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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
875
:
夕陽が、罪を、照らす。(5/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:24:16
「ごめんなさい、ランスさま。ユリーシャは悪い子でした」
ユリーシャは言葉を結び、しずしずと目を伏せた。
数秒の沈黙の後、紗霧が沈むユリーシャに声をかける。
「不注意ではありますが……
ユリーシャさんを責めるのも少々酷な事故ですね」
言葉を掛けつつも紗霧は、順に仲間たちの顔を観察した。
皆一様に、幾分緊張感を緩めていた。
想定した最悪の事態ではなかったことが、判明した故に。
確かに、知佳死亡のタイミングは最悪であった。
しかし、不幸に不幸が重なった結果に過ぎなかった。
(これなら、まだ、立て直せます。
恭也さえ言いくるめれば、策に狂いは生じません)
小屋組の結束に亀裂は走ったかも知れぬが破砕はしておらぬ。
紗霧は、胸を撫で下ろした。
野武彦もまた安堵し、深い溜息をついた。
「知佳殿は故意では無かったということじゃな。
まあ、不幸中のなんとやらといったところか」
広場まひるは、気付かなかった。
月夜御名紗霧は、気付かぬ振りをした。
ランスは、気付いてしまった。
何気なく放たれた野武彦の言葉の裏に潜む、恐ろしい真実に。
「おい、ジジイ? 今、お前、何て言った?」
「ん?」
「知佳ちゃん【は】故意じゃない…… だと?」
876
:
夕陽が、罪を、照らす。(6/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:24:46
======================================================================
Ⅲ.全てが晒される
======================================================================
「……じゃあ、誰【は】故意なんだ?」
ランスの問いに、魔窟堂の瞳が見開かれる。
言葉にせずとも明白であった。
全身で、【しまった】を表現していた。
「なにをそんな神経質な。気にしすぎです、気にしすぎ。
あなたは言葉尻を捕らえて突つき回すような陰険な人間ではないでしょう?
もっと鷹揚に構えてがははと下品に笑ってりゃいいんです」
咄嗟のフォローは、果たして月夜御名紗霧の口から発せられた。
早口かつ棘のある、紗霧の常の罵倒。
場を煙に巻き追求をうやむやにせんと投じられた一石も、
しかし、ランスの嗅覚を鈍らせる程のものではなかった。
「じじい! 判ってるならもったいぶらずに言え!」
痺れを切らしたランスが魔窟堂の胸倉をつかむ。
ランスの声色も硬い。
ある種の直感が、彼を突き動かしている。
「ふざけるな! 俺様の女が誰をやったというのだ!
だいたいユリーシャはゲーム開始直後からずっと俺様と……」
カチカチカチカチ……
877
:
夕陽が、罪を、照らす。(7/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:25:11
聞こえてきた。
規則的な音。
小刻みで硬質な音。
「俺様と……」
ランスの言葉は尻窄んだ。勢いのついていた怒りが消沈した。
カチカチと鳴り続けているこの音の発生源が、ユリーシャであったが為に。
合わぬ歯の根を震えによって鳴らしている音であったが故に。
カチカチカチカチ……
歯鳴りが秒針の如く沈黙の時を刻む。
「……篠原秋穂さん、ですね?」
口を開いたのは、月夜御名紗霧であった。
彼女はいち早く察知していた。
知佳死亡事故以前からそうではなかろうかと推測はしていた。
今朝方からの野武彦の態度の急変から、ほぼ確信していた。
「…………」
ユリーシャは答えなかった。
しかし、震える膝が崩れ落ちるその様が、雄弁に回答していた。
今の今まで蚊帳の外であったまひるにさえ、事態が理解できた。
「じょ、冗談じゃないっていうのか?
何でユリーシャが秋穂を殺さにゃならんのだ!?」
878
:
夕陽が、罪を、照らす。(8/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:30:30
ランスの否定は反射的なものではない。
真実に気付きつつも気付きたくない繊細な心の防衛処置でもない。
楽観主義者で深く物事を考えず、人心を省みない性質の彼は、
ユリーシャの薄ら寒い底なしの愛情深さに、
今に至ってもなお、気付くことが出来ないでいるのである。
「独占欲か嫉妬心か、そのあたりでしょう。
だとすると―――」
誤魔化すを諦めた紗霧が言葉を続けた。
事ここに至った以上。
暗雲垂れ込め始めた以上。
認めるべきはさっさと認めさせて。
事務的に機械的に処理をして、
傷口が伝播せぬうちにユリーシャのみを人身御供とし、
小屋組の崩壊だけは、防ぐ。
どうにか体勢を立て直して、果し合いに臨む。
紗霧は、そう方向転換したのである。
「……アリスも、か?」
聞け、ランスのひび割れた声。
見よ、常に尊大なこの男がこうも震えるなど前代未聞。
ここに至って、ようやく。
この鈍感なリーザス王は己の愛人の裏の顔を、知ったのである。
油の切れたブリキの人形の如き動きで、ランスは首を動かし、
ユリーシャに向き直る。
「ごめんなさい…… 捨てないで下さい……
ごめんなさい…… 捨てないで下さい……」
879
:
夕陽が、罪を、照らす。(9/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:31:22
ユリーシャはランスに縋りついた。
背中を丸め、這い蹲って。
ランスのくるぶしを握り、靴の甲にキスをした。
そして、繰り返す。
キスと、謝罪と、おねだりを。
「ごめんなさい…… 捨てないで下さい……
ごめんなさい…… 捨てないで下さい……」
十回。二十回。三十回。
一心不乱にランスの許しを請うその姿は、
か弱く、儚いその声は、
見る者の哀れ心を誘引するのに十分なものであった。
事実、全てを知っている野武彦ですら、
断罪を進めることに良心の呵責を感じ始めていた。
紗霧も、少し落ち着くまで待とうと考えていた。
ところが。
「……うっ」
唐突に、嗚咽が漏れた。
発生源は、広場まひるであった。
「おぇぇえっ……」
「大丈夫かまひるちん?」
「……気持ち悪いよ……」
まひるは膝を着き、何度か戻したのち。
塗れた口許を拭きもせず、呆けた口調で呟いた。
「ユリーシャちゃん。 それ…… 気持ち悪いよ……」
880
:
夕陽が、罪を、照らす。(10/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:32:01
======================================================================
Ⅳ.気持ち悪いこと
======================================================================
「ユリーシャちゃん…… なんで……
なんでランスにばっかり謝るの……?
謝るのは知佳ちゃんや、
あなたが殺した二人の女の人にじゃないの……?」
未知の異星人を見るような目つきで、
拒絶感たっぷりに、まひるは問うた。
否。口調は問いではあったが、それは非難であった。
指弾であった。
対するユリーシャの反応は。
「ごめんなさい…… 捨てないで下さい……
ごめんなさい…… 捨てないで下さい……」
無視であった。
変わらず繰り返され続けるキスと謝罪とおねだりであった。
まひるの言葉は耳に入っていないのである。
ユリーシャはランスの反応のみに全身全霊を傾けて続けている。
「なんでかな……!? なんで無視するのかなっ!!
あたし今、とっても大事なこと言ってるつもりなんだけどっ!?」
「ごめんなさい…… 捨てないで下さい……」
881
:
夕陽が、罪を、照らす。(11/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:41:19
晒されてゆく。
まひるの人道的な、良識的な弾劾によって。
ぽろぽろとユリーシャの虚飾が剥がされてゆく。
価値観の隔絶が露になる。
そもそも。
ユリーシャとはカルネアの王女であり。
王女とは差別社会の頂点を意味し。
その世界における下々の者の存在は、命は。
彼女のお気に入りのティーカップよりも軽いのである。
「あたしをこーやって無視してるみたいに!
知佳ちゃんのことも、きみが殺したひとたちのことも、
無視しちゃってるのかなっっ!?」
「ごめんなさい…… 捨てないで下さい……」
ユリーシャに代わってまひるの問いに答えるのならば。
―――なぜ、雌豚どもに謝らなければならないのでしょう?
―――謝るべきは、私の愛するランスさまの目を引く真似をして、
―――王女たる私の気分を害した、雌豚どものほうでしょう?
つまりユリーシャは、二つの殺人と一つの過失致死に関して、
重罪を犯したなどとは思っていないのである。
いや、秋穂やアリスメンディを暗殺した頃のユリーシャは、
まだ、人としての罪の意識を覚えてはいた。
しかし、今や。
彼女の中のモンスターは、渦巻く嫉妬心と独占欲を糧に、
誰にも知られず、密やかに、ここまで成長してしまったのである。
「ごめんなさい…… 捨てないで下さい……」
882
:
夕陽が、罪を、照らす。(12/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:42:23
この謝罪行為も、ランスの意に沿わぬ行為を行ったことを謝罪しているに過ぎず。
そこに反省などなく。
ただ単に許しを請うているのであって。
要約すれば、ランスに自分だけを愛せよと、
わがままをごり押ししているだけであった。
「まひるさんの気持ちは良く分かりました、が。
あなたの言葉ではユリーシャに届かないこともよくわかりました。
なので。
ユリーシャが話を聞くであろうただ一人の男、
ランスの意見も聞いてみませんか?」
「え……? 俺様か?」
「むしろこの場を裁けるのはあなただけかと思われますが?
というかいつまでも呆けてないで甲斐性みせなさい」
ランスは足下に跪くユリーシャから目を背けた。
夕闇の空を仰ぎ、目を閉じた。
「……ユリーシャ、ちょっと離れろ」
別離を匂わすランスの言葉に、ユリーシャは一層の悲壮さで応じた。
「お願いします、お願いします、お願い……」
「いいから離れるんだ!!」
ランスの怒声。
それがユリーシャに向けられるのは、初めてのことであった。
ユリーシャは恐怖感から思わず身を竦め、足首を握っていた手を離し。
ランスはその瞬間に数歩、後退した。
そうして、深く深く息を吸い込み……
「すぅぅぅぅぅ……」
883
:
夕陽が、罪を、照らす。(13/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:43:31
======================================================================
Ⅴ.ランスの裁定
======================================================================
「うがあああああっっ!!」
咆えた。野獣の如く。両腕を大きく振り上げて、息の保つ限り。
再び縋ろうとするユリーシャを、野武彦とまひるが制した。
ユリーシャは半狂乱で振り解かんとあがき、ランスの名前を呼びつづける。
「だああああああっっ!!」
頭を壁に何度も打ち付ける。
蹴りつける。殴りつける。転がりまわる。
めためたに暴れた。
壊せるものは、何でも壊した。
駄々っ子そのものであった。
「ぐおおおおおおっっ!!」
結論が結べない。
故に苛立ち。
故に暴れた。
そうして10分も暴れつづけ、
周囲の潅木を何本もなぎ倒し、
小屋の壁に数箇所の穴を開け、
全身がびっしょりと汗に塗れ、
ようやくランスは暴れ終えた。
884
:
夕陽が、罪を、照らす。(14/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:44:23
一旦爆発させた頭は空っぽになり、
余計な思考は霧消して、
今のランスは己の感情のみで、
本能に近い利己的な本音のみで、
結論を導いたのである。
「はあ、はあ、はあ……」
手足に無数の打ち身と切り傷を刻み。
ここで初めて、ランスがユリーシャを見た。
野武彦に制されつつも暴れていたユリーシャが、
居抜かれたように身を竦めた。
「……ユリーシャ」
ランスが、裁定を下す。
その時が始まるのだと、誰もが理解した。
「はい……」
「俺様は、お前を、許さん」
静かな声で、しかし、はっきりとした発音で。
ランスは自らの女を否定した。
ユリーシャは言葉を失い、膝をつく。
さしものランスも、常識的な。
それでも、どこか冷たいような。
そんな感想をまひるが抱いたが、
言葉には、続きがあった。
「だが、お前を、見捨てん」
885
:
夕陽が、罪を、照らす。(15/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:45:57
ユリーシャの気持ちが浮上する。
頬が上気する。
少なくとも捨てられない。
その事が分かった故に。
「誓え。お前がくじらに願うことは、『お前が殺したヤツの復活』だと」
「誓います」
「尽くせ。俺様のために、ためだけに、もっともっと」
「尽くします」
「そうしたら知佳ちゃんたちが生き返ったとき、俺様はお前を許してやる」
「ユリーシャは、捨てられないのですね?
ランスさまのおそばにいていいのですね!」
「言っただろう」
「俺様は、俺様の女には、優しいのだ」
感動しているのはユリーシャだけであった。
他の三者は醒めた目で見ていた。
かといって、他に適当な量刑も見当たらぬ。
日常で、ユリーシャの如き殺人者に裁きを与えるのであれば。
量刑はそれは15年〜無期の懲役となるであろう。
非日常である。
どうすべきなのか。
誰もが簡単に結論を結べぬ。
殺人を義務づけられたゲームの中で起きた、殺人を。
殺人を義務づけられた彼らが、いかに裁けるものか。
886
:
夕陽が、罪を、照らす。(16/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:46:32
故に、暗黙の了解として。
ユリーシャの飼い主たるランスに判決を求めた。
責任を一人に押し付けた。
故に、不安はあれど不満はなかった。
「まあ、今はそれでいいでしょう」
紗霧がまとめる。
まひるは紗霧に肩を叩かれ、肩の力を抜いた。
野武彦はユリーシャを解放した。
ユリーシャはランスに駆け寄り、ひしと抱きついた。
ランスはユリーシャの頭を乱暴に撫で付けた。
こうして、断罪は終わった。
この場にいた、4人の断罪は。
しかし、それで全てが終わったわけでは、ない。
「……よくありません」
恭也が、そこにいた。
いつから話を聞いていたのか。
まるで気配を感じさせずに。
紗霧たちの背後に陽炎の如く立っていた。
恭也は、繰り返す。
「よく、ありません」
887
:
夕陽が、罪を、照らす。(17/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:47:23
======================================================================
Ⅵ.それでも、守る
======================================================================
「俺は、その女を、許せません」
淡々と、恭也は口にする。
しかし物腰とは裏腹の、非情に剣呑な空気を、恭也は帯びていた。
それは、爆発前の火山口を思わせる風情であった。
今朝方、恭也はひとつの気付きを得た。
人を愛し、愛されることでのモチベーションの上昇に。
それは確かに力となる。
時に世界を救うほどの奇跡すら生み出す。
しかし。一つ間違えば。
愛を理不尽に失ったならば。
「誰がその女を許しても、許しません」
その世界を救うほどの力は世界を滅ぼすほどの力に、いとも容易く反転する。
今の恭也の如くに。
御神流の歴史二千年。
その根本原理として滅私を宿す理由は、ここにあった。
最大効率を求めた結果の最大公約としての滅私であった。
「誰がその女に執行猶予を与えようとも、許しません」
888
:
夕陽が、罪を、照らす。(18/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:48:20
恭也の視界は、赤く染まっていた。
それは茜空の為ではない。
極限を超えた怒りが、殺意が。
彼の視覚をも支配している為にである。
抑えられない。
留められない。
自分は冷静な人間であると、恭也は思っていた。
いかに感情的になろうとも、理性を働かせる余地は常に確保できていると思っていた。
その自分に自分の中にこんな激情が眠っていたなど、恭也は思わなかった。
純粋に、ひたすら純粋に、この女が許せない。
それだけで彼の精神も頭脳も、すべてが埋め尽くされていた。
「俺が、裁く」
じりじりと、恭也がユリーシャににじり寄る。
傍観者たちが、息を呑む。
あれほど周囲の全てを無視していたユリーシャも、生命の危機を感じてか、
ランスの背後に身を隠す動きを見せている。
ランスはそのユリーシャを庇うように、身を乗り出して―――頭を下げた。
「すまん、恭也」
前代未聞の珍事であった。
策略のために、その場しのぎのために、命乞いのために。
頭をさげることは、ランスにもあった。
しかし今のランスには、誠実な謝意があったのである。
「自分の女の不始末は、俺様の責任だ」
深々と、頭を下げる。
889
:
夕陽が、罪を、照らす。(19/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:48:55
「すまん、恭也」
ユリーシャも倣い、頭を下げる。
その瞳は潤んでいる。
陶然として。
傍若無人なランスが、自分のために頭を下げている。
その嬉しさに、胸を詰まらせて。
当然、謝意など微塵も無い。
「……受け取れない」
恭也は、拒絶した。
「そうか…… そうだな。
自分の女が殺されて黙っちゃいられないよな。
俺様だってお前の立場なら、そう思う」
「ならばランス、ユリーシャを引き渡せ」
「だがな、それでも、俺様は……」
ネイルソード―――
ランスがケイブリスから毟った爪を、恭也が加工し、調整した野太刀。
遡ること10時間前に生み出された、友情の証。
それを。
「自分の女を、守るぞ」
生みの親に、向けた。
上段に構え、静止した。
奇襲をかけないのは彼なりの後ろめたさの表れか。
恭也が正対するのを、待ちに入った。
890
:
夕陽が、罪を、照らす。(20/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:49:35
「その女を庇うというのなら――― あなたも、滅すべき、悪だ」
恭也は、小太刀を胸の高さで水平に構えた。
二人の呼吸が止まった。
秋の虫の音が、止んだ。
瞬間、恭也の姿が消えた。
秘奥義・神速の発動か?
否。
第三者の、乱入であった。
「いかんのじゃあ……」
891
:
夕陽が、罪を、照らす。(21/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:51:13
======================================================================
Ⅶ.ただ一つの尊きもの
======================================================================
「いかんのじゃあ…… 恭也どの、お主は、お主だけは……
正しくなければならんのじゃあ!
怒りに任せて人を殺めるなど、あってはならんのじゃあ!」
いち早く加速装置を発動させ、恭也の身柄を浚ったのは魔窟堂野武彦。
神速とは似て非なる科学的な超高速に耐え切れず、恭也の意識は失われている。
野武彦はだくだくと涙を流しながら、意識なき恭也に想いをぶつける。
ユリーシャの哀願。
まひるの指弾。
ランスの大暴れ。
恭也の憤怒。
それらに比肩しうる、魂の叫びであった。
「高町恭也…… もう少し理性の働く男かと思っていたのですがね」
紗霧が醒めた目付きで想いを吐き捨てた。
味方に放たれるにはあまりに冷たき言葉にまひるは反射的に反論しかけたが、
それより先に野武彦が言葉を返していた。
「そうじゃな…… 恭也殿であれば……
怒りを飲み込んでくれるであろうと、儂も思っておった……
残念じゃ……」
意外にも、野武彦は紗霧に同意した。
しかし口調にも眼差しにも、紗霧の如く冷ややかなものは無く。
代わりに顕れていたのは憂いと慈愛であった。
892
:
夕陽が、罪を、照らす。(22/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:52:24
「残念じゃが…… まだ、大丈夫じゃ。
今まで【間に合わぬ男】であった儂が、ついに間に合った。
恭也殿の手は、罪に塗れずに済んだのじゃから。
神聖な男の誓いは、破られずに済んだのじゃから」
野武彦は刹那の幻覚を見る。
―――ファインセーブだ、ヘル野武彦
むすっとした顔のまま、亡き盟友・エーリヒが、
夕闇空で親指をグッと立てていた。
野武彦もまた男のサムズアップで返礼した。
「ちょっとカッコいいトコ見せたと思ったらまた一人遊びですか。
こんどは何のヒーローごっこです?
ま、説明は結構。今は時間が惜しいですから。
さ、一時間後れのブリーフィングを始めましょう」
紗霧は、常の紗霧であった。
この、それぞれの感情が全力で次々と誘爆していった焼け野原にあって、
彼女はただ一人、冷静さを保ち続けていたのである。
「……もう、無理だよ……」
「……確かに、高町恭也を説き伏せるには余りにも時間がありません。
面倒ですが恭也を除いたプランに急いで修正しないといけませんね」
広場まひるが怒りの形相に固まった顔を両手で優しく解しながら、
紗霧の提案を、明確に却下した。
893
:
夕陽が、罪を、照らす。(23/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:53:31
「そういうことじゃなくってさぁ……
説き伏せるとかプランの修正とかそういうのじゃなくてさぁ……
恭也さんと、それからあたしも、
もうユリーシャちゃんと仲間でいるのは無理っていってるの!」
元々ユリーシャの罪の意識の無さに、恐怖感すら抱き、
結審の折にも一応は反対票を投じなかったものの、
どちらかといえば棄権にも近い消極的妥協をしたまひるである。
恭也の激情に絆され悲しみに寄り添うのは、当然の選択であった。
当然ではあるが、愚かな選択であった。
「さて、と。それでは恭也どのが目覚める前に、去るとするかの」
当然の如く、野武彦もまひるに倣った。
今の野武彦にとって守るべき大切な物とは恭也のことただ一つであり。
その恭也が守るべき価値を失いかねない危機に陥っているのであるから、
間違った道に進まないように彼の価値を守らねばならない。
ユリーシャとは引き離さねばならない。
「なにを血迷っているんですか、二人とも。
友情を摂取しすぎて悪酔いしてるんですか?」
.
894
:
夕陽が、罪を、照らす。(24/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:55:41
======================================================================
Ⅷ.誰にも届かない
======================================================================
「いいですか忘れているみたいですからもう一度いいます。
あなたがたが揃って背負っているのは、明日です。
あなた、きみの、わたしの分だけではない。
ここにいる全員の、未来なんです」
紗霧は続ける。
戦友たちに。
どのような経緯、事情であれ、決戦が迫っている現状においては団結が重要であると。
ケイブリス戦を思い出せ、と。
知佳の死も同じ事。今は善でも悪でも団結すべきときであると。
一旦棚上げして、主催者を打倒してから決着をつければいいのであると。
ケイブリスに挑んだあの夜―――
一度は、みなの心に届いた紗霧の言葉ではあった。
その成果の大きさも、紗霧の能力も理解していた。
しかし、届かなかった。
ここにいる誰の心にも、紗霧の話術は通じなかった。
場を支配していたのは、理屈ではなき故に。
愚にもつかぬ感情故に。
「紗霧殿…… 理で割り切れんものもあるんじゃ。
軍師たるお主には分からん話かも知れんがの」
野武彦が恭也を背負い、まひるがそれを支えた。
895
:
夕陽が、罪を、照らす。(25/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:56:57
繰り返す。
紗霧はこの場でただ一人、感情を爆発させなかった。
それは、感情的にならなかったを意味しない。
感情を押さえ込み続けていただけである。
(これで、対主催勝利の目は消えましたか。 だったら……)
その、最後の爆弾が、ここにきて炸裂した。
非常に内向きに、誰にも分からぬ形で。
この場の誰よりも、最も危険な形で。
「……はあ、もういいです。
あれもこれもどれもそれも、もう知ったこっちゃないです。
勝手にしなさい」
紗霧は投げやり極まる言葉で、お開きを宣言した。
小屋組の崩壊は、ここで確定した。
「で、紗霧ちゃんはどうするんだ? こっちか、あっちか」
申し合わせの一つも無きままに。
それでもこの場の総意として。
3人と2人。
既に道は分かたれていた。
紗霧は迷う。
ユリーシャの殺害の動機を考えるに、ランスのそばにいれば
自分もそうなるリスクがある。
ユリーシャを見る。
ランスの腰に縋りつくこの女は、もう泣いてなどいない。
ランスの許しを得られた時点で、もう泣いてなどいない。
896
:
夕陽が、罪を、照らす。(26/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:57:21
そんな女が――― 反省などするものか。
「まあ、消去法でこちらでしょうね」
紗霧が恭也の側に歩み寄る。
まひるに笑顔が咲き、野武彦が渋面を作った。
「そうか。 まあ、そうだろうな」
続く言葉は、ランスなりの誠意であった。
「じゃ、俺たちが出て行こう」
.
897
:
夕陽が、罪を、照らす。(27/27)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 01:58:21
======================================================================
Ⅸ.黄昏の終わり
======================================================================
「世話になったな」
鷹揚に手を振るランスに寄り添ったユリーシャは、無言で楚々と頭を下げた。
王宮礼法に叶った、典雅な黙礼。
こんなにも御しがたい。
こんなにも恐ろしい猛獣をその胸に飼っていながら。
それを知る者たちの目にとってみても。
彼女は害意も悪意も知らぬ清楚清純な王女にしか見えなかった。
「お前たちは、果し合いに行くのか?」
「御陵透子。今からキャンセルって効きます?」
十数秒の沈黙は、否たる答えの表れであった。
「無理みたいですね。行くしかないでしょうね」
「ランスさんは?」
「ま、気が向いたら、な」
「ええ、そうですか」
な、と、ええの間に、瞳が交錯した。
紗霧が通信機をそれとなく撫で、ランスがインカムを指で弄んだ。
それが、別れの合図となった。
何時しか夕陽は没し、宵闇が小屋を包み込んでいる。
↓
898
:
夕陽が、罪を、照らす。(情報 1/2)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 02:05:44
(ルートC)
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【グループ:紗霧・まひる・恭也・野武彦】
【スタンス:主催者打倒】
【備考:全員、首輪解除済み】
【高町恭也(元№08)】
【所持品:小太刀、鋼糸、世色癌×1、インカム】
【備考:失血(中)、右わき腹から中央まで裂傷、気絶】
※ 冷静さを失っています
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【スタンス:①恭也を守る
②得た情報はこれ以上漏らさない】
【所持品:454カスール(残弾 3)、インカム、世色癌×1、斧
軍用オイルライター、ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング
カスタムジンジャー】
【備考:疲労(小)、紗霧に不信感、まひるに恐怖感】
【月夜御名紗霧(元№36) with ナース服】
【スタンス:ステルスマーダー】
【所持品:グロック17(残弾 16)、金属バット、ボウガン、対人レーダー、
世色癌×3、紗霧専用通信機、インカム】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷、性行為嫌悪】
【広場まひる(元№38) with 体操服 & 木星のブルマー】
【所持品:グロック17(残弾 16)、せんべい袋(残 3/45)、世色癌×1、インカム】
899
:
夕陽が、罪を、照らす。(情報 2/2)
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 02:09:06
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → ?】
【グループ:ランス・ユリーシャ】
【スタンス:主催者打倒】
【備考:全員、首輪解除済み】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、グロック17(弾 17)、フラッシュ紙コップ
インカム、カスタムジンジャー】
【ランス(元№02)】
【スタンス:プランナーの事は隠し通す、男の運営者は殺す
恭也たちとは協力できない、紗霧の連絡待ち】
【所持品:カスタムジンジャー、世色癌×1、世色癌×1(隠し持っている)、
インカム、ネイルソード×2】
【能力:ネイルソードにてランスアタック可】
900
:
◆29ZH4ztR.E
:2012/08/08(水) 02:11:22
遅くなりまして済みませんでした。
次回予定は「決闘序章〜カウントダウン〜」。
果し合い編開幕です。
週末の投下を予定しております。
901
:
名無しさん@初回限定
:2012/08/12(日) 12:30:39
新作投下お疲れ様でした。
ついに来たるべき事が来てしまった感じですね。
対主催に漂う絶望感が半端じゃありません。
ユリーシャにとって断罪になってないように見えるのが何とも無情。
※SSまとめ再アップしました
パスはメール欄で
ttp://uproda11.2ch-library.com/11360002.zip.shtml
902
:
名無しさん@初回限定
:2012/08/19(日) 00:27:43
未来はもう、絶望しかないんだろうか?
903
:
名無しさん@初回限定
:2012/09/15(土) 23:12:17
じっちゃんがヤバイ、同行者全員が爆弾化してしまった
これは紗霧の漁夫の理優勝もありえるで
904
:
名無しさん@初回限定
:2013/02/21(木) 22:46:27
飯野賢治さんのご冥福をお祈りします。
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