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新西尾維新バトルロワイアルpart6

751 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 23:01:01 ID:hznMXV2k0
以上で投下終了です

752名無しさん:2017/11/05(日) 01:26:57 ID:HmdfQnBs0
投下おつー
そうか、もう5分の1なんだよな……
色々と自覚や認識は進んだけど果たして合うべき辻褄はあるのか
なければ合わせれるのか

753名無しさん:2017/11/05(日) 02:12:08 ID:y4J2qcF20
投下乙です
そう来たか、というのが素直な印象
ですが思考の端々から様刻らしさが滲み出ていてマーダー化フラグが立ったときのシーンには思わずこちらもドキリとさせられました
だが様刻よ、生き残りの9人の中には強さランキング2位と3位がいるし3位とは遭遇ワンチャンあるぞ…

754名無しさん:2017/11/15(水) 16:09:48 ID:CoY2rlKQ0
お久しぶりです
月報失礼します
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
165話(+1) 9/45 (-0) 20.0(-0.0)

それと最新話Wiki収録しました
確認はしましたが見落としがあるといけないので何かありましたらお願いします

755名無しさん:2017/11/15(水) 16:11:56 ID:CoY2rlKQ0
…失礼、コピペミスりました
こちらが正しい月報でございます


話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
166話(+1) 9/45 (-0) 20.0(-0.0)

756名無しさん:2021/06/13(日) 01:40:12 ID:a7794f6M0
てす

757 ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:42:21 ID:a7794f6M0
投下します。パソコンからの書き込みができなかった為、スマホ投稿になりますが、ご了承のほどよろしくお願いします。

758おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:44:08 ID:a7794f6M0

  ◇


 鑢七花――真庭蝙蝠に拾われたあの人物を七花とあえて呼ぶならば――彼の惨状たるや、口にするのも憚られるほど極まっているが、しかし、しかし。改めて考えてみると奇妙な点もある。『混沌よりも這い寄る混沌』球磨川禊と、『天災』鑢七実の複合体が奇妙でないわけがないが、それを踏まえても――なぜ、鑢七花は眠っていた?
 刀が人を斬った代償としてはあまりにも大きい代償を負い、仕合に負けて、不貞腐れていた。不貞寝し、腐っていたのも、間違いない事実ではあろう。一方で、『誰の心境』が、そうさせていたのか。これも質さなければならないことだ。
 鑢七実の性質か――いや、いや。さながら死体が生命を得てしまったような、押したら崩れてしまいそうなほど儚げな七実ではあるが、彼女はその実、目的意識の塊だ。かつて、七花に七花八裂の脆弱性を指摘するために島から出たことも、七花を研ぎ直すための場をわざわざ設けたことも、七実の機能性を象徴している。今この場における刀としての彼女の行動など言わずもがなだ。彼女が刀――道具であればこそ、己が機能、目的を果たさんとするのは必然とも言える。
 では誰だ。決まっている。『却本作り』の出自を辿れば、球磨川禊しかあり得まい。
 しかしそれこそ本来はあるはずがないのだ。負け戦なら百戦錬磨、敗北すること一騎当千、そして、立ち上がること無二無三。たかだか致命的な挫折ぐらいで不貞腐れるなど、矛盾と言わず何という。

「■■■、■■■■■■■■■■■■」

 かつて、あるいは未来。『彼女』は言った。生徒会戦挙の会長戦。『人間比べ』のその果てにて。『彼女』は問うた。球磨川禊の負けても這い上がる姿について、負けてなお、立ち上がる球磨川禊の『強さ』について。『彼女』は説いた。球磨川禊が、弱くも果てしなく強かだからこそ、『却本作り』に制されてなお、立ち上がれるのだと。
 では、鑢七花は?
彼が立ち上がれなかった理由とはなんだ?
そして、『とがめ』という新たな『拠り所』を見つけた彼が曲がりなりにも――刀身も刀心も折れてなお、立ち上がれた理由とはなんだ?

759おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:45:30 ID:a7794f6M0

 ◇


 これもまた、少し前の話。

『ふわぁ……』

 夜。草木の匂いも薄く、虫の音も、鳥の声もない。生命感の乏しい閑静な街中にあくびがこだまする。殺し合いの最中というにはあまりにも不釣り合いなほど呑気で、かつ退屈極まる大きなあくびだった。

「お疲れになられましたか」

 虚刀流、鑢七実が振り返りざまに尋ねる。虚弱さ薄幸さが形を成したような女に体調を心配されるとはまことに奇怪ではあるものの、七実の容態を加味してなお、あくびの主、球磨川の気は緩んでいた。

「禊さんにも眠たくなることなんてあるのですね」
『おいおい、そもそも人は夜に寝るものだぜ』

 過負荷、球磨川禊は当然のことをさも当然のように言う。いくら弱く、図抜けて弱く、果たして弱かったとしても、生物学上球磨川は人間だ。人である以上、眠気を抱くというのもおかしくない。ただそれは、おかしくないというだけだ。球磨川が眠たいだなんて寝言をほざくのは、なんとも奇妙な話のようにも思えた。奇矯でこそあれ、奇妙であるとは――。

「でしたら少し、お休みになりますか」

 夜の帳が下り、周囲一帯は暗い。灯りはついていないものの、このあたりには家屋がちらほらと並んでいる。休める場所くらいはあるだろう。ランドセルランドまではもうまもなくであるはずだが、逆に言ってしまえば、十分に休むなら機会はこれが最後になるはずだ。

『七実ちゃんがそういうなら、ちょっと休もうか』

 別に急ぐ理由もないしね、と。適当な民家を見繕うために、のらりくらりと歩き始めた。そんな彼の背中をじぃと見つめ、七実は省察する。これまでと、これからを。

 見て、観て、視て、診て、看る。持ち手の様子を、様態を、容態を。

760おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:47:06 ID:a7794f6M0


 ◇


 探検と称して薄暗い家屋に突撃したわけですが、案の定何があるわけでもなく、ちぇーと不貞腐れた禊さんは横になられました。上等な布団に包まる禊さんの顔ときたらあまりにも安らかなものですから、見たことないほどに満たされておりますから、張り手のひとつでもお見舞いしたくもなりますが、閑話休題。
 
「さて、さて、さて」

 さて、と。思考を切り替える。思考を、あるいを趣向を。従者として、そして刀として、わたしがなにを研ぎ澄ませばいいのか、研ぎ、済ませばいいのか、今一度整理をする必要がある。これからについての、精査を。

「よく眠っていらして」

 眠る禊さんの頬を撫でる。七花よりも幼く、まだ張りを残した柔らかな頬からは、緊張感のかけらも感じられない。すやすやと眠るさまはさながら子どものようだ――いや、間違いなく禊さんは子どもなのでしょう。肉体的においても、精神的においても。
 さながら虫を潰す幼児のように、彼の中には良いも悪いもない。無邪気な狂気とでも申しましょうか。彼がしきりに申し開く、僕は悪くないという言葉。なるほど、言い得て妙かもしれません。文字通りに、悪くもなければ良くもない。何をしたところで彼の中では、何事もなく台無しで完結してして、自分勝手で、他人任せで、どうしようもなく、どうにもならない。他者と価値観を共有できず、まるごとに全てをおじゃんとする、群れを好みながらも群れに厭われる様をどうして大人と、人間と言えましょう。

「人間未満――幼きもの」

 しかし、群れに嫌われながらも、負けながらも、それでも禊さんは群れを成していたと聞きます。群れを率いていたと仰りました。マイナス十三組、『ぬるい友情・無駄な努力・むなしい勝利』の三つのモットーを掲げた泥舟の頭に、禊さんはいたらしい。曰く、わたしも所属しているそうなので、伝聞のように表すのも的確ではないでしょうが、良しとしましょう。悪いとしましょう。ともあれ、あまりにも幼く、世界が己で閉じている彼が、集団行動に向かない彼が、それでも人を率いることが出来でいたとするならば、彼にあるのは幼さだけではなかったということでしょう。

「目的――目標。モットー」

 勝ちたい。
 常敗無敵である禊さんの悲願は、その一言に尽きる。彼の持ちうる最大限の人間らしさであり、彼の人間性を担保するものであり、唯一にして無二の、他者と共有できる価値観だった。だからこそ、群れることをかろうじて許された。成し遂げた。
 先刻禊さんも仰られた通り、生憎とわたしは共感できない価値観ではあります。ただし、共有することはできましょう。負けたいと願っていたわたしの願いは、方向性は真逆であれど、故にわたしの願いこそ他者に理解はされないでしょうけれど、その内実は同じようなものなのですから。隣の芝生は青いだけと指摘されれば、返す言葉も見つからないので返す刀で斬りつけてしまいそうなほど、言葉にしてしまえば存外に陳腐な願いです。禊さんには『可能』がないから、わたしには『不可能』がないからこそ、自分にできないことをしたい――。ええ、当たり前の思いでしょう。

761おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:48:04 ID:a7794f6M0

「…………」

 先程、禊さんは勝ちました。黒神めだかに、念願の相手に。詭弁であれ、奇策であれ、勝ちは勝ち。幼き混沌が掴む勝利としてはふさわしい、むなしくも誇らしい勝利を得ました。
 故に、でしょうか。禊さんの士気が著しく低下している、ように見えるのは。彼は大嘘吐きですから気のせいかもしれません。念願の勝利を掴んで次なる目標を失ったというならば気の毒かもしれません。――いえ、いえ。

「それも戯言、ですか」

 誰よりも弱いからこそ、厭世の念に埋まるように浸かっていたからこそ、誰よりも現実を省みず、現実味がなく、夢みがちで少年のような精神を持ち合わせていたはずのあなたが、あれなる勝利で満足する道理はありますまい。週刊少年ジャンプなる絵巻ような現実を切望していたからこそ、あの結末に絶望していたのに。
 そもそも禊さんの記憶は、他ならぬわたしが封印しているというのに、勝利の記憶も何もないだろう。

「殊の外、深く螺子が刺さっておいでで」

 だとしたら、やはり原因は黒神めだかということになるでしょう。彼女との果たし合いを望んでいた時のあなたは、それはもう思春期のように――思春期相応にうきうきとした様子でしたのに。わかってはいたことだ。これもまた、他ならぬわたしが言ったことですから。

「あなたは黒神めだかに縛られています」

 いや、黒神めだかの亡き今、――無き今あなたを縛るものなどないというのに。だとしたら、もはや自縄自縛と言う他にないでしょう。目標を、目的を、黒神めだかの打倒のみに据えてしまった、あなたの間違い。勝てば良かったはずなのに、踏み外してしまった過ち。唯一の人間性を失って、何をどうしたいのか。それを導くのが良いのか、悪いのか。

「いっしょにだめになる。ええ、ええ」

 想いを違えることはありませんとも。
 眠る球磨川の髪をあやすように梳く。本当に幼児のような寝顔だ。閉じた瞼の裏にあるのは、あの底知れない闇のような瞳なのでしょうか。はたまた、底抜けの空虚だとでもいうのでしょうか。今、禊さんは何を見つめているのでしょう。もはや人と決して分かり合えない、混沌の子。球磨川禊さん。
 わたしは――。

  ◇


 ■■■。
 ■■■■■。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

「■■■■■■■■■■■■」

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

762おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:48:51 ID:a7794f6M0



 四半刻も過ぎない頃。仮眠から起こしてランドセルランドに着きました。仮眠をとってなお眠たそうにしていたものの、まばたきをする間にはけろっとしておられます。「眠気」をなかったことにしたのでしょう。でしたら先の言葉はなんだったのかということになりますが、彼の言葉にいちいち荒波を立てることもありません。

「おはようございます」
『うん、おはよう。今日も清々しい夜だね』
「良い夢は見れましたか」
『そりゃあもう、幸せな夢がいっぱいさ』
「左様で」
『さっきあんな話をしたばっかりだからかな、七実ちゃんがいろんな姿で出てきてさ。七実ちゃんだけに七変化、なんて――おいおいそんな冷たい目で見つめてなんだよ? 可愛い可愛いギャグにいちいち目クジラ立ててたらこの世の中死にづらいぜ。夢でもそんな目をした七実ちゃんがいたよ。あの子はナース服を着ていたかな。弱った身体に最も近く、弱った心に寄り添う白衣の天使が、射殺さんばかりの視線を――死線を投げかけている。そのアンバランスさと言ったら名状しがたき興奮を覚えるけれども、別段僕の被虐性が飛び抜けているというわけじゃあないんだ』
「はい」
『本来あるべき姿とのギャップ――乖離、剥離、別離。やっぱりトキメキの原点ってそこにあるよね。七実ちゃんはツンデレって知ってる? あれも典型的な類型さ。一世代築いただけあって、あるいは今も連綿と続く文化なだけあって、ギャップ萌えとしてのお手本のような形とされているんだ』
「博識なことで」
『でもさあ、本来あるべき姿ってなんだよ』
「…………」
『あなたはかくあるべし、なんて一方的に決めつけておいて、レールから外れれば「あなたも人間らしいところがあるのね」なんて安心感を覚える。完璧な人間なんかいないんだと安堵する。――一方的で、差別的で、侮蔑的で、醜悪さに起因する萌え、それがギャップというものだけれど、もっとも黄金的な属性なだけに人によって定義が違うんだよね』
「よかったですね」
『とはいえ、とはいえさ、落差が萌えの基本なのは疑いようもない。『優等生然していた子のパンツが実はいちごパンツだった』なんていうも、取っ掛かりの一つだよね。ああっ! 夢の中にはセーラー服な七実ちゃんもいたんだぜっ!? 落差っていう意味ではこれ以上ないかもしれないね!』
「はい」
『ラブコメチックな七実ちゃんを見てたら投影しちゃったのかな。セーラー服こそラブコメのメッカ、ラブコメこそセーラー服! 軍事力のモチーフが今となってはコメディの、日常性の象徴なんてとんだ笑い話だけど、そんな滑稽さも僕は好きでね。僕が意地でも学ランを着ている理由も青春ラブコメがしたいからなんだぜ、知ってた? いやあ、箱庭学園にも出会いを求めて入学したけど、まったく全然だ。食パン咥えて走る女子がいないのなんのって。せっかく普通科なんてものがある学校に編入したんだからそんな普遍的なイベントに参加したかったものだけど、やっぱり僕にはだめだったよ』

763おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:49:41 ID:a7794f6M0
「そうでしたか」
『僕の悲劇を抜きにしてもセーラー服ってブレザーにはない味があるよね。だってブレザーってエリートって感じがするだろう? やれやれブレザーが一般化した今でも放たれるブレザーの主張の強さにはさしもの僕でも辟易するよ』
「困りましたね」
『それで、なんでさっきの七実ちゃんはあんな楽しそうにしてたの?』
「――」
『あっ』

 省略。

『まあでもさ、ラブコメにも落差って必ずある――むしろ落差こと主眼といってもいい』
「……」
『『ビデオガール』や『宇宙人の王女』みたいな位相(リアリティ)の差も然り、平々凡々と『グラビアの同窓生』なんていう、ありきたりな位相(カースト)の差も然り。相手と違うからこそ見てしまう、見惚れてしまう』
「……」
『あくまでこれはプラスに生きる奴らの考え方さ。『主人公(プラス)』と『ヒロイン』――『勝ちヒロイン(プラス)』による舞台の話。舞台にすら上がれない僕みたいな負け犬は同族で群れるしかない、あるいは同族嫌悪で対消滅するしかない。話は逸れちゃったけど、めくるめく七実ちゃん大変身には僕も『包丁人味平』もびっくりな実況をしてしまったほどだけれど二話連続同じ話で紙幅を誤魔化すほど僕も優しくないぜ。だから、夢の映像は僕の胸の内に秘めるとするよ』
「そうですか」
『まったく、これが週刊少年ジャンプなら読者アンケートの集計結果を公表するとともに七実ちゃんのあられもない絵姿を描画することができたんだけど。第一位、第二位、第三位、エトセトラエトセトラ――みんなの願いが、みんなの想いが、みんなの期待が、そのページに詰まっているわけだから』
「ええ」
『人気投票――人気の数値化。よくあるシステム、ありきたりなストア商法、しかし夢を売る週刊少年ジャンプの一番根底にあるシステムが現実をまざまざと突きつけるアンケートだなんて、酷な話だと思わない? 弱肉強食、自然淘汰――なんて聞こえはいいけど、敗者は敗者のまま、あなたの作品は不要ですという世論を持ち出されて退場するしかない。あなたの作品が、あなたの思想が、あなたの信念が、あなたの理想が、あなたの現実が、あなたの存在が、世の中に噛み合わず、世の中に適合せず、世の中に爪弾かれ、世の中に疎まれ、世の中に蔑まれ、世の中に嘲笑われ、世の中に抹消され、不要で、不毛で、不当で、不敬で、不能で、不快で、どうにもならないほどどうでもいいと負け組レッテルを貼られるだなんて、なんとも奇縁なものだよ』
「はぁ」
『そういう意味では打ち切りリベンジに二作目を引っ提げて帰ってきた作家――あるいは連載を細々と続けているような作品にしたって、嫌われないために努力しているんだろうね。趣向を変え、初心に返り、社会を顧み、あまねく試行錯誤の末、結果は期待に適応することを選ぶ。なんてたって、枠は三つもあるからね。一番じゃなくても二番でいい、二番になれずとも三番ならば。皆様が望むのならばこのキャラを出しましょう、皆様が望むのならばこのキャラを殺しましょう、そう、あなたの望む姿に成り代わりましょう。夢の極地、憧れの最果てにあるのが嫌われないための努力だなんて、なんともナンセンスな話だとおもわない?』
「いえ、なんとも」
『そう、そうだぜ。世の中大半の人はどうでもいいと思っている。だって、そんな涙ぐましい努力なんて、好かれる才能をもった作品が一瞬で掻っ攫っていくからさ。好かれる才能と嫌われない努力――プラスとマイナス。持つべきものが持ち、勝つべきものが勝つ必然。敗者に待ち構えるのは、だらだらとした惰性。やれやれ、夢を見せるジャンプにしたって、夢を見せてくれないね』
「はあ、それで、なにが言いたかったのです」
『七実ちゃんのクラシカルロングのメイド服が第三位だったという話さ』

764おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:50:51 ID:a7794f6M0

 冥土? めいど? なんだか可愛らしい響きですね。禊さんのこういった類の話は半分ほど聞いておけばいいとして、しかし、望まれた姿――に変質する話ですか。先程もそういえば、そんな話をされていたような。こすぷれ――成り代わる、確かそんな話を。
 話の途切れ目。わずかな呼吸の音が、一拍分。息をしたのはわたしだったか、彼だったか。息を呑んだのは、果たして。間隙を縫うように、わたしは言葉を投げかける。

「ひとつ、お尋ねてしてもいいですか」
『ん? どうしたの?』
「禊さん、あなたの目的――この戦場での目的を、改めてお伺いしても、よろしいですか」

 じぃ、と。
深く、深く、深く、見て見られて、観て観られて、目が合った。いつものように、嘘のような微笑みを湛えて。

『なんだと思う?』

 今度こそ、わたしは息を呑む。なにかはわからないけれど。なにかに圧倒されたような、不思議な心地で、だからわたしの胸は高まったような気がして。
 ですが次の瞬間には、禊さんはすっきりとした風に破顔しました。

『なーんて冗談冗談! 僕の目的は相変わらず、あのじいさんを串刺しにすることだよ。だって偉そうに偉くてムカつくだろ?』

 やっだなー、と。おどけた調子で笑う禊さんの顔を。わたしはじぃと、ずっと、見つめている。愛くるしい顔立ちの裏を見ようと、目を背けまいと、彼の瞳を認め、あなたの心が焦がれるよう見惚れていました。
 大袈裟な哄笑をやめ、おっかしーなんて嘯きながら、何気なしに禊さんは口を開きます。

『ねえ、七実ちゃん』
「なんでしょう」
『いい夢見れた?』
「……はい」

 いえ、悪い夢なのかもしれませんけれど。見つめても見惚れても、禊さんの瞳はどこまでも真っ黒でした。


  □


 それから間も無くのことです。
ごちゃごちゃとしたこの憩い場を徘徊するがらくたと遭遇しました。
がらくたの、がらくた、おもちゃの成れの果てです。

「―――人間・認識」

765 ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:53:35 ID:a7794f6M0
投下終了です。
状態表は前回登場時と現在地以外変わりまりません。
細々とした修正とともに、wiki収録の際に訂正させていただきます。

766名無しさん:2021/07/15(木) 01:41:58 ID:zmmq06Jg0
Tesu

767名無しさん:2021/07/15(木) 01:43:42 ID:zmmq06Jg0
投下来ていた、お疲れ様です。
くまーはめちゃくちゃ喋ると思ったら省略されててわろた。
でも全然省略されてないってくらい喋りっぱなしですよね?
その辺りも含めて、なんというか安心したというかホッとしたというか、久しぶりの投下ながらも我が家に帰ってきた気分でした

768 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:35:03 ID:LwlWjwEc0
投下します。
前回と同様にスマホ投稿になりますがご了承ください。

769「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:37:59 ID:LwlWjwEc0


  ×

「なあ、とがめ」
「触るな」

  ×

「ごめんな、とがめ」
「いいから進め」

  ×

「懐かしいな、とがめ」
「知らぬわ」

  ×

「ごめんよとがめ。おれが不甲斐ないばっかりに」
「いいから。わたしに不用意に触るでないわ」

 再三再四繰り返される謝罪にほとほと嫌気が閾値に達しているおれではあるが、活用できるものはしていかねばあるまいよ。
身体も性根も、まるごと全て腐ったこいつにそれでも価値があるとするならば、残った価値を根こそぎ使い果たしてやろうではないか。まったく――まったく、本来価値すらないこいつに、生かすだけの価値を見出したのだ。
『冥土の蝙蝠』と謳われたおれの優しさには我ながら驚嘆を覚える。
接待好きもここまで至れば堂に入ったものということか。
まるで期待はしていないが、おれにわずかでも貢献しろ。迷惑をかけるな。そして死ね。

「だいたいわたしの髪になにを執着しておるというのだ。いいか、もう一度だけ命じてやる。わたしに触れるな」
「そうはいってもとがめ、せっかくまた髪が伸びたんだ。昔みたいに手入れをさせてくれないか」

 なんだ『この女』、おれの知らない一年の間で髪なんか切っていたのか。
恋する乙女じゃあるまいに。ろくでもない女という認識はしていたが、いよいよ気でも触れたか?
髪を切ったぐらいで、あの女の中でぐつぐつと煮えたぎっていた怨嗟の念は消えるはずなどないのに。
愚かしい――あまりに愚かしい、相変わらず。
人がーー人の願いが簡単に変わるわけがない。
本来、変わってなどいけないのだ。
『歴史』上の為政者が『人が変わった』かのごとく美女に溺れ、傾国至らしめたように。
変わるということは――死ぬことだ。変わりたいだなんて、なんと愚かしい。
先の殺人鬼ならぬ正義の味方――宗像形にしろ、どうしてそう、変わりたがるのかね。
理解に苦しむ。
思い返せば真庭蝶々――あいつも鴛鴦のやつと仲睦まじくなってから、やたらと死にそうに感じるんだよな。
――ああいや、死んだのか。おれの知らない――というか虚刀流も知らない中で。
そういう意味では、あの刀。――完成形変体刀。
件の業物を手にしたときのおれも、何かに狂っていたように思う。
魔性――魅力――『毒』。なるほど然り。
そして同時に、あの威風堂々たるがき、都城王土が渡してきた木刀の真価もこの辺りにあるというのだろう。

いずれにせよ、人は変われないし、変わったとして良いことなんかあるはずもない。
この国において――あるいは史上もっとも『人が変わる』柔いしのびとして、おれは断言する。

いや、ちがうか。
そもそも、目の前のこれ、――人だったもの、刀だったものの成れの果てを見て、
変わりたいだなんて思うばかがどれほどいるってもんだ。

「なあ、とがめ――」
「ええい鬱陶しい! そなたの仕事は! わたしの従者でないと言っとろう! いるだけで良いのだ、しゃきっとせんか!」

 なおも縋り付かんとする阿呆を、毒に触れないように足蹴にし、がつがつと前へ進む。
思いの外短気で、淑女と程遠いこいつの姿――もとい顔に相応しい大股歩き。
何度言えばわかる? 下僕としての価値すらないお前に、おれの従者が務まるとでも?
いくら絶刀ならぬ絶島暮らしの阿呆とはいえ、ここまで痴呆ではなかったはずだ。
聞いたところによれば、今の虚刀流は、姉の生き様が混濁した状態らしいが――。
これの姉――最悪の女、鑢七実がこれより思考能力が下だったとは思えない。
であれば、球磨川とかいうがきの影響か。
がきは、所詮がきだったということか……?

「…………むつかしいな」

 都城が警鐘を鳴らすまでの相手に、そこまでの過少な評価を下していいものか。
当然、甘い考えは捨てた方が良いと、あの時、寺小屋ならぬ学園から遁走したときに、供犠創貴なる小僧と結論付けた。
おれの忍法が無から産み出せないように、嘘もまた、無から産み出せないものだから。

770「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:40:46 ID:LwlWjwEc0
実際問題、一見しただけでえも言われぬ不快感を抱いたあいつの本質は頭の出来の悪さ――ではないだろう。
頭の悪さではなく性質の悪さ。問題はこちらであろうことは容易に想像がつく。人のことは言えねえが。

「うぅ……とがめ……! おれ、がんばるから。こんなおれでも必要だって言ってくれるんだもんな」
「…………」

 ちら、と。
おれの足蹴に感涙している気味の悪いやつを観察する。
口走る理解不能な言葉の意味を噛み砕くことをおれはしないにせよ――。
そういえば、と。

「そなた、ずいぶんとおしゃべりになったな」

 思い浮かんだ疑問を、おもむろに投げかける。
今のこいつに駆け引きなど不要だ。
その点だけ見れば手っ取り早くて助かる――まあ、『冥途の蝙蝠』の名折れと言われれば閉口せざるを得まいが。
さておき、そうだ。
基本的におれ自身が『接待』好きだからあまり気にしてはいなかったが――、
こいつは、そんな口の回る男ではなかったはずじゃなかったか?

「……、そうかな、確かに面倒なことは嫌いだけどさ」

 自己申告の通り、こいつは面倒事、厄介事を厭う傾向があった。
不承島の山小屋で盗み聞いていた会話を見るに、推測は大きく外していないだろう。
奇策士の言葉に返すばかりで、姉しか人間を知らないこのばかに、会話の崇高さなど理解できていなかったはずだ。
おれの知らない1年とやらで、会話の楽しさでも学んだっていうのか。
十分あり得る話だが――ぐちぐちと口煩い『奇策士』さまとの会話で目覚めるたぁ、ずいぶん被虐趣味なことだ。

 しかし、どうだろう。
生憎、おれの観察眼は鑢七実の『見稽古』とは異なり、肉体の観察に留まる。
虚刀流に刺さった大螺子の理屈や効果の細かいところは判じかねるが、
――この口の軽さはあいつらの影響もあるのではないか。
鑢七実、球磨川禊――先ほどの会話の様子を鑑みるに、とりわけ球磨川禊の軽薄さの影響が。
理屈というより、おれの観察結果に過ぎない。
それでも数えきれないほどの人間を精査したおれの観察眼には、我ながら自負がある。

「とがめ――?」

 虚刀流は一丁前に心配するように、こちらを覗きこむ。
近寄るなというのに、まあいい。
ついでだ、おれも接待してやるよ。

「なあ、虚刀流」
「なんだ、とがめ」
「しゃべるのは好きか?」
「……いや、別に好きじゃないよ。知ってるだろ。そういうのはとがめの管轄だったから」

 そうだな。
 この答えは、鑢七花、鑢七実、球磨川禊、誰のものでもいい。
 大して変わらん。
 だから、真に訊くべきは。

「じゃあしゃべるの、めんどうか?」

 ものぐさであることは把握している。
子猫ちゃんが変体刀の話をしているときも、会話を厭っているように見えた。
例え、おれが死んだという後の1年でこいつに変化が訪れたとしても――本質はやはり、ものぐさであることに変わりはない。
変質とは死である。
当然死とは並大抵ではない。
悲劇があり、変化を余儀なくされた奇策士が、かつての己を殺し、髪を白く染め上げたように。
こいつのものぐさを変えるとしたら、殺したというのであれば。
『それだけの出来事』があるはずだが――。

「――めんどう、……あれ、どうなんだろう、おれ……」

 虚刀流は困ったように首を傾げる。

771「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:41:32 ID:LwlWjwEc0
少なくとも、この子猫ちゃんとの思い出がとっさに出てくることはない。
心当たりは、ないのだろう。つまりは、それが答えなのだった。

「――いや、良い。変なことを訊いたな。忘れてよいぞ、七花」

 時に。
人がおしゃべりになる理由というのは、いくつかある。
おれのようにもともとがおしゃべりな気質であるにせよ、方向性はまちまちだ。
楽しいから、悲しいから、吐き出したいから、共有したいから、近寄りたいから、離れたいから。
――当然おれは、相手を『歓待』するためにぺらぺらと舌を回す。
相手を悦ばし、地獄に引きずり下ろした時に得られる、己の悦楽のために、おれは喋る。

 ならばこいつは。
鑢七花を通して窺える――球磨川禊と鑢七実のおしゃべりな理由は。

「――――」

 ……。
最悪だ――考えうる限り最悪だ。
虚刀流がやたら喋りたがるのは、やはりこいつらが原因じゃないか?
あるいはこれを好機――と見てもいいのだろうが、兎にも角にも最悪だ。
すぐさま考えられる可能性は二つ。
鑢七実の『高揚』と、球磨川禊の『不安』――あいつらの会話を聞くにこの辺りが妥当だろう。
――いや、その二つのない交ぜが、こいつの心理を作り上げているのやもしれない。

「まあなんていうかさ、やっぱりとがめの横にいるとおれも安心するっていうかさ――――」

 鑢七実の高揚は話が簡単だ。
こんな殺し合いも真っ只中、道端で口吻を交わすような精神状況だ。
『今のわたしは気分がいいので』、ね。正気かよ。
とんでもなく異常であることに違いはないが――それだけ意気軒高と昂っているのだろう。
昂っているときというのは、自然、口数も多くなる傾向にある。
あのさまで、あんな病弱貧弱脆弱を重ねたようなざまで、それでいて、おれの仕掛ける隙を見せなかった。
少なくとも球磨川のために尽くすつもりでいるのだろう。大人しく野垂れ死ねばいいのに。

「――――やっぱりおかしいよな、おれの隣にとがめがいないだなんてありえなかったんだ」

 対して、球磨川禊。
こいつがなかなかどうして難しい。
生来の気質――もあるのだろう。
だが、どうも本調子ではないようだ。

――『なんかまた頭がぼーっとしちゃって』『何か忘れてるような気がする』
『黒神めだかって、真黒ちゃんの妹だったのかも』『善吉ちゃんに、それに何よりめだかちゃ――』

おれもこの辺りで離脱はしてるが、しかしなかなかどうして、球磨川の口振りは異様ではあった。
まるでめだかちゃん――黒神めだかを忘れさせられているかのような、そんな口ぶり。
いや、『ような』なんて曖昧なことは言うまい。
なんらかの事情で、球磨川禊は黒神めだかを『忘れている』。

「――――あれはきっとなにか悪い夢だったんだ」

忘れなければならないほどの、事情があった。
――人為的に変わらなければならないほどの、何かが。

772「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:42:20 ID:LwlWjwEc0
 真庭川獺の『記録巡り』然り、関連するところでいえば鳳凰さまの『命結び』然り。
人や物の記録――記憶を辿る『術』はいくらでもある。
ましてや、規格外だという『大嘘憑き』。――記憶ぐらい『なかったこと』にするだろう。
ゆえに、出来る出来ないの話は無意味だ。
 問題があるとするならば、なぜそうなったのか。
あの様子では、そう、鑢七実が記憶を消していたように見える。
球磨川禊に心酔する鑢七実が記憶をわざわざ消去させているのだ。
のっぴきならない事情が覗いているが、中身については一度捨て置こう。

「おれもとがめも悪くないんだ」

 本題について。
鑢七花が小うるさいことについて。
諸々含めて結論付けるに、球磨川の『不安』が占める割合も相当に高いとみてもいい。
『忘れている』といっても、球磨川自身、どことなく自分の状態に居心地の悪さがあるようだ。
言葉の端々から察するに余りある。
精神と記憶のずれ、ねじれ、乖離。
あるべき姿と、今ある現実との相違。礎なき牙城。
とりもなおさず、深層心理に根付いた違和感が、球磨川を、ひいては虚刀流を不安に誘っているとするならば――。

「よいよい、七花。これ以上喋らんで良いわ。
 そうだな、ある意味においておぬしは悪くないのだろうよ」

 算数と逆算。始点と終点。現実と理屈。――本質を推し量る虚構の推理。
最悪だ。本当に最悪だ。
上辺を変えないために、根底を変えるようなやつらを、どうしておなじ人間と言える?
気色悪い、気味が悪い。気違いにも程があろう。
なにより最悪なのが、その変態ならざる変質行為がこいつらに生まれた最大の隙というのが、最悪だ。
『だとしたら』、どうする――?
こいつを拾った時、おれは胸に刻んだはずだ。

――『とがめが生きていてくれたら』。こいつが見ているのは、そんな願望が作り出した儚き幻想だ。
こいつに刺さった四本の大螺子によって人為的に植え付けられたものだったとしたら、これほど恐ろしいことはあるまい。

 甘く見ていたつもりもないが、正味、現実はいかにも世知辛い。
球磨川禊の心の空白、鑢七実の肉親の情――おれはこの手札を使って、なにをすべきだ?


  ×


 さて、そうは言っても残り十二名。
たかだか十二ととるか、されど十二ととるかはわかれるところであろうが、
球磨川と七実のことばかりを考えていても仕方がないといえば仕方がない。
早く始末をした一方で、本音を言うのであれば、二度と会いたくない。
ああいった、使う『言語』が違う人外どもには――おれさまお得意の『接待』技術も無用の長物となりうる。
勝手に死んでくれれば、越したことはない。頼むから死んでくれ。

 おれの最終目的はあくまで生還であり、欲を言うのであれば真庭の里の復興である。
ゆえに他の参加者とやらにも意識を向ける必要だってあろうよ。
ところが、だ。

773「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:43:57 ID:LwlWjwEc0
問題となるのは、おれの『手持ち』の弾が少ないことだ。
奇策士の背後を探ったように――虚刀流の有様を観察したように――。
おれの基本方針は相手のことを探ったうえで仕掛けるもの。
その方が当然、『骨肉細工』が有効に働くからだ。

 反して、今、おれの持つ材料は少ない。
あの青髪の天才――玖渚友という小娘を引き合いに出すまでもなく、だ。
 供犠創貴の意識はどちらかというと裏方を探る方に向いていた。
これについてとやかく愚痴を垂れるつもりはない。
おれとしても納得して着いていたのだ。結果として見えたものも多少なりともあろうよ。
結局のところいまなお行橋なる人間に遭遇できていないが、さておき。
都城王土の身体も、使いようによっては使えるところも多かろう。

 他方。ここに至ってなお、戯言遣い、無桐伊織、櫃内様刻、羽川翼、八九寺真宵、
五人についてとんと分からないというのは、きわめて劣勢に追い込まれていると言わざるを得まい。
携帯電話――といったか。
不思議な絡繰りがばらまかれている現状、誰がこちらの情報を掴んでいるとも分からない中、
一方的に情報が不足しているというのは、懸念するに余りある。
畢竟、おれの忍法を十全に活用するとなれば、全員の知識が不足しているともいえる。
だからこそ、与えられた情報で、球磨川禊や鑢七実の現状を推察しなければならないわけだが。
 そう、懸念というのであれば、水倉りすか。
小僧なりに目的に向かった邁進していた供犠創貴が信頼を置いていた、あの『駒』。
結局のところ、あいつについてわかったことも、実のところ少ない。
あくまで利害関係で結びついていたため当然だが、小僧はその辺りの情報管理は徹底していた。
虚刀流も一度会ったというが――瞬間移動的な術で逃げられたという。
瞬間移動的な術ならおれにも覚えがある。『省略』だかなんだか、細かい理屈は分からんが、そんな説明だったはずだ。

 都城王土の警告じゃないにせよ、
少なからず肝っ玉だけなら大物だった供犠創貴が惚れる『異能』使いだ。
瞬間移動なんて小手先の術が精々なんてことはないだろう。
まあ、あいつのことだ、見栄っ張り、虚勢だけでおれに張り合っていた可能性も否定しきれないが――、
実際として、おれたちと遭遇するまで生き残っていたという現実は、覆せない。
あの凶悪無比で悪名高い真庭喰鮫があっけなく死んだ殺し合いにおいて、何食わぬ顔で、生きていた。
『能力』の賜物か、『天運』によって導かれたのか。
どちらでも同じことだ。警戒に値する、という事実に変わりはない。

 球磨川たちが向かった方向は分かる。
それを直ちに追いかけるのが得策か。あるいは、時間の許す限り体勢を整えるのが先決か。
考え、考え、考え――――。


「――――」
「――――」
「――――」


 ――――考え、考え、考え。
そういえばこんな道、前にも通ったなと悟ったあたり。

 そこに赤色はいた。
唐突というにも足りない、あまりにも虚の間隙を縫う、瞬く間に。
溶け込むように、炙り出たように、自然に不自然に、
当然のように赤色はそこにいた。幽鬼のような感情を湛えた表情で。
その様子は、まるで人が変わったようで――

「――――七花っ!」
「ああっ!」

 弾けるように叫ぶ。
それが合図だった。
『時間』との勝負だった。

774「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:44:30 ID:LwlWjwEc0
【2日目/早朝/E-5 】

【鑢七花@刀語】
[状態]右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『おれは悪くない』
 0:『とがめの言う通りにやる』
 1:『とがめが命じるなら、誰とでも戦う』
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※寝てる間に右手がかなり腐りました。今更くっつけても治らないでしょう

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、頭部のみとがめに変態中
[装備]軋識の服全て(切り目多数)
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残り、優勝を狙う
 1:虚刀流を利用する
 2:強者がいれば観察しておく
 3:鑢七実は早めに始末しておきたい
 4:行橋未造は……
[備考]
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、
  零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、宗像形(144話以降)、鑢七花(『却本作り』×4)、元の姿です
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実と球磨川禊の危険性を認識しました。
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]魔力回復
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝する
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかの時に限り、制限がなくなりました
 ※それ以外の制限はこれ以降の書き手にお任せします
 ※大人りすかから戻ると肉体に過剰な負荷が生じる(?)

775 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:44:57 ID:LwlWjwEc0
投下終了です

776 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:18:07 ID:cixHN0Dc0
先んじて感想を失礼致します。

>>非通知の独解
いよいよもっての終盤の雰囲気に呑まれている雰囲気を漂わせる様刻。
何でも望みが叶う。
それが嘘か真かはともかくとしても、生き残りを掛けてと言う意味ならどうあっても見てしまう部分ではありましょう。
その考えが良いか悪いかは別としても。

>>おしまいの安息(最後の手段)
様々な情動。
様々な思惑が混ざり合いながらもランドセルランドに到着。
黒神めだかに縛られていると称する鑢七実ではありますが、その鑢七実は球磨川禊に縛られていると言う印象。
いや、自縄自縛のように自ずから、ではありますけども。
そして現れた日和号。
ただまあ、日和号は、ねえ?
相手が悪いとしか思えないと言う。

>>「柔いしのびとして」
真庭蝙蝠による現状の考察。
鑢七花に起こった異常。
危険因子としか思えない球磨川禊と鑢七実への考察。
本当に何と言うか、鑢そのものが鬼門やね蝙蝠。
そして来たぜ、ぬるりと。
水倉りすか。
どちらにとっても恐らく分水嶺となったのはモチロンにしても、次の話を通してどうなるかこそがある意味では三人にとっての分水嶺だろうと思うとワクワクしますねぇ!

777 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:20:31 ID:cixHN0Dc0



――待つのは、得意だった。





破壊の音に、目を開ける。
ゆっくりと意識が覚醒させる。
驚いている真宵ちゃんと、薄目を開けている翼ちゃん。
二人を視界に入れながら体を伸ばす。
良くも悪くも予想通り。
下部を失った日和号は、想定通りに動いてくれた。
言い方が悪いかも知れないけど、目覚まし時計として。

「…………さて」

行きますか。
伸びをしながら二人を見る。
翼ちゃんは変わりなく、真宵ちゃんは、少し怖がってるみたいだけど問題はなさそうだ。
事前に話していた通り。
隠れてても良いと言う言葉を気にせず、着いてくるらしい。
上々、上々。
つっかえ棒代わりに置いていた椅子を退かせば、すぐに外。
起き抜けに確認してなかったメールを確認し、

「……ッ…………」

止まり掛けた足を進める。
スクロール。
スクロール。
スクロール。
しながらも、一分と掛からずランドセルランドの中心まで向かえる。
そしてそこに居た。

「――――――人間、未満」
『そうだよ。僕が、人間未満だよ』

閉じて、向く。
一目見て、分かった。
ああ。
失敗したんだな、と。
勝てなかった。
いや、違う。
負けることさえ、出来なかったのか。
深みの増した、混沌のような瞳を見て思う。
それを憐れむことはない。
それを悲しむことはない。
それで、侮ることもない。
だけど、それにしても、

「人間未満」
『なに?』
「なにがあった?」

何かおかしい。
それは確信できた。
雰囲気が違う。
違い過ぎる。
根源的に何かあったと確信出来るほどに、何かが、違った。

778待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:21:56 ID:cixHN0Dc0
題名を入れ忘れていたので一回投下をやり直します。

戯言遣い、八九寺真宵、羽川翼、球磨川禊、鑢七実、日和号、櫃内様刻の投下を開始します。

779待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:23:15 ID:cixHN0Dc0



――待つのは、得意だった。





破壊の音に、目を開ける。
ゆっくりと意識が覚醒させる。
驚いている真宵ちゃんと、薄目を開けている翼ちゃん。
二人を視界に入れながら体を伸ばす。
良くも悪くも予想通り。
下部を失った日和号は、想定通りに動いてくれた。
言い方が悪いかも知れないけど、目覚まし時計として。

「…………さて」

行きますか。
伸びをしながら二人を見る。
翼ちゃんは変わりなく、真宵ちゃんは、少し怖がってるみたいだけど問題はなさそうだ。
事前に話していた通り。
隠れてても良いと言う言葉を気にせず、着いてくるらしい。
上々、上々。
つっかえ棒代わりに置いていた椅子を退かせば、すぐに外。
起き抜けに確認してなかったメールを確認し、

「……ッ……」

止まり掛けた足を進める。
スクロール。
スクロール。
スクロール。
しながらも、一分と掛からずランドセルランドの中心まで向かえる。
そしてそこに居た。

「――――――人間、未満」
『そうだよ。僕が、人間未満だよ』

閉じて、向く。
一目見て、分かった。
ああ。
失敗したんだな、と。
勝てなかった。
いや、違う。
負けることさえ、出来なかったのか。
深みの増した、混沌のような瞳を見て思う。
それを憐れむことはない。
それを悲しむことはない。
それで、侮ることもない。
だけど、それにしても、

「人間未満」
『なに?』
「なにがあった?」

何かおかしい。
それは確信できた。
雰囲気が違う。
違い過ぎる。
根源的に何かあったと確信出来るほどに、何かが、違った。

780待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:24:39 ID:cixHN0Dc0
『……? なにが?』

だけどそれを、認識していない。
当の本人が認識していない。
あるのか、そんなことが。
いや、有り得るか。
そんなことも。
視線をずらす。
一歩分、後ろに佇んでいる彼女。
鑢七実ちゃん。
黒曜石のような瞳が僕を映す。
彼女にはそんな能力は、異能とでも言うべき力はない筈だ。
ない筈だった。
だけど、目の前に居る。
丁度良く、『記憶をなかったことにした』存在がすぐ傍に。
どちらがそうしたか。
何て言うのは考えるまでもないことだ。
球磨川禊――人間未満は弱い。
それはきっと、今まで彼と遭ったことのある誰でもそう言うことだろう。
だけど。
不条理を。
理不尽を。
堕落を。
混雑を。
冤罪を。
流れ弾を。
見苦しさを。
みっともなさを。
嫉妬を。
格差を。
裏切りを。
虐待を。
嘘泣きを。
言い訳を。
偽善を。
偽悪を。
風評を。
密告を。
巻き添えを。
二次災害を。
いかがわしさを。
インチキを。
不幸せを。
不都合を。
受け入れて、しかし。
だけど。
何より。
敗北と失敗だけは受け入れず、成功と勝利を求めて止まない。
その人間未満が、失敗の記憶から逃げるとは思えない。
逃げ続けられると思えない。
逃げ切れるとも、思えない。
その弱さは受け入れない。
受け入れられないのが。
受け入れられないから。

「なら、いいさ」

『人間未満』なんだから。

「話し合いを始めようか」

781待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:25:54 ID:cixHN0Dc0
適当な椅子を起こす。
プラスチック製の、よくある椅子を。
序でに転がってるテーブルも起こして促せば、気にすることなく座った。
一応、周りのよく見える場所だから警戒くらいされる可能性は考慮していたけど。
どうやら雰囲気に反してそこまで捻くれてる訳じゃあなさそうだ。
七実ちゃんは、座るつもりはないらしい。
二人に目を向ければ、翼ちゃんは躊躇いなく、真宵ちゃんは少し下がって、それでも勇気を振り絞るように目を瞑って座った。
そこはかとなく威圧感を感じさせてくる七実ちゃん。
鋭さと湿り気を感じさせるじっとりとした目を、人間未満の目が向いてないのをいいことに向けてくる。
別にその辺り、ぼくが言う必要があることでも、言う理由があることでもない。
少し目を合わせただけで察してくれたらしい。
向こうから視線を切って周囲へと向け始めた。
正直、七実ちゃんなら目を向ける必要自体ないと思うけど、傍から見れば警戒している素振りがあるかないかで印象は変わってくる。
周りに目を向けてたせいで聞いてなかった、なんてことはないだろうから気にする必要はないか。

『それでどうしたんだよ欠陥製品? 僕たちの間に、言葉なんて不要じゃないか?』
「正直そうだとは思うけど、擦り合わせってのは必要じゃない?」
『それもそっか。じゃ、どうぞ?』
「首輪の解除に目途が付きつつある」
『おっ、やったぁ! 七実ちゃんの首輪を外せるってことだね!』
「ああ。本来なら自分の首を気にする場面のはずなんだけど……外れてるからな。とは言っても正直、詳しい所は翼ちゃんに任せてる」
『さっすがは翼ちゃん! 伊達におっぱいおっきくないね!』
「あ、あはは……まあ、正直まだ理解し切れてない所もあるから何とも言えないけど、まあ、理論は分かって来たって感じかな?」
「期待出来る、と考えてくれて良いと思う。と言っても現状だと翼ちゃんしか分解できる可能性はないんじゃないかな?」
『あっ、ふ〜ん……そう』
「どうした?」
『え〜? いや〜、べっつに〜? そ〜んなあからさまに七実ちゃんのこと〜、人質に取ぉ〜るなんて傷付いちゃうな〜、って』
「うるさい」
『はい』

若干、鬱陶しいムーブをしてきたのを両断。
と、言っても。
その面があったのは否定できない。
正直な話、ぼくが理解できなさそうな内容を理解できそうな翼ちゃんが脱落すると困るのは本当だ。
幾ら人間未満でも、ここまであからさまに言っておけば何もしないだろう。
しないよな。
しないと信じる。
しないと思うことにした。
それよりも、だ。
引っ掛かってたことがある。
引っ掛かったことがあった。

782待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:27:10 ID:cixHN0Dc0
「七実ちゃん」
「…………なんでしょうか」

他所にジッと目を向ていた七実ちゃんに声を掛ける。
まあ、大した用事じゃないけど。

「さっき壊した人形の頭、ある?」
「その辺りに転がってるんじゃないですか?」
「持って来てくれない?」
「……いいでしょう。いえ、人を使い走りにするなんて悪い人、とでも言っておきましょうか」

何でもないように。
と言うか迷いない足取りでどこかへ足を進める。
その後ろ姿を眺めながら、真宵ちゃんが口を開き、閉じる。
言いたいことがあるんだろう。
でも、言う勇気が湧かないんだろう。
何せ本人はまるで気にする素振りすらないんだから。
何か言おうにも、本当に自分の言ってることが正しいのかも分からなくなると言うものだ。
最もらしく言われると特に。
まあ。
閑話休題。
人形だ。
そう、人形。
日和号。
あれは割と、ドン引きだった。
翼ちゃんによって下側を丹念に破壊し尽くされた訳だから、もう動けもしないだろうと油断していた。
人間未満が来るまでの間、待機する。
その方針を定めて適当な、遠過ぎず近過ぎないスタッフ用らしい控室を見付けて一人でトイレに向かっていた時。
普通に移動してる日和号と遭遇した。
まあ、あれだ。
最初はクモか何かかと思った。
刀四本。
それらを器用に使った四足移動。
どこの一繋ぎの大秘宝の金獅子だ。
見えた瞬間に変な声が出たぞマジで。
心構えはともかく、日和号がまだ動けると言う情報とそもそも想定されてないはずの移動方法だったようでかなり動きが遅かった情報とが手に入ったのは幸いだった。
正直、遠くから物を投げ続けてれば何とかなりそうな気配もなくはなかったから人間未満達が来る前に排除しておくことも考えたけど、目覚まし代わりに利用させてもらった。
だけじゃない。
もう一つ。
七実ちゃんならキレイに壊してくれる公算もあったからだ。
無意味と見放して軽く。
無価値と見過ごして楽に。
そうこう思い返してる内に、後ろ髪を文字通り引き摺るようにして持って来た。
予想の通り。
ギリギリ引き摺ってはなかったから顔は綺麗だ。
まあ、それもあと少しなんだけど。

「…………これです」
「ありがとう。そのまま悪いんだけど、外殻だけ外せる?」
「微刀のですか? 出来ますけど」

なぜ? と無言の問い掛け。
多分だけど、と前置いて、

「この中に主催者の居場所に関する情報がある」

783待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:28:48 ID:cixHN0Dc0





「可能性がある。
 そもそもおかしなことだった。
 日和号――微刀の最初の居場所は地図で言う、E‐7の不要湖。
 これだけだったらおかしくはない。
 そもそも、不要湖には日和号が居る。
 そう言うギミック。
 そう言う構成都合。
 それで話は済んでいた。
 でも、それが変わった。
 不要湖から此処、E-6のランドセルランドに居場所を変えた。
 これがおかしい。
 ステージギミックはそのステージにあってこそだ。
 いや、そこに居ないと意味がない。
 にも関わらず、なぜ、移動した。
 いや、移動させた?
 いや、そもそもだ。
 なぜ、移動させる労力を割いた?
 不要なはずだ。
 このバトル・ロワイヤルには。
 あるいは一番初めなら、意味があったかも知れない。
 何も知らない参加者を惨殺する仕組み。
 そこから始まる勘違い。
 誰も積極的な者が居なかったとしても、そうでない者が居る可能性。
 それを醸し出すのに使えたかも知れない。
 だけど、無意味だ。
 この考えは無意味だ。
 なぜなら、全然普通に殺し合いを是とする存在ばかりだったんだから。
 それならステージギミックとして在り続けるのが正解のはずだ。
 正統のはずだ。
 なのになぜ。
 移動した?
 移動させた?
 殺し合いの加速?
 させる必要がない。
 目的があるとしても、それを日和号にさせる意味はない。
 嫌がらせ?
 この殺し合い自体がまさにそれだ。
 ならなぜ?

 一つ。
 そうする必要があったから。
 二つ。
 そうしたかったから。
 三つ。
 そうしなければならなかったから。

784待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:30:19 ID:cixHN0Dc0
 そうする必要がある要素なら、そもそも必要な場所にずらして置くはずだ。
 そうしなければならないなら、それ相応の理由付けが必要になるはずだ。
 だから――消去法になるけど――そうしたかったから、で考えさせてもらう。
 なぜ、そうしたかったのか。
 恐らくは、周知されてしまったから。
 掲示板に、不要湖を巡回しているロボットだと言う情報を広められてしまったからだ。
 わざわざ殺しに来るロボットの居る場所に行く理由もなければ、殺す――壊す必要のないロボットを壊しに行く奴は居ない。
 でも――多分。
 それだと困る誰かが居た。
 日和号と接触して欲しい、あるいは不要湖に誰かが来るようにしたい何者かが居た。
 でもそれなら、日和号が此処、ランドセルランドに留まり続けていた理由がない。
 留まり続ける理由がない。
 好きなようにウロウロ移動し続けていれば、不要湖に誰かが行けるようになったはずだ。
 にも関わらず、此処に居た。
 居続けて、居た。
 どれだけ軽く見積もっても三時間。
 四時間。
 偶然に遭遇して、放送を跨いだ上での時間まで考えたら。
 その倍の時間は居てもおかしくはない。
 だったら、おかしい。
 なんで、居続けているのか。
 つまりは極論。
 遭遇させたかった。
 その上で戦わせたかった。
 もっと言うなら、壊させたかった。
 そう言う誰かが居た。
 んだと思う。
 まだ居るのかも分からないけど。
 それであれば、説明がまだ付く。
 好き勝手に動いていない理由が。
 此処から離れてなかった理由が。
 一応の説明がつく。
 まあ。
 実際の所、主催者側の用意した自立兵器が移動してるんだ。
 地図のデータぐらいはあるだろう、って。
 それなら重要施設の情報もありそうだなって。
 本音はその辺りかな?
 これ以上に関しては実際に中を見ないと分からない。
 だけど、それも見て視れば分かるはずだ。
 どこまで合ってるのか。
 どこまで、間違っているのかも――――――戯言に過ぎないかも、知れないけれどね」

785待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:31:49 ID:cixHN0Dc0




無言。
皆の視線が無造作に置かれている日和号に注がれる。
中。
風が吹いた。
同時に、日和号の髪が無造作に千切れ飛んでいく。
手が伸びた。
七実ちゃんの手が。
それが何でもないように日和号の頭、その頭頂部に触れた。
瞬間。
割れる。
頭部。
球体。
その上側半分がいわゆる、くし切り。
そうしたかのようにバラけて広がる。
ゴチャゴチャ詰まった内部機構。
友が色々してるのを見たことがあるぼくでもあまり見慣れない物、と言うか見たことのないような物しかないのは所謂ロストテクノロジーとでも言うべき古っぽい機械だからだろうか。
そう考えている中で、変わらず七実ちゃんの手は動く。
まるで勝手知ったるオモチャにでも触るかのように。
慣れ親しんだ物を弄るように。
無造作に。
それでいて丁寧に。
何処に何があるのか分かり切っているような手付きで、時々何か考えるように手を止めはするものの分解していく。
ちょっと驚く。
そこまで応用の利くのかと。
内心で驚いて見るけど、どこか顰めっ面な、不機嫌そうな顔をしているから止めた。
無言のまま。
次々と内部を分解されていく様を眺め。
やがて。
その手が止まった。
明らかに違う。
明らかに異なる。
何処か見知った、それで居て日和号の中にあるとは思えない。
プラスチック。
見掛けたことのあるような、小さな電子機器がそこに在った。

「……………………これですね。これは、本来の微刀には組み込まれていない――だろう部品でしょう」
「そうだね」

786待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:35:07 ID:cixHN0Dc0
手を伸ばし、止める。
他のパーツに線が繋がってる辺り、変な取り方をして良いのか。
逡巡。
軽く見回し。
外れそうな部分に爪を引っ掛けてみれば、紛失防止らしい半透明のプラスチックに繋がった状態で外れた。
これでまず、間違いない。
一ミリほど出ている部分を爪で掴んで、抜く。
抵抗らしい抵抗もなく引き抜けたのは、これこそよく見るデーターメモリー。
日和号の頭部やプラスチックの部分が衝撃を吸収するような何かだったのか単に丈夫だったのか、割れたり欠けたりしてる様には見られない。
皆に見えるように掲げるようにして、もう要らないと判断したらしく残ったパーツを諸共テーブル上から排除して何故かまた顔を顰めた七実ちゃんはスルーしつつ、空いたテーブルの中心に置く。
全員が無言。
無音。
誰かが息を飲む音が、イヤに響いた。

「――これだね」
「これ、ですか?」
「これが、ね」
『これみたいだね』
「これが?」

疑問の声もある。
それでも。
嫌が応にも期待は高まる。
明確な、異質。
主催者側が用意していた、本来、中身を探る等と想定されていない筈の物から出て来た、明らかに他とは異なる物。
面積にして四センチ平方メートルにも満たないだろうパーツ。
これの中を見れれば、あるいは、と。

「――――――――」
「――――――――」
「――――――――」
「――――――――」
「――――――――」
「――――――――」

誰も。
手を伸ばさない。
パーツを置いて手を引っ込めたぼくも。
不安そうに周囲を見回す真宵ちゃんも。
興味深そうに見詰めている翼ちゃんも。
変わらずへらへら笑ってる人間未満も。
再び周囲の警戒に戻った七実ちゃんも。
誰も。
それに手を伸ばそうとはしない。
それでも。
努めてか、あるいは本当にそうなのか。
人間未満が口を開いた。

787待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:37:07 ID:cixHN0Dc0
『やったね欠陥製品! あとはこれを君のフィアンセの友ちゃんに見せれば万事解決だぜ!』
「いや、それは無理だ」
『え、なんで?』
「もう居ないからね」
『――――は?』
「もう居ないからね」

訝しげな顔をする人間未満、と二人に対して携帯を取り出す。
少し操作して、テーブルに置く。
メール。
データ容量の問題か。
あるいは見易いようにした配慮からか。
いや、配慮はまずないだろうから容量問題一択だろう。
そんな幾つもの題名のないメールの中。
一番最初にして唯一の題名付き。
起き抜けのぼくが確認したメール。
その題名は、

「『このメールが届いた場合、僕様ちゃんは既に死んでいる』……ッ?」
「ど、どう言……ッ! どう言うことですか戯言さん!」
「どう言うも何も。多分、書かれているままの事なんだと思うよ」
「違う! ……そうじゃない。そうじゃないわ、いーさん。一体、いつ、これを読んだの?」
「ついさっき。起きて部屋を出てここに来る最中に。友から何通もメールが来てた中の一番最初がそれ」

絶句。
声を荒げて立ち上がった真宵ちゃんと翼さん。
辛うじて翼さんは抑え込んだみたいだけど、動揺著しい。
さしもの人間未満も口を開けたまま固まっている。
この中で唯一反応らしい反応がないのはやっぱりと言うかなんと言うか、七実ちゃんだけ。
それでも一瞬、ぼくに目を向けただけ気にはなったんだろう。
それでもぼくは、ぼくは、言葉を止めない。

「デスノートって知ってる?
 まあ、人間未満は間違いなく知ってるだろうけど。
 その中の名探偵Lが一定時間操作する人間が居なかったら自動的にメッセージを送るようにしていた。
 言ってしまえばそれだけの、一部のラストから二部に繋げるための場面だけど、それに近い仕組みだろうね」

788待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:38:09 ID:cixHN0Dc0
さっきのメールを開き直してスクロールさせれば、一定時間操作がなかった場合に自動的に纏めておいたデータが送られる。
その一番最初のメールがこれだ、と書かれてあった。
一定時間。
それが一分なのか、五分なのか十分なのか。
それはわざわざ書かれてはいない。
それでも。
それでも友なら、トイレに行くにしても仮眠を取るだけにしても軽い操作だけでこんなシステムを止めることが出来るはずだ。
にも関わらずメールが送られて来た。
と言うことは。
そう言う事なんだろう。
電話は、してはいない。
することは即ち、その場に誰かが居たなら、繋がっているぼく達の存在を知らしめることになるからだ。
この場で、この状況で、そんな危険は犯せない。
ぼく一人ならあるいは、そんな危険を顧みずに電話していたかも知れない。
だけど。
出来ない。
出来なかった。
生きようって、言ったのに。
友の現状と、二人の命。
だけじゃない。
残った全員。
ぼくを含めたこの場の全員。
その命を天秤に掛けて、天秤に載せてしまって、載せてしまえて、出来なかった。

『…………………………大丈夫? 翼ちゃんのおっぱい揉む?』
「え……? なんでわたし……あ、いえ、それで落ち着けるのなら吝かではないですけど」
「戯言さん…………」
「大丈夫。落ち着いてる。落ち着けてる――――多分、まだ実感がないからだろうけど」

実感がない。
そう。
実感がない。
まだ。
そう、まだ。
まだこのメールが来ただけだ。
まだ、これ以降の連絡がないだけだ。
多分、電話しないのもその辺りがあるんだと思う。
本当に電話をしてしまって。
出なかったら。
ほとんど確定してしまう。
だけどまだ分からない。
天才であっても失敗はする。
プログラミングのミスか何かでうっかり勝手に送られてきただけの可能性もなくはない。
万にも、あるいは億にも満たない可能性ではあっても。
だからまだ、可能性はある。
生きている可能性が。

『欠陥製品』
「なんだい、人間未満」
『なかったことにしちゃおうよ』

789待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:40:45 ID:cixHN0Dc0



『なかったことにしちゃおうよ』
『こんなこと、あっちゃいけないことだって』
『なかったことにしちゃおうよ』
『こんなこと、起きていいはずがないんだって』
『なかったことにしたいって』
『思ってるんだろう?』
『考えてるんだろう?』
『感じてるんだろう?』
『だから』
『全部全部』
『僕と一緒に』
『僕達みんなで』
『なかったことにしちゃおうよ』
『あれも』
『これも』
『それも』
『どれも』
『なにも』
『全部』
『全部全部』
『全部全部全部』
『なかったことにしちゃおうよ』
『正も』
『否も』
『良いも』
『悪いも』
『嫌も』
『応も』
『何も』
『かも』
『嘆きも』
『悲劇も』
『惨劇も』
『喜劇も』
『仄かで』
『微かで』
『僅かで』
『幽かで』
『不明に』
『朧気に』
『曖昧に』
『漠然に』
『不鮮明で』
『不明瞭で』
『不分明で』
『不明確で』
『曖昧模糊で』
『有耶無耶に』
『戯言のまま』
『傑作なまま』
『虚構のまま』
『何も分かってないままに』
『なかったことにしたいって』
『だから、一言――言ってくれ』
『僕は味方だ』
『僕は』
『味方だ』
『こんなこと』
『あっちゃいけない』
『起っちゃいけない』
『有り得て良いはずがない』
『そう言ってくれればそれでいい』
『そう言ってくれれば、そのために動いてあげる』



『さあ――――――――僕の手を掴んで』

790待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:42:44 ID:cixHN0Dc0
「人間未満」
『ッ、ああ! 欠陥製品』
「君の前提が完全に間違っているという点に目を瞑れば概ね正解だ」



「忘れたのかよ人間未満」
「格好よくなくて」
「強くなくて」
「正しくなくて」
「美しくなくて」
「可愛げがなくて」
「綺麗じゃなくて」
「恵まれてなくて」
「頭が悪くて」
「性格も悪くて」
「落ちこぼれで」
「はぐれもので」
「出来損ないだ」
「それでも」
「こんなこと」
「あっちゃいけない」
「起っちゃいけない」
「有り得て良いはずがない」
「思ったよ」
「思ってるさ」
「考えたよ」
「考えてるさ」
「感じたよ」
「感じたに決まってるだろ」
「それでも」
「受け入れるのが」
「受け止めるのが」
「在るべきなのが、ぼく達だろ?」
「いやだから」
「覚えない」
「いやだから」
「忘れる」
「いやだから」
「なかったことにする?」
「らしくないなぁ、人間未満」
「不条理も」
「理不尽も」
「不幸せを」
「不都合も」
「愛しい恋人のように受け入れる」
「自分で言ったことも忘れちまったのか?」

791待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:44:44 ID:cixHN0Dc0



『うん。忘れた!』
「あっそう。ま、いいよ。少なくともまだ強がってる訳じゃないから気にしないで」
『そっか。そっかあ…………ま、でもいつでも言ってくていいんだぜ? 球磨川禊は二十四時間三百六十四日大体何処でも君のことを待ってるからさ! だって僕は、弱い者の味方なんだから!』
「さりげなく休みを作るな――でも、良かったよ人間未満。本質はそのままみたいでさ」
『? ――おいおい。分かったような口を利くじゃないか』
「悪い?」
『うんうん。悪くないよ』

軽い戯言。
そのやり取り。
でも、収穫はあった。
やっぱりどこまで堕っても、変わっていない。
人間未満は変われていない。

強者の害敵/弱者の味方

人間未満は変わっていない。
それが分かれただけで十分だ。
ただ、軸がないからブレている。
大切な軸がないからブレて見える。
今の七実ちゃんの軸が人間未満であるように。
人間未満にとって軸が黒神めだかだったのだ。
それだけだ。
それだけだった。
つまり。
方針は変わらない。
何時の間にか画面が黒くなっていたから付け直して、メールを更にスクロールする。
そしてそれを、テーブルに見えるように置き直した。

「まあ、一先ずの確認だ。
 首輪の解除方法は分かって来た。
 主催者の居場所もこれで目途も立ちそうだ。
 届いたメールの中には他にも情報はあるだろうしね」
「あ、だったらわたしはそっちを確認するわ。
 だから、この――タブレットは戯言さんに渡しますから交換しましょう?」
「ありがとう。
 それで、そっちだけど。
 それぞれジュースでも飲みながら確認しつつで共有してよ。
 日和号のデーターメモリーについてはこれからぼくが確認する」
『あ、それだったら七実ちゃんが携帯二つ持ってたからそっちにも送ってよ!
 って、勝手に言っちゃったけど七実ちゃんは別に問題ないってことで良いかなぁ?』
「――禊さんがそう仰るのでしたら」
「これ?
 って言うか持ってたのかよ……ちょっと待って。
 ……………………………………待ってね………………よし、送れた。
 これは人間未満と、真宵ちゃんに……で、良いみたいだね。
 あとは、間もなく最後のピース――友からの『手紙』が、此処に届く」

あるいは主催者にどうあっても見られたくない事柄か。
『青色サヴァン』の防御をも潜り抜けられる可能性を。
僅かなソレすら排除した、紙面での文章。
それを持った、櫃内様刻が向かっている。
真宵ちゃんが顔を左右に動かす。
翼ちゃんも、落ち着いている風ではあっても視線が周囲を舐める。
七実ちゃんは、何かに納得したように頷いて。
人間未満は、

『でも届くって、それさ』

嗤って、

『櫃内様刻が裏切らない保障があるの?』

言った。

792待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:46:15 ID:cixHN0Dc0




声が漏れていないか。
息が聞こえていないか。
思わず。
口を抑えながらそう思った。
尻から登ってくる床の冷たさも、気にする余裕はない。
気にも出来ない。

『だってここに居るのは五人だぜ?』
『君の友ちゃんが、仮に、本当に、仮定として、もしかしたらば、一つの仮の可能性として、そうだっととしてさ』
『残り人数が何人かなんて僕でも計算できる』
『十一人だ』
『僕と欠陥製品、七実ちゃん、翼ちゃん、真宵ちゃん』
『居ないのは』
『七実ちゃんの弟くん、人間失格、無桐伊織、真庭蝙蝠、水倉りすか』
『そして――――櫃内様刻』
『おいおい。おいおいおい、欠陥製品!』
『なんてこった!』
『此処に居る! 僕達が! 殺されてしまったら! 優勝がもう目の前じゃあないかッ!!!』

そう、目の前だ。
そう、考えたことだ。
集まってる五人が知らないだけで、零崎人識と無桐伊織の二人も恐らく死んでいる。
残り。
九人。
改めて、あまりにも生々しい数字が脳裏の浮かぶ。
居ないのは、鑢七花と真庭蝙蝠と水倉りすか。
文句なしの武闘派三人。
だけどそれ以上に、鑢七実と言う存在が際立っている。
だが、だ。
言ってしまえばその四人だけ。
その四人さえ何とかなれば、何とか出来るんじゃあないか。
最後の一人に成れるんじゃあないか。
幸か不幸か、その内の一人はそこに居る。
銃もある。
出来るんじゃないか。
普段なら。
絶対に過ぎらないだろう無謀な考えが脳裏を過ぎる。

「――――いや、大丈夫」
「きっとちゃんと来てくれる」
「味方として来てくれる」
「『手紙』を届けに来てくれる」
「友がそんな無責任な人間にモノを頼むとは思えない」
「増してやそれが、対主催の切り札かも知れない情報だぜ?」
「そんな重要な代物を持ってる相手が裏切る?」
「おいおい。おいおいおい、人間未満」
「それはいくら何でも侮り過ぎだ」
「それにだ」
「万が一、もしも、ほんのちょっと、僅かばかり、裏切ろうと思っちゃっても」
「仮に先制を打たれたとしてもだ」
「五人に勝てると思えるか?」
「仮に拳銃――爆弾でも良いけど、持ってたとして」
「投げられて爆発するまでの間に散らばって」
「その逃げてる相手の中から負傷してない人間を狙って撃つ」
「それが出来なければ後は数の暴力がある」
「出来るはずがない」
「やれるはずがない」
「道理にあってない」

793待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:47:35 ID:cixHN0Dc0
そうだ。
そうだ。
そうだ。
そもそも僕は一人なんだ。
だから五人に勝てるはずがない。
道具がある?
そんな物は同じ条件だ。
向こうも五人分の持ち物が最低限でもあるはずだ。
僕が持ってる物だって、向こうが持ってない保障はない。
考えるまでもないことだ。
当然の事じゃないか。
何を考えていたんだ、僕は。
ゆっくりと、息を落ち着かせる。
落ち着かせようと、息を吐く。

「でもまあ――見付かってもすぐには出て来ないかも知れないね」
「確証が持ててないのかも知れない」
「ぼく達が、友の味方だって言う確証が」
「でも」
「だったら分かるはずだ」
「放送が流れれば」
「自動的に十一人は下回る」
「その上で」
「ここに集まってる五人は自動的にチームだと分かってるはずだ」
「そして半分以上が集まってるのは友と組んでる以外に現状有り得ない」
『それでも出て来なかったら?』
「……………………敵、かなぁ?」

タイムリミットは放送後。
そのすぐ後。
それまでに決めないといけない。
『対主催であり続けるか』。
『優勝を狙いに行くのか』。
二つに一つを、選ばなければならない。



辻褄は、まだ合わない。



無意識に。
無為式に。
彼は狂っていた。
そもそもその場を離れると言う選択肢が抜けていた。
放送前には辿り着き、放送後には出てくる。
そう、決定付けられた話の流れを耳にして。
この場を離れると言う選択を消されていた。
虚言を。
戯言を。
耳に入れてしまったばかりに。
裏切るのか。
裏切らないのか。
そのタイミングすら、操られていると言うことに。
潜り込んでから時機を見て裏切ると言う選択肢を。
『遺書』を隠して交渉すると言うような選択肢を。
気付かない。
気付けない。
一見、正しそうな「正解」二つ聞かされたことで。
そのどちらかを選ぶしかないのだと思い込んでしまっていることに。
分からない。
分かれない。
陰に隠れたその姿を。
見透かされてしているとも知らないまま。

794待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:49:07 ID:cixHN0Dc0
【二日目/早朝/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、右腕に軽傷(処置済み)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ、
   タブレット型端末@めだかボックス、日和号のデーターメモリー
[思考]
基本:「■■■」として行動したい。
 1:これからどうするかを考える。
 2:不知火理事長と接触する為に情報を集める。その手始めに日和号のメモリーを確認する。
 3:その後は、友が■した情報も確認する。
 4:友の『手紙』を、『■書』を、読む。読みたい。
 5:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※日和号に接続されていたデーターメモリーを手に入れました。内部にどのような情報が入っているかは後続の書き手にお任せします
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータはメールで得ました。それを受け取った携帯電話は羽川翼に貸しています。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]体調不良(微熱)、動揺
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語、携帯電話@現実
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 1:一先ず頂いたデータを見せてもらいますけど。
 2:あの、球磨川さん……? 私の記憶を消しといてスルー……?
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータを共有されています。


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、動揺
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、真庭忍軍の装束@刀語、
   ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス、戯言遣いの持っていた携帯電話@現実、
[思考]
基本:出来る手を打ち使える手は使えるだけ使う。
 0:殺し合いに乗らない方向で。ただし、手段がなければ……球磨川禊は要警戒。
 1:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……メールを確認すれば分かるかも。
 2:メールを確認して、首輪に関する理解も深める。
 3:いーさんの様子に注意する。次の放送の前後は特に。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※零崎人識に関する事柄を無桐伊織から根掘り葉掘り聞きました
 ※無桐伊織の電話番号を聞きました。
 ※戯言遣いの持っていた携帯電話を借りています。なのでアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています。

795待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:50:50 ID:cixHN0Dc0
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ。ただ、ちょーっとビックリしてるかな』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。
    後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本かもあって、あ、あと七実ちゃんのランダム支給品の携帯電話も貰ったぜ!』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番はやっぱメンバー集めだよね』
『1番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『2番は欠陥製品に気を配ることかな? あんまり辛そうなら、勝手になかったことにしちゃおっと!』
『3番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
『4番は、そんなことよりお菓子パーティーだ!』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータを共有されています。


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、『庶務』の腕章@めだかボックス、
   箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒に行く
 1:禊さんはわたしが必ず守る
 2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう
 3:いっきーさんは一先ず様子見。余計なことを言う様子はありませんから。
 4:羽川さんは、放っておいても問題ないでしょう。精々、首輪を外せることに期待を。
 5:八九寺さんの記憶は「見た」感じ戻っているようですが、今はまだ気にするほどではありません。が、鬱陶しい態度を取るようであれば……
 6:彼は、害にも毒にもならないでしょうから放置で。
 7:四季崎がうるさい……
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします

796待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:52:08 ID:cixHN0Dc0
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、極度の緊張状態、動揺、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン、首輪探知機、無桐伊織と零崎人識のデイパック(下記参照)
[道具]支給品一式×8(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、玖渚友の手紙、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜36)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)、 誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、
   金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、 ノーマライズ・リキッド、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット、
   首輪×4(浮義待秋、真庭狂犬、真庭鳳凰、否定姫・いずれも外殻切断済)、糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜2)
   (あとは下記参照)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(崩壊目前)
 1:「いーちゃん」達と合流するか、しないか? 対主催であり続けるか、優勝を狙うか?
 2:玖渚さんの遺言を「いーちゃん」に届ける?
 3:どうする?
[備考]
  ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形、零崎人識(携帯電話その1)が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は29〜36を除き確認済みです。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。
 ※ベスパ@戯言シリーズが現在、E-6 ランドセルランド付近に放置されています。
 ※優勝を目指すか、目指さないかの二択を突き付けられたと勝手に考えています。選択にタイムリミットがあり、それが次の放送のすぐ後だと思い込んでいます。

【その他(櫃内様刻の支給品)】
 懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
 シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵チョウシのメガネ@オリジナル×13、
 小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁、 中華なべ、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、
 鍋のふた@現実、出刃包丁、おみやげ(複数)@オリジナル、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、
 『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』(「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)

【零崎人識のデイパック】
零崎人識の首輪、斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実、糸×2(ケブラー繊維、白銀製ワイヤー)@戯言シリーズ
支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数

※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています

【無桐伊織のディパック】
無桐伊織の首輪、支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ


※放送まではまだ時間があります。





こうして。
日和号の長い長い待ち惚けは、幕を下ろしたのだった。



【日和号@刀語シリーズ 解体】



――     。

見えない誰かと出逢えたことで。

797 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:54:13 ID:cixHN0Dc0
以上です。
大分久し振りのため抜けやミスなどがあるかも分かりませんので、ありましたら修正致しますのでご報告願います。
よろしくお願いします。

798名無しさん:2021/10/23(土) 00:24:52 ID:dIpVxf5M0
投下お疲れ様です!
数年越しとは思えないほどの安心感で、すごい楽しかった!
そして、話が進む進む。
日和号の役回りに関してもなるほどなーと思わされるし、
そこがキーアイテムになるとはなー。
首輪解除もそろそろもって目処がたったようですが、どうなるのかなー。
そんでいーちゃん。お、探偵してると思ったら思わぬ告白されて、八九寺じゃなくてもひっくり返るよ。
思ったよりあっさり流してるー!? と思ったら状態表が不穏な感じだし、
一人称で語られてるとはいえ信用できないなー、さすがというか。
遺書の中身、あるいは放送後の対応。そして様刻の今後の動向。
爆弾ばっかで今後が楽しみです!

まったく関係ないですけど、
>『…………………………大丈夫? 翼ちゃんのおっぱい揉む?』
ここすき。

799 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:09:23 ID:EvvJFjH60
特に反対意見などもありませんでしたので。
鑢七花、真庭蝙蝠、水倉りすかの投下を開始します。

800Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:11:07 ID:EvvJFjH60




鑢七花に在る選択肢は速攻のみ。
よく、その肉体を観察していた。
否。
するハメになったからこそ、真庭蝙蝠は理解した。
理解していた。
故にこそ。
遭遇戦。
その瞬間。
一瞬でケリを付けるつもりだった。
あるいは、鑢七花を――一種の切り札を使い潰す――巻き込むつもりで手裏剣砲改め永劫鞭を使った永劫砲を放つのにも躊躇するつもりはない。
なかった。
水倉りすかが、刃物を構えるのも見るまでは。

「――――七花っ!」
「ああっ!」

弾けるように叫ぶ。
それが合図だった。
『時間』との勝負だった。

「逃げよ!」
「あ――あ?」

驚いた表情を浮かべているのを、無視する。
足を止めた鑢七花を追い抜いて。

「ランドセルランドに――」

心底。
絶対的に。
言いたくなかった言葉を吐き捨てる。
だが、それが間違いなく正解だと頭ではなく体が理解していた。
真庭蝙蝠は。
暗殺者である。
虐殺者である。
殺戮者である。
コト、尋常な果し合いでの実力においては鑢七実と対すれば敗北し、通常の鑢七花と対しても辛勝出来るか出来ないか。
その程度だと、理解している。
しかし。
であるが。
真庭蝙蝠は。
暗殺者である。
虐殺者である。
殺戮者である。
コトが殺しのみであるのなら。
経験が違う。
年季が違う。
回数が違う。
密度が違う。
故にこそ。
鍛え上げられて来た勘がある。
勘があった。
勘が言った。
目の前に居るのは死であると。
大穴のように。
大淵のように。
大空のように。
大海のように。
大地のように。
避けようのない代物であると。
死の数々を見て来た直観が告げる。
ウダウダと何か言いそうなのを眼で制す。
あの女が真庭忍軍を生き返らせると言わないのであれば、こう言うしかない。

801Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:12:56 ID:EvvJFjH60
「わたしのために行って、勝て! そして」

ここまでは良し。
であるならば。
どうするか。
刃を己の腕に突き立てようとする水倉りすかを眺めながら。
冷静に。
冷徹に。
冷酷に。
瞬時に可能性を計算する。
片方を囮に片方を生き残らせる。
本来なら。
鬱陶しさ極まる鑢七花を切り捨てて己のみで逃げるのが。
正答だっただろう。
正解だっただろう。
正統だっただろう。
だが。
鑢七実が計算を狂わせる。
球磨川禊が計算を狂わせる。
この組み合わせに勝てるのか。
結論。
勝てない。
おれでは、勝てない。
正道も邪道もどちらでも。
だからこその鑢七花だった。
それを此処で捨てるのはどうか。
結論。
一瞬しか持たない。
そして水倉りすかの出来る瞬間移動があるのなら、稼げる時間が一瞬では駄目だ。
一瞬ではいけない。
片方なら納得できた。
片方なら妥協できた。
だが両方なら駄目だ。
両方では、いけない。
勝利と、時間稼ぎを。
その両方を満たせない以上は自分でやるしかない。
絶望的に低い可能性であってもそれに賭けるしかない。

「全員を生き返らせるのだ!」

躊躇い気味に、走っていく姿を眼で追う。
クソが。
遅い。
死ね。
そんな悪態が出て来そうになるが、そんな時間も惜しい。
喉に手を当て、視線を戻す。

『のんきり・のんきり・まぐなあど』

おぞましい光景だった。
血の海。
間欠泉の如く溢れ湧くそれを、見たことがない。
今まで幾十、幾百を殺してきた真庭蝙蝠をして、人体からあれほどの血が出てくる様を知らない。
いや、ハッキリ言おう。
出るはずがない。
だが実際に起きている以上は、あれは水倉りすかが原因だ。

802Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:14:31 ID:EvvJFjH60
『ろいきすろいきすろい・きしがぁるきがぁず』

何があればああなるのか。
見れば見るほど訳が分からねえ。
理解し難い。
見え隠れする何かが頭蓋骨に染みる。
痛む。
軋む。

『のんきり・のんきり・まぐなあど』

だから。
理解を放棄する。
放棄してただ、考える。

『ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず』

考察の材料は幾つかある。
まず一つ。
瞬間移動の能力だ。
瞬間移動。
瞬間的に移動する。
移動範囲は何処から何処までか。

『まるさこる・まるさこり・かいきりな』

は。
正直、然程に重要じゃあない。
移動。
それには二つの壁が立ちはだかる。

『る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる』 

距離と時間だ。
逆に言えばこのどちらかを解消できれば瞬間移動は可能になる。
『省略』出来る。
だろう。
としか流石に思えない。

『かがかき・きかがか』

そしてもう一つ。
おれ達が近寄らなくなった途端、自分に刃を突き立てた。
自分から近寄らずに、だ。
忍法・骨肉細工で過去に見た姿を真似出来なかったような制限があるはず。
自分から寄ろうとしなかったなら、その能力にあるのは範囲制限じゃあない。

『にゃもま・にゃもなぎ』

恐らくは、骨肉小細工での相乗りで生じたような時間制限。
ならばすべきは時間稼ぎか。
だが、距離を無視できる相手にどれだけ稼げる。
稼ぐ必要が出てくる。
分からないのは、酷く困る。

『どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるす』

頭から手を放す。
暴君の頭脳は乗せた。
青く染まる髪を見られたところで気にもしないだろう。
何せ奴は、おれを見ていない。
見ているのは所詮、生き残りの一人程度の価値だ。
己が上位で居ると言う確信だ。
その余裕は利用出来る。

『にゃもむ・にゃもめ――』

賭けは、後に回せれば回せるほどいい。
喉に触れる。
暴君の相乗りはクるが、一分も掛からないだろう。
おれの体とは言え、我慢してもらうとしよう。
痛いのは別に好きじゃあないが仕方ねえ。

803Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:16:09 ID:EvvJFjH60
『――にゃるら!』

女が、笑った。
いかにも水倉りすかが成長したような女が。

「ふぅぅぅ…………三十秒だけ話に付き合ってやるぜ、真庭蝙蝠」
「きゃは。どんな手妻だ、お嬢ちゃん?」

三十秒。
ならばその倍を稼げれば見込みはある。
逃げさせられる見込みが。

「手妻じゃねえよ、魔法だよ。
 色々と世話を掛けた礼もある。
 何より冥途の土産ってヤツだ。
 薄々勘付いてそうだから言ってやるが…………『時間』だ!」

三十秒。
その重みが増した。
が、口が軽いのはやはり余裕か。
なら虚を突ける。
時間の操作。
なのに三十秒。
ならば操作出来るのは絶対的に流れている時間じゃない。

「属性は『水』。
 種類は『時間』。
 顕現は『操作』。
 成長したあたしの前に、時の流れなんて何の意味も持ちやしない!」

そうじゃなけりゃあ、ずっと今の姿のままのはず。
何の意味も持たないってのは大言だな。
出来るのは自分に関する時間への干渉のみって所か、負荷が大きいか。
ともあれ、おれの時間で三十秒。
その時間。
冥途の土産に、

「っと――ここまで」

貰って行こう。
顔を伏せたまま。
声を発す。

804Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:18:32 ID:EvvJFjH60
「だッ……?!」
「《跪け》」

三十。
膝を付いた。
隙に喉を弄る。
二十九。
少し驚いた顔をし。
二十八。
力を入れようとして。
二十七。
だが立てない。

「あたしの時間を」

二十六。
小細工する。
二十五。
一瞬でバレて良い。
一瞬だけ騙せればいい。
二十四。
要所は、既に押さえてある。
喉を抑えたまま顔を上げる。

「少し戻したぜ――」
「ぼくを殺すのか?」

二十三。
おれの顔を見て止まり。
二十二。
口から出る、供犠創貴の声。
それを聞いて。
二十一。
驚き。
二十。
固まり。
十九。
歪み。
十八。
歯軋りし。
十七。
憤怒に染まる。

「蝙蝠ィィィィィィィイイイイイ」

十六。
十五。
十四。
十三。
その間だけで十分だ。
叫んでくれて有難う。
喉の調整が済んだ。
出力は怪しいが。
出来る。

「《爆ぜろ》」

十二。
ピー。
と。
鳴った。

「イイ!!!!! ――え?」
『禁止エリアへの侵入を確認』

十一。
誤作動。
望んだ物じゃない。
だが、良い。
十。
意識が逸れた。
九。
おれから、首輪を見た。
八。
この一瞬は想定外。
その一瞬も頂いた。
七。
三秒掛けて吸い上げた空気と。
冥途の土産を、
六。

『30秒以内にエリア外へ』
「――手裏剣砲!!!」

五。
喰らうが良い。
改め、永劫砲。
四。
無闇無数の鞭がバラけながら、水倉り






時間は僅かに戻る。
鑢七花が背中を向けて逃げ出したばかりの頃に。

805Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:20:27 ID:EvvJFjH60



「とがめ――っ!」

一切の躊躇なく。
鑢七花は走っていた。
全盛の頃より遅い。
それでも走っていた。
何故か。
簡単だ。
命じられたから。

「ランドセルランドに、わたしのために行って勝て」

そう。
命じられたから。
走っていた。
何故。
何故、走っているのか。
鑢七花に疑念が尽きない。
何故、走っているのか。
とがめを置いて、何故。
分かっている。
分かっている。
ランドセルランドには、あの人が居る。
姉ちゃんが、居る。
勝てるのか。
おれに、勝てるのか。
勝てるのか、じゃあ駄目だ。
勝たないといけない。
どうやって。
どうやれば勝てる。
いやそもそも。
とがめがいないのに。
隣にとがめがいないのに。
おれの隣にとがめがいないのに。
勝つ必要が、あるのか。
意味が分からない。
意味が見当たらない。

「おぬしは悪くないのだろうよ」

ああ、そうだ。
おれは悪くない。
そうだろう。
おれは悪くないんだ。
仮に姉ちゃんに勝てないとしても。
初めから、おれじゃあ勝てないって言ってたのに。
だから負けたとしても、おれは悪くない。
悪いのはおれじゃない。

「おれは初めから言ったんだ」

とがめが一緒に居てくれるなら。
そう言ったのに。
だから。

『おれは、悪くない――悪いのは、とがめだ』

806Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:22:04 ID:EvvJFjH60
【二日目/早朝/E-6】
【鑢七花@刀語】
[状態]右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『おれは悪くない。だって、おれは悪くないんだから』
 0:『とがめの言った通りランドセルランドに向かう』
 1:『とがめのために戦う。そして全員生き返らせる』
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※寝てる間に右手がかなり腐りました。今更くっつけても治らないでしょう











「ジャスト――ゼロ秒」
『この首輪は爆発します』

何かが。
抜け落ちる。
鑢七花はそれを見た。
己の胸から突き出、萎びるように細まっていく腕。
その先で脈動している、何かを。

「見れたのは、良い夢だったの?」
『禁止エリアへの侵入を確認』

細まった腕が抜ける。
同時に、その体が崩れ落ちる。
ギリギリのところで、間に合った。

『30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

結論から言おう。
水倉りすかは間に合った。
真庭蝙蝠を消し去り。
鑢七花も殺す。
ギリギリのギリギリ。
高々二人を殺し切るのに三十秒も要らないと侮って。
大半の時間を真庭蝙蝠一人に消耗させられながら。
ギリギリのところで間に合った。
そこで。
前へと倒れた鑢七花とは対照的に。
後ろへと、水倉りすかは倒れた。

「ゥ、ぁァァゥぁァぐァアぁァァああッ……!」

肉体へのフィードバック。
過剰極まった能力の代償。
辛うじて。
周りに聞こえてしまえば危うくなる。
その意識が働いて声を抑えてはいた。
しかしそれも、

『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

まるで無意味。
鳴り響く首輪の音が、情け容赦なく居場所を知らしめる。
そして悶え苦しむ水倉りすかをそのままに。
『時間』は容赦なく。
三十秒を、超えた。



【真庭蝙蝠@刀語 死亡】
【鑢七花@刀語 死亡】
【水倉りすか@新本格魔法少女りすか 生存】

807Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:23:43 ID:EvvJFjH60













『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』











『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』









『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』







『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』





『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』



『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』
「…………生きて、る……?」

悶え苦しむこと、暫く。
ようやくそれらを飲み下すことに成功した水倉りすかが呟いた。
同時に。
口から溢れた血が喉に詰まろうとするのを横に向いて垂れ流し、辛うじて気道を確保する。
胸の上下。
それに合わせて出てくる咳と鮮血。
痛みが、まだ生きていることを自覚させた。
何故。
その言葉が過ぎる。
鳴り続けている首輪の警告が、己の死のリミットだと思った。
思ったから、無理矢理にでも殺しに掛かったと言うのに。
生きている。
生きている。
生きている。
生きている、と言うことはつまり。

「間違いなの。この言葉は――?」
『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

808Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:25:49 ID:EvvJFjH60
禁止エリアに侵入していない。
以上は、退避する必要がない。
当然の理屈だ。
なら、この首輪が発しているのは、本来は侵入した場合に発せられる警告。
その警告の誤作動。
それだけだった。
何ともなしに首輪を撫でていた手が、血溜まりに落ちる。
気が抜けたのだ。
最早間に合わない。
そう思ってしまったが故の決死行。
一念が、幸か不幸か外れたことに。
気が抜けた。

「は、ぁ゛……ぶ、ぐゥづ」

それでも。
睡眠による逃避も許されない。
全身を蝕む痛み。
腹底から喉元を過ぎていく血の味。
喧しく鳴り続けている、首輪の音。
それらが、僅かな逃避を許さない。
だが水倉りすかはそれを甘受する。
己の身に、限界が近いと察しても。
そう。
水倉りすかは止まれない。
留まるつもりもない。
気怠げに。
泥から身を起こすようにその上体を起こし、足元を見た。
自分とは違って俯せに倒れ、動かない肉。
腹が痛んだ。
空腹に。

「…………」
『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

立ち上がらぬまま。
躰を捩るようにその背に乗りかかり、ゆっくりと口を開く。
触った感じは、硬い。
筋肉質で、キズタカのように、軟らかくはない。
だけれども。
食べれないほどでは、ない。

「いただきます」

の言葉もなしに。
水倉りすかは大口のまま。
ガブリ、と。
ズブリ、と。
グチリ、と。
食らい。
飲み。
喰らい。
呑む。
キズタカのモノのように効率的ではなくとも。
少しでも。
僅かでも。
木端でも。
ちょっとだけであったとしても。
回復させなければならない。
空腹と言う本能に駆られて。
失った血肉を求めて血肉を貪る。

『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

809Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:27:21 ID:EvvJFjH60
もしも――が、あるとするならば。
それはこの時だったかも知れない。
目の前の肉に喰らい付かなければ。
真庭蝙蝠の肉体を残していたなら。
自分の血の匂い以外感じられれば。
己が口を付けようとした死肉から発せられる、病毒と腐敗の薫を感じられていたならば。
鑢七実の『却本作り』によりオマケ感覚で加わっていた『病魔』。
江迎怒江の『荒廃した過腐花』によって塗りたくられた『感染』。
その二つに侵された肉を。
己の腹に詰め込もうなどと、思わなかっただろうに。

「     ぅヴぃぃぐぐがァァああが、ギがァァあォィっが、ァ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

良くて即死。
悪くて悶絶。
その悪を引いたのは偶然とは言えないだろう。
幾度も訪れた死の痛み。
それを乗り越え続けてきてしまったが故の弊害が、恩恵か。
あるいは。
血が独りでに、無意識的に働いているのか。
動けた。
動けてしまえた。
動けてしまえば、動くしかない。

「キズ、タカ……キズタカァ……!」
『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

痛々しさを乗り越えて。
禍々しさが身を乗り出す。
血涙と血泡を零しながらも。
新本格魔法少女は歩き始める。
向かう先は、ランドセルランド。



終局の『時間』は近い。



【二日目/早朝/E-6】
【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]身体的損傷(内外両方・中)、魔力回復、経口摂取による鑢七実の『病魔』と江迎怒江の『感染』の両方を罹患
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝する
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです。
  現在の再利用までの時間は約50分です。
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかの時に限り、制限がなくなりました
 ※それ以外の制限はこれ以降の書き手にお任せします
 ※大人りすかから戻ると肉体に過剰な負荷が生じる(?)
 ※『感染』しました。腐敗しながら移動しています。
 ※肉体が限界を迎えつつあります。
 ※首輪から延々と、
  『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』
  と鳴り続けています。



※E-5に不自然に繰り抜かれた地面と、その真ん中に真庭蝙蝠の首輪が残されています。
※E-6に食べ掛けの鑢七花の死体があります。
 死亡時に所持していた支給品一式はそのままです。

810 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:30:05 ID:EvvJFjH60
以上となります。
当初の予定とは違いますが、これにてランドセルランドに参加者全員集合で決戦の地はほぼ確定となったかと思います。

抜けやミスなどがあるかも分かりませんので、ありましたら修正致しますのでご報告願います。
なお、途中の一か所で水倉りすかの名前の途中から先がないのは仕様です。
よろしくお願いします。

あと、感想をありがとうございました。

811名無しさん:2021/10/31(日) 17:33:49 ID:HbCAT1UU0
投下乙です
りすか、人食に慣れすぎてたせいで最低最悪の食中毒起こしちゃったねぇ…

812 ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:21:11 ID:Bt7Dj9I60
投下お疲れ様です。

直近の話の感想を先んじて。

真庭蝙蝠、1面ボスの汚名返上と申しますか、
真庭忍軍としての面目躍如として色々動いていたキャラですが、
ここにきて脱落とは。お疲れ様としか言いようがない。ある意味ではバトル・ロワイアルに真摯に向き合っていた数少ないキャラとも言えるでしょう。水倉りすかの脅威的な力に屈してしまったわけですが、それでも迫るものがあり、ここまで生き残ってきた底力を見せてくれました。キズタカの声を出すシーンなどはいかにも真庭蝙蝠って感じでとても好きです。

鑢七花、蝙蝠に対してなかなかの不運に見舞われた彼にとって、
ここで死ねたことはあるいは救いだったかもしれません。
死が救いというのはなんともな話ですけれど。
彼にとってとがめの命令の最中に死ねたのは、ある意味不幸中の幸いなのでしょうか?
とはいえ、彼が残した土産物も、りすかに多大な影響を与えているようで。

というわけで、様刻、りすか、投下します。
例によって慣れないスマホ投稿で申し訳ありません。

813Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:22:41 ID:Bt7Dj9I60



/ くえすちょん編


 ◇


 後悔はしない。意味がない。
その時々に応じて僕は最善の行動をしているはずだった。
病院坂に言わせてみれば『誰だって人は最善だと思う行動をしているものだ』なんて講釈を垂れてくれるだろうが、
いないものは仕方がない、いきさつがどうであったとして僕が殺してしまったのだから彼女の長話にはおさらばだ。

 振り返れば稚拙だったかもしれない。
直面してみれば愚行だったかもしれない。
だが、結果が仮に悪かったとして、反省こそすれども、後悔をする必要がどこにあろうか?
後悔だなんて言うのは考えなしに行動する無軌道な馬鹿のすることであって、僕は違う。僕は人だ。
『人は考える葦である』なんていうのは今更得意げに語るまでもなく著名なパスカルの一節である。
人は考える――当たり前に、あるべきように。風に揺れ動くだけの雑草と一緒にされては困る。
僕が、僕たちがか細い葦だとしても、目の前に取捨選択の権利があるなら、
将棋の最善手を模索するのもさながら、選択した後の結果を考えるのが人として当然のことだ。
妹の夜月がいじめられてると知ったあの日、夜月の足の骨を折った。
思考の果。選択の末。僕は夜月を物理的に不登校にすることを選んだ。
失敗はあった。反省はあった。
でも、失敗ばかりに固着するほど僕も暇じゃあないんだ。
苦慮の結果として上々に着地したのだ。それが事実だ。十分じゃないか。
熟考の末に導かれた結果であるならば、良しであれ悪しであれ、受け入れるべきだ。

814Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:23:32 ID:Bt7Dj9I60
 平和だった世界。
暴力があって、死者があって、犯人があって、平和な世界。僕の世界。
あーあ、夜月元気かな。
丸一日僕に会えてないなんて夜月が心配だ。
変な気を起こさなければいいけど。
夜月はまだ精神的に幼い。幼く、拙い。
無桐伊織、もとい零崎舞織は馬鹿を演じていた節があった。
それも一つの生き方――処世術なのだろうか。
反して夜月は一手先の展開を読むことを知らない。将棋にしろ、生活にしろ。
件のいじめが原因かは断言できないけれど、それでもやはり僕が傍にいてやらないと。
ほっといたら琴原あたりに喧嘩を売りに行っちゃうかも。
強い気概が夜月にあるとも思わないけれど、そこはそれ、僕たちは兄妹だから。
窮地に追い込まれた時にする行動は案外似通っていたりする可能性もある。
ああいや、それ以前に。
数沢くんはもう死んだけれど可愛い可愛い夜月を付け狙う不徳な輩は多くいる。
世界に巣食う害悪に意地悪されないか心配だ。
我が妹ながら、夜月の愛らしさと言ったら世界一だぜ。

 そういえば琴原、あいつも今頃どうしてるのかな。
僕に一日会えなかったぐらいで騒ぐようなやつじゃないけど、もしかすると電話の一本でもくれているかな。
ほら、あいつってあれでいて僕にメロメロ、
いやもうメロメロ通り越してモワモワだから電話に出なくて泣いちゃってるかもしれねー。ははは。
――なんて、そんな戯言、箱彦に話したら呆れたような表情をするだろうけれど、否定はしないだろう。
そこに僕の責任もないし、僕の後悔も全くないけれど、
僕を起点として世界を壊してしまったあの幼馴染コンビ、
もとい僕の恋人や僕の親友の姿を思い返すとやはり胸に迫るものがあった。
今だったら英語のノートだけじゃなくって今まで見せたことのない数学のノートだって見せてやりたいよ。
肩甲骨だって触って弄って狂ってやるのにな?
箱彦、おまえは知らないだろうけど琴原の肩甲骨ってすげえんだぜ?
あいつの異名は『肉の名前』じゃなくって『骨の形』の方が案外ぴったしだったりするかもだ。
文学チックな馨りがして結構結構。

 …………えっと。
 …………んー。
 …………あー。

「――ほんと」

 どうかしてる。
何回目だ。いい加減に目を覚ませ。過去を追想することに今は意味がない。
『今』、考えるべきことはそんなことではないだろうに。
『楽しかった』思い出に馳せる時間はもう終わったのだ。
病院坂を弔ったあの時に。あいつらの世界を見送ったあの時に。
ずるずると思い出を引き摺り生きていくと決めて、それでも前に進むと決断して。
ならば僕には生きていくしかないと言うのに。

「思考を止めるな、止めるな、止めるな」

 口に出す。無駄ではない。言葉にして、言霊にして。
僕は、決断する。
簡単なことだった。
単純なことだった。
純粋なことだった。
自明なことだった。
明快なことだった。

「――優勝」

僕の世界は音も立てずに壊れ果てる。
グッバイ、常識。ハロー、混沌。
さようなら、世界。こんにちは、新世界。

815Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:24:43 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


 道は二つに一つ。
主催の打倒か、参加者の打倒か。
二者択一。そのはずだ。
冷静に考えてみれば――そう、努めて怜悧に考えてみれば極めて簡単な構造だ。
鑢七花にしろ、鑢七実にしろ、球磨川禊にしろ、『いーちゃん』にしろ。そして当然僕にしろ。
一度、主催と名乗るあの集団に敗北している。正確を期すならば負けてすらいない、文字通りに勝負にならなかったのだ。
言い逃れ出来ないほど完膚なきまで、徹底的に徹頭徹尾。
『バトル・ロワイアル』と称される計画に連行された時点で、勝敗は喫している。
寝込みを襲われたのか、催眠術でも仕掛けられたのか。
到底僕には及びもつかないような手段をもってして、気付かぬうちに僕たちは不知火袴の演説会場にいた。
これを敗北と、不戦敗といわずに何という。

 分かっていたことだ。
ずっと前に、始めから。その一点においてはこの期に及んで殊更あげつらう必要はない。
満場一致の共通認識。絶対の力関係。首輪という束縛の象徴を持ち出すまでもなく。
僕たちはもれなくまぎれもなく、一様のモルモットに過ぎないのである。
不知火袴らを主として、僕たちを従とする関係であることに、異を唱えるものもいないだろう。
――いや、それは僕に逆らえるだけのスキルがないから自虐的に考えているだけか?
自罰的とも取れるけれども――しかしそこの諧謔にはさしたる意味などなく、
僕の思考経路がこうであったという事実は疑いようもない。

 ならば、だ。
『いーちゃん』を取り巻くあの五人の集団に交じり、主催の打倒を考えるというのは、あまりに迂遠が過ぎるのではないか?
日和号を解体して何かを見つけたらしい。
『死線の蒼』こと玖渚友が解析した結果がある。
それこそ僕の内には『遺書』なるものが控えている。
首輪の解除ももうまもなくだ。なるほど、終局はもうすぐそばまで迫ってきいる。
いいじゃないか、素晴らしい。
 ――それがどうした?
だから、それが、それらが、『破片(ピース)』が、結果として何へ導くというんだ?
パズルをしてるんじゃないんだぞ。
僕たちが強いられているのは、演じているのは、殺し合いだと、始めから分かっている。理解している。突きつけられている。
パズルがしたけりゃ大人しく死んで地獄で石積みでもしてろよ。いい頭の運動にでもなるんじゃないか?
『破片』を拾って、組み立て、ジグソーパズルよろしく図面を完成させたとしよう。
その破片は誰が用意したものだ?
僕たちか? ――まさか。
全部、主催がご丁寧に用意したロードマップに過ぎないじゃないか。
よもやそれが救いになるとでも?
玖渚友が集めた情報だって、突き詰めれば主催が用意した『電子機器』を介して手に入れたものなんだろ?
玖渚友を本当に恐れているというならば、そんな電子機器廃しておくことだって可能だったんだ。
極論、一部参加者に課されているという『制限』をかければ良い。

816Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:25:45 ID:Bt7Dj9I60

 あるいは、外部からの助けか? 参加者にも、主催にも属さない第三勢力。
もしくは主催と一口に言っても一枚岩ではなく謀反を企てている人物がいるのだろうか?
――冗談じゃない。それこそお話にならない。
仮にそのようなら人物がいたとして、主催にとって慮外の出来事が起こっているとしよう。
だが、計画に支障をきたすような大事なこと、主催も把握しているはずだ。
首輪には盗聴器が仕込まれているかもだなんて話が一時期あがっていたように、
僕たちが常に主催の監視下にあることはある種の前提として機能している。
 そして、その前提は限りなく正解に近い。
第二回放送の少女にいわく、
――『何人か疑っている方がいるようなので先に言っておきますが、内容に嘘はありませんよ』
第三回放送の不知火袴にいわく、
――『今回は少しばかり、会場内で通常ならぬ事態が発生しているため、加えて報告しておこうと思います』
 必ずしも二人が、真実起こったことをそのまま伝えているわけでもないだろうけれど、
曲解も過ぎればただの頓馬、額面通りに受けって差し支えない言葉だと思う。
彼らは僕たちを監視し、支配し、滞りなく運営している。
この計画が実験と称される以上、ぽいと放り込んではいおしまいとはならないことは、
小学校の理科を履修していれば誰でも察せられる。
実験とは観測し結果をあげてこそ。
実験とは計測し結末を仕上げてこそ。
僕たちはどこまでいっても、主催の掌の上なのだ。

 内心焦っているのか?
存外既に破綻しているのか?
もう取り返しがつかないほど、主催が壊滅しているのか?
もう取り戻しがきかないほど、主催は破滅しているのか?
――それでも、それでも、僕たちはまだここにいる。殺し合いをしている。
主催たちは逃げ出すわけでもなく、淡々と、着々と、計画を推し進めている。
僕たちに必要な事実といえば、結局のところこれに尽きる。
これもまた、不知火袴の伝達の一部だが、
――『改めて言いますが、この実験の内実は「殺し合い」であり、「最後の一人になるまで」続けられます。』
――『それ以外の終わりはありません。それ以外に終わらせる方法はありません』
 論点はここに帰着してしまう。
たとえどれだけ主催を打開したところで、僕は僕の世界へと帰ることが出来るのか?
知るかよ、知らねえよ。いい加減にしろよ。大体ここはどこなんだ? 帰るっていったいどこへ?
土台がアンフェアな条件で始まった殺し合いにおいて、推察のしようもない。

 話を戻す。手がかりすら手がかりと断言できない現状で、僕は何をすべきなんだ?
リスクを恐れて行動できない愚昧であるつもりはなかったが、しかし、リスクしかないのに飛び込む蒙昧でもない。
それでは飛び降り自殺と変わらないじゃないか。
自殺なんてものはもっとも愚かな行為の一つだ。
僕たちは林檎じゃないんだ、叩きつけられる謂れなどない。


 ――親愛なる様刻くん。


 ああいいよ、別に。僕も優勝が絶対の正解だなんて言わない。
それでも今の僕に出来る最大で最良で最善は――優勝に針を合わせてしまう。
違うというなら違うと言ってくれよ病院坂。
説教じみた情報の提供なら今ならいくらでも聞いてやるというのに。
ああもう、誰か、辻褄を――あわせてくれ。

817Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:26:56 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


 もう一つの論点であるところの、僕の過小戦力について。
ただ『生かされていた』僕が、『生き抜く』ために必要な方策――結論を先に告げておくと、別にそんなものはない。
当然の帰結にさしもの僕でも言葉はない。

 自分のことながら、自分が取れる手段の中に『暴力』を挙げられる人間は稀有と思っていた。
『キレた奴』と思わせることは、自衛行為として時として有効である。
しかし当然この場において無用の長物もいいところだ。
素人の僕とは違う武芸者が残っている。
僕に凄まれたとて、平然と殴り返してくるやつらばっかの環境で、僕が取れる行動なんて限られよう。
流石に少女や並の女子高生に押し倒されるほど柔に育った覚えはないとはいえ、
これもまさしく先程と同じ議論、『五人』に一人で勝てるはずもない。
弱者を狙う――こんな見え透いた『隙』を残りの面々が見逃すか。
ありえない。
銃を向けたとて、影を縛ったとて。
僕に許された道はただ一つ、返り討ちだけだ。
 だから、算数の話だ。
五引く一の差が大きいのであれば、
せめて差を小さくするべきであり、
であれば――僕がしなくちゃいけないことも自ずと決まってくる。

「水倉りすか、鑢七花、真庭蝙蝠――」

 誰でもいい、誰でもよかった。
こいつらが少しでも互いに戦力を削ってくれれば、あわよくば共倒れしてくれることを僕は祈るしかないのだ。
神ならぬ、運命に。
主義や主張を跳ね返すだなんて厚顔無恥にも程がある。
人を数値で換算して、あまつさえ足したり引いたり――ああ、恐ろしい。
あるいは愚かしいとも言えるだろうに、それでも僕はその選択を選ぶ。

818Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:27:55 ID:Bt7Dj9I60
 ゆえに僕は、踵を返す。決まれば行動は早かった。
郵便配達の仕事を達成の目前で放棄して、
先の三人と遭遇するべく。――都合よく、首輪探知機には『誰か』の名前がすぐ傍に浮かんでいる。
故障か? 事ここに至って?
鑢七花や真庭蝙蝠であるならばまだ話は通じる可能性が残っている。
交渉の余地はあろう。種はある。
水倉りすかだったらどうするべきか。
零崎兄妹や玖渚友の仇に思うところがないと言えば嘘になるけれど、しかし割り切れるといえば割り切れる。
夜月の仇敵ともなれば話は変わるだろうけれど、所詮は赤の他人――真っ赤な他人だ。
仮にも『悪平等』という奇怪な肩書きを名乗っている。情に絆される僕ではない。
 大丈夫。大丈夫。

 ――親愛なる様刻くん。

 ただ。
結局のところこれは、問題の先延ばしだ。
優勝を狙うというのであるならば、どこかのタイミングで必ず僕は『敵』と直面する。
討たなければならない敵と。
僕は殺せるか? 情や動機なんて瑣末な事情でなく、それだけの力――討つ力を持ちうるか?

「――ほんと」

 呟いて何度目か。
気分は最悪だ。
持てる最大も、持てる最良も、持てる最善も。
全てを良しとして選択しても、気分はどこまで行っても最低だ。
どこまで重ねてもリスクヘッジの効かない賭け――賭けですらない。
賭け事には勝利があるとはいえ、この殺し合いで行く着く先はどちらも地獄。選択をする時点で敗北なのだから。

「誰か……――騙されてくれ」

 聞く者はいない。
どん詰まりの思考はすでに朦朧で。
天国に一番近い遊園地の煌びやかなアトラクションを仰ぎながら、僕は――。

819Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:28:48 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


 水倉りすか。
『赤き時の魔女』。
『魔法使い』。
いくら彼女のパーソナリティを連ねたところで、正直なところ意味がない。
水倉と協力を結べる手筈がない以上、僕に可能なことといえば彼女の様子を遠巻きに眺めることに尽きる。
とうの昔に彼女との協定は決裂しているため、僕が何を言ったところで『魔法』の餌食になるだけだ。

 いた。
赤い――赤い。
赤い少女が、いる。
ランドセルランド園内。入り口付近。
ただ、その姿は僕の想像していよりもよっぽど――。

『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

 響く。
無機質な声が。
機械的な音が。
反射的に自身の首輪を一瞥するが、静かなものだ。
ここは禁止エリアではないから当然。あれが首輪探知機が正常に作動しなかった要因か。
ではなぜ?
いや、今問うべきはそこではない。

「…………」

 水倉の姿は、傍目から見ててもぼろぼろだ。
目尻からは血を流し、歩く姿はよろよろで、
身体の数箇所、とりわけ酷く惨いのは口元か――腐敗と再生を繰り返している様は、『死線の蒼』から聞いていた姿と食い違う。

 預かり知らぬ事情があったのだろう。涙あり血ありの物語を謳ってきたのだろう。
 関係ない。僕には関係ない。
 けれど、――彼女の容態から導き出される真実から目を背けてはいけない。

「……ふぅ、……ふぅ」

 大きく息を吸って、吐く。
落ち着け。僕は至って冷静だ。
至って冷徹、オールグリーン。
おーけーおーけー。
水倉りすかの『魔法』については知っている。
だから、――だから。
『今』、眼前にいるりすかがどれだけ満身創痍だとしてもまったくもって意味がない。
彼女の身体に流れる『血』。
血に刻まれた『魔法式』。
魔法式によって編まれた『魔法陣』。
多量な血が流れた時発動する『魔法』、変身魔法。

820Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:29:35 ID:Bt7Dj9I60
 それでも。
それでも、僕はこいつを無視することが出来なくなった。なってしまった。
だって要するに、まとめると。
鑢七花か真庭蝙蝠、――いや、言葉を濁すのはやめよう。
この二人は、すでに死んでしまっていて、おそらく水倉りすかに殺されたのだ。
『いーちゃん』たちの元を離れてすぐ、首輪探知機を調べていたら鑢七花と真庭蝙蝠の名前を捉えることは出来た。
ゆえに、傍まで迫っていたのは水倉りすかとすぐに判明した。
ただ、不審な点はある。
見ている限りずっと、鑢と真庭がまったく動かない。
こんな夜分、寝ているだけだ。様々に推測を立てることは可能であったし、何事もないことを祈っている。
しかし、水倉の様子を観察して、僕の希望は儚く潰えた。

 すでに三人の間で一悶着があり、生き残ったのが水倉だった。
あの腐敗は、鑢か真庭のどちらかが遺した置き土産ということになるのだろう。
少なからず、玖渚さん、零崎、伊織さんらに、あの惨状を可能とする手段はなかったのだから。

 だったらもう、行くしかないじゃないか。
水倉の意志にもはや協調などないとしても、
退くも地獄、進むも地獄、ならば僕には進むしかない。
そう、『決めた』からには、僕は――やるしかないのだ。

 左手に零崎のカバンからよく斬れそうな刀を。
右手に『銃』を。
そして懐には残った『矢』を。

 朝日が昇り始めて、影も薄い。しかし薄いと言っても影はある。
真庭鳳凰の時はある種のアドバンテージがあった。
火事現場。影に濃く強く長く写し出される場所で、ダーツの矢を打ち込むのは簡単だ。

 あの時と状況は異なる。
ならば、近づく他にない。
説得が無理でも、せめて話を聞いてもらわなければ。
この『矢』を影に縫い付けて、動きを止める。
口元も腐乱した状態では舌を噛むことも難しかろう。
最悪、ここに放置しても構わない。
『五人』のうちの誰かがりすかに傷をつけてくれれば、りすかの『魔法』は発動するのだから。

 そのためにはまず。
この『魔法』を完遂させるしかない。
僕は物陰から物陰へ移動し、水倉の背後を見据える。
彼女の遅々とした歩みは変わらず、ゾンビ映画さながらだ。

 いける。
今しかない。
行くしかない。

ひとつ息を吸って。
両手の得物を握りしめて。
右足が地面を蹴って。
水倉に向かって一直線に走る。
奔る! 奔る! 奔る!

――『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

音声に僕の足音は多少紛れる――そう踏んでいたけれど、
存外に水倉の反応は速かった。

「――っ!!」

 水倉は振り返り、僕の姿を捉える。
構えた。彼女の右手にはいかにもスパッと斬れそうなナイフ。
水倉の視線が、僕の持つ刀へ向かう。
構えが少し、変わる。
僕から向かって左手側――太刀筋の軌跡がわざと空けられた。
そう、それでいい。
刀はフェイク。
お前を斬るぞと主張したいがための刀。
そして水倉としては斬ってほしいのだろう。
『魔法』を発動させるためには、流血が必要だから。

当然、僕は水倉を斬ったりしない。
『銃』も撃たない。銃声が響いて『五人』に集まられたら面倒だ。
本命はあくまで、この『矢』――。

一歩、
状況変わらず、
二歩、
状況変わらず、
三歩、
この距離なら、いける!
僕は『銃』を雑にポケットにしまい――すり替えるように『矢』を取り出した。

「――そ、れは」

 見覚えでもあるのか。
僕の『矢』を認めた瞬間、彼女の動きが変化する。
彼女はナイフを己の左手首に押し当てた。
厄介だ。
決断が早い。
水倉りすかは『魔法使い』だ。
『魔法』の『矢』の存在ぐらい知ってるものなのか。
いや、そのぐらいの想像はついていた。
だから真に驚くべきことは――『自殺』にここまで躊躇いがないものなのか!

 僕は水倉の影へ向かって『矢』を投げる。
ほぼ同時、水倉りすかは手首に当てた刃を勢いよく引いた。
いわゆるそれは、リストカットと呼ばれる行為であった。

821Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:30:40 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


 血が流れる。
血が、血が、血が!
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、


 血が流れる!
――血は流れる。ただただ、だらだらと。

822Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:32:26 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


――『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

 そしていつしか、水倉の血は止まった。
脅威的な治癒力で、彼女の傷口は塞がる。
僕は呆然と――誠に不覚ながら呆然と、一部始終を間近で見届けた。

「な、なんで――どうし、て発動し、ないのが、『魔法』なの!!」

 錯乱したように、爛れた口を動かして水倉は喚く。
まあ――他人事ながらに気持ちは分からないでもない。
切り札が意図せず、原因不明のまま不発に終わったのだ。
叫びたくもなるだろう。
彼女の足元、影のある場所に、僕の投げたダーツは申し分なく刺さっていた。
水倉の姿も、手首を切った姿から彫刻さながらに固まっている。
しかし毎度のことながら、結果として生きているだけで勝った心地が全くしない――まるで、全然。

 経緯と結果について、僕が断言できることはまるでないけれど。
敢えて理由を考慮するのであれば、やはり彼女の腐敗にすべての原因があるのだろう。
属性(パターン)を『水』、種類(カテゴリ)を『時間』、顕現(モーメント)を『操作』とする『魔法』。
魔法式で編まれた魔法陣による『変身魔法』。
水倉りすかの『魔法』には一言でまとめると、斯様なものになるらしい。
人づてに聞いた話だ。正味、馴染みのない単語の羅列で辟易してしまうけれど、
そういうものなのだという理解をしている。
 さて、そんな水倉りすかだが、決して彼女も無敵というわけではないらしく、天敵がいたらしい。
食物連鎖のサイクルの一部に、水倉も属している。
その天敵の一人が、参加者の一人でもあった『魔法使い』の『ツナギ』だ。
属性(パターン)を『肉』、種類を『分解』とする『捕食魔法』。
ひとたび彼女が捕食してしまえば、あらゆる『魔法』は『魔力』へ還元されて胃に収まる。
換言するに、一七年後の姿に変身するための『魔法陣』が、解呪(キャンセル)されて飲み込まれてしまうということだ。
魔法少女が変身できないだなんて、日曜の朝も形無しであるけれど、対策としてはこれ以上なく合理的だ。
変身ヒーローの変身を待つ悪役は馬鹿ぞろいといったよくある揶揄と似たようなものなのだから。
 結局似たようなことが、今、彼女の身に起こっているのだろう。
口元に微かに残る『泥』が原因なのかは分からないけれど、彼女の身体は『腐敗』と『再生』が繰り返されている。
つまりは、『分解』と『新陳代謝』が過剰に発生していることに他ならない。理由は知らないけれど、結果は目の前にある。
身体の『分解』は『再生』されよう。
では、もし仮に、『魔法式』『魔法陣』が分解されていたら?
決まっている、決まってしまっている。そんなものは『再生』されるはずがない。

「勝た、なければ、いけな、いのが――わた、しなのに!」

 腐敗した口で、そんなことを言う。
僕は水倉の姿を無感動に眺めていた。
どうするべきか。どうするべきか。
どういう選択肢が今僕につきつけれらているか。
考えて、考えて。
考えて、考えて。
考えて、考えて。
どれだけ考えても、行きつく結論は一つしかなかった。

「殺すしか、ない」

 僕の小さな呟きが聞こえたのか。
水倉の言葉は止まった。息を飲む音がする。
動きはない、動けない。けれど確かに、言葉は止まる、
けれどもしかすると僕の呼吸の音だったかもしれない。
やるしかない。
水倉りすかが、あの『五人』の対抗馬にならない以上。
僕は彼女を排除しなければならない。
優勝するためには。
一人生き残るためには。
生き残るためには。
生きるためには。
僕のためには。
殺すしかない。
乗り越えるしかない。
ここで怖気づいていては、先はない。
人質にすることも考えた。
玖渚さんの仇だと謳って。
でも、そこからの進展がない。
水倉を引き渡すから鑢七実を殺してくれとでも?
まかり通るかそんなもの。
それに放置しておく意味ももはやない。
だから、ゆえに、しかし、それでも、ただ、もしも。
殺す。
僕は冷静だ。
殺す。
水倉りすかを見据える。
殺す。
僕は無感動に水倉りすかを認めて。

「キズタカぁ……」

 僕は斬刀を振るう。
胸を目掛けて、一直線に。
気が付いたころには、首輪から音はしなくなっていた。


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか 死亡】

823Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:34:00 ID:Bt7Dj9I60


  ◇


 目論見は破綻した。
ものの見事にあっけなく。
鑢七花、真庭蝙蝠、水倉りすか――。
計三名の死亡とともに、僕の企みは未完に終わった。
残念賞。落第だ。

 水倉を殺す前、案のひとつとして考えた。
今までの思考実験をなかったことにして、
何食わぬ顔で、『五人』と合流することを。
多分一番、生を長引かせることが出来よう。
だけど、それでも、僕は選ばなかった。
必要なのは延命ではなく、生存。
これを主軸に置いている以上、僕にはもう――選択肢が――。

「……悪いね、玖渚さん」

 懐から、『遺書』を取り出す。
燃やしてしまおうかとも考えた。
この選択も選ばなかった。ただの感傷に過ぎないから。
仮に僕が死んだあと、誰かが読むことになったら、それはそれでいいじゃないか。
優勝したいという気持ちとは矛盾しない。

「でもまあ、一応」

 先ほどまでは遠慮していたが、遠慮する理由も欠けてしまった以上、
僕は容赦なく手紙の封を切った。悪趣味で結構。僕は手段を問わない男だ。
正直、僕はこの手紙に然したる期待はしていない。
電子機器を介さない伝達として手紙は確かに有効だが、
今更な対策ではあるし、そもそも玖渚さんが手に入れた手掛かりのほとんどは電子の海に埋蔵してあったものだ。
それに、よしんば電話の盗聴などを警戒していたとしても、僕に話さない理由が特にない。
確かに水倉りすかの襲撃を危惧して急いでいたとはいえ、だ。
道中読んでもいいよと一言言ってくれさえすればいいものなのに。
僕が信用に足る人物でなかったと言われれば、その通り。玖渚さんの慧眼には感服の至りだ。
とはいえあくまで表面的には協力体制にあったのには違いないわけなのだから、
あくまで私的な内容の『遺書』なのだろう、と。
僕はそう捉えていた。

「…………」

 僕は目を通した後、『遺書』を仕舞いこむ。
気が付けば、放送はもう間もなくであった。


  ◇


 なるほど、きわめてきみは冷静だ。
並外れた緊張を抱えてなお、きみの心は不動に終わった。
きみの視界には確かに水倉りすかがいて、恐るべき仇敵『時宮時刻』の姿はなかったからね。
久しく怨敵の姿を見てないことから察するに、きみの持ち味であるところの冷静沈着は活かされているのだろう。
随分と頑張っているじゃないか。親友としてこれほど誇らしいことはない。
さすがだ、様刻くん。すごいよ、様刻くん。きみも胸を張って誇っていいとも。
もっとも、僕みたいな立派な胸がきみあるかというとどうだろうね。琴原りりすはきみの胸骨について言及していないのかな。

 まあ、そんなどうでもいい話をしたいわけじゃない。

 ――親愛なる様刻くん。
 質問がある、様刻くん。
分からないことがあるから是非とも教えてほしいものだぜ。


 優勝を狙う。
 水倉りすかに近付く。
 水倉りすかを殺す。


 うだうだと君は理由や指針、根拠をそらんじていたわけだけれど――本気であんな風に考えていたのかい?
あんな愚の骨頂が正しいと、信じて疑わなかったのかい?


 まさかとは思うけれど、よもやとは思うけれど――あの櫃内様刻が死に場所を求めていただなんて、いうわけがないよね?

824Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:35:04 ID:Bt7Dj9I60



  ◇



「――ほんと」

 呟いて何度目か。
気分は最悪だ。
持てる最大も、持てる最良も、持てる最善も。
全てを良しとして選択しても、気分はどこまで行っても最低だ。
どこまで重ねてもリスクヘッジの効かない賭け――賭けですらない。
賭け事には勝利があるとはいえ、この殺し合いで行く着く先はどちらも地獄。選択をする時点で敗北なのだから。

「誰か……――騙されてくれ」

 聞く者はいない。
どん詰まりの思考はすでに朦朧で。
天国に一番近い遊園地の煌びやかなアトラクションを仰ぎながら、僕は――。



「死にてえよ」



【二日目/早朝/E-6 ランドセルランド】

【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、極度の緊張状態、動揺、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン、首輪探知機、無桐伊織と零崎人識のデイパック(下記参照)
[道具]支給品一式×8(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、玖渚友の手紙、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜36)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)、 誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、
   金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、 ノーマライズ・リキッド、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット、
   首輪×4(浮義待秋、真庭狂犬、真庭鳳凰、否定姫・いずれも外殻切断済)、糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜2)
   (あとは下記参照)
[思考]
基本:優勝する?
[備考]
  ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形、零崎人識(携帯電話その1)が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は29〜36を除き確認済みです。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。
 ※ベスパ@戯言シリーズが現在、E-6 ランドセルランド付近に放置されています。
 ※優勝を目指すか、目指さないかの二択を突き付けられたと勝手に考えています。選択にタイムリミットがあり、それが次の放送のすぐ後だと思い込んでいます。

【その他(櫃内様刻の支給品)】
 懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
 シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵チョウシのメガネ@オリジナル×13、
 小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁、 中華なべ、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、
 鍋のふた@現実、出刃包丁、おみやげ(複数)@オリジナル、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、
 『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』(「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)

【零崎人識のデイパック】
零崎人識の首輪、斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実、糸×2(ケブラー繊維、白銀製ワイヤー)@戯言シリーズ
支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数

※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています

【無桐伊織のディパック】
無桐伊織の首輪、支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ

825 ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:36:00 ID:Bt7Dj9I60
投下終了です。
指摘感想などありましたらお願いいたします。

826 ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:24:34 ID:S7QegMTs0
投下します。
予定が変わり、前半後半というほどつながりがあるわけではなくなったので二話投下する形になります。
よろしくお願いいたします。
例によって携帯からの投下失礼致します。

827Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:27:36 ID:S7QegMTs0

《登場人物紹介》


鑢七実(語り部)―――――虚刀流
八九寺真宵(語り部)―――迷い牛
ぼく(語り部)――――――傍観者



 ◎


 加害者面するなよ


 ◎


「それで、どういうことですか。説明してください」

 月は降りはじめ、徐々に朝日が姿を見せる。
朝だ。
1日の始まり。
軽く首を鳴らす。
まだ少し肌寒い。昨日もこんなに寒かったか?
覚えていない。
ホットコーヒーを一口含む。
パーティというには白けた雰囲気。
賑やかな露店が軒を連ねるストリート。
成果物を確認し、少し話し合った後、ぼくたちは各々散らばってこれからに備えている。
色々あった。
心を揺さぶる何かはあった。
しかしとりあえず今は。
櫃内様刻。彼の動向を待たなければいけない。
一度この場を離れたようだけど、だけど、それでも、待つという姿勢は必要だった。
人間未満が粉々に砕いたチュロスをちまちま食べているのをはた目に、
真宵ちゃん――八九寺真宵ちゃんが、てくてくと寄ってきては苦虫を噛み締めた表情で説明を求めてきた。

「ああ、そうだね。ER3出身のぼくが織りなすレピュニット素数の証明だろ?
 任せろよ、数字の基本にして基礎。入門にして最奥。人類の叡智の結晶たる壱の神秘について解説するぜ。
 七愚人も膝を打つぼくの話術についてこれるかな」
「そんな話はしておりません」
「してたよ」
「してないですよ」
「だっけ?」
「です」

 今、真宵ちゃんと話をするならこれしかないと断じていたけれど、
そこまで強く否定されてしまってはぼくも立つ瀬がない。
やれやれ、こどもの我儘に付き合うのも大変だな。
レピュニットなんて優しい語感、小学生女児にはたまらないはずじゃ? 半濁音だぜ?
崩子ちゃんなら誰もが見惚れる無表情で受け答えしてくれただろうに。
戯言だ。
世迷言でさえある。
 では何の話をしてたんだ、ぼくは。
忘れたな。ぼくの記憶力だ、さにもあらん。
けれど思い返す間もなく、横から答えが投げかけられる。

「――玖渚友さん、の話ではないですか」

 鑢七実。
小柄な見た目や、肉付きの薄い――病的以上に退廃的でさえある細身の身体から、
ついつい「七実ちゃん」だなんてフレンドリーなファーストインプレッションを済ませてしまったけれど、
実際のところぼくみたいな若造には及びもつかない最年長だ。
さすがに800歳とは言わないにせよ。
場の空気を読む――読んで、見ることもお手の物らしい。
目敏いものだ、まったく。

「人間未満のことは?」
「……あなたたちとも仲良くやってね、とのことですので」
「それでこっちに? 律儀ですね」
「それに、羽川翼さんともお話をなさりたそうでしたので」

 ふうん。
確かに――二人は何か話しているようだ。
翼ちゃんも人間未満が散らかしたチュロスの一欠片を何食わぬ顔で味わい、相伴にあずかっている。
委員長な見た目のわりに、汚い食べ方を叱るというわけではないようだ。
言っても聞かなかっただけかもしれないが。
と、雑談をしていても、本題が逸れることも当然なく。

「それで」

 と、真宵ちゃんが仕切り直す。
学習塾跡で抱いたはずの苦手意識があるだろうに、鑢七実を前にしても引かず。
随分と強かになったものだ――いや、あるいはこれが彼女本来の強かさなのかもしれない。
強がりではない、彼女の強さ。
 目が合う、逢う、遭う。

「どういうことですか、と聞いたんですよ。戯言さん」

八九寺真宵は、同じ質問をぼくに投げかけた。
だからぼくは粛々と答える。

「どうもこうも、過ぎてしまったことはどうにもならない」
「どうしてそう、平然としていられるのですか」
「平然ではないさ、別に。ただ、どうしても、実感がわかないだけで」

828Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:28:24 ID:S7QegMTs0

 同じ答えの繰り返し。
実感がない。掌から零れる水のように、実体がない。
玖渚友の死に。
だから、そう。
だから。
だけど。
だけど、真宵ちゃんは。
ぼくの目を見つめたままに。

「戯言ですよ、それは」

 端的に、ぼくの言葉を切り捨てた。

「戯言さん。
 戯言遣いさん。
 あなたは自分のことを多く語ろうとしませんよね。
 騙ってばかりで。
 取り繕うばかりで。
 嘘か真か、信頼に足るかも怪しい曖昧な言葉を遣って。
 もしかすると、自分でさえ自分の心がわかってらっしゃらないかと思うほどに。
 それでも。
 車の中で語ってくれた玖渚さんの話。
 先ほどお話しいただいたこれからの話。
 そして、これまでのお話。
 楽しく語るあなたではありませんでしたけれど、
 これらの話は本当に心の底から抱き、真摯に伝えようとしたことだって。
 私はそう思うんです。感じるんです。
 そう、信じたいのです。
 人が神様に願うように。
 人が怪異に縋るように。
 私は人間を信じたいんでしょう。
 阿良々木さんを信じていたように、あなたという人間を。
 あなたは多くの現実を殺してきた。
 人であれ、独であれ、者であれ、物であれ、
 関係であれ、奸計であれ、創造であれ、想像であれ。
 多くの墓標の上に生きてきた――とおっしゃりましたよね
「多くの死。
 多くの屍。
 良いも悪いも関係なく。
 すべてがおしまいに近づいていく。
 幽霊であるわたしなんかよりもよっぽど、
 あなたは物事の死に近かったんじゃないですか?
 あなたの欠落が招くままに。
 あなたの欠損が誘うままに。
 あなたの欠陥が障るままに。
 誰かが死んだときも冷静でいられたあなたの姿に。
 冷静に立ち合うあなたの態度に、
 冷徹に立ち回るあなたの勇姿に、
 冷血に立ち上がるあなたの覚悟に、
 わたしは助けていただきました。
 ありがとうございます。
 ありがとうございました。
「けれど、その冷静さ。
 異様なまでの冷徹さ。
 温もりなどない冷血さ。
 あなたは見て見ぬふりをしたから耐えられたというのですか?
 わたしのように。
 幽霊になってまで死を受け入れられなかったように。
 阿良々木さんが死んだことを受け入れきれず、多大なご迷惑をかけてしまったように。
 誰よりも死と等しいがために、死に現実味がなかったわたしと、戯言さんは一緒だったのですか。
 違うでしょう。
 知ったようなこと言わせていただきますけれど、違うはずです。
 戯言さんは死を受け入れてらっしゃいました。
 重々しくなくとも、決して軽々しくはなく。
 あるがままに、あるように、受け入れてきましたよね。
 死を否定し、拒絶し、排斥する人ではなかったでしょう。
 誰かの死を聞いては、『ぼくが悪い』と背負い込んでました。
 死が当然であり。
 死が必然であり。
 死が身近であり。
 死が隣人であり。
 死が恋人である戯言さんにとって、
 死とは驚愕に値するものではないかもしれません。
 誰よりも死を肯定できてしまうからこそ、認めざるを得なかったんでしょう。
 ツナギさんの最期の言葉を聞き、正面から受け止めていた戯言さんを、わたしは隣でしかと見届けました。
 電話越しでも。
 ツナギさんの死を背負って。
 主人公になると、わたしたちを守れるようにと。
「それで、最後にもう一度だけ聞きますけれど」

 一拍おいて。
 三度目の正直。
 三度目の戯言。

「一体どういうことなんですか、戯言さん」

 真宵ちゃんは問うのだった。

829Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:30:14 ID:S7QegMTs0


 ◎


「――あなたは目を閉じないのですね」

 真宵ちゃんの問い掛けに。
ぼくはなんて答えたのだろう。
意識はこんなにも統率されているというのに、まるで夢うつつのようだ。
夢なのか?
そんなわけがあるか。
こんなにも空気が冷たい。
実感がないなんて嘘――そう、まさしくその通り。
ぼくにとって死とはなんてことはなく。
超常あらざる日常として隣り合わせだった。
最愛の妹がいなくなってしまったのも。
真心がER3で死亡してしまったのも。
結局のところぼくの生活においては延長線上の出来事であって。
この一年の間でも。
多くの死と向かい合ってきた。
孤島で天才が無情に死んだ。
大学の級友が無駄に死んだ。
異常な学生が無謀に死んだ。
異様な学者が無影に死んだ。
表裏の兄妹が無惨に死んだ。
愚昧の弟子が無為に死んだ。
死んだ。
死んだ。
誰も彼も。
良いも悪いも。
酸いも甘いも。
強いも弱いも。
関係なく。
関連なく。
死んだ。
終息した。
収束した。
わかる。
そうだよ。
嫌悪感も。
嘔吐感も。
抱くかもしれない。
だとしても、ぼくにとって死とは受け入れて当然のものだった。
だからこそ、不思議だ。
姫ちゃんの死にあれほど取り乱したぼくが、
どうして友の死を悼めないのだろう。
いや。
悼んではいるのか。
傷んではいるのか?
労ってはいるのか?
でも感情ってなんだっけ。
ぼくは今何をしてるんだ?

 そう遠くない昔。
過去の出来事。過ぎた記憶。
屋上で友と喋った。
城咲の、彼女の自室のあるマンションの屋上のフェンスで。
《屍(トリガーハッピーエンド)》の用意した最期の邂逅。
好きだと言った。
好きだと言われた。
必要だと言った。
必要だと言われた。
鞘と刃。
枷と鎖。
拘束と束縛と呪縛。
《青色サヴァン》について。
いろいろ話した。
色んな話を聞いて、伝えた。
でもあの時は無駄だった。
一緒に生きようと言ったのに、ぼくたちは反対の道を歩んでしまった。
一緒に死んでと言われたのに、ぼくたちは反発の傷を与えてしまった。
ボタンを掛け違えていた末路。
最初から間違っていた。
最後まで無様で、滑稽で、惨めだ。
あの時。
友がにこやかに別れを告げた時。
別れを――すなわち呪いからの解放を選んだとき。
ぼくは動き出した。
ぼくは変わる。
憎くて恋しくて嫌いで大好きな最愛の友と誰かを較べる人生から、ぼくの凡庸な人生へと。
変えるという気持ちが他殺であるならば、ぼくは紛れもなく殺された。
かつてのぼくはもはやどこにもいない。

830Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:31:36 ID:S7QegMTs0

 それから、ぼくは友を死んだものとして扱っていた。
嘘かもしれないけれど、本当だった。
本当のような嘘だった。
ぼくはすっと受け入れていた。
受け入れるしかなかったから。
我ながら驚くほどに。
パニックとは無縁に。
薄情なほど酷薄に、それでもぼくのどこかに、ぽっかりと穴が開いたような心地だった。
だから。
今。
ぼくが取り乱さないのは必然とも言える。
友との別れは既に乗り越えたことだ。
タイミングを逸していただけで、ぼくと友との話はもともと終わっている。
だから。
真宵ちゃんの質問にぼくはこう返そう。
どういうこともなにも、あるべき形に収まっただけなのだからと。
元の鞘に収まった。ただそれだけの話である。
だから。
本当に?
哀川さん――潤さんなら今のぼくを見て、どんな風にぼくを蹴っ飛ばしてくれるのだろう。

「そう、あなたは泣かないのね」

 七実ちゃんがなにか言っている。
泣く――泣く?
すっきりさせる行為のことか?
どうだろう、寝起きの時にはしているかもしれないけれど。
それが一体どうしたという。

「禊さんに近しく、同時に対象に位置するいっきーさん。
 有象無象の雑草にも劣るほど弱く、それゆえに強いあなたと少しお話をしましょう」

 柄ではないですが。
禊さんの頼みでもありますので、と。
ぼくの真正面に立つ。
ちなみに真宵ちゃんはぼくの隣にいた。
お茶を飲みながら、椅子に座っている。
もしかしたら、ぼくの返事を待っているのかもしれない。

831Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:32:25 ID:S7QegMTs0

「いっきーさん」

 見つめられる。
儚い光を湛えた双眸は、ぼくの目を射抜く。
冗談のように寒気がする。
見透かされているような。
見抜かれているような。
看取られているような。
おそろしくおぞましい寒気。
浅く息を呑む音が隣から聞こえる。

「やれやれ、蛇に睨まれた蛙の空々しさを味わった気分だ」
「蛇に睨まれたら人間でも怖いでしょう」
「そりゃそうだ。見守られるのならともかくね」
「蛇は古くから神様との結びつきが強いといいます。蛇が見守るというのも案外道理を外してはいないかもしれないわ」

 よく知らないけれど、と。
七実ちゃんは他愛のない話を打ち切る。
可愛げのないことだ。
とはいえぼくに服従しているわけでもなし。
彼女は一帯の警戒を緩めることなく、静かに語る。

「あそこにばらされております日和号――その正式名称をご存知でしたね」
「……微刀『釵』って聞いたかな」
「ええ、完成形変体刀が一振り、微刀『釵』。それが日和号の本来の銘ということになるのでしょう」

 人形が刀だなんて奇妙な話ではあるけれど。
同じように、変人奇人の奇行に意味を見出すのも奇怪な行いとも言えるのだろう。
その刀鍛冶を確か、四季崎記紀といったか。
戦国の世を鍛刀をもってして支配した鬼才――。

「理解に苦しむ刀工、四季崎記紀も人を愛したそうです」

 どんな奇人であれ、人を愛することだってあるだろう。
生殖の本能。
あるいは人間の本質。
恋し、愛す。
つがいになるために。
生きるために。
ぼくも愛していた。
あいつを。
憎いほどに、憎々しいほどに、憎たらしいほどに。
玖渚友を愛していた。
そのはずだった。

「偏屈な刀鍛冶は愛するあまり、その女性を模した刀を鍛造しました。
 贈呈するでもなく、餞に渡すものでもなく、愛したという証を残したといいます」
「つまりそれが、日和号だと?」
「ええ。『釵』とは女性の暗喩。微とはすなわち美の置き換えであり、
 本来の銘を微刀とするならば、根源の銘は美刀――口にするのも恥ずかしいですが」
「刀に名づけるには、些か型破りできざな銘になるね」
「名は体を表す。一方的に懸想される女性にしてみれば甚だ迷惑極まりないですが、それもひとつの愛の形でしょう」

 芸術とは表現であり、体現だ。
作品を紐解けば、表出するのは思想であり、理想であり、懸想である。
鴉の濡れ羽島で会った天才画家――スタイルを持たない画家と称された彼女の作品にも思いは込められていたのか。
 突き詰めれば刀鍛冶も表現者の一員であり、
そうであるならば四季崎なる刀鍛冶が女性を《打った》としてもなんらおかしな話ではない。
思い返せば、日和号の容姿は確かに女性らしさが垣間見えた。
おしろいを塗り、口紅を添えたような、一端の女性として。
――そんな裏話を知っていてなお、ぞんざいな扱いを出来る七実ちゃんの胆力も大したものだ。

「どんな腐った人間であれ、愛を表現することもあるということよ」

 愛。
愛の表現。
ぼくの言葉は、お前に届いていたのかな。
戯言遣い、一世一代の偽らざる気持ちだったのだけれど。
いない。
玖渚友は、おそらくもういない。
おそらくなんてつけるからダメなのか?
仮に放送で名前が呼ばれたとして、ぼくは同じようなことを言うんじゃないか?
放送で名前が呼ばれたからなんだ、と。
戯言だ。
間抜けな戯言だ。
真庭鳳凰に与えた戯言が巡り巡ってぼくにまで帰ってきたような錯覚。
 しかしまあ、なんというか。
七実ちゃんは楽しそうだ。
当然それはぼくとおしゃべりしているから、なんてつまらない理由からではないだろう。

832Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:33:22 ID:S7QegMTs0

「そういう七実ちゃんは、誰かを愛してるんですか?」
「はい、彼を――禊さんを愛することに決めたわ。一目惚れ――というものなのでしょう」

 告げる七実ちゃんの表情に、感情が乗っている気がした。
人間未満の様子といい、ぼくたちが別れてから色々あったらしい。
まあ、学習塾跡で露わにさせた狂態を表さなければ支障はない。
ぼくはどんな表情をしているんだろう。
わからない。どんな表情を浮かべればいいんだ。

 それで、本題なのだけれど、と七実ちゃん。

「そして、彼に惚れようと決めた時。すなわち禊さんの死を前にして――わたしは泣いていたの」

 すべてを見通す目を閉じて。
人間未満の死に泣いたのだと。
泣いている七実ちゃんの姿などおよそ想像もできないけれど、
ひるがえるに、ぼくには想像もつかないほどの思いが、七実ちゃんの中で発生した。
たがが外れるほどの愛を自認したのだ。
泣いたことによる愛の発露。
泣けたことによる愛の自覚。
刀というには、あまりにも人間のような仕草だった。

「そして彼女――今生の好敵手を喪った時、禊さんもまた、泣きそうな顔で動転していたわ」
「あの人がですか?」
「ええ、禊さんが、です」

 格好つけない未満と遭遇した時間はわずかではあった。ただ、理解できる。
装いを解いた人間未満であるならば、動転のひとつぐらいしても可笑しくないだろう。
あの時の彼はどうしようもないほどに傍迷惑(マイナス)ではあったが、腐ってはなかった。
不貞腐れてなどいなかった。
真っすぐに曲がった性根であれば。
内なる気持ちを曝け出すこともあっただろう。
彼の真実。
彼の偏愛。
大嘘つきの、飾らない思い。

「…………まあ、ワンパターンというのも恐縮ですが、それでいうならわたしも泣いてましたね」
「ああ、うん」
「その節はご迷惑をおかけしました」
「――いや、こちらこそ」

 真宵ちゃん。
 振り返ってみると、
巨大なる大英雄の死を目の当たりにし、
代替の効かないお友達の死を知らされて、真宵ちゃんも泣いていた。
その姿は記憶に新しい。
頑張ると決めて。
暦くんが易々と死んでしまったことを後悔するぐらいに楽しく生きてやると。
家に帰ると決めた、覚悟の涙。
さようならの涙。またいつかの雫。
友愛の結実だった。

「とりたてて、いっきーさんの挙動がおかしいという旨を伝えたいのではございません。
 わたしでさえ、自分が人の死で泣くだなんて想像だにしていませんでしたから」
「いや、いいんですよ。七実ちゃんたちの反応の方が健全なんだと思う」
「ああ、慰めたいわけでもありませんので」
「……じゃあどういった要件なんでしょう」
「最初にお伝えした通りですよ。お話をしましょう」

 一呼吸を入れて。
今までお話したのは、彼女にまつわる愛の話。
だとするならば、今から物語るべきなのは。

「わたしが聞きたいのは、あなたのお話です。――あなたの愛の話です。
 いっきーさんの経験ならば、禊さんの糧にもなりましょう」
「空っぽなのはお互い様ですよ、おそらくね」
「それならそれで構いません。――わたしの裁量で迷い子を誘うだけですので」

833Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:34:16 ID:S7QegMTs0
 ふうん、ずいぶんと好かれたものだ。
四季崎記紀の愛にはまるで興味を示さなかったのに、ぼくなんかの愛に興味を示すとは。
厄介(マイナス)も迷惑(マイナス)も変わってないにもかかわらず。
芯がぶれているというのに。――ぶれているのはもしかしてぼくもなのか?
七実ちゃんの要望に一瞬たじろぐぼくの様子を見かねたのか、真宵ちゃんも乗じてきた。

「戯言さん、勘違いをして欲しくはないんですけれど、わたしは別に責めているわけでも、詰っているわけでもないんです。
 ドライな対応をせざるを得ない――あなたの生き様を否定したいのではないのです」

 ただ、と。
あなたが、なにかに迷っているのなら。
それに寄り添うのがわたしの役割ですから、と。

「戯言さん。わたしにもお聞かせください、改めて。
 戯言さん自身の気持ちを整理するためにも、もう一度。玖渚友さんについて、あなたから。
 そういう寄り道ぐらい、いいんじゃないですか?」

 みんな好き勝手言って。
まるで悲しむのが当たり前みたいな空気を作って。
悲しんでるさ、ぼくだって。
これは優先順位の問題であって。
ぼくは生きると決めたから。
大切なものが増えすぎてしまったから。
友の後を追うことが出来ないだけで。
前を向くしかないだけで。
現実を見るしかないだけで。
――笑って生きていくしかないだけで。
それすらも戯言なのか。傑作なのか。大嘘なのか。
同じことをずっと考えている。
ぼくの思考は円を描くように、9の字を描くように、渦を巻く。
ぐるぐる、ぐるぐる。
蝸牛のように。渦は広がる。
考えれば考えるほどに、渦から逃げ出せない。
しようがない。
だったならば。
どうせ様刻くんの決断まで――放送まで時間はまだ残っている。
落ち着くためにも、ぼく自身のためにも。
現実を見るために、ぼくは語ろう。
他愛のない、愛の話を。


「始まりは復讐だった」

834Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:35:04 ID:S7QegMTs0


  ◎


 しかし。
些か不思議なものですね。
彼女――八九寺真宵に対して。
見れば見るほど、ただの少女――むろんのこと、黒神めだかにも感じた怪異性なる異常性はあるにせよ――肉体も精神も、取るに足らない雑草に違いはないはずですが。

 ――ならば、その怪異性にこそ、意味が、意図があるんだろうよ

 なるようにならない最悪。
視れば視るほど、引きずり込まれるような深淵。
直視してはいけない。
人間の生存本能に背く存在。
されどわたしは彼を見る。
禊さんと相似にして背反する存在を。
欠けているものが多すぎる。
そのために、心がくすぐられる。
そわそわと、ぞわぞわと。
なでるように、さかなでるように。
首を絞められるようだ。

 そんな彼。
戯言遣いなるいっきーさんに。
一日以上付きっ切りになってなお、
まるで変わらない。
廃墟で見かけた時から。
記憶を消された時から。
今に至るまで。
根底にあるものは変化していない。
記憶が戻って、なお。
正気、なのでしょうか?
既に正気を喪失されているのかしら。
いえ、いえ。
八九寺真宵の孕む少女性はその実一切揺らいではおりません。
こどものように喜び。
こどものように悲しみ。
こどものように許し。
こどものように恨む。
禊さんを睨むようにするその視線は感心しませんが、
ただ、それだけ。
憎悪に塗れるでもない。
忘我に染まるでもない。
わたしたちと廃墟で出遭ったとき。
癇癪の末に同行者から逃げ出したと聞きますが、癇癪程度こどもの所作の範疇にすぎません。
――まったく、こどもとは変化をする象徴でしょうに。
斬って捨てようかしら。
冗談ですが。
今のところ。

835Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:35:47 ID:S7QegMTs0

「わたしは変わりませんよ。――変われません。いくら受肉をしようとも、わたしはしょせん怪異ですから」

 怪異は名に縛られる、というのは四季崎記紀の言。
変わったが最後、――本分を忘れたが最後、無窮の監獄――《くらやみ》とやらに飲み込まれるそうで。
どうでもいいですけれど、悪いですけれど。
あれから少し、お話をすることとなりました。
ほんの少し、些細な接触。些末な折衝。

「鑢七実さん」
「なんでしょう」
「わたし、あなたを許せません」
「そうでしたか」
「人を殺して楽しいですか」
「さて」
「だったらなぜ」
「あなただって、飛んで回る羽虫は鬱陶しいでしょう」
「わたしにはあなたたちが理解できません」
「ええ、当然のことです。
 ですが、それでいうならいっきーさんのことだって、理解できたりしないでしょう」
「お言葉を返すようですが、それも当然のことなのですよ、七実さん。
 人が人を理解できないように、怪異だって人を理解できているわけではありません」
「その割に口幅ったく進言したようですが」
「ご存じないですか? 怪異って存外にいい加減なんですよ。相手のことを知ったかぶって、憑りつくのです」
「いい迷惑ね」
「知ってます。怪異なんてもの、本来遭遇しない方が良いに決まってます」
「なら離れればいいじゃない」
「おっしゃる通り、本来そうするのが正しいのでしょう。
 わたしが足を引っ張っているのは事実ですから。あなたに襲われたことも含めて」
「あなたがいなければあの大男ももう少しうまく動けたでしょうに」
「……日之影さんには申し訳ないことをしてしまいました。
 ツナギさんにも、戯言さんにも、頭が下がるばかりです」
「そうね」
「――玖渚さんがお亡くなりになったことに実感が持てない理由があるとするならば、
 彼が彼女に対して何もできなかったことも、要因として大きいのだと思います」
「……」
「この六時間、わたしたちはこのランドセルランドに待機をしていました。
 そういう手筈だったから――ですが、もしもわたしたちがいなければ、戯言さんは違う行動もとれたでしょう」
「少なくとも、あなたは、体調が優れないようですが」
「七実さんほどじゃないでしょうけれど――わたしが熱で倒れたりしなければ、と思わずにはいられません」
「思い出しましたが、いっきーさん主人公がどう、とおとぎ話のようなことをおっしゃっておられましたね」
「はい。ですが実際のところ、どれだけ議論を重ねようと、意味はありません」
「まあ、元来主人公というのは目的を指す言葉ではないでしょう」
「その通りです。主人公とは善であれ悪であれ、行動を起こしてなんぼの役職でしょう。
 それで、戯言さんがこの一日やっていたことはどれほどありましょう」
「あなたの子守に他ならないのではないですか?」
「まったく自分でも恥ずかしいですが、言葉もありません。
 おかげで、事の中枢にはまるで関われなかった。
 知らない間に、話は勝手に始まり終わっている。あなた方の馴れ初めを知らないように」
「迷子でもしているみたいに、右往左往していたということね」
「これではまるで傍観者です。無駄足ばかり踏んで、玖渚さん(ヒロイン)を助けられない主人公がどこにいますか」
「いるでしょう、どこかには」
「共感を得られない作品のことなんて知りませんよ」
「あなた、相応数の方を敵に回しましたね」
「こういうのは王道でよいのです。奇を衒う必要なんてないんです」
「はあ、あなたの持論はどうであれ、でしたらなおのこと、あなたはどこかへ行けばいいのではないですか」
「――事が済めばそれもいいでしょう。いつまでも迷惑をかけるわけには参りません。ですが、仕事はやり遂げなければ」
「ああ、先ほどいっきーさんにおっしゃっていた――」
「はい。わたしは迷いへ誘う蝸牛ですけれど、――裏を返せば迷子に寄り添う怪異ですから」
「ふうん――それで。結局。
 いっきーさんを助けたいとでもいうのかしら」
「そうしたいのは山々ですが、戯言さんが自分で答えを見つけられますよ、きっと」
「主人公として――とでも?」
「いいえ、一人の人間として」

 どうか、わたしたちの帰り道を阻まないでくださいね、と。
八九寺さんは言う。
それはこちらの台詞なのだけれど。
迷子の禊さんのともにあるのはわたしなのですから――。
刀として、仕えましょう。
女として、支えましょう。
刃こぼれを起こす前の七花は、とがめさんに四つの誓いを立てたそうだ。
とがめを守る。刀を守る。己を守る。――そして、己を守る。
軍所の出身のわりにとがめさんも甘いことをおっしゃるのだなと感じたものですが、
わたしもずいぶんとぬるま湯に慣れてしまったようですね。
禊さんを助け、守る――ただそれだけを誓って。

 とりたてて意味のない幕間はこれにておしまい。
放送の時間でした。

836Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:36:51 ID:S7QegMTs0


 ◎


 ――生きたいと願った。
阿良々木さんがばかばかしくて笑っちゃうぐらい楽しく生きたいと、わたしは希う。
ですが、本来、それは過ぎた願いなのです。
わたしは死んでいますから。
とうの昔に。
殺し合いなんかとは関係なく。
脈絡もなく、わたしは死んでしまったのです。

 阿良々木さんに『助けていただいた』――なんていうと忍野さんや阿良々木さんは否定されるかもしれませんが、
ともあれ、お声をかけていただいた母の日に、わたしは『迷い牛』としての束縛から解放されました。
地縛霊から浮遊霊に昇格――。白浪公園の辺りを迷い、いったりきたり、そんな生活とはおさらばしました。
阿良々木さんとお話できた三ヶ月間、わたしは楽しくて、嬉しくて、満足しています。
ともすれば、成仏してしまいそうなほどに。
殺し合いが始まる前でしたなら、消えるとなっても受け入れられたでしょう。
怖くても、きっと。わかんないですけど。
でも、もう充分与えられてきましたから。

 都合よく――わたしは生きていた。現世に留まり続けている。
ですがそれは厳正なる結果というわけではないのでしょう。
怪異は存外にいい加減だから、今はまだ見逃されているだけであって、
世の摂理がきっと、こんな反則を認めることはないのです。
怪異は名に縛られる――阿良々木さんの主にして従者、傷を分け合った吸血鬼のなれの果てを忍野忍と改名させたように。
迷い牛は人を迷わせる怪異。
迷わせもしないわたしはつまり、迷い牛ではないのでしょう。
それなのに、わたしはまだここにいる。
わたしを救ってくれた阿良々木さんや戦場ヶ原さんを差し置いて。
幸運に、幸運を重ねて。
のうのうと。
 一度記憶を失ったからか、ちょっとばかり俯瞰的に――蝸牛にあるまじき鳥瞰的な視野で物事が見える。
七実さんとお話させていただいて、改めて実感しました――突きつけられる。
わたしが足を引っ張っている、というのは、歴然たる事実なのです。
残念ながら、残酷ながら。
皆さんから離れた方が、良い方に転がる。
忍野さんは一度限りのウルトラCで違う解法を見出しましたが、本来、わたしという怪異の対処法とはわたしから離れること。
戦場ヶ原さんから教えてもらうまでもなく、感じ取っていた。
「あなたのことが嫌いです」――いうなれば、それがわたしの処世術だったのですから。
世に馴染まない――怪しくて異なる、わたしの処世術。

 だけど、独りよがりなのかもしれないけれど、支えなければとも思うんです。
戯言さんたちに支えてもらったように、わたしも。
他には何もできないかもしれませんが、それぐらいなら。
ここまで恵まれておきながら「嫌い」になれるほど、わたしは薄情にはなれなかったのです。
 戦場ヶ原さんの蟹も、神原さんの猿も、羽川さんの猫も。
こんな風に表現したら彼女たちから非難されるかもしれませんが、怪異は人に寄り添う現象です。
意に沿っていたかは別でしょうけれど、怪異は求められたから与えたのです。
どこにでもいて、どこにもいない。
思いに、呼応する。

 生きるために何をするか。
わたしは何をするべき存在なのか。

837Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:37:56 ID:S7QegMTs0

 怪異には発生する理由がある。
突き詰めれば、わたしがここにいる意味は、きっと。
誰かに寄り添うためなのだ。
迷える誰かの隣のいること。
独りぼっちは寂しいですからね。
しょうがありません。

 人は一人で助かるだけ――戦場ヶ原さんたちにしろ、
本来、怪異なるよるべが必要なかったように、今後の答えは戯言さんなら出してくれるでしょう。
彼は、そういう強かさをもってらっしゃる方ですから。
七実さんにも言い切ったように、おそらく、あの人なら大丈夫です。
 ですけれど、どうか。
わたしは役に立ちたいのです。
『迷い牛』ではない、きっとわたしの――『八九寺真宵』の思い。
自分の我儘さ加減には我ながら腹立たしくもありますが、
おんぶにだっこは、それはそれで嫌なのです。
阿良々木さんのようには誰にでも優しくできるわけではないですけれど、
阿良々木さんのように、困っている人には寄り添いたいとは、思ってしまうのです。
背負えることは、ないでしょうか、わたしにも。
こう見えていつもは、とっても大きいリュックサックを背負ってるんですよ?
戯言さんがハッピーエンドを望まれるのであれば、
鬼にも悪魔にでも、新世界の神にだってなりましょうとも。
というのは、いかにもな大言壮語で恐縮ですが。

 生きたいと願う。
わたしは帰りたいと希う。
今でも変わらない、わたしの指針。
過ぎた願いだとしても、まかり通りましょう。
生きて帰るんです、絶対に。
退屈で静かになった帰り道へ。
わたしはわたしの役割を背負って、これからも。

838Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:38:29 ID:S7QegMTs0
【二日目/早朝/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、右腕に軽傷(処置済み)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ、
   タブレット型端末@めだかボックス、日和号のデーターメモリー
[思考]
基本:「■■■」として行動したい。
 1:これからどうするかを考える。
 2:不知火理事長と接触する為に情報を集める。その手始めに日和号のメモリーを確認する。
 3:その後は、友が■した情報も確認する。
 4:友の『手紙』を、『■書』を、読む。読みたい。
 5:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※日和号に接続されていたデーターメモリーを手に入れました。内部にどのような情報が入っているかは後続の書き手にお任せします
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータはメールで得ました。それを受け取った携帯電話は羽川翼に貸しています。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]体調不良(微熱)、動揺
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語、携帯電話@現実
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 1:一先ず頂いたデータを見せてもらいますけど。
 2:あの、球磨川さん……? 私の記憶を消しといてスルー……?
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータを共有されています。

【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、『庶務』の腕章@めだかボックス、
   箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒に行く
 1:禊さんはわたしが必ず守る
 2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう
 3:いっきーさんは一先ず様子見。余計なことを言う様子はありませんから。
 4:羽川さんは、放っておいても問題ないでしょう。精々、首輪を外せることに期待を。
 5:八九寺さんの記憶は「見た」感じ戻っているようですが、今はまだ気にするほどではありません。が、鬱陶しい態度を取るようであれば……
 6:彼は、害にも毒にもならないでしょうから放置で。
 7:四季崎がうるさい……
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします

839 ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:39:12 ID:S7QegMTs0
一話目投下終了です。もう一話投下します。

840Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:41:02 ID:S7QegMTs0


  § Ⅰ 前段


「ああいうのはやめた方がいいんじゃないかな」
『つまり?』
「櫃内くんを追い詰めるような真似をしたことよ」

 ランドセルランド。
露店の広がる屋外。
机に広げぐちゃぐちゃに潰されたチュロスを味わいながら、二人は喋る。
羽川翼と、球磨川禊だ。

『僕が人を陥れるようなことをするわけがないだろう!?』
「現にしていたじゃない」
『まあね、でもさ、僕たちは愉快に今後を案じてただけなんだぜ?
 横から盗み聞きをするようなやつのことまで心配してらんないな』
「……あなたの話法に乗っかるいーさんもいーさんですけど、
 問題があるとするならあなたよ、球磨川くん」
『人を悪者みたいに言うなよ、悪いやつだな。僕は悪くない』
「ああいう話の持ち出され方をしたら、いーさんとしてもああ答えるしかないでしょうに」

 悪者扱いするなというわりに、球磨川の顔色は明るい。
気にした様子もなく、指先で砕けたチュロスのかけらを拾い上げる。
対する羽川は、頭を押さえるようにして、話をつづけた。

「切磋琢磨と強さが互いに影響を与えるように、弱さも影響し合うものだって、他ならぬ球磨川くんなら分かるでしょう」
『負の連鎖ってやつ?』
「簡単に言えば、そういう類の話」

 シンフォニーであり、シンパシー。
弱さは弱さを呼ぶ。
弱さを見ると、落ち着かなくなる。
自分の弱さを見ているように。
与える不和は些細かもしれないけれど、波紋は次なる波を呼ぶ。
自身に、他人に、多勢に。

『嬉しいな、こんなに僕を思って怒ってくれる人ははじめてだ』
「あんまり適当なことばっかり言っていると、七実さんも愛想を尽かすわよ」
『――きみは正しいね。正しい。強いられているように、強がっているみたいにただただ正しい』
「阿良々木くんも時折持ち上げるような発言をしたけれど、それじゃあ聖人みたいじゃない」
『褒められてると思ったかい? 違うね、つまりきみは人間的じゃない。
 化物――化生――いない方がいい生物だ』

 化物――化け猫。
尾のない猫。アンバランス。
感情表現もままならない、均衡のとれない化生。

『でも安心してよ。僕は弱い者の味方だ』
「弱い者の味方、ね」
『前にも言ったかな、やっぱりきみは僕たち側の人間だ』
「私は普通よ。取るに足らない普通の高校生ですから」
『謙遜するなよ。今度は褒めてるんだから』
「今度褒め言葉の意味を調べましょう?」
『僕の友達に蝶ヶ崎蛾々丸くんってやつがいるんだけどね、きみはああいうタイプに近いよ』
「――まあ、詳しい話は聞かないけど、どうにも褒められたとだけは感じないわね」

 蝶ヶ崎蛾々丸。『不慮の事故(エンカウンター)』。
受けた傷をそのまま他へと受け流す、最悪の過負荷(マイナス)。
その有り様は、『ブラック羽川』のそれと近しい性質がある。
積もった傷(ストレス)を、他者を介して解消する怪異。
大きな違いがあるとするならば、羽川翼には十六年間ストレスと受け入れ続けた実績がある――耐性がある。
阿良々木暦というファクターに起因して、彼女は『猫』に魅入ってしまったけれど、
耐える強さを持っていた。
不幸を当然とし続ける弱さを持っていた。
 いや、正鵠を射るならば、羽川は自分を不幸とすら思っていないだろう。
嘘偽りなく、自分を『普通』と認識している。
遠くない将来、彼女は己の異常性を自覚するはずであった。
しかしこの場における羽川翼はそうした契機を経ることなく、今、生きている。
悲惨な家庭環境も、そういうものと認知して、
虐待を虐待と認めず、目を閉じ続ける弱さがあった。逸らし続ける脆さがあった。
強がりでもなんでもなく。
不幸を不幸とも思えない、残酷なまでの鈍さ。
闇に対する鈍さを抱えて生きていけるほど、生物は上手に創られていない。
野性性のない生物は、朽ちるしかない。

841Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:41:49 ID:S7QegMTs0

(――それでも、私はやるべきことをする)

 『今まで悪いことをされたんだから、他人に悪いことをしてもいい』――というのは、
球磨川禊と時を同じくして箱庭学園に転入してきた『マイナス十三組』、志布志飛沫の言だ。
『マイナス十三組』の掲げる三つのモットーと等しく、『マイナス十三組』の骨子となる怨念である。
であるならば、羽川の弱さは、ある種『マイナス十三組』にも劣る。
たとえば志布志飛沫――彼女も両親からの虐待を受けて育ち、それを『不幸』とした。
現実を直視できる人格があった。主格があり、主体があった。
反して羽川翼はどうだ? 親からの暴力暴言、軽視無視――それらを正しく受け止めたか。
誰からも慕われ、正しいと評判の委員長は、現実を正しく強く、受け入れただろうか。
あるいはそれは、球磨川禊にも言えることかもしれないけれど。
強がりではなく、弱さを受け入れた球磨川禊の弱さの底――。

「それで、私と喋りたいことってそれだけ?」
『うん』
「うんって……」
『え、何。おっぱいの話でもしたら揉ませてくれるの?』
「私を雑なおっぱいキャラにしないで」
『おっぱいキャラでしょ』
「そんな安いキャラしてません」
『三つ編み眼鏡委員長は安くないの?』
「これは別にキャラじゃありませんから」

 はあ、疲れたように息をつく。
対する球磨川は相変わらずだった。
舞台もいよいよ大詰めというのに、まったくもって終盤感に乏しい。

「まあいいわ。暇を持て余しているぐらいなら私に付き合って」
『わかった! デートはどこがいい? やっぱ無難に富士の樹海とか?』
「そうじゃなくって……そんな路頭に迷ったカップルの真似事をしたいんじゃなくって」

 やりたいことは、得られた情報の整理だ。
玖渚友と日和号から得られたデータの、その解析を。

842Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:42:28 ID:S7QegMTs0


  § Ⅱ 玖渚友のデータ


「まずは『青色サヴァン』――玖渚さんからのメールを振り返りましょう」
『うん、欠陥製品が執着してた天才のことだね』
「あんまり含みのある言い方をしないの。――いろいろ送られてきたけれど、
 大きく分けると三つ、大事なことは書かれているわね」
『①首輪の解除について
 ②主催陣について
 ③水倉りすかについて――だろう?』
「他にもこの土地についてとか、憂慮すべき点が纏まってたのらすごいわよね。
 でも一旦、りすかちゃんについては置いておきましょう。
 球磨川くんもいーさんも対処法ぐらい考えているんでしょう?」
『強大な力を持つということは、それだけの慢心(よわさ)が棲みついているということさ』
「そういうものかしら? どの道私にできることは限られているもの、任せるしかないのは忍びないのだけれど」
『きみが望めば、セクシー猫っ娘は今すぐにでも還ってくると思うけどね』
「……本当、私はどんな醜態を晒していたのかしら」
『らぶりーな下着の描写だったら克明としてやるぜ』
「遠慮しておくわ。そういうのは春休みに経験済みだもの」
『実際のところ、一番の最適解は『ブラック羽川』のエナジードレインだ。
 にも関わらずきみはきみのまま。保身で力を温存するなんて……許されることじゃないよ!』
「嘘も方便というけれど、本当にあなた、すがりつきたくなるような嘘が得意だね……」

 攻略の鍵は流血を伴わない攻撃手段。
水倉りすかを攻略するうえで肝要となる。
不敵であれど、無敵でない――水倉りすかには殊の外弱点も多いのだ。
それは『分解』であり。
それは『熱量』であり。
それは『電気』であり。
それは『吸収』である。
精神に大きく左右されるという点において、
戯言遣いや球磨川禊のような人間に対しても、相性が良いとは言えないだろう。
供犠創貴が横にいたのならばともかくとして。
水倉りすか、ただ一人においては。
――あるいはこの場において、一番相性が良かったのは、鑢七実だったのかもしれない。
もしかすると、鑢七実を十全に『殺せる』最後のキーパーソンだったのかもしれない。
 ただ、どうであれ、そうした議論も詮無きことだ。
二人の思惑とは別のところで、水倉りすかの物語は完結している。終結しようとしていた。

 話を切り替えて。
次の議題へ。

「首輪の解除――ね」
『あのメールで送られてきた――このコードだけで大分容量を食ってたみたいだけど』
「主催者の組み込んだプログラムがそれだけ高度であったということか、
 あくまで既製品のスマートフォンに玖渚さんの才能を落としこむには、それだけの容量が必要だったのかしら」
『さてね、天才なんて軒並み一般社会にそぐわないんだから、付き合わされる機械も可哀想だ』
「でも、このコードだけじゃあ不十分だわ」
『なんだい、弘法も筆の誤りってやつ? やっだねー、天才ならなっさけない失敗談でも格好いい美談、格言にされるんだから』
「だから、あんまり含みのある物言いしないの。
 ――それにこれは、失敗というより、敢えて、なんでしょうね」
『ふうん、やっぱり天才は分かんないな。なんでそんなことするんだよ。
 する意味がない。僕たちの命がかかってるんだぜ? 命をなんだと思ってるんだ!』
「玖渚さんに関していえば、私たちの命なんてどうでもいいんだろうけれど――」

 球磨川にだけは、玖渚も言われたくないんだろう。
ただ、羽川は言葉を詰まらせたのは、そんなツッコミをしたかったからではない。

『どうしたの?』
「いえ……なら、コードを完成させるのは私の仕事ということになるわね」

 玖渚友。『青色サヴァン』、『死線の蒼(デッドブルー)』。
直接交えたのはほんのわずかな時間であったけれど、確実に断言できることがあった。
彼女の行動指針は戯言遣いのためのみに向いている。
間違いなく。紛うことなく。
であるならば、コードの欠けているのは――欠けているというのも直喩的ではあるけれど――戯言遣いのためか。
わからない。
考えなければ。
彼女は言っていた。あとは実践に移すぐらいだと。
ならば、公式は本来完成していたはずだ。
理屈はさておき、理解もさておき、理論はおぼろげに教えてもらい習得しつつある。

843Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:43:28 ID:S7QegMTs0

(あとは私が、穴を埋めるだけ――)

 きっと私じゃなくても、ここまでお膳立てされていたら、いーさんは解くだろう。
羽川は感じる。戯言遣いは必ずしもそうと捉えているわけではないだろうけれど、
前提が――あのメッセージは戯言遣いに宛てたものである以上。
本来想定されている、解答者――解凍者は戯言遣いのはずだ。
であれば、羽川の出る幕はないのかもしれない。
脇役は引っ込むのが筋かもしれない――それでも、羽川は首を突っ込む。
いつも通り、正しくあるように。
余計なお世話もお世話の内と叫ぶように。

『で、主催者のことだっけ?』
「ええ――不知火袴さん、不知火一族のことをはじめ、諸々と書いてあったわね」
『驚きだ! まさかあの不知火袴が傀儡の一族だったなんて!』
「安直に考えるのであれば、不知火袴は誰かの影武者となるのかな」
『恐ろしく強大な敵を前にしてさしもの僕も震えが止まらないよ』
「武者震いってことにしておいてあげるけど、――」

 判明しているだけで――判明するだけ恐ろしいけれど――下記の通りだ。
①不知火袴――箱庭学園理事長。不知火一族。
②斜道卿壱郎――堕落三昧(マッドデモン)。研究者。
③都城王土――元箱庭学園生徒『十三組』。創帝(クリエイト)。
④萩原子荻――澄百合学園生徒。策師。檻神ノアの娘。

『なんだ、噛ませ犬ばっかりだな』
「そんな一筋縄ではいかないでしょ」

 ここまでは確定。
放送の発信者だ。曰く付きの策師について、戯言遣いのお墨付きもある。
彼の記憶に太鼓判を押されたところでなんだという話でもあるけれど。
議論の余地があるとすれば、残りの面々。

⑤四季崎記紀――刀鍛冶。
⑥不知火半袖――箱庭学園生徒。不知火一族。
⑦安心院なじみ――悪平等。

 これらは推定。
兎吊木垓輔――『害悪細菌(グリーングリーングリーン)』の補助。
それに、悪平等の端末に『為った』が故に、安心院なじみの手助けを得たのか。
文面で詳細は語られなかった。結果だけが残っている。
そうであったかもしれないし、なかったかもしれない。
異常(アブノーマル)も、過負荷(マイナス)も、悪平等(ノットイコール)も。
理外の範疇にある。
理屈である以上に、感覚の話なのかもしれない。
自分が過負荷と言われても、てんで理解が追いつかない。
――先の両名の名前が出てきた時、戯言遣いと球磨川禊が柄にもなく面白くなさそうな顔をしたのは印象深いけれど。

844Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:43:59 ID:S7QegMTs0

 安心院なじみはともかくとして、
兎吊木垓輔なら自ら関わりだしてもおかしくはないだろう、というのは戯言遣いの評価。
いわく、おぞましい変態。
戯言遣いをしてそう言わしめるのだから、相当なものだ。
一方で、兎吊木ならば、玖渚の手を煩わせるようなことはしないと思う、という判断も下していた。
事実、目論見は志半ばに終わったとはいえ、従者は暴君に告げていた。
『――You just watch,"DEAD BLUE"!!』。
黙ってみていろ、『死線の蒼』。
いつかの再来。
かつての再現。
あの玖渚友が覚えていないわけがない。
『歩く逆鱗』は『裁く罪人』を認知した。
あの時浮かんだほのかな期待と笑みは、嘘ではなかっただろう。
にもかかわらず、『死線』は黙ることを止めなかった。手を止めなかった。
――斜道の研究所で巻き起こした過去と反して。
意味があるのか、なかったのか。
この場に疑問を抱けるものはもはやいない。


『ま、どちらであれ今尚連絡がないってことは失敗したんだろ、なっさけなーい!』

 もしくは――今から。
玖渚友が死んだ今なら、兎吊木垓輔はリブートするだろうか?
地獄という地獄を地獄しろ。
虐殺という虐殺を虐殺しろ。
罪悪という罪悪を罪悪しろ。
絶望という絶望を絶望させろ。
混沌という混沌を混沌させろ。
屈従という屈従を屈従させろ。
遠慮はするな誰にはばかることもない。
死線の名の下に、世界を蹂躙したように。
されど、死線の寝室は消灯した。
とこしえの眠りに暴君はついた。
ならば、細菌はどうするのだろう?
 とはいえ、これもまた欄外の戦い。
渦中の二人に関与のしようがない争い。
考えるべきは、他にある。

「勝てるかしら、私たちで」
『勝つんだろ、あいつらに』
「負け戦かもしれないわよ」
『負け戦なんていつものことだ』
「そもそもこの場合の勝ちってなんなのかしら」
『ルールを破綻させることさ』

 まあ、そういうことになる。
羽川も頷く。
――結局のところ、望ましい展開はみな生存に着地する。
なかったことにするかはさておき。
今残っている面々だけは。最低でも。
球磨川禊も鑢七実も、もしかすると水倉りすかもおよそ反人間的な存在ではあるけれど、死んでいいわけでは当然ない。
死んでいい人間なんていない。
どんな最低な人間でも。
示される道はひとつ、『生き残れるのはひとりだけ』とふざけた決まりを撤廃させる。

(問題は、それをどうやって――なんだけど)

 さて。
球磨川の答えは。

『え? お願いすればいいじゃないか。みんなで生き残りたいですって。
 こどものお願いを聞くのが老爺の務めだろ? なんのために年を取ってんだ』
「思いのほか浅い答えが返ってきてびっくりした。
 もっとあるでしょう、せめて首輪を外して主導権を握らせないとか」
『だったら早く欠陥製品や七実ちゃんの首輪を外さないと』
「……それもそうね」

 そう言われれば、返す言葉もない。
語勢が弱くなるのを皮切りに、議題は次へと移りゆく。
せめて次の放送が開けた後、景色が変わると信じて。

845Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:44:38 ID:S7QegMTs0

 § Ⅲ 日和号のデータ


「さて、日和号に眠っていたデータですけど」
『いよっ羽川屋』

 露店からひったくってきたオレンジジュースとメロンソーダを無計画な配分でブレンドしながら、球磨川は羽川に応じる。
何とも気のない返事に言葉を詰まらせる羽川を待つことなく、球磨川は言葉を続けた。

『欠陥製品はここに主催者のデータ、とりわけ主催者の居場所が載っていると推理した』
「鑢七実さんいわく、そもそも日和号には現在位置を観測する性能があった。
 ――もともと不要湖の、四季崎記紀の工場を中心に徘徊する機能があった。なら、『日和号』と『位置』の符号は合致する」
『まるでログポースさながらね』

 四センチにも満たないプラスチックケースから、メモリーカードを抜き取る。よくあるタイプのメモリーカード。
携帯機器の規格ともあう、変哲もないカード。
さて、中身はというと――。

『要領を得ないデータしかなかったわけだ』
「主催者の情報という意味では、当たりじゃない。なかなか辛い映像はあったけど。
 ――でも見る限り、まだロックのかかったフォルダは残っているわね」
『今解凍されているフォルダは5つだ』
「放送数と一致すると考えたら、もしかしたら次の放送のあと、何か変化があるかもしれない」
『ま、ないかもしれないけどね』

 そうね、と羽川。
5という数字のきりの良さは、どうとでも取れる。
先の玖渚友の死亡通知があったから、時限式の開封もありうると思考が引っ張られているだけなのかもしれない。
あるいは、玖渚友が死んでしまった今、そうでもないと見れないからという希望的観測か。

「仮に時限式のロックだとして、何の意味があるのかしら」
『ネタバレはつまんないだろうって計らいじゃないの?
 まあ僕はネタバレをされたうえで作品を見る方が好きだけど』

 盛り上げようとしている演出を見ると滑稽で、好き。
さらっと最悪な嗜好を披露している球磨川は置いておくとして、
さすがに理由までは考えたところで答えはない。
今はとにかく、入手した情報の整理が大事だろう。

「5つのフォルダの中身をまとめると――こんな感じになるわね」

①詳細名簿
②死亡者ビデオA
③死亡者ビデオB
④計画について
⑤不知火の里について

「この中で不知火の里については、玖渚さんから教えてもらったことと大きく齟齬はなかった」
『情報の信憑性の担保ってことかよ。くそっ、若者だからと舐めやがって』
「玖渚さんが一段飛ばしに真実に近づいていたってだけだと思う……」

 つくづく、惜しい人を亡くしてしまった。
羽川は哀悼の意を捧げつつ、気になったことを振り返る。
――このメモリーカードに入っているぐらいだ。『不知火』であることは重大なのか?
『白縫』と『黒神』が対になるように。
不知火袴は、あるいは不知火半袖は――誰かの代役でしかないのか?
だとしたら誰か。
明確な答えはない。
もしかしたら、ヒントを見逃しているだけか。
見直そう。見つけよう。

846Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:45:14 ID:S7QegMTs0
「もう一つのフォルダには色々な計画がまとまっていたわね。これも要所要所玖渚さんから聞いてはいたけれど」
『まるで黒幕候補を列挙しているかのごとくね』
「斜道卿壱郎博士の研究も載っていたわね。
 兎吊木垓輔を利用した――特異性的人間の創造。なかなか際どい題材をやってたみたい」
『で、『箱舟計画』とやらは水倉神檎の計画だってね。水倉りすかのお父さん』
「私が思っていた以上に、りすかちゃんたちの世界観は私たちに則してなかったようね」
『まったく、僕たちのにこやかシュールギャグの世界を重んじてほしいね』
「他にも完了形変体刀についてとか、いろいろ書いてはあったけれど。注目すべきはやはりこれになるのかしら」

 羽川は、球磨川が新たにブレンドしていた謎ジュースを一口含んでから、文書を開く。
その文書は『バトル・ロワイアル』と銘打たれていた。

「といっても、目新しい情報はないのよね……。ルールなんかが書いてあるだけで」
『結局『完全なる人間の創造』についても書いてなかったんだろ?
 ま、生き残った面々を見る限り主催者たちも絶句してるんじゃない?』

 ――完全な人間。
人類のハイエンド。
進化の最果て。
窮極にして終局。
人類最終――すらも『終わらせる』生体。
羽川は不知火袴の演説を直接聞いたわけではない――聞いたことを覚えているわけではないけれど、
自分が見合う人材であるかと問われれば、間違いなく首を横に振る。
過負荷がどうというのは一度置いておくとしても。
無理がある。
無茶がある。
無駄がある。
――生き残った人間に、完全に至る素養があるか?
少なくとも現在生き残っている六人に、そんな素養があるとは、羽川に到底思えない。

(だから要するに――話は戻るのだ)

 不知火袴の主導で行われた実験か否か。
影武者としての単なる建前でしかないのか。
同じ疑問が、行ったり来たり。
ままならない。
 話に区切りがついたと、球磨川は話を進める。

『それでそう、名簿? があったんだったね。今更ながらに』
「正直、肩透かしではあったわね」

 しかも中身は未完成――しかないときた。
十中八九恣意的な落丁には違いない。
戯言遣いや玖渚友、それに羽川自身や阿良々木暦なんかは
載っていたりするけれど。

『善吉ちゃんはぶられてやんのー、やーいやーい』
「はぶられてるというなら球磨川くんもでしょ?」
『はぶられるのなんていつものことだ』
「もう……そういうのいいから」

 球磨川禊をはじめとする、箱庭学園の生徒の面々が一切合切記載されていないのは、気がかりといえば気がかりではある。
果たしてそんなことをする意味があるのかどうかは推定もできない。
もしかすると、次に出てきた『映像』を踏まえれば、意味があったりするのだろうか?

「『死亡者ビデオ』――ね。たしか図書館にもそういうのがあったのよね」
『ああ、探偵ものを抜本から覆す興醒めな代物さ』
「今の私たちはどちらかというとスプラッタものでしょうけれど」

 もちろん、にこやかシュールギャグでもない。
死者が平気で生き返る様は、案外シュールなギャグかもしれないけれど。
 さておき。
メモリーカードの中にはたしかに死亡者ビデオが管理されている。
それ自体は大きな問題ではなく。
――疑問点があるならば、探偵もの風に表現するならば『被害者』。
二つのビデオを改めて視聴して、ため息。
この一時間で何度目かの、大きなため息だ。

847Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:45:53 ID:S7QegMTs0

「神原駿河さん、紫木一姫さん。参加者でさえない彼女たちの死亡シーン、なのよね。やっぱり」
『彼女が神原駿河ちゃんであるっていうのは、他ならぬ翼ちゃんが言ったことじゃないか』
「ええ、まあ……そうなんだけど」

 釈然としない様子で、羽川翼は頷く。
『死亡者ビデオ』の片割れに映っていたのは、首輪をつけた神原駿河だ。
少なくとも、姿かたちに関していえば、確実に。真庭蝙蝠のような変質者が擬態でもしない限りは。
中学時代にも戦場ヶ原ひたぎとともに『ヴァルハラコンビ』で名の知れた、直江津高校のスーパースター。
この二年でバスケットボール部の実績を底上げした立役者にして、花形である。
 その彼女がなんの脈絡もなく――羽川たちも知らないところで、殺されたらしい。
加害者は誰だかは分からない。
ただ、死んでいる姿だけは、克明と写し出されている。
死んでいる。終わっていた。
戯言遣いにいわく、紫木一姫と呼ばれて少女も、また。
同じように、生命が途絶えている。

「でも、どうしてでしょう」
『なにが?』
「なんでこんな映像を――見せる必要があるのかしら」
『見せる必要がないから、日和号のなかにあったんだろう』
「確かに――そういう見方もあるでしょうけど。でも――」

 あんなあからさまに、秘蔵であることを演出しておいて。
物申したい気持ちもあったけれど、手に付着したチュロスを舐めながら球磨川が言葉を遮った。

『おいおいおい、翼ちゃん。まさかとは思うけれど』

 見下すような瞳。
嘲笑うような三日月。
人を不快にさせることに特化しような、マイナス。

『誰が用意したとも知りえないこんな情報を信じるのか?』

 こんなの、お遊び用のおもちゃだろう。
 一瞬。
二人の視線が交わって。
息を飲みこんでから、羽川は答える。

「大嘘からもしれない。法螺吹きかもしれない。
 でも、疑うためにも、一度信じないと始まらないわ」

 信じるために、疑うように。
そもそも、審議のためにこうして二人、振り返っているのだ。

『そう、いや僕も大賛成だ! 翼ちゃんはさすが、おっぱいに夢がつまっているだけあるね!』
「だから、雑なおっぱいキャラにしない」

 ついさっき、信憑性の担保がどうと言っていたのは、球磨川だろうに。
虚飾に塗れた嘘が交じっていたとしても、玖渚友とのデータを合わせれば、きっと道は拓けるはず――。
真実から目を逸らしては――いないはずだ。

 日和号は、おそらく主催者が配置したギミックである。
ならば日和号をランドセルランドに滞留させたのは、誰の采配か。
日和号にメモリーカードを挿入させていたのは、誰の思惑か。
 五人の話し合いの際。
議題に上った案件。
仮に主催者が一枚岩じゃないとするならば、
謀反者は、四季崎記紀や都城王土が可能性として高いのだと。
日和号の製作者が四季崎であり、突き詰めれば電気をエネルギーとする日和号を操る都城。
結果から逆算される関連性――必然性。
次いで、萩原子荻あたりも、性格的な意味合いで忠僕であるかは疑問が残るといった具合だったか。

 そういう球磨川くんは信じてないの、と問えば表情をからっと一変し。

『え、どっちでもいいよ』
「どっちでもいいって、あなたね」
『あんなおめめ真っ白になった耄碌したジジイどもの思惑なんて知ったことではないしね』
「確かにまあ、そうかもしれないけれど」

 言ってしまえば、その耄碌したジジイにお願いをしようと提言したのも球磨川なのだが。
適当にでっち上げた嘘かもしれない。何もかも。
球磨川の言動に振り回されてはいけない。
櫃内に突き落とした過負荷が、彼を壊しかけているように。
今の彼の言葉には芯がない――真がなく、心がない。
惑わされてはいけない。
自制をしなければ――自律をしなければ。
今、『ブラック羽川』にすがるわけにはいかない。

(すべてを『なかったこと』にしようと言っている男の子だものね)

848Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:46:37 ID:S7QegMTs0
 とんだ超絶理論(サイコロジカル)。とんでもない大嘘憑き(オールフィクション)。
自罰的で、自傷的で、自戒を重んじる阿良々木暦とは、まるで真逆の生態。
地獄のような春休み――そこで受けた傷を一生をもって引きずると決めた彼とは違う。
理解しろ、弁えろ。

(それにしても、『記憶』がないっていうのは、不便なものだ)

 球磨川禊は八九寺真宵の記憶を一度消去したけれど、
それが救いたり得たのは――救いになったのかは八九寺にしか判断できないが――
八九寺にとって、記憶を失ったという感覚がなかったからだろう。
対して羽川の場合は、迷惑をかけている――ということだけは確定していた。
ゴールデンウィークにしろ、この、計画の最中にしろ。
むろんのこと、この場合悪いのは白猫ではなく、羽川自身に違いない。

(『なかったこと』になるっていうのは甘い響きがある)

 飛びつきたくなるような嘘。
白々しく白をきるような、自分には。
自分でさえ預かり知らない、自分の蛮行を帳消しにできるのであればどれだけ楽だろう。

『それで、総括は終わり?』
「歯痒いけどね」
『そう、また困ったことがあったら言ってね。
 翼ちゃんのためなら僕がみーっんな仲良くダメにしてあげるから』

 そういって、球磨川は携帯機器の電源を落とす。
議題は尽きた。
ならばあとは、放送を待つのみ。
いや、羽川には首輪を解除するための責務がある。

「居場所はわからなかったけど、首輪さえ外れちゃえば、あとはしらみ潰しに会場を回ってでも――」

 終わらせる。
機運に恵まれて、今まで生かされてきた。
それとなく、生き残ってきた。
でも、これからは自分に甘えず、自分で戦わなければ――。

そう、羽川が意気込みを新たにしようとした時。
不意に球磨川が口を開く。
ぼんやりと、ジュースを飲みながら。

『翼ちゃんは優等生だね』

 行儀悪く、ストローを齧りながら。
なんてこともないように。

『真実なんて案外、どうでもいいことだったりするんだぜ?』

849Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:47:57 ID:S7QegMTs0


  § Ⅳ 後段


 そうして、羽川は首輪の解除に勤しんでいた。
知識とデータを見比べながら、どうにか穴埋めを試みる。
多分、大丈夫。自分を鼓舞する意味合いでも、羽川は頷く。
実際に現物が目の前にあると、電話口で玖渚友が説明していたことの理解がある程度進む。

 球磨川が置き土産に残したアンタッチャブルなお菓子の複合体を平然とつまみながら、
これからについて、思考を巡らせる。

(どうでもいいことだったとしても――希望を裏切る結果だとしても)

 戯言遣いは真庭鳳凰に、こんな戯言を言っていた。
仮に優勝したとして――待ち構えている結末は裏切りである。
首輪の爆破であれ、願いが叶わないことであれ、意に沿う結果には到底なりえない。
これは時間稼ぎの詭弁に過ぎない。モンキートークの蔑称に違わぬ猿芝居だ。
ただ、可能性の一側面を捉えていることも、確かであった。
たとえばの話。
このメモリーカードはいわゆる黒幕と呼ばれる存在が用意したものであり、
救いにならない――どころか、何の意味もない――どころか、地獄に叩きつけるだけの代物なのかもしれない。
最悪の想定。
あるいはこれは、球磨川と二人で喋っていたから思考が誘導されているだけなのか?
目を逸らし続けてきた羽川をして、現実が重くのしかかる。
それでも羽川は、優等生なのだった。

(いったい何が目的なのか)

 欲するところは極上の戦闘能力――ではないのだろう。
結果論ではあるけれど、生き残った面々で戦闘能力が卓抜しているのは、鑢七実ぐらいなものだ。
羽川には知る術もないが、その七実をしても黒神めだかに敗れている。想影真心を討ち損ねている。
 ならば、あつらえられた真実とやらを紐解く探偵としての資質――か。
どうだろう。用意された材料はある。
玖渚友の成果しかり。日和号の成果しかり。

(私の支給品――にも用途のわからない箱がある)

 黒い箱。
『黒』『箱』『鍵』――以外の情報がまるでない、文字通りのブラックボックス。
不知火袴が牛耳るゲームだ。もしかすると、箱庭学園の前身なる『黒箱塾』と繋がりでもあるのか。

(いや、あまりにも遠因がすぎるか――それよりも中を確かめてみないと)

 タイミングを逸してしまったけれど。
いよいよ情報が手詰まりになった今、この箱を開封する時が来たのかもしれない。
神のいたずらか、恣意的な企みか、『錠開け道具(アンチロックブレード)』だったらこの場にある。
本来であれば球磨川たちと合流した段階――各々の所持品を確認した時点ですべきであったのだろうけれど、
メモリーカードの情報などを整理するのに手いっぱいになってしまっていた。

850Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:48:33 ID:S7QegMTs0
(それに、七実さんの白い鍵)

 説明もなく鍵を渡されても――といった不具合もあるが。
鍵穴を見つけるのも、ひとつ探偵の仕事とでも言いたいのだろうか。
いずれにせよ、与えられたヒントや環境を駆使して、真実を解き明かすことにこそ、意義でもあるのか。
もしくは単純に生存能力が肝なのか。
いっそのこと、一種のエンターテイメントでしかないと言ってくれた方が気を揉まずに済むのだけれど。

(答えはない――でない)

 なんでもは知らない。知っていることだけ。
だから、知っていることから片付けないと。

(首輪――首輪ね)

 もう一度。
コードと実物を見比べる。
冷たい温度。容易に人の殺せる凶器。
そんなものが、自分の首にも嵌められている。
一刻も早く、解除しなければ。おそらくゴールはもう直前なのだ。

(神原さんも、こんな思いをしてたのかしら)

 先の死亡者ビデオを思い出す。
首輪をつけた神原の姿――亡くなった神原の姿。

(それもただ亡くなったんじゃなくて、おそらく私たちと同じように)

 こんな悪趣味な首輪をつけているのだ。
彼女も『参加者』であったことは想像がつく。
しかし、いつ、どこで? 神原駿河は昨日まで学校へ登校していたのではなないのか?

(下級生の出欠にまでは明るくないけど――最近頭痛がひどかったし、言い訳かなこれは……)

 いや、そんな疑問でさえも、今のこの場――バトルロワイアルの場においては些末な問題なのか?
たとえば、羽川と八九寺真宵の記憶に齟齬があるように、時間という流れは今に限ればひどく曖昧だ。
『赤き時の魔女』水倉りすかの名前を挙げるまでもなく。

(そうよね、萩原子荻、それに紫木一姫も一度お亡くなりになった人間だというし)

 死んだ人間が、平然と跋扈する。死んだ人間が、平気で生きて死ぬ。
狂っている――まだしも八九寺のように幽霊だと言ってくれた方が現実味がある。
さながら球磨川禊のように、死を『なかったこと』に――。

(『なかったこと』――死を、なかったことに)

 一度思考を止めて。
羽川は、浅く呼吸をする。
息を吸う。朝の冷たい空気が肺に流れ込む。
底冷えする。冷静に考えろ。

(一致しない『名簿』、神原さんたちという『参加者』、不知火という『影武者』。
 死を『なかったこと』にする――『なかったこと』にする)

 この一時間で手に入れた符号を整理する。

(殺し合いを『なかったこと』にする――)

 様々なドラマをすべて等しくまっさらに。
喜劇も悲劇もひっくるめて、なかったことにして、おしまい。
この物語はフィクションである。警句を末尾に、話を〆る。

(それでももし、終わらないことがあるとしたら)

 すでに完結した話の二次創作でもするように。
ああ、そうだ。
繰り返す満月のように、なんどもなんども、同じことを繰り返すようなことが仮にあったとするならば。

「一分――考えさせて」

 そうして。
羽川翼は思索に耽る。
当然『真実』がどうであったところで、計画の進行に影響は、一抹もない


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