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小さな街の中で。

18とある人:2011/05/01(日) 20:54:03 HOST:KD111098194105.ppp-bb.dion.ne.jp

 012


 雄哉は雨の中を歩く。
 傘なんていらない。ここまで雨が激しく降ると、どうしても濡れてしまう。中途半端に濡れるより、いっそ全身で雨を受けた方がいい。
 水たまりを踏む。水しぶきが飛び散る。
 まだ頭が少し痛かった。記憶が飛んでからどれくらい時間が経っただろうか。気が付いたときには、隣町の路上にいた。雄哉の家とは正反対の方向だ。彼は学校に戻ろうか家に帰ろうか迷っていたが、家に帰ることにした。

 いつかのように。

 家の鍵を空け、中に入る。よくよく見てみると、当たり前だが全身がびしょぬれだった。
 制服を掛け、体操着になる。
 一度廊下に出て、反対側のふすまを開ける。
 六畳ほどの和室。
 その部屋のあちらこちらに、赤いしみが付いている。
 血、だった。
 ふすまを後ろ手に閉める。
 雄哉は押入れのふすまを見る。穴だらけだった。
 拳を握り締め、放つ。
 ふすまに穴が開き、木の破片が刺さる。
 もう一度、二度、三度。何回も、何回も放つ。
 やがて、雄哉の拳は血で塗られていった。
 忌まわしき記憶をぶち壊すが如く、ふすまを殴り続けた。
 息が上がってきた。雄哉は手を止める。
 穴だらけのふすま。赤黒いしみが、いくつも付くなか、やや上の方に、新たに出来た穴と、鮮やかな赤色のしみがあった。
 ふすまに開いている穴は、下の方から真ん中の方まで、敷き詰められるように開いている。
 下の方は、小さなへこみがあり、上に行くにつれて大きくなってゆく。それはやがて穴となり、木の骨組みが見えている。穴が開き始める位置から、赤いしみが付き始める。
 雄哉はふすまを見つめる。ふすまは、あのときからずっと、彼の思いを受け止め続けている。怒りとしてしか表せない、深い悲しみを。
 もしも、この想いを受け止めてくれる人がいたならば――
 とてつもなく深い悲しみが湧き上がる。次々と、雫が頬を伝って流れ落ちる。
 耐え切れなくなって、雄哉はその場に座り込む。彼は小さく呟く。
「母さん・・・。」


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