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新西尾維新バトルロワイアルpart6

771「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:41:32 ID:LwlWjwEc0
少なくとも、この子猫ちゃんとの思い出がとっさに出てくることはない。
心当たりは、ないのだろう。つまりは、それが答えなのだった。

「――いや、良い。変なことを訊いたな。忘れてよいぞ、七花」

 時に。
人がおしゃべりになる理由というのは、いくつかある。
おれのようにもともとがおしゃべりな気質であるにせよ、方向性はまちまちだ。
楽しいから、悲しいから、吐き出したいから、共有したいから、近寄りたいから、離れたいから。
――当然おれは、相手を『歓待』するためにぺらぺらと舌を回す。
相手を悦ばし、地獄に引きずり下ろした時に得られる、己の悦楽のために、おれは喋る。

 ならばこいつは。
鑢七花を通して窺える――球磨川禊と鑢七実のおしゃべりな理由は。

「――――」

 ……。
最悪だ――考えうる限り最悪だ。
虚刀流がやたら喋りたがるのは、やはりこいつらが原因じゃないか?
あるいはこれを好機――と見てもいいのだろうが、兎にも角にも最悪だ。
すぐさま考えられる可能性は二つ。
鑢七実の『高揚』と、球磨川禊の『不安』――あいつらの会話を聞くにこの辺りが妥当だろう。
――いや、その二つのない交ぜが、こいつの心理を作り上げているのやもしれない。

「まあなんていうかさ、やっぱりとがめの横にいるとおれも安心するっていうかさ――――」

 鑢七実の高揚は話が簡単だ。
こんな殺し合いも真っ只中、道端で口吻を交わすような精神状況だ。
『今のわたしは気分がいいので』、ね。正気かよ。
とんでもなく異常であることに違いはないが――それだけ意気軒高と昂っているのだろう。
昂っているときというのは、自然、口数も多くなる傾向にある。
あのさまで、あんな病弱貧弱脆弱を重ねたようなざまで、それでいて、おれの仕掛ける隙を見せなかった。
少なくとも球磨川のために尽くすつもりでいるのだろう。大人しく野垂れ死ねばいいのに。

「――――やっぱりおかしいよな、おれの隣にとがめがいないだなんてありえなかったんだ」

 対して、球磨川禊。
こいつがなかなかどうして難しい。
生来の気質――もあるのだろう。
だが、どうも本調子ではないようだ。

――『なんかまた頭がぼーっとしちゃって』『何か忘れてるような気がする』
『黒神めだかって、真黒ちゃんの妹だったのかも』『善吉ちゃんに、それに何よりめだかちゃ――』

おれもこの辺りで離脱はしてるが、しかしなかなかどうして、球磨川の口振りは異様ではあった。
まるでめだかちゃん――黒神めだかを忘れさせられているかのような、そんな口ぶり。
いや、『ような』なんて曖昧なことは言うまい。
なんらかの事情で、球磨川禊は黒神めだかを『忘れている』。

「――――あれはきっとなにか悪い夢だったんだ」

忘れなければならないほどの、事情があった。
――人為的に変わらなければならないほどの、何かが。


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