それでも2割かよ……」

从 ゚∀从「それで、どうなのだ?」

ハインリッヒの妙に鬼気迫る視線の追及に、俺は深々とため息をつく。
塩豚と言い、この鋼鉄の保母と言い、どうしてこうも俺の周りの人間はこうも軽々しく、恋だの愛だのと囃し立てるのだろうか。
男と女が居れば、恋しか無い、というその思考回路は短絡的かつ極端かと。

706 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:26:16 ID:lF8RX.4g0
('A`)「ていうか、さっきから散々っぱら俺と彼女がくっつく事を前提で話を進めているけど、
   キュートの方が俺の事をどう思っているかなんて分からないだろうが」

もしかしたら、あんな風に接してくるけれど、本当は同じ空気も吸いたくないとか思っているかもしれないし。
……ヤバイ、考えただけで嗚咽しそう。

('A`)「向こうの気持ちを無視するのは…その…良くないだろ」

言っていて、自分でも随分と紳士的で欺瞞に満ちた言葉だな、と思った。
咄嗟に口をついて出た一般論ではあるが、それを言葉にする俺の舌は、そんなものを微塵も信じていない。

从 ゚∀从「そんな貴様に朗報だ。人間が人間に好意を抱く要因の一つに、自分に好意的な感情を寄せている人物には自分も好意を抱きやすい、というものがある」

そんな俺の心の内を代弁でもするかのように、ハインリッヒは言葉を連ねて行く。

从 ゚∀从「好感度がマイナスへ傾いていない今なら、貴様がそれとなく好意的な態度を見せていれば、それらしく恋仲に発展できる。
     むしろ、世間で恋だとか言われているものの大半はそうやって進展して行く」

ガイノイドが恋を語る、と言えばそれは世にも奇妙な光景であろう。響き的には、ロマンチックですらある。
だが、ハインリッヒは、あくまでも鋼鉄の処女らしく、冷たく、無慈悲に、外科医の解剖メスのようにして、「恋」という事象を解剖して行く。

707 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:27:24 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「第一が、好意などと言う感情そのものは思い込みで作られる。
      好きになろう、と自身で思いこむ事で無理矢理に好意を生み出すことすら可能だ。
      無論、どうしても受け付けられない相手、というのもいるが、それは例外とする」

('A`)「……」

从 ゚∀从「つまり、生理的に受け付けられない相手でない限り、恋愛感情というものはどのような相手にでも起こり得る。
     彼は私の特別な人だとか、彼女は唯一の愛すべき人だとか、そう言ったものはまやかしに過ぎない」

('A`)「……だから、こんな俺でもチャンスがあると?」

从 ゚∀从「そう言う事だ」

('A`)「酷く遠まわしでネガティブなフォローを有難うよ」

お陰で、ますます恋なんてする気がなくなったがな、と口の中だけで呟く。

从 ゚∀从「大いに恋をしろ、青少年。そして大いに生殖行為に励み、現代の少子化問題に一石を――」

間違った方向に愛を解き始めた鋼鉄の伝道師の詭弁を聞き流しながら、俺は胸ポケットの中の煙草を無意識にまさぐる。
唯一特別な恋などあり得ないのだと、ハインリッヒは語った。
俺も、それについては同意出来る。同意できるが、一方で「それは本当なのか?」と疑問と反抗を唱える自分が居るのも事実だった。

……いや。恐らく、それは疑問では無く、願望でもあるのだろう。
特別な恋が存在して欲しい、という稚気染みた、俺の願望なのだろう。
そんなものは存在しない、と頭では分かっていても、それが存在して欲しいと願う。多分、そう言う事だ。

708 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:28:43 ID:lF8RX.4g0
恋をしろ。
しようと思えば、俺達は誰とだって恋に落ちる事が出来る。
顔が好みだから、だとか、彼は優しいから、だとか、適当な理由と理屈で定義付ければ、恋など容易い。
鋼鉄の処女は言う。だから恋をしろと。

それは、何時もの下にもつかない戯言なのかもしれない。故に、いちいち真に受けて考え込んでいる俺は阿呆の極みなのかもしれない。

だが果たして、「恋」というものは他人から言われて、或いは自分から「しよう」と思ってするものなのだろうか?
それはなんだか、自然では無いような気がする。それは、違うのではないのか、と思う。

('A`)「……」

何れにしろ、恋をしろと言われた所で、俺にそんなつもりは毛頭ない。
そのような、甘ったるい幻想に肩まで浸かれるほど、俺は綺麗に生きて来れていないのだから。

“あなたが愛しているのは、肩書き。私の“恋人”という肩書だけ”

('A`)「――クソったれた野郎だ」

从 ゚∀从「?」

思わず呟いた言葉を、耳ざとく拾ったハインリッヒが、白い鉄面皮にクエスチョンマークを浮かべてこちらを見る。

709 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:29:37 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「何だ、藪から棒に自己批判か?くどいぞ。今更貴様自身が主張せずとも、
     貴様がヒトデナシの屑である事は周知の事実だ」

('A`)「全く持ってその通りだぜ」

それに適当な返事を返して、ベンチから立ち上がる。

从 ゚∀从「何処へ行く?」

('A`)「喫煙室だよ。恋とか愛とか、歳甲斐も無く甘ったるい事言ってたら、胸やけがして来ちまった」

从 ゚∀从「おい、先の話をもう忘れたのか?肺がんは盲腸の――」

('A`)「分かってるよ。分かってますとも」

今は、目の前の事を考えるだけで、俺には精一杯だった。

710 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:30:35 ID:lF8RX.4g0

  ※ ※ ※ ※


――明かりの抑えられた執務室の中には、既に先客が居た。

∫ノイ゚ー゚)ン「――あら、お姉さま方、ご機嫌麗しゅう。……随分と、遅れた御到着ですわね」

立体ホログラフの天球儀が放つ淡い燐光の中で、その横顔が獰猛な嘲弄を浮かべる。
プラネタリウムのように薄ら暗い執務室に一歩踏み込めば、もう一人の妹もその後に続いた。

∫ノイ゚ー゚)ン「矢張り、チルドレンのアインとツヴァイともなれば、お忙しいのでしょうね」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」ζ(゚ー゚*ζ

安すぎて構うのも馬鹿らしいノインの挑発を、私達は無言で受け流す。
束の間、九番目の妹は私達を睨みつけるようにすると、

∫ノイ゚⊿゚)ン「――フンッ」

と鼻を鳴らして前へ向き直った。
世界広しと言えど、私達程仲の悪い“姉妹”も居たものではないだろう、と乾いた皮肉が思い浮かんで、直ぐに消えた。

「――揃ったようだな」

重々しくもしわがれた声と共に、天球儀の向こう側で人が動く気配がする。
執務机の上に両肘をつき、虚ろな瞳でこちらを見つめるその人物の言葉に、室内の空気が一度ほど下がったような錯覚を覚えた。

711 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:31:34 ID:lF8RX.4g0
「さあ、私の可愛い子供達、もう少しこっちへ寄っておくれ。ここからでは、お前たちの可愛い顔が良く見えないのだ」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

咳き込むようなその声に、私とデレの二人は、一瞬、顔を見合わせる。

∫ノイ゚⊿゚)ン「――はっ」

その横で、ノインが何のためらいも無く一歩前に踏み出した事で、私達も遅れてそれに倣った。

∫ノイ゚⊿゚)ン「……これで宜しいでしょうか?」

「おぉ…おぉ…可愛い可愛い、私の子供達……」

執務机の向こうの闇から、皺だらけの細い腕が震えながら伸びて来る。
幽鬼のようなその骨と皮だけの手を握り、ノインは私と瓜二つの顔に痛ましそうな表情を浮かべた。

∫ノイ゚⊿゚)ン「おいたわしい事ですわ、お父様……」

「おぉ…おぉ…私の事を気遣ってくれるとは、お前は本当に優しい子だね、ノイン……」

∫ノイ゚⊿゚)ン「いいえ、娘として当然の事ですわ…ああ、代われるのならば、私が代わって差し上げたいのに……」

骨と血管の浮いたその手に頬ずりをする彼女に、私は若干の気遅れのようなものを感じる。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

それは、隣のデレも同じようだった。

712 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:32:52 ID:lF8RX.4g0
∫ノイ-⊿-)ン「嗚呼、さぞかしお辛かろうことでしょうね…心が休まる事も無いのでしょうね……」

∫ノイ゚⊿゚)ン「私も、早く、総統閣下をお連れして、お父様を御安心させて差し上げたいのですが……」

芝居なのか本心なのかも分からない仰々しい口調で、ノインは言う。
横目で私達を睨む彼女の声音は、言外に私達を糾弾していた。

「そう…今日、お前達をここに呼んだのは、その事なのだよ……」

闇の中で、一度咳き込む音がして、その皺の寄った顔が立体ホログラフの光の中に浮かびあがる。

(ヽФωФ)「再びの回収任務、今度はノイン、お前に任せようと思うのだよ……」

ブラウナウバイオニクス社、現会長。
そして、“私達の父親”でもあるロマネスク・オンデンブルグは、サレコウベめいて落ち窪んだ眼窩の中で、その目だけを偏執的に輝かせていた。

∫ノイ゚ー゚)ン「……」

ζ(゚- ゚*ζ「……」

勝ち誇った顔を浮かべるノインとは対照的に、デレの表情は芳しくない。
先日のムズリーマでの失敗からこっち、彼女が苛立っていたのは誰が見ても明らかだった。
それが今、“お父様”の口から直接、「お前は役に立たない」と言われたのだ。
尚且つ、後任を任されたのは、あのノインと来た。チルドレンの中でも、
それなりの腕前を自負していたであろう彼女にとっては、相当に悔しい事だろう。

713 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:34:50 ID:lF8RX.4g0
(ヽФωФ)「……未だ、総統閣下は憎き渡辺の手の中だ。
       加えて、あのCIAのエージェント共も、先日VIP入りを果たしたという報告が上がっている。くれぐれも、油断せぬよう……」

∫ノイ゚ー゚)ン「御心配なさらないでくださいませ…お父様から頂いた、わたくしのこの力があれば、
      ワタナベなど恐るるに足りませんわ。勿論、CIAというのも同様に――」

(ヽФωФ)「その自信が、私には心配なのだよ、ノイン。お前はとても優秀な子だ。
       だからこそ、その自信が仇となるようなことがあれば……」

∫ノイ゚ー゚)ン「勿体ないお言葉、恐悦至極にございます…お父様の期待を裏切らないよう、全身全霊をかけてこの任に当たらせてもらいますわ」

最後の方の言葉を、私達をちらりと見ながら言い終えると、ノインは一礼して執務室を後にする。
その後ろ姿を表情の窺えない目で見送ってから、“お父様”はゆっくりと瞬きをした後、私達を見上げた。

(ヽФωФ)「……それで、お前たちを呼んだ理由だが――ゲホゲホッ!」

そこで言葉を切ると、老人は一度激しく咳き込む。

ζ(゚ー゚;ζ「!」

慌ててデレがそれを気遣ったが、“お父様”はそれを制して、机上のトランキライザーを自らの首筋のジャックに突き立てた。
ガラスシリンダーの中の緑色のアンプルが注入されるに従い、老人の表情から苦悶の波が徐々に引いて行く。

714 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:36:21 ID:lF8RX.4g0
ξ゚⊿゚)ξ「……」

ζ(゚ー゚;ζ「お父様……」

(;ヽФωФ)「――忌々しい事よ。天下のブラウナウバイオニクス社の会長が、このザマだ。これ以上の皮肉もあるまいよ……」

自嘲気味に言って、“お父様”は空になったトランキライザーを床に放る。
数年前、始めに「ヴォルフの尻尾」がアーネンエルベの本土ラボから盗み出された時からこっち、
今まで精強な実業家然としていた佇まいが、まるで嘘だったかのように、私達の“お父様”は老けこんでしまった。

如何なバイオテクノロジーの粋を集めようと、「老い」だけはどうしようもなかったのか。
忌むべきニホンの象徴であるとして、義体化を意地になって拒み続けた彼は、二次大戦直後より生きる御年200歳に迫る化け物だ。
今までは、投薬強化と異常なまでの執念によってだましだましでやってきたのが、
長らく夢見て来た「千年帝国」を目前にして奪い去られたという事実によって、その仮面も剥ぎ取られた形となったのだろう。

ζ(゚ー゚;ζ「……」

哀れには思うが、私は隣のデレのような表情を作る事は出来ない。
それがどうしてなのかは、自分でも分からない。

ξ゚−゚)ξ「……」

――分からないし、考えたくも無かった。

(ヽФωФ)「それで、お前達を呼んだ理由なのだがな……」

とつとつと語られて行く新たな任務の内容を遠耳に聴きながら、私は頭上に輝く立体ホログラフの天球儀を目だけで見る。
紛いモノの星々の海の中で、オービタルコロニーを示す黄色い光点が、弱々しく光っていた。

715 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:40:52 ID:lF8RX.4g0
ξ゚⊿゚)ξ「……」

寿命の近付いたホタルのようなその光を、治ったばかりの左目でじっと見つめながら、
私の思考は太陽が照りつける熱砂の国の、砂の中へと沈んでいく。

ヴォルフの尻尾回収という、“お父様”直々の任務。
初めて肩を並べた自分の姉妹。“髑髏と骨”の介入。そして、血で錆ついた“彼ら”との再会。

燃え盛る格納庫。
狂ったように笑っていた、かつての親友。

……何故、あの子があの場に居たのか、本当の所は分からない。
憶測で言えば、彼女が“髑髏と骨”の構成員であったからなのだろう。
あの日、突然私の前から姿を消したのも、彼女がCIAの尖兵であったから、と考えればつじつまも合う。

六年前のあの日から、一切の連絡が取れない状態だったから、あの日、再び彼女を目にするまで、すっかり忘れていた。いや、忘れようとしていた。

当時の私は、何も告げずに姿を消した彼女に、自分が捨てられたのだ、と思っていた。
それが耐えられなくて、いっそ忘れてしまおうと、意識していた。

今、彼女は再びこの災厄の街、VIPに戻ってきている。
私達の倒すべき敵として。
私がそれに対して、何か出来る事は無い。彼女の相手をするのは、私では無くノインだ。

気にはなる。再び彼女の前に立って、もう一度言葉を交わしたいとも思う。
だが同時に、変わってしまったあの子を前にして、何を言ったらいいのか分からない、という気持ちもある。
結局の所、二回目の回収任務に選ばれなくて、良かったのかもしれない。

そう思うのは、逃げだろうか。

716 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:44:12 ID:lF8RX.4g0
ξ - )ξ「……」

あの時、ツーに向かって振り下ろされた対装甲用ブレードを、私は撃った。
――あの男そのものではなく、“奴が握る大剣の方”を。

私には分からなかった。
私を裏切り、殺そうとまでしたあの男。
かつて訳も分からない私に、ドア越しに鉛玉を叩きこんだあの男を。

どうして、殺せない。

忘れたのか、あの理不尽を。
忘れたのか、あの憎悪を。
理由も分からず、銃を突きつけられ、唐突に殺意を向けられたあの恐怖を。

いいや、忘れることなど出来ようか。
忘れたくても、忘れることなど出来ない。それなのに――。

ζ(゚ー゚*ζ「――お姉さま?」

横合いから掛けられた声に、思考を中断する。
見れば、“お父様”は話しを終えたようで、目線だけで私達に退室を促していた。

ξ゚⊿゚)ξ「――失礼しました」

軽く会釈をして、私達二人は執務室を後にする。
マホガニーのドアを閉めた所で、デレの訝しげな顔が横合いから私の顔を覗いた。

717 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:45:06 ID:lF8RX.4g0
ζ(゚ー゚*ζ「お姉さま、どうなされました?御気分が優れないのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いえ、そう言うわけでは……」

ζ(゚ー゚*ζ「なんでしたら、今回の任務は私にお任せになって、お姉さまはご療養なさられても……」

気遣わしげな表情を浮かべるデレの、私にそっくりなその顔を横目でちらりと窺う。
そのような建前を言ってまで、前回の失点を取り戻したいのだろうか。そうまでして、“お父様”の点数稼ぎをして、何になるのだろうか。

いや、彼女やノインは“チルドレン”だ。
“お父様”の側に常に仕えている以上、私と違って未来がある。
必死になって点数を稼ぎ、“お父様”に気に入られることこそ、彼女達にとって一番重要なことなのだ。

では、私は。
失敗作の私は。――“お父様”の側に仕えられない私は、何故ここに居る?

ξ ⊿ )ξ「……」

ζ(゚ー゚*ζ「お姉さま?」

ξ゚⊿゚)ξ「……いえ、何でもありません。御心配をおかけしました。ブリーフィングは、移動しながらにしましょう」

ζ(゚ー゚*ζ「……了解しました」

まだ何か言いたそうな妹の脇を抜け、エレベーターチューブに乗り込む。
脳核回線で受け取ったミッションデータを左目(ホルスの目)の網膜ディスプレイに映しだしながら、私は余計な思考を頭から締めだした。
今は、目の前の事だけに集中しよう。そう、思うことにした。

718 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:46:11 ID:lF8RX.4g0

  ※ ※ ※ ※

――ニューハネダ・エアラインで一時間。ツクバ・ネオポートでリニアに乗り変えて三十分。
先だってのムズリーマ行よろしく、地元のレンタカーショップで格安ジープを借りてから更に三時間。
獣道と山道の区別がつかなくなった道を、二年前の脳核マップアプリだけを頼りに進めば、その禁断の地が見えて来る。
 _,,,_
/::o・ァ「チュクバ!チュクバ!ゴトーチャクー!」

o川*゚д゚)o「うわぁ……」

ピンク色の鳥型ペットロイドの甲高い鳴き声に、屋根の無いジープの後部座席でキュートが立ち上がる。

o川*゚ー゚)o「見て!見て!どっくん!あの樹!すっごいおっきいよ!」

長旅の疲れと、車酔いのダブルパンチで、紙のように真っ白な顔していたのは何処へやら。
俺が座る運転席の頭をガクガクと揺らして、キュートは修学旅行で初めてヤクシマを訪れた中学生のようにはしゃぐ。

立ち枯れた木々と岩々が転がるだけの、荒涼とした山肌を登りつめた先。
幾つ目か忘れた山の頂から見降ろせば、そこには溢れんばかりの樹木に覆われた、旧世代の街並みが広がっていた。

o川*゚ー゚)o「ここが、ツクバ学術研究都市……」

('A`)「“跡”、な」

719 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:47:44 ID:lF8RX.4g0
サバイバル・ベストの胸ポケットからジッポとマルボロを取り出しつつ、キュートの言葉尻を補足する。
万年酸性雨地帯に入る前の最期の一服を堪能した後、運転を再開。
崩れやすい下り坂を、徐行運転でしずしずと下っていく。

たっぷり二十分ばかりをかけて坂を下り終えた辺りで、分水嶺を越えた事を意味する酸性雨が車体を濡らし、
俺達は蔦と木々の根に浸食された廃墟の入り口に辿りついた。

('A`)「相変わらず辛気臭えとこだぜ」

从 ゚∀从「貴様の顔面に比べたら、こちらの方が風情がある分遥かにマシだろう」

('A`)「まあ、ユネスコ様が世界遺産にするって頑張ってるくらいだからな」

从 ゚∀从「最も、貴様の顔面の造形も、奇抜さで行けば、文化遺産くらいにはなりそうではあるが」

('A`)「やかましいわ」

何時も通りな相棒の減らず口に閉口しつつ、俺は対汚染コートのフードを被ると、緑灰の壮大な廃墟群を見渡す。
倒壊しかかったビルやガソリンスタンド、家々や諸々の建築物の骸の上を這うのは、異常繁殖した名も知らぬ植物の深緑。
ツクバ軌道エレベーター倒壊事故により、地下ラボラトリーから流出したのはK-2バクテリアだけでは無かったようだ。

バイオハザードからこっち手つかずの被災地は、事故から半年ほどで今のような緑の王国へと変容を遂げたのは、何らかの薬物による植物のミューテーションによるものだろう。

かつてニホンの頭脳、文明の頂点と謳われた科学の都が、今は緑生い茂る植物の楽園と化しているのは、そこはかとなく皮肉が利いていると言えなくもない。

720 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:49:25 ID:lF8RX.4g0
o川*゚ー゚)o「あ!どっくん見て見て!シカ!シカが居るよ!」

頓狂な声を上げるキュートの指さす先。
突然変異によって酸性雨耐性を得た蔓草に塗れた民家の戸口。
彼女の言葉通り、一匹の小鹿が、飛び石の根元に生えた灰茶色の茸に鼻先を押しつけている。

o川*゚ー゚)o「野生種かな?だとしたら初めて見るかもー!」

新しい玩具を見つけた小童よろしく、目をキラキラさせてキュートはハンディカメラのスイッチを入れると、ジープからひらりと飛び降りる。
電脳技術の曙以前より続く怒涛の環境破壊により、純粋なる野生動物の姿を見かける事は珍しい。
それは、かように文明の及ばぬ地域であっても例外では無く、例えそれが在野の動物であったとしても、
大抵が汚染の余波をくって体器官の何処かしらに変異をきたしているものが殆どだ。

ニーソクの空を舞い飛ぶ鴉の殆どは脚が三本だし、ニューソクで問題になっている野良猫なども、
口が耳まで裂けていたり、目玉が七つあったりする。

今、俺達の目の前で茸をつついている小鹿は、そのような電脳時代の野生動物特有の変異が一切見当たらない。
茶色の滑らかな毛皮も、見事なものだ。

('A`)「こんな廃墟で、ペットロイドも居たわけじゃあるまいし……」

廃屋の頭越しには、前にも一度拝んだ、軌道エレベーターの超越的質量が、倒れた世界樹の如く横たわる姿が遠目にも見える。
以前にブーンとここを訪れたルートとは、反対方向のルートからここに来たわけだが、以前は小鹿などは見かけなかった気がする。
それとも俺の見落としだろうか。

721 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:50:51 ID:lF8RX.4g0
o川*゚ー゚)oノ「おいでおいで〜」

俺の疑問も余所に、キュートはハンディカメラを構えたままでしゃがみ込むと、小鹿へ向かってよちよちと手を振る。
とろけそうな顔で手招きする総天然色(主に頭が)ゆるふわガールを前にして、
小鹿は怯えたように身を強張らせると、(鹿だけど)脱兎の勢いで駆け出した。

o川;゚д゚)o「あ、ちょっ!待ってよ〜!いぢめないから〜!」

廃屋の角を曲がって逃げ行く小鹿を追い、自分もまた駆け出そうとするキュート。
ため息一つ、俺はジープのクラクションを短く叩く。

('A`)「おい、ナチュラルに単独行動取ろうとしてんじゃねえよ。ここは非電脳地帯だって来る前に言っただろうが。はぐれたら連絡の取りようが無いってンだよ」
  _,
o川*゚д゚)o「えー」

('A`)「えー、じゃない。キミは一体幾つだ?ここにゃ迷子センターなんて無いんだ。頼むから大人しくしててくれ」
  _,
o川*゚ 3゚)o「ぶぅー。どっくんのくせに生意気―」

从 ゚ 3从「そうだそうだーどっくんのくせにー」

(#'A`)「……オウケイ、腐れビッチ共。キミらが俺の事をどう思っているかがよおく分かった。
    これからは、精々背後に気をつけることだな」

o川*゚ 3゚)o从 ゚3从「〜♪」

(#'A`)「……」

722 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:52:12 ID:lF8RX.4g0
悪びれもせず、口笛吹き吹き戻ってきたキュートを乗せると、俺は静かなる激怒の内にサイドブレーキを下ろす。
緩やかに発進した車内、後部座席と助手席同士で顔を見合わせにやにや笑う二人の性悪女共にルームミラー越しに呪いを送りつつ脳核時計を見る。

視覚野の隅の「圏外」という文字の下、時刻表示は15時23分。
クライアントに指定された時間までは、あと三時間の猶予がある。
衛星ナビゲーションシステムも使えない中、走行距離と走行時間から大まかな現在地を割り出し、
脳核マップの目的地と照らし合わせれば、予定よりも随分と速く到着出来そうだった。

('A`)「ったく、観光旅行じゃねえんだからよ。もっとこう、緊張感を持って貰いたいもんだね」

从 ゚∀从「まさか、貴様の口からそのような言葉が出るとは驚きだな。
今世紀最大の事件として、教科書に載るほどの珍事だ。ドクオ危機と名付けよう」

('A`)「うるしゃー。俺だって、いっぱいいっぱいなんだよ」

このような軽口の応酬をしている今現在も、俺の神経は周囲の廃墟や瓦礫の陰に向けて全力で警戒を飛ばしている。
得体の知れない今回の依頼の事。先に罠の可能性が薄いと言いはしたが、最大限の警戒は怠らないに越した事は無い。
こうしている今も、俺達を呼び出した何者かが俺達を遠目から監視している可能性はかなり高いだろう。隙を見せるわけにはいかない。

从 ゚ー从「ふっ。何だかんだと言いつつ、ちゃんと彼女を守る役目は自覚しているのではないか」

('A`)「あ?何か言ったか?」

从 ゚∀从「いや、似非ラブコメ体質な軟弱男には何も言っていない」

('A`)「はあ?」

723 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:53:42 ID:lF8RX.4g0
と言いつつ、しっかり聞こえては居る。
出発前から相変わらず、この鋼鉄の姑は熱病みたいな事を抜かしてくれる。
確かに、キュートの身の安全を守る役目は俺にあるのだと思ってはいる。
だが、それだけだ。それ以上の事は、今は考えている余裕など無い。

('A`)「……大体、キミもよくこんな得体の知れない名指しに、着いてくる気になったもんだ」

未練たらしく小鹿の消えた廃屋を睨み続けるキュートに、肩越しに言葉を投げる。

o川*゚ー゚)o「んー」

('A`)「二つ返事でついてくるなんて、ちっとは危機感とか無かったのかよ」

露骨な呆れを滲ませた俺の言葉に、キュートはジープのドアに乗せていた顎を上げた。

o川*゚ー゚)o「そりゃ、まー、不気味だとは思うよー。その“タナカ”って人が、何考えているかもわかんないし。
      罠かもしれない、って可能性も無きにしも非ずだろうし」

気だるげに言葉を紡ぐキュートの目は、俺では無く外の厳粛な廃墟の沈黙へと向けられている。

o川*゚ー゚)o「でもさ、どっくんも言ってた通り、私とどっくんを一緒に名指しして来た、って事はさ。
      やっぱりこないだのムズリーマでの事と何か関係があるんだろうし。
      だとすると、心当たりがあるのは渡辺グループとのことくらいだし」

そこでキュートは一度言葉を切ると、口元を少し引き結んで言った。

o川*゚ー゚)o「だったら、俄然ここで引くわけには行かないじゃん。
      渡辺が関わってくるかもしれない、っていう可能性が少しでもあるんだったら、私がついて行かない理由なんか、無いよ」

724 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:54:55 ID:lF8RX.4g0
廃墟の空へと向けられたキュートの視線は、この空模様とは反対に、一点の曇りも無い。
済みきった真夏の日差しのようなその瞳に宿るのは、弟の死の真実を知りたい、という事だけは無いのだろう。

恐らく、それはありふれた正義感。ニュースホロで企業の不正を目にした時に、誰もが抱く、囁かな怒り。

チャンネルが変われば直ぐ様忘れてしまうような、そんな感情を変わらず持ち続けられるのは、誰もが出来る事では無い。
真っすぐで、歪み無く、ただ、蒼穹の飛行機雲のようなその立ち姿を見ればこそ、俺は以前に目にした黒山羊のサーカスでの一幕を語る事が出来ない。

きっとそれは、俺の口から語られるべき事では無い。
彼女が足掻き、もがいて、突き進んだ先で、彼女自身が掴み取るべきモノだ。
不誠実かもしれないが、少なくとも俺自身のこの決断を、俺は正しいと信じたい。

o川*゚ー゚)o「……それに、何かあってもどっくんが守ってくれるんでしょ?」

そこで初めてこちらを振り返ると、栗色の髪を揺らせてキュートは屈託なく笑う。
夏の日差しにも似たその笑顔は、俺のような薄汚れた身に向けられるには、あまりにもまぶし過ぎる。

('A`)「……バーカ。今回は、クライアントはキミじゃないんだ。守って欲しかったら、出すモノ出すんだな」

だから俺は、憎まれ口を叩くしかない。
太陽を直視して、目を焼かれないように。

725 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:56:51 ID:lF8RX.4g0
o川*゚ー゚)o「従業員割引でサービスとかしてくれないの?」

('A`)「キミはうちの社員じゃないだろうが」

o川*゚ー゚)o「えー。どっくんのケチー」

从 ゚∀从「ケチー」

('A`)「……やれやれだ」

ため息をつくと、ゆったりとハンドルを切りながら、深緑に覆われた廃墟の中へとジープを転がして行く。
でこぼこと隆起したアスファルトは至る所に亀裂が走り、その亀裂からは名も知らぬ下草が伸び放題だ。
かつて住宅区画であったであろう、碁盤の目のような区画は、まるごとが一本の巨大な樹木の根に覆われ、
根のアーチやトンネルの下では、先ほど見かけたような鹿の他にも、アライグマや猿、インパラなどが野放図に駆けまわっている。

o川*゚ー゚)o「うわースゴイスゴーイ!野生の王国だー!」

サファリパークのランドクルーザーに乗ってでもいるかのように、キュートはハンディカメラを右往左往させては黄色い悲鳴を上げる。
同時に俺はため息を吐き、視線を上向ける。
木の根に支配された住宅区画を抜けると、目の前には企業連がかつて所有していたオフィスビルの墓標が森となって突き立っている。

森となって、というのは比喩でも何でも無い。
林立するビル、その一本一本の壁面は木々に覆われ、天へと向かって緑が群生する一本の森の様相を呈しているのだ。
ワタナベ製薬の元研究ビルなどは、頂上部フロアを丸ごと一本の大樹に浸食され、
剥き出しになったオフィスからは木々の根と共に、湧水が滝となって這い出し、足元のアスファルトの窪みに小さな池を作るまでに至っている。
さながらそれは、文明崩壊後の世界を描いたフィクションのような光景であった。

726 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:58:24 ID:lF8RX.4g0
o川*゚口゚)o「ふぁあぁ……」

自然と文明の合作オブジェのようなその光景を目の当たりにして、キュートが感嘆のため息を阿呆のように広げた口から零す。

('A`)「……」

運転席でハンドルを握る俺にしたって、その反応は似たようなもので、このような一種超越的な光景を前にしては、流石に畏敬の念にも似た感慨を抱かざるを得ない。

ユネスコが世界遺産に登録しようとする動きがあるだけあって、ここ、ツクバ学術研究都市跡に満ち満ちた、圧倒的な緑と廃墟の織りなす一種の頽廃美は、
一枚の幻想絵画の世界の中かと錯覚するほどに、見る者の心を打って止まない。

幽玄なる光景の成り立ちを思えばこそ、その感動はより一層深みを増す。

“美しい桜の下には死体が埋まっている”、などとはよく言ったもので、
俺達が今立つ大地の下には、かつてのバイオハザードによって犠牲となった数千人もの骸が折り重なっているのだ。

世界遺産登録というのも、件の悲劇を繰り返さぬよう、後世に語り継ぐという意味もあるのだろう。

未だ、世界遺産への登録が済んでいないながらも、この地は観光客の立ち入りを制限している。

建前上は、未だにK-2バクテリアが残留している可能性があるから、と言う事になっているが、
実際の所は、地下に眠る手つかずの膨大な研究データの為であろう。

何しろニホンの頭脳の中心だった地だ。国家機密級のデータがごろごろと転がっている事だろう。
それらを狙ったスカベンジャー集団なんてのも、この業界に居れば噂程度に耳にする。

今俺達が観光客面をして足を踏み入れている区画にしたって、ハザードレベル3だとか言って(無論建前だ)、
政府によって立ち入りを禁止されているエリアのど真ん中だ。

最悪、ロイヤルハントの哨戒部隊とはち合わせて、蜂の巣にされる危険性だってある。

故に、この地を合流地点とした、例の“タナカ”の正体と目的が、気になる。

727 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 20:59:37 ID:lF8RX.4g0
('A`)「……あまり、騒ぐなよ。見つかったら事だ」

今にも身を乗り出してジープから飛び降りようとするキュートを制止しつつ、目線でハインに確認する。
鋼鉄の処女は僅かに肩を竦めて首を振った。

从 ゚∀从「電子ソナー、赤外線走査、両種を並列起動して索敵を行っているが、するだけ無駄だな。
      空気中に未確認粒子が多過ぎて赤外線は愚か、他のセンサ類も使い物にならない」

未確認粒子、というのは今現在も雨粒を跳ね返して時折ゆらゆらと輝くこの胞子のようなものの事だろうか。
かつて地下のラボで研究されていた細菌の類か、はたまたロイヤルハントやらが撒いたチャフか。
ツクバがネットも電波も繋がらない、電子的に隔絶した地だと言う事は分かっていたが、
ハインリッヒのレーダー類も役に立たないとなると、少々厄介だ。

('A`)「その分向こうさんもてめぇの目ん玉に頼るしかない分、イーブン……ってのは甘く考えすぎか」

从 ゚∀从「無論、待ち受ける側にアドバンテージがあるのは必定。
元より依頼を受けた時点で、私達のアドバンテージなど皆無だ」

('A`)「――ま、それを見越してこっちも色々準備してきたわけだが…はてさて」

ハインリッヒの膝の上のデイパックを横目で見る。
カーキ色のデイパックは、エレファントキラー級マグナムや、ハンド・グレネードランチャー、
義体対応フラッシュ・バンから果ては略式光学迷彩までもが詰め込まれ、パンパンに膨れている。
廃墟の真ん中で奇襲から包囲されたとして、相手にもよるがこれだけあれば逃げ切ることぐらいは可能だろう。

最も、そのどれもが事後対応の品々でしかないのが、大いなる悩みどころではあるのだが。

728 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 21:00:45 ID:lF8RX.4g0
o川*゚ー゚)o「おろおろろ?お二人さん、お困りですかな?」

助手席と運転席とで唸る俺達の間に、後部座席から首だけを出すようにして、キュートが割り込んでくる。

('A`)「ああ、困ってる。こっちのレーダーが使え無くて困ってるのが八割。
   何処かの誰かさんが相変わらず喧しいのが残りの二割ってとこだ」

o川*゚ー゚)o「ふっふっふ〜。そんな事もあろうかと、わたくしキュートちゃんが、ちゃんと用意してきているのです」

('A`)「この子、嫌味が通じないから嫌いさ……」

o川*゚ー゚)o「ぱんぱかぱーん!きゅーちゃんでーす!」

全力で馬鹿馬鹿しいセルフ・ファンファーレと共に、底抜け阿呆は対汚染ジャケットの肩ポケットから桜色の塊を掴みだして俺の前に突き出す。
 _,,,_
/::o・ァ「ヨバレテトビデテジャジャジャジャーン!」

持ち主同様に甲高い声で囀ったのは、先日にブーンが手にしていた小鳥型のペットロイドだった。

('A`)「ああ、何かまた五月蝿そうなのが一匹……」
 _,,,_
/::o・ァ「ムッ!キューチャンヲバカニシタナ!バカニシタナ!」

('A`)「いえ、別に……」

o川*゚ー゚)o「きゅーちゃんはスゴイんだよー!えーと、とくていしゅうはすーのおんいきだけを拾って…えーと、しこーせーのマイクが……」

('A`)「はぁ?」

729 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 21:02:03 ID:lF8RX.4g0
o川;゚ー゚)o「えっと、兎に角スゴイの!偵察ならきゅーちゃんにまっかせなさーい!なの!わかる!?」
 _,,,_
/::o・ァ「ヮカル!?」

('A`)「いや、分からんが……」

o川*゚ー゚)o「さー、きゅーちゃんの初仕事だよ!頑張って偵察して、どっくんをぎゃふんと言わせてあげなさいっ!」
 _,,,_
/::o・ァ「アイアイサー!キューチャンゴー!」

新次元漫談を小うるさく披露遊ばせた後、“きゅーちゃん”なる小鳥型ペットロイドは、酸性雨がそぼ降るツクバの空へと飛び立っていく。
何だか馬鹿馬鹿しくなったので、桜色の影が見えなくなってから直ぐに「ぎゃふん」と言ってやったら、キュートに頬をつねられた。

(#)'A`)「……で、何なのアレは?」

o川#゚ー゚)o「どっくんみたいな空気読めないオタンコナスには教えてあげない!」

从 ゚∀从「オタンコナス。ナス目ナス科ナス属に類する双子葉植物。
     極めて珍しい二足歩行型の植物であり、性根が腐っているので食用には向かない。
     主な使用用途は、生ゴミの日に捨てる、弾よけにする、生ゴミの日に捨てる、など。
     ニコチンを与えると爆発的に繁殖するので、適度に剪定をする事が望ましい」

「と言うわけで剪定の時間だ」などと言いながら、ハインリッヒが突出式ダマスカス・ブレードを展開しようとしたので、白磁のおでこにデコピンをしてやる。
悪乗りをたしなめられた鋼鉄の処女は、拗ねたような顔で「その伸び過ぎた髪は不潔だと思うが」等と言っているが、絶対今、俺の首を狙ってただろ。
遂に冗談で殺されるかける域にまで達したか。行きすぎたショービジネスの末路を垣間見たようで、怖気が止まらない。

730 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 21:03:16 ID:lF8RX.4g0
('A`)「全く…どいつもこいつも――」

俺の悪態を、一発の銃声が遮った。

(#'A`)「――ハイン!」

直ぐ様傍らの相棒を振り返る。

从 ゚∀从「そう遠くない。今、音の位置を割り出す――」

背筋に鋼が入る俺の横で、鋼鉄の処女が電脳核内で演算処理を開始する。
だが、彼女が答えを出すよりも早く、桜色の影が俺達の頭上に舞い降りて来た。
 _,,,_
/::o・ァ「ジュウヨジノホーコー!ココカラゴヒャクメートルモナイョ!」

小さな翼を忙しなく羽ばたかせ、甲高い電子音声で告げるのは、件のペットロイドだ。
銃声が聞こえてから五秒にも満たない。この短時間で、位置を割り出したというのか。
 _,,,_
/::o・ァ「グンタイサンジャナイネ!カズハフタリ…イッパンジン?」

キュートがハンディカメラから結線ケーブルを伸ばして、“きゅー子”の首筋のプラグに接続。映像を吸い出す。
直ぐ様立体ホロで映しだされた映像の中には、狩猟銃を肩に担いだ壮年の男性が映っている。

('A`)「ロイヤルハント、じゃない……」

一般人の立ち入りが制限された区画内。
俺達以外の誰か。となると、考えるまでも無い。
違法スカベンジャーという可能性も否定できないが、その時はその時だ。

o川;゚ー゚)o「どっくん!」

背後でせっつくキュートの声に、俺は取りもせずにハンドルを回すと、アクセルを踏み込む。
助手席の相棒が、アサルトライフルを準備しながら“きゅー子”の方を恨めし気に見ているが無視。
急激な方向転換による慣性で、車体はつんのめるようにしてスピードを上げた。

731 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 21:04:34 ID:lF8RX.4g0
('A`)「いよいよ、謎の“タナカ”氏と御対面と言うわけだ」

蔦と根の這うアスファルトの上を、俺達を乗せたジープはぐんぐん進む。
大樹の根に組み敷かれたコンビニの角を曲がり、蔦のカーテンがぶら下がる陸橋の下を抜けた先、
ピサの斜塔が如く傾き苔生したビルの骸の足元に、一台のジープが止まっているのが見えた。

('A`)「あれか……」

从 ゚∀从「あれ、だろうな」

50メートルほど距離を置いてブレーキを踏むと、相手の出方を窺うように目を凝らす。
装甲板を気持ちばかりに打ち付けたカーキ色のジープの中に、二人の人影が見える。

一人は、眼鏡にスーツ姿の秘書風の男。黒地の高級そうな傘を指して、主の横に佇んでいる。
もう一人は、先の“きゅー子”の映像にもあった通り。
秘書がさす雨傘の下で、狩猟銃を肩に担ぎ、ハンチング帽と群青色のベストを召した、如何にも実業家然とした壮年の男性だ。
ジープの傍らの地面には、先に俺達が見た小鹿が、わき腹から血を流して横たわっている。
先の銃声と、肩に担いだ狩猟銃からして、狩りに来た富豪様御一行と言った様子か。

俺達に気付いたのか、彼らはジープを降りてこちらへと近付いてくる。
深緑の廃墟の中にあって、まるで自らの別荘の敷地を歩くかのような悠然たる足取りは、俺が最も毛嫌いする人種のそれだった。

从 ゚∀从「フリーズ。それ以上近付くな。銃を置き、膝をついて両手を頭の後ろに回せ」

ボンネットの上にひらりと飛び乗るや、前方の二人へ向けてハインリッヒはアサルトライフルを向ける。
秘書風の男が束の間、傍らの主人を窺う。
それを右手だけで制すると、壮年の男は狩猟銃を担いだままで、俺達に保父のような笑みを向けた。

732 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 21:05:23 ID:lF8RX.4g0
(゚3゚)「やあやあ、これは随分と警戒されたものだ」

从 ゚∀从「聴こえなかったか?銃を置き、膝をついて両手を頭の後ろに回せ。三度目は無い」

(゚3゚)「君達が、ドクオ君御一行で、間違いないね?」

乾いた銃声が、酸性雨のカーテンを貫く。
壮年の男の足元が爆ぜ、泥水が跳ねた。

从 ゚∀从「次は当てる」

無慈悲に、冷酷に、告げる鋼鉄の処女。
主導権はこちらにある事を示す為の一発。
壮年の男はしかし、更に笑みを深くして言った。

(゚3゚)「ようこそ、ツクバへ。私が“タナカ”だ。早速だが、今回の依頼の詳細について話そう」

ハインリッヒの指が、引き金に掛る。
秘書風の男が、傘を捨て、腰を落とし、身構える。
雨粒の一つ一つが沸騰するかのような緊張が、場に満ちる。
銃弾よりも、秘書官よりも早かったのは、タナカの次の言葉だった。

(゚3゚)「――ドクオ君、そしてキュート君。君達には、“ワタナベ崩し”をやって貰いたい」

瞬間、俺の鼓膜から、雨の音が消し飛んだ。

733 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 21:06:46 ID:lF8RX.4g0

 

 

Next track coming soon

 

 

.

734 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 21:08:27 ID:lF8RX.4g0
■RADIO塊IM■Rammstein - Du hast http://www.youtube.com/watch?v=My0HQ0QkGLQ■接続■貴方?筒■愛■

735 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 21:21:26 ID:eb4cGbXQ0
乙乙、お疲れ様です
まさかの展開。

736 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/04(日) 21:28:39 ID:0jwZebjc0
■親愛なる読者のみなさんへ■帰還兵■ホーチミンな■

我々は必ず勝って帰るぞと約束しましたね?あれは嘘では無いので今こうして決断的に帰還だ。

NTT代理店はたいへんに難敵ではありましたが、わがぐんのせんりゃくへいきモージョーのちりとなったのでなんかあとは大丈夫だとおもう。

ズンビーモンスターになってきたら怖いが、我々には聖なる手りゅう弾があるので問題ありません。

そして次回の投稿予定だがこれについては分からない。たぶん一週間後とかになるとおもうが、首切り兎との遭遇が懸念されるので冷や汗が出ています。

創作活動とは無明のダンジョンーをさ迷う事と似ている、とガンダルフめいた髭のおじいさんも言っているので?松明と非常食を切らさないように、しっかりと準備重点しよう。

いじょうです。

737 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 21:40:22 ID:YuL4HbaY0


738 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 23:16:04 ID:akvN7BY.0

引き方うまいなぁ
そしてキューちゃんかわいい!!

739 名も無きAAのようです :2012/11/04(日) 23:44:23 ID:LWywkoLQ0

ハインかキュートかまさかのツンか…

740 名も無きAAのようです :2012/11/05(月) 00:10:55 ID:5eI5Xobs0
乙乙

741 名も無きAAのようです :2012/11/05(月) 20:04:57 ID:1/6IGLE60
乙!

742 名も無きAAのようです :2012/11/05(月) 20:27:30 ID:9bCAFw4Q0

素晴らしい

743 名も無きAAのようです :2012/11/11(日) 20:49:56 ID:WNOci0KY0
まだかなまだかな

744 名も無きAAのようです :2012/11/14(水) 20:08:03 ID:ZZdRRSfc0
おいおいもう一週間だぞ

745 ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/14(水) 20:58:38 ID:N6Tm78ugO
(親愛なる読者のみなさんへ;一部で執筆作業が遅れているという説が囁かれているが、これは寒さによって指が動かないせいだとおもう。◆ハイテック◆
執筆アジトでは善意の灯油募金箱を設置して対処することにしました。◆オコタも◆)

746 名も無きAAのようです :2012/11/14(水) 22:05:17 ID:rSQvjQiA0
もうコタツとは早いな
待ってるよー

747 名も無きAAのようです :2012/11/22(木) 23:14:29 ID:jMpFXoJo0
まだかなまだかな

748 名も無きAAのようです :2012/11/30(金) 20:58:22 ID:0HZBQ7l.0
そろそろくる
はず

749 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/11/30(金) 23:18:10 ID:DJinh0Lw0
▼執筆が遅れているだって?▼制裁だ▼しよう▼おっきく生きたい▼遺憾の意▼

我々監査チームは、「从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです」の連載間隔が大変にロング・ブランクだという報告を受け、ロシアの雪深いバイカル湖の監査アジトを立った。

ジャンボ・ジェットに乗って二時間弱。リニアを乗り継ぐ事三時間半。
途中、ポンビキ・インシデントやネイティブ・ヤクザ達との抗争を経て、
異国の地、ジャポネスの執筆アジトで我々を待っていたのは、オコタに入ってスゴロク=モノポリーを囲む執筆チームの凄惨たる光景であった。

「何をやってるのだねキミィ!」

「まあまあ、皆さん。遠い所お疲れでしょう。ミカンはどうです?」

構成担当者が差し出したミカンを食べて人心地をつけると、早速我々は、ヤスラギオコタの中でスゴロクに興じる彼らに対し、決断的監査尋問を開始した。

「だって、寒い」「ジャポネスは、冬を生きる様に出来ていない」「ミチノクの冬は熊も殺す」「アマザケ、いかがドスエ?」

「ダマラッシェー!寒いのなら手袋をすれば良い!為せば成る!一日十四時間執筆!」

「アイエエエ……だって、寒いんだよう……」

なんたる怠慢!パンク・マインドを体現すべき執筆チームが聞いて呆れるとはこのこと!

「バカ!マヌケ!とにかく、残り一週間で次の連載分を投稿しないと、全員アバシリ研修行きだ!わかったか!」

「アイエエエ!アバシリ!?」「アバシリサムイ!ヤダ!」「ハイヨロコンデー!」

こうして執筆あじとにまんえんするモラルハザードははらわれた。
今後、堕落アトモスフィアに呑まれてぎょうむたいまんが起きないよう、ドサンコグリズリーの監視下の元、現在鋭意執筆体制にいこうしています。
これを受けて、執筆アジトの近所に住む病気の少年も、手術を決意しました。よかったね!

監査チームは宣言します。これから一週間後に次の連載分は投稿されるでしょう。

謝罪文は、次回投稿の時に掲載させます。ごめいわくをおかけしました。

750 名も無きAAのようです :2012/12/01(土) 00:50:58 ID:y026hqjc0
期待
なんかもうニンスレ関係なく萌えてきた

751 名も無きAAのようです :2012/12/01(土) 01:35:37 ID:9E/MNN8I0
オコタはある種のドラッグだからな
依存を断ち切るのは容易ではないぞ

752 sage :2012/12/01(土) 03:12:01 ID:Epv33VZY0
うんおこたは仕方ないよね悪魔の道具だしね
期待している

753 名も無きAAのようです :2012/12/01(土) 17:29:45 ID:JMy5t.q20
しかし納期遅れは許されるべきではない
炬燵布団の破棄を要求する
訴訟も辞さない

754 sage :2012/12/01(土) 19:45:08 ID:Vzb2X62U0
炬燵依存だとけしからん
投下されるまで全裸待機やで

あと12月以内に鋼鉄処女が投下されるなら来年から本気出す

755 名も無きAAのようです :2012/12/01(土) 20:10:36 ID:Oj2HF8sc0
炬燵にみかんとかもうね
逃れられるわけがないよね

756 名も無きAAのようです :2012/12/02(日) 12:07:24 ID:5AawigDU0
よし決めた
完結したら働こう

757 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:24:27 ID:my4FaQC60

 

                 【IRON MAIDEN】

 
.

758 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 20:25:03 ID:LwW/M9oM0
キターーーーーー

759 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:35:09 ID:my4FaQC60

Track-β


――乾いた銃声が、雨靄の中に木霊する。
羽を散らして、一羽のハヤブサが錐揉みしながら地に落ちる。

(゚3゚)「ガッチャ!これで三連続だ!」

(-@∀@)「流石です、タナカ様」

引き金から指を離し、ガッツポーズを作るタナカ。
その横で、彼の秘書官がうんざりするようなおべっかを吐いた。

(゚3゚)「君達もどうだね?VIPに居ては、中々こういった事は出来ないだろう?」

瓦礫の陰から立ち上がり、タナカが俺達を振り返る。
彼の足もとには、この一時間で彼が仕留めた小鹿や猿、狼等の屍が小さな山となって積まれている。
全て持ち帰って剥製にする訳にもいかないから、殆どの遺骸はこの場に打ち捨てられるままにされるだろう。
反吐の出る話だ。

('A`)「遠慮するよ。弱い者イジメには興味無いんでな」

(゚3゚)「弱い者イジメとは心外だな。彼らは全力で逃げる。僕達はそれを全力で追い掛ける。
   狩猟とは、動物と人間の知恵比べ、れっきとした真剣勝負だよ」

目を丸くし、タナカは肩を竦める。
ひょうきんぶったその態度がまた鼻について、俺は眉を顰めた。

760 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:36:18 ID:my4FaQC60
(゚3゚)「第一、今でこそ娯楽となってはいるが、狩猟とは古代においては食を得る為の習慣だった。
   食らう為に、殺す。それは自然の摂理であり、そのまま人間という存在の本質でもある。
   食われる者が居て、食らう者が居る。狩猟とは、ある意味では森羅万象、世界の縮図だと言っても過言ではない」

('A`)「御高説どうも。とってもためになったぜ」

得意げな顔でそう言って、タナカは人好きのするようなあの笑みを、再び浮かべる。

(゚3゚)「生きる為に食らう。我々個々人の生命は、全て喰らわれる者の犠牲の上に成り立っている。
   それを罪だと言うなら、全人類が極悪人だ。聖書を書いた人は、随分とペシミストだと思わないかね?」

俺がうんざりする一方で、傍らの秘書はしきりに頷いていた。

('A`)「常々疑問に思っていたんだが、どうして金持ちってのはそんなに無駄話が好きなんだ?
   そうやって、意味の無い話で相手を煙に巻いて、自分の優位を保とうっていう、そう言う魂胆か?」

俺の指摘に、タナカは意味ありげな顔でほほ笑む。

(゚3゚)「優位など、今ここで握ろうとせずとも、君達が私の事を何も知らない、というだけで十分すぎるだけ私に分があるだろう?
    ならばこそ、私のこのお喋りは、ただの世間話でしか無いよ。ただ、私が考える狩猟感を語ったまで。そこに他意など無いよ」

('A`)「……ああ、そうかい。だったら尚の事、時間の無駄だな」

何処までも、人好きのするような笑顔を崩さないその態度から、この成り金趣味が組みし難い相手だと悟る。

761 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:37:35 ID:my4FaQC60
(゚3゚)「現に、ドクオ君、君は私が誰か、こうして実際に目の前にしても、未だ分からない様子だ」

小首を傾げた、タナカのうすら笑い。
眉を潜める俺に、やっこさんは傍らの秘書官の方へ目線を動かす。
それを追った俺は、そこでようやく奴の正体に気付いた。

('A`)「あんた、まさかあの時の……」

(゚3゚)「その節は、お世話になったね」

牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をかけた秘書官の顔に、俺はかつて国際投資家会議へ向かう要人の護衛を請け負った事を思い出す。

仮称、「田所さん」。

身元を明かさぬ彼らを、俺達は冗談めかしてそう呼んでいた。

あの時、俺は警護対象の脳核をハインリッヒの腹部に移し替え、肉体だけをジャンボのダミージェットに乗せるという計画を実行した。
だとすれば、今目の前に居るタナカは、全身義体と言う事になる。
俺が初見で分からなかった理由としては、妥当ではあるが――。

(゚3゚)「君が居なかったら、と思うと今でもぞっとするよ。君には感謝している。
    でもまさか、あそこで脳核だけにさせられるとは思って無かった。まあ、今では命があったことこそを喜ぶべきだがね」

('A`)「……」

“田所さん”改めタナカは、件の投資会議へ向かう道中のジャンボジェットの不幸な墜落事故で、既に社会的には死亡した事になっている。
生存していることを知るのは、護衛を担当した俺と、その秘書官くらいのものだろう。
報酬金額がそこそこに良かった事もあり、隠蔽工作に関しては当時の俺も細心の注意を払った。
どうやら、本物と見て間違いない。

762 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:39:01 ID:my4FaQC60
タナカがどのような立場の人間で、何故命を狙われなければならなかったのかは知らない。
一切の詮索の禁止と、亡命後の不干渉が当時、依頼を受ける上での大前提だったからだ。

だが、今は違う。

何故、今になってタナカから、俺に接触して来たのか。
何故、俺とキュートが行動を共にした事を知っているのか。

o川*゚ー゚)o「……あの、ちょっといいですか」

俺の背後。
今まで、隠れるようにして俺達のやり取りを見守っていたキュートが、おずおずと言った風に口火を切る。

o川*゚ー゚)o「“ワタナベ崩し”って、言いましたよね。まだ、少し飲み込めないって言うか……」

疑心を隠せないキュートの問いに、タナカは待ってましたといった様子で振り返る。

(゚3゚)「そう、“ワタナベ崩し”だ。その話をする為に、わざわざここまで君達に御足労願ったのだよ。
     ここなら、ネットの網も通っていないから、誰かにこの計画が漏れる事は無い」

酸性雨が霧となって降りそぼる深緑の廃墟を、今一度見渡す。
異常発達した蔦と木々と苔に覆われ、淡い胞子が漂うツクバ学術研究都市跡に、人の気配はない。
居るとしたらそれは、哨戒任務中のロイヤルハントか、死者の亡霊くらいのものだ。

(゚3゚)「――とはいえ、何処で誰が聞いているとも限らない。事は細心の注意を必要としているのだ。
     詳しい続きは、走りながらにしよう」

眉間を険しく、さも秘密めかしてタナカは俺達を自らのジープへと促す。
俺達三人は、互いに顔を見合わせる。

763 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:39:50 ID:my4FaQC60
o川;゚ー゚)o「……」

不安そうな表情を浮かべるキュート。

从 ゚∀从「……」

ここに来てから一切口を開かないハインリッヒは、何時もの鉄面皮。

('A`)「……」

そして、俺自身もまた、未だにこの男を信用する事が出来ないでいた。

(゚3゚)「大丈夫だ。私が君達に危害を加えるような事は無い。安心したまえ」

('A`)「で、そっちの秘書に銃を抜かせて、もう一度同じセリフを言うんだろう?
   “あくまで、私が君達に危害を加えないだけだ”とか何とか言ってな」

(゚3゚)「ははは、どうも私は信用が無いね。――いいだろう」

タナカが目線で合図をする。
傍らの秘書は一瞬の逡巡も無く、腰と両脇のホルスターから合計三丁の拳銃を抜き、地面に放った。

(゚3゚)「これで、どうだね?」

从 ゚∀从「おや、ど忘れか?踝の二丁と袖口の二丁が残っているだろう?」

(-@∀@)「……」

横合いから割り込むハインリッヒに、秘書官が分厚い眼鏡の奥で僅かにぎょっとする。
索敵として広範囲を精査するには胞子が邪魔過ぎるが、これだけの至近距離ならば鋼鉄の処女の電磁誘導センサも通用するようだ。
無言で武装を解除する秘書官は、僅かに苦い顔をしていた。

764 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:40:40 ID:my4FaQC60
(゚3゚)「…ははは、お見通しか。誤解が無いように言っておくが、これはあくまで最悪のケースを想定した護身の為だ。
     それをこうして放棄するには、君達が私を守ってくれたまえよ?」

悪びれもせずにのたまうタナカに、胸中で俺は唾を吐く。
敵なのか味方なのかは、未だ判然としない。
仕込みがばれても動揺を見せないのは、まだ何か隠しているからか、それとも本当に俺達に依頼があるからか。
少なくとも、今分かるのは、この男がそこそこにやり手の人物だと言う事だ。

('A`)「はっ、よく言うぜ。いいからあんたらが先に乗りな。最初に後部座席に乗って、爆弾が無いかを証明するんだ。
   その後、そっちの秘書が運転席に座り、エンジンをかけろ」

ハインリッヒが銃を突きつける傍らで、俺もカスタムデザートイーグルを構えて二人を促す。
タナカ達は言われた通り、後部座席を改めて爆弾が無い事を証明し、秘書官が運転席についてキーを回す。
エンジンの排気音と共に、ジープが正常な息吹を上げる。十秒ほど待ってみても、爆発するような気配は無かった。

('A`)「ハインは助手席で秘書を監視しろ。キュートは俺と後部座席でタナカを張る。
   あんたらも、妙な動きはしない事だ。誤解であんたらの頭を吹き飛ばす事だけはしたくないからな」

タナカがそれに頷き、俺達はそれぞれジープに乗り込む。
アサルトライフルからエレファントキラーに持ち替えたハインリッヒが助手席。
後部座席には、タナカを挟んで、右に俺、左にキュート。
俺達の荷物は、全てジープの荷台に移し替えた。

765 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:42:18 ID:my4FaQC60
(゚3゚)「さて、ここまでしたからには、私の依頼は受けてくれるんだろうね?」

('A`)「頭が馬鹿かテメエ。ここまでするほど、あんたを信用してないって事だよ。
   受けるかどうかは、話しを聞いてから俺達が決める」

(゚3゚)「ふふ、そう言いつつも君は話しが聞きたくてしょうがないといった様子だ。
     現に、ここまで来て、ジープにも乗った。違うかね?」

セーフティーを外したデザートイーグルの銃口を、タナカのこめかみに押し付ける。

('A`)「余計な事は囀らんでいい。俺が話せと言ったら話せ。主導権を握っているのはこっちだ」

タナカの横顔越しに見えるキュートの瞳が、不安げに揺れている。
口の中に自己嫌悪の味が広がるが、俺はそれを飲み込んだ。
出来ることなら、彼女の前だけでも、道化を気取って居たかった。

(゚3゚)「ああ、そうするとしよう。君がそう望むのならな」

目を見開き、肩を竦める道化じみたあの動作で、タナカ。
「出せ」、という彼の短い指示に従い、ジープはゆっくりと走りだす。
とろとろとした速度でビルの樹海を抜けた後、かつてはメインストリートであっただろう、
罅割れ蔦に覆われた道路に出た所で、車体が徐々に加速し始めた。
酸性雨と胞子が混じり合い、薄く黄土色がかった空気の中、窓から曲がりくねった枝を伸ばす建物の群れが、両脇を流れ過ぎて行く。

766 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:43:15 ID:my4FaQC60
('A`)「先ずは、何故俺達に依頼を持って来たか。それについて答えて貰う」

探りを入れる意味での、俺の最低限の短い問い掛け。
銃口を向けられても平然とした表情で、タナカは口を開く。

(゚3゚)「君達にしか出来ない仕事だからだ。君達こそが適役で、最も相応しいと判断した。故に――」

('A`)「答えているようで答えていない。はぐらかすのは止めろ。何故、俺達にしかできないのか。理由を言え」

(゚3゚)「それは、君達自身が良く分かっているだろう?」

鈍い打突音。
デザートイーグルのグリップで殴られたタナカの口の端から、細く血の糸が垂れる。

('A`)「すまないな。俺の左手は、一度言って分からない馬鹿が大嫌いみたいだ。
   もしかしたら、次は引き金が引かれるかもしれん。気をつけてくれ」

o川;゚ー゚)o「……」

キュートの怯えた視線が、喉に突き刺さる。
勤めて無視して、俺は先を促す。

767 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:44:35 ID:my4FaQC60
(#)3゚)「……君達は、渡辺グループと浅からぬ因縁がある。違うか?」

('A`)「質問をしているのはこっちだ。聞かれた事にだけ答えろ」

(#)3゚)「……つまり、そう言う事だよ。君達となら、組んでも良い。
きっと心情的に共感できる、志を共に出来る、とそう判断した」

('A`)「どうやって俺達の事を調べた」

(#)3゚)「……」

('A`)「もう一度だけ聞く。どうやって、俺達の事を、調べた」

(#)3゚)「それは……言えない」

轟音。
カスタムデザートイーグルが吐き出した弾丸が、タナカの右腿の上のスラックスを掠め、シートに食らいついていた。

('A`)「残念だったな、タナカさん。あんたとはもしかしたら話し合えると思っていたんだが……」

トリガーをもう一度引く。
醜悪な灰赤の飛沫と共に、タナカの右腿の肉が千切れ飛ぶ。

(;#)3゚)「ぐっ――くっ――」

('A`)「どうやら。俺の勘違いだったみたいだ」

額に脂汗を浮かべて痛みを堪えるタナカ。
それを遠くの事のように見つめながら、凍てつく指先でトリガーを握る。

768 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:45:31 ID:my4FaQC60
(;-@∀@)「タナカ様!」

運転席で、秘書官が悲痛な声を上げる。

从 ゚∀从「前を向いて運転を続けろ」

そのこめかみに、ハインリッヒのエレファントキラーの銃口が食いこむ。

(;#)3゚)「ヌグ――オォ――」

('A`)「さて、こっからは消耗戦だ。先に俺の手持ちの残弾が尽きるか、それともあんたが急にお喋りになるか……」

言いながら、タナカの右足の爪先に銃口をポイントする。
二秒待って、それでも話しださないのを確認。
引き金を、

o川*;д;)o「どっくん止めて!」

張り裂けそうなキュートの悲鳴が、俺の指を止めた。

o川*うд;)o「それ以上は…お願い……」

可愛らしい顔を、くしゃくしゃに歪めて、縋りつく様なその顔を前にして、銃口を下ろす。
冷え切った身体の芯から、冷気が急速に退いて行く。
代わりにそこを埋めたのは、底無しの虚無だった。

('A`)「……」

(;#)3゚)「ハァ――ハァ――済まない――これだけは、言うわけには――」

歯を食いしばって痛みに耐えながら、それでもタナカは決然と言う。
これ以上続けた所で、収穫は無さそうだった。それだけが、ある種、気休めな救いでもあった。

769 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:48:38 ID:my4FaQC60
('A`)「……オーライ。それじゃあ、あんたが言いたがっていた話しに移ろう」

o川*うへ;)o「……」

('A`)「“ワタナベ崩し”についてだ。何を言いたいのかは大体分かる。だから、詳細を聞かせろ」

淡々と俺が詰問する間、キュートは荷台のデイパックから包帯と消毒液を取り出し、黙々とタナカの右腿の手当てを進める。
涙の滲んだその双眸は、俺の目を見る事を避けていた。

(;#)3゚)「…君が察している通りだ。……私と、君達の手で、渡辺グループを解体する」

未だ荒い息でタナカが告げた言葉。

渡辺グループを解体する。

大方、察しはついていた。矢張り、馬鹿馬鹿しい戯言だった。
現実感の無いその響きは、それでも俺の耳朶にこびりついて離れない。

('A`)「確認だが、渡辺グループを解体するっていうのは、文字通りの意味と受け取って良いか?」

(;#)3゚)「ああ、そうだとも。幾ら奴らが巨大だとしても、“企業”である、という事に変わりは無い。
       企業法は適用されるし、経営が回らなくなれば潰える。巨人殺し(ジャイアント・キリング)ではあるが、不可能、というわけではない」

タナカの弁は、理屈の面では正しい。
可能か不可能かで言えば、可能だ。
だがそれはあまりにも荒唐無稽。理論上可能だからと言って、誰が生身のままに水上を走りぬけられるだろうか。
世界規模に根を張る多国籍型コングロマリット、渡辺グループを解体する、というのはつまりはそのような事だった。

770 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:49:30 ID:my4FaQC60
('A`)「……馬鹿馬鹿しいが、一応聞いてやろう。具体的には、どうする?」

淡々とした俺の問いかけにも、タナカはその確信めいた態度を崩すことなく続ける。

(;#)3゚)「醜聞(スキャンダル)だ。今までに渡辺グループが行って来た非合法活動を、白日の元に曝け出す。後は、法の裁きによる業務停止命令を――」

最後まで聞かずに、俺の口から嘲笑が零れた。

('A`)「何を言い出すかと思えば、随分と面白い冗談を言う。スキャンダルを公開する?
    寝ぼけた事を…そんな事で渡辺を解体出来るんだったら、奴らはとっくにグループ全体が路頭に迷ってるよ」

渡辺グループが今まで働いて来た非合法活動など、俺が把握できないものも合わせれば星の数ほどあるだろう。
メガコーポを生かす為に、一体どれだけの血が流された事か。
それら無数の被害者達の中で、渡辺グループに抗おうとした者など、それこそ掃いて捨てる程居た筈だ。

だが、彼らの声が日の明かりの下に響く事は無い。
警察もメディアも、金で利用出来るものは全て利用して、糾弾の声を悉く握りつぶして来たからこその、今の渡辺グループだ。

(#)3゚)「……だが、今回はそうならない。決してな」

('A`)「大した自信だな。何だったら、俺もお天道様を引きずり降ろしてぶっ殺せる気がするよ」

(#)3゚)「根拠が、必要かね?」

('A`)「……」

771 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:50:48 ID:my4FaQC60
深い確信を込めたその声に、俺は口を噤む。
俺の微細な揺らぎを見て取ったタナカが、静かに言葉を継ぐ。

(#)3゚)「……その前に確認させてくれ。君達は、何があってもこの私を守り抜く。そう、誓ってくれるか?」

('A`)「知るか。それはあんたが“根拠”とやらを言ってから決めることだ」

(#)3゚)「……」

一旦の間。
包帯を巻き終えたキュートが、顔を上げて俺達の様子を見守る。
運転席の秘書官が、ルームミラー越しに問い掛けるような視線をタナカに投げる。
それに、重々しい頷きを返すと、タナカは目を閉じ言った。

(#)3゚)「私が、渡辺グループ前CEOだから。根拠は、それだけで十分ではないかね?」

酸性雨が、ジープの車体を叩く音が、耳に絡む。
思い出したようにワイパーが立てる、間の抜けるような摩擦音。

('A`)「先代会長様、か……」

歯と歯の間で、からからと言う様なその響きを矯めつ眇めつしてみる。
先代会長ともなれば、渡辺グループの暗部の全てを知っている事になる。
加えて、社の代表であった人物の口から語られた事ならば、一介の個人のそれと違い、デマだとして封殺する事も出来まい。

彼が語る情報の全てに裏付けが取れ、尚且つ彼が本当にグループの前会長であるのならば、だが。

772 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:51:53 ID:my4FaQC60
(#)3゚)「君が思い浮かべている疑念を当ててやろうか?
      私が、本当に会長なのか?私の語る情報が、嘘ではないか?そんなところだろう」

持って回った言い方は、自信の表れか。
「胸ポケットを探して見ろ」という彼の弁に従えば、出て来たのは携帯端末(ハンディターミナル)。
それを操作して一葉の画像ファイルを開くと、タナカはホログラフとして映しだす。

(#)3゚)「私の脳紋データだ。義体化で外見は変わっていても、これで私がポセイドン=タナカである事が証明できる。
      信用できないなら、VIPに戻った時に君が医者を連れて来て調べてくれてもいい」

('A`)「……で、あんたが証言したとしてだ。それを裏付ける証拠の類は?」

(#)3゚)「私の脳核内に全て収まっている……と言いたい所だが」

そこで初めてタナカは歯切れ悪く語尾を濁す。

('A`)「だが?」

(#)3゚)「万が一、私の脳核がハッキングされた時に備えて、渡辺グループの非合法活動についてのデータは、全て外部記憶素子に移し替え、スタンドアローン状態で別所に保管してある」

('A`)「はっ、そいつはまた厳重な事で。そこまでして、どうしててめぇがこさえた王国をぶち壊したいなんて思うもんかね」

773 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 20:53:59 ID:LwW/M9oM0
支援

774 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:54:07 ID:my4FaQC60
(#)3゚)「……人間としての、ささやかなる正義感から…と私のような人種が君に言った所で、信じて貰えないのだろうな」

('A`)「へえ、流石は前CEOだ。人を見る目は確かじゃねえか」

(#)3゚)「ならば、正直に言うことにしよう。渡辺グループが潰える事で、私が利益を得るからに他ならない。
      結局のところは、人間の行動理由など、全てそこに集約される。そうだろう?」

('A`)「ふんっ、違いねえ」

鉛のように濁った双眸で、俺達は互いに言葉を重ねて行く。
聖人の無償の愛よりも、悪党の抱く欲望の方が、信用がおける。
腐りきった価値観だ。出来る事なら、捨て去りたい。生憎、そんな予定が今後入る見込みは無さそうだが。

(#)3゚)「まあ、敢えて言うならば…私怨、というのも僅かにある」

呟くように吐き出し、タナカは僅かに目を細める。

(#)3゚)「かつて、君が請けてくれた国外逃亡の依頼…実を言うと、あの時私はアヤカの私兵に追われていたのだよ」

アヤカ、という名前に一瞬誰の事を言っているのか考える。
数瞬の後、それが現渡辺グループCEOの下の名前だと言う事を、俺は思い出した。

(#)3゚)「社内クーデターという奴だ。襲撃計画を知った時には、既に遅かった。
      役員達の七割が、既に奴の派閥に呑みこまれ、グループ内での私の味方は既に皆無も同然だった」

('A`)「で、泡食って逃げ出して来た、と」

775 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:55:39 ID:my4FaQC60
憎悪は残り香だけに、あくまで淡々とした口調でタナカは言う。
既に座る玉座が無いのなら、城ごと叩き潰すまで、と言った所で、その復讐は成し遂げても何も残らない事を、このタナカという男は心得ている。

あくまでも、彼が動くのは、渡辺グループが潰える事で、自らに利潤が生まれるから。

渡辺グループとシェア争いをしている他社に身売りでもするつもりなのか。詳細は知らない。知った所で、きっと胸糞が悪くなるだけだ。

(#)3゚)「復讐で家は建たない。私はそこまで感傷的になれない性分でね」

('A`)「……」

俺は束の間、数時間前に別れた“あの男”について思いを馳せた。
相方の仇を追い掛ける事にとりつかれ、爪先から魂をすり減らして行った、あの不器用な男の事を。

一時の感情の爆発は、それを持続させるとなると酷く難しい。
怒りも、憎しみも、悲哀も、情愛も、全ては一過性のもの。
時間の経過は、悲しみを優しく癒し、愛を残酷なまでに風化させる。
手当たりしだい当たり散らした後で、残るものと言ったら、督促状の山だったり、整備不良で壊れたエアコンだとか、そういった形のあるものだけだ。
善し悪しだとかを断じるつもりは無い。ただ、経験則からして、そういうものだという、思考放棄にも似たつまらない感想が零れて来るだけだ。

(#)3゚)「……さて。私のつまらない感傷はどうでもいいのだ。具体的な策について、少しばかり説明させて貰おう」

タナカの淡々と抑えた声が、刹那の愚考を遮る。

776 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:57:34 ID:my4FaQC60
(#)3゚)「これから、先に言った非合法活動の証拠となる私の外部記憶素子を回収した後、我々は一度VIPに戻る。
      そのまま外部記憶素子を政府警察なり報道機関なりに引き渡すのが本来なのだろうが、どちらもアヤカの息が掛っているので現実的では無い」

(#)3゚)「そこで、情報公開については、全てをキュートくんに一任したいと思う」

今まで、黙して俯き、タナカの治療にあたっていたキュートが、のっそりとその顔を上る。

o川*゚ー゚)o「わた、し……?」

困惑気味に鸚鵡返すキュートに目線で頷いてから、タナカは言葉を続ける。

(#)3゚)「フリーランスで報道する、となるとゲリラ的にならざるを得ない。
      しかし、ゲリラ報道だと今度は記者本人の社会的な信用が問題になってくる」

从 ゚∀从「三流ゴシップばかりを扱うジャーナリストの言う事をいちいち真に受ける人間は居ないからな」

運転席に目を光らせたまま、鋼鉄の処女が言葉尻を補足するように呟く。

(#)3゚)「そう言う事だ。その点、彼女ならば問題ない。何せ、GMN(グローバルメディネットワーク)の出身だ。
      お昼のマドンナと言えば、世の人々の覚えも目出度い。私も、あの番組は贔屓にさせて貰っていたよ。
      突然の独立宣言から、ゲリラ報道であのワタナベの不正を告発。番組的にも、非常に映える」

そこまで言い終えると、タナカはその腫れあがった顔に意味ありげな頬笑みを浮かべる。
その笑みの形を見た瞬間、俺は奴の思考の一端を理解して、吐き気のする思いに襲われた。

777 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:58:47 ID:my4FaQC60
(#)3゚)「聞けば、キュート君の弟さんは、あの黒山羊のサーカス事件に関わっていたとか……」

o川;゚ー゚)o「――!」

(#)3゚)「あの件にはワタナベの圧力が少なからず働いたとも――」

右手が動いた、と思った時には既に遅かった。

(#)3゚)「ぐっ――!?」

タナカの顔面を殴りつけた感触が、自己嫌悪となって拳を伝う。
頭に血が上った後は、何時でも気持ちが悪い。

('A`)「……それ以上のお喋りは、止めとけ」

(#)3゚)「……まさか、君の方の気分を害するとはね」

o川; へ )o「……」

(#)3゚)「……ともあれ、軽率だったよ。失礼した」

頬を摩るタナカ。
その横で、キュートは怯えと困惑のない交ぜになった顔で、俺とタナカの間で視線をさ迷わせている。

分かっている。こんなのは、完全な自己満足だと。
彼女の“こころ”を、悪戯にざわつかせている、という点では俺もタナカも同じだと、分かっている。

だから結局、そんな風に何時までたっても幼稚な俺は、キュートに「答え」を返してやる事も、
優しい言葉の一つも掛けてやれないで、馬鹿の一つ覚えみたいに視線を逸らすことしかできなかった。
そこに心が籠っていないとしても、詫びの言葉を口に出来る分、タナカの方がまだマシだ。

778 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 20:59:48 ID:my4FaQC60
(#)3゚)「……失言は詫びよう。改めて、情報開示に関して、依頼させてもらってもいいかな?」

o川; へ )o「私が、ワタナベの、非合法活動を、報道する……」

キュートは、一言、一言、その感触を確かめるよう、吐き出して行く。

o川; へ )o「私が――」

次の言葉を音にしようとして、その口がぴたりと止まった。
喘ぐように動いた口元は、“それ”を言葉にしていいものか、躊躇っているようでもあった。

o川; 口 )o「わ、たし、が――でも――」

ワタナベの悪事を白日の下に曝け出す事。ワタナベ・グループを崩す、と言う事。
それはそのまま、ワタナベ・グループで働く人々の人生を、滅茶苦茶に破壊する、と言う事。
人一人が背負うには、その決断はあまりにも重すぎる。

(#)3゚)「……そうだな。確かに、今ここで直ぐに答えを聞かせてくれ、というのは性急すぎる」

キュートの迷いを予測していたように、理解者ぶった言葉を並べるタナカ。

(#)3゚)「――良し、こうしよう。この依頼を受けるかどうかは、実際に外部記憶素子の中を見てから、君達が決める。それでどうかね?」

o川; へ )o「……」

(#)3゚)「素子の中身を見て、受けるにしろ、受けないにしろ、そこまでの護衛料は別途で払おう。
      勿論、受けてくれるのなら、相応の報酬はちゃんと用意してあるがね」

未だ答えを出しかねるキュートから視線を俺に移し、片目を閉じてみせる。
わざわざ俺用の妥協案も用意してくれると言うわけだ。こいつは至れりつくせりだ。

779 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:01:30 ID:my4FaQC60
('A`)「……で、肝心の外部記憶素子とやらは何処にあるんだ?」

(#)3゚)「それについては問題ない」

持って回ったタナカの言い回しに合わせるよう、ジープが止まる。

(#)3゚)「話しも纏まった所で到着だ」

フロントガラスの向こう、タナカが指差す先。
崩れかけた建物の群れの中に、隠れるようにしてひっそりと聳える強化合金製のフェンスには、
「第八特別狩猟区」とだけ書かれた、鋼鉄のプレートが鎖でぶら下がっていた。

780 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:02:39 ID:my4FaQC60

  ※ ※ ※ ※ 


――酸性の雨霧の中、ぼんやりと浮かび上がるのは、妙に幾何学的な建物の屋根々々だ。
高さも外観も不揃いなそれらは、かつては研究施設か何かだったのだろう。
隆起したアスファルトや、倒壊したコンクリ壁の間、丁度洞穴(ほらあな)のようにして空いた空洞に蓋をするかのように、
そのフェンスの威容は聳え立っていた。

第八特別狩猟区。

長い年月を酸の雨に晒された為、錆が浮き、所々が溶解したそれの前には、
銀色の防護服に身を包んだ門番が二人、アサルトライフルを構えて両脇を固めている。

('A`)「おい、特別狩猟区ってどういう事だ?」

促されるままにジープを降りた俺に、タナカは意味ありげに微笑むだけで答えようとはしない。
荷物を纏めて雨の中に踏み出した俺達を認め、見張りの防護服達がその銃口を向けた。

〔:◎:〕「動くな。両手を頭の後ろへ。今からそっちへ行くが、妙な動きはするなよ」

o川;゚ー゚)o「な、なに……?」

从 ゚∀从「……」

戸惑いを浮かべるキュート。僅かに目を細めるハインリッヒ。
そんな二人とは対照的に、訳知り顔のタナカとその秘書官。
防護服のうち一人がこちらへ向かって歩きだすと同時、雨の音に紛れて微かなモーター音が周囲の廃墟から聴こえて来る。
目だけを動かして確認すれば、そこここの瓦礫の陰から、幾つかのレンズの鈍い照り返しが見えた。

781 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:04:06 ID:my4FaQC60
('A`)「ガンターレットか……」

前方180度、扇形の包囲網。状況が飲み込めないまま、無茶をするわけにもいかず、大人しく防護服の言葉に従う。
俺達が銃口の槍衾の中で立ち尽くす間に、防護服はタナカの前まで歩み寄ると、
腰から下がった携行認証機で、タナカの身体を爪先から頭の天辺まで精査している所だった。

〔:◎:〕「……タナカ氏でございましたか。これは失礼しました」

認証機のLEDが、オレンジからグリーンに変わったのを見て取り、防護服はすんなりとその態度を崩す。
周囲のガンターレットの照準が外れる気配もした。
一体、この防護服は何者なのか。見た所、ロイヤルハントの哨戒兵というわけでもなさそうだが。

(゚3゚)「構わんよ。今日は友人たちも連れて来ているのだが――」

〔:◎:〕「ええ、タナカ氏の御友人でありましたら、問題ありません。どうぞ、心行くまでお楽しみください」

俺達の戸惑いも余所に、話しを纏めたタナカが振りかえり、笑顔で皆を促す。
無言のその表情の中に、下手に口を開けると面倒が起きる臭いを嗅ぎ取り、俺達は目線だけで頷き合い、防護服の横を通り過ぎた。

〔:◎:〕「――っと、失礼、ご婦人」

o川;゚ー゚)o「は、はい?」

782 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:05:10 ID:my4FaQC60
〔:◎:〕「当狩猟区は、区内での撮影はNGでして」

キュートを呼びとめた防護服が、彼女の腰に下がったハンディカムを目敏く指さす。

〔:◎:〕「お帰りの際にお返ししますので、こちらで預からせて頂いてもよろしいでしょうか?」

o川;゚ー゚)o「えっと……」

束の間、キュートの視線が宙をさまよう。
腰のハンディカム、目の前の防護服、肩の上の“きゅー子”と動いてから、防護服の手の中のアサルトライフルに止まる。

一瞬の逡巡。
震える手で、キュートはハンディカム“だけ”を差し出した。

〔:◎:〕「恐れ入ります。こちらで責任を持ってきちんとお預かりしますので、ご安心くださいませ」

o川;゚ー゚)o「は、はひっ……」

ぎこちない顔を浮かべるキュートに、しかし防護服は気付く様子も無い。
「他に、カメラなどお持ちの方は?」と申し訳程度に、俺達の荷物をチェックすると、彼の合図の元、第八特別狩猟区のフェンスが金切り声を上げて開いた。
  _,,,_
/::o・ァ「……キュキュッ」

o川;゚ー゚)o「……はは」

自らの身に降りかかった危機など知らぬ気に、ペットロイドの皮を被ったスパイドロイドは自らのピンク色の羽を嘴でつついている。
仮の主でもあるキュートもまた、その様子に些か毒気を抜かれた曖昧な笑みを浮かべていた。

783 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:06:25 ID:my4FaQC60
(゚3゚)「さあ、こっちだ」

既に先を行っていたタナカが、俺達を振り返る。
ハンチング帽子の位置を直す奴の肩には、先の猟銃が担がれていた。

タナカの先導に従うままにフェンスを潜り、俺達はコンクリートの洞穴の如き、第八特別狩猟区の中へと足を踏み入れる。
今にも倒壊しそうな廃墟の壁には、申し訳程度の豆電球やオイルランプがぶら下がり、前時代的な炭鉱を彷彿とさせた。

俺達が中に入ったのを確認したのか、背後でフェンスが再び金切り声と共に閉ざされる。
防護服の二人は、再び見張りに戻った。監視カメラやそれに類するものが無い事を、
ざっと確認した後、俺は先を行くタナカの背を呼びとめた。

('A`)「おい、なんだここは?」

(゚3゚)「表に書いてあっただろう。第八特別狩猟区さ」

馴れた足取りで瓦礫をよけながら、タナカは首だけで振り返る。

(゚3゚)「ここはワタナベ・グループの子会社の一つが富裕層に向けて運営している、狩猟区の一つ」

('A`)「んなことを聞いてるわけじゃ…なに?ワタナベの子会社?」

(゚3゚)「科学の進歩の代償として、大気汚染は今や深刻な域にまで達している。
    汚染を免れた野生動物は今や絶滅の危機に瀕しており、世界的に保護対象だ。
    そんな中にあっても、人々は古くから連綿と続けて来たこの習慣を捨て去る事は出来なかった」

784 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:07:30 ID:my4FaQC60
大仰な言い回しも、いい加減苦言を挟むのが面倒だ。
豆電球の明かりの届かぬ周囲の闇に気を配りつつ、俺は耳だけでタナカの話の続きを聞く。

(゚3゚)「そんな訳で、表向きには野生動物の狩猟は御法度であるが、禁じられれば禁じられる程、その甘い匂いに惹かれるのが人の性というもの」

从 ゚∀从「御託はいいから要点だけを話したらどうだ?」

容赦の無い斬撃のようなハインリッヒの言葉。どうやら、ガイノイドにもやっこさんの話し方は癇に障るらしい。
予期せぬ横やりに、タナカは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をすると、直ぐ様苦笑いで取り繕う。俺は胸中で相棒に拍手を送った。

(゚3゚)「……需要があれば、供給がある。禁じられた遊びを欲する好事家達の為に、ワタナベ・グループはクローン動物達を離した狩猟場を用意した」

o川*゚ー゚)o「クローン動物……」

(゚3゚)「君達も、ここに来るまでに目にして来ただろう?鹿や猿、狐に狸、果ては熊やら虎まで、古今東西、あらゆる動物がここで離し飼いになっている。
    動物園かサファリパークのような趣だが、残念ながらここは十八歳未満立ち入り禁止だ」

('A`)「ついでに、貧乏人もだろ?」

(゚3゚)「ははっ、これは手厳しい皮肉だ。ドクオ君の言う通り、この狩猟区はあくまで非合法施設。
    一部の会員にしかその存在を知らされていない、裏の社交場と言った所だね」

从 ゚∀从「鷹撃ち接待の傍らに商談を纏める、と。高尚なビジネステクニックだな」

面白くもなさそうに鼻を鳴らし、ハインリッヒは撃鉄を起こしセーフティーを掛けたエレファントキラーを編上げブーツの口に挟むと、
背中のデイパックからアサルトライフルを抜く。
先頭からタナカ、俺、秘書官、キュートと来て、しんがりを勤める鋼鉄の処女の瞳は、暗闇の中でいっそう暗く、赤く輝いていた。

785 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:09:21 ID:my4FaQC60
('A`)「……で、ワタナベを追われたあんたが、どうしてまだここに顔が利くのかが疑問なんだがね」

(゚3゚)「タナカ氏というのは、私のかつてのビジネスパートナーでね。この義体は、元は彼のものだった」

特に、何でもない事のようにタナカは言う。

(゚3゚)「タナカ氏は、本人証明が要る時は、義体内に挿れたナノ・タグを使って全てを済ませていた。
    無論、私と一緒に狩りを楽しむ時もね」

胸糞の悪くなるような事を、淡々と述べるその横顔は、世間話でもするかのようだ。

('A`)「……ワタナベ・グループってのは、他人の身体を“着る”のが趣味の変態共が集まってたちあげたのか?」

(゚3゚)「……何を言っているのだね?」

“へ?何言ってるの?他人の体じゃないよ?その子の体は、私のものじゃない”
かの女悪魔の言葉が、オーバーラップする。軽い眼前を覚えて、眉間を揉んだ。

('A`)「――いや、気にするな…あんたが救いようの無い糞野郎だって言っただけだよ」

(゚3゚)「ははっ、なかなか、仲良しこよしとは行かないか」

減らず口を叩き、やんわりとほほ笑むタナカ。
金持ちを見たら、悪党か狂人だと思え。唯一俺が後世に残せる金言といったら、こんなところだろう。

786 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:10:19 ID:my4FaQC60
从 ゚∀从「――それで。件の外部記憶素子とやらは、この中にあるというのか」

(゚3゚)「ここは、私が会長になる前からのお気に入りの“秘密基地”でね。
    ネットも通じていない、出入り出来るのはごく一部の限られた人間のみ、とくれば何かを隠すにはもってこいだろう?
    オマケに、周囲をロイヤルハントの兵隊さん達が勝手に見回ってくれているんだ。至れりつくせりだよ」

「まあ、道案内は私に任せたまえ」と得意気に言って、タナカは首を前に戻した。
コンクリートダストや灰色の胞子を踏みつけ、俺達はタナカを先頭に進んでいく。

細い通路は、真っすぐ、やや下るようにして伸びており、両脇の壁には自動扉の群れが連なっている。
電力が死に絶え、半開きのままになった扉の一つからは、埃を被った机や棚、量子演算端末の遺骸などがちらりと見えた。
外で見た一連の建物群の外観からして、ここもまた、何らかの研究施設だったのだろう。

o川*゚ー゚)o「あの、ここ、狩猟区なんですよね?」

入り口から換算して、どれほどの距離を進んだのだろうか。
黙々とした行進の途中、ふとキュートが問いを上げた。
周囲にぼんやりと漂う胞子は濃さを増し、外よりも湿り気を帯びた空気は、肌を舐めまわすように冷たい。

(゚3゚)「ああ、そうだが」

紳士的な笑みを崩さず、タナカがそれに答える。
通路には、俺達の立てる湿った靴音以外にもの音は無い。

787 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:11:39 ID:my4FaQC60
o川*゚ー゚)o「あの…私、狩りとかしたこと無いから分からないんですけど、普通、狩りって言ったら、屋外でするものなんじゃないんですか?」

(゚3゚)「然り、だね」

o川*゚ー゚)o「じゃあ、どうしてわざわざこんな狭い屋内に…道も、地下に潜ってるみたいだし……。
      あ、いえ、今は関係ない事だって分かってるんですけど……」

(゚3゚)「ふむ――」

尻すぼみなキュートの言葉に、タナカの歩みが止まる。
俺が悪態をつくよりも早く振り返ると、タナカはその顔にいわくのありそうな笑みを浮かべた。

(゚3゚)「それは、ここが会員の中でも特に選ばれた会員にだけ解放される、“特別狩猟区”だからだよ」

o川;゚ー゚)o「選ばれた会員――?特別――」

断片的なタナカの言葉を、キュートが咀嚼し終わる前に、それは動いた。

(゚3゚)「噂をすれば、だ!」

微かな音。振り向くタナカ。
俺も見た。
オイルランプの頼りない明かりの中を、一瞬横切った影。

788 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:12:28 ID:my4FaQC60
(゚3゚)「実物を見るのが一番だろう!そら、追え!追え!」

(#'A`)「おい、待っ――!」

言うが否や、猟銃を構えてタナカは走りだす。
それを追って、秘書官もまた列を飛び出した。

o川;゚ー゚)o「あっ……!」

(#'A`)「くそったれ…こっちは狩猟ごっこに来てるんじゃねえんだぞ……!」

驚くほど身軽な動きで闇の中へと消えて行く二人の背中。
カスタムデザートイーグルのセーフティーを外して、俺も駆け出す。

从 ゚∀从「気をつけろ、ドクオ。何か、妙だ」

俺の背中と自分の背中で、器用にキュートを挟んだ相棒が、告げる。

('A`)「ああ、嫌な予感がする。キュート、俺達の側を離れ――」

振り向きながら言いかけて、俺はそこで一瞬言葉に詰まる。
肩越しに見えるキュートの顔も、俺と目があった事で、気まずげに強張る。

o川;゚ー゚)o「……」

('A`)「――ハイン、キュートは頼むぞ」

刹那の視線の交感は、しかし叶わない。
お互いに目を逸らし、そのままに、足を速める。

从 ゚∀从「……」

相棒の、無機質な紅い瞳は、真正面から非難されるよりも、確実に、俺の胸を抉った。

789 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:13:37 ID:my4FaQC60

  ※ ※ ※ ※


――曲がり角の向こうから、声が聞こえてくる。

「随分と、深くまで潜ってきましたね」

一つは、きんきんと甲高い、男の声。

「ええ、私もここまで来るのは初めてです。きっと、上モノが居ますよ」

もう一つは、のっそりと間延びした、これも男の声。

……痩せぎすののっぽと、小太りの中年。イメージとしては、そんな所だ。

「何せ、ここまででも中々歯ごたえのある獲物揃いでしたからね。
 下に行けばいくほど、手強い敵が出て来る。そういうお約束です」

「ははは!だとしたら、我々はさしずめ、地下迷宮を行く冒険者、と言った所ですな!」

小太りのセンスの無いジョークに、耳障りな笑い声を上げるのっぽ。
こんな下らない会話が、今生での最後の言葉になるなんて、哀れなものだ。

790 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:15:10 ID:my4FaQC60
ζ( ー *ζ「――」

角から足先が覗くか否かのタイミングで、デレが飛び出した。
地面を舐めるような、低い姿勢で、両腕をツバメの翼のように広げ、刹那のうちに跳躍する。

「「――!」」

声の主たる二人が気付いた時には遅かった。
黒いラバースーツの両腕が振るわれ、虚空に銀線が閃いた時には、既に彼らの命は失われてから五秒も経っていた。

どさり、どさり。
断末魔の声すらなく、二人の身体が倒れ込む湿った音。
ごろごろ、ごろごろ。
曲がり角の先から、二つの球体が転がってきて、デレの足元で止まる。
カッと目を見開き、口を半開きにしたそれは、頬のこけた男と、脂ぎった額の広い男の、頭だった。

角から首を出して見れば、輪切りになった男たちの身体のパーツが、胞子の薄く積もった通路の上に散らばっている。
渡辺造兵廠製のアサルトライフルを握ったやけに細い腕、纏った防弾チョッキがはち切れそうな太鼓腹。
デブとノッポの組み合わせ、という私の予想は概ね正しかったようだ。
もっとも、どっちがどっちの声の主だったのかは、今となっては確かめようも無いことだが。

ξ゚⊿゚)ξ「狩りに来て、まさか自分が狩られるなんて、思いもしなかったのでしょうね」

一刹那のうちに切断された“パーツ”の断面は、血を流すことさえ忘れている。
単分子(モノフィラメント)ワイヤーをグローブに巻き取るデレは、自らが作り上げた“サシミの山”を、物憂げな顔で見降ろしていた。

791 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:16:29 ID:my4FaQC60
ζ(゚ー゚*ζ「……」

ξ゚⊿゚)ξ「……どうか、なさいましたか?」

ζ(゚ー゚*ζ「――いえ、何でも。何でもありませんわ」

慌てて上げた彼女の顔には、取り繕ったような笑み。
取り繕えていないのは丸わかりだが、彼女としても私に心配されるのは本意ではないだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「そうですか。では、行きましょう。あまり、長居したい所じゃありませんからね」

だから、私も最低限の言葉だけを繋げる。
デレが短く頷きを返す事で、私達はデイパックを背負い直すと、踵を返して前進を再開した。

階層にすれば、地下12階。
ここまで来る間に通ってきた他のフロアに比べて、比較的損壊の規模が穏やかな通路をお互いに無言で進む。

VTOLで運ばれて来てからここに至るまで、私達の間に会話らしい会話は無い。
元々、お互いがお互いを好き好んでお喋りするような間柄では無いが、今日は何時も以上に沈黙の比率が大きい。
それはきっと、今回の任務のせいなのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「ここ、ですね」

非常灯の明かりだけが照らす通路を進む事数十秒。
バルブが三つも四つもついた、厳重なエアロックの前に突き当たる。
首筋のソケットに差し込んだ素子内のマップデータと照らし合わせ、一応の確認。
間違いは無かった。

792 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:17:43 ID:my4FaQC60
ξ゚⊿゚)ξ「今、開けますので、しばしお待ちを」

努めて事務的に言ってから、隔壁の脇のコンソールをいじる。
予め教えられていた通りのパスコードを入力してから、“ホルスの瞳”を起動。
見た目が気色悪いから、“目”を使った有線接続はあまり気が進まないが、ネットが通じていないのでは仕方が無い。
結線ケーブルを左目から伸ばし、直接監理AIに接続する。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

データの送受信を開始した私を、デレは傍らの壁にもたれかかってぼんやりと眺めている。
黒のラバースーツに、同色の対刃防弾コートを羽織った華奢な身体を、両腕でかき抱くようにして立ち尽くすその様子は、心ここにあらずといった所だ。

自分でも、なんでそうしたのかは分からない。
気が付けば私は、左目に流れる0と1の羅列を追いながら、口を開いていた。

ξ゚⊿")ξ「……スターリンは知ってます?」

ζ(゚ー゚*ζ「――は?ええ、まあ。ラボの学習用ホロで、一応」

ξ゚⊿")ξ「じゃあ、ソ連についても?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ、かつてのロシア……でも、それが――」

ξ゚⊿")ξ「――赤の広場で、とある男が“スターリンは馬鹿だ”と叫びながら走り回っていた」

ζ(゚ー゚;ζ「ええと、あの、お姉さま?」

793 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:18:45 ID:my4FaQC60
ξ゚⊿")ξ「当然、男は逮捕されたわ。裁判の結果、彼は懲役50年を言い渡された」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

ξ゚⊿")ξ「刑期のうち、5年は侮辱罪。残り45年は、国家機密漏洩罪だったそうよ」

語り終えた所で、デレの反応を窺う。

ζ(゚ー゚;ζ「……お姉さま?」

私の保有する唯一の笑い話にも、デレは訝しげな顔をして首を傾げるだけだった。

ξ゚⊿")ξ「……いいの。分かってる。私はそういう柄じゃないものね」

ここ一年の中で、最も間の抜けた脱力感が襲ってくる。
思わず言葉も砕けようというものだ。

ζ(゚ー゚;ζ「あ、いえ、違うんです。その、お姉さまのお話は面白かったです」

ξ゚⊿")ξ「…なら笑っておきなさいよ」

ζ(゚ー゚;ζ「ごめんなさい、私の事を気遣って下さったんですよね」

ξ゚⊿")ξ「……別に」

そこで初めてデレはくすりと笑う。
先のジョークで笑わなかったのに、今のやり取りの何処に面白い所があったのか。
一言抗議してやろうかと思った所で、彼女の目線が自らの爪先に落とされている事に気付いた。

794 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:20:03 ID:my4FaQC60
ζ(゚ー゚*ζ「……お姉さまは、今回の任務について、どうお思いですか?」

ξ゚⊿")ξ「……」

予想通りの問い掛け。
どう答えたらいいものか。
言葉を選んでいるうち、デレが先に口を開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「私は…正直、迷っています」

躊躇いがちに搾りだされたその言葉は、矢張り私の予想の通りだった。

ζ(゚ー゚*ζ「今までは、お父様に言われた事ならば、全て従ってきました。
      お父様が喜んで下さるのなら……。お父様の為なら、と思えば、何も――」

唇を引き結び、デレは続ける。

ζ( ー *ζ「ですが、今回は……お父様がお喜びになると分かっているのに…どうして……」

ξ゚⊿")ξ「……」

返す言葉を見失い、私は口を噤む。
デレは、そんな私に縋るよう、顔を上げた。

ζ(゚ー゚;ζ「ねえ、教えて下さい、お姉さま。お父様の為なのに!それは間違いないのに!どうして!どうして私は!」

ξ;゚⊿")ξ「……」

左目の中を流れていた0と1の奔流がぴたりと止んだ。
同時、間の抜けた電子音が鳴り、目の前の隔壁が圧縮空気を吐き出した。

795 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:21:16 ID:my4FaQC60
ζ(゚ー゚;ζ「……」

ξ;゚―")ξ「……」

私達は、束の間、お互いに見つめあった。
蒼い瞳に、金色の睫毛。何から何まで自分と瓜二つなデレの顔は、母親に捨てられた幼子のような恐怖に震えていた。

ξ; ― )ξ「……開き、ましたよ」

目を逸らして、それだけを言うのが精いっぱいだった。
それ以上、彼女の瞳を覗いては、居られなかった。

ζ( ― *ζ「そう、ですね……」

消え入るような言葉と共に一度俯くと、デレは機械的な所作で隔壁のバルブを緩めに掛る。
喉につかえた小骨のような罪悪感が、私の胸をチクリと苛む。
“ホルスの瞳”から伸ばした結線ケーブルをしまい終えると同時、デレも全てのバルブを開け終えたようだった。
ドアの解放と同時、室内から通路に土埃が舞い込んでくる。

ζ( ー *ζ「――行きましょうか」

土埃が蔓延する隔壁の向こうを見据えたまま、デレが言う。
厳重なエアロックで封印された先には、夥しい数の培養槽が、林のようにして立ち並ぶ光景が広がっていた。
私は頷きだけを返して、部屋の中に足を踏み入れた。

培養槽の中身は、極力見ないようにした。

796 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:22:14 ID:my4FaQC60

  ※ ※ ※ ※


――乾いた銃声が、湿り気を帯びた廃墟の空気に染み渡った。
俺は瓦礫を蹴飛ばし、足を速めた。
マグライトの頼りない明かりの中で、崩れかかった通路が断片的に浮き上がる。
一歩を駆け抜ける度、床に堆積した土埃と胞子が舞いあがって肌にまとわりつき、気持ち悪い。

(#'A`)「俺の目の届かない所でドンパチやってりゃあ、責任もてねえぞ……」

自分への苛立ちを、タナカへのそれに上書きして誤魔化し、第八特別狩猟区の細い通路を駆け抜ける。
崩れた壁から零れる土砂の山を飛び越え、下り階段を三段飛ばしで踊り場まで。
手摺を掴んで慣性をいなしながら曲がった所で、階下の薄闇の中に、タナカの背中と、その傍らに立つ秘書官が見えた。

(#'A`)「おい、何をしてくれてるんだお客さん。護衛を頼んでおいて、ボディガードを置いてくたあ、どういう根性をしてるんだ?」

全力疾走で上がった息を整えながら、その背中へ近付いて行く。
階下は土砂で埋まっており、タナカはその土砂の上で片膝をついているようだった。

(゚3゚)「ああ、これは済まない。いやはや、獲物を前にするとどうしても昔の血が抑えられなくてね」

振り返ったタナカに、悪びれた様子は無い。
猟銃を小脇に抱えて泥臭い笑みを向けるその様が癪に障り、俺は思わずその場に唾を吐く所だった。

797 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:24:22 ID:my4FaQC60
(#'A`)「――血が抑えられない、ね。あんたは中学二年生かよ」

(゚3゚)「男の子は死ぬまで“男の子”さ」

毒づく俺に、肩を竦めて笑うタナカ。
背後から、遅れてハインリッヒ達が追いつく。

o川;゚ー゚)o「はっ――はっ――」

从 ゚∀从「銃声がしたが、無事か?」

膝に手をつき肩で息をするキュートの傍ら、アサルトライフルを構えて周囲に目を走らせる鋼鉄の処女。

(゚3゚)「観ての通り、さ」

それにタナカは大仰に両腕を広げて無傷を示す。
どこまでも芝居がかって人を食ったその態度に、呆れは振り切りため息も出てこない。

('A`)「観ての通りさ、じゃねえよ。ふざけるのも大概にしろよ。
   こっちはてめえの遊びに付き合う為にツクバくんだりまでやってきたんじゃねえんだよ」

(゚3゚)「まあまあそう言わず。特別狩猟区なんて、滅多に入れるものじゃないんだ。
    せっかくここまできたんだから、君達も楽しんだ方が得だと思うがね?」

('A`)「さっきも言っただろ。生憎だが、俺にはテッポー持って罪も無い動物を追いまわすような趣味は無い――」

そこまで言いかけて、タナカの足元に転がった獲物の姿に気が付く。
瞬間、俺の背中を、名状しがたい悪寒が駆け抜けた。

798 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:25:44 ID:my4FaQC60
(;'A`)「――おい、待て。何だそれは」

二度、三度、瞬きを繰り返して見直す。
目の錯覚では無い。
俺の視線を追ったタナカが、それに気付いて得意気な表情を浮かべる。

(゚3゚)「どうだい、中々の上物だろう?いやあ、これがどうにもすばしっこくてね…追いつくのにてこずったが――」

(;'A`)「てめえの自慢話なんか聴いてねえ。それは何だ、って聞いてるんだよ」

生唾を飲み込む。
知らず、声が震える。
抑えようとして、無駄だと知り、“それ”から視線を逸らそうとして、逸らせない自分に気付く。

(゚3゚)「何って、獲物だよ。“特別狩猟区”限定の、特別な、ね」

にやついた笑みを浮かべて、タナカは“それ”を見降ろす。

薄暗闇の中でもぼんやりと浮かび上がるような白い肢体。
申し訳程度に上半身を覆う襤褸布は衣服の代わりだろうか。
金色の巻き毛、長い睫毛、血走った青い双眸、か細い輪郭、小さな唇、そこから覗く白い八重歯。

ξ ⊿ )ξ

(; A )「そ――な――」

タナカが“特別な獲物”と言いきった“それ”は、記憶の中の彼女と、瓜二つの姿をしていた。

799 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:26:44 ID:my4FaQC60
从 ゚∀从「――どういう事だ、これは」

淡々とした声で、ハインリッヒがタナカに詰め寄る。

(゚3゚)「どういう事って、そう言う事だよ。ここは特別狩猟区。禁じられた遊びを楽しむ為の、特別な紳士の社交場さ」

分かり切った事を何故聴くのか、という顔でタナカは答える。

o川; д )o「ぅ…ぁ……」

目の前に転がる、命が冒涜された事実に、キュートがうめき声を上げる。

从 ゚∀从「自らの楽しみの為に、ヒトの命を殺めるというのか」

鋼鉄の処女は、アサルトライフルの銃口をタナカに向ける。
感情など無い筈のその瞳は、まるで静かな怒りの炎を湛えてでもいるかのようだった。

(゚3゚)「ヒト?これが、ヒトだって?」

タナカはそれに動じる所か、苦笑を洩らした。

(゚3゚)「――なるほど、確かにヒトの形をしている。だがね、君達は少し冷静になるべきだ」

目線で促された秘書官が、“それ”が上半身に纏っていた襤褸布を剥ぎ取る。

(゚3゚)「コレが、果たしてヒトだというのかね?」

露わになった“それ”の右腕は、蛸か、烏賊のそれの如き、うねり、ねじくれた、触腕だった。

800 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:27:39 ID:my4FaQC60
o川; д )o「うっ――!」

正視に耐えがたいその光景に、キュートは遂に壁に手をつき口元を押さえる。

从 ゚∀从「……遺伝子改良か」

あくまで淡々としたハインリッヒの言葉に、タナカは笑みの形に目を細めた。

(゚3゚)「元から“これら”は、この狩猟区で“的”となる為に造られたものだ。
    ヒトの形こそしてはいるが、最低限霊長が持ちうる知性さえ合わせ持たぬ、文字通りの“ケモノ”さ」

そう言うと、タナカは自らが“ケモノ”と評したそれを、爪先で転がして仰向けさせる。
白い腹の周りには、鱗のようなものがまばらに生え、闇の中でてらてらと光っていた。

(゚3゚)「もう一度問おう。培養槽の中で造りだされた“これら”が、どうしてヒトだと言える?
    工場のベルトコンベアから吐き出されてくる、マグロの缶詰と何が違う?」

从 ∀从「貴様――」

(゚3゚)「君達は、それがヒトの形をしてるからと言うだけで、私が“これら”を撃つ事を糾弾しようというのか?
    だとしたら、それは欺瞞だ。偽善だ。偽りの怒りだ。君達は、物事の表面上だけをなぞって、自分が美しいと思うものだけしか見ようとしていない」

眉ひとつ動かさず言いきるタナカ。
ハインリッヒは、そんな彼の言葉に銃のグリップを掴む手に力を込める。
何時もなら、下らない戯言だと斬って捨てるような彼女が、その時だけは、じっと、憎悪を込めた瞳で睨みつけるだけだった。

801 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:28:38 ID:my4FaQC60
o川; д )o「でも…だって…おかしいよ…そんなの……」

壁際でへたりこんだキュートの、嗚咽のような苦鳴だけが、踊り場に虚しく響いている。

俺は、ただ、その場に立ち尽くしていた。

タナカとハインリッヒのやり取りの間にも、ただ、ただ、阿呆のようにして、目の前で物言わぬ骸となった、“彼女”を見つめ続けていた。
“それ”は“彼女”でないと分かっていても、ただ、その視覚的情報を、どう処理していいか分からず、指先すら動かせず、痺れたように固まっていた。

( A )「ぁ――ぁあ――」

頭の冷静な部分が、嘲笑するように囁く。

“おかしなものだな、ええ?自分が一度は殺そうと引き金を引いた女だろう?何をそんなにショックを受けている?”

俺は、何を思えば良い?
俺は、何を為せば良い?
頭が痺れて、何も考えられない。
喉がカラカラだ。肌がひりひりする。胸がむかむかする。気持ち悪い。この場から、消えて無くなりたい。

(゚3゚)「――取り合えずは、それを降ろしてくれないか。私を殺した所で、君達には何のメリットも無い」

やけに冷めたタナカの声で、俺はふっと我に帰る。
気付けば、カスタムデザートイーグルの銃口を、タナカの額に押し付けている自分が居た。

802 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:30:00 ID:my4FaQC60
('A`)「……」

治りかけの傷口から絆創膏を剥がすように、ゆっくりと銃を引いてホルスターにしまう。
よっぽど強く押し付けていたのだろう。タナカの額には、赤く痕がついていた。

(゚3゚)「…理解してくれて有難う。一応、私達は仮のビジネスパートナーだからね。
   君達が乗るにしろ、反るにしろ、商談を宙に放り投げたままでは、片付かないだろう?」

自分の命を引き金の上に乗せられてまで強くは出られないのか。
タナカの声は、僅かに震えていた。

(゚3゚)「だが、君達の反応からして、受けざるを得ないと思うがね。
ここはワタナベの施設で、君達が抱いた“人道的な”怒りは、世の中に公表すれば多くの賛同者を得られるだろうから」

目を閉じ、深く息を吸い込んでから吐き出す。
何か一つ、この腐れ外道に物申して何時もの自分を取り戻そうとした時、遠くで地響きのようなものが鳴るのが聞こえた。

o川;゚ー゚)o「なに……?」

不安気な顔で、キュートが辺りを見渡す。

(-@∀@)「下の方から、ですかね」

今まで事態の推移を見守っていた秘書官が、眼鏡を押さえて足元を見る。
何事か。一同が考えを巡らす間にも、音はどんどん大きくなり、近付いてくる。

803 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:31:14 ID:my4FaQC60
(゚3゚)「まさか、老朽化による落盤か…?いや、しかしまさか――」

タナカが自らの推論を否定した、まさにその瞬間だった。

从 ゚∀从「崩れるぞ!跳べ!」

轟音と共に、天地が逆さになった。

804 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:32:44 ID:my4FaQC60

  ※ ※ ※ ※


――生まれて来てくれて、ありがとう。

駅の構内にある、自殺防止の呼びかけポスターには、良くそんな謳い文句が踊っている。

曰く、貴方の両親は、貴方が生まれて来てくれた事に感謝しているから、貴方にはそれだけで生きている意味があるとか、確かそんな感じだ。

なる程、なかなか上手い言い回しだ。
生まれた事そのものが、誰かに感謝されるようなものだとしたら、この子達も、私達も、きっと幸せなのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「……」

だだっ広い培養区画の片隅で、培養槽の一つを撫でながら、私はそんな事をぼんやりと考えていた。
二メートルはある透明なカプセルは緑がかった培養液で満たされており、
その中では顔も体格も全てが私と瓜二つの女の子が、胎児のように丸まってぷかぷかと浮いている。
少女の口にはカプセルの上部から伸びた太いチューブが差し込まれており、時折そこから空気が漏れては、コポコポという音を立てた。

ξ゚⊿゚)ξ「貴方は、生まれてきて良かったと思う?」

強化ガラス製のカプセルに額を押し付け、返ってくる筈も無い問いを投げかける。
目を閉じ、膝を抱えた彼女は、当たり前のように、黙ってそこに浮いているだけだった。
回りを見渡せば、目の前のそれと同じようなものが、碁盤の目のようにして整然と並んでいる。
皆が皆、生まれて来るだけ生まれて来て、目を覚ます事の無かった私達の姉妹だった。

805 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:34:07 ID:my4FaQC60
ξ゚⊿゚)ξ「私?私は、どうなのかな……」

言っていて、何だか可笑しくなってくる。
どうにも、ナーバスな事だ。デレの影響を受けたのだろうか。
多分、そうなのだろう。
そうなのだと、思っておこう。

ζ(゚ー゚*ζ「……こちらの方の設置は終わりましたわ」

噂をすればなんとやら。
群れなす培養槽の向こう側から、対刃対弾コートの裾をふわりとなびかせ、デレが歩いてくる。

ξ゚⊿゚)ξ「こっちもOKです。後は、退避するだけですね」

事務的に答える私の手元には、タブレット型の携行情報端末(ターミナル)。
タコの足宜しく無数に伸びた配線は、部屋の各所の爆弾に繋がっている。
エンターキーを押して、時間が経てば、ぼん。全てが瓦礫の下に消える。実に、容易い仕事だ。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

デレは、私の元まで来て立ち止まると、傍らの培養槽を、その中の姉妹を見上げる。
蒼い瞳は、培養液の中で浮き沈みする自らの片割れを前に、揺れていた。

ξ゚⊿゚)ξ「短い里帰りでしたね」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

ξ゚⊿゚)ξ「ま、私達が生まれたのはここではないんですけど。
      あちこちにラボを持ってるのは知ってましたけど、まさかツクバの地下にもあるなんてね」

806 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:35:29 ID:my4FaQC60
ζ(゚ー゚*ζ「……」

ξ゚⊿゚)ξ「ノインを最期にアーネンエルベのチルドレン計画も終了らしいですね。
     幾つラボがあったのかは知りませんが、私達の今日のお仕事ので、最期だそうですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「……そう、ですか」

ここで最期、という言葉にデレの瞳が痛々しく細められる。
そこに浮かんでいたのは、安堵だろうか、悲しみだろうか。
どっちにしろ、ひどく壊れやすそうな類のものではあった。

ζ(゚ー゚*ζ「もう、用は無い、ということなのですね」

だから、彼女がそんな言葉をぽつりと零した時、私は胸の奥が締め付けられるような切迫さを感じると同時に、「ああ、やっぱりか」と諦めのようなものも抱いた。

ζ(゚ー゚*ζ「お父様のために生み出されて、お父様のために死に物狂いで尽くして、それで、用が無くなったら、捨てられる」

ξ; へ )ξ「それは――」

ζ(゚ー゚*ζ「分かっているんです。そんな事は。今更、何を言っているのかって…当然のこと。
      最初から、ずっと、それが正しいのだと、それが自分の望む事だとして、生きて来たのですから」

ξ;゚⊿゚)ξ「でも――!」

デレは、ゆっくりと首を振った。
金色の髪が、それに合わせて揺れた。
その時になって私は、初めてデレの髪の方が、私よりも少しだけプラチナブロンドに近い色合いをしている事に気付いた。

807 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:36:58 ID:my4FaQC60
ζ(゚ー゚*ζ「この子達が、何と呼ばれているか、知っていますか?失敗作、です。
      失敗作――ふふ、まるでヒトに対して使う様な言葉じゃありませんよね。
      ヒト未満…人間になれなかったが為に、知性も与えられず、ここで眠り続ける……」

滔々と言葉を吐くデレの顔は、笑いながら泣いていた。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、折角生まれて来たのだから、眠り続けるのじゃ可哀相だと……。
      特別狩猟区――マンハントの的として、お父様はこの子達に役目を――なんと、お優、しい」

後ろの方は、既に声が震えて半分嗚咽になっていた。

ζ( ー *ζ「ワタナベに口を聞いて貰ってここにラボを構えたからには、ワタナベにも還元しなければいけませんものね。
      彼女達は今日まで立派に、我が社への忠誠を尽くしたのですね。それはきっと、大変な幸せ――」

それ以上は、聞いていられなかった。

ξ ⊿ )ξ「――もう、行きましょう」

ζ( ー *ζ「……」

これ以上、彼女の言葉を聞いたら、きっと私は――。

ζ( ー *ζ「――無駄話を、失礼しました」

瞳を伏せ、背中を向けるデレ。
その横で、私はタブレットの起爆コードをざっと確認した後、感情が入りこまないよう一息にエンターを押した。
ホログラフのデジタル時計が浮き上がり、カウントダウンが始まる。

808 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:38:08 ID:my4FaQC60
ξ゚⊿゚)ξ「カウントダウン、開始しました。退避しましょう」

努めて機械的に言い、横のデレをちらりと確認する。
私に背を向けたデレは、フロアの奥、私達が入ってきた隔壁の方をぼんやりと見つめている。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたました?速く、退避を――」

言いながら、自らも視線をそちらに向けて、そこで私は言葉に詰まる。

ξ;゚⊿゚)ξ「――」

ζ( ー *ζ「なんで――」

デレが、私の言葉を引き継いだ。

ξo⊿゚)ξ゚⊿8)ξ@⊿゚)ξ

隔壁の向こう、通路からも溢れ出して、それらは犇めいていた。
金色の巻き毛、蒼い瞳、白い肌、ゲルマン系の顔立ち。
皆が皆、一糸まとわぬ姿の映し鏡達は、しかし、歪だ。

片目が昆虫のような複眼になっているもの、口から山猫のような犬歯を剥き出しにしたもの、両足が鳥類の如き逆足になっているもの、全身がケロイド状になっているもの身体のあちらこちらにまばらに鱗が生えているもの背中からキチン質の触腕をいくつもはやしたもの身体の半分がゼリー状の不定形のもの

ξ; ⊿ )ξ「あ――あ――」

生命を冒涜するその異様。
遺伝子工学の結果、生み出された化け物など、過去に何度も見て来た。
だが、今、目の前に居る者達は、全て、その一部に私の、私達の、面影を残している。

809 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:40:28 ID:my4FaQC60
ξ; ⊿ )ξ「く…ぁ……」

違う。こいつらは、違う。こいつらは、私じゃない。
こんなのは、化け物だ。こんなのは、ヒトじゃない。

だから、早く引き金を。奴らが居ては、退避出来ない。早く引き金を。早く引き金を――。

ζ( ー *ζ「違うっ――」

デレが、跳び出した。

ζ( ー *ζ「違う――私じゃない――私じゃない――」

床を蹴り、両手の指を鉤のように開き、全てを切り裂くモノフィラメントの鋼糸を振りかざして、一直線に群れの中へ、デレが突進する。

ξ8⊿゚)ξ゚⊿o)ξ@⊿゚)ξ

ζ( ー ;ζ「私は――私は――」

接敵より五メートルも前で、先頭の五人の頭が宙を舞う。
振り抜かれた右の手がひるがえり、五つの頭が更に細切れの肉片に裁断される。
首なしの五人が前のめりに倒れ、後ろの“そいつら”が骸を踏み越えなだれ込む。

一気に距離を詰めつつ、左の手を振るう。
後続の七人が、足を輪切りにされ、床に這いつくばる。
デレの指先が蜘蛛の足のようにうごめき、床の上の七人が更に両手と胴をスライスされる。

一刹那、血が流れる暇も無い、無音の殺戮。
“そいつら”はただ、犇めき、足を踏み出し、前へ進むだけで抵抗する素振りも無い。
まるで、殺されることこそが、自らの役目だとでもいうかのように。

810 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:42:23 ID:my4FaQC60
ζ(゚ー゚;ζ「私は――私はあ――!」

群れの中に飛び込んだデレは、叫びながら両手を振るう。
右の手が、左の手が、翻るたび、腕が跳び、足が跳び、胴が細切れになり、人体のスライスが床に転がる。
そこに、何時もの舞うような優雅さは微塵も無い。その姿は泣きじゃくり、だだをこねる幼子のようだった。

ζ(゚ー゚;ζ「私は…違う…違うの…こんなのは……」

際限が無い、とでも言うのか。
何人、何十人とを細切れにしても尚、後から後から湧くように、奴らは通路の奥からまろび出て来る。

ξq⊿゚)ξ○⊿゚)ξ゚⊿#)ξ

奴らは、何もしない。
これだけの殺戮を目の前にしても、なんら反応を返す事も無く、ただ、黙々とその脚を動かし、デレの周りに集まってくるだけだ。
まるでそれは、人を襲わないゾンビの群れのようですらあった。

ζ( ー ;ζ「わた、しは――違うの――本当は、こんな――」

遂に、デレの動きが止まった。
自身が築き上げた“食肉加工場”の真ん中で、両腕を力なく垂らし、立ち尽くした。
唇をわななかせ、虚空を見つめるその瞳に、色は無い。
犇めく異形の姉妹達に囲まれ、彼女は涙を流さず泣いていた。

811 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:43:30 ID:my4FaQC60
ξ;゚⊿゚)ξ「くっ――!」

ここに来て、やっと私は我に帰った。
タブレットの表示は、もう秒読み段階に入っている。
このままでは、爆発に巻き込まれる。
何とかして、あの群れを突破しなければならない。

ξ#゚⊿゚)ξ「デレ!」

腰に下げたマシンピストルを抜き、群れの中心に呼びかける。
返事は、無い。
電池が切れた玩具のように立ち尽くす彼女の瞳は、既に現実を映していなかった。

ζ( д *ζ「わ、た、し、は――」

自分を、殺す。
文字通りのその行為に、耐えることの出来る人間が、一体この世に何人いると言うのだろうか。

デレが、特別弱いのでは無い。
きっと、そんなものに耐えられる方がおかしいのだ。
私達が、そんなものに耐えられると思っている方が、おかしいのだ。

ξ ⊿ )ξ「いいえ、違うわね。別に、壊れたって構わないんだわ。始めから、使い捨ての駒でしか無いのだもの――」

唇を、強く引き結ぶ。
足を踏み出し、異形の姉妹たちに向かって、突き進む。
自分を殺す。
マシンピストルの引き金に指を掛け、力を込めようとして、振りかえった姉妹の一人と、目があった。
私は、引き金を引けなかった。

812 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:44:18 ID:my4FaQC60
ξ@⊿゚)ξ

その子は、右眼が魚のようだった。
瞼の無い、まばたきをしない右眼は、ギョロギョロと動き回り、くまなくあたりを見渡している。

必然的に、私のそれとぶつかったのは、左の眼だった。左の眼は、蒼い宝石のようだった。
知性の無い筈のその瞳は、しかし、言葉以上に、私へ向かって語りかけてきた。

“お姉ちゃん達、どうしてこんな所にきたの?”

“どうして、私達とおんなじ顔をしてるの?”

“どうして、私達をころすの?”

“お姉ちゃん達は、私達と違うの?”

或いは、それはただの思い込みだったのかもしれない。
自らの似姿を前に動揺した私が、勝手に引き金を引けない言い訳をでっち上げたのかもしれない。

ξ@⊿゚)ξ

それでも。
それでも、こんな、邪気の無い、真っすぐな眼をしたこの子を、撃つことなんて、化け物だと思うことなんて――。

813 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:45:43 ID:my4FaQC60
ξ;⊿;)ξ「無理、よ…こん、なの……」

引き金から、指を離す。
マシンピストルを握った右の手が、だらりと落ちる。
魚眼の妹は、不思議そうな顔で私を見つめている。
脳核時計にセットしたカウントダウンの表示が、ゼロへと近付いて行く。

立ち止まれば、死。
生への本能が、残酷なまでに私の足を突き動かす。

ξ;⊿;)ξ「ああああああ!」

眼の前の妹を突き飛ばし、我武者羅に肉の林を突き進む。
床に転がる姉妹の手足につまずいて転ぶ。
血の赤と脂肪の黄色に塗れて、それでも前へと這い進む。
デレは、相変わらず虚空を見つめている。
姉妹たちは、黙したままに犇めいている。
隔壁まで、後少しの所で、カウントダウンがゼロになった。
眩いばかりの爆発が、私の視界をホワイトアウトさせた。

真っ白になった世界で、私は神様に祈った。
一体、何を祈ったのかは、自分にも分からなかった。

814 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 21:46:48 ID:my4FaQC60

 

          Next track comingsoon...

 
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815 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 21:50:57 ID:LwW/M9oM0
おつ

816 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/06(木) 22:01:04 ID:my4FaQC60
■親愛なる読者の皆さんへ■謝罪文■メンターも走る■寒さ■

先ずは、投稿のブランクーが大変大きくなってしまった事について、執筆チーム一同を上げて正式に謝罪したいと思います。

このたびは、大変なご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ありません。

その事について、六日ほど前に、監査チームから、我々がサボタージュをしていたという報告がありましたね?

これは一部の部分では正しいことではありますが、実は正確では無いので少しだけ訂正だ。

先ず、第一に怠けていたのは執筆担当者ただ一人だということです。

構成担当と投稿担当の二人は、コタツでヘイローをやっていましたが、これは自分達の仕事をきちんと終えたからであり、執筆担当者が続くスゴロク=モノポリーに銀行役として参戦したのは、これはただの怠慢でしかないと我々は断じます。

その事について、執筆担当者を問い詰めた所、「だって、僕もヘイローをやりたかったのだ。でもモノポリーで我慢したのだ。コタツはずるい」と言っていたので、間もなくアバシリ研修に送られる事が決定しました。

繰り返しますが、投稿担当者の私は何も悪くないので、執筆担当者を叱責するのがおくゆかしい正義だと思う。

もしも皆さんが街中で監査チームのエージェントウーと遭遇した場合は、真っ先に投稿担当者の無実を訴えて欲しい。

奴らは口から緑色のブレスを吐くかもしれないが、くじけずに信じて欲しい。それが、鋼鉄なんとかの存続に繋がるのです。

(彼女は真顔で書き終えた)


次回の投稿については、アバシリ・プリズンの執筆担当者と密に連絡を取り合い、決めて行こうと思います。ホウレンソウ!

たぶん、にしゅうかんごとかになるとおもいます。

なお、一部でにしゅうかんごが定型句になっているという噂がありますがそんなじじつはないね?

年の瀬ですが風邪などひかぬようにきをつけよう。お腹にラップをまくなどして、各自アタタカミ重点を心掛けよう。

いじょうです。

817 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 22:04:30 ID:brjg7lBM0
アッハイ、そんなじじつはないです
セルフ管理メント重点な

818 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 22:59:33 ID:2hApHgrQ0
田中さんがこんな役回りになるとは、、、

819 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 23:20:41 ID:liMZNxHk0

今回は人間くさかったなあ

820 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 23:25:38 ID:S4Tt6cVs0
乙んξ゚⊿゚)ξ
まさかの田所さん登場と「獲物」の描写で何時も以上にシリアスな雰囲気を味わえた
物語もどんどん加速してるし、俺も明後日から必ず本気出す

821 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 23:42:39 ID:uUYeayKg0


822 名も無きAAのようです :2012/12/06(木) 23:57:17 ID:n32ZN0fs0
おつ
今回田所さん★★★★★★★だな

823 名も無きAAのようです :2012/12/07(金) 00:53:39 ID:bitAm54w0


824 名も無きAAのようです :2012/12/07(金) 21:19:36 ID:O3hJBPiw0
久しぶりの田所さん成分たっぷりで嬉sキューちゃん可愛いよキューちゃん

825 名も無きAAのようです :2012/12/09(日) 16:34:41 ID:jQMh0CrU0
今まで形而上の存在でしかなかった田所さんがついに・・・

826 名も無きAAのようです :2012/12/27(木) 14:14:09 ID:C3aROkVo0
マダー?

827 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:00:57 ID:GkMYTiMc0
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828 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:03:45 ID:GkMYTiMc0

【倫理観】01010101011100【接続先確認】

0101010010100【未承認】01010101

01000【不正な】01010101001【ホスト】

001101010【断線優先】01101010011

【ワッザ】010101110101010010001

【アロー】01010【アロー】01100【アロー】0

829 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:06:45 ID:GkMYTiMc0

  ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
  ┃                       ┃
  ┃ WAT@NAB Ё NTERTAINMENT ┃
  ┃                       ┃
  ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆

830 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:09:53 ID:GkMYTiMc0

   WAT@NAB Ё NTERTAINMENTプロデュース

   ◆大みそかだよアイアンメイデン 特別スペシャライズ◆

       从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

          〜of the dead〜

831 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:19:06 ID:GkMYTiMc0

:前回までのあらすじ:

ある日、何時ものようにブーンの家を訪れたシュールは、新しいソフトを開発したと豪語する。

それは、電脳空間を介して、人々の脳内に感染し、理性を奪い、三の倍数の時だけシュールになる狂気の電脳ウィルス兵器、Sウィルスだった。

冷めた目で見つめるブーンに、シュールはその効果を知らしめてやると豪語、ネットの海にSウィルスをばら撒いてしまう。

――24時間後。VIPの街は火に包まれ生きる屍が闊歩し始める!

ウィルスの意図せぬ効果が人々を化け物に変えたのだ!ゾンビ達の楽園での、命をかけたサバイバルが始まった!

832 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:23:49 ID:GkMYTiMc0
――ドカーン!ドクオの背後でバスがガス爆発した!

(#'A`)「クソ!クソ!クソッたれえええ!死ね!死ね!ダーイ!」

カスタムデザートイーグルを乱射するドクオ!BLAM!BLAM!ゾンビの頭が弾けてスプラッシュ!
腐ったトマトのような血肉の塊がドクオに降り注いだ。ドクオはくしゃみした。

「アバー…アバー…」

ゾンビ達の大群に切りは無い。一体を殺した所で、焼け石に水だ。

(#'A`)「畜生…!なんだってんだ…なんだってんだよー!」

ドクオは叫んだ。叫んで走り出した。
一体どうしてこんな事に?昨夜までは今まで通りの日常だったのに。
屍達は、呻き声を上げるだけで答えてはくれない。

833 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:26:26 ID:GkMYTiMc0
从 ゚∀从「やったな、ドクオ。貴様にもついに友達が出来たじゃあないか!」

何時もの仏頂面は何処へやら、満面の笑みを浮かべてハインリッヒがドクオの横を並走する。
時折肩越しに振りかえり、彼女は後方のゾンビの群れに腕のネイルガトリングをばら撒く。
ゾンビの先頭集団の一体が転んだ。

(#'A`)「ああ全くだぜ!嬉しすぎて悲鳴を上げちまう所だ!畜生!ファック!ファック!マザーファッカー!この街は狂っちまったのか!?」

ドクオが叫び返した。彼は昨晩、アメリカの映画を観ていた。

从 ゚∀从「狂っているのは何時もの事だろう。いや、もしかしたら狂っているのは私達かも」

CABOOM!二人の背後でタンクローリーが爆発!熱波に煽られたゾンビの大群が、肉片となってドクオ達に降り注ぐ。

从 ゚∀从「ともかく走れ!折角沢山友達が出来たんだ。フジサンの頂上でおにぎりを食べるまで、死ぬわけにはいくまい」

ドクオは舌打ちをして足を速めた。未だに頭は回っていなかった。

834 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:28:09 ID:GkMYTiMc0

 

――同時刻。ニーソク区万魔殿。

835 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:29:46 ID:GkMYTiMc0
SLAAAASH!一刀両断!五つの生首が一斉に宙を舞う!

(,,゚Д゚)「ふんっ、つまらぬものを切ってしまった」

日本刀型振動実剣を振り抜いたままの姿勢で残心を終えると、ギコは目を閉じ呟いた。彼は昨晩昔のカートゥーンを観ていた。

「アバー…アバアババー…」万魔殿は既に死者の行列でごった返していた。ここは他の区画よりもゾンビの進行が早かった。

二時間前、ギコは目を覚ました。
同時に、彼の踵に齧りつこうとした眼鏡男性の頭を蹴り飛ばし、自らの塒を飛び出していた。
持ってこれたのは、日本刀とシィの写真だけだった。

836 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:32:08 ID:GkMYTiMc0
(,,゚Д゚)「さて、寝起きの運動もそろそろ切りあげるべきか――」

ゾンビ達の大群の中で彼は身を撓めて跳躍。死人の頭の上を、飛び石を渡る様にして蹴って跳ぶ。
この異常事態の中にあって、彼は驚くほどに冷静だった。
何を為すべきかは分らないが、さしあたってすることは決まっていた。

(-@∀@)「アバー……」

ビルの上から落ちてきた眼鏡男性のゾンビの顔面を裏拳で破壊しつつ、ギコはひと際高く跳躍。ビルの壁を蹴り、反対側へ。
再び壁を蹴り反対側へ。三角飛びの要領でビルの頂上にたどり着くと、彼は周囲を見渡した。
ビルの頭と頭の間、あちこちから火の手が上がっている。

837 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:34:06 ID:GkMYTiMc0
(,,゚Д゚)「この世の終わりか?」

目当ての建物を探して視線を左右させる。
ニューソク総合病院のクリーム色のコンクリートのシルエットを発見。視覚を望遠モードに切り替える。
中古品なので解像度はあまり良くない。

……ダメだ。ここからではよく見えない。

(,,゚Д゚)「…ちっ」

小さく舌打ちすると、彼はビルの縁を蹴って宙に飛び出す。

(,,゚Д゚)「無事でいてくれよ…」

夜色の強化外骨格のヘッドピースが展開し、その顔を覆った。
漆黒の虞風が、死者の大群の頭上を駆け抜けた。

838 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:39:38 ID:GkMYTiMc0
アカウントハッ01ング?何を1010ているんだねキミィ!010101

01010角ダメだ!こんな01のは許10出来ない!0101101010101010

おい、カメラを止め01いい01ら!は01く!01010おい!01010010

わ0しはなにも聴いていないぞ!ふざけるな!0101010010010010

この作品のライターは僕だ!こんなのもはいますぐ01010100101

839 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:41:01 ID:GkMYTiMc0

 

※生放送のため、アクシデンツが多発しています。しばらく、そのままでおまちくだちい※

 
.

840 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:49:24 ID:GkMYTiMc0

 

――そして時間は前後する!ギコの覚醒よりも数時間前!ニーソクの外れ!

 
.

841 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 21:55:02 ID:GkMYTiMc0
(;^ω^)「はあー…!はあー…!はあー…!」

拳を口にあて、飛び出しそうになる悲鳴を我慢して、ブーンはただひたすらに耳を塞いだ。

「アバー…アバー……」

アルミラックと電子機器で塞いだ即席のバリケードの向こう側から響いてくる、呪われた亡者たちの声。
薄ら暗い八畳間を照らす、情報端末(ターミナル)のモニタの仄白い燐光。

――どんどん、どんどん。

ひっきりなしにドアを叩く音は、二時間前から鳴りやむ気配は無い。

もうやめてくれ。

既に、ブーンの精神は限界に近かった。

842 名も無きAAのようです :2012/12/31(月) 21:59:23 ID:jYu.o/k60
作者のあとがきが意味不明な作品だと思ってたけど
忍殺知った後だと違和感なく読める不思議
つーか影響受けすぎだろ!

843 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 22:01:38 ID:GkMYTiMc0
(;^ω^)「どうしてこんなことに……」

きっかけは、彼の先達が作りだした、一つのウィルスソフトだった。

人間の電脳核に感染し、三の倍数の時だけシュールになるという、ジョーク・ソフト。

そんな、取るに足らない、子供だましのウィルスが、まさかこんな事態を引き起こすなどとは、恐らくは製作者本人ですら意図していなかっただろう。

(;^ω^)「と、とにかく、この事態を何とかしなきゃ――」

ウィルスは、感染者の脳核内メーリングリストを参照し、ネズミ算式にその領土を広げて行く。
このまま放っておけば、遠からぬうちに、世界中がゾンビの大群で溢れかえってしまうだろう。
その前に、何とか手を打たなければ。

844 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 22:07:50 ID:GkMYTiMc0
(;^ω^)「ワクチンソフトを…その為には……」

生唾を飲み下し、ブーンは自室に唯一の、今は塞がっているドアを見やった。

「アバー…アバー…アバー……」

呻き声、絶叫、金切り声、飢えた獣たちが上げる、地獄めいたしらべに合わせて、ドアが軋む。

正面から出た所で、奴らのランチになるのは目に見えている。

ブーンは首を巡らせ、天井の隅の換気扇を見上げた。

(;^ω^)「や、やるしか…ないのかお……」

845 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 22:11:07 ID:GkMYTiMc0

 

そして時は戻りニューソク区!センターアーケード、中華街!

 


846 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 22:28:12 ID:GkMYTiMc0
BLAMB!BLAMB!BLAMB!

BLAMB!BLAMB!BLAMB!

二丁の拳銃が代わる代わるに上下する!一対の龍が、立て続けに咆哮する!

<ヽ●∀●>「スイカ撃ちってとこか、これは。夏場に買ってきたまま、忘れっちまってたんだろうな。まあまあ、随分と熟れていやがる」

ゾンビの頭がクラッシュ!スプラッシュ!エクスプロッシブ!
顔に飛び散った脳漿と腐汁を袖で拭い、ニダーは窓ガラス越しに眼下の通りを見降ろす。
常日頃から人混みでごった返す中華街の大通りは、何時も以上に大盛況といったところだった。

<ヽ●∀●>「長生きはしてみるもんだな、バオ。この店のクソ不味いペキンダックも、今日ばかりは品切れ必至だ」

くるくるとガンスピンを決めて二丁拳銃をホルスターにしまうと、ニダーは中華式テーブルの向かい側に向かってうそぶく。
チンジャオロースの更に突っ伏した彼の部下は、それに唸り声で返事を返して顔を上げた。

「アバー!」

ジーザス・クライスト!チリソースで真っ赤に塗れた部下の目に理性は無い!Sウィルスのしもべ!

エビの尻尾が引っ掛かった歯を見せ、ニダーに襲いかかる!

847 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 22:40:17 ID:GkMYTiMc0
BLAM!

銃声は一発。ズンビーモンスターの額から、遅れた様に流れだす脳漿。
バオと呼ばれた中華マフィアは、糸が切れた様にして豪奢なソファーに再び沈んだ。

<ヽ●∀●>「やれやれだ。たまの休日にランチと洒落込もうと思えば、まったく……」

丸サングラスの下から、ニダーは店内をぐるりと見まわす。
中華料理店「凪々」の中で、息をしている者は既に彼以外に存在しない。
五人いた部下も、順繰りにズンビーと化し、今、最後の一人をニダーがケジメし終えた所だ。

<ヽ●∀●>「アポカリプス・ナウ、ってところか。地獄も遂に定員オーバーかよ」

懐から葉巻を取り出し火をつけると、不味そうに吸って脚を組む。
ひしめく亡者たちの群れの中で、彼は紫煙をくゆらせ一服をつけると、目を閉じた。
取り合えず、良い案が浮かぶまでは、ペキンダックでもつまんでいよう。そう、思った。

848 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 22:43:52 ID:GkMYTiMc0

 

――所変わってラウンジ区とニューソク区の境目。

 
.

849 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 22:55:50 ID:GkMYTiMc0
ごうごうとビル風が吹き抜ける。
それに負けじと、亡者たちの絶叫がこだまする。

「アバー!アバー!アバアーアー!」

短距離走者のようなフォームで全力疾走してくるその男の顔は、所々皮膚が破けて皮下の筋繊維が露出している。
腐臭漂う大口を開け、声の限りに絶叫するその男の首が、

ぽーん、

唐突に、宙を舞った。

ζ(゚ー゚*ζ「――ええと、これで、何体目でしたっけ?」

スライディングするように崩れた亡者から視線を外して、デレは傍らの姉に問い掛ける。
黒いライダーグローブの先から伸びるモノフィラメント・ワイヤーは、その間にも休まずに背後の亡者達の四肢を切り刻み続けていた。

ξ゚⊿゚)ξ「50…7、8?たしかそこら辺。あんた、覚えてる?」

ζ(゚ー゚*ζ「わたしは30からは数えて無いですね」

ξ゚⊿゚)ξ「あっそ」

興味無さそうに鼻を鳴らし、ツンは再びスコープに目をつける。
地上500メートル超。モノリスVIPの頂上部、展望台のフェンス越しに、彼女は黙示録と化したVIPの街を見下ろしていた。

850 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:08:48 ID:GkMYTiMc0
ζ(゚ー゚*ζ「それで、わたしは何時まで死体さん達のお相手をしていれば宜しいのでしょうか?そろそろ腕が疲れてきたのですが」

欠伸混じりに言うデレ。
彼女の背後で、四人の亡者が、それぞれ胴、手脚、頭、頭、を細切れにされて転がった。

ξ゚⊿゚)ξ「知らないわよ、そんなの。ターゲットにでも聞いたらどう?」

今度はスコープから目を離さず、ツン。
横倒しになったトレーラー。炎上するバス。死体に群がる“元死体”。
彼女の意識は、それらの間に目的の人物を探して走る。

ξ゚⊿゚)ξ「任務が最優先。社訓にも書いてある。そうでしょう?」

ζ(゚ー゚*ζ「まあ、そうですね」

ξ゚⊿゚)ξ「なら、引き続き後方援護をお願いね」

ζ(゚ー゚*ζ「……はあ」

得心がいかない顔のデレ。
それに構う様子も無いツン。
モノリスVIPの頂上、死者に周りを囲まれた中、二人はまた再び長い待ちぼうけの時間へと戻って行った。

851 名も無きAAのようです :2012/12/31(月) 23:10:22 ID:RZ/aBASk0
まさかの大晦日投下とか作者のかがみや

852 名も無きAAのようです :2012/12/31(月) 23:10:30 ID:Xewlep1I0
ニダーのセリフかっこいいなー
支援

853 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:13:23 ID:GkMYTiMc0
※※※※※※※※※※※※※
※最新鋭のテクノロジー!※
※※※※※※※※※※※※※


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 ※ビジネスシーンの先を行くガジェット!※
 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※これ一つで、オフィスが変わるんですって!?※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


   ※※※※※※※※※※※※※※※※
   ※沢山のリピーター、信頼の実績※
   ※※※※※※※※※※※※※※※※


         ※※※※※※※※※※※※※※
         ※ユビキタス社会の強い友※※

854 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:17:34 ID:GkMYTiMc0
ターターター トゥイットゥー トゥートゥー


从'ー'从「紙媒体の重要書類も、大事に守ります」


ワタナベの、シュレッダー。

オフィスに一つ、アナイアレイター。

シュレッダーは、アナイアレイター。

貴社のビジネスシーンを、よりよりものに。

ワタナベ・オフィス・マネジメントです。


ターターター タータター タララー

855 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:19:12 ID:GkMYTiMc0
※CM終わり※

856 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:26:37 ID:GkMYTiMc0
0110おい、なんだ今のテロップは。用意していたのと違010

知りま0101せん、僕じゃないですよ0101010

多01010分、カンペ010101と間違えたんじゃ010101010

010111ええい、うるさい、いいから投稿だ01010このままだと10100

年越しに01010間にあわぬ0101010執筆チーム共が嗅ぎつけるのも時間の01010101101110001

やっぱりやめましょうよ!こんなの無謀だったんです!年末にスレッド―・ジャックなんて!僕達には!

ええいうるさいうるさい!ダマラッシェー!0101011

良いから貴様は黙って続きを書けばいいのだ!ほら、キリキリタイピングしろー!

0101011010101010110011011010

857 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:29:23 ID:GkMYTiMc0

 

          WATANAB Ё NTERTAIMENT

        从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

            †of the dead†

 
.

858 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:33:57 ID:GkMYTiMc0

 

―― VIPの街。何処とも知れぬ、闇の中……。

 
.

859 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:36:31 ID:GkMYTiMc0

 

※ソバ・インシデント発生の為、投稿が遅れています。まっこと御迷惑なことだなあ※

 
.

860 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2012/12/31(月) 23:57:13 ID:GkMYTiMc0
0101010101もうダメだ!年越しまで間にあわない!0101010101

いったいどうするんですか!?010101我々はセプクはいやだ!010101

010110うるさい!うるさい!今考えている!01010101

くそ…こうなったら、先にエンディングを投稿してしまえ!0101010

え、でもそんなことしたら!0101010101

ダマラッシェー!なせばなる!評価は後からツイテクル!0101010

ダメです!もう、年が明けます!0101011011100110

010101アイサツだ!アイサツをせよ!0101010キンガシンネン…0101010

だから僕は止めようって01010101カガミモチ010101101010110

カドマツ010101010アー!もう間にあいません!アー!0101011010

861 名も無きAAのようです :2013/01/01(火) 00:06:48 ID:THfNiPQU0
あけおめ!

862 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 00:10:32 ID:/7jGMROU0
ドーモ、親愛なる読者のみなさん、執筆チームです。

先ずは、新年のご挨拶から。

アケマシテオメデト!

昨年は大変お世話になりました。足かけ四年弱にも及ぶ本作ですが、今年も変わらぬご愛顧のほど、宜しくお願いいたします。

みなさまのニューイヤーズデイが、コトダマに包まれたものでありますよう、心からお祈りしております。


さて、挨拶はここまでにしまして、数時間前に執筆アジトの投稿用UNIXが不明勢力によりアカウントハッキング―のインシデントだ。

これだけ大規模なハッキングー・インシデントは執筆チームとしても稀に見るものであり、復旧まで時間が掛ってしまいました。

だがだいじょうぶ。我々の名を騙ってロウゼキ・ギルティを働いた与太者はしまつしました。具体的にはハゴイタ・スープレックスで構成担当者がやっつけた。

現在、このテロリスト達はチャブの前でぜんいん正座している。

当初は、アバシリ・プリズン行きを免れないと思われたテロリストたちですが、彼らはいいました。

「だって、大みそかの夜にはカートゥーンはスペシャライズな特番を組むのがニホンの伝統だったじゃないか!」

「僕達も、オショーガツ特番が見たかったのだ!」

かれらのいいぶんをもっともとし、じょうじょうしゃくりょうのよちありとみなした執筆チーム一同は、もう少しだけ、彼らに筆を任せてみることにしました。

引き続き、从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです of the dead をおたのしみください(本エピソードは、本編とは一切何のかんけいもありません)

尚、監査チームにはこわいのでないしょにした。

863 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 00:15:20 ID:/7jGMROU0

 

―― VIPの街。何処とも知れぬ、闇の中……。

 
.

864 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 00:26:48 ID:/7jGMROU0
四方の壁を、無数のモニターが埋め尽くしていた。
天井すらにも設置されたそれら以外、部屋にはこれといった調度品の類は見当たらない。
手狭な中にも、不思議と殺風景な印象を与える、それは、そんな一室であった。

(´・ω・`)「おやおや、外は随分と面白い事になっているようだね」

しょぼくれ眉の男が、モニターの一つを眺めながら、薄い笑いを浮かべた。
全自動リクライニングチェアに腰かけた男の傍らには、真っ黒な西洋喪服を纏った妙齢の美女が、もたれかかるようにして立っていた。
二人の手には、おちょこが握られ、中はアマザケで満たされていた。

川 ゚ -゚)「流石は年の瀬。ニホン人はお祭り好きと言いますが、皆さん大変楽しそうですね」

手元のおちょこから一口、黒髪の美女は何処からか取り出した蕎麦を
啜る。
おあげはカリカリであった。

(´・ω・`)「そう言えば、もう年が明けたね」

川 ゚ -゚)「そうでしたね。アケマシテオメデトウゴザイマス、マスター」

(´・ω・`)「ああ、明けましておめでとう。今年もよろしくね」

二人は顔を見合わせ、くすくすと笑い合うと、再びモニターに目を戻す。
モニターの中では、燃え盛る街と、そこにしんしんと降る黒い雪。
そして、それらを背景に、ふらふらと行進する、物言わぬ死者の列が映っていた。

865 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 00:31:03 ID:/7jGMROU0
(´・ω・`)「さて、特等席で観劇、というのも悪くないが、それだけじゃ退屈だな」

しょぼくれ眉の男は、懐から怪しげなスイッチを取り出す。

(´・ω・`)「少しだけ、味付けでもしてあげるとしようかな」

冗談めかして、男はスイッチを押す。
傍らで、女がクスクスという笑いを漏らした。

866 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 00:32:24 ID:/7jGMROU0

 

――そして、再びカメラは彼らに戻る……。

 
.

867 名も無きAAのようです :2013/01/01(火) 00:33:54 ID:IvFv0PUgC
あけおめです!

868 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 00:43:13 ID:/7jGMROU0
病院の中は惨劇であった。
血の赤と、脂肪の黄色、臓物の黒、奇天烈な色彩の中で、死者達は黙々と饗宴に興じていた。

(;'A`)「くそ…やっぱりここもダメか…!」

飛び越えたストレッチャーを倒してバリケードにし、ドクオは毒づく。
隣のハインリッヒが、近くに転がっていた車いすを手早く拾うと、即席のバリケードの山に加える。

从 ゚∀从「この街で、既に安全な所など無いと思った方が良いようだな」

死者の群れが、横転したパトカーを乗り越え、病院の玄関へとなだれ込んでくる。
バリケードを築く二人の手が早まる。

賢明なる読者の諸兄には気になっている事だろう。

一体どうして彼らが病院の中に居るのか?

(;'A`)「下痢止めを手に入れたら、こんな所さっさとずらかろうぜ。長居するような場所じゃねえ」

ファッキン・クライスト!
この地獄の釜がひっくり返った事態の中でも、生理現象とはやってくる!
裏を返せば、それが彼が生きているという証でもあるのだ!

869 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 00:51:50 ID:/7jGMROU0
从 ゚∀从「ふん、糞そのものが腹を下すなど、どこの世界のジョークだ?それとも貴様は新種の宇宙生物か何かか?」

(#'A`)「やかましい!だったらキミの前で漏らしてやろうか!」

悪態をつきあいつつ、二人はガラスの砕けた薬品棚の中を漁る。

そんな時だった。

「誰か…助けて……」

('A`)「おい、今の――」

从 ゚∀从「ああ、確かに聴いた。こっちだ」

闇の中から響く微かな声。それと共に、衣擦れの音。
赤い眼を研ぎ澄まし、ハインリッヒは薬品庫を横断する。ドクオもまた、それに続いた。

870 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 01:01:20 ID:/7jGMROU0
('A`)「ここ、だな」

从 ゚∀从「ああ、そうだな」

二人は、女子トイレの個室の前で揃って脚を止める。
薄い木の板一枚の向こうからは、人の気配。
ドクオは、どくさくに紛れて女子トイレに入った事で、少しどきどきしていた。彼はこっそり携帯端末で動画を撮っていた。

从 ゚∀从「気をつけろ。“ヤツら”かもしれぬ」

扉を見据えたまま、ハインリッヒはネイルガトリングの発射機構を起動する。
低周波のような微細なアイドリング音が、薄暗い女子トイレの中に響く。

('A`)「いっせーのーせでいくぞ。いっせーのー」

ドクオが言い終わらぬうち、扉を勢い良く開け放ち、ハインリッヒは指先に空いた五つの銃口を個室内に向ける。

从 ゚∀从「フリーズ!」

(*;ー;)「ひ、ひぃ!?」

871 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 01:02:52 ID:/7jGMROU0

 

※スシ切れインシデントが発生したため、コンビニへ行く。カガミモチも買ってくる。わかったか?※

 
.

872 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 01:36:28 ID:/7jGMROU0

 
           【IRON MAIDEN】

 
.

873 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 01:37:52 ID:/7jGMROU0

 

――その頃、二ーソクの裏路地にて。

 
.

874 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 01:44:47 ID:/7jGMROU0
ひっくり返ったポリバケツと、吐瀉物なのか血だまりなのか分からない汚らしい赤黒い水たまり。
あちらこちら、散乱するのは死体とゴミと臓物片。
ともすればそれは、ニーソクの裏通りでよく見かける光景であるとも言える。
ただ、今日は、その量が少しばかり異常なだけだと、言ってしまえばそうなのかもしれなかった。

(;^ω^)「どうして、僕が、こんな――」

全力疾走の後の荒い息を整えるべく、ブーンは両膝に手をつく。
ここ数十分は、リアル・ボディのままならさに辟易し続ける時間だった。
本来ならば、あの穴倉のような自室から、手近なドロイドをジャックして済ませる“お使い”であるのだが、
ネットが落ちてしまった今、こうして自分の両足を酷使しなければならないというわけなのだった。

875 名も無きAAのようです :2013/01/01(火) 01:51:02 ID:OZfC7dtE0
寝る前にふらっと立ち寄ってみたら、特別編の投下が来ているだと……
支援して眠ろう

876 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 01:58:54 ID:/7jGMROU0
(;^ω^)「大体、ゾンビが走るなんて聴いてないお。そんなもん、ゾンビじゃねーお」

ここまで来る途中、幾度となく遭遇した死人たちの顔が、ブーンの脳裏を過る。
野獣のように飢えた咆哮。白濁して、まばたきを忘れた眼。
血に塗れ、両手を突き出してふらふらと歩いていた奴らは、ブーンの姿を認めるや、まるでマシラの如き勢いで突進してきた。
一体、Sウィルスは人体に如何な変化を齎したと言うのだろうか。

(;^ω^)「シュール先輩…あんた、本当にとんでもない事をしてくれたお……」

通りの向こうで“御馳走”を貪る亡者達を、ゴミ焼却炉の陰から見つめながら、ブーンはため息をつく。

彼には、一つの希望しか無かった。

即ち、ウィルスの開発者ならば、ワクチンソフトを所有している筈だと言う、当然ながらの考え。もしくは、希望的観測。

(;^ω^)「一体、何処に居るんだお……」

ネットがダウンしたことで、知己との連絡のとりようが無い。
それは、彼の先達も例外では無かった。
幾ら科学が進歩しても、こんな時に役に立たないのでは、何が電子の王か。
この事態が収束したら、暫くはネットを控えよう。ブーンは心の中で静かに誓った。

877 執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ :2013/01/01(火) 02:10:52 ID:/7jGMROU0
そうこうしているうち、通りの向こうで晩餐に興じていた亡者たちが、食事を終えてぞろぞろと立ち上がり始めた。
緩慢な動作で首を巡らし、新たな獲物を探すその様子に、底無しの食欲を見てとり、ブーンは薄ら寒い思いを感じる。

(;^ω^)「見つかる前に、動いた方がよさそうだお……」

出来るだけ音を立てないように姿勢を変えると、直ぐにでも走りだせるよう膝に力を入れつつ中腰をとる。
亡者たちが立ち去るのと同時に駆け出すつもりで、焼却炉の陰から顔を出して様子を窺う。

ずしん、と地響きがしたのは、その時だった。

( ^ω^)「――?」

何処かで車が爆発でもしたのだろうか。
まるで、ブーンの思考をトレースでもしたように、亡者の一体が路地の暗がりへとゆらゆら歩いていく。
引きずるような足並みが、新聞紙を踏んで影に一歩踏み込んだ瞬間だ。

突然、その姿が消えた。

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