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ストレンジ

1ドウミ・モンド:2011/01/12(水) 22:29:56 HOST:nttkyo224108.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
書かせていただきますだ!

昔々の大昔、まだ魔法使いがいて、妖精がいて、オバケや魔物がいて。そんな大昔に、奇妙な運命によってめぐり合った二人がいた。
ほら、あそこだ。あの平原の獣道を歩くあの二人。
美しく咲き誇るスミレ草をぐちゃぐちゃと踏みつけていくあの少年に、そこらで拾った木の枝を杖がわりに、びっこをひきひき歩くあの老人だ。

腰まであるつややかな黒い髪を、赤い髪留めの紐で結びつけ、立派な紺色の服を着た少年は後ろを必死についてくる老人に聞いた。
「あんたさ、何で僕についてくるわけ」
こちらの老人は、もうかなりの年齢のようだった。先のとんがった鷲鼻に、髪の毛一本はえていないつるつるの頭。こちらの服は白い法衣のようだったが、ところどころぼろぼろに擦り切れていた。
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
老人は少年の問いには応じず、顔を真っ赤にしながら必死にあとを追っていた。
空の太陽は高く上がり、あたりはじりじりと暑くなり始めた。
いくばくか経ったあと、少年は平原の向こうに一本の木を見た。立派な木だ。遠目から見ても随分大きく、葉も十分茂っていて、黒々とした幹に覆われた枝が、こちらへ手招きしているように見えた。
少年の足は速まった。まだかなり遠くにあるが、あそこに着けばこの暑さをしのげる。少年は額に浮き出た汗をぬぐうついでに、目の前にあった一本のスミレ草をわざと踏みつけた。

2ドウミ・モンド:2011/01/13(木) 18:00:48 HOST:nttkyo382215.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
しばらくするして、やっと木についた。日は少し傾き、影が少し長くなっている。あの老人は随分後ろを、体のほとんどを棒にもたれさせ、必死についてきていた。
少年は木陰に腰を下ろすと、空気を胸いっぱいに吸い込んでから足を投げ出し、手を頭の後ろに組んでごつごつとした幹に体を預けた。木陰は、時折涼しい風を送り、少年の髪をくゆらせる。
そのまま少しばかりうたたねをしていると、やっと先程の老人が追いついてきた。
少年のすぐ横にどかっと腰を下ろし、荒い息を必死に整える老人。少年は煙たげな視線をそちらに向けると、すくっと立ち上がった。もう汗も引いたし、休憩も十分にとった。それほどこの老人の歩は遅かったのだ。
老人は立ち上がった少年を何か言いたげに見た後、懐から砂埃にまみれた小さな銀の水筒を取り出すと、そのふたをくるくるとはずし、一息に傾けてその中身を飲んだ。
日は大分傾き、あたりは少し赤くなりだしていた。また風が吹く。今度は涼しいを少し通り過ぎた、冷たい風だ。少年の髪が風に乗って揺れる。
「・・・ぼうや、君は今すぐここから出るべきだ。ふぅ・・・彼女・・・いや、彼女達は怒っているぞ」
段々と遠ざかる少年の背中に、老人は弱弱しく言葉を投げかけた。無視して更に歩き続ける少年。
ざぁっと、背中を震わせるような冷たい風が吹き、一面の草がゆらゆらと揺れた。まるで何かから逃げ出そうとしているかのようだ。
そのとき、少年は眼の端に見た。
まるで針のような細い首。それと同じくらいに長くて細い、手と足。体も同じくらいほっそりとしてくびれていた。体にぴったりな真っ黒いワンピースを着た彼女は、仮面のような笑顔を顔に浮かべた。手には濃い紫の日傘を持っている。まだかなり遠くにいるが、その表情は手に通るように分かる。
少年は微笑気味に足を止め、そちらを見た。
女は大股でこちらに近づいてきた。かなりの早さだ。少年が気づいたときには、女の、細く長い影に包まれていた。
にっこり笑うと、女は少年の鼻をつまんで思いっきり引っ張った。
「いてててててて」
女は眉間にしわを寄せ、少年に顔を近づけ、言った。
「よくも私達の『ガーデン』を汚してくれたね、この悪ガキ」

3ドウミ・モンド:2011/01/14(金) 17:59:37 HOST:ksechttp146.sec.nifty.com
「何のことだよ」
少年が痛みに少し目を潤ませて、その、赤色の瞳で女を睨み返した。女はその態度が気に入らなかったようだ。鼻をつまんでいた手で少年の首をつかむと、信じられない力で持ち上げた。
「ここの花や草はねぇ、全て私の姉さんが苦労して種を手に入れて、そして私が育てたものなのよ。あんたみたいなお馬鹿が踏みつけちゃいけないわけ。おわかり?」
「ああ、すごく」
少年は首をつかまれているはずなのに、少しも苦しそうなそぶりを見せなかった。それどころか、見下した視線を女に向け続けている。
それが更に女を怒らせたらしい。女は冷たい微笑を浮かべると、ぎりぎりと少年を握っている手の力を強め始めた。
「・・・・・・くっ」
少し苦しそうな顔をする少年。
「謝りなさい。三つ数えてあげるわ。・・・・・1・・・・・」
少年がにやりと笑うのを、老人は見逃さなかった。
女は少年の三倍くらいの背丈。そしておそらくは魔女。少年が人間であれば勝ち目はない。だが、普通の人間だったら魔女を挑発するようなことはしない。
では何か。
「・・・・・2・・・・・・」
少年は、女の、首をつかんでいるほうの手を片手でつかんだ。
「・・・・・ギャアアアアアアアアアアア!」
魔女が恐ろしい悲鳴をあげ、少年を離そうと腕を振り回すが、少年のほうが離れようとしない。。その弾みで日傘を取り落とした。
女の手からは煙が上がっていた。少年の触ったところから出たようだ。
「熱い!は、離せ・・・この・・・!」
女が平手打ちを繰り出すべく構えた。少年はその瞬間を見逃さず女の手から離れる。女の平手打ちはむなしく宙を舞った。
「さてと、一応聞くけど、やさしく殺して欲しい?それともその逆?」
女はきっとにらみつけた。
「この程度の程度の魔法が使えるからって・・・・・・・・いい気になるんじゃないよ!この悪がきぃぃぃ!」
女が落ちていた日傘を持ってくるくる回すと、風が吹き出した。ただの風じゃない、ねっとりとしたつめたい風だ。老人の衣の袖が、パタパタと揺れる。
「さぁ、おしまいだよ。あんたはここの肥料になるんだ」
女は高らかに笑った。どうやら怒りの沸点をとうに超え、妙なところまで行ってしまったらしい。
「へぇ、やるんだ・・・」
少年は仁王立ちのまま微笑した。女はそれを見て、きっと口を結ぶ。
「なめるんじゃないよ。あたしはルクトゥーア三姉妹の末女、カスタネーダだよ!」
女がそう怒鳴りつけたとき、少年は素早く右手の人差し指を女に向け、小さな火球をうった。火球はものすごい速さで女に飛んでいく。
地を揺るがすような大爆発が起こった。
耳を劈くような音と、真っ赤な火柱が上がる。
「・・・やりすぎだのう。これ、ぼうや、やめなさいな。この女人だって生きているんだ」
かなり大きめの声で言ったが、少年は耳を貸さない。火柱は尚も上がり続けていた。
「いたしかたあるまい・・・。ほれ、ぼうや、君にこのお金をあげよう。少しだが、足しになるじゃろうて」
少年が少しだけこちらを見た。だが、火柱はとまらない。
「ふむむ・・・なんだったら今日泊まる宿も紹介してやるぞ。『上下山亭』というところじゃ。わしの名前を挙げれば、ただで泊まらせてくれるじゃろ」
いつの間にか少年は老人の目の前に立っていた。子供らしい、無邪気な笑顔を嘘っぽく浮かべて、老人の手にある何枚かの銀貨を強引に掴み取る。
「ありがとう、おじいちゃん。それで、あんたの名前は?」
老人はうんこらせと立ち上がると、白くにごった青い瞳で少年をまじまじと見た。
みかけは十いくつだろう。だが、それにしてはすさまじい魔力を持っている。
「・・・で?あんたの名前は?」
「おお、そうじゃった、そうじゃった。わしの名前はバーキスじゃよ」
少年はまたも嘘っぽい笑いを浮かべ、「ありがと」というと足早に去っていった。
火柱は消え、バーキスはゆっくりときからはなれる。

4ドウミ・モンド:2011/01/23(日) 01:32:06 HOST:nttkyo749219.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「お前さん、大丈夫かい?」
よたよたと歩きながら、しわがれ声でだずねる。
やっと火柱が立ってた場所に着いた。あたりには、焼け焦げた匂いと、すこしの土の匂いが漂っていた。足元の草はすでになく、黒々とした地面が露出している。
火柱が立っていた場所には、何もなかった。女の死体すらも。
ざわっと冷たい風が吹き、あたりがとっぷりと暮れた。
老人は少しばかり顔をしかめ、鼻をこすると、ゆっくりと歩き出した。
「大丈夫じゃ、宿はそう遠くない」
きしむ体に鞭を打ち、獣道を行く。闇が道を喰らいはじめた。

5ドウミ・モンド:2011/01/25(火) 01:40:23 HOST:nttkyo715176.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
一方こちら上下山亭・・・

「悪ぃな坊主、ガキは一人じゃ泊まれねぇんだ」
「はぁ!?何でさ」
「規則は規則。ガキは保護者同伴。例外は無し」
がたがたの歯並びをしていて、でっぷりと太った亭主が、カウンター越しにガハガハと笑った。少年は憎憎しげにそちらを見る。亭主はかまわず宿帳を閉じた。
「おぅ、きをつけろぉ、ぼうずぅ。一人でいると、化け物にくわれちまうぞ」
「ままぁ、怖いよぅ、てか。ぐわはははははは!!」
酔っ払った客が二人、少年をからかった。亭主も同調して、背をそらせるように笑った。
この宿は、一階が酒屋、二階が宿になっているのだ。だから一階のいたるところには、どうしようもなく酔っ払った男もいれば、隅っこのテーブルでポーカーをしている男達もいた。少年をからかったのは、先程まですぐ手前の席でちびちびと酒を飲んでいた二人組みだった。
少年が舌を鳴らす。
「おぉ?何だこいつぅ、ガキのくせに生意気なぁ」
「へっへっへ、こいつはあれだよ、びびりを押し隠していんのよ」
「がははは!!ちげぇねぇ!!」
三人が馬鹿笑いをした。亭主は愉快そうに腹を抱え、酔っ払った二人組みは、少年を指差している。
少年がにっこりと笑みを浮かべた。ゆっくり、そして大きく。目を細めて、さも幸せそうに、嘘っぽく。
そして、
「うひゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「わはははは、兄弟どうしたその頭、燃えてるじゃ・・・・・・・・・・ああ?・・・あっつ!あっつっつ!うひゃ、うびゃ!俺の頭も燃えてるぅ〜!!!」
二人の酔っ払いは、奇声を上げながら、宿中走り回った。
ポーカーしている男達も、飲んだくれて眠っていた男も、田舎者をたらしこんでいる女も、愛想笑いを浮かべながら酒を盆にのせて運ぶ女将さんも、皆、そっちを見た。
「あっつ!あっつ!だ、だれか頭が焼け焦げちまう!!!」
二人はがんがんと、壁に頭を打ち付けて火を消そうとしたが、駄目だった。消えるどころか、もっと火が強くなった。大の大人二人は泣き喚きながら床にへなへなと座り込み、今にも失禁しそうな勢いである。
「あはは、ままに助けてもらえばぁ?」
皆ぎょっとして少年を見る。亭主は、一歩、二歩と、自分の腰ぐらいしかない背丈の少年から離れいった。
一番早く動いたのは女将さんだった。素早くカウンターのほうに向かうと、水のいっぱい入った樽を抱えて、酔っ払い二人の頭に、ざばっとかけたのである。
一瞬、宿内が静まり返る。

6ドウミ・モンド:2011/01/26(水) 15:53:07 HOST:nttkyo907138.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
かわいそうに、二人組の髪の毛はすっかりなくなって、真っ赤にやけどした頭皮があらわになっていた。
「うひ、びひゃ、お、覚えてろよ!」
泣きそうな顔をしながら、二人は一目散に逃げ出した。死に物狂いというのはこの二人の為にあるかのような、それはそれはものすごい勢いだった。二人は何もないところにつまずきながら、必死に外に出ると、「魔法使いが暴れだした!!」「こ、殺されるぞぉ!!」と、口々に叫びながらその姿を消した。
宿にいる客達も、それにつられて、皆女将さんの持っている樽に金をいれ、蜘蛛の子を散らすように宿から出て行った。逃げていくお客を見つめる女将さんの顔は、海よりも真っ青である。
少年が亭主を見た。
亭主が硬い愛想笑いを向けながら、少年の目の前に立つと、深々とお辞儀をして宿帳とペンを渡した。
「ぼく、字がかけないんだ」
「そ、それで私めがお書きいたしましょう。お名前の方を伺ってもよろしいでございましょうか?」
冷や汗をかきながら、亭主は宿帳を持ち直す。硬い愛想笑いが更に引きつり、ブルドッグのようになってきた。店の中は恐ろしいくらい静かで、亭主は今にも逃げ出したい衝動に駆られた。
「カイ。僕の名前はカイ」
「は、は、はい、か、カイ様でございますね。お、おい、お前、カイ様にお料理をお作りしろ。い、今すぐに決まっているだろうが!いいか、ぜ、絶対にケチッたもんなんか出すんじゃねえぞ!」
女将さんはまじまじとカイと名乗った少年を見た後、樽を置いて店の奥に消えていった。

7ドウミ・モンド:2011/01/26(水) 16:44:26 HOST:nttkyo907138.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「まったく、あの人には困ったもんだよ」
ぶつぶつ言いながら、女将さんは厨房の隅に置いてある薪を数本かき集め、かまどに入れた。
「ただでさえうちの店には、魔道警察の目がきいてるってのにさ」
女将さんは次に、かまどのそばに置いてあるわらの山から、一掴みわらを取るとこれかまどに放り込んだ。そして、エプロンのポケットから『炎虫』とラベルの張ってある小さな小瓶を取り出すと、さかさまにして、赤くきらめく粒を一粒、手のひらに落とす。よくよくみると、それは、テントウムシのような虫だった。小さな足を動かしちょこちょこ女将さんの手の上を這い回る。女将さんはそれを見ていくらか気分が落ち着いてきた。ほっと一息つくと、虫をつまみ上げ、かまどに放り込む。
『虫よ 虫よ 小さな赤い星を見せておくれ 小さな身を焦がして踊っておくれ 小さな奇跡を起こしておくれ』
女将さんが、かまどのぽっかり開いた口に向かってゆっくりとそう呟き、三回丁寧にお辞儀をした。すると、小さな赤い光がポッと姿を現し、やがて、その小さな小さな火の粉はわら全体にいきわたり、大きな炎へと姿を変える。
「そういえば、あの子・・・」
女将さんは、厨房に行く前にちらりと見たのだ。あの少年の青い制服の襟のところに、ほんのぽっちりの点だったが、はっきりと確かに血がついていたのだ。
「恐ろしいもんだ。世の中は、どんどん魔法使い中心になっていく一方だね」
女将さんは何かしら考え込んだ後、『炎虫』の瓶から今度は五匹ほど虫を手のひらにのせた。
「あたしは魔法使いじゃないけどさ、あんた達、あたしの言うことくらい分かるだろう?頼むよ、うちの宿が危ういんだ。こうなったら魔道警察でも何でもいいからさ、誰か人を呼んでおくれよ。あの子、バーキス様の名前を、うちの店に来たと気に入ったけどさ、うちの主人が取り合わなくて。そしたら、あたしらが殺されかねない状況になっちまった。ね、頼むよ、命あっての人生だからさ。こうなったらもう、魔道警察がこようとどうでもいいわけなのよ」
虫たちは女将さんの話を聞くと、羽を広げて手のひらから飛び立った。

8ドウミ・モンド:2011/01/26(水) 17:05:10 HOST:nttkyo907138.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
女将さんが、厨房についている唯一の小さな窓を開けてやると、虫たちはそこから風のように飛び出していった。
「早く戻ってきておくれ」
女将さんはいそいそと、調理器具を探し始めた。

バーキスが来たのは、それから少したった後のことである。
彼が宿屋の扉を行儀よく叩くと、中から疲れきった顔をした、宿の亭主が姿を見せた。
バーキスの姿をみると、彼はわっと泣きながらすがりついた。
「た、助けてください、バーキス様!あの忌々しい子供が、私達の宿に居座っているのです!これでは客が寄り付きません!このままでは私の宿がつぶれてしまいます!」
「おやおや、彼を軽くあしらってしまったようだね。可哀想に。しかし、私のほうにも非がある。すまないね、今すぐ彼を連れて行こう」
「ああ、ああ、どうかお願いします!やつはもう三十皿もうちの宿の料理を食ってやがるんです!あの野郎、うちの食料庫を空にするつもりだ!」
バーキスは、わめく亭主の頭をなで自分の体から離すと、宿へと入っていった。
中には、山と詰まれた皿と、その真ん中に少年が座っているだけで、他の客はいなかった。厨房のほうから、女将さんの忙しそうな足音が聞こえる。
バーキスはため息をついた。少年も、彼の姿に気づいたようだ。今食べている、カリカリに揚げた鳥のモモ肉をそこらに放ると、バーキスに嘘っぽい笑顔を向けた。
「や、おじいちゃん。素敵な宿だね、ここは」


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