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避難用作品投下スレ

1 管理人 :2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

2 名無しさん :2006/11/12(日) 18:56:29 ID:3NIiOBjA
test

3 悲劇の結末 :2006/11/13(月) 21:10:49 ID:plKhezlE
「智子さん落ち着きなさい。これは北川君達がやったんじゃないわ」
「何でや?うちが来た時にはもうこのみは死んどった・・・コイツラ以外に考えれへんわ!」
皐月が冷静な口調で智子を制止しようとするが、我を忘れている智子は全く聞く耳を持とうともしない。
その剣幕に皐月以外は動揺していたが、皐月はそんな智子相手でも冷静そのものだった。

「仮に北川君達が裏切っていたとして、最初にこのみを殺す必要がどこにあるの?」
「!」
その一言に、智子の動きが止まる。

「私がもし裏切るとしたら、まず最初に武器を奪うわ。もしくは寝室に集まっているところを狙って一網打尽にするわね。
このみ一人を殺しても疑われるだけで逆効果よ」
「ふむ、確かにの」
「言われて見ればそうなんよ・・・」
皐月の論理の正当性に、花梨と幸村は感心顔で頷くばかりである。
しかしそれでも智子は納得出来ていなかった。

「でも、ならなんでこのみは死んでるんや!?自殺でもしたっていうんか・・・・・。
コイツラがショットガンで撃った以外ありえへんやろ!」
「違う!何でかは分からないけど、柚原の首輪が突然爆発したんだ」
「黙らんかい!うちが・・・、うちがあんたらを信頼したせいでこのみが・・・・」
「保科・・・・」
智子の銃を握る手が震えている。その瞳には涙が浮かんでいた。

「分かったわ。じゃあ私が裁いてあげる」
「!?」
驚いて声のした方を振り向く一同。

そこにはいつの間に回収したのか、ショットガンを手にした皐月の姿があった。
そのショットガンの銃口は北川達の方を向いていた。
銃を構える皐月の表情はあまりにも無表情で、迷いや躊躇は一切感じられなかった。

4 悲劇の結末 :2006/11/13(月) 21:13:10 ID:plKhezlE
「く・・・・!」
「き、北川!?」
北川は真希を押し退け、彼女を庇うように前に立っていた。

「良い度胸ね・・・・・じゃ、さようなら」
そう言い、北川の頭に向けて狙いを定める皐月。
食堂全体に緊張が走る。

――止めなければならない、止めなければきっと今の皐月は容赦無く北川の命を奪うだろう。
だがその事が分かっていても、皐月の声の冷たさに、迫力に、花梨も幸村も智子も動けない。
北川は目を瞑って黙って最期の時を待っている。


「駄目ぇっ!!」
叫びながら再び北川を庇おうとする真希。
それを見て、北川は慌てて真希を制止しようとしている。
ショットガンによる銃撃は広範囲に及ぶ。下手をすれば二人とも命を落としかけない状況だった。
その光景に、最初に北川達に銃を向けた張本人である智子ですら目を瞑る事しか出来ない。

だが、いつまで経っても銃声が鳴り響く事は無かった。
「・・・・・なんてね。安心しなさい、あなた達の疑いは晴れたわ」
「・・・・え?」
北川達が皐月の方へと視線を戻すと、皐月は北川達には目もくれずにショットガンを念入りに調べていた。

「疑いが晴れたって、どういう事だ?」
「この銃、弾数が一つも減ってないわ。それに床に空薬莢も見当たらない。」
「何やって!?」
「つまり、このショットガンはまだ未使用って事よ。少なくともこの場所ではね。
このみの首輪が爆発した理由は分からないけど、北川君達が犯人じゃないのは確かよ」
大体犯人だったらこんな馬鹿な庇い合いなんてしないわよ、と北川達の方へと視線を戻しながら付け加える皐月。

5 悲劇の結末 :2006/11/13(月) 21:14:24 ID:plKhezlE
動機も無ければ凶器も無い。
第一、北川達がゲームに乗っているのなら弁明などせずにショットガンを手に攻撃を仕掛けてきている筈である。
もはや、北川達を疑う理由は存在しなかった。

「そうやったんか・・・・。北川君の話を全く聞かないで、とんでもない事してもうた・・・・。」
謝って許される問題やないけど、ごめん・・・。本当にごめんな・・・・」
「全く、冗談じゃないわよ。北川がこんな事するわけないじゃない・・・・」
若干落ち着きを取り戻した真希が、ぶっきらぼうに言い放つ。
その瞳にはまだ涙が溜まっていた。

「とにかく、これにて一件落着ね。"私"が出ていられる時間はそろそろ終わりみたいだから、後は頼んだわよ」
言い終わるとほぼ同時に皐月がその場に崩れ落ちた。

「皐月っ!!どうしたんやっ!?」
智子が慌てて駆け寄り皐月を抱き起こす。
「・・・・寝てるだけみたいやな」
そう言って、安堵の表情を浮かべる智子。
皐月のおかげで救われた。彼女がいなければどうなっていたか分からない。
いや、きっと最悪の事態になっていただろう。
智子達は今回の最大の功労者を寝室まで運んでいった。

「なあ保科。柚原の遺体を埋葬したら今日はもう休もうぜ」
皐月と遠野を運び終えて、食堂に戻る途中で北川が智子に声を掛ける。
「北川君・・・。怒ってないんか?」
「怒るとか怒らないとかじゃなくて、今やるべき事をしないと駄目だと思うんだ。
俺達は明日も頑張らないといけないんだからな。柚原の分もな・・・・・」
柚原の分も。その言葉で智子も北川自身も改めてこのみの死を実感し、俯く。
そんな彼らの様子を見ていると、真希もこれ以上文句は言えなくなっていた。

6 悲劇の結末 :2006/11/13(月) 21:15:33 ID:plKhezlE

皐月達がホテル跡に到着してから約7時間半。
様々な悲しみを生み出しながらも、ようやくこの場所に静寂が訪れようとしていた。


湯浅皐月
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×1個&四分の三個)支給品一式】
【状態:寝室で気絶中】
幸村俊夫
【所持品:無し】
【状態:朝まで休憩してから北川達とは別行動】
保科智子
【所持品:なし】
【状態:同上】
笹森花梨
【持ち物:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾6/10)】
【状態:同上】
ぴろ
【状態:皐月の傍にいる】

7 悲劇の結末 :2006/11/13(月) 21:16:19 ID:plKhezlE

北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン総弾薬数8/8発+ストラップに予備弾薬8発】
【状態:朝まで休憩してから村へ(どの村へ向かうかは次の書き手さん任せ)】
広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:同上】
遠野美凪
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:寝室で気絶中、朝からは北川達と共に村へ】


共通
【場所:E−4、ホテル跡】
【時間:2日目00:40頃】

【B-11(支障がなければ他でも)】
【関連415】
※北川、遠野、広瀬の荷物はショットガン以外は食堂の端に
※花梨の銃と皐月以外の荷物は元の寝ていた部屋に

8 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:48:56 ID:mkPywDUg

名倉由依は目を閉じて携帯電話を握り締めながら、祈っていた。

(どうか―――どうか、いい人が出ますように!)

短い発信音の後、

『―――はい、天野です』

唐突に、電話が繋がった。
まるでこんな殺し合いとは関係のない誰かの自宅にかけてしまったかのような錯覚を、由依は覚える。
それほどに淡々とした、それは少女の声だった。

「え!? あ、も、もしもし!」

一瞬呆然とするも、慌てて喋りだす由依。
切られてはたまらないとばかりに、早口でまくし立てる。

「あ、あたし名倉といいます! 名倉由依!」
『……はぁ』

電話の向こうの相手は、戸惑っているようだった。
それはそうだ、こんな島でいきなり電話がかかってきて、しかも唐突に自己紹介をされても反応に困るだろう。

「あ、いえ、その、すいません突然電話なんかしちゃって!」

まるでキャッチセールスのようだった。
何を言っているのか、自分でもよくわからない。

『……落ち着いてください』

9 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:49:56 ID:mkPywDUg
相手の平坦な声に、少しだけ冷静さを取り戻す由依。
そうだ、自分は世間話をするためにこんな危険を冒してるんじゃない。
とにかく本題を切り出さなければ、と焦る。

「……その、き、聞きたいことがありますっ」

色々と考えていたはずの手順は、遥か彼方へと飛んでいった。
ままよ、とばかりに口を開く。

「あ、あなたは、殺し合いに参加していますか?」

言った。ごくり、と唾を飲み込む由依。

『……』

寸秒の沈黙が、由依にとっては永遠にも等しく感じられる。

(お願いします……神様!)

ほんのささやかな祈りが、天に通じたか。

『……いいえ、別段』

と、相手は告げた。

「……そ、そうですか! よ、よかったぁ……」

言葉とともにへたり込む由依。
冷たい木の床が心地いい。

10 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:50:18 ID:mkPywDUg
『……それが、何か?』
「あ、ええ、いえ、あ、あたし捜してたんです、そういう人を!」
『……殺し合いに参加していない人間を、ですか』
「はい、そうです! そういう人と協力できればって、そう思って!」
『……協力』
「そ、その……こんなのおかしいって、やめさせなくちゃ、って」
『この殺し合いを、ですか』
「はい、そうです……! だから、そういう風に考えて、一緒にやってくれる人がいれば、って!」
『……お話は、分かりました』

冷水を浴びせ掛けるような声に、必死にかき集めた由依の勇気が萎んでいく。

「あ、あの……やっぱり、こんなこと言うの、おかしいですか……?」
『いえ、とても立派な考え方だと思います』

不安そうな由依の声をどう感じたか、相手の言葉はどこか優しげに聞こえた。
その声に勢いを得て、由依は立ち上がると再び相手に語りかけようとする。

「じゃ、じゃあ……!」
『しりとりをしましょう』

あまりにも唐突なその提案に、由依の思考が一瞬停止する。

11 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:51:03 ID:mkPywDUg
「……え?」
『しりとりです。分かりませんか?』
「し、しりとりって、あの、しりとりですか?」
『ええ。相手の言葉の最後の音に繋げていく、あのしりとりです』
「は、はぁ……その、どうして、しりとりを……?」
『ちょっとしたゲームですよ』
「ゲーム……?」
『はい。私はあなたのお話にとても感銘を受けました』
「あ、ありがとう……ございます」
『しかし、そのお話に乗るのは非常にリスクの大きい行為です』
「……それは……その」
『ですから、ゲームをしましょう』
「あの、すみません、お話がちょっとその、よく……」
『簡単なことです。あなたはあなたの計画を賭けてゲームをするのです』
「え……?」
『言葉通りですよ。私とゲームをして勝つことができたなら、私はあなたのお話に乗りましょう』
「そ、それって……」
『お約束しましょう。全面的に協力します』

相手の意図を、由依ははかりかねていた。からかわれているのかもしれない。
相手の言うとおり、これはひどくリスクの高い計画だった。
命綱もつけずに綱渡りをするような、そんな行為だ。
それに参加するかどうかを、ゲーム、それもしりとりで決めようというのだった。
本気で言っているとは思えなかった。
だが、それでも。

「……わかりました」

そう言うほかに、由依に道は残されていなかった。

12 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:51:56 ID:mkPywDUg
殺し合いに参加していない人間に電話が繋がるような幸運が続くとは限らない。
もしかしたら次に出るのは、自分を騙して言葉巧みに居場所を聞き出そうとする殺人鬼かもしれないのだ。
少なくとも、と由依は思う。
少なくともこの相手は、そういう類の人間ではないと、そう直感していた。
この直感が外れるようなら、どの道こんな計画など成功するはずがない。
騙されて、殺されるだけだった。
だから、由依は電話の向こうの相手に向けて、口を開く。

「わかりました。勝負、しましょう」
『……いい返事です』
「その代わり、あたしが勝ったら……!」
『はい、お約束しましょう。そのときは、あなたのお力になります』
「……その言葉、信じます」
『よろしい。―――では、始めましょう』

ごくり、と唾を飲み込んで渇いた喉を湿らせながら、由依は相手の言葉を待つ。
冷たく静かな空気に、精神が研ぎ澄まされていく。不思議と緊張はなかった。

『オーソドックスにしりとりの、り、からいきましょうか。どうぞ』
「り、りんご!」『格子』「シマリス!」『寿司』「しつけ!」『芥子』「島!」『蝮』「鹿!」
『菓子』「し、獅子!」『紳士』「し、新聞紙!」『色紙』「し、し、シルクロード!」
『……ふふ、いきなりし攻めは少し意地悪でしたかね。では、趣向を変えて……道路』「ロバ!」
『販路』「ろ、ろ……ろくでなし!」『進路』「ろ、路地裏!」『ランドセル』「る、ルアンダ!」
『タイル』「る、ルノワール!」『ルール』「―――ルパン!」

しまった、と思ったのは、口に出した後だった。
全身から一気に血の気が引いていくのがわかる。
こんな、こんなつまらないことで、せっかく掴んだチャンスを不意にするのか。
ルパン、三世、と付け加えたらどうだろう。ルール違反か。そもそも遅すぎる。
あらゆる後悔が、由依を襲っていた。

13 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:52:26 ID:mkPywDUg
だが、次の瞬間。

『……ンジャメナ』

相手の声が、由依を絶望の淵から引き上げた。

「……え?」
『どうしたのですか。な、ですよ』
「で、でも、あたし、今……」
『些細なミスです。続けましょう―――それとも、ここでやめますか?』

その一言が、由依に火をつける。

「い、いえ! 続けます! な、長野!」

九死に一生を得た気分だった。
まだ勝負は終わっていないのだ。
勝って、勝って協力者を得るのだ。
そうして一緒にこのばかげた殺し合いを終わらせるのだ。
その意気込みが、由依を後押しする。

『その意気です、……ノルマ』「漫画!」『画廊』「ウサギ!」『妓楼』「馬!」『松』「月!」
『騎士』「しおり!」『利子』「し、塩辛!」『乱視』「し、四十雀!」『卵子』「……あ!」

由依が声を上げる。

『どうしました?』
「いま、同じ言葉を二回言いましたよね!?」
『いいえ』
「あ、あたしの勝ちです、……え?」

14 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:53:34 ID:mkPywDUg
『いいえ、言っていません』

その声は、どこまでも平静だった。

「で、でも今、らんしって二回……」
『先に言ったのは乱視。目の屈折異常です』
「え……」
『後に言ったのは卵子、卵巣から産み出される生殖細胞です』
「そ、そんな……! そんなのって、」
『……それより、時間切れですよ』
「え!?」

意外な言葉に、由依が驚く。

『卵子、で止まっています。……二回目のミスですね』
「え……でも、それは……!」
『―――小豆島』
「……、え……?」
『しょうどしま。ま、ですよ』
「……あ……、」
『どうしました? やめるなら構いませんが』
「ま、まち針!」

必死に言葉を紡ぐ由依。
相手の勝手な言い分に抗議しても始まらない。
この勝負の主導権は、始まる前から常に相手にあるのだと、由依はようやく理解していた。

『利回り』「り、り……料理!」『リキュール』「ルーズソックス!」『スリッパ』「パンダ!」
『達磨』「漫画!」『……』「……?」

15 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:54:17 ID:mkPywDUg
相手の声が、返ってこない。

「ど、どうしました……?」
『……』
「あ、あの……」

無言。
途端に心配になる由依。もしかして相手の身に何かあったのだろうか。
しりとりに夢中で忘れていたが、今は殺し合いの真っ最中なのだ。
だが、そんな由依の不安を打ち消すように、電話の向こうから声が返ってきた。

『……漫画、は二回目です』
「あ……」

しまった、という言葉だけが一瞬にして由依の脳裏を支配する。
言い訳が、出てこない。

『―――三回』
「は……はい……?」
『三回、ミスしましたね』

相手の声が、回線を通して由依の耳の中を撫で回すように感じられた。
冷たく無慈悲なその声音に、由依の背筋が凍りつく。

『一回なら』
「え……」
『一回なら、ごめんなさいで済ませましょう』
「はい……?」
『―――けれど、二回続けて負けたのならば、あなたの持つ財産を』
「あ、あの、何を……?」

16 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:54:51 ID:mkPywDUg
言葉の意味をはかりかねて問いかける由依の言葉を無視するように、相手の声は続く。

『そして、もしも』
「あの、」
『もしも、三回続けて負けたなら―――』

一息。

『―――その時は、あなた自身をいただきます』

その声は、厳かですらあった。
絶対の意思をもって告げられた託宣のように、それは由依の脳裏に反響する。

「なに、何を、言って……?」
『これは、ゲーム』

ゲーム、と告げたその言葉は、ひどく神聖なものを扱うかのように繊細で。
だが同時に、隠しようもなく禍々しい何かを、孕んでいた。

『あなたと私が、互いを賭けて行った、闇のゲームです』

告げられた言葉の意味が、理解できない。
しかし、その声に含まれた小さな笑いが、由依の感情をひどく刺激した。

「……もう、いいです! 切ります!」

言って、携帯のボタンを押そうとする由依。
だが、

17 魂の牢獄 :2006/11/18(土) 04:55:19 ID:mkPywDUg
「ひっ……!?」

その手にした携帯から、黒い影がじわりと染み出していた。
影は瞬く間に指を飲み込み、腕を伝って由依の肩までを黒く染め上げる。

『―――良い夢を、名倉由依さん』

喉が、口が、鼻が目が、そして最後に耳が塞がれる瞬間に、そんな声が聞こえた、気がした。



静まり返った職員室に、カタリ、と音がした。
小さな携帯電話が、木の床に落ちた音だった。
それはしばらく、ツー、ツー、という音を響かせていたが、やがて止んだ。

闇に沈む職員室には、もう誰もいない。



【場所:D−06:鎌石小中学校・職員室】
【時間:1日目22時30分頃】

名倉由依
 【状態:消滅】

天野美汐
 【所持品:様々なゲーム・支給品一式】
 【状態:遊戯の王】

(関連・55,177,394 ルートD−2)

18 名無しさん :2006/11/18(土) 04:56:28 ID:mkPywDUg
ここって30行制限なのね。
いきなりエラーが出てちょっと驚いた。

19 母と子と… :2006/11/19(日) 20:01:53 ID:Lh4y2ZjY

『―――その務め、私が承りましょう』
「な……、今度は何やっちゅうねん……!」

巻き起こる土埃に手をかざしながら、晴子が叫ぶ。
透き通るような声とともに天から舞い降りてきたのは、輝く白い巨体。
吹きすさぶ風に金色の髪をなびかせた、それは美しくも壮大な彫像であった。
張り出した乳房に細い腰という女性的なフォルムの背には、どこまでも白く大きな翼。
静謐な容貌に限りない知性と包容力を感じさせるその彫像が、地響きと共に大地へと降り立つ。

『我が名はウルトリィ―――』

彫像は、動くことのないその口で、しかしはっきりと名乗った。

「は、今更喋るロボなんぞで驚けるかい……何の用じゃ、おどれ!」

言って銃を構える晴子。
だがその言葉が虚勢でしかないことは、震えるその手を見れば一目瞭然であった。
この巨体の前では、M16など豆鉄砲程度でしかないと、晴子にも分かっていた。

『……失礼ながら、お話は聞かせていただきました』

そんな晴子の動揺を無視するように、彫像が語り始める。

『そこの貴女―――、貴女には器が必要なのですね』

彫像の顔が、観鈴の方を向く。

「な……自分、観鈴が見えるんか!?」
(にはは……わたし、注目されてる)

20 母と子と… :2006/11/19(日) 20:02:38 ID:Lh4y2ZjY
『私はオンカミヤムカイの巫―――時にあなたのような方と語り合う務めもありました』

彫像の言葉に、神奈が厳しい顔で彫像に問いかける。

「そなた、その翼といい……やはり余と同じ―――」

と、彫像が初めて神奈の背に生えた翼に気づいた様子で言葉を紡ぐ。

『これは珍しい……このような時の彼方で、オンカミヤリューの裔と出会うとは……。
 ……いえ、裔というよりは……貴女はむしろ……』

そこで彫像は一旦言葉を切る。

『……これも巡りあわせというものかもしれませんね』
「そなた、何を言っておるのだ……?」

ひとりごちるような彫像の言葉に、神奈が眉をひそめる。

『……いえ、今は関わりの無いことです。それよりも、貴女……』

と、観鈴のほうに向き直る彫像。

『貴女がお母様と触れ合い、言葉を交わすために……仮初めの器が必要なのでしょう。
 母と子の絆……私にも覚えがあります。遠い時の彼方の、色褪せぬ思い出……』

何か大切なものを思い出すように、声を落とす彫像。

『貴女が母を求め、母御もまた貴女を求めるというのであれば……私のこの身体、
 しばしの間でもお貸しいたしましょう……』
(ロボットさん……)

21 母と子と… :2006/11/19(日) 20:03:30 ID:Lh4y2ZjY
その言葉に、神奈が腕組みをして何やら考え始める。

「ふむ……翼持つそなたなら、或いは……しかし……」
「―――何をごちゃごちゃ言うとんねや!」

話に置き去りにされていた晴子が、銃を構えたまま叫ぶ。

「このけったいなロボに観鈴が入る? ……冗談やないで!」

言いながら躊躇なくトリガーを引く晴子。
高い音が響き、弾丸が彫像に弾かれる。その表面には傷一つついていない。

「うちの観鈴はな、ぽかって叩いたら、がお言うて涙ぐむアホな子や!
 こんなん叩いたら、うちの手が痛い痛いってなってまうわ! ボケ!」
(お母さん……)

観鈴が沈痛な面持ちで呟く。

「返せっちゅうてんねん! うちの観鈴を! 泣き虫で、アホたれで、笑うのがへったくそな、
 うちの観鈴を返せ、って……、そう、言うてんのや……!」

晴子は、泣いていた。
彫像に体重を預け、その硬い表面を、素手で叩いている。

「何や……こんなん……! がお、言うてみいや……! 言えへんやないか……!」

泣き崩れる晴子を見る観鈴。

22 母と子と… :2006/11/19(日) 20:03:53 ID:Lh4y2ZjY
(……ロボットさん)

その目に涙をいっぱいに溜めて、観鈴が彫像に言う。

(お願い、できますか)

神奈は何も言わない。ただ無言で観鈴と晴子、彫像を見ている。
晴子の声は、いつしか小さく掠れていた。

「うち、まだ何もしてへんやないか……なんで、なんでこないなことになってんねん……。
 なんにも……何にもできひんままなんか……、なぁ、観鈴……」

涙声と共に、力なく振り下ろされる拳。
ぺちりと、彫像の表面を叩く。

『……が、がお』

その声は、彫像から発せられていた。

「……ッ!? な……何やて……?」

がばりと顔を上げる晴子。
真っ赤に腫れた目で、白い彫像を見上げる。彫像もまた、晴子を見下ろしていた。

『にはは……お母さん、ちっこい』
「その声……観鈴、観鈴なんか……!?」

懐かしい、久しく聞いていなかったように感じられるその声に、晴子が彫像にすがって問いかける。
そんな晴子に向かって、彫像がそっと跪く。
しっかりと視線を交わすように、晴子の方を向いて離さない彫像。

23 母と子と… :2006/11/19(日) 20:06:08 ID:Lh4y2ZjY
『お母さん、わたし……今なら、お母さんといっぱいお話できる』
「……観鈴、……観鈴っ!」

冷たく白い、その表面装甲。
しかし晴子は構わず、その装甲にすがりつく。
声と口調、仕草。
ほんの一瞬で、それらすべてが観鈴のものであると、晴子には感じられていた。
涙が零れ落ち、白い装甲に跳ねる。

『が、がお……お母さん、泣いちゃだめ……』
「……アホ、こういうときはいっくら泣いたかてええんや……憶えとき……」
『お母さん……』



しばらくの時間、そうしていた。
神奈はその間中、一言も口を挟むことなく、二人の様子をじっと見ていた。
晴子が泣き止むのを待って、白い機体が、跪いたままそっと手を差し伸べる。

『……乗って、お母さん』
「乗る……乗るて、このロボ……ちゃう、自分にか、観鈴?」
『にはは……観鈴ちん、いま巨大ロボ……。操縦できるよ』

言って、差し伸べた手に晴子を乗せる機体。
その巨大な手が、胸元へと引き寄せられる。

「うわ、ごっつ高っ……!」
『そこのレバー、回してみて』
「これか……? おわ、開くんか!?」

24 母と子と… :2006/11/19(日) 20:06:37 ID:Lh4y2ZjY
胸元のハッチが開放される。
中はパネルに囲まれた狭い空間。シートも見えた。

「これに入れ……ちゅうんか」
『お母さん、いらっしゃい』
「何や、けったいな気分やな……」

シートに収まる晴子。
ハッチが閉まると同時に、各種パネルが点灯する。

「何や……? 観鈴、自分がやっとるんか?」
『うん、今はわたしの体みたいなものだから……』
「そか……便利っちゅうてええんかな、この場合は……」

周囲のモニターに、外の様子が映る。
視点が高くなった分、島の様子が遠くまで見渡せた。
と、暗い夜空に大きく映る金色の光。

「……満足したか?」

神奈だった。
彫像の顔の辺りまで飛び上がって話しかけているらしい。

「何や、親子水入らずの一時、邪魔せんといてや。
 ……って観鈴、この声、外に伝わっとるんか?」
『大丈夫、ちゃんと聞こえてるはず。観鈴ちん、えらい』
「はいはい、ええ子やなー。
 ……で、羽つきの姉ちゃんな。自分、さっき何ちゅうた」

25 母と子と… :2006/11/19(日) 20:07:23 ID:Lh4y2ZjY
晴子の声に、神奈が答える。

「先程、とは何のことだ」
「……幸せな記憶、がどうちゃらこうちゃら、や」
「何だ、そのことか。……そなたと観鈴が幸せな記憶を作れば、それでそなたの役割は終わりだ。
 余は愚か者どもに神罰を下すべく往く」
「観鈴は」
「土に還ると言っておろう」
「ほぉ……」

思案げに言葉を切る晴子。

「……観鈴」
『なに、お母さん』
「飛べるか」

晴子の言葉が終わるか終わらないかの内に、モニターの風景が流れていく。
島の南西部が一望できるほどの高度を維持したまま、観鈴の声がコクピットに響く。

『これでいい?』
「上出来や」

一方、突然の上昇について行き損ねた神奈が地上で叫んでいる。

「……こ、こら、約束が違うではないか!」

いかに叫ぼうと、声は届かない。
追いすがるべく上昇を始める神奈。

26 母と子と… :2006/11/19(日) 20:08:26 ID:Lh4y2ZjY
「……アホが。幸せな記憶なんぞ作ったら、観鈴とはおさらばやないか……!」
『……お母さん?』
「はいさいなら、ってそんなんでいいわけあるか、ボケ!」
『が、がお……無視』
「観鈴。うちにはまだ、このクソッたれた首輪がある。
 島から離れたらどうなるかわからへん。それで、や」
『うん』
「皆殺しや」
『……え?』
「どいつもこいつもブチ殺して、うちが優勝する」
『お、お母さん……』
「それで首輪外して、あの家戻って、いつまでも二人で暮らす。
 めでたしめでたし、ちゅうわけや」
『そ、そんなのダメだよ、お母さん……』
「―――やかましい!」
『が、がお……』
「うちかて分かっとる……無茶苦茶言うとるわ。けどな、これしか思いつかへんねん。
 もう、自分と離れたないんや……観鈴」
『お、お母さん……』

と、モニターを一瞥して晴子が舌打ちする。

「ち、追いかけて来よったか……バケモンが」
『……』
「とりあえず逃げるで、観鈴。さっきの黒いのは得体が知れんからな」
『……』

観鈴の心に、地面に叩きつけられて死んだ男の記憶が甦っていた。

27 母と子と… :2006/11/19(日) 20:08:51 ID:Lh4y2ZjY
ひとつ首を振るようにして、徐々に加速を始める白い機体。
見る間に神奈との距離が開いていく。

(汝、神尾観鈴……それを望みますか?)

そんな観鈴に、繰り返し語りかける声があった。
観鈴にだけ聞こえるそれは、ウルトリィと名乗った彫像本来の、透き通るような声だった。
ずっと黙り込んでいた観鈴が、機体を加速させながら一つの言葉を形作る。

『……お母さんが、そうしたいっていうなら』
「ん? ……何や、観鈴。何か言うたか?」

それには答えず、ただ機体を更に加速させる観鈴。

(―――契約は紡がれました)

次第に小さくなるウルトリィの声。

(それでは、私は束の間の眠りに入りましょう―――)

やがて、声は聞こえなくなった。
母を乗せ、観鈴はただ天空を往く。

28 母と子と… :2006/11/19(日) 20:09:08 ID:Lh4y2ZjY

【時間:2日目午前2時】
【場所:H−4上空】

 神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:優勝へ】

 アヴ・ウルトリィ=ミスズ 
【状況:契約者に操縦系統委任、一部兵装凍結/それでも、お母さんと一緒】

 神奈
【持ち物:ライフル銃】
【状況:おのれ賤民】

→385 ルートD-2

29 黒白 :2006/12/07(木) 20:03:19 ID:gW6263Ic

母は歪んでいる。
そして、母をそんな風にしてしまったのは、紛れもなくこのわたしだ。
わたしを救えなかったという絶望、そしてまた、わたしがこの仮の身体を得て存えているという一縷の希望。
悔恨と、無力感と、自己陶酔と、そしてほんの少しだけの愛情めいたもの。
そんなものたちが、母を突き動かしている。

もう少しだけ踏み込んでものを言うならば、母はこの現実から逃避したがっているのだ。
わたしと暮らしていた頃、母はわたしという現実から目を逸らすために、仕事とアルコールに逃げ込んでいた。
神尾晴子というのは、そういう弱さを持ったひとだった。
そして母はいま、殺し合いを強制させられるという常軌を逸した環境に放り込まれていた。
要するに母は、より脅威的な現実を目の前にして新しい逃避の対象を探しており、そこにわたしという
格好の偶像がいたと、つまりはそういうことだった。
わたしを行動原理とし、わたしという存在に依存することで、その他のことには盲目的でいられる。
それが母の、脆い精神を支える柱となるのだ。
これまでずっと母を見てきたわたしには、母の言葉の意味、涙の意味が、手に取るようにわかっていた。

わたしは、だけどそのことに、この上もない幸せを感じている。
母はいま、どうであれわたしを中心として動いてくれているのだ。
かつてわたしという厄介者に怯え、逃げ回っていた母が、わたしだけを見てくれている。
それだけで、わたしはこの胸から溢れだした幸せに、溺れてしまいそうな錯覚を得るのだ。
いったいこの世界に、大好きな人が自分を見てくれているという、それ以上の幸せがあるだろうか。
少なくともわたしは、それをこそ幸福と、定義していた。

わたしの記憶にある母は、表情に乏しい。
怒っているか、困っているか、酔って笑っているか。いつだって、そのどれかだった。
それが今は、どうだろう。
母はわたしのために涙し、殺人すら躊躇うことなく肯定してみせた。
それが無償の愛ゆえでなかったからといって、そのことの価値は些かも揺るがない。

30 黒白 :2006/12/07(木) 20:03:45 ID:gW6263Ic
だから、わたしは母の、わたしに対する自己中心的な依存に感謝こそすれ、そのことで
母を責める気など、毛頭なかった。
むしろようやく親孝行ができると、そんなことをすら考えていた。
ひとを潰す、―――いや、殺すのも、その延長線上でしかなかった。

そう、ひと一人の生命を絶つというのは、わたしにとって真実、それだけのことでしかなかったのだ。
満足に生きてこなかったわたしは、死ぬということに対して希薄なのだ。
誰かのそれも、わたし自身にとってのそれもひと括りにして、わたしには理解が難しい。
死ぬということは、単に生き終わるということで、それは解放と同義だ。
勿論それが世間一般の理解とかけ離れた認識だと、わたしは痛いほど思い知っていた。

わたしとて、それを肯んじ得ていたわけではない。
生きるということが苦痛以外の意味を持つなら、それが知りたかった。
だが、わたしにそれ以外の答えを教えてくれる誰かなど、現われはしなかったのだ。
これまでの人生で、一度として。
だからわたしは今でも、死というものがよくわからない。
生も死も、その重みがわからないわたしは、だからこうして、変わり果てた姿になって
何の恨みもないひとを殺してしまっても、ひどく気持ちが悪いと、ただそれだけをしか思えない。

愛している。
わたしは、母を愛している。
そして母は、その根底はどうであれ、わたしのために歪むことを選んだのだった。
ならば、わたしの愛もまた、母の歪みのままに、歪んだものであるべきなのかもしれない。

―――してみると。
目の前に立つ黒い翼の神像は、わたしの歪みを形にしたものであったのだろうか。

31 黒白 :2006/12/07(木) 20:04:27 ID:gW6263Ic
「く、黒い……ロボ、やと!?」

母が、戸惑ったような声をあげる。
一方的な狩り、虐殺の陶酔に、冷水を浴びせかけられたのだ。
母が脳裏に思い描く夢には、こんなものは出てこなかったのだろう。

もっとも、わたしは母ほど驚いてはいなかった。
都合の悪いものを意図的に排除した夢の陰には、いつだってこんなものが潜んでいる。
こういうものに出くわすのは、だからわたしにとっては日常茶飯事だった。
わたしはいつだって、夢ばかりみるように生きてきた。
こういう時、わたしは決まって同じことをする。
破れた夢を繕って、新しく自分の周りに張り巡らすように、力なく笑うのだ。

『にはは……でっかいカラス』

そんなわたしの言葉を張り飛ばすように、母が声を上げる。

「あ、アホ! どこの世界に手足のついたカラスがおんねん! ってツッコむんはそこかい!」

これでいい。
母に調子が戻ってきた。

「これは敵や、気ぃつけえ観鈴!」

折りしも降り出した雨で、地面はすっかり泥だらけだった。
翼を広げたまま佇むその黒い神像から視線を離さないようにしながら、わたしは静かに立ち上がる。
後ろ手についた掌の下で、倒木がひしゃげる音がした。
いつまでも血がこびり付いたままの左手を、泥と木の葉に擦りつけて拭う。
黒い神像の後ろで、先程まで動けずにいた少女がもう一人の少女に抱えられて逃げていくのが見えていたが、
母は何も言わない。それどころではないと、わたしも母も理解していた。

32 黒白 :2006/12/07(木) 20:04:58 ID:gW6263Ic
眼前に影のように立つこの神像は、まさしく脅威だった。
わたしが立ち上がるまで、黒い神像は不動の姿勢を保っていた。
その背丈はわたしのこの身体とほとんど同じくらい。
女性的なフォルムに翼の生えた人型という、同系統の造形。黒と銀の色彩だけが、対象的だった。
わたしが身体を預かっているこの神像と関連があることは、ほぼ間違いなかった。

『―――お姉、様』

だから、突然そんな声がしても、わたしはさして驚かなかった。
むしろ、ひどく納得のいく感じがしたものだ。
おそらく、わたしを受け容れたウルトリィという白い神像のことを姉と呼んでいるのだろう。

「な、何や!? どっから声がしとる!?」

母が再び取り乱している。
わたしを姉と呼んだ声は、わたしの中にも響いていた。

『黒いのが喋ってる……んだと、思う』

ほぼ確信に近いものがあったが、あえて語尾は濁しておく。
母は、わたしが何かを断言することを好まなかった。

「何やて……!?」
『その声……お姉様も誰かを乗せてるのね?』

高い、澄んだ声。その声は、いくつかの事を示唆していた。

33 黒白 :2006/12/07(木) 20:05:29 ID:gW6263Ic
まず、一つめ。
通常、この神像はウルトリィやあの黒い神像のように、独自の人格を持ったまま行動するらしい。
だが、契約は紡がれた、と告げたあの時以来ウルトリィは眠り続けており、こうして呼びかけられていても
一向に目覚める気配はなかった。わたしのこの身体はイレギュラーというわけだ。

そしてもうひとつの事実。
「お姉様も」と口にしたということは、向こうの神像にも誰かが、母のように乗り込んでいるのだ。
そして、わたしたちの場合と照らし合わせるならば、それは、この殺し合いの参加者である可能性が極めて高い。

『聞いて、お姉様!』

だが声は、続けてこんなことを言った。

『おば様……カミュの契約者は、殺し合いなんてしたくないって言ってるの!』

黒い神像はカミュというのだろうか。
しかしそれよりも、その声が告げた内容に、母は目を丸くしていた。

『お姉様が選んだなら、そっちにいる人もきっと、こんな殺し合いなんて嫌だって思ってるよね?
 お願い、おば様のお話を……』

黒い神像、カミュの声は、そこで途切れた。
母が、お腹を抱えて笑い出したからだ。心底おかしそうな、爆笑。
その笑い声に、カミュが腹を立てたような声を上げる。

『な、なにがおかしいの!?』
「……嬢ちゃん、あんま笑かしたらあかんで」

不意に笑いを収め、母が奇妙に低い声で言った。

34 黒白 :2006/12/07(木) 20:06:01 ID:gW6263Ic
「姉ちゃんってな、このロボのことかいな」
『……え?』
「……観鈴にこの身体くれた、お人良しでアホな、このけったくそ悪い白ン坊のことかって聞いてんねや」

こういうとき、母の言葉はひどく判りづらい。
頭に血が登ると、自分の視点からしか物を言えなくなる人だった。
だからわたしは、一応のフォローを入れておく。

『が、がお……ウルトリィさんのこと、悪く言ったらダメだよ……』
『……ウルトリィさん、って……。それに、その声……?』

戸惑ったようなカミュの声。
どうやらカミュには、わたし自身が発する声と、乗っている人間のそれとの違いが判るらしい。
そんなことを考えた時、新たな声がした。

「―――その白い機体が、少なくとも今はあなたのお姉さんではないということよ、カミュ」

女性の声だった。
若々しい張りはあったが、中年と言っていい頃合だろう。おそらくは、母と同年代。
言葉からして、察しは良さそうだった。

『おば様……』
「観鈴、というのは……この名簿によれば、神尾観鈴さんのことかしら。
 なら、そちらに乗っているのは神尾晴子さん……違いますか?」

少し驚いた。
母の言葉を手がかりに組み立てれば、その結論にたどり着くのはそう難しいことではなかったが、
それにしても答えを出すのが速い。
母にしても、それは意外だったらしい。ひとつ舌打ちをして、忌々しげに口を開く。

35 黒白 :2006/12/07(木) 20:06:22 ID:gW6263Ic
「……どうも、よろしゅうに。そちらさんは?」
「はじめまして。柚原春夏と申します」

素直に答えが返ってくる。
カミュという力に護られている安心感なのか、それとも単に育ちがいいのかは分からない。
勿論、偽名ということも考えられるが、先程のカミュの言葉を聞く限りではその可能性は薄いかもしれない。

「……で、その柚原さんが、うちに何ぞ用かいな」

警戒心をむき出しにして母が訊ねる。

「お嬢さんと合流されたのですね。おめでとうございます」
「……そら、どうも」
「ただ、どういったいきさつかは存じませんが、お嬢さんは少し……。
 その、変わった状況にあるようにお見受けしますが」
「……で?」

何かを堪えているような、低い声。よくない兆候だ。
母は、こうした形式ばった物言いが何よりも嫌いだった。
眉間に皺を寄せた母が爆発するより前に、わたしは緩衝材となるべく口を挟んだ。

『にはは……ご丁寧に、どうも』
「……観鈴、大人同士の話や。黙っとき」

苛立ちの矛先が、上手くわたしの方へと向いた。
同時にわたしを子供扱いすることで、母は自尊心と体面を思い出すことができる。
落ち着きを取り戻した母の声を聞いて、わたしは胸を撫で下ろす。これでいい。

「これは家庭の問題や。口、挟まんとってくれるか」
「……」

36 黒白 :2006/12/07(木) 20:06:51 ID:gW6263Ic
母の無茶な言い様に、さすがに二の句が継げなかったらしく、一瞬の沈黙が訪れる。
しかし、春夏と名乗った女性はどうにか言葉を続けた。

「……申し訳ありません。ただ、私で何かお力になれることがあれば……」
「結構や」

ぴしゃりとはねつけるような、母の厳しい言葉。

「言いたいことがそれだけなら―――」
「分かりました。では、単刀直入に言います」

春夏さんの声音が変わる。これまでよりも、少し強い調子。
思ったよりも、気の強いひとなのかもしれない。

「私も……娘を、捜しています。
 娘を捜し、そして護るために、こうしてこの子……カミュにも協力してもらっています」

そこで一旦言葉を切る。
軽く息を吸い込むような気配の後、春夏さんは一気に言葉を吐き出した。

「身勝手を承知で、お願いがあります。
 そちらの……観鈴さんとあなたの力を、娘……このみを捜すために、貸してはいただけないでしょうか」
「……」

母はそれを、腕組みをしながら黙って聞いている。

「初めは、あなたに戦いをやめてもらおうと思いました。
 ……その、事情はわかりませんが、あなたや私の持つこの力……この子たちの力は、人に向けられるべきではないと、
 そう思いました。ですから、戦いを止めようと割って入りました」

37 黒白 :2006/12/07(木) 20:07:33 ID:gW6263Ic
理由はどうあれ水を射されることが大嫌いな母だったが、しかし春夏さんの言葉を聞いても表情は変わらない。
ただじっと正面に立つカミュと、おそらくはその中にいる春夏さんを見つめている。

「けれど、お話を伺って……あなたが、娘さんのいらっしゃる方だと、この島で娘さんを見つけられた方だと知って……、
 無理を承知で、お願いしようと思いました」

そこで少し言いよどんだ春夏さんだったが、意を決したように続ける。

「卑怯な物言いですが……同じ、母親として」

その言葉に、能面のようだった母の表情に、初めて変化が現れた。
ぴくりと、眉を上げたのだった。

「あなたが、娘さんを護るためにその力を使われる気持ち、よくわかります。
 ですが……」
「―――もうええわ」

吐き棄てるような母の声が、春夏さんの言葉を遮っていた。

「もうええ。もう充分や」
「で、でしたら……」
「……ざけんなや」

縋るような春夏さんの声を、一刀の元に斬り捨てる。

「よくわかるぅ……? ハ、あんた、なぁんもわかってへんわ。
 ちぃっとでもわかっとったら、そないなアホなこと、よう言われへん」
「な……」
「一緒に娘を捜してくれ、やって……? 笑えん冗談も大概にせぇや」

38 黒白 :2006/12/07(木) 20:07:59 ID:gW6263Ic
心底から嘲るような、母の声音。

「捜してどないせぇっちゅうんじゃ。諸共ぶっ殺したろか? ……それも悪ぅないなぁ」
「……ッ!」
「オマケに何や、同じ母親としてぇ? ……死なすぞボケ」

ドスの聞いた声に、春夏さんが絶句する。

「おのれに母親語られたないわ。うちの観鈴と、おのれんとこの、なんや、このみちゃんか?
 仲良しこよしで嬉しいなあ、ってか。ドタマ沸いとんちゃうか?
 それからどないすんねや。くじ引きでもして誰が死ぬか決めるんか。
 誰ぞ死なんと終わらんで、この腐れたゲームのド畜生は」
「それは……」
「ええ加減にせえよ。なら今、ここでぶっ殺したる方が、ナンボか後腐れないっちゅうもんやろ」
「……」
「安心せえ。可愛いこのみちゃんもすぐにそっち送ったるわ。
 観音様の前で親子水入らずや、好きなだけしたったらええがな」

おかしそうに笑う母の表情には、紛れもない悪意と侮蔑が浮かんでいた。
声音に滲み出す、その負の感情を感じ取ったものか、春夏さんはしばらく黙り込む。

『おば様……この人、もう……』
「―――春夏さん、でしょ。カミュ? ……分かってる」

その、何かを飲み込んだような春夏さんの声に、母が敏感に反応する。

「お喋りは終いやな。……お互い、可愛い娘のために気張って殺し合おうや」
「そうね。……私は、あなたを止めるわ」
「……観鈴」
「カミュ」

39 黒白 :2006/12/07(木) 20:08:16 ID:gW6263Ic
同時に、声が響く。

「―――飛んだり」

翼を広げ、大地を蹴り、大空に舞い上がったのにも、ほとんど差はない。
見上げる空から降りしきる雨が、顔に当たって痛いくらいだった。
瞬間といっていい速さで、わたしたちは何らの遮蔽物もない空間に占位する。

「ブチかましたれ、観鈴!」

母の声を合図に、わたしは急加速してカミュへと突進する。
こんな身体を得たとはいえ、わたしが格闘技の達人になったわけじゃない。
ただこの速度と重量を活かした体当たりだけが、有効な攻撃手段だった。
だが、その突進はあっさりと回避される。

「カミュ」
『うん、春夏さん』

カミュの広げられた片翼が、小さく畳まれる。
空中でバランスを崩し、斜めに傾ぐカミュ。
たったそれだけで、わたしは目標を見失っていた。

「な……もう一度や、観鈴!」

言われ、急制動から反転し、再度加速する。
しかし第二波もまた、最小限の動きでかわされる。

「く……何でや、なんで当たらん!」

40 黒白 :2006/12/07(木) 20:09:13 ID:gW6263Ic
苛立ちを隠せない母の声。
しかし、わたしには最初の突進を回避された段階で理解できていた。
これは、勝てない。動きが違いすぎる。

おそらくは、春夏さんというひとが細かい動きを担当しているのだろう。
わたしはこの身体を、文字通り手足のように動かせるが、しかし元の身体と大きく異なっている
その重量や慣性のバランスは、如何ともしがたい。
感覚的に飛ぶことや加速することはできても、振るった腕に逆に振り回されることまでは避けられないのだ。
カミュの場合は、春夏さんが操縦することでその辺りをカバーしているのだと、そう思う。
まさかこういった神像の操縦に熟練していたわけでもないだろうが、ともあれ春夏さんは
それを見事にこなしているようだった。

そして勿論、母にそんな技能はない。
操縦桿を握ることすらしていなかった。
結果、わたしの突進は何度も空しく宙を裂き、対して無傷のカミュはまるで雨に打たれることを
楽しんでいるかのように、悠然と夜空に漂っているのだった。
と、春夏さんの声が、隔てられた距離を感じさせないほどクリアに響いてきた。

「……カミュ」
『うん……お姉様の身体だけど、あれはやっぱりお姉様じゃない。
 ……これ以上、あの身体を使わせておくわけには、いかないよ』
「……いいのね」
『うん。……術法で、決める。その間、お願い』
「わかった」

やり取りを終えると、カミュの声が消えた。
代わりに響いてきたのは、低く重々しい、何かの呪文のような声。

「こ、今度は何や!?」

41 黒白 :2006/12/07(木) 20:10:29 ID:gW6263Ic
母が憔悴したような声を上げる。
必殺の突進を幾度も回避され、力の差を見せつけられた格好の母は、明らかに疲弊していた。
その声を聞いて、わたしは決意を固める。

―――ああ。
今の母が、このひとに勝てる道理がない。

術法、というのはこの呪文めいた声によってもたらされるのだろう。
やり取りから判断するならば、おそらくは、必殺技のような何か。
ならば、時間はそう残されてはいなかった。

わたしはこの身体をカミュの方へと向け、しかしこれまでのような急加速ではなく、ゆっくりとした速度で移動させはじめる。
予測していない動きに戸惑ったのは、むしろ母の方だった。

「何や、観鈴……!? どないしてん、突っ込んだらんかい……!」

母には答えず、わたしは空中でカミュに正対すると、静止した。
春夏さんとカミュ、そして母の視線を感じながら、全身で雨を受け止めるように、両手を広げていく。
見えない十字架に磔刑に処されているかのような格好で、わたしは声を出す。

『助けて、ください』

それは、赦しを乞う言葉だった。
一番最初に反応したのは、母だった。
驚いたような、怒っているような、奇妙に裏返った声で叫ぶ。

「な……何を言うてんねん、観鈴!? どないしてん!?」

42 黒白 :2006/12/07(木) 20:10:53 ID:gW6263Ic
それにはやはり答えず、わたしはカミュと、その中にいる春夏さんをじっと見つめる。
いつの間にか、カミュの呪文めいた声は止まっていた。
身体の表面を雨粒が叩く音だけが、静かに辺りを包んでいる。
しばらくの沈黙の後、春夏さんの落ち着いた声が響いた。

「……どういう、ことかしら」

その声に警戒するような色はない。
むしろ、何か既知の契約事項を確認するような、そんな声音だった。
だからわたしは、その察しの良さに感謝しながら、言葉を続ける。

『お願いします。わたしはどうなっても構いません。
 ……だから、お母さんだけは、助けてあげてください』

淡々と、わたしは告げる。

「な……!」
「……」

驚愕する母と、沈黙する春夏さん。
予想に違わぬ反応だった。

『お母さんは、わたしのために悪いことをしようとしてるんです。
 ……だから、わたしがいなくなれば、お母さんはもう悪いことをしません』

春夏さんの言葉を借りるなら、卑怯な物言いだった。
これは茶番劇だ。これまでに感じた春夏さんの善良さを利用し、そして母とわたしの関係を理解した彼女が
決してこの申し出を無視できないとわかった上での、ひどく打算的な命乞いだった。
だが、春夏さんはこんな茶番劇にもきっと律儀につきあってくれるだろう。
短いやり取りの中でも、彼女がそういう人間であろうことは、伝わってきていた。

43 黒白 :2006/12/07(木) 20:11:10 ID:gW6263Ic
『おば……春夏さん、どう……するの?』
「……」

カミュの問いかけにも、春夏さんは答えない。
リスクと心情、これまでの言動。色々なことが頭をよぎっているに違いなかった。

「ちょ、待たんかい! 何を勝手にほざいとんじゃ! 観鈴! どういうこっちゃ、答ぇえ!」

置き去りにされた母の怒声を、わたしは内心で耳を塞いでやり過ごす。
これは、わたしと春夏さんの間で取り交わされようとしている商談だった。商材は、母の命。

しばらくの間、春夏さんは沈黙を守っていた。
母の悪態だけが、際限なく続いていた。

「―――私たちが、約束を守ってお母さんを助けるという保証はないわ」

ようやくにして春夏さんの口から出たのは、そんな言葉だった。
間髪をいれず、わたしは答える。

『にはは……きっと大丈夫です』
「……では、私たちの危険に対する保障は、どうなるのかしら」

痛いところを、突かれた。
上手く切り返したつもりが、考えが甘かったらしい。

「あなたのお母さんは、随分とやる気みたいだけど。お母さんを解放したら、私の娘の安全はどうなるのかしら。
 ずっと連れて歩くにしても、四六時中監視しておかなければ何をしでかすか分からないわ。
 私の席に入れるわけにはいかないし、かと言ってカミュが手に持って飛んだら、お母さんは潰れてしまうかもしれない。
 そういうことを、きちんと考えて言っている?」
『……』

44 黒白 :2006/12/07(木) 20:11:33 ID:gW6263Ic
がお、と口に出しそうなところを、ぐっと堪えた。
あれは、相手に甘える言葉だ。甘やかしてくれる相手にだけ、通用する言葉だった。
言葉に詰まったわたしを、春夏さんは無言で責めている。
なにか言葉を返さなければいけない。それはわかっていたが、肝心の言葉が見つからない。
何しろ、わたしたちがこうして話をしている間、或いは沈黙を続けている間にも、母の聞くに堪えない
悪口雑言は続いていたのだ。何を言い出すにせよ、片端から説得力が失われていく。
手詰まりだった。

「……どうしたの? 言いたいことは、それで終わりかしら」
『…………』

つくづく甘かった。
温情に訴えかけるだけでは、母親として物を言うこのひとには届かない。
自分の浅知恵を悔やみ、思考の迷宮に踏み込もうとしていた、そんなわたしを救ったのは、

『―――そこから先は、私がお話しましょう』

聞き覚えのある、透明な声だった。
突然響いた新しい声に、もっとも敏感に反応を示したのはカミュだった。

『お……お姉様!? その声、ウルトリィお姉様なの……?』

そう。その声は、ずっと眠っていたはずの、わたしのこの身体の真の持ち主。
白い神像、ウルトリィのものだった。

「ウルトリィ……? カミュ、この声があなたの言ってたお姉さん……なの?」
『そうよ、春夏さん!』
『―――久しぶりですね、カミュ』
『お姉様……! ……でも、どうして……』

45 黒白 :2006/12/07(木) 20:12:09 ID:gW6263Ic
カミュの、不安げな声。
目の前で声を出しているのが本当に姉なのかどうか、はかりかねているのだろう。
そしてそれは、わたしにとっても同様だった。

(う、ウルト……さん?)

思わず声を出そうとして、それが叶わないことを知る。
声のみならず、身体もまたわたしの意思から離れたかのようにピクリとも動かない。

(……契約者、神尾観鈴。この場は私にお任せなさい)

ウルトリィの優しげな声が、焦るわたしを落ち着かせるように響いた。
どうやらわたしに語りかける声は、カミュや母たちには伝わっていないようだった。

(が、がお……お母さん、助けてくれる?)

思わず口をついて出る、口癖。
ウルトリィの答えは短かった。

(それが調停者の務めです)

それだけを告げて、ウルトリィは今度はカミュや春夏さんへと声を発する。

『……カミュ、そしてその契約者の方。失礼ながら、お話は伺っていました。
 あなた方の不安も、もっともなことだと思います』

どこまでも理性的なその声に、春夏さんもこれがわたしや母ではないと考えたらしい。
慎重に、探るような声音で尋ねる。

46 黒白 :2006/12/07(木) 20:12:39 ID:gW6263Ic
「……ウルトリィさん、と仰ったかしら。率直に伺いたいのですが」
『何でしょう、カミュの契約者の方』
「柚原春夏。春夏、と呼んでくださって結構です。……話を戻します」
『はい』
「……あなたは、私達と戦うために出てこられたのですか」

ズバリと切り込んだ。
わたしとしても、それは気になるところだった。
ずっと眠っていたはずのウルトリィが、どうしてこの窮地で目覚め、こうして場の主導権を握っているのか。
それがカミュを撃破し、自らの身の安全を確保するためかもしれないと春夏さんが考えたとしても、不思議はなかった。
だが、ウルトリィはそれを言下に否定する。

『いいえ、そのようなつもりはありません』
『そうよ春夏さん、お姉様はそんな人じゃないもん!』

カミュもまた、怒ったように声を上げる。

「ごめんなさい、カミュ。……失礼しました。なら、改めて伺います。
 あなたは、そこの……神尾晴子さんを、どうなさるおつもりですか」

またしても直球だった。
わたしへの詰問が中断していた、正確にそこまで話が戻される。
ウルトリィがどんな答えを返すのか、わたしもまた傾注する。

『……今、この身は契約者の手を離れ、私自身の意思によって動いています。
 私たちには自由にそういうことができる。そうですね、カミュ』
「そうなの、カミュ?」

突然に話を振られたカミュが、戸惑ったように答える。

47 黒白 :2006/12/07(木) 20:13:11 ID:gW6263Ic
『え? ……ええと、うん、一応はできるよ……?
 あ、も、もちろんカミュがそういうことをするときは、ちゃんと春夏さんに言ってからだからね!?』
「分かってるわ、ありがとうカミュ」

宥めるように言う春夏さんに、ウルトリィの言葉が続けられる。

『それは即ち、この身に取りこんだ者を解き放つかどうかも、私の意思次第ということです。
 言っている意味が、分かりますか?』

ウルトリィの問いかけに、春夏さんが探るように口を開く。

「……つまりあなたはそのまま、牢屋の役目を果たすことができるって、そういうわけですか……?」
『その通りです』
「何やて!? ちょ、待ったらんかい!」

そのやり取りに、無視され続けて不貞腐れたように黙り込んでいた母が噛みついた。

「冗談やないで! 開けえ! 今すぐここ開けえや!」

母の半ば悲鳴に近い声に、わたしの胸が締め付けられる。
しかし今のわたしには、指一本を動かす自由すらありはしなかった。
そんな母の声を無視して、春夏さんはカミュへと問いかける。

「……どう思う、カミュ」
『うん……お姉様の仰ってることはわかるよ。難しいことじゃないと思うけど……』
「そう……」

言って、しばらく何事かを考えるように黙り込んでいた春夏さんが、やがて口を開いた。

48 黒白 :2006/12/07(木) 20:13:30 ID:gW6263Ic
「ウルトリィさん。もう一つだけ、伺います」
『何でしょう』
「あなた自身は、これからどうされるおつもりですか」

もっともな疑問だった。
ウルトリィが自身の意思で動くというのならば、場合によっては母とわたしよりもよほど危険な存在となり得る。
だが、ウルトリィはそんな疑問を一蹴した。

『何もするつもりはありません』
「……と、いうと」
『こうして、ただここに漂い、あなた方を見守るつもりだということです』
「……」

さすがに、その答えは予測していなかった。
確かにこの高空に留まるならば、母が逃走を企てることも難しいし、他の参加者にかち合うこともあるまい。
不審な動きをするにしても、カミュたちから見上げればすぐにそれと知れる。
春夏さんにしても、それは意外な答えだったらしい。再び沈黙が降りる。

「……わかりました」

しばらくの間を置いて、春夏さんの絞り出すような声。
ウルトリィの声がそれに答える。

『ご理解に感謝します』

それが、結審の槌音だった。

49 黒白 :2006/12/07(木) 20:14:18 ID:gW6263Ic


「では、神尾晴子さん……そして観鈴さんのこと、お任せします」
『……じゃあまたね、お姉様!』

その言葉だけを残して、カミュと春夏さんは夜の島へと降りていった。
黒いその影が、瞬く間に夜陰に紛れて見えなくなる。

「何で……なんでや……!」

母の涙交じりの声だけが、高空に取り残されていた。

「ここ開けぇや、観鈴! うちの言うことが聞けんのかい、観鈴……!」

わたしはそれを、じっと聞いている。

50 黒白 :2006/12/07(木) 20:14:56 ID:gW6263Ic
【時間:2日目午前3時頃】
【場所:G−6】

 神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:軟禁】
 アヴ・ウルトリィ=ミスズ 
【状況:自律操縦モード/それでも、お母さんと一緒】

 柚原春夏
 アヴ・カミュ
【所持品:おたま】
【状態:健康】

 天沢郁未
【所持品:薙刀】
【状態:逃亡】
 鹿沼葉子
【所持品:鉈】
【状態:逃亡】

→522 ルートD−2

51 鬼、その身を灼いて :2006/12/09(土) 19:29:20 ID:Q2tOKsc2

その声を、柏木千鶴は静かに聞いていた。
静かに、握り締めた拳から、噛み締めた唇から鮮血を滴らせながら、聞いていた。

『―――ターゲット、柏木梓の殺害に成功したのは、芳野祐介さん。
 同じく柏木初音殺害に成功したのは、来栖川綾香さん―――』

梓の死は仕方ないと、自分に言い聞かせることもできた。
力量を読み誤り、無謀な相手に挑んだ結果だと。
荒れ狂う感情を、狩猟民族の血、そして家長としての責任で押し潰すこともできた。
しかし。

瞼を閉じれば、浮かんでくる。
小さな初音。いつも笑顔を絶やさなかった、優しい初音。
まだ可能性に溢れていた。望めば叶わぬ夢などないと、信じていられる歳だった。
恋も知らずに、死んでいった。

来栖川。
来栖川、来栖川、来栖川、来栖川来栖川来栖川。

千遍引き裂いてもまだ足りぬ。
万遍断ち割ってもまだ足りぬ。
三界に遍く苦しみという苦しみを、久遠に続く絶望という絶望を、味わい尽くして死ね。

流す涙が、雨に混じって地に落ちる。
見開かれた目をそのままに、鮮血滴る真紅の爪を打ち振って、千鶴は叫ぶ。

「―――出て来なさい……ッ!! どうせ見ているんでしょう……!!」

びりびりと、周囲の大気が震える。

52 鬼、その身を灼いて :2006/12/09(土) 19:29:48 ID:Q2tOKsc2
と。
爪の一撃に薙ぎ倒された倒木の陰から、ひとりの少女がまろび出た。
白いワンピースを纏った少女は、しかしその幼い顔に似つかわしくない笑みを湛えている。

「気が、変わったみたいね?」

気の弱い者であればそれだけで縮み上がるような夜叉の双眸に睨まれながら、少女は平然と笑い返してみせた。

「―――いいわ。あなたに、力をあげる」

誰にも負けないくらいの力を、ね。
少女はそう言って、艶然と微笑んだ。



【時間:2日目午前6時】
【場所:G−5】

柏木千鶴
 【所持品:支給品一式】
 【状態:復讐鬼】

みずか
 【状態:目的不明】

→368 →405 →432 →531 ルートD-2

53 継承する思い :2006/12/10(日) 22:45:18 ID:PcauInOU
気がついたら暗いところにいた。
本当にすごく暗い。
右も左も上も下も判らないし、今自分が立っているのか、それとも浮いているのかすら判らないほど暗い場所だ。
ここを一言で言うなら……そう、『闇』だ。
そんな場所にあたし―――吉岡チエはいる。

(うぅ…なんか怖いっス……)
なんで自分はこんなところにいるのか?
確か先ほどまで自分はあの島の教会で舞先輩と耕一さんたちの帰りを待っていたはずだ。
それなのに、なぜ今自分はここにいる?
――――ワカラナイ。
判らないからただ前へと歩いてみることにした。
といってもこんな闇の中だ。足を動かしていても本当に自分は前に進んでいるのかすら判らないが…



かれこれ数十分は歩いたと思う。
闇という景色は一向に変わる様子は無い。
「はぁ……いったいあたしどうしちゃったんだろ?」
そう言ってため息をついていたら目の前から急に一筋の光が差し込んだ。
出口かなと最初あたしは思った。
もちろんあたしはその光の方へと歩いていく。

近づけば近づくほど光が徐々に大きくなっていく。
よかった。やっぱりあの光がこの闇の出口なんだと思い安堵する。

54 継承する思い :2006/12/10(日) 22:47:03 ID:PcauInOU
「―――ん?」
よく見るとその光の近くに2人の女の子の人影があった。
それはあの島であたしが(多分)1番良く知っている子たちで、あたしが1番会いたかった2人だ。
「このみ、ちゃる!」
とっさに2人の名(片方は愛称だが)をあたしは叫んでいた。


「あっ。よっち〜♪」
「よっち……」
2人は同時にあたしに気づき、あたしの名(これも愛称だが)を呼んだ。
柚原このみと山田ミチル…あたしの自慢の親友の2人――よかった。やっと会えた……

すぐさま2人のもとへ駆け寄り飛びついてやろうとあたしは走り出した。
すると……

―――ゴン!
「あいたーーーーーーーっ!!」

2人まであともう少しという距離のところで見えない壁に激突した。
な…なんでっスか!?

「どうしたの、よっち?」
「よく判らんが大丈夫か?」
強打したおでこを押さえて縮こまるあたしを2人が不思議そうな顔で見る。
「あ…あたしにも判らないっスよ。なんか見えない壁があるみたいで……」
あたしがそういうと2人は「えっ?」と声をあげてこちらに近づいてくる。
ある程度歩いたところで2人もその見えない壁に接触した。
(ちなみにこのみもあたしと同じくおでこをゴンとうった)

55 継承する思い :2006/12/10(日) 22:47:46 ID:PcauInOU
お互いの距離はもう手の届きそうなところまで来ていた。
しかし、あたしたちの間にはガラスほどの厚さの見えない壁がある。
どちらかが一方の元に行くことは不可能であった。
なんか水族館の魚になった気分だとあたしは思った。

「これは………ああ。そういうことか……」
何かに気づいたちゃるはそう言うと苦笑いをしてうんうんと頷いた。
「ちゃる、この壁が何だか判るの?」
このみがちゃるに尋ねる。
それにちゃるはうんと頷き答えた。
「よっち……残念だけど、よっちはまだこっちには来ちゃダメだ」
「な…なんでっスか?」
「よっちはまだ………生きているから」

―――は?
なぁに言ってるんスかこの赤い狐は。
まるで自分たちがもう死んでしまった者みたいなこと言って………
―――えっ? 死? 生きている? ちょ、ちょっと待った。
そんなこと言うってことは、もしかしてちゃるは……そして…そのちゃると同じ場所にいるこのみは……

「嘘……嘘っスよね……? そんなことあるわけが………」
「嘘じゃないさ……それなら、何故私とこのみはそっちにいけないの?」
「!?」
「そうだね……なんでよっちはこのみたちのところに来れないのかな?」
「……………」
答えることができない。
なぜなら2人の言っていることは間違ってはいないから……あたしはまだ死んじゃいないから……

56 継承する思い :2006/12/10(日) 22:48:38 ID:PcauInOU
「よっち…」
「…………」
このみが心配そうにあたしの顔を見る。
―――このみには悪いが、そんな顔であたしを見ないでほしかった。なぜなら今にもあたしは泣き崩れそうだったから。
「………ねえ、よっち。よっちはタカくんのこと好き?」
「――へ?」
突然このみが先ほどとはまったく関係の無いことを口にした。
というか。なんでここで河野先輩が出てくるんスか?
「ねえ、どうなのよっち?」
このみが壁越しにぐいっと真剣そうな表情で顔を近づけてくる。
思わず圧倒されそうになった。だけど、おかげで気がついた。
なんだ。たとえ死んじゃっていてもこのみはあたしが知っているいつものこのみじゃないか。
「きゅ…急にそんなこと聞かれても困るっスよ。こ、河野先輩のことは別に嫌いじゃないっスけど………」
「よっち、顔が赤くなっているぞ」
「うっさい!」
ついでにちゃるもあたしが知っているちゃるだった。
「先輩にはこのみがいるじゃあないっスか………」
そこでハッとした。そうだ。このみはもう……
「うん…このみはもうタカくんとは一緒にいられないから……もう会えないから……だからよっちにタカくんをお願いしたいの。
多分タカくんこのみのこと知ったら壊れちゃうかもしれない……」
なるほど…そういうことか……。しかし『壊れちゃう』という言い方がなんかこのみらしい例え方だったから思わずクスリと笑ってしまう。
「………わかったよ、このみ。先輩はこの大親友の吉岡チエに任せるっス!」
「うん!」
そう言ったこのみは笑顔だった。その目にはうっすらと涙があった。
それが嬉し涙なのか悲しみによる涙なのかはあたしには判らない。

57 継承する思い :2006/12/10(日) 22:49:19 ID:PcauInOU
「よっち……私も言いたいことがある」
「なんスか?」
「これはこのみにも聞いてほしいことだ」
「えっ? なに?」
「…………」
しばしの沈黙。そしてちゃるは再び口を開いた。
「………私はあの島で人を殺した」
「えっ!?」
「なっ!?」
「私はあの殺人ゲームに乗ったんだ。
私が貰ったのは銃だったから……それに、ゲームに乗るか乗らないか考えるのが面倒だったから………こんな私を2人は親友だと思ってくれる?」
「……………」
「……………」
今度はあたしとこのみが口を閉ざす。またも沈黙。そして、あたしたちは口を開く。
言うことは最初から決まっている。
「もちろんっスよ」
「もちろんだよ。たとえちゃるがどうなっちゃっても、ちゃるはちゃるであることに変わりはないもん」
「このみ……」
「そうっスね〜。普段から何をするのも面倒臭そうな顔してるっすもんね〜ちゃるは」
「うるさいぞよっち」
そう言うちゃるの顔は笑っていた。
「でもちゃる、その人に会ったらちゃんと謝らなきゃだめだよ」
「そうだな……許してくれるか判らないが………」
「その時はむこうが許してくれるまで謝り続ければいいんスよ」
「―――よっちらしい考え方だな」
「えへ。自分でもそう思うっス」
そう言ってあたしたち3人は笑った。

58 継承する思い :2006/12/10(日) 22:50:13 ID:PcauInOU
「―――さて。よっち、私たちはそろそろ行くぞ」
「そうっスか………」
「元気でね、よっち」
「後は頼むぞ、よっち」
このみが手をひらひらと振る。それに習いちゃるも手をひらひらと振った。
もちろんあたしも手を振る。
徐々に2人の姿が遠くに――光の中に消えていく。今のあたしができることはただ手を振ってそれを見送るだけだ。

「さようなら…またいつか………」
その言葉を言った瞬間2人の姿は消え、あたしの視界は真っ白になった。
俗に言う『ホワイト・アウト』ってやつだと思う。


* * * * *


「うん……あ。志保先輩おはようっス」
「やれやれ……今頃になって気がついたのあんた?」
チエが目を覚ますとそこは教会の聖堂だった。
(ああ、そっか。あたしあの時あの髪の長い女の人にやられて、そのまま気絶していたんスよね)
気を失う直前までの記憶を思い出してチエは苦笑いする。

59 継承する思い :2006/12/10(日) 22:50:55 ID:PcauInOU
「あっ……吉岡さん起きたのか?」
「…………大丈夫……よっち?」
仮眠を取っていた護と舞も目を覚ましチエに話しかける。
「はい。お蔭様で体調はバッチリOKっス!」
「やれやれ……あたしたちは交代交代で見張りと休憩を繰り返していたっていうのに、あんたは6時間近くぐっすり寝ていたわよ………」
「うっ……すいません」
「まあいいじゃないか。吉岡さんはこうして無事に目を覚ましてくれたんだし」
「――あれ? 耕一さんがいないっスけどどうしたんすか?」
「ああ。耕一さんなら吉岡さんが寝ている間に梓って子がここに来たんだけど、
その子と一緒に千鶴さん――ああ、千鶴さんっていうのは吉岡さんと川澄さんを襲った女の人の名前ね。
その人を止めるって言って2人で行っちゃったよ」
「そうっスか。あの人が耕一さんの探していた人の1人だったんスね……」
『――みなさん……聞こえているでしょうか。』
「!?」
――その時、2回目の放送が始まった。
「やれやれ……ホームルームの時間か………」
護がポツリと呟いた。



放送が終わると、最初の放送が終わった時と同じく、場の空気は重く沈んだ。
「うそ…レミィや来栖川先輩まで……」
「姫川さんって子の名前もあったな………」
「耕一たちが無事だった……だけど……」
舞の言葉と同時に護、志保、舞はチエの方に目を向けた。
チエは信じられないという反面、どこか判っていたという顔をしていた。

60 継承する思い :2006/12/10(日) 22:51:45 ID:PcauInOU
「―――やっぱり死んじゃっていたんスねこのみ…ちゃる………おばさんも……」
チエは俯いてそう呟いた。幸いその言葉は舞たちの耳には聞こえなかった。
『さっき夢で死んだこのみたちと会った』なんて縁起の悪いことは3人には言えなかったからだ。

「吉岡さん……なんて言って良いか判らないけど……その………」
チエを慰めようと護が声をかける。
「―――大丈夫っス、住井先輩。確かに辛いけど…悲しんでなんかいられないっスよ」
チエはそう言うと顔を上げた。その表情には悲しみも怒りもなく、ただひとつの現実を受け止めた少女の顔があった。
「そうか………そうだよな。死んだ連中の分まで俺たちが笑って生きてやらなきゃバチが当たるもんな」
護がふっと笑う。それに釣られて志保も笑った。
「そうよね…悲しんでばっかいちゃあ死んだ連中に笑われちゃうものね!」
「はちみつくまさん」
暗くなっていたムードが再び少し明るさを取り戻した。

「……でも、問題はこれからよ」
「ああ。あのウサギが言っていたこと……『優勝した奴は好きな願いを一つ、例えどんな願いであろうと叶えてもらえる』だっけ?
嘘か本当かは判らないけど……間違いなくこれに釣られる奴は出てくるよな」
「そうっスね。もしかしたら今までゲームに乗っていなかった人も『自分が優勝して参加者全員を生き返らせれば良い』なんて考えてゲームに乗っちゃう可能性もあるっス」
「ヒロたちがそうなっていなければいいけど……」
「そうだな……」
「それで……これから先どうする?」
「もちろん今は知り合いや同志を探そう。あの放送の後でも俺たちと同じ考えの人は間違いなくいるはずだ」
「そうね。じゃあまずはここからすぐ近くにある平瀬村から行ってみるとしましょうか?」
地図を広げた志保が平瀬村に指を指す。
「そうだな。村をある程度調べ終わったらその後のことはまたその時に考えよう」
「はちみつくまさん」
「決まりっスね」
4人はうんと首を縦に振ると、早速自分たちの荷物を持って教会を出た。

61 継承する思い :2006/12/10(日) 22:56:07 ID:PcauInOU
「あ…そうだったっス」
「ん? どうしたのよっち?」
平瀬村へ向かう道の途中、何かを思い出し声をあげたチエに志保が問いかけた。
「実はあたし、もう1人探したい人がいたっス」
「えっ? 誰?」
「―――河野貴明先輩っス」

(―――受け継ごう。そして伝えよう。河野先輩に。このみの思いを……あたしの秘めていた思いといっしょに………)



【時間:2日目午前6時45分頃】
【場所:F−3】

吉岡チエ
 【所持品:支給品一式】
 【状態:平瀬村に移動中。貴明ほか知人・同志を探す】

住井護
 【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式】
 【状態:平瀬村に移動中。浩平ほか知人・同志を探す】

長岡志保
 【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式)】
 【状態:平瀬村に移動中。浩之・あかりほか知人・同志を探す】

川澄舞
 【所持品:日本刀・支給品一式】
 【状態:平瀬村に移動中。祐一・佐祐理ほか知人・同志を探す】

62 継承する思い :2006/12/10(日) 22:58:13 ID:PcauInOU
訂正
>「耕一たちが無事だった……だけど……」

正しくは「耕一たちが無事だったのは幸い……だけど……」

63 発動(1/4) :2006/12/12(火) 14:58:15 ID:CRi3aVKE
「お疲れ様です、交替にきました」
「Oh、ササラ!」
「こっちは異常ないですよ」

寺の入り口付近にて談笑していた折原浩平と宮内レミィ、二人のもとへやってきたのは久寿川ささらであった。
あれからきっちり一時間、見張りを変わるために訪れたのであろう。
だが、一時間という短い間でで本当に休めたのだろうか、浩平の中で疑問が沸く。
・・・ほとんど眠っていないのではないか、そのような憶測も容易くついた。

「お二人とも、どうぞ休んでください。お疲れ様です」
「Ok!よろしくネッ」
「俺はもうちょっとここにいるよ。まだまだ目が冴えてるし」
「いいんですか・・・?」

遠慮深げなささらの視線に笑みを返す。
実際気絶していたとはいえ、体を充分に休めることのできた浩平にはまだまだ余力ができていた。

「頑張ってネッ!ワタシはRest roomに寄ってから戻るヨ」
「じゃあな、レミィ」
「おやすみなさい」
「また明日ネッ!!」

終始明るいレミィが去ると、場は一気に静まりかえった気がする。
たった一時間ではあるが浩平も彼女とは随分と打ち解けることができていた、レミィのテンションは嫌いじゃない。
しゃべり続けて一時間経ってしまったようなもの、それは非常に楽しい時間であった。
同じクラスにいたら絶対楽しかっただろう、そんな気さえしてくる。
すっかり意気投合した二人の様子に、ささらも微笑ましそうな視線を送ってきた。

「随分仲良くなられたんですね」
「おうよ。あいつ面白いヤツでさ、話してたらこっちまで乗せられちまったって感じだ」

64 発動(2/4) :2006/12/12(火) 14:59:08 ID:CRi3aVKE
まぁ、と可愛らしく笑うささらの笑顔に、これまた浩平も笑って答え。
・・・ゲームが始まってから、こんなにも朗らかな気持ちでいられるのは初めてであったから。
浩平は今いる仲間達の存在のありがたみに、心から感謝するしかなかった。

「それにしても、ボロっちいからもうちょっと過ごしづらいと思ったんだが。意外と頑丈にできてるな、この建物」
「そうですね。宮内さんと折原さんが話していらっしゃっていた際の声というのも、特に中には届いてませんでしたし・・・」
「マジか。・・・そういえば、それは?」

隣に腰掛けるささらの手には、何やら物騒なものが握られていて。
浩平にとってはどこか見覚えのあるそれを構えながら、ささらは彼の問いに答えた。

「真琴さんに借りたんです。護身にと思いまして」
「ああ、あのクソチビのか」
「・・・そういう言い方は可哀想ですよ」
「いきなり殴りかかってきた上に、人の荷物勝手に漁るようなのはクソチビで充分だ」




一方、その頃のクソチビこと沢渡真琴は。

「あうー、お腹がすいたのよ〜・・・なんで真琴がこんな窮屈な思いしなくちゃいけないのよ〜」

空腹を訴えるお腹を押さえながら、彼女は小牧郁乃と立田七海と同じ部屋にて休んでいた。
ほしのゆめみは電源のある部屋にて、バッテリーの切れたイルファの様子を見ていることになっている。
ささらもいなくなりますます寂しくなったその部屋で、真琴は一人もがいていた。
別に全く食事を摂っていないわけではない、だが見境なく支給されたパンに食いついている所を止められたため不満が残ってしまったということで。
おかげで彼女の空腹中枢は中途半端な所までしか満たされず、今も眠れず夜を過ごしているという訳だ。

「あれ、美味しかったなー」

65 発動(3/4) :2006/12/12(火) 14:59:57 ID:CRi3aVKE
思い出すのはつまみ食いしたダンゴの味。
可愛らしくつけられた表情に対する罪悪感など沸くはずもなく、真琴は甘いダンゴの感触を思い出し酔いしれていた。

「まだまだいっぱいあったわよね・・・ちょっとくらい貰っちゃっても、バレないわよね?」

すっかり熟睡してしまっている七海と郁乃を尻目に、真琴は一人こっそりと一箇所にまとめられた荷物の山に近づいた。
そして重なり合う荷物を片っ端から開け、中に手をつっこみだす。
部屋は暗く見通しは非常に悪い、手の感触でしか中身は特定できないような状態であったが真琴は気にせず荷物を引っ掻き回した。
・・・それ以前に、ダンゴの入っていた浩平の荷物は彼が持参して見張りについているのでここにはないのだが。
そんなことを真琴が覚えているわけもなく、彼女はひたすらひたすらダンゴを探し続けた。

カチッ。だが、場に響いたのは予想外の音であった。

「え?」

何かを押した音、そう・・・例えば、ボタンやスイッチのようなもの。
手を中に入れた勢いで当たってしまったらしい、真琴は恐る恐る指に触れるそれを取り出した。

「げっ」

見覚えのある物、それはささらに支給された正体不明のスイッチ。
・・・何が何だか分からないから保留と決めていたそれは、真琴の手によりしっかりと凹んでいた。
戻そうとしても戻らない、開閉式の鍵のようかと思いカチカチと連打しても変わらない。

「み、見なかったことにしましょ」

こっそりささらの鞄に戻し、真琴は荷物の山から遠ざかっていく。
・・・とりあえず、爆弾の類ではなくて良かったと、思った。

66 発動(4/4) :2006/12/12(火) 15:00:27 ID:CRi3aVKE




すぐ隣の部屋、充電をするイルファを見守る形でほしのゆめみは座っていた。
特にやることはない。むしろ彼女を見張りにおけば、他のメンバーは一晩ゆっくり休むことができただろう。
だが万が一、目が覚めたイルファに何かあった時対処できるような人材は彼女だけであった。
ゆめみはぼーっと無駄な時間を過ごし続けていた、それがいつまでも続くと思っていた
何かを特別意識することなく、虚空を見つめるその姿。
だがそれは、彼女の意識を乗っ取る存在が現れるまで。

『---------認証完了、プログラム2起動します』

紡がれたものは彼女の声だが、決して彼女の言葉ではないもの。
これが、彼らの平和な時間が終わりを迎える時であった。





【時間:2日目午前0時】
【場所:F−9・無学寺】

折原浩平
【所持品:だんご大家族(だんご残り95人)、イルファの首輪、他支給品一式(地図紛失)】
【状態:見張り】

久寿川ささら
【所持品:日本刀】
【状態:見張り】

67 補足 :2006/12/12(火) 15:01:12 ID:CRi3aVKE
宮内レミィ
【所持品:忍者セット(木遁の術用隠れ布以外)、他支給品一式】
【状態:トイレへ】

沢渡真琴
【所持品:無し】
【状態:スイッチ押した】

小牧郁乃
【持ち物:車椅子】
【状況:睡眠中、七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】

立田七海
【持ち物:無し】
【状況:睡眠中、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】

ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)

イルファ
【持ち物:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬5発(回収)、他支給品一式×2】
【状態:充電中・首輪外れてる・左腕が動かない・珊瑚瑠璃との合流を目指す】

ほしのゆめみ
【所持品:支給品一式】
【状態:異変】

【備考:食料少し消費】
(関連・504)(B−4ルート)

68 自分がやるべきこと :2006/12/13(水) 14:18:20 ID:VMImqlO.
「まーりゃん先輩、本当にどこに行っちゃったんだ?」
あれから貴明、マナ、ささらの3人は麻亜子を探すため鎌石村を訪れていた。
しかし、いくら探しても麻亜子の姿も彼女がいたという痕跡すら見つけられなかった。
そして今、3人は村はずれの民家で休憩を取っていた。少し休んだら再び捜索を開始するつもりである。

「もしかしたら、この村には来てないんじゃない?」
「う〜ん…そうかもしれないな……」
そう言うと貴明はデイパックを開け、中からあるものを取り出した。
「貴明さんそれって……」
「ああ。高槻さんと別れた後もう一度職員室やその周辺を調べただろ? その時に使えそうだと思って持ってきたんだ……」
貴明が取り出したもの―――それは名倉由依が持っていた携帯電話と麻亜子が落としていったSIGと鉄扇だった。
「……銃に弾はあと2発しか残ってなかったけど入ってた、だからこれは先輩が持っていたほうがいいと思う」
そう言って貴明はSIGをささらに渡した。
………しかし、ささらは無言で首を横に振りそれを貴明に返した。
「先輩?」
「………それは貴明さんが持っていてください」
「どうして?」
「貴明さんにはまーりゃん先輩を止める他にもやるべきことがあるはずですから」
「…………そうだな。わかった。これは俺が持っておくよ」
「はい」
「じゃあ、あとは……携帯は観月さんが持っててくれないかな? 銃と鉄扇は俺が持っとくから」
「うん、判った」

(―――そうだ。この島で俺がするべきことは山ほどある。
まーりゃん先輩を止めて。このみや春夏さん、小牧さんやるーこたちを見つけだして。
そして雄二やタマ姉たちと合流して……最後に、1人でも多くの仲間たちを集めてこの島を脱出する………)

69 自分がやるべきこと :2006/12/13(水) 14:19:34 ID:VMImqlO.
貴明が自身の決心を確認すると同時に玄関の扉がゆっくりと開く音がした。
「!?」
すぐさま貴明とマナは互いの銃を握り警戒体制を取る。
「久寿川先輩は俺と観月さんの後ろに……!」
「は、はい…!」
「さっきの高槻とかいう奴らかゲームに乗っていない奴だったらいいけど……」
マナの言うことは最もだと貴明は思った。いくら時に生き残るためには必要とはいえ、人に銃なんてあまり撃ちたいなんて思わない。
しかし、もし相手が出会った人間を見境なく殺していく殺戮者であったなら、そのときは容赦しないという覚悟も貴明にはあった。
(これ以上、草壁さんのような罪も無い人たちを殺されてたまるか……!)
貴明は構えているSIGをぎゅっと握り締めた。

足音がゆっくりと貴明たちのいる部屋に近づいてくる。
それに伴い貴明たちの緊張も高まってくる。それぞれの心臓の音が聞こえるのではないかというくらいの緊張感が部屋に充満していく。
そして、足音が自分たちの部屋の入り口の前で止まった。

閉めていた部屋の扉が開いた。
同時に貴明とマナは銃を開いた扉に銃を向けた。
「動かないで!」
「ひっ!」
「………え? 女の子?」
部屋に入ってきたのは今から5時間以上前に平瀬村で起きた激戦から命からがら逃れてきた水瀬名雪だった。
「ねえ、あなた………」
「いや……いやぁ! こないでぇぇぇ!」
「あ……」
ささらが一歩前に出ると名雪は泣き叫ぶように大きな声を発しながら一歩一歩後ろに下がっていく。

70 自分がやるべきこと :2006/12/13(水) 14:20:50 ID:VMImqlO.
貴明とマナは銃を下ろし名雪を見た。
見るからに名雪は怯えている。それに肩には既に治療済みだが刺し傷があった。
(そうか……ゲームに乗った奴に襲われたんだな………)
そう確信した貴明はマナとささらに「任せてくれ」と目で合図した。
マナとささらもそれに気づき黙って頷いた。

「お母さん、助けてよ……お母さん、お母さん……!」
貴明が顔を先ほど向いていた方へ戻す。
名雪は頭を抱えながら部屋の隅で震えていた。
「ねえ君……」
「ひっ!」
名雪が恐る恐る振り返る。その顔は涙と鼻水、そしてここまで走って逃げてきたことによる疲労でぐしゃぐしゃになっていた。
「……ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。ただ……俺たちも生き残るために必死だから……
俺たちは殺し合いには乗っていないし、君に危害を加えるつもりは無いよ。だから落ち着いて話を聞いてくれないかな?」
貴明は銃を床に捨て、両手を上げながら名雪に近づく。

――普通の人間ならこれで騒ぎは終わっていた。だが、貴明のこの行動は今の名雪には貴明が自身を殺そうと近づいてきているようにしか見えなかった。
それほどまで名雪の精神はズタズタになっていたのだ。

「く……来るなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
次の瞬間、名雪は恐ろしい形相でポケットから取り出したソレを貴明に向けた。
―――支給品のルージュ型拳銃だ。
「!? 貴明さん!!」
「えっ!?」
刹那、危険を察知したささらが貴明を突き飛ばし、それと同時に……

ドン!

―――1発の銃声が民家に響き渡った。

71 自分がやるべきこと :2006/12/13(水) 14:21:38 ID:VMImqlO.
―――もちろん、名雪は自身に支給されたルージュが実は拳銃だったなんて気づいてはいなかった。
ただ恐怖心により、藁にもすがる思いで持っていたルージュを貴明に向け、偶然トリガーを引いてしまっただけだ。



「っ……」
僅かな呻き声を発し、ささらが床に崩れ落ちた。
「久寿川先輩!?」
「久寿川さん!?」
すぐに貴明とマナがささらに駆け寄る。
「だ…大丈夫………です…………」
ささらは左手で右肩を押さえていた。そこに弾が当たったんだなとすぐに貴明とマナは理解した。
それと同時に、ささらの制服の右肩部と床はみるみるうちに鮮血で真っ赤に染まっていった。
「すぐに止血をしないと………弾は……貫通してる…のか?」
ささらの背中を見ると制服の背中にも穴があったので、弾は貫通したと貴明は判断した。
「あなた……なんてことを………!」
マナはキッと名雪を睨みつける。名雪は先ほど以上に怯えていた。
「違う……違うもん………私………わたし……ワタシ……い…嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そう叫ぶと名雪はルージュを投げ捨て、民家を飛び出していった。
「あっ……待ちなさい!」
「観月さん。それよりも今は先輩を……!」
「たかあきさん……マナ…さん……彼女を追ってください………」
「なっ……何言ってんだよ先輩!?」
「そうよ。このままじゃ久寿川さんが………」
「私は本当に大丈夫ですから………だから………」
貴明はささらの目を見た。間違いなくささらのその目は貴明に何かを伝えていた。
(―――! そうか……そういうことなんだな………先輩!)

72 自分がやるべきこと :2006/12/13(水) 14:26:29 ID:VMImqlO.
ささらが伝えたかったことを自分なりに理解した貴明はほんの少し、ほんの数秒の間口を閉ざしたが、やがてゆっくりと口を開いて言った。
「………悪いけど、それは無理だよ先輩……」
「そう…ですか……」
「そうよ。当たり前じゃ……」
「――追うのは俺だけだ。観月さんには残って先輩を見てもらう」
「はぁ!?」
「………はい……」
それを聞いたささらは右肩の激痛に苦しみながらもにっこりと微笑んだ。
「観月さん。先輩を頼むよ!」
貴明はそう言うと自分の武器とデイパックを持って家を飛び出していた。
「ちょ……ちょっと………あ〜もう!!」
取り残されたマナはそう叫ぶと仕方なくささらの応急処置を始めた。
「これは借りにしとくからね………絶対にあの子を連れて戻ってきなさいよ………」
「大丈夫…ですよ………たかあき……さん…なら……」
ささらはまた微笑んでマナに言った。

73 自分がやるべきこと :2006/12/13(水) 14:27:09 ID:VMImqlO.



【時間:2日目5:45】

河野貴明
 【場所:C−4・5境界(移動済み)】
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】
 【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、名雪を追う(もちろん殺すつもりはない)】

観月マナ
 【場所:C−4・5境界】
 【所持品:ワルサー P38(残弾数8/8)、予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)携帯電話、支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)、ささらの応急処置中】

久寿川ささら
 【場所:C−4・5境界】
 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、ほか支給品一式】
 【状態:右肩負傷(重症・出血多量・弾は貫通)、マナに応急処置をしてもらっている】

水瀬名雪
 【場所:C−4・5境界(移動済み)】
 【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、青酸カリ入り青いマニキュア】
 【状態:かなり錯乱している、観音堂(C−6)方面に逃亡(貴明が追ってきていることには気づいていない)】

【備考】
・赤いルージュ型拳銃(弾残り0発)はマナたちのいる民家に放置

74 何を信じるか :2006/12/14(木) 07:27:48 ID:m.IzredY
定時放送が流れたのは、雅史と椋が目覚めた直後だった。
二人共、黙って放送を聞く。


「宮内さんに…来栖川先輩、それに琴音ちゃんまで…」
放送が終わった後、雅史は下を向きながら大きく溜息をついた。
「お知り合いの方が?」
「うん…同じ学校の人が4人。それに昨日会ったセリオを入れれば5人か…。椋さんは?」
「あ、はい、私の方は大丈夫です…す、すみません…」
「いや、椋さんが謝る事はないよ」
ペコペコと頭を下げる椋に、雅史は少し苦笑する。
その後、再び沈黙が訪れた。

「と、とりあえずもう一回パソコンをチェックしてみようか。何か新しい情報があるかもしれない」
雅史はそう言って沈黙を破り、ノートパソコンを起動する。
『ロワちゃんねる』を開くと、『安否を報告するスレッド』に新しい書き込みがされていた。

75 何を信じるか :2006/12/14(木) 07:28:21 ID:m.IzredY
「岡崎さん…!」
その書き込みを見た椋は思わず声を上げる。
「この岡崎朋也って人…確か椋さんが探していた…」
「はい、私と同じクラスの方です」
そう言うとともに椋は民家から走って出ていこうとする。
雅史は慌ててその手を取った。
「ちょっと!どこ行くつもり?」
「どこって…そこに書いてある鎌石村へ…」
「ダメだ!危険だよ!」
思わず怒鳴ってしまう。
確かに椋のクラスメートに会いたいという気持ちは分からないでもない。
しかし、ここに書かれている橘という男のような奴だっているのだ。迂闊に信用するのは危険だ。
が、「知り合いでも簡単に信じるな」とは言いにくいので別の言い訳を考える。
「殺し合いに乗ってる人が、書き込みを見て鎌石村に来る可能性だってある。それに鎌石村はここから反対方向でかなり遠いし…」
椋を説得しようと必死に訴える雅史。
それが通じたのか、椋は俯きながらも「はい…」と小さな声で返事をした。

一安心した雅史は、自分も何か書き込んでおこうと再びパソコンに向かう。
(さて、何て書こうか…)
雅史がキーボ−ドに手をつけようとした時。
「…ごめんなさい。私、やっぱり…」
「え?」と雅史が振り向くと、既に椋の姿は無かった。
「椋さん!くそっ、しまった…!」
慌ててパソコンの電源を落とすと、雅史も民家を出て椋の後を追った。

76 何を信じるか :2006/12/14(木) 07:28:56 ID:m.IzredY


【時間:2日目午前6時半過ぎ】

佐藤雅史
【場所:I−7】
【持ち物:金属バット、ノートパソコン、支給品一式(食料二日分、水二日分)】
【状態:椋を追う】

藤林椋
【場所:I−7】
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:14時までに鎌石村役場に向かう】

77 名無しさん :2006/12/14(木) 21:34:00 ID:m.IzredY
ぐあすいません、ルート書き忘れてましたね。
B-9〜B-13、J-2
関連:431、485
でお願いします

78 目覚めの朝(1/6) :2006/12/15(金) 00:52:42 ID:LinICPVM
・・・体が、だるかった。
泣き疲れて眠ってしまった、その事実に気づいた時はもう朝だったようで。
窓から差し込むうっすらとした陽の光で、古河渚は目を覚ます。

「・・・え、これは・・・」

起き上がると、その見覚えのある景色に驚いた。いや、それ以前の問題でもある。
スプリングは少し固めだけれど眠るにはちょうどいいベッド、柔らかい布団。
・・・それは、安全であった頃に自分が早苗の庇護のもと休んでいたあのベッドだった。

「目が覚めたか?」

戸惑う渚にかけられた声、気がついたら一人の男が部屋の入り口に立っていた。
見覚えのない人物に対する警戒心よりも、この把握できない現状に混乱してしまう渚。
ただ何がどうなっているかを理解しようと頭を動かすが・・・あの、父を亡くした場面から先の記憶はなく。
むしろ、それで思い出してしまった昨日の出来事に胸が締め付けられてしまう。

「妙にドンパチでっかい音がしたと思って来てみたら、もう俺が来た時には全部終わってた。
 ・・・血の海の中で身動きするあんたを見た時はびっくりしたよ」

話しかけても答えてこない渚の様子を気にせず、男はゆっくりと近づいてきてベッドの横に添えつけられた椅子に腰掛けた。
目が合うと少し微笑み返してくる彼は、近くでみると思ったよりも幼い顔つきで。
同年代の男の子特有のやんちゃ加減が見え隠れする様は、少し朋也のことを彷彿させた。

「そう、ですか・・・」

そんな彼に対し、渚はただそれだけを返した。
男の言葉は昨日の全てを物語っていて、あの悲しみが現実の出来事だということを物語る。
瞼の裏に焼きついた光景を浮かべるだけで、渚の心は一気に疲弊した。
・・・思い返すだけで悲しくなる、溢れそうになる涙を必死に堪えた。

79 目覚めの朝(2/6) :2006/12/15(金) 00:53:52 ID:LinICPVM
「知り合い、だったか?」

男の気遣うような言葉。渚は目を伏せたまま、静かに頷いた。

「はい、おと・・・父と、母が」
「そうか、そりゃつらかったな・・・」

会話が止まる。
渚はきゅっと膝にかかったままの布団を握り締め、ひたすら堪え続けていた。
もう、何もできないまま泣き崩れるのだけは嫌だった。それで救える命などないことは、前日説明されていたのだから。

「俺は那須宗一。あんたは?」
「古河渚、です」
「俺はこれから、知り合いを探しに島を歩き回ろうと思う。勿論、ゲームになんて乗らないさ。
 ・・・あんたは、どうする?」

問いかけ。それの指す意味に対し、渚の顔に戸惑いが浮かぶ。
これは自分も同行してよいのだろうか、それともただ単にお互いのこれからを話し合うためだけの話題なのか。

『一緒に行ってもいいですか』

それは、いつもの彼女なら答えだであろう台詞。
遠慮がちに、相手の出方を窺うように。
・・・だが、もう受身でいるのはごめんだった。それで好転するなんてことがないことも、前日説明されていたのだから。

「わたしも一緒に、連れて行ってください」

だから彼女はこのような答え方をした。言葉に一つの、覚悟を決め。

80 目覚めの朝(3/6) :2006/12/15(金) 00:55:03 ID:LinICPVM
「あの、お役に立てるかは分かりませんが・・・でも。
 もう、誰も死なせたくないです。こんな争いは充分です」

大切な人を失ってしまった、もうこのような事態を繰り返さないために。
このような思いを、誰かにさせないために。
それが渚の出した思いの結論であった。

「あんた、いい根性してるな」
「え・・・?」

そんな彼女の様子に、宗一は小さく苦笑いを浮かべる。
自嘲気味に顔を歪ませる彼の指す態度の意味が分からず、渚は意味を問うよう彼に視線を向けた。
少し間を空けてから、宗一は静かに語りだす。

「・・・俺の知り合いがさ、放送で呼ばれたんだ。優しい子だったんだ、凄く好きだった。
 へこんだよ、守れなかったことに対する後悔も大きかった」
「那須さん・・・」

悲しい語り。しかし、それに続けられた言葉は渚の予想を超えることになる。

「ごめん、俺あんたに嘘ついた。昨日の夜、この診療所で何か起きてた時・・・俺、近くにいたんだ」
「・・・え?」
「全てが片付くの見計らって、中入ってったんだよ・・・こん中に、俺の知り合いがいないの知ってたから」

言いながら、彼は懐から支給品であるFive-SeveNを取り出しそれを渚に向けて構える。
その慣れた手つきと突然の告白、二つの驚きで渚の体は硬直してしまい動けなくなる・・・が。
銃弾は放たれることなく、次の瞬間Five-SeveNは渚の懐に投げ込まれた。

81 目覚めの朝(4/6) :2006/12/15(金) 00:55:50 ID:LinICPVM
「あいつが死んだっていうの知った時、俺はこのゲームに乗ってもいいと考えちまった。
 大事な仲間以外、撃ち殺してもいいと思った・・・俺には、それをするだけの能力が与えられていたからな。
 ここが騒がしかった時も、全てが終わった後に何かいい支給品でもあったら回収しようと思ったんだよ・・・」

表情が、ますます険しくなる。
・・・宗一が何をもってこれを伝えているのか、その意図を渚が上手く理解することはできなかった。
だから、彼女は問う。ストレートに、彼の本心を知るために。

「・・・何故、殺さなかったんですか?」

静かな声に、伏せめになっていた宗一の顔が上げられる。

「では、何故わたしのことを殺さなかったのですか」
「それは・・・」
「何故、そのことを話してくれたんですか。
 ・・・そんなことを言われても、わたしがあなたに対し良い感情を持つわけはありません」
「分かってる、だからそれをあんたに渡したんだ」

自動拳銃FN Five-SeveNは、今渚のもとにある。
彼女はそれに手をつけようとしなかったが、それでも武器は与えられたという状況。その指す意味は。

「わたしに、撃たれたいんですか?」
「・・・それが、あんたの親を見殺しにした、俺の責任でもあると思ったから」

ひどくつらそうな宗一の様子に、渚はやっと何かを理解したような感覚を得た。
そう。この人は、今でも後悔している。

守れなかった大事な人を失った時から、ずっと。
そして、誰かにとっての『大事な人』を奪う可能性を持っていたことに対し。
そう。実際渚にとっての『大事な人』を見殺しにしたということに対し、罪の意識を持っているのだと。

82 目覚めの朝(5/6) :2006/12/15(金) 00:56:39 ID:LinICPVM
渚は一つ息を吐き、改めて宗一の目を見つめた。
彼はまだ笑い続けている。口元だけを緩ませ、死んだ目でこちらを見返している。
彼は、罰せられるのを待っていた。

「・・・いりません。そんなもの、そんな覚悟。
 それでお父さんもお母さんも返ってくるわけではありません」

言い切った。受身でいる宗一を、突き放すべく。
渚に攻められることで免罪符を勝ち取ろうとする彼の態度を、彼女は許さなかった。
・・・そして、渚自身も。自らの罪を、告白をする。

「それに・・・わたしも同じなんです。わたしも、一度は逃げましたから」

父なら大丈夫だと思ったから。
父なら、絶対あの状況をひっくり返してくれると思ったから。
出て行けと言われたからというのもあるが、やはり信じていたという部分が強かったから。
そんな言葉で期待を押し付け、渚はあの場から逃げ出した。
・・・確かに信じていた、父なら何とかしてくれると。そして実際、あの場自体は何とかなった。

失ってから圧し掛かってくる後悔は、今もまだ続いている。
もしあの場に留まっていたとしても、渚にできたことなどなかったかもしれない。
でも、それでもと。思考は、ループし続ける

・・・そんな可能性を考えたら、キリなどないのだ。
だから渚は、もう後ろを振り返ろうとは思わなかった。
今の自分にはまだ未来があるから、今の自分には今度こそできることがあるだろうから。

「わたしは、父を犠牲にした分もう新たな犠牲を出さないために何かしたいです。
 ・・・でも、思いだけでは、守りきれないんです」

83 目覚めの朝(6/6) :2006/12/15(金) 00:57:24 ID:LinICPVM
渚は今一度宗一と目を合わせ、そして。

「那須さん、力を貸してください」

今度は自分から、協力を仰いだ。

「この件に関する償いは望まないです、でも。・・・わたしには、那須さんの力が必要です。
 ゲームを止めたいです、この島にいるみなさんを救いたいです。勿論、那須さんのお友達もです。
 ・・・これ以上誰かの大事な人が傷つくことのないよう、力を貸してください」

普段の彼女らしからぬ強い姿勢、凛とした強固なる意志は決して曲げられることのない思いの証。
そんな彼女と見つめ合ううちに、宗一も心のモヤと化した部分が晴れていくような気分を味わう。
・・・こんな、何の力も持たないような少女がこれだけ言ってのけているという現実。
力があるからこその悩みができた宗一、でもそれを塗り替えるチャンスは今目の前にあった。
口の端をきゅっと結び、表情を改める。再び顔を上げた彼の迷いは、既に消えていた。

「・・・分かった」

返されたのは短い一言、これで会話は終わる。協定は、結ばれた。

84 補足 :2006/12/15(金) 00:58:08 ID:LinICPVM
古河渚
【時間:2日目・午前6時前】
【場所:I−7・診療所】
【持ち物:なし】
【状態:宗一と行動・ゲームを止める】

那須宗一
【時間:2日目・午前6時前】
【場所:I−7・診療所】
【所持品:FN Five-SeveN(残弾20/20)、他支給品一式】
【状態:渚に協力】

【備考:早苗の支給武器のハリセン、及び全員の支給品が入ったデイバックは部屋の隅にまとめられている。秋生の支給品も室内に放置】

(関連・281b・306)(B−4ルート)

358が佳乃の有無、宗一の状態で当てはめられなかったので、こちらを該当していただければと思います・・・

85 少女・医者・銃撃戦 :2006/12/17(日) 18:22:46 ID:h7BRp8CY
「先生…もう大丈夫なの?」
ことみが心配そうに聖に問いかける。
「ああ。何時までも足を止めているわけにはいかないしな…」
それにこのまま泣き続けていたら佳乃に笑われてしまう、と言うと聖は自分の荷物を持って立ち上がった。
「さて……では行くとしようか」
「うん……あ……」
「ん? どうした、ことみ君?」
「人が来るの………」
「なに?」



「はぁっ……はあっ……」
「あ…あの子結構速いしスタミナあるな……いつまで走るんだ……」
名雪と貴明の距離はどんどん広がっていく一方であった。
いくら疲労がたまっているとはいえ陸上部部長の名雪と朝遅刻ギリギリで学校に駆け込む程度の貴明ではさすがに実力差があった。
「ま…待って………」
ついに息切れした貴明の足が止まってしまう。
そんな貴明にはお構いなしで名雪はどんどん遠くへと走り去っていき、先ほどまでは豆粒ほどだった彼女の姿もとうとう見えなくなってしまった。
「ああ………」
名雪が走り去っていく方を呆然と見つめながら貴明は膝を付いた。
「先輩……観月さん……ごめん」
貴明は今は鎌石村にいるささらとマナに一言謝罪すると近くの木にもたれかかった。

「ふぅ……」
デイパックから水を取り出し少し飲んだ。喉や体が生き返っていく感じがした。
(――あの子、何も持っていなかったみたいだけど……大丈夫かな?)
脱水症状とかにならなければいいけど…、と思いながら貴明はペットボトルをしまい、立ち上がった。
「とりあえず鎌石村の先輩たちのところへ戻ろう……」
貴明が村へと引き返そうとしたその時であった。

86 少女・医者・銃撃戦 :2006/12/17(日) 18:23:40 ID:h7BRp8CY
「―――もうマラソンはお終いか?」
「!?」
先ほど貴明たちが走ってきた方からかなり殺気がこもった声がした。
貴明は急いで振り返ろうとしたが、それよりも先に身体が動いていた。

ぱららら……!
銃声……それもマシンガンの類が連続で弾を撃つ音がする。
銃声が聞こえる直前に貴明は大地を転がっていた。
その際、貴明の左足に何かがかすった。もちろんかすったものは木の枝などではない。銃弾である。
「っ!?」
若干左足に痛みが生じたが、そんなことはお構いなしで体勢を立て直すと貴明はすぐさま近くの木々や茂みの中に身を隠した。

(皮肉な話だよな――俺よりも年下のガキがこんな殺人ゲームに乗るなんて……!)
貴明が身を隠した方を睨みながら藤井冬弥は再びP90を構えた。
「お前みたいな奴がいるから由綺たちやみんなが死んじゃうんだろーーーーーーっ!!」
そして次の瞬間には冬弥は貴明が隠れていそうな場所に問答無用で銃を撃ちまくった。
銃声とともに木が草が周辺に木片と葉っぱを撒き散らしていく。
「な…なにを!?」
わけが判らない貴明は木陰に身を隠しながらレミントンを構えた。
「人を殺そうとしているのはあんたのほうじゃないか!」
「!?」
そして貴明も銃弾が飛んでくる方へレミントンを1発放った。
ドンという音とともに散弾が冬弥の方へと飛んでいく。
しかし、貴明の銃は近距離ではその威力を発揮する代物であるが今回のような中距離以降からなる銃撃戦にはあまり向いていない。
結果として貴明が放った弾はとっさに回避運動をとっていた冬弥の近くをかすめていくだけで終わった。

87 少女・医者・銃撃戦 :2006/12/17(日) 18:24:18 ID:h7BRp8CY
「ちっ!」
すぐさま冬弥も弾が飛んできた方にP90を撃つ。
「こいつ!」
さらにお返しに貴明も1発。
もはややったりやられたり、やられたらやり返すな状況である。




「う…あ……」
名雪はただ走り続けていた。
もう意識も朦朧として目もかすんできた。
それに喉も水分不足により息をするたびにひゅーひゅーと音を鳴らしていた。
―――逃げなきゃ殺される。ただその一心で足を動かしていた。
だが、その足もついに限界が来た。
「あうっ……!?」
突然名雪の足ががくんと膝を折り、名雪は地面に倒れ付す。
(そ…そんな………)
さらに自分の意識も急激に遠のいていくのが名雪には判った。
(いや…いやだよ……死ぬのは怖いよ………お母さん……おかあ…さん………)
そして名雪は意識を失った。
最後に自分に心配そうに駆け寄ってくる誰かの姿をうっすらと確認しながら。

88 少女・医者・銃撃戦 :2006/12/17(日) 18:24:54 ID:h7BRp8CY
「先生、この子……」
「ふむ……軽い脱水症状だな。それと、疲労によりやや衰弱している」
名雪の様子を見ながら聖はデイパックからタオルを取り出すとそれを水で塗らして名雪の額に置いた。
「恐らく少し休ませれば問題ないだろう。ことみ君、たしかこの近くにはお堂があったな?」
「うん。観音堂っていうお堂があったの」
「よし。来た道を戻ることになってしまうが、この子をそこまで運ぼう。さすがに路上で休ませるのは危険すぎる」
「わかったの」
聖が名雪を抱き上げようとしたその時、銃声が2人の耳に聞こえてきた。
それはちょうど自分たちが引き返そうとしていた観音堂の方から聞こえてきた。
「先生……今の……」
「―――私が先に行って様子を見てくる。ことみ君はその子を頼むぞ」
「あっ…」
それはいくらなんでも危ない、とことみが聖に言おうとした時には既に聖は自分のデイパックを持って先ほどまで歩いてきた道へと駆け出していた。


(これいじょう人が傷つく姿も――死んでいくのも私は見たくない………ふ…佳乃。どうやらお姉ちゃんはこんな時でも医者のようだ………)
職業病だな、と呟いてふっと苦笑すると聖は銃声が聞こえる方へとどんどん足を進めていく。
銃声はどんどん近くで聞こえてくる。それと同時に、かすかに若い――まだ少年くらいの男の人の声も聞こえてきた。
銃撃戦かと聖は思った。そして、そう思った次の瞬間には
「――その争い、ちょっと待った!!」
気がつけば銃撃戦をしているであろう者たちに聞こえるくらいの大きな声を茂みの方に叫んでいた。

89 少女・医者・銃撃戦 :2006/12/17(日) 18:25:34 ID:h7BRp8CY
【時間:2日目6:40】

 霧島聖
 【場所:C−6(観音堂周辺)】
 【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式】
 【状態:一度観音堂へ引き返す。が、今は貴明たちの争いを止める】

 河野貴明
 【場所:C−6(観音堂周辺)】
 【所持品:Remington M870(残弾数2/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】
 【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、左足にかすり傷、冬弥をマーダーと思い銃撃戦の真っ最中】

 藤井冬弥
 【場所:C−6(観音堂周辺)】
 【所持品:FN P90(残弾24/50)、ほか支給品一式】
 【状態:貴明をマーダーと思い銃撃戦の真っ最中】


 一ノ瀬ことみ
 【場所:C−6】
 【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)】
 【状態:聖が心配。今は名雪の看病】

 水瀬名雪
 【場所:C−6】
 【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り、起動後1時間で爆発)、青酸カリ入り青いマニキュア】
 【状態:気絶中】

90 少女・医者・銃撃戦 :2006/12/17(日) 18:26:47 ID:h7BRp8CY
【備考】
・冬弥の投げた十円玉の出た面は不明
・名雪の携帯の時限爆弾は手動による起動後1時間で爆発するように設定。起動方法は後続の書き手さんにおまかせします

91 補足 :2006/12/17(日) 18:31:21 ID:h7BRp8CY
関連
ルートB-13
→506
→561

92 苦難・修正版 :2006/12/18(月) 10:56:14 ID:sOVraX7M
―――午前六時。
祐一達は氷川村にほど近い場所で第2回放送に聞き入っていた。

……
……
24 神尾晴子
……

「か、神尾晴子さんって、観鈴の―――」
「ああ。観鈴君の母親だろうね」
「くそっ、やっぱり……」

祐一は不安気味に、英二の背中で眠っている観鈴に視線を寄せていた。
今は眠っているが後でこの事実を知ったらどういう反応をするのだろうか。
きっと心にまで大きな傷を受ける事になるだろう。
だが放送はそんな祐一達の不安を意にも介さないように続けられていく。

……
52 沢渡真琴
……
……
……
99 美坂香里
……

93 苦難・修正版 :2006/12/18(月) 10:57:44 ID:sOVraX7M


(―――タカ坊や雄二は無事だったみたいね)
向坂雄二や河野貴明、朝霧麻亜子の番号が呼ばれる事は無く既に死者発表はそれ以降の番号へと移っている。
学校での揉め事のその後の顛末は分からないが貴明と麻亜子は共に命を落とさずに済んだという事だろう。
その事は環にとっては間違いなく喜ぶべき事であった。だが今回は前の放送の時とは違い仲間の身内が死んでいる。
神尾晴子は自分にとっては突然襲い掛かってきた敵に過ぎないが、観鈴にとっては唯一無二の大切な母親だったのだ。
環はとても安堵の息を漏らす気にはなれなかった。



「真琴……香里……」
呼ばれた同居人と級友の名に、祐一は唖然としていた。また一つ、彼にとっての"日常"が欠けてしまった。
だが同時に、あゆや芽衣の死を知った時ほど自分が動揺していないとも思った。
祐一は僅か1日で何度も大切な人や仲間の死を経験している。きっと、慣れてしまったのだ。
だが悲しみまでもが無くなるわけではない。祐一はもう二度と見れぬ香里の少し冷めた笑顔と、残された栞の事を思って。
真琴との楽しかった日々を思って。静かに目を閉じた。
しかし得てして不幸は連続で訪れるものである。これで終わりでは無かった。


……
115 柚原このみ
116 柚原春夏


「う……嘘……でしょ……?」
大切な幼馴染の死に、環はがくんと膝から崩れ落ちた。
このみが死んだなんて信じたくない……しかしこの島ではいつ誰が死んでもなんら不思議ではない。
その事を十分に思い知っている環には、受け入れがたい現実を否定する事も出来ずただ両の瞳から涙を零す事しか出来ない。
英二も祐一も大切な者をなくした時の辛さは既に味わっている。環に対してなんと声を掛ければ良いか分からなかった。

94 苦難・修正版 :2006/12/18(月) 10:58:59 ID:sOVraX7M







このみの死を知った環は心が張り裂けそうな痛みを感じていた。
彼女の"日常"が音をたてて崩れていく。傍に居て当然の存在が理不尽な形で奪われてしまったのだ。
環はこの結果を予想していなかった訳ではない。
貴明や雄二ならそう簡単に死ぬ事は無いだろうと思っていた。だがこのみだけは別だった。
このみはどう考えても殺し合いには不向きであり、一番危ない事は分かっていた――――分かっていたのに何もしてあげれなかった。
環の心は悲しみと後悔の念で覆いつくされていた。


だが今は感傷に浸っている余裕など欠片も無いのだ。貴明も雄二もまだ生きている。
きっと二人共今の放送で相当なショックを受けているだろう。
こんな時こそ彼らの姉として生きてきた自分がしっかりしなくてどうする。
環は涙を拭き、少しふらつきながらもしっかりと立ち上がっていた。
まだ笑顔を作る余裕は無かったけれど、それでも凛とした表情を取り戻していた。
まだ大切な存在は残っているから―――確かな強さを環は持つ事が出来た。







「すいません……もう大丈夫です。診療所はもう遠くない筈ですし急ぎましょう」
「環くん……良いのか?」

95 苦難・修正版 :2006/12/18(月) 11:00:26 ID:sOVraX7M

放送から少し時間が経過した後口火を切ったのは環だった。
英二が心配そうに尋ねるが環は静かに首を横に振った。

「観鈴が危ないんです……こんな所でゆっくりとはしていられません。
それに私達が無事にここまで来れたのはタカ坊が頑張ってくれたおかげです。
それを無駄にするような真似なんて出来ません」
「――分かった。もう明るくなったし奇襲される心配は少ないだろう……ペースを上げていこう。
それと、神尾晴子さんの事は暫く観鈴君には秘密にしておこう。今これ以上の負担をかけるべきじゃない」
「そうですね……。それじゃ向坂、英二さん、次は俺が観鈴を背負います。診療所へ急ぎましょう」

英二が先頭を歩き、環と観鈴を背負った祐一がその後に続く。
全員何かに耐えるような表情をしながらも前へ向かって歩いていく。
これまでのゲームの中での彼らの道のりは苦難の連続で、体も心も傷付きながらも彼らは生きてきた。
どうやらそれはこれから先も同じようで。


「―――あれは?」
診療所まで後数百メートルの所まで迫った時、彼らは二つの人影を発見した。
それは遠目には何の異常も見られない向坂雄二とマルチの姿だった。




【時間:2日目午前7:00】
【場所:I-07】
向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:疲労、後頭部に殴られた跡(行動に支障は無い)】

96 苦難・修正版 :2006/12/18(月) 11:02:31 ID:sOVraX7M
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症、祐一に担がれている】
向坂雄二
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常 服は普段着に着替えている】
マルチ
【所持品:歪なフライパン・支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている】

※雄二とマルチの血まみれの制服・死神のノートは雅史の死体がある家(I-7)に放置。武器に付着した血は拭き取ってある
※548話の真琴死亡に対応させました。お手数ですが宜しければ現行の534話「苦難」と差し替えをお願いします>まとめ様

97 to heart :2006/12/19(火) 23:20:52 ID:IwxI/s..
「・・・」
「ちょ、ちょっといきなり立ち止まらないで・・・ぐはっ!」

柚原春夏の元から逃げ出した川澄舞、長岡志保、吉岡チエの三人はひたすらあの場から離れるべく走り続けていた。
耕一の稼いでくれる時間がどれくらいになるか分からない、背面で起こる銃声に涙を堪えながらもひたすら足を動かす一行。
何も考える余裕はなかった。恐怖がチエの思考を乗っ取る、志保の余裕を金繰り捨てる。
そんな、走ることだけに夢中であった二人に気にも留めず、舞はいきなり立ち止まった。
フラフラになったチエはその場にしゃがみこみ、志保はというと勢い余って前のめりに転倒する。
連れの二人には目もくれず、舞はいきなりキョロキョロと視線を周囲へと這わせ始めた。

「・・・誰かいる」

抑揚のない声、だが幾分の緊張感の含まれたそれ。
いきなりの発言に、後ろの二人も気が引き締まる。

「ま、またゲームに乗った人っスか・・・」
「分からない」

怯えに満ちたチエの問い、舞は一歩前に出て気配の出所を探ろうとした。
・・・そして、一点を見つめ、止まる。
チエ、志保と繋いでいた手を無造作にほどき、素早く鞄にさしていた日本刀を取り出す舞。
手馴れた手つきで鞘から刀身を抜き、彼女は近くの茂みに向かって切っ先をつきつけた。

「そこ、出てきて」
「・・・何や、できるようやな」

98 to heart :2006/12/19(火) 23:21:41 ID:IwxI/s..
返答は、即座に返ってきた。
思いがけない場所からの声に、チエは震え志保は固まる。
それでも表情を崩さず刀を構え続ける舞の元に姿を現したのは・・・二人の、志保と同じ制服を着た少女であった。

「ほ、保科さん・・・」
「笹森さん、下がっとき」

不安が隠せない様子の笹森花梨を庇うよう、保科智子は支給品である捕獲用ネットの入ったバズーカーの照準を舞に合わせる。
普段は明るい花梨の様子もここでは読み取れない、彼女もそれくらい場に対する警戒心を強めていた。
森に身を隠していた二人を突如襲った銃声、距離的にはそこまで近いとも思えなかったが連続して鳴るそれの正体を確かめるべく二人はここまでやってきた。
争いに混ざる気はない、ただ様子を確認しに来ただけである。
・・・距離的にもまだまだあったから油断した。舌打ちする智子の様子を見ても、舞は特別慌てることなく相手の出方を窺っていた。
これが彼女にとっての普通なのだが、それが智子に通じることもなく。
一見余裕にも見える舞の様子に、智子は内心の焦りを悟られぬよう強気な態度で声をかけた。

「けったいなことやってるようやな、こっちまで響いたで」
「・・・私達が仕掛けたんじゃない」
「それを、信じろ言うん?」

両者の間に冷え切った空気が流れていた時であった。

「え?あらららあららっ!ほーしなさんっ」
「・・・あんたは、確か」

呑気な明るい声が響く、倒れていた志保はすかさず体を起こし智子の下へ駆け寄った。

「し、志保さん、知り合いっスか」
「モチよモチの大モチよんっ、良かった〜知り合いに会えるなんて志保ちゃん超ラッキーッ!」

99 to heart :2006/12/19(火) 23:22:30 ID:IwxI/s..
確かに面識はあったがそこまで馴れ馴れしくされる筋合いもなかった・・・が、それは野暮というものであろう。
嬉しそうに腕に抱きついてくる志保の様子に、智子は少し呆れながらも微笑み返す。

「保科さん、そちらは?」
「ああ、こっちで知り合ったんや」
「ど、どもです、笹森花梨です」

その後チエ、舞も軽く自己紹介をし事態の説明を行った。
智子曰くここら辺の森には、他に人もいないらしい。取りあえずの安全は手に入ったことになる。
ようやくほっとできる瞬間に出会え、志保もチエも安心したようだった。
そんな二人の様子を確認し、舞は改めて智子に言う。

「・・・二人を、お願い」
「あんたはどうするんや」
「戻る」
「え?!」

驚きにもれたチエの声、だが舞は気にせず話を続けた。

「耕一を置いてきた。助けに行く」
「ちょ、ちょっとちょっとっ、でも危ないわよ死んじゃうわよっ?!」
「二人をお願い」
「・・・分かった」
「保科さん?!ちょっと、止めてよ」
「とりあえずここら辺の森に隠れてるさかい、何かあったら呼んでや」
「ありがとう」

背を向けた舞にまだ掴みかかろうとする志保を智子が止める。
どうして、という視線に対し智子はそれを明確な言葉にして伝えた。

100 to heart :2006/12/19(火) 23:23:49 ID:IwxI/s..
「あんたが行っても、足手まといってことやろ」
「で、でも・・・っ」
「無駄死にか、あるいは足引っ張って川澄さん自身に何か危害が加わるか。そんなん嫌やろ」

智子の言い分に言葉を失う・・・確かに、今の志保は舞にとって足手まとい以外の何物でもないだろう。
そして、それはチエも同じく。

「舞さん、あの・・・」
「?」
「気をつけてっス・・・役に立てなくて、ごめんなさいっス・・・」

涙声混じりのチエの台詞に、一同も言葉を失う。
そう、あの時舞が耕一に説得され逃げるという選択肢を選んだのも、ひいては自分達が邪魔な存在であったからである。
舞は、とんだ回り道をさせられたのだ。
耕一という犠牲で自分達の安全は確保されたという事実が、改めてチエに重くのしかかる。
その上で、生まれた悪循環を改善させる策を、彼女は持ち得ない。
・・・すっかり落ち込んでしまった様子のチエ、舞は彼女に向き直り慰めるようその項垂れ気味な頭をポンポンと撫でた。
反応は返ってこない。少し首を傾げた後、舞は刀を持っていない方の空いた片手で自分の髪を結っていたリボンをほどく。
一つにまとめられていた黒髪がさらっと広がる。そのままリボンをチエに差し出し、俯く彼女にそれを押し付けた。

「これ、よっちに貸す」
「え・・・?」
「よっちは友達、この島で一番にできた友達。大切だから守る、私は守れるだけの力もあるから」

リボンを手にポカンとするチエに対し、舞は小さく微笑んだ。

「返して、私が戻ってきた時に。それで、おかえりって言って」
「舞、さん・・・」
「いってくる」
「いって、らっしゃい・・・っス・・・ぐすっ」

101 to heart :2006/12/19(火) 23:24:34 ID:IwxI/s..
チエの声を背に受け舞は再び走り出す、もう振り返ることはしなかった。
そして、ただ彼女の無事を見守る少女たちだけがそこに取り残される。

「まい、さん・・・」

チエの手の中、大事そうに抱きしめられた舞のリボンが彼女のいた証だった。
死地とも呼べる場所へ向かう彼女の安否を、チエはひたすら願うのであった。




花梨が駆け寄りチエの背を撫でる、その光景を志保と智子は少し後ろから眺める形で佇んでいた。
ポスン。瞬間、智子の肩に温もりが移る。

「・・・長岡さん?」

いきなりの志保の行動に戸惑う智子、顔を押し付ける形で智子の左肩を占領する志保はさっきまでのふざけた調子が抜け妙に大人しかった。

「はは、は・・・不謹慎だけど、今になって思い出したっつーか、ね。もち、忘れちゃいけないことだったけど」

寄り添うように顔を押し付けてられ、そのまま片腕もぎゅっと捕られる。
彼女の様子は明らかにおかしかった、その突然の行為のさす意味を図ろうと智子は彼女の後頭部を見つめ続ける。

「何か、あったんか?」

声をかけると、志保の背中が一際大きく震えた。彼女が話し出すまで、智子は今度は静かに待つ。

102 to heart :2006/12/19(火) 23:25:21 ID:IwxI/s..
「はは、あはは・・・ほら、志保ちゃんってばこういう湿っぽいのダメじゃない?
 いつも明るくハキハキと、これが志保ちゃん原理なワケよ。
 あたしはどんな場でも盛り上げ役に徹するのが空気読んでるっていうか・・・」

覇気のない語り。意を決したように、彼女は一つ深呼吸をしてそれと一緒に言葉を吐いた。

「あたしがさ、いけなかったんだ」

か細い呟きは、智子の耳にやっと届くくらいの声量で。
ぎゅっと、腕を掴む力が強くなる。その状態で、ポツポツと志保は話を続けた。
自分の出した犠牲のことを。それは逃げることに必死になっていたため、今の今まで疎かになってしまったこと。
・・・明るい彼の雰囲気が、気まずいムードを一転させた優しさが失われたのは余りにも一瞬だったとういうことを。

「住井君殺したのもあたしだよ・・・何も考えてなかった、あたしの我侭のせいなんだよぉ・・・」

あの湿った森の中にい続ければ、頂上へ行こうなどと言わなければ。確かにマーダーとは遭遇しなかったかもしれない。
無用心に、見張り役の二人と談笑などしていなければ、マーダーに気づかれなかったかもしれない。

「調子乗ってたのよ、あたし。死体があった、だから村から出たっていうのに。
 あ、あまり、にも・・・平、和だった・・・からぁっ・・・!」

志保の体を抱きなおし、智子は優しく彼女の背中を擦った。
あやすように。ただ、その動作を繰り返す。

「ほな、その住井君の変わりに今度は長岡さんが笑わんとな」

智子の言葉に、小さく頷く志保。

103 to heart :2006/12/19(火) 23:25:51 ID:IwxI/s..
「大丈夫や、柏木って人もきっと川澄さんが何とかしてくれる。信じよ、な?」

うん、と。もう一度、小さく頷く。
そして、心の中で誓う。もう同じミスは繰り返さないと。
明るくおしゃべりなだけの自分とは、これでさようならだ。



チエの思い、志保の思い。
チエの思いは舞に届いた。改めて二人の心は通うことができたから、チエも前を向いて歩ける。
志保の思いは今は亡き住井護に届くだろうか。それはこれからの彼女の行動が示してくれるであろう。

二人は何の力も持たない少女であった、でも。
それでも足掻くのだ。生きている限り、精一杯自分にできることを。

104 to heart :2006/12/19(火) 23:26:58 ID:IwxI/s..
【時間:2日目午前3時】
【場所:E−5北部】

川澄舞
【所持品:日本刀・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:耕一のもとへ戻る、祐一と佐祐理を探す】

吉岡チエ
【所持品:舞のリボン、他支給品一式(水補充済み)】
【状態:舞を見送る、このみとミチルを探す】

長岡志保
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:舞を見送る、足に軽いかすり傷。浩之、あかり、雅史を探す】

保科智子
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り2発)、支給品一式】
【状態:舞を見送る】

笹森花梨
【所持品:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)】
【状態:舞を見送る】

(関連・331・515)(B−4ルート)

105 つかのま :2006/12/21(木) 23:00:44 ID:Xfu/cr7Q

「……ねえ琴音ちゃん、どうして私のお鍋つついてるの?」

松原葵の素朴な疑問に大仰に驚いてみせたのは、姫川琴音であった。
雨を避けた、大樹の陰である。

「ひどいっ……!!」

たちまち琴音の目尻から涙が溢れ出す。
涙の粒をきらきらと輝かせながら、琴音は首を振ってみせた。

「ひどいわ、葵ちゃん……! わたし、あと5時間もしたら儚く散ってしまう命なのよ……!
 最後に少しくらい、おいしいご飯を食べたいって思ったらいけないの!?」
「っていうか、私の朝ご飯、なくなっちゃうんだけど……」

朝食にと作った鍋がどんどん琴音の胃袋に収まっていくのを見ながら、葵は溜息をつく。
どうせ食べ終わったらまた逃げるフリするんだろうなあ、と思っている。
一晩中、人の少し先を行きながら、わざと姿が見え隠れするように歩き通した琴音の図太さは伊達ではない。

「っていうかホントに爆発するの、その首輪……?」
「さあ」

首を傾げる琴音。白菜を噛み締めている。

「さあ、って……」
「でもそう言われたんだもの。本当だったら怖いじゃない!」
「いや、怖いっていうか死んじゃうけどね……」
「何でそんなこと聞くの?」

よく煮えた椎茸を口に放り込みながら、琴音。

106 つかのま :2006/12/21(木) 23:01:09 ID:Xfu/cr7Q
「いや、その割には元気そうだなあ、って思っただけだけど……」
「ひ、ひどい……!」

人参の欠片を汁ごと飲み込んでから、器用に涙を流して口元を覆う琴音。

「わたしはこんなに怖がってるのに……!
 そんなこという葵ちゃん、透視してあげる! えい、クレアボヤンス!」
「セクハラ禁止」

いつも通りの超能力、いつも通りの回避。
物騒なやり取りも、二人にとってはコミュニケーションだった。
後は言葉もなく、黙々と食事に集中する。

鍋をあらかた空にしてから、琴音は立ち上がった。

「じゃあね、葵ちゃん……お鍋、おいしかったわ」
「あー……もう行くの?」
「ええ、追ってきたりしちゃダメよ……? 絶対だからね?」
「はいはい」

ひらひらと手を振ってみせる葵。
そんな葵を、すがるような目で見てから踵を返す琴音。
しかし琴音が走り出そうとしたそのとき、葵が何かに気づいたような声を上げた。

「あ」
「……な、何、葵ちゃん?」

つんのめりそうになりながら、恨みがましい目で振り返る琴音。
とりあえず荷物を置き、葵のほうに向き直る。

107 つかのま :2006/12/21(木) 23:01:48 ID:Xfu/cr7Q
「今、気づいたんだけどさ」
「うん」
「琴音ちゃん、テレポートできるじゃない」
「まぁ超能力者のたしなみだし、かじった程度だけど、一応……それが、どうしたの?」
「飛んだらいいんじゃない?」
「……?」

顔一杯で疑問を表現する琴音。
こういう素でアホなところ、男に見せてやればいいのになあ、と思いながら、葵は続ける。

「だから、その首輪」
「首輪が、どうしたの」
「テレポートで外せるんじゃないの?」
「無理よ、やってみたもの」

言下に否定する琴音。
だが葵は意に介することなく問いかける。

「服ごと飛んだでしょ」
「当たり前じゃない、葵ちゃん変態?」
「自分の身体だけ飛ぶこと、できるでしょうが」
「……?」
「ほら、体育が水泳のときとか、やってたじゃない」

葵の言葉に、傾げられた琴音の首の角度が90度に近くなっていく。

「すぽーん、って。時間ないときさ」
「…………あー!」

ぽん、と手を打つ琴音。

108 つかのま :2006/12/21(木) 23:02:18 ID:Xfu/cr7Q
「ストリーキングジャンプね!」
「いや、そんな名前付けてたの……?」

こめかみを引き攣らせる葵の様子を気にすることもなく、琴音はうんうんと頷いている。

「確かに、あれならいけるかも……」
「まあ、今はまだ雨も降ってるし、後で試してみたら……ってもういないし!?」

ぱさり、と軽い音がした。続いて、コトリ、という小さな金属音。
琴音の着ていた制服が、そして忌まわしい首輪が地面に落ちた音であった。

「うわちょっと、外した途端に爆発するような仕掛けだったらどうする気なの……!」

慌てて飛び退く葵だったが、首輪は一向に爆発する様子がない。胸を撫で下ろす葵。
と、遠くから葵を呼ぶ声がした。

「やった……やったわ、葵ちゃん! これでわたしは自由の身なのね!」

言わずとしれた、姫川琴音の声である。
遠目に見れば、丘の上、雨中全裸で両手を大きく振っている琴音の姿が見えた。

「何やってんだか、あの子は……」

軽い頭痛を感じ、こめかみを揉み解す葵。
琴音が駆け寄ってくる。
舞い上がっているのか、上も下も隠すことなく喜色満面の様子だった。

「あのね、年頃なんだからちょっとは恥らおうよ……って、琴音ちゃん?」

109 つかのま :2006/12/21(木) 23:02:42 ID:Xfu/cr7Q
一目散に走ってきた琴音は、脱ぎ捨てられた制服を省みることもなく、裸のままで自分の荷物を漁りだした。
あれでもない、これでもないと散らかし始める琴音。

「ちょっと琴音ちゃん、何してるの……って、……え?」

琴音が取り出したのは、掌に収まるほどの小さな拳銃であった。
鼻歌すら歌いだしそうな雰囲気で、琴音はそれを掴み出すと、おもむろに銃口を咥えた。
止める間は、なかった。

小さな小さな発砲音。
姫川琴音の脳漿が、鮮血と共に飛び散った。

110 つかのま :2006/12/21(木) 23:03:05 ID:Xfu/cr7Q

どれくらいの間、そうしていたのか分からない。
ほんの一瞬だったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。
松原葵は、じんじんと痛む頭を軽く押さえながら、その光景をじっと見ていた。

凍りついた時間を動かしたのは、一つの声であった。

「どうしたんだ、大丈夫かい、君……?」

心配そうな、男の声だった。
歩み寄ってきた男が、血みどろの光景を目にしたらしく、呻いた。

「うわ、これはひどいな……。やったのは君……、じゃなさそうだね」

琴音の遺体の状況をつぶさに確認し、男が葵の方を向いて声をかける。
声と同様、心配そうな表情だった。

「自殺……かな? 何があったかは分からないけど、こんなところで立っていたら危ないよ。
 良かったら僕と一緒に……」
「―――ひとつだけ」

葵が、口を開いた。静かな声だった。

「ひとつだけ、聞いておきます」

淡々としたその声に、男は怪訝そうな様子で問い返す。

「何かな……? 僕に答えられることだったら、何でも……」
「どうして、殺したんですか」
「……え?」

111 つかのま :2006/12/21(木) 23:03:25 ID:Xfu/cr7Q
唐突な言葉に、男の表情が固まる。
葵は無表情のまま、問いを繰り返す。

「どうして、琴音ちゃんを殺したんですか?」
「な、何を言っているんだ、君……?」

す、と。
葵の視線が、動いた。
近くに立つ大樹の陰を、真っ直ぐに見据える。

「―――それとも、あちらの方に聞いた方が、よろしいですか?」

葵の言葉に、男が目を見開いた。

「……チッ!」

舌打ちして飛びかかろうとする男を、葵は静かに見つめていた。
僅かに片足を引き、軽く右の拳を握る葵。
次の瞬間、男は葵に迫る勢いのまま、正反対の方向へと吹き飛ばされていた。
泥を跳ね上げて倒れ伏す男。
それを追撃するでもなく、葵は再び大樹へと目を戻した。

「……この、頭がチリチリする感じ。これが琴音ちゃんを殺した力ですか」

葵の言葉に答えるように、大樹の陰から細い人影が現れた。
つい、と足を踏み出したその姿は、病的に白い肌とどこか焦点の合わない瞳を持った、痩身の少女であった。
少女は葵の視線を受け流して、嗤う。

「くすくす、酷いことするねえ。……大丈夫、お兄ちゃん?」
「……ああ。ああ、大丈夫だよ、瑠璃子」

112 つかのま :2006/12/21(木) 23:03:51 ID:Xfu/cr7Q
げたげたと笑いながら、男―――月島拓也が立ち上がる。
だらりと垂れ下がった左腕を、空いた手で掴む拓也。
ゴグリ、と鈍い音がした。脱臼した肩を、強引に戻したのである。

「ほぅら、大丈夫。痛くないから心配しないでおくれ、瑠璃子」

少女、月島瑠璃子へと視線を向けた拓也は、そう言ってにっこりと微笑んでみせた。
どろりと濁った細い目が、半月型の弧を描く。ひどく醜悪な笑みだった。

「……もう一度だけ、聞きます」

雨に濡れるその身体を庇おうともせず、葵が粛然と口を開く。

「どうして、琴音ちゃんを、殺したんですか」
「……言ったら、信じてもらえる?」
「……信じますよ。本当のことなら」

視線を交わさぬまま続けられる、低く、静かなやり取り。
ほんの少しだけ間を置いて、瑠璃子が、嗤った。

「―――人を壊すのに、理由なんか要るのかな」

くすくすくす。
げたげたげた。
兄妹の笑い声が、輪唱となって雨を侵した。

「そうですか。……ありがとうございます」

葵が、礼を言いながら視線を下げた。
俯いたままの葵を、瑠璃子の視線が舐る。

113 つかのま :2006/12/21(木) 23:04:47 ID:Xfu/cr7Q
「よかった。信じてもらえたみたいだね」
「はい」

葵が、顔を上げる。
その瞳には静かに、しかし隠しようもなく確かな、憤怒の炎が宿っていた。

「……理由もなく人を害するものを、私は悪と呼称します」

握られた拳が、顎の前に引かれる。

「そして友人に災禍をもたらすものを、私は敵と名付けます」

踵が、大地を踏みしめる。

「覚悟してください。私は、悪であり敵であるあなたを―――赦さない」

松原葵が、走った。

114 つかのま :2006/12/21(木) 23:05:14 ID:Xfu/cr7Q
 【時間:2日目午前7時ごろ】
 【場所:E−7】

松原葵
 【持ち物:お鍋のフタ、支給品一式】
 【状態:戦闘開始】

姫川琴音
 【状態:死亡】

月島拓也
 【所持品:支給品一式】
 【状態:電波全開】

月島瑠璃子
 【持ち物:鍵、支給品一式】
 【状態:電波使い】

→382、426 ルートD-2

115 本スレ「変わらない答え」の補足続き :2006/12/22(金) 05:40:02 ID:vENApPe6
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)。聖とことみの死体を発見】
藤林杏
 【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
 【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状態:聖とことみの死体を発見】

水瀬名雪
 【所持品:なし】
 【状態:いつのまにか逃亡、後続任せ】
霧島聖
 【状態:死亡】
一ノ瀬ことみ
 【状態:死亡】

【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア・携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付き)
・冬弥のデイバック(支給品一式)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料少々)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は十分で道なりに氷川村→平瀬村へと向かう予定

連投規制くらったので仕事で出なきゃいけないからこっちへ・・・
本スレ>>w89uw1U60氏回避thx-

116 折れない心 :2006/12/25(月) 00:17:29 ID:F.iHNdPY
「うわぁぁぁぁぁ……」
「栞……」
午前6時、放送があった。
――――香里が死んだ。

栞はリサの背中で泣き続けた。
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんがっ……」
耳元で栞が泣き声を上げ続ける。
詳しく話を聞いた訳では無いが、姉の話をする時の栞の表情は明るかった。
声のトーンも高くなっていた。
よほど大事な、きっと世界で一番大事な人だったのだろう。
その姉が、死んだ。
その事実が栞に与えた衝撃の大きさと心の傷の深さは計り知れない物がある。
下手な慰めの言葉はきっと逆効果だ。
だからリサは、優しく栞の頭を撫でた。
何度も何度も。
ほんの僅かでも栞の支えになれる事を願って。
ほんの僅かでも栞の気持ちが安らぐ事を祈って。




――――そしてリサは今もまだ、栞を背負って歩いている。
栞は泣き疲れて眠ってしまっていた。
無理もない、ただでさえ衰弱している状態の上に追い討ちのように心にまで深い傷を負ったのだから。
そして傷を負ったのは栞だけではない。
リサの大切な仲間の一人であるエディもまた、放送の中で名前を呼ばれていた。
リサが涙を流す事は無かったが、エディの陽気な笑顔が心の中で浮かんでただひしりと心が痛んだ。

117 折れない心 :2006/12/25(月) 00:21:25 ID:F.iHNdPY

そしてリサは同時に焦りを覚えていた。
いや、元々焦りはあったのだ―――更に焦りが強くなったというべきだろう。
もうあまりにも人が死に過ぎた。
そして――――
「優勝すればどんな願いでも叶える、ね……。何ともタチの悪い扇動の仕方だわ」
主催者のやってきた事は今までのリサの常識ではおおよそ信じ難い事だった。
主催者は各界の実力者・権力者をたった一日でこの島に集め、その生殺与奪すら完全に握って見せたのだ。
そのような者ならば一個人の願いなら―――人を生き返らせるという願いですら、叶えられるかもしれない。

「でももしそうだとしても……叶えるはずが無いわね。願いを叶えるより首輪のスイッチを押す方がずっと楽でしょうから」
主催者が約束など守るはずがない、とリサは考えていた。
主催者は参加者に餌を見せてゲームに乗らせようとしているだけに過ぎない。
大体このような事を考える者なのだ、優勝者に対して情けをかけるとはとても思えなかった。
つまり、優勝しても助からない(もっともリサは、優勝すれば助かるという事が確定していたとしてもゲームに乗る気は微塵も無かったが)。
そして――――もし主催者が、人間離れした圧倒的な力のようなものによってこのゲームを成り立たせているのなら状況は絶望的だ。
万全の状態の篁をただの一参加者として扱い掌の上で躍らせれるような化け物が相手では何をやっても勝てないだろう。


だが連中が参加者の拉致に成功したのには何か裏があるかも知れない。
主催者はゲームの開始時に言った……『人外の力はある程度制限されている』、と。
そして実際に柳川は、鬼の力を制限されていると言っていた。

自分にはもうよく理解出来ない領域の話だが――――
各界の実力者を実力者たらしめている特別な力を『制限』もしくは『封印』出来るような何かがあるのなら。
そしてそれによって制限を行なったからこそ、今回の殺し合いの舞台を整える事に成功したのなら。
付け入る隙はまだある。

118 折れない心 :2006/12/25(月) 00:24:15 ID:F.iHNdPY
自分は人外の力を持っている訳ではないから制限など関係無い。
それでも主催者に一人で立ち向かえるとは到底思えなかったが、宗一や協力してくれる人間と合流出来れば勝機は見えてくる。
もし自分達では力が及ばなかった場合でも、制限を成立させている何かを崩壊させる事に成功すればきっと柳川が何とかしてくれる。
主催者を打倒出来る可能性は、ある。

「Yes,……そうよ、きっと道はあるわ」
苦境に立たされているリサだったが、とてもか細い希望を信じながら。
彼女は今この時も強く在り続ける。

【時間:2日目午前7時30分頃】
【場所:H−8】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】
【状態:焦り、栞を背負いつつ診療所に向かっている】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:酷い風邪で苦しんでいる、睡眠】

※栞を背負っているので、リサの歩く速度は少し遅めです
※関連487 ルートB13

119 名無しさん :2006/12/25(月) 00:44:58 ID:ccUjRQvg
制限抜きでも銃さえあればリサと宗一はエルクゥより強くないかと思うんだが

120 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:46:57 ID:kEvf//Bo

黄金の聖猪と白銀の魔犬が激しい戦闘を再開した、そのすぐ傍で、舞と耕一は向かい合っていた。
雨は、降り続いている。舞の長い黒髪を伝って、幾つもの水滴が零れ落ちていく。
濡れた革靴の、嫌な感触を足裏に感じながら、舞は摺り足のまま間合いを計っている。
対する耕一は涎と共に荒い息を吐きながら、腕をだらりと垂らして真紅の眼で舞を睨んでいた。
呼吸に合わせて、小山のように盛り上がった肩がゆっくりと上下している。

鬼の呼吸のタイミングを正確にカウントしながら、舞はじりじりと動き続ける。
魔犬の杖による打撃は、おそらく肋骨に達していた。
今のところ内臓に損傷はないようだが、戦闘が長引けば長引くほど不利になる。
痛みは無視すれば済むが、不随意筋の緊張による呼吸の乱れは時に生死を分けると、舞は理解していた。

彼我の打撃力、そして防御力の差の大きさは、先刻の一合で思い知らされていた。
完全な不意打ち、それも背中側からの胴薙ぎが、通らなかった。
それはつまり、敵は全身に鎧を着込んでいるようなものと考えなければならないということだ。
生半可な斬撃では、皮一枚も貫けない。
そしてまた、大木を苦もなく折り砕き、振り回した挙句に投擲してみせたあの膂力。
武器の類は手にしていないようだが、しかし硬い外皮、巨大な体重と合わせて考えれば、
まさしく全身が凶器といえた。まともに受けることすらも、ままならない。

一撃が致命傷となる緊張感を、舞はしかし黙って飲み下す。
元より魔物と呼ばれるモノたちと戦うために身につけた、剣だった。
相手が鬼と変わった、それだけのことと己を鼓舞しながら、舞は刀を握りなおす。
正眼に構えた剣先が、雨に濡れて煌いている。

魔犬の吐いた吹雪の名残が、舞と耕一の間を吹き抜けていく。
視界が白く煙る一瞬、両者は同時に動いていた。

121 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:47:21 ID:kEvf//Bo
耕一が、舞を抱きすくめるように黒い腕を伸ばす。
真上に跳んだ舞が、耕一の腕を踏み台にしてその頭上を飛び越えた。
予想外の動きに慌てて振り向く耕一の、その無防備に空いた胸を目掛けて、銀の刃が走る。
狙い澄ました突きは、しかし高い音を立てて鬼の皮膚に弾かれた。
一瞬動きを止めた舞に、耕一の拳が唸りを上げて迫る。

「―――っ!」

しかし舞は至近に迫るそれを、無理に回避しようとはしなかった。
咄嗟に刀を立て、峰に自らの腕を押し付けると、そのまま鬼の拳に身を預けるようにして後方へと跳んだのである。
細身の少女を粉砕する悦楽に顔を歪めた耕一が、そのあまりにも軽い手応えに疑念を抱く。
果たして、数メートルを吹き飛ばされたかに見えた舞が、空中で華麗に後転、しなやかに着地を決めた。
力に逆らうことなく自ら跳んでみせることで、その威を後ろに逃がしたのだった。
鬼の剛拳をかわしきれぬとみた、舞の妙技である。

「こ……のッ!」

なおも迫り来る耕一に対し、舞は逆にその懐へと身を飛び込ませた。
振り回される腕を掻い潜り、一刀を叩き込む。弾かれた。追撃が来るよりも早く、脇から駆け抜ける。
ぬかるむ足場を利用して体重移動だけで反転。そのまま遠心力を利用して、耕一の足を薙ぐような軌跡で刀を振るう。
高い音。膝関節を外から叩いても、鬼の巨体は微動だにしなかった。足を止めずに、走る。

122 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:47:45 ID:kEvf//Bo
一連のやり取りで、舞には幾つかの確信が生まれていた。
ひとつは、鬼の理不尽なまでの堅牢さである。
継ぎ目のない鎧を着ているようなその外皮は、打ち払いの類をいとも容易く退ける。
突きならばあるいは、と思ったが、分厚い胸には通じなかった。
自らの体重の軽さを、舞は呪う。
圧倒的な体重差があっては峰打ちによる昏倒、あるいは内部関節の破壊も狙えそうになかった。

だが、その軽い体重が利点となることもあった。
それが二つめの確信、彼我の速度の差である。
鈍重とは言わぬ。巨体からは考えられない敏捷性を、鬼は秘めていた。
しかし、それは同程度の体型、同程度の体重をもつ野生動物などと比較しての話である。
先程の打ち合いの際には、舞の剣捌きに対応するどころか、疾走の速度にすらついてこられていない。
斬りつけること、そしてまた回避すること自体は、難しくなかった。

そして、三つめの確信。
相手は文字通り化け物じみた膂力の持ち主だが、しかしその筋力を活かしきれていないと、舞は推し量っていた。
素性の知れぬ相手との戦闘の定石として、鬼と切り結んでいる間中、舞はつぶさにその肉体を観察していた。
身体の使い方を見れば、自然とその手筋は知れる。結果、舞は内心で驚嘆することになる。
大枠としては人間のそれと大差ない構造をしているようだったが、しかしそのコンセプトが決定的に異なると、舞は見た。
鬼の身体を褒めるのもおかしな話だったが、その筋肉はまさに近接戦、特に打撃における一種の理想型だった。
殴り、掴み、押し潰すことに、完全に特化している。
素手で獲物を狩る、という行為を最大限効率的に行うための、それは肉体だった。
おそらく本来は、牙と爪も重要な攻撃要素となるのだろう。
引き裂き、噛み破るために研ぎ澄まされたそれらが獲物の血に染まる様を、舞は容易に想像できた。
もしも鬼がその能力を余すところなく発揮していたなら、自分など数合打ち合うことすらかなうまいと、思う。
それほどに、その体躯は圧倒的だった。

123 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:48:15 ID:kEvf//Bo
だが、と舞は考える。
だが今、自分が向かい合っている鬼は、それらの力のどれ一つとして、有効に使いこなせていない。
殴るという動き一つをとっても、明らかに無駄が多すぎた。
体重移動、下半身の使い方、そして拳の軌道。どれもまるでなっていない。
足捌き、息の整え方、目配りの仕方、呼吸のテンポを隠すことの重要性。
理解がない。把握がない。認識がない。
そして何よりこの鬼には、相手の行動を先読みして動く戦闘経験というものが、完全に欠落していた。

野生を知ることなく育てられた、檻の犬。
舞は、己が敵をそう断じていた。

付け入る隙は、充分にある。
問題は、堅牢に過ぎる防護をどう貫くか、だった。
疾走しながら、舞は考えをめぐらせる。

「この、ちょこまかと……っ!」

焦りがそうさせるのか。
鬼が腕を振り回す。大振りで、単調な攻撃。
それを、拭いきれぬ経験の浅さと舞は判断する。
視界の外では魔犬と聖猪が激しい戦いを繰り広げていた。
ボタンの放つ炎熱の揺らめきを背に、舞は一気に踏み込む。
上から落とされる拳を、急加速して回避。そのまま胴を打ち払って駆け抜ける。
何らの痛痒も感じぬというように、鬼の蹴撃が追ってきた。
予測通りの展開に、舞は余裕を持ってそれをかわす。
同時に軸足の膝裏に、一撃。ウエイト差に弾かれかけるも、強引に振りぬく。

「ぬ……ぉっ!?」

バランスを崩しかけた鬼の、無防備な首を狙った一刀が、走る。

124 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:48:37 ID:kEvf//Bo
だが鬼は後方から襲い来るそれを、死角からの一撃を、耐えた。
かわすでも、受けるでもなく、ただ己が外皮の硬さに任せたのである。
食い込んだ刃を引き抜こうとする舞。
しかしそれよりも早く、鬼が左右に大きく身体をうち振るった。
体重の軽い舞の身体が面白いように振り回される。
遠心力によって食い込んだ刀が鬼の首から離れ、舞と共に飛んだ。
近くの木に叩きつけられる寸前、舞は体を入れ替えた。
飛び蹴りの要領で木を蹴りつけ、衝撃を相殺。接地する舞。

「残念だったなあ……俺たち、見た目より頑丈なんだ」
「……」

首の後ろ、皮に走った傷を撫でながら、おどけるように口を開く耕一。
無言のまま、舞は疾走を再開する。
実際のところ、答える余裕もなかった。
今の強引な衝撃の殺し方で、肋骨の違和感が酷くなっていた。
不規則に横隔膜が痙攣している。呼吸が整えられない。
決着を急ぐ必要があった。

125 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:49:11 ID:kEvf//Bo

「シカトかよ、冷たいな……っとォ!」

耕一もまた、走り出す。
舞の低い姿勢をどう見たか、耕一が口の端を歪ませる。
交差する一瞬に、舞があからさまに狙っているのは耕一の膝。先程叩かれた部位だった。

「……!」

転瞬、舞の振るう刀の軌道から耕一の足が消えていた。
交差する一歩手前、耕一は踏み出した足を無理矢理に地面へと叩きつけていたのである。
その強靭な骨格と巨大な体重を利用した、あまりにも強引なステップ。
フェイントにたたらを踏む舞の、その背中に鬼の拳が打ち下ろされる。

しかし次の瞬間、舞の刀が跳ね上がっていた。
掬い上げるような切っ先が、耕一の顔面を薙ぐように襲い掛かる。
耕一の仕掛けたフェイントを見透かした舞の、流れるようなカウンター。
覆い被さるように拳を落とそうとした耕一が、眼を見開いた。

「ぐ……おおおぉぉ!?」

瞬間、巨体に蓄えられた恐るべき筋力が、その威力を遺憾なく発揮しはじめた。
落としかけた腕を、肩の力だけで引き戻す。
同時に、フェイントで踏み込んだ左足を軸に、上体を重力に逆らって全力でスウェーさせる。
軋みを上げる骨格の悲鳴を、鬼の本能が上回った。
制動をかけた耕一の、その鼻先数寸を銀の刃が駆け抜ける。回避、成功。
しかし。

「―――ッ!?」

126 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:50:16 ID:kEvf//Bo
耕一の視界に映っていたのは、舞の透徹した瞳であった。
刹那、耕一の脳裏に幾つもの疑問符が浮かんでは消える。
何故、視線が交錯しているのか。
何故、振りぬかれたはずの切っ先が、刃を返してこちらを向いているのか。
何故、その姿勢は、寸刻のブレもなく維持されているのか。
―――まるで、最初から、この一瞬を狙っていたかのように。

煌く刃が、耕一の視界の右半分を、埋め尽くしていた。




ご、とも、あ、ともつかない声を上げて、鬼がのけぞる。
渾身の突き上げ。
狙い澄ました一刀は、正確に鬼の右目を貫いていた。
噴き出す血潮を全身に浴びながら、舞は己の勝利を確信する。

外皮は斬れぬ。関節を叩いてもまるでこたえない。ならば、どうするか。
舞の出した回答の一が、これであった。
継ぎ目がなければ、穴を狙えばいい。
鬼の眼が、果たして弱点となりうるのかは賭けであったが、舞はそれに勝った。

止めを刺すべく、舞が手にした刀の柄を握りこむ。
刃を返し、傷を更に抉り込まんとするその動きを、しかし押さえるものが、あった。

「―――ッ!?」

鬼の、手。
黒く奇怪なそれが、刀を握る舞の手を、その上から覆っていた。
見上げれば、じくじくと血の泡を噴き出しながら、それでもなお爛々と輝く鬼眼が、舞を捉えていた。

127 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:50:39 ID:kEvf//Bo
鬼が、哂う。

「ざぁぁぁんねん、だったなあ……?」

奇妙に掠れた、甲高い声。
眼から溢れた鮮血が、喉に流れ込んでいるものか。
金属を擦り合わせるような、不快な音を喉の奥から響かせながら、鬼が口を開く。
決して離すまいと柄を握る舞の手が、万力の如き力で締め付けられる。

「く……ぁ……っ!」

ごきり、と。
舞の左手から、不気味な音が響いた。指の骨が砕かれたのである。
思わず刀を手放したその左手が、鬼に掴み上げられる。
そのまま、片手一本で易々と吊るし上げられた。
ずるりと抜け落ちようとする刀を、舞はどうにか右手だけで保持する。

「ぉ俺さぁ、み、見た目よりが、頑丈、なんだよなあぁぁ……」

ぐずぐずと篭ったような声のまま、鬼が嬉しそうに哂う。
血の泡を溢し続けるその右目を、生臭い吐息がかかるほどの至近で見ながら、舞は今更ながらに思い知っていた。
鬼というものを、甘く見すぎていた。
眼に刃を突き入れれば、脳に達する。脳を傷つけられれば、生物は生きていられない。
そんな常識が、鬼に通用すると、思い違いをしていた。

深刻な打撃にはなっているようだが、それだけでは、鬼は討てない。
もっと決定的な、もっと根本的な致命傷が、必要だったのだ。
そして今、その機会は急速に失われつつあった。

128 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:51:07 ID:kEvf//Bo
「こぉぉなっちまったら、も、もう、何にもできないよ、なあぁぁ……?」

ひゅうひゅうと、鉄の臭いのする息を吐き出しながら、鬼が舞を揺する。
だらりと片手で吊るされる舞は、されるがまま。完全に脱力しているようだった。

「んんん……? なんだぁ、あ、諦めたのかぁぁ……?」

気味の悪い嗄れ声でくつくつと笑う鬼。肩が震えている。
その背後で、魔犬の吹雪が唸りをあげて吹き荒ぶ。
ボタンとポテトの戦いはいまだ続いているようだった。

「……」

無論、舞は諦めてなどいなかった。一念、逆転を狙っていたのである。
ただ状況は絶望的で、しかしそれを受け容れずにいようとするならば、無駄な抵抗によって
消耗できる体力など存在するはずもないという、それだけのことであった。

現在、枷になっている左手は、完全に潰されていた。
指先を動かそうとするだけで激痛が走る。
骨も、腱も使い物にならない。

反面、他の部位に目立った損傷はない。
相変わらず肋骨には過度な負担をかけられないが、内臓を傷つけるような骨折には至っていない。
逆転の一刀に全力を出すことはまだ可能と判断する。

129 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:51:28 ID:kEvf//Bo
最大の僥倖は、武器を手放さずに済んでいることだった。
垂れ下がった右手には、いまだ刀が握られていた。
脅威にならないと考えているのか、鬼はそれを奪おうとはしなかった。
確かに、ただでさえ外皮には一切通用しなかった斬撃である。
こうして吊るされた状態では踏み込むこともできず、体重も乗せられない。
速さも重さもない一刀を、鬼が恐れるはずもなかった。

視界の端を、聖猪が放つ灼熱の息吹が奔っていく。
ぐつぐつと哂い続ける鬼をその眼に映しながら、状況は絶望的、と舞は内心で繰り返す。
このままでは吊るされたまま、嬲り殺される。
反抗は無益。手にした一刀に有効な攻撃力は存在しない。
逆転の目は、ない。

―――吊るされたままならば、だった。

その瞬間、舞に迷いはなかった。
真っ直ぐな視線に、光が宿った。
手にした一刀が奔り、引き斬られる。
柔らかい皮を裂き、震える肉を断ち、腱を貫いて骨を砕き、川澄舞は、己が左手を、斬り落としたのである。

一瞬の出来事であった。
あまりにも躊躇なく行われたその暴挙に、鬼は反応すらできなかった。
鮮血が、真っ赤な霧となって視界を覆う。

真紅の霧を断ち割って、舞が、飛び出した。
大地を震撼させるが如き踏み込み。
その爆発的な速度のすべてを、脚から膝へ、膝から腰へ、腰から腹、胸、肩へと繋いでいく。
柄頭を腰溜めに、舞はその全身を一個の弾頭として、叩きつけた。

130 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:52:04 ID:kEvf//Bo
鬼の鳩尾、その一点が、歪む。
神速をもって生み出された突進力が、鬼の巨体をして、浮き上がらせる。
一瞬の間を置いて、鬼が、吹き飛んだ。

「ぐ……ぅぉぉぉぉ……ッ!?」

鬼の巨躯が、風を巻いて飛ぶその先に、二つの力があった。
炎熱と、烈寒。
聖猪と魔犬の撒き散らす、吹雪と灼熱。
ぶつかり合う力のその中心に、過たず鬼が、叩き込まれる。

「がぁぁぁぁ――――ッ!!」

神話の時代の力の中で、鬼が吼えた。
その恐るべき生命力のすべてをもって、鬼は己を保ち続ける。
灼熱に溶ける外皮が、瞬く間に再生されていく。
寒威凛烈の風の中、凍りついた外皮が剥がれ落ち、新たなる皮膚が現れる。

刹那の内に、幾度の再生を繰り返しただろうか。
ついに鬼は、神話の炎熱を、寒波を、耐え凌いでみせた。
再生の限界を超えた皮膚の欠片をぼろぼろと溢しながら、真っ黒な外皮に無数の皹を入れながら、
それでも鬼は立っていた。
圧倒的な死を乗り越えた鬼の雄叫びが、しかし、止まる。

131 羅刹血華 :2006/12/29(金) 17:52:45 ID:kEvf//Bo
「――――――」

一陣の風が、吹き抜けていた。
鬼が、肩口から二つに裂けた。

一刀、迅雷の如く。
雨中、川澄舞の隻手が、静かに血糊を払った。




 【時間:2日目午前6時すぎ】
 【場所:H−4】

川澄舞
 【所持品:村雨・支給品一式】
 【状態:肋骨損傷・左手喪失(出血多量)】

柏木耕一
 【所持品:不明】
 【状態:両断】


ボタン
 【状態:聖猪】

ポテト
 【所持品:なんかでかい杖】
 【状態:魔犬モード】
→606 ルートD−2

132 異変 :2006/12/30(土) 19:14:03 ID:1JVtKIyQ
妙に、荒い息遣いを耳元で感じる。
眠りについていたはずの立田七海の意識は、それで覚醒させられた。

(・・・・・・え?)

もぞもぞと、背中から抱きすくめられる形を取られ瞬間体が強張る。

「え、だ、誰ですっ?!」

息遣いは止まない、低い声に一瞬男かという怯えも走るが体を弄る手の感触はあくまでか細い。
首を捻り凝視する、電気をつけていないので目視するのは厳しいがそれでも特徴のある髪型でそれが誰だかはすぐに分かった。

「え・・・ゆめみ、さん?」

答えはない。そのまま肩を取られ仰向けに押し倒され、七海は彼女・・・ほしのゆめみと、向かい合うような形にさせられた。

「・・・んな、おんな・・・久しぶりのぉ、女ぁぁぁ・・・」
「え、きゃ、きゃあっ!そ、そんな所触らないでください・・・っ」

遠慮なく服の上から胸部をまさぐられ、思考が飛びそうになる。
荒い愛撫に戸惑いを隠せず、両手でゆめみを押し返すようつっぱるが・・・彼女は、ビクともしなかった。

「おんな・・・おんなだぁ、久しぶりだぜこの感触ううぅぅっ」

ブツブツと呟くゆめみの声に震えが走る、明らかに彼女の様子は変であった。

「あの体に閉じ込められてから・・・いくら待ったか・・・」
「ゆ、ゆめみさん?おち、落ち着いてくださ・・・」
「やわらけぇ、ああ・・・これだ。俺の求めていた感覚はこれだあぁぁ」
「きゃうっ?!す、スカート上げちゃダメですっ」

133 異変 :2006/12/30(土) 19:15:22 ID:1JVtKIyQ
捲り上げられたスカートから、幼い作りのパンツが現れる。
小さな地丘を目にし、ゆめみはますます興奮したように七海にしゃぶりつこうとした時だった。

「・・・ちょっと、二人何やってんのよ。五月蝿いんだけど」
「い、郁乃さん助けて〜」

冷ややかな声は、車椅子に座った少女が発したもの。
七海の力ない助けを聞き、小牧郁乃は絡まりあう寸前の二人の所まで近づいた。

「夜中にいい加減にしてよね、眠れないったらありゃしない」
「女?!ここは天国かよぉ、最高だぜ・・・ギャフッ?!」
「ゆめみ、あんた寝ぼけてんの?」

自分に向かって両手を広げて突っ込んでくるゆめみに、容赦なくグーパンチを浴びせる郁乃。
その冷ややかな視線を受け、ゆめみの表情も一転した。

「調子に乗るなよ、ガキが」
「な、何よ・・・きゃっ!!」

黙ったまま郁乃に近づき、ゆめみはその車椅子を渾身の力を込め蹴飛ばした。
勿論、乗っていた郁乃は弾き出される。受身も取れず側面から床にダイブすることになり、思わずその痛みを声に漏らした。

「郁乃さん?!ゆ、ゆめみさん、おふざけにも程が・・・」
「ああ?何言ってんだカス、お前誰にモノ聞いてんだコラァッ!」
「・・・なに、それがあんたの本性ってワケ?騙されたものね」

起き上がることができず、顔だけゆめみに向けて郁乃は悔しそうに毒づいた。

134 異変 :2006/12/30(土) 19:16:16 ID:1JVtKIyQ
「騙すもクソもねえよ、俺は今ひっっさしぶりに目が覚めたんだからよ」
「どういうことよ」
「さあな、知らねえな。・・・ただ、どうにも体が縮んだ気はするが。確かこう、もっとでっかかった気がしたんだがな・・・」

そう言って、自分の姿を確認するようにターンするゆめみ。
とにかく・・・今までの、優しい彼女ではないということだけは確かだった。

「まぁ、いつまで保つかは分からなねえが。俺の意思がはっきりと表に出せるうちは、もう好き勝手やらせてもらうしかねーよな」
「な、何する気ですかっ・・・」
「ああ?当たり前だろ、セック・・・」

言いかけて、止まる。
ゆめみの体をした別人は、ゆっくりと自分の下半身に向けて視線を落とした。
ピラっと、躊躇いなく前掛けのようなスカーを捲る。「きゃあっ!は、はいてない?!」という黄色い声が飛ぶが気にしない。
・・・パサ。スカートが重力通りに落ちると、ゆめみは頭を抱えて叫んだ。

「チンがねぇ!!タマも!!」
「ゆ、ゆめみさん女の子ですから・・・」
「絶望した!!」
「あんたが絶望する前に、こっちはとっくの昔に絶望してるわよ」
「触手はないのか?バイブ機能は?!」
「が、ガイドロボットって言ってました・・・ゆめみさん。そんなえっちなの、ついてないと思います・・・」
「くそっ、やられた!!」
「アホ」
「アホで結構コケコッコー、あちきが天才だと思えば誰でも天才さ。
 そう、それはまーりゃん脳の中では天化が取れるという素晴らしい法則。
 感謝していいぞよ、でもちみのリアクションは凡才判定かな?」

135 異変 :2006/12/30(土) 19:17:15 ID:1JVtKIyQ
ガラっと襖が開き、これまた新手が飛び出してくる。
一同呆然。そのインパクトで場は静まるが、参入者により入れ替わった空気で一気に活気は元に戻った。

「く、くさいですっ」
「何よこの臭いは?!」
「庶民にはこのスメルの魅力が分からんのかね〜、まぁ私にもワカランが」

朝霧麻亜子は汚臭の染み付いた着物を揺らし、さらにその芳しい香りを撒き散らした。

「な、何なのよ一体・・・」
「ふはは、死神は臭いも腐ってるってな。これまたちょうどいい具合だと思わないかい?ところでキミ、お名前は」
「た、立田・・・七海、です・・・」
「そうかいそうかい、いい名前だい。親御さんのセンスがうかがえるね。
 だが、そんなシックスセンスはお前様には受け継がれなかったのな。
 そう、予想外の処刑人の登場など想像つかなかっただろう?
 死ぬぜぃ、ここにいるヤツは皆死ぬぜぃ・・・とりあえず、ななみんお前を殺す」
「え、わ、私?」
「桜舞い散る季節に訪れる出会いと別れ、あちきはあんたを忘れない。
 迎えにきたよななみんちゃん、スーパーまーりゃんと無学寺で握手ってな。
 え、何さどうしていきなりあたしがここに現れたかって?
 それは秘密さ禁則事項さ、とにかく涙がチョチョ切れちゃうけど我慢してくれろ。自分の屍越えてゆけ!」

着物の裾から取り出されたボーガンの矢が放たれたのは、そう麻亜子がまくしたた直後だった。
狙いは宣言通りの七海、半身を起こしただけの彼女はいきなりの攻撃に全く反応ができていない。
矢は、七海の顔面に突き刺さる。そのはずであった。
瞳孔を開いたまま身動きを取らない七海の襟首が唐突に引かれる、乱暴なその仕草と彼女の座っていた場所をボーガンの矢が通り過ぎたのはほぼ同時であった。

「困るぜガキ、こっちもガキとは言え女を殺されちゃあタマんねぇ。ここにいる女は全員俺の肉奴隷なんだからな」

136 異変 :2006/12/30(土) 19:18:06 ID:1JVtKIyQ
いまだ何が起きたか理解していない七海を片手に言い放つゆめみ、鋭い視線を送られ麻亜子も一瞬たじろぐが次の瞬間には不敵な笑みを浮かべてくる。

「あらまぁ女同士でハレンチな。そんなロリハーレムなら、お姉さんにも参加資格はあるかに?」
「武器を捨て、従うんなら考えてやってもいい」

対峙する二人の女、台詞はともかく緊張感が場に走った。






(ちょ、ど・・・どうなってんのよ?!)

沢渡真琴は、そんな背後で起こるコケティッシュな展開に乗り遅れていた。

137 異変 :2006/12/30(土) 19:18:49 ID:1JVtKIyQ
【時間:2日目午前0時30分】
【場所:F−9・無学寺】

立田七海
【持ち物:無し】
【状況:驚き、ゆめみに襟首捕まえられている、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】

小牧郁乃
【持ち物:車椅子】
【状況:驚き、車椅子から落ちている、七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】

沢渡真琴
【所持品:無し】
【状態:寝たふりで様子をうかがっている】

ほしのゆめみ?
【所持品:支給品一式】
【状態:まーりゃんと対峙】

朝霧麻亜子
 【所持品:SIG(P232)残弾数(4/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ・仕込み鉄扇・制服・支給品一式】
 【状態:ゆめみと対峙、着物(臭)を着衣(防弾性能あり)。貴明とささら以外の参加者の排除】

138 異変 :2006/12/30(土) 19:20:00 ID:1JVtKIyQ
宮内レミィ 死亡

ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)

【備考:食料少し消費】
(関連・428・442・539)(B−4ルート)

139 謹賀新年その2 :2007/01/01(月) 03:06:04 ID:I.kDtdm6
「・・・あけまして、おめでとう」
「なぁ、ぶっちゃけ二番煎じなんか寒い以外の何物でもないんじゃないのか」
「いいの。何もしないより、まし」
「そんなもんかよ・・・」
「こちら、避難板にてお送りしますは川澄舞と」
「柊勝平になります・・・って、何で俺等この寒空の中実況してんだよ!寒いよ凍えるよ徹夜は禁止されてんだよっ!!」
「・・・?」
「あーもうつっこめよ!既に終わってるってつっこめよっ!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・所詮、裏方。おこたにみかんは我慢する」
「そっちじゃねー!!!!」
「・・・?」
「もういい、もういい・・・先いってくれ・・・」
「昨年は、色々あった」
「良かったな、俺は殺されてばっかで語ることがなくて困るよ」
「私が耕一の姉に殺されたり、私が耕一を両断したり」
「おい?!新年早々縁起の悪い話題を出すな!」
「次は、あなたが両断される」
「あんたイヤな奴だな?!!」
「次は、あなたが凍結される」
「されないよ?!まだ生きてんだからそういうこと縁起でも言うなよっ!」
「・・・」
「・・・で、俺等ん所にはさ、何か電報みたいなのないのか?」
「ぽんぽこたぬきさん」
「いや、さ、ほらでっちげでもいいからそこは否定するなよ・・・」
「はちみつくまさん」
「どっちだよ?!」
「・・・これなら、ある」
「ああ?なになに・・・って、これ来週予告じゃないかよ・・・」

140 謹賀新年その2 :2007/01/01(月) 03:06:52 ID:I.kDtdm6
「大丈夫。耕一の見せた決意は他のルートがカバーするから」
「そうなりゃいいけどよ」
「安心して、B-13の耕一は永眠すべし。私もするから」
「いや、ちょ・・・しんみりさせるなよ・・・」
「B-13の勝平も永眠すべし」
「もうしてるよ?!!」
「・・・他ルートも、もっと盛り上がって欲しい・・・D-2の私はかっこいいからオススメ」
「いや、でも正直厳しいんじゃね?多分これが凄い的を得ていると思うけど」



561 :名無しさんだよもん :2006/12/12(火) 17:54:43 ID:kAyq0lzeO

言うのは簡単だけど書いて見ると結構きついんだよなあ
キャラごとの関係が複雑になるに連れて全部のルートのキャラ把握なんか混乱して無理…
出来るだけいろんなルートで使い回せる話書いてたりもしたけど さすがに限界感じて一つに絞ったなあ
書いてればわかるから書き手は感じてると思うけど、読み手に比べて目茶苦茶少ないんだよね
とりあえずどのルートでも良いから書いて欲しい、ここじゃなくて投稿スレで盛り上げて欲しいと思いました

141 謹賀新年その2 :2007/01/01(月) 03:08:02 ID:I.kDtdm6
「・・・他ルートのまとめサイトも、あればいいのに。そうすれば事実関係確かめるのも楽チン」
「前にまとめサイト作りたいって言ってた人は、もういないのかね・・・あの頃はまだB-9とB-10だったっけか」
「・・・本当に需要があるのであれば、私が作ってもいい。
 でもB-13以外書く時間が取れないっていう書き手が多いなら、結局は意味がないと思う」
「ちょ、自己解決しないでよ、ボクに意見求めてよ」
「私は分規制を分岐制として楽しみたい、その上で色々な展開を見たい。
 今はアナザーという楽しみ方もあるけれど、既存のルートをとにかく凍結させるだけというのは分岐制を生かしきれていなくて勿体無いと思う」
「だから、それは書き手の負担がだな・・・」
「B-11が凍結した今、既存のルートは少なくとも一人は書き手が残っている状態。
 これにより凍結は免れる、ペースも早くないし思いついたネタを暖めて後で投下とかもできる。
 メインみたいに即続きが投下されることなんてほとんどないんだから、予約発言をしても悪くないと思う」
「うーん、とにかくそれは書き手の興味の問題にもなっちまうからな・・・」
「それなら、例えばB-13に出そうと思っていたけれど話が被ってしまい投下できなくなった作品とかはどうだ。
 少し前、芳野長森コンビを書こうとおっしゃっていた方はそれをボツにされたようだけれど、あれはB-10なら当てはめることができたんだ。
 そういう意味で、あくまで視点をB-13だけに絞らず視野を広く持って欲しいと思う。それが私の意見」
「・・・いや、やっぱりそれは書き手の意思なんだから難しいって。変に押し付けるべきではないだろう」
「勿論分かってる。だから私の意見だと、言った。っていうか私が見たかったんだ、芳野長森コンビ」
「お前の好みかよ?!」
「メインもだけれど、既存のルートも皆頑張ろうと。それが言いたかったっていうのがメイン」
「そうだな、両立まではいかなくても上手くついていきたいな・・・」
「せっかく来週予告で触れられたから、この機を逃せないと慌てて話を振ったかいがあった」
「そういうことは言わなくていいんだけどっ?!!」
「とにかく、出番は終わり」
「そうか、これでやっと家に入れるのか・・・もう体冷え切ってるよ、たっく病人になんてことさせるんだか・・・」

川澄舞
【持ち物:なし】
【状況:ご機嫌】

柊勝平 体調悪化で死亡

142 謹賀新年その2 :2007/01/01(月) 03:09:45 ID:I.kDtdm6






「こら!状態を捏造するなっ、生きてるよ生きてる!!!」
「勝平、あっち。最後に別れの挨拶しないと帰れない」
「ああ?!もうさっさと終わらせてくれよ・・・」
「長文失礼しました、今年もよろしくお願いします」
「今年もよろしくお願いします!」
「ショウヘイヘ〜イ」
「呼んでどうするっ?!」




川澄舞
【持ち物:来週予告の紙】
【状況:ご機嫌】

柊勝平
【持ち物:なし】
【状況:つっこみ】

【備考:二番煎じスマソ】

143 中盤戦 :2007/01/03(水) 20:31:17 ID:PdnnCCjM
「ぐっ……」
「そ、宗一君……」
宗一が苦痛に顔をしかめる。
秋子が放った銃弾のうちの一つが、宗一の右太股の端を抉り取っていた。
自分が隠れている位置を中心に集中砲火を浴びせられたのだ。
それでも普段の彼なら余裕を持って凌げる攻撃だったが、今は条件が悪すぎる。
負傷して動きが鈍っている上に敬介を抱えての回避行動では、避け切る事が出来なかった。


「ヤバイな……次にダイナマイトがきたらもう凌げるか分からない……」
宗一は激しい痛みを気に留めず、冷静に戦況を分析していた。
足の状態は万全とは程遠く、俊敏な動きは望むべくも無い。
出血は……今すぐ動けなくなる程ではない。
だが、戦いが長引くに連れて体力は否応無しに削られていくだろう。
これらの条件から導き出される答えは一つ――――

「どうする?」
「あんたに頼みがある……一つだけ打開策を思い付いた。それは―――」







「呻き声がしたわ。何処に当たったか分からないけど、きっと敵の動きは鈍っている」
秋子はそう言いながら銃に新しいカートリッジを装填している。
カチャッ、と音を立てて決着を着ける為の弾丸が銃に補充された。

144 中盤戦 :2007/01/03(水) 20:33:24 ID:PdnnCCjM

「作戦はさっきと同じよ。私が拳銃であぶりだすから、澪ちゃんはダイナマイトでトドメを!」
澪がこくんと頷くのを確認して、秋子は壁から身を乗り出して銃を撃とうとし―――目を見開いた。

橘敬介が茂みから飛び出して、診療所の、秋子達が隠れている場所とは反対側の角に向かって走っていた。
(―――挟み撃ちにされる!?)
実際には敬介は何も武器を持っていない……裏に回られようと大した脅威には成り得なかった。
だがその事を知らない秋子にとって彼の行動は、十分過ぎる陽動となった。
秋子は焦りながらも銃口を敬介に向けるが、意表を付かれた上に相手が走っているこの状況下ではプロでも無い限り命中させる事は困難だ。
2発、3発と連続して弾丸を放つが当たらない。


―――そして予想外の出来事は連続して起きる。
「うおぉぉ!」
茂みから宗一が飛び出してきたのだ。
直後、宗一の銃が火を噴く。
秋子は咄嗟の判断で壁に身を隠していたので、その銃撃だけは何とかやり過ごせた。
だが宗一はそのまま勢いを止める事無く、激痛で痛む足を酷使し、壁に隠れる秋子に向かって突撃する。







「秋子さん!」
祐一は驚愕していた。
診療所にようやく到着しそうになった時、彼の目に飛び込んだのは見慣れた服装の人間だったからだ。
その女性は銃を手にし、壁の向こうを警戒しているようだった。
まだ距離があるので顔までははっきりと見えないが、あの服装は間違いない―――水瀬秋子だ。

145 中盤戦 :2007/01/03(水) 20:35:37 ID:PdnnCCjM
秋子の少し後ろでは、見知らぬ少女も秋子を援護しようとしていた。
「少年、知り合いか?」
「ええ、そうです!知らない女の子も一緒だ……きっと襲われてるんだ、助けにいきましょう!」
「ああ、分かった!」

急いで祐一達は走り始める。
祐一達の位置からは宗一が茂みから飛び出してくる様もよく見て取れた。
祐一は秋子本来の穏やかな人柄をよく知っている。
この状況で見知らぬ人間と秋子のどちらを信用するかなど、天秤にかけるまでもない。
祐一達は秋子の敵がゲームに乗った人間だと、すっかり勘違いをしていた。








(まだ……まだ駄目よ……)
秋子は宗一の足音にのみ意識を集中させ、冷静に距離を判断していた。
もう何度もチャンスは無いだろう―――引き付けて一撃で仕留める!
相手の正体は分からないが明らかに素人では無い……近距離で撃たなければきっと避けられてしまう。
だから秋子は、一撃に賭けていた。

(もう少し……もう少し―――――――――――今よ!)
秋子は壁から体を乗り出し、乗り出した時にはもう足音のした方へと撃っていた。
足音で距離を読むという事は、即ちおおよその位置も把握するという事。
素人である秋子の読み程度では誤差はあるが、それも近距離でならば許容範囲内に収まる筈だった。
引き付けて、最低限の動作による必殺の一撃が放たれた。
両者の距離は約5メートル……並大抵の回避動作では、絶対にかわせない。

146 中盤戦 :2007/01/03(水) 20:37:56 ID:PdnnCCjM

しかし―――本気になったNasty Boyはその上をいっていた。

「―――そんな!?」
秋子が驚愕の声を上げる。
Nasty Boy……日本語訳では『無茶苦茶小僧』。
彼は何よりも相手の驚いた顔を見るのが好きであり、相手の裏を掻くのが得意だった。
秋子の行動を予期していた宗一は銃を口で咥え、地面に滑り込むようにヘッドスライディングの態勢で宙を舞っていた。
放たれた銃弾は宗一の遥か頭上を通り過ぎるだけに終わる。

そのまま無事な右手を地面に乗せて、その手を支点に縦回転し強烈な踵落としを放つ。
予想しようの無い展開の連続に、秋子は全く反応が出来ていない。
「が……っ」
勢いをつけたその一撃は秋子の首に命中し、彼女の意識を奪っていた。

もう一人―――ダイナマイト役がいるのは分かっている。
宗一は澪を打ち倒すべく彼女の姿を探し―――次の瞬間には地面に転がり込んでいた。
それまで宗一がいた空間を銃弾が切り裂いてゆく。

澪は独断でダイナマイトによる攻撃は諦め、銃による援護に切り替えていたのだった。
地面に転がり込んだままの姿勢の宗一。
この状況で澪の攻撃を凌ぐには、もう手は一つしか残されていない。
態勢は圧倒的に不利だったが、素人とエージェントの銃の発射動作の速度には圧倒的な差がある。

「殺したくは無かったが――――許せ」
澪が再び狙いを付ける前に、宗一は口に咥えていた銃を手にし澪の胸を撃ち抜いた。
宗一の放った銃弾―――FN Five-SeveNの特殊弾は貫通力に優れる。
それは一撃で澪の体を破壊し、その命を奪いつくしていた。

だが―――同時に宗一も腹を押さえて吐血した。

147 中盤戦 :2007/01/03(水) 20:39:27 ID:PdnnCCjM
「な……ん……だと……!」
振り返って見上げる宗一の視界に。
太陽を背負って二人の男が立っていた。

「よくも少年の知り合いを……!」
―――そこには怒りに震える緒方英二と相沢祐一が立っていた。
英二のベレッタM92の銃口からは僅かに煙が上がっている。

【時間:2日目・午前8時05分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数13/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、右太股重傷(動くと激痛を伴う)、腹部を銃で撃たれている(怪我の程度は後続任せ)】

橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態②:陽動は終了、これからの行動は後続任せ】

上月澪
【所持品:H&K VP70(残弾数1)、包丁、ダイナマイトの束(3本消費)、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:死亡】

水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。気絶】

148 中盤戦 :2007/01/03(水) 20:40:49 ID:PdnnCCjM

緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(7/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、怒り】

相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、怒り】

神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】

マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。迂回しつつ診療所へ回りこむ】

鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式】
【状態①:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、動けるが痛みを伴う)。一応マーダー】
【状態②:これからの行動は後続任せ】

(関連622)

149 名無しさん :2007/01/03(水) 20:42:29 ID:BmSXu/UM
いくらなんでもそれじゃ宗一は気づくだろ
もっと距離はなしてほとんどまぐれで当たったことに+太陽を遮って影作って気づかれやすくなるような間抜けな真似はやめさせた方がいい

150 中盤戦 :2007/01/03(水) 20:50:26 ID:PdnnCCjM
確かに太陽を背負わせる+距離をここまで近づける意味は無いかも、、、

どうやっても何で宗一が〜〜ってのはあるだろうし、
他にも色んな意見ある人いるだろうから、
それらを見た上での修正版を1日後に出してみます

一応ルート指定はしてないからルート指定対立項投稿で分岐回避は可能

154 管理人★ :2007/01/04(木) 14:10:40 ID:55XbKUUA
申し訳ありませんが、当スレッドでは作品投稿以外はご遠慮ください。
以降、削除対象とさせていただく場合があります。

155 中盤戦・作者 :2007/01/04(木) 15:28:29 ID:MoOSuYpg
>>147の本編部分を以下のように変更お願いします。状態表は変化無しです


「な……ん……だと……!」
横に振り向いた宗一の視界に。
二人の男の姿が入った。
遠目でその表情までは読み取れない。
しかしそのうちの一人は拳銃を構えており、狙撃してきた張本人がその男である事は疑いようが無い。







「よくもあんな女の子を……!」
緒方英二と相沢祐一は怒りに震えていた。
英二のベレッタM92の銃口からは僅かに煙が上がっている。

――――宗一の集中力は完全に澪との撃ち合いに向けられていた。
英二が必死に少女を救おうとした結果、宗一の数少ない隙を突く事になったのだ。
更に宗一にとって不幸な事に、まだ距離があるにも関わらず、英二の弾は奇跡的に狙い通りの位置へと飛んでいった。
様々な偶然の積み重ねが、この結果を生み出していた。

156 夜は更けて :2007/01/04(木) 21:27:21 ID:.mCEsJ4s
先程の春原の大スベりの後、澪とるーこは互いに自己紹介を始めていた。
「『澪なの』」
「るーは、るーこ・きれいなそら。るーこと呼べ、うーみお」
うーみお、という珍妙な呼ばれ方に首をかしげる澪。
「ああ、気にしなくていいよ。これはるーこなりのフレンドリィなスキンシップなんだ。なに、1時間もすりゃ慣れるって」
「まるでるーが奇妙な習慣を持つ部族のように言うな。これはるーに代々伝わる伝統的な…」
「はいはいわかったわかった、薀蓄はもういいよ」
「るーっ、バカにするのか! うーへいと言えども許さんぞ!」
まるで子供の喧嘩のような状況についていけない澪。
「…あ、ごめん。話が反れちゃったねぇ」
「むっ、るーとしたことがつい取り乱してしまった、許せ。うーみお」
ようやく落ちついたところで、三人は再び話を始めた。
「そっか、澪ちゃんはまだ秋子さん以外に誰とも会っていないのか…」
「『ずっと秋子さんと一緒だったの』」
澪はまたスケブを開くと文字を書きこんでいく。
「『折原浩平、深山雪見、川名みさきっていう人と会わなかった?』」
「うーゆきとうーさきのことか?」
るーこの言葉を聞いた瞬間、澪が身を乗り出す。
「『知ってるの!?』」
「お、落ちつきなよ澪ちゃん。会ったには会ったんだけどさ…」
興奮する澪を引き離して春原が離散するまでのことを話す。そして、春原たちが彼女らを探していることも。
話を聞き終えた澪は若干落胆していた。手がかりが掴めたかと思ったのに行方知れずではそれも当然だろう。…もっとも、雪見はすでにこの世からいなくなってしまっているが。そのことは彼らは知る由もない。
「もちろん、うーゆきやうーさきは見捨てはしない。あいつらもまた探すつもりだ」
「そうだ、どうせなら澪ちゃんも付いて来なよ。目的は同じなんだし」
春原の提案に頷きかけて、澪はそれをためらった。
「どうしたのさ? 探しに行きたいんじゃないの? それとも待ち合わせしてるとか」
ううん、と首を振る澪。その動作には心なしかここから離れることに躊躇しているように見えた。
「どうした、相談があるなら言ってみろ。聞いてやるぞ」

157 夜は更けて :2007/01/04(木) 21:28:23 ID:.mCEsJ4s
その言葉を聞いて、澪は下を向いて少しの間考えた後、スケブに書きこんでみた。
「『恐いの』」
「恐いって、何がさ?」
春原の疑問に、澪はページをめくって続きを書く。
「『先輩達は探しに行きたいけど…でも、もし銃をもった人達が狙ってきたら』」
春原とるーこは顔を見合わせる。どうやら攻撃されることを恐れているようだ。当然といえば当然の考えなのだが…
「うーみお、だからといってこんなところにじっといても探し人が見つかるわけじゃないぞ」
「『でも…』」
なお渋る澪に対して、るーこは肩をすくめて告げる。
「この島で危険じゃないところなんてあるのか」
そう言われると、澪は何も言えなくなった。そこに追い撃ちをかけるようにるーこは冷たく言い放つ。
「もっとも、そんな心構えではついてこられても困る。イザというときに邪魔だ」
「おい、そこまで言うこともないだろ。誰だって身を危険に晒したくないのは当然なんだから…僕だってそうさ」
るーこの発言を咎める春原だが、るーこは首を振る。
「それはるーも同じだ。だが、中途半端な考えでは逆に身の危険を招くぞ。だったら、ここにいたほうが外に出るよりは安全だ」
そう言うと、るーこは再び澪の方を向く。
「よく聞け、うーみお。うーみおにとって本当に『恐い』こととは何だ? 誰かに襲われることか? それとも主催者の首輪爆弾か? …本当に『恐い』ことは、うーさきやうーゆきを失うことなんじゃないのか」
失う、という言葉にビクッと体を震わせる澪。
「『自分が最善だと思える』ことが何かできるなら、何かをしたほうがいい。それがここに留まることでも、外に出て行くことでも構わない。もし『最善じゃない』ことをした結果自分が後悔するなら…るーはそれが一番『恐い』。だから後悔しないためにるーは行動を続けている」
澪は黙ったまま、微動だにしなかった。そのまま沈黙が続き、たっぷり10分くらいが経過したころ、居間から秋子の声がかかった。
「澪ちゃん、陽平君、るーこちゃん、お夜食が出来ましたから、一度下に下りてきませんか?」
「…一旦食事にするか。うーみお、るー達が出て行くまでに時間はまだある。それまでに自分の行動を決めておけ。行こう、うーへい」

158 夜は更けて :2007/01/04(木) 21:28:58 ID:.mCEsJ4s
るーこは立ちあがると、さっさと行ってしまった。春原も立ちあがり、澪に手を差し出す。
「…ま、とりあえずメシにしようぜ。るーこだって、悪気があってああ言ったわけじゃないんだ。でもな、後悔しないように行動する、ってのは僕も同じ意見だ。行動しなかった後悔より、行動した結果の後悔のほうがマシだからね」
澪はうん、と小さく頷くと春原の手をとって立ちあがった。
     *     *     *
気がつけば既に日付も変わり、否が応にも時間が経過していると春原は危機感を抱かざるを得なかった。
本音では今すぐにでもここを出立し、妹や朋也を探しに行きたかったが疲労や空腹もあるし、何よりも自分一人だけの都合で動くわけにもいかない。単独行動も考えないわけではなかった。
秋子も敵意のないるーこに関しては手出しはしないだろう。しかしるーこが自分の単独行動を許してくれるとは思えない。ここまで一緒に行動してきたところ、るーこの性格はおおよそ掴めている。
どこか抜けたようなことを言う事もあるが、基本的には冷静で、自分のように暴走することもない。仲間意識も強く、一度仲間、あるいは味方と判断した人間にはそこそこ親しく接している。
一方でそれ以外の人間に対しては警戒心が強すぎるというところはあるが、それくらいでちょうどいいのだろう、少なくとも、自分にとっては。
(結局、結論は二人で行動したほうが色々とバランスがとれてていいってことなんだけどね)
最も、今まで自分はるーこに守られ通しだったが。
それも分かってはいたので、春原は軽くため息をついた。今のところ、まだ称号としては「ヘタレ」の段階だ。「漢」には程遠い。
居間につくと、そこには夜食がずらりと並べられていた。メニューはおにぎりに味噌汁と至って普通なのだが量が半端じゃない。おにぎりが山のように積まれている。
「ごめんなさいね。ちょっと多く作りすぎてしまったみたいで…」
秋子が困ったような表情で続ける。
「男の子がいますから、たくさん作ろうと思ったのですけど…」
「い、いやあ…そんなことないっすよ。男冥利につきます、はい」
笑う春原だが、とても全部食べきれる自信がない。しかし作ってくれた秋子の手前そう言うしかなかった。
「どうした、青ざめた顔をしているが」
「な、何でもないよっ。それより早く食おうぜ。澪ちゃんも」
るーこと澪を席につかせ、誤魔化す春原。

159 夜は更けて :2007/01/04(木) 21:29:47 ID:.mCEsJ4s
「『いただきますなの』」
「いただくぞ、うーあき」
「…いただきます」
澪は悩んだままの表情、るーこはいつも通りの無表情、春原は固まった笑顔のまま三者三様の食事が始まった。
     *     *     *
数十分の(春原にとっては)格闘の後、燃え尽きたように春原は机に突っ伏していた。そう、彼は勝った、おにぎりの山に勝利したのだ。
引き換えに、もう2週間は白米を見たくない、という気持ちを残してはいたが。
「どうした、うーへい。飯を食べた後にすぐ寝ると『もー』になるぞ。というか、寝ている暇もないぞ」
春原を叩き起こそうと必死に揺さぶってみるるーこだが、春原には逆効果だった。
「う゛っ…やめてくれ…デス&リバースする…」
「あらあら…無理せずにおっしゃってくださればよろしかったのに」
せっかく作ってくれた手前、そんなこと言えるわけないでしょうとも反論することすらできず、しわがれた声でるーこに告げる。
「ごめん…朝まで休ませてくれない? マジで動いたら死ぬ。氏ぬじゃなくて死ぬ」
「それは困るな…分かった。朝まで待とう。もう夜も遅いしな。暗闇の中を歩き回るより安全かもしれない」
ありがとう、と春原は呟くとそれきり返事をしなくなった。るーこはそれを確認すると秋子の方へ向き直る。
「というわけで、今晩はここで休ませてもらうぞ。もちろんるーも見張りはしよう。いいか、うーあき?」
「ええ、それは構いませんよ。でしたら…三時まではわたしが見張りをしておきますからそれまで休んでいてください。澪ちゃんも」
澪はこくり、と頷いて、それからるーこの方を見た。
「…考えはまとまったか」
「『まだだけど…少し、お話してもいい?』」
「それは構わない。けど、るーも少しは休みたいから少しだけだぞ」
うん、と頷き澪はるーこを引っ張っていって縁側のある部屋まで連れていった。
    *     *     *

160 夜は更けて :2007/01/04(木) 21:30:32 ID:.mCEsJ4s
さて、予定外の出来事で朝まで居座る事になってしまったが…果たして他の皆は無事なのだろうか。
縁側に腰掛けて、るーこはぼんやりと考え事をしながら星空を見ていた。
故郷の星は、一体どこにあるのだろう。普段見慣れているはずの星空が、何故か季節がまったく変わってしまったように移ろっている。むしろ、この空の配置は冬よりだ。
おかしい、とるーこは思う。気温は別段暑くも寒くも無いのに、星は冬を示している。
異常気候か? いや、それ以前に今の季節は冬だったか? ここに来る前のことを思い出そうとするが、いまいちぼんやりとしてよく掴めない。
記憶操作か…とも思う。しかし、それだけの科学力が果たして『うー』にあっただろうか?
いや、主催者そのものが『るー』同様の宇宙人ということも有り得る。…結局のところ、今は推測すら出来ない状況下だ。そんなことより、今は生き残る方が先決だろう。
「…で、お話とは何だ? いいかげんに話し始めたらどうだ、うーみお」
話しがあるといいながら未だに話を始めない澪に対して、るーこはため息をつきながら言った。それを受けて澪がようやく決心したようにスケブのページを開く。
「『あのね』」
「『やっぱり、一緒についていこうと思うの』」
「そうか」
いつも通りの声で応じるるーこ。敵でなければ、いくら人数は増えても支障はない。しかし、るーこが問題にしていたのは別にあった。
「で、本当にそれでいいのか。別に無理してついてくる必要はない。うーさきやうーゆきがここに来る確率だって、皆無ではないぞ。待つというのも選択肢のひとつだ」
再度、るーこは聞き直す。ゲーム開始直後は他人の事などあまり気にかけていなかったが春原を初めとした仲間と行動を続けているうちに次第に人のことを気にかけるようになっていた。
うーへいの人の良さが移ったのだろうな、とるーこは思う。
聞かれた澪は、それでもぶんぶんを首を横に振った。
「『やっぱり、まだちょっと恐いけど』」
澪はまたページをめくり、次のページに書きこんでいく。
「『でも、隠れてるだけじゃきっと会えないと思うから』」
「『恐いのは、大切なひとがいなくなっちゃうことだと思うの』」
優しく、しかし臆病でもある澪がその決断を下すには、どれほどの勇気が必要だっただろうか。けれども、澪は恐怖を乗り越え、勇気を持って一歩を踏み出そうとしていた。
それを知ってか知らずか、るーこは「えらいぞ」と言って澪の頭をぽんぽんと叩いた。気恥ずかしそうに、澪が頭をすぼめる。それから、また文字を書きこんだ。
「『えっと、話はおしまいなの。ありがとう』」
「ああ。…それじゃ、るーは少し休むぞ。うーみおも一緒に寝るか?」

161 夜は更けて :2007/01/04(木) 21:31:09 ID:.mCEsJ4s
「『うんっ』」
仲の良い姉妹のように肩を並べながら、二人は床で横になった。
     *     *     *
ようやく、胃の中の消化物が減ってきた頃にはすでに約束の三時に近づいてきていた。
「陽平さん、お体の具合はどうですか?」
秋子が未だぐったりしている春原に向かって声をかける。
「…はい、もうそろそろ大丈夫っす」
横にしていた顔を起こして、体調を確認する。一応、問題はない。
「へこんでますね…」
「はい?」
「いえ、机の跡が…」
ずっと同じ体勢でいたせいか、机の跡がついて頬の部分がへこんだようになっている。そう言えば、かつて朋也にも同じことを言われたような気がする。あの時は確か智代に…って、そんなことを考えてる場合じゃない。
春原はるーこが残していったのであろう、ウージーサブマシンガンを手に取る。重たい、鉄の感触がずっしりと伝わってくる。よく考えれば、銃を持つのは初めてだった。
「るーこちゃんと澪ちゃん、起こしてきましょうか?」
秋子が、恐らくるーこと澪が休憩を取っているであろう部屋を指差す。だが春原はいや結構です、と首を振る。
「女の子ですから朝まで休ませてやりましょうよ。…って、秋子さんも女性でしたっけ、はははっ」
おどけた調子の春原の声に、くすりと笑う秋子。
「そうですね、そうしましょうか。それじゃあ、見張りは二人でしましょう?」
「秋子さんは休まなくていいんすか?」
「徹夜なら、慣れていますから」
おハダに悪いですよ、とジョークを入れようかとも思ったがそんな場合でもない。買って出てくれるというなら、それに甘えるのもいいだろう。何せ、ここは殺し合いの場なのだ。見張りは多いほどいい。
「なら、頼みますよ秋子さん」
春原はウージーほかスタンガンなどを持って、見回りを始めた。夜が明けるのは、もう少し。

【時間:2日目4時30分】
【場所:F−02】

162 夜は更けて :2007/01/04(木) 21:32:06 ID:.mCEsJ4s
水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、木彫りのヒトデ、包丁、スペツナズナイフ、殺虫剤、支給品一式×2】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】
春原陽平
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)、スタンガン・支給品一式】
【状態:朝まで見回り】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:支給品一式】
【状態:睡眠中。服の着替え完了】
上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:睡眠中、浩平やみさきたちを探す】
水瀬名雪
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:肩に刺し傷(治療済み)、睡眠中。起きた後の精神状態は次の書き手次第】

【備考:B-10】

163 中盤戦・その2 :2007/01/04(木) 22:46:48 ID:GOCYf292
痛む首を抑えながらノロノロと身体を起こした秋子が最初に目にしたもの――それはずっと行動を共にしてきた澪の姿。
倒れている澪の周りには赤い地溜りが広がり、それが何を意味するのかは一瞬で理解できた。
だが彼女の心はそれを拒むように絶叫する。
(……嘘よね、澪ちゃん――)
身体を起こそうとするも足に力が入らず力なく身体が地面へと舞い戻される。
ここまで無理をしすぎて走ったせいか、宗一との戦闘の影響か。腹部の傷口は開き、秋子の服を真っ赤に染め上げていた。
必死に手を伸ばすも届かない澪の身体に涙が零れ落ち、激しい憎悪と共に顔を上げ宗一を見据える。
……だがその怨敵であろう宗一もまた、腹部から血を流し地面にひざまずいていた。
わけもわからず宗一の視線の先に目を向けた秋子が見たものは――


「秋子さんっ!!」
名前を叫びながら駆け寄ってくるのは甥である少年、相沢祐一だった。
近づいてくる顔は不安に曇っていたが、秋子が生きていることに気付き祐一の顔に安堵の光が灯ったのがわかった。
釣られる様に秋子も思わぬ再会に顔を綻ばせた。
名前を呼ぼうと衝動的に口を開くが、腹部の激痛に襲われ、口から出てきたのは血の塊だけだった。
秋子の満身創痍の姿を見ると祐一は苦々しく顔をしかめる。
そして銃口は宗一から離さず、観鈴を背負った祐一を全身で庇いながら祐一と宗一の直線上に歩を進め、英二は言葉を発した。
膝をつく宗一の顔をじっと睨みつけ、握られたFN Five-SeveNへの警戒は怠らない。
「あんな小さな子まで撃つなんて……」
宗一から視線は全く離さずに言い放った英二の胸中には芽衣が殺された時の悲しみが渦巻いていた。
けして死ななければいけない理由なんて無かったはずなのに……それでも芽衣は守ることすら出来ずに死んでしまった。
理奈や由綺にしたってそうだ。
悲しみが怒りへと変わっていくのを英二は感じていた。
彼の理性ははじけ飛びそうなほどに、目の前の宗一にたいして憎悪が湧き上がる。
衝動に飲み込まれそうになるのを必死に抑えながら
「その銃を捨ててくれ。そうしなければこのまま……撃つ」
一呼吸の後、努めて冷静に英二は宗一に告げていた。

164 中盤戦・その2 :2007/01/04(木) 22:47:37 ID:GOCYf292


英二の言葉に宗一は必死に頭を回転させる。
自身の怪我の状況から現れた二人の行動言動まで全てをひっくるめて。
どう考えてもこれでは一方的に自分に非があるようにしか捉えられて無いだろう。
確かに自衛のためとは言え人を殺したのには変わりは無い。
それを一から説明する余裕もない。
腹部から流れる鮮血が、押さえている左手を真っ赤に染めていた。
(やるしか……ないのか?)
怪我は酷いが動けないほどではない。
無意識のうちに宗一は右手のFN Five-SeveNへと意識を集中させていた――


「――もうやめてくれっ!!」

直線状に並び立ち合う四人の耳に届いたのはそんな絶叫だった。
均衡を崩すように響いたその言葉に振り返ると、胸から血を流し倒れた澪の死体を抱える敬介の姿――
両の眼からは臆面も無く涙が零れ落ち、小柄な身体を抱きしめていた。

誰よりも信じられないと言った表情を浮かべ、秋子はその光景に息を呑んでいた。
敵と信じて疑わなかった者の行動とは思えないほどの悲痛な表情。
この状況でこんな演技をする必要はあるのだろうか?
自分と言う最大の障害を排除するならば澪のダイナマイトを投げれば全て一瞬でカタがつく。
それなのに何故――

165 中盤戦・その2 :2007/01/04(木) 22:48:04 ID:GOCYf292


「また……僕は何も出来なかった。助けられなかった」
無力感に押しつぶされそうになりながら、敬介は小さな呟きを漏らし続けていた。

……そしてそれは何も言えないまま宗一たちが敬介から視線を逸らすようにそれぞれの顔を見合わせた直後の出来事だった。

「――っ!」
突如背中に走った衝撃に呼吸が止まり、澪を抱きしめる手から力が抜け敬介の身体が崩れ落ちる。
背後には無表情のままで敬介の背中に拳を当てたマルチが立っていたのだった。
気配も感じさせず現れたマルチに驚愕しながらも宗一は身体をマルチのほうへと翻す。
「くそっ! 環君はっ!?」
思わぬ人物(正確にはロボットだが)の乱入に、英二の頭には例えようの無い不安がよぎりながらも銃口をマルチへと向ける。
だがマルチは敬介の身体を支えるように自身の盾にすると
目の前に散らばるダイナマイトとH&K VP70を手に取り口元を緩ませ歪んだ笑みを浮かべていた。

「これでなんとか雄二様に面目が立ちそうです」
マルチはポツリと呟くと、一瞬の迷いも見せず行動に移る。
誰もが状況を整理する間もなく、手にしたダイナマイトが二本、放物線を描くようにマルチの手から放たれていた。
一本は宗一と英二の真正面に、そしてもう一本は秋子と祐一の頭上に――

166 中盤戦・その2 :2007/01/04(木) 22:48:31 ID:GOCYf292

【時間:2日目・午前8時10分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数13/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、右太股重傷(動くと激痛を伴う)、腹部を銃で撃たれている(怪我の程度は後続任せ)】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態②:意識はあるが背中に激痛悶絶、マルチに捕まっている、観鈴にはまだ気付いていない】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療はしたが再び傷が開いた)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(7/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、怒り】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、怒り】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】
マルチ
【所持品:H&K VP70(残弾数1)、ダイナマイトの束(3本消費)、支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。敬介を盾にしている】

【備考:澪の持ち物は死体の周辺に(包丁、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
(関連:624「中盤戦」の続き)

167 義兄妹の盟約 :2007/01/05(金) 04:38:26 ID:4DX8RKNg
時折草が擦れ合う音のみがする穏やかな空間。
月島拓也の祈りが通じたのか長森瑞佳の容態は小康を保っていた。
「ふぁ……僕自身死にそうだ、眠くてたまらん」
早朝から瑞佳を抱えて歩き通しだっただけに、疲労は相当の物である。
横なって目を閉じると、眠りが訪れるのに時間はかからなかった。

どのくらい時間が経ったのか、目元を拭われる感触があった。
眠っているうちに泣いていたのか、瑞佳に涙を拭われていた。
「瑠璃子さんの名をずっと呼んでましたよ。よほど妹思いのお兄さんなんですね」
「ああ、瑠璃子は僕にとって人生の総てだったんだ。それなのに、瑠璃子、僕の瑠璃子、瑠璃子よぉ……」
瑞佳は日常なら少し引くような愛情表現を、肉親を喪った悲しみによるものと素直に受け止めていた。

一頻り独演を終えると、拓也は水筒を呷りそのまま固まる。
もうあと一口ほどしか残っていなかった。
水のことはおくびにも出さないようにしていたが、瑞佳に心の内を見透かされてしまう。
「わたしのことはもう結構です。これ以上迷惑をかけるわけにはいきません」
瑞佳は最後の一口を丁重に辞退した。
「村へ行けばなんとかなる。もう少しの辛抱だ」
「いえ、月島さんが一刻も早く目的を果たされるためにも、ここで別れましょう」

心の中でもう一人の拓也──黒拓也が囁く。
(せっかく彼女から別れようって言ってるんだ。お荷物なんだから素直に受けようじゃないか)
この辺で縁を切るいい機会かもしれなかった。

168 義兄妹の盟約 :2007/01/05(金) 04:40:06 ID:4DX8RKNg
しかしなぜか去り辛い、否、去る気にはなれなかった。
情が移ってしまったのだろうかと考えてみる。
(そんなことはない。今まで毒電波でもって悪徳非道なことをやって来たではないか)
瑠璃子と比較するとどうしても総ての面で瑞佳が見劣りしてしまうのだが。
(……もう! なんでコイツのことがこんなにも気になるんだぁっ」
雑念を払うかのように瞑目して思いを凝らす。
汗と涙と泥に塗れた瑞佳はスッピンなら更にその美貌を増すだろう。
否、そんなことよりも好感が持てるのは、彼女の性格が醸し出す独特の雰囲気である。
何もしなくても、ただ傍に居るだけで癒されるという不思議な魅力。
だからこそ、瑞佳を拾ってからは穏やかな気分でいられるに違いない。

(僕は彼女に瑠璃子の代わりを求めようとしているのだろうか?)
妹に度の過ぎた溺愛をしただけに、心にぽっかりと空いた穴は大きかった。
冷静に考えてみる。瑠璃子の代わりなんて、あまりにも虫が良すぎるではないか。
──それでも瑞佳なら支えになってくれそうな気がした。彼女ならきっと。

(電波を応用できれば一時的に救えるかもしれない。あくまでも電波が使えればの話だが……)
精神の操作はほんの僅かでも、身体の弱った瑞佳には十分効果がありそうな気がした。
問題なのは電波は人の精神を操るものであり、怪我や病気を治す類のものではないことである。
しかも今の瑞佳の精神を本気で操作して失敗しようものなら、死んでしまうのは間違いなかった。

熟考の末、拓也は延命の策があることを告知した。
低い成功率や衰弱の具合から一度限りしかできない旨を聞くうちに、瑞佳の表情は翳りを帯びる。
「本来なら治療を受けて安静にしてなきゃいけないが、力尽きるのは時間の問題だ。やってみるか?」
「……わかりました。お願いします」
瑞佳は深々と頭を下げた。

169 義兄妹の盟約 :2007/01/05(金) 04:44:23 ID:4DX8RKNg
少しリラックスさせた方がいいかもしれない……。
瑞佳の頭に手を伸ばすと髪留めのリボンをほどく。
型崩れして、もはやハーフポニーの縛めをなしていなかった髪がはらりと落ちる。
「リボンは手首に巻きつけておこうな。願い事が適うという話を聞いたことがあるから」
ほどいたリボンを瑞佳の手首にほどよい締め付けで結ぶ。
訝しむ瑞佳を目で制し、八徳ナイフからフォークを引き出すと彼女の長い髪を梳かす。
「気休めにしかならないがオシャレをしてやろう」
丁寧に何度も何度も梳かしていると、瑞佳の目から涙が零れ落ちた。
「ありがとうございます。こんなにも大切にしていただいて……」

十数分後、場は沈鬱な空気に包まれていた。
電波を思うように使えないこともあり、衰弱した瑞佳に浸透するのは想定通り困難だった。
「ごめん……上手くいかなかった」
「そんなことないですよ。幾分身体が楽になりました」
確かに顔色は良くなっていた。
ただし、これは悪魔でもカンフル剤を打ったに等しい一時的なもの。
出来るだけ早く治療を受けさせる必要があった。
鎌石村へ辿り着くのは命懸けだが、着いても治療を受けられそうには思えなかった。
それでも僅かの希望を持って行かなければならない。ここに居てもジリ貧である。
二人はすぐさま出立した。
瑞佳を背負い歩きながら、拓也の脳裏にある考えが浮かんでいた。
心の内に秘めていた方が良いのかもしれないが、彼女を景気付けるかもしれないと思い、口にする。
「真面目な話があるんだ。笑わずに聞いてくれるかい?」
「なんでしょう」
「こうして出会ったのも何かの縁。より絆を固めるべく、義理の妹になってくれないか?」
「えぇっ! 義理の妹、ですか? 瑠璃子さんの代わりなんて、できませんよ」
思いもよらぬことに瑞佳は目を丸くする。
「瑠璃子亡き今、僕がまともで居られるのは君のお陰なんだ。もう電波を使わなくて済みそうなんだ」
「まともって……今まで悪いことをしてきたんですか? その、電波っていったい何ですか?」
瑞佳から見て、身を預ける眉目秀麗なその少年が犯罪に手を染めるようには思えなかった。

170 義兄妹の盟約 :2007/01/05(金) 04:50:59 ID:4DX8RKNg
長い沈黙の後、拓也は幼少時の家庭の事情を打ち明けたが毒電波については言葉を濁した。
病院の院長だった伯父に妹と引き取られたこと。そこが安住の地ではなかったことは瑞佳の涙を誘った。
「僕は毎晩のように酷い目に遭い、性格が歪んでしまったんだ」
人格形成の時期に受けた殴打と、頭に染み付いて離れない、伯父に組み敷かれる女性の嬌声。
そんなことは露知らず、瑞佳は拓也を救えるのは自分しかいないのではないかと思い始めていた。

「浩平と少し似た境遇だったんですね。これから真人間になると約束するのでしたらいいですよ」
「おお、ありがたい! これからは僕のことをお兄ちゃんと呼ぶがいい」
一気にまくし立てながら拓也は赤面していた。
「お兄ちゃん? あはっ……なんだか恥ずかしい気がします」
「兄妹なんだから喋り方だってもっと砕けた調子でいいぞ」
「じゃあ、お兄ちゃん。ふつつか者だけどよろしくね」
「なんか嫁さんモードになってないか?」
瑞佳があまりにもノリノリなので返って戸惑ってしまう。
「そんなことないもん。こんなのってどう?」
「おい、それ止め……」
耳にフーッと息をかけられ、拓也は脱力し膝をついてしまった。
「あぁーっ、倒れるぅ!」
言葉通りそのままスローモーションで見るかのごとく、拓也は前のめりに倒れてしまった。
「うぅ、大事な部分がいてーや」
「ごめんね、男の子ってこうすると弱かったんだぁ」
折原浩平に試してみようかと考えたことはあったが、機会がなかっただけに瑞佳には意外な発見であった。

「ところでだ、瑞佳は学校でホルスタインとか呼ばれてなかったか?」
「えぇっ、なんで?」
「胸がすごく大きいぞ」
「もーっ! 大きくなんかないもんっ、ないもんっ、お兄ちゃんのバカバカバカッ」
「わかったわかった、貧乳って認めるから叩くなって、ハハハハ……」
瑞佳の陽気さに連られ、拓也は久しぶりに心の底から笑っていた。

171 義兄妹の盟約 :2007/01/05(金) 04:57:00 ID:4DX8RKNg
「あーあ、汚れちゃった。変なことしてごねんね」
シャツやズボンに付いた汚れを瑞佳は手ではたいてくれる。
「ありがとう。もういいよ」
目と目が合った途端言葉が途切れ、微妙な沈黙が訪れた。

ごく自然に瑞佳の肩に手を置く。彼女は目を逸らし、頬を赤らめ戸惑う。
「あ、あの……」
「義兄妹の盟約として、キスしていいか?」
瑞佳は目を伏せ静かに頷いた。
肩に置いた手をそのまま首へ回し唇を重ねた。
しっかりと抱き締め、瑠璃子とはまた一味違う唇の柔らかさと温かさを堪能しながらキスをする。
微かに牛乳の味がしたのは気のせいか。

「話を聞く限りでは折原君と毎日のように羨ましいことをしてるみたいだなあ」
「そんなことないよぅ。浩平はわたしなんかよりも他の女の子と遊ぶのが好きなんだもん」
瑞佳は不満気に頬を膨らまかせている。彼女の本心を覗いたような気がした。
「顔良し、性格良し、スタイル良しと申し分ないのに不憫だなあ」
「でもね、一度デートに誘ってやろうかって言われたことはあるんだよ」
「ふうん、じゃあ、彼の心を掴むためにも朝は○○○○○で起こしてやれよ」
「○○○○○って、なあに?」
「……悪い、今のは聞かなかったことにしてくれ」
くだらないことを言ってしまったものだと後悔する。
戯れはほどほどにして、再び瑞佳を背負うと鎌石村への道程を急ぐ。
だが気が逸るものの体がついていかない。
拓也は早くも千鳥足になり、休憩を取るために茂みの中へと逃げ込んだ。
「いい加減疲れた。僕はもう寝る。瑞佳もしっかり寝ておけ」
「夜眠れなくなりそうだよ」
「いいから寝ろ……あっ、そうだ。アレを渡しておこう」
何を思ったか、拓也はデイバックから一本の矢を取り出した。

172 義兄妹の盟約 :2007/01/05(金) 04:59:15 ID:4DX8RKNg
「もしかして……わたしを狙ったものなの?」
「ああ。まーりゃんは余程慌てていたのか、瑞佳に使った矢は回収しなかったようだ」
瑞佳の胸にこみ上げるものがあった。矢を胸に抱き締めながら瞑目する。
(この矢は、いつか必ずあの人に返そう、きっと……)

「夜間行軍する。日が暮れたら消防分署へ行こう。あそこなら水の補給ができる」
「待ち伏せされないかな。気を引き締めなくちゃね」
「無理はするな。現況はカンフル剤を打ってるようなものだ。いつまで持つかわからん」
肉体と精神を騙しながら酷使していることを瑞佳は痛感していた。
不安を覚えながらも拓也に寄り沿うように横になると、早くも眠りに就けそうだった。
目を閉じると程よい心地のはずが、草を掻き分ける音により背筋に戦慄が走る。
「お兄ちゃん、誰か来る」
耳元で囁くと拓也はすぐさま跳ね起きた。

拓也は八徳ナイフから抜き身を引き出し迎撃体勢を取る。
ほどなく、茂みを掻き分けながら一人の髪の長い少女──水瀬名雪がその姿を現した。
藪の中を歩き通しだったのか、上は制服から下はソックスに至るまで綻びが目立っている。
顔も手足も痛々しいほどに擦り傷を負っていた。
「コイツ目つきが危ない、殺そう!」
「待って! なんでいきなり殺すの? この人何も持ってないよ」

瑞佳は勇気を振り絞り、謎の少女と交渉してみることにした。
「ほら、わたし何も持ってないよ。怖いことしないから、ちょっとお話しようよ」
「いやっ! 来ないで」
腹部を血に染める瑞佳に名雪は怯え、後退る。

いつ逆襲されるともわからない瑞佳の勇姿を拓也は固唾を飲んで見守った。
瑞佳は腹部を片手でデイバックでもって隠し、精一杯の笑顔で問いかける。
身振り手振りの必死の説得が功を奏し、名雪はようやく警戒を解いた。

173 義兄妹の盟約 :2007/01/05(金) 05:03:18 ID:4DX8RKNg
結局聞き出せた情報は拓也と瑞佳を落胆させることになる。
名雪が始めに語ったことは、霧島聖と一ノ瀬ことみの悲惨な最期であった。
「……その白衣の女性はたぶん医療関係者だろうな」
「水瀬さんもわたしと同じように地獄を見たんだね。わたし達がついてるから安心するんだよ」
「長森……さん? あなた、猫さんの臭いがする」
「うん、家で七匹飼ってるんだ。さすがに臭うって言われると困るねえ」
猫談義をするうちに、名雪の表情に明るさが表れ始めた。

和やかな少女達を尻目に拓也は困惑していた。
もう水も食料もない。銃もない。連れは重症の怪我人と精神不安定者。
こんな状態で狂気の世界を生き抜くことができるのだろうか。
場合によっては名雪を斬らねばならない。

「今度こそ寝るぞ。水瀬さんを同行できる状態に『教育』しておいてくれ」
「うん、なんとかするからぐっすり眠ってね」
「今夜中に消防分署へ行く。『教育』が上手くいかなかったら置いて行くかもしくは……」
「それ以上言わないで。精一杯頑張るから。ね、みな……」
名雪は瑞佳の肩にもたれたまま、スヤスヤと眠っていた。

振り返ると拓也は早くも眠りに落ちている。もう寝言は言わず寝顔は安らかだった。
「はぅ〜、あとで平謝りしなきゃいけないよぅ……もう、わたしも寝ちゃおっと」
名雪を起こさないよう、静かに横たえると自らも横になる。
身体を動かす度に脇腹の傷の痛みが微かに疼く。
(わたしに明日はあるのかな……ハッ、もっと前向きに考えなくちゃ)
ふと弱気になりかけたが、拓也が全身全霊で助けてくれているのだと叱咤する。
微睡に浸りながら瑞佳は復活への執念を燃やしていた

174 義兄妹の盟約 :2007/01/05(金) 05:04:54 ID:4DX8RKNg
狂気の世界で結ばれた義兄妹の盟約。
だが命を賭けた盟約には意外な脆さがあった。
参加者を煽る「優勝者はどんな願いもひとつ叶えられる」という謳い文句。
今後の放送が拓也に背信をもたらすなどとは、瑞佳にとって知る由もなかった。


【時間:2日目・14:00】
【場所:D−8、カーブ内側の茂み】

 月島拓也
 【所持品1:八徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】
 【所持品2:支給品一式(食料及び水は空)】
 【状態:睡眠中】

 長森瑞佳
 【所持品1:ボウガンの矢一本】
 【状態:睡眠中、出血多量(止血済み)、傷口には包帯の代わりに拓也のYシャツが巻いてある】

 水瀬名雪
 【所持品1:なし】
 【状態:睡眠中、やや精神不安定】


【関連:100、490、546、560、576、592 B系】

【備考:拓也と瑞佳は名雪から篠塚弥生、藤井冬弥、霧島聖、市ノ瀬ことみ、河野貴明、観月マナ、
久寿川ささら(いずれも名前知らず)、水瀬秋子の身体的特徴などを聞いている。490までに出会った人物のことは聞いていない】

175 名無しさん :2007/01/05(金) 14:24:32 ID:4DX8RKNg
>まとめさん

関連を以下に変更お願いします。
【関連:490、546、560、576、592 B系】

176 CRISIS :2007/01/05(金) 19:48:49 ID:ZKFxbOxA

ご、と鈍い音がした。
拳が、肉を食む音だ。

松原葵の拳が月島拓也の胴を、肝臓の上から正確に叩く。
崩れ落ちる拓也。しかし、すぐにゆらりと起き上がる。

「……ぅ……ぃほぉぉぉ……」

言葉の体をなさない、不気味な唸り声。
声が出せないのだ。
拓也の顔面は、既に原形を止めていない。
ぶよぶよと膨れ上がった、青黒く、それでいながら赤黒い、気味の悪い塊の中から、
どろりと濁った一対の眼だけが葵を睨みつけていた。

「……ぅぅぅぅ、ぃほぉぉぉ……」

言葉にはなっていなくとも、何を言おうとしているのか、葵にはよく分かっていた。
瑠璃子。拓也の、妹の名だった。
瑠璃子。瑠璃子に手を出すな。瑠璃子には触らせない。瑠璃子、僕が助けてやるからな。
そう、言おうとしているのだろう。
葵の眼前に立つ男は、何度も何度も、その名前を繰り返していた。
殴り、蹴り、折り、潰し、砕き、常人ならば立てるはずもない、痛覚だけで絶命していても
不思議のない損傷を加えられながら、それでも月島拓也は立ち上がり続けていた。

「―――くすくすくす。頑張って、お兄ちゃん」

177 CRISIS :2007/01/05(金) 19:49:37 ID:ZKFxbOxA
月島瑠璃子は、嗤っている。
ぶよぶよと動き続ける肉塊と、それを嗤う濁った少女の対比が赦せずに、葵は拳を振るう。
ぐしゃりと、血が飛んだ。
そうして拓也はまた立ち上がり、葵は一歩たりとも進めない。

「どうして……っ!」

その顔面に肘を叩き込みながら、葵は叫ぶ。

「どうして、笑っていられるんですか……!」

鼻骨を砕く感触は、既にない。
ただ、粘性の高い血が、ずるりと葵の肘から糸を引いた。

「どうして……?」

ころころと嗤いながら、瑠璃子は不思議そうに問い返す。
雨の中、濡れながら立つその姿は、さながら亡霊のようだった。

「どうしてって、おかしいから笑っているのだけれど。楽しいから笑っているのだけれど。
 幸せを笑って迎えては、いけない?」

その答えに激昂し、拓也の右膝を正確に蹴り下ろして砕くと、葵は叫び返す。

「何が幸せかっ!」

その顔には、拓也の吐いた反吐がこびり付いている。

178 CRISIS :2007/01/05(金) 19:50:02 ID:ZKFxbOxA
「だって、そうでしょう?」

葵の形相を意にも介さず、瑠璃子はくつくつと嗤う。

「お兄ちゃんは、そんなになってまで私を守ろうとしてくれている。
 とうに死んでしまってもおかしくないのに、私を庇って立っている。
 砕けた膝で、立てるはずもない身体で、そうして立っている」

言葉通り、拓也が立ち上がっている。

「私を愛してくれているひとが、私のために死をも厭わず戦ってくれている。
 ほら、こんなに幸せなことってないと、思わない?」

心の底から這い出るように、瑠璃子の言葉は吐き出されていく。

「だから、私は笑っているのだけれど。何か、おかしいかな?」
「―――澱んでいるっ!」

拓也の喉、膨れ上がって顎と区別のつかなくなっているそれを貫手で突く葵。

「澱んでいる、濁っている、腐っている!」
「……そういうことは、もう少し綺麗なひとに言われたいね」

瑠璃子のどろりとした眼光が、葵の全身を這い回る。

「ねえ、ねえあなた、強いあなた。お兄ちゃんを殺そうとしているあなた。
 あなたは本当に、そういうことを言えるようなひとなのかな?」
「何を……っ!」

179 CRISIS :2007/01/05(金) 19:50:40 ID:ZKFxbOxA
裏拳で拓也の目の辺りを叩くと、躊躇なく金的を蹴り上げる葵。
空気の抜けるような音を立てながら、拓也が悶絶する。

「ほら、それだよ」

瑠璃子が指差した先で、拓也はもう折れる歯すらない口を噛み締めて、立ち上がる。
ひゅうひゅうという吐息に、時折血が混じっていた。

「まただ。あなたは、またお兄ちゃんを殺さなかった。これで、何度目かな?」
「……ッ!」
「ひどいよねえ。殺せるんだ。いつだって殺せるんだよ、あなたには。
 立てるはずがないのに立っていたって、首をねじ切ってしまえばきっと死ぬのに。
 生きているはずがないのに生きていたって、殺してしまえば死んでしまうのに」

拓也の髪を掴んだ葵が、空いた手で掌底を叩き込む。
ずるりと、血のついた毛根ごと髪が抜ける。

「そうやってずっと、死なない程度にずっと、あなたはお兄ちゃんを虐めている。
 どうしてだろうね? 殺してしまえば、すぐにも私を殺すことができるのに」

何かに気づいたように、芝居がかった仕草で仰々しく手を叩く瑠璃子。

「ああ、ああ、そうだ。きっとそうなんだね。あなたは。
 あなたはそうやってずっとお兄ちゃんを、お兄ちゃんのかたちを削りながら、」

白い貌の真ん中で。
真っ赤な口が、笑みの形をつくる。

「―――楽しんでるんだ」

180 CRISIS :2007/01/05(金) 19:51:08 ID:ZKFxbOxA
葵の膝が、拓也の鳩尾に叩き込まれる。
胃液と血と痰の混じった反吐を葵の体操着に擦りつけながら、拓也が崩れた。
葵の視界の中、瑠璃子が嗤っている。

「黙ってください」

倒れた拓也の手を、全体重を乗せた踵で踏み抜きながら、葵が口を開く。

「楽しいよねえ、人を壊すのは。ひとを、ぐずぐずに崩していくのは、楽しいよねえ?」
「黙れ」

のたうつ拓也の腹を蹴って動きを止めると、身体を丸めて激しく咳き込むその背に、何度も脚を落とす。

「ああ、ああ、そんなにしたら死んじゃうよ?
 あなたの大切な玩具が、私のたいせつなお兄ちゃんが、死んでしまってもいいの?
 そうなってしまったらもう、壊して遊べなくなってしまうけれど、それでもいいの?」

瑠璃子が、嗤う。

「―――黙れと言っているんだ……っ!」

激昂に任せて下ろされた葵の脚が、拓也の頚骨を踏み砕いた。
けく、と小さな音が、した。

「……ああ、ああ、死んじゃったね」
「……!?」

思わず視線を下ろす葵。
何度も、何度でも立ち上がってくるはずの拓也は、ぴくりとも動かない。

181 CRISIS :2007/01/05(金) 19:51:43 ID:ZKFxbOxA
「―――そうして、こころを乱した」

瑠璃子の声が、響いた。

「駄目だよ、そんな風に揺れては。
 人を壊して遊んでいたひとが、人を殺したくらいでそんな風に驚いちゃいけない」

声は、葵の耳朶を侵す。

「もっと楽しそうにしなきゃ。もっとつまらなそうにしなきゃ。
 楽しく遊べてありがとう。もう終わってしまったのか、さようなら。
 あなたはそういう風に、思わなければ、いけない」

気がつけば、すぐ目の前に、瑠璃子の眼が、あった。

「楽しく。楽しく。楽しく、ひとを壊しましょう。
 ゆっくりと、時間をかけて、たっぷりと、感謝をこめて」

すう、と。
瑠璃子の顔が、近づいてくる。

「―――だからこれは、契約の証」

唇を、奪われた。

「壊しにきて。あなたのたいせつなひとを壊した私を。
 追いかけてきて。私のたいせつなお兄ちゃんを壊したあなた。
 もっと、もっと遊びましょう。楽しく、楽しく、楽しく―――」

頭蓋の内側に響くその言葉を最後に、葵は意識を喪った。

182 CRISIS :2007/01/05(金) 19:52:32 ID:ZKFxbOxA

******


眼を開いたとき、葵がまず行ったのは、己の拳を見ることだった。
血に染まっていた。すべて、月島拓也の血だった。

空を見上げた。
雨が、弱まっていた。
雨粒と、涙が入り混じって、流れた。

身を起こし、辺りを見回して、二つの死体を見つけ、葵は思う。

 ―――こんなものも、あったな。

涙を流しながら、葵は立ち上がる。
振り返ることもせず、歩き出した。

野ざらしの骸は、物言わずただ、葵の背を見つめている。

183 CRISIS :2007/01/05(金) 19:52:58 ID:ZKFxbOxA
 【時間:2日目午前10時ごろ】
 【場所:E−7】

松原葵
 【持ち物:支給品一式】
 【状態:健康】

月島拓也
 【状態:死亡】

月島瑠璃子
 【持ち物:鍵、支給品一式】
 【状態:電波使い】

→591 ルートD-2

184 それぞれの想いと変化 :2007/01/05(金) 22:08:14 ID:7pibsTiM
るーこは自分の目を疑っていた。共に走ってきた留美達もただ呆然と立ち尽くしている。
その光景はまさに惨状そのものだった。
自分達を先に逃がしてその場に残った仲間たちは、その殆どがもう動かぬ骸と化している。
そこら中に飛び散った血がこの場でどれだけ激しい戦いがあったかを証明していた。
るーこたちが戻ってきた事に気付いた陽平が、おぼつか無い足取りでるーこの方へ歩いてきた。
「…るーこ」
「うーへい!」
すぐさまるーこは陽平の体を支えた。近くで見ると陽平のこめかみの上あたりから血が流れていた。
るーこは陽平の髪をかき上げその傷口を観察した。傷は深くは無かったが、部位が部位だけに楽観視してはいけない。
(確か…救急箱はよっちが持っていたな)
きょろきょろと周りを見渡すと、チエの姿はすぐに確認する事が出来た。
「舞先輩………志保先輩………」
チエはがっくりと肩を落としていた。るーこが彼女を気遣いその肩に手を乗せる。
牛丼の一件以来行動を共にし力を合わせて生き延びようと誓い合った仲間たちが死んでしまった。
よりにもよって同じ仲間だった耕一とその家族の手によって。それなのに――
「なんで…舞先輩は、こんな安らかな顔をしてるんっスか…」
「るーには分かる、これは何かをやり遂げた者の顔だ」
「るーこ先輩…」
「恐らくそこのうーひろ達が何か事情を知っているんじゃないか」
チエはるーこが目を走らせている方向を追った。
その先には浩之や、柳川の治療を行なっている佐祐理がいた。
視線に気付いた浩之が全員を呼んで事情の説明を始めた。

185 それぞれの想いと変化 :2007/01/05(金) 22:10:33 ID:7pibsTiM




「そうスか…舞先輩は最後に佐祐理先輩を守り抜いたんっスね…」
「川澄が守ったのは倉田だけでは無い。正直な所俺は耕一の相手をするだけで手一杯だった…。川澄が千鶴を食い止めていなければ全員殺されていただろう」
――そう語る柳川の体にもまた、新たな痕が刻まれている。
彼の体には肩から胸に掛けて襷の様に新たな包帯が巻かれており、元からしていた包帯も合わせるとその上半身はまるでミイラのようだった。
その姿は彼がこれまでいかに厳しい道のりを歩んできたかを物語っていた。
(みんなこんなに頑張ってるのに…あたしは何をやっていたんスか…。ただ戸惑い続けるだけで、何も出来なくて…。
あたしはみんなに迷惑を掛けていただけじゃないっスか…)
気付くとチエは拳を握り締めていた…その手がじんと痛んだ。
しかしもう取り乱すような事は無い――あるのは唯一つの決意。
(あたしはみんなの分まで生きないといけない…舞先輩や住井先輩、志保先輩のように、強く…今度こそ、誰も死なせないように…。
じゃないと河野先輩にも、死んだこのみやちゃるにも合わせる顔が無いよ…!)
想い人と今は亡き親友たちの顔を思い出して、ともすれば弱気になりかねない自分自身を奮い立たせる。
少女は、仲間の死を乗り越えるたびに確実に成長していた。

「耕一先輩は…?」
「…ああ。耕一さんって人なら柳川さんに胸を撃ち抜かれて死んだよ…。死体は千鶴さんが逃げる時に運んでいった」
「言い訳させてもらうが、耕一はまるでこちらの話に聞く耳を持たなかった。奴を放っておけば必ず夥しい数の犠牲が出る…。
なら俺はそれを見過ごす事などしないし、出来ない」
「俺もそれを咎めるつもりは無いよ…あそこでやらなければ俺達がやられていたしな。俺だって、ああなるのが分かっていて爆竹を投げ込んだんだ」
説得などとても考えられる状況ではない、それ程の激戦だったのだ。
浩之と柳川の意見に異を唱える者はいない――ただ一人を除いて。
詩子の横で留美がわなわなと肩を震わせていた。
次の瞬間、彼女は溜まりに溜まった感情を爆発させた。
「何で………何でみんな殺しあっちゃうのよ!こんなの絶対おかしいよ!!」
腹の底からありったけの、一瞬雷が落ちたかと思えるくらいの声量で叫ぶ。
それくらい鬱憤が蓄積していたのだ。この理不尽なゲームに対して。

186 それぞれの想いと変化 :2007/01/05(金) 22:11:52 ID:7pibsTiM
だが柳川はその迫力にもたじろぐ事は無い。
「さあな、理由など分からん。ただ、やる気になっている者がいたのなら俺は容赦しない。そうしなければ自分が死ぬし、俺が守るべき者たちも危険に晒されるからだ」
「――っ …でも…でもっ…!」
納得していないがその気持ちを言葉にする手段が見つからない、といった感じの留美。
浩之はそんな彼女に諭すように言った。
「七瀬…で良いんだよな。俺も最初はそう思っていたよ。諦めずに話し合えばきっと分かり合えるってな」
「そうよ…心の底から殺し合いをしたいって思ってる人なんて、きっといないんだから!」
「――だけど俺は今日、もう二回もやる気になっている奴にあったんだ。それでもう、分かってしまったんだ。
戦わないといけない時には戦わないと大事なものを全部失っちまうって事を…」
これまでの戦いの中で浩之もその事だけは認めざるを得なくなっていた。
綾香との戦いの時も耕一たちとの戦いの時も、柳川が戦わなければもっと被害は広がっていただろう。
頑なに殺人を拒んできた浩之だったが、もう彼に柳川の言葉を否定する資格は無い。
そしてそれは留美にも通じる事だった、彼女も自分の身を守るために巳間良裕と戦ったのだから。
「………」
留美は返す言葉が思いつかなくなり、それきり俯いてしまった。
場に沈黙が流れる。助け舟を出すように詩子が小さく呟いた。
「とにかくさ…いがみ合ってても仕方が無いし、死んじゃった人たちを埋めてあげようよ…」
その意見に反対する者はいない…一行は何グループかに分かれて各々の作業に移行した。




他の者が埋葬を行なっている間るーこは陽平の頭に包帯を巻いていた。脇腹の治療は既に済んでいる。
彼女の故郷でも包帯を用いた治療が行なわれているかは分からないが、その手つきは手慣れていた。
程なくして作業は終わりを迎える。
「よし、これで治療は終わりだ」
「うん、ありがとう」
「全く………鉄パイプなどで無茶をするからだ。ああいうのは勇気ではなくて、無謀と言うんだぞ」
「いきなり酷い言い草ですねえ!? 大体僕が――」
冷ややかな罵倒を受けた陽平が何か言おうとしたが、それが最後まで言い切られる事は無かった。

187 それぞれの想いと変化 :2007/01/05(金) 22:12:56 ID:7pibsTiM
――るーこが陽平の背に縋るように抱きついていた。
陽平はるーこの体が微かに震えているのを感じた。
「るーこ…?」
「うーへい…もうあんな無茶をするな。うーへいが死んでしまったら、るーは………るーは………!」
「………ごめん」
それきり二人とも喋らなくなった。黙ってほんの一時の間、寄り添い合う。
彼女たちの心にはお互いが無事だった事への安堵と、仲間の死に対する悲しみが混在していた。




「…倉田、本当にもう良いのか?」
「ええ、珊瑚さんたちも心配してるでしょうし急ぎましょう」
佐祐理は荷物を分配した後、周りにいる人間に出発を促がした。
柳川はもう少しゆっくりしていっても構わないと言ったが、彼女はそれを拒んだ。
佐祐理もまた、親友の死を乗り越えて変わりつつあった。
最後に一行は手を合わせ静かに冥福を祈る。もう現実を受け入れていない者はいない。
一人、また一人と別れの挨拶を済ませて顔を上げる。
最後に佐祐理が顔を上げ彼女たちは出立した。それぞれの想いをその胸に抱いて。

歩きながら話し合った結果、まずは珊瑚たちと合流して全員で情報を交換しあう事にした。
この場にいる人間はそれぞれ別々の目的がある、すぐに別行動になってしまうだろう。
だが最終的な目標は皆同じ…協力し合える部分は協力し合うべきだった。
そんな中、留美は一行の少し後ろを肩を落としながら歩いている。
浩之が歩く速度を落として彼女の横に並びかけた。
「なあ、七瀬」
「…何?」
「一体何が正しくて、何が間違いなんだろうな…。俺にはもう分からない…」
「…そんなのきっと、誰にも分からないわよ」

188 それぞれの想いと変化 :2007/01/05(金) 22:14:19 ID:7pibsTiM
浩之も留美も己の目的を果たす為の強い意志は持っている。
しかし迷いが消える事は無い。
――『これから君たちには殺し合いをしてもらう』
この狂った島で行なわれているのは殺し合い…その圧倒的な現実の前に、少年少女の想いはあまりにも無力。

【時間:2日目12:00頃】
【場所:F-2】

春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、珊瑚達の所へ戻る】
柳川祐也
【所持品:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)、疲労、珊瑚達の所へ戻る】
倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式、救急箱、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)】
【状態:普通、珊瑚達の所へ戻る】
藤田浩之
【所持品:日本刀、ライター、新聞紙、護と志保の支給品一式】
【状態:守るために戦う決意、珊瑚達の所へ戻る】
七瀬留美
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】
【所持品2:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分)】
【状態:珊瑚達の所へ戻る、目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】

189 それぞれの想いと変化 :2007/01/05(金) 22:15:29 ID:7pibsTiM
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:珊瑚達の所へ戻る、千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:鉈・包丁・スペツナズナイフ・他支給品一式(2人分)】
【状態:珊瑚達の所へ戻る、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
吉岡チエ
【所持品1:投げナイフ(残り2本)、救急箱、耕一と自分の支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:珊瑚達の所へ戻る】

【関連:619 B-13】

190 修正 :2007/01/05(金) 22:53:04 ID:7pibsTiM
>まとめサイト様
以下を修正願います

>>187
>佐祐理は荷物を分配した後、周りにいる人間に出発を促がした。        

佐祐理は荷物を分配した後、周りにいる人間に出発を促がした(アヒル隊長はもう用途が無いので、
爆発の規模を抑えれるよう少し離れた地面に埋めて廃棄した)。

>>188
>春原陽平
>【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
>【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
>【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、珊瑚達の所へ戻る】


春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、珊瑚達の所へ戻る】

お手数をお掛けして申し訳ございません

191 医者は電気羊の夢を見るか :2007/01/06(土) 09:59:49 ID:HlWmjZ4k
霧島聖は薄暗くなった部屋の中でちらりと時計(家に備え付けてあった。当たり前か)を確認する。
――午前3時30分。
まだ少し出るには早いような気がしなくもないが、そろそろ出立の準備をしてもいいころだろう。
結局、交代で床についてもほとんど眠る事が出来なかった。そりゃそうだ、こんないつ襲撃されるか分かったもんじゃないこの出来の悪いふざけた演劇の舞台で、誰が眠れるって言うんだ?
聖は、脳裏にゲームの開始を告げた殴り心地の良さそうだった兎の人形を浮かべる。
――次に出会ったら、強烈なストレートをかましてやろう。それもただのストレートじゃない、二度と悪さ(それにしちゃ度が過ぎているが、クソ)出来ないように骨の髄まで砕けるようなストレートだ。
TKO。どんなもんじゃーい。
聖はことみが寝ているベッドまで近づいていき、ゆっくりと体を揺らした。
「ことみ君、起床時間だぞ」
言うと、ことみはぱっちりと目を開けて起き上がった。
「よく眠れたか?」
ううん、と首を振ることみ。
「何となく、寝つけなかったの。羊の数を数えてたら、14725匹になっちゃったの」
恐ろしい集中力だった。自分なら、100匹もいかないうちに放り出すだろう。
「今、何時?」ことみが尋ねる。3時30分、と答えてやると「こんなに早起きしたのは人生初なの」と言った。聖は仕事柄、こんな時間まで起きていることも珍しくはなかったが。
「さて、出発の準備だ。ことみ君、悪いが何か役に立ちそうなものを探してきてくれないか? 私は食料を探そうと思う」
「あいあいさー」
敬礼すると、ことみは押入れの中を探り始めた。聖は台所を漁り始める。
冷蔵庫にめぼしい物はなかったものの、戸棚の中から乾パンやカロリーメイト(用意のいい家だこと)を発見することができた。どうせなら、ミネラルウォーターでもあればなお助かったのだが、そこまで期待するのは酷というものだろう。
「――しかし、まるで泥棒みたいだな」
薬やばんそうこうなどを集めているときには思いもしなかったが、考えてみれば人様の家に勝手に入りこんだばかりか食料まで頂戴している。
霧島聖及び一ノ瀬ことみ、住居不法侵入罪。懲役10年。イエー。

192 医者は電気羊の夢を見るか :2007/01/06(土) 10:00:38 ID:HlWmjZ4k
「正確には住居侵入罪なの。ついでに、法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金なの」
解説とツッコミ、ありがとう。
「――で、ことみ君は何か見つけたのか」
ツッコミのために顔を覗かせていたことみが、「えーっと」と言って色々取り出す。
「懐中電灯〜」
どこぞの青タヌキ型ロボットの口調を真似たかのようにことみが取り出す。大きさはペンより少し大きいくらいの、つまり俗に言う、ペンライトだった。
明るさとしてはやや頼りない気がするがこの際文句は言えまい。むしろ口にくわえて狭い場所も探索できるのでありがたい。
「100円ライタ〜」
見るからに安物(いや、実際百円ものだが)のライター。だが火をつけたり明かりを灯したり、用途は様々だ。火で炙って殺菌消毒も出来なくはない…はず。
「以上なの」
びっ、と敬礼して報告の終わりを告げることみ。まだ出会って間も無いが、彼女の見識は広いものがある、と聖は思っていたのでもうこれ以上役に立ちそうなものはないのだろう、と考えた。
「よし、じゃあ出発前に少し食べてから行くぞ。ほら、まだ少し早いが朝食だ」
ことみにカロリーメイトを投げ渡す。危なげなくことみはキャッチして、ぺりぺりと袋を開ける。
聖も一つ開けて一気に口に放りこむ。粉っぽいが、味は悪く無い。
十秒チャージ、2時間キープ。
「ひんへいは、ひがふほ」
同様に、リスよろしく両頬にカロリーメイトを頬張ったことみがまたもやツッコミを入れる。
「…キチンと飲みこんでから言って欲しいな」
――聖には届かなかったが。
それはことみも了解しているらしく、モグモグと時間をかけて飲みこんでから改めて突っ込む。
「品名が、違うの。それはウィダーインゼリー」
約一分後の、間を置いたツッコミだった。
食べ終えると、聖は地図を取り出して、現在地を確認する。
「さて、今我々がいるのはこのB−4だ。ここから灯台や氷川村に行くわけだが――ホテル側から迂回して氷川村から行くルートか、学校側から灯台へ向かうルート、どちらにする?」

193 医者は電気羊の夢を見るか :2007/01/06(土) 10:01:26 ID:HlWmjZ4k
一直線に道なき道を通るという選択肢もあるにはあったが無駄に体力を使うわけにもいかない。妹も気がかりではあるが――まだ、無事であると信じたい。
「うーんと…先に行きたいところがあるけど、いい?」
言って、ことみが指し示したのは学校だった。灯台へのルートの途中にあるので遠回りにはならないが…
聖が尋ねようとしたところ、先に言葉を発したのはことみだった。
「ちょっと、調べたい事があって」
はっきりとは言わなかった。というより口に出すのを躊躇っているような感じだ。口に出して言えないようなことなのだろうか? 気にはなったが、追求は避けた。ことみなりに何か考えあってのことだろう。
「分かった。先にそちらに向かおう。ひょっとしたら、ここに佳乃がいるかもしれないからな」

【時間:二日目午前4時前】
【場所:B-4】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:健康。まず学校へ移動】
一ノ瀬ことみ
【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯】
【状態:健康。まず学校へ移動】

194 医者は電気羊の夢を見るか :2007/01/06(土) 10:02:36 ID:HlWmjZ4k
あ、書き忘れ

B-10です

195 名無しさん :2007/01/06(土) 21:16:22 ID:Y5PL6XtQ
誓い(後編) 〜THE END OF JOKER〜


「なんとか無事に着いたんよ」
「ええ。ここが鎌石局ね…」
20分ほど歩いたところで皐月と花梨は鎌石局にやって来た。
早速2人は中に入り、しらみつぶしに局内を物色し始めた。
とはいえ、そう長居もできない。恐らく少年も自分たちを見つけようと今頃村中を徘徊しているだろう。
そのため一通り手短に調べ終わったらすぐに村から去ろうと2人は考えていた。

「なにか武器の変わりになるものでもいいんだけど………」
「そう簡単に見つかったら苦労はしないわよね………あれ?」
業務机の引き出しを立て続けに開けて中を調べていた皐月であったが、ふと1箇所だけ鍵がかかっていた引き出しを見つけた。
「ここだけ鍵がかかってる……」
「……なんか怪しいね。じゃあ早速開けてみるんよ」
そう言うと花梨はポケットから針金(ホテル跡で手に入れた奴。どうやらまだ持っていたらしい)を取り出し島に来て2度目のピッキングを敢行した。
前回同様、鍵穴に針金を差し込んでしばらく格闘していると『カチッ』という音が引き出しからした。
「よしっ。解除完了!」
「へえ。見事なものね。でも私ならもっと早く解除できたけど……」
「え? 皐月さん、今なんて?」
「ああ、なんでもない、なんでもない。とにかく開けてみましょ」
そう言って引き出しを開ける皐月。もちろん花梨とは違い罠が仕掛けられている可能性も考え伸張に開けていく。
―――引き出しの中にあったのは郵便局にあるには不自然すぎる銀色の鉄の塊だった。

「――これって……銃だよね? それに弾も……」
花梨が引き出しから取り出したもの。それはまぎれもなく拳銃だった。
引き出しの中には花梨が取った銃のものや他の銃のためのものであろう数種類の予備の銃弾があった。
「………ちーちゃんだ」
「えっ?」
花梨の持つ拳銃に皐月は覚えがあった。

196 名無しさん :2007/01/06(土) 21:17:31 ID:Y5PL6XtQ
―――チーフスペシャル。そう。それは皐月も愛用していたアメリカのスミス&ウェッソン社製のリボルバー拳銃だった。
(もっとも、花梨の持っているそれは皐月の愛用するM36ではなく、その発展型であるM60・3インチモデルであったが……)


「――うん。ちょっとホコリ被ってるけど銃も弾も問題なく使えそうね」
手に入れた銃と弾を一通りチェックし終えると、皐月は制服のポケットにチーフスペシャルを、デイパックに弾をしまった。
ちなみに手に入った弾はM60の予備弾である.357マグナム弾20発(うち5発はM60に装填したため残り15発)と散弾銃用の12番ゲージ弾10発、FN ハイパワーのマガジンに入っていた9ミリパラベラム弾13発の以上3種類である。
「でも武器が見つかってよかったね。これで少しは安心なんよ」
「ええ。でもさ、本当に銃は私が持っていていいの?」
「うん。なんか判んないけど私よりも皐月さんのほうが使い慣れてるような気がするから」
(う…そりゃあねえ………)
そう思いながら苦笑いをする皐月。さすがに今は「銃はこの島に来る以前からたびたび使っていたことがあるから」とは言えない。

「じゃあ行きましょ。何時までもこの村に行くわけには行かないわ」
「ええ。由真やたかちゃんたちと無事に合流できればいいんだけど……」
「そうね。私も宗一やリサさんと合流できれば………っ!?」
――郵便局を出た瞬間、皐月は何か『嫌な予感』がした。
「花梨!」
「えっ?」
考えるよりも先に皐月の身体は動き出していた。咄嗟にバッと花梨に飛びつく。


――ガガガガガガ!

197 名無しさん :2007/01/06(土) 21:18:29 ID:Y5PL6XtQ
「っ!?」
「皐月さん!?」
皐月が花梨に飛びつくと同時に銃声が周辺一帯に響き渡った。
さらにそれと同時に皐月の左肩から鮮血が噴き出す。
「さ…皐月さん血が………!」
「いいからこっちに!」
痛みに耐えながら皐月は立ち上がるとすぐさま花梨の手を引き物陰に滑り込んだ。

――敵の奇襲。誰の手によるものかは2人ともすぐに気づいた。

「少年っ!」
皐月と花梨は揃ってその襲撃者の名を口に出すと、皐月たちの隠れている物陰の向かい側に位置する民家の影から襲撃者は姿を現した。
アサルトライフルを手に佇む黒ずくめの姿―――そう。それは間違いなく先ほど自分たちを襲い、幸村と智子の命を奪った少年だった。


「――おかしいな…完璧な奇襲だったはずなのに仕留め損ねるなんて………どうやら君は見かけによらず良い戦闘センスを持っているみたいだね湯浅皐月……」
場に似つかわしくないフッとした笑みを浮かべながら少年は皐月と花梨が隠れている物陰を見つめていた。
「少年! あんた、本当にどういうつもりよ!」
皐月はそう叫ぶと手に入れたばかりのM60を少年に向け構えた。
「言ったでしょ? 僕の目的は君たちが持っている宝石を手に入れることだって……」
そう言いながら少年も皐月に対してステアーを構える。

「――悪いけど、さすがにもう今の僕は君たちを見逃すことは出来ないよ。それに無駄な労力は払いたくない……だから一思いに殺してあげるよ」
「やれるもんならやってみなさいよ………!」
お互い銃を握る手に自然と力が籠もる。2人ともすぐには動かない。
「…………」
「…………」
無言のまま睨み合う皐月と少年。数秒の時間がとても長い時間に2人は感じた。

198 名無しさん :2007/01/06(土) 21:19:34 ID:Y5PL6XtQ
―――沈黙を破ったのは皐月――いや。皐月の陰に隠れていた花梨だった。
「こいつーーっ! なめるんじゃないんよーーーーーーっ!!」
花梨はそう叫ぶと自身の持っていたデイパックのうちの1つを少年に向けて勢い良く投げつけた。

「っ!?」
思わず少年はステアーの引き金を引いた。

ガガガガガ………!

銃声と同時にデイパックは蜂の巣となる。しかし次の瞬間、デイパックは破裂すると同時に白い煙が勢い良く少年の周辺に充満させた。
「!? なんだコレは!? ――小麦粉!?」
そう。それは今は亡きエディの支給品、大量の古河パンによる大量の小麦粉の煙幕だった。
さすがの少年もこれには視界を封じられた。
「皐月さん!」
「ええ!」
それを見て、急いでその場から離脱しようと皐月と花梨は走り出した。
普通ならば少年を倒す絶好のチャンスである。しかし、少年にはアサルトライフルの銃弾すら弾く強力な盾がある。そのため、いくら強力なマグナム弾を用いるM60を持っている今の皐月でも少年を攻撃しようなどとは思わなかった。

「一度村の中心部に戻るんよ! あそこなら物陰も多いからきっと逃げ切れる!」
「判ってるわ!」
先ほどと同じように振り返ることなく皐月と花梨は全速力で駆けていく。
しかし………
「―――言ったよね? 君たちを見逃すことは出来ないって………」
「えっ?」
不意に近くから少年の声が聞こえたので、花梨が振り返ると『パン! パン!』という音が近くで鳴り響くと同時に自身の胸と腹部から先ほどの皐月の左肩のように鮮血が噴き出した。
「あ………」
花梨は体中から力が抜けていくのを感じた。そして花梨はゆっくりと地面に倒れた。
「花梨っ!?」
それを見た皐月も思わず足を止めてしまう。しかしそれは少年に絶好のチャンスを与えてしまった。

199 名無しさん :2007/01/06(土) 21:20:30 ID:Y5PL6XtQ
パン! パン! パン!

―――再び銃声。それも今度は3回だ。1つ目の銃声で皐月の左足に風穴が開き、2つ目の銃声で右腕にかすり傷が生まれ、3つ目の銃声で右わき腹が抉られた。
「あああああああああああああああっ!!」
迸る激痛に皐月は思わず叫び声を上げ、その後彼女も大地に崩れ落ちた。

「やれやれ……もう慣れてると思ったけど銃って本当に扱いが難しいものだね。未だにコツが掴めない………」
皐月が声のした方に目を向けるとそこにはステアーではなくグロックを持った少年の姿があった。
「能力者の能力を制限する……結構便利なルールだけど自分の能力も封じられてしまうというのは結構不便なものだよ。本来なら不可視の力で君たちを自身の死に気づかせることなく葬ることもできるのに………」
そう言いながら少年は動かなくなった花梨に近寄った。
「………」
皐月はただ黙って少年を睨みつける。
隙を突いてM60をお見舞いしてやろうとも思ったが、今の少年からは皐月にまったく隙を与えてくれる感じがしなかった。
「だけど、ようやくこれで全てを終わらせられるよ。この繰り返される悪夢のような殺し合いも、僕の役目も…………」
少年は花梨のデイパックを手に取り中を開ける。しかし目当ての宝石は入っておらず、中からは特殊警棒と貝殻と手帳が出てきた。
「これは……なるほど。猪名川さんか……確かに、彼女と彼女の仲間たちにはあの時に何度も苦汁を舐めさせられたよ………」
手帳を開いて目を通した少年はふっと笑った。発言からしておそらく前回行われた殺し合いのことを思い出したのだろうと皐月は思った。
「さて……こんなことをしている場合じゃあないよね?」
手帳を花梨のデイパックにしまい、それを置くと今度は花梨の方を調べる。
「やっぱりポケットの中かな?」
そう言って少年は花梨の制服のポケットに手を伸ばした。
その時―――

「にゃあー!」
「うわっ!? なんだこいつ!?」
(猫さん!?)

200 名無しさん :2007/01/06(土) 21:21:10 ID:Y5PL6XtQ
突然皐月のデイパックから飛び出したぴろが少年に飛び掛った。
ぴろは花梨のポケットへと伸びていた少年の手を引っかくと、今度は少年の顔に張り付いた。
「くっ…こいつ……!」
「にゃ!?」
しかし、すぐさま少年に引き剥がされるとそのまま勢い良く地面に叩きつけられた。
「ふぎゃあ!」
そう叫ぶとぴろもぐったりと地面に倒れ伏した。
「くっ……こんな奴まで僕の邪魔をするなんて………」
少年はぴろを一瞬睨みつけるとすぐに花梨の方に目を戻した。
「困るんだよ……あと1歩というところで邪魔されるのは………」
「そうか。それは悪いことをしたな……」
「!?」
不意に誰かの声が聞こえた。少年は振り返ると同時に片方のデイパックを自身を守るように前に突き出した。

ズドン!
パン! パン!

2種類の銃声が聞こえると同時にデイパックが破裂し中に隠されていた盾が姿を現し、少年の身体には着弾の衝撃が伝わった。
(ショットガンか!)
そう判断すると同時に少年はその場から少し後退する。

――少年の眼前には、ショットガンをこちらに向けて構える少年と拳銃をこちらに向けて構える少女、そしてその後ろに同じく2人の少女が立ちはだかっていた。


* * * * *

201 名無しさん :2007/01/06(土) 21:21:58 ID:Y5PL6XtQ
「笹森さん………」
ショットガンを構える少年――河野貴明は目の前に倒れている花梨と皐月にちらりと目をやった。
見知らぬ少女の方はまだ生きているようだが、花梨の方はその場に倒れたまま動いていなかった。胴体からは大量の血を流し、大きな赤い水溜りを形成していた。
目の前の惨劇に対する怒りにぎりっと奥歯を噛み締めた。そして目の前にいる少年をキッと睨みつける。
「――お前がやったのか………?」
「――僕じゃなかったら誰がやったっていうんだい?」
「……っ!」

ズドンッ!!

少年のそのその言葉が告げられると同時に貴明は少年にレミントンを撃っていた。
それが戦闘開始の合図となった。



貴明のレミントンが火を噴くのとほぼ同時に少年は貴明たちの視界から姿を消していた。
少年の持っていた盾だけがそこには存在していた。
(速い……!)
柏木梓は直感で隣にいた久寿川ささらの腕をぐいっと引っ張った。
貴明とその隣にいた観月マナも咄嗟に左右に転がるように場所を変える。

パン! パン! パン!

「くっ!」
次の瞬間、貴明たちのいた場所に数発の銃弾が貫いた。
まだ完全に癒えていない傷がズキンと痛んだが、今の貴明にそんなこと言っている暇はなかった。

202 名無しさん :2007/01/06(土) 21:22:46 ID:Y5PL6XtQ
(固まっていたらやられる……!)
すぐさま貴明たちはそれぞれ物陰に身を隠す。
「梓さん! 久寿川先輩たちをお願いします!」
弾切れしたレミントンに急いで新しい弾を装填しながら貴明は梓の方に叫んだ。
「馬鹿! そんなこと言われなくても判ってるよ! こっちの心配をしてる暇があったら自分の心配をしろ!」
梓は物陰から飛び出すと、近くに倒れていた皐月を抱きかかえる。
「大丈夫か!?」
「あ…ありがとう………っ!?」
「梓さん、前!」
「!?」
マナの叫び声を聞き、梓が目を向けると前方の物陰から黒い影が一瞬横切った。
――少年だ。
「梓さん早くこちらに!」
「判ってる!」
急いでささらの隠れている物陰に身を隠そうとする梓。
しかし再びステアーに武器を持ち替えた少年がそんな梓と皐月に銃口を向けトリガーを引いた。
それとほぼ同時に梓の後ろから貴明とマナが飛び出し2人を守るためにレミントンとワルサーを、梓に抱きかかえられていた皐月も咄嗟にM60を取り出し少年に向けて発砲する。

203 名無しさん :2007/01/06(土) 21:24:22 ID:Y5PL6XtQ
―――4種類の銃声が村に響く。
しかし少年に貴明たちの銃弾が当たった気配は微塵もなかった。
その代わり、貴明たち――特に皐月を庇った梓には容赦なく銃弾が襲った。
「ぐうっ!?」
「梓さん!?」
「大丈夫だ、このくらい!」
貴明たちは物陰に身を隠したおかげでなんとか無傷で済んだが、梓は右腕と右肩を負傷していた。
「何処にいったのあのすばしっこい奴!?」
マナが辺りを見回すが少年はまたしても姿を消していた。
「くっ…気配すら感じない……何なんだあいつは?」
「あいつは少年……前回この島で行われた殺し合いの優勝者で主催者が送り込んだ殺人鬼よ……」
「なんだと!?」
皐月のその言葉を聞いた梓たちは驚きを隠せない。
「あいつの目的は私と花梨が持ってる主催者の『計画』に必要な鍵といわれる宝石を狙ってるの………!」
「じゃあ、そのためにあの人は………!?」
ささらの問いに皐月はうんと頷いた。
「許さない………!」
マナはワルサーを握る手にさらに力を籠めた。
「絶対にあんただけは許さない!」
「それなら僕を殺してでも止めてみることさ」
「!?」

204 名無しさん :2007/01/06(土) 21:24:59 ID:Y5PL6XtQ
突然マナの視界に少年が踊り出た。
咄嗟にワルサーを構えようとしたが、それよりも早く少年はそのワルサーを握るマナの手を蹴り飛ばした。
ワルサーがマナの手を離れ空中を舞い、地面に転がる。
続けざまに少年は蹴り上げた足をそのままマナの右肩に勢い良く叩き付けた。俗にいう『踵落とし』である。
「ああっ!?」
「観月さん!?」
それを見た貴明は咄嗟に少年の背中に向けレミントンを構える。
しかし少年は振り返ることなく腰にねじ込んでいた38口径ダブルアクション式拳銃を抜き取り、振り返りと同時に貴明に向けて撃った。
2発の銃声と共に放たれた2発の弾丸が一瞬で貴明の右腕を掠り、右肩を貫通する。
「―――ッ!!」
襲い掛かる激痛に貴明は声にならないうめき声を上げる。
そのためレミントンも照準が外れ、放たれた散弾も少年に掠ることなく終わった。

少年は弾切れになった銃を捨て、またしてもグロックを抜き取ると目の前で尻餅をついているマナに向けてその銃口を向ける。
「あっ―――」
瞬間。マナは死を覚悟した。


「させるかああああああああああ!」
「っ!?」
しかしそこへ特殊警棒を持った梓が少年に飛び掛る。
梓から振り下ろされた警棒は少年が左手に持った特殊警棒(花梨のデイパックから奪ったものだ)と激突し、激しい金属音を響かせた。
その隙を突いてマナは貴明のもとに駆け寄った。

205 名無しさん :2007/01/06(土) 21:25:39 ID:Y5PL6XtQ
「往生際が悪いよ!」
瞬間、体勢を一気に下ろした少年が右手で梓の警棒を持つ右腕を掴むとそのまま巴投げのように彼女を投げ飛ばした。
「まだっ!」
しかし梓も制限されているとはいえ少年と同じく異端者である。
普通なら背中から地面に叩きつけられるところだが彼女も空中で体勢を代え両足で見事に着地した。
それでも少年は追撃を止めない。すぐさま右手にグロックを握り直し梓に向ける。
「なめるなああああ!」
しかし梓も持っていた警棒を少年の右手に勢い良く投げつけていた。
「くっ!?」
警棒は少年の右手に当たり、持っていたグロックを弾き飛ばす。
この時、少年は右手を軽く打撲した。つまり彼は今回の殺し合いで初めて負傷した。

「チッ……!」
少年は軽く舌打ちすると2、3歩後退する。同時にデイパックからステアーを取り出し梓に構えた。
「!」
それを見て梓もすぐさま皐月から借りたM60を取り出し少年に構えた。
今の少年は盾を持っていない。すなわち、撃てば少年に確実に致命傷を負わせることが出来る。

―――しかし、お互い銃口を向けたまま動かない。
確かに撃てば相手を倒すことは出来る。しかし同時に自身の命も奪われることになるのだ。
梓も少年もこんな所で死ぬわけにはいかなかった。
梓には千鶴を止め、初音を見つけ出すという使命が、少年には宝石を手に入れるという使命がある。
だが、ここで死んでしまえばそれも意味がなくなってしまう。死ねば全てが台無しになる。お互いそれだけは避けたかった。

少年はチラリとあたりを見る。自身のグロックと弾切れの38口径銃に盾、マナのワルサー、梓の警棒、あと先ほど自分を引っ掻いた猫は近くに転がっている。
梓のM60以外で唯一の障害となる武器―――貴明のレミントンは未だに貴明が持っているが当の貴明の姿はない。おそらく先ほどマナに連れられて物陰に身を潜めたようだ。
(しかし油断はできないよね…………)
そう考えながら目線を再び梓に戻す。

206 名無しさん :2007/01/06(土) 21:26:21 ID:Y5PL6XtQ
「―――お互い、いつまでもこうしていたららちがあかないと思わないかい?」
「そうだな………」
「だけど、それでも続けるんだね」
「ああ。確かに今あんたを撃てばあんたを倒せるだろうが、あんたも同時にあたしを撃つだろ? それじゃあ結果は相打ちだ。
――あたしは千鶴姉と初音を見つけ出さなきゃならないからな。だから、こんなところで死ねない…!」
「――僕も『計画』の鍵である宝石を手に入れるという使命があるからね。だから死ぬつもりは微塵もないよ……」
最も、その役目もあらかた終わったようなものだけどね、と付け加えて僅かに肩をすくめてみせる少年。


―――その時、また潮風が吹いた。


刹那、再び少年が動いた。
すぐさま梓はM60を少年に撃った。しかし少年にはやはり当たらない。
黒い風が梓を横切る。直感で梓は地面を転がった。
それと同時に少年のステアーが梓の立っていた場所に向けて火を噴いていた。一瞬でも反応が遅れたら間違いなく梓は蜂の巣だっただろう。

―――だが、おかげで少年に一瞬でも隙を作らせることが出来た。そう。転がりながらも梓は少年を捉えていたのだ。
狙うは少年の胸元。そこへM60の銃口を向けた。
「これで………!」
「!?」
少年が反応したときには既に梓はM60を撃っていた。
M60から放たれたマグナム弾はスローモーションのようにゆっくりと(いや、実際は速いのだが梓たちにはそう見えたのだ)少年の胸元に吸い込まれる―――と思われた。

ガァンッ!!

「な………!?」
梓は己が目を疑った。
M60の放った弾丸は少年に当たる直前、彼が地面から蹴り上げたソレに弾かれた。

207 名無しさん :2007/01/06(土) 21:27:14 ID:Y5PL6XtQ
―――強化プラスチック製の盾。
過去にセリオのグロック(現在は少年のものだ)から、幸村のステアー(これまた現在は少年のものだ)から少年の命を守った実質彼の『切り札』ともいえるアイテム。
それが三度少年に九死に一生を得させたのだ。
少年はこの時『二度あることは三度ある』という言葉がありがたいものだと感じた。
「さすがに今回は少しヒヤッとしたけどね………」
そう呟き苦笑しながら少年はステアーのトリガーを引いた。


* * * * *


―――ふと目が覚めた。
身体が――特に胸元とおなかのあたりが激しく痛くて熱かった。
あたりは一面真っ赤だった。
目が霞んでいて周りはよく見えないが、それが何であるかはすぐ判った。

―――赤いのは血だ。私の血だ。
すごい血の量………自分の身体の中にはこれほどの量の血が流れていたのかと思わず驚いてしまう。

声が聞こえた。それも叫び声だ。
―――誰の声だろう? 皐月さんかな?

いや……違う。これは男の子の声だ。
どこかで聞いたことがある声―――これは………


(―――たかちゃん!?)


* * * * *

208 名無しさん :2007/01/06(土) 21:28:11 ID:Y5PL6XtQ

「さすが柏木の人間――まだ生きてるなんてね…………」
弾切れになったステアーからマガジンを取り出しながら少年は目の前に倒れ伏す梓を見つめていた。
「ぐっ……ち、ちくしょう…………」
梓の腕や足などにはいくつもの風穴が開いていた。無論、少年のステアーによるものだ。
頭や胸など急所に被弾するのはギリギリ避けることができたが出血が酷い。いくら柏木の人間である梓でもこのままでは死んでしまう。
「だけどこれで終わりだよ………」
少年が予備のマガジンをステアーに入れようとした瞬間―――

「少年、お前だけは!!」

レミントンを構えた貴明が物陰―――それも少年の至近距離から飛び出した。
しかし、少年は最初からこう来ると判っていたかのように足元に転がっていた盾を拾い貴明めがけて思いっきり放り投げた。
盾はまっすぐ貴明に直撃する。その衝撃で貴明は尻餅をつき、レミントンも彼の手からすべり落ちた。
さらに少年は追撃とばかりに勢い良く貴明の胸を踏みつけた。
「ぐあっ!?」
「貴明さん!?」
「貴明!?」
「悪いけど動かないでもらえるかな?」
「!?」
すぐさま、ささらとマナ、そして2人に抱えられている皐月が物陰から飛び出すが少年が貴明に銃口を突きつけ3人を制止させる。
「そうだね――まずは君から始末したほうがいいかな貴明くん? なにも特別な力を持っておらず、なおかつそれだけの傷を負っていながらも僕に抗うその戦闘力……正直少し驚いているよ」
既に身体中傷だらけでずたぼろな貴明を見下ろしながら少年はふふと微笑む。その微笑は貴明やささらたちにはとても不気味に感じた。

209 名無しさん :2007/01/06(土) 21:29:13 ID:Y5PL6XtQ

少年は嘘は言っていない。
正直、この殺し合いにおいて彼が最も恐れていた存在といえば彼と同じ不可視の力を有する天沢郁未や鹿沼葉子。鬼の血を引く柏木の人間。そして那須宗一や篁といった自身でも未知数の力を有する者たちだった。
だが、そのような者たちとは違う、何も特別な力など有していない一般人たちに彼はこれまで何度も阻まれてきた。
前回の殺し合いの時もそうだったし、今回もあと1歩というところで保科智子の手により1度宝石を手に入れ損ね、今だってあと1歩のところで貴明たちの妨害を受けた。
(本当――人間っていうのはよく判らないよ………だけど…だから面白いのかな……?)
そう思いながら少年は内心くすりと面白可笑しく笑った。


「本当ならこのまま君の命と引き換えに宝石を渡してもらうところだけど、君のような人間は生きているとこの先障害になりかねない……だから悪いけどここで消えてもらうよ」
「――俺は……こんなところで死なない…!」
「………最後の最後まで強情だね……」
そう言って少年はステアーのトリガーを引……
「少年!」
「!?」


* * * * *


―――僕が振り返るよりも先に何かが僕の背中に勢い良くぶつかって、そのまま僕を近くの民家の壁に叩きつけた。
身体中に衝撃が走る。
間違いない。これは人だ。誰かが僕に捨て身で体当たりをかましたのだ。

―――では、いったい誰だこいつは?
柏木梓は既に立ち上がれるほどの戦闘力は残っていないはずだ。それに彼女は僕の視界にもちゃんと映っていた。
同じく視界に映っていた河野貴明、久寿川ささら、観月マナ、そして湯浅皐月もその場から一歩――いや1ミリも動いてはいない。
ではこいつは……………

210 名無しさん :2007/01/06(土) 21:29:57 ID:Y5PL6XtQ


少年は、ようやく振り返り自身に体当たりをした者の正体を確認した。
「笹森…花梨か……!?」
そう。先ほど少年のグロッグで胸と腹部を撃たれ、完全に死んだと思われていた笹森花梨であった。

「私……言ったよね………『絶対に宝石はあなたなんかに渡さない』って…………」
「くっ……」
少年はしがみ付く花梨を引き剥がそうとする。しかし、花梨は少年にがっしりとしがみ付いて放そうとしない―――否。放さない。

花梨の目は既に焦点を合わせていない。それに口からも大量に血を吐いている。既に事切れてもおかしくない状態であった。
(―――では、それなのに僕を完全に押さえつけているこの力はいったい何だ?)
少年は身震いを感じた。
不可視の力も――鬼の血も――毒電波や未だ未知の力も持っていないはずの一般人が…………なぜここまで戦えるのだ?

「なんなんだお前は………特別な力も持たないただの人間のはずなのに……………どこからこんな力が……」
「そん…なの……きまって……るでしょ…………?」

一度言葉を切る。
そしてふっと笑うと花梨は言った。

「人間だからよ…………!!」
「!?」


この時になって少年はやっと全てを理解した。

―――そうだ。前回の時も、あの時の保科智子も、そして今自分を押さえつけている笹森花梨もそうだ。
皆最後は己の命を懸けてでも守るべきものを守ろうとした。最後の最後で――己の命の全てを燃やして……………

211 名無しさん :2007/01/06(土) 21:31:01 ID:Y5PL6XtQ

* * * * *


「笹森さん!?」
目の前で突然展開された光景を思わず呆然と眺めていた貴明たちであったが、次の瞬間ハッと我に返り貴明が叫んだ。

「たかちゃん!」
「!?」
それに答えるように花梨が貴明の方に振り返った。
「このまま私に構わずこいつを撃って!!」
「な―――!?」
その言葉を聞いた貴明たちは一瞬驚愕した。

花梨のその言葉を聞いた貴明は迷った。
レミントンは今自分の手元に転がっている。確かにこれを拾って撃てば確かに少年は倒せる。しかし………
(それは――笹森さんも殺すということじゃないのか………?)

貴明の目的――それは知り合いや仲間たちを守ることだ。決して殺すことではない。
殺し合いに乗った者が襲ってきたとき――そのとき人を殺すという覚悟は確かに出来ていた。
だが………仲間であるはずの者を自らの手で殺す覚悟など出来てはいなかった。完全に想定外だったし予想外だった。

「そんな……」
―――俺に笹森さんを…友達を撃てと………殺せっていうのか?
貴明の両手は震えて動かなかった。出来るわけがなかった。
自身が守るべきはずの人を自らの手で殺し、それを一生背負っていくなんて貴明にはできなかった。

212 名無しさん :2007/01/06(土) 21:31:41 ID:Y5PL6XtQ

「貴明さん!」
「!?」
不意にささらの声がした。
「撃ってください!」
「なんだって!?」
ささらの発言に貴明は思わず振り返ってしまう。
「先輩までおかしくなっちゃったのか!?」
「いいえ。違います! 今…ここで撃たなかったら……きっと私たちは笹森さんを裏切ることになってしまいます………だから………!」
「!?」
ささらは既に泣いていた。その決断を貴明に下すことは彼女にとっても本当はとても辛かったのだ。
「そうだ貴明、撃て! あの子の気持ちを理解して答えてやれ! お前以外誰がやるっていうんだ!?」
「貴明、撃ちなさい!」
「………………」



「こいつっ!」
「ぐが…………」
少年が花梨の腹に拳を叩き込む。花梨の身体から力が抜けていく。花梨の身体がずるずると崩れていく。
それを確認するとすぐさま少年はステアーを構えなおし今度こそ貴明を――――

ズドン!

「がっ……!?」
撃とうとした瞬間、再び衝撃が少年を襲った。それも先ほどの比にもならないほどの大きな衝撃だ。まるで自動車ともろに衝突したかのような………
その衝撃で少年は無意識に血を吐き、ステアーも落としてしまった。いや。こういう場合落とさないほうが不自然というものだ。
目を向けると、その先にはレミントンを構えた貴明の姿があった。
そう。彼は撃った。少年を。少年を押さえつけていた花梨ごと…………

213 名無しさん :2007/01/06(土) 21:32:28 ID:Y5PL6XtQ

* * * * *


―――レミントンから放たれたスラッグ弾は花梨の背中にクリティカルヒットとばかりに直撃し、その背中をを勢い良く吹き飛ばす。
そしてその衝撃は少年にも伝わり、彼の肋骨を粉砕していた。
周辺一帯に花梨の血飛沫が撒き散らかされ、その血飛沫の発生源である花梨も吹き飛んだ。

それを見ながら貴明はレミントンを投げ捨てると、少年に向かって駆け出していた。
まだ少年は死んではいない。確実に止めを刺さなければならない。
「これで…………!!」
貴明は腰にねじ込んでいた鉄扇を引き抜くと、すぐさまバッと開いた。
そして、少年をその範囲に捉えると同時に……勢い良く振り下ろす。

―――振り下ろされた鉄扇は美しい軌道を描きながら少年の首を一閃した。

切られると同時に少年の首からはまるで噴水のように大量の鮮血が噴出した。
「あ……あああああ……………!!」
少年はすぐさま両手で切られた箇所を押さえつけるが血は一向に止まる気配は無い。
身体中から徐々に力が抜けていくのを少年は感じた。

「僕が……こんなところで僕が……そんな…………!」
身体をがくがくと震わせながら少年はゆっくりと膝を付いていく。
「少年………」
「!?」
自身を呼ぶ声がしたのでそこへ目を向ける。そこには…………少年の返り血を浴びた貴明がM60の銃口を自身の顔に向けながら見下ろしていた。


「さよならだ…………」

214 名無しさん :2007/01/06(土) 21:33:06 ID:Y5PL6XtQ

銃声――――

ビクンと一度震えると少年の身体はそれきり動かなくなり彼は地面に崩れ落ちた。





 終わるのか? 僕は……はここで………?

 ああ。終わるんだ。お前はここで…………でも、これで終わるよ。少なくとも……あんたの『悪夢』は…………

 そうか………



 ―――郁未……僕は……………





―――こうして1人の悪魔は己の中の繰り返される悪夢に終止符を打った。


* * * * *

215 名無しさん :2007/01/06(土) 21:34:16 ID:Y5PL6XtQ


「笹森さん!」
少年の死を確認すると貴明はすぐさま花梨のもとに駆け寄った。
花梨のもとには既にささらやマナ、梓に皐月がいた。
「あ…………たか……ちゃん………?」
「ああ! 俺だよ笹森さん! ―――倒したぞ、少年は! あいつの悪夢は俺がこの手で終わらせた!」
涙をこぼしながら貴明は花梨に告げた。

(本当は……全てが終わるまでは泣かないって………決めていたのに…………!!)
必死に溢れ出す涙を止めようと貴明する貴明に梓とマナがぽんと肩を叩いて呟いた。
―――今は泣いていい、と………
「―――っ……!」
それを聞いた貴明は完全に崩壊し、今度こそ完全に涙を流した。

「―――そう……やったね…たかちゃん………」
そう言って普段貴明がよく知っているとびっきりの笑顔を作ってみせる花梨。
その顔は確かに貴明の方を向いていたが、その瞳はもう何も映してはいない。

「花梨……花梨ッ………!」
「皐月さん………宝石の…こと………あとで……たかちゃんたちに教えて…………」
「うんっ! うんっ! 教える! 絶対に教えるから!」
「よかった………」

216 名無しさん :2007/01/06(土) 21:35:01 ID:Y5PL6XtQ
「笹森さん………」
「久寿川さん……それに……名前も知らない人たち………あとは……お願いね………?」
「………はい!」
「ああ。あとはあたしたちにまかせろ!」
「だから……あなたはゆっくり休んでいて………」
「うん…………たかちゃん…皐月さん……みんな……ありが………とう………」
そう言うと花梨はゆっくりと目を閉じて眠るように安らかに―――死んだ。

「笹森さん……………ッ!」
それを見て貴明は大粒の涙を流すと青空に向かって声にならない大きな叫び声を叫んだ。
ささらや梓たちもそんな貴明の様子を黙って見つめていた。

―――だから彼らはこの時は気づかなかった。花梨の制服のポケット、いや。正しくは花梨のポケットの中に入っていた宝石に2つの『光』が吸い込まれていくのを………

彼らがそのことに気づくのは少しした後の話である。


* * * * *


 ………これでよかったのかい本当に?

 うん。たかちゃんたちも私の思いにちゃんと答えてくれたから悔いはないんよ。

 でも、僕が倒れたところで主催者の『計画』は終わったわけじゃあない。これから先もあいつらは彼らを付け狙うよ?

 大丈夫、大丈夫。たかちゃんはこの花梨ちゃん一押しの人材だから、そう簡単にやられちゃうほどヤワじゃないんよ!

 ふふ…そうなんだ。少し羨ましいな彼が………

217 名無しさん :2007/01/06(土) 21:36:00 ID:Y5PL6XtQ
 へ?

 ああ。なんでもないよ。気にしないでくれ。さて……じゃあ逝こうか? 僕と一緒というのは何かと気に食わないだろうが………

 そうね……ものすごく気に食わないんよ!

 ははは……正直な子だ………



* * * * *


「貴明、もう大丈夫なのか?」
「………いつまでも泣いてはいられませんよ」
「そうか……」
「――だけど、荷物をまとめたらすぐこの村を去ったほうがいいと思います。今の騒ぎを聞きつけて別の敵がくるかもしれませんので………」
高槻さんたちには悪いですけど……、と付け加えて苦笑いをする貴明。
「貴明さん、梓さん。それよりもまずは傷の手当をしないと……」
「そうよ。皐月さんの手当てもしないといけないんだから」
ささらとマナが皐月に肩を貸しながら貴明たちに言った。

「……そうだね。じゃあ荷物をまとめたら近くの民家で休憩しようか」
「ああ。そうだな」
そうと決まればと貴明たちは急いで荷物やあたりに散らばっているものをまとめ始めた。

218 名無しさん :2007/01/06(土) 21:37:08 ID:Y5PL6XtQ
貴明はちらりと花梨と少年の亡骸を見た。
本当なら2人とも埋葬してあげたかったが、今の自分たちにはそんな余裕はなかった。
(―――結果的に俺が殺したようなものなのに、笹森さんは俺に『ありがとう』と言ってくれた………だから俺の選択は間違っちゃいない……はずだ……
だから笹森さん…それと少年………俺たちは絶対にお前たちの分まで生きてみせるからな…………! それが2人を殺した俺にできる精一杯の償いになるかは判らないけど………)
貴明は亡き2人にその誓いを伝えると梓たちと荷物をまとめ始めた。



【55番 少年、48番 笹森花梨  死亡】


【時間:2日目・12:15】
【場所:C−4(鎌石局周辺)】

 河野貴明
 【所持品:S&W M60(2/5)、予備弾(12番ゲージ弾)×20、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、他支給品一式】
 【状態:左脇腹・左肩・右腕負傷(応急処置および治療済み)。左腕刺し傷・右足に掠り傷(どちらも治療済み)。右肩負傷・右腕にかすり傷】

 柏木梓
 【持ち物:支給品一式】
 【状態:右腕、右肩、左腕、右足、左足負傷(鬼の力のおかげで傷のひとつひとつはそこまで酷くはないが出血が酷い)。目的は初音の保護、千鶴の説得】

 観月マナ
 【所持品:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、他支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲】

 久寿川ささら
 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、他支給品一式】
 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)】

219 名無しさん :2007/01/06(土) 21:38:30 ID:Y5PL6XtQ
 湯浅皐月
 【所持品:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、12番ゲージ弾×10、9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、他支給品一式】
 【状態:左肩、左足、右わき腹負傷。右腕にかすり傷】

 ぴろ
 【状態:気絶中】


【備考】
・荷物をまとめたら一度近くの民家で傷の手当てをする予定(貴明はその後高槻たちとは合流せず村を後にするつもり)
・以下のものは周辺に転がっている
Remington M870(残弾数1/4)、ワルサー P38(残弾数5/8)、特殊警棒
強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、38口径ダブルアクション式拳銃(残弾数0/10)、ステアーAUG(残段数30/30)、グロック19(残弾数7/15)
少年のデイパック(中身はステアーAUGの予備マガジン(30発入り)×2、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×11、他支給品一式)
花梨のデイパック(中身は海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳)

・以下のものは少年の死体が所持
特殊警棒

・以下のものは花梨の死体が所持
宝石(光3個)、ピッキング用の針金

・花梨と少年の片方のデイパックは中身ごと大破

【関連】
・B−13ルート
・→611

220 名無しさん :2007/01/07(日) 14:55:10 ID:ZQiNsmmU
>まとめサイト様
632話の以下の部分の訂正をお願いします

デイパックは破裂すると同時に白い煙が勢い良く少年の周辺に充満させた。
 ↓
デイパックは破裂すると同時に白い煙を勢い良く少年の周辺に充満させた。

少年のそのその言葉が告げられると同時に貴明は少年にレミントンを撃っていた。
 ↓
少年のその言葉が告げられると同時に貴明は少年にレミントンを撃っていた。

「あいつの目的は私と花梨が持ってる主催者の『計画』に必要な鍵といわれる宝石を狙ってるの………!」
 ↓
「あいつの目的は私と花梨が持ってる主催者の『計画』に必要な鍵といわれる宝石を手に入れることなの………!」

しかし少年は振り返ることなく腰にねじ込んでいた38口径ダブルアクション式拳銃を抜き取り、振り返りと同時に貴明に向けて撃った。
 ↓
しかし少年は振り返ることなく腰にねじ込んでいた38口径ダブルアクション式拳銃を抜き取り、振り返ると同時に貴明に向けて撃った。

普通なら背中から地面に叩きつけられるところだが彼女も空中で体勢を代え両足で見事に着地した。
 ↓
普通なら背中から地面に叩きつけられるところだが空中で体勢を代え両足から見事に着地した。

その衝撃で少年は無意識に血を吐き、ステアーも落としてしまった。
 ↓
その衝撃により少年は吐血し、ステアーも落としてしまった。

221 名無しさん :2007/01/07(日) 14:55:34 ID:ZQiNsmmU
クリティカルヒットとばかりに直撃し、その背中をを勢い良く吹き飛ばす。
 ↓
クリティカルヒットとばかりに直撃し、その背中を勢い良く吹き飛ばす。

必死に溢れ出す涙を止めようと貴明する貴明に梓とマナがぽんと肩を叩いて呟いた。
 ↓
必死に溢れ出す涙を止めようとする貴明に梓とマナがぽんと肩を叩いて呟いた。

それを聞いた貴明は完全に崩壊し、今度こそ完全に涙を流した。
 ↓
それを聞いた貴明は完全に崩壊し、今度こそ涙を流した。


多いですがよろしくお願いします

222 名無しさん :2007/01/08(月) 21:01:12 ID:aY1/vTkY
B−13ルートにおいて494話と589話において矛盾が見つかったので
B−13ルート用の修正版を今から投下します
まとめサイト様、補助サイト様には申し訳ありませんが
以降投下する作品を494b、589bとしてサイトにまとめなおして下さりますようお願いいたします

223 早朝の星(B−13) :2007/01/08(月) 21:03:42 ID:aY1/vTkY
「ふぁ〜…よく寝た……って、どこだここは!?」
気絶(爆睡)から目覚めた折原浩平は状況が判らず多少混乱した。
近くに狙撃銃や自分のものではないデイパックが転がっている寺の裏手に一人ぽつんとたたずんでいたのだから。
浩平は気絶する以前の記憶を蘇らせ、やっと状況を理解した。
「そうか、七瀬はあいつを追っていったんだな…」
貴重な武器である狙撃銃を置いていってしまっているが、多分七瀬なら大丈夫だろうと浩平は思った。

「さて…せっかくここまで運んでもらったんだ、朝まではこの寺で休んでいくとするかな?」
そう言うと浩平は周りの荷物をまとめて無学寺の裏門を潜った。


「うん…?」
「気がつかれましたか?」
「うわぁ!?」
目を覚ました七海は自身の目の前にいた見知らぬ少女、ほしのゆめみに対して思わずすっとんきょうな声をあげた。
「あっ。すみません。驚かせるつもりではなかったのですが…」
「大丈夫よ七海。ゆめみは敵じゃないわ」
同じ部屋にいた郁乃がすぐさま七海にこれまでのことを説明した。


あの後、また高槻が現れたおかげで一応春夏は退けたこと。(無論、その後にあった高槻の告白やキスしそうになったことなど余計な部分は大幅説明カット)ゆめみたちと合流したこと。
ゆめみたちのグループの一人だったレミィが何者かに殺害されたこと。そして高槻たちがその犯人の足取りを追っていったことを一通り郁乃は話した。

224 早朝の星(B−13) :2007/01/08(月) 21:09:32 ID:aY1/vTkY
「そんなことがあったんだ……」
「でもこうして七海も無事目を覚ましたことだし、あとはあいつらが帰ってくるのを待つだけね」
「はい。ご無事だと良いのですが……」
「あれ? 誰かいるのか?」
「あっ…」
郁乃たちが振り替えると、そこには荷物を抱えて部屋に入ってくる折原浩平の姿があった。
しまったと郁乃はすぐさま浩平に銃を向けた。
「うおっ!? 待て待て、俺はゲームに乗っていない。人を探しているだけだ!」
そう言って荷物を足元に投げ捨て浩平は両手を挙げる。
「……その様子だと、嘘ではないみたいね」
郁乃は銃を向けていた腕を下ろすと浩平から話を聞くことにした。


「つまり今折原はこの川名みさき、上月澪、里村茜、住井護、長森瑞佳、七瀬彰、
七瀬留美、藤井冬弥、氷上シュン、広瀬真希、深山雪見、柚木詩子を探しているのね?」
浩平が探しているという人たちを確認するため、郁乃は参加者名簿をチェックしていく。
「ああ。俺が知ってる奴はそれで全員だな。じゃあ今度はそっちが探している人の名前を聞かせてくれ」
「私はお姉ちゃんの愛佳とそのお姉ちゃんの知り合いで河野貴明って奴の2人ね」
「私が探しているのは那須宗一さんに湯浅皐月さん。それと梶原夕菜さんです」
「あんたは?」
浩平はゆめみの方へ目を向ける。
「すみません。私はこの島に来る以前のお知り合いの方はいらっしゃらないので……」
「そうか。このマルチとかセリオっていうのはロボットっぽい名前だから知り合いかなと思ったんだが……」
そう言って浩平は一通り自分の名簿にチェックを済ませるとそれをパタンと閉じてデイパックにしまった。

「あ。そういえばこっち何入ってんだ?」
浩平はもう一方のデイパック――かつて柚原春夏のものであったそれの中が気になったので確認してみることにした。

225 早朝の星(B−13) :2007/01/08(月) 21:10:34 ID:aY1/vTkY
「――ナイフと何かの鍵と…カードにどこかの建物の見取り図か……」
「こんな施設がこの島のどこかにあるっていうの?」
「あるから支給品で配られたんだろ?」
「そうですよね」
浩平たちは要塞の見取り図を見ながらああだこうだと話し続けたが、自分たちの子供の考えだけではらちがあかないと判断し、結局打ち切りとなった。

「とりあえず、今は小牧の仲間たちが戻ってくるのを待とうぜ。休めるときに休んでおかねーと」
「そうね」
浩平は自分のデイパックからパンを取り出すと勢い良く噛り付いた。今まで食物など何も口にしていなかったので腹が減っていたからだ。
「あんまり美味くはないな………」
しかし背に腹は替えられない。今は殺人ゲームの真っ最中、食べられるときに何か食べておかないとこの先何があるか判らないのだから。
パンを食べながらふと部屋を出て空を見た。まだ朝日が昇る時間ではない。空には未だ無数の星々が輝いていた。
(こんな所でも星空は俺が住んでるところよりも綺麗なんだな)
こうして星を見るのは何年ぶりだろうかと思いながら浩平は残りのパンを口の中に放り込んだ。
(長森……無事でいてくれよ………)

226 早朝の星(B−13) :2007/01/08(月) 21:10:52 ID:aY1/vTkY



【時間:2日目AM3:45】
【場所:無学寺】

折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、他支給品】
 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】

小牧郁乃
 【所持品:S&W 500マグナム(残弾13発中予備弾10発)、写真集×2、車椅子、他支給品】
 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】

立田七海
 【所持品:フラッシュメモリー、他支給品】
 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】

ほしのゆめみ
 【所持品1:忍者セット、他支給品】
 【所持品2:おたま、他支給品】
 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】

【備考】
ゆめみのおたまは春夏が落としていったもの

227 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:13:01 ID:aY1/vTkY
YO! YO! パソコンの画面の前のよい子、悪い子のみんな。おはこんばんちわ。(死語? ほっとけ!)
いつの間にかMr.ハードボイルドと呼ばれるまで(え? まだそこまでは呼ばれてない? 別にいいじゃねーか)このキャラが板についてきたと思ったら、
前回ランクが「漢」にアップしたんだかダウンしたか判らなくてちょっと困ってる高槻お兄さんだよー。
いつものノリならこのまま美少女ゲーみたいに俺様の一人称視点で話が進めたいだが、残念ながら今回は以降の文は普通の小説っぽく話が進んじまうんだなあこれが。一応メインキャラは俺様だけどよ。
たまにはいいだろそういうのも? 原点回帰みたいで新鮮な感じ……しないか? 駄目か?
……あーもう。とにかく本編開始だ。さっさと次に行けよやー!!



「はい。終わったわよ」
「おう。すまねえな」
杏は浩平の両手に包帯を巻き終わると救急箱をデイパックにしまった。
「――しっかし…沢渡の置き土産がこんなところで役に立つとはな」
高槻は浩平に再び七海を背負わせると現在は杏の手にある沢渡真琴のデイパックに目を向けた。
以前述べたとおりこの中には今杏がしまった救急箱や先ほど真琴の墓を作る際に使用したスコップなど様々な日用品が入っている。
今は亡き真琴曰く「持って行けば絶対に役に立つわ!」とのことだったが、その「使えそう」というのが真琴基準であるため、使えそうなものから見るからに絶対使えそうもないものまで本当に様々な種類の品が中にはぶちこんである。

「そういえば聞いていませんでしたが、何で久寿川さんとは別行動を?」
まだ聞いていなかった疑問をゆめみが高槻に投げかけた。
「ああ。実はあれから俺たちはポテトの鼻を頼りに鎌石小中学校まで行ったんだがな………」
高槻がそこまで言ったところで2回目の定期放送が流れ出した。

228 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:14:33 ID:aY1/vTkY

『――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください』
「!?」
前にも一度聞いた青年の声が高槻たちの耳に入る。
しかし、その青年の声は12時間前に聞いたときよりも活気がなくなっているように思えた。
(――もしかして、この放送をしている奴も俺たちみたいに主催者に強制されてやらされているのか?)
放送を聞きながら高槻はそう思った。


「くそっ…氷上や雪見先輩まで………」
放送が終わると浩平は手当てを終えたばかりの右手でどんと軽く壁を叩いた。
「梶原さんって人の名前もあったわね……」
「神尾晴子って確か観鈴の……それに春原芽衣と古河早苗って…もしかして………」
「久寿川たちや沢渡の探していた祐一って奴はまだ一応無事みたいだな」
「ええ…」
「しかしマズイなこれは……」
高槻は放送の最後に(どういうわけか)あの声を聞くだけで腹立たしいクソウサギが言った言葉を思い出した。
「『優勝者にはどのような願いも叶えられる』。『大切な奴が死んでしまってもそれで生き返らせれば問題ない』……だっけ?」
「ああ。それに、下手をしたらそれに釣られて今までこのゲームに乗っていなかった奴までゲームに乗っちまう可能性がある。
『ゲームに乗って他の参加者を皆殺しにしても、自分が優勝してゲームが終わった後に全員生き返らせれば問題ない』なんて馬鹿なこと考えてな」
「少なくとも1人はそういうやつがいるだろうな」
「―――まあ、今は考えてばかりいても仕方がねえ。まずは鎌石村に行って久寿川たちと合流するぞ」
そう言って高槻は自分の荷物を手に取ると無学寺を後にする。
「あっ! 待ちなさいよ! まだなんでささらと別行動になったのか理由を聞いてないわよ!」
「それは歩きながら説明してやるよ。いいから早く来い。置いてくぞ」
ぶっきらぼうにそう言って先を行く高槻の背中にぎゃーぎゃーと文句を言う郁乃をなだめながら浩平たちも高槻の後に続いた。

229 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:17:07 ID:aY1/vTkY



「………とまあそういうこった」
道中を歩きながら高槻は鎌石小中学校で起きた出来事を一通り郁乃たちに説明した。
「つまり、鎌石村に行ってささらたちと合流したらまずはその朝霧って人を探すのね」
「ああ。一応な。本当なら宮内の仇を討ちたいとこだが、久寿川たちがそれだけは止めてくれってことでな。
……そういや、折原に藤林だったか? お前らは探している奴はいないのか?」
「そうだな。俺は……川名みさき、上月澪、里村茜、住井護、長森瑞佳、七瀬彰、七瀬留美、藤井冬弥、広瀬真希、柚木詩子だな」
「そりゃまた随分多いな」
やれやれだぜ、と呟くと高槻は郁乃から渡された参加者名簿にペンでチェックを入れていく。
「まあ俺の探している連中……特に住井と長森とみさき先輩と七瀬…留美のほうな。この4人は間違いなく信用していい」
「確証はあんのか?」
「七瀬はここに来る前まで俺と一緒に仲間を探していたから問題ない。長森とみさき先輩は性格からしてゲームに乗るような連中じゃない。住井は……馬鹿だけどこういうことには絶対乗るような奴じゃない」
「おいおい…最初の留美って奴はともかく、2人以降はまともな確証になってないじゃねえか………」
「安心しろ。俺のカンは結構当たるぞ」
「そう言われると逆に凄く不安なんだけど……」
自信に満ちた浩平の発言に杏と郁乃…そしてさすがの高槻も呆れるしかなかった。

230 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:18:39 ID:aY1/vTkY
「あー。気を取り直して、次はあたしの探している人ね。
あたしが探しているのは一ノ瀬ことみ、岡崎朋也、坂上智代、春原陽平、古河渚……そして妹の藤林椋の6人よ」
「一ノ瀬に岡崎に坂上………そして藤林椋と……」
「あと。さっき言ってた祐一って人――多分相沢祐一だと思うけど、彼とは一度鎌石村の消防分署で会ったわ」
「本当か?」
「ええ。今はもう鎌石村にいるかどうかは判らないけど……それと、祐一と一緒にいた子で神尾観鈴。あと私は直接話しちゃいないんだけど緒方英二と向坂環って人。彼らは全員信頼できるわ」
「なるほど……少なくともゲームに乗るなんてことはないんだな?」
「ええ……観鈴が少し心配だけど………」
「神尾晴子……だっけ?」
郁乃が先ほどの放送で上がった名前を口にする。
杏もだまってうんと頷いた。
「あー。そういう辛気臭くなる話はやめろ。ただでさえこっちはテンション高くねえんだからよ」
これ以上士気が下がらないように高槻が話を強制的に終了させた。

「さて、お前たち」
突然高槻が手にしているものを参加者名簿から地図に変えて郁乃たちの方に振り返った。
「なに?」
「なんだ?」
「どうしたんです?」
「どうかしたの?」
郁乃たちはそろって高槻に声をかける。
すると高槻は地図を広げると彼女たちにこれから先の道のりについての説明を始めた。
「既にご存知の通りだが今俺たちは鎌石村に向かっている最中だ。そして、地図を見れば判るとおりここから鎌石村に行くには2種類のルートがある。
1つは東崎トンネルを通って行くルート。もう1つは山道から観音堂方面を経由して行くルートだ。
そのことなんだが…俺様の意見としては後者のルートの方で行った方が安全だと思うわけよ」

231 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:19:10 ID:aY1/vTkY
高槻が地図に載っている海沿いの山道を指でなぞっていく。
「なんでさ?」
「さっき俺様と今は亡き沢渡は行きも帰りもこっちの東崎トンネルのルートを通って来たんだけどよ、ここがちょっとワケありな場所でな……」
「ワケあり?」
「ああ。このトンネル軽く1キロくらいは距離があるんだよ。しかも、どういうわけかこのトンネル中に照明が、まったくないときたもんだ」
「つまり中は真っ暗闇ってこと?」
「ザッツライトだ藤林! するとどういうことかもう判るよな? つまりはここを通るときは壁伝いでなきゃ恐ろしくて行動できねえんだなこれが!」
「ああ…! そうそう思い出した。私も七海とここを一度通ったけど、中本当に暗いのよここ」

郁乃は昨日七海と無学寺に行くためにこのトンネルを通ったときのことを思い出した。
確かに高槻の言うとおり、あのトンネルの中は昼間でも本当に暗かった。しかも、その暗さは酷いと自身の足元すら判らなくなるほどであった。

「おお。そうなのか我が愛しのマイスイートハニー郁未!? これはやはり運命ってやつなのかねえ……」
属にRRと呼ばれる竹林風台詞回しで高槻が郁乃に言う。ちなみに今言った『我が愛しのマイスイートハニー』という言葉は嘘でもなければ本心でもない。ただノリで言っただけである。
「馬鹿丸出しな冗談言ってないでさっさと話を続けなさい」
「なんだよノリが悪い奴だな……とにかく、俺が言いたかったのはこのトンネルを通るのは危険すぎるってことだ。
もしここん中でマーダーと接触でもしてみろ。下手したらいつの間にか全員ズガンされちまう」
「確かに…それに、もしかしたらそれを狙ってトンネルの中で待ち伏せしている奴がいるかもしれないしな」
「でも、マーダーだってわざわざ自らを危険にさらすまでそんな所で待ち伏せすると思う?」
「そうですね。下手をしたら自分がやられてしまうかもしれないのに……」
「いや……少なくともあの男は………平気でやるでしょうね」
郁乃のその一言で高槻と杏以外(すなわち浩平とゆめみ)ははっとした顔をする。
「―――さっきの男……岸田洋一だな?」
高槻の問いに郁乃は黙って頷く。

232 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:19:58 ID:aY1/vTkY
「キシダヨウイチ? それがあの男の名前か?」
「ああ」
「ちょっと待ってよ! 岸田なんて人は参加者名簿に載っていなかったわよ!?」
杏が高槻と郁乃に問い返す。が、それにはゆめみが答えた。
「でも、私やポテトさんやボタンさんのこともありますし………」
「あっ…そっか………つまりその岸田って男は主催者がゲーム進行を進めるために用意し送り込んだマーダーってことなのね?」
「いや。その可能性は低いだろうな」
「なんでよ?」
「あの男は首輪をしちゃいなかった」
「えっ?」
「俺たちやゆめみにだって付けられているこの首輪をあの男は付けてはいなかったんだよ。おそらく………」
「―――ゲームに乱入したっていうのか?」
「多分な。あくまで可能性にすぎないが、もしかしたら島のどこかに奴の船か何かが隠されているかもしれねえ」
「じゃあ上手くいけば……」
「ああ。このゲームを脱出する糸口が掴めるかもしれねえ」
高槻は一度にやりと笑った。
「さて……この話はここで一旦打ち切りだ。本題に戻るぞ」
全員うんと頷く。
「というわけだから俺たちは山道から鎌石村に向かうべきだと思う。ちょっと遠回りになるかもしれないし山道だからきついかもしれねえが………異論は無いか?」
「『急がば回れ』って言うし……いいんじゃないの?」
「ああ。異論は無いな」
「私もありません」
「あたしもないわ」
「ぴこっ」
「ぷぴっ」
「よし。満場一致で決定だな。じゃあ気を取り直して行くとするか」
そう言って地図をしまうと、高槻一行は再び歩き出した。

233 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:20:54 ID:aY1/vTkY


(やれやれ……何度も思うが本当に俺はどうなっちまったんだろうな?)
空を見上げながら高槻はふと思った。
(こんな連中なんか頬っておけばいいと思っていたはずなんだがなあ………なぜか知らねえが放っておけねえんだよなあ危なっかしくてよ)

(―――それとあの岸田って野郎だ。同族嫌悪というワケじゃねーというと嘘になるかもしれねえが俺はあの野郎が許せねえ……!)
ふと脳裏に真琴が岸田に刺された光景がフラッシュバックする。
(………腸が煮えくり返ってしょうがねえ…!)
その光景や岸田の顔を思い出すたび内から怒りが込み上げてきた。
(あの野郎は絶対あの程度で引き下がるような奴じゃねえ……間違いなくこれから先も奴は他の参加者を殺したり犯そうと暗躍するはずだ………
そして……絶対に俺やこいつらの前に再び現れる………!)
高槻はちらりと目線を郁乃たちに向けた。
(―――ったく。こんな絶望的な状況の中でも僅かな希望の光を求め続ける……本当に馬鹿な連中だぜ。
だが、それに少なからず影響を受けてきている俺様……か。はっ。我ながら馬鹿馬鹿しい光景だぜ。
――――だけど、結構悪くねーじゃないの、そーいうのよ………)
高槻はふっと笑った。
それに気が付いた浩平たちが高槻に尋ねる。
「なんだ高槻? 急に笑ったりして」
「ほっときなさい。どーせまたやらしい妄想でも抱いていたんでしょ?」
「おいコラ。勝手に決め付けんな。俺様だって時には憂鬱に浸りたいときがあんだよ!」

(―――まったく…本当にしょうがねえガキどもだぜ。しょうがねえ…もうしばらくこいつらの面倒を見てやるか……)
高槻はそう決断するともう一度ふっと笑った。
(そして待ってやがれ岸田洋一…そして主催者ども……! テメーらはこの高槻様が直々にブッ潰す…!)
―――高槻自信はまだ気づいていなかったが、彼の心には確実に『正義』と属に呼ばれるものが生まれていた。

234 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:21:50 ID:aY1/vTkY



【時間:2日目・07:00】
【場所:E−8】

 正義の波動に目覚めはじめた高槻お兄さん
 【所持品:日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:外回りで鎌石村へ。岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意】

 小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:外回りで鎌石村へ】

 立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:気絶(睡眠)中。今は浩平の背中に】

 ほしのゆめみ
 【所持品:忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:外回りで鎌石村へ。左腕が動かない】

 折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)。外回りで鎌石村へ】

235 秘めていたセイギ(B−13) :2007/01/08(月) 21:22:04 ID:aY1/vTkY
 藤林杏
 【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
 【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状態:外回りで鎌石村へ】

 ボタン
 【状態:外回りで鎌石村へ】

236 犬猿 :2007/01/08(月) 23:23:41 ID:tZx0fkHM
私は今、柳川さん、七瀬さんと一緒に氷川村に向かって歩いています。
ですが、問題が一つあります。

「貴様、随分と余裕なんだな。銃を全て他の者に渡すとはな」
「いいのよ。私はあなたと違って、人を殺すつもりなんてないんだから」
それにこっちの方が使い慣れてるしね、と七瀬さんは手にした日本刀をぶんぶん振りながら付け加えました。

「どれだけ腕に自信があるか知らんが、そのような物を振り回すのはあまり関心せんな。
それとも貴様の言う乙女とは、野蛮な女の事を指すのか?」
「っ――余計なお世話よ!」

……また始まりました。
さっきからずっとこの調子で、柳川さんと七瀬さんは事あるごとに衝突しています。

その度に私はフォローを入れるのですが、
「あのー……、もう少し仲良くなさっても良いのでは……」
「いくら倉田の頼みであろうとも、それは断る。この女とはどうも気が合わん」
「私もよ。そりゃ柳川さんは尊敬出来る部分もあるけど……何ていうか、ムカつくのよ」
「……」
こんな調子です。
これが犬猿の仲と言うものでしょうか。
先行きはかなり、不安です。


――事の顛末はこうです。

みさきさん達と別れた場所に戻ると、すぐに珊瑚さんが私達を呼びに来ました。
珊瑚さんの後に続いて民家に入っていくと、
みさきさん、それに私達がいない間に出会ったという北川さん、広瀬さんがいました。

237 犬猿 :2007/01/08(月) 23:25:33 ID:ThffvYok

「留美、どうしたのよ?そんな辛気臭い顔してるなんて、あんたらしくないわよ」
「うるさいわね、乙女にはたまに黄昏たくなる時があるのよ」
「まったまたー、冗談言っちゃって。どこの世界に、あんたみたいな乙女がいるのよ」
「な……何ですってーっ!」

……七瀬さんと広瀬さんはお知り合いだったようです。
七瀬さんは怒っていたけれど、心なしか少し元気になられたように見えました。
ですがいつまでもこうしてはいられません。
民家の一室で、私達は話し合いを始めました。

まず最初に北川さんから話を始めたのですが、その中の一つの話題に柳川さんが声を荒げました。
「くっ、そういう事か!」
「そうだ。【氷川村の宮沢有紀寧】が、【リモコン爆弾】と【人質の初音】を使って脅したんだと思う」
「人質を取られていたから、耕一さんはあんな事をしたんスね……」
「有紀寧ちゃんがそんな事をするなんて……」

耕一さんが豹変してしまった理由。
それがようやく分かりました。
春原さんの知り合いの、有紀寧さんという方に脅されていたのです……。
その後、藤田さんが思い出したように呟きました。

「それにロワちゃんねるの書き込みも……」
「ああ。るーも、宮沢有紀寧が犯人だと思う」
「その女……どこまで人の命を弄べば気が済むつもりだ……!」

耕一さんの事が余程悔しかったのでしょう、柳川さんは終始怒りを隠しきれない様子でした。
無理もありません、耕一さんは柳川さんと血の繋がった親戚だったのですから……。

238 犬猿 :2007/01/08(月) 23:27:50 ID:JQ0YZ9Ig


「現時点で俺達が知っている情報はこんだけだ。それじゃ俺達は出発させてもらうよ」
「何、もう行くのか?まだ俺達の知っている情報は一部しか話していないぞ」
「……柳川さんも分かっている筈だぜ?俺と真希には時間が無い、って事をな」
北川さん達の目的は、みちるさんという方を探す事。
そして春原さんが、みちるさんの行き先については知っていました。
みちるさんは、岡崎さんという方達と一緒に鎌石村へ向かわれたそうです。
ですが……その中の一人、伊吹風子さんの名前が、ロワちゃんねるの死亡者スレッドに載っていました。
きっと、何か良くない事があったのでしょう。
そのスレッドの最終更新時間は午前8時……今もみちるさんが無事という保障はどこにもありません。
真希さんが部屋を出て行こうとしたとき、七瀬さんがその背に向けて声を掛けました。

「真希!」
「どうしたの、まだ何か聞きたい事でもあるの?」
「……死なないでよ」
「大丈夫よ、私はあんたみたいにドジじゃないし」
「ちょ、喧嘩売ってんの!?」
「あははっ、そうカッカしない。あんたこそ、ヘマしないでよね」
真希さんはぐっと力こぶを作って見せてから、北川さんと一緒に部屋を出て行きました。


別れを惜しむ間も無く話し合いは続きます。
皆さん一人一人が、自分達のこれまでの経緯と集めた情報を話しました。
一通り情報を交換し終えると、皆さんが動き始めました。
浩之さんは、みさきさんと吉岡さんを連れて鎌石村役場に行く事になりました。
例の書き込みで引き起こされるであろう、戦いを食い止める為です。

239 犬猿 :2007/01/08(月) 23:29:31 ID:lxqDEFTg

「藤田、今からでは時間に間に合うか分からん。
途中の街道で待ち伏せされている可能性も考慮すると、走って行く訳にもいくまい」
「分かってるさ。それでも……人が殺されそうなのに、何もしないなんて御免だ」
「そうか。だがくれぐれも、早まった行動はするなよ」
……死亡者スレッドの中には、浩之さんの親友だという方の名前もありました。
その事が余計に、浩之さんを駆り立てているのでしょう。
目の見えないみさきさんを連れて行く事に、浩之さんは危険だと反対しましたが、
みさきさんは断固として譲らず、浩之さんの方が折れる形になりました。

珊瑚さんやるーこさん達は、CDを使った作業が安全に出来るよう、
村外れにある教会へと向かう事になりました。
村には人が集まる、裏を返せば危険な人達も集まりやすいという事です。
その点教会なら人目につかないし、何かが必要になればすぐに村に探しに行く事も出来ます。


――そして私達も民家を出発して、今に至ります。

「それで貴様、いつまで付いてくるつもりだ?」
「ずっとよ。あなたが森川由綺さんを殺したというのなら、いずれ藤井さんはあなたの前に現れる……。
私は絶対に藤井さんを止めてみせる」
「貴様にも事情はあるのだろうが、その男がもし俺達に武器を向けるようなら、俺はその男を殺す。
本気でその男を止めたいと思うのならば、そうなる前に何とかする事だな」
「殺す殺すって、あなたそればっかりね……」
「勝手に言ってろ、貴様とくだらん言い合いをするつもりは無い。
俺は宮沢有紀寧という女を殺し……まだ生きていれば、柏木初音を救う。立ち塞がる者は排除するだけだ」
「……それが、耕一さんとの約束なんですね」
「少なくとも、奴が一番望んでいる事なのは間違いない」
「そうですね……」

240 犬猿 :2007/01/08(月) 23:31:42 ID:xil/GRDE

この人は一人で全ての責任を負おうとしているのでは……。
不安を感じた私は、思わず柳川さんの腕を抱き寄せました。

「佐祐理も精一杯お手伝いしますから、どうか一人で全部、抱え込もうとしないでくださいね。
柳川さんは自己犠牲が過ぎる人ですから……」
「分かっている、俺とて一人では生きていけないからな」
柳川さんはそう言って、私の髪を撫でてくれました。
舞の事があって以来、柳川さんは私に対しては素直になってくれています。
それは本当に嬉しい事です。

ですが七瀬さんが、後ろでぼそっと呟きました。
「私がいるの、忘れてない?見られても良いんなら、構わないけどね」
「……ちっ」
柳川さんは恥ずかしくなったのか私の腕をほどいて、一人で前へ歩いていってしまいました。
七瀬さんは満足げに、してやったりという顔をしています。
「あ、あははー……」
私は苦笑いする事しか出来ませんでした。
前途、多難です……。

【時間:2日目12:30頃】
【場所:F-2(各自移動中)】

北川潤
【持ち物①:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物②:スコップ、防弾性割 烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券 おにぎり1食分】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:みちるの捜索、鎌石村へ】

241 犬猿 :2007/01/08(月) 23:37:39 ID:DfDBQGB.
広瀬真希
【持ち物①:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2】
【持ち物②:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】

【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:同上】


春原陽平
【所持品1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、教会へ】
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:千鶴と出会えたら可能ならば説得する、教会へ】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁・スペツナズナイフ
・他支給品一式(2人分)】
【状態:珊瑚達の所へ戻る、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)、教会へ】
姫百合珊瑚
【持ち物①:デイパック、水(半分)食料(3分の1)、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物②:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:教会へ】


柳川祐也
【所持品:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)、氷川村へ】

242 犬猿 :2007/01/08(月) 23:39:55 ID:lxqDEFTg
倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式、救急箱、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)】
【状態:苦笑、氷川村へ】
七瀬留美
【所持品1:日本刀】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分)】
【状態:氷川村へ、目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】


藤田浩之
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】
【所持品2:ライター、新聞紙、志保の支給品一式】
【状態:守るために戦う決意、鎌石村役場へ】
吉岡チエ
【所持品1:投げナイフ(残り2本)、救急箱、耕一と自分の支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:鎌石村役場へ】
川名みさき
【所持品:護の支給品一式】
【状態:鎌石村役場へ】

【備考:北川と広瀬は、平瀬村の戦いの顛末とみちるが鎌石村に向かった以外の情報を聞いていない、
この話の登場人物全員が、有紀寧の外見の特徴を陽平から聞いている】
→616
→629

243 かるくヒネるのだ :2007/01/10(水) 18:57:32 ID:c/TFTwi2
芳野祐介は、長森瑞佳を自分の背に隠れるように手で合図を送る。芳野の見る限り、瑞佳に戦闘能力があるとは思えない。――最も、芳野は戦闘をさせる気などまったくなかったが(女の子なんだ、当然だろ?)。
「そこに隠れているのは分かっている、出てくるんだな」
デザートイーグル(50.アクションエキスプレスって奴だ)を慎重に構えて何者かが隠れている木の陰に向かって、再度警告する。
「――お前はこれに乗っているのか? 乗ってないなら出て来い」
呼びかけるも、返答はまたしても無言。よほど警戒しているのか、それともこちらの警戒が切れるのを待っているのか。――だが、芳野としてはこの膠着は好ましくない。
第三者に絡まれたら隠れている相手とは違い、見をさらけ出しているこちらは間違いなく蜂の巣になる。
「長森。一歩づつ下がるんだ。逃げるぞ」
相手に聞こえないよう、囁くように耳打ちする。
「え? で、でも…まだ相手の人がどんなのか分からないですし、ただ怯えているだけなのかも――」
「そうかもしれない。だが、そうじゃないかもしれない。だから安全策を取る」
こちらの残弾が少なすぎる以上、戦闘は極力避けたい。押し出すようにして、瑞佳を一歩づつ下がらせ始めた。
「それは困るなぁ」
ひゅっ、と空気を裂く音がしたかと思うと、瑞佳の足元に何かやけに角張った木の枝のようなもの(ボウガンの矢だ)が突き刺さっていた。
「なっ…」
驚く間もなく、今度はナイフらしいものが眼前に迫ってきていた。避けなければ当たる、と思ったがそれでは長森に当たってしまう。
やむなく、芳野は瑞佳を思いきり突き飛ばした。直後、突き飛ばした左腕に誤ってコンパスを突き刺したかのような痛みが襲う。当然ナイフが当たったからだった、クソ――
「お前っ!」
デザートイーグルのトリガーを引き絞る。片腕で撃ったために50口径ならではの凄まじい反動が芳野の体を痛めつける。

244 かるくヒネるのだ :2007/01/10(水) 18:58:56 ID:c/TFTwi2
何のこれしき。愛する公子さんを失った痛みに比べれば――
「ファイトォー、いっぱぁーつッ!」
そして雄叫びと共にナイフ(投げナイフだった、サーカスで使うような)を引き抜いた。ぶしゅ、と血が少し吹き出したが刺さった時より痛くない。
一方の敵、朝霧麻亜子と言えば、当然苦し紛れに撃った芳野の弾丸が当たるわけもなく、それどころか既にボウガンに矢を装填して腰だめに構えていた。
「ひゅー、やるねぇお兄さん。でもねぇ、甘いんだよなぁコレが」
タン、と軽い音がして二本目が発射される。来るか! と芳野は思ったが、向きが妙な方向を向いていた。芳野の方向では無い。
「え…?」
麻亜子が狙ったのは、武器を持つ芳野ではなく無防備かつ芳野に突き飛ばされてバランスを崩している瑞佳だった。
「あっ」
――だが、助かったのは瑞佳だった。意図に気付いた芳野が、デザートイーグルを地面に放り出して瑞佳を逆に引っ張ったのだ。間一髪で、矢は瑞佳の横をすり抜けるだけに終わる。
「なんとっ!?」
麻亜子は驚くが、再び矢を装填する。これくらいは予想の範囲、とでもいうように。
「お前っ、どうしてこんなことをする!?」
装填している麻亜子に向かって芳野が叫ぶ。麻亜子は何をいまさらというように気だるげに言った。
「――当然、このゲームに優勝するためさね」
半分予想通りの答えだったが、やはり聞くと失望を持たざるを得ない。無駄だとは分かっていながら、芳野は説得を試みる。
「そんな下らないことを何故する。自分自身のためか」
「心外だねぇ、あたしがそんな人間に見えると思うかい? …って、そんな人間に見えるから言ったか。いちおー言い訳しとくけど、あたしにはそんなつもりはない。ある人のためさ。その人にはそうしても死んで欲しくないんだ、あたしは」
装填し終え、ボウガンを向ける麻亜子。しかし芳野は怯まず言葉を続ける。
「――そいつは、お前の愛する人か」
「愛する…美しー言葉だね。今のあたしとは無縁な言葉だけどさ。ま、そーだよ。
――世界で一番、失いたくない人だよ」
最後の方は、ちょっぴり悲しそうに麻亜子は言った。

245 かるくヒネるのだ :2007/01/10(水) 18:59:41 ID:c/TFTwi2
「なら、お前は愛する人の為にこんなことを続けているのか。それも一つの愛ではある…だが、それは貧しい愛だな」
「ふん、何と言われても構わないよ。自己満足でもいい。憎まれてもいい。でも、これだけは譲れない。…だれにも分かってもらえなくてもいいんだ、この愛は」
「分かった、認めよう。だがな――本当に愛する人のためを思うなら…まずその人を『泣かせない』ことが重要だと思うぞ!」
いつのまにかデイパックに手が伸びていたことに、麻亜子は気付かなかった。気付いてボウガンを構えたときには、既に直線上にデイパックがあった。
避けて再び構えなおそうかとも思ったが、芳野と瑞佳の姿は遮蔽物のさらに多い森の中へと消えていた。
「ちぇ…」
舌打ちする麻亜子。芳野が言った最後の言葉で麻亜子の頭に友人を失って泣き崩れるささらの姿を、ちらりとでも思い浮かべてしまったのが失敗だったかもしれない。
「どーも言葉を交わすと感情的になっていけないね、あたしは」
…だが、芳野の言葉にはまるで歌詞のような、心に響く詩的なものがあった。
日常の中で、もしも彼と知り合えていたら思う存分愛について語り合ったに違いない。
芳野のデイパックから水と食料を回収する。
「――お?」
それと、芳野が瑞佳を助けるために投げ出したデザートイーグルを発見する。
「お客さんお客さん、落とし物はいけませんよ――特に、こんな落し物はね」
拾い上げて、ボウガンの代わりに手に持っておく。
ボウガンの矢二本と投げナイフ一本で銃を一丁お買い上げ。え、安過ぎるって? なになに、人生最後のお買い物ですから――サービスサービス。
「――まだ死なない。あたしは絶対に負けるわけにはいかないからな」
それから疲れを取るために奪った食料と水で腹を満たしてそれから立ち去ろうとした時、不意に何者かが現れる気配がした。
「むむっ! 敵襲かっ」
「ま、待てっ! 撃つな、今はやりあう気は無い」

246 かるくヒネるのだ :2007/01/10(水) 19:00:33 ID:c/TFTwi2
茂みに隠れているせいで誰かは分からないが、声から麻亜子は男のものだと判断する。
けど、そんなこと言われてもねぇ。撃っちゃおーか? こっちはやる気マンマンだし。…いや、ここはあたしお得意のだまし討ちに出るとしますか。何せあたしは卑怯の女神と言う称号を…って、いらんわーっ!
心中でノリツッコミをしつつ、極めて冷静を装って麻亜子は答える。
「…よぉーし、ならば出てくるがよい。敵さんでないならあたしは大歓迎だよ」
デザートイーグルを下ろして(フリだよ、フリ)、相手が出てくるのを待つ。
果たして茂みから出てくるのは一体誰でしょうねぇ?
「こっちの方角から銃声がしたから来てみたんだが…少し遅かったようだな」
――茂みから現れたのは、巳間良祐だった。
     *     *     *
「ほうほう、それではお兄さんはもうやる気がなくなったというのかね?」
地面に座りこんで歓談する麻亜子と良祐。いずれ殺すつもりだったが情報くらいは手にいれておいても損じゃないだろう、と麻亜子は思ったからだった。
「まあな。…というより、武器が無くなったからという方が正しいかもしれんが」
「それにしても吊られていたなんて…これぞまさしくハングドマン」
「放っといてくれ。それより、銃声がしたんだが、お前が撃ったのか」
麻亜子のデザートイーグルを見ながら良祐が言う。
「んー? そうだけど、正当防衛さっ。いきなりこんな、か弱いいたいけなお年頃のおにゃのこを襲ってきたもんだから…ううっ、貞操のピンチだったんだぞっ」
よよよと涙で袖を濡らしながら(これも演技。我ながら上出来っ)、理解を求める麻亜子。
「か弱い…そうは見えんがな」
「キミも人を見る目がないねぇ。どんだけあたしが必死こいて追い返した事か。赤塚不二夫マンガに出てくる警官みたいに撃って撃ちまくったんだから」
「…の割には、銃声は一発しか聞こえなかったが」
「そりゃ聞こえなかっただけでしょ。耳遠いんじゃないのかーい? いい医者紹介するよ」

247 かるくヒネるのだ :2007/01/10(水) 19:01:26 ID:c/TFTwi2
天国――いや、三人も殺したんだから地獄か――でだけどね。
良祐は、まあどうでもいい事か、と呟いて立ち上がる。
「俺はもう行く。調べたいことがあるんでな」
おっと、逃がしゃしないよ――麻亜子は慌てた風を装って(我ながらホレボレするねぇ。ハリウッドでも狙っちゃおうかな)、良祐を呼び止める。
「ちょ、ちょっとちょっとお兄さん。武器もなしに一人で行く気かな? 危ないんじゃないのー?」
良祐は一瞬動きを止めたが、すぐに麻亜子に向き直って言う。
「群れるのは好きじゃない。武器はないが、人目は避けていくさ」
「それにしても、身の安全は考えるべきだと思うぞっ。あたしの武器、貸してあげるからさ」
良祐は驚き、それから信じられないというような目で麻亜子を見た。
「――ここは殺し合いの場なんだぞ。貴重な武器をやるなんて何の考えだ」
「ま、ま。武器っても大したものじゃないんだ。ボウガンなんだけど、矢も残り少ないし、あたしも何回か撃ってみたけどぜーんぜん当たんないし。おまけに結構重たいのよね、コレ。
けれども捨てるわけにもゆかず、まさしく宝の持ち腐れなり。ってなわけで、お兄さんにプレゼントしちゃおうってコトさっ」
まだ疑わしげな顔をしている良祐だったが、貰えるものは貰っておこうという考えなのか分かった、と首を縦に振った。
「おおっ、サンキューヨンキューシャ乱Qー! そいじゃー出すからねー」
麻亜子は置いてあったデイパックからボウガンを確認する。オーケイ、矢はちゃあんと装填されてるね。それじゃプレゼントターイム。
麻亜子は素早く取りだし――そして、完全に麻亜子の言動からコイツはただのお人好しだ、と油断していた良祐に向けて、軽くトリガーを引いた。
距離にしてわずか数十センチ。麻亜子が発射したと認識したときには、既に矢は良祐の腹部に突き刺さっていた。がはっ、と反吐を吐いて良祐がよろめく。
「どうこのプレゼント? 喜んでもらえたかなぁ?」
満面の笑みを浮かべて麻亜子は言った。
「き…貴様っ…」
充血した目で、それでもなお良祐は麻亜子を睨みつける。
「騙し煽り裏切りはこの島じゃ当たり前ー。悲しいけど、これって戦争なのよね」

248 かるくヒネるのだ :2007/01/10(水) 19:02:32 ID:c/TFTwi2
大げさに肩をすくめてやれやれと呟く。
やがて立つ力さえも維持できなくなった良祐は、よろよろと木にもたれ掛かって腹部を抑える。
「くそっ――結局、殺人を犯した者の末路はこんなものか…」
皮肉げな口調。それは自身に向けたものか、麻亜子に向けたものか。
しばらく荒い呼吸を繰り返していたものの、それも徐々におさまっていき――そして、息をしなくなった。
それを見届けて、麻亜子は改めてボウガンに矢を装填してからデイパックに仕舞い直した。
「ま、お兄さんの不幸はやる気がなくなっちゃったことだね。目的のない奴って死にやすいもんなの。コレ、世界のジョーシキ」
デイパックを担いで、麻亜子は歩き出した。

【時間:2日目・午前7:20】
【場所:F−7】
芳野祐介
【所持品:投げナイフ、サバイバルナイフ】
【状態:逃走、左腕に刺し傷】
長森瑞佳
【所持品:防弾ファミレス制服×3、支給品一式】
【状態:芳野と逃走】
朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(3/7)、ボウガン、バタフライナイフ、支給品一式】
【所持品2:ささらサイズのスクール水着、芳野の支給品一式(パンと水を消費)】
【状態:マーダー。現在の目的は貴明、ささら、生徒会メンバー以外の排除。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。スク水の上に制服を着ている】
巳間良祐
【所持品:支給品一式】
【状態:死亡】

【備考:B-10】

249 無力 :2007/01/10(水) 21:16:18 ID:gvjemA22
「―――!」
有紀寧は息を飲んだ。
予定外の出来事が起きてしまった。
祐介は人を連れてきてしまったのだ。それも、二人も。
「長瀬さん、その人達は―――」
「外で出会ったんだ。大丈夫、二人ともゲームは乗ってないから」
予想通りの答えに、有紀寧は頭を抱えたくなった。

全くこのお人好しは……まるで話にならない。
祐介が外に出てから戻ってくるまで三時間足らず…その程度の長さの付き合いで、何が分かるというのか。
祐介と違って連れの二人は警戒心丸出しでこちらを観察している。
それが正常、このゲームでは当たり前の行動なのだ。
だが祐介の手前門前払いにする事は難しい。

「そうですか……ではお近づきの印に、ご一緒にお食事しませんか?」
有紀寧は柔らかい笑顔でそう切り出した。
まずは次の策を講じる時間が必要だった。







250 無力 :2007/01/10(水) 21:17:42 ID:gvjemA22

一同は一つのテーブルを囲んで座っている。
有紀寧はそれぞれの様子を注意深く観察していた。
「お味はどうですか?」
「うん、なかなかイケるわよ」
「ふふ、ありがとうございます」
郁未はごく自然な態度で、勢いよくピラフを頬張っていた。
まるで警戒する風は無い……彼女も祐介と同じお人好しなのかも知れない。
だが出会った時に感じたあの鋭い視線。何かが引っ掛かる。

祐介も特に変わった様子は見せず、同じように食事を取っている。
こちらはもうただの馬鹿に過ぎないという事が分かっている。
椋は何とか料理を口にしているものの、まるで何かに怯えているような感じだった。
ここに来るまでに何かあったのだろうか?
まあ、自分にはどうでもいい事だったが。

初音は……落ち着き無く視線を泳がせ、まともに箸をつけていなかった。
リモコンの事を話そうか話すまいか迷っているのだろう。
有紀寧が制すように睨み付けると、初音は慌てて目を逸らした。
自分の正体がバレてしまう時ももう遠くない、と有紀寧は思った。
初音の性格上、保身の為に黙秘を続ける事は期待出来ない。
観察を終えた有紀寧は素早く次の策を頭の中で構築していった。
そしてそれはすんなりと成し遂げる事が出来た。
警戒すべき対象は、もう一人に絞れていたから。

251 無力 :2007/01/10(水) 21:18:38 ID:gvjemA22
―――そして、転機は思ったよりも早く訪れた。
「あれ?初音ちゃん、どうしたの?」
「………」
祐介が初音の異変に気付いたのだ。
よく見ると、初音の体は小刻みに震えている。
自然と周りの視線が初音に集中する。
だがこれは想定内の事態、慌てる必要は無い。
有紀寧は落ち着いた動作で、ポケットの中身を確認していた。
「……駄目」
「え?」
初音が下を向いたまま声を絞り出した。
他の者達はまだ初音の異変の原因が分かっていない。
全ての事情を知っている有紀寧を除いて。
もう、この先の展開は考えるまでもない。
ポケットの中のリモコンを握り締め―――
「みんな、今すぐここから逃げて!」
「初音ちゃん、一体何を……」
「―――そこまでです」

有紀寧が初音の言葉を遮るのとほぼ同時。
郁未の首輪が、赤く点滅を始める。
有紀寧は郁未の首輪に向けてリモコンのスイッチを押していた。
その事に気付いた郁未が、毒々しげに舌打ちをする。
「く!……マズったわね」
「ゆ……有紀寧さん、何を……?」
「何をされたか、郁未さんだけはお分かりのようですね。私の勘に狂いはありませんでした」
郁未を狙ったのは、この中で唯一得体が知れない何かを感じさせる人物だったからだ。
いち早く有紀寧の行動の意味に気付いたあたり、狙いは正しかった事が分かる。

252 無力 :2007/01/10(水) 21:20:12 ID:gvjemA22
「動かないでくださいね。このリモコンで天沢さんの首輪の爆弾を作動させました……初音さんの爆弾ももう作動済みです。
動けば彼女達の爆弾をすぐ爆発させますので」
その一言で有紀寧以外は動くに動けなくなってしまった。

一番得体の知れない郁未は自身の命が握られてる以上動けない。
今にもこちらに飛び掛らんと殺気を放ってきてはいるが、ボタンを押すより早く掴みかかるなど不可能だ。
椋にはこの状況で動くような度胸は無いだろう。
見れば、ただ震えているだけだ。
お人好しの祐介や人質に過ぎない初音も問題にならない。

「さて、ここまでは予定通りですが……、これからどうしたものですかね」
有紀寧は相変わらず笑顔のままだった。
その笑顔には一点の曇りも狂気も感じられない。
女優顔負けの、完璧な笑顔だった。
「ま、まさか……。有紀寧さん、ゲームに……?」
もう疑う余地は無いのだが、それでもまだ祐介は認めていなかった。


有紀寧さんは、有紀寧さんは……。
笑顔がよく似合う子だった。優しい子だった。
僕達の為に料理も作ってくれて、放送があった時には一緒に悲しんでくれた。
そんな有紀寧さんがゲームに乗っているだって?
ハハ、冗談はよしてよ。こんな冗談、全然面白く無いよ?


――しかし、現実は無情なもので。

253 無力 :2007/01/10(水) 21:20:54 ID:gvjemA22
「ええ、乗っていますよ。詳しい事は後で初音さんに聞けば分かるかと」
祐介が目を向けると初音は今にも泣き出しそうな顔で震えていた。
祐介は、有紀寧の言葉が嘘偽りで無いと認識する他無くなった。
「大勢で組んで向かってこられたら厄介ですし……。一人か二人、死んでもらうべきでしょうかね?」
ショックを受ける祐介を尻目に、有紀寧が淡々と告げる。
だが有紀寧以外にも冷静な思考を保っている者が、この場に一人存在した。

「―――待ちなさい」
「何ですか天沢さん?命乞いなら聞きませんよ?」
有紀寧が訝しげな顔になる。
だが、郁未の考えていた事は命乞いなどではなかった。

郁未は鞄の中から黒いノートを取り出した。
「これ、何だか分かるかしら?」
「……ただのノートでは?」
「それが違うのよね――――これを見てみなさい」
郁末は表紙の裏を開いて見せた。
すると有紀寧は口をぽかんと開いて固まった。
有紀寧にはそこの最初の一文が何と書かれてあるかすぐに分かった。

「ま、まさか―――」
「そう。これは死神のノート。人の名前を書くだけで殺せるノートよ」
「まさか……そんなものが……」
「このノートに本当にそんな力があるかどうかはまだ分からない。でも、今なら丁度良いモルモットがいるじゃない」
「―――なるほど」
そう。あれこれ考えるよりも試した方が早いし確実だ。
有紀寧と郁未は二人揃って歪んだ笑みを浮かべた。

254 無力 :2007/01/10(水) 21:22:10 ID:gvjemA22
「今あなたが私の首輪を爆発させれば、このノートも一緒に吹き飛んでしまうかもしれない。
貴女にとってもこのノートは強力な武器になるし、それは避けたいでしょ?
そこで交換条件よ。このノートの効果が本物なら私と協力して人を殺しましょう」
「……解せません。生き残れるのは一人、私が貴女を生かすとでも?」
疑うように―――事実疑っているのだが、怪訝な顔をする有紀寧。
しかし郁未もその辺りの事は考えている。
「分かってるわ。最後の二人になったら私を殺して、主催者の褒美で生き返らせてくれればそれで良いわ。
そのリモコンだけで戦い続けるより、優勝出来る見込みはうんと高くなると思うけど?」
「成る程―――良いでしょう。私としては、生きて帰れさえすれば褒美なんてどうでも良いですから」
「話が分かるわね。じゃ、早速実験を始めましょうか?」
「そうですね。では……まず藤林さんをそのノートで殺してもらいましょうか」
「オッケーよ」
まるで友達と遊びに行く約束でもするかのように軽い調子で恐ろしい事を言ってのける。
祐介は二人のあまりの豹変ぶりに驚きながらも、精一杯声を張り上げて意見を挟んだ。
「有紀寧さん、郁未さん、何を考えてるんだ!本気でそんな事言ってるのか!?」
「ほとほと長瀬さんには呆れさせられます。これまでのやり取りが、冗談で行なっていたとでも?」
「全く、本当に馬鹿ね……。そんな事だから、良いように使われるのよ」
交渉の余地などどこにも無い。
二人はあっさりと祐介の意見を受け流した。

(そうか……。二人ともこの島の狂気に溺れてしまったんだね……)
瑠璃子への異常な愛情のあまり狂ってしまった月島拓也のように。
有紀寧も郁未もこの島の環境に耐えられず、冷静に狂ってしまったのだろう、と祐介は考えた。
今までやり取りも全ては狂気を覆い隠す為の演技でしか無かったのだ。
なら……現実を認めて、今やらないといけない事をしよう。

255 無力 :2007/01/10(水) 21:23:00 ID:gvjemA22
「……なら、せめて、僕を実験台にしてくれ」
「―――は?」
「聞こえなかったかい?僕を実験台にしてくれ、と言ったんだ」
「祐介さん!?」
「祐介お兄ちゃん!?」
突然の提案に、この場にいる全員が驚きを隠せない。
祐介は項垂れながら話を続ける。
「椋さんをここに連れてきてしまったのは僕だ……。馬鹿な僕に巻き込まれただけの椋さんが殺されるのは嫌なんだ」
「本当に馬鹿な方ですね……。良いでしょう、では貴方から死んでください。さあ天沢さん、お願いします」
「ええ、任せといて。こんな偽善者には虫唾が走るしね」
「しかし……必要なのは、名前だけなんですか?それが本当なら、ゲームはそのノートと名簿さえあれば優勝が確定する事になります。
もう私達は死んでいるはずです」
「うん、それが問題なのよ。どうやらこのノートで人を殺すには、対象の顔も知っておく必要があるみたいでね。
そこまで甘くは無いってワケよ」

相手の顔が必要―――その言葉を聞いた椋の体が、ピクリと硬直した。
全員の様子に細心の注意を払っていた有紀寧がそれを見逃すはずもない。
有紀寧の鋭い視線が椋に向けられる。
椋は悲鳴を上げてしまいそうになった。
「……ちょっと待ってください」
「どうしたの?」
「いえ……念の為、藤林さんの鞄の中身を調べようと思いまして。
藤林さん、テーブルの上に貴方の鞄を置いてください。拒否権が無いのは、分かりますよね?」

(私、どうしたらいいの…………?)
椋は大量の冷や汗を掻いていた。
今鞄を渡せばどうなるかは明らかだった。
しかし―――渡さなければ今すぐ死ぬ事になる。
結局椋は素直に鞄をテーブルの上に置いた。
有紀寧はその中身を漁り……やがて、今の自分に一番必要な物を見つけ出した。

256 無力 :2007/01/10(水) 21:23:52 ID:gvjemA22

「……お喜びください、天沢さん。そのノートが本物なら、私達は生きて帰れます」
「え?」
「―――参加者全員の、写真つき名簿です」
「…………アハハ、アハハハハハッ!これは良いわ、なんてラッキーなの!」
郁未は自身の命も有紀寧に握られている事を忘れ、高笑いした。
有紀寧も同じように笑っている。
作り笑いでは無い本心からの笑み―――しかし、不気味な笑みだった。


(なんて事だ……)
祐介は絶望に打ちひしがれていた。
この島にいる全員の命が有紀寧に握られてしまった可能性があるのだ。
可能性が現実のものとなった時、有紀寧以外の参加者は死に絶える(実際にはロボットや本名が名簿に載っていない者は死にはしないのだが)。
そして―――栄えある犠牲者第一号は、自分だ。

崩れ落ちそうになる祐介をよそに、郁未は鉛筆と名簿を取り出した。
ノートに名前が一文字一文字、ゆっくりと書き綴られていく。
死神のノート……あまりにも現実離れしている。
しかしこの島は常識で計りきれない面がある、100%偽物であるとは断定出来ない。
本物なら、祐介は何らかの変調を起こし死ぬ。
全員の注意は自然と祐介に集中する。
―――あの有紀寧の注意すらも。
それは、最初で最後の好機に"見えた"。


瞬間、郁未は駆けた。
この時を待っていたのだ。
褒美なんて不確かなものに生死を任せるなんて冗談じゃない!

257 無力 :2007/01/10(水) 21:25:33 ID:gvjemA22
制限されているとはいえ、郁未は不可視の力の持ち主。
隙さえ作れればそこを突く事など容易い。
「つっ!?」
郁未は一瞬にして間合いを詰め、有紀寧のリモコンを持つ手を蹴り飛ばしていた。
リモコンは有紀寧の手を離れ、宙を舞う。
この状況でリモコンの奪取に固執する事は下策に過ぎる。
人を殺す手段は、首輪を爆発させる以外にも幾らでもあるのだから。
郁未は鞄から素早く包丁を取り出した。

「死になさいっ!」
振るわれる包丁は有紀寧の喉を貫かんと唸りを上げ―――
一つの銃声が響いた。

「がっ!?」
困惑の色の混じった呻き声が、聞こえた。
「―――天沢さん。貴女は二つ、愚を冒しました。第一に、貴女は殺人に対して躊躇いが無さ過ぎた。
そんな貴女が襲い掛かってくる事くらい簡単に予想出来る事です。そして第二に―――」
包丁は有紀寧を切り裂くまで後少しという所で止まっていた。
それ以上刃先が進む事は無く……郁未の体がどさりと崩れ落ちた。

「貴女の見積もりは甘かった。切り札は、ぎりぎりまで取っておくものです」
有紀寧の手に、銃が握られていた。
コルトバイソン―――大型の回転銃だ。
ポケットに隠されていたのは、リモコンだけでは無かったのだ。
どうやってこのような物をポケットの中に入れていたのか。
彼女は料理を作ってる間に、ポケットに銃が収めきれるよう、銃身のみを通す穴をポケットの底に開けるという細工をしていた。
いざという時に備えて、切り札はすぐに使えるようにしておかねばならないからだ。
それが早速、役に立った。

258 無力 :2007/01/10(水) 21:26:38 ID:gvjemA22
(後一歩だったのに―――間抜けね……)
郁未の腹から血が留まる事無く流れ出す。
(色々あったわね……。 始めに葉子さんと出会って。
あの時の葉子さんの提案、傑作だったわね、あはは……。
その後は芳野祐介に返り討ちにされて。
くそっ、結局借りは返せなかったわね……。
クラスAが、聞いて呆れるわ……。
ああ、意識が朦朧と……してきたわね……。
葉子さん…………少年。あんた達は私みたいにドジったら駄―――)
そこで、天沢郁未の思考は途切れた。
有紀寧が拾った包丁が、郁未の首を貫いていた。



「全く、無駄死にもいいとこですね。どうせ私を殺しても、助かりはしないというのに……」
「……どういう事だ?」
「言葉の通りです。作動した爆弾はこのリモコンでは解除する事は出来ませんから」
「―――!?」
「ああ、勘違いしないでくださいよ?解除する機械はあります。
ですが―――それは別の場所に隠してあります。そして私しかその場所は知らない、故に貴方達は私を殺せない。
反撃を警戒するなら、当然の措置でしょう」
それは完全に出鱈目だったが、その正否を祐介達に確認する手段は無い。
何とか有紀寧の隙を突いて殺害したとしても、首輪の爆弾が解除出来なければ初音と耕一は助からない。
祐介達にとっては、一か八かで動くにはリスクが大きすぎる。

259 無力 :2007/01/10(水) 21:27:54 ID:gvjemA22
「では実験を再開しましょうか。安心してください、これが本物なら私の優勝は決まったようなものです。
主催者の言う褒美が本当なら、後で貴方達だけは生き返らせてあげます」
「有紀寧お姉ちゃん……?私達だけって……他の参加者の人達は……?」
「―――耕一さんが今頃私の事を言いふらしているかもしれません。
折角優勝したのに、知らない人にいきなり後ろから刺されては堪りません。
ですから、人畜無害な貴方達以外をわざわざ生き返らせる気はありませんよ?」
有紀寧は既に生きて帰った後の保身も計算している。
この島で自身が行なったのはまさに悪魔の所業だ。
自分への恨みを持った人間を生き返らせてしまっては、復讐の対象にされるかも知れない。
当然他の参加者達も―――そして、本当は祐介達も生き返らせるつもりは無かった。
褒美が本当だったのなら有紀寧の望みはたった一つ、今は亡き兄を生き返らせてもらう事だけだ。
もっとも、そのような甘い話に多くは期待していなかったが。


祐介が有紀寧を睨んでいた。
お人好しの彼が初めて見せる、明確な殺意。
有紀寧はその視線を受け流しつつ、ノートを拾い上げる。
「……有紀寧さん―――いや、有紀寧。お前は自分さえ良ければ、それで良いのか?」
「はい、そうですよ。この島のルールに則るのならそれが自然な姿勢です」
「本当にお前は……それで満足なのか?」
「ええ、生きて帰れさえすれば満足です。では―――さようなら、”祐介お兄ちゃん”」
有紀寧はにやっと笑ってそう吐き捨てると鉛筆を手に取った。

260 無力 :2007/01/10(水) 21:28:42 ID:gvjemA22
完璧な流れだった。
リモコンのターゲットに郁未を選んだのも。
彼女の反撃を予測していつでも反撃出来る心構えをしていたのも。
もし他の者をターゲットにしていたら、油断していたら、きっと殺されていただろう。
運もあった。
まさかこんなノートがあるとは思わなかったし、お誂えむきに写真まで手に入った。
このノートが本物なら、これで生きて帰る事が出来る。
褒美が本当なら死別した兄との再会すら果たす事が出来るのだ。
これで……全てが終わる。

そう有紀寧が考えた時にこそ、見せ掛けではない本当の意味での隙が初めて生まれた。
有紀寧の目にはノートしか映っていない。
「させませんっ!」
「!?」
ノートが、取り上げられていた。
開いた有紀寧の視界に入ったのは祐介でも初音でもなく―――
「藤林さん……!?」

有り得ない―――理解出来ない。
この女は今まで何もしなかった。
警戒する価値もない、一番脆弱な相手。そう判断していた。
ただ怯えているだけだった女。あの初音ですら少しは自分を咎めていたというのに、この女は何もしていない。
お人好しの祐介や初音にも劣る臆病者に過ぎぬこの女が何故こんな蛮行を!?

261 無力 :2007/01/10(水) 21:29:51 ID:gvjemA22



狼狽する有紀寧とは反対に、椋は止まらない。
「長瀬さん、これを!」
ノートを後ろにいる祐介に向かって投げ渡す。
もしこのノートが本当に死神のノートなら、この世にあってはならないものだ。
姉や朋也があんな訳の分からない物で命を奪われるなど想像したくもない。

次に椋は有紀寧を制圧しようと振り返り―――
「―――調子に乗らないでください」
銃声。
強烈な衝撃と共に、椋の胸から鮮血が噴き出した。
「う……あ……」
噴き出しているのは鮮血だけでなく、彼女の命そのもの。
急激に力を失っていく椋は、重力に逆らえなくなり地面に倒れた。


有紀寧は自身が手にしかけていた優勝のチケットの行方を追った。
そして、見た。
「あああああああっ!?」
ノートは激しい火を上げて燃えていた。
祐介が持っていたライターで火を点けたのだ。
ノートの材質が紙なのかそれとも別の何かなのかは分からない。
しかし、火は異常な速度で燃え上がっていた。
有紀寧は慌てて机の上のヤカンに入れてあった茶をかけ鎮火したが、もう遅い。
後に残ったのは、ただの灰だけだった。



262 無力 :2007/01/10(水) 21:31:07 ID:gvjemA22





椋の息が小さくなっていく。少しずつ、胸の鼓動が緩慢になっていく。
「椋さん、しっかり!」
祐介はただ叫ぶ事しか出来なかった。
「祐介さん……ノートは……?」
何とか口を開いて、それだけ尋ねる。
「……安心して。ちゃんと処分しておいたよ」
「そうですか……良かった……」
椋は血に塗れた唇で、笑みを形作った。

祐介は目から涙が零れそうになるのを抑えながら、一番の疑問を口にする。
「どうして、こんな事を?」
分からなかった。どうして椋が突然、あんな行動を取ったのか。
何もしなければ―――少なくともすぐに椋が死ぬ事は無かった。
もしノートが偽物なら、十分生き残るチャンスはあっただろう。
どうしてそのチャンスを捨てるような真似をしたのか。

「祐介さんが……私を、庇ったから、です」
「……え?」
気を抜けば今にも閉じてしまいそうな目蓋を気力で支え、祐介の目を見つめながら。
「祐介さんや佐藤さんがお人好し過ぎるから……私も真似、したくなっちゃいました……」
「椋さん……」
「ごめんなさいお姉ちゃん、先に逝くね……。祐介さん達も、どうか最後まで諦めずに生きて……」
「……うん。やれるだけやってみるよ」
そう言って、強く手を握った。その言葉を聞いた椋は満足げに微笑み、目蓋を閉じた。
祐介が横を見ると同じように涙を堪えている初音がいた。

263 無力 :2007/01/10(水) 21:32:46 ID:gvjemA22
その小さい体を抱いて―――
「うわああぁぁっ!」
祐介はようやく、涙を流した。









それから少しして背後から冷ややかな声が聞こえた。
「……やってくれましたね」
声の主は確かめるまでも無い。
祐介は拳を握りしめながらゆっくりと立ち上がった。
頬を伝うは涙―――もう、怒りと悲しみを抑える事など出来なかった。
「ならどうする。僕を殺すか?」
「―――いいえ。簡単に楽にはしてあげませんし、ノートが無くなった以上その余裕もありません。
祐介さんには私の護衛をしてもらいます。逆らえば初音さんとそのお兄さんがどうなるか、分かりますね?」
「……後悔する事になるぞ。僕はお前を絶対に許さない」
「引き換えに初音さんが死んでも良いのならどうぞ。どんなに私を憎もうとも貴方が私を殺せないのは分かっていますよ?」
「……悪魔め」
「私は生き延びる為なら悪魔にでもなります。さて、銃声を聞きつけて人が集まってきたら厄介ですし少し場所を移しましょうか」
人の命を次々に奪ったこの悪魔を前にして、自分は何もする事が出来ない。
祐介は悔しそうに有紀寧を睨み付けた。
そこで、祐介はある考えを思いついた。
電波で有紀寧を操れば……。
そうすれば、何とかなるんじゃないか。
この悪魔に対して電波を使う事には何の罪悪感も感じない。

264 無力 :2007/01/10(水) 21:33:42 ID:gvjemA22


(壊れろ……壊れろ、壊れろ、壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ、壊れてしまえぇぇぇぇぇっ!!)
祐介はありったけの憎しみと狂気を籠めて電波を生成し、有紀寧にぶつけた。
本来なら周囲一帯の人間全てを壊してしまうくらいの電波が放たれていただろう。

しかし、それが有紀寧に変化をもたらす事は無い。
制限されている電波では、この悪魔の精神には通じない。
(くそ……くそぉぉぉぉぉ!!)
やり場の無い怒りに歯をギリっと噛み締める。
―――無力だった。


【時間:2日目正午頃】
【場所:I−6】
宮沢有紀寧
【所持品①:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品②:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、少し移動】

柏木初音
【所持品:鋸、支給品一式】
【状態:精神状態不明、首輪爆破まであと20:45、有紀寧に同行(本意では無い)】

長瀬祐介
【所持品1:包丁、ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:有紀寧への激しい憎悪、有紀寧の護衛(本意では無い)】

265 無力 :2007/01/10(水) 21:34:14 ID:gvjemA22

天沢郁未
【所持品:他支給品一式】
【状態:死亡】

藤林椋
【持ち物:支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:死亡】

(関連575・615)

266 the girlish mind :2007/01/10(水) 21:54:12 ID:ugJye6jM
「思ったより、時間をかけてしまいました」

手にする包丁には、すっかり人の脂がこびりついてしまっている。
水瀬秋子は全く身動きとらなくなった名倉友里に向け、それを投げ捨てた。
返り血のついたセーターはそんな彼女へのせめてもの情けとして被せてある、真っ赤な泉の中ほんの少しだけ薄いピンクの地の色が見えるその光景はあまりにも異様だった。
背を向け、振り返ることなく場を後にする秋子の横顔には何の表情も浮かんでいない。
秋子の心中が死んでしまった友里に伝わるはずもなく、こうして一連の流れは幕を閉じた。




静かに佇む民家は、秋子が出て行った時と変わらぬ様子で彼女を出迎える。
周囲への気配りは欠かすことなく戻ってきた、特に異変を感じることもなかったので秋子はそのまま家の扉を開ける。
キィッという軋む音以外、何も聞こえなかった。
二人ともまだ起きていないのだろうか、そう思う秋子の鼻を思いがけない異臭を捕らえる。

(・・・・・・これ、は・・・)

さっきまで自分も嗅いでいた種類のもの、その溢れかえる血の臭いに驚く。
まさか、自分が留守にしている間に敵襲があったのだろうか。

「澪ちゃん!?・・・な、名雪っ!!」

普段見せない、取り乱した様子で駆けて行く秋子。
居間にあたる部屋に飛び込むと、そこにはリボンをつけた幼い少女のうずくまる姿があり。
駆け寄り、抱き上げる。暖かさの残る体とは反面、重く閉じられた瞼が彼女の状態を表している。
自分のシャツに血が染みこんでいくが気にしない、秋子はひたすら上月澪の体を揺さぶり続けた。

「澪ちゃん、澪ちゃんっ!お願い目を開けて・・・っ」

267 the girlish mind :2007/01/10(水) 21:55:04 ID:ugJye6jM
澪の腹部には、何度もナイフのようなもので抉られた痕があった。
何て残酷な、声の出せない彼女は悲鳴を上げ助けを求めることもできないというのに。
涙と共に溢れる怒りを抑えきれない、そんな秋子が背後に忍び寄る気配に気がついたのはその時だった。

「誰です?!」
「きゃっ・・・!」

振り向きざまにジェリコを構える、だがそこに立っていたのは誰よりも大切な自分の娘。
水瀬名雪は、向けられた銃身を凝視しながら棒立ちになっていた。

「な、名雪!!無事だったんですね、よかった・・・・よかった・・・・・・」

慌ててジェリコをしまう秋子、しかし名雪は身動きすることなく固まっている。
・・・驚かせてしまったようだ、抱えていた澪を一端寝かせ秋子は名雪に近づいた。
そのままぎゅっと抱きしめるが、反応はない。
いつもなら腕を回してくるのに・・・だが、そんなことを思っている場合ではない。

「怖い思いをさせました、ごめんなさい、本当にごめんなさい・・・」

安心させるよう、背中を優しく撫でながら秋子はあやす様な口調で名雪に話しかけた。

「・・・お母さん」

それはしばらくしてからであった。声をかけられた秋子はそっと拘束を緩ませ、視線を彼女の頭部に合わせる。
だが、顔が伏せられているため表情はうかがえない。
何か伝えることがあるのだろうか、秋子は名雪の言葉を待った。

268 the girlish mind :2007/01/10(水) 21:55:53 ID:ugJye6jM
「私はいっぱい怖い思いをしたよ」
「・・・そう、ごめんなさい。お母さんが守ってあげなくて・・・ごめんなさいね」
「我慢もしたよ、痛いの我慢した」
「そうね、偉いわね」
「もう充分だよ・・・」

その、疲れきった口調に焦る。秋子がいくら声をかけても名雪に変化は現れない。
何とか気をしっかりもたせなければ、再び口を開こうとした時だった。

「だからお母さん」

早口で捲くし立てられた台詞と共に上げられた顔、上目遣いでこちらを見やる名雪は・・・無表情で。
目が合う、そのいつも甘えてくる柔らかさの欠片もない目線に心が冷えきる。
思ってもみなかった様子に戸惑い、今度は秋子が固まった。
そんな秋子を気に留めることなく、名雪は無造作に言葉を吐く。
その、絶対零度の視線と共に。

「私も、奪う側に回っていいよね?」

一瞬、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
相変わらずの無表情である名雪からその意味を読み取ることはできない、彼女の言葉は一体何を指しているのか。
疑問符を、秋子が口にしようとした時であった。

「っ?!」

・・・一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
何かを突き立てられるような痛みが走る、脇腹辺りからだった。
事態がどうなっているのか理解できなかった。
目をやると、そこには愛娘の手にするスペツナズナイフの刃がしっかりと刺さっていた。

269 the girlish mind :2007/01/10(水) 21:56:44 ID:ugJye6jM
「お母さん、私のこと撃とうとしたよね?お母さん、私のこと殺そうとしたもんね」

弁解をしようとした、それは間違いだと。名雪を撃とうとしたわけではないと。
だが、崩れ落ちる秋子を見下す名雪の視線には何の感情も含まれていない。
目があっているはずなのに、お互いの感情の疎通が全くできていないという場面。
腹部の痛みもあり秋子はうまく言葉を紡ぐことはできなかった、それは名雪の誤解を解く機会を失ったという意味でもあり。

「いいんだ、お母さんなんて知らないもん。お母さんだけは信じてたのに・・・お母さんだけは、私の味方だと思ってたのに」

名雪の出した結論に涙が出そうになる、秋子は歯をくいしばりなんとか膝立ちで彼女と対峙しようとする。
目の前の真っ赤に染まった名雪の手にナイフはない、それはいまだ秋子の腹部に刺さったままなのだから。
・・・だが、よく見ると。その手には、もっと時間の経過したものに見える凝固された血液が張り付いていた。
ポタポタと垂れている秋子の血、それとは別のもの。その光景の、物語ることは。

「なゆき・・・まさか、あなたが・・・澪、ちゃんを・・・?」

跪く秋子の足元近くには、青白い澪が寝転んだままである。
ちらっと一瞬目をやる名雪、秋子は彼女の言葉を待った。

「ん?だって、起きたらお母さんはいないし知らない子はいるしで私もびっくりしたんだよ〜。
 万が一のこともあるからね、手は早めに打っとかないと」

それは、一瞬で返ってきた答え。
何の躊躇もなく飄々と言ってのける目の前の少女が、本当に名雪かと疑問すら持ち上がる。

「見て、分かるでしょ・・・っ!澪ちゃんが、そんなこと・・・しないって・・・」
「分からないもん、私達は殺し合いをさせられてるんだもん。現にお母さんだって私を撃とうとしたんだよ、人のこと言えないよ〜」

一見それは無邪気にも思える口調であった、だが強く他者を拒否する名雪の姿勢は強固であり。
いくら言っても無駄であった、彼女の傷ついた心は母親の言葉さえも遮断する。

270 the girlish mind :2007/01/10(水) 21:57:43 ID:ugJye6jM
「これは罰だよ・・・お母さんが、私を一人にした罰。そして、私を殺そうとした罰」

かがみこみ、刺された腹部を抑える秋子の様子を嘲笑いながら名雪は秋子の髪を掴んだ。
長いみつ編みを力任せに引っ張られ秋子が呻くが、名雪は気にせず嬉しそうに言ってのける。

「でも大丈夫だよ、お母さんは私のお母さんだもんねっ、これぐらいじゃ死なないもんね!!
 ・・・お母さん、一端私は離れちゃうけどまた私を見つけてね。え、何でかって?そんなの足手まとい状態なお母さんといるメリットなんてないもんっ。
 だからケガは自分で何とかしてね、その痛みが私の受けた精神的外傷だっていうのも忘れちゃだめだよ〜。
 反省してね、それで反省し終わったら今度こそ私を守ってね、待ってるよ。
 ああ、大丈夫、私のことは心配しないでいいよ。お母さんが来てくれるまで、誰か別の代わりの人を見つけるもん。
 大丈夫だよ〜、私も頑張るから。ふぁいとっ、だよ。お母さんも頑張ってね。
 それで、元気になったらまた会いにきてね。私を見つけてね。それで今度こそ、ずっと傍で私だけを守ってね。
 ・・・じゃないと」

髪を引かれ、無理やり顔を近づけられる。それは唇が届く距離。

「裏切り者は、例えお母さんでも許さないんだよ〜」

・・・何故、この子はこんなにも楽しそうなのであろうか。
はらはらと秋子の頬を伝う涙は決して腹部の痛みからではない、濁った瞳の目の前の少女の変容がただただ悲しかった。
部屋から出ていく名雪の背中が見えない、滲む瞳は何も映さない。
先ほど自分が開けた外部と繋がるドアが開閉される音が聞こえ、秋子は本当に名雪がこの場から去ってしまったことを実感するしかなかった。

・・・名雪の心中が秋子に伝わるはずもなく、こうしてまた一連の流れも幕を閉じる。
だが、今回残された者の命は失われていない。秋子がこれに対しどう出るかは、まだ分からなかった。

271 the girlish mind :2007/01/10(水) 21:59:27 ID:ugJye6jM




夜風は思ったよりも身に染みる、名雪は風に舞う髪を押さえながら自分の支給品である携帯電話を取り出した。
圏外、その表示で通話ができないことは一目瞭然である。
だが、名雪は慣れた手つきでインターネットに接続するボタンを押した。・・・少しの間をあけ、液晶の画面が変わる。
現れたのは、あるサイトのトップ画面。澪を葬った後秋子が現れるまでの暇をつぶしている際に、名雪はこのページを見つけた。
と言っても、インターネットに接続できるとはいえ見れるサイトというのもここだけであったのだが。

「ロワちゃんねるポータブル」、そうタイトルづけられた掲示板は名雪の書き込みで止まっている。

何故「圏外」なのにこのようなサイトに繋がるのか、それは分からなかった。
しかし使えるという事実は確かにここにある、名雪はそれを有効活用しようとした。

「うーん、でもお母さんと別れちゃったから・・・ちょっと矛盾が出てきちゃったよ」

自分の書き込みを見て首を傾げる名雪、本当は秋子と合流した上での身の安全を第一に考えていたのだが、今はこうなってしまった以上仕方ない。
できることはした、あとは信じて待つしかない。

272 the girlish mind :2007/01/10(水) 22:00:06 ID:ugJye6jM



自分の安否を報告するスレッド

3:水瀬名雪:一日目 23:45:46 ID:jggbca7kO

 ショートカットのお姉さんに襲われました。肩をナイフで刺されました。
 黒いTシャツの目つきの悪い男の人にも襲われました。殺されそうになりました。
 今は信頼できる人が傍にもいますけど、正直誰を信じればいいのか分かりません。助けてください。




「ふふ・・・藪をつついて出るのはヘビさんかな、それとも本当に王子様かな〜」

微笑む名雪は、一体どちらを望んでいるのか。
しいて言うならば。王子様だったらやっぱり祐一がいいな〜、そんなことを呟きながらまるでダンスを踊るかのごとくステップを踏む名雪の様子は。
彼女がこの島に来て、一番生き生きとしたものだった。

273 the girlish mind :2007/01/10(水) 22:01:05 ID:ugJye6jM
水瀬名雪
【時間:2日目午前0時頃】
【場所:F−02】
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)
 赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:肩に刺し傷(治療済み)】

水瀬秋子
【時間:2日目午前0時頃】
【場所:F−02・民家】
【所持品:スペツナズナイフの刃(刺さっている)、IMI ジェリコ941(残弾14/14)、木彫りのヒトデ、殺虫剤、支給品一式×2】
【状態:腹部に刺し傷、主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。
 ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】
【備考:セーターを脱いでいる】

上月澪  死亡

澪の支給品(フライパン、スケッチブック、他支給品一式)は放置

(関連・290・357・485b)(Jルート)

274 羅刹血華(承前) :2007/01/12(金) 03:09:09 ID:XpSdXthk

血糊を払った刀身の先から、雨粒が雫となってこぼれ落ちていた。
川澄舞の身体が、ゆらりと傾ぐ。
どうにか倒れずに踏みとどまるが、その瞳は半ば虚ろであった。
喪われた左手の断面からは、とめどなく血が流れ出していた。
白い肌が、青に近い色に変わっていく。

「お、おい、大丈夫か嬢ちゃん!?」

それを見た聖猪、ボタンが慌てて舞の元へと飛んでこようとする。
喉笛を噛み破ろうとする蛇の顎に毛針を叩き込み、吹雪を巧みにかわして、舞へと近づくボタン。
虚ろな目にその光景を映した舞が、いまだ治まることを知らずに血潮の流れ出す左腕を、す、と力なく掲げた。

「嬢ちゃん、しっかりしろ……って、おい、何してんだ!?」

ボタンの驚愕も無理からぬことであった。
駆け寄ったボタンの、その灼熱の毛皮に、舞は己が左腕を躊躇なく差し入れたのである。
雨を裂いて、肉の焼ける匂いが立ち込める。

「―――ッ……!」

がち、と。
堅く、小さな音がした。
舞の、必死で噛み締めた奥歯が砕ける音であった。
血の混じった痰と共に、歯の破片を吐き出す舞。
傷口を焼いたことで血管が肉もろとも潰れ、出血は止まっていた。
左手の断面から嫌な臭いのする湯気を上げながら、川澄舞は立っている。
その眼は既に先程までの虚ろなものではなく、鬼気迫る光を取り戻していた。

275 羅刹血華(承前) :2007/01/12(金) 03:10:20 ID:XpSdXthk
「無茶苦茶しやがるな……嬢ちゃん、生きてるか?」
「……戦える」
「返事になってねえよ……」

苦虫を噛み潰したようなボタンの声にも、舞は無反応。
青白い顔に爛々と眼だけを光らせて、抜き身の刀を片手で構える。
その視線は、真っ直ぐにもう一匹の魔獣、ポテトを捉えていた。

「……人間のやることは、時折理解に苦しむぴこ」
「それについちゃあ同感だ……な、っと!」

言い合いながら、互いに飛びかかろうとする二匹の獣。
その後ろで、舞がゆらりと足を踏み出す。

「バカ野郎、そんな身体で何ができるってんだ!?」
「……戦う」
「ったく、強情な嬢ちゃんだな……!」

全身に脂汗をかきながら、なお走り出そうとする舞。
振り下ろされた鋭い爪を牙で受け止めながら、ボタンが叫ぶ。

「分かった、分かったから無理に動こうとするんじゃねえ!」
「……」

荒い息のまま、舞が踏み出そうとした足を止めた。
牙を跳ね上げ、空いた胴に一撃を加えながら、ボタンが続ける。

「いいか、よく聞け嬢ちゃん!
 テメエでも分かってるだろうが、嬢ちゃんにはもうまともに動く力なんぞ残っちゃいねえ!」

276 羅刹血華(承前) :2007/01/12(金) 03:11:31 ID:XpSdXthk
横薙ぎに振り回された蛇の胴をしたたかに打ちつけられてよろけるボタン。

「だが、だがそれでいい、今の嬢ちゃんにはそれで充分だ!」
「……」

続けざまに繰り出される下からの爪が、ボタンの前脚を傷つける。
鮮血が飛沫を上げた。

「どの道、その手じゃあ力任せってのは、無理だ!
 だが思い出せ嬢ちゃん、さっきの鬼を斬ったあのとき、嬢ちゃんは力任せだったか!?」

灼熱の業火を全身から噴き出すボタン。
噛み付こうとしていたポテトが、慌てて首を引っ込める。

「そう、そうだ嬢ちゃん。
 あれがそいつの使い方だ、抜けば玉散る氷の刃、そいつは伊達じゃねえ!」

炎の勢いに任せて牙を跳ね上げ、そのままトンボをきるように縦回転を始めるボタン。
瞬く間に、業火を纏った円盤と化す。

「そいつは手数で押しまくるようなもんでも、まして力任せにぶん回すもんでもねえ。
 極限まで研ぎ澄ました、ただ一刀で何もかんもを斬り伏せる、そういう業物よ!」
「―――」

炎の円盤が、ポテトを襲う。
至近からの攻撃に回避が間に合わず、円盤がその顎に直撃する。
ポテトの牙が数本、折れて飛んだ。

「―――今だ!」

277 羅刹血華(承前) :2007/01/12(金) 03:12:02 ID:XpSdXthk
「―――!」

ボタンの声が、響くか響かないかの瞬間。
舞の足が、泥濘を吹き飛ばすように、大地を踏みしめていた。
数メートルの間を、文字通りの刹那に駆け抜けて、舞の一刀が奔っていた。

音が、消えたように感じられた。
ポテトの絶叫が響いたのは、その大蛇の尾が、遠く離れた水溜りに落ちた後だった。

「―――上出来ッ!」

快哉を叫んで、ボタンが追撃をかけるべく飛ぶ。
炎の円盤が、二度、三度とポテトの身体を撥ね上げ、焼き焦がしていく。

「これで……どうだッ!!」

言葉と共に一際大きく燃え上がった業火が、ポテトの全身を包み込んだ。

278 羅刹血華(承前) :2007/01/12(金) 03:12:28 ID:XpSdXthk

 【時間:2日目午前6時すぎ】
 【場所:H−4】

川澄舞
 【所持品:村雨・支給品一式】
 【状態:肋骨損傷・左手喪失・左手断面に重度の火傷・出血停止も重度の貧血・奥歯損傷】

ボタン
 【状態:聖猪】

ポテト
 【所持品:なんかでかい杖】
 【状態:魔犬モード・尾喪失】

→613 ルートD-2

279 青年、山中を往く :2007/01/12(金) 19:20:02 ID:fAlrN5V6
七瀬彰は、人目につかぬ山中を鍬を抱えつつ練り歩いていた。マーダーになると決めた彰ではあったが、元より彰は文学少年。筋力、体力ともに自信を持てるほど優れてはいなかった。
実際、早くも鍬を持つ手から力が抜けていっている。場違いに、彰は毎日農作業をしている人は立派なんだなあ、と思った。
――それはさておき。どうして彰がこんな山中を練り歩いているかというと、それは奇襲を狙っているからであった。
こんなところとは言え、起きる時には戦闘は起きる。そこに乱入してもっと強力な武器をかっさらっていこう、というのが当面彰の立てた作戦であった。(森に隠れれば、人目にも付きにくいしね)
――しかし、本当にこんな方法で大丈夫なんだろうか。
戦闘に遭遇できたとして、果たして上手く行くかどうか。彰は鍬を振りかざして敵に突進していく自分の姿をシミュレートしてみたが、どうしてだか真っ赤に染まったヴィジョンしか出てこない。
鍬が重過ぎるのだ。せめて鎌にしておけば良かった。大きくて重ければ威力が高い、と安易に考えた結果だ。
大きい鍬と小さい鎌、どっちにしますか正直じいさん?
もちろん大きい方に決まってんだろ、威力がちがうぜ――
バカなことを考えているうちに、木の根にでもつまずいてしまったのか彰が傾いてこけてしまう。幸いにして、こけた拍子に鍬がこちらの顔面にグサリということは無かった。
「痛たた…まったく、こんなことをしてたら――」
つまずいた木の根を見ようとして、彰はそれが木の根でないことに気付く。
見れば、それは彰も持っているセンスのない、支給品の詰まったデイパックだった。どうしてこんなところに――?
森の中に置き去りにされたデイパックを見て彰はまたまた場違いに、ニュースでよく見る「バッグの中に詰まった謎の大金」という字幕を思い浮かべた。
そんなわけはないだろうと思いつつ、デイパックに中身が入っているかどうかと確認しようとして――直前、躊躇った。
怪しい、怪し過ぎる。罠なんじゃないか。こういう状況で、開けたらドカン、なんて事態があってもおかしくない。
しかし、回りを注意深く見まわしてみても人の気配すらしない(遠くで銃声はしょっちゅう聞こえているが)。デイパックに釣られて開けたところを狙うということではなさそうだ。そもそもそれなら、自分は真っ先に死んでいるはずである。

280 青年、山中を往く :2007/01/12(金) 19:20:35 ID:fAlrN5V6
オーケイ。だったら開けたらドカン、というタイプに違いない。チャックを開けたが最後、七瀬彰の体はまっくろくろすけ。
その手には乗らない。チャックを開けてドカンなら、下から開ければいい。
鍬の刃の部分でデイパックの下を少しづつ破っていく。本当に爆弾なら、そーっと元に戻しておけばいいだろう。
そうして3分の1ほど切り裂いたところで、ぼとっ、と何かが落ちてきた。
「あっ」
やばい、と彰は思ったが果たしてそれは爆弾などではなかった。黒光りする、まるでカステラの箱のような形状――すぐに何かが分かった。イングラムM10。数秒で弾を撃ち尽くす、その連射力は拳銃とは比較にならないほどの剣呑な代物だった。
続いてその予備マガジンらしきものも落ちてきた。ひーふーみー…驚くべきことに、8本も入っていたのである。こんなに入ってりゃつまずくはずである。
「すごい――だけど、どうしてこんなものが放置されていたんだ?」
再び、彰はこれは罠なんじゃないかと思い再度周囲を確認する。こんなおいしい話、あるはずがない。きっと誰かが狙って――いない。
首をかしげる。よほどこんなゲームが嫌いだったのか? それとも宗教上の理由? ああイエス様。親愛なる隣人を殺す事などどうして出来ましょうか。アーメン。
あるいはエアガンなんじゃないかとも思った彰だが、モノホンの匂いがぷんぷんする。
「――まあいいさ。いらないなら、有効に使わせてもらうまで」
少なくとも鍬の100倍は頼りになる。それどころか一人で複数殺して回る事も可能だ。
「誰だか知らないけど、感謝するよ。僕にチャンスをくれて」
鍬はもういらないだろう。破ったデイパック共々放置して、今度は山を下り始めた。これなら、わざわざ奇襲する必要もなかったからである。
木々の間から漏れる陽光が、わずかにイングラムの銃身を光らせていた。

七瀬彰
【時間:二日目午前7時00分】
【場所:G−4】
【所持品:イングラムM10(30/30)、イングラムの予備マガジン×8】
【状態:右腕負傷(マシにはなっている)。マーダー化】
【その他:イングラムの入っていたデイパックは月宮あゆのもの】

【備考:B-10】

281 男子、二人 :2007/01/13(土) 02:32:21 ID:qaAozmGY
音の無い世界、少し冷える玄関口にて二人は胡坐をかいていた。
二人とも毛布を肩から被っているので、寒さ自体には抵抗はない。
しんと静まる廊下、背後の暗さに多少恐怖を覚えるがそこは男の子。
前方からいつ敵が来てもいいようにと、二人とも覚悟はできている。

深夜、滞在する民家の見張りをしていたのは春原陽平と北川潤であった。
ずっと気を張っていたであろう水瀬秋子にも休息が必要だと、そう考えて二人は自ら見張り役を名乗り出た。
残りの女子四人組含め、秋子達は奥の寝室にて休んでいる。
精神的にも不安定であった水瀬名雪の様子にも異変が現れず安心したのだろう、秋子とて普通の主婦である。
最初は拒まれたが、眠りについたのは彼女が一番早かった。
明日のことを考えれば、ボディガード的な秋子にきちんと休息をとってもらえるのは潤にとってもありがたいことである。
まだまだ残り人数は多い、仕事を続けるにはまず生き延びればいけないのだから。

・・・それにしても、やることがなかった。
音と言えば隙間風による窓の軋みくらい。誰か現れる様子は一向にないので、二人はあっという間に暇を持て余すことになる。
ふわ〜っと大きな欠伸をする潤、何となく横を向くと陽平も同じように目をしょぼしょぼとさせていた。

「退屈だな・・・」
「ね・・・」
「何か面白いネタあるか?」
「いんや、別に」
「そうか?恋バナとかどうよ、お前るーこちゃんといい感じじゃん」
「あはは、確かにるーことはずっと一緒にいるけど・・・そんな風に見える?」
「ああ」
「うーん、そうなのかな・・・」

282 男子、二人 :2007/01/13(土) 02:33:03 ID:qaAozmGY
腕を組み、首を傾げる陽平の姿を微笑ましく思う。
二人の気の合う様はしっかり見せ付けられた、後は何かきっかけがあれば二人の仲も進展するかもしれない。
・・・その時、どう邪魔してやるか。そんな悪戯めいたものが、潤の心をよぎっていた時だった。

「北川は?」
「は?」
「北川はそういう子いないの?」

突然の質問。いや、話の展開から陽平がこう切り替えしてくる可能性は勿論あったが。

「ああ、そうだな・・・」

思い浮かべるのは猫のような目つきで自分をたしなめてくる、大人びた雰囲気の彼女。
だが、それと同時に脳裏に浮かんだのは。あのつっこみが冴え渡る、外跳ねヘアーの彼女であった。

「・・・」
「お、その顔は何かあんだな?!」
「まあね。俺ってばモテモテ王国出身だからな」
「何だそりゃ・・・あ、そういえば」
「どうした?」
「いやね、これ。秋子さんから預かってたのすっかり忘れてた」

ポケットから陽平が取り出したのは携帯電話であった。
何だそれならと、潤も自分の持ち込んだものを取り出してみせる。

283 男子、二人 :2007/01/13(土) 02:33:33 ID:qaAozmGY
「え、それって・・・北川の?」
「ああ、そうだけど。だけど意味ねーぞ、俺も最初使おうとしたけど電波入んなかったし」
「そっか・・・これも圏外みたいだし、意味ないみたいだな。
 でも、何で北川だけ自分のとか持ち込めてるんでしょうね、僕のは没収されたというのに・・・」
「運じゃない?俺の他にももう一人持ったヤツいたし、多分他にもいると思うぞ」
「ガーン」
「うーん、一応番号だけ交換しとくか。春原、ちょっとほら赤外線赤外線」

項垂れる陽平をけしかける、赤外線なので交換自体はあっという間に済んだ。
ぴっという無事番号交換できたことを告げる電子音を聞いた後、潤は新しい登録先として「水瀬秋子」の項目を作る。
使い慣れた手先による作業も終わり、再びやることのない時間が始まる・・・そのはずだった。
ふと隣を見ると、陽平はケータイを手に固まっていて。

「春原?」

彼の視線の先は例の、秋子から預かったというケータイの液晶画面であり。
何なのだと、潤も陽平の手元を覗くよう彼に近づいた。
そして、以下のメッセージが目に入る。


『番号を登録しました、以降この番号との通話が可能になります』


「何だこれ?」

それは、純粋な疑問であった。
視線を陽平に向けると、彼も狼狽しながら答えてくる。

284 男子、二人 :2007/01/13(土) 02:34:19 ID:qaAozmGY
「わ、分からないよ。北川の電話と赤外線繋いだらこうなったんだ」
「・・・ふーん、秋子さんってば面白い設定してるんだな」
「いや、これ秋子さんの私物ではないよ。名雪ちゃんの支給品なんだってさ」
「・・・は?」
「だから、名雪ちゃんの支給品の電話であって、秋子さんの私物じゃないってば」
「何でそういうことを先に言わないんだ、おいっ」

支給品として与えられたのならば、何かしらの意味があるはずである。
それが携帯電話なのだから、その使用法は一つしかない。

「なぁ、ちょっといいか」
「何さ・・・って、え、何これ持ってればいいんですかね?」

陽平の手に自分のケータイを握らせる潤、自分はそのまま名雪のものを持つ。
そして、おもむろに自分の番号ををプッシュして、耳元に構える。
少しの待機音の後。

『♪ちゃーちゃちゃちゃーちゃーーちゃーーちゃちゃー』
「うわっ?!」
「かかった!マジで?!」

鳴り響いたのは潤のケータイの着信音である。あたふたする陽平をけしかけ電話を取らせ、そのまま会話をしてみる。

「・・・ど、どうですかね」
「ああ、聞こえる。繋がってる」

確認を取った後、今度は逆に自分のケータイで名雪のケータイの番号を押してみるが・・・反応は、ない。

285 男子、二人 :2007/01/13(土) 02:35:11 ID:qaAozmGY
「このケータイなら使えるってわけか。こりゃ中々のクセもんだよ」

電波妨害のフィールドを破ることができるアイテムということ、この携帯電話自体がジャミングでも出しているのだろうか。
アンテナ自体は相変わらず圏外の表示をしたままである、どういう原理か潤が理解できるはずもなく。
試しに、今度は名雪のケータイに自分の自宅の番号を送ってみた。これで外と連絡がつくならば参加者皆万々歳である。
ケータイの番号を登録した時と同じメッセージが出る、潤はそのまま自宅に電話をかけた。
だが、ツーツーという待機音は電話が繋がらないことを指し示してくる。

「さすがにそこまで甘くはないか」
「でもいいじゃん、とにかくこれで一気に便利になったと思うし。これさえあれば、北川には随時連絡できるんだもんな!」
「そうだな、っていうかこれ島にある電話にも繋がんじゃねーかな」
「マジで?!」
「俺、最初鎌石村の消防署にいたんだ。あそこの電話は電話線自体が切られていたから無理だろうけど・・・よく見てみろ。
 ここの電話、目で見える限りはコードに異変はない。確かめてみる価値はあると思う」
「お、本当だ・・・」

ちょうど玄関にあった電話を指差す潤、陽平も近づいて確認しだす。
受話器を耳にあてると待機音が聞こえ、電源が入ってることはすぐ分かった。

286 男子、二人 :2007/01/13(土) 02:35:55 ID:qaAozmGY
「イケるよ北川!っていうかこれでそっちの電話かけられるんじゃない?」
「いや、それができたらもうこのケータイの意味ないんじゃ・・・」
「北川!!」
「な、何だよ」
「駄目だった!!ボタンいくら押しても反応返ってこない!!!」
「そうか、分かったから先進もうな。ここの番号言ってくれよ、登録するから」
「え?そんなの知らないよ」
「何も調べないで即答するなよ・・・電話の近くとか、何かない?」
「うーん、特にないかな」
「電話帳みたいなのは?」
「ないね」
「・・・なるほど。そういうのを入手して確かめない限り、意味はないな」
「うーん、それなら北川のいたっていう消防署に行ってみないか?そういう所なら電話帳あるんじゃね?」
「そうだな、それがいいかもしれない」

進路が決まる、やる気を咆哮で表す陽平とは反対に潤の心中は複雑であった。
思ったよりも情報が集まりすぎている、陽平等とこれ以上行動を共にする必要もないであろう。

(問題はどうやって離脱するかかな・・・だけど、その前に)

おもむろに自分の番号が登録されているケータイを見やる、今それは潤の手の中にあった。
そして目の前にあるのは、このケータイに番号を登録すれば彼女にも連絡をとれるという事実。
単純な発想だと自分でも苦笑いが漏れる、それでも恋しく思う存在の安否は気になっている状態で。
・・・そんな誘惑にかられている時だった、適当にいじっていたらいきなりケータイの画面が変化した。
メモ帳に登録されていたらしいそれが、液晶に映し出される。

『機能説明……この携帯には爆弾が取り付けられています。
アラームをセットして1時間経ったらあら大変、大爆発で強烈な目覚ましだ!』

現れたメッセージ、潤の視線はそこに釘付けになった。

287 男子、二人 :2007/01/13(土) 02:37:16 ID:qaAozmGY
【時間:2日目午前3時】
【場所:F−02】

春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:普通】

北川潤
【持ち物:GPSレーダー&MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:普通】

(関連・519)(B−4ルート)

288 それがヘタレの生きる道 :2007/01/15(月) 03:23:18 ID:zynVV6Yc

勝負は、一瞬だった。

「グレェェト―――」

黄金の野牛と称される戦士、その威風堂々たる角が、飛びかかろうとしていた獣人を
天高く撥ね上げる。

「―――ホォォォォン!!」

たっぷり20秒はかけて、獣人が地に落ちた。
戦士の一撃によるものか、それとも落地の際の衝撃によるものか、その姿は既に原形を留めていない。
降りしきる雨の中でなお金色に輝く、荘厳な鎧に身を包んだ戦士が、ぎろりと周囲を見回す。
視線の先には、何やら言い合っている人影が三つ。

「うわ、ウチで一番強そうなのが一瞬で……」
「よ、よし、次は孝之さん、君に決め……」
「む、無理に決まってるだろう!」
「言われる前に逃げ口上、ヘタレにしかなせない技ね……」

七瀬留美とヘタレトレーナー藤井冬弥、そしてヘタレ皇帝・鳴海孝之である。
孝之に出撃を断られた冬弥が、がさごそと腰を探って次のボールを取り出す。

「じゃあ伊藤さん、君に……」
「どうせ殺されるだけだからやめときなさいって……」

冬弥を止めた七瀬は、黄金の戦士に向き直ると決然と口を開いた。

「……えと、深山先輩……ですよね」

名を呼ばれ、黄金の戦士が踏み出しかけた足を止める。

「先輩の強さはよく分かりました。降参します。
 そちらの要求というのを、もう一度聞かせてもらえませんか」

目の前で獣人、保科智子を文字通り秒殺した相手に対して一歩も退かずに、七瀬が言う。
その真っ直ぐな視線を受けて、黄金の戦士―――深山雪見が、口の端を上げた。

「……いい度胸してるわね。そっちから仕掛けておいて、今更降参?」
「はい。ウチのバカどもが先走ったことはお詫びします。すみませんでした。
 身内を殺されたことにも異存はありません。要求にも従います。
 ですから、あたしたちの命は見逃してください」

堂々と言い放つ七瀬。
尊大とすら取られかねないその語調に、背後の冬弥と孝之が震え上がる。
しかし雪見は口元を笑みの形に保ったまま、七瀬に問いかけた。

289 それがヘタレの生きる道 :2007/01/15(月) 03:24:20 ID:zynVV6Yc
「……随分虫のいい話ね。わたしにそれを呑むメリットがあるとでも?
 皆殺しにしてしまえば済む話だとは思わない?」
「いいえ。そのつもりであれば、あたしたちが今頃こうして生きてたりはしないでしょう。
 そもそもそれなら、先輩の方から声をかける必要なんてないはずです」
「なるほどね。……じゃ、次。
 現在進行形で殺し合いをしているこの島で、わたしは話も聞いてもらえずに襲い掛かられたわ。
 これは謝って済む問題かしら?」
「謝罪ならいくらでもします。ですが先輩の要求に答える以外に、あたしたちにはそれを償う術がありません。
 ですから、それを伺っています」
「それが謝っている態度かしら? 気に入らないから殺す、というのはどう?」
「……殺してしまっては叶わない要求だからこそ、先輩の方から声をかけたのだと思います」

氷点下の視線と握られた拳の威圧感だけで、気の弱い者なら泣いて謝りそうな風格の雪見である。
事実、冬弥と孝之は失禁しながら土下座している。
しかし七瀬はそんな雪見の視線を真っ向から見返して、なお平然と薄い胸を張っている。

一瞬の沈黙の後、雪見の表情が変わった。
笑い出したのである。呵呵大笑と呼ぶべき、豪快な笑いであった。

「あっはははは! 本当にいい度胸してるわね、あなた! 気に入ったわ、名前を聞いておこうかしら」
「七瀬、七瀬留美です、先輩」

小さく頭を下げる七瀬。

「わたしは……自己紹介の必要はないみたいだけど」
「はい、深山雪見先輩。演劇部部長にして学園有名人。転校したばっかりのあたしでも知ってます」
「そんなに有名だったかしら……」
「川名先輩と深山先輩のコントは時と場所を選ばないですから……」
「コントって……みさきのせいで風評被害が大きいみたいね。今度とっちめてやる」

溜息をつく雪見。ふと、七瀬の背後に目をやる。

「……で、そっちは?」
「ああ、このバカどもは……」
「藤井です、よろしく」「鳴海孝之。困ったことがあったら言ってくれていいよ」

七瀬の言葉が終わるより早く、二人は雪見の前で優しい笑みを浮かべていた。
つい先程まで泣き喚いていたとは思えない笑顔である。
どうせ雨に濡れてわかりづらいとでも思っているのか、股間に残る痕跡を隠そうともしていない。
自分なりにキメているつもりらしいその背中を見ている内に無性に腹が立って、七瀬はとりあえず
二人をしばきたおした。

「……で、先輩」
「え? ……ああ、もういいの?」

男二人を蹴り回すその手際を興味深げに見ていた雪見が、七瀬の声に顔を上げる。

「はい。気が済むまでやろうとするとキリがないですから」
「苦労してるのね……」
「話、戻しますけど」

同情の視線を振り払うように、七瀬が些か強い口調で言う。

「はいはい」
「先輩の要求って、何ですか」
「さっき言わなかったっけ?」
「聞きましたけど、意味がちょっと……」

眉根を寄せて首を傾げる七瀬。事も無げに、雪見。

「そのまんまの意味よ。ヘタレの尻子玉」
「いえ、ですから全然意味が……」
「知らない? 尻子玉。お尻の中にあって河童に取られちゃうっていう、あれ」
「本気で言ってるんですか……?」

全力でヒく七瀬に、雪見はからからと笑ってみせる。

「本気も本気よ。
 ……ま、ちょっと前だったら、確かにわたしも七瀬さんと同じような顔、してたでしょうけどね」
「じゃ、今は……」
「だって、わたしが聖闘士だなんていうのも、似たようなもんよ?」

290 それがヘタレの生きる道 :2007/01/15(月) 03:24:48 ID:zynVV6Yc
言われ、七瀬は改めて雪見の全身を覆う黄金の鎧を見直す。
猛牛を象った、巨大な角をつけた兜。
それ単体ではヘルメットかと見紛うような、巨大な肩当て。
胸当てから直垂まで、ひと繋ぎになった頑強な鎧。
手甲、足甲はそれぞれ極端に露出の少ない形状で、全身をほぼ隈なく覆っている。
材質が見た目通りの黄金なのかどうかはわからないが、しかしこの鎧の重量だけで数十キロには及ぶだろう。
身に纏って立つことすら、普通の女子校生には不可能といっていい。
それを平然と身につけている上に、先程の戦闘で見せた動きである。

「……常識なんて通用しないってことですか」
「ま、言ってしまえばそういうことになるかしらね」
「考えてみればこっちにもボールに入る連中とか、おかしなのがいますけど……」
「うん、さっきの虎女なんかも充分非常識だと思うわよ」
「やっぱりそうですか……」

深く考えないようにしていたところを突かれ、頭を抱える七瀬。

「ま、そんなわけで、尻子玉が必要なのよ」
「いろいろ置いといて、何に使うのか聞いてもいいですか……?」
「うーん、話せば長くなるんだけど……」
「できれば理解できる範疇でお願いします……」

腕組みをして思考を整理する雪見。

「簡単に言えば、この島には伝説のパン職人がいて、人を生き返らせるパンを作れるらしいのよ。
 材料は鬼の爪、ヘタレの尻子玉、白虎の毛皮、魔犬の尻尾……と、あと一つ何か必要らしいんだけどね。
 んで、わたしの親友が超能力でやられてなかなか目を覚まさないんだけど、そのパンならどうにかなるかな、って。
 ……わかってくれた?」
「一から十まで理解できません……」

頭痛に耐えかねてこめかみを揉む七瀬。
雪見は気にした風もなく腕組みを解くと、おもむろに手を差し出した。

「ま、重要なのはわたしには尻子玉が必要だってこと。毛皮は……」

と、雨に濡れて血だまりを広げる獣人の死体を見やる雪見。

「……あそこにあるしね。これで二つってわけ」

手を差し出したまま、にっこりと笑う。
断ればどうなるか分かっているだろうなという、それは紛れもない肉食獣の笑みであった。

「これがわたしの要求。見た感じ、そっちの二人はヘタレ度合い充分そうだしね。
 どっちでもいいわ、それは任せる」

視線に射すくめられた冬弥と孝之が再び失禁する。

「ちょ、ちょっと待ってくだ―――」
「お、俺は痛いのとかダメなんだよ!」「俺だって御免だ! 助けてくれ!」

慌てて雪見を止めようとした七瀬の言葉が終わらない内に騒ぎ出す二人。
涙と鼻水で顔面を濡らしながら、目と目で何事かを示し合わせる。

「こうなったら―――」
「あれしかないか!」

頷きあう二人。
ただならぬ様子に、七瀬が息を呑む。

「まさかあんた達、何か隠された力が……?」

七瀬の呟きに、雪見が表情を変え、一歩を引いて構えを取った。
いつでも必殺技を放てる体勢。

「……いくぞ、鳴海さん!」「おう、藤井君!」

雷鳴が轟く。
二人の声が唱和する。

「「 ヘタレ―――大会議!! 」」

数多のボールが、二人の手から放たれた。その数、八。

「……へ?」

呆然とする七瀬の眼前に次々と実体化していく、伝説のヘタレども。

「「「「「「「「 呼んだか? 」」」」」」」」

ハモる声が実に鬱陶しかったので、七瀬はとりあえず冬弥の後頭部を張り倒した。

291 それがヘタレの生きる道 :2007/01/15(月) 03:25:15 ID:zynVV6Yc
******


「実は、かくかくしかじかで―――」

気を取り直して説明を始める冬弥の声に、ヘタレの集団が耳を傾ける。
話の内容を理解するにつれ、ヘタレどもの表情が変わっていく。

「―――と、いうわけなんだ。誰か一人でいい。尻を差し出してくれ」

冬弥が話を終えるや否や、ヘタレどもが一気に騒ぎ出した。
互いに譲り合い、押し付けあっているらしいその喧騒を眺めながら、七瀬と雪見が顔を見合わせる。

「……あれ全部?」
「はい、誰一人欠けることなくヘタレです……」
「……頑張ってるのね」
「いえ、まあ何て言うか……」

肩を落とす七瀬を、痛ましげに見る雪見。
と、ヘタレどもの喧騒が収まった。

「……決まったみたいね」

見れば、九人のヘタレどもが、簀巻きにした最後の一人を抱えて誇らしげに立っている。
荒ぶる神に捧げられる生贄の如く天に掲げられたその男は、蒼白な顔で何事かを喚き散らしていた。

「お、おい、ちょっと待て! 何でオレ様が!」

抗議も空しく手巻き寿司のような格好のまま運ばれていくのは、ヌワンギであった。
冬弥が晴々とした笑みでヌワンギを見ると、爽やかに告げる。

「だって君、言ってたじゃないか、板違いの連中の前にオレを呼べ、って」
「フザけんな、それがどうしてこうなるんだ!」
「主人公でもないのにそんなに張り切ってるんだから、きっと活躍の場がほしいだろうって」
「勝手なこと言ってんじゃねえ!」
「まあまあ、呼ばれてもいないのに来たんだから、このくらい役に立ってよ。俺たち、痛いの嫌だし」
「本音が出てるじゃねえか! ……ぐへっ」

どさりと、簀巻きのまま地面に放り出されるヌワンギ。

「くそっ、オレ様にこんなことをして、タダで済むと……ありゃ?」

首だけを動かして睨みを利かせようとするヌワンギだったが、ヘタレどもは既に遠くへと走り去った後だった。

「ちょっと待て! おい、こら!」

叫ぶヌワンギの背筋に、ぞくりと悪寒が走った。
心臓を鷲掴みにされたような圧迫感。
おそるおそる、見上げる。

「―――お尻、出しなさい」

悪夢が、笑みを浮かべて立っていた。

292 それがヘタレの生きる道 :2007/01/15(月) 03:25:55 ID:zynVV6Yc
******


「……あー、まだ悲鳴が耳に残ってるわ……」

顔を顰めながら、七瀬が呟く。

「俺もだよ。……まったく、男らしくないよなあ」
「ああ、その通りだな」

腕組みをして頷く孝之ごと、冬弥を蹴り飛ばす七瀬。

「な、何をするんだ!?」
「やかましいっ!」

一喝。
その鬼のような形相に、冬弥と孝之は竦み上がる。即座にジャンピング正座。
隙あらば土下座しようかという体勢である。

「これまで、ヘタレだヘタレだと思っていたけど……まさかここまで酷いとはね」

眉間にシワを寄せて呟く七瀬。
近くに隠した親友の元へ戻るという雪見に、最後は万歳三唱までしていたヘタレども。
右手に獣人の死体、左手にヌワンギの尻子玉を持って去っていく雪見の背に最敬礼を送っていた
九人のヘタレの姿が、脳裏に焼きついていた。

「……男として、それ以前に人として、恥ずかしくないのかしら」
「待ってくれ七瀬さん、俺たちはまだ発展途上で……」
「そうだ、これから男を上げていく予定が……」
「黙んなさいっ!」

雷が落ちる。
同時に平身低頭する二人のヘタレ。

「「 ごめんなさい 」」

その蛙の轢死体のような背中を見下ろして、七瀬は深々と溜息をついた。

「はぁ……どうやら徹底的に叩きなおす必要がありそうね」

不吉な雲行きに、ヘタレ二人が頭を下げたまま、そっと目を見合わせる。
嫌な予感がする、と互いの顔に書いてあった。

「……いいわ。これから、あんた達を一人前の男にするための特訓をします」

特訓。
ヘタレどもにとっては猛烈に不安な響きであった。

「この先はきっと地獄になるわ。ヘタレのあんた達についてこれるかしら」

冗談じゃない。断固抗議するぞ。
目と目でそう確認しあう二人。

「―――返事はっ!」
「「 はいっ 」」

綺麗にハモっていた。

293 それがヘタレの生きる道 :2007/01/15(月) 03:26:23 ID:zynVV6Yc
 【時間:二日目午前7時ごろ】
 【場所:F−4】

 七瀬留美
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
 【状態:鬼教官】

 藤井冬弥
 【所持品:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
     支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
     鳴海孝之さん 伊藤誠さん 衛宮士郎くん 白銀武くん 鳩羽一樹くん 朝霧達哉くん
     来栖秋人くん 鍋島志朗くん ヌワンギくん(尻子玉抜かれて死亡)】
 【状態:どヘタレ】

 保科智子
 【状態:死亡】

 深山雪見
 【所持品:みさき(近くに隠してある)・白虎の毛皮・ヘタレの尻子玉】
 【状態:牡牛座の黄金聖闘士・残りの材料を集める】

→453 →522 ルートD-2

294 終盤戦 :2007/01/15(月) 12:16:01 ID:TYm/Iw1E

何かが放物線を描いて飛来している。
それが札束や宝石だったらどんなに良かっただろう。
しかし飛んできているのはダイナマイト、初対面の挨拶としては少々派手な演出だ。
「く!」
宗一は瞬時に豪華過ぎるプレゼントに向けて狙いを付け、FN Five-SeveNの引き金を絞った。
どんなに傷付いてようと、Nastyboyは狙いを外さない。

ド……ガァァアンンッ!!

直後、轟音と爆風が巻き起こり、宗一と英二は後方へと吹き飛ばされた。
その衝撃は満身創痍の宗一の体を更に痛めつけたが、どうにか一命を取り留める事は出来た。
問題は―――祐一達の方だ。

ガァァ……アン……!

宗一達が態勢を立て直すのを待たず、再び響く爆音、周囲一帯を包む閃光。
今度は少し距離があったので宗一達「には」被害は無かった。


* * * * * * * * * * * * *


祐一が右を見ると秋子はまだ地面に倒れていた。
頭上に視線を戻すと、一直線に飛んでくるダイナマイト。
間に合う自信は無かったが、やるしか無い。
背負っている観鈴を無造作にその場に降ろす。
祐一は疲れた体に鞭打ち、地を蹴った。

火事場の馬鹿力というものか、普段の彼からは考えられない速さだった。
脇目も振らずに目標に向かって、走る。
助かりたいなら逆方向に走るべきだったが、それは許されない。
後ろには大事な仲間がいる。
地面に落ちたダイナマイトを拾い上げる。
仲間の為にも、少しでも、遠くに飛ばさなければならない。

「うおおおッ!」
野球の遠投のように、走りながら上半身を捻り、全力で投げ飛ばす。
ダイナマイトが明後日の方向へ飛んでいくのを確認せずに、
反対方向へ跳躍しようとし―――その寸前、視界を光が覆った。


* * * * * * * * * * * * *


「う……ん……」
強烈な衝撃を受け、観鈴は目を覚ました。
朦朧とする意識の中最初に視界に入ったのは、見知らぬ女性の横顔。
それも少し顔を動かせば口付け出来るくらい、近距離だ。
女性―――秋子の手は観鈴の背に回されていた。
秋子もまた、精一杯の力を振り絞って観鈴を抱きかかえ、可能な限りの退避行動を取っていたのだ。

「が、がお!?」
観鈴はすぐに秋子の手の中を抜けた。
それは恐怖ではなく、驚きからの行動。
見知らぬ人間に対しての反射的なものだった。

「え、えーと……あの……これは……?」
しどろもどろになりながらも、何とかそれだけ口にする。
秋子は答えない。
その体は震えている。
その目は別の方向へと、釘付けになっている。
観鈴もつられるように視線をやり―――見た。

295 終盤戦 :2007/01/15(月) 12:18:00 ID:TYm/Iw1E
「ゆ、祐一さん……?」
観鈴は確認するように呟く。
見違えるような姿だった。
祐一は血だらけになって、地面にうつ伏せで倒れている。
その背中はズタズタに引き裂かれており、目を凝らすとその奥に赤黒いモノが見えた。
「祐一さんっ!」
観鈴は痛む腹を意にも介さず、祐一の元へ駆け寄ろうとした。

パンッ!
その直後、すぐ先の地面が弾け飛んだ。
銃声のした方へ振り返ると、敬介を盾にした状態のまま、銃口をこちらへ向けているマルチの姿があった。

「外してしまいましたか。案外扱いが難しいものですね」
マルチは無表情にそう言うと、弾が切れた銃を捨て、機械的な(事実機械なのだが)手付きで残るダイナマイトを全て取り出した。
今度は四本。
さっきのような対処法では、もう防げない。


(くそっ、もうやるしかない!)
宗一は遂に覚悟を決めていた。
このままでは全滅は必至。それよりは、犠牲の少ない方を選ぶ。
FN Five-SeveNの貫通力ならば、盾にされている敬介ごとマルチに致命傷を与える事が可能だ。
銃口を標的へと合わせる。
しかし、弾丸が吐き出される事は無かった。
いつの間にかマルチの後ろから、影が忍び寄っていた。
黒い衣装を纏った銀髪の青年が、表情を変える事無く距離を縮めていく。
こちらへ注意を向けているマルチは、その事に気付かない。
すぐ背後まで辿り着くと、青年はマルチの頭を鷲掴みにし、地面へと叩きつけていた。
「そこまでだ。何があったのか知らないが、観鈴を狙う奴は許さない」
鋭い眼光を放ちながら、見下ろすその男の名は――――

「往人さん!?」
後ろの方で少女が叫ぶ声がした。
「……観鈴」
ようやく探し人を見つけ出した往人が反応する。
窮地に追い込まれたマルチにとって、これが最後のチャンス。
マルチはその一瞬の隙をついて、ダイナマイトに手を伸ばそうと駆けた。
往人はその背を掴むべく手を伸ばしたが、それは無意味に終わった。
「そうはさせないっ!」
―――油断無く構えていた英二が、引き金を引いていたからだ。
遅れて宗一も狙いを付ける。

パンッ!

銃弾がマルチの腹に突き刺さる。
それはロボットであるマルチにとって、致命的なダメージでは無かった。
しかし、動きを止めるには十分過ぎる威力。
宗一が狙うには、十分過ぎる隙。

296 終盤戦 :2007/01/15(月) 12:19:23 ID:TYm/Iw1E

「ゲーム・オーバーだ」

ダァァァンッ!

グシャッ!

二度目の銃声と、何か砕けるような音がした。

ドサ……と音を立て、マルチが地に沈む。

その体の首から上は、半分以上が無くなっていた。

マルチは、誰よりも優しい心のプログラムを持っていたロボットだった。
しかしこの島に来て、そのプログラムに異常をきたしてしまった。
雄二への狂信を植えつけられ、殺人への禁忌も消えうせた。
致命的なその異常を抱えたまま―――彼女の機能は、永久に停止した。



* * * * * * * * * * * * *

祐一はふと目を覚ました。
観鈴が傍で泣いている。
……不思議な感覚だった。

呼吸をするのも一苦労なのに、痛みを感じない。
体がもうロクに動かないのに、痛みを感じない。
目を開け続けるのも辛いのに、痛みを感じない。

そして―――もう自分の命が長くない事を悟った。

祐一は思う。
ハハハ……ざまあねえな。
感情に任せて突っ走った結果が、これだ。
大人しく俺だけ逃げていれば、こんな事にはならなかった。
思えばこの島に来て以来、俺はずっとそうだった。
理性よりも感情を優先させ続けた。
観鈴がまーりゃんに撃たれた時も、暴走しそうになった。
爆発音を聞きつけた時も、すぐ現場に向かった。
それもこれも、ゲームの開始直後に、悲鳴を聞きつけてからだ。
あの時に悲鳴上げた奴を、観鈴を放っておけばこんな事には―――

297 終盤戦 :2007/01/15(月) 12:21:20 ID:TYm/Iw1E

そこまで考えて、祐一は笑った。
駄目だな、そんな事できるワケねえよ。
女のピンチには駆けつけるのが、男ってモンだろ?
それにあの時助けに行ったから、観鈴は今生きてるんだしな。



「後ろにいる人が……国崎さんか……?」
多分、合ってるはずだ。
黒い服。そして、鋭い、というよりは悪い目付き。
間違いない。
「……ああ」
啜り泣いている観鈴の代わりに、国崎さんが、答えていた。
良かった……観鈴は探してた人と会えたんだな。
「観鈴をよろしく頼む」
「……分かった」
長々と話している時間はもうない。
国崎さんとの遣り取りは、それだけで済ませた。
気を抜くと意識が飛びそうになる。
だけどまだ話す事があるんだ、もうちょっとだけ持ってくれよ、俺の体。

「観鈴……」
「ゆ、祐一さあん……」
死ぬのが怖くないと言えば嘘だ。
でもそれ以上に、観鈴が泣いているのが、嫌だった。
「お願いがあるんだ、俺の……最後の願いだ。聞いてくれるか?」
「そんなの……! 最後だなんて、嫌だよ!」
観鈴は、ただ泣き叫んでいる。
くそっ、そんな顔をしないでくれよ……。

「まあ、良いから聞けって……。もう、四の五の言ってる時間も、無いんだ」
もう、自分でも驚くくらい、小さな声しか出せなかった。
だけど観鈴は、黙って話を聞く態勢になってくれた。
助かるぜ……怪我人は、大人しくしててくれ。

「観鈴……お前は死なないでくれ。英二さんも、秋子さんも……死んだら駄目だ。
お前達が死んだら、俺は何の為に死んだのか分からなくなる」
「祐一さん……」
「ああ、ああ……!任せろ、少年!」
秋子さんは、泣いていた。
英二さんも……泣いていた。
周りを見ると、知らないおっさんも、赤い髪の女の子も、泣いている。
知り合いじゃないのに……、ほんと、お人好しが多いんだな。
あんたらも、死なないでくれよ。
さて、最後の仕事だ―――

298 終盤戦 :2007/01/15(月) 12:22:23 ID:TYm/Iw1E

震える手で、観鈴の頬を伝う涙を拭う。
「泣くな観鈴……」
「……」
「今すぐにとは言わないけど、笑いながら、生きてくれ」
「―――!!」
観鈴が何かを叫ぶ。けど、もう聞こえない。
これで本当に……最後だ。
「明るく、笑いながら生きてくれ。それが俺の最後の――」
そこで手が落ちる。
もう喋る事すら出来ない。
視界が暗闇に覆われていく。
今まで知り合った奴らの顔が、次々と闇の中に浮かぶ。

舞―――お前無愛想だけど、良い奴だったな。
名雪―――結局世話をかけっぱなしだったな、すまん。
佐祐理さん―――元気でな。舞と逢えると良いな。
香里―――お前はもう死んじゃったんだな。今、俺も行くよ。
栞―――香里の事でショックを受けてるんだろうな。心配だぞ。
真琴―――お前ももう死んじまったんだな。あの世でも一緒に、肉まん食おうぜ。
北川―――俺の方が先に逝っちまうとはな。当分、こっち側には来んなよ。
そして―――最も親しい顔が、俺の前に現れた。


「あゆ……」
「祐一君、よく頑張ったね」
「そうかな……俺は、お前の分も頑張れていたかな……?」
「うんっ。祐一君、すっごい頑張ってたよ!」
「ずっと、見ていてくれたのか?」
「ずっと見てたよ。祐一君は本当に、頑張ったよ……」
「そうか……。じゃあ後は観鈴達に任せて、俺達は一休みといくか?」
「うんっ!」
あゆの手を取り、俺は歩き出した。

観鈴……英二さん……秋子さん……後は、よろしくな。


* * * * * * * * * * * * *

299 終盤戦 :2007/01/15(月) 12:23:05 ID:TYm/Iw1E


「はぁ……はぁ……」
―――無茶はするもんじゃない。

勝ちはしたが、予想以上にダメージは大きかった。
何度も倒れそうになった。
それでも環は、足を止めなかった。
時間は掛かったが、どうにか診療所に辿り着いた。
だが、全てはもう終わっていた。

「――――!」
環が見たものは、祐一の亡骸を抱いて泣きじゃくる観鈴の姿だった。


【時間:2日目・午前8時40分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数12/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、右太股重傷(動くと激痛を伴う)、腹部を銃で撃たれている(急所は外れている)】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態②:啜り泣き、意識はあるが背中に激痛悶絶、マルチに捕まっている、観鈴にはまだ気付いていない】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:啜り泣き、腹部重症(治療はしたが再び傷が開いた)。名雪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(6/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:啜り泣き】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:号泣、脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)】
国崎往人
【所持品1:トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:あかりと生き残っている知り合いを探す】
神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:啜り泣き、月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み(動くと多少痛みは伴う)】
向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:呆然、頭部から出血、及び全身に殴打による傷】

相沢祐一【死亡】
マルチ 【死亡】

【関連:540 590 626】
【備考:現場にレミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)、H&K VP70(残弾数0)、祐一、マルチの支給品一式が置いてあります】

300 修正 :2007/01/15(月) 12:26:01 ID:TYm/Iw1E
見落としてた……orz

>橘敬介
>【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
>【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
>【状態②:啜り泣き、意識はあるが背中に激痛悶絶、マルチに捕まっている、観鈴にはまだ気付いていない】
 ↓
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)】
【状態②:啜り泣き、背中に痛み】

301 名無しさん :2007/01/17(水) 00:17:29 ID:QTqZl7Mc
今更だけど平瀬村アナザー投下します、七瀬と耕一が書きたかっただけなんで尻切れトンボサーセン

302 乙女と修羅と化した鬼 :2007/01/17(水) 00:18:19 ID:QTqZl7Mc
残り、四人。それもほとんどの者が武装をしていない状態。
さっきまで奮闘していたメンバーは既に事切れている、唯一動けるであろうルーシー・マリア・ミソラも膝に抱えた春原陽平のおかげで身動きが取れない状況だった。
柏木千鶴は、勝利を確信していた。黒髪の少女と争っていた柏木耕一も無事に事を終えたようで、こちらに近づいてきている。
顔を向けると微笑み返してくれる彼の存在が心強かった。・・・・・・一人じゃない、その後ろ盾が千鶴の心の支えとなる。
ウージーを今一度構えなおす、これで戦局も終わりを告げるであろう。
ノートパソコンの所持者を抑えれば耕一、そして初音の首輪の問題も解くことが出来る。
運は千鶴の味方であった。

そう、この瞬間までは。


「なーにしてんのよおぉぉぉー!!!!」


それは、叫び。
聞き覚えのない少女の大声、背後から迫ってくる気配に慌てて千鶴は振り向いた。
徐々に大きくなってくる車輪音、ペダルを漕ぐチェーンの音から分かるその正体。
ジャリジャリと小石を踏み潰しながら場に躍り出たのは、一台の自転車であった。
その大胆な登場に唖然となる、自転車は最後の茂み・・・・・・そう、ウォプタルがちょうと飛んできた辺りの場所を突きぬけ千鶴の側面に飛び込んできた。
長いツインテールが、千鶴の目の前で勢いで揺れまくる。それは自転車に乗っていた少女のもの。
千鶴とるーこ達の間に滑り込んできた自転車は、キキーッと急ブレーキをかけいきなり止まった。

場に響くのは、操縦者の少女の荒い呼吸のみ。
余程急いできたのだろうか、上下する肩はまるで長距離を完走した後の陸上選手のようだった。
そんな彼女の背中を、長岡志保や吉岡チエといった戦局面に溶け込むことができないでいた面々も呆然と見つめるしかなかった。
いまだ尻餅をついた姿勢のまま身動きを取らない彼女等に対し、一瞬だけ目をやる少女。
すぐさま視線を戻す、射抜くが如く鬼気迫る睨みは千鶴と耕一の二人に向けられたものであった。

「何してんのよ、馬鹿じゃないの?!そんな簡単に人を襲うなんて・・・信じらんない!」

303 乙女と修羅と化した鬼 :2007/01/17(水) 00:18:54 ID:QTqZl7Mc
ストレートな言葉だった。その物怖じしない態度に、精神的タフさを感じる。
語気の強さに妹である柏木梓をどこか彷彿させる節があった、そんなことを思ってしまいすぐさまの対応ができなかった千鶴。
彼女がウージーを持ち直そうとした時には、少女は既に懐から取り出したであろうデザートイーグルをこちらに向けて構えていた。
小さく舌を打ち睨み返すものの、その瞬間目の前の少女の怒鳴り声が再び場に響く。

「武器を捨てなさいっ!!あなた達ね・・・・・・そうやって人を殺して、殺された人の関係者に何て言うつもりなのよ!!」

これまたひどく真っ当な台詞であった。だが、真っ当だからこそ返す言葉は難しい。
出来上がっていく不毛な会話の想像は容易い、はっきり言ってこのような人間と分かり合うことなんてできないのだから。
それは、彼女は修羅になる決意ができている身であったから・・・・・・そして、隣にいる耕一もそうであり。
そんな二人の間、すっと一歩前に出たのは血濡れの日本刀を手にした耕一であった。
今まで黙っていた彼は、膝を崩したままの千鶴を庇うように自転車の少女と対峙する。

「千鶴さん、下がってください。ここは俺が何とかします」

その背中の大きさに胸が高鳴る、頼りがいのある弟分の姿に安堵感が広がっていく。
そう、一人じゃない。一人じゃないから、やり遂げられるであろう・・・・・・どんな困難だろうとも。

「ありがとうございます、ちょっと足の感覚もなくなってきた所なので助かります・・・・・・」

素直にそう、口にする。投げナイフの刺さった場所からの出血はまだ止まっていない、細身ではあったが思ったよりも深く刺さっていたらしい。
千鶴は構えていたウージーを一端降ろし、傷の応急処置を始めようとする。
・・・・・・だが、顔を伏せた途端感じたのは一つの威圧感。
理由の分からない不快感、正体を見るべく今一度顔を上げた千鶴はあのツインテールの少女と即座に目が合った。

「ちづる・・・・・・柏木、千鶴?あなたがそうなの?」

跨っていた自転車から降り、その場に留めながら少女は耕一の向こう側にいる千鶴に向け視線を送り続けていた。
一歩踏み出され距離が少しだけ近づく、しかしその容姿に見覚えは感じられない。
どういうことかと考えた矢先、あの可愛らしい小動物のような彼女の姿が脳裏をよぎった。

304 乙女と修羅と化した鬼 :2007/01/17(水) 00:19:29 ID:QTqZl7Mc
「・・・そう。愛佳ちゃんに、会ったのね」
「あなたのことは話に聞いたわ、頼まれたのよ・・・・・・ゲームに乗ったあなたを止めてくれって」
「そうですか。でも、こちらも譲れませんので。手を引くわけにはいきません」

心の安らぎを覚えた彼女との時間、忘れることなんてできるはずはない・・・・・・しかし、それを封印してでも千鶴は前に進まなければいけなかった。

「事情は分からないけど、そういうことだ」

合わせられる耕一の声、生き延びるためにすべきことが明確な二人だからこその、頑なな態度であった。
・・・・・・そんな彼らの様子に、少女も落胆の吐息を落とす。

「そうやって、誰かを傷つけて。それによって傷つく人のことを考えたことがあるの?」

さっきまでの機関銃のような詰問とは一転、憂いを帯びた問いかけの中にはまるでせつなさが込められたかのような寂しさが含まれていた。

「考えないよ、今は。そんなことを思っていたら、こんなことできないからな」

けれど、そんな少女の言葉を耕一は一刀両断にする。
再び鋭くなっていく少女の瞳を飄々と見返しながら、耕一は血の滴る日本刀の切っ先を少女に向け構えてくる。

「これだから男は・・・・・・」
「何とでも言ってくれて構わない。俺達は、もう後戻りできないんだ」
「あんた達みたいな人がいるから、あの人みたいに悲しむ人が出ちゃうんだわ・・・・・・っ」
「悪いけど、君の事情を省みる余裕も時間もないんだ。すぐに終わらせてもらう」

口論が止む、少女と耕一の間に走る緊張感に千鶴も身構える。
耕一の背後で始まるであろう争いを傍観する立場になるであろう、そう。何もしなければ。
耕一の背にいる自分、少女の背後には自転車。そして、その後ろには怯えた役立たずが二人。それだけ。
ここが、決定的な差であった。
耕一にああは言ったものの、銃を手にする少女と対峙するのに日本刀では役不足であろう。
視線を這わせ、この中では異端者に入る部類・・・・・・るーこの様子を確認する。
膝に乗せていた陽平を背後に移しに、彼女も機会を窺っている。だがここから狙うには少々距離的にもきつい面があった。
集中して照準を合わせていたら、それこそ彼女が動き出すチャンスを与えてしまうかもしれない。
・・・・・・余計なことを考えず、千鶴は耕一に対する援護を優先することにした。
静かに、膝元に置きざりになっていたウージーを再び手に取る。少女は気づいていない。
少女と耕一の間の空気は張り詰めていて、両者互いの出方をまだうかがい続けている。
いきなり発砲してこないことから、彼女が人を撃つことに対し冷徹な考えを持っていないことは明らか。
その甘さにつけいる隙は、充分ある。
銃の先端をこっそり彼女に向ける、絶好のチャンスに気が高まった時だった。

305 乙女と修羅と化した鬼 :2007/01/17(水) 00:20:06 ID:QTqZl7Mc
「残念、チェックメイト」

これもまた、聞き覚えのない少女の声だった。
後頭部に感じる違和感で、千鶴は事態を瞬時に理解する。
振り向くことが許されない金属の感触に身動きが取れなくなる、焦りを抑えて千鶴は何とか言葉を紡いだ。

「いつの間に、と言えばいいのでしょうか」
「・・・・・・あなたが彼を信じて、自分は他の気配に集中していれば勝算はあったかもしれないわね。そこがあなたの敗因」

気がついたら、耕一も何事かとこちらを振り向いていた。
チエも、志保も。るーこも。視線は千鶴に集中する。
そんな現状に思わず苦笑いが浮かぶ、まさか自分が足手まといになるとは思わなかった。
そんな千鶴にかけられる声は、自転車の少女並みに気の強そうなはきはきとした物だった。

「動かないでね、あなたは今人質ってことになるんだから」
「ここで止めをさした方が、あなた方のためになるかもしれませんよ?」
「七瀬さんも言ってたでしょ。どうも、あなたを全うな道に戻さなくちゃいけないみたいなの」
「・・・・・・」

横目で見ると、自転車の少女・・・七瀬というのが彼女の名前なのだろうか。
彼女は耕一から離れ、少し遠い場所に落ちている元は黒髪の少女が振るっていた日本刀を手にしていた。

「ごめんなさい、柚木さん。そっちは任せたわ」
「任されても困るんだけどねー」
「ちょっと、ここに来て一番頭にきたの。・・・こんな考えの人を放っておくわけにはいかないじゃない」

デザートイーグルがスカ−トのポケットにしまわれ、彼女の装備はそれのみになる。
感覚を手に馴染ませているかの如く、何度か少女は日本刀を振った。
再び耕一の前に戻り、彼女はごく自然に型をとる。

「銃を使わないことで、同じ土俵に上がったつもりか?それが何になる」
「別に手加減しようっていう意味じゃないわよ。単に私の得意分野がこっちだったってだけ。それに・・・叩きのめすなら、こういう武器の方がお似合いかとも思うしね」

ここにきて、初めて少女の顔に笑みが浮かんでいた。

「来なさい。あんたの根性、叩きなおしてあげるわ」

挑発。自信に満ちたそれを、どこか客観的なものに千鶴は思えていた。
・・・・・・六つの視線に晒されたまま、少女は耕一を懐に誘う。
血のついた日本刀を耕一が振りかぶったのは、その直後だった。

306 乙女と修羅と化した鬼 :2007/01/17(水) 00:21:39 ID:QTqZl7Mc
【時間:2日目午前11時30分】
【場所:F−2・倉庫前】

柏木耕一
【持ち物:日本刀(血塗れ)・支給品一式】
【状態:マーダー、少し返り血がついている、るーこのパソコンを狙う、首輪爆破まであと21:15】
【備考:遠野美凪について調べる】

柏木千鶴
【持ち物:ウージー(残弾18)、予備マガジン弾丸25発入り×3、投げナイフ×1(血塗れ)、支給品一式(食料を半分消費)】
【状態:マーダー、るーこのパソコンを狙う、太ももに切り傷、左肩に浅い切り傷(応急手当済み)】
【備考:遠野美凪について調べる】

長岡志保
【持ち物:投げナイフ(残り:0本)・新聞紙・支給品一式)】
【状態:呆然】

吉岡チエ
【持ち物:支給品一式】
【状態:呆然】

春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(30分後爆発)・他支給品一式】
【状態:気絶、全身打撲、数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)】

ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品1:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)・スペツナズナイフ】
【所持品2:鉈・包丁・他支給品一式(2人分)】
【状態:状況を見ている、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】

柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:千鶴にニューナンブを突きつけている】

七瀬留美
【持ち物:日本刀・デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)】
【状態:耕一と対峙する・目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無】

以下のものは、止められた自転車のカゴに入ってます
【所持品1:デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1、H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン】
【所持品2:支給品一式(3人分)】

ウォプタル
【状態:特に何もしていない】

【備考:木彫りの星・志保と護の投げたナイフ計3本はそこら辺に落ちている】

(関連・572・605)アナザー

307 咆哮 -Heart of the Maelstrom- :2007/01/17(水) 12:21:30 ID:Tv3R/m3k

ポテトが、受身も取らず地面に叩きつけられる。

「―――ッ……!!」

毛皮の先についた幾つもの炎が、水に濡れて煙を上げた。
立ち上がることもできず、ただ足先を痙攣させるポテト。
勝利を確信したボタンが、舞へと視線を移す。
蒼白の少女は、刀を杖がわりに突いて震える身体を支えながら、自らの手で切り落とした
魔犬の尾の元へと歩み寄ろうとしていた。

「おい、嬢ちゃ―――」
「……待つ、ぴこ……!」

よろけながら歩く舞の背に声をかけようとしたボタンが、ゆっくりと振り向く。
ポテトは、全身の毛を焦がし、あるいは未だに煙を燻らせながら、必死で起き上がろうとしていた。

「……寝てろよ、駄犬」
「まだ……まだ、戦いは終わってなどいないぴこ……!」

がり、と地面を掻きながら、ポテトが顔を上げる。
口から離そうとしない杖の先が、地面を擦った。
そんな姿を見て、ボタンが冷ややかに告げる。

「……いいや。もう、終わってる」
「なんだと、ぴこ……?」

ボタンの目は、魔犬の銜えた杖を捉えていた。
その先端につけられた、大きな珠を指すように、顎を振る。

308 咆哮 -Heart of the Maelstrom- :2007/01/17(水) 12:22:05 ID:Tv3R/m3k
「よぉっく、見てみな」
「―――ッ!? な……なんだ、ぴこ……これは……!?」

それは、小さな罅であった。
言われなければ気づかないほどの、小さな小さな傷。
爪で引っ掻いたような痕が、宝珠の表面についていた。
ポテトの声が、これまでにない焦りの色を帯びる。

「あ、あり得ないぴこ……! 我が神のおわす杖に……傷などつくはずがないぴこ……!」

呟きながら、何度も何度も首を振るポテト。
眼前の現実を認めたくないというようなその素振りを、ボタンはどこか悲しげな瞳で見つめていた。
静かに、口を開く。

「―――そろそろ、幕引きといこうや、兄弟」
「な……ッ!?」

眦を逆立てたポテトの眼差しを真っ向から受け止めて、ボタンが続ける。

「……神なんざ、もういねえんだよ。どこにも。
 霜の巨人の壁の向こうにも、テメエの杖の中にも、な」
「そんなことは……ッ!」
「わかってる、ってか? いいや、テメエは分かってねえ。何一つ、分かっちゃいねえ。
 神話の時代は終わった。神々は去った。俺達は取り残された。
 口ではそうやって繰り返しちゃいるが、心の底じゃ、決して認めようとしねえんだ。
 いつか。きっと。……そんな言葉にすがって、生き恥晒してんのは俺だけじゃねえ。
 テメエもだ。テメエもそうなんだよ、兄弟」

兄弟、と聖猪は告げた。

309 咆哮 -Heart of the Maelstrom- :2007/01/17(水) 12:23:27 ID:Tv3R/m3k
「誰も言わねえなら、俺が言ってやる。
 誰も彼もが行っちまって、俺しか残ってねえなら、俺が引導を渡してやる」

魔犬は、無言。

「神は、死んだ」
「……」
「もう、戻ってこねえ」

どこまでも静かに、神話の獣が。

「俺達は、生き終わり損ねたんだ」

時代の終わりを、口にする。

「……ここらが、潮時だろうぜ」
「……」

梢を叩く雨音が、微かに響いていた。

「―――と、ぴこ」
「……?」

雨音に紛れて、ポテトが何事かを呟いた。
耳をそばだてたボタンに向けて、ポテトは今度こそ、はっきりと口にした。

「生憎と、ブタの言葉は心得ていないぴこ」

言葉と同時。
顔を上げたポテトが、大きく頤を開いた。
ボタンが飛び退いてから一瞬だけ遅れて、吹雪の白が辺りを満たした。

「ぴ……ぃぃぃぃぃぃぃィィィィィィ―――こぉぉぉォォォォォッッ!!」

魔犬の咆哮が、森を包む。

310 咆哮 -Heart of the Maelstrom- :2007/01/17(水) 12:24:06 ID:Tv3R/m3k
吐き散らされた吹雪に、木々が、雨粒が、凍りつく。
立ち上がることもままならぬその身を泥濘へと投げ出しながら、ポテトは渾身の力を込めて
周囲を極寒の世界へと変えていく。

「んな身体で今更、何をしようってんだ……!」

距離をとったボタンの言葉には応えず、ポテトは大きく開いたままの顎を、そのまま下に向ける。
小さな音がした。
長い、長い間、決して離すことなくポテトに銜えられていた魔杖が、地に落ちた音だった。
泥が撥ね、杖を汚す。

「なッ……! テメエ、何を……!?」

刹那、ポテトが視線を上げた。
その表情は、ボタンの目には、笑っているように、映った。

次の瞬間。
大きく顎を開いたポテトは、その鋭い牙を、自らの前脚に突き立てていた。
骨と骨が当たる硬い音が、そしてすぐ後にはそれを噛み砕く重い音が、雨音に混ざった。

「まさか……! おい、やめろ駄犬!」

驚愕と困惑の入り混じったボタンの声にも耳を貸すことなく、ポテトは己が右足に牙を食い込ませていき、
ついにはそれを喰い千切っていた。間を置かず、左の前脚に喰らいつく。
噴き出す血が、雨に溶けて魔犬の全身を、地に落ちた魔杖を緋色に染め上げていく。

ボタンが黄金の光弾となって飛び出そうとするが、間に合わない。
重く、湿った音と共に、ポテトは己が二本めの脚を、噛み千切った。
迸る鮮血が、泥に覆われた大地に吸い込まれていく。

慟哭にも似た魔犬の咆哮が、ボタンの耳朶を打った。
それは、紛うことなき呪詛。
肯んじ得ぬ世界への、訣別の声だった。

瞬間、空気が変わった。
ずるり、と風が吹く。
大気ばかりではない。雨粒、泥濘、塵芥といったものが、一斉に動き出していた。
渦を巻くように、それらは螺旋の紋様を描き出す。
その中心にあるのは、魔犬の血に染められた大地。
そして、倒れ伏しながら哭く、魔犬自身であった。

渦は瞬く間に勢いを強めていく。
周辺のあらゆるものが、渦に引きずられ始めていた。

311 咆哮 -Heart of the Maelstrom- :2007/01/17(水) 12:24:35 ID:Tv3R/m3k
 【時間:2日目午前6時すぎ】
 【場所:H−4】

ボタン
 【状態:聖猪】

ポテト
 【所持品:なし】
 【状態:魔犬モード・尾喪失・両前脚喪失】

川澄舞
 【所持品:村雨・支給品一式】
 【状態:肋骨損傷・左手喪失・左手断面に重度の火傷・出血停止も重度の貧血・奥歯損傷】

→639 ルートD-2

312 彼女のタイミング3 :2007/01/18(木) 01:59:47 ID:q4n3Qv2s
・・・・・・いつまで経っても、彼女が目覚める気配はなかった。
篠塚弥生に襲われ気を失ってしまった湯浅皐月の様子を窺う、呼吸はしているので命に別状はないだろう。
ほう、と小さく息を吐き、柚原このみは周囲を見回した。
弥生の遺体はまだそう遠くない場所に放置されている、このみの腕力ではそれを動かすことはできなかった。
・・・・・・目を覚ました皐月は、一体自分のことをどう思うだろうか。
このみにとって、それだけが気がかりだった。

(皐月さん・・・・・・お友達が亡くなっても泣かなかった皐月さん。このみとは全然違う皐月さん・・・・・・)

自分だったら、人を殺した人間を信用できるだろうか。
皐月が人を殺しても、彼女と道を共にし続けるだろうか。

(あはは、分かんないや・・・・・・想像もできないよ)

ぎゅっと手のひらを握りこむ。これから一体どうなるのか、不安は募る一方で。
一頻り泣いたことで何とか精神的にも落ち着くことはできていた、今度はこれからどうするかを考えなくてはならない。
まず皐月が目覚めない限り先には進めないというのもあるが、それまでにも荷物くらいはまとめておいた方が良いであろう。
ぽてぽてと、先の争いで散らばった銃の元へ近づいていく。
弥生の鞄には触る気にはなれなかった。彼女の傍にあるワルサーだけ手にし、今度は皐月の手にしていた元はこのみの支給品であった物を取りに行く。
ちょうど拳銃を胸に抱えたタイミングで、このみは背後から聞こえる衣擦れの音に気がついた。

313 彼女のタイミング3 :2007/01/18(木) 02:00:30 ID:q4n3Qv2s





むせ返るような血の匂いで、皐月は目が覚めた。
頭痛がひどい、ぼやけた視界で何とか現状を確認しようと半身を起こしてみる。
・・・・・・セイカクハンテンダケの効果の切れた彼女は、何が何だか分からないうちに弥生の攻撃を受け気を失ってしまった。
故に、今の自分の状況を理解できることなどできるはずもなく。
視線をさまよわせると、視界に二丁の銃を手にする一人の少女が入った。
少女の制服はよれよれだった、乱闘でもしたのだろうか。髪も、ぼさぼさであった。
そして、何より目についたのは・・・・・・暗闇でも分かる、服についた大量の染みであり。
少女はこちらを見つめ、首を傾げていた。そして、微笑んできた。
可愛かった、懐っこい表情であった。だが、その少女のすぐ後ろに。
身動きをとらない人間の塊が、あった。

「きゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

身動きをとらない人間は、水たまりの中で横たわっていた。
その水たまりの中に、金属の・・・棒のようなものがあった。
そのすぐ傍に愛らしい少女がいた、少女は拳銃を二丁持っていた。
少女の服には、大量の染みがついていた。

身動きをとらない人間は死体だ。水たまりはその人間の出した血だ。
愛らしい少女の服に染みがあった・・・それはきっと、その身動きをとらない人間の、血だ。

電気のついていない境内で色の認識などできない、しかし状況証拠はこれだけ揃っている。
ガチガチと歯が噛みあわない音が響く、皐月は腰をついたまま後ずさりをして何とか少女と距離を置こうとした。
どうしてこんなことになったのだろう、どうしてこんなことに巻き込まれたのだろう。
思考回路は恐怖で構成された、目に映る全てをその対象としか皐月は認識できなかった。
・・・微笑みかけてくる少女が不気味だった、何故こんな状況で笑っていられるのか気持ち悪かった。

「・・・・・・た、から」
「え?」
「あんたが殺したから!だから笑ってられるんだっ!ひどい、悪魔よ・・・・・・こんな、こんなっ」
「え、あ、あう・・・・・・」

314 彼女のタイミング3 :2007/01/18(木) 02:01:03 ID:q4n3Qv2s
反論をしてこない。少女は、ただ困ったように眉をハの字に寄せるだけだった。

「殺すんだ!きっとあたしを、あぁたしを、殺すんだっ!!イヤよ、絶対嫌よ・・・・・・死にたくない死にたくない死にたく」

ダンッと、肩が硬いものに当たる。
壁だった、もう逃げ道はなかった。
・・・こんなところで、何もしないで終わるのなんてまっぴらごめんだった。
宗一にも会えないで、エディにも会えないで、ゆかりにも・・・

(・・・・・・あれ、そういえば・・・・・・ゆかりは、どうしたんだっけ・・・・・・)

ズキンと、再び頭痛が起きる。
顔をしかめ頭を抑えると、少女がタタッと近づいてきた。
・・・・・・このみはただ、皐月の身を案じて動いたのだが、今の皐月はそんな彼女の心遣いに気づくことができるはずもなく。

「あああああ!!チャンスだと思ったんだ、あたしのぐあいがわるいと思ったからとどめを刺しにきたのねそうなのね!!
イヤよイヤ、殺人鬼!あっちいけええぇぇぇぇ!!!!」

震える足で立ち上がり、皐月はこのみを押しのけ全力で駆けて行く。
背後から自分を呼ぶ声が耳に入るが、それを認識するわけにはいかなかった。
手ぶらだった、自分の荷物を手に取る余裕すらなかった。とにかく、ここから離れることが最優先事項だったから。
・・・・・・皐月の姿は、あっという間に神社から消えていった。

315 彼女のタイミング3 :2007/01/18(木) 02:01:40 ID:q4n3Qv2s





(・・・・・・このみがいけないの?やっぱり、人を殺すようなこのみじゃダメなの?)

残されたこのみは、呆然と皐月が消えていった神社の入り口辺りを見つめていた。
理解できるのは、皐月が全力で自分を拒否してきたということ。
皐月が自分を見て、怯えていたということ。

(皐月さん、皐月さん・・・・・・)

はらはらと、止まったはずの涙が再び流れ出す。
このみの咽び泣く姿の隣、今度はあの人はもういない。





柚原このみ
【時間:1日目午後10時】
【場所:E−02・菅原神社】
【所持品:38口径ダブルアクション式拳銃 残弾数(6/10)・予備弾薬80発・ワルサー(P5)装弾数(4/8)・支給品一式】
【状態:号泣・貴明達を探すのが目的・制服は血だらけ】

湯浅皐月
【時間:1日目午後10時】
【場所:E−02】
【所持品:なし】
【状態:逃亡】

弥生の支給品(レミントン(M700)装弾数(5/5)予備弾丸(15/15)含む)は放置
皐月の支給品(セイカクハンテンダケ(2/3)・支給品一式)は放置
金属製ヌンチャクは弥生の死体付近に放置

(関連・530)(B−4ルート)

316 御許に安らけく 憩わしめたまえ :2007/01/18(木) 06:01:53 ID:yLmFZeYg

己がこれまで存えてきた理由を、ボタンは考えている。
天を翔けていた。誉れ高き神の乗騎と信じ、輝く日々を生きていた。
単なる愛玩道具に過ぎなかったのだと思い知らされたのは、黄昏を越えた最後の神族が、
とうの昔に唯一者に狩られていたと聞いたときだった。



魔犬は、己の血を鍵として大地に呪をかけた。
見限ったのだと、ボタンは思う。
神なき世を、主なき身を、終わりなき時を。
続き続ける苦痛を、存え続ける恥辱を、望み続ける絶望を、あれは手放したのだ。
血は流れ続け、魔犬は生き終わろうとしている。
待つものとてない黄泉路の道連れに、つまらぬ塵芥を供として。

それがいたたまれず、聖猪はその場を後にしようとしていた。
泥に塗れ、己が血に塗れた魔犬の姿は、明日の己だった。
薄汚く死を待っている、それを認めるのが煩わしくて、ボタンは目を逸らす。

放っておいても、呑まれるのは雨と泥と、血と狗だ。
無意味な死。空虚な呪詛。理解できない、結末。
狗の選んだ、それが葬列だというのならば、最早この場は何ももたらさない。

視線を上げたそこに、鬼斬りの少女が立っていた。



右手には、抜き身の刀。
大蛇の尾が刺さった刀身を引きずっていた。
幽鬼と見紛わんまで生気を失った少女が、ゆらりと歩を進める。
制止しようとする聖猪の声にも、何ら反応を返さない。

ひび割れ、血を滲ませたそこだけが赤い、青紫色の唇が、小さく動く。
爪、呑まれる、そう繰り返しているようだった。
半ば虚ろなその瞳は、ただ一点を見つめている。
歩みの先にあるのは、黒く盛り上がった土塊の如き躯。
両断された、鬼の遺骸だった。

ずるり、と足を引きずりながら、少女が鬼へと取りつく。
抱きしめるように、あるいは口づけをするように身体を預けると、少女は赤黒い血のこびりついた右手を、
ゆっくりと持ち上げた。退魔の刃が、雨に濡れて煌く。
無造作に振り下ろされた刃が、細かく皹の入った鬼の手首へと差し入れられる。
最早流れ出る血もないものか、小さな皮膚の欠片だけがぱらぱらと散らばった。

差し入れ、引き戻し、鋸を引くように、少女は徐々に鬼の手を切り裂いていった。
その間にも、鬼の躯は周囲の泥濘ごと呪詛の渦へと引きずられていく。
その様を、ボタンはじっと見つめていた。

それは、生に倦んだ死を、踏み拉くかのような、命のあり方だった。

317 御許に安らけく 憩わしめたまえ :2007/01/18(木) 06:02:33 ID:yLmFZeYg

一刺しごとに、鬼の手首が裂けていく。
皹は傷となり。
傷は輪となって。
ついには、鬼の手が、千切れた。

己の顔を覆うほどの大きな手を、少女が大事そうに抱きしめる。
その身体が、ぐらりと揺れた。
少女が身体を預けていた鬼の躯が、渦の中心に達していた。

地に空いた、薄暗い、小さな穴。
そこから、魔犬の顔だけが、覗いていた。
牙が、鬼の躯を噛み砕く。
ひと噛みで、両断された顔の上半分が失われていた。

うまそうに、狗が喉を鳴らす。
ただ一声、怨、と哭いた。

鬼の腕が、噛み裂かれた。
肩が、飲み込まれた。

揺れる足場に、少女が倒れた。
もとより、立ち上がる力とて残ってはいなかった。
狗の顎が大きく開き、涎が糸を引いた。

少女の瞳が、並んだ牙を映した。
頤が閉じる。

刹那、小さな光が奔った。同時に、じ、と布の焦げる臭い。
そして、肉の焼ける匂いがした。
狗が、吼える。

318 御許に安らけく 憩わしめたまえ :2007/01/18(木) 06:03:07 ID:yLmFZeYg


地面に転がったのは、少女、川澄舞だった。
受身も取れず、顔からぬかるみに落ちる。
それでも手は、蛇の尾の刺さった刀と鬼の手を抱きしめて放さない。

眼に入った泥を拭おうとして、泥に塗れた袖ではそれも叶わず、空を見上げて入る雨粒で眼を洗う。
ぼんやりと下ろしたその霞む視界に、奇妙な光景が映っていた。

地面に空いた、小さな暗い穴から、大きな犬の頭だけが突き出ている。
その頭だけの犬が、黄金に輝く猪の首筋に、しっかりと噛み付いていた。
傷口からぶすぶすと煙が上がっているが、犬はその牙を緩めない。
溢れ出る血潮が、白銀の犬の毛、泥に塗れたその毛皮を洗い流していく。

小さな声が、した。
とめどなく血を流す、猪の声のようだった。

殺してくれ、と。
震える声で、猪は言った。

死にてえのよ、と。
震える、それでも確かに笑みを含んだ声で。
苦しそうに、楽しそうに、猪は輝いていた。

舞が、大蛇の刺さったままの刀を、時折痙攣する手で持ち上げる。
跪くように、上体を起こした。
切っ先を下に向け、猪の腹へと静かに押し当てる。

ありがとうよ、と。
小さな声が、聞こえた。

柄頭を肩に当てる。
そのまま大地に身を任せるように、体重を刀に預けた。
身を焦がす炎熱を放つはずの毛皮は、何の抵抗もなく刃を受け容れていた。

ずるり、と。
猪を貫いた刃が、そのまま犬の首を、一刀の下に断った。

それが限界だった。
断末魔の声を聞くこともなく、川澄舞はその場に崩れ折れていた。

319 御許に安らけく 憩わしめたまえ :2007/01/18(木) 06:03:29 ID:yLmFZeYg


命の終わりを感じながら、ボタンはひどく満たされている自分に気づいていた。
長い時間の中で記憶の彼方に置き忘れてきた、それは高揚だった。

 ―――ああ。我らは、ただ戦の中で、死にたかったのだ。

それは、ひどくちっぽけな、自尊心だった。
生まれ、生きることに意味を見出し損ねた自分達は、ならば死をもって主に殉じたかった。
ただ、それだけのことだった。

狗も死に際に笑うはずだと、内心で苦笑する。
互いに、こんな簡単なことにも、気づかなかったのだから。
その狗はといえば、退魔の刃に頭蓋を断たれ、一足先に旅立ったようだった。
怨嗟の渦も、既にその力を失っている。

傍らに倒れ伏す少女、雨に打たれるその小さな身体を、聖猪は見やる。
生き延びることは難しかろうと、そう思う。
何を望んだのかは知れぬ。
しかし少女は生の限り、人の身の限りを超えて、何かを追い求めていた。
その姿が、この生き終り方を思い出させてくれたのだとしたら、己は少女に報いねばならぬと、聖猪は思う。
しかし、残された力はあまりにも小さく、何程のこともできそうにはなかった。

ならばせめて、その身体を蝕む寒さから解き放ってやろう、と。
聖猪は最後の力を振り絞り、小さな焔を作り出す。
風に揺らめくその焔は、しかし雨に打たれても消えることはなかった。
蒼くも、朱くも見える小さな灯火は、ゆっくりと少女の身体へと吸い込まれていった。
ほんの微かに身じろぎする少女。
それを見届けて、聖猪は目を閉じる。

少女が、その生の最期に良い夢に恵まれることを祈りながら。
ボタンは、長い生涯を、終えた。

320 御許に安らけく 憩わしめたまえ :2007/01/18(木) 06:04:21 ID:yLmFZeYg


 【時間:2日目午前6時すぎ】
 【場所:H−4】

ボタン
 【状態:死亡】

ポテト
 【状態:死亡】

川澄舞
 【所持品:村雨・支給品一式】
 【状態:瀕死(肋骨損傷・左手喪失・左手断面及び胴体部に広く重度の火傷・重度の貧血・奥歯損傷・意識不明・体温低下は停止)】

柏木耕一
 【状態:死亡】

→647 ルートD-2

321 深夜の奇襲3 :2007/01/23(火) 01:50:57 ID:O1m.R34I
柚原春夏は最大のチャンスを逃したことに対する苛立ちを隠せず、思わず舌を打った。
反動が余りにも大きいマグナムを手懐けるのは難しすぎた、そんな彼女が次に取り出したのは河野貴明の支給品であるRemington M870であった。
ショットガンなので狙撃には向いていないが、それでも彼女の所持する他の銃に比べれば充分マシな照準で飛んでくれる。
棒立ちで会話をする来栖川綾香等を狙った時、既に銃を取り替えていたらという後悔は隠せない。
そう、あのチャンスに満ちた奇襲が失敗に終わった時。春夏は自分の射撃能力の低さを実感するしかなかった。

今までほとんど静止している相手を撃つ形をとっていたからか、彼女の戦闘経験というものは皆無である。
動いている的を狙うことすらも初めてだった、住井護を討てたのも不意打ちという条件があったから成り立ったものである。

(このままじゃ朝になっちゃうわ・・・)

正直、この失敗を糧にまた次の獲物を探しに行きたい衝動に駆られている。
最初は使われていなかった銃を相手が所持していることを知ったこともあり、分の悪さは実感済みだった。

(でも・・・相手は、逃げることをまず第一に考えているだろうし。何か、何かきっかけがあるはずよ・・・)

春夏は粘った、相手が隙を見せる所を。
逃げ出そうとするその背中、ひたすらそれを狙おうとするが・・・やはり、今一歩の所で命中はしないのだった。




一方、柏木耕一は再び頓着状態になる場に対する苛立ちを隠せず、思わず身じろぎをした。
綾香が走り去ってから、既に数十分経過している。
気配を窺いながら離脱しようとする度に飛んでくる銃弾、隠れればまたあちらも動きを止め。それの繰り返し。
残弾を確認する、装着されたトカレフの弾は・・・三発。
これ以上の応戦は厳しい、相手が詰め寄ってきたら耕一も打つ手がなくなる。
自身をちょうど隠せるくらいの木、その後ろに身を置き今一度視線だけを這わせてみる。
しかし夜ということもあり、一寸先すら月の光の照らさない場所は目視できない。
辺りが森という条件も邪魔しているのであろう、視界は絶望的だった。

322 深夜の奇襲3 :2007/01/23(火) 01:51:43 ID:O1m.R34I
条件的には相手も同じなので、あちらもそれで苦戦している面はあるだろう。
だが、それを抜かしても対面する春夏に対し、耕一は疑問を感じてしまう。

(・・・・・・じゃあ、何であの人はこっちを追い詰めようとしないんだ?)

確実に仕留めるのであれば、少しせまるだけでも耕一にとっては脅威である。
むしろ山頂にて争っていた距離感の方が、恐ろしさは数倍だった。
装備的にあちらが無理をしているようには見えない、むしろかなり好き勝手に発砲してくるのでその所持する銃弾の数にも限界がないように思える。
ならば、何故詰め寄ってこない。つっこんでこない。

(・・・・・・服の上に着込んでいたのは、防弾チョッキとかの類だよな?)

それだけの好条件を、彼女自身理解しているのだろうか。
そんなことを考えていた耕一の脳裏を、一つの結論が弾き出す。

(試して、みるか)

一か八か、だが決着をつけるのであればそれしか思いつかなかった。
いつまでもこんなことを繰り返していたら朝になってしまう、それに先ほど別れた仲間達と合流することだって時間が経てば経つほど難しくなっていくのは分かりきった事実である。
彼女の放つ銃弾で居場所の検討はついている、耕一は手にするトカレフ握る手に力を込め、そして。
一気に、走りこんだ。勝負を決めるために。

静まり返った森の中、耕一の駆ける足音だけが響く。
いきなり接近を図ってくる耕一に向かって春夏のショットガンも火を吹くが、ジグザグと的にならぬよう機敏に動く彼にそれが当たることはない。
弾道を見極め、耕一はあっという間に春夏との距離を縮めていった。
そしてついに、相手の姿を目で捉えられる所まで接近することに成功する。
・・・・・・耕一自身、人を撃つことに対し躊躇するような思いは全く持っていなかった。
勿論相手にもよるが、このようなゲームに乗って暴れるような輩に対し慈悲をかけてやる気など到底なかった。
その冷徹さの正体は彼自身も気づいていない、しかし与えられた状況を耕一は・・・・・・いや、鬼は。
逃すはずが、なかった。

323 深夜の奇襲3 :2007/01/23(火) 01:52:20 ID:O1m.R34I
迷いなど一切ない素早い動きでトカレフを構える、次の瞬間その引き金は連続して引かれていた。
放たれた銃弾は二発、それは正確に春夏の防弾アーマーに撃ち込まれる。
さすがの春夏も衝撃で尻餅をつく、その手からショットガンがこぼれた場面を目にし耕一は勝機を確信した。




この武装の差で彼が逆転できたのは、春夏自身の覚悟の違いに他ならない。
そもそも春夏の覚悟というのは「ゲームに乗って人を殺す覚悟」であり、「自分が死んでもいいから相手を殺す覚悟」ではない。

つまり、春夏も恐れているのだ。自身の、死を。
十人殺さなければ娘は死ぬ、だが自分が死んだ時点でもそれは同じ。
人を殺して、自分は生き抜くということ。
危険なリスクに乗ろうとしない、その姿勢を見抜いた耕一にストレートに攻め込まれたことで、今度は春夏の方が追い込まれる立場になった。

絶体絶命の春夏、トカレフに残った最後の一発で止めを刺すべく、耕一はさらに彼女に近づいてくる。
しかし春夏の執念も、ここで簡単に諦めがつくほど浅いものではない。
・・・・・・また、彼女の手数というのも取り落としたショットガンだけではない。それに固執する理由もないのだ。

警戒しながら近づいてくる耕一を横目に、春夏は自分の鞄の中身を漁った。
金属の塊が指先を掠める、先ほどまで使用していたのだから目的の物は簡単に見つけることができたようだ。
立ち止まり再び照準をこちらに合わせるべく耕一が構えをとろうとした時点で、春夏もマグナムをしっかりと握りこんでいた。
それは鞄の中という彼の視界には映らない場所で行われていた準備、彼女の姿勢のおかしさに耕一が気がついた時にはもう遅い。
正確な射撃をとろうとした、そのために敢えて作った間が仇となる。
なりふり構わず鞄の中から引き出した手の勢いで春夏は発砲してきた、耕一が身構える暇もなくそれは彼の利き腕を掠っていく。
めちゃくちゃな照準であったがお互いの距離が近いことが利点へと働いたことになる、くぐもった声を上げ膝をつく青年を見て今度は春夏にチャンスが訪れる。
二の腕辺りが赤く染まる様を冷静に一瞥し、その手からトカレフが取り落とされたことを確認した後春夏はそっと距離を詰め始めた。
顔を上げようとする青年の額にマグナムの切っ先を押し付ける、悔しそうな表情に罪悪感が沸かないでもないが・・・・・・春夏はそんな思いを表面には出さず、一定の声色で話しかけた。

「残念だったわね」
「本当だよ。ここまで来て、か」

324 深夜の奇襲3 :2007/01/23(火) 01:53:31 ID:O1m.R34I
近づいて見て初めて分かったが、彼の腕の傷自体はそこまでひどくなかった。
あくまで少し掠れただけなのであろう、出血も既に止まっている。
もし耕一がトカレフを離さず掴み続けていたら、対抗することもできたかもしれない。
だが結果はこれだ。
今までかわされ続けたマグナムの弾丸も、この距離では外れないであろう。
慈悲のない春夏の視線が物語る未来、意気込んでいた青年も全てを諦めたかのように苦笑いを浮かべ始める。その時だった。

風が、一陣の風が音を立てて場を包む。
それと同時に鳴り響くのは靴音、地面に生い茂る草木を踏み潰す軽快なリズム。
余りにも唐突であった接近に、二人ともすぐには反応ができないでいた。そして。

「・・・・・・そこまで」

次の瞬間場に響いたのは、凛とした少女の声だった。
聞き覚えのあるそれに反応し、耕一は思わず視線を上げる。
春夏の背後、チラチラと目に映るのは夜風で舞う黒髪とひらひらと揺れる赤いスカートだった。
耕一の知っている彼女の髪は束ねられていた、今は解放されているがどうやら人違いでもなさそうで。
心当たりは、一人しか思いつかなかった。

「耕一、遅くなった」
「馬鹿野郎・・・・・・でも、サンキュ」

マグナムを耕一にあてがう春夏の首には、川澄舞の持つ日本刀の刃がほんの少しだけ食い込んでいた。

325 深夜の奇襲3 :2007/01/23(火) 01:54:14 ID:O1m.R34I
柚原春夏
【時間:2日目午前3時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
【武器(装備):500S&Wマグナム/防弾アーマー】
【武器(バッグ内):おたま/デザートイーグル/レミントンの予備弾×20/34徳ナイフ(スイス製)】
【状態:このみのためにゲームに乗る】
【残り時間/殺害数:9時間49分/4人(残り6人)】

柏木耕一
【時間:2日目午前3時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(1/8)・大きなハンマー・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:春夏と対峙、右腕軽症、柏木姉妹を探す】

川澄舞
【時間:2日目午前3時半】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:日本刀・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:耕一の援護に、祐一と佐祐理を探す】
【備考:髪を下ろしている】

Remington M870(残弾数1/4)は周辺に落ちている

(関連・558・578)(B−4ルート)

326 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:31:14 ID:n2kR5K4o
――静かな朝だった。いつも彼女が寝ている、よく知っている彼女の家で、穏やかな日常に相応しく、柔らかな日光が窓から降り注ぐ。
そして、起き上がった水瀬名雪はなんて酷い夢を見ていたのだろう、と思った。
たくさんの人が殺し合う夢だった。
いきなり訳も判らず武器を持たされ、見も知らぬ孤島へと放り出された。武器の内容は――よく覚えていない。きっと混乱していたせいだろう。
『夢の中の』島で襲われたことは鮮明に覚えていた。まず目つきの悪いいかにも凶悪殺人犯、というようないでたちの男に襲われ、次にナイフを持った歪んだ笑い方をする女に切りつけられ――
そして恐怖が限界に達して、意識を失おうかというときに母、秋子が助けてくれて――そこで夢が醒めたのだった。
随分と悪趣味な夢だった。いつもはまだ眠気が残っているはずの頭から、きれいさっぱりとお掃除したかのように眠気が吹き飛んでいた――最近、ホラームービーを見たわけでもないのに。
けれども、これが夢なのだと分かって、名雪は心からの安堵を覚える。いや、夢に決まっていたのだ。友達や家族で殺し合うなんて――そんなこと、現実に有り得るはずがなかったのだから。
「…あっ」
時計を見る。短針が八の数字、彫心は十一の数字を指しかけている――遅刻だ。ま、いつものことだけれど。
どうせなら、一回くらい思いきり遅刻してもいいかもしれない、と名雪は思った。こんな悪夢から覚めた朝なのだ。一日くらい戻ってきた日常の味を噛み締めても、バチは当たらないだろう。
「――けど、祐一を待たせるわけにはいかないよね」
いつものように名雪への文句を垂れている、その家族の姿を思い浮かべる。言葉が今にも聞こえてきそうで、名雪はふふ、と笑った。
そうだ、今日は祐一やあゆちゃん、真琴を誘ってみんなでイチゴサンデーでも食べに行こうかな。
理由は何でもいい。とにかく、みんなで楽しく騒いで、あの夢をワンシーンでも多く消し去りたかった。
「そうだ、それがいいよね」
ぽん、と手を叩いて自らの案に満足する。――そして、一刻も早くこのことを伝えようと、名雪は思った。
祐一も、あゆちゃんも真琴も、きっと頷いてくれるよね。

327 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:31:58 ID:n2kR5K4o
いつもより数段早いスピードで着替え、自分の部屋を後にし、きっと美味しい匂いが広がっているであろうリビングへ向かった。
「おはようございま…」
朝の挨拶をしかけて、名雪は異変に気付いた。
皆が皆、机に突っ伏して寝ているのである。まるでいつもの名雪のように。
「もう…みんな、どうしちゃったの? もう八時前だよ?」
そんな時刻に起きてくる名雪が言えた台詞ではなかったが、文句を言っておく。――しかし当然のように、皆返事をしない。よく見れば、食事もまだ作られていなかった。
「仕方ないなぁ…ほら、真琴、起きて」
手近にいた真琴を揺さぶって――すると、ぶしゅ、と真琴の背中から何かが吹き出し、名雪にまともに降りかかる。
「わ…っ!?」
一瞬、どうなったのか分からなかった。『それ』は何だか生暖かくて、そして赤い色をしていた。
「え? え…?」
目の前の異様な事態に対応できず、困惑した声を出しながら名雪は一歩、後ずさる。真琴は、いつのまにか床に赤い水溜りを作って――その中央に佇んでいた。
「ま、まこと? あ…あ、ど、どうしよう、どうなったの? お母さん…そうだ、お母さん、大変、真琴が、真琴が!」
同様に寝ている秋子に駆け寄りこちらも揺さぶろうとして――少し揺らした時、ゴト、と何かが外れる音がした。
「――え?」
信じられない光景。名雪の目の前で、我が母親の頭と胴がきれいに切り分けられていたのだ。
当然、秋子が生きているはずがない。
きれいなピンク色をしている首の切り口を見た瞬間、名雪の脳にあの恐ろしい悪夢がフラッシュバックする。
――嘘だ! あれは夢、ただの出来の悪い夢だったのに!
必死で否定するが、たちまち体に震えが広がっていく。何が何だか分からない。どうして、皆死んでいるのか。いや、でも、誰かがいない――
「あ、そ、そうだ、祐一が、祐一がいな、いないよ? ゆういち、どこ、どこ…?」

328 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:32:31 ID:n2kR5K4o
真っ白な頭で、それでもまだ僅かながらに残っていた祐一に助けを求める。
早く来て。一体何がどうなっているの――
恐怖に耐えかねて、しりもちをついたときに、ガタン、と玄関が開く音がした。
「ゆ…祐一?」
――そうだ! きっとそうだ! 祐一が私を助けに来てくれたんだ! ああ、それにお母さんや真琴を助けてもらわないと――
希望と絶望が入り混じり、泣き笑いの表情を浮かべながら玄関へと走る名雪。
「祐一っ! お母さんが、真琴が!」
顔についた『それ』を拭いもせず、ひたすら助けを求めて叫ぶ。
――だが、玄関にいたのは全身血まみれになり、傷だらけになっている祐一の姿であった。
「――う、な…なゆ…き、か」
「――ゆ、ゆう…祐一っ!」
言うが早いか駆け寄り、血がつくのも気にせず祐一の体を支える名雪。
「祐一っ、どうしたの、ねえ、一体何がどうなってるの、教えてよ祐一!」
「く、くそっ…痛てぇっ…に、逃げろ名雪、さつ、さつ、じん、き、が――」
力を振り絞るように祐一は言うと、そのままがっくりと項垂れ、動かなくなった。
「祐一っ!? 祐一ぃっ!」
一心不乱に体を揺すってみてもどうにもなりはしないのだが、それでもそうしないわけにはいかなかった。
だって、あれは夢、夢なのに――
きぃ、ともう一度扉が開く音がした。
「なんだ、まだ生き残りがいたのか」
夢の中で聞いた、凶悪な殺人鬼の声。そんな、まさか、という思いで顔を上げる。
間違い無い。確かにそれは、あの『夢の』中で見た、最初に出くわした――
「じゃあ、死んでもらうか」
――黒服の、目つきの悪い男だった。
そして、ゆっくりと手に握っていた拳銃を持ち上げ、名雪の額に押し当てる。
「じゃあな」
やけにリアルな音がして、名雪の意識が暗転した。
     *     *     *
目を覚ましたとき、そこにはあの黒服の男はいなかった。
何秒か経って、名雪はあれも夢だったのか、と認識するに至る。――とすれば。
寝汗で張りつく前髪を払いながら、恐る恐るカーテンの隙間から外を確認してみる。
――そこは紛れも無い、あの『夢の中』の世界だった。
「わたし、わたし…まだ、ここにいるんだ」

329 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:33:05 ID:n2kR5K4o
自分がまだ生きていることに、名雪は不思議な感慨を持った。先程見ていた本当の悪夢で、殺されていたからかもしれない。
「――そうだ、祐一」
思って、すぐに名雪の中であの光景が蘇った。
全身に傷を受け、ぼろぼろになって死んでいった祐一。
まだ無事な名雪を見て、逃げろと言って死んでいった祐一。
そして、同時に助けを求めていたようにも見えた祐一。
今、祐一はどうしているだろう? これが夢でないとするならば――
これは続いている、まぎれもなく続いている。
そして、この瞬間にも、祐一はあの黒服のような人間に襲われ、命を落としかけているかもしれない――そう思うと、名雪の体に震えが走る。
「嫌…そんなの、絶対に嫌だよ…」
七年前のあの雪の日から、ずっと祐一の事を想い続けてきた。それはこんな狂った状況でも変わりなく。
会いたい。抱きしめたい。言葉を交わしたい。一緒にいたい――
祐一に対する欲望と失う絶望が入り混じり、さらに悪夢の影響で、名雪の精神はかなり擦り切れていた。さらにこの部屋の暗闇が、恐怖を増長する。
――それが、名雪に錯覚を起こさせた。
『わたし、わたしはどうしたいの?』
「…えっ?」
部屋のどこからか聞こえてくる、妙に懐かしい声。それが、昔の自分の声だと気付くまでに、数秒を要した。
『正直に答えて。ね、わたしが一番したいことって、なあに?』
どうしてこんな声が、と考える余裕はすでに名雪にはなかった。心のままに、名雪は答える。
「…祐一と、一緒にいて、いつまでも、一緒にいたい」
『そう、だったら、そうできるようにしようよ』
「そうできるようにって…わたし、どうすればいいの?」
『簡単だよ。わたしと、祐一以外の、みーんなを殺しちゃえばいいんだよ。そうしたら、何に怯える事もなくなって、いつまでも大好きな祐一といられるよ』
「みんなを…殺す…」
それは、今まで思いつきもしなかった魅力的な提案だった。

330 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:33:39 ID:n2kR5K4o
――この時、名雪は見つづけた悪夢のせいで既に正気を失っていたのかもしれないが、それでも、まだいる同居人の存在を思い出して、ぎりぎりのところで踏みとどまった。
「で、でも…まだ、お母さんや、真琴もいるし…」
『そんなの後にしちゃえばいいじゃない。――それに、もう、真琴だって殺されてるかもしれないよ? お母さんだって、分からないよ?』
確かに、そうだった。名雪が殺さなくても、祐一を殺そうとする殺人鬼が真琴や秋子を襲わない保証などどこにもない。
『ね、やろうよ。祐一を守るために』
よりいっそう、耳元で囁いたように大きな声になる。ほとんど、名雪の良心が消えかけていたところに――
「――みなさん聞こえているでしょうか。これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください。今までに死んだ人の名前を発表します」
男の声が、いきなり聞こえてきた。死者の発表。それにはじかれるように、全神経を集中してその放送に聞き入った。
次々と、読み上げられていく死者の名前。そして、その中に――
「――52番、沢渡真琴」
その名前で、名雪の中にある何かが切れた。
そこに追い撃ちをかけるように、声が呟いた。
『――ね、言った通りだよ。もう真琴も殺されちゃった。だから、みんな、殺そ?』
その囁きに、名雪はゆっくりと頷いた。
「うん、そうだね、それしかないよね。わたしが頑張らなきゃ…わたしが頑張って、ゆう、いちを、守らなきゃ」
今までとは打って変わったような力強い足取り。妙に落ち着き払っている呼吸。――そして、取り憑かれたかのような、濁った、狂気を孕んだ瞳。
殺す、殺す、みんな、殺す――
水瀬名雪の思考は、人を殺す、ただその一点に絞られていた。
     *     *     *
名雪が狂気に彩られる少し前。放送の直前になって、るーこと澪の二人が起きだしてきた。
「…うーへい、どうして起こしてくれなかった」

331 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:34:15 ID:n2kR5K4o
開口一番、るーこが言ったのは交代で見張りをすると言っておきながら朝まで替わらなかった春原に対する不満の声だった。
「嘘つきだぞ、うーへい。嘘は『るー』ではとても思い刑罰だ。首ちょんぱになる」
冗談じゃなさそうなるーこの語気に、春原は冷や汗を浮かべて弁解する。
「い、いや、起こそうとはしたんだけどさっ、あまりに気持ち良さそうに寝てたから起こすに忍びないと思ったというか、無我の境地で見回りしてるうちにいつのまにか夜明けを迎えたというか…」
必死に身振り手振りを交えてるーこの機嫌を取ろうとする。ああ、こういうのを何と言ったか。そうだ、蛇に睨まれたカエルか? いや、違うような…
「まあまあ、陽平さんは好意でやってくださっていたんですからここは大目に見てあげましょう? これから朝食を作りますから気を取りなおして下さいね」
夜明けまで主に外の見回りをしていた秋子が戻ってきて、るーこを諭す。年長者の言葉だからか、渋々ながらもるーこは素直に聞き入れ、分かった、と言った。
「けど、次からは必ず見張りは交代だぞ。うーへいにだけ重荷を背負わせるわけにはいかない」
見ると、るーこの目には本気で春原の事を心配している、そんな感じがしていた。
「るーこ…」
朝日が差し込む民家に流れる、ほんのりとした甘い空気。ビタースウィートなカップルの惚気、今なら特売、お安くしていますよ――そんな空気に耐えかねたのか、澪がこっそりとスケブで愚痴る。
「『バカップルなの』」
一方の秋子は、まるで気にした様子もなく、見張りをしていたときの武器をテーブルに置き、いそいそと朝食作りに励んでいた。
「…そうだ、一つ重大な情報があるぞ」
しばらく春原と見つめ合っていたるーこが、思い出したかのように言葉を発し、ため息をついていた澪の肩に手をかける。
「うーみおもこれから一緒に行動することになった。よろしくしてやれ、うーへい」
「え? 澪ちゃんも一緒に?」
昨日は外に出るのを躊躇っていたのに。気付かない間にるーこが説得していたのだろうか。
「『足手まといにはならないように努力するの』」
別にそんなことは気にしていなかったが、けれども、とにかく一歩踏み出してくれる勇気を持ってくれてよかった、と春原は思った。
「いいよ、大歓迎さっ。秋子さん、いいですよね?」

332 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:35:01 ID:n2kR5K4o
「了承」
一秒だった。決断の早い人だなあ、と春原は感心する。が、「ただし」と秋子が付け加える。
「くれぐれも無茶はしないでね。いい?」
うんっ、と澪が大きく頷く。それに満足したように微笑みを浮かべると、秋子はまた朝食を作り始めた。
「そうだ、これを返しとくよ」
話が一段落したのを見計らって、春原がウージーをるーこに手渡す。
「いいのか?」
「いいも何も、元々るーこの支給品じゃないか。僕はこっちで十分さ」
リビングの隅にまとめてあるデイパックから、本来の支給品であるスタンガンを取り出す。最大で100万ボルトもの電圧を生み出すそれは、人を殺すまでにはいかなくとも一発で気絶させられるだけの威力を備えている。
正直なところ、銃は向いていないと春原は思っていた。撃ち損じて致命傷になってしまったら取り返しがつかない。
その点はるーこも同じだが、まあ、彼女なら間違いはないだろう。勘だけれど。
スタンガンを取り出した時に、聞くのは二回目となる、あのくぐもったスピーカー音が響き渡った。
「――みなさん聞こえているでしょうか。これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください。今までに死んだ人の名前を発表します」
一気に、その場にいた全員が氷漬けになったように、動きを止めていた。秋子すらも、包丁を止めて放送に耳を傾けていた。
少し間を置いた後、よく聞いておけと言わんばかりのゆっくりとした声で名前が読み上げられていく。
春原は心中で妹の無事を願う。頼むぞ、頼むから生きていてくれよ。
妹が、芽衣が自分より先に死ぬはずがない。何たってあいつは要領がいいし、それに性格からして危害を与えるような奴じゃない。大丈夫、大丈夫――しかし、どこかで、もしかしたらという危惧はあった。
そして、それは現実のものとなる。

――春原芽衣

あ…と、春原の口から声にならない声が出た。嘘だろ?あの出来のいい妹が、自分より先に逝ってしまうなんて――しかし、これは現実、まぎれもない現実である。否定できなかった。
だって、春原達は既に巳間良祐という人間に襲われて命からがら逃げてきたのだから。
「…うーへい」
春原、という名字で全てを察したのか顔を、どこかのしがない画家が描いた絵画のようにしている春原に何か声をかけて慰めようとする。

333 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:35:35 ID:n2kR5K4o

――深山雪見

「なっ…」
今度はるーこが、そして澪が絶句する。澪はスケッチブックをごとん、と取り落としていた。
せんぱい、とこちらは口だけをぱくつかせ(実際澪は声が出せないのだが)、血の気の引いた顔で壁に体をつけて、へたり込んだ。
一方の秋子も、内心動揺は隠せなかった。沢渡真琴が死亡していた。あのこは、とても大切な家族、そう、何が何でも守りたい内の一人であったのに。
それでも、秋子は平然としているように振舞わなければいけなかった。自分は年長者だ。皆の模範となって、落ちつかせなくてはならない。
「陽平さん、澪ちゃん…どうか、気を落とさないで下さい」
何と陳腐で、心のこもっていない言葉なのだろうと秋子は思ったが、それでも気を取り直してもらうにはとにかく言葉をかけなければならない。
「――ねえ、秋子さん、僕の行動って…やっぱり間違っていたんですかね?」
先に反応したのは、春原だった。
「思うんです。やっぱり、自分一人だけでも先行して、芽衣を探しに行けば…どこかで、見つける事が出来たんじゃないかって」
涙声だった。頬を伝うものを拭おうともせずに、ひたすら懺悔室で罪を告白するように。言葉を並べる。
「そんなの、可能性の一つにしか過ぎないってのは、バカな僕でも分かります。ですけど…やっぱ、こんなにあっさりと名前が読み上げられると…間違っていたんじゃないかって思わずにはいられないんです」
「…それは違う、うーへい」
首を振って、るーこが春原の首に手を回し、息がかかるかかからないかのところまで、顔を近づけていた。
「間違っていない、絶対、うーへいは間違っていないぞ。るーはうーへいが間違ってないと、信じてる」
理由も何もなかった。しかし、そんなに自分を責めないで欲しい、と言っているように春原には聞こえた。自分一人だけで、苦悩を抱え込むな、と。
るーこは、だから、と一旦言葉を切ってから顔を少し離し、目と目をつき合わせる。
「信じろ、うーへい」

334 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:36:09 ID:n2kR5K4o
何を? と以前の彼なら言っていただろうが、今はるーこの言わんとしていることが分かる。
行動を、思いを、仲間を、そして、生きて帰れる事を。
「――ああ、そうだね…芽衣もこんな僕の姿なんて望んじゃいないはずだ。それに…まだこの放送では藤田や川名はまだ呼ばれてない…あいつらだって、きっと頑張ってるはずだ。澪ちゃん、まだ川名は探せる。まだ川名は死んでないんだ。行こう、探しに」
それまで、ずっと口を閉ざしていた澪に声をかける。まだ雪見の死のショックから立ち直れていないのか(それも普通は当たり前であるが)、ぼろぼろ涙をこぼしていた澪だが健気にそれを拭って、うんっ、と頷いた。
秋子はそんな彼らを見ていて、きっとこの子達なら、わたしがいなくても大丈夫ね――と、心中で思っていた。想像以上に彼らの精神は強い。引き止める理由など、ない。
「…でも、その前に腹ごしらえしたいね。さっき泣きまくってたせいで腹減ったな…はは、カッコ悪い」
心持ちなさげに腹部を押さえる春原。それで少し緊張がほぐれたのか、澪も少しだけ笑みを見せた。
秋子が、「あらあら、それじゃあすぐに作りますね」と言い、再び料理を始めようとしたときだった。
澪の背後から、人影が現れた。
「…おっ? 秋子さんの娘さんの…なゆ」
現れた名雪に声をかけようとした春原が、彼女の異変に気付いた。いや、それは予感に近いものであった――雰囲気が、何かまともじゃない!
「澪ちゃん! 逃げろっ!」
えっ、と澪が背後の名雪を振り向いたときには、既に名雪が、秋子のデイパックから持ち出していたスペツナズナイフが、澪の胸部に深々と突き刺さっていた。
そのまま、名雪はぐりっ、と無理矢理ナイフを上に押し上げて澪の生命を完膚なきまでに削り取った。
最後まで何が起こったのか理解できないまま――上月澪は、目を見開いて、死んだ。
「う…うーみおっ! …貴様っ! よくもっ!」
ウージーを構え、今すぐにでも発砲しようとするるーこを上からウージーを押さえつけて動きを制する春原。

335 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:36:46 ID:n2kR5K4o
「何をする! こいつに、うーみおが、うーみおがっ!」
「やめるんだ! 今ここで撃ったら、秋子さんまで敵に回すことになるぞ!」
ハッ、として背後の秋子を見やるるーこ。――そこでは、秋子が呆然とした顔で、それでも本能的にとった戦闘体勢は崩さぬまま、春原達の方向を向いていた。
空間的には、水瀬親子に囲まれていることになる。状況は、春原側の方に不利だった。
「くそっ」
るーこが毒づき、秋子の方へウージーを向ける。発砲はしないが、牽制は怠らない。
ピクリ、と秋子の体が動きかけて、それを何とか押し留めるようにして、震えた声で名雪に話しかける。
「――名雪? 今、いま、一体…何をしたの?」
その声はただ震えていた。名雪が、まさかこんな蛮行に走るとは思いも寄らなかったからである。
さてその水瀬名雪と言えば、いたって冷静な――むしろ感情を殺したような、冷たい目線を秋子に向けて、
「何してるの、お母さん? 早くその人たちを殺してよ。敵だよ? この人たち」
何をボサッとしているのか、というような口ぶりだ。秋子はその一言で、名雪がもう二度と取り返しのつかない世界へ入ってしまったのだ、と知る。
「やめて…名雪。ね、いい子だから…お願い、お母さんの言う事、聞いて?」
それでも、秋子は説得を試みる。我が子が、殺人鬼になってしまうなど耐えられない事だったからだ。
しかし当の名雪は、半ば懇願している秋子を見捨てるように「もういいよ」と吐き捨てた。
「じゃあ、わたし一人でやるよ。結局…祐一を守れるのはわたしだけなんだから!」
血に染まったスペツナズナイフで春原に突進する名雪。陸上部の部長という肩書きは伊達ではなく、一瞬にして距離を詰める。
ロケットだ、と春原は思った。400馬力のハイパワー。お買い得だと思いますけど、お客さん?
「冗談キツイっての!」
ヘッドスライディングの要領でナイフを回避して澪の死体が転がっているところまで逃げた。
そこで、解剖されかけたカエルのような澪の死体が、春原の目に入る。ちくしょう、ホラームービーだ、まるで。ついさっきまで、言葉を交わしてたっていうのに!
「うーへい!」
るーこは動けなかった。春原を援護すれば秋子が動く。秋子が動かないのは、まだ春原やるーこに対する保護者としてのストッパーが働いているからだ。だが、それはいつ外れるか分からない。
わずかな動きで、いともたやすく外れてしまう。
攻撃を外した名雪はと言えば、るーこを狙う事なくすぐに反転して春原に斬りかかる。動けないるーこよりも動ける春原の方が脅威と判断したからだ。

336 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:37:24 ID:n2kR5K4o
「くそっ! るーこ、こらえてくれっ! 僕が必ずなんとかするっ」
必死で名雪の斬撃を回避しつつ、スタンガンのスイッチを入れた。後は、当てられさえすれば!
腕を伸ばし、スタンガンを押し当てようとするが、しゃがまれて下から斬りつけられた。今までに経験した事のない、ホンモノの痛みが春原の腕から神経を伝わり、脳へ届いた。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
スタンガンを取り落としかけるほどの激痛。だが、手放しはしない。これは名雪を傷つけずに倒せる、唯一の武器なのだから。
「好き勝手にされてたまるか!」
攻撃直後の隙を狙いスタンガンを振り下ろそうとして――名雪が、スペツナズナイフを奇妙な持ち方をしているのに気付く。柄の部分を、まるでスイッチを押すような持ち方だ。刃の先は、当然春原の方を向いている。
朝で薄暗い部屋の中だというのに、それはやけに輝いて、春原の目に写っていた。
タン、と軽い、まるでばねのおもちゃのような音がして、ずぶりと肺の部分に何かが突き刺さる。
――ナイフの、スペツナズナイフの刃だった。
「そんな…仕込みナイフかよっ…ついてねえや」
ひゅー、ひゅー、と呼吸が荒くなる。口にも何かが込み上げ、舌が鉄の味を感じ取る。やがて、足が感覚を失って、春原は床板にどさりと倒れこんだ。
「そ…そんな、うーへいっ! 冗談はやめろっ!」
今すぐにでも駆け寄りたかったるーこだが、それはできない。何故なら、水瀬名雪が春原との間に立ち塞がっているからだ。また、秋子の存在もあった。
その名雪は、柄だけになったスペツナズナイフを投げ捨てて、今度は机の上に置いてあった――料理を始める前、秋子が置いていた――ジェリコ941をおもむろに手に取り、るーこに標準を合わせた。
「くそっ…!」
ウージーの標準を合わせようとするも、既に構えている名雪より先に発砲出来るはずもなかった。
ここまでか、とるーこは思った。
しかし名雪の発砲は、バチッという甲高い音と共に中断された。名雪の体が硬直し、でく人形のようになる。そして、その音の原因は。
「――言ったろ、好き、勝手に、させるか…って」
肺の部分から盛大に血を流し、口から血を吐きながらもここまで這いずって来た、春原陽平だった。手には、スタンガンを持って。
言い終えた直後、肺から突き上げてくる痛みに耐えきれず、口から大量に血が吐き出され、春原はまるで他人事のように、あ、こりゃ死んだな、と思った。
「うーへいっ! 大丈夫か、しっかりしろっ、るーが助けてやるぞ!」
ぼんやりしていて、るーこの顔がよく見えなかった。――ああ、いや、焦点が合ってないのか。頼むよ、僕の目。ボロのカメラじゃないんだから。
「安心しろ、るーの力で…そんな傷なんて…だから死ぬなっ、うーへいっ、うーへい…」

337 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:38:08 ID:n2kR5K4o
るーの力というのが何のことだか分からなかったが――もうどうでもいいや。それより、女の子がそんな顔してちゃだめだろ? 台無しじゃないか。
…いや、これって僕のせいだよね、ちくしょう、最後に女の子泣かせるなんて、なんてカッコ悪いんだよ。ああ、くそっ、そんなバカなことを考えてる場合じゃないんだ、逃げないと、出来るだけ遠くに。
「も、もう…僕の事は…いいから、武器と、にも、つを持って、ここ、から、逃げろ」
「そんな事が出来るか! 約束しただろう、生きて帰るって、また、うーさきや、うーひろと…合流して…」
死に際になって、初めて春原はるーこの、ものすごく女の子らしい側面を見たと思い、それから、るーこが好きだったことに今更気付いた。グレイト、なんて要領の悪い。
「はっ、は…肺を…やられてる。こ、こればっかりは…ブラックジャックでもどうしようもないさ…だ、だだだ、だからら、たのた、頼むよ、僕ののの、かわりに――」
唇が震えて、まるでビビったチキン野郎のような声だった(あ、そりゃ正しいのか)。けれども、最後の言葉だけは、はっきりと伝えなくちゃいけない。これはとても、大事なことだ。
「――最後まで、戦ってくれよっ」
言えた。僕にしてはいい出来だったんじゃないか? そう思って、春原は笑みの形を浮かべた。
それをどう受け取ったのかは分からないが、ともかく、るーこは、「…分かった…」と感情を押し殺すように呟いて、部屋の隅に置いてあった春原とるーこの荷物を引っ掴み、澪の死体を乗り越えて屋外へと逃走した。
残ったのは、春原と、気絶した名雪を抱きかかえている秋子だった。るーこが逃亡したのを見計らったように、秋子が何事かを呟いたが――既に春原の耳はそれを捉えることが出来なくなっていた。
だんだん、心臓の音も鼓動の感覚が広くなってきた。もう、一分と経たない内に、死ぬだろう。
――思った。クソ、芽衣、もうお前のところまで行きそうだよ。ついさっき生き残るって決意したってのに。
――思った。るーこ、お前には死ぬよりつらいことを背負わせてしまったかもな、ごめん。
――思った。岡崎、杏、ざまあねえや。
――思った。ああ、美味いメシが、食いてえっ…せめて、僕は――
そこまで思ったときには、彼の心臓は、活動を停止していた。まだ思い残すことがあったのか、決して満足な顔ではなかった。



こうして、春原陽平は、ここで息絶えたのだった。

338 名雪の戦争 :2007/01/23(火) 21:38:34 ID:n2kR5K4o
【時間:2日目6時30分】
【場所:F−02】

水瀬秋子
【所持品:木彫りのヒトデ、包丁、殺虫剤、支給品一式×2】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】
春原陽平
【所持品:スタンガン・支給品一式】
【状態:死亡】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)、支給品一式×2】
【状態:民家の外へ逃亡。服の着替え完了】
上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:死亡】
水瀬名雪
【持ち物:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:肩に刺し傷(治療済み)、気絶。マーダー化】

【その他:スペツナズナイフは刃が抜け、床に放置されています】
B-10

339 三人 :2007/01/27(土) 14:49:27 ID:5P7WLVFw
診療所の一室で、傷付いた秋子と観鈴は寝息を立てている。
その部屋で、環、敬介、往人の三人は情報交換を行なっていた。
思い思いに、それぞれがそれぞれの経緯を語る。
一通り話を終え、往人がその内容を確認する。
「つまり、観鈴はまだ晴子が死んだ事を知らないんだな?」
「ええ。私はまだその事を教えてませんし、もう少し時間を置いてから教えるべきだと思います」
「そうだね……」
歩んできた道は違えど、観鈴を思う気持ちは変わらない。
だからこそ揃って憂いの表情を浮かべ、溜息をつく。
そのまま三人は黙り込んでしまった。

静寂の中、時だけが経過してゆき―――
やがて、往人がポツリと呟いた。
「なあ、敬介」
「何だい?」
「晴子は―――」
「……やり方は間違っていたけれど、晴子は最期まで観鈴の為に戦いながら逝ったよ」
「……そうか」
再び訪れる沈黙。
そして往人は、かつての生活へと思いを馳せた。


終わりの無い、永き旅路の途中で観鈴と出会った。
観鈴と晴子と、三人で暮らしたあの家での生活。
旅人である自分にとって、それはあくまで一時的な物に過ぎなかった筈だ。
しかし彼女達との生活には自分が忘れかけていた暖かさが確かにあった。
陽気で豪快で、時に暴走しがちな性格の晴子であったが―――嫌いじゃなかった。
酒盛りの相手をさせられた事も、人形を撥ねられた事も今となっては懐かしく感じられる。
もう―――あの日々は戻らぬ思い出になってしまったのだ。

ベッドで眠っている観鈴へと視線を移す。
観鈴は母親の死を乗り越えられるだろうか。
分からない……いや、きっと大丈夫だ。
観鈴は強い子だから。
そう、信じたい。







340 三人 :2007/01/27(土) 14:50:23 ID:5P7WLVFw
往人達とは別の病室。
宗一と葉子は体を回復させるべく、睡眠を取っている。
英二はソファーに座り、身を休ませている。
そんな中、リサは栞が使っているベッドのすぐ傍で椅子に腰を落としていた。
「栞、気分はどう?」
「薬を飲んでぐっすり寝たら、だいぶマシになりました」
「良かった。本当、一時はどうなるかと思ったわ」
流石に診療所というだけあって、薬は一通り揃っていた。
解熱剤のお陰で栞の熱は下がった。
全快にはもう少し時間を要するだろうが、まずは一安心だ。
リサが安堵の息を吐いていると、あかりがお盆を持って病室に入ってきた。
お盆の上には湯気を上げている茶碗が沢山置いてある。
「皆さん、おかゆはいかがですか?」
「Oh!美味しそうね」
「ありがとう、あかり君。頂くよ」
英二が軽く礼を言い、差し出される茶碗を受け取る。
あかりは会釈した後、リサと栞の分を配ろうとした。
「栞、ちょっと待って」
「?」
リサは栞の分のおかゆを手にした。
一同の疑問の視線に気付く事なく、何度か息を吹きかけてから、栞にそれを渡す。
「はい、冷ましたから安心して食べてね」
「あ、ありがとうございます……」
いささか過剰な気遣いに面食らっている栞。
その様子を見た英二はぷっと吹き出した。
「英二、どうしたの?」
「いや失敬。まるで親子みたいで、おかしくてね」
我慢出来ずに、ついついまた笑ってしまう英二。
あかりも釣られて笑い出した。
笑い続ける二人とは反対に、リサと栞は見る見るうちに頬を膨らませる。
「……それって私がママで栞で娘って事?私はまだまだ若いわよ」
「そんなこと言う人嫌いです……私、こう見えても高校生なんですからねっ」
「う……」
一応紳士であるつもりの英二としては、女性二人に批難されたままなのは頂けない。
英二は慌てて謝罪を始めていた。
あかりも笑う事を止めて、椅子に腰掛けた。

(そう言えば……この島に来てからこんなに笑ったの、始めてかも)
おかゆを口にしながら、あかりはふと、そんな事を思った。
絶望的な状況なのに、ここにいる人達は皆明るく振舞っている。

―――しかし忘れてはいけない。

341 三人 :2007/01/27(土) 14:51:04 ID:5P7WLVFw
ここに来たばかりの時、リサは言った。
『栞には祐一が死んだ事は話さないで頂戴』
あかりにはリサがそう言った理由が簡単に分かった。
栞の姉、美坂香里は自分の暴走のせいで死んでしまった。
続けざまに探していた人に死なれては心へのダメージが大き過ぎるだろう。
……もう大勢の人間がこの島で命を失っている。
生き残った者も皆、深い悲しみを抱えている。
誰一人として、例外無く。
この島は―――地獄なのだ。








怪我人達の治療も、情報交換も、食事も、終えた。
そして、診療所の玄関で、往人、あかり、環の三人は出立しようとしていた。
見送りに来たのはリサ、英二、そして敬介だ。
「あなた達、もう行くの?」
「そうだ。俺には観鈴の他にも守りたい奴らがいる……あまり遠くには行けないが、せめてこの村くらいは探索しておきたい」
聖、美凪、そしてみちる。
この二人の名前は放送で呼ばれていなかった。
出来る事なら彼女達も見つけ出して、守りたい。
それにあかりの探している人間もまだ見つけていない。
ここで自分だけのうのうと過ごす気にはなれなかった。
「でもこの村の何処かに殺人鬼が潜んでいるかもしれない。やっぱり僕も行った方が……」
「駄目です、英二さんまで来たらここの守りが薄くなってしまいます」
この診療所には多くの怪我人がいる。
いくらリサといえども一人で守りきれる範囲には限度がある。
守りに就く人間は多いに越したことは無かった。
英二もその点は十分に分かっているので、すぐに頷いた。
続いて往人が口を開く。
「敬介も……」
「ん?」
「俺が戻ってくるまで、観鈴をよろしく頼む」
「端からそのつもりさ。安心して行ってきてくれ」
今や観鈴の唯一の肉親となってしまった敬介。
しかしだからこそ、信頼度という点ではこの上無い。
彼が付いていてくれれば、自分がいなくても観鈴は大丈夫だと思う。
危ないのは、英二の言う通り自分達の方だ。
細心の注意を払って動かねば、ミイラ取りがミイラになってしまうだろう。
手にした銃を見つめる。
自分はまだ銃を一回も撃っていない。
いざ戦闘になった時に、狙い通りの場所に弾が飛んでくれるだろうか。

そんな事を考えていると―――突然、近くの部屋の扉が開いて。
「往人さんもいなくなっちゃうの?」
「―――!」
そこには、観鈴が立っていた。

342 三人 :2007/01/27(土) 14:52:35 ID:5P7WLVFw
【時間:2日目・午後1時30分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数12/20)】
【状態:左肩重傷・右太股重傷・腹部重傷(全て治療済み)、まずは睡眠をとって体の回復に努める、それからの行動は後続任せ】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て治療済み)】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:睡眠中、腹部重症(治療はしたが再び傷が開いた)。起きた後の行動は後続任せ】
緒方英二
【持ち物:H&K VP70(残弾数0)、ダイナマイト×4、ベレッタM92(6/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式×2】
【状態:健康】
神尾観鈴
【持ち物:フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:脇腹を撃たれ重症(治療済み)】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:健康】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:軽度の風邪】
鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式】
【状態①:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、動けるが痛みを伴う)。一応マーダー】
【状態②:まずは睡眠をとって体の回復に努める、それからの行動は後続任せ】
国崎往人
【所持品1:ワルサーP5(8/8)、トカレフTT30の弾倉、ラーメンセット(レトルト)】
【所持品2:化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:氷川村を探索しようとしている】
神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:氷川村を探索しようとしている、月島拓也の学ラン着用。打撲、他は治療済み】
向坂環
【所持品①:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)、包丁、ロープ(少し太め)、支給品一式×2】
【所持品②:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:氷川村を探索しようとしている、頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)】


(関連655 ルートB-13)

修正:
>>341
>この二人の名前は放送で呼ばれていなかった。
 ↓
この三人の名前は放送で呼ばれていなかった。

343 名無しさん :2007/01/27(土) 14:56:55 ID:5P7WLVFw
それとルートB13の全キャラが放送の時間帯を越えたので
479b13 第2回放送(ルートB-13)で呼ばれる死者の部分に沢渡真琴を追加お願いします
お手数をおかけして度々申し訳ございません

344 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:09:27 ID:LWltYFXE

鬼教官の名は、伊達ではなかった。

「男は体力! まずは基礎体力作りから始めるわよ!」

七瀬の言葉に容赦はない。
とても逆らえる雰囲気ではなかったが、とりあえずそろそろと手を挙げてみる冬弥。

「あの、七瀬さん……」
「教官と呼びなさい」
「では、教官……」

即座に言い直す。

「何か質問でも? つまんないこと言ったらはっ倒すわよ?」
「あ、いえ、だったらいいで……」

言い終わる前に、殴られていた。

「男なら言いたいことは最後まで言い切る!」
「は、はひ……」

腫れた頬を押さえながら、涙目で答える冬弥。

「……で、質問は何? モタモタしてると左のほっぺたも真っ赤になるわよ?」
「ぐ、グーはもう勘弁してください!」
「だったらさっさと言う!」
「は、はい……! ええっと、体力づくりって何をするんでしょ……」

言い終わる前に、左の頬に鉄拳がめり込んでいた。

「登山」
「こ、答えるなら何で殴ったんだ……?」

345 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:10:00 ID:LWltYFXE
青い顔で呟いた孝之が、七瀬にぎろりと睨まれ、慌てて目を逸らす。

「つまんないこと訊くからよ。前もって訊いたからってメニューが変わるわけでもなし」
「ひでぇ……」
「……何か?」
「いえ、何でもありません、教官!」

わかればよし、と頷く七瀬。おもむろに遥か彼方を指差す。
その指の先を、おそるおそる見やる冬弥たち。
木々の切れ間から見えていたのは、

「あれって……」
「地図によれば、神塚山……だったか?」
「ダッシュ」
「……え?」

聞き返した瞬間に、殴られていた。

「走りなさいって言ってんの!」
「ひ、ひぃぃ!」

そこからは、地獄だった。


******

346 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:10:43 ID:LWltYFXE

「ぜぇ……はぁ……」
「おぇぇ……」
「ったく、だらしないわねえ……」

神塚山、山頂。
腕組みをした七瀬が、うずくまる二人を呆れ顔で見下ろしていた。

「どうして男が女の子より力が強いか、わかってる? いざって時に女の子を守るためよ!
 なのにあんた達ときたら……」

はあっ、と大きなため息をつく七瀬。

「……もういいわ、しばらく休憩にします」

うずくまる二人は、呼吸を整えるのに精一杯で返事すらしない。
心底から情けなさそうな顔をして、七瀬は一人、その場を離れる。
近くの平らな岩に座り込んで、またもや特大のため息をついた。

「あんなんじゃ女の子を守るどころか、逆に守ってもらうことになるわよ……」
「―――同感じゃな」
「ひゃあっ!?」

突然背後からかけられた声に、七瀬が文字通り飛び上がる。

「だ、誰!?」
「驚かせてしまったようですまんの。わしは―――」

慌てて振り向いた七瀬が見たのは、厳しい顔つきをした一人の老人であった。
とうに楽隠居していてもおかしくないような歳に見えたが、ぴしりと黒の三つ揃いに身を包み、
背筋は微塵も曲げることなく、真っ直ぐに立っている。
その顔に刻まれた無数の皺が、深い人生経験を物語っているようだった。

「―――長瀬源蔵。来栖川の家令を勤めておる者じゃ」

347 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:11:14 ID:LWltYFXE
声の張りも見事に、老人は名乗った。
そして文句のつけようのない、見事な一礼。
つられて七瀬もぺこりと頭を下げる。

「く、来栖川って、あの……?」
「知っておるなら話が早いの。そう、来栖川のお嬢様方が酔狂でこの催しに加わっておってな。
 わしはそれを連れ戻しに来たんじゃが……」

そこで、源蔵は眉根を寄せる。

「色々と、手違いがあるようでな。お嬢様方の居場所が掴めなくなってしもうた。
 残された気を辿ってはおるが、この島にはどうにも強い気が多すぎていかん」
「はぁ……」
「そこで、じゃ」

ずい、と顔を近づける源蔵。
話の流れが掴めずに聞き流していた七瀬が、思わずのけぞる。

「な、なんですか!?」
「お主ら、お嬢様方を見かけんかったかの」
「い、いえ、見てませんけど……」
「本当に?」
「は、はい」
「ふむ……ま、綾香お嬢様はかなり羽目を外しておられた様子……。
 出会っておれば、お主らただではすまんだろうしの」
「わかってもらえたら、顔を離してほしいんですけど……」
「おお、すまなんだな……む?」

邂逅が平和裏に終わろうとしていた、そのとき。
事態を致命的に悪化させる者たちがいた。
いわずと知れた、ヘタレどもである。


******

348 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:11:38 ID:LWltYFXE

「お、おい、あれを見ろ……!」

孝之が指差したのは、七瀬が頭を下げて一礼した、その場面であった。
見やった冬弥が色めき立つ。

「誰だ、あの爺さん……いつの間に!?」
「七瀬さ……教官、何か謝ってるぞ……?」
「まさか、因縁つけられてるのか……!」

勘違いもはなはだしかったが、勝手に盛り上がっていくヘタレども。
その脳裏には、つい先刻の七瀬の言葉が浮かんでいた。

『どうして男が女の子より力が強いか、わかってる? いざって時に女の子を守るためよ!』

絶好の機会というわけだった。
ヘタレもヘタレなりに、頑張ろうとはしているのだった。
丁度そのときである。二人の見ている先で、源蔵が七瀬に顔を近づけていた。

「爺さん、なんて破廉恥な……!」
「七瀬さんが危ない……!」
「お、俺たちで教官を助けるぞ……! ヘタレボールを出せ、藤井君!」
「よ、よし、わかった!」

俺たちで助ける、と言ったその舌で助っ人に任せようとする二人。
その行為に何の疑問も持っていない。

「よし、来栖秋人くん―――君に決めた!」

冬弥の投擲したボールから、一人の少年が飛び出してくる。
引き締まった筋肉質の体つきが頼もしい。

「何だかわからんが、あの爺さんをぶっ飛ばせばいいんだな!」
「ああ、頼んだぞ!」

349 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:12:09 ID:LWltYFXE
一直線に駆けていく来栖の背を、信頼をこめて見守る二人。
その目の前で、

「―――ぐぁらばっ!!!」

来栖の身体が、弾け飛んでいた。

「「……え?」」

驚愕に漏らした声が、ハモった。


******

350 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:12:41 ID:LWltYFXE

(あの……バカども……!)

七瀬は内心で頭を抱えていた。
引き攣るこめかみを、必死で押さえる。

「……お嬢さん、説明してもらえるかの?」

老人が、目を細めている。
その眼光から、温度というものが失われていくのがわかった。
白い手袋からは鮮血が滴っていた。
振り返ることもせず、裏拳一発で来栖を文字通り木っ端微塵に破壊せしめた拳である。

「あの……ですね……、あれは……その」

口ごもる七瀬を色の無い眼で見やると、源蔵は飛び散った血飛沫の前にへたり込む、冬弥と孝之へと視線を移した。

「……お嬢さんがご存じでないなら、あちらの二人に直接聞くとしようかの」

言いながら、血塗れの拳を握りこむ源蔵。
ざり、と磨き上げられた革靴が山肌を踏みしだく。

「ちょ、ちょっと待ってくださ……!」

七瀬が血相を変えて源蔵に手を伸ばそうとした、その瞬間。

「―――ちょっと待った、爺さん」

山頂に、新たなる声が響き渡っていた。


******

351 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:13:23 ID:LWltYFXE

「……む?」

源蔵が足を止め、声のほうへと振り向く。
声は、山肌に聳え立つ巨岩の上から。

「いい歳こいて弱いもの苛めはいただけねえな、爺さん」

声の主は、サングラスをかけた、一人の男であった。
黒いレンズの下で、男がにやりと笑う。

「退屈ならよ、俺と……戦ろうぜ」
「……お主、わしに気配を悟らせず近づくとは、只者ではないな」

男が笑みを深める。

「なあに、それほどのもんじゃあねえさ」

男の手には、奇妙な形状の銃が握られていた。
それを見た源蔵が、ゆっくりを構えを取る。
戦闘が、始まろうとしていた。


******

352 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:14:03 ID:LWltYFXE

「……あんたたち……」

呆然と成り行きを眺めていた冬弥と孝之の耳に、背後から小さな声が聞こえてきた。
振り向く。七瀬留美が、険しい表情でそこに立っていた。
囁き声のまま、七瀬が二人を促す。

「逃げるなら今の内よ……、急ぎなさい……!」
「そ、それが……」
「何よ……!」

情けなさそうな声をあげる二人。

「腰が抜けてて……」
「動けません……」

吊り上がっていた七瀬の眉が、ハの字を描いた。

「もう……いいわ……」

うなだれたのも一瞬。
決然と顔を上げると、七瀬は二人の首根っこを引っつかむ。

「うわっ!?」「ぐぇっ!」

そのまま、猛然と斜面を駆け出した。
後ろで上がる悲鳴は完全に無視する。

「ヘタレどもを引きずって一気に山を駆け下りる……乙女にしかなせない業ね……」

目尻を濡らす感触は、幾分弱まってきた雨の雫だと思い込むことにした。

353 Case0:I will gouge out your eyeballs and skull fuck you. :2007/01/27(土) 15:14:32 ID:LWltYFXE

 【時間:二日目午前9時ごろ】
 【場所:F−5、神塚山山頂】

七瀬留美
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
 【状態:鬼教官】

藤井冬弥
 【所持品:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
     支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
     鳴海孝之さん 伊藤誠さん 衛宮士郎くん 白銀武くん 鳩羽一樹くん 朝霧達哉くん
     来栖秋人くん(死亡) 鍋島志朗くん】
 【状態:ヘタレ】

長瀬源蔵
 【所持品:防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
 【状態:戦闘開始】

古河秋生
 【所持品:ゾリオンマグナム、他支給品一式】
 【状態:ゾリオン仮面・戦闘開始】

→420 434 643 ルートD-2

354 男子、三人 :2007/01/30(火) 00:24:53 ID:.Vu4fUqQ
(これはまずいな・・・・・・)

改めて、手にした携帯電話を見つめる北川潤の表情に焦りが走る。
ただの携帯電話ではなかっという事実、それも爆弾が仕込まれているとは想像もしていなかった。
また、これだけなら、良かった。
中に仕込まれていたボイスメッセージ、それによるとこの携帯電話は遠隔でも爆発させることができるらしく。

リモコンは灯台に隠されているとのこと、今潤のいる民家からでは距離もかなりある。
そもそもゲームが開始してからかなりの時間が経っているのだ、既に他の参加者が見つけて手に入れてしまっているのではないか。
・・・・・・知らない間に命の危機にさらされていたということ、これでは生きた心地がしない。
早急に、この場から離れるべきだ。万が一他者の手にリモコンが渡っていた場合、持ち主が意味も分からずボタンを押してしまう可能性は計り知れない。

だが、発つにしても他のメンバーに不信感を与えるわけにはいかない。
見張りを引き受けた自分が、いきなりここを発つ理由をでっちあげる必要がある。
ちらっと隣を省みると、先ほど通りのテンションのままの春原陽平が目に入った。

(・・・・・・こいつは、かなり馬鹿だ。ちょっと無理があっても信用はとれる、はず)

時間が惜しい、思いついたところで潤は携帯を手に移動しようとする。
陽平にはさっき話した携帯電話を持つ知り合いに連絡を取ると伝え、人目のない廊下の奥げと場所を移したのであった。





(で。どうするか、だ。)

この島で知り合った仲間と連絡が取れたから合流しなおす、早急に移動の準備をする必要がある。
動機については・・・・・・電話をしている間にあちらのメンバーが襲撃にあい、援護を求めてきた。これでどうだ。
いや、しかしそんな緊急事態を作り出した場合自分にもそれ相応の演技力が求められてしまう。
元より、他のメンバーを起こさないで静かに行動は移したい。あまり派手なものは控えた方が賢明であろう。

355 男子、三人 :2007/01/30(火) 00:25:33 ID:.Vu4fUqQ
(うーん、次いつ会えるか分からないんだから早めにもう一度会っておきたい、とか?)

荷物をなくしてしまったようなので援護に向かわなければいけない、ケガをしてしまったようなので以下同文。
そんな案をいくつも思い浮かべ、潤はその場に応じてどれかを選択すればいいかという結論を出す。
・・・・・・来栖川綾香の時とは違うのだ、ここで五人グループという大所帯に疑念を抱かせ自らの立場をあまりにも不利にするのは得策ではない。

あまり綿密にし過ぎてもリアリティに欠けるだろうしと、潤は件について一端考えるのを止めた。
もう少し時間を潰して、何食わぬ顔であちらに戻り「電話をかけてきたふり」を演じれば完璧だ。
それで、この危なっかしい状況からはおさらばできる。

「・・・・・・」

じっと、その権化である水瀬名雪の支給品である携帯電話を、改めて見つめる潤。
今リモコンのスイッチを押されたら一たまりもない、そんな危険は承知の上なので事は早急に済ませるべきであった。
だが、もう二度とこの支給品に触れる機会はないであろう。
目が覚めたら陽平はメンバーに携帯電話の機能を話し消防分署に向かうはずだ、ならば自分はその逆である氷川村辺りに身を置くべきであって。
勿論百パーセントという可能性はない、ある意味もう一度出会う可能性を考慮し自分がリモコンを手にしておくのも一理あるが・・・・・・先の通り既に持ち去られている場合もある。
今後このグループは警戒すべき存在となった。中々厄介な面子と知り合ってしまったことに舌打ちをするものの、今はそれは置いておくとして。

とにかく、この携帯電話の通話機能自体には未練があるのだ。
脳裏に浮かぶのは威勢の良いつっこみ体質のあの少女の姿、最後に声を聞いたのはいつだったであろうか。

(なるようになれってか。俺だってちょっとくらい良い思いしたいもんな・・・・・・)

通話中に爆発したら、運がなかったと諦めるしかない。
自分の携帯から彼女の番号を赤外線で送る、例のメッセージが表示されたと同時に潤はその番号をコールするのだった。

356 男子、三人 :2007/01/30(火) 00:26:04 ID:.Vu4fUqQ








結果的には、かけてよかった。
広瀬真希はまだあの民家にいたようだった、遠野美凪は眠っているとのことで声を聞くことは叶わず。
真希は起こしてでもと口にするが、それは潤が引き止めた。
こんな状況である、ゆっくり休むことができるなら邪魔はしたくない。

『何よ、私は叩き起こしといて美凪にはそれなの?!』
「いやはや、広瀬は大丈夫だって。タフだし」
『褒め言葉じゃないわよね、それ』
「そんなことないって〜」

久しぶりのやり取りが心地よかった、瞼を閉じればいくつもの世界で彼女と過ごした時間が蘇る。
幸せだった。ジョーカーとして周囲を混乱させるために存在する自分が、こんな穏やかな時を過ごしていること事態が非現実的に感じられる。
真希の話によると、どうやら彼女達の進路はまだ決まっていないらしかった。
首輪に関しても、確かにあれだけではこれからどうするかを決められるはずはない。
技術者との会合が求められるが、生憎潤はそんな得意能力を持つ知り合いを持っていない。
世界の記憶からも情報は得られなかった、要するにそれに関しては覚えていないのだ。

「うーん、そっちはそっちで頑張ってくれよ」
『あんたねぇ・・・・・・っていうか、北川はどうなのよ』
「はい?」
『友達、探すんでしょ。それとももう見つけたの?』
「・・・・・・いや、まだだ。早く見つけたいんだけどな」

357 男子、三人 :2007/01/30(火) 00:26:35 ID:.Vu4fUqQ
そういえば、真希達と別れる際にはそんな台詞で煙をまいた気がした。
今になって思い出す、あまり適当なことを言うものではないなと反省の余地ができる。
・・・・・・実際、相沢祐一にとってかけがえのない存在である月宮あゆが第一回の放送にて名前を呼ばれたので、あながちそれも間違いではないのだが。
あゆと面識のない潤は知る由もない、しかしそんな事実も確かに存在はしていた。

それからまた少し談笑した後、潤は静かに電話を切った。
電話帳を見つけるべく消防署を目指すことになるであろう秋子達と合流されると厄介なので、二人には鎌石村から早く出て欲しい思いもある。
彼女等に灯台にあるリモコンを回収させる案もあった、もし見つけられたらボタンを押して欲しいと頼めば。
そこには、また一つの惨劇が訪れるはずであった。

しかし、知らずうちにといえど彼女達の手を赤く染めさせるような行為はさせたくないという思いが強く、結局潤は何も言わなかった。
これは、贔屓になるのかもしれない。
ジョーカーして平等性に欠けてはいけないという規則はないので特に咎められることもないだろうが、行き過ぎたら警告くらいは受けるであろう。
それでも、守りたいものの一つや二つくらい多めに見て欲しいものだと。潤は自嘲気味に微笑むのだった。

そして、真希の番号、発信記録といった証拠を消すと同時に。
ごく自然な動作で、潤はリモコンの存在を示すボイスメッセージを削除したのであった。






「遅かったね、上手く連絡とれたの?」

戻ってきた潤に対し、陽平が即座に声をかけてくる。
彼なりに心配してくれたのであろう、名雪の携帯電話を陽平の手に返しながら潤は口を開いた。

358 男子、三人 :2007/01/30(火) 00:27:00 ID:.Vu4fUqQ
「ごめん、俺もう行くわ」
「え、ちょ・・・・・・何いきなり言い出すんですかねっ?!」
「待ち合わせて、合流することになったんだ。ごめんな、見張りの途中だってのに」
「それは全然構わないけど・・・・・・朝になってからじゃ駄目なわけ?夜は目が利かないし、寒いと思うんだけど」
「いや、もう出るよ。万が一のことも考えて、早めに行動していたいんだ」

話は唐突に切り出す、そうすれば相手に考えさせる間を与えない方が効率は良い。
狙い通り陽平はあたふたと、ろくな質問もできないまま押し黙った。
語気が荒かったかせいかと少し不安にも思う。だが次の瞬間陽平はにやっと口の端を吊り上げ、潤の二の腕をひじでつついてきた。

「なぁなぁ、もしかしてさ」
「な、何だよ」
「これから会うのって、さっき言ってた『コレ』のことなんじゃないの?ヒューヒュー!!」
「あはは・・・・・・ご想像にお任せするよ」

小指をピンッと立てる陽平は、やはり陽平であった。
一緒に見張りをするのがるーこや秋子でなくて良かったと、潤は心から思うのだった。





「これは餞別だ」

身支度を整え終わった潤は、そう言って身に着けている割烹着を脱ぎだした。

「ヒィッ!悪いけど操なんてお断りだよ?!」
「馬鹿、違うよ。これさ、防弾性なんだ。ちょっとの間だけど春原にはお世話になったし、良かったらとっといてくれ」
「北川・・・・・・」

359 男子、三人 :2007/01/30(火) 00:27:23 ID:.Vu4fUqQ
それには見張りを扱いやすい陽平と行えて良かったという、ある意味失礼な感謝の気持ちも含まれていた。
もとよりいくら防弾性とは言えこの格好は目立ちすぎる、破棄する予定がないわけではなかったので彼に引き取ってもらい有効活用してもらうのも悪くはない。
ちょっと危なっかしいのでこれで少しでも彼の寿命が延びてくれればという、潤なりの親切心でもあった。
手渡された割烹着と頭巾を、陽平はぎゅっと握り締めながら見つめている。ちょっと皺くちゃになっていた。

「北川、僕はあんたのことを忘れないよ」
「あんがとな」
「気をつけろよ、またこっちから電話するからね」
「・・・・・・ああ、待ってる」

やっべ、そういえば俺の番号登録されてんだっけか・・・・・・と今更気づくがもう遅い。
割烹着に着替える陽平を尻目に荷物をまとめながら、潤は今後背負うちょっとしたリスクにうんざり舌を打つ。

「じゃあな、生きて帰ってくれよ戦友!」
「ああ、お前も妹さんに会えるといいな・・・・・・そんじゃっ」

お互い熱く敬礼、背中に陽平の熱い視線を感じながら潤は暗闇に向かって走り出すのであった。






(ふう・・・・・っていうか動機以前にどこに行くかとか、何もつっこまなかったな・・・・・・さすが春原)

夜道を歩きながら、ふと思う。
あれだけ悩んだことを何一つ口にしていないのだ、これでは気を配りすぎていた自分が馬鹿みたいだ。

(まあ、楽に越したことはないんだけどね・・・・・・っていうか、俺の番号が登録されてたのすっかり忘れてたし。ああもう、面倒くさいな!)

360 男子、三人 :2007/01/30(火) 00:28:03 ID:.Vu4fUqQ
いっそ自分の携帯電話を壊してしまおうか。
だが後に役に立つことがある可能性は捨てられない、そうなると簡単には決断をくだすわけにもいかず。
・・・・・・面倒だが、仕方のないことであった。

(あー、これからどうするかな。一応灯台の方行ってみるかねぇ・・・・・・)

とりあえずはあの民家から離れることができたので、また新しいターゲットを探す必要がある。
灯台への道中で誰かに知り合えたら便乗すればいい、会えなければ会えないで灯台へ立ち寄るのも一つの手だ。

(ああ、でもちょっと休みたいかも・・・・・・徹夜はつらいって)

欠伸を噛み締めながら、潤はぷらぷらと街道沿いに進むのであった。








一方、同時刻琴々崎灯台・地下にて。

「・・・・・・なんだ、これ?」

眠りから覚めた城戸芳晴の手には、例のリモコンが握られていた。

361 男子、三人 :2007/01/30(火) 00:28:39 ID:.Vu4fUqQ
春原陽平
【時間:2日目午前3時半】
【場所:F−02・民家】
【所持品:防弾性割烹着&頭巾・スタンガン・GPSレーダー&MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)・支給品一式】
【状態:北川を見送る】
【備考:名雪の携帯電話に入っていたリモコンの存在を示すボイスメッセージは削除されている・時限爆弾のメモは残っている】

北川潤
【時間:2日目午前3時半】
【場所:F−02】
【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:民家から離脱、灯台方面へ移動】

城戸芳晴
【時間:2日目午前3時半】
【場所:I−10・灯台】
【持ち物:名雪の携帯電話のリモコン、支給武器不明、支給品一式】
【状況:エクソシストの力使用不可、他のメンバーとの合流、死神のノート探し】

(関連・346・641)(B−4ルート)

362 広瀬真希と少女の澱 :2007/02/01(木) 18:38:53 ID:fDNpZvog

「美凪……」

その声に、意味などなかったのだろう。
遠野美凪は既に事切れていた。
血に塗れたその巨体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。

常識の範疇外にある出来事。
人が死ぬ。つい先程まで談笑していた人間の命が唐突に終わる。
殺される。理不尽な暴力に、対抗し得る手段も無く。

取り乱さなければいけない、と思う。
何の変哲もない、ごく普通の女子校生は、こういうときには悲鳴を上げて、あるいは涙を流して、
目の前の現実を否定しようとしなければならない。
それが当たり前、そうあるべき姿というものだ。

そして『私』は、ひどく冷静に、その光景を見つめていた。



放送で北川の死を知った。
唐突に消えたと思えば、どこかで殺されていた。
そんなものか、と思った。
それだけの、朝だった。

異形と化した遠野美凪といえば、しかし変わったのは姿かたちだけであると、すぐにわかった。
彼女の用意した朝餉を食べて、静かに時間が過ぎるのを待っていた。
外に出る気はなかった。どうせ同じことだと、思っていた。
死ぬ順番が変わるだけだ。
あるいはそうでなかったとしても、何一つ変わらない。
何故だか私はそれを、知っている気がした。

だから、突然の砲撃のようなもので壁が崩れても、『私』はちらりと目をやっただけだった。
轟音と塵芥の向こうに立つ少女を見て、ああ、ようやく来たのかと、それだけを呟いた。

363 広瀬真希と少女の澱 :2007/02/01(木) 18:39:39 ID:fDNpZvog
「……くー……」

目の前の少女は、そう、立ちながら眠っているように見えた。
傍らで宙に浮かんだ物体が、その異様を際立たせていた。

侵入者に向かっていく遠野美凪の背に、『私』はかける言葉を持たなかった。
意味がないと、わかっていた。
それは、ここで遭ってしまってはいけないものだった。
目の前にそれが立っているという状況が、私たちの確実な死を意味していた。

だから、『私』は美凪が死を迎える様を、じっと見ていた。
覚えていようと、思った。



ずるり、と。
少女が、美凪の身体から貫手の形に整えた手指を引き抜いた。

「……くー……」

相変わらず目を閉じたまま、静かに寝息を立てている少女が、一歩を踏み出す。
革靴の底で、飛び散った硝子片が硬い音を立てた。
次は、私の番というわけだった。
告死の少女に向かって、『私』は静かに口を開く。

「カエルのぬいぐるみ、とはね……水瀬の力も、芸幅が広いわね」

『私』は、何を言っているのだろう。
水瀬の力、とは何だろう。わからない。わからないが、口からは自然と言葉が滑り出してくる。
きっと、わからないのは、普通の女子校生である私だけなのだ。
遠野美凪の死を、噴出す血飛沫や吐瀉物と共に吐き出される濡れた呼吸の音を、心乱すことなく
観察していた『私』には、きっとそれが何を意味する言葉なのか、充分にわかっているのだろう。
だから私は、今度は『私』自身を、じっと見つめることにした。

364 広瀬真希と少女の澱 :2007/02/01(木) 18:40:00 ID:fDNpZvog
「眠っている時にだけ目覚める力? ……悪い冗談もいい加減にしてほしいわね。
 継承したんなら、それなりの格好をつけなさいよ、水瀬の当主」

継承。当主。わからない。構わない。
それが何なのかわからなくとも、私が死ぬことには変わらないと、それだけを確信していた。

「―――どうせ初めから眠ってなど、いないくせに。」

そう告げた『私』の言葉はひどく酷薄で、その声音は侮蔑に満ちていた。
言葉の内容か、それを告げた態度か。あるいは、その両方かもしれない。
いずれにせよ『私』の言葉に含まれていたのだろう何かが、少女に変化をもたらしていた。

「―――」

足を止めた少女が、私を、見ていた。
少女の目が、開いていたのだ。

「煩いな」

はっきりと、そう言った。
寝息でも寝言でもなく、明確にそう言い放った少女の、冷たい眼光が、私を射抜いていた。

「そう、その顔。それでこそ水瀬よ」
「……」

少女は、底冷えのする視線で私を見つめている。

「そうしてると母親そっくりね。人を殺した手でご飯を食べられる顔」
「……」
「どうして眠ったふりなんかしてたの? どうせ出くわした人間は皆殺しにするくせに。
 油断させるため? やめなさいよ、そういうの。水瀬ならもっと胸を張って人を殺しなさい」

『私』は、ひどく奇妙なことを言う。
会ったこともないはずの少女、その母親をよく知っているような口振りだった。

365 広瀬真希と少女の澱 :2007/02/01(木) 18:40:48 ID:fDNpZvog
「……何だ、お前」

少女が、その視線を更に険しくする。
よくない気配のする眼だった。
水を飲む、ということと人の息の根を止める、ということを同列に捉えられる、そういう眼だと思った。
だが『私』は、まるで数秒後の死を弄ぶかのように、どこか楽しげですらある口調で、言った。

「―――それとも、そうでなければ相沢祐一には守ってもらえない、とでも?」

一瞬の、間。
少女の眼に宿る光の種類が、変わった。
重く、澱のように溜まっていたある種の薄暗さが、消えていく。
代わりに浮かんできたのは、虚を突かれたような、あるいは痛快な冗談に笑みを堪えるような、
不可思議な色だった。

「……本当に、何なんだ、お前?」

声音からも、険が取れている。

「わからないの? 水瀬でしょう、あんた」
「ん? ……お前、もしかして……『勝った』ことがあるのか?」

軽口を叩くような『私』の声に、少女は驚いたように答える。

「それは……珍しいな。
 毎回、死にぞこないは出るみたいだけど……『勝った』のがまだ残ってるなんて、思わなかった」
「お生憎さまでね。こうして元気にやらせてもらってるわ」

少女と『私』の、奇妙なやり取り。
勝つ、とは何だろう。何に勝つのか。残っているとは、何のことか。
私を置き去りにして、会話は続く。

「大抵、何度か繰り返す内に生まれてこなくなるんだがな……。
 よっぽど図太いのか、それとも『勝った』のが最近なのか」
「どっちでもないわ。こうしている私には、何がなんだかわかっていないくらいだし」

366 広瀬真希と少女の澱 :2007/02/01(木) 18:41:51 ID:fDNpZvog
『私』は、私のことを的確に言い表す。その通りだった。
少女と『私』の会話は、私にとって未知の共通認識に基づいているようで、まったく理解できなかった。

「不完全な持ち越し……。成る程、未だ絶望せずにいられるのはそういうことか。
 ある意味、うちのお家芸に近い状態なんだな」
「そういうことになるかしらね」
「しかし、水瀬の記憶にもない繰り返し方とは……お前、よほど妙な勝ち方でもしたのか?」
「……その辺はご想像にお任せするけど」

一瞬、『私』の言葉が曇る。
だが少女がそれを気に留めることはないようだった。

「別にいいさ。覚えておけば、済むことだ」

言って、少女は口の端を上げる。

「……さて、殺す前に一つ訂正しておきたいんだが」

傍らに浮く巨大なカエルのぬいぐるみを、ぽん、と叩いて少女が言う。
自身の死を宣告された『私』は、しかし無言。
私も、特段に思うことはなかった。そうなると、わかっていた。

「お前、私が眠ったふりをしてるのは、そうしなければ祐一が守ってくれないからだと言ったよな?
 弱い私、無力な名雪、守らなければ殺されてしまう愚鈍な女」

少女は微笑む。

「……そうでなければ、祐一は守ってくれないと。こんな、」

と、カエルに視線をやる少女。

「こんな異形の力で平然と人を殺す私では、祐一が守ってくれない、と」

367 広瀬真希と少女の澱 :2007/02/01(木) 18:42:30 ID:fDNpZvog
だが、と少女は笑む。
一片の邪気もなく、一筋の悪意もない、それは、はにかむような笑顔だった。

「祐一は、守ってくれる」

大切なものを、そっと撫でるように。
少女はその名を口にする。

「私がどんなに強かろうと、どれだけ人を殺そうと、そんなことは関係ない。
 祐一はそれ以上に強く、それ以上に人を殺しながら、私を守ってくれる。
 これまでずっとそうだったように。これからもずっと。
 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度もそうしてきたように。」

だから、と。
少女は私を見る。

「だからこそ私は、弱い名雪でいたいんだ。
 弱く、愚かな、祐一に守ってもらうに相応しい、そんな私でいたいんだよ。
 ―――わかるだろう?」

そう言った少女は、ひどく遠いところを見るように、私の向こう側にいる『私』を見ていた。
それはどこか、老いさらばえた女がする仕草のように、私には思えた。

「……けれど、あんたの知ってる相沢祐一は、もう」
「夢を」

『私』の言葉を遮るように、少女は呟く。

「こういう夢を、みていたいんだ。ずっと」

どろりと低い、声だった。

「それでいいんだ。それだけが、私の望みなんだ。私はそうして生きている。
 水瀬としての私も、名雪としての私も、それだけを望んで生きているんだ。
 だから―――どちらも本当の、水瀬名雪の顔さ」

顔を上げた少女は、疲れたように力なく笑っていた。

「……さようなら、久々に楽しかったよ。
 最近はこういう話もなかなかできなくてね」

少女が、その手をゆっくりと上げていく。

「できれば次も、こうして私に殺されてくれると嬉しいな」
「……ろくな死に方しないわよ、あんた」
「いつものことさ」

喉を裂かれ、一瞬で絶命した私の、それが最後の記憶だった。

368 広瀬真希と少女の澱 :2007/02/01(木) 18:44:00 ID:fDNpZvog
【時間:2日目午前10時ごろ】
【場所:B−5】

水瀬名雪
 【所持品:なし】
 【状態:水瀬家当主(継承)・奥義:けろぴー召喚】

広瀬真希
 【状態:一行ロワイアル優勝者・死亡】

遠野美凪
 【状態:死亡】

→336 →400 ルートD-2

369 踊らされていたということ。 :2007/02/01(木) 21:14:02 ID:kKQkn.R.
「きゃっ?!・・・・・・な、何なの・・・」

柏木耕一からの情報を頼りに、来栖川綾香は『まーりゃん』の元へ向かい駆けていた。
走り続けることで息も大分上がり、いい加減体力に自信があったにも関わらず膝をつきそうになった時。
綾香は、それとそれとすれ違った。

疾風。あまりの速さに綾香も即座には反応できなかった。
猛スピードで走り去っていったのは少女であろうか、長い髪という情報でしかそれは読み取れないものであったが。
それは、対面する綾香を素通りして今彼女が超えてきた神塚山に向かっているようだった。

(気にしても、仕方ないわよね・・・・・・それより先を急がなきゃ)

確かに気になる存在ではあるが、今は他のことに気を留める余裕などない。
再び前を見て走り出す綾香は、背後を振り向くことなくただ前方へ集中するのだった。



それから暫く経ってのことであった。

「あっれー!ちょっとちょっと、来栖川さんじゃない?!」

軽い声、聞き覚えのある明るい少女のものだった。
長岡志保、共通の友人である藤田浩之経由での知り合いが目の前に躍り出る。
茂みの中に隠れていたのだろうか、危うく素通りする所であった。

「きゃー!!さすが志保ちゃん、運命の女神様に好かれすぎて困っちゃうわよ〜」

走り寄ってくる彼女の警戒心は皆無であろう・・・・・・またこんな場面かと、自分の運のなさに嫌気がさす。
しかもまた、志保の後ろからゾロゾロと彼女のグループのメンバ−であろう少女達が現れ日にはさすがの綾香も苦笑いを堪えられなかった。

(よりにもよって、何でこういうのばかりなのかしら・・・・・・)

370 踊らされていたということ。 :2007/02/01(木) 21:14:41 ID:kKQkn.R.
先ほどの浩之との会合からあまり時間も経ってないというのにこれである、手にしたS&Wの標的がまた身内になってしまうのかと考えるだけで嫌な気分になる。
だが、このようなことを積み重ねていけばいつかこの甘さも消えるかもしれない。
それは一種の期待であった。
修羅になりきれない葛藤を振り切りたいという思い、しかし綾香の理性はそれを拒むかの如く彼女の精神的疲労を増やしていく一方で。
目の前の知人を、改めて見つめる。志保は綾香の複雑な胸中に気づくことなく、彼女の事を仲間達に説明していた。
その、楽しそうな様子・・・・・・ゲームに乗った自分には程遠い朗らかな表情であった。

「・・・・・・初めまして、来栖川綾香よ」

このような場面で名乗らなかったら、それこそ不自然だ。
綾香は社交辞令混じりの自己紹介をして、場の様子を窺った。
目の前にいるのは志保を含め四人の少女達。
うち二人は志保と同じ制服、そしてもう一人は綾香にとって最も見慣れたデザインの物を着込んでいた。

「あなた、寺女なの?」
「はいっス、今年入学したばかりっス」

明るい無邪気な声、この年頃特有の幼さの残るイントネーションが可愛らしい少女だった。
クリクリとした目がどこか動物を彷彿させる・・・そう思った瞬間、気づく。
よく見ると彼女、吉岡チエの瞼は少し腫れていた。それはまるで涙を流した後のような状態。
・・・ここで口にするのも野暮というものであろう、そう思い綾香は口を閉じる。

「そういえば来栖川さん、やけに急いでたみたいだけど・・・・・・どうしたのよ?」

そんな綾香に飛んできたのは志保からの何気ない疑問、確かになりふり構わず走る彼女の姿を見ておかしく思うのは仕方のないことであろう。
ああ、と答えようとして。やっと綾香は自分の目的を思い出すことができた。

「人を探していたのよ、あなた達ここら辺で着物を着た小さいガキ・・・じゃなくて、小さな女の子。見なかったかしら」
「女の子っスか?」
「うーん、そういう子は見ていないんよ」

371 踊らされていたということ。 :2007/02/01(木) 21:15:12 ID:kKQkn.R.
一同、首を傾げる。

「そう・・・・・・こっちに来たはずなんだけど」
「せやかて、私らがここに来てからここを通ったのは今のところ来栖川さんだけやで」
「何時頃からここにいたのかしら?」
「三十分前くらいやと思う」

・・・・・・時間からいって、それより前に目的の人物がここを通ったのだとしたら。
このまま突き進んでも『まーりゃん』を見つけることができる可能性というのは、多分ほとんどないだろう。
落胆が隠せない、無念が綾香の胸中を満たしていった。

「来栖川さんはこれからどうするの?」
「とにかくあいつを探しに行くしかないわよ、手がかりがこれしかないんだもの」
「ええ?!ちょっとちょっと危ないわよ、ここら辺すっごく物騒なのよっ!
 志保ちゃんは一緒にいた方が安全だと思うけどな〜・・・・・・」
「でも時間はないから。ごめんなさいね」

そう、こうして話をしている間すらも惜しい。
だから、綾香はこれで終わりにするつもりだった。
利き手に握られているS&W、先ほど弾を補充したばかりなので弾切れの心配もない。
さっさと場を離脱するべく、事は一気に終わらせたかった。
・・・・・・ここで参加者を取り逃がすなんて、ゲームに乗った人間は絶対しないのだから。
そして自分はゲームに乗った人間なのだから、やるべきことは一つである。
覚悟は決めている、知り合いだろうが何であれ・・・・・・排除するべき存在には、変わりないのだから。

綾香の表情は真剣であった、その真面目な様子は周囲を圧倒させるだけの迫力もあり。
志保とのやり取りを見つめている一同に彼女の意中を察することはできないであろう、智子もその中の一人であった。
何故彼女がここまで思い入れているのか、その理由に気づくことはない。これから彼女が何をしようとするか、それも読めるはずはない。
しかし、だからこそ。分からないから言える一言を、彼女は口にした。

372 踊らされていたということ。 :2007/02/01(木) 21:15:44 ID:kKQkn.R.
「名前は分かるんかいな、良かったらこっちでも調べてみるで」
「・・・・・・え?」
「悪いけど私らはここら辺から動くわけにはいかないんや、待ってる人がいるさかい。
 来栖川さんと一緒にどっか行くのは無理やけど、人探しの手伝いくらいなら買って出たる」
「そうだよ、それくらいならお手伝いできるよっ」

それは、綾香にとって素晴らしく都合のよい提案だった。
この広い島の中一人の人物を見つけるために動くというのは余りにも無謀なのだ、そもそもが。
ここまで辿り着けたのも北川潤の情報があったからこそ成せたものである、つまり他者の協力を最初から綾香は得た上で行動していたのだ。

そして思う。そう、殺すだけが全てではないのだと。
騙して、利用することで自らの力を増させる方法もあるのだということを。

「ありがとう、じゃあお願いしてもいいかしら」
「いいで、任しとき」

人を殺すだけがゲームに乗るという意味にはならない、それに綾香はやっと気づいた。
勿論人手を増やすといっても、直接共に行動をとったり身近におくような者などを必要とするわけではない。
亡くした友はそれが原因でこの世を去ったのだから、もう他者を百パーセント信じるなんて馬鹿げたことはできないに決まっている。
・・・・・・ならば、噂を流すだけでもいい。
今はグループで行動しているという『まーりゃん』の信用を下げ続ければいいのだ。
そういう画策を続ければ、いつか『まーりゃん』の周りは自然と敵だらけになる。
思い浮かべるだけで、それは非常に滑稽な場面であった。
自然と笑みがこぼれそうになるが、綾香は堪えてポーカーフェイスを保たせた。

「それでそれで、名前はなんて言うの?」
「川澄舞よ」

せかす志保の問いに落ち着いて答えた。しかし。

「・・・・・・ぇ?」

373 踊らされていたということ。 :2007/02/01(木) 21:16:14 ID:kKQkn.R.
・・・・・・どうしたのだろうか。綾香の口がその名を発した途端、少女達の様子は一変した。
驚き目を見開く彼女達の中、一際反応の大きかったチエが改めて聞き返してくる。

「舞さん、っスか・・・・・・?」
「あなた、川澄舞の知り合い?」
「いえ、はい、その・・・・・・舞さんでしたら、ついさっきまで一緒にいましたっスよ?」

・・・・・・話が、噛みあわない。
彼女等は言った、ここに着物を身に着けた小さな少女は現れていないと。
しかし彼女は言った、『川澄舞』とはついさっきまで一緒に行動していたと。
どういうことであろうか、『川澄舞』は着物を既に脱いだ状態で彼女等と行動をしていたのだろか。
綾香の頭の中をグルグルと周り続ける自論、しかしそれで真実を知ることができるはずもなくただただ彼女は混乱するばかりで。
また、場にいる少女達も事の真相を理解できないでいた。それはそうだ、当事者でないのだから。
そんな彼女等に説明するかの如く、綾香は慌てて『川澄舞』についての自分の知る限りの情報を語りだす。

「えっと、こんなチンチクリンでピンク色の髪して・・・・・・『まーりゃん』っていうあだ名で・・・・・・」
「まーりゃん?川澄さん、そんな可愛いあだ名だったのかな」
「え、あれ・・・・・・そういえば・・・・・・」

花梨が何か口にしようとした時だった、それに気づかなかった智子は一歩前に出て綾香に問う。

「あのな、来栖川さん」
「な、何よ・・・・・・」
「その『まーりゃん』っつーのが、自分が川澄舞だと名乗ったん?」
「それは・・・・・・違う・・・・・・」
「少なくとも、私らの知ってる川澄さんは自分のことをまーりゃんと呼ぶことはしてなかったみたいやけど?」
「自己紹介しあった時もそんなこと一言も言ってなかったわよ、うんうん」
「ほな、来栖川さんの言う川澄舞は誰やっちゅーことになる、しかもその『まーりゃん』が自分で名乗ったんと違うんやろ?」
「それ、はっ!」

言葉が続かず口を紡ぐ綾香に対し、止めとばかりに・・・・・・智子は、口にした。

「なあ、来栖川さん。誰かに一杯食わされたんとちゃう?」

374 踊らされていたということ。 :2007/02/01(木) 21:17:03 ID:kKQkn.R.
答えられなかった。呆然となる綾香は、一同からの静かな視線に晒されることになる。
それに含まれているであろう同情と名のつく粘つく感情、綾香はそれが耐えられなかった。
銃を手にしていない方の手をきつく握りこむ、だがこの程度では怒りが収まることもなく。
どこで間違ったのか、どこで自分はずれてしまったのか。

簡単だった、道は一番最初の時点で既に外れてしまっていたのだから。

「・・・・・・つよ」
「え?」
「あいつよ、割烹着を着たふざけた男・・・・・・っ!そう、『春原陽平』よ!!
 あいつにしてやられたのよっ」
「お、落ち着いてくださいっス、あんまり大声を上げると・・・・・・」
「五月蝿い!!!」

近づいてきたチエを突き飛ばす、荒れる感情を綾香は押さえつけることができなかった。

「ここまで・・・・・・あいつを信じてここまで来て・・・・・・、ばっかみたいっ!!」
「ちょっと、来栖川さ・・・」
「来ないでっ!」

戸惑う面々、しかし怒りを隠そうともしない綾香はそれを周囲にぶちまけるかの如くどなり続けた。
そして、尻餅をついて困惑した表情で綾香を見つめてくるチエを一瞥した後。
綾香は何の躊躇もなく、S&Wの銃口を彼女に向けた。

「な・・・・・・?!」
「来栖川さん何をっ」
「信用してたまるもんか・・・・・・たまるもんかあっ!」

次の瞬間鳴り響いた銃声と、背面に倒れていくチエの体が全てを物語る。
ついさっきまで親しげに話していた面影はない。目の前で銃を構える少女の激情に包まれた表情は、正に修羅と呼ぶに相応しい雰囲気であり。

「誰も信用しない!何も、誰も・・・・・・信用しないわ!あんた達も、みんな、みんな敵よっ!!!」

膨れ上がった感情、その矛先は目の前の少女達へと向けられる。
ついさっきまで考えていた「他者を利用して」なんて事柄は全て吹っ飛んでしまっている、短気な彼女は残り三人の少女達を排除することしか見えていなかった。

375 踊らされていたということ。 :2007/02/01(木) 21:17:50 ID:kKQkn.R.
【時間:2日目午前3時半】
【場所:E−5北部】

来栖川綾香
【所持品:S&W M1076 残弾数(5/6)予備弾丸22・防弾チョッキ・支給品一式】
【状態:ゲームに乗る、腕を軽症(治療済み)。麻亜子とそれに関連する人物の殺害(今は麻亜子>関連人物)、ゲームに乗っている】

長岡志保
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:綾香と対峙、足に軽いかすり傷。浩之、あかり、雅史を探す】

保科智子
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り2発)、支給品一式】
【状態:綾香と対峙】

笹森花梨
【所持品:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)】
【状態:綾香と対峙】

吉岡チエ  死亡

チエの支給品は近辺に放置

(関連・558・578)(B−4ルート)

376 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:12:58 ID:6RPJff6.

「―――ん〜、いい感じ」

ぐつぐつと煮える鍋をかき回しながら、相楽美佐枝がひとつ頷いた。
その背後から、力ない声がする。

「うぅ、お腹のすく匂い……美佐枝さん、まだ〜?」

放っておけば液状化してしまいそうな、情けない顔で机に突っ伏しているのは長岡志保である。
振り返る美佐枝。

「はいはい、もうすぐできるからね。食器、並べておいてもらえる?」
「やたっ! ごはん、ごっはん〜♪」

先程までの脱力はどこへやら、小躍りする勢いで立ち上がると鼻歌交じりに食卓を整えていく志保。
そんな志保の現金さに苦笑すると、美佐枝は最後の仕上げに取りかかるべく鍋へと向き直る。

「っと、その前に味見、味見……」

言いながら、美佐枝がおたまに掬った汁を啜ろうとした瞬間。
ばん、と盛大な音を立てて、勝手口の扉が開いた。

「―――それを口にするのは、やめておきたまえ」

あまりにも突然の出来事に反応できず、ただ眼を丸くして呆気にとられる美佐枝と志保。
二人の視線を受けて立っていたのは、白衣姿の女性であった。

「……」
「……」
「……こほん。突然の非礼はお詫びする」

沈黙と注視に耐えきれなくなったのか、女性が頬を染めて咳払いをする。

「あー、私はただ、そんなものを食ったらただでは済まんぞ、とだな……」
「コ……コジロー……?」
「……ん?」

おそるおそる、といった風情で女性に問いかけたのは美佐枝である。

377 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:14:15 ID:6RPJff6.
「あなた、もしかして……コジロー、……じゃない?」
「な……その名をどこで……!? ……いや、待てよ……? ん……?」

うろたえたのもつかの間、眼をすがめてじっと美佐枝を見つめる女性。
空気についていけない志保が、とりあえず鍋の火を止めたりしている。
しばらくの間を置いて、女性が驚きの声をあげた。

「君はもしかして……トウマ、……あのトウマなのか?」
「わ、やっぱりコジローだ!」
「なんと……何年ぶりだろうな、こうして会うのは!」
「うわー、ははは、何よその格好、コスプレ?」
「やかましい、私は本物の医者になったんだ!」
「すごーい、あたしなんか寮母さんよ、寮母さん! お互い歳くったわねえ!」

いきなり盛り上がる二人に、志保が怪訝そうな顔で声をかける。

「あの……美佐枝さん、お知り合いなんですか……?」

その言葉に、同時に振り返る二人。
互いに互いを指差し、

「「不倶戴天の敵」」「だ」「よ」

綺麗にシンクロしながら言い放った二人の眼に、しかし敵意はなかった。
むしろ気脈の通じ合った仲間を見るような視線に、ああ好敵手と書いてライバルと読むってやつね、と
志保は理解する。しばらくご飯はお預けねえ、と内心で涙しながら、思い出話に花を咲かせる二人を
ぼんやりと見守ることにするのであった。

と、妙にニヤニヤと笑いながら、女性が美佐枝に問いかける。

「しかし懐かしいな。……そうだ、君はそろそろ羽柴姓になったのかな?」
「……ぐ」

一瞬で固まる美佐枝。
受身も取れずに脳天逆落としを食らったプロレスラーのような表情である。

378 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:14:47 ID:6RPJff6.
「……う、うるさいわねえ。あんたこそメキシコはどうしたのよ、メキシコは」
「が……」

石化する女性。
まるで入団会見の自己紹介で思いっきり噛んでしまったドラフト一位高校生のような赤面ぶりである。

「や、やかましい! あの後、彼はイタリアに渡ったんだ!」
「ふうん、じゃイタリア行ったの?」
「し、幸せなウェディングを見せつけてから言え、羽柴美佐枝!」
「やめてええ」
「お互い様だ、バカ者!」

へたり込んで半液状化している志保をよそに、二人の思い出話、もとい古傷の抉りあいは続く。
何という運命の悪戯であろうか。
ナチュラル・ボーン・ローディストと呼ばれた『コジロー☆大好きっ子』。
アウシターナ・オブ・アウシターナと讃えられた『トウマの花嫁』。

―――かつて読者投稿界の竜虎と並び称された二人の、宿命的な再会であった。


******


「……というわけで、こちらは霧島聖。ま、昔馴染みね」
「霧島だ。よろしく」
「よろしく〜」

気を取り直して自己紹介する女性、聖。
適当なところで不毛な言い争いに決着をつけたのは、大人としての分別といえるだろうか。
しかしそこで余計な火をつけるのが、長岡志保という少女であった。

379 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:15:25 ID:6RPJff6.
「そういえば、あたしも知ってますよ、ファンロードとかOUTっていうの」
「ほほぅ、感心な若者だ」
「本当に、長岡さん?」
「はい!」

満面の笑みで頷く志保。

「志保ちゃん情報によれば―――」
「うんうん」

言い放つ。

「―――大昔の痛いオタク雑誌! ですよね?」
「……」
「……」
「……あれ?」



……
………


「まったく……大人をからかうからだ」
「そうねえ、今のは長岡さんが悪いわ……あたしだって手加減するのがやっとだったもの」
「しくしく……志保ちゃん、もうお嫁にいけない……」

乱れた着衣のまま、さめざめと涙を流す志保。
そんな志保の嘘泣きを無視して、聖が美佐枝に向き直る。

「……しかし相楽、その鍋だがな」

その真剣な口調と視線に、美佐枝が姿勢を正した。

380 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:16:05 ID:6RPJff6.
「……そういえば言ってたわね。この鍋を食べちゃいけないとか何とか」
「うむ。正確には、鍋の具が問題なのだ」
「具……?」

言われ、美佐枝が材料を指折り数えだす。

「人参、ジャガイモ、牛蒡はそこの冷蔵庫に入ってたやつだし……」
「お味噌もそうよね」

後ろから志保も口を出す。
と、何かに気づいたように声をあげる美佐枝。

「まさか、この用意されてた食材に毒でも入ってるの……?」
「ええーっ!? それじゃ美佐枝さん、さっき危なかったんじゃない!」
「……いや、そうではない」

聖の落ち着いた声。

「実は先ほど、この家の外で見かけたものなんだが……」
「……?」

言いながら突然しゃがみ込んだ聖を、何事かと見守る二人。
そんな視線をよそに、聖はがさごそと足元に置いた大荷物を探っている。

「……これは、何だね」

言葉と共に取り出したのは、血に汚れた襤褸切れのようなもの。
しかしそれを見た美佐枝と志保は、目を見合わせると事も無げに言った。

「ああ、それ」
「さっきの虎の毛皮でしょ?」
「そうそう。臭いし、邪魔だから外に出しといたやつ」

381 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:16:59 ID:6RPJff6.
それが何か、と言いたげな二人の視線に、聖は深いため息をつく。

「……この毛皮の持ち主の肉が、入っているだろう」

その視線は、まだ湯気を上げている鍋の方へ向けられている。

「へ? ……うん、入ってるわよ?」
「やっぱりお肉がなくっちゃ始まらないもんね〜。……やば、お腹空いてたの思い出した」

涎を垂らさんばかりに鍋を見つめはじめた志保に、聖は静かに告げる。

「……何度も言うが、やめておきたまえ」
「え、なんで〜?」
「……もしかして、虎の肉って火を通しても食べられないの?」

美佐枝の問いに、聖は首を振って答える。

「臭みはあるだろうが、鼻をつまめば食えるさ。……普通の虎なら、な」
「……?」
「君たち、普通の虎が立って歩いたりすると思っているのか」
「聖さんが何を言いたいのか、全ッ然、わかんないんだけど……」
「ごめん、あたしにも……」

要領を得ない二人に、聖は小さく眉根を寄せると、口を開いた。

「……平たく言って、君たちが料理した虎は病気持ちだ。ムティカパ症候群、と呼ばれている。
 感染すればただでは済まん」

虎ではなく人間だ、とは言わなかった。
それを告げることには意味がないと、聖は考えていた。
聖の内心など露知らず、二人はその言葉に目を丸くしている。

「うっそ〜、それじゃ……」
「そうね、危ないところだったわ……」
「……そもそもどう始末したのかは知らんが、虎を相手に大立ち回りとは無茶をする。
 夕餉になっていたのは君達の方かもしれなかったんだぞ」

ため息をつく聖に、美佐枝がどこか恥ずかしげに目を逸らす。

「それが、……笑わないでよ、聖」
「急になんだ、改まって」
「……あたしがまたドリー夢に目覚めた、なんて言ったら……どう思う?」
「うわははははは!」

聖、大爆笑。

382 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:17:37 ID:6RPJff6.
「あ、あんたねえ!」
「ははは、いや、すまん、ははは」

息を切らして笑っている。

「……いやいや、君もまだまだ若い、と嬉しく思ってな」
「言わなきゃ良かった……」
「何、恥ずかしがることはない。……私はこの島で奇妙な力に目覚めた人間を何人も見てきた」
「奇妙な……力?」

美佐枝が、小さく呟く。

「ああ、それこそ虎など問題にしない力を持った者も多くいた。
 君がそれに目覚めても何ら不思議は無いさ」
「……そう、なの?」

美佐枝の脳裏には、昨日の光景が浮かんでいた。
奇妙な光線銃で少年を撃退した、古河パンの店主。

「ああ。……たとえそれが、過去の少しばかり痛々しい趣味と繋がったところで、笑う者は……わははは」
「あんた、笑いすぎっ!」
「えーっと……、はい、先生!」
 
それまで年長者二人のやり取りを黙って見ていた志保が、手を挙げていた。
顔を赤くして食ってかかろうとする美佐枝を片手で抑えながら、聖が志保を指名する。

「何かね、長岡君」
「ドリー夢って、なんですか?」
「ふむ、いい質問だ」
「ちょ、ちょっと聖! そういうことは別に……」

慌てたような美佐枝の声を無視し、聖はひとつ咳払いをしてから重々しく答えた。

383 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:18:01 ID:6RPJff6.
「ドリー夢とは、な……物語の登場人物などを自分と置き換えて妄想をたくましくする、
 多感な若者、特に思春期の少女に特有の病気だ」
「へぇぇ……イタいですねっ」
「ああイタいな。だがあまり言ってやるな、こうして本人も恥ずかしがっている。
 思うに、彼女は何かの登場人物になりきってその力を発揮する能力に目覚めたのだろう。
 ……わはははは」
「聖ーっ!」

美佐枝が、聖に飛びかかった。


******


「……ところで聖。その大荷物だけど、他に何が入ってんの?」

ひとしきり騒動が収まったところで、美佐枝が聖に尋ねていた。
その顔にはいくつかの引っ掻き傷がある。

美佐枝の視線が向かう先にあったのは、人ひとりを包み込もうかという大きさの布袋であった。
支給品のデイバックと共に、聖の背後に置かれている。

「おっと、そうだった」

ぽん、と手を叩く聖。
いやすっかり忘れていた、などと呟きながら布袋の口に結ばれた紐を解きだす。

「なんか、ドラマに出てくる死体袋みたいで嫌ね……」

眉を顰めながら聖の手元を見ている美佐枝。

「いや、まぁ似たようなものだが……」

言いながら開けた、その布袋からごろりと顔を覗かせたのは、

384 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:18:20 ID:6RPJff6.
「ひっ……!?」
「どうしたの、美佐枝さ……う、うわわ、し……死体ぃ!?」

青白い顔で目を閉じた、少女の頭部であった。
瞬間的に後じさり、壁に張りつく美佐枝と志保。

「ん? どうした、二人とも」
「ど、どうしたって、あんた……」
「そ、それ、まさか……聖さんがこ、殺したの……!?」

震える指で差され、聖はようやく合点がいった、というように頷く。

「や、やっぱり!」
「聖、あんた……!」
「いやいやいや、そうではない。落ち着きたまえ」

身構える二人に、聖は害意が無いことを証明するかのように両手を広げてみせる。

「そもそも君たちは重大な勘違いをしているぞ」
「な、何よ……!?」
「彼女は死体ではない。限りなくそれに近い状態ではあるが……まだ生きている」
「……」
「……」

数秒の間。
何度か瞬きをしてから、美佐枝がようやく口を開く。

「……今、なんて?」
「だから、彼女はまだ辛うじて生きていると言っているんだ。死体扱いは可哀想だぞ」
「……」

更に数秒の間が空いた。
見る見るうちに、美佐枝の表情が変わっていく。

385 再会のローディスト :2007/02/03(土) 18:18:36 ID:6RPJff6.
「……あ、あ、あんたねえ! そういうことは早く言いなさいよ!」

怒りと、ある種の使命感が混じった顔でそう怒鳴ると、美佐枝は聖を押し退ける勢いで
布袋に包まれた少女へと駆け寄った。

それからの美佐枝の動きは、誠に迅速といえた。
志保に矢継ぎ早に指示を出し、なぜ私がと訝しがる聖の尻を叩いて、瞬く間に寝室を整えていく。
大急ぎでベッドを空け、湯を沸かして泥で汚れた少女の身体を拭き、火傷で張り付いた制服を切って
上から新しい寝間着を着せ、布団に寝かせて額に濡れタオルを乗せるまで、実に二十分とかからなかったのである。



 【時間:2日目午前7時前】
 【場所:F−2 平瀬村民家】

相楽美佐枝
 【所持品:ガダルカナル探知機、支給品一式】
 【状態:健康】

長岡志保
 【所持品:不明】
 【状態:空腹】

霧島聖
 【所持品:魔法ステッキ(元ベアークロー)、支給品一式、エディ鍋、白虎の毛皮】
 【状態:ドクター形態】

川澄舞
 【所持品:村雨・大蛇の尾・鬼の爪・支給品一式】
 【状態:瀕死(肋骨損傷・左手喪失・左手断面及び胴体部に広く重度の火傷・重度の貧血・奥歯損傷・意識不明・体温低下は停止)】

→472,474,650 ルートD-2

386 訣別のアウシターナ :2007/02/03(土) 18:19:31 ID:6RPJff6.

「……どうなの、あの子は?」

沈痛な面持ちで、美佐枝が聖に訊ねる。
目線はベッドの上の少女に向けられていた。
計るまでもない高熱と、か細く荒い呼吸。素人目にも、容態が良くないと知れた。

「火傷も酷いし……それに、あの手……あれじゃあ、」

生きている方が不思議だ、という言葉を、美佐枝は飲み込む。
少女の左手は、手首から先が失われていた。
傷口は火で焼かれたらしく、ケロイド状に爛れていた。
まるで拷問でも受けたかのような、惨たらしい有様だった。

「―――正直、助かる見込みは殆どない」

医療関係者特有の、ある種の冷たさを感じさせる声で、聖が言う。

「そんな……!」
「落ち着きなさい、長岡さん。……聖、それで?」

志保を抑えながら、美佐枝が先を促す。
聖も医師として己の感情を殺して宣告していると、分かっていた。

「……彼女は、明らかに深刻な失血状態にある。
 どういうわけか低体温症は免れているが、内臓機能への影響は避けられない」
「……」
「脳死に至るのが早いか、多臓器不全に陥るのが早いか……いずれにせよ、時間の問題だ」
「輸血……とか」
「まず器具がない。彼女の血液型もわからん。……手の打ちようがない」

387 訣別のアウシターナ :2007/02/03(土) 18:19:53 ID:6RPJff6.
淡々と告げる聖。
と、うな垂れていた志保が唐突に顔を上げた。

「そ、そうだっ!」
「どうしたの、長岡さん!?」
「地図に、あったじゃない!」
「地図よ、地図! あ〜もう、どうしてわかんないかなあ!」

頭を掻き毟る志保に、聖が静かに声をかける。

「……診療所かね」
「そう、それよ! 診療所! 地図にあったじゃない!」
「そうか、そこならもしかすると……!」
「―――片道で」
「……え?」
「片道で優に14、5Km」

ボルテージを上げていく二人に冷水を浴びせ掛けるような、聖の声だった。

「往復で30Km近い道のりだ。加えてこの島には殺人鬼が跳梁跋扈している。
 さて、何時間後になるかな」
「……!」
「間に合わんよ。無事に帰ってこられるかどうかも怪しい」
「あんた……!」
「元々、せめて最期くらいは安らかに迎えさせてやろうと思って連れてきたんだ。
 素人考えでつまらないことを言うもんじゃない」
「―――!」
「聖……っ!」

ぱん、と。
小さく、渇いた音が響いた。

388 訣別のアウシターナ :2007/02/03(土) 18:20:16 ID:6RPJff6.
「み……美佐枝、さん……?」
「……」
「……ごめん、聖」

美佐枝が、聖の頬を打った音だった。

「……あんたの言いたいことはわかってるつもり。でも……」
「……」

聖は叩かれた頬を押さえることもなく、ただ静かに美佐枝を見つめている。

「でも、それ以上は聞きたくない」
「美佐枝……さん……」

美佐枝の目には、涙が浮かんでいた。

「……あたしは行く。行って、輸血の道具、持って帰ってくる」
「美佐枝さん……!」
「それで、いいのか」

穏やかにすら聞こえる声で、聖が尋ねる。
時折震える声で、美佐枝が答えた。

「あんなことがあって……道は分かれたけど。
 でも……でも、きっと同じところを見てるって、そう思ってた」
「……」
「あんたがそうやって、動けないようになっても……あたしはまだ、走れるんだ」
「……」
「あんたはあんたの仕事をすればいい。あたしは、あたしにできることをする」
「……そうか」

その言葉が最後だった。
あとは聖の方へ目をやることもなく、手早く荷物をまとめはじめる美佐枝。

「ちょ、ちょっと美佐枝さん……!」
「あなたは残りなさい」
「そんな、美佐枝さん……!」

389 訣別のアウシターナ :2007/02/03(土) 18:22:03 ID:6RPJff6.
突然のことにうろたえる志保。
視線を左右させるが、美佐枝も聖も無言のまま、顔を上げようとはしなかった。
志保が言葉を探して立ち尽くす内に、美佐枝が立ち上がる。
まとめた荷物は既に背負われていた。

「じゃ、行くわ」
「……ここは、借りておく」

簡素なやり取り。
片手を上げて、振り返りもせずに美佐枝は戸口をくぐっていった。

「ちょ、そんな……」
「……君は、どうするのかね」

聖の言葉に、志保が半泣きの表情を向ける。
目線を合わせようともしない聖と、美佐枝の出ていった扉と、最後に横たわる少女とを交互に見て、

「……待って、待ってよ、美佐枝さん……!」

雨の戸外へと、駆け出していった。


******


「……すまんな、二人とも。気をつけるんだぞ」

扉の閉まる音を耳にしながら、聖が小さく呟く。
その表情は、ひどく哀切に満ちていた。

「―――人の身でありながら、人ならざるものに抗おうとする、愚かで、そして強い命」

立ち上がり、ベッドに横たわる少女へと歩み寄る。
不規則に荒い呼吸を繰り返す少女を、じっと見つめる聖。

「ここで潰えさせるわけにはいかないんだ。……決して。
 そして……この先を、君たちに見せたくはなかった」

言って、そっと少女を抱き起こす聖。
その手には、すっかり冷めてしまった、小さな鍋が提げられていた。

390 訣別のアウシターナ :2007/02/03(土) 18:22:24 ID:6RPJff6.
 【時間:2日目午前7時ごろ】
 【場所:F−2 平瀬村民家】

相楽美佐枝
 【所持品:ガダルカナル探知機、支給品一式】
 【状態:憤然】

長岡志保
 【所持品:不明】
 【状態:狼狽】

霧島聖
 【所持品:魔法ステッキ(元ベアークロー)、支給品一式、エディ鍋、白虎の毛皮】
 【状態:ドクター形態】

川澄舞
 【所持品:村雨・大蛇の尾・鬼の爪・支給品一式】
 【状態:瀕死(肋骨損傷・左手喪失・左手断面及び胴体部に広く重度の火傷・重度の貧血・奥歯損傷・意識不明・体温低下は停止)】

→「再会のローディスト」 ルートD-2

391 乱入 :2007/02/05(月) 01:28:31 ID:zS/mQtoM
張り詰めた空気の中、睨み合う少女とロボット。
少女の手にしたボーガンに、矢は刺さっていなかった。
ロボットの手にする立田七海が、武器になるわけはなかった。
そんな二人の様子を、起き上がることができず地面に投げ出されたままの小牧郁乃、そしてすっかり出張るタイミングを逃した沢渡真琴は静かに窺い続ける。

「あ、あの・・・・・・・落ち着いてくだ・・・きゃうっ!」

襟首を掴まれあたふたする七海のその一言が、戦闘開始の合図になった。
力強く地面を蹴りだし、朝霧麻亜子が一気に間合いを詰めてくる。
手にした矢の装着されていないボーガン、麻亜子はそれを振りかぶりほしのゆめみに向かって投げつけた。

「おおっと、随分乱暴だなっ?!」

七海の襟首を掴んでいない手で薙ぎ払うゆめみ、機械の腕が悲鳴を上げるがそれなりに頑丈にできているらしく損傷はゼロに等しい。
しかしそれはフェイクである、次の瞬間ゆめみの目の前に飛び込んできたのは自らのバックに手をつっこみ新しい獲物を出そうとする麻亜子の姿であった。

「お覚悟ー!!!」

慣れた手つきで取り出した鉄扇を広げる麻亜子、黒い輝きが月の光に反射する。
走りながら横に切りつけてこようと腰を捻ってくる彼女に対し、ゆめみは即座の判断で保護していたはずの七海を投げつけた。

「きゃああああああ〜っ!」

情けない悲鳴が場に響く。
タイミングがずれれば七海自身が刻まれる乱暴な手段であるが、うまく麻亜子の肩口に命中した七海はそのまま彼女を押し倒した。

「なにおっ、ちょこざいな」

この程度ではへこたれないと言わんばかりの威勢の良さで、即座に麻亜子は半身を起こす。
鉄扇はまだ手にしたままだ、手始めに臭気を放つ着物にダイブして気絶した少女に止めを刺そうとそれを振りかぶる。

392 乱入 :2007/02/05(月) 01:29:06 ID:zS/mQtoM
「どこ見てんだよっ」

だが、それは叶わない。七海に気を取られていた麻亜子に向かい、跳躍したゆめみが一気にせまる。
気がついた時にはもう遅い、視線をやると既にゆめみの足の裏が目の前にせまっていた。
そして、そのまま見事顔面に命中。再び麻亜子は床に身を落とすのであった。

「ぞれはあぢぎろ十八番らっつーのに、ひきょうらぞ」

血の滴る鼻を抑えながら、身軽に着地するゆめみの背を見やる麻亜子。

「ハンッ!知らねーな、んなもん」

ひょうひょうと言ってのけるゆめみは、勢いで吹っ飛ばされた七海を回収すると彼女を部屋の隅へ投げ捨てた。
さらには勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ、麻亜子を見下し挑発する。
・・・・・・余裕を持っていたはずがこの仕打ち、さすがの麻亜子も気を引き締めねばならなかった。
丸腰の相手に苦戦しているわけにはいかない。鼻血を垂らしながらも立ち上がり、もう一度ファイティングポーズをとる。

「まだやるってのか?諦めのわりぃヤツだな」
「あたしにもプライドっちゅーもんがあるからね。ヤられるだけじゃ収まんのよ」

そう言って、先ほどのように広げた鉄扇を横に構える。ゆめみはバックステップを踏み、彼女との距離を再び開けた。

「ちょ、あんまこっち来ないでよ?!」

どうやら背後に郁乃がいる辺りに移動してしまったらしい、だがゆめみはそんな彼女の言葉に返すことなくただ麻亜子の出方を待ち続けた。
すっと、先ほどのように腰を捻らせ鉄扇を横に薙ぎ払うかのように構える麻亜子。次の瞬間、それは彼女の手から離れていた。

「馬鹿の一つ覚えかよ!」

393 乱入 :2007/02/05(月) 01:29:35 ID:zS/mQtoM
少し体勢を崩せば簡単にかわせる、左に飛んだゆめみはそれが最初に麻亜子の仕掛けてきたフェイクのやり方と同種の物だと判断し次に彼女が新しい武器を取り出す前にと早めに行動を移した。
駆ける背後で金属同士がかち合うの物だと思われる騒音が鳴り響く、「あ、あたしの車椅子が?!!」などという悲鳴も耳に入るが気にしてなどいられない。
距離を詰めながら麻亜子を捉えるべく、ゆめみが拳を固めた時。激しく、嫌な予感がした。

「・・・・・・とくと見よ、これがあたしの神の一手だぁあ!」
「げえ?!」

きらりと光る銀の輝き、構えられたと同時に迫力のある音が響き渡る。
イナバウアーよろしく背をそらすゆめみの視界にほんのちょろっと入るそれは。間違いなく、拳銃であった。

「おま、それはズルいだろ?!」
「何おう、命をかけた勝負の世界にズルもクソもないのだよ」

ちょこまかと外周を周るかの如く銃身から身を逸らそうと走り出すゆめみ、そんな彼女を追って麻亜子の構えるSIGが再び火を吹いた。
圧倒的な力の差がここに来て生まれた、近づくことができなくなったゆめみを麻亜子は追い詰めるかのごとく狙い続ける。
・・・・・・かと言って、弾に関しては限界があるので無駄使いはできない。
既に二発撃ってしまったので残りの弾も二発、ここは慎重に行かねばならないと麻亜子もさらに気を引き締める。
が、ここにきてチャンスが訪れる。足を取られたゆめみが転倒したのだ。

「ふもっふ!あちきの大勝利で幕を閉じるかね」

チャキッと、すかさず銃口をゆめみの頭部に向けて固定する。悔しそうな視線が心地よかった。
しかし引き金を引こうとした瞬間、感じたものは激しい打撃。防弾性の着物越とはいえ焼けるような痛みが背中に走る。
息ができなくなり前のめりに倒れそうになるが、それを抑えて原因を突き止めようと視線をやると。
ガチャンと音を立てながら床を転がっているそれは、見覚えのある品だった。
そう、銃を構える麻亜子に向かって飛んできたのは彼女の所持品であった鉄扇だった。
痛みを堪え振り向くと、腕を投げ出したポーズで肩で息をする少女が目に入る。

「車椅子のお返しよ・・・・・・」

394 乱入 :2007/02/05(月) 01:30:08 ID:zS/mQtoM
額に汗を浮かべる郁乃、それは足を動かせぬ彼女が根性で行った反撃であった。
先の花蝶扇にて破壊された車椅子の恨みを果たすべく、這って鉄扇を回収しに行った郁乃は強引に片手で自身の体重を支えながら鉄扇を麻亜子に向かって投げつけた。
そして見事クリーンヒット。その隙にとゆめみも再び体勢を整えることに成功する。

「でかしたガキ!」
「別に、あんたの、ためじゃないわ、よ・・・・・・」

再び麻亜子とゆめみの間に距離ができた、ゆめみは彼女の出方をうかがいながらも何か対抗する物がないか周囲へと視線をやる。

・・・・・・しかし、それがいけなかった。
少しゆめみが目線を外したその瞬間、銃声が、また響く。
けれどゆめみは倒れない。何が起きたかと慌てて麻亜子の方を見やるとそこには。

猫背のまま、屈みこむように後方を見ながらSIGを放つ、麻亜子の姿があった。
銃身の先には身動きを取らぬ郁乃が、そしてじわじわと漏れ出てくる液は彼女の血液だろうか。
そんな光景が、あった。郁乃は反撃する余力も、逃げることのできる自由に動く足も持っていなかったというのに。

「ふう。これで邪魔者はナッシングかね!」

一方、顔を上げた麻亜子の表情は非常に清々しいものであった。

「さーて、次はお嬢さんだよ?」
「この外道が。まだあの女は触ってねーっつーのによ」
「外道はくたばるまで外道味やで、分かっとるんかクソロボットってな」

不適に微笑む麻亜子の銃口が、もう一度夢身を捉える。
次にこの距離で、銃弾をかわせる自身はない。
正に万事休す。そして・・・・・・銃声が、また鳴った。

395 乱入 :2007/02/05(月) 01:30:34 ID:zS/mQtoM
横に飛び退り転がるゆめみ、しかし追ってくるものは何もない。
変わりに、何故かすぐ隣で対峙していたはずの麻亜子が吹っ飛んできた。
・・・・・・彼女の脇を見ると、着物の部分が抉り取られたかのようにパックリ割れていて。
これの指す意味が分からず固まっていると、部屋の入り口辺りから女性の声が響き渡る。

「大丈夫ですか?」

それが自分にかけられた声だと気づくのに、そう時間はかからない。
ゆめみがゆっくり振り向くと、そこには見知らぬ女性が立っていた。
右手で拳銃と呼んでいいのか分からないくらいの大きな銃を構える女性、いや。
耳で、分かる。彼女がただの『女性』ではないということに。

「どのような事態かは存じませんが、助太刀いたします」

麻亜子が入ってきた際開けっ放しにしていた扉にて仁王立つのは、ゆめみの他にもう一体ここに存在していたロボットであった。







【時間:2日目午前1時】
【場所:F−9・無学寺】

396 乱入 :2007/02/05(月) 01:31:03 ID:zS/mQtoM
立田七海
【持ち物:無し】
【状況:汚臭で気絶、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】

沢渡真琴
【所持品:無し】
【状態:寝たふりで様子をうかがっている】

ほしのゆめみ?
【所持品:支給品一式】
【状態:転がってる】

朝霧麻亜子
 【所持品:SIG(P232)残弾数(1/7)・バタフライナイフ・投げナイフ・制服・支給品一式】
 【状態:吹っ飛んだ、着物(臭い上に脇部分損失)を着衣(それでも防弾性能あり)。貴明とささら以外の参加者の排除】

イルファ
【持ち物:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 4/5 +予備弾薬5発、他支給品一式×2】
【状態:麻亜子を撃った・首輪外れてる・左腕が動かない・珊瑚瑠璃との合流を目指す】

小牧郁乃 死亡


・ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)
【備考:食料少し消費】

・ボーガン、仕込み鉄扇は周辺に落ちています

(関連・539・617)(B−4ルート)

397 狂乱 :2007/02/07(水) 23:06:51 ID:833Dfc.Q
それは約束の時間の10分前―――13:50分頃に訪れた。
「美佐枝さん……何か聞こえませんか?」
「……え?」
美佐枝が耳を澄ますと、小さな音が聞こえた。
地響きのようなその音は次第に大きくなってゆく。
「これは……足音?」
足音と呼ぶには余りにも派手過ぎるが……一定のリズムで刻まれるそれはどんどん接近してくる。
そして音は美佐枝達のいる建物の傍で止まった。

「どうやら誰か来たみたいですね……」
「そうね。さて、鬼が出るか蛇が出るか……運命の分かれ道って所ね」
武器を手に、緊張した面持ちで話す二人。
今愛佳達がいる広間は、役場の玄関を入ってすぐの所にある。
もう殆ど時間を置かずに、来訪者がこの場に現れるだろう。
誰かが来る事は分かっていたが、ゲームに乗っている人間が来たかどうかは対面してみるまで計りようがない。

案の定、すぐにドアの前に人が立つ気配がした。
ドアのノブがガチャッと音を立てて回された瞬間、愛佳は思わず声を漏らしそうになる。
それは何とか堪えたが―――入ってきた女性を見た瞬間、今度こそ愛佳は声を漏らしてしまった。
「ち、ちづ……る…さ……ん?」
愛佳は呆然としながら、疑問系で呟いた。
その女性は確かに柏木千鶴だった。
しかし千鶴の姿はあまりにも変わり果ててしまっていた。
愛佳の記憶の中にある千鶴と同一人物とは思えない程に。


「こ……この女、一体何なの……!」
美佐枝は思わずそんな事を口走ってしまっていた。
顔に、手に、服に、付着している赤い液体。
艶やかだった髪はくすみ、奇妙に歪んだ泣き笑いのような表情。
そして一番恐ろしく感じられたのが―――目だ。

以前のような凍りついた冷たい目をしているのならまだマシだった。
だが、今の千鶴の瞳は爛々と熱を帯びて赤く輝いていた。
それを目の当たりにした瞬間、美佐枝はぞくりと寒気を感じた。
そして理解した―――柏木千鶴はもう、壊れてしまっていると。


その事に気付いているのか、気付いていないのか―――愛佳は体を震わせながらも千鶴に話し掛ける。
岸田洋一と対峙した時のように精一杯の勇気を振り絞って。
「ち、千鶴さん……お話があります」
「なあに、愛佳ちゃん?」
紅い瞳がぐるりと動いて愛佳に向けられる。
本能が逃亡を訴えかけてくるが、愛佳はそれを強引に押し留めた。
「あの……色々大変な事があったんでしょうけど……その……もう、人を襲うなんて止めてくださいっ!」
「……どうして?」
「どうしてって……そんなの当たり前じゃないですか!人を襲うなんておかしいですよぉ!」
愛佳が叫ぶと、千鶴の顔から笑みが消えた。
暫しの間、静寂がこの場を支配する。
それから千鶴はゆっくりと語り始めた。

「私の大事な妹―――楓は死んだわ」
それは愛佳の質問の答えになっていない。

「本当に良い子だった。とても……とても……」
愛佳はどう答えて良いか分からず黙ってしまっていた。

「あの子はね、絶対ゲームに乗るような子じゃなかったわ。それなのに、殺されたのよ?」
それでも構わず千鶴は一人で言葉を続けてゆく。

「耕一さんも初音も、とても酷い目にあっていタわ。この島の人間達は、私と家族を苦しめるだケなのよ」
もう愛佳の方を見ようともせず、視線を虚空に泳がせながら。

398 狂乱(修正版) :2007/02/07(水) 23:09:34 ID:833Dfc.Q
「ソんな連中と協力し合えるわけが無いじゃナい。だったらコロしてしまった方がいいデしょ?」
語調すら、徐々に狂ってゆく。

「死をもっテ償わセルのよ。優勝すればワタしの家族も蘇らセられルし一石二鳥でしょ?」
無表情だった顔が、段々と一つの形に変わってゆく。

「もちろん愛佳ちゃンは特別扱いするわよ?ちゃんと後で生き返らセテあげるわ」
それは笑顔と呼ばれているものだった。

「すべテが終わっタらわたしの家にあそビにきなサイ。きっと楽しイわよ」
笑顔と呼ばれているものだったが―――

「だかラ――マナかちゃンも、ワタシといっしょにヒトをコロシましょう?」
見る者全てを竦み上がらせるような、おぞましい笑顔だった。

千鶴は威嚇するように手にしたウージーの先を揺らした。
まるで従わなければ殺す、という意思表示のように。
愛佳の顔が恐怖と絶望に歪む。

(ここまでね……!)
美佐枝は逃げ出したい衝動を必死に抑え、今やるべき事を考えた。
もう説得は無理だろう……なら自分が、愛佳を守らなければならない。
あの化け物に銃を向けてトリガーを絞る。
一秒にも満たぬ、それだけの動作で決着はつく筈だ。
先手必勝―――美佐枝は即座に行動に移った。


「愛佳ちゃん、下がって!」
叫ぶとほぼ同時に美佐枝の手元から閃光が発される。
だが―――89式小銃の向けられた先では千鶴の姿がもう消えていた。

「いまワタしはまなカちゃんとおはなシしているの……ジャまものハきえなさい!」
ぞっとするような声が横から掛けられる。
美佐枝は嫌な予感がして、ばっとその場を飛び退いた。
その直後にはもうそれまで美佐枝がいた空間を銃弾が切り裂いていた。
背後に置いてあった接客用らしきカウンターが派手な音と共に砕かれてゆく。

「このぉっ!」
照準を定める時間は無い。
美佐枝は振り向き様に89式小銃を連射した。
水平方向に死の直線が描かれる。
その圧倒的な破壊力で広間の設置物が次々に壊されてゆく。
だがまたしても目標の体はその射線上に無い。
千鶴が膝を折って銃撃の軌道から逃れ、その姿勢のまま地面を蹴って突進してきていた。
その手元の銃口の向いた先には美佐枝の体―――

美佐枝は慌てて上体を捻った。
それで何とか千鶴のウージーから吐き出される銃弾を躱す事が出来た。
だが態勢は完全に崩れてしまっている。
迫る千鶴から逃れる事はかなわず、次の瞬間には美佐枝の視界は反転していた。


瞬きする間もなく千鶴は倒れている美佐枝にのしかかる。
美佐枝は、紅い瞳に間近で射抜かれただけで心臓が止まるかと思った。
「シね」
ウージーの銃口を額に押し付けられる。
体を凄まじい力で押さえつけられている美佐枝には対応する術が無い。
そして凶弾が美佐枝の額を貫こうとしたその時だった。

399 狂乱(修正版) :2007/02/07(水) 23:12:31 ID:833Dfc.Q


「やめてぇぇぇ!」
背後から腕を引っ張られ、ウージーを地面に落としてしまう千鶴。
振り向く千鶴の視界の中に愛佳がいた。
「もう……もうやめてください!」
異常なこの状況に気押されながらも愛佳は戦いを止めようとしていた。
「まなかちゃン……」
千鶴の動きが一瞬止まる。
その注意が愛佳に逸れたかと思われたが……そうでは無かった。

千鶴はさっと手を伸ばし、美佐枝の89式小銃を奪い取った。
そして猛獣じみた動きで乱暴に鮮やかに腕を一閃する。
89式小銃の先には銃剣が取り付けられてあり、刃物としての機能も併せ持つ。
完全に不意を討たれた美佐枝は反応が間に合わない。
せいぜい、微かに肩を動かせた程度だ。

「ごっ……ぼっ…」
美佐枝の喉を鋭利な銃剣が一閃し、血煙が周囲を赤く染める。
さらに返す刃が美佐枝の顔面を縦に深く斬り裂いていた。
「ああああっ…美佐枝さぁぁぁんっ!!」
三人の視界が真紅に染まる。
千鶴は噴水のように噴き出る美佐枝の鮮血を全身に浴び、恍惚の笑みを浮かべた。
美佐枝は激痛とショックでごぼごぼと声にならない悲鳴を上げている。
千鶴は大きく腕を振り上げ、美佐枝の喉に銃剣の先端を突き刺した。
(愛佳ちゃん……芹香ちゃん……守ってあげられなくてごめんね…………)
最後にそれだけを思って、美佐枝の意識は途切れた。

「あああっ…ああっ…いやああああああっ!!」
愛佳が絶望の叫びを上げる。
美佐枝の亡骸に縋りつきながら。
千鶴はすくっと立ち上がり、そんな愛佳を見下ろし―――


その時ドアが開いた。
「こ……これは……!?」
そこから現れた者達は息を切らしたまま呆然と立ち尽くしている。
彼女達の名は川名みさき、吉岡チエ、そして、藤田浩之だった。


【時間:2日目14:00】
【場所:C-03 鎌石村役場】

柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、89式小銃(銃剣付き・残弾14/22)、ウージーの予備マガジン弾丸25発入り×3】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、狂気、血塗れ】

藤田浩之
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】
【所持品2:ライター、新聞紙、志保の支給品一式】
【状態:呆然】
吉岡チエ
【所持品1:投げナイフ(残り2本)、救急箱、耕一と自分の支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:呆然】
川名みさき
【所持品:護の支給品一式】
【状態:呆然】

小牧愛佳
【持ち物:ドラグノフ(7/10)、火炎放射器、缶詰数種類、他支給品一式】
【状態:絶叫】

相楽美佐枝
【持ち物1:包丁、食料いくつか、他支給品一式】
【所持品2:89式小銃の予備弾(30発)×2、他支給品一式(2人分)】
【状態:死亡】

【備考:ウージー(残弾12)は床に転がっている】

ウォプタル
【状態:役場の近くに放置】

(関連631・634・666)

本スレ『狂乱』の修正版です、こちらをまとめサイトに掲載お願いします
お手数をおかけして重ね重ね申し訳ありませんでした

400 Crisis :2007/02/10(土) 00:25:40 ID:kPVWjO32
目前の敵を睨みつけ、猛然とワルサーP5を引き抜いたのは、国崎往人と呼ばれる男である。
銀色の髪はこの戦場においてなお美しく、身に纏った黒い服との対比がそれを一層際立たせていた。
もう躊躇は無い。今の彼にあるのは、目の前の敵を、来栖川綾香を屠る意思だけである。
往人の明確な殺意を受けて、綾香がにやりと笑った。まるで、この場の緊張感すらも楽しんでいるかのように。
「何度も言う気はないから、一度だけ忠告してあげる。今の私の標的はまーりゃんと環であって、あんたじゃない。
邪魔をしないって言うんなら、見逃してやっても良いけど?」
それは明らかに、最後通牒だった。これを断れば、綾香の手にしたマシンガンが、容赦無く往人にも牙を剥くだろう。
だが――守るべき仲間の存在、それに地に倒れ伏せているあかりの無念。危険を顧みてなどいられない。
「断る。俺は仲間を撃った敵を――お前を、許すつもりはない」
往人は綾香を見据えたまま、断言した。腕を上げ、ワルサーP5の銃口を綾香へと突きつける。
応えて、綾香はマシンガンを深く構え直した。
「――そう。ならあんたも殺してあげる。その反吐が出るお仲間意識も……全部!粉々に砕いてやる!」
それまでの冷静だった態度から一変し、綾香は感情を剥きだしにして、叫んだ。

――それが戦闘開始の合図となった。
往人が横へ跳ねた直後には、それまで往人がいた場所を銃弾が貫いていた。
相手の武器がただの拳銃なら、これで難は逃れた事になるのだが――生憎、今往人を狙っているのはマシンガンだ。
弾丸の群れが、往人が動いた軌跡を辿って迫ってくる。その攻撃から逃れるには、相手の連射を遮るしかない。
往人は綾香に向けて、ワルサーP5の引き金を引いた。
しかし往人が銃を扱うのは今回が初めてだ。移動しながらでは、狙い通りの場所を撃ち抜く事は叶わない。
綾香は掃射を再開し、連続した銃弾が往人を捉えそうになる。
「やらせないっ!」
声が聞こえるとほぼ同時に綾香がさっと身を引き、遅れて別の銃声が聞こえた。
綾香のすぐ目の前で、地面に生えた雑草が千切れ飛ぶ。往人が視線を移すと、環が綾香にレミントンの銃口を向けて、立っていた。
往人が銃を構え直すより早く、綾香が環を射抜こうとし――またも、綾香は後ろに跳躍した。
「甘いぞぅ、あやりゃん。あたしの目が黒いうちは、たまちゃんには指一本触れさせないよっ!」
麻亜子が、これまでの時間で矢を装填したのであろう、ボーガンを構えている。
唸りを上げる矢が放たれたが、それは綾香を損傷せしめる事が出来ず、ただ空気を裂くに留まった。

401 Crisis :2007/02/10(土) 00:28:12 ID:kPVWjO32


辺り一帯に銃声が響く。暴力の嵐が吹き乱れる。
銃弾、ライフル弾、そしてボーガンの矢。綾香が攻撃体勢を取ろうとすると、それを遮るように攻撃が放たれる。
「くっ……雑魚共が群れて調子に乗ってんじゃないわよっ!」
綾香は忌々しげに吐き捨てた。その言葉通り、先程から往人ら三人が綾香一人を攻撃する構図が続いている。
往人達と麻亜子が、示し合わせた訳ではない。麻亜子がゲームに乗っている事は、今この時もなんら変わりは無い。
しかし麻亜子にとって、自分とその知り合いを優先的に狙う綾香の存在は、危険極まりないものである。
また、往人と環は、あかりを撃った綾香を許す事など出来ない。必然的に、三人の攻撃目標は綾香一人に絞られていた。
かつてない勢いで撃ち込まれる連撃を前に、綾香が後退する。
それを好機と取ったか。

環が地面を蹴り、疾風の如き勢いで綾香との間合いを詰める――!
今までよりも遥かに近い距離で繰り出される、レミントンの銃撃。
ライフル弾によるそれは、防弾チョッキの上からでも、致命傷を与えうるだけの貫通力を有している。
環は防弾チョッキの存在など知らないのだが、ともかく命中すれば一撃で綾香を仕留める事が出来る。
「チイ――――!」
咄嗟に身を捻った綾香の真横の空気を、ライフル弾が切り裂いてゆく。
今度は逆に、環の方が致命傷を受けかねない状況だ。シャワーのようなマシンガンの攻撃を、近距離で避ける事は不可能に近い。
往人が、綾香から攻撃の時間を奪うべくワルサーP5を放つ。綾香はしなやかな動きで、その銃撃も回避してゆく。

――強力な重火器に、防弾チョッキ。異能を持たぬ人間の中では、男女の分け隔てなく上位に入る身体能力。
加えて平瀬村の大乱戦で、柳川祐也との死闘で得た、豊富な殺し合いの経験。
今の綾香は、ゲーム参加者の中でも特に優れた戦闘力を誇っている。
だが往人達もまた、一般人としては充分に強力な部類である。
そんな人間を三人同時に相手にしては、正面からでは反撃もままならない。
不利を悟った綾香が、攻撃を捨てて回避に徹し、後退を続けてゆく。
そのまま綾香は後ろにあった民家の塀を飛び越え、それを盾にするように身を隠した。

402 Crisis :2007/02/10(土) 00:30:40 ID:kPVWjO32
「逃がすかっ!」
間髪入れず、往人がその後を追おうとした。銃を構えて前へ走る。
「国崎さん、下がって!」
そんな往人を制しながら、環がレミントンを撃った。放たれたライフル弾が命中し、塀の一部が破損する。
何故この有利な状況で後退を促がすのか――往人にはその意味を図りかねたが、すぐに思い知る事になる。
綾香が塀の向こうから顔を出し、すぐに引っ込めた。その直後にマシンガンを持った手が現れる。
遅れてマシンガンから銃声が鳴り響く。幾多の銃弾の内の一つが掠り、往人はちりっと頬の表面に熱を感じた。
綾香は、遮蔽物を防御に利用する事で、自分が攻撃する時間を作ったのだ。
この瞬間、攻守の立場が逆転した。このまま自分達だけ身を隠さずに戦えば、全滅は必至だ。
「こっちです!」
言われて、往人は環に追従し、近くにある農耕用の大型トラクターの陰に飛び込んだ。
既に麻亜子はそこに隠れており、ボーガンに矢を装填しようとしている。
「国崎さん、苛立つのは分かりますが落ち着いてください」
環が静かな声色で諌めてくる。それは些か冷静に過ぎるように思えた。
往人は反論しようとしたが――環の握り締められた拳から滴る血に気付いた。
そうだ、環とて悔しくない訳が無い。それでもここでやるべき事は、感情に任せて犬死にする事では無い筈だ。
「そうだな……すまん」
だから、往人は大人しく自分の非を認めた。
あくまで冷静に――あの女を、来栖川綾香を倒す。

「しかし、どうする?」
銃の残弾を確かめてから、往人が尋ねる。
往人のワルサーP5の残弾は5発、余裕があるとは言い難い。麻亜子のボーガンにも、この状況では期待出来ない。
綾香の隠れている民家とは60メートル以上離れている。それを弓で撃ち抜くのは、神技に等しい芸当だろう。
それに麻亜子が、いつ自分を攻撃してくるかも分からない。往人と麻亜子は、敵同士なのだから。
「私の銃は元々、狙撃用のライフルの筈です。これを使って綾香が攻撃する瞬間を狙いましょう」
環が、銃に弾を詰めながら答える。往人には、環の提案した作戦が正しいように思えた。
相手も訓練を積んだ軍人という訳ではあるまい。
遠距離の戦闘に限って言えば、命中精度に優れるライフルを有するこちらの方が有利だ。

403 Crisis :2007/02/10(土) 00:32:22 ID:kPVWjO32
だがそんな二人の目論見を打ち消すかのように、麻亜子が言った。
「――まずいぞ」
「何がだ?」
「あやりゃんがここに来た時、最初に何が起こったかね?」
言われて往人は、思考を巡らした。綾香が来た時最初に生じた事態。
あかりが撃たれるより、更に前に起こったことだ。有紀寧と麻亜子と、牽制し合っていた時に、膠着を打ち破ったもの。
それは――
往人が答えに達するとほぼ同時に、環も同じ結論を得た。
「く、っ――――――――!」
走りこんで勢いをつけ、考えるより早く跳ぶ。他の事に気をやる余裕は無い。
とにかく全力で、力の限り、地面に滑り込むつもりで、三人は真横へ跳躍する。
そして――それまで三人が隠れていたトラクターは、綾香のレーザー式誘導装置によるミサイルを受け、粉々に爆散した。

早めに回避行動に移ったことが幸いした。
再び轟音と爆風に襲われた往人だったが、今度は少し距離があって吹き飛ばされずに済んだ。
しかし綾香も、避けられる事くらいは予想しているだろう。このまま態勢を立て直そうとすれば、あかりの時の二の舞だ。
まだ硝煙が邪魔で視界がはっきりとしないが、それでも往人は綾香が隠れていた方向に向け、銃を放つ。
煙が目隠しになるのは自分達にとっても同じ――銃声で場所を特定されぬよう、往人は少し移動してから、また狙撃した。
往人の行動が功を為したのか、綾香のマシンガンの音が響き渡る事は無い。

しかし――今日の往人はとことん天に見放されているようで。
「あぐっ!」
聞こえてきた悲鳴の方へ目を向けると、環が血が流れ出る左肩を抑えている。
いつの間にか、逃亡した筈の男――長瀬祐介が、包丁片手に戻ってきていた。
「くそっ、こんな時に!」
往人は環を援護しようと考えたが、それを実行する事は無かった。
何故なら、綾香が塀を乗り越えて、マシンガンを撃とうしているのが見えたから。
素早く移動して、連射された銃弾の軌道から逃れる。その最中に、往人は思った。
(……絶体絶命、ってヤツだな)

404 Crisis :2007/02/10(土) 00:34:06 ID:kPVWjO32
【時間:2日目・15:15】
【場所:I−6】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている、全身に痛み】
【目的:目標は生徒会メンバー以外の排除、最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

国崎往人
【所持品:ワルサーP5(3/8)、ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式(食料のみ2人分)】
【状態:目的は綾香の殺害と仲間を守る事、全身に痛み】

神岸あかり
【所持品:水と食料以外の支給品一式】
【状態:瀕死、月島拓也の学ラン着用。打撲】

向坂環
【所持品①:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(10/10)、包丁、ロープ(少し太め)、支給品一式×2】
【所持品②:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に痛み、左肩に包丁による切り傷】

長瀬祐介
【所持品1:包丁、ベネリM3(0/7)、100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:環に攻撃中、有紀寧への激しい憎悪、全身に痛み】

来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(27/30)・予備カートリッジ(30発入×3)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数1・レーダー(予備電池付き)】
【状態①:右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【状態②:まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う】

→686
→687

405 Climacus -Messiah's identity- :2007/02/10(土) 18:21:16 ID:V3.oKtaE

「どこへ行くんだ?」

少年が静かに問いかけた。
彼がいつもそうするように、優しく。

「誰もいないところ」

少女が、小さく呟いた。
常ならば絶対に浮かべない、硬く強張った表情のまま。

ざあ、と風が鳴る。
梢に溜まった水滴が、流れて落ちた。
雨は既にやんでいたが、垂れ込める雲は未だ陽光を遮っている。
雲間から日輪が覗くには、いま少しの時を要するようだった。

「いつまで歩くんだ?」

光射さぬ島の上、重ねて少年が訊ねる。
泥濘を歩きながら、その足元には染みひとつない。
まるで汚れの方が少年を避けて通っているかのようだった。

「お前がいなくなるまで」

目線を動かすことなく、少女が答えた。
スニーカーの足元のみならず、その顔にまで泥が撥ねていた。

「俺なら、お前を救ってやれる」

再び、風が鳴いた。
灰色の世界の中、少年がそっと、少女へと手を伸ばす。

406 Climacus -Messiah's identity- :2007/02/10(土) 18:21:41 ID:V3.oKtaE
「―――いらない」

即答した少女が、荒々しく少年の手を振り払う。
少年はなおも追いすがり、続けた。

「お前が望むなら、運命だって変えてみせ―――」
「やめろ。」

強い言葉が、響いた。
少女が足を止め、振り向いていた。沈黙が降りる。

ざ、と音がした。
梢から落ちた雫が下の葉を揺らし、そうして集まった水滴が樹を揺らす音だった。

少女は少年を真っ直ぐに睨んでいた。
その表情には、侮蔑と拒絶が、ありありと浮かんでいた。

「やめろ。そういうことを口にするな。できそこないの唯一者」

一言一言を区切るように、少女ははっきりと口にした。

「美凪がいなくなるなら、みちるもここから消える。
 それは、今度も同じ。ずっと同じだったように、今度も同じなんだ」

哀切がそのまま形になったような、それは言葉だった。
その眼に涙を浮かべたまま、少女は、少年を断罪する。

「お前なんか、いらない」

407 Climacus -Messiah's identity- :2007/02/10(土) 18:22:31 ID:V3.oKtaE
瞬間、少年が凍りついたように動きを止めた。
指先一本に至るまでの全身の身動きは勿論、瞬きも、呼吸や鼓動すらも、止まっているように見えた。
時に置き忘れられた彫像のような、それは正しく異様だった。

少年の異様を、しかし少女は気にも留めない。
一切の興味をなくしたように、視線を逸らす。

「今度の美凪は、みちるにも国崎往人にも会えずにいなくなった。
 ……だけど、それでいいんだ」

独り言めいた呟きが、風に巻かれて消えていく。

「国崎往人が死ぬのも、みちるが消えるのも見なくてすんだ。
 悲しくて、悲しくてつぶれてしまうよりも、ずっとずっといい終わり方だった」

ひどく悲しそうに、ひどく嬉しそうに、少女は灰色の空を見上げた。

「悲しいことは、つづくけど」

歳不相応の大人びた眼差しに曇天を映したまま、少女は呟く。

「今度の美凪くらいにしあわせであってくれれば、みちるはそれでいい。
 ……だから、」

視線を下ろした少女は、少年を疎ましげに一瞥すると、言い放った。

「―――お前なんかに、救われたくない」

少女の言葉と共に、少年の彫像から色彩が失われていく。
目映いばかりに煌いていた鎧が、その豪奢な装飾が、曇天の色に侵される。
麗しく風に靡いていた銀色の髪も、透き通る紫水晶の瞳も、瞬く間に色褪せていく。

「どっかいけ、役立たずの救世主」

少年の背に生えた六枚の翼が、砕け散った。
きらきらと輝いていた銀翼の破片は、薄汚く燃え残った煤のように、風に吹かれていった。

「消えろ。―――もうお前なんか、いらない」

少女の言葉が、少年の彫像を打つ雷鳴となったかのように。
灰色の少年が、音もなく、弾けた。

408 Climacus -Messiah's identity- :2007/02/10(土) 18:22:59 ID:V3.oKtaE

ざあ、と。
三度、風が鳴いた。

みすぼらしい灰色の欠片が、同じ色をした空に溶けるように、消えていく。
少女はそれを、じっと見つめていた。

「……甘ったれ」

誰にともなく呟いた少女が、その足元から輪郭を薄れさせていく。
それきり少女は、真一文字に口を結び、一言も漏らすことはなかった。

木々と、空と、雨滴と泥に囲まれて、少女が殺戮の島から完全にその姿を消したのは、
それから程なくしてのことだった。



【時間:2日目午前10時すぎ】
【場所:E−2】

みちる
 【状態:消滅】

相沢祐一
 【状態:消滅】

→432 474 676 ルートD-2

409 Climacus -The Ladder of Divine Ascent- :2007/02/10(土) 18:23:51 ID:V3.oKtaE

 ―――東京某所


喧騒さめやらぬ室内に、ひとり静かに情勢を見守る男がいた。
肘掛に頬杖をついたまま、なんでもないことのように呟く。

「―――唯一者が、消えたようだな」
「ま、こんなものだろうね。錆の浮いた救世主にしては、よくもった方だと思うよ」

独り言めいた呟きに答えたのは、男の傍らに影の如く立つ少年であった。
その軽い口調に、男が片眉を上げる。

「いいのかね、そんなことで」
「別に構わないだろう? 今回の計画に、あんなものは必要ない。僕にとっても、そっちにとってもね」
「それはそうだが、な」

男が嘆息する。
本気なのか、ポーズなのかは見て取れない。どうにもつかみどころのない男であった。

「……しかし、必要ない、か。その程度の言霊で消滅するものなのか、唯一者は」
「勿論、昔からそうだったわけじゃないさ。あそこまで脆くなったのは最近の話だよ」
「神殺しの剣、究極の一……哀れなものだな、道化の救世主というのも」
「昔は皆が望んだ存在だったんだよ。命が神に抗っていた時代には、彼は紛れもなく救世の希望だった」
「神なき今は無用の長物というわけか」
「それでも彼は甦り続けた。救いを求める者の前に、求められるまま、求められる形で」
「挙句があの様かね」
「あれは本来、世界を救うために造られたんだからね。エゴの救済なんて、ノイズを溜め込むばかりさ。
 造物主のメンテナンスもなしに復活を繰り返せば、ロジックは崩壊していく一方だ」
「今となっては簡単な言霊……救済を否定する意思で消えてなくなる、泡沫のメシアと成り果てたか」
「そういうことだね」

おどけるように、肩をすくめてみせる少年。

410 Climacus -The Ladder of Divine Ascent- :2007/02/10(土) 18:24:33 ID:V3.oKtaE
「……しかし、唯一者の消滅は数年前にも観測されている。どうせまたすぐに現れるのだろう」
「さてね。それはあの島に残った人間次第だけど」
「救済を求める者など、残っていたかね」
「僕に聞かれても困るな」

少年が苦笑する。
と、男がにやりと口の端を上げて話題を変えた。

「そうだ、消えたといえば」
「……何だい?」

男の怪しげな笑みに、少し警戒したような表情で聞き返す少年。

「君の影も消えたようだが、」
「問題ない」

にやにやと笑う男の言葉をはね付けるように、少年が断言する。
呆れたように男を睨みつける少年。

「何を思いついたのかと思えば……まったく、それは嫌味のつもりかい」
「嫌味とはひどいな。これでも心配しているんだよ」
「その顔でかい? ……まあいいさ、改めて言うほどのことでもないけど、問題はないよ」
「おやおや。君の、文字通り手足となって動いてくれた彼に、随分と冷たいじゃないか」

男の軽口は止まらない。
閉口したように、少年が眉根を寄せる。

「……確かに、あれは影の中でもなかなか精巧に作ったつもりだからね。
 手間も時間もそれなりにかかってはいるけど……それだけだよ。似姿だけなら、今すぐにでも作れるさ」
「その精巧な影も、今回はあまり役に立たなかったようだね」
「うるさいな。ここまで膨れ上がったら、影なんかじゃ手のつけようがないんだよ。
 これまで、個々が目覚めることはあったけど……これほどに大規模な覚醒は見たことがない」

どこか心配げな少年の声音に、男が少し慌てたように言う。

「おいおい、ここまできて手綱を放さんでくれよ」
「伝えとくよ。……それより、そっちこそいいのかい、神機のこと」
「ん? 何か問題があるかね」

突然の話題転換に、男がとぼけてみせる。
少年は男の態度など気にも留めずに続けた。

411 Climacus -The Ladder of Divine Ascent- :2007/02/10(土) 18:24:53 ID:V3.oKtaE
「カミュに続いてウルトまで覚醒してるみたいけど……あれはそっちの切り札じゃなかったのかな?」

斬りつけるようなその口調にも、男の表情は変わらない。
茫洋とした態度を崩さずに答える。

「……なに、構わんさ。切り札は一枚というわけではない。
 それにどの道、約束の日を越えられなければ、いくら戦力を温存したところで意味などないのだろう?」

奇妙なことに、上座に座るその男の声は、周囲でモニターからの情報を逐一処理している白衣の男たちには
何一つとして聞こえていないようだった。傍らに佇む少年だけが、男の言葉に答えている。

「思いきりのいいことで。……その割に、貴方の部下は随分とエキサイトしていたみたいだけど」
「長瀬博士は何も知らんからな。彼はまだ今回のプログラムが実験の一環だと考えている。
 ……困ったものだね」
「貴方が説明しなくちゃ誰にもわからないだろうに、困った人はどっちだろうね……」

参った、というように天を仰いでみせる男を、少年は軽く睨む。

「いや実際、長瀬博士の行動は頭が痛いんだよ。
 君もさっき見ていただろう、久瀬君の怒鳴りようときたら、まだ耳鳴りがするくらいだ」
「貴方が余計に怒らせたんだろうに……」
「何か、おかしなことを言ったかね。覚えがないな」
「……そもそも最初に御子息を捻じ込んだのは貴方だ、公私混同のツケをこっちに回すな、とか」
「ああ、言ったな。……だが私はこうも言ったぞ。御子息も何やら頑張っておられるようだし、」
「―――ここは一つ、温かく見守るのが親の務めというものじゃないかね、って?」

自身の言葉を引き取った少年の冷たい声音に、男が戸惑ったような表情で少年を見返す。

「……まずかったかね?」
「貴方はそういう人だよ……」

深くため息をつく少年。

412 Climacus -The Ladder of Divine Ascent- :2007/02/10(土) 18:25:24 ID:V3.oKtaE
「しかしね、久瀬君もあの調子でゴリゴリやる方だから、制服組からの評判が芳しくないってことは
 自分でもわかってただろうに」
「おや、随分と長瀬とやらの肩を持つね」
「吊るし上げを食いかねない素地はあった、ということさ。
 ……とはいえ、長瀬博士も技研時代は現場と大分やりあってた人間だからな。
 そう簡単に制服組が彼の言葉に従うとは思えないんだがね」
「何か、裏があるって?」
「君たちのことだ、どうせ知っているのだろうに」
「そういうことにはあまり興味が無いんだよ」

国家の命運をかけた問題を、まるで明日の天気の話題のように軽く扱う二人。
虚々実々のやり取りを楽しんでいるかのようだった。

「……まあ、その辺りはいずれ報告が上がってくるからな。それを待つさ」
「いいのかねえ、そんなことで」
「それに、向こうには『彼』がいる。任せておけばどうとでもなるだろう」
「……いい加減なものだね。仮にも一国の頂点に立っている人間が」

半眼で睨む少年の視線を受け流すように、男は小さく笑ってみせる。

「そう言ってくれるな。確かに私一人の力では、小舟の一艘も漕ぐことはできないがね。
 皆が力を貸してくれれば、国家という大船の舵を取ることだってできるのさ。
 人の上に立つとは、そういうことだよ」

男の、どこか自信に満ちた言葉に、少年は肩をすくめて呟く。

「そんなものかね」
「……ま、黙っていても勝手に要点をかいつまんだ報告書をまとめてもらえるのが、
 この仕事のいいところでね」
「台無しだよ……」

少年が何度目かのため息をついたのとほぼ同時に、男にかけられる声があった。

「―――総理、お電話です」
「私に直接? ……誰かね、この番号を知っている人間はそういない筈だが」

受話器を持って男に差し出した係官が、何事かを耳打ちする。

「……ふむ。少し、面白いことになるかもしれんな」

男が、一瞬だけ政治家の顔を覗かせる。
受話器を受け取ると、回線の向こうの相手に向かって口を開いた。

「―――ああ、久しぶりだね。うん、今ちょうど、その話をしていたところだよ」

413 Climacus -The Ladder of Divine Ascent- :2007/02/10(土) 18:26:41 ID:V3.oKtaE

「こうなると長いんだよね……」

話し込んでいる男をつまらなそうに見ていた少年だったが、ふと何かの気配を感じたかのように振り向いた。
その視線の先に立っていたのは、はたして少年より一回り小さな影であった。

「……ああ、おかえり」

憮然とした表情で自身を見つめるその影に向かって、少年は微笑んでみせる。
男と軽口を叩き合っていたときとは違う、心からの優しげな笑みだった。

「頑張ったね、みちる」

少女は答えず、ただ静かに少年を見つめていた。




【時間:二日目午前11時ごろ】
【場所:東京某所】

主催者
 【状態:詳細不明・総理】

少年?
 【状態:詳細不明】

みちる
 【状態:詳細不明】

→034 311 383 514 693? ルートD-2

414 姉と弟 :2007/02/11(日) 18:52:42 ID:nlusYtBc
来栖川綾香と国崎往人が居なくなった事に気付いた朝霧麻亜子は、二人を探して走り回っていた。
武装差を考えれば、あの二人の戦いは来栖川綾香が勝つだろう。
自分が綾香に勝つチャンスは、その戦いの決着が着いた瞬間しかない。
自分の謀略――綾香を修羅の道に引きずり込む目論見は、確かに成功した。
あの強力な武装、そして躊躇の無い戦い振り。間違いなく綾香は、これまでに何人も殺している。
その事は麻亜子の作戦通りなのだが――綾香は予想以上に強くなり過ぎた。
そして殺戮の道を歩み続け、一層強まってさえいる麻亜子への復讐心。
もはやあの女の存在は、ささらの生存率を大幅に引き下げる要因に他ならない。
何としてでも打ち倒さなければならない。そう、自分の撒いた種は自分で刈り取る。

そう考えながら血眼になって走り回っている時、遠くから例のマシンガンの音が聞こえてきた。
「あやりゃん……これ以上、好き勝手はさせないよっ!」
麻亜子はそれを聞き取るや否や、即座に音が聞こえてきた方向に駆け出した。





一方麻亜子が走り去った戦場では、姉と弟――血を分けた実の姉弟が対峙していた。
向坂環は気力を振り絞って立ち上がり、正面でベネリM3を握り締めている向坂雄二を見据えた。
雄二の顔には、一度戦った時と同じ――『壊れて』しまった者のみが浮かべる歪んだ笑み。
あの時雄二を放置していったのは、冷却期間が必要だと思ったからだ。
時間を置けば、きっと正気に戻ってくれると。私の弟なら、狂気に打ち勝ってくれると。そう信じていたからだ。
だが結果的に、雄二は前以上の狂気を纏って舞い戻ってきた。その事実に心が折れそうになる。
「どうしたんだよ姉貴、そんな情けねえツラしやがって。……今更臆病風に吹かれたなんて、言うなよ」
思った以上に、感情が顔に出てしまっていたらしい。呆れたように、雄二が告げる。
環もこう言われては黙ってはいられない。姉としての自覚が、自信が、今にも崩れ落ちそうな自分を何とか支えている。
「……言ってくれるじゃない。前に一度、素手の私にやられたのを、もう忘れちゃった訳?」
「――――!」
場の空気が凍る。狂気で満たされていた雄二の瞳に、どす黒い殺気が混じってゆく。
その殺気に気圧されて、環は僅かに後退してしまった。

415 姉と弟 :2007/02/11(日) 18:53:57 ID:nlusYtBc
「ああ、確かに一度俺は姉貴にやられたよ。……一度だけじゃねえな。姉貴にはずっと、何をやっても勝てなかった。
小さい頃から姉貴は完璧で、何で勝負しても俺が勝てる事なんてなかった」
雄二は、常に姉に対して心の奥で――尊敬と畏怖の念を抱いていた。壊れてしまった今ですら、それは変わらない。
恐怖を乗り越え真理に辿り着いたと自負している雄二ではあったが、姉に対しての劣等感は未だ消えていない。
「この島に連れて来られて、ゲームに乗って。俺は何でも出来る気になっていたよ。誰よりも強くなった気でいたよ。
それがいざ姉貴と戦ってみると、あのザマだ……。いつもいつも、そうだった。どんなに苦労しても、俺は姉貴に勝てないんだ」
今の雄二は、もはや狂気と、環への劣等感のみで動いていた。彼の歯車は修正不可能どころか――文字通り、『壊れて』しまっている。
その事を眼前に突きつけられた環は、ぎりっと下唇をかみ締めた。

「俺はもっと強くならなきゃなんねえんだ。この島じゃ、強けりゃ何をしても許されるんだからな。
……そうだ。強くなれば、姉貴を越えれば、今まで人を殺してきた事だって許される。
誰にも負けずに、優勝して、ゲームに巻き込まれた奴らを全員生き返らせれば、みんな俺に感謝する筈なんだ!」
包み隠す事なく、己の感情を吐露する雄二。それは自身に対しての言い訳に過ぎない。
狂気に負けて月島瑠璃子を――行動を共にしてきた仲間を、誤殺してしまった事実を認めない為の、虚しい言い逃れだ。
正常だった頃の雄二は、極悪非道な男だった訳ではない。
寧ろ人一倍友情に厚い雄二だからこそ、自分の行為を正当化しなければ生きて行けなかったのだ。

「だからこそ姉貴は、俺自身の手で殺さなくちゃいけねえんだ。姉貴は俺が神になる為の、最後の壁なんだよ!」
雄二の言葉の一つ一つが、環に教える――もはや、雄二を救う手立ては無い、と。
(ごめんタカ坊――私も、狂気に飲まれちゃわないといけないみたい)
そう、これから自分がしなければいけない事は正しく狂気の沙汰だ。
救えないのならこれ以上罪を重ねる前に、せめて、この手で殺す。それが姉としての自分の、最後の役目だ。
銃は使わない。実の弟の命を奪うのなら、そんな簡単な手段に頼ってはいけない。
環はレミントンを地面に捨てて包丁を握り、目の前の狂人を真っ直ぐに睨み付けた。
「……何が神よ。ただ現実から目を逸らして、逃げてるだけじゃない!良識も、愛情も、友情も、全部……大事な物を全部捨て去って!
ただ罪の意識から、逃げてるだけじゃないっ!」
「黙れ黙れ黙れっ!俺は正しいんだ……今度こそ姉貴を倒して!この島の神になるんだっ!!」
実の姉による糾弾は、雄二の壊れた精神を更に傷付けてゆく。
雄二が悲鳴のような絶叫を上げ、ベネリM3の銃口を環に向けた。

416 姉と弟 :2007/02/11(日) 18:55:00 ID:nlusYtBc
環はすぐに反応して横に跳躍したが――べネリM3が火を吹く事は無かった。
弾切れに気付いた雄二はちっと舌打ちし、武器を金属バットに持ち替え、環に襲い掛かった。
「つぅ……!」
環はそれをどうにか包丁で受け止めたが、傷付いた肩が衝撃で酷く痛む。
一発で打ち切りではない。二発、三発と、雄二は繰り返し金属バットを振るう。
それを防ぐ度に、環の肩から血が噴き出し、苦痛に顔が歪んでいく。
満身創痍の今の環にとって、これはとても勝ち目が薄い戦いなのだ。環は堪らず、後ろへ飛び退いた。
「逃がすかよっ!」
それを雄二が、猛然と追って来る。叫びと共に、乱暴にバットを振り下ろす――!
加速が付いたその威力は、先程の比ではない。これを受け止める事は不可能だ。
「く――!」
環はすんでの所で体を捻って回避していた。大振りした影響で、雄二の次の動作は遅れている。
その無防備な横腹を狙って包丁を振るう。だが、大幅に体力を消耗してしまっている環の攻撃は遅過ぎた。
雄二は笑みすら浮かべながら、悠々と環の斬撃から逃れていた。
慌てて環は後退し、雄二と間合いを取った。今度は雄二も、すぐに追おうとはしない。
「――何だ、その程度か姉貴?俺にとってのラスボスの癖に、あんまがっかりさせんなよな」
話す雄二の息は全く乱れていない。対する環は既に息を切らし、肩からの出血量も増してきている。
環はぎしりと、歯軋りした。

――勝てない。このままでは、無惨に殺されてしまうだけだ。
パワーもスピードも、両方の要素で、今の自分は雄二より劣っている。
肩の傷もあり、長期戦での不利は明確。戦いが長引けば長引くほど、戦力差は顕著に現れるだろう。
ならば短期決戦しかない。包丁を命中させる事さえ出来れば、今の自分でも雄二の命を奪える筈だ。
だが、どうやってそれを成し遂げる?雄二の武器は金属バットだ。
殺傷力という点でこそ、包丁には劣るが、それは一撃で致命傷にならない可能性が高いというだけの話。
勝負を決するには、十分な威力を秘めている。そしてそのリーチは、包丁の倍以上ある。
自分より優れた能力で振るわれるそれを掻い潜って、一撃を入れなければならないのだ。
単純な力押しでは無理だ。そう、相手の裏を突かなければならない。
環は極めて短時間で勝利への道を模索すべく、頭脳を総動員させた。

417 姉と弟 :2007/02/11(日) 18:56:37 ID:nlusYtBc
「来ねえのか?来ねえなら――こっちから行くぜっ!」
そう言うや否や、雄二が再びバットを振り上げて走り込んできた。
その攻撃を受け止める事は無理だろう。速度で劣る以上、ただ避けても好機は生まれない。
ならば――近接戦になど、応じない。
環は痛む左肩を酷使して、デイバックを雄二の顔面目掛けて投げつけた。
「はんっ、こんなもん効くかよ!」
雄二はバットでそれを叩き落すと、勢いを落とさずにそのまま環に向かって突進する。
環もあの程度の攻撃で、雄二が止められるとは思っていない。所詮陽動、本命の攻撃は別に考えてある。
目前に迫る雄二のバット――だが、環は、引かなかった。
「――なっ!?」
雄二が目を見開く。それも当然だろう。環は雄二の横をすり抜けるように、地面に滑り込んでいたのだから。
予想だにしなかった事態に、雄二の反応が大きく遅れる。
環は体が地に着くのを待たずに、雄二の背中を狙って包丁を投げつけた。
振り返った雄二の瞳に、鋭利な包丁の刃先が映る。バットでの防御は、もう間に合わない。

――負ける?また負けるのか、俺は?何をやっても姉貴には、勝てないのか?
「くそ……負けてたまるかよぉぉぉぉぉっ!」
雄二は絶叫しながら、左手で包丁を受け止めた。腕に激痛が走り、鮮血が噴き出す。
それでも負けるくらいなら腕を失った方がマシだ。今の自分にとって、環への敗北以上に怖い事などない。
これで相手は手詰まり。武器を失い、体力ももう限界だろう。片腕が使えなくなった自分でも、勝てるんだ!
雄二はそう考えながら環の姿を探し――そして、声を掛けられた。
「雄二」
「――え?」
環が姿勢を低くして、雄二の足元にまで迫っていた。とても怪我人とは思えない動きだった。
そして環の手に、さっき自分が弾いた筈の包丁が握られていた。
それはすぐ近くに倒れている長瀬祐介の武器だったのだが、雄二にその事は知る由も無い。
――勝負あった。
立て続けに裏をかかれ傷を負った雄二に、環の攻撃を防ぐ術は無い。
「うわ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
雄二は苦し紛れに金属バットを振り下ろしたが、あまりにも遅すぎる。
環の包丁は確実に雄二の体を切り裂き、その命を奪うだろう。

418 姉と弟 :2007/02/11(日) 18:59:20 ID:nlusYtBc





――雄二は見た。
環の手にした包丁は正確に雄二の胸を貫こうとし――そしてその寸前で、動きを止めたのだ。
包丁が雄二の体を捉える事は無くて。雄二の手に確かな手応えが伝わり。環は右肩を強打され、地面に力なく倒れこんだ。
仰向けに倒れている環の目に以前のような殺気は無く、それどころか涙すら溢れている。
雄二の脳裏に浮かぶのは、勝利の喜びではなく、疑問のみだった。
「あ、姉貴――?」
理解出来なかった。何故あのまま包丁を振り切らなかったのか。そうすれば負けていたのは自分だった。
環は自分を殺せた筈だ。確実に殺せた筈なのに――
「な、何でだよ姉貴っ!どうして俺を刺さなかったんだよっ!」
「……ただ思っただけよ。このまま包丁を振り切れば雄二は死んでしまう、って。そして――そんなの嫌だ、って」
「――は?」
「私はね、あんたを弟として、愛してるわ――。だから、覚悟を決めたつもりでも、あんたを殺す事なんて出来なかった。それだけの話よ……」
環は、とても落ち着いた声でそう口にしていた。それは雄二にとっても大事な存在だった、向坂環の姿だ。
乱暴で、我侭で、容赦が無くて――でも、本当はとても優しかった、自慢の姉の姿だ。
「あんたの勝ちよ……私を殺しなさい。あんたを説得するのが無理だって事は分かったわ。
それでも雄二は私の大事な弟だから……絶対に、生き延びなさい」
もう堪える事など出来ない。環は涙を流しながら、姉として、弟に向けて語りかける。
雄二はその姿を見て、自分の胸に何か熱いモノがこみ上げるのを感じた。そう、失いかけていた感情だ。

だが、それを認める訳にはいかない。それを認めたらもう人を殺せなくなってしまう。
だったら今までの自分の行動は何だったのだ?人を殺し、少女を強姦し、挙句の果てには実の姉にまで手を上げて。
それらの行為が全て間違いだったとすれば、自分はもう取り返しのつかない罪を犯し過ぎている。
今更正気に戻る事など許されない。狂気に身を任せ、ゲームに優勝するしか道は残されていない。

419 姉と弟 :2007/02/11(日) 19:01:07 ID:nlusYtBc




「わあああああああああああああああああっっ!」
錯乱した雄二は環の頭部に向けて、咆哮と共にバットを振り下ろそうとした。迫る死を、環は目を閉じずに眺め続けた。
少しでも長い間、弟の姿を見ていたかったから。
だが――銃声が聞こえた。既に何度も銃声は聞いていたが、今回のは一際大きく感じられた。
そして雄二の右腕が、弾け跳び、血飛沫が環の顔に降りかかった。
「ぐあぁぁぁっ!」
雄二は肘から先が消滅した腕を押さえて、うずくまった。
「――掠らせるだけのつもりだったんだが……。使った事が無いだけあって、このタイプの銃は扱いが難しいな」
声が聞こえ、雄二が顔を後ろへ振り向けた。その視線を環も追い掛け――

爆発の影響で、まるで空爆が行なわれた後のような荒廃した地に、長身の男が立っていた。
眼鏡をかけ、カッターシャツを着込んだ、一見真面目そうに見える格好。
それとは逆に、とても鋭い――ぎらぎらとした猛獣のような目。
その男は、柳川祐也と呼ばれている男だった。爆発音を聞きつけた彼は、一目散に駆けつけてきたのだ。
雄二に向けてイングラムを深く構えて、柳川は言葉を続ける。
「問い質す暇は無かったので撃たせて貰った。貴様がゲームに乗る気が無いのなら、それ以上の抵抗は止めておけ」
威圧するような声、冷酷な瞳――この男は、決して容赦しない。環にはそれが分かった。
口振りからしてゲームには乗っていないようだが、マーダー相手ならば顔色一つ変えずに殺してのけるだろう。
だが完全な錯乱状態に陥っている雄二に、そのような事を考える余裕がある筈も無い。
「てめえ!よくも俺の腕をーっ!!」
雄二は無事な左腕でバットを拾い上げると、柳川に向かって走り出した。
柳川の手にしたイングラムが火を吹き、雄二の直ぐ前の地面を跳ね上げる。
「止まれ――止まらないのなら、貴様を殺す」
明らかな威嚇、そして死刑宣告。それでも雄二は止まらない。
「うるせえ、うるせえっ!俺は姉貴にも勝ったんだ!俺は誰にも負けねえんだっ!」
「やめて……雄二、もうやめてぇぇぇぇっ!!」
環の悲鳴とほぼ同時。雄二を捉える柳川の瞳に、一瞬だけ憂いの色が混じった。
そしてイングラムがもう一度火を吹き、そこから放たれた銃弾の群れが雄二の体を貫いた。
腹に、胸に、足に。一発一発が十分過ぎる殺傷力を秘めた弾丸が、雄二の体を破壊してゆく。
弾を撃ち込まれる度に雄二の体が後ろに跳ね飛ばされる。それでも雄二の足は前進を続けようとし。
柳川が掃射を止めると、雄二の体は前のめりに地面に倒れこみ、その時にはもう雄二は死んでいた。

420 姉と弟 :2007/02/11(日) 19:02:40 ID:nlusYtBc


「ゆ、雄二ぃぃっ!!」
環が起き上がって、雄二に走り寄る。そして、雄二の体を抱き起こし、その顔を眺めた。
雄二の死に顔は、彼の狂気をそのまま表していた。血走った目は見開かれたままだった。
その顔にかつての雄二の面影は無いが――それでも今環が抱いている体は、間違いなく弟のものなのだ。
「生き延びろって言ったのに……どうしてあんな事したの……?」
雄二の体はまだ温かい。だが、死んでいるという事は確かめるまでも無かった。
環の目から止め処も無く涙が溢れ出す。
「あんた昔からそうよ……。人の言う事を聞かなくて……勝手な事ばかりして……。あんた馬鹿……本当に馬鹿よ……!」
環は雄二の死体に縋り付いて、この島に来てもう何度目かになる涙を流し続けた。





「はぁ、はぁ……」
爆発音が聞こえた後、柳川は一人でその音がした方向へ走って行ってしまった。
そのペースは凄まじく、二人にはとてもついて行けなかった。ようやく現場に辿り着いた時には、もう戦いは終わっていた。
そこには死体に縋り付いて泣いている女性と、それを顔を僅かに歪めながら眺める、柳川の姿があった。
辺りを見渡すと、もう一つ、別の死体――まだ佐祐理達はその正体を知らないのだが、藤田浩之の幼馴染。
赤い髪の少女、神岸あかりの死体も転がっている。
銃弾で、爆発で、蹂躙された土地は荒れ果てており、正しく地獄と呼ぶに相応しい様相を呈していた。

421 姉と弟 :2007/02/11(日) 19:04:25 ID:nlusYtBc

【時間:2日目16:10頃】
【場所:I−6】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている、全身に痛み】
【目的:目標は生徒会メンバー以外の排除、最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

柳川祐也
【所持品:イングラムM10(18/30)、イングラムの予備マガジン30発×8、日本刀、支給品一式(片方の食料と水残り2/3)×2、青い矢(麻酔薬)】
【状態:困惑、左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)】
【目的:環が落ち着いてから現状の把握】

倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式(片方の食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【所持品3:拾った支給品一式】
【状態:困惑】
【目的:同上】

七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:困惑】
【目的:目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】

向坂環
【所持品①:包丁、支給品一式】
【所持品②:救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:号泣。頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に痛み、左肩に包丁による切り傷、右肩骨折、疲労困憊】

長瀬祐介
【所持品1:100円ライター、折りたたみ傘、支給品一式】
【所持品2:懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、支給品一式】
【状態:気絶、後頭部にダメージ。有紀寧への激しい憎悪、全身に痛み】

向坂雄二
【状態:死亡】

神岸あかり
【状態:死亡】

【備考】
・柳川の射撃精度は、マシンガン系の武器だと低下します
・金属バット・ベネリM3(0/7)・支給品一式×2、包丁、レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(10/10)、ロープ(少し太めは地面に放置

→691
→695
→696
→697

422 ため息 :2007/02/13(火) 11:41:56 ID:an3MsS0g
診療所に戻ってきた三人は、那須宗一の勧めに従って佳乃と渚がまず休憩を取ることにした。
最初渚は宗一一人で見張りをすることに消極的だったが佳乃が「しっかり休んでおかないと宗一くんの足手まといになっちゃうから、ね?」と諭したのでようやく渚も納得してもといた部屋で休憩することにしたのだった。
「ふぅ…」
二人が部屋の中に入り、一人になった宗一は秋生(渚の父親だという人。むちゃくちゃ若かった)と早苗(渚の母親だ。この人もむちゃくちゃ若かった)のデイパックに残っていたものを取り出し、整理を始めた。
「…S&W M29、か。弾丸は入ってない…デイパックには…何だ、あるじゃないか。悪いが、こいつは借りてくぜ。何しろトムキャットをあげちまったからな」
デイパックの中にあった予備弾を詰め直し、構えてみる。異常は…無さそうだった。秋生は手荒く扱っていなかったようで安心する。
「しかし、コイツは俺の趣味じゃないな…皐月あたりなら喜びそうだが。ま、やっぱ俺はオートマの方がいい」
最も、皐月が愛用しているのはM36、通称チーフスペシャルだったが。
机の上にM29を置くと、今度は食料を並べ始める。流石に五人分もあるだけあって量も相当多い。おにぎりなんかと合わせると丸三日は持ちそうだった。
「残りはおいてくか…地図やコンパスは数あってもあまり意味がないからな」
荷物は極力最小限に。サバイバルにおける基本だ。
「さて…」
近場にあった椅子に座り直しこれからどうするか、を考える。
正直な所、現状では知らない事が多過ぎる。情報が無ければ身動きがとれないのである。
情報収集はエディの役目なのだが…まったく、今頃になってエディの偉大さが身に染みて分かった。
(ともかく、まずは首輪だ)
盗聴されているのは間違い無いだろう。レーダーだけでは参加者の動きを完全に把握できないからだ。カメラがあるかとも思ったが鏡などで確認してみてもCCDカメラらしきものも見当たらない。これは単純に機能の限界だろう。
となれば、下手なことを口に出さない限りはこっちが爆破される恐れは無い。しばらく、脱出云々は伏せて、仲間集めに奔走したほうがいいかもしれない。

423 ため息 :2007/02/13(火) 11:42:32 ID:an3MsS0g
佳乃の姉貴にも合わせてやりたいしな。
古河…だったか、彼女の方に関してはもうどうすることもできない。しかし両親が目の前で殺されたというのはあまりにも酷い事柄だ。
果たして古河の精神状態はどうなっているのか。
普通の人間なら錯乱するか、発狂しているか、あるいは現実逃避に走るか――そうなるのが常というものであるが古河にその兆項は見られない。
彼女の話し振りからして親と仲が悪かったというわけでもないのに。
「強い…んだろうな、彼女は」
両親を目の前で殺されてもなお殺人を否定した。それは自分とは違う次元での強さだ。自分が、一生追い求めても得られないもの。
…だが、彼女の強さは本格的な戦闘では役に立たない。どんなに言葉を交わしても決して分かり合えないというものも存在するのだ。自分と、醍醐のように。
(それでも、古河は戦わないことを選ぶんだろうな)
撃たれても、あるいはもっと大切な人を殺されても、だ。
(ま、それはそれでいいさ。そういう奴こそ、俺が守らなくちゃいけないんだ)
「宗一くん…入っていいかな?」
遠慮がちに、ドア越しにかけられる声。誰かと警戒しかけたが、すぐに佳乃のものであることに気付く。
「何だ、まだ寝てなかったのか? 夜更かしは健康に悪いぞ」
「ごめん、どうしても寝られなかったから…」
声色が、あまり良くない。冗談を言っている場合ではなさそうだ。
「いいぜ。眠たくなるまでお喋りしちゃる」
ありがとう、という声が聞こえて佳乃がゆっくりと入ってきた。あはは、と顔は笑っているが泥や煤、血糊で汚れているせいでとてもじゃないが可愛くは見えない(クソ、シャワーくらい完備しとけってんだ)。

424 ため息 :2007/02/13(火) 11:43:12 ID:an3MsS0g
「宗一くんは眠たくないの?」
「俺はいつでも眠りたいときに眠れるんだ」
「ふ〜ん、便利な体なんだね。羨ましいなぁ。ね、じゃあ一時間おきに寝たり起きたりできるの?」
「ああ、勿論だ。何なら今ここで実演してやろうか?」
「ウソばっかり〜」
今度はさっきよりいい笑顔だった。…けど、ウソじゃないんだけどなあ。職業柄、どこでも寝られるようにしている。
「…そうだ、古河はどうなんだ? あいつは眠っているのか」
渚の名前を口に出すと、佳乃はばつの悪そうな顔をしたが、しかしはっきりと言った。
「寝てるよ。でも…泣いてた。泣き疲れて…寝ちゃったみたいだけど…やっぱり、ものすごく辛いんだね、きっと」
「…そうか」
やはり渚は強い人間だった。人前では決して涙を見せずに…むしろこちらを宥めてくれたりもした。
「…けど、少しくらいこっちに寄りかかってもいいのにな。一人で抱え込むには…大き過ぎるんだ、これは」
「そうだね…」
そのまま二人の間に沈黙が流れる。気まずい空気になっていた。宗一はそんな空気を少しでも変えようと、佳乃にM29を手渡す。
「持っとけ。古河の親父さんが持ってたやつだ。古河は…たとえどんな状況でも人を撃てるような子じゃない。ああいや、佳乃が人をバンバン撃つような危ない奴って言ってるわけじゃないんだが…
まあ、その、なんだ。こいつで、自分の身や古河を守ってやってくれ」
佳乃の手に乗っているM29は、その手に余るくらい大きいものに見えた。
「でも…これは、人を殺す道具…だよ?」
「…佳乃や古河の命を守る道具だ」
もう一度、M29を握らせる。非情な行為だった。最低の人間だな、と宗一は思う。女性に鉄砲持たせるなんざ紳士のすることじゃないのに。
「…持っとくよ」
目にはまだ殺人の道具を持つ事への不安の色が見えていたが、それでもしっかりと自分でM29を握る。

425 ため息 :2007/02/13(火) 11:44:07 ID:an3MsS0g
「ま、佳乃が撃つような自体にはそうそうならないから安心しろ。なんたって俺は」
「世界No.1エージェント、NASTYBOY、でしょ?」
「そういうことだ」
今度こそ、佳乃が心からの笑みを漏らした。未だに信じられないけどー、という余計な一言もついてきたが。
「やかましい。それより、もうお喋りは終わり終わり。さっさと寝ろ」
「はぁい」
「…適当に時間が経ったら起こすからな」
「うん、分かったよ。でも渚ちゃんは…」
「ああ、寝かせておくよ」
佳乃が部屋に戻った後、再び宗一はため息をついた。こんなにのんびりしてていいものか。リサあたりなら既に何回かドンパチやってそうなのにな…
ま、この際地味屋になっておくのも、今はいいか。そうだろ、ゆかり?
もう二度と出会う事が出来なくなってしまった友人を思いながら、宗一はもう一回だけ、ため息をついた。

【時間:午後11時30分】
【場所:I-07】

霧島佳乃
【持ち物:S&W M29 6/6】
【状態:睡眠中】

古河渚
【持ち物:なし】
【状態:睡眠中】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式、おにぎりなど食料品】
【状態:健康。渚と佳乃を守る】

【その他:食料以外の支給品は全て診療室に置いてある、ハリセンは放置】  →B-10

426 狂風烈波の名にし負う :2007/02/14(水) 04:15:25 ID:k7wfzhVc

正面から、少女が駆けてくる。その姿はまるで疾風のよう。
だけど、私は風を恐れない。
手にした拳銃を少女に向けると、引き金を絞る。

躊躇はなかった。
少女の殺意は明確で、ひどく鋭角な、それは奪うという意思だった。
隆山では毎日のように向けられていた、殺意。
来栖川の差し向ける刺客は山といて、年齢も性別も扱う道具もバラバラだったけれど、
私たち姉妹を殺すという一点においてのみ、共通していた。
その全員が死に、内の何人かは私が殺した。

銃を扱ったことはなかった。面倒だったからだ。
私たち姉妹に限って言えば、そんなものに頼る必要など、ありはしなかった。
だが今、私は少女を殺すために、銃を撃つことにした。それがルールだと、思った。

人間は銃で撃たれれば死ぬ。
否、最も効率よく人を殺すための方法論が突き詰められたのが、銃というものだった。
だから無数の人間が殺し殺される、下らない戯れの中では、人は銃によって死ぬのが相応しいと、
ただそう思ったのだった。

―――しかし。

「―――!?」

私は眼前の光景に驚愕していた。
疾風の少女は、銃弾に屈することはなかったのだ。
肩に担いだ猟銃を何気なく振り回した、ただそれだけのように、見えた。
そして、ただそれだけの動作で、私の放った銃弾は正確に叩き落されていた。

「そんな”ドーグ”で……湯浅さんが止められるッ!?」

嬉しそうに笑いながら、叫んでいた。加速する。
あり得ないと、そう思う。
私たちの一族ならばともかく、常人に銃弾を見切り、ましてそれを迎撃するなど、不可能だった。

427 狂風烈波の名にし負う :2007/02/14(水) 04:15:58 ID:k7wfzhVc
「眠たい真似……してんじゃないよっ!」

不可能が、爛々と目を輝かせて迫っていた。
眼下、死角から、猟銃が振り上げられる。思考に硬直していた私は、反応が一瞬遅れた。
衝撃。
かち上げられた猟銃が、私の手を直撃していた。
激痛と共に、掌中の拳銃が天高く跳ね上げられる。
顎への直撃は、かろうじて避けていた。
唸りを上げる猟銃が前髪を弾く、ち、という音が耳を打つ。

身体が重い。重心移動が遅い。手足の統制が取れていない。
それらをまとめ上げるべき頭脳はいまだ第二撃を予測しきれずにいる。
振り上げた猟銃を返す刀で落としてくるのか、それとも勢いを殺さずにもう一度下からか。
どちらだ。思考を認識できる段階で、遅きに失している。
切り替えが鈍い。
あり得ないというノイズが、戦闘本能の枷になっている。
そんなことだから、

「……が……っ!」

神速をもって跳ね上げられた少女の脚を、かわすこともできない。
視界に閃光が散る。
猟銃をかわしてのけぞった、その姿勢の戻りを正確に狙われた。
顎が、抵抗もできず天を向く。回復しつつある視界が、少女の靴先だけを捉えていた。
仰向けに倒れることは避けようと、後傾の姿勢をなおも強引に引き戻そうとする。
そしてそれが、更なる悪手だった。
瞬間、右腹部、肝臓の部分に、追撃が入っていた。
が、とも、げ、ともつかない無様な声を漏らしながら、私は吹き飛ばされていた。

吹き飛ばされながら、私は苦笑する。
何をしているのだろう。
人間相手に、こうも一方的に連打を浴びて。
咥内には、鉄の臭いと胃液の味が充満していた。
歯も、欠けているかもしれない。

428 狂風烈波の名にし負う :2007/02/14(水) 04:16:37 ID:k7wfzhVc
す、と血が冷めていくのを感じる。
―――いつまで、人間を相手にしているつもりでいるのか。

ただの棒切れ一本で、エルクゥである自分に傷をつける者が、人間だと。
鬼の眼に見切れぬ蹴りを放つ存在が、常人の域に留まっているなどと。
―――私は何を、寝ぼけている。

じわり、と脳が熱くなる。
刃の上を裸足で歩くような、眼球を針で擦るような、そんな、思わず笑い出したくなるような、悦楽。
人と交わって生きる上では不要な、感覚。

右手の爪が、伸びていく。
黒く染まった指から伸びる、真紅の爪。
人を殺すための武器ではなく、ヒトを狩るための、凶器。
鬼としての自分が、ようやく陽のあたる場所に出られたと、快哉を叫んでいた。
いま鏡を覗けば、紅の瞳孔を煌かせる私は、さぞ化け物じみているだろう。

文字通りと飛ぶように流れていた視界が、急に緩やかになったように感じられる。
どろりと濁った空気の中で、私は手近な民家の塀に、手を差し入れた。
ブロック塀が豆腐のように崩れるが、気にしない。
そうして制動をかけると、空中で軽く身体を丸めて体勢を立て直す。

そのまま足を伸ばせば。
私はコンクリート製の電信柱に、音もなく「着地」していた。
重力が私を絡め取るよりも早く、地面と平行の視線が、少女を捉える。
この瞬間より、少女は私の敵から、獲物へと成り下がった。
撓めた足に、必殺の意思を込める。

―――もう、時間は私に追いつけない。

足場とした電信柱が、背後で折れ砕ける。
その音をすら追い抜くように、飛ぶ。
絶対の速度、それこそが私、柏木の三女、楓の狩り。

429 狂風烈波の名にし負う :2007/02/14(水) 04:17:49 ID:k7wfzhVc
速さという概念の限界をもって、少女に迫る。
目を見開く暇すら与えず、裂く。
右の手が、閃いた。

「―――」

着地。
学校指定の革靴の底が、煙を上げた。

私は憮然とした表情で、自らの右手を見る。
少女の首筋を掻き切るはずの爪。
その爪を宿した人差し指は、第二関節から手の甲の側に反り返っていた。

脳裏に甦ったのは、拳銃を跳ね上げられたときに感じた衝撃だった。
トリガーにかかったままの人差し指は、あの瞬間に折れていたらしい。
鬼の血の影響で、痛覚が鈍っていたのが災いした。
あれから実時間にして、数秒。治癒もまだ間に合わなかった。

「……命拾い、しましたね」

言いながら、振り向く。
我ながら、空々しい言葉だった。
命拾いなどと言ってみても、ほんの数十秒の話だった。
人差し指こそ届かなかったが、他の爪の手応えはあったのだ。
滴る鮮血が、与えた傷の深さを物語っていた。

だが、

「……っ……」

皮を裂かれ、肉を抉られた苦痛にのたうっているはずの、少女は。

「……っはは……っ」

絶望と、眼前に迫る死に怯えているはずの獲物は。

「……はははっ……はっははははは……っ!」

私に背を向けたまま、大笑していた。
痛みに狂ったかと考え、すぐに思い直す。
―――これは、そんなものではない。

430 狂風烈波の名にし負う :2007/02/14(水) 04:18:45 ID:k7wfzhVc
少女の笑いは、心からの悦びに満ち溢れた、それだった。
嬉しくて仕方がないというような、思わずそれが零れてしまったかのような、笑い声。
震える肩に合わせて、少女の外套に大書された『狂風烈波』の四文字が揺れている。
その異様に、私は思わず身構えてしまう。

「……ははは……はははははっ……、―――ねえ、あんた」

笑い声が、やんだ。
異様が、ゆっくりと振り返る。

まず見えたのは、血塗れの顔面だった。
少女の右眼、そのすぐ上から斜めに一直線、耳の下辺りまでがざっくりと裂けていた。
紛れもなく、私の親指の爪がつけた傷だった。
傷口からはじくじくと血が流れ出している。
見開かれたままの目にも鮮血が流れ込んでいるが、少女は瞬き一つしない。

完全に私へと向き直った少女を見て、私は、己の手応えが正しかったことを確認する。
少女の肩口から、ほぼ平行に三本。
日本刀で袈裟懸けに斬られたような傷が、開いていた。
特攻服というのだろうか、裾の長い派手な外套の、千切れた襟元から覗く傷は、決して浅くない。
下に着込んでいたらしい学校の制服も下着ごと裂け、血塗れの乳房が露になっていた。
肋骨の最下段にまで達しようかという傷からとめどなく鮮血を流しながら、少女は立っている。
そして、あろうことか。

「―――やってくれるじゃない」

それでも少女は、笑んでいたのである。
ひどく現実離れした、その鮮血の笑みを前に、私は。

―――ああ、この少女はどこか、梓姉さんに似ている、と。

そんなことを、思った。

431 狂風烈波の名にし負う :2007/02/14(水) 04:19:19 ID:k7wfzhVc

【時間:2日目午前10時】
【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)】

柏木楓
【所持品:バルキリースカート(それとなく意思がある)・支給品一式】
【状態:武装錬金】

湯浅皐月
【所持品:『雌威主統武(メイ=ストーム)』特攻服、ベネリ M3(残弾0)、支給品一式】
【状態:大出血】

→684 ルートD-2

432 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:17:28 ID:RiqHGaA2

「はぁぁ……まったくもう、あんたたちと来た日には……」

盛大に嘆息する七瀬留美の前には、二人のヘタレが正座させられている。
言わずと知れた、藤井冬弥と鳴海孝之だった。
全身泥まみれの上に細かい傷だらけなのは、数キロの距離を引きずられたためである。
大の男二人を引きずりまわした張本人はといえば、息を乱すこともなく説教を続けていた。

「いい? あんたたち、冗談抜きで死ぬとこだったのよ?」
「実際一人死んでるんだけど……」
「だ・か・らっ!」

七瀬がすごんでみせると、二人はたちまち萎縮する。

「状況も相手の強さも見ずに喧嘩売って、挙句腰が抜けて逃げられないって……」
「はぁ……」
「勇気と無謀の区別をつけなさい! っていうかそれ以前の問題!」
「お恥ずかしい限りです……」
「―――と、いうわけで」

び、と七瀬があらぬ方向を指差した。
素直にそちらを向いた二人が見たのは遥か遠く、昼なお暗い森の中で怪しく輝く、一人の男の姿だった。
距離にして数十メートル。何事かを呟きながら、辺りを見回している。

「……あれが今回の目標よ。乗り越えてきなさい」
「いやいやいやいや」
「何か問題でも?」

同時に首と手を振って拒否の意思を示した冬弥と孝之が、七瀬の視線に射すくめられながらも
懸命に抗弁しようとする。

433 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:18:02 ID:RiqHGaA2
「問題というか、あのね七瀬さん……」
「教官と呼びなさいっ!」
「はいっ」

反射的に背筋を伸ばしてしまう二人。
何だかんだ言いつつ、調教の成果は出ているようだった。

「そ、それでは、教官!」
「何?」
「いや、あれ……」

と、冬弥が件の男を顎で示しながら、

「なんか、オーラみたいなの出てるんですけど……」

言う。事実であった。
男の全身からは、何やら乳白色の光がゆらゆらと立ち昇っている。
炎のようにも、湯気のようにも見えるそれを遠目に見ながら、孝之が言う。

「俺、昔ああいうの観たことあるよ……マンガとかアニメとかで」
「俺も同じこと考えてた……絶対ヤバいって」

目を見合わせて頷きあう二人を見下ろす七瀬の言葉は、明快だった。

「―――で?」

鬼面の眼光が、二人に選択権など存在しないことを示していた。


******


芳野祐介ことU-SUKEは、有り体に言って道に迷っていた。

「……まだ、上手く加減できんな」

これがブランクというものか、と自らの肉体を見下ろして眉をひそめるU-SUKE。
確かに肉体強度そのものはかつての自分を大きく凌駕している。
しかし、その超強化がU-SUKEをして苦しませる結果となっていた。

軽く小突いただけで大木を薙ぎ倒す腕力に、踏みしめた大地にクレーターを作る脚力。
普通に歩こうとするだけで、万力で生卵を掴むような苦労を強いられていた。
気を抜くと、瞬く間に数キロの距離を移動してしまう。
あまりにも急激な変化に、いまだその圧倒的な身体能力を制御しきれずにいるのだった。

434 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:18:29 ID:RiqHGaA2
「U-1の気を追っていたつもりだが……これでは、いつになったら辿りつけるやら……」

憂鬱そうにひとりごちたそのとき、U-SUKEの鋭敏な感覚が妙な気を捉えていた。
小さすぎて今の今まで気がつかなかったが、気の持ち主は二人。
どうやら自分に向かってきているらしい。

「まったく、雑魚の相手などしている暇はないというのに……」

常人からすればほとんど瞬間移動に近いその移動速度をもってすれば回避は容易だったが、
逃げたように思われるのも癪な話だった。
のろのろと近づいてくる二人組を、ただひたすらに待つ。

(あれで走っているつもりなのか……退屈しのぎにもなりそうにないな)

果たして、茂みの向こうから現れたのは、いかにも頼りなげな青年たちだった。
姿を見せたというのに、何やら額をつき合わせて小声でやり取りしている。

「お、おい」
「な……何だ、打ち合わせ通りやれよ」
「やっぱりヤバいって……逃げようぜ」
「バカ、そんなことしたら七瀬さんに殺されるぞ」
「だよなぁ……」

その姿を見るや、U-SUKEはため息をついて首を振る。
相手にするに値しない、と確信したのだった。
だが、その仕草をどう取ったのか、腰の引けていた青年たちが俄かに勢いづく。

「お、おい……奴さん、ビビってるぞ」
「もしかしてあのオーラ、こけおどしか……?」
「よし、そうとわかれば……!」

青年たち、胸を張って口を開いた。

「おい、そこのお前!」
「……」

超知覚で会話を聞いていたU-SUKE、呆れ果てて返事をする気にもなれない。

「お前、おとなしく俺たちにぶっ飛ばされろ」
「……」
「どうした、ビビって声も出ないか」
「おい、こいつ真剣ヘタレだぜ……」
「ああ……こんなヘタレ野郎、見たことないな」

頷きあう青年たち。
U-SUKEの表情が次第に硬くなっていくのにも気がつかない。

435 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:19:19 ID:RiqHGaA2
「―――おい、貴様ら」

だから、その氷点下の声音が誰の発したものか、青年たちが理解するまでに数秒を要した。

「…………へ?」
「Uの」
「……ゆうの?」
「Uの称号を持つ者に喧嘩を売る……、それがどういう意味だか、分かっているのか?」

鷹の如き視線が、青年たちを射抜いていた。
どうやら様子がおかしいと気づいたらしく、青年たちの顔色が見る間に青ざめていく。
だが、既に遅かった。

「……ああ、いい。貴様らに答えられるとは思っていないさ」

す、と目を細めるや、だらりと下げていた右手を小さく打ち振るU-SUKE。
軽く手首のスナップを利かせた、ただそれだけの動作に見えた。

「……何だ? は、ははは、やっぱりこけおどし―――」

青年の言葉が終わる、その直前。
ぴしり、と小さな音が響いた。
奇妙なその音に、青年が怪訝そうな顔をして音の出所に目をやる。
近くに立つ樹木の、表皮。
重ねた年月を誇示するかのようなその外皮に、小さな皹が入っていた。

「え? ……う、うわあぁっ!?」

刹那。
轟音と共に、青年たちの傍らに立っていた大木の数本が、倒れた。
そのすべてが、U-SUKEの拳圧によって一瞬の内に極太の幹を砕かれたのだった。
顔色一つ変えず、静かに口を開くU-SUKE。

「……前置きは充分だ。かかってこい」
「え、い、いや、あの、その……」

今や隠しようもなくガタガタと震えだした青年たちに、U-SUKEは微笑む。

436 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:19:43 ID:RiqHGaA2
「安心しろ。貴様ら如きに本気を出したりするものか」
「ひ、ひぃぃ……」
「ハンデをやろう。……俺はここから一歩も動かん。そして、」

言葉を区切り、右の小指を立ててみせるU-SUKE。

「この指一本だけで戦うと、誓おう」

U-SUKE、にやりと笑ってみせる。
対する青年たちはといえば、その言葉に少しだけ気を取り直したのか、互いに頷き合って身構えた。

「よし……行くぞ!」
「おう!」
「朝霧達哉くん……君に決めたッ!」

言いざま、腰につけたボールを投げる青年。
どんな攻撃を見せてもらえるのかと、思わず口の端を上げるU-SUKEの前に、

「え!? ……今の流れで俺が行くの!? ちょっとおかしくない、それ?」

またもや、頼りなげな青年が立っていた。

「……」

とりあえず頭痛がしてきたので、こめかみを揉んでみるU-SUKE。
新たに現れた青年は、どうやら最初の二人に何やら抗議しているようだった。

「どう考えたってお前らが自分で突っ込む流れだろ!?」
「いやだって俺、ヘタレトレーナーだし……」
「じゃ鳴海、お前が行けよ!」
「俺は真打ちだからな。最後に出ると決まってるだろ」
「うわ汚え!」

一向に攻撃をしてくる気配がない。
段々、待つのが面倒になってきた。

「大体、何で俺なんだよ!? 白銀とか衛宮、鍋島さんなんかの方がよっぽど戦闘向きだろうが!」
「最初はやっぱり様子見がセオリーだろうと思って」
「あ、やっぱり捨て駒扱いかよ!」

ぐ、と伸びをしたU-SUKEが、そのまま腕を振り下ろす。
音速を超過したその動作に、大気が裂けた。衝撃波はそのまま疾り、

「それなら鳩羽だってぱべらっ」

新たに現れた青年を、両断した。

437 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:20:10 ID:RiqHGaA2
「「うわああっ!?」」

飛び散る血と肉に、青年たちが悲鳴を上げて飛び退く。
そんな姿を見て軽くため息をつくと、U-SUKEは心底つまらなそうな顔で言う。

「なあ、俺だってそう暇じゃないんだ。やるなら早くしてくれないか」
「き……、」

失禁すらしかねない顔色のまま、青年が何かを言いかける。
震えて歯の根が合っておらず、なかなか言葉にならない。

「き?」
「……き、……汚いぞ!」

ようやく放った一言が、それであった。
怪訝そうな顔をするU-SUKE。

「汚い……? 戦いはもう始まっているというのに、いつまでも下らん言い争いをしている方が悪いだろう」
「そ、そうじゃないっ! お、お前さっき、小指だけを使うって言っただろうが!」
「……?」

意味が分からない、という顔で首を捻るU-SUKE。

「そ、それが何だ、今のは! 離れたところから真っ二つなんて、は、話が違うじゃないか!」
「……ああ」

U-SUKEが、ようやく合点がいった、と頷く。

「何かと思えば。俺は約束を違えたつもりはないぞ?」
「う、嘘をつけっ!」
「何が嘘なものか」

言うや、目にも留まらぬ速さで腕を振るうU-SUKE。
一陣の風が舞った。
寸刻遅れて、近くの木々がへし折れる。

「ひ……!」
「……お前たちが言っているのは、これのことだろう?」
「そ、そうだ! それのどこが小指だけだっていうんだ!」

半分涙目になりながら、必死で食い下がる青年たち。
内心で頭を抱えながら、U-SUKEは振ってみせたばかりの腕を、二人に見えるように差し出す。

「……?」
「よく見ろ」

二人の視線が、U-SUKEの腕を舐め回すように這う。

438 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:20:30 ID:RiqHGaA2
「……小指だけ、立ってるだろうが」

途端、庭先を歩く通行人に吼える犬のように、青年たちが抗議の声を上げた。

「そ、それがどうしたっていうんだ!?」
「俺たちを誤魔化そうったって、そうはいかないぞ!」
「……だから、今のは小指で作った衝撃波だ」
「何だと!?」
「小指の先だけで大気を切り裂いた。……何か文句があるのか?」

うんざりしたようなU-SUKEの声。

「ぐ、ぐぬぬ……」
「……今度は、お前たちがその身で味わってみろ」

何気ない仕草で、U-SUKEが再び腕を振り上げた。
怯えた顔つきで後じさりする二人。

「お、おい……!」
「く、くそ、こうなったら……!」

青年の一人が、決死の形相で腰を探る。
取り出したのは、三つのボール。

「衛宮士郎くん、白銀武くん、鍋島志朗くん……君たちに決めたッ!!」

それらをいっぺんに、投げた。
同時に、U-SUKEがその必殺の手を振り下ろす。

「―――!」

大気が断ち割れた。
きん、という可聴域を超えた高音が通り抜けた後、一瞬の静寂が訪れる。

439 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:21:12 ID:RiqHGaA2
静寂を打ち破ったのは、悲鳴に近い声だった。

「あ、ああ……」

否、それは紛れもなく悲鳴であった。
だらしなく口を開けたまま、青年が腰を落とす。

「そ……そんな……」

へたり込んだ青年の、すぐ眼前。

「俺たちの中で……最強の三人が……」

三人の体が、上半身と下半身で、綺麗に二つづつ。
計六つの断片となって、転がっていた。

「一瞬、で……、そんな……馬鹿な……」

呆然とする二人に向けて、U-SUKEが静かに口を開く。

「―――もう、奇術はおしまいか?」

それは、正しく死刑宣告に他ならなかった。
力なく座り込んだまま、目線だけを動かしてU-SUKEを見る青年たち。
その目には、既に反抗の意思は宿っていなかった。

「……そうか。ならば最期にUの力、目に焼き付けて死ぬがいい」

あくまでも淡々と、U-SUKEは言う。
ゆっくりと、その手が振り上げられていく。

「さらば―――」
「―――どぉぉぉぉぉっ、せぇぇぇいっっ!!」

響き渡ったのは、雄々しくも頼もしい、声だった。

440 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:22:03 ID:RiqHGaA2
背後で巨大な気が膨れ上がるのを感じ、肩越しに振り返ったU-SUKEの視界を、影が覆い尽くしていた。

「……む!?」

それは、ひと一人分ほどもある、巨大な岩石であった。
振り上げていたその腕を、咄嗟に岩石に向けて振るうU-SUKE。
U-SUKEを叩き潰すかに見えた岩石は、しかしその眼前でいとも容易く砕け散った。
轟音と共に、破片が周囲に撒き散らされていく。
土埃が収まるのを待って、U-SUKEはゆっくりと辺りを見回した。

「逃げた……か」

へたり込んでいたはずの青年たちの姿は、既になかった。
注意しなければ感知できないほどの小さな気が、瞬く間に遠ざかっていくのを感じる。

「逃げ足だけは大したものだな……」

苦笑するU-SUKE。
服についた埃を払い落とそうとして手を止めた。
下手に扱えば一張羅が襤褸切れに変わってしまう。

「わざわざ追うまでもない、か……。しかし……」

顔をしかめながら、U-SUKEは先程、背後から感じた気を思い返す。

「あれほどの気を、あの瞬間まで感知できなかったとはな……」

試しに集中してみても、周囲にそれらしい気配はない。

441 case1:sir,yes sir! :2007/02/15(木) 23:22:24 ID:RiqHGaA2
「Uの域には遠く及ばんが……暇潰しくらいにはなったかもしれん」

惜しいな、と呟いたそのとき。
遠くで、小さな声が響いたような気がした。
それが、何故だかひどく胸をざわつかせる響きに聞こえて、U-SUKEは声のした方を見やる。
棘だらけの球体が心臓の中を転がるような、奇妙に痛痒い感覚。

「向こうには……たしか、学校があったか」

距離にして、おおよそ1キロ以上。
しかしU-SUKEの足であれば、そこに要する時間はゼロに等しかった。
U-1と相見える前に、力の加減を覚えるためのリハビリも必要だろう、とU-SUKEは己に言い聞かせる。
それがどうにも言い訳じみているとわかっていても、足は止まらなかった。



 【時間:2日目午前10時すぎ】
 【場所:E−6】

U−SUKE
 【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
 【状態:ラブ&スパナ開放。超回復により五体満足。U−1を倒して最強を証明する】

七瀬留美
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
 【状態:漢女】

藤井冬弥
 【所持品:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
     支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
     鳴海孝之さん 伊藤誠さん 衛宮士郎くん(死亡) 白銀武くん(死亡) 鳩羽一樹くん
     朝霧達哉くん(死亡) 鍋島志朗くん(死亡)】
 【状態:ヘタレ】

関連:369 664 D-2

442 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:03:08 ID:ZXj8yAgY

閃光は、突然だった。

その瞬間、林道を歩いていた天沢郁未は、曇天の空に突如として雷鳴が閃いたように感じていた。
青白い光が、刹那の内に彼女の視界を奪い去っていたのである。
至近に落雷したのだ、と郁未はぼんやりと考える。
しかし耳を劈く轟音はいつまで経っても鳴り響かない。
その代わりとでもいうように、彼女の右腕が、金切り声で悲鳴を上げていた。
白く染まった視界が、徐々に色彩を取り戻していく。
あまりにも突然の衝撃に、その意味をはかりかねていた郁未の脳細胞が、ようやくにして
己の仕事を思い出した。痛覚という信号が、一瞬にして彼女の全身を支配する。

「あ……ぐぅっ!?」

反射的に傷口を押さえた手が、ぬるりと滑る。
激痛と、鼻をつく鉄の臭いに、郁未の意識が遅ればせながら事態に追いついた。

「―――郁未さん!」

声と同時。
横っ飛びに地面を蹴って転がる。
声を上げた相棒、鹿沼葉子もまた即座にその場を飛び退いていた。
一瞬前まで二人のいた場所に、新たな閃光が奔っていた。
腕を押さえながら、転がった勢いを殺さずに立ち上がる郁未。
その眼光は既に命のやり取りをする者のそれへと変わっている。

「……葉子さん、ビンゴ?」

視線の先には、一人の少女が立っていた。
ひっつめ髪を二本のおさげにまとめた、小柄な少女だった。
実用的なデザインの眼鏡の奥にある瞳は、何の感情も浮かべていない。
能面のような無表情だった。

「……ええ、あの額の輝き……砧夕霧に、間違いないでしょう」

郁未の問いかけに答えた葉子の視線は少女、夕霧の額に吸い寄せられていた。

443 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:03:55 ID:ZXj8yAgY
それは、正しく奇怪だった。
少女の額は、恐ろしく縦に長かったのである。
眉から顎にかけての端正な顔立ち、そのパーツを収めた、いわゆる顔にあたる部分が、
二つはすっぽりと収まってしまいそうな、極端なバランス。
その巨大な額が、灰色の空の下でなお、ギラギラと輝いていた。

「あれが光学戰、完成躰―――なんて、醜い……」

吐き捨てるように言った葉子が、手にした鉈を握りなおす。
それを見た郁未もまた、背負った薙刀の刃を払う。

「……腕は、大丈夫ですか」
「ん、どうやらかすり傷で済んだみたい」

言いながら、郁未が右手を何度か開いては握る。
傷口は焦げ、化繊製の制服も傷の周囲で溶けて皮膚に張り付いていたが、筋肉や骨には
達していないようだった。

「おっけ、いける」
「……敵は光学兵器です。攻撃を見てからでは避けられません」
「それは、身に沁みて分かったわ」

郁未が苦笑してみせる。

「ですが、それは同時に攻撃範囲の制限を意味します」
「どういうこと?」
「光は直進することしかできません。そして―――」

葉子の視線が、夕霧の額を見据えている。

「あの構造では、おそらく額の正面にしか反射光を打ち出せないでしょう」
「さっすがデコの先輩、よく分かるじゃない。なら……」
「はい。敵の顔が向いている方には、決して遷移しない。それが、最も単純な対処法です」

承知とばかりに、郁未が頷く。
手にした薙刀の刃が、鈍く煌いた。

444 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:04:21 ID:ZXj8yAgY
「私も思いついたわ」
「一応、聞いておきましょうか」
「うわムカつく。……まあいいわ、相手がビーム反射板ってことは……」
「はい」
「同時にニ方向へは、攻撃できない。……でしょ?」

どうだ、という口調。

「……はい、よくできました」
「うわ何か倍付けでムカつく。……ふん、じゃそういうことで」

言うや、郁未が地面を蹴る。
葉子もまた、低い姿勢で駆け出していた。

「―――合わせなさいよ!」
「そちらこそ、遅れないように」

目線をかわすことすらなく、左右に分かれる二人。
じっと佇んでいた夕霧の無表情が、小さく揺れた。
間を置かず、その額から光線が放たれる。目標は郁未。

「―――二度も、同じ手を食うかっ!」

叫んだ郁未は、既に光線の着弾位置にはいない。
足を止めることなく、夕霧の脇を大きく迂回しながら背後に出ようとする動き。
それを追うように振り向こうとする夕霧の、死角となった逆側に。

「終わりです」

音もなく、鹿沼葉子が走り込んでいた。
手にした鉈が、閃く。

「―――っ―――」

けく、と小さく吐息を漏らすような音を立てて、砧夕霧の首が、飛んだ。
数瞬の後、とさりと地面に落ちる。

445 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:04:52 ID:ZXj8yAgY
「はい、一丁上がり!」

噴き出す血潮を器用に避けながら、郁未が小さくガッツポーズを決める。

「……綺麗な連携でしたね」
「うん、上出来。……にしてもさぁ」
「なんでしょう」
「決戦兵器なんていうわりには、案外あっけなかったわねえ」

斃れた夕霧の躯を見やりながら、郁未が唇をとがらせる。
不満げな顔だった。

「葉子さんが散々脅かすから、どんなヤバい敵かと思ったけど……」
「……」
「確かに攻撃はなかなかのもんだったけどさ、身体自体は一般人並みじゃない。動きも鈍いし」
「……何を、言っているのですか?」
「正面にさえ立たなきゃ、どうってこと―――え?」

瞬間。
郁未が、目を見開いた。
眼前で険しい表情をしていた葉子が、彼女を突き飛ばしていたのである。

「な……!」

何をするの、とは言えなかった。
思わず尻餅をついたそのすぐ目の前を、光条が一閃していた。
ぢ、と嫌な臭いが鼻をつく。郁未の前髪が焦げる臭いであった。

「―――何を、油断しているのですか」

郁未を突き飛ばした葉子は、林道を挟んだ反対側に立っていた。
その表情は些かも緩んでいない。
厳しい視線は郁未に向けられることなく、周囲を見回している。

「立ってください。死にますよ」
「え、あ―――」

446 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:05:20 ID:ZXj8yAgY
半ば無意識の内に、郁未が立ち上がる。
本能が鳴らす警鐘に、ようやく気づいていた。

「い、今のって……」
「説明したでしょう。私の知る限り、量産体は数体でユニットを組むのが基本だった筈です」
「相手は、一人じゃないってこと……?」
「はい。今の攻撃がその証拠です。砧夕霧は必ずまだ、近くにいる」

事ここに至って、郁未がようやく状況を把握する。
慌てて周囲に目をやった郁未が、すぐに声を上げた。

「……つったって、こう木が多くちゃ……」
「はい。わざわざ道に立っていてくれた先ほどとは違います。気を引き締めてください」
「遮蔽物が多いってことは、向こうのビームだって通りにくいってことでしょう……!」
「樹木を貫通するだけの威力が無いことを祈ってください」

葉子の険しい声に、郁未が眉を顰めて舌打ちする。
ざわ、と梢が鳴いた。
かさかさと落ち葉が立てる音、虫や小動物が下生えを横切る音、それらすべてが郁未たちを包んでいた。

「厄介ね……」
「いえ、私の考えている通りなら、あれらの真価はこんなものでは―――っ、郁未さん!」

息を呑むような葉子の声。
問い返そうとする郁未の言葉を、遮るかのように。

「―――上です!」

郁未がその背を預けていた大木、その樹上。
つられて視線を上げたその先に、冷たく輝く眼鏡があった。

「―――ッ!!」

意識するよりも早く、身体が動いていた。転がるように、飛んだ。
刹那、閃光が奔る。
前方へと身を投げ出すようにした郁未の、革靴の底が、閃光を浴びて欠けた。

447 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:05:43 ID:ZXj8yAgY
「せ―――あぁぁッ!」

裂帛の気合と共に、葉子が手の鉈を投擲する。
風を切り裂いて飛んだ鉈が、狙い違わず、閃光を放った直後の砧夕霧の額を割った。
転がる郁未と体を入れ替えるようにして、葉子が走る。
垂れ落ちる鮮血を気に留めることもなく、樹上から転がり落ちてくる夕霧の額から鉈を抜き放つと、
険しい声を上げる。

「郁未さん! まだいます! 足を止めないでください!」

声に打たれたように立ち上がった郁未が、舌打ちして走り出す。
葉子の言葉に誘われるように、小さな人影が梢の陰から覗いていた。
途端に奔る光条を、斜行してかわす郁未。

「そこかぁっ!」

下段に構えた薙刀を、掬い上げるように振るう。
長物を横向きに薙げない不利を背負うのが、林という地形であった。
しかし郁未は人影の隠れた樹の幹を削ぐように、絶妙の軌道で薙刀を操っていた。

「まずは―――ひとつっ!」

顔を引っ込めそこねた夕霧が、その眼鏡ごと頭部を両断される。
脳漿と鮮血が、盛大に跳ね上げられた。

「……葉子さんにばっかり、スコア稼がせてらんないからね。次っ! ……って」

振り返った郁未が見たのは、並び立つ二人の夕霧を、鉈と手刀で同時に断ち、貫く葉子の後ろ姿であった。
返り血を浴びながら、葉子が静かに振り返る。

「……何か、言いましたか?」
「……いえ、別に」

び、と鉈を振って血糊を払う葉子を、郁未は半眼で見やる。
そんな視線を気に留めることもなく、葉子が口を開いた。

448 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:06:17 ID:ZXj8yAgY
「今の戦いで、幾つか分かったことがありますね」
「……なに」
「……もしかして郁未さん、気づかなかったんですか」
「だから、なにを」
「木の上から郁未さんを狙った攻撃、最初に倒した一体のそれよりも威力が落ちていました」
「そんなの分かるわけないでしょ、逃げるのに必死だったんだから!」

噛み付かんばかりの郁未の形相を無視して、葉子が続ける。

「大声で主張することですか? ……話を続けてもよろしいですね」
「……あのさ」
「……最後に私が倒した二体に、攻撃と呼べるほどのことはできませんでした。
 郁未さんが相手をしていた一体に、充填用と思われる光を飛ばしただけです」
「いや、あの、葉子さん」
「反射用の数体で増幅した光を攻撃用の一体に集中させることで、このような弱い光量下でも
 充分な威力を発揮する……それが、完成体のコンセプトのようです」
「もしもし」
「しかし、曇っている今ですから、まだ単純に数を減らすことでユニットごと機能しないように
 することも可能でしたが……。天候が回復してくれば、単体でも脅威となってくるでしょう」
「すいませーん」
「やはり早めに叩いておかなければ、取り返しのつかないことになりかねませんね……」
「いい加減にせんかぁっ!」

すぱん、と小気味いい音が響いた。
腕を組んで一人頷く洋子の後頭部を、郁未がはたいたのである。

「……何をするのですか」
「あっち、よく見てみなさいよっ!」

言われ、周囲を見渡した葉子が、何度か瞬きする。
曇天の下、林道の遥か向こうで、土煙が立っていた。

449 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:06:33 ID:ZXj8yAgY
「……おや」

もうもうと上がる土煙の向こう側で、きらりと光るものがあった。
それはまるで、満員のスタジアムで閃く撮影のフラッシュのように、いくつもいくつも連鎖する。

「どうやら、探すまでもなかったようですね」
「……どうすんの、あれ」
「決まっているでしょう。……殲滅あるのみです」

何気なく言ってのける葉子に、今度こそ郁未は絶句した。
無数の眼鏡を光らせながら歩くそれは、文字通りの意味で数え切れないほどの、砧夕霧の大群だった。

450 ファースト・コンタクト :2007/02/16(金) 03:07:49 ID:ZXj8yAgY
【時間:2日目午前10時すぎ】
【場所:F−9】

天沢郁未
 【所持品:薙刀】
 【状態:唖然】

鹿沼葉子
 【所持品:鉈】
 【状態:光学戰試挑躰】

砧夕霧
 【残り29995(到達0)】
 【状態:進軍中】

→562 690 ルートD-2

451 March and winter :2007/02/16(金) 21:15:20 ID:p43BYa3k
「…表、か」
冬弥の目に映ったコインの面。すっかり酸化して輝きを放たなくなってはいるが、それでも冬弥にはまるで新品のように輝いているように見えた。
「いいだろ。決め事は決め事だ」
10円玉を拾いなおすと、もう一度冬弥は親指でそれを弾いた。
軽い金属音がしてくるくると宙を舞う。てっぺんまで舞った後、重力に引き摺られて10円玉が落ちる。それを横から、しっかりと掴み直した。
ゆっくりと手のひらを開き、今一度、10円玉の面を見る。
表。
予想通り。
「行くか。ま、冷静に考えれば片っ端から襲って弾薬を浪費するのも意味がないよな」
観音堂の外へと歩を進める。由綺や理奈が、がんばれ、と言っているのが、聞こえたような気がした。
問題はここからだ。どのようにして殺人鬼どもを放逐していくか。いかに手元にP-90があろうとも自分は一般人。おいそれと戦闘の手練に手を出せば敵を討つどころじゃない。
仲間が必要だ。自分と同じく、殺人鬼を殺すことに躊躇の無い人間が。
共に行動した少女、七瀬留美のことがふと頭に浮かんだが、すぐにその考えを打ち消した。彼女はとてもじゃないがそんなことのできる人間とは思えない。
「当たるも八卦、外るも八卦、か…」
適当に出会った人間が自分と同じような人間であることを願うしかない。
何はともあれ、まずは鎌石村だ。
     *     *     *
鎌石村消防署の一室、かつて英二達が休憩していたところで、篠塚弥生は目を覚ました。
どうやら、まだ自分は生きているようで呼吸も普通に行える。だが、両手両足を縛られ今寝転がっている所――消防署備え付けのベッドだ――からまったく動く事ができない。
もっとも、縛り付けているもの(そこらへんのロープだろう)を解こうとしても英二に撃たれた脇腹が痛んだのですぐに諦めてしまったが。
なんと無様な。

452 March and winter :2007/02/16(金) 21:16:17 ID:p43BYa3k
弥生は地面にツバでも吐きたい気分になった。まったく似つかわしくないことだと自分でも思ったが、英二の甘さに助けられ、生き長らえているという事実がそう思わせたのだ。
だが、すぐに弥生は思考を切り替え現在の状況を把握しようと努める。あれからどのくらい時間が経ってしまったのか。寝ている間に放送はあったのか。
何か手がかりになるものはないかと首だけ動かして周囲を見まわしてみるがこの部屋には窓がないばかりか時計すらない、完全な密室であった。
あるいは、英二がそうなるように手配でもしたのか。唯一確認できたのは部屋の隅に、申し訳程度に置かれている弥生のデイパックがあったということだけだ。
デイパックの膨らみ具合からして、まず武器は取られているだろう。当然だが。
結局、それだけしか分からなかったのでまた眠る事しかやることがなくなった。
ゲームに乗っているにしろ乗っていないにしろ人が来るのを待つしかないのだ。
ぼーっと見た天井には、恐らく英二がつけっぱなしにしていった蛍光灯が、煌々と輝いている。暗闇で怖くならないようにという英二の配慮だろう。もっとも弥生は暗闇などに恐怖するという性質の人間ではなかったが。
この部屋に窓がない以上、この明かりを頼りに誰かが訪れるという可能性は低い。これがどう影響するのか。
そんな風にして色々考えながら時間を潰していると、不意に閉ざされた扉の向こう、廊下のほうで規則正しい(たぶん人間の足音だ)音が聞こえてきた。
どうやら部屋を探しまわっているようで徐々にこちらに近づいているようであった。
誰かは知らないが、この部屋だけ探さないという理由はない。
鬼が出るか、蛇が出るか。
弥生にしては珍しく、動悸が加速度的に増していた。何しろ生か死かを賭けた至上最大の賭博なのだ。ゴクリ、と弥生の喉が鳴る。
ガチャ、とドアノブが回される音がして足音の主が侵入してきた。そして、その相手は――
「…弥生さん、か?」
――森川由綺の恋人(今となっては元、とつけるべきか)、藤井冬弥だった。
     *     *     *
「…なるほど、そんなことがあったんですか」
冬弥の助力でようやく拘束から抜け出した弥生は、これまでの経緯を説明した。
英二の件に関しては、もちろん真実を話したわけではなく、「いきなり何者かに撃たれ、気絶させられて気がついたら縛られていた」と説明した。

453 March and winter :2007/02/16(金) 21:17:03 ID:p43BYa3k
弥生にとって、冬弥がまだ敵か味方か判断できなかったためだ。スターダムにのし上げるべき人、森川由綺を失ったことで、今や弥生にとって他の人間などどうでもいい存在になっていた。
藤井冬弥でさえも。
その冬弥はというと、立ち話に疲れたのか部屋に置かれてあった椅子に座ると何か考えるような目をしてからぽつりと喋る。弥生は縛られていたベッドに座ったまま、その言葉を聞く。
「しかし…どうして襲った相手は殺さずに武器だけ奪っていったんでしょう? 殺しこそすれ、気絶させるだけなんてことはないはず」
「さあ…襲った人間の心理など、私には図りかねます」
それもそうですね、と冬弥は嘆息し顔を天井に向かせた。
「ですけど、ひょっとしたら…襲った人間は、弥生さんの知り合いだったのかもしれませんね」
一瞬、どきっとしたが相変わらず無表情なまま弥生はどうしてそう思うのですか、と尋ねる。
「殺すには忍びない、だが武器を持って殺戮はして欲しくない、そんな風に考えるのは弥生さんの知り合いだけでしょう?」
「…なるほど、そういう考え方もありますね」
英二はまさしくその考え方だっただろう。
「…ところで、今は何時くらいでしょうか。気絶させられてからずっとそのままでしたので」
いつまでもこんな話題に拘泥しているのは得策ではないと思い、話題を転換する。
「ああ、今はちょうど…7時半といったところですね。…2回目の、放送がありました」
「…教えていただけますか」
デイパックから参加者一覧を取り出して死亡者を確認する。冬弥のものと示し合わせてもみたが実に20人以上もの人間が死んでいた。
この殺し合いは、間違いなく加速している。
チェックを終えた弥生が、また冬弥に尋ねた。
「これから藤井さんはどうなさるおつもりですか」
この質問だけは必ず先手を取っておかなければならなかった。返答次第で、行動を変えねばならないからだ。
冬弥は少しだけ笑ってから、肩にかけていたP-90を壁の方向へと向けた。
「由綺や理奈ちゃん…はるかや美咲さんをやった奴らを探し出して…殺します」
顔色を窺ってみる。そこには静かだが、激しい憎悪の色が表れていた。

454 March and winter :2007/02/16(金) 21:17:44 ID:p43BYa3k
「…ですけど、さすがに無関係の人間までは殺しません。目的が同じような人間がいたら一緒に行動するつもりでした。…弥生さんは、どうなんですか」
今度は、こちらに質問が飛んで来る。返答次第では、こちらも撃つという考えがありありと出されていた。
それはすでに察知していたので、明確な返答を避けておいた。
「由綺さんを殺された私には…もう、目的というものはありません。恨みは、ありますが」
冬弥同様、由綺を殺した人間に報復したいという気持ちはあったがそれ以上のものはない。それは、偽らざる弥生の本心だった。
「そうですか…なら、俺と一緒に行動しませんか?」
P-90を再び肩にかけ、冬弥が目をこちらにむけて提案する。
「最終的な目的は違うかもしれませんが…由綺の仇をとるという点では利害は一致するはずです。その時まで」
その後はどうする、と返答しようかと思った弥生だったがそんな未来のことなど、誰にも分かりはしない。
「分かりました…協力しましょう」
だから、完結にそう答えた。冬弥の目に感謝の色が広がっていく。
「助かります。弥生さんはもう今では数少ない、信頼できる人ですから」
信頼――その言葉が、どこか弥生には遠い国の言葉のように思えた。弥生は自らのデイパックを持ち上げると、最後に問う。
「ならば、行動は早いほうがいいでしょう。それから…藤井さん。他に、何か伝えることなどありますか? 例えば、気をつけるべき人物とか」
ゲームに乗っている者の情報は、手っ取り早く掴んでおきたかった。いつどこで、冬弥と離れ離れになるやもしれないのだから。
「…いや。今まで何人もの奴と出会ってきましたけど交戦は一度だけです。まあ、返り討ちにはしましたが…一応、これまでに会った奴らの名前を言っておきましょうか?」
「いえ、結構です。知ったところで別に利益もないでしょう。他には?」
「他には…ああ、そうそう。放送の時に珍しく主催者から直接の声がかかりました。何でも…優勝者には、何でも願いが叶えられるとか」
その瞬間、弥生の心に戦慄が走った。平常心が失われていくのを隠しつつ「…続けてください」と先を促す。
「死人を生き返らせることも出来るとか言ってましたけど…それは与太話でしょう。普通に考えてそんなこと出来るはずありませんからね」

455 March and winter :2007/02/16(金) 21:18:25 ID:p43BYa3k
確かにそうだ。冬弥の言う事は…理に適っている。
「俺には…もう由綺以外の望みなんてありませんから、褒美なんていりません。だから、仇だけは取るつもりです」
だが…もし、万が一にでも、『それ』が本当だとしたら? もし、森川由綺がこの世界に戻ってこれるとしたら?
冷静な、普段の篠塚弥生がその考えを必死で否定しようとする。だが――こんなにも多くの参加者、来栖川財閥、倉田家の礼嬢までもこの殺し合いに参加させている彼らなら…そんな事も可能なんじゃないか?
弥生の額に、冷たい汗が流れ落ちる。
恐らく――藤井冬弥が弥生のような考えに至らなかった理由は、単純に由綺の仇を討つということに固執しているのでそこまで考えていない、ということかもしれない。あるいは違うかもしれない。
だが、もし弥生の考えている通りだとしたら。
由綺の仇をとった後、彼はどうするだろうか。もしかしたら――自殺を図る可能性すらある。
ここで、彼女に新たな疑問が生じる。
仮に生きかえらせることが出来たとして、果たして『何人』生きかえらせることが出来るのだろうか?
一人か、あるいは何人でも、か? その辺りの事を尋ねてみようかとも思った弥生だが、すぐにその考えを打ち消す。
冬弥が知っているはずがないと思い至ったからだ。主催者のことだ、生きかえらせることができる、とだけ言ったに違いない。それに、下手に聞けば――冬弥に、敵だという疑念を抱かせることにもなりかねない。
代わりに、弥生はもう一度尋ねてみた。
「藤井さん…藤井さんは、このゲームに乗っているわけではない、ということですよね」
為された質問に首をかしげながらも、冬弥は言う。
「ええ…まあ、一応は。敵ならば容赦なく撃ちますが、こっちに害を及ぼさないのなら」
そうですか、と弥生は答える。そして、それが引き金となった。
「なら、私は協定を破ります」
何のことだ、と冬弥が問おうとしたときには、弥生が冬弥の肩から、P-90を奪い取っていた。
「藤井さん。朗報を教えてくださって感謝します。これで…私はまた、戦う理由ができました」
冬弥の顔面に、P-90を押しつける。唖然としていた冬弥だが、すぐに大声を上げて反論した。
「まさか…あの与太話を信じてしまったんですか!? あんなもの、大嘘に決まっているでしょう!」
「万が一、ということもあります」
「そんな理由で!」
冬弥が大声を上げるのを遮るかのように、さらに強く銃口を押しつける。ぐっ…と声を詰まらせる。
「信じがたい話ではあります。ですが…信じなかったところで、由綺さんは帰ってきません。なら、それが悪魔の所業だとしても私はそれに賭けようと思います。私には…由綺さんしか、由綺さんしか、いません。私の人生は…由綺さんそのものなんです」
冬弥がまた反論しようと口を開けたが、いたずらに刺激するだけだと考えたのか、堅く口を結ぶ。
「藤井さんは私とは違います。私よりは、よほど強い人間。だから…まず手始めに」
言い終わる前に弥生の次の行動を察知した冬弥が、思いきり体を捻った。
銃弾が、何発か冬弥の脇をすり抜けていく。
間髪いれず冬弥が、部屋を脱出して廊下へと駆ける。逃がすまいと思った弥生だが、大ぶりなP-90ではすぐに第二射を放てない。
連射を諦め、弥生も冬弥の背中を追った。

456 March and winter :2007/02/16(金) 21:19:09 ID:p43BYa3k
【時間:2日目7:00】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】

篠塚弥生
【持ち物:支給品一式、P-90(46/50)】
【状態:ゲームに乗る。冬弥の殺害を狙う。脇腹の辺りに傷(痛むが行動に概ね支障なし)】

藤井冬弥
【場所:C−6・観音堂(移動済み)】
【所持品:支給品一式】
【状態:逃走、マーダーキラー化】

457 March and winter :2007/02/16(金) 21:21:02 ID:p43BYa3k
すいません、訂正お願いします
藤井冬弥
【場所:C−6・観音堂(移動済み)】
【所持品:支給品一式】
【状態:逃走、マーダーキラー化】



【場所:C−6・観音堂(移動済み)】

を削っておいてください

458 March and winter :2007/02/16(金) 23:24:25 ID:p43BYa3k
すんません、さらに追加…

B-10です、本スレ950の人、指摘サンクス

459 Mother :2007/02/18(日) 06:11:38 ID:swIjNkyk
朝の激闘から、時を経る事六時間以上。
ようやく意識を取り戻した水瀬秋子は、すぐさま診療所を発つべく玄関に向かった。
そこで那須宗一とリサ=ヴィクセンに遭遇し、二人に見送られる形となった。
幾分かマシにはなっているが――秋子の顔色は優れているとは言い難い。それも当然だ、もう何度も無理をしているのだから。
秋子は、体の不調を気力だけで埋めようとしている。そんな彼女を気遣い、リサが声を掛ける。
「一応の処置は済ませたけど……あまり無茶するとまた傷口が開きかねないわ。それでも行くつもりなの?」
「愚問です。私にはもう名雪しかいませんから……こんな所でぐずぐずとしている訳には行きません」
取り付く島も無いとは、この事だろう。秋子は考え込む仕草すら見せずに、断言した。
「……OK。私はこれ以上力になれないけど、健闘を祈るわ」
「ありがとうございます。それから――宗一さん」
秋子はそう言って、視線を宗一の方へと移した。秋子と宗一は、一度完全な敵同士として戦闘している。
その事が原因か、宗一は険しい表情をしていた。
「何だ?」
「謝っても許されるとは思いませんが……本当にすみませんでした。私の軽率な行動で……こんな結果に……!」
秋子は何も守る事が出来なかった。澪も祐一も、死なせてしまい、みすみす自分だけ生き残ってしまった。
俯きながら、彼女は微かに肩を震わせた。宗一の位置からその表情を窺う事は出来なかったが、おおよそ推測は出来る。
宗一は諦めたように目を閉じ、そして言った。
「……過ぎた事を悔やんでも仕方無いさ。それより、これからどうするべきかを考えた方が良いぞ。
それに――俺はあんたみたいな美人には甘いんだ」
宗一はそう言うと、表情を緩め、微笑んで見せた。まるで、気にするなと言わんばかりに。
秋子は一瞬きょとんとした顔になったが、やがて頬に手を当て、笑顔を形作ろうと努力した。
強引に作られた表情は秋子本来のものとは程遠かったが、それでもそれは笑顔と呼べるものだった。
「重ね重ね、ありがとうございます。それでは失礼します――あなた方も、どうかご無事で」
「ああ、あんたもな」
宗一とリサに向けて、最後に一礼する。そうして秋子は、診療所を飛び出した。
今度こそ、罪の無い子供達を守る為に。己の命に代えてでも、最愛の娘を守る為に。

460 Mother :2007/02/18(日) 06:12:38 ID:swIjNkyk



「あの人、大丈夫かしら……」
リサは不安げに呟いた。秋子の怪我の深さは、治療をした自分が一番知っている。
「正直不安は残るが、これ以上俺達がしてやれる事は無い。後は本人次第、ってトコだろうな」
「……そうね」
次々と大事な人間を失った秋子を、穏便に引き留めるのは不可能だ。無理に休ませようとすれば、また争いになりかねない。
それだけは絶対に、避けなければならなかった。自分達が倒すべき相手は主催者であって、他の参加者達ではないのだ。
「ところで宗一。さっきあなたが言った事についてなんだけど……」
秋子を見送る為に、宗一との話し合いは途中で中断してしまっていた。その時の話題を思い出し、リサが尋ねる。
「優勝者への褒美、についてか?」
「ええ。どうしてあなたは、あれが本当だと思ったの?」
どんな願いでも叶えられる――その事に関して、宗一とリサはまるで正反対の意見を持っている。
リサは主催者の話をまるで信じていなかった。ただの扇動に過ぎぬと、そう考えていた。
ならば、褒美の話を肯定する宗一の考えに疑問を持つのも当然の事だった。
「このゲームには、裏の世界や表の世界で名を馳せる人間達が、多数参加させられている。
それだけの面子を、僅か1日で強制的に集めれる者――それはもはや、人と呼んで良い存在じゃない。
そんな化け物ならば、願いを叶えるという事も不可能では無い筈だ」
「……それは否定しないわ。だけど『叶えられる』という事と、『叶える』という事は、イコールでは繋がらない」
「そうだな。主催者が約束を破る可能性だって、勿論ある。だが俺は……褒美を与えるというのは嘘じゃないと思う」
言われて、リサはとても意外そうな顔をした。
「Why?」
「そもそも、こんなゲームに何の意味がある?俺には、主催者の酔狂で行なわれているとしか思えない。
そう、奴はきっと遊んでいるだけなんだ――なら、最後に約束を破って興を削ぐような真似はしないだろう。
俺の経験則から言って、こんな事を考え付くような連中は、自らが作ったルールだけはきちんと守るもんさ」
もっとも自分にとって害になるような願いは受け入れないだろうけどな、と宗一は付け加えた。
「でも……優勝した人間の反撃を恐れて、首輪を爆発させる可能性も考えられるわ」
「それは無い。主催者にとって俺達はただの駒、復讐なんて警戒していないさ」

461 Mother :2007/02/18(日) 06:15:18 ID:swIjNkyk

――その通りだった。主催者は、少なくともこれまでは参加者を完全に手玉に取っている。
参加者を警戒しているのならば、とっくの昔に首輪を爆発させているだろう。
思い通りに弄ばれてしまっている現状を再認識し、リサは爪をガリッ、と噛んだ。
「逆に考えれば主催者のその余裕こそが、俺達が付け入れる唯一の隙なんだ。連中が油断してる以上、突破口はある。
そして、正しく状況を判断する為には……主催者を倒す為には、もっと情報が必要だ」
「――そうね。まずは診療所にいる他の人達だけとでも、情報交換しましょうか」
現状では情報が圧倒的に不足している。これ以上憶測だけで話を続けるよりも、情報を集めるべきだ。
二人は席を立ち――そして、何かの音が近付いてくるのを聞き取った。
「これは……車か?」
「そのようね。私が様子を見てくるわ」
外敵の警戒は、五体満足な自分の役目。リサはすぐに銃を手に取り、玄関の外へと向かった。



【時間:2日目16:05】
【場所:I-7】

リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:健康、診療所を守る】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数12/20)】
【状態:左肩重傷・右太股重傷・腹部重傷(全て治療済み)、まずは情報を集める】

水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(再治療済み)、何としてでも名雪を探し出して保護】

篠塚弥生
 【所持品:包丁、ベアークロー、携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付きとそのリモコン】
 【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】

藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
 【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】

【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は十分、車は診療所方向に向かってます

(→601)
(→557)
→663
→687
→699

462 Distrust :2007/02/18(日) 19:43:37 ID:GmBnvYnc
――すれ違い。
運命の悪戯というものだろうか。確かにすぐ近くに来ていたのに。声を掛けられる距離に居たのに。
渚が目を醒ました時にはもう、朋也の姿は何処にも無かった。
事の顛末を説明された渚が、それを確かめるように秋生に声を掛ける。
「それじゃ朋也君は……」
「ああ。役場に行く、つって出て行っちまった」
「そんな……!」
それは余りにも無謀な行動。包丁1本で、朋也は過酷な戦いの場へ身を投じようとしているのだ。
容易に想像出来る凄惨な結末に、見る見るうちに渚の顔が青褪めていく。
娘の悲痛な表情を目の当たりにして、秋生は思わず顔を逸らしてしまう。
お互い何も言えなくなり、暫しの間沈黙が場を支配する。やがて渚が意を決し、声を発した。
「お父さん、お願いがあります」
「……何だ?」
「わたし、朋也君を助けに行きたいです」
「――!」
言われて、秋生は眉を顰めた。渚は縋るような瞳でこちらを見ている。
これは本来、予測しておくべき事態。渚に朋也の事を話したのは、秋生の完全な判断ミスだった。
秋生の愛娘である古河渚は元来、自分自身よりも他の者を大事にしてしまう心優しい娘だ。
そんな彼女が他ならぬ朋也の窮地を、放っておく筈が無かったのだ。
しかし――秋生は静かに首を振った。
「駄目だ。悪いがその頼みは聞けねえ」
「なっ……どうしてですか!?」
「どうしてもこうしてもねえよ。小僧が、なんで一人で行ったのか分からねえのか?
俺達を……いや――お前を危ない目に遭わせたくねえからだろ」
秋生は朋也が一人で向かったのは、負傷してしまっている渚を気遣っての事だと思っていた。
にも関わらず、ともすれば阿鼻叫喚の危険地帯となりかねない場所に向かっては、朋也の想いを無駄にしてしまう。
いくら渚の頼みとは言え、そう簡単に頷く訳にはいかなかった。

463 Distrust :2007/02/18(日) 19:44:47 ID:GmBnvYnc

「でもっ……!」
「何度言われても、こればっかりは譲れ――」
「みちるも岡崎朋也を助けに行きたい!」
なおも食い下がろうとする渚を、断固とした態度で撥ね付けようとした所で、突然叫び声が聞こえた。
見ると、朋也が連れて来た少女――みちるが、何時の間にか目を覚ましていた。
「岡崎朋也はね、とっても苦しんでるんだよ……。友達を守れなかったって、きっと今も心の中では泣き続けてる……」
「――え?」
みちるは、彼女らしくないとても悲しそうな顔で、まだ秋生達が知らぬ悲劇について語り始めた。







「あのガキは折原の知り合いか?……にしても、どうやらタダじゃ済みそうにねえ雰囲気だな」
黒髪の青年と、その青年に銃を突き付けている青い髪の男。視界にその二人を認めた途端、浩平は走って行ってしまった。
高槻達が近くまで来た時には既に、浩平は殺気立った様子で銃を構えており、これから起こりうる事態は充分に予想出来る。
「面倒くせーが、ちょっくら行ってくる。お前らはここで待っとけ」
「また……あたし達は待ってるだけなのね」
レミィが殺された時と同様に待機を命じられ、若干不満気味な郁乃。だが高槻は、まるで取り合わない。
「うっせーな。今はどう見てもやべえ事になってるんだ、文句なら後にしてくれ」
ぶっきらぼうにそう言うと、郁乃と七海を置いたまま、高槻はポテトだけを連れて浩平の傍まで歩いていった。
「おい、折原。これはどうなってやがんだ?」
浩平の横に並んで問い掛ける。無論コルトガバメントはいつでも構えられるよう、もう手に持っている。
「……そっちの腹を押さえてる奴は、俺の知り合いの七瀬彰だ。あっちの銃を構えてる男の方は、知らない」
高槻は改めて、二人の青年を見比べた。
浩平の知り合いである七瀬彰という青年の方は、腹部から血を流していた。
逆に浩平の知り合いでは無い男、岡崎朋也の方は、こちらに注意を払いながらも銃口は彰に向けたままだ。
「――そうか。つまりあの青い髪のガキの方が、ゲームに乗っているんだな」
状況を飲み込んだ高槻は、眉を吊り上げて、コルトガバメントの銃口を朋也へと向けた。

464 Distrust :2007/02/18(日) 19:46:20 ID:GmBnvYnc


マーダーを排除しようとしているだけなのに、度重なる妨害を受けている。朋也は当然、現状を良しとしない。
自分に掛かった疑惑を否定するべく、そして彰の正体を伝えるべく、言葉を洩らす。
「お前ら何か勘違いしてねえか?俺はゲームに乗ってなんかいないし、この男は凶悪な殺人者だぞ?」
「違う、そんなの言い掛かりだっ!」
「――テメェ。また性懲りも無く、嘘を吐く気かよ!」
事情を教えようした朋也だったが、またも彰の厚顔無恥な出任せによって邪魔されてしまう。
この場において、自分は決定的な証拠を持ってはいない。その点に関しては彰も同じだ。
だが、二人には決定的な差があった。
「おい彰、こいつの言ってる事は――」
「嘘だ。信じてくれ折原、僕はゲームになんて乗ってない!」
この場で唯一の知り合いの浩平に対し、必死の演技で訴えかける彰。
それを援護するかのように、高槻も自分なりの推論を述べる。
「俺様も、七瀬って奴の言ってる事が正しいと思うぞ。大体その青い髪の野郎がゲームに乗ってないなら、その手に持ってる銃は何だってんだ?」
「そうだな。それに俺は彰と一緒に行動してた事があるけど、襲われたりはしなかった」
「…………っ」
朋也にとって、絶望的な会話が続く。
朋也は彰を殺害しようとしている所を見られてしまっているし、潔白を証明してくれる知り合いもこの場にはいない。
二人から銃を向けられている今、自身の銃を手放す訳にも行かない。
護身の為に絶対必要な銃だったが、その存在が誤解に一層拍車をかけてしまっていた。

465 Distrust :2007/02/18(日) 19:47:46 ID:GmBnvYnc

【時間:二日目・13:40】
【場所:B−3】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:目標は朋也の救出、右太腿貫通(手当て済み)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:目標は朋也の救出と美凪の捜索】



【時間:二日目・14:10】
【場所:C−3】
岡崎朋也
 【所持品:S&W M60(2/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
 【状態:マーダーへの激しい憎悪、現在の第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害】
湯浅皐月
 【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:気絶、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
 【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:腹部に浅い切り傷、右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:彰の救出、朋也に強い疑い、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:朋也に強い疑い、岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意、郁乃の車椅子を押しながら浩平の下へ】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:待機中、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:待機中】
ポテト
 【状態:高槻に追従、光一個】

→672
→706

466 とんだ再会 :2007/02/19(月) 02:25:01 ID:lyyld6YM
「くっそ、えらい目にあったよ・・・・・・」

思い出すだけで肌が粟立つ、思わず自らを抱きしめるように柊勝平は身を縮めた。
それでも足を動かすことは止めない、万が一あの男が目覚めた場合先ほどの悲劇が舞い戻ってくるとしたらたまったものではない。
今、彼は校舎二階の廊下を歩いていた。
辺りは静かで、聞こえてくるのは勝平が踏みしめる木造の床が軋む音のみ。

(あいつ等、まだ下にいるのかな)

反対側を探索しているはずの、相沢祐一と神尾観鈴のことを思い浮かべる。
そんな余裕が出てきたからこそ、彼等と過ごした時間も一緒に脳裏を掠めてきた。
たった数時間、一緒に食事をしたりちょっとした会話をしたこと。
そして見張を押し付けられ、観鈴にあの質問をされ。

『勝平さんは、誰か守りたい人とかっている?』

それは、随分昔のことのような気がした。
あの時彼女に問われた際、勝平はそれに答えることができなかった。
今ではどうか。

(・・・・・・そっか。僕、杏さん殺しちゃったんだよね。椋さんにどんな顔して会えばいいんだか)

しかし、これは勝平にとっては予定調和な出来事である。
祐一と、そして藤林杏に復讐することを目的として彼はここまでやってきたのだから。
そして目的の一方は達成され、あとは祐一を排除すれば彼の復讐は幕を閉じる。
では、この復讐が終わった後。どうするのか。

「・・・・・・」

467 とんだ再会 :2007/02/19(月) 02:25:27 ID:lyyld6YM
そのビジョンを、勝平は全く持っていなかった。
思い描けない未来の変わりに、その隙間を最期まで自分を非難してこなかった少女の姿が埋めていく。
自分の受けた屈辱を味あわせたかったのに。
あの悔しさを、身をもって教えたかったのに。
それなのに。

呪詛の一つでも吐いて欲しかった、それを聞いて優越感に浸りたかった。
それなのに。

「ああもう!くそっ!!」

もやもやとした憤りに苛立ちを覚え、思考を中断させる。
・・・・・・考えても仕方のないことであった。とにかくそれら全ての問いに対し、今の勝平が出せる答えはないのだから。

(先のことよりもそうだよ、まずは目の前の問題を終わらせよう。その後、考えればいいんだから・・・・・・)

一応は、それで無理矢理自身を納得させるしかなかった。
そうでないと、手にした電動釘打ち機の引き金が引けなくなる時がきてしまう。
そんな不安が確実に生まれてしまったことに対する戸惑いを、勝平は隠せなかった。




それから少ししてのことだった。
今まで聞こえなかった物音、そう。複数の足音が、勝平の耳に入る。
音は、正面から聞こえてきた。

「は、離してな、一体どこまで行くのかな・・・・・・」

思わず構えた電動釘打ち機を握る手から、力が抜ける。
その聞き覚えのある口調、声。

468 とんだ再会 :2007/02/19(月) 02:25:52 ID:lyyld6YM
「お前、何でここに・・・・・・」
「か、勝平さんっ?!」

現れたのは、小柄な少女と彼女に手を引かれて歩く観鈴であった。

「か、勝平さん助けてぇ」
「はぁ?」

思わず、見合う。
距離的にも近くなったことから、双方とも既に足を止めていた。
観鈴は懸命に少女の拘束を解こうとしていたが、掴まれた腕はびくともしないらしく結局は現状を維持するしかないようで。

「お前、相沢はどうした。一緒じゃないのか?」

まず気になったことはそれだった、共に行動していた彼の不在に勝平は疑問を持つ。
見知らぬ少女のことも気にかからない訳ではないが、祐一は勝平にとって復讐をすべき相手である。
優先すべき確認は、まずそれだった。

「がお・・・・・・祐一さんは・・・・・・」
「おとこはころす」
「は?」

俯き加減に観鈴が悲しそうな声をあげる、しかしそれを遮るように重なった音がある。
見知らぬ少女の声だった。
ただ一言、彼女は呟くように声を出す。

「おとこはころす」

繰り返す。勝平の疑問符を、打ち消すべく。
少女はこちらに目を合わせず、下を向いたまま微動だにもしなかった。
そんな少女の様子を見て、勝平は今になってやっと彼女の異様さに気づくのだった。

469 とんだ再会 :2007/02/19(月) 02:26:17 ID:lyyld6YM
・・・・・・改めて見ると、彼女の佇まいは悲惨であった。
見る者が見ればすぐ分かる暴行の跡、ぼさぼさの髪に張り付く粘液の正体に吐き気が沸く。

そんな少女は、左手で観鈴の利き腕をしっかりと掴んでいた。先ほど抵抗していたが結局観鈴が振りほどけなかったその手は、蒼白だった。
しかし、何故かもう片方の手は鮮やかな赤に染まっていて。
その手に握りこまれたカッターナイフにも滴っている。そして服の袖口まで染み込まれているように思えるそれの正体は、彼女の台詞で憶測がついた。

「成る程、お前が殺したのか」
「・・・・・・」

少女は答えない。しかし、次の瞬間観鈴が声を張り上げた。

「し、死んでない!祐一さんは死んでないっ」
「どういうことだ?」
「死んでないもん・・・・・・ゆ、祐一さん、お腹刺されてたけど死んでなかったっ」
「・・・・・・」

やはり、少女は答えなかった。その代わりと言っては何だが、観鈴の嗚咽が場に響く。

「死んで・・・・・・ないもん、死んで・・・うぇ・・・えぇ・・・」

二人の様子を見守るが、結局どちらが真実かは勝平には分からなかった。
ただ、自らの手をくださずに事が済んだかもしれないという一つの事実に対し。
勝平には、何の感情も沸きあがってこなかった。
自分で止めを刺せず悔しかった、とか。ざまーみろ、とか。
そのような思い描けるであろう可能性を、今の勝平は。全て、否定していた。
そして、自身も戸惑っていた。

胸の中に広がる空洞の指す意味、再び思い描くのは杏の最期の姿。
恨み言も何も吐かず、ただ勝平の言葉を否定し続けた彼女は―――――――――。

470 とんだ再会 :2007/02/19(月) 02:26:38 ID:lyyld6YM
「違う!間違ってない、間違ってない!!」

これ以上、先を考えてはいけない。目を瞑り、勝平は思考を中断させる。
理解しようとしてはいけない、前に進めなくなってしまう。

(でも、相沢が死んだっていうなら・・・・・・僕は一体、これからどこに進むっていうんだ?)

浮かんだ疑問に対し、汗が止まらなくなる。
耳を塞ぐ。頭を振るが、それでも杏の姿は決して消えない。

「どうして、どうしてだよっ!!」

何故か涙腺まで緩んでくるが、ここで感情に流されることだけは嫌だった。
懸命に自身と戦い続ける勝平は、もう周りのことなど一切気にかけていなかった。見向きもしなかった。
だから、彼女の接近にも気づかなかった。

「おとこはころす」

うっすらと目を開けると、あの少女が目の前にいた。
隣には、今だ腕を掴まれたままの観鈴。まだ泣き続けているのか、しきりに瞼を擦っている。

「おとこはころす」

少女は、もう一度呟いた。その手にはカッターナイフが握られていた。
・・・・・・ああ、ここで終わるのも悪くない。ふと、そのような考えが頭を過ぎる。
勝平の手には電動釘打ち機があった、なので反撃などいくらでもできた。
しかし今の彼に、その気力は全くなかった。

何だか全てが面倒になっていた。自暴自棄と言えばいいのか。
もう、どうだって良かった。だから、勝平は事態に身を任せるつもりだった。
が。

471 とんだ再会 :2007/02/19(月) 02:27:45 ID:lyyld6YM
「おんなはつれていく」

次の瞬間響いたのは、木製の床の上を何かが跳ねる旋律だった。
視線をやると、少女の手から離れたカッターが転がっていく姿が目に入る。
では、空いた彼女の右手はどこにいったのか。
考えると同時に、力強い感触が勝平の左腕に伝わった。
視線を動かすと、赤く染まった少女の手が見える。
それは、確かに勝平の腕を掴んでいた。

「おんなはつれていく」

そして、彼女は繰り返す。勝平の疑問符は、さらに倍増するばかり。
ぐいっと手を引かれる、どうやら少女は観鈴と共に勝平を連行しようとしてるらしい。

「ちょ、待て!おい、お前まさか・・・・・・」

嫌な予感がした。

472 とんだ再会 :2007/02/19(月) 02:28:19 ID:lyyld6YM
柊勝平
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:由依に連れて行かれそうになっている】

神尾観鈴
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:すすり泣き、由依に連れて行かれている】

名倉由依
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)+祐一の上着】
【状態:少し勘違い気味、岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】

由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

カッターナイフはそこら辺に落ちています

(関連・662・700)(B−4ルート)

473 .yumemi//機能拡大 :2007/02/19(月) 16:39:26 ID:uUkMQoNg
                    ______
                   |MISSION LOG|
                     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
激闘の末、ようやく岸田を追い払う事に成功した高槻達。
しかし岸田との戦闘でこちらも沢渡真琴(五十二番)を失い、さらに
新入隊員の折原浩平(十六番)も身体中に怪我を負い、ほしのゆめみ(支給品)
も腕が動かないという事態に陥った。
そんな折、新たに現れた女、藤林杏(九十番)と、
あわや戦闘になりかけたが誤解だと分かり、行動を共にすることになった。
現在、彼らは鎌石村への街道を歩いている…
_________________________________
                    ______
                   |  E X I T  |
                     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

474 .yumemi//機能拡大 :2007/02/19(月) 16:40:18 ID:uUkMQoNg
…とまあ、いつも拝啓おふくろ様(以下略 では芸がないので今回はハードボイルドっぽくあらすじを書いてみたぞ。どうだ、中々カッコイイだろ?
いつの間にやら仲間がどんどん増えて当初の目的など場外ホムーランしてしまった俺様だが、まだまだ美女をゲッツするってのは諦めちゃいない。
こうなったらヤケだ。いっそのこと折原以外が全員女なのをいいことにハーレムを作ってやろうという結論に達した。(ちなみに折原は召使いだ)
そう言えば、これは最近(ゆめみにこっそり聞いた。勉強家だろ?)知ったことなのだが、ハードボイルドというのは「固ゆで卵」の意から転じて冷徹、非情の意を表すらしい。
なるほど、俺様にピッタリだ…と思えなくなってきたのは何でだろうな…

「そう言えばさ、ここ一連のゴタゴタで言い忘れてたことがあるんだけど…」
俺様の悲嘆をよそに、藤林に車椅子を押してもらっている郁乃が(俺様は前衛。ポイントマンというそうだ)七海のデイパックを指して言った。
で、そのデイパックの持ち主の七㍉さんは折原の背中ですやすやと寝て…あいや、気絶していらっしゃる。ゆめみが片腕を使えないし、俺様は前述の通り前衛でコイツしかいないから仕方がないんだが…
べ、別にめんどくさいとか疲れるからだとか、そんな理由だからじゃないんだからねっ、勘違いしないでよっ!
郁乃風に言い訳してみたが、気持ち悪くて仕方ない。やはり男には似合わないな。
「七海のデイパックにフラッシュメモリがあるでしょ? あれをゆめみに調べてもらっていたんだけど、役に立ちそうなファイルがいくつかあったのよ」
ほう。それは朗報だ。いくつかということはファイルは複数あるということだ。情報が圧倒的に足りない俺様にとってはたとえ主催側からの情報であってもありがたい。
これを足がかりに奴らに噛みついてやる。窮鼠猫を噛む。
「バカ、これは追い詰められた時に使う言葉じゃない」
「…おい、俺様の崇高な心の声を読むんじゃない」
俺様の的を射た言葉をバカという2文字で完全否定する小牧郁乃嬢に反論…って、待て。
「郁乃、お前って人の心が読めたのかっ!?」
「…本当にバカね。自分で声に出してたじゃない」
『バカ』の追撃。言葉の矢が突き刺さる。

475 .yumemi//機能拡大 :2007/02/19(月) 16:40:55 ID:uUkMQoNg
「…ね、折原。コイツがあんたらを窮地から助けたって、ホント?」
「オレも信じたくない」
後方にて藤林と折原の援護射撃。もずくに浸かってパズルを食べて、俺様の心はボロボロだ。
ダディアナザーン! オンドゥルウラギッタンディスカー!!
「あ、あの…小牧さん、お話を続けた方が…高槻さんがかわいそうです」
ゆめみが非情な助け舟を出してくれる。ちくしょう、俺様がアホの子みたいじゃないか。ハードボイルドなのはこいつらだと思うんだが、どうよ?
それもそうね、と郁乃が言ってゆめみに例のメモリを取り出してもらう。それから「もう一度お願いできる?」と続けた。もう一度? 何をするのやら。
わかりました、とゆめみは心なしかこちらを気にするようなそぶりを見せてから後ろを向く。カチャカチャという機械音が聞こえて、次にゆめみが振り向いた時にはフラッシュメモリがイヤーレシーバーの横にあるUSBポートに接続されていた。
「へぇ…最近のロボットっていうのはよく出来てるのね」
藤林が感嘆の声を上げる。ありがとうございます、とゆめみが照れ臭そうに応じた。パソコンみたいなロボットだよな…なんだったっけか、どっかにそんな感じの漫画があったな…
「ゆめみ、出してくれる?」
郁乃が一声かけると、同じくイヤーレシーバーから光が出て、目の前にホログラフを作った。
スクリーンなしで映るのかと思ったが実に綺麗に画面が映っていた。最新式のコンパニオンロボは伊達ではないらしい。
俺様を含めた全員が画面に見入る。テキストファイルやら、何かの実行プログラムやらがいくつか並べられている。
「私とゆめみが見たのが、これ」
『今ロワイアル支給武器情報』という文字を郁乃が指した。郁乃の説明によれば、文字通りこのファイルには全参加者の支給武器の詳しいデータが載っているという。
俺様や藤林、折原も確認してみたが郁乃が気になったもの以外はめぼしいものはなかった。
「オッサンの支給品はやっぱポテトだったんだな…」
オッサン言うな折原。で、その話題の支給品はと言うとウリ坊(ボタン)と仲良く遊んでいた。
この野郎、一人だけ幸せそうに…
「春原…芽衣…妹さんが…預かってくれてたんだ、ボタン」
俺様がポテトへのやつあたりを計画していたところ、藤林がらしくない、涙ぐんだ声で漏らす。意外と人情家なのかもしれない。
「知り合い、だったのか?」
春原芽衣という名前はすでに放送で呼ばれている。
俺様が訊いたところ、藤林は首を横に振った。
「直接会ったことはないんだけど…よく陽平…春原陽平ってあたしの悪友がよく言ってたのよ。『僕の妹はよく出来てんだぞ』って」

476 .yumemi//機能拡大 :2007/02/19(月) 16:41:34 ID:uUkMQoNg
数奇な運命だな…と柄にもなく感慨に耽ってしまう。そういや、俺様と郁乃&七海も…いや、気にしないでおこう。
「みんなもういい? それじゃ、次に行くわよ?」
いつのまにやら仕切り役になっている郁乃がファイルを閉じるように指示する。コイツ、学校では委員長だったに違いない。
「後残っているのは…ええと、『エージェントの心得』と、『HMXシリーズ用プログラムインストーラ』ですね。どうしますか?」
「何でエージェントなんかについてのファイルがあるんだ?」
折原が不思議そうな声を上げる。ふふん、ここで俺様の知識の見せ所だ。FARGOで培ったアングラサイト知識を見せてやろう。
「知らんなら教えてやる。エージェントってのはだな、まあ要するにスパイだ。任務中は常に命の危険に晒されてる。従って一流のエージェントってやつはサバイバル知識も豊富なわけよ。で、これにはその秘伝が書かれてるってことだ」
久々に鼻高々。見ろ、あの郁乃や藤林でさえも感心した目つきじゃないか。やはり俺様は頭脳派だ。これからはポアロ・高槻と名乗ることにしよう。
「…ってことはここにはサバイバル知識や戦闘術が書かれてるのね。参考にはなりそうだけど…今見る必要はないんじゃないかしら。こっちは大人数。敵も迂闊には手を出してこないはずよ」
「そうね…安全そうなところについてから改めてみた方がいいわね。じゃあこれは後回しってことで」
…が、やはり話の主導権は郁乃と藤林の女連中に握られていた。見ろ折原。亭主関白という言葉はもはや死語になりつつあるのだよ。
「オッサン、なんでそんな目でオレを見る」
理解してもらえなかった。これだから優男というやつは…そうか、きっとこいつはMなんだな。そうに違いない。
「…だから何だよオッサン、その哀れむような目は」
オッサンオッサン言ってるのには目をつむっておこう。
一方話の主導権を握っている女連中はホログラフを見ながらきゃあきゃあ言っている。弱者の意見など聞いてもらえそうにない。
「このインストーラってええっと…来栖川エレクトロニクスのメイドロボシリーズにしか使えないんでしょ? ゆめみはどうなんだっけ?」
郁乃の質問に、ゆめみは頭も動かさず答える。

477 .yumemi//機能拡大 :2007/02/19(月) 16:42:11 ID:uUkMQoNg
「はい、わたしはコンパニオンロボということになっていますが…基本のOSはHMX系統のものを用いておりますので恐らく、ではありますけど使用できるのではないかと思います。ただ…わたしは試験体ですので最新型のHMXのアップデートに対応しているかは…判断できません」
なるほど、要は最新型のメイドロボをWindows vistaだとすればさしずめゆめみはMeってところだな。
「ってことはインストーラも使えるのね。それじゃ…んふふ、ゆめみさんを改ぞ…じゃなくて、機能拡大してみましょうか?」
藤林がマッドサイエンティストばりの笑みを浮かべる。のんびり屋のゆめみも流石に藤林のただならぬ雰囲気を感じ取ったらしく、カメラアイをあっちこっちに動かしている。
さらばゆめみ。俺様はお前の事を、永遠に記憶の片隅にとどめておくであろう。シャボン玉のように華麗ではかなきロボットよ。
俺様と折原は黙って背を向けた。…まあ実はゆめみの歩行能力にはいささかの不満もあったので機能が良くなることについて異存はない。折原もそれは分かっているようだった。
「ポチッとな」という声が聞こえて(実際起動するのはゆめみだが)、インストールが始まった。
「郁乃ー、どんくらい時間はかかる?」
「んー? ホログラフを見ると…あ、2、3分で終わるって」
何だ、意外と早いじゃないか。これなら退屈せずに済みそうだ。
「ん…うーん…」
などと思っていると、折原の背中から呻き声が。子泣き爺ではない。
「おっ、立田が起きたみたいだ」
折原が起きそうなのを悟って地面にゆっくりと下ろす。ほどなくして七海が目を覚ました。
「あ…あれ、ここはどこ…ですか?」
きょろきょろと周りを見まわしている。そりゃそうか、目覚めたら外の世界だもんな。
「七海、今はわけあって鎌石村まで移動中だ。それから、ゆめみが今…」
俺様がゆめみのことを口にしようとした時。
「更新が完了致しました、通常モードへ復帰します」
やたらと事務的な声が聞こえて、ゆめみのほうも終わったようだった。
「ゆめみさんが、どーしたんですか?」
純粋な疑問の瞳で聞いてくる七海。俺様は冗談半分で、言った。
「パワーアップして帰ってきた」

478 .yumemi//機能拡大 :2007/02/19(月) 16:43:00 ID:uUkMQoNg
【時間:2日目・07:30】
【場所:D−8】

ポアロ・高槻
【所持品:日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、ほか食料・水以外の支給品一式】
【状況:外回りで鎌石村へ。岸田と主催者を直々にブッ潰す】

小牧郁乃
【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ】

立田七海
【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
【状態:目覚めた。支障などはない】

ほしのゆめみ
【所持品:忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ。左腕が動かない。色々パワーアップ】

折原浩平
【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
【状態:全身打撲、打ち身など多数(どちらもそこそこマシに)。両手に怪我(治療済み)。外回りで鎌石村へ】

藤林杏
【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ】

ボタン
【状態:ポテトと遊んでいる】
→B-10

479 凹□地味+つき添いの先生2 :2007/02/22(木) 00:57:04 ID:XmV31TEA
「あたし達、これを調べようと思って」

そう言う広瀬真希の指差す先には、彼女の首にはめられた首輪があった。

「もし脱出するにしても、一番のネックはこれだろうし。何とか解決策を見つけられたらと思って」
「成る程、確かに問題ではあるな」

霧島聖も改めて自分の首輪に触れて、その命があくまで主催者側に握られているという事実を思い知る。
俯く少女達、その中で一ノ瀬ことみだけは飄々としていた。

「あんたは呑気でいいわねぇ・・・・・・」
「?」
「はぁ、あたしも楽観的になりたいものだわ」
「むしろ、あなた達が何でそんなに頭を抱えているか分からないの」
「ちょっと、話聞いてなかったの?!」
「くー・・・・・・」
「美凪も?!」
「ことみちゃんはちゃんと聞いてたの、その上で言ってるの」

いつの間にか用意していた湯のみに口づけ、さも当たり前のことという風にことみは言ってのけた。

「そんなの簡単なの」
「はぁ?」
「チョチョイのチョイなの」
「あんた、自分で何言ってんのか分かってんの?」
「証拠を見せてあげてもいいの」
「・・・・・・からかってんなら、マジで怒るわよ」
「ふぅ、短気は損気なの」

480 凹□地味+つき添いの先生2 :2007/02/22(木) 00:57:33 ID:XmV31TEA
怒りを通り越し呆れたかにも見える、そんな真希の視線にもことみはケロッとしていた。
それがますます沸点の低い彼女の感情を刺激しているのだが、当の本人は気づかない。
囲んでいるちゃぶ台をいつひっくり返してもおかしくないだろう、そんな真希を止めたのは彼女の隣にて押し黙っていた遠野美凪であった。

「真希さん、しー」
「はぁ?」

徐に鞄の中からこの島を取り出し、ひっくり返す美凪。
手にしたシャープペンシルで、さらさらと走り書きをする。

『盗聴の可能性あり』

今度は彼女が首輪を指差しながら、周りを見渡した。

「あ・・・・・・」

真希も北川潤と話し合ったことを思い出したのだろう、はっとしたように口を閉じる。

「それは、本当なのか?」

驚いたように声を上げたのは聖だった。そのようなことを考えたことがなかったらしい彼女は、口元に手をあて考えるように身を乗り出す。

「よく気がついたの、褒めてあげるの」
「あんたはあんたで一体何様なのよ?!」
「・・・・・・いじめる?」
「いや、いじめやしないけどさ」
「あっそ」
「おま、本気でシメたろか?!!」
「真希さん、しー」

481 凹□地味+つき添いの先生2 :2007/02/22(木) 00:57:59 ID:XmV31TEA
一方、ことみはというと相変わらずの調子であった。

「でも、ちょこっと見直したの」
「何よ・・・・・・」
「ちゃーんと分からなきゃいけないことは見抜いてるの、これなら一緒にいても一安心なの」

そう言って自らも筆記用具を手にし、ことみは美凪の走り書きの下にちょこちょこと文字を書き始める。

『私たちは脱出をしようと思ってるの』
『そのためにも、キーとなるのは以下の4つなの』

『①現在地の把握』
『②脱出路の確保』
『③主催側の人間の目的』
『④首輪の解除』

『①については、灯台にてこれから確認を取るの』
『それがまず分からない限り、②を考えるのも難しいのでこっちは後回しなの』
『④については、心配しないで欲しいの。何とかできるの』

「ちょっと待って、だから何でそんな簡単に済ませようとするのよ!」

引き続き文字列を増やそうとしていくことみに対し、真希がつっこみを入れる。

「・・・・・・?」
「これが一番厄介なのよ、下手したら死んじゃうのよ?!」
「・・・・・・」

言葉で答えず、ことみは再び視線を下げ書き込みを行った。

482 凹□地味+つき添いの先生2 :2007/02/22(木) 00:58:35 ID:XmV31TEA
『さっき言った通りなの、数分前のことを蒸し返されても困るの』
『これぐらいならちょっとした工具があれば解体できるの』

書き終わったと同時に、ブイッと元気よく右手を上げることみ。
眉を潜めた真希は、またもや胡散臭そうに彼女を見やる。

「本当なの」
「あのねぇ、ふざけてたらマジでブン殴るわよ?」
「信じて欲しいの」
「・・・・・・」
「やってやれないことはないの」
「ここにきて不安を煽る発言やめてよ?!」

しかしそう言うことみの表情は相変わらずではあったが、確かにその言葉に真剣さは含まれていた。ようにも感じる。

『ただ、今は外すべき状況ではないと思うの』
『主催側の人間が、私がそういうことできるってこと。知らないとは思えないの』

「と、言うと・・・・・・」

『あっちの出方が分からない限り、変に目をつめられたくないの。
 この首輪には仕込んでいないと思うけど盗撮されている可能性もなくないの、死んだ人間がカメラに映ったらおかしいの』

483 凹□地味+つき添いの先生2 :2007/02/22(木) 00:59:07 ID:XmV31TEA
「成る程。だがことみ君、一体どうやってそれは調べるつもりなんだ?」
「・・・・・・」
「ことみ君?」
「考えてないの」
「ブン殴る!!」
「真希さん、しー」
「んー、何かしら外と通じることができるモノが手に入れば・・・・・・」
「例えばどんなものだ」
「パソコンとか、携帯電話とか。何でもいいの」
「こんな辺鄙な場所では、パソコンは期待できないな」
「え、携帯電話ならあたし持ってるけど」

俯くことみと聖に向かい真希が差し出したのは、彼女の私物である携帯電話。
ぱっと聖が目を輝かせたが、通話はできないと聞くとその表情はすぐ落胆のものになる。
ことみは何か考えているようだった、その間にと真希は彼女の書き込んでいた用紙に自らも筆記用具を用意し書き込みをはじめる。
そして、チョイチョイと指を差す。

『これはあくまであたし達の推測だけど、この島には妨害電波があると思うの』
『赤外線での番号の交換はできたんだ、でも通話はできない。だからそうじゃないかって』

『よく分かんないけど、あたしはこれを最初っから持ち込めたの。あっちが回収し忘れたみたい。
 で、もう一人、持ち込んでる参加者もいる。さっきそいつから電話がかかってきたんだけど、そいつは支給品として配られた携帯電話を使ってきたらしいの』

「それは、本当?」
「勿論よ」
「ふざけてたらマジでブン殴るの」
「真似すんじゃないわよ!」

そんなやり取りをしながら、ことみもボールペンを走らせていた。
会話が終わったと同時に、先の真希と同じようにチョイチョイと指を差す。

484 凹□地味+つき添いの先生2 :2007/02/22(木) 00:59:41 ID:XmV31TEA
『ジャミングの線は多分合ってると思うの。
 それを破ることができる支給品ということなら、改造すれば外と繋がる電話にすることも可能かもしれないの』

「ちょ、ちょっと、本当に?!」

コクン。静かに頷くことみ、集まる視線は驚愕そのもの。
すくっと立ち上がり周りを見渡してから、ことみは宣言する。

「決まりなの。当面の目的は学校を通って灯台へ行くの、あとはその携帯電話を手に入れればこっちのもんなの」
「そうね、また北川から電話かかってくるかもしれないし・・・・・・その時に合流できるよう伝えるわ!」
「頑張るの」
「頑張りましょう!」

がっちりと握手を交わしながら見つめあうことみと真希の間に、何やら熱い空気が流れる。

「ぱちぱちぱち・・・・・・」

そんな二人の新しい門出を祝うかのように、美凪も拍手を贈る。

「してないの、口で言ってるだけなの」
「っていうか別に頑張るのあたし達だけじゃないわよ、あんたもやるんだからね!」

はしゃぐ三人娘、一歩下がり聖は楽観的な彼女達を見つめていた。
幸先は決して悪くない、真希達の情報とことみの能力が交差したことにより自分達は誰よりも脱出を可能にすることができる参加者になったであろう。

(ただ、こんなに簡単に進んでいいものなのだろうか・・・・・・)

聖は一人、今後の展望に対する不安を拭えずにいるのだった。

485 凹□地味+つき添いの先生2 :2007/02/22(木) 01:00:56 ID:XmV31TEA
【時間:二日目午前5時過ぎ】
【場所:B−5・日本家屋(周りは砂利だらけ)】

一ノ瀬ことみ
【持ち物:毒針、吹き矢、高圧電流などを兼ね備えた暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯、お米券×1】
【状態:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

広瀬真希
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、スリッパ、水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 和の食材セット4/10】
【状況:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

遠野美凪
【持ち物:消防署の包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、支給品一式(様々な書き込みのある地図入り)、特性バターロール×3 お米券数十枚 玉ねぎハンバーグ】
【状況:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

(関連・673)(B−4ルート)

486 LoVE & SPANNER,and LOVE(前編) :2007/02/22(木) 04:05:44 ID:19DpzjK.

じゃり、と嫌な音がした。
窓枠を超えて侵入してきた男の靴底が、割れ落ちた硝子の破片を踏みしだく音だった。

「ひ……ああ……」

七瀬彰は、声にならない悲鳴を上げ、ベッドの上で身をよじった。
その眼は恐怖に潤んでいる。

「ケケ……いいな、その顔……」

男が、爬虫類じみたその顔を笑みの形に歪ませ、彰ににじり寄る。
頬を紅潮させて震える彰の手を、男は強引に掴むと一気に引き寄せた。

「あっ……!」

なす術もなく、たくましい男の胸板に飛び込むかたちになる彰。
高熱に蝕まれ、頭がうまく働かない。
男は彰のおとがいに手をかけると、軽く上向かせた。
蛇のような眼に見据えられ、彰は身動きが取れなくなる。

「んっ……」

頬に、気味の悪い感触。
べろりと、男の舌が彰の頬を舐め上げていた。
舌は、蛞蝓のように彰の顔を這い回る。
紅潮した頬から涙の溜まった目尻、震える瞼を経て、鼻筋へ。

「や……だ……、んんっ……!?」

ぽろぽろと涙を流しながら呟いた口唇を、奪われた。
慌てて口を閉じようとするが、男の手が彰の頬を強く押さえ、それを許さない。
強引に開かれた彰の口腔を、男のヤニ臭い舌が侵蝕する。
歯茎の裏を舌先で擦られ、そのおぞましさに彰はただ涙を零した。
ねっとりとした男の長い舌が、彰のそれを絡め取る。
粘膜同士が触れあう感触に、彰の鼓動が早くなる。

「ん……ふ……」

鼻から漏れる吐息が、次第に荒くなっていく。

487 LoVE & SPANNER,and LOVE(前編) :2007/02/22(木) 04:06:10 ID:19DpzjK.
(こんなの、やだ……)

と、男の舌が彰の口腔から抜ける。
はぁっ、と深く息を吸い込む彰。
だが次の瞬間、彰の視界は九十度回転していた。

「え……?」

ぎし、とスプリングが鳴る。
ベッドに押し倒されたのだ、と理解するよりも早く、彰の着ていた服がまくりあげられた。

「や……っ!」

慌てて押さえようとした、その手を逆に掴まれた。
赤く指の跡が残るほどの強い力に抗えず、彰は男のなすがままに身体をまさぐられる。
薄く浮いたあばらを、骨に沿ってなぞるように、男の舌が這い回った。

「この肌……白くて、すべすべしてらぁ……。ケッケ、たまんねぇな……!」

無精ひげが彰の腹を擦る。
臍の中までも、男の舌に蹂躙された。

「いや……だぁ……」

頬を紅潮させ、かぶりを振る彰。
その恥辱に歪む表情に嗜虐心をそそられたか、男の無骨な手が、彰の服を乱暴に胸の上まで捲る。

「……ん? お前……」
「……っ!」

薄いココア色の乳首をまじまじと眺めて、男が神妙な顔をする。
その表情に、彰の中に最後まで残っていた意地が、弾けた。

「そ……そうだよっ……! 僕は……僕は、男だっ!」

白を基調とした室内に、静けさが下りる。

「……」
「……」

嫌な沈黙だと、彰は思った。
ねっとりとした重苦しい空気が、手足を絡め取っているように感じられた。
しばらくの間を置いて、ゆっくりと、男が口を開いた。

「……安心しろ」
「え……?」

ひどく優しげな笑みを、男が浮かべたように、彰には見えた。
ぬるりと濁った眼が、ヤニで黄色く染まった歯が、笑みの形のまま、彰に近づいてくる。

「―――俺は男の方にも慣れてるからな。ケッケッケ」

絶望が、かたちを成して彰の前にあった。

488 LoVE & SPANNER,and LOVE(前編) :2007/02/22(木) 04:06:33 ID:19DpzjK.
「んんっ……! ぁ……!」

再び、唇を奪われた。
男の空いた手が、彰の腹をまさぐる。
指先で一番下の肋骨をなぞるようにしながら、手を彰の背に回していく。

「ひ……あぁ……」

くちゅくちゅと音を立てて唾液を混ぜ合わせられながら、男の手の動きに翻弄される彰。
つう、と背筋を引っ掻くように辿る、男の爪の感触に、彰は身を捩ろうとする。

「あ……ら、や……」

唇を甘噛みされた。
眼を白黒させる彰の隙を縫うように、男の手が彰のベルトにかかる。
そのまま片手だけで、実に素早く、ベルトが抜かれた。
ズボンの隙間から、男の手が侵入する。

「や……やぁぁぁっ……!」

高熱のせいでいつもより熱を持っている逸物を、男の指が探る。
柔らかいままのそれが、男の爪にかり、と引っかかれた。ぴくりと震える。

「ん……くぅ……」

男はそのまま、広げた掌で撫でさするように、彰の逸物を嬲る。
ねっとりとした愛撫に、彰のそれが、徐々に滾っていく。

「ひ……うぁっ……!」

尿道を親指で擦られた。
逸物が、一気に肥大化する。
男の手を押し退ける勢いで膨らんだそれが、突然冷たい空気に晒された。

「ん……く、ぁ……?」

ズボンが、下着ごと下ろされていた。
ぶるん、と勢いよく反り返る彰の逸物が、男に掴まれる。

「何だ、お前……顔に似合わず立派なモン、持ってんじゃねえか……?」
「や……だぁ……」

涙を流しながら、ふるふると首を振る彰。
恥らう彰をニヤニヤと眺めていた男だったが、何を思ったか突然にその手を離した。
彰の耳元に口を寄せ、獣じみた息を吹きかけながら、囁く。

「ま、いいさ……今日は、こっちは使わねえからな」

489 LoVE & SPANNER,and LOVE(前編) :2007/02/22(木) 04:06:55 ID:19DpzjK.
こっちは、使わない。
その言葉が意味するところの理解を、彰の思考は拒絶した。
悲鳴だけが、彰の口から迸っていた。

「いやだ……いやっ……いやあああああっっっ!!」

心の底から、殺してくれ、と願った。
懐かしい日常も、心安い仲間達も、あんなにも恋焦がれたはずの澤倉美咲の笑顔でさえ、
その瞬間の彰は、思い出すことができなかった。
ただ、目の前の絶望から逃れたいと、それだけを思った。

そして同時に、それはひどく不思議なことだったが、彰の心に浮かんだ、もう一つの願いがあった。
殺してくれという願いと同じだけの重さで、生きたいと、七瀬彰は思った。
誰のためでもなく、ただ、生きたいと願った。

殺してくれ。生きたい。
絶望から逃れたい。生きたい。
助けて。生きたい。なんでもする。生きたい。
助けて。なんでもする。生きたい。生きたい。助けて。助けて。助けて―――

「―――助けて、僕を、僕を助けて、誰か……っ!」

願いが、言葉となって迸った。

瞬間。
光が、射した。

「―――」

響き渡ったはずの轟音は、彰の耳には聞こえなかった。
ただ、光の中に佇むひとつの影を、彰は凝視していた。

壁を木っ端微塵に破壊して、その男は立っていた。
風が、吹き抜けた。

「―――失せろ、下種」

その声すら、天上からの響きのように、彰には感じられていた。

490 LoVE & SPANNER,and LOVE(前編) :2007/02/22(木) 04:07:16 ID:19DpzjK.
【時間:2日目午前10時過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校保健室】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:右腕化膿・高熱】

御堂
 【所持品:拳銃】
 【状態:異常なし】

U−SUKE
 【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
 【状態:ラブ&スパナ開放】

→665 707 ルートD-2

491 おろかなるものへ :2007/02/22(木) 13:46:18 ID:WkK.7gNg
まずい、実にまずい。
雛山理緒は自らが招いてしまった(と勘違いしている)状況にどうするどうすると思考回路をフル稼動させて打開策を考えていた。
(どどど、どないしよ、これは所謂橘さんのピンチというやつでないでっか、いや、芸人になってる場合とちゃうねん、つーかこの言葉遣いをまずやめんかいっ!)
「…なんや、挙動不審なやっちゃなー」
理緒本人は頭だけを働かしているつもりだったのだがそこかしこで腕や足がひっきりなしに動いている。そのあまりの挙動不審っぷりに晴子は苦笑するしかなかった。
この分かりやすさ。それが、どこか観鈴と似ていた。姿かたちは全然似てないが。
敬介が彼女と行動を共にしている理由が何となく分かったような気がした。
「…もうええわ。バラすんだけは勘弁したる。さっさと武器や食料置いてどこへでも行きぃ」
「…見逃してくれるのか?」
「でなかったら何や? ええんやで、死にたいなら撃っても」
不敵に、晴子が笑った。敬介は手を上げると、「分かった、もう何も言わずに去るよ」と言って理緒に荷物を捨てるよう指示する。
理緒はびくびくしながらもさっさと荷物を下ろして、敬介の後ろへ引き下がった。
「よーし、そのまま後ろへ下がるんや…ヘンな真似するんやないで」
VP70で牽制しつつ敬介と理緒を後ろへ下がらせる。
さて、どんな武器を持っているのやら。いつでも荷物を取り出せるようにだろう、半分開いているデイパックをちらりと覗いてみる。
「何やこれ」
思わず、呆れた声を出してしまった。鋏、アヒル隊長、トンカチ…とても役に立ちそうなものとは思えない。
「敬介。アンタ、ピクニックかなんかに来てるんか?」
「せめてクジ運が悪かった、って言ってもらえないか」
元々敬介はヒキの悪い男だと思っていた晴子だが…これは、流石に。
「なんか、無駄弾を撃ってしもうて損した気分やわ…はは」
敬介のために激昂して一発撃ってしまったことが今更ながら悔まれた。肩を落としかけていた晴子だが、ふとデイパックに未開封のものがあることに気付く。
「そういや、荷物がみっつあるんやな。誰のや、これは」
晴子の疑問に、今度は理緒が答える。
「それは…その、一人の女の子の…遺品なんです」

492 おろかなるものへ :2007/02/22(木) 13:46:44 ID:WkK.7gNg
「誰や」
晴子の声が、険しくなる。放送で呼ばれてないだけで、それが観鈴のものである可能性も否めなかった。その剣幕にたじろぎながらもはっきりと理緒は言った。
「名前は…分からないんですけど、茶髪で短い髪の女の子でした」
「そうか…ならええわ」
観鈴のものではないことに安心し、中身を確認する。晴子としては、この先拳銃一丁では心許ない。できればもう一丁は拳銃が欲しいと思っていた――のだが。
「なんや、ハズレか」
かつての椎名繭の支給品はノートパソコン。相応の技術を持つ人間ならこれ以上ない支給品だが生憎そんな知識など持ち合わせていない晴子にとっては重たいだけの文字通り『お荷物』であった。
「あんたら、ホンマにヒキが悪いねんな」
「「余計なお世話だ!(です!)」」
ハモりながら反論する二人に、今度こそ晴子は本当の笑みを漏らす。何でかは知らない。とにかく、さっきまでまとめて殺そうとしていたとは思えないくらい、無性におかしかった。
「…何がおかしいんだ、晴子」
「知るかい。ウチにも分からん。…ま、こんなん持っててもしゃーないわ。そのノートパソコンだけは嬢ちゃんが持って行きぃ。遺品なんやろ?」
「…いいんですか?」
理緒はおろか、敬介でさえも予想しえなかった言葉に目をぱちくりさせながら、理緒は答える。
晴子は「重たいだけや、こんなん」と言うとデイパックに封をして理緒に投げ渡した。その重さによろめきながらも、しっかりとそれを受け取る。
「ありがとうございます…」
「礼なんていらんわ、ウチの得にならんと思うただけや」
憎まれ口を叩きながらも晴子の言葉には棘がなかった。しかし、すぐにそれを修正するかのようにドスの利いた声で「もう交渉は終わりや、早よ消えんかい」と言った。
敬介としても丸腰は危険だと思い、早急にその場を去ろうとして、その時、視界の隅にとある二人組を見つけた。うち一方は――銃を構えている! 狙いは…晴子!
「晴子っ、後ろだ!」
敬介の大声に反応して、すぐさま晴子が地面を蹴って、転がる。刹那、晴子のいた場所を『何か』が通りぬけて行く感触がした。
「チッ…ホンマにヒキが悪い…」
反撃しようと銃を構えた、その時。
「た、た…橘さぁんっ!」
今にも泣き出しそうな、少女の声。振り向くと――そこには、胸から血を流して息も絶え絶えな敬介の姿があった。
何があったんだ、と一瞬混乱しかけた晴子だがすぐにその原因が分かった。

493 おろかなるものへ :2007/02/22(木) 13:47:07 ID:WkK.7gNg
「あのアホ…流れ弾なんかに当たりよってからに!」
自分で警告しといて自分で当たれば世話ない。間抜けだ、と晴子は思ったが一方で怒りも感じていた。どうしようもないアホだが…対立していたが…それ以前に、橘敬介は晴子の『友人』であった。
「誰や! 卑怯くさいマネしおって! 出てこんかい!」
大声で叫ぶと、ようやくその『犯人』が姿を現した。天沢郁未と、来栖川綾香。
一方は知らない人間だったがもう一方は見覚えがある。こんなところで借りを返せようとは。晴子はにやり、と口元を歪める。
これほどまで…ほれほどにまで、こんなに気分が高陽していたことはない。妙に感覚が研ぎ澄まされている。ハダで微妙な空気の動きまでも分かるほどに。
(敬介。ウチはこのゲームを止める気はあらへん。観鈴が生き残るには殺して回るしかあらへんのや。…だけどな、アンタのカタキくらいはとったるわ!)
VP70を気高く、猛々しく、綾香に向けて敵意たっぷりに言ってやる。
「ほぅ…いつか邪魔をしたクソジャリかいな。なんや、今は人殺し街道邁進中か?」
「あら…いつかのオバサンじゃない。久しぶりね、今のは仲間?」
「アホ。昔の知り合いっちゅうだけや。それにウチはオバハンやない、まだ十分に『おねーさん』言える年齢や」
「気にするってことはそれくらいの年なんじゃないの、オバサン」
ピク、と晴子の血管が引き攣る。さっきの台詞は綾香のものではなく、郁未のものだったからだ。
「じゃかあしいわ! 見ず知らずのアンタに言われたかないねん、いてまえクソジャリ!」
言葉は激しいものだったが、行動は冷静だった。無闇に銃を撃つことはせず、敬介から奪い取ったトンカチを、思いきり投擲したのだ。二人固まっていた綾香と郁未が驚き、やむなく森側へ散開した。
晴子の考えは一つ。
敬介を撃ち殺したアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

494 おろかなるものへ :2007/02/22(木) 13:47:27 ID:WkK.7gNg
【時間:1日目午後11時30分】
【場所:G−3】

神尾晴子
【所持品:H&K VP70(残弾、残り15)、支給品一式】
【状態:綾香に攻撃、激しい怒り】
雛山理緒
【持ち物:繭の支給品一式(中身はノートパソコン)】
【状態:敬介の側に】
橘敬介
【持ち物:なし】
【状況:胸を撃たれ致命傷(息はまだある)】
来栖川綾香(037)
【所持品:S&W M1076 残弾数(2/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:興奮気味。腕を軽症(治療済み)。麻亜子と、それに関連する人物の殺害。ゲームに乗っている】
天沢郁未
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:右腕軽症(処置済み)、ヤル気を取り戻す】

【その他:鋏、アヒル隊長(13時間半後に爆発)、支給品一式は晴子の近くに。(敬介の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置)。トンカチは森の中へ飛んで行きました】

→B-10

495 おろかなるものへ :2007/02/22(木) 13:51:10 ID:WkK.7gNg
すみません、以下の部分に訂正させてください

>>493
>敬介を撃ち殺したアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

>敬介を撃ったアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

によろしくお願いします

496 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:28:29 ID:IZffcNZk
「―――失せろ、下種」

鎌石小学校の外壁を、まるで障子紙を破るように破壊してのけた男の名を、芳野祐介という。

「ゲェェーック! 何だ、貴様……ッ!?」

咄嗟に振り向いた御堂が、しかしその瞬間、凍りついたように動きを止めた。

「ゲ……ゲェェ……ック」

七瀬彰を嬲る間も肌身離さずに持っていた拳銃を抜き放とうとする手が、震えていた。
瞬く間に、御堂の全身に嫌な汗が噴き出す。

「ほう……少しはやるようだな。互いの力の差くらいは理解できるか」
「き……貴様、何者だ……!?」

だらだらと汗を流しなら、御堂が声を絞り出す。
芳野が、鋭い眼差しで御堂を射抜きながら口を開く。

「―――雑魚に名乗る名は持ち合わせていない。……そいつから離れろ」
「グ……ち、畜生……」

絞り出すような声で呻く御堂。
ぎり、と奥歯を噛み締める。

「聞こえなかったのか? ……もう一度言う。そいつから、離れろ」
「こいつ……こいつ、は……俺の……!」

御堂が言い終わる前に、芳野の手が動いていた。
風通しの良くなった室内に、軽い音が響く。

497 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:29:00 ID:IZffcNZk
「が……っ! なん、だと……!?」

驚愕に慄く御堂を、芳野はただ静かに見つめている。
はらり、と何かが宙を舞っていた。

「き、貴様……、俺の……軍服を……!」

震える声で唸る御堂は、いまや一糸纏わぬ姿であった。
舞い散っていたのは、御堂の着込んでいた軍服の切れ端である。
御堂の戦慄も無理からぬことであった。
芳野がしたことは、ただ差し出した手の先で、指を鳴らしてみせたという、それだけのことだった。
ただそれだけの動作で、御堂の軍服は千々に切り裂かれ、ズボンに挿していた拳銃は輪切りにされ、
そして、御堂自身にはかすり傷一つついてはいなかったのである。
達人の使うという剣圧の類と見当はつけてみても、御堂は動けない。
否、何気ない仕草でそれをやってのける技量が推し量れるからこそ、御堂は身じろぎ一つできないでいた。
それだけ、彼の眼前に立つ男の力量は圧倒的であった。

「―――勘違いするなよ、下種」

全裸の御堂を見据えたまま、芳野が淡々と言う。

「お前を殺さないのは、そいつに血を見せたくないからだ」

そいつ、と口にした一瞬、芳野が御堂の背後、彰へと目をやる。
その視線にどす黒い殺意を掻き立てられながら、御堂は芳野を睨み返した。
敵う相手ではなかった。一矢を報いることすらできぬと、わかっていた。

「ゲ……ゲ……ゲェェェーック!」

ベッドの上で中腰になった御堂が、じりじりと、円を描くように動く。
芳野との距離を詰められぬまま、壁に空いた大穴へと近づいていった。
最後にちらりと彰を見ると、御堂が言う。

「ケッケッケ、覚えてろよ……俺はいつでも、お前の傍にいるからな……!」
「次に顔を見たら、素っ首叩き落す。そのつもりでいろ」
「……ゲェーック! ゲェーック!!」

芳野の視線から逃れようとするかのように、御堂が飛び退いた。
そのまま振り返らずに走っていく。
校庭を横切り、森に入ってその後ろ姿が見えなくなるまで、芳野は厳しい眼でそちらを見据えていた。


******

498 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:29:35 ID:IZffcNZk

「……もう、大丈夫だ」

振り向くと、芳野は普段の彼を知る者が見れば驚くような、柔和な笑みを浮かべて言った。
慈しむようなその視線は、真っ直ぐに彰へと向けられている。
ベッドの上で、握り締めたシーツで身体を隠すようにしている彰へと、そっと手を伸ばす。
だが、その雪のように白い肌に触れようとした瞬間。

「……っ!」

彰が、声にならない悲鳴をあげて身を震わせた。
何か眩しいものを見るようだったその瞳も、怯えた小動物を思わせる色を浮かべている。

「す……すまん」

慌てて手を引く芳野。何をしているのだ、と自省する。
目の前の少年はたった今、強姦されかかったのだ。
見も知らぬ人間を警戒するのは当たり前だった。

「い、いえ、僕のほうこそ助けてもらったのに……すいません」

そう言って、涙目のまま頭を下げる彰。
その姿を目にしたとき、芳野は不思議な温かさが全身に広がるのを感じていた。
ずっと感じていた胸の中の棘が大きくなるような、それでいて転がる棘が決して痛みだけではない何かを
もたらすような、奇妙な感覚。
それはひどく甘やかで、懐かしい感情だった。
目の前の少年のことを、もっと知りたいと思った。

「俺……俺は、芳野祐介。お前の名前を、聞かせてくれないか」
「あ……、僕は七瀬、七瀬彰です」
「彰、か……いい名前だな」

彰、あきら。
その名を舌の上で転がすように、何度も小さく繰り返す芳野。

「その、ありがとうございます……芳野さん」
「祐介でいい。……俺も、彰と呼ぶ」
「はい……祐介さん」

上目遣いで見上げながら己の名を呼ぶ少年の瞳を見返した瞬間、芳野は心拍数が跳ね上がるのを感じていた。
動揺を誤魔化すように目を逸らし、咳払いしながら口を開く。

499 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:29:59 ID:IZffcNZk
「そ、それより早く服を着てくれ。その格好は、その……目に、毒だ」
「え……、あ!」

全裸に近い格好のまま、シーツで前を隠しているだけの彰が、己の姿に気づいて赤面する。
白い肌が、一気に紅潮した。
赤く染まった耳と細く白い肩のコントラストから視線を剥がすのに苦労しながら、芳野はようやく口を開く。

「き、着終わったら声をかけてくれ」

そう言うと、後ろを向く芳野。
背後から、小さな衣擦れの音が聞こえてくる。
目を閉じるとあらぬ妄想が浮かんできそうで、芳野は瞬きもせず己が破壊した壁の向こうに見える景色を凝視していた。
風が吹きぬける音だけが響く静けさの中で、時が流れていく。
しばらくそうしていた芳野だったが、とうとう痺れをきらして声をかけた。

「も、もういいか……?」
「……まだ、です」
「そ、そうか」

どこか恥らうような声。芳野は自身の堪え性のなさに内心で頭を抱える。
自分にとってはひどく長い時間に感じられたが、もしかすると実際には数秒しか経っていなかったのかもしれない。
そんな風にすら思えた。
明らかに平静ではない己の精神状態が、しかしひどく心地よくて、その二律背反に芳野はまた悩む。
胸の中の棘が、転がった。
痛痒いその感覚に、胸を掻き抱いて蹲り、思う様叫び出したい衝動に駆られる。

「……ね、祐介さん」

歯を食い縛って衝動に耐える芳野の背後から、小さな声がした。
恥じ入るような、それでいながらどこか鼻にかかったような、囁き声。

「なん―――」

振り向こうとした芳野の腰に、白い腕が回されていた。

500 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:30:18 ID:IZffcNZk
「な……!?」

彰が、芳野に抱きついていた。
見下ろした彰の、ミルク色の細い肩のラインがひどく艶めかしくて、芳野は正視できない。
彰は、その身に何も纏っていなかった。

「なに、を……」
「―――お礼が、したいんです」

芳野の腹の辺りに顔を埋めながら、彰が言う。
服越しに感じる吐息の熱さと声の振動に、芳野は体の芯から何かがせり上がってくるのを感じていた。

「さっき、とっても怖かった」

言いながら、彰は芳野のベルトに手をかける。

「ひどいことされて、殺されるって、思った」

かちゃかちゃと音を立てて、ベルトが抜き取られた。

「助けてって、思ったんです。誰か助けて、って」
「クッ……や、やめ……!」

ジッパーが、そっと下ろされていく。

「そうしたら、来てくれた。僕を助けに来てくれたんです。祐介さんが」

反射的に彰を突き飛ばそうとして、芳野は必死で己を抑える。

(駄目だ……! 今の俺がそんなことをすれば、こいつは……!)

加減のきかない力は、彰の華奢な身体をいとも簡単に破壊してしまう。
壁に叩きつけられて物言わぬ屍となる彰の姿が、脳裏をよぎる。

「……だから、祐介さんにお礼がしたいんです」

言葉と共にボクサーパンツが下ろされていくのを、芳野はなす術なく見守るしかなかった。

「僕にできることなんでもしてあげたいって、そう思ったんです。だから―――」

そう言うと、彰は躊躇なく、芳野のモノを口に含んだ。


******

501 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:30:46 ID:IZffcNZk

―――汚らしい。

七瀬彰は、芳野のモノを舌の上で転がしながら、そう思う。
瞬く間に大きく、硬くなりはじめたそれを、一旦口から出すと、そそり立つモノに舌を這わせる。
舌全体を広く使いながら、亀頭を舐め上げていく。

「くぅ……」

芳野の、獣じみた吐息。
こいつも同じだ、と彰は内心で唾を吐く。
高槻と、軍服の男と、同じ種類の生き物だ。
汚らしい、獣欲にまみれた、畜生以下の屑どもだ。

「どう……? 気持ちいい……?」

そうして自分は、そんな屑に奉仕している、最低の人種だ。
玉袋に添えた指をやわやわと揉むように動かしながら、エラの張った雁首を、舌先でつつくように刺激してやる。

助けて、と願った。
誰か助けて、と。何でもする、生きたい―――と。
その結果が、この様だ。
どこか遠くにいる神様が、意地悪な顔で笑っているような気がした。
どうした、生き延びるためなら何でもするんじゃなかったのか。
男に身体を差し出すくらいが何だ、その程度でお前を助けてやろうというのだ、安いものじゃないか―――。
そんな声が聞こえてくるような気すら、していた。

(ああ、やってやるさ……何だって、ね。だからそこで……黙って見ていろ、クソッタレの神様め)

たっぷりと唾液をまぶした舌で、裏スジを上下に舐める。
空いた指の腹で雁首を擦りながら、上目でちらりと芳野の様子を窺う。

「う……あ、彰……」
「ん、ふぅ……」

眼が合うや、頬を真っ赤にして視線を逸らす芳野。
予想以上の反応に呆れながらも、彰は一つの確信を得ていた。

502 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:31:28 ID:IZffcNZk
(僕には……一つの才能が、ある)

潤んだ瞳。
高く、薄い声。
少女じみた童顔。
細く華奢な体つき。
白くキメの細かい肌。
それら、これまでの人生ではコンプレックスの種でしかなかった自分の身体的な特徴が、
今のこの島では、大きな財産になり得る可能性を秘めていた。即ち、

(僕の身体は……一目で、男を惹き付ける)

特にその効果は、青年期を過ぎた男性に顕著なようだった。
高槻は出会って間もなく自分を愛していると断言し、文字通り身体を張って自分を守り通した。
軍服の男は、即座に自分を犯そうとした。
そして今、芳野祐介だ。
人間離れした能力を持ったこの男は、明らかに自分に惹かれている。
ならば、と彰は考える。

(なら、もう僕から離れられないようにしてやる……)

そのためならば、こうして奉仕することも厭わない。
口先と身体だけの愛ならば、いくらだって捧げてやる。
それほどに、芳野祐介の力は圧倒的だった。この男といれば、この場を生き延びるどころか、
ターゲットを殺害しての帰還すら現実的なものとなると、彰は思う。
澤倉美咲と合流したとしても、うまく誤魔化す自信があった。
何しろ自分の身体に群がる男たちの思考回路など、獣以下だ。

(そのためにも……今、頑張らないと)

先走り液を指に絡ませながら、彰は竿をしごき上げる。
亀頭は口にすっぽりと含んでいた。
口蓋と舌とで包み上げると、頭ごと前後に動かすようにして刺激を強める。

503 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:31:56 ID:IZffcNZk
「く……うぅっ、彰……」

びくり、と芳野のモノが震えた。
限界が近いらしいことを感じ、彰は最後の仕上げに取り掛かった。
わざとぴちゃぴちゃと音を立てながら、咥内のモノを出し入れする。
竿に這わせた指の力を、少しづつ強めていく。裏スジを、爪の先で掻いた。
速いペースでしごき上げながら尿道を舌先でつついた瞬間、

「あ、あき、ら……くっ、うぁ……あぁああっっ……!」

どくり、と芳野のモノから、濁った液体が溢れ出した。
あまりの濃さに、白濁を通り越して黄色がかった粘液が、びゅくりびゅくりと彰の顔を汚していく。
頬といわず鼻筋といわず、芳野の精にまみれる。
垂れてきた液体を、ぺろりと舌を出して受け止める彰。
おぞましさを噛み潰しながら、上目遣いで芳野に照れたような笑みを見せる。

「祐介さんの……いっぱい、出てる……。……え?」

彰の表情が、凍った。
見上げた芳野の様子が、おかしかった。

「う……うぁ……ぉぉ……と、とまら……ない……くぉぉ……っ」

苦悶に顔を歪めながら、芳野が呻いていた。
そしてその言葉通りに、射精も止まる気配を見せない。
明らかに異常な量を放出していながら、いまだに粘液を吐き出し続けていた。

「祐介さん……! 大丈夫、祐介さ、……う、うわぁぁぁぁっ!?」

我知らず、彰は悲鳴を上げていた。
涙すら流して苦しむ芳野の、その顔が、彰の見る前で急速に痩せ衰えていた。
瞬く間に頬がこけ、眼窩は落ち窪み、肌に皺が刻まれる。
死が色濃く見て取れる老人の如く、芳野が枯れ果てていく。


******

504 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:32:12 ID:IZffcNZk

「ぐ……おぉぉぉぉッ!」

絶望と苦悶の中で、芳野祐介は己の過ちを悟っていた。
超絶的な肉体が、禁欲と過剰薬物のバランスによって成立していることを失念していた。
天秤の片方から錘を取り除いてしまえば、そのバランスは崩壊するのが自明といえた。

精液と共に、己を支えていた無数の生殖細胞が体外へと排出されていくのがわかる。
超速移動によって断裂した全身の筋細胞が、死滅していく。
回復能力を失った骨が、そこかしこで砕けるのを感じた。

死を前にして、芳野はひどく冷静に、思う。

(―――ああ。ようやくわかった)

しばらく前から、胸の中を焦がす感覚の正体。
射精によって肉欲が薄れ、ようやくにして思い出すことができていた。

(恋、か―――)

かつて、伊吹公子と出逢った頃に感じていた、胸の高鳴り。
ざわめき、揺れ、身悶えするほどに高まった、感情。
七瀬彰という少年との出会いは、そういうものに、似ていたのだ。

(すまん、公子……俺は、最期までどうしようもない男、だったな―――)

既に視力も失われ、黒一色に染まった視界の中に、たった一人の女性を思い浮かべながら。
芳野祐介は、その波乱に満ちた生涯を終えた。


******

505 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:32:31 ID:IZffcNZk

木乃伊の如き遺骸を前に、七瀬彰は呆然と座り込んでいた。
どうして、とそればかりが頭をよぎる。

何も残らなかった。
汚辱と恐怖とに耐えながら築き上げようとしたものは、芳野祐介と共に文字通りの灰燼に帰した。
破壊しつくされた室内。床と、壁と、そして己を穢す、栗の花の臭い。
吐き気がした。堪えきれず、白濁液が溜まる床にぶちまける。
びちゃびちゃと撥ねる吐瀉物が、白濁液と混ざり合ってマーブル模様を作り出し、その様にまた
悪心がこみ上げてきて、更に吐く。胃液に刺激されて、涙が出てきた。

「ち……く、しょう……」

感情が、決壊した。
声をあげて、彰は泣いていた。
近くにある物を掴んで、手当たり次第に投げつけた。
そうして手の届く範囲に物がなくなると、ベッドに蹲って叫んだ。
くぐもった泣き声が、ただ響いていた。

506 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 16:32:52 ID:IZffcNZk

【時間:2日目午前10時過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校保健室】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:右腕化膿・高熱・慟哭】

芳野祐介
 【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
 【状態:死亡】

御堂
 【所持品:なし】
 【状態:全裸】

→717 ルートD-2

507 LoVE & SPANNER,and LOVE(後編) :2007/02/24(土) 17:11:39 ID:IZffcNZk
訂正です、「→717」ではなく「→716」でした。
申し訳ありません。

508 Misunderstanding :2007/02/24(土) 18:53:37 ID:R1aRfFxo
古河秋生は娘の渚を背負い、みちると共に走っていた。一直線に、役場を目指していた。
「あの大馬鹿野郎……何で俺に相談の一つもしねえんだっ!」
思い起こせば、朋也の様子はどこかおかしかった。先程別れた時の朋也は、必要以上に感情を抑えているように見えた。
自分の名前を騙っての扇動などという真似をされた日には、普段の朋也の性格ならば激怒している筈だ。
にも関わらず朋也は怒りを露にしようとせずに、逆に落ち着き払った様子で対応策を練っていた。
それもこれも、みちるから話を聞いて全て合点がいった。朋也は既に、かつての朋也では無くなってしまっていたのだ。
風子、そして秋生の知らぬもう一人の少女を守れなかった事。その事実がどれ程朋也を苦しめたか、想像するのは難しくない。
無力感と復讐心に苛まれた者が行動を起こすのならば、自身を犠牲にしてでも何かを成そうとするのものだろう。
人を救おうとするにしろ、マーダーへの報復を行うにしろ、捨て身の覚悟で行う筈だ。
そんな自殺行為は今すぐ止めさせなければならない。

前を走るみちるが、心配そうにこちらを振り返る。
「おじちゃん大丈夫?もう少しゆっくり走ろっか?」
傷付いた体で渚を背負い走る今の秋生の速度は、みちるよりも更に遅い。
左肩と脇腹より伝わる痛みで何度も身体がふらつき、その度に気力で堪えてきた。
「みちるちゃんの言う通りです。わたしはもう歩けますから、降ろしてください」
渚も、気遣うように声を掛けてくる。秋生は少女二人を不安にさせてしまっている己の不甲斐なさに、内心で舌打ちした。
「おいおい、俺はおじちゃんって呼ばれるほど、衰えてねえぞ。そんな俺だから当然……こんくれえ平気だ」
精一杯強がって見せる。それは明らかに空元気だったが、休んでいる時間は無いし、娘の足に負担をかけたくもない。
だから秋生はひたすら耐えて、走り続けた。


     *     *     *

509 Misunderstanding :2007/02/24(土) 18:55:08 ID:R1aRfFxo


岡崎朋也の最優先目標は、十波由真と伊吹風子を殺害した張本人――七瀬彰の殺害であった。
しかし朋也は高槻、折原浩平の両名に銃を突き付けられ、動きを封じられてしまっていた。
嘘を吐いているのは朋也の方だと判断した高槻が、棘々しい視線を送りつけてくる。
「残念だったなガキ。俺様を騙そうだなんて百年はええぜ」
「クソッ……」
追い詰められた朋也の心に、どす黒い感情が膨らんでゆく。
何故どいつもこいつも自分の言い分を無視して、彰のような極悪なマーダーを信じる?
もう、何を言っても自分の疑いが晴れる事はないだろう。なら、これからどうするべきだろうか?
仮にこの場から逃亡した場合、また彰と出会えるとは限らない。
故に離脱するというような事はしない。絶対に、その選択肢はありえない。ここで必ず、どんな手を使ってでも彰を殺す。
そうだ、もう自分に残された選択肢はここで決着をつける以外ないのだ。障害を排除して、そして彰を仕留める。
彰の味方をする気ならば、ゲームに乗っていない者でも容赦はしない。銃を向けてくる以上、逆に撃たれても文句は言えまい。
しかし、まずはこの――二人から銃を向けられている状況を何とかしなければ駄目だ。

朋也が打開策を模索している最中、高槻が刺すような冷たい声を掛けてくる。
「とっとと銃を下ろせ。そうしねえと――撃つぞ」
脅す高槻の目には、何の迷いも躊躇も見られない。従わなければ警告通り、発砲してくるだろう。
ここで逆らっても犬死にするだけだ。今は言うとおりにする他無い。
「分かったよ……」
短く答えて、朋也はS&W M60の銃口を下ろす。抵抗する意志が無いという事を、示すかのように。
「ようやく自分の立場が分かったみてえだな。そのまま、銃をこっちに投げな」
「ああ。ほら――――よっ!」
「――――っ!?」
朋也は物を投げる準備動作を小さく行って、そして――真横に跳ねて地面を転がった。銃を投げずにだ。
油断無く銃を構えていたつもりの浩平と高槻だったが、大人しく降伏するかに見えた相手の突然の行動に、一瞬硬直してしまう。
二人が慌てて銃弾を放った時にはもう、照準が合わさっていた位置には朋也の姿は無く、弾丸は空を切るばかりだった。
高槻は再度銃撃するべく朋也の姿を追い、そして朋也が銃を構えている事に気付いた。

510 Misunderstanding :2007/02/24(土) 18:57:22 ID:R1aRfFxo
「――!!」
「危ねえ、オッサン!」
幾分早く朋也の動きを察知していた浩平が、すんでのところで高槻の腕を引く。
「がっ……!!」
しかし、予めこの展開を予測していた朋也の方が早かった。朋也の手元より放たれたS&W M60の銃弾が、高槻の左肩を貫く。
突然の激痛に高槻は銃を手放してしまったが、それでも何とか踏みとどまって、すぐに上体を伏せた。
高槻の頭の上を、紙一重で弾丸がすり抜けていく。肌に伝わる風圧に、高槻の頬を嫌な汗が伝った。
「このっ……ナメやがって!」
浩平が朋也に向けて銃を構えるが、浩平の銃はH&K PSG−1――いわゆる狙撃銃であり、いかんせん狙いをつけるのに時間がかかる。
弾丸が切れた朋也は、小刻みに左右へ跳ねて浩平の銃撃を掻い潜り、一気に距離を縮める。
そのまま朋也は大きく左腕を後方に振りかぶり、全体重を乗せてS&W M60の銃身を振り下ろした。
「うおっ!?」
浩平は咄嗟にH&K PSG−1を盾にしてそれを受け止めようとしたが、甘い。殺し切れなかった衝撃で手が痺れ、浩平は銃を取り落としてしまう。
手を押さえて背を丸めている浩平目掛け、また銃を振りかぶろうとする朋也。だが、その視界を突然白いものが覆った。
「な、何だっ!?」
「ぴこーーーーっ!」
それは生物学的にはかろうじて犬に分類されるであろう、白い珍獣――ポテトだった。
ポテトは浩平の背を踏み台にして朋也の顔に飛びつき、そのまましっかりと張り付き、彼の視界を完全に奪い去っていた。

511 Misunderstanding :2007/02/24(土) 18:58:49 ID:R1aRfFxo
「でかした、ポテトっ!」
相棒の作ってくれた隙を逃さず、高槻が動く。地面を蹴って、その推進力も上乗せした拳を朋也の腹へと放った。
「ぐがっ……」
高槻の硬い拳が腹にめり込んで、朋也は苦痛に顔を歪める。それでも――朋也は下がらなかった。
浩平と高槻の銃は地面に落ちたままだった。今距離を取れば、瞬く間に銃を拾い上げられるのは明らかである。
「邪魔を……するなあああっ!」
苦痛に耐え切った朋也は、がむしゃらに腕を振り回して高槻を押し退けた。そして右手でポテトを鷲掴みにして、そのまま勢い良く投擲する。
ポテトが投げつけられた先にいるのは――今にも朋也に殴りかかろうとしていた、浩平だった。ポテトは浩平の顔面に直撃し、両者に強い衝撃を与える。
「ぴこぉっ……」
ポテトはその衝撃を凌ぎ切る事が出来ず、その場でぐったりと倒れて気を失ってしまった。
「ぐっ……」
浩平は気絶こそしなかったものの、カウンター気味に受けた攻撃に、一瞬意識が飛びかる。
2対1の戦い――普通ならば高槻達が圧倒的に有利であったが、彼らのこれまで負った怪我が、勝負の行方を予想し難いものにしていた。


     *     *     *

512 Misunderstanding :2007/02/24(土) 19:00:24 ID:R1aRfFxo


高槻達の戦いを、固唾を呑んで見守っている郁乃と七海。先ほどから七海は、仲間が――そして、朋也が殴られた時も、辛そうに目を閉じている。
優しすぎる性格の七海からすれば、人が傷付け合う事自体が耐え難い光景だったのだ。
七海はとうとう我慢出来なくなり、戦いを止めようと足を踏み出し始める。しかし、その後ろ手を誰かにがっしりと掴まれた。
「――郁乃さん?」
「駄目よ七海、危ないわ」
七海が振り返ると、郁乃が真っ直ぐな瞳でこちらを見つめていた。
「でもでも、このままじゃみんながっ!」
「私達が行ったって、邪魔になるだけよ……。あの馬鹿を――高槻を、信じよう?」
「……はい」
語る郁乃の手には、しっかりとS&W 500マグナムが握り締められている。しかし、それを使って援護する事は出来ない。
高槻達は今、殴り合いの混戦をしている。郁乃や七海のような子供が下手に銃を撃てば、誰に当たるか分かったものではない。
郁乃も七海も、歯を食い縛りながら人が傷付いていくのを見ているしかなかった。非力な、子供の身である自身を呪いながら。
しかしそんな彼女達に、救いの声が掛けられる。
「君達、ちょっと良いかな?」
その声を発した人物は、この戦いの元凶とも言える七瀬彰だった。郁乃にとって、彰は招かねざる存在である。
郁乃は彰に向けて、ジロリと疑いの視線を浴びせ付けた。当の彰は気にした風も無く、言葉を続ける。
「頼みがあるんだ。僕に――その銃を貸して欲しい。そうすれば、あの人達を助けられる」
「――――!」
郁乃は思わず息を飲んだ。確かに非力な子供の自分よりも、彰の方が数段上手く銃を扱えるだろう。
苦境に立たされている高槻達を救う事も、彼なら十分に可能かもしれない。
だが、そう簡単に信用していいものか?彰がマーダーで無いというのは、あくまで高槻と浩平の推測に過ぎぬ。
彰が嘘をついている場合も考えられるという事を、失念してはいけない。いつもの郁乃なら、ここで安易に銃を渡しはしなかった。
彰への疑念を捨てずに、この場で最善といえる対応を考え出そうとしていた筈である。
しかし――仲間の戦いを見守る事しか許されなかった郁乃にとって、彰の囁きはあまりにも甘く。
「分かったわ……お願い、彰さん。みんなを助けてっ!」
郁乃はS&W 500マグナムを、そして予備弾すらも、殺人者に手渡してしまった。

513 Misunderstanding :2007/02/24(土) 19:01:50 ID:R1aRfFxo

【時間:二日目・14:10】
【場所:C−3】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:現在の目標は朋也の救出。疲労、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:秋生に背負われている、目標は朋也の救出、右太腿貫通(手当て済み、痛みを伴うが歩ける程度には回復)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:目標は朋也の救出と美凪の捜索】



【時間:二日目・14:20】
【場所:C−3】
岡崎朋也
 【所持品:S&W M60(0/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
 【状態:高槻、浩平と格闘中。マーダーへの激しい憎悪、腹部に痛み、現在の第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害


湯浅皐月
 【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:気絶、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】

514 Misunderstanding :2007/02/24(土) 19:03:22 ID:R1aRfFxo
七瀬彰
 【所持品:S&W 500マグナム(5/5 予備弾7発)、薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:腹部に浅い切り傷、右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:朋也と格闘中、頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:朋也と格闘中、左肩を撃ち抜かれている(怪我の度合いは後続任せ)、最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:待機中、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:待機中】
ポテト
 【状態:気絶、光一個】

【備考】
以下の物は高槻達が戦っているすぐ傍の地面に放置
・コルトガバメント(装弾数:6/7)、H&K PSG−1(残り2発。6倍スコープ付き)

→711

515 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:09:18 ID:F9ga/RUo
相楽美佐枝と長岡志保がその行く手を遮られたのは、午前十時を少し回ったあたりであった。

「み、美佐枝さん……」
「……わかってる」

不安げに声を上げる志保を庇うように、美佐枝が前に出ながら言う。
鋭く見据えたその視線の先には、数十人を遥かに超える少女たちがいた。
少女たちの異常性は、一見して明らかだった。
何しろ、そのすべてが同じ顔をしていたのである。

「どう見たって、マトモじゃないわね……」

そもそも、朝の放送の時点で参加者の残り人数は半数を割り込んでいたはずだった。
頭数の計算からして既におかしいし、何よりも手元の探知機にまるで反応していない。
となれば目の前の少女たちはイレギュラーな存在であるか、

「あるいは、何かの能力によって生み出された、とかね……」

自分がドリー夢の能力に目覚めたように、と美佐枝は考える。
いずれにせよ、採るべき道はそう多くなかった。

「何なの、あいつら―――?」

背後で怯えたように言う志保に、美佐枝は短く声をかける。

「長岡さん」
「なに、美佐枝さん……?」
「―――あなた、先に行きなさい」
「……え?」

516 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:09:33 ID:F9ga/RUo
虚を突かれたような声。
そのようなことを言われるとは、考えてもいなかったのだろう。
しかし、美佐枝は淡々と続ける。

「ここは私に任せて。あなたには先に行って、輸血の器具を探してほしいの」
「……そんな、美佐枝さん!」
「あたしたちが何のためにこうしているか、わかってちょうだい」
「でも……」
「いいから、早く!」

一喝する。
霧島聖の連れてきた少女の容態は、素人目にも一刻を争うものだった。
出立から既に数時間が経過している。
現時点で少女が存命しているかどうかすら、危うかった。
周囲を警戒しすぎて移動が遅れた、と悔やんでも遅い。

「あたしもここを片付けたら、すぐに追いかけるから」
「でも、美佐枝さん一人じゃ……」
「足手まといだって、言ってるの」
「……っ!」

方便ではあるが、事実だった。
敵の数は多い。包囲されれば、志保を庇いながら戦うのは難しかった。
彼女を戦線から離脱させるなら、今しかなかった。

「……わかったら、行って」
「っ……気を、つけてね?」

志保の言葉に、美佐枝は苦笑する。

「それはこっちの台詞。あたしが追いつくまで、無茶しちゃダメよ。
 怪しいヤツにあったら、すぐ逃げて」
「う……うん」
「……さ、それじゃ、早く」

517 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:10:10 ID:F9ga/RUo
そっと、志保の背中を押す。
心配そうな顔で何度も振り返りながら、志保は木立の中へと入っていった。
それを見届けて、美佐枝は前方へと視線を移す。

「さて、っと……」

自分の役目ははっきりしていた。
できる限り注意をひきつけて時間を稼ぎ、しかる後に離脱する。
全滅させる必要はない。肝心なのは、とにかく足止めをすることだ。
そう再確認して、美佐枝は一歩を踏み出す。

「鬼が出るか、蛇が出るか……」

見れば、前方に展開する少女たちが立ち止まっている。
こちらの存在に気づいたのだろう、と考えて、美佐枝は大きく息を吸い込む。

「どんなキャラになるのか分かんないけど、トウマだったらいいなあ、うん。
 ―――行くぞ、あたし!」

ぴしゃりと両の頬を叩いて、走り出す。
正面突撃。相手の手の内を見定めてから仕掛ける余裕は、なかった。

「―――」

洗礼は、光のシャワーだった。

「う……わ、っとぉ、熱ッ!?」

身体スレスレををかすめる光の束に、慌てて首をすくめる美佐枝。
見れば、光に触れた部分の肌が赤く腫れていた。

518 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:10:48 ID:F9ga/RUo
「火傷……? レーザー光線ってわけ……!」

距離をとれば一方的に攻撃されると判断。
足を止めずに、志保が向かった方向とは反対側の林に飛び込む。
遮蔽物のない林道では、近づく前に集中砲火を浴びるだけだった。
追いかけるように、幾筋もの光線が薄暗い林を照らし出す。

「よし、樹でも充分、盾になる……!」

下生えの草はそこかしこで煙を上げていたが、生育した樹を貫くほどの威力はないようだった。
少女たちが木立の中に踏み入ってくるのを確認し、美佐枝は再び走り出した。
木々の陰に隠れながら、徐々に距離を詰めていく。

「よし、思ったとおり……! これなら……」

美佐枝を見失って周囲を見回す少女たち。
その内の一人に、美佐枝は背後から近づいていく。
遭遇した際にも感じていたことだが、少女たちの視認能力はそれほど高くない、と美佐枝は確信する。
どうやらあの眼鏡は純粋に低い視力の補正に使われているらしい。

「せぇ、のっ!」

一気に飛び出し、羽交い絞めにする。
捕捉された少女は、しかし動きが鈍い。
声を上げようとすることもなく、のろのろと自身に回された美佐枝の手を振り解こうとする。

「悪いけど……しばらく眠っててもらうわ」

少女の体温は、人間のそれだった。
その温もりに嫌悪感を覚えながら、美佐枝は少女の首に回した腕に力を込める。
数秒を待たずに、少女の全身から力が抜けていった。
美佐枝が手を放すと、どさりと倒れる少女。

519 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:11:42 ID:F9ga/RUo
「次……っ!」

物音を聞きつけたのか、周囲に草を踏みしだく音が増えていく。
身を低くしながら、美佐枝は移動を再開した。程なく目の前に新たな少女を発見する。
背後からそっと近づき、少女の首に腕を巻きつけた、その瞬間。

「……ッ!?」

美佐枝は驚愕していた。
たった今捉えた少女を中心にして、それを取り巻くように少女たちの姿があったのである。
冷ややかに輝く無数の眼鏡が、美佐枝を囲んでいた。

(罠……!)

誤算だった。
少女たちを、完全に侮っていた。
簡単に自分を見失って辺りを見回す仕草に、あるいは自分を振り解こうとする動きの鈍さと非力さに、
勝手に愚鈍な少女たちというイメージを作り上げていた。
じり、と包囲の輪が狭まる。

「こりゃちょっと……マズい、かな……?」

頼みのドリー夢能力は、いまだに発動しない。
そりゃ必殺技はピンチになってからって決まってるけど、と美佐枝は焦燥と共に思う。

(武装はもう少し早くたっていいと思うのよね……)

鼓動が、極端に早くなっていくのを感じる。
少女たちの無数の視線が、美佐枝一人に向けられていた。

(ち、ちょっと勿体つけすぎ、じゃない……!?)

ぎらりと、少女たちの広い額が、輝いた。
思わず目を閉じる美佐枝。

520 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:12:22 ID:F9ga/RUo
(―――!)

瞬間、風が唸りを上げた。
同時に、何か重いものが地面に転がるような音。
目を開けた美佐枝が見たのは、

「……大丈夫?」

言いながら、倒れ伏した眼鏡少女のこめかみから何か長いものを引き抜く、一人の少女の姿だった。
波打つ長い髪に、意志の強そうな瞳。
ベージュのセーターに眼鏡少女の返り血が飛ぶのも気にせず、美佐枝を見ている。

「え、あ……」

咄嗟に言葉が出てこない。
言いよどむ美佐枝を安心させるように微笑むと、少女は手にした物を勢いよく振るう。
少女の背丈ほどもあるそれは、

「槍……?」

時代劇にでも出てくるような、それは一本の長槍だった。
長い柄には豪奢な刺繍布で意匠が施されているそれを、少女は脇に手挟むと、何気ない仕草で
くるりと回ってみせた。

「え……?」

それは、魔法のような光景だった。
少女の回転に合わせて回る槍の穂先は、周囲の眼鏡少女たちの首を、正確に切り裂いていたのである。
血煙が、上がる。

521 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:13:12 ID:F9ga/RUo
「―――」

赤い霧の中心に、踊る少女がいた。
少女が舞踏する。長い髪と、豪奢な槍が、ゆったりと回る。
その度に、数人の眼鏡少女が、悲鳴を上げることもなく斃れていく。
狭い木立の中、ゆらりと槍を操る少女の姿はただ美しく、その足元に伏す幾体もの骸すら、
まるで舞台に置かれた小道具のように、美佐枝には見えていた。

ふうわりと、少女のスカートが翻る。
最後に、とん、とステップを踏んで、少女がその舞いを終えても、美佐枝は身じろぎひとつできなかった。

「……はい、おしまい」

少女の言葉に、美佐枝がはっとする。

「あ……ありが、とう……」

上手く声が出せない。喉が渇ききっていた。
どうにか言葉を搾り出すようにして、美佐枝が礼を口にする。

「た、助かっ―――」
「ああ、いいわよ、そんなの」

ぴ、と槍を振るって血を払いながら、少女が苦笑する。

「で、でも……」
「別にあんたを助けたわけじゃないから」

何気ない一言。
しかし、美佐枝は思わず言葉を止めていた。
少女の声音は、なぜだかひどく酷薄に、聞こえていた。

522 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:13:40 ID:F9ga/RUo
「そういえば、自己紹介が遅れたわね」
「あ、あたしは……」
「結構よ。あんたの名前になんか興味ないから」

切り捨てるような言葉に、美佐枝は絶句する。

「はじめまして。GL団最高幹部、”鬼畜一本槍”……巳間晴香よ」
「じ、ジーエル……?」
「どうやら、もう一人は逃げたようだけれど……」

戸惑ったような美佐枝の呟きを無視して、少女は艶然と微笑む。

「まあ、餌は一人いれば充分ね」

少女はそう言って、笑った。

523 Dancing in the Forest :2007/02/25(日) 19:14:05 ID:F9ga/RUo

 【時間:2日目午前10時すぎ】
 【場所:H−5】

相楽美佐枝
 【所持品:ガダルカナル探知機、支給品一式】
 【状態:混乱】

長岡志保
 【所持品:不明】
 【状態:疾走】

巳間晴香
 【所持品:長槍】
 【状態:GLの騎士】

砧夕霧
 【残り29932(到達0)】
 【状態:進軍中】

→654 682 690 ルートD-2

524 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:33:10 ID://a6FKMA
「wow……堂々と車を乗り回すなんて、なかなかやるわね」
それが診療所の近くで停止した車を見た時に、リサが抱いた第一感想だった。
こんな殺し合いの最中ならば普通は目立つ事を避けようとする筈だ。
自分や宗一ならばともかく―――それ以外の者がこんな判断をするとは、思ってもみなかった。

車を使用して移動するという判断は間違いではない。
高速で移動する車を狙って狙撃する事がどれ程難しいか、リサはよく知っている。
燃料にさえ気をつけていれば寧ろ安全と言える移動手段なのだ。
あの車の搭乗者達の判断は的確だ。
だからこそ、油断出来ない。
何事においても、相手の能力が高ければ高いほど警戒せねばならない。
それが幼い頃から過酷な環境で生きてきたリサにとっての鉄則だった。

自分の腕ならばどんな銃を使ってもスナイパーライフル並の精度を出す事が出来る。
相手が何か怪しい動きを見せたら―――即座に撃つ。

停まったまま動きを見せない車に向けて、リサはM4カービンを深く構えていた。
だがその警戒は杞憂だったようで、相手は何も武器を持たずに車を降りてきた。
車から出てきた二人の男女は、まるで警察官の集団に囲まれた犯人のように両手を挙げている。

525 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:34:24 ID://a6FKMA
リサは構えを緩めないままつかつかと二人に歩み寄り、距離を10メートルほど置いた位置で足を止める。
リサが何か話す前に、女性の方が先に話し掛けてきた。
「最初に言っておきます……私達は殺し合いをする気はありません。貴女はどうですか?」
ともすれば冷淡に見える目が印象的な、整った顔立ちの綺麗な女性だった。
向けられた銃に怯える様子は微塵も見受けられない。
大したものだ、とリサは思った。
「私がそのつもりだったら、あなた達はとっくに蜂の巣にされてるんじゃないかしら?」
銃口を下ろして軽い調子で答えると、女は軽く肩をすくめて見せた。
「私はリサ……リサ=ヴィクセンよ。貴方達の名前は?」
「こちらの方は藤井冬弥さんです。そして私は――篠塚弥生と言います」
「―――!?」
その名前を聞いた直後リサは動いた。
注意していても目で追いきれない程の速度で、M4カービンを再度構える。
すると、男―――藤井冬弥の方が息を飲むのが分かった。

しかし肝心の篠塚弥生の方は、いまだに凛とした表情をしている。
肝が据わっている―――それも至極当然の事だった。
緒方英二から聞いた話によれば篠塚弥生はゲームに乗っているのだから。
「口は災いの元よ?私は貴女がゲームに乗っていたという話を聞いた事がある。浅はかな嘘は控える事ね」
「嘘など言っていません。確かに私はゲームに乗っていましたが……それは過去の話です。今はもう、そんなつもりはありません。
大体ゲームに乗っているのなら、二人で行動なんてしないと思いますが?」
そう言って、弥生は冬弥の方へと視線を移した。
冬弥はリサの銃口から視線を外さずに、けれど黙って二人の話を聞いていた。

526 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:35:48 ID://a6FKMA
確かに弥生の言う事にも一理ある。
このゲームで生き残れるのは最終的には一人。
ならばゲームに乗った者は基本的に単独行動を取る筈である。
誰かを騙して利用するという手も考えられるが、弥生がゲームに乗っていたという事を聞いても冬弥は驚かなかった。
弥生が冬弥を謀っているという事は無いだろう。
それでも―――
「それだけじゃ貴女がゲームに乗っていないという証明にはならない」
「そうですね。信用出来ないというのなら大人しく去りますが―――どうしますか?」







―――現状を説明すると、だ。
Nastyboyこと俺、那須宗一は診療所にいる人間を全員待合室に集めていた。
入り口近くにある、窓際の椅子に俺は腰を落とす。
部屋の中央にあるテーブルを囲む形で、栞にリサ、敬介、葉子が座っている。
そして俺とリサ達に挟まれる形で、篠塚弥生と藤井冬弥が立っていた。
弥生と冬弥の肩にデイバックはかかっていない……置いてこさせたのだ。

527 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:37:46 ID://a6FKMA
武器を携帯しない事、そして情報交換が終わったら速やかに立ち去る事。
これが俺とリサが弥生達に示した条件だった。
勿論ポケットなどに何か仕込んであるかもしれないが、その可能性も考えて今の配置にしてある。
俺とリサで挟んでいる限り、相手が何かしようとしても余裕を持って対応出来る筈だ。

「葉子、足の具合はどうだ?」
「おかげ様でだいぶ楽になりました、ありがとうございます」
「そうか、そりゃ残念だ。ずっと足が治らないようだったら俺がオンブしてやったのにな」
「遠慮させてもらいます。どさくさに紛れて色んな所を触られそうですし」
「ちぇっ、釣れないなあ」
軽い冗談を飛ばしあう。
葉子の顔色はすっかり回復しており、足の具合が良くなったという言葉に嘘は無いだろう。
いざ移動する段になった時に、まだ歩けません、となったらどうしようかと思っていたので、俺はほっと胸を撫で下ろした。

「……さて、と。話を始めようか」
俺は手にしていた紅茶を置くと、弥生の目を見据えながら言った。
「はい。それではまず、私から知っている事をお話しますね」
「ああ、そうしてくれ。取り敢えず情報が欲しい。マジで、知ってる事は全部話してくれ。
何がこのゲームをぶっ壊す鍵になるか分からないからな」
最初に弥生から話をさせる理由は簡単、相手の本性を見極める為だ。
嘘を吐かれる可能性もあるが、相手が信用できるかどうか判断材料が多いに越した事はない。

528 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:40:27 ID://a6FKMA



「―――そして、今に到ります」
……滞り無く弥生の話は終わった。
弥生の話は上手く要点が纏められており、実に分かりやすかった。
簡単に説明すると森川由綺の死を知った弥生は、復讐の為にゲームに乗ろうとしていた。
しかし英二にお灸を据えられて頭を冷やし、現在は知り合いの藤井冬弥と共に脱出を目指しているという事だった。
だが……残念な事に俺にとって有用な情報は無かった。
せめて皐月や七海と出会っていてくれれば、その場所次第ではあいつらを探すという選択肢も出てきたんだが。

軽くリサに目線を送る―――「信用出来そうか?」と。
するとリサは、他の奴には勘付かれないくらい小さく首を振った。
恐らく判断しかねているのだろう、そしてそれは俺も同じだ。
弥生の、エージャント顔負けの落ち着き払った様子からは何の感情も見えてこない。
今ある情報だけでは何とも言えなかった。

「―――そう言えば」
俺が考えを纏めていると、高い声が聞こえてきた。
それはリサの連れ人、美坂栞のものだった。
「由綺さんって……柳川さんが戦ったって人じゃ?」
「――――!」

瞬間、リサが息を飲むのが分かった。
そして一秒後には、冬弥がどんと席を立っていた。
「何だって!?その話、詳しく聞かせてくれ!由綺は俺の大事な……恋人だったんだ!」
「え……あの、その……」
困惑する栞に、今にも掴み掛らんばかりの勢いで冬弥が叫ぶ。
もっとも、リサが険しい顔つきで銃を向けていたので冬弥が実際に詰め寄る事は無かったが。
栞はどうにか言葉を搾り出そうとしたが、それをリサが手で制した。

529 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:41:45 ID://a6FKMA
「私から話すわ。柳川祐也―――昨日私が出会った人の話によると、森川由綺さんはゲームに乗っていたそうよ。
それで柳川は仕方なく由綺さんを殺害したらしい」
厳しい視線、鋭い眼光で、リサが容赦なく告げていた。
俺もリサから聞いてその事は知っていた。
教えるべきじゃないと思っていたんだが……こうなった以上はそうもいかないだろう。
「……ハハハ、何の冗談だよ?あの由綺がゲームに乗ってただなんて、ねえ?」
冬弥は話を真に受けていないのか、苦笑いをしながら弥生に目線を移した。
しかし弥生はただ黙って、話の続きを待っていた。

「信じないならそれで良いわ。でも柳川が嘘をついてるとはとても思えないし、私は彼を信じる」
「馬鹿な事を……!由綺が人を襲ったりするわけ―――」
「藤井さん」
冬弥の言葉が途中で遮られる。
向けられた銃口すらも無視してリサに食って掛かろうとした冬弥の肩を、弥生が掴んでいた。
仮面をかぶっているかのように無表情だった弥生の顔に、ほんの少しだけ翳りが見られた。
「信じるも信じないも個人の自由、不毛な論争は止しましょう」
「…………そうですね、すいません」
それで落ち着いたのか、冬弥はこれ以上この事を追求しようとはしなかった。
口を閉ざした冬弥の代わりに、弥生が質問を続けた。
「それでリサさん、柳川祐也という人物はどのような外見をしておられるのですか?出来れば直接会って話を伺いたい」
「―――柳川は白いカッターシャツを着て眼鏡をかけている、長身の男性よ」
「そうですか、ありがとうございます」
そう言うと、弥生はペコリと一礼した。

530 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:43:22 ID://a6FKMA
―――冬弥の気持ちは良く分かる。
俺だって皐月やゆかりがゲームに乗ったと言われれば、冬弥と同じような反応をするだろう。
しかしこのゲームでは何が起こっても不思議ではない。
葉子の話によれば、あの穏やかに見えた佳乃でさえもがゲームに乗ってしまったという。
少なくとも俺と一緒にいた時の佳乃はとてもそんな事をする子じゃなかった。
けれどエージェントという仕事柄、人の黒い部分を嫌と言うほど見てきた俺には分かる。
たとえ普段はどんなに聖人君子に見える奴でも―――いざって時には、何をするか分からないと。
この島に満ちた狂気が、極限まで追い詰められた状況が、人を狂わせるんだ。

「藤井さん、さっき渡したアレを―――」
「ん、ああ……そうだね」
弥生に促されて、冬弥はポケットに手を入れた。
まさか、銃か―――!?
思わず俺はFN Five-SeveNを構えていた。
しかし冬弥が取り出したのは何てことは無い、ただの携帯電話だった。
弥生は冬弥からそれを受け取ると、俺の方へと歩いてきた。

「これは私が支給された道具なんですが、どう思いますか?」
「……実は俺達も似たようなんを持ってる。話が終わったら改造しようと思ってたトコだ」
「そうですか。私達が持っていても使い道がありませんし、要りますか?」
そう言われて、俺は少し考えた。
改造に成功して電話が繋がるようになったとしても、携帯電話が一個では効果が薄い。
それよりも携帯電話を二個持って、連絡を取り合いながら別々に動く方が遥かに効率が良い。
とりわけ―――俺とリサで一個ずつ携帯を持って動けば、情報が集まる速度はそのまま倍になるだろう。
結論、携帯電話は二つ必要だ。

531 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:44:34 ID://a6FKMA
「そうだな。良ければ貸して欲しい」
「分かりました。では―――」
弥生は携帯を俺の目の前に差し出してきた。
俺がそれを受け取った瞬間―――弥生が動いた。

「―――ッ!?」
弥生はまだゲームに乗ったままだったのだ。
腰を落として、弥生は俺の左手に握られている銃を奪い取ろうとしている。
しかし所詮素人、その動きは大した速さじゃない。
リサや醍醐のオッサンに比べれば、その動きはスロー再生しているかのように見えた。
弥生の後ろからは、冬弥がこちらに向かって走ってきている。
二人纏めてここで組み伏せる事も十分可能だったが―――俺は敢えて銃を手放し、リサ達の方へと大きく跳んだ。
距離を取り、そして弥生と冬弥を孤立させる。
「リサァッ!」
「イエッサーーーーーッ!」
何も怪我をしている身体で、無理に不確定要素の多い近距離戦をする必要は無い。
今の俺には心強い仲間―――米軍エースエージェント、リサ=ヴィクセンがいるのだから。
ここはM4カービンの斉射に巻き込まれない位置に逃げて、彼女が攻撃しやすい状況を作るのがベストだ。

弥生と冬弥は俺が下がったのを見て、これ以上攻撃しようとはせずに入り口から逃げ出そうとしていた。
しかしそうは問屋が、女狐さんが卸さない。
俺の目には、リサがしっかりと弥生達の背中に照準を定めるのが映って―――
「―――え?」
俺の手元の携帯から、閃光が発された。

532 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:46:53 ID://a6FKMA






―――誰かの泣き声が聞こえる。
その泣き声で、橘敬介の意識は現実世界へと呼び戻された。
「う……僕は一体……?」
倒れた姿勢のまま目を開けると、軽くヒビが入っている白い天井が見えた。
すぐに、直前の記憶が蘇ってくる。
弥生と冬弥の突然の行動、そしてその後に起こった―――

「そうだ、みんなは!?」
痛む身体を起こした敬介の目に飛び込んで来た光景。
辺りに散らばっている、黒く焦げた木材。
立ち尽くす栞に、地面に座り込んで泣いているリサ。
そして。

「そ……宗一君……?」
黒く焼け焦げた、宗一の姿だった。
敬介はよろよろとした足取りで宗一の所へと歩いていった。
周囲の至る所に小さな赤い塊が散乱している。
敬介はゆっくりと、宗一の身体を抱き上げた。

533 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:48:35 ID://a6FKMA
体の右半分はまだ割と綺麗だったが、携帯電話を持っていた左腕の側は損傷が酷く、見るに耐えない状態だった。
しかし敬介は、目の前の光景をそう簡単には信じられなかった。
「け……怪我をしているだけに決まっている……かるい怪我さ……ほら……喋りだすぞ……今にきっと目をあける……。
宗一君……そうだろ?僕達を驚かして楽しもうって……ちょっと茶目っ気を起こしただけだろう?もうちょっとしたら何事も無かったみたいに起きてくれるんだろ?」
語りかけるが、宗一の口から言葉が紡がれる事は無い。
敬介の腕の中の宗一の身体からは、重力以外の力は何も伝わってこない。
「ほら、リサ君達が悲しんでいるよ……もう良いだろ?起きて……起きてくれ……!頼む……起きてくれ宗一君っ!」
敬介は宗一の体を乱暴に揺さぶって、それからはっと気付いて宗一の手首を握り締めた。
「そ……そんな、馬鹿な……あっけ……無さ過ぎる……」
宗一の脈は無かった……鼻と口に手を当てたが、呼吸もしていなかった。

脈と呼吸が無い状態で生命活動を維持していられる人間はいない。
もう、疑いようも無い。
冷たいように見える時もあるが本当は暖かい男。
秋子に追われていた敬介を身を挺して救ってくれた男。
そしていざという時は、どんな大人よりも遥かに頼りになる男。
世界Topエージェント―――Nastyboy、那須宗一は死んだ。

「やられましたね……」
半ば放心状態にある敬介の横から、落ち着いた声が掛けられる。
それは鹿沼葉子のものだった
「彼らの本命は奪った銃による攻撃ではなく―――恐らくはあの携帯に仕込んであった、爆弾……」
葉子は淡々とした口調で分析を続けている。
敬介は宗一の死体をそっと地面に横たえて、それから立ち上がった。
「な、何で……君は何でそんなに落ち着いているんだ?」
やり場の無い怒りを籠めて、冷たい顔をした葉子を睨み付ける。
「宗一君は君の仲間だっただろう!?僕達の仲間だっただろう!?彼が死んだっていうのに、何で平気そうな顔をしているんだっ!」
「―――黙りなさい」
捲くし立てる敬介の声が、ぴしゃりと一発で撥ねつけられる。

534 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:50:03 ID://a6FKMA
「騒いでも宗一さんは生き返りません。それよりも今やれる事をしなさい。少なくとも私はそうします」
葉子はくるっと踵を返して、敬介達がいる方とは反対側に足を踏み出した。
「何処へ?」
「決まっているでしょう。私はこれから弥生さん達を追って―――殺します」
無論の事、それは嘘だった。
ただこのメンバーから離脱する理由が欲しかっただけだ。
リサの真の実力を知らない葉子にとって、宗一を失ったこの面子には何の利用価値も無かった。
足手纏いの世話などするよりも、郁未を追って合流するべきなように思えた。

「そういう訳ですので、私はこれで失礼します。では―――」
葉子はそう言うと、唖然としている敬介の方をもう一瞥もせずに入り口の扉を開けて歩き去っていった。







―――あの爆発の瞬間。
リサが驚異的と言える反射速度で栞を抱えて後退した甲斐あって、栞は殆ど無傷だった。
しかしその代償はあまりにも大き過ぎた。
那須宗一の身体は、栞とリサの視界の中で爆発に飲み込まれた。

535 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:51:50 ID://a6FKMA


そして今、リサは力無く地面にうずくまっている。
栞は信じられない思いだった。
あのリサが―――とても強くて気丈なリサが、泣いている。
「わ……わた……私が……あの人達を……中に入れたから……」
「リ、リサさん……」
「私が……うっ、うわぁぁぁぁぁぁっっ!」
「リサさん、リサさんっ!しっかりしてください!」
栞は叫びながら座り込むと、リサの肩を掴んで懸命に言葉を投げかけた。
しかしその言葉が今のリサの耳には届いていないのか―――リサの嗚咽は止まらない。

「だ……め……駄目よ……。私のせいで……宗一は……」
「リサさん、落ち着いてください!リサさん一人の責任じゃありません!」
「いっそわたしも宗一の後を追って死ねば―――」
そこで、パチンという高い音が聞こえた。
「そんな事言う人……嫌いです」
栞がリサの頬を叩いたのだ。
リサは頬を押さえて、眼前にいる人物をまじまじと見つめた。
震える肩、潤んだ大きな瞳、そして―――白くて小さい手。
栞はこんな華奢な身体で、リサを励まそうとしている。
その姿がリサに再び立ち上がる気力を与えた。

リサは掌でごしごしと涙を拭き取り、両の足で地面を踏みしめて直立した。
そして手を差し出して、栞も立ち上がらせる。
「ごめんなさい……今は泣いてる場合じゃないわね」
「リサさん……」
「ともかくこの場を離れましょう、ゲームに乗った人間に知られた以上診療所はもう危険よ」
弥生達が再び襲撃してくる可能性は十分にある。
正面勝負なら自分が負ける事はありえないが……間違いなく弥生達は正面からは仕掛けてこないだろう。
何か策を講じて、勝算が生まれてから動くはず。
ならばこちらも警戒して動かなければいけない。
一般人など相手にならないという油断が―――宗一を死なせてしまったのだから。

536 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:52:58 ID://a6FKMA
リサと栞は立ち尽くしている敬介の方へゆっくりと歩を進めた。
敬介はいまだ心ここにあらずといった感じで、何かを考えているようだった。
「敬介、ここは危ないわ。移動しましょう」
リサが切り出すと、敬介は申し訳無さそうにゆっくりと首を横に振った。
「すまない、僕にはしなくちゃいけない事があるんだ」
「と言うと?」
敬介は軽く息を吸って、それからリサの目を真っ直ぐに見ながら言った。
「僕は観鈴を探してくるよ。国崎君との約束もあるし……何より僕自身がそうしたいんだ」
「……分かったわ。それじゃここでお別れね」
「ああ。僕が無事に観鈴を保護出来て、また会う事があれば……その時は一緒にこの殺し合いを管理している人間を倒そう」
「あの……敬介さん。どうか―――ご無事で」
栞の言葉に頷くと、敬介は体を翻して診療所の外へと走り出した。

リサと栞も荷物を持って外に出て、敬介の背中が森の中に消えるまで見守っていた。
だがその時、リサの頭の中に浮かんでいたのは敬介の安否を気遣う心では無かった。
職業病の域にまで達している彼女の冷静な思考は、既に今後の展望を考えていた。
(エディも……宗一も……死んでしまった。いまだ脱出の手掛かりも無い…………。私は本当にこのゲームを止められるの……?)
リサは焦る気持ちを誤魔化すように親指の爪を噛み続けていた。

537 破滅への序曲 :2007/02/26(月) 19:54:27 ID://a6FKMA
【時間:2日目16:30頃】
【場所:I-7診療所】

リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:診療所を離れる、体は健康】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:リサに同行、体は健康】

橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態:観鈴の捜索、身体の節々に痛み、左肩重傷(腕を上げると激しい痛みを伴う)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て治療済み)】

鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式】
【状態①:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、激しい動きは痛みを伴う)。マーダー】
【状態②:まずは郁未の捜索】

篠塚弥生
 【所持品:包丁、FN Five-SeveN(残弾数12/20)、ベアークロー】
 【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】
藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
 【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】

那須宗一
【所持品:無し】
【状態:死亡】

【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は残量75%程度、車の移動方向は後続任せ

(関連:710)

538 夜明け前より闇色な :2007/02/26(月) 23:59:07 ID:hEHeXMMM
距離が近かったせいか、運がいいかどうかは知らないが、まあとにかく一ノ瀬ことみ&霧島聖の頭脳派コンビは目的地の学校まで辿りつくことが出来た。
まだ時刻が夜明け前だからだろうか、鎌石村小中学校は闇に照らされて不気味にそびえ立っている。それはあたかも、怪物がまさに獲物を呑み込もうと大口を開けているようにも見える。
一ノ瀬ことみはその一種独特な雰囲気に飲まれそうになるが、頭の中で般若心経を一回唱えることで解決した。
心頭滅却すれば火もまた凉し。ぶいっ。
「――で、ここに来た理由を説明してもらおうか、何故かは知らんがVサインをしていることみ君」
どうやら行動に出してしまっていたらしい。ことみは「特にVサインに理由はないの」としれっと言った後、校舎を見上げて言葉を続ける。
「それは…また後で。取り敢えず私についてきてほしいの」
トントン、と首輪を指で軽く叩く。聖はそれで事情を察して、黙って頷いた。
「…分かった。どこに行くつもりだ?」
「職員室」
言いながら、ことみは首を振って目的地がそこでないことを示す。聖が再び頷く。
「分かった、行こう」
口裏を合わせる。ことみは聖が聡明な人で良かった、と思う。頭の中に浮かぶ友人の面々は…悪いとは思ったが、絶対にしくじりそうだと思った(特に杏ちゃん)。
校舎の方へ歩いて行くと、部屋の一部分に明かりが灯っているのに気付いた。同時に、いくつかの窓が割れているのにも。
「…先客がいるらしいな」
聖がベアークローを構える。ことみも慌てて十徳ナイフを取り出す。正直な話、戦闘にはまったく自信がない。頼りは聖だが…果たして、戦闘能力はどれほどなのか。職業、性別、(見た目から判断した)年齢、性格から計測すると――
「ちーん、沖木島に墓標がふたつ」
「…おい、何を物騒な想像をしている」
ぎらりっ、とベアークローの刃がことみを向いて、光る。
「冗談でもそんな想像はするんじゃない」
「ご、ごめんなさい…」
半殺しにされた挙句また治療されて以下無限ループでは洒落にならないと思ったので素直に謝る。それに、さっきのはいきすぎた、と自分でも思った。
「ことみ君よ、君は私の事を弱いと思っているんだろうが…」
にやり、と聖が笑う。違うの? と言いかけて今度こそ半殺しになると思ったので、言わない事にした。
「私は強いぞ。それはもう、並大抵の…そうだな、人形遣いくらいは楽勝だ」
比べる対象がいまいち分かりにくかったがとにかく腕っ節に自信があることは分かった。

539 夜明け前より闇色な :2007/02/26(月) 23:59:38 ID:hEHeXMMM
そうこうしているうちに開いている扉を発見する。どうやらここから入れるようだった。無論、侵入者には警戒しなくてはならない。
聖を前衛に、抜き足差し足で潜入する。聖が前方を、ことみが後方を警戒する。しばらく進んでみるが…異様なほど、静かだった。音はと言えば、木製の床がゆっくりと軋む音くらいだ。
「やけに静かだ。物音一つしないな…どうする、ことみ君」
どうする、というのはこのまま真っ直ぐことみの考える目的地へ向かうか、それとも警戒して別の部屋から探索していくかということだ。
ここに潜んでいるマーダーがじっと身を潜めている可能性はある。あるいは怯えた参加者の一人がいるということもある。誰もいないという可能性もあった。考えていけばキリがない。
ならば行動は迅速。下手に動き回って危険に身を晒す可能性を高めるよりも素早く目的地へ行き、目的を達成するのが最上だ、とことみの脳内コンピュータが叩き出す。
「真っ直ぐ、視聴覚室へ」
了解、と一声応じて再び歩き出す二人。…が、同時にあることに気付いた。
「「視聴覚室って、どこ?」」
     *      *     *
結局あちこち歩き回った挙句視聴覚室を見つけて入った時には、二人からは当初の緊張感は失われていた。かなり動き回ったにもかかわらず物音が何もしないので、『ここには誰かがいたがもう用済みになって出ていった』ということで一応の結論をみた。
「まったく…電気が付けっぱなしになっているから慎重になってみたが…拍子抜けしたぞ」
「ともかく、一応は安全だと分かってめでたしめでたし」
電気がついていた部屋は二箇所あったが、誰かが潜んでいる可能性を考えてこの二部屋は後回しにしたのだ。明かりが消えている部屋のどこにも視聴覚室はなく、残された二つのどちらを調べるか、ということになり一階よりは三階にありそうだ、とのことでこちらから探した。
「しかし、視聴覚室に明かりがついている、そしてここにあるパソコンの電源がまだついているということは」
「…誰かが、パソコンをいじったということになるの」
今は二人でそのつけっぱなしになっていたパソコンを、ことみがあれこれいじくり回している。
聖には何やら分からぬプログラム言語をあれこれ打ち込んでいるが時折警告音が鳴るだけで、成果は芳しくない、ということは聖にも分かった。
「うーん…やっぱり俄仕込みの知識じゃ限度があるの」
ことみが首を捻る。どうもだめということだろう。
「で、結局何をしようとしていたんだ? そろそろ私にも教えてくれないか」
「えーっと…」
ことみがマウスを動かし、メモ帳を開いた。これで会話しろ、ということか。
聖にもキーボードを打つくらいの操作はできる。
『しばらくどうでもいい会話をするから、口裏を合わせて欲しいの』

540 夜明け前より闇色な :2007/02/27(火) 00:00:05 ID:lO49iZVw
コクリ、と聖が頷いたのを確認して、ことみが言葉を続ける。
「何か首輪に関するデータがないかと思ってあちこち調べてたんだけど…結局何もなかったの」
「まあ当然だろうな、外されたらそもそも殺し合いなど成り立たなくなる。そんなものが都合よくあるわけがない」
『先生、お上手』とことみが打ち込む。ニヤリ、と聖が笑った。
「うん、でも些細な事でも情報が欲しかったから」
「まあな…だが、ここには何も無さそうだな。ここでは打つ手はないのか?」
「私達だけで出来ることは…もうほとんどないと思うの」
さも深刻そうに言って、ことみが『本当は、ハッキングを試みていたの。首輪を管理するにはそれ相応の大きさのコンピュータが必要だと思ったから』と打ちこんだ。
この演技派め、と聖は思いつつ横から打ちこむ。『で、それは失敗したわけか』
「だから、誰か技術を持っている人を探せれば…」
そう言いながら、器用にことみは文字を打ってみせる。『うん、私の得意なのはコンピュータじゃなくて、物理学とかの理論なの。まあそれはおいといて…さてここで問題です。この島の電力はどこでまかなっているでしょう?』
いきなりクイズか? と思ったが聖も疑問に思った。地図で見る限り、発電所などはどこにもない。本来の沖木島なら本土からの送電もあり得るが…前に考察した通り、ここは本物の沖木島ではない。
ことみが続けて打ちこむ。
『可能性としてはみっつ。この島から離れた…そう、どこかの大陸か、海中か、あるいはこの島の地下』
「ああ、なるほど…」
仮初めの会話にも、筆談にも通じる言葉で応じる。ことみが『…先生、面倒くさがり』と不満そうに打ちこむ。
『…でも、一番可能性が高いのは地下なの。海中なら電力ケーブルは不可欠だから、もし切れたら大惨事。大陸でも万が一首輪を外されたら確認しに行くのが大変。下手したら乗ってきた船ごと強奪されてあら大変』
まあよくもこんな軽口を叩けるものだと聖は感心する。
「しかし、ことみ君でも出来ない事はあるんだな。物知りだからパソコンも詳しいと思ったんだが」
聖が言っている間にもことみがキーを叩き続ける。『だから、首輪を外された時でもすぐに確認に行けるように中枢部は地下にあると考えるのが妥当。そして、その入り口は必ずこちらからも入れるようなところにあるはず』
一旦切ると、仮初めの会話に戻ることみ。
「人間そんなに上手くはできてないの。ハッキングなんてだめだめのぷー」
よく言うよ、と内心で笑う。『しかし、島のどこを探す? ハッキングできない以上位置も調べようがないんじゃないか? 首輪をわざと外しておびき出すのもいいが…』

541 夜明け前より闇色な :2007/02/27(火) 00:00:34 ID:lO49iZVw
『いい線行ってるの、先生。最終的にはそれを使うけど…まず用意するものがあるの』
「…ま、それは仕方ないな。それじゃあ人探しか…どこから探す?」
言いながら、打ちこむ。
『何を?』
『爆弾』
ニヤリ、と今度はことみが笑った。聖は絶句しかけたが…ことみは余裕で続ける。
『作り方さえ知っていれば案外簡単に作れるの。極端な話、ナトリウムを水の中にどぼーんと入れるだけでも十分に爆弾足り得る性能があるから』
なるほど。医者の勉強をする過程で化学はやっていたが…確かに、色々方法はある。
『何を使うんだ? ここが学校ということは…そこから頂戴するんだろう? 材料を』
「えっとね…」
『冴えてるの、先生。元々ここにはそのつもりで寄ったから。それで、必要なのは…硝酸アンモニウムと、灯油と…それから、雷管』
「まずは、予定通り灯台へ向かったほうがいいと思うの」
『雷管はまた別に作るけど…家庭用品で作ろうと思えば作れるから』
『ちょっと待て』
聖が止めに入ったのを、『???』と打ちこんで疑問の意を表すことみ。構わず、聖はツッコむ。
『どうして雷管の作り方なんて知ってるんだ』
物知りだとは思っている。が、これはおかしいんじゃないか。仮にも学生だ。そんなことを知っているわけがないのである。爆弾とは言っても火炎瓶だとかそれくらいの簡易的なものだと思っていた。しかし、ことみはさも当然のように、打ちこんだ。
『ご本で読んで覚えたの』
『何のご本、なんじゃーーーーいっ!!!』
叫びたいのをギリギリ、理性で押さえてチョップでツッコむ聖。
『いぢめる? いぢめる?』
目の端に涙を浮かべるアブナイ天才少女ことみちゃん。更にツッコもうとした聖だが会話が途絶えるのを危惧して本当に言いたい事を喉の奥に押しこみ、冷静な口調を装って言った。
「…そうだ、な。灯台へ行こう。佳乃も…探したいし、な」
『ち、ちなみに図書館に寄贈されてあった化学の専門書で、内容は』
『説明せんでええわいっ!』
メモ帳の中で喧嘩漫才を繰り広げる仲良しコンビ聖&ことみ、略してNHK。あーそこそこ。料金滞納は勘弁してくださいねぇ。
「…まあ、その前に、ちょっと休憩しよう、か。慎重に探っていたせいで疲れただろう?」
このまま二重に会話を続けるのに疲れ始めた聖はメモ帳の会話だけに集中したいと思い、そう提案した。ことみは未だ涙目ながらも素直に「うん。それじゃ各々ちょっとお休みなの。私はもうちょっとパソコンをいじるけど」と言った。

542 夜明け前より闇色な :2007/02/27(火) 00:01:13 ID:lO49iZVw
キーを叩く音を感づかれるのを警戒しているのだろう。聖はゆっくりと頷いた。
はぁ、と一息いれて窓の外を見る。日はまだ見えないが、もう少ししたら夜明けだ。
だが…この漫才はまだまだ続きそうだ、と聖は思うのだった。

【時間:二日目午前5時半】
【場所:D-6】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:精神的に疲労】
一ノ瀬ことみ
【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯】
【状態:健康。爆弾作りを目論む】

B-10

543 ココニイルトイウコト(前編) :2007/02/28(水) 20:31:49 ID:fLx5V8H2
「ふう。ここまでは何とか無事にこれたけど……」
「貴明さん、本当に大丈夫なんですか?」
「そうよ。ただでさえそんなズタボロな体なのに……」
梓、皐月と別れた貴明たち一行は神塚山を経由して氷川村へと急いでいた。
しかし、貴明が藤井冬弥、少年との戦いで受けた傷のダメージは、ささらたちが負った怪我とは違い、未だ癒えたわけではない。
それが災いし、3人の足取りは決してスムーズというわけにはいかなかった。
「先輩たちの気持ちは嬉しいですけど、さすがに今は弱音なんて吐いていられませんよ。
まーりゃん先輩が他の罪もない人たちを殺すのを止めるためにも、俺たちは一刻も早く人が集まりそうな場所へ行ってあの人を見つけなきゃ……」
「ですが……」
「貴明、確かにあなたも男とはいえ――――ん? ねえ2人とも……」
「なんだ?」
「はい?」
ふと貴明に意見しようとしたマナが何かに気が付いたように足を止め貴明とささらを呼び止めた。
「――何か聞こえない?」
「えっ?」
マナがそう言ったので、貴明とささらも耳を済ませてみる。
すると――――

『―――ぴー!』
『ちょ――まちな――タン!!』
『杏さ――待ってくだ――』

何かの動物の鳴き声と2人の女の子の声が微かに聞こえてきた。
そしてそのうちの1つはささらには馴染みある人物の声であった。

544 ココニイルトイウコト(前編) :2007/02/28(水) 20:32:22 ID:fLx5V8H2
「この声は――ゆめみさん?」
「ゆめみ?」
「それって、ささらや真琴たちと一緒に行動していたって言うあのコンパニオンロボットの?」
「はい。あ……」
その時、ゆめみのことをもう少し詳しく2人に説明しようとしたささらの目の前を1匹のウリ坊が駆けていった。
もちろん貴明とマナもすぐさまそれに気づいた。

「……猪の子供?」
「うん。そう……よね?」
「なんでこんな所に……ん?」
この島には獣の類である野生動物も結構いるのだろうか、などと貴明が思っていると、ウリ坊が走ってきた方から今度は2人の少女が息苦しそうに走ってくることに気が付いた。
――1人はストレートに伸ばした髪にリボンをした学生服の少女。もう1人はツインテールで見慣れない服をした少女であった。
そして後者の子は貴明がささらから聞いたほしのゆめみというロボットの特徴とぴったりと一致していた。
「そうか、あの子が……」
「ゆめみさん!」
貴明が言い終わるよりも早く、2人の少女の存在に気づいたささらが彼女たちに向かって叫んだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ちょっと、本当にどうしたのよボタンは!?」
目の前を黙々と突っ走るボタンを追いながら杏はゆめみに尋ねる。
「わ……わたしに聞かれましても〜〜〜…………」

話は少し前に戻る。
休憩を終えた後、荷物が重いからという理由で杏はデイパックからボタンを出していた。
その後、一向は高槻が言っていた暗くて長いトンネルを迂回しようと南へしばらく歩いていた。
その途中、ボタンが何かを感じとったのか、それとも見つけたのか知らないが、いきなり猪突猛進とばかりに神塚山の方へ走り出したのである。
それは本当に突然の出来事であった。

545 ココニイルトイウコト(前編) :2007/02/28(水) 20:32:54 ID:fLx5V8H2
「杏さん。ボタンさんのこういう行動は今までもあったんですか?」
「う〜ん……たま〜にあったような、なかったような…………。それにしても……この山……結構きついわね……」
「だ…大丈夫ですか?」
「ま、まだまだ大丈夫よ……ん?」
杏がゆめみに苦笑いを浮かべながら言い返すと同時に、すっと前方に3人の人影が姿を見せた。
「あれ? 人がいる……?」
「え? あ……! あの人は…………」
前を向いたゆめみが前方の人影のうち、1人の正体に気づいたのと同時に――
「ゆめみさん!」
ゆめみが会いたかった人の1人の声が杏とゆめみの耳に聞こえた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「――――ということは、杏さんもこのゲームには乗っていないんですね?」
「あったりまえでしょ」
やや風が強くなってきた山を歩きながら、貴明たち5人はボタンを探していた。これまでそれぞれの身に起きたことを一通り説明し、情報を交換しながら――――
「そうですか……あの後またあの男の人が……」
「はい。そして沢渡さんは……」
「――もしかして、その岸田って男も私たちが倒した少年と同じ主催者側の人間……」
「いえ……それはないと思います。あとから気づいたのですが、あの人は首輪を付けていなかったので……」
「興味半分、面白半分で殺し合いに乱入したってこと?」
「おそらく…………」
「――許せないな……そいつ…………」
貴明は誰にも聞こえないようにボソリとそう呟いた。

(――殺し合いを楽しんでいるっていうのか? ――ふざけるな! 人は……人の命は遊びの道具じゃない! これならまだ少年の方が遥かにマシだ!!
――ただ己の自己満足を満たすためだけに罪もない弱者を踏みにじるこの殺人ゲームの主催者……そして岸田洋一……俺は…いや、俺たちはお前たちだけは絶対に許さない!!)
貴明の中で主催者に対する怒りの炎が燃え上がった。

546 ココニイルトイウコト(前編) :2007/02/28(水) 20:34:37 ID:fLx5V8H2
「それと、これは鎌石村に行く途中だったんだけど………あっ。いたいた……ボタン!」
「ぷぴっ!」
しばらく歩いていると、貴明たちは無事にボタンを見つけ出した。
「もう、急にどうしたのよ? 私心配して……っ!?」
ボタンに駆け寄ろうとした杏だったが、突然その足を止めた。
「? どうしたの杏さ……うっ!?」
不思議に思い、マナたちも杏に近づく。すると、マナたちの目にも『ソレ』が映った。

――矢が刺さったデイパックと黒いコート。そして……銃で撃ち殺された1人の男の死体――――

「――ボタン……これの匂いを嗅ぎつけたのね?」
「ぷぴっ……」
ボタンをそっと抱き上げる杏をよそに貴明たちは男の亡骸と、彼の物であろうコートとデイパックに目を向けた。
「この矢は……もしかして…………」
「ああ、間違いない……まーりゃん先輩の持ってたボウガンの矢だ……」
「そんな……」
「それにこの人、銃か何かで背中から胸を撃ち抜かれて殺されている……。ということは今のまーりゃん先輩は銃も持っているってことだ……」
貴明のその言葉を聞いたささらたちに重い空気が流れた。
――自分たちは遅すぎたのか? もうあの人を止めることは出来ないのか、と……
「出来ることなら、別の誰かが先輩からボウガンを奪い取ってこの男を殺したと思いたい……」
そう言うと貴明は男の亡骸を仰向けに寝かせ、両手を胸の当たりで組ませた。簡単な弔いである。
「貴明さん……」
「――行こうか」
そう呟くと貴明は男の者であろう黒いコートを手にゆっくりと山を下りていった。
そんな彼の背中はささらたちには寂しそうにも見え、そして、恐ろしく見えた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇

547 ココニイルトイウコト(前編) :2007/02/28(水) 20:35:08 ID:fLx5V8H2
貴明たちが神塚山を下りた頃には既に夕陽が西の空に沈みかかっていた。
そのため、貴明たちはやむなく近くの鷹野神社に立ち寄り、翌日の朝まではそこを拠点として急速を取ることにした。
本当は貴明はすぐに氷川村にも行きたかったのだが、ささらとマナがそんな彼に対して「さすがに今日はもう無理をしないほうがいい」と言い出し、杏やゆめみにまで「休んだほうがいい」と言われてしまったためついに折れてしまったのである。

「――わかったよ……その代わり、少し周辺を見回りしてきていいかな? それが終わったら休むから……」
そう言って貴明はささらたちにステアーと鉄扇以外の物を預けると、周辺の見回りをすることにした。



――――ふと感じる。
俺の中から『何か』が少しずつ削り取られ、代わりに『何か』がゆっくりと侵食していくのが。

それが何なのか俺には判る。

――削り取られているのは『掛け替えのない日常』。侵食していくのは『怒り』や『憎悪』といったどす黒い感情だ。
そしてその黒い感情は主催者や岸田という男のような人間に対するものであると同時に、まーりゃん先輩のようなゲームに乗り人を殺す人たちに対するものだ。

失ってからはじめて判る、掛け替えのない大切なもの――それを失った俺の怒り矛先はどこにいくのだろう?
――――決まっている。主催者、そしてゲームに乗った奴らにだ。

もしかしたら、まーりゃん先輩も俺の手で…………



(――こればかりは久寿川先輩たちに言えないよな……)
神社に戻ろうとした貴明であったが、その時、茂みの中に日の光を反射して何か光るものを見つけた。

548 ココニイルトイウコト(前編) :2007/02/28(水) 20:36:40 ID:fLx5V8H2
「これは……銃? ――って、重っ!? リボルバーみたいだけど、皐月さんのリボルバーよりも遥かにデカいし重いっ!」
貴明は茂みの中に見つけたソレ――フェイファー ツェリザカを手に取ると、その重さと大きさに一瞬度肝を抜かれた。
「弾丸は……弾切れみたいだな…………誰かが放棄したのか? まあ無理もないか……こんなに重――――」
重いんだから荷物になっちゃうよな――そう言おうとした貴明であったが、その言葉が彼の口から出ることはなかった。

――なぜなら、貴明は見つけてしまったから……
「イルファ……さん……………?」
そう。かつてイルファと呼ばれていたメイドロボの成れの果てを…………



 【時間:2日目・17:15】

河野貴明
 【場所:鷹野神社周辺】
 【装備品:ステアーAUG(30/30)、予備マガジン(30発入り)×2、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】
 【所持品:フェイファー ツェリザカ(0/5)】
 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー化】
 【思考】
  1)イルファさん……
  2)俺は……下手をしたらまーりゃん先輩も殺すかもしれない……
  3)主催者を……殺す!
 【備考】
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物、抹殺対象と認識しました
  ※聖、ことみの死については杏が未だ話していないので知りません


※ルートB−13
※他のキャラの状況、所持品は後編にて

549 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:19:04 ID:Homp4jlU
「動かないで」

告げられた言葉に、逃げ場のないことを思い知らされる。
構えたマグナムの引き金を引くのと、自分の首にあてがわれた日本刀が振り払われることのどちらが速いか。
いや、速さだけならばほぼ同時かもしれない。しかしそれでは意味がない。
自分が命を落としてしまっては、本当に意味がない。

「・・・・・・降参よ」

だから、柚原春夏は静かにマグナムを放ると共に両手を万歳の体勢に持っていき、そう宣言したのであった。





「耕一、大丈夫?」

俯いたまま大人しくしている春夏のその向こう、仲間の一人に問いかける。

「ああ、マジ助かった」

柏木耕一の答えを聞き、彼の窮地に間に合うことができたということを実感できた川澄舞は、ほっと一つだけ息を吐くのだった。
鼓動の高鳴りはまだ続いている、表には出さないが本気で走り続けてきたので体力自体はかなり消耗している。
そんな彼女の元へ、春夏の剥き出しであった敵意に抑制がかかったことにより身動きをとることができるようになった耕一はすかさず回りこんできた。

「長岡さんと吉岡さんは・・・・・・」

一緒に逃げたはずの二人が見当たらないことからだろう、不安そうに聞いてくる。
長岡志保の知り合いでもある保科智子等と合流した旨を伝えると、彼もやっと安心したような笑みを浮かべた。

550 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:20:00 ID:Homp4jlU
・・・・・・短時間とはいえ、足止め役として場に残らせてしまった耕一の疲れは目に見えている。
早く彼を休ませるためにも、吉岡チエ等の下に戻らなければ。
しかし、そのためには春夏を何とかしなければいけない。

「・・・・・・」

すっかり大人しくなってしまった来襲者の背中を見やる、敵意はもう感じない。
どうしたものか。このまま首を撥ねることも可能だが、そのような行動を取る気は舞自身全くなかった。

そう、刀を構え続ける舞の脳裏に思い浮かぶのは、誰よりも大切な存在である倉田佐祐理の笑顔であり。
舞の中では彼女が悲しむような選択は消去されていた、それに敵意のある殺戮者ならまだしもこうして敗北を認めている様を見せつけられてしまっては手を出しづらいというのもある。

しかし、それでは埒が明かない。
殺さず野放しにした所で、また人を襲うかは分からない。
また、それではこのゲームに乗ってしまった人間を説得し更正出来るのかと言うと、口下手な自分では正直自信はもてない。
無言で舞が悩んでいる時だった。

「よくも・・・・・・住井君をやってくれたな」

いつの間にか来襲者が手放したマグナムを拾い上げた耕一が、彼女に向けてそれを構えていた。
反抗の兆しはない。静かに瞼を閉じた来襲者は、ただ最期の時を待っているようで。
怒りの形相でマグナムを構える耕一に、舞のような戸惑いの色は一切ない。
いつでも彼は、その引き金を簡単に引くことができたであろう。

「・・・・・・耕一」

声をかける。反応はない。

「耕一」

551 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:20:42 ID:Homp4jlU
もう一度、声をかける。顔だけこちらを向けた彼の瞳には、絶対零度の冷ややかさが秘められていた。
彼がこのような残忍な表情を持つとは意外であったが、特に驚いた様子もなく舞は黙ってそれを見つめ返す。
耕一が口を開くことはない、舞の言葉を待っているのだろう。
しかし、話しかけたものの何と言えばいいのか。そもそも、この声かけには何の意味があるのだろう。
少しまた悩んだが、そうやって考えれば自然と台詞は口をついた。

「殺すの?」

ぽそりと何気ない調子で放たれたそれに対し、厳しい表情の耕一はますますそれを歪めながらも一応は問いに答えてくる。

「当たり前だ、こいつは俺達をめちゃめちゃにした。こんな・・・・・・こんなゲームに乗った人殺しは、人間の屑だ!」
「だから、耕一も殺すの?」
「・・・・・・何が言いたい」

もはや、修羅と呼んでもいいほどの迫力。しかし舞がそれに屈することはなかった。
普段通りのまま表に感情を出すことなく佇んでいる、あくまで冷静に事を進めようとしているのであろう。

そう、目の前の彼からは先ほどまでの疲労の色が一切消えてしまっていた。
怒りの方が上回っているのだろう、理性的に物事を考えようとしないのもそのせいかもしれない。

「何が言いたいんだって、聞いてんだよっ」

怒声を浴びせられても尚、舞は動じない。それが余計に耕一を苛立たせているのかもしれないが、舞に伝わるはずもなく。





そんな、気がついたら二人だけのやり取りを。舞と耕一は、していた。
春夏はそれに対し、ずっと耳をすませ続けていた。
耕一がマグナムを拾い上げた瞬間、もう自分の命は終わったものだと彼女も半分諦めていた。
しかし予想外、まさか乱入してきた少女の方が彼を止めるなんて。
二人の雲行きは怪しい、このままいけば仲間割れになるかもしれない。

552 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:21:10 ID:Homp4jlU
・・・・・・春夏は待った、上手くいけば逃げおおせることも可能かもしれない。
銃口が逸れてさえくれば、相手も拳銃に対してはそこまで正確な射撃が出来ないことが先の撃ち合いで分かっている。
それまでは抵抗せず、どうなるか場を見極めることに対し注意を向け続けていた。

「川澄さん! 何で分かってくれないんだよ!!」

男が叫ぶ。正直この状況を自分が男の立場になった場合でも、春夏は同じような行動をとったであろうとふと考えた。
そう、もし目の前でこのみが殺されてしまったとしたら。殺害した参加者には必ず自ら手をかけ復讐を行うであろう。
だからこその憤り、ここでは「人を殺してはいけない」というモラルが上回る人間は厄介な存在になる。

(・・・・・・ふふっ、しっかり殺人鬼色に染まってきちゃったわね)

思わず自嘲、それは悲しい笑みだった。
しかし、今こそチャンスでもある。
男の矛先は自分には全く向いていない、春夏はしっかりと肩にかけたデイバックを握り締め走り出す準備をした。
そして、ついに男の銃口の角度がぶれだしたその時。

春夏は脱兎のごとく、駆け出した。







「なっ?!」

舞も、耕一も唖然となってその背中を見送るしかない。

「待てっ!」

553 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:21:33 ID:Homp4jlU
叫ぶ耕一、手にしたマグナムで無茶苦茶に発砲を繰り返すものの手ごたえは全く感じられないようだ。
連射したことによる痺れが利き腕を支配し始めるが、耕一は止めることなく引き金を引き続けた。
そして、カチッカチッと弾切れの合図が出たところで。ゆっくりと、マグナムを降ろすのだった。

「耕一・・・・・・」

舞が呟くように声をかける。しかし耕一はそれを無視して、呆然と春夏の去っていった方向を見つめるばかりで。

「何でだよ・・・・・・」

渇いた声。こちらに振り返ることなく、耕一は吐き捨てるように言葉を紡ぐ。

「何でだよっ、何で止めたんだ!! あいつは住井君を殺ったんだぞ、俺達をめちゃくちゃにしたんだぞっ?!」
「耕一、落ち着いて」
「落ち着いてられるかよ、これが! なんつーことしてくれたんだ・・・・・・」
「耕一」

舞の言葉はあくまで平坦であった、そこに焦りと言ったものは全く見え隠れしない。
耕一だけが叫んでいた、耕一だけが感情を高ぶらせていた。これでは先ほどと同じである。

彼にとってそれすらも怒りの対象となっているという事実に、舞は気づいていないのであろう。
彼女は焦った面を覗かせることもなく、淡々と耕一に問いかけた。

「耕一は、そんな簡単に人を殺そうと思うの?」
「そういうんじゃない、そういうんじゃないんだよ! 俺はただ、住井君の敵を・・・・・・」
「本当に?」
「当たり前だろう!!」
「今の耕一は、ストレート過ぎる。周りが見えていない。敵とかじゃない、あの人を殺すことを目的にしていた気がする」
「何だよ、それ・・・・・・」

554 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:21:55 ID:Homp4jlU
言い返してはいるが、耕一の語気は明らかに弱弱しくなっている。そこを舞は見逃さなかった。

「私は違う。絶対、そんなことはしない」
「・・・・・・どういう、ことだよ」
「悲しませるようなことは、しない」
「何がだよ! あいつの家族や、友達が泣くからとかそういう理由なのか?! そんなの・・・・・・」
「佐祐理が悲しむから。だから殺さない」

きっぱりと、言い放たれたその二言。
佐祐理。倉田、佐祐理。耕一の頭の中でリフレインするその固有名詞は、知り合った頃に舞の口から聞いた覚えがあるものだった。

「祐一も、きっと悲しむ。私は魔物を討つ者だ、そのためにずっと剣を振るってはいた。でも、人を殺めるのとそれは、違う」

口数の少ない彼女が、嫌に流暢に話す様を。耕一は、じっと見つめていた。
そして、そんな舞の言葉を噛み砕きながらゆっくりと瞼を閉じ。
冷静に、彼女の言い分を考察しようとする。

「・・・・・・死ぬんだぞ」

ぼそりと。
脅すかのような低い声色、意識した物ではなくそれは自然と漏れたものだった。
短い髪をクシャッと掻き分け、目を逸らしながら耕一は抗議する。

「相手が殺る気ならこっちだって殺らないと・・・・・・死んだら、お終いなんだぞ」
「そうならないために、私も努力する。守ってみせる」
「誰をだよ、この島にいる全員をか?! 馬鹿げてる」
「・・・・・・」
「だから、殺さないのか?」

555 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:22:22 ID:Homp4jlU
誰も殺さないなんていう甘い考えで、生き残ろうなんてどうかしている。あまりにも、非現実的だとしか思えなかった。
徹底した綺麗な理想を貫こうとでもしているようにしか見えない、それが「倉田佐祐理」が悲しむからという理由だけ成り立つなんて。
耕一には、理解できなかった。

その、次の一言までは。

「耕一は、誰も悲しまない?」

真っ直ぐな瞳に射られる、純粋な疑問であろう。
しかし、それが決定打でもある。

そうだ、もし自分が人殺しになったとしたら。
千鶴は、梓は、初音は・・・・・・亡くなってしまった、楓は。彼女達は、一体どのように思うだろうか。
軽蔑するだろうか、仕方ないと許してくれるか・・・・・・それとも。

『お兄ちゃん・・・・・・』

その中でも一番明確なヴィジョンが作られたのは、末っ子でもある初音だった。
半分泣いたような顔で、胸の前で手を組みながらもきっと彼女はこう呟く。
仕方ないよね、と。つらそうに、まるで自分のことのかのように、きっと彼女は―――――――。

ああ、と。それでやっと耕一は、頑なな態度を取り続ける舞の気持ちが、分かったような気がした。

「耕一の家族は、耕一が人を殺して・・・・・・本当に、悲しまない?」

ダメ押しでもう一度問われる、答えることなんて出来やしない。
だから耕一はそれに返すことなく、違う問いを口にした。

556 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:22:56 ID:Homp4jlU
「川澄さんは、その・・・・・・佐祐理って子達が嫌がるから、誰も殺さないっていうのか?」
「違う。嫌がるからじゃない、悲しむから」
「じゃあ、川澄さん自身はどうなんだ? 目の前で佐祐理って子が殺されたら、どう・・・・・・」

言葉は、続かなかった。
舞の表情は変わらない、先ほどの彼女のまま。
しかしその瞳の湛える意志の強さはますます増しているかのようだった、舞はそのまましっかりと耕一を見据え続ける。
だが耕一もここで引こうとはしない、途切れた啖呵の続きは口にせず問いの意味を投げかけた。

「人を手にかけないていうことに対し、川澄さん自身の意志があるのかないのか。それがちょっと気になったんだ」
「これは私の意志、これが私の意志。例外はない」

即答、そこに揺らぎはない。
何てしっかりとした子なんだと、何てはっきりとした自我を持っている子なんだと。驚愕が胸を包むと同時にやっと川澄舞という人物が理解できたような。
そんな風に、耕一が思った矢先だった。目の前の彼女の頭が、いきなり項垂れたのは。

「ただ、前の私だったら迷わず斬っていたかもしれない、でも私は変わったから。
 変われたから。佐祐理と、祐一と出会えたことで」
「・・・・・・そうか」
「だから、人を殺そうなんて思わない。復讐もしない、それを佐祐理が望むとは思えないから」

どうしてだろうか。先ほどまでと一転して、今度は随分と小さな少女に見えてきた気がする。
ある種の儚すら感じた、そして考えた。
この答えに辿り着いた彼女の聡明さと、その裏に存在にするであろう不安を。
彼女の強みは「倉田佐祐理」、そして「相沢祐一」の存在というバランスでしか成り立っていない。

そしてその心の支えは、今彼女の傍にはいない。

「・・・・・・耕一?」

557 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:23:21 ID:Homp4jlU
気がついたら目の前の細い体を両腕で包んでいた、細く華奢なそれは簡単にすっぽりと収まることになる。
特に抵抗されることもなかったので、耕一は力を加減しながらもぎゅっとそのまま舞を抱き込んだ。
腕の中の舞は、特に何も何も口にしなかった。ただその暖かな温度だけが彼女を抱いている証のようにも思える。
しかし、ここまで反応がないというのも困ったことで。
もしかしたら突然のことに怒っているのだろうか、不安に感じた耕一は躊躇いながらも口を開く。

「ごめん、嫌だった?」
「ぽんぽこたぬきさん」
「え?」
「・・・・・・別に。ただ、どうしてって思った」

ぐっと少しだけ胸板を手で押し返される、密着していた頬を剥がし耕一の目線に合わせて舞は静かに問いかけた。
耕一はというとその純粋な視線に照れを覚えながらも、感じたことに対し素直に答えようとする。

「何か、泣きそうに見えたんだ。川澄さんが」
「・・・・・・」
「勘違いかもしんないけどさ、その。確かに川澄さんの決意の強さは分かった、でも・・・・・・何ていうか、強がりだってあるような気がして」
「・・・・・・」
「余計なお節介かもしれないけど、あんまり一人で背負い込もうとしなくてもいいからさ・・・・・・ほら、俺達だって仲間なんだから。
 君の大事な友人ほどにはなれないかもしれないけど、頼ってくれればって。思ったんだ」
「・・・・・・はちみつくまさん」

ぎゅっと、胸の辺りのシャツが引っ張られる感覚を得る。
見下すと舞が両の手でそれを握り締めていた、そしてぽふっと先ほどのように頬をくっつけてくる。
ああ、甘えているのだと。少女のリアクションの意味が分かると同時に、そこに愛しさが生まれだす。
さらさらとした黒髪に指を通すと、舞は気持ち良さそうに目を細めた。
それを何度も繰り返す、艶のある彼女の髪を触るのは耕一自身も楽しかった。

558 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:23:49 ID:Homp4jlU
しばらくの時間が過ぎた所で、また胸を押し返される。
ゆっくりと拘束を解くと、そこには口元を少し緩ませた優しい表情の舞がいて。

「私は、誰かを守るためにこの剣を振るう。チエも、志保も・・・・・・耕一も」

それは宣言だった。多分抱きすくめられた際に落としたのだろう、日本刀を拾い上げながら舞は言う。

「誰かを傷つけるために私はいるわけじゃない、耕一だってそう。守るために、戦う」
「そうだね、そして俺達の大事な人のためにも」

こくり。

「誰も殺さないで、事を進めるんだ」

耕一が言い終わる前に、舞は既に頷いていた。

その澄んだ瞳にじっと見つめられるだけで、耕一はまるで心が浄化されるような感覚を得た。
そして、今更になって思う。ああ、自分は彼女の虜になりかけていると。

「行こう、耕一。よっち達が待ってる」

多分舞は気づいていないだろう、一途だからこそ今は目の前の「守るべき対象」しか目に入っていないはず。
それも彼女の魅力だと思った、だから耕一は黙って頷き同意を表したのだった。




舞はすぐにでもチエ等のもとへ駆け出す気であっただろう、しかしそこは謝り耕一は先の戦闘にて手放したトカレフを探しだす。
一応弾も一発だけだが残っているはずだったので、ここで手放すには少々惜しいからだ。
感情が高ぶっている際に乱射したマグナムにはもう残弾はない、切り札としてトカレフは手放せない存在になるであろう。
落とした場所はすぐそこであったのでそれ自体は簡単に見つけ出せた、手に取り確認するものの異常は見られない。

559 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:24:37 ID:Homp4jlU
「ああ、そういえば」
「?」

これで思い出したと言ったら失礼かもしれないが、トカレフを預けていった少女のことが頭を過ぎる。

「友達には無事会えた?」

舞に絶対会わなければと意気込んでいたあの少女のこと、身体的特徴から見て舞から聞いていた「倉田佐祐理」でないことだけは理解できる。
名前は聞かなかった、制服は・・・・・・見覚えはあったがよく思い出せない。
何しろ辺りが薄暗いということにも拍車がかかっていて、耕一の中でもあの少女のことはかなりおぼろげな記憶としてでしかなかった。

「髪の長い、すらっとしたスタイルのいい子。君を探しに追って行ったんだよ」
「・・・・・・?」
「え、会わなかったかな」
「誰?」
「ああ、名前は聞かなかったんだけど。川澄さんの名前知ってたから・・・・・・友達じゃなかった?」

首を傾げる舞、訝しげなその視線に耕一の胸中を嫌な予感が埋めていく。

「そういう知り合いはいない・・・・・・どういうこと?」

固まる空気。
耕一の表情に、焦りの色が浮かびだす。
舞は続けて言った、このゲームに参加している知り合いは「倉田佐祐理」と「相沢祐一」のみだと。

「ここに来てからもよっちや耕一達としか面識はない、他の人間には会っていない」

では、あの少女は一体何者なのか。
何が目的で舞を探していたのか。

560 深夜の奇襲4 :2007/03/01(木) 01:25:24 ID:Homp4jlU
「・・・・・・耕一、その人はどっちに行った」
「ああ、うん。川澄さん達が逃げてった方向だけど」
「・・・・・・」
「えっと・・・・・・」
「行こう、耕一」
「え、ちょ、ちょっと?!」

背中を向け、耕一の言葉を待つことなく舞はいきなり走りだす。
生み出たのは小さな不安、後ろを顧みず舞は再び足を動かし続けるのだった。





柚原春夏
【時間:2日目午前4時】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
【武器(装備):防弾アーマー】
【武器(バッグ内):おたま/デザートイーグル/レミントンの予備弾×20/34徳ナイフ(スイス製)マグナム&デザートイーグルの予備弾】
【状態:このみのためにゲームに乗る】
【残り時間/殺害数:9時間19分/4人(残り6人)】

柏木耕一
【時間:2日目午前4時】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(1/8)・500S&Wマグナム(残弾数0)・大きなハンマー・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:チエと志保の元へ、誰も殺さない、右腕軽症、柏木姉妹を探す】

川澄舞
【時間:2日目午前4時】
【場所:F−5南部・神塚山】
【所持品:日本刀・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:チエと志保の元へ、誰も殺さない、祐一と佐祐理を探す】
【備考:髪を下ろしている】

Remington M870(残弾数1/4)は周辺に落ちている

(関連・656)(B−4ルート)

561 雨中、真紅に燃えて :2007/03/01(木) 15:01:10 ID:STP5xe1k
「この島は、いいところだ」

サングラスの男は、そう口にした。

「手前ェの器ってもんを試すチャンスが、いくらでも転がってやがる。男にとっちゃ最高だ。
 あんたもそう思うだろう、爺さん?」

言って、笑う。
どこまでも快活な笑みだった。
対する老爺は、黒い三つ揃いの襟を正すと、白い手袋の拳を握り込んだ。
静かに構える。軽い前傾姿勢のボクシングスタイル。

「―――名を聞いておこうか。口が利けんようになってからでは遅いからの」

老爺の静かな言葉に、サングラスの男がニヤリと口の端を上げる。

「人に名を尋ねるときはまず自分から―――、そいつが紳士の嗜みってもんじゃねえのか」

言われた老爺は眉筋一つ動かさず、答える。

「失礼した。長瀬源蔵、号をダニエルと申す。
 ……いざ、尋常に立ち合われたい」
「長瀬……源蔵……? マジかよ、爺さん……!」

老爺、源蔵の名乗りに、サングラスの男が短く口笛を吹いた。
心底から楽しそうな笑みが、口元に浮いている。

「ハハッ、こりゃあいい、こりゃあいいや!」
「……そこもとの名は」

腹を抱えんばかりに笑う男に、源蔵があくまでも静かに問いかける。
男がぴたりと笑いを止めた。正面から源蔵を見据え、口を開く。

「古河秋生。……あんたは知らないだろうが、爺さん。
 俺さ、あんたの役、演ったことあるんだぜ」

言ってサングラスの男、秋生がまた笑う。
それはまるで、少年のような、笑みだった。

562 雨中、真紅に燃えて :2007/03/01(木) 15:01:30 ID:STP5xe1k
「―――」

雨が、降りしきっていた。
秋生の手にはいつの間にか、一丁の奇妙な形状をした拳銃が握られていた。
その銃口は、拳を構えた源蔵の正中線をぴたりと狙っている。
しかし源蔵は微動だにせず、じっと秋生を見据えていた。
二人の男は、動かない。

「……飛び道具なぞに、長瀬が膝を折るとでも?」
「はは、そいつはやってみなけりゃわからねえさ。
 実際、俺の演ったホンじゃあ爺さん、あんた結構苦戦してたぜ?
 もっとも満州にいた頃のあんただがね」
「ふむ」

源蔵の、しとどに濡れた髭から雨粒が滴り落ちる。

「十四、五の時分のこととてな。ようは覚えておらなんだが……そのようなこともあったかの」
「俺に聞くなよ」

秋生が苦笑する。

「立志伝中の人物、ってやつだ。
 本当のあんたが何をしたのか、何を見たのか―――そいつはあんたにしかわからねえさ」
「さて、芝居の種になるような生き方じゃったかの」
「充分さ。がむしゃらで、破天荒で……爺さん、若い頃のあんたは、俺のヒーローだったんだぜ」
「小僧に多くを望むでないわ」
「違いねえ」

秋生が一瞬だけ、どこか遠くを見るように小さく笑う。

「ガキどもにはいつだって苦労させられる」
「それが老いる楽しみでもあるさ」
「爺さんの境地に達するには、俺は若すぎるんだよ」
「そのひよっこが、さて何を見せてくれるのかの」
「そいつは見てのお楽しみ、だ」

閃光が奔った。
言い終えるや、秋生が引き金を引いたのである。
一瞬の静寂。
雨滴の、地面を叩く音が、一際大きく聞こえる。

563 雨中、真紅に燃えて :2007/03/01(木) 15:01:58 ID:STP5xe1k
「……おいおい」

秋生が、呆れたように呟く。
赤い光線は、雨を裂いて確かに源蔵を貫いたかに見えていた。
しかし、秋生の視線の先には、いまだ平然と立つ源蔵の姿がある。

「……あんま無茶すんなよ、爺さん」
「ふむ」

片足を引くことで半身をずらす、ただそれだけの動作で必殺の第一射をかわしてみせた源蔵が、
息一つ乱さず言葉を返した。

「……まさか光線銃、とはの。少々肝を冷やしたわ」
「見てから避けられるはず、ねえんだがな」
「なに、見えずばその先を取るだけの話よ」
「簡単に言ってくれるじゃねえか」
「そも、」

源蔵が、一拍置く。

「見たことがなくては防げぬ、では……警護は務まらぬからの」
「そらまあ、そうだ」
「……さて、今度はこちらの番かの―――」

言いながら源蔵が、す、と足を踏み出す。
何気なく踏み出されたはずのその一歩は、しかし、接地と同時に轟音を響かせた。

「ぬぅぅぅぅ……ンッ!」

周囲の大気が、震えた。
老人の痩身が変化を遂げていく。
上品な仕立てのシャツが、ぴんと張り詰めた。
内側からの圧力。源蔵の肉体が、膨れ上がっていたのである。
半世紀もの間、来栖川の盾として磨き上げられてきた、それは鋼鉄の肉体だった。

「何だ、そりゃあ!? 反則じゃねえか爺さん!」
「―――参る」

言葉と共に、源蔵が跳んだ。
踏み出した足の下で、泥濘が爆発的に弾ける。
巌の如き拳が、轟と風を巻いて秋生に迫った。

564 雨中、真紅に燃えて :2007/03/01(木) 15:02:24 ID:STP5xe1k
「ちぃッ!」

迎撃しようとした秋生は、瞬時に間に合わぬと判断。
前に出れば砕かれる。後ろへ避ければ詰められる。

「なら―――こっちだろッ!」

横っ飛び。
タックルにいくような低い姿勢で身を捻り、肩甲骨から接地する。
そのまま重心移動だけで起き上がり、肩越しにめくら撃ちで三点射撃。
軸足で回転した秋生の眼前に、歯を剥き出した源蔵の笑みがあった。

「……ッ!」

その左の袖が千切れ、隆々たる筋骨が覗いていた。
紙一重でかわされた、と秋生が理解した瞬間、その腹を衝撃が貫く。

「がァ……ッ!」

一気に数メートルを吹き飛ばされる秋生。
回転する視界の中で、しかし秋生は地面に向けて光線を放っていた。
泥濘が陥没し、小さなクレーターを作る。
射撃の反動で、秋生の回転が止まっていた。空中での強引な姿勢制御。
追撃すべく飛び出していた源蔵が、その表情を凍らせる。

「悪ぃな爺さん、ゾリオンには色んな使い道があるんだよ……!」

笑う。カウンターでの斉射。
赤光が、源蔵に迫る。

「ぬぅぅぅッ!!」

瞬間、秋生は己の目を疑った。
絶対にかわせぬタイミング。必中の光線を、源蔵は己が腕を交差させて受けたのである。
肉を焼き、骨を断つはずの赤光は、しかし、源蔵の腕を貫くことはなかった。
源蔵の腕から立ち昇った黄金の霧に、光線が阻まれているように、秋生には見えた。

「焚ッッ!!」

大喝と共に、赤光は弾かれていた。
驚愕に目を見開きながら、秋生が着地する。

565 雨中、真紅に燃えて :2007/03/01(木) 15:02:51 ID:STP5xe1k
「クソッタレ……無茶しすぎだろ、爺さん……!」

突進を止めることには成功したが、しかし秋生の前に立つ源蔵は、まったくの無傷であった。
ゾリオンの赤光を防いでみせたその両の袖口がズタズタに裂けているのが、唯一の瑕疵といえた。

「ふむ……、替えは持ち合わせておらんのだがな」
「服の心配かよ……!」
「何、わしに闘気を使わせた男は久しくおらん。誇ってよいぞ」
「闘気だぁ……? さっきの、金色のやつか……」

光線を受けた一瞬、源蔵の腕から湧き出した、黄金の霧の如きものを、秋生は思い起こしていた。
源蔵が、重々しく口を開く。

「貴様の銃に様々な使い道があるように、わしの闘気にもそれなりの使い方というものがある」
「気合がありゃあ何でもできる、ってか……これだから大正生まれはタチが悪ぃんだよ」
「せめて半世紀を生きてから物を言え、ひよっこ」
「ハ、戦前に帰りやがれ、満州の爆弾小僧!」

走り出しながら、秋生が光線を放つ。
距離をとろうとする動き。
させじと、源蔵が詰めていく。

逃れ、詰める。時折、赤光が奔り、風が唸る。
それは雨の森を舞台と見立てた小さな輪舞の如く、穏やかにすら見える暴力の応酬だった。

「ああ畜生、楽しい、楽しいなあ、爺さん」

秋生が、泥を撥ね上げながら口を開く。
表情は快の一字。

「楽しいついでだ、聞いてくれよ、爺さん」

源蔵は答えず、横蹴りで秋生の腹を狙う。
大きく跳ぶ秋生。

「俺の女房は、ちっとばかし頭の弱い女でな」

構わず言葉を続ける。

「世界が平和になりますように、なんて本気で言い出すような女でよ。
 俺みてえなヤクザ者もあいつにかかりゃあ、本当はいい人、素敵な人、ってな。
 他人のいいところしか見ねえ、いや見えねえんだ。ま、言ってみりゃあ病気だぜ、半分方」

秋生の鼻先を、源蔵の磨き上げられた革靴が掠めた。

566 雨中、真紅に燃えて :2007/03/01(木) 15:03:22 ID:STP5xe1k
「……ああ、勘違いすんなよ? どんだけ頭が弱くたって俺は女房を愛してるからよ。
 うおお、無性に叫びたくなってきた、早苗、愛してるぜぇぇーっ!」

拳圧だけで周囲の木々を薙ぎ倒さんばかりの一撃を、紙一重でかわしながら叫ぶ秋生。

「ま、そんな感じでな。ついでに娘もとびっきりの器量よしだぜ、写真見るか?」
「わしは孫を亡くしたよ」
「そうかい、そりゃ残念だ」

秋生の手にした銃から、光線が飛ぶ。
赤光は一瞬前まで源蔵がいた空間を切り裂き、草木を灼く。

「でまぁ、そのちっとおつむの弱くてとびっきりのいい女が、だ」

連射。
矢継ぎ早に飛ぶ赤光を、源蔵は左右に身を振ることで回避。
秋生は後退しながら広範囲に弾幕を張る。

「俺のことをな、ヒーローだって、本気で信じてやがるのよ」

なおも詰める源蔵。
眼前に展開される飽和攻撃を、最低限度の動きでかわしていく。

「だから俺は爺さん、あんたにだって負けねえ。……負けられねえッ!」

だが秋生は、その動作を予測していたかのように速射。
疾風の如き源蔵の回避軌道に合わせ、それ以上の速度をもって赤光が駆ける。
しかし、

「―――若いな」

命中の瞬間、再び源蔵の腕から闘気が立ち昇っていた。
右正拳、一閃。黄金の拳が、赤光を粉砕した。
秋生が次の弾幕を展開するよりも早く、源蔵が肉薄する。

「信念だけでは、この拳は撃ち抜けぬ」

左が、秋生の顔面をかち上げる。
間髪をいれず右。たまらず秋生がのけぞった。
体を引きながら、空いた腹に打ち下ろしの左。下向きのベクトルに、秋生の体が釘付けにされる。
流れるような三連打。既に右の拳は引き絞られている。
源蔵の拳に、黄金の闘気が宿った。

「さらばだ、小僧―――!」

567 雨中、真紅に燃えて :2007/03/01(木) 15:03:53 ID:STP5xe1k
古河秋生を葬り去る、必殺の一撃。
昇竜天を衝くが如き右の拳は、

「ぬぅ……ッ!?」

秋生の眼前で、止まっていた。

「―――爺さん、やっぱりあんた爺さんだ」

否。源蔵の拳は、止められていた。

「歳食って、磨り減っちまってる」

秋生が手にした拳銃から、赤光が伸びていた。
常であれば瞬間に飛び去り消えるはずの赤光は、しかし燃え盛る炎の如く、その場に留まっていた。
それはまるで、銃口を柄と見立てた、一振りの剣。
真紅の剣が、黄金の拳を押し返す。

「昔のあんたなら、胸を張って応えたはずさ。手前ェの負けられねえ理由、ってヤツで」
「ぬ、ぬぅゥゥッッ!?」
「信念の無ぇ拳が……俺のゾリオンを止められるかよッ!!」

ぎり、と源蔵を見返した秋生の瞳が、大剣と同じ色に燃え上がった。
赤光が、黄金を飲み込んでいく。
ついに秋生の大剣が、源蔵の拳を包む闘気を弾き飛ばした。

「ぐぅッ……!?」
「名づけて必殺、ゾリオンブレード! ―――サヨナラだ、俺のヒーロー!」

真紅の刃が、鋼鉄の肉体を肩口から、切り裂いた。

568 雨中、真紅に燃えて :2007/03/01(木) 15:04:33 ID:STP5xe1k
 【時間:二日目午前10時前】
 【場所:F−5、神塚山山頂】

古河秋生
 【所持品:ゾリオンマグナム、他支給品一式】
 【状態:ゾリオン仮面・戦闘中】

長瀬源蔵
 【所持品:防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
 【状態:肉体増強・戦闘中(斬られている)】

→664 ルートD-2

569 譲れない想い :2007/03/01(木) 19:40:13 ID:tQg92mBA
激しく殴り合う岡崎朋也と、高槻・折原浩平。だがポテトの投擲攻撃を機に、とうとう彼らの拮抗は崩れた。
「うがっ……!」
ポテトを投げつけられて動きの鈍った浩平の顎を、朋也の鋭い裏拳が正確に打ち抜く。
浩平の体が、勢い良く地面に叩きつけられる。浩平は何とか起き上がろうとしたが――腕が、足が、命令を拒否する。
「ぐ……う……」
浩平は脳を大きく揺さぶられて、いわゆる脳震盪の状態に陥ってしまっていた。
動ける筈が無い。寧ろこの状態で意識を保っていられる事が既に、驚くべき事だった。
残るは白衣に包まれた左肩を真っ赤に染めた高槻と、腹部に軽い痛みはあるもののほぼ無傷の朋也のみ。
一対一、そして満身創痍の人間と五体満足の人間の勝負――もう、これ以上続けるまでも無かった。
高槻に向けて、刺々しい睨みを効かせてくる朋也。あの長身に加えて、この猛獣のような眼力。
高槻には朋也の姿が、悠然とそびえ立つ不気味な塔のように見えた。
「もういいだろ……俺の勝ちだ。諦めて彰を――その殺人鬼を庇うのを止めろ。
出来ればゲームに乗ってない奴を、悪人じゃねえ奴を殺したくはねえ」
朋也は可能な限り、怒気を抑えて言った。本当なら今すぐにでも障害を排除して、彰を八つ裂きにしたい。
しかしそれでは、この島を闊歩する殺人鬼達と同じでは無いか。
朋也の中に残った一欠片の最後の理性が、ぎりぎりの所で彼を押し留めていた。

570 譲れない想い :2007/03/01(木) 19:41:23 ID:tQg92mBA
昔の高槻ならば、ここで素直に引いただろう。いや、そもそも最初から彰を庇いさえしなかっただろう。
自分以外の人間。それも、仲間ですら無い人間を庇う。その行為にどれだけの意味がある?
良いじゃねえか、見捨てちまえば――頭の中で、そんな囁きが聞こえてくる。
だがそれでも。高槻は静かに、朋也の目を眺め見たまま語り始めた。
「――なあ、てめえ。勘違いしてるようだから言っとくが」
「何だよ」
「俺様はどうしようもねえ悪党だ。この島に来る前までは色々と悪いことをやったさ……」
突然の告白に、その意図を計りかねる朋也。
「それがどうしたってんだ?自分は悪人だから殺してくれとでも言いたいのか?」
高槻はそんな朋也の言葉を無視して、淡々と喋り続けた。
「だが俺様はこの島で、馬鹿なクソガキ――沢渡真琴って奴に出会ったんだ」
その名前が出た瞬間、浩平も、郁乃も七海も息を飲んだ。
真琴は、彼女はもう――
「あいつは口は悪かったけど……こんな俺様に懐いてくれた……こんな俺様を頼ってくれた……」
高槻はそこまで言うと、目線を落として、拳を潰れそうな程握り締めた。左肩の傷口から流れ落ちる血の勢いが増す。
「なのに俺様はあいつを……守れなかった……。守れなかったんだよ、畜生……!」
「な……なん……だと……」
高槻の言葉に、朋也の頭の中が真っ白となる。
(こいつは――俺と一緒じゃないか。守りたい奴がいて、精一杯守ろうとして、それでも守りきれなかった。俺と何も変らないじゃないか……)
動揺する朋也をよそに、高槻は一層語気を強める。
「今も俺様の仲間は馬鹿なガキばっかりだ。けどよ……こいつらは俺様を頼ってくれているんだ。
こんな俺様を必要としてくれるんだ……。折原も、勿論郁乃も七海も俺様の大事な仲間だ」
そして最後に高槻は、この島に来てから一番強い――否、人生の中で一番強い想いを籠めて、言った。
「だから今度こそ俺様はこいつらを守ってみせる。こいつらの笑顔も守ってみせる。彰ってガキが浩平のダチだってんなら、そいつも守る。
そうだ、俺様は絶対に引かねえ……引く訳にはいかねえんだ!」
朋也はもう、答えられなかった。自分と同じ経験を経て――違う道を選んだ強き者を前に、何も答えられなかった。

571 譲れない想い :2007/03/01(木) 19:42:45 ID:tQg92mBA


あの無愛想な男の、高槻の、信じられないような内容の独白――
そこで郁乃はちらっと横を見た。彰は先ほどから何やら、銃の照準を合わせる方法を模索しているようだ。
玩具とは訳が違う。もしまかり間違って仲間を撃ってしまっては取り返しがつかない。まだもう暫くは時間がかかるだろう。
郁乃は視線を正面に戻して、高槻の背中を見つめた。
「…………ねえ、高槻」
「何だ?」
背を向けたまま答える高槻。無茶だとは分かっているが、それでも郁乃は、自分の願いを口にした。
「お願い……勝って!」
高槻は答えない。だがその背中が少し笑って見せたような気がして――直後、高槻は駆け出した。

572 譲れない想い :2007/03/01(木) 19:43:37 ID:tQg92mBA


「くっ――」
一発、二発、三発、四発。連続で繰り出される高槻の拳を、朋也はかろうじて受け止めていた。
――早い。怪我をしている筈なのに、左肩が痛む筈なのに。高槻は怯む事無く、嵐のように攻撃を繰り出してくる。
――重い。死んだ仲間の為だけでなく、生きている仲間の為にも振るわれる拳は、何よりも重い。
「けど俺だって……負ける訳にはいかねえんだよっ!!」
朋也が吼える。自分とて、風子と由真の命を背負っている。引けないのは同じだ。
彼女達の敵を取るまでは、彰を葬り去るまで、たとえ五体が引き千切れようとも戦い続けてみせる。
「うらあ!」
高槻の強烈な左フックが朋也の頬を捉える。朋也の口と、高槻の左肩から血が流れ出る。
「く……あああ!」
朋也が高速で左足を横薙ぎに振るう。腹を蹴られた高槻が低い呻き声を上げる。
「このっ……ナメんな!」
高槻は朋也の髪を掴んで、その顔に頭突きを放った。朋也の鼻から、血が噴き出す。
「ぐあっ……でも、まだだ!」
朋也は前蹴りを放って、高槻を後ろに押し退ける。
「いい加減倒れやがれっ!」
高槻が大きく右腕を振り上げて、渾身の一撃を振り下ろす。
「てめえがな!」
朋也は大きく腰を捻り、勢いをつけて右の拳を斜めに振り上げる。
どちらも防御など考えてはいない。ひたすら攻めて、自分の気持ちを叩き付けて、敵を打ち倒すのみ。
「ぐはっ……」
「げぼっ……」
クロスカウンターの形でお互いの拳が交差し、互いの体を酷く痛めつける。
骨の芯にまで届く、大きな衝撃。神経が断裂するかと思うほどの、凄まじい激痛。
それでも二人は、ガクガクと震える膝を叱り付け、咆哮をあげてまた殴り合う。
その度にまた二人の体に傷が増え、地面に赤い鮮血が飛び散る。それが自分の血か、相手の血か、判別する事はもう出来ない。
命を、魂を、削り合うような、男の意地を掛けた殴り合い。それは永遠に続くようにさえ、思われた。

573 譲れない想い :2007/03/01(木) 19:44:54 ID:tQg92mBA


しかし、死闘の終わりは唐突に訪れる。
「――やめやがれぇぇぇぇぇぇっ!!」
場の空気を吹き飛ばす、巨大な叫びが響き渡る。高槻と朋也は、ピタッと動きを止めて、ゆっくりと横へ振り向いた。
そこには真実を知る三人――古河秋生、古河渚、そして、みちるが立っていた。

【時間:二日目・14:30】
【場所:C−3】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:現在の目標は戦いを止める事。中程度の疲労、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の

捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:自力で立っている、目標は朋也の救出、右太腿貫通(手当て済み、痛みを伴うが歩ける程度には回復)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:目標は朋也の救出と美凪の捜索】

574 譲れない想い :2007/03/01(木) 19:46:02 ID:tQg92mBA
岡崎朋也
 【所持品:S&W M60(0/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
 【状態:マーダーへの激しい憎悪、疲労大、全身に痛み。第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害】
湯浅皐月
 【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:気絶、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】

七瀬彰
 【所持品:S&W 500マグナム(5/5 予備弾7発)、薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:腹部に浅い切り傷、右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:脳震盪(回復にはもう少し時間が必要)、頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:全身に痛み、疲労極大、出血大量、左肩を撃ち抜かれている(左腕を動かすと激痛を伴う)、最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】

575 譲れない想い :2007/03/01(木) 19:47:54 ID:tQg92mBA
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:待機中、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:待機中】
ポテト
 【状態:気絶、光一個】

【備考】
以下の物は高槻達が戦っているすぐ傍の地面に放置
・コルトガバメント(装弾数:6/7)、H&K PSG−1(残り2発。6倍スコープ付き)

→720

576 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 12:58:34 ID:YC4yZi4s
「河野さん、このお方は…………」
「イルファさん……俺の……友達だよ…………」
鷹野神社の一室。そこには貴明が運んできたイルファだったモノを中心に、神社にいた全員が集まっていた。
「イルファさんが死んだことは2回目の放送の時点で知っていた……だけどこんなの……酷すぎる…………」
もう一度変わり果てたイルファを一瞥すると貴明はギリッと奥歯をかみ締めた。
そんな彼の手には今、イルファの遺品であるフェイファー ツェリザカが握られている。


(今頃、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんはどうしているだろう―――?
イルファさんのことを聞いて悲しんでいるのだろうか? それとも―――)
ツェリザカに予備の弾丸を装填しながら、貴明はイルファの大事な家族である姫百合珊瑚、瑠璃のことを思った。
その時、貴明の中であるひとつの考えが浮かんだ。
(ん? 珊瑚ちゃん………?)


「そうだ!」
突然、そんな声をあげて貴明が立ち上がる。
「た…貴明さん!?」
「ど…どうしたのよ、いきなり!?」
「観月さん、悪いけど携帯電話貸してもらえないかな?」
「え? 携帯?」
そう言われてマナは慌ててポケットから携帯電話を取り出し、貴明に渡した。
「ありがとう。よし、早速…………」
「ちょっと。その前に何をしようとしているの!? 説明しなさいよ!」
「ごめんなさい杏さん。説明は後でします。その前に今はこれで……」
そう言いながら貴明は一度部屋を出た。
そして部屋を出ると、携帯電話の電話帳の機能である場所の番号を確認すると早速そこに電話をした。

577 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 12:59:09 ID:YC4yZi4s
――そこに電話をかけると、コール音が鳴り始める。
貴明が電話をかけた場所は氷川村にあるという診療所だ。
電話帳のアドレスには島の名所が50音順で登録されていた。そして一番上にあったのが沖木島診療所の番号。
貴明はまずはそこに電話をかけてみることにした。

誰でもいいから繋がって欲しい……貴明はコール音を聞きながらそう願い続けた。
――――しかし、いつまで経ってもコール音が途切れることはなかった。
「ちっ……!」
貴明は一度舌打ちして電話を切ると、急いで次の名所の番号を確認する。
(俺たちや杏さんたちがさっきまでいた鎌石村周辺の名所は今は飛ばすとして……次に登録されているのは…………)

――教会。
「ここか……」
貴明は地図を見て教会の場所を確認する。
教会は平瀬村の近く、エリアG−3の隅っこに位置していた。

(頼むぞ……)
そう願うと、貴明は決定のボタンを押し、再び電話をかける。
またしても貴明の耳にコール音が鳴り響いた。

しばらくの間、コール音が鳴り響く。
(ここも駄目か……)
諦めかけていた貴明であったが、次の瞬間――――コール音が途切れた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇

578 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 12:59:36 ID:YC4yZi4s
『はい。もしも〜し』
(やった……!)
通じた。電話の向こうから聞こえたのは聞き覚えのない少年の声。
しかし、電話が通じたというだけでも今の貴明にとって大きな収穫である。
瞬時に気持ちを落ち着かせると、貴明は口を開いた。

「もしもし。え〜っと、そこは教会であってるかな?」
『ああ。あってるよ。――ところで誰だお前?』
「あ…俺の名前は河野貴明っていうんだけど…………」
『河野……貴明!? 河野貴明だって!?』
「あ…ああ」
『ということは、君がるーこや珊瑚ちゃんたちが探していた……』
「!? るーこと珊瑚ちゃんを知っているのか!?」
電話の向こうの少年から知り合いの名前の名前が出てきたので、貴明は思わず叫んでいた。

『うん。今2人は一緒にいるんだけど……代わろうか?』
「ああ。是非!」
『はいはい。ああ。そうだ。自己紹介がまだだったね。僕の名前は春原ようへ……って、2人とも何するんだ!?』
『うるさいぞ、うーへい。電話の向こうにはうーがいるのだろう。ならば早く代われ』
『せやせや。うちらも早く貴明とおしゃべりしたいんやもん』
電話の向こうから懐かしい声がした。
(よかった。2人とも無事みたいだな……)
電話の向こうから聞こえるそんな声を聞いて貴明は肩を撫で下ろした。

579 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 13:00:19 ID:YC4yZi4s
『代わったぞ、うー』
「るーこか。その様子だと、そっちも大丈夫みたいだな」
『ああ。――ところで、うーは今どこにいるのだ?』
「俺? 俺は今、みんなと鷹野神社にいる。久寿川先輩もいるぞ」
『そうか。うーささも無事か』
「うん。……あ。そうだ。いきなりで悪いけど、珊瑚ちゃんに代わってもらえるか?」
『わかった』
るーこのその声が聞こえてしばらくした後、別の少女の声がした。

『貴明?』
「ああ、俺だ。珊瑚ちゃんか?」
『うん。貴明たちは大丈夫なん?』
「うん。怪我してる人多いけど、まあ大丈夫だよ。――それよりも……」
『?』
「イルファさんのことなんだけどさ……」
『!?』
「今……鷹野神社にいるんだけど、そこで見つけちゃったんだ。イルファさんの亡骸を…………」
『そうなんか……』
「――それでさ。俺……今からそっちにイルファさんを珊瑚ちゃんのもとに運びに行こうと思うんだ」
『えっ?』
「そのほうがイルファさんも喜ぶと思うし……それに、実は俺たちのもとにも1人ロボットの女の子がいるんだ」
『ロボットの?』
「ああ。名前はほしのゆめみ。最新式のコンパニオンロボットらしいんだけど、胴体を銃で撃たれたせいで左腕が動かなくなっちゃったらしい。
それで――珊瑚ちゃんなら彼女を直せられないかなと思って…………」
『出来ないことはないかもしれへんけど……今うち別のことで忙しくって……』
「別のこと? なんだい?」
『ああ、ごめんなー。ちょっとそのことは今は貴明たちには話せないねん』
「そうか……」

580 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 13:00:53 ID:YC4yZi4s
『でも……いっちゃんたちを連れて来てくれるならうち待ってるで』
「いいのか?」
『うん……貴明の言うとおりそのほうがいっちゃんも喜んでくれると思うし……瑠璃ちゃんも……』
「!? 瑠璃ちゃんがどうかしたのか!?」
『瑠璃ちゃん……死んじゃった…………うちを護るために…………』
「!?」

貴明はその後、瑠璃の死の内容を詳しく説明してもらった。
来栖川綾香という珊瑚の仲間の1人、藤田浩之の知り合いがゲームに乗っていたと。
綾香に珊瑚を庇う形で瑠璃が殺されたこと。
現場に駆けつけた柳川裕也という刑事たちのおかげで綾香は退けたこと。
そして、綾香は防弾チョッキと参加者の首輪を探知するレーダーを装備しているということを――

「そうか……ごめんね。そんなこと聞いちゃって…………思い出させちゃった……よね?」
『大丈夫や。うちがいくら嘆いたところで瑠璃ちゃんは帰って来ることはあらへん。瑠璃ちゃんに助けてもらった分もうちは生きなきゃいけないもん…………』
「…………」
『うちらは教会におるよ。平瀬村の方は今のところ大きな騒ぎとかは起きてへんから、来るなら安心して来るとええよ』
「わかった……ありがとう。それじゃあ切るよ」
『うん。みんなで待っとるで』
珊瑚のその声を聞きながら、貴明は電話を切った。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


――自分が思っていたよりも、珊瑚は強い子だった。
もしかしたら彼女は俺たちなんかよりもぜんぜん強い子なのかもしれない。

俺はそう思いながら部屋に戻った。
そこには荷物をまとめているみんなの姿があった。

581 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 13:01:28 ID:YC4yZi4s
「お待たせ。説明しようと思ったんだけど……」
「言わなくていいですよ貴明さん」
「え?」
「うん。全部聞こえていたし……」
「ぷぴっ!」
「な!?」
「行くんでしょ? 教会に……」
「…………うん」
俺は頷くと、イルファさんを背負い、彼女の遺品であるツェリザカをズボンに差し込んだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


教会までは道なりではなく、森林地帯の方を通っていくことにした。
このほうが敵に遭遇する確率も低いだろうし、万一遭遇しても、木々や茂みに身を隠すことが出来るからだ。

「暗くなってきましたね……」
空を見ながらゆめみが呟いた。
「そろそろ6時……3度目の放送の時間ね…………」
「2回目の放送の影響がどれだけ出たか……そこが問題ね」
「はい……」
「――みなさんは天国のことをどう思いますか?」
「え?」
「ぷぴ?」
突然ゆめみがそんなことを口にした。

582 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 13:02:05 ID:YC4yZi4s
「ゆめみさん、突然なにを……」
「いえ……私も何故こんなこと言いたくなったのか判らないのですが、私やイルファさんのようなロボットでも皆さんと同じ天国に行くことが出来るのでしょうか、と思いまして……」
「う〜ん……どうなのかしら?」
「確かに『壊れる』という概念はあるだろうけど、本来機会に『死』なんて概念はないしねえ…………」
ゆめみの問いに杏やマナたちは難しそうな顔をする。
そんな一行に対して貴明は呟いた。
「いけるさ……イルファさんもゆめみも……」
「え?」
「たとえ人であろうとロボットだろうと、俺たちはこの世界に存在していることに代わりはない。
だから……きっといけるさ。みんな同じ場所に…………同じ天国に…………」
「貴明……」
「貴明さん……」



――神様。もし本当にこの世界にいるのでしたら、どうか聞いてください…………
いづれ別れの時はやって来る。でも、いつかまた出会えるときが来る…………

だから…………


「天国を、ふたつにわけないでください」


貴明一向は皆、己のこころの奥底でそれぞれ誰の耳に聞こえることなく、そう呟いたのだった。

583 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 13:02:35 ID:YC4yZi4s
【時間:2日目・18:00前】
【場所:G−4・5境界】

河野貴明
 【装備品:ステアーAUG(30/30)、フェイファー ツェリザカ(5/5)、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】
 【所持品:ステアーの予備マガジン(30発入り)×2、フェイファー ツェリザカの予備弾(×10)】
 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー化、境界へ】
 【備考】
  ※イルファの亡骸を背負っています
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物、抹殺対象と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物、抹殺対象と認識しました
  ※聖、ことみの死については杏が未だ話していないので知りません

観月マナ
 【装備:ワルサー P38(残弾数5/8)】
 【所持品1:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、他支給品一式】
 【所持品2:SIG・P232(0/7)、貴明と少年の支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲。教会へ】
 【備考】
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました

久寿川ささら
 【所持品1:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、支給品一式】
 【所持品2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)、教会へ】
 【備考】
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました

584 ココニイルトイウコト(後編) :2007/03/02(金) 13:03:04 ID:YC4yZi4s
藤林杏
 【装備:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×27】
 【所持品:予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書×3(国語、和英、英和)、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、支給品一式】
 【状態:健康、教会へ】
 【備考】
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました

ほしのゆめみ
 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:休憩中、胴体に被弾、左腕が動かない】
 【備考】
  ※左腕が動かないので両手持ちの武器が使えません
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました

ボタン
 【状態:健康、杏たちに同行、教会へ】



【その他備考】
※珊瑚ならゆめみを修理できるかもしれません
※イルファの左腕は肘から先がありません

585 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:06:53 ID:FbNVbNcI
リサ=ヴィクセンは美坂栞を連れて診療所を離れた後、村の中を街道沿いに歩いていた。
しきりに辺りを警戒しながら前を行くリサに、栞が話し掛ける。
「これからどうするんですか?」
「……少し時間が必要よ。まずは落ち着ける場所を探しましょう」

宗一の死で全ての歯車が狂ってしまった。
現状では主催者を倒す為の戦力が圧倒的に不足している。
はっきり言って、このまま策も無しに動き続けても勝算は皆無だ。
まずは作戦を練り直す必要があった。

そんな時である。
リサが突然斜め後ろの方へと振り向いたのは。
女―――宮沢有紀寧が、女優顔負けの完璧な笑顔で歩いてきたのは。







586 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:08:19 ID:FbNVbNcI

「なんて酷い事に……」
「ええ……正直、参ったわ」
「何て言えば良いか分かりませんが……とにかく、お悔やみ申し上げます……」
リサが宗一の死について話すと、有紀寧はまるで自分の事のように表情を大きく曇らせた。
有紀寧は先程からこの調子で、人が死んだ話を聞く度に深い悲しみを見せていた。
自分達以外にもゲームの破壊を企てている人間達がいる事を伝えると、パッと極上の笑顔を浮かべる。
美坂香里の死については、栞を何度も慰めていた。
あの感情の機微を殆ど見せなかった弥生とは全く違う。
そのような有紀寧の様子は、リサと栞の信用を勝ち取るに十分であった。

「それで―――脱出の段取りはどのように?」
有紀寧が真剣な面持ちで尋ねてくる。
リサは申し訳無さそうな顔をしてから、紙を取り出して現状を書き綴った。

・会話は全て盗聴されている事
・エディが死んでしまった以上、首輪を解除し得るだけの技術を持った人物には心当たりが無い事
・つまり、今の所―――脱出の足掛かりさえ掴めていない事

これらの内容を書いた紙を見せると、有紀寧は難しい顔をしたまま考え込み始めた。
きっと必死に脱出の術を探しているのだろう。
リサはパチッと音を立てながら爪を噛み締めた。

587 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:10:40 ID:FbNVbNcI
こんな少女でさえ健気に頑張っているのに―――自分はこれまで、何を築き上げてきた?
ただ悪戯に仲間の死体の数を増やしてきただけではないか。
(……は……トップエージェントが、聞いて呆れるわね……)
肩を竦めて心の中で自嘲気味に呟いた。
「リサさん……」
自分を責めているリサを気遣って栞が声を掛けようとする。
だがそこで三回目となる、絶望を告げる放送が始まった。


リサが祐一の死を隠し続けてきたのは、逆効果だったとしか言いようが無い。
―――栞が、第三回放送を耳にした時に感じたもの。
抗いようの無い無限の喪失感。
自分の中で、人が生きていくのにとても大事な何かがガラガラと音を立てて崩れ去ってゆく。
「ゆ……うい……ち……さん」
相沢祐一の笑顔を思い出す。
余命いくばくも無い状態で姉にも避けられ、直ぐにでも砕けてしまいそうだった自分の心を救ってくれた人。
大好きだったあの人は、もうこの世にいない。
栞は床に崩れ落ちて、死人のような瞳で、虚空に視線を漂わせた。

588 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:12:22 ID:FbNVbNcI


―――リサが、第三回放送を耳にした時に思った事。
観鈴を自分達に託して出発したあの勇ましい青年、国崎往人が死んだ。
また一人、ゲームを破壊する為の貴重な戦力と成り得る人物がいなくなってしまった。
彼だけでは無く、見知らぬ多くの人間達も命を落としてしまっている。
「宗一……。私どうすれば、良いの……」
絶望的な現実に打ちのめされて、リサは地に伏した。
残り人数は約三分の一。
死人の出るペースから考えれば、殺戮者達は未だ健在だろう。
この状況で主催者を倒す?……馬鹿な。
最早ゲームの破壊どころか―――この事態を引き起こしたマーダー達の殲滅すら、成せるかどうか危うい状況である。


そして―――絶望感に苛まれるリサに掛けられる声。
「どうすればいいか―――簡単ですよ。ゲームに乗れば良いんです」
それは紛れも無い、人の皮を被った悪魔の囁きだった。 
「―――――!?」
リサが驚愕に顔を上げると、有紀寧が見下ろすように立っていた。
心優しい純真な少女の笑みを、その顔に貼り付けたままで。
しかしその唇の動きと共に発せられる言葉は。
「優勝すれば願いが叶えられるんでしょう?だったら参加者全員殺した後に、優勝者への褒美でこのゲームを無かった事にすれば良いじゃないですか。
出来もしない脱出を馬鹿みたいに夢見ているより、そちらの方が余程現実的です。私は何か間違った事を言っていますか?」
数多の戦場を渡り歩いたリサですらも寒気を覚えるくらい、非情なものだった。

589 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:13:52 ID:FbNVbNcI
次の瞬間、リサは動いた。
「ふざけないでっ!」
目にも留まらぬ、文字通り常人には目視も困難な速度でトンファーを振り下ろす。
トンファーは有紀寧の頭上、後数センチで彼女の頭に達そうかという所で停まった。
「貴女何を考えてるの?次そんな事を言ったら……」
「次そんな事を言ったら何ですか?もしかして、殺すと仰るつもりですか?」
「Yes。私はゲームに乗った『悪』相手には容赦しないわ」
殺気を剥き出しにして、射殺すような目で警告する。
しかし有紀寧は余裕の表情を崩さなかった。

「―――何を勘違いしているんですか?この島での殺人に善悪などありません」
「戯言を……。罪の無い人を襲う―――これが『悪』じゃなきゃ、何が悪だっていうの?」
「そうですね……強いて言うなら、『悪』とは貴女のような、現実から逃げている人の事ではないでしょうか」
「……私が現実から逃げてる?」
「ええ。ゲームに乗った方達も、元から悪い人という訳では無かったでしょう。自分なりに目的を持って、仕方なくその道を選んだんだと思います。
それが間違っている事だと言い切れますか?」
「…………っ」
リサは答えに窮し、沈黙した。
確かに有紀寧の言い分の方が正しいかも知れない。
醍醐や篁はともかく、他の参加者達の殆どは名前も聞いた事の無い一般人だった。
彼らの中にゲームに乗った者がいたとしても、それは自ら望んでの事ではないだろう。
ある者は生き延びる為に、ある者は大切な人を生き返らせる為に、否応無しにゲームに乗っただけなのだ。
彼らを『悪』と断定する権利が、自分にあるのだろうか?
エージェントとして仕事を行う上で、何人もの敵を殺してきた自分に。

590 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:15:32 ID:FbNVbNcI
「そして、冷静に考えれば分かる筈です。今からゲームの破壊を目論むのと、優勝への褒美がブラフで無い可能性に賭けてゲームに乗る。
どちらの勝算が高いかという事くらい」
「…………」
「自らの手を汚してでも現実を直視して懸命に戦っている方々と、自分だけ綺麗なままで居続けようと現実から逃げているリサさん。
さて、『悪』いのはどちらでしょうね?」
有紀寧は揶揄するような調子を混ぜて、自信満々に言い放った。
対するリサはトンファーを投げ捨て、代わりにM4カービンを取り出して、それを有紀寧に向ける。

「貴女の言うとおり、ゲームの破壊は絶望的よ。でも―――私がゲームに乗ったら……最初に死ぬのは貴女よ」
「分からない人ですね……良いですか?こんな事言うまでも無いと思いますが、一人より二人の方が有利です。
つまりリサさんと私が協力して勝ち残れば良いんですよ。最終的に同じ志を持った人間の中の誰かが生き残れば、それで良いんですから」
「お生憎様、私はそんなに弱くないわ。その気になれば一人でも勝ち残ってみせる」
それは地獄の雌狐としての、絶対の自信。
だが有紀寧は超一流エージェントのその自信を、一笑に付した。
「何が可笑しいの!?」
「これでは宗一さんという方も浮かばれませんね。その油断と慢心が宗一さんを失う原因となったんですよ」
「―――――!」
「いいですか?二人で行動すれば交代で休憩も取れるし、私も銃を持っていればリサさんの援護くらいは出来ます。
それに、こう言ってはなんですが……貴女は甘すぎます。私が貴女の立場なら、もうこの場で栞さんを撃ち殺していますよ?」
「―――え……?」
リサは意味が分からず呆然となった。
何度か頭の中で有紀寧の言葉を反芻して、栞を殺せと言っている事に気付き、憤慨した。

「どうしてっ!?栞は関係無いじゃない」
「ええ、優勝する為には関係の無い……只の足手纏いですね。そんな人間はここで切り捨てるべきです。
ここで栞さんを殺せなければ、貴女はきっとまた躊躇う。無抵抗の人間を殺す事など永久に不可能でしょう」
一旦言葉を切ると、有紀寧は真剣な表情をして、告げた。
「選んでください。ここで栞さんを殺して、私と組んで勝ち残るか。それとも偽善を掲げて、誰も救えないままに野垂れ死ぬかを。
選択肢は二つ―――他に道はありません」

591 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:16:45 ID:FbNVbNcI
優勝……優勝すればやり直せる。
宗一の推理が間違っていなければ褒美の話はブラフでは無い。
誰も救えなかった自分にとって、それはどうしようもなく魅力的な話だ。
それでも―――リサの脳裏に浮かぶ、柳川と交わしたあの約束。
『私もあなたと同じよ。栞は絶対に守るわ。』
それが、リサの決壊寸前の堤防をぎりぎりの所で支えていた。

「私は栞を守るって決めたの。絶対に……それだけは譲れないわ」
「妄言を……。主催者は倒せない、栞さんは殺せない。ではどうなさるおつもりですか?まさか漫画のように都合良く、奇跡が起こるとでも?」
「……きっと……諦めなければきっと……奇跡だって起こせ……」
途切れ途切れになる言葉を懸命に繋げながら、なおもリサは反論しようとしていた。
冷徹なエージェントとして何をすべきか、自分の中でもう結論が出ているのに、だ。
だがそれ以上彼女が話を続ける事は無かった。

理想と現実―――その狭間で苦しんでいるリサ。
今も戦い続けている彼女を、暖かい感触が包み込む。
栞がその小さい体で、リサを優しく抱き締めていた。
「―――リサさん」
「……栞」
栞は小刻みに震えるリサの肩を掴んで僅かながら距離を離した。

592 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:18:11 ID:FbNVbNcI
顔を向き合わせながら、全てを受け入れた悲しい笑顔で栞が口を開く。
「起こらないから、奇跡って言うんですよ。それに―――」
栞は一瞬言葉を切らして、息を吸い込んでから続ける。
「奇跡が起こっても、私はもう駄目なんです。祐一さんもお姉ちゃんもいない世界で生きていくなんて嫌です。
だったら私はもう一つの可能性に賭けます。リサさんが優勝して、みんなを生き返らせてくれる可能性に」
栞はリサの腕を取って、M4カービンの銃口を自分の胸に突き当てた。
リサの体も、栞の体も、ガクガクと揺れていた。
「うあ……あああ……」
「お願いします……。勝って……お姉ちゃんと祐一さんを……」
栞は恐怖に震えながらも、リサの指を引き金に掛けさせる。
「し……おり…………」
リサが無意識のうちに目の前の少女の名前を紡ぐ。

―――死んだらどうなっちゃうんだろう。
―――お姉ちゃんと祐一さんにまた会いたいな……。
そんな事を考えながら、栞はリサの人差し指を押した。

「うああっ……ああああああっ!!」
銃声と共にリサの悲痛な絶叫がこだまする。
胸を貫かれた栞はドサリと、仰向けに崩れ落ちた。
赤く濁った液体が地に広がってゆく。
目を閉じ、笑顔のままで。
―――栞はもう、動かなかった。

リサは一目散に栞の体に駆け寄ろうとしたが、その背中を呼び止められる。
「あらあら、栞さんのお気持ちを無駄にするつもりですか?栞さんはリサさんに優勝して貰いたくて、自分からその命を差し出したんですよ?
それなのにリサさんがまだ甘い感情を捨てきれないのなら―――栞さんは本当に無駄死にですね」
その言葉でリサはピタリと動きを止めた。
それから壊れた機械のようにゆっくりと、有紀寧の方へ振り返る。

593 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:19:27 ID:FbNVbNcI
「……OK。貴女のお望み通りゲームに乗りましょう」
答えるリサ……その瞳から色は消え去っていた。
どんな感情も、もうそこからは読み取れない。
「でもね、私は貴女を信用していない。最後の二人になったら……貴女も殺すわ。本気になった地獄の雌狐の実力―――たっぷりと、見せてあげる」
今有紀寧の眼前にいるのは、もう数分前までのリサ・ヴィクセンではない。
目的の為なら躊躇無く手を汚す事の出来る、宗一と出会う前の復讐の亡者だった。
「―――ご自由に」
その亡者に、悪魔が一際大きな笑みを浮かべて答えた。


―――有紀寧は掌に付着した汗を、ポケットの中で拭き取っていた。
これは有紀寧にとってもかなり危険な賭けだった。
栞を人質にしてリサを隷属させる、というのが当初の作戦であった。
しかし、である。
リサの能力は正直予想以上だった。
話してみて分かったが、リサは強いだけで無く頭も切れる。
栞の首輪爆弾を作動させるくらいは出来るかもしれないが後が続かないだろう。
そんな事をすれば確実に組み伏せられ、武器を奪い取られる。
リサは間抜けでは無い……解除は自分しか出来ないと嘘を吐いても欺けまい。

だから嘘をほぼ用いぬ方法で説得するしか無かった。
今回有紀寧は殆ど嘘を付いていない。
主催者の打倒よりも優勝を目指す方が現実的なのは疑いようも無い事実。
リサが優勝を目指すべきだと思っているのも本当だし、一人より二人よりの方が勝利に近付けるというのも真実だった。
リサが戦っている最中は、自分の身が危機に瀕しない範囲で援護だってするつもりだ。
もっとも―――

594 最悪の出会い(後編) :2007/03/03(土) 13:20:37 ID:FbNVbNcI
「私は優勝者への褒美なんて夢見事、信じていませんけどね」
小さく呟く。
自分は要らぬ事を口にしていないだけだ。
これからはリサが積極的に参加者を襲うように仕向け、自分はサポートに徹する。
いくらリサといえども前線で戦い続ければ傷付いてゆく筈。
頃合を見て残り人数が僅かになった時に、消耗したリサを後ろから撃ち殺せば良い。
当然ながらリサも警戒しているだろうから、騙し合いの勝負にはなるだろう。
しかしリサやその他の猛者達とまともにやり合うよりは、遥かに勝ち目のある戦いだった。

―――地獄の雌狐、悪魔の策士。
その二人が、それぞれの目的を果たす為に手を組んでしまった。

【時間:2日目・18:10頃】
【場所:I-7】

宮沢有紀寧
【所持品①:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品②:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、マーダー、自分の安全が最優先だが当分はリサの援護も行う、リサを警戒】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾28、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:マーダー、目標は優勝して願いを叶える。有紀寧を警戒】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:死亡】

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595 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:21:01 ID:rdS.kel6

立っていられるはずがない、と柏木楓は思う。
与えた傷は文字通りの致命傷となっている、はずだった。
血の海で死を待つはずの獲物は、だが、笑んでいた。

「あー……血ィ流れてる」

けたけたと、笑っている。
ゆらゆらと風に揺らめく白い特攻服が、血染めの緋色に変わっていく。
相手にするな。放っておけ。理性が告げる。
あれだけの出血だ、しばらくすれば野垂れ死ぬ。
それが常識的な判断というものだった。
しかし柏木楓の、狩猟民族としての本能は、まったく別の回答を提示していた。
即ち、戦闘はいまだ続いている、と。
だから、素直に言葉が出た。

「……何故、動けるんです」
「んー……?」
「人間が、その傷で立っていられるはずがないのに……」

率直に、訊ねる。
不可解を残したまま殺すには、この相手は些か奇矯に過ぎた。
答えは、明快だった。

「なァに言ってんの、あんた」
「……」
「関東無敗の湯浅皐月さんがさあ……斬られた程度で、くたばれないでしょ?
 常識で考えろ、って。あー、クラクラしてきた……」

言ってまた、けたけたと笑う。
理由もなく、根拠もなく、ただ理不尽に、少女は立っていた。
精神論というにはあまりに幼く、我慢と呼ぶには度を越している。
そういうものを何と呼びならわすか、楓は心得ていた。

「……見上げた根性ですね」

共有できない概念、理解できない情念。
それが少女の原動力だというならば、疑念の霧は晴れた。

 ―――この少女はやはり、柏木梓と同じ類の生き物だ。

596 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:21:41 ID:rdS.kel6
ならば、採るべき道は一つだった。
楓は真紅の瞳を細めると、右の手を握り、開く。
折れた指の骨は、既に繋がりかけていた。

「……終わるまで、やるだけです」
「へえ」

獲物の声が、低くなる。

「上等切ってくれんじゃん。……やってみなよ」

答えず、す、と身を低くする。
撓めた身体に、音速の壁を越える力が蓄えられていく。
視界が、クリアになる。
音を超える世界に、意識がシフトしていく。
生垣から垂れ落ちる水滴の一粒一粒を、認識できる世界。
ヒトの踏み入れること能わざる、神速の領域。
確殺の意思を込めて、真紅の爪が鳴く。
宙空を、駆けた。

鮮血に塗れ、なお立つ獲物の姿が、迫る。
薙ぎ、刻み、切り払うべく、必殺の爪を繰り出す。
刹那という単位。
瞬きすらも叶わぬ、絶対時間。
その中で。

「―――!?」

立ち尽くし、狩られるだけの獲物が、ニヤリと顔を歪めたのである。
ぷう、と獲物の口が、膨らんだ。
爪の間合いに飛び込むよりも、文字通りの一瞬だけ早く、視界が暗転した。
べしゃりとした気色の悪い感触が、楓の顔一面に広がる。

「……ッ!?」
「―――ォォォォオオオオオッ!!」

咆哮が、楓の耳を震わせた。
獲物が咥内に溜めていた血を噴いたのだ、と。
理解するよりも早く、風を感じた。
失われた視界の中で、楓は確信する。

 ―――これは、拳だ。拳の迫る、風だ。

カウンター。
正確な軌道。間違いなく顔面を直撃すると、楓はどこか他人事のように考える。
神速の突撃は、敵の拳にも同等にその恩恵を与えていた。
頭蓋の破壊さえ避けられれば再生は可能か、とまで思考したところで。
黒一色の視界が、白く染め上げられた。

通常を超過した認識速度が、鼻骨の潰れる感触と上顎骨の砕ける音、折れた前歯が舌を裂き、
咥内に刺さる瞬間の痛みまでを、正確に伝えてきた。
極端な慣性に揺られた脳が、一瞬意識を落とす。

597 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:22:22 ID:rdS.kel6
楓の意識が再起動したのは、受身もとれぬまま背中からアスファルトに落下し、肘や膝、腰、
その他各部の関節を巻き込んで盛大に痛めつけながら転がっている最中だった。
瞬間、天地を認識。重心を制御して、強引に回転を止める。
袖で乱暴に目を拭い、片膝をついたまま、見上げた。

「……くくっ」

いまだ霞む視界の中、獲物は、湯浅皐月と名乗った少女は、やはり笑っていた。

「……惜しいなあ、惜しい」

呟いて笑う、皐月の拳は完全に砕けていた。
音速を超過する一撃、鬼である楓の顔面を砕くほどの衝撃である。
反作用に人体が耐えられるはずもないと、楓は分析する。
しかし肉が裂け、骨すら覗く拳を事も無げに振って、皐月は続ける。

「もう少しだったんだけどなあ……この妙なナイフさえなけりゃ、決まってた」

言いながら、太股に手をやる皐月。
そこには、鈍色に煌く巨大なナイフが、深々と刺さっていた。
はっとして、楓は己の脚に目をやる。
果たして、そこに取り付けられていた器具から伸びるフレームが折れ、ナイフが一つ失われていた。
残る三つのナイフが、まるで楓に気づいてもらえたことを喜ぶように小さく揺れている。

「完璧なカウンターだったんだけどなあ……こいつが刺さった分、踏み込みが浅くなっちまった。
 ……便利なもん、持ってるじゃないの」
「……そうですね」

すっかり存在を忘れていた、とは口にしなかった。
それを言えばまた目の前の少女に笑うのだろうし、何より、おそらくは命を救ってくれたのであろう
ナイフたちが悲しむような気がしていた。

 ―――ナイフが悲しむ、なんて。

ひどく非論理的なことを考えている自分に苦笑する。
口元を歪めようとして、上顎が砕けていることに気づいた。
舌先で、咥内に刺さった歯の欠片を取り除く。
溜まった血ごと、吐き捨てた。

598 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:23:00 ID:rdS.kel6
「へえ、随分と男前になったじゃん。感謝してよ」
「……それは、どうも」

拭ったそばからじくじくと染み出す血に辟易しながら、楓が返す。
再生は既に始まっているが、折れた歯が生えてくるまでにはしばらく時間がかかるだろう。
それまでの自分の顔を想像しようとして、楓は強引に思考を止める。
代わりに黙って潰れた鼻をつまむと、軽く握った。
鼻腔に溜まっていた鼻水と血が、噴き出す。

「うわ、すげえ顔」
「……」

ふと見れば、白いワイシャツの両の袖口が、すっかり赤く染まっていた。
じっとりと血を吸ったそれを、楓は無造作に破り取る。
白い肌が、肩口までさらけ出された。

「……やる気じゃん。そうこなくっちゃあ、ね」

ニヤリと笑って、皐月は己の太股に刺さったナイフを、何の躊躇もなく引き抜いた。
鮮血が、噴き出す。

「大腿動脈が裂けているようですが……?」
「知らないよ、そんなの」

呆れたような楓の言葉に、軽く肩をすくめて皐月が答える。

「生き汚いですね」
「どこの星の言葉よ、それ。お互い様でしょーが」
「……違いありません」

小さく、楓が笑った。
白い肌を血に染めて、端正な顔に幾つもの醜い傷痕を残して、楓が笑う。

「……いい女だね、あんた。一緒に暴走ってみたかったよ」
「きっと姉に止められます」
「そう、残念だね」
「ええ、残念です」

言葉が、途切れた。
ほんの一瞬だけ見つめあうと、二人は同時に動いていた。
ブロック塀に、アスファルトに、互いの血が飛び散っていた。

599 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:23:27 ID:rdS.kel6
神速は最早、自分のの専売特許とは言えなくなったと、楓は思考する。
どういう原理かはわからないが、皐月は神速の領域に反応していた。
理由を訊ねれば、きっと理不尽な答えが返ってくるのだろう。
常識を度外視して、あの女は生きている。
一撃の重さでは、あるいは皐月の方が自分を上回るだろう。
ならば、勝負をかけるべきは―――。

「……両手で十本、そして脚には三本の刃……!」

ぎ、と楓は歯を食い縛る。
左手も、鬼のそれへと変化させていた。
鬼の血に呑まれずに戦える時間には、限りがある。
圧倒的な手数をもって、飽和攻撃を仕掛けるが、勝利への筋道。
仕留めきれれば、

「私の、勝ちです……!」

疾駆が交差する一瞬、同時に十三の斬撃を叩き込む。
右上から五、左から胴を狙って五、左の脚はかち上げながら顔面を、そして軸足の右からの二本は、
間合いギリギリで相手の脚を削ぐ円の軌道。
十三すべてに手応えがあり、そして、

「浅い……!」

左の脚からフレームを伸ばし、手近なブロック塀に突き入れる。
アンカーの要領で、強引にブレーキをかけた。
同時に右の脚とフレームを地面に叩きつけて、即時反転。
視界の先では、腕を上げて顔面だけをガードした皐月が、同じように振り向いていた。
ズタズタに避けた腕と、新たに鮮血を零す右の脇腹を庇おうともしていない。
前屈みのまま、走り来る。

「……ゥラァァァッッ!!」

中手骨をさらけ出しながら、真紅に染まった拳が繰り出される。
咄嗟に脚のフレームの内、二本を緩衝材として翳す。
そこに裏から腕を交差させながら当てることで、防御と為す。

600 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:24:02 ID:rdS.kel6
「……ッ!」

相応の衝撃はあったが、止まった。
突進を止められた皐月が、右拳を突き出したまま、歯を剥く。

「けど、こっからどうするよ……ッ!」
「……両腕が、塞がっていたって……!」
「―――ッ!?」

右脚のナイフの内、一本は自由。
フレームが伸び、銀色の刃が走る。

「な……ッ!?」

深々と、ナイフが皐月の腹に刺さるかと見えた、瞬間。

「……こんな、もんでぇ……ッ!」

すんでのところで刃を止めていたのは、皐月の左手であった。
掌の真ん中に刃を突き刺したまま、掴み止めている。
だらだらと、鮮血がナイフを伝って零れ落ちた。

「ォォアアアアアッ!!」

咆哮と共に、ナイフがフレームごと引き千切られた。
ほぼ同時に、皐月の前蹴りが楓の腹を抉る。
ダメージにはならないが、強引に距離を開けられた。

「ハァ……ハァ……ッ、ふたぁ……っつ、めぇ……!」

ガラン、と重い音がして、皐月の手からナイフが落ちる。
常軌を逸したその生命力にも、楓は最早驚くことはなかった。
ナイフの一つで片手が潰せれば、安いものだ。
もっとも風穴が開いたくらいであの拳が止まるかどうかはわからないけれど、と内心で呟いて、
楓は再び加速する。

「死ぬまで、切り刻むだけです……!」
「上ッ、等ォォォッッ!!」

鮮血と咆哮を撒き散らしながら、湯浅皐月が天を仰ぐ。

601 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:24:53 ID:rdS.kel6
「こっから先、こっから先だ、あたしらの勝ち負けはッ!!」
「結末は変わりません……!」

仁王立ちの皐月に向かって、楓は疾駆する。
今や十二となった刃のすべてが、皐月を微塵に刻むべく、奔った。
バックハンド気味に、右の爪を叩きつける楓。
後ろにかわせば詰む状況、皐月は当然の如く、刃の嵐の中に身を投じてくる。
爪の届かない裏拳の甲、そこにぶつけるように、頭を投げ出す皐月。
硬質の皮膚に当たった額が、ぱっくりと割れた。
しかし流れ出す血を気にした風もなく、皐月は真っ直ぐに楓を見つめている。口元には、獰猛な笑み。
応えるように、楓は真紅の瞳を弓形に細める。
皐月の額で止められた右手の、その上から切り裂くようにして左の爪を落とす。
狙うのは一点、皐月の眼。
貫手の形に整えられた爪を、しかし皐月は瞬間的に身をずらし、肩で受けた。
皮膚を裂く感触にも、楓は苦々しげに表情を歪める。
肩を貫き、鎖骨を断った程度でこの女は、

「止められない……っ!」

瞬時に判断。
左右のフレームから伸びたナイフを、自分と皐月の間に割り込ませるように展開する。
十字に交差し、大鋏の様相を呈した二本のナイフが、皐月の胴を左右から襲う。
が、

「なんて……無茶な……!」

皐月は、それをかわそうとは、しなかったのである。
二本のナイフは、皐月の両の脇腹を、確かに刺し貫いていた。
刺し貫き、そして、ただそれだけのことだった。

602 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:25:16 ID:rdS.kel6
「―――つかまえぇ、たぁぁ……」

湯浅皐月は、臓腑を貫かれた程度で止まりはしなかった。
彼女の腕が、ズタズタに裂けて血に染まり、見る影も無い腕が、楓の右手を、跳ね上げていた。
離れなければ、と本能が警告を発するが、それは叶わない。

 ―――ナイフが……!

深く刺さったナイフとフレームが、二人を結び付けていた。
そして左手の爪は、いまだに皐月の肩に刺さっている。
密着した状態で、防ぐものとてない楓の視界を、皐月の笑みが塗り潰していく。

「死んだら―――」

声が、ひどく遠くに聞こえた。
衝撃と、流れ出る血と涙で、視界がブラックアウトする。
治りかけの鼻が、再び潰されていた。
渾身の頭突きを受けたのだと理解した瞬間、次の打撃が入っていた。

「ぐ……ぇ……」

左右の脇腹に、連打を受けていた。
腹が裂けるかとすら感じられる、痛撃。
身体を連結された状態では、吹き飛ぶことで衝撃を逃がすこともかなわない。
五臓六腑を貫通する地獄の痛みに、胃の内容物が血と共にせり上がってくる。

「―――死んだら化けて出ろッ、待っててやる……ッ!」

第三の打撃が、鳩尾に入っていた。膝が突き刺さっている。
下がった頭を上から押さえ込むように、首に腕が回された。
血反吐を吐き散らしながら、楓は己が回転しているのを感じていた。

「……ぁ……か……」
「これがあたしの―――、メイ=ストームだぁぁッッ!!」

首を支点として、皐月の背中側へと、投げ飛ばされようとしている。
遠心力で加重された、二人分の体重が、楓の頚骨を捻り上げていた。
ごぐり、と。
奇妙な音が響くのを、楓は感じていた。
頚骨が粉砕される音だと、理解していた。
体が動かない。脊椎で脳からの指令が遮断されている。
このまま叩きつけられれば確実に死ぬと、楓は正しく状況を読み取っていた。
そして、体が動かない以上、受身は取れない。
柏木楓は、死を覚悟していた。

603 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:25:34 ID:rdS.kel6

荒い呼吸が、住宅街に響いていた。
妙に濡れたような咳が、時折混じる。

「が……ハァッ、……ハァ……ッ、」
「くぁ……、ゲホ、ゲェ……ッ……」

血反吐と肉片が飛び散り、この世の地獄を思わせるその一角で、鮮血の少女たちは、
ゆっくりと立ち上がろうとしていた。

「ハァ……ッ、ハァ……畜生、……本当に、ゲホ……ッ、厄介な、ナイフだね……!」
「……そちら、こそ……ッ、命冥加……な、ことです……、が……ッ!」

重大な損傷に回復が追いつかないのか、反吐塗れの顔を歪めながら身を起こそうとする楓。
その脚に残っていたはずのナイフが、フレームの根元から折り砕けて転がっている。

「受身……代わりってか……! けど、もう次は……助けて、くれないよ……ッ!」
「充分、です……っ、あとは……、死に損ないを、片付ける、だけですから……っ!」

少女たちの瞳には、互いの影しか映っていない。
敵と認めた、ただその存在を打倒すべく、少女たちは立ち上がる。

「……こっから、だ……ッ!」
「……終わり、です……!」

だから周囲を埋め尽くす、無言の影に、少女たちは眼もくれずに走り出す。

「―――ォォォォオオオオオッッ!」
「―――ぁぁぁッ!」

光線が、奔った。
周囲の家を燃やす光線を、湯浅皐月が片手で打ち砕き、
街を灼かんとする光芒を、柏木楓が真紅の爪で薙ぎ払う。

少女たちの戦場に迷い込んだ介入者が、次々にその仮初めの命を散らしていく。
煌く光条をまるで舞台装置とみなすが如く、少女たちはただ互いの敵を滅するべく、物言わぬ人形達を蹂躙する。
街を鮮血に染め上げて、幾多の屍を積み上げて、そして二人は止まらない。

604 少女軍歌 :2007/03/04(日) 23:26:17 ID:rdS.kel6
 【時間:2日目午前11時前】
 【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)】

柏木楓
 【所持品:支給品一式】
 【状態:満身創痍・鬼全開】

湯浅皐月
 【所持品:『雌威主統武(メイ=ストーム)』特攻服、支給品一式】
 【状態:満身創痍・関東無敗】

砧夕霧
 【残り29548(到達0)】
 【状態:進軍中】

→690、704 ルートD-2

605 名無しさん :2007/03/04(日) 23:50:25 ID:rdS.kel6
修正です。
>>599 1行目、

>神速は最早、自分のの専売特許とは言えなくなったと、楓は思考する。



神速は最早、自分の専売特許とは言えなくなったと、楓は思考する。

へ修正します。申し訳ありません。

606 (空腹に)負けるな国崎往人! :2007/03/06(火) 00:53:46 ID:v5MNipJQ
先程少年との激闘を演じた国崎往人はあれから休みを取る事無く、神岸あかりと共に山越えを続けていた。
往人としてはあの厄介な少年を野放しにしておくのは非常に都合が悪い。援軍が来てくれたお陰で何とか命は繋いでいるものの、来てくれていなかったら確実に、そうコーラを飲むとゲップが出るくらい確実に死んでいた。
あの少年にかかっては観鈴や晴子の命などいくつあっても足りやしないだろう。
今度こそ、絶対に仕留めねばならないと往人は思った。
「はぁ、はぁ…く、国崎さん、待って下さい〜」
呼ばれて、ようやく往人はあかりが息も絶え絶えに着いて来ていることに気付いた。
「は、速すぎますよ…っ、痛…」
背中を押さえるあかり。手当てはしたものの所詮は応急手当の上にあかりは女の子だ。ついて来れなくて当然だ。
だのに『放っておいてさっさと行ってしまおう』という結論に達しなかったのはあかりが女性だということに起因していた。いくら外見が怖くても国崎往人も紳士なのである。
旅は道連れ世は情けというからな。
聞こえないように往人は呟くと、「少し休憩にするぞ」とぶっきらぼうに言って適当な木に身を預けてそのままずりずりと地面に腰を下ろした。歩き詰めだったために何とも言えない疲労感が妙に心地よい。
「ありがとうございます…ふぅ、つかれた…」
往人の対面にあかりが座り、ぐったりと頭を垂れる。余程体力を消耗していたのだろう。
普通に考えてあかりくらいの年の女の子なら今頃は布団の中で夢を見ている最中だ。
野外で寝ていたところ、幾度となく夜中に何を勘違いしたか市民が国家権力にテレチョイスして追いたてられた事のある往人なら(主にすぐ逃げるため)どこでも寝たり起きたりできるがあかりはそうはいくまい。
「浩之ちゃん…雅史ちゃん…それに他のみんなも…無事なのかな? 会いたいな…」
顔を上げないままあかりが言う。その声はいつもにも増して弱々しい。溜まりに溜まった疲労が精神に影響を及ぼしているのだろうと往人は思った。
これまでの会話でも一度も聞いていないが、恐らく放送でも死んだ友人はいるだろう。往人のほうはまだどの知り合いも放送では呼ばれていないが――これだけ時間が経っているのだ、誰かが死んでいても…
そこまで考えて、やめよう、と往人は思った。こんなことに頭を使うのは性にあってないからだ。あかりに何か声をかけてやろうかとも思ったが、同様にそういうことも苦手だ。
「…メシは食ったのか」
なので、取り敢えず健康の心配をしてやることにした。
あかりは少し顔を上げて力なく首を横に振った。
「なら、メシにするぞ。少しでも食って体力を回復しろ」

607 (空腹に)負けるな国崎往人! :2007/03/06(火) 00:54:46 ID:v5MNipJQ
そう言って、往人が元・月島拓也のデイパックからあるものを取り出す(実は食べ物類は神岸にあずけておいた。水はなくなったがな)。支給品のパンだ。本当はラーメンセットを食べたかったのだが生憎とお湯と器がない。
ちくしょう、まず補給すべきは○印の給湯ポットだな。
「二人分あるんだ。一応弁明しておくと、これはもらい物なんだからな。殺して奪い取ったわけじゃないぞ」
燃費の悪い往人にしてみればここでの食料の消費は痛いものがあったが何しろ自身も腹が減っていた。というか、今ようやく思い出した。
くそっ、思い出したら猛烈に腹が催促を始めたぞ。分かった分かった。今仕事を与えてやるから勘弁してくれ。
「…神岸の食料は?」
「一応あります。まだ全然食べてませんので」
「ならよし。いただきます」
「いただきます」
傷つき、ボロボロになった二人の遅すぎる食事。きっとお肌にはよろしくないに違いない。往人にはどうでもいい事だったが。
     *     *     *
腹には入れたものの、往人の腹はまだ催促を続けていた。
えーかげんにせーっちゅーねん、無駄に食料を浪費するのは避けたいんだよ、つーかパンは全部食っちまって後はレトルトのラーメンセットしかないんじゃい、我慢しやがれこんちくしょう。
「あの…国崎さん、大丈夫ですか? 目が虚ろになってますけど…私のパン、分けてあげましょうか?」
「マジか!?」
あかりの願ってもない提案に目をきゅぴーん! と光らせてあかりの肩を引っ掴む往人。
「は、はい…国崎さん、体力回復出来てなさそうだから」
うるさいよ、と言おうと思ったが国崎往人は空腹を満たせるならプライドをあっけなく捨てられる男なのである。
ビバ新たな食料。
差し出されたパンを満面の笑顔(と往人は思っている)で受け取ろうとしたが…
「――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください。
それでは、今までに死んだ人の名前を発表…します」

山中に、悪夢の放送が木霊する。

608 (空腹に)負けるな国崎往人! :2007/03/06(火) 00:55:14 ID:v5MNipJQ
【場所:E-06】
【時間:二日目午前6:00】

国崎往人
【所持品:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬10発、拓也の支給品(パンは全てなくなった、水もない)】
【状況:空腹、疲労はやや回復】
神岸あかり
【所持品:支給品一式(パン半分ほど消費)】
【状況:応急処置あり(背中が少々痛む)、疲労やや回復】

→B-10

609 撤退 :2007/03/07(水) 13:13:56 ID:se/HRpe6
絶句する高槻達。
誰も事態の移り変わりについていけなかった。
それも致し方ない事だろう。
気絶していた少女が何時の間にか起き上がっていて、冷静沈着極まりない戦いぶりでこの争いに終止符を打ったのだ。
更にその少女が青い色の宝石を天にかざすと、綺麗な球状の光がそこに吸い込まれていった。
少女は宝石をポケットに戻し、やれやれといった感じで肩を竦めた。
「全く今日は厄日かしら……。馬鹿みたいに強い奴に追っ掛け回されるわ、仲間になったと思った奴がゲームに乗っているわ、ホント最悪」
ぶつぶつと呟きながら、少女はポケットから何かを取り出した。
それは何箇所か噛んだ後がある、シイタケのような物だった。
その物体を口の中にいれ、もぐもぐと咀嚼する。
食べ終わると、少女はきょろきょろと周りを見渡した。
目に映ったのは、満身創痍という言葉がピッタリ当てはまる者達の姿。
皐月は小さく溜息をついてから、言った。
「……貴方達、何をボーっとしてるの?早く治療するなり、移動するなりした方が良いと思うけど?」
そのまま少女はつかつかと歩いて、S&W M60を拾い上げた。
そこでようやく他の者達も硬直が解けたのか、それぞれ行動を開始する。


「おいオッサン、平気かよっ!?」
「オッサン……じゃなくて、高槻だって……言ってんだろ……」
浩平が、今にも倒れそうな高槻を支えようとする。
高槻の服には無数の赤い染みが付着しており、眼の焦点も微妙に合っていない。
だが余裕が無いのは浩平も同じで、高槻の体重が圧し掛かった途端にバランスを崩しそうになる。
そのまま二人は不恰好に縺れ合いながら、郁乃の座っている車椅子の方へと歩いていった。

610 撤退 :2007/03/07(水) 13:15:28 ID:se/HRpe6
「郁乃ちゃん……郁乃ちゃんっ!」
高槻達が車椅子の傍まで来ると、七海が気絶している郁乃の体を揺すっていた。
「ぅ……」
やがて弱々しい声を上げて、ゆっくりと郁乃が目を開く。
「郁乃ちゃん、何処か痛くないですか?」
言われて郁乃は首の付け根あたりをさすった。
「ちょっとこの辺が痛いかな……ってそうだ、彰は!?あたし、あいつに襲われたのよ!」
そこで高槻が郁乃の肩を叩き、物言わぬ躯と化した彰を指差した。
「あいつ……死んだ……の?」
「ああ。最後は知らねえガキが決めやがった」
「そう……」
郁乃は少し沈んだ表情で、彰の死体を眺め見た。
たとえゲームに乗っていたとはいえ、人が死んだ事は悲しかった。
「あいつがゲームに乗ってたなんて……まだに実感が沸かないな……。とてもそんな風には見えなかったのに……」
浩平が暗い声でぼそぼそと呟く。

そんな折に、近付いてくる複数の足音が聞こえてきた。
歩いてきたのは、岡崎朋也と古河渚の両名だった。
朋也は両手で高槻達の荷物―――彰の命令で投げ捨てた装備品を抱えている。
「これ……お前達のだろ?」
朋也はそれを手渡そうとして―――受け取る余裕すら無さそうだったので、浩平と高槻の鞄に突っ込んだ。
それから少し目線を伏せて、言った。
「彰は多分、お前と一緒に居た時はゲームに乗ってなかったんじゃないか?あいつがゲームに乗ったのは二回目の放送からだと思うぞ。
あいつ―――俺達を襲った時に言ってたよ。ゲームに優勝して美咲さんを生き返らせるんだ、ってな……」
「そうだったのか……」
それを聞いて、浩平の心の中から疑問が消えた。
彰は澤倉美咲を何としてでも守りたい、と言っていた。
その美咲の死が第二回放送で発表された。
それを聞いた彰がどうするか―――冷静に考えれば、十分に予測しうる事態だった。

611 撤退 :2007/03/07(水) 13:17:08 ID:se/HRpe6
「んじゃ、俺達はそろそろ行くな」
「ちょっと待てよ。確か……岡崎だっけ。お互いゲームに乗ってない事は分かったんだし、一緒に行動しないか?」
立ち去ろうとする朋也に、浩平が提案を持ちかける。
だが朋也はゆっくりと首を横に振った。
「俺達は今から役場に行かないと駄目なんだ。お前達は怪我の手当てをしないといけないだろうし、一緒には行けない」
役場には、岡崎朋也という名前での書き込みを見た人間が来ているだろう。
銃声が聞こえてきてから、もうだいぶ時間が経過してしまっている。
間に合うかどうか分からないが、それでも行かなければならなかった。
朋也はそのままくるっと踵を返そうとする。
だがそこで、渚が朋也の裾を強く引っ張った。
「朋也君、ちゃんと言わないと駄目ですっ!」
「……そうだな」
朋也は高槻と浩平の方へ向き直って、それから軽く頭を下げた。
「その……悪かったな。お前達は悪くないのに襲っちまって……」
「けっ。ごめんで済んだら警察はいらねえって言いてえとこだが……俺達もまんまと騙されてたからな。特別に、チャラって事にしてやらあ」
高槻がそう言うと、朋也は少し微笑んでから「じゃあな」と手を振って歩き去った。


「―――私を殴った事はすっかり忘れてるみたいね……。ま、どうでもいいけどね」
言葉とは裏腹に少し不機嫌そうに呟くその少女の名は、湯浅皐月。
皐月はつかつかと高槻達の方に歩み寄った。
「七海、久しぶりね。怪我は無い?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そう。それじゃ行きましょうか」
「―――え?」
七海が目をパチクリさせる。

612 撤退 :2007/03/07(水) 13:19:28 ID:se/HRpe6
皐月は断りも入れずに郁乃の車椅子を押し始めた。
「ちょ、ちょっとあんた誰よ!?あたしを何処に連れて行く気!?」
「私は湯浅皐月……七海の知り合いよ。行き先は鎌石局。色々便利な物が置いてあったから、治療に使える物もあると思う」
皐月は半ば事務的に答えて、そのまま車椅子を押していく。
高槻と浩平は聞きたい事が色々あったが、体力的にまるで余裕が無いので黙って後をついてゆく。
そんな中、七海が皐月の横に並びかけた。
「あの……皐月さん」
「何?」
「なんかいつもと印象が違うんですけど……どうかしたんですか?」
七海は皐月とそれ程親しい訳ではない。
宗一と一緒に居る時に数回会った程度だ。
それでも今の冷静過ぎる皐月には、大きな違和感を覚えざるを得なかった。
普段とは言葉遣いも少し異なる。
何か……おかしかった。

皐月は黙ってごそごそと鞄の中を漁り出し、紙を七海に手渡した。
七海はそれをばっと広げて、音読し始める。
「『セイカクハンテンダケ』説明書:このキノコを食べると暫くの間性格が正反対になります。かなり美味ですので、是非ともご賞味下さい」







613 撤退 :2007/03/07(水) 13:20:14 ID:se/HRpe6
「いてて……少し無理し過ぎちまったな」
「岡崎朋也……大丈夫?」
みちるが朋也を気遣って声を掛ける。
高槻に比べればかなりマシではあったが、朋也もまた大幅に体力を消耗してしまっていた。
体の節々が痛み、気を抜くと転倒してしまいそうになる。
そんな朋也の様子を見かねて、秋生が唐突に言った。
それ