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負ケ戌共 −マケイヌドモ−
31
:
ムツ
:2013/01/04(金) 10:49:14 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
負ケ戌共 −マケイヌドモ− 【二十八】
その老人は、池の中から無理矢理東を引っこ抜くと、水で濡れたベタベタの体でその場に立たせる。
「誰?」と言いたげな顔で東が老人を見下ろしていると、上目遣いで老人はにっと笑い出した。
「また派手にヤったらしいのォ〜、新入ぃ〜…」
廊下に座って、縁側を眺めながら老人は高笑いする。「ウウ…ゴメンナサイ……」半泣き状態で東が言うと老人は「何故、謝るゥ〜」と返してきた。
「………大の男たるもの、こんな小童にヤられる様ではこの先見えん!何よりまだ新入りの、童にヤられる時点でそれは童の勝ちじゃ……。誇らんかい!」
ポンと咄嗟に背中を叩かれ、体を弾ませる東。それを見て、驚いたような顔でまた高笑いする老人。
「……鋼獅郎に訊いちょるぞ………。童……人間恐怖症らしいな………ん?儂も投げ飛ばしそうか?」
そう言いながら東の手に重なってくる老人の小さな手。東が驚いてスグに老人を見ると、白い綺麗な歯を見せて老人は笑っていた。
「儂も飛ばしそうか?ん?」
笑いながら言う老人の発言に東は首を横に振る。何故だろうか。この人には全く恐怖が沸かない。
東が老人の暖かい小さな手に触れていると、老人は東の額をコツンと啄いた。
「なぁに、焦るこたぁない。儂に触れたんじゃ、他んモンにもきっと触れられるようになる……。安心しちょれ、儂が保証する!」
ドンッ、老人は勢いよく自分の胸を叩いた。
名前も知らない老人だが、妙に頼りがいのある優しい人だと東は感じた。
32
:
ムツ
:2013/01/04(金) 11:15:18 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
負ケ戌共 −マケイヌドモ− 【二十九】
老人が東と話している間、鋼獅郎は近くに部屋に身を潜めてその話を聞いていた。
特に隠さないきゃいけない理由があるわけではないが、体が咄嗟にそうした。
聞いていて、東と老人の話は他愛もない話だったが、どこかで話に聞き入ってしまった。
「童はなんで四本も刀持っちょるや?」
「その白髪うっとおしくないんか?」
「どっから来たんや?」
など。ほとんど、老人の一人喋りだったが、東はその質問に適切な答えを返していた。
それを聞いていた方の、鋼獅郎としては何で東をベタベタのままにしているのだと、半キレ状態。
「…………そう言えば……。お爺ちゃん誰?」
やっと東の方から聞いたかと思うと、聞くのが突発的に遅い話題。
「ん?儂か?…儂は鋼獅郎……あの黒と茶色のめっぽう変わった髪色の長髪頭のお爺ちゃんじゃ……。童もお爺ちゃんと読んでエエぞ?」
腕を組んでそう言うと、東は「ふ〜ん…」と鼻で返す。
そこからは沈黙の嵐しがその場を被った。その光景にも鋼獅郎はメンドクセェと内心イラついていた。
最終的にため息を零しながら、部屋から出て二人が並ぶ所にまで行き、老人に声をかけると「シィ――!」と老人が自分の口に人差し指を立てて鋼獅郎を制した。
「何だ?」そう思って、東を見ると…寝ていた。
「スゥ――…スゥ――…」と整った寝息を立てて眠る東を鋼獅郎と老人は苦笑しながら見つめた。
33
:
ムツ
:2013/01/04(金) 16:02:20 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
負ケ戌共 −マケイヌドモ− 【三十】
青白い光が道場に差し込む中。一人の青年が竹刀を上下に降っていた。所謂(いわゆる)自主錬という物だ。
長いツヤのある黒髪を一つに結んだ、肌白の青年。
頬に垂れる汗は大粒になって床に垂れる。
青年しかいない、道場に「ブンッ、ブンッ」という音だけが連呼する。
何回か素振り終えると、青年は竹刀を下ろし、どこか遠くを見るような目になる。
「………一体、一人で隠れて何をしている」
青年が凛とした声で言うと、屋敷に行く扉の方から偉三郎が笑いながら出てきた。「やっぱ、バレてた?」両手を曲げて、後頭部にくっつけて言うと青年は汗を着物の袖で拭き取る。
「……一体何をしていたんだと聞いている。答えないならさっさと部屋に戻れ……」
「釣れないなぁ〜……。良いじゃねぇかよ、別にぃ〜…!人の稽古は見ちゃいけないってか?」
トコトコと青年に近付いてくる偉三郎。それを厳しい目で睨む青年。
「……用がないなら、失せろ…。殺すぞ……」
青年が目を鈍らせて言うと、偉三郎は手を肩の位置まで上げて「おぉ〜、怖ッ!」とわざとらしく発言する。
「一架(いっか)さぁ〜…新入の東の事、嫌いだろ?」
青年の瞳が月明かりに反射して先ほどよりも倍に鈍く光る。「………俺は男女問わず好きじゃない。…だが、あの白髪は……」青年は偉三郎から目をそらす。
「………今まで見てきた奴以上に嫌いってか?…かぁ〜、コレだから人間恐怖症人第一号は……」
大げさに言う偉三郎に、青年はピクリと目を引きつらされる。「俺とあの愚物者を同等で見るな。殺すぞ」顔を向けて青年がそう言うと、偉三郎はもう一度「おぉ〜、怖」を口にする。
「……そんなにアイツが嫌いなら…勝負してみればぁ〜?若頭側近第二号のお前ならアイツといい勝負かもよ?」
何気に言ったその言葉に、青年の眉がハの字になる。それを見逃さなかったのか、偉三郎は追い打ちを掛けるようにクスッと笑ってみせる。
「明日、楽しみにしてるよぉ〜!一架くぅ〜ん…」
手を振って去っていく偉三郎の背を青年は怪訝な顔で睨みつけた。
34
:
ムツ
:2013/01/05(土) 15:26:55 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
負ケ戌共 −マケイヌドモ− 【三十一】
麩から、朝の日差しが部屋に差し込む。
暖かいその日差しは鋼獅郎の目元を照らして朝を知らす。
「ん…っ」かすかな声を上げて目を開けると、瞳を照らす光がより強いものになる。
「……んぁ〜………朝か……」
そんなことをボヤいて体を上げると、不意に自分の横に目線が行った。そして息を呑んだ…。
知ってる奴だけど、有り得ない奴が自分の横にいる。
「……………何で東が此処っに………?」
自分の横で身を丸めて眠っている白い塊。じゃ、なかった…。自分の横で身を丸めて眠る東。
何だコイツ。何でコイツ?人間恐怖症のコイツが何で?
頭が大混乱に陥っていると、昨日の記憶が蘇ってきた。
爺さんの肩で東が寝出して、濡れてるしこのままじゃ風邪ひくし……
そう思って、東を風呂に入れて、部屋に連れてこうとしたらコイツの部屋まだ無いじゃんということに気づいて…
仕方なく部屋が開くまで自分の部屋に置いておこうかなって思って、布団に寝かしてたら自分も眠くなって………
そこまで思い出すと鋼獅郎は自分の顔に手を当てた。
起きる前にどっかやらないと俺死ぬわ……。そう思って、東の顔を覗き込むと……――
――起きてた……。
「………っあ…」
『…………僕に近寄るなぁぁぁぁぁぁあぁぁァァァァアアアぁ!!!!』
35
:
ムツ
:2013/01/05(土) 16:57:31 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
負ケ戌共 −マケイヌドモ− 【三十二】
朝一に。道場に脚を運ぶと、流石に誰も居なかった。
鋼獅郎は先ほど東に飛ばされせいで、地面にぶつけ、たんこぶを作ってしまった頭をさする。
「……あぁ〜、イってぇー……」
そんな愚痴を零したところで誰が聞いている訳でもない。独り言というよりは只の憂さ晴らしのような音量で愚痴を零す。
玄関まで行って木の引き戸を横に引くと、先程よりも倍の暖かく眩しい日差しが自分を照らす。
そこで大きく伸びをすると、一日が始まったと自覚が湧いてくる。
踵を返して道場を通り、屋敷の方に戻る間、今日はあぁしてこうして、と自然に予定が思い浮かばれてきた。
面倒臭いなぁ。そう思って道場を抜けた時。
「………っお……」
目の前に一人の青年が竹刀を片手に立っていることに気付く。
自分と同じく長い髪を一つ結びにしている、気品の高い青年。その白肌にはきっちり記憶がある。
「どうしたんだよ、一架。…こんな時間から稽古か?少しは休めよぉ〜…?」
一架と呼ばれた青年は愛想笑いを自分に向ける若頭を楽に受け流して道場に進む。
「…ッタク……こっちは心配してやってるっつゥのに…」
そんなことを思って一架の背中を見ると、既に素振りを始めていた。
36
:
ムツ
:2013/01/05(土) 17:48:41 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
負ケ戌共 −マケイヌドモ− 【三十三】
東は鋼獅郎の部屋の隣にある、鋼獅郎の祖父、幸代−源流(ゆきしろ−げんりゅう)の部屋に訪れていた。否、退散していた。
部屋には源流一人しか居ないことにホッと息をつく。
「まぁ〜た、今日も派手にヤったみたいじゃなぁ〜…」
東が部屋に入るなり、源流はまずそのことに話を当てた。
きっと、先程の鋼獅郎を投げ飛ばした件だろう。
「………ゴメンナサイ……………」
聞こえるか聞こえないかの微妙な声の謝罪に源流は「何を言うかぁ〜…」と笑い返す。
「あぁ見えて鋼獅郎は童に飛ばされるの、好いとるやもしれんぞ?」
そう言う源流を「えっ?」と言いたげな顔で東は見つめる。
「アイツは心と顔だけは広いんじゃぁ…良い様に思っとらんでも、嫌じゃとは思っとらん…!」
腕組をして笑う源流の前に東は腰を下ろす。半開きの目で畳の床を見ていると、額をまた「コツンッ」とつつかれた。
顔を上げるとそこには歯を剥き出しにして、笑っている源流の顔が見える。
「人なんぞ気に入らんかったら投げ飛ばしてしまって良いんじゃよ…。無理に重ねる我慢こそ、吹き出たら厄介なもんじゃ…」
源流はそう言いながら、東の額をつついた手を頭の上にのっけ撫で回す。
頬を少し赤らめると、東は少しほくそ笑んでコクンと頷いた。
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