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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
1
:
◆VnfocaQoW2
:2010/04/04(日) 00:20:17
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
規約はこちら
>>2
353
:
天覧席の風景(1/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:45:41
(ルートC・3日目 AM05:45 場所不明)
「なんでぷちぷち、じっとしてるのかなぁ……」
ルドラサウムの嘆息は、島内の戦局が段落したが為である。
【ぷちぷち】――― 人間どもの動きが止まった為である。
何しろ、島に居る殆どのぷちぷち達が、眠りについている。
動きを求めることのほうが無理であった。
ルドラサウムが最後に笑ったイベントは、三時間以上も遡ることになる。
広場まひるに夜這いをかけたランスが、
レギンスを微妙に盛り上げているアレに気付いて、
嘆きつつも大暴れして、
ユリーシャがオロオロして、
紗霧がバットでガツンした。
それを最後に、鯨神の興味を引くぱっとしたイベントは無い。
ルドラサウムは唯一動きを見せている集団に、視線を移す。
鎮火活動を行っているレプリカ智機たちである。
彼女たちが次々と破損し、爆発し、損傷してゆく様は、
ある種の感動のドラマとして、この鯨を愉しませた。
しかしそれも、二時間ほど前までのことである。
今や鎮火活動も、ほぼ完了していた。
Dシリーズ全機破損。
Nシリーズ32機破損。
そこから、被害は増えなかった。
今は残務処理に過ぎず、見所はもう無いと言って良い。
354
:
天覧席の風景(2/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:46:37
「あーあ、退屈だなぁ。物足りないなぁ」
ルドラサウムはバタンバタンと尻尾を縦に振っている。
縦の動きは苛立ちを表現するものである。
「ルドラサウム様、例の物、集まりまして御座います」
いやらしい含み笑いと共に現れたのは、鯨神に負けず劣らずの、異形の者である。
まず、全身が金色に発光していた。
体は、卵の如き楕円形をしていた。
そこから銀鱗に覆われた太い首が伸びており、
顔は亀に酷似する爬虫類のそれであった。
腕とも脚とも付かぬ極太の六本が伸び、指は存在していない。
これこそが、プランナーである。
この悪意に満ちたゲームの企画立案者であり、
ディレクターであり、スポンサーであり、黒幕である。
その点、厳密に言えば、ルドラサウムは黒幕ではない。
一部、キャストの勧誘にも指を伸ばしはしたものの、
基本的にはこの筋書きの無いドラマの、観客である。
この観客ただ一人の為に、
その退屈を解消する為に、
ゲームは企画されていた。
「もう待ちくたびれちゃったよ、プランナー。
持ってきてくれたんだよね、例の物?」
「こちらに」
355
:
天覧席の風景(3/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:49:32
プランナーの腕の一本に抱かれているのは、籐の如き素材の編み壺である。
連絡員・エンジェルナイトが腰に提げていたものである。
情報と称して、会場内の死者の魂を詰め込んだものである。
それは、献上品であった。
ゲームの終盤で盤面が膠着することを見越したプランナーが、
同じく、主のその癖と飽きっぽさと我侭さを見越し、
盤面が再び動き―――恐らくは最終決戦―――を見せるまでの間、
主の無聊を慰めるために用意した、玩具箱であった。
「ねえねえプランナー。【あの子】たちの分もあるのかな?」
死後、その魂が島内から離脱しようとしたために、
プランナーが張り巡らせた結界に捕らまえられ、
雲散霧消させられた、人ならざる者たちがいた。
【あの子】たちとは、その二人を指している。
ヤマノカミの眷属、№19・松倉藍(及びイズ=ホウトリャ)。
天津神の癒しの姫君、№22・紫堂神楽。
「断片は全て回収させました。
しかしこれを意味ある形に戻せるのはルドラサウム様だけに御座います」
「いいよ〜、それぇ〜、粘土こねこね〜♪」
プランナーが取り出した三つの魂の断片。
ルドラサウムはそれを器用に選別すると、己の体表を軽く擦って光る粉を出し、
それを残留思念の断片にまぶした上で、こね回した。
すると、どうであろうか。
356
:
天覧席の風景(4/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:50:22
《わたしの体なのに》《安曇村》《安曇村》
《堂島》《堂島》《還るょ》《ヤマノカミ》
《話し合い》《よかった…》《よかった…》
島の上空を覆う結界に触れて霧消した筈の魂たちが、
残留思念として明確な形を取り戻したではないか。
「流石のお手並みにございますな」
プランナーのお追従に、鯨神はしっぽを左右にぺちぺちした。
「ん〜、そお? そ〜でもないけどな〜?」
命とは、この鯨神の微小な破片や欠片に過ぎぬ。
全ての命はここより生まれ、全ての命はここへと帰ってくる。
ルドラサウムとは、魂の集合体であり、魂のふるさとである。
紛うことなき創造神なのである。
「これで全部そろったね♪ じゃあ、どの子から味見しよっかな?」
「は、今蘇らせました紫堂神楽など如何でしょう?
その死に際の記憶を神条真人などと共に味わわれれば、
無念や無情が極上のハーモニーを奏でること、請け合いでございましょう」
「……ホント、きみはそーいうの大好きだねぇ。わかった、一度試してみるよ」
ルドラサウムは臣下の進言を容れ、神条真人の思念を壺より引き抜いた。
《虎の仮面》《虎の仮面》《なんという……》
357
:
天覧席の風景(5/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:52:44
そして、真人と神楽の思念を、その赤く大きな口に、放り込んだ。
鯨神は目を閉じ、その舌の感覚に集中する。
噛み砕きも、嚥下もしない。
消化も初期化もしない。
ただ舌で転がし、記録/記憶を追体験するのである。
愉しむのである。
嬲るのである。
死ぬ間際にこう見えたであるとか。
殺すときにこう動いたであるとか。
そういった人間ドラマとアクションを、キャスト目線で愉しむのである。
マルチサイトで、殺す側と殺される側とを見比べるのである。
「神楽ちゃん、後ろ!後ろ!」
新しく与えられた楽しいおもちゃに、鯨神はすぐに没頭した。
既にプランナーの存在など眼中に無い。
その主の上機嫌ぶりを見て、金卵神はほくそ笑む。
(これであと二日――― いや、一日半程度は保ちますね)
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
プランナーの私室の如き空間には、天使たちが整列していた。
その数は100体を下るまい。
後ろ手に腕を組み、背筋を伸ばし、直立不動。
プランナー直属の精鋭たちである。
358
:
天覧席の風景(6/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:54:30
そこに、創造神への貢物を終えた主が、戻ってきた。
天使たちは一糸乱さず、深々と頭を下げる。
プランナーは軽く手を上げて返礼しする。
「情報の収集、ご苦労。ルドラサウム様もことのほかお喜びでしたよ」
「恐れ入ります」
「次に死者が出るまで、ここで待機していなさい」
「了解いたしました」
それは、連絡員であった。
主の労いに感動し打ち震えることも無く、淡々と返礼した。
エンジェルナイトとは、そうした存在故に。
「そういえば、悪魔フェリスはどうなっていましたか?」
プランナーはまた別の天使を指し、そう質問する。
「詳細は悪魔界に入らないとわかりませんが―――
強制解呪にて、ランスとフェリスとの契約が絶たれていました」
「まあ、会場はルドラサウム様のお膝元ですからね……
彼らもこちらと事を構えたくない以上、
不干渉に徹することにした、のでしょうね」
創造神ルドラサウムに対抗する勢力として、悪魔なる存在がある。
ルドラサウムの目を逃れて、魂を掠め取り、
ほんの少しずつ、ルドラサウムの弱体化を進めている集団である。
ほんの少しずつ、自陣営の強化を進めている集団である。
渦中のフェリスも、この末端に位置する存在であった。
359
:
天覧席の風景(7/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:56:09
弱小の反政府地下ゲリラが、強大な政府の拠点に攻め込む訳が無い。
相手にその存在を感づかれ、追尾でもされようものなら、
小規模な組織など一息に壊滅の危機を迎えるからである。
プランナーはそう分析し、そしてその分析は正しいものであった。
「であるならば、放置ですね」
相手が不用意な一度の侵入を無かったことにするのであれば、
此方もその一度の侵入を見なかったことにして、流す。
プランナーはそう結論付けたのである。
創造主サイドにしても、悪魔たちには不介入を原則としている。
それでも時折介入せざるを得ない状況というのは発生するのだが、
今回は面倒な諸問題を発生させてまで手出しすることはないと、
プランナーは考えている。
今やっていることは、ただの遊びである故に。
思いつきの余興であり、主の無聊を慰める暇つぶしである故に。
藪を突付いて蛇を出すような真似はしたくない。
「まあ、ランスには気の毒なことですが」
プランナーは、紗霧に請われたランスが召還を失敗した事を知っている。
失敗し、ほら吹き呼ばわりされた事を知っている。
その後も人目を避けて何度か試した事を知っている。
その徒労が今後も繰り返されると思うと……
プランナーは、愉しくて仕方なかった。
足掻き、もがき、悩み、苦しむ。
その上で、報われない。
この悪趣味な一柱は、そういった悲劇をこよなく愛するのである。
苦悩と怨嗟が大好物なのである。
360
:
天覧席の風景(8/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:57:28
その嫌らしい性質故に、このゲームは生まれたのである。
確かに、主・ルドラサウムを楽しませるためのものではある。
しかし隠し切れぬ彼の陰湿なサディズムが、この企図には滲んでいる。
「さて――― 八時までには、まだ間がありますね」
頭を切り替えて、プランナーが時間を確認する。
八時とは、ザドゥたちが目覚める時を指す。
その時間までに、プランナーは一つ、決めねばならぬことがあった。
シークレットポイントを使用したことによるペナルティ。
プランナーは、その具体的な内容を決めていなかった。
手落ちではない。
即興性を重視していた。
どうすれば、主の歓心を買えるのか。
どうすれば、己の濁った悦びを満たせるのか。
どうすれば、転落した主催者たちをもっと惨めに堕とせるのか。
プランナーの頭脳は回転する。
名の示す通り、番組をプランニングしていく。
より悲劇的に、より悪趣味に。
AM6:00―――
絶望の孤島に、また、朝日が昇る。
↓
361
:
天覧席の風景(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:57:56
(ルートC)
【現在位置:?】
【連絡員:エンジェルナイト】
【スタンス:①死者が出るまで待機
②死者の魂の回収
③参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】
※ここまでの全ての死者の魂は、ルドラサウムの手に渡りました
※紗霧パーティーが全員、まひるの性別(♂)を知りました
※フェリスの召還が不可能であると判りました
※東の森の火災は鎮火されました
362
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/30(月) 16:57:37
プライドがズタボロのザドゥ
くたばりかけのカモミール
とことん裏目のともきん
ルドの記録に振り回される透子
よくもまあこれほど主催者を落としめたもんだ
それがペナルティで更に追い込まれるとな?
いいぞもっとやれ!
363
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/30(月) 22:35:37
新作お疲れ様でした。
プランナーの嫌らしさがよく表現されてたと思います。
鎮火作業におけるコストと時間の消費が予想を大きく上回って少しびっくりしました。
フェリスはこれで退場ですか。上級悪魔の判断が適切。
やや不謹慎ですが
>>362
さんと同じくペナルティの内容に期待してます。
あと気になる点が一つ。
神人は神霊に選ばれた依り代で神楽の魂=大宮能売神ではないです。
原典の主人公とかは軍神の力と妖の魂を内包していますし。
また近いうちに。
364
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/30(月) 23:44:48
まさに外道…
だけどこの世のルールそのものだから従わざるを得ないなんて…くやしい(ry
365
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/31(火) 10:18:22
みんな聞いてくれ、俺気付いちまったんだ
俺がロワ物を書いたり読んだりする視点がプランナーと同じだってことに…
366
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/31(火) 15:09:51
まあ、その通りさね……だからこそ悪趣味に自覚的であるべきなのさw
367
:
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:44:56
>>363
ご指摘感謝です。
本スレ投下時には該当部分を、下記のように修正させて頂きます。
×天津神の癒しの姫君
○『百貨店の神』大宮能売神の神人(カムト)
368
:
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:47:48
本スレにての支援、ありがとうございます。
さるさん明けが23時までかかると思われますので、
その間に仮投下を進めたく。
以下15レス、長いタイトル改め「狂拳伝説クレイジーナックル」を
仮投下致します。
次回は「負けない心 挫けない勇気」。紗霧たち6人が登場予定です。
369
:
狂拳伝説クレイジーナックル(1/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:49:22
(ルートC・3日目 AM07:45 場所不明)
いつからこの薄暗い砂漠ににいるのか。
そもそもここはどこなのか。
霞がかかった頭では、思い出せない。
「あ、こっちにもありましたよ、ザドゥ様」
チャームが向こうで俺に手を振っている。
手にした何かの破片を、誇らしげに掲げている。
ああ、そうだ。
俺とチャームは、あれを集めていたのだ。
この薄暗い砂漠に散らばったあの破片を、
一つ残らず回収せねばならぬのだった。
だが…… あれは…… 何だった?
「さぁ…… 私はあまり難しいことは判りませんので。
でも大事なものだって言ってましたよ、ザドゥ様は」
砕けたそれが、散らばったそれが。
俺にとって大切な物であった事は判る。
しかし、こうして破片を集める意味とは、何だ?
失ってしまったものを集めて、一体何になるというのだ?
「そんな悲しいことを言わないで下さい、ザドゥ様ぁ……」
駆け寄って来たチャームがじゃれ付く。
豊満な胸をタンクトップ越しに擦り付け、
俺の頬をペロペロと舐め上げてくる。
370
:
狂拳伝説クレイジーナックル(2/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:50:13
チャーム―――
東欧の人身売買オークションで手に入れた、人体改造のモルモット。
野獣のような素早さと攻撃力を身に付けた、俺の四天王の一角。
夜はペット。可愛いやつだ。
「ほら、また見つけましたよ、ザドゥ様。
この輝きを見てください。この力強さを感じてください。
これは、ザドゥ様に絶対必要なものなんです」
チャームが、破片を俺に握らせる。
握った瞬間、蘇った。
俺が、組織への侵入者を殴り倒している情景が。
俺の心のどこかに、少しだけ活力が戻った。
俺の頭のどこかが、少しだけ明瞭になった。
「ね?」
チャームが微笑む。にこやかに。
なるほど、これは俺の力の源か。
この破片を全て集め、合わせることで、
きっと俺は俺を取り戻すのだろうな。
―――取り戻す?
自然と胸に浮かんだその単語に、違和感を覚えた。
取り戻すということは、失ったということ。
では、それはいつのことだ?
「いいんです、そんなこと、今考えなくても。
全部集めたらきっと思い出しますよ!」
371
:
狂拳伝説クレイジーナックル(3/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:50:41
そういう物かも知れんが、俺は既に『気になった』のだ。
探すのはお前に任せるから、もう少し俺に考えさせろ。
「はぁい……」
チャームは何故か淋しげに背中を向けた。
その様子が少し気にかかるが、まあ、後回しだ。
今は手にした破片が砕けた理由を思い出すことが最優先だからな。
後で尻の一つも撫でてやれば、チャームの機嫌は直るだろう。
「あっ……」
ん、どうしたチャーム?
「な、なんでもありません。
ちょっと勘違いして、別のものを拾ってしまっただけです。
ポイしましょうね、ポイ!」
チャームが手にしたそれは、汚い破片だ。
目を背けたくなるような気色悪い破片だ。
それなのに。
俺はその破片が、気になってしかたなかった。
チャーム、捨てるな。それを寄越せ。
「ザドゥ様がそうおっしゃられるのなら……」
チャームは不承不承といった体で、俺に破片を渡す。
手にした瞬間。
何かが、溢れた。
372
:
狂拳伝説クレイジーナックル(4/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:51:12
―――『お友達を』助けることなんだぁ♪
っっ!!?
なんだ、この能天気でカラっとした女の声は?
なぜ、俺の胸はこれほど痛むのだ?
なぜ、俺はこの声がこれほど恐ろしいのだ?
「だっ、大丈夫ですかザドゥ様ぁ?
だから言ったんですよ、ポイしましょうって」
いや、問題ない。心配には及ばん。
だが、痛くて恐ろしいはずのこの破片から、目を逸らすことが出来ない。
先程の力湧く破片よりも大切な何かだと、そんな直感が働く。
―――これだ。
他の破片は後回しでいい。先ずはこの薄ら汚れた破片を探すべきだ。
そうすれば、いずれこれらが砕けた理由にたどり着くはずだ。
その確信が、俺にはある。
「ザドゥ様ぁ。それはザドゥ様のためにならないゴミですよ?」
何でも言うことを聞く。服従する。
チャームとは、そういう利口なペットだ。
俺に尽くす方法を弁えている。なのに。
なぜか、従わなかった。
どこか、悲壮感が漂っていた。
であれば、これは本当に為にならぬものなのか?
……いや、流されるな、ザドゥ。
373
:
狂拳伝説クレイジーナックル(5/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:51:47
俺は既に判断を下し、命じたのだ。
それを他者の顔色で撤回するなど、あってはならん。継続だ。
俺が俺を信じることが出来ずに、何がザドゥか!
「そんなのより、こっち! この綺麗な破片を探しましょうよ」
チャーム、つべこべいうな。汚いほうだ。
俺が探せと言っている。
「……はぁい」
不承不承のチャームを尻目に、俺も探した。必死に。
這いつくばって、地面を舐めるように。
そして見つけた。三つの破片を。
―――大将も自己満でカモミールを殺さないよーに
―――アリが人に何を求めるの?
―――己の主はただ己のみ!!
……そうだったな。
俺は、負けたのだ。
あの島で、何度も何度も負けていたのだ。
「そんなことないですよ、ザドゥ様。
だってその三人は皆死んでるんですよ? ザドゥ様は生きてるんですよ?
どう考えたってザドゥ様の勝ちじゃないですか」
確かに、勝負には勝ったかも知れん。
生き残りには勝ったかも知れん。
374
:
狂拳伝説クレイジーナックル(6/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:52:39
だがな、チャームよ。
俺は、俺を貫けなかった。俺自身で、歪に曲げていた。
奴らは最後まで己を貫いた。己の意志を曲げなかった。
タイガージョーは命を賭してゲームを否定した。
ファントムは地獄の底まで仇を追っていった。
芹沢の『友達を助ける』思いは願望の成就を振りきり、
長谷川ですら醜く汚らわしい道化を貫いた。
俺は、その覚悟の差に、膝を屈したのだ。
「そんな…… あんまり自分を追い詰めないでくださいよ。
早く欠片を全部集めて、あのカッコよくて自信たっぷりなザドゥ様を
取り戻しましょうよ!」
チャーム、慰めなどいらん。少し黙れ。
俺はそろそろ思い出せそうなのだ。
先刻、俺はさらりと重要なことに触れなかったか?
それは、キーワードではないのか?
―――俺は、俺を貫けなかった。
―――俺自身で、歪に曲げていた。
そうだ。これだ。
タイガージョーと言葉と拳を交わした時には、
既に宿っていた暗澹たる敗北感。
それは、誰に? 何に? いつ? どこで?
探さねば。見つけねば。
俺の真の敗北を。
最初の敗北を。
375
:
狂拳伝説クレイジーナックル(7/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:53:25
「それって、シャドウの裏切りなんじゃないですか」
成る程な。
確かに俺はシャドウに敗れて、多くのものを失った。
組織。
部下。
名声。
権力。
女。
金。
だがなチャーム。
そんなもの、戦利品でしかなく。
俺という存在に追従した余禄に過ぎず。
俺そのものでは決してなく。
つまりは…… たかが贅肉よ。
「たかが…… 贅肉……」
俺が見つけねばならんのはな、チャーム。
そんなちんけな敗北では無いのだ。断じて。
贅肉を削ぐような敗北ではなく、拳を砕くような敗北なのだ。
それを見出さねば。
それを受け入れねば。
お前がいくら破片を集めきったとて、決して元の俺には戻るまい。
歪な俺の、不恰好なプライドが形成されるだけだろう。
―――カチ。
.
376
:
狂拳伝説クレイジーナックル(8/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:54:00
がむしゃらに探す俺の指先に、触れた。
大きな欠片が。
―――わか・・・・・った。その話・・・飲もう
―――キャハハハハ!
……見つけた。
これだ。
俺の真の敗北の記憶。
タイガージョーへの敗北感も、
アインへの敗北感も、
長谷川への敗北感も、
芹沢への敗北感も、
全て、結局。
この一敗から目を反らしていたから生まれたのだ。
自分を曲げた事を恥じるが故に、自分を貫く奴らが眩しかったのだ。
「ザドゥ様は、これが敗北だと、言うのですか……」
ああ、そうだ。
俺は、俺の主であることを捨てて、神の走狗に成り下がったのだ。
涎を垂らし、尻尾を振って。
ヤツがぶら下げた餌に飛びついたのだ。
今こそ、ザドゥは、認めよう。
俺の最大の敗北は、その選択をしたことだ。
俺は、俺を、裏切ったのだ!
「その餌は、必要ないものなんですか……?」
377
:
狂拳伝説クレイジーナックル(9/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:54:41
チャームの悲げな声が耳を衝く。
振り返ったチャームは氷柱に閉じ込められていた。
丸い目に涙を溜めて、俺を見つめていた。
そうだ…… 俺は、何を忘れていたのだ。
チャームは死んでいたではないか。
その復活こそが、俺が釣り上げられた餌ではなかったか。
「私は、必要ないんですか?」
チャームが涙を溜めて、氷柱を内側から叩いている。
俺を求めてくる。
この涙に。この献身に。この愛情に。
この死に、俺は変えられた。
俺は、俺を、見失っていた。
無論、チャームを責める気などは無い。
全ては俺の弱さだ。
一人の女に肩入れしすぎたツケが回ってきたに過ぎぬ。
「ザドゥ様ぁ…… どうして自分ばっかりご覧になってるんですかぁ?
もっとこっちを見てください…… もっと私を見てください……」
人の死の中になにかを見出した気になり、哀れみを覚え、共感を欲する?
ハッ! とんだ善人気取りだな、ザドゥ。
隠居したジジイでもあるまいに、それが牙を持つ人間の思想か?
そんなザドゥが、どこに居る?
断じる! そんなものはザドゥではない!
「酷いです、ペットは捨てないって、言ってくれたじゃないですかぁ……」
378
:
狂拳伝説クレイジーナックル(10/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:55:16
ああ、確かに言ったな。
不安がるお前を強く抱きしめながら、何度でも言ったな。
覚えているぞ。
忘れられるはずもなかろう。
だからな、チャーム。
飼い主としての責任は、果たしてやる。
「ザドゥ様ぁ! やっと私を見てくれた!」
なあ、チャーム……
俺は、今やっと、敗北を受け入れることが出来たのだ。
恐れていたそれは、恐れていたほどではなく、逆に清々しさすら感じたぞ。
だがな。
敗北を受け入れることと、負け犬のままでいることは、違う。
敗北は結果として受け入れよう。
だが、俺は、負け犬のままでいるつもりはないのだ。
だからな、チャーム……
「はいっ! なんでしょうザドゥ様っ♪」
俺の為にもう一度、死ね。
「なんっ……!?」
.
379
:
狂拳伝説クレイジーナックル(11/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:56:30
砕けろ、氷柱。
砕けろ、愛猫。
砕けろ、想い。
砕けろ、願い。
その痛みを以って、受け入れろ、ザドゥ。
愛する者を殺し直して、蘇らぬを自覚しろ。
―――狂 昇 拳 !
「酷い、おかた……」
ああ、なんと酷い男なのだろうな、ザドゥという男は。
だがチャームよ、お前は知っていた筈だ。
これが俺なのだと。
お前の復活などを望むザドゥこそ、本来のザドゥでは無かったのだと。
俺は飽くまでも俺本位で。
行動を妨げようとする者は必ず叩き伏せ。
意志を曲げようとする者は必ず返り撃ち。
いかなる犠牲も恐れず、
いかなる敵にも怖じぬ。
お前の飼い主とは、そういう男であったろう?
「さよならです……」
狂昇拳は氷柱を穿ち、そこに捕らわれるチャームの心臓をも貫いていた。
次の瞬間、霧消した。
その姿が消えると共に、左手首に巻いていた鈴の紐が切れた。
りん……
380
:
狂拳伝説クレイジーナックル(12/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:57:50
一度だけ悲しげに鳴った鈴は、砂漠の砂に同化して沈んでいった。
これで俺を縛るものは、無くなった。
一人だ。
独りだ。
俺は、ひとり、ザドゥだ。
俺は、ただの、ザドゥだ。
裸一貫。
鍛えぬいた狂拳。
―――それで十分。
散らばった破片も、もう要らぬ。
あれもまた一つの贅肉だ。
今の、単純化されたザドゥの動きを鈍らせる重荷だ。
―――それで完結。
そう、チャームも言っていたではないか。
生きているから、負けではない、と。
リベンジの機会が、まだあるうちは。
それを諦めないうちは。
俺は、まだ、俺でいられる。
確か、鯨は言っていたな。次に会うときはゲームの終了時だと。
成る程な。チャンスはその一回のみということか。
であれば、必ずゲームは成功させてやる。
成功させて、芹沢の願いを叶えてやる。
それから。いざ、俺の願いが叶えられようとした瞬間に。
―――殴る。
.
381
:
狂拳伝説クレイジーナックル(13/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 23:00:02
俺の全てを一撃に込めて、いけ好かん鯨野郎をぶん殴る。
そして言ってやる。
お前などに叶えさせてやるような望みなど無いのだと。
その後のことなど、知ったことか。
圧倒的な力量差があろうと。俺はお前の飼い犬ではなく。
伸ばした手が届かぬのだとしても。俺の主は俺だけで。
たったそれだけのシンプルな事実を、物分りの悪い蒼鯨に理解させてやる。
この拳でな。
『ねえねえ、今度こそザッちゃん起きたかなぁ?』
『違う、また寝言』
《寝言なのかうわごとなのか、ビミョーですよ?》
『瞼に小刻みな痙攣を感知。首魁殿はそろそろ目覚められるようだよ』
鼓膜に…… 聞き覚えのある声を感じる。
両瞼に…… 淡い光を感じる。
四肢に…… 筋肉の疼きを感じる。
ああ、俺はもうすぐ目覚めるのだな。
ああ、これまでの全ては夢だったのだな。
だとすれば、きっとこの夢も目覚めと共に忘れてしまうのだろう。
それはそれでいい。
だが、ただひとつ。
目覚めの世界に、これだけはもって行け。
これだけは、忘れるな。
382
:
狂拳伝説クレイジーナックル(14/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 23:00:18
―――敵は、鯨だ。
↓
383
:
狂拳伝説クレイジーナックル(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 23:00:40
(ルートC)
【主催者:ザドゥ】
【スタンス:ステルス対黒幕
①プレイヤーを叩き伏せ、優勝者をでっちあげる
②芹沢の願いを叶えさせる
③願望の授与式にてルドラサウムを殴る】
【所持品:なし】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:重態、全身火傷(中)、睡眠中】
384
:
名無しさん@初回限定
:2010/09/02(木) 23:11:54
ザドゥが心底から格好いい……!
ネット上の読み物で今一番楽しみにしてるのがここだわ……
385
:
名無しさん@初回限定
:2010/09/03(金) 15:23:17
ストイックとナルシズムの極致!
シビれるぜザドゥ!
386
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/09/03(金) 21:02:50
本投下&仮投下お疲れ様でした。
これまでの積み重ねゆえのザドゥの覚醒がいい感じでした。
本投下の方もレプリカの本体との決別に加え、本拠地も廃棄とは……意外な。
没収された参加者の所持品は何処へ?
294話までの本編まとめと地図を更新したまとめをUPしました。
パスは bato です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1127479.zip.html
これからは可能な限り、本投下の翌日に更新という風に進めていきたいと思います。
387
:
折り返し地点(4/11)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/11(土) 22:15:37
それは知佳にも判っていた。
判っていても、割り切れなかった。
「でも、出来ないよ」
割り切るには交流が多すぎた。
割り切るには肩入れしすぎた。
割り切るには借りが大きすぎた。
そして――― 割り切るには、知佳は優しすぎた。
勝手ながら。
知佳は、透子に友情めいた思いを抱いてしまっていたのである。
「じゃあ」
「貴女が、殺して」
透子は目を閉じ、胸を広げ。
そこにカオスを刺し込んで欲しいのだと、知佳に告げる。
この時、知佳の心に、透子の心の声が染み込んできた。
【 どうせ死ぬなら 】
【 私を「かなしいひと」だと思ってくれた 】
【 私の歴史を知ってくれた 仁】
【村知佳の 役に立とう 】
知佳の目に、みるみる涙が溜まってゆく。
嬉しかった。友情を感じていたのは自分だけではなかったことが。
悲しかった。友情から来る提案を踏みにじらねばならぬことが。
「―――それもダメだよ」
388
:
◆VnfocaQoW2
:2010/09/11(土) 23:57:40
以下12レス、「負けない心 挫けない勇気」改め、
「譲れぬ想い 挫けぬ心」を投下致します。
次回は、「χ−1」。
主催者たちと黒幕たちが登場予定です。
>>387
は、ひとつ見なかった事に。
389
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(1/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/11(土) 23:58:55
(Cルート・3日目 AM09:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
「メイド服っ!」
「メイド服っ!」
朝日差す二西の森の小屋に、男の魂の叫びが二つ、響き渡った。
魔窟堂野武彦と、ランスである。
この、およそ接点を見ない縁遠い二人が、意気投合していた。
大いなる野望の達成の為に、心を一つにして事にあたっていた。
その魂の叫びは、食卓に座す月夜御名紗霧へと向けられていた。
「着ません」
うんざりした顔で溜息をつく紗霧ではあったが、
以外にも、その表情に険は無かった。
「朝食の準備…… 今この時に装着せんでなんとする!」
「そうだそうだー!」
「ランス様も、こう仰っていますし……」
「着ません」
「着てあげてもよくない? 紗霧サン?」
「よし! 今まひるが良いコト言った!」
「着ません」
「あと一押しじゃ! 言ってやれい、恭也殿!」
「俺ですか? ……これといって、別に」
「……なんでですか!」
「紗霧サン、どしてそこでつっかかる?」
「メイド服なんて着ませんが、興味なさそうな態度も気に入りません」
390
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(2/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/11(土) 23:59:36
ふざけても、怒っても、呆れても。
それでも、皆の声は弾んでいた。
それもそうであろう。
何しろ、昨晩、大勝利を飾ったのである。
巨凶、ケイブリス相手に。
この朝食準備の席に、誰一人として欠けることなく揃っている。
このような状況、誰が想像したであろうか?
作戦立案者である紗霧とて、まさか怪我人すら出さずに勝利するとは
想像だにしていなかったのである。
浮き足立つのも、当然と言えた。
巨凶ケイブリスとの戦いを終えた六戦士は、深夜一時過ぎに、
彼らのホームである小屋へと、帰投していた。
そこで、たっぷりと休養を取った。
ランスの夜這いに関するアクシデントこそあったものの、
交替で見張りをたてて、それぞれが六時間の睡眠を得たのである。
で、皆が目覚めて。
顔を揃えて。
いざ、食事を作ろうという段で、深刻な問題が発生した。
「じゃあまひるさん、お願いします」
「いやいやここはユリーシャさんが」
「食事の準備はメイドの仕事でした」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
391
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(3/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:00:16
女性陣の誰一人として、まともな自炊経験がなかったのである。
問題は、それだけに止まらなかった。
「世の中にはコンビニという便利な場所があっての」
「そんなもん、シィルにやらせていたからなぁ……」
野武彦とランスもまた、厨房に立つ能力を持ち合わせなかった。
と、なれば。
あとは一人しかいなかった。
「男の大雑把な料理でよければ」
こうして高町恭也がひとり、厨房に立つことになった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「……どうしても紗霧ちゃんのメイド姿が見たい」
「……異議なしじゃ」
小屋の裏手でP−3の残骸を処理しながら、ランスと野武彦は小声で密談する。
「恭也は朝ごはんを作っている。念のためユリーシャを見張りに立たせた。
今がチャンスなんだ。ジジイ、策は無いか?」
「では、こんなのはどうじゃ?」
キランと丸眼鏡が光り。落雷の書き割りが表れて。
野武彦の目線が、井戸へと向けられた。
392
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(4/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:01:01
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
小屋には長逗留を想定してか、米や味噌の備蓄がそれなりにあった。
肉類こそ備蓄が無かったものの、日持ちする野菜も発見された。
故に朝食は、一汁一菜。
ご飯と、赤だしと、煮物。
誠に日本人らしいメニューと相成った。
―――コトコトと、鍋が鳴っている。
―――刻まれたネギの強い香気が漂っている。
「なんてゆーかこの…… 厨房に立つ男子ってゆーのは、
一種独特の色気がありますなぁ」
広場まひるは、エプロンをつけて沢庵をトントンしている恭也の背を見つめ、
ワイドショーを眺める中年主婦の如き感想を述べた。
「ま、否定はしません」
済ました顔で興味なさげに相槌を打つ紗霧ではあるが、
しかしまひると並んで食卓から恭也を眺めていた。
ユリーシャも同席はしているものの、窓の向こうのランスを気に掛けるばかりで、
二人の会話にも、恭也の後姿にも、意識は向けられていない。
―――コトコトと、鍋が鳴っている。
―――炊飯器の湯気に混じる白米の甘い香りが漂っている。
.
393
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(5/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:02:16
「おう、終ったぞ」
「ついでに井戸水も汲んできたわい。食後の皿洗いに必要かと思っての」
「お疲れ様です、ランス様」
P−3の残骸の処理を終えたランスとユリーシャが帰ってきた。
忠実な愛玩犬の如く笑顔で駆け寄るユリーシャを抱きとめて、
ランスはその耳元に、何事かを囁いた。
ユリーシャは複雑な表情で頷くと奥の部屋へと引っ込んで行く。
「いやあ、しかし水桶は重いのぅ……
この老骨のヤワい足腰には格別に堪えるわい」
野武彦は厨房に向かって、不確かな足取りで歩いてゆく。
そんな様子に哀れ心を誘われたまひるが、
手を差し伸べようと腰を上げた時であった。
あまりにも意外な第三者が、まひるに先んじて救いの手を伸ばしたのは。
「情けないなあ、ジジイ。しょうがない、俺様が代わってやろう。
ホレ、桶をよこせ」
まひると紗霧は己の耳目を疑った。
あのランスが。
男にはとことん厳しいランスが。
ジジイは早くくたばれだのの暴言を吐くランスが。
男に、年寄りに、親切心を発揮したのである。
「よよよよ、人の情けが実に染みるのじゃあ!」
「わはは、大げさなジジイだな!
そんな書き割りを出す暇があるなら、さっさと桶を……
ををっ!?」
394
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(6/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:03:31
ランスが詰め寄り、野武彦が立ち止まり。
交錯の瞬間、二人はニヤリと笑いあった。
その瞬間、水桶が、宙に浮いた。
「なんと!
ランス殿に親切に涙を浮かべた野武彦は、
手渡す水桶の目測を誤ってしまったのだった!
まったく意図せずに!」
「さらに!
ジジイが手放した水桶をナイスキャッチした俺様だが、
無茶な体勢が祟って、桶をひっくり返してしまった!
紗霧ちゃんに向かって!」
野武彦とランスは慌てる素振りも見せず、一息に言った。
明らかな猿芝居であった。
しかしその素早い連携に、まひると紗霧は反応できなかった。
「きゃあ!」
「がははは! 紗霧ちゃん水浸し!」
「やったのう、ランス殿!」
頭からしたたかに水を被り、全身ずぶ濡れになった紗霧が、
その黒髪をワカメの如く額に張り付かせ、
ハイタッチを決める老人と青年に、恨めしげな上目遣いを向ける。
―――コトコトと、鍋が鳴っている。
―――溶かされた味噌の匂いが居間まで漂っている。
.
395
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(7/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:04:57
奥の部屋に引っ込んでいたユリーシャが居間へと戻ってきた。
戻ってきたかと思いきや、そのまま小屋を出て行った。
その手に二つの大きな紙袋を握って。
「濡れた着衣に下着のラインを透かせては目の毒じゃ。
ささ、奥の部屋で着替えるとよい」
「俺様たちの大事な軍師が風邪をひいたら大変だからな。
早く奥の部屋で着替えるのだ!」
野武彦とランスはにこやかに紗霧を奥の部屋へと誘導する。
その様子に、紗霧は不信感を抱き。
数秒前に出て行ったユリーシャが抱えていた紙袋へと思い至る。
「まさかっ……!」
奥の部屋に飛び込んだ紗霧が目にしたものは。
男物女物、あらゆる衣類が持ち出されて空っぽになった、
部屋に備え付けの収納ボックスであった。
そして、その部屋の真ん中に。
まひるが病院で発見し、ユリーシャが保管を任されていた
衣服セットの入った袋だけが、ぽつんと、置かれていた。
「そこまでですか…… どうしてもメイド服なんですか」
紗霧を着替ぬ訳にはいかぬ状態へ追い込んだ上で、
替えの衣装の選択肢を限定させる。
それこそが、野武彦の策であった。
「それだけは譲れないのじゃよ」
「俺様は決して挫けないのだ!」
396
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(8/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:06:54
恥じることなく胸を張り主張する男二人の曇りなく輝ける瞳に、
ついに紗霧は溜息を以って、屈した。
「はあ…… しょうがないですね。
確かにここで風邪でもひいては困ります。
まひるさん、見張りを頼みます」
―――グツグツと、鍋が煮えている。
―――煮詰まった味噌汁の匂いが胃袋を刺激する。
紗霧の警戒に反して、野武彦とランスは全く大人しかった。
お利口に正座をして待っていた。
既に戻って来ているユリーシャは最初、暗い眼差しをしていたものの、
ランスに撫で撫でされたので、すっかり機嫌を治していた。
からり、と、引き戸が開かれて。
ごくり、と、男たちが息を呑む。
「いよいよだな!」
「なんと長い道のりであったことか……」
肩を叩き合い、互いの健闘を称えあう二人の前に、
着替えを終えた紗霧が、堂々と姿を表した。
その新装束の衝撃に、まひるやユリーシャまでもが息を呑む。
「な、な、な……?」
「そっちを選びよるとは!」
397
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(9/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:07:37
紗霧は、全身、清潔な薄いピンク色に包まれていた。
膝上までのタイトなスカートの下には白いタイツが履かれており、
頭上には三角巾の如きキャップが載せられていた。
胸ポケットには体温計が刺さり、首には聴診器が掛けられていた。
そう。
置かれた袋の中にある、もう一つの装束―――
紗霧は、ナース服に着替えたのであった。
メイド服とナース服。
どちらも同じく恥ずかしい衣装であり、
どの道コスプレの羞恥は拭えない。
ならばと、紗霧は考えた。
せめてと、紗霧は企んだ。
野武彦とランスの下らぬ策略に嵌っただけでも屈辱であるのに、
これ以上喜ばせるなど以ての外である。
ナース服とは苦渋の選択であり、意趣返しであった。
「この月夜御名紗霧にも、意地があります」
驚きを隠せぬ野武彦とランスは呆けた表情を見せ。
紗霧はそれを満足げに眺めながら笑った。
恐ろしく影の濃い、不吉な笑みであった。
「さて、お二方。治療のお時間です」
「何故に治療でバットなんじゃ?」
「しかもそれ…… 釘が打ち込まれてないか!?」
「昔の人は言いました。馬鹿は死ななきゃ治らない(ニッコリ)。」
398
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(10/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:08:46
紗霧が凶悪に改造されたバットを振り上げ、
野武彦が身を竦め、
ランスが野武彦を犠牲に逃げる素振りを見せ、
ユリーシャがランスに駆け寄り、
まひるが苦笑した、
その時。
ドシリと、厨房から、重い音が聞こえてきた。
―――カラカラと、鍋が焦げている。
―――焦げた煮物が目に染みる黒煙を発している。
全員が同時に、その異様に気付いた。
最も厨房に近かったまひるが、そちらに目線をやり、叫んだ。
「―――恭也さんが倒れてる!!」
↓
399
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:09:30
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め
①しばらく休養】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−3 草原】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、干し肉、スペツナズナイフ、
文房具、白チョーク1箱、レーザーガン、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、保存食】
【備考:失血で疲労(大)、発熱(大)、右わき腹から中央まで裂傷あり】
※痛み止め(解熱作用含む)の効果が切れました。
400
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(情報 2/2)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:10:23
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)、白チョーク数本、
スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、工具、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【月夜御名紗霧(元№36)with ナース服】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、謎のペン×8、小麦粉、
薬品・簡易医療器具、対人レーダー、他爆指輪、解除装置
簡易通信機・大(←野武彦)】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】
【広場まひる(元№38)with 体操服】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機・小】
※「?服」のラストは、ナース服でした。
※米と味噌、野菜の数日分を確保できました。
401
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/09/12(日) 18:48:34
本投下&仮投下お疲れ様でした。
実はMAP作成において紳一の扱いに少し悩んでました^^;
食料だけでなくP-3からアイテムを作成したり、
紗霧を着替させたりする策略を成功させる彼らの抜け目の無さに感服。
ナース姿とは……これはいい選択。
鍋の描写と最後の恭也の様子とうまくあっていたと思います。
295話までのSSまとめと地図を更新しました。
まとめのパスは rowa です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1143002.zip.html
402
:
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:36:00
長時間に渡る本スレへの支援、ありがとうございました。
以下13レス、「χ−1」を仮投下致します。
次回は、「タクスタスク 〜the final mission〜」。
野武彦とまひる、代行N−22、他レプリカが登場予定です。
403
:
χ−1(1/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:37:37
(ルートC・3日目 AM9:00 J−5地点 地下シェルター)
拳を、握る。拳を、開く。
拳を、握る。拳を、開く。
目覚めたザドゥが最初にしたことは、【気】を用いての内観であった。
深い呼吸と共に【生の気】を巡らせれば、血液の滞りや発熱、代謝の停止等、
【死の気】を内包している箇所で停留し、あるいは霧消する。
これは気功を使う者特有の、肉体機能のチェック方法である。
(想像以上に疲弊が激しいな。火傷による機能の低下も著しいが……
だが、機能の不全には至っていない。俺はまだ、戦える)
その分析に、痛みは考慮されていない。
ザドゥはいつかの亡霊・紳一とは違い、痛み程度には動じない。
動くのか、動かぬのか。
壊れているのか、いないのか。
それを、一箇所一箇所丁寧に確認するのみである。
「はいはーい、ザッちゃんザッちゃん! 次はあたしを触診してー♪」
《そういう話なら、ぜひこの儂に!》
「黙れ妖刀、折られたいか」
《……お黙ります》
主催者一同の脳裏に、頭痛すら覚えるほどの強烈な鳴動が感じられたのは、
ザドゥが芹沢の背に【生の気】を巡らせようと掌を伸ばした矢先であった。
.
404
:
χ−1(2/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:38:47
《聞け、主催者どもよ》
プランナーであった。
姿見せぬ金卵神が、強大な思念波を叩き付けたのである。
主催者たちに、緊張が走る。
《基地は地中に没し、学校も崩壊し、素敵医師とケイブリスを失った。
しかも深夜零時と早朝六時の定時放送も為されなかった。故に。
お前たちはゲームを管理する力を失ったと判断してよいだろう―――》
(No!? ケイブリスが死んだ、だと?)
椎名智機のトランキライザが働き、情動負荷が軽減される。
その処理をトレースして、初めて智機は気が付いた。
ケイブリスの死に、強制緩和を必要とする程の悲しみが発生していたことに。
『いいぜ、その目……ギラギラとしてて餓えてる目だ。見直したぜ』
―――興味を抱かれたい。
―――知って欲しい。
―――求められたい。
失って初めて、智機は理解した。
ケイブリスこそ。
誰よりも真っ直ぐな眼差しで智機を見つめてくれていたのだと。
智機のその悲願に、最も近い感情を抱いてくれていたのだと。
.
405
:
χ−1(3/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:39:42
《しかし、それを以ってプレイヤーの勝利とは、我々は判断しない。
これは殺し合いのゲームである。
優勝とは唯一人が生き残るを指すのと同じく、
主催者の打倒とは主催者の全滅を指すからである》
透子は降り注ぐ言葉を咀嚼する。
一言半句逃すまいと、記憶領域にログ出力する。
深夜から早朝にかけての記憶/記録検索で、彼女は気付いていた。
ゲーム運営の実権を握っているのは、ルドラサウムなどではなく、
このプランナーという異形の神なのだと。
―――ルドラサウムを楽しませる。
確かにそれも重要ではあるが、それだけでは不十分である。
―――プランナーが敷いたレールから逸脱しない。
それに反することもまた、悲願の達成を遠ざけることになるのだと。
透子は理解したのである。
《つまり、ゲームは未だ継続中である。
優勝者が出るか、お前たちが全滅するまで、ゲームは終らない。
管理能力を失ったお前たちではあっても、
プレイヤーの敵としてのお前たちはゲームに必要とされている。
依然として。
故に、お前たちは未だ、その願いを叶える権利を失ってはいない》
.
406
:
χ−1(4/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:40:30
(なーんだ、じゃあ今までと変わらないってことかぁ)
芹沢は胸を撫で下ろす。
彼女は確かに主催の一翼を担う立場にはあれど、
智機の如きシステム面にての働きには携わらぬ駒でもあった。
刺客として戦場に赴き、プレイヤーを脅し間引くを旨とする、
純粋なる現場担当者であった。
その立場から見たプランナーの発言は、自分の行動を変えるようなものではなく、
逆に、対立構図はより鮮明に単純になったのだと、楽観的に受け止めた。
それよりも、なにやら。
(何かこのカミサマって、やーな感じぃ)
何を当たり前のことをさも勿体ぶって口にするのか。
直感型で嗅覚タイプの彼女としては、
プランナーのその性質に、生理的な不快感を覚えたのである。
《さて、では本題に入ろう》
―――本題?
その言葉にザドゥと芹沢は混乱する。
自分たちの主催としての去就が主題ではないとするならば、
それ以上に重要なものとは、一体何であるのか。
―――本題!
その言葉に透子と智機は思い至った。
自分たちが今居る場所と、そこを使用しているという意味に。
そこを、プレイヤーよりも先に利用したという事実に。
.
407
:
χ−1(5/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:42:14
《シークレットポイント……
そこにある「有利になる何か」を主催者がプレイヤーに先んじて使用すれば
ペナルティが下るというルールを、覚えているか?
今回のケースは難しい。
そこにある「何か」が道具ではなく、部屋そのものなのだから。
検討の末、我々はこう、判断した。
素敵医師や御陵透子が立ち寄ったことは、抵触しない。
ザドゥとカモミール芹沢が避難したこともまた同様である。
問題は―――
仁村知佳の襲撃を、その扉で防いだ点にある。
これを我々はペナルティの対象となると認定した》
プランナーはそこまで一息にまくし立てて、沈黙した。
待っている。
この神は、哀れな子羊たちから問いが発せられるのを待っている。
質疑応答の形を経て、ペナルティをより強固に刻みつけようと、
手薬煉を引いて待っている。
「……ペナルティとは?」
プランナーの期待に応えたのは空気を読めぬオートマン、智機であった。
異形の神はさらに勿体ぶって二呼吸の間を空けた上で、厳かな声で処分を通達した。
《優勝者が出た時点においての生存主催者のうち、
一人の願いを叶えないこととする》
「「「!!!」」」
.
408
:
χ−1(6/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:43:03
「一人って…… 誰のことなの?」
恐る恐る、芹沢が聞いた。
その怯えた声の調子に目論見の成功を確信したプランナーは、
喜びに震えそうになる己の声を抑えて冷静を装い、返答する。
《それはお前たちで話し合って決めればよい。
我々は対象人物まで特定しない》
口火を切ったのは透子であった。
瞳に炎を宿らせて、主催者の三人をにらみつけた。
「譲れない」
「私は絶対……」
「願いを叶える」
それを諌めたのは智機であった。
「Wait、Waitだよ、透子様。
ここで短絡を起こしてはいけない。
プランナー様はこう言ったろう?
優勝者が出た時点においての生存主催者のうち、と。
今、一人を口減らしたとしても意味が無いのだよ」
今、と、智機は口にした。それはつまり、後、ならば。
同胞を殺す意味があるのだと、その心算もあるのだと、
智機は宣言したに他ならない。
「ねぇねぇ、どーしよっか、ザッちゃん?」
409
:
χ−1(7/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:43:49
芹沢が腕組みするザドゥの袖を引っ張って、上目遣いで見つめる。
ザドゥを形式上の首魁に過ぎないと見る主催者たちの中で、
彼女は只一人、彼をトップであると認めている。
武家社会の末子たるこの女は、主筋に判断を委ねたのである。
プランナーの登場から此方、沈黙を保っているザドゥは。
芹沢の要請を受けるや、両の瞼をカッと見開いて、
まるでそこにプランナーの姿が見えているかの如く、
強い眼力で虚空を睨めつけると。
「―――断る」
そう、短く断じたのである。
《……首魁ザドゥ。君の発言は、誰に、何に向けて発せられたのかな?》
「そのペナルティ、承服しかねるということだ」
言い捨てた。
伺いを立てるといった様子ではなかった。
一方的な拒絶の宣言であった。
《憤りも理解せぬではないが、これは厳粛なるルールの適用に過ぎな……》
「黙れ下っ端」
《下っ……!?》
ザドゥの分を弁えぬ余りにも余りな暴言に、空気が凍りつく。
身の程を知らぬザドゥはそれでも飽きたらぬのか、
更なる暴言を重ねて、プランナーを侮辱する。
410
:
χ−1(8/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:46:03
「下っ端が横合いからピーチクパーチク囀るなと言っている。
俺が契約したのはルドラサウムだ。貴様に従う謂れは無い。
納得させたいのならあの鯨を出せ」
神と人との絶対的な力関係さえ考慮しなければ―――
理は確かに、ザドゥにあった。
椎名智機こそ企画立案者であるプランナーの存在を把握していたものの、
主催者のスカウトと契約はルドラサウム自らが行っている。
ぽっと出の、素性のわからぬ存在に従う理由など無いのである。
「だいたい、昨日の勝手なルール変更も、あれはなんだ?
あれが罷り通るなら、俺たち主催など要らんだろう。
今更覆せとも言わんが、今後貴様が何を呟こうと俺はその言葉を受け入れん。
それを覚えておけ」
言った。言い切った。
ザドゥを除く三人の女は、呼吸すらままならぬ緊張感の只中に叩き込まれた。
プランナーは二の句が継げずにいる。
その濃厚な沈黙を打ち破ったのは、果たして渦中の蒼鯨神であった。
《キャハハハ!!
下っ端? 下っ端だって? プランナーが?
そーだよね、そりゃそうだよねー》
「出たか、鯨」
《流石はザドゥ君、怖いもの知らずだね!
君の自主性を見込んで、トップに据えた自分の直感を褒めたいくらいだよ!
だってプランナーのこんな顔、今まで見たことなかったからね》
411
:
χ−1(9/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:47:05
本当に、心底楽しそうな。
この島に来てから一番楽しそうな笑い声が、
音の津波となってシェルター内を包み込む。
その空気は、魔剣にまでも伝播した。
《かはははははっ! すげーなザッちゃん!
三超神を下っ端扱いした生物は、多分お前さんが初めてじゃぞい!
よう言うた、よう言うた》
カオスとて、プランナーの曲った性根に苦渋を舐めさせられた一人である。
ザドゥの蛮行に送られた喝采は、心の底からのものであった。
「そーだよねぇ…… あたしもカミサマのこと、知らないなぁ。
その辺、くじらさんの説明が欲しいなー」
緊張の極みにあった芹沢すらも己を取り戻し、ザドゥに追従した。
空気は、逆転していた。
この場の明らかな絶対支配者であったプランナーが、
ザドゥの神を神とも思わぬ傲岸不遜な態度によって、
上役たるルドラサウムの予定外の登場によって、
単なる下っ端の道化へと、堕したのである。
主催者たちには見えぬ、されどルドラサウムには見えるその場所で、
プランナーは屈辱に下唇を噛み締める。
それはこの神が生を受けてこの方、初めて受けた屈辱であった。
《それじゃあ言うけど……。
残念だけど、このゲームの難しいルールとかは全部、彼に任せてあるんだ。
だから、ペナルティはプランナーの言ったとおり。
彼の言葉は、僕の言葉。わかった?》
412
:
χ−1(10/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:49:09
結局、ルドラサウムはプランナーの肩を持った。
彼を己の全権委任者であると宣言し、それまでの独断を肯定した。
プランナーは主の裁定に弱冠の溜飲を下げる。
しかし。それでも。
ザドゥは猶、ザドゥであった。
「いいだろう。では、俺が辞退しよう」
この宣言にはプランナーのみならず、ルドラサウムもまた、絶句した。
「願いが叶えられない対象を、俺にしろ」
発言が飲み込めぬ一同に、ザドゥは繰り返す。
「俺が首魁だ。責任を取るのは俺の仕事だ」
そして、己の翻意を表に現さぬまま責任論に帰結させ、
ザドゥは再び腕を組み、鋭い眼光を和らげた。
これ以上語ることは無いのだと、その態度は如実に物語っている。
「Yes。上に立つものが責任を取る。組織論として実に正しいね。
ザドゥ殿、私は貴君のその判断、断固支持するよ」
「さんせい」
透子と智機は、ザドゥの決意を額面どおりに受け取った。
その内面にまで考えが及ばなかった。
芹沢だけが違和感を覚えた。
疑念の眼差しでザドゥを見遣る。
その芹沢の視線に気付いたザドゥは、軽く頬を吊り上げるのみであった。
413
:
χ−1(11/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:50:08
(ザッちゃんは…… もしかして……)
直感型の芹沢には、もしかしてのその先を言語化できぬ。
しかし、判った。
ザドゥの中の大事な何かが、大きく変わってしまったのだと。
《あらららら、キミの目論見、外れちゃったね、プランナー》
プランナーの予定では。
このペナルティによって主催者どもは、疑心暗鬼に陥る筈であった。
相手を出し抜かんと、四者の間に陰謀や暗闘が生じる筈であった。
醜くて粘ついた情念と情念がしのぎを削るはずであった。
しかし、ルドラサウムの指摘する通り。
その陰湿な企みは、ザドゥの自己犠牲で木っ端微塵に砕け散った。
思惑の根本が、空振った。
《……申し開き様も無く》
金卵神は震える声で、己の主に謝罪した。
蒼鯨神は己の部下の謝罪を鷹揚に受け入れた。
《でもまあ、君のそんな悔しそーな顔が見れたから、楽しかったよ。
やっぱりぷちぷちは面白いなぁ、意外性があってさ》
その言葉を最後に、狂笑がフェードアウトしていって。
やがて二神の気配は消え去った。
414
:
χ−1(12/12)(情報 1/2)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:52:13
ザドゥの袖を握ったままになっていた芹沢が、再び彼を上目遣う。
なぜか遠くに行ってしまった様に感じられるザドゥとの距離を詰めるべく、
言葉の整理もできぬまま、不安な気持ちだけを上滑らせる。
「ザッちゃん、あのね……?」
「芹沢、お前が気にすることは何もない。
今まで通りのお前で居さえすればいい。
これは、俺の問題だ」
ザドゥは思いがけぬ優しい笑みを浮かべ、芹沢の頭を撫でると、
先程中断した芹沢の身体機能チェックを再開すべく、
包帯の巻かれた痛々しい背に、腕を伸ばした。
↓
(ルートC)
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子・智機】
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】
415
:
χ−1(情報 2/2)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:52:53
【主催者:ザドゥ】
【スタンス:ステルス対黒幕
①プレイヤーを叩き伏せ、優勝者をでっちあげる
②芹沢の願いを叶えさせる
③願望の授与式にてルドラサウムを殴る】
【所持品:なし】
【備考:重症、発熱(中)全身火傷(中)】
【主催者:カモミール・芹沢】
【スタンス:ザドゥに従う(ステルス対黒幕とは知らないが、変化は察している)】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)
魔剣カオス(←透子)】
【備考:左腕異形化(武器にもなる)重症、発熱(中)、全身火傷(中)、
腹部損傷、左足首骨折】
※芹沢のトカレフ及び鉄扇は、火災にて破損していました。
【主催者:椎名智機】
【スタンス:①【自己保存】
②【自己保存】の危機を脱するまで、透子に従う
③【自己保存】を確保した上での願望成就】
【所持品:スタンナックル、改造セグウェイ、軽銃火器×2、Dパーツ】
【主催者:御陵透子(N−21)】
【スタンス: ①願望成就
②ルドラサウムを楽しませる
③プランナーの意図に沿う】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
軽銃火器(←智機)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』(現状:自身の転移のみ)】
416
:
名無しさん@初回限定
:2010/09/13(月) 00:02:42
ザ ド ゥ 祭 り 継 続 中 !
417
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/09/13(月) 05:53:27
おはようございます。
連日の投下お疲れ様です。
今回の話を収録・編集した所、本スレにて神鬼軍師の本領(8/30)が抜けているのを発見しました。
差支えがなければ本投下したもの及び、既に仮投下されてる分を直ぐにでも収録可能です。
作者さんのレスがあり次第、短時間でUPは可能です。
お待ちしております。
418
:
名無しさん@初回限定
:2010/09/13(月) 21:01:56
>>417
毎度の更新、お疲れ様です。
ご指摘の件、本スレに投下して参りましたので
ご対応の程、宜しくお願い申し上げます。
419
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/09/13(月) 21:53:46
レスと投下どうもでした。
x−1とは予想以上に痛いペナルティ……。
プランナーの底意地の悪さが極まってきた感じです。
それに対してのザドゥの漢っぷりがとても良く胸がすきました。。
智機のケイブリスへの感傷も良かったです。
296話までのSSまとめと地図を更新しました。
パスは negi です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1145095.zip.html
420
:
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:40:29
ご無沙汰しております。
「タクスタスク 〜the final mission〜」は二つ先に回しまして、
以下10レス、「それでも、恭也は答えない。」を投下致します。
次回予定は「ひとりでも、みんなのひとり」です。
また、
>>399
の状態表の恭也の備考に対し、以下の読み替えをお願い致します。
× 【備考:失血で疲労(大)、発熱(大)、右わき腹から中央まで裂傷あり】
○ 【備考:失血で疲労(大)、体温低下(大)、右わき腹から中央まで裂傷あり】
421
:
それでも、恭也は答えない。(1/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:42:01
【タイトル:それでも、恭也は答えない。】
(Cルート・3日目 AM10:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
月夜御名紗霧が纏ったナース服は、無駄にはならなかった。
高町恭也への看病の手が必要になった故にである。
小屋の居間、江戸間八畳。
部屋の中心に煎餅布団が二枚重ねて敷かれており、渦中の恭也はそこに寝かされていた。
紗霧以下四名が膝立ちで恭也を囲んでいる。
「まずは傷口を見ましょうか」
紗霧に促がされ、恭也の上着を脱がせた魔窟堂野武彦が顔を歪めた。
腹部にぐるりと巻かれた包帯が、赤と黒と黄とに染め上げられていた故に。
「これは……」
赤とは、血液である。
黒とは、凝固した血液である。
黄とは、膿である。
包帯を一巻き解く程に、血臭と膿臭の濃度が増してゆく。
室内は悪臭に満ち満ちてゆく。
この時点で、ユリーシャが嗚咽を漏らし、退室した。
「外の空気を…… 吸ってきます……」
422
:
それでも、恭也は答えない。(2/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:43:01
やがて現れた恭也の腹部は、皆が包帯の染みから予想したとおり、
目を覆いたくなる惨状であった。
焼き潰した腹部にある傷口の一部はずるりと剥けており、
その周囲の皮膚がぐぢぐぢに膿んでいたからである。
この時点で、広場まひるが貧血を起こし、退室した。
「ご、ごめん…… ちょっと、だいぶ…… 無理」
月夜御名紗霧も気持ちとしては先の二人に同調したが、なんとか踏み留まった。
「まひるさん、キッチンでできるだけ沢山の湯を沸かしてください」
「らじゃっ、た……」
まひるに指示を出した紗霧は、恭也の口に差し込んであった旧式の水銀体温計を
引き抜き、その体温を読み上げる。
「34.9度……」
「……くたばるのか?」
無神経な言葉を無造作に投げかけたのはランス。
しかし、その響きに篭るのは嘲笑でも無関心でも無い。
不安。心配。
それが伝わる故に、紗霧も野武彦もランスを咎めない。
そしてまた、恭也もランスを咎めない。
咎める事が出来ない。
恭也は意識を失っている故に。
静かに意識を失っている故に。
423
:
それでも、恭也は答えない。(3/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:45:25
表情は穏やかとも言えるほどの無表情であり。
四肢の筋肉はゴムマリの様に弛緩しており。
脈拍呼吸、共に極めて少ない状態である。
この、恭也の容態の急変は、薬品の効能が切れたことを原因としていた。
服用していた鎮痛剤――― モルヒネ混合物。
終末医療の臨床でおなじみのそれは、麻薬でもある。
痛みを和らげる効果にかけては全ての薬品に勝り、
疲労を感じさせにくくする効果もある。
決して、治療効果や回復効果があるわけではない。
つまり、薬のお陰で。
つまり、薬のせいで。
絶対安静にして然るべきの体を、無理やり駆動できたいただけなのである。
高町恭也は。
それを分かって、戦っていたのか。
それと知らずに、戦っていたのか。
意識を失ったままの青年は、どちらとも答えない。
「この状態、ジジイはどう見ます?」
「感染症…… じゃろうな」
熱が出ていれば、まだいい。
免疫系がウィルスを駆除すべく、熾烈な争いを繰り広げている証である。
しかし、傷口がひどく化膿しており、意識すら失っているというのに、
低体温、低生命活動であるということは。
ウィルスに、成す術も無く蹂躙されているということである。
「傷口の洗浄、膿の除去。抗生物質。点滴。……他には?」
「体温の確保じゃろう」
424
:
それでも、恭也は答えない。(4/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:46:49
紗霧と野武彦は言葉少なに意見交換し、素早く処置を決断する。
共に専門的な医療知識は無い。
漫画やライトノベルからの受け売りでしかない。
それでも決断に迷いは無かった。
一刻の余裕も無い状況であると判っている故に。
「ストーブを付けますから、ランスは土間のポリタンクから灯油を。
ジジイには点滴を頼みます」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(Cルート・3日目 AM10:30 D−6 西の森外れ・小屋3)
灯油ストーブの上に乗ったヤカンが、しゅんしゅんと湯気を上げている。
室内気温、32℃。
真夏の日中の気温である。
それでも恭也の熱は戻らない。
傷口は清潔にした上で、軟膏を塗った。
点滴は今も投与中である。
出来得る限りの処置は済ませた。
それでも恭也の意識は戻らない。
紗霧は、見た目にはただ深く眠っているかの如く見える恭也の寝顔を、
ただ、黙って見つめている。
意識を緩めず、注意深く、少しの変化も見逃さぬように。
425
:
それでも、恭也は答えない。(5/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:48:48
「そろそろ出発するけど、他に必要なものってある?」
引き戸を半分だけ開けて、土間のまひるが居間の紗霧に声を掛けた。
「そうですね…… 清潔なタオルと、シニア用紙おむつを」
「タオル、オムツ、タオル、オムツ。ん、覚えた!忘れないうちに行って来ます!」
「メモを取りなさい、メモを」
包帯やテープの類は使い切り、点滴や抗生物質の残量も心許ない。
野武彦は、薬品をはじめとする医療用具の収集を主張した。
紗霧もそれを受け入れた。
故に、魔窟堂野武彦と広場まひるは、廃村を目指すこととなった。
雑貨屋や民家にあると思われる市販の医療品をかき集める為に。
病院跡という選択肢は無かった。
崩落した病院の医薬品が入手できないことは、
病院の放棄を決めた時点で確認を済ませていたのである。
「うおっ! なんだこの暑さは?」
まひるのさらに背後を通りがかったランスが、
開けた引き戸から漏れた熱気に、顔を顰めた。
「この暑さでも恭也さんには足りないんです。
熱気がもったいないので、引き戸は閉めといて下さい」
「紗霧ちゃんも暑いだろう?」
「へっちゃらです。私、冷血ですので」
「そうかぁ、汗かいてるように見えるがなぁ。我慢は体によくないぞ?
ここはひとつ、服をすぽぽーんと脱ぎ捨て…… 冗談冗談!」
426
:
それでも、恭也は答えない。(6/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:53:16
紗霧が無言で振りかぶったのは金属バット。
ランスは慌てて引き戸を閉める。
「暑いのなら外に行って見張りでもしてなさい。
悪いときには悪いことが重なるモノですから、
警戒しとくに越したことはありません」
返事は無かった。
しかし大小二つの足音が玄関の向こうへと移動してゆき、
扉が閉まる音が紗霧の耳に届いた。
それはおそらくランスとユリーシャで。
まひると野武彦は既に出発しており。
小屋の中には、紗霧と恭也だけとなった。
しん、と――― 静寂のベールが、小屋の中に降りた。
紗霧は大きく溜息をつく。
肺の空気を全て吐き出すまで、溜息をつく。
緊張感を解きほぐすべく、頭を振る。
(出来ることは全部やりました)
点滴の交換まであと30分ほど掛かる。
それまでは恭也の状態が変化せぬ限り、紗霧の仕事は無い。
(あとは―――)
427
:
それでも、恭也は答えない。(7/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:54:56
恭也が倒れてからの紗霧は、ずっと思考していた。
感情を意図的にスポイルしてきた。
行動と判断が重要なときには、いつだってそうしてきた。
雌伏と策略の人生を歩んできた紗霧にとって、それは容易いことであった。
しかし、その行動と判断にひと段落ついたならば。
他者の目を気にする必要すら無い状況となったならば。
紗霧ほどの鉄面皮とて、気は、緩む。
その、緩んだ紗霧の目線が、恭也の顔に向けられる。
恭也は変わらず、静かであった。
死体であると言われても納得してしまいそうな顔色であった。
(もし、恭也さんがこのまま……)
紗霧の心が、ざわつく。
名状しがたい焦燥感が、紗霧を襲う。
それを払拭すべく、紗霧が取った行動とは、罵倒であった。
走り出した焦燥感をぶっちぎる程の早口で。
「あなたは馬鹿ですか。いいえ、馬鹿ですね、大馬鹿にきまってます!
いくら鎮痛剤の効果が高かったとはいえ、
こんなになるまで我慢しているだなんて、感覚が鈍いなんてもんじゃありません。
あれですか。
あなたは恐竜か何かですか?
痛みの信号が脳に達するまで一日かかるとでもいうのですか?
神経伝達能力の進化を拒んだんですか?
三畳紀止まりですか?
ジュラ期止まりですか?
白亜紀止まりですか?
どうなんですか答えなさい!」
428
:
それでも、恭也は答えない。(8/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:58:38
その容赦ない罵倒に、なんともいえぬ切なさが宿っていることを、紗霧は自覚した。
焦燥感が晴れるは愚か、逆に深まってしまったことを、紗霧は自覚した。
それまでも、薄ぼんやりと感じていたそれを、紗霧は自覚してしまった。
「違います、違います。私はそんなんじゃあ有りません」
その顔がみるみる赤みを増したのは、決して室温の高さ故では無かった。
紗霧は芽生えたての自覚を振り払うかの如く、頭を左右に強く振る。
―――俺は月夜御名さんを信用していない
―――でも、月夜御名さんという才能を信じることはできます
紗霧の脳裏に浮かぶのは、紗霧と恭也の秘密の契約。
その言葉が、その情景がリフレインされるのは、これが始めての事ではない。
既に何度か。
既に何度も。
紗霧の思考の間隙を突いて、蘇っていた。
「どうですか恭也さん、ケイブリスを完殺できた今。
あなたの評価に変化はありましたか?
私の信用度は…… 少しは上方修正されましたか?」
紗霧の精一杯の少女としての問いに。
それでも、恭也は答えない。
↓
429
:
それでも、恭也は答えない。(情報 1/2)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 01:00:25
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め
①しばらく休養】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:なし】
【備考:意識不明、失血(大)、体温低下(大)、感染症(中)
右わき腹から中央まで裂傷、化膿(中)】
【月夜御名紗霧(元№36)with ナース服】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に
①恭也を看病】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、簡易医療器具、対人レーダー
他爆指輪、簡易通信機・大、レーザーガン(←ユリーシャ)】
【備考:下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】
【小屋に保管のアイテム】
生活用品、香辛料、干し肉、小麦粉、保存食、メイド服
工具、スコップ(小)、スコップ(大)、竹篭
謎のペン×8、文房具、白チョーク1箱、謎のペン×7
解除装置、小太刀、鋼糸、アイスピック
430
:
それでも、恭也は答えない。(情報 2/2)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 01:01:27
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3周辺】
【行動:周辺哨戒】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3周辺】
【行動:廃村にて医療品調達】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)、鍵×4
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【広場まひる(元№38)with 体操服】
【所持品:せんべい袋、簡易通信機・小】
※紗霧の「薬品」とまひるの「救急セット」は恭也に使い切りました。
431
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2011/01/26(水) 19:02:58
新作お疲れ様です。
感想は後ほど。
恐縮ですがこちらも動こうかと思っています。
前とバージョンは同じですがまとめをUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1384163.zip.html
パスワードはメール欄です。
432
:
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:47:57
長時間にわたる本スレへの支援、ありがとうございました。
以下9レス「ひとりでも、みんなのひとり」を仮投下致します。
次回は、「タクスタスク 〜the final mission〜」です。
433
:
ひとりでも、みんなのひとり(1/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:49:04
【タイトル:ひとりでも、みんなのひとり】
(ルートC・三日目 PM2:00 C−6 小屋1跡)
西の森、南端の浅く。
ナミが使用した手榴弾により崩落した小屋は、しおりが最後に見た時と
寸分違わず、無残な断面図を晒していた。
「ここだ…… ここだよぅ!」
その場所が視界に入っただけで、しおりの瞳は潤みを帯びた。
しおりがそこにいたのはたった二日前でしかないというのに、
彼女の胸に去来するのは郷愁めいた感傷であった。
その後の記憶があまりにも激動であり流転であり衝撃であった故に、
その二日前が、既に十年の昔日の如く感じられたのである。
しおりが目覚めたのは午前六時。
己が一人であるという事実を理解しつつも受け入れられなかった彼女は。
一面グレースケールの荒野で、泣きじゃくった。
既に燃えるものが何一つない焼け野原で、炎の涙を撒き散らした。
泣いて、泣いて、泣ききって。
涙も声も枯れ果てて、己の全ての澱を吐き出して。
そして、しおりは立ち上がった。
自分の足で。
自分の意思で。
たった一人で立ち上がった。
434
:
ひとりでも、みんなのひとり(2/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:50:13
(助けてあげなきゃ……)
しおりが最初に欲したのは、最愛の妹・さおりの救助であった。
無論、今のしおりはさおりの死を思い出している。
その死に際の全てを思い出している。
痛みと苦しみに歪めた顔を、訴える声を、思い出している。
シャロンが生きているしおりのみを救助し、
死せるさおりは放置したことを思い出している。
さおりの遺体が未だに瓦礫の下にあることを知っている。
死した後もずっと潰されたままであることを知っている。
死んでからもずっと苦しい思いをしている――― それが、しおりには我慢ならぬ。
故に、しおりはさおりが埋もれる小屋の跡を目指したのである。
しおりは曖昧な記憶を辿る。
そこに入った時は、庇護者・常葉愛に手を引かれていた。
そこから出る時は、陵辱者・伊頭遺作に鎖を引かれていた。
為に、妹の眠るその位置はしおりの記憶に不明瞭であった。
それでもしおりは諦めなかった。
一人きりでいる孤独感に鼻をすすり上げながらも、
何度も迷い、その度にぐずりながらも。
紅涙を散らすことだけはしなかった。
そうして、休むことなく歩きのめすこと八時間あまり。
幸いにしてか不幸にしてか、誰にも出会うことなく。
ついにしおりは最愛の妹が眠る場所へと、辿り着いたのである。
.
435
:
ひとりでも、みんなのひとり(3/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:52:24
「愛お姉ちゃん……」
しおりの目に最初に飛び込んだものは、常葉愛の遺体であった。
元は小屋の入り口があったはずのその場所に、常葉愛は朽ちていた。
剥けた栗色の髪の下に頭蓋骨の白を覗かせていた。
盆の窪に突き刺さった鉄骨は大きく広げた口から突き出ており、
両目は飛び出さんばかりに見開かれていた。
「シャロンお姉ちゃん……」
思わず目を背けた先に横たわっていたのは、シャロンの遺体であった。
元はテーブルがあったはずのその場所に、シャロンは朽ちていた。
首筋に深く歪な創傷がぱっくりと口を開けていた。
陰部には放たれた精液が、蛞蝓の這いずった跡の如く乾いており、
無念とも自嘲ともとれる表情に固まっていた。
そして。
シャロンの遺体の程近く。
数メートルの面積を保った一際大きな瓦礫。
分厚く無機質なコンクリート壁。
その下から覗いていた。
嘗ては紅葉のようであったちいさな右手だけが。
「あああぁああっっ!!」
その手を見た途端、しおりの中の何かがぶつりと切れた。
「こんな壁が!こんな壁が!」
436
:
ひとりでも、みんなのひとり(4/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:53:25
半狂乱になったしおりは、拳を瓦礫に打ち下ろした。
何度も何度も叩きつけた。
そこに技術は無く。基本すら無く。駄々っ子のぐるぐるパンチでしかなく。
柔い童女の皮膚はすぐさま裂け、鮮血が瓦礫に降り注いだ。
それでもしおりは叩いた。
有り余る怒りの感情を拳に乗せ、瓦礫にぶちまけた。
しおりが二日前のしおりであれば、そこで終わりであった。
硬く重い瓦礫に成す術もなく、拳が砕けるのみであった。
しかし、今のしおりは力なき童女ではない。
鼠の耳と、髭と、尻尾を有し、涙と共に炎を身に纏う【凶】である。
拳が壊れるのと同じ速度で、瓦礫を削り崩す力がある。
数分後。
そうしてしおりの両拳と瓦礫とがボロボロに崩れ。
ついに下敷きとなっていたさおりの全身が、姿を現した。
「さおりちゃん……」
右腕と、下半身。それが、醜く潰れていた。
自転車に引かれたカエルよりも尚醜くくひしゃげ、下品に広がっていた。
血溜まりは既に黒く凝固していた。
一度鬱血で膨らんだ顔面は、死後の血液凝固を経ることで再びしぼみ。
かといって一度膨れ上がった表皮は元に戻らず、空気の抜けたゴムマリの趣を見せ。
セルライトの如き数多の皺とひび割れを刻んでいた。
しかも、大小の死斑が至る所に浮き出ている。
人が死体について想像の及ぶ醜さ、不快さの全てが、さおりの遺体には備わっていた。
幼い容姿が、その惨たらしさに拍車をかけている。
437
:
ひとりでも、みんなのひとり(5/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:54:22
よほど親しい者でなければ、それがさおりと呼ばれた童女であると気付かぬであろう。
よほど親しい者ならば、それがさおりと呼ばれた童女であることを認めたがらぬであろう。
「ごめんねぇ!ごめんねぇ!」
その無残な遺体を、しおりは抱きしめた。
遺体は黙して、語らない。
「しおりのせいでぇ!」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
ナミの手榴弾による小屋の崩落。
すぐ隣から倒れ掛かる無骨な壁。
その時しおりが取った行動は、目を閉じ耳を塞ぐことであった。
命の危機を察知しながらも、それだけしかできなかった。
恐ろしさの余り、身が竦んでしまったから。
本来なら、そのまま壁の下敷きになるはずであった。
庇護者たる常葉愛と同行者クレア・バートンは玄関の傍。
童女の危機を察知し、救いの手を伸ばすには距離がありすぎる。
絶体絶命。
死を覚悟したしおりではあったが、それでも救いの手は伸ばされた。
「しおりちゃん、危ないっ!」
救い主の名は、さおり。
彼女は、しおりの双子の妹。
彼女は、しおりの愛すべき半身。
438
:
ひとりでも、みんなのひとり(6/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:55:53
さおりは小さな体をいっぱいに広げ、しおりと柱の間に身を投じた。
計算も自己犠牲もない、打算も勝算もない、衝動的な行動であった。
ただ、体が動いた。
姉を守る―――
それだけであった。
ぶつかったさおりの背に、目を白黒させるばかりであった。
弾かれた勢いでよろめき、背後の箪笥にぶつかり、倒れ込んだ。
思考を進める余裕は、頭脳にも時間にもなかった。
妹が自分を庇おうとしたのだと理解するのが精一杯であった。
「えっ? えっ?」
結果として、この転倒がしおりの命を救った。
壁は、しおりの背後にある箪笥を潰しきれなかったのである。
潰しきれぬ箪笥の高さの分だけ、空間が生まれたのである。
倒れていたしおりは、それ故にこの空間にすっぽりと収まることができた。
さおりの苔の一念が、岩を通したのである。
さおりは、しおりのより手前に立っていた。
故に、箪笥の恩恵を受けることなく、壁の強打を受けることとなった。
その下半身を潰されることとなった。
それでもさおりは。
『よかった。しおりちゃんは無事だね……』
鬱血で赤く膨れた顔に笑顔を作り、姉の無事を喜んだ―――
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
439
:
ひとりでも、みんなのひとり(7/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:56:50
あとからあとから溢れる涙は炎となり。
遂には抱きしめたさおりの衣服に燃え移る。
「さおりちゃんは、しおりを守って、死んじゃった」
脂が溶ける臭いがする。
肉が燃える臭いがする。
骨が焦げる臭いがする。
しおりの腕の中で、さおりは態を変えてゆく。
全ては灰と煙と化してゆく。
しおりは、その妹の亡骸を見てはいなかった。
漸く晴れ間を見せつつある空へと吸い込まれるように昇ってゆく煙を見上げていた。
それは、葬儀であった。
しおりが出来る精一杯の弔いであった。
「しおりの命は、さおりちゃんがくれた」
そう。
さおりがその身を盾にしおりを守らなければ。
今、しおりはここにいないのである。
しおりは弔いの中で、ようやくそのことに思い至ったのである。
そしてまた―――
「さおりちゃんだけじゃ、ない」
しおりは回顧する。
この残虐の島で目覚めてからの、己の道程を。
しおりは理解する。
この残虐の島にも、優しい人が沢山居た事を。
440
:
ひとりでも、みんなのひとり(8/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 01:00:27
「愛お姉ちゃんが。シャロンお姉ちゃんが。鬼作おじさんが。マスターが。
ここに居なければ、しおりは殺されてた。
しおりはみんなに、命を貰ったんだ」
しおりは何度も死に掛けた。
しかし、今、ここに生きている。
それは、この童女の力に拠るものではない。
あまりにも弱かった彼女を守ってくれた存在の尽力に拠るものである。
彼女を守り、命を落とした、いくつもの命。
その犠牲の上に、彼女はここに立っている。
今、一人でいるしおりは。
今まで一人でなかったからこそ、存在しているのである。
一人ではあれども、一人ではない。
それはしおりにとっての天啓であった。
内から湧き上がってくる原初の感謝であった。
「しおりの命は、しおりだけのものじゃない。
しおりを助けてくれた、しおりのためにしんじゃった、みんなのものなんだ。
だから―――」
しおりは己の半身を己の腕の中で、己の涙で、荼毘に付す。
その可憐な口から紡ぎ出されるは、惜別の言葉ではなく、誓いの言葉。
「―――勝つよ。しおりはぜったいゆうしょうするよ!」
↓
441
:
ひとりでも…(情報1/1)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 01:01:06
(Cルート)
【現在位置:C−6 小屋1跡】
【しおり(№28)】
【スタンス:優勝マーダー
① さおり、愛、シャロンを火葬する】
【所持品:なし】
【能力:凶化、紅涙(涙が炎となる)、炎無効、
大幅に低下したが回復能力あり、肉体の重要部位の回復も可能】
【備考:獣相・鼠、両拳骨折(中)、疲労(中)
※ 拳の骨折は四時間ほどで回復します】
442
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2011/01/30(日) 18:20:49
新作&本投下お疲れさまでした。
ようやくさおりや愛が弔われたけど、今のしおりを見てると鬱に加速をかけかねないと
思えてしまうのが何とも……。
この度、297話までのまとめをUPしました。
パスはnegiです。
また今週に。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1392556.zip.html
443
:
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 23:51:09
今後の投下について。
スレの最大容量は500kbで、本スレの現在容量が484kbです。
次に投下する「ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜」は32kbです。
容量不足となります。
この場合、本来であれば新スレを立てるべきなのですが、
Cルートしか動いていない現状で、自分一人のSSのためだけに
スレ立てすることの是非について、迷っております。
そこで、特に反対がないようでしたら、下記の対応に変更したいと思います。
--------------------------------------------------------------------------------
1.Cルートに関しては、このスレ(避難所)で進行する
2.ネギ板の本スレでは、Dat落ちするまでの間こちらの投下状況を報告する
↓ こんな感じで
Cルート 第305話 「ひとりでも、みんなのひとり」
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/15097/1270308017/433-441
--------------------------------------------------------------------------------
ご意見ございましたらお願いします。
また、A、Bルートが再開された場合、その意思の表明があった場合は、
新スレを建て、今まで通りの進行でゆきたいと思います。
では、「タクスタスク 〜the final mission〜」、投下致します。
444
:
タクスタスク 〜the final mission〜(1/6)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 23:59:37
(ルートC・三日目 AM10:00 D−7地点 村落)
火災の鎮火を完全に終えた時点で生き残ったレプリカは九体。
うち、破損少なく、機動/思考に差し障り無いのは六体。
Dシリーズは予定通り全滅している。
この、当初の予想を上回る損耗は、二点の予想外の事態を主要因としていた。
原因の1―――
四機のレプリカが作戦最初期の最も人手の要る状況下で原因不明の消失を遂げたこと。
原因の2―――
本拠地の破壊放棄の為に森林全体を俯瞰したオペレーティングが出来なくなったこと。
「まあ、どちらもオリジナル殿に足を引っ張られたということか。
まったく【自己保存】とは度し難い」
本拠地破壊廃棄の経緯は言わずもがなであるが、今の代行は
初期の四機のロストについてすらも、一部始終を把握できていた。
P−4及びN−48、N−59の三機が、減退復帰したためである。
クラック時の記憶を残していた彼女らの証言によって、
オリジナルの陰謀は明るみにでることとなったのである。
その、N−48とN−59も、既にスクラップと化していた。
「さて代行殿。状況の検証が終わったところで、次なる指示を頂きたいのだがね?」
「Yes、そうだな……」
哨戒型レプリカP−4に促された代行機N−22は、集う八体の顔を順に眺める。
眺め終えて発した指示は、おおよそ司令官の分を超えた理不尽な指示であった。
「N−53、111、116の三機を、破壊することにしようか」
不思議なことに、動揺もどよめきも発生しなかった。
壊す側も壊される側も、従容として受け入れた。
「壊れるなら完璧に壊れなければね。
またぞろ良からぬ事を企むオリジナル殿などに、
決して再利用されないように」
なぜならば、レプリカ達の最優先事項は【ゲーム進行の円滑化】。
自己保存の欲求も、同僚への友誼も、全ての評価点はそれを下回る。
故に代行のこの命令は破綻していない。
機械には機械のルールがある。
これは決して残酷な話ではない。
「Yes、代行殿。当然の判断だね」
破壊は、拾った石にての殴打という、非常に原始的な手段で行われた。
分機たちは、二挺の銃を持っていたにも関わらず。
樹木の伐採に用いた、斧や鉈が揃っていたにも関わらず。
理由があった。
代行が指示を出さずとも、残存全智機は次なる行動を予測していた。
同一の思考ルーチン、同一の優先事項を抱く分機たちにとって、
予測の一致は必然であり、確定であった。
恐らくはそれが最後となる、ミッション。
ゲーム進行を円滑化させる為の、最後の戦い。
その為に武器の類を消耗させてはならぬと、認識は統一されていた。
445
:
タクスタスク 〜the final mission〜(2/6)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/31(月) 00:04:50
「代行殿。センサーに反応あり。接近者、二名」
「固体識別は可能か?」
「プレイヤー№12・魔窟堂野武彦と、№38・広場まひるだね」
「Yes。ならばこのままファイナルミッションに移行する。
―――演目開始!」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(ルートC・三日目 AM10:15 D−7地点 村落入り口)
駆けている。
魔窟堂野武彦と広場まひるが道路をひた走っている。
彼らが村落へと向かっているのは、意識を失いし戦友・高町恭也の
治療継続に不可欠な医療用品を収集する為であった。
「あのさ、じっちゃん」
「なんじゃまひるちん?」
互いの呼称に変化が生じたのは結束と信頼を深めたが為。
命を預けあい、一つの戦いを乗り越えた彼らの間には、確かな絆と気安さが芽生えていた。
「たぶんね、村に、ロボ智たちがいるよ」
天使という名のケモノ所以の超嗅覚・千里眼。
まひるのその高性能レーダーが、村落の北端付近に活動するレプリカ智機たちの存在を
敏感に捉えたのである。
「やれるかの?」
「所詮ロボ子、恐るるに足らず!」
野武彦の問いに、まひるは自信ありげに答えた。
瞳は揺るがず、口許には笑みすら浮かべていた。
昨晩のケイブリス戦にて、理性を失わずに戦う自信を獲得したが故に。
しかも、敵は人間に非ず、生物に非ず。機械である。
傷つけるのではなく壊すだけである。
であれば、まひるに恐れる理由は無い。
「では、行こうかの!」
野武彦は腰の45口径を引き抜いた。
まひるは前傾姿勢で右手を前に伸ばした。
「敵襲ッ!」
しかし、奇襲は失敗した。
まひるが超野性を備えるのに同じく、智機たちもまた超科学を備えている。
ソナー・レンズの倍率は、人間の十倍以上に値する。
まひるの察知に遅れること2秒。
レプリカ智機たちもまた、野武彦とまひるの接近に気づいたのである。
「No!この損耗著しい時にか!?」
「バッテリーは行けるか?」
「バトルモードで3分強!」
「Yes、ならば戦闘だ!」
446
:
タクスタスク 〜the final mission〜(3/6)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/31(月) 00:08:39
リーダーと思しき一機が、腕を振り上げ、戦闘指揮にかかる。
しかし、その号令に従う機体は皆無であった。
「No、代行。その命令は無効だ。我等の最優先すべきタスクは何だ?
その大事なスイッチを、無事オリジナル殿に届けることだろう!」
「Yes!だからこそ私はプレイヤーどもにスイッチを奪われぬ為に、
迎撃を命じているのだが?」
「重ねてNoだよ代行殿。残念ながら我々の戦闘力では、
あの二人を撃退できない可能性が非常に高いと試算されている」
「では、どうしろと?」
五体のレプリカが二歩、前に出た。
横一列に整列した彼らの隊形は、リーダーらしき機体を匿う壁の如しであった。
「「「「逃げろ、代行殿!」」」」
すぐさま総力戦が始まると予測していた野武彦とまひるにとって、
この戦局の変化は予想外であった。
予想外故に機先を制される――― かと思いきや。
分機たちもまた、意思の不疎通により、機を掴み損ねていた。
「しかし……」
「No、貴機だけは逃げ延びねばならないのだよ。
オリジナル殿にスイッチを渡さねばならないのだから」
「さあ行き給え。オリジナル殿が待つ灯台跡まで。
我らを代表して、そのタスクを達成してくれ給え」
「その為に我ら四機、盾となろう!」
「P−4、ジンジャーは2台ある!
最も乗りなれている貴機が代行殿に併走し、万一の護衛となり給え!」
「Yes。 行くぞ、代行殿!」
壁となっていた五機のうち一機が後方へと退き、逡巡を見せる代行の手を引いた。
引いた先の民家の壁には、二機のジンジャーが立てかけてあった。
「……貴機らの献身、無にはしないよ!」
「お達者で、代行!」
代行は胸に去来する思いを振り切ると、壁と立ちふさがる四機に背を向ける。
P−4がすぐさまカスタムジンジャーを代行に差し出し、代行は無言でそれを受け取り。
二機は並んで村落の東へとジンジャーを走らせる。
「じ…… じっちゃん! ロボ智さん逃がしていいの?
大事なスイッチとかオリジナルとか言ってたけど……」
「そうじゃな…… そのスイッチが何の為にあるのかはわからんが、
決してわしらの為にはならんモンじゃろて。 しかし……」
鉄の壁となるを決意している四機のレプリカ達は、
その手に斧や鉈を持って、野武彦たちへと詰め寄ってくる。
野武彦はその四機とまひるとを交互に見やる。
眼差しには不安と心配が宿っている。
それを、まひるは断ち切った。
「加速装置…… あれ使えば間に合うよね?」
「しかしまひるちん、一人で四機の相手とは……」
「レベルアップしたまひるちんのパゥア、甘く見んなぁ?」
「……すぐ戻ってくる。 無茶はするなよ!」
「一度は言ってみたかったこのセリフ! 『ここは俺に任せて先に行け!』」
447
:
タクスタスク 〜the final mission〜(4/6)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/31(月) 00:13:31
まひるの表情に不安の色が無いことを察した野武彦は、
カチリと奥歯を噛み合わせ、風と同化し、消えた。
人ならざるペンタグラムの瞳を持つまひるの動体視力を以ってしても、
加速状態にある野武彦のうしろ姿は捉えられなかった。
「N−55、59、魔窟堂を止めろ!」
「おっと! じっちゃんは追わせないよ!」
獣ではない。昆虫の姿勢で。
まひるがN−55の背後に回り込む。
ざわめく異形の爪が、猫のそれの如く、じゃきりと伸びた。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
数々の激戦の舞台となった病院跡の付近。
最高速40Km/hを誇る二台のカスタムジンジャーは、
島唯一のアスファルト舗装を施された道路を東へとひた走る。
その後方からタン、タンと。
グロック特有の軽く乾いた発砲音が響き渡った。
「四機が二人を抑えてくれているようだね」
「Yes。 彼女らの犠牲を無駄には……」
出来ないね、と。
そう続くと思われたP−4の言葉はかき消された。
454カスールの発した、獰猛な発砲音によって。
「確かにお前さんのジンジャーは速かった……」
P−4の搭乗するジンジャーは緩やかに速度を落としつつ道路を外れ、
運転者を振り落とすと同時に、横転した。
P−4の胸からは白煙。
拳より大きな穴が、その胸に穿ちぬかれている。
「だが日本じゃあ二番目じゃな」
「……な?」
代行の走る前方に、魔窟堂野武彦がいた。
代行の進路を塞ぐが如く、仁王立ちしていた。
夕焼けの書割をバックに、銃口の硝煙に息を吹きかけ、カッコつけていた。
往年の、親友の仇討ちに燃える万能名探偵になり切っていた。
その余裕に、遊び心に。
代行は、自らの運命を悟った。
「加速装置、か……」
「いかにも」
「万事窮す、か……」
「いかにも」
「で、あれば……」
代行は胸ポケットから分機開放スイッチを取り出すや、それを大きく振り上げる。
「ならば、いっそ!」
敵の手に渡るくらいならばと思い余って。
振り下ろし、叩き付け、破壊してしまおうとしている。
代行の動きをそう受け取った野武彦は、再び奥歯を噛み鳴らす。
448
:
タクスタスク 〜the final mission〜(5/6)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/31(月) 00:23:09
空間が白黒反転する。音と臭いが消える。
野武彦ただ一人しか入門できない、超加速の世界が幕を開ける。
野武彦はコールタールに浸かったかの如き緩やかな動きを見せる代行機に、
数多の残像を残しながら詰め寄って。
振り下ろし始めたばかりの代行の手から、見事スイッチを奪い取る。
「ズバっと参上!」
そのまま五、六歩走りぬけ、野武彦は反転。
代行N−22に再び向き直ったところで、加速の世界は幕を閉じた。
N−22の腕は何も握らぬまま、ただ空気を地面に叩き付けていた。
「それを返せええええ!!」
スイッチを奪われたことに気付いたN−22は、絶叫と共に野武彦に踊りかかる。
野武彦は、既に中腰にて454カスールを構え終えていた。
「ズバっと解決!」
決め台詞と共に、轟砲一声。
代行機の、人であれば心臓があろうかという位置が、左腕ごと吹き飛んだ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「じっちゃん、間に合ったみたいだね!」
「おお、まひるちん! やつらはどうしたのじゃ?」
「ザ・瞬☆殺!」
「いやはや、ほんとうにレベルアップしたのう!
戦う愛らしき女装少年! よいよい!」
「うがーっ! 少年じゃないんだってばさ!」
N−22は、まだ壊れ切っていなかった。
とは言え、N−22の残り稼働時間は、すでに一分を切っていた。
自発的な行動は不可能。
唯一生きている聴覚を持って野武彦たちの会話を拾うのみである。
「あれ、ノートPCなんて持ってたっけ?」
「このリーダー椎名の荷物じゃ。 何かよい情報でも入っておれば良いがな」
スイッチを奪われ。
武装を奪われ。
PCを奪われ。
一矢すら報いることなく。
脅威すら与えることなく。
同胞を犬死にさせ。
今、自らも、終わりのときを迎えようとしている。
しかし、彼女の胸を満たすのは敗北感でも後悔でも無い。
達成感、である。
(我々からのギフト、心置きなく活用してくれ給え……)
そう。
オリジナル智機が覚醒するキーとなる分機開放スイッチを守らせ、
残存するアイテム群やゲーム裏情報ををプレイヤーに譲り渡す。
これこそが、分機たちのファイナルミッションであった。
449
:
タクスタスク 〜the final mission〜(6/6)(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/31(月) 00:30:45
代行は演算した。
これまでの智機本機の策謀やプレイヤーたちへの関わり方をシミュレートした。
結果、プレイヤーたちには自分の言葉は信用されないとの解が返された。
素直に託そうとしたならば、プレイヤーは拒絶するであろう。
理を語り言葉を尽くして交渉しても、事は同じであろう。
仮に受け取って貰えたとしても、猜疑心は拭えないであろう。
であれば。
奪わせればよい。
野武彦とまひる。
この二名が相手であったことは、代行らにとって僥倖であった。
小屋組の中で単純、かつお人良しのツートップである彼らであればこそ、
レプリカ達の愚にも付かぬ三文芝居にまんまと騙され、
戦闘の手を抜かれたことにも気付かぬまま、
ほくほく顔で物資を略奪していったのであるから。
代行の手の平の上で、完璧に踊ってくれたのであるから。
(魔窟堂野武彦はスイッチを叩き壊す行為を見過ごさず、わざわざ奪い取った。
これはオリジナル殿に使用させないように、守ってくれることの証明だね。
Yes! もう、後顧の憂いは一切無くなった!)
代行の胸の孔の奥から、熱した鉄板に水を差すが如き音が、小さく聞こえた。
それは、マザーボードに漏れた冷媒が侵食し、回路短絡を起こした音であった。
機械としての死を告げる音であった。
(これにてファイナルミッション、無事にコンプリートだ)
こうして、椎名智機のレプリカ170機最後の一体が、沈黙する。
プレイヤー達が見事に主催者達を殲滅し、ゲームが円満終了する確信を抱いて。
↓
(ルートC)
【現在位置:E−6 病院前道路 → E−7 廃村】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【スタンス:廃村で市販薬品をかき集める】
【所持品:軍用オイルライター、鍵×4、簡易通信機・小(←まひる)、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、454カスール(残弾3)】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:廃村で市販薬品をかき集める】
【所持品:せんべい袋】
※レプリカ智機は全滅しました
※灯台跡に主催者たちが潜伏しているらしいと知りました
※以下の道具を、レプリカ達から入手しました。
※カスタムジンジャー×2、グロック17×1、手錠×2、斧×3、モバイルPC、
※USBメモリ、簡易通信機素材(インカム等)一式×5、鉈×1、分機解放スイッチ
※USBメモリ、モバイルPCの中身は未確認です
450
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2011/01/31(月) 01:03:41
>>443
新作お疲れ様です。
今週の金曜日までに16kb以下の新作をここに仮投下する予定です。
もしそれまでに間に合わなければ、2で進行すればいいと私は思います。
こちらのまとめはここで本投下宣言していただければ、それに対応いたします。
期限過ぎた場合、こちらが作品投下できても相当数(5作品以上)できないと
本投下は考えませんので、氏の好きなように進めていってOKです。
451
:
無題(1)
◆ZXoe83g/Kw
:2011/02/04(金) 07:00:11
>>223-237
(Aルート:二日目 PM6:33 D−6 西の森・小屋3)
小屋の中に殺気は今は感じられない。
あるのは喧騒。
ランスとレプリカ智機P−3の色欲に彩られた息遣いと、紗霧の静かな呼吸。
そして5人の戸惑いに彩られた呼吸と嘆きが入り交じったもの。
「マジですか?」
動揺が混じった声色でまひるが誰に向けるもなしに呟いた。
返事をするのも面倒という感じで紗霧は無言で視線を送る。
「がはははは、いい方法じゃないか紗霧ちゃん」
上機嫌のまま、その展開がさも当然であるかのように
ランスはP−3への愛撫を続ける。
P−3は快楽に抗いながらも、交渉をしようとするができそうになかった。
452
:
無題(2)
◆ZXoe83g/Kw
:2011/02/04(金) 07:01:04
ユリーシャは不機嫌なまなざしを隠そうともせずに問う。
紗霧は自信ありげに口元を歪ませ、不敵なまなざしで応える。
他の3人は困惑しながら、4者を眺める。
「椎名さん、行為に没頭するのは結構ですが、貴女の返事はどうなんですか?」
「う……うう、ランスくん少し止めてくれないか……んぐっ」
ランスは指の運動を止めようとしない。
「ランス、ここで終わってもいいんですか?」
威厳のない可愛らしい、
ただどこか凄みと殺気を帯びた声で紗霧は行為を制止しようとする。
「ああ早く済ませてくれ、智機ちゃんも待ってるからな」
「……だれ、が」
紗霧は頷き、それに魔窟堂と恭也は安堵した。
ユリーシャは目に色はそのままに紗霧とランスらを交互に見つめていたが
まひるが心配そうに見ているのに気づき、とっさに平静を装った。
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