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避難用作品投下スレ

1管理人:2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

627乙女の想い:2007/03/10(土) 18:13:47 ID:IQ5olZbU0
「……ふじ……い……さ……ん…………!」
弥生と柳川は、警戒体勢を維持したまま微動だにしない。だが、冬弥は違った。
体の筋肉、それどころか細胞一つ一つまでもが硬直するような感覚に襲われ、ナイフをぽろっと取り落とす。
その声、そして向こうから走ってくる人影、それは正真正銘、七瀬留美のものであった。
「――藤井さんっ!」
距離が詰まり、留美の声がはっきりと聞き取れるようになる。その悲痛な響きが耳に入る度に、ズキンと冬弥の胸が痛んだ。
走り寄る人影はどんどんと大きくなってゆき、やがてその表情すらも正確に読み取れるくらいの距離となった。
「七……瀬……さん……」
冬弥は呆然と立ち尽くしながら、何とかその言葉だけを口にした。
留美はそのまま走り続け、柳川の前まで躍り出る。そして潤んだ瞳で、冬弥をじっと見つめた。
留美の心を占める感情の一つは、再会の喜び。だがそれ以上に大きな感情が、それを塗りつぶしていた。
それは――悲しみ。
「下がっていろ、七瀬。この者達は殺し合いに乗っている……。なら、俺は容赦しない」
柳川が厳しく言い放つ。第二回放送を聞いた時の、留美の悪い予感は的中していた。
冬弥達の乗った車は、何の警告も無く自分達を轢き殺そうとした。それは、藤井冬弥がゲームに乗っているという証明に他ならなかった。
「なんで……藤井さん……?なんで、こんな事を……」
それでも留美は、冬弥の真意を聞かずにはいられなかった。放たれた質問を前にして、弥生が冬弥の代わりに答える。
「見れば分かるでしょう?私と藤井さんは、やる気になっているという事です」
「…………う……あ……」
冷たく告げると、見る見るうちに留美の表情が絶望に歪んでいく。弥生はその隙を逃さずに、FN Five-SeveNの銃口を留美へと向けた。
先程から冬弥は何度も何度も、明らかに集中力を欠いた状態になってしまっている。
その原因がこの少女にあるという事が、弥生には分かった。ならば今すぐ、自分達にとっての障害を排除する。
「ク――!」
柳川が、全速力で疾走する。しかし、まず間に合わない。銃弾より早く動ける生物など存在しない。
それは、鬼であろうとも例外ではない。ましてや力を制限されている柳川では、絶対に間に合わない――

628乙女の想い:2007/03/10(土) 18:14:24 ID:IQ5olZbU0
「ま、待ってくれ!」
「――っ!?」
だから、留美を救ったのは柳川では無かった。弥生の銃を握っている方の腕が、冬弥にがっしりと押さえられる。
今度ばかりは弥生も怒りを隠そうとはせず、ぴんと眉を吊り上げた。
「……一体どういうおつもりですか、藤井さん」
刺々しい声で、厳しく問い掛ける。険しい顔で睨みつけると、冬弥は申し訳無さそうに目を逸らした。
「事情はよく分からんが……形勢逆転というヤツだ。銃を捨てろ」
威圧するような声が聞こえ弥生が視線を移すと、柳川がイングラムM10を構えていた。その横には金髪の少女――倉田佐祐理の姿。
佐祐理は柳川が捨てていった荷物を拾っていたので、留美より少し遅れてここに辿り着いたのだ。
「仕方……ありませんね」
冬弥を振り払って発砲すれば、七瀬という少女は殺せるだろう。だがその直後、自分も射殺されるのは目に見えている。
それは絶対に避けなくてはならない。ゲームに勝つ為には、人を殺す事に拘り過ぎてはいけない。
最後まで生き延びる事を最優先に、行動を組み立てていくべきなのだ。
弥生は銃を手放そうとして――銃を持っていない方の掌で、冬弥の背中をどんと押した。
そのまま冬弥の後ろに隠れるように車の中に駆け込み、素早くドアを閉める。
ガラス越しに、冬弥の唖然とした表情が見えるが――どうでも良かった。
戦いの度に迷いを見せる冬弥は、はっきり言って足手纏いだ。特に今回は酷かった。
何度も放心状態に陥り、事もあろうか決定的なチャンスの邪魔をしてくる始末。
これでは自分一人で行動した方が、優勝に近付けるだろう。この後冬弥がどうなろうが、知った事では無い。
弥生はアクセルを思い切り踏み込み、車は柳川達の横を抜けるように急発進した。
「逃がさんっ!」
柳川は運転席へと狙いをつけて発砲したが、銃弾は全て硬い装甲の前に弾き返される。
イングラムM10がカチッカチッと音を立てて弾切れを訴え、マガジンを再装填した時にはもう車は視界から消えていた。
柳川は銃を冬弥に向けるか一瞬迷い――止めておく事にした。
とにもかくにも、この男は留美の命を救ったのだ。見れば飛び道具も持っていない様子、ここは留美に任せて良いだろう。

629乙女の想い:2007/03/10(土) 18:15:04 ID:IQ5olZbU0

「藤井さん……」
留美がゆっくりと、冬弥に近付いていく。一歩一歩、両者の距離が縮まってゆく。
涙を溜め込んだ瞳、泣き笑いのような表情。そんな留美の顔を前にして、冬弥は激しく自責の念に駆られた。
少女が冬弥を止める為にずっと頑張っていた事が、彼女の表情を一目見て分かってしまったからだ
――由綺の死を知った時。
自分は暴走してしまった。間違いを諫めようとした浩平を、叩き伏せた。
泣き縋る留美の言葉を無視し、彼女の元を離れた。そんな自分を、留美は未だに探し続けていたのだ。
留美は信じられないくらい、強くて優しい女の子だった。それに比べて自分はどうだ?
復讐――それは確かに自分で選んだ道だった。それが正しい選択だったとはもう思わないが、少なくともそこに明確な意思は存在している。
そう意味では、まだマシだった。だが二回目の放送以降の自分は恐らく、この島でもっとも愚劣な人間だろう。
ゲームに乗るか否か――この島に連れて来られた人間ならば、必ず突きつけられる選択。
全員が全員、悩み抜いた末に道を選んだ訳では無いだろう。あっさりとゲームに乗った人間もいるかも知れない。
だがそのような人間でも、自分よりはマシだ。何しろ自分は選択する事すら放棄して、コインなどという物に運命を託したのだから。
そして流れに身を任せて、復讐とは無関係の人間を次々と襲撃していった。
それでも弥生に助けられて、どうにか復讐の対象に辿り着いた。
自分一人では、まずここまで漕ぎ着けられなかったというのに――大事な場面で、弥生の邪魔をしてしまった。
留美を救ったのも、何か考えがあって行動したという訳では無い。ただ、身体が勝手に動いただけだ。
まるで、操り人形。自分以外の意思でしか動けぬ、操り人形のようだった。
そんな自分が、これからどのように生きていけば良いのか。
もう復讐心は薄れている――その道が間違いだと、気付いてしまったから。
だが後戻り出来るとも思えない。それだけの罪を自分は犯してしまった。
これからどうすれば――

630乙女の想い:2007/03/10(土) 18:15:55 ID:IQ5olZbU0
「藤井さん」
聞こえてきた声に意識を戻す。留美が、もう手の届く位置まで来ていた。
「七瀬さん……俺は……俺は――」
冬弥は何か言おうとしたが、言葉が思いつかなかった。
留美が冬弥の背中に手を回して、唇を突き出す形で顔を近づけてきて――
「――――!?」
そして、冬弥は唇に柔らかい感触を感じた。それはがしっと歯が当たるくらい、不器用なものだったけど。
紛れも無く、キスと呼ばれている行為だった。やがて、唇が離れる。
「七瀬さん……一体……?」
冬弥が口を開く。どうしてこういう事になっているか、サッパリ分からなかった。
留美は冬弥の疑問に短く、しかしこれ以上ないくらいの気持ちを籠めて、答えた。
「――好き」
冬弥の目が見開かれる。そして再び冬弥の唇が塞がれた。
七瀬留美の――乙女の想いは、この過酷な環境の中で、恋と呼べる程の物に成長していた。
普段浩平に良いようにからかわれている留美は、決して口が上手い方ではない。
だから、ただ自分の感情をストレートにぶつけた。それ以外に、方法が思いつかなかったのだ。
しかしその想いは一切汚れのない、とても純粋なもので――冬弥の迷いを吹き飛ばすには、十分なものであった。
冬弥もまた留美の背に腕を回して、唇を合わせたまま彼女を優しく抱きしめた。
(俺はこれからどうすれば良いか、まだ分からない……。でも一つだけ、分かった事がある。それは――)
唇を離して、それから久しぶりに、本当に久しぶりに、強い意志と共に言葉を紡ぐ。
「決めた。俺は七瀬さんを――留美ちゃんを守るよ。こんな弱い俺でも、少しくらいは力になれると思うから」
そしてもう一度、留美と口付けを交わした。どの道を選べば良いか……簡単な事だった。
初めから正解など用意されていない。それならば、自分の気持ちに従って動けば良いだけなのだ。
確かに自分は取り返しのつかない事をしたし、いつかは罪を償わなければならない時も来るだろう。
しかし、そうなったらその時に考えるだけだ。今はただ留美を守る事だけを考え続けよう。
もう――迷わない。

631乙女の想い:2007/03/10(土) 18:16:33 ID:IQ5olZbU0
「七瀬さん……本当に、良かったですね」
佐祐理が留美達の様子を遠巻きに見ながら、笑顔でぼそっと呟く。その言葉に、柳川が小さく頷いた。
「ああ。ガサツな女だと思っていたが……どうやら俺は、見る目が無かったらしい」
普段の留美からは想像もつかないが、今の彼女の姿は乙女そのものであった。
柳川は自分達を襲った冬弥を完全に信用した訳は無かったが、ここで邪魔するのは余りにも野暮というものであろう。
佐祐理と柳川は肩を並べたまま、留美達の様子を見守り続ける。そこで、佐祐理はある事を思い出した。
柳川は車に飛び乗るという、かなり無茶な行動を取った。見た所大きな怪我はしていないが、打ち身くらいにはなっているかもしれない。
「柳川さん、あの――」
佐祐理は柳川にその事を尋ねようとし、横を振り向いて――民家の扉から二つの人影が出てくるのを見た。金髪の白人女性、そして小柄な少女。
両方の正体に佐祐理は心当たりがあったが、今はそれ所では無い。何せ、金髪の女性は、銃をこちらに向けているのだから。
「――危ないっ!」
佐祐理は反射的に柳川を突き飛ばした。銃口の正確な向きなど、佐祐理に読み取る事は出来ない。
あの女性が誰を狙っていたか、確実な判断材料があった訳では無い。
しかし佐祐理の直感が告げていた――柳川が危ない、と。次の瞬間には銃声が鳴り響いていた。

632乙女の想い:2007/03/10(土) 18:17:25 ID:IQ5olZbU0


「……倉田っ!?」
柳川の服に、赤い液体が降りかかり、次々と斑点を描いてゆく。
銃弾は柳川の胸を、精密機械の如き正確さで貫こうとしていた。その軌道に、佐祐理が割り込んだのだ。
そして桁違いの殺傷力を秘めた5.56mm NATO弾は、佐祐理の左肩を掠め取っていった。
佐祐理と柳川の身長差が幸いしての結果だった。佐祐理の身長がもう少し高ければ、弾は佐祐理の肩を砕き腕を引き千切っていただろう。
柳川は機敏な動きで佐祐理を抱きかかえて、跳躍する。その後を追うかのように、地面が次々と弾け飛んでいった。
銃声が止んだ後、柳川は襲撃者の正体を確かめるべく首を動かした。
太陽は既に地平線の彼方に消えつつあり、空には暗雲が立ち込めている。辺りは薄暗くなっているが、何とか敵を視認する事は出来た。
銃を構えている金髪の女性――見覚えがある。主催者を打倒するに当たって最も頼りにしていた人物だ。
そして、かつて仲間だった者の横で薄ら笑いを浮かべている少女。その外見的特長は、春原陽平の話と一致する。
柏木耕一や、川澄舞。その他にも、多くの少年少女達の命を奪う元凶となった存在。
柳川は己の中に蓄積していた憎しみ全てを搾り出して、叫んだ。
「宮……沢……有紀寧ぇぇぇっ!!」


【時間:2日目18:25】
【場所:I−7】
柳川祐也
【所持品:イングラムM10(30/30)、イングラムの予備マガジン30発×7、日本刀、支給品一式(食料と水残り2/3)×1、青い矢(麻酔薬)】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)】
倉田佐祐理
【所持品1:支給品一式×3(内一つの食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【状態:左肩重症(腕は上がらない)】
七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、あかりのヘアバンド、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:状態不明、千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】
藤井冬弥
【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧・】
【状態:状態不明、右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)、目的は留美を守る事】
宮沢有紀寧
【所持品①:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品②:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、マーダー、自分の安全が最優先だが当分はリサの援護も行う、リサを警戒】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾22、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:マーダー、目標は優勝して願いを叶える。有紀寧を警戒】

633乙女の想い:2007/03/10(土) 18:18:25 ID:IQ5olZbU0


【時間:2日目18:15】
【場所:I−7】
篠塚弥生
【所持品:ベアークロー、FN Five-SeveN(残弾数10/20)】
【状態:車に乗っている、マーダー・脇腹に怪我(治療済み)・逃亡中・第一目標は優勝、第二目標は由綺の復讐】

【備考】
・冬弥の近くにFN P90(残弾数0/50)、包丁が落ちています。
・柳川・佐祐理・留美・弥生・冬弥は戦闘に集中していた為、第三回放送の内容を聞き逃しています
・島の天気が曇りに変りました
【備考2】
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は残量50%程度、行き先は不明

→733
→742
ルートB13、B16

634浩之の残したもの:2007/03/10(土) 22:42:53 ID:UKZq6jWU0
「ごぉっ……ぐふぅ……」
浩之の放ったデザートイーグルは確実に岸田の内腑を痛めつけていた。
腹の底から響く鈍痛に悶え苦しむ。
「がっ……はぁ、はぁ……糞……」
沸いてくる血と唾液をまとめて吐き出す。
一度デザートイーグルの洗礼を受けたアーマーは最早アーマーの役目を果たしていなかった。
多少の斬撃程度なら守ってくれるだろうが、同じ場所に銃弾が食い込もうものなら砕けて破片までも肉に食い込むことになるだろう。
唯の錘と成り下がったアーマーを脱ぎ捨てる。
「糞……これでは……」
このままではあの忌々しい高槻を刈る事が出来ない。
今銃を撃てば反動で自分の体が壊れかねない。
折れた肋骨が肺に食い込んでないのが僥倖だ。
「くそっ……! この餓鬼……」
眼下の浩之の死体を蹴飛ばす。
その動作も衝撃となって岸田に返る。
「ぐっ! ……糞」
数秒逡巡して、やはり一旦引くことを決める。
「フン……必ず殺してやるからな……高槻……」
そうして岸田は死体を残し、一人役場から離れて行った。

635浩之の残したもの:2007/03/10(土) 22:43:33 ID:UKZq6jWU0
【時間:二日目・15:45】
【場所:鎌石村役場】

岸田洋一
 【装備:電動釘打ち機(5/12)、カッターナイフ、鋸、ウージー(残弾25/25)、デザートイーグル(.44マグナム版・残弾7/8)、特殊警棒】
 【所持品:支給品一式、ウージーの予備マガジン(弾丸25発入り)×1】
 【状態:肋骨一本完全骨折・二本亀裂骨折、胃を痛める、腹部に打撲・内出血、切り傷は回復、マーダー(やる気満々)】
 【備考:アーマー、カッター、鋸は荷物軽量化のため捨てていきます】

→741
B-13,B-16,B-17

636落穂拾い(前編):2007/03/11(日) 14:48:43 ID:9HYljyok0
島の西部を流れる唯一の川。
その河口に面する民家の一つに、坂上智代ら三人の少女は早めの宿を取っていた。
安心感からか、里村茜と柚木詩子はくつろいで気ままなことをしている。
「ねえ、見て見て。エロビデオのテープがあるよ。なんかワクワクして来たわ」
「私はそんなもの、興味はありません」
「この“美少女狩り”なんてタイトルからして面白そう。茜はどれがいい?」
「わたしは……“GL〜ガールズラブ”がいいと思います」
舌の根も乾かぬうちに茜は前言を撤回していた。

あまりの緊張感の無さに智代は二人を苦々しく見ていた。
「お前達、他の仲間が苦難に遭ってるかもしれないのに、なんという弛んだ精神をしておる!」
「そんな仮定の話してもしょうがないでしょ。他の人は他の人。あたし達はあたし達なの」
「智代も堅苦しいことばっかり言ってないで、いっしょに見ましょう」
茜もテープを手に取ってはタイトル見て物色している。
「ほら、“トモヨ あふたー”ってのもあるよ。でもタイトルからして面白くなさそう」
「もういいっ! わたし一人で鎌石村へ行く」
「そんなあ。今着いたばかりなのに」
──こうして智代達は五分そこらで家を出たのであった。



「あれは……船」
智代は珍しく笑みを浮かべた。
到着時には気づかなかったが、砂浜から岩場への境目に一隻の船が乗り上げていた。
船体は破損が目立つが修理できるかもしれない。
三人とも嬉しさのあまり興奮を抑えることができず、はしゃぎながら船へと駆ける。
「エンジンはどうなんだろうな。生きていればいいが」
「まずは希望の灯りが見えたようなもんね」
智代を始めに茜が、そして詩子が船に乗り込む。

637落穂拾い(前編):2007/03/11(日) 14:50:22 ID:9HYljyok0
喜びも束の間、三人の笑みが一瞬にして消えた。
船室の扉を前に一同は凍り付いている。
希望を打ち砕くかのように、あたりには異臭が漂っていた。
「生ゴミじゃないですよね」
茜がポツリと呟く。
「たぶんな。いや間違いなく……」
口にこそしないが、みんなその臭いが死臭だと感じていた。

「智代、早く開けなさいよ」
「わかってる。今開けるから」
詩子にせかされ、緊張の面持ちで扉をゆっくりと開く智代。
「うわっ!」
全裸の女の死体が横たわっていた。
皆驚きのあまり声も出せず、立ちすくむのみである。

「この人、首輪をしていません」
しばらくして茜の落ち着いた声が響く。
「ホントだ。もしかして主催側の要員だったりしてね」
三人とも気を取り直して女や船の状況を調べることにした。
「しかし酷い様だな。死ぬ直前まで性交をしていたような気配だ。傷の具合からして死因は……何だろうな」
射殺でも絞殺でも撲殺でもない。どうやら座礁の際の全身打撲によるもののようだ。
「乳首を噛まれた痕があるね。あたしもこのくらいオッパイがあったらいいなあ……あれ、居ない。茜!」
詩子は女の胸を触りながら茜が居ないことに気づいた。
「船の傍に複数の足跡があります。デイパックも二つありました」
応えるように船室の外から返事があった。
「何か武器は? 銃とかあるか?」
「残念ながらありません。共通のものだけです」
「そうか……判ったから戻って来てくれ。なるべく目の届くところに居て欲しい」
いつ襲われかもしれないのに大胆なことをするものだと、智代は舌打ちした。

638落穂拾い(前編):2007/03/11(日) 14:52:24 ID:9HYljyok0
「機関は死んでないみたい。燃料は十分あるわ」
「詩子は機械をいじれるのか?」
「原付のエンジンはいじったことあるけどねえ。船はないよ。でも四級小型船舶は取ってるから」
「ほう、船を操作できるのはありがたいな」
詩子の特技は期待できそうだ。
「乗馬とかお花とかお香も一通りはできるよ。あとクレー射撃もね」
「そんなこと聞いてないって……え? 詩子って、上流階級のお嬢様なのか?」
「フフフフ。秘密だよ」
「実は元華族の流れをくむ家系です。……って、嘘です」
いつの間にか緊張感は解けて冗談さえ言える雰囲気になっていた。
「この人を外に出そう。茜と詩子は足を持って」

結局女の身元は判らず、砂浜に埋葬することにした。
船を後に一行は歩き始める。
西日を浴び、浜には三人の長い影が映えた。
と、突然、茜が智代の腕をクイクイと引っ張った。
「ん? どうした」
茜は二人に手で座るよう指示する。
何事かと思っていると、砂浜に文字を書き始める。
【首輪の盗聴器のこと忘れてました。船を見つけたこと、喋ってまずくないですか?】
あっ、と軽い悲鳴を上げたが既に遅い。詩子を見ると同じように気まずい顔をしている。
【まずかったな。今は私達が生き残ることを考えようではないか】
──前向きに考えよう。
そのためにはまず、ウサギの指示通りに行動する者達──敵を斃さなければならない。
(望まずとも殺し合いをすることになるんだな)
立ち上がると暗い気分払拭するように沖の方を眺める。
あいにく大海原は見えなかった。泳いで渡れそうなほどの距離にある小さな島に遮られて。

639落穂拾い(前編):2007/03/11(日) 14:53:54 ID:9HYljyok0
「元気を出してください。リーダーが務まりませんよ」
「ひゃあっ!」
背中から臀部にかけてスウーッと指がなぞられ、智代は軽く仰け反った。
「あははーっ、行きますよーっ」
「この不良め、お仕置きをしてやる」
「ずるい、あたしがやりたかったのにー」
逃げる茜と追いかける智代と詩子。
少女達は海岸を駆けた。


【時間:2日目・17:50頃】
【場所:D−1の砂浜】

坂上智代
【持ち物:手斧、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康、鎌石村へ】

里村茜
【持ち物1:包丁、フォーク、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、救急箱、他支給品一式】
【持ち物2:拾った二人分の食料】
【状態:健康、鎌石村へ】

柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康、鎌石村へ】

【備考:茜が見つけたデイパックからは食料だけ抜き取り、残りは放置されてます】

(関連:121、668 B-13)

640誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:53:57 ID:m6Hl9Iu.0
岡崎朋也は一人、暗闇の中ですっかり蝋が溶けてしまった蝋燭を見ながらまだ出会えていない友人達の事を考えていた。
こうして伊吹風子には会えたもののまだまだ所在の分からぬ人間はたくさんいた。特に心配なのは古河渚の事だった。
渚の場合、父母である古河秋生、早苗がいるからどちらかと出会えて共に行動している可能性は高い…が、これだけ広い島なのだ、簡単に出会えていたら苦労しない。
(けど、渚にはあのオッサンがいるんだ、何となくだけど――もう、渚の家族は会えている気がする)
それは勘ではなく、直感に近いものであった。僅かな時間ではあるが古河家で過ごした濃密な時間で彼ら家族の絆はどんなものより強いものだと確信している。
むしろ問題はこっちにあるのかもしれない。
このままこんなことをしていて大丈夫なんだろうか?
果たして他の仲間と合流できるのか?
そもそも肩を壊した自分がまともに武器を持って戦えるのか?
敵が強力な武器を持っていたら?
俺はみんなを守りきれるのか?
そしてそれ以前に――本当に、この島から脱出できるのだろうか?
逃げ場なんてないんじゃないかという疑惑が朋也の中で渦巻く。
大前提として、この殺し合いはどう足掻いても脱出できないように様々な仕掛けを張り巡らせているはず。首輪の爆弾など、その一端に過ぎないのでは?
具体的なプランがない以上『仲間を探す』以外に明確な目的がない朋也にとって、この状況は不安を煽るには十分過ぎた。
朋也の不安は加速する。
この島で――自分を必要としてくれる人間が、果たしてどれだけいるんだろう。
かつての、バスケットをしていたころの自分ならまだ体力にそこそこの自信もあったが今ではすっかり廃れ、おまけに肩まで壊している。戦闘にこれで闘えるのか。
自分より優れた人間なんていくらでもいる。
みんなが知人と会えたら自分は用済みなんじゃないか。
ここにいる連中だって、風子以外は知り合いと会えたらそちらにくっついていくに決まってる――
(ダメだ! 何を考えてるんだ俺は!)
由真やみちるに対して少しでも疑いの念を持とうとした自分に嫌悪する。
このまま疑念に囚われてばかりいたら、本当にあのウサギの思い通りになってしまう。
今一緒にいるこの仲間、こいつらが探している奴らと会えてから後のことは考えればいい。
誰に必要とされるかなんてまだ関係ない、絶対に会わせてやるんだ。
余計な雑念は捨てろ、岡崎朋也。
朋也は自分の腹に拳を叩き込んで気合を入れ直す。これからはもっともっとシビアな状況が待っているのだ、一瞬でも行動を迷えば即、死に繋がる。

641誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:54:27 ID:m6Hl9Iu.0
薄暗がりの中、民家についていた時計で現在時刻を確認する。夜光塗料でぼんやりと光を放っている時計針が指し示した数字は、3。
こんな夜遅くになら『乗って』いる連中だって流石に眠って…
(って、言ってるそばから楽観的になってるんじゃねえっての…けど、眠い…)
「んん…岡崎さん、まだ起きてるの…?」
いきなり声が聞こえたので多少なりとも驚いてしまったがすぐに由真のものだと分かった。
「何だ、十波か…あんたこそ起きてたのか」
「ついさっきだけど。ごめん、本当なら交代で見張りをするべきなのにね」
「いいさ、疲れてたんだろ? そりゃ空腹で死にかけるくらいだもんな」
「…その事は忘れて」
表情は見えないが、きっと赤くなってるんだろうなと朋也は思った。
「そっちも眠たいんでしょ? 今度はあたしが見張りするから朝まで寝てていいよ」
願ってもない申し出だったが、ちらりと先程考えたことが頭をかすめる。このまま任せていいのか、と。
(バカ、腹減って死にそうになる奴なんだぞ。裏切るような奴じゃない! いい加減にしろよ!)
きっとこんな異常な状況がこう考えさせてるんだと言い聞かせて「任せる」と由真に言った。
それから由真から毛布を借り、床につく直前。
「あのさ、十波…」
「何?」
「…いや、何でもない。お休み」
「…? 変なの」
由真の笑うような声が聞こえた。
自分でも変だと思う。一体、何を言おうとしていたのか分からなかった。少しでも疑おうとしていた事を言おうとしていたのだろうか。
結局、その疑問に答えを見出せないまま朋也はごく浅い眠りについた。
     *     *     *
翌朝。
まどろみの中で朋也は、耳の中に何やら男の声らしきものが聞こえてきているのに気付いた。
(何だ…? 一体誰が…)
気にはなったが意識が覚醒しない。しかしどうでもいいや、と思い始めてきた時。
…今までに死んだ人の名前を発表…そんな声の一部が、偶然か必然かはっきりと聞き取れたのである。
当然、朋也は跳ねるようにして飛び起きる。
「何っ!? 放送が始まったのか!? 十波、どうして起こして…って、オイ」
目の前の光景に朋也は呆れてしまう。そう、見張りを任せたはずの十波由真はすやすやと二回目のお寝んねをなさっていらしたのである。

642誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:54:46 ID:m6Hl9Iu.0
こんな奴が裏切ると少しでも思った自分を、別の意味で恥じた。人を見る目がない、と。
「寝てんじゃねぇ! 起きろ! 風子! みちるもだ!」
怒鳴る朋也だが誰も起きる気配すら見せない。お前ら、適応能力が高すぎるぞ。
「――それでは発表します」
しかし無情にも放送は待ってはくれない。ああくそ、と朋也は悪態をつきながら自分一人だけでも放送を聞くことに集中しよう、と決意したのであった。
――しかし、放送が終わった時には聞いていたのが自分一人で良かったと朋也は思わざるを得なかった。
死んだ人間の数が、あまりにも膨大なものだったからだ。
朋也の知り合いも何人かそこに名を連ねている。けれども一番朋也にとって衝撃的だったのは…
「冗談だろ、オッサンも、早苗さんも死んでるなんて…」
名簿を持つ手が震えているのが分かる。あの二人、あの二人だけは絶対に死ぬはずがないと心のどこかで思っていた。
「…そうだ、渚っ!」
秋生と早苗の名前で思い出す。
渚はあの中には入っていない。となれば、どこかでまだ生きているということになる。血の繋がっていない自分でさえこんなにうろたえているのだ、まして渚がこんなのを聞いたら…
「くそっ! 暢気に寝てる場合じゃなかったんだ!」
すぐにでも飛び出そうとしたとき、朋也の目には未だ放送を知らぬ三人の仲間の姿が目に映る。
こいつらを放っておいて俺一人、渚を探しに出ていいのかという疑問がよぎる。
もし目覚めて自分がいないことに慌て、なりふり構わず自分を探し、結果他の人間に襲われたりしたら?
そして何より、約束を破ってまで渚を探しに行けるような権利が自分にあるのか?
どう考えてもみちるや風子といった戦闘に不向きな連中を由真一人が守りきれるとは思えない。
だが、こうしている間にも渚の身が危険に晒されているとしたら…
「オッサン…俺は、どうすりゃいいんだ?」
もはやこの世にいないと知ってしまった、秋生の名を呼ぶ。あの人ならどんな選択をするだろうか?
夜が明けて、朝日が差し込む窓。その先に広がる空を朋也は見上げた。
「決まってるよ、すぐ出発するに決まってるじゃん、岡崎朋也」
そんなとき、この島で最初に出会ったクソ生意気な少女の声が後ろから聞こえた。
「ずっと…聞いてたのか、みちる」
「ううん…岡崎朋也が渚、って人の事を言ってたときから」
放送は直接には聞いていなかったということらしい。
「渚、っていう人は岡崎朋也にとって…すごく大切な人なんだよね? それで、今その人は…ひとりぼっちかもしれないんだよね? だったら今すぐ探しに行くべきだよ」

643誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:55:23 ID:m6Hl9Iu.0
昨日見せていたものとはまったく種類の違う雰囲気に、朋也は戸惑いを感じずにはいられなかった。
なんて悲しげな声なんだろう。まるで、自分も家族を失ったかのような…
「みちる…お前――」
朋也が何か言葉をかけようとしたとき、次々に体を起こす気配が見られた。どうやら風子も由真もお目覚めのようだ。
「コラーーーッ! いつまで寝てんだこのねぼすけーーっ! さっさと出発するよっ」
威勢のいいみちるヴォイスが響き渡り風子と由真の意識を無理矢理覚醒させる。風子は相変わらずマイペースで「…んーっ、清々しい朝ですっ」などと言う側で由真は「えっ? あれっ? ね、寝てたの、あたし?」なんておろおろしている。
「早くしろーーーいっ!」
やかましいみちるの声に急かされて二人とも(と言っても風子はそんなに変わらないペースだが)簡単に身支度を整える。
みちるには先程感じた悲壮な雰囲気なんて微塵も見られない。いつも通りだ。
「気のせい…だったのか?」
朋也が疑問に思うまでもなくみちるの視線がこちらにも向けられる。
「はいっ荷物! 男のくせにトロトロするな岡崎朋也ー!」
ずいっ、と目の前にデイパックが差し出される。
「お、おう」
慌ててデイパックを受け取る。ちょいと失礼な発言があった気がしなくもないがこの際無視しておこう。
全員が荷物を持ったところで由真が思い出したかのように叫ぶ。
「あっ! そうだ放送! ねえ、あたし達が寝てる間に放送は無かったの!?」
その一言で全員が動きを止める。特に朋也は――あれだけの人数が死んだのを伝えていいのかと迷っていた。
ちらり、とみちるを横目で見る。それに気付いたみちるは1回だけ、ちいさく頷いた。大丈夫だよ、と。
隠してたって、いつかは知らなければいけない事だ。ごくっ、と喉を鳴らし覚悟したように言い出す。
「――俺が、聞いてた」
由真と風子の目が一斉に朋也の方へ向いた。二人ともが、不安と覚悟の入り混じった表情になっている。
「言うぞ」
それから数分間、自らが名簿につけた新しい印にある人間の名前を朗読していく。
死者の名前を読み上げるということは想像以上につらいものがあった。
あの放送をしている人間もこんな気持ちだったのだろうか。
今にして思えば、あの放送をした若い男の声も震えていた、ような気がする。

644誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:55:48 ID:m6Hl9Iu.0
「これで2回目は全部だ」
読み終えた後。何分かの沈黙の後、最初に声を発したのは由真だった。
「そっか…もう、いなくなっちゃったんだ、おじいちゃん」
「おじいちゃん…ですか?」
風子がおずおずと尋ねる。由真は嘆息した声で「うん」と言って続ける。
「長瀬源蔵…それがおじいちゃんの名前なんだけどね、まあこれが何というか…親バカというか、子煩悩な人っていうか…言い方が分からないけど、とにかく、過剰なくらいあたしを可愛がってくれてた」
「いいじいさん、だったんだな」
「そうでもないわよ…悪いところもいっぱいあった。けど…尊敬してたし、誇りにも思ってた」
大事な人が亡くなったというのに、由真は気丈に、涙も流さず淡々と語っていた。
「…十波」
「何も言わないで」
冷たさすら感じる、きっぱりとした拒絶の声。
「まだ泣く訳にはいかないの。たぶん、今ごろはあたしなんかよりももっともっと辛い思いをしてる人がいるだろうから。それに…あたし達年上がびーびー泣くわけにもいかないでしょ? ね、岡崎さん?」
意地の悪い声でニヤリと笑いながら由真は言った。
あてつけか、あてつけなんだな?
「…一つ言っとくぞ」
怒りたいのを我慢して恐らく勘違いしてるであろう十波由真に事実を言ってのけてやる。
「お前、風子を何歳だと思ってる」
「へ? 小学生か中学生くらいなんじゃないの?」
「やっぱり…こいつは俺と同い年、18なんだぞ。貴様なんかよりよっぽど年上の先輩なんだ」
「え? えええぇーーーっ!? ウソォ!?」
突き付けられた新事実に後ずさりながら驚愕する由真。当然、この驚きに激怒する風子。
「何でそんなに驚くんですかっ! 失礼ですっ! ぷち最悪ですっ! 岡崎さんクラスに最悪ですっ!」
ぷりぷり怒る風子だがとても高校生が怒っているようには見えない。
一方の朋也は内心で「よっしゃ、ようやく俺と同レベルの奴が風子の中で生まれた」とほくそ笑んでいた。
「まったく、岡崎さんの連れてくる人はヘンな人ばかりですっ。類は友を呼ぶって本当です」
「「お前が言うな」」
「…ねぇ岡崎朋也ぁ、早く出発しようよぉ」

645誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:56:09 ID:m6Hl9Iu.0
     *     *     *
放送後の重苦しい雰囲気は、もう一同にはなかった。
風子の年齢云々が緩衝材になったのだろう。朋也も夜に感じていた色々な不安は今はほぼ感じていない。渚の無事を心配する気持ちはまだあったが、きっと知り合いか、頼りになる人間と一緒にいるはずだと希望を持つことにした。
現在岡崎朋也一行は南から廃墟となったホテルへと向かっている最中だ。
探している人物の情報を交換し合った結果、全員が全員おとなしそうな性格(まあよくもこんなやかましい人間に穏やかな性格の友人がいるものだ)らしいのでどこか目立たないところで身を潜めているかもしれないとのことで見解の一致をみたからである。
街道沿いに向かうのは見つかりやすいということで敢えて森を突っ切って行く事にした。体格の小さいみちるや風子にとっては厳しい行程になるだろうが安全のためである。
「随分歩いたわね…ねえ、ホテルはまだ見えない?」
山道の途中。ここまでやや強行で来たせいか朋也以外はみな少しずつ疲労を感じているようだ。
「いや…まだ見えないな」
「岡崎朋也ぁ…ひょっとしてもう通り過ぎちゃったんじゃないの?」
街道に沿って歩いてない以上目測を見誤ってまったく別の方向へ歩いているという可能性もあった。迷ってしまうのは一番避けたい。
「岡崎さん」
この中では2番目に元気のある風子が手を上げて提案する。
「そろそろこの辺で街道に出てみる事を提案しますっ」
「そうね、道を確かめてみるくらいならいいんじゃない?」
続いて由真が手を上げる。
「みちるもー」
「3対1で賛成多数、決定です。行きましょう行きましょう」
手を上げるが早いか、そそくさと下って街道へ出ようとする3人。
「待て、俺はまだ何も言ってないぞ」
「反対なの? 岡崎さん」
「いや、別にそうってわけじゃないが…静かにな」
「失礼です。風子はいつでも粛々とした淑女です。いつもやかましい岡崎さんと一緒にしないで下さい」
お前がいうか、と文句を言おうとしたが自分が大声を上げれば世話ない。ぐっ、と我慢することにする。ふふん、自分は大人なのだ。
「岡崎朋也、なんか偉そう」
「んなわけないだろ? 行こう」
朋也が先行して下り、整備されている街道を探す。程なくして街道は見つかった。
「ここから行けそうだな…まず俺が先に下りるよ」

646誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:57:10 ID:m6Hl9Iu.0
街道と森の間は坂になっている。朋也は左右に用心しつつゆっくりと滑りおりた。遮るものがなくなって痛いくらいに日光が突き刺してくる。
見上げると、まだ太陽の位置は低くそれほど日が昇りきっていないように感じる。まだそんなに時間は経っていないのだろうか。
「岡崎さん? 下りるわよ」
特に何もしない朋也にしびれを切らしてか由真と風子が次々に下りてくる。
由真は周囲をきょろきょろと見回して誰もいないのを確認する。今のところ、街道には人の気配はない。
「大丈夫…みたいね。みちるー、下りてきてもいいわよ」
「んに、今行くよ――」
そう言ったときぱららららら、とタイプライターを叩くような音が聞こえて、みちるの体が不自然に跳ね上がった。
「…えっ、な、に、今の…音」
由真が声にならない声を上げた直後、バランスを崩したみちるが赤い色をした水飛沫を上げながら坂を転げ落ちてきた。
その顔が、身体が、べっとりとした鮮血に染まっている。
「――あ、あ…わぁぁぁーーーーっ!」
普段なら絶対に聞けないであろう、心底からの悲鳴を風子が上げ、ぺたりと地面にへたり込んだ。
「て…敵なのかっ!」
初めての敵襲に恐れ戸惑い、矢鱈滅多に周囲を見まわす朋也。武器と言えるものがない以上銃、しかも銃声から判断するにマシンガンの類には抵抗する術が無い。
『敵』はこちらの出方を窺っているようで出てこようとしない。だったら、すぐにでも逃げるのが得策ではあるのだが。
(みちる…)
ぴくりとも動かない仲間の遺体を放っておくのは――
「…ぅぅ…」
わずかに聞こえてきた呻き声に朋也は目を見張った。まだみちるは辛うじて生きていたのだ!
「みちるっ!」
朋也が悲鳴に近い声を上げて呼ぶ。呼ばれた当の本人は虚ろな目で必死に焦点を、呼びかけた主に対して合わせようとしていた。しかし出来ないと思ったのか、今度は震えている手を朋也へと伸ばそうとする。
「――ぉか、ざき、とも」
朋也の名前を呼ぼうとしたが、それはまたすぐに『タイプライター』に遮られた。
けたたましい音がしたかと思うと、もう一度だけみちるの体がびくん、と跳ねてそれきり動かなくなった。
「あっ」

647誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:57:35 ID:m6Hl9Iu.0
自分でもマヌケだと思えるくらいの情けない声が漏れる。
死んだ。
自分よりも遥かに年下で、生意気で、元気なのが取り柄だったみちるが、守るべき仲間が、死んだ。
呆然とする間もなく、坂の上から『敵』が飛び降りてくる。
その『敵』こと『七瀬彰』は朋也と同じくらいの背丈で、体格もそれほど変わらず、しかし殺人鬼の目をしていた。
そしてその手に握っているのはイングラムM10。『タイプライター』の正体だ。
「…あ、ああ…」
由真と風子はただ恐怖していた。目の前で人が撃ち殺されたのだから。
だが、そんな彼女らの心情など目の前の殺人鬼が汲みとってくれるはずなどない。冷静に、冷酷に、七瀬彰はイングラムの標準を合わせた。
「美咲さんのためだ、死んでもらうよ」
ただ一言、そう言った声はゾッとするほど普通の声色だった。
その一瞬の間、朋也は考える。
(俺は結局、何をしていたんだ? このままこうやって殺されてしまうのか?)
夜に、たとえ少しでも疑ってしまっていたとはいえ、仲間を守ると決めたはずだ。
なのにどうだ、このザマは。みちるを守れなかったばかりか全員が殺されようとしている。
ちくしょう。
自分はどうしようもなくダメな人間だ。
きっと春原にさえ笑われてしまうくらいの。このままでは、自分は春原以下の人間になってしまう。
そんなのは…死ぬより、イヤだ。
だから、せめて、これだけは――

(渚…悪いが、先に行くな。後のことは、あいつらに託す)
ニヤリ、と朋也は自分でも気付かないほどの小さな笑みを浮かべていた。それは『敵』に向けたものか、『仲間』に向けたものかどうかは本人にさえ分からなかったが。

――譲れない。
「十波! 風子! 走れぇぇぇっ!」
立ったまま震えている由真を突き飛ばすと、敢然と朋也はイングラムの銃口の前に立ち塞がった。
「うっ!?」
一瞬迷うように銃口を反らしかけた彰だが、構わずイングラムのトリガーを引いた。
ぱらららら、という音が次々と朋也の体を壊してゆく。想像を絶する痛みに意識が飛びそうになるが、まだ倒れるわけにはいかない。

648誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:57:56 ID:m6Hl9Iu.0
しっかりと大地を踏みしめ、足に力を入れて、撃たれ続けながらも朋也は彰に飛びつき押し倒す事に成功した。
倒れる直前、イングラムの銃口が反れて今度は肺を直撃したが痛くはなかった。痛覚が麻痺してしまったのだろうか。
彰と共に地面に倒れる。その時かすかにだが、足音が遠ざかってゆく音が聞こえた、ような気がした。由真と風子が逃げていったものだと、信じたい。
でなければ、こんなことをした割に悲し過ぎる結末だ。
「くそっ、どけよっ!」
朋也の下敷きになった彰が押し戻そうとする。しかし朋也も残された力を振り絞り彰の体を押さえこむ。
「まだ…行かせるわけには…いかないんだよ」
「死にかけのくせに…! さっさと死んで楽になれっ!」
横からイングラムを撃とうとするがカチ、カチッという音しかしない。弾切れだった。
「ぐっ…そこまで命を張って…何になるっていうんだ!」
朋也に力が残っている限りは状況をひっくり返せないと思った彰は悪態をつくしかなかった。
「誓った…からに決まってるだろ」
「何…? 誰にだよ」
「あんたは、その美咲さんとやらに殺してでも生き残ると誓ったんだろ? 俺は仲間を生き残らせるとついさっきだけど、誓った。――自分の、誇りにだ」
「………!」
彰が言葉を失う。呆れたのか、何か思うところがあったのか、そんなこと朋也には分からない。
だが…それでも、目的を達成できた自分に――

腕から力が抜け、彰がようやく体を押し戻す。再び立ちあがった彰の目には、山林の風景しか映っていなかった。
朋也を見下ろす。彼は既に、死んでいた。

――満足だった。

649誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:58:24 ID:m6Hl9Iu.0
【時間:二日目 8:30】
【場所:F-4】 
伊吹風子
【所持品:スペツナズナイフの柄、三角帽子、支給品一式】
【状態:軽い疲労、ホテルへ向け逃走】
十波由真 
【持ち物:ただの双眼鏡(ランダムアイテム)】
【状況:軽い疲労、ホテルへ向け逃走】
岡崎朋也
【持ち物:クラッカー複数、支給品一式】
【状況:死亡】
みちる 
【持ち物:武器は不明、支給品一式】
【状況:死亡】
七瀬彰
【所持品:イングラムM10(0/30)、イングラムの予備マガジン×8】
【状態:右腕負傷(かなり回復。まだ少々痛む)。マーダー】

→B-10

650汚れた手:2007/03/14(水) 17:41:57 ID:BnSXdwQ20
   *     *     * 第三回放送・河野貴明の場合 *     *     *

「雄二……由真……」
悪夢のような内容の第三回放送。また多くの知り合いが死んでしまった。
だが貴明の心はもう、揺らがなかった。それは『本当の強さ』というものを身に付けたからだろうか?
きっと違う。今貴明が感じているのは、イルファの死体を見つけた時と同じ感覚だ。
『掛け替えのない日常』がどんどん自分の中から失われ、生じた空白を『怒りと憎悪』が埋め尽くしてゆく。
その変化は、ゲームで生き残る上では有利に働くかも知れない。
この島に連れて来られた当初の貴明なら、このみの死で取り乱していただろう。
或いは少年との死闘の際に死んでしまっていたかもしれない。
だが貴明はまだ意志を確かに持って、生きている。
このみの死を乗り越え、花梨の命を犠牲として少年に勝利し、生き延びてきた。
心も身体も傷付きながら、色々な物を捨て去って、背負いきれない程の重荷を背負って、先に進み続けている。
本来貴明が持っている優しさや人間味を放棄してゆく代わりに、人を殺す覚悟と戦う意志を手に入れた。
今の貴明を支えているのは悪に対する殺意――それは余りにも哀しい、偽りの強さだった。

651汚れた手:2007/03/14(水) 17:42:54 ID:BnSXdwQ20
   *     *     * 第三回放送・藤林杏の場合 *     *     *

「椋……ごめん、間に合わなかったね……」
一番会いたかった、そして守りたかった妹の死。こうなる事も、ある程度予想はしていた。
椋は杏と違って、大人しくて優しい女の子だ。殺し合いなど出来る訳が無い。
悪意のある者と出会ってしまえば為す術もなく殺されてしまうのは、当然の帰結だ。
椋が生き残るには、誰かが保護してあげなければならなかったのだ。
椋と遭遇した場合、確実に保護するであろう人物は三人。杏、朋也、そして――柊勝平だ。
勝平は半ば狂ってはいたし、襲い掛かっても来たが、少なくとも椋の事は心配していた。
その勝平を、杏は自らの手で殺してしまった。椋が死んだ一因は間違いなく自分にあるのだ。
そして、ことみについても同じ事が言える。あの時無理をしてでも藤井冬弥を止めていれば、ことみは死なずに済んだかも知れない。
どうすればあの二人に償える?
自殺――論外、そんなのただの現実逃避に過ぎない。冬弥探しを続行して復讐――意味が無い。
復讐した所でことみは喜ばないだろうし、そもそも犯人が冬弥であるか定かでは無い。
椋とことみが共通して望むであろう事。それはきっと彼女達が全幅の信頼を寄せていた、岡崎朋也の幸せに他ならない。
朋也は気が短い所もあるが、ゲームに乗るような人間では無い。それは杏もよく知っている。
ならば朋也の幸せに繋がる事は一つ。ゲームの破壊――つまり、主催者の打倒だ。
それで自分が犯した罪を償いきれるとは到底思えないが、やらないよりはマシだろう。
(……って、何長ったらしい言い訳を考えてんのよ。本当は分かってるわよ……。椋を失ったあたしには、何でもいいから――)
生きる目的が必要だった。ただそれだけだった。

652汚れた手:2007/03/14(水) 17:43:43 ID:BnSXdwQ20

   *     *     *    *     *     *

第三回放送が流れてからもう四十分程経っただろうか。
春原陽平とルーシー・マリア・ミソラ(通称:るーこ)は、教会の礼拝堂で肩を並べ十字架を眺め見ていた。
「藤田も川名も死んじゃったんだな……。何だかまだ、実感沸かねえや……」
「るーもだ……。うーひろは強いうーだった。それにうーひろやうーみさとは、少し前まで一緒にいたんだ。
 それが突然、もう二度と会えなくなった。るーはその事実が何よりも悲しくて、怖い」
柏木の者達との死闘の後――再会を誓って、そしてそれぞれの目的の為に別れた十二人の同志達。
皆強い意志を持っていた筈なのに、希望を持って一生懸命生きていた筈なのに――そのうちの二人が、早くも帰らぬ人となってしまった。
もう、何が何だか分からなくなってくる。人が簡単に死に過ぎるのだ、この島では。
どれだけ固い決意を持っていようとも、どれだけ優れた戦闘能力を持っていようとも、死はすぐ近くにある。
それがこの島の冷たい現実だった。
二人が視線をぼんやりと地面に落としていると、誰かが歩く音が聞こえてきた。
足音の主――姫百合珊瑚は、礼拝堂に入るとすぐに、手招きをした。
「るーこ、陽平、ちょっとええかな?」
「うーゆり、どうした?」
「あ……ううん、やっぱ何でもないわー」
「……?」
るーこは眉を寄せて怪訝な顔をしたが、珊瑚はにこっと笑ってみせ、紙にペンを走らせた。
『首輪解除の方法が分かったで』
陽平は目を見開いて、驚きの声を上げたい衝動に駆られたが、何とか抑えた。
それから慌てて紙を取り出して、そこに文字を書きなぐった。乱雑な書き方だが、それでも珊瑚の字よりは綺麗だった。
『それは本当かっ!?』
『うん。この紙を見て貰えれば分かると思うんやけど、仕組みさえ知ってれば誰でも出来ると思う。簡単なトラップがいくつか仕掛けてあるだけや。
 ……内部構造を知らなかったら、ウチが解除しようとしてもドカン!やったけどね』
珊瑚はそう言って、陽平達に一枚の紙を差し出した。陽平とるーこはその紙にじっくりと目を通す。
そこには首輪の仕組みと外す為の手順が、これ以上無いくらいに分かりやすく示されていた。
判明した事実は二つ。首輪の解除は紙に書いてある手順通りに行えば、特殊な技術を持っていなくても問題無い。
そして解除された首輪は、装備していた者が死んだという情報だけを主催者側に送り続けるという事だった。

653汚れた手:2007/03/14(水) 17:45:11 ID:BnSXdwQ20
『……そうだね、これなら僕だって出来そうだ。首輪の仕組みが分かったって事は、ハッキングに成功したの?』
珊瑚は小さく首を横に振り、ペンを握り直した。
『うーん……まだ一部だけや。首輪の情報は引き出せたけど、他の部分はガードが固くてまだ分からへんねん。
 でも心配しないでええで。この調子で行けばいずれ他の情報……主催者の居所や正体も掴めると思う』
『そうか。うーゆりばかりに任せてすまないが、頑張ってくれ』
すると、珊瑚がぐっとガッツポーズを取ってみせた。それは珊瑚らしく無い……どちらかというと、今は亡き瑠璃のような姿であった。
『任せといて。うちが皆の役に立てるのはこれくらいやし、絶対に主催者のパソコンを乗っ取ったる!
 ……と言っても、これ以上ウチがする事は殆どないんやけどな。前の参加者の人が用意してくれてたCDのおかげで、だいぶ楽にハッキング出来るようになってる。
 もう敵の防御パターンは解析済みやから、後は放っといてもどんどん作業が進んでく筈やで』
『じゃあ早速首輪を外そうよ。こんな気分の悪い物からは、一秒でも早く解放されてえよ』
『今外す訳にはいかへんよ……敵も来てへんのにいきなり死亡信号が送られたら、主催者だって怪しむやん。
 それに首輪を外すのには工具が必要やで。教会の中を探してみたけど、使えそうな道具は無かった……』
珊瑚が少し考えて、ペンを再度走らせようとした所で、るーこは突然H&K SMG‖を拾い上げた。
鋭い眼差しを十字架とは逆の方向――つまり、教会の出入り口へと向ける。
「――おい、るーこ。いきなり何を……」
「静かにしろ。来客のようだぞ」
「……え!?」
珊瑚と陽平が聴覚に神経を集中させると、確かに足音――それも複数、聞こえてきた。
慌てて陽平は鉈を取り出し、珊瑚もコルト・ディテクティブスペシャルを構えた。
三人の緊張した視線が、一様に入り口へと降り注ぐ。陽平は、緊張するとすぐに喉が渇くんだな、と場違いな事を考えた。
重い沈黙が続く。しかしその沈黙は、来訪者の側があっさりと破った。
「るーこ、珊瑚ちゃん、それから春原だっけ?貴明だけど……入っていいかな?」
扉の向こう側から、るーこと珊瑚のよく知る声がした。

654汚れた手:2007/03/14(水) 17:46:59 ID:BnSXdwQ20
「貴明っ!?」
珊瑚が弾かれたように飛び出して、扉を勢い良く開け放つ。
そこには確かに、今や珊瑚にとって、唯一心の底から気を許せる人物――河野貴明が立っていた。
張り詰めていた緊張の糸が切れた珊瑚は、貴明の胸に飛び込んで嗚咽を漏らし始めた。
「貴明……」
「……久しぶり、珊瑚ちゃん」
貴明は複雑な表情で、珊瑚の身体を抱き締めながら思った。
(――汚れてしまった俺に、こんな事をする資格はあるのかな……)


【時間:二日目18:50頃】
【場所:G-3左上の教会】

姫百合珊瑚
【持ち物①:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物②:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:嗚咽、ハッキングはコンピュータの演算に任せている最中、工具が欲しい】

ルーシー・マリア・ミソラ
【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×5、他支給品一式(2人分)】
【状態:綾香に対する殺意・主催者に対する殺意、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み、裂傷の傷口は概ね塞がる)】

春原陽平
【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式(食料と水を少し消費)】
【持ち物2:鋏・鉄パイプ・首輪の解除方法を載せた紙・他支給品一式】
【状態:全身打撲(大分マシになっている)・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)】

655汚れた手:2007/03/14(水) 17:48:03 ID:BnSXdwQ20
河野貴明
 【装備品:ステアーAUG(30/30)、フェイファー ツェリザカ(5/5)、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】
 【所持品:ステアーの予備マガジン(30発入り)×2、フェイファー ツェリザカの予備弾(×10)、イルファの亡骸】
 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー】

観月マナ
 【装備:ワルサー P38(残弾数5/8)】
 【所持品1:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、9ミリパラベラム弾13発
入り予備マガジン、他支給品一式】
 【所持品2:SIG・P232(0/7)、貴明と少年の支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲】

久寿川ささら
 【所持品1:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、支給品一式】
 【所持品2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)】

藤林杏
 【装備:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×27】
 【所持品:予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書×3(国語、和英、英和)、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、支給品一式】
 【状態:健康、目的は主催者の打倒】

ほしのゆめみ
 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:胴体に被弾、左腕が動かない】

ボタン
 【状態:健康、杏たちに同行】

【その他備考】
※珊瑚ならゆめみを修理できるかもしれません
※イルファの左腕は肘から先がありません

→732
→752

656勘違い2:2007/03/14(水) 23:13:58 ID:XfQZJz1g0
「何故こんなことになってしまったんだ・・・・・・」

柊勝平の左腕は、今だしっかりと名倉由依に捕らえられたままだった。
目の前には神尾観鈴、ようやく泣き止んだのか大分落ち着いているようにも見える。
その間、由依は二人を拘束したまま一言も口を聞かずただ静かに座っていた。
そんな三角形を職員室で作る三人、時間だけが刻一刻と過ぎていく中勝平はもう一度疑問を口にした。

「何故、こんなことに・・・・・・」
「ぐすっ・・・・・・」
「お前もせっかく泣き止んだんだから、もう繰り返すなよ」
「だ、だって」
「・・・・・・」

勝平と観鈴の話に、由依が混ざることはなかった。
目を開いているのにどこも見ていないような空ろさが不気味であった、なので勝平も自ら彼女に話しかけようという思いは特になく。
・・・・・・先ほどのような感情の揺れは、もうない。
静かな時間は、勝平の自暴自棄になりかけた精神を落ち着かせるのには充分な効果をみせることになったようだ。
勿論、問いに対する答えを自身で出せたわけではない。しかし投げやりに事を任せるのは、彼のプライドが許さなかった。

(で、どうするかだ)

相沢祐一の生死に関しては、この目で確かめる必要がある。
しかし問題となるのが、この少女で。

「・・・・・・」

ぐいっぐいっと力任せに剥がそうとしても、由依は絶対掴んだ手を離そうとしなかった。
電動釘打ち機を構えても、怯えることなく飄々としたままで。大した根性の持ち主である。

657勘違い2:2007/03/14(水) 23:14:27 ID:XfQZJz1g0
(いや、これは根性ってレベルじゃねーだろ・・・・・・)

見た目の通り、精神が病んでしまったと考えるのが正しいかもしれない。

「おい」

無言で地面を見つめていた観鈴に話しかける、彼女は赤い目を携えたままゆっくりこちらに振り返った。

「こいつ、最初っからこうだったのか?」
「え・・・・・・」
「お前が初めて会った時も、こんな調子だったのか」
「う、うん」
「そうか」

口を開いた由依の台詞はたった二種類。「おとこはころす」、そして「おんなはつれていく」。
その意味の通り、祐一が殺され観鈴が連行されたというなら話は通じる。

「ん、待てよ?じゃあ、何で僕が捕まらなくちゃいけないんだ。おいちょっと、何でお前は僕を殺そうとしない」
「・・・・・・」

由依は答えない。

「僕は男!どう見ても、男の子!!」

そう自身を指差し強調させた所で、やっとこちらに目をやる由依。
しばし見つめあう。何の感情も見えない由依の瞳に映る自分の姿を、勝平もじーっと見続けた。

658勘違い2:2007/03/14(水) 23:14:53 ID:XfQZJz1g0
「・・・・・・?」
「首を傾げるな!!」
「えっと、勝平さん・・・・・・何やってるの?」
「だーもうっ、こいつ、僕を女と勘違いしてるかもしれないんだよ」
「え、違ったの?」
「なっ?!」
「にはは、冗談冗談」
「お前こんな時に余裕かますなっ!!」
「がお、ごめんなさい・・・・・・」
「・・・・・・??」

無表情だった少女の顔に、初めて戸惑ったような色が見え隠れする。
このチャンスを見過ごすわけにはいかない、誤解を一瞬で解く方法として勝平は即座に立ち上がり自分の着用しているズボンに手をかけた。

「ゴルアッ!これでどうだ!!」

左腕にはまだ由依がつかまっていたが気にしない、そのまま一気に引きずり落とした。
二度の屈辱に神経が麻痺したかどうかは分からないが、そこには恥も外聞もない。ある意味男らしい。

「か、勝平さん?!!」

突然のことに、観鈴も目を白黒させながら硬直する。由依も同じく。
いや、由依に到っては勝平の腕を掴んでいたお陰で、距離的にもかなり近い状態でそれを見せ付けられてしまったためダメージも倍であろう。

そう、彼女の視界は今勝平のパオ〜ンで埋め尽くされていた。

「・・・・・・」

659勘違い2:2007/03/14(水) 23:15:20 ID:XfQZJz1g0
沈黙が、場を包む。
顔を真っ赤に染めながらも、目が離せない観鈴。
真顔のまま、それを凝視する由依。
そして、今だ開放的な姿で居続ける、勝平。

(・・・・・・すべったかっ?!)

悲鳴の一つでも上げられれば万々歳だったのだが、これではまるでただの変質者である。
いや、それ以前にもう現時点で変態であることは確定されていたが。

「ちょっと待て!ちょっと待ってくれ、これには深い訳が・・・・・・えっ!?」

慌ててパンツを引っ張り上げようとすると同時に、ガクンと片腕に体重がかけられる。
腕を取られた為勝平自身もバランスを崩し膝をつく、ズボンが絡まり前のめりに倒れそうになるのを何とか堪えると、その目の前には。
顔から床に直で崩れていったらしい、由依がいた。

「・・・・・・気を失ってるみたい」

チョンチョンと、指先で由依の肩口をつついた後観鈴が口にする。
その間、由依はぴくりともしなかった。





力を失った由依の両手からそれぞれ拘束を外した後、勝平は改めて祐一について観鈴に問う。

「この子凄い格好だったから、祐一さんが上着をかけてあげたの」
「・・・・・・ああ、何か見覚えあると思ったら、あいつのだったのか」

660勘違い2:2007/03/14(水) 23:15:47 ID:XfQZJz1g0
由依の羽織っているジャケットに改めて視線を落とす、群青色の上着は確かに祐一が身に着けていたものだった。

「でも、そしたらいきなり祐一さんのこと刺して・・・・・・。
 で、でも、祐一さん生きてるの、死んだわけじゃない・・・・・・そうだ、こんなことしてる場合じゃないのっ」

立ち上がり駆け出そうとする観鈴の腕を掴み取る、「離してっ!」と叫ぶ観鈴に勝平はきっぱりと言い放った。

「僕が行く、お前はここにいろ」
「え・・・・・・?」

そう。もし彼の生命がまだ続いているとするならば、それに止めを刺さなければいけないから。
蔑ろにはできないあの悔しさを決して忘れてはいけない。迷いが拭えたわけではないが、中途半端にすることだけはしたくなかったから。
勝平は、目先の目標を優先するのが第一だと考えた。
そんな真剣な眼差しを受け、観鈴も半ば勢いに飲まれる形になったがゆっくりと頷き肯定の意を表してくる。

「・・・・・・分かった。祐一さんをお願い」

観鈴の願い、だがそれに対する返事はできない。
無言で廊下に出る勝平を静かに観鈴は見送った、由依が目覚める気配はまだない。

661勘違い2:2007/03/14(水) 23:16:19 ID:XfQZJz1g0
柊勝平
【時間:2日目午前2時30分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:祐一のもとへ】

神尾観鈴
【時間:2日目午前2時30分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:勝平を見送る】

名倉由依
【時間:2日目午前2時30分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】
【所持品:ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)+祐一の上着】
【状態:失神、岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】

由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

662勘違い2:2007/03/14(水) 23:30:34 ID:XfQZJz1g0
すみません、関連が抜けていました。
→712、B-4です。

663罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:03:28 ID:.ODGpUgI0
無慈悲な第三回放送により、相沢祐一の死を知らされてから約二刻程。
長森瑞佳はあの手この手を尽くして、水瀬名雪を元気付けていた。
最初は錯乱状態に戻りかけていた名雪だったが、瑞佳の懸命な励ましを受けて、徐々に落ち着きを取り戻していった。
それもこれも、死んだと思っていた水瀬秋子が存命である事が分かったからだろう。
もし秋子まで死んでしまっていたら、瑞佳がどれだけ頑張ろうとも、名雪は二度と戻れぬ狂気の世界へと足を踏み入れていた筈であった。
「水瀬さん、そろそろ出発しよ。ふぁいと、だよっ」
「それ、私の口癖……」
まだ気持ちが沈んだままであった名雪だが、瑞佳に促されどうにか立ち上がる。
このまま茂みの中で座り込んでいても、秋子とは再会を果たせない。
『頑張りなさい、名雪! 私は絶対に貴女を見つけ出してあげるから……諦めちゃ駄目よっ!』
それは幻聴か――心の中で何度も繰り返される、母親からの叱咤激励。
未だ傷付いた身で自分を探し回ってくれているに違いない母親と、少しでも早く逢いたかった。
(お母さん、ありがとう……。私、頑張るからね……お母さんは……せめてお母さんだけは、無事でいてね……)



(やれやれ……全く世話が焼ける……)
二人の少女が立ち上がるのを見て、月島拓也もすくっと腰を起こす。
名雪の中に響いていた声。それは拓也が毒電波を用い、名雪の母親の声を模して聞かせたものだった。
制限されている毒電波でも、名雪の衰弱し切った精神に侵入する程度の芸当は出来る。
名雪の精神を垣間見た拓也は、彼女にとって一番大事な者の声を借りて励ましていたという訳である。
勿論……言うまでも無い事だが、名雪の為に電波を使ったのではない。
拓也としては名雪のような役立たずなど捨て置きたかったのだが、瑞佳がそれを許さないだろう。
今は比較的容態が落ち着いているものの、瑞佳が重傷である事に変わりは無い。
治療、そして食事が必要だ。穏便に、極力早く、鎌石村を目指さなければならなかった。
「よし瑞佳、おんぶしてやるぞ」
「うん、ありがとっ」
拓也はくるっ背を向け、瑞佳も大人しく彼に身を任せた。
出会って半日と経たぬ二人だったが、彼らの間には既に本当の兄妹のような信頼関係が芽生えつつあった。

664罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:04:18 ID:.ODGpUgI0
拓也は瑞佳を背負いながら、茂みを後にし街道まで歩いてきた。その後ろを名雪が追従する形で、三人は鎌石村を目指す。
天を仰ぎ見ると、沢山の雲が上空を覆い尽くしつつあった。拓也は、雨が降り出したら厄介だな、と思った。
そんな矢先、瑞佳がぼそっと拓也に話し掛ける。
「お兄ちゃん、一つ不安があるんだけど……」
「どうした? 僕の事なら心配しないでいいぞ。こう見えても体力はあるんだ」
「そうじゃなくて、放送についてだよ。また大勢死んじゃったから、優勝を目指そうとする人が増えてくるかも……」
「……? すまん、言ってる事がよく理解出来ない。死人が増えたからって、なんでやる気に奴まで増えるんだ?」
拓也には瑞佳の危惧している内容が分からなかった。
死人が増えるという事は、それだけ多くの戦いが起きたという事。やる気になっている人間だって死んでいる筈である。
主催者を打倒するに当たって人手が減ったのは痛いが……少なくとも、主催者以外の敵は減ったのではないか。
だが拓也の疑問は、瑞佳の次の一言によって完全に払拭される。
「だって優勝したら何でも願いを叶えるって、主催者が言ってたでしょ? あの言葉を信じて、死んじゃった人間を生き返らせようって考える人も増えそうじゃない?」
「――は?」
寝耳に水といった諺がピッタリと当てはまる事態に、拓也の頭の中が真っ白になる。
「な、何だそれは……。主催者が何時そんな事を言ってたんだ?」
「二回目の放送の時だよ。お兄ちゃん、聞いてなかったの?」
「…………」
僅かの間、沈黙。そして次の瞬間には、拓也は瑞佳を抱えた手を離していた。
それまで拓也に身体を預けていた瑞佳は、反応する暇も無く地面に尻餅をついた。
「きゃっ! ……もう、どうしたの?」
突然の出来事に、事態がまるで把握出来ない瑞佳。そんな彼女の疑問に答えたのは――
「おにい……ちゃん……?」
瑞佳の眼前に突き付けられる物。それは闇夜の中悠然と輝く、八徳ナイフの刃だった。

665罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:04:57 ID:.ODGpUgI0
「瑞佳……そんな大事な事はもっと早くに言ってくれなくちゃ駄目だろ? 僕は危うく、瑠璃子を生き返らせる機会を逸してしまう所だったじゃないか」
「何を言ってるの!? あんな出鱈目、信じたら駄目だよ!」
「出鱈目? ハハハ、瑞佳は主催者の力を知らないからそんな事が言えるんだよ。このゲームを運営してる奴らは、底知れない力を持っている……。
 人を生き返らせる事だって、本当にやってのけるかもしれないぞ」
瑞佳は詳しく知らぬ事だが――主催者は、異能による力の大半を封じてしまっている。
そのような化け物じみた離れ業をやってのける主催者なら、人間の蘇生すらも不可能とは言い切れない。
実際に力を制限されてしまっている拓也がそう考えるのも、仕方の無い話であった。
「止めてお兄ちゃんっ! 今なら許してあげるから!」
「許してくれなくていいよ。僕は君を殺して……偽りなんかじゃない、本当の妹を蘇らせるんだ」
「そんな……そんなのって……」
瑞佳は目の前の光景が信じられなかった。先程まであれだけ優しかった拓也が、今は自分を殺すと言っている。
確かに主催者の提案は魅力的なものだったが……本当である筈が無い。どうして?
どうして拓也はそんなに簡単に、主催者の話を信じてしまったのだ?
極度の恐怖と混乱で視界が半ば硬直してゆき、背筋を冷たい汗が伝い落ちてゆく。



しかし――拓也は怯えきった瑞佳の表情を見て、胸のどこかがズキンと痛む感覚を覚えた。
頭の中に浮かぶのは、瑞佳の可愛い笑顔、恥ずかしがって真っ赤になった顔、そして過去の拓也が置かれていた境遇を聞いた時の泣き顔。
短くも心温まる瑞佳との一時は、拓也にとって掛け替えのない思い出の一つとなっていた。
(く……迷うな! 瑠璃子を……瑠璃子を生き返らせるには、コイツも殺さなきゃいけないんだ!)
八徳ナイフを握った拓也の手が天高く翳される。それは浩平という想い人がありながら、拓也に運命を託した瑞佳への、裁きの鉄槌のようであった。
「……じゃあね、『妹』よ」
断罪すべく振り下ろされた鉄槌が、空気を切り裂いて奔る。瑞佳は死を覚悟し、ぐっと目を瞑った。
「ぐがぁっ!?」
ところが、拓也の八徳ナイフが振り切られる事は無かった。拓也は背中を押さえて、二、三歩、よろよろと後退する。
それから拓也はくるりと半回転して、自分を襲った衝撃の正体を確かめた。

666罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:05:43 ID:.ODGpUgI0
「ぐっ……そうか……。君の存在をすっかり失念していたよ……」
瑞佳のすぐ傍に、名雪が肩を突き出す形で立っていた――つまり、拓也に体当たりを食らわせたのだ。
「水瀬さんっ!?」
「長森さん、駄目だよ。こんな人を説得しようたって無駄に決まってるんだから」
名雪は地面に落ちている大きめの石を拾い、強く握り締めて、それから言った。
「私はね、何度も殺し合いの現場に遭遇したんだよ。だから分かる……人殺しには、何を言ったって無駄なんだよ。
 殺さなきゃ殺される。だったら私は殺すよ。殺人鬼なんか殺して、それからお母さんを探しに行くっ!」
名雪の瞳に、強い憎しみの光が灯る。名雪はゲームに放り込まれて以来、ずっと『被害者』だった。
伊吹公子に肩を刺され、神尾晴子に人質として利用され、河野貴明に追い掛け回された。
そんな彼女の中に強く根付いたマーダーへの憎しみ――衰弱した彼女の精神では、芽を咲かせる事は無い筈だった。
だが皮肉な事にも、拓也が聞かせた秋子の声が、戦いに耐え得るだけの活力を名雪に与えていた。

だが、直ぐに畳み掛けなかったのは、名雪の失策だった。
非日常の世界を歩んできた拓也にとって、向けられる殺意の眼差しは逆に心地の良いものだった。
状況を把握して落ち着きを取り戻した拓也は、ナイフを構え直して、歪な笑みを浮かべた。
「自慢じゃないけど、僕は運動神経に自信がある方でね……。まずは君から壊してあげるよ」

     *     *     *

667罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:06:19 ID:.ODGpUgI0

「名雪……何処にいるの…………!?」
娘を探して島の中を駆け回る一人の母親。それは水瀬秋子という名の女性だった。
放送で、また多くの人間が死んでしまった事が分かった。名雪の名前はその中に無かったが、もう一刻の猶予も無い。
残り人数が少なければ少なくなるほど、次の放送で名雪が呼ばれる可能性も高くなるだろう。
最後に見た名雪は錯乱しきっていた。あの状態で第三回放送まで生き延びていた事が、既に奇跡だ。
絶対に、何を犠牲にしてでも見つけ出して、そして守ってやらねばならない。
「つっ……」
腹部の傷に灼けつくような痛みが走る。服の上から傷口を押さえていたにも関わらず、手が真っ赤に染まっている。
定まらぬ視界、乱れる呼吸――国崎往人によって休息を取らされなければ、とっくに死んでしまっていただろう。
水瀬秋子は自分自身の命を削りながらも、確実に娘の下へと迫っていた。

【時間:2日目・19:10】
【場所:D−8街道】
月島拓也
 【持ち物1:八徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】
 【持ち物2:トボウガンの矢一本、支給品一式(食料及び水は空)】
 【状態:背中に軽い痛み、マーダー(ただし瑞佳を殺す事には迷いがある)】
 【目的:まずは名雪を殺害、最終目標は優勝して瑠璃子を蘇らせる】
長森瑞佳
 【持ち物:なし】
 【状態:呆然、尻餅をついている。重傷、出血多量(止血済み)、一時的な回復】
 【目的:不明】
水瀬名雪
 【持ち物:大きめの石】
 【状態:やや精神不安定、マーダーへの強い憎悪】
 【目的:拓也を殺害後に秋子の捜索】

668罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:07:07 ID:.ODGpUgI0
【時間:2日目・19:10】
【場所:D−8下部街道】
水瀬秋子
 【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
 【状態:腹部重症(傷口は開いている)、出血大量、疲労大】
 【目的:何としてでも名雪を探し出して保護、マーダーには容赦しない】

→653
→710
→747

669突破口:2007/03/15(木) 13:16:10 ID:3aGA141s0
自分の一挙一動は完全に監視された密室。
そもそもここがどこなのかもわからない。
何らかの手段でここを出られたとして、その先に何があるかがわからないのだ。
確証を得なければいけない。この先を抜けてウサギ達を一泡吹かせれる何か。
もしくは確実に参加者と合流できる手段の何か。
一番重要なのは成す前に死なない事だ。
どんな画期的な案が浮かんだとしても空想論ではまったく意味が無い。
考えろ、考えるんだ――。

『そんな難しい顔をして、どうしたんだい?』
突然部屋にウサギの声が流れ始め、久瀬は思わず狼狽する。
久瀬の慌てふためく格好がよほど滑稽だったのか、ウサギが下卑た笑い声を上げる。
『くくく……まあ大方どうすればここから逃げれるかとか考えていたんだろうとは思うけどね』
「――っ!」
まさに図星だった。
動揺を悟られぬようにウサギの言葉には答えず、顔を伏せて沈黙で対立する。
『あらら、当たっちゃったかな?』
一切の返答をせず俯く久瀬に対しウサギは気にもとめない声を上げ言葉を続ける。
『別に隠さなくてもいいよ。こっちはそうなる事がわかった上で君を拉致したんだから』
ウサギの言っている意味がわからない。
逃げたいと考えるのは自由だが逃がすつもりは毛頭無いと言う事だろうか。
『いやあ前回の観測者もね、3回目放送が終わったぐらいにいきなり反抗的になりだしたからさ。
久瀬君もそろそろかなとか思ってみたりしたわけなんだな』
「……参考までにそいつはどうした?」
『ん? 気になる? 気になる? たしか暴れだして部屋の中のものを壊しだした挙句に首輪がボーンだったかな』
「…………」
笑いを含めた言い方に何も答える気が起きなかった。
むしろ怒りだけがこみ上げ、叫びだしそうになるのを両の拳をぎゅっと握り締めて耐える。

670突破口:2007/03/15(木) 13:17:01 ID:3aGA141s0
『――で、放送直後だというのに顔を出したのは他でもないんだ。また新しい仕事でも頼もうかと思ってね』
ウサギの提案に久瀬の全身が硬直する。これ以上何を自分にさせようと言うのだろうか。
『そんなに身構えなくてもいいよ。どちらかと言えばこれは今まで役目をしっかり果たしてくれたご褒美みたいなものなんだからね』
ウサギが言い終わると同時に、久瀬の座る真横の床が異音と共にゆっくりと開かれていく。
そしてそこからは一台のパソコンが置かれた机がせりあがって来たのだった。
『簡単に言えば情報操作さ。まあつけてみるといい』
突如現れたパソコンに躊躇いながらも、言われたとおりに電源をつける。
起動の間に訪れる静寂がなんとも苦痛だった。
それを感じ取ったのか、ウサギの声が再び響き渡る。
『ゲーム開始から36時間経過ってところかな。知っての通り参加者も半分以上を切った。
まだ殺し合いに参加しているものもいるとはいえ、前回の教訓から言ってもそろそろ誰も行動に移そうとしなくなるだろう――そこで君の出番だ』
丁度OSが立ち上がり画面を凝視する。
――参加者一覧表
――支給品武器一覧
――各種島内施設概要……
久瀬はデスクトップにおかれたさまざまなファイル名を憑り付かれたように眺めていた。
一心不乱にマウスを操作する久瀬の姿にウサギは満足げな声を上げる。
『その中に入っている情報は好きに使っていいし、勿論掲示板も使えるようになっているから参加者に伝えるのも自由だ』
「参加者に伝えてもいい……だと?」
『うん、簡単に説明するとね。こちらの施設にハッキングを仕掛けた参加者がいてね。
殺し合いで何が起ころうとも介入するつもりはない――ああ、一部の例外の参加者もいたけどね。だが基本的にすべてを黙認することにしている。
ゲーム内には確かに首輪の解除を示唆したものはあり、それで解除なりするのは一向に構わないのだがそれはあくまで彼らが"ルールに則ってる場合"に限る。
ハッキングなどによる私たちに不利益を齎すもので得られることではないんだよ。
気づくのが早かったおかげで侵入者はダミーを持っていって満足しているようだけどね』
「ダミー?」

671突破口:2007/03/15(木) 13:17:36 ID:3aGA141s0
『ああ、解除ではない。起爆用の手順を踏んだものさ』
「つまりその首輪を外そうとしている連中は外そうとした瞬間首が飛ぶ……と?」
『うん、そう言う事だね』
「それなら今までのおまえらのやり方なら僕にそいつらを殺して来いって命令するぐらいすると感じたんだが……。
そうするわけでもなく、参加者を助ける手伝いをさせるだと? 貴様らは一体何を考えているんだ……」
主催者の目的。それが久瀬の一番の疑問であった。だがその問いと同時にウサギは高らかに耳障りな笑い声を発しだした。
聞いているだけで嫌悪感が沸き起こり耐え切れなくなり思わず耳をふさぐ。

『――希望と、より深い絶望を……かな』

唐突に発せられたその言葉を最後にウサギの声はぷつりと途切れ、再び部屋には静寂が訪れる。

久瀬は頭を抱え、ゆっくりと状況の整理をし始めていた。
なぜ急にこんなことを言い出した?
放送で不利益なことを話すなとウサギは言っていた、これでは先ほどまで言っていたこととぜんぜん違う。
……と言う事は僕がこれを使って参加者と情報を交換することが彼らにとっての利益になるということだろうか。
中途半端に自分たちの情報を盗まれるよりは、敵側に内通者がいると思わせたほうが良いと言う事だとも推測できる。
参加者に何を伝えても良いといわれたところで自分が知りうる情報ではウサギ達に迫れるもの自体は何も無いのだから。
勿論推測の域をまったくでないが……だがこれはウサギの慢心をついた千載一遇のチャンスだった。
何もわからぬまま、恐怖に怯え、悲しみの中で、何人もの人間が理不尽な死を遂げてきた。
少なくとも何もできない状況から見えた一筋の光明……これが奴らを打ち崩す鍵になるかもしれない。
これが今自分にできる唯一の方法と判断し、久瀬はパソコンを一心不乱に操作しはじめるのだった――。

672突破口:2007/03/15(木) 13:18:09 ID:3aGA141s0
久瀬
 【時間:2日目19:00】
 【場所:不明】
 【状態:パソコンから少しでも情報を得るため行動】
 【備考:中に入っている情報は作内以外にもお任せ、ただし主催に関する情報は入ってはいない】
 【関連:→747 →755 B-13・B-16】

673case2:do or die:2007/03/15(木) 15:52:19 ID:ttSVZLeQ0

きょろきょろと辺りを見回しながら林の中を歩く、二人の青年がいた。
藤井冬弥と鳴海孝之である。

「な、なあ……やっぱり勝手なことしたらマズいって」
「だけど、このままじゃ余計にヤバいだろ」

二人は焦っていた。
オーラを放つ男―――芳野祐介との戦いから命からがら逃げ延びて以来、七瀬留美はずっと口を閉ざしたままだった。
むっつりと座り込む七瀬の醸し出す空気にいたたまれず、辺りを見回ってくるという建前で逃げてきた二人だが、
離れれば離れたで、嫌な想像が膨らむのを抑えきれないのだった。

「相当怒ってたからな……」
「そりゃま、そうだろうな……」

仲間を無為に失った。
その上、自分たちも殺される寸前で、またもや七瀬に助けられた。

「元はといえばあの子が言い出したことなんだけどな……」
「それ、面と向かって言い出せるか?」
「悪い冗談はやめてくれ」
「だな……」

顔を見合わせて、深々とため息をつく二人。

「だからこうして、歩き回ってるんじゃないか……」
「しかし、丁度いい相手といってもな……」

七瀬の怒りに対して、二人の出した結論は単純だった。
自分たちの不甲斐なさに七瀬留美は落胆し、あるいは憤慨している。
ならば、失望を吹き飛ばすだけの成果を見せてやればいい。
それはつまり、強敵に挑んで勝つということだ。

674case2:do or die:2007/03/15(木) 15:52:38 ID:ttSVZLeQ0
「強敵に勝つ……か」
「俺たちにできるのか……?」
「やるしかないだろ……。このままじゃ、教官に殺されかねん」
「いや、とにかく正々堂々と敵を迎え撃って、追っ払えればいいんだろ」
「まあ……な。この際、強敵じゃなくてもよしとするか」
「そうだな、とにかく誰かを追っ払えればそれでいい」

そうだそうだ、と頷きあう二人。
当初の目標が際限なく下方修正されていくが、気にも留めない。
よし頑張って褒めてもらうぞ、などと怪気炎を上げている。

「……ん? おい、あれ……」
「なんだ? ……お」

意気揚々と歩く二人が前方に人影を見つけたのは、そのときである。
つい先程の窮地も記憶に新しい二人、さすがに慎重に相手を見定めようと試みた。

「見た目……は、普通だな」
「高校生か……。わりとガタイはいいが……それだけっぽいな」
「それに見ろ、あの覇気の無さ」
「ああ、何があったか知らないが……すっかりしょげちまってるみたいだ」
「……よし」

顔を見合わせる。
チャンスだ、と互いの瞳が語っていた。


******

675case2:do or die:2007/03/15(木) 15:53:06 ID:ttSVZLeQ0

岡崎朋也はぼんやりと歩いていた。
長い時間を雨に打たれたその身は冷え切っていたが、省みることもなく歩き続けていた。

野晒しにされた藤林杏の無惨な骸が、脳裏をよぎる。
千切り取られた肉の赤さを思い出し、傍らの木に寄りかかって嘔吐する朋也。
もう、吐く物は残っていなかった。
涙だけが滲み出す。

行くあてなどなかった。
ただ、杏の遺骸から逃げ出したかった。それは、死の具現だった。
走り出し、すぐに息が切れた。
かつて運動部でならした体力は、すっかり失われていた。
苦笑しようとして、失敗した。
僅かに顔を歪めたまま、朋也はふらふらと歩き続ける。
雨は既にやんでいたが、頭蓋の内側にはいつまでも雨音が残響しているようだった。

だから、その目の前に二人の青年が現れたときも、朋也はぼんやりと目をやっただけだった。
何か喋っているようだったが、聞き取る気になれなかった。
人の声は、この世界に自分以外の誰かがいることを思い出させた。苦痛だった。
だから、聞かない。目の前にいるものも、生きている何かと、それだけの認識に留めた。
靄がかかったように、視界が書き換えられていく。
網膜に映った像が、朋也が見たいと望んだものへと塗り替えられていくのだった。
何か、鉛筆で塗り潰された落書のようなものが、ノイズを発している。
恐怖はなく、嫌悪もなく、ただ不快だった。
それが、岡崎朋也の見る世界のすべてだった。

676case2:do or die:2007/03/15(木) 15:53:38 ID:ttSVZLeQ0
だから、朋也は足を止めることもなく歩き続けることにした。
その果てにはきっと終わりがある。
嫌なことも、思い出したくないことも、見たくないものもない、ただの終わりがある。
そのことだけを胸に抱いて、朋也は足を進める。

ノイズを発するものに目掛けて、どこからか大きな星のようなものが飛んでも、朋也は目をやらなかった。
それは、終わることと関係ない。関係ないから、気にならない。朋也は歩く。

ノイズを発するものが一つ増えた。
関係ない。

一つ増えたノイズを発するものが、赤く染まった。
岡崎朋也が、足を止めた。

真っ赤なそれが、地面に倒れる。
じわりと、赤いものが拡がっていく。
岡崎朋也が、呼吸を止めた。
心臓の鼓動がうるさいほどに高鳴り、雨の残響を掻き消していく。

ノイズを発するものを赤く染めたのは、白い「何か」だった。
意識するなと、朋也の精神が警告を発していた。
見るな。聞くな。考えるな。思い出すな。
あれは、あってはいけないものだ。あんなものは、ないのだ。

白い虎など、いない。
ノイズを発するものを、人間を、鋭い爪で押さえ込み、剥き出した牙で食い殺す獣など、目の前にはいない。
獣などいない。直立する獣など存在しない。
全身に長い体毛を生やした人間などいない。
野獣の体に人の面影を宿すものなどいない。
ヒトの言葉を口にするような獣などいない。

「―――風子、参上」

そんな声など、聞こえない。
わからない。意味を理解しない。してはいけない。
杏は死んだ。

「う……ぅぁぁぁああああああああああああああああああああああ」

我知らず、声が漏れていた。
杏は食い殺された。知らない。
逃げなければ。逃げる理由などない。
そこにいる。そこにいるものなどない。

足は、止まらなかった。
何か恐ろしいものが、追いかけてきているのがわかった。
恐怖に涙を流しながら、悲鳴を迸らせながら。
岡崎朋也は、逃げ出した。


******

677case2:do or die:2007/03/15(木) 15:53:55 ID:ttSVZLeQ0

藤井冬弥と鳴海孝之は、困惑していた。
状況の激変に認識がついていかない。
鳩羽一樹が、突然現れた人面獣身の少女に食い殺された。
かと思えば標的たる少年はこの世のものとは思えぬ悲鳴を上げて逃げ去っていった。
そして少女もまた、それを追うように消えていた。

「……なんなんだよ……」

冬弥の呟きに、孝之が応える。

「さあな……。けど……」
「けど?」
「あいつ……女の子残して、逃げやがった……」

冬弥が、小さく眉をひそめる。

「あれ、女の子なのか……?」
「俺にはそう見えた」
「まあ、あいつを守ろうとしてたのは……確かだよな」

少年を庇うように立ちはだかった、獣少女の姿を思い起こす冬弥。
同時に、その姿を眼にするや絶叫して逃げ出した少年の姿が脳裏に浮かぶ。

「すげえ……カッコ悪かったな……」
「ああ……」
「けどさ」
「……何だよ」
「俺たちのやってきたこと、あいつとあんま変わんないよな……」
「……」
「……」

無言のまま、顔を見合わせる二人。

「……戻ろうか」

どちらからともなく、言い出していた。


******

678case2:do or die:2007/03/15(木) 15:54:18 ID:ttSVZLeQ0

「―――すんませんっした!」

大きな声が、梢を揺らした。
葉に溜まった水滴が陽の光を浴びてきらきらと輝いている。

「な、何よ突然……?」

戸惑う七瀬留美の前に、深々と頭を下げる冬弥と孝之の姿があった。

「俺たち、結構どうしようもない奴らだったな、って……」
「色々あって、思い知りました」

言葉を切って頭を上げると、冬弥は七瀬の瞳を真っ直ぐに見据える。
少し頬を染めてたじろぐ七瀬。

「え、いや、その……」
「もう一度、鍛え直してくれますか、俺たちのこと」

孝之も言葉を添える。

「いつか、教官に頼りにされるような男になりたいと思ってます。だから……」
「……」

二対の視線をしばらくじっと見つめ返していた七瀬だったが、やがて小さく咳払いをして口を開いた。

「―――これまで以上にビシビシいくわよ?」

その顔には、小さな笑みが浮かんでいた。
二人の返事が、同時に響く。

「はいっ!」

よろしい、と頷く七瀬。
だが次の瞬間、その表情は険しく引き締まっていた。

「……?」

突然のことに、また何か失態を犯したかと背筋を伸ばす二人。
しかし七瀬はそんな二人の様子には構うことなく、厳しい眼で周囲を見回していた。

「あの、どうし……」

冬弥の言葉を遮るように、七瀬が鋭い声を放つ。

「―――囲まれてるわ」

言い放った七瀬の視線の先で、木々の間からぎらぎらと光を放つ無数の眼鏡が、覗いていた。

679case2:do or die:2007/03/15(木) 15:54:48 ID:ttSVZLeQ0

 【時間:2日目午前10時30分すぎ】
 【場所:E−6】

七瀬留美
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
 【状態:漢女】

藤井冬弥
 【所持品:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
     支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
     鳴海孝之さん 伊藤誠さん 鳩羽一樹くん(死亡)】
 【状態:ヘタレ?】

岡崎朋也
 【所持品:お誕生日セット(三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)】
 【状態:絶望・夜間の変態強姦魔の記憶は無し】

伊吹風子
 【所持品:彫りかけのヒトデ】
 【状態:ムティカパ妖魔】

砧夕霧
 【残り29438(到達0)】
 【状態:進軍中】

→633 690 707 ルートD-2

680依存症:2007/03/16(金) 22:35:55 ID:cNAakmuo0

白い部屋に、時計の音が響いていた。
破壊された壁から、風だけが吹き抜けていく。
床には白く濁った液体がこびりつき、無数の小物が散乱している。
破壊された壁と窓ガラスの破片も相まって、さながら廃墟のようだった。

七瀬彰はそんな部屋の中で、膝を抱えていた。
涙はもう、枯れ果てていた。
いまだに熱の引かない身体と、どろりと黒い感情を持て余しながら、ベッドの上でぼんやりと壁を見つめている。

がらりと扉を開けて高槻が戻ってきたのは、時計の長針が真下を向いた頃だった。
膝を抱えたまま、彰が目線だけを動かす。
相変わらず焦げたようなパーマ頭に、風采の上がらない顔立ち。
どこか濁った、死んだ魚のような瞳は自分の悪感情がそう見せるのか。
知らず、彰は口を開いていた。

「お前が……」

それは、しわがれた老婆のような声だった。
泣き疲れ、叫び疲れた果ての、醜い声。
そんな声しか出せない自分に余計に嫌気が差して、彰は刺々しく言い放つ。

「お前が遅いから、こんなことになったんだ」

指差すのは、芳野祐介のミイラのような死体。
そして、破壊されつくした室内だった。
全身からかき集めた憎悪と軽蔑を視線に込めて、彰は高槻を責める。

「僕を放って、どこ行ってたのさ」

悪意だけが、声に乗っていた。

「僕を愛してるとか、言ってたくせに。危ないときには姿も見せないで、何が愛してる、だ。
 僕がどんな目に遭ったか、想像がつく? つくわけないさ、お前なんかに」

無言で立ち尽くす高槻の姿に、彰の苛立ちは加速する。

「何とか言ったらどうなのさ。言い訳してごらんよ。
 どこで何をしてたら、愛してる僕を見捨てる理由になるのかは知らないけどね」

681依存症:2007/03/16(金) 22:36:26 ID:cNAakmuo0
歪んだ笑みを浮かべて、彰は言葉を投げつける。
そんな彰を、どこか茫洋とした表情で見つめながら、高槻が小さく口を開いた。

「……すまん」
「―――何だよ、それ!」

短いその言葉に、彰が激昂した。

「お前、僕を馬鹿にしてるのか!?
 それで謝ったつもり!? この、……ふざけるなよ、お前!」

彰が、握り締めた拳で傍らの壁を叩いた。
鈍い音が室内に響いた。

「お前さあ……なんなんだよ、それ。
 僕が……僕が、どんな気持ちでいたか、わかんないのかよ……!」

身勝手な言葉だった。
それが高槻に対する甘えであると、自分でも理解していた。
そんな自分が許せず、彰の憤りは出口を見失って彼自身を灼いていた。

「冗談じゃないよ……なんなんだよ……!」

あとは言葉にならなかった。
喘鳴と、小さな叫びとがない交ぜになって、彰の口から迸っていた。
細く、高い、それは絶叫だった。

「―――!?」

が、その絶叫が、唐突に止まった。
じっと彰を見つめていた高槻が突然、彰の腕を掴み、己の方へと引き寄せたのである。

682依存症:2007/03/16(金) 22:37:04 ID:cNAakmuo0
「な……!」

何をするんだ、と言いかけた彰の声が、途切れた。
思わず息を呑んでいたのである。
少し遅れて、ガラン、と大きな音がした。
つい今しがたまで彰が座り込んでいたベッドが両断され、バランスを失って床に崩れた音であった。
ベッドの断面は、ぶすぶすと黒い煙を上げている。
高熱を伴う何かに焼き切られたのだと、彰の考えが及ぶのとほぼ同時。

「う……うわっ!」

高槻が、無言のまま彰を抱えあげていた。
途端、彰の足元から嫌な臭いが立ち込める。

「今の……光……?」

何か、光の帯のようなものが床を焼いたのを、彰はかろうじて目にしていた。
光条の飛んできた先、窓の外に目をやって、彰は悲鳴を上げた。
窓枠に、小さく細い指がかかっていた。
その向こう側にあったのは、ぎらぎらと光を反射して輝く眼鏡。
異様に広い額を持った、それは少女であった。
少女は、一人ではなかった。
いつの間に忍び寄っていたのだろうか。
窓の外、グラウンド一面に、まったく同じ顔をした無数の少女が群がっていたのである。

「ひ、ひゃああっ!?」

高槻に抱き上げられたまま、彰が暴れる。
不気味な少女たちから一歩でも遠ざかろうとする、本能的な動きだった。
だが高槻の腕は緩まない。がっちりと彰を抱え、離すことを拒んでいた。

「くそっ……降ろせよ、このっ! 僕を、僕を守れ……!」

矛盾する物言いにも表情を動かさず、高槻は彰を抱えて、開け放たれたままの扉から飛び出した。
がらんとした廊下に、次々と小さな音が響いていた。
それが、沢山の窓ガラスが割られる音だと気づいて、彰は必死に辺りを見回す。
左手、薄暗い廊下の先に、少しだけ明るい空間が見えた。昇降口のようだった。

「あっちだ、走れっ!」

指差した瞬間。

「―――そっちはダメだ! 戻れっ!」

聞き覚えのない声が、廊下に木霊した。

683依存症:2007/03/16(金) 22:38:05 ID:cNAakmuo0
突然のことに戸惑う彰の視界に、小さな光が映った。
それは高槻の足が向かう先、昇降口からのものだった。
無数の眼鏡が煌いているのだと気づいたときには、遅かった。

「と、止まれ……っ!」

彰の切羽詰った声が、空しく響く。
長く延びる廊下の直線上、遮るものは何もなかった。
彰が、光線の餌食になるために飛び込んだようなものだったと悟った刹那。

「―――鳳翼天翔!」

背後から、凛とした声がした。
同時に、頭上を何かが飛び越していくのが見えた。
彰の視界を朱々と染め上げたそれは、

「炎の……鳥……!?」

廊下の幅いっぱいに広がったそれが、彰の前方、少女たちの群がる昇降口へと翔んでいく。
直後、炸裂した。
熱風が廊下を吹き抜け、遠く離れた彰の髪を揺らす。

「今だ、走れっ!」

背後からの声が、彰の意識を引き戻した。

「た、高槻! 後ろ、……引き返してっ!」
「……ああ」

彰の言葉に従うように、高槻が踵を返す。
どこか生気のないその動きにも、彰は気を払う余裕がない。

「こっちだ!」

見れば、保健室の向こう側。小さく開かれた扉から、手招きするものがあった。
罠を警戒することもなく、彰を抱えて高槻が飛び込む。
瞬間、扉が素早く閉ざされた。

684依存症:2007/03/16(金) 22:38:34 ID:cNAakmuo0
彰がその小さな部屋に抱いた第一印象は、やけに薄暗いな、というものだった。
立てかけられた大きな旗と、頭上高く並ぶ何枚もの写真。どうやら校長室らしい。
陽射しが射しこむはずの窓が、ソファーやテーブル、棚といった機材で塞がれている。
まるでバリケードのようだった。
そしてまた、何よりこの部屋を特徴付けているのは、床一面に散乱した瓦礫の山と、

「天井が、崩れてる……?」
「ぶち抜いたんだよ」

その声に、彰が慌てて振り向く。

「……大丈夫か、あんたら」

彰たちを部屋に招き入れたと思しき者が、そこにいた。
険しい表情で扉の向こうを見やる、それは奇妙な鎧を身に纏った少年だった。
鎧下に学生服を着込んでいるらしいのが、ひどく違和感を醸し出している。

「君は……?」
「ま、話は後だ。とにかく、そいつに掴まってくれ」

言って顎で指し示したのは、天井の大穴から垂れ下がる一本のロープだった。
戸惑う彰を、鎧の少年は強引に促す。

「よし、いいぞ柳川さん。頼む」

困惑顔のまま、彰がロープを掴んだのを確認して、少年は階上に声をかける。
瞬間、彰の視界が猛烈な速度で流れた。
凄まじい力で二階へと引き上げられたのだと気づいたときには、彰はその身を投げ出されていた。

「痛ぅ……」

全身を床にしたたかに打ちつけ、顔を顰める彰。
乱暴な扱いに、文句の一つも言ってやろうと顔を上げた彰が、小さな悲鳴を上げた。

「ひ……っ!」

一階の校長室よりは幾分か広い間取りの部屋に、異形の影があった。
彰の悲鳴に、影がゆっくりと振り向く。
漆黒の肌に恐ろしい巨躯、真紅の爪とずらり並んだ乱杭歯。
見下ろすその瞳は、鮮血の赤に染まっていた。
それは、正しく伝承に伝えられる鬼、そのものの姿であった。

「ば……化け、物……!」

あまりに異様な光景に、満足に声も出せない。
尻餅をついたまま後ずさりする彰の背中が、何かに突き当たった。

「ひぁ……!」

涙目で見上げたそれは、鎧の少年であった。
いつの間に上がってきたのだろうか、階下にいたはずの少年が、震える彰を宥めるように口を開く。

「……ああ、大丈夫だ。柳川さんは敵じゃねえよ」

言いながら、鬼の腕を軽く叩く少年。
鬼が、ひどく心地良さそうに喉を鳴らし、眼を細めた。
まるで飼っている犬か猫をあやすかのような少年の姿に、彰がようやく声を絞り出す。

「き、君は、一体……」
「俺か? ……俺は藤田、藤田浩之だ。こっちは鬼の柳川さん。……あんたらは?」

浩之と名乗った少年は、奇妙な鎧を身に纏ったまま、そう問いかけた。

685依存症:2007/03/16(金) 22:38:53 ID:cNAakmuo0

【時間:2日目午前10時30分過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校・2F】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:右腕化膿・発熱】

高槻
 【所持品:支給品一式】
 【状態:彰の騎士?】

藤田浩之
 【所持品:鳳凰星座の聖衣】
 【状態:鳳凰星座の青銅聖闘士】

柳川祐也
 【所持品:俺の大切なタカユキ】
 【状態:鬼(最後はどうか、幸せな記憶を)】

砧夕霧
 【残り29218(到達0)】
 【状態:進軍中】

→522 665 690 719 ルートD-2

686その手が離れない:2007/03/19(月) 03:35:07 ID:8jO6fv920

「……ん? 何だ、柳川さんにビビってんのか?」

浩之と名乗った少年が、柳川を凝視したまま言葉もない彰を見て言う。
苦笑して、傍らの巨躯を軽くひと撫でする浩之。

「ま、無理もねーか。凶悪なツラ構えだしな。
 けどな、見た目はこんなんだけど、頼りになる人なんだぜ?」
「人……? 何がヒトなもんか!」

浩之の言葉に、尻餅をついたままの彰が噛み付いた。
表情には紛れもない恐怖と怯えが浮かんでいる。

「そんな化け物を頼りにする……? どうかしてるんじゃないのか、君は……!」

叫ぶ彰の剣幕を浩之に対する攻撃と受け取ったものか、柳川が一歩を踏み出す。
悲鳴を上げて逃げようとする彰が、無言で立つ高槻のズボンの裾を見つけ、しがみついた。
その様子を見て、浩之と名乗った少年がため息をつく。

「……ああ、いいんだ柳川さん。……すまねえが、ちょっとだけ元の姿に戻れるか?」
「タカユキ……オレ、コワイカ……?」
「そうじゃねえって。ただ時間もねーし、さっさと話を進めたいんだよ」
「ワカッタ……」

ひび割れた声で言うや、柳川の身体に変化が現れていた。
漆黒の皮膚が見る見る人肌の色を取り戻し、背も縮んでいく。
生理的な恐怖を催させる鬼面もまた、肉食獣を思わせる牙が小さくなり、真紅の瞳が鳶色へと変わる。
突然の変化に声が出ない彰の目の前で、柳川と呼ばれた鬼が、見る間にその姿を変えていくのだった。

「ふぅ……。これでいいのか、貴ゆ……いや、藤田君」

数瞬の後、そこに立っていたのは、一人の理知的な顔立ちをした男であった。
鋭い眼光を隠すように、浩之から受け取った眼鏡をかける。
全裸であることを除けば、奇妙な点はどこにも見当たらない。

「浩之でいいって。昨夜、さんざん話し合っただろ。
 ……それよりあんたら、これで納得してくれるか?」

どこか悲しげな柳川の言葉をたしなめるように言った浩之が、彰に向き直る。
思考に整理がつかず、彰は言葉を紡げずにいた。
状況の変化に追いつこうと必死な彰だったが、どうしても脳が上手く働かない。
短時間の内に起こった様々な事柄が頭の片隅をよぎっては消えていく。

「……時間がねえ。手短に状況を説明するぜ」

彰の無言を肯定と捉えたか、浩之が口を開いた。

687その手が離れない:2007/03/19(月) 03:36:06 ID:8jO6fv920
「さっきので分かったと思うが、俺たちは連中に包囲されてる。
 一人づつは大したことねーんだが、とにかく数が多すぎてキリがねえ。
 囲みを抜けてこの学校から出ないことにはジリ貧だ」

言いながら、床に小さな図を描き始める浩之。

「で、だ。この学校は、大きく分けて東西二つの棟に分かれてるらしい。
 東側が、俺たちの今いる中学校棟。で、西側が小学校棟だ」
「……それぞれ北東、北西を角にしたL字型の校舎が、北側で渡り廊下によって結ばれている。
 南側を残して校舎に囲まれた中庭があり、校舎の東西はグラウンドになっている。
 人口の割りには大仰な校舎だ」

冷静な口調で浩之の言葉を引き取ったのは柳川だった。
指の腹で眼鏡を押し上げると、図形を指して続ける。

「俺たちはヤツらに押されて中庭からここ、」

と言って東棟の南北に伸びる部分、その中央あたりを指差す。

「校長室に退避した。お前たちのいた保健室はそのすぐ南側にあたる」
「で、俺たちも色々と脱出経路ってやつを考えてたんだけどな……。
 出入り口はいくつかあるが、使えるのはほとんどねえ」
「まず西側の小学校棟はダメだ。完全にヤツらの巣になっている」

息の合った調子で交互に言葉を続ける浩之と柳川。
彰は口を挟む隙を与えられない。

「南側、正門も連中の大群がそっち側から押し寄せてきてて話にならねえ。
 東西のグラウンドを突っ切るのも難しい。開けた場所じゃ狙い撃ちにされるからな」
「……そこで、俺たちが狙うのはここだ」

柳川が指差したのは、東西二つのL字型が接触する場所だった。

「北側、職員玄関。渡り廊下の脇にある。
 ここを突破し、裏門から北へ抜けるのが最善と判断した」
「で、一階は窓から連中が入ってくるからな。
 この二階廊下を伝って職員玄関の真上まで辿り着こうってハラだ。……どうだ?」

688その手が離れない:2007/03/19(月) 03:36:32 ID:8jO6fv920
と、浩之が唐突に彰へと言葉を振る。
問われた彰は一瞬、呆気に取られたような顔をしていたが、慌てて口を開いた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。僕らにはまだ、何がなんだか……」
「あー……、いや、無理もねえが……」
「やめておけ、……浩之」

少しだけ照れたようにその名を口にした柳川が、すぐに表情を引き締めて彰の方を向いた。
冷徹とすら見える眼光に射竦められ、彰がたじろぐ。

「状況説明は以上だ。問いは一つ。我々と来るか、ここで果てるか、だ」
「おい柳川さん、そういう言い方は……」
「……」

たしなめる浩之をよそに、彰は熱で鈍った思考を必死に巡らせていた。
自身の置かれた環境、手持ちの戦力、眼前の異形。
結論は単純だった。

「……一緒に行くよ。僕たちだけじゃ、どうにもならないみたいだ」

座り込んだまま、言う。
彰に、選択肢はなかった。

「話が早くて助かるぜ。……よろしくな」

差し出された手は取らず、彰はふらつく足で立ち上がった。

「……二階にもさっきみたいなのが出たらどうするんだい?」
「出たら、つーか……現にうようよしてるけどな」

事も無げに言い放つ浩之に、彰の表情が曇る。

「心配いらねーよ。何度か戦りあって、コツは掴んでる」

ちらりと窓の方に目をやる浩之。

689その手が離れない:2007/03/19(月) 03:37:05 ID:8jO6fv920
「あいつらの……ビームか? ありゃ太陽の光を集めて発射してるみたいだからな。
 屋根のある場所じゃ、思うように力を発揮できねーらしい」
「……屋外からの光線を中継する個体を、浩之の技で遠距離から潰していけば恐るるに足らん。
 廊下の直線上では射線も限定される。撃ち合いになれば俺が浩之の盾になれる」
「ニ、三発食らっても柳川さんの身体なら、あっという間に治っちまうからな。
 頼りにしてるぜ」
「ああ、任せろ」

不敵な笑みを浮かべて拳を打ち合わせる浩之と柳川。
その仕草がどこか癇に障る気がして、彰は二人から視線を逸らすと高槻に声をかける。

「ねえ、ずっと黙ってるけど……あんたはどうするの?」
「……俺は」

ぼそりと、高槻が呟いた。
ひどく湿った、聞き取りづらい声だった。

「俺は、彰と一緒だ。……どこまでだって」
「……そう」

ざわざわと、胸の奥に嫌な感触が広がる。
陰気な声だと、彰は内心で眉を顰めていた。
こんな喋り方をする男だったかと思い返そうとして、彰は自身の思考を中断する。
自分の中に高槻という男の像を結ぶことは、何故だか屈辱のような気がしていた。
悪心を振り払うように、彰はことさら何気ない風を装いながら浩之たちに話しかける。

「……で、ここから脱け出したらどうするつもり?
 僕たちは殺し合いの最中だったはずだけど」

言いながら、彰はちらりと柳川に目をやって考える。
記憶が確かなら、柳川祐也という名はターゲットに含まれていたはずだ。
なるほど、思い出してみれば放送で言っていた通りの化け物だった。
アイスピックでどうにかなるとも思えない。

「……んなこと、後で考えりゃいいだろ。今はここから出るのが先決だ」

困ったように、浩之が言う。
考えてもいなかったのかと、彰は内心で藤田浩之という少年に対する評価を一段下げる。
たしかに自分たちとは比べ物にならない強大な戦闘力を有しているが、案外と脇は甘いようだった。
上手く扱えば面白いことになるかもしれないと、彰がそこまで考えたとき、扉の外を窺っていた柳川が
張り詰めた声を上げた。

690その手が離れない:2007/03/19(月) 03:37:24 ID:8jO6fv920
「―――どうやら、こちらに気づいたようだ。何体か向かってくるぞ」
「マジかよ……。おい、あんたら」

表情を引き締めた浩之が、彰たちを一瞥する。

「俺たちの後ろにくっついて離れるなよ。それと窓には不用意に近づくな」
「行くぞ、浩之―――!」

遮るような言葉と共に、柳川が再びその姿を変えていく。
見る間に異形の鬼と化した柳川と目配せすると、白い鎧を纏った浩之が扉を蹴り開ける。
一瞬の間を空けて、柳川が飛び出した。
途端、光の束が狭い廊下を奔る。
その数本を身体で受け止め、黒い煙を上げる柳川の背後から、浩之が火の鳥を飛ばす。
たちまちの内に、廊下は戦場となっていた。

「勝手なことばっかり言って……!」

舌打ちすると、彰が浩之を追って廊下に出ようと様子を窺う。
ほんの数瞬しか経っていないにもかかわらず、戦局は既に柳川たちの勝利に傾こうとしていた。
初撃を柳川が受け止め、浩之が的確に撃ち返す。
と見れば、浩之が炎の鳥を弾幕として展開し、稼いだ時間で柳川が傷を癒している。
見事に息の合ったコンビネーションだった。
瞬く間に、廊下の制圧が完了する。

「……今だ、出てこい!」

浩之の声に、彰が教室から足を踏み出す。高槻もまた、無言で続いた。
廊下は惨憺たる有様だった。
至るところに黒ずんだ焦痕があり、ムッとした熱気に包まれている。
そこかしこに倒れた少女たちの躯から、嫌な臭いのする煙が上がっていた。
眉を顰めながら走る彰。
と、前方の教室の扉を開けて、新たな少女たちが行く手を塞ぐ。

「数が多いな……!」

言いざま、浩之が傍らの扉を蹴り破る。
ちらりと中に目をやって、背後の彰たちに叫ぶ。

「流れ弾に当たると危ねえ、この中に隠れててくれ! ―――鳳翼天翔ッ!」

巨大な火の鳥が浩之の手の中から生み出され、飛んでいく。
前方の少女たちの何人かが、炎にまかれて隊列を乱した。
皮膚を焼け爛れさせながらも、絶叫を上げるでもなく、くるくると回転しては倒れていく少女たち。
眉筋一つ動かさずに次の火の鳥を撃ち出す浩之を、何かひどく気味の悪いもののように見ながら、
彰は教室に駆け込んだ。

691その手が離れない:2007/03/19(月) 03:37:45 ID:8jO6fv920
「―――」

薄い壁一枚を隔てて戦闘は続いているが、ここはどこか別世界のような気がした。
ひんやりとした空気を胸一杯に吸い込んで、大きく吐き出す。
深呼吸をしたら世界がくらりと歪んで、彰は自身の体調不良を思い出した。

「勝手に殺しあえ、化け物ども……」

小さく呟いて、気づく。
傍らに、音もなく高槻が立っていた。

「なに突っ立ってるのさ、気持ち悪―――」

言葉が、止まった。
高槻がその手を伸ばして、彰の腕を掴んでいた。

「いたっ……痛いって! 何だよ、離せよ……!」

もがく彰。しかし高槻の手は離れない。
それどころか、ますます強い力で彰の腕を握り締めてくる。
痛みと困惑で半ば涙目になりながら、彰が拳を固めて高槻を叩く。
しかし非力な彰のこと、熱で弱っていることも相まって高槻はこ揺るぎもしない。
ただ無言のまま、腕を締め付けてくる。

「な……何なんだよ……っ!?」

続けて罵詈雑言を投げつけるべく息を吸い込んだ彰だったが、それが果たされることはなかった。
視線は、窓ガラスに釘付けにされていた。
それは、雲間が切れ始め、時折青空を覗かせる空を背景に、そこにいた。
まるでトカゲのようだ、と彰が心のどこかで思う。
手足をべったりと硝子に張りつけて、ぎょろぎょろとした目玉で周囲を窺う、醜い蜥蜴。
あまりに非現実的な光景に、脳が状況を把握することを拒んでいた。
眼鏡の少女が、逆さ吊りにされたような格好で、窓ガラスの向こう側からこちらを、覗いていた。

692その手が離れない:2007/03/19(月) 03:38:10 ID:8jO6fv920
「―――ッ!」

上の階の窓から、何人かで手足を支えあって、ぶら下がっている。
理解した瞬間、高い音が教室内に響き渡った。
身を反らして勢いをつけた少女が、その広い額を窓ガラスに叩きつけたのである。
ガラスにヒビが入り、小さな穴が開いた。
眼鏡の向こう側で、ぎょろりと少女の目玉が動いた。
目が合った、と彰が慄いた瞬間、にたりと笑って、少女が彰の視界から消えた。

「落ち……た……?」

思わず一歩を踏み出そうとして、彰は悲鳴を上げることになる。
窓ガラスの向こう、上の階から、新たな少女がずるりとその身を現していた。
新たに降りてきた少女が、やはり身を反らす。

「やめ……、」

彰が叫ぶより早く、ガラスに開いた穴が大きくなった。
割れた破片を眼鏡の向こうの眼球に刺したまま、にたりと笑って少女が落ちる。

「あ……、ああ……」

絶句する。
高槻に掴まれたままの腕の痛みも忘れていた。
新たな少女がずるりと現れ、ガラスに額を叩きつけ、にたりと笑って落ちていく。
ずるり、ぱりん、にたり、……べしゃ。
ずるり、ぱりん、にたり、……べしゃ。

「もう……やめ……」

悪夢のような光景に、彰が弱々しく声を上げたとき。
何人目かの少女が、ついに血塗れのガラスを突き破ることに成功した。
ぐしゃり、じゃり、と、音がした。
少女が頭から教室の床に着地して、散らばったガラスの破片に額を擦りつける音だった。
少女が、ゆっくりと立ち上がる。
その顔は、やはり、にたりにたりと、笑っていた。

693その手が離れない:2007/03/19(月) 03:38:45 ID:8jO6fv920
「ひ……ああ……」

顔を鮮血で真っ赤に染めて、少女が一歩、また一歩と近づいてくる。
後ずさりしようとして、彰が呆然と横を見た。
高槻の手が、がっしりと腕を掴んでいた。

「おい……何やってんだよ……、冗談だろ……?」

彰の震える声にも、高槻はぼんやりとした瞳で見返すだけだった。
手は、微動だにしない。
少女が、次の一歩を踏み出す。

「はな、離せよ……おい……!」

ぐいぐいと、高槻の指が食い込んでくる。
血塗れの少女が、ゆっくりと手を伸ばす。

「高槻……高槻さん、やめ、助け、」

高槻のどろりと濁った瞳が、彰の泣き顔を映していた。
少女の手が、彰の肩にかけられた。

「―――ッ!!」

か細いその手は、服越しにもひどく冷たかった。
少女の、にたりと笑う表情が、彰の視界を埋めつくす。
その額、小さなガラス片が刺さったままの、たらりと血を流す広い額が、ゆっくりと輝きを帯びていく。
高槻の手は、離れない。

「―――」

少女の額が、輝きを増した。
白一色に染まった視界の眩しさに、彰が思わず瞼を閉じた。
からからに渇いた喉からは、悲鳴も上がらなかった。
煮詰められた思考の中で、すべての言葉が空回りして、何一つ浮かばず、

「―――鳳翼天翔―――ッ!」

刹那、響く声があった。
彰が目を開けて見たのは、にたりにたりと笑ったまま爛れていく、少女の顔であった。
数瞬の後、少女は燃え尽きると、ゆっくりと倒れていった。

「……っ、……はぁ……っ」

汗が、全身から噴き出した。
呼吸もままならず、その場にへたり込む。
痛いほどに締め付けていたはずの高槻の手は、いつの間にか離れていた。

「おい、大丈夫かっ!?」

声の方に、涙で歪んだ視界を向ける。
白い鎧を纏った少年、浩之が心配そうな顔で覗き込んでいた。
その姿を目にした途端、彰は己の意識が途切れるのを感じていた。
黒く染まる意識の中で、にたりと笑う少女の顔が、何故だか高槻のどろりとした瞳に重なって見えた。

694その手が離れない:2007/03/19(月) 03:39:27 ID:8jO6fv920

【時間:2日目午前10時30分過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校・2F教室】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:気絶・右腕化膿・発熱】

高槻
 【所持品:支給品一式】
 【状態:彰の騎士?】

藤田浩之
 【所持品:鳳凰星座の聖衣】
 【状態:鳳凰星座の青銅聖闘士】

柳川祐也
 【所持品:俺の大切なタカユキ】
 【状態:鬼(最後はどうか、幸せな記憶を)】

砧夕霧
 【残り28988(到達0)】
 【状態:進軍中】

→761 ルートD-2

695御堂受け:2007/03/19(月) 11:02:46 ID:omaBwL5I0
「やおいよ・・・・・・これはやおい臭よっ!」

観月マナは駆けていた。鎌石村小中学校、そこから出る電波を受信したマナの頭の中はますますピンク色になっていた。

「やおいカーニバルよ!これは激しくホモの予感よ!」

叫んだ、ひたすら自身の内に秘めたる情熱を発散した。
快感だった。何故こんなにも開放的になっているのかマナ自身気づいてはいなかったが、その欲望に忠実になる様は傍から見ても気持ちよいぐらいハッスルしていた。
走るマナの左手に抱えられている図鑑も、まるで彼女のテンションに呼応するかのごとく青い光を放ち続けている。

ふと目をやると、その光は道を指し示すかのごとく一筋となって伸びていた。
さながらラピュタの方角を表す飛行石である。

「え、何・・・・・・あっちからBL注意報?!」

図鑑の力が働くとしたら、そのような考えしか思いつかない。
ますますテンションを上げたマナは、その光に沿って全力で走り出すのだった。





一方芳野祐介に惨敗した御堂は、裸身で森の中を進んでいた。
この格好を何とかするためにも、一刻も早く何かしらの衣服を手に入れなくてはいけない。
島の地形は覚えている、人の集まりやすいどこかの村にでも行けば簡単に入手できると彼は踏んでいた。

参加者に関しての知識もそれなりに入手はしてある、芳野といったイレギュラーはそんなに多くもないはずだ。
もう負けるわけにはいかない、負ける気もない。

696御堂受け:2007/03/19(月) 11:03:32 ID:omaBwL5I0
御堂は一度自分で頬を強く打ち、気合を入れなおした。
次に襲うとしたら、女ではなく男でなくては意味がない。あくまで目的はみぐるみを剥がすことだからだ。

「うおおおぉぉぉ見つけたわよズリネタあぁぁぁぁぁぁ」

そんな時だった、前方から咆哮が鳴り響いたのは。
とうっ!とさながらライダー戦士の如く軽い身のこなしで現れた少女は、黒いツインテールを揺らしながら御堂の行く手を塞ぐように彼の前に仁王立つ。
彼女の手には、見覚えのある冊子が握られていた。それが全てを物語る。

「ほほーぅ? こんな所でBLのお嬢に会えるとは奇遇だなぁ」

ニタリと、獲物を捕らえるかのごとく鋭い視線を御堂は送る。
しかしマナはそれを逆に嘗め回すかのように、逆に視姦し返した。

「嬢ちゃん、中々に肝が座っているようだなぁ。これは面白くなってきたぜぇ」
「・・・・・・け」
「はぁ?」

御堂の問いに答えることなく、マナは小さく呟いた。
そして、今一度。今度は人差し指を突きつけながら、宣言する。

「あんたは受け!!」
「何ぃ?!」 ガビーン

ちなみに、いつの間にかマナの背後に集まった見覚えの集団も、一緒に復唱し始めた。

『ミドウウケッ!』
『ミドウウケッ!』
「ちょ、お前ら腐女子だったのかっ?!!」

御堂さんある意味ピンチです。

697御堂受け:2007/03/19(月) 11:03:58 ID:omaBwL5I0
【時間:2日目午前10時15分】
【場所:D−6】

観月マナ
【所持品:BL図鑑・ワルサー P38・支給品一式】
【状態:瑠璃子の電波により頭の中が桃色カーニバル・BLの使徒Lv1(クラスB×3)】

御堂
 【所持品:なし】
 【状態:全裸】

砧夕霧
 【残り28988(到達0)】
 【状態:進軍中】

(関連・527・719)(D−2ルート)

698満足:2007/03/19(月) 12:35:26 ID:Pu/JvNCA0
「はっ……はっ……」
長瀬祐介は走っていた。体力がある方では無いのに、身体を酷使して走り続けていた。
何故祐介がここまで焦っているのか――それは、第三回放送を聞いたからだ。
悪夢のような放送で、柏木一家の名前が一気に告げられてしまった。ただ一人、初音を除いて。
全てを失った初音がどうするか――考えるまでも無い。
自分の身の危険など顧みず、悲劇の元凶となった有紀寧を倒そうとするだろう。
しかしあの恐ろしい有紀寧に初音が勝てるとは露ほどにも思えない。
有紀寧と初音が戦えば、確実に初音は殺されてしまう。一刻も早く、初音を見つけて保護しなければならない。
(初音ちゃん……どうか早まった真似はしないでくれっ……!)
祐介は駆けた。氷村川の中を、ただひたすら駆け回り続けた。
  
   *     *     *

699満足:2007/03/19(月) 12:36:46 ID:Pu/JvNCA0
倉田佐祐理、七瀬留美。二人の背筋を、冷たい汗が伝い落ちてゆく。
眼前には勝ち誇ったような笑みを浮かべる宮沢有紀寧。そして有紀寧に銃を突き付けられている、藤井冬弥の姿があった。
「では武器を――そうですね……鞄に入れて、こちらに投げてもらえますか?」
その声は弾むように、愉しげに――有紀寧が武装解除を要求してくる。
装備を手放せばこの後どうなるか、火を見るより明らかなように思えたが、それでも冬弥を見捨てる事など出来ない。
留美は手に持っていたS&W M1076を、佐祐理は握り締めていた投げナイフを、指示通り鞄に仕舞った。
「素直で助かります。さ、早くその鞄をこちらに……」
「駄目だ! そんな事をしたら、全員殺されるっ!」
有紀寧の言葉を、冬弥の懸命な叫び声が遮る。
(――余計な事を!)
有紀寧は不愉快気に表情を歪めた後、銃口をゴリゴリと冬弥の後頭部に押し付けた。
「自分の置かれている状況を、理解していらっしゃらないようですね。余り余計な事ばかり言っていると、つい撃っちゃうかもしれませんよ?」
「そうよ……悔しいけど藤井さん、ここは有紀寧の言う通りにして!」
冬弥の仲間である留美ですら、有紀寧の弁護をしていた。にも関わらず、冬弥は―ー
「……撃ちたきゃ撃てよ」
「藤井さんっ!?」
留美の目が見開かれる。冬弥は大きく息を吸い込んで、それから叫んだ。
「俺は守りたい人を守れないなんてもう嫌だ! 留美ちゃん、俺に構わず逃げてくれっ!」
「――――ッ!」
留美の身体がピクンと硬直する。本当は冬弥の言い分の方が正しいのは、留美にも分かっていた
ここで有紀寧に従った所で、全員殺されるだけだ。それより犠牲を一人で抑える方が、何倍もマシというものだろう。

700満足:2007/03/19(月) 12:37:21 ID:Pu/JvNCA0
一方で有紀寧は、相変わらず冷静を保ったままに思考を働かせ、思った。
(『俺に構わず逃げろ』……馬鹿ですか? 死んだら何にもならないし、本当に捨て身の覚悟なら、私を倒させようとするべきじゃないですか)
捨て身で、冬弥を犠牲にして戦えば、恐らく留美達は有紀寧を倒せるだろう。
だが冬弥達は全員が全員、この極限状態の最中で正常な判断を下せる余裕が無い。
そう考えた有紀寧は、素早く選択を投げ掛けた。
「――だそうですが、どうします? この方を犠牲にして逃げ延びるか、武器を渡すか、お選びください」
有紀寧としては、ここで三人全員始末しておきたかった。
それでは何故、冬弥を見捨てて逃げるという方法を、敢えて自分から提示したのか。理由は簡単だ。
留美達の思考を、冬弥を見捨てるか、武器を手放すかの二つに絞らせる為だ。
下手に他の事を考えさせて、真の正解である有紀寧の打倒という結論に思い至られては堪らない。
(さて、どう出ますかね――?)
暫しの間続く沈黙、それは留美の呟いた一言によって破り去られる。
「……駄目よ」
「留美ちゃんっ!?」
冬弥が驚きの声を上げるが、それを無視して、留美は張り裂けんばかりに叫んだ。
「折角藤井さんとまた会えたのに……分かり合えたのに……そんなのってないよ!」
「留美ちゃん……」
留美の大きな瞳には涙が滲んでおり、その肩は震えている。
有紀寧は最高の戦果が得られる事を確信し、唇の両端をぴんと持ち上げた。
「鞄なら渡すわ! だから藤井さんは……藤井さんだけは、助けてあげてっ!」
「良いでしょう。では今度こそ鞄をこちらに投げてください」
留美と佐祐理が、緊張した面持ちで、しかしはっきりと頷き合う。

701満足:2007/03/19(月) 12:38:19 ID:Pu/JvNCA0
彼女達が鞄を投げようとした、その時だった。
一つの感情に支配された少女の足音が、近付いてきたのは。
「……やっと見つけたよ」
かつて有紀寧の傀儡として、良いように利用され続けてきた少女――柏木初音が駆けつけてきたのは。
この場にいる全員が目を丸くして初音を見ていたが、すぐに有紀寧だけは事情を把握した。
「放送――聞いたよ。耕一お兄ちゃんも、千鶴お姉ちゃんも、梓お姉ちゃんも、皆死んじゃった」
底冷えするような声で、初音が言葉を紡ぐ。何の事は無い――初音は、復讐しにきたのだ。
しかし初音の性格を一から十まで把握している有紀寧は、余裕の笑みで応えた。
「ご愁傷様です。ですがそれ以上近付かない方がいいですよ……あまり近寄られると、この方が死ぬ事になりますから。
 初音さんが人の命を見捨てる事が出来ないお人好しだという事は、分かっていますよ?」
それは絶対の自信を持った推論。あの初音が見ず知らずの人間とはいえ、人の命を犠牲にするとは思えなかった。
しかし初音は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、腹を抑えて笑い始めた。
「あは……あはは……あはははははっ…………!」
「……?」
何が可笑しいのか全く理解できず、訝しげな表情を浮かべる有紀寧。
初音の笑い声は何故かとても不気味な物に感じられて、この場にいる誰もが、愕然としていた。
笑い声がピタリと止んで――初音は、物の怪のようなおぞましい眼つきで睨みつけた後、言った。
「馬鹿だね、有紀寧お姉ちゃん。全てを失った私が――そんな事で止まる訳ないじゃないっ!」
「――――なっ!?」
初音は鋸を右手で強く握り締めると、地面を蹴って、一直線に有紀寧の方へと疾走した。
その俊敏な動作には、何の迷いも有りはしない。

702満足:2007/03/19(月) 12:39:34 ID:Pu/JvNCA0
「血迷いましたかっ!」
有紀寧は素早くコルトバイソンの銃口を向け、その瞬間にはもう引き金を引いていた。
照準を碌に定めなかった銃弾は、狙った場所とは着弾点のズレが生じ、初音の左腕を貫いていた。
左肘の半分が消失し、そこから下の腕はだらりと垂れ下がるだけとなっていたが――初音は止まらなかった。
「アアアアアァァァッ!」
咆哮を上げて、夥しい血を噴き出す左腕を意にも介さず、初音が斬り掛かる。
有紀寧はその一撃を、後ろに飛び退く事で何とかやり過ごした。
(……ここまでですね)
幸い初音と自分以外の三人は状況の変化についていけず、呆然としてしまっているようだが、それもほんの数秒しか保たぬだろう。
このままこの場に留まれば、四人の集中攻撃を受けて死ぬだけだ。
有紀寧はすぐに踵を返して、留美達とは正反対の方向へと駆け出した。
「逃がすもんかぁ!」
鬼気迫る形相でそう叫ぶと、すぐに初音も有紀寧の背中を追って走り始めた。
(く……まさか、こんな事になるなんて……!)
有紀寧は初めて自分が死の危機に瀕している事を悟り、脳がじじりと焼け付くような感覚を覚えた。
足音から判断するに、今の所追って来ているのは初音だけだが、他の三人が追撃を選択しない保障は何処にも無い。
リサはいつ戻ってくるか、分からない。自分一人で……この絶望的な死地を凌がなければならないのだ。
(こんな所で死ぬ訳にはいきません……。策を――戦局を覆す策を、考えなければ……)
まずは地の利を取らなければならない。
過剰なまでに保身を優先する有紀寧は、自分の留まる家の構造――とりわけ逃げ道に関しては、特に注意深く調べている。
正面勝負では勝ち目が無い以上、それを利用するしかない。
この付近で構造を熟知している民家は一つ。祐介捜索の名目で初音を切り離した、あの家だ。
あそこに逃げ込んで、まずは玄関の鍵を閉める。
初音はすぐに回り込んで、窓を割って中に侵入してくるだろうが、二ー三十秒は時間を稼げる筈だ。
その間に――

703満足:2007/03/19(月) 12:40:20 ID:Pu/JvNCA0
   *     *     *

地面に膝を付いたまま、走り去る有紀寧達の背中を呆然と見送る冬弥。
急展開の連続で思考が付いていかなかったが、とにかく助かったのだ。
冬弥はすくっと立ち上がって、留美と佐祐理の方へ振り向いた。
「よく分からないけど、今がチャンスだ。留美ちゃん、それから……倉田さん、で合ってるかな。早くこの場を離れよう」
柳川が足止めをしてるとは言え、余り長居をすると、リサ・ヴィクセンが舞い戻ってくるかも知れない。
人数こそ勝っているが、アサルトライフルを持つリサを相手にすれば、全滅は避けられないだろう。
ここは深追いせずに、柳川の指示に従って逃亡に徹するのが最良だ。
それなのに――留美が俯いたまま、ゆっくりと呟いた。
「……待って。あの子、長瀬さんの言ってた初音ちゃんだよね。今私達が逃げたら、あの子絶対殺されちゃうと思う……」
見た所有紀寧は飛び抜けた戦闘能力は持っていないようだが、銃を持っているし、何よりも様々な謀略を駆使する。
初音一人では、勝ち目が無いのは明らかだった。
留美はバッと顔を上げて、それから強い調子で言った。
「私、人が殺されるのを黙って見過ごすなんて嫌だよ……助けに行こう! それに今ならきっと、有紀寧を倒せるわよ」
確かに留美の言い分にも一理ある。危険は伴うが、今は有紀寧を倒す絶好の好機でもあるのだ。
どちらを選ぶにせよ、時間的な余裕は全く無い。冬弥はすぐに思考を纏め、口を開いた。
「……分かった。留美ちゃんが望むのなら、手伝うよ」
留美は真剣な表情で頷いた後、視線を佐祐理に向けた。
「佐祐理も良い? 怪我は大丈夫……?」
「はい、佐祐理も行きます。柳川さんに守られているだけでは、私何の為にいるか分からなくなりますから」
肩の怪我の影響か顔色が優れない佐祐理だったが、それでもはっきりと頷いた。
三人はもう一度頷き合い、そして有紀寧が走り去った方向へと駆け出した。

704満足:2007/03/19(月) 12:41:06 ID:Pu/JvNCA0


「くそっ……何処に行った……!」
冬弥が苛立ちを隠せない様子で毒づく。
有紀寧と初音が走り去ってから、冬弥達が追跡に移るまで、時間にすれば三十秒にも満たない。
しかし陽が落ちてしまい、すっかり見通しが悪くなった視界では、二人の姿を捉えるのは叶わなかった。
ただがむしゃらに民家の密集地帯を走り回る三人。
たまに聞こえてくるのは、柳川とリサが戦いによるものであろう銃声のみ。
もう有紀寧と初音は別の場所に行ってしまったのかも知れない――そう思い始めた矢先。
「……っ!?」
ガラスか何かが割れたのだろう、派手な音がすぐ近くの民家から聞こえてきた。
「あっちよ!」
留美達は一目散に、その音の出所に向かって、夜の静寂をかき乱す足音で疾走した。
古ぼけた和風の民家を囲む背の高い塀を避けて、正面の門へと駆け込む。
玄関に辿り着いた冬弥が力一杯、扉を開こうとするがビクともしなかった。
「駄目だ、閉まってる!」
一目見た所、この家の玄関を塞ぐ扉は頑丈な作りであるようだった。
三人は早々に正面からの侵入を諦め、裏庭へ回り込んだ。
そこで、留美達はさっき聞こえた音の正体を知った。庭に面した大きな窓が、粉々に割れていたのだ。
十分過ぎる程の大きさである穴が開いていたので、そこを通って民家の中へと入り込む。
入る瞬間に外の方から一際大きな爆音と閃光が発されていたが、三人はそれを無視した。
「……暗いですね」
家の中は薄暗く、視界が非常に悪いので、佐祐理が懐中電灯に火を灯そうとする。
しかし留美が無言のままに手を伸ばして、佐祐理の行動を制止した。
懐中電灯などつけてしまえば、こちらの居場所を敵に教えているようなものなのだ。
懐中電灯を鞄へ戻した後、三人は息を潜めて周囲を観察する。
微かに漂う血の臭いが、この家が決戦の地である事を顕著に表していた。

705満足:2007/03/19(月) 12:42:11 ID:Pu/JvNCA0

(これは……)
留美に肩を叩かれ、冬弥が彼女の視線を追うと、床に丸い赤の斑点――怪我を負っていた初音のものであろう血が零れていた。
三人が血の道標に従って、抜き足差し足で廊下を進むと、すぐに個室の扉の前に辿り着いた。
その扉の隙間から漏れている明かりが、この中に初音と有紀寧がいる確信をもたらす。
留美達はごくりと唾を飲み込んだ後、各々の武器を手に勢い良く扉を開け放った。
「――――っ!?」
和風の広間の中央部に立っていた初音が、驚いた顔でこちらに振り向く。
既に腕の傷口から多くの血を失ったのであろう――その顔色は蒼白となっており、額には大量の汗が滲んでいた。
初音は留美達の正体を確認するとすぐに顔を戻し、何かを探すようにきょろきょろと首を回し始めた。
部屋の中に初音以外の――つまり、有紀寧の姿は見当たらなかった。
冬弥が恐る恐る、初音に言葉を投げ掛ける。
「――なあ、有紀寧は何処へ行ったんだ?」
「……分かんない。でもこの部屋の方から音がしたから、何処かに隠れてると思う」
初音は冬弥に背を向けたまま、それだけを答えた。
――この部屋に隠れている?
冬弥達は部屋の中を見渡したが、あるのは開け放たれたクローゼット、小さなベッド、タンス……とても隠れる場所があるとは思えない。
しかしもし、何処かに身を潜めているとすれば、今も有紀寧はこちらの様子を――そこまで思い至った瞬間、冬弥が叫んだ。
「まずいっ、今すぐこの部屋を出るんだっ! 狙い撃ちにされるぞ!」
その一言に、留美が大きく息を飲んだ。
有紀寧は銃を持っていた――こんな所で右往左往していては、良い的になってしまう!
冬弥の言い分を全員が素直に聞き入れ、彼らは弾かれたように部屋を飛び出した。

706満足:2007/03/19(月) 12:42:53 ID:Pu/JvNCA0
「あの女、何処に隠れたのよ……!」
廊下まで後退した留美が、扉の向こう側にある部屋を観察しながら苛立った声で話す。
あの部屋に窓らしき物は無かった。となると、確かにあの中に有紀寧はいる筈である。
全員で部屋の中を隈無く探せば直ぐに見つかるだろうが、そんな事をすれば一人か二人は、確実に射殺されてしまうだろう。
留美が少しばかり思案を巡らした後、悔しそうに言葉を漏らした。
「……ここは退きましょう。条件が不利過ぎるわ」
逃げ道の無い部屋に有紀寧を追い詰めたこの状況は絶好の好機だったが、仲間の命には変えられない。
佐祐理と冬弥は直ぐに頷いた。しかし初音だけは、留美の提案に大きく首を振る。
「お姉ちゃん達が誰か知らないけど……私は逃げないよ。私は有紀寧お姉ちゃんを殺せれば、死んだっていいもん」
左肘から今も血を垂れ流し続けながら、掠れた声で話す初音。
自分が死んでも相手を殺す――それは、留美が理想としている道とはまるで正反対の考えだった。
「ちょっと、何を言ってるのよ! そんな……」
今にも掴みかからんばかりの勢いで留美が猛る。
そこで背後から、ガチャッと撃鉄を上げる音が聞こえた。
「あらあら……お喋りしてるなんて随分余裕ですね」
「――――ッ!?」
心臓がドクンと一際大きな鐘を打つのを感じながら、冬弥達は後ろを振り向いた。
そこには、まだ部屋に隠れている筈の宮沢有紀寧が、コルトバイソンを構えて立っていた。
銃口は――留美の方を向いている。
冬弥が半ば反射的に留美の前へ躍り出て、その瞬間にはもう有紀寧が撃っていた。
留美を貫く軌道で飛来した銃弾は、冬弥の腹部に吸い込まれてゆく。
有紀寧は冬弥の腹の辺りが赤く染まるのを見て、酷く歪んだ笑みを浮かべた。

707満足:2007/03/19(月) 12:43:48 ID:Pu/JvNCA0
――有紀寧の用いた作戦、それはクローゼットの中、天井部分にある屋根裏部屋への入り口を使う物だった。
開け放たれたクローゼットの中に、相手が隠れていると疑う者はいないだろう。
外から見る分には、屋根裏部屋への入り口があると気付かれる事はない。
それを利用して、わざとクローゼットの扉を開けたまま屋根裏部屋へと昇った。
続いて秘密裏且つ迅速に屋根裏を移動して、冬弥達の背後に回ったのだ。
作戦は見事的中、完全に敵の隙をつく事に成功した。
敵の中で唯一銃を持っている少女を狙い、男が身代わりとなった。
だがお人好しの多いこの島だ、そのくらいの事態は当然想定している。
男が倒れた瞬間に、後ろで呆然としているであろう銃持ちの少女を、今度こそ射抜けば良いのだ。


しかし――有紀寧はすぐに驚愕で目を見開く事となった。
「あ……ありえない……」
笑みの消えた唇から、呆然とした声が漏れ出る。
間違いなく冬弥は腹を撃たれ、顔を歪めていたが――倒れなかったのだ。
冬弥がかっと目を見開き、叫んだ。
「みんな、今だっ!!」
その一言で、止まっていた場の時間が動き出した。冬弥の横から猛然と初音が飛び出してゆく。
すぐに有紀寧は踵を返して、玄関の方へと脱兎の如く逃亡する。
遅れて留美が有紀寧の背中を狙おうとしたが、初音の身体が邪魔で引き金を引けなかった。
冬弥は鞄で自分の腹部の辺りを隠した後、留美の肩を掴んで静かに言った。
「あの初音って子には気の毒だけど……俺達は長居し過ぎた。リサが戻ってくる前に、この場を離れよう」
「確かにもう、仕方ないと思う……って藤井さん、大丈夫なのっ!?」
慌てて留美が尋ねると、冬弥は笑みを作って見せた。
「大丈夫、ちょっと血が出てるけど急所は外れてるさ。それより急ごう、時間が無い」
銃で撃たれた傷が浅い訳が無いが、この様子ならば大事には至らないだろうと、留美は思った。
冬弥は強引に留美の手を引いて、足を進め始めた。

708満足:2007/03/19(月) 12:44:26 ID:Pu/JvNCA0


冬弥が先頭に立って、どんどんと村の中を進んでゆく。
民家の密集地帯は見えない位置まで遠ざかり、氷川村の最上部に位置する街道が見えてきた。
「あの……藤井さん。怪我の治療をなさった方が……」
「心配してくれてありがとう、倉田さん。でももう少し先に進んでからにしよう」
冬弥は平然とした――少なくとも、薄暗い闇夜の中ではそう見える顔で、答えた。
佐祐理の肩の傷は、歩きながらも傷口の横を包帯で強く縛り付けて、止血だけは行った。
しかし冬弥は先程からこの調子で、佐祐理や留美が治療を申し出ても、一向に聞き入れようとはしない。
それからも冬弥は速度を緩める事なく足を踏み出してゆき、やがて街道を通過して薄暗い森の中へと入っていった。
「藤井さん、もう良いでしょ?怪我を……」
「まだだ。もう少し進もう」
また治療するよう留美が話し掛けたが、冬弥はまるで取り合わない。だがここまでリサが追ってくる、という事は無いだろう。
「もう、何を焦ってるの?」
留美は強引に冬弥を立ち止まらせようとその肩を掴み――途端に、冬弥の身体が崩れ落ちた。
そのままどさっという音を立てて、冬弥が背中から地面に倒れ込む。
「――冬弥さんっ!?」
留美は冬弥に駆け寄り、その頭を抱き起こした。
佐祐理も留美と同様に駆け寄って、それから彼の腹に押し付けられた鞄を引き剥がす。
「ああ……あああっ…………」
佐祐理の喉の奥から、意図せずして掠れた声が絞り出された。
冬弥の服は――小さな穴を中心に、真っ赤で大きい染みを作り上げていた。
留美が慌てて冬弥の服を捲り、大きく目を見開いた。
鮮血、深い傷口、その奥底に見える赤黒い何か――どう見ても、致命傷だった。

709満足:2007/03/19(月) 12:45:13 ID:Pu/JvNCA0
「藤井さん……藤井さんっ! どうしてこんな酷い怪我、隠してたの!?」
留美が悲痛な声で叫んだ。冬弥が一回吐血してから口を開く。
「隠してたのは、謝るよ……。でも、ああしなきゃ……留美ちゃんは、逃げようとしてくれなかったろ?」
冬弥の怪我がどれ程の物か知れば――留美が放っておく訳が無い。危険を顧みず、その場で治療しようとしただろう。
そんな事をすれば、銃声を聞いて駆けつけたリサ・ヴィクセンに、全滅させられてしまう可能性が非常に高い。
冬弥はそれを分かっていたからこそ、痩せ我慢をしたのだ。
「いいかい、留美ちゃん」
冬弥は焦点の定まっていない目で、しかしはっきりと留美の目を見据えながら言った。
「俺が死んでも復讐しようだとか、絶対に考えないでくれ。俺は一度復讐鬼に成り下がった……だからこそ分かる。復讐なんて下らないものだよ」
留美がポロポロと大きな瞳から涙を零し、絶叫した。
「死んだらなんて、縁起の悪い事言わないでよ! 死ぬなんて駄目、絶対駄目よっ!」
「……留美ちゃんだって、分かるだろ?俺の怪我は……、もうどうしようもないって……」
ごほっと一際大きな堰をして、冬弥が大量の血を吐き出した。
「藤井さんっ! 嫌ぁぁっ!」
静かな森に泣き声はよく響いたが、留美は構わず泣き喚いていた。
「泣かないでくれ……、留美ちゃん……。俺は、満足してるんだからさ……」
「…………え?」
留美の涙で滲んだ視界の中で――冬弥は笑った。苦しそうに、それでも笑っていた。
「理奈ちゃんも……はるかも……由綺も……まもれなかったけど……最後に……君を、守れた……」
「わた……し……?」
「ああ。るみちゃんを……かばって、死ねるなら……本望……さ……」
その言葉を聞いて、留美の瞳から一層強い勢いで涙が溢れ出し、ぽたぽたと冬弥の顔に零れ落ちた。

710満足:2007/03/19(月) 12:46:04 ID:Pu/JvNCA0
「……なあ、留美、ちゃん」
今にも消え入りそうな声で、冬弥が言葉を押し出した。
「……さっきの俺、格好良かった、かな?……あの世で、由綺に……かおを、合わせられるくらい、男らしかった、かな……?」
留美はごしごしと服の袖で涙を拭き取り、冬弥に口付けをした――血の味だった。
それから大きく息を吸い込んで、叫んだ。
「あったりまえじゃない!! 藤井さんは本当に……胸が締め付けられるくらい格好良かったわよ!」
冬弥は目をとじて、ニコッと微笑んだ。
「……よかった」
それが最後の言葉だった。冬弥の唇からはもう、何の言葉も発されなかった。
「――冬弥さん?」
冬弥の身体を大きく揺すったが、その身体はぴくりとも動かない。
留美は冬弥の身体に覆いかぶさって、声にならぬ嗚咽を上げ続けた。


――藤井冬弥がこの島で成した事は決して多くない。
元の生活での知り合いは、誰一人として救えなかった。
唯一生きたまま出会った弥生も、冬弥と弥生、双方の裏切り行為という最悪の形で決別してしまった。
コインの出目などというものに身を委ね、罪の無い者を何人も殺してしまった。
それでも、最後に決めた目標……留美を守るという事。
それだけはやり遂げたから。精一杯、その道を貫いたから。
藤井冬弥は、満足した顔のままにこの世を去った。

711満足:2007/03/19(月) 12:47:21 ID:Pu/JvNCA0
【時間:2日目19:35】
【場所:H−7】
倉田佐祐理
【所持品1:支給品一式×3(内一つの食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【状態:やり切れない思い。左肩重症(止血処置済み)、まずは教会へ移動】

七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、あかりのヘアバンド、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(2人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:涙。人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無、まずは教会へ移動】

藤井冬弥
【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
【状態:死亡】


【時間:2日目・19:15】
【場所:I-7】
柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:有紀寧を追跡中、何としてでも有紀寧を殺害、左肘が半分欠損、出血大量、首輪爆破まであと13:35(本人は37:35後だと思っている)】

宮沢有紀寧
【所持品①:コルトバイソン(2/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品②:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:逃亡中、前腕軽傷(治療済み)】


【時間:2日目18:30頃】
【場所:I-7】
長瀬祐介
【所持品1:100円ライター、折りたたみ傘、金属バット・ベネリM3(0/7)・支給品一式×2、包丁】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手】
【状態:後頭部にダメージ、疲労大、ロープ(少し太め)で木に括り付けられている。有紀寧への激しい憎悪、全身に軽い痛み】
【目的:初音の救出、その後は教会へ】

→728
→737
→751

712満足:2007/03/19(月) 14:48:17 ID:Pu/JvNCA0
>>710
>「――冬弥さん?」

「――藤井さん?」

に訂正お願いします
お手数かけて申し訳ございません
ってか最後の台詞を間違うのは最悪だ……orz

713名無しさん:2007/03/19(月) 14:58:16 ID:K.VZROrA0
どんまいですよー
後差し出がましいかもですが708にも留美が冬弥呼ぶところで名前になっていたので多分訂正ではないでしょうか?

714満足:2007/03/19(月) 15:18:44 ID:Pu/JvNCA0
指摘ありがとうございます
>>708
>「――冬弥さんっ!?」

「――藤井さんっ!?」
に訂正お願いします
重ね重ね申し訳ございません

715葉子の野望:2007/03/20(火) 01:11:25 ID:PGGQTXMA0
遠くで断続的に響く銃撃音を背に、一人の女性が脚を引きずりながら村の外れへと歩いていた。
彼女は右脚の痛みを堪えながらもできるだけ早足で進む。
(この村から早く離脱した方がいいですね)
鹿沼葉子は戦闘に巻き込まれないよう氷川村を彷徨う。
そのうちに村の西のはずれに至った。
ここから先は当分民家は見当たらないようだ。
時間からして天沢郁未は他の村へと行ってしまったのかもしれなかった。
銃がなく、しかも走れぬこの体では戦うに戦えない。
どこか人気の無いところに潜んで傷を癒した方がいい、葉子はそう考えた。
地図を見ると潜伏に適した場所──鹿野神社があった。
傷ついた脚を休めることなく再び歩を進める。
第三回の放送が流れたのは麓から三分の一ほど来たあたりであった。

(郁未さん、あなたともあろう人が……逝ってしまったのですね)
膝の力が抜け膝立ちになり、そのままがっくりと手をつく。
四つん這いになりながら、葉子は唇を噛み締めた。
涙が零れ落ち、アスファルトに黒い染を作った。
少年、そして邪魔をしてくれた芳野祐介も死んだ。

知り合い──FARGOの関係者といえば、もう高槻しかいない。
(あの男のことだから殺し合いに乗っているのは間違いないわ)
しかし──
もし出会うことがあっても高槻と組もうとは思わなかった。
葉子にとって下卑た笑いが印象に残るその男は、思い出すだけでも不快以外何ものでもなかった。

(あのコは名前は何だったかしら……そういえば聞いてなかった。でも、もう生きてはいないでしょうね)
せっかくの初物になるはずだった少女──長森瑞佳。
なぜか、もし生きていたら会って話がしてみたい気がしたが──
「バカバカしい。私としたことが何をつまらないことを考えてるのでしょう」
郁未の死は葉子の士気に多大な喪失感を与えていた。

716葉子の野望:2007/03/20(火) 01:12:56 ID:PGGQTXMA0
山の中だけに鷹野神社に辿り着くよりも早く、あたりは夜の闇に支配されていた。
境内に入り社の扉を開け、懐中電灯で中を照らしたが誰もいないようである。
蝋燭に火をともすと暖かな灯りが部屋の隅々の状態を浮かび上がらせる。
疲れた体を横たえようとした時、葉子は違和感をおぼえた。
(──生活感がある。誰かここに居たんだわ!)
すぐに火を消し気配をうかがう。
鼓動が高鳴り頬を汗が滴り落ちた。
メスを手に何の気配も感じないことを確認すると外に出る。
どこかいい所はないものかと見渡すうちに、意外な隠れ場所があった。
(フフ、ここなら安全ですね)
葉子は懐中電灯を照らしながら社の床下へと潜り込んで行った。

真ん中あたりまで来ると風は吹き込まず暖かい。
食事を摂ろうとデイパックを漁るうちに意外なことに気づく。
今夜の分を最後に支給品のパンはもうなかった。
翌日は食料をどこかに調達しに行かなければならない。
(平瀬村か鎌石村へ行ってみようかしら。それとも……)
距離からすれば氷川村の方が若干近いが、今日の当事者がまだ残っているかもしれなかった。
少なくともゲームに乗った者達とは会いたくなかった。
(まあいいわ。明日になってから考えましょう)

パンを齧りながら今後の戦略を考える。
傷が癒えるまではおとなしくしていよう。
それまでは主催者を斃そうとする者達と、消極的ながらも行動を共にするのがいいかもしれない。
以前のように機会さえあれば殺すというのは、どう考えても無理がある。
こちらの意図がバレない限り、彼らは自分を殺すことはない。
勝者になるのは島を脱出してからでもいいのだ。
(私はきっと生き残ってみせますよ、郁未さん)
葉子は不適な笑みを浮かべながら眠りについた。

717葉子の野望:2007/03/20(火) 01:13:50 ID:PGGQTXMA0
【時間:2日目19:15頃】
【場所:G−6 鷹野神社・床下】 

鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式(食料なし、水は残り3/4)】
【状態:就寝中。肩に軽症(手当て済み)、右大腿部銃弾貫通(手当て済み、激しい動きは痛みを伴う)。マーダー】

【関連:100、722】

718No.766 君がくれたもの:2007/03/20(火) 04:09:28 ID:HWpERD7o0
「皆の意思をある程度統一させておいたほうが良いと思うんだ」
皆の自己紹介を終えて、貴明はそう口火を切った。
腹の底に怒りの火種を燻らせて。
「これから俺達は脱出に向けて動く。その時に何があるかは分からない。不測の事態には出来るだけ備えるべきだと思う」
「そやね。でも、その前に……」
ずっと俯いていた珊瑚が顔を上げる。
未だその眼は潤んでいた。
「いっちゃん、みせて」
「……うん」

719No.766 君がくれたもの:2007/03/20(火) 04:10:03 ID:HWpERD7o0
珊瑚は椅子に座らせられていたイルファのところに行く。
封印されているとはいえ鬼の力でもって砕かれた身体は損壊が激しかった。
三度、珊瑚は涙ぐむ。
「いっちゃん……ごめんな……ごめんな……」
既に電気の通っていない、躯となった身体を抱きしめる。
細かな破片が珊瑚の腕に刺さる。
構わず珊瑚は抱き続けた。
「ごめんな……ごめんな……ごめんな……」
腕に僅か血が滲む。
頬に涙が一筋流れる。
「ごめんな……ごめんな……ごめんな……」
ひたすらに。
ひたすらに謝る珊瑚の声と一緒に漏れる嗚咽だけが教会に響く。
「珊瑚ちゃん……」
後ろから抱きしめられる感触。
暖かな感触。
「貴……明……?」
「うん……」
彼女にとっての最後の世界の欠片。
貴明は珊瑚をイルファごと抱き続ける。
「貴明……ウチな……いっちゃんと一回あってん」
「え?」
嗚咽にも等しいその呟きを拾って問い返す。
「いっちゃんな……ずっとウチと瑠璃ちゃんのこと探してくれててん。でな、神社でようやくあえた。でもその後すぐに女の人に……
そこでいっちゃんがウチと瑠璃ちゃん逃がしてくれてん……『必ず追いつく』ゆうて……」
珊瑚の眼からまた涙が溢れる。
静謐な空間に唯珊瑚の泣き声が木霊する。

720No.766 君がくれたもの:2007/03/20(火) 04:10:41 ID:HWpERD7o0
「珊瑚ちゃん」
応えは無い。
それでも聞こえているはずだと信じて続ける。
「イルファさん……さ。イルファさんがどう考えてたかは……もう俺には分からないけどさ。
イルファさんは珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんを逃がしたくて……一人残ったんだよね」
「……」
嗚咽はやまない。
それでも貴明は続ける。
「そして……珊瑚ちゃんは今生きている。生きて、ちゃんとここに、いる。
だから、イルファさんが……死んでしまったことは……絶対に無駄じゃない。
それだけははっきりと言える。言う。絶対に、無駄じゃない」
「……っ」
珊瑚の体が震える。
「――俺が、守るから。これからは、俺が、守るから。
何が出来るかはわからないけど、何も出来ないかもしれないけど、出来るだけ……俺が珊瑚ちゃんを守るから。
だから、泣かないでなんて言わない。
絶対にこんな島、生きて出よう?」
「――っか……あ……き……」
珊瑚はイルファを抱いたまま動かない。
それでも懸命に貴明に応えた。
「っ……うん……っん……ぇったい……かえろ……なぁ……」
「うん……うん……」
嗚咽の中から呟きを拾って聞く。
小さなそれには、珊瑚の決意が一杯に詰まっている。
協会に、やまない嗚咽が響く。
それでも、そこに空虚さは無かった。

721No.766 君がくれたもの:2007/03/20(火) 04:11:38 ID:HWpERD7o0




――俺は、多分、屑だ。
既にこの手は血に塗れている。
そして岸田や綾香……戦う意思の無いものを殺して廻る者を殺す。
その手で珊瑚ちゃんを抱いて、あまつさえ守りたいと言う。
珊瑚ちゃんだけではない。
久寿川先輩も、観月さんも、るーこも。
そんなこと俺なんかにそうそう出来る筈が無い。
それでも、守りたいと思う。
――笑わせる。
何の力も無い俺が殺人鬼二人を殺して、その間誰一人殺させないようにするなんて。
でも。
それでも。
腕の中で泣いている珊瑚ちゃんを守りたいと思う。
何処かの哲学者が言っていた。
――曰く、神は死んだ。
この哲学者が――そうだ、ニーチェとかいったっけ――どんなつもりでこれを言ったかは知らないけど、なるほど確かにここには神なんていなそうだ。
何に祈ればいいんだろうな。俺達は。
星? 悪魔? 運命?
誰でもいい。
何でもいい。
俺から何を取っていってもいい。
偽善かもしれないけど、唯珊瑚ちゃん達から何も取らなければそれでいい。


俺にこの娘を……皆を守る力を下さい――

722No.766 君がくれたもの:2007/03/20(火) 04:12:16 ID:HWpERD7o0





【時間:二日目19:00頃】
【場所:G-3左上の教会】

姫百合珊瑚
【持ち物①:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物②:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:嗚咽、決意。ハッキングはコンピュータの演算に任せている最中、工具が欲しい】

ルーシー・マリア・ミソラ
【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×5、他支給品一式(2人分)】
【状態:綾香に対する殺意・主催者に対する殺意、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み、裂傷の傷口は概ね塞がる)】

春原陽平
【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式(食料と水を少し消費)】
【持ち物2:鋏・鉄パイプ・首輪の解除方法を載せた紙・他支給品一式】
【状態:全身打撲(大分マシになっている)・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)】

河野貴明
 【装備品:ステアーAUG(30/30)、フェイファー ツェリザカ(5/5)、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】
 【所持品:ステアーの予備マガジン(30発入り)×2、フェイファー ツェリザカの予備弾(×10)】
 【状態:祈り。左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー】

723No.766 君がくれたもの:2007/03/20(火) 04:12:39 ID:HWpERD7o0

観月マナ
 【装備:ワルサー P38(残弾数5/8)】
 【所持品1:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、9ミリパラベラム弾13発
入り予備マガジン、他支給品一式】
 【所持品2:SIG・P232(0/7)、貴明と少年の支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲】

久寿川ささら
 【所持品1:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、支給品一式】
 【所持品2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)】

藤林杏
 【装備:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×27】
 【所持品:予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書×3(国語、和英、英和)、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、支給品一式】
 【状態:健康、目的は主催者の打倒】

ほしのゆめみ
 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:胴体に被弾、左腕が動かない】

ボタン
 【状態:健康、杏たちに同行】

イルファ
 【状態:死亡、椅子に座らされている、左の肘から先が無い】

【その他備考】
※珊瑚ならゆめみを修理できるかもしれません

→755

724No.766 君がくれたもの:2007/03/20(火) 04:14:26 ID:HWpERD7o0
訂正を
イルファ
 【状態:死亡、椅子に座らされている、左の肘から先が無い】

イルファ
 【状態:停止、激しい損壊、椅子に座らされている、左の肘から先が無い】


725:2007/03/21(水) 03:42:15 ID:xe1qXsw20

その女は、笑んでいた。
何一つの慈悲も、欠片ほどの温もりもなく、笑んでいた。
深い紅の双眸は、どこまでも静謐で、そして昏く澱んでいた。

白い肌に何かが撥ね、小さな赤い染みを作った。
返り血だった。
女、柏木千鶴のたおやかな指が、染みを拭う。
紅の文様が、広がった。
その手には、既に血に染まっていないところなどありはしなかった。

血化粧に笑みを湛え、千鶴が歩を進める。
手指を、振るった。
瞬間、その白く長い指が禍々しい変貌を遂げる。
古代の爬虫類のそれを思わせる無骨な漆黒の皮膚に、真紅の長い爪。
柏木の家が伝えてきた、鬼の力だった。

何気ない動作でその腕を振り上げた千鶴が、吹く風を楽しむかのように手を伸ばす。
血飛沫が、舞った。

726:2007/03/21(水) 03:42:37 ID:xe1qXsw20
「来栖川の臭いがする」

詠うように、千鶴が言葉を紡ぐ。
伸ばした手の先には、少女、砧夕霧の体が垂れ下がっていた。
顔面の中央を貫かれ、後頭部から爪の先が突き出している。
既に絶命しているのが明らかだった。

「腐った泥を固めて捏ねた臭い」

小さく、交響曲の端緒を開くタクトのように、爪を振る。
眼鏡が断ち割られ、鼻筋が両断された。
ずるりと、夕霧の躯が地に落ちた。

「ひとのかたちをした蟲の臭いだ」

大空を愛でるように、天を見上げて胸を張り、両の腕を伸ばす。
両の手指、合わせて十の爪の先が、左右にいた夕霧の頭を、それぞれ六つに断ち割った。
噴水のように、血潮が溢れた。


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