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避難用作品投下スレ

1管理人:2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

581ココニイルトイウコト(後編):2007/03/02(金) 13:01:28 ID:YC4yZi4s
「お待たせ。説明しようと思ったんだけど……」
「言わなくていいですよ貴明さん」
「え?」
「うん。全部聞こえていたし……」
「ぷぴっ!」
「な!?」
「行くんでしょ? 教会に……」
「…………うん」
俺は頷くと、イルファさんを背負い、彼女の遺品であるツェリザカをズボンに差し込んだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


教会までは道なりではなく、森林地帯の方を通っていくことにした。
このほうが敵に遭遇する確率も低いだろうし、万一遭遇しても、木々や茂みに身を隠すことが出来るからだ。

「暗くなってきましたね……」
空を見ながらゆめみが呟いた。
「そろそろ6時……3度目の放送の時間ね…………」
「2回目の放送の影響がどれだけ出たか……そこが問題ね」
「はい……」
「――みなさんは天国のことをどう思いますか?」
「え?」
「ぷぴ?」
突然ゆめみがそんなことを口にした。

582ココニイルトイウコト(後編):2007/03/02(金) 13:02:05 ID:YC4yZi4s
「ゆめみさん、突然なにを……」
「いえ……私も何故こんなこと言いたくなったのか判らないのですが、私やイルファさんのようなロボットでも皆さんと同じ天国に行くことが出来るのでしょうか、と思いまして……」
「う〜ん……どうなのかしら?」
「確かに『壊れる』という概念はあるだろうけど、本来機会に『死』なんて概念はないしねえ…………」
ゆめみの問いに杏やマナたちは難しそうな顔をする。
そんな一行に対して貴明は呟いた。
「いけるさ……イルファさんもゆめみも……」
「え?」
「たとえ人であろうとロボットだろうと、俺たちはこの世界に存在していることに代わりはない。
だから……きっといけるさ。みんな同じ場所に…………同じ天国に…………」
「貴明……」
「貴明さん……」



――神様。もし本当にこの世界にいるのでしたら、どうか聞いてください…………
いづれ別れの時はやって来る。でも、いつかまた出会えるときが来る…………

だから…………


「天国を、ふたつにわけないでください」


貴明一向は皆、己のこころの奥底でそれぞれ誰の耳に聞こえることなく、そう呟いたのだった。

583ココニイルトイウコト(後編):2007/03/02(金) 13:02:35 ID:YC4yZi4s
【時間:2日目・18:00前】
【場所:G−4・5境界】

河野貴明
 【装備品:ステアーAUG(30/30)、フェイファー ツェリザカ(5/5)、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】
 【所持品:ステアーの予備マガジン(30発入り)×2、フェイファー ツェリザカの予備弾(×10)】
 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー化、境界へ】
 【備考】
  ※イルファの亡骸を背負っています
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物、抹殺対象と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物、抹殺対象と認識しました
  ※聖、ことみの死については杏が未だ話していないので知りません

観月マナ
 【装備:ワルサー P38(残弾数5/8)】
 【所持品1:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、他支給品一式】
 【所持品2:SIG・P232(0/7)、貴明と少年の支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲。教会へ】
 【備考】
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました

久寿川ささら
 【所持品1:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、支給品一式】
 【所持品2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)、教会へ】
 【備考】
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました

584ココニイルトイウコト(後編):2007/03/02(金) 13:03:04 ID:YC4yZi4s
藤林杏
 【装備:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×27】
 【所持品:予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書×3(国語、和英、英和)、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、支給品一式】
 【状態:健康、教会へ】
 【備考】
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました

ほしのゆめみ
 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:休憩中、胴体に被弾、左腕が動かない】
 【備考】
  ※左腕が動かないので両手持ちの武器が使えません
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました
  ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました

ボタン
 【状態:健康、杏たちに同行、教会へ】



【その他備考】
※珊瑚ならゆめみを修理できるかもしれません
※イルファの左腕は肘から先がありません

585最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:06:53 ID:FbNVbNcI
リサ=ヴィクセンは美坂栞を連れて診療所を離れた後、村の中を街道沿いに歩いていた。
しきりに辺りを警戒しながら前を行くリサに、栞が話し掛ける。
「これからどうするんですか?」
「……少し時間が必要よ。まずは落ち着ける場所を探しましょう」

宗一の死で全ての歯車が狂ってしまった。
現状では主催者を倒す為の戦力が圧倒的に不足している。
はっきり言って、このまま策も無しに動き続けても勝算は皆無だ。
まずは作戦を練り直す必要があった。

そんな時である。
リサが突然斜め後ろの方へと振り向いたのは。
女―――宮沢有紀寧が、女優顔負けの完璧な笑顔で歩いてきたのは。







586最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:08:19 ID:FbNVbNcI

「なんて酷い事に……」
「ええ……正直、参ったわ」
「何て言えば良いか分かりませんが……とにかく、お悔やみ申し上げます……」
リサが宗一の死について話すと、有紀寧はまるで自分の事のように表情を大きく曇らせた。
有紀寧は先程からこの調子で、人が死んだ話を聞く度に深い悲しみを見せていた。
自分達以外にもゲームの破壊を企てている人間達がいる事を伝えると、パッと極上の笑顔を浮かべる。
美坂香里の死については、栞を何度も慰めていた。
あの感情の機微を殆ど見せなかった弥生とは全く違う。
そのような有紀寧の様子は、リサと栞の信用を勝ち取るに十分であった。

「それで―――脱出の段取りはどのように?」
有紀寧が真剣な面持ちで尋ねてくる。
リサは申し訳無さそうな顔をしてから、紙を取り出して現状を書き綴った。

・会話は全て盗聴されている事
・エディが死んでしまった以上、首輪を解除し得るだけの技術を持った人物には心当たりが無い事
・つまり、今の所―――脱出の足掛かりさえ掴めていない事

これらの内容を書いた紙を見せると、有紀寧は難しい顔をしたまま考え込み始めた。
きっと必死に脱出の術を探しているのだろう。
リサはパチッと音を立てながら爪を噛み締めた。

587最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:10:40 ID:FbNVbNcI
こんな少女でさえ健気に頑張っているのに―――自分はこれまで、何を築き上げてきた?
ただ悪戯に仲間の死体の数を増やしてきただけではないか。
(……は……トップエージェントが、聞いて呆れるわね……)
肩を竦めて心の中で自嘲気味に呟いた。
「リサさん……」
自分を責めているリサを気遣って栞が声を掛けようとする。
だがそこで三回目となる、絶望を告げる放送が始まった。


リサが祐一の死を隠し続けてきたのは、逆効果だったとしか言いようが無い。
―――栞が、第三回放送を耳にした時に感じたもの。
抗いようの無い無限の喪失感。
自分の中で、人が生きていくのにとても大事な何かがガラガラと音を立てて崩れ去ってゆく。
「ゆ……うい……ち……さん」
相沢祐一の笑顔を思い出す。
余命いくばくも無い状態で姉にも避けられ、直ぐにでも砕けてしまいそうだった自分の心を救ってくれた人。
大好きだったあの人は、もうこの世にいない。
栞は床に崩れ落ちて、死人のような瞳で、虚空に視線を漂わせた。

588最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:12:22 ID:FbNVbNcI


―――リサが、第三回放送を耳にした時に思った事。
観鈴を自分達に託して出発したあの勇ましい青年、国崎往人が死んだ。
また一人、ゲームを破壊する為の貴重な戦力と成り得る人物がいなくなってしまった。
彼だけでは無く、見知らぬ多くの人間達も命を落としてしまっている。
「宗一……。私どうすれば、良いの……」
絶望的な現実に打ちのめされて、リサは地に伏した。
残り人数は約三分の一。
死人の出るペースから考えれば、殺戮者達は未だ健在だろう。
この状況で主催者を倒す?……馬鹿な。
最早ゲームの破壊どころか―――この事態を引き起こしたマーダー達の殲滅すら、成せるかどうか危うい状況である。


そして―――絶望感に苛まれるリサに掛けられる声。
「どうすればいいか―――簡単ですよ。ゲームに乗れば良いんです」
それは紛れも無い、人の皮を被った悪魔の囁きだった。 
「―――――!?」
リサが驚愕に顔を上げると、有紀寧が見下ろすように立っていた。
心優しい純真な少女の笑みを、その顔に貼り付けたままで。
しかしその唇の動きと共に発せられる言葉は。
「優勝すれば願いが叶えられるんでしょう?だったら参加者全員殺した後に、優勝者への褒美でこのゲームを無かった事にすれば良いじゃないですか。
出来もしない脱出を馬鹿みたいに夢見ているより、そちらの方が余程現実的です。私は何か間違った事を言っていますか?」
数多の戦場を渡り歩いたリサですらも寒気を覚えるくらい、非情なものだった。

589最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:13:52 ID:FbNVbNcI
次の瞬間、リサは動いた。
「ふざけないでっ!」
目にも留まらぬ、文字通り常人には目視も困難な速度でトンファーを振り下ろす。
トンファーは有紀寧の頭上、後数センチで彼女の頭に達そうかという所で停まった。
「貴女何を考えてるの?次そんな事を言ったら……」
「次そんな事を言ったら何ですか?もしかして、殺すと仰るつもりですか?」
「Yes。私はゲームに乗った『悪』相手には容赦しないわ」
殺気を剥き出しにして、射殺すような目で警告する。
しかし有紀寧は余裕の表情を崩さなかった。

「―――何を勘違いしているんですか?この島での殺人に善悪などありません」
「戯言を……。罪の無い人を襲う―――これが『悪』じゃなきゃ、何が悪だっていうの?」
「そうですね……強いて言うなら、『悪』とは貴女のような、現実から逃げている人の事ではないでしょうか」
「……私が現実から逃げてる?」
「ええ。ゲームに乗った方達も、元から悪い人という訳では無かったでしょう。自分なりに目的を持って、仕方なくその道を選んだんだと思います。
それが間違っている事だと言い切れますか?」
「…………っ」
リサは答えに窮し、沈黙した。
確かに有紀寧の言い分の方が正しいかも知れない。
醍醐や篁はともかく、他の参加者達の殆どは名前も聞いた事の無い一般人だった。
彼らの中にゲームに乗った者がいたとしても、それは自ら望んでの事ではないだろう。
ある者は生き延びる為に、ある者は大切な人を生き返らせる為に、否応無しにゲームに乗っただけなのだ。
彼らを『悪』と断定する権利が、自分にあるのだろうか?
エージェントとして仕事を行う上で、何人もの敵を殺してきた自分に。

590最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:15:32 ID:FbNVbNcI
「そして、冷静に考えれば分かる筈です。今からゲームの破壊を目論むのと、優勝への褒美がブラフで無い可能性に賭けてゲームに乗る。
どちらの勝算が高いかという事くらい」
「…………」
「自らの手を汚してでも現実を直視して懸命に戦っている方々と、自分だけ綺麗なままで居続けようと現実から逃げているリサさん。
さて、『悪』いのはどちらでしょうね?」
有紀寧は揶揄するような調子を混ぜて、自信満々に言い放った。
対するリサはトンファーを投げ捨て、代わりにM4カービンを取り出して、それを有紀寧に向ける。

「貴女の言うとおり、ゲームの破壊は絶望的よ。でも―――私がゲームに乗ったら……最初に死ぬのは貴女よ」
「分からない人ですね……良いですか?こんな事言うまでも無いと思いますが、一人より二人の方が有利です。
つまりリサさんと私が協力して勝ち残れば良いんですよ。最終的に同じ志を持った人間の中の誰かが生き残れば、それで良いんですから」
「お生憎様、私はそんなに弱くないわ。その気になれば一人でも勝ち残ってみせる」
それは地獄の雌狐としての、絶対の自信。
だが有紀寧は超一流エージェントのその自信を、一笑に付した。
「何が可笑しいの!?」
「これでは宗一さんという方も浮かばれませんね。その油断と慢心が宗一さんを失う原因となったんですよ」
「―――――!」
「いいですか?二人で行動すれば交代で休憩も取れるし、私も銃を持っていればリサさんの援護くらいは出来ます。
それに、こう言ってはなんですが……貴女は甘すぎます。私が貴女の立場なら、もうこの場で栞さんを撃ち殺していますよ?」
「―――え……?」
リサは意味が分からず呆然となった。
何度か頭の中で有紀寧の言葉を反芻して、栞を殺せと言っている事に気付き、憤慨した。

「どうしてっ!?栞は関係無いじゃない」
「ええ、優勝する為には関係の無い……只の足手纏いですね。そんな人間はここで切り捨てるべきです。
ここで栞さんを殺せなければ、貴女はきっとまた躊躇う。無抵抗の人間を殺す事など永久に不可能でしょう」
一旦言葉を切ると、有紀寧は真剣な表情をして、告げた。
「選んでください。ここで栞さんを殺して、私と組んで勝ち残るか。それとも偽善を掲げて、誰も救えないままに野垂れ死ぬかを。
選択肢は二つ―――他に道はありません」

591最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:16:45 ID:FbNVbNcI
優勝……優勝すればやり直せる。
宗一の推理が間違っていなければ褒美の話はブラフでは無い。
誰も救えなかった自分にとって、それはどうしようもなく魅力的な話だ。
それでも―――リサの脳裏に浮かぶ、柳川と交わしたあの約束。
『私もあなたと同じよ。栞は絶対に守るわ。』
それが、リサの決壊寸前の堤防をぎりぎりの所で支えていた。

「私は栞を守るって決めたの。絶対に……それだけは譲れないわ」
「妄言を……。主催者は倒せない、栞さんは殺せない。ではどうなさるおつもりですか?まさか漫画のように都合良く、奇跡が起こるとでも?」
「……きっと……諦めなければきっと……奇跡だって起こせ……」
途切れ途切れになる言葉を懸命に繋げながら、なおもリサは反論しようとしていた。
冷徹なエージェントとして何をすべきか、自分の中でもう結論が出ているのに、だ。
だがそれ以上彼女が話を続ける事は無かった。

理想と現実―――その狭間で苦しんでいるリサ。
今も戦い続けている彼女を、暖かい感触が包み込む。
栞がその小さい体で、リサを優しく抱き締めていた。
「―――リサさん」
「……栞」
栞は小刻みに震えるリサの肩を掴んで僅かながら距離を離した。

592最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:18:11 ID:FbNVbNcI
顔を向き合わせながら、全てを受け入れた悲しい笑顔で栞が口を開く。
「起こらないから、奇跡って言うんですよ。それに―――」
栞は一瞬言葉を切らして、息を吸い込んでから続ける。
「奇跡が起こっても、私はもう駄目なんです。祐一さんもお姉ちゃんもいない世界で生きていくなんて嫌です。
だったら私はもう一つの可能性に賭けます。リサさんが優勝して、みんなを生き返らせてくれる可能性に」
栞はリサの腕を取って、M4カービンの銃口を自分の胸に突き当てた。
リサの体も、栞の体も、ガクガクと揺れていた。
「うあ……あああ……」
「お願いします……。勝って……お姉ちゃんと祐一さんを……」
栞は恐怖に震えながらも、リサの指を引き金に掛けさせる。
「し……おり…………」
リサが無意識のうちに目の前の少女の名前を紡ぐ。

―――死んだらどうなっちゃうんだろう。
―――お姉ちゃんと祐一さんにまた会いたいな……。
そんな事を考えながら、栞はリサの人差し指を押した。

「うああっ……ああああああっ!!」
銃声と共にリサの悲痛な絶叫がこだまする。
胸を貫かれた栞はドサリと、仰向けに崩れ落ちた。
赤く濁った液体が地に広がってゆく。
目を閉じ、笑顔のままで。
―――栞はもう、動かなかった。

リサは一目散に栞の体に駆け寄ろうとしたが、その背中を呼び止められる。
「あらあら、栞さんのお気持ちを無駄にするつもりですか?栞さんはリサさんに優勝して貰いたくて、自分からその命を差し出したんですよ?
それなのにリサさんがまだ甘い感情を捨てきれないのなら―――栞さんは本当に無駄死にですね」
その言葉でリサはピタリと動きを止めた。
それから壊れた機械のようにゆっくりと、有紀寧の方へ振り返る。

593最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:19:27 ID:FbNVbNcI
「……OK。貴女のお望み通りゲームに乗りましょう」
答えるリサ……その瞳から色は消え去っていた。
どんな感情も、もうそこからは読み取れない。
「でもね、私は貴女を信用していない。最後の二人になったら……貴女も殺すわ。本気になった地獄の雌狐の実力―――たっぷりと、見せてあげる」
今有紀寧の眼前にいるのは、もう数分前までのリサ・ヴィクセンではない。
目的の為なら躊躇無く手を汚す事の出来る、宗一と出会う前の復讐の亡者だった。
「―――ご自由に」
その亡者に、悪魔が一際大きな笑みを浮かべて答えた。


―――有紀寧は掌に付着した汗を、ポケットの中で拭き取っていた。
これは有紀寧にとってもかなり危険な賭けだった。
栞を人質にしてリサを隷属させる、というのが当初の作戦であった。
しかし、である。
リサの能力は正直予想以上だった。
話してみて分かったが、リサは強いだけで無く頭も切れる。
栞の首輪爆弾を作動させるくらいは出来るかもしれないが後が続かないだろう。
そんな事をすれば確実に組み伏せられ、武器を奪い取られる。
リサは間抜けでは無い……解除は自分しか出来ないと嘘を吐いても欺けまい。

だから嘘をほぼ用いぬ方法で説得するしか無かった。
今回有紀寧は殆ど嘘を付いていない。
主催者の打倒よりも優勝を目指す方が現実的なのは疑いようも無い事実。
リサが優勝を目指すべきだと思っているのも本当だし、一人より二人よりの方が勝利に近付けるというのも真実だった。
リサが戦っている最中は、自分の身が危機に瀕しない範囲で援護だってするつもりだ。
もっとも―――

594最悪の出会い(後編):2007/03/03(土) 13:20:37 ID:FbNVbNcI
「私は優勝者への褒美なんて夢見事、信じていませんけどね」
小さく呟く。
自分は要らぬ事を口にしていないだけだ。
これからはリサが積極的に参加者を襲うように仕向け、自分はサポートに徹する。
いくらリサといえども前線で戦い続ければ傷付いてゆく筈。
頃合を見て残り人数が僅かになった時に、消耗したリサを後ろから撃ち殺せば良い。
当然ながらリサも警戒しているだろうから、騙し合いの勝負にはなるだろう。
しかしリサやその他の猛者達とまともにやり合うよりは、遥かに勝ち目のある戦いだった。

―――地獄の雌狐、悪魔の策士。
その二人が、それぞれの目的を果たす為に手を組んでしまった。

【時間:2日目・18:10頃】
【場所:I-7】

宮沢有紀寧
【所持品①:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品②:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、マーダー、自分の安全が最優先だが当分はリサの援護も行う、リサを警戒】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾28、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:マーダー、目標は優勝して願いを叶える。有紀寧を警戒】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:死亡】

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595少女軍歌:2007/03/04(日) 23:21:01 ID:rdS.kel6

立っていられるはずがない、と柏木楓は思う。
与えた傷は文字通りの致命傷となっている、はずだった。
血の海で死を待つはずの獲物は、だが、笑んでいた。

「あー……血ィ流れてる」

けたけたと、笑っている。
ゆらゆらと風に揺らめく白い特攻服が、血染めの緋色に変わっていく。
相手にするな。放っておけ。理性が告げる。
あれだけの出血だ、しばらくすれば野垂れ死ぬ。
それが常識的な判断というものだった。
しかし柏木楓の、狩猟民族としての本能は、まったく別の回答を提示していた。
即ち、戦闘はいまだ続いている、と。
だから、素直に言葉が出た。

「……何故、動けるんです」
「んー……?」
「人間が、その傷で立っていられるはずがないのに……」

率直に、訊ねる。
不可解を残したまま殺すには、この相手は些か奇矯に過ぎた。
答えは、明快だった。

「なァに言ってんの、あんた」
「……」
「関東無敗の湯浅皐月さんがさあ……斬られた程度で、くたばれないでしょ?
 常識で考えろ、って。あー、クラクラしてきた……」

言ってまた、けたけたと笑う。
理由もなく、根拠もなく、ただ理不尽に、少女は立っていた。
精神論というにはあまりに幼く、我慢と呼ぶには度を越している。
そういうものを何と呼びならわすか、楓は心得ていた。

「……見上げた根性ですね」

共有できない概念、理解できない情念。
それが少女の原動力だというならば、疑念の霧は晴れた。

 ―――この少女はやはり、柏木梓と同じ類の生き物だ。

596少女軍歌:2007/03/04(日) 23:21:41 ID:rdS.kel6
ならば、採るべき道は一つだった。
楓は真紅の瞳を細めると、右の手を握り、開く。
折れた指の骨は、既に繋がりかけていた。

「……終わるまで、やるだけです」
「へえ」

獲物の声が、低くなる。

「上等切ってくれんじゃん。……やってみなよ」

答えず、す、と身を低くする。
撓めた身体に、音速の壁を越える力が蓄えられていく。
視界が、クリアになる。
音を超える世界に、意識がシフトしていく。
生垣から垂れ落ちる水滴の一粒一粒を、認識できる世界。
ヒトの踏み入れること能わざる、神速の領域。
確殺の意思を込めて、真紅の爪が鳴く。
宙空を、駆けた。

鮮血に塗れ、なお立つ獲物の姿が、迫る。
薙ぎ、刻み、切り払うべく、必殺の爪を繰り出す。
刹那という単位。
瞬きすらも叶わぬ、絶対時間。
その中で。

「―――!?」

立ち尽くし、狩られるだけの獲物が、ニヤリと顔を歪めたのである。
ぷう、と獲物の口が、膨らんだ。
爪の間合いに飛び込むよりも、文字通りの一瞬だけ早く、視界が暗転した。
べしゃりとした気色の悪い感触が、楓の顔一面に広がる。

「……ッ!?」
「―――ォォォォオオオオオッ!!」

咆哮が、楓の耳を震わせた。
獲物が咥内に溜めていた血を噴いたのだ、と。
理解するよりも早く、風を感じた。
失われた視界の中で、楓は確信する。

 ―――これは、拳だ。拳の迫る、風だ。

カウンター。
正確な軌道。間違いなく顔面を直撃すると、楓はどこか他人事のように考える。
神速の突撃は、敵の拳にも同等にその恩恵を与えていた。
頭蓋の破壊さえ避けられれば再生は可能か、とまで思考したところで。
黒一色の視界が、白く染め上げられた。

通常を超過した認識速度が、鼻骨の潰れる感触と上顎骨の砕ける音、折れた前歯が舌を裂き、
咥内に刺さる瞬間の痛みまでを、正確に伝えてきた。
極端な慣性に揺られた脳が、一瞬意識を落とす。

597少女軍歌:2007/03/04(日) 23:22:22 ID:rdS.kel6
楓の意識が再起動したのは、受身もとれぬまま背中からアスファルトに落下し、肘や膝、腰、
その他各部の関節を巻き込んで盛大に痛めつけながら転がっている最中だった。
瞬間、天地を認識。重心を制御して、強引に回転を止める。
袖で乱暴に目を拭い、片膝をついたまま、見上げた。

「……くくっ」

いまだ霞む視界の中、獲物は、湯浅皐月と名乗った少女は、やはり笑っていた。

「……惜しいなあ、惜しい」

呟いて笑う、皐月の拳は完全に砕けていた。
音速を超過する一撃、鬼である楓の顔面を砕くほどの衝撃である。
反作用に人体が耐えられるはずもないと、楓は分析する。
しかし肉が裂け、骨すら覗く拳を事も無げに振って、皐月は続ける。

「もう少しだったんだけどなあ……この妙なナイフさえなけりゃ、決まってた」

言いながら、太股に手をやる皐月。
そこには、鈍色に煌く巨大なナイフが、深々と刺さっていた。
はっとして、楓は己の脚に目をやる。
果たして、そこに取り付けられていた器具から伸びるフレームが折れ、ナイフが一つ失われていた。
残る三つのナイフが、まるで楓に気づいてもらえたことを喜ぶように小さく揺れている。

「完璧なカウンターだったんだけどなあ……こいつが刺さった分、踏み込みが浅くなっちまった。
 ……便利なもん、持ってるじゃないの」
「……そうですね」

すっかり存在を忘れていた、とは口にしなかった。
それを言えばまた目の前の少女に笑うのだろうし、何より、おそらくは命を救ってくれたのであろう
ナイフたちが悲しむような気がしていた。

 ―――ナイフが悲しむ、なんて。

ひどく非論理的なことを考えている自分に苦笑する。
口元を歪めようとして、上顎が砕けていることに気づいた。
舌先で、咥内に刺さった歯の欠片を取り除く。
溜まった血ごと、吐き捨てた。

598少女軍歌:2007/03/04(日) 23:23:00 ID:rdS.kel6
「へえ、随分と男前になったじゃん。感謝してよ」
「……それは、どうも」

拭ったそばからじくじくと染み出す血に辟易しながら、楓が返す。
再生は既に始まっているが、折れた歯が生えてくるまでにはしばらく時間がかかるだろう。
それまでの自分の顔を想像しようとして、楓は強引に思考を止める。
代わりに黙って潰れた鼻をつまむと、軽く握った。
鼻腔に溜まっていた鼻水と血が、噴き出す。

「うわ、すげえ顔」
「……」

ふと見れば、白いワイシャツの両の袖口が、すっかり赤く染まっていた。
じっとりと血を吸ったそれを、楓は無造作に破り取る。
白い肌が、肩口までさらけ出された。

「……やる気じゃん。そうこなくっちゃあ、ね」

ニヤリと笑って、皐月は己の太股に刺さったナイフを、何の躊躇もなく引き抜いた。
鮮血が、噴き出す。

「大腿動脈が裂けているようですが……?」
「知らないよ、そんなの」

呆れたような楓の言葉に、軽く肩をすくめて皐月が答える。

「生き汚いですね」
「どこの星の言葉よ、それ。お互い様でしょーが」
「……違いありません」

小さく、楓が笑った。
白い肌を血に染めて、端正な顔に幾つもの醜い傷痕を残して、楓が笑う。

「……いい女だね、あんた。一緒に暴走ってみたかったよ」
「きっと姉に止められます」
「そう、残念だね」
「ええ、残念です」

言葉が、途切れた。
ほんの一瞬だけ見つめあうと、二人は同時に動いていた。
ブロック塀に、アスファルトに、互いの血が飛び散っていた。

599少女軍歌:2007/03/04(日) 23:23:27 ID:rdS.kel6
神速は最早、自分のの専売特許とは言えなくなったと、楓は思考する。
どういう原理かはわからないが、皐月は神速の領域に反応していた。
理由を訊ねれば、きっと理不尽な答えが返ってくるのだろう。
常識を度外視して、あの女は生きている。
一撃の重さでは、あるいは皐月の方が自分を上回るだろう。
ならば、勝負をかけるべきは―――。

「……両手で十本、そして脚には三本の刃……!」

ぎ、と楓は歯を食い縛る。
左手も、鬼のそれへと変化させていた。
鬼の血に呑まれずに戦える時間には、限りがある。
圧倒的な手数をもって、飽和攻撃を仕掛けるが、勝利への筋道。
仕留めきれれば、

「私の、勝ちです……!」

疾駆が交差する一瞬、同時に十三の斬撃を叩き込む。
右上から五、左から胴を狙って五、左の脚はかち上げながら顔面を、そして軸足の右からの二本は、
間合いギリギリで相手の脚を削ぐ円の軌道。
十三すべてに手応えがあり、そして、

「浅い……!」

左の脚からフレームを伸ばし、手近なブロック塀に突き入れる。
アンカーの要領で、強引にブレーキをかけた。
同時に右の脚とフレームを地面に叩きつけて、即時反転。
視界の先では、腕を上げて顔面だけをガードした皐月が、同じように振り向いていた。
ズタズタに避けた腕と、新たに鮮血を零す右の脇腹を庇おうともしていない。
前屈みのまま、走り来る。

「……ゥラァァァッッ!!」

中手骨をさらけ出しながら、真紅に染まった拳が繰り出される。
咄嗟に脚のフレームの内、二本を緩衝材として翳す。
そこに裏から腕を交差させながら当てることで、防御と為す。

600少女軍歌:2007/03/04(日) 23:24:02 ID:rdS.kel6
「……ッ!」

相応の衝撃はあったが、止まった。
突進を止められた皐月が、右拳を突き出したまま、歯を剥く。

「けど、こっからどうするよ……ッ!」
「……両腕が、塞がっていたって……!」
「―――ッ!?」

右脚のナイフの内、一本は自由。
フレームが伸び、銀色の刃が走る。

「な……ッ!?」

深々と、ナイフが皐月の腹に刺さるかと見えた、瞬間。

「……こんな、もんでぇ……ッ!」

すんでのところで刃を止めていたのは、皐月の左手であった。
掌の真ん中に刃を突き刺したまま、掴み止めている。
だらだらと、鮮血がナイフを伝って零れ落ちた。

「ォォアアアアアッ!!」

咆哮と共に、ナイフがフレームごと引き千切られた。
ほぼ同時に、皐月の前蹴りが楓の腹を抉る。
ダメージにはならないが、強引に距離を開けられた。

「ハァ……ハァ……ッ、ふたぁ……っつ、めぇ……!」

ガラン、と重い音がして、皐月の手からナイフが落ちる。
常軌を逸したその生命力にも、楓は最早驚くことはなかった。
ナイフの一つで片手が潰せれば、安いものだ。
もっとも風穴が開いたくらいであの拳が止まるかどうかはわからないけれど、と内心で呟いて、
楓は再び加速する。

「死ぬまで、切り刻むだけです……!」
「上ッ、等ォォォッッ!!」

鮮血と咆哮を撒き散らしながら、湯浅皐月が天を仰ぐ。

601少女軍歌:2007/03/04(日) 23:24:53 ID:rdS.kel6
「こっから先、こっから先だ、あたしらの勝ち負けはッ!!」
「結末は変わりません……!」

仁王立ちの皐月に向かって、楓は疾駆する。
今や十二となった刃のすべてが、皐月を微塵に刻むべく、奔った。
バックハンド気味に、右の爪を叩きつける楓。
後ろにかわせば詰む状況、皐月は当然の如く、刃の嵐の中に身を投じてくる。
爪の届かない裏拳の甲、そこにぶつけるように、頭を投げ出す皐月。
硬質の皮膚に当たった額が、ぱっくりと割れた。
しかし流れ出す血を気にした風もなく、皐月は真っ直ぐに楓を見つめている。口元には、獰猛な笑み。
応えるように、楓は真紅の瞳を弓形に細める。
皐月の額で止められた右手の、その上から切り裂くようにして左の爪を落とす。
狙うのは一点、皐月の眼。
貫手の形に整えられた爪を、しかし皐月は瞬間的に身をずらし、肩で受けた。
皮膚を裂く感触にも、楓は苦々しげに表情を歪める。
肩を貫き、鎖骨を断った程度でこの女は、

「止められない……っ!」

瞬時に判断。
左右のフレームから伸びたナイフを、自分と皐月の間に割り込ませるように展開する。
十字に交差し、大鋏の様相を呈した二本のナイフが、皐月の胴を左右から襲う。
が、

「なんて……無茶な……!」

皐月は、それをかわそうとは、しなかったのである。
二本のナイフは、皐月の両の脇腹を、確かに刺し貫いていた。
刺し貫き、そして、ただそれだけのことだった。

602少女軍歌:2007/03/04(日) 23:25:16 ID:rdS.kel6
「―――つかまえぇ、たぁぁ……」

湯浅皐月は、臓腑を貫かれた程度で止まりはしなかった。
彼女の腕が、ズタズタに裂けて血に染まり、見る影も無い腕が、楓の右手を、跳ね上げていた。
離れなければ、と本能が警告を発するが、それは叶わない。

 ―――ナイフが……!

深く刺さったナイフとフレームが、二人を結び付けていた。
そして左手の爪は、いまだに皐月の肩に刺さっている。
密着した状態で、防ぐものとてない楓の視界を、皐月の笑みが塗り潰していく。

「死んだら―――」

声が、ひどく遠くに聞こえた。
衝撃と、流れ出る血と涙で、視界がブラックアウトする。
治りかけの鼻が、再び潰されていた。
渾身の頭突きを受けたのだと理解した瞬間、次の打撃が入っていた。

「ぐ……ぇ……」

左右の脇腹に、連打を受けていた。
腹が裂けるかとすら感じられる、痛撃。
身体を連結された状態では、吹き飛ぶことで衝撃を逃がすこともかなわない。
五臓六腑を貫通する地獄の痛みに、胃の内容物が血と共にせり上がってくる。

「―――死んだら化けて出ろッ、待っててやる……ッ!」

第三の打撃が、鳩尾に入っていた。膝が突き刺さっている。
下がった頭を上から押さえ込むように、首に腕が回された。
血反吐を吐き散らしながら、楓は己が回転しているのを感じていた。

「……ぁ……か……」
「これがあたしの―――、メイ=ストームだぁぁッッ!!」

首を支点として、皐月の背中側へと、投げ飛ばされようとしている。
遠心力で加重された、二人分の体重が、楓の頚骨を捻り上げていた。
ごぐり、と。
奇妙な音が響くのを、楓は感じていた。
頚骨が粉砕される音だと、理解していた。
体が動かない。脊椎で脳からの指令が遮断されている。
このまま叩きつけられれば確実に死ぬと、楓は正しく状況を読み取っていた。
そして、体が動かない以上、受身は取れない。
柏木楓は、死を覚悟していた。

603少女軍歌:2007/03/04(日) 23:25:34 ID:rdS.kel6

荒い呼吸が、住宅街に響いていた。
妙に濡れたような咳が、時折混じる。

「が……ハァッ、……ハァ……ッ、」
「くぁ……、ゲホ、ゲェ……ッ……」

血反吐と肉片が飛び散り、この世の地獄を思わせるその一角で、鮮血の少女たちは、
ゆっくりと立ち上がろうとしていた。

「ハァ……ッ、ハァ……畜生、……本当に、ゲホ……ッ、厄介な、ナイフだね……!」
「……そちら、こそ……ッ、命冥加……な、ことです……、が……ッ!」

重大な損傷に回復が追いつかないのか、反吐塗れの顔を歪めながら身を起こそうとする楓。
その脚に残っていたはずのナイフが、フレームの根元から折り砕けて転がっている。

「受身……代わりってか……! けど、もう次は……助けて、くれないよ……ッ!」
「充分、です……っ、あとは……、死に損ないを、片付ける、だけですから……っ!」

少女たちの瞳には、互いの影しか映っていない。
敵と認めた、ただその存在を打倒すべく、少女たちは立ち上がる。

「……こっから、だ……ッ!」
「……終わり、です……!」

だから周囲を埋め尽くす、無言の影に、少女たちは眼もくれずに走り出す。

「―――ォォォォオオオオオッッ!」
「―――ぁぁぁッ!」

光線が、奔った。
周囲の家を燃やす光線を、湯浅皐月が片手で打ち砕き、
街を灼かんとする光芒を、柏木楓が真紅の爪で薙ぎ払う。

少女たちの戦場に迷い込んだ介入者が、次々にその仮初めの命を散らしていく。
煌く光条をまるで舞台装置とみなすが如く、少女たちはただ互いの敵を滅するべく、物言わぬ人形達を蹂躙する。
街を鮮血に染め上げて、幾多の屍を積み上げて、そして二人は止まらない。

604少女軍歌:2007/03/04(日) 23:26:17 ID:rdS.kel6
 【時間:2日目午前11時前】
 【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)】

柏木楓
 【所持品:支給品一式】
 【状態:満身創痍・鬼全開】

湯浅皐月
 【所持品:『雌威主統武(メイ=ストーム)』特攻服、支給品一式】
 【状態:満身創痍・関東無敗】

砧夕霧
 【残り29548(到達0)】
 【状態:進軍中】

→690、704 ルートD-2

605名無しさん:2007/03/04(日) 23:50:25 ID:rdS.kel6
修正です。
>>599 1行目、

>神速は最早、自分のの専売特許とは言えなくなったと、楓は思考する。



神速は最早、自分の専売特許とは言えなくなったと、楓は思考する。

へ修正します。申し訳ありません。

606(空腹に)負けるな国崎往人!:2007/03/06(火) 00:53:46 ID:v5MNipJQ
先程少年との激闘を演じた国崎往人はあれから休みを取る事無く、神岸あかりと共に山越えを続けていた。
往人としてはあの厄介な少年を野放しにしておくのは非常に都合が悪い。援軍が来てくれたお陰で何とか命は繋いでいるものの、来てくれていなかったら確実に、そうコーラを飲むとゲップが出るくらい確実に死んでいた。
あの少年にかかっては観鈴や晴子の命などいくつあっても足りやしないだろう。
今度こそ、絶対に仕留めねばならないと往人は思った。
「はぁ、はぁ…く、国崎さん、待って下さい〜」
呼ばれて、ようやく往人はあかりが息も絶え絶えに着いて来ていることに気付いた。
「は、速すぎますよ…っ、痛…」
背中を押さえるあかり。手当てはしたものの所詮は応急手当の上にあかりは女の子だ。ついて来れなくて当然だ。
だのに『放っておいてさっさと行ってしまおう』という結論に達しなかったのはあかりが女性だということに起因していた。いくら外見が怖くても国崎往人も紳士なのである。
旅は道連れ世は情けというからな。
聞こえないように往人は呟くと、「少し休憩にするぞ」とぶっきらぼうに言って適当な木に身を預けてそのままずりずりと地面に腰を下ろした。歩き詰めだったために何とも言えない疲労感が妙に心地よい。
「ありがとうございます…ふぅ、つかれた…」
往人の対面にあかりが座り、ぐったりと頭を垂れる。余程体力を消耗していたのだろう。
普通に考えてあかりくらいの年の女の子なら今頃は布団の中で夢を見ている最中だ。
野外で寝ていたところ、幾度となく夜中に何を勘違いしたか市民が国家権力にテレチョイスして追いたてられた事のある往人なら(主にすぐ逃げるため)どこでも寝たり起きたりできるがあかりはそうはいくまい。
「浩之ちゃん…雅史ちゃん…それに他のみんなも…無事なのかな? 会いたいな…」
顔を上げないままあかりが言う。その声はいつもにも増して弱々しい。溜まりに溜まった疲労が精神に影響を及ぼしているのだろうと往人は思った。
これまでの会話でも一度も聞いていないが、恐らく放送でも死んだ友人はいるだろう。往人のほうはまだどの知り合いも放送では呼ばれていないが――これだけ時間が経っているのだ、誰かが死んでいても…
そこまで考えて、やめよう、と往人は思った。こんなことに頭を使うのは性にあってないからだ。あかりに何か声をかけてやろうかとも思ったが、同様にそういうことも苦手だ。
「…メシは食ったのか」
なので、取り敢えず健康の心配をしてやることにした。
あかりは少し顔を上げて力なく首を横に振った。
「なら、メシにするぞ。少しでも食って体力を回復しろ」

607(空腹に)負けるな国崎往人!:2007/03/06(火) 00:54:46 ID:v5MNipJQ
そう言って、往人が元・月島拓也のデイパックからあるものを取り出す(実は食べ物類は神岸にあずけておいた。水はなくなったがな)。支給品のパンだ。本当はラーメンセットを食べたかったのだが生憎とお湯と器がない。
ちくしょう、まず補給すべきは○印の給湯ポットだな。
「二人分あるんだ。一応弁明しておくと、これはもらい物なんだからな。殺して奪い取ったわけじゃないぞ」
燃費の悪い往人にしてみればここでの食料の消費は痛いものがあったが何しろ自身も腹が減っていた。というか、今ようやく思い出した。
くそっ、思い出したら猛烈に腹が催促を始めたぞ。分かった分かった。今仕事を与えてやるから勘弁してくれ。
「…神岸の食料は?」
「一応あります。まだ全然食べてませんので」
「ならよし。いただきます」
「いただきます」
傷つき、ボロボロになった二人の遅すぎる食事。きっとお肌にはよろしくないに違いない。往人にはどうでもいい事だったが。
     *     *     *
腹には入れたものの、往人の腹はまだ催促を続けていた。
えーかげんにせーっちゅーねん、無駄に食料を浪費するのは避けたいんだよ、つーかパンは全部食っちまって後はレトルトのラーメンセットしかないんじゃい、我慢しやがれこんちくしょう。
「あの…国崎さん、大丈夫ですか? 目が虚ろになってますけど…私のパン、分けてあげましょうか?」
「マジか!?」
あかりの願ってもない提案に目をきゅぴーん! と光らせてあかりの肩を引っ掴む往人。
「は、はい…国崎さん、体力回復出来てなさそうだから」
うるさいよ、と言おうと思ったが国崎往人は空腹を満たせるならプライドをあっけなく捨てられる男なのである。
ビバ新たな食料。
差し出されたパンを満面の笑顔(と往人は思っている)で受け取ろうとしたが…
「――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください。
それでは、今までに死んだ人の名前を発表…します」

山中に、悪夢の放送が木霊する。

608(空腹に)負けるな国崎往人!:2007/03/06(火) 00:55:14 ID:v5MNipJQ
【場所:E-06】
【時間:二日目午前6:00】

国崎往人
【所持品:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬10発、拓也の支給品(パンは全てなくなった、水もない)】
【状況:空腹、疲労はやや回復】
神岸あかり
【所持品:支給品一式(パン半分ほど消費)】
【状況:応急処置あり(背中が少々痛む)、疲労やや回復】

→B-10

609撤退:2007/03/07(水) 13:13:56 ID:se/HRpe6
絶句する高槻達。
誰も事態の移り変わりについていけなかった。
それも致し方ない事だろう。
気絶していた少女が何時の間にか起き上がっていて、冷静沈着極まりない戦いぶりでこの争いに終止符を打ったのだ。
更にその少女が青い色の宝石を天にかざすと、綺麗な球状の光がそこに吸い込まれていった。
少女は宝石をポケットに戻し、やれやれといった感じで肩を竦めた。
「全く今日は厄日かしら……。馬鹿みたいに強い奴に追っ掛け回されるわ、仲間になったと思った奴がゲームに乗っているわ、ホント最悪」
ぶつぶつと呟きながら、少女はポケットから何かを取り出した。
それは何箇所か噛んだ後がある、シイタケのような物だった。
その物体を口の中にいれ、もぐもぐと咀嚼する。
食べ終わると、少女はきょろきょろと周りを見渡した。
目に映ったのは、満身創痍という言葉がピッタリ当てはまる者達の姿。
皐月は小さく溜息をついてから、言った。
「……貴方達、何をボーっとしてるの?早く治療するなり、移動するなりした方が良いと思うけど?」
そのまま少女はつかつかと歩いて、S&W M60を拾い上げた。
そこでようやく他の者達も硬直が解けたのか、それぞれ行動を開始する。


「おいオッサン、平気かよっ!?」
「オッサン……じゃなくて、高槻だって……言ってんだろ……」
浩平が、今にも倒れそうな高槻を支えようとする。
高槻の服には無数の赤い染みが付着しており、眼の焦点も微妙に合っていない。
だが余裕が無いのは浩平も同じで、高槻の体重が圧し掛かった途端にバランスを崩しそうになる。
そのまま二人は不恰好に縺れ合いながら、郁乃の座っている車椅子の方へと歩いていった。

610撤退:2007/03/07(水) 13:15:28 ID:se/HRpe6
「郁乃ちゃん……郁乃ちゃんっ!」
高槻達が車椅子の傍まで来ると、七海が気絶している郁乃の体を揺すっていた。
「ぅ……」
やがて弱々しい声を上げて、ゆっくりと郁乃が目を開く。
「郁乃ちゃん、何処か痛くないですか?」
言われて郁乃は首の付け根あたりをさすった。
「ちょっとこの辺が痛いかな……ってそうだ、彰は!?あたし、あいつに襲われたのよ!」
そこで高槻が郁乃の肩を叩き、物言わぬ躯と化した彰を指差した。
「あいつ……死んだ……の?」
「ああ。最後は知らねえガキが決めやがった」
「そう……」
郁乃は少し沈んだ表情で、彰の死体を眺め見た。
たとえゲームに乗っていたとはいえ、人が死んだ事は悲しかった。
「あいつがゲームに乗ってたなんて……まだに実感が沸かないな……。とてもそんな風には見えなかったのに……」
浩平が暗い声でぼそぼそと呟く。

そんな折に、近付いてくる複数の足音が聞こえてきた。
歩いてきたのは、岡崎朋也と古河渚の両名だった。
朋也は両手で高槻達の荷物―――彰の命令で投げ捨てた装備品を抱えている。
「これ……お前達のだろ?」
朋也はそれを手渡そうとして―――受け取る余裕すら無さそうだったので、浩平と高槻の鞄に突っ込んだ。
それから少し目線を伏せて、言った。
「彰は多分、お前と一緒に居た時はゲームに乗ってなかったんじゃないか?あいつがゲームに乗ったのは二回目の放送からだと思うぞ。
あいつ―――俺達を襲った時に言ってたよ。ゲームに優勝して美咲さんを生き返らせるんだ、ってな……」
「そうだったのか……」
それを聞いて、浩平の心の中から疑問が消えた。
彰は澤倉美咲を何としてでも守りたい、と言っていた。
その美咲の死が第二回放送で発表された。
それを聞いた彰がどうするか―――冷静に考えれば、十分に予測しうる事態だった。

611撤退:2007/03/07(水) 13:17:08 ID:se/HRpe6
「んじゃ、俺達はそろそろ行くな」
「ちょっと待てよ。確か……岡崎だっけ。お互いゲームに乗ってない事は分かったんだし、一緒に行動しないか?」
立ち去ろうとする朋也に、浩平が提案を持ちかける。
だが朋也はゆっくりと首を横に振った。
「俺達は今から役場に行かないと駄目なんだ。お前達は怪我の手当てをしないといけないだろうし、一緒には行けない」
役場には、岡崎朋也という名前での書き込みを見た人間が来ているだろう。
銃声が聞こえてきてから、もうだいぶ時間が経過してしまっている。
間に合うかどうか分からないが、それでも行かなければならなかった。
朋也はそのままくるっと踵を返そうとする。
だがそこで、渚が朋也の裾を強く引っ張った。
「朋也君、ちゃんと言わないと駄目ですっ!」
「……そうだな」
朋也は高槻と浩平の方へ向き直って、それから軽く頭を下げた。
「その……悪かったな。お前達は悪くないのに襲っちまって……」
「けっ。ごめんで済んだら警察はいらねえって言いてえとこだが……俺達もまんまと騙されてたからな。特別に、チャラって事にしてやらあ」
高槻がそう言うと、朋也は少し微笑んでから「じゃあな」と手を振って歩き去った。


「―――私を殴った事はすっかり忘れてるみたいね……。ま、どうでもいいけどね」
言葉とは裏腹に少し不機嫌そうに呟くその少女の名は、湯浅皐月。
皐月はつかつかと高槻達の方に歩み寄った。
「七海、久しぶりね。怪我は無い?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そう。それじゃ行きましょうか」
「―――え?」
七海が目をパチクリさせる。

612撤退:2007/03/07(水) 13:19:28 ID:se/HRpe6
皐月は断りも入れずに郁乃の車椅子を押し始めた。
「ちょ、ちょっとあんた誰よ!?あたしを何処に連れて行く気!?」
「私は湯浅皐月……七海の知り合いよ。行き先は鎌石局。色々便利な物が置いてあったから、治療に使える物もあると思う」
皐月は半ば事務的に答えて、そのまま車椅子を押していく。
高槻と浩平は聞きたい事が色々あったが、体力的にまるで余裕が無いので黙って後をついてゆく。
そんな中、七海が皐月の横に並びかけた。
「あの……皐月さん」
「何?」
「なんかいつもと印象が違うんですけど……どうかしたんですか?」
七海は皐月とそれ程親しい訳ではない。
宗一と一緒に居る時に数回会った程度だ。
それでも今の冷静過ぎる皐月には、大きな違和感を覚えざるを得なかった。
普段とは言葉遣いも少し異なる。
何か……おかしかった。

皐月は黙ってごそごそと鞄の中を漁り出し、紙を七海に手渡した。
七海はそれをばっと広げて、音読し始める。
「『セイカクハンテンダケ』説明書:このキノコを食べると暫くの間性格が正反対になります。かなり美味ですので、是非ともご賞味下さい」







613撤退:2007/03/07(水) 13:20:14 ID:se/HRpe6
「いてて……少し無理し過ぎちまったな」
「岡崎朋也……大丈夫?」
みちるが朋也を気遣って声を掛ける。
高槻に比べればかなりマシではあったが、朋也もまた大幅に体力を消耗してしまっていた。
体の節々が痛み、気を抜くと転倒してしまいそうになる。
そんな朋也の様子を見かねて、秋生が唐突に言った。
それは朋也にとって、とても冷たい声に感じられた。
「―――止めだ。家に戻るぞ」
「は?何言ってんだオッサン、そんな事出来るわけ……」
「おめえボロボロじゃねえか……そんな体で行っても死ぬだけだ」
秋生は朋也の腕を握って強引に引っ張ろうとした。
朋也はそれを振り払い、目一杯怒鳴った。
「ふざけんじゃねえ、俺の友達が襲われてるかもしれねえんだ!見捨てろっていう気か!?」
今にも秋生に飛び掛りかねないくらい、朋也は激昂している。
その目は仲間を見る目では無く、敵を睨みつけているかのようだった。

秋生は朋也の怒りの視線を真正面から受け止め―――大きく頷いた。
「良いか小僧。誰かを愛するって事は何かを捨てなきゃいけねえって事だ。ここでおめえが無理して死んじまったら、渚はどうなる?
渚を大切に思ってるんなら、ここは堪えろ」
朋也は渚の方に首を向けた。
見ると、右太腿に巻かれた包帯が血で滲んでいた。
秋生の体にも数箇所、包帯が巻かれてある。
朋也はただ体力を大きく消耗しているだけで、怪我自体は大したことが無い。
だがこの二人の怪我は自分とは違って、治るまでには時間がかかるだろう。
もし自分が死ねば―――渚の生存確率が大幅に下がるのは疑いようの無い事実だった。
「みんなすまねえ……。俺はまだ死ぬ訳にはいかないんだ……」
朋也は顔を悲痛に歪ませながら役場の方向へ目を向けて、それから秋生達が隠れていた家へと歩を進めた。

614撤退:2007/03/07(水) 13:21:57 ID:se/HRpe6






「遅かったみたいだな……」
「うん……」
呟くその声は全く力の無いものだった。
高槻達が去ってから五分後。
北川潤と広瀬真希は、彰の死体の傍で立ち尽くしていた。
「誰だか知らないけど、せめて安らかに眠ってくれ」
北川はそう言って、祈るように顔の前で手を合わせた。
真希もそれに習い、同じような仕草をする。
二人は身を寄せ合うようにしたまま、見知らぬ少年へと黙祷を捧げた。

【時間:二日目・14:45】
【場所:C-3】
古河秋生
 【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
 【状態:B-3民家へ移動、中程度の疲労、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
 【所持品:包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、他支給品一式】
 【状態:B-3民家へ移動、銃の暴発時に左の頬を浅く抉られる。自力で立っている、右太腿貫通(手当て済み、再び僅かに傷が開く)】
みちる
 【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
 【状態:B-3民家へ移動、目標は美凪の捜索】
岡崎朋也
 【所持品:三角帽子、薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:B-3民家へ移動、マーダーへの激しい憎悪、疲労大、全身に痛み。最終目標は主催者の殺害】

615撤退:2007/03/07(水) 13:23:05 ID:se/HRpe6
湯浅皐月
 【所持品1:H&K PSG-1(残り0発。6倍スコープ付き)、S&W M60(0/5)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光4個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金、セイカクハンテンダケ(×1個)】
 【状態:性格反転中、鎌石局に移動、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
ぴろ
 【状態:皐月の後ろを歩いている】
折原浩平
 【所持品1:S&W 500マグナム(4/5 予備弾7発)、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:鎌石局へ移動、高槻を支えている、疲労、頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
高槻
 【所持品:コルトガバメント(装弾数:6/7)、分厚い小説、コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状態:浩平に支えられている、全身に痛み、疲労極大、血をかなり失っている(出血はほぼ止まった)、左肩を撃ち抜かれている(左腕を動かすと激痛を伴う)】
 【目的:鎌石局へ移動、最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:鎌石局へ移動、首に軽い痛み、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:鎌石局へ移動、健康】
ポテト
 【状態:郁乃の膝の上に乗っている、気絶、光一個】

616撤退:2007/03/07(水) 13:25:55 ID:se/HRpe6

【時間:二日目・14:50】
【場所:C−3】
北川潤
【持ち物①:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物②:スコップ、防弾性割 烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券】
【状況:黙祷中、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:みちるの捜索】

広瀬真希
【持ち物①:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2】
【持ち物②:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
【状況:黙祷中、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:みちるの捜索】

(関連731・734)

訂正>>614
×二人は身を寄せ合うようにしたまま、見知らぬ少年へと黙祷を捧げた。
○二人は身を寄せ合うようにしたまま、見知らぬ青年へと黙祷を捧げた。

617ENCHANT/あやまち:2007/03/10(土) 16:54:56 ID:ADUPJLXg0

「はぁ……、はぁっ……」

大きく呼吸を乱しながら、ちらりと後ろを振り向いて舌打ちしたのは長岡志保である。

「まだついてきてる……しつこいわねえ、もうっ!」

眼鏡の少女、砧夕霧の集団に包囲される前に離脱した志保だったが、しかし診療所へと向かう途上には
数は少ないものの、林道から溢れ出した夕霧が展開していたのだった。
濡れた下生えに革靴の足を取られながら、志保は逃走の一手に徹していた。

(これじゃ、いつまでたっても……!)

迂回と逃走を繰り返し、一向に診療所へと近づけないことに志保は苛立つ。
しかしすぐに首を振って、気を取り直した。

「……ううん、きっと美佐枝さんが来てくれる、よね」

一人残った相楽美佐枝の身を案じながら、走り続ける志保。
と、唐突に目の前が開けた。

「森を抜けた……の? ん、あれは……?」

雲間から射す陽射しに目を細めながら志保が見たのは、二人組の男の姿だった。
自分と同じように走っている。
参加者であることは間違いなかったが、得体の知れない殺人眼鏡少女軍団から逃げる志保にとっては、
それは救いの神にも思えた。

「おーい、おーい!」

両手を大きく振る志保。
向こうも気がついたらしい。手を振って走ってくる。

618ENCHANT/あやまち:2007/03/10(土) 16:55:27 ID:ADUPJLXg0
「ねえ、あんたたち! ちょっと助けてほし……って、え?」

志保が目を丸くする。
手を振りながら必死の形相で走ってくる男たちの背後に、キラリと光るものを見たのだった。

「おい、お前! 早く逃げないと危ないぞ!」
「ひぃぃっ(;゚皿゚)」

男たちは、砧夕霧の大集団から追われているようだった。

「う、嘘でしょー!?」

思わず足を止めてしまう志保。
見る見るうちに、男たちが迫ってくる。

「おいお前、何をボサッとして……うぉぉっ!?」

男たちの片割れ、目つきの悪い方を背後からの光線が掠める。

「何とかしてくださいよ国崎さん! って、ひいいっ!?(;゚皿゚)」

もう一人の、少し腹の出た頭の悪そうな少年を光線が直撃していた。

「きゃあ! ちょっと大丈夫!?」

大丈夫なはずがないのだが、志保はそう声をかけてしまう。
しかし国崎と呼ばれた男は撃たれた少年の方を見ようともせずに平然と答える。

「気にするな、そいつは大丈夫だ。おい春原、早く立て」
「ってそんなわけないじゃな……え?」
「メチャクチャ熱くて痛いんですけどねえっ!(;゚皿゚)」

金髪の頭をチリチリのアフロヘアーにしながら、春原と呼ばれた少年が立ち上がる。
思わず一歩引く志保。

「あ、あんた本当に人間……?」
「アンタ初対面の相手に失礼っすねえ!(;゚皿゚)」
「こいつの個性だ、気にするな。それよりお前、こんなところで突っ立ってると……」

言いかけた国崎の背後で、また光線が閃いた。

619ENCHANT/あやまち:2007/03/10(土) 16:55:53 ID:ADUPJLXg0
「くそっ、とにかく逃げるぞ!」
「……ってちょっと、そっちは!」
「―――うぉぉっ!?」
「ひいいっ!?(;゚皿゚)」
「言わんこっちゃない……!」

森に踏み入りかけて、今度は正面から迫る夕霧の群れを目にしてたたらを踏む男二人。
急いで引き返してくる。

「おい、どういうことだ!」
「あたしが聞きたいわよ! 自慢じゃないけどあたしだって逃げてきたんだから!」
「ホントに自慢じゃないっすねえ!」
「っさいわね! あんたたち男なんだから、なんとかしなさいよ!」
「無茶言うなっ!」

背中合わせになって言い合う三人。
既に退路は塞がれていた。
ぐるりと周りを取り囲む夕霧に目をやりながら、国崎が苦々しげに口を開く。

「完全に囲まれたか……」
「も、もしかして志保ちゃん大ピンチ?」
「もしかしなくても大ピンチだ。……こうなったら、春原を盾にして強行突破するか」
「アンタねえっ!(;゚皿゚)」
「……冗談だ」
「その微妙な間が気になるわね……」
「アンタら余裕っすね!」

じり、と包囲の輪を狭めてくる夕霧軍団。

「くそ、せめて武器があればな……お前、何か持ってないのか?」
「あ、あたし!? ……そういえばバッグの中、まだ見てなかった」
「いいから早く出せっ」
「そ、そんなこと言われても……」

必死にバッグを開けようとする志保だったが、手が震えてジッパーを開けることもままならない。
焦ったように国崎が叫ぶ。

「くそ、いいからそいつごと貸せっ!」
「うわ、国崎さん! あいつら撃ってきますよ!」

春原の声に、二人が同時に顔を上げる。
周囲に展開した夕霧の額が、淡い光を帯びていた。
斉射の兆候だった。

「くそっ……!」
「芽衣……今行くからな……」
「そんな……美佐枝さん、助けて……!」

周りを取り囲む光が、三者三様の絶望を明るく照らし出す。

「いや……嫌ぁぁぁぁっ―――!」

絶叫が、響いた。


******

620ENCHANT/あやまち:2007/03/10(土) 16:56:30 ID:ADUPJLXg0


「―――?」

志保は、そっと目を開けた。
痛みも衝撃も、来なかった。

「あたし……まだ、生きてる……?」
「―――動くな」

冷たい声が、頭の上からした。
見上げようとして、志保は自分が抱えられていることに気づく。

「え……あんた……?」

自分を抱えている腕が、国崎と呼ばれていた男のものだと分かってなお、志保は己の眼を疑っていた。
国崎の発する雰囲気が、先ほどまでと一変していたのである。
今の国崎は見る者の背筋を凍らせるような、ひどく鋭利な雰囲気を漂わせていた。

「動くな。任務の妨げになる」

短くそれだけを告げると、国崎は走り出した。
見れば、もう片方の腕には春原と呼ばれた少年を抱えている。凄まじい膂力だった。

「ってそういえば、さっきのビームを、どうやって……?」

志保の疑問は、すぐに払拭された。
正面から新たに放たれた光線を、

「ぎゃああっ!?(;゚皿゚)」

国崎は無造作に春原で受け止めたのである。

「ってちょっとあんた、それはいくらなんでも……」
「問題ない」
「ありまくりっすよねえ!」
「死にたくなければ黙っていろ」

国崎の声は、ひどく冷徹だった。
先ほどまでのどこか憎めない男という印象は、今やまったく感じられない。
次々に光線に対し、何の躊躇もなく春原をかざし、的確に攻撃を避けていく。

621ENCHANT/あやまち:2007/03/10(土) 16:56:54 ID:ADUPJLXg0
「(;゚皿゚)! (;゚皿゚)!? (;゚皿゚)!!」

口から黒煙を吐き出す春原に絶句する志保。
と、国崎が短く口を開く。

「武器を確認しろ」
「え? ……あ、バッグの中……?」
「迅速に済ませろ」

抱えられたまま、志保はバッグの中を漁る。
中から出てきたのは、

「拳銃……?」
「……モーゼル・ミリタリー、7.62mmか。丁度いい」

古風で無骨なデザインのそれを一目見て、国崎は頷く。
春原で光線を弾きながら包囲網に近づくと、同じく手にした春原で夕霧の一体を殴り倒した。
ざ、と包囲網が割れる。一気に駆け抜ける国崎。

「……ここで大人しくしていろ」

言って志保を下ろしたのは、大樹の陰だった。
志保が、おそるおそる声をかける。

「あんた……本当にさっきまでのあんた、なの……?」
「……任務を続行する」

それだけを告げて志保の手から拳銃を取ると、国崎は踵を返す。
一片の感情も感じられない、まるで機械のように怜悧な動作だった。

「じゃ、僕もここでおとなしく……って、ひいいっ!?」

春原の襟首を掴むと、国崎は大樹の陰から飛び出した。
射線の方向が集中することで、光線による攻撃は激しさを増していた。
しかしそのすべてを、国崎は的確に捌いていく。

「もう!(;゚皿゚) どうとでも!(;゚皿゚) してくれよっ!!(;゚皿゚)」

左手に春原、右手に拳銃。
ただそれだけの装備をもって、国崎は周辺を埋め尽くす夕霧を薙ぎ払っていく。
盾として、あるいは鈍器として春原を振るい、時折銃火を閃かせながら、国崎が駆ける。

622ENCHANT/あやまち:2007/03/10(土) 16:57:33 ID:ADUPJLXg0
「すご……い、けど……」

その様を大樹の陰から覗く志保。
しかしその表情は暗かった。眉根を寄せ、何事かを考えている。
嫌な予感が、黒雲のように膨らんでいた。

「―――任務、完了」

その声に、はっと顔を上げる志保。
気がつけば、周囲を埋め尽くしていたはずの砧夕霧が、一人残らず地面に倒れ伏していた。
ボロ雑巾と見分けがつかなくなった片手の春原を、国崎が無造作に投げ捨てる。

「生まれて、すみません……」

どさりと落ちる春原。
慌てて駆け寄る志保の目の前で、国崎がゆらりと揺れた。

「え、ちょ……」

咄嗟に身をかわす志保。国崎が、顔面から倒れた。

「ちょ、ちょっとあんた……どうしたのよ!?」

恐々と伸ばされた志保の手が、触れるか触れないかの寸前。
国崎が、ゆっくりと身を起こした。
びくりと手を引っ込める志保。

「……っ痛ぅ……! なんだ、一体何が……」

頭を抱えながら何事かを呟いていた国崎が、周囲を見回した瞬間、凍りついた。

「って、うぉぉっ、何だこれは!?」
「あんたが……やったのよ……?」

志保の声に、国崎が驚いたような眼を向ける。

「俺が……?」
「まさか……、覚えてない……?」
「いや、まったく記憶にないが……どうした、顔色が悪いぞ?」

心配もされるだろう、と志保はどこか他人事のように思う。
今の自分はきっと、ひどく青白い顔をしているはずだ。
体の芯からくる震えが止まらない。全身に嫌な汗が噴き出していた。

「……おい、本当に大丈夫か? 具合が悪いなら、」
「あたし―――」

国崎の言葉を遮るように、志保は口を開いていた。

「あたし、行かなきゃ……! このままじゃ美佐枝さんが……美佐枝さんが……っ!」

言うや、踵を返して走り出す。

623ENCHANT/あやまち:2007/03/10(土) 16:57:49 ID:ADUPJLXg0
「おい! ちょっと待て、お前!」

背後の声など、既に耳に入らない。
志保の予感が確かなら、事態は既に遅きに失していた。
それでも、走らずにはいられなかった。
自分を逃がした相楽美佐枝の背中が、脳裏をよぎる。

(美佐枝さん……どうか、無事でいて……!)

国崎の変貌。
突然の超絶能力、そして記憶の欠損。
志保には、その光景に覚えがあった。
昨晩、虎と戦ったときの美佐枝と、それはひどく、符合していた。

国崎と、美佐枝。
それぞれ同じ類の能力に目覚め、その力を発揮したのであれば、それでいい。
しかし、もしも。
もしも二人の共通項が、自分だったとしたら。
ドリー夢と美佐枝が呼んでいた能力は、相楽美佐枝のものではなく―――、

(あたしの、力だ……!)

他人に、何らかの能力を付与する異能。
それが昨晩の美佐枝をして虎を仕留める力を与えたのであれば。
今の相楽美佐枝は、無力であった。

(美佐枝さん……!)

長岡志保の祈りに似た呼びかけは、虚しく心中に響いていた。

624ENCHANT/あやまち:2007/03/10(土) 16:58:09 ID:ADUPJLXg0


 【時間:2日目午前10時すぎ】
 【場所:G−4】

長岡志保
 【所持品:なし】
 【状態:異能・ドリー夢、疾走】

国崎往人
 【所持品:人形、ラーメンセット(レトルト)、化粧品ポーチ、支給品一式×2】
 【状態:唖然】

春原陽平
 【所持品:なし】
 【状態:妊娠(;゚皿゚)・ズタボロ】

砧夕霧
 【残り29438(到達0)】
 【状態:進軍中】

→552 606 721 ルートD-2

625乙女の想い:2007/03/10(土) 18:12:23 ID:IQ5olZbU0
突然現れた車を用いての襲撃者に対して、フロントガラスに飛びつくという、一見無謀にも思えるような方法で対抗した柳川。
微かに聞こえてくる放送の音。だが今はそんな物に気を取られている暇は無い。
柳川は放送に集中力を割かずに、車の搭乗者達の観察に全力を注いだ。
やがて車は平野を抜け、街道を乗り越えてゆく。視界を失っている車はそのまま、民家の密集地帯に近付いてゆき――
「――クッ!」
そこで大きな衝撃が柳川を襲う。この状況に業を煮やした相手が、遂に急ブレーキを掛けたのだ。
予想していた事とは言え、やはりその反動は凄まじい。今前方に振り落とされれば、そのまま車の下敷きとなってしまうだろう。
柳川は車体の縁を必死で掴んで、落とされてしまわぬよう耐えた。
車のスピードが急激に落ちてゆき、やがて柳川の体に伝わる揺れも少なくなってくる。
だが相手の攻撃は、ここからが本番だろう。フロントガラス越しに見えた銃。
少なくとも敵の一人は銃を――いや、ここは最悪の状況を想定して、二人とも銃を持っていると考えるべきだろう。
柳川は片腕を放し、肩に掛けたデイバックの中へと手を突っ込んだ。
そこから日本刀を取り出し――ドアが開くのとほぼ同時に、車から飛び降りた。
素早く地面に着地して、車から出てきた男目掛けてそれを振るうと、大きな金属音がした。
男――藤井冬弥の構えようとしたFN Five-SeveNを、鋭く奔る刃が捉えていた。
「つっ……」
痺れる程の大きな衝撃と共に、冬弥の手から銃が弾き飛ばされる。
冬弥の顔が焦りの色に染まる。だが柳川は隙だらけの相手を敢えて攻撃せずに、後ろに大きく飛び跳ねた。
その直後、冬弥の肩口の向こうから鋭く光る物が飛び出して、それまで柳川がいた空間を貫いていた。
車を運転していた女性……篠塚弥生が、ポーカーフェイスを崩さぬままに包丁を突き出してきたのだ。
包丁を握っていない方の手には、ベアークローがしっかりと取り付けられている。それはさながら、映画に出てくる暗殺者のような姿であった。
「随分と物々しい格好だな。――だが!」
柳川は空気を切り裂くような勢いで、弥生達に向かって真っ直ぐに突っ込んだ。

626乙女の想い:2007/03/10(土) 18:12:59 ID:IQ5olZbU0
――敵は、銃を一つしか持っていない。
その確信を持ったからだ。相手が銃を二つ持っているのならば、二人で一個ずつ分けて持つに違いない。
しかし弥生の方は両手が塞がっている為、銃を使う事は出来ぬだろう。故に、敵の銃はただ一つという結論に達したのだ。
冬弥が持っていた銃は既に弾き飛ばしている。その銃を拾われる前に、一気に決着をつける。
弥生が包丁をこちらに向かって投げつけてくる。柳川はそれを、事も無げに刀で叩き落した。
そのまま距離を詰め、間も無く敵を切り裂けるかのように思えたが――その時、弥生が冬弥の鞄からFN P90を取り出した。
「なッ――」
完全に予想を外された。このまま行けば、確実に蜂の巣とされる。
柳川は全力で地面を蹴り飛ばし、強引に横方向へとスライディングした。
それでも避けれるかどうかぎりぎり、紙一重のタイミングだと思ったが、銃声は鳴り響かない。
体を起こした時にはもう、弥生がFN P90をあっさりと地面に捨て、FN Five-SeveNを拾い上げていた。
そこで柳川はようやく、自分の確信が間違いではなかった――つまり、FN P90は弾丸の無い、ただの威嚇用の道具に過ぎぬと気付いた。
柳川は左斜め後ろ、右斜め後ろとジグザグに飛び退き、弥生が放つ弾丸を避けながら距離を取る。
それから何時でも回避に移れる体勢を維持したまま、言った。
「……貴様、戦い慣れているな。これまで何人の人間を殺してきた?」
まるで親の仇を見るかのような、突き刺す視線を送りながら問い掛ける。
弥生はその質問を無視して、横にいる冬弥へちらっと視線を向け、小さな声で呟いた。
「あの男は相当な手練のようです……まともに銃を撃っても当たるとは思えません。藤井さん、足止めをお願い出来ますか?」
冬弥は鞄の中からナイフを取り出す事によって、その申し出に応える。
そんな時だった――遥か遠く、柳川の後方から大きな叫び声が聞こえてきたのは。

627乙女の想い:2007/03/10(土) 18:13:47 ID:IQ5olZbU0
「……ふじ……い……さ……ん…………!」
弥生と柳川は、警戒体勢を維持したまま微動だにしない。だが、冬弥は違った。
体の筋肉、それどころか細胞一つ一つまでもが硬直するような感覚に襲われ、ナイフをぽろっと取り落とす。
その声、そして向こうから走ってくる人影、それは正真正銘、七瀬留美のものであった。
「――藤井さんっ!」
距離が詰まり、留美の声がはっきりと聞き取れるようになる。その悲痛な響きが耳に入る度に、ズキンと冬弥の胸が痛んだ。
走り寄る人影はどんどんと大きくなってゆき、やがてその表情すらも正確に読み取れるくらいの距離となった。
「七……瀬……さん……」
冬弥は呆然と立ち尽くしながら、何とかその言葉だけを口にした。
留美はそのまま走り続け、柳川の前まで躍り出る。そして潤んだ瞳で、冬弥をじっと見つめた。
留美の心を占める感情の一つは、再会の喜び。だがそれ以上に大きな感情が、それを塗りつぶしていた。
それは――悲しみ。
「下がっていろ、七瀬。この者達は殺し合いに乗っている……。なら、俺は容赦しない」
柳川が厳しく言い放つ。第二回放送を聞いた時の、留美の悪い予感は的中していた。
冬弥達の乗った車は、何の警告も無く自分達を轢き殺そうとした。それは、藤井冬弥がゲームに乗っているという証明に他ならなかった。
「なんで……藤井さん……?なんで、こんな事を……」
それでも留美は、冬弥の真意を聞かずにはいられなかった。放たれた質問を前にして、弥生が冬弥の代わりに答える。
「見れば分かるでしょう?私と藤井さんは、やる気になっているという事です」
「…………う……あ……」
冷たく告げると、見る見るうちに留美の表情が絶望に歪んでいく。弥生はその隙を逃さずに、FN Five-SeveNの銃口を留美へと向けた。
先程から冬弥は何度も何度も、明らかに集中力を欠いた状態になってしまっている。
その原因がこの少女にあるという事が、弥生には分かった。ならば今すぐ、自分達にとっての障害を排除する。
「ク――!」
柳川が、全速力で疾走する。しかし、まず間に合わない。銃弾より早く動ける生物など存在しない。
それは、鬼であろうとも例外ではない。ましてや力を制限されている柳川では、絶対に間に合わない――

628乙女の想い:2007/03/10(土) 18:14:24 ID:IQ5olZbU0
「ま、待ってくれ!」
「――っ!?」
だから、留美を救ったのは柳川では無かった。弥生の銃を握っている方の腕が、冬弥にがっしりと押さえられる。
今度ばかりは弥生も怒りを隠そうとはせず、ぴんと眉を吊り上げた。
「……一体どういうおつもりですか、藤井さん」
刺々しい声で、厳しく問い掛ける。険しい顔で睨みつけると、冬弥は申し訳無さそうに目を逸らした。
「事情はよく分からんが……形勢逆転というヤツだ。銃を捨てろ」
威圧するような声が聞こえ弥生が視線を移すと、柳川がイングラムM10を構えていた。その横には金髪の少女――倉田佐祐理の姿。
佐祐理は柳川が捨てていった荷物を拾っていたので、留美より少し遅れてここに辿り着いたのだ。
「仕方……ありませんね」
冬弥を振り払って発砲すれば、七瀬という少女は殺せるだろう。だがその直後、自分も射殺されるのは目に見えている。
それは絶対に避けなくてはならない。ゲームに勝つ為には、人を殺す事に拘り過ぎてはいけない。
最後まで生き延びる事を最優先に、行動を組み立てていくべきなのだ。
弥生は銃を手放そうとして――銃を持っていない方の掌で、冬弥の背中をどんと押した。
そのまま冬弥の後ろに隠れるように車の中に駆け込み、素早くドアを閉める。
ガラス越しに、冬弥の唖然とした表情が見えるが――どうでも良かった。
戦いの度に迷いを見せる冬弥は、はっきり言って足手纏いだ。特に今回は酷かった。
何度も放心状態に陥り、事もあろうか決定的なチャンスの邪魔をしてくる始末。
これでは自分一人で行動した方が、優勝に近付けるだろう。この後冬弥がどうなろうが、知った事では無い。
弥生はアクセルを思い切り踏み込み、車は柳川達の横を抜けるように急発進した。
「逃がさんっ!」
柳川は運転席へと狙いをつけて発砲したが、銃弾は全て硬い装甲の前に弾き返される。
イングラムM10がカチッカチッと音を立てて弾切れを訴え、マガジンを再装填した時にはもう車は視界から消えていた。
柳川は銃を冬弥に向けるか一瞬迷い――止めておく事にした。
とにもかくにも、この男は留美の命を救ったのだ。見れば飛び道具も持っていない様子、ここは留美に任せて良いだろう。

629乙女の想い:2007/03/10(土) 18:15:04 ID:IQ5olZbU0

「藤井さん……」
留美がゆっくりと、冬弥に近付いていく。一歩一歩、両者の距離が縮まってゆく。
涙を溜め込んだ瞳、泣き笑いのような表情。そんな留美の顔を前にして、冬弥は激しく自責の念に駆られた。
少女が冬弥を止める為にずっと頑張っていた事が、彼女の表情を一目見て分かってしまったからだ
――由綺の死を知った時。
自分は暴走してしまった。間違いを諫めようとした浩平を、叩き伏せた。
泣き縋る留美の言葉を無視し、彼女の元を離れた。そんな自分を、留美は未だに探し続けていたのだ。
留美は信じられないくらい、強くて優しい女の子だった。それに比べて自分はどうだ?
復讐――それは確かに自分で選んだ道だった。それが正しい選択だったとはもう思わないが、少なくともそこに明確な意思は存在している。
そう意味では、まだマシだった。だが二回目の放送以降の自分は恐らく、この島でもっとも愚劣な人間だろう。
ゲームに乗るか否か――この島に連れて来られた人間ならば、必ず突きつけられる選択。
全員が全員、悩み抜いた末に道を選んだ訳では無いだろう。あっさりとゲームに乗った人間もいるかも知れない。
だがそのような人間でも、自分よりはマシだ。何しろ自分は選択する事すら放棄して、コインなどという物に運命を託したのだから。
そして流れに身を任せて、復讐とは無関係の人間を次々と襲撃していった。
それでも弥生に助けられて、どうにか復讐の対象に辿り着いた。
自分一人では、まずここまで漕ぎ着けられなかったというのに――大事な場面で、弥生の邪魔をしてしまった。
留美を救ったのも、何か考えがあって行動したという訳では無い。ただ、身体が勝手に動いただけだ。
まるで、操り人形。自分以外の意思でしか動けぬ、操り人形のようだった。
そんな自分が、これからどのように生きていけば良いのか。
もう復讐心は薄れている――その道が間違いだと、気付いてしまったから。
だが後戻り出来るとも思えない。それだけの罪を自分は犯してしまった。
これからどうすれば――

630乙女の想い:2007/03/10(土) 18:15:55 ID:IQ5olZbU0
「藤井さん」
聞こえてきた声に意識を戻す。留美が、もう手の届く位置まで来ていた。
「七瀬さん……俺は……俺は――」
冬弥は何か言おうとしたが、言葉が思いつかなかった。
留美が冬弥の背中に手を回して、唇を突き出す形で顔を近づけてきて――
「――――!?」
そして、冬弥は唇に柔らかい感触を感じた。それはがしっと歯が当たるくらい、不器用なものだったけど。
紛れも無く、キスと呼ばれている行為だった。やがて、唇が離れる。
「七瀬さん……一体……?」
冬弥が口を開く。どうしてこういう事になっているか、サッパリ分からなかった。
留美は冬弥の疑問に短く、しかしこれ以上ないくらいの気持ちを籠めて、答えた。
「――好き」
冬弥の目が見開かれる。そして再び冬弥の唇が塞がれた。
七瀬留美の――乙女の想いは、この過酷な環境の中で、恋と呼べる程の物に成長していた。
普段浩平に良いようにからかわれている留美は、決して口が上手い方ではない。
だから、ただ自分の感情をストレートにぶつけた。それ以外に、方法が思いつかなかったのだ。
しかしその想いは一切汚れのない、とても純粋なもので――冬弥の迷いを吹き飛ばすには、十分なものであった。
冬弥もまた留美の背に腕を回して、唇を合わせたまま彼女を優しく抱きしめた。
(俺はこれからどうすれば良いか、まだ分からない……。でも一つだけ、分かった事がある。それは――)
唇を離して、それから久しぶりに、本当に久しぶりに、強い意志と共に言葉を紡ぐ。
「決めた。俺は七瀬さんを――留美ちゃんを守るよ。こんな弱い俺でも、少しくらいは力になれると思うから」
そしてもう一度、留美と口付けを交わした。どの道を選べば良いか……簡単な事だった。
初めから正解など用意されていない。それならば、自分の気持ちに従って動けば良いだけなのだ。
確かに自分は取り返しのつかない事をしたし、いつかは罪を償わなければならない時も来るだろう。
しかし、そうなったらその時に考えるだけだ。今はただ留美を守る事だけを考え続けよう。
もう――迷わない。

631乙女の想い:2007/03/10(土) 18:16:33 ID:IQ5olZbU0
「七瀬さん……本当に、良かったですね」
佐祐理が留美達の様子を遠巻きに見ながら、笑顔でぼそっと呟く。その言葉に、柳川が小さく頷いた。
「ああ。ガサツな女だと思っていたが……どうやら俺は、見る目が無かったらしい」
普段の留美からは想像もつかないが、今の彼女の姿は乙女そのものであった。
柳川は自分達を襲った冬弥を完全に信用した訳は無かったが、ここで邪魔するのは余りにも野暮というものであろう。
佐祐理と柳川は肩を並べたまま、留美達の様子を見守り続ける。そこで、佐祐理はある事を思い出した。
柳川は車に飛び乗るという、かなり無茶な行動を取った。見た所大きな怪我はしていないが、打ち身くらいにはなっているかもしれない。
「柳川さん、あの――」
佐祐理は柳川にその事を尋ねようとし、横を振り向いて――民家の扉から二つの人影が出てくるのを見た。金髪の白人女性、そして小柄な少女。
両方の正体に佐祐理は心当たりがあったが、今はそれ所では無い。何せ、金髪の女性は、銃をこちらに向けているのだから。
「――危ないっ!」
佐祐理は反射的に柳川を突き飛ばした。銃口の正確な向きなど、佐祐理に読み取る事は出来ない。
あの女性が誰を狙っていたか、確実な判断材料があった訳では無い。
しかし佐祐理の直感が告げていた――柳川が危ない、と。次の瞬間には銃声が鳴り響いていた。

632乙女の想い:2007/03/10(土) 18:17:25 ID:IQ5olZbU0


「……倉田っ!?」
柳川の服に、赤い液体が降りかかり、次々と斑点を描いてゆく。
銃弾は柳川の胸を、精密機械の如き正確さで貫こうとしていた。その軌道に、佐祐理が割り込んだのだ。
そして桁違いの殺傷力を秘めた5.56mm NATO弾は、佐祐理の左肩を掠め取っていった。
佐祐理と柳川の身長差が幸いしての結果だった。佐祐理の身長がもう少し高ければ、弾は佐祐理の肩を砕き腕を引き千切っていただろう。
柳川は機敏な動きで佐祐理を抱きかかえて、跳躍する。その後を追うかのように、地面が次々と弾け飛んでいった。
銃声が止んだ後、柳川は襲撃者の正体を確かめるべく首を動かした。
太陽は既に地平線の彼方に消えつつあり、空には暗雲が立ち込めている。辺りは薄暗くなっているが、何とか敵を視認する事は出来た。
銃を構えている金髪の女性――見覚えがある。主催者を打倒するに当たって最も頼りにしていた人物だ。
そして、かつて仲間だった者の横で薄ら笑いを浮かべている少女。その外見的特長は、春原陽平の話と一致する。
柏木耕一や、川澄舞。その他にも、多くの少年少女達の命を奪う元凶となった存在。
柳川は己の中に蓄積していた憎しみ全てを搾り出して、叫んだ。
「宮……沢……有紀寧ぇぇぇっ!!」


【時間:2日目18:25】
【場所:I−7】
柳川祐也
【所持品:イングラムM10(30/30)、イングラムの予備マガジン30発×7、日本刀、支給品一式(食料と水残り2/3)×1、青い矢(麻酔薬)】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)】
倉田佐祐理
【所持品1:支給品一式×3(内一つの食料と水残り2/3)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【状態:左肩重症(腕は上がらない)】
七瀬留美
【所持品1:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、あかりのヘアバンド、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水残り2/3)】
【状態:状態不明、千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】
藤井冬弥
【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧・】
【状態:状態不明、右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)、目的は留美を守る事】
宮沢有紀寧
【所持品①:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】
【所持品②:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(治療済み)、マーダー、自分の安全が最優先だが当分はリサの援護も行う、リサを警戒】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾22、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:マーダー、目標は優勝して願いを叶える。有紀寧を警戒】

633乙女の想い:2007/03/10(土) 18:18:25 ID:IQ5olZbU0


【時間:2日目18:15】
【場所:I−7】
篠塚弥生
【所持品:ベアークロー、FN Five-SeveN(残弾数10/20)】
【状態:車に乗っている、マーダー・脇腹に怪我(治療済み)・逃亡中・第一目標は優勝、第二目標は由綺の復讐】

【備考】
・冬弥の近くにFN P90(残弾数0/50)、包丁が落ちています。
・柳川・佐祐理・留美・弥生・冬弥は戦闘に集中していた為、第三回放送の内容を聞き逃しています
・島の天気が曇りに変りました
【備考2】
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は残量50%程度、行き先は不明

→733
→742
ルートB13、B16

634浩之の残したもの:2007/03/10(土) 22:42:53 ID:UKZq6jWU0
「ごぉっ……ぐふぅ……」
浩之の放ったデザートイーグルは確実に岸田の内腑を痛めつけていた。
腹の底から響く鈍痛に悶え苦しむ。
「がっ……はぁ、はぁ……糞……」
沸いてくる血と唾液をまとめて吐き出す。
一度デザートイーグルの洗礼を受けたアーマーは最早アーマーの役目を果たしていなかった。
多少の斬撃程度なら守ってくれるだろうが、同じ場所に銃弾が食い込もうものなら砕けて破片までも肉に食い込むことになるだろう。
唯の錘と成り下がったアーマーを脱ぎ捨てる。
「糞……これでは……」
このままではあの忌々しい高槻を刈る事が出来ない。
今銃を撃てば反動で自分の体が壊れかねない。
折れた肋骨が肺に食い込んでないのが僥倖だ。
「くそっ……! この餓鬼……」
眼下の浩之の死体を蹴飛ばす。
その動作も衝撃となって岸田に返る。
「ぐっ! ……糞」
数秒逡巡して、やはり一旦引くことを決める。
「フン……必ず殺してやるからな……高槻……」
そうして岸田は死体を残し、一人役場から離れて行った。

635浩之の残したもの:2007/03/10(土) 22:43:33 ID:UKZq6jWU0
【時間:二日目・15:45】
【場所:鎌石村役場】

岸田洋一
 【装備:電動釘打ち機(5/12)、カッターナイフ、鋸、ウージー(残弾25/25)、デザートイーグル(.44マグナム版・残弾7/8)、特殊警棒】
 【所持品:支給品一式、ウージーの予備マガジン(弾丸25発入り)×1】
 【状態:肋骨一本完全骨折・二本亀裂骨折、胃を痛める、腹部に打撲・内出血、切り傷は回復、マーダー(やる気満々)】
 【備考:アーマー、カッター、鋸は荷物軽量化のため捨てていきます】

→741
B-13,B-16,B-17

636落穂拾い(前編):2007/03/11(日) 14:48:43 ID:9HYljyok0
島の西部を流れる唯一の川。
その河口に面する民家の一つに、坂上智代ら三人の少女は早めの宿を取っていた。
安心感からか、里村茜と柚木詩子はくつろいで気ままなことをしている。
「ねえ、見て見て。エロビデオのテープがあるよ。なんかワクワクして来たわ」
「私はそんなもの、興味はありません」
「この“美少女狩り”なんてタイトルからして面白そう。茜はどれがいい?」
「わたしは……“GL〜ガールズラブ”がいいと思います」
舌の根も乾かぬうちに茜は前言を撤回していた。

あまりの緊張感の無さに智代は二人を苦々しく見ていた。
「お前達、他の仲間が苦難に遭ってるかもしれないのに、なんという弛んだ精神をしておる!」
「そんな仮定の話してもしょうがないでしょ。他の人は他の人。あたし達はあたし達なの」
「智代も堅苦しいことばっかり言ってないで、いっしょに見ましょう」
茜もテープを手に取ってはタイトル見て物色している。
「ほら、“トモヨ あふたー”ってのもあるよ。でもタイトルからして面白くなさそう」
「もういいっ! わたし一人で鎌石村へ行く」
「そんなあ。今着いたばかりなのに」
──こうして智代達は五分そこらで家を出たのであった。



「あれは……船」
智代は珍しく笑みを浮かべた。
到着時には気づかなかったが、砂浜から岩場への境目に一隻の船が乗り上げていた。
船体は破損が目立つが修理できるかもしれない。
三人とも嬉しさのあまり興奮を抑えることができず、はしゃぎながら船へと駆ける。
「エンジンはどうなんだろうな。生きていればいいが」
「まずは希望の灯りが見えたようなもんね」
智代を始めに茜が、そして詩子が船に乗り込む。

637落穂拾い(前編):2007/03/11(日) 14:50:22 ID:9HYljyok0
喜びも束の間、三人の笑みが一瞬にして消えた。
船室の扉を前に一同は凍り付いている。
希望を打ち砕くかのように、あたりには異臭が漂っていた。
「生ゴミじゃないですよね」
茜がポツリと呟く。
「たぶんな。いや間違いなく……」
口にこそしないが、みんなその臭いが死臭だと感じていた。

「智代、早く開けなさいよ」
「わかってる。今開けるから」
詩子にせかされ、緊張の面持ちで扉をゆっくりと開く智代。
「うわっ!」
全裸の女の死体が横たわっていた。
皆驚きのあまり声も出せず、立ちすくむのみである。

「この人、首輪をしていません」
しばらくして茜の落ち着いた声が響く。
「ホントだ。もしかして主催側の要員だったりしてね」
三人とも気を取り直して女や船の状況を調べることにした。
「しかし酷い様だな。死ぬ直前まで性交をしていたような気配だ。傷の具合からして死因は……何だろうな」
射殺でも絞殺でも撲殺でもない。どうやら座礁の際の全身打撲によるもののようだ。
「乳首を噛まれた痕があるね。あたしもこのくらいオッパイがあったらいいなあ……あれ、居ない。茜!」
詩子は女の胸を触りながら茜が居ないことに気づいた。
「船の傍に複数の足跡があります。デイパックも二つありました」
応えるように船室の外から返事があった。
「何か武器は? 銃とかあるか?」
「残念ながらありません。共通のものだけです」
「そうか……判ったから戻って来てくれ。なるべく目の届くところに居て欲しい」
いつ襲われかもしれないのに大胆なことをするものだと、智代は舌打ちした。

638落穂拾い(前編):2007/03/11(日) 14:52:24 ID:9HYljyok0
「機関は死んでないみたい。燃料は十分あるわ」
「詩子は機械をいじれるのか?」
「原付のエンジンはいじったことあるけどねえ。船はないよ。でも四級小型船舶は取ってるから」
「ほう、船を操作できるのはありがたいな」
詩子の特技は期待できそうだ。
「乗馬とかお花とかお香も一通りはできるよ。あとクレー射撃もね」
「そんなこと聞いてないって……え? 詩子って、上流階級のお嬢様なのか?」
「フフフフ。秘密だよ」
「実は元華族の流れをくむ家系です。……って、嘘です」
いつの間にか緊張感は解けて冗談さえ言える雰囲気になっていた。
「この人を外に出そう。茜と詩子は足を持って」

結局女の身元は判らず、砂浜に埋葬することにした。
船を後に一行は歩き始める。
西日を浴び、浜には三人の長い影が映えた。
と、突然、茜が智代の腕をクイクイと引っ張った。
「ん? どうした」
茜は二人に手で座るよう指示する。
何事かと思っていると、砂浜に文字を書き始める。
【首輪の盗聴器のこと忘れてました。船を見つけたこと、喋ってまずくないですか?】
あっ、と軽い悲鳴を上げたが既に遅い。詩子を見ると同じように気まずい顔をしている。
【まずかったな。今は私達が生き残ることを考えようではないか】
──前向きに考えよう。
そのためにはまず、ウサギの指示通りに行動する者達──敵を斃さなければならない。
(望まずとも殺し合いをすることになるんだな)
立ち上がると暗い気分払拭するように沖の方を眺める。
あいにく大海原は見えなかった。泳いで渡れそうなほどの距離にある小さな島に遮られて。

639落穂拾い(前編):2007/03/11(日) 14:53:54 ID:9HYljyok0
「元気を出してください。リーダーが務まりませんよ」
「ひゃあっ!」
背中から臀部にかけてスウーッと指がなぞられ、智代は軽く仰け反った。
「あははーっ、行きますよーっ」
「この不良め、お仕置きをしてやる」
「ずるい、あたしがやりたかったのにー」
逃げる茜と追いかける智代と詩子。
少女達は海岸を駆けた。


【時間:2日目・17:50頃】
【場所:D−1の砂浜】

坂上智代
【持ち物:手斧、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康、鎌石村へ】

里村茜
【持ち物1:包丁、フォーク、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、救急箱、他支給品一式】
【持ち物2:拾った二人分の食料】
【状態:健康、鎌石村へ】

柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康、鎌石村へ】

【備考:茜が見つけたデイパックからは食料だけ抜き取り、残りは放置されてます】

(関連:121、668 B-13)

640誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:53:57 ID:m6Hl9Iu.0
岡崎朋也は一人、暗闇の中ですっかり蝋が溶けてしまった蝋燭を見ながらまだ出会えていない友人達の事を考えていた。
こうして伊吹風子には会えたもののまだまだ所在の分からぬ人間はたくさんいた。特に心配なのは古河渚の事だった。
渚の場合、父母である古河秋生、早苗がいるからどちらかと出会えて共に行動している可能性は高い…が、これだけ広い島なのだ、簡単に出会えていたら苦労しない。
(けど、渚にはあのオッサンがいるんだ、何となくだけど――もう、渚の家族は会えている気がする)
それは勘ではなく、直感に近いものであった。僅かな時間ではあるが古河家で過ごした濃密な時間で彼ら家族の絆はどんなものより強いものだと確信している。
むしろ問題はこっちにあるのかもしれない。
このままこんなことをしていて大丈夫なんだろうか?
果たして他の仲間と合流できるのか?
そもそも肩を壊した自分がまともに武器を持って戦えるのか?
敵が強力な武器を持っていたら?
俺はみんなを守りきれるのか?
そしてそれ以前に――本当に、この島から脱出できるのだろうか?
逃げ場なんてないんじゃないかという疑惑が朋也の中で渦巻く。
大前提として、この殺し合いはどう足掻いても脱出できないように様々な仕掛けを張り巡らせているはず。首輪の爆弾など、その一端に過ぎないのでは?
具体的なプランがない以上『仲間を探す』以外に明確な目的がない朋也にとって、この状況は不安を煽るには十分過ぎた。
朋也の不安は加速する。
この島で――自分を必要としてくれる人間が、果たしてどれだけいるんだろう。
かつての、バスケットをしていたころの自分ならまだ体力にそこそこの自信もあったが今ではすっかり廃れ、おまけに肩まで壊している。戦闘にこれで闘えるのか。
自分より優れた人間なんていくらでもいる。
みんなが知人と会えたら自分は用済みなんじゃないか。
ここにいる連中だって、風子以外は知り合いと会えたらそちらにくっついていくに決まってる――
(ダメだ! 何を考えてるんだ俺は!)
由真やみちるに対して少しでも疑いの念を持とうとした自分に嫌悪する。
このまま疑念に囚われてばかりいたら、本当にあのウサギの思い通りになってしまう。
今一緒にいるこの仲間、こいつらが探している奴らと会えてから後のことは考えればいい。
誰に必要とされるかなんてまだ関係ない、絶対に会わせてやるんだ。
余計な雑念は捨てろ、岡崎朋也。
朋也は自分の腹に拳を叩き込んで気合を入れ直す。これからはもっともっとシビアな状況が待っているのだ、一瞬でも行動を迷えば即、死に繋がる。

641誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:54:27 ID:m6Hl9Iu.0
薄暗がりの中、民家についていた時計で現在時刻を確認する。夜光塗料でぼんやりと光を放っている時計針が指し示した数字は、3。
こんな夜遅くになら『乗って』いる連中だって流石に眠って…
(って、言ってるそばから楽観的になってるんじゃねえっての…けど、眠い…)
「んん…岡崎さん、まだ起きてるの…?」
いきなり声が聞こえたので多少なりとも驚いてしまったがすぐに由真のものだと分かった。
「何だ、十波か…あんたこそ起きてたのか」
「ついさっきだけど。ごめん、本当なら交代で見張りをするべきなのにね」
「いいさ、疲れてたんだろ? そりゃ空腹で死にかけるくらいだもんな」
「…その事は忘れて」
表情は見えないが、きっと赤くなってるんだろうなと朋也は思った。
「そっちも眠たいんでしょ? 今度はあたしが見張りするから朝まで寝てていいよ」
願ってもない申し出だったが、ちらりと先程考えたことが頭をかすめる。このまま任せていいのか、と。
(バカ、腹減って死にそうになる奴なんだぞ。裏切るような奴じゃない! いい加減にしろよ!)
きっとこんな異常な状況がこう考えさせてるんだと言い聞かせて「任せる」と由真に言った。
それから由真から毛布を借り、床につく直前。
「あのさ、十波…」
「何?」
「…いや、何でもない。お休み」
「…? 変なの」
由真の笑うような声が聞こえた。
自分でも変だと思う。一体、何を言おうとしていたのか分からなかった。少しでも疑おうとしていた事を言おうとしていたのだろうか。
結局、その疑問に答えを見出せないまま朋也はごく浅い眠りについた。
     *     *     *
翌朝。
まどろみの中で朋也は、耳の中に何やら男の声らしきものが聞こえてきているのに気付いた。
(何だ…? 一体誰が…)
気にはなったが意識が覚醒しない。しかしどうでもいいや、と思い始めてきた時。
…今までに死んだ人の名前を発表…そんな声の一部が、偶然か必然かはっきりと聞き取れたのである。
当然、朋也は跳ねるようにして飛び起きる。
「何っ!? 放送が始まったのか!? 十波、どうして起こして…って、オイ」
目の前の光景に朋也は呆れてしまう。そう、見張りを任せたはずの十波由真はすやすやと二回目のお寝んねをなさっていらしたのである。

642誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:54:46 ID:m6Hl9Iu.0
こんな奴が裏切ると少しでも思った自分を、別の意味で恥じた。人を見る目がない、と。
「寝てんじゃねぇ! 起きろ! 風子! みちるもだ!」
怒鳴る朋也だが誰も起きる気配すら見せない。お前ら、適応能力が高すぎるぞ。
「――それでは発表します」
しかし無情にも放送は待ってはくれない。ああくそ、と朋也は悪態をつきながら自分一人だけでも放送を聞くことに集中しよう、と決意したのであった。
――しかし、放送が終わった時には聞いていたのが自分一人で良かったと朋也は思わざるを得なかった。
死んだ人間の数が、あまりにも膨大なものだったからだ。
朋也の知り合いも何人かそこに名を連ねている。けれども一番朋也にとって衝撃的だったのは…
「冗談だろ、オッサンも、早苗さんも死んでるなんて…」
名簿を持つ手が震えているのが分かる。あの二人、あの二人だけは絶対に死ぬはずがないと心のどこかで思っていた。
「…そうだ、渚っ!」
秋生と早苗の名前で思い出す。
渚はあの中には入っていない。となれば、どこかでまだ生きているということになる。血の繋がっていない自分でさえこんなにうろたえているのだ、まして渚がこんなのを聞いたら…
「くそっ! 暢気に寝てる場合じゃなかったんだ!」
すぐにでも飛び出そうとしたとき、朋也の目には未だ放送を知らぬ三人の仲間の姿が目に映る。
こいつらを放っておいて俺一人、渚を探しに出ていいのかという疑問がよぎる。
もし目覚めて自分がいないことに慌て、なりふり構わず自分を探し、結果他の人間に襲われたりしたら?
そして何より、約束を破ってまで渚を探しに行けるような権利が自分にあるのか?
どう考えてもみちるや風子といった戦闘に不向きな連中を由真一人が守りきれるとは思えない。
だが、こうしている間にも渚の身が危険に晒されているとしたら…
「オッサン…俺は、どうすりゃいいんだ?」
もはやこの世にいないと知ってしまった、秋生の名を呼ぶ。あの人ならどんな選択をするだろうか?
夜が明けて、朝日が差し込む窓。その先に広がる空を朋也は見上げた。
「決まってるよ、すぐ出発するに決まってるじゃん、岡崎朋也」
そんなとき、この島で最初に出会ったクソ生意気な少女の声が後ろから聞こえた。
「ずっと…聞いてたのか、みちる」
「ううん…岡崎朋也が渚、って人の事を言ってたときから」
放送は直接には聞いていなかったということらしい。
「渚、っていう人は岡崎朋也にとって…すごく大切な人なんだよね? それで、今その人は…ひとりぼっちかもしれないんだよね? だったら今すぐ探しに行くべきだよ」

643誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:55:23 ID:m6Hl9Iu.0
昨日見せていたものとはまったく種類の違う雰囲気に、朋也は戸惑いを感じずにはいられなかった。
なんて悲しげな声なんだろう。まるで、自分も家族を失ったかのような…
「みちる…お前――」
朋也が何か言葉をかけようとしたとき、次々に体を起こす気配が見られた。どうやら風子も由真もお目覚めのようだ。
「コラーーーッ! いつまで寝てんだこのねぼすけーーっ! さっさと出発するよっ」
威勢のいいみちるヴォイスが響き渡り風子と由真の意識を無理矢理覚醒させる。風子は相変わらずマイペースで「…んーっ、清々しい朝ですっ」などと言う側で由真は「えっ? あれっ? ね、寝てたの、あたし?」なんておろおろしている。
「早くしろーーーいっ!」
やかましいみちるの声に急かされて二人とも(と言っても風子はそんなに変わらないペースだが)簡単に身支度を整える。
みちるには先程感じた悲壮な雰囲気なんて微塵も見られない。いつも通りだ。
「気のせい…だったのか?」
朋也が疑問に思うまでもなくみちるの視線がこちらにも向けられる。
「はいっ荷物! 男のくせにトロトロするな岡崎朋也ー!」
ずいっ、と目の前にデイパックが差し出される。
「お、おう」
慌ててデイパックを受け取る。ちょいと失礼な発言があった気がしなくもないがこの際無視しておこう。
全員が荷物を持ったところで由真が思い出したかのように叫ぶ。
「あっ! そうだ放送! ねえ、あたし達が寝てる間に放送は無かったの!?」
その一言で全員が動きを止める。特に朋也は――あれだけの人数が死んだのを伝えていいのかと迷っていた。
ちらり、とみちるを横目で見る。それに気付いたみちるは1回だけ、ちいさく頷いた。大丈夫だよ、と。
隠してたって、いつかは知らなければいけない事だ。ごくっ、と喉を鳴らし覚悟したように言い出す。
「――俺が、聞いてた」
由真と風子の目が一斉に朋也の方へ向いた。二人ともが、不安と覚悟の入り混じった表情になっている。
「言うぞ」
それから数分間、自らが名簿につけた新しい印にある人間の名前を朗読していく。
死者の名前を読み上げるということは想像以上につらいものがあった。
あの放送をしている人間もこんな気持ちだったのだろうか。
今にして思えば、あの放送をした若い男の声も震えていた、ような気がする。

644誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:55:48 ID:m6Hl9Iu.0
「これで2回目は全部だ」
読み終えた後。何分かの沈黙の後、最初に声を発したのは由真だった。
「そっか…もう、いなくなっちゃったんだ、おじいちゃん」
「おじいちゃん…ですか?」
風子がおずおずと尋ねる。由真は嘆息した声で「うん」と言って続ける。
「長瀬源蔵…それがおじいちゃんの名前なんだけどね、まあこれが何というか…親バカというか、子煩悩な人っていうか…言い方が分からないけど、とにかく、過剰なくらいあたしを可愛がってくれてた」
「いいじいさん、だったんだな」
「そうでもないわよ…悪いところもいっぱいあった。けど…尊敬してたし、誇りにも思ってた」
大事な人が亡くなったというのに、由真は気丈に、涙も流さず淡々と語っていた。
「…十波」
「何も言わないで」
冷たさすら感じる、きっぱりとした拒絶の声。
「まだ泣く訳にはいかないの。たぶん、今ごろはあたしなんかよりももっともっと辛い思いをしてる人がいるだろうから。それに…あたし達年上がびーびー泣くわけにもいかないでしょ? ね、岡崎さん?」
意地の悪い声でニヤリと笑いながら由真は言った。
あてつけか、あてつけなんだな?
「…一つ言っとくぞ」
怒りたいのを我慢して恐らく勘違いしてるであろう十波由真に事実を言ってのけてやる。
「お前、風子を何歳だと思ってる」
「へ? 小学生か中学生くらいなんじゃないの?」
「やっぱり…こいつは俺と同い年、18なんだぞ。貴様なんかよりよっぽど年上の先輩なんだ」
「え? えええぇーーーっ!? ウソォ!?」
突き付けられた新事実に後ずさりながら驚愕する由真。当然、この驚きに激怒する風子。
「何でそんなに驚くんですかっ! 失礼ですっ! ぷち最悪ですっ! 岡崎さんクラスに最悪ですっ!」
ぷりぷり怒る風子だがとても高校生が怒っているようには見えない。
一方の朋也は内心で「よっしゃ、ようやく俺と同レベルの奴が風子の中で生まれた」とほくそ笑んでいた。
「まったく、岡崎さんの連れてくる人はヘンな人ばかりですっ。類は友を呼ぶって本当です」
「「お前が言うな」」
「…ねぇ岡崎朋也ぁ、早く出発しようよぉ」

645誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:56:09 ID:m6Hl9Iu.0
     *     *     *
放送後の重苦しい雰囲気は、もう一同にはなかった。
風子の年齢云々が緩衝材になったのだろう。朋也も夜に感じていた色々な不安は今はほぼ感じていない。渚の無事を心配する気持ちはまだあったが、きっと知り合いか、頼りになる人間と一緒にいるはずだと希望を持つことにした。
現在岡崎朋也一行は南から廃墟となったホテルへと向かっている最中だ。
探している人物の情報を交換し合った結果、全員が全員おとなしそうな性格(まあよくもこんなやかましい人間に穏やかな性格の友人がいるものだ)らしいのでどこか目立たないところで身を潜めているかもしれないとのことで見解の一致をみたからである。
街道沿いに向かうのは見つかりやすいということで敢えて森を突っ切って行く事にした。体格の小さいみちるや風子にとっては厳しい行程になるだろうが安全のためである。
「随分歩いたわね…ねえ、ホテルはまだ見えない?」
山道の途中。ここまでやや強行で来たせいか朋也以外はみな少しずつ疲労を感じているようだ。
「いや…まだ見えないな」
「岡崎朋也ぁ…ひょっとしてもう通り過ぎちゃったんじゃないの?」
街道に沿って歩いてない以上目測を見誤ってまったく別の方向へ歩いているという可能性もあった。迷ってしまうのは一番避けたい。
「岡崎さん」
この中では2番目に元気のある風子が手を上げて提案する。
「そろそろこの辺で街道に出てみる事を提案しますっ」
「そうね、道を確かめてみるくらいならいいんじゃない?」
続いて由真が手を上げる。
「みちるもー」
「3対1で賛成多数、決定です。行きましょう行きましょう」
手を上げるが早いか、そそくさと下って街道へ出ようとする3人。
「待て、俺はまだ何も言ってないぞ」
「反対なの? 岡崎さん」
「いや、別にそうってわけじゃないが…静かにな」
「失礼です。風子はいつでも粛々とした淑女です。いつもやかましい岡崎さんと一緒にしないで下さい」
お前がいうか、と文句を言おうとしたが自分が大声を上げれば世話ない。ぐっ、と我慢することにする。ふふん、自分は大人なのだ。
「岡崎朋也、なんか偉そう」
「んなわけないだろ? 行こう」
朋也が先行して下り、整備されている街道を探す。程なくして街道は見つかった。
「ここから行けそうだな…まず俺が先に下りるよ」

646誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:57:10 ID:m6Hl9Iu.0
街道と森の間は坂になっている。朋也は左右に用心しつつゆっくりと滑りおりた。遮るものがなくなって痛いくらいに日光が突き刺してくる。
見上げると、まだ太陽の位置は低くそれほど日が昇りきっていないように感じる。まだそんなに時間は経っていないのだろうか。
「岡崎さん? 下りるわよ」
特に何もしない朋也にしびれを切らしてか由真と風子が次々に下りてくる。
由真は周囲をきょろきょろと見回して誰もいないのを確認する。今のところ、街道には人の気配はない。
「大丈夫…みたいね。みちるー、下りてきてもいいわよ」
「んに、今行くよ――」
そう言ったときぱららららら、とタイプライターを叩くような音が聞こえて、みちるの体が不自然に跳ね上がった。
「…えっ、な、に、今の…音」
由真が声にならない声を上げた直後、バランスを崩したみちるが赤い色をした水飛沫を上げながら坂を転げ落ちてきた。
その顔が、身体が、べっとりとした鮮血に染まっている。
「――あ、あ…わぁぁぁーーーーっ!」
普段なら絶対に聞けないであろう、心底からの悲鳴を風子が上げ、ぺたりと地面にへたり込んだ。
「て…敵なのかっ!」
初めての敵襲に恐れ戸惑い、矢鱈滅多に周囲を見まわす朋也。武器と言えるものがない以上銃、しかも銃声から判断するにマシンガンの類には抵抗する術が無い。
『敵』はこちらの出方を窺っているようで出てこようとしない。だったら、すぐにでも逃げるのが得策ではあるのだが。
(みちる…)
ぴくりとも動かない仲間の遺体を放っておくのは――
「…ぅぅ…」
わずかに聞こえてきた呻き声に朋也は目を見張った。まだみちるは辛うじて生きていたのだ!
「みちるっ!」
朋也が悲鳴に近い声を上げて呼ぶ。呼ばれた当の本人は虚ろな目で必死に焦点を、呼びかけた主に対して合わせようとしていた。しかし出来ないと思ったのか、今度は震えている手を朋也へと伸ばそうとする。
「――ぉか、ざき、とも」
朋也の名前を呼ぼうとしたが、それはまたすぐに『タイプライター』に遮られた。
けたたましい音がしたかと思うと、もう一度だけみちるの体がびくん、と跳ねてそれきり動かなくなった。
「あっ」

647誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:57:35 ID:m6Hl9Iu.0
自分でもマヌケだと思えるくらいの情けない声が漏れる。
死んだ。
自分よりも遥かに年下で、生意気で、元気なのが取り柄だったみちるが、守るべき仲間が、死んだ。
呆然とする間もなく、坂の上から『敵』が飛び降りてくる。
その『敵』こと『七瀬彰』は朋也と同じくらいの背丈で、体格もそれほど変わらず、しかし殺人鬼の目をしていた。
そしてその手に握っているのはイングラムM10。『タイプライター』の正体だ。
「…あ、ああ…」
由真と風子はただ恐怖していた。目の前で人が撃ち殺されたのだから。
だが、そんな彼女らの心情など目の前の殺人鬼が汲みとってくれるはずなどない。冷静に、冷酷に、七瀬彰はイングラムの標準を合わせた。
「美咲さんのためだ、死んでもらうよ」
ただ一言、そう言った声はゾッとするほど普通の声色だった。
その一瞬の間、朋也は考える。
(俺は結局、何をしていたんだ? このままこうやって殺されてしまうのか?)
夜に、たとえ少しでも疑ってしまっていたとはいえ、仲間を守ると決めたはずだ。
なのにどうだ、このザマは。みちるを守れなかったばかりか全員が殺されようとしている。
ちくしょう。
自分はどうしようもなくダメな人間だ。
きっと春原にさえ笑われてしまうくらいの。このままでは、自分は春原以下の人間になってしまう。
そんなのは…死ぬより、イヤだ。
だから、せめて、これだけは――

(渚…悪いが、先に行くな。後のことは、あいつらに託す)
ニヤリ、と朋也は自分でも気付かないほどの小さな笑みを浮かべていた。それは『敵』に向けたものか、『仲間』に向けたものかどうかは本人にさえ分からなかったが。

――譲れない。
「十波! 風子! 走れぇぇぇっ!」
立ったまま震えている由真を突き飛ばすと、敢然と朋也はイングラムの銃口の前に立ち塞がった。
「うっ!?」
一瞬迷うように銃口を反らしかけた彰だが、構わずイングラムのトリガーを引いた。
ぱらららら、という音が次々と朋也の体を壊してゆく。想像を絶する痛みに意識が飛びそうになるが、まだ倒れるわけにはいかない。

648誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:57:56 ID:m6Hl9Iu.0
しっかりと大地を踏みしめ、足に力を入れて、撃たれ続けながらも朋也は彰に飛びつき押し倒す事に成功した。
倒れる直前、イングラムの銃口が反れて今度は肺を直撃したが痛くはなかった。痛覚が麻痺してしまったのだろうか。
彰と共に地面に倒れる。その時かすかにだが、足音が遠ざかってゆく音が聞こえた、ような気がした。由真と風子が逃げていったものだと、信じたい。
でなければ、こんなことをした割に悲し過ぎる結末だ。
「くそっ、どけよっ!」
朋也の下敷きになった彰が押し戻そうとする。しかし朋也も残された力を振り絞り彰の体を押さえこむ。
「まだ…行かせるわけには…いかないんだよ」
「死にかけのくせに…! さっさと死んで楽になれっ!」
横からイングラムを撃とうとするがカチ、カチッという音しかしない。弾切れだった。
「ぐっ…そこまで命を張って…何になるっていうんだ!」
朋也に力が残っている限りは状況をひっくり返せないと思った彰は悪態をつくしかなかった。
「誓った…からに決まってるだろ」
「何…? 誰にだよ」
「あんたは、その美咲さんとやらに殺してでも生き残ると誓ったんだろ? 俺は仲間を生き残らせるとついさっきだけど、誓った。――自分の、誇りにだ」
「………!」
彰が言葉を失う。呆れたのか、何か思うところがあったのか、そんなこと朋也には分からない。
だが…それでも、目的を達成できた自分に――

腕から力が抜け、彰がようやく体を押し戻す。再び立ちあがった彰の目には、山林の風景しか映っていなかった。
朋也を見下ろす。彼は既に、死んでいた。

――満足だった。

649誇りに懸けて:2007/03/14(水) 12:58:24 ID:m6Hl9Iu.0
【時間:二日目 8:30】
【場所:F-4】 
伊吹風子
【所持品:スペツナズナイフの柄、三角帽子、支給品一式】
【状態:軽い疲労、ホテルへ向け逃走】
十波由真 
【持ち物:ただの双眼鏡(ランダムアイテム)】
【状況:軽い疲労、ホテルへ向け逃走】
岡崎朋也
【持ち物:クラッカー複数、支給品一式】
【状況:死亡】
みちる 
【持ち物:武器は不明、支給品一式】
【状況:死亡】
七瀬彰
【所持品:イングラムM10(0/30)、イングラムの予備マガジン×8】
【状態:右腕負傷(かなり回復。まだ少々痛む)。マーダー】

→B-10

650汚れた手:2007/03/14(水) 17:41:57 ID:BnSXdwQ20
   *     *     * 第三回放送・河野貴明の場合 *     *     *

「雄二……由真……」
悪夢のような内容の第三回放送。また多くの知り合いが死んでしまった。
だが貴明の心はもう、揺らがなかった。それは『本当の強さ』というものを身に付けたからだろうか?
きっと違う。今貴明が感じているのは、イルファの死体を見つけた時と同じ感覚だ。
『掛け替えのない日常』がどんどん自分の中から失われ、生じた空白を『怒りと憎悪』が埋め尽くしてゆく。
その変化は、ゲームで生き残る上では有利に働くかも知れない。
この島に連れて来られた当初の貴明なら、このみの死で取り乱していただろう。
或いは少年との死闘の際に死んでしまっていたかもしれない。
だが貴明はまだ意志を確かに持って、生きている。
このみの死を乗り越え、花梨の命を犠牲として少年に勝利し、生き延びてきた。
心も身体も傷付きながら、色々な物を捨て去って、背負いきれない程の重荷を背負って、先に進み続けている。
本来貴明が持っている優しさや人間味を放棄してゆく代わりに、人を殺す覚悟と戦う意志を手に入れた。
今の貴明を支えているのは悪に対する殺意――それは余りにも哀しい、偽りの強さだった。

651汚れた手:2007/03/14(水) 17:42:54 ID:BnSXdwQ20
   *     *     * 第三回放送・藤林杏の場合 *     *     *

「椋……ごめん、間に合わなかったね……」
一番会いたかった、そして守りたかった妹の死。こうなる事も、ある程度予想はしていた。
椋は杏と違って、大人しくて優しい女の子だ。殺し合いなど出来る訳が無い。
悪意のある者と出会ってしまえば為す術もなく殺されてしまうのは、当然の帰結だ。
椋が生き残るには、誰かが保護してあげなければならなかったのだ。
椋と遭遇した場合、確実に保護するであろう人物は三人。杏、朋也、そして――柊勝平だ。
勝平は半ば狂ってはいたし、襲い掛かっても来たが、少なくとも椋の事は心配していた。
その勝平を、杏は自らの手で殺してしまった。椋が死んだ一因は間違いなく自分にあるのだ。
そして、ことみについても同じ事が言える。あの時無理をしてでも藤井冬弥を止めていれば、ことみは死なずに済んだかも知れない。
どうすればあの二人に償える?
自殺――論外、そんなのただの現実逃避に過ぎない。冬弥探しを続行して復讐――意味が無い。
復讐した所でことみは喜ばないだろうし、そもそも犯人が冬弥であるか定かでは無い。
椋とことみが共通して望むであろう事。それはきっと彼女達が全幅の信頼を寄せていた、岡崎朋也の幸せに他ならない。
朋也は気が短い所もあるが、ゲームに乗るような人間では無い。それは杏もよく知っている。
ならば朋也の幸せに繋がる事は一つ。ゲームの破壊――つまり、主催者の打倒だ。
それで自分が犯した罪を償いきれるとは到底思えないが、やらないよりはマシだろう。
(……って、何長ったらしい言い訳を考えてんのよ。本当は分かってるわよ……。椋を失ったあたしには、何でもいいから――)
生きる目的が必要だった。ただそれだけだった。

652汚れた手:2007/03/14(水) 17:43:43 ID:BnSXdwQ20

   *     *     *    *     *     *

第三回放送が流れてからもう四十分程経っただろうか。
春原陽平とルーシー・マリア・ミソラ(通称:るーこ)は、教会の礼拝堂で肩を並べ十字架を眺め見ていた。
「藤田も川名も死んじゃったんだな……。何だかまだ、実感沸かねえや……」
「るーもだ……。うーひろは強いうーだった。それにうーひろやうーみさとは、少し前まで一緒にいたんだ。
 それが突然、もう二度と会えなくなった。るーはその事実が何よりも悲しくて、怖い」
柏木の者達との死闘の後――再会を誓って、そしてそれぞれの目的の為に別れた十二人の同志達。
皆強い意志を持っていた筈なのに、希望を持って一生懸命生きていた筈なのに――そのうちの二人が、早くも帰らぬ人となってしまった。
もう、何が何だか分からなくなってくる。人が簡単に死に過ぎるのだ、この島では。
どれだけ固い決意を持っていようとも、どれだけ優れた戦闘能力を持っていようとも、死はすぐ近くにある。
それがこの島の冷たい現実だった。
二人が視線をぼんやりと地面に落としていると、誰かが歩く音が聞こえてきた。
足音の主――姫百合珊瑚は、礼拝堂に入るとすぐに、手招きをした。
「るーこ、陽平、ちょっとええかな?」
「うーゆり、どうした?」
「あ……ううん、やっぱ何でもないわー」
「……?」
るーこは眉を寄せて怪訝な顔をしたが、珊瑚はにこっと笑ってみせ、紙にペンを走らせた。
『首輪解除の方法が分かったで』
陽平は目を見開いて、驚きの声を上げたい衝動に駆られたが、何とか抑えた。
それから慌てて紙を取り出して、そこに文字を書きなぐった。乱雑な書き方だが、それでも珊瑚の字よりは綺麗だった。
『それは本当かっ!?』
『うん。この紙を見て貰えれば分かると思うんやけど、仕組みさえ知ってれば誰でも出来ると思う。簡単なトラップがいくつか仕掛けてあるだけや。
 ……内部構造を知らなかったら、ウチが解除しようとしてもドカン!やったけどね』
珊瑚はそう言って、陽平達に一枚の紙を差し出した。陽平とるーこはその紙にじっくりと目を通す。
そこには首輪の仕組みと外す為の手順が、これ以上無いくらいに分かりやすく示されていた。
判明した事実は二つ。首輪の解除は紙に書いてある手順通りに行えば、特殊な技術を持っていなくても問題無い。
そして解除された首輪は、装備していた者が死んだという情報だけを主催者側に送り続けるという事だった。

653汚れた手:2007/03/14(水) 17:45:11 ID:BnSXdwQ20
『……そうだね、これなら僕だって出来そうだ。首輪の仕組みが分かったって事は、ハッキングに成功したの?』
珊瑚は小さく首を横に振り、ペンを握り直した。
『うーん……まだ一部だけや。首輪の情報は引き出せたけど、他の部分はガードが固くてまだ分からへんねん。
 でも心配しないでええで。この調子で行けばいずれ他の情報……主催者の居所や正体も掴めると思う』
『そうか。うーゆりばかりに任せてすまないが、頑張ってくれ』
すると、珊瑚がぐっとガッツポーズを取ってみせた。それは珊瑚らしく無い……どちらかというと、今は亡き瑠璃のような姿であった。
『任せといて。うちが皆の役に立てるのはこれくらいやし、絶対に主催者のパソコンを乗っ取ったる!
 ……と言っても、これ以上ウチがする事は殆どないんやけどな。前の参加者の人が用意してくれてたCDのおかげで、だいぶ楽にハッキング出来るようになってる。
 もう敵の防御パターンは解析済みやから、後は放っといてもどんどん作業が進んでく筈やで』
『じゃあ早速首輪を外そうよ。こんな気分の悪い物からは、一秒でも早く解放されてえよ』
『今外す訳にはいかへんよ……敵も来てへんのにいきなり死亡信号が送られたら、主催者だって怪しむやん。
 それに首輪を外すのには工具が必要やで。教会の中を探してみたけど、使えそうな道具は無かった……』
珊瑚が少し考えて、ペンを再度走らせようとした所で、るーこは突然H&K SMG‖を拾い上げた。
鋭い眼差しを十字架とは逆の方向――つまり、教会の出入り口へと向ける。
「――おい、るーこ。いきなり何を……」
「静かにしろ。来客のようだぞ」
「……え!?」
珊瑚と陽平が聴覚に神経を集中させると、確かに足音――それも複数、聞こえてきた。
慌てて陽平は鉈を取り出し、珊瑚もコルト・ディテクティブスペシャルを構えた。
三人の緊張した視線が、一様に入り口へと降り注ぐ。陽平は、緊張するとすぐに喉が渇くんだな、と場違いな事を考えた。
重い沈黙が続く。しかしその沈黙は、来訪者の側があっさりと破った。
「るーこ、珊瑚ちゃん、それから春原だっけ?貴明だけど……入っていいかな?」
扉の向こう側から、るーこと珊瑚のよく知る声がした。

654汚れた手:2007/03/14(水) 17:46:59 ID:BnSXdwQ20
「貴明っ!?」
珊瑚が弾かれたように飛び出して、扉を勢い良く開け放つ。
そこには確かに、今や珊瑚にとって、唯一心の底から気を許せる人物――河野貴明が立っていた。
張り詰めていた緊張の糸が切れた珊瑚は、貴明の胸に飛び込んで嗚咽を漏らし始めた。
「貴明……」
「……久しぶり、珊瑚ちゃん」
貴明は複雑な表情で、珊瑚の身体を抱き締めながら思った。
(――汚れてしまった俺に、こんな事をする資格はあるのかな……)


【時間:二日目18:50頃】
【場所:G-3左上の教会】

姫百合珊瑚
【持ち物①:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物②:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:嗚咽、ハッキングはコンピュータの演算に任せている最中、工具が欲しい】

ルーシー・マリア・ミソラ
【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×5、他支給品一式(2人分)】
【状態:綾香に対する殺意・主催者に対する殺意、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み、裂傷の傷口は概ね塞がる)】

春原陽平
【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式(食料と水を少し消費)】
【持ち物2:鋏・鉄パイプ・首輪の解除方法を載せた紙・他支給品一式】
【状態:全身打撲(大分マシになっている)・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)】

655汚れた手:2007/03/14(水) 17:48:03 ID:BnSXdwQ20
河野貴明
 【装備品:ステアーAUG(30/30)、フェイファー ツェリザカ(5/5)、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】
 【所持品:ステアーの予備マガジン(30発入り)×2、フェイファー ツェリザカの予備弾(×10)、イルファの亡骸】
 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー】

観月マナ
 【装備:ワルサー P38(残弾数5/8)】
 【所持品1:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、9ミリパラベラム弾13発
入り予備マガジン、他支給品一式】
 【所持品2:SIG・P232(0/7)、貴明と少年の支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲】

久寿川ささら
 【所持品1:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、支給品一式】
 【所持品2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)】

藤林杏
 【装備:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×27】
 【所持品:予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書×3(国語、和英、英和)、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、支給品一式】
 【状態:健康、目的は主催者の打倒】

ほしのゆめみ
 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:胴体に被弾、左腕が動かない】

ボタン
 【状態:健康、杏たちに同行】

【その他備考】
※珊瑚ならゆめみを修理できるかもしれません
※イルファの左腕は肘から先がありません

→732
→752

656勘違い2:2007/03/14(水) 23:13:58 ID:XfQZJz1g0
「何故こんなことになってしまったんだ・・・・・・」

柊勝平の左腕は、今だしっかりと名倉由依に捕らえられたままだった。
目の前には神尾観鈴、ようやく泣き止んだのか大分落ち着いているようにも見える。
その間、由依は二人を拘束したまま一言も口を聞かずただ静かに座っていた。
そんな三角形を職員室で作る三人、時間だけが刻一刻と過ぎていく中勝平はもう一度疑問を口にした。

「何故、こんなことに・・・・・・」
「ぐすっ・・・・・・」
「お前もせっかく泣き止んだんだから、もう繰り返すなよ」
「だ、だって」
「・・・・・・」

勝平と観鈴の話に、由依が混ざることはなかった。
目を開いているのにどこも見ていないような空ろさが不気味であった、なので勝平も自ら彼女に話しかけようという思いは特になく。
・・・・・・先ほどのような感情の揺れは、もうない。
静かな時間は、勝平の自暴自棄になりかけた精神を落ち着かせるのには充分な効果をみせることになったようだ。
勿論、問いに対する答えを自身で出せたわけではない。しかし投げやりに事を任せるのは、彼のプライドが許さなかった。

(で、どうするかだ)

相沢祐一の生死に関しては、この目で確かめる必要がある。
しかし問題となるのが、この少女で。

「・・・・・・」

ぐいっぐいっと力任せに剥がそうとしても、由依は絶対掴んだ手を離そうとしなかった。
電動釘打ち機を構えても、怯えることなく飄々としたままで。大した根性の持ち主である。

657勘違い2:2007/03/14(水) 23:14:27 ID:XfQZJz1g0
(いや、これは根性ってレベルじゃねーだろ・・・・・・)

見た目の通り、精神が病んでしまったと考えるのが正しいかもしれない。

「おい」

無言で地面を見つめていた観鈴に話しかける、彼女は赤い目を携えたままゆっくりこちらに振り返った。

「こいつ、最初っからこうだったのか?」
「え・・・・・・」
「お前が初めて会った時も、こんな調子だったのか」
「う、うん」
「そうか」

口を開いた由依の台詞はたった二種類。「おとこはころす」、そして「おんなはつれていく」。
その意味の通り、祐一が殺され観鈴が連行されたというなら話は通じる。

「ん、待てよ?じゃあ、何で僕が捕まらなくちゃいけないんだ。おいちょっと、何でお前は僕を殺そうとしない」
「・・・・・・」

由依は答えない。

「僕は男!どう見ても、男の子!!」

そう自身を指差し強調させた所で、やっとこちらに目をやる由依。
しばし見つめあう。何の感情も見えない由依の瞳に映る自分の姿を、勝平もじーっと見続けた。

658勘違い2:2007/03/14(水) 23:14:53 ID:XfQZJz1g0
「・・・・・・?」
「首を傾げるな!!」
「えっと、勝平さん・・・・・・何やってるの?」
「だーもうっ、こいつ、僕を女と勘違いしてるかもしれないんだよ」
「え、違ったの?」
「なっ?!」
「にはは、冗談冗談」
「お前こんな時に余裕かますなっ!!」
「がお、ごめんなさい・・・・・・」
「・・・・・・??」

無表情だった少女の顔に、初めて戸惑ったような色が見え隠れする。
このチャンスを見過ごすわけにはいかない、誤解を一瞬で解く方法として勝平は即座に立ち上がり自分の着用しているズボンに手をかけた。

「ゴルアッ!これでどうだ!!」

左腕にはまだ由依がつかまっていたが気にしない、そのまま一気に引きずり落とした。
二度の屈辱に神経が麻痺したかどうかは分からないが、そこには恥も外聞もない。ある意味男らしい。

「か、勝平さん?!!」

突然のことに、観鈴も目を白黒させながら硬直する。由依も同じく。
いや、由依に到っては勝平の腕を掴んでいたお陰で、距離的にもかなり近い状態でそれを見せ付けられてしまったためダメージも倍であろう。

そう、彼女の視界は今勝平のパオ〜ンで埋め尽くされていた。

「・・・・・・」

659勘違い2:2007/03/14(水) 23:15:20 ID:XfQZJz1g0
沈黙が、場を包む。
顔を真っ赤に染めながらも、目が離せない観鈴。
真顔のまま、それを凝視する由依。
そして、今だ開放的な姿で居続ける、勝平。

(・・・・・・すべったかっ?!)

悲鳴の一つでも上げられれば万々歳だったのだが、これではまるでただの変質者である。
いや、それ以前にもう現時点で変態であることは確定されていたが。

「ちょっと待て!ちょっと待ってくれ、これには深い訳が・・・・・・えっ!?」

慌ててパンツを引っ張り上げようとすると同時に、ガクンと片腕に体重がかけられる。
腕を取られた為勝平自身もバランスを崩し膝をつく、ズボンが絡まり前のめりに倒れそうになるのを何とか堪えると、その目の前には。
顔から床に直で崩れていったらしい、由依がいた。

「・・・・・・気を失ってるみたい」

チョンチョンと、指先で由依の肩口をつついた後観鈴が口にする。
その間、由依はぴくりともしなかった。





力を失った由依の両手からそれぞれ拘束を外した後、勝平は改めて祐一について観鈴に問う。

「この子凄い格好だったから、祐一さんが上着をかけてあげたの」
「・・・・・・ああ、何か見覚えあると思ったら、あいつのだったのか」

660勘違い2:2007/03/14(水) 23:15:47 ID:XfQZJz1g0
由依の羽織っているジャケットに改めて視線を落とす、群青色の上着は確かに祐一が身に着けていたものだった。

「でも、そしたらいきなり祐一さんのこと刺して・・・・・・。
 で、でも、祐一さん生きてるの、死んだわけじゃない・・・・・・そうだ、こんなことしてる場合じゃないのっ」

立ち上がり駆け出そうとする観鈴の腕を掴み取る、「離してっ!」と叫ぶ観鈴に勝平はきっぱりと言い放った。

「僕が行く、お前はここにいろ」
「え・・・・・・?」

そう。もし彼の生命がまだ続いているとするならば、それに止めを刺さなければいけないから。
蔑ろにはできないあの悔しさを決して忘れてはいけない。迷いが拭えたわけではないが、中途半端にすることだけはしたくなかったから。
勝平は、目先の目標を優先するのが第一だと考えた。
そんな真剣な眼差しを受け、観鈴も半ば勢いに飲まれる形になったがゆっくりと頷き肯定の意を表してくる。

「・・・・・・分かった。祐一さんをお願い」

観鈴の願い、だがそれに対する返事はできない。
無言で廊下に出る勝平を静かに観鈴は見送った、由依が目覚める気配はまだない。

661勘違い2:2007/03/14(水) 23:16:19 ID:XfQZJz1g0
柊勝平
【時間:2日目午前2時30分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:祐一のもとへ】

神尾観鈴
【時間:2日目午前2時30分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:勝平を見送る】

名倉由依
【時間:2日目午前2時30分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】
【所持品:ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)+祐一の上着】
【状態:失神、岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】

由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

662勘違い2:2007/03/14(水) 23:30:34 ID:XfQZJz1g0
すみません、関連が抜けていました。
→712、B-4です。

663罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:03:28 ID:.ODGpUgI0
無慈悲な第三回放送により、相沢祐一の死を知らされてから約二刻程。
長森瑞佳はあの手この手を尽くして、水瀬名雪を元気付けていた。
最初は錯乱状態に戻りかけていた名雪だったが、瑞佳の懸命な励ましを受けて、徐々に落ち着きを取り戻していった。
それもこれも、死んだと思っていた水瀬秋子が存命である事が分かったからだろう。
もし秋子まで死んでしまっていたら、瑞佳がどれだけ頑張ろうとも、名雪は二度と戻れぬ狂気の世界へと足を踏み入れていた筈であった。
「水瀬さん、そろそろ出発しよ。ふぁいと、だよっ」
「それ、私の口癖……」
まだ気持ちが沈んだままであった名雪だが、瑞佳に促されどうにか立ち上がる。
このまま茂みの中で座り込んでいても、秋子とは再会を果たせない。
『頑張りなさい、名雪! 私は絶対に貴女を見つけ出してあげるから……諦めちゃ駄目よっ!』
それは幻聴か――心の中で何度も繰り返される、母親からの叱咤激励。
未だ傷付いた身で自分を探し回ってくれているに違いない母親と、少しでも早く逢いたかった。
(お母さん、ありがとう……。私、頑張るからね……お母さんは……せめてお母さんだけは、無事でいてね……)



(やれやれ……全く世話が焼ける……)
二人の少女が立ち上がるのを見て、月島拓也もすくっと腰を起こす。
名雪の中に響いていた声。それは拓也が毒電波を用い、名雪の母親の声を模して聞かせたものだった。
制限されている毒電波でも、名雪の衰弱し切った精神に侵入する程度の芸当は出来る。
名雪の精神を垣間見た拓也は、彼女にとって一番大事な者の声を借りて励ましていたという訳である。
勿論……言うまでも無い事だが、名雪の為に電波を使ったのではない。
拓也としては名雪のような役立たずなど捨て置きたかったのだが、瑞佳がそれを許さないだろう。
今は比較的容態が落ち着いているものの、瑞佳が重傷である事に変わりは無い。
治療、そして食事が必要だ。穏便に、極力早く、鎌石村を目指さなければならなかった。
「よし瑞佳、おんぶしてやるぞ」
「うん、ありがとっ」
拓也はくるっ背を向け、瑞佳も大人しく彼に身を任せた。
出会って半日と経たぬ二人だったが、彼らの間には既に本当の兄妹のような信頼関係が芽生えつつあった。

664罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:04:18 ID:.ODGpUgI0
拓也は瑞佳を背負いながら、茂みを後にし街道まで歩いてきた。その後ろを名雪が追従する形で、三人は鎌石村を目指す。
天を仰ぎ見ると、沢山の雲が上空を覆い尽くしつつあった。拓也は、雨が降り出したら厄介だな、と思った。
そんな矢先、瑞佳がぼそっと拓也に話し掛ける。
「お兄ちゃん、一つ不安があるんだけど……」
「どうした? 僕の事なら心配しないでいいぞ。こう見えても体力はあるんだ」
「そうじゃなくて、放送についてだよ。また大勢死んじゃったから、優勝を目指そうとする人が増えてくるかも……」
「……? すまん、言ってる事がよく理解出来ない。死人が増えたからって、なんでやる気に奴まで増えるんだ?」
拓也には瑞佳の危惧している内容が分からなかった。
死人が増えるという事は、それだけ多くの戦いが起きたという事。やる気になっている人間だって死んでいる筈である。
主催者を打倒するに当たって人手が減ったのは痛いが……少なくとも、主催者以外の敵は減ったのではないか。
だが拓也の疑問は、瑞佳の次の一言によって完全に払拭される。
「だって優勝したら何でも願いを叶えるって、主催者が言ってたでしょ? あの言葉を信じて、死んじゃった人間を生き返らせようって考える人も増えそうじゃない?」
「――は?」
寝耳に水といった諺がピッタリと当てはまる事態に、拓也の頭の中が真っ白になる。
「な、何だそれは……。主催者が何時そんな事を言ってたんだ?」
「二回目の放送の時だよ。お兄ちゃん、聞いてなかったの?」
「…………」
僅かの間、沈黙。そして次の瞬間には、拓也は瑞佳を抱えた手を離していた。
それまで拓也に身体を預けていた瑞佳は、反応する暇も無く地面に尻餅をついた。
「きゃっ! ……もう、どうしたの?」
突然の出来事に、事態がまるで把握出来ない瑞佳。そんな彼女の疑問に答えたのは――
「おにい……ちゃん……?」
瑞佳の眼前に突き付けられる物。それは闇夜の中悠然と輝く、八徳ナイフの刃だった。

665罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:04:57 ID:.ODGpUgI0
「瑞佳……そんな大事な事はもっと早くに言ってくれなくちゃ駄目だろ? 僕は危うく、瑠璃子を生き返らせる機会を逸してしまう所だったじゃないか」
「何を言ってるの!? あんな出鱈目、信じたら駄目だよ!」
「出鱈目? ハハハ、瑞佳は主催者の力を知らないからそんな事が言えるんだよ。このゲームを運営してる奴らは、底知れない力を持っている……。
 人を生き返らせる事だって、本当にやってのけるかもしれないぞ」
瑞佳は詳しく知らぬ事だが――主催者は、異能による力の大半を封じてしまっている。
そのような化け物じみた離れ業をやってのける主催者なら、人間の蘇生すらも不可能とは言い切れない。
実際に力を制限されてしまっている拓也がそう考えるのも、仕方の無い話であった。
「止めてお兄ちゃんっ! 今なら許してあげるから!」
「許してくれなくていいよ。僕は君を殺して……偽りなんかじゃない、本当の妹を蘇らせるんだ」
「そんな……そんなのって……」
瑞佳は目の前の光景が信じられなかった。先程まであれだけ優しかった拓也が、今は自分を殺すと言っている。
確かに主催者の提案は魅力的なものだったが……本当である筈が無い。どうして?
どうして拓也はそんなに簡単に、主催者の話を信じてしまったのだ?
極度の恐怖と混乱で視界が半ば硬直してゆき、背筋を冷たい汗が伝い落ちてゆく。



しかし――拓也は怯えきった瑞佳の表情を見て、胸のどこかがズキンと痛む感覚を覚えた。
頭の中に浮かぶのは、瑞佳の可愛い笑顔、恥ずかしがって真っ赤になった顔、そして過去の拓也が置かれていた境遇を聞いた時の泣き顔。
短くも心温まる瑞佳との一時は、拓也にとって掛け替えのない思い出の一つとなっていた。
(く……迷うな! 瑠璃子を……瑠璃子を生き返らせるには、コイツも殺さなきゃいけないんだ!)
八徳ナイフを握った拓也の手が天高く翳される。それは浩平という想い人がありながら、拓也に運命を託した瑞佳への、裁きの鉄槌のようであった。
「……じゃあね、『妹』よ」
断罪すべく振り下ろされた鉄槌が、空気を切り裂いて奔る。瑞佳は死を覚悟し、ぐっと目を瞑った。
「ぐがぁっ!?」
ところが、拓也の八徳ナイフが振り切られる事は無かった。拓也は背中を押さえて、二、三歩、よろよろと後退する。
それから拓也はくるりと半回転して、自分を襲った衝撃の正体を確かめた。

666罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:05:43 ID:.ODGpUgI0
「ぐっ……そうか……。君の存在をすっかり失念していたよ……」
瑞佳のすぐ傍に、名雪が肩を突き出す形で立っていた――つまり、拓也に体当たりを食らわせたのだ。
「水瀬さんっ!?」
「長森さん、駄目だよ。こんな人を説得しようたって無駄に決まってるんだから」
名雪は地面に落ちている大きめの石を拾い、強く握り締めて、それから言った。
「私はね、何度も殺し合いの現場に遭遇したんだよ。だから分かる……人殺しには、何を言ったって無駄なんだよ。
 殺さなきゃ殺される。だったら私は殺すよ。殺人鬼なんか殺して、それからお母さんを探しに行くっ!」
名雪の瞳に、強い憎しみの光が灯る。名雪はゲームに放り込まれて以来、ずっと『被害者』だった。
伊吹公子に肩を刺され、神尾晴子に人質として利用され、河野貴明に追い掛け回された。
そんな彼女の中に強く根付いたマーダーへの憎しみ――衰弱した彼女の精神では、芽を咲かせる事は無い筈だった。
だが皮肉な事にも、拓也が聞かせた秋子の声が、戦いに耐え得るだけの活力を名雪に与えていた。

だが、直ぐに畳み掛けなかったのは、名雪の失策だった。
非日常の世界を歩んできた拓也にとって、向けられる殺意の眼差しは逆に心地の良いものだった。
状況を把握して落ち着きを取り戻した拓也は、ナイフを構え直して、歪な笑みを浮かべた。
「自慢じゃないけど、僕は運動神経に自信がある方でね……。まずは君から壊してあげるよ」

     *     *     *

667罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:06:19 ID:.ODGpUgI0

「名雪……何処にいるの…………!?」
娘を探して島の中を駆け回る一人の母親。それは水瀬秋子という名の女性だった。
放送で、また多くの人間が死んでしまった事が分かった。名雪の名前はその中に無かったが、もう一刻の猶予も無い。
残り人数が少なければ少なくなるほど、次の放送で名雪が呼ばれる可能性も高くなるだろう。
最後に見た名雪は錯乱しきっていた。あの状態で第三回放送まで生き延びていた事が、既に奇跡だ。
絶対に、何を犠牲にしてでも見つけ出して、そして守ってやらねばならない。
「つっ……」
腹部の傷に灼けつくような痛みが走る。服の上から傷口を押さえていたにも関わらず、手が真っ赤に染まっている。
定まらぬ視界、乱れる呼吸――国崎往人によって休息を取らされなければ、とっくに死んでしまっていただろう。
水瀬秋子は自分自身の命を削りながらも、確実に娘の下へと迫っていた。

【時間:2日目・19:10】
【場所:D−8街道】
月島拓也
 【持ち物1:八徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】
 【持ち物2:トボウガンの矢一本、支給品一式(食料及び水は空)】
 【状態:背中に軽い痛み、マーダー(ただし瑞佳を殺す事には迷いがある)】
 【目的:まずは名雪を殺害、最終目標は優勝して瑠璃子を蘇らせる】
長森瑞佳
 【持ち物:なし】
 【状態:呆然、尻餅をついている。重傷、出血多量(止血済み)、一時的な回復】
 【目的:不明】
水瀬名雪
 【持ち物:大きめの石】
 【状態:やや精神不安定、マーダーへの強い憎悪】
 【目的:拓也を殺害後に秋子の捜索】

668罅割れた絆:2007/03/15(木) 12:07:07 ID:.ODGpUgI0
【時間:2日目・19:10】
【場所:D−8下部街道】
水瀬秋子
 【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
 【状態:腹部重症(傷口は開いている)、出血大量、疲労大】
 【目的:何としてでも名雪を探し出して保護、マーダーには容赦しない】

→653
→710
→747

669突破口:2007/03/15(木) 13:16:10 ID:3aGA141s0
自分の一挙一動は完全に監視された密室。
そもそもここがどこなのかもわからない。
何らかの手段でここを出られたとして、その先に何があるかがわからないのだ。
確証を得なければいけない。この先を抜けてウサギ達を一泡吹かせれる何か。
もしくは確実に参加者と合流できる手段の何か。
一番重要なのは成す前に死なない事だ。
どんな画期的な案が浮かんだとしても空想論ではまったく意味が無い。
考えろ、考えるんだ――。

『そんな難しい顔をして、どうしたんだい?』
突然部屋にウサギの声が流れ始め、久瀬は思わず狼狽する。
久瀬の慌てふためく格好がよほど滑稽だったのか、ウサギが下卑た笑い声を上げる。
『くくく……まあ大方どうすればここから逃げれるかとか考えていたんだろうとは思うけどね』
「――っ!」
まさに図星だった。
動揺を悟られぬようにウサギの言葉には答えず、顔を伏せて沈黙で対立する。
『あらら、当たっちゃったかな?』
一切の返答をせず俯く久瀬に対しウサギは気にもとめない声を上げ言葉を続ける。
『別に隠さなくてもいいよ。こっちはそうなる事がわかった上で君を拉致したんだから』
ウサギの言っている意味がわからない。
逃げたいと考えるのは自由だが逃がすつもりは毛頭無いと言う事だろうか。
『いやあ前回の観測者もね、3回目放送が終わったぐらいにいきなり反抗的になりだしたからさ。
久瀬君もそろそろかなとか思ってみたりしたわけなんだな』
「……参考までにそいつはどうした?」
『ん? 気になる? 気になる? たしか暴れだして部屋の中のものを壊しだした挙句に首輪がボーンだったかな』
「…………」
笑いを含めた言い方に何も答える気が起きなかった。
むしろ怒りだけがこみ上げ、叫びだしそうになるのを両の拳をぎゅっと握り締めて耐える。

670突破口:2007/03/15(木) 13:17:01 ID:3aGA141s0
『――で、放送直後だというのに顔を出したのは他でもないんだ。また新しい仕事でも頼もうかと思ってね』
ウサギの提案に久瀬の全身が硬直する。これ以上何を自分にさせようと言うのだろうか。
『そんなに身構えなくてもいいよ。どちらかと言えばこれは今まで役目をしっかり果たしてくれたご褒美みたいなものなんだからね』
ウサギが言い終わると同時に、久瀬の座る真横の床が異音と共にゆっくりと開かれていく。
そしてそこからは一台のパソコンが置かれた机がせりあがって来たのだった。
『簡単に言えば情報操作さ。まあつけてみるといい』
突如現れたパソコンに躊躇いながらも、言われたとおりに電源をつける。
起動の間に訪れる静寂がなんとも苦痛だった。
それを感じ取ったのか、ウサギの声が再び響き渡る。
『ゲーム開始から36時間経過ってところかな。知っての通り参加者も半分以上を切った。
まだ殺し合いに参加しているものもいるとはいえ、前回の教訓から言ってもそろそろ誰も行動に移そうとしなくなるだろう――そこで君の出番だ』
丁度OSが立ち上がり画面を凝視する。
――参加者一覧表
――支給品武器一覧
――各種島内施設概要……
久瀬はデスクトップにおかれたさまざまなファイル名を憑り付かれたように眺めていた。
一心不乱にマウスを操作する久瀬の姿にウサギは満足げな声を上げる。
『その中に入っている情報は好きに使っていいし、勿論掲示板も使えるようになっているから参加者に伝えるのも自由だ』
「参加者に伝えてもいい……だと?」
『うん、簡単に説明するとね。こちらの施設にハッキングを仕掛けた参加者がいてね。
殺し合いで何が起ころうとも介入するつもりはない――ああ、一部の例外の参加者もいたけどね。だが基本的にすべてを黙認することにしている。
ゲーム内には確かに首輪の解除を示唆したものはあり、それで解除なりするのは一向に構わないのだがそれはあくまで彼らが"ルールに則ってる場合"に限る。
ハッキングなどによる私たちに不利益を齎すもので得られることではないんだよ。
気づくのが早かったおかげで侵入者はダミーを持っていって満足しているようだけどね』
「ダミー?」

671突破口:2007/03/15(木) 13:17:36 ID:3aGA141s0
『ああ、解除ではない。起爆用の手順を踏んだものさ』
「つまりその首輪を外そうとしている連中は外そうとした瞬間首が飛ぶ……と?」
『うん、そう言う事だね』
「それなら今までのおまえらのやり方なら僕にそいつらを殺して来いって命令するぐらいすると感じたんだが……。
そうするわけでもなく、参加者を助ける手伝いをさせるだと? 貴様らは一体何を考えているんだ……」
主催者の目的。それが久瀬の一番の疑問であった。だがその問いと同時にウサギは高らかに耳障りな笑い声を発しだした。
聞いているだけで嫌悪感が沸き起こり耐え切れなくなり思わず耳をふさぐ。

『――希望と、より深い絶望を……かな』

唐突に発せられたその言葉を最後にウサギの声はぷつりと途切れ、再び部屋には静寂が訪れる。

久瀬は頭を抱え、ゆっくりと状況の整理をし始めていた。
なぜ急にこんなことを言い出した?
放送で不利益なことを話すなとウサギは言っていた、これでは先ほどまで言っていたこととぜんぜん違う。
……と言う事は僕がこれを使って参加者と情報を交換することが彼らにとっての利益になるということだろうか。
中途半端に自分たちの情報を盗まれるよりは、敵側に内通者がいると思わせたほうが良いと言う事だとも推測できる。
参加者に何を伝えても良いといわれたところで自分が知りうる情報ではウサギ達に迫れるもの自体は何も無いのだから。
勿論推測の域をまったくでないが……だがこれはウサギの慢心をついた千載一遇のチャンスだった。
何もわからぬまま、恐怖に怯え、悲しみの中で、何人もの人間が理不尽な死を遂げてきた。
少なくとも何もできない状況から見えた一筋の光明……これが奴らを打ち崩す鍵になるかもしれない。
これが今自分にできる唯一の方法と判断し、久瀬はパソコンを一心不乱に操作しはじめるのだった――。

672突破口:2007/03/15(木) 13:18:09 ID:3aGA141s0
久瀬
 【時間:2日目19:00】
 【場所:不明】
 【状態:パソコンから少しでも情報を得るため行動】
 【備考:中に入っている情報は作内以外にもお任せ、ただし主催に関する情報は入ってはいない】
 【関連:→747 →755 B-13・B-16】

673case2:do or die:2007/03/15(木) 15:52:19 ID:ttSVZLeQ0

きょろきょろと辺りを見回しながら林の中を歩く、二人の青年がいた。
藤井冬弥と鳴海孝之である。

「な、なあ……やっぱり勝手なことしたらマズいって」
「だけど、このままじゃ余計にヤバいだろ」

二人は焦っていた。
オーラを放つ男―――芳野祐介との戦いから命からがら逃げ延びて以来、七瀬留美はずっと口を閉ざしたままだった。
むっつりと座り込む七瀬の醸し出す空気にいたたまれず、辺りを見回ってくるという建前で逃げてきた二人だが、
離れれば離れたで、嫌な想像が膨らむのを抑えきれないのだった。

「相当怒ってたからな……」
「そりゃま、そうだろうな……」

仲間を無為に失った。
その上、自分たちも殺される寸前で、またもや七瀬に助けられた。

「元はといえばあの子が言い出したことなんだけどな……」
「それ、面と向かって言い出せるか?」
「悪い冗談はやめてくれ」
「だな……」

顔を見合わせて、深々とため息をつく二人。

「だからこうして、歩き回ってるんじゃないか……」
「しかし、丁度いい相手といってもな……」

七瀬の怒りに対して、二人の出した結論は単純だった。
自分たちの不甲斐なさに七瀬留美は落胆し、あるいは憤慨している。
ならば、失望を吹き飛ばすだけの成果を見せてやればいい。
それはつまり、強敵に挑んで勝つということだ。

674case2:do or die:2007/03/15(木) 15:52:38 ID:ttSVZLeQ0
「強敵に勝つ……か」
「俺たちにできるのか……?」
「やるしかないだろ……。このままじゃ、教官に殺されかねん」
「いや、とにかく正々堂々と敵を迎え撃って、追っ払えればいいんだろ」
「まあ……な。この際、強敵じゃなくてもよしとするか」
「そうだな、とにかく誰かを追っ払えればそれでいい」

そうだそうだ、と頷きあう二人。
当初の目標が際限なく下方修正されていくが、気にも留めない。
よし頑張って褒めてもらうぞ、などと怪気炎を上げている。

「……ん? おい、あれ……」
「なんだ? ……お」

意気揚々と歩く二人が前方に人影を見つけたのは、そのときである。
つい先程の窮地も記憶に新しい二人、さすがに慎重に相手を見定めようと試みた。

「見た目……は、普通だな」
「高校生か……。わりとガタイはいいが……それだけっぽいな」
「それに見ろ、あの覇気の無さ」
「ああ、何があったか知らないが……すっかりしょげちまってるみたいだ」
「……よし」

顔を見合わせる。
チャンスだ、と互いの瞳が語っていた。


******

675case2:do or die:2007/03/15(木) 15:53:06 ID:ttSVZLeQ0

岡崎朋也はぼんやりと歩いていた。
長い時間を雨に打たれたその身は冷え切っていたが、省みることもなく歩き続けていた。

野晒しにされた藤林杏の無惨な骸が、脳裏をよぎる。
千切り取られた肉の赤さを思い出し、傍らの木に寄りかかって嘔吐する朋也。
もう、吐く物は残っていなかった。
涙だけが滲み出す。

行くあてなどなかった。
ただ、杏の遺骸から逃げ出したかった。それは、死の具現だった。
走り出し、すぐに息が切れた。
かつて運動部でならした体力は、すっかり失われていた。
苦笑しようとして、失敗した。
僅かに顔を歪めたまま、朋也はふらふらと歩き続ける。
雨は既にやんでいたが、頭蓋の内側にはいつまでも雨音が残響しているようだった。

だから、その目の前に二人の青年が現れたときも、朋也はぼんやりと目をやっただけだった。
何か喋っているようだったが、聞き取る気になれなかった。
人の声は、この世界に自分以外の誰かがいることを思い出させた。苦痛だった。
だから、聞かない。目の前にいるものも、生きている何かと、それだけの認識に留めた。
靄がかかったように、視界が書き換えられていく。
網膜に映った像が、朋也が見たいと望んだものへと塗り替えられていくのだった。
何か、鉛筆で塗り潰された落書のようなものが、ノイズを発している。
恐怖はなく、嫌悪もなく、ただ不快だった。
それが、岡崎朋也の見る世界のすべてだった。

676case2:do or die:2007/03/15(木) 15:53:38 ID:ttSVZLeQ0
だから、朋也は足を止めることもなく歩き続けることにした。
その果てにはきっと終わりがある。
嫌なことも、思い出したくないことも、見たくないものもない、ただの終わりがある。
そのことだけを胸に抱いて、朋也は足を進める。

ノイズを発するものに目掛けて、どこからか大きな星のようなものが飛んでも、朋也は目をやらなかった。
それは、終わることと関係ない。関係ないから、気にならない。朋也は歩く。

ノイズを発するものが一つ増えた。
関係ない。

一つ増えたノイズを発するものが、赤く染まった。
岡崎朋也が、足を止めた。

真っ赤なそれが、地面に倒れる。
じわりと、赤いものが拡がっていく。
岡崎朋也が、呼吸を止めた。
心臓の鼓動がうるさいほどに高鳴り、雨の残響を掻き消していく。

ノイズを発するものを赤く染めたのは、白い「何か」だった。
意識するなと、朋也の精神が警告を発していた。
見るな。聞くな。考えるな。思い出すな。
あれは、あってはいけないものだ。あんなものは、ないのだ。

白い虎など、いない。
ノイズを発するものを、人間を、鋭い爪で押さえ込み、剥き出した牙で食い殺す獣など、目の前にはいない。
獣などいない。直立する獣など存在しない。
全身に長い体毛を生やした人間などいない。
野獣の体に人の面影を宿すものなどいない。
ヒトの言葉を口にするような獣などいない。

「―――風子、参上」

そんな声など、聞こえない。
わからない。意味を理解しない。してはいけない。
杏は死んだ。

「う……ぅぁぁぁああああああああああああああああああああああ」

我知らず、声が漏れていた。
杏は食い殺された。知らない。
逃げなければ。逃げる理由などない。
そこにいる。そこにいるものなどない。

足は、止まらなかった。
何か恐ろしいものが、追いかけてきているのがわかった。
恐怖に涙を流しながら、悲鳴を迸らせながら。
岡崎朋也は、逃げ出した。


******

677case2:do or die:2007/03/15(木) 15:53:55 ID:ttSVZLeQ0

藤井冬弥と鳴海孝之は、困惑していた。
状況の激変に認識がついていかない。
鳩羽一樹が、突然現れた人面獣身の少女に食い殺された。
かと思えば標的たる少年はこの世のものとは思えぬ悲鳴を上げて逃げ去っていった。
そして少女もまた、それを追うように消えていた。

「……なんなんだよ……」

冬弥の呟きに、孝之が応える。

「さあな……。けど……」
「けど?」
「あいつ……女の子残して、逃げやがった……」

冬弥が、小さく眉をひそめる。

「あれ、女の子なのか……?」
「俺にはそう見えた」
「まあ、あいつを守ろうとしてたのは……確かだよな」

少年を庇うように立ちはだかった、獣少女の姿を思い起こす冬弥。
同時に、その姿を眼にするや絶叫して逃げ出した少年の姿が脳裏に浮かぶ。

「すげえ……カッコ悪かったな……」
「ああ……」
「けどさ」
「……何だよ」
「俺たちのやってきたこと、あいつとあんま変わんないよな……」
「……」
「……」

無言のまま、顔を見合わせる二人。

「……戻ろうか」

どちらからともなく、言い出していた。


******

678case2:do or die:2007/03/15(木) 15:54:18 ID:ttSVZLeQ0

「―――すんませんっした!」

大きな声が、梢を揺らした。
葉に溜まった水滴が陽の光を浴びてきらきらと輝いている。

「な、何よ突然……?」

戸惑う七瀬留美の前に、深々と頭を下げる冬弥と孝之の姿があった。

「俺たち、結構どうしようもない奴らだったな、って……」
「色々あって、思い知りました」

言葉を切って頭を上げると、冬弥は七瀬の瞳を真っ直ぐに見据える。
少し頬を染めてたじろぐ七瀬。

「え、いや、その……」
「もう一度、鍛え直してくれますか、俺たちのこと」

孝之も言葉を添える。

「いつか、教官に頼りにされるような男になりたいと思ってます。だから……」
「……」

二対の視線をしばらくじっと見つめ返していた七瀬だったが、やがて小さく咳払いをして口を開いた。

「―――これまで以上にビシビシいくわよ?」

その顔には、小さな笑みが浮かんでいた。
二人の返事が、同時に響く。

「はいっ!」

よろしい、と頷く七瀬。
だが次の瞬間、その表情は険しく引き締まっていた。

「……?」

突然のことに、また何か失態を犯したかと背筋を伸ばす二人。
しかし七瀬はそんな二人の様子には構うことなく、厳しい眼で周囲を見回していた。

「あの、どうし……」

冬弥の言葉を遮るように、七瀬が鋭い声を放つ。

「―――囲まれてるわ」

言い放った七瀬の視線の先で、木々の間からぎらぎらと光を放つ無数の眼鏡が、覗いていた。

679case2:do or die:2007/03/15(木) 15:54:48 ID:ttSVZLeQ0

 【時間:2日目午前10時30分すぎ】
 【場所:E−6】

七瀬留美
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式(食料少し消費)】
 【状態:漢女】

藤井冬弥
 【所持品:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、
     支給品一式(水1本損失、食料少し消費)、沢山のヘタレボール、
     鳴海孝之さん 伊藤誠さん 鳩羽一樹くん(死亡)】
 【状態:ヘタレ?】

岡崎朋也
 【所持品:お誕生日セット(三角帽子)、支給品一式(水、食料少し消費)】
 【状態:絶望・夜間の変態強姦魔の記憶は無し】

伊吹風子
 【所持品:彫りかけのヒトデ】
 【状態:ムティカパ妖魔】

砧夕霧
 【残り29438(到達0)】
 【状態:進軍中】

→633 690 707 ルートD-2

680依存症:2007/03/16(金) 22:35:55 ID:cNAakmuo0

白い部屋に、時計の音が響いていた。
破壊された壁から、風だけが吹き抜けていく。
床には白く濁った液体がこびりつき、無数の小物が散乱している。
破壊された壁と窓ガラスの破片も相まって、さながら廃墟のようだった。

七瀬彰はそんな部屋の中で、膝を抱えていた。
涙はもう、枯れ果てていた。
いまだに熱の引かない身体と、どろりと黒い感情を持て余しながら、ベッドの上でぼんやりと壁を見つめている。

がらりと扉を開けて高槻が戻ってきたのは、時計の長針が真下を向いた頃だった。
膝を抱えたまま、彰が目線だけを動かす。
相変わらず焦げたようなパーマ頭に、風采の上がらない顔立ち。
どこか濁った、死んだ魚のような瞳は自分の悪感情がそう見せるのか。
知らず、彰は口を開いていた。

「お前が……」

それは、しわがれた老婆のような声だった。
泣き疲れ、叫び疲れた果ての、醜い声。
そんな声しか出せない自分に余計に嫌気が差して、彰は刺々しく言い放つ。

「お前が遅いから、こんなことになったんだ」

指差すのは、芳野祐介のミイラのような死体。
そして、破壊されつくした室内だった。
全身からかき集めた憎悪と軽蔑を視線に込めて、彰は高槻を責める。

「僕を放って、どこ行ってたのさ」

悪意だけが、声に乗っていた。

「僕を愛してるとか、言ってたくせに。危ないときには姿も見せないで、何が愛してる、だ。
 僕がどんな目に遭ったか、想像がつく? つくわけないさ、お前なんかに」

無言で立ち尽くす高槻の姿に、彰の苛立ちは加速する。

「何とか言ったらどうなのさ。言い訳してごらんよ。
 どこで何をしてたら、愛してる僕を見捨てる理由になるのかは知らないけどね」


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