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小さな街の中で。
15
:
とある人
:2011/04/10(日) 16:17:23 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
009
「久しぶりにお邪魔しまーす。」
雄哉は博也と一緒に彼の家に入る。
「久しぶりだね、雄ちゃん。」
迎えてくれたのは博也の母親だった。
「ども、お久しぶりです。」
「しばらく見ない間に大きくなったね。」
「せいぜい一ヶ月くらいですけど。」
博也が雄哉に近寄り、彼を見下ろす。
「何?」
博也は答えない。
「なんだよ。」
しばらくして、彼はやっと口を開いた。
「百三十八センチ。小学四年生の平均身長。いつも通り二年遅れの成長だな。」
「うるせえ!余計なことを言わなくていい!」
雄哉は博也の頭をぺしっと叩く。
「ところで、雄ちゃんは今日ご飯食べていくの?」
博也の母親・・・面倒くさいから博也母でいいや。博也母は言う。
「ええ、頂きたいです。」
「分かったわ。ご飯大盛りがいい?」
「いえ、普通でいいです。」
そう、と博也母はいい、台所に戻っていった。
「ホントはたくさん食べたいんじゃないのか?遠慮しなくたっていいんだぞ?」
「俺が食べたいのは肉とか魚とかだ。」
「どうせ小さいんだから食べなくても同じじゃねえか?」
「てめえ!」
二人は格闘を始める。
しばらくどたばたやっていると、
「うるさいよ、近所迷惑だよ!」
という声が聞こえた。二人が声の方を向く。そこには博也の妹、大垣香也が立っていた。
「静かにしなさい、のっぽとチビ。」
「お前にだけは言われたくねえ!」
香也は小学四年生だが、やはり小さめで、小学三年生に見える。
「あんたとは違って一年遅れだもんね〜。べ〜。」
そういって、香也は舌を出す。
「てめえ!お仕置きしてやる!」
そういって雄哉は香也を捕まえ、頭を両手で圧迫する。
「ぐりぐりの刑だあ!」
「いやぁーー!! セクハラーー!!! ケダモノーー!!!!」
「人様が誤解するようなことを言うんじゃねえ!」
十秒ほど香也の頭をぐりぐりし、雄哉は手を離した。
「や〜い、チビ、チビ〜!!」
そういって香也はリビングのほうへ逃げていった。
雄哉は舌打ちし、
「あいつは大垣家の中で一番うざくて一番扱いにくいな。」
と言った。
「同感だ。」
博也も頷く。
「二階行こうぜ。」
雄哉が催促する。
二人で二階に上がる。
「ちょっとパソコン貸してもらうぞ。」
「ああ。」
雄哉は博也のパソコンを起動させる。立派なデスクトップだ。インターネットブラウザを開き、あるボタンをクリックする。
「ふむふむ。博也はこのようなサイトへ行っているのか。」
博也は不審に思い、パソコンの画面を覗き込む。左端にウィンドウが開かれていた。
「り・・・履歴を勝手に見るなぁぁぁぁ!!!」
博也の顔がたちまち紅潮する。これだけは見られたくなかった。
博也は雄哉の手からマウスを奪い取り、履歴画面を閉じる。
「博也、気持ちは分かるが、あのようないかがわしいサイトに行くのはどうかと思うぞ。」
「てめえ、ぶっ殺すぞ!」
「黙れ、t●●●8.」
「くっ・・・・・・。」
博也は言葉に詰まる。何も言い返せない自分がもどかしかった。
「博也ぁ。」
雄哉は椅子の上に立ち上がり、博也を見下ろす。
「呼ばれるならt●●●8とカ●●●●コム、どっちがいい?」
「やめてください!どうかやめてください!!」
必死に懇願する博也。雄哉に大変なことを知られてしまった。
「まあいい。この情報は必要なときに有効利用させてもらおう。」
―とりあえず今のところは大丈夫だ。
博也はほっ、と一息つく。
しかし、ある事に気付く。
(待て、安心しては駄目だ。こいつは何をするか分からない。落ち着け、博也。そして最悪の事態を考えろ。奴は必ず・・・・・・)
「その少し斜め上を行く。」
「自覚してんじゃねえよ!」
雄哉は椅子から飛び降り、ベッドの上に着地する。
「ん〜。誰にこの情報を売ろうかな〜。」
「う・・・・売るんですか。」
雄哉の発想は博也の予想の遥か斜め上を行っていた。
「それともシンプルに美野里に言ってみるか。」
「それだけはやめろ!」
普通に戻っていた。
「さて、下に降りるか。」
雄哉は階段に向かう。
「何がしたかったんだ、お前。」
「お前の弱みを握るためだ。」
「たったそれだけのために!?」
――ドグラ星の王子に似ている。
博也はそう思った。
16
:
とある人
:2011/04/16(土) 20:37:22 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
010
数日後。
雨が降っている。雫が時折窓ガラスを叩く。叩きつけられた雫は、窓に張り付いていた雫と一体化し、重力に引かれ、落ちていく。
それを雄哉は虚ろな目で見つめていた。遠くにあるマンションが霞んで見える。
人間は雨が降ると憂鬱な気分になる、という話を聞いたことがある。その影響か、雨の日の商店の売り上げは晴れの日と比べて落ちるらしい。
数学の時間。言葉遣いが乱暴な男の先生が黒板を叩く。元ヤンキーらしい、と言ううわさをよく耳にする。
「いいか、プラスとプラスをかけたらプラス、プラスとマイナスをかけたらマイナス、マイナスとマイナスをかけたらプラスだぞ。いいか、もう一回言うぞ、・・・・・」
さっきからそればっかりだ。もう四回は聞いている。それだけ重要なことなのだろうが、一回聞けば十分だ。一回の授業で四回も五回も言わなくたっていい。
「いいか、これを絶対に忘れるなよ。頭に叩き込め。数学はこれが基本だからな。基本のき、だ。いや、基本のK、だ。絶対忘れるなよ。」
―はいはい、分かったよ。
そう言いたくなった。しつこい。しつこい奴は嫌いだ。今回だけならいいのだが、これが毎回続くのかと思うと、うんざりする。
マイナスとマイナスの感情をかけあわせたって、別にいい方向に向かうわけじゃないのに・・・・・。
「おいそこ、聞いてんのか!」
怒鳴られ、雄哉は教師の方を向く。
「てめえ、基本をちゃんとやらないと後から後悔すっぞ!ああ!?」
―うるさい。
雄哉は教師を見る。睨むと見るの中間、といったところか。
「人の話を聞いてんのか!」
教師は怒鳴る。
「人の話を聞かねー奴は最低だな!」
雄哉の中で何かが弾けた。
――最低だ。
その言葉だけが頭の中で反響する。大きな鐘を何度も叩くように。
様々な想いが、感情が、頭の中で渦巻く。
――最低だ。
蘇る。
蘇ってくる。
心の中に封じ込めていたはずの、あの忌まわしい記憶が。
――最低だ。
頭が痛くなってくる。
――生きている価値なんてない。
視界が揺らぐ。
――いっそのこと死んでしまえばいい。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
記憶が・・・・・・・・・飛んだ。
17
:
とある人
:2011/04/26(火) 21:26:59 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
011
「やっちまったな、あの先生。」
博也がつぶやく。
「だね。」
と美野里。
「? 何のこと?」
と亜矢。
「分かるだろ。」
博也が不快感をあらわにする。
「何だったんだろう。」
と勇人。
「逆鱗にでも触れたんじゃない?」
と洋子。
「逆鱗に触れた、ってレベルじゃないと思うよ・・・?」
亜矢が呟く。
彼らの話題に上っているのは、言うまでもなく、先ほどの事件である。
雄哉は、あの言葉を聞いた瞬間、激怒した。
いや、“豹変”した。
「さて、どーなってるかな、あいつ。」
博也が投げやりに言う。しかし、その眼はしっかりと前を見据えていた。
六時限終了間近。あと五分もしたら下校である。
「博也ぁ。」
美野里が博也の袖を引っ張る。
「雄哉を見に行く?今日。」
博也は美野里の問いに目で答える。
「?」
亜矢が首をかしげる。
「何をしに行くの?」
「雄哉はな、あの言葉を聞くたびに、ああやって豹変しちまうんだよ。」
博也は一度言葉を選ぶような仕草をする。
「だから、それを元に戻すために・・・なんて言ったら変だけど、俺らが見に行ってやるわけ。」
「そんなこと必要なの・・・かな?」
「何で必要ないと思うんだ?」
博也は少し目を細める。
「え?そ・・・それは・・・えっと・・・」
亜矢はしばらく黙り込む。
「ほら、こう・・・男の子ってさ、怒っちゃうと・・・なんか、『放っておいてよ』みたいな感じの・・・圧力?を発すると思うからさ、こう・・・そっとしてあげた方がいいんじゃないかな?」
亜矢は力説するが、あまり説得力がない。
「読点と『・・・』が多いぞ?」
「あ・・・そうだったかな?」
亜矢は少し赤面する。
「まあ、何故かっていうとな・・・」
博也は少しためらう。
「寂しいと・・・思うんだ。」
「寂しい・・・。」
博也はうつむく。
「あいつの寂しさは、あいつにしか、分からないんだ。」
博也の声には、悲痛な響きがあった。
亜矢はさっきの雄哉の姿を思い出す。
怒りに任せて、叫び声をあげて、ただただ相手を殴っていた。
誰にも、止められずに。
誰にも、助けられずに。
誰にも、慰めてもらえずに。
ただ、自分の感情を相手にぶつけ。
理解してもらえないと分かっていても。
それしか、出来なかった。
そして、亜矢ははっきりと見ていた。あの時の、雄哉の目を。
その眼は、怒り狂った・・・獣のようだった。
18
:
とある人
:2011/05/01(日) 20:54:03 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
012
雄哉は雨の中を歩く。
傘なんていらない。ここまで雨が激しく降ると、どうしても濡れてしまう。中途半端に濡れるより、いっそ全身で雨を受けた方がいい。
水たまりを踏む。水しぶきが飛び散る。
まだ頭が少し痛かった。記憶が飛んでからどれくらい時間が経っただろうか。気が付いたときには、隣町の路上にいた。雄哉の家とは正反対の方向だ。彼は学校に戻ろうか家に帰ろうか迷っていたが、家に帰ることにした。
いつかのように。
家の鍵を空け、中に入る。よくよく見てみると、当たり前だが全身がびしょぬれだった。
制服を掛け、体操着になる。
一度廊下に出て、反対側のふすまを開ける。
六畳ほどの和室。
その部屋のあちらこちらに、赤いしみが付いている。
血、だった。
ふすまを後ろ手に閉める。
雄哉は押入れのふすまを見る。穴だらけだった。
拳を握り締め、放つ。
ふすまに穴が開き、木の破片が刺さる。
もう一度、二度、三度。何回も、何回も放つ。
やがて、雄哉の拳は血で塗られていった。
忌まわしき記憶をぶち壊すが如く、ふすまを殴り続けた。
息が上がってきた。雄哉は手を止める。
穴だらけのふすま。赤黒いしみが、いくつも付くなか、やや上の方に、新たに出来た穴と、鮮やかな赤色のしみがあった。
ふすまに開いている穴は、下の方から真ん中の方まで、敷き詰められるように開いている。
下の方は、小さなへこみがあり、上に行くにつれて大きくなってゆく。それはやがて穴となり、木の骨組みが見えている。穴が開き始める位置から、赤いしみが付き始める。
雄哉はふすまを見つめる。ふすまは、あのときからずっと、彼の思いを受け止め続けている。怒りとしてしか表せない、深い悲しみを。
もしも、この想いを受け止めてくれる人がいたならば――
とてつもなく深い悲しみが湧き上がる。次々と、雫が頬を伝って流れ落ちる。
耐え切れなくなって、雄哉はその場に座り込む。彼は小さく呟く。
「母さん・・・。」
19
:
とある人
:2011/05/08(日) 18:26:20 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
013
呼び鈴が鳴る。雄哉は頭を押さえてベッドから立ち上がる。
階段を下りる。呼び鈴はさっきからずっとしつこく鳴っている。きっと博也達だろう。彼らは何かあるたびに、家を訪れてくれる。これに何度か救われたこともある。
雄哉は扉を開ける。
「ハーイ、雄哉。やあ、雄哉。」
小さく開いた扉から、美野里が覗き込む。
「ついでに中国語とドイツ語とポルトガル語とロシア語とアラビア語で言ってみろ。」
「ニーハオ、雄哉。グーテンターク、雄哉。ボーアダールデ、雄哉。ロシア語?アラビア語ぉ!?んなもん知るかぁ!」
美野里は甲高い声でわめく。雄哉は不敵に笑い、
「ふっ、残念だったな。ロシア語はズドラーストヴィチェ、アラビア語はアッサラームアライクムだ。」
と、同じく甲高い声で言った。
「ちなみに、フランス語はボンジュール、韓国語はアンニョンハシムニカ、ヒンディー語はナマステ、スペイン語はブエナスタルデスだぞ。」
美野里の背後から、博也がぬっと顔を出す。
「ねぇ、お前ら何で分かるのぉ?」
美野里がぼやく。
「これだよ、これ。」
雄哉が英語の教科書を出し、美野里の前でひらひらと振る。
「やっぱり?」
博也も持っていた。教科書の表紙の裏には、世界各地のあいさつが載っている。
「お前らセコイよぉ!卑怯だよぉ!!」
「会則第二条!ゲームに勝つためにはあらゆる努力をしなければならない!」
「どこの部活だよ!」
博也がツッコミを入れる。
「ま、その様子だと元気そうだな。」
「まあな。おかげさまで。」
「よかったぁ。また不安定になると、迷惑するのはこっちなんだからね!」
彼らはしばらくたわいもない雑談をする。
20
:
とある人
:2011/05/08(日) 18:27:05 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
「あれ?」
美野里が雄哉の異変に気付く。
「その手・・・どうしたの?」
「ああ、これ?」
雄哉は右手を美野里の前に持ってくる。
「ま、いろいろあってな。」
その手は血まみれだった。
「いろいろじゃないよ!手にとげが刺さってるよ!?――うわ、すっごい数。早く抜かないと。」
手にとげが刺さっていることは雄哉も気付かなかった。
「わお、こんなに刺さってたんだ。」
「わお、じゃねーよ。」
博也は雄哉の首を掴み、強引に家の中に押し込んで、自分も入る。
「結構深く刺さってるのもあるぞ?手を動かすとき痛くないのか?」
博也は雄哉の手を観察するように見る。手の甲から指に掛けて、大小さまざまなとげが刺さっている。痛々しかった。
「正直言うと痛いけど、まあ大丈夫だろ。」
「「大丈夫じゃない!!」」
博也と美野里が同時に叫ぶ。
「またふすまを殴っただろ。じゃないとこうはならないもんな。」
「じゃあ壁を殴ればいいのか?」
「・・・・・・」
博也は言及しては来なかった。彼も分かってはくれるのだろう。どうしようもない気持ちを。
リビングに入る。博也はまるで我が家であるかのように救急箱を取り出す。
美野里が雄哉の手に刺さっているとげをピンセットで一つ一つ丁寧に抜いていく。刺さっていたとげが抜けるごとに、血が染み出してくる。
「ふぅ・・・。これで全部抜けたかな。」
美野里は額に浮いた汗の玉をぬぐう。
「サンキュ。お前はこういうの本当にうまいな。」
「あまりうまくさせないでよね。」
そう言って、美野里はてへっ、と舌を出す。
「んじゃ、手を洗ってくる。」
雄哉は洗面所に向かう。
蛇口をひねり、ほとぼしる水の中に手を入れる。傷口に水がしみる。
手を洗い終わり、リビングに戻ると、博也がテレビを見てくつろいでいた。
「自分の家で他人に堂々とくつろがれる気分というものは複雑だな。」
「ここは俺の第二の家だ。」
「そんなことを認めた覚えはない。」
「俺が勝手に決めた。」
博也はテレビを見て爆笑している。別にどうという内容ではない。じつに笑いの沸点が低い奴だ。芸人もこんな奴ばっかりだったら仕事をしていて楽しいだろう。
「そういえば美野里は?」
雄哉は辺りを見回す。
「そこで何かしらの食い物を作ってるよ。」
博也が指す方向を見ると、美野里が台所で何かをしている。
「ちょっと台所借りてるよー。あっ!また多すぎた。」
塩の分量をスプーンで量っているようだが、なかなかうまく行かない。
「うーん、もうちょっとかなぁ。もーちょい、もーちょい・・・」
初めて作る料理らしく、冊子を見ながら調節している。
「あーもう、疲れた!無理!」
美野里はスプーンを投げる。
「さじを投げるな!」
二重の意味で。
だが、そのツッコミで彼女を驚かせてしまったらしく、きゃぁっ!と悲鳴を上げる。
「悪い。驚かせちゃった?」
「突然現れないでよ!襲われるかと思ったじゃん!」
「俺はそんな男に見えるのか?」
もしくは博也が、か?
「とにかく、塩くらいでそんなに正確に測らなくてもいいんじゃないか?」
「あんた、塩は甘みを引きたたるのよ!そんなことも知らないの!?」
「いや、そのくらいは知ってるけど・・・。」
「塩っていうのはね、とっても濃いの!だから、0.0000001グラムもずれちゃいけないの!」
「それは無理だろ!」
ロボットでも使わない限り無理だ。0.0000001グラム単位って、どれだけ精度なのだろうか。
「1トンもずれちゃいけないの!」
「精度低っ!!」
「もっとマシなツッコミはないわけ?」
美野里は唇を尖らせる。
「悪いが、これが俺のやり方だ。」
だが、先ほどのツッコミはちょっと先を急ぎすぎたようだ。
「で、何作ってるの?」
「そ、それは見てからのお楽しみよ!」
なぜか美野里は顔を少し赤く染める。
「ん、それじゃ楽しみにしてるよ。」
そう言って、雄哉は博也に目配せをする。博也はうなずく。
二人は二階に上がる。
「何だ、雄哉。」
博也は雄哉に聞く。あらかたの予測は付いているようだ。
「俺さ・・・」
自分で呼び出しておきながら、なかなか話しを切り出す気にはなれなかった。
「俺さ、今日・・・あの時何やってた?」
「やっぱりそれか。」
「・・・一応聞いておかないとな。」
数拍置いて、博也はそのときの状況を教えてくれた。
21
:
とある人
:2011/05/15(日) 21:06:54 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
014
「お前は先生に怒鳴られた直後、殴りかかってねじ伏せた。」
博也はゆっくりと言った。
「怪我は?」
「特にない。」
「そうか。」
別に心配しているわけじゃない。面倒くさい、ややこしいことにならないかどうかが重要だった。雄哉は正直あの先生に嫌悪感を抱いていた。
「おまえはそのままどこかに走り去っていきやがった。おかげで最初の週から桜ヶ丘中教師全員が校内を探し回ったぞ。」
「そりゃご苦労さんなこった。」
博也は雄哉の言葉を聞いて、少し不機嫌そうに目を細めたが、その悲しそうな表情になった。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
しばらくの沈黙。
「・・・ま、まあ、先生方もまだ生徒一人一人の事情を把握しきれていないわけだからな。そんなこともあるさ。」
博也はぎこちなく言う。
「あの先公、なんつー名前だ。」
雄哉はゆっくりと言う。声のトーンが低かった。
「・・・聞いていなかったのか?授業の始めに言ったはずだが。伊藤先生って言ってたぞ。」
「へぇ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
またしばらくの沈黙。
「・・・それからな、『明日登校したら職員室に来い』、だってさ。」
「大目玉を食らいそうだな。」
こっちの事情も考えろ。と言って雄哉は鼻で笑った。
「後、大丈夫か?」
博也は心配そうに雄哉の顔を覗き込む。
「・・・何が?」
雄哉はうつむく。
「・・・またぶっ壊れたりするなよ?」
「・・・分からんな。」
「辛かったらいつでも言ってくれよ?」
「気が向いたらな。」
これ以上迷惑をかけたくなかった。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
またまたしばらくの沈黙。
ドアをノックする音が聞こえた。
「ん〜?」
雄哉が間の抜けた返事をする。
「うちだけど・・・。」
美野里だった。
「入っていいかな?」
「ああ。」
美野里が大きな皿を抱えて部屋に入ってくる。
ドアを挟んでも重苦しい空気は伝わっていたのだろうか。
「クッキー作ってきたけど、食べる?」
「もらっておくよ。」
おいしそうな匂いが漂ってくる。いたって普通のクッキーだったが、雄哉は『普通』が一番好きだった。
一枚をつまみ、口に入れる。
「どうかな?」
美野里が感想を聞いてくる。
「ん、うまいな。」
「そお?」
これ実はクッキーミックスなんだよね。と言って美野里は舌を出す。
「うん、すっげーおいしい。」
博也も味をほめる。
「あ〜!!あんたは食べちゃ駄目!これは病人専用なんだから!」
「なんだよそれ。何で食っちゃ駄目なんだよ。」
博也は唇を尖らせ、抗議する。
「うちが良ければ全てよし。」
「何だよその理論!!」
楽しそうな二人を、雄哉は虚ろな目で見ていた。騒ぐ気にはなれなかった。
「おい、雄哉!俺にクッキーをくれ!!お前の許可があれば美野里も納得するはずだ!!!」
博也は顔をずいっ、と近づける。
「だめ、これはあんた専用!博也ごときに食べられるくらいなら、全部ゴミ箱にぶちまでてやるぅ!」
「俺ごときって何だ!それからゴミ箱にぶちまけるな!もったいない!!」
彼らは雄哉のすぐ近くで言い争いをしている。雄哉を元気付けようとする、彼らなりの配慮なのだろうが、今日はやはり、騒ぐ気にはならなかった。
雄哉は皿からクッキーを二枚つまみ、言い争いを続ける二人の口に一枚ずつ入れた。
「「ふがぁ!?」」
二人は不思議な叫びを上げて混乱する。
「俺からのプレゼントだ。味わって食えよ。」
そう言って、雄哉は新たなクッキーに手を伸ばし、口に入れる。いたってシンプルな味が広がる。
突然クッキーを口に詰められ混乱する二人のそばで、雄哉は気を紛らわすようにクッキーを食べ続けた。
22
:
とある人
:2011/05/23(月) 13:49:11 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
015
職員室。
雄哉はそこにいる先生全員に睨まれる。不快だった。しかし、それよりも不快だったのは、伊藤先生の怒鳴り声だった。
胸倉を掴まれ、色々喚かれる。昨日こんな感じで壁に叩きつけてくれたな、とか何とか。
「おい、聞いてんのか!」
「はい?」
いらいらする。眼を細め、反抗の態度をあらわにする。
「なんだ?ああ!?その眼はなんだぁ!?」
予想通り伊藤先生は怒り狂う。今にも拳を振り上げ、殴りかかってきそうだ。そうなればもうこちらのものだ。
「反省してんのかごらぁ!なんじゃその目はごらぁ!」
音量がさらに上がる。一部の先生が迷惑そうにこちらを見ている。
「ごんにゃろぎーでんのかごらぁ!!へんじぜんのかごらぁぁぁ!ぶぜげんじゃねーぞごらぁ!」
そろそろ理解が難しくなってくる。
「ぶっどばーぞごらぁ!」
翻訳不可能。
「ごんにゃろごんにゃろぉ!きーとっか・・・」
「何言ってんのかさっぱり分かりませんけど。」
「ぶざけんなごらぁ!」
拳が雄哉の頬を直撃する。
雄哉は二メートルほど吹き飛ぶ。
「な、殴ったな!親父にだって、殴られたことはないのに!」
一部の先生が噴き出しそうになる。
雄哉は伊藤先生をびしっ、と指差し、
「これにより、正当防衛が成立します!」
と叫ぶ。
「戦闘しますか?しませんか?」
「てんめぇ!!!ナメとんのかごらぁ!!!!」
「舐めたくはありませんよ。気持ち悪いもの。」
「ふざけんなごぉっらぁーーーー!!!!!」
伊藤先生が雄哉に殴りかかる。
周りの先生が慌てて止めに入る。
「かぃすでぉかヴィイオらきじゅぇどさファイおぢすふぇこじゃひぢおあづふぃおせふぉだきじゃあぅせふぉぢおえわかぢすふぇじょさしヴぇもんらおといてらくぉいがぁ!!!!!!」
わけの分からない叫び声をあげる。「じょさしヴぇもん」がドラえもんを連想させる。
チャイムが鳴り響く。
雄哉は先生に言われ、教室へと向かっていった。
23
:
とある人
:2011/05/23(月) 13:51:50 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
雄哉は教室の扉を開ける。既に第一限が始まっていた。担任の遠藤先生が黒板に英単語の書かれたカードを貼り付けている。
「五十嵐君、早く準備して席につきなさい。」
「へいへい。」
雄哉は席に座る。教科書は出していない。
「そういえば、先生は英語が担当だったんですか。」
「あれ、この前言ったはずだけどなあ。さては、聞いてませんでしたね?」
「なぜ分かった!」
クラスに小さな笑いが起こる。
「何言われた?」
博也が後ろから聞いてくる。
「なんか分け分からない言葉を吹きかけられて、殴られた。」
「殴られた!?」
「痛くはなかったけどな。」
「お前、その様子だとまた挑発しただろ。」
博也が叱るように雄哉の頭をぺしっ、と叩く。
「当たり前だろ。正当防衛を成立させるためには先に殴られなきゃいけないんだから。」
「止めに入る人がまわりにいる場合は殴られ損だろ。」
「あ、そっか。」
「おまえ、変なところで頭が回らないな。」
「うるせえ。」
雄哉は黒板を見る。黒板の半分を英単語の書かれたカードが占領している。どれも見慣れた単語ばかりだ。
「めんどくせーな、英語の授業。」
雄哉はつぶやく。
「どうして?」
横から亜矢が聞いてくる。
「斉藤は楽しいのか?」
「うん。なんか、全く知らないことを新しく覚えるって、なんだかわくわくするじゃん。」
「そっか。」
確かに、学習するのはとても面白い。勉強はとてつもなく苦痛だが。
24
:
とある人
:2011/05/23(月) 13:53:20 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
「雄哉君は何で面白くないと思うの?」
「どいつもこいつも、全部知ってる単語ばっか。今更言われなくてもわかってるっつーの。」
「? どうして全部知ってるの?」
「ああ、言ってなかったな。俺は小一から小二までの二年間・・・」
「アメリカに行ってたんだよな。」
博也が後ろから割り込んでくる。
「こいつ、おいしい台詞を・・・!!」
「別においしくないと思うけど。」
「俺が言いたかったんだよ!」
「・・・でさ・・・」
亜矢が雄哉をつつく。
「アメリカに行ってたって本当なの?」
「ああ。いやぁ〜、懐かしいねぇ。アパートに住んでたんだけど、一軒でなんと三階建てですよ。ものすごい広いんだから。」
「ん?一家庭に一階じゃなくて?」
「一家庭に三階、だ。それに、一階あたりの広さもすごいんだから。リビングの広さも日本の二倍くらい。すっげー広いぞ。」
亜矢は頑張って部屋の広さを想像するが、途中で頭がパンクしたようだった。
なんかいまいち亜矢に伝わっていないみたいだ。
まあ、あの広さは実際に体験しないと分からないが。
雄哉はまた黒板を見る。だいぶ授業が進んでいた。先生が動詞がどうたらこうたら、と説明している。
「おーい、斉藤。」
「ん?何かな?」
「そろそろ授業に戻らないと訳分からなくなるぞ。英語は最初が大事だからな。」
「えぇ!?うわ、すごい進んでる!」
亜矢は慌ててシャーペンを手に取り、板書を写す。
「ありがとう、雄哉君。」
「どういたしまして。」
雄哉は一つ、大きなあくびをする。
「なあ、雄哉。」
博也が後ろから声をかけてくる。
「何で『最初が大事』って分かるんだ?」
英語を頭で覚えた訳じゃないだろう?と博也は言った。
「まあ、俺自身は感覚で覚えたけれど。」
「じゃあ根拠は何だ?」
「小杉先輩が実証済みだ。」
「誰だよ、小杉先輩!!」
「豊橋のあたりに住んでいる野球部の先輩だ。県大会に出場したときにこのあたりに来たから、そのときに会った。」
「その小杉先輩とやらと、お前との接点は何だ!」
「・・・偶然?」
「答えになってねえし!」
「その人は最初に英語の先生が嫌いだとか言ってサボったおかげで、入試のときに苦労したらしい。」
「・・・というと、小杉先輩は現在高一か?」
「いや、大一だ。」
「大一って何だよ!」
「大学一年生の略だ。」
「分かってるよ!って言うか大先輩じゃん!」
「現在二十八歳。」
「何浪してんだよ!」
「えっと・・・・・・十浪?」
「・・・・・・その執念は認める。」
「おい、博也。」
雄哉は一旦会話を打ち切る。
「ちゃんと聞いておかないと小杉先輩の二の舞だぞ?」
「はいちゃんとやります!!!」
効果は抜群だった。
その瞬間、チャイムが鳴り響いた。
「うわ、ぜんっぜんきいてなかった・・・。」
「自業自得だな。」
「くそ、雄哉。お前のせいで・・・」
「話を振ってきたのはお前だろ。」
「そうだっけ?って言うか俺はこんなに長くなるとは思ってなかったよ!」
休み時間が始まり、教室にざわめきが広がる。
「俺はこう見えても結構アドリブが利くのさ。卒業式で送辞を読むことになって、原稿が誰かのいたずらで燃やされたとしても、俺はその内容を思い出しながらおもしろおかしく送辞を読んでやる。」
「・・・すごさは分かったがそれは絶対やっちゃ駄目だぞ?そもそもそんないたずらをする奴はいないだろう?」
「・・・・・・白井あたりがやったりして。」
雄哉が洋子を親指で指す。
「・・・やりそうだな。」
25
:
とある人
:2011/05/23(月) 13:53:34 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
そのとき、博也の目の前に光り輝く金属製の細い物体が突きつけられた。彼はそれに見覚えがあった。
それはペーパーナイフだった。
「・・・なんだよ。」
二回目になればもう慌てたりはしない。
「先ほど大橋さんと雑談をしていたら、私を侮辱するような台詞が聞こえたものだから、処刑しなければと思ってきただけよ。」
「侮辱してねえし、『だけ』ですむレベルじゃねえだろ。」
「発音が悪いわよ。レヴェルよ、レヴェル。」
「細けえし余計なお世話だ。それに言ったのは俺じゃない。」
話している間も、洋子が持っているナイフは博也の鼻先に突きつけられたままだ。
「さっきの甲高い声はあなたじゃなったかしら?」
「こいつだよ、こいつ!!」
博也は雄哉を指差す。
雄哉は「は?なんですか?そんなこと知りませんよ?」とでも言いたげに二人を見ている。
「五十嵐君は『そんな事は言っていない』という目線を私に投げかけているけれど?」
「てめえ、とぼけるな!」
博也は雄哉を怒鳴りつける。
雄哉は「がんばって〜」とでも言いたげに生暖かい目線を投げかけている。
博也は「お前なあ。後で覚えとけよ。」と言うように雄哉を睨む。
雄哉は「どうぞご勝手に」とでも言いたげに鼻で笑い、教室を出て行った。
「あなた達は目だけで会話が出来るようね。私にはさっきどういうやり取りが行われていたかさっぱりわからないわ。」
「幼馴染だけが使える特技だ。」
話している間も、やはりナイフは博也の鼻先に突きつけられたままだ。
「まあ、それは置いておきましょう。」
洋子は仕切りなおす。何のためなのだろうか。
「あなた、私を侮辱するようなことを言ったわね?」
「侮辱するつもりはなかったし、言ったのは俺じゃない。」
「じゃあ他に誰がいるのよ。」
博也は辺りを見回す。そして、
「・・・作者?」
と言って苦笑した。
「あなたのボケはとても面白いけれど、今はボケる場面じゃないわ。」
「声に出して面白いって言うなよ。それに眉一つ動かしてねえし。」
「無表情は私の特技よ。」
「いらねえ特技だー!」
無表情は特技とは言わない。
洋子はちらりと教室の壁にかけてある時計を見る。
「まあ、今回は時間がないから許してあげる。」
「お前いつも態度がでけえよ。」
「それから、」
洋子はナイフを博也の顔に押し付ける。
「私を侮辱するような行為は万死に値するから。」
「そうなのか?」
「だから、」
洋子はナイフをさらに押し付ける。無表情が逆に怖い。
「もし、もう一度私を侮辱するようなことを言ったら、一万回死んでもらうから。」
「一万回も死ねるか!!」
チャイムが鳴り響いた。
「いい?もし私を侮辱するようなことを言ったら、本当に躊躇せずに一万回あなたを殺すから。」
「分かったからそのナイフを突きつけるの、やめてくれないか?」
「五十嵐君にも伝えておいてね。」
そう言って洋子はようやくペーパーナイフを鞘にしまい、ポケットに入れた。そして踵を返し、席に着いた。
タイミングを見計らったように教室の扉が開き、雄哉が入ってきた。
席に着くと同時に、博也は雄哉の首筋を後ろから掴んだ。
「・・・何?」
「何じゃねえよ。」
博也は手に力を込める。
「よくもばっくれてくれたなぁ!!!」
「ぎゃぁあああああああ!!!!神経を圧迫するなぁああああああああ!!!!」
「んなもん知るかぁああ!!」
十秒ほど雄哉をこらしめた後、博也は手を離した。
「痛ぇ・・・それにしてもこの痛みは特徴的だなぁ。」
「自業自得だ。」
26
:
とある人
:2011/05/28(土) 19:37:37 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
016
休み時間。
「質問!!」
美野里が大声を上げる。
最近雄哉、博也、美野里に亜矢、勇人、洋子が加わり、六人で話すことが多くなった。
「嫌いな食べ物は何?」
「好きな食べ物じゃなくて、嫌いな食べ物かよ。」
博也は鼻で笑う。
「いいの!!嫌いな食べ物は何!?はい、雄哉!」
美野里は雄哉を指差す。
「俺?ん〜、キノコ類全般と、マニアックな果物、軟体動物、それからナス・・・くらいかな。」
「はい次!!」
美野里は雄哉の隣にいる博也を指差す。
「えーっと、いちごを加工したものと、ミートソースかな。イチゴ自体とトマトソースは大丈夫なんだよね。」
「はい次!!」
美野里は勇人を指差す。
「ぼ・・・僕?」
「そう、澤田勇人!!」
「えぇっと・・・僕は芋類と大根おろし、それから辛いもの・・・だね。」
「ええ!?うまいじゃん、芋類!特にじゃがいも!!」
雄哉は勇人に詰め寄る。
「はい、次!」
美野里は洋子を指差す。
「俺らのことはスルーか!?」
よく見ると、美野里はメモを取っている。
「私は里芋ね。」
「それだけ?」
美野里が聞き返す。
「それだけよ。少ないでしょう?」
洋子は無表情で他の五人を見下ろす。
「・・・はい、最後。」
美野里は亜矢を指差す。
「私!?え・・・えーっと・・・えぇっと・・・・・・」
亜矢は下を向く。
「えぇっと・・・しいたけと・・・タコ・・・」
「それだけ?」
美野里は亜矢の顔を覗き込む。
「それから・・・それから・・・イカと・・・ハマグリと・・・キウイと・・・それから・・・・・・それから・・・・・・・・・それから・・・・・・・・・・・・」
ボフン、と亜矢の頭が爆発する音が聞こえたような気がした。
亜矢は卒倒し、雄哉のほうに倒れこんでくる。
「大丈夫か!?」
雄哉は両手で受け止める。
「うん、大丈夫だと思・・・」
目が合った。
立ち上がりかけた亜矢は再び倒れこむ。
「大丈夫じゃねえじゃん!」
「雄哉ぁ。」
「ん?」
美野里が笑いをこらえながら言う。
「分からないの?」
「いや、全く。」
心当たりがない、と言うように雄哉は首を振る。
「はぁ〜・・・」
「なんでそんな大きなため息をつくんだよ。」
「んもぉ〜。まったく、鈍だね。」
「なまくら?」
「あっ、違った。鈍いね、と言おうとしてたの。」
『い』を抜くだけで全く違う意味になる。
「俺が?」
「あんたねぇ。」
美野里は再び大きなため息をつく。
「じゃあ、言い方を変えるよ。というより、質問!」
彼女は雄哉をびしっ、と指差す。
「あなたがとても可愛い女の子に抱きつかれたらどう思う?」
「どうって・・・ちょっと驚くくらいかな?」
「はぁ〜〜。」
「『〜』が一本増えたぞ?」
『〜』←これを一本と数えるのかどうかは疑問だが。
27
:
とある人
:2011/05/28(土) 19:37:58 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp
雄哉は絶賛昏倒中の亜矢を椅子に座らせる。
「じゃあ・・・」
美野里は雄哉の頭をつかみ、抱え込むようにして抱きしめる。
「実践してみた方が早いかな?」
「おわっ!?」
そこまで大きくはない胸の膨らみで鼻と口がふさがれる。
「い・・・息が・・・できない・・・・・・。」
美野里は手を放す。雄哉は大きく咳込む。
「どお?感想は?」
「ゲホゲホッ・・・。あ〜、死ぬかと思った。」
「・・・それだけ?」
「他にあるのか?」
「はぁ〜〜〜。」
美野里は何回目かのため息をつく。
「『〜』が三本になったぞ?」
顔をずいっ、と近づけて美野里は言う。
「いろいろあるじゃない、胸が当たってどきどきしたとか、柔らかかったとか。」
「お前の思考回路は博也か!」
「何でそこで俺が出てくる!」
博也は怒鳴る。
「何よ、異性に興味を持ち始めた男子中学生にわざわざ合わせてあげてるのよ。」
「何だよその上から目線。それに、俺の場合、それには当てはまらない。」
「ん? どういうこと?」
「俺はだな、」
雄哉は一旦タメて、堂々と言った。
「既に興味を通り越し、好奇心をも超越した、知識、経験として脳内に蓄えられている。つまり、ちょっとやそっとのことでは動揺しないのだぁ!!!」
雄哉は美野里を指差す。びしぃっ!!という効果音付きだ。
「その知識というのはいつ蓄えられたの?」
「えぇーっと、小学五年生くらいかな。」
「それって自慢できることなの?」
美野里の視界から雄哉が消えた。
「・・・そうなんだよね〜・・・できないよね〜。」
下の方から声が聞こえた。
見ると、足元で雄哉がうずくまって、床に指で円を描いていた。
「いや、そんなに落ち込まなくても・・・」
美野里は視線に気付き、顔を上げる。
博也、洋子、亜矢の三人が生暖かい視線を送っている。
「な、何か言いたいことがあるならはっきり言ってよ!」
「「「別に何も。」」」
「声をそろえて言うなぁ!!」
まさに異口同音。
「うち、なんか悪いこと言った!?」
「「「言ってないんじゃないんじゃない?」」」
「だから声をそろえて言わないで!!なんか寂しくなる!」
そんな中、勇人だけが会話についていけず、隅でつっ立っていた。
「澤ちゃん、」
美野里は早との肩を叩こう・・・と思ったのだが、手が届かず、代わりに胸の辺りにしがみつく。
「さ・・・澤ちゃん!?何で澤ちゃん!?」
勇人は突然しがみ付かれて動揺する。
「澤ちゃん!」
「スルーですか!?」
「澤田勇人だから澤ちゃん!」
「分かったけど、その言い方やめて。」
「あんたしかいない!あんたしか分かってくれない!!」
「は、はい!?なにを!?ぼ、ぼ、僕が何を!?」
美野里は上目遣いで勇人を見上げる。
「知らなくてもいいこともあるよね? ね?」
「お、大橋さん、しがみつかないで、そんな目で見上げないで!それ反則だよぉ!」
勇人の顔が真っ赤に染まる。
美野里は勇人の心臓の辺りに手を当てる。
「お〜、すげ〜。めっちゃバクバクしてる〜。」
「人の心拍数を勝手に計らないで!」
「お、速くなった。」
「お願いだからやめてください!僕が悪かったです!」
「なぜ謝る?」
美野里は勇人から離れ、数歩後退する。
「お?」
足に何かが当たった。
そのあたりから半径1メートルほどの範囲でものすごくどんよりした空気があふれ出ている。
「う〜。俺なんて、どうせ俺なんてぇ〜」
「・・・・・・ねえ、そろそろ、機嫌直してよ。」
「・・・」
「おやつあげるからぁ。」
「本当!?」
雄哉はがばっと起き上がり、美野里の肩をゆする。
「じょ、冗談よ、冗談。学校にお菓子を持ってこれるわけないでしょ。」
「・・・それもそうだな。ちぇっ、お菓子ないのか〜。」
(単純でよかった。)
美野里はほっと一息つく。いつまでも落ち込んでいられても困る。
「俺は今単純モードだ。脳の起動可能領域を全て立ち上げれば結構複雑になるぞ。」
「突っ込みを入れるべきところありすぎ!」
「厳選してひとつ言ってみろ。」
「何でうちの思考が読めるの!」
「・・・さあ?以心伝心ってやつ?それともテレパシー?」
「この世界のリアリティーレベルを勝手にいじくらない。」
チャイムが鳴り響く。
「あ〜、次国語かぁ。嫌だな〜。」
博也がぼやく。
「嫌なら寝ろ。タイムスリップできるぞ。」
雄哉はそう言って、ククッ、と笑う。
「成績下がる!あとそれはタイムスリップとは言わない!!」
雑談タイム終了。
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