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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

117 丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:32



いち、にー、三、四五…六人。


 B・T・Bの心拍ソナーに反応する、『敵意』と『緊張』のビート。
まとまりの無かった思考を、一つにまとめていく。

(御主人様…!)

(んー…何でばれちゃったかな?)

(決まっているでしょう!彼が…二郎様が密告を!)

(けど、変でしょ?B・T・Bの『心拍感知』でも、二郎の鼓動に嘘は無かったんだよ?)

(しかし、他には考えられません。この一ヶ月間出歩いてはいませんし、盗聴の気配もありませんでした。
 そもそも、『心拍感知』とて絶対誤魔化せないような物では無いのですよ?)

(…二郎は、ちゃんと私達の信用に答えてくれるよ。B・T・Bだって言ったでしょ?裏切る事などあり得ない、って)

(あの時と今とは違います。人間は心変わりをする者…失礼ながら、私には信用できません。
 彼は波紋使いですし、付き合いも短い。信用を置くには足りないように感じます)

(じゃ、賭けようか)

(はい…!?)



「ね、二郎…」
「ん?」
 ぽん、と二郎の胸に、掌を置いた。
「信用してるから、ね」
「…んん…?」
 不思議そうな顔をして、二郎が首を傾げた。
演技と言えばそうも見えるし、本気と言えばそうも見える。
「信用…?何のこ」「ぅおりゃっ!」
 皆まで言わせず、二郎の胸に置いた手をシャツごと握りしめた。
そのまま胸ぐらを掴む形で、ベッドの下へと放り込む。
「わっ!?」

  パギャァンッ!

 まず聞こえたのはガラスの割れる、硬質な音。
同時に、シャマードがもんどり打って倒れた。

  ―――ァァァン―――

 次に、少し遅れての銃声。
音速を超えた弾丸…ライフルによる狙撃。

118丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:34
 イェア
『Yearー!命中!』
「了解。…総員、突入!」
 ギコの声に、後ろに控えた兵士達がドアを蹴破り、
「ノックにしちゃ乱暴だね」

 何事もなかったかのように立ちふさがるシャマードに出くわし、硬直した。

「九六七メートル…残念でした」
 ころん、とシャマードの手の中から、ひしゃげた弾頭が転げ落ちた。
「次は三〇〇〇メートル以上から当てることだね」
 呆気にとられる戦闘の兵士の胸板に、ほどよく手加減した蹴りが吸い込まれる。
狭い玄関では、必然的に一列に並ばなくてはならない。
 蹴り飛ばされた兵士が後ろの者にぶつかり、「え、うわっ」
更にその後ろを巻き込んで、「ちょっ、え、わ」
一塊りにアパートの階段を「あああぁぁぁぁ…」転げ落ちた。

(いや…まだ!)
 ととっ、と軽い足音をたてて、転がる兵士達の頭を踏みつけながらギコが二郎の部屋に飛び込んできた。
夜の吸血鬼に正面から向かっていく事など、正気の沙汰ではない。
 リィィィィィッ
「Ryyyyyy!」
 甲高い声を上げて、変質した右腕を構える。
スタンドは生命エネルギーの固まり。命を喰らう吸血鬼の腕ならば、無傷のままで無力化できる。
どんな能力を持っていようと関係ない。胸のど真ん中に爪を突き立て、吸う。それだけでいい。
 シャマードが跳ぶ。重力を感じさせない動きで床を壁を天井を跳ね回り、スタンドの心臓目掛けて右腕を突き出した。

  ―――――胸部・解放。

 スタンドの体中を覆っていたベルトが、胸の部分だけばしりと外れる。
それを見て、二郎の顔色が変わった。
 かまわず腕を突き出そうとするシャマードに、二郎が『スタンド』の声で叫んだ。
『触るな!』
「っっっっっとぉ !!」
 なんだか判らないがとりあえず、慌てて抜き手に構えた右手を引っ込めながら方向転換。
床の上をくるりと一回転しながら、再び間合いを取る。
「胸部、再封印。左腕部・両脚部、解放―――良い反応だ」
 ち、とギコの口から漏れる小さな舌打ち。
彼の呟きに反応して、スタンドを覆うベルトが蠢いた。
 むき出しになった胸を再び隠し、背中に拘束されていた左腕と両足が解放される。
                       デューン
「知られても構わないから教えるが…『砂丘』の能力は強い。ほぼ一撃必殺だな」
 だだっ、と解放された両足で『デューン』が走った。
戦法も何もない獣の構えで、左の掌を打ち下ろす。
「うわっ!」
 シャマードの反応は早い。逆に『デューン』の方へと走り、床を転がって掌をやり過ごす。
空振ったデューンが数歩たたらを踏み、アパートの壁に手をつき…

  ざあっ。

 …手を触れた部分の壁が、灰色の砂に分解された。
「能力は簡単。『物質の風化』だ」

119丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:40

「…だったら触らないっ!」
 手近にあったビール瓶を拾い上げ、振りかぶって投げつける。
大リーガー並の速度で投げ放たれたビール瓶が回転しながらギコへと向かい―――

「う゛ぁあっ!」

  さっ。
                 デューン
 ―――拘束具だらけの女性に阻まれ、あえなく風化した。
「止めておけ。コイツは俺の言う事を殆ど聞かんが…
 主人が死ぬのは困るんだろうな。俺を守る事は何よりも優先する」
「…んのヤロッ!」
 軽々と鉄のベッドを持ち上げて、更に投げつける。
立ちはだかったデューンに阻まれて、全て風化してしまうがこれで良い。
 一瞬の隙をついて、窓をぶち抜いたシャマードが道路へ飛び降りた。

「追え!ニローンは拘束だ」
 てきぱきとしたギコの指示に、蹴り出されていた兵士の一人が拘束具を取り出した。
「ギコ…」
「抵抗するな、ニローン。殺したくない」
「シャマードは…違う」
「違わない。吸血鬼である限り、彼女は私の敵だ。殺さなくてはならない…連れて行け」
 二郎の言葉にも、ギコは取り合おうとしない。
拘束されたまま、両腕を捕まれてずるずると引きずられていった。



   一九八四年 四月十日 午前二時三十八分


 革製の拘束具で後ろ手を縛られ、二郎は椅子に座らされていた。
『フルール・ド・ロカイユ』は、石の花を作り出すスタンド。有機物に対しては同化できない。
 ご丁寧に、壁も床も檻も全て木製。椅子も床に固定されているので、まったく動けない。
「手錠だったら余裕で脱獄できたんだけどなー…畜生、古臭い方法を。眠れる奴隷への憧れが開花したらどうしてくれる」
「その時はその時だ。諦めろ、ニローン」
 真面目くさった彼の物言いに、二郎が溜息をついた。
「大体こんなガッチガチに縛りやがって。小便はどうするんだよ」
「朝までにはケリが付く予定だからな。悪いがそれまで我慢してろ」
「いや…別に今すぐしたいわけでも無いんだけどな」
 かすかに笑いを含んでいたギコの声色が、真面目なものへと変わった。
「…それより、何故吸血鬼などを庇い立てした?『波紋使い』であるお前が」
               オ ヤ ジ
「『波紋使い』っつっても茂名 初は何にも教えてくれなかったしな…関係ないだろ?お前さんには」
「…言っておくが、吸血鬼と人間が共存するなど無理な話だ。
 使用者をこの世に縛り付ける『石仮面』の呪い―――
 『人食い』と『不死』の呪縛にとらわれた化け物だぞ」
「アイツは違う。人も喰わないし、日光も平気だ」
「だからどうした。アイツが吸血鬼である事に代わりはない。
 奴が血を啜る可能性があるなら、その時点で奴は私の敵だ。
 …話す事はもう無い。じゃあな」
一方的に言い放つと、踵を返して牢を出て行った。


「二郎様」
 ギコの足音が消えた後、更に数分ほど経った頃。牢の中に、何者かの声が響いた。
「B・T・Bか。いつからいた?」
「オヤ、気付イテ オラレマシタカ。『信用シテルカラネ』ノ辺リカラ、鼓動ヲ借リテオリマス。
 …ソレヨリ、大事ナ事ヲ。御主人様ヲ助ケテ頂キタイノデス。…貴方ガ、裏切ッタ ノデ ナケレバ」

 数秒間ほどの沈黙。ややあって、おもむろに二郎が口を開いた。
「お前さん…俺を疑ってたのか」
 さわり、と空気が強張る。
それに感づいたのか、二郎が慌てて首を振った。
「や、悪ぃ。一歩も外出てないなら、それが一番普通の対応だしな。
 まあ、俺が本当に裏切ってたらこんなトコにいないで今頃コーヒーでも啜ってる筈…
 それにお前さんがここにいるって事は、シャマードは最初から信用してくれたんだろ?
 しかし…信用されといてこんな事言うのも何だが、何で命まで懸けて俺を信じてる?」
B・T・Bの心拍操作が無いかぎり、シャマードは只の吸血鬼。
 二郎が本当に裏切っていて、助けに来ないまま夜が明けてしまったら。
比喩でも何でもない、『命懸けの信頼』。
「マア…『何トカ ノ弱ミ』ト言ウモノ デスカネ」
「何だそりゃ。俺…何か握ってたっけ?」
 この鈍感男を何とかする方法はないものか。
一瞬そう思ったが、馬鹿に付ける薬はあいにく持ち合わせがない。
「…私ノ口カラハ言エマセン。兎モ角、ココマデ ヤルトハ私モ思イマセン デシタ」
「そうかい…助けに行く。縄、切ってくれ」
「御意」
 ぴしりと一礼すると、後ろ手の拘束具をカリカリと囓り始めた。

120丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:41




   一九八四年 四月十日 午前三時三十三分



  雲一つ無い星空に、綺麗な満月。

  冷たく優しい、月の光。人にも吸血鬼にも、等しく降り注ぐ。


「…何故、逃げない?」
 大都市・ニューヨークにそびえるビルの一つ。
その屋上で、シャマードとギコの二人が睨み合っていた。
「賭けの途中で、ね。…私達が二郎の所にいるって、どうして判ったの?」
 小さく、ギコが肩をすくめた。                ツケ
「…奴は嘘をつける人間ではない。様子が変だったから尾行けてみればお前がいた」
「そっか。じゃ、裏切った訳じゃないんだね。賭けは私の勝ち」
「馬鹿が。人と吸血鬼が共存するなど、出来るわけが無いだろう。
 お前も吸血鬼なら知っている筈…何故そんなものを信じている?」
言い放つギコに、シャマードが微笑しながら首を横に振った。
「違うよ。破壊衝動も吸血衝動も、訓練次第で押さえ込める。
 お互いに譲歩すれば、仲良くなれる筈なんだよ。二郎だって、そう思ってる」
「…俺の恋人も…お前と同じ事を言った」
 一呼吸の間。首筋をトントンと叩きながら、言葉を続ける。
  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「太陽から顔を背けて、輸血用血液を啜りながらな。―――その彼女がある日、車に轢かれた。
 重傷だったよ。普通の人間ならとっくに死んでる傷だ。どうにか命だけは助かったんだが…
 その代償は相当大きかった」
「代償…?」
「生存本能と吸血衝動が直結してな。普段から抑えてたのが悪かったのか、病院にいた医師と患者数十名の命…
 まとめて彼女の腹の中に消えた。ゾンビがあふれて、街中はパニック。そして俺は…」

 拘束具の下で、デューンがう゛ぅ、と一声唸った。

「全員をコイツで風化させた。馴染みの医者も、よくしてくれた看護婦も、
 仲良くなってた患者も―――理性が噴き飛んだ彼女も。塵に変わって、風で散った。」
長く広がるスタンドの髪を、優しく撫ぜる。


   ―――――――全拘束・解放。


 『デューン』の体中を縛るベルトが全て弾け飛び、月の光に砂色の裸身が光った。

 一糸まとわぬ無機質な裸体は、この世のどんな兵器よりも醜く、この世のどんな彫像よりも美しく、踊る。

 戦闘型スタンド特有の、醜と美の同居。シャマードの脳裏に恐怖混じりの陶酔がちらつく。

「お前の言っている事は、吸血衝動を抑えられている者だけの理論だ。
 確かに衝動は抑える事が出来る。だが、それが外れる危険も同じ。
 甘い夢想に浸る程、俺は馬鹿な人間じゃない!お前も吸血鬼である限り…
 人喰いになる可能性がある限り、お前も俺の敵だ!」

                              ワ タ シ   ニロウ
「夢想じゃない、理想だ!たった一度の失敗で、吸血鬼と人間の未来を決めつけるな!
 衝動を抑えられる限り、私は二郎の側にいたい!」




  二人とも、心の奥底では判っている。自分の言っている事が正しくない事を。

  二人とも、心の奥底から信じている。自分の言っている事が間違いではない事を。

  何が正しいのか。

  何が正しかったのか。

  どうすればいいのか。

  どうすればよかったのか。

  知るものは、誰もいない。


 デューンが吼える。

 シャマードが叫ぶ。


 己の意志を貫かんとする二人を、満月が優しく照らしていた。




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

121丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:43
 デューン
  砂丘

破壊力:A  スピード:A 射程距離:C(10m)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:E

触れた物全てを風化させ、砂へ変える。
本体の命令は殆ど聞かず、細かい仕事はできない。
ただし、フィードバックがあるため『本体を守る』事だけは何よりも優先する。
体中に拘束具を付けている状態ならば、制御は可能。
ボンテージではなく、あくまでも拘束具。
変態とか言うな。

122丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:44
        │ 予告通り、三部作で収まりませんでした。
        └─┬─────────y───────
            │こんなトコで予告通りにしてどうするの。
            │本編だって進んでないのに…
            └y───────────────────



               ∩_∩    ∩ ∩
              ( ;´д`) 旦 (ー`;)
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚ー^;)~~~~~~
                     ∪ ∪ ヨテイハ ミテイ ニシテ ケッテイ ニアラズ
          _______Λ_____________

          あ、ほら、あくまで『三部作くらいの予定』だし…ネ♪

123ブック:2004/04/28(水) 00:20
     救い無き世界
     第七十八話・終結 〜その三〜


「終われ…!!」
 『デビルワールド』が『アクトレイザー』に向かって腕を振るった。
「私の頭を掴み、私の存在を終了させる。
 しかしその事象も書き換える。」
 『矢の男』のスタンドが、その手に持つ分厚い本を開き、それに指を這わせた。
 すり抜ける『デビルワールド』の腕。

「そしてあなたの腹部を『アクトレイザー』の腕が貫く。」
 『アクトレイザー』が再び本に指を這わせる。
 先程でぃの左腕を切断した時と同じ様に、
 『アクトレイザー』の攻撃を避けた筈の『デビルワールド』の腹に、
 『矢の男』の言葉通りに『アクトレイザー』の腕が突き刺さった。

「……!」
 後退し、その腕を引き抜く『デビルワールド』。
「その傷は瞬く間に再生する。
 …が、その結果には至らない。」
 『矢の男』が『デビルワールド』を見据える。

「…どういう手品なのかな?」
 『デビルワールド』が『矢の男』に顔を向けた。
 腹部に開けられた穴は、徐々にではあるが塞り始めている。
「…傷の治りが遅い。
 成る程、大した能力だ。」
 『デビルワールド』がぞっとするような笑みを浮かべた。
 体に開けられた穴など、微塵も気にしていない様子である。

「この本に『絶対に再生しない』と書いた以上、
 傷は決して再生しない筈なのですがねぇ。
 あなたこそ流石ですよ、『デビルワールド』。」
 『矢の男』が心から感心しながら言った。

「…しかし、哀しいかなあなたは未だ不完全のようだ。
 今の所、我が『アクトレイザー』の力の方が圧倒的に上回っている。
 すました顔をしていますが、傷の修復だけで相当の力を使っているのでしょう?」
 『矢の男』が嘲りの笑みを浮かべる。
 『デビルワールド』は、何も答えない。

「あなたには、勝ち目など何一つありません。
 復活したばかりの所悪いですが、あなたにはここで消え去って貰う。」
 『矢の男』が『デビルワールド』に向けて手をかざす。

「…くっくっく、くははははははははははははははははははははははは……」
 その時、『デビルワールド』がやおら笑い出した。
「…何が可笑しいのです?」
 『矢の男』が不快そうに眉をひそめる。

「私が不完全と言うか。
 確かにその通りだ。
 だが、お前もまた不完全なのではないのかな?」
 『デビルワールド』が挑発するような身振りで『矢の男』に話しかける。

「…何?」
 聞き返す、『矢の男』。

「言った通りだよ。
 お前がもし完全だと言うならば、何故その本に『私が消える』と書かない?
 そうすれば一瞬でカタがつく筈だ。」
 『矢の男』の顔が強張る。
「出来ないんだ。
 お前はまだ、そこまで深く事象に干渉する事は。
 つまり、それっぽっちの能力という事だ。
 その程度で『神』を名乗ろう等とは、思い上がりも甚だしい。」
 『デビルワールド』が『矢の男』の前へと進み出る。

124ブック:2004/04/28(水) 00:20

「私を…『神』を愚弄する気かァ!」
 激昂する『矢の男』。
 直後、『アクトレイザー』が『デビルワールド』の右腕を斬り飛ばした。

「…くくく、図星のようだな。」
 腕を斬り落とされながらも、顔色一つ変えずに『デビルワールド』が呟く。

「だからどうした?
 確かに私はまだ、直接存在を消去するだけの力は無い。
 しかし、それでもこうして少しずつお前の命を削ぎ落としていけば、結局は同じ事。
 そして、ここには世界中から人々の救いを求めし想念が集まっている。
 それらは全て、我が『アクトレイザー』の力となり、私はさらに大きくなる。
 故に、ここで私がお前に負ける事など決して在り得ない!!」
 『アクトレイザー』の腕が次々と『デビルワールド』の体を引き裂く。
 『デビルワールド』が、それに圧倒されて後ろに下がっていった。

「どうした、『デビルワールド』?
 世界に、『神』に弓引く『悪魔』なのだろう?
 やられるばかりでなく、少しは一矢報いてみたらどうだ!?」
 『アクトレイザー』はなおも『デビルワールド』の肉体を傷つけていった。

「……!!」
 と、『デビルワールド』がいきなり『矢の男』に向けて拳を放った。
「それもこの本に書かれている。
 そしてその事象はたった今書き換えられる。」
 『矢の男』はその拳をかわそうともせず―――


「!!!!!!」
 『矢の男』の表情が一瞬にして驚愕の色に染まった。
 彼の右頬には、『デビルワールド』の拳によって切り傷がつけられている。

「なっ……!?」
 動揺を隠せない『矢の男』。

「馬鹿な…
 在り得ない!
 この私が!!
 『悪魔』に触れられるだと!!!?」
 『矢の男』がよろよろと後ろに下がる。
 絶好の追撃の機会ではあるのだが、
 『デビルワールド』もまた先程の『アクトレイザー』の攻撃によるダメージが深く、
 攻撃を続ける事は不可能だった。
 しかし、その代わりにと『デビルワールド』は凄絶な笑顔を『矢の男』に叩きつける。

「…言っただろう。
 お前もまた、不完全なのだと……」
 全身から血を流し、傷口を嫌な音を立てて再生させながら、
 『デビルワールド』が口を開く。

「き…貴様、一体何を……」
 『矢の男』が信じられないといった風に『デビルワールド』に尋ねた。

「貴様がさっき言った通りだ。
 私は世界に弓引く『世界の敵』。
 そして…同時に『世界の最も親しい隣人』でもある。」
 『デビルワールド』が体を引きずりながら答える。
 心なしか、再生の速度が僅かずつだが上がっていた。

「この世界の万物は、等しく『終わり』を内包している。
 いや、『終わり』を内包しているからこそこの世界に存在出来る。
 終わる為に始まり、始まる故に終わる。
 永劫に続く終焉の螺旋…虚無への回帰。」
 斬り落とされた『デビルワールド』の右腕が再生を完了した。

「馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しい喜劇だとは思わないか!?
 この世界に生まれ、始まりしモノ共は、須らくその存在が続く事を望む。
 それ故に先に続く未来を望む。
 だがしかし、その先には絶対に終わりが存在しているのだよ!!
 ははははは!!
 これは傑作だ!!!
 つまり、この世界の全ては、
 いいや、この世界そのものまでもが、
 意識的に無意識的にその存在の終焉を望んでいるのだ!!!
 つまり我こそが世界の願望の具現!!!!
 それを叶える事こそが、我の力!!!!!
 望みを叶える事こそが、救いを与える事なのであれば、
 我こそが『神』であり、救いそのものよ!!!!!!」
 笑い続ける『デビルワールド』。
 その笑いは大気を揺らし、そこに渦巻く想念すらも揺るがすようだった。

「そして、貴様の『アクトレイザー』も、
 世界に存在するモノ共により産み出された存在だ!!
 ならばそこに存在する以上、私に終わらせられぬモノは無い!!!」
 『デビルワールド』が『アクトレイザー』を睨みつけた。

125ブック:2004/04/28(水) 00:21

「…そんな御託は、私を倒してからにするのだな!!」
 『矢の男』が『デビルワールド』に飛び掛かった。
 迎え撃つ『デビルワールド』。
 しかし、その攻撃は『矢の男』を空しくすり抜けた。

「どうだ、当たるまい!
 私はここに渦巻く想念を吸収し、幾らでも力を高める事が出来るのだ!!
 貴様等、所詮は乗り越える為の試練に過ぎん!!!」
 『アクトレイザー』の腕が『デビルワールド』の肉体を抉る。
「これで終わりだ!!
 この本に、『デビルワールド』の消滅を書き記して―――」



「―――な、何だ…
 何だこれはァ!!!!!?」
 『矢の男』の動きが突然止まった。

「本が…本の未来が書かれているページが真っ黒じゃないか!!
 これでは、これでは続きが書き換えられないじゃないかああァ!!!!!」
 錯乱する『矢の男』。
 その間にも、『アクトレイザー』の持つ本は
 全てのページに渡って黒く塗りつぶされていった。

「…『デビルワールド』。
 お前の存在を…
 過去現在未来全ての時間軸において『終わらせる』。
 お前が幾ら未来を見ようと、幾ら未来を書き換えようと、
 未来に進む以上その先に『終わり』があるという事実は変わらない。
 その『終わり』を今この場まで与えてやろう…」
 『デビルワールド』が『矢の男』の頭を掴む。
 『矢の男』が必死に逃れようとするも、その手は決して外れなかった。

「ば…馬鹿な!
 『アクトレイザー』は、救いを求める思念を得て、
 更に力を得ていた筈だ…!
 それが、何でお前如きに…」
 その時、『矢の男』はかっと目を見開いた。
 『デビルワールド』の体に、『アクトレイザー』が吸収しているものとは違う、
 どす黒い思念が纏わりついていたからだ。

「他者の想念を得て力を得るのが、お前だけだとでも思ったか?
 どうやら、お前の力となる想念に混じって、
 別の想念が混じっていたのに気がついてはいなかったようだな。」
 『デビルワールド』が『矢の男』を掴む手に力を込める。

「この…『化け物』めええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
 『矢の男』が、絶叫する。
 その顔は恐怖に引きつり、あたかも笑っているようにすら見えた。

「…『終われ』。」
 その言葉と共に、『矢の男』の姿が消え去った。
 その場に、『矢の男』の持っていた『矢』がカランと音をたてて落ちる。
 寄る辺となる本体を失った『アクトレイザー』は、
 想念の渦の中へと消え去っていった。

126ブック:2004/04/28(水) 00:21



「……!」
 膝をつく『デビルワールド』。
「…ふん、殆どの力を使い果たしたか。
 簡単には『終わらせ』てはくれなかったようだ……」
 『デビルワールド』が息を切らしながら呟く。

「…は、はぁははははははははははははははははははははは!!!!!!
 未だ聞こえているかな、でぃよ!?
 残念だったな!
 私と『神』とをぶつけ、諸共に消滅させるというお前の目論見は完全に潰えた!!
 確かに力の大半は失ったが、そんなものこの世界の全てから簡単に搾取出来る!!!
 でぃ、お前の敗北だ!!!!」
 『デビルワールド』がゆっくりと立ちあがった。

「でぃ君!!」
 ぃょぅ達が、『デビルワールド』に向かって構える。

「ああ…そう言えば、お前達が居たのだったな。
 今まで宿主を守って頂き実に御苦労。
 褒美に、お前達には世界の終わりの瞬間をその目で見せてやろう。」
 『デビルワールド』がぃょぅ達に向いて笑う。

「そんな事させるかよ!!」
 ギコえもんが飛び掛かった。
「ふん…」
 『デビルワールド』が無造作にギコえもんに向かって手を突き出す。
 ギコえもんが、『アクトレイザー』の時と同様、壁の方まで吹っ飛ばされた。

「…そう死に急ぐな。
 せっかく最後まで『終わらせない』と言っているのに。
 もう少しで、殺してしまう所だったではないか。」
 『デビルワールド』が呆れたように肩をすくめる。

「でぃ君!
 気をしっかり持つょぅ!!」
 ぃょぅが『デビルワールド』に…
 いや、その中にいるでぃに向かって叫んだ。

「無駄だよ。
 最早でぃの意識は我が支配下にある。
 お前達の声は届きはしない。」
 『デビルワールド』が勝ち誇ったように言い放った。

「…でぃさんは、負けない。」
 その時、みぃがぃょぅ達の前に踏み出した。
「みぃちゃん!!」
 ふさしぃがみぃを止めようとする。
 しかし、みぃは構わず『デビルワールド』の前に進み出て行った。

「でぃさんは、あなたなんかに負けたりしない!
 あなたみたいな『化け物』に、負けたりなんかしない…!!」
 涙を流しながら、みぃが叫ぶ。
 しかしその瞳に、諦めの色は全く無かった。

「…やれやれ。
 現実の見れないお嬢さんだ。」
 と、『デビルワールド』が何かを思いついた顔つきになる。

「そうだ…
 そういえばお前は、あのでぃのお気に入りだったな。
 …面白い。
 お前を終わらせたら、あのでぃは一体どんな顔で哭いてくれるのかな…?」
 『デビルワールド』が、その腕をゆっくりとみぃに伸ばした。



     TO BE CONTINUED…

127ブック:2004/04/28(水) 23:28
     救い無き世界
     最終話・祈り


「さて、あのでぃはどんな顔で泣き叫んでくれるのやら…」
 デビルワールドがみぃに手を伸ばす。
「……!」
 それに対し、一歩も引かないみぃ。

「みぃ君…!」
 ぃょぅ達が叫ぶ。
 しかし、彼等は『デビルワールド』の視線だけでその場に縫い付けられた。

「案ずるな…
 一切の苦痛無く『終わらせて』やる。」
 そして『デビルワールド』の手がみぃの体に触れ―――


「!!!!!!!!」
 と、『デビルワールド』の体が動きを止めた。
 同時に、地面に膝をつけて苦しみ始める。

「…が……!馬鹿な……
 でぃ、貴様……!!」
 歯を喰いしばり何かに耐えようとする『デビルワールド』。
「糞…!
 『アクトレイザー』との闘いで力を失った所為で……
 …これ以上無駄な足掻きをするなぁ!!」
 『デビルワールド』の体の一部が、徐々に元のでぃの姿に戻っていく。

「舐めるなよ…矮小な人間如きの分際があぁ!!
 貴様など、すぐにまた我が支配下に取り込んで……!」
 『デビルワールド』がよろよろと立ち上がる。
 でぃの姿に戻っていた部分が、再び『デビルワールド』のそれへと変質していった。

「…は、はははははははははははははははは!!!!!
 残念だったな、もうすぐお前は完全に―――」
 その時、思念の渦に溶け込んでいった筈の『アクトレイザー』の欠片が、
 『デビルワールド』の周りを取り囲んだ。
 そして、それらが『デビルワールド』の中へと浸透していく。

「……!『アクトレイザー』!!
 どこまでも私の邪魔をするかああああああああああ!!!!!!!」
 『デビルワールド』が咆哮する。
 しかしその抵抗も空しく、『デビルワールド』の姿は完全にでぃのものへと変わった。

「……!」
 膝をつき、息を切らすでぃ。
「でぃさん!!」
 みぃがでぃの元へと駆け寄る。
 しかし、でぃはそんな彼女を『来るな』とばかりに振り払った。

『まだ…終わってない……』
 指を動かすのもやっとといった様子で、でぃが地面にそう書いた。
「でぃさん…!」
 涙を浮かべ、でぃに縋り付こうとするみぃ。
 …でぃが、一瞬だけそんなみぃに微笑んだように見えた。

「……!」
 しかしでぃの瞳は再び険しいものへと変わり、
 おもむろに『矢の男』の遺した『矢』をその手に掴んだ。
 そして、それを自分の胸に突き刺す。

「でぃ君、何を―――」
 ぃょぅ達がでぃの元へと急ぐ。
 しかし、でぃはぃょぅ達が彼の元に辿り着く前に、
 そのままその場に昏倒した。

128ブック:2004/04/28(水) 23:29



     ・     ・     ・



 …俺がこの場所に来るのも久し振りだ。
 ここが、全ての始まった場所。
 そして…全てが終わる場所。

「……」
 俺は自分に近づく気配を察知し、そちらへと目を向ける。
 悪意の塊のような視線。
 そこに居るだけで、全てを飲み込んでしまいそうな威圧感。
 そう、こいつが、
 こいつこそが―――


「…やってくれたな、でぃ。」
 『デビルワールド』が、俺をねめつけながら言った。
「…よぉ、こうして面と向かうのも久し振りだな、『デビルワールド』。」
 わざとおどけた感じで『デビルワールド』に返す。

「余計な事に時間を取らせるな…
 諦めてお前の体を私に明け渡せ。
 今まで私の住処となっていた事にせめてもの情けをと思い、
 お前の自我までは消滅させまいと思っていたが、
 私の邪魔をするのであれば容赦はせぬぞ。」
 『デビルワールド』がひしひしと俺にプレッシャーをかける。
 だが、負けるか。
 あいつの為にも、俺は闘わなければいけない…!

「…そういう訳にはいかねぇよ。
 お前は、ここで俺がぶっ倒す。」
 『デビルワールド』を睨み返す。
 『デビルワールド』がそれを受けて、僅かに口元を歪めた。

「くく…何を言うかと思えば……
 貴様が、私を倒せるとでも?
 『神』ですら超越したこの私を倒す?
 これは滑稽な冗談だな!」
 『デビルワールド』が嘲りの笑みを俺に向けた。

「…出来るさ。
 さっきの『アクトレイザー』との闘いで、お前は大半の力を失っている。
 そして、今もなお『アクトレイザー』の欠片がお前を束縛している。
 何よりここは俺の心の中。
 俺自身が神であり絶対者である『内的宇宙』『心象世界』。
 これらの条件が揃った今なら、お前を倒す事が出来る!!」
 俺は『デビルワールド』を見据えて言い放った。

「はははははははははは!!!
 お前は一つ重要な事を見落としているぞ!?
 私がスタンドである以上、スタンドでしか私を攻撃出来ない!!
 スタンドを持たぬ、唯のちっぽけな人間であるお前に、
 一体何が出来るというのだ!?」
 『デビルワールド』が勝ち誇ったように笑い出した。
「諦めろ人間!
 最早お前には何も出来ない!!
 そこで世界が終わる様を、指を咥えて見ているがいい!!!」

「…そうさ。俺はスタンドを持っていない。
 今までスタンド使いと闘えたのは、お前が俺の中に居たからだ。
 だが―――」
 俺の足元から、一本の『矢』が姿を現した。

「……!それは!!」
 『デビルワールド』が顔色を変える。
「そうだ!!
 この『矢』を使えば、俺にもスタンドが使えるようになる!!!」
 俺は迷わず俺の体に『矢』を突き刺した。
 ぃょぅ達の話では、『資格』の無い者は命を落とすとの事だったが、
 俺はその時微塵も失敗するとは思っていなかった。

 感じていた。
 ぃょぅが、ふさしぃが、ギコえもんが、小耳モナーが、タカラギコが、
 …みぃが、
 俺に力を貸してくれている事を。
 この力があれば、『矢』の試練すら絶対に乗り越えられる!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
 体から力が湧きあがる。
 同時に、俺の体から大きな盾を構えた戦士のビジョンが浮かび上がった。

 出せた。
 これが、俺のスタンド…!

129ブック:2004/04/28(水) 23:30

「私はあなたの人を守りたいという思いの結晶…」
 と、俺のスタンドが俺に話かけてきた。
「私の名前は『イース』。
 全ての暴力を跳ね返す盾となり、あなたの大切な人を守る力となりましょう…」
 『イース』が『デビルワールド』の方を向く。
 『デビルワールド』とは違う、全てを慈しむような気の流れ。

「スタンドを得た程度で、貴様如きが私に勝てると思うなあああぁ!!!!!」
 『デビルワールド』が俺に襲い掛かって来た。
 逃げない。
 全ての厄災は、全ての因果は、
 ここで、俺が『終わらせる』!!!

「終われええええええええええ!!!!!!」
 『デビルワールド』が俺に拳を叩きつけようとする。
「『イース』!!!!!」
 俺はその拳を『イース』の盾で受け止めた。


「!!!!!!!」
 拳と盾との激突の直後、『イース』の盾に罅が入り、
 そしてそのまま砕け散る。

「くっ…くははははあはははははははははははっははははっはははっは!!!!!
 矢張り何をしようと無駄だったようだな!!!!!
 そんな俄か仕込みの力で、この私が倒せるとでも……!」
 そこで、『デビルワールド』の体が硬直する。

「…!?
 な、何だ、これは!?
 何だこれはあぁ!!?
 私の、私の体が…!」
 『デビルワールド』の体のあちこちにどんどん亀裂が入り、
 その体が無残に崩れていく。

「これは…私が『終わっている』!?
 馬鹿な!!
 貴様、何をした!!!!!」
 『デビルワールド』が驚愕の表情を浮かべながら俺に向かって叫んだ。

「言った筈です。
 『全ての暴力を跳ね返す盾になる』と。
 本来ならば私の力はあなたに及びませんが、
 我がマスターが絶対者たるこの『内的宇宙』ならば、
 弱ったあなたの攻撃を跳ね返す事も可能。」
 『イース』が『デビルワールド』を指差す。

「…お前、言ってたよな。
 全ては『終わり』を内包するからこそ、この世界に存在出来る、と。
 つまりは、お前もその例外じゃなかったって事さ。」
 俺はこれ以上無い会心の笑みを『デビルワールド』に見せてやった。

「馬鹿な!!
 『最果ての使者』たる、『虚無の権化』たる、『終焉の化身』たるこの私が、
 こんなちっぽけなゴミに滅ぼされるだと!?
 認めん…
 こんな終焉など認めんぞ!!!!!!!」
 体を崩壊させながら、なおも『デビルワールド』が俺に襲い掛かる。

「手前一人で終わってろ。」
 俺は『イース』の拳を『デビルワールド』の顔面に叩きこんでやった。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
 世界を割らんばかりの断末魔の叫びを残し、
 『デビルワールド』は虚空へと散って行った。

130ブック:2004/04/28(水) 23:30



「…終わったな。」
 俺は誰に言うでもなく呟いた。

「ええ…そして、残念ですがマスター。
 私達ももう永くはなさそうです。」
 『イース』が俺にそう言った。
 見ると、『イース』の体が『デビルワールド』と同じ様に崩れ始めている。

「…流石は『デビルワールド』。
 力を失い、我々の『内的宇宙』に呼び寄せても、
 その力を完全に打ち消す事は出来なかったようです。」
 『イース』の姿が見る見るうちに消えていった。

「ああ…分かってるよ。
 悪いな、お前は生まれたばっかだってのに。」
 俺は苦笑しながら『イース』に語りかけた。

「…ですが、マスター……」
 『イース』が何か言いたそうに俺の顔を見つめる。
「そんな顔すんな。悔いはねぇよ。
 俺は、あいつを守る事が出来たんだ。」
 …嘘だ。
 俺はまだ生きていたい。
 生きて、あいつと少しでも長く一緒に居たい。

「…糞、格好悪ぃなぁ……」
 俺の頬を、一筋の涙がつたった。

131ブック:2004/04/28(水) 23:30



     ・     ・     ・



「……」
 私の膝の上に頭を乗せていたでぃさんが、うっすらと目を開けた。
「でぃさん!!」
 良かった。
 でぃさんが、目を覚ましてくれた…!

「!!!!!」
 しかし、でぃさんの目は再び閉じられた。
 それと共に、でぃさんの体からどんどん熱が失われていく。

「でぃさん!!!」
 私は必死にでぃさんに声をかけた。
「でぃ君、目を開けるょぅ!!」
「でぃ君!!」
「おい、でぃ!!」
「でぃ君、しっかりするモナ!!」
 ぃょぅさん達が大声ででぃさんに呼びかける。
 しかし、でぃさんは少しもそれに反応を示さなかった。

「『マザー』…!!」
 私のスタンドを発動させ、ありったけの私の生命力をでぃさんに送り込む。
 嫌だ。
 でぃさんが死ぬなんて、絶対に嫌だ…!!

「……!!」
 過度に生命力を注入した反動で、私の意識が一気に遠のく。
 だけど、倒れる訳にはいかない。
 絶対に、
 絶対にでぃさんは死なせない!!

「みぃちゃん、もう…」
 ふさしぃさんが泣きそうな顔で私の肩に手を置いた。

「…!放して下さい!!」
 ふさしぃさんの手を振り払い、さらにでぃさんに生命エネルギーを送り込む。
 私が死んだって構わない。
 でぃさんは、
 でぃさんだけは…!

「……」
 しかし、でぃさんは全く動かなかった。
 その顔に安らかな寝顔を浮かべ、静かに横たわる。

「……!!」
 涙を流しながらも、私は生命エネルギーを送り続けた。

 視界が真っ暗になる。
 力の使い過ぎだ。
 駄目だ。
 倒れる訳にはいかない。
 でぃさんは、
 でぃさんは絶対に―――

 …そして、私はついに力尽きて倒れた。

132ブック:2004/04/28(水) 23:31



     ・     ・     ・



 俺は花畑の中を歩いていた。
 見た事の無い、
 だけど、何故か妙に懐かしい風景。

「―――何でお母さんはお父さん。」
 と、後ろから誰かの声が聞こえてきた。
 そちらを見ると、三人の親子が仲良く話しながら歩いている。
 …待てよ、あいつら、どっかで―――

「じゃあさ、じゃあさ、もし僕が結婚したら、
 お嫁さんとお父さんとお母さんと一緒に暮らすんだ。
 ずっとずっとずーーっと一緒に暮らすんだ!」
 子供が朗らかに両親に向かって話す。
 間違い無い。
 あいつは、あいつらは…


「…よく頑張ったわね、でぃ。」
 母さんが、俺の顔を見つめて言った。
「…うん。」
 言葉が詰まらせながらも、やっとの思いでそれだけを返す。

「えらいぞ、本当によくやったな。」
 父さんが微笑みながら俺をねぎらう。
「…うん……!」
 目から涙が溢れ、何も見えなくなる。

「…ごめん。父さん、母さん。
 俺の所為で、二人は……」
 そう、二人は俺を庇って、死んだ。

「…いいえ、気にしないで。
 あれは、あなたが悪かったんじゃないわ。」
 母さんが優しい声で俺に語りかけた。
「ああ。
 それに、子を守るのは親の務めだ。
 …私達は、過去にお前を見捨ててしまった。
 あれが、せめてもの償いだよ。」
 父さんが下に視線を落とす。

「…だけどさ、これからはずっと一緒だよ!
 これからは、親孝行出来なかった分、一杯サービスするからさ!!」
 俺はわざと明るい顔で両親に告げた。

「……」
 しかし、父さんと母さんは黙って首を振った。
「…え?」
 思わず、尋ねる。

「…でぃ、あなたはまだここに来るべきではないわ。
 向こうに、大切な人を残しているのでしょう?」
 母さんが穏やかな―――
 そして、少し寂しそうな顔で俺に言った。

「―――ん…でぃさん……!」
 と、どこからか声が聞こえてくる。
 この声は…みぃ?

「!!!!!!」
 その時、父さんと母さんの体が少しずつ見えなくなっていった。
「父さん!母さん!!」
 必死に引き留めようとするも、二人の姿はどんどん遠ざかっていく。

「…でぃ、あなたならきっと大切な人を幸せに出来るわ。
 あなたは、人の痛みを知って、人の為に闘えるという本当の優しさを持っている。
 それは、人間として一番大切な事なのだから。」
 最早両親の姿は見えなくなり、母さんの声だけがその場に響いた。

「…なあに、私達のことなら心配するな。
 その時が来れば、ゆっくりと話を聞かせて貰うさ。」
 父さんの声が聞こえてくる。
 その声も、どんどん小さくなっていった。

「父さん…母さん…俺は―――」

 ―――そして二人の声は完全に聞こえなくなり、
 俺はただ一人その場に取り残された。

133ブック:2004/04/28(水) 23:32



/ / /

134ブック:2004/04/28(水) 23:33
     救い無き世界
     エピローグ・陽の当たる場所で


 少年は慣れない手つきでスーツに袖を通しながら、トーストを齧っていた。
 両腕を袖口から出し、フロントのボタンを留めて、
 ネクタイを締めようとする。
 …が、何度やっても上手くいかない。

「私がやりましょうか?」
 少女が少年の前に立ち、ゆっくりとネクタイを締め始めた。
 数十秒の後、ぴっちりとネクタイが締められる。

「……」
 少年は無言のまま少女に一度頷き、お礼をした。

「…いよいよ、今日からですね。」
 少女が少年の肩に手を置く。
 少年は頷いてそれに答えると、少女の唇に自分の唇を重ねた。

「……!」
 少女の頬が桜色に染まる。
『行ってきますのちゅー、だよ。』
 少年が少女の手の平に、そう指を這わせた。

135ブック:2004/04/28(水) 23:34



     ・     ・     ・



 私は墓前に花束を備え、線香をあげて手を合わせた。
「…タカラギコ、終わったょぅ。」
 私は墓に向かってそう告げた。
 一陣の風が、備えたばかりの花を揺らす。

「…不思議だょぅ。
 君はここに眠っている筈なのに、
 何故かどこか別の場所であの笑顔でわらっている…
 …そんな気がしてならないんだょぅ。」
 そう言いながら私は苦笑した。
 いい歳してこんなロマンチックな事を考えてしまうとは、馬鹿馬鹿しい。

「…来てたのかょぅ。」
 私は横に視線を移した。
 そこには、ふさしぃと、ギコえもんと、小耳モナーが佇んでいた。

「…ええ。」
 ふさしぃがタカラギコの墓に手を合わせる。
「…全部丸く収まったわ。
 それもこれも、あなたのおかげよ…」
 ふさしぃは目を瞑り、しばしの黙祷をタカラギコに捧げた。

「そうだモナ、タカラギコ。
 今日はSSSに新入社員が入るんだモナー!」
 小耳モナーがまるでタカラギコが生きてその場に居るかのように、
 墓に向かって話しかける。

「ああ、そうなんだぜ。
 お前もよく知ってる奴だゴルァ。」
 ギコえもんが墓に今川焼きをお供えしながら言った。

「…それじゃあ、そろそろ行こうかょぅ。
 新入社員の『彼』と『彼女』がお待ちかねだょぅ。」
 私は立ち上がり、皆に向かってそう告げた。

「そうね、そろそろSSSに戻りましょう。」
 ふさしぃが私の方を向く。
「早くしないと遅れるモナー!」
 小耳モナーが私達を急かす。
「んじゃな、タカラギコ。
 また来るぜ、ゴルァ。」
 ギコえもんがタカラギコの墓に向かって軽く手を挙げた。

「…君は、今でもぃょぅ達の仲間だょぅ……」
 私は誰にも聞こえない位の静かな声で、そっと呟いた。

136ブック:2004/04/28(水) 23:34



     ・     ・     ・



 少年と少女の前に、四人の男女が立っていた。
 正確には、三人が男で一人が女。
 しかし、そのヒエラルキーの頂点に立っているのは女である事を、
 その女から流れてくる気迫が如実に物語っている。

「…さてと、来たかょぅ。」
 男の一人が二人に向かって言った。
「SSSにようこそだモナー。」
 別の男が気さくに話しかける。
「よろしくね、二人とも。」
 女が二人に笑顔を見せる。
「言っとくが、俺達はエリートでお前らは平社員。
 顔見知りとはいえ容赦はしねぇぞ、ゴルァ。」
 最後の男がそう言った瞬間、女がその男の頭を小突いた。
 それを見て、その場の全員が笑い出す。

「何卒よろしくお願いします。」
 少女が四人に向かってペコリとお辞儀をした。
 それに合わせて、少年も頭を下げる。

「…おかえりだょぅ、でぃ君。」
 男が、少年に短くそう告げた。
 少年はそれを受けて男の顔を見つめる。

 …彼の表情は変えられない。
 しかし、確かに彼がにっこりと微笑んだ事は、
 その場の全員には分かってた。



     〜完〜

137新手のスタンド使い:2004/04/28(水) 23:53
ここで『乙』と言うのをお許しもらいたい。

138新手のスタンド使い:2004/05/01(土) 08:35
黄金週間警報発令!

139( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:42
「この日を待っていた・・。ずっと・・この日を・・食い尽くしてやる・・。
骨も・・内臓も・・筋肉も・・眼球も・・・脳も・・何もかも食い尽くしてやる・・。
なぁ・・ムックゥ・・。」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『奪う力』と『与える力』

・・・雨が降り続く
ザーザーとする音がうっとおしい
しかしまさか突然雨が降るとは・・
殺ちゃんに傘持たせておくべきだったかな・・。
「・・・・・・・・。」
っていうか何でこんなシーンとしてんだ。
「おい。ムック?何外ばっか見てんだ?」
俺が問いかけるとムックは俯きながら呟いた
「IE・・『あの時』もこんな雨だったNAa・・っTE・・。」
「・・あの時?」
「EE・・。4年前くらいでしょうKA・・。」
ムックは天井を見上げ、話を始めた
「この前・・『緑の男』っていう奴の話ききましたよNE・・。
きっとソイツは私の幼馴染DESU・・。私達2人はたった1歳の頃から体力・知力・外見全てがズバ抜けていTE
ソレを妬んだ友達に虐げらRE・・そいつらの親からは『不気味』といわRE・・惨い運命をたどってきましTA・・。
物心ついた時KARA親に見離さRE、一人で生きてきた私達HA完全に孤立し・・ゴミを漁ったりしながら必死にいきてきましTA。
SHIKASHI・・。ある日、私が歩いているTO・・真っ黒なフェラーリがやってきTE・・。ハートマン軍曹が出てきましTA。
軍曹は『・・この赤いボロ雑巾には『素質』がある様だな・・。おいウジ虫。俺達の所に来ないか?今の生活ともオサラバさせてやる
好きな物だって食える 好きな服も着れる なんでも約束しよう。』・・。私はその言葉に乗せられTE・・。ついていってしまいましTA・・。
『彼』を一人置いていって・・NE。『彼』はきっとその事を恨んでいるんでSHOW・・。」
ムックの眼から涙が流れた
「・・んでソイツの名は?」
「彼の名は・・・。」
突然、突然だった。
突然ムックの右腕が消え去り、深紅の液体が宙を待った
―――血だ。
何が起こった?一体何が・・ッ!?
「UGU・・AHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!」
ムックが呻き声をあげて倒れた
「その男の名は・・『ガチャピン』。緑の恐竜だ。」

140( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:43
ふとドアを見ると緑色の男がたっていた。
「ガ・・チャピ・・ンッ!?KUSOッ!『ソウル・フラワー』ァッ!」
ムックは自分の体を殴りまくり大量の花を咲かせた後、一気に養分を吸い取り、右手を修復した
「ガチャピン・・矢張りきみだったのですNA・・。」
ムックが悲しそうな眼をする。
「お前が居なくなってから、俺の人生は『最悪』の一言だったよ・・。
気付けばお前は居なくなっていた。何回もデカい声で泣きながらお前の名前を叫んだ。
そしてその度にオッサンどもに『今何時だとおもってんだ!』って殴られた。」
『ガチャピン』という緑の男は一歩前に出た
「そしてお前が『キャンパス』という集団に入った事を知った。」
緑の男は一歩一歩近づいてくる
「正直信じられなかった。お前が俺を置いていくなんて・・。」
「ち・・違いますZO!私は一度もアナタの事WO・・」
ムックが説得しようとするとまたもやムックの腕が飛ぶ
「TUゥッ!」
「そのキャンパスは『不思議な力』を使う集団と聞いた。そして俺はお前に会いたくて俺は何の力かわからずに必死で修行をした
何かしら修行していれば身につくんじゃないか。と思っていてな。」
『緑の男』の後方から何かが現れた
「しかし当然そんなもんは練習して身につくもんじゃなかった・・。だが、そんな俺に救世主が現れた・・。」
緑の男の後方に現れた物がハッキリ姿を現した。
間違いねぇ・・こりゃあ・・。
「ス・・タンド・・ッ・・。」
「『矢の男』だ。奴は俺の体を矢で射った。そしてこの『能力』を身につけさせてくれた・・。」
奴のスタンドはヒタヒタという音をさせて近づいてきた
「しかし、俺はまずこの『スタンド』の力を聞いて真っ先に向かったのはお前のところじゃない・・。俺らを虐げてきた『下等生物』の所だ。」
ガチャピンは上唇を舐める
「『食った』よ。食い尽くした。しかし流石にスタンドももってねぇ『下等生物』だ。非常に不味かった・・。」
緑の男のスタンドは大きく口を開く
「そして俺はお前のいる場所を突き当て・・お前に会おうとした・・。しかし流石に完璧にまで作られた組織・・。
勿論護衛が居やがったなぁ。たった2名だったがスタンド使いの門番が・・。」
ガチャピンの顔がとてつもなくにこやかになる。
「あの味は忘れられない・・ッ『スタンド使い』の味だァッ・・。食べただけで昇天しそうになった・・ァッ・・ッ!」
ガチャピンは息を荒げてくる。
「とろける様な舌触り・・ッ口の中でとけていく筋肉ゥッ・・そして何より『下等生物』どもとは違う言葉では表しきれない脳の味ィァッ・・
そして俺はある事をおもいついた・・・。」
緑の男が指を弾くと奴のスタンドがムックに飛び掛っていった。
ムックはとっさによけるが足を一本持って行かれた。
「お前を・・もうドコにも行かさない為にィ・・ッ!俺の・・腹の中にィッ・・入れてやるヮアァァッァッ!」
ガチャピンは涎を垂らしながら叫んだ
「足や腕の一本でこの味ィ・・・全身食ったらどんな味なんだろなァ・・楽しみだぜェ・・ッ?」
・・コイツはヤバい。
きっとムックも本能的に確信している。
スタンドの出せない俺とスタンドのパワーは0に等しいムックではアイツには勝てない・・。
そう確信している。
しかもコイツには『矢の男』とは違えど同じ様な『恐怖』を感じる・・。コイツは並みのスタンド使いじゃ・・ないッ!
「巨耳SAN・・下がっててくだSAI・・スタンドの出せないアナタが戦ったら100%負けまSU・・ここは私が行きましSHOWッ!」
ムックはソウルフラワーで完全に自分の手足を直した。
「赤毛 砲( ムック キャノン)ッ!」
「食人世界(ジミー・イート・ワールド)ォッ!」
ムックの強烈なストレートが出るも、相手は人間の肉なぞ簡単に噛み千切れるスタンド。勝てる可能性は乏しい。
「肉ッ!肉肉ゥッ!肉肉肉ゥリィャッ!」
ジミー・イート・ワールドが大きな口を開けながら吹っ飛んでくる
「こなKUSOッ!」
ムックが物凄いバク天をこなし、背中をとった
「赤毛魂超連打撃(ムック・ソウル・ガトリング)ゥッ!」
ムック・ソウル・ガトリングが直撃・・したかと思った瞬間、ムックの両腕は消滅していた

141( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:43
「返し食い(カウンター イート)・・ッ!」
いつの間にか前方に居た筈のジミー・イート・ワールドの口がガチャピンの背中に回っている
「TU・・UUU・・AH・・AHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」
ムックが物凄い叫び声をあげる
そして次の瞬間叫び声をあげるムックの腹がジミー・イート・ワールドで隠れた
「踊り食い(ダンス・イート)ッ!」
・・深紅の液体が宙を舞い、雨を降らした
そしてムックの腹の半分がジミー・イート・ワールドの口の中に消え、
ムックの臓器が露出した。更に口から血があふれ
俺の目の前が紅く染まる
馬鹿な・・こんな・・あっけなく・・ッ?
「そう・・ル・・フラ・・ワァァァッ!!!」
ムックが最後の力を振り絞りソウルフラワーで体を殴りまくった。
何とかムックの腹が復活するも、両腕、腹を食われ 露出した体内を殴った痛みは消えず、ムックはソコで倒れた。
「ムックゥッ!」
俺はムックの傍に駆け寄った
「ムックッ!ムックゥッ!」
そして次の瞬間俺が黒い影に覆われた
「『幸運』だなァ・・いっぺんに2人もスタンド使いが食べれるなんてェ・・。」
影の主が近づいてくる
一歩・・
また一歩・・
とてつもない恐怖に覆われた
このままじゃ・・間違いなく俺は
――死ぬ
俺は誰も救えないのか?
俺は何の為に警察官になったんだ?
俺は結局ココで死ぬのか?
俺は何故今まで戦ってきた?
俺はどうやってここまで生きてきた?
俺 は こ こ で 死 ん で い い の か ?
俺は・・・
俺は・・・・ッ
俺は・・・・・・・ッ!
「食 べ ち ゃ う ぞ 」
影の主が俺を覆いかぶさった時
その影の主『ジミー・イート・ワールド』は『砂』と化した。
「え・・な・・何で・・ッ!?」
「上等だよ・・。」
俺はつぶやく
「え・・?」
「上等だよガチャピン・・」
不意にガチャピンの足が震える
「ぶっ潰してやるッ!」
俺の後ろに前とはちょっと違うジェノサイアのビジョンが現れる。
「『ジェノサイア act2 Starting』・・ッ!」
「OK。1(one)2(two)3(three)・・4(four)・・GO!」

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142:2004/05/01(土) 15:46

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その3」



 俺達は、複雑な表情でテーブルを囲んでいた。
「さて… お前の知っている事を話してもらおうか」
 そう言って、『アルカディア』を睨みつけるリナー。
 それを受けて、『アルカディア』は口を開いた。
「…って言われてもな。オレは、『矢の男』を造り出せって指示を受けただけだぜ。
 後は、石仮面で吸血鬼を増やして適当に暴れろって言われたくらいだ」

 …何だそりゃ。
 適当に暴れろとは、随分と投げやりな指示だな。
 いや、『矢の男』さえ産み出せば、『アルカディア』は基本的に用済みという事か?
 『蒐集者』も、平然と『アルカディア』を葬ろうとしていたのだ。

「『矢の男』とか… 『アナザー・ワールド・エキストラ』ってのは一体何なんだ?」
 ギコは訊ねる。
 視線を落としていたモララーが、僅かに顔を上げた。
 それに答える『アルカディア』。
「知らねーよ。お膳立ては、全部『教会』が整えたんだ。俺は具現化させただけだぜ」
 それを聞いて、リナーは俺に視線を送った。
「…多分、嘘はついていないと思うモナ」
 俺はリナーに告げる。
 ため息をつくリナー。
 結局、何も分からなかったに等しい。

「ま、そーゆー訳で、『教会』に従うのはコリゴリだ。お前らの方につかせてもらうぜ」
 いけしゃあしゃあと抜かす『アルカディア』。
「ふざけるなよゴルァ!!」
「冗談言うなモナ!」
 俺とギコは、同時に叫んだ。
 不思議な事に、リナーに反応は無い。
 いつもなら、真っ先に反対するだろうに…

「…そんな都合のいい話は無いぜ!」
 ギコは、身を乗り出して『アルカディア』に詰め寄った。
「…じゃあ、どうするんだ? しぃの体ごと俺を殺すのか?」
 『アルカディア』はニヤニヤ笑いながらギコの方を見る。
「この町をメチャメチャにしようとしたテメーは、許せないんだよ!」
 『アルカディア』の嘲笑に挑発されたように、大声で吠えるギコ。

「合理的思考ができないところが、ガキなんだよな…」
 そう言いながら、『アルカディア』はギコの耳元に口を寄せた。
 そして、何かを囁く。
 たちまちギコの表情が固まった。
 不審な笑みを浮かべながら、『アルカディア』がギコから離れる。

「…お前は、今日から俺達の仲間だゴルァ!!」
 突然、手の平を返したようにギコは言った。
 …何をした?
 今のも、『アルカディア』の能力か?

 次に、『アルカディア』は俺の耳元で囁いた。
「…オマエが『異端者』に対して抱いてる妄想や願望を、本人にチクるぞ…?
 若いってのは大変だねェ… 向こうはどう思うだろうなァ、青少年…?」

 …!!

「今日から、『アルカディア』はモナ達の仲間モナ」
 俺は柔らかな笑みを浮かべると、みんなに告げた。
 不審そうに俺の顔を見るリナー。
 『アルカディア』は満足そうに頷いている。

「アアン! 僕の願望も、モナー君には内緒なんだからな!!」
 『アルカディア』の言葉が聞こえていたのか、モララーが顔を赤くして身をよじらせた。
 …寒気がする。

 『アルカディア』は、そんなモララーを睨んだ。
「…テメェ、何を企んでやがる?」
 モララーを見据えたまま、『アルカディア』は低い声で言った。
「さて、何の事だか…? 僕が考えているのは、モナー君とリル子さんの事だけさ…」
 モララーは表情を変えずに言った。

「ヘッ、よく言うぜ。この狸め…!」
 そう吐き捨てて、『アルカディア』は立ち上がる。
「忠告しとくぜ。俺の事をゴタゴタ言うヒマがあるんなら、こいつを殺しとくんだな…」
 そう言いながら、『アルカディア』は本体のしぃを残して居間から出ていってしまった。

「…『アルカディア』の奴、どこへ行ったモナか?」
 奴の出ていった壊れたフスマの方を見ながら、俺はしぃに訊ねた。
「えーと… コンビニに、立ち読みにでも行くんじゃないかな…?」
 首をかしげてしぃは言った。
 …何だそりゃ。
 随分と図々しいスタンドだな。

143:2004/05/01(土) 15:47

「…後は、公安五課に協力するかだな」
 『アルカディア』の件を置いて、ギコが話を進めた。
「別に、みんな揃って要人救出に行く必要もないんじゃない?」
 モララーは口を開く。
「だから、自由参加でいいと思うけど。まあ、僕はリル子さんに頼まれたから行くけどね」

 自由参加とは、物見遊山的な言い方だ。
 だが、各人の判断に委ねるというのは、いい案かもしれない。
「そういう事でいいだろうな…」
 そう言いながら、リナーは立ち上がった。
 心なしか顔色が悪い。体調が悪いのだろうか。
 そう言えば、さっきから黙ったままだ。

「では、私はしばらく休ませてもらう…」
 そう言って、リナーは居間を出ていった。
 彼女は、かなり衰弱している…

 リナーが出ていった後、ギコは俺の方を見て言った。
「『解読者』とかいう奴が、お前は人間を辞めたって言ってたな…」
 ギコは、まっすぐに俺を見据える。
「俺の目から見ても、今のお前は何か違う。 …お前、本当に吸血鬼になったのか?」

「そうモナ」
 俺は頷いた。
「…なんでだ?」
 さらにギコは訊ねる。
 俺は答えない。
 モララーもしぃもレモナもつーも、黙って俺に視線を送っている。
 驚き、戸惑い、疑念…
 それらの感情を『アウト・オブ・エデン』が感知した。

 ため息をついて、ギコは言った。
「…まあ、あの代行者達の話から、大体の事は理解してるつもりだ。
 リナーが何なのか、この町で起きている事は何だったのか…」
「…それが、許せるモナ?」
 俺は戸惑いつつ訊ねた。

「許せる訳ねぇだろう!!」
 声を荒げるギコ。
「でも、『アルカディア』の事もあって、何が何だか分からなくなっちまった。
 何が正しくて、何が間違ってるのか。誰が加害者で、誰が被害者なのか…」
 そう言って、ギコは視線を落とした。
 居間を沈黙が支配する。

 その沈黙を押し破るように、レモナが口を開いた。
「以前、モナーくんは私に『造られた存在でも気にしない』って言ってくれたよね…」
 確かに、そう言った覚えがある。
 そこだけを抽出すると、愛の告白のようだが。
「…私も、モナーくんが何になっても気にしないから」
 そう言って微笑むレモナ。
「ぼ、僕だって気にしないからな!!」
 モララーが大声を張り上げる。

「モナーガ フジミニ ナッタト イウコトハ… アヒャ…」
 部屋の隅っこで、ニヤリと笑うつー。
 どうせよからぬ事を考えているに違いない。
 そういえば、つーは吸血鬼よりも特異な存在なのだ。

 …普段はうざったい三馬鹿だが、こういう時は癒される。
 俺は思わず表情を緩めた。
 そう。吸血鬼だろうが何だろうが、俺には仲間がいるのだ。
「ちょっと、リナーの様子を見てくるモナ」
 そう言って、俺は居間を出た。

 廊下を進んでいると、目をこすっているガナーの姿が目に入る。
 そう言えば、こいつの存在をすっかり忘れていた。
「おはよう、兄さん…」
「おはようモナ」
 俺とガナーはいつものように挨拶を交わす。
 ガナーは眠そうに口を開いた。
「そう言えば、昨日の夜中はやけに騒がしくなかった…?」

 あれだけの騒動を『騒がしい』の一言で済ますのか、妹よ。
「…どっかの馬鹿が騒いでたんじゃないモナ?」
 俺はそれだけ言って、リナーの部屋に向かった。
 ガナーはのっそりと台所へ向かったようだ。

144:2004/05/01(土) 15:49

 俺は、リナーの部屋をノックした。
 返事があったので、ドアを開ける。
 部屋は薄暗い。カーテンがしっかりと閉じられているせいだ。
 リナーは、布団で横になっていた。

「やっぱり、体調が悪いモナ?」
 俺はそう言いながら、カーテンの閉まっている窓の方に歩み寄る。
 こんな暗い部屋にいたら、気持ちも塞ぎこんでしまうだろう。
「ああ。昨日は連戦だったからな。肉体を酷使し過ぎたようだ」
 リナーは落ち着いた声で言った。
「…とは言え、かなり体調は回復しているが」

「それはよかったモナね」
 俺はカーテンを開けた。
 明るい日差しが部屋に差し込む。
「ほら、外はこんなにいい天気MONA…GYAAAAAAAA!!」
 外から差し込んだ日光が、俺の皮膚を焼く。

「…馬鹿か、君は!」 
 リナーは素早く立ち上がると、俺を押しのけてカーテンを閉めた。
 俺は床に尻餅をつく。
 日光を浴びた部分がチリチリと痺れていた。
 もう少し長い時間日光に晒されれば、命はなかっただろう。

「君は、自分が吸血鬼だという自覚があるのか!?」
 リナーは物凄い剣幕で言った。
「…申し訳ないモナ」
 ひたすらに恐縮する俺。

「私に謝っても仕方ないだろう…」
 そう言って、リナーは布団の上に座り込んだ。
「…これだから、君は放っておけないんだ。もう、君には会わないと決意したのにな…」
 呆れたようにリナーは言った。
 しかし、その表情は柔らかい。
「それなら、ずっとモナの傍にいて面倒を見てほしいモナ」
 俺は、そう言いながら部屋の隅に腰を下ろした。
「そうだな。残された時間は、ずっと君の傍にいるとしよう」
 少し微笑んで、リナーは言った。
 気恥ずかしくなって、俺はリナーから目を逸らす。
 同時に、『残された時間』というフレーズが重くのしかかった。

 何となく、リナーの部屋を眺めた。
 各所に銃器や日本刀が飾ってある。
 また、立派な筆書で『朴念仁』と書かれた掛け軸が壁に掛かっていた。
 部屋の隅には、沢山のダンボールが積んである。
 あれも銃器や弾薬だろう。
 そして、机の上に置かれたウサギのぬいぐるみが、女の子の部屋である事を全力で主張していた。
 …とは言え、周囲の銃器に比べ、悲しいぐらいに浮いてしまっている。

「『アルカディア』の仲間入りの件、よくリナーが承諾したモナね」
 俺は話題を変えた。
「少し、迷っていてな…」
 リナーは視線を落とす。
「今までの私の味方… いや、私の全てだった『教会』は、完全に敵に回った。
 不様な話だ。結局、私は『教会』にいいように使われていたに過ぎない。『アルカディア』も含めてな」
 リナーは、先程のギコと同じような事を口にした。

 俺は、少し物悲しそうなリナーの横顔を見た。
 リナーにとって、『教会』こそ全てだった。
 組織の為に生き、組織の為に死ぬ。
 彼女は、『教会』の為に戦ってきたのだ。
 『教会』の為に力を振るう事のみが、彼女の存在理由であった。

 彼女は、決して強くなんかない。
 無敵の代行者でも、冷徹な吸血鬼でも――
 それでも、彼女は一人の女の子なのだ。
 それが、たった一人で『教会』の為に生きる運命を背負った。
 吸血鬼に向ける憎しみは、彼女の自己嫌悪に他ならない。
 それを使命感で塗り潰して、彼女は屍の山を築いたのだ。
 そう、『教会』の為に――

 しかし、『教会』は彼女を裏切った。
 いや、裏切りですらない。
 『教会』にとって、彼女は最初から追討すべき吸血鬼に過ぎなかった。
 ――今まで飼ってやった。
 その表現が、『教会』と彼女の真の関係だ。

 その虚偽。
 14年に渡る欺瞞。
 彼女の戦う理由は、生きた証は一体どこにあったのか…

「――でも、君に会えた」
 リナーは唐突に言った。
 俺は驚いて、リナーの顔を見る。

「君が、私を血塗れの闇から引きずり出してくれたんだ。
 『教会』が信じられなくなった今でも、君が傍にいてくれる」
 リナーは柔らかく言った。
 俺は、赤面して目を逸らす。
「よく、モナの考えてる事が分かったモナね…」

「君は思考が顔に出すぎるな。戦闘者としては不利だ。 …そういうのは、私の前だけにした方がいい」
 リナーは僅かに微笑んで言った。
 気恥ずかしくなって、俺は意味もなく時計を見る。
 もう午前9時だ。
 やはり学校は臨時休業のようだ。
 ギコやしぃ達は、公安五課が迎えに来る午後10時までここにいるのだろうか。

145:2004/05/01(土) 15:58
 再び、リナーに視線を戻した。
 彼女は布団の上に座って、俺の顔を見つめている。
「…とにかく、私には問題は無い。公安五課に協力するかどうかは、君の指示に従おう」
 リナーは俺に告げた。
「分かったモナ。10時までには決めとくモナ」
 俺は頷く。
 約束の時間には、まだ半日近くあるのだ。
 そろそろ昼食の事も考えなければいけない。
 ギコたちの分も用意すべきだろうか…?

 俺は、横目でリナーを見た。
 彼女は、何事も無さげに天井を見上げている。
 だが、それは平静を装っているに過ぎない。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は誤魔化しきれないのだ。
 体調が回復したなんて嘘だ。 
 今も、相当に苦痛を感じているはず。
 人の血さえあれば…

「まあ、元気そうで安心したモナ」
 俺は腰を上げた。
 そのまま、ドアの方向に歩く。
 今のリナーを癒せるのは、人の血以外にない。
 リナー自身は拒むだろうが…

「とにかく、今日一日は安静にしておくモナよ」
 俺はそう言ってドアを開けた。
「ああ…」
 頷くリナー。
 そのまま、俺はリナーの部屋を出た。
 彼女はかなり消耗している。
 リナーの意に逆らってでも、人の血を…

「そんな血走った目でどこへ行く気だ、ゴルァ…?」
 俺の目に、腕を組んだギコの姿が映った。
 進路を妨害するように、廊下の真ん中に立っている。
 何やら思い詰めた表情だ。
 もっとも、今の俺も同じようなものだろうが。

「…ちょっと散歩モナ」
 俺は笑顔を形作ろうとする。
 だが、上手くいかない。

「日光を浴びれば死滅する吸血鬼が、日中に散歩か…?」
 ギコは険しい表情を崩さずに言った。
 俺を睨みつける視線。
 張り詰めた空気が増す。

「人間を… 何人か捕まえてくるモナ」
 俺は、ギコの視線から目を逸らして言った。
「テメェ… 自分が何を言ってるのか分かってんのか!!」
 ギコは声を張り上げる。

 自分が何を言っているか分かっているのか、だって?
 俺の選んだ道が正しいか間違ってるのかなんて――
 そんなのは、当然分かっている。
 俺の選んだ道は、完全に間違いだ。
 だが――

「ギコ。お前にとって、しぃの命と見知らぬ10人の命、どっちが大切モナ?」
 俺はギコを見据えて訊ねた。
「…」
 ギコは、黙って俺を睨んでいる。
 彼が、どちらを選ぶかは明らかだ。

「じゃあ、しぃの命と見知らぬ人間100人の命なら?
 それでも、しぃを助けるモナ? 100人の命を優先するモナ?
 その100人は、顔も合わせた事がない人達モナよ?」
「…」
 ギコは答えない。
 彼の中で、答えが出ているにもかかわらず。
 その理由は明白。彼自身の正義に反するからだ。

「じゃあ、300人の命なら? 500人ならどうモナ? 800人なら流石に手を打つモナ?
 一体何人の命なら、自分の最も大切な人と釣り合うモナ?」
 俺は、答えないギコに向かってさらに質問を投げかけた。
 もはや自問に近い。
「それなら… 大切な人の命より、10人の命、100人の命を優先する人間が正義モナか!?
 10人の命を救うために、自分の最も愛する人を切り捨てるような人間が本当に正しいモナか!?」

「…分からねぇよ」
 ギコは口を開いた。
「普通のヤツは、そんなの選べねぇ。それ以前に、そんな状況にはならねぇよ。
 …実際に、そんな決断を迫られたお前の苦悶は分かる。
 お前が俺なら、しぃを救うために同じ事をするだろう。
 でもな… 俺だって人間なんだよ!!」
 ギコの背後に、日本刀を携えた女性のヴィジョンが浮かび上がる。

「俺も、お前がエサとして扱おうとしている人間なんだ!
 お前を、黙って行かせる訳には行かねぇな…!!」
 『レイラ』が、日本刀を正眼に構えた。
 ギコは本気だ。
 本気で、俺を斬ろうとしている。
「…仕方ないモナね」
 俺は、懐からバヨネットを取り出した。

146:2004/05/01(土) 16:00

「…行くぜゴルァ!!」
「来いモナ!!」
 ギコは、大きく踏み込んだ。
 足運びが、剣先が視える。
 その初撃を、身体を反らして避けた。
 吸血鬼の肉体と『アウト・オブ・エデン』があれば、近距離パワー型スタンドの攻撃でも充分に対応は可能。

 俺は高く跳ぶと、天井を蹴った。
 そのまま、ギコにバヨネットを振り下ろす。
 『レイラ』の日本刀が、その攻撃を受け止めた。

 着地と同時に、俺は身を翻してバヨネットを振るった。
 ――狙いは、ギコの胸部。
 ギコの『レイラ』も、俺の顔面目掛けて日本刀を突き出した。
 やはり、反応が格段に早い。
 完全に相打ちのタイミング…!

 その攻撃は、互いに虚しく空を切った。
 いや、ぶつかり合う前に消失したと言った方が正しい。
 『レイラ』の日本刀は中程で折れ、後方に吹っ飛んでいった。
 俺のバヨネットは弾き飛ばされ、天井に突き刺さっている。

 俺とギコの間には、見知らぬスタンドが立っていた。
 人型のヴィジョンで、おそらくは近距離〜中距離型。
 こいつは、一体…!?

「道理や理念は、人それぞれに異なります…」
 俺とギコの間に割り込んだ男が口を開いた。
 おそらく、両方の攻撃を防いだスタンドの本体。
 この男の姿を、俺は何度も目にした事がある。
 ASAのしぃ助教授補佐、丸耳…!

「それぞれに異なるからこそ、万人共通の『正義』というテンプレートが必要なんですよ。
 …ともかく、両者とも剣を納めて下さい。私も『メタル・マスター』を引っ込めましょう」
 丸耳のスタンドが、ふっと消えた。
 ギコのスタンドもすでに消えている。
 どうやら戦意を削がれたようだ。

 …それにしても、丸耳はいつの間にここに現れた?
 俺、ギコ共に戦いに気を取られていたとは言え、全く気配を察知できなかったなんてありえない。
 丸耳はギコの方を向いた。
「ギコ君… 結局モナー君は、人間を捕まえてくる事は出来なかったと思いますよ。
 君は、ギリギリまで友人を見守ってやるべきでしたね。いきなり刃を向けるとは、血気に逸り過ぎです」
「…ああ、すまねぇ」
 自らの非を認めたのか、ギコは視線を落とした。

「君にはリーダーの素質があるのだから、自分を抑える事を知るべきです。
 感情の赴くままに動けば、周囲の人間が苦労する破目になる…」
 丸耳が、実感を込めて言った。
 さすが苦労している人間が言うと、説得力が違う。

147:2004/05/01(土) 16:00

「さて…」
 丸耳は俺の方を向いた。
「モナー君とリナーさんに、少し話があります。今からASA本部ビルに御足労願えませんか?」
 話があるだって…?
 ASAは、俺とリナーが人に害を及ぼす存在である事を察知しているはず。
 誘い出して、罠に嵌める気か?

「多分、モナー君が想像しているような件ではないですよ」
 丸耳は、俺の思考を見透かしたかのように言った。
「正直、今のASAに君達をどうこうしている余裕はありません。今回は、取引の申し出に来たのです」
 そう告げる丸耳。
 ASAが、俺達と取引だって…?

「ASAは、現在大変な苦境に立たされています。そこで、協力してほしい件があるのですが…
 もちろん取引と言う以上は、そちらにも見返りがあります。
 そちらからも喉から手が出るくらい美味しい話だと思いますが…」
 丸耳は思わせ振りに言った。
 公安五課に続いて、ASAからも協力要請か。
 俺達の存在は、思っていたよりも大きいようだ。
 そして、各組織が独自に動き出している。
 どうやら、俺達も傍観していられる立場ではなくなったらしい。

「リナーはこの町で100人以上の人間を殺したし、モナもどうなるか分からないモナ。
 それでも、モナ達と取引するモナか…?」
 俺は丸耳を見据えて言った。
 丸耳は、少し間を置いて答える。
「…個人的な憤りはありますが、最初に告げたように今のASAはそれどころではありません。
 現在のASAには、明確な敵が存在していますから…」

 少しだけ、丸耳の感情が視えた気がした。
 彼は、補佐と言う役職に埋没し、自らの感情を表に出す事は滅多に無い。
 それゆえ、しぃ助教授の付属品のように見える事もある。
 だが… そんな彼の衣が、少し薄れたように受け取れた。

 …とにかく、『アウト・オブ・エデン』で視た限り、丸耳の言葉に嘘は無いようだ。
 話だけでも聞いてみる必要があるだろう。
 喉から手が出るほどの見返りと言うのにも興味があるが、無下に断ってASAを敵に回すのも得策ではない。

「…分かったモナ。リナーを呼んでくるモナ」
 ASAなら、俺達を日光に晒さずに本部ビルまで連れて行く準備はあるだろう。
 俺は、リナーと共にASA本部ビルに向かう事にした。



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148ブック:2004/05/01(土) 17:38
     EVER BLUE
     第零話・VORTEX 〜始まりはいつも雨〜


 男はゆっくりと目を開いた。
「……」
 男は一糸纏わぬ姿で寝かせられていた。
 男は上体を起こし、用心深く周りを見渡す。
 薄暗い殺風景な空間が、男の目に映り込む。

(…ここは?
 いや、それ以前に、私は確か―――)
 男は自分の手をまじまじと見つめた。
 まるで、自分がここに存在する事をいぶかしむかのように。

「…お目覚めかな?」
 急にかけられた声に、男は反射的に振り向いた。
 部屋が薄暗い所為で、声の主の姿ははっきりとは確認出来ない。

(…やれやれ。
 どういう事かは分かりませんが、面倒な事になりそうですねぇ。)
 男は心の中でそう毒づくのであった。

149ブック:2004/05/01(土) 17:38



     ・     ・     ・



 荘厳な威風の漂う謁見の間に、艶やかな服を纏った女性が豪華絢爛な椅子に座っていた。
「…入りなさい。」
 誰も居ない空間に向かって、その女性が一言告げる。

 と、その部屋の入り口の扉が開き、
 そこから無骨な戦闘服に身を包んだ女性が入って来る。
 その女性は、背中に奇怪な大きな得物を担いでいた。

 斧と槍の特徴を併せ持つ白兵武器『ハルバード』。
 それだけでもかなり大仰な武器だが、
 この女性の持つ『ハルバード』は、
 さらに手柄(グリップ)の部分に一体化する形でマシンガンが備え付けられていた。
 それは最早「武器」というよりも、
 「兵器」と呼ぶ方が相応しい程の代物であった。

「お呼びでしょうか、女王陛下(クイーン)。」
 女性が女王の前に恭しくかしずく。
「…わざわざ呼び出してすみませんでしたね、ジャンヌ。」
 女王がジャンヌと呼ばれた女性に顔を上げるように促す。

「いえ、女王陛下の命とあらば、例え地の果てに居ようと馳せ参じます。」
 ジャンヌが顔を上げて引き締まった表情で答える。

「嬉しい事を言ってくれますね。
 …さて、今日ここに貴女を呼んだ時点で、
 どのような用件かは察しがついていますね?」
 女王はジャンヌの顔を覗きこんだ。

「…『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の件でしょうか?」
 ジャンヌが女王に尋ねた。
「そうです。
 先日、隠密として派遣していた使者から、
 彼等についてのある重大な連絡が入りました。」
 ジャンヌがその言葉に唾を飲み込む。

「…そしてそれから暫くも経たないうちに、
 その隠密からの連絡が途絶えました。」
 女王が顔を曇らせた。
 その目には、心よりの哀しみが浮かんでいる。

「…成る程。それで、私にお呼びがかかったという事ですね。」
 ジャンヌが得心したといった顔で言った。
「そうです。
 ジャンヌ、これ程の危険な任務を任せられるのは貴女しかおりません。
 すみませんが、命を落とした隠密が追っていた任務を引き継いではくれませんか?」
 女王が懇願するような声色で言った。

「女王陛下、私めにそのようなお心使いなど、勿体のう御座います。
 どうかお気になさらず、自分の手足を使うかのように命令なさって下さい。」
 ジャンヌはさも当然であるかのようにそう女王に告げた。
 事実、彼女は女王の為なら喜んで命すら捧げるだろう。
 それだけの覚悟が、その瞳の奥には宿されている。

「…ありがとう、ジャンヌ。
 頼りにしていますよ。」
 女王がジャンヌに子供のように無邪気な微笑みを見せた。
 ジャンヌは同性にも関わらず、
 その女王の微笑みに引き込まれそうになってしまう。

「い、いえ、それが私の仕事ですから!
 この『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード(銃斧槍)』、
 必ずや女王陛下のご期待に答えて見せます!!」
 しどろもどろになりそうになりながらも、
 ジャンヌは女王にそう返答した。

「…そういえば、隠密が追っていたものとやらは一体なんなのでしょうか?」
 思い出したように、ジャンヌが女王に尋ねた。
「ああ、そう言えばその説明がまだでしたね。」
 女王がうっかりしていたとばかりに手を叩く。
「それは―――…」

150ブック:2004/05/01(土) 17:39



     ・     ・     ・



 一艘の大きな船が海を渡っていた。
 いや、それは船というよりも、寧ろ小型戦艦と言った方が正しいかもしれない。
 船のマストには、大きな赤い鮫のロゴマークがでかでかと描かれている

 …一つだけ、我々の知る船と相違点を挙げるとするならば、
 その船の浮かぶ海は、
 海は海でも『空の海』『風の海』『雲の海』と形容されるというものであるという事だ。
 そう、この船は空を飛んでいた。

「…糞、こんな所で雨雲にひっかかっちまうなんてな。」
 戦艦の操舵室に備え付けられた椅子に偉そうにふんぞり返る男が、忌々しそうに呟いた。
「雨はいけねぇや。
 どうにも気分が暗くなっちまう。」
 男が足を組み替えながら舌打ちをする。

「…!マジレスマン様。」
 と、操舵室にいた兵士の一人が男に向かって言った。
「何だぁ?
 雨の所為で気分が悪いんだから、つまらない事で話しかけんな。」
 マジレスマンと呼ばれた男は面倒臭そうに返す。

「いえ、あの、外に船の姿が見えましたので報告を。
 どうやら、民間の輸送船のようです。」
 兵士が遠慮がちにマジレスマンに告げた。

「…そうか。よし、撃ち堕とせ。目障りだ。」
 マジレスマンが兵士達に命令を下す。

「で、ですが、あの御方からの指令は、『積荷』の輸送の筈です!
 下手に派手な事をしては、問題が発生するのではないかと…」
 しかし、兵士の言葉はそこで止まった。
 マジレスマンの殺気のこもった視線を、真正面からぶつけられたからだ。

「…お前、いつから俺に命令が出来る程偉くなった?」
 マジレスマンが兵士をギョロリと睨む。
「し、失礼しました!!
 すぐに攻撃準備を開始させます!!!」
 兵士は慌てた様子で部屋を飛び出して行った。

「そう心配すんな。
 たかが民間船が俺達に何が出来る。
 軽〜く撫でてやるだけだ。」
 なおも不安そうな顔をする他の兵士達に向かって、
 マジレスマンは笑いながらそう言うのであった。



     ・     ・     ・



 少女は粗末な部屋の中、体を縛り付けるロープから何とか抜け出そうと、
 必死に身を捩じらせていた。
 しかしロープはきっちりと締め付けられており、何をしようとビクともしない。

「あ〜もう!何でこんなにキツく縛るのよ!!
 女の子にこんな事するなんて、頭がおかしいんじゃない!?」
 少女が諦めた様子で体を動かすのをやめると、
 言葉を向ける相手が不在なまま罵倒の言葉を口にした。

「まったく…
 ようやくあの辛気臭い所から出られたかと思ったら、
 今度は空賊の船の中に簀巻き?
 はっ!
 『囚われの姫君』なんて童話の中の話でしか有り得ないシチュエーションを
 体験出来るなんて、夢にも思わなかったわよ!!」
 しかしその少女の言葉は、少女以外の耳に入る事無く虚しく散っていく。

「…ちょっと!!
 誰か居るんでしょ!?
 早くここから出しなさ……きゃあぁ!!!」
 その時、爆音と共に船に大きな衝撃が走った。

151ブック:2004/05/01(土) 17:39



     ・     ・     ・



「糞ったれがあ!!
 警告も無しにいきなりぶっ放してきやがって!!
 どこのドチクショウだぁ!!!
 こんな非常識な真似をする奴は!!?」
 右目に眼帯をつけた、屈強な体躯の男が喚き散らした。
 その顔には大きな傷痕が刻み込まれている。

「あのマストに描かれてある赤い鮫…
 恐らく『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の一味ですね。
 全くもって運勢が最悪としか形容のしかたがありません。」
 和服を着込んだ大和撫子風の女性が落ち着いた声でそう告げた。

「どうします?
 幸い被弾箇所も無いようですし、このまま雨雲に隠れながら逃げれば、
 逃走が成功すると思いますが。」
 和服女性が口を開く。

「馬鹿野朗!
 このサカーナ商会一味が、正面から喧嘩売られて逃げ出せるか!!
 上等だ!この喧嘩、買ってやる!!!」
 眼帯男が唾を飛ばしながら叫ぶ。

「ほぼ間違い無く返り討ちにあうでしょうね。
 自殺願望があるというならば、話は別ですが。」
 和服女性がやれやれと言った風に頭を横に振る。

「それにこの船の搭載火気じゃ、
 小型とはいえ戦闘用艦体には歯が立たないですよ。」
 横から、テンガロンハットを被った女性が和服女と眼帯男との会話に口を挟む。

「…なあに、外からが駄目なら、内側から喰い破るまでよ。」
 と、眼帯男がニヤリと笑った。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)発射準備!!
 連中のどてっ腹から風穴開けてやるぜ!!!」
 眼帯男が大声で指示を下した。

「ちょっと、本気ですか!?」
 和服女が信じられないといった表情で聞き返す。
「私まだ死にたくないです〜!」
 テンガロンハットを被った女性も眼帯男に反論する。
 しかし、眼帯男はそれらの意見には耳も貸さなかった。

「ニラ茶!三月うさぎ!オオミミ!居るか!?」
 眼帯男が振り返ると、そこには三人の男が立っていた。

「いつでも行けるぜ、フォルァ!」
 ギコの亜種の風貌を持つ男が拳を固めた。

「…全く。
 いつもの事ながら、お前達の無謀さには開いた口が塞がらんな。
 一度頭を開いて中を覗いてみたいものだ。」
 黒いマントに身を包んだ隻眼の長耳の男が皮肉気に呟いた。

「何か言ったか、三月!?」
 亜種のギコの青年が黒マントの男に食って掛かる。
「さてな。」
 しかし黒マントの男は、手馴れた様子でそれを受け流した。

「オオミミ、ビビルんじゃねぇぞ、覚悟決めろ!
 『ゼルダ』の奴にも金玉締めとけって伝えとけ!!」
 眼帯男がオオミミと呼んだ少年の肩を叩く。
「分かってるって、大将。」
 オオミミと呼ばれた少年が、苦笑しながら眼帯男に答えた。

「…それじゃ、今回も頼むよ、『ゼルダ』!」
 少年は、自分の内側に向かってそう呼びかけた。



     TO BE CONTINUED…



以上予告編です。
以前もお伝えしたように、この作品は実験的な意味合いが多分に含まれています。
ご不満、改善点などがありましたら遠慮なくお申し付け下さい。
スタンドスレである以上、スタンドバトルも必ずありますので、
今回スタンドのスの字も出て来なかったことには何卒ご容赦をお願い致します。
ジョジョっぽくないという点に関しましては、
ここはスタンド発動スレであり、
2ちゃんのキャラにジョジョらしい事をさせるスレではないという
言い訳をさせて下さい…
それでも、何とかしてジョジョらしさは少しでも出していきたいと思います、
あと、小説感想スレの>>863様の意見をもとに、
今回はわがままなお姫様ヒロインに挑戦してみる事にしました。
その事も含め、この小説では派手な大失敗をやらかしてしまうかもしれませんが、
どうか生暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
本編開始は、恐らく1〜2週間先になると思いますので、
どうか今しばらくお待ち下さい。

152N2:2004/05/02(日) 06:39

)   今まで誰も描かなかったひろゆき家臣団が『矢』の男の存在を知らされるシーン、
 (   私が書いてしまったけれどもいいですか
  `ー〜〜〜o〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      。O  イザッテトキハ ソコデ バイオレットキムチノ デバンデスヨ
  l⌒l ∧ ∧    __
  |  |( ´∀`)  //  /
  |  |(つ ひつ //  /カタカタ 
  |  | 乂_つ〔三〕三三〕
  |  |⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒l`l
  |  |            .| |
  |_「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`l_」

153N2:2004/05/02(日) 06:40

 2ちゃんねる運営委員会 ―始動―

「…それでは、これより緊急会議を始めたいと思います。
まず、今回皆さんに緊急集合を命じたことにつきまして、ひろゆき様からご説明があります」

『夜勤』と呼ばれる男はそう言って上座に座る男に軽く会釈すると、再び席に着いた。
それを受けて、『ひろゆき』は起立した。
張り詰めた空気の中で、崩されることの無い笑顔が不気味に映える。

「…今日みんなに集まってもらったのは他でもないです。
昨日『茂名王町』で突如暴動が起こったのは知ってますね?」

「それだったら、朝からどこの局でもヌ速で取り扱ってたから知らないわけがないんだな!」
『SupportDESK』は知ったかぶりの笑みを浮かべて自身有り気に言った。
それを見た『トオル』は呆れ果てた様に溜め息を吐いた。

「…つまり、貴様は昨晩そんなことも知らずに一人のうのうと過ごし、
貴様を除く護衛団一同のように町で暴徒達の鎮圧に回ることはなかった…という事か?」
『トオル』は飲みかけのグラスをわざと音を立ててテーブルに戻した。
それに対して『SupportDESK』が急に汗ばむ。

「あ…それはその…。
……仕方なかったんだよ!!昨日は真昼間から荒らし抹殺で町中を回って疲れ切ってたんだからな!!
…それとも、文句があるならここであぼーんされるか…?」
彼はどこからともなくバズーカ砲を取り出し、『トオル』に照準を合わせた。

「…まさか、俺とここで一戦交えるとでも…?」
立ち上がる『トオル』。
『SupportDESK』も怯むことなく言い返す。

「…お前は昔から気に入らなかったんだからな…。
僕よりもろくに働いていないくせにひろゆき様から寵愛を受けて…。
しかも世間ではここのNo.2はお前だと言われるてし、ひろゆき様の跡を継ぐのはお前だと言われてるし…。
僕はお前のことが気に入らないんだよなッ!!」

「…てめえ、ここで『枯れる』か…?」
怒りを露わにした『トオル』は先程のグラスを握り締めた。
すると中の水はみるみる内に消えてしまったかと思うと、今度はガラスが砂となって彼の手から零れ落ちていった。

「…二人とも、ちょっと止めるです」
対立を続ける二人の間に、『ひろゆき』の言葉が割って入る。
優しい言葉に潜む、―――威圧感。
主の周辺から、何かどす黒いオーラが自分達に注がれたことを、二人は理解した。
二人は上座を向いて軽く頭を下げた。
「…申し訳ありません。いつもの悪い癖が出てしまいました」
「ご、ごめんなさい…」

「…分かれば、よろしいです」
彼の周辺を渦巻く重苦しい空気がふっ、と解かれた。
『ひろゆき』は続けた。

「今トオルとSupportDESKが言ってたように、昨日町民が突然狂ったように暴れだし、
多数の死傷者を出したです…。
まあそれでみんなには夜遅いところを自主的に鎮圧へと動いてくれたわけですが、
SupportDESKは一昨日は朝から重いバズーカを引っ提げて町中の荒らしを潰してくれましたから
ゆっくり休んでいたのは別に咎めるつもりもないですし、
他のみんなも、特にマァヴなんかは出張帰りで疲れているところだったのに
事態を把握するなりすぐに町へと出て行ってくれてほんと助かったです…」
自分が暗に批判されたと察した『SupportDESK』は顔をしかめ、おもむろにグラスを取ると中の水を飲み始めた。

154N2:2004/05/02(日) 06:41

「まあそれはそれで大問題ですが、それよりもみんなに話しておかなくてはならない事があるです…。
本当は一昨日にでもすぐにみんなを集めてその時に緊急会議をしたかったですが、
マァヴ含め主要幹部が今日まで揃わなかったのでようやくこうして会議を開いたです」

「しかし、昨日の暴動よりも重要な事とは一体何なのですか?」
『マァヴ』が『ひろゆき』の目を見て言った。
それに『ひろゆき』が頷く。
「…実は、一昨昨日の夜中に、この建物に不法侵入者が出没したです」

一気に会議室の空気が変わる。
ある者は椅子を倒しながら立ち上がり、ある者は口に含んだ水を向かいの顔面目掛けて吹き付けた。

「そ…それは一体どういうことなんですか、ひろゆき様ッッ!!!!」
机を叩いて叫びだす『SupportDESK』。

「…見苦しいぞ、座れ。
管理人たるものいざという時にあたふたしているようでは話にならないぞ」
動揺する『SupportDESK』を、『トオル』はハンカチで顔を拭きながら制する。

「…し、しかしッ!このビルの警備は万全のはずです!
蟻一匹とて忍び込む隙はありません!!」
今度は立ったまま『マァヴ』が叫んだ。
ショックが大きいのか彼の表情は凍り付き、足は震えている。

「奴はそれが可能な男です…。
厳重な警備網をいとも簡単に掻い潜り、そして私の部屋に侵入したです」

それを聞いた一同の顔が青ざめる。
「そ、それでッ、ひろゆき様にお怪我は無かったのですかッッッ!?」
先程よりも更に語調を強めて『SupportDESK』が絶叫する。
その声の余りのうるささに、正面の『トオル』は思わず片耳を塞いだ。

「…今ひろゆき様がこうして無事でおられるんだ、お怪我をなさったはずがないだろう?」
それを聞いて、『SupportDESK』はあ、そうかと呟くと落ち着きを取り戻して着席した。
「それよりもひろゆき様、今その者を『奴』と仰いましたが、もしかすると…、
………お知り合いなのですか?」

155N2:2004/05/02(日) 06:43

『ひろゆき』の顔が一瞬ピクリ、と動いた。
そして静かに笑い、『トオル』に向けて不気味な笑顔を突き付けた。
『トオル』は椅子ごと少しだけ後ずさりした。

「…流石ですね、トオル。察しが良い。
本当はプライバシーに関わるからあまり言いたくはなかったですが…、
これもみんなに事の深刻さを知ってもらう為には致し方無いです。
確かにその男はかつて私と接触がありましたです」

「それはどのような経緯だったのですか?」
今まで個人的な発言を控えてきた『夜勤』が始めて口を開いた。

「ええ、あれは確か15年位昔だったですが、私がインドに観光旅行した時の事です。
あの男は前触れも無く突然私の前に現れたです。
そして私に、『あるもの』を預かるよう頼まれたです」

「『あるもの』…?
それは一体何だったのですか?」
『トオル』がいぶかしげに『ひろゆき』に尋ねる。

『ひろゆき』の顔が笑顔のまま険しくなる。
彼は机から立ち上がり、そして言った。
「…『矢』です。古めかしい、いつの時代に作られたかも分からない『矢』です。
しかし、それはただの古めかしい骨董品などではないです。
後に調べたところ、その『矢』は才ある者にスタンドを発現させる代物だったのです」

「な、なんだってー!?」
全員が声を揃えて叫んだ。
この場にいる者は皆生まれついてスタンドを身につけていたので、そのような物の存在は誰一人として知らなかった。

「そ…そんな恐ろしいモノがこの世に存在したのですか!?」
血の毛が失せたまま立ち尽くす『SupportDESK』。
他の者も口にこそ出さないが、彼と同じ様に強い衝撃を受けていた。

「…残念ながら、これは事実です。
私は何故あの男が私に預けたのか全く分かりませんでしたが、ずっと大切に保管してきたです。
そしてあの夜…」

「…このビルの厳重な警備の合間を縫って、ふてぶてしくもひろゆき様のお部屋に侵入したということですか」
『トオル』が険しい顔をして言った。
顔も知らぬ男に対して既に敵意剥き出しと言わんばかりである。

「ええ、そして奴は隣の部屋の金庫から『矢』を一本奪い取り、そのまま逃げ去ったです…」

156N2:2004/05/02(日) 06:43

「…ちょっと待って下さい!
そんな危険なブツを持ち逃げされただなんて、何されるかわかったもんじゃないですよ!!」
『マァヴ』の顔色が変わる。
元削除管理人委員長という立場上、町の公安に関わる事項に彼はうるさかった。

「…その通りです。
そして昨日のあの騒動をもう一度、その上でよく考え直して欲しいです。
突如自我を失ったように狂戦士と化した町民達、
それが町民全体の約95%以上というこの不可解な現象を改めてどう思うですか?」

「…スタンド攻撃!!」
『トオル』が最初に真実に気付いた。
それを聞いた回りの者達もあっ、という顔をした。

「そうです、しかもこんな突然にこんな現象が起こるなど、
まるで『何か突然の出来事を契機に発現したスタンドが半ば暴走気味に町民を操った』みたいでしょう…?」

「もう既に、『矢』によってスタンド使いが誕生している…」
『夜勤』は唖然とした。
しかし『ひろゆき』によって更に残酷な現実が突き付けられる。

「それ以上にあの『矢』の危険なところは、『矢』によってスタンドを発現出来なかった者は
例外無く皆死んでしまう事です…。
…実際ここ数日で変死体の発見数が爆発的に増加しているらしいですね」

「ひろゆき様!!」
これまで冷静さを保ってきた『トオル』が突然怒鳴り声を上げながら起立した。
『ひろゆき』は彼の意図をすぐに察した。

「…分かっているです。その為にみんなをここへと集めたです。
―――コードネーム、<『矢』の男>!
      罪状、『矢』による無差別大量殺人及び殺人未遂!
      その素性、スタンド共に未だに不明!
      しかしその凶悪性から危険度はAAAと認定!
      この場に居る全員に命ずるです!
      目的は『矢』の奪還!
      そして『矢』の男を発見次第、即刻『削除』するです!!」

「ハッ!!」
全員が起立し、『ひろゆき』へと敬礼する。

「さあ、行くです!罪無き町民達の命を弄ぶ悪を、その手で断罪してくるのです!!」
彼の号令に一同は再び敬礼し、そして直後部屋を後にしていった。
無論それは『夜勤』にとっても同じだった。
しかし、その彼を『ひろゆき』が呼び止めた。

(…後でちょっと部屋に来て欲しいです)

『夜勤』は何故自分だけにそのように命じたのかふと疑問に思ったが、
二つ返事で「はい」と答えると同僚達を追って走っていった。

157N2:2004/05/02(日) 06:44



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



『ひろゆき』は嘘を付いた。
彼が話した『矢』の男との出会いは、彼にとって重要な部分だけが隠されていた。
インドへは観光などではなく、空条モナ太郎一行を抹殺する為に向かったのであり、
『矢』の男から受け取ったのは『矢』などではなく『石仮面』であった。
しかしその事実は、彼がこの15年間「不老不死」の野望を果たすべく隠してきたことであり、
どうしても部下達に知られてはならない事であった。

それ故、この時期に『矢』の男が自分の前に出没したことは完全に計算外であった。
今この時期自分の前に現れられては、これまで積み上げてきた計画全てが台無しになる危険性がある。
その為、いずれはそうすべく運命ではあったが、彼は何としても、その計画が明るみとなる前に、
自らの野望を知る唯一の存在、『矢』の男に消えてもらわなくてはならなかった。

彼のすぐ傍には、『夜勤』が控えている。
彼にとって、自分の計画の安全性は1%でも高めておく必要があった。
その為には、『矢』の男と不要な接触を試みる危険因子は全て取り払わなくてはならない。

「…それで、一体どのような御用でしょうか…?」
『夜勤』はそんな彼の真意など知る由もなく、純粋な忠誠心から成る言葉を『ひろゆき』に発した。
『ひろゆき』は一瞬そんな彼が不憫にも思えたが、すぐに思い直して命令した。
「まず、この茂名王町でここ最近恐らく『矢』によってスタンドが発現したであろう者達を、
一人の漏れも無く私に報告するです」

「…それで、その者達を如何なさるおつもりですか?」
『夜勤』が尋ねる。
『ひろゆき』は何の躊躇もせず、極めてあっさりと『夜勤』に言い放った。
「…他の者にもこれはすぐに伝えるのです。
『矢』の男に与する危険性のある者全て、私が命じ次第問答無用で全員すぐに消し去るです」
彼の目には、うっすらと狂気染みた物が感じ取られた。
が、『夜勤』にはその命を断れるはずもなかった。
「…仰せのままに」

158N2:2004/05/02(日) 06:46

だが、新たなスタンド使いを片っ端から消していっただけでは、それはそれで彼にも不都合に働く。
実際に『矢』の男のスタンドと戦ったことは無いが、『矢』を奪われた時に彼は二人の間に絶望的な実力差を感じた。
恐らく、自分が戦ったのでは呆気なく返り討ちに遭い、不老不死以前にお陀仏となってしまう。
『矢』の男を殺しうるスタンド使い。
彼にはそれもまた必要であった。

思い浮かぶのはあの夜、月に照らされた『矢』の男の姿。
あの時、彼の手には血に染まる包帯が巻かれていた。
…あくまで彼の勝手な推測ではあったが、『矢』の男はもしかしたら、
自分の所へ来る前に何者かと戦い、そして負傷したのではないか、と彼は思った。

無論、その人物が今でも生きている可能性は極めて低い。
十中八九、その場で男に殺されてしまったであろう。
…だが、彼はそれでもそのスタンド使いがまだ生きている、と何の証拠も無いのに強く思っていた。
単なる妄想か現実逃避か、しかしその者を上手く利用すれば、自分は一切の手を汚さずに
『矢』の男を抹殺することが出来るという思いが、彼の中では激しく燃え盛っていた。
彼は続けて『夜勤』に言った。

「…そしてこれは貴方に対してだけの極秘任務です。
ここ最近、この町に外からやって来たスタンド使いを先程のとは別に調べ、私に報告するです」

「その者達も処分するおつもりですか?」
『夜勤』は薄っすらとではあるが、それでも嫌そうな顔をしていた。
彼とて無意味な殺害は削除人本来のあるべき姿とはかけ離れていると感じているのだろう。

「いや、その者達はしばらく様子を見るです。
…あ、それと、その者達の実力が如何ほどか、という事も詳しく調べておくです」
『ひろゆき』はPCの省電力モードを解除し、書類の作成に当たり始めた。

「承知しました。では…」
そう言って、『夜勤』は静かに退室していった。

『ひろゆき』は再びPCを閉じると、グラスにワインを注ぎ、『矢』の男の事を考え始めた。

(かつて私に世界の覇王たる者の風格を感じ、石仮面を渡した貴様が…
何故今になって私の前に現れるというのですか!
今まで私が積み上げてきた15年、ここで全て失ってしまったならば、私は……。
……こんな所で私の計画を崩してたまるものですか。
今私の前に現れた、貴様の方が悪いですよ…。
貴様にはこのまま大人しくあぼーんされて頂くことにしましょう…。
クク…クックックック…クハハハハハハ………!!)

やがて『ひろゆき』は耐え切れなくなり、大声を上げて不気味な笑い声を辺りに響かせた。

159N2:2004/05/02(日) 06:47



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「いい加減にしろ!貴様一人の我がままでチーム全体に支障がきたされると言っているんだ!!」
狭い部屋の中に『トオル』の怒鳴り声が響く。
怒りの対象は『SupportDESK』。
その彼は不機嫌そうに頬杖を突いて座っていた。

「フン!どうせ僕が頑張ったところで褒められるのはいつもお前か夜勤だけだ!
だったらお前ら二人だけで頑張ってろよ!
僕はその間に荒らし共を血祭りに上げるんだからな!」
『SupportDESK』は再びバズーカを取り出し、部屋から出ようとした。
この態度が『トオル』の神経を逆撫でした。

「…それが常日頃からひろゆき様へ人一倍忠誠を捧げてきた者の取る態度か!!」
『トオル』からスタンドが浮かび上がり、『SupportDESK』目掛け拳を振り下ろす。
しかし、その拳は『マァヴ』のそれによって止められた。

「落ち着けよ、トオル。確かにまあ私にも彼の気持ちが分からないでもないよ。
だからまあ、ここは少し抑えてくれないか?」
『マァヴ』にたしなめられ、『トオル』は渋々スタンドを引っ込めた。

「SupportDESK!お前もお前だ!ひろゆき様からの勅令を無視するなんてお前らしくないぞ!!
お前も少しでもひろゆき様に気に入られたいんだったら、それなりの行動をしてから言え!!」
流石に『マァヴ』に言われたのであっては、彼にも文句を言い返すことは出来なかった。
彼は無言で小さく頷いた。

「…全く、こんな大事件が起こった傍から内部分裂だなんて笑えないよ!
二人とも、少しはよく考えてくれよ。ひろゆき様を慕う気持ちは、我々皆一緒のはずだ!」
『マァヴ』はそう言い残して部屋を後にした。
そして居辛くなった『SupportDESK』も間も無く外へと出て行った。

後には、『トオル』だけが残された。

160N2:2004/05/02(日) 06:47



彼には、『ひろゆき』の言葉が本当だとは思えなかった。
全くの確信も無いが、しかし自らの主の言葉の裏には、何か良からぬ思惑が渦巻いているのではないか。
家臣筆頭であるからこそ、彼にはそう強く感じられた。
同時に、その主人を疑う気持ちが彼にはどうしようもなく許せなかった。
信じられぬ主と、信じられぬ自分。
彼は堪らず近くの長椅子の上に大の字になって横になった。

(…どうして、こんな事になっちまったんだろう)

思い出されるのは懐かしき日々。
皆の間でのいざこざも無く、ただ毎日が楽しかった。
それが今では―――

(こんな時にあんたが居てくれたならどんなに助かったか…。
…切込隊長、あんた今どこで何をしてるんだ?
教えてくれよ、切込隊長…)

真上の天井に、在りし日の彼の姿が浮かび上がる。
そして間も無くその像は、水面に映る月の如く歪んでいった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

161452:2004/05/02(日) 10:18

              こ れ が 日 常 な ん で す 
                               そ の 1



  ・・・・・・ろ ・・・・い ・・・・・きろ ・・・・・い ・・・おい・・・起きろ!起きろ!

「・・・う・・・ん?」

よく寝た。いつものことだ。けど、このちょっと遅いくらいのすがすがしい朝を、これからも大切にしていきたいと思う。

・・・あれ?
・・・?
・・・・・・??

・・・2本の機械的な腕が、僕の頭をがっちり掴んでいる。

少しだけ頭を動かし、そいつの顔を見た。

・・・無い。
肩から先だけだ。

・・・・・・あ、これ、スタンドか。多分そうだ。
そうかと思うと、その腕はすっ、と消え、頭が自由になった。

目をこすりながらゆっくり起き上がった。枕元には、40分ほど前に喧しく鳴っていたであろう目覚まし時計が8時10分を示していた。

「やっと目が覚めたか・・・。」
おや・・・?
布団の横の卓袱台にものすごく不機嫌そうに座っている男がいた。
「俺は元来、時間にルーズな奴には厳しいタチでな・・・。10分遅刻だぞ、ゴルァァッ!!8時に第2公園に行くんだろ―がっ!」

そうだ。8時に第2公園に行くんだった。
今更急いだって遅れるが、とりあえず急ごう。
とりあえず顔を洗って、着替えて、朝食を食べて、歯を磨いて、ついでにもう一度顔を洗う。
途中何度もひっぱたかれた気がしたが、これは日課なのだ。一日の始まりを実感するための儀式だ。通過儀礼だ。
モナを何度もひっぱたいた男はこれが終わったのを確認すると、モナをこの家――マンションの一室だが――に2枚だけの座布団に座らせ、
自分は前にもまして不機嫌な顔で卓袱台に腰掛けた。

「・・・・・・えっと・・・何から聞こうか・・・・・・君は誰モナ?」
「・・・ギコでいいや。ポリゴンモナーの協力者だ。
 ところでテメェ、どういう思考回路してんだ?俺が起こさなかったら一体いつまで寝過ごしていやがったんだ?
 しかもなんだ?状況を把握していながら、顔洗って着替えて飯食って歯ァ磨いてまた顔洗って、いつもそんな生活してんのか?
 そんなんでこの高速社会で生き抜くつもりなのかと小一時間問い詰めたい。・・・おっと、話が反れちまったようだな。オマエ、さっき何つったっけか?」
「・・・まだ、名前を聞いただけモナ。」
「ああ、そうだったな。・・・で、オマエ、俺達に協力すんだろ?」
「確かにそのつもりモナが・・・どうして言い切れるモナ?モナは何の連絡もしてないのに・・・。」
「ハァ?・・・あの野郎、また独断で指示出しやがったな・・・。まあ、いい。急いで駅前に行くぞ。」
「了解モナ。」

普通に靴を履き、いつものように元気に玄関の扉を開けた。

162452:2004/05/02(日) 10:19

    ガ ァ ァ ン !
「うおあぁぁっ!?」


・・・と同時に、たった今インターホンを押そうとしていたであろう中年の男をなぎ倒してしまった。
鼻を押さえてうずくまる中年男。かなりひどくぶつけたようだ。

「・・・あ・・・ごめんなさいモナ・・・。」
「いや・・・大丈夫です。すんません、こちらこそ・・・。」
明らかに精一杯怒りを堪えている。

「おい、急ぐぞ!」
後ろから怒鳴られた。
「あ、わかったモナ・・・。」
ギコの方に振り向く。

おや?ギコの表情が変わった。
ギコが自分のスタンドを出して、玄関前に立っている男に腕を伸ばした。
驚いて、男の方に向き直った。
ギコのスタンドの腕と男のスタンド・・・――この男も!・・・――が組み合っている。
「・・・いきなりやってきて、いきなり殴りかかるたぁ、とんだ礼儀だな・・・。・・・目的は何だ、ゴルァ!」
「・・・上からの指令でね。」
「ということはテメェ、どこぞの敵対組織の・・・下っ端か?」
「下っ端と呼ぶなぁっ!」
どうも彼をプッツンさせてしまったらしい。
男のスタンドはギコのスタンドを投げ飛ばした。
同時にギコも後ろに吹っ飛んだ。ギコは受身をとって着地し、叫んだ。
「ぼさっとしてんじゃねぇ!テメェもスタンドを出せっ!」
「え!?あ、ああ・・・どうやって?」
「本能だっ!そのうち使いこなせるようになるだろ―よっ!」
「本能って・・・簡単に言われても・・・」

「・・・そろそろ、お喋りをやめて、こっちに集中したらどうだい?」
不意に男が口をあけた。スタンドは今にもモナに殴りかからんばかりに振りかぶっていた。
ギコが叫ぶ。
「おい、来るぞっ!今こそ本能をフル稼働して身を守れっ!」
「う、うおおああっっ!出ろ――っっ!」

・・・出たっ!
昨日見たあの2人組みのチビ達が目の前に出てきた。
男のスタンドはモナがスタンドを出したことを確認すると、目標を変更してモナのスタンドに殴りかかった。
「く、来るならこいっ!モナのスタンドに触ると―」



    バ ギ ャ ッ !

「おぱあああぁぁぁっ!?」
スタンドの顔面を思い切り殴られた。スタンドと一緒に、モナも一緒に大きく吹っ飛んだ。
あれ?おかしいな。
昨日は柵を消し飛ばしたり塀に穴開けたりしていたからスタンドにも殴られないだろうと思っていたのに、思っていたのに、
なんで普通に殴られちゃうの?何で男は何ともないの?

ああ、

意識が・・・ ・・・



「・・・・・・んの・・・役たたずがぁっっ!」
「・・・思ったよりあっさりと終わってしまったようだね。」
・・・ああ、めんどくせぇ事態になってきちまった・・・。

ギコは懐から携帯電話を取り出し、
3番を押した後で通話ボタンを押した。
「・・・最近の携帯電話は便利だよなぁ。一々電話番号を押さなくても通話ができるんだ。」
「仲間を呼ぶのかい?」
                      ・  ・  ・  ・
「ああ。とりあえず、テメェは確実に 生 け 捕 り にする。」

「・・・ポリゴンモナー、ギコだ。敵対勢力の下っ端らしき野郎の襲撃を受けている。
けっこ―ヤバイ。悪ぃ、なるべく急いでモナーの家まで来てくれ。」
「下っ端と呼ぶなぁっ!」

163452:2004/05/02(日) 10:20

「・・・了解。すぐそちらに向かう。それまでなんとか繋いでいてくれ。」

・・・やれやれ。

・・・ああ、本当に面倒臭い事態になってきた・・・。
               ・ ・ ・ ・ ・ ・
私を襲ってくるのは恐らく何処かの一団であることは以前から分かっていたが・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仲間になるかもしれないモナーの方を襲ったということは・・・
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
『これまでよりも情報収集に長けたスタンド使いが新しく仲間入りした』か、『『これまでの奴』が成長または進化した』か・・・
      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
若しくは『組織の方針に何かしら変化があった』か・・・

今幾ら考えたって推測の域を出ないだろう。とりあえずギコ達を助けに行くか・・・。
・・・・・・。

「邪魔する気か・・・。」
前方に殺気がある奴が2人。
向かって右の奴――見たところモララー族――が口を開いた。
「問答無用だからな。君はここで抹殺・・・最低でも足止めさせてもらうからな。」
さらに向かって左の――こちらもモララー族――が続けた。
「君の相手は俺達・・・人呼んで『ageブラザーズ』が務めるからな!」
・・・相手はしていられない。
『ヒマリア』を発動する。

「・・・『ageブラザーズ』?聞いたことが無いな。何処かの穀潰し集団か何かか?」
「穀潰し集団・・・ひどい言い様だな。」
「俺達を馬鹿にしていられるのも今のうちだからな!
 お前はすでに俺達のスタンドの術中にはまっているんだからな!
 ・・・なあ、そうだろ?兄貴!」
「おう!もうとっくに・・・ッ!?」
「あ、兄貴ぃっ!?・・・おうっ!?」
兄弟仲良く前のめりに倒れて気を失ってしまった。
彼らの後ろには、今の今まで彼らの眼前約20㍍に立っていたポリゴンモナーがいる。
「キメが少し遅れたが・・・。当て身。」

さて・・・急ぐか。



「繋いでいてくれ・・・って簡単に言われてもなあ・・・。」
「彼に期待するのか?あっちには俺達の仲間が2人向かっているんだぞ?」
「あいつは大丈夫だろ―よ。それにオマエ等、あいつの能力は詳しくは分かってないんじゃね―か?」
「まあ、とりあえず・・・今は君を始末させてもらうからな。」

「やれやれやれやれ・・・やるしかねえのか。」


←To Be Continued

164ブック:2004/05/02(日) 15:36
     EVER BLUE
     第一話・BOY MEETS GIRL 〜出会いはいつも雨〜


 …僕が彼と出会ってもう何年になるだろう。
 あの日僕達は出会い、そして今まで常に共に在って来た。
 僕は彼の事が何でも分かる訳じゃない。
 彼も僕の事が何でも分かる訳じゃない。
 それでも、誰よりも大切な僕の掛け替えの無い友達。
 そう、彼は、彼の名前は―――

「…ルダ』?おーい、『ゼルダ』?」
 …と、どうやら干渉に浸りすぎていたようだ。
(ごめん、ちょっとぼーっとしてた。)
 僕ははにかみながらオオミミにそう答えた。

「おいおい。頼りにしてるんだから、しっかりしてくれよ『ゼルダ』。」
 オオミミが笑いながら僕に語りかける。
 この『ゼルダ』というのは、僕の本名じゃない。
 オオミミが僕の為につけてくれた名前だ。

 僕には、オオミミと出会う以前の記憶が無かった。
 自分の名前は何なのか。
 自分は何処から来たのか。
 自分は何をしたかったのか。
 自分は一体何者なのか。
 それらの事が全く思い出せない。
 この世界から消えそうになっていた僕を、オオミミがその体に受け入れてくれた時、
 それからがこの世界での僕の思い出の全てだった。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)を発射するぞ!
 野郎共、準備はいいか!?」
 サカーナの親方のがなり声が、僕を現実に引き戻した。
 今日は何か変だな。
 いつもはこんなおセンチな事考えたりしないのに。
 外で降りしきる雨が、僕を感傷的にしているのだろうか。
 そうだ。
 そういえばあの日も、丁度こんな酷い雨で…

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、発射!!!」
 サカーナの親方の叫びと、轟音と振動が重なり、
 巨大な錨が先程僕達を攻撃してきた小型戦艦に撃ち込まれた。

165ブック:2004/05/02(日) 15:36



     ・     ・     ・



「…あの民間船、逃げたようだな。」
 船の甲板上で、マジレスマン率いる戦艦の兵士の一人が、横の同僚に話しかけた。
「そのようだな。ま、しゃあねぇさ。
 こんなに雨雲が深けりゃあ、一旦雲の中に逃げ込まれたらどうしようも…」
 その時、戦艦に振動が走った。

「!?何だあ!?」
 その衝撃で転倒した兵士が、慌てて身を起こしながら叫んだ。
「!!おい、あれ見ろ!何だありゃあ!?」
 隣の兵士が甲板に突き刺さった巨大な錨を指差す。

「糞!あいつら、雲に隠れた所から…」
 しかしその兵士の言葉は最後まで紡がれなかった。
 口をだらしなく開いたまま白目をむき、その場に崩れ落ちる。

「!!なあ…!?」
 その場の兵士達の視線が一斉にその場に釘付けになった。
 そこには、黒いマントを羽織った男が一人佇んでいた。
 隻眼の目が兵士達を冷ややかに見据える。

「撃―――」
 「て」という言葉と銃声とが重なり、
 自動小銃から大量の銃弾が吐き出されて雨のように黒マントの男に襲いかかる。

「『ストライダー』。」
 しかし男は身じろぎ一つせずに、マントを銃弾に向かって翻した。

「!!!!!!!!!」
 銃弾が、まるで手品のように次々とマントの中へと吸い込まれていった。
 隻眼の男には、傷一つついていない。

「馬鹿な…!」
 狼狽する兵士達。
 黒マントの男はそんな彼等を一瞥すると、マントの襟を掴んで無造作に広げた。
 マントの内側はまるで別世界に繋がっているかのような漆黒の闇色であり、
 その中から無数の刀剣が出現しては地面に突き刺さった。

「……!」
 その異様な光景を、攻撃するのも忘れて呆然と見つめる兵士達。
 黒マントの男はそんな事など全く意に介さない様子で、
 地面に突き刺さった剣を一本引き抜くと、その切っ先を兵士達に突きつけた。

「…来るならば、殺す。」
 黒マントの男が、短く呟いた。

166ブック:2004/05/02(日) 15:37



     ・     ・     ・



「…相変わらず、容赦無ぇなあフォルァ。」
 錨をつたって甲板まで降りてきたギコ族の亜種の男が、
 呆れたように黒マントの男に向かって言った。
 それに続いて、オオミミも甲板に降りてくる。

「あいつらは俺達を殺すつもりだった。
 ならば、逆に殺されても文句は言えまい?」
 黒マントの男がギコ族の亜種の男の顔も見ないまま答える。

「いやだけどさあ、俺達強いんだし、
 もっとこう、ちょっと痛い目に遭わせるだけで済ますとか、
 手心ってもんをよお…」
 ギコ族の亜種の男が、渋い顔をする。

「無駄口を叩いている暇があるなら、さっさと錨を外しておけ。
 この戦艦とチェーンデスマッチをやらかした日には、
 俺達の船などあっと言う間にお陀仏だぞ。
 それ位の事にも頭が回らないのか、低脳が。」
 黒マントの男が吐き捨てるように言う。

「んだとぉ!?
 手前下手に出てりゃあいい気になりやがって…!」
 ギコ族の亜種の男が黒マントの男に掴みかかろうとした。
「馬鹿には付き合いきれんな…」
 黒マントの男も、マントの中から短剣を取り出す。

「ちょっ、ニラ茶猫も三月うさぎも落ち着いて!
 今こんな事をしてる場合じゃないだろ!?」
 オオミミが二人の間に割って入った。
 二人はしばし睨み合った後、ようやく諦めた様子でそっぽを向き合う。

「ちっ…!
 いいか!?この場はオオミミに免じて引いてやるけどな、
 次やる時にはぼっこぼこに…」

 次の瞬間、三人の居る場所に無数の銃弾が飛来した。
 三月うさぎと呼ばれた黒マントの男は、
 マントで自分とオオミミの身を守る。
 しかし、ニラ茶猫だけはマントの庇護下に置かれなかった為に、
 体に幾つもの穴が次々と穿たれ、その場に倒れて床を血の赤色に染めた。

「貴様ら!生きて帰れると思うなよ!!」
 三人が一悶着を起こしている間に、
 新たな兵士がその場に駆けつけて来ていた。
 当然と言えば当然である。

「動くなよ。そこで穴だらけになった男のようになりたくなかったら、大人しく…」
 その時、兵士達の動きが止まった。
 銃弾で無残なまでに撃ち抜かれたニラ茶猫の体が、不気味に蠢いたからである。

「…痛でぇ……う痛でええぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇぇ…!!」
 血を滴り落として呻きながら、ニラ茶猫がよろよろと立ち上がる。

「畜生がぁああぁ…!
 …三月うさぎ、手前わざと俺だけ守らなかったなあああぁぁああ!?」
 ニラ茶猫が三月うさぎを恨めしげに見つめた。
 彼の体の銃で撃たれた傷口からは無数の虫の姿が覗き、
 擬態を繰り返す事でニラ茶猫の体を修復していた。

「お前の嫌いな俺に助けられるのは嫌だろうと思ってな。
 これでも気を利かせたつもりだが?」
 黒マントの男が肩をすくめながら口を開く。

「…手前、いつか殺して…うおわぁ!?」
 そこに、再び兵士達が銃弾を浴びせてきた。
 間一髪、三人は遮蔽物に隠れる。

「さてと。それではな、ニラ茶猫。
 俺とオオミミは先に艦内に侵入して、金目の物を頂いてくる。」
 三月うさぎがニラ茶猫に向かって言った。

「お、おい、ちょっと待てや!
 俺一人に面倒事押し付けるつもりか!?」
 ニラ茶猫が憤慨する。

「俺はさっき運動して疲れた。
 後はお前がやれ。」
 三月うさぎが冷淡に言い放つ。

「でも、三月うさぎ…」
 オオミミが心配そうに両者の顔を見つめる。
「こいつに余計な心配など要らんよ、オオミミ。
 こいつとこいつのスタンド『ネクロマンサー』は、殺しても死なん。」
 三月うさぎが鼻で笑いながらオオミミに答える。

「そういう事だ。では頼んだぞ。」
 そう言い残すと、三月うさぎはオオミミを連れてさっさと行ってしまった。
 その場に、ニラ茶ギコだけが取り残される。

「この…ド畜生がああああああああああああああ!!!!!」
 ニラ茶猫の叫びが甲板に木霊した。

167ブック:2004/05/02(日) 15:37



     ・     ・     ・



 オオミミは通路の曲がり角に差し掛かると、顔だけをヒョコッと出して
 見張りが居ないかどうかを確かめた。
 誰も居ない。
 幸い、ニラ茶猫が甲板で暴れてくれているお陰で、警備がそこに集中しているようだ。

(オオミミ、気をつけて。)
 それでも僕は一応オオミミに注意を呼びかけた。
 彼はそそっかしい所があるから、こうして釘を刺しておくに越した事は無い。

「分かってるって、『ゼルダ』。」
 オオミミが小声で僕に答えた。

 そうは言ってもやっぱり心配だ。
 頼りの三月うさぎも、別の場所にお宝を探しに行ってしまっている。
 こんな時には、僕がしっかりしておかなければ。

「……!」
 と、オオミミが歩くのを止めた。

「…『ゼルダ』。」
 オオミミが押し殺した声で僕に語りかける。
(うん…)
 横の部屋の扉から、何やら呻き声が聞こえてきた。
 よく分からないけど、どうやら女の子の声のようだ。

「どうする…?」
 オオミミが僕に尋ねる。
 個人的には『触らぬ神に祟り無し』、という事で放置しておきたいけれど、
 オオミミの性格からしてそう言った所で抑止力にはならないのは明白である。

(取り敢えず、気をつけて調べてみよう。)
 なので、僕はこう答える事にする。
 だが、このオオミミの何にでも首を突っ込みたがる悪癖はいつか注意してやらねば。
 彼の身に何かあったら、彼の中に住まう僕にとっても大事になってしまう。

「…鍵がかかってる。」
 オオミミがドアノブを何度か回そうとするも、ドアは開かなかった。
(OK。任せて。)
 僕の意識がオオミミの体から離れ、実体化する。
 僕は、サカーナの親方達が言うにはスタンドという存在らしい。
 それで、僕の姿はそのスタンドを使える人以外には見えないそうだ。
 …いや、今はこんな事言ってる場合じゃない。

(せー、の!)
 僕はドアノブを握り、力任せに捻る。
 僕の力の前に鍵は呆気無く破壊された。
 役目を終え、僕は再びオオミミの中へと戻る。

「よし、行こう。」
 オオミミがゆっくりとドアを開けた。
 僕も、不測の事態に備えていつでも飛び出せるようにしておく。
 ドアがゆっくりと開き、その中には―――

168ブック:2004/05/02(日) 15:38


「…あなた達は?」
 その中に居たのは、ロープで縛られた女の子だった。
 それも、一般的に美少女と呼ばれる類の。

「…!助けて下さい…!!」
 と、女の子は僕達にそう懇願してきた。
「私、ここの空賊に捕まってしまったんです!
 お願いです!
 どうかここから連れ出して下さい!!」
 女の子が必死な顔で頼む。

「分かった、今すぐロープを解くよ。」
 オオミミがすぐさま少女を助けようと…

(待った、オオミミ。)
 そこで、僕はオオミミを止めた。

「?何言ってるんだ、『ゼルダ』?」
 オオミミが怪訝そうに聞き返す。

(サカーナの親方にいつも言われてるだろ?
 『厄介事を船の中に持ち込むな』って。
 気の毒だけど、その子は放っておいた方が…)
 僕は思い声でオオミミにそう告げる。

「!!
 じゃあ、この子をここで見捨てろって言うのか!?
 これからここの連中に何をされるか分からないってのに!!
 そんな事、出来るもんか!!」
 オオミミが激昂する。
(仕方無いよ。
 それに僕達だって、この女の子にしてみれば、ここの連中と大差無い。)
 オオミミの場合、邪な下心でこの女の子を助けようとしている訳ではない分余計に質が悪い。
 お人好しなのはいいが、この厳しい空の海を渡り歩くにはオオミミは余りにも甘すぎる。
 三月うさぎ程非情になるのも考えものだとは思うが、
 こうも面倒事に首を一々突っ込まれては、こちらとしても気が気でない。

「だけど、だけど『ゼルダ』…!」
 オオミミが納得いかないといった風に僕に食い下がる。

 …やれやれ。
 本当に君は、甘いんだから。
 仕方無い…
 僕も一緒にサカーナの親方に怒られるとするか。

(…分かったよ、オオミミ。その女の子を―――)


「ちょっと!?
 何一人でブツブツ言ってるのよ!!
 こういう時は即断即決で助けるのが常識でしょ、このトンチンカン!!!」
 と、女の子がいきなりその態度を豹変させた。
 僕とオオミミは、そのあまりの変わり様に硬直する。

「やばっ…
 うっかり本音が出ちゃった。」
 女の子がしまったという顔をする。

 ―――前言撤回。
 オオミミ、この子はやっぱり見捨てた方がよさそうだぞ。



     TO BE CONTINUED…

169 丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:01



   一九八四年 四月十日 午前三時四十一分



ビチッ、と音を立てて、両腕の革ベルトが噛み切られた。
「…切レマシタ!」
「何十分かけてんだよ」
 二郎の言葉に、B・T・Bが下を向いて恨めしそうに呟いた。
「言ワレマシテモ非力ナモノデ…」
 確かにB・T・Bは、物体の破壊に関して最も不向きなスタンドと言える。
幼児程度の力しかないとはシャマードから聞いていたものの、焦りが二郎の頭にちらついた。
 ともかく、自由になれた以上ここにいる意味はない。
「うし。人が来る前に逃げるぞ」
「御意」
 自由になった親指を口元に持っていき、ぷちりと噛み切る。
ピリッとした痛みと共に、指先に血の玉が膨れた。
 ぽたぽたと、B・T・Bの掌に血を落としてやる。
手で触れるだけが『種』を植える方法ではない。
生きている二郎の細胞があれば、血の一滴でも『石の花』は咲く。
 B・T・Bの射程は約一メートル。
ギリギリまで二郎から離れ、格子の外のコンクリ壁に血を塗りつけた。


   ―――『花』のイメージ。種が殻を破り根を張り茎を伸ばし、ただしつぼみは堅いまま―――


 二郎のイメージが、『石の花』を成長させていく。
己の体を支えるために根が張られ、花を付けるために茎が伸びる。
根と茎が成長している中、唯一花だけはつぼみのまま。

「んん〜…。イメージ通り」

 満足げに二郎が呟く。
二メートルほどに成長した『石の花』が力を溜めるように鎌首をもたげ―――


「行けっ!」
 思いっきり、檻に向かって撃ち出された。
槍の穂先よりも鋭く固く閉じたつぼみは、銃弾並みのスピードで精密に蝶番を撃ち抜いた。
「よし」
 ガコンと牢の扉を蹴り開け、縛られていた手首をこきこきとならす。
廊下を抜けて出口のドアに手をかけ―――――

  ジリリリリリリリリッ !!

―――――高らかに警報が鳴り響いた。

170丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:02
 サ ノ バ ビ ッ チ
「 Son・of・a・Bitch!バレマシタ!」
「言われんでも判るわっ!」
「伏セテ!」
 みなまで聞かず、地面に寝転がる。
鉄製のドアをぶち抜いて、一瞬前まで二郎の頭があった位置を鉛弾が通り抜けていった。
「困るね、Mrニローン。逃げちゃダメでしょ。俺らみたいな仕事は信用第一だからね」
 やたらと軽薄な声。二郎は知らなかったが、先程シャマードを狙撃した人間だ。
「お前…SPMの人間じゃないな?」
 財団の人間が、上からの命令で吸血鬼狩りに動く事はまず無い。
SPMは基本的に、吸血鬼に対しては干渉しないポジションを取っているのだ。
「ん、当たり。ギコさんに頼まれた便利屋だよ。アンタ『スタンド使い』らしいけど…」
 ぢゃっ、と両手の自動式拳銃を向けた。
「弾が当たりゃ流石に痛いだろ?」
フルール・ド
「『石の』」


 引き金にかかった指が、何の躊躇もなく引かれた。

 ロカイユ
「『花』ッ!!」
 踏みしめた地面から花が伸び、つぼみを開いて銃弾を受け止める。
ヒュッ、と小さな口笛。この野郎、賞賛をどーもありがとう。
 更に放たれる銃弾を、石の花びらで防ぎながら更に『種』を植え付けた。


 B・T・Bが二郎の元にある今、太陽の光はシャマードにとって猛毒に等しい。
現在時刻三時四十四分。日の出時刻は、五時三十分。
 彼女と暮らしていたせいで夜明けの時刻は毎日キチッとチェックする癖がついていた。
ともあれ、タイムリミットは既に二時間を切っている。
通路の奥に、アパートで階段から蹴落とされた数人が見えた。
 スタンド使いではないようだが、二郎の『フルール・ド・ロカイユ』は同化実体型。
普通の人間でも、訓練を積んでいれば充分対処できる。


  ―――時間ギリギリだがしょうがない…必ず助ける!


 全ての種を発芽させる。二郎の周囲を守るように、『石の花』が展開された。

171丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:04



   一九八四年 四月十日 午前四時四八分


  リュィィィイイイイイオオオオオオオンッ―――――

 猿轡越しではない、弦楽器を爪弾くような『デューン』の咆吼。
足下を砂に変えながら、物凄い速さで跳んできた。
「このっ!」
 左拳を握り、無防備な顎にクロスカウンターをかける。
ぢりり、と灼けつくような痛み。
 指の付け根が風化し、紅い肉が姿を見せていた。
「痛〜ッ!」
 言っている間にも、じくじくと傷口が再生する。
あの『デューン』とか言うスタンド、思った以上に厄介な能力だ。
腹だろうが頭だろうが全身が能力の対象なので、下手に手を出せばこちらが風化させられる。
 おかげで浅くしか打てず、決定打が一発も入らない。

『どうした…?何故スタンドを出さない?』
                      テレパシー
 頭に響く、低い声。スタンド使いの精神感応。
まさか『二郎に預けてる』なんて言えようはずもない。

『アンタなんか、生身の私でお釣りがくるよ』
                               ノスフェラトゥ
『…人間を嘗めるなよ、業と死のみを振りまき続ける化け物。俺はお前等全員を滅ぼして』


  砂色の乙女が、再び吼えた。


『悲しみの連鎖を終わらせる!』

 『デューン』の足下が弾け、爆発的なダッシュでシャマードに走る。

『業と死のみ…か。確かにそうかもしれない。共存なんてできないのかもしれない。けど』

 砂色の掌が向かってくる。
極限まで研ぎ澄まされた神経が、その全てを捉えていた。

『信じてる限り、神様は微笑んでくれる』

心臓に向かって突き出される掌底は避けない。
避ければ避けるほど、相手のペースにはまっていく。
 ―――ならば、受け止めてやればいい。
左足の踏み込み、腰の打ち込み、肩のひねり、手首の回転。
全ての力が、全ての動作が、左拳の一発に集約される。
 『デューン』の一撃に合わせて、シャマードの左ストレートが閃いた。

『絶対に…―――――ッ!!』

172丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:05
   ヅ
「っ痛あああああああっ!」
 掌底に合わせて突き出した左拳が、しゅうしゅうと崩れていく。
血を吸わずに人間として生きてきたせいで、痛覚が切れない。
左腕が先から風化していく感覚に、脳の全てが苦痛で支配される。
 食いしばった牙がぎしりと軋み、出したくもないのに涙と涎が零れ出した。

(ぃ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い―――――ッ… !!)

 今すぐ手を引っ込めたいのを、根性総動員で押さえ込む。
『風化』の能力があるからなかなか気づかないが、『デューン』の筋力自体は、人間と殆ど変わらない。
  つまり―――――
 ウ…リヤアアアアア
「U…RIYAAAAA―――」

  ―――力比べなら、勝てる。
     アアアアアア
「―――AAAAAA―――――」

 痛みを吹き飛ばそうとするかのように慟哭を続け、崩れかけた左腕で『デューン』を跳ね飛ばし、ギコに向かって走る。
それが解っていたかのように、ギコの拳銃から鮮やかなクイックドロウで銀の銃弾が発射された。
     アアアアアア
「―――AAAAAA―――――」

 だが、シャマードの反射神経はそれすらも上回っていた。
眼球に向けて放たれた銃弾を、崩れた左腕で叩き落とす。
 更に無事な方の右腕でギコの頭を掴み―――
     アアアアア
「―――AAAAA―――――ッ !! !!!!」

 ―――コンクリの床に叩き付けた。

 後頭部への衝撃に、白目を剥いてギコが昏倒する。
同時に、シャマードの後方数センチまで迫っていたデューンが消滅した。

173丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:07
「………イ……ッッッッ痛ゥ……ッ!」

 安心した途端に全ての力が抜け、ビルの屋上に座り込んだ。
恐る恐る左腕を見ると、肘を通り越して二の腕までが風化して無くなっている。
心臓の鼓動に合わせて、びゅくびゅくと血を吹き出していた。
(あうぅっ…ご飯食べる時大変そう…)
 対象者の生命を世界に縛り付ける『石仮面』の呪い。
呪いの中心となっている『頭部』を破壊されない限り、吸血鬼が死ぬ事はない。
 噂では、首一つになっても元気に活動を続けた者までいるとかいないとか…
ともあれ、だらだら流血しまくったままでもいられない。シャツの端っこを引き裂いて、上腕をきつく縛り上げる。
「…二郎…探してくれてる…よね」
 彼の顔を思い浮かべるたび、ちりっ、と胸の奥に甘い痛みが刺した。
風化した腕の傷よりも、遙かに大きな痛み。

  ―――けど…悪くない、かな。

「私…馬鹿だから、さ。アンタがどう言っても、二郎と生きたい。
 人も食べないし、殺さない。だから、見逃して。…お願い」
白目を剥いたままのギコに向けて、それだけ言い、立ち上がった。
「とっ…わわっ」
 左腕が無いせいで、酷くバランスが悪い。右手をついて、どうにか尻餅をつくのはこらえる。


 ―――――そこで、ようやく気がついた。
床に着けた右手から伝わってくる、さらさらした感触。
 コンクリート製の無骨な屋上の床の表面が、粒子の細かい砂で覆われている。

(………まさか………!!)

 瞬間、両足をすくわれた。
為す術もなく右足が折られ、砂の上に倒れ込む。
起きあがろうとしても、限界を通り越した肉体は何も応えてくれない。
     デューン
「―――『砂丘』と戦った吸血鬼で…自信のままに打ち合って最初の一撃で風化したのが五割…
 能力を知って、浅くしか打てずに風化したのが三割…
 彼女に力が無い事に気付き、腕だの脚だのを犠牲にしようとして、失敗したのが一割…
 『デューン』をはね除けた事で油断して、俺に撃ち抜かれたのが最後の一割…
 ―――敬意を表してやる。俺に一撃与えたのは、お前が初めてだ」

174丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:08
(『デューン』の能力で屋上の床全てを風化、砂のクッションを形成…
 いくら接触しているとはいえ、屋上の床全てを風化できるか不安だったが…底力に救われたな)

 『デューン』の脚が、音を立ててシャマードを蹴り上げる。
ごろごろと数メートルほど転がり、仰向けの状態で止まった。
そのまま無造作に近づき、『デューン』の拳を胴にぶち込む。
 服が風化し、真っ白な肌があらわになる。


更に一撃。皮膚が風化する。
更に一撃。筋肉が風化する。
一撃。一撃。一撃。一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃―――――



 既に脳のキャパシティを超えているのか、痛みも苦しみもどこか遠ざかり始めた。
そのせいだろうか、やけに頭がスッキリしている。
ふと、一つの疑問が意識の表層にスッ、と浮かび上がってきた。

  ―――どうして、彼はひと思いに脳を風化させない…?

 くうぅ、と喉を鳴らす。大丈夫、まだ声は出せる。

「どう…して…?」
「……何がだ」
 折れた奥歯が、口の中で転がる。喋るのが酷く億劫で、途切れ途切れにしか声が出ない。
「簡単…に、殺せる…筈、なのに…そう…し、ない…貴、方…は誰…かを…いた、ぶっ…て…喜ぶヒト…じゃ、ない」
 沈黙。返事が無かろうと、構わず続ける。
シャマードは気付いていなかったが、この時ギコの顔がにわかに強張っていた。
「…迷…ってる…?私…を…殺して…正しい、のか……うまく、いく…ん、じゃ…ないか、って…思、って…る…?」
「……違う…」

 彼の体が、瘧のように震えている。
青ざめたギコに向けて、皮膚がはがれた顔で微笑みかけた。
            ワタシタチ   アナタタチ
「違、わ、ない…よ。吸血鬼…も、人間…も、仲良く…できる…必ず…」         オレタチ  オマエタチ
「…違う…違う…違う、違う、違う違う違う違う違う!!共存などできるはずがない!人間も!吸血鬼も!
 どちらかが滅びるまで、悲しみの連鎖は終わらないんだ!」
「違わ、ない。そ、んな…悲…し…い、事…は、イヤ…絶対…」
「黙れ!」
 『デューン』の拳が、シャマードの鳩尾にぶち込まれた。
「…か…ッ!」
「それでも俺には…この道を行くしか選択肢は無いんだ!」  ハラワタ
 インパクトの瞬間に体組織を風化させて穴を開け、そのまま内臓をぶちまける。


  リュオオオオオオッ―――


 『デューン』が咆吼する。床に転がったシャマードの頭部に向けて拳を振り上げ、全力でラッシュを叩き込んだ。





  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

175丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:09
フルール・ド・ロカイユ
 石 の 花 

本体名:茂名 二郎

破壊力:C  スピード:A 射程距離:C(数十m)
持続力:D 精密動作性:B 成長性:C

二郎自信が触れた無機物に同化し、『石の花』を作り出す。ヴィジョンはなし。
固いつぼみを使った槍のような攻撃や、花や葉を使っての防御などと応用性は高い。
触れて『種』を植えた後、どれだけ成長させるかによって破壊力等が変わる。
『種』を植えた後なら、知覚できなくても大体は動かせる。

176丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:13

( ´∀`)( ・∀・)(*゚ー゚)(*゚∀゚)

 便利屋の皆さん

ギコが雇い入れた便利屋。
シャマードは他と比べてもかなりひっそり生きてるタイプに分類される。
ゾンビをぽこぽこ生まない限りSPMは吸血鬼を放置しているため、SPMが兵を動かす事はまず無い。
ナイフ使いのモララー、軍隊格闘術使いのモナー、暗器使いのしぃ、銃火器使いのつーで四人一組。
…とはいえ、初登場であっさりと階段から蹴落とされて退場、更に今回の戦闘シーンも長さの都合上カット。
本編再登場の予定も今のところ無し。噛ませ犬っぷり全開の可哀想なやつ

177丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:31

 〜普通に喋る自作自演のSPM講座・その2〜

┌────────────―――――――
│ 今回は、作中で出てくる『呼称』について
│ 説明させて頂きます。
 \_   _____
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━
   コード
  『呼称』って何じゃい

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

178丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:33

┌────────────―――――――――――――――――――
│ 前回も言いましたが、SPM財団では発見したスタンドをまとめています。
│ しかし、能力が流出するのは避けねばなりません。
│ その為作られたのが『呼称』です。
 \_   ______________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━

 本名を隠して、誰がどの能力を
 持ってるのか解らないように。

 −各キャラ呼称−
        トリックスター
 マルミミ…変動因子
      オーガ
 茂名…羅刹
       キャリィ
 ジエン…運び屋
     ホール
 フサ… 穴
        デーモン
 『チーフ』…悪魔
 名も無きモララー1,2…呼称無し
 『矢の男』…『矢の男』。そのまま呼称。
 <インコグニート>…呼称無し。旧『矢の男』 。

   ※大抵は漢字にルビで表記。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

179丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:40
┌────────────――――――――――――
│ 『花売り』のように、ルビ無しの物もあります。
│ 呼称は性格・スタンド能力・経歴・役割などで決まります。
 \_   ____________________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 −番外キャラ呼称−
        ソウルイーター
 シャマード…魂喰い
     マリア
 ギコ…女神

 茂名 二郎…花売り


 マルミミ…吸血鬼と人間、二つの特性を併せ持つイレギュラー。
 ジエン…『ジズ・ピクチャー』での武器輸送。
 フサ…スラングで女性のアレ+スタンド能力。
 ギコ…スタンドの外見。

 ※この設定も『丸耳達のビート』独自の物です。
 流用・無視・改変はご自由に。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
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180ブック:2004/05/03(月) 15:04
     EVER BLUE
     第二話・ESCAPE 〜土砂降りの逃避行〜


 僕が必死に説得したにも関わらず、オオミミは結局女の子の縄を解いた。
 オオミミ、今なら間に合う。
 この子を無視してさっさと帰ろう。

「あの…大丈夫?」
 オオミミが女の子に尋ねた。
「大丈夫じゃないに決まってるでしょ!?
 全く…もっとちゃっちゃと助けなさいよ!
 これだから男ってやつは…」
 わざわざ助けてやったにも関わらず、この憎まれ口。
 オオミミ、捨てよう。
 この女を窓から外に捨ててしまおう。

「ごめん…
 すぐにでも助けてあげようとは思ったんだけど…」
 オオミミが情けない声で弁明する。
 何で君はそこで謝るのだ。
 寧ろ感謝されてもいい位なのだぞ?
 というかその物言いは何だ。
 僕が悪いとでも言いたいのか?

「あ〜、もう。
 男の癖にうじうじしないの!
 ほら、さっさとここから脱出するわよ!」
 ついに女の子は我々に指図までするようになった。
 言っておくが、僕はこの女の子の子分になった覚えは一つも無い。
 なのに、何故この子はまるで僕等のリーダーであるかのように振舞うのだ?

「あの…君、名前は?」
 オオミミが部屋を出る時に遠慮がちに女の子に聞いた。
「『あめ』。天と書いて『あめ』って読むの。
 いい名前でしょ?」
 女の子がそっけなく答える。

「あ、うん。
 俺はオオミミっていうんだ。」
 オオミミが天という少女にそう名乗った。

「オオミミ…か。貧相な名前ね。
 ま、いいわ。
 そんな事より急ぐわよ。」
 女の子がどんどん先に進んで行く。
 オオミミ、君は本当にこんな女を助けるつもりなのか?

181ブック:2004/05/03(月) 15:04

「どこに行くつもりかな?お二人さん。」
 と、その時後ろから声をかけられた。
 オオミミと天が、足を止めて反射的に振り返る。
 そこには、屈強な男が立っていた。
 その横には、大量の鉄屑みたいなものが転がっている。

「…人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものじゃないかしら?」
 天はそれでも全く気後れしていない様子で口を開く。
 この神経の図太さだけは、オオミミにも見習わせたいものだ。

「調子に乗るなよ、糞餓飢共!
 このマジレスマンが貴様等のような小童に名乗ると思ってか!!」
 …名乗ってるじゃん。

「そこのお前、あの民間船の連中の仲間だな?
 よくもまあやってくれたな。」
 マジレスマンと勝手に名乗った男がオオミミを睨む。

「…!お前等が先に仕掛けてきたんだろう!」
 足を一歩後ろに下げながらも、オオミミが吼える。
 まずいな。
 相手の気迫に押されている。
 オオミミの悪い癖だ。

「ふん…
 まあいい。
 その罪は、お前をスクラップにする事で償ってもらおう。」
 その時、マジレスマンの周りにあった鉄屑がいきなり動き出した。
 そして、それがみるみる接合していき、大きな人の形へと変わっていく。

(ヤバいぞ、オオミミ!
 すぐにマジレスマンを攻撃するんだ!!)
 僕はオオミミにそう告げた。

「分かった!」
 オオミミがマジレスマンに突進する。
 そして僕はオオミミの外部にスタンドとして実体化し、
 マジレスマンに拳を撃ち下ろし―――

「『メタルスラッグ』。」
 完全に人型に形成された鉄屑が、僕のパンチを受け止めた。
 これは、スタンドか…!

「『ゼルダ』!!」
 オオミミが叫ぶ。
(任せろ!!)
 一度パンチを止められた位で怯みはしない。
 今度は逆の腕で拳を叩き込んでやる。

(無敵ィ!)
 左の拳が鉄屑人形の右肩部を破壊する。
 よろめく鉄屑人形。
(無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵!!!)
 僕は次々とパンチを鉄屑人形に打ち込んでいく。
 いける。
 こいつ、動きは全然のろいぞ。

(無敵ィィィ!!!)
 止めの一撃を鉄屑人形に喰らわしてやった。
 体中を粉砕されて地面に叩きつけられる鉄屑人形。
 どうだ。
 これなら本体へのダメージも計り知れないものに…

182ブック:2004/05/03(月) 15:04

「!!!!!!」
 しかし、マジレスマンには全く効いている様子は無かった。
 あの鉄屑をいくら攻撃しても、本体にダメージは無いという事か!?

「…凄いな。スタンド使いだったとは。
 この程度の大きさでは倒せんか。」
 マジレスマンが余裕の笑みを浮かべたまま喋った。

「!?」
 と、破壊した筈の鉄屑人形に、打ち砕いた鉄屑の残骸が集まっていく。
 そして、再び何事も無かったかのように鉄屑人形が再構築された。

「!!!」
 その時、鉄屑人形が何を思ったか周りの壁などを砕き始めた。
 何だ?
 気でも違ったのか?

「なっ…!」
 オオミミが狼狽する。
 壁や天井を砕いて生まれた瓦礫が、鉄屑人形にくっついていっている。
 まさか、こいつ周りの瓦礫や鉄屑を取り込んで―――

「やれ、『メタルスラッグ』。」
 マジレスマンが僕達を指差した。
 僕達に直進してくる、一回り以上大きくなった鉄屑人形。

「『ゼルダ』!」
 オオミミが僕に呼びかけた。
 鉄屑人形が、オオミミに向かって拳を突き出す。

(させるか!!)
 僕はその拳を両腕でガードして…

「!!!!!!!」
 オオミミと僕の体が宙を舞い、そのまま後方に吹き飛ばされた。
 威力を、受け止め切れなかった!?
 この鉄屑人形、さっきよりパワーもスピードも上がっている…!

「ちょっと!
 あなた大丈夫なの!?」
 天がオオミミに駆け寄った。
「…何とか、ね。」
 力無く答えるオオミミ。
 まずいな。
 肋骨を少し痛めたか。

「俺の『メタルスラッグ』は周りの無機物を取り込んで幾らでも強くなる!!
 さあ〜て、どうやって殺してやろうか?
 圧殺か?斬殺か?轢殺か?撲殺か?
 それとも全部がいいかなあ〜!?」
 下卑た笑みを見せながら、鉄屑人形と共に歩み寄るマジレスマン。

「潰れろ!!」
 鉄屑人形が乱暴に腕を振るう。

「きゃああああ!!」
「くっ!!」
 天を抱え、飛びのくオオミミ。
 オオミミという目標を失った鉄屑人形の腕が、代わりに壁に大穴を開けた。

(何てこった…)
 僕はうんざりしながら思った。
 壁に穴が開けられた時に出来た瓦礫が、更に鉄屑人形と同化していく。
 糞、どうすれば…

183ブック:2004/05/03(月) 15:05

「『ゼルダ』、壁を壊すんだ!」
 オオミミが、僕にだけ聞こえる声でそう言った。
(何を言ってるんだ、オオミミ!?
 そんな事したら、余計にあいつが…)
 当然ながら僕はそう反論する。
 オオミミ、恐怖のあまり気でも狂ったのか!?

「いいから、早く!」
 しかしオオミミの言葉に狂気や迷いの色は無い。
 僕は何故か、荒唐無稽な筈のオオミミの提案を、その声を聞くだけで信じる事が出来た。

 …仕方が無い。
 やってみるか。

(無敵ィ!!)
 僕は壁に殴りかかり、そこに大きな穴を開けた。
 その時生まれた瓦礫が、鉄屑人形にくっついていく。

「何だあ!?」
 拍子抜けといった顔をするマジレスマン。

(無敵無敵無敵無敵無敵ィィ!!!)
 構わず壁、床、天井、その他あらゆる場所を破壊しまくる。
 それと同時にその瓦礫を吸収して大きくなり続ける鉄屑人形。

「ははははは!!これはいい!!
 お前自ら『メタルスラッグ』のパワーアップに協力してくれるとはな!!!」
 高らかに笑うマジレスマン。
 オオミミ、君は一体どうする心算なんだ?
 このままでは、向こうに有利になるだけで…

「もういいよ、『ゼルダ』。」
 あらかた周りを破壊した後で、オオミミが言った。
「行くよ!天さん!!」
 オオミミは天の手を取ると、後ろに向かって走り出す。

「ちょっ、乱暴な事しないでよ!」
 オオミミに引っ張られるように駆け出す天。
 馬鹿な、オオミミ。
 敵がすぐ後ろに居るというのに、無防備に背中を見せて逃亡するだと!?

「馬鹿め、逃げられると思ってか!!」
 後ろからマジレスマンが叫ぶ。
 駄目だ。
 オオミミ一人ならともかく、天を連れた状態ではすぐに追いつかれてしまう。

「『メタルスラッ』…
 …何いぃ!?」
 その時、マジレスマンが驚きの声を上げた。
 何だ。
 何が起こったと…

「!!!!!」
 僕は振り返ってみて、初めてオオミミの狙いを理解した。
 大きくなり過ぎた鉄屑人形が、通路に引っかかって動けなくなっている。

 そうか。
 僕達の勝利条件は『ここから生きて脱出する事』。
 『必ずしもあいつに勝つ必要は無い』んだった。
 三十六計逃げるに如かず。
 これも立派な戦術のうちだ。
 やっぱり君は凄い奴だよ、オオミミ…!

「な…糞…!
 待てーーーーー!!!」
 悲鳴のように叫ぶマジレスマン。
 勿論、待てと言われて待つような間抜けはいない。

 頭の中まで筋肉の馬鹿を後ろ目に、
 僕達はさっさとその場から離れるのであった。

184ブック:2004/05/03(月) 15:05



 僕達は甲板目指して走り続けていた。
 あのマジレスマンも、スタンドを解除して追いかけて来ている筈だ。
 もたもたしている暇は無い。

「大丈夫?」
 オオミミが息を切らし始めた天に尋ねた。
「馬鹿にしないでよ。
 これ位で疲れる程ヤワじゃないわ!」
 負けず嫌いなのか、健気にも天は言い返す。

「分かった。それじゃあ少し、スピード上げるよ。」
 オオミミはそんな彼女の強がりにも気づかず、足を速めた。
「ちょっ、冗談でしょ!?」
 呆れたように呟く天。
 様ぁ見ろ。
 いい気味だ。

「…!三月うさぎ!!」
 と、横の通路から三月うさぎが合流して来た。

「…?そこの女は何だ?」
 怪訝そうにオオミミ尋ねる三月うさぎ。
「ごめん、今それ所じゃないんだ。
 早くここから脱出しよう!」
 オオミミが説明を後回しにして、三月うさぎに答える。

「全く…
 船に厄介事を持ち込むなと、お前は何回言われれば…」
 しかめっ面をしながら苦言を漏らす三月うさぎ。
 僕も、彼の意見には賛成だ。

「…こちら三月うさぎ。今から帰還する。
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)を打ち込んでくれ。」
 マントから無線機を取り出し、三月うさぎがそう言った。
 無線機から、高崎美和さんの「了解」という声が聞こえてくる。
 高崎美和さんとは僕達の船のオペレーターで、
 和服の似合う綺麗な大和撫子だ。

「俺はその女の事は知らんぞ、オオミミ。」
 三月うさぎが短く告げる。
「…うん、分かってる。」
 オオミミが俯きながらそう答えた。



 扉を乱暴に開け放ち、僕達は甲板へと飛び出す。
 激しい雨が、オオミミ達の体をしたたか打ちつけた。

「あ、手前、三月うさぎ!!」
 全身血塗れのニラ茶猫が、僕達に気づいて声を上げた。
 周りには、夥しい数の兵士が倒れている。
 流石はニラ茶猫。
 一人でこれだけの人数を片付けるとは。

「言い争いをしている場合じゃない。
 早くここから脱出するぞ。」
 三月うさぎはそんなニラ茶猫を軽く流した。

『急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、発射します。』
 その無線機からの高崎美和さんの声より少し遅れて、
 甲板に巨大な錨が打ち込まれた。
 皆が、急いでそれに掴まる。

「…?そういやオオミミ、その女は誰だ?」
 ニラ茶猫が今気づいたのか、オオミミに質問した。
「え〜と、その、詳しくは後で話すよ。」
 言葉を濁すオオミミ。
 しかし本当に、このじゃじゃ馬娘をどう説明すればいいのやら。

「居たぞ!逃がすな!!」
 マジレスマンが甲板に出てくる。
 ヤバイ、もう追いつかれたか。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、回収急げ!」
 三月うさぎが無線に向かって話す。
 同時に、錨が物凄い速さで巻き上げられていった。

「撃てーーーーーーー!!!」
 マジレスマンの声と共に、僕達に向かって自動小銃が発射される。

「『ストライダー』!」
 しかし、その銃弾は全て三月うさぎのマントに吸い込まれた。

「ははははは!あ〜ばよ〜、とっつぁ〜〜ん!」
 ニラ茶猫が勝ち誇ったように大笑いをする。
 錨はそうしている間にも僕達の船へと巻き上げられ、
 マジレスマン達の姿は見る見る遠ざかっていった。

185ブック:2004/05/03(月) 15:06



     ・     ・     ・



「よっしゃ!上出来だ!!
 野郎共、引き上げるぞ!!
 カウガール、船を出せ!!」
 サカーナが乗組員達に大声で告げる。

「全速前進、出発しま〜す!」
 テンガロンハットを被った、カウガールと呼ばれた女性が、
 舵を思い切り回した。

「…敵船、私達の追撃を開始してきました。」
 高崎美和がディスプレイを見ながら話す。

「何ぃ!?
 上等だ、砲撃準備!!」
 サカーナが口元を吊り上げる。

「後部砲撃室から準備が整ったとの連絡が入りました。
 いつでも行けます。」
 高崎美和がサカーナの方を向いた。

「よお〜し、上出来だ。
 撃てーーーーーーー!!!」
 そのサカーナの声と同時に、サカーナ達の乗る船『フリーバード』の
 後部に備え付けられていた大砲が火を吹いた。
 しかし…

「…命中。ですが、敵艦はビクともしていないみたいです。」
 高崎美和が冷静に告げる。
「だから言ったんですよー!
 この船の装備で小型戦艦と闘うなんて無茶だって!!」
 カウガールがなじるようにサカーナに言う。

「うるせー!
 しゃあねぇ、尻まくって逃げるぞ!!
 スピード上げろ!!」
 サカーナが困ったような顔で仕方なしに命令を下す。

『無茶言うな親方!
 こっちはもうエンジン室が大火事になりそうだぜ!!』
 エンジン室からそういった内部通信が入ってくる。

「…だ、そうです。
 どうするんですか?
 サカーナ船長。
 あなたの蛮勇のおかげで私達まで道連れですね。」
 高島美和が責めるような視線をサカーナにぶつけた。

「て…敵船攻撃開始…!
 このままでは打ち落とされ…きゃあああ!!!」
 轟音と衝撃が、サカーナの船を揺るがした。



     ・     ・     ・



「おいおいどうすんだ!?
 敵さんムキになって追いかけて来てんぞ!?」
 『フリーバード』に戻って来たニラ茶猫が、
 先程敵船からの砲撃で壁に開けられた穴を覗き込んだ。

「…ふむ。このままでは撃墜されてしまうな。」
 顔色一つ変えずに冷静に告げる三月うさぎ。

「どうしよう。このままじゃ…!」
 うろたえるオオミミ。

「…仕方無い。」
 と、三月うさぎが壁に取り付けられていた内部通信回線電話を取った。

「はい、こちらブリッジ。」
 電話口から高島美和の声がする。
「三月うさぎだ。
 この回線を後部砲撃室に繋げろ。
 ただしこの事は船長には伝えるな。」
 三月うさぎがそう電話口に向かって話した。
「了解。」
 短く答え、高島美和が後部砲撃室へと回線を繋ぐ。

「どうしました、三月うさぎさん!?
 いまこっちは手が放せない状況でして…」
 後部砲撃室の乗組員が慌しい様子で通信に出る。

「この前船長が買っていた『弾』がある筈だ。
 それを使え。」
 普段と変わらぬ声で話す三月うさぎ。

「ええ!?でも『あれ』は…」
 あからさまに不安そうな声になる乗組員。

「構わん。責任は俺が取る。」
 三月うさぎが大した事ではないかのように答えた。

「おい、三月うさぎ…」
 ニラ茶猫が三月うさぎに声をかける。
「何だ?この期に及んで金の心配でもするのか?」
 三月うさぎがニラ茶猫を見据える。

「いや、ありったけ敵さんにぶち込んでやれ、って付け足しておいてくれ。」
 ニラ茶猫が不敵な笑みを浮かべる。
「…ふん。珍しい事もあるものだ。
 貴様と意見が一致するとはな。」
 三月うさぎもそれを受けて愉快そうに微笑むのであった。

186ブック:2004/05/03(月) 15:06



     ・     ・     ・



 後部の大砲からの砲撃が、マジレスマン率いる戦艦の装甲に大穴を開けた。
「!!おい!!!
 まさか、あれは!?」
 サカーナがそれを見て顔色を変える。

「はい。恐らく船長が先日購入された、『爆裂徹甲弾』だと思われます。
 あの装甲にこれ程のダメージを与えるとは…
 流石に値段が張るだけはありますね。」
 冷静に分析する高島美和。

「馬鹿野朗!
 今すぐ止めさせろ!!
 あれ一発いくらすると思っているんだ!!?」
 顔を真っ青にしながらサカーナが取り乱す。

「およそ私達の一ヶ月の稼ぎの約半分だと思いますが、違いましたでしょうか。」
 高島美和はそんなサカーナを尻目に冷徹に告げた。

「分かってんなら止めろ!!
 今回の稼ぎをチャラにする気か!!」
 サカーナが後部砲撃室に連絡を入れようとする。
 しかし、回線からは「ツー」という音が虚しく響くのみだった。

「部砲撃室の回線は切断されているようです。
 連絡を取ろうとしても無駄ですよ?」
 高島美和がサカーナの方は見ずに口を開く。
 そうこうしている間にも、
 船の後方からは次々と爆裂徹甲弾が湯水のように吐き出される。

「わあ〜、凄い凄〜い!」
 手を叩きながら喜ぶカウガール。
 それとは対照的に、サカーナの顔色はどんどん悪くなる。

「やめろ!!
 馬鹿!!
 あんぽんたん!!
 やめろ!!
 阿呆!!
 お願いだから止めてくれ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 サカーナはすでに半泣きだった。

「あ。私の記憶が確かならば、今のが最後の爆裂徹甲弾ですね。」
 高島美和がいつの間にか持っていたお茶を啜る。

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOおおおオオオオオおおぉぉォォ!!!!!!」
 サカーナの絶叫が船内に響き渡った。



     TO BE CONTINUED…

187:2004/05/03(月) 22:29

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その4」



          @          @          @



「ふむ…」
 白衣を着た男は、ビデオの一時停止ボタンを押した。
 TV画面に映っている、ありすと呼ばれる少女の動きがぴたりと止まる。
 輸送ヘリの残骸や、兵の死体が宙に舞っていた。
 ASA本部ビルに投入した空挺部隊は、この少女一人に壊滅させられたのだ。

「E-8C(地上管制警戒機)が捉えた、ASA本部屋上の映像だ」
 フサギコは、腕を組んで言った。
「先程の、廊下での映像をもう一度見せてもらえるかね…?」
 白衣の男は、机の上に積み重なっている書類を脇にのけた。
 そのまま、椅子に座り込む。

 TV画面に、再びありすの姿が映った。
 兵士のヘルメットに備え付けられたカメラからの映像だ。
 ゆっくりと近付いてくるありす。
 彼女に向けて一斉に放たれた銃弾は、空中で静止しバラバラと床に落ちた。

「ふむ… 断定は出来んが、物理的な静止だな。
 能力ではなく、スタンドのヴィジョンによって防いだ可能性が高い」
 白衣の男は、顎を撫でながら言った。
 フサギコが口を開く。
「弾丸の散らばり具合からして、拳で弾いた訳ではないようだけどな。
 彼女のスタンドが、盾のように立ち塞がったのか…?」
「…」
 白衣の男は、その質問には答えない。

 映像は続く。
 小隊長が、ありすに向けてグレネード弾を放った。
 しかし、それすらありすは微動だにしない。

 フサギコは腕を組んだ。
「向こうの衣服に損傷はない。ヴィジョンのみで、弾体破片や爆風を完全にシャットアウトできるものか?」
「この少女のスタンドヴィジョンは、従来の人型ではないと思うね…」
 白衣の男が、TV画面を見つめたまま言った。

 画面に映っているのは、一方的な殺戮である。
 7人の兵の肉体が無惨に捻り潰される映像が、淡々と無慈悲に流れていた。

「…これも通常の破壊だ。加害側の姿が見えない点を除き、超物理的な現象は無い。
 また、同時に多数の箇所を攻撃している。相当に大きいヴィジョンであることが類推できるな」
 白衣の男は、ビデオの停止ボタンを押して言った。
「ここまでパワーがあれば、固有の能力は持っていないのかもしれん」

「…なるほど。ヴィジョン自身の射程が広い、パワー型スタンドか」
 フサギコは、本棚にもたれて言った。
 部屋は、書類や本で足の踏み場も無い。ある意味、研究者らしき部屋ともいえる。
 男は、フサギコの旧知の知り合いである研究者であった。
 この部屋の主である、白衣の男は頷いた。
「あくまで類推だがな。それにしても、さすが三幹部と言ったところか。
 携行火器で彼女を殺すのは不可能だろう。あの距離からのHE弾を無効化したんだからな。
 屋上での輸送ヘリ破壊の映像を見る限り、射程は最低でも20mはあるぞ」

「対戦車ミサイルではどうだ…?」
 フサギコは訊ねる。
 白衣の男は額に手を当てた。
「HEAT弾か。モンロー効果による貫通力ならば、効果があるかもしれんが…
 あれだけの射程を持つ相手が、みすみす当たってくれるものか?」

「敵スタンドの射程が20mならば、ヘルファイアで問題は無いはずだ。
 それを搭載していたアパッチが、早々に落とされたのが災いしたな…」
 フサギコが悔しげに呟く。
「それにしても、アパッチがあそこまで簡単に落とされるとは… これでは、納税者に申し訳が立たん」

 白衣の男は、フサギコが持ってきたテープの一つをデッキに入れた。
 例の、しぃ助教授によるアパッチ撃墜の映像だ。
 男は再生ボタンを押した。
「その映像だけは、何度見ても腹が立つな…」
 フサギコは、憎々しげに呟く。

188:2004/05/03(月) 22:30

 対戦車ヘリ・アパッチが、三幹部の執務室に30mm機関砲弾の掃射を浴びせていた。
 通常なら、部屋にいたものは全て肉塊である。
 だが、アパッチは直後のしぃ助教授による反撃で墜落した。
 最強の攻撃ヘリであるアパッチが、いとも簡単に。

「まず、メインローターが何らかの力で曲げられている」
 墜落時の映像を見て、白衣の男は口を開いた。
「続いて、その負荷に耐えられなくなったようにメインシャフトが折れている。
 これは、明らかにスタンド能力によるものだ。ヴィジョンそのものによる攻撃ではない」

 捻じ曲がったメインローターが空中に吹き飛び、アパッチの機体が大きく傾く。
 そして、そのまま高度を下げていった。
 映像はそこで途切れている。
 そのまま、ビルの壁面に激突したのだ。

 白衣の男は、フサギコを慰めるように言った。
「まあ、何だ… 損傷による誘爆を防ぐ機構の有効性が実証されたと言える。
 スキッド・ランナーで、墜落時の70%の衝撃を吸収するという謳い文句は嘘ではなかった。
 アパッチのダメージ・コントロールはかなりのものではないか…」

「…いや、慰めになってないぞ」
 フサギコは大きなため息をつく。
「それより、メインローターの損傷だけで墜落したのは腑に落ちんな。
 DAFSS(デジタル自動飛行安定装置)は作動しなかったのか…」

 白衣の男は椅子にもたれて言った。
「メインローターの破壊と同時に、DAFSS機構が無効化されたのだろう。それしか考えられん」
「…そんな馬鹿な。兵器マニアでもなければ、アパッチのDAFSSの位置なんて知らんだろう。
 三幹部の一人とは言え、相手は仮にも女性だぞ?」
 フサギコは軽く笑う。

 白衣の男は、つられて笑った後に口を開いた。
「まあ、それは置いておくとして…
 交戦の様子から見るに、しぃ助教授のスタンド能力は動体の移動方向を変える事だな。
 無論、弾道も例外ではない」
 白衣の男は断言した。
「クレイモア(指向性対人地雷)を無効化したのを見る限り、かなり精度は高いようだ。
 銃弾はもちろん、ミサイル類ですら破壊力に関わらず無効だろう。
 サンバーン対艦ミサイルのほとんどを撃墜した事から見て、マッハ2.5までは確実に対応できる。
 下手をすれば、航空機の類は能力射程内には近寄れんぞ」

189:2004/05/03(月) 22:31

「ふむ、厄介だな…」
 フサギコは腕を組んで視線を落とした。
「…で、最後にこいつはどうだ?」
 デッキにテープを入れ、再生ボタンを押すフサギコ。
 クックルが画面に映る。
 その鶏は戦車を殴り、主砲を喰らい、戦車に踏まれ、戦車を投げ飛ばしていた。
「…素手で戦車に損傷を与えた。さらに、120mm滑腔砲の直撃でも大したダメージはない」
 フサギコは腕を組んで呟いた。
「これは、どういう能力なんだ…?」

「ふむ…」
 白衣の男はビデオを止めると、フサギコが持参してきた何枚もの写真を見た。
 前部装甲の破壊状況を様々な角度で移した写真だ。

「90式MBTの複合装甲をここまで破壊するとはな…
 だが… 映像を解析する限り、スタンドの関与はないように思える」
 白衣の男は、無造作に机の上に写真を放り投げた。
「…スタンドの関与がない、だと?」
 フサギコが視線を上げる。

「破壊部位の超微粒子超硬ファインセラミックスが、どう劣化したか見てみたいところだが…
 とにかく、これは拳で破壊したものだよ。それは間違いない。
 自分自身の肉体を増強させる類の能力か、もしくはただの馬鹿力か…
 何にせよ、詳しいところは分からん」
 白衣の男は呆れたように言った。
 匙を投げたようにも見える。

「…たまらんな」
 フサギコはため息をついた。
「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)でダメージがないとなれば、
 デイジー・カッターか、FAE(燃料気化爆弾)か、もしくは…」
「BC兵器かね…?」
 白衣の男は、視線を上げた。
「…」
 フサギコは黙り込む。

 白衣の男は、椅子から立ち上がった。
「まあ、私に言えるのはここまでだな。
 スタンドの研究は歴史が浅い。まして、映像のみで能力を割り出すのは至難の業だ。
 私の意見も、参考程度に留めてもらいたい。
 それを元に作戦を立て、多くの死傷者を出したら… 私の首程度では責任が取れんからな」

「…ああ、分かってるさ」
 フサギコは腰を上げた。
 白衣の男はフサギコに視線を向ける。
「それと、少しは家に帰れ。ひどい顔をしてるぞ。息子も放ったらかしだろう」

「あいつは、意外にしっかりしてる奴だ。放っておいても大丈夫だろ」
 フサギコは言いながらコートを羽織った。
「…ここまで来たんだ。スタンド使い共を全員片付けるまでは、俺ものんびりできん」

190:2004/05/03(月) 22:31


          @          @          @



 俺とリナーは、並んでソファーに腰を下ろした。
 以前、しぃ助教授と面会した部屋とは異なる。
 部屋の奥には流し台があった。
 どうやら、台所として使用されている部屋にソファーとテーブルを運び込んだだけのようだ。
 部屋のカーテンは閉まっている。当然、俺達の事を考慮したのだろう。

 テーブルの向こうには、どことなく疲れた顔をしたしぃ助教授が座っていた。
 部屋の端には、忠実な執事のように丸耳が控えている。
 ふと、リナーの方に目をやった。
 彼女は、右腕を服の中に突っ込んでいる。

「…すみませんね、こんな部屋で。日光を遮断できる部屋は、ここしかなかったんですよ。
 幹部執務室は、今ちょっと天井がないもんで…」
 しぃ助教授は、うんざりしたような顔で言った。
 どうやらリナーと揉める気はないようだ。
 丸耳が、テーブルの上に三人分の飲み物を置く。

「麦茶です。良かったらどうぞ…」
 しぃ助教授が、グラスに口を付けながら言った。
 なぜコーヒーではなく麦茶なのだろうか。

「…」
 リナーは、しぃ助教授を無言で睨んでいる。
 流石に殴りかかったりはしないだろうが、こちらとしては気が気ではない。

「…単刀直入に言いましょう。私達の戦闘に同伴してください」
 しぃ助教授は、グラスをテーブルに置いて言った。
「どういう事だ…?」
 不審げな目で、リナーが訊ねる。
 しぃ助教授はため息をついた。
 やはり、相当に疲れているようだ。
「知っての通り、私達ASAは自衛隊と交戦しています。
 この場所は戦略・戦術両面において不利なんで、海に出ようと思ってるんですよ」

 自衛隊に攻撃されたのはTVで知っていたが、海に出るとは…?
「…なるほど。拠点を海上に移そうという事か」
 リナーが納得したように腕を組んだ。
「ええ。こんな場所に本拠地を構えていては、ICBMで狙い撃ちですからね。一刻も早く居を変えないと…」
 しぃ助教授は視線を落とす。

 リナーが口を開いた。
「それで、軍艦か何かを仮本拠地にすると言う訳か。だが、向こうが黙っているはずがないな」
 この会話に、俺が介入する余地は無いようだ。俺は麦茶に口を付けた。
 しぃ助教授が大きなため息をつく。
「その通りですよ。海上封鎖は当然の事、護衛艦隊を投入してでも阻止してくるでしょう。
 そこでいっその事、艦隊決戦に持ち込もうと思ってるんですよね…」

「艦隊決戦?」
 俺は訊ねる。
「…『艦隊決戦』とは、海軍の戦略構想の1つだ」
 リナーが俺の疑問を補足した。
「1回の海戦で相手の主力艦艇を壊滅させ、一気に制海権を確保しようという作戦構想だ。
 そして相手の通商を遮断し、一気に有利な講和を進める事も可能となる」

 しぃ助教授は頷いた。
「そう。向こうのアドバンテージを一転、こちらの波にしてしまおうという事ですよ。
 この国から撤退するように見せて、敵艦隊の総駆逐に臨みます。
 島国である以上、通商遮断の効果は覿面でしょうしね」

「孫氏曰く、『兵は詭道なり!』ってとこモナね」
 俺は、何となく胸を張って言った。
「孫氏曰く、『百戦百勝は善の善なるものにあらず』。
 戦い以外の選択肢を失ってしまった時点で、ASAは既に戦略的敗北を喫していますよ…」
 しぃ助教授は呟く。
「で、『艦隊決戦』と銘打つ以上、大海戦が予想されます。そこで、非常に有効なスタンドがあるんですよね…」
 ニヤリと笑って俺の方を見るしぃ助教授。

「それで、『アウト・オブ・エデン』か…」
 やっと話が繋がったという風に、リナーは呟いた。
 しぃ助教授は大きく頷く。
「そういう訳で、私達の船に乗りませんか? 戦闘は私達がやるんで、そちらは船旅気分で結構ですよ」

「…そんな話に、私達が乗るとでも思ったのか?」
 そう言いながら、リナーが不機嫌そうに立ち上がった。
「まあ、最後まで聞くモナよ」
 俺は慌ててリナーを諌める。
 まだ話は終わっていないのだ。最も重要な部分を聞いていない。

191:2004/05/03(月) 22:32

 しぃ助教授は笑みを浮かべる。
 まるで、こちらの反応など最初から予想していたといった風に。
「丸耳は取引だと言ったでしょう? 当然、そちらにも見返りがありますよ。
 おそらく、貴方達が切望しているものがね…」
 そう言って、指を鳴らすしぃ助教授。
 丸耳が、赤い液体の入ったパックをゆっくりとテーブルに置いた。
 これは…!!

「輸血用の血液パックです」
 しぃ助教授が言った。
「貴方達は、これが入り用なんでしょう…?」

 俺は、その赤い液体が詰まった袋を見つめた。
 そして、リナーに視線をやる。
 だが、彼女の不機嫌そうな表情は消えてはいなかった。
「私の体は、すでに通常の吸血鬼とは異なっている。生気の残った血液でなければ、身体の衰弱は防げない。
 まあ、どちらにしても時間稼ぎには変わりないがな…」
 リナーは、しぃ助教授を見据えて言った。
 彼女は人工(それも、まだ技術が確立していない時代)の吸血鬼である。
 さらに、スタンドでの抑圧によって吸血鬼の血が変成しているのだ。

 表情を曇らせるしぃ助教授。
「うーん。思ったより喜んではもらえないようですね。
 とにかく、貴方達の食事量に換算して2ヶ月分を差し上げましょう。
 その代わり、私達の船に乗ってもらいます。そういう取引ですが…?」

「断る。ASAに貸しを作る気はない。輸血用血液など、調達は他からでも可能だ」
 リナーは取り付く縞もなく言った。
 そして、話は終わったとばかりに立ち上がる。

「貴方達に乗ってもらう船は、タイコンデロガ級イージス艦なんですがね…」
 しぃ助教授はゆっくりと視線を上げて言った。
 部屋から出て行こうとするリナーの動きがピタリと止まる。

「トマホーク巡航ミサイルの一発くらい、撃たせてやってもいいかな?なんて思ってたんですが…」
 しぃ助教授は、残念そうに呟いた。
「乗りたくないのなら、仕方がないですねぇ…」

 リナーは再びソファーに座った。
「詳しい話を聞こうか…」
 麦茶のグラスを傾けて、リナーは呟く。

 しぃ助教授は、にっこりと笑みを浮かべた。
「今晩の9時に、近海に停泊しているASA所属イージス艦『ヴァンガード』に乗り込んでもらいます。
 艦長はありす。副艦長にはねここが付きます。実質、艦を指揮するのはねここでしょうけどね」
「えっ、しぃ助教授が艦長じゃないモナ?」
 てっきり、しぃ助教授が艦長をだと思っていた。
 だが、今のはしぃ助教授自身は艦に乗らないような言い方だ。

「私がいないと寂しいですか?」
 しぃ助教授がニヤリと微笑って言った。
 何故か、リナーが俺を睨みつける。
「…誤解を招く表現はやめてほしいモナ」
 俺は汗を拭きながら言った。

 しぃ助教授が話を元に戻す。
「船は1艦だけじゃありませんよ。私は艦隊を指揮しなければいけないので、旗艦に乗り込みます。
 イージス艦は、言わば艦隊の『眼』ですからね。それに貴方のスタンドが加われば心強いですよ。
 …まあ、『異端者』はおまけですがね」

「暴れちゃ駄目モナよ…」
 殺気を放つおまけ… いや、リナーに釘を差す俺。
 丸耳が少し慌てたような表情を見せる。

 しぃ助教授は思いついたように言った。
「そう言えば、貴方達とありすはあんまり面識がありませんでしたね。丸耳、ありすを呼んできてください」
「…はい」
 丸耳は、無駄のない動きで部屋から出て行った。

「ねここはいいけど、ありすはちょっと怖いモナね…」
 俺は呟いた。
 あの、ありすの感情のない瞳を思い起こす。

「…ねここはイイ!!ですか。モナー君は、よっぽどねここがお気に入りのようですね」
 しぃ助教授が深く頷いて言った。
「ちなみに、ねこことはありすの補佐で、モナー君と同年代の女の子です」
 そして、不必要な補足を加えるしぃ助教授。
 リナーが無言で俺を睨みつけている。
「誤解を招くような表現は勘弁してほしいモナ…」
 なんで俺がさっきからいじめられているのか、さっぱり理解できない。

192:2004/05/03(月) 22:33

「ありすをお連れしました…」
 丸耳の声と共に、ドアが開く。
 その後ろには、かって見たことのある少女が立っていた。

 何の感情も宿さない瞳。
 フリルに覆われた衣服。
 そして、周囲を覆うような圧迫感。

「彼が、船に乗ってくれるモナー君と『異端者』です」
 しぃ助教授は、ありすに俺達を紹介した。
 感情のない瞳で、俺達を眺めるありす。
 リナーは、ありすを凝視して緊張した表情を浮かべている。
 やはり、この圧迫感は普通ではないようだ。

 俺は、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 ありすの感情の波は非常に緩い。
 だからこそ、圧迫感が突出するのだ。
 同じ艦に乗る以上、これにも慣れないといけない。

 …それにしても、この衣服は素晴らしい。
 メイド服をアレンジしたような独特の装飾。
 特に、レトロなペチコートはSクラスだ。
 ぜひ、一着我が家にほしい。
 そして、リナーに着せてみたい…!!

「…まあ、そう睨まないであげて下さい。敵意さえ持たなければ、ありすは大人しいですよ。
 彼女のスタンド、『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』も強力ですので、貴方達に苦労はかけませんしね」
 ありすを凝視している俺に、しぃ助教授が告げた。

 ――『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』。
 それが、彼女のスタンドの名。

「無愛想ですが、可愛いところもありますよ。そう思いませんか、モナー君?」
 しぃ助教授は笑顔で言った。

 …何で俺に振るんだ?
 リナーの目も光っている。
 肯定すればリナーに、否定すればありすに屠られるかもしれない。
 …さて、どう答えたものか。

「…サムイ?」
 俺の苦悩をよそに、ありすが言った。
「え? 別に寒くはないモナよ」
 俺は困惑しつつ答える。
 ありすは無言でこくりと頷くと、背を向けて部屋から出ていってしまった。
 俺達は、しぃ助教授に視線を戻す。

「まあ、挨拶も済んだようですし… 取引は成立でいいですね?」
 しぃ助教授は微笑んで言った。
 …あれは、挨拶だったのか?

 とにかく、2ヶ月分の血液パックは是非必要だ。
 俺自身は、これさえあれば生きていける。
 リナーに関しても、ないよりはマシだろう。
「じゃあ、取引は成立という事で…」
 俺はそう言おうとした。
「…何か忘れてないか?」
 リナーが口を挟む。

 …あっ!!
 公安五課の要人救出とブッキングしてる!!

「何か先約でも?」
 しぃ助教授は、俺達の様子を見て言った。
 その通りだが、公安五課が隠密行動をしている以上、迂闊に口に出す訳にもいかない。
「…まあ、そんなところモナ」
 俺はそう言って、リナーの顔を見た。
 …どうしようか?
 あっちの方は、行きたい奴のみが行くという結論が出たはずだが…

193:2004/05/03(月) 22:33

「…私個人の意見を言わせて貰うならば、ASAに協力すべきだと思うが」
 リナーは偉そうに腕を組んで言った。
 虚勢とは裏腹に、すがるような視線。
 どうやら、イージス艦とやらに乗りたくてたまらないようだ。
 ならば、腹は決まった。

「…じゃあ、その船とやらに乗るモナ」
 俺は、しぃ助教授に言った。
 満足そうに頷くしぃ助教授。
「それでは、血液パックは貴方の家に届けておきます。特別に専用の冷蔵庫もサービスしましょう」

 …これで、話は決まった。
 今夜は、ギコ達とは別行動になるようだ。
「9時モナね。ヘリで迎えに来てくれるモナ?」
 俺は、時刻と交通手段を確認した。
「…ええ。武器類の持参は自由です。おやつは300円まで。バナナはおやつに入りません」
 まるで遠足のようにしぃ助教授は言った。
「…了解モナ」
 俺はグラスを手に取ると、麦茶を喉に流し込む。

「ところで『異端者』…」
 しぃ助教授は、不意に真剣な表情を浮かべた。
 そして、リナーを真っ直ぐに見据える。
「貴方、モナー君と寝ました?」

 ……………!?!?!?
 俺は、飲んでいた麦茶を吹き出した。
 床が麦茶まみれになる。
 一方、リナーが持っていたグラスは粉々になっていた。
 思わず握り潰したようだ。

 しぃ助教授は頭をポリポリと掻いて言った。
「あらあら。貴方達の間柄が、前に見た時より落ち着いていたから…
 てっきり何かあったんだと思ったんですがね」
 丸耳が慌てて雑巾を持ち出した。
 そして、俺が吹き出した麦茶を拭く。

「モ、モナ達はゴホッ、そんなガフッ、ゴフッ!!」
 麦茶が気管に詰まり、まともにしゃべれない。
 リナーは露骨に視線を逸らして、掌に刺さったグラスの破片を払っている。
「…失礼します」
 丸耳がグラスをお盆の上に載せた。
 そのまま、背後にある流し台に運んでいく。

「ふーむ。まだまだ恋愛に潔癖な年頃みたいですね」
 しぃ助教授は、ニヤけながらソファーにもたれた。
 そして、何かを思い返すように胸の前で腕を組む。
「…学生時代を思い出しますね。私もハイティーンの時は、まだまだ純情な乙女でした…」

 突然、背後からグラスの割れる音がした。
 丸耳がお盆を引っくり返してしまったようだ。
「…失礼、不注意でした」
 丸耳が恐縮した声で詫びる。

「あら? 何か驚く事でもあったんでしょうかね…」
 しぃ助教授は微笑んで言った。

 …もう、話は終わったのだ。
 これ以上ここにいると、無駄な騒動に巻き込まれかねない。 

「…では、モナ達はここらでお暇するモナ」
 俺はソファーから腰を上げた。
 リナーも続いて立ち上がる。

「丸耳。後片付けはいいですから、モナー君達を家まで送ってあげなさい」
 しぃ助教授は、グラスの破片を集めている丸耳に言った。
「…はい、分かりました」
 そう言って、丸耳が腰を上げる。

「…最後に忠告です」
 しぃ助教授は、真剣な目で俺の方を見た。
「モナー君、ヨーロッパの格言にこんなのがあります。
 『フランスの女性は、裏切られたらライバルの方を殺す。イタリアの女性は、騙した男の方を殺す。
  イギリスの女性は、黙って関係を絶つ。 …だが、結局はみんな別の男に慰めを見い出す』
 『異端者』は確かフランス系でしたっけねぇ…?」

「じゃあ、また夜に会うモナッ!!」
 俺は、何かを言いかけるリナーの手を引いて部屋から出た。
 …これ以上、火に油を注ぐのは止めてもらいたいものだ。
 俺達は、こうしてASA本部ビルを後にした。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

194ブック:2004/05/04(火) 13:02
     EVER BLUE
     第三話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その一


「…で、お前ら何か言う事は?」
 僕とオオミミ、ニラ茶猫と三月うさぎの四人は、サカーナの親方の前に整列させられていた。

「言う事って言われても、なぁ?」
 ニラ茶猫がオオミミと三月うさぎの顔を見ながら言う。

「手前ら!
 勝手に爆裂徹甲弾全部使って詫びの一言も無しか!!」
 サカーナの親方が鬼の様な形相で叫んだ。
 その目はうっすらと充血している。
 どうやらさっきまで泣いていたようだ。

「悪いが俺達が謝る道理など無いな。
 そもそも船長のあんたがあの戦艦に喧嘩など吹っかけなければ、
 あの弾だって使わずに済んだのだ。
 自業自得というやつだな。
 それとも何か?
 あのまま空の藻屑となって大切な弾と共に地面に墜落する方がよかったと?」
 三月うさぎが極めて理性的に反論する。
 サカーナの親方はぐうの音も出ない。

「でもなあ、いくら何でも全弾つぎ込む事は無ぇだろうが!?」
 サカーナの親方が諦め切れないといった風に食い下がる。

「そんなに弾が欲しいならこれをくれてやる。」
 三月うさぎがなにやらマントをゴソゴソと動かした。
 すると、マントの中から銃の弾丸が出るわ出るわ。
 恐らく、あの戦艦での自動小銃の射撃による弾丸だ。
「都合百五十六発の鉛玉だ。
 数だけならば、使った爆裂徹甲弾と差し引いてもお釣りが来るだろう。」
 幾つもの銃弾をサカーナの親方に握らせる三月うさぎ。

「阿呆か!
 こんな鉄屑貰った所で、一銭にもなるか!!」
 サカーナの親方が銃弾を地面に叩きつけた。
 銃弾がころころと地面を転がり、壁に当たって止まる。

「どうでもいいが船長。
 他にも言及すべき事があるんじゃないか?」
 三月うさぎが、脇の方に佇んでいた天に視線を移した。

「あ、そうだった。
 おい、オオミミ!
 お前船に厄介事持ち込むなって、あれ程言っておいただろう!!」
 サカーナの親方の雷がオオミミに落ちた。

「『ゼルダ』もだ!
 どうしてオオミミを止めねぇ!
 どうすんだ、こんなお嬢ちゃん拾って来ちまって!
 犬や猫じゃねぇんだぞ!!」
 案の定僕までもが怒られる。
 やれやれ。
 だからこの子を連れて帰るのは嫌だったのだ。

195ブック:2004/05/04(火) 13:02

「ごめんなさい…!
 私が悪いんです。
 私が無理矢理オオミミさんに連れて行って貰うようにお願いした所為で、
 オオミミさんは仕方無く…」
 と、天がオオミミとサカーナの親方の間に割って入った。

 ちょっと待て。
 何だこのしおらしさは。
 さっきまでの態度と全然違うじゃないか。

「だからオオミミさんを怒らないであげて下さい…!
 責めるなら代わりにこの私を…」
 この猫被りめ…!
 皆を騙くらかそうとしてもそうはいかないぞ。
 お前の本性は、どこまでもまるっとお見通しなんだからな。

「…?どうしたの、天さん。
 さっきと全然雰囲気が違……あぐっ!」
 彼女の豹変振りを指摘しようとしたオオミミの足を、天が踵で踏みつけた。

「ご、ごめんなさい!
 オオミミさん、大丈夫ですか!?」
 わざとらしくオオミミに謝る天。
 こいつ、今の絶対故意だろう。

「…私の本当の性格喋ったら酷いわよ。」
 と、天がオオミミにだけ聞こえる声で脅迫した。
 その威圧感に思わず顔を引きつらせるオオミミ。

 …オオミミ。
 殺そう。
 今ここでこの女殺そう。
 神様だって、きっと許してくれる。

「…ったく、しゃーねーなー……
 兎に角だ。
 船の修理に近くの島まで寄らなきゃなんねぇ。
 その嬢ちゃんをどうするかは、そこで決める。」
 サカーナの親方がやれやれといった風な顔で告げた。
 そして、怒るのにも疲れたのか振り返ってその場を去ろうとする。

「…ああそーだ。
 オオミミ、お前は罰として船に穴が開いた所の掃除だ。」
 サカーナの親方が思い出したように言う。
 そのまま親方はその場を離れていった。

「ま、運が悪かったな。
 せいぜいがんばれよ。」
 ニラ茶猫がオオミミの肩を叩いた。

「…やれやれ。
 後先考えず行動するからそうなる。
 …いや、それはこの船の奴ら全員か。」
 三月うさぎもそう言い残すと去って行った。

「天ちゃん、だったわね。
 ごめんなさいね、説教に付き合わせちゃって。
 取り敢えず今日の寝室の案内をするからついて来て。」
 高島美和がそう言って天と共に出て行く。

 かくして、その場には僕とオオミミだけが取り残された。
 糞。
 あの女、後で絶対覚えてろよ。

196ブック:2004/05/04(火) 13:03



 オオミミは見事に船室に開けられた穴の辺りの床を、せっせと磨いていた。
 ある程度掃除した所で、オオミミは服の袖で額の汗を拭う。
 しかし、後始末をすべき部分はまだ沢山残っている。
 いつになったら終わる事やら。

(…オオミミ、何であの子に言い返してやらなかったんだよ。)
 僕は苛立たしげにオオミミに尋ねた。
「ん〜?何で『ゼルダ』はそんな事考えるの?」
 オオミミは呑気な顔でそう答える。

(何言ってんだよ!
 あの我侭娘の所為で、
 君がここでこうして一人で掃除させられる羽目になってるんじゃないか!
 少しは悔しいとか思わないのか!?)
 全く呆れる位お人好しな奴だよ、君は。
 そんなんだから、あの女に体よく扱われるんだ。

「あはは。俺はそんなに気にしてないよ。
 あの子、そんなに悪い人じゃなさそうだし。
 それに、何か寂しそうな目をしてたからさ…
 ほっとけないだろ?そーいうの。」
 あっけらかんとした顔で笑うオオミミ。
(君は馬鹿か。もう少し世間の厳しさというものをだな…)

「全く…善意の押し売りもいい所ね。」
 その時、いきなり横から声をかけられた。
 見ると、天が雑巾を持って立っていた。

「…?何でこんな所に?」
 不思議そうに尋ねるオオミミ。
 何だこの女。
 オオミミの邪魔でもしに来たのか…?

「魚でも買いに来たように見えて?
 掃除を手伝ってあげに来たのよ、
 そ・う・じ・を。」
 厭味ったらしく口を開く天。
 何様だ、この女。
 …え?
 掃除を、手伝いに来た?
 まさか、そんな、幻聴か!?

「そんな、悪いよ。」
 手を振りながら断ろうとするオオミミ。
「うるさいわねぇ。
 せっかくこの私が手伝ってあげるって言ってるのに、
 なーに?その態度は。」
 お前も、手伝いに来たわりには随分と偉そうな態度だな。

「いや、でも、サカーナの親方は僕に命令したんであって…」
 オオミミがぼそぼそと呟いた。

「勘違いしないでよ。
 別にあなたの為にやる訳じゃないわ。
 実際、あなたがここの掃除をする事になった原因の一旦には私の責任もあるんだし、
 ここであなたに借りを作っておきたくないだけよ。」
 ぶっきらぼうに言うと、天は雑巾で床を拭き始めた。
 可愛くない女。
 もっと他にも言い方ってもんがあるだろう。

「ごめん。助かるよ。」
 オオミミが屈託の無い笑顔を天に向けた。

「あのねぇ、私はわざと神経逆撫でするような言葉を選んでるんだから、
 少しは嫌な顔の一つでもしなさいよ!」
 天が呆れたような顔をする。
 その意見については僕も賛成だ。
 オオミミは、もっと人を疑うとか、そういう事を学んでもいい。

「でも、ありがとう。」
 それにも関わらず、オオミミは天に心からの礼を告げる。
「…全く、あんたと話してると調子が狂うわ。」
 天は顔を少し赤くすると、ツンとそっぽを向いてしまった。

197ブック:2004/05/04(火) 13:04


「…ねえ、天さん。」
 不意に、オオミミが天に尋ねた。
「天でいいわ。それで、何?」
 天が面倒臭そうに聞き返す。

「えっと、じゃあ天。
 君、どこであいつらに攫われたの?
 出身は何処?」
 オオミミがそう質問した。

「…悪いけど、ノーコメント。
 生憎、出会ったばかりの男にホイホイプライバシーを語る程、
 軽い女じゃないの。」
 あからさまに不機嫌な顔をする天。
 感じ悪い奴。
 それ位、答えたっていいじゃないか。

「じゃあ今度はこっちから質問するわね。
 あなたさっきから一人でぶつぶつ言ってる時があるけど、
 それってあの変てこな鉄屑と闘ってた時に出てきた奴と話してるの?」
 天がオオミミにそう聞いた。

 …!
 この子、僕の姿が見えていたのか!?

「…!そうだけど、もしかして君もスタンドが使えるの!?」
 驚いた様子で聞き返すオオミミ。

「さっき言ったでしょ。
 私は出会ったばかりの男にホイホイプライバシーを語る程、
 軽い女じゃないの。」
 こいつ…
 自分は何も答える気が無い癖に、オオミミに質問しやがって…!

「ご、ごめん。」
 頭を下げるオオミミ。
 だから君が謝るなって!
 そういうの、君の悪い所だぞ。



 掃除もようやく終わり、オオミミが大きく欠伸をした。
 時計はもう深夜の二時。
 早く寝ないと明日に響いてしまう。

「…やっと終わったわね。
 全く、とろいんだから…」
 最後まで悪態をつく天。
 この女、どこまで口が減らないのだ。

「それじゃ、私は寝るわね。お休み。」
 欠伸をすると天はさっさと帰って行ってしまった。
 やれやれ。
 ようやくうるさいのが居なくなったか。

(オオミミ、それじゃあ僕達もそろそろ休もう。)
 僕はオオミミにそう提案した。
 今日は何だか色々と疲れた。
 早くぐっすりと眠りたい。

「うん、そうだね。」
 オオミミがもう一度眠そうに欠伸をする。
 そして彼は自分の寝室に向かって足を伸ばし―――

「おい。」
 野太い声がいきなり聞こえてきた。
 この声は、サカーナの親方か。
 声の方を向くと、その予想が正しかった事が判明する。

「親方…」
 もう夜も遅いので、静かな声で喋るオオミミ。
「明日船の修理に、近くの『tanasinn島』に寄る。
 そこでお前とあの嬢ちゃんを散歩でもして来いってお題目で外に出す。
 それがどういう事かは、言わなくても分かるな。」
 サカーナの親方がオオミミに厳しい目を向けた。
 つまりは、そこであの子を置き去りにしてこいという事だ。

「……」
 親方と目を合わせずに俯くオオミミ。
「…あの嬢ちゃんを放っておけねぇって気持ちは分かるさ。
 だけどな、実際問題うちみたいな所に置いとく訳にもいかねぇだろう。
 幸いあの島は割と大きいし、船の出入りも多い。
 役所に頼みゃあ、あの嬢ちゃんも一人で元の家に帰る事くらい簡単さ。」
 なだめるように、サカーナの親方はオオミミを説得した。

(親方の言う通りだよ、オオミミ。あの子とは明日お別れだ。)
 この説得には僕の個人的願望が半分程含まれていた。

「…分かったよ。」
 暗い表情で呟くオオミミ。
 やった。
 これであのいけ好かない女ともお別れだ。
 今夜はぐっすり眠れそうだ。

198ブック:2004/05/04(火) 13:04



「…天気もいいし、ちょっと散歩に行かない?
 サカーナの親方も、船の修理の間に船内に居られたら邪魔だって言ってるし。」
 オオミミにしては上手な嘘で、僕とオオミミは雨と共にtanasinn島の中を散歩していた。
 ここtanasinn島は小の大といった程度の大きさの浮遊島で、そこそこ活気もある。
 ここならば、天を捨てて行った所で野垂れ死にはすまい。

 それにしても、あの我侭な女が素直に散歩に付き合うとは思わなかった。
 悪いものでも食べたのだろうか。

「…本当に、置き去りにしていいのかなあ?」
 オオミミが不安そうな声で僕に尋ねた。
(今更何言ってるんだよ。
 また親方にどやされるぞ。)
 僕は叱るように答える。
 全く、君は本当に甘過ぎる。
 もっとこうガーンといった風に…

「ちょっと、一人で自分の世界に入っていないでよ。」
 後ろから、天が傘の先っぽでオオミミを小突く。
 この野郎、やりやがって。
 しかしこの女、何で晴れてるのに傘なんか持ち歩いているんだ?

 …まあいいや、どうせこいつともここでおさらばなんだ。
 余計な事を気にするのはやめておこう。

「……」
 今日の雲ひとつ無い晴天とは対照的に、オオミミの表情は晴れない。
 オオミミ、こんな女を置き去りにする事何かに良心の呵責を感じる必要なんか無いぞ。
 さっさとどこか適当な場所で、お別れを…

「…早くどっか行きなさいよ。
 あなた、私をここに置いて行く為に、私を散歩に連れて来たんでしょう?
 なら、さっさとどっかに行ってくれなきゃこっちが居心地悪いわ。」
 …!
 この子、気づいていたのか!

「……!!」
 動揺を隠せないオオミミ。

「気づいていないとでも思ったの?
 はっ、私だってそこまで馬鹿じゃないわ。」
 勝気な笑みを浮かべながら天がオオミミに顔を向ける。
 思わず目を逸らすオオミミ。

「勘違いしないでよ。
 別に、その事を責めるつもりはさらさら無いわ。
 実際私があなた達の立場でも同じ事をしたと思うし、
 あの船から出れただけでも運が良いんだしね。」
 天が振り返って背中を向ける。
 長い綺麗な髪を束ねた大きなリボンが、風に揺れた。

「…何してるの。
 さっさと行きなさいよ。
 空気を読めない男は嫌われるわよ。」
 そっぽを向いたまま天がオオミミに告げる。
 …オオミミ、彼女の言う通り、
 早くこの場から立ち去って…

199ブック:2004/05/04(火) 13:05

「!!!!!」
 と、オオミミが天の腕を掴んで物陰に引き込んだ。
「!?
 ちょっ、何するのよ変た…!」
 叫ぼうとする天の口を手で塞ぐオオミミ。
 天がそれから逃れようと必死にもがいた。
 オオミミ、どうしたんだ!?
 いきなりこんな事するなんて、君らしくないぞ!?

「静かに…!」
 オオミミが小さく呟いて通りの方に視線を向ける。

 …!
 赤い鮫のロゴのついた服を着た奴等が、大勢で何かを探し回っている。
 まずい。
 あいつらは…!

「『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)…!」
 険しい顔になるオオミミ。
 天も状況を理解したのか暴れるのをやめる。

「居たか!?」
「…いや。」
 向こうから『紅血の悪賊』の連中の声が聞こえてくる。

「マジレスマン様からの話だと、
 黒マントで隻眼の男と、頭がニラみたいな男、
 それからデカ耳の男と頭にリボンを巻いた女らしい。
 この島に来てるかもしれないから、草の根分けても探し出せ、との事だ!」
 最悪だ。
 まさかこの島に、奴等の仲間が居ただなんて…!

「…天、逃げるよ。」
 オオミミが天の手を引いた。
「ちょっと、別に私一人でだって、
 あいつらから逃げ切るくらい訳無い…」
 その時、天の体が近くに積まれていた箱に当たった。
 派手な音を立てて箱が崩れ、その場の視線が一斉に僕達に向けられる。

「…おい、あれ。」
 『紅血の悪賊』の一人が僕達を指差す。
「…デカ耳に、頭にリボンの女。」
 ヤバい。
 気づかれた!

「走るよ!!」
 オオミミが天を引っ張る形で走り出した。
「追え!!逃がすな!!!」
 全力で奴らが僕達を追いかけて来る。

 糞、何て事だ。
 よりにもよって僕達しかいない時に見つかるなんて。
 いや、それよりも、早くこの事をサカーナの親方達に知らせなければ…!

200ブック:2004/05/04(火) 13:05


「はっ、はっ、はあ…!」
 どれ位走ったのだろう。
 天の息が上がり、走る速度も落ちてくる。
 後ろからはなおも追跡してくる男達。

 まずいぞ、オオミミ。
 唯でさえ僕達はこの場所に土地勘が無いんだ。
 このままでは、捕まってしまう!

「…あなた、何で私を置いて逃げないのよ。
 あなただけなら逃げれる筈でしょう?」
 息も切れ切れに、天がオオミミに尋ねる。
 そうだ、オオミミ。
 何故君は一人で逃げようとしない。

「何言ってんだよ!
 捕まったらどうなるか分からないってのに、
 君だけ置き去りにして逃げるなんて事出来る訳ないだろう!?」
 珍しく怒った顔をして、オオミミが天に告げた。

「はっ、何それ!
 そうやって善意を押し売りして、自己犠牲に酔いしれるつもり!?
 そんなの、こっちが迷惑だわ!
 そういうのを偽善者って呼ぶのよ!!」
 こんな状況でも減らず口を叩く天。
 この女、せっかくお前を助けようとしてるオオミミに向かって、
 よくもまあそんな事を…!

「…そうかもしれない。
 でも、やっぱり自分だけ助かればいいってのは、
 いけない事だと思うよ。」
 オオミミが暗い表情になる。

(今はそんな事言ってる場合じゃ無いだろう!?
 喋ってる暇があったら足を動かすんだ!!)
 こらえ切れなくなり、僕はそうオオミミに喝を入れた。
「そうだね…!
 急ぐよ、『ゼルダ』!!」
 オオミミが精悍な顔つきに戻る。
 そうだ。
 今は取り敢えず、逃げ延びる事だけを考えて…


「!!!!!!!」
 オオミミと天の足が止まる。

(行き止まり…!)
 僕達は、袋小路に追い詰められていた。

「手間ぁ掛けさせてくれたなあ…
 ええ?兄ちゃん達…」
 僕達に向けて一斉に銃を突きつける『紅血の悪賊』達。
 オオミミが天を庇うように、奴らに対して身構える。

「どうする?
 お前等の仲間の場所まで案内するって言うんなら、
 痛い目に遭わせないでおいてやるが…」
 品の無い笑みを顔に貼り付けながら、リーダー格らしき男がオオミミに言った。

「教えると思って…!」
 オオミミのその言葉を銃声が遮る。
 オオミミの右頬がを銃弾が掠め、そこから赤い血が流れた。

「…言葉は選んだ方がいいぜ。
 それとも、後ろの女を突っ込み廻しまくってやりゃあ、
 少しは気が変わるかな?」
 奴らが下品な声で笑う。

 まずいな。
 数が、多過ぎる。
 オオミミ一人なら、僕の力でここを切り抜ける事も出来るかもしれないが、
 天を守りながらとなると話は別だ。
 オオミミの性格上、天を見捨てる事は出来ないだろう。

 畜生。
 一体、どうすれば…!

201ブック:2004/05/04(火) 13:06


「あの〜、お取り込み中のところ済みません。」
 その時、いきなり修羅場に似つかわしくない呑気な声がその場に響いた。

「!?」
 僕達も『紅血の悪賊』も、一斉にその声の方を向く。
 そこには、一人の青年が立っていた。
 ダークグレーのスーツを着こなし、人の好さそうな笑みを浮かべた青年。
 およそこんな状況とはかけ離れている風貌である。

 しかし、この人はいつの間に現れたのだ!?
 さっきまで、この人が居た場所には誰も居なかった筈だ。

「誰だ!?」
 『紅血の悪賊』の一人がその青年に銃を向けた。

「いや、私はしがない小市民ですよ。
 しかし銃声がしたので何事かと思って来てみれば…
 どうやらとんでもない事になっちゃてるみたいですね。」
 軽薄な笑みのままそう返す青年。
 その顔には、銃に対する恐れは微塵も見られない。
 何なんだ、この人は。
 頭がおかしいのか!?

「…生きてるうちに、失せろ。」
 リーダー格の男が青年にそう告げた。
 言ってみれば、これは最後通告である。

「いやそんな、大の大人がいたいけな少年少女に銃を向けるなんて現場を見て、
 『はいそうですか』と立ち去るなんて事出来ませんよ。
 すみませんが、ここは私に免じてその物騒な物をしまってくれませんかね?」
 それでも青年は笑顔を崩ずに答える。
 それが、『紅血の悪賊』の連中の堪忍袋の緒を切っているのは、
 火を見るよりも明らかだった。

「―――殺せ。」
 その男の声と共に、青年に向かって無数の銃弾が飛び交った。

 駄目だ!
 やられ―――


「!?」
 しかし、銃弾は全て男の体をすり抜けた。
 我が目を疑う『紅血の悪賊』達。
 僕達も、何が起こったのか理解出来ない。

 どういう事だ!?
 だって、男の姿はちゃんとそこに…

「…私は、荒事は嫌いなんですけどねぇ……」
 と、男の姿が掻き消えていく。
 何だ。
 一体、何が起こっている!?

「仕方がありません。
 それでは、今度はこちらから参りましょうか。」
 何も無い空間から、男の声だけが聞こえてきた。



     TO BE CONTINUED…

202( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:19
「ぶっ潰してやるッ!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『生まれし力』ジェノサイアact2

「ひ・・っ!」
緑の男は一歩退いた。
「待てよ。」
俺は思いっきり拳に力をためる
「お前には、たんまりはいてもらうぜ。」
ジェノサイアの拳がガチャピンの頬に直撃する
「ブ・・ッギャアアアアアアアッ!」
ガチャピンは吹っ飛んでいった
「・・スタンドを砂にされたのにダメージのフィードバックが無いって事は・・。遠隔操作型ね。」
・・懐かしい声
「こんな時に言うのもなんだが、久しぶりだな。ジェノサイア・・。」
ジェノサイアは満面の笑みを浮かべる
「ええ。本当に・・久しぶり・・。」
その微笑んだ眼から涙が流れる
しかし再会を喜ぶ暇も無く、邪魔者が入る
「貴様ァ・・許さん・・食ってやる・・食い尽くしてやるワァィゥッツァッ!!」
ガチャピンは物凄いスピードで突進してきた
「『ジミー・イート・ワールド』ォッ!」
突進する緑の男の眼前にジミー・イート・ワールドが現れる
「ジェノサイア。魅せてくれ。お前の『能力』」
「OK。」
ジェノサイアは地面に拳を叩きつける
「まず1つ。私は前とは違う『近距離パワー型』への変貌を遂げた。」
そして床から緑の男の方向に無数の針状の柱が現れる
「そして私の能力は『バグ』の発生ッ!元からある物体の形を主人の『思念』によって変えたり、物体を停止させたりする能力ッ!
相手への『敵意』があれば、床から相手に向かって針状の柱が現れたり、敵が砂になったりッ!殴った場所が永久停止したりッ!
相手への『仲間意識』があればッ!傷が回復したりするッ!正に一撃当たれば勝利の可能性も高いッ!万能型スタンドッ!」
いや、自分で言うなよ
「・・・精密動作がまだあまり出来ないのが問題ですが・・。」
ジェノサイアが呟く
「クソッ・・!ココは一旦てっきゃk・・」
しかし次の瞬間ガチャピンの前に『ジェノサイア』が現れる
「え・・・ッ」
「ジェノサイアact2ッ!相手に対する『敵意』ィッ!」
緑の男の頬に命中し、再度吹っ飛ぶが緑の男に『バグ』の発生は見当たらない
「あ・・れ・・?」
「言ったでしょう・・。精密動作性は低いって・・。」
・・つまり成功する確率は100%じゃないし、自分の思った効果が出るかどうかも怪しいのね・・。
「チ・・ッ!驚かせやがってッ!」
ガチャピンはソレを聞いて安心したのか一気に突っ込んでくる
「そらッ!死ねェィッ!」
一気に突っ込んでくるジミー・イート・ワールドとガチャピン
畜生、コイツ調子乗ってやがる
「『ジェノサイアact2』ゥッ!相手に対する『敵意』ッ!」

203( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:20
拳を思いっきり床に叩き付けた が
何と床がいきなり水になった
「うおッ!?」
「何ィッ!」
ヤバい。このままじゃ下の階に落ち・・ッ!
・・・そうだッ!
「『落ちるのが嫌』か?ガチャピン。」
俺はわざとらしく言ってみる
「何を・・嫌に決まっているだろがッ!」
ガチャピンは必死に泳いでいる
「その言葉・・待っていたぜッ!」
俺は思いっきりジャンプし、地面めがけてジェノサイアを撃った
「『ジェノサイアact2』!バグの解除ッ!」
地面の水が元通りになる。・・そしてッ!
「クゥッ・・『抜けん』だとッ!?」
「YESッ!狙い通りッ!」
そう。水になった床を元に戻し・・水の中で泳いでいたガチャピンの下半身を固定したッ!
「『抜けたい』か?ガチャピン・・。」
俺はまたもわざとらしく言う
「貴様・・調子にのりやが・・」
「出たい。そうか。よしわかった。出してやるよ」
ガチャピンの意思を無視してジェノサイアでアッパーをかました
「グゥッ!?」
そして俺は宙を舞うガチャピンの右腕をぶん殴った
「相手に対する・・『敵意』ッ!」
俺がそう叫ぶとガチャピンの腕がブレはじめ、砂となった
「―――――ァッ!」
声にならない叫びをあげ、地面に思いっきり叩きつけられるガチャピン
「イマのが俺を恐怖に陥れた分!そしてコレがムックの右腕の分ッ!」
そして俺は更にガチャピンの頭をブン殴る
して再度宙を舞うガチャピン
「んでコレがムックの左腕の分・・ッ!」
俺はジャンプし、宙を舞うガチャピンに更にアッパーを加えた
天井に頭をぶつけたガチャピンは急降下する。
「そしてコレがムックの腹の分だァッ!」
ガチャピンの後頭部にジェノサイアのカカト落としを食らわす
「・・ァッ・・ガーッ!・・」
意識もちゃんとして無い様で叫び声すらあげれてない様だ
そして一気に床に叩きつけられ声にならない叫びを再度するガチャピン
「まだだ。」
俺は倒れたガチャピンを起き上がらせラッシュを加える
「これもッ!」
「これもこれもッ!」
「これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
ムックの分だァーッ!!!」
俺は157回言った『これも』と最後の『ムックの分だ』分だけガチャピンを殴った
ガチャピンは顔面を紅く腫らしながらその場に倒れる
「あ・・アッガガガガ・・グゥ・・フゥ・・ハァ・・。」
ガチャピンが眼を開けた瞬間俺はもう一度ガチャピンを殴る。
「まだだ・・。」
俺はつぶやく
「まだおわんねーぞッ!てめぇがッ!泣くまでッ!殴るのはやめねぇッ!」
・・・もう何分経っただろう。
いや、何十分か・・。
ずっとガチャピンを殴っていたと思う。
不思議と腕が疲れない。いや、疲れても俺は多分まだ殴ってると思う。
コイツは、ヤバい奴だ。
半端に殴っておいて逮捕するだけじゃコイツは間違いなくまたココにくる。
だから、俺は、コイツを・・・
殺・・・
「ピリリリリリリリ!!」

204( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:21

「で・・電話?」
俺の携帯だ。取りに行くべきか。コイツをまだ殴るべきか。
・・・コイツは多分もう気絶してる。
だったら・・。
「・・・誰から・・だ?」
俺は携帯を見に行こうとする。その時だった。
「ジミー・・・イート・・ワ゛ル・・ド・・」
ガチャピンのスタンドが現れる
「・・ッ!の野郎・・!」
俺は身構えるがガチャピンは俺とは逆方向を向いた
「・・ッカ・・ジャ・・あ・・ナ・・」
ガチャピンは窓を食いつくし、落っこちていった。
・・・ヤバい・・ココは四階だぞっ!落ちたら・・
「ガチャ・・ピ・・」
俺は慌てて窓の外を見るが、ガチャピンの姿は無い。
逃げた・・?馬鹿な。早すぎる。死んだとしても死体が無い。
・・・・一体ドコへ?
「ピリリリリリ!」
俺はハッと我に帰る。そうだ。電話だ。
「・・・この電話に感謝だな。鳴ってなかったら俺はきっとアイツを・・」
・・殺してた
「お。殺ちゃんか・・。」
殺ちゃんからの電話を取る
「もしもし?殺ちゃん?おーい?もしもーし?おーい?」
・・?
「もしもし?殺ちゃん!?もしもし!?」
マズい!
嫌な予感がするッ!
・・コンビニだ・・。何かあったに違いないッ!
「殺ちゃ・・」
俺が外に出ようとすると倒れているムックが眼に入る
「クッソ・・ッ!世話の焼ける・・ッ!」
俺はムックをオブって大雨の外に出た。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

走った。雨なんて気にせずに。走った。
「殺ちゃ・・ッ!」
コンビニの前についた俺は衝撃的な光景を眼にした。
殺ちゃんが紅くそまり倒れていた。
そして、その後ろには見覚えのある頭が居た。
「ダズヴィダーニャ(ごきげんよう)・・。巨耳モナー・・。」
「ネクロ・・マラ・・ラーッ!」

←To Be Continued

205N2:2004/05/04(火) 14:37

             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
             |  某漫画ネタ始めました
             \____ _________
                    ∨ 
    ∧_∧ モジモジ      〃ノノ^ヾ
   ( *・∀・)           リ−` ル 
   (つ<V>)  旦   旦.   ( V  ノ 
   ( ̄__)__)  ̄| ̄ ̄ ̄| ̄  (_  ̄}0
   __∧________
 /
 |  君も探してみよう!
 \___________
             
                   (このにわかヲタ作者め!!)
 (筋肉質ビスケタソハァハァ)

206N2:2004/05/04(火) 14:37

 リル子さんの奇妙な見合い その③

町の中心から離れた、この町内でも最も自然の多い地域にある一軒の料亭「伍瑠庵」。
ここは知る人ぞ知る「隠れた名店」で、噂によれば政財界のトップまでもが
わざわざこんな遠くまでお忍びで食いに来るって言う話まである。

オレ達は大将に連れられるまま、この料亭にやって来た。

「ここがリル子の奴が今日見合いすることになっている料亭だ」
外から見ただけでも、この店がオレの体験したことのない空気に包まれていることがすぐ分かる。

「…わざわざこんなメチャ高級そうな所で見合いするだなんて…。
あの人、金の方は本当に大丈夫なんだろうな?」
相棒ギコは見合いの方よりもそっちが気になるらしい。

「あいつとて人気アナウンサーなんだ、いっぱい番組を掛け持ってんだからこの位大丈夫に決まってんだろ」
大将が根拠もない余裕を浮かべる。
自分の懐以外の金はどーでもいいんかい。

すっかり忘れていたが、リル子さんはこっちの地元テレビ局の看板アナウンサーである。
「2ch News」や「モナー板3分クッキング」と彼女が出演する番組は数多く、そのいずれもが(様々な意味で)人気が高い。
…特にモララー族のヲタが異常に多いらしく、おっかけやストーカーなど日常茶飯事、
挙句の果てには職場でもしつこく言い寄ってくる男がいていい加減疲れている、と彼女は漏らしていた。

そのせいかどうかは知らないのだが、コーチングは「サザンクロス」内でも
後の男二人を遥かに超越する鬼っぷりを発揮するのだが、
それもまあ特訓の為であって、一応普段は(表向き)それなりに優しくて礼儀正しいので
特訓の厳しさは「hate」故と言うよりかはやはり「severe」のはずである、らしいのだが
ギコやギコ兄の話を聞く限り、どうもオレに対してだけは種族的な「私怨」が働いているように思えて仕方ない。
はたはたいい迷惑な話だ。


「よし、それじゃあ乗り込むか!」
大将が威勢良く号令を掛けた。
いやいやいや。
アポ無し・金無し・正装無しのオレ達が如何にして入れるというのか。
後二週間を518円で過ごさねばならんというのに…。
(*ちなみにサザンクロス等の空条モナ太郎公認のスタンド自警団に入ると、スピードモナゴン財団から毎月特別手当が入ります)

「おい、どうしたんだお前ら?早くしないとリル子の奴が来てばれちまうぞ」
大将に促され、オレとギコ、それにキッコーマソにシャイタマー達は様々な不安を感じつつも渋々歩き始めた。

207N2:2004/05/04(火) 14:40



門をくぐった瞬間、オレ達はその外界から隔離された、余りに壮麗で厳粛な空気に押しつぶされそうになった。
均衡を無視した、余りに自然的でダイナミックな力強さを誇る日本庭園。
松や苔の放つ強烈な緑・茶色と敷き詰められた小石の薄い灰色の調和がこの空間の基礎を支えている。
しかしこの時期、庭園内を明るく彩るのは何と言っても紅葉である。
一年の中でもこの季節だけでしか味わえない、重く力強い雰囲気を一転して軽く親しげなものにしてくれる、赤・黄の葉。
その自然が織り成すシンフォニーに、オレ達6人はしばらくその場に立ち尽くしてしまった。

「・・・スゴーイ・・・」
「…マジにすげえな。こんな美しく形作られた庭を見たのは初めてだ」
「ホントだよ、これは…」
オレもギコも、そして子供たちもこの壮大な風景にしばし見入ってしまった。

その横で、
「うむ、この庭園はまさしく和の美の集大成とも言うべきものだ。
ここで食う和の調味料・醤油と目玉焼きのコラボレーションはどんなに上手いことであろうか…」

『クラァッ!!』『ゴラアッ!!』『シャイタマー!!』
「うわなんだおまえたちなにをするやmどわあああ!!」
我々の幽波紋の拳を受けた亀甲男は、伊勢海老の如く身体を反らせながら、器用に頭から池へ着水した。
もう上がっては来ないだろう…。南無妙法蓮華経アメーン。

「おい、おめえら何遊んでんだ!さっさとこっち来い!!」
…と、大将がオレ達を大声で呼ぶのが聞こえた。
5人は池に落ちたキッコーマソは放って、さっさと建物の方へと走っていった。



「お待ちしておりました。大将様御一行ですね?」
玄関の奥から、着物に身を包んだ女性がやって来て言った。

「ああ、そうだ。これで全員…おや?キッコーマソはどうした?」
大将はようやく彼の不在に気付いたらしい。
まずい、ツッコミ入れたら池に落っこちましたなんて言えるわけがない。
果たしてどう説明したものか…。

「…あの人はもうしばらく庭を見たいって言ってたから、その内来ると思いますよ」
幸いにも、とっさにギコが機転を利かせて嘘を付いた。
大将も初めは仕方ない奴だという表情を浮かべたが、やがて
「しょうがないな、いつまで玄関に居たらリル子と鉢合わせになりかねないからな。
すまないが、部屋の方へと案内してくれ」
諦めて仲居さんに案内を頼んでしまった。


オレ達は『松の間』という部屋に案内された。
仲居さんが障子を開けた途端、中から和室独特の懐かしいかほりが漂ってくる。
カビ臭くない畳など何年振りだろうか。

「それでは、ごゆっくりどうぞ…」
仲居さんは戻っていき、部屋には男6人だけが残された。

「それじゃあ、リル子の奴が見合いを始めるまでここで待機しよう。
その内料理も運ばれてくるから楽しみに待ってろよ」
やけに楽しそうな大将。

「…大将、昨日決まったばかりの見合いのはずなのに部屋も料理も予約してあるだなんて…、
もしかしてリル子さんがここで見合いすることも、俺達にその監視をさせるのも予定通りとか言うんじゃないでしょうね?」
相棒の鋭いツッコミが入る。
大将は急に鼻歌交じりで外を眺めだした。
…図星か。
こんな真似をするほど、大将の彼女に対するフラストレーションは募っていたというのか?

「…まあ、そこんところはもう何も言いませんけどね、
それよりも隣の部屋に陣取ったところで、一体どうやって見合いの様子を覗くつもりなんですか?
この中には透視能力を持つスタンド使いはいませんし…」

「『クリアランス・セール』!!」
スタンドを発動。
そのまま指を壁に突き立て、ドリルのようにグリグリグリグリグリダグリグリと貫き通す。

「完成!覗き穴!!」
これで隣の様子はバッチリ分かる。
果たしてリル子さんがどんな恥じらい方をするのか、バッチリこの目で見届けて…

208N2:2004/05/04(火) 14:41



「…悪いんだがな相棒、お前の分解能力が今何秒持つかは俺には分からねえがよ、
それって限界過ぎたらどうするつもりだ…?」

…そう言われれば、そうだ。
「…いや、さ、そうしたらまた改めて分解するとか…。
そうだ!んじゃ初めから分解抜きで穴を開けりゃいい話なんだ!!」

「…リル子の奴は直接覗かれて気付かない訳が無いと思うんだがな。
それ以前に効率も悪いし、部屋を荒らしたら罰金ものだ」
駄目だ、こいつら分かってねえ。
オレはすっくと立ち上がって言い放った。
「あのな、覗きってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
壁の向こうに座った奴といつ目が合ってもおかしくない、
バレるかバレないか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。ガキと初老は、すっこんでろ。」

「で、やっと合流したかと思ったら、いつもの阿呆が、スタンドで壁に穴開ける、とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。」
そこでタイミング良くギコ兄が入ってきた。
ギコ兄は続ける。

「あのな、覗き穴なんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、覗き穴で、だ。
お前は本当に見合いを覗きたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、エロい響きだけで覗きって言いたいだけちゃうんかと。
                        ウォッチャー
裏社会通の俺から言わせてもらえば今、監視家の間での最新流行はやっぱり、
監視カメラ、これだね。
超小型マイク付きCCD監視カメラ。これがプロのやり方。
マイク付きってのは音声も撮れる。そん代わり値段も割高。これ。
で、それを部屋の64ヶ所に設置。これ最強。
しかしこれをやるとリル子にバレた時に半殺しにされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まあ三流貧乏商人及び変態教授は手鏡でも使ってなさいってこった。」

「…てめえ、オレのやり方に文句でもあるってのか!?」
「当然じゃないか、そんな古典的かつ非効率的更に発覚の危険性の高い方法を使おうなどと抜かす貴様の心理が全く読めん」

睨み合いが続く。
まさに一触即発。
動き始めたのは、ほぼ同時だった。

「『クリアランス・セール』!クラァッ!」
「貴様はここで一度死んでろッ!『カタパルト』!!」

「いい加減にしねえかゴルァ!『バーニング・レイン』ッ!!」
オレ達が拳を交える直前、相棒の銃弾がオレ達を貫いた。
身体が痺れ、立つことさえままならなくなった2人はそのまま倒れ込む。

 レモンイエローオーバードライブ
「『黄蘖色の波紋疾走』弾…!
てめえらは吉野家コピペの挙句室内荒らしか…?
迷わず2人とも逝ってよし!!」

『…はい…』
電撃で身体が痺れただけでなく、殺気に押されたオレ達は大人しく返事をすることしか出来なかった。

209N2:2004/05/04(火) 14:43



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



モニターの前に群がるムサい男4人とガキンチョ3人。
そこには無人の和室が映されている。

男達が、にわかに画面に接近する。
目的の人物の片割れが映し出されたのだ。

(おいッ、リル子さんが来たぞ!)
(ギコ屋、てめえ声がデカいぞ!!)
(…二人とも、少し黙っててくれないか?)

抜群の感性を誇る彼女には、少しでも声が届けば自分達の存在が知れてしまう。
大将はヒヤヒヤしながらオレ達を誡める。

画面越しのリル子さんはいつになくやたら顔がニヤけている。
そんなにその阿部という男に会うのが楽しみなのか。

「阿部様…早くお会いしたいわ…ウフフ」
(マッチョでアレの大きそうな男ハァハァ)

テレビのスピーカーからリル子さんの独り言が聞こえてくる。
同時に心の声まで聞こえてくる…ような気がする。いつもの事だが。
前から思ってたんだがこの人、俗に言う『サトラレ』って奴ではないのだろうか?

(こんな間抜けっ面したリル子さんを見るのも初めてだな…)
ギコが思わずそう呟いた。
オレ達も余りのアホさ加減にちょっとクスクス笑いそうになった。

瞬間、モニター向こうのリル子さんがテーブルをバン!と叩いて立ち上がる。
オレ達は一瞬ビクッ、としてしまった。

「…今聞き覚えのある声が聞こえたような気が致しました…空耳でしょうか?」
(…あのアホ男子共の声が聞こえたな…単なる気のせいか?)

…なんつう感性。
これでは少しでも普通に喋ったら絶対気付かれる。
大将が指を口に当てて静かにしろ、と合図した。
オレ達もそれにうなずく。
これからは、極力お互いの話も無くさなくては。



「失礼致します、今日お見合いをなさる方が参りました」
隣の部屋の外で、仲居さんがそう言った。
遂にその阿部とやらが来たのか。

「どうぞ、お入りになるようにおっしゃって下さい」
(さあ、阿部様早くお入りになって!!)

リル子さんは相変わらず物静かでおしとやかな様子で仲居さんにそう言った…
…のだが、どう考えても心の方はもう完全に興奮しきっているようだ。

「では、お入りになってください」
仲居さんの声がした。
いよいよか。

障子が開く。
さあその阿部って奴よ、お前がリル子さんに喰われるのかそれともリル子さんがお前に喰われるのか、
どっちにしろ餌になる方の無様さをとくとこの目に…



                 バーソ
   ┏┯┯┯┳┯┯┯┓.               ┏┯┯┯┓
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨ ∧_∧.        ┠┼┼┼┨
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨( *・∀・)       ┠┼┼┼┨ /
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨( <V> ).       ┠┼┼┼┨ ガン!
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   ┃      ┃      ┃(__)_)       ┃      ┃

210N2:2004/05/04(火) 14:48

………???
………あれっ、この人誰?
……仲人さんか?
…いや、でもいま確かに『お見合いをなさる方』って…。
…………ええええええ????

「…あの…どちら様で?」
テレビの中のリル子さんも混乱した様子で尋ねている。

「やだなーリル子さん、僕だよ僕ぅー!
何年間『2ch News』一緒にやってきたと思ってるんだーい?」
男は馴れ馴れしくリル子さんに語った。
…思い出した。
この男、確かにニュース番組でリル子さんと一緒にキャスターやってるな。
番組中にセクハラまがいの事して何回クビになりかけたか知らない名物キャスターだ。
…でもなんでこいつが?

「あの…私は阿部高和という方と今日見合いをするつもりだったのですが…」
(てめえはどうでもいいんだよ!阿部様はいつ来るんだいつ!)
リル子さんは表向き冷静さを崩さずに男に尋ねる。

「やだなあリル子さん、まさか今日僕と見合いするって知らなかったのかい?」
(どうやら作戦成功みたいなんだな!)
男はさも当然のようにとんでもない事を言い出した。

211N2:2004/05/04(火) 14:49

「…知るわけがありませんわ。
第一私の手元の写真に写っているのはもっと素敵なお方ですわ」
さりげなく貶しとる…。
だけど、あの写真、ムサいおっさんがベンチに座っているようにしか…

「だからー、あの写真ホントによく見たのー?」
しつこい。ひっくり返して見ようが裏から見ようが写っているのは阿部って男だけだ。
リル子さんもバッグから写真を取り出し、顔に近付けてよく目を凝らしているようだ。

「…失礼ですが、やはりあなたの姿はどこにも見当たりませんわ」
(見つかるわけねえだろ、遂にこいつ頭に持病の水虫でも回りやがったか!?)
リル子さんの言う(思う)通り、どう考えてもこいつの言っていることはでたらめだ。

「だ〜か〜ら〜、そうやって持つから分からないんだよ!
ちょっとその右の隅っこを持ってる手をちょっと離してごらんよ!」
本当に諦めが悪い奴だな、何度やったって変わるわけ………

………あ。

┌───────────────────────────────────────────┐
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││           N| "゚'` {"゚`lリ     見 合 い や ら な い か?                     ││
││              ト.i   ,__''_  !                                            ││
││           /i/ l\ ー .イ|、.                  安 部 高 和                  ││
││     ,.、-  ̄/  | l   ̄ / | |` ┬-、                                        ││
││     /  ヽ. /    ト-` 、ノ- |  l  l  ヽ.                                           ││
││   /    ∨     l   |!  |   `> |  i                                           ││
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││ __{   ___|└―ー/  ̄´ |ヽ |___ノ____________|                         ││
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│└─────────────────────────────────────────┘│
└─────────────────────────────────────ニソックリナモララー.┘

212N2:2004/05/04(火) 14:51

      、__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__,
      _)                                                (_
      _)  ナ ゝ        ナ ゝ  /   ナ_``  -─;ァ              l7 l7   (_
      _)   ⊂ナヽ °°°° ⊂ナヽ /'^し / 、_ つ (__  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ o o    (_
      )                                                (
      ⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒
                                        )
            (と叫びたい)                   (
       ∩_∩                             )
     G|___|∧∧| |∧ ∧∧ 、 l , ∧∧ ∧∧       (          〃ノ^ヾ
      ( ;・∀・) ;゚Д゚)| |Д゚;) ;゚Д゚)( ;゚∀゚) - ;゚∀゚) :゚∀゚)         )          リ;´−´ル



…なんて姑息な真似を…。
って言うかこんな事に全然気が付かなかったオレ達もオレ達だが。

「さあ!これでようやくこの見合いがリル子さんと僕のものだということが証明されたんだな!
それじゃあこんな僕だけどよろしくお願いするんだな!」
(これで強引にこぎつけられたんだな!あとは密室で2人っきりハァハァハァハァハァハァ)

…こんな奴の為にオレ達はここまで期待してしまったというのか?
つーかこいつはそれよりもこんな方法で強引に見合いしたところで成功するとでも思って……


……強烈な殺気が隣の部屋から伝わってきた。
モニター越しにも、リル子さんの周りに黒いオーラがくっきりと映っていた。
それに気が付いていないのは原因を作った張本人自身である。
「さあ!さあ!早くじっくりと愛を語らうんだな!!」
(ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ)

リル子さんが、ゆっくりと立ち上がった。
そして一歩一歩、ゆっくりと男へと歩み寄っていく。
とうとう男の目前まで来ると、今度は改めて写真をじっと見つめた。
しばらくそのまま何か考えていたらしいが、それも終わると左手を顔に当て、何か残念そうな振る舞いをした。

「ああ〜〜 残念!!」
リル子さんは突然そう叫んだ。

「え、何が残念なんだい、リル子タン!」
((*´Д`)ハァハァハァハァ/lァ/lァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \アノ \ア ノ \ア!)
いや、恐らく残念なのはこれからのお前の運命の方だ。
哀れ、リル子さんを怒らせた者の行く末というものをその身を以って味わってくれ。

「アウト――!!」
リル子さんの指が男に向かって指される。
男は何の事だかさっぱり分からないらしい。
「え? い…いったい…」

ボムッ!!

…鈍い音がした。
男の顔面に、リル子さんの裏拳が炸裂したのだ。
男はそのまま畳に声も無く倒れ込んだ。

「嘘をついた者は爆する!! よし次だ」
…何が次なのかよく分からんが、リル子さんはそういって満足そうに自分の席に戻っていき、
美味そうに高級料理に舌鼓を打ち始めた。

213N2:2004/05/04(火) 14:52



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



料亭の閑として落ち着いた空気。
それを乱す、穢れ無き黒い殺気。
一人の少女が、標的の元へと向かおうとしていた。
頭には、「葱看」と書かれた帽子を被っている。

「ここがおじさんの言ってたギコ屋たちのいるお食事亭だよー。
みる、みる、みるまらーーー!」

少女は料亭の敷地内へと足を踏み入れた。
店の者がその招かれざる客に気付くにはそう時間は掛からなかった。

「ちょっとそこのお譲ちゃん、どうしてこんな所に来たの?
ママはいないの?一人?」
彼女の存在に気が付いたある仲居が、彼女へと歩み寄る。

「new! new! new model!!!!!!
I'm not in love, but I'm gonna fuck you!!!!」
少女は突如謎のフレーズを口にした。
仲居も少女の奇々怪々な発言に困惑した。

「ちょっとお嬢ちゃん、一体何がどうしたの?」
そう言って、仲居が少女に手を差し出そうとすると…

「みるまらー!」
仲居の右手から、おびただしい量の血が噴出す。
それは文字通り、「蜂の巣」となった。

「………!!??」
突然の激痛に、仲居は自分の身に何が起こったのか分からなかった。

「みるまらー」
少女はそのままそこを立ち去る。
「ちょ…あな…なによ……これ………
あ……ああ……」

血まみれの店員は力なくその場に座り込み、しばらく呻いていたが、
やがて痛みに耐え切れず気を失ってしまった。

214N2:2004/05/04(火) 14:53



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「それで、リル子さんの趣味は何なんですか?」
(ここから一気に距離を縮めるんだからな!)
「…あなたみたいな男の人を完膚なきまでに痛めつけること…かしら?」
(いい加減これで諦めろよこのクズが!!)
「それも結構楽しそうなんだな!!」
(実はMなんだよハァハァ)
「…………」
(…このド変態がッ!!)

…さっきからずっとこんな調子が続いている。
この男、リル子さん必殺の一撃を食らったというのに何事も無かったかのように復活した挙句、
少しでもリル子さんに気に入られようと質問責めだ。
…んな事しても余計に嫌われるだけなのに。

オレの周りを見ても、皆そこら辺でダラダラしてるか、料理を味わってるかのどっちかである。
真面目にモニターを観察してるのはもうオレとギコだけだ。

(…相棒、俺ももういい加減飽きてきたんだが…)
ギコもそろそろ限界が近いらしい。
そりゃそうだ、あのリル子さんがメロメロになった男との見合いだからこそ見る価値があると思ったのに、
こんなリル子さん上位の見合いなんか見てても日常の風景と何にも変わり映えが無くてつまらないことこの上ない。

(んじゃいいよ、後はオレが一人で見てるからさ)
オレはそう言って、ギコを休ませることにした。

(分かった、それじゃあ後でまた交代するぞゴルァ)
ギコがそう言って、その場を離れようとした瞬間―――

215N2:2004/05/04(火) 14:54


「更なる力を

#7Hjj9qn$
さあ 真の脅威に!」

モニターから第三者の声がする。
…一体何事だ!?

「あら…あなた一体どこのどなた?」
「こらこら、おじちゃんたちは今大事なお話中なんだよ。
さあ、あっち行った!」
2人も突然の少女登場には驚いているようである。
だが、この女の子は一体…。

「えーと、そこにいるのがギコ屋で…、
あれ?相棒ギコとギコ兄ってのは一体どこなんだろ?」
……!?
この女、オレ達の事を知っているだと!?
…いや待て、確かこの女は…。

(相棒、こいつは例の最近大量発生したっていう荒らしAAじゃねえか!?)
ギコの言うとおり、こいつはさっきこいつとも話していた街中で大量発生した
通行人の首を切り落とす悪魔の女じゃないか!
…しかし、それならばどうしてオレ達を探しに来たというんだ?

「…ま、いいや。あとの2人がいなくたって。
とりあえず、そこのギコ屋から殺すよー。
みるまらー」

………!!
こいつ、もしやあの男の一味か!!

と同時に、少女が並外れたスピードでモララーに飛びかかる。
まずい、こいつあの男がオレだと完全に勘違いしている!
このままでは殺られる!!

216N2:2004/05/04(火) 14:55


「…何だかよく分かりませんけど、とりあえずここでガードしておきますわ…」
少女の動きが止まった。
リル子さんがスタンドで彼女を捕らえたのだ。

「…あなた、今『ギコ屋』って言いましたわね…?
ひょっとして、あの『矢』を持つ男のグルでありませんこと?」
リル子さんのスタンドの締め付けが強くなる。
少女の顔が段々と苦痛に歪んでゆく。

「…言うわけないよ、みるまらー」
少女は苦しみながらも不気味な笑みを浮かべた。
そんな風に笑うだなんて、その余裕は一体どこから…

…と思った瞬間、リル子さんの手から激しく血が噴き出した。
思わず、スタンドの手も彼女から離れてしまう。
一体、この女は何を…?

「…なるほど、あなた肉体強化型のスタンド使いってことですわね?」
リル子さんは手の痛みを少しも顔に出さず、自分の方が圧倒的優位に立っているように笑ってみせた。
それに反応して少女も笑う。

「正解、みるまらー」
と、みるみる彼女の全身の毛という毛が太く、固く、尖っていった。
そして仕舞いにはとうとう毬栗のようになってしまった。

…こいつ、見た目はヘボそうだが実際はそんな事ない、むしろかなり戦い辛いスタンドだ。
尤も、部屋を一つ間違えてしまう辺り人間的にはまだまだだと思わされるが。
ただ、本当ならすぐに隣に応戦に行きたいところだが、今日はそんな真似が出来ない。
ただ指を咥えて見ているしかないのだ。

(大将、本当にリル子さん大丈夫なんですか!?
このまま放っておいて、もしもの事があったら…)
オレは耐え切れず大将に言った。
いくら何でも、これでリル子さんが負けでもしたら洒落にならない。

「大丈夫だ、あいつを馬鹿にするんじゃねえ。
あいつはあれでも『サザンクロス』No2の実力者だからな」
大将は余裕といった様子だ。
…本当に大丈夫なのか!?

リル子さんは続けて言った。
「…まあ、何の事かよくは分かりませんけれど、
あなたが私の敵であるのだとすればすべき事はただ一つ!
…あなたを抹殺するのみですわ」
…おいおい、抹殺って…。
それも単なる冗談かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
リル子さんは続けた。

「…あ、それとあなた、私が手加減でもするんじゃないかと思ってるでしょう?
でも、それは残念。私、歳とかで人を差別しないですから。
…私、残酷ですわよ」
リル子さんはそう言うと、その手から糸の束を出した。
絹のように滑らかで艶やかで、それでいて丈夫そうな糸。
その中から、何か得体の知れない液体がしたたり落ち、光る目のようなものが見える。
恐らくあれはスタンドなのであろう。
リル子さんはその糸を集めて鞭を作り、女を警戒する。
女は女で針を伸ばせるだけ伸ばし、リル子さんに威嚇する。

だが、やがてその均衡が砕かれる。
精神的に耐え切れなくなった少女がリル子さんへと襲い掛かる。
女同士の熾烈なバトルが、スタートした。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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