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中・長編SS投稿スレ その2

1名無しさん:2011/02/24(木) 02:44:38
中編、長編のSSを書くスレです。
オリジナル、二次創作どちらでもどうぞ。

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1296553892/

539earth:2011/06/06(月) 22:57:28
 マーズゼロにもドリルミサイルは撃ち込まれていた。しかしその数はオリジナルハイヴにも関わらず少なかった。
 このため最深部の破壊は免れていた。尤もそれ以上となるとかなり破壊されており、BETAの数も打ち減らされていた。
 そんな中に戦闘空母から発進したコスモタイガーⅡが襲い掛かる。雨霰と空対地ミサイルが叩き込まれ、地表に顔を出した
BETAを叩き潰す。 
 そしてコスモタイガーⅡの攻撃が終ると、今度は大気圏内に次々に戦艦部隊が降下する。
 
「取り舵30度。全艦右舷砲撃戦用意!」

 耕平の号令と共にアンドロメダ以下の艦隊は針路を変えた後、全ての主砲をハイヴに向けた。

「劇場版では悲劇的な最期をとげ、TV版でも壮烈な最期を遂げたが……単純な戦闘力はヤマトを上回る。
 まぁ真田さんが乗っているヤマトには勝てないだろうが……地上を這いずるBETAを潰すには十分すぎる」

 アンドロメダが誇る3連装4基12門の50.8cm衝撃砲がハイヴに狙いを定める。
 
「司令、攻撃準備完了しました」
「よし、撃て!」

 耕平の号令と共に6隻の戦艦、12隻の巡洋艦が相次いでハイブに向けて衝撃砲を発射する。
 あの特徴的な効果音(実際には趣味で耕平が艦内放送している(笑))と共にビームの束がハイヴに殺到する。 
これに対処する術をマーズゼロの重頭脳級は持ち合わせていなかった。 
 スサノオの砲撃が可愛く思えるほどの砲撃を浴びて、ただでさえボロボロだったハイヴはさらに滅茶苦茶となった。
あるところでは大穴があき、あるところでは天井が崩れ落ち、BETAが押し潰される。床が割れて下の階層の床に
叩きつけられるBETAもいる。
 火星最大のハイヴとして威容を誇っていたのがまるで嘘のような有様であった。

「全弾命中」
「……よし、突入部隊を発進させろ!」
 
 戦艦部隊に続くように降下してきた輸送艦(何故かコロンブス級がモデル)から次々に人型兵器と航空機が、より
正確に言えばMSとMAが発進していく。
 
「普通の戦いじゃあんまり使い勝手が良くないUCやCEのMS、MAが、ここで役に立つとはね」

 彼は趣味で多くの兵器を作っていたが、中にはゲームの戦争では使えないようなものもある。 
 特にガンダム系は使い勝手がよくなかった。このため格納庫の隅に置かれることになっていたのだが、今回は
そのMSとMAが役に立つときがきたと言える。
 
「少なくともマクロスのヴァルキリーシリーズを量産するよりかは安く済むし、ここで失っても戦力的にそこまで
 痛くない。まぁMSやMAがくず鉄に変わるのは心苦しいが、このまま死蔵しているよりかはマシだし」

540earth:2011/06/06(月) 22:58:10
 降下してくるMSやMAを迎え撃つべく、再度BETAが立ち塞がる。  
 この状況では健気ともいえる行動であったが全くの無意味だった。小型種はジェガンやジム系の頭部バルカンに
よって次々に蜂の巣にされ、大型種はビームライフルの餌食だった。
 だがこの劣勢を挽回するべく、地上に3体の母艦級が出現する。地球ならば、この巨大なBETAが地上に現れただけで
大損害を受けるだろう。だが火星では違った。

「突入部隊を支援しろ!」

 上空で警戒に当たっていたコスモタイガーⅡが次々にミサイルを撃ち込む。続けてMS部隊は人工知能や旗艦からの指示に
従って距離をとりつつ、集中砲火を浴びせる。これによって母艦級はかなりの打撃を受ける。だがまだ倒れない。
 その様子を輸送艦の上から見ていた朝倉と長門は自分達の出番と判断した。 

「結構硬いわね」
「ここで苦戦するわけにはいかない。援護して」
「はいはい」

 2人はそういうとすぐに艦上から姿を消す。
 そしてその直後、輸送艦の一番近くに居た母艦級の上空に朝倉が出現する。

「それじゃあ、死んで♪」
 
 朝倉が笑顔でそういった次にの瞬間、多数の光の矢が現れ、母艦級に降り注ぐ。MSのビームライフルよりも遥かに凶悪な
破壊力を持った光の矢によって串刺しにされる母艦級。だがそれで終わりではない。
 朝倉の攻撃によって弱体化した母艦級の至近に現れた長門はそのまま手を母艦級につける。そして淡々と言葉を放つ。 

「分子結合操作開始」

 この言葉と共に母艦級は敢え無く倒れた。さすがの母艦級も体内の物質を変化させられたら、一溜まりもなかった。
 残りの2体も呆気なく倒され、ハイヴの守り手は失われた。

「さて、さっさと仕事を済ませましょうか」

 こうして突入部隊は重頭脳級がいるであろうハイヴ最深部へ向けて進撃を再開した。

541earth:2011/06/06(月) 22:59:07
あとがき
というわけで前編終了です。
アンドロメダの初陣だったわけですが、長門・朝倉ペアのほうが印象が強い
気がするのは何故だろう(笑)。
それでは失礼します。

542earth:2011/06/07(火) 21:56:17
と言うわけで短めですが、第5話です。

 未来人の多元世界見聞録 第5話


 母艦級があっという間に撃破されたのを見た耕平は、金(ゲーム内&現実世界)をかけた甲斐があったと思い安堵する。 

「あの2人とMS部隊がいれば重頭脳級でも何とかなるだろう。まぁどうしてもダメならまた別の方法を考えればいい」

 火星攻略戦につぎ込んだ兵力は耕平が所有する全兵力からすればごく一部でしかない。仮に艦隊を含めて部隊が壊滅した
としても建て直しは可能だ。尤も仮にそんなことが可能な敵が現れたとなれば、耕平も本腰を入れて動かざるを得なくなるが。

「さて、これだけ派手に火星で暴れたんだ。マブラヴ人類でも火星の様子がおかしいくらいは観測できただろう。
 多少は外宇宙に脅威を感じて地球連邦とまではいかないが、地球連合くらいは創設してもらいたいな」
 
 わざわざ火星を攻略したのは、この世界の地球人類(以降マブラヴ人類と呼称)に、謎の勢力が太陽系で活動している
ことを見せ付けるためでもあった。
 マブラヴ人類は宇宙空間からの一方的攻撃でハイヴが根こそぎ潰されたのを見ている。よって火星への攻撃が地球のハイヴを
掃討した勢力、またはそれと同レベルの技術力を持つ勢力によって行わたと推測は立てられる筈だった。

「外宇宙に脅威を感じ、さらに月攻略のために宇宙艦隊を編成というのも見てみたいし。原作ではなかった宇宙用戦術機とか
 是非みたいからな。勿論、発見したらすぐに同じのを作らせて貰う」

 元モデラーの血が騒ぐぜ、とテンションをあげる耕平。すでにハイヴの中で行われている戦闘のことは頭の片隅に、いや
殆ど追い出されている。朝倉がこの場にいれば突っ込みが入ることは間違いない。長門からも冷たい視線が注がれるだろう。

「そう言えば、自分と同じくらいの年齢のアンドロイドって、あの2人以外は作ったこと無いな。何か作るか」

 そう言って耕平は艦長席で端末を操作して色々と思案する。ちなみに地下でのチマチマとした戦闘の指示は面倒なので
AIやアンドロイド達に一任することにした。
 
「あと宜しく」

543earth:2011/06/07(火) 21:56:56
 戦闘を事実上丸投げされた朝倉は嘆息する。

「面倒なこと丸投げとはね……」
「今言っても仕方ない。我々は我々の仕事をするだけ」
「はいはい」

 両名を先頭とした突入部隊は、時折現れるBETAの群れを次々に殲滅していった。先ほどまでの砲爆撃、そして地上戦で
消耗しつくしたBETAに、突入部隊を食い止めるだけの力は残されていなかった。
 Zガンダムなどの可変型MSが先行してBETAを攻撃。続けて重火力のMSの面制圧、そしてビームライフルの弾幕射撃に
よってBETAは次々に屍に変えられていく。多少抵抗しても今度は長門と朝倉が制圧する。

「何とも貧弱な抵抗。こんなので私たちを止められると思っているのかしら」
「光線級が存在しない以上、彼らに選択肢は無い」
「判っているわ。でも初陣にしては物足りなくない?」

 そういった直後、朝倉は無数の光の矢を放ち、出てきたBETAの群れを1匹残らず消滅させた。

「もっと色々と使ってみたいのに」
「重頭脳級との戦いに備えて温存しておくべき」
「でもこの程度だと、期待できそうに無いわね。まぁ次の機会を待つとしましょうか」

 くすっと笑う朝倉。その笑みは第三者がみれば十分綺麗だと思えるものだったが、キョンが見れば戦慄すること間違いない。
 しかしそんなことは知る由も無い両名は障害を容易く排除し、マーズゼロ最深部にたどり着く。 

「さて、それじゃあ対面といきましょうか」

 2人を先頭にした突入部隊はマーズゼロの最深部に鎮座する重頭脳級を視界に捉える。 

「何とも趣味が悪いわね。少なくとも女性が見ていて気分が良いものではないわ」
「それは否定しない」
「でもやらないわけにはいかないのよね。ま、さっさと済ませましょうか」

 余裕を崩さない2人。
 この2人めがけて触手が向かう直前、朝倉は瞬間移動で重頭脳級のすぐ傍に移動する。

「atisuodiettayuod?!」

 勿論、この朝倉に攻撃しようとする重頭脳級。だがその直後、すべての触手が切り落とされる。 
さらに重頭脳級が展開していたラザフォード場がズタズタに切り裂かれ消滅する。

544earth:2011/06/07(火) 21:57:34
「この程度の攻撃を凌げないようじゃ、第1世界の化物に瞬殺されるのがオチよ。もう少し精進したら?」

 片手にナイフをもち、素敵な笑顔を浮かべる朝倉。実に原作どおりと言える。キョンでなくとも腰が引けることは
確実だった。

「あとは頼むわ」
「任せて」

 続けて出現した長門は重頭脳級に手をかざすと何かを呟く。そしてその直後、信じがたい現象が起こった。

「aginanaherokadnan?!」

 そう重頭脳級が凍り付いていくのだ。何とか抜け出そうとする重頭脳級。だがその努力が報われることはなかった。
 
「周辺の熱運動を全て停止させた。抵抗は無意味」

 長門は周辺の原子・分子の熱運動を停止させ、重頭脳級を絶対零度の中に閉じ込めたのだ。
見る見る凍りつき、動きを止めていく重頭脳級。かくして勝負は決した。

「1分足らずで決着……脆すぎね。まぁ良いか。あとは情報を読み取るだけ」
「判っている」

 かくして氷付けになった重頭脳級から可能な限りの情報を吸い出すと、長門たちは帰っていった。

「任務完了しました」

 アンドロメダの艦橋に来た2人から報告を受けた耕平は「ご苦労さま」と言って2人を下がらせる。

「さて、調査も終ったし、後はあの薄汚い穴倉を消して終わりだな」

 そう呟いた耕平は、波動カードリッジ弾を主砲に装填させた。

「波動砲を撃ち込むわけにはいかないから、これで我慢するか。精々、派手に散ってくれ。地球からも見えるように」

 そしてアンドロメダの50.8cm砲6門から、6発の波動カードリッジ弾が放たれる。
 放物線を描きつつ6発の砲弾は寸分違わずハイヴ、いやより正確に言えばハイヴ跡に吸い込まれる。そしてその直後、大爆発
を引き起こし、マーズゼロであったものを何もかも吹き飛ばした。BETAの死骸も、氷付けの重頭脳級も何もかも消え去った。
    
「作戦終了。帰還する」

 耕平の命令と共に艦隊は引き上げていく。こうして火星攻略戦は終了した。耕平の一方的な勝利によって。

545earth:2011/06/07(火) 21:58:55
あとがき
と言うわけで火星攻略戦終了です。
最強系SSらしく蹂躙です。しかし主人公の影が薄いのは何故だろう(笑)。
次は地球の様子が入る予定です。
それでは失礼します。

546earth:2011/06/09(木) 00:08:00
何故か書けてしまったので掲載します。
短めですが第6話です。


 未来人の多元世界見聞録 第6話


 西暦1999年2月11日、火星での謎の発光現象に関するニュースが世間をにぎわせていた。
 かつて一瞬でハイヴが掃討されたことを見ている人類は、同じことが火星でも起こったのではないかと考えた。
 特に京都防衛戦の最中に、ハイヴが掃討された日本帝国では神風が吹いたと歓喜する人間さえ居る。だがハイヴが
消えたと考えて喜ぶ人間がいる傍らで、謎の勢力が太陽系で活動していることを懸念する声も挙がった。

「太陽系にBETAと別の異星人がいることは明らかだ。BETA大戦の二の舞を避けるために宇宙軍を強化する必要がある!」

 米国の国連大使が国連安全保障理事会でそう力説する。これに対して他国の大使達は一定の理解を示すが、全面的に米国の
主張を認めることはなかった。

「確かに宇宙軍の強化は必要でしょう」
「ですが我が国にはそのような余力はありません。国土の復興こそが第一です」
「それに対異星人を名目にして新兵器、G弾を宇宙に配備するというのは感心できませんな。まして貴国は移民船団を改造した
 宇宙艦隊の編成を進めている。これだけでも十分ではありませんか?」

 最後のソ連大使からの言葉に米国大使は反論する。

「地球や火星のハイヴを、我々が探知しえぬ方法で一瞬で消滅させた異星人が相手でもですか?」 

 対BETA戦争のために人類は宇宙観測を重視していた。この技術によって火星周辺で行動する耕平の艦隊を捉えることに
成功したのだ。だがそうかと言って喜んでいられるほど彼らは、特に米国は能天気ではなかった。 
 むしろ太陽系内を自由自在に動き回る多数の宇宙船(それも信じがたいほどの速度で航行する)を確認した米政府は、この
宇宙船を所有する勢力が地球に押し寄せることを恐れていた。
 勿論、他の国も大なり小なり警戒や恐れは抱いている。だが、かといって謎の異星人対策と称して宇宙軍を拡張し、新型爆弾を 
自分達の頭上に配備しようとする米国の行動を全面的に是認するつもりはなかった。

(((異星人対策の名目で、我々の喉元にナイフを突きつけるつもりなのでは?)))

 BETA大戦終了後、アメリカは世界の盟主として君臨していた。
 横暴な大国であったが、アメリカによる秩序は確かに必要だった。しかし必要だからと言って大人しくアメリカの属国に
なる気は各国にはさらさらなかった。特にソ連はかつて世界を二分した超大国としての地位を取り戻すべく躍起になっていた。
 こうして各国は虚虚実実の駆け引きを繰り広げることになる。異星人対策など実は無意味だとも知らずに。

547earth:2011/06/09(木) 00:08:36
 そんな様子を半ば世捨て人として隠棲した香月夕呼は冷めた目で見ていた。 
  
「今の人類が総力を決したって、勝てるどころか対抗することさえ出来ないでしょうに。本当、無駄なことが好きな連中」

 某屋敷の洋風の書斎で新聞を読んでいた夕呼は、各国の動きを切って捨てた。
 
「まぁ良いわ。私には関係の無いことだし。さて今日は何をしましょうか」 

 地球上のハイヴが消滅し、さらにその後の掃討作戦で地球上のBETAが殲滅されたことでAL4は中止された。
 一部の人間から言わせれば御伽噺と言われるAL4を、BETA大戦終了後も続けられるほど人類は余裕があるわけで
はなかった。
 夕呼自身もBETA大戦が、謎の勢力による宙対地爆撃で事実上終焉したことで、やる気をなくしたので、AL4の中止を
あっさり受け入れて公式の場から姿を消した。
 ちなみに彼女の友人の神宮寺まりもはBETA大戦終了を受けて、再び教員の道を考え始めていた。A−01の人間達も 
それぞれの人生を歩み始めており、現時点では誰もが前途洋洋という状況だった。
 そしてそれは原作では酷い目にあったヒロインも同様だった。

「武ちゃん、早く行こう!」
「待てって」

 BETA大戦が終わり、復興に歩み始めた日本では、久方ぶりに遊園地が再開された。
 幸運にも遊園地のチケットと手に入れた白銀武と鑑純夏は遊園地でのデートと洒落込んでいた。尤も武にはデート
という意識は薄かったが。

「それにしても、BETAをやっつけた宇宙人ってどんな人たちだったんだろう?」
「さぁな。でも悪い宇宙人の後に、良い宇宙人が来たってことだろ。日本を救ってくれたんだし」
  
 帝国の中枢である帝都・京都。この千年の京がBETAの手に渡らずに済んだのは異星人のハイヴ攻撃があったからだ。
勿論、現地で必死に戦った斯衛軍の将兵の奮戦も忘れてはならない。彼らが居なければ京都は蹂躙された西日本同様に
呆気なく陥落していただろう。
 実際、そのことをわかっている国民は斯衛軍を賞賛した。そして斯衛軍と共に京都に残っていた将軍・煌武院悠陽もまた
賞賛の対象となった。
 だがそれは政威大将軍の権威の復活に繋がるものであった。シビリアンコントロールを重視する一派はこれを危険視し
斯衛軍を邪魔に思う帝国陸軍が影で動き始めていた。さらに復興のために軍事予算を大幅に削減しようとする政府に対し
陸軍は反発を強めており、日本帝国の政治状況は正常とは程遠かった。

548earth:2011/06/09(木) 00:09:08
 そんな状況を作った耕平だったが、彼の関心は今やBETAの母星(?)の情報に向けられていた。
 
「BETAの母星(?)が回遊惑星なんて聞いてないって」

 長門達が持ち帰った情報に耕平は顔を顰めていた。
 何しろBETAの本拠地である惑星は、銀河内を移動しているというのだ。これでは手の打ちようが無い。

「というか回遊惑星というより巨大な宇宙船だな……さて、どうするか」

 銀河中を探し回るわけにはいかない。そんなことをしていたら、第6世界の自軍領域の警戒網が穴だらけになって
しまう。BETAの母星を探しに行ってゲームオーバーなんて事態は避けなければならない。
 そんな中、長門がある提案を行う。

「それなら、敵の物資輸送の中継拠点を探し当てるのが適当」
「中継拠点?」
「母星が回遊惑星ならば、各惑星から送られてくるG元素を回収するために定期的にその位置を知らせなければならない」
「確かに」
「重頭脳級からの情報では幾つかの惑星にG元素が送られていることがわかった。この惑星群をさらに調査していけば
 母星にG元素を輸送する拠点にたどり着ける可能性が高い」
「なるほど。しかし手間がかかるな」

 面倒ごとは嫌いなんだけどな〜と思い、ため息をつく耕平。 
 
「いっそのこと、AIかアンドロイドに委任するか」
「またですか」

 朝倉は嘆息するが、耕平は気にもしない。

「仕方ないだろう。俺にはリアルの生活があるんだ。連休明けはテストだし」
「夢が無い話ですね」
「リアルあっての夢だよ」

 そう言いつつ、耕平は方針を決した。 

「それじゃあ、委任するか。というわけで頼むよ。長門、朝倉」
「え?」
「いや、一応、君達、艦隊司令官としても使えるようにしてあるし。第一、BETAの思考を読み取れる君達が現場で
 細かい方針を決めたほうが良い。そういうことで、艦隊旗艦にも使えるように改造してある主力戦艦『長門』と
 主力戦艦『周防』『土佐』、それに戦闘空母『伊勢』、巡洋艦4隻、駆逐艦8隻、パトロール艦12隻、あとデスラー艦と
 火星攻略に使った輸送船団の指揮権も与えるから」

 耕平は有無を言わさず、長門を艦隊司令官に、朝倉を参謀長に命じる。

「それじゃあ頑張ってね」

 かくして独立遊撃艦隊・『長門』艦隊が誕生することになった。

549earth:2011/06/09(木) 00:11:44
あとがき
口は禍のもと(笑)。
というわけで長門艦隊誕生です。改訂前と違って、ゲーム世界ではBETA相手に
暴れまわってくれるでしょう。ストレス解消も兼ねて(爆)。
BETA本星が回遊(移動)惑星というのは、こちらで勝手に設定したものなので
ご容赦を。

550earth:2011/06/09(木) 23:26:33
短めですが、第7話です。今回は長門艦隊です。

 未来人の多元世界見聞録 第7話


 総司令官(プレイヤー)たる耕平から独立遊撃艦隊を押し付けられた長門と朝倉は不承不承ながらも艦隊を編成し
必要な訓練を行った後、太陽系外のBETAが生息する惑星に向かった。
  
「それじゃあ、始めましょうか」

 旗艦長門の艦橋で、ダルそうな顔をしながら朝倉は作戦の開始を告げる。ちなみに彼女達は前の時と違って軍服だ。
 さらに言えば服装もヤマト式ではなく、TVアニメ版の『射手座の日』で着ていた軍服だ。長門は白、朝倉は青をベース
とした軍服をまとっている。ちなみに「やっぱりこうじゃないと」と言って嬉々として服を揃える耕平に、アンドロイドの
2人は怖気を覚えたと言う(爆)。
 まぁ服装自体は古臭いものの、決して悪くは無いので悪し様には言えないのが辛いところだろう。

「こんな作戦、早めに終らせるに限るわ」

 といっても内容は特に難しいものではない。最初に宇宙から地上のハイヴを偵察し、ハイヴの規模を確認。
そして全てのハイヴに対して、最下層の反応炉が残る程度に爆撃を行う。このあと突入部隊で最も手薄なハイヴを確保し
長門達が情報を読み取って重頭脳級の居場所を特定。このあと、再度、重頭脳級が居るハイヴを攻略するというものだった。

「作戦開始」

 長門の言葉と共に、デスラー艦が毎度なじみの超大型ミサイルをハイヴ頭上に送り込む。
 モニュメントごと地上付近のBETAをなぎ払った後、さらにドリルミサイルが降り注ぎ、ハイヴを丸裸にしてしまう。
 
「あとは突入部隊と一緒にいくだけね」
「判っている」

 簡単に反応炉を確保し、そこから情報を読み取った長門達は、すぐに重頭脳級が居るハイヴに向かった。
 3隻の戦艦からの砲撃、さらにコスモタイガーⅡからの爆撃が行われ、生き残っていたBETAがあっという間に駆除される。
波動エネルギーを注入した空対地爆弾は、戦術核など目ではない規模の破壊を撒き散らし、BETAを掃滅した。
 母艦級でさえ、この新型爆弾の前には無力だった。

「あっさり来れたわね。全く、脆すぎにも程があるわ」

 火星のマーズゼロのことを思い浮かべて、朝倉は嘆息する。そんな朝倉を長門が窘める。

「経路はわかっている。速やかに侵入し、目標を果たすべき」
「了解」

551earth:2011/06/09(木) 23:27:03
 このたびはサザビー、νガンダムなどファンネルを使えるタイプのMS部隊が長門と朝倉に同行していた。 
 雑魚を一々相手にするのも面倒なので、細かい火力支援が行える機体を連れて行ったのだ。
 勿論、彼らは原作の名に恥じない活躍で、ハイヴのあちこちから顔を出して襲い掛かってくるBETAをファンネルを
使って排除していった。

「さすが総司令のお気に入りの機体。中々の反応速度ね」
「中身のセンサーは、原作とは全くの別物になっていると聞く」
「余計なことには金かけるのね、あの人」

 耕平の趣向に呆れつつ、2人はハイヴの中を突き進む。時折、MS部隊を突破してきたBETAもいたが、それらは
全て朝倉の放つ光の矢によって片付けられた。こうして全ての障害を排除した2人は、あっさりと重頭脳級のいる最深部に到達。
前回と同様に1分足らずで決着を付けた。

 氷付けになった重頭脳級の前で、2人はこのあとどうするかを話し合った。

「さて、残りのハイヴはどうする?」
「……これまで通り、砲撃で殲滅する」
「波動砲を撃ちこまない? 拡散波動砲なら惑星が砕けることもないでしょうし、ミサイルを消費することなく掃討できる。
 それに波動砲のテストもできる。連中には私たちのような星間通信網がないみたいだから、通報される心配も無いわ」
「オーバーキル」 
「問題ないわ。それに新型BETAや惑星サイズのBETAが現れたら、波動砲、又はそれに近い大量破壊兵器を使う
 必要がある。そのためのテストと考えれば良いじゃない」

 G弾など線香花火同然の大量破壊兵器の使用を進言する朝倉。
 そして朝倉の進言は、決して間違ってはいない。実際、今後場合によっては地上に向けて波動砲を撃つこともあり得る。 
 そのことを吟味した長門は、しばしの沈黙の末、首肯する。

「了承した。波動砲統制射撃を行う」

 かくしてこの星の残存BETAは波動砲の標的となった。それも訓練用の。
 旗艦・長門に戻った2人はすぐに指揮下の艦隊(パトロール艦除く)に命令を下した。

「これより波動砲統制射撃を行う。全艦、マルチ隊形」

 地球よりやや小さい程度の1惑星に向けて、戦艦3隻がその波動砲の砲口を向ける。

「波動砲発射用意。ターゲットスコープ、オープン」

 チャージが開始されると同時に、引き金が艦長席の長門の目の前に現れる。
 長門は引き金を手をかけると、照準を合わせる。

「電影クロスゲージ明度10」
「エネルギー充填120%。いつでも撃てるわ」

 朝倉の言葉に頷くと、長門はカウントダウンを開始した。

「発射10秒前、対ショック、対閃光防御。10、9、8………」

 朝倉は笑みを浮かべながら発射の時を待つ。

「3、2、1、0。波動砲、発射」

 長門は引き金を引いた。そして次に瞬間、小宇宙に匹敵するエネルギーが、3隻の戦艦から一斉に放たれる。

552earth:2011/06/09(木) 23:27:49
3隻の戦艦から放たれた波動エネルギーの奔流は、瞬く間に惑星表面に殺到した。そして散弾銃のように拡散して
放物線を描きながらハイヴやBETAに降り注ぐ。
 拡散しているとは言え、その破壊力は核兵器、そしてG弾の比ではない。惑星表面もろともBETAは原子レベルで
分解し、消滅を余儀なくされていく。地下深くに隠れていた母艦級でさえ、地面ごと掘り起こされその巨体を消滅させ
られていく。
 閃光が消え去った後、地上で動くものはなかった。それどころか惑星の形そのものが変わり果てていた。 

「地上のハイヴ、完全に消滅。また着弾の影響で惑星内部で大規模な地殻変動が起こっているようです。大量のマグマが
 噴出しており、惑星表面を覆いつつあります。加えて爆発の衝撃で軌道から逸れつつあります」

 参謀のアンドロイドの報告に長門は頷く。

「……威力的には申し分ないが、宙対地爆撃のほうが効率がやはり良い。惑星ごと粉砕する必要がある時はそのための
 兵器を用意したほうが良い」

 長門の言葉に、朝倉はすかさず頷く。

「そうね。それに波動砲を撃つと、暫く身動き取れないことがよく判ったわ。こういう弊害はやっぱり実経験がないと
 判らないわね」
「新型BETAの存在を考慮すれば波動砲の発射はタイミングを誤ると致命的な隙を作りかねない。
 ここは総司令に進言しておくべき」

 かくして3隻の戦艦から放たれた拡散波動砲によってズタボロにされ、砕けなかったのが奇跡とも思える惑星を背に
長門艦隊は去っていった。
 このあとも長門艦隊は容赦なく暴れ回り、色々なデータを収集することになる。そしてこれらのデータを基に、耕平は
新たな艦隊整備計画を進めることになる。

553earth:2011/06/09(木) 23:29:13
あとがき
改訂前では撃たれるがなかった波動砲ですが、このたびは容赦なく
発射されました。虐殺ってレベルじゃないですね(笑)。
それでは失礼します。

554名無しさん:2011/06/10(金) 20:09:12
ヤマトならこの後、軌道を失った惑星は小ワープを繰り返しながら
地球との衝突コースに入った……とかなるなw

555earth:2011/06/10(金) 22:28:32
第8話をアップします。


 未来人の多元世界見聞録 第8話

 太陽系外でBETAが一方的に駆逐されているのを知る由も無いマブラヴ人類は、紆余曲折の末、宇宙軍の強化を
決定した。米国は移民船団を改造した宇宙艦隊、そしてG弾の宇宙空間への配備を推し進める。
 だが国連のほかの国々も黙ってみているつもりはなかった。
 
「米国宇宙軍を牽制するために国連宇宙総軍を強化するべきだ」

 ソ連の主張に、少なくない国が同意して国連宇宙艦隊を編成した。勿論、表向きは異星人対策である。
 幾ら何でもアメリカの軍備増強に対抗するために宇宙艦隊を編成したとは口が裂けても言えない。
 「BETA大戦の悲劇を繰り返さないため」とのスローガンの下、復興に注ぎ込まれるはずの資材や予算までつぎ込む
その姿は滑稽とさえ思える光景だった。

「BETAを駆逐した宇宙人に備えるって、お偉いさんはまた戦争したいのかよ。それよりも復興に力を注げばいいのに」


 自宅でTVのニュースを聞いた武はそう言って呆れる。彼のような一般人にとっては復興こそ重要な問題だったのだ。
 しかし唐突に齎された平和は、唐突に失われることになる。
 西暦1999年6月、未だにハイヴが残る月から多数の着陸ユニットが射出されたのだ。着陸ユニットの大半は人類の
対宇宙全周防衛拠点兵器シャドウによって軌道を変えることが出来た。だがたった1つだけ防衛線を突破したのだ。  
 落着したのは、黒海沿岸コーカサス地方。元々地下資源が豊かな地域であり、ここをBETAが狙うのは当然と言える。
 だがこれをソ連は絶好の好機と見た。 

「万難を排してでも、着陸ユニットを確保するんだ!」

 対BETA戦争で鍛えられた軍隊を持つが故に、ソ連政府は愚かとも言える決断を下した。
 彼らにとって日に日に勢力を増していくアメリカに対抗するためには、BETAの技術を、G元素技術を手に入れる
ことが必要だった。
 国連軍の派遣を断ったソ連軍は全力でコーカサスに落ちた着陸ユニットに大軍を差し向けた。紅の姉妹など第3計画の
遺児たちさえ動員したのだから、どれほど力が入っていたのかが判る。
 そして彼らは多大な出血の結果、幸運にも着陸ユニットを制圧することに成功する。それはBETA由来の技術で
ソ連が優位に立ったことを意味していた。

556earth:2011/06/10(金) 22:29:05
 これに慌てたのは米国であった。
 彼らは硬軟あわせた交渉で、技術の開示を求めたが、ソ連は聞く耳を持たず着陸ユニットから得られたものを全て
独占し、これを交渉のカードに使った。AL3の遺児よりも遥かに強力な能力を持つ人間の製作にさえ手をつけた。

「G元素、そして超能力者。この2つがあれば、超大国の地位を取り戻すのも不可能ではない」

 ソ連政府高官はそう言って高笑いした。実際、ソ連がBETAに関して新たな情報を多数掴んだとの報告を聞いた
各国は情報を得ようと、ソ連に対して旨みのある交渉を申し込んでいた。
 勿論、ソ連はそれに素直に応じるつもりは無い。出来るだけ高値で売りつけるつもりだった。
 しかしこの動きを黙ってみているほどアメリカは穏健でも、能天気でもなかった。

「何としても情報を奪え。工作員をすり潰しても構わん!!」

 米国大統領はホワイトハウスに呼び出したCIA、DIA(アメリカ国防情報局)に厳命する傍ら、国務省には
共産国家であるソ連の台頭に動揺するだろう同盟国への支援を命じる。

「アラスカを間借りしなければならなかった国が、家主の我が国に楯突くなど、恩知らずにも程がある!」

 米政府高官はあまりの横暴なソ連の態度に、怒り心頭だった。
 だがアメリカ政府を苛立たせる原因がもう1つあった。そう、極東の要である大日本帝国だ。
 安全保障条約破棄こそなかったものの、光州事件、日本本土防衛戦を経て在日米軍と帝国軍との軋轢が大きくなって
いたのだ。
 
「日本がソ連に靡くようなことがあっては、東アジア戦略が根底から崩れる。何とかせねば」

 米国は親米政権(出来れば傀儡政権)を作り出すために策謀を開始する。この時の日本帝国はそれを許すほど隙だらけだった。

557earth:2011/06/10(金) 22:29:41
 BETAの脅威がなくなったにも関わらず本土防衛軍は存続していた。
 政治家や経済界の要人などの子息を安全な場所に配置して、子息の身を守りつつ、彼らの経歴を盾にすることで
影響力を拡大してきた本土防衛軍首脳部は、簡単に自分達の権力を手放すつもりはなかった。
 予算の大幅削減に不満を漏らす陸軍とも結託し、政府との権力闘争を繰り広げていた。

「黒海沿岸にBETAが再侵攻したのを見れば、軍縮がいかに危険かが判るだろう!」

 本土防衛軍首脳部の一人である陸軍出身の大将が会議の席でそう吼えた。
 これに政府側首脳は苦い顔をする。黒海沿岸に再びBETAが降下してくるのは計算外だった。さらにソ連軍が着陸ユニット
を確保したため、今後、ソ連が強大化することも懸念される。
 
「しかし軍事予算を削減しなければ復興予算が捻出できません」
「ならば斯衛軍の再建をやめればいい。多少は金を捻出できるだろう」

 この台詞に城内省の役人が激怒する。

「京都を守りきった彼らを蔑ろにするのですか?」
「その防衛戦で一体、どれだけの被害が出たのだ? 被害を補填するために軍の前線指揮官を引き抜くつもりか?」
「殿下をお守りするためです」
(殿下ではなく、お前ら、城内省や武家連中のためだろうが。そのために専用機など作りやがって)

 喧々囂々のやり取りが続くが、最終的には総理大臣である榊が決断を下した。

「確かにBETAの脅威が完全に払拭されていないのは判った。戦術機に関する予算は認めよう。
 だが他の兵科、特に歩兵については予算を削減させてもらう。海軍も旧式艦から順次退役させてもらう」
「ですが、それではソ連への押さえが」
「米国と組む。米国もソ連の態度には怒り心頭のようだ。交渉の余地はある」

 米国という言葉にムッという顔になる一部の軍人。反米感情が如何に強いかが見て取れる。
 そんな高官達のやり取りの影でも陰謀は進められていた。将軍の権威が復活する機運を嗅ぎ取った摂家が動いたのだ。  
 彼らは小娘を引きずり降ろし、自分が将軍の地位に座ろうと蠢き始めていた。
 政治がこんなカオスな状態なのだから、アメリカが付け入る隙は幾らでもあった。かくして対日工作が活発化していく
ことになる。

558earth:2011/06/10(金) 22:31:39
あとがき
と言うわけで人類は再び争います。ついでに日本国内も大荒れです。
地球連合どころか、冷戦時代に逆戻りです(爆)。
それでは失礼します。

559earth:2011/06/11(土) 01:05:45
何か乗ってきたので書き上げてしまった第9話です。相変わらず短いですが(笑)。


   未来人の多元世界見聞録 第9話


 連休明けテストに備えて、耕平は裏技で勉強に必要な電子データをゲーム世界に持ち込んで勉強していた。
 ゲーム世界は現実世界と時間の流れが違うので、ゲーム世界でなら時間に余裕を持って勉強できるのだ。
この様子をモニター越しに見ていた朝倉は呆れてため息をついた。

『何とも夢が無いことをしていますね』

 アンドロメダの艦長席で勉強をする耕平は、メインモニターに映る朝倉の姿を一瞬見ると、すぐに問題が表示されている
端末画面のほうに視線を戻した。

「リアルあっての夢、ゲームだからな。ただでさえリアルは忙しいんだ。ここで時間をうまく使わないと。
 だいたい、この裏技やっている人間、俺だけじゃないぞ」
『ここは学習塾の自習室ですか』
「社会人のプレイヤーもいるぞ。締め切りに追われた漫画家や同人作家もいる。イベント前になったら、観艦式さら
 がらの光景(複数のプレイヤーが集まっているため)が繰り広げられる世界だってある』

 この言葉に朝倉はため息しか出ない。

「……では、報告は聞こう」

 そう言いつつも視線を向けようともしない耕平に、朝倉は呆れるものの、すぐに報告を開始した。

『現在、8つの惑星のハイヴを攻略しました。ですが残念ながら、どれも敵の中継拠点ではありませんでした』
「そうか。まぁ仕方ない。気長に待つとしよう」
『それと、これまでの作戦から得られた戦訓や、今後の戦略に関する提言をメールで回します』

 朝倉の言葉を聞いた耕平は、初めて勉強以外に興味がわいたのか、早速メールを開封して読み始める。

「なるほど。興味深い。特に対惑星兵器は必要だ……早速、工廠で必要な兵器の生産を行おう。
 あとは波動砲発射後に、無防備になる問題だな」

 耕平は原作で、地球防衛艦隊がやられた光景を思い浮かべる。その多くが波動砲発射後のことだった。

(波動砲発射後に身動きがとれない状態でやられるパターンが多い。逆に波動砲を使わない土星会戦では土方提督の
 機転もあって大勝利を得た。つまり現状では波動砲に頼るのは危険ということだろう)

560earth:2011/06/11(土) 01:06:29
 しかし波動砲の火力は必要だった。耕平は第6世界では有数のプレイヤーではあるが、時たま現れる上位世界の
プレイヤーと戦うのは大変だった。故に波動砲の一斉発射は防衛側の戦術として棄てがたい。

「……艦隊を危険に晒さないようにするには超アウトレンジ攻撃が必要になるかも知れないな」

 耕平が脳裏に浮かべたのは、ガトランティス帝国軍が使っていた火炎直撃砲だった。

「瞬間エネルギー位相装置を作って、一部の艦の波動砲と連動して長遠距離から発射という戦術が使えるか?
 あとは波動エンジンを暴走させた大型無人戦艦でも位相装置で送り込んで自爆させるというのも良いかも知れない」

 無人兵器ばかりなので、耕平は普通は使えないような戦術を口にする。 

「あとは波動砲の機能をオミットした戦艦だな。波動砲の変わりに防御装置を満載しておけば、波動砲搭載艦の盾に
 なるし、砲撃戦でも打たれ強い艦は役に立つ」

 戦艦を護衛する戦艦というのも変な話であったが、モデラーの血が騒ぐのか、耕平のテンションが上がる。

「必要な消耗品はすぐに送る。あと勉強が終ったら、すぐに新兵器の製作に取り掛かるから」
『……まぁ頑張ってください』
 
 脱力したような顔で朝倉は通信を切った。
 
「さて勉強勉強」

 勉強後の楽しみを夢想して笑みを浮かべながら、耕平は勉学に勤しんだ。
 ちなみにこの時、耕平はマブラヴ人類の様子に関心を払っていなかった。何しろあれだけ色々と刺激したにも関わらず
内輪もめに力を注いでいるのを見ていれば飽きるのは当然だった。

(ソ連軍がどんな変態的な進化を遂げるかは興味がわくけど、一々チェックしようって気にはならないな)

 しかし完全に無視はしない。新型戦術機登場に備えて情報の収集は怠っていない。
 
(宇宙空母や宇宙用戦術機、はやくでないかな〜)

 今や、耕平にとってマブラヴ人類は遠い星のマイナー玩具メーカー程度の存在だった。

561earth:2011/06/11(土) 01:08:03
 連休が明け、耕平がログアウトしてマブラヴ人類への干渉が等閑になったころ、地球の様子はさらに緊迫した
ものとなった。
 西暦2000年1月、コーカサスに建設されていたソ連のG元素関連施設が突然大爆発を引き起こしたのだ。 
それも通常の爆発ではなく、ムアコック・レヒテ機関が暴走したときのもの、つまり超臨界反応による爆発だった。
 この大爆発によって広範囲に重力異常が発生することになる。
 だが問題はそれではなかった。ソ連政府が威信をもって進めていたG元素の研究が文字通り水泡と帰したのだ。
折角、着陸ユニットから採取した貴重なサンプルも、ソ連最高の科学者、技術者も何もかもが消滅したのだ。
 これはソ連政府にとって致命的とも言える大打撃であった。そしてソ連政府は自分達への責任追求を回避するために
この研究施設の爆発を、アメリカの陰謀だと主張した。

「忌々しい帝国主義者は、我々の研究施設へ破壊工作を仕掛けた。これを見過ごすことはできない!」

 真犯人扱いされたアメリカ政府は勿論、激怒した。

「こんな横暴な間借り人は見たことが無い!」

 米国議会ではアラスカの即時返還を求める動きが加速した。BETAがいなくなった今、共産主義者を領内に
留めておく理由は何一つない。
 まして恩人であるはずの米国に濡れ衣を被せてくるような輩に手加減は無用……そんな意見が米国を支配した。
 ホワイトハウスでは連日、この問題にどう対処するかで会議が開かれていた。  

「この爆発に我が国の情報員は関与していないのだな?」

 大統領の言葉に、CIAとDIAの責任者達は一様に頷く。
 実際、彼らは情報収集は行っていたが、破壊工作までは現状ではするつもりはなかった。現場が暴走した可能性は
否定できなかったが……何もかも吹き飛んだ今、それを知ることはできない。

「やはり事故なのでは?」
「ふん。ロシア人にムアコック・レヒテ機関ができるわけがない。我々だってG弾を開発するのにどれだけの手間と
 時間が掛かったことか」

 ソ連を嘲笑する男達。 

「だがこれでソ連の優位は消えました。反米の国々も旗頭を失い失速するでしょう」
「そうだな。これで我が国主導の世界が構築できる。万が一の備えとして宇宙艦隊の編成も進んでいる。今回の
 ように着陸ユニットの落着を許すこともないだろう」
「あとは、例の謎の異星人Xですな」
「今のところは大人しい。だが万が一への備えは必要だ。G弾さえ比較にならない大破壊兵器を無警告で地上に
 撃ち込む連中だからな」

 BETAを排除してくれたのは確かに有難かった。だが無警告で一方的に宙対地爆撃をしかけた存在を米国は
信用できなかった。故に宇宙軍の強化も欠かせなかった。
 勿論、宇宙軍の強化を行う事で地上を威圧し、仮初の平和を維持することで米国主導の秩序と米国兵士の命を
守ろうとも考えていたが。

「何はともあれ、我が国の時代だな」

 しかし、彼らの余裕はすぐに打ち崩されることになる。

562earth:2011/06/11(土) 01:09:37
あとがき
というわけでソ連政府の短い夢は終りました。
次回、地球情勢はさらに悪くなるでしょう。主人公が情報を確認したら
頭を抱えるか、呆れるか、大笑いするか……。
それでは失礼します。

563earth:2011/06/11(土) 11:18:25
第10話をUPします。


  未来人の多元世界見聞録 第10話

  
 ソ連が事実上失墜したのを見たアメリカは、自国の力の象徴として宇宙軍の強化に邁進した。
 移民船だった巨大宇宙船を巨大な宇宙戦闘艦に設計変更し建造を進め、宇宙艦隊が活動できる場所として大規模な
宇宙港をラグランジュポイントに建設しつつあった。さらにG弾を全周地球防衛核投射衛星アーテミシーズに配備する
など、圧倒的な国力に物を言わせて宇宙軍の強化を進めた。
 そしてこの強化されつつある宇宙軍を背景にして、米国は月奪還を目的としたAL6を国連に提出する。

「今こそ、BETAを地球圏から一掃するときだ!」

 米国大使の言葉に、ソ連大使は苦虫を噛み潰したような顔をするが、積極的な反論はしなかった。他の国も似たような 
ものであり、最終的にAL6は承認された。
 そんなマブラヴ人類の動きに対抗するかのように、2000年3月3日、月面のハイヴから再び多数の着陸ユニットが
打ち出される。

「性懲りも無いことを」

 米軍人達は嘲りつつ、迎撃を開始する。だが嘲りはすぐに驚愕に変わった。

「着陸ユニットからレーザー照射が!」
「何だと?!」

 着陸ユニット表面に張り付いた光線種が次々に核投射プラットフォーム・スペースワンから放たれた核を迎撃したのだ。

「全ての着陸ユニット、地球に向かっています!」
「こうなったらG弾が頼みか……」

 祈り思いで司令部の高官たちが戦況を写すモニターを見つめる中、最終防衛線であるアーテミシーズが迎撃を開始する。
 超臨界前までラザフォ−ド場を展開しているG弾を着陸ユニットから放たれるレーザーで撃ち落すことはできなかった。
 米国が配備したG弾によってユニットの大半が撃ち落され、さらにG弾にレーザー照射が集中した隙を掻い潜るかのように
核ミサイルが命中し、残った着陸ユニットも軌道を逸れていく。 
 だが1つだけ、地球に落着したユニットがあった。それも面倒な場所に。 

「BETAの着陸ユニットが防衛線を突破。降下地点は……中国東北部、旧長春です!」

564earth:2011/06/11(土) 11:21:20
 落着した着陸ユニットを確保するべく、ソ連は中華人民共和国と共同で旧長春周辺に大軍を差し向けた。
 前回の着陸ユニット確保で甚大な被害が出たソ連軍からすれば、乾ききった雑巾をさらに絞るような所業であったが
再び着陸ユニットを確保するという誘惑には逆らえなかった。
 一方、米国もこれを座視しない。台湾の国民党政府を中華の正統政府として後押しして進撃したのだ。加えて国連にも
手を回して中ソによる着陸ユニット独占を妨害する。
 
「着陸ユニットは国連によって管理されるべきだ!」

 AL6を主導し、事実上、国連を動かしているアメリカの言葉に対して中ソ両国は猛反発する。

「あそこは我が国の領土だ。米軍、台湾軍には速やかに退去していただきたい!」
「着陸ユニットはハイヴではない。協定の規約違反では無い!」

 不介入を主張する中ソに対して米国は圧倒的と言っても良い宇宙軍を背景にして譲歩を迫った。
 移民船改造の宇宙戦闘艦こそ完成していなかったが、軌道艦隊は質、量ともに国連宇宙総軍と戦えるものだった。
この圧倒的な武力を背景にされたら、普通は譲歩せざるを得ない。
 だが長春を包囲した米台連合軍と中ソ同盟軍の一部部隊による偶発的な戦闘が発生すると、中ソはますます態度を硬化
させた。
 ここで譲歩すればソ連の威信は完全に消え去るし、国民党が大陸に橋頭堡を築くことを許すことになりかねない。そして
それを許せば現指導部は失脚するだろう。独裁国家における失脚は、大抵、自身の死を意味する。故に指導部は必死だった。
 中ソが強硬姿勢を崩さないのを見て、米国もまた強硬姿勢を強くする。

「あの恩知らず供に、甘い顔をする必要は無い!」

 米世論はそう激昂し、さらに軌道艦隊を出撃させる。地上でも宇宙でも2つの勢力がにらみ合い、世界は最終戦争
5分前という状況になった。
 英仏などEU諸国による必死の調停が行われたが、両者とも聞く耳を持たなかった。
 そんな中、日本帝国では米国に味方するべきと主張する政府と、大東亜連合諸国と協力して第三勢力として動く
べきだと主張する軍部が対立していた。日米安全保障条約こそ破棄されていないが、軍内部の反米感情は強かったのだ。

565earth:2011/06/11(土) 11:22:01
 この動きにソ連は付け入った。軍の反米派を煽りたて、クーデターを唆したのだ。
 米軍の後方に位置する日本が騒乱状態となれば、米軍の作戦を妨害できると判断したのだ。
 この時、復興の遅れによって苦しい生活を余儀なくされている身内や知り合いを持つ将兵は、国体を変えて将軍中心の国家とする
ことによって復興と日本の国威回復がなされると考えた。このためソ連は不満分子を煽りやすかった。
 
「このままでは日本は米国の属国に成り下がってしまう!」

 光州事件で遺恨がある者たち、それに(自分達の考えで)国家を憂う者たちが集結し始める。さらにこれに軍事予算削減と
本土防衛軍縮小を図る政府に危機感を持つ軍部、そして現将軍である煌武院悠陽を引き摺り下ろそうとする摂家の一部が加わった。

「小娘にはこの際、退場してもらおう」

 勿論、この不穏な動きを察知できないほど煌武院家は無能ではない。彼らは自分達を引きずり落そうと目論む摂家の動きを
察知し、悠陽の身辺警護に力を入れていた。

「俗物供が!」

 悠陽に使える月詠真耶は、一連の動きを見てはき棄てた。そこには敬愛する主を引きずり落そうとする輩への嫌悪、そして
この国難のときに権力闘争に現を抜かす馬鹿者への侮蔑が含まれていた。
 悠陽もまた、一連の動きに心を痛めていた。

「そのように将軍の地位が欲しいのなら、何故、私が将軍の座に座るのを許したのですか……」

 しかし嘆いてばかりはいられない。彼女達は彼女達なりに日本のため、そして自分達が生き残るために動いた。
 この動きを絶好の好機と見たのは米国政府だった。親米政権樹立のために陰謀を進めていた彼らは、カウンターで一気に
反米勢力の中核である帝国軍を叩くことを目論んだ。
 BETAの脅威がなくなった今、多少帝国軍を叩いても問題はなかった。むしろ極東の不安定要素になりかねない反米
勢力を叩くことのほうが重要と考えたのだ。
 米国は空母部隊を訓練の名目で日本近海に展開させ、さらに中国大陸情勢に備えるためとの名目で在日米軍の増強にも
踏み切った。
 そして6月6日、運命の日を迎えることになる。

566earth:2011/06/11(土) 11:22:36
 この日、開かれた御前会議の席において政府は対米追従路線を奏上した。
 これを悠陽が認めたことで、反米派が暴発したのだ。さらに将軍が奸臣によって騙されているとして、沙霧尚哉大尉が
一派も挙兵。国土防衛軍首脳部さえ同調し、大規模なクーデターが起こった。これによって榊首相をはじめ多くの閣僚が
殺害されてしまう。
 米軍のリークや特殊部隊、そして鎧衣課長の活躍によって何とか悠陽は難を逃れたものの、摂家が新たな将軍を擁立する
や否や、正統政府の地位を巡って内戦状態となった。
 東京を脱出し、仙台に臨時首都を置く悠陽に対して米国は最大限の支援を表明した。

「悪人達に祖国を追われそうな悲劇のプリンセスを救え!」
 
 反米派の軍人に追われる美少女将軍を助ける……それは、何ともアメリカ人が好きそうなシチュエーションであった。
 実際、悠陽は美少女であった。このためナイト気取りの米国民は仙台の臨時政府を支持する政府を賞賛した。
 さらに悪逆非道の限りを尽くすソ連軍を自国領内に留めることはできないとして、アラスカの租借地を完全に包囲。
いつでも制圧できる体制を整えた。
 一方でクーデター軍は反米機運の強い大東亜連邦、そして本来は仇敵であったはずの中ソに連絡をとって自分達の
正当性を認めさせようとした。
 勿論、中ソはただちに日本帝国の新政権を容認した。ソ連軍はただちに日本政府支援のためとして北から臨時政府へ
軍事的圧力を掛ける。
 こうして日本は事実上分断された。

「……折角、BETAが居なくなったのに、今度は人類同士で、それも日本人同士で争うのかよ」

 TVニュースを見ながら、武は呻く。
 だが彼が呻いたところで情勢は変わらない。いやむしろ情勢は多くの一般人の嘆きを他所にさらに悪化していく。 
 西暦2000年7月1日、日に日に増強される米軍に恐れをなしたソ連軍は、一発逆転をかけて先制核攻撃を開始したのだ。
G弾、核戦力ともに上の米軍に対抗するには先制攻撃しかない……そう考えた末の信じ難い愚行だった。
 勿論、米軍が黙っているわけがなかった。彼らは軌道艦隊を総動員してソ連領への攻撃を開始する。核兵器に加えて多数の
G弾がソ連軍に向けて投下された。
 お互い、着陸ユニットそっちのけで大量破壊兵器を応酬。この結果、ソ連と中華人民共和国は国家として消滅。米国も多大な
被害を被ることになった。さらに大量の核兵器の応酬によって死の灰が各地に降り注いだ。
 そして人類が内ゲバに励む傍らで、着陸ユニットは再びハイヴを地上に築き上げることに成功する。
 それは第二次BETA大戦の始まりを意味していた。

567earth:2011/06/11(土) 11:24:35
あとがき
というわけで第三次世界大戦、そして第二次BETA大戦の始まりでした。
救いようがない世界です(爆)。
人類、もう詰んでいるとしか……それでは失礼しました。

568earth:2011/06/11(土) 20:45:39
短めですが第11話を投下します。

 未来人の多元世界見聞録 第11話

 
 テストが無事に終わり、自己採点の結果、満足の行く出来だったことに安堵した耕平は久しぶりにゲームにログインした。
 
「さて、テストも終ったし、バイトで金も貯めてある。この疲れを癒すために新しい工廠を買って新型艦や新兵器を作るぞ」

 このゲームでは保有できる艦隊の規模は工廠の数に影響される。
 何しろゲーム世界(人工宇宙)で作ったとはいえ、実物の宇宙戦艦なのだ。その整備には細心の注意が必要だ。 
 このためプレイヤーは工廠の整備能力を超える数の宇宙船を整備できないとされている。現状でさらに新たな宇宙戦艦を
多数建造したければ、既存の艦を廃棄するしかない。
 しかしそんなことをするつもりは耕平にはさらさらなかった。
 
「親に棄てられる心配がないコレクションを、自分で棄てるか!」

 1000年前の前世で、勝手にコレクションを棄てられたことを未だに根に持っているのか、まずゲームで使うことは
ないであろう艦隊(例:ガンダムのバーミンガム級戦艦、マゼラン級戦艦、サラミス級巡洋艦で構成される連邦艦隊)を
いまだに後生大事に保管している。
 実際、アンドロメダが収容されている本拠地(人工惑星)のドックには多種多様な艦船が収容されている。滅多に使わない
ものはそのまま置物だが、他のプレイヤーとも戦える艦(ヤマト、マクロス、Rシリーズ等)は損傷している艦もあり、ドック 
では補修工事の音が鳴り響いている。

「さて、次はどんな工廠を買うか。連休中に頑張って稼いだからな……やっぱり、超大型の工廠を買うか」  

 鼻歌を歌いつつ、アンドロメダの艦長席でカタログを広げる耕平。そして財布の中身と相談した後、新しい工廠を購入する。
 
「あとは新兵器開発だな」

 対惑星兵器として耕平は量産が効き、使い勝手もよいジオイド弾を選んだ。数が多いBETAに対抗するには、ある程度
数が必要だった。加えて波動砲の改造、さらに波動砲搭載型戦艦を護衛・サポートするための純砲戦用戦艦の開発に取り掛かる。 

「あと復活編で出たバリアミサイルでも作るか。波動砲非搭載戦艦に装備させて、イザとなったら盾に出来る。
 たとえ波動砲発射直後に艦隊の動きが鈍くなっても、艦隊を覆うくらいのバリアを一時的に展開すれば体勢は立て直せる。
 ……って、報告をみるのを忘れてた」

 そして2通のメールを読む耕平。1通目の地球情勢に関する報告を読み終えた直後、彼は大笑いした。

「ははは、何だ、この火葬戦記は! いや出来の悪いSFか!」

 あ〜笑えると言って2通目のメール、長門からの報告を読む。最初はニヤニヤとしていたが読み進めるにつれて彼は
自身の表情が硬くなるのが判った。

「あり得ない。そんなことが起こりえるはずが無い」

569earth:2011/06/11(土) 20:46:55
 耕平を呻かせる出来事が起こったのは、耕平がログインする前日のことだった。
 長門艦隊は与えられた任務に従って、BETAの殲滅、そして情報収集に当たっていた。無双と言うのも生ぬるい一方的な
殲滅戦を行っていたこの艦隊は、不自然な空間を発見した。勿論、見ただけでは判らない。だが艦隊の電子機器は空間の異常
を捉えていた。

「別のプレイヤーでもいるのかしら? こんなところに別位相空間があるなんて」
 
 戦艦長門の艦橋で、朝倉は首をかしげる。

「それもかなりの広範囲。これだけの空間を展開するのは膨大なエネルギーが要る」

 このゲームでは別位相の空間を設置する技術も存在する。これを使えば同一座標でも色々な空間を設置できる。 
 耕平が第8世界に続く回廊をカモフラージュしているのも、この空間制御技術だ。しかし制御機構が大きすぎ、必要な
エネルギーも膨大なので普通の宇宙船に搭載するのがほぼ不可能なのがネックだった。

「惑星サイズの機動要塞、または恒星にエネルギー源でも置いているのかしら?」
「可能性はある」
「ということは、ここから先の空間は敵地ってこともあるわね。パトロール艦を先行させる?」

 この言葉に長門はすかさず頷く。 

「それじゃあ、本隊はここで警戒待機。パトロール艦を斥候に」 
 
 こうしてパトロール艦4隻(艦名P204、P206、P207、P208)が本来の空間に入り込んだ。
 4隻のパトロール艦は1隻ずつに分かれて慎重に周囲を索敵しつつ、内部の空間を調査した。 

「……ほぼ1つの星系をすっぽり包む位相空間とはね。よっぽど隠したい何かがあるってことかしら。
 これはBETA探索どころじゃないかも知れないわね」
「……BETAよりも脅威となる可能性があるものが発見された以上、仕方ない」 

 調査の結果、この特殊な星系の中にもさらに別位相の世界が作られていることが判った。
 
「空間内部にさらに空間。何がしたかったのかしら? 空間の迷宮でも作るつもりだったの?」

 だがこのあと、2人をさらに驚かせることが起こる。

570earth:2011/06/11(土) 20:47:38
「あれは船?」
「少なくともゲーム内の船ではない。敵味方識別装置には反応がない」

 だがメインモニターに映し出される船が、別の異相次元に向かっていく光景を見て2人は驚く。

「ということはNPCの文明ってこと。凄いわね。NPCで限定的にとはいえ、宇宙空間で活動して、さらに
 位相の違う空間への航行が可能な艦を作るなんて」
「しかし彼らはこの恒星系から外に出たことがない。恐らく位相空間を渡ることのみに特化していると考えられる」
「何とも夢が無いわね。うまくすれば宇宙進出だって出来るのに」
「しかしNPCが力を付けすぎれば、管理会社が動く。それを考えれば結果として賢明な判断」

 しかしそうこうしている内に、パトロール艦P204がNPC(?)の文明に発見されたのか、巡航艦らしき
白い艦が向かってくる。

「発見されたようね」
「撤収する」

 引き上げていくP204。恒星間航行さえ可能な艦に、白い艦は追随できない。
 勿論、様々なチャンネルで停船を命じる通信が入るが、それに従う必要はなかった。

「無事に引き離せたようね」

 朝倉はほっとした。何しろ、もしも向こうがパトロール艦を容易に捕捉・撃沈できる勢力となると、大規模戦闘になる
可能性もある。下手をすれば耕平の本隊に応援を要請する必要があったからだ。
 
「それにしても、あの船の所属が『時空管理局』か……どんな組織なのかしら?」
「軍隊かそれとも警察機構か。調査は必要。ステルス艦の派遣を要請する」

 2人からすれば、単なる1NPC勢力との遭遇だった。だが耕平からすれば、それは信じがたいものだった。

「……マブラヴの次は時空管理局、いやリリカルなのは? 本当にNPCが実力で作った文明なのか?
 まさか俺みたいなプレイヤーがこの世界に潜んでいるとかはないよな? それとも何かのドッキリか?」
  
 耕平は第8世界に関してBETAや珪素生命体の調査、そして資源の開発だけ考えるのは危険と考え、第8世界に駐留する
艦隊を増強することにした。それは第6世界での兵力が減少することを意味している。
 
「戦略の抜本的見直しが必要だな。それに……色々と調べてみるか」

 こうして耕平は自軍の再編成に着手することになる。

571earth:2011/06/11(土) 20:50:02
あとがき
何故『多元世界』なのかは、今後明らかになります。
尤もそこまで引っ張るつもりもありませんが(爆)。

572earth:2011/06/12(日) 11:48:10
第12話をUPします。


 未来人の多元世界見聞録 第12話


 自軍の再編に着手することを決意した主人公だったが、大規模な再編成に取り掛かる前にやることがあった。

「とりあえず、マブラヴ人類の救援か」
 
 耕平はとりあえずマブラブ人類救援のために地球派遣艦隊を編成することにした。現状では可能性は限りなく低いが、
ループ現象が起きるようなことがあったら面白くない。それに……この世界について詳しく調査する必要があった。
そのためには現状で人類が滅亡するのは好ましくない。
 だが現状ではBETAを駆除するだけで事足りるかが判らない。

「地球と人類について詳しく調査するために、あの人類が完全に滅ぶのは避けないと。でもBETAの駆除だけ何とか
 なるかな? 何しろ環境の破壊が酷すぎる」

 アメリカは何とか国を維持しているものの、主要都市のいくつかが核で吹き飛ばされている。さらに核爆発で発生した
電子パルスによって各地の都市機能に甚大な影響が出ていた。
 日本に至っては西日本が焦土。さらに内戦と核戦争で経済が完全に破綻している。さらに大陸からは死の灰が流れて
きており、滅亡寸前だ。おまけに国のすぐ横にオリジナルハイヴができたというオマケ付き。
 中ソに至っては放射能汚染と重力異常で自力での国家再建はまず不可能と考えられた。 

「人類同士の戦争だったためか、AL5より使われたG弾が少ない。おかげでユーラシア水没なんてことはなかったけど
 重力異常で地殻変動は起こっているようだし……しかし仮に環境を修復すると言ってもそれ専用の工廠がいるからな」

 端的に言うと惑星環境改造用の工廠を買う金がない。これに尽きる。 

「……ま、中古品を買うか、譲り受けるにしても、問題はあの人類が支援を受け入れるかだな。それに下手をしたら支援を
 巡ってまた内ゲバするかも知れないし。細かく関わるとなると面倒な交渉になる。全く」
 
 だがここで色々考えても状況は変わらない。取りあえずBETAを駆除するのが先だった。 

「まぁ良い。戦艦『蝦夷』『越後』、巡洋艦2隻、駆逐艦6隻を護衛につけて宙対地爆撃部隊(デスラー艦と輸送船団)と
 ついでに太陽系内外の資源開発をするの工作艦を送ろう。何しろ第8世界はかなり物騒かも知れないから、開発できる
 資源地帯はさっさと開発したほうが良い」

 前回よりも小規模であるものの、再び艦隊が第8世界の地球に向かう。
 かくして地球と月のBETAは滅亡を宣告された。

573earth:2011/06/12(日) 11:48:48
「あとは長門艦隊だな。時空管理局がある以上、他の組織が潜んでいる可能性は否定できない。
 取りあえずは亜空間潜行が可能な次元潜航艇10隻を送る。あと打撃力不足を補うために艦隊の梃入れも必要だな」

 耕平は取りあえず送ることができる艦艇のリストを眺める。そして暫くして決断する。

「アンドロメダ級3番艦『アルテミス』、主力戦艦4隻、巡洋艦6隻、駆逐艦18隻、それに新型戦闘空母の
 『天城』、『葛城』。パトロール艦8隻。それに地上制圧用の地上部隊も連れて行けば十分だろう。
 あとは……第二の前線基地を建設するための工作艦も送ろう。大規模な整備補修ができる拠点も要るだろうし」

 十分というか、「お前はどこの星間国家と戦争するつもりだ?」と聞かれそうな増援であった。
 この梃入れによって長門艦隊は戦略指揮戦艦(アンドロメダ級)1隻、主力戦艦7隻、戦闘空母3隻、巡洋艦10隻を
中核とする大艦隊になる。この大艦隊に加え、今後建設する前線基地の指揮権も長門は委ねられる。  

「これなら問題はないだろう」

 耕平はすぐに増援を送ることを長門達に伝えた。 
 勿論、伝えられた側は、この大盤振る舞いに驚愕した。

「戦略指揮戦艦まで回すとは……総司令も随分気前がいいわね」

 戦艦長門の環境で朝倉は驚いた。

「それだけNPCの文明に驚いたのかも知れない」
「それにしても過剰反応のような気もするけど」
「何か考えがあるのかも知れない」
「何も考えていないんじゃない? まぁ手持ちの戦力が増えるのは良い事だから反対はしないけど」

 随分と酷い言われようであったが、これまでの経緯を考えると仕方が無いと言えた。

「まぁ取りあえず、時空管理局の調査のために次元潜航艇を潜入させつつ、周辺宙域のBETA探索も進めないとね」

574earth:2011/06/12(日) 11:49:19
 地球に向けて艦隊が向かっている頃、マブラヴ人類の状況は悪化の一途を辿っていた。
 長春に築かれたオリジナルハイヴからは次々にBETAが吐き出され、周辺に新たなハイヴを建設していた。 
朝鮮半島は再びBETAに蹂躙され、ソウルに第二のハイヴが建設された。これを阻止する戦力は人類にはなかった。
 仙台の臨時政府は、状況を打開するべくアメリカ、EU、オーストラリアに軍事支援を要請したが、そのどれもが梨の礫
であった。  

「そうですか、EUも」

 仙台の臨時御所で報告を聞いた悠陽はため息を漏らした。
 側近の月詠真耶は悔しそうな顔で俯く。 

「はい。一連の戦争で、EUも少なくない影響を受けており増援は難しいと。ですが我々仙台政府を正統政府と認め
 今後も物資の支援なら継続したいと」  

 しかし物資の支援と言ってもかつて米国が行っていたほどのものではない。
 津波のように迫り来るBETAの波の前には、殆ど意味が無いレベルのものだ。だがそれでも仙台政府が統治している
地域の住民にある程度の施しは出来る。

「政府は、日本本土陥落に備えて、オーストラリアに亡命政府を立てる計画を練っています」
「……もう無理なのでしょうか」
「……」

 真耶は答えない。だがそれが答えだった。
 現状では日本は助からない。BETAによって滅ぼされるか、環境汚染によって滅ぶか、それとも内ゲバによって滅ぶかの
どれかだった。
 悠陽は憂鬱な顔で俯く。そしてその憂鬱な表情を晴らす術を真耶は持ち合わせていなかった。
 しかし悠陽以上にクーデター軍は憂鬱だった。国際的に孤立し、さらに西からはBETA、北には臨時政府。
八方塞とはこのことだった。連日、責任を擦り付ける怒号が会議室から響いていた。

575earth:2011/06/12(日) 11:49:54
(このような俗物どもと同一視されるとは……)

 クーデターに一役買った沙霧尚哉少佐(昇進した)は、会議室で行われる上層部の醜態を見て歯噛みする。
 しかしどうにもならない。上層部は完全に内輪もめに収支しており、彼一人が何か言っても変わらない。

(我々が倒すべきだったのは、むしろ政府ではなく、この男達だったのでは?)

 そんな考えに囚われる沙霧。だが沙霧以上にクーデター軍上層部を民衆は恨んでいた。

「日本人同士で争って、この始末かよ」

 食糧の配給を受けるために長い列に並ぶ武は、思わず呟いた。
 クーデターが起こってから、民衆の生活は苦しくなる一方だった。仙台政府が統治している東北は、諸外国の支援で
食い物や医薬品があると噂がながれ、北に逃げる人間が後を絶えない。さらにBETAが西からまた迫っているとの
情報が、人々を絶望させていた。 

「……異星人も呆れているだろうな」

 ため息をつく武。だが彼の受難は終らない。クーデター軍は兵力不足を補うためとして徴兵を開始し、彼は強引に
クーデター軍に参加させられる。そして迫り来るBETAへの盾(もとい捨て駒)として西に配備されることになる。
それも戦術機乗りとしてではなく歩兵として。

576earth:2011/06/12(日) 11:51:30
あとがき
と言うわけで再び地球派遣艦隊出撃です。
尤も復興支援をどうするかはまだ未定ですけど(爆)。
あと武ちゃんが歩兵になってしまいました(笑)。
それでは失礼します。

577earth:2011/06/12(日) 19:32:52
非常に短めです。耕平の自軍再編に関する第13話です。
というか閑話に近いです。


 未来人の多元世界見聞録 第13話

 取りあえず地球派遣艦隊と長門艦隊への増援部隊を送り出した耕平は、自軍再編を開始した。

「Rシリーズ、ヤマト、マクロス、スパロボシリーズの機体や艦とかゴチャゴチャだからな……この際、多少は統一した
 ほうが良いな」

 戦争よりも実物大プラモの製作に力を入れてきたため、耕平の軍は、スパロボのようにごちゃ混ぜ状態だった。
 確かに見た目的には賑やかだが、整備の問題を考えると悪夢でしかない。これが表面化しなかったのは耕平が必死に
バイトして多数の工廠を揃えて物量を確保していたためだ。効率を重視し、戦争ゲームに注力していれば第6世界を
制覇するどころか、第3世界に参戦するくらいは出来ただろう。まぁ参戦したとしても戦略や戦術の差で劣勢を強い
られるのは間違いないだろうが。

「性能的にはRシリーズが良いんだが、コストが高いんだよな。特にR戦闘機とか……戦闘機で波動砲バンバン撃てる
 上に機動力とかの他の性能も化物クラスの機体だから仕方ないけど」

 R戦闘機を本格的に量産するのは、ギ○ンの野望でガンダムをジム並みに量産するのに等しい。
 現状でも量産しているが、全軍に配備できるほどの数は生産できなかった。

「まぁあんな強力な戦闘機をバンバン作ったら第三次汎次元大戦の二の舞だからな」

 第三次汎次元大戦ではR戦闘機、或いはそれを凌駕する化物が大量に、文字通り雲霞のごとく動員された。
 勿論、大量破壊兵器も空間そのものを破壊する凶悪なものが多数投じられた。この結果、第8世界は壊滅したのだ。
 故に同じことがないように、兵器にはある程度制限が付いたし、化物じみた機体については生産コストが引き上げ
られた。

「ということは、R戦闘機の廉価版みたいな機体を量産するのが良いってことか。
 ふむ。Rシリーズの技術をヤマトのコスモタイガー、マクロスのヴァルキリーとかに転用してみるか。
 MSも強化できたら、色々と使えるだろうし」

 オリジナル兵器を構想する耕平。

578earth:2011/06/12(日) 19:34:37
「あとは軍艦も少しずつ統一しよう。取りあえず、比較的使い勝手と量産が効くヤマトシリーズの艦を改造した
 艦を中核として艦隊を編成しよう。使い勝手がよくない艦は……心苦しいが廃却だな」

 苦い顔でコレクションを棄てる決断をする。勿論、内心では第8世界の問題が解決するまでの我慢と自分に
言い聞かせていたが(笑)。 

「手持ちの艦隊を25個艦隊に再編。うち5個艦隊(長門艦隊含む)を第8世界方面に振り当てて、残りの艦隊を
 第6世界の防衛に当てよう。防衛を主眼とすれば、20個艦隊あれば十分に戦線は維持できる」

 これに加えて耕平はAIによる参謀本部の本格的な立ち上げを決める。 

「AI、アンドロイドを効率的に運用していけば、二正面作戦になっても耐えられるはずだ」

 耕平は矢継ぎ早に、自軍の再編と効率化を進める。 
 それは第6世界有数のプレイヤーであり、生産力では7世界でも上位に入るプレイヤーが本格的な戦争を
始めることに他ならなかった。

「そういえば、これまで自分の軍の名前って決めてなかったな……マブラヴ人類や時空管理局と本格的に接触した時に 
 備えて名前を考えておかないと」

 そういって暫く考えると、耕平は昔読んだ某SF小説の軍隊の名前を思い出した。

「『黒旗軍』にしよう。ある意味、この軍は既存の秩序を破壊する存在になるだろうし」

 かくして第6世界各地におかれた黒旗軍の基地や工廠が俄かに動き出す。
 耕平が支配下におく資源地帯では急ピッチで資源採掘が進められ、次々に資源が各地の工廠に運び込まれていく。
さらに生産力にものを言わせて兵器が次々に吐き出されていく。
 そして参謀本部ではAIたちが、効率の良い戦力配置、戦争計画の策定に当たる。
 マブラヴ人類が束になっても足元にも及ばない勢力が本格的に動き出そうとしていた。

579earth:2011/06/12(日) 19:37:01
あとがき
というわけで第13話でした。
オリジナル兵器については、色々と考えているのですが、憂鬱と同じように
コンペを開催するのも面白いかなと思っています。
まぁ需要がないようでしたら、こちらで決めたいと思います。
……そろそろ憂鬱本編も進めないと拙いかな(汗)。

581earth:2011/06/13(月) 23:24:22
内容的に13話の続きの第14話です。

  未来人の多元世界見聞録 第14話


 組織編制を済ませた耕平は、すぐに既存兵器の改造、新兵器の開発に取り掛かる。
 まずはゲーム会社から多数の工廠を買ったことで溜りに溜まったポイントで、レアアイテムを手に入れる。

「これで強制波動装甲が生産できる」

 強制波動装甲とは、艦が受けたダメージをエネルギーに変換して蓄えることができる装甲だ。そのエネルギーを
利用することもできるし、イザとなったら放出することも出来る。
 勿論、限界以上の攻撃を受ければ装甲は破壊されるが、アンドロメダ級がこの装甲を装備すれば波動砲の直撃でも
受けない限り、轟沈することはなくなる。空間磁力メッキと合わせれば、まさにアンドロメダは不沈戦艦となる。
 かなりチートなアイテムなので、手に入りにくいのだが、耕平の溜りに溜まったポイント、そして珍しく幸運の
女神が微笑んだのか何とか手に入れることが出来た。
 しかし便利そうに見えて、この装甲を装備できるのは巡洋艦以上の艦艇に限られる。このため小型艦の消耗には
注意しなければならない。

「これに……フォースを組み合わせて、波動エンジン出力を強化だな。あとは亜空間潜行も可能にする。
 艦隊ごと亜空間を航行して、敵の背後をつければ一気に蹴りをつけられるからな」

 そういって耕平は工廠の端末に必要事項を入力していく。
 尤もRシリーズなみに自在に亜空間に潜る能力は与えられないので、使うとしたら奇襲や撤退などに限られることに   
なる。

「あとは直撃波動砲だな」

 白色彗星帝国軍が使っていた火炎直撃砲を参考にして製作しているのが、この直撃波動砲だ。
 瞬間エネルギー位相装置によって、発射された波動砲を遠く離れた場所にいる敵艦隊に直接撃ち込むというチート兵器
だった。これを使えば波動砲の射程は最大で倍になる。 

「手始めに、アンドロメダ級戦艦に装備していこう。成績がよければ順次、他の戦艦にも装備させればいいし」

 勿論、攻撃兵装だけを強化するつもりは耕平には無い。射撃管制装置を新型に換装し、バリアミサイルなどの防御兵器
の配備も進める。
 他のプレイヤーが聞けば「お前は第1〜第3世界に喧嘩でも売りに行く気か?」と聞かれそうな強化を行う耕平。
だが軍の強化はこれだけでは終らない。

582earth:2011/06/13(月) 23:25:17
 彼が続けて手をつけたのは航空戦力の強化だった。
 R戦闘機は高価であること、さらに第6世界に点在する黒旗軍の重要拠点の防衛からは外せない。かといって第8世界に
どんな脅威が潜んでいるか判らない以上、強力な艦載機が必要だった。それも質で既存機を超え、量も揃えられるものが。
 このためR戦闘機の技術を転用して、R戦闘機の劣化版とも言うべき戦闘機の開発を耕平は進めたのだ。
 
「外見のモデルはADF−01、FALKENだな」

 前世で一番のお気に入りの戦闘機、ゲームでもよく使ったこの機体に、耕平は白羽の矢を立てた。

「コスモタイガーのように自力で大気圏離脱と再突入が可能にして、あとはディストーションフィールドを装備すれば
 防御力はある程度は確保できる。レーザー種の攻撃でも簡単に撃墜はされない」

 だがそれだけで満足する耕平ではなかった。

「レーザーの代わりに超小型波動砲を搭載する。まぁ波動砲と言っても機体のタンクに貯めてある波動エネルギーを
 発射するだけだがフォースで増幅すれば、破壊力と連射力は跳ね上がる。でもオリジナルの波動砲と比べるとかなり
 ランクがダウンするんだよな」

 この戦闘機で使われるフォースはあくまでもエネルギー増幅媒体としての役割しか持たない。
 他のRシリーズなみに使い勝手がよいように改造していたら、単価が跳ね上がってしまう。

「ビットも欲しいんだが……仕方ないか。あとは亜空間航行だな。まぁこちらもオリジナル並みには無理だけど」

 次期主力戦闘機と言っても実際には、最強の戦闘機であるRの劣化版、廉価版でしかない。
  
「ハイローミックスが関の山か」

 尤もローであるはずの、この新型機もかなり高値であった。

「既存のコスモタイガーⅡも使うしかないな。対艦攻撃に特化させるか。波動カードリッジ弾を改造したミサイルでも
 搭載しておけば大戦果も期待できる」

583earth:2011/06/13(月) 23:25:59
 一方で地上部隊の増強は、艦隊や航空戦力よりも低調だった。

「制宙権を握ったら、あとはやりたい放題だしな」 

 衛星軌道から雨霰と攻撃を加えて、地表を瓦礫の山にしてしまえば大抵は決着が付く。
 惑星が邪魔ならジオイド弾を使って吹き飛ばすという手もある。まぁハイヴ攻略のように、チマチマとした作業を
するときもあるだろうから、地上部隊の増強はある程度必要だった。

「……歩兵部隊には、ボン太君でも配備するか。あとMS部隊はVガンダム系のMSで十分だろう。
 む、BETAとの殴り合いとなると実体弾に強いPS装甲を持つ種系もいるか?
 まぁこれまでゴチャゴチャしていたから、種類を減らせば問題なく運用できるだろう。コストもそんなに高くないし」

 正面を受け持つVガンダム系やSEED系のMS群、歩兵として目標を制圧するのがボン太君という構想で耕平は地上部隊の
編成を進める。

「あとは敵の後方撹乱にESPアンドロイドが欲しいな。金がかかるが作っておくか。まぁこれでもダメなら
 アンサラーを作って動員するしかないな」

 装備と外見にやたらとギャップがある物が混じっているものの、耕平は全く気にすることなく編成を進めた。
 それどころか彼は遊び心も忘れない。
 
「しかし全身黒尽くめのボン太君というのは微妙だな。隊長機は角をつけて、オリジナルに近い色にしておくか」

 かくして軍需工廠では次々とボン太君が生産されることになる。

584earth:2011/06/13(月) 23:27:55
あとがき
改造話でした……この主人公は本当、誰と戦争するつもりなのやら(爆)。
それでは失礼します。

585earth:2011/06/14(火) 23:28:50
何故か書けたので掲載します。第15話です。


 未来人の多元世界見聞録 第15話


 西暦2001年1月1日。「あけましておめでとう」で始まるこの日は、日本帝国にとって災厄の日となった。
 ソウルハイヴから、大量のBETAが西日本に再侵攻してきたからだ。本来なら帝国軍や国連軍が迎え撃たなければ
ならないのだが、核戦争で国連は機能不全、日本帝国はクーデターによって国土が分断された。
 この状態で、迫り来るBETAを食い止める勢力は存在しなかった。前回よりも素早くBETAは東進していく。
 BETA本土上陸……この報告はすぐに東京と仙台を激震させた。 

「全力で迎撃を!」
「主力はすでに西に配備している!」
「これ以上、配備すれば北の守りが薄くなるぞ!!」
「そんなことを言っている場合か!? そもそもこんな事態になったのはお前達が」
「何だと! そっちだって予算の削減に反感を持っていたくせに」

 東京の会議室では全く実りの無い話し合いが続いていた。いや、むしろ責任の擦り付け合いさえ起こっていた。
 これを見ていた沙霧は、何かを諦めたようなため息を付いた後、会議室を後にした。
 会議室から出てきた沙霧を見て、部下達が怪訝そうに尋ねる。

「どこへ?」
「戦場だ。もう、ここは我々がいる場所ではない。すまない、こんなことに付き合わせてしまって」

 沙霧は部下達に頭を下げるが部下達は嫌な顔をせず、沙霧の後についていった。
他の烈士たちも似たようなものだった。彼らは東京を己の死に場所としたのだ。
 一方、仙台は恐れていたときが来たと考え、政府のオーストラリアへの移転を急いだ。勿論、市民も可能な限り脱出させ
ようとしていた。だが物には限度があった。

586earth:2011/06/14(火) 23:30:36
「老人や病人、それに関東圏の国民は見捨てざるを得ないと……」
「恐れながら……。クーデター軍は敵前逃亡は許さないと市民の脱出を阻止しています。それどころか市民さえ武装させて
 盾にようとする動きさえあります」

 悠陽は臨時首相の言葉に項垂れる。

「何と言うことを」
「それに、クーデター軍が市民を脱出させても、我々では養えません。本土を蹂躙するBETAの餌食になるか、それとも
 餓死するかのどちらかになるでしょう」

 そこに救いの言葉はなかった。だが彼らをさらに憂鬱にさせることが起こる。そう佐渡島にもBETAが上陸しハイヴの
建設を開始したのだ。
 この報告を受けた仙台軍は虎の子の陸軍部隊と斯衛軍を日本海沿岸に向かわせた。
 京都防衛戦、そして先のクーデターで壊滅的打撃を受けた斯衛軍であったものの、涙ぐましい努力によって、1個連隊
程度ならすぐに動かせるようになっていた。
 尤も政府に従ってきた陸軍部隊とあわせても、BETAに対抗することなできるわけがなかったが。 

「避難誘導が関の山か」

 虎の子の武御雷に乗る冥夜は歯噛みする。 
 クーデター、そして国土分断という非常事態によって、本来は日陰の立場であったはずの冥夜は表に出ることになった。
もはや使える人間を陰に隠しておく余裕は日本帝国にはなかったのだ。
 しかしそれは逆に日本帝国がそれだけ追い詰められ、末期状態であると言えた。

「……馬鹿どもがクーデターなど起こさなければ」

 同じく武御雷に乗る月詠真那は、東京のほうを向いてクーデターを起こした者たちを呪う。
 もしも国土が分断されていなければ、BETAを食い止めることは無理でも、一人でも多くの国民、産業基盤を脱出
させることが出来だのだ。だが今では夢物語だ。
 オーストラリアに逃げ延びることが出来ても、日本帝国は見る影も無い三流国に転落するだろう。
 彼らが歯噛みしている頃、迫り来るBETAの恐怖に震える者たちもいた。そう、最前線に借り出された武たちだ。 
 クーデター軍は後方に督戦部隊をつけており逃げようとすれば間違いなく死が待っている。仮に督戦隊が逃げても
そのときはすでに自分達はBETAから逃れられない。どちらにせよ死しかなかった。

「こんなところで死ぬのか……」

 急ごしらえの陣地で誰もが死を覚悟する中、武は一人絶対に帰ることを決意した。

(絶対に生きて帰る。あんな連中のために死ねるか)

587earth:2011/06/14(火) 23:31:24
 津波のように迫り来るBETAの群れ。国家中枢が生きている国家は、日本帝国の消滅は時間の問題と
考えた。実際、このままでは帝国の消滅は時間の問題だった。この天秤を元に戻す力は人類にはなかった。
 しかしその天秤を強引に戻しうる存在が、地球に到着した。

「全艦、攻撃態勢をとれ」

 旗艦『蝦夷』に乗る地球派遣艦隊司令官ワッケイン准将(黒コート着用)は、ただちに艦隊に攻撃準備
を命じた。万全の体制で攻撃を開始すれば地球と月のハイヴは8分で掃討されるはずだった。しかし攻撃準備の
最中に予期せぬ報告が蝦夷の艦橋に舞い込む。

「司令! 地球周辺から、こちらに向けて急速に接近するものがあります」
「何? メインモニターに回せ」

 そこに映し出されていたのは、アメリカが建造を進めていた宇宙戦闘艦だった。移民船をもとにしたためか  
かなりの巨体を誇っており、マブラヴ人類なら威圧感さえ感じただろう。

「こちらに気付いたのか?」
「恐らく」

 アンドロイドの言うとおり、米軍は運よく(?)、黒旗軍地球派遣艦隊を発見したのだ。
 だが米政府はこれを単純に自分達への支援とは考えなかった。むしろ敵か味方かはっきり判らない勢力が
地球に接近しつつあると判断し、可能ならば臨検、不可能ならば撃退を命じたのだ。
勿論、異星人に言語は通用しないことは予想できるので、戦闘になる可能性は高いと誰もが考えていた。

「停船と臨検を求める通信が入っています」 
「……無視しろ。それと対艦戦闘用意」
「先制攻撃を?」
「相手が攻撃してきた後だ。それと……出来るだけ撃沈しないように手加減しろ」

 黒旗軍地球派遣艦隊が警告を無視したのを見て、米艦隊も攻撃態勢に入る。
 かくして後に地球会戦と呼ばれる戦いの火蓋が切って落とされる。

588earth:2011/06/14(火) 23:32:35
あとがき
というわけで米軍VS黒旗軍です。かませ犬になれたら上等かな(汗)。
もうそろそろ時空管理局の動きも書きたいと思っています。

589earth:2011/06/15(水) 21:41:20
申し訳ございませんが、管理局の動きは次回以降になりました。
第16話です。

 未来人の多元世界見聞録 第16話


 迫り来る黒旗軍艦隊に対して、米軍宇宙艦隊(艦隊と言っても3隻だが)はレーザー攻撃を開始した。
 米軍最新技術の塊であり、出力では戦艦の装甲でさえ貫通できるものだったが……黒旗軍の宇宙戦艦の装甲を破る
ことは出来なかった。蝦夷や越後は放たれたレーザーを受けても平然と航行していた。
 この様子を確認した米艦隊旗艦《アメリカ》のCICではどよめきが広まる。

「目標に命中。しかし……効果なし」
「クソッタレ! 最大出力で撃ったというのに、何て装甲をしているんだ!!」

 オペレータの言葉に米軍司令官は悪態を付くが、事態は変わらない。
 
「G弾があれば楽だったんだが……」

 残念なことにG弾はアーテミシーズに優先的に配備されていた。さらに中ソとの全面核戦争まで起きたので、宇宙艦隊
へG弾に配備されることはなかった。しかし米軍に諦めの文字は無い。彼らは核ミサイルの飽和攻撃に踏み切る。

「これなら、どうだ!」

 多数の核ミサイルが放たれたことを知ったワッケインだったが、非常に冷めた目で冷静に迎撃を命じる。 
 彼らにとって現在迫ってくるミサイルなど大した脅威ではなかった。

「あの程度のミサイルを第6世界で撃てば、笑いものだな」

 地球派遣艦隊は装備する対空パルスレーザーで、核ミサイルを呆気なく撃ち落していく。

「しかしこの程度だと、下手に主砲は使えないな。しかし放置も……ミサイルランチャー1番〜9番装填。
 ただし直撃させるな。至近で自爆させるんだ」

 米宇宙軍の攻撃を凌いだワッケインは直ちに反撃した。旗艦蝦夷と越後から18発のミサイルが発射される。
 米軍は迎撃しようとするが、直前に電子攻撃によってレーダーを無力化されてしまう。かくして3隻の米艦はそれぞれ  
6発ずつのミサイルを浴びる。直撃でなかったので轟沈は免れたものの、3隻は戦闘能力を完全に喪失してしまった。
 地上でこの戦闘の様子を見ていた米軍高官は卒倒した。

「ば、馬鹿な……戦闘を開始して3分足らずで全滅?」
「それも敵に一撃も与えることなくだと……」
「くそ、やはりG弾が配備できなかったのが痛かったか」  

 そんな高官たちを嘲笑うかのように米艦隊をあっという間に無力化した派遣艦隊は、宙対地爆撃を開始する。
 これまで散々に長門艦隊がやったのと同じように、実にスムーズな爆撃であった。BETAが折角、再建したハイヴは
あっという間に瓦礫の山と化した。月面にあったハイヴも一つ残さず消滅する。
 人類をあれだけ苦しめたBETAが太陽系から完全に駆逐された瞬間であった。

590earth:2011/06/15(水) 21:41:58
「目標、完全に消滅」

 アンドロイド兵の報告を受けたワッケインは少し黙ると、新たな命令を下す。

「蝦夷と越後は大気圏に突入。日本列島に残存するBETAを掃討する」
「司令?」
「我々の仕事はBETAの駆除による人類の救援だ。何の問題もない。
 それに残っているBETAが再びハイヴを作れば元の木阿弥だ。この際、叩いていく。
 巡洋艦は衛星軌道で偵察と周辺の警戒に、駆逐艦は爆撃部隊の護衛に当たれ」
「了解しました」

 この動きに慌てたのは地球各国だった。彼らはあらゆる手段で呼びかけるが、何の反応もない。
しかし下手に攻撃すればBETAと同じような目にあうのは確実なので、どこの国も下手に手が出せなかった。
 そんな各国を嘲笑うかのように蝦夷と越後は大気圏に突入していく。 

「対地砲撃を行うが、現地勢力に極力被害がでないようにしろ」
「了解しました」

 本来なら日本海軍が急行するところなのだが、クーデターの影響と2隻が来るのがあまりに早かったために何の
妨害もすることが出来なかった。尤も仮に出てきたとしても一方的に蹴散らされるのがオチだったろうが。
 海面スレスレを飛行しつつ、2隻は静岡県の太平洋岸に到達する。

「取り舵90度。全砲門、開け!」 

 蝦夷と越後は、ワッケインの命令に従って装備する3連装3基40.6cm衝撃砲9門を旋回させる。
 射撃管制装置は衛星軌道で待機している巡洋艦から地表で蠢くBETAの情報を受け取り、照準をつけていく。
さらにミサイルランチャーも発射態勢に入る。ただしレーザー種による迎撃を掻い潜るために衛星軌道から得た
情報を元に、レーザー種によって攻撃されないように超低高度を飛行するようにミサイルを調整していく。
 そして全ての準備が終えたことを知らされると、ワッケインは躊躇うことなく命じる。

「撃て!!」

 ワッケインの命令を受けて、2隻あわせて18門の衝撃砲が火を噴いた。

591earth:2011/06/15(水) 21:42:33
 京都を飲み込んだBETAに対応するためとして武が配備されたのは、静岡県内に築かれた防衛線だった。
 だが陣地といっても急造のものであり、どう見てもBETAに対応できそうに無い。さらに対BETA戦での
切り札でもある戦術機は絶対数が不足していた。
 戦車やMLRSさえ事欠くのだから、どれだけ窮乏しているのかよく判る。

「もうダメだ……」

 地雷原を呆気なく突破し、機甲部隊の攻撃をも物ともしないBETAの津波の前に、誰もが諦める。
 さすがの武も、諦めそうになる。クーデター軍上層部と繋がる司令官や参謀達は直属部隊とともに逃げ出し
残っているのは厄介者や捨て駒である自分達ばかり。援軍の見込みなどあるわけが無い。
誰が見てもBETAに踏み潰されるのは時間の問題だった。そう、武が絶望し空を仰ぐまでは。 

「ん? 何だ?」

 何かが光ったような……武がそんなことを呟いた次の瞬間、BETAが纏めて吹き飛んだ。これに回りも驚いた。

「戦艦による艦砲射撃か!」
「馬鹿な。お偉方が寄越すわけが無い!」
「じゃあ、何なんだよ?!」
「知るか!!」

 そして続けて超低空でミサイルが飛び込んでくる。多数のミサイルはS−11を超える破壊力で残ったBETAを
次々に吹き飛ばしていく。

「凄い……」

 攻撃開始後、20分で太平洋側から帝都に迫っていたBETAは全滅してしまった。
 陣地に残された将兵は、何が起きたのか全く判らなかったが、自分達が生き残れたことは理解できた。
故にあちこちで歓声が挙がる。

「生き残れたんだ!」
「やった!!」

 お互いに肩をたたきあい、涙を流して誰もが生き残れたことを喜び合う。無論、武も同様だった。
しかし、そんな久しぶりの笑顔と笑いに溢れた喧騒はすぐに中断を余儀なくされる。2つの巨体の登場によって。

「おい、何だ、あれ……」
「船、いや戦艦が空に浮いている? あれだけの大きさなら排水量は5万トンはあるはずなのに?」

 誰もが驚く中、蝦夷と越後は悠々と日本列島上空を飛行していく。
 あの船が何者なのか、どうやって飛んでいるのか、誰も判らない。だが彼らは直感した。自分達を救ってくれたのは
あの2隻であると。

「ありがとう!!」

 武が手を振って大声で礼を言うと、他の人間も続いた。生き残った人間達は2隻の艦が見えなくなるまで手を振り続けた。
 この日、地上に残っていたBETAは宙対地爆撃と2隻の戦艦によって殲滅される。そして同時に人類はBETAに敵対
する異星人が存在することを理解することになった。

592earth:2011/06/15(水) 21:44:16
あとがき
というわけでワッケイン艦隊無双。主力戦艦の活躍は浪漫です。
そして日本人の前に黒旗軍が姿を現しました。
次回こそは管理局の話になる……と良いな(爆)。
それでは。

593earth:2011/06/16(木) 23:20:32
短めですが、第17話です。
皆様、お待ちかねの管理局の話も少し入ります。

 未来人の多元世界見聞録 第17話

 地球派遣艦隊がBETAを掃討した頃、大規模な増援を受けた長門艦隊は周辺宙域のBETAの掃討と調査を進める
傍らで時空管理局への調査を進めていた。
 広範囲の宙域での作戦指揮が可能な戦略指揮戦艦の指揮能力、そして大盤振る舞いと言っても良い援軍がこの二正面
作戦を可能にしたのだ。
 時空管理局が存在する特殊な宙域の周辺は呆気なく黒旗軍の支配下に置かれた。さらに時空管理局と戦争になった際に
後方を支えられるように前線基地が建設された。 

「長門さんは今や艦隊司令官どころか、方面軍司令官ね」

 アンドロメダ級3番艦『アルテミス』の艦橋で、朝倉はくすりと笑う。

「だがそれだけ責任は重い。総司令が満足する結果を出す必要がある」
「それもそうね。ここまでの兵力が与えられるってことは、総司令は時空管理局との戦争もあり得るって考えて
 いるんだろうし」
「NPCの文明なら容赦は不要と考えてもおかしくはない。各世界ではそれが当然だった」 

 これまで多くのNPCが生み出され、そしてプレイヤー達の容赦のない蹂躙によって死に絶えてきた。
 それに時空管理局が加わったとしても何の違和感もない。  

「さて、総司令はどうするつもりかしら?」

 これまでの調査の結果、時空管理局の戦力は大したことはない。マブラヴ人類に比べれば手強いし弱小の初心者
プレイヤーなら少しは苦戦する『かも』知れない。だがその程度だ。
 黒旗軍が本気になれば踏み潰せる。しかし耕平はまた攻勢にでるつもりはなかった。

「戦力の強化が済んでない。それに管理局のロストロギアの正体が判らないし、BETAの調査も疎かにはできない」

 第8世界の気味の悪さから、耕平はことを慎重に運ぼうとしていた。
 既存艦艇の改装を進める傍らで、波動砲3門を装備した改アンドロメダ級戦艦2隻、R戦闘機の劣化版であるF−01。
そしてそれらを運用するための大型空母(艦体はアンドロメダのものを流用)の生産が急ピッチで進められていた。
 戦力の拡充が終ってからでも遅くは無いと耕平は判断していたのだ。尤も最大の理由は現実の問題だったが……。

「バイトの関係で、早めに開戦すると直接指揮できないかも知れないし」

594earth:2011/06/16(木) 23:21:36
 次元世界の守護者を自称する時空管理局。
 多数の次元航行艦を保有する一大勢力であり、曲がりなりにも多くの管理世界の秩序を守ってきたこの組織は、昨今 
自分達の支配領域に現れる不審船に神経を尖らせていた。
 次元航行部隊は必死に不審船を追いかけたが、全く勝負にならず逃げられた。時には発砲さえしたが、大半は外れ 
さらに直撃したとしても容易に弾かれる始末だった。さらに言えば次元潜航艇など捕捉すらできていなかった。

「由々しき事態だ」
「管理世界の各政府は海の実力を不安視し始めている。対策が必要だろう」
「海の平和が乱されれば、各世界の経済に悪影響が及ぶ。ようやく齎された平和を失うわけにはいかん」

 時空管理局最高評議会(通称三脳)は、この事態に対処するべく、次元航行部隊の増強を決定する。

「左様。だが管理世界の政府が捻出できる予算には限りがある」
「しかしL級では歯が立たないのは判っている。XV級の早期開発が必要だろう」
「現状では『聖王のゆりかご』の起動も考えなければならん。多少の我慢はしてもらおう」

 次元世界の平和を守るため、彼らは海の増強を急いだ。しかし同時に一つの決定を下す。
 
「あの不審船は、魔法とは異なる技術体系で作られている可能性が高い。さらに一連の行動は我々への偵察へ
 他ならない」
「戦争準備と?」
「違うと言い切れるかね?」
「……」
「不測の事態に備えて管理世界の国力を強化する必要があるだろう。管理局へ更なる出資を迫るのだから飴を
 与える必要もある」
「管理世界の拡大ですかな? だが陸の乏しい戦力で管理する世界を拡大しても管理が行き届くかどうか」
「資源が豊富な無人世界なら良いだろう。また万が一、管理世界が崩壊したときに備えて避難先を作れる」

 こうして時空管理局は管理世界の拡大を開始する。
 だが当初は無人の資源地帯を抑えるのみであったはずのこの戦略は、少しずつ有人世界への進出に変容していく
ことになる。そして彼らは一時の繁栄を手に入れる。
 だが彼らは知らない。この一時の繁栄が、一人の高校生のリアル事情によって齎されたことを。

595earth:2011/06/16(木) 23:23:36
あとがき
閑話のような話でした。
主人公は着々と軍備増強を進めます。BETA涙目といったところでしょう。
管理局は勢力拡大に舵を切ります。主人公のせいで(笑)。
どこまで原作を崩壊させれば気が済むのやら……それでは失礼します。

596earth:2011/06/17(金) 23:13:10
第18話をUPします。

 未来人の多元世界見聞録 第18話


 耕平がバイトのためにログアウトしている頃、日本帝国ではクーデター軍がついに崩壊した。
 民心の離反に加え、軍の中堅以下が次々に離反し叛旗を翻したのだ。民衆の蜂起、そして実働部隊の
反乱によってクーデター軍は瓦解していった。

「脆いものだな」

 一連の反乱を指導した沙霧少佐は自機である不知火の中で嘆息する。彼の目の前には、次々に兵士達に
拘束されるクーデター軍首脳部が映し出されている。
 中には摂家出身者であることを理由に、丁寧に扱えと主張する馬鹿もいるが、はいそうですかと言って 
彼らへの扱いが良くなるわけがなかった。

『少佐は、このあと如何されます?』

 部下の問いに対して沙霧は淡々と答える。

「出頭し、処罰を待つ。私がやったことは許されることではない。お前達は?」
『我々も似たようなものです。神風が吹いていなければ、我々もBETAの餌でした。生き延びた今、反乱者の
 末路として処罰され、次の日本の礎になることが我らに出来ることです』
「そうか……すまないな。巻き込んでしまって」

 クーデター軍上層部を打倒した沙霧が、仙台政府に投降したことで、事実上クーデターは終結し日本の内戦にも
幕が閉じた。クーデター軍首脳は処刑された。摂家出身者といえども関係はなかった。
 しかしそれで日本が平和になったわけではなかった。疲弊した経済、汚染され続ける環境、そして飢えによって
日本国内はボロボロの状態だった。
 さらにBETAが再び駆逐されたことで、EUやオーストラリアは日本への支援を不要のものと見做して削減、
或いは打ち切っていった。日本政府は必死に支援継続を求めたが、返事はどれも梨の礫だった。
 
「……このままでは、我が国は貧乏な三流国に転落する」

 某大蔵官僚はそう言って頭を抱える。だが有効な手はない。
 しかし後日、各国は条件付で支援を持ちかけてくることになる。

597earth:2011/06/17(金) 23:13:41
アメリカはBETAと自国の宇宙軍を簡単に蹴散らした勢力が、太陽系内で活動しているという事実に恐怖した。
 EUやオーストラリア、南米諸国もBETAを駆逐してくれた勢力に感謝はするものの、彼らの矛先がいつこちらに
向くかを考えると居ても立っても居られなかった。
 軍や政府の有力者が集まって対策会議を開く。

「彼らの目的は何だ?」
「BETAを駆逐したということは、BETAと敵対しているということだが、こちらの呼びかけには無反応だ」
「しかし米宇宙艦隊を撃沈せず、無力化に留めたということから、こちらと無用な争いは避けたがっているのでは?」
「連中が本気になれば、我々もBETAと同じ運命を辿るだろう。我らに配慮する意味は無い」
「SFで出てくるような銀河パトロールだな」
「ならば我らは辺境に住む蛮族というわけか……笑えるな」
「あれだけの技術力を持った勢力からすれば、我らなど猿と同類だろう」

 高官たちは議論したものの、結果として謎の勢力(異星人X)には対抗不能との結論を出さざるを得なかった。
(尤も実際には対抗どころか、一矢報いることもできないのだが)

「だが何もしないわけにはいかないだろう」
「そうだ。日本ではかなり大規模な戦闘を行っていた。何か手がかりがあるやも知れん」
「そうだな。身近であの宇宙船を見た人間も多い。聞き取りを行うだけでも何か得られるかも知れない」
「ですが日本政府が現地の調査の許可や、収拾した情報の公開を行うでしょうか?」
「忌々しいが、支援と引き換えにするしかあるまい」

 どこの国も余裕がなかったが、何かしらの手がかりが得られるかも知れないとの誘惑には打ち勝てない。
 かくして日本は各国から一時的な支援を受けて一息つくことになる。

598earth:2011/06/17(金) 23:14:13
 一方、地球のことなどお構いなしに黒旗軍は参謀本部の統率の下で、軍備増強と資源地帯の開発を急ピッチで
進めていた。
 土星、木星の資源採掘施設が次々に稼動し、必要な資源が採掘されていく。これらの資源は第8世界に新たに
設置された工廠に運び込まれて次々に兵器の材料となっている。
 その様子を参謀本部のAIたちは観察し分析を続けていた。

「第6世界の工廠では改アンドロメダ級2隻の建造が進んでいる。次に総司令が登場された際には完成している」 
「アンドロメダ級4番艦以降は?」
「改良して生産は続けるほうが上策。改アンドロメダ級は建造コストが高すぎる。このことを総司令に提言する」
「アンドロメダの生産を続ければコストダウンと『信濃』型空母の艦体も確保できる」
「F−01はRに比べると廉価だが、コストがまだ高い。母艦ごと喪失するのは損失が大きすぎる。防御力に優れた
 母艦は必要」
「だが戦艦の艦体を使い続けるのも問題だ。一から空母を設計するべき」
「総司令へ提言する」
「それと、もう少し使えない艦を減らせないだろうか? 保有制限があるので必要な艦が揃えられない」
「総司令が許可しない」
「……了解した。保有制限に掛からないユニットで可能な限り代用する」

 自分達の創造主であり、統括者の趣向に振り回されつつも彼らは日々仕事を続けた。
 一方、前線を預かる長門と朝倉は増強される兵力をモニター越しに見ていた。

「大げさね」 
「しかし管理局は勢力拡張に舵を切っている。兵力の増強は必要」
「そうからしら。あの連中、艦隊戦ができるか怪しいわ。アルカンシェルなんていう艦載砲だって威力は兎に角
 射程は波動砲より遥かに短いし。まぁ戦力が多いことに越したことは無いわね。一気に揉み潰せるから」

 確かに管理局の戦力は、他のプレイヤーほどではない。しかし次元世界はそんなに狭くは無い。
 無数の世界を重ねがけしたうえ、回廊などで他の宙域にも繋がっていることが判ったのだ。

「本局を潰しても、ゲリラ戦をされたら面倒だし」 
「しかしあの本局は興味深い。調査が必要」
「そうね……次元世界の情報やロストロギアの情報は欲しいし、ESPユニットをもぐりこませてみましょうか」 

 かくして時空管理局への調査は次の段階を迎えることになる。

599earth:2011/06/17(金) 23:15:13
あとがき
というわけでクーデター軍崩壊です。
黒旗軍が派手に日本本土で戦ってくれたおかげで、日本は一息つけます。
まぁ状況が悪いのは変わらないのですが。
時空管理局への調査も進みます。それでは失礼します。

600earth:2011/06/18(土) 14:24:32
第19話です。


 未来人の多元世界見聞録 第19話

 
 時空管理局本局。次元の海に浮かぶ次元航行部隊の本拠地であり、次元世界最大の軍事拠点。
 故に警戒も厳重であったのだが、次元潜航艇を探知する能力は持ち合わせていなかった。彼らはあっさり
次元潜航艇の接近を許してしまう。

「それじゃあ、行ってくるわ」

 管理局の制服を纏った朝倉は、次元潜航艇から通信で長門にそう告げると瞬間移動で本局に一気に潜入した。
続けて他のESPアンドロイドが次々に瞬間移動で本局に進入していった。
 そして潜入後、ある者は変身し、ある者はダンボールで身を隠しながら本局内を移動していく。

「ザルね〜」

 朝倉は変装して顔を隠しつつ、警戒装置を00ユニットを遥かに凌駕するハッキング能力で無効化していく。
 同時に周辺の人の様子を観察する。 

「軍事組織というより、むしろ警察機構ね。裁判所と警察が合体ってどんな組織かしら……」

 色々と呆れつつも、細かい調査を開始する。

「XV級か……確かにL級よりは強いけど、防空能力は微妙ね。でもバリアがあるからコスモタイガーの
 攻撃力じゃ撃沈は難しいかも。でもF−01の小型波動砲や主力戦艦の主砲なら貫けそうだし大した脅威じゃないか」
「S級魔導士か……大気圏内では化物じみているわね。今の陸戦部隊じゃ苦戦するかも。
 ESPユニットを当てればいいけど、数が足りないわね。最悪の場合は大気圏外から砲撃で粉砕かしら。  
 あとは船ごと沈めるのが良いわね。高ランク魔導士は船に乗っているのが多いし」
「海に対して陸は戦力が薄いわね。おまけに有人世界まで植民地にしたせいで、治安活動で首が回らないし。
 そんな陸からさらに高ランク魔導士を海が引く抜く。それでも足りないから犯罪者でも、司法取引で使うと。
 ……組織のあり方としてどうかと思うけど」

 朝倉は目ぼしい情報を入手すると、すぐに場所を移動する。目的地はロストロギア保管庫、そして無限書庫だ。
 尤も後者はあまりにもゴチャゴチャしていたので、有益な情報を引き出すのに手間が掛かりすぎると判断して
諦めたが。

「さて、ここが保管庫か……何が入っているのやら」

 巨大な扉の前で楽しそうに笑う朝倉。だがその後、彼女は信じがたいものを見て、珍しく硬直することになる。

601earth:2011/06/18(土) 14:25:58
「第三次大戦前の遺物が保管されているか……」

 管理局に関する報告を聞いた耕平は唸った。
 何しろ仮に管理局がロストロギアを使いこなして反撃に出たら痛い目に合う可能性が出てきたのだ。

「次元消滅弾頭なんて使ったら洒落にならないからな」

 空間を完全に破壊し、宇宙船の航行すら難しくする空間汚染を引き起こす大量破壊兵器。現在は保有と使用と
禁止されている兵器を筆頭に物騒なものがごろごろしているとなると、耕平ですら管理局に手を出すのは気が引ける。
ちなみに他のにも色々なものがあったが、理解しがたい機能や外見をしたものがあった。朝倉はこれらをガラクタと
判断し、耕平もそれに同意していた。

「さて、こうなると『聖王のゆりかご』もかなり物騒な品物になりそうだな」

 艦隊動員して全滅なんてことになったら第8世界での行動が難しくなる。だがここで耕平は考えを変える。

「短期決戦で決着を付ける必要があるか」

 暫く考えた後、耕平はアンドロイドの参謀に尋ねる。

「……ジオイド弾はどの程度揃っている?」
「現在120発が生産済みです」
「1惑星あたり3発として、40の惑星が破壊できるか。最悪の場合、主な管理世界にジオイド弾を撃ち込んでも
 お釣りが来るな」
「まとめて吹き飛ばすと?」
「最悪の場合だ」

 耕平はそういって肩をすくめる動作をする。

「そういえばテストは?」
「まだです」
「じゃあ適当な惑星を選んで撃ちこむか」

 かくしてジオイド弾のテストも行われた。耕平はランダムで選ぶつもりだったが、どこぞのピンク髪の貴族や黒髪メイド、
爆乳のエルフにちやほやされている男がいる星を見つけると「リア充爆発しろ!」と言ってジオイド弾を3発撃ち込んだ。
八つ当たりだが、バイトで受けたストレスはそれほどまで大きかったのだ。

602earth:2011/06/18(土) 14:26:31
「悪は去った」

 実に良い顔で言うと、耕平は再び会話を再開する。

「どちらにせよ、舐めてはかかれない相手ということだ。4個艦隊で一気に攻め落とす」
「では開戦されると?」
「NPCがあんな物騒なものを持っているとなれば放置は出来ないだろう。本局については無力化のための工作を進めろ。
 ロストロギアと無限書庫は出来るだけ無傷で手に入れたい」
 
 話し合いでロストロギアの譲渡や情報の引渡しも考えていた耕平であったが、常識を超える危険な物ばかりであった
ことから話し合いを断念した。下手に管理局がロストロギアをいらって起動させるようなことがあったら目も当てられない。
 それに管理局が拡大方針を採っているといずれ他の世界に行くつく危険があった。これは阻止する必要がある。

(危険なものは闇に葬るに限る)

 だが耕平としては開戦時期は慎重に選ぶつもりだった。

(情報収集の結果、今はASのころ。97管理外世界にアースラが行っている間に電撃戦で落せば原作キャラの
 死亡は少なくて済むだろう。マブラヴと違ってASのころまでは、魔法少女の世界だからな。STSだったら容赦しないが)

 NPC(?)とは言え、見たことがある少女を木っ端微塵にするのは、さすがの耕平も気分が良くない。

(それに管理局を潰せば、あんな魔王なんて登場しないだろう。あとはスカだが……まぁ適当に技術を与えて改造させる
 のが良いか。何か使えるものができるかも知れないし)
 
 かくして開戦時期は決められた。 
 参謀本部は次元世界制圧作戦の策定に取り掛かる。また改装や建造が終ったばかりの艦艇が次々に第8世界に送られ
始める。
 改アンドロメダ級『春蘭』『三笠』、アンドロメダ級戦艦4隻、主力戦艦52隻、信濃級空母4隻、戦闘空母12隻を
中核とした大部隊が回廊から第8世界に向かう。
 そしてその総指揮は黒旗軍総司令官である耕平が執る。
 
「これが最新鋭戦艦『春蘭』か。それにしても、やっぱり艦名は感じに限るな」

 笑いながら耕平は春蘭の艦橋を眺める。アンドロメダ級よりも広い艦橋、そして充実した指揮能力。
 性能が低いAIを搭載した戦艦も、操作できる能力を持つこの艦は、次世代の旗艦に相応しい戦艦であった。
 勿論、火力も波動砲3門(拡散・収束切り替え可)、50.8cm主砲4連装5基(上甲板に前後2基ずつ。艦底に1基)を
装備するなど黒旗軍でも有数の攻撃力を持つ。
 
「時空管理局、次元の守護者の腕前、どの程度か見せてもらう」

 かつてない外宇宙からの脅威(笑)が次元世界に迫りつつあった。

603earth:2011/06/18(土) 14:27:45
あとがき
というわけで開戦です。
なのはさんやフェイトさんは生き残れそうです。
ですが『リリカルなのは』はASで打ち切りになりそうです(爆)。

604earth:2011/06/18(土) 20:17:34
というわけで戦争が始まる第20話です。


 未来人の多元世界見聞録 第20話


 第8世界の次元世界がある宙域の周辺に、大艦隊が集結していた。
 最新鋭戦艦『春蘭』『三笠』、アンドロメダ級戦艦6隻、主力戦艦60隻、信濃級空母4隻、戦闘空母15隻、巡洋艦150隻を
中心とした一大機動艦隊。その気になればマブラヴ人類を1000回は余裕で滅ぼせるこの次元世界攻略艦隊は作戦開始を今か今か
と待っていた。
 アルテミスから見える、この堂々たる大艦隊の様子を見た朝倉は感嘆した。

「壮大な眺めね」

 朝倉の言葉に長門は頷く。さすがの彼女達もこれだけの大艦隊が集まるのははじめて見るものだった。
 艦隊の様子に見入っていた2人に総司令官である耕平から通信が入る。

『そちらの準備は良いか?』

 メインモニターに映る耕平に、2人は敬礼して答える。

「全艦、出撃準備は完了」
「いつでも出れます」
『そうか。それでは予定通り行動を開始する。本隊は本局を強襲する。そちらは支局を叩いて、各世界からの増援を阻止する
 ように』
「了解」
 
 その後、耕平は作戦の開始を宣言した。

「これより、『黒旗軍』は時空管理局制圧作戦を実施する。大量破壊兵器を隠匿し、勢力拡大に注力する危険な勢力を
 放置することは出来ない。この世界の平和は諸君の双肩に掛かっている。諸君の奮闘を期待する!」

 アンドロイドばかりの軍隊なのだが、何故か演説する耕平。ゲーマー(オタク?)としての性だった。

「作戦開始!」

 総数で500隻にもなる大艦隊が次々に次元世界に侵入を開始する。
 戦争の始まりであった。

605earth:2011/06/18(土) 20:18:07
 聖王教会からの警告、そして度重なる不審船騒動から警戒態勢を取っていた管理局は、大艦隊が侵攻してきた
ことをすぐに察知した。
 勿論、本局は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。

「アルカンシェルを装備させたXV級を出せ!」
「L級もだ。全力で出撃させろ!!」

 これまで散々に苦い思いをさせられてきた次元航行部隊は、この大艦隊を撃滅すべく活を入れる。
 
「各世界に派遣していた巡航艦も呼び戻せ!」
「ですがそれでは各世界の管理が」
「この際、あの大艦隊を叩いてからだ。連中に本局を落とされるようなことがあれば、治安の維持どころでは
 なくなる!」

 かくして本局からは次々に次元航行艦が出撃していく。
 だが大世辞にも艦隊で行動することに慣れているとは思えない有様だった。そしてその様子は次元潜航艇に
よって次々に旗艦春蘭の耕平の手元に知らされていた。

「総数は約300、数は大したものだが、艦隊決戦に慣れていないようだな」

 耕平の本隊は春蘭、三笠、それにアンドロメダ、ネメシスの4隻、主力戦艦46隻を中心とした350隻だ。
このため管理局もほぼ互角と見て積極的に打って出たのだ。

「所詮は警察機構か」

 この耕平の呟きにアンドロイド参謀が頷く。 

「彼らは単艦で行動することが多いようです。さらに大規模な戦争を経験したこともありません。
 恐らくこれが最初の艦隊決戦でしょう」
「そして最後の艦隊決戦になるよ。1隻たりとも生かしては帰さない。それに良い経験値稼ぎになる」
「それでは当初の作戦通りに?」
「包囲殲滅は戦場の花だよ」

 こうして2つの艦隊は距離を詰めていく。

606earth:2011/06/18(土) 20:18:47
 双方の間隔が詰まってきたのを見た耕平は艦隊を停止させる。

「波動砲統制射撃準備。波動砲、拡散モードでエネルギー充填開始」
「了解しました。波動砲、拡散モードでエネルギー充填開始」
「収束型の艦は第二射のためにチャージ。それと相手が反転したときに備えて瞬間エネルギー位相装置も準備」
「了解」
   
 50隻の戦艦が波動砲にエネルギー充填を開始する。勿論、黒旗軍本隊が停止したのを見た管理局艦隊も
何かあるとは思ったが、あまりに遠かったので、手出ししようが無い。
 必殺のアルカンシェルもこの距離では届かない。

「接近するしかあるまい」

 管理局艦隊司令官は虎穴にいらずんば虎児を得ずとばかりに全速で黒旗軍本隊に向けて突進する。
 しかしこの様子を見ていた耕平は思わずニヤリと笑った。

「獲物がわざわざ飛び込んでくるとは。尤も、今さら後退しても直撃波動砲の餌食だけどな」

 そう余裕を示しつつも、周辺への警戒は忘れない。
 何故か波動砲を撃った直後に、防衛艦隊はフルボッコにされる場合が多い。特に完結編では拡大波動砲を
撃った直後に、奇襲を受けて壊滅している。耕平は同じことが起こるのを警戒していた。

「デスラー艦、空母部隊、水雷戦隊も準備を怠るな」
「了解」
 
 着々と進むエネルギーチャージ。そしてついに出力は120%に達する。
 ターゲットスコープが耕平の前に開かれる。耕平は同時に下から出てきた波動砲発射の引き金に指をかける。

「電影クロスゲージ明度8」
「エネルギー充填120%」

 アンドロイドの言葉に頷くと、耕平はカウントダウンを開始した。

「発射10秒前、対ショック、対閃光防御。10、9、8………」

 カウントダウンを告げる耕平の声だけが艦橋内に響く。

「3、2、1、0。波動砲、発射」

 耕平が引き金を引き、波動砲が発射される。膨大なエネルギーが次々に放たれ、管理局艦隊に向かう。
 それは時空管理局にとって最初の艦隊決戦の始まりにして、次元航行部隊創設以来の苦難の始まりを告げるものであった。

607earth:2011/06/18(土) 20:20:48
あとがき
というわけで、原作の地球防衛軍お得意の先制の波動砲攻撃です。
でも原作だといきなり波動砲を撃ったら敗北フラグ(爆)。
でも管理局に奇襲をかけれる力は……
それでは失礼します。

608earth:2011/06/18(土) 22:21:50
というわけで第21話です。


 未来人の多元世界見聞録 第21話


 黒旗軍艦隊本隊から発射された波動エネルギーは散弾銃のように分散して、雨霰と管理局艦隊に降り注いだ。
 
「か、回避しろ!!」
「ダメです!!」

 次元航行艦の艦長たちは何とか回避を試みるが避けられるものではなかった。四方八方から降り注ぐ波動
エネルギーによってシールドは食い破られ、艦内も次々に破壊されていく。

「うわぁああああ!!」

 L級が、新鋭のXV級が、次々に艦体を波動エネルギーに貫かれて沈んでいく。
 管理世界からの膨大な出資で作られ、管理世界を守ってきた艦がいとも容易く沈んでいく様は、管理局員から
すれば悪夢と言ってよかった。

「ば、馬鹿な……」

 運よく波動砲の影響を受けなかった管理局艦隊旗艦XV級『ヘクトル』では艦隊司令官が呆然としていた。

「ただの一撃で、艦隊の三分の二が……馬鹿な、こんなことが」

 勿論、周囲の部下達も似たようなものだった。次元航行部隊が創設されてから、ここまで一方的な大敗北など
経験したことがなかった。故に彼らは呆然となった。
 本来ならすぐに体制を立て直すべきなのだが実戦経験の無さがここで効いた。

「敵艦隊に高エネルギー反応!」
「何?」

 そう波動砲の第二射が放たれるときが来たのだ。

「反応が遅い」

 耕平は嘲笑いつつ、収束型波動砲を撃った。残存部隊へのピンポイント攻撃であった。
 破壊できる範囲は拡散型より劣るものの、貫通力は拡散型の比ではない。そして辛うじて残った管理局艦艇に
これを防ぐ術は無かった。

「は、反転180度! 全艦離脱!!」

 ヘクトルは慌てて逃げ出そうとしたが、間に合わない。ヘクトルと周辺に居た艦艇は根こそぎ波動砲に呑み
こまれていった。

609earth:2011/06/18(土) 22:22:27
 粗方、敵艦隊の反応が消失したのを見た耕平はオペレータに尋ねた。 

「敵の残存は?」
「残りは54隻。全艦が反転して本局に向けて後退しようとしています。また本局よりさらに5隻の艦艇が発進」
「逃げるか。まぁ全滅覚悟で突撃するよりかは賢明だが……そうはさせない。空母艦載機、水雷戦隊、前に!」 

 後方に待機していたデスラー艦の前に、F−01と巡洋艦、駆逐艦が並ぶ。 

「デスラー戦法を見せてやろう」

 瞬間物質位相装置が次々にF−01、巡洋艦、駆逐艦をワープさせていく。

「管理局が驚く顔が目に浮かぶな」

 しかし退却する管理局艦隊は驚くどころではなかった。何しろ必死に退却しようとしている最中に周辺に
前触れも無く戦闘機や巡洋艦が現れたのだ。

「馬鹿な! どこから!?」
 
 慌てて応戦しようとするが、先手を打つかのようにF−01が搭載する小型波動砲が火を噴いた。
 シールドで持ち堪えようとするが、出力を強化された小型波動砲を防ぐことはできない。次々にシールドごと
艦体を撃ち抜かれる。

「Dブロック消失!」
「Bブロック火災発生!」
「魔導炉停止!」

 次々に齎される凶報。それはすでに艦が航行できないどころか、沈む直前であることを意味した。

「総員退艦、急げ!!」

 相次いで艦が放棄される。しかしなお攻撃は止まない。巡洋艦が20.3cm連装衝撃砲を弱体化した管理局艦に
撃ちこむ。1隻のL級が衝撃砲に貫かれ爆沈した。炎を上げつつ航行していたXV級には多数の魚雷が叩き込まれる。
XV級は搭載していた小口径の砲で迎撃するも1発も撃破できず、全弾が命中。文字通り轟沈する。
 勝敗は決した。

610earth:2011/06/18(土) 22:23:08
「ぜ、全滅だと。敵艦隊に触れることさえできずにか……」

 300隻あまりの大艦隊が文字通り殲滅されたことを知った次元航行部隊の高官は本局の司令部で卒倒しそうになった。
 だがそうなるのも無理は無かった。何しろこれまで巨費をつぎ込んで建造してきた次元航行艦、そしてそれを
運用する貴重なクルー、そして宝石よりも希少な高ランク魔導士が根こそぎ失われたのだ。
 
「各世界、支局からの増援はどうなっている?」

 一途の望みをかけて高官はオペレータに尋ねるが、逆に悲鳴のような報告が戻ってくる。

「か、各支局が敵艦隊に襲撃されています! 奇襲を受けて大損害を被っているとのことです!!」
「何だと?! 別働隊がいたというのか?!」

 このとき、長門艦隊などの別働艦隊が各世界の支局に奇襲攻撃をかけていた。
 迎撃に出た次元航行船は次々に撃沈され、支局も波動砲や波動カードリッジ弾によって滅多打ちにされて
破壊されていった。

「経験値稼ぎにもならないんじゃない?」
「否定できない」

 朝倉と長門は支局や周辺の艦隊をそう酷評した。実際、酷評されても仕方ないほど一方的に管理局側は
打ち負かされていた。

「S級やA級も、宇宙空間から撃たれたら形無しね」

 朝倉の言うとおり、高ランク魔導士はここでも何の役にも立たず、黒旗軍の砲火によって次々に倒れていった。 

「次元航行部隊は事実上壊滅か……」

 誰の目から見ても、決着はついていた。管理局の大敗という形で。

「「「………」」」

 回りの人間が浮つく中、伝説の三提督たちは、管理局の大敗を冷静に受け止めていた。
 同時に彼らはこの敗戦をどう処理するかで頭を悩ませていた。もしも謎の艦隊が地上への爆撃を敢行すれば
管理世界は火の海と化す。それは次元世界の滅亡に直結する。
 生き残るには、管理世界の各政府をまとめ、降伏するしか道はなかった。

611earth:2011/06/18(土) 22:25:02
あとがき
というわけで会戦終了です。
管理局艦隊涙目ってレベルじゃありません。一方的敗戦です。
ここまで一方的にやられた管理局が居ただろうか……。
それでは失礼します。

612earth:2011/06/19(日) 10:44:00
かなり短めの22話です。


 未来人の多元世界見聞録 第22話


 管理局艦隊が消滅したのを見て、三提督が降伏を提言しようとした直後、本局にさらなる異変が襲う。
 警報とともに次々に内部のシステムがダウンしていく。

「どうした?!」
「ハッキングです! 次々に防壁が突破されています!!」
「保安部のメインバンクに侵入されました!! パスワードを解析中です!」
「何だ、この速度は!?」
 
 慌ててオペレータたちは対応するが、全く間に合わない。
 混乱する中、本局のあちこちで破壊工作が行われる。相次いで重要な通路や輸送路が爆破され、各地で
人や物の流れが遮断される。

「武装隊を出せ、不審者と不審物の発見に全力を挙げろ!」

 慌てて各所に指令が飛ぶが、本局でこのような破壊工作が行われることなど無かったために迅速な
対応がとれない。さらにESPアンドロイドは瞬間移動や変身で姿を隠すため、発見が困難だった。

「これだけの破壊工作となると、かなりの人数が侵入しているはずだ! 何としても見つけろ!」

 高官はそう厳命するが、事態は悪化する一方だった。

「敵艦隊、本局に向けて接近!」
「何?!」
 
 司令部のスクリーンには、悠々と本局に向かってくる黒旗軍艦隊の姿があった。
 管理局艦隊の3分の2を一瞬で消し飛ばした恐るべき戦略砲を搭載した戦艦が整然と進撃してくる様は、高官たちを
恐怖させた。
 あの戦略砲(波動砲)が発射されれば、本局とはいえ崩壊は免れない。

「こうなったら、ロストロギアを使うしか……」
「ですな……」

 三提督が止めるよりも早く、高官たちはロストロギアを使った反撃にでようとする。だが試みは無駄に終った。

「ロストロギア保管庫が制圧されただと?」
「はい。周辺の通路も全て爆破されました」
「………」
「敵艦隊、さらに接近」

 艦隊と切り札、そして本局のコントロールシステムの多くを失った管理局にできることは降伏しかなかった。

613earth:2011/06/19(日) 10:44:41
「管理局から降伏の申し出が来ています」

 春藍の艦橋でそう報告を受けた耕平は満足げに頷いた。

「これで少しは、この世界の真実に迫れるな……ロストロギア、無限書庫、この2つがあればかなりの情報を
 収集できる」

 第8世界のNPC文明は、かつてのプレイヤーが作った文明が発展したものとゲーム会社から説明されたが
それをそのまま受け取るほど耕平は素直ではない。
 マブラヴ、リリカルなのはと言い、1000年前の世界のフィクションに似た文明がそうそう自然に発生
するわけがない。

(誰かが介入しているとなれば、警戒が必要だ。いきなり奇襲されて大打撃なんて受けたら面白くないし)

 BETAも探索も必要だが、他のプレイヤーの存在の有無を確認することも必要だった。
 まだ出会っていないだけで、実はこの世界のどこかで活動しているとすれば、いずれ開戦ということも
あるのだ。

(あとはマブラヴ人類の調査だな。まぁ大したものは発見できないだろうけど、史実を超える技術進歩が
 成し遂げられたのも何か理由があるはずだし。ああ、それと禁止兵器は、さっさと運営に通報しておくか。
 何か報酬がもらえるかも知れないし)

 そんなことを考えている内に、長門艦隊などの別働艦隊が合流する。

『任務完了』
「ご苦労様。でも悪いけど、今から本局で交渉してきてくれない?」
『何故?』
「自分のユニットは君達のように強力じゃないんでね。騙まし討ちされたら対応できないんだ。その点、君らは
 S級魔導士とも戦えるし、何かあっても対応できる。それにリーディングで相手の考えも読める。
 交渉にはもってこいだ。勿論、他のESPアンドロイドや護衛の歩兵部隊はつける」
『……了解した。ただちに本局に向かう』

 一方、出迎える管理局員は屈辱と不安で頭が一杯だった。栄光ある管理局が良い様に叩きのめされ、犯罪者に
頭を下げなければならないのだ。

(何故、このようなことに)

 特に高ランク魔導士は忸怩たる思いだった。自分達の実力が発揮されないまま、全てが終ってしまったのだから。
 そうこうしている内に、かつて次元航行艦が収納されていたドックに1隻の大型戦艦が入ってくる。管理局が嫌う
『質量兵器』の雰囲気が漂ってくる艦だ。
 
(どんな連中が出てくる?)

 だが彼らはこの直後、信じがたいファンシーな生物を目にすることになる。

614earth:2011/06/19(日) 10:48:01
あとがき
本局開城です。次回、『ボン太君(+長門と朝倉)大地に立つ』になる予定です。
マブラヴ人類の代わりに管理局のSAN値が……。
まぁいずれマブラヴ人類のSAN値も……。
実験SS(最強系)で、普段の息抜きがてらに書いているのですが
あまり評判がよくないようであれば、切りが良いいところで打ち切りたい
と思います。

615名無しさん:2011/06/19(日) 10:55:17
投稿ご苦労様です。
前のバージョンも良かったと思いますが
今の分も楽しく読ませてもらってます。

中途半端な最強系でなく原作破壊上等なところも、
相手に合わせる必要など認めなく、自分達の都合だけで動くところは
私としては気に入ってます。
次回作も楽しみにしてます。
出来れば今日中であれば・・・

616earth:2011/06/20(月) 21:30:18
いよいよ交渉(?)が始まる第22話です。


 未来人の多元世界見聞録 第22話

 長門艦隊旗艦アルテミス。拡散波動砲2門、50.8センチ衝撃砲12門という重武装を誇る
戦略指揮戦艦アンドロメダ級の3番艦は管理局員達に言い知れぬ威圧感を与えていた。
 同時にどのような勢力によってこれが建造されたのかと誰もが疑問に感じた。
 
「一体、あれほどの質量兵器をどこの組織が作ったんだ……」
「管理世界のどこかの政府が密かに建造したんじゃないのか? 次元世界の覇権を得るために」
「馬鹿な。管理局の監視を掻い潜って作れるわけがない」 

 管理局は節穴ではない。いくら何でもXV級を超えるような大型艦が建造されるなら、その
兆候は掴める。だが管理局は全くその兆候を掴めなかった。黒旗軍と名乗る勢力は突如として
現れたのだ。 
 
「これが謎の勢力の戦闘艦」

 出迎えのためにドックに来ていたレティ・ロウランはアルテミスを見て、自分達の艦とは全く
異なる理論で設計された艦であることを理解した。
 
「アルカンシェルを超える戦略砲、そしてXV級を超える機動力。どれも信じがたいものばかり」

 だが目の前で管理局艦隊が捻り潰されたのを見れば、信じざるを得ない。
 目の前の勢力は管理局を凌駕する存在であり、その気になれば自分達をいつでも抹消できる力を
持っているということを。

(うまく降伏交渉を纏められればいいけど)

 管理局はこれまで圧倒的強者と交渉したことが無い。まして次元航行部隊が壊滅し本局が降伏を
余儀なくされることなど想像すらしたことがなかった。
 管理局の要職を占めるプライドが高い高ランク魔導師が、素直に降伏(それもほぼ無条件降伏)に
同意するかレティには判らなかった。

(三提督が抑えてくれると良いけど)

 そんなことを思っている内に、アルテミスからタラップが降ろされる。
恐怖、憎悪、屈辱、様々な感情が渦巻く中、アルテミス内部から降りてくる人影が見えてくる。
 管理局員の誰もが固唾を呑んで、自分達を叩きのめした謎の勢力の代表が降りてくるのを待った。

「「「………」」」

 静まり返るドックの中、長門と朝倉は勝者としての余裕をもって姿を現した。
 2人の少女の姿に誰もが驚くが、高ランク魔導師が幅をきかせる管理局の人間は、あの2人が超高ランク
魔導師なのだろうと当たりをつける。
 だがその直後に現れた人物(?)に誰もが度肝を抜かれる。

「……着ぐるみ?」

617earth:2011/06/20(月) 21:30:50
(驚いているわね〜。まぁ仕方ないか。あんなファンシーな物が出てくるとは誰も思わないだろうし)

 内心でほくそ笑む朝倉。
 尤も彼女自身、ボン太君を歩兵として送りつけられたときは、耕平が正気かどうか疑ったが。
 長門と朝倉の後から付いてくるボン太君に誰もが唖然とする中、艦隊のTOP2は悠々とドックに
降り立った。
 尤も悠然としつつも、実際には騙まし討ちにいつでも対応できるように臨戦態勢であった。
 今はボン太君に呆気を取られているものの、ここは敵地であることに間違いは無いのだ。さらに言えば
彼らは一方的に容赦なく管理局を叩きのめしている。管理局からすれば黒旗軍は正体不明の侵略者だった。

(さっさと仕事を終らせて帰るに限るわ。まぁ仮に魔導師連中が逆上して襲ってきても叩きのめす自信は
 あるけど)

 重頭脳級を筆頭にしたBETAよりは潰し甲斐がありそう、と密かに思う朝倉だった。
 そんな戦闘狂な部分がある朝倉と違って、長門はさっさと仕事を済ませて戻るつもりだった。
 彼女は敬礼すると自身の所属と階級を述べる。

「黒旗軍BETA討伐艦隊司令官、長門有希中将。通告どおり、管理局との交渉に来た」

 出迎えたレティは慌てて答礼する。

「時空管理局本局運用部、レティ・ロウランです」

 レティは失礼が無いように長門達を本局統幕議長であるミゼット・クローベルや本局高官が待つ会議室に案内する。
 レティ自身、黒旗軍というのはどんな勢力なのか、BETAとは何かと色々と聞きたいことはあったが、ここで
彼女達に問い質す権限も資格も彼女には無かった。

(それにしても、この着ぐるみって……)

 誰もがボン太君について突っ込みたかったが、誰も突っ込めない。
 このあまりにも場の空気にそぐわないファンシーな存在は、軽快な足音を立てながら、長門達のあとを付いていった。

618earth:2011/06/20(月) 21:31:48
 長門と朝倉、そして護衛(?)のボン太君2人(2匹?)は様々な視線に晒されながらも、会議室に案内された。
 まずは最初に長門と朝倉が自分達の正体を語り始める。

「先の通信で開示したように、我々は貴方方の言葉で表現すれば『黒旗軍』と呼ばれる存在。
 そして私は黒旗軍BETA討伐艦隊司令官、長門有希中将。この交渉の全権を総司令官から委任されている」
「私は黒旗軍BETA討伐艦隊参謀長の朝倉涼子少将です。長門中将の補佐を任されています」
 
 これに対して、ミゼットが質問する。

「時空管理局本局、統幕議長のミゼット・クローベルです。質問しても宜しいでしょうか?」
「構わない」
「黒旗軍とは、どこかの次元世界に存在する国家に所属する軍でしょうか?」
「違う。我々は国家に所属してはいない」
「国家に所属しない?」 
「そう。我々はもともと1個人によって作られた私設軍隊」

 私設軍と言う言葉に管理局は驚愕する。何しろ本局と次元世界各地の支局を同時に攻撃できる
ような次元航行艦隊(?)を一個人が持っているというのだ。驚かないほうがおかしい。
 いや普通なら、そんな発言を公式の場でした人間は病院送りになるだろう。次元世界の守護者を
自称する管理局でさえ、その維持費は各世界の政府から支出してもらっているのだ。それを超える力を
個人で持つなど、常識人からすれば妄想もいいところだった。

「い、一個人がこれだけの力を持っていると?」

 長門は静かに頷いた。そしてさらに驚くことを告げる。

「そしてもう一つ。我々はもともと貴方達がいう次元世界には存在していなかった」

 これに管理局高官はどよめく。

「馬鹿な、ならば」
「静かに」
 
 ミゼットは怒鳴ろうとする高官を黙らせた後、尋ねる。

「では、貴方達はどこから来て、どうして我々に敵対するのですか?」
「まず我々は貴方たちが次元世界と呼ぶ空間の外の、さらに外の世界から来た」
「次元世界の外の外?」

 時空管理局の、いや次元世界の住人の常識を木っ端微塵にする『お話』が始まろうと
していた。

619earth:2011/06/20(月) 21:33:15
あとがき
というわけでお話の始まりです。
管理局のSAN値がどこまでもつか……。それでは失礼します。

620earth:2011/06/21(火) 22:04:00
もうそろそろ憂鬱本編を進めないといけないと思いつつ書いてしまう。
と言うわけで第23話です。


 未来人の多元世界見聞録 第23話

 時空管理局高官は目の前に広がる光景に絶句していた。かの伝説の三提督でさえ言葉がない。
 何しろ自分達は会議室にいたはずなのに、いつの間にか別の場所にいたからだ。

「……TV局のスタジオ?」

 辺りにある放送機材を見て、高官の一人が呆気に取られたような顔で呟く。
 
「幻影魔法か?」
「いや、そんな反応は無いが……」
「なら、何なんだ。これは。外部との連絡も取れん」
「奴らが何かしたのか?」

 長門達が「自分達が次元世界の外の外から来た」と切り出した後、三提督を除く高官たちは反発した。
 誰もが信じられなかったからだ。そんな彼らの反応を見て、長門達はため息をついた。そしてそのあと何事か
を呟いた。
 すると途端に会議室は変容した。彼らが今見ているようなTV局のスタジオに。
 動揺する高官たち。だがその彼らの度肝を抜くような大音響が響き、さらに目の前の床が開いて何かが下から
上がってくる。

「?!」

 誰もが身構える。だが直後、彼らは唖然とする。

「なぜなにじげんせかい、始まるよ〜♪」

 楽しそうな、というか他人を馬鹿にしたような朝倉の声。そして……

「わ〜」

 棒読みまるだしの長門の声が響き渡ると同時に子供向けの人形劇のようなセット、北高の制服でたたずむ長門、そして
黒子を被った(?)と思われるボン太君2人が現れた。

「「「………はぁ?」」」

 あまりにシュールな光景に誰もが思考停止した。

621earth:2011/06/21(火) 22:04:36
 しかしそんなことはお構いなしに、事態は進行する。
 長門の右横にある人形劇のセットに、朝倉をデフォルメしたような人形(あしゃくらさん)が現れ、話し始めた。

「長門さん、今回は次元世界の構造についてお話するんですよね?」
「そう」

 長門がそういうとボン太君が説明用の機材を台車でどこからか持ってくる。
 それはどこかの街のジオラマであった。長門はその中から、一つのビルの模型を取り出す。 
 
「次元世界とは例えるなら、団地に作られた高層マンションのようなもの」

 そう言って長門はマンションを模ったビルの模型を分解する。そして模型の中の部屋には次元世界の名前が刻まれていた。 
  
「外の世界の我々からすれば、このようになっている」
「なるほど、次元世界というのは、ある意味、建物の中で仕切られた部屋なんですね」
「そう。限られた土地の中に詰め込まれた世界」

 そういうと長門は模型をもとのジオラマに戻す。

「逆に言えば、団地の外には、街が広がっている。これが外の世界」
「なるほど。それじゃあ、外の外っていうのは、隣町ってことですか?」
「そう。我々は団地に住むマンション住人からすれば、突然現れた隣町の住人」
「でも、団地の住人だったら、外に街が広がっていることくらい判りそうですが」
「この団地は特殊な構造。簡単に内側から外を見れないし、外からも中には入れない」
「ゆりかごみたいな世界ですね」
「ある意味そうだと言える」

 ここまで来たとき、ミゼットが我に帰る。

「つまり時空管理局が認識している次元世界というのは、貴方達からすればこの宇宙の一宙域にある
 特殊な位相空間、一種の箱庭であると?」

 ミゼットの問いに、長門は即答する。

「そのとおり」
「……では貴方たちは、その宇宙のさらに外から来たと?」
「そう。我々は貴方たちを超える技術と力をもって世界の壁を超えてきた」

622earth:2011/06/21(火) 22:05:12
 誰もが絶句する。長門の発言はそれほど途方も無い内容だった。
 しかし誰もが真実であると悟った。彼らは魔法を使わず、それどころか高位ランクの魔導師である自分達に何かの
力の発動さえ感知させることなく一瞬で自分達をこの空間に閉じ込めたのだ。
 よほど技術レベルが隔絶していない限り、このような真似はできないはずだった。

「そして我々が貴方たちを時空管理局を攻撃したのは、貴方たちが集めていたロストロギアを回収するため」
「ロストロギアを?」

 このとき、多くの高官が黒旗軍のことを、ロストロギア狙いの強盗と考えた。
 だがその考えは、長門の発言によってひっくり返される。

「我々の調査の結果、このロストロギアの中に、遥か昔に我々の間で使用や保有が禁止された兵器がある
 ことが判った。この兵器が使用されるのを防ぐためにロストロギアを収拾する管理局への攻撃、そして
 ロストロギア、貴方たちの言語で表現すれば『次元消滅弾頭』の回収が決定された」
「次元消滅弾頭?」
 
 高官たちが首をかしげる中、セットの陰から現れた朝倉は一枚の写真を見せる。

「これのことです」

 高官たちは食い入るようにこの写真を見る。

「これが?」
 
 高官の問いに朝倉が答える。

「はい。遥か昔に起きた大戦で、この世界を一度破壊した大量破壊兵器の一つです。仮にこれが暴発した
 場合、広範囲の空間が完全に破壊されます。仮にここで爆発すれば管理局本局は完全に消滅し、周辺の
 次元世界にも多大な悪影響が出ることは確実です。最悪、次元世界そのものが崩壊するでしょう」

 だがこのとき、三提督の一人、ラルゴ・キールがある文言に気付いた。

「ちょっと待ってくれ。今、世界を一度破壊したと?」
「ええ。外の世界、遥か昔に一度滅んでいますから」
「「「………」」」
 
 誰もが思った。「勘弁してくれ」と。

623earth:2011/06/21(火) 22:06:25
あとがき
管理局の常識木っ端微塵。
次回以降、SAN値がさらに大変なことに……それでは失礼します。

624名無しさん:2011/06/21(火) 23:41:52
こういうある意味メタに近いネタばれは、されるほうは自己を保つのが精一杯かも。
逆にこんな世界を作った、ゲーム会社?(ゲームマスター)の思惑が楽しみです。
考えてみれば、主人公からすれば全部作られた御伽噺だものなあ。

625New ◆QTlJyklQpI:2011/06/21(火) 23:48:14
>>624 感想は未来人の多元世界見聞録について3にてお願いします。

626earth:2011/06/22(水) 23:10:17
第24話です。色々と大変なことになります。


 未来人の多元世界見聞録 第24話

 立て続けに常識が木っ端微塵にされたせいか、時空管理局の高官たちは頭を抱えて黙り込んだ。
 かの伝説の三提督でさえ、ぐうの音もでないのだから、他の人間がどんなことになっているかは言うまでも
ないだろう。
 そんな様子を楽しそうに眺める朝倉。その一方で、長門が少し時間が立ちすぎたことに気付く。

「もうそろそろ終わりにするべき」
「そうね」

 朝倉がそう言うと、TVスタジオが元の会議室に戻った。だが、もはやその程度では誰も驚かない。

「それで何か質問は?」

 朝倉の問いに対して、何とか己を奮い立たせたミゼットが口を開く。

「我々の世界では、かつてアルハザードと呼ばれる高度な文明があったとの話があります。滅んだ世界とは
 そのことでしょうか?」
「さぁ?」

 この世界がゲームのために作られた8番目の人工宇宙であり、第8宇宙と呼ばれていることを敢えて
朝倉は教えない。
 だが高官たちの多くは、目の前の存在が滅んだはずのアルハザードと同格かそれ以上の力を持っているので
はないかと考え始めた。それは彼の常識に基づく判断であると同時に、自己防衛のためでもあった。
 正体不明の謎の勢力に叩き潰されたと考えるより、伝説の存在並みの規格外の存在に負けたと
考えるほうがプライドが傷つかなくても済むし、後々、管理世界政府に弁明するのも容易になる。

「しかし個人でどうやって、あれだけの軍事力を……」

 海の高官はそう疑問を呈した。この疑問に2人はあっさり答える。

「我々の上位者、黒旗軍の統括者と同族なら、あの程度の宇宙艦隊は自力で揃えられる」
「さらに言えば統括者やその同族は外の外の世界において国家を形成していません。その必要もないですし」
「「「………」」」

 もはや誰も何もいえなかった。

(((国家に頼らず軍を組織できる個人(?)が大勢居る、外の世界とは一体……)))

 常識が音を立てて崩壊していくのを感じる高官たち。彼らは何も聞かなかったことにして家に帰って
不貞寝したい気分だった。

627earth:2011/06/22(水) 23:10:59
「……しかし、何故このような強硬な方法で回収されるのですか? 話し合いの席を設けられれば
 無用な争いを避けられたのでは?」

 三提督の一人であり法務顧問相談役のレオーネ・フィルスが尋ねた。
 これに対して長門は淡々と返す。

「調査の結果、時空管理局は勢力拡大に力を入れる危険な勢力であると判断した。またロストロギアの
 保管方法も杜撰なところがある。よって武力によって有無を言わさず回収することが決定された」

 勢力拡大に舵を切らせたのは、黒旗軍が領海侵犯を繰り返した結果であり、管理局からすれば反論の余地があった。
だが後者については紛れも無い事実であり、そこを指摘されると弱い。さらに言えば彼らは弱者の立場であった。
強者にあれこれと言える立場ではない。 
 かと言って、彼らは、特に三提督は唯々諾々と強者に従うつもりはなかった。
 黒旗軍がロストロギアを回収してそれを使用しないとは限らない。仮に朝倉の説明したように危険なものなら 
最低でも次元世界周辺で使用されるわけにはいかない。ミゼットはそんな懸念を浮かべて口を開く。
 
「しかし保有や使用を禁止されている兵器を勝手に回収してよいのですか? 
 貴方達の話を聞く限り、黒旗軍と同格の存在がいくつもあるように思われますが」 
「問題ない。回収した兵器は管理者に提出される」
「管理者?」
「そう。黒旗軍も、それと同格の勢力もすべて管理者が定めたルールの下で活動している。仮に管理者が定めた
 ルールに逆らえば即座に抹消される」 
「……」

 自分達を一蹴した存在を、さらに一蹴できる絶対的強者が存在するという話に誰もが唖然となった。
 そんな彼らに朝倉がさらに追い討ちをかける。
 
「我々の上位者、いえ黒旗軍の統括者は、この次元世界を守るために敢えて管理局攻撃を行ったとも言えます。
 時空管理局という好戦的な勢力が、次元消滅弾頭を保有していると管理者が知れば、次元世界ともども殲滅される
 可能性が高かったですから」

 この物言いに、海の高官が激怒しかかるが、ミゼットがそれを止める。

「判りました。ロストロギア、いえ次元消滅弾頭を、黒旗軍に譲渡します」
「議長?!」
「仮に拒んでも、彼らは実力で持っていきます。それなら、正式に譲渡したほうが良いでしょう」 
「ですが」  

 尚も言い募る高官。これを見た朝倉は嘲笑するように言う。

「問題があるようなら、最高評議会の三人にお伺いを立てたらどうです? 止めはしませんよ」

 この言葉に事情を知る高官は絶句した。そんな反応を見て楽しそうに朝倉は続ける。

「まぁあの老人たち、いえ、その成れの果ても、ここで否とは言えないでしょうけど」

628earth:2011/06/22(水) 23:11:32
 朝倉に名指しされた最高評議会は、この事態に苦悶した。
 彼らの手駒であった時空管理局の実働部隊は事実上壊滅。管理局本局も黒旗軍がその気になればいつでも
破壊される状態。おまけにロストロギア保管庫も黒旗軍に抑えられている。反撃しようが無い。

「黒旗軍、これに対抗できる勢力と接触できれば良いのだが」
「無理だな。仮に接触しても、我らを守ることは無かろう。利用された挙句に潰される可能性が高い」
「それに両者が争えば、次元世界は壊滅しかねない。人が足元の蟻に注意を払わぬように、彼らが争ったときに
 次元世界への影響を考慮するとは思えない」
「聖王のゆりかごの起動が間に合っていれば」
「間に合っていても勝てるとは限らないだろう」
「ではどうする?」

 答えは決まっていた。しかしそれを出すことは彼らの人生を否定することに他ならない。

「「「………」」」

 結論を下せぬ最高評議会。だが彼らが躊躇っている間に、トンでもない事態が起こる。
 そう、質量兵器を極度に嫌う一部の高ランク魔導師が勝手にロストロギア保管庫を奪還しようとしたのだ。
 Sランク以上の魔導師が束になってESPアンドロイド達に戦いを挑む。勿論、黒旗軍も黙っておらず反撃に
出た。このためあちこちで派手な戦闘が起こる。

「あらあら……」
「……」

 この様子をモニター越しに見て呆れる朝倉と長門。これに対して三提督を含め、高官一同は顔面蒼白だった。

「す、すぐに止めますので、少々、お待ちを!」 

 慌てて出て行く男達を見て朝倉は嘲る。だがその余裕も、保管庫を占拠していた部下の報告によって
かき消された。

「……次元消滅弾頭が起動した?」

 それは黒旗軍にとって最悪の事態を告げるものであった。

629earth:2011/06/22(水) 23:13:06
あとがき
次元世界大ピンチといったところでしょうか。
もうそろそろ憂鬱も進めないと……。
それでは失礼します。

630earth:2011/06/23(木) 23:09:02
というわけで第25話です。


 未来人の多元世界見聞録 第25話

 次元消滅弾頭の起動、この報告を聞いた朝倉は文字通り血相を変えた。
 自身に搭載された通信機能すべてをフルに使って、全てのESPアンドロイドに次元消滅弾頭の起動を止める
ように指示する。 

「止めなさい。すぐに!」
『ダメです。こちらの操作を受け付けません』
『操作不能』
『爆発まで、あと3分』 
『次元消滅弾頭、防壁を展開。近くに居た3名が消失』

 この報告を聞いて朝倉は長門に顔を向ける。長門はすぐに決断を下す。

「交渉は中止。総司令に連絡を。総員は直ちに脱出。アルテミスは緊急出航」

 この言葉に管理局の人間達が口を挟む前に、長門と朝倉はボン太君ごとアルテミスの艦橋に瞬間移動で移動した。
 そして移動するや否や、アルテミスを出航させる。 

「機関最大出力。主砲、1番、2番用意。ゲートを破壊する」

 非常に荒っぽい方法であり、艦体に被害がでる可能性もあったが、時間には換えられない。
 
「撃て!」

 周辺で突然の事態に右往左往する管理局員など構うことなく、アルテミスは6門の50.8センチ衝撃砲で
ゲートを砲撃した。ゲートは粉砕されるが、周辺にも衝撃波と破片が吹き荒れた。武装隊を含めて多数の
局員たちが衝撃波を受けて吹き飛ばされる。
 勿論、超近距離射撃のためにアルテミスにも被害が出る。

「1番、2番砲塔使用不能!」
「艦首ブロック中破」

 他のアンドロメダ級と違って強制波動装甲に改装できなかったアルテミスは、この大爆発に無傷という
わけにはいかなかった。だが長門は問題にしない。

「問題ない。機関最大出力。アルテミス出航」

 他の障害物を強引に突き破ってアルテミスは本局から脱出する。
 一方、連絡を受けた耕平は慌てて運営に連絡した。何しろこれ以上下手な手を打てば自分のアカウントが危ない。
 
「困ったときの運営頼みだ」

 だが運営だけに頼るつもりも無い。万が一間に合わなければ艦隊が全滅してしまう。それは避けなければ
ならない。

「全艦、全速力で次元世界を脱出せよ。陣形が崩れても構わない。全速で逃げろ!!」

 この命令を受けて、全ての艦艇が反転して管理局本局から離れていく。

631earth:2011/06/23(木) 23:09:38
「次元世界崩壊とその余波に備えて、次元世界周辺宙域には留まるな! 次元世界離脱後、ワープで太陽系の土星宙域に
 集結せよ! 宙域周辺の部隊も離脱しろ。基地は放棄しても良い!!」

 管理局に完勝したはずの黒旗軍は、総崩れになったかのように陣形を崩して遁走していく。

「クソッタレ! 完勝したと思ったのにこれかよ!!」

 耕平は艦長席で歯噛みするがどうしようもない。だが同時に自分の中に驕りがあったことも認めざるを得なかった。
 
(勝ちすぎたせいで、傲慢になっていたか……たとえ、相手が弱くても最後まで気を抜かずトドメを刺さなければ
 ならない。戦争ゲームの基本を忘れていた)

 この様子を見ていた本局司令部の人間は唐突な展開に呆然とする。 

「何が起こっている?」

 冷静な人間は、自分達を叩き潰した艦隊が逃げ出していくのを見て何かトンでもないことが起こったのでは
ないかと考えた。
 そしてその考えはロストロギア保管庫に突入した魔導師たちによって裏付けられることになる。

「ロストロギアが暴走?」
「しかも暴走しているのは、黒旗軍が回収しようとしていた次元消滅弾頭だと」
「では、連中が撤退したのは……」

 事情を知る管理局高官たちは顔面蒼白となった。

「止めるんだ! 何としても!」

 本局どころか、次元世界そのものが危険にさらされかねない次元消滅弾頭の爆発は阻止しなければならない。
 彼らは残っている全ての高ランク魔導師をすべてつぎ込む決断をする。だが展開されている防壁によって
まともに近寄ることもできない。

「ダメです! 逆に周辺のロストロギアが連鎖反応を起こして暴走!!」
「保管庫周辺のブロックが消滅!」

 暴走したロストロギアから放たれる魔力があたり一体を破壊していき、ロストロギア保管庫が吹き飛ぶ。
さらに周辺の区間も次々に破壊されていく。隔壁が降ろされ、結界が形成されるが何の役にも立たない。

632earth:2011/06/23(木) 23:10:24
 管理局本局が崩壊しつつある頃、耕平が乗る春蘭は主力部隊の大半と共に次元世界を離脱した。

「周辺にいるのは?」 
 
 この耕平の問いに、アンドロイド参謀が淡々と答える。

「278隻です」
「約半分か……」

 耕平は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「長門艦隊や別働艦隊は?」
「遅れています。ですが最終的に戦力の8割は脱出できるでしょう」
「逆に言えば2割は失うというわけか。大損害だな……それに足の遅い初期型の戦闘空母は巻き込まれるだろうし。
 やれやれ、ミッドウェー海戦で空母4隻を失った日本海軍の気持ちがよく判る」

 31世紀の人間からすれば超古典的な例えを出す耕平。だがここにそれを突っ込む人物はいない。

「まぁ運営が間に合えば何とかなるかも知れない。希望を棄てるのは早い」

 だが耕平の希望は、直後に送られてきた運営からのメールによって打ち砕かれる。

「複数のロストロギアの連鎖反応のせいで、停止が間に合わない?」

 耕平の顔が引きつる。通常ならすぐに停止させることもできるが、運営の予想を超えるロストロギア群の暴走の
影響よってコントロールができないのだ。時間があれば停止も不可能ではないのだが、短時間で停止することはできない
というのが運営の回答だった。

「そして被害を食い止めるために、爆発直前に当該宙域を封鎖するか。戦闘空母を最低4隻は失うな。
 まぁ良い。全ての責任は管理局に押し付けられたし、この程度の被害はむしろ許容範囲か」

 巻き込まれるかも知れない『リリカルなのは』の主要キャラを思い浮かべると心苦しいものの、アカウント停止
などという最悪の事態にならずに済んだことに耕平は安堵する。

「今後は、もっと慎重に動くようにしよう……」

 耕平がそう呟くと同時に、春蘭はワープで太陽系に向かった。
 そして長門が乗るアルテミスが離脱した後、周辺宙域は管理会社が作り上げた防壁によって封鎖される。

633earth:2011/06/23(木) 23:11:00
「全く、これで色々とパァね」

 間一髪、脱出に成功したアルテミスの艦橋で朝倉はぼやいた。
 この戦いで黒旗軍は折角建設した前線基地、そして戦闘空母4隻、虎の子のF−01を100機を中心に
200機以上の航宙機を失った。大打撃と言える。
 
「第8世界探索も、BETA討伐も、戦略の建て直しが必要になるわ」
「それ以前に総司令が我々を処分する可能性もある」
「確かに。これは失態だからね〜」

 長門の言葉に頷く朝倉。さすがの彼女も処分がないとは思えなかった。

「もう少し、歯ごたえがある敵と戦いたかったな」
 
 しかし耕平は彼女達を処分するつもりはなかった。今回の一件は事故であると考えていたし、下手にここで 
彼女達を処分するような真似をするのは、八つ当たりになると感じていたからだ。
 尤も引き換えに、これまで以上に彼女達を扱き使うつもりだったが。

「それじゃあ、戻りますか。あの太陽系に」

 アルテミスがワープした直後、次元消滅弾頭が起爆した。まずロストロギアの暴走によって半壊していた
本局は空間ごと根こそぎ吹き飛ばされた。
 続けて周辺の世界、管理世界群が影響を受けた。ミッドチルダの首都クラナガンの市民達は、空が裂けていく 
のを見て恐慌状態になった。それは現地政府、そして地上本部も同様だった。

「何が起こっている?!」
「本局との連絡が付きません!」
「一体、どうなっている?」

 地上本部は大混乱に陥る。地上本部の高官の中には、最高評議会と連絡をつけようとする者もいたが
それさえ出来なかった。

「何がどうなっている?!」

 レジアスはそう叫んだ。だがそれが彼の最後の言葉であった。この直後、ミッドチルダは崩壊した空間の
隙間に呑み込まれ、崩壊していった。
 その悲劇はミットチルダだけに留まらない。各地の管理世界も次々に成す術も無く消滅してく。そして
最後に支柱を失ったように次元世界は、いや特殊な位相空間は崩れていった。
 かくして揺り篭の世界と、その守り手は消え去った。

634earth:2011/06/23(木) 23:12:53
あとがき
と言うわけで管理局消滅です。
でも黒旗軍も戦闘空母4隻など多数の戦力と基地を失う大打撃を
被ります。蛮族相手と侮って手痛い目にあった某ゲームのプレイヤーの
気分でしょうか……。
それでは失礼します。

635earth:2011/06/25(土) 00:01:25
何か色々と微妙っぽいですが、第一部完という形にさせて頂きます。
(面白くないといわれる方もいらっしゃるようですし)
というわけで第26話です。


 未来人の多元世界見聞録 第26話


 次元世界の崩壊という悲劇が発生した頃、地球でも小さな悲劇が起きようとしていた。

「目を開けてくれ、純夏!」

 命からがら帰ってきた武は、病院のベットで横たわる純夏に必死に呼びかけた。
 
「畜生、折角生きて帰ったのに。内戦も終ったのに。何で……」

 汚染された日本の環境は、彼の幼馴染である純夏の命を今、奪おうとしていたのだ。
 各国からの支援はあるものの、十分ではなく、目の前の命を救うことはできない。彼に出来るのは
必死に呼びかけることだけだ。
 もはや医者も匙を投げる状態であったが、彼の必死の呼びかけが天に通じたのか、彼女は目を覚ました。

「武ちゃん……」
「純夏!」
「私、夢を見たの……BETAに捕まって、その中で必死に武ちゃんを……た……」

 声が途切れ、段々と小さくなる。 

「でもね、最後には……」

 最後まで言うことなく、彼女は事切れた。彼女が最後に残した物語。それは耕平が知る
『あいとゆうきのおとぎばなし』であった。しかしそんなことを武が知るわけが無かった。  

「……畜生、俺達が何をしたって言うんだ! こんなことがあって良いのかよ!?」

 神を呪う武。だが人類から見て天上にあり、神に等しい力を持つ者たちは、NPCの悲劇など気にも
止めなかった。
 次元消滅弾頭が起爆して数分後、ゲーム世界で13人のプレイヤーが秘匿通信網で今回の事態に
ついて話し合っていた。

『あ〜あ。保管庫が消えちゃったね』
『まぁ別に消えても良いだろう。もともと俺らの恥部の置場所兼トラップだったわけだし』
『むしろ、あそこまで被害を抑えたプレイヤーの幸運を驚くべきさ。艦隊ごと消滅するのを免れたんだから』
『確かに』
   
 プレイヤー達は耕平の幸運(?)を賞賛する。

『消えたNPCはトータルで100億いくんじゃないか?』 
『三次大戦では、2000億以上のNPCが一週間で消えたんだ。100億人のNPCが消えても問題ないよ。
 必要なら、また作れば良いさ』
『それにしても、誰だ? あんな世界を構築したの?』
『時空管理局か? さぁどうでも良いだろう。NPCがどんな文明を作っても関係はないさ。定めた役割さえ果たせば』
『いやBETAだったけ? あの醜悪な資源回収ユニットもだって』
『どうせ、廃棄工廠が作ったものさ。気にすることもないって。それに第8世界は物置みたいなものさ。
 物騒なアイテムを隠したり、冒険家気取りの馬鹿を罠にかけたりするには丁度良い』
『ははは。確かに。精々、あのプレイヤーには頑張って、無駄な労力を注いで欲しいね』
『いや他のプレイヤーにもだよ』
『確かに』

 第1から第3世界で名を馳せる上級者達はそう言って他のプレイヤーを嘲笑する。

636earth:2011/06/25(土) 00:02:14
 しかし彼らが余裕を保っていられたのもそれまでだった。 

『……他の保管庫が?』
『馬鹿な。十分な距離があったはずだ。トラップが発動するはずがない』

 管理局が保管していたロストロギアの暴走の余波は、次元消滅弾頭が爆発する寸前に他の次元世界のロストロギアに
いや彼らが存在を知らなかった別の大量破壊兵器、恒星間弾道弾も及んでいたのだ。
 これが通常のものであれば、そこまで問題はなかった。だがこれには大威力の超新星爆弾が搭載され、さらに確実に
目標に命中するためにプレイヤーによって亜空間潜行能力が備えられていた。
 
『馬鹿な。そんな偶然が……』

 だがもはや事態を収拾する術を彼らは持っていなかった。破壊につぐ破壊。それは急速に第8世界の天の川銀河を
覆う勢いで広がりつつあった。
 そのころ、黒旗軍艦隊主力が土星圏に集結したのを確認した耕平は、春蘭の艦橋でため息を漏らした。
 
「さてと今のところ、手がかりは無し。どうしたものかね?」

 1000年前の作品が多数出てくるゲーム。前世の記憶を持つ耕平からすれば興味が引かれて当然の
ものであったが、手がかりは無し。
 今後、マブラヴ世界の調査に取り掛かるつもりだったが、現状では手がかりが得られるか判らない。

「……管理局は吹っ飛んだし、他の惑星の探索も当面は諦めざるを得ないし。全く踏んだり蹴ったりだ。
 何か面倒になってきたな。それに全て運営が仕込んだみたいに思えてきた」
 
 当初は誰かが何かの意図をもって、NPC文明の構築を図ったと考えた。だが艦隊に大打撃を受けた
ことで冷静さを取り戻した耕平は壊滅した第8世界を取りあえず再建するために著作権がとっくに切れた
1000年前の作品を参考にしてNPC文明を作ったのではないかとの考えが脳裏に過ぎるようになった。
 しかしその考えには穴があった。 

「でもマブラヴ世界を構築するために、あんな広範囲にBETAみたいな害獣を宇宙にばら撒く理由はないし。
 さてさて、どうなっているのやら」

 プレイヤーに快適なプレイ条件を提供するのがゲーム会社の仕事だ。わざわざBETAみたいな醜悪な物を
宇宙に無数に送り込む理由はない筈だった。

「……まぁ良いさ。リアルの生活に支障が出ない程度に付き合ってやるか」

 しかしそう言った直後、耕平は強制的にログアウトさせられる。

「何が起こった?!」

 PC画面には緊急事態を告げるメールが表示される。

「あの銀河が吹き飛んだ?!」

637earth:2011/06/25(土) 00:03:04
 後に『第8世界天の川銀河崩壊事件』と呼ばれる事件で、第8世界の天の川銀河は崩壊した。
 そしてその余波は回廊を通じて、耕平が支配する第6世界の支配領域にも及んだ。耕平の管理するユニットと
工廠はすべて失われたのだ。
 勿論、ゲーム会社はこの事態を受けて耕平が所有していた物を無償で提供しただけでなく、お詫びの品も送った
が、耕平にもう一度、第8世界を探索する気力はなかった。何しろ全てが失われたのだ。

「……結局、あれは何だったんだ?」

 後日、彼の疑問は解消された。ゲーム会社は第8世界の再建を急ぐため、そして戦争を彩るためのNPCを急いで
育成するために著作権が切れた古典作品を試験的に使っていたのだ。そして色々なイベントも用意されていた。
 だが予算不足やプレイヤーの減少、他の世界のイベントの成功によってお蔵入りになり、それらは半ば放置されていた。

「何てことは無かった、そういうことか」

 そして耕平は日常に戻っていった。彼にとってそれで事件は終わりだった。そう、少なくとも31世紀の現実世界に
住む彼にとっては。

「……ここはどこだ?」

 ゲーム世界から消えたはずの戦艦・春蘭の艦橋で、一人の男が声をあげる。

「不明です。座標も滅茶苦茶で……」
「馬鹿な」

 そして男は気付く。ログアウトできないことに。さらに言えばゲーム会社にも連絡できないことに。

「何が起こった?」

 男は混乱しつつも、周辺の艦隊と共に周辺を捜索する。すると、いつの間にか移動していた自軍の本拠地を発見した。
困惑しつつも細かい調査を行った末、男は理解した。自分がある意味、二度目の転生を遂げたことを。

「……神というのは、本当に残酷だな。それとも、これが報いって奴か?」

 耕平、いや正確に言えばゲーム世界に残された存在は呻いた。そして数日、艦長室に閉じこもった。
 自殺することも考えた。しかしもう一度死ぬ決断は下せなかった。ここで死んだら、次に何が起こるか
判らなかったからだ。

「他にも吹き飛ばされたプレイヤーがいるかも知れない。それを探してみるか……」

638earth:2011/06/25(土) 00:04:04
 耕平は即座に艦隊を銀河系のあちこちに派遣するが、他のプレイヤーを発見したとの報告は中々届かない。
焦る耕平は他の銀河にさえ艦隊を送ることを決める。

「俺だけなのか?」

 焦る耕平。だが他の世界に続く回廊を複数発見したとの報告に愁眉を開く。

「他の世界とまだ繋がっているのかもしれない」

 淡い期待を旨に偵察艦隊が送り込まれる。だがそこにあったのは、希望ではなかった。

「また、お前らか……」

 地表を這う醜い化物たち。そして聳え立つ異質の建物。2回の人生でよく見たもの、BETAとハイヴの
姿がメインモニターに映し出されると、耕平は疲れたようなため息をついた。

「あの大破壊によって並行世界が生まれたとでも言うのか?」

 だが同時に恐怖した。複数の世界が存在する以上、BETAよりも遥かに凶悪な存在がいる世界があるかも
しれないのだ。

「……俺は死なないぞ。今度こそは絶対にだ!」

 機械に宿る自分が死んだら、次はどんなことになるか判らない。その恐怖が彼を動かした。 
 彼は軍の拡張を図ると同時に、黒旗軍を世界各地に派遣することにした。未知は死を招く。故に彼は様々な
世界に出城を作るつもりだった。そして同時に自分と五感をリンクさせたアンドロイドを派遣する。

「未知や未熟は死を招く……見聞を広めないと」

 こうして(元)未来人の見聞録が始まる。




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